書き足りない人「物語」がまだ終わってない人のため落ちてもなお落ちてもなお復活!!
シリーズ物から新作まで幅広いジャンルのげんしけんSSスレ。
いよいよ今回で第17段!
未成年の方や本スレにてスレ違い?と不安の方も安心してご利用下さい。
荒らし・煽りは完全放置のマターリー進行でおながいします。
本編はもちろん、くじアン、「ぢごぷり」SSも受付中。
創作SSの初心者のための場としても活用していただいてもけっこうです。
☆講談社月刊誌アフタヌーンにて好評のうちに連載終了。
☆単行本第1〜9巻好評発売中。オマケもすごかった!
☆アニメ「げんしけん2」放映終了!いい出来でした!
☆作中作「くじびきアンバランス」漫画連載終了&アニメ放映終了!いい出来でした!
☆単行本1〜2巻好評発売中。(巻末に、その後の「げんしけん」を描いたおまけ漫画有り)
前スレ
げんしけんSSスレ16
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1199889532/l50x
一応立ててはみたが・・・
\ /
\∧∧∧∧/
< 俺 >
< 予 し >
< か >
─────────< 感 い >──────────
< な >
< !!! い >
/∨∨∨∨\
/ \
/ (-_-) \
/ (∩∩) \
いまさらげんしけんと言われても、何て言うか、その、困る…
4 :
うすじ:2008/09/13(土) 02:54:41 ID:82AiwrVU
落ちたのか?
誰も書いてってリクエストがないから・・・
賭けといわれれば書くけど
具体的にいってくれれば・・・
>>1乙
作者のスレとか作品のスレ見てると最近になってハマったりした人もいるしいいんじゃない?
このままでは即死しそうなのが玉に瑕だがw
>うすじ
じゃあ久我山×朽木ヨロ
というのは半分冗談だが、お前さんには実はけっこう期待している俺がいるw
ま、なんか思いついたら投下してください。
石川県輪島市。私、荻上千佳はいま、友人のスーとここの朝市に来ている。
特段の目的もない小旅行。彼女とは馬が合うのか、よく共に行動していた。
三大朝市のひとつとして千年以上もの歴史を刻む、古きよき市場。はるか以前からここでは商行為が脈々と受け継がれてきた。
『亭主の一人や二人養えぬ女は甲斐性なし』、そんな言い回しさえあるこの地の女性には、器の大きさ・力強さを感じてやまない。
私も、と思う。私もいつか、このような強さを身につけることができるのだろうか。いつか私は、自らの過去を受け入れ得るのだろうか。
「チカ」
想いに耽っていると、旅の友が声をかけてきた。
「ん、どしたのスー」
「アレ」
彼女が立ち止まっていたのは、私から少し離れた野菜売りの店先だった。歩み寄る私を見てか、売り子の女性は楽しそうに笑いかけた。
中腰になったスーの見つめる先は、大根の盛り籠。
この朝市では、近隣の農家が地場野菜を売りに来ている。
農協やスーパーへは形の整った農産物を卸し、ここではそういった『きれいな商品』にならないものを売るのだ。
もちろん味に遜色はないし、値段が安くむしろお得と言える。
「嬢ちゃんも見ていき。こんじゃ立派じゃろう」
いかにも農家のおかあちゃん、といった雰囲気の女性が指差す先は、スーの手に持った大根があった。
根の下半分が大きく二つに分かれていて、まるで人間の足のように見える。大根足とはよく言ったものだ、と笑いをこらえながら見ていると、不意にスーがその大根を裏返した。
私が見ていたのは大根の『お尻』の方だったようだ。前後逆になって私の眼前にまみえた大根の股間には、それはもう……立派な……まるで……男の人の……。
「……っ!?」
「チカ」
すっくと立ち上がり、大根を腰溜めに構えて、彼女は意気揚々と言い放った。
「控エオロウ!コノイン○ウガ、目ニ入ラヌカーッ」
あまりの大声に何事かと周囲の人々から注目を集める中、私の廬山昇龍覇が火を噴いた。
輪島の朝市。その人いきれはあたたかく、柔らかで、心地よい。
私、荻上千佳は、天空高く舞い飛ぶ友人を見据えながら、もう二度と来ることができないであろうこの癒しの空気を、胸いっぱいに吸い込んだのであった。
おわり
てことでご祝儀。
某SNSのおともだちがこういう漫画描いてまして(絵板にもあるっけ)、リクエストしたものの
ピンとこないと言われたネタを自炊w
ではまた。
>スーと旅する
GJでしたw そのネタ見たことありますね。下ネタ系大好きなんで俺もそのうちw
そうか・・・某SNSでそんなのが展開されていたとは・・・。見れなくて残念。
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ヽ, // l / l / / ./, ./, -―i. `、
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「家帰ったらエロフォルダがバレバレっていう名前に変わってた 」
>>9 斑目のくせになまいきだぞっ!
相手だれだよww
>>10 本命 田舎から出てきた母
対抗 スー
大穴 咲
テスト
おお、試しに書き込んでみたら書けた。
どうやらアクセス規制解除のようだな。
近い内に長いのを投下しにまいります。
うちはどうだろ?
15 :
マロン名無しさん:2008/09/26(金) 01:29:56 ID:qp+YD6iH
どうもご無沙汰しています。
9ヵ月近くも「30人いる!」の続きをほったらかしにしてるバカです。
「30人いる!」の方も近々投下しますが、残念ながら未完です。
並行して書いてた方が先に完成しましたので、先ずはこちらでご機嫌を伺おうと思います。
今回の話はタイトル通り、以前書いた「無軌道警察ハグレイバー」の続編です。
初めての方の為にちょっとだけ説明します。
「無軌道警察ハグレイバー」は、以前に書いた「はぐれクッチー純情派」の10年後の話で、いわゆるネクストジェネレーションものです。
舞台は西暦2025年、今から17年後の世界の話です。
タイトルでお分かりの通り、警察のレイバー隊の話なんですが、何故か隊員たちは元現視研の面々の子供たちで、副隊長はスーで隊長はクッチーという、おそらくSSスレでも1番のデタラメな話です。
(ちなみに整備班長は斑目で、課長は初代会長です)
今回は設定と登場人物の紹介と共に、触りだけ投下します。
本格的な投下は、また来週にやる予定です。
では、まいります。
レイバーの普及
この物語の世界では、パトレイバーの世界のように、東京での大地震は起きていない。
その代わりに、地方では地震が頻発し、台風は今までに無い大規模なものが、しばしば上陸している。
その復興と、瓦礫の再利用も兼ねた、東京湾の埋め立て工事と、地球温暖化による海面上昇を防ぐ為の護岸工事。
それらの大きな需要の発生により、2020年代に入ってから、多目的作業機械レイバーは爆発的に普及した。
(パトレイバーのバビロンプロジェクトと違い、埋め立てはあくまでも東京湾に堤防を作る為の基礎用。後述の理由により、この時代の東京に新たな用地は必要無い)
それに伴ないレイバー犯罪も多発するようになったので、これを取り締まるべく、警視庁警備部は、対レイバー犯罪用に特殊機械課特殊機械隊、通称レイバー隊を設立した。
早期雇用政策
この時代、日本はあらゆる業種の現場が、末期的な人手不足に悩まされていた。
(製造業が最も大打撃を受け、重工業の衰退が特に著しかった。その為、この作品に登場するレイバーは、全て外国製又は外資系企業の日本支社製)
その主な原因は、次の通りであった。
・この頃まで続いた、企業の新卒偏重の雇用
・再雇用された高齢者(主に団塊世代)の、長年の無理が祟ったゆえの激減
・人手不足を補うべく無理を重ねた、バブル世代や団塊ジュニア世代で続出した過労死
・2010年代初頭にほぼ同時に起きた、中国とインドでの内戦
(これにより、両国と周辺国からの、移民労働者の供給が絶たれた)
その結果日本の社会は、子供たちが成人するまで待つ余裕が無くなった。
そこで政府は特例措置として、優れた能力を持った子供たちを、小中学校を卒業した段階ぐらいで早々に社会に出して、即戦力にしようという政策を進めた。
それが早期雇用政策である。
だが当然労働基準法と相反する(同法には特例事項が追加された)し、低賃金労働の隠れ蓑になったりするなど、問題点も多い。
MM25ウージー
特機隊に配備された、警察用レイバー
MMとはMOBILE MACHINEの略で、25は年式。
ウージーは愛称だが、名前の由来はイスラエル製の小型サブマシンガン。
(ちなみにパトレイバーのイングラムの名前の由来は、アメリカの小型サブマシンガン)
ラジャエンタープライズジャパン筑波研究所謹製。
全高5,4メートル、重量4,5トン。
イングラムに比べるとやや小柄だが、肩幅が広く肉厚で、一応人型だがゴリラに似た体形。
コクピットは頭部から胸部にまたがっていて、特殊強化風防ガラスで覆われている。
(ダグラムのコンバットアーマーを、ボトムズのアーマードトルーパーのサイズに縮小した感じの外観だ)
パワー、スピード、装甲などのスペックは、従来のレイバーを遥かに上回り、普通の工事用レイバー程度なら、素手で捻り潰せる。
ごつい体に似合わず、10メートル近いジャンプ力があり、動きも敏捷で柔軟。
(ハイキックや後ろ回し蹴り等、柔軟性が必要な技も難無くこなす)
また、足の裏から高速回転する電動ローラーを出せば、最高時速200キロで走れる。
(ただし電力を急激に消耗するので、10分間しか使用出来ない)
武装は背中のランドセル状の突起に収納された2本の特殊警棒(肩の後ろに柄が突き出ている)と、右大腿部のホルスターに収納された23ミリオートキャノン。
特殊警棒は、イングラムのように電流は流れないが、特殊強化チタニウム製で頑丈なので、レイバーの関節に差し込めば簡単に破壊出来る。
また2本を繋いで長い警杖としたり、2本の間を鎖で繋いでヌンチャクとするなど、多用途な使い方が出来る。
23ミリオートキャノンは、実在する拳銃モーゼルミリタリーをモデルに作られた、レイバー用拳銃。
10連発で、大腿部に付いているホルスターは、外して銃把の後ろに付けるとショルダーストックとなってライフルのように肩付けして使え、より正確な射撃が行なえる。
現場までは専用のトレーラー(レイバーキャリア)で運搬される。
運用に際しては、指揮車(通信やデータ分析機能を備えた、バギー状の装甲車)とワンセットで行動する。
朽木学(41)
警視庁警備部、特殊機動機械課(略称特機課)、特殊機動機械隊(略称特機隊)、通称レイバー隊の隊長。
20年近くにも及ぶ、警察官としての生活の大半を刑事畑で過ごし、かつては数え切れないほどの犯人を病院送りにし、100人以上の犯人を射殺して来た、日本有数の暴力刑事だった。
本庁捜査一課に居たこともあったが、訳あって東北の地に飛ばされて、10年以上の年月を東北の地で過ごした。
(この時代の東北は、ガードの緩い資産家を狙う外国人強盗団や、地方間格差の影響により、凶悪犯罪が多発していた)
ある日、本庁からレイバー隊の隊長のオファーを受け、(普通警備部の小隊長は警部補クラスの仕事なのだが)巡査部長という階級にも関わらず隊長に就任した。
(レイバー隊の実力が未知数なので、本庁に隊長のなり手がいなかった為でもあった)
当初断るつもりだったが、未成年のオタク隊員だらけの規格外のレイバー隊を見て、誰か大人が責任を取らなければならないという責任感から、隊長になることを決意した。
刑事時代の愛用拳銃はモーゼルミリタリー。
(木製のホルスターを銃把にセットすることで、ショルダーストックになるタイプ)
独身。
斑目晴信(43)
特機課整備班班長。
かつては大学の近所の桜管工事工業に勤務していたが、倒産に伴ない椎応大学の学生課に転職。
そして大学も廃校になり、その後整備班に勧誘されて就任した。
桜管工事工業時代に数々の機械関連の資格を取得し、更に学生課時代にも独学で数々の資格を取得したので、レイバーの整備と修理に必要な知識と技術は、ひと通り習得している。
すっかりブルーカラーな体質になっており、若い整備班員から「おやっさん」と呼ばれている。
10年前に現視研の後輩の女子大生と結婚。
小学生の息子が1人いる。
スザンナ・ホプキンス(年齢不詳)
特機隊の副隊長で、ウージー(レイバー隊のレイバーの通称)2号機の指揮担当。
階級は巡査部長。
FBIからの研修生で、半年後に帰国してアメリカ初のレイバー隊の隊長になる予定。
現視研の面々とさほど歳が変わらないので、どう若く見積もっても30代前半にはなるはずだが、外見は初来日した頃と全く変わっていない。
その小さな体に似合わず、普通のアメリカの警官が身に付けている体術系のスキルは、全て身に付けている。
(射撃、ラペリング、スカイダイビング、格闘術等)
またIQも250あるので、広範囲な知識を誇る。
初代会長(年齢不詳)
特機課の課長。
本来の身分は、特機隊の採用した警察用レイバーのメーカーである、インド系多国籍企業ラジャエンタープライズジャパンの筑波研究所技術7課の主任。
特機課の課長がなかなか決まらない(本庁の幹部が全員オファーを断った)ので、仕方なく特例として警視庁に出向して、暫定的に課長を務めている。
特機課の隊員たち(実は朽木とスー以外、全員ラジャエンタープライズジャパンからの出向)を集めた、謎多き陰の実力者。
なお彼の会社は、本名と別に仕事上の名前を使う慣習がある為、特機課の公文書や名刺の名前は、全て初代会長と記されている。
(レンタルのニッケンという会社で、実際にこういう慣習があるそうだ)
笹原千尋(13歳)
特機隊の隊員で、警察用レイバーウージー1号機のパイロット。
笹原と千佳(旧姓荻上)の娘。
母親に激似(しかも筆頭)だが、母親よりもひと回り小柄で少し目が垂れている分、母親より見た目は大人しそうな印象で、実際普段は人見知りする大人しい性格。
レイバーの操縦技術に秀でていて、操縦桿を握ると多少好戦的気味に性格が変わる。
3歳の時に出会った際に刷り込みが起きたせいか、朽木を慕っている。
(再会した際には、「おじ様」と呼んで朽木を激萌えさせた)
義務教育の年齢なので、仕事の合間を縫って週に数回中学に通い、特別プログラムの授業を受けている。
笹原麦男(17歳)
特機隊の隊員で、1号機の指揮担当。
千尋の兄。
笹原に激似だが、父親よりもひと回り大柄で目がやや大きく、父親よりも怖そうな印象。
朽木とスーを除いた隊員の中では最年長で、隊創設前の訓練期には実質的なリーダー的存在であった。
その為当初は、よそ者のスーが副隊長に、レイバーについては素人の朽木が隊長になることに難色を示していた。
スーに次ぐレイバー運用についての知識を誇る。
妹思いで、千尋の朽木に対する気持ちに、いち早く気付いていた。
久我山薫子(16歳)
特機隊の隊員で、1号機のレイバーキャリア担当。
久我山の娘。
やや大柄で少し太目な体形に、父親の面影が見られるが、セミロングの黒髪で眼鏡をかけた丸顔は、美人とまでは行かないが可愛らしく、かなりの巨乳。
父親同様絵を描くオタクで、早くからエロ同人誌(ノーマル)を作っている。
父親同様おっとりした性格だが、内なるエロ魂も受け継いだらしく、朽木の大柄で鍛え抜いた肉体に、性的な意味で惹かれている。
高坂美幸(10歳)
特機課の隊員で、ウージー2号機のパイロット。
高坂と咲(旧姓春日部)の息子。
10歳という年齢の割には、もう父親同様の長身痩躯に成長している。
両親に似た中性的な美形の容貌と名前、それにかん高い声(成人並みの長身に成長してる割には、声だけは変声期前のボーイズソプラノ)の為に、しばしば女性と間違えられる。
IQが200もある為、飛び級で既に大学を卒業している。
父親同様ゲームの達人。
レイバー操縦の腕も超一流で、模擬戦ではほとんど千尋に勝っている。
かつては古武術を習っていて、素手の格闘技術もかなりのもの。
田中香澄(16歳)
特機課の隊員で、2号機のレイバーキャリア担当。
田中と加奈子(旧姓大野)の娘。
薫子同様、大柄でやや太目の巨乳だが、薫子よりも背が高くてやや細く、巨乳はひと回り大きい。
顔は母親似で、やはり長い黒髪の持ち主。
コスプレ趣味も両親から受け継いでいる。
オヤジ趣味も母親から受け継いでいて、歳相応の渋味の増した朽木を狙っている。
千尋の恋敵的存在だが、一方で千尋を妹のように思っている。
斑目望(9歳)
斑目の息子。
父親同様、痩せていて眼鏡をかけている。
レイバー隊本部に出入りする内に、美幸に心惹かれるようになる。
ある日遂に斑目が決心して、美幸が男であることを打ち明けたが、「あれだけ美人ならば、男でもいい」と、その純粋(?)な思いは変わらなかった。
「申し訳ありません!申し訳ありません!申し訳ありません!」
笹原千佳(旧姓荻上、以下千佳と呼称する)は、何度も深々と頭を下げた。
学生時代の少女のような線の細さは消え去り、顔も体形も丸味を帯びていたが、40近い年齢にも関わらず、肌の色艶は30前のそれであった。
漫画家という仕事柄、普段は着ることの少ない、スーツ姿だった。
だがそんなお出かけ用ファッションにも関わらず、髪は筆頭であった。
最近では仕事中以外は髪を下ろしている千佳であったが、今回はよほど慌てていたらしい。
一方、テーブルを挟んで彼女の向かい側に座り、頭を下げられていた朽木学は困惑の表情だった。
こちらは41歳という歳相応の風貌になった(と言っても体形はほとんど変わっていないが)彼には少々キツイ、オレンジと白のツートーンカラーの派手なシャツ姿であった。
(厳密には、オレンジのベストと白のシャツの組み合わせだが)
警視庁警備部の新設部隊、特殊機械課(特機課)の特殊機械隊(特機隊)、通称レイバー隊の制服である。
朽木「まあまあ荻チン、じゃなくて千尋君のお母さん、どうか頭を上げて下さいな」
朽木は本当に困惑していた。
彼は人に謝られることが、大の苦手なのだ。
『これまでの人生、人に謝ったことは数知れずあるけど、謝られたことは滅多に無いんでね。こういう時、どうしていいか分からんのよ、真面目な話…』
2人が居たのは、椎応大学跡の元サークル棟にある、特機課本部の応接室だった。
跡と言っても、その建物は殆ど全部、取り壊されることも無く残っていた。
レイバー隊の本部は、廃校になった椎応大学跡に作られ、グランドに建てられたレイバー格納庫以外の施設は、かつてのサークル棟を改装して使っているのだ。
元はアジア文化研究会の部室であったその部屋は、応接室と言っても椅子とテーブルだけの簡素なものだった。
千佳が朽木を尋ねてきたのは、ほんの数分ばかり前のことで、急な来客ということもあって、とりあえずこの部屋に案内したのだ。
『まいったのう。本庁からのお叱りや、マスコミに叩かれるのは想定内だったけど、荻チンに頭下げられるのは、想定外だにょー…』
3ヶ月前に発足して以来、レイバー隊は快進撃を続けていた。
当初参加が遅れるはずだった朽木も、課長こと初代会長が何か裏工作でもしたのか、発足後わずか1週間で隊に合流出来た。
幸いこの間レイバー隊の出動は無かった。
本庁はほぼ同時期にレイバー隊とは別に、対レイバー犯罪用特殊部隊ALSAT(アルサット)を発足させていた。
レイバー隊のみでは、24時間の警戒体制を毎日実施することが不可能だからだ。
ALSATはSAT出身者で構成されていて、レイバーが配備されておらず、手持ちの対レイバー用特殊火器と、対レイバー用特殊装甲車で戦う。
ちなみにALSATは、 Against Labor Special Assault Teamの略称である。
この1週間にレイバー犯罪が発生したのは、運良くALSATが担当している時ばかりだった。
とは言え、隊長としての朽木の仕事は、ほとんど見ているだけに等しかった。
レイバー犯罪に使われるのは、ほとんどが工事現場から盗まれた工事用レイバーである。
それらは最新型の警察用レイバーMM25、通称ウージーの敵では無かった。
毎度毎度レイバー隊は、楽勝ペースで快勝を続けた。
難点と言えば、ウージーが強過ぎる為に、かなり神経を使って手加減しないと、簡単に相手レイバーを壊してしまうことぐらいであった。
初めての出動の時には、千尋担当の1号機が、犯人のレイバーの胴体をベアハッグの体勢で抱えて捕まえたら、胴体が真っ二つになってしまった。
また別の事件では、美幸担当の2号機が、犯人のレイバーの腕を捻って得意の関節技を極めようとしたら、腕がちぎれてしまった。
朽木は一応隊長としての研修は受けていたが、レイバーについては全くの門外漢に等しいので、細かい指示は副隊長のスーや1号機指揮担当の麦男に任せていた。
朽木の仕事と言えば、大まかな作戦指示と、作戦中に起きた問題について始末書を書き、本庁に赴いて偉いさんの説教を聞き、頭を下げることだけであった。
特機課課長である初代会長は、いざ隊が発足すると本来の仕事である、レイバーのメーカーの仕事に戻ってしまい、朽木は実質課長代理でもあったので、なおさらである。
「隊長って、部下が優秀だと、案外やること無いのう」
前述の問題ぐらいは気にしない朽木が、昼行灯を決め込んでいた矢先、事件は起きた。
久々の投下だったもので、連投規制忘れてました。
設定資料送り過ぎで、そろそろ規制がかかる頃ですので、今回はこの辺で失礼します。
設定は、劇中分からない点があった時にでもお読み下さい。
本文中になるべく説明を入れたつもりですが、抜けも多いと思いますので。
次回は事件の全貌と、冒頭のシーンの謎が解明すると思いますので、何とぞよしなに。
あともうひとつだけ、設定資料を投下して、今回は失礼します。
ではまた次回。
レイバー隊本部
パトレイバーの時代と違い、本来最も望ましい場所であった湾岸部は、土地の値段が高くなり過ぎて本庁の予算では手が出せなかった。
そこで廃校になった椎応大学跡(と言っても、大半の建物は閉鎖されただけで、そのまま残っている)に作られた。
レイバーの格納庫は、グランドの半分ほどを潰して、巨大なプレハブ製の物を新築したが、レイバー隊のオフィスその他の部屋は、かつてのサークル棟を改造して使っている。
レイバー隊のオフィスには、荻上会長期に移転した、屋上のプレハブの現視研の部室が使われている。
(格納庫直通のシューターを作る際に、円滑に滑って行ける落差が欲しかった為に、1番高い位置にあった現視研の部室がオフィスに選ばれた)
ちなみに旧現視研部室は、課長室になっている。
多くの部室は表向き宿直室となっているが、実質的には多くの隊員や整備班員の私室となっている。
当然服務規程違反だが、非番の隊員や整備班員を緊急招集するのに便利という利点ゆえに、半ば黙認されている。
お晩です。
昨夜はあんまりなとこで切ってしまったので、今夜は少し続きを投下しようと思います。
とりあえず9スレほど参ります。
昨日、レイバーを使った銀行強盗が発生し、レイバー隊が出動した。
犯人が使っていたレイバーは、中国の大企業上海重工製の昇龍であった。
昇龍は、かつて本庁の警察用レイバー導入に際して入札に参加しており、入札に外れた後は警備用として民間で使用されていた。
ウージーほどのパワーや強度は無いが、その分軽量な為に、スピードはウージーを上回っていた。
そのせいか細身なので、ウージーよりも人間のフォルムに近い。
正反対の方向に二手に分かれて逃げる昇龍2台に、レイバー隊は初の苦戦を強いられた。
この時、ウージーと指揮車がそれぞれ1台ずつ、二手に分かれて先行して追跡し、朽木の隊長専用車と2台のレイバー運搬用トレーラーは、逃げる2台の中間地点で待機していた。
陸自のジープがベースの隊長専用車には、レイバーのメインカメラと指揮車のカメラの映像をモニター出来るディスプレイがあるので、朽木はそれを通じて現場を見守っていた。
「このっ!このっ!このっ!」
千尋は必死で警棒を振り回すが当たらず、接近して捕まえようとするが、素早い動きの昇龍を捕らえられない。
指揮する麦男も焦っていた。
本来なら敵の動きが速いので、23ミリオートキャノンを連射で喰らわせてやるのだが、逃げ込んだ場所が悪かった。
現場は周囲に工場の並ぶ工業地帯で、あらゆる方向に中身不明のタンク類が見える。
これでは1発も流れ弾を出す訳には行かない。
それを悟ってか、調子に乗った昇龍は反撃を開始した。
キックで警棒を叩き落とし、コックピットにパンチを食らわせて、ウージーをダウンさせた。
麦男「(無線で)千尋、大丈夫か?!」
千尋からの返信を聞いていた麦男の顔色が変わった。
慌てて指揮車のスピーカーを通じて、叫ぶように犯人に呼びかけた。
「おいっ犯人!死にたくなかったら、すぐ降参しろ!それが嫌ならすぐ逃げろ!」
隊長専用車でそれを聞いていて、ズルっとこける朽木。
「おいおいおい、なんちゅう説得だよ、それ」
朽木が無線で麦男に話しかけようとしたその時、麦男が2号機の指揮をしているスーに呼びかけるのが聞こえた。
麦男「副隊長、そっちはどうですか?!」
ちょうどその時、美幸の搭乗するウージー2号機は、2本の警棒を鎖で繋いでヌンチャクと化し、それをもう1台の昇龍の足元に投げ付け、絡め取って捕獲したところだった。
スー「今ようやく確保したとこだ」
麦男「すぐこっちに美幸君寄こして下さい!」
スー「分かった、すぐ支援に向かわせる」
麦男「そうじゃなくて、先ず千尋を確保して下さい!」
再びこけた朽木、無線に割り込む。
「おいおい、どういうことだ?分かるように説明しろ」
麦男「これ聞いて下さい!」
無線の音が切り替わり、千尋の泣き声が聞こえた。
「うわああああああああん!!!!!!!!」
まだ幼子のように、子供っぽい泣き声だ。
そこへ美幸が無線に割り込み、いつも冷静な彼には珍しく慌てた口調で言った。
「大変だ!隊長!千尋ちゃんは泣くと、手加減無しで洒落にならない危険な技を使うんですよ!」
朽木「やられたことあるの?」
美幸「模擬戦で、腕捻って関節極めたまま一本背負いで頭から落とされて、頭が地面に落ちた瞬間に、サッカーボールキックで頭蹴られました」
一瞬凍結する朽木。
「…それ、生身の人間にやったら、余裕で死ぬね」
朽木はディスプレイを1号機のメインカメラに切り替えた。
猛烈なスピードで、1号機が昇龍に向かって行くのが分かった。
向かって行きつつも、なおも千尋は泣いていた。
「うわあああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!」
麦男「わあよせっ!千尋やめろ!落ち着け!」
画面が激しく揺れ、同時に昇龍も激しく動いていることから、ウージーがかなりの手数の攻撃を叩き込まれているのが分かった。
その時2号機とその指揮車が、隊長専用車の横を駆け抜けて行った。
朽木「麦男、今そっちに美幸とスーが向かったぞ」
麦男「了解!」
朽木「トレーラー各車に告げる。香澄、地図を送るから、その通りのルートを通って、1号機の向こう側の道路を封鎖しろ」
香澄「封鎖、ですか?」
朽木「極めて危険な格闘戦になりそうだから、民間人だけでなく、警察関係者も通すな」
香澄「…了解!」
朽木はダッシュボードに出したキーボードを操作して、ディスプレイ上の周辺の地図に道順をマーキングし、そのデータを香澄に送信した。
そして香澄がトレーラーを発進させるのを確認して、隊長専用車を発進させた。
朽木「薫子はここに残って、この道を封鎖しろ。こちらの封鎖対象も、香澄の方と同様だ」
薫子「了解です!」
隊長専用車を走らせつつ、朽木はディスプレイを指揮車のカメラに切り替えた。
昇龍から雨あられとパンチとキックを叩き込まれている、ウージーが映った。
ウージーはやや前傾し、両手でガードを固めながら構わず前進する。
ウージーと昇龍は、1トン近い重量差があるから、覚悟を決めて勢いを付けて前進すれば、打撃系の攻撃は決定打にはなりにくい。
昇龍のパイロットが、ようやくそのことに気付いた時はもう遅かった。
至近距離まで接近したウージーは大きく体を沈め、同時に右腕を昇龍の股間に差し込み、左腕は昇龍の右肩に回し、がっちりと抱え込む。
(この時、昇龍の股間と右肩に、ウージーの両腕がしっかりめり込んで亀裂を生じさせていることを、朽木の鋭い眼力は見逃さなかった)
そして沈めた体が伸び上がると同時に、昇龍を逆さに引っくり返すように持ち上げた。
このまま引っくり返す勢いを利用して背中から叩き付ければ、プロレスのボディースラムの形になる。
ボディースラムと言えば、今ではほとんど決め技になることの無い、つなぎ技というイメージが強い。
だがそれは、肉体を鍛え抜き、完璧な受身を身に付けたプロレスラーが、弾力のあるマットの上に投げられるからこそ成り立つ図式である。
鍛えていない素人が、マット上で同じ投げを喰らったら、1発で動けなくなってしまう。
鍛え抜いたプロレスラーや格闘家にしても、土の地面やアスファルトの上で投げられたら、単なるボディースラムと言えども、一撃必殺の殺人技と化す。
そんな訳で、このままウージーがボディースラムをかければ、間違い無く昇龍は活動を停止するはずであった。
だが千尋の操縦するウージーは、単なるボディースラムでは済ませてくれなかった。
本来右腕をかち上げるようにして、背中から叩き付ければ十分なのに、逆さまの状態を保ったままジャンプし、昇龍を脳天から地に叩き付けた。
ボディースラムと言うより、ノーザンライトボムに近い投げ方だ。
(注)ノーザンライトボム
女子プロレスラー北斗晶の必殺技。
(最近は旦那のプロレスラー佐々木健介も使っている)
ブレーンバスターの体勢で相手を抱え上げ、ジャンプして脳天を叩きつける荒技。
途中で枝分かれした道の内、近道の方を通った朽木は、先行した2号機と指揮車より早く現場に着いた。
近道の方が狭い為、レイバーが通れないのだ。
現場に着いたのは、金属製の物体が叩き付けられる轟音と地響きと共に、ウージーが豪快に昇龍を投げ落とした、まさにその瞬間であった。
朽木「あーあ、とりあえず始末書と、本庁の呼び出しは決まりだのう…」
昇龍は、メインカメラ他各種センサーの詰まった頭部が木っ端微塵になり、右肩と股間が著しく歪んで裂けてメカがむき出しになり、搭乗者である犯人は完全に気絶していた。
だがまだ泣きやまない千尋は、それだけでは済ませてくれなかった。
素早く立ち上がると、仰向けになった昇龍の足の方に回り、両足首を持ち上げて腋の下に抱え、両手を腹の前でクラッチする。
そして昇龍の胴体をまたぐようにステップオーバーし、引っくり返ってうつ伏せ状態になった昇龍の背中に向かって、一気に倒れ込むようにして全体重をかけた。
プロレスで言う所の、ポストンクラブ(逆エビ固め)に近い極め方だ。
今度は金属のちぎれる嫌な音と共に、昇龍の両脚が股間の所で切断された。
朽木「…まあこれで、レイバーでの逃亡は無理だのう。(無線に)おーい千尋、もういいから、その辺にしときなさい」
だがコックピットの中で1人マジ泣きする千尋には、朽木の言葉は届いていないようだ。
昇龍のちぎれた両脚を放り出し、体を右に転がるように移動させるやいなや、右の腋の下を昇龍の左肩に被せた。
さらに昇龍の左腕を両手で掴むと、一気に上に引き上げた。
プロレスで使われて有名になったが、元々は柔道の関節技である脇固めだ。
そしてまたもや嫌な金属音と共に、昇龍の左腕が肩の所からちぎれた。
麦男と朽木が呆然と固まる中、千尋の嬲り殺し同然の猛攻は続いた。
今度は昇龍の右手首を両手で持ち、その腕を股間に挟むようにして引っ張り、ウージーの股間が昇龍の右肩まで達すると同時に、一気に後ろに倒れ込んだ。
結果昇龍は、再び仰向けになると同時に、右腕を腕ひしぎ十字固めの形に極められた。
これも元々は柔道の関節技であるが、プロレスで一般に広められた技だ。
ちなみにプロレスでは、何故か腕ひしぎ逆十字と呼ばれる場合が多い。
(古館伊知郎が言い出したのが広まった為と言われている)
本来肩を支点に肘の関節を極める技なのだが、昇龍は右腕が肩からちぎれた。
朽木「千尋のやつ、関節のかけ方がおかしいんじゃないか?普通腕ひしぎ十字は、肘のとこ極めるもんなんだが。腹で押すんじゃなく、力ずくで腕引っ張ってないか?」
麦男「隊長、憂慮するポイントが間違ってると思います…」
2人の間抜けな会話の間にも、千尋の猛攻は止まらなかった。
立ち上がったウージーは右脚の膝を高く持ち上げ、その足の裏を昇龍の胸部中央の鳩尾に近い辺りに、思い切り打ち下ろした。
プロレスのストンピングと言うより、拳法や空手の踏み蹴りに近い打ち方だ。
ウージーが足の裏を打ち込んだ場所、そこにはコックピットがあった。
スポーツ化した格闘技のほとんどで、倒れた相手を踏みつける行為は反則となっている。
2本足で立って歩けるだけの脚力があれば、踏みつけることは技術が無くてもある程度の威力を発揮する上に、死に直結するレベルの危険度だからだ。
(ちなみに日本拳法や一部の流派の空手では、倒した相手を寸止めで踏むことで、ポイントになったり一本勝ちになったりする)
だがルール無用のストリートファイトや戦場での格闘では、倒れた相手の頭や肋骨を踏みつけてとどめを刺す行為は、当たり前のように行なわれる。
素手での殺人のマニュアル(各種実在する)では、とどめとして頭を踏んで頭蓋骨を割ったり、肋骨を踏み折って心臓に突き刺すことを推奨している。
朽木「あらま。まあ俺も若い時は、よくとどめに犯人の顔踏んづけて歯と顎破壊したり、胃袋踏んづけて胃液吐かせたりしてたけど…」
そう言っている間にも、千尋の搭乗するウージーはストンピング攻撃を続けた。
麦男「わっこらっ、もうよせ千尋!落ち着け!冷静になれ!犯人死んだらどうする!」
今や千尋のストンピングの回数は1ダースを越えていたが、それでもなお続けていた。
そこへようやく2号機と指揮車が到着した。
美幸「ごめんね、遅れて!」
麦男「美幸君、構わないからやっちゃって!」
美幸「了解!」
美幸の搭乗する2号機は、足の裏の電動ローラーを使って、一気に千尋の1号機の背後に至近距離まで接近した。
美幸「ごめんね、千尋ちゃん!」
次の瞬間2号機は、1号機の胴体を背後から両腕で抱きしめるようにクラッチし、そのまま綺麗なブリッジを描いた。
結果千尋の1号機は、脳天から地に叩き付けられ、綺麗にジャーマンが決まった。
この一撃で千尋が気絶し、ようやくウージー1号機は活動を停止した。
こうしてようやく惨劇は終了した。
千尋の連続ストンピングは、昇龍のコックピットの風防に亀裂を入れていた。
あと3回も踏まれたら、完全にコックピットは破壊されたことだろう。
犯人の肉体的ダメージは、奇跡的に軽い打撲傷程度で済んだが、恐怖のあまり精神錯乱していた。
スーは当身で犯人を気絶させ、手錠をかけて拘束した。
「こりゃ取り調べは、当分無理そうだな。捜査一課にも怒られるのう」
そう呟きながら、朽木は1号機から千尋を抱えて連れ出した。
そして活を入れ、意識を取り戻させた。
暫くは何が起こったか分からなかったらしく、千尋は呆然としていたが、やがて大声で泣き出し、朽木の胸にしがみ付いた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!隊長!」
このまま優しく抱きしめてやりたい衝動に駆られつつも、朽木は敢えて冷厳に千尋の肩を押して放し、こう言った。
「麦男、指揮車使って千尋を近くの病院に連れて行け」
千尋「あの、私なら大丈夫です!」
朽木「これは命令だ。直接頭打った訳ではないとは言え、衝撃で気絶したんだから、精密検査してもらって来い。俺は部下の二階級特進なんて認めんぞ」
千尋「…分かりました」
肩を落として指揮車に向かう千尋。
麦男もそれに続く。
歩く千尋の背中に、朽木は声をかけた。
「まあ検査の結果にもよるけど、しばらくゆっくりしろや。1週間の謹慎ぐらいで話付けてやるから。(無線で)香澄、薫子、封鎖を解除してこっちに来てくれ」
千尋と麦男が去った後、本庁の刑事たちや警官隊がやって来た。
香澄はウージー1号機に乗り、そろそろと1号機キャリアに積む作業を行なっていた。
レイバー隊の隊員たちは、隊長の朽木を除いて全員レイバーを操縦出来る。
ただし、専任パイロットの千尋や美幸に比べれば、格段に腕は落ちるが。
その傍らでは美幸が2号機で積み込み作業を補佐し、その様子をスーが監督していた。
「隊長、なかなか考えたわね」
作業中、香澄は無線で薫子に話しかけた。
薫子「何が?」
香澄「隊長を御覧なさいよ」
レイバーキャリアの窓から、朽木の方を見る薫子。
朽木は集まって来た本庁の刑事たちに頭を下げつつ、何やら説教されていた。
続いて駆け付けたマスコミの連中に取り囲まれ、何やら取材される。
薫子「あれがどうしたの?」
香澄「隊長が千尋ちゃんを病院に行かせたの、頭から落っこちたせいだけじゃないってことよ」
薫子「どゆこと?」
香澄「隊長はね、千尋ちゃんを守ったのよ。もしあのまま現場に残ってたら千尋ちゃん、本庁の人のお叱りと、マスコミの取材攻勢を喰らってたわよ」
薫子「なるほどね。さすが責任は全部引き受けるって仰っただけのことはあるわね」
香澄「まあちょっと妬けるけどね、千尋ちゃん。あんなに大事にしてもらってさ」
そこでスーが無線に割り込んだ。
「隊長は隊員をえこひいきするような、器の小さい男では無いぞ!」
香澄・薫子「副隊長?」
スー「仮にお前たちが、今回の千尋と同じような状況になれば、彼は同様の措置を取っていたはずだ。それは保証してもいい」
香澄・薫子「…申し訳ありません」
その時、傍らでウージーの収容作業を手伝っていた、美幸が無線に割り込んで来た。
「あのう、お話中すいません。みなさん手がお留守になってますよ」
スー「すまん。よし、この話はここまでだ。先ずはウージーの収容を急げ」
香澄・薫子「了解!」
千佳が特機隊本部を訪れたのは、そんな騒動の翌日の、昼過ぎになってからのことであった。
仕事の合間に、テレビのニュースで事情を知り、慌てて駆け付けたのだ。
筆頭にスーツという珍妙な格好は、その為であった。
今日はここまでです。
次回は今週末に投下の予定です。
ではまた。
陸奥圓明流・雷ですね見逃しませんよw
久しぶりの大作にwktkしております。スレ復活してること知られてないと思いますが
頑張ってくださいまし。
>ハグレイバー
GJ!!
細かい設定が凄い。
しかも読み終わった後は何故か無駄な知識が増えている(褒め言葉)作品で、とても読み応えがありますね。
それにしてもクッチー立派になって…(涙
次回に期待です!
ハグレイバー面白かったです!
凄い細かい設定。世界観を作ってキャラを動かすのって並ぢゃないですよ。
あと格闘系の細かい描写が面白い。鬼嫁のあの技は一撃で中身(人)も死んじゃうよ……さすがレイバー乗員の安全面もバッチリですねw
こちらも刺激されつつ、久々に投下させていただきます。
【06:30 起床】
携帯ノ「あらーむ」ガ鳴ッテ起コサレル。
ウトウト目ヲコスリナガラ起キ上ガルト、チカハ、スデニベッドニハイナイ。
学生マンガ家ノ朝ハ早イ。
モウ、デスクノ方カラ「カリカリ」ト、ペンガ紙ヲコスルヨウナ音ガスル。
昨夜ハ午前2時クライマデネーム描イテイタハズダガ……。
【07:45 朝食】
チカハ1時間ホド作業スルト、breakfastヲ作ッテクレル。
トースト、ハムエッグ、コーヒーダ。
チカハ忙シイノデ、breakfastハワタシガ作ルト言ッテアゲテルノニ……。
アパートヲシェアシタ最初ノ朝ニ、JAPAN流ノbreakfastヲ作ッテアゲタ。
デモ、ソノ日カラ「キッチンニハ立ツナ」ト怒ラレタ。
チャント、ミソスープノダシモトッタノニ(←ただしコンソメ)。
ヒジキ甘ク煮ルタメニ隠シ味モ入レタノニ(←ただしコーラ)。
ライスモ「すみ」ヲ入レテカラ炊イタノニ(←ただし炭ではなく墨=インク)
why?
【08:30 大学へ】
チカト一緒ニ大学ヘ。
留学シテスグノ頃、一人デ大学ニ行ッタラ、がーどまんニ呼ビ止メラレタ。
「ココハ子ドモノ来ル所ジャナイヨ」ト、ホザキヤガッタ。
ダカラ普段ハ、チカト一緒ニイク。
【09:00 現視研部室】
ナニモナイ時ハ部室ニイル。
チカガ仕事ヲ持チ込ンデイル時ハ、アシスタントヲスル。
イツモ部室ニハ「カナコ」ガイル。
スコシダケ単位ガ足リナイカラ、チョットシカ講義ニ出席シナイ。
ダケド、毎日大学ニキテ、イツモ部室ニイル。
「コスプレ」カ「タナカサン」ノ話バカリシテイル。
「就活」トカイウ、ジョブ探ヲシテイル気配ハナイ。
ナントイウoptimist。タナカガ気ノ毒ニナッテキタ。
ボストンニ居タ頃ハ、コンナ性格ジャナカッタト思ウガ……。
【10:00 講義】
専攻ハSociology(←社会学専攻)ダガ、語学モ学バナイトイケナイノデ面倒ダ。
イチバンノ苦手科目ガ「英文法実践」ナノハナイショダ。
【12:00 昼食】
チカ、カナコト一緒ニ、キャンパスノかふぇてりあヘイク。
洒落テイテ、ステイツノかふぇヨリモ清潔。
デモ不満。
「学食」トイウノハ、モット小汚クテ、ドンブリ飯ヲ食ワセル所ダト思ッテタノニ、ガッカリダ。
一人デ先ニ部室ニモドルト、部室ニハ「マダラメ」ガイタ。
「あ、スージー、こんにちは」
「ドモ」
イツモイツモ、コンビニ弁当ヲ食ッテイルガ、飽キナイノダロウカ。
カナコト同ジデ、ジョブチェンジヲシテイル気配ハナイ。
デモ、マダラメノ場合ハナゼカpessimisticダ。
「ソコガイイ。ソレデコソ総受ネ」ト、アンジェラガInternational phoneデ喜ンデイタノヲ思イ出シタ。
コンナ女々シイノ、ドコガイイノカ。
マダラメハマンガ雑誌ヲ読ンデイタ。
「あふたぬーん」ダッタ……あふたぬーんデスカ、ソウデスカ……。
チカモ何デコンナマイナー誌ヲエランダノカ。
トナリカラ覗キコムト、マダラメハ「ぢごぷり」トイウ連載ヲ読ンデイタ。子育テマンガダ。
作者ハタシカ、「ぼくおしめ」ダッタカ?
マダラメガ、チラチラトコチラヲ気ニシテル。
上目ヅカイニ、「あかちゃんッテ、ドウヤッテデキルノ?」ト聞イテミタ。
Oh,スゲー、耳マデ赤イゼ。
マダラメハ「アワワ」ト慌テナガラ弁当ヲ片付ケルト、ソソクサ逃ゲテイッタ。
オゥ、コレハ、オモシロイゾ。イイおもちゃダ。
【14:30 暇時間】
午後ノ講義オワリ。キョウハモウ授業ハナイ。
部室ニ戻ル途中、チカカラめーるガアッタ。
「ごめんね、先にアパートに帰ってるから。今日の晩ご飯は何がいい?」
「キ・ン・ピ・ラ・ゴ・ボ・ウ」ト返信シテ、フト思ウ。
オカシイナ。何デ帰ッタンダ。
今日ハ「ササハラ」ト会ウ約束シテルノカナ?
ソウ思イナガラ部室ニ戻ルト、五月蠅イノガイタ。
「オー! スージーぢゃないデスカ。オギチンもすぐ帰っちゃうし、クッチー寂しかったデスよ♪」
チカガ早帰リシタ理由ガ分カッタ。
クチキモ今度卒業ノハズダガ、マッタク就活ノ話題ヲキカナイ。
ダイジョウブカ?
留年シタラ、チカモ、カナコモガックリスルダロウニ。
クチキハ、マダラメガ投ゲ捨テルヨウニ置イテ行ッタ「あふたぬーん」ヲ読ンデイタ。
覗キコムト、オオ、マタモ「ぢごぷり」ヲ読ンデイル。
ミンナ好キナンダナ「ぼくおしめ」。
チナミニ、クチキニモ聞イテミタ。
「あかちゃんッテ、ドウヤッテデキルノ?」
「お、スージー殿、いいところに目をつけましたな。赤ちゃんというのはデスネ……」
ソノ後ノクチキノ説明ハ、トテモ言葉ニデキナイ。
クチキハ、男ノ(ピー)トカ、女ノ(ピー)トカすとれーとニ語ッテ、エロ同人トカ、エロゲー雑誌ノ「アレ」ノ場面ヲ教材ニシテ解説シタ。
サスガニ引ク。
コロスカ?(黙らせる意味で)
【18:00 帰宅】
今日ハアキバマデ行ク時間ハナイノデ、近所ノあにめいとデ我慢シタ。
多摩ハ田舎ナノダ。
チカノあぱーとニ帰ルト、玄関ニ男モノノ靴ガ置イテアル。
奴ダ。
「ガラリ!」ト、戸ヲ開ケルト、そふぁニ「ササハラ」ガ座ッテイタ。チカハデスクデ原稿ヲ描イテイル…。
「や、やあスージー(汗」
「お…お帰り(汗」
2人トモ何ダカ「よそよそしい」。
ササハラハ週刊マガヅンヲ手ニシテイルガ、上下ガ逆サマダ。リサリサ先生…タバコ逆ダゼ。
チカノデスクニ近ヅク。ペンニインクガ付イテナイ。
オマエラ……チカハワタシノモn(以下略
【20:00 夕食】
3人デ食事……………チッ(怒
ササハラハ最近、仕事ヲガンバッテイルトイウ。
ガンバッテルナラ、コンナ所デ油ヲ売ルナ。
デモ、ササハラノ話ヲ聞イテイルチカノ顔ハ、トテモ優シイ。
トッテモ安心シテル感ジ。
チカノ顔ヲ優シクシテルノガ、ワタシジャナイノガ、チョットダケクヤシイ。
ダカラ壊スノ、憎イカラ。
「ソンナオトナ、修正シテヤル!」
「スー!」
「ウッ……これが若さか……」
チャントねたヲねたデ返シテクレルカラ、ササハラハ殴リ甲斐ガアル。
【21:00 シゴトシゴト】
ササハラハ担当シテイルマンガ家ノ所ヘ行ッタ。
ヨウヤク2人キリダ。
チカハ原稿ニペン入レヲ始メル。ワタシハベタヲヌル。
チカガ集中シテイル時、部屋ニハ「カリカリ」トイウ、ペンノ音ダケガスル。
ワタシハ、コノ時間ガ好キダ。
言葉モ、音楽モナイ。
互イニ向キ合ッテモイナイ。
デモ、チカノ存在ヲ感ジル。
チカガ描イタ、生マレタバカリニ原稿ニ触レテイル。
一緒ニ、タダ懸命ニ原稿ニ向カッテイル。
コノ時間ガ好キ。ソシテ、チカノコトガ大好キ。
【23:00 シャワー】
シゴトヲ一段落サセテ、シャワーヲ浴ビル。
モウ自分ノ服モアルノデ、「ぱんつプリーズ」シテモ、チカハ無視スル。
ナノデ、コッソリト借リル。
チカノぱんつヲ着ケテイルト、イツモ一緒ニ居ルヨウデ、ドキドキスル。
Oh,ヤンデレ一歩テマエネ。
シカモ、チカハオモシロイホド気付カナイ………ク〜クックック。
【1:00 就寝】
シャワート夜食ノ後、少シダケシゴトヲシテ、ベッドニ入ル。
チカハ、モウ1、2時間シゴトヲシテカラ寝ルトイウ。
ワタシハ、チカノベッドニ入ルト、彼女ガ来ルマデベッドヲ温メル……。
「スー、自分のベッドに戻りなさい!」
結局追イ出サレルノダガ。
「オヤスミ、チカ」
「おやすみ、スー」
チカハ、頬ニオヤスミノ「キス」ヲシテクレル。
「コレガボストン時代カラノ生活習慣ダ。コレガ無イト寝付ケナイ!」
ナドト駄々ヲコネタラ、毎晩真ッ赤ニナリナガラ「キス」シテクレルノダ。
アリガト、チカ。
オヤスミ。
以上です。
留学生としてのスーの一日を追ってみました。
何を考えているか分からないキャラなので、内面の表現は違和感ありありなんですが、「荻上は好き」「斑目と朽木はオモチャ」「笹原は殴る」の基本線で何とかまとめてみました。
パロネタ的にはジョジョの2部、Zガンダムの逆修正(カミーユ→クワトロ)、エヴァの赤城リツコくらいしかありません。
お粗末様でした〜。
乙です〜>或る留学生…
カタカナ文字が、宇宙人っぽいスーのテイストにぴったりはまってました!
>留学生
もんのすごい読みづらいwwwだがそれも含めGJ!
ダメ人間群像の圧力に呼吸困難でございます。
大野さん(T-T)
クッチー(T-T)
そして別の意味で笹原(T-T)
こんな猛獣と同居した荻上さんの包容力に乾杯。
面白うございました。
51 :
感謝:2008/10/02(木) 22:44:26 ID:???
>>49 どう表現しようか迷ったんですが、スーは所々でひらがな使ったり英語表記だったりしてるので……。
ソレっぽいテイストに見えてたら嬉しいです。
>>50 読み辛くてスマンですw
>ダメ人間群像
yes!ダメ人間!!
[結局こいつら変わってねーなw]という感じで書いてました。
荻上さんはきっと、スーのいいお母さんになれると思います。
スーの方はきっと、「チカは俺の嫁」な意識でしょうけどw
元気ですかああああああ!!!!!
今夜もバカがやって来ました。
今回は8レスほど投下します。
お返事も少々。
>>38 ありましたなあ、そんな技。
でもあれは、地面に落ちる前にローキックで頭蹴ってたから、投げ落としてから蹴飛ばす千尋の方が、ある意味凶悪な気が…
まあでも、蹴られた後は当然頭から落ちてるだろうから、やっぱり雷の方が凶悪かな。
ちなみに私の知る限りでは、この手の技の元祖は、多分「空手バカ一代」の芦原英幸だと思います。
本当にやったかは知らんけど芦原先生、1本背負いで真っ逆さまに投げ落として、空中にある相手の頭を蹴飛ばす技を、劇中で2回披露しています。
>>39 無駄な知識を羅列してしまい、申し訳ありません。
でもこの後も、無駄な知識の羅列は続きます。
>>40 パトレイバー見てたら、げんしけんメンバーでパトレイバーやりたくなったのが、この話を書き始めたきっかけでした。
最初は801小隊みたいに、全くのパラレルワールドにしようかなとも思いました。
でもパトとげんしけんのミックスパロとなると、やはり現実の日常と地続きの話にしたかったので、こうなりました。
千佳「あの隊長さん、やっぱり千尋、クビですよね?」
朽木「(苦笑し)何を仰いますやら。大丈夫ですよ、お母さん。あの程度のことではクビになりやしませんよ。て言うか、私がさせません」
千佳「いや、あの程度って…」
朽木「私はね、現役の刑事の頃、数え切れないほどの犯人を病院送りにして来ました。殴り倒した犯人の顔や肋骨踏んづけて破壊したりなんて、しょっちゅうでした」
千佳「(引いて)…」
朽木「今回なんて、レイバーこそ全壊ですが、犯人はほとんど無傷『その代わり精神崩壊してるけどね』に近いんですから、編成から3ヶ月目としては上出来だと思いますよ」
千佳「そんなもんなんですか…」
その時、部屋のドアをノックする音が響いた。
朽木がそれに応えると、麦男が入って来た。
麦男「隊長、こんなとこにいらしたんですか。(千佳に気付いて驚き)母さん?」
千佳「麦男?」
朽木「どうした?」
麦男「本庁からお電話です」
朽木「ひょっとして警備部長?」
麦男「そうです」
朽木「あちゃー、とうとう来たのう…(千佳に)すいませんお母さん、ちょっと席外しますんで」
千佳「はあ…」
朽木「麦男、今ヒマか?」
麦男「まあ、急ぎの仕事は無いですけど…」
朽木「じゃあ俺が戻るまで、お母さんのお相手をしててくれ。警備部長の説教長いんでね。この部屋退屈だし、お前もいろいろ話すことあるだろ?」
麦男「…了解です」
朽木「そんじゃお願いね。(千佳に)そんじゃあしばらく失礼します」
しばし無言の麦男と千佳。
千佳「…元気そうね」
麦男「…まあ、おかげ様で」
千佳「千尋は?」
麦男「病院だよ」
千佳「(顔色変わり)病院?!」
麦男「大丈夫だよ、母さん。昨日いろいろ検査してもらったけど、異常無かったから」
千佳「(ホッとして)良かった。でも、それなら何で?」
麦男「隊長の指示だよ」
千佳「隊長さんの?」
麦男「まあ大事を取る意味もあるけど、今日はここに来ない方がいいだろうという隊長の判断で、わざと1日だけ入院させたんだよ。今頃ついでにいろいろ健康診断やってるさ」
千佳「でもどうして?」
麦男「実はついさっきまで、ここにもマスコミが来てたんだ。もしここに千尋がいたら、取材と写真撮影の集中砲火に遭ってただろうね」
千佳「そう言えば、テレビのニュースでここ映ってたわね…」
麦男「まあそんな訳で、千尋の体の方は無事だから心配しないで」
千佳「でも隊長さんも仰ってたけど、本当に千尋クビにならないの?」
麦男「それも大丈夫だよ。あの人が隊長やってる限り、誰もクビにならないさ」
千佳「でも失礼だけど隊長さんって、確か巡査部長よね?そんな大きな権限があるとは思えないけど…」
麦男「それが隊長に限っては大丈夫なんだよ。何しろ本庁の偉いさん方、みんな隊長にビビッてるからね」
千佳「どういうこと?」
麦男「隊が創設された頃に、副隊長がレイバー隊の戦力を試算してみたことがあったんだ」
千佳「副隊長って、確かスーちゃんよね?」
麦男「そう、あの人。で、その試算ではうちの小隊の戦力って、陸自に換算するとざっと1個中隊ぐらいになるらしいんだ」
千佳「?ちょっと話が見えないんだけど…それにそもそも1個中隊って、どんなんなの?」
麦男「歩兵で言えば、ざっと200人ぐらいかな」
千佳「200人?」
麦男「まああくまでも、予備の3号機までフルに出動させた場合の、火力や装甲やパワーやスピードなどの要因を数値に換算した、数字の上での話だけどね」
千佳「それでも凄いんじゃないの?」
麦男「そりゃ凄いよ。何しろ数字の上では、日本でクーデターが起こせる戦力だからね」
千佳「クーデター?!でもそんなのやろうと思ったら、もっと戦力要るんじゃないの?戦車とか、戦闘機とか…」
麦男「(苦笑して)そんなもんは要らないよ。日本でクーデターやろうと思ったら、歩兵が100人か200人も居れば十分だよ。武器も手持ちの火器で十分こと足りるし」
千佳「でも、その人数でどうやって?」
麦男「簡単さ。国会の開催時に議事堂を占拠して、議員全員を拘束して、クーデター側のリーダーを首班指名させて、あとは全議員に辞表書かせれば、クーデター完成だよ」
千佳「えっ?何で?」
麦男「シビリアンコントロールだからだよ。方法はともかく、クーデターのリーダーが政権取ってしまえば、自衛隊は自動的にその指揮下に入ってしまうからね」
千佳「なるほどね…って、それが隊長さんが本庁ビビらせてるのと、どう関係があるの?」
麦男「俺と副隊長のそんな与太話を聞いていた隊長が、本庁に行った時に雑談として、その与太話を偉いさんに言ったらしいんだ」
千佳「?」
麦男「つまり偉いさんたちは、隊長を怒らせたらクーデター起こされると、マジでビビってるってことさ」
しばし呆然とする千佳。
「でもクーデターったって、それはあくまでも数字の…」
麦男「そうだよ、数字のマジックさ。本気でクーデターやろうと思ったら、総合的な数字の上の戦闘力よりも、先ず頭数が必要だからね」
千佳「やっぱり?」
麦男「そりゃそうさ。何しろ議事堂の中に居る、何百人もの国会議員を拘束して見張らなきゃならないんだから。そしてもちろん、隊長もそのことはちゃんと分かってるよ」
千佳「どゆこと?」
麦男「母さん、隊長が12年前に東北に来る前は、本庁に居たことは知ってたよね?」
千佳「ええ、何かヘマやらかして東北に飛ばされたとか聞いたけど…」
麦男「俺が調べたところでは、隊長が東北に飛ばされたの、本庁の刑事たちと捜査方針で揉めて、相手の刑事に殴られて、キレて乱闘しちゃったせいらしいんだ」
千佳「…(引いて)」
麦男「そん時に、捜査一課の全捜査員の6割ぐらいを病院送りにしちゃったらしいんだけど、その被害者には当時の刑事部長も居て、それがどうも今の警視総監らしいんだ」
千佳「えー?!」
麦男「一説によれば隊長、そん時にマウント取ってタコ殴りにしたらしいんだ、総監のこと。噂では総監、今でもその時の夢を見て、うなされることがあるらしいよ」
千佳「何と言うか、警察クビにならなかったのが、奇跡としか思えないわね…」
麦男「だから総監も、他の偉いさんたちも、みんなビビって戦々恐々だよ。本庁時代の凶悪凶暴狂犬刑事の悪名の名刺は、今でも十分有効みたいだね」
千佳「つまり隊長さんは、その昔の悪名を逆手に取って、クーデターを本気でやるかも知れないとほのめかして、お偉いさんたちを脅してるってこと?」
麦男「そういうこと」
千佳「いいのかなあ、それで…」
麦男「いいんじゃないの?隊長に言わせれば、警視庁のトップたる警視総監が、たかが一巡査部長ごときにビビるなら、それはビビる方が悪いってことらしいよ」
千佳「(苦笑)すっかり立派な警察官になられたと思ってたけど朽木先輩、生き方は相変わらず逆ギレ上等みたいね」
隊長の朽木が思った以上に頼りになることに安心したか、千佳は話題を変えた。
「で、千尋頑張ってる?」
麦男「頑張ってるよ。昨日の出動のはやり過ぎにしても、うちの小隊、今のとこ全戦全勝だし」
千佳「でも千尋、昨日は何であんなに無茶したの?」
麦男「ほら千尋って小さい時から、泣いてからが強いタイプだったでしょ?昨日は相手のレイバーに殴られて、久々に派手に泣いちゃったんだよ」
そう聞いて、懐かしそうに表情が和らぐ千佳。
千佳「あの子、小さい時もよく泣かされては、倍返しにしてたもんね。噛み付いたり、髪の毛引っ張ったり、耳引っ張ったり。あの子泣くと、本能的に急所狙うのよね」
麦男「母さん、そこしみじみするとこじゃないと思うけど…」
千佳「まあよく相手の子供の親御さんのとこに、謝りに行ったものだったけど、おかげで小学校上がる頃にはあの子、いじめられることも無くなったわね」
麦男「その代わり学校中に恐れられてたけどね。確かあだ名は、赤い彗星だったっけかな」
千佳「そうそう、確かガンダムオタの担任の先生が付けてくれたのよね。いつも千尋が赤のオーバーオール着て、頭筆にしてたから」
麦男「いや実はそれ、泣かされたら通常の3倍返しにするからって意味だったんだけど」
千佳「そうだったんだ…」
母親の天然ボケぶりに毒気を抜かれた麦男、強引に話題を戻した。
「それに千尋のやつ、訓練だって学校の勉強だって、凄い頑張ってるよ」
麦男はいろいろ実例を挙げて、千尋の頑張りぶりを千佳に話した。
千佳「あの子、小さい時は大人しくて引っ込み思案だったのに、今はそんなに積極的に頑張ってるんだ。でも、何があの子をそこまで頑張らせてるのかしら?」
心の中でギクリとする麦男。
元々真面目な千尋は、それ以前から頑張っていたが、今の頑張り様は明らかに朽木が隊長になってからだと分かっているからだ。
だが麦男はそんなことはおくびにも出さず、千佳に答えた。
「まあ単にうちの職場に水が合ったんだと思うよ。周りに年上のもんがたくさんいて、あれこれ構ってくれる環境とかさ。それにあいつ、昔からゲームは上手かったし」
千佳「そう言えばあの子、幼稚園の頃ぐらいからゲームにはまって、小学校上がった頃には、うちでは誰もあの子に勝てなかったわね」
麦男「そうそう。それにあいつ操縦桿持つと性格変わる方だから、いざ仕事になればけっこう猛々しいし」
千佳「でも、それだけかしら、あの子がそこまで頑張れるのは?」
再び内心ギクリとする麦男。
さてどう誤魔化したものかと、超高速で脳を回転させ始めたその時、室内に内海賢二似のたくましい男の声が響いた。
「愚問ダナ…」
2人が声の方を振り返ると、いつの間にかスーが立っていた。
「スーちゃん?!」
「副隊長?!」
飛び上がらんばかりに驚く千佳。
無理も無い。
戸が開く音も歩く音も立てずに、いきなりごく至近距離に現われたのだから。
一方麦男は、驚いたことは驚いたが、千佳に比べれば驚き方が薄かった。
そんな2人のリアクションに構わず、スーは先ほどの内海賢二似の声で続けた。
「愛以外ニ、人ヲ強クスルモノナドアルモノカ」
20年近く前の某格闘漫画の台詞だとは知らず、呆然とする麦男。
一方元ネタは知っているものの、唐突な引用に麦男と違う意味で呆然とする千佳。
この漫画は過去にアニメ化されたことはあるが、スーが真似したキャラの登場までには至っていない。
2008年現在、このアニメの続編が作られるか否かは不明だが、とりあえずスーの中では、そのキャラ(物凄い力持ちの黒人のオッサン)の中の人は内海賢二らしい。
そんな呆然母子に構わず、スーは真顔で敬礼しつつ、改めて挨拶した。
「お久しぶりであります!センセイ荻上」
「久しぶりね、スーちゃん」
ようやく落ち着きを取り戻し、何とか挨拶を返す千佳。
麦男「(呆れ顔で)副隊長、何時からいらしたんですか?」
スー「今さっきからだ」
麦男「いい加減、何の前兆も無く突然現われるの、やめて下さい。そうでなくてもここの職場、課長やら整備班長やら、いきなり現われる人多過ぎるのに…」
千佳『確か課長が初代会長で、整備班長が斑目さんだって、前に麦男言ってたわね。とうとうスーちゃんまで、瞬間移動が出来る境地に達したのか…』
「それにしてもスーちゃん、本当変わらないわね」
改めてスーを見つめ、千佳は言った。
スー「センセイこそ、お変わり無くて何よりです」
荻上「(微苦笑)…まあ決まり文句なことは分かってるけど、あなたに限っては、言う相手選ばないと嫌味になるわよ」
スー「そうでありますか」
千佳とスーが昔話を始めると、麦男はその様子をぼんやりと見ていた。
17歳の麦男の母親としては、千佳は若かった。
実年齢も39歳と、自分と同年代の者の母親と比べれば若いし、見た目も若かった。
子供を2人産んで太り、学生の頃の少女のような線の細さは無くなったものの、小柄で童顔の丸顔で、色白のスベスベした肌の為、実年齢より12〜13歳は若く見える。
仕事が忙しい為に、授業参観等の学校行事はすっぽかされることも多かったが、たまに来てくれた時は、母の若さが誇らしく思えたものだった。
だが今母の目の前にいる相手は、そのさらに上を行っていた。
正式に隊が発足してからの3ヶ月間、私物を取りに行く為に、麦男は何回か実家に帰っている。
その際に、千佳が出してきた学生時代の写真を見た時は、腰が抜けそうになった。
今の千尋そっくりの若き日の母の隣に、今と全く変わらないスーの姿があった。
背が伸びてないのはともかく、太りも痩せもしていない。
世の中には、肉体的な障害の為に、子供の姿のまま生涯を送る人が稀に居る。
だがスーは、そういう人でもないようだった。
と言うのも、成長が早い段階で止まってしまった人とて、老化は避けられないからだ。
ところがスーには、成長も成熟も老化も全く見られない。
肌は子供のようにスベスベで、小じわもしみも見当たらない。
一般に、白人の女性の老化は早いと言われている。
特に目鼻立ちが整った美人ほど、それが目立ちやすい。
中でもロシア系の女性には、18〜20歳ぐらいを境に、血管が透けて見えるほど細かった人が、急激に太り出す傾向がよく見られる。
(麦男は肌の色や目鼻立ちから、スーにはロシア系の血が何分の一か流れてると見ている)
だがどう若く見積もっても推定年齢30歳は越えているはずのスーに、それらの兆候は全く見られなかった。
スーが若々しいのは、見た目だけでは無かった。
小さな体にも関わらず、隊員の中では1番身体能力が優れていた。
短距離走、長距離走、垂直跳び、ボール遠投等、隊の発足時に行なった体力テストでは、ほとんどの種目でトップだった。
(筋力系の種目のみ、薫子に負けた)
それにFBIで、様々な肉体系スキルも身に付けていた。
初めてレイバー隊にやって来た時には、ヘリからロープを垂らしてのラペリングや、11メートル上空からダイブしての、5接地転回法(通称5点着地)を披露した。
(注)5接地転回法
着地の際に転がって衝撃を分散させる、パラシュートでの着地の方法のひとつ。
熟練すると、7メートルぐらいの高さから、パラシュート無しで着地出来る。
本日はここまでです。
次回もしばらく、スーちゃんの秘密(てゆーか妄想設定?)が続きますが、一方で麦男にある変化が起こります。
ではまた。
感想も少々。
(前書きに入れるつもりだったのですが、長過ぎると却下されました)
>或る留学生の一日
こういうカタカナ喋り、私の年代には懐かしいです。
「ジャイアント台風」(ジャイアント馬場の自伝漫画)の外人キャラの台詞とか、ファンコレのウルトラセブンのフィルムストーリーブックの、ガッツ星人やペロリンガ星人の台詞とかを思い出します。
それにしても、原作の現視研のその後って、多分こんな感じなんでしょうな。
部室の囚人みたいなOBばっかり増えて。
(くじアンおまけ漫画によれば、一応1年生はスー以外にも居るみたいですが)
斑目、仮にも大学に来てる女の子に、その手の質問されてキョドってどうする?!
でもキョドってこその斑目だから、しょうがないかな。
クッチー、やり方はともかく、親切じゃないか。
いい先輩持ったな、スーちゃん。
そして荻上さん、何かスーの躾、犬か猫みたいだなあ、ベッドから追い出して。
こんな感じの続編が読みたい今日この頃…
ちなみに斑目、ハグレイバーでもスーちゃんに多少振り回されます。
あと執筆中の30人いるでも、やはりスーちゃん他いろんな女の子に振り回されます。
さすが総受けキング。
日曜の午後のひととき、いかがお過ごしでしょうか?
さて、昨夜はちょっと中途半端なとこで切れましたので、もう8レスほど投下しようと思います。
では。
レイバー隊は月に数回、本庁の地下にある射撃練習場で射撃訓練を行なうが、そこでもスーは抜群の成績を見せた。
千尋と変わらない小さな手で、コルトガバメントやベレッタM92Fのような、グリップの太い拳銃でも使いこなし、SATの連中と張り合えるぐらいの好成績を見せた。
拳銃は、正しい握り方で撃たないと当たらない。
正しい拳銃の握り方とは、持っている手の手首から銃身の先端までが、一直線になるような握り方である。
この状態で、人差し指の第一関節が引き金に掛からない場合は、その手ではその拳銃を扱うには小さ過ぎるということになる。
スーはグリップが太い拳銃を使う時には、人差し指は銃の側面に添え、中指で引き金を引くことで手の小ささをカバーしていた。
その握り方は、米陸軍の情報部が、拳銃での暗殺の際に行なう握り方であった。
拳銃で人を殺す場合、なるべく至近距離まで近付かなければならない。
拳銃は、普段使わない人には想像出来ないほど、命中率の良くない火器だからだ。
出来れば1,5メートル以内、離れても5メートルまでの距離がベストである。
その距離ならば照準器を使うより、銃身を指の延長とイメージして、相手を指差すように狙いを定める方が、実戦的で手っ取り早い。
中指で引き金を引く撃ち方は、その発想をもっと直接的にしたもので、銃の横に添えた人差し指で相手を指差しながら撃つことで、近距離での射殺の際の照準を簡略にする。
実例としては、ケネディー大統領を暗殺したとされている、オズワルド容疑者を殺害したジャック・ルビーは、この撃ち方で至近距離から射殺している。
ただしこの撃ち方では人間の手の構造上、引き金を引く際に銃口が下を向きがちな為、10メートルも離れれば狙った所より下に着弾する。
スーの場合、上手く水平に引き金が引けるように訓練しているか、着弾の癖を覚えて照準を調整していると思われる。
格闘技においても、スーは他の隊員たちを圧倒していた。
レイバー隊の隊員も警察官なので、出動の合間に柔道と剣道の訓練をやる。
その訓練の際、隊員たちはスーにことごとく撃破された。
ほとんどの隊員は秒殺状態で、かろうじてスーとやり合えるのは、古武道の経験者である美幸だけであった。
ちなみに隊長の朽木は訓練には参加せず、訓練の指導は麦男とスーに任せていた。
レイバー隊が発足した当時、麦男は訓練に誘ったことがあったが、朽木は断った。
朽木「俺はいいよ。もう今年で41なんだから、若いもんの相手なんて付き合い切れんよ」
麦男「そんなこと仰らずにお願いします。みんな白帯で、黒帯って副隊長だけなんですよ。俺は学校の授業で習った程度だし、美幸君のやってたのは古武道だし」
朽木「ひょっとして俺の黒帯を当てにしてるの?」
麦男「まあそうなんですけど、隊長って黒帯ですよね?」
朽木「一応もらったけど、警察学校の授業の昇段審査ってユルユルだから、大概はもらえるもんなんだよ」
麦男「そういうもんなんですか?」
朽木「そういうもんなんだよ。何しろ俺、昇段試合で5人抜かれやられたのに、審査してた先生に気に入られて、特別におまけでもらったんだから」
麦男「抜かれてどうするんですか!いくら何でも、そりゃちょっとまずいでしょ」
朽木「その代わり、5人ともKOしたけどね」
麦男「???どういうことです?」
朽木「オール反則負けってことだよ」
麦男「…隊長、いったい何やったんですか?」
朽木「えーと…(遠い目)順を追って説明しようか」
言いながら、麦男の制服の袖と襟を軽く掴む朽木。
朽木「確か1本目は、先ず手前に両手を引いて相手を前かがみに崩して…(軽く引く)」
麦男「(少し前かがみになり)はあ…」
朽木「えーと、こっからは本当にやったら危ないから口頭で…先ず相手を下に引き落としながら、その勢いを利用してジャンプしてと」
麦男「ジャンプ?!」
朽木「で、ジャンプして相手の頭を正面から両脚で挟み」
麦男「???」
朽木「相手の首にぶら下がる感じで、一気にバク転して後方に頭から投げると…」
麦男「(いきなり組み手を切り)隊長!それフランケンシュタイナーじゃないですか!」
朽木「これそんな名前だったの?柔道の技にしては、ハイカラな名前だのう」
麦男「プロレスの技ですよ!」
朽木「まあ投げる時に、先に俺が床に手着いちゃったから、負けちゃったけど」
麦男「いやそれ以前に、反則でしょそれ!」
朽木の昇段試験での、他の試合は次の様な状況だった。
2本目。
審判に怒られた朽木、今度は普通に投げようと背負い投げを敢行。
だが袖を引きつつ襟をかち上げるのと、体を反転させるのがタイミングが合わず、結果相対した状態で、思い切り襟を掴んだ右手を斜め上にかち上げる形になった。
そしてその右手は顎の先端をかすめて当たり、相手はダウンした。
偶然にも朽木の右手の一撃は、ボクシングで最もKO率の高いパンチの1つとされている、かするフックと同じ形となったのだ。
フックはクリーンヒットするよりも、顎の先端をかするように当たる方が、てこの原理で首を支点に大きく頭が回転し、より脳震盪が起こりやすくなるのだ。
3本目。
襟を持って投げるのは危険と考えた朽木、両手で相手の右腕を抱えて一本背負いに行くことにした。
だが何故か相手の腕を一旦上に持ち上げてしまい、体を沈める前に思い切り相手の腕を真下へ引き落としてしまった。
その結果、相手の方が背が低かったことも災いして、一本背負いにならずにただのアームブリーカーとなり、相手は肘関節を脱臼した。
4本目。
基本に立ち返り、出足払いで決めることにした朽木。
だが相手も出足払いが得意らしく、激しい足の打ち合いに。
だんだんエキサイトして来た朽木、だんだん打ち付ける足の高さが上がって行き、最後には相手の太腿の外側の、膝関節より少し高い辺りにクリーンヒット。
そのポイントは、ローキックが入れば1発で決まる急所のひとつで、当たったのは朽木の鍛え抜いた脛であった為、相手はそのまま立てなかった。
麦男「わざとでしょ?!絶対わざとやってるでしょ?!」
朽木「そりゃ誤解だよ。俺はわざとそういうことやれるほど、器用じゃないよ」
麦男「本当に?」
朽木「ほんとほんと」
麦男「『どうもこの人、警官として、隊長としては信頼出来るんだけど、1人の人間としては、今いち信用出来ないんだよな…』で、5本目はどうだっんですか?」
朽木「最後はちゃんと投げたよ。えーとね・・・(麦男の袖と襟を持ち)先ず襟を持った右手を放して、相手の左の腋の下に差し込んで、肩組むような感じで右腕を左肩に回すと」
麦男「???」
朽木「で、肩に腕回しながら反転して腰に相手を乗せるようにして背負い、ジャンプして顔から落すと」
麦男「(朽木の腕を振り払い)それベトナム投げですから!」
朽木「今度はえらくエスニックな名前の柔道技だのう」
麦男「柔道じゃないですよ!これ軍隊格闘技の技です!」
ベトナム投げとは、マーシャルアーツのチャンピオン、ベニー・ユキーデがキックボクシングとの交流戦で、クリンチされた際に使ってしまい、有名になった投げ技である。
(この結果、ベニーは反則負けになった)
元々は、ベトナム戦争で米軍の特殊部隊が、潜入作戦の際にベトコンを始末するのに使った技だと言われている。
この投げが決まると、肩が脱臼し、受身が取れないので声も出せずに気絶するので、潜入作戦に向いているという触れ込みだった。
(現実には、こんな派手な投げ技使っている時点で、大きな音がして見つかりそうだが)
もっともこの説明は、故梶原一騎氏原作のセミドキュメンタリー格闘技漫画「四角いジャングル」の劇中で、新格闘術の黒崎健時氏が解説したものである。
梶原氏が自信たっぷりに実話と断言することの半分ぐらいは創作なので、その説明の真偽のほどは定かでない。
本来マーシャルアーツは、プロ空手とでも訳すべきアメリカンキックボクシングであった。
(実際、全米プロ空手という呼び方もある)
だがベニー来日の際のインタビューで、武術という意味合いで使ったマーシャルアーツという言葉が、軍隊格闘技と誤訳されてしまい、日本ではそれがそのまま定着してしまった。
ベトナム投げという名前やその解説は、この誤訳から派生した、軍隊格闘技というニュアンスから梶原氏が連想して創作した、フィクションの可能性が高い。
ベニーは格闘技全般に秀でているので、柔道やレスリングの経験に基づいて編み出したオリジナルの投げ技と、筆者は個人的に推測している。
もっともマーシャルアーツには実際に軍隊経験者も多く、ベニーの人脈は広いので、本当にベトナム帰還兵に習った可能性も捨て切れないが。
(当時のアメリカ人の20〜30代の男性には、マーシャルアーツの選手に限らず、ベトナムに戦争しに行った人はたくさん居る)
麦男「そもそもそんな技、どこで習ったんですか?」
朽木「大学の時の後輩からだよ」
麦男「大学の後輩と言うと、現視研の人ですか?」
朽木「俺が4年生の時の新入生に、特撮好きの女の子がいたんだよ。彼女元柔道部のマネージャーなんだけど、部員に柔道も少し習っててね」
麦男「何で柔道経験者が、こんなマニアックな技知ってるんですか?」
朽木「それは俺にも分からんけど、警官になってから大学に立ち寄った際に昇段試験のこと話したら、昔柔道部の人に習った必殺技教えてくれるって言い出してね」
麦男「元凶はその柔道部ですか…」
こうして麦男は、朽木を柔道の訓練に参加させることを断念した。
話がかなり脱線して来たので、スーの話に戻そう。
レイバー隊の柔道の訓練の際には、逮捕術としての柔道なので、投げ技や立ち技での関節技が中心になるが、寝技の練習も行なう。
格闘技の最強論争になると、寝技のある格闘技が最強と主張する人が多いが、それはあくまでも1対1でルールのある試合をやる場合の話である。
寝技はあくまでも1対1用の技術で、相手が複数である場合には通用しない。
ただそれでも、最終的に逮捕する時には、寝技での押さえ込みや関節技の形になることが多いので、やはり警察官には必要な技術である。
寝技の訓練の際には、当然お互いの体を重ねることになる。
レイバー隊は、隊長を除いて男子2人女子4人なので、相手を変えて練習する為には、男女混合での組むことも当然ある。
その為麦男は、全隊員と体を重ねたことがあった。
もっとも香澄と薫子は、巨乳が邪魔になるのと、男子への配慮(本人は男子と体を重ねることに無頓着だが)から、道着の下にTシャツの他に、厚目にさらしを巻いているが。
スーの体は、他の隊員たちと全く違う感触であった。
全身を脂肪に覆われている薫子とも、薫子よりは皮下脂肪の薄い香澄とも、引き締まった筋肉の美幸とも、全く違う。
強いて言えば千尋に近いが、線の細い今の千尋ではなく、小学校に入る前の幼女の千尋に近かった。
千尋の小さい頃、よく抱っこしてやっていたので、その感触が記憶に残っていたのだ。
スーの体には、麦男が感覚的に覚えている、幼女時代の千尋の感触に似た、プニプニ感が残っていた。
とても鍛え抜いた肉体とは思えなかった。
だがスーは、その小さな体にも関わらず、凄まじい力を発揮した。
当初麦男は、スーが小さい体にも関わらず黒帯なのを見て、技のキレで勝負する達人タイプだと思った。
ところがいざスーと乱取りをやってみると、技ではなく強烈な力で引き倒されてしまう。
ちなみにスーは剣道でも、正面から打って来て、力ずくでガードを緩めて1本取りに行くという、パワーファイターだった。
麦男は段位こそ持っていないが、中学の体育の授業の柔道では、かなり強い方であった。
中二の時には既に今の身長だったのと、生まれつき運動神経がいいせいで、素人相手なら身体能力だけで勝てた。
柔道部員でも白帯相手なら勝てたし、黒帯相手でも勝てないまでも互角の勝負が出来た。
その麦男が、頭二つ分は小さく、体重も20キロは軽いスーに力負けしてしまうのだから、半端では無いパワーだ。
レイバー隊も、本庁にある柔道場に、月に何度かは訓練に行く。
その際に、機動隊やSAT所属の、重量級の選手とも乱取りを行なう。
もちろん麦男は、いとも簡単に投げられてしまう。
このレベルまで行くと、技以前に腕力だけで引き倒されてしまうのだ。
スーの力のプレッシャーは、麦男にとっては重量級の選手のそれと、同様に感じられた。
普通はあの体格であれだけのパワーを発揮しようとしたら、物凄くぶ厚い筋肉を付けなければ不可能だ。
だがスーの体は、幼女のようにプニプニしていた。
『ひょっとしたら副隊長の体って、一流のアスリートの筋肉は、いざという時に鋼鉄のように硬くなるが、普段は女の乳房のように柔らかいっていう、あれなのかも知れない』
最近では、麦男はそう考えることにしていた。
相変わらず、スーと千佳の昔話は続いていた。
2人とも時折笑顔を見せる。
麦男はそれを不思議そうに見つめていた。
『へえ…副隊長って、こういう顔で笑うんだ…』
普段スーは、ほとんど1日中仏頂面であった。
たまに見せる笑顔も、不気味なニヤリという感じの笑い方であった。
その笑顔を見ている内に、麦男の脳内の回転が加速し始めた。
『よくよく見るとこの人って、順調に成長してたら、かなりの美人になり得たんだよな』
『青い瞳は綺麗だし、鼻筋は通ってるし、口も適度に小さいし』
『それに雪のように肌が白いし、鮫肌の多いアメリカの白人にしては、目が細かくてツルツルのスベスベなんだよね』
『金髪だって、実はアメリカ人ってブラウンのを染めてる偽金髪が多いんだけど、この人のはナチュラルの上に、サラサラだもんな』
ここまで考えて、麦男は慄然とした。
『ちょっと待て俺!俺は何を必死で、副隊長のいいとこ探しやってるんだ?』
『そりゃ副隊長は、心技体全ての点で秀でた凄い人だよ』
『でもそれはあくまでも、警察官として、レイバー隊の副隊長としての話だ』
『そうさ、俺は副隊長に、女としての部分なんて求めてやしない』
『第一本来俺の好みは、年上でお色気たっぷりの、巨乳美人じゃないか』
『その点副隊長って、俺の好みと被る部分なんて、年上って点だけじゃないか…』
今回はここまでです。
次回麦男の内面の葛藤は、思わぬ方向に進みます。
ではまた来週。
>ハグレイバー2
乙!
そしてグッジョブ(敢えて日本語っぽく)
後でしっかり感想を書きますが、スーどんだけ異次元人だよスー。
でも許す。麦ォの気持ちも分かる。
>>61 感想ありがとうございます。
>「ジャイアント台風」(ジャイアント馬場の自伝漫画)の外人キャラの台詞
>ファンコレのウルトラセブンのフィルムストーリーブック
例えが凄すぎるwwwwww
ファンコレってファンタスティック・コレクションby朝日ソノラマ?
>部室の囚人みたいなOB
くじアン2巻おまけを見てて思うのですが、普通はヤバイですよね大野さんや斑目の状況。「親泣くぞ」と思いながら書きましたw
大野さんをオプティに、斑目をペシミンに書きましたが、やっぱり斑目は気楽なようでいて、どこか悲壮感を抱えて欲しいなとか思いました。
吹っ切れているようで、吹っ切れていない。で、自分の足下もおぼつかない、そんな感じです。
>>52 >芦原英幸
ケンカ10段ですね分かります。
わが家になぜかビデオ版「実践!芦原空手」があった記憶がw
>ハグレイバー
スーのスペックに驚愕。そしていつまでも変わらぬ容姿に乾杯!
「幼女のようにプニプニしていた」━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
それにしても朽木の警察組織内での位置づけや、訓練の描写などが細かいこと。読み応えありますね。
ベトナム投げの検証には笑いました。ユキーデナツカシスw
次回も楽しみです。
ほしゅ
まとめサイトの管理人の方、そろそろスレの15と16を読めるようにして下さいな。
(ここで「15、16、17と、私の人生暗かった〜♪」という歌が頭に浮んだ人は、もう若くない)
まあ宇多田ヒカルの母親の歌だしなw
ちと遅くなりましたが、今週も投下しようと思います。
例によって、8レス行きます。
ここで再び、麦男の思考のベクトルが微妙に変化した。
いつの間にか、ツッコミ役のような別人格が現れ、脳内で討論するような形になった。
『ちょっと待て!年上と言っても、それは実年齢の話で、見た目はむしろ、どう見ても俺より年下じゃないか!』
『だが見た目はどうあれ、人生経験豊富な年上のお姉様であることは事実だ』
『年上にも程があるだろ!母さんと大して歳変わんないんだぞ!下手すれば母さんと同い年か、最悪母さんより年上かも知れないんだ!』
『だが年上であることに変わりは無い』
『限度があるわい!母さんと同年代なんて、もはや熟女の領域じゃねえか!』
『確かに見た目も熟女なら大問題だが、見た目はむしろ年下に見えるぐらいじゃないか』
『だから俺にはそんなロリコン趣味は無い!』
『だが彼女は年上だぞ』
こんな無限ループのような思考を繰り返す内に、麦男はある仮説に辿り着いた。
『まさか俺、副隊長のことが好きになったとか?…』
麦男は大急ぎでそれを否定した。
『いかんいかんいかん!落ち着け笹原麦男17歳!』
『冷静に現実を見ろ!俺と副隊長じゃ、何もかも違い過ぎて、釣り合わないだろ!』
『年齢、階級、国籍、人種、そしてスペックと、職場と担当ポジション以外、何ひとつ共通点が無いじゃないか!』
『ちょっと待て!何を俺は付き合うこと前提に考えてるんだ?!』
『のわあああああああああ!!!!!!!!!』
思考の無間地獄に陥る麦男。
「麦男、どうしたの?」
千佳の声にハッとなる麦男。
気が付くと麦男は、最大出力で赤面滝汗で2人の方を向いていた。
麦男「なっ、何でもないよ。ちょっと考え事してただけだよ」
そんな麦男を見て、スーがニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。
ドキリとする麦男。
スー「さすがは先生の息子さんですな」
千佳「どういうこと?」
スー「あまりオタク属性が無さそうだったので、一時はどうなることかと心配しましたが、やはり彼も荻上千佳の血を引く者だったようですな」
千佳・麦男「???」
スー「どうやら彼も、ワープを体得したようですな」
麦男「わーぷ?」
スー「おそらく私と先生とで、百合妄想でもしていたのでしょう」
ブッとなる母子。
麦男「(最大出力赤面滝汗で)違います!!!」
スー「(ニヤリと笑い)まあ最初から受け入れるのは、抵抗あるだろうから、そういうことにしておいてやるよ」
麦男「だから違いますってば!!!」
ふと麦男が千佳の方に目を向けると、赤面滝汗でこちらを見ていた。
千佳「私、妄想の上でなら、こういうことには理解あるつもりだけど、妄想より先に行こうとしたら、本当に怒るからね」
麦男「しないって母さん!」
スー「(麦男の肩に手を置き)どうしても我慢出来ない時は、私のとこへ来い。1回ぐらいなら相手してやるから」
千佳「(限界まで赤面で)スーちゃん!」
麦男「(限界まで赤面で)副隊長、それ淫行ですから!」
数分後、千佳と麦男の母子はようやく落ち着いた。
そこで千佳は、ふとあることに気付いた。
「そう言えばスーちゃん、さっき何か言い掛けてたわね。愛がどうこうって…」
内心焦る麦男。
『蒸し返すなよ、母さん!』
千佳「ひょっとして千尋、好きな人が出来たの?」
スー「さすがは先生、その通りであります!」
麦男『副隊長も空気読んでよ〜!』
どうやって誤魔化したもんかと、必死で頭を回転させる麦男。
だが2人のオタク熟女(?)は、そんな彼を置き去りにして話を進めた。
千佳「でもレイバー隊って、確か男の子って麦男ともう1人だけだったような…」
スー「仰る通り、レイバー隊の男性は、隊長と麦男、それに美幸だけであります」
千佳「美幸君って、確か高坂さんと春日部さんの息子さんだったっけ?あの2人の息子さんなら、さぞかし美形なんでしょうね。そりゃ千尋が好きになるのも無理無いわね」
スー「美形なのはその通りでありますが、残念ながら千尋の本命は、彼ではありません」
千佳「違うの?(麦男を睨み)まさかあんた千尋に…」
麦男「しないっつーの!よしてよ、そういう漫画家みたいな発想は!」
千佳「まあ漫画家なんだけど…となると誰かな?整備には、千尋ぐらいの歳の子っているのかな?」
スー「まあ早期雇用政策のせいで、10代の子もたくさんいますが、それも違います」
千佳「となると…前に聞いた斑目さんの息子さん?確か小学生じゃなかったっけ?」
スー「整備班長の息子さんは9歳であります。だがそれも違います」
千佳「となると、あと身近な男性と言えば…まさか斑目さん?さすがに不倫はまずいわ!」
麦男「んな訳無いでしょ!」
千佳「そうよね。さすがに歳が違い過ぎるし。歳と言えば、課長さんっていくつなんだろ?」
スー「いや、さすがにあの人は関係無いであります」
千佳「となると、あといったい誰が?…」
ここに来て、麦男の悪い面がウズウズし始めた。
超天才の美幸やスーほどではないが、麦男も頭はいい。
麦男は小さい頃から、将棋やチェスやウォーゲーム(実際にあった戦争を盤とコマで再現した、将棋を複雑でリアルにしたようなゲーム)が好きだった。
また、中学生の時に弁論部にいたので、ディベートに強いせいもあり、理詰めの思考力に秀でていた。
その為、何事も白黒はっきりさせないと気が済まない性格になってしまっていた。
それが必要で役立つ局面もたくさんあるのだが、今回はそれが裏目に出てしまった。
母があまりにも的外れな方ばかり見ているので、ついついわざわざ墓穴を掘りに行ってしまったのだ。
「ああもう母さん、1番考えたくない可能性を無意識に排除してるでしょ?!」
一瞬固まる母子。
麦男「あっ…『しまった!』」
千佳「(最大出力赤面滝汗で)ま・さ・か…」
スー「そう、千尋の意中の人は、朽木隊長であります」
千佳の脳内イメージ。
正座してる、スーツ姿でマジ顔の朽木。
「お父さん、お母さん、私に千尋さんを下さい!(言い終わると同時に土下座)」
千佳は最大出力を超えて赤面滝汗し、頭が沸騰しそうになっていた。
母の意識が彼岸の彼方に行ってしまったことを悟った麦男、大慌てで千佳の筆をシビビビしつつ絶叫する。
「母さん落ち着いて!変な妄想しちゃダメだ!戻って来て〜〜〜!!!!!」
数分後、千佳はようやく落ち着いたものの、脳内温度がまだ下がらずグッタリとしていた。
麦男は麦男で荒い息を付いていた。
そんな2人を涼しい顔で見つめるスー。
麦男「副隊長!何でわざわざバラしちゃうんですか?!」
スー「隠してもしょうがあるまい。いずれは分かることだ」
麦男「ですが、心の準備というものが…」
その時、スーが突然麦男に向かって、ずいと動いた。
座ってる麦男の顔の至近距離に、前屈みになって顔を近付けるスー。
ドキリとして、思わず下がってしまう麦男。
スー「お前はいろんな意味で、母親というものを甘く見過ぎている」
再びドキリとする麦男。
そう、千佳の常人より夢見がちで、やや浮世離れした感覚について、理論的な意味での知能は自分より劣っている、そう思っている面が確かに麦男にはあった。
いや、それも厳密には違うかも知れない。
何事も理詰めで考える麦男にとって、勘や感覚や感情から入る千佳の頭脳回路は、この歳になっても未知の存在であった。
だからそうとでも考えないと、母と自分の頭の比較について、理論的にまとめられない為に、前述のようなまとめ方をしたのかも知れない。
『そうだよな。子供がこういうことで、母親に気を使うってのは、おこがましいよな』
スーに言われたことで、麦男は千尋と朽木について、千佳に話す決心が付いた。
「聞いてくれ母さん。隊長がうちに来たのは、決して千尋目当てではなく、むしろ千尋にあきらめさせることが目的だったんだよ」
千佳「あきらめさせる?」
麦男「まあそれ以外にも、いろいろ理由はあるんだろうけど、少なくとも千尋に関してはそうだよ」
麦男は朽木が隊長に就任した時、朽木と話したことについて、千佳に語り始めた。
千尋の気持ちにいち早く気付いていた麦男は、彼女の意中の人である朽木が隊長になった時、そのことについて朽木に詰問した。
朽木「俺が隊長を引き受けた理由は、他にもいろいろあるけど、千尋のことに限って言うなら、俺に対する気持ちを自然消滅させる為だよ」
麦男「自然消滅?」
朽木「仮に俺が隊長の話を断って、その後2度と千尋に会うことが無かったとしようか」
麦男「?」
朽木「そうすると千尋の中で、俺について美化されたイメージが残り、最悪それがずっと尾を引く場合も有り得る」
麦男「…」
朽木「その点、俺が隊長になって近くに居たら、嫌でも日々41歳の中年男の等身大の姿を見ることになる」
麦男「なるほど…」
朽木「思春期の女の子ってやつは、王子様との恋に憧れる美しい心の裏に、不細工男や中年オヤジへの嫌悪感を持ってるものさ」
麦男「隊長…」
朽木「安心しろ。俺がここで、中年男の現在を嫌というほど見せ付けてやるから。そうすりゃ俺への思いなんて自然消滅して、年相応の男の子に目を向けるようになるさ」
そう軽口で言う朽木が、少し寂しそうに麦男には見えた。
麦男「で、隊長がやり出したのが、隊長室で煙草吸い、スポーツ新聞読み、水虫の薬塗るっていう、オヤジテイストたっぷりの行動って訳さ」
千佳「(少し引き)隊長さんが警察に入ってから、煙草吸い出したのは知ってたけど、水虫まで患ってたとは…」
麦男「水虫って刑事の職業病らしいよ、隊長によれば。まあ確かに長時間靴履いて、屋外や車の中で張り込みやったり、聞き込みで歩き回ったりしたら、そりゃなりそうだし」
千佳「スポーツ新聞は?あの人学生時代はオタやってて、そういう趣味は無かったと思ったけど」
麦男「隊長に言わせれば、スポーツ新聞読むことって、警官の一般教養として必要なんだそうらしいよ」
千佳「なして?」
麦男「隊長が昔相手してた犯罪者って、ブルーカラー層が多いから、事件以外のことで雑談しようと思ったら、スポーツ新聞的なネタぐらいしか無いらしいんだ」
千佳「…」
麦男「それに警察官でもノンキャリ組だと、ある意味犯罪者と被る部分が多くて、共通の話題って言うと、やはり同じ様なもんなんだって」
千佳「それで警官に必要な一般教養という訳ね」
麦男「そういうこと。まあもっとも、あの人の言うことは仕事以外では、どこまで信用していいか分からんけどね」
1人の警察官として、レイバー隊の隊長としては、全幅の信頼が置けるが、1人の人間としては、どこまで信用していいか分からない。
それが麦男の、この3ヶ月間での朽木についての心証であった。
千佳「でもまあ、そこまでやって下さってるなら、千尋と隊長さんについては、あまり心配しなくて良さそうね」
「ところがそうでも無いんですよ!」
その時、突如応接室に香澄が乱入し、開口一番こう言い放った。
麦男「何でお前まで来るんだよ?!」
香澄「だって麦男君も副隊長も帰って来ないから、書類進まないのよ。新しい書類増え過ぎで、私と薫子だけじゃ書式分かんないし」
麦男「美幸君は?」
香澄「整備の人が連れてっちゃった」
麦男「何で?」
香澄「ほら、今日整備班長いないでしょ?」
麦男「ああ、メーカーさんの筑波研究所で研修だったね」
香澄「整備班の人って、ハードの方の専門家ばっかしで、ソフトの方は初心者レベルなのよ。整備班でOSに詳しい人って、整備班長だけだし」
麦男「後は課長と、うちのIQ200越えコンビぐらいか」
千佳「あの麦男、こちらはもしや?」
麦男が紹介しようとしたのを遮って、香澄は敬礼しつつ自己紹介した。
「初めまして!レイバー隊の田中香澄巡査です!」
千佳「(立ち上がって軽く会釈し)ども、麦男の母です。確か田中さんと大野さんの娘さんだったわね」
香澄「はいっ」
千佳は香澄の全身を、改めてしげしげと見つめた。
『それにしてもこの子、背丈も横幅も、全部大野さんよりでけえなあ。特に何この胸。大野さんよりまだ2〜3サイズでけえぞ。何食ったらこんなんになるんだあ?』
千佳は子供2人産んだことにプラスして、座業で太った為、若い時に比べればバストサイズは3サイズほどアップした。
彼女の体格としては、けっこうの巨乳の部類だ。
だがそれでも、ここまで規格外にでかい爆乳を見せ付けられると、ついつい忘れかけていたコンプレックスが首をもたげて来る。
香澄が登場した所で、本日はここまでです。
チトこのシーン、ダレて来た気もしますが、次回もう1回だけご辛抱を。
お返事を少々。
>>72 もしや=
>>73の方でしょうか?
スーちゃんの異次元人ぶりは、この後も続きますので、乞うご期待。
>>73 ファンコレはその通りです。
今ではまんだらけで、万単位の値段が付いてますが、ぜひとも復刻して欲しいものです。
(ちなみに朝日ソノラマ、潰れて朝日新聞社に吸収合併されたらしいです。最近出たメビウスのファンコレが最終だそうです)
読み応えがあると言って頂いて、光栄です。
チトやり過ぎかなと思った、細かい設定を作り込んだ甲斐がありました。
お晩です。
もう少し投下して、この場面のシーンを終わらせておこうと思います。
8レスです。
では。
千佳の視線に気付き、やや不機嫌な表情で香澄は尋ねた。
「あの、何をそんなに見つめてらっしゃるんですか?」
千佳「(慌てて)あっ、いやね、お母さんにそっくりだなと思って…」
香澄「どこがですか?」
千佳「…えーと、その長い黒髪と丸顔」
香澄「ほんとに?」
香澄の不機嫌の意味を悟った千佳、慌てて言い訳する。
千佳「ほっ、ほんとよ。ほらっ、私この通り小柄だから、人と話す時ってどうしても見上げる格好になるのよ」
香澄「?」
千佳「この歳になるとね、顔しっかり見るのがしんどいもんだから、視線の中心を胸元に持って来て、全身を見るようにしてるのよ」
香澄は千佳が胸元を見ていることは分かり切っていたが、千佳がこちらの気持ちを分かってくれたらしいと悟り、この話はここまでで収めることにした。
「ところでさっき言いかけたことだけど…」
千佳がそう切り出しかけた時、新たな乱入者が襲来した。
「あの、もしかして荻上千佳先生ですか?」
(注)千佳は旧姓の頃、ペンネームを本名の荻上千佳にし、結婚後もそのままにしていた。
目を輝かせて千佳に猛スピードで接近して来た乱入者は、薫子だった。
香澄よりやや背が低く、バストサイズも2サイズばかし小さい。
だがそれでも、そこそこは大柄で、一般レベルではかなりの巨乳な上に、香澄よりも太目なので、むしろ見た目の印象は香澄よりも大きく見える。
このタイプの知人やファンに、これまで幾度となく過剰なハグの洗礼を受けて来た千佳は、本能的に身構えながら答えた。
「そうだけど…あなたは?」
薫子「(敬礼して)初めまして!レイバー隊の久我山薫子巡査です!」
千佳「ああ、久我山さんの娘さんね。麦男や千尋から、いろいろ聞いてるわ」
薫子「私も父から、いろいろ聞いています!」
薫子「あの先生、握手して頂いていいですか?」
皆が一瞬固まる中、千佳は快諾した。
「(右手を差し出し)いいわよ」
マジ顔で見守る一同。
薫子がレイバー隊一の怪力の持ち主だからだ。
柔道の稽古の際に、ほとんどの隊員相手に力ずくで勝ってしまうスーですら、薫子相手の時はスピードと技で勝負するほどだ。
数秒後、妙に力のこもった握手は終わった。
「いやあ驚いた、先生って握力凄いんですね」
薫子は右手をブラブラさせながら、素直に感想を述べた。
「私、先生の黄金の右手潰しちゃまずいと思って手加減してたんですけど、想像以上に凄い握力だったんで、思わず7割ぐらいの力で握り返しちゃいました」
それに対し、千佳は真顔で応えた。
「ごめんなさいね。私も7割ぐらいに抑えたんだけど」
一瞬凍結する薫子と香澄。
麦男「母さん若い時は千尋ぐらいの太さだったんだけど、その頃は自分の体重ぐらいの握力あったらしいよ」
薫子・香澄「何ですと!」
千佳「(赤面し)ちょっと、よしなさいよ麦男!」
スー「先生は子供の頃から漫画を描いてらっしゃるんだが、ペンを持つ時に親指と人差し指に極端に力を入れる癖があったので、強力なピンチ力(つまむ力)があるのだ」
千佳「(赤面し)スーちゃんもよしてったら!」
スーは構わず解説を続けた。
「人間は手の構造上、物を握る時には親指と他4本で挟んで握り込む形になる。だから親指と人差し指の力は、握力を構成する重要な要因となるのだ」
薫子と香澄は、純粋に感心してスーの講義を拝聴していた。
麦男「まあさすがに母さん、今は太っちゃったから、昔みたいに体重イコール握力ってことは無いと思うけどね」
それに対し、千佳はぼそっと答えた。
「あるわよ」
麦男「えっ?」
千佳「だからあるって言ってるのよ、握力が。今の体重ぐらい」
一同「ええええええええ?!」
麦男「でも、何で?」
千佳「鍛えたからよ」
麦男「だから何で?」
千佳「大学の時、現視研の後輩の子に教わったんだけど、ロープ掴んで高いとこから脱出するには、体重の8割ぐらいの握力が要るのよ」
一同「???」
千佳「あんたを産んだ時に考えたのよ。あの頃は今のマンションより狭いアパートに住んでたけど、いずれは広いとこに引っ越すことになるだろうなって」
一同「…」
千佳「私たちの仕事の関係から考えて、引っ越すとしたら多分マンションになるだろうから、そうなれば高いとこから、あんた背負って脱出することになるかも知れないし」
麦男「それで握力を…」
千佳「まあ千尋産んだ頃から太っちゃったから、大変だったけどね、あんたと千尋に加えて、体重の増えた分も握力増やさなきゃいけなかったから」
ニコリと笑って千佳は、さらに付け加えた。
「でもまあ幸い、全力で握力使う事無く2人が成長してくれたから、結果オーライよ」
不意に俊敏な動きで、薫子が千佳にがぶり寄った。
見事に千佳を捕獲し、ハグしながら号泣する。
薫子「オロロロ〜ン!何ていい話なんでしょう!先生、私感動しました!」
千佳「ムギュウ」
香澄「私も混ぜてええええ!」
結局千佳は、香澄も加わったサンドイッチハグを喰らう破目になった。
「母さん、大丈夫?」
目が渦巻きになった千佳に、麦男は声をかけた。
千佳「なっ、何とか」
麦男「お前らやり過ぎ!」
香澄・薫子「ごめんなさい…」
突然千佳は我に返り、香澄に質問した。
「そう言えば、さっきの話の続きなんだけど」
香澄「えーと、何でしたっけ?」
スー「ところがそうでも無いって話じゃないか?」
香澄「あっ、それですね。つまりですね…隊長が、さっき麦男君が言ってたような意図でいろいろやってるのだとしたら、それ完全に裏目に出てるんですよ」
千佳「どういうこと?」
香澄「千尋ちゃん、お茶持ってったり書類出したりする為に、隊長室に行った時って、いつもなかなか帰って来ないんですよ」
麦男「そう言えばあいつ、いつも戻って来るの遅いな…ん?母さん?」」
千佳の頭の中で、香澄の「なかなか帰って来ない」という台詞が、何度も何度も木霊した。
そして脳内のワープエンジンが再起動した。
麦男「(千佳の筆をシビビビしつつ)うわああああ!母さんそっち方面に行かない!」
薫子「麦男君、何してるの?」
スー「先生の妄想力は宇宙スケールだから、時々ああしてさしあげないと、意識が宇宙の彼方に行ってしまわれるのだ」
薫子「やっぱりプロの漫画家って凄いんですね」
「いやこれ、母さんは例外中の例外だから!」
荒い息を付きつつ、麦男はスーの解説に補足した。
「で、どうして千尋帰って来ないの?」
ようやく意識が戻って来た千佳、香澄に話の続きを促した。
香澄「隊長の肩叩いてあげてるんですよ」
一同「肩?」
香澄「あとは日によって、いろんなことしてますよ。肩もんであげたり、隊長室の掃除したり、隊長が置いてる洗い物回収して、自分のと一緒にお洗濯してあげたり」
一同「お洗濯?」
30年ぐらい前に現れて、この当時には多数派になりつつある、父親の洗濯物を別で洗う少女たちと、正反対の行為を平然と行える千尋に対し、一同は驚愕した。
千佳「うーん、単にうちが全部まとめて洗ってたからじゃないかしら?うちはお父さんのも私のも麦男のも千尋のも、それに義理の妹の恵子さんのもまとめて洗ってたし」
薫子「いやそれにしても、赤の他人の中年男性の洗濯物一緒に洗うって、なかなか出来ることじゃありませんよ。うちですら、お父さんの別で洗ってるのに」
千佳「別口なんだ、久我山さん…」
薫子「いやお父さん、5年ぐらい前から加齢臭凄かったもんで…」
千佳「…それはしょうがないかも」
麦男「あの母さん、また本題から話ずれて来てるよ」
千佳「ああそうだったわね。えーと千尋…単に真面目で親切なだけ…かな?」
香澄「だけじゃないと思いますよ。千尋ちゃん、嬉々としてそれやってましたし、さっき麦男君が言ってたオヤジテイスト作戦も、あの子にかかったら楽しい話題ですし」
一同「楽しい?」
香澄「ええ、千尋ちゃんって、隊長室から帰って来ると、いつも嬉しそうにいちいち報告するんですよ」
千佳「例えばどんな?」
香澄「例えば、隊長って水虫の薬塗ってて、何かお父さんみたいとか、スポーツ新聞読んでて、何かお父さんみたいとか、エッチな雑誌読んでて、何かお父さんみたいとか…」
呆然として固まる一同。
千佳「(赤面滝汗で)いやうちの人、それ全部やらないし」
麦男「て言うか千尋、そこ喜ぶとこじゃないし」
香澄「千尋ちゃんのお父さんって、今の全然無いんですか?」
千佳「(苦笑)無い無い。40過ぎた今でも、家では漫画とアニメ雑誌とゲーム雑誌ばかり読んでるし、太って汗かきになってからも、水虫にはなってないし、共通点は煙草ぐらいよ」
香澄「きっと千尋ちゃん、私や私のママみたいに、オヤジ趣味に目覚めたんですよ」
千佳「いや、お気持ちはありがたいけど、その可能性は全力で否定したいわね」
薫子「じゃあきっと、隊長のたくましい体見て、私みたいに発情してるんですよ」
ブッとなる一同。
スー「(川澄綾子似の声で)えっちナノハ、イケナイト思イマス!」
呆然となる若い隊員たち。
千佳「あっ気にしないで。昔のアニメの台詞だから」
「千尋ちゃんの隊長への思いって、恋愛とはまた違うと思いますよ」
新たな闖入者が口を開いた。
一同が声の方を向くと、レイバー隊最後の1人、美幸が立っていた。
香澄「美幸君、向こうは終わったの?」
美幸「うん、少しプログラムをいじったから、後は整備の人で何とかなると思うよ」
麦男「大丈夫かい、勝手にいじって?」
美幸「従来通りの分もバックアップに残してあるから、もし不具合があればすぐ戻せるよ」
千佳「あの、こちらはもしや?」
美幸「(敬礼して)初めまして、高坂美幸巡査です」
千佳「やっぱりそうね。麦男から話には聞いてたし、若い時の高坂さんそっくりだし『て言うか、この子って確か10歳ぐらいよね。もう背丈、お父さんぐらいあるような…』」
スー「それより美幸、さっき言いかけたことなんだが…」
美幸「ああ、そうでしたね」
千佳「そうそう、どういうことなのかしら、さっきのは?」
美幸「前に千尋ちゃんから、お父さんのこといろいろ聞いたんです。家には月に何度も帰れないぐらい忙しかったこととか」
「確かにあの子が幼稚園に上がってからの5年ぐらいが、あの人も私も1番大変だった時期だったから、寂しい思いさせたかも知れないわね」
千佳が過去を振り返った。
「あの頃は、漫画雑誌の休刊と創刊が続いたせいで、私も読み切りばっか描いてたし、お父さんはあちこち掛け持ちで走り回ってて、月に2回帰って来るかどうかぐらいだったわ」
香澄「まるで船乗りですね」
千佳「(苦笑)まあね。で、ようやくお父さんの仕事が落ち着いて、週に2回ぐらいは帰れるようになったと思ったら、今度は千尋が出てっちゃうし、皮肉なものよね」
薫子「落ち着いて週2回っすか…」
香澄「漫画雑誌の編集って、大変なんですね」
「多分千尋ちゃんの隊長に対する行動って、本来お父さんにしてあげたかったことだと思うんです」
美幸が再び話題を戻した。
「本当は千尋ちゃんだって、家に戻ってお父さんを待っていて、今隊長にしているようなことをやってあげたいんだと思うんです」
麦男「だけどあいつは真面目で責任感強いから、自分からそれは言い出さないだろうな」
美幸「でもそういう気持ちを完全に封じ込めることも出来ないから、隊長という身近な大人の男性で代替行為を行なうことで、精神のバランスを保ってるんでしょう」
麦男「確かにそう考えれば、上手く千尋の行動は説明出来るな」
美幸「だからお母さん、隊長と千尋ちゃんのことは、心配しなくても大丈夫ですよ」
千佳は隊員たちと話す内に、隊員たちが千尋のことを大事にし、心配してくれていることを悟り、美幸の主張を信じることにした。
「…そうね。そうかも知れないわね」
そして隊員たちに深々と頭を下げた。
「どうかこれからも、千尋のことをよろしくお願いします」
そこへようやく朽木が戻って来た。
「いやあ、どうもすいません。うちの警備部長、どうせ後で査問委員会でも同じこと言うくせに、くどくどと説教するから、こんな長いことお待たせしちゃって…」
ここまでを一気にまくし立てた朽木、一瞬固まる。
「何で、お前ら全員揃ってるの?」
隊員一同「いや、そのう…」
朽木「まあいいか、ちょうどいいし。俺はこの後この方とのお話が済んだら、そのまま本庁行って来るから、あとお願い」
隊員一同「(敬礼しつつ)了解!」
千佳「あの、隊長さん」
朽木「はっ?」
千佳「さっきの話は、もういいです」
朽木「にょっ?よろしいんですか?」
千佳「ええ、隊長さんのお電話の間に、隊員の方たちから、いろいろ事情は聞きました」
朽木「そうですか…」
千佳は今度は朽木に深々と頭を下げて言った。
「どうか千尋のこと、よろしくお願いします」
朽木「ところでこの後は、ご自宅へ?」
千佳「出て来たついでに、神田のA社に打ち合わせに寄って行こうかと…」
朽木「それならば、お送りしましょう。ちょうど私も今から本庁行きますし」
千佳「いっ、いえそんな、いいですよ。A社の方回ったら遠回りですし」
朽木「隊長専用車も一応公用車ですからな。税金使って八王子から桜田門まで車で1人ってのも気が引けますから、せめて納税者の方をお送りして、エコロジーに貢献しないと」
朽木のけったいな論理に納得した訳では無いが、そこまで言うなら断るのも悪いかと思い、結局千佳は送ってもらうことにした。
千佳「麦男、千尋によろしくね。あとたまには帰って来なさいって伝えて」
麦男「分かった」
朽木「そんじゃあみんな、あとお願い。出動あったら、例によってスーが現場の指揮、で、定時になったら適当に帰ってくれていいから」
今回は以上です。
次回は新展開、てほどでも無いかも知れませんが、スーのある企みが発動します。
ではまた来週。
97 :
マロン名無しさん:2008/10/14(火) 10:12:23 ID:Ic/F9N0D
ほしゅあげ
通りすがりのGJ!
感想また後日
保守
がんばれー
今夜もバカがやって来ました。
今回は隊員たちの会議中心の、ある意味げんしけんっぽい展開です。
ではまいります。
朽木と千佳がレイバー隊本部を出た数分後、隊員たちはようやくオフィスに戻った。
みんなが事務作業に勤しむ中、ふと香澄が歌を口ずさんだ。
「おじ様ラブラブおじ様ラブラブ〜♪」
歌に注目して、固まる一同。
香澄「ごっ、ごめんなさい!千尋ちゃんのがうつっちゃったみたい」
麦男「千尋が?」
香澄「掃除とかしてる時、よくこの歌口ずさんでるのよ、千尋ちゃん」
「何だと!」
珍しくスーが顔色を変えて叫んだ。
薫子「副隊長、どうしたんです?」
スー「その歌は、『ケロロ軍曹』というアニメの劇中で、主人公を慕う少女が歌っていた歌だ」
一同「何ですと!」
薫子「千尋ちゃん、よくそんな古いアニメの劇中歌なんて知ってたわね」
麦男「いや、そこじゃないだろ、驚くとこ」
(作者注)この話の舞台は2025年だが、もしそれまで「ケロロ軍曹」のアニメが続いてたら、ごめんなさい。
ちなみに「ケロロ軍曹」は、2008年現在で5年目。
もし2025年まで続いてたら22年目だから、あながち非現実的な数字とは言えない。
スー「これは分からなくなって来たぞ」
麦男「どういうことです?」
スー「確か千尋は隊長のことを、隊長就任までは『おじ様』と呼んでなかったか?」
一同「あっ…」
スー「センセイの前では千尋の気持ちを、美幸の説を採用してファザコンとしたが、ひょっとしたら千尋、私の最初の推測通り、本気で隊長のことを好きなのかも知れん…」
香澄「あのう副隊長、それならそれでいいんじゃないですか?そりゃ隊長と千尋ちゃんじゃ、歳が離れ過ぎてますけど、セックスしない分には問題無いと思います」
ブッとなる一同。
麦男「お前な!女の子がそういう言葉を直球勝負で…」
スー「私は千尋の気持ちをどうこうする気は無いよ」
麦男「えっ?!」
スー「私がこのことで問題にしてるのは、千尋の恋が実るか否かではない。そんなことは、当人同士の問題だ。外野が口を挟むことではない」
薫子「じゃあ何を問題にしてらっしゃるんですか?」
スー「昨日の千尋の行動だよ」
一同「???」
スー「つまりだ、千尋が隊長のことを本当はどう思っているかで、今後の対策の前提条件が変わって来るのだ」
麦男「あのう、仰る意味がよく分からないのですが…」
スー「私が今回問題にしているのは、千尋が何故あそこまで暴れたかだ」
麦男「ああそれなら、千尋の奴は泣いてからが強いからですよ。あいつ泣くと、手加減無しで洒落にならない技使うから」
スー「…言い方が悪かったな。私が言いたかったのは、何故千尋が泣いたかだ」
麦男「あれは…久々に相手のレイバーに殴られて、ダウンしたからじゃないですか?」
スー「それは違うな」
麦男「えっ?」
スー「お前、ダメージレコーダーのことは知ってるな?」
麦男「ええ、ウージーに組み込まれている、ウージーが受けた物理的なダメージを自動的に測定して、記録する装置ですね」
スー「私は昨日の出動の後、ダメージレコーダーの記録を検索してみた」
麦男「…で、それで何か分かったんですか?」
スー「検索の結果、千尋は模擬戦や他の出動案件で、昨日以上のダメージを受けている場合でも、泣き出すようなことは無かったことが判明した」
一同「???」
スー「もちろん単純に物理的なダメージだけで、断定することは出来ない。例えば、千尋が以前に美幸との模擬戦でキレた時のダメージは、今回の6割程度だった」
美幸「あの時は確か、実際にレイバーに乗ってやった、初めての模擬戦だったから、僕も加減が分からなくて、ちょっとやり過ぎちゃったんですよね」
スー「だが、その後の模擬戦で、美幸は初めての模擬戦の時以上の打撃をしばしば加えているが、それでも千尋が泣くことは無かった」
香澄「それじゃあ…ここんとこずっと楽勝状態が続いてたのに、急に上手く行かなくなって、キレちゃったとか?」
スー「千尋は繊細で弱々しく見られがちだが、あれでなかなかタフで芯の強い子だ。上手く行かないからと言って、癇癪を起こすような子ではない」
麦男「それじゃあ一体?」
スー「ここからは私の推測だが、千尋の今の頑張りを支えているのは、それが恋愛感情にしろファザコンにしろ、隊長への思いなんだと思う」
一同「隊長への思い?」
スー「例えば、隊長に認められたい、隊長に褒められたい、あるいは、隊長に迷惑をかけちゃいけない、隊長に恥をかかせてはいけない、そういう思いだ」
しばし沈黙する一同。
麦男「確かに千尋は、小さい時から周りに気を使い過ぎるところがあったな」
美幸「千尋ちゃんの隊長への思いがどういうものであれ、隊長のことを気にし過ぎて、頭がショートしちゃった可能性は、十分考えられますね」
スー「いずれにしろ我々は、千尋が今回キレた原因を解明し、今後に備えて何らかの対策を打つ必要がある」
香澄「でも副隊長、キレた方が強くなるんなら、むしろキレさせた方がいいのでは?」
スー「千尋はキレることで、強くなる訳ではない。手加減と見境が無くなるだけだ。そんな戦い方では、本当に強い相手には勝てない」
薫子「でもうちのレイバーに勝てるレイバーなんて、今のところ…」
スー「そう、今のところウージーは国内最強のレイバーだ。だが日進月歩で技術が進歩し続けている現在、それも何時まで続くか分からない」
スーは自分のノートパソコンを操作して、昨日の対戦相手である中国製レイバー昇龍をディスプレイに映して、さらに続けた。
「昨日の昇龍にしても、もし相手がこっちの1機の追跡をまいて、もう1機のほうに2機がかりで来られたら、ウージーとて危なかったかも知れない」
麦男「確かに、昇龍相手だと2機がかりで来られたら、キツイですね」
香澄「でも、そんなの考え出したら、キリが無いんじゃないですか?相手の方が強ければ、負ける時は負けるでしょうし」
突如スーは拳を机に打ち下ろし、大声を上げた。
「馬鹿者!我々は、どんな手段を使ってでも、勝たなければならないんだ!我々の戦いに、負けることは許されないんだ!」
スーの見幕に呆然とする一同。
ここからスーは、いつものトーンに戻った。
「警察の仕事ってのは、基本的に手遅れの負け戦だ。我々が動き出す時には、何らかの被害が発生した後だ。犯人を逮捕したところで、被害が完全に回復することは無い…」
「だけど、俺たちの仕事は決して無駄じゃない」
スーの発言を遮るように麦男が口を開き、さらに続けた。
「確かに俺たちの仕事は、負け戦の敗戦処理だ。だけど負け戦だからこそ、被害を最小限に食い止める為にも、これ以上負け続ける訳には行かない。そういうことですよね?」
我が意を得たりという感じの、これまでに見たことの無い優しい笑顔を浮かべるスー。
「その通りだ。みんなよく覚えておけ。我々の戦いは、負け戦だからこそ負けられないんだ」
香澄「ところで副隊長、具体的には千尋ちゃんのこと、どうするんです?」
スー「カウンセリングを試みようと思う」
一同「かうんせりんぐ?」
スー「私は精神医学と心理学の博士号を持っているからな。私の精神医学と心理学の知識に、日本に古くから伝わる民間療法を加えてアレンジした、私独自の方法を使うつもりだ」
麦男「何か、民間療法ってのが、激しく気になるんですけど…」
スー「そんなことより麦男、千尋はいつ帰って来るんだ?」
麦男「(時計を見て)えーと…多分俺たちの定時より、1時間ぐらい後ですね」
香澄「そんなに遅いの?」
麦男「整備班長に、帰りに病院に寄って、千尋を回収してもらうように頼んであるんだ。さっき電話した時に筑波出たとこだったから、まあそのぐらいになると思うよ」
薫子「でも入院ったって、実際には検査しただけなんでしょ?」
麦男「うん、だから千尋の方は、今頃退院手続きを終わらせて、待合室で待ってる頃さ」
香澄「それなら電車なりバスなりで、1人で帰って来ればいいじゃないの?」
麦男「それ隊長に止められてるんだ」
香澄「どうして?」
麦男「うちの隊は隊員が未成年ばかりだから、原則マスコミは俺たちの顔や名前は報道しないけど、ネット上では俺たちの顔、けっこう知れ渡ってるみたいなんだ」
香澄「マジで?」
麦男「美幸君と千尋は、コックピットに居る時間が長いから、数的には1番少ないけどね。1番映ってるのは、指揮やってる俺と副隊長だよ。次がトレーラーに居るお前と薫子だ」
薫子「そりゃまずいわね…」
麦男「まあ普段なら髪下ろしてれば、別に出歩いても問題無いんだろうけど、昨日の今日だからな。万が一にでも騒ぎになっちゃ困る」
スー「それに麦男、お前昨日病院に千尋を預けた時、着替えとかはどうした?」
麦男「とりあえず急だったもんで、トレーラーに積んでた予備の下着置いてきたんですが、あっ!」
香澄「どしたの?」
麦男「千尋の服、レイバー隊の制服しか無い…」
香澄「それじゃどちみちダメじゃん!」
薫子「それじゃあ、こっちから迎えに行きましょうか?」
麦男「いや、それもやめとくように、隊長から言われてるんだ。もう大丈夫だと思うけど、もしマスコミがこの近くに張ってたら、厄介なことになるからって」
スー「それにどのみち、昨日の現場の近くの病院だから、道のり的には、こちらから迎えに出かけるより、整備班長に任せた方が早そうだ」
香澄「それじゃあもう、待つしかないですね」
スー「そこでだ。仕事終わった後で申し訳無いが、お前たちに手伝って欲しいんだ」
麦男「カウンセリングをですか?」
スー「そうだ。この方法は、なるべく人数を集めた方が、効果が期待出来るんでな」
香澄「それ、何時頃に始めるんですか?」
スー「千尋が帰り次第始めるつもりだ。まあカウンセリングと言っても、千尋の全快祝いを兼ねた食事会のようなものだと思えばいい」
麦男「あの、千尋別に怪我してないんですけど…」
香澄「食事会ですか…」
スー「そうだ。ちょっと待ってろ」
スーは自分の携帯電話を持って、レイバー隊のオフィスから出た。
数分後、スーは戻って来た。
麦男「どうしたんですか?」
スー「整備班長に連絡して、必要なものを揃えてもらうように頼んでおいた。お前ら今晩は晩飯要らんぞ」
香澄「あの、会費どうします?」
スー「心配するな。私のおごりだ」
薫子「いいんですか?」
スー「まあ副隊長権限で、仕事終わった後に集まってもらうんだからな。残業手当の代わりと思ってくれ」
一同「ごっつぁんです!」
レイバー隊員とは言え、警察官としては新米の巡査に過ぎない彼らの給料は安いので、タダ飯には素直に感謝する隊員たちであった。
やがて定時になった。
香澄と薫子と美幸は、着替える為に1度自室(と言っても、レイバー隊のオフィスと同じ建物にある宿直室だが)に戻った。
一方麦男とスーは、レイバーの格納庫の横で、制服のまま千尋を待っていた。
スー「麦男も1度戻って、着替えて来たらどうだ?」
麦男「俺はいいですよ。千尋も制服で帰って来ますから、1人ぐらい制服で迎えてやらないと寂しいだろうし。副隊長こそ、着替えて来たらどうです?」
スー「私も同じことを考えていたんだ。他のみんなは無理に付き合わせるからしょうがないとして、カウンセリングする私が、私服で迎える訳には行かないからな」
しばしの沈黙を挟み、スーが声をかける。
「いい機会だから言って置くが、最近お前は、大事なことをひとつ忘れているようだな」
麦男「何をですか?」
スー「私が3ヶ月後には、ここに居ないということだ」
麦男「あっ…」
スーの言う通り、麦男は何時の間にか、スーの研修期間が半年であることを素で忘れ、何時もまで一緒にいるようなつもりになっていた。
それを今不意に思い出させられて、急に寂しさがこみ上げて来る麦男。
だがスーの話題は、シビアな方向に進んだ。
「やはり忘れていたか…いいか、私が去った後、どういう人間が後任に来るかは知らん。ひょっとしたら来ないかも知れん」
麦男「来ないってことは、さすがに…」
スー「あり得ないことじゃないさ。お前たち5人揃えるだけでも、早期雇用政策だの、民間企業からの出向だの、考えられる限りの飛び道具使ってるんだぞ」
麦男「言われてみれば、そうですね」
スー「まあ仮に来たとしてもだ、2つばかりハッキリしてることがある」
麦男「?」
スー「ひとつは、私と同等か、私以上の能力を持った人間が後任で来る可能性は、先ずあり得ないということだ」
麦男『自分で言っちゃうからなあ、この人は。ただこの人の場合、自慢や自惚れじゃなく、客観的に事実を提示しただけだからな』
スー「そしてもうひとつ、お前にとってはこっちが重要なんだが、後任に誰が来るのであれ、私が去った後のレイバー隊の副隊長は、事実上お前だということだ」
麦男「俺、ですか?」
隊の発足前までは、自分を事実上の隊長のように思っていた麦男だったが、この3ヶ月間にスーと自分との差を見せ付けられて、そういう気持ちはスッカリ失せていた。
スー「お前しか居ないだろう。仮に後任の人間が、どんなに勉強して来たとしても、実際に半年レイバー隊員として指揮を担当したお前よりも、現場を仕切れるとは思えんからな」
麦男「そりゃまあそうですが…」
スー「お前と私とを比べて、どうこう考えるのはやめろ」
内心を見透かされ、ドキリとする麦男。
スー「私に比べて、知能が高い人間など、全世界に何人も居ない。私は例外なのだ。そんなイレギュラーと自分とを比べても無意味だ」
麦男『そういうことをあっさりと、自分で言いますか、この人は…』
スー「どこまで行っても、お前はお前でしかない。お前なりのやり方で、副隊長をやってくれればいい」
そこまで言って、スーは軽く背伸びするように腕を伸ばし、麦男の肩に手を置いて続けた。
「(優しい笑顔を浮かべ)期待しているぞ、次期副隊長」
麦男「(敬礼して)はいっ!」
そこに車がやって来た。
斑目の私物の、中古の軽だ。
それは斑目がかつて勤めていた会社の社長から、ボーナス代わりにもらった品だ。
もうこの頃には、部品の入手が困難になりつつある年代物だ。
車から斑目と千尋が降りて来た。
千尋「(斑目にペコリと頭を下げ)整備班長、ありがとうございました!」
斑目「いいってことよ。(スーと麦男を見つけ)それより、お迎えだぜ」
近付いて来るスーと麦男に向かって、千尋は駆け出した。
今夜はここまでです。
次回いよいよ、スーの企みの全貌が明らかになります。
お返事も少々。
>>98 またのお越しをお待ちしております。
>>100 がんばります。
ではまた。
誤爆
>>111が何をどう誤爆したのかが非常に気がかりだw
>ハグレイバー2
やっと追いついたぜ。頑張れー
「(楽譜を投げつけて)何で頭から間違えるんだ!」
「ぎゃぷぅ〜!」
〜30分後〜
汗びっしょりで、息も絶え絶えの2人。
田中「たまには攻守交替も、いいもんだね」
大野「燃えますよねえ」
乙!!
HOSHU
保守
こんばんは。
それではさっそく、行ってみようか!
「副隊長、お兄ちゃん、昨日はいろいろごめんなさい!」
そう言うなりペコリと頭を下げた千尋を、麦男は優しくなだめた。
「やってしまったことは仕方ない。次から気を付ければいいさ」
千尋「あの、隊長は?」
スー「隊長は今本庁に行ってる」
急にウルウルとなる千尋。
「私のせいだ。私のせいで隊長、また偉い人に怒られるんだ…」
スー「隊長は偉い人に怒られるのが仕事だ。大丈夫、あの人はその程度でのことでは、びくともしないさ。気にするな。それより今から、お前の全快祝いやるぞ」
千尋「いえそんな、私別に怪我して入院してた訳じゃないし…」
スー「こういうのには区切りが必要なのだ。今日飲み食いして英気を養って、明日から頑張ればいい」
結局スーに押される形で、千尋は納得した。
スーの命令により、麦男は斑目を手伝って、スーの依頼で買い込んだ品々を運ぶ。
全快祝いの会場の会議室は、2階にあった。
千尋と麦男は知らないが、そこはかつて2人の母がダイブを敢行した、漫画研究会の部室だった部屋であった。
斑目「なあ副隊長、飲み物の方さあ、アルコールが多過ぎないか?」
スー「私1人で飲むのも何ですから、班長も飲んで行って下さいな。千尋と全快祝いセット運んでくれた、お礼も兼ねて」
斑目「まあそれなら、ゴチになるかな」
スー「(麦男と千尋に)それじゃあお前たち、着替えて来い。あとの用意は私がやるから」
麦男「えっいいですよ。俺手伝いますよ」
スー「いいから!料理は出来合いだし、この程度の品数なら、私1人でやった方が早い。それに主賓の千尋と一緒に居てやれ」
麦男「分かりました」
スー「着替えたら、後の連中も呼んで来てくれ。(斑目に)班長も着替えて下さい」
斑目「そうすっかな」
斑目はメーカーの研修に、いつも通りの作業着で行っていたのだ。
およそ15分後、私服に着替えて会議室に集まった隊員たちと斑目は、驚きの声を上げた。
会議室は、まさに全快祝いパーティーの会場に変貌していた。
パーティー用の料理のセットがテーブルに並べられ、割り箸や紙の小皿やコップが、人数分配置されている。
飲み物は別の小さいテーブルに集められ、どこから出したのか、氷を満載したアイスペールまで置かれていた。
そして入り口から見て正面の壁には、「千尋ちゃん退院おめでとう」と書かれた大きな紙が貼られていた。
さらに天井は、小学生のお誕生パーティーなどでよく見られる、色紙を細く切って端を張り合わせて輪っか状にした物を、鎖のように長く繋ぎ合わせた物体で飾られていた。
斑目「よくもまあ15分かそこらで、こんな凝った飾り付けまで出来たもんだな…」
香澄「副隊長、仕事中に秘かに作ってたんじゃないの?」
薫子「やっぱIQ250もある人は、やることが違うわね」
麦男「いや、そういう問題じゃないと思うけど…あれ?肝心の副隊長は?」
それに応えるように、背後からスーの声がした。
「よしっ、揃ったな」
振り返った一同は、再び驚きの声を上げた。
スーが白のカッターシャツに黒のベストに蝶ネクタイという、まるでバーテンのような服装に着替えていたからだ。
斑目こそスーツ姿だったが、隊員たちはTシャツにジーンズやジャージというラフなスタイルなので、余計に異質性が際立つ。
香澄「あの副隊長、その格好は?」
スー「こいつを取りに行ったついでに、どうせならと着替えたんだ。日本人はこういうのは、形から入るからな」
スーがこいつと言って差し出したのは、水筒か魔法瓶と見紛うような、巨大なカクテルシェーカーだった。
もちろんそういう物に縁の無い一同は「?」という顔になった。
千尋「あの副隊長、それ何ですか?」
スー「カクテルシェーカーだよ」
一同「でかっ!」
スー「名目上一応祝いの席だから、お前たちに本格的なカクテルを飲ませてやろうと思ってな。7人分いっぺんに作るなら、これで作った方が手っ取り早い」
薫子「副隊長、そんなの持ってたんですか?」
スー「1人で飲む時には、これでいっぺんに作った方が手間がかからんからな」
麦男「ちょっと待って下さい!副隊長と整備班長はともかく、俺たちは…」
スー「安心しろ。アルコールはちょっとしか入れん。私と班長には、ちと物足りんがな」
麦男「いや入れちゃまずいでしょ」
スー「ノンアルコールでは、本当のカクテルの味は分からん。サビ抜きでは、寿司の本当の味が分からんのと一緒だ」
千尋「でも、大丈夫ですか?」
スー「大丈夫だ。せいぜいかす汁の酒粕か、ぶりの照り焼きのみりん程度にしか入れんよ」
薫子「なして和食?普通アメリカ人なら、ビーフシチューに入れるワインとか、ステーキにぶっかけるブランデーとか、そういう例え使いません?」
美幸「きっと僕たちのレベルに合わせてくれてるんだよ、副隊長」
スー「それじゃあ始めるぞ!」
そして30分後、レイバー隊の若き隊員たちは、全員見事に轟沈し、へべれけになった。
スーのカクテルは好評だった。
最初の乾杯の後、マイペースで飲む斑目を除く、全員がお替りを要求した。
スーは忙しくカクテルを作り続けた。
すぐ外にある、お茶用の流し台にシェーカーを洗いに走っては、新たなカクテルを用意し、気が付けば5杯ものカクテルを提供していた。
スー「(布施明似の声で)俺、5杯ガ限度カナ」
斑目「スーちゃん、そのネタは今時の若いもんには分からんと思うよ」
この話の時代から、半世紀近く前のCMのネタにツッコめる、斑目も問題だ。
麦男「副隊長、このカクテル、アルコール入れ過ぎじゃないですか?いつもより地球の自転が速いんですけど…」
スー「そうか?(カクテルをひと口飲み)大して入ってないぞ。アルコール分はせいぜい5パーセントぐらいだ」
麦男「それビールぐらいあるじゃないっすか!」
スー「ビールなんて水みたいなもんだ。ドイツ人なんて朝から飲んでるぞ」
麦男「俺は日本人です!」
スー「まあそう怒るなよ。分かった分かった、私が悪かった。ちょっと目分量を間違えたみたいだな。まあ事故ならしょうがあるまい」
スーがそう言いながら、かすかにニヤリと笑ったのを麦男は見逃さなかった。
麦男「わざとでしょ?!絶対わざとでしょ?!」
スー「(真顔で嵐寛寿郎似の声で)人間誰シモ、間違イハアリマス!」
キョトンする麦男。
斑目「スーちゃん、今時の若いもんに、アラカンさんなんてネタは分からんよ」
この話の時代から、60年近く前の映画についてツッコめる、斑目も問題だ。
そんな中、スクッと香澄が立ち上がり、爆弾発言を放った。
「私、脱ぎます!」
言うやいなや、着ていたTシャツの裾をまくり上げ、乳首周辺を申し訳程度に覆ったブラが丸見えになる。
思わず鼻血を吹く斑目。
麦男「やめんか!」
酔っているせいか、麦男はあまり胸には反応せず、Tシャツの裾を戻そうとする。
香澄「ええ何でえ、暑いのよう」
麦男「絶対ダメ!」
香澄「じゃあこうしましょう。麦男君も脱げばいいのよ(言いながら脱がそうとする)」
麦男「(必死で抵抗して)何でそうなるんだ?!」
薫子「じゃあ私が脱ぎましょう(言いながら脱ごうとする)」
麦男「やめんか!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ…」
その時突如、会議室内に笑い声が響いた。
聞いたことの無い笑い声に、いぶかしむ一同。
麦男「何だこの、機械的で乾いた無機質な笑い声は?」
笑い声の主は美幸だった。
香澄「美幸、ちゃん?」
薫子「何で、笑ってるの?」
美幸「僕も何故笑ってるのか、よく分かんないんだけど、何故か笑いがこみ上げて来るんだよね。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
斑目「なあスーちゃん、これって…」
スー「多分笑い上戸なのでしょう」
斑目「笑い上戸って、こういう笑い方するもんだっけ?」
「うわあああああああああああああああん!!!!!!」
今度は突如、子供っぽい泣き声が響いた。
麦男「この泣き声は、まさか…」
一同の視線の先には、テーブルに顔をうずめた千尋が居た。
香澄「(近付き)どうしたの、千尋ちゃん?」
突如千尋は立ち上がり、アマレスのタックルのような俊敏な動きで、香澄の胴体に抱き付いた。
そして香澄の胸に顔をうずめるようにして、泣き出した。
よしよしという感じで千尋の頭に手をやった香澄だったが、次の瞬間顔色が変わった。
香澄の背骨が不気味な音を立てた。
そして不意に白目を剥くと、気絶した。
「香澄、どうしたの?」
倒れた香澄に、薫子は慌てて駆け寄った。
千尋はその薫子に、泣きながらおぶさるように背後からしがみ付いた。
しがみ付いた千尋の細腕は、しっかりと薫子の頚動脈に喰い込み、薫子もまた気絶した。
「千尋何やってるんだよ?!」
言いながら近付く麦男に対し、千尋は今度は正面から、小脇に麦男の首を抱え込んだ。
麦男「(もがきながら)がっ?!ぎぎごがげご!」
またもや千尋の細腕が、麦男の頚椎を極めかけたその時、不意に千尋の力が抜けた。
麦男が急いで脱出すると、千尋は気絶していた。
そして傍らには、スーが立っていた。
右手は拳を作り、その拳から中指の第二関節の角を突き出して、空手で言う中高一本拳の形になっていた。
麦男「(自分の首筋を揉みながら)副隊長?」
スー「(右手を突き出し)とりあえずこいつで気絶させた」
麦男「そんな乱暴な…」
スー「乱暴なのは千尋の方だ。お前あのままだったら、下手したら頚椎折られてたぞ」
麦男「そりゃいくら何でも大袈裟ですよ。千尋の細腕でそこまでは…」
スー「いや、今の千尋のフロント・ヘッドロック、しっかり頚椎が極まってた。お前だけじゃない。香澄にかけたベアハッグも、薫子にかけたスリーパーも、ちゃんと極まってた」
斑目「それ、かなり凄いんじゃないの?」
美幸「ハハハハハハハハハハハハハハハ」
スー「どうやら私の仮説は、さらに修正する必要があるな」
麦男「仮説と仰ると?」
スー「私は千尋が泣いた時の攻撃は、単に手加減や見境が無くなるだけだと思っていた。だが今の一連の攻撃を見る限りでは、単にそれだけでは無いようだ」
カクテルをひと口飲んで、スーはさらに続けた。
「千尋の攻撃は、単に急所を捉えているだけでなく、局面に応じて適切な技をセレクトしている。しかも柔道の稽古で、教えたことの無い技をだ」
麦男「それは、どういう…」
スー「つまりだ、千尋には天性の格闘センスがあり、泣くことで潜在的な戦闘力が発揮されるということさ」
斑目「でもさあスーちゃん、何で千尋ちゃん泣いてる訳?」
スー「おそらく泣き上戸なのでしょう」
麦男「それで片付けるつもりですか…」
スー「いいコンビじゃないか。フォワードの2人が、笑い上戸に泣き上戸とは」
麦男「そういう問題ですか!」
スー「しかしこれは弱ったな」
麦男「まあ確かに、こんなに酒癖が悪くては弱りますね」
スー「そうじゃない。適度に酔わせて徐々に本音を聞き出す作戦だったのだが、これでは迂闊に近付けんな」
麦男「やっぱりわざとじゃないですか!」
スー「いやわざとじゃないよ。隠し味と酔うのとの間の、ギリギリのところで収めるつもりだったんだから」
麦男「本当かなあ…そう言えば、ひとつ気になってたんですけど、副隊長がさっき仰ってた、日本の民間療法って何ですか?」
スー「えーと…あれは何と言ったかな。通常の言語体系とは違う、難しい学術用語だったと思うが…あっ思い出した。飲みニケーションだ」
麦男「単なる和製英語じゃないですか!第一それのどこが民間療法なんです?!」
スー「飲みニケーションを軽視してはいかんよ。かつて日本が経済大国だった時代、疲れた働くお父さんたちにとって、飲みニケーションは重要なセラピーだったのだから」
斑目「あれってセラピーだったの?」
スー「お前のお父さんや、整備班長の若い頃ぐらいまでは、飲みニケーションは労働者のセラピーとして、重要な役割を負っていたのだ」
斑目「まあ確かに飲みニケーションって、酔った勢いで愚痴言ったり本音ぶつけたりすることでガス抜きして、英気を養うって側面はあったからな」
スー「日本の企業が活力を失った最大の原因は、非正規雇用の労働者を増やして、職場での労働者同士の繋がりを失い、飲みニケーションの習慣を喪失したことだと、私は考える」
麦男「なるほどねえ…って副隊長、何いい話にして誤魔化してるんですか?!」
スーは香澄と薫子に活を入れて、2人の意識を取り戻させた。
「さてと、千尋はどうするかな…」
スーが考え込んでいると、千尋が寝言を呟いた。
「おじ様、ごめんなさい…」
スーはそれに便乗し尋問することにした。
「千尋、お前は朽木隊長のこと、1人の男性として好きなのか?」
ピクリと質問に反応した千尋に、思わず接近するスー。
だが次の瞬間、千尋はまた泣き出した。
「うわあああああああああああん!」
スーが下がろうとした時はもう遅かった。
千尋は両手でスーの左手を取ると、両脚をスーの左腋の下から右肩にかけて絡み付け、柔道で言う三角絞めの形になった。
腕ひしぎ十字固めに似ているが、脚で頚動脈を絞める絞め技だ。
床に膝を着いて、そのまま寝技状態に引きずり込まれそうになるスー。
だがスーはそれに耐え、渾身の力を込めて、左腕に絡み付いた千尋を持ち上げた。
千尋の方がスーよりひと回りぐらい小さいとは言え、少なくとも30キロはあるから、とてつもない怪力だ。
「(相模太郎似の声で)ふんがー!」
次の瞬間、スーは雄叫びと共に、左腕を手前に強く引き付けて、力ずくで千尋の両手のクラッチを外し、同時に右腕を千尋の両脚の間に捻じ込み、両脚のクラッチを切った。
その結果、スーの正面の空間に、一瞬浮いた形になった千尋のこめかみに、千尋の下に潜り込むような体勢になったスーの、右の靴先がめり込んだ。
空中で再び千尋は気絶し、スーはその千尋をキャッチした。
麦男「副隊長!」
スー「大丈夫だ。軽く蹴って気絶させただけだ」
本日は以上です。
次回飲み会は、また別の意味で危険な方向に暴走します。
ではまた。
お返事も簡単に。
>>112 この話、あと40スレほど続きますので、よろしくお願いします。
感想も。
>>113 ちょっと待て田中×大野!
それじゃあ普段の攻守は…
こんばんは。
どうやらお客様はまだ見えてないようなので、校正も済んだことですし、もう8レスほど投下します。
では。
麦男「にしても副隊長、これはちょっとやり過ぎでは…」
スー「これでも手加減はしたんだぞ。こっちだって危うく殺されるとこだったのに」
麦男「そうなんですか?」
スー「千尋のやつ、頚動脈と一緒に喉も絞めおったからな。一瞬、川の向こうで手招きしてるお釈迦様が見えたぞ。もう少しで危うく渡し舟に六文銭払うとこだった」
麦男「あなたほんとにアメリカ人ですか?」
スー「まあとにかく、千尋にしばらくは、基本以上の格闘技術は、教えん方がいいな」
麦男「どうしてですか?」
スー「千尋には天性の格闘センスがある。今回の様に無意識にでも、敵の急所を的確な手段で攻撃出来る。我々が今回助かったのは、千尋が技を学習していないせいだ」
麦男「助かった?」
スー「さっき千尋が使った一連の技、もしあれを千尋が修練して完全に身に付けていたら、我々は今頃あの世行きだ」
ぞっとする一同。
スー「(再び気絶した千尋を見下ろして)どうやら今回はここまでのようだな」
薫子「セラピーは失敗ってことですか?」
スー「ああ、泣き上戸で泣いたら何するか分からん以上、これ以上続けられん」
香澄「じゃあこの後は、単なる飲み会ってことで」
スー「そうだな。まあ別口で収獲があったことだし、今日はこれで良しとしよう」
麦男「収獲?」
スー「私の予想以上に、千尋には格闘の才能があったってことさ」
麦男「確かにそうですよね」
スー「さっきはああは言ったが、心の問題を解決して、心技体を自分の意思で制御出来るようになれば、おそらく千尋はレイバー隊最強の隊員になれるだろう」
斑目「凄いんだね、千尋ちゃん」
スー「問題はどうやって千尋の精神を制御するかだな。思春期真っ只中で、成長期の女の子に不規則な生活やらせてる上に、多分まだ今から生理だしな」
ブッとなる一同。
麦男「でかい声で生理って言わないで下さい!」
そこへ来訪者があった。
斑目の息子の望だ。
斑目「どうしたんだ望、こんな時間に?」
望「それはこっちの台詞だよ、父さん。なかなか帰って来ないもんで、携帯に連絡したのに全然出ないから、母さんに言われて様子見に来たんだよ」
斑目「いけね!すまんすまん、電話すんの忘れてたよ」
望「携帯に出なかったのは?」
斑目「車に携帯置きっ放しだった」
望「しょうがないなあ。そんじゃ母さんには遅くなるって言っとくよ」
斑目「すまんね。望も食ってくか?」
望「もう晩御飯食べたからいいよ」
そう言って引き上げようとした望の前に、立ちはだかる人影があった。
望「美幸君?」
美幸は妖しい目付きで、望を見下ろした。
10歳にして、身長が父親と同程度まで伸びた美幸に対し、望は9歳の児童としては標準的な体格なので、頭2つ分以上の身長差があった。
何時に無く艶っぽい顔で微笑む美幸に、思わず赤面する望。
不意に美幸は望の肩に左手を置き、右手で望の眼鏡を取った。
望「なっ何を…」
言いかけた望の顔に一気に顔を近付けて、美幸は唇を重ねた。
一同「アッ――――――――――――――――!!!!!!!!!」
一気に最大出力で赤面滝汗状態になった望は、白目を剥いて気絶した。
斑目「(望を抱き抱え)望!しっかりしろ!何てことするの、美幸君!」
だが美幸は妖しい微笑みを浮かべつつ、今度は斑目の眼鏡を取った。
斑目「なっ?まさか…」
斑目が一瞬硬直した隙に、美幸は一気に顔を近付けて、またもや唇を重ねた。
一同「アッ―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」
斑目もまた、望同様赤面滝汗で白目を剥き、望を抱えたまま気絶した。
麦男「(赤面滝汗で)みっ、美幸君!何があったんだ?」
香澄「(赤面滝汗で)どうやら美幸ちゃん、酔うと笑い上戸の上に、キス魔になるみたいね」
傍らでは薫子が、何時の間にかスケブを出して、何やら一心不乱に描いていた。
香澄「薫子、何描いてるの?(スケブを見て)これって、まさか…」
薫子「(赤面滝汗で)私、やおいは最近まで読んだこと無かったんだけど、なかなかイケるかも。今の参考になりそうだから、忘れない内に描いちゃおうと思って」
スケブには、唇を重ねた美幸と望の、ラフなスケッチが描かれていた。
その時、抱えていた斑目父子を椅子に座らせて、美幸が麦男の方を向いた。
またもや妖艶な微笑みを浮かべ、ゆっくりと麦男に近付く。
麦男「(赤面滝汗で)ま・さ・か…」
考えたくない可能性を麦男が考えたその時、不意に体が重くなった。
何時の間にか香澄が背後に回り、麦男をフルネルソンで羽交い絞めにしたのだ。
麦男「なっ、何すんだよ香澄?!」
香澄「だってこうしないと、麦男君逃げるでしょ?薫子、携帯で写真撮っちゃいなさい!」
背後に居るので麦男には見えないが、香澄は赤面滝汗で、何とも言えない発情したような笑いを浮かべていた。
薫子も同様の表情で、携帯を構えた。
麦男「やめろ!放せ香澄!わああああああ!美幸君よせ!落ち着け!話せば分かる!」
次第に迫る美幸にパニクる麦男には、背中に押し付けられた、香澄の常識外れの爆乳の感触を楽しむ余裕は無かった。
いよいよ美幸と麦男の顔の距離が30センチを切ったその時、不意に美幸が微笑んだまま崩れ落ちた。
一同「副隊長?!」
美幸の背後からおぶさるような体勢で、スーが瞬時にスリーパーで落としたのだ。
麦男「(脱力して)助かったあ…」
香澄「(麦男から離れ)ああん、ひどいです副隊長、もう少しだったのに」
薫子「そうですよ。もうちょっとでベストショットが撮れたのに」
麦男「お前らな!」
スー「別に麦男を助けた訳じゃない。私も個人的には見たかったし」
麦男「副隊長!」
スー「ただ、元々オタのお前たちはいいとして、もう1人には刺激きつ過ぎて、持たないと思ったんでな」
一同「もう1人?」
その時、麦男たちは背後に異様な熱気を感じ、振り返った。
一同「千尋(ちゃん)?!」
そう、彼らの背後では、何時の間にか目を覚ました千尋が、脳の血管が切れそうなほど赤面し、考えられない量の汗をかいて、放心状態の表情をしていた。
彼らには、千尋の周辺の景色が、陽炎のようにぼやけて見えた。
麦男「副隊長、これって?」
スー「どうやら千尋、今の男同士キス2連発で、やおい趣味とワープを1度に体得したようだ」
一同「何ですと!」
スー「ゲームが上手い以外に、あまりオタ属性が無いので心配していたが、さすがは我が恩師の娘、少し遅いがようやくやおいの血に目覚めたか」
麦男「いや早いでしょ!千尋13歳ですよ!」
スー「知らんのか?お前の母上がやおいに目覚めたのは、小学5年生の時だぞ」
麦男「それ母さんが早過ぎるだけですから!」
薫子「さすがは荻上先生ね。私なんか、やおいも見るようになったの、つい最近よ。もっと頑張らなきゃね」
麦男「いやそれ、反省するとこ間違ってるし!」
スー「そんなことより麦男、早く千尋の筆をシビビビしてやれ。あのまま放って置いたら、千尋の意識は銀河系を脱出するぞ」
麦男「(千尋を見て)いけない!(ダッシュで千尋に駆け寄り、シビビビしつつ)千尋!
目を覚ませ!戻って来ーい!」
麦男の必死のシビビビにより、ようやく千尋は意識を取り戻した。
「あれっ?ここは誰?私はどこ?お兄ちゃん?どうしたの?」
どうやら記憶が混乱しているようである。
一方麦男は、激しいシビビビでエネルギーを大量に消費し、荒い息をついていた。
香澄「良かったあ、千尋ちゃん目え覚まして」
薫子「そうよ、心配したわよ。これ見た途端ワープしちゃったもんだから」
言いながら薫子は、美幸×望キスのラフスケッチを見せた。
それを見て記憶が甦り、見る見る千尋の顔が赤くなり、滝汗状態になった。
「わっ、わっ、私、私…」
頭の中が爆発寸前の大混乱になった千尋、発作的に窓へ走り、開けて外へ出ようとする。
香澄「ちょっ、千尋ちゃん!落ち着いて!」
薫子「ここ2階だから!」
必死でしがみ付く爆乳コンビの手により、かろうじて千尋の初ダイブは阻止された。
スーはそんな騒ぎを眺めつつ、ため息をついてから呟いた。
「1度にいろいろ、先生の血が目覚め過ぎたかな。何もそんなとこまで似なくていいのに。やっぱり場所が悪かったかな?」
スーは飛び降り未遂騒ぎを見て、今回全快祝いのパーティー会場として使った会議室が、かつて漫研の部室だったことを思い出していた。
「やれやれ、やっと帰れたか…」
朽木は独り隊長専用車の車内で呟いた。
「さすがに今日は、疲れたのう」
朽木は昨夜、あまり寝ていない。
捜査一課での事情聴取やら、警備部長の説教やら、マスコミの相手やら、昨日の騒動の後始末に追われて、帰宅したのは日付が今日に変わってからであった。
しかも早朝からレイバー隊本部に取材陣がやって来た為に、いつもよりも早起きして早出する破目になったから、なおさらである。
ようやくマスコミが帰ったと思ったら、入れ替わりに千佳が来訪し、警備部長から昨日とほぼ同じ内容の説教を電話で延々とやられ、本庁の査問委員会に出頭という有様だ。
「しかも警備部長、電話と同じ内容を査問委員会でまた繰り返すんだもんなあ…」
長年問題警官として活動して来た朽木は、説教を聞く名人であった。
いや、正確には聞き流す名人であった。
簡単に言うと、脳内で意識を2つに分けて、1つ(主に無意識の領域)で説教を聞き、もう1つで別のことを考えるのだ。
こうすると、説教の時間が格段に短く感じられ、疲れその他のダメージを最小限に抑えられる。
完全に聞き流さないのは、相槌を打ったり、質問に答えたり、最後に頭を下げて丸く収めるタイミングが分からなくなるからだ。
昔は完全に聞き流していたが、そうすると前述のタイミングを誤って相手を怒らせてしまい、余計に説教が長くなる場合がしばしばあった。
かと言って真面目に聞いていると、眠くなって来る上に疲れる。
こうした経験と試行錯誤の末に、今の境地に達したのだ。
そんな朽木が唯一苦手なのは、警備部長の説教だった。
警備部長の説教は、年寄りの繰り言のように、同じ話題を延々と繰り返す。
そしてその為に、話に起承転結が無く、突然唐突に終わる。
終わる基準は、はっきり言って聞き手には全く分からない。
疲れたとか、飽きたとか、気が済んだとか、そういう自分勝手な基準としか思えない。
普通はどんな説教好きでも、話のまとめ方の上手下手はあっても、一応の起承転結がある。
だが警備部長の説教には、そんなものは存在しない。
起承転承転承転承転承転承転…と続いて、唐突に結無しで終わってしまう。
朽木の対説教術は、こういうタイプには対応出来ない。
全然聞かないと、全くリアクションのタイミングが掴めないが、かと言って真面目に聞いていると、それこそどこまで聞いたか分からなくなる上に、眠くなる。
結局のとこ、眠気を我慢して全力で説教を聞き、警備部長を凝視し続ける以外、この富士の樹海で道に迷ったような、説教の無限ループから逃れる術は無いのだ。
「でもまあある意味、適材適所かも知れんのう、あの警備部長は」
警備部長は元々は、ある県で長年県警本部長をやっていて、朽木が居た頃には本庁には居らず、特機隊設立に合わせるように本庁に人事異動になった。
噂では、朽木の本庁時代の悪名を知らない、つまり朽木にビビらないという条件による人選だそうだ。
普通なら出世コース(本庁の警備部長は、後々警視総監になれる可能性が高い)のこの人事、実は朽木がキレた時の生け贄用ではと、本庁内では噂されている。
そうこうする内に、朽木はレイバー隊本部に着いた。
「まあいいか。苦労の甲斐あって、千尋はお咎め無しで、俺の減俸1ヶ月と訓告だけで済んだし。それに久々に荻チンといろいろ話出来たし」
千佳を送って行く車中で、朽木は笹原一家のことやレイバー隊のことなど、いろいろ雑談を交わした。
「でも、荻チン時々変な顔してたな。困ったような、怖がってるような、何とも言えん複雑な表情だったけど、俺何か粗相したかのう?」
その顔の際に、千佳の脳内で、千尋を嫁にもらうべく挨拶に来た朽木の姿がフラッシュバックしてることなど、神ならぬ朽木には知る由も無かった。
「さてと、あいつらは帰ったかのう」
朽木は2階の会議室の明かりが点いていることに気付いた。
「誰かいるのかな?」
会議室に向かおうとして、ふと足を止めた。
長年の刑事生活で鍛えた野生の勘が、猛烈に嫌な予感を感じさせたからだ。
数分後、朽木は資料室に居た。
わざと電気は点けない。
暗い所から明るい所は良く見えるが、明るい所から暗い所は見えにくいからだ。
窓際に行き、姿勢を低くして窓の外を見る。
窓の正面には、会議室の窓があった。
朽木の鋭い視力は、会議室の様子を完璧に捉えた。
「何かのパーティーのようだな。千尋の退院祝い、かな?」
「あれっ?おやっさん(斑目のこと)まで居るな」
「何だスーのあの格好は?バーテンさんみたいだのう」
「その前に座ってるのは麦男か。何かへばってるな」
「何で美幸、笑ってるの?」
「千尋は…寝てるようだな」
「えっ?!何で香澄脱ごうしてるの?!あっ麦男止めてる。そりゃそうだな」
「って、今度は薫子かよ?!何が起きてるの?!」
次の瞬間、朽木の鋭い視力は、部屋の隅の机に並んだ物体を捉え、全てを悟った。
「ジンにウォッカか…それにしてもでかいカクテルシェーカーだな…」
数秒間だけ停止して考え込んだ後、朽木は結論を出した。
「見なかったことにしよう…」
日々凶悪な犯罪を相手にしてる警察官には、軽微な罪に寛大な人がしばしば居る。
それは主に2つのタイプに分かれる。
1つは出世志向で、お手柄になるでかいヤマ以外には興味を持たないタイプ。
もう1つは、あまりにも日々の仕事に忙殺されている為に、細かいことにまで付き合ってられないとするタイプだ。
朽木は後者だった。
もちろん防犯という観点から言えば、窓ガラスを割ったとか落書きとか程度のことから、ビシビシ取り締まるというのも、ひとつの方法論かも知れない。
だが朽木は基本的に、そういうのは住民の自警団とか警備会社の仕事で、そういう段階で警察力を行使し過ぎることは、それはそれで危険と考えていた。
「まあスーが付いてるってことは、何か考えがあってのことだろうし。たまにゃこのぐらいはいいだろ」
以上です。
次回、またまた急展開が、レイバー隊を待ち受けています。
ではまた来週。
>無軌道警察ハグレイバー2
酒の席の無軌道っぷりに乙です!
司馬遼太郎の小説の如く蘊蓄が詰まった内容に脱帽です。
また説明のないものでも、セリフ等の端々に引っ掛かるものがあって、楽しく読ませてもらってます(「相模太郎」なんてググってようやく「あぁ〜」と膝を打ったくらいです)。
酒をきっかけにして、いきなり801世界の扉が開かれる様、それを資料室の児文研ポジションから見た朽木の「見なかったことにしよう…」が笑わせてくれました。
千尋→朽木(とソレを危ぶむ千佳)、麦男→スー(それと美幸×斑親子w)の先行きにwktkであります。
個人的には、スーと麦男の関係に妙に萌えるものがありますw
「慕う女性が自分よりも遙かに能力が高い」というシチュエーションが結構好きなもので……。
思えば斑咲もその色あいがあるかな。
「帝都大戦」での南果歩と加藤雅也などの「能力者として絶望的な差があるけれど、僕が盾になる」みたいなのは激萌です。
作者様の話の軸足はそこにはないかもしれませんが、麦男には(届かなくても)是非頑張ってほしいデスね〜。
次回の[急展開]を楽しみにしています!
通りすがりの保守
まいどまいどGJでございます。
何回分かまとめて読んだが千尋はあれだな、己の肉体でもレイバーでも神に挑む気だなw
砂塵を舞い上げ「ニィッ」と笑うコマがいつか見られるに違いない。
乙乙。続き楽しみにしてます。
こんばんは、例によってバカがやって来ました。
今夜も8レスばかり、バカなSSにお付き合い下さい。
では。
その後、朽木は隊長室へ行き、スタンドの灯りの下で、せっせと書類の山を片付けた。
課長印の要るものだけ、明日に回すことにする。
課長こと初代会長は、レイバー隊が正式に発足してからは、月に1〜2度程度しかレイバー隊本部に来ない。
挙句の果てに、課長印を朽木に預けて「君に任せるよ」とまで言い出した。
朽木は最初こそ電話やメールで確認していたが、最近ではもう殆どの書類を自分で判断して、勝手に課長印を押してしまうようになっていた。
ただ、調子に乗ってあまりにも早く書類を上げてしまうと、疑われるかも知れないので、わざと少しだけ遅らすようにしているのだ。
朽木は窓の傍に行き、会議室の窓を見た。
隊長室は4階にあるので、会議室は眼下に見えた。
「まだやっとるのか。(腕時計を見て)そろそろお開きにしろよ。さてと、俺も帰って一杯やるか」
その時、朽木の携帯が鳴った。
いつもなら刑事時代の習慣から、テレクラの客のような猛スピードで電話に出る朽木だが、今回は何故か携帯を取り出したところで1度手を止め、ディスプレイを見た。
何となく携帯の鳴る音に、猛烈に嫌な予感を感じたからだ。
「本庁警備部?あの人まだ説教し足りんのか?いや待てよ、警備部長は基本的に早寝早起きの人だ。普段なら、こんな時間には本庁には居ない。と言うことは…」
しばし逡巡した後、意を決して朽木は電話に出た。
「はい携帯朽木…『あちゃー、嫌な予感大当たりだよ』これはこれは警備部長、こんな時間までお疲れ様です…何ですと?!」
すんません、8レスやるつもりだったけど、1レスで限界が来てしまいました。
今うちのPC、アクセス規制かかってるもんで、実はこの書き込み、印刷したものをよそで入力しています。
間の悪いことに今手首負傷してて、タイトルや前書き後書き程度ならともかく、長文書くと激痛が走って、どうにも進みません。
何とぞご容赦を。
一刻も早いZAQの規制解除を、一緒に祈って下さい。
あと土日の保守お願いします。
我がまま言ってすいません。
ではまた。
申し訳ありません。
昨日は1スレだけで終わってしまいまして。
来週規制解除されていることを、共に祈って下さい。
あとお返事だけ。
>>137 申し訳ありませんが、この後は色っぽい展開は少ないです。
>「慕う女性が自分よりも遙かに能力が高い」
どっちかと言うと、「天才や変人に振り回されて四苦八苦する、高スペックで常識人の普通人」というキャラや状況が好きなもんで。
例えば、キャプ翼の石崎や森崎とか、種ガンダムのダコスタとか。
麦男君にはこの後も、特機隊の良心として苦闘してもらう予定です。
>>139 どこをどう間違えたのか、ラオウか勇次郎みたいになってしまいましたな、千尋。
この後も、おじ様への愛の為、千尋は戦い続けます。
ではまた。
てすと
こんにちは。
アクセス解除されましたので、続きを投下します。
会議室の面々は、一瞬凍り付いた。
ドアを開く音も足音も立てずに、いきなり朽木が現れたからだ。
同様の特技のあるスーまでもが、呆然としている。
麦男「たっ、隊長!いつの間に入って来たんです?!」
朽木「今さっき」
麦男「どこから、どうやって?!」
朽木「いや、普通にドア開けて」
麦男「じゃあ何で、入って来た物音も気配も無かったんですか?!」
朽木「そうか?それは気付かなかったな」
眠そうに半分まぶたを閉じ、口を3の字にしている朽木は、とぼけているようにも、本当に自覚が無いようにも見えた。
朽木「んなことよりさあ…」
言いながら朽木は室内を見渡した。
室内の有様はひどかった。
机に顔を伏せて眠る千尋、服装の乱れた香澄と薫子、乾いた笑い声を上げ続ける美幸。
麦男は比較的マシだが顔は赤い。
普段通りなのは、酒豪のスーと、マイペースでちびちび飲んでいた斑目だけだった。
(ちなみに望は、気絶した後そのまま眠ってしまい、斑目が宿直室に運んだ)
朽木「何だかなあ…」
朽木が酒瓶の並んだテーブルの方を見たのに気付き、大慌てで体で隠す麦男。
麦男「たっ隊長!これはその…これには深い訳が…」
朽木「んなことは、どうでもいいよ」
てっきり怒られると思っていたので、呆気に取られる一同。
香澄「いや隊長、飲んでた私が言うのも何ですけど、そりゃまずいでしょ?」
朽木「何で?」
香澄「何でって…」
朽木「あらかたスーが、千尋の退院祝いとか言って、みんなにカクテル飲ませてやろうとして、隠し味程度に酒入れたつもりが、手が滑って入れ過ぎた、そんなとこだろ?」
スー「さすが隊長!見事な名推理であります!まるで腕利きの刑事ですな!」
麦男「『またこの人は嘘八百を…』いや隊長、元刑事ですし」
朽木「さてと、間違いは誰にでもあることだから、次から気を付ければいいとしてだ…」
再び室内を見渡す朽木。
「お前らさあ、今運転出来そうか?」
一同「はっ?」
素で朽木の言った意味が分からない一同。
朽木「だからさあ、トレーラーや、指揮車や、レイバーを運転出来るかと聞いとるんだ」
一同「…」
朽木「無理そうだなあ…さて、どうしたものか」
麦男「あの隊長、どういうことです?」
朽木「今さっき、警備部長から甲一種出動要請の電話があった」
麦男「何ですって?!」
「何ですと――――?!!!!!」
麦男の声をかき消すほどの、大声を上げて驚いたのはスーだった。
珍しく青い顔で滝汗状態だ。
香澄と薫子は、何のことか分からないらしく、キョトンとしていた。
香澄「ねえねえ麦男君、何とか出動要請って、何だっけ?」
麦男「本庁管轄下でのレイバー犯罪に対しては、我々特機隊とALSATが交互に警戒体制を敷いているから、通常事件に対処するのは、どちらかの隊だけってことになるよな」
香澄「まあ、そりゃそうよね」
麦男「だがそれでは、戦力が足りない事態も当然あり得る。そこでそういう場合、当番の隊が警備部長を通じて、もう1つの隊に救援を要請出来るんだ。それが甲一種出動要請さ」
薫子「でも、何で副隊長あんなに驚いてるの?」
朽木「それはスーが日本の警察組織の体質をよく知ってるから、甲一種出動要請なんてものは、実際に発動されることは無いと決め付けていたからだろう。なあスー?」
スー「…その通りであります!」
麦男「どういうことです?」
朽木「ALSATは元々精鋭を選りすぐった警察特殊部隊SATから、さらに選りすぐったエリート集団だ。当然プライドは高いし、出世志向も強い」
一同「???」
朽木「つまりそういう連中が、未成年の即席警官と元暴力刑事の問題警官で組織された、我々特機隊に助太刀を頼むことなど、先ず有り得ないとスーは考えたのさ」
香澄「そんなもんなんですか。じゃあ、うちはどうなんです?」
朽木「うちのウージーは、事実上国内最強のレイバーだ。少々相手のレイバーの数が多くても、十分潰せてしまうから、当分は助太刀が必要な事態など無いと考えたのだろう」
スー「ご明察であります!」
麦男「でも隊長、そんな通常有り得ない甲一種出動要請があったということは、何かとんでもない事件が起きたってことですよね?」
朽木「FTBプロジェクトの第13工区に、約150体のレイバーが集結して、乱闘やらかしてるんだよ」
一同「150体?!」
FTBとは、Fence of Tokyo Bayの略称で、プロジェクトの正式名称は、東京湾潮流調整型防波堤建設計画と言う。
防波堤と言っても、地球温暖化に伴なう海面の上昇への対策を主目的とし、同時に船舶の出入り用に多数の水門を開閉する為、防波堤と言うより巨大なダムに近い建造物だ。
第13工区は、川崎側の防波堤の起点の基礎工事の現場であった。
(パトレイバーのバビロンプロジェクト同様、川崎−木更津間の海上に作られる)
朽木「何でも現場の労働者が二組に別れて日頃からいがみ合っていて、今夜とうとう決着を付けるつもりらしいんだ」
麦男「レイバーでですか?」
朽木「そうだ。ALSATは基本的に、集団でレイバー1体を取り囲んで、特殊装甲車と対レイバー用ライフルで仕留める戦法だから、そんな数には対応出来ない」
麦男「いや我々だって無理ですよ」
朽木「かと言って甲一種出動要請ともなれば、スルーという訳にも行かないさ。さて、どうしたものか…」
その時、突如美幸が立ち上がった。
一同「???」
美幸は朽木に、妖しい笑顔を見せた。
ゾクリと背筋に走るものを覚え、たじろぐ朽木。
「美幸、どうしたんだ?」
朽木の問いに答えず、間合いを詰める美幸。
本能的に身構えて下がる朽木。
麦男「隊長逃げて下さい!美幸君は酔うとキス魔になるんです!」
不意に構えを解いて立ち止まる朽木。
麦男「隊長?」
朽木「別にいいよ、キスぐらいなら」
一同「アッ――――――――――――!!!!!!」
朽木にマジでそういう趣味がある訳では無く、この後に控える大問題を前に、その程度のことなら面倒だから早いとこ済ませてよ、という意味合いだった。
だが朽木の前方30センチまで迫った瞬間、再び美幸は笑顔を浮かべたまま意識を失った。
一同「???」
何時の間にか起きた千尋が、美幸の背中におぶさるようにしがみ付いていた。
そしてその細腕を美幸の首に絡ませ、スリーパーで瞬時に落としたのだった。
呆然とする一同を尻目に、千尋は立ち上がって拳を力強く握り、大声で宣言した。
「おじ様の唇は、誰にも渡しません!」
数秒間、会議室の時間が停止した。
朽木「あの、千尋…」
顔には出さぬものの、内心千尋の「おじ様」のひと言に激萌えしてしまったせいもあってか、さすがに対応に困り言い淀む朽木の顔を見て、千尋は一気に最大出力で赤面した。
「あっ、あの、その、ごっ、ごめんなさい隊長!ついおじ様って言っちゃいました!」
そう言ってペコリと頭を下げる千尋。
頭を上げると、考えられない量の汗をかき、顔が丸く膨らみ、目が白目になっていた。
そんな千尋を見て、朽木は妙な既視感を覚えた。
『この顔はもしや…』
かつて朽木は、千尋の母である千佳の秘密をバラして、千佳のダイブ未遂事件を誘発してしまったことがあった。
その際、朽木は咲に殴られ、周囲は気絶したと思っていたが、実は朽木には意識があった。
当時、女性と接するとマゾ属性を発揮していた朽木は、咲に殴られた快感に浸っていただけだったのだ。
そんな訳で、朽木は今の千尋の顔が、あの時のダイブ寸前の千佳にそっくりなことに気付いた。
朽木「総員、窓に走れ!」
突然の朽木の号令に、気絶している美幸と、問題の千尋以外の全員が、窓の方に走った。
そして朽木の予想通り、窓際に集まった一同の所に、千尋は走って来た。
こうして朽木の機転により、またもや千尋のダイブは未遂に終わった。
スー「実は先程も、似たような騒ぎがありまして…」
スーは朽木に、先程のダイブ未遂について報告した。
朽木「荻上一族には、ここ鬼門なのかもね。この会議室、なるべく使わん方がいいな」
朽木「そんな訳で、今から出動せにゃならんけど…スーちゃん、何とかして」
不意にスーの目がキラリと輝いた。
そしてどこから出したのか、小瓶に入った錠剤らしき物を出した。
朽木「それ何?」
スー「(青野武似の声で)こんなこともあろうかと開発しておいた、強力な酔い止め薬であります!」
一同「酔い止め?」
麦男「て言うか、いいんですか副隊長、勝手に薬作って?」
スー「私は薬剤師の資格も持ってるから大丈夫だ。これを飲むとたちまち体内のアルコール分が分解されてしまうという、優れ物であります!」
そう言うとスーは皆に錠剤を配り、そのまま水無しで噛んで飲むように言った。
(美幸にも活を入れて復活させて、薬を渡した)
半信半疑で薬を飲む一同。
斑目「うわあ、これミント味がきついなあ」
香澄「から〜い!」
スー「それこそが薬効成分であります!みんなしっかり全部飲んで!そうすれば即座に酔いが醒めます!」
言われた通り、強烈なミントの味を我慢して、必死で飲み込む一同。
スー「どうだみんな?!」
一同「(シャキーンという擬音と共に)酔いが醒めました!」
朽木「ほんとうかよ?…まあいいか。それじゃあみんな、制服に着替えて10分後に格納庫に集合だ!」
一同「了解!」
朽木は斑目と共に、一足先に格納庫に向かった。
朽木「おやっさん、レイバー用のトレーラーって、確かレイバー2台積めましたよね?」
斑目「『君までおやっさんと言いますか、2歳しか違わんのに…』ああ大丈夫だよ。そん代わり、2台目は1台目の上に重ねてワイヤーで固定するから、降ろす時が大変だけど」
朽木「それじゃあどっちのトレーラーにでもいいですから、予備の3号機を積んじゃって下さい」
斑目「分かった。予備の電池と弾倉も積んどこうか?」
朽木「お願いします。後ですね…」
斑目「後は?」
朽木「整備の若い人、出来るだけ人数を揃えといて下さい。最悪徹夜仕事になるかも知れませんが、よろしくお願いします」
不意に立ち止まり、深々と頭を下げる朽木。
斑目「(立ち止まり)まあ後は何とかするから、思い切ってやっておいでよ」
こうして日付が変わった頃、甲一種出動要請に応え、レイバー隊はようやく出動した。
今回朽木はいつもの隊長専用車の代わりに、スーの指揮車を運転していた。
ジープがベースとは言え、レイバーの近くで指揮するには、隊長専用車では脆過ぎる為だ。
その点指揮車は、バギータイプの装甲車なので、普通の車よりは頑丈だ。
元々の指揮車の主のスーは、3号機を操縦する為に、3号機を搭載した1号機運搬用のトレーラーに、運転手の薫子と、1号機パイロットの千尋と共に乗っていた。
現場に向かう道すがら、朽木は無線で具体的な作戦を隊員たちに伝えた。
朽木「じゃあ作戦の大筋を説明するぞ。先ず現場の手前でウージー3台を降ろす。そして薫子と香澄は、現場の入り口周辺で待機して、犯人の逃亡を妨害しろ」
薫子・香澄「了解!」
朽木「現場に入る際に、先陣は1号機と2号機が並走し、3号機はそれをバックアップする形で、やや後方を走れ」
千尋・美幸・スー「了解!(イエッサー!)」
朽木「現場に入ったら、とりあえず手近な乱闘中のレイバーに接近し、口頭で制止しろ。向こうは気が立ってるから、必ず手を出して来る。それが狙いだ」
何やら不良少年の喧嘩修行のようなことを言いつつ、朽木はさらに続けた。
「向こうが手を出したら、公務執行妨害プラス正当防衛で、手出ししても問題無くなるから、有無を言わさず相手のレイバーを破壊しろ」
麦男「隊長?!」
出発前は、スーが3号機を操縦し、朽木が指揮に参加するという程度しか聞かされてなかったので、驚く麦男。
朽木「ポイントはなるべく短い時間で、派手に破壊することだ。可能ならば、1分以内に10台ほど破壊しろ。その後で、残りの連中に投降を呼びかけろ」
千尋「でもいいんですか、隊長?昨日だって…」
スーが口を挟んだ。
「昨日とは事情が違う。最悪百台以上のレイバーを、たった3台で相手するんだ。いくらウージーでも、5台以上でのしかかられたら、どうにもならん」
美幸「つまり最初に何台か派手に破壊して、相手をビビらせて一気に投降させようということですね」
朽木「そういうことだ」
本日はこれまでです。
次回いよいよバトル展開、と思いきや、またもやレイバー隊に「ある異変」が起きます。
ではまた。
154 :
ハグ2の人:2008/11/04(火) 20:11:41 ID:???
(渡辺久美子の声で)き―――――――や――――――――!!!!!!!!!!
やれやれ、あと24レスで完結するのに、またZAQがアクセス規制されてしまいました。
今週末までに解除されるといいのですが…
アクセス規制とは難儀やね。
156 :
お知らせ:2008/11/06(木) 22:39:29 ID:???
毎度お騒がせしてます。
「無軌道警察ハグレイバー2」を書いてるバカです。
ZAQのアクセス規制が解除されるまで、「代理レスはここへ」スレに代理レスを依頼して投下しようと思います。
ただ、いつものように8レスぐらいまとめて投下をお願いする訳にも行かないので、解除までは前書き後書き無しで、いきなり1レスだけ投下という形になりますので、予めご了承下さい。
では明晩から、なるべく毎日投下しますので、よろしくお願いします。
保守
こんばんは。
またまた前言撤回で申し訳無いのですが、いきなりアクセス規制解除されましたので、通常通り投下いたします。
では。
麦男も朽木の意図を悟った。
「そうか。最初から普通に投降を呼びかけても、百台以上のレイバーの搭乗者が興奮していては、説得は難しい。かと言って全部の相手をする訳にも行かない…」
朽木「そういうことだ。この手が1番被害を最小限に食い止める方法だと思う。まあそれでも何台かは抵抗するかも知れないが、その数は知れているはずだ」
麦男「しかし百台以上が相手となると、どうやって指揮したものやら…」
朽木「俺たちはただ、背後と足元について注意してやるだけでいい」
麦男「そんだけですか?」
朽木「フォワードの3人も聞いてくれ。今回お前たちに対する指示は、背後と足元について注意するだけだ。何しろ相手の人数が人数だ。基本はお前ら独自の判断で動け」
3人「了解!(イエッサー!)」
朽木「麦男、そういうことだ。むしろ指揮よりも、自分の身の周辺に気をつけろ。俺たちがやられたら、それこそ終わりだからな」
麦男「了解!」
やがてレイバー隊の面々は、現場であるFTBプロジェクト第13工区の外れに到着した。
FTBプロジェクト第13工区は、東京ドーム10数個分に相当する広大なエリアを、延々と果てしなく続くかのように見える、金属製のフェンスで囲まれていた。
その金属製のフェンスの前で、レイバー隊は停車してウージーを降ろす作業に移った。
先ず2号機をデッキアップし、2号機の手によって、3号機を固定したワイヤーが外されて行く。
人間の手だと、かなり怪力の要る作業だが、レイバーの腕力なら楽々と外せる。
外すと同時に、スーが乗り込んで3号機を降ろし、次いで1号機がデッキアップされる。
フェンスの中からは、金属のぶつかり合う、重々しい音が多数聞こえる。
「どうやら中は戦闘中のようだな」
そう呟きつつ、麦男は指揮車の運転席で、第13工区の見取り図を確認していた。
「入り口はここからフェンス沿いに2キロほど前方か。他にあと3ヵ所あるな…」
そんな麦男の思考を、ドアを開けて朽木が遮った。
「麦男、悪い知らせだ」
麦男「何ですか?(言いながら車から降りる)」
朽木「ついさっき、ALSATが撤収した」
麦男「撤収…ですか?!」
朽木「対レイバー戦専用装甲車が、3台とも大破した上に、隊員たちも全員負傷したからな」
麦男「やっぱりやられちゃったんですか?」
朽木「まあそう言ってやるな。装甲車3台と、人間が手で持って撃つ対レイバー用ライフル数丁だけで、30台ばかり潰してくれたんだ。むしろよくやったと思うよ」
麦男「そんじゃあ敵はまだ、120台ぐらい居るってことですか?」
朽木「初期の情報が正しければな。今入れ替わりに、入り口4ヵ所に機動隊とSAT、それに所轄署の警官隊が待機してくれてはいるが、こちらは戦力として当てには出来ん」
その時2人の背後から、聞き慣れない作動音が聞こえた。
思わず振り返った2人、愕然とする。
1号機が3号機を肩車で持ち上げ、ゆっくりとフェンスに近付いているのだ。
麦男「副隊長!何やってるんですか?!」
スー「中の様子を見ようと思ってな」
金属製のフェンスは高さ8メートル程ある。
体長5メートル少々のウージーなら、肩車するとちょうど頭が出るぐらいだ。
頭から胸にかけて風防ガラスで覆われたコックピットの、上半分がフェンスの上に出た。
スー「千尋、1歩下がれ」
千尋「了解!」
フェンスとウージーの間隔が、2メートルほど空いた。
そこでスーは風防ガラスを開け、シートベルトを外し、座席の上に立った。
そして双眼鏡を取り出して、フェンスの中を見る。
朽木「どんな様子だ、スー?」
スー「現在のレイバーの総数は102台であります」
朽木「乱闘で少し減ったようだな」
さらにスーは、レイバーの機種の内訳を付け加えた。
(以下左から順に生産国名、生産企業名、機種名、台数)
ロシア ツボレフ社 ゴルビィ2020 29台
ベトナム サイゴン重工 ホーチミンMk-V 9台
韓国 キムイルインダストリー ヒュンダイ4型 14台
南アフリカ共和国 ケープタウン重機 マンデラ24 19台
中国 九龍機械工業 王(ウォン)21型 23台
スー「残りの8台は、ここからでは識別不能であります」
朽木「何か、ネーミングセンスが無い名前ばかりだのう」
(作者注)作者のボキャブラリーが貧困だからです。
麦男「全部ここ5年ほどの間に発売された、最新型ですね」
香澄「それにしても副隊長、機種の識別はともかく、よくこんな短い時間で、数まで分かりますね」
スー「昔、日本野鳥の会で、飛んでる鳥の数え方を習ったからな」
香澄「何故日本野鳥の会?」
朽木「現視研の活動の傍ら、そんなこともやってたんだ…それにしても、見事に日本製が締め出されてるな」
麦男「頑張ってるとこもありますけど、全体的に日本の重工業は衰退してますからね。今や日本は、芸の細かさと真面目な仕事ぶりを売りにした、世界の部品工場ですよ」
パトレイバーの描かれた時代と違い、この話の世界の日本は重工業が衰退してしまい、電化製品と機械部品が、日本の製造業の主力商品になっていた。
レイバー産業と復興工事が巨大な需要となるまで、残念ながら日本の重工業は持たなかったのだ。
有名な某大手自動車会社が、あまりにも労働者を安くこき使い続けた為に、この頃にはマスコミ工作では隠し切れないほど、製品トラブルが多発したことがきっかけだった。
結果その自動車会社は倒産寸前まで追い詰められて、大幅に事業を縮小し、それが日本の製造業界を道連れにする形になったのだ。
朽木「スー、このフェンスのジョイントの金具、外せるか?」
ウージー3号機が、フェンスに近付いて金具を調べる。
フェンスは高さ8メートル、幅4メートルの鉄板を、連結させて立てることで構成されていた。
(鉄板数枚置きに鉄柱を入れて補強してある)
隣接した鉄板同士は、3箇所でかんぬきのような金具によって止められている。
金具と言っても、長さ60センチ、幅30センチほどもある大きな物で、しかも5センチ近い厚さなので、生身の人間の手では外し様の無い代物だった。
スー「ウージーの力なら、十分に外せると思われます」
朽木「よしスー、金具を外して、フェンスの鉄板の1枚を外せ。そこから突入する」
スー「了解!」
3号機がフェンスの接続用の金具を外そうとする中、麦男が質問する。
「隊長、入り口ならこの先2キロの地点に…」
朽木「今さっき、ここの警備本部から連絡があった。ここの現場の全ての正規の出入口は、中からバリケードで塞がれているらしいから、簡単には開かないそうだ」
麦男「じゃあしょうがないですね。副隊長、どうですか?」
スー「案外しっかりはめ込まれているな。意外と固い。おまけに人間には扱いづらい巨大な金具も、ウージーにとっては、逆に小さいし」
その時無線に、無機質で機械的な乾いた笑い声が響いた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
一同『この笑い声は、まさか…』
みんなの予想通り、笑い声の主は美幸だった。
続いて一同が聞いたのは、子供っぽい泣き声だった。
「うわあああああああああああああああああん!!!!!!」
一同『この泣き声は、まさか…』
またもやみんなの予想は当たり、泣き声の主は千尋だった。
レイバー隊の面々が硬直している中、2号機が塀際に居た3号機に向かってダッシュする。
一同「??????????」
次の瞬間、2号機が大きくジャンプし、3号機の肩に飛び乗った。
いや正確には、一瞬肩に飛び乗ったが、また次の瞬間、肩を踏み台にして、再び大きくジャンプした。
元々ウージーには、10メートル近いジャンプ力がある。
ただ地表の状態その他の条件により、多少ジャンプする高さに差が出るので、8メートルのフェンスを単独のジャンプで飛び越えられるかは、微妙なところであった。
だが3号機の肩を土台に飛び上がった結果、13〜14メートル近い高さまでジャンプ出来たので、2号機は余裕でフェンスを飛び越えた。
いきなり肩を踏み台にされた衝撃で、一瞬活動を停止した3号機に、第2波が来た。
今度は1号機がジャンプして3号機の肩に飛び乗り、2号機同様、3号機を踏み台にジャンプしてフェンスを越えた。
その一連の行動を呆然と見送ったレイバー隊一同は、フェンスの向こうで、2台のレイバーが奥の方へ走って行く足音を聞いた。
「副隊長!大丈夫ですか?!」
ウージー2台に飛び乗られたショックのせいか、3号機が活動を停止した為に、麦男はスーに声をかけた。
しばしの沈黙を挟んで、スーは政宗一成似の渋い声で絶叫した。
「俺ヲ踏ミ台ニシタ!」
呆然とする若き隊員たち。
朽木「もしかしてスー、肩に飛び乗られたショックでじっとしてたんじゃ無く、ネタ繰ってただけじゃないか?今時の若者に、ファーストガンダムのネタは分からんぞ」
(注)この話の舞台は西暦2025年なので、ファーストガンダムは46年も前の作品ということになる。
麦男「んなこと言ってる場合ですか?!早くあの2人追わないと!」
朽木「スー、発砲を許可する。フェンスの金具を破壊しろ」
スー「イエッサー!」
スーの操縦するウージー3号機は、イエッサーのイの字と同時に近いタイミングで、ホルスターから23ミリオートキャノンを素早く抜き、フルオートのような速度で6発連射した。
フェンスの鉄板の1枚を両隣の鉄板と連結している、6本の金具が一瞬にして破壊され、フェンスの鉄板の1枚が工区側に倒れ、入り口が出来た。
朽木「よしっスー、すぐに先行した2台を追え」
スー「イエッサー!」
言いながらスーは、3号機で工区に進入した。
朽木「麦男もすぐにスーの後を追え」
麦男「了解!」
言いながら麦男は、指揮車に乗り込み、3号機の後を追った。
朽木「香澄、薫子、このフェンスの間、そのトレーラーで通れそうか?」
薫子「私はちょっと…自信無いです」
香澄「私は…何とか行けるかも…」
朽木「それじゃあ香澄は、俺に続いて中に入り、トレーラーでレイバーの逃亡を防ぎつつ待機、薫子はここで、フェンスの入り口を塞ぐ形で待機だ」
香澄「了解です!」
薫子「了解!」
そして朽木も指揮車に乗り込み、麦男の指揮車を追う。
1号機と2号機を追う道すがら、朽木は無線でスーに詰問した。
「どういうことだスー?あいつら酔いが醒めたんじゃなかったのか?」
沈黙を数秒挟んで、スーは答えた。
「どうやら酔い止めの効き目が切れたようであります」
朽木「効き目って…あの薬って、アルコール分解するんじゃなかったっけ?」
スー「あれは、あの薬特有の効果を引き出す為の、方便であります」
朽木「嘘かよ!」
スー「あの薬は、飲む者が効くと強く信じることで、初めて効果を発揮するのであります」
不意に朽木は、猛烈に嫌な予感を感じた。
朽木「なあスー、その効果って、もしかして・・・」
スー「プラシーボ効果であります」
朽木「それじゃダメじゃん!て言うかあの薬、何だったんだ?」
スー「実はただの鎮静剤で…あっ!」
朽木「どうした?」
スー「申し訳ありません。ごく軽いものですが、間違えて興奮剤をあげてしまいました」
朽木「どうやら今日は、俺の警官人生最後の日になりそうだのう…」
(注釈)プラシーボ効果
薬効成分を含まない偽薬を、薬だと偽って投与された場合に、患者の病状が良好に向かってしまう治療効果。
先行した2人に追い付いた朽木たちは、しばしの間固まった。
1号機と2号機が工区に入り込んでから、朽木たちが追い付くまで、ほんの3分ほどしか経っていない。
にも関わらず、軽く2ダースを越えるレイバーの残骸が、辺り一面に転がっていた。
実際にレイバーが乱闘してる現場までの移動時間を考慮すれば、ウージー2台がその作業に費やした時間は、2分あるかどうかといった所だろう。
朽木『てことは、1台当たり10秒ぐらいで仕留めてるということか…』
正直朽木は、2人の腕前を過小評価していた。
ウージー1台が1分間に潰せるレイバー数は、せいぜい3〜4台程度と考えていた。
だが彼らはそれぞれ、1分間に軽く6台以上を潰していた。
2台のウージーは縦横無尽に暴れ回っていた。
ほとんどのレイバーを秒殺で葬っていた。
斜め前にステップしながらのミドルキック(ムエタイの回し蹴りは、本来こういう蹴り方をする技だ)で、どてっ腹を正面から真っ二つに切り裂く。
ローキックで膝関節を破壊して倒し、RAMユニットを踏み潰してとどめを刺す。
(と言っても、RAMユニットだけで無く、胴体をしっかり貫通しているが)
ボディーブローで、どてっ腹に風穴を開ける。
胴体や脚にタックルに来る相手に対しては、受け止めて逆にそのまま一気に持ち上げ、パワーボムのように逆さまにになった相手を地に叩き付ける。
後ろから組み付いて来る相手に対しては、後ろに腕を回して相手の首を抱え、首投げで投げ飛ばす。
(首と言っても、胴体の延長みたいなタイプのレイバー相手だと、しっかり腕が食い込んでいて、腕を回した時点で大破しているが)
仕舞いには腕を取ってハンマー投げのようにグルグル振り回して、周囲のレイバーを薙ぎ払うなどの、強引な力技をも見せる。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
「うわあああああああああああああん!」
2台のウージーの、無線から返って来る反応は相変わらずだった。
2人とも完全に酔いがぶり返していた上に、見事に興奮剤が効いているようだ。
朽木「スー、作戦変更だ。1号機と2号機を支援しつつ、出来るだけ短時間で全レイバーを破壊しろ」
スー「イエッサー!」
麦男「隊長!」
朽木「あっそれからスー、発砲を許可するけど、弾は最低2発は残しておくように。理由は説明しなくても分かるな?」
スーの乗る3号機は、香澄のトレーラーの荷台から予備の弾倉を取り出し、左脚側面にある弾倉入れに収納しつつ、池田秀一似の声で答えた。
「どれん、私ヲ誰ダト思ッテイル?」
そして3号機は、乱闘を続ける1号機と2号機の方へと走り出した。
今夜はここまでです。
残り16レスなので、アクセス規制再発せずに順調に投下出来れば、この週末に終了する予定です。
ではまた。
168 :
マロン名無しさん:2008/11/08(土) 00:38:37 ID:RaNzdQCV
乙です
お晩です。
どうやらアクセス規制無さそうなので、今夜も参ります。
では。
>>168 どもです。
朽木「どうやら分かってるようだな、スーのやつ」
麦男「あの隊長、何ですか弾2発って?」
朽木「いくらスーが天才で、レイバーの運転技術がプロ級でも、日頃毎日のようにレイバーに乗ってるあの2人に、格闘戦で勝てるとは思えないからな」
麦男「まさか隊長…」
朽木「だが射撃なら一日の長があるから、最悪の場合、何とか止められるだろう」
麦男「副隊長に、2人のウージーを撃たせるつもりですか?!」
朽木「あくまでも最悪の場合だよ。大丈夫、スーの腕なら腹か脚に当てられるさ。それに23ミリオートキャノンでは、コックピットの特殊強化風防ガラスは割れんだろ?」
麦男「まあ確かに、オートキャノンの弾はソフトポイント弾だから、最悪コックピットに当たっても、貫通出来ないでしょうね」
麦男はもう1つの懸案事項についても尋ねた。
「あと隊長、いいんですか、レイバー全部破壊しちゃって?」
朽木「破壊するなと言っても、ああなっちまったらあの2人、多分全部壊すまで止まらないだろ?」
麦男「そりゃそうですけど…」
朽木「それにだ、あれだけ多数のレイバーを派手に破壊しまくってて、中の乗員が無事だと思うか?」
麦男「あっ…」
2台のウージーが破壊した残骸は、多くは脚部が切断されたり、腹部で切断されるか風穴を開けられていた。
だが中には、どうやってそこまでやったのか、文字通りの八つ裂きにされているレイバーも、少なくはなかった。
朽木「だからさあ、こうなっちまったら出来るだけ早く全部破壊して、早いとこ事態を鎮静させて救急体制を取るのがベストなんだよ。俺が考える限りではな」
朽木「あとさあ麦男、もうひとつ作戦変更だけど、指揮任すからあとよろしく」
麦男「そりゃ無茶ですよ、隊長!俺1人でウージー3台の指揮なんて!」
朽木「3号機の足元と背後だけ注意してやればいい」
麦男「後の2台はどうするんです?」
朽木「今のあいつらに、指揮しても言葉が届くと思うか?」
麦男「…思いません」
朽木「だからお前は、3号機だけは捕まらんように注意してればいい。後の2台が捕まってもスーが何とかするが、3号機が捕まったらそれまでだ」
麦男「分かりました。(3号機を見て)副隊長、5時の方向!」
素早く反応したスーの3号機、斜め後ろから迫るレイバーに綺麗なフォームで後ろ蹴りを決め、どてっ腹に風穴を開けた。
麦男「で、隊長はどうするんです?(朽木を見て)って、隊長何やってるんですか?!」
朽木はいつの間にか、軍用の弾薬箱のような金属製の箱を足元に置いて、中身をゴソゴソといじっていた。
まず腰に、弾倉帯を巻く。
そのポケットには、自動小銃の弾倉に比べて細身の弾倉が、10数本収納されていた。
さらに刑事時代に愛用していた、木製のホルスターに収められたモーゼルミリタリーを取り出し、銃を抜いて銃把の後ろにホルスターをセットした。
これで木製のホルスターは、ライフルで言うストックと化した。
さらに朽木は、銃身の下に何やらメカニカルなアタッチメント状の物体をセットし、さらにそこに小型のライトをセットした。
そのライトは、本体はマグライトのように金属製で、電池はリチウム電池を使用、そして電球は、直視すれば失明しかねないほど強力なフラッシュライトだった。
(同様の市販品としては、シュアファイヤーやスコーピオンが有名)
最後に銃に最初から装填されていた弾倉を抜いてポケットに仕舞い、弾倉帯から1本弾倉を抜いて装填する。
新たに装填した弾倉は、モーゼル本体から下半分がはみ出していた。
通常の10連発の物では無く、倍近い長さの20連発だからだ。
朽木「俺も参加するんだよ」
麦男「そんなもんで何する気ですか?いくらモーゼルの弾が、トカレフと同じ規格の高速弾と言っても、所詮拳銃弾ですよ。そんなもんレイバーに通用しませんよ」
朽木「よく勉強してるじゃないか」
麦男「そりゃウージーの23ミリオートキャノンは、モーゼルをモデルにしてますから」
朽木「で、こいつの話だけど、今装填したのは対レイバー用の特注品さ」
麦男「特注品?」
朽木「発射薬の量は通常の2割増しで、発射薬そのものも通常の3割増しの燃焼速度の特注品。それに弾頭も、対戦車ライフル弾の弾頭と同じ材質の芯を仕込んだ特注品だ」
麦男「そんなの拳銃で撃ったら、銃本体が持たないんじゃ…」
朽木「ところが俺のモーゼルは、こういう時に備えて、通常の3倍の威力の弾を撃っても壊れないように設計された特注品だから、十分持つさ」
言いながら朽木は、銃身の下の小型フラッシュライトのスイッチを入れ、腰だめの姿勢でモーゼルを構えつつ足元を照らしてみる。
朽木「とは言え、そこまで威力があると、さすがに俺も手撃ちじゃ無理だから、こうやってカービンにして、腰だめで撃つしかないがな」
麦男「そのライトは?」
朽木「照準の代用さ。肩付けで撃つと、照準に時間食うからな。これならライトの中心を撃ちたいとこに持って行くだけで済むし、相手にとっては目眩ましになる」
麦男「それならレーザーサイトの方が…」
朽木「レーザーサイトって、俺も試してみたけど、こういう動き回る状態で撃つ時は、却って目で追うのしんどいんだよ。ライトの方が、明るくて大雑把でちょうどいい」
ここまで説明すると、不意に朽木の目付きが変わった。
一見眠そうな垂れ目なのはそのままだが、狙撃兵のような非情な光が宿った。
少なくとも麦男には、そう感じられた。
朽木「それじゃあ麦男、あとお願い」
そう言うなり朽木は、モーゼルを抱えて走り出した。
レイバーの群れに近付いた時、朽木は勝利を確信した。
『やはりただのDQNの集団か…』
乱闘していたレイバーたちは、今や乱闘を中断して2台のウージーを遠巻きに取り囲みながら、順番にウージーに挑みかかっている。
不良が人数を頼りに、大勢で1人(又は少人数)をいたぶる際の典型的なやり方であり、素人の戦い方だ。
こういう戦い方は、その攻められる1人が、標準かそれ以下の戦闘力や体力の時のみ通じる戦法だ。
それならばその内に1人の方がバテて、大勢に捕まって袋叩きにされてしまう。
だが1人の方が圧倒的に戦闘力が上の場合、こんなやり方は通じない。
順番に1人ずつかかられれば、所詮1対1をたくさんやるだけになるからだ。
現実の戦いでは、1人の相手に大人数で1度にかかることは意外と難しい。
同じ空間に2人以上の人間が同時に存在出来ないという、単純に物理的な理由ゆえに、同一の相手に1度にかかれる人数は、せいぜい3〜4人程度だ。
それ以上が1度にかかっても、お互いの攻撃が邪魔し合って同士討ちになるだけだ。
特に長物の武器を持っている場合なおさらだ。
(例外があるとすれば、何人かがダメージを被る覚悟で、全員で一斉に取り囲み前進する、人海戦術ぐらいだろう)
それゆえ大人数で1人の強者にかかる場合、出来ればタイミングや間合いを訓練して、厳密に役割分担してかかる必要がある。
例えばABCの3人でD1人にかかる場合だと、先ずAが切り込んでDの注意を引き、その隙にBがDの脚にしがみ付いて動きを封じ、Cがとどめを刺す、という具合にだ。
だが早期雇用政策のせいで、未成年の労働者が多い職場環境に加え、元々対立していた2グループの混成集団ということもあって、乱闘レイバーたちにそういう発想は無さそうだ。
朽木はモーゼルの安全装置のスイッチを、撃発の位置からさらにもう一段捻り、ボルトを引いて初弾を発射出来るようにし、銃身の下にセットしたライトを点灯させた。
そして2台のウージーを取り囲むレイバーの群れの1台の、膝の裏にその光を当てた。
光のほぼ中央が膝の裏にかかった瞬間、引き金を引く。
モーゼルは瞬時に3発の弾丸を発射した。
金属同士がぶつかる音と共に、レイバーの膝の裏に3つの穴が開いた。
漫画や映画のように、同じ弾痕に全弾命中とは行かないが、それでも半径5センチ程度の
エリア内に集弾しているから、なかなかの腕だ。
ウージーのように派手に壊してないので見た目分かりにくいが、これで膝関節が完全に破壊され、撃たれたレイバーは倒れた。
1体目のレイバーで照準の見当が付いた朽木は、引き続きレイバーの膝関節を破壊する作業を続けた。
こうして朽木は、連続して5体ものレイバーを倒すことに成功した。、
どのレイバーにも、朽木は1回ずつしか引き金を引いていないにも関わらず、きっちり3発ずつ撃ち込まれていた。
モーゼルミリタリーには、フルオートで撃てるタイプのものもあるが、朽木の銃はそれとも違っていた。
フルオートで一瞬だけ引き金を引いて、数発の弾丸を発射することを点射と言うが、点射できっちり3発ずつ撃つような芸当は、よほど訓練を積まないと不可能だ。
それにフルオートが、引き金を引いてる間は弾が無くなるまで発射し続けるのに対し、朽木の一連の3連射は、引き金を引き続けていても、3発目で止まっていた。
実は朽木のモーゼルは、特注で3点バーストショットが出来るようにしてあったのだ。
3点バーストショットとは、3発だけフルオートで連射出来るシステムである。
つまり引き金を引き続けても、3発連射すれば一旦連射が止まる訳である。
最近では、いくつかの国の軍用自動小銃で、フルオートの代わりに(あるいはフルオートに加えて)この方式を採用し始めている。
例えば、米軍のM16A2や、自衛隊の89式小銃などが、3点バーストショットを採用している。
こんな中途半端な発射システムが開発されたのは、戦場では新兵が無駄弾を使い過ぎるからである。
戦場に慣れてない新兵は、戦闘中はずっと銃を撃ってないと怖いから、1度引き金を引くと、弾が無くなるまで引き続けるのだ。
ではベテランの兵士はどんな撃ち方をするかと言えば、ほんの一瞬だけ引き金を引いて、数発だけ発射する点射を繰り返す方法を採る。
現代の自動小銃は連射速度が速過ぎるので、引き金を引き続ければ、20〜30発しか入ってない弾倉は、ほんの2〜3秒程度で空になってしまうからだ。
ならば最初から、1度に連射出来る弾数を3発にしてしまえば、弾の無駄使いは無くなるという発想から、バーストショットというシステムが開発されたのだ。
朽木が5体のレイバーを作動不能にしたところで、周囲のレイバーの搭乗者たちは異変に気付いた。
振り返って朽木の姿を発見したレイバーたちが、朽木に向かって来る。
朽木はモーゼルを単発に切り替えて、レイバーのライトを狙撃し破壊した。
続いてモーゼルの下に取り付けたライトも消して、夜陰に紛れる。
工事現場は夜間作業用のライトが多数設置されていたが、今は全部が点いている訳では無いので、あちこちに暗部が出来ているのだ。
レイバー隊の制服は派手だったが、夜陰にプラスしてレイバーの残骸の山の陰に伏せることで、朽木は身を隠すことに成功した。
こんどは膝撃ちや伏せ撃ちで、正面からレイバーの膝を狙う。
レイバーの膝は、後ろは柔らかい樹脂製のカバーで覆われているだけだが、正面はボディーと同じ材質の、金属製のカバーが被せられている。
それに加えて、今度は通常の肩付けしての照準の上に、位置を悟られないように、1回撃っては移動してを繰り返しての射撃という悪条件だ。
にも関わらず、朽木はさらに5体のレイバーの膝に、6〜9発ずつの弾丸を撃ち込んで破壊することに成功した。
朽木が地味な苦闘を続ける中、3体のウージーは派手な破壊活動を続けた。
スーの操縦する3号機は、23ミリオートキャノンを発砲し始めた。
スー「(三木眞一郎似の声で)目標ヲ狙イ撃ツ!」
朽木の場合と違い、お互い動きながらの発砲なので、スーはより確実に仕留める為に、脚そのものではなく、脚の付け根の股関節周辺を狙った。
その為スーに撃たれたレイバーは皆、股関節付近で脚を切断されて、機能停止した。
一方暴走中の1号機と2号機は、2人とも酔っているにも関わらず、プロレスのタッグチームのようなツープラトン攻撃を見せ始めていた。
例えば2号機がレイバーの腕を取って投げると、それを1号機がラリアートで仕留める。
あるいは2号機が、合気道のようにレイバーが空中で一回転するように投げると、1号機が逆さまになったレイバーの頭にローキックを叩き込む、といった具合だ。
こうしてレイバー隊突入後わずか15分足らずで、乱闘していた全レイバーが沈黙した。
指揮車で1号機と2号機のバッテリー容量をモニターした麦男は、スーに通信で伝えた。
「副隊長、ウージーは2台とも、もうバッテリー切れ寸前です。ここは無理せずに切れるの待ちましょう」
スー「だが残念ながら、相手はそうはさせてくれないようだ」
2台のウージーは、ジリジリと3号機に迫りつつあった。
そして美幸と千尋は、相変わらず酔っていた。
麦男「千尋!美幸君!よせっ!いい加減目を覚ませ!」
だが1号機は、一直線に3号機に突進して来た。
2号機も後ろに続く。
スーの3号機は、23ミリオートキャノンを抜き、ためらう事無く発砲した。
「(池水通洋似の声で)往生セイヤアアアア!」
狙いは腹のど真ん中だ。
「ワッツ?!」
思わずナチュラルな発音で声を上げるスー。
スーの眼前で1号機が消えたからだ。
同時に、後ろに続いていたはずの2号機も消えていた。
スーは瞬時に判断して、3号機を大きく右に旋回させて銃を向けた。
銃にしろナイフにしろ、相手が右手で武器を使っている場合、左に逃げるのが基本だ。
右手で武器を使う場合、右から左に追うのは簡単だが、左から右に追うのは困難だからだ。
だから相手が右手に武器を持っていたら左に動くことを、スーは千尋と美幸に徹底して教え込んでいた。
案の定、1号機を視界に捕らえた。
だが一方でスーは、頭の片隅で考えた。
「では2号機は?まさか?!」
スーが思わず頭上を見上げた時、もう2号機は3号機の頭上を通過していた。
そして真っ逆さまに3号機の背後を落下しつつ、3号機の背中を両腕で捕らえた。
(その際2号機は、同時に3号機の右手にあった、23ミリオートキャノンを蹴り落とした)
それがブレーキとなって、2号機の落下運動は、空中での前転運動に変わった。
逆さまに落ちてきた2号機は、1回転して直立姿勢で着地し、一方2号機に抱えられた3号機は一転して逆さまになった。
さらに2号機は前屈して、1度3号機の足を地に着けると、両膝の間に3号機の頭(と言っても、コックピットの上から3分の1ほどが突き出てるだけだが)を挟む。
そして胴体を抱えていた腕を放し、腰の後ろの突起を鷲掴みにして、再び3号機を逆さまに持ち上げ、そのまま一気に後方に尻餅をつこうとする
スー「これは、まさか?」
2号機がスーの3号機にかけようとしている技は、プロレス技のドリル・ア・ホール・パイルドライバーのもっとも危険なバージョンだった。
普通のパイルドライバーは、相手の頭を太腿で挟み、胴体を抱えて逆さまに持ち上げ、尻餅をつくようにして頭を叩き付ける。
だがこの形だと、レスラーの太腿が発達し過ぎてる為に、下手すると頭のてっぺんがマットにかすりもしないという事態が起こり得る。
その点今回のように、膝で頭を挟み、タイツの背中側(今回の場合は、ウージーの腰の後ろの突起だが)を掴むようにして落とせば、全体重が脳天に乗ることになる。
(バディー・オースチンというレスラーは、この技で2人のレスラーを殺している)
本日は以上です。
果たしてスーの運命は?
そしてレイバー隊と朽木の運命は?
次回いよいよ最終回です。
ではまた。
こんばんは。
いよいよ最終回です。
では。
スーは真っ逆さまに落とされる刹那、恐ろしい光景を見た。
1号機が空高く飛び上がり、3号機の両足を掴んだのだ。
これにより3号機の脳天には、さらに1号機のウェイトが加わることになった。
ハイジャック・パイルドライバーと呼ばれる、80年代のプロレスのタッグチームがよく使っていた連携技だ。
通常は自軍コーナー近くで、もう1人がコーナーポストに登って行なう。
ジャイアント馬場がスタン・ハンセンとブルーザー・ブロディのコンビにこの技をかけられた際、負傷して連続出場記録がストップしたという、危険な技だ。
地面に激突する瞬間、2号機は大きく脚を広げ、3号機の両腕を胴体ごと締め上げた。
これで受身は取れない。
(パイルドライバーの受身は、腕を相手の脚にかけて、自分の頭を持ち上げるようにする)
3号機の頭(厳密にはコックピットの上から3分の1ほどの部分)は轟音と共に地面に突き刺さり、逆立ち状態になった。
朽木「スー、大丈夫か?」
「(塩沢兼人似の声で)うらがん、アノ壷ヲきしりあ様ニ届ケテクレ。アレハ、イイモノダアアアアア!!!」
そう答えた直後、スーの意識は暗黒の中に落ちて行った。
朽木「誰がウラガンだよ、ったく…」
呆れつつもすぐに立ち直った朽木、麦男の指揮車の天井に飛び乗り、麦男に命じる。
「麦男、車出せ!」
麦男「どうするんですか、隊長?」
朽木「ウージーのバッテリー切れまで、俺たちが囮になるんだ」
そう言うなり朽木、2台のウージーに向かって発砲した。
麦男「隊長?!」
だがウージーの装甲は軽く傷が付いただけで、硬質な音と共に弾丸を弾き返した。
朽木「どうやら俺のモーゼルでも、ウージーのぶ厚い装甲相手だと、傷付けるのが精一杯のようだ。しかし注意を引き付けるぐらいのことは出来る」
朽木の言う通り、2台のウージーは麦男の指揮車に迫って来た。
否応無く麦男は、指揮車を発進させた。
麦男の運転の腕は普通だが、バッテリー切れ間際でウージーの動きが鈍くなって来たこともあり、指揮車は2台のウージーに追い回されつつも、何とか逃げ切り続けた。
だがいよいよバッテリー切れ直前、ウージーは最後の攻撃に出た。
2号機が1号機を一本背負いで投げつけて来たのだ。
1号機がぶつけられた指揮車は横転し、朽木はその天井から放り出され、地面に頭から真っ逆さまに落ちた。
朽木「(頭を押さえ)あ痛たたたたたたたたた!こりゃこぶになりそうだな」
それで済むのだから、つくづくタフな男である。
「あれっ?ここは誰?私はどこ?」
投げ飛ばされたショックで、千尋は正気を取り戻した。
慌てて1号機を立て直し、周囲を見渡す。
横転している指揮車、頭を押さえて痛そうにしてる朽木、そして敵意をみなぎらせて迫る2号機を見て、瞬時に千尋は事態を悟った。
そして23ミリオートキャノンを抜いて、2号機に向ける。
「美幸君、おじ様に何てことするのよおおおおおおおお!!!!!!」
1号機が23ミリオートキャノンの安全装置を解除し、ボルトを引いて初弾を装填しようとしたその時、乱入者があった。
中に一緒に入っていた、2号機用レイバーキャリアだ。
キャリアは猛スピードで2台に迫るや否や急ブレーキをかけ、トラクター(運転席側)とトレーラー(荷台側)は接続部で、急激にくの字に曲がった。
運転している香澄が、ハンドルとブレーキを操作して、意図的にジャックナイフ現象を起こしたのだ。
その結果2台のウージーは、トレーラーの横腹で両脚を薙ぎ払われる形になった。
(注)ジャックナイフ現象
牽引自動車(セミトレーラ)が急ブレーキや急ハンドルした時、トラクター(運転席)とトレーラー(荷台)がくの字状に折れ曲がる現象。
1号機が空中で一回転して脳天から落下したショックで、千尋は再び気絶した。
一方2号機は、かろうじて受身を取ったが、立ち上がりかけて中腰になったところに、第2波が来た。
今度は外で待っていたはずの1号機のレイバーキャリアが、バックで突っ込んで来たのだ。
運転する薫子が自信が無いと言ってただけのことがあり、レイバーキャリアの横腹は傷だらけで、あちこちへこんでいた。
バックでスピードは大して速くないとは言え、2号機はレイバーキャリアの直撃を食らって見事に吹っ飛び、美幸もまた気絶した。
こうしてようやく、全てのレイバーが停止した。
「まだまだ俺は、隊長としては半人前だのう」
横転している指揮車から麦男を救出し、活を入れて蘇生させた後、朽木は素直に反省した。
これまでバックアップの2人を、準備と後片付け要員と位置付け、いざレイバーが動き出してからは、道を封鎖する係ぐらいとしか考えず、戦力として計算していなかった。
ところが今回彼女たちは、自分たちの意志と判断でオーバーラップして、朽木たちの危機を救ってくれた。
本来なら彼女たちの行動は、朽木が命じる性格のものだったはずだ。
だから今回は、命令違反には目をつむり、素直にナイス判断を褒めてやることにした。
だがレイバーキャリアから降りた香澄の第一声は、そんな朽木の決心を見事に粉砕した。
「(ボタンを吹き飛ばしつつ、制服の前を開けながら)私脱ぎます!」
「やめんか!」
再び香澄にしがみ付いて、阻止しようと頑張る麦男。
だがやはり追い討ちが麦男を待っていた。
薫子「(香澄と同じ様に脱ぎながら)それじゃあ私が脱ぎます!」
麦男「お前もこんなとこで脱ぐな!隊長!見てないで止めて下さい!」
もう好きにやってとばかりに、呆れてそっぽを向く朽木。
「結局あの2人も、酔いがぶり返しただけかよ…」
少し長いエピローグ
この日朽木がレイバー隊本部に戻ったのは、夜が明けて完全に太陽が昇り切り、そろそろ真南に移動しようかという頃になってからであった。
レイバー隊による乱闘レイバー軍団の排除は、現地に到着してから、わずか30分程で終了した。
しかもその所要時間の内、半分以上が準備時間で、レイバー軍団との格闘自体は15分とかかっていない。
ただし、その代償は大きかった。
100台以上にも及ぶレイバーの内、修理可能な部分的損傷、即ち半壊状態に留まったのは、わずか40台足らずであった。
そして残りの60数台は、絶対に修理不可能な全壊状態であった。
半壊レイバーを主に担当したのは、スーと朽木であった。
問題はウージー1号機と2号機の、泣き上戸&笑い上戸の、地獄の2人組であった。
2人が通った後には、物によっては八つ裂きにされた、レイバーの残骸の山と、気絶した搭乗者たちが残された。
犯人たちが全員打撲等の軽傷で済んだのは、奇跡としか思えなかった。
(まあその代わり、今回も恐怖で精神錯乱した犯人は多数居たが)
朽木は隊員たちを先に帰した。
今回は昨日の場合と違い、全員に早く帰す大義名分があった。
レイバー同士のぶつかり合いや、レイバーと車のぶつかり合いで、搭乗者が負傷した場合のダメージは、交通事故のそれに等しい。
特に今回は、それで気絶した隊員が4人もいるのだから、早々に精密検査を受けさせる必要がある。
もっとも朽木の中には、未成年の部下たちを警察やマスコミの叱責から逃がそうという優しさだけではなく、冷徹な計算もあった。
この後、事態を説明するに当たり、要所要所を嘘八百で固めなければならない。
その際の情報の出所は、一括管理した方が矛盾や食い違いが出にくい。
複数の人間が同一の嘘で口裏を合わせるには、綿密な打ち合わせが必要だが、今回はその時間が無い。
それにどのみち、朽木以外の全員にアルコール反応が出るから、人前には出せない。
こうして朽木は全レイバー沈黙後、延々とその後始末にかかった。
先ずは現場検証に立ち会う。
次に本庁に出向き、捜査一課の刑事たちから事情聴取を受ける。
さらにその合間を縫うように、機動隊やSATや捜査一課の現場責任者からの説教を受け、マスコミの取材攻勢も受ける。
それらを終える頃には、本庁のお偉方が出勤して来た。
帰ろうとした朽木は警備部長に呼び止められた。
そして、昨日の今日でもう1回後日お偉方集めるのも面倒だから、ついでに今日やってしまえというノリで、査問委員会まで受けて来た。
朽木は査問委員会で、法律の拡大解釈や論理のすり替えやハッタリ等、あらゆる手段を駆使して、レイバー隊の飲酒事件を揉み消した。
ウージー3台による、大規模な破壊活動まがいのレイバー軍団鎮圧は、あくまでも若さゆえの気負いや不安からの暴走であるという方向で落ち着いた。
責任はそれを抑えられなかった朽木にあるということになり、レイバー隊の処分は、朽木自身の訓告と減俸3ヶ月だけで何とか話が付いた。
昨日の事件の分と合わせて減俸4ヶ月だが、朽木は気にしていなかった。
彼の歳と職歴で、大卒の巡査部長なら、本庁警備部の小隊長をやっていれば、ベースになる分だけでも、けっこうな高給だからだ。
減俸されたところで、同年代の交番勤務の巡査ぐらいの金額にはなる。
妻子養ったり、家のローン払ったりするには心細いが、独身1人暮らしには十分な金額だ。
その程度で済めば、朽木にとっては十分に勝ちと言えた。
それにこの処分は、本庁にとっても悪い取り引きじゃないと、朽木は考えていた。
本来なら警部補クラスのやる、レイバー隊の小隊長などという役職を、4ヶ月とは言え、交番勤務の巡査並みの給料でこなすのだ。
コストパフォーマンスとしては最高だろう。
それに朽木は、実質的な特機課課長代行でもあった。
本来なら警視クラスのやる、特機課の課長の業務を、交番勤務の巡査並みの給料で同時にこなすのだ。
これで装備の維持に莫大な予算を食う為に金食い虫と言われている、レイバー隊への批判もちょっとはかわせそうだ。
もっとも朽木はただヘコヘコと頭を下げて下手に出るだけでなく、上層部を脅して帰ることも忘れなかった。
レイバー隊に何かすれば何されるか分からない、そう思わせておいて損は無い。
上手い具合に、警備部長がわざわざネタを振ってくれた。
「それにしても朽木君、わずか15分で100体以上のレイバーを破壊してのける特機隊なら、本庁でも1時間もあれば陥落させられそうだね」
本人は嫌味のつもりだったらしいが、朽木にとってはツッコミがいのある、ナイスボケであった。
朽木はそれに見事に応えた。
「ご冗談を。ご命令とあれば、10分もあれば本庁を陥落させて御覧に入れますよ」
努めて軽口で冗談っぽく言ったつもりだが、警視総監他上層部の面々は、大真面目に解釈し、大いにビビった。
これでレイバー隊に下手な手出しは、当分は無いだろう。
朽木の今までの警官としての人生は、常に捜査を第一に考えて来た。
だがレイバー隊の隊長になってからは、優先順位に同率1位の項目がひとつ増えた。
それはレイバー隊を存続させ、隊員の身の安全を保証することだった。
未成年の彼らが成長する為には、それなりに失敗や挫折も重ねなければならない。
だが犯罪者は彼らの成長を待ってはくれない。
この相反する2つの落しどころとして、今回程度の大騒動はアリだと、朽木は考えていた。
「40過ぎると、徹夜は堪えるのう」
ヘロヘロになってレイバー隊本部に帰って来た(と言っても指揮車を運転してだが)朽木を、門衛の警官が呼び止めた。
レイバー隊の正式発足に伴ない、レイバー隊本部の設備の警備の為に、数人の警官が配備されているのだ。
『にょっ?いつもなら敬礼だけでスルーなのだが…』
門衛「朽木隊長、ちょうどいいところに帰られました。今さっきお客様が見えましたので、応接室にお通ししておきました」
朽木「お客?『何やら猛烈に嫌な予感がするのう…』」
そして応接室。
朽木の猛烈に嫌な予感は、見事に的中した。
やはり今回も、彼の向かい側に座った人物は、テーブルに頭をぶつけそうな勢いで、頭を下げていた。
そしてその下げた頭を押さえるかのように、頭の上で両手を合わせていた。
頭を下げていたのは、金髪の女性であった。
そしてその隣には、これまた金髪の男性が、何とも言えぬ複雑な笑みを浮かべていた。
朽木はそんな2人に対し、油汗を流しつつ困惑するしか無かった。
「すまん、クッチー!じゃなくて隊長さん!うちの馬鹿息子が、とんだ粗相をやらかしちまって、ほんとすまん!」
金髪の女性は、高坂(旧姓春日部)咲であった。
そして隣に座っている金髪の男性は、その夫の高坂真琴であった。
「ごめんね、朽木君。美幸が何かやらかしたそうで、ほんとごめんなさい」
こちらは咲と対照的に、軽い口調で軽く頭を下げた。
こういう言動をしても嫌味に思われない点、つくづく美形は得である。
2人とも、それなりの貫禄は出て来たものの、咲の職業柄、服装や髪やメイクなどに気を使っているせいか、42歳という年齢としては若く見えた。
ただ、咲が30代半ば程度の見た目なのに対し、夫の高坂は20代後半程度にしか見えず、同い年の2人なのに見た目は姉さん女房と化していた。
そんな2人を見た目年齢では抜いてしまった朽木は、困惑しつつなだめた。
「まあまあお2人とも、どうか頭を上げてくださいな。『この2人に頭下げられても、落ち着かないのう…』」
そこで朽木の携帯が鳴った。
「ちと失礼。(携帯に出て)はい携帯朽木」
電話は門衛の警官からであった。
「朽木隊長、隊員のご家族の方々がお見えですが、お通ししてよろしいですか?」
朽木「方々?」
門衛「ええ、昨日いらした笹原さんの他に、その旦那さんと、田中巡査のご両親、それに久我山巡査のお父さんの5名なんですが」
朽木「何ですと―――――――!!!」
朽木の絶叫が、レイバー隊本部に轟いた。
こうして今日もまた、朽木隊長の苦悩に満ちた長い1日が始まろうとしていた。
『いやもう既に、本庁で十分苦悩して来たんですがのう…まだ苦悩し足りませんかそうですか…』
以上、これにて予定終了でございます。
長々と、あり得ないおバカな展開のSSにお付き合い頂き、ありがとうございました。
最後の校正をしながら、ふと思い付いて調べてみたのですが、このSS内でメインキャラが気絶した回数、何と13回もありました。
ちなみに内訳は、千尋が4回でトップ、次が美幸の3回、その他は朽木以外全員、各1回ずつでした。
(千佳、咲、高坂はゲストキャラということで)
この他にも、名無しのその他大勢キャラでは、昇龍に乗ってた犯人も気絶してますし、直接描かれてないけど、ラストのレイバー軍団にも多数居たと思われます。
いかにこの話がフリーダムかということが、お分かり頂けたと思いますので、これにて筆を置きます。
追伸
1年近く放置してた「30人いる!」、近々再開します。
来週はまだちょっと無理ですが、今月中には必ず。
もっとも、あれから100ページ以上原稿は進んだのですが、まだ未完ですので、次の再開時に完結出来るかは、今のところ未定ですが。
こっ、これは…
>あれから100ページ以上原稿は進んだのですが、まだ未完
あんたは何に挑もうとしているのだw
楽しみにしてます。
ハグも週末あたりにはまとめて読めそうだZE
テスト
HOSHU
今日も今日とて、大学構内を部室目指して歩く斑目。
サークル棟に向かう途中の階段を昇る際、上の方からゴロゴロと奇妙な音がして、思わず見上げる。
「なっ?!」
見ると上から、樽が転がり落ちて来た。
臆病者特有の反射神経と敏捷性で、間一髪避ける斑目。
「にょ―――――!!!!!」
樽が斑目の横を通過したその時、奇声と共に何かがきりもみ回転しながら樽から飛び出して、傍らの池に飛び込んだ。
「何が、起こったの?」
池に飛び込んだ謎の物体の正体は、赤ふん姿のクッチーであった。
「何やってるの、朽木君?」
「特訓ですにょー」
「特訓って、何の?」
その時階段の上から、スーと荻上さんが駆け寄って来た。
スー「回転シナガラ飛ビ出スたいみんぐハツカメタカ?」
朽木「(敬礼しつつ)サー、イエッサー!」
スー「ヨシッ、次ハ走ッテ来ルじーぷヲじゃんぷシテヨケル特訓ダ!」
朽木「(敬礼しつつ)アイアイサー!」
立ち去る2人を呆然と見守る斑目と荻上さん。
荻上「スーちゃんが、侍ジャイアンツにはまっちゃって、最終回のミラクルボールを見たいって言い出したんです」
斑目「てことは、この後は朽木君、指立て伏せやロープ渡りか。て言うかスーちゃん、ジープの特訓は番組が違うよ…」
てすと
久々に部室に来た荻上さんは、見事に引いて固まってしまった。
3年の正月に、荻上さんは会長の跡目をスーに譲った。
漫画家としての仕事が、忙しくなってきたせいもあってのことだった。
スー会長誕生以降、荻上さんの部室に行く頻度は減った。
今日は4年生になってから、初めての部室だった。
入学式が済んだ後だったので、部室に知らない顔、即ち新入生が増えていることは予想出来た。
予想通り、部室に居たのは、例によって飯を食ってる斑目、2年生の女子会員、そして見慣れぬ男であった。
その見慣れぬ男は長身だった。
同じく座っている斑目と比べても、かなりの長身であることが分かる。
おそらく身長180はあるだろう。
男は部室でガンプラを作っていて、パーツはランナーにつながってる段階でスプレーで塗装したのか、既に塗装済みで後は組むだけという状態だった。
(ガンプラはパーツの色別に同じランナーに集められているので、先にスプレーでランナーごと塗装して、パーツを切ってから切れ目を手塗りでレタッチするという荒技が出来る)
男はスーツ姿だった為に、余計取り合わせが異様に映った。
だが本当に男の異様なのは、首から上であった。
スーツ姿の割には、両耳を隠す耳カバーの付いた、飛行帽のような帽子を被っていた。
顔の輪郭は、コンパスで描いたような真ん丸で、しかもその直径が30センチ近くもあった。
そしてその顔の色は、緑色であった。
『コスプレ?覆面?』
当惑する荻上さんに、女子会員が話しかけた。
「こんにちは、お久しぶりです荻上先輩。あっ、彼は会長が連れて来た新入生です。(新入生に)毛呂山君、こちらは前会長の荻上先輩よ」
新人は立ち上がり、何故か敬礼しつつ自己紹介した。
「おおっ、先輩でありましたか!初めまして、我輩毛呂山毛呂蔵(けろやまけろぞう)であります!」
挨拶しつつも、心の中で当惑する荻上さん。
『て言うかスーちゃん、どっからこんな人連れて来たんだ…』
保守
>>193 ジープ特訓って、ウルトラマンレオ???
>>195 初の宇宙人会員キタ!
つか大学生ぢゃないしwww
しかしどちらも舞台は「都の西部」なので、出没しないこともないかも知れない。
「埼玉県春日部市在住のオタク女子高生」が椎応に進学っつう線は考えたことがあったけど、こんな荒技予想だにしなかったぜw
ホッシュ
荻上さんvvv
ほしゆ
またまたアクセス規制されてしまいました。
やれやれ、いつになったら中断してる「30人いる!」再開出来るやら。
さすがに100レス以上も「代理レスはここへ」スレに頼むのも、気が引けるし…
保守
その250で止まってた「30人いる!」ですが、その後その361まで書けました。
その400ぐらいまで書けたら投下始めますので、今しばらくお待ちを。
>>190 ごく自然発生的にページ数増えちゃっただけです。
決して何かに挑んでる訳ではありません。
でもおそらくその400ぐらいまで書かないと、整合性が保てないので、今しばらくお待ちを。
待ってるぜ!
納得のいく執筆と校正をなさってくださいまし。
ほしゅ
誘拐魔
マッドマックス
スターウォーズ
ズッキーニ
忍者ハットリ君…
はサンマが好き
キンキン…
の嫁はんはケロンパ
SSスレ新しくたってたのようやく見つけてようやく読み終えた
機動警察ハグレイバー2 おもしろかったっす♪
アニメで見たいと思ってしまいました。
ところで まとめサイトってどこでしょう?
うーむ困った。
表の仕事も裏の仕事も忙しくなって、また原稿が進まなくなってしまいました。
ラストまでの流れは大体出来ているのですが…
そんな訳で、今しばらくお待ちを。
年内再開めざして頑張りますんで。
>>212 終了後初感想キタ―――!!
まあアニメは無理としても、絵板で見てみたいものですな。
ちなみにまとめサイトはこちら。
スレの更新は、14までで止まってるようですが。
管理人さん、元気ですかー!?
http://www7.atwiki.jp/genshikenss/
絵板ってまだあるの?
Internet Explorer ではこのページは表示できません
・・・ってなるんだけども・・・
わしsafariですが見ることができもすぞ。
今見たら見えた
Internet Explorer ではこのページは表示できません ・・・なんだったんだろ?原因は
貯まってた分一気にみました。
ありがとー
保守
雪国
ニホンオオカミ
ミグ25
郷ひろみ
ミンダナオ諸島
ウルトラマン…
タロウ
ウルトラマン…
レオ
岡ひろみ
岬太郎
229 :
マロン名無しさん:2008/12/11(木) 19:50:37 ID:ilViU6Ig
敢えてage進行。
また規制されてしまった…
げんしけんファンの方々、俺が復帰出来るその日まで、どうかスレ守ってて下さい。
漫画サロン板って、1日ほっとくとスレ落ちそうで不安なんです。
スレが、スレが落ちる〜〜〜〜!!!!!!!!
保守
テスト
保守なんて一日一回すれば充分ですよ。
そんなもんなのかのう
アニメいまさらながらすごいハマッタ。
いままで知らなかったのが泣ける。。
大野さんすごくかわいい。
この時期に、げんしけんに熱い思いをぶつけてくれる人の存在は、たいへん嬉しいのだが、何故このスレに?
まあここも、げんしけんの関連スレではあるけど。
派遣切りが横行してるが、笹やんは無事だろうか?
田中のその後も興味深い
斑目のその後が1番心配
大野さんも、部室の主2号になってないか不安
さらにはもしかしたらクッチーも、部室の主3号になってないか不安
そしていつしか、OBの方が現役会員よりも出席率が高くなり、光画部化する現視研
242 :
マロン名無しさん:2008/12/21(日) 20:25:35 ID:S3JSyhxZ
まあそれだけ次期初代会長(変な日本語だ)候補がいれば、現視研は安泰だな。
テスト
やっとアクセス規制解除か…
やれやれ、昨日解除になったと思ったら、また規制。
とんだクリスマスプレゼントです。
しかもおなじプロバイダ使ってる中にキ○ガイが居るらしく、避難所にまでAA連投する始末。
こりゃ下手すると、年内いっぱい規制かも。
そんな訳で、正月明けにでも再開しますんで、今しばらくお待ちを。
リアルタイムなら、もう荻上さんもクッチーも大野さんも卒業し、読者が知った顔はスーだけか。
そのスーでさえ、もう3年生。
早ければ、この正月明けにも新会長を指名してるかも。
時の流れが早過ぎる…
これでやっと今年の規制は終わりかな?
248 :
マロン名無しさん:2008/12/28(日) 13:48:40 ID:XqO+rUm7
げんしけん9巻の最終話の173〜176ページって、
笹原たちの卒業から、最低でも2年(荻上卒業)は経ってる。
175ページに出てきた3人のうち1人は新入生、もう2人は2年以上。会長も、荻上ではないだろう。まさかスー。げんしけんの部室には、笹原達とは、全く違うメンバーがいる。
そう思うと、寂しくなった。
笹原経ちの卒業後(俺の予想)、
部室には、大野・荻上・クッチーがいる。たまに、笹原と斑目が来ている。薮崎と薮崎にくっついている友達が、げんしけんに入会した。
荻上と藪崎が、合同サークルを結成しで同人誌を作った。
そして、大野とクッチーが卒業。大野はアキバでメイドカフェの仕事かコスプレ風俗。
げんしけんにスーや他の新入生が入り、1年後、荻上達が卒業。スーが会長?になる。
そして、9巻の175ページ。
おまいらまんがまつりですよ。
俺は家で女房子供に手を焼くばかりですが。
>>248 普通に読んでしまったがあとで気づいたゴルァw
大野さんの店教えてください。
さてと、今日から忙しいな、現視研の面々は。
どうやら「30人いる!」の続編は、正月興行になりそうだな。
8,9巻が絶頂なのに結構唐突に終わったな。
多くの漫画が惨めな終わり方をするのと対照的だ。
高坂の存在意義が無くなってたりはするけど。
253 :
aira ◆4uwGFyw25k :2008/12/30(火) 12:58:28 ID:8zW6V57j
AGE
それでは皆様、良いお年を
あけまして、おめでとうございます
謹賀新年
保守代わりに…駄文ですが新年一番手いきます!
部室にて笹原、荻上、大野の3人
大野「えっ!?笹原さんの初仕事アフタヌーン編集部なんですか!?」
笹原「ウン…まぁね…新人が何人かいるのに対して編集部に急に空きが出ちゃったらしくて」
荻上「………」
大野「それじゃあ荻上さんの担当にってこともあり得るじゃないですかぁっ!!」
笹原「いや…まぁゼロではないけどね。そんな漫画みたいにはいかないって」
大野「何言ってるんですかぁ!2人は苦難を乗り越えてひとつになったんですから!
それくらいの運命的巡り合わせだってありますよ!ね?荻上さん?」
荻上「し、知りまセンっ!!」笹原「タハハ…(汗)」
数日後、今日は荻上の所に初めて編集部からの担当者がくる日
荻上「(まさか本当に笹原さんが来るなんてことねえよな?笹原さんが来てくれればそりゃ楽だしなにより楽しいけど
逆に恥ずかしくなっちまってどーすりゃいーか分かんなくなっかも…あーもうわけわかんね)」
ピンポーン
荻上「あっ、ハイ!今開けますっ」
荻上がドアを開けると30代半ばくらいの男がニコニコして立っていた
男「あっどーも!アフタヌーン編集部の山下です」
荻上「あっ…わざわざどーも」
やっぱりな…と荻上が思ったとき山下の影からもう一人がひょこっと出てきた
山下「こちらが鳴雪さんの担当者になります」
荻上「えっ…」
笹原「さ、笹原です!よろしくお願いしますっ!」
――――――――
笹原「俺も新人ってことで本当は山下さんと2人で荻上さんの担当ってことだったんだけど
大学同じってことが分かっちゃって俺と荻上さんが顔見知りってなったら一人で任せられちゃったよ」
荻上「普通なら顔見知りって知れたら外されそうなもんですけどね…」
笹原「ま、まぁなんていうか…やっぱり一人でついた方が担当もアドバイスとかしやすいっていうか…(汗)」
荻上「いつ潰れるか分かんない新人に当てる人材は少ない方がいいですもんね…」
笹原「いや…そんなことないって!……(汗)」
2人の間に重い空気が流れる
笹原「…それにしても…」
笹原はデスクに肘をつき不満そうにしている荻上を眺めた
いつもの筆頭を下ろし普段家の中ではつけないのに今日はコンタクトをつけている
笹原「今日は気合い入ってるね…」
荻上「なっ…!!?」
荻上の顔が真っ赤になる
荻上「そ、そそういう笹原さんだって!ねネクタイなんかビシッと絞めてるじゃないですかっ!!」
笹原「いやー…俺は仕事だから(汗)」
荻上「…そうですね…スイマセン…」
沈黙。気まずそうに笹原が頬をポリポリと掻いていると荻上が絞り出すように口を開いた
荻上「…さ…はら…ん…めです…」
笹原「えっ?ごめんよく聞こえなかった」
荻上「笹原さんのためデスつ!!!」
笹原「えっ…お、俺のため、なの?」
荻上「そーですよっ!笹原さんもアフタヌーンなら誰が来ても笹原さんの仕事仲間でしょう!
それで私が笹原さんとつ…付き合ってるのが知れたりしたら、あんな洒落っけもない女と付き合ってるって言われるじゃないデスカっ!!」
笹原「えと…そんなこと気にしてたんだ」
荻上「…悪いですか…?」
笹原「いや…ううん、ありがとう」
笹原がニコッと笑った
その笑顔に荻上の胸がドクンと脈打った
自分でもカーッと熱くなるのが分かった
荻上「わっ…わかればいいんですっ!結局はこの格好も笹原さんに見てもらえたんですから…
…何担当者がボケっとしてるんですかっ!ネーム見てくださいっ!!」
笹原「はい、拝見しましょう!」
――――――――
この新人コンビの作品が、多くの読者に指示されるのはもう少し後の話である。
260 :
マロン名無しさん:2009/01/03(土) 01:42:48 ID:wE3c0qsa
保守代わりって言ったのに全部sage進行で書いて意味ない(笑)
初めて書いてみました
駄文失礼しました
GJ
面白かったです。切り口が、ありがちに見えるが実はあまりみない感じで新鮮。
良かったです。
新年早々お疲れ様です。
>>261の人も仰ってたけど、確かに有りそうで無かったシチュエーションですな。
2人とも変なとこに気合い入れてるのがツボでした。
あけましておめでとうございます。
ほぼ1年ぶりに、恥ずかしながら帰ってまいりました。
とは言え、久々の上初めての方もいらっしゃると思いますので、今回はあらすじやらオリキャラの紹介やらを投下した後、ほんのさわりだけですが本編投下します。
以後不定期ですが、なるべく間置かずに続けたいと思います。
では。
(注)「宇宙戦艦ヤマト」の、バラン星到着前の数話での、冒頭ナレーションの際のBGM
を脳内で再生しつつ、お読み下さい。
時に西暦2006年、椎応大学現代視覚文化研究会は、正規の現役の会員は荻上会長1人となり、現視研廃部まであと2年と迫っていた。
(注、このシリーズの第1作「11人いる!」が書かれた当時、連載中の原作では、まだスーの留学は確定してなかった)
だが創立以来初の、新入生ふた桁を突破して、現視研は見事に再生した。
数々のイベントを乗り越え、快進撃を続ける新生現視研の、当面のメインの活動は、学祭で上映する8ミリ映画、実写版ケロロ軍曹の撮影だ。
だが、みんなが監督すると見ていた特撮好きの国松は、スーツアクターをやる為に監督を断念し、くじ引きの結果、恵子が総監督に就任した。
映画連続10回鑑賞会の荒行を敢行して見事に映画脳が覚醒し、現視研のヌルオタたちを映画地獄でしごかんと牙を研ぐ、「渋谷の送られ狼」笹原恵子総監督
そしてクランクイン10日目、1年生たちは飲み会を兼ねた反省会を開き、4日目まで済んだところで、SSスレは連載を中断した。
反省会が当日の話に至るまで、消化すべき回想はあと5日…
国松千里(モデル 「究極超人あーる」の国枝千里)
現視研コスプレ部門に着ぐるみの新風を吹き込んだ、特撮オタ美少女。
「ケロロ軍曹」からアニメや漫画のオタも始めた初心者オタで、今回の映画の企画の言い出しっぺでもある。
本来なら彼女が監督すべきなのだが、スーツアクターをやる為に断念し、代わりに恵子監督を技術面からサポートする。
見た目小柄で、大きな垂れ目のロリ顔美少女だが、怒ると現視研一怖い。
また実家が酒屋のせいで酒豪だったり、元柔道部のマネージャーだったりと、見た目とはかけ離れた一面も多い。
映画では特殊技術(いわゆる特技監督)とギロロ役を担当する。
神田美智子(モデル 「かってに改蔵」の神埼美智子)
父母兄と、家族全員が同人誌作る側のオタクという、オタク一家の長女。
赤ん坊の頃から毎年コミフェスに参加しており、参加回数なら現視研一。
自室に自分専用コピー機を持つ(もちろん他の家族も1人1台ずつ所有)本格派。
作風は基本ノーマルなエロだが、最近はヤオイも始める。
高校の時は隠れオタで、大学でも隠れオタで通すつもりだったこともあり、当初大人し目キャラだったが、夏コミで可符香コスをやったせいか、最近では小悪魔的側面も見せる。
オリキャラの中では、最も斑目に対し積極的。
今回は畑違いということもあってやや影が薄いが、裏方として記録とスケジュール管理を担当している。
元々は普通のショートカットだったが、最近は可符香風の×状の髪止めを多用している。
豪田蛇衣子(モデル 「ドラえもん」の剛田ジャイ子)
1年生の腐女子4人組、通称腐女子四天王のリーダー格。
大柄で肥満体の体躯に似合わず、小学生の時から少女漫画を描いていた本格派。
荻上会長を崇拝し、「荻様」と呼称する。
図画工作や美術の成績は常にオール5だったせいか、小学5年生の頃から学芸会等で劇があるたびに舞台美術を担当し、今ではキャリア8年のベテラン。
その腕を生かして、映画では美術と照明を担当する。
台場晴海(モデル 「さよなら絶望先生」の藤吉晴美)
学級委員長風のメガネがトレードマークの、四天王の参謀格の理論派腐女子。
現視研の会計担当で、その銭勘定の細かさを生かし、映画ではプロデューサーを担当しているが、4日目には夏美の対戦チームのピッチャー役でも活躍する。
クランクイン後、意外と運動神経がいいことが発覚したのは、今後の伏線かも知れない。
巴マリア(モデル 「おおきく振りかぶって」の百枝まりあ)
四天王の1人で、ソフトボール部出身の体育会系腐女子。
その怪力と運動神経、それに美人で巨乳な外見を生かして、映画では夏美役を担当する。
同時に夏美の出番が少ないせいもあって、サブの照明も兼任している。
沢田彩(モデル 「彼氏彼女の事情」の沢田亜弥)
四天王の1人で、漫画よりSSが得意な、ショートカットの文芸系腐女子。
映画ではドロロ役を担当しているが、出番が少ないので録音も兼任している。
日垣剛(モデル 「究極超人あーる」の曲垣剛)
元高校球児の初心者オタ。
手先が器用なのを田中に見込まれて、現視研コスプレ部門のコス制作担当となる。
国松とは初心者同士仲が良く、友達以上恋人未満な雰囲気だが、早くも尻に敷かれているようだ。
国松と共に着ぐるみ制作を担当し、他にも衣装や小道具など数々の裏方をこなす。
身長185センチの体格を生かして、超兵器アル1号(夏コミで使ったハガレンのアルの着ぐるみコスを流用)のスーツアクターも担当している。
伊藤勝典(モデル 「究極超人あーる」の伊東)
文芸部出身で脚本家志望の物書き系オタ。
その腕を生かして、映画では脚本とチーフ助監督を担当。
(セカンドは巴、サードは沢田だが、基本的に手の空いた者は全員助監督だ)
顔も動作も喋り方も猫なキャラ作りの甲斐あってか、同じく猫キャラのニャー子と付き合い始める。
有吉一郎(モデル 「究極超人あーる」の有島)
伊藤と同じ高校出身で、インテリっぽいメガネ君な風貌通り、漫研出身で弁の立つ理論派オタ。
映画では当初はナレーターを希望していたが、眼鏡無しだと意外(?)に整った顔立ちを買われて冬樹役に抜擢される。
(注、今回の映画は数年後の設定なので、冬樹も夏美も大学生になっている)
もっとも眼鏡無しだと演技が困難だった為、結局のとこ中学時代の丸い眼鏡(秋ママの眼鏡に近い形だ)を使い、大学に入って目が悪くなったという設定が付け加えられた。
浅田寿克(モデル 「究極超人あーる」の浅野)
写真部出身の初心者オタ。
映画では撮影と編集、そしてロケハンと機材の確保を担当している。
実は将来は映像系の仕事を志望しており、岸野が提供したプロ仕様のビデオカメラDVX-100に魅入られて、渡りに船とばかりに張り切る。
丸メガネの神経質そうな顔付き通り、会員間の会話ではツッコミ役になることが多いが、何故か古いネタに対しても的確なツッコミが出来る。
岸野有洋(モデル 「究極超人あーる」の岸田)
浅田と同じ高校出身で、同じく写真部出身の初心者オタ。
映画では浅田と同じく撮影と編集、そしてロケハンと機材の確保を担当している。
メインのカメラ2台の提供者で、自分は8ミリカメラの方を担当する。
(サブのカメラ2台は、高校の映研に借りて来た)
8ミリのフィルムがもうじき製造中止になるので、これが最後の花道になると、カメラに対しカメラマン特有の愛着を見せる。
リーゼント風の前髪がトレードマーク。
備考
この他に、9月からスーとアンジェラも入会しています。
第12章 笹原恵子の復活
クランクインから10日目の夜、現視研1年生限定の反省会兼飲み会は、なおも続いた。
伊藤「4日目の撮影が済んで、やっと撮休になりましたニャー」
豪田「と言っても、私らセットの仕上げに、5日目も部室来てたけどね」
沢田「それにしても蛇衣子、あのセットは凄かったわね」
豪田「まあみんなも手伝ってくれたしね。どしたのミッチー?笑い上戸?」
何故か神田は、機嫌良さそうにニコニコしていた。
神田「ちょっとね…(ニコリと笑う)」
クランクインから6日目、正午にはまだ1時間以上もある微妙な時間帯に、斑目は例によって部室にやって来た。
そんな時間にも関わらず、弁当を持ってだ。
始業早々会社のパソコンが故障し、修理中手書きの書類を先に片付けていたのだが、それでもまだ修理が終わらないので、早目の昼飯がてら時間潰しをすることにしたのだ。
3日目のアッー!騒動の後遺症からか、若干腰が引けていた。
(注)3日目の撮影の際、いろいろあって1年男子たちが伊藤を押さえ込み、有吉がキスしようとする騒ぎになった。
それを目撃した斑目は、事情は聞いたものの、1年男子にその気があると半分疑ってる。
「まあ何のかんの言っても、時間潰すにゃここが1番だからな、あれっ?」
部室の全ての窓は暗幕で覆われていた。
斑目は携帯を取り出し、ボタンを操作してディスプレイを見る。
「神田さんが送ってくれたメールによれば、今日は部室で撮影か…」
スケジュール管理担当の神田は、日々変更の繰り返しの撮影スケジュールをまめにOBたちに連絡していた。
不意に赤面する斑目。
神田からのメールの最後に付け加えられた、追伸を読んだ為だ。
「○○日(3日後の日付)の日曜は撮休なんですが、一緒にどこか行きませんか?」
「見なかったことにしよう…」
その件について斑目は、とりあえず思考停止し、再び部室に注意を向けた。
「撮影中、かな?(ドアの方を見て)いや、それならあいつらのことだ。『撮影中』の貼り紙なり、ドアの前に見張り立てるなりするだろうし…」
ノックしても反応が無いので、試しにドアを開けてみると、カーテンのように暗幕が張られていた。
「やっぱ入っちゃまずいかな?おーい、入っていいかー?」
返事は無かった。
「誰もいないのかな?」
意を決して、斑目は部室に入ってみることにした。
「うぃーす…のわああああ?!!!!」
斑目が声を上げたのも無理は無かった。
部室内は様々な色の電球が点滅し、あちこちにキーボードやモニターが配置されている。
座席のレイアウトが、宇宙戦艦のブリッジに似ている。
そして室内は異様に広く、奥行きがあった。
「何だこれ?映画用のセット?にしても、うちの部室こんなに広かったっけ?」
その時斑目の背後で、不気味な笑い声が聞こえた。
「(子安武人似の声で)クークックックッ」
「ひっ?!」
思わず振り返る斑目。
そこには不気味なオーラを放つクルルが立っていた。
斑目「クルル?」
それに答えるように、クルルは不気味な子安声で話しかけてきた。
「ペコポン侵略前線基地中央司令室へようこそ、クークックックッ」
「ひっ?!」
中身はおそらくスーだろうが、つい怯えてしまう斑目。
「ダメあるよスー、ミスター斑目を脅かしちゃ」
続いて現れたのは、やや色黒でコギャルっぽい女子高生スタイルのアンジェラと、普段と違う丸眼鏡をかけて、頭のてっぺんにアホ毛を立たせた有吉だった。
有吉「あっ斑目先輩こんちわ」
アンジェラ「ハーイ、ミスター斑目」
斑目「もしや、冬樹とモアちゃん?」
アンジェラ「てゆーか千客万来?」
「すいませんね、こんなとこで食事させちゃって」
先程トイレから戻って来た豪田が、周囲を片付けつつ声をかけた。。
作業着代わりらしき、あちこちにペンキの付いたジャージ姿だ。
「いやまあ、俺の方が邪魔者なんだから、それは構わんけど…」
周囲を見渡す斑目。
部室のテーブルは本来2つだが、1つは外に運び出されている。
(注)新部室は以前の倍以上の広さなので、中央のテーブルは移転時に1つ追加された。
斑目が食事に使っているのは、残ったもう1つのテーブルなのだが、その上は工具や材木の切れ端などが8割近くを占領していた。
豪田「やっぱり落ち着かないですか?」
斑目「しかしよく出来てるね、このセット。とても部室の中に居るとは思えないよ」
豪田「(壁の一角を指して)向こうから先は、完全に書割ですよ。奥行きがあるように見せてますけど」
斑目「上手いもんだね」
豪田「千里からリクエストされたんですよ。『第四惑星の悪夢』のロボット長官の部屋みたいな感じにしてくれって」
斑目「それ通りに出来るんだから大したもんだよ『第四惑星の悪夢って何?』」
(注釈)「第四惑星の悪夢」
「ウルトラセブン」のエピソード。
ロボットが支配する、第四惑星と称する謎の惑星が舞台なのだが、その星を支配するロボット長官の部屋は、廊下の様に細長く奥へと伸びている。
長官の背後の細長く伸びたスペースは、実はそれらしく描いた書割である。
斑目「それにしても、たくさん電球やらモニターやら使ってるね」
豪田「電球の方は、方々からクリスマスツリーの電飾を借りました」
斑目「考えたね。モニターは?」
豪田「会員の中でノートパソコン持ってる子から借りました。ついでに言うと、キーボードはデスクトップタイプのパソコン持ってる子からです」
斑目「なるほどね。ところでみんなは?」
豪田「ちょっと早いけどお昼食べに行ってます。て言うか、私が無理に行ってもらったんです」
斑目「どゆこと?」
豪田「大まかな準備はみんなにも手伝ってもらったんですけど、本番前の最終点検は1人で集中して仕上げたかったんで、我がまま言って撮影まで席外してもらったんです」
斑目「ひょっとして俺もお邪魔だった?」
豪田「ちょうどセッティング完了したとこですから、問題無いですよ」
斑目「あの3人は?」
豪田「この後出番ですから、自主的にメイクやリハーサルの為に先に戻って来たんです」
斑目「そう言やアンジェラ、何か黒かったね」
豪田「夏コミの時に使った、黒人メイク用のファンデーション使ってるんですよ」
その時、外でリハーサルをやっていた3人が、部室に入って来た。
スーは今はクルルスーツを脱ぎ、またもやビキニ姿だった。
(注)ケロン人役の女子5人は、合間に人前で脱げるように、ビキニを着用している。
幼児体形にビキニという、ある意味巨乳美人のビキニ以上に画的に妖しい格好に、思わず昼飯を吹きそうになる斑目。
スーは斑目に近付くと、軽く体を捻りつつ頭の後ろに手をやり、奇妙なポーズを取った。
どうやら本人的には色っぽいポーズのつもりらしい。
一同「?」
スー「(小原乃梨子似の声で)悩マシぽーず、コンナモンデドウカシラ?」
こける一同。
斑目「それにしてもスーちゃん、ゼンダマンとはネタが古いね」
有吉「て言うか、それにツッコめる斑目先輩も凄過ぎる気が…」
アンジェラ「てゆーか温故知新?」
面目無い、新年早々久々ということもあって、いろいろ失敗したでござる。
テンプレ長過ぎると思って、原作キャラの説明は省略したら、いろいろ説明不足になってしまいました。
次回まとめて投下しますので、平にご容赦を。
とりあえず今回の分だけ補足。
この話の世界では斑目、会社辞めた後連れ戻されて、相変わらず同じ会社で働いてます。
スーもアンジェラも日本語喋れます。
ただしスーは基本「押忍、〜であります!」という口調、アンジェラは「〜あるよ」「〜あるね」という口調です。
あとスーはアニメ台詞引用の際、声優さんの声帯模写をやります。
最後にもうひとつ。
部室は狭くなった為、いろいろあった末に屋上にプレハブを建てて移転しました。
本日はこれまでです。
近々続き投下します。
ではまた。
再びお邪魔します。
本来なら、そろそろ寝なければいけない時間なんですが、ちょっと個人的に悲しい知らせがあって、眠れなくなってしまいました。
そこで気晴らしと言っては何ですが、明日投下しようと思ってたテンプレを投下します。
原作キャラの一覧表と、劇中で現視研が作ろうとしている映画のあらすじです。
では。
笹原恵子
一応本作品の主人公にして、原作の主人公笹原の妹
笹原卒業後も現視研に出入りし続け、オタクに一般人視点から物申す春日部さん的な役割を引き継いでいた。
監督を決めるくじ引きで当たりくじを引いてしまい、学祭の出し物の特撮8ミリ映画、実写版「ケロロ軍曹」の監督をやる破目になる。
その為にスーの提案した「同じ映画を10回見る」という荒行を敢行し、その結果脳内麻薬が分泌し、見事に映画脳が覚醒する。
(ちなみにお題は1954年版「ゴジラ」)
その後もいろいろアニメや特撮を見続けた為、仮性近視になって眼鏡をかけている。
ここまでの所、案外シビアな判断力(午前中目いっぱい費やして撮影したフィルムを没にする等)を発揮したり、アドリブで次々アイディアを出したりと、意外と活躍中。
荻上千佳
現視研の現会長。
(本作品の舞台は2006年8月〜11月)
会長就任早々、屋上にプレハブ小屋を建て(ついでに屋上の周囲に金網を増設)、狭くなった部室を移転するという偉業を達成する。
秋からはプロの漫画家として月刊誌で連載開始する忙しい身だが、持ち前の仕事の速さにより大量の原稿のストックを抱えているので、執筆と並行して映画撮影にも難無く参加。
しかも担当は主役のケロロ軍曹、つまりスーツアクター(アクトレスか?)である。
斑目晴信
2代目初代会長(変な日本語だ)となりつつある、部室の主のようなOB。
原作では会社を辞めているが、この話の世界では社長に連れ戻されて無事に復帰し、今では外回りの仕事まで手伝っている。
そのせいもあって、昼休み以外の時間にも部室にやって来る。
作業着姿で、痩せていて、眼鏡で、テンションの高い喋り方なので、1年女子たちからシゲさん(「機動警察パトレイバー」のシバシゲオのこと)と呼ばれている。
1年女子たちによって「斑目先輩を男にする会」を結成されている、実は現視研一もてる男。
朽木学
4年生で就職活動中の身。
大野会長期に、女子会員たちと揉めたことがきっかけで、児文研に掛け持ちで入会する。
ある事件の際に児文研会長に救われ、それ以来会長を「お師匠様」と呼んで崇拝し、同時に児童文学にものめり込み、イベントの場以外では物静かな読書青年に変貌する。
3年の秋頃から空手を習い始め、今では黒帯の腕前。
引ったくりを捕まえた(病院送りにした)のがきっかけで、表彰状をくれた警察署長から勧誘され、今秋警官の採用試験を受ける予定。
映画では、ホムンクルス(錬金術で作られた人造人間)のベム1号(夏コミの妖怪人間ベムの着ぐるみコスの流用)を演じる。
ちなみに卒業後無事警官になり、本庁で刑事をやったり、訳あって東北に飛ばされたり、何故かレイバー隊の隊長になったりと、その後もいろいろ活躍するが、それはまた後の話。
大野加奈子
原作では留年したらしいが、この話の世界ではとりあえず2007年卒業予定。
実は内定はもらっていたが、土日休めない仕事と後で分かって断念する。
現在は就職活動中の身だが、映画制作の話にコスプレ魂が奮い立ち急遽参戦。
日向秋役を担当する。
スザンナ・ホプキンス
原作では4月から入学したらしいが、この話では9月からの入学。
日本語が喋れるが、基本は「押忍!〜であります!」という空手家のような喋り方。
荻上会長に師事して、ヤオイの何たるかを学ぶ為に来日したので、外人が日本人に学ぶ時はこういう喋り方をしなければならないと思い込んでるらしい。
アニメや漫画の台詞を多用するのは相変わらずだが、この話では一層進化して、声優さんの物真似でそれが出来るようになった。
アニメや漫画やゲーム以外にも、特撮や映画解説者や関西ローカルCMソングや古い海外アニメの日本語吹き替え版など、広範囲(?)な日本知識を持つ。
斑目を狙っているらしいが、本心は不明。
映画ではクルル役を担当する。
アンジェラ・バートン
原作では留学していないようだが、この話ではスーと共に留学。
日本語が喋れるが、中国系の人に習ったらしく、語尾に「〜あるよ」「〜あるね」と付ける、中国人のような喋り方をする。
スポーツ経験は原作ではテニスや水泳程度だったが、この話ではレスリングやフットサルの経験もあり、怪力キャラの側面も持つ。
斑目の貞操を狙う最右翼の過激派。
映画ではアンゴル・モア役を担当。
そのせいか最近は「てゆーか○○○○(四文字熟語)?」というモアの口癖も多用しており、しかもモア同様使い方が微妙に間違ってる。
笹原完士
OBということもあり、この話では出番の少ない原作の主人公。
現在は編集者として3人の漫画家を担当している。
3人とも問題児なので、日々忙しいようだ。
監督をやる破目になった恵子を精神的にサポートする。
田中総市郎
OBながら専門学校の学生なせいもあってか、たびたび大学にやって来る。
大野さんの暴走を止められなかった負い目もあって、映画制作を陰ながらサポートする。
大野さんの衣装だけは、1年生に頼み込んで自分で作った。
久我山光紀
医療器具メーカー勤務のOB。
入社1年目の頃はあまり姿を見せなかったが、仕事が軌道に乗った上に、大学の近くの病院が顧客の為、しばしば大学を訪れるようになった。
夏コミに接待でオタク医者たち(看護師や薬剤師含む)を招待。
それがきっかけで医者の何人かが同人誌を作りたいと言い出したので、現在はその相談に乗ってあげ、とりあえず漫画入門書を読んでもらっている段階。
春日部咲
洋品店(と言うのかな?)経営のOG。
原作では卒業直後に開店したようだが、この話の世界では少し遅れ、夏に開店。
行きがかり上、恵子の監督就任を後押しする形になり、今後は精神的にサポートしていくことになると思われる。
当初は現視研の後輩の中からバイトを雇うつもりだったが、最初からナアナアになってはいけないと改めて募集をかけて集めた。
見た目やファッションセンスや知識を基準に選考したにも関わらず、開店後バイトの女性が実は全員腐女子だったことが判明。
改めてオタクと縁が切れない運命にあることを悟った。
なお全くの偶然だが、バイトの1人は高坂のいとこだった。
高坂真琴
エロゲーメーカーに勤務するOB。
恵子の監督就任に際し、春日部さんと共に背中を押したが、むしろこちらが主犯。
夏コミでは企業ブースで新作ゲーム(同じキャラと基本設定で、格ゲーとエロゲーの両方を作った)を発表。
そのヒロインは春日部さんそっくりで、名前もサッキーだった。
藪崎
漫研所属だが、同時に独立サークル「やぶへび」としても活動している。
この話の世界では、荻上会長とは親友に近い間柄で、現視研にも頻繁に出入りしている。
夏コミで斑目にひと目惚れし、女の操を捧げるべく狙っている。
実は外人恐怖症で英語が苦手だったが、英会話学校に通って何とか喋れる(関西弁混じりのブロークンな喋り方だが不思議と通じる)ようになったことで克服した努力家でもある。
映画制作については、恵子の勧誘によりサブのビデオカメラを担当する。
(8ミリとビデオそれぞれメインとサブ1台ずつで、計4台という豪華な撮影体制だ)
加藤
「やぶへび」の後見人的存在。
おそらく漫研の方は殆ど引退状態の4年生だが、何故か就職活動をする様子は無く、院に進むのではないかと言われている。
何か武道の心得があるらしい。
(活が出来たり、藪崎さんを手刀で気絶させたり、500円玉を指で曲げたりする)
夏コミの際に、斑目に前髪を開けられたことがきっかけで意識するようになった。
(どうやら彼女にとって男性に前髪を開けられることは、性交に等しい意味があるらしい)
映画制作については、恵子の勧誘によりサブの8ミリカメラを担当する。
ニャー子
「やぶへび」の唯一の藪崎さんの後輩。
同じく猫キャラの1年生の伊藤(後述)と付き合い始め、会員一同の前でファーストキスを敢行した。
映画にはタママ役で参加。
なおアニメ版では麻田(にゃー子)と名付けられたが、1年生の浅田(後述)と紛らわしいということもあり、本作品ではニャー子と呼称する。
児童文学研究会会長
少なくとも8年以上は大学に居ると思われる、女子大生版初代会長キャラ。
(しかも初代会長を尊敬してるらしい)
ある事件で窮状を救ったのがきっかけで、クッチーに崇拝されるようになり、彼を児文研会員として受け入れつつ、独自の視点で指導する。
実はかなりのお金持ちのお嬢様で、大学から数駅離れた高級住宅街にある、広いお屋敷の実家から通学している。
実家では和服でいることが多く、喋り方は上品でおっとりしている。
映画制作については、自室をロケ地として提供し、会員たちに昼食と夕食をご馳走した。
ケロロ小隊が地球に来てから数年の年月が経った。
冬樹と夏美は共に大学に進学した。
一方ケロロ小隊の面々は、ケロロの家政夫昇格を除いて、地球侵略を達成するでもなく地球を撤退するでもなく、相変わらずの状態であった。
そんなある日、タママが冬樹のところに大きな箱を持って来た。
ヨーロッパにショートホームステイに行っている、桃華から頼まれたという箱の中身は、タイムカプセルのような謎の物体だった。
そのカプセルは、13世紀頃のある学者の屋敷跡から発掘されたものであった。
クルルはそのカプセルに刻まれた文字をひと目見て何故か深く興味を持ち、珍しく自分から分析を申し出る。
分析の結果、カプセルに刻まれた文字は古代ケロン文字の一種で、カプセルの中身は細胞レベルで圧縮されている人工生命体だという。
これらのことから冬樹とクルルは、その学者(錬金術師であることが判明)がケロン人と接触し、現在はケロボールに組み込まれている物質生成法を伝授されたと推測する。
そんな中、クルルズラボに置いてあったカプセルから、人工生命体ベム1号が復活する。
カプセルが来た際にケロロが記念撮影をした為に、カメラのフラッシュを浴びたカプセル内の細胞が活性化したのだ。
自分の部屋を潰されちゃたまらんと、クルルはクルル時空にベム1号を引きずり込む。
オペレーターのクルルとモアを残し、ケロロ小隊はベム1号を倒すべくクルル時空へ。
だがベム1号には、ギロロの全火器一斉射撃も、タママのタママインパクトも、そして後から参戦したドロロの零次元斬も通じず、もちろんケロロも歯が立たない。
その時クルル時空に、1体のロボットと冬樹が飛び込んで来る。
クルルによればそのロボットは、ケロボールの物質生成機能を応用した錬金術を使える超兵器アル1号だそうだ。
錬金術を駆使した激しい格闘を続ける、ベム1号と冬樹が操るアル1号。
だが何度倒しても、ベムは自己修復機能で復活する。
クルルのアドバイスにより、冬樹はアルに最後の手段を使わせる。
だがその最後の手段とは、アルに内蔵された反物質爆弾で、ベム諸共自爆することだった。
ベムは無事撃破したものの、同時にクルル時空も爆散し、日向家もメチャクチャに。
そこへちょうど夏美と秋が戻り、夏美はケロロたちを締め上げるのだった。
以上です。
また間違えた…
と言うか、訂正するのを忘れてました。
ニャー子の項目の(後述)2ヶ所は、消すのを忘れただけですので、気にしないで下さい。
元々は原作キャラの後にオリキャラを投下するつもりだったので、こういう記述になっただけですので。
劇中不明な点があった時に、参照して頂ければ幸いです。
ではまた。
こんばんわ。
まだお客さんはいらっしゃらないようですので、もう少し続きを投下します。
では。
そんな中、昼食に出かけてた会員たちが戻って来た。
ちなみにこの日クッチーと大野さんは、面接の為に居なかった。
クッチーは数日後には警察官の採用試験を受けるが、前に申し込んでいた面接も一応受けるだけ受けるのだ。
荻上「豪田さん、今戻ったわよ。わっ!」
後から続いて入った恵子が声をかける。
「どしたの姉さん?わっ!」
続いて入ってきた会員たちも、同様の反応を見せる。
斑目「みんな何驚いてるの?」
荻上「あっ斑目さん、こんちわ」
他の会員たちも、ようやく今気付いたような顔で斑目に挨拶する。
斑目「それよりみんな、何驚いてるの?」
荻上「そりゃ驚きますよ。だってどう見ても部室の中に見えないでしょ、これ」
豪田「そう言って頂けると光栄です」
斑目「みんなこのセット作る作業には立ち会ってないの?何か初めて見るような顔してるけど」
巴「確かに私と彩中心にみんなで手伝ってましたけど、完成形見るのは初めてなんです」
斑目「なるほどね、それだけ豪田さんの造形が凄いってことか」
巴「そういうことです」
豪田「(照れて)いやあ」
斑目の食事が終わるのを待って、残りの机も運び出され、部室内は中央司令室のセットのみになった。
(厳密には、セットの裏にロッカーや本棚等が隠れているが)
会員たちが撮影機材を運び込み、今回出番の外人コンビと有吉、それに撮影スタッフが準備にかかる。
そして斑目は、先程驚いたセットでいかに撮影するのかが気になる上に、パソコンの修理がまだ済んでないこともあって、撮影の様子を見て行くことにした。
部室内を見渡していた恵子が、ぼそっと声を発した。
「せめえな」
浅田「狭いと仰いますと?」
恵子「いやさ、もし部室ん中にみんな居たら、この部屋ん中全部通しで撮るのに邪魔んなるだろうと思ってさ」
岸野「確かに各シーンは部分的に撮るにしても、基地のスケール感を出す為には、ワンカットは全景入れたいですね」
加藤「でもそれ撮るとなると、この広さだと室内に居られるスタッフの数は限られるわね」
藪崎「そうでんな。広う見えるだけで、実際にはいつもの部室より、むしろ狭いぐらいやし」
中央司令室のセットは、部室のドアから見て右側にケロロ小隊の面々の席、左側に巨大パネルスクリーン、正面には様々な計器類が配置されている。
さらには天井にも、メカニカルなデザインのベニヤ板が貼られ、蛍光灯にもそれらしいカバーが掛けられている。
そして暗幕でカバーされたドアの周辺を除いた、ドアの両サイドの壁にも、メカニカルなデザインで塗装されたベニヤ板で、カバーが施されている。
つまり中央司令室の全景を撮る為には、ドア周辺のエリアを避けて、全体を水平に180度、機銃掃射するようにカメラを動かす(この動作をパンニングと言う)必要がある。
「試しにやってみましょう」
浅田はビデオカメラを取り出し、部室のど真ん中で実際にパンニングの動きで室内を見渡す。
さらに前後左右に動いては、同様の動作を繰り返す。
後の会員たちはドア周辺に集まってそれを見守る。
恵子「どうだ?」
浅田「ど真ん中から1〜2歩ドア寄りの、この辺から撮るしかなさそうですね」
「そっからだとこっちは視界に入るか?」
ドアのすぐ前から岸野が尋ねる。
浅田「ドア周辺だけはセーフだな。でもそっからどっち向きに動いても、3歩も動けばカメラに入っちゃうな」
恵子「つうことは、部屋ん中に居られるのは、カメラと照明ぐらいか」
浅田「この場合は、きれいに撮ることが第一ですから、照明2人で光が上手く重なるようにライト動かして、その光をカメラが追うような感じで撮るといいかも知れません」
岸野「それもこの場合、カメラ4人が同時に撮りながら動くのは、スペース的に無理がありそうですから、カメラは1人ずつ、都合4回撮ることになりそうですね」
恵子「それやれって言われて、すぐやれそうか?」
巴「ちょっとだけ時間もらえますか?練習しますんで」
豪田「そうね、監督お願いします」
恵子「わーった。カメラと照明以外、全員外出ろ!」
こうしてカメラマンの浅田と、照明の豪田と巴を残して、会員たちは部室を出た。
部室を出た一同は驚きの声を上げた。
わずか10分ばかり室内で相談している間に、部室の扉のすぐ外のエリアの上に、野外用の屋根のみのテントが張られていたからだ。
夏コミの少し前にみんなで海に行った際に、浅田・岸野コンビが用意したのと同じ物だ。
傍らでテントの袋を片付けていた日垣に、荻上会長が声をかけた。
「このテントどうしたの?」
日垣「浅田君がまた借りて来てくれたんですよ。今日の撮影は下手すれば外の方が涼しいから、日陰があった方がいいだろうって」
沢田「確かにエアコン動かしたらセット動いちゃうから、今日の部室は閉め切りで冷房無し状態になるわね」
(注)屋上の新部室は冷暖房完備。
一同は自分たちが汗びっしょりなことに改めて気付いた。
先程までは室内のセットと今からの撮影に気を取られて、暑いことすらすっかり忘れていたのだ。
日垣「あとこれ家から持って来ました」
そう言って日垣は、扇風機を出してスイッチを入れ、みんなに風を当ててやる。
涼しさに脱力する一同。
テントの下に1年生たちがパイプ椅子を並べ、運動会の本部テントのようになった。
国松は大きなバスタオルを2枚出し、アンジェラとスーに頭から被せるように掛ける。
「ダメよ2人とも、太陽の下でそんなに体晒しちゃ!」
アンジェラ「センリ、これ暑いあるよ」
スー「押忍、右に同じであります!」
国松「2人とも撮影終了まで日焼け厳禁!アンジェラ日焼けしちゃったら、明日は擬態解除されたモアちゃんやるんだから、肌白いの保ってなきゃ困るでしょ!」
アンジェラ「擬態バージョン用に黒のファンデーション塗ってるから、大丈夫あるよ」
国松「大丈夫じゃありません!黒かったら余計紫外線吸収しちゃうでしょう!」
アンジェラ「(少し怯え)了解しましたある!てゆーか絶対服従?」
スー「あの、自分はいいでありますか?」
国松「スーちゃんもダメ!ただでさえスーツアクターは皮膚呼吸し辛いんだから、日焼けなんかしたら余計辛くなるわよ!所詮日焼けなんて軽度の火傷なんだから!」
スー「(少し怯え、敬礼しつつ)了解であります!」
そんな様子を見ていた斑目、荻上会長に声をかけた。
「あの2人をあそこまで抑えられるとは、国松さんも大したもんだね」
荻上「あの2人も後で見ましたからね、私と大野さんたちが国松さんに怒られてるとこ」
斑目「そうなの?」
荻上会長は斑目に、浅田のノートパソコンに夏コミ当日の映像があり、後日みんなで見たことを説明した。
斑目は、荻上会長たちが夏コミで国松に怒られた話は聞いていたが、その様子を見ていないだけに今ひとつピンと来なかった。
「ご覧になりますか?」
2人の間に、汗びっしょりの浅田が割り込んだ。
荻上「凄い汗ね…」
浅田「いやあ閉め切りで冷房無しの部室は暑いですよ」
斑目「大変だね」
浅田「俺はまだいいですよ、今岸野と交代しましたから。それに引き換え巴さんと豪田さんは、カメラマンあと2人とぶっ通しでリハーサルに付き合いますからね」
「あぢ〜〜〜〜!!!!!!!」
部室から豪田と巴が飛び出して来て、扇風機の前に陣取って涼む。
遅れて岸野も出て来る。
3人とも汗びっしょりだ。
豪田「すんません監督、ちょっ、ちょっとだけ休ませて下さい!」
巴「私も…」
恵子「わーった。ヤブさん、加藤さん、ちょっと待ったげてね」
加藤・藪崎「了解」
神田は傍らに置いてあったクーラーボックスから飲み物を出して、照明コンビから順に配り歩く。
神田「冷蔵庫から移しといて正解だったわね」
豪田「(一気に飲み干して)全くだわ。冷蔵庫ごと外に出しといても良かったぐらいよ」
斑目「そう言えば浅田君、さっきご覧になりますかとか言ってなかったっけ?」
何時の間にか、浅田はノートパソコンを手に持っていた。
斑目「まさかそん中に、国松さんご立腹映像が?」
浅田「(頷いて)よろしかったら、ご覧になりますか?」
サーと血の引く音が、隣に居た荻上会長から聞こえた。
斑目「ちょっと…見たいかな」
浅田「分かりました、それじゃあ…」
パソコンを置いて操作し始める浅田。
だがそこへアンジェラとスーが割り込み、青ざめた必死の形相で懇願した。
「NO!それだけはSTOP!」
荻上「私もやめて欲しいです」
3人の必死の青ざめた顔に、斑目は見ることを断念せざるを得なかった。
浅田「じゃあまた今度…」
斑目「そうだね…『どんだけ怖いんだよ、怒った国松さんって?』」
本日はここまでです。
国松さんの怒りの詳細については、「26人いる!」の夏コミ1日目のエピソードを参照して頂けると幸いです。
ではまた。
久しぶりの30人いる!、GJです。
連載楽しみにしています。
以前国松ちゃんがらみのエピソードで、ウルトラマンメビウスの
「故郷のない男」のエピソードを紹介されていましたが、
それで興味を持って見てみました。
レオの本放送をぎりぎり見ていた世代の自分は大感動!
勢い余っていろいろググっているうちに、「思い出の先生」を見つけてしまいました。
リアルに80世代の自分はこの年で80の最終回が見られるとは思いませんでした。
ここでお礼を言うのもどうかとおもうのですが、30人いる!の人のおかげです。
有難うございました。
通りすがりの保守
>>288 思わぬ形で拡がりましたなあ、メビウスの輪が。
(「いやこの場合、その言い方は変だろう」とセルフツッコミ)
さっそくの感想、ありがとうございました。
この連休にでも、続きを投下いたします。
ではまた。
以前「必殺おたく人」という作品があったな。
必殺仕事人も復活したことだし、また書いてくれないかな、おたく人の人。
ちなみに昔、誰かが本スレで書いた、もしもげんしけんメンバーが仕事人だったら。
参考にして頂ければ幸い。
笹原
指パッチンで炎を発生させて焼き殺す
(顔が似ている、焔の錬金術師つながり)
荻上
高い所で待ち伏せし、飛び降りて頭の筆で心臓をひと突き
春日部
拳骨で撲殺
朽木
仕事の現場付近で、全裸で大騒ぎを起こして注目を浴びる陽動作戦係
あと忘れた。
292 :
マロン名無しさん:2009/01/11(日) 13:33:42 ID:cFvfPjEj
1話目で、笹原が漫研に入ろうと、(くそ)(うりゃ)とうろうろしているところ、
俺が、面接をうけるため、電話をかけようとしているところに、
そっくり。
斑目が、春日部にファッションについて言われ、服を買いに行ってる時、(帰るか。これでも頑張ったほうだろ)と買うのをやめようとしているところ、
俺が、面接のための電話をかける・その日、職安で仕事を探すのを諦めたところに、
そっくり。
俺が働いてた時の派遣の営業部長、ハラグ〜ロにそっくり。
コミフェスに漫画をかくかどうかを部室で話し合いしていた時、朽木は逃げ部室の外にいたが、
俺も、ああいう状況だったら、逃げて結論がでるまで待つだろう。
1番に似てるのは朽木かな?
合宿で、朽木が覗くところを探してたが、
俺も、どうにかして覗けないかと、女を見るたび、思ってるし。
ただ、俺は存在感が無く、そこは初代会長にそっくり。
大野の性格が変わってきたのは、
田中とセックスし非処女になったためか?それとも、荻上と張り合うようになったためか?どちらがろう?
笹原たちの追い出しコンパで、
「男いる時点で、何をやっても萌えない」と言ったが、それは正しいと思う。
マンコにチンコ突っ込まれた時点で、その女は萌えない。
「性について何でも知っていて、経験豊かに見てて、実は【処女】」には、俺は1番萌える。
>>288 いいものを見ましたね。
ほんと国松gjやでwww
「故郷のない男」「思い出の先生」は自分もメビウス屈指のエピソードだと思います。
レオ編は歴代ウルトラマン客演ものの中でも燃え燃え。
80編は見るたびに、生徒達が「蛍の光」を歌い出したところから涙で画面が見えなくなりますw
しっかし、30人〜のカメラワークに関する描写ハンパじゃないですね…。
あとハンパないのは
幼 児 体 形 に ビ キ ニ
です。
ありがとうございました。
斑目の「萌え」と「理性」を比べれば
恥ずかしながら萌えが勝つ
恥も外聞もねえものか
浜の真砂は尽きるとも
尽きぬグッズの数々を
集めて愛でる御宅人
春日部様でも理解できめぇ
>>291 御宅人を書いたのわしですノシ
覚えている人がいてビックリ。
自分の手元には、田中、久我山が江戸を去り、斑目が二代目元締めとなり、笹原や荻上が加入する「新・必殺御宅人」の未完成データならあります。
この後、クッチーメインの「萌え!必殺オタごろし」とか夢は広がりんぐなんですが、手が止まってます(汗
今溜まっている「宿題」を終えたら、そのうち投下すると思います。
ちょっち待ってください、すんません。
こんばんわ、連休の終わりかけになって、ようやくバカがまたやった来ました。
今夜は7レスほど、お送りします。
では。
やがて休憩が終わり、再びリハーサルが始まった。
藪崎さんと加藤さんは、前の2人よりも比較的早目にリハーサルを終えて出て来た。
初心者である2人は、三脚を使ってのパンニングだった為に、楽に照明の光を追うことが出来たからだ。
これに対し浅田と岸野は、2人とも手持ちでのパンニングの練習だったので、少々時間をかけて念入りにリハーサルしたのだ。
藪崎さんと加藤さんがほぼ水平に動かすだけなのに対し、浅田と岸野はやや上へ放物線を描くようにカメラを動かす。
どのみち都合4回撮るのなら、少しアングルを変えた画もあった方がいいと、浅田が恵子に提案した為だった。
この両方の画像を上手く編集して使うのだ。
こうして本番の撮影となった。
今回のスタッフの配置は、変則的なものになった。
先ずセットのオペレーターの席にクルル役のスーとモア役のアンジェラが座り、傍らに冬樹役の有吉が立つ。
次に部屋のど真ん中より1歩ほどドア寄りの位置にカメラの浅田が陣取り、その左右に照明の豪田と巴が付く。
浅田以外の3人のカメラマンは外で待機だ。
照明との位置関係の都合上、カメラは1人ずつしか配置出来ないので、1人ずつ順番に交替で撮るのだ。
つまり基地の全景のシーンは、都合4回繰り返して撮影することになる。
監督の恵子、録音の沢田(全景だから無しでもいいが、臨場感を出す為に一応セット内のノイズを拾うのだ。)、記録の神田はドアの傍に集まる。
そこから1歩でも内側に入ると、室内をパンニングで撮ると映ってしまうからだ。
助監督の伊藤も、カチンコを鳴らし次第、ドア付近に駆け込む段取りになっている。
そして後のメンバーは、部室の外で待機となった。
全員部室に入るとカメラに入ってしまうからだ。
伊藤「それではシーン26-A、中央司令室全景の本番を始めますニャー」
恵子「よーし、3、2、1、用意スタート!」
約20分後、再び撮影スタッフは休憩に入った。
基地全景の撮影は順調に消化し、カメラマン4人全員1発オッケーとなった。
もっとも今回に限っては、恵子は殆どカメラマンと照明に任せていた。
とりあえず役者3人は、真剣な表情と物腰さえしていれば問題無いからだ。
カメラワークとそれに伴なう照明の動きが全てなので、敢えて何も言わなかった。
恵子の掛け声は、このシーンに限っては単なる景気付けに過ぎなかった。
恵子「みんなすまねえな、わざわざ出て来てくれたのに、出番無い上に外に追い出しちゃって」
荻上「いえ、それは構いませんけど…」
恵子「この後はクルルとモアの座ってる方が中心だから、その反対側に集まれば今度はみんな部室に入れるから」
巴「でも今日に限っては、外で待ってた方が正解かも知れませんよ」
沢田「確かに。部室の暑さ半端じゃないもんね」
恵子「まあいいじゃねえか。みんなで暑い思いしようや」
アンジェラ「てゆーか我慢大会?」
皆がワイワイと話す傍らでは、例によってビキニ姿のスーが、脱いだクルルスーツを絞っていた。
濡れ雑巾を絞ったように、大量の汗が絞り出される。
「うわあ、凄い汗ねスーちゃん」
そう言いつつ国松、下敷きでパタパタとスーをあおいであげる。
そんな中斑目は、今日出番の無い日垣やニャー子らと、オタ話も交えつつ映画についていろいろ雑談していた。
話しながら視線を感じた斑目、チラチラとその視線の方を見る。
同じ様にチラチラと、神田がこちらを見ていた。
突如赤面滝汗になる斑目に対し、神田はニコニコしていた。
再び居酒屋。
浅田「あの後は順調だったよね」
神田「(記録ノートを出してページめくりつつ)えーと…あの日はと…シーン26と28と30と32と34と38か」
台場「随分撮ったわね」
岸野「あの日にようやく、本編用に撮った分が捨てカットの分に追いついたんだよ」
中央司令室の全景の撮影の後は、以下のシーンを撮影した。
なお、斑目はシーン30の撮影が終わった所で呼び出しがかかり、仕事に戻った。
26-B クルル時空で苦戦するケロロ小隊に焦るクルル・モア・冬樹
28 小隊の苦戦に、超兵器アル1号の投入を決意するクルル
30 クルル時空に送り込んだアル1号について説明するクルル
32 アル1号と共に冬樹を送り込んだ理由を説明するクルル
(冬樹がうっかりアル1号の操縦機に声紋を登録してしまった為)
34 冬樹に最後の手段を使うように勧めるクルル
38 最後の手段がアルの自爆だったことを明かして笑うクルル
国松「スーちゃんの芝居中心のシーンばっかりだったわね、あの後は」
有吉「確かに僕の台詞少なかったし、アンジェラの台詞も合いの手中心だったね」
アンジェラ「てゆーか以心伝心?」
伊藤「スーちゃん芝居凄く上手かったよニャー」
日垣「ほんとほんと、一瞬本物が飛び出して来たかと思うぐらい、クルルそのものになり切ってたもんな」
スー「(頭をかきながら、矢島晶子似の声で)イヤア、ソレホドデモ」
浅田「この場合のその台詞、正しいような間違ってるような、微妙な使い方だな…」
巴「それに有吉君も慣れて来たせいか、芝居が自然になって来たし、アンジェラもあんましNG無かったし」
アンジェラ「(微笑んで)てゆーか自画自賛?」
傍らでは有吉も赤面で照れていた。
台場「でもあのセットの大きなパネルスクリーンって、どうするの?」
中央司令室のシーンの撮影時、セット中の電球は点滅し、ノートパソコンごとセットされたディスプレイには、それらしい画像を映していた。
だが正面の大きなパネルスクリーンは真っ黒に塗られているだけで、撮影中はそのままであった。
前述のクルルの演技中心の一連のシーンを撮影する際、スタッフと見学者はパネルスクリーン側の壁際に集まって撮影した。
岸野「その点は大丈夫。別のフィルムで、パネルスクリーン側をアップで撮ってあるから」
台場「で、それをどうするの?」
岸野「こっからは国松さんどうぞ」
国松「いいの?」
岸野「どうぞ。だって物凄く説明したそうな顔してるもん」
国松「(ニコリと笑い)分かった。つまりね晴海、二重露光をやるのよ」
台場「二重露光?」
国松「この場合だと、パネルスクリーンだけ撮ったフィルムを1回巻き戻して、野外でケロロ小隊たちの戦闘シーンを撮る時に、そのフィルムで撮影するのよ」
台場「でもそんなことして大丈夫なの?」
国松「だからパネルスクリーンだけは、なるべく光沢の無い黒で塗るように蛇衣子に頼んでおいたのよ。それでスクリーンの部分だけは、撮影されてない状態になるから」
台場「あっ分かった。つまりそのフィルムで戦闘シーンを撮れば、パネルスクリーンの中に戦闘シーンが映ってる画が出来るってこと?」
国松「そういうこと」
沢田「凄いわね、千里。よくそんなこと思い付くわね」
国松「いやこれ、特撮では初歩中の初歩の古典的な手法なのよ」
沢田「そうなんだ…」
台場「でももし失敗したらどうするの?」
伊藤「その点は大丈夫だニャー。パネルスクリーンのアップは予備も撮ってもらってあるから、もし失敗したらそっち使って、アフレコの時に台詞で補完してもらうニャー」
スー「(子安武人似の声で)チッ、錬金術ノ影響デめいんぱねるガ映ラネエゼ」
伊藤「そうそう、そういう感じだニャー」
6日目の撮影は、何回もの休憩を挟んだものの順調に進行し、まだ明るい内に終わった。
撮影後、現視研一同は部室のセットの組み直し作業にかかった。
ベニヤ板の部分をバラして、慎重に電球や配線やディスプレイ等を外していく。
次に外したベニヤ板を外へ運び出し、外に置いてあった別のベニヤ板を運び込む。
こちらも中央司令室同様、メカニカルなデザインが施されているが、司令室と違って電球等を組み込む部分が少なく、全体的に黒い。
7日目に撮影するのが、クルルズラボでのシーンだからだ。
クルルズラボとは、クルルの研究室を兼ねた私室で、中央司令室に比べると狭く暗い。
みんなでベニヤ板の入れ替え作業をやる中、スーがメロディーを口ずさんだ。
「チャチャチャチャチャチャチャチャッチャカチャッチャチャチャチャ〜♪」
藪崎「ちょ待てスー、何であんたがその曲知ってるんや?!」
日垣「何ですか今の曲は?」
藪崎「『8時だョ!全員集合』って知ってるか?」
日垣「ええ、名前ぐらいは」
藪崎「あの番組の前半のコントの後、すぐにゲストの歌に入るんやけど、そん時に舞台セットを180度回転さしてセット入れ替えるんや。今スーがやったのは、そん時のBGMや」
日垣「なるほどね。でも何で藪崎先輩はご存知なんですか?」
藪崎「いや、これぐらい一般常識やろ」
ちなみにこの話の舞台は2006年なので、「8時だョ!全員集合」の放送が終了した1985年当時、まだ登場キャラたちの多くは生まれていない。
大雑把にセットを組み終わると、豪田が宣言する。
「あと私が仕上げとくから、みんな引き上げていいわよ」
恵子「何か手伝おうか?」
豪田「いいですよ。て言うか本当は、引き上げていいと言うより、引き上げて欲しいんです。1人で集中して細かいとこ仕上げたいんで」
恵子「わーった、そんじゃ後頼むな。みんな引き上げろ!」
こうして現視研一行は、豪田を残して引き上げた。
居酒屋での6日目の総括がまとまりかけた中、ふとみんなが気付くと、神田は再び1人ニコニコしながら酒を飲んでいた。
豪田「どしたの、ミッチー?」
神田「ちょっとね…」
巴「何よ、もったいぶって」
アンジェラ「ひょっとしてミッチー、6日目の夜のこと思い出してたあるか?」
神田「ウフフ、当ったりー」
一同「6日目の夜?」
クランクインから6日目の夜、斑目は長々と残業した末に退社した。
もう深夜に近い時間だ。
パソコンの修理に時間がかかった上に、途中で急ぎの工事を手伝わさせられた為に、事務作業の片付けに手間取ったのだ。
「シーゲさん!」
会社を出て10歩も歩かない内に、背後から声をかけられた。
反射的に体をすくめてから振り返る斑目。
声をかけたのは神田だった。
「何だ神田さんか。脅かさないでよ、俺気い弱いんだから。どしたの、こんな夜更けに?」
神田「(小首をかしげ、ちょっと萌えっぽいポーズで)来ちゃった」
斑目「来ちゃったって…」
ラブコメのワンシーンのようなシチュエーションに、赤面滝汗で焦る斑目。
神田「(ニッコリ笑い)な〜んてね。今日うち私だけなんで、外で食べようかなと思って出て来たんです」
斑目「(ほっとして)そう…」
神田「シゲさん、晩御飯まだですよね?」
斑目「ああ、今仕事終わったとこなんでね」
神田「ちょうど偶然お会いしたことですし、よろしかったらご一緒に食事しませんか?」
斑目「(赤面)ええ〜?!」
後輩とは言え、女の子と2人で食事というシチュエーションに、過剰に反応してしまう斑目であった。
『何で俺はここに居る?』
正面に座った神田を見つつ、斑目は心の中で自問自答した。
結局2人は、近くの居酒屋に入った。
カウンター席は満席だったのでテーブルに案内され、結果向かい合って座る形になった。
今テーブルの上には、焼き鳥やししゃも等、数皿の料理が並べられている。
飲み物は2人とも生ビールだ。
落ち着かない顔でチビチビ飲みつつ、少しずつ食べる斑目に対し、神田は旺盛な食欲で飲み食いする。
既に2杯のジョッキを空けていた。
斑目「大丈夫、神田さん?」
神田「大丈夫ですよ、酔い潰れるほどは飲みませんから。厳密には私未成年ですから、潰れたらまずいですし」
斑目「そう言えば1年生だったよね…」
まずいなあという顔をしつつも、止めるほど強気にはなれない斑目。
不意に上目使いで萌えっぽい表情になって、神田が問題発言をする。
「ひょっとしてシゲさん、私酔い潰れた方が好都合ですか?」
さほど飲んでないのに一気に赤面し、危うくビールを吹きそうになる斑目。
さらにたたみ掛ける神田。
「もし潰れたら、シゲさんのお部屋に連れてって下さいね、この近くだし。あっ、近いって言えば、すぐそこにホテルが…」
「わ〜〜〜!!!」
思わず神田の発言を遮る斑目。
神田「(ニッコリ笑って)な〜んてね」
斑目「(ため息を付き)あんまし年配者をからかうもんじゃないよ、もう…」
神田「(再び萌え表情になり)じゃあ真面目だったら、ホテルでひと晩ご一緒して頂けますか?」
今度こそ本当にビールを吹いてしまう斑目であった。
果たして斑目の運命やいかに?
本日はここまでです。
ではまた。
書き忘れてました。
>>293 何故かメビウスの輪が広がり続ける、げんしけんSSスレw
幼児体形ビキニですか、思わぬところがウケましたな。
今後もまだまだ続きますので、よろしくお願いします。
ちなみにカメラワークについては、次の本を参考にしました。
「一人でもできる映画の撮り方」
西村雄一郎著 洋泉社
通りすがりの巡回者
>30人〜
大変面白うございました。
斑目の貞操が危ないwww
神田さんにもてあそばれるラメさんの狼狽っぷりがとても微笑ましいです。
>まあいいじゃねえか。みんなで暑い思いしようや
ケーコ、監督が板についていて格好良し。ついて行きたくなるw
原作見てても決して駄目な子じゃないし、[やれば伸びる子]なんだと思います。
まあ、「30人〜」での[やれば]の部分は相当な荒行だったけども。
撮影風景を読んでいて思うのは、古き良き時代の特撮の魅力。
昨夜は何か懐かしい気分になって、本棚で埃をかぶっていた東宝特撮映画全史をひもといたりして、のすたるじぃに浸りました。
次回も激しく期待。
何故か特撮オタが集う、げんしけんSSスレ…
確かに、妙に特撮に詳しい人が多いなw
こんばんわ、今夜もやって来ました。
本日は5レスほどです。
では。
「シゲさんって、かーわいー」
30分後、見事に神田は出来上がっていた。
一方斑目は、未成年の後輩の飲みっぷりに気が気でないので、いつもよりは飲んでいるにも関わらず、まるで酔えない。
斑目「OBに対して可愛いと言いますか…」
神田「だって可愛いんですもん、純真だし」
斑目「(自嘲気味の苦笑をし)そんないいもんじゃないよ、ただのもてないキモオタだよ」
神田「またまた、そんなこと無いですよ。だってシゲさん、うちで1番もてるんだもん」
斑目「えっ?」
神田「現視研にはシゲさん狙ってる女の子、少なくとも5人は居ますよ。先ずアンジェラでしょ、スーちゃんでしょ、ヤブ先輩でしょ、加藤先輩でしょ、後は…」
斑目「(神田の言葉を遮り)いや、それはまた違うんじゃないかな」
神田「と言いますと?」
斑目「この間の夏コミのことだったら、あれは場の空気が作り出したもんだよ」
夏コミで斑目は、2日目にはアンジェラとスーに密着され、藪崎さんにも密着された。
さらに3日目には、加藤さんの前髪を開けてしまったばかりに追い回された。
どうやら斑目、それら一連の出来事を夏コミ会場という場の空気が作り出した、特殊な躁状態と考えているようだ。
神田「きっかけは何でもいいんじゃないですか」
斑目「えっ?」
神田「前に春日部先輩がいらした時に、高坂先輩と付き合い始めた時のこと聞いたんです」
斑目が赤面し、春日部さんという名前に過敏に反応していることに気付いていたが、神田は敢えて押してみることにし、その話の内容を語り始めた。
春日部さんが高坂と付き合い始めた時、斑目は「高坂の上っ面だけに惚れた」と批判した。
それについて春日部さんは「最初はそんなんでもいーじゃん」と反論した。
神田が春日部さんから聞いたのは、その時の話だった。
「私も春日部先輩の仰る通りだと思うんです。最初のきっかけなんて、細かいことに拘らなくてもいいと思いますよ」
ここまでマジ顔で話していた神田、唐突にポン引きモードに入った。
「とりあえずと言っちゃ何ですけど、アンジェラなんてどうです?」
斑目「(赤面し)アンジェラ?」
神田「多分シゲさんになら、すぐさせてくれると思いますよ」
思わずビールを吹く斑目。
神田「バージンに拘るんなら、ヤブ先輩って手もありますし」
再びビールを吹く斑目。
神田「スーちゃんも多分バージンだと思うけど、こういうことには理解あるから多分すぐオッケーしますよ。加藤先輩は前髪開けちゃった時点でチェックメイトだろうし…」
斑目「ちょっ、ちょっと…」
神田「だからこの4人なら、ちょっと押してみれば簡単に出来ると…」
「わ〜〜〜!!!」
思わず神田の言葉を遮る斑目。
キョトンとする神田。
斑目「(少し涙目で)女の子がさせてくれるだのバージンだの出来るだの、軽々しく言っちゃいけません!」
神田「シゲさんって、たわば先輩みたいなこと仰るんですね。まあオタクってそうじゃなきゃいけないのは分かりますけど、女の子に幻想持ち過ぎですよ」
斑目「それにそんな体目当てで付き合うようなこと、相手の人に失礼だよ」
神田「そんなこと仰らずに、とりあえず付き合ってみて、後のことは後で考えてはどうです?せっかくシゲさんにならあげてもいいって女の子、5人も居るんだから。」
再びビールを吹く斑目、ふとあることに気付く。
「あの神田さん、5人って?」
神田「5人目は、わ・た・し(はーと)」
最大出力の赤面滝汗でビールを吹く斑目。
神田「(目をウルウルさせた萌え表情で)私じゃお気に召しませんか?」
斑目「いやそういう問題じゃなくて…」
神田「あと私もバージンですから」
斑目「わ〜〜〜!!!」
久々にテンションの高い斑目であった。
結局居酒屋で2時間近くの間、斑目は神田に振り回され続けた。
勘定は斑目が持った。
正直飲み食い全体の7割ぐらいは神田によるものだったが、かと言って社会人が学生の後
輩に払わせる訳にも行かない。
神田がけっこう酔っているのと、日付の変わりかけた時間ということもあり、斑目は神田を自宅まで送ることにした。
斑目「あの、神田さん、メールのことなんだけど…」
神田「はいっ?」
斑目「申し訳無いけど、今度の日曜日は仕事なんだ」
それを聞いて、急にウルウルとなる神田。
斑目「(慌てて滝汗で)いっ、いやほんとなんだよ!」
必死で事情を説明する斑目。
その説明は次の通りだった。
斑目の会社が衛生保守を行う、水道メーター等の水道関係の機器の多くは、新しいマンションやアパートだと家屋の外にある場合が多い。
だが古い家屋には、メーター等が家屋内にあって、中に入らないと作業の行なえない所も多い。
そういう所は作業の際に、住人に立ち会ってもらわなければならないが、住人が1人暮らしで昼間働いてる人だと、土日しか空いてない場合が多い。
斑目の会社では、月に数回そういう客を対象にした作業を土日返上で行なう。
(その代わりに平日に代休をもらっているが)
外回りの仕事を手伝い始めた関係で、斑目も月に1〜2度そういう土日出勤があるのだ。
(作者注)これはあくまでも、斑目の勤務先の会社独自のやり方であり、現実の水道工事関係の会社の多くは土日休みである。
斑目の説明が終わると、神田はケロッと笑顔になった。
斑目「神田さん?」
神田「なーんてね。分かってますよ、シゲさんこういうことで嘘付けない人だって」
ホッとしつつ脱力する斑目。
斑目「それにしても神田さん、入学の頃と比べて随分キャラ変わったね」
神田「そうですか?」
斑目「最初はもっと引込み思案な子だと思ってたけど、最近は夏コミで可符香コスやったせいか、何か小悪魔っぽくなって来たよ」
神田「(笑って)そんな大袈裟なもんじゃないですよ。私が口にしてる色恋沙汰なんて、所詮耳年増の聞きかじりと、漫画やアニメから得たデータの蓄積ですし」
斑目「そうなの?」
神田「だって私、今まで男の子と付き合ったこと無いですし」
斑目「へー、神田さんならデートの申し込み引く手あまただと思うけど」
神田「まあ誘われたこと無いことも無いんですけど、みんな断っちゃいました」
斑目「好みのタイプじゃ無かったとか?」
神田「(首を横に振り)高校まで私、隠れオタだったから」
斑目「…そうだったね」
しばし沈黙したまま歩く2人。
不意に神田が立ち止まり、それに反応して斑目も止まる。
神田は斑目にマジ顔を向けて見据える。
ちょっとたじろぐ斑目。
神田「私、現視研に入って、本当によかったと思ってます。オタクである私を隠さなくてもいいし、みんなも私を受け止めてくれて、オタクである自分をぶつけてくれるから」
斑目「…」
神田「現視研に入った時、私決心したんです。もう2度と高校の時みたいに、自分に嘘はつかないと。だから今の私は、100パーセント本当の私です」
急に熱弁を振るい始めた神田の真意を掴みかねて、黙って聞き続ける斑目。
神田「その私が断言します!現視研で1番もてる男であり、そして私が1番大好きなのは、今目の前に居る斑目先輩だって!」
マジ顔で告白されてしまい、斑目はしばし固まってしまったが、やがて意を決したように口を開いた。
斑目「あの神田さん、すまないけど俺…」
神田「(斑目の言葉を遮るようにニッコリと微笑み)安心して下さい、返事は急ぎませんから。(少し翳りを見せ)だってシゲさん、まだ吹っ切れてないでしょ?」
斑目「(赤面し)えっ?」
神田「シゲさん最近失恋して、今でもその人のことが忘れられないでいるんでしょ?」
斑目「(最大出力で赤面し)なっ、何でそれを?!」
神田「(ニッコリ微笑み)お・ん・な・の・か・ん(はーと)」
斑目が春日部さんのことを好きだったことは、今では現視研関係者の間で周知の事実となっていたが、神田はさすがにそこまでは言及しなかった。
『だってもしそこまで言ったらシゲさん、「知ったな!」とか叫んで、泣きながら走り去っちゃいそうだもん…』
やがて2人は、神田宅の前に来た。
神田「今日はご馳走様でした」
斑目「いえいえ、どういたまして」
神田「あの、よろしかったら、うち寄って行かれます?」
斑目「またそういうこと言って…ダメだよ大人をからかっちゃ。冗談はさておき、明日も早いんで帰るよ」
赤面しつつも、余裕を持って対応する斑目。
その余裕に小悪魔な面がウズウズしたのか、神田はちょっぴり反撃に出ることにした。
神田「(萌えっぽい顔で)あのシゲさん、ほっぺにおやすみのキスしていいですか?」
斑目「(最大出力赤面で)え〜〜〜〜!!!!」
神田「(笑顔で)な〜んて嘘ですよ、ここで気絶されても私1人じゃ困るし。(マジ顔になり)でも待てよ、いっそ気絶させて家に連れ込んじゃえば…」
斑目「さいなら〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
100メートルで世界新が狙えそうな猛スピードで走り去る斑目。
「あっ逃げた…」
そう言いつつも、神田は微笑みながら1人呟いた。
「でも実は内心、もし寄ってくって言われたら、どうしようかなとも思ってたのよね。まあそれならそれで、作戦変更したけど」
次回、神田の企みの全貌が明らかに。
本日はここまでです。
お返事を少々。
>>306 斑目の貞操は、とりあえず無事でしたが、精神的総受けぶり、楽しんで頂けましたでしょうか?
この後斑目は、残念ながら色気のある話は少なくなりそうですが、現役会員たちと変わらない頻度で登場しますので、どうか見守ってやって下さい。
ではまた。
>>315 GJ!ようしエロいwww(306ではありませんが)
神田ちゃん企み寄りが段々ラヴに……はないかw
引き続き楽しみにしてます。
巡回
>>294 >クッチーメインの「萌え!必殺オタごろし」
これ、ぜひ読みたいです。
気長にお待ちしております。
捕手
定時交信
チチキトク スグカエレ
保守
UOUOUO
あちゃー、あちこちいじくったら、収拾付かなくなってしまいました。
すんません、続きはまた来週にでも投下します。
ではまた。
まとめサイトの管理人の人、元気ですか?
>>1 >本編はもちろん、くじアン、「ぢごぷり」SSも受付中。
くじアンはともかく、ぢごぷりのSSは難しそうだなw
現時点では情報が少な過ぎて、妄想で補うことすら困難。
平成41年1月2日。
斑目晴信は窓の外から差し込んできた朝の光を受け、ゆっくり目を覚ました。
さすがに元日、外は静かだ。
まだ軽い胸やけがして気分がすぐれないが、「よっこらせ」とベッドから身を起こした。
二日酔い、いや今日で三日酔いになる。
洗面所で、頭に残った違和感を振り払うようにして顔を洗うと、傍らに置いたメガネをかけ、鏡に映った自分の姿をじっと見つめた。
彼はこの年、40歳半ばを過ぎる年齢となった。
痩せて猫背の風体や髪型も大学時代からたいして変わらないが、髪には白いものが混じってきた。
40あたりから目立ってきた白髪。見るたびにショックではあるが、髪の毛そのものが危うい田中よりはいいと思っている。
(あれはひどい。ひょっとして大野さん、それを見越して……)
そう思うとゾッとする。
「……さて、みんなは起きてるみたいだな」
実は斑目は、元日を丸1日寝倒した。
そのため家族とちゃんと年始の挨拶をしていないのだ。
前年大晦日に最終日を迎えたコミフェスの後、昔の仲間と打ち上げを行い、痛飲したのが響いた。
2000年代はじめから、少子高齢化でオタクの年齢層も高まり、斑目のような40代が同人誌を売り買いするのもザラにある。
それにしても大晦日は飲み過ぎたようだ。
現視研がらみの飲み会では、普段ならば彼の「妻」が同行してくる。
斑目は妻のお目付役になって、酒量もセーブされるのが常だったが、今回は珍しく「体調不良」ということで斑目一人での参加になった。
それが酒のリミッターを外し……その結果がこうだ。
斑目は「居間」に向かう。
30歳過ぎるまで大学時代のアパートで暮らしていたが、家族が増えて、小さな賃貸マンションに引っ越している。
それでも、昔のアパートの近く……つまり椎応大学の近くに住んでおり、もはや斑目にとってこの界隈は「地元」と言える場所になっていた。
斑目は、リビングのソファに座って正月から同人誌を読み漁っている「妻」と「長女」に声を掛けた。
「あ〜……あけましておめでとう……」
「オメデト」
「おめでと」
素っ気ない返事がステレオで聞こえてきた。
妻はスザンナ。旧姓はホプキンス。
斑目は籍を入れるときに、懐かしの「くじびきアンバランス」のロリキャラ・朝霧小雪から名を取って通称にし、「斑目・コユキ・スザンナ」となっている。
恐ろしいことに、彼女は出会った頃とほとんど変わっていない。
変化といえば、ちょっとだけ背が伸びて、ちょっとだけ落ち着きがでてきたくらいだ。
そろそろ斑目も(こいつは人外かも)と思うようになってきた。
スージーの隣に座っているのは長女・紗弥。無理矢理「サーシャ」と読ませている。
ただいま中学1年生。
混血のはずだが、長く美しい金髪と青い瞳、白い肌など、容姿は妻スージーにそっくりである。
母との大きな違いは、日本語が流暢なことだろう。当たり前だ。日本生まれ日本育ちのれっきとした日本人なのだから。
彼女は、父や「弟」に向かって、母スザンナの「スー」に合わせて「サーと呼べ」などと言っているが、サー(Sir)では実に偉そうである。
この二人が並んで立っていると、斑目はめまいがしてくる。
外出している時も実に目立つのだ。
その話題はいつか触れるとして、家族が一人足りない。
「あれ?」
斑目は狭いリビングを見渡して、パツキン2人に問い掛けた。
「……勝頼はどこいった?」
「部屋にいるよー」
サーシャが、同人誌(参加できなかったスーに代わって斑目が買ってきてあげた本)から目をそらすことなく答えた。
「……ヒキコモリ?」
同じく同人誌を読みながらスーが一言。
「ええ!マヂで?」と斑目が驚くと同時に、「違ぇよ」と男の子の拗ねた声が返ってきた。
リビングに、斑目を二回り小さくしたような丸メガネの男子が入ってきた。髪は中学時代の斑目のようにややロング。それ以外は斑目によく似ている。
サーシャと1つ違いの長男・勝頼である。現在小学6年生。
勝頼は「母さんと姉貴と一緒にいると調子狂うんだよ……オヤジが起きてきたから戻ってきただけだ」と目をそらしつつブツブツつぶやいた。
勝頼がテレビを見ようとテーブルの前に座ると、さっそくサーシャがソファから飛びかかった。
「カツ! おすわり!」
「嫌だよねーちゃんヤメレ!」
「オスワリ!!」
座っている弟の頭に無理矢理よじ登って太股を絡める姉。
父・晴信は、(ああ分かるよ、こいつらと一緒にいると確かに疲れるわ……)と溜め息をつくのであった。
つづく
某ミクシでスー×中学(高校)ラメの絵を見てかき立てられ、イメージをそのままぶつけました。
「スーvs幼い斑目」の構図を二人の子供として再現w
もうちょっとだけ続くんじゃ。
どうか呆れずにお付き合いください。
ちなみに勝頼ってネーミングは凄く単純です。
父親が晴信だから………ぐっ…滅亡フラグw
というわけで明日につづく
母直伝の猫夜叉オスワリを、弟・勝頼に仕掛けようとした姉・紗弥(サーシャ)。
背はもう勝頼の方が高く、サーシャにとってはいかにも見晴らしが良さそうだったが、激しく抵抗された。
「shit!!………コノケチヤロウ」
彼女は日本育ちのくせに、気分が盛り上がったり激昂したりするとアメリカンな口調になるのだ。
言葉は流暢だが、端々に母親のようなカタコトが混じることもある。
襲われた勝頼は真っ赤になって、「姉ちゃんのバカ!」と玄関の方へと逃げて行った。
サーシャは口を3の字に尖らせて、「ブー、ブー」とブーイングを勝頼の背中にぶつけると、見守る父ラメ(斑目)の方へとクルリと振り返った。
「パパぁ……」
「だーめ!」
斑目はすでにサーシャが座っていたポジションにどっかり腰を下ろして、テーブルに山積みされた同人誌の山からテレビのリモコンを取り出していた。
サーシャはまたも口を3の字に尖らせて、「ブー、ブー」とブーイング。
斑目はもう慣れたもので、「はいはい」と受け流す。
「……で、俺のおせちは?」
「みんなで食べチャッた」
サーシャの一言にがっくりうなだれる斑目。
「ガッカリしないでパパ、ピザ頼んであるから」
「あー……。あのおせち、俺が買ってきたんだけどな……」
「丸一日眠っちゃうカラよ」
はぁ…、と深い溜め息をつく斑目。
「もっかい寝てくるわ……ピザ来たら起こしてね……」
席を立とうとした斑目だったが、隣に座っていたスージーが同人誌をテーブルに置いて、斑目の方をジッと見つめた。
「あ……なに?」
「……」
スージーは顔をぐいっと夫の鼻先に寄せると、その首に手をまわし、しなだれるように身体を寄せて、唇を……
正面に立っていたサーシャは耳まで真っ赤になり、ソファの上の両親に背を向けた。
「……バッ……バカ!」
唇から伝わる甘い味わいを感じながら、斑目は、(勝頼いなくて良かったな……)と思った。思春期にさしかかろうとする息子のことを気遣う。
彼も父親なのだ。
とはいえ、傍らでサーシャが(ワタシが居るのは無視ってか!)と憤っているのだが……。
くちっ、と、ちょっとヤラシイ音を立てて、スーの唇と斑目の唇が離れる。
これがスーからの正月の挨拶のようだ。
「オセチのキスヨ……。帰ッテキタラ続キをシマショウ」
「……あぁぁ……ミサトさん、エヴァネタね……じゃ、じゃあ寝てくるわ」
斑目はドキドキしながら席を立つ。結婚以来、ある時は虐げられ、ある時は籠絡されるなど、スーに操縦されてきたのだ。
斑目が居間を出ようとしたちょうどその時、玄関先で「ピンポーン」と呼び鈴が鳴った。
この日のブランチ。ピザが到着したのだ。
スーがテーブル上の同人誌を片付けて食事の準備をしはじめた。
「あ〜…寝そこねた…」
勝頼がピザやサイドメニューを抱えてリビングに入ってきた。
「腹減った……やっと届いたよ」
サーシャが、「兄サン、ヤッパリ来てくれたんダネ!」とアンドロメダ瞬なみに目を輝かせる。
「おれは弟だ」
勝頼はピシャリと言い放った。
斑目は苦笑いしながら、「サーも母さんの血をしっかり引いてるな……つか、ネタ古すぎだろ」と突っ込む。
スーも、「絶望シタ! 逃レラレナイ血ノ宿命二絶望シタ!」と叫ぶ。
一人さめているのは勝頼だ。
オタネタが飛び交う家族の風景にあきれかえっている。
「まったく……何でうちはこんなのばっかなんだよ。ほらピザ食べようよ!」
斑目は、勝頼のグチを聞き流しながらリモコンを手にしてテレビを付けた。
「あ、懐かしいなコレ。最初から見ようかな」
アニメ専門チャンネルで古いアニメの連続放送が行われていた。
おせち代わりのピザと、お屠蘇代わりのワインを口にしながら見ている父ラメの隣で、子ラメ・勝頼も思わず画面に釘付けになっている。
テレビに向かっている2人の背中を眺めながら、サーシャは、「なんかパパとパパのミニチュアが並んでる見たいネ」と笑う。
春から中学生とはいえ、勝頼はまだ小学生。
まだアニメにも興味がある年齢だろう………しかし、
「やっぱ古いアニメは、フルデジタル作画よりも見応えを感じるなぁ」と父ラメが唸れば、子ラメが画面から目を離さないまま、「荒木姫野コンビの作画だからなおさらだよ。演出はこの頃の作品がいい味だしてるよね…」とものすごく自然に応えた。
母と娘はピザをパクつきながら勝頼に呆れている。
「カツヨリ、恐ロシイ子…!」
「自覚ないんダ……」
斑目がスージーとサーシャに向き直った。
「あ、そうだ。スー、午後はアキバに行こうか」
「イーヨ」
スーがワインを夫に勧めると、サーシャが母親に甘えた。
「アタシも行く。イーでしょー!」
それを見ていた勝頼は拗ねた表情を浮かべた。
「……み、みんなが行って俺だけ留守番なんてイヤだからなッ。しッ、仕方がないから俺もついて行ってやるよ……」
「素直になれヨ、弟(はあと」
「ちがーう!」
父ラメが腕組みしてウンウンと頷きながら、「まぁ、オタクってなりたくてなるもんじゃないし、気がついたらもうなってるしな……。この環境なら仕方ないか……」と納得する。
「いや待って父さん……。……グッ……くっ……悔しい、この絶望感ッ……」
父・晴信が初めて秋葉原で同人誌を買ったのは中学2年の頃だった。
勝頼の目覚めも近い。
スージーがク〜クックと含み笑いをして呟いた。
「絶望シタ! ケッキョク逃レラレナイ血ノ宿命二絶望シタ!」
「あー……、そうそう、父さん年賀状ッ!」
その場をごまかそうとして、年賀状の束を探す小芝居まで打つ勝頼の姿を見て、まるで自分を鏡で見るようで心がイタい父・斑目晴信であった。
息子から自分宛の年賀状を受け取った。
一枚一枚を眺めると、年末に会ったばかりの仲間や、しばらく会っていない懐かしい名前が見られる。
(笹原夫妻……だいぶメジャーになった「奥さん」の美麗なイラストが目を引く。笹原とは年末の打ち上げで会ったが、少々太ったな)
(田中夫妻……予想通り子供も含めた家族のコスプレ写真がプリントされていた。「奥さん」も相変わらずグラマラスとはいえ、40にもなってよくやるわ……。が、田中の頭髪が危ない、危なすぎる)
(久我山……一時は心配したが、今や一児の父。若い奥さんをもらえてよかったなぁ。そういえば、まだマンガ描いてるんだってな……)
(笹原妹……正直、あそこまでのし上がるとは……いいクルマ乗ってたしなぁ。それにしても相変わらず「濃い」な。つか、まだ独りなのか?)
(朽木くん……ん? 「箱根駅伝見てください」???)
このほか、荻上会長時代の現視研の後輩たちや、会社の上司同僚、実家や親戚などなど……年賀状を眺める斑目。
そのうちの1枚を見た時に、ふと手が止まった。
(高坂…夫妻……………)
それは、写真も派手なイラストもないシンプルな年賀状だった。
細いが力強い線で書かれた年始の挨拶に見入る。
(2人とも仕事はまずまず順調だそうだけど)
(去年は結局顔を見なかったな)
(相変わらずキレイなんだろうな)
今の生活で記憶の戸棚の奥にしまっていた「春日部咲」の思い出が脳裏に浮かぶ。
卒業できない恋もある。
斑目はフッ、と自嘲して次のハガキを手に取った。
その瞬間。
「3分26秒ッ!」
スージーの叫びにビクッと反応して斑目が顔を上げると、スーがストップウォッチを手にしてこちらを睨み据えていた。
「ママ、何を計ってルノ?」
「ほかは1分台だったけど、その年賀状だけ長かったね」
スーの両脇で子供たちが首をかしげている。
「あー……、そうそう、父さん箱根駅伝見なきゃ!」
汗だくの斑目はその場をごまかそうとして、朽木の年賀状を見直してポンと手を打ち、テレビのスイッチを入れた。
新年恒例の駅伝は、ちょうど往路のクライマックスにさしかかっていた。画面は箱根の山道を行く直前の中継所を映している。
「あ、椎応は何位かな?」
そう言いながら、常連校でもある母校の順位を確認しようとデジタルリモコンを手にした斑目。しかし次の瞬間、画面を凝視しギョッとした。
中継地点でランナーを待つ各大学の選手、スタッフの中に、見知った顔・朽木学の姿があるのに気付いたのだ。
「く、朽木くん頑張ってるなぁ……」
彼は留年+大学院にまで行って大学生活をエンジョイした挙げ句、結局大学事務で働いている。彼もまた、大学時代の引力に心引かれた哀れな地球人なのだ。
「さて、そろそろ行こうか」
斑目は立ち上がり、外出の支度をする。
「アキバの前に初詣もしておくか〜」
何気に呟いた斑目だったが、妻と娘が同じ顔を並べて叫ぶ。
「ワシミヤ!」
「来福神社!」
「フルデジンジャ!」
「ちょっとお前ら……。アキバ巡りなんだから神田明神に決まってるだろうが。鷲宮や来福なら俺も行ってみたい(=柊姉妹や三枝姉妹に会いたい)けど……」
「父さん……」
呆れる勝頼。でも意味はしっかり理解している。彼も2、3年したら立派なオタになっていることだろう。
「ほいじゃ行くよ……うぉっ」
斑目の腕にぶら下がるようにして腕を絡めるスージー。斑目は空いた手で頭をかきながら照れている。
その後ろではサーシャが勝頼の腕にしがみつく。
「姉ちゃんヤメレ!」
「いージャンかぁ、他にいないんだカラ!」
子供たちの喧噪に呆れながら、斑目はフト、傍らのスージーに尋ねた。
「そういえば、年末は体調不良でコミフェスに行けなかっただろ。もう大丈夫なのか? 今日も酒(ワイン)は控えてたし…」
「体ニ良クナイ」
「ん?」
スージーは斑目の腕を下へと引いて夫の頭を引き寄せると、その耳元にそっとささやいた。
「……エッチナノハイケナイトオモイマス……」
ハッとする斑目。スーは口元をニヤリとつり上げて自分のお腹をさすっていた。
「えええええええ! 三人目ッ!?」
思わず声を上げてしまった父ラメに、子供たちもギョッとする。
二次元しか愛せないと自負していた男が、ついに三人目。
まあ、「それはそれ、これはこれ、悪かないね妻の肌」とかつてユニコーンが歌っていたように、総受男もやるときはヤルのだ。
これも、40代になってもカワイイ嫁を持った業であろうか……。
「パパのエッチ!」
「ちょ…父さん…」
「ク〜ックックック♪」
騒がしい家族に囲まれながら、流されるようにアキバへと向かっていく斑目。
今年もまた騒々しい一年になりそうだと彼は思った。
(おわり)
>2029年、斑目家のお正月
何たるダメ家族w
でも幸せそうだね、斑目一家。
て言うか、ここでもスーちゃん年齢不詳なんだな。
バンパイアか、究極生物か、はたまた白木みのるか、謎は深まるばかり…
斑目絶倫だなw
>2029年、斑目家のお正月
うーむ、二十年後となると本当にコミケの高齢化wが進みそうですねw
どんな世界になってるか想像もできませんが平和そうで何より。
スージーはアレですよ、コミケの大御所にして掲載紙という掲載紙が
廃刊になるという伝説の不死身不老不死のあの超人ロ(ry
>>341-343 こんな突拍子もないものに感想くださって感謝です。
>>341 「斑目には幸せになってほしい」というのが基本姿勢ですので、ダメな方向で楽しい家族に…。
スーについては正直、年取った姿が思い浮かびませんので、年齢不詳人妻にw
他の書き手さんのシリーズものでも、そんなミステリアスなキャラでしたし、彼女は永遠のょぅ○ょということで一つ……。
>>342 斑目に比べて作者は腰を痛めて寝てますw
正直、ラメの強靱な腰がウラヤマシイ。
>>343 >超人ロ(ry
らめぇ!
その名を呼んだらこのスレ終わっちゃうwww
ちなみに、このSSを足がかりにして、いずれ別の話を書きたいと思います。
20年後の未来ではなく、もうちょっと近い未来。2017年くらいかな(何する気だ俺w)
その時にまたお会いしましょう。
まとめとか無いんすか
こんばんわ、先週はお休みでしたが、今夜は神田編のラスト行きます。
7レスです。
では。
神田の自宅は2階建ての一軒家だった。
10日目には玄関や廊下や居間や台所等をロケ地にする予定だけあって、けっこう広い。
ちなみに外観は日向家とかなり異なるので、日向家全景は近所の他の家に頼んで撮らせてもらう予定だ。
神田が玄関の手前まで入ると、居間から庭へ出られるガラス戸越しに、灯りが点いてるのが見えた。
「まだ起きてたんだ」
神田が居間に入ると、アンジェラ、スー、藪崎さん、加藤さんの4人が深夜アニメを見ていた。
加藤「お帰りなさい」
スー「押忍!お邪魔しております!」
アンジェラ「てゆーか一家団欒?」
藪崎「でや首尾は?」
4人が待っていたのは了承済みだったらしく、神田はまるで驚いた様子も無く答えた。
「まあ今日のとこは、あんなもんでしょ」
神田が家にいるのは自分だけというのは、半分は本当で半分は嘘だった。
家族は全員出払っていた。
父は出張、母は町内会の慰安旅行、兄は友人宅に泊まり込んで、あるイベントに出品する同人誌の原稿を描いていた。
その意味で家が神田1人というのは本当だ。
神田はお誘いの追伸を添えてスケジュールを斑目に送る際に、「斑目先輩を男にする会」の面々に了承を得ていた。
彼女たちの間には、抜け駆け禁止の紳士協定(女の子に紳士と言うのも変だが)、通称「南極条約」が結ばれていたからだ。
今回の斑目へのお誘いを企画したのは神田だった。
「だって少しは接触を試みないと、何時まで経っても進展しませんから」
だがかと言って、夏コミの時のようにみんなで追いかけては、斑目が萎縮してしまう。
そこでとりあえず代表者1人が斑目を誘ってみることになった。
そして代表をくじ引きで決めることになり、神田が当たりくじを引いたのだ。
深夜の神田宅で、神田の報告会を兼ねた飲み会が開かれた。
居酒屋で中ジョッキを数杯空けたにも関わらず、神田もみんなと一緒にビールを飲みつつ、今日の報告をした。
藪崎「ちょとミッチー大丈夫かいな。あんた飲んで来たんやろ?」
神田「これぐらいなら大丈夫ですよ、千里に鍛えられましたから」
藪崎「あの特撮娘にかいな」
神田「新歓コンパの後も何度か一緒に飲みに行ったんですけど、千里けっこうお酒強いんですよ。しかもこっちが飲まないと怒るし」
藪崎「そら性質悪いな…」
アンジェラ「てゆーか酒池肉林?」
藪崎「ほんま微妙に間違ごうてるな、四文字熟語の使い方」
加藤「それよりスーちゃん大丈夫なの?」
スーもみんなと一緒にビールを飲んでいた。
アンジェラ「スーは昔から飲んでたから問題無いあるよ」
加藤「まあそれなら…」
藪崎「いやあきませんて。こんな子供に飲ましたら」
アンジェラ「大丈夫あるよ。ドリュー・バリモアなんか、子役の時から酒飲んでたあるね。(作者注、本当です)それに比べれば問題無いあるよ」
藪崎「ええんかなあ…」
酔って来たせいもあって、藪崎さんは深く考えることをやめた。
加藤「まあ進展らしい進展は無かったみたいだけど、神田さんの話を聞く限りでは、全く脈が無いことも無い感じね」
アンジェラ「てゆーか日進月歩?」
加藤「(苦笑)そんなにハイペースでは進められないわよ。粘り強く少しずつ少しずつ、斑目先輩の心をほぐしていかなきゃ」
神田「まあいっか。私にはまだ時間たっぷりあるし」
スー「押忍!右に同じであります!」
アンジェラ「てゆーか付和雷同?」
「ええのう、あんたら時間ようけあって」
ふと一同が見ると、藪崎さんが真っ赤になりつつ涙ぐんでいた。
「私なんか、あと1年半ぐらいしか斑目さんのそばに居られへん…ううっ」
神田「ヤブ先輩…」
加藤「ヤブは泣き上戸なのよ」
藪崎「そや、加藤さんはあと半年ぐらいで卒業ですやん!よっしゃ、とりあえず加藤さんよりは長いこと大学居れる!」
加藤「私は院に行くから、あと2年半は大学に居るわよ」
一同「えっ?」
藪崎「(涙ぐみ)そしたら私だけかいな、時間無いの。くそう、勝ったと思うな!」
神田「いや、意味分かんないですし…」
加藤「あなたも荻上さんみたいに、プロの漫画家目指したら? 」
藪崎「えっ?」
加藤「そうすれば、当分はこの近くに居られるじゃない。まあ絵だけでは判断出来ないかも知れないけど、私が見た所では荻上さんの絵とヤブの絵に、大きな差は無いわ」
スー「押忍!自分もそう思うであります!」
加藤「あとはどれだけ真剣に漫画に打ち込めるかと、どれだけ漫画が好きか、それぐらいだと思うわ。荻上さんがヤブに勝っていることは」
藪崎さんがマジ顔になった。
「後は気合いと根性の問題っちゅう訳でんな…よっしゃ、分かりました加藤さん。私やってみますわ」
髪の奥から、ニッコリ笑ったらしいオーラを放つ加藤さん。
神田「うわーヤブ先輩も漫画家デビューかあ」
藪崎「まあ先ずは何か賞目指して描いてみるわ」
アンジェラ「てゆーか宣戦布告?」
藪崎「(苦笑)まあそんなとこや。よーし、私ゃやるで!」
スー「(西郷輝彦似の声で)ヨーシ、ヤッタルワーイ!」
藪崎「あんなあスー、私ゃ立売堀(いたちぼり)の機械工具問屋の商人(あきんど)やないねんから」
この場合の藪崎さんの言う立売堀の機械工具問屋の商人とは、ドラマ「どてらい男」の主人公の山下猛造のことである。
スーの台詞は、ドラマのオープニング冒頭で猛造が叫ぶ決め台詞である。
ちなみにこのドラマの放送期間は1973年から1977年まで。
当然当時2人とも生まれていない。
またこのドラマのVTRは既に上書きされていて、現在原版が残っていないと言われている。
(昔はビデオテープが高価な上に、大きくて保存場所を取る為に、かつての人気番組でも原版が残っていない場合がけっこうある)
「これは自分の推測でありますが…」
神田宅での飲み会が始まって1時間ほど後、スーがぽつりと切り出した。
神田「何スーちゃん?」
スー「押忍!ミスター斑目は、ミス春日部への想いを一生抱えて生きて行く為に、彼女以外の生身の女性への恋愛感情や性欲を精神的に封印したのではないでしょうか?」
藪崎「どういうことや?」
スー「押忍!いろいろな人の証言から、ミスター斑目は今のような女性恐怖症気味な反応は、かつては見せていなかったことが判明しています」
アンジェラ「そう言えばミスター斑目、以前私が迫った時は、赤面滝汗だったけど今ほどキョドってなかったあるね」
藪崎「ちょ待てアンジェラ、あんた斑目さんに何したんや?!」
アンジェラ「手を握っただけあるよ」
藪崎「(一瞬絶句)手を握ったやて…何ちゅうふしだらな!」
神田「そんなヤブ先輩、大袈裟ですよ」
藪崎「大袈裟やない!だって斑目さんの手をやな…(ワナワナと震えだす)」
その時藪崎さんの動きが止まり、バッタリと倒れた。
加藤さんが背後から、瞬時にスリーパーホールドで落としたのだ。
加藤「とりあえず話が進まないから眠らせたわ。それよりスーちゃん、後で私からヤブに話しとくから、さっきの話の続きを」
スー「押忍!ミスター斑目が今のように生身の女性に過敏に反応するようになったのは、ミス春日部が卒業してからであります」
加藤「つまりそれをきっかけに、春日部さん以外の現実の女性に対し、性欲や恋愛感情を持たないように、斑目さんが潜在意識レベルで防御に入り、結果気絶してしまうと?」
スー「押忍!あくまでも推測でありますが」
神田「そんなことがあるんですかね?」
加藤「有り得ないとは言い切れないわ。登校拒否児童が本当にお腹が痛くなったりするのと、同じ理屈だと思うわ」
アンジェラ「てゆーか自己暗示?」
神田「となるとやっぱり、時間かけて少しずつシゲさんの心のガードを緩めていくしかないですね」
加藤「(苦笑らしきオーラ)お互い難儀な人を好きになっちゃったものね」
アンジェラ「てゆーか一蓮托生?」
スー「アーユー人タチト関ワリヲ持ッチャッタノガ身ノ不運ダ。最後マデツキアウシカナイヨ」
神田「あのスーちゃん、うちのシゲさん内海さんじゃないんだから…」
その時、加藤さんが新たに缶ビールを出して来た。
加藤「それじゃあ改めて乾杯しましょうか、斑目さんと我々の未来の為に」
乾杯の体勢に入ったその時、勝手にスーが音頭を取った。
「青キ清浄ナル世界ノ為ニ!」
神田「何だかなあ…」
再び居酒屋。
巴「で、結局朝まで5人で飲んでたわけ?あっ、ヤブさんは寝てたか」
神田「ううん、ヤブさんもその後起きて、泣きながら飲んでた」
豪田「何で泣くのよ?」
神田「泣き上戸だから」
国松「難儀な人ね」
神田「あんたが言いますか、それを。酒飲ましたら1番難儀な人が」
国松「誰が難儀な人よ。私は…楽しく飲む人ですから」
日垣「人に正座させて説教しながら飲む人が?」
国松「あれは…コミュニケーションよ。そんなことよりミッチー、結局のとこ5人で朝まで飲んでたの?」
神田「うん」
沢田「一睡もせずに?」
神田「うん。いい加減寝ようかなと思ったら朝になっちゃって、結局そのまま撮影に行った」
台場「それで次の日、みんな前の日とおんなし服だった訳ね」
浅田「でもそんなんでよく撮影やれたね。特にスーちゃんとアンジェラは」
岸野「いや加藤先輩と藪崎先輩と神田さんだって、あの煙ん中で頑張ってたし」
伊藤「そうだニャー。でも中でもアンジェラは凄かったニャー。まだ煙残ってる部室ん中で、マスクも無いのに元気に動いてたし」
アンジェラ「てゆーか獅子奮迅?」
日垣「まるで西鉄ライオンズだね」
一同「にしてつらいおんず?」
日垣「西武ライオンズの昔のチーム名だよ」
豪田「で、何でここでそのチーム名が出て来るの?」
日垣の説明は次の通りであった。
西鉄ライオンズは、かつて日本シリーズで三連覇したこともある強豪球団だった。
パワフルで野生的で個性的な選手が多かった為に、別名「野武士軍団」と呼ばれていた。
日垣がこのチームの名を挙げたのは、彼らの数々の武勇伝の中に、朝まで飲んでてそのまま試合に出て、バカスカ打っていたという伝説があったからだ。
豪田「でもそんな古い話、よく知ってたわね」
日垣「これでも高校入るまでは、真面目にプロ野球行きたいと思うぐらい、野球好きだったからね。野球オタと言っていいぐらいの、プロ野球知識はあるつもりだよ」
神田「高校入ったら、そうじゃなくなったの?」
日垣「いつも地方大会の1回戦か2回戦で、その年の県大会の優勝校に当たってたからね」
巴「そりゃまたくじ運悪いわね」
日垣「まあある意味、くじ運良かったのかも知れないけどね。おかげで甲子園行ったりプロ行ったりする連中と自分との差が、嫌と言うほど分かったから」
国松「そんなに差があったの?」
日垣「いやもう全然次元が違うよ。これでも俺、中学の県大会じゃ優勝したことだってあるんだよ。その俺の球がバカスカ打たれ、逆にこっちはかすりもしなかったよ」
一同「…」
日垣「まあ結果的には、却って良かったと思うよ、今となっては。ダメならダメで、早い内にあきらめが付いた方が、それだけ早く立ち直れるから」
しんみりする一同。
日垣「やだなあ、そんな顔しないでよ。それプラス肩痛めて一線退いたのがきっかけで、オタ趣味に目覚めてみんなにも出会えたんだし」
そんな中、国松はまたもやワイルド・ターキーのボトルを2本持って来た。
日垣「あの、国松さん?」
国松はマジ顔で正面から日垣を見つめながら尋ねた。
「日垣君、悔いは無いわね?」
日垣は迷うこと無く笑顔で答えた。
「無いよ。やれるだけのことは全てやったからね」
「分かった。そんじゃあ乾杯しましょう!」
言いながら国松は、日垣の前にワイルド・ターキーのボトルを突き出す。
一同「やめれ〜!」
女子会員が中心になって国松を止めに掛かっている、混乱のドサクサ紛れのようなタイミングで、有吉が次の話題を切り出した。
「7日目の騒動も凄かったね」
神田の話だったはずが、また国松をオチに使ってしまった…
今夜はここまでです。
お返事も少々。
>>316 神田は斑目からかうの好きだけど、斑目好きな気持ちは本当です。
まあ好きだからこそいじめたくなるというやつです。
次回、またもや現視研にある事件が。
ではまた。
>30人いる!
乙ッ!
女どものラメトークが楽しいですw
>「そうすれば、当分はこの近くに居られるじゃない。
藪崎の将来に関わる重要な要素が斑目の存在によって左右されるとは…。
西鉄の話とか、よくまあ蘊蓄ネタが尽きないものです。こちらもそれを読むのが楽しみになってるし。
しかし↓
>ドラマ「どてらい男」の主人公の山下猛造
これは…これはさすがに分かんないデス先生www
おそらく「30人いる!」の作者、どう若く見積もっても、30代後半は行ってるな
「どてらい男」って、25年ぐらい前に1回再放送されたきりだし
>「どてらい男」って、25年ぐらい前に1回再放送されたきりだし
それを知っている貴君はいくつなのでつか?
作者自身、自分が一番の長老だって言ってるじゃん
おそらく作者は40代
最近「銭ゲバ」がドラマ化されて話題になっているが、同じ銭の話の漫画なら、個人的には「銭っ子」の方が好き。
あれも「どてらい男」同様、花登筺原作だし。
なぜか花登筺スレになってる…
スレ住人の年齢層がやけに高くないすか?
わしには分からん。。。。
年齢にかかわらず特撮ネタの多くを理解出来る人は少なかろう。
ここはげんしけんSSスレ。スージーと同様に年齢不詳の人たちの集うスレ…。
こんばんわ。
いきなりですが申し訳ありません。
今投下しようと思ったのですが、チト直し入れたい箇所発見しちゃったので、直してから後日投下します。
お返事だけ少々。
>>356 >これはさすがに分かんないデス
まあ分かる人の方が少ないのも、仕方ないですね。
何しろもう30年以上前の作品だし、
>>357の人の言うように、再放送の機会にも恵まれず、VTRが残ってるかすら怪しいのですから。
でもこのドラマ、大阪の40代以上の人の間では、けっこう一般常識の部類なのです。
放送当時は大ヒット作品だったし、名前忘れたけど主人公のモデルになった人物(有名な立売堀の機械工具問屋の社長)も実在しましたし。
藪崎さんに限って言えば、実家で父母や祖父母や親戚の人から、熱い「どてらい男」トークを聞かさせられて育ったかも知れません。
ちなみに私の年齢は…
17歳で〜すw
失礼しました。
ではまた。
>>364 おいおいw(お約束)
作者は大阪出身か・・・
>>364 おいおいw
は! ワシは何をして・・・
17歳教の人がこのスレにもいたのか。
早く手直しして帰ってきてくださいね。
今度は井上喜久子スレになってる…
1万歳おめでとうございます。
1万歳など、まだまだ鼻垂れ小僧よ。
初代ウルトラマン 今年2万43歳
咲「斑目はさ、さみしくないの?」
斑「へ?」
咲「同じ年頃の青年が海に山に恋人と連れだって青春を謳歌しているっていうのに…」
斑「……俺も謳歌してんだけどね。俺なりにアキバで」
咲「みじめだわ、悲惨だわ、青春と呼ぶにはあまりにも暗すぎるわ!」
斑「うぉ!?……まあ、ちょっと言葉が足りなかったかも知れないけど、俺、彼女居ない負い目だけでオタクやってる訳じゃないッスよ」
咲「まあ彼女居ないのは事実だろ」
斑「いやいや、三次元より二次元が好きだからやってきたんだよ。春日部さんの言う青春を謳歌するって事とは、ちょっと違うかも知れないけど、萌えている充実感は今まで何度も味わってきたよ………オタだらけのビッグサイトでね」
咲(うわぁ…)
斑「それに、そこらの連中みたいにくすぶりながら不完全燃焼しているんじゃない。ほんの瞬間にまっ赤に萌えあがるんだ。そして、後にはまっ白な灰だけが残る(賢者タイムとも言う)……食費すらも残りはしない(散財的に)……そんな充実感はオタクになる前には無かったよ」
咲「……」
斑「俺、オタクが好きなんだ。死に物狂いで抱き枕奪い合って破ってしまって、『あ゛ーーー!』『フェイトーーっ!』って泣き叫ぶ充実感が好きなんだ」
咲「斑目の言っている事……マジ分かんね。私、ついていけそうに無いわ……」
ハイジャックがひと言。
「我々は斑目晴信である!」
>>372 何というネタの切り返しw
ますます年齢層を感じるぜ!
>>371の直前に、久我山が結婚したり、クッチーが金借りに来たりするわけですね、分かります。
アンジェラ「ヘーイ、マダラーメェ……。ユーアー、べーリーベェーリィロリコンマンネ……」
30人いる!の作者さんはOPドラマで絶望ネームを読まれたことがあるに違いないw
こんばんわ。
何故かあしたのジョースレになってる、げんしけんSSスレですが、みなさんお元気ですか。
今夜は7レスでお送りします。
では。
7日目の撮影は、部室の中にクルルズラボ(クルルの研究室を兼ねた私室)のセットを組んでの撮影だった。
昨日同様まずセットの全景を撮影し、次に各シーンの撮影に入った。
この日撮影したのは、以下のシーン(数字はシーンajであった。
8 何やら研究中のクルル(冒頭での近況報告用のシーン)
16 タイムカプセルを調べるクルル
18-A カプセル内で活性化するホムンクルス(人造人間)ベム
18-B ベム復活
22 小隊の面々が駆け付けて、ベムをクルル時空へ引きずり込む
シーン8と16はスーの1人芝居であり、台詞の無かったせいもあってか、両方とも1発オッケーだった。
シーン18-Aも、小道具のタイムカプセル(後述)のアップだけであり、カプセルの仕掛けも無事に作動した為、撮影は1発オッケーだった。
ここまでを午前中に早々に終了し、早目の昼食を挟んで正午過ぎに撮影は再開された。
問題は午後からの、通しで撮影されたシーン18-Bと22であった。
シーン18-Bは、タイムカプセルの蓋が開いて大量の煙が噴き出し、その中から目を光らせつつシルエットのようにベムが現れる、という流れだ。
この煙にはバルサンが使われたのだが、煙の大半はカットの直後に扇風機を使って室外に追い出され、わずかに煙が残った状態で、引き続きシーン22を撮影する。
通しでの撮影にしたのは、後のシーン用に改めてバルサンを少しだけ焚くのが手間な為だ。
撮影用のタイムカプセルは2つあり、2つとも日垣がプラ板で一から作り上げた代物だ。
カプセルの蓋の中心部には透明なプラスチックの覗き窓があり、中身の赤い液体が見える。
もっとも本当に液体が入っているのは片方だけで、もう1つはそれらしく覗き窓を塗ってあるだけだ。
液体が入った方のカプセルは、2重底になっていて、液体の部分は上半分だけだ。
液体の奥のスペースには、電池と電球、それに複数の小型モーターと小型スクリューが仕込まれている。
スイッチを入れると電球が点滅し、液体部に浸かっている小型スクリューが回転する。
これによってカプセルの中の液体が発光しつつ泡立ち、それによって圧縮されたベムの細胞が活性化した様子の画を作ろうという訳である。
もう1つのカプセルには、スイッチで蓋が勢い良く開き、それと同時に煙を噴き出す仕掛けが施されている。
こちらは蓋と本体に電磁石が仕込まれていて、スイッチを入れると2つの電磁石が同極になり、その反発で蓋が開く。
それと同時にカプセル内に仕込まれたバルサンに点火され、煙が噴き出すのだ。
シーン18-Aの撮影では液体の入った方のカプセルを使い、シーン18-Bの撮影には煙の出る方のカプセルを使う。
この2つのシーンを上手く繋げることで、カプセル内で細胞が活性化してベム復活という画を演出しようという訳だ。
本番の前にスタッフは、念入りにリハーサルした。
バルサンを仕掛けた方のカプセルは、本番1発勝負だ。
もし撮り損なったら、中のバルサンを入れ替えて撮り直しということになる。
技術的には可能だが、入れ替えるにはカプセルを分解しなければならないので手間だ。
それに撮影スタッフは、全員袋状のガスマスクを被って撮影するのだが、いくらガスマスクがあるとは言え、この暑いのに長時間煙の中に居たくはない。
このガスマスクが入手出来たのは、全くの偶然だった。
プロデューサー担当で、官庁への数々の手続きも担当している台場が市役所を訪れた際、ちょうど市が備蓄していた防災セットの点検をやっていた。
そして非常食等の防災用品で、賞味期限や使用期限を過ぎた品を処分していて、その中に問題のガスマスクがあった。
そのガスマスクは安価な使い捨てタイプで、15分程度は煙を防ぐことが出来る。
15分と言えば短く聞こえるかも知れないが、火災からの避難の場合、その程度の時間内に安全圏に脱出出来なければ、今度は火にやられるので、値段から考えれば妥当なところだ。
その様子を見ていた台場の頭の中でピンッという音が鳴った。
数日前、部室で現視研の面々が、撮影時の煙にどう対処するか、話し合っていたのを思い出したのだ。
浅田と岸野は、私物の軍用ガスマスクを出そうかと考えていたようだが、数が足りない。
それに軍用ガスマスクのフィルターも、1回開けたら再利用は不可能だし、替えのフィルターは高価だ。
それでどうしたものかと一同悩んでいたのだ。
台場は処分すべく山積みにされていたマスクに近付き、その1つを手に取って見る。
使用期限を過ぎたのは数日前だったので、まだ使って使えなくはない。
台場は捨てようとしていた役人と交渉し、マスクを全部もらって来た。
煙の発生するシーンの撮影に際し、何回リハーサルするか分からなかったので、とりあえず持てるだけもらって帰ることにした。
ガスマスクは段ボール箱10箱分だったので、携帯で他の会員たちに連絡して車を手配した。
もっとも結局迎えに来てくれたのは、たまたま仕事で外に出ていた斑目の軽トラだったが。
撮影スタッフは、リハーサルの段階からガスマスク着用で臨んだ。
クッチーもリハーサル時はガスマスクを着用し、本番では着ぐるみのマスク部分の口元の内側に、ガスマスクのフィルター部を貼り付けて撮影する。
(シーン22のリハーサルも煙の中なので、当然他のスーツアクターも同様だし、アンジェラもリハーサルはガスマスク着用で臨んだ)
なおクッチーは、リハーサルの際には私服でガスマスクを着用し、その上から鉢巻きを巻き、「八つ墓村」のように鉢巻きにL型ライトを2本差していた。
着ぐるみのベムの、電球が入った目の代わりだ。
L型ライトとは、文字通りLの形をした、軍用の懐中電灯である。
普通の懐中電灯と違い、点灯部分が本体と直角に付いている。
リュックサックのスリングやベルトなどに装着して使うことで、手を使わずに前方を照らすことが出来るという利点がある。
今回クッチーが使ったのは、単三電池使用の通常より小型サイズの物で、フィルターを被せてある。
ベムの目と光量を合わせて、煙の中での光の状態を見る為だ。
「千里、こんなもんでどうだ?」
バルサンの煙の中、恵子は傍らの国松に声をかけた。
ギロロ役の国松はこの後出番だが、特技監督(本人は特殊技術と称しているが)でもあるので、特撮パート撮影時には恵子の相談役も務めていた。
2人の前では、L型ライトを点灯させて、両手を上げてモンスターっぽいポーズをしているクッチーに向かい、4人のカメラマンがカメラを構え、2人の照明がライトを当てていた。
背後には、同じくガスマスクを被った一同がリハーサルを見守っていた。
国松「思ったよりバルサンの煙薄いから、照明もうちょっと下げた方がいいですね。マリア、蛇衣子、2歩下がって」
言われた通りに下がる、照明係の巴と豪田。
恵子「カメラ、こんなもんでどうだ?」
岸野「ちょうどいいと思いますよ。これぐらいなら適度に朽木先輩がシルエットになって、ライトの光に映えますから」
残りの3人のカメラマンも同意した。
結局現視研の面々は、リハーサルが済んでは、方々から借りて来た扇風機6台をフル回転させて煙を追い出し、またリハーサルそして扇風機という流れを10数回繰り返した。
空に煙が舞い上がる中、思わず上空を見上げる一同。
都合10数回にも及ぶ念入りなリハーサルのせいで、上空に靄が出来るほどのバルサンを消費していた。
荻上「いくら何でもこれ、大丈夫?」
台場「心配ありませんよ。最寄の消防署や警察署、それにサークル自治会や近隣の町内会にも連絡してありますから」
日垣「近隣の被害は大丈夫かな?」
国松「この暑さで上昇気流が発生して、上手く上空に上がって霧散してるみたいだから、多分大丈夫だと…」
そこまで言いかけた国松の言葉が止まった。
サークル棟の上空に、1機のヘリが近付いて来たからだ。
恵子「おいカメラ!あのヘリ撮っとけ!何かに使えるかも知んねえし」
カメラ一同「了解!」
その様子を見て、目をウルウルとさせる国松。
荻上「どうしたの国松さん?」
国松「昔の東映には、ヘリコが飛んでると撮影させる監督が居たそうなんです」
荻上「どうして?『ヘリコってのは映画業界の言い方かな?』」
国松「借りると高いからですよ、ヘリコ。飛んでるの撮っとけば、いつか何かのシャシンで使えるかも知れませんから」
荻上「なるほどね…『この場合のシャシンってのは、多分映画のことね』」
国松「あの台詞が出るってことは、やっぱり恵子監督、凄い監督ってことですよ!」
荻上「いやあんまし関係無いと思うけど…」
(注)杉作J太郎著「ボンクラ映画魂 三角マークの男優たち」掲載の漫画に登場する、映画制作費節約名人の監督が、前述の恵子と同じことをしている。
一応フィクションとされているが、モデルになった監督が実在すると思われる。
(名前から野田幸男監督ではないかと推察される)
ヘリはしばらく椎応大学上空を旋回していたが、やがて降下して来た。
一同「?」
ヘリは学棟の向こうに姿を消し、しばらくしてローターの音が消えた。
浅田「着陸した…かな?」
伊藤「そのようだニャー」
有吉「何かあったかな?」
恵子「まあうちらにゃ関係ねえだろ。それより本番の準備始めようや。着ぐるみ組さっさと着替えちゃって」
ケロロ役の荻上会長、タママ役のニャー子、ギロロ役の国松、モア役のアンジェラの女子4人は、着替えるべく部室に入る。
クッチーは外に出してあったベムのスーツの入ったショルダーバッグを開けると、その場で脱ごうとする。
どうやらクッチー、何度か国松立会いで着替える内に、すっかり女子の前で脱ぐことに抵抗が無くなったらしい。
台場「ダメですよクッチー先輩、こんなとこで着替えちゃ!」
朽木「大丈夫だよ、僕チン気にしないから」
台場「こっちが気にします!下の階の鉄道研究会の部室借りてありますから、そっち使って下さい!」
朽木「了解であります!」
日垣「俺手伝いますよ」
「こうして並んでると、やっぱ壮観だな」
浅田がポツリと感想をもらした。
着替えが済んだスーツ組がズラリと並んだのだ。
「でも俺たち的には、あっちが今日のハイライトじゃないか?」
岸野の視線の先には、今日出番の俳優陣の中で唯一素顔で芝居する、アンジェラの姿があった。
今日のアンジェラのモアコスは擬態解除バージョン、いわゆるハルマゲドンの時の格好だ。
当然コミフェスのように長物規制も無いので、ルシファースピアも持っている。
台場「プロモーションにも使えそうね。監督、しばらく時間もらって撮影していいですか?」
恵子「姉さんたちが長くは持たないから、手早くな」
台場「了解!浅田君、岸野君、写真の方のカメラは持ってる?」
浅田「あるよ」
台場「じゃあ写真もお願い。(目を輝かせて)こりゃ映画公開時に高く売れるわよ」
一同「またもや狩る者の目になってる…」
「あのうすいません、こちらで何をなさってるんですか?」
現視研の面々の背後から、聞き慣れない女性の声がかかった。
一同が振り返ると、見慣れぬ男女2人組が立っていた。
男は30歳前後、女は20代半ばぐらいに見える。
2人とも半袖のシャツにジーンズという、動きやすそうなラフな服装だった。
男は大きなビデオカメラを構えており、女はハンドマイクを持っていた。
恵子「て言うか、あんたらこそ誰だよ?」
女(以下女子アナ)「ごめんなさい、申し遅れました。私はテレビ奥東京のアナウンサーの○○です。(男を指し)で、こっちがカメラマンの××です」
(注)テレビ奥東京
「ケロロ軍曹」の劇中に登場する、テレビ東京をモデルにしたと思われるテレビ局。
再び居酒屋。
日垣「まあまさか、バルサンが原因でああいう事態になるとは思わなかったよね」
国松「さすがに想定外だったわね。リハーサル10数回ともなると、たかがバルサンと言えども馬鹿にはならないわね」
果たして現視研に何が起きたのか?
今回はここまでです。
投下してから気が付いたのですが、現視研の面々、せっかく長時間煙の中に居ないで済む為にリハーサル念入りにやったのに、結局念入り過ぎで長時間煙の中に居る破目になってしまいましたな。
これが若さというやつか…
(まあ本番で失敗しない為という意味では、正しい行動ですが)
お返事も少々。
>>365>>366 ノッていただいて、ありがとうございました。
ちなみに元祖17歳の人とは、あまり歳変わりません。
>>367 遅くなりましてすいません。
>>376 さすがにそこまでは手が回りませんw
ではまた。
脱帽した!作者の知識量に脱帽した!
コミフェス会場で戦利品の確認をする笹原と斑目
笹「大体のとこは揃いましたねー」
斑「そーだな。ま、今回はみんな忙しくて俺らしか来れなかったこと考えれば上出来じゃねーの?」
???「あれ?斑目と笹原くんじゃない。久しぶり、元気にやってる?」
二人が声に合わせて顔を上げるとそこには大量の荷物を抱えた原口がニヤニヤしながら立っていた
(うわぁ…汗)
笹原と斑目は顔を合わせて冷や汗を流す
原「今日は君ら2人だけ?」
斑「あ…そーなんすよ、みんな忙しくて…ハハ(苦笑」
原「ふーん…それで2人してわざわざ色んな所回ってやっと買い集めたのがそれかぁ」
笹「いやぁ…やっぱり2人じゃ大変なんですよ〜(汗 原口さんこそそんなに荷物たくさんどーしたんですか?苦笑」
原「ん?あぁこれね。イベント限定品を買い占めたんだよ。ネットオークションとかに出すと結構バカにならないからね」
斑「一人でそんなに買えないでしょう?」
原「中国人の留学生を雇ったんだよ。連中は安い値段でよく動くからね。やっぱり人手がないと成り立たないじゃない?こーいうのって」
笹&斑「はぁ…(苦笑」
原「良かったら斑目たちも雇ってあげようか?並んで買うだけならいつもやってるんだからできるでしょ?」
斑「いやぁ、俺たちまだ自分の見たいとこも有りますから遠慮しますよ…(苦笑」
原「あっそう♪じゃあ買い損ねたグッズとか有ったら僕に言ってよ。定価よりは高くなるけどそれくらい出せるでしょ?じゃおつかれ〜」
原口は雑踏の中に消えて行った
笹&斑「はぁ〜〜〜…」
深いため息をつく2人
笹「相変わらずでしたね(苦笑」
斑「あぁ、しかしあんなにグッズ占領して周りのオタに睨まれてるの気付かないかね?」
笹「あーいう人がいるからすぐ値段上がっちゃうんですよね〜」
斑「全く同感だ!あのような蛮行が許される世の中、我々のような健全なオタたちが泣かされるのには我慢ならん!」
笹「まぁ落ち着いて(汗」
こうして気分を害した2人はその後大した成果も見られずに会場をあとにしたのであった…
>遭遇!ハラグーロ
>中国人の留学生を雇ったんだよ。連中は安い値段でよく動くからね。やっぱり人手がないと成り立たないじゃない?こーいうのって
何たる御手洗、いや奥田かな。
昔働いてた、某シャープの工場の偉いさんが、朝礼で同様のことを言ってたのを思い出す。
奴らは知らない。
中国人は、安い給料で働く代わりに、工場の機械や原料や部品や製品を持って帰ることを。
そしてそれでも足りなければ、経営者や管理職の家に押し入って、有り金はもちろん最悪命まで持って帰ることを。
(もちろん中国人全員では無いが)
この後、ハラグーロが有り金全部かっさらわれて、袋叩きにされる未来に期待したい。
原口メインネタって珍しいね
新キャラとかなしに原作範囲内ネタが好きな俺には普通に有りそうなエピソードで和んだ
乙です。
神田さんが斑目の隣の部屋で春日部さんそっくりな格好で別人になりすまして
心の隙間に忍び込む話希望
風浦可符香ですね
>遭遇!ハラグーロ
案外原作の後日談にありそうな話だな。
原作は基本悪は滅びず、ほったらかしだし。
保守
最終巻のカバーはずした全員集合のところでかなりやつれた姿を見せていたが・・・>ハラグーロ
まあ現実の世では、ああいう奴が栄え いい人が滅びるのも事実
こんばんわ。
今夜もやってまいりました。
本日は諸事情により、5レスです。
では。
突如現れたテレビ局の女子アナに、恵子は問いかけた。
「で、そのテレビ局の人が何でこんなとこに?」
女子アナ「実は△△という番組の取材でヘリに乗っていたのですが、その帰りにこちらの大学の上空で、巨大な蜃気楼を発見したんです」
一同「しんきろう?」
女子アナ「それでしばらく観察していたのですが、蜃気楼の真下にこの建物があることに気付いて、何らかの関係があるかも知れないと思って、やって来た次第です」
再び居酒屋
巴「それにしても恵子先輩、よくあんな落ち着いた態度で対応出来たわね」
豪田「そうそう、みんな舞い上がっててアタフタしてたのに」
国松「そこはそれ、監督の自覚ってやつよ」
沢田「それにしても意外だったわよ。前に部室で一緒になった時なんて、テレビに出たことあるって自慢話してらっしゃったのに」
一同「何ですと?」
神田「ああ、そん時私もいた。確かニュースだかワイドショーだかの街頭インタビュー、3回ぐらい受けたことあるって仰ってたっけ」
有吉「やっぱけっこうミーハーなんだな…」
「それは多分、監督が頭の中でまとまったイメージを忘れたくなかったからだと思うよ」
いつの間にか部屋の隅っこで、浅田と一緒にしみじみ飲んでいた岸野が口を開いた。
国松「そうなの?」
岸野「あの後2時間ぐらい、テレビ局のインタビューやら撮影やらで、こっちの撮影が中断してたでしょ?」
豪田「そうだったわね」
岸野「その間監督、自分がインタビュー受けてる時以外は、ずっとブツブツ言いながらカメラ覗いたりセット見たりしてたんだ」
浅田「そう言えばそうだったな」
国松「(目をウルウルさせ)やっぱり監督、やる気満々なんだわ!」
岸野「まあ監督が仰るには、『あたしゃ頭悪いんだから、早いとこ撮影始めないと忘れちまうんだよ』ってことらしいけどね」
伊藤「やる気満々と言えば、そっからは台場さんがやる気満々になってましたニャー」
有吉「確かに。あの後レポーターの人、僕たちの説明で一応納得したら、関心が映画の方に移っちゃって、そっからは台場さんが張り切ってたんだよね」
台場「(苦笑して)張り切るってほどじゃなかったわよ」
一同「(一文字一文字区切るように)いいや、張り切ってた!」
現視研の面々が「ケロロ軍曹」の実写版映画を撮影していることを知ると、自局のアニメが題材ということもあって、女子アナは急遽映画についての取材を申し込んだ。
撮影に集中してるせいかテレビに無関心な恵子や、東北出身者特有のテレビコンプレックスでアタフタしている荻上会長を尻目に、プロデューサーの台場が仕切り出した。
まるで台本でも用意していたかのように、てきぱきと手際良く進めて行く。
先ずは女子アナが着ぐるみに注目しているのを好機と見たのと、この炎天下では着ぐるみ組がまいってしまうことを考慮して、着ぐるみでの撮影会を提案した。
女子アナも話に乗ったので、台場はこの日は出番が無かった沢田と日垣、それに出番の済んだスーまでわざわざ着替えさせた。
そうなると現視研一のお祭り野朗クッチーも黙っていない。
日垣相手にちょっとした殺陣の真似事を披露し、映画ではやる予定の無いフライングニールキックやローリングソバットまでも見せた。
日垣も特訓の成果を見せて、基本的な空手の突き蹴りを見せる。
さらには映画には全く関係の無い、大野さんのコスプレ七変化の撮影会までも催した。
(秋ママ用の眼鏡を着用し、一応秋ママのコスプレ七変化という設定だが)
続いて台場は、現視研の面々とその役割を紹介した。
ちなみにこの時、着ぐるみ組は一旦着替えに行った。
小隊役の女子たちは、ビキニにバスローブやヨットパーカー等を羽織った姿になり、男子2人も海パンとTシャツという格好になった。
モア役のアンジェラも、コスのアンダーの上からパーカーを羽織った格好になった。
こういう状況に備えて、日垣がモアコスを作る際に、コスを二層にして上の装飾部分だけを脱ぐことが出来るようにしたのだ。
ひと通り紹介が終わると、先ずは件の女子アナ、主要なスタッフやキャストが女の子で固められていることに注目した。
女子アナ「なるほど、会長さんが女の子で、監督さんも女の子、スーツアクターも7人中5人は女の子、カメラマンも4人中2人は女の子ですか。女の子大活躍ですね、現視研って」
台場「まあ、女子の方が人数多いから、結果的にそうなっただけですけどね」
女子アナ「それにしても、着ぐるみまで女の子ってのは凄いですよ」
台場「まあ単にケロロ小隊だと小柄じゃなきゃいけないから、自然と女の子での小隊編成になっただけですよ」
女子アナ「そう言えばプロデューサーも女の子でしたね」
台場「(照れて)プロデューサーと言っても、スポンサーから金集めたり、いろいろ届出したり、映画の宣伝やったり、まあ事務員ですよ」
女子アナ「宣伝担当ってことは、さしずめ台場さんは『現視研の女ゲッベルス』ってとこかしら」
それを傍で聞いていて、こける一同。
女子アナ「と言うことは、それで女の子が監督なんだから、さしずめ笹原監督は、『21世紀のリーフェンシュタール』ってとこかな」
今度はキョトンとなる一同。
数少ないこけた会員は、スーとアンジェラの外人コンビ、伊藤、そして浅田と岸野のカメラマンコンビだけであった。
浅田「何であの人、リーフェンシュタールなんて知ってるんだ?まだ見た目30も行ってないと思うけど…」
恵子「なあ浅田、そのリーヘン何とかって誰だ?」
浅田「リーフェンシュタールは、ナチス時代のドイツの女流映画監督ですよ」
恵子「何だかよく分からんが、昔の人なのか?」
浅田「まあ近代史ですけど歴史上の人物ですね。と言っても亡くなったのは、つい最近ですけど(2003年没)」
浅田の説明はなおも続いた。
リーフェンシュタールは、ベルリンオリンピックを題材にした「オリンピア」等の、数々のナチスのプロパガンダ映画を監督した。
実は彼女はナチスの信奉者ではなく、映像の素材として注目していただけだった。
だがメディア戦略に重点を置いていたナチスは、当時は映画が唯一の映像メディアということもあって、彼女を重用した。
ちなみに女子アナが勝手に台場の異名にしたゲッベルスは、そのメディア戦略を担当する官庁である宣伝省の大臣である。
なお余談だが、同じ宣伝担当のライバルのせいか、2人の仲は悪かったそうだ。
豪田「それにしても、何故うちの監督がリーフェンシュタール?」
岸野「ナチス繋がりじゃない?台場さんがゲッベルスだから」
国松「じゃあうちの会長は、さしずめ女ヒトラーってとこかな」
伊藤「やれやれ。我々オタクは、むしろナチスとは正反対の立場なんだがニャー。オタクの好きな作品なんて、ナチスにかかったら全部退廃芸術扱いだニャー」
巴「何その退廃芸術って?」
伊藤「ナチスは当時の近代美術(簡単に言えば、世間一般がピカソの作品と言えば、連想するような絵)をそう呼んで迫害してたんだニャー」
国松「どうして?」
伊藤「ヒトラーの好みが、写真のようにカッチリした、古典的な写実派の美術だったからだニャー」
国松「でもそれだけなら、わざわざ迫害しなくても…」
伊藤「ヒトラーは元々は画家を目指していたんだけど、当時の芸術界の流行りが近代美術だった為に、写実派のヒトラーは芸術大学に入れなかったって因縁があるんだニャー」
日垣「つまりその腹いせで迫害したと?」
伊藤「おそらくそうだニャー」
「誰がコステロや!」
その時、藪崎さんの叫びが轟いた。
現視研の面々が声の方を向くと、藪崎さんが女子アナに詰め寄ろうとするのを、加藤さんが背後から羽交い絞めにして止めていた。
加藤「まあまあ、そんなにマジで怒らなくても」
藪崎「そら加藤さんはアボットやからまだええけど、私なんかコステロでっせ。何ぼ何でも、そらちょっと…」
どうやらサブカメラマンコンビ、女子アナに腐女子版アボット&コステロと命名されてしまい、それで藪崎さんがキレたようだ。
「何なの、アボットとコステロって?」
ようやくインタビューから解放されて戻って来た荻上会長が声をかけた。
スー「押忍!戦前から戦後にかけて活躍した、有名な喜劇俳優コンビであります!」
神田「ガリガリノッポとチビデブという典型的な凸凹コンビだったんで、日本では凸凹コンビと呼ばれることが多かったですね」
荻上「スーちゃんはともかく、何で神田さんが知ってるの?」
神田「『まんが道』の中で、藤子不二雄の両先生が、手塚治虫先生に凸凹コンビそっくりと言われるエピソードがあるんですよ」
荻上「ああ藤子先生の伝記漫画ね」
スー「(高橋和枝似の涙声で)あぼっと〜!」
浅田「だから何で日本語版なんて知ってるんだ?あのアニメ、オリジナルはともかく、日本語版は多分ソフト化されてないと思うけど」
スーがやったのは、60年代に制作された「アボットとコステロ」のアニメ版の、日本で放映された際の吹き替え版の物真似で、コステロの定番の台詞である。
(コステロが事件に巻き込まれて、アボットを呼ぶというストーリー展開が多い)
荻上「それにツッコめる浅田君も大したもんだと思うけど…」
本日はここまでです。
続きは…来週になるかも。
何しろ明日は(もう今日か)確定申告の用意やら何やら、忙しいもので。
お返事も少々。
>>386 この歳になれば、ジャンルはともかく、この程度の量の知識は誰にだってありますよ。
むしろ今の若い人なら、情報をたくさん仕入れられる分、私の今の歳になった頃には、私の何倍もの知識を得られてると思います。
>>391 そこまでは手が回りませんので、どなたでもご自由にお書き下さい。
ただし、神田さんが勝手に単独行動すると、怒る人々がいる点にだけは留意して下さい。
ではまた。
保守
あ
保守
本日は晴天なり
カネに生きるは下品にすぎる
恋に生きるは切なすぎ
出世に生きるはくたびれる
すべて浮世は視覚文化
萌えにギリギリ生活かける
仕事はよろず引き受けましょう
人呼んで御宅人 ただしこの稼業
江戸職業づくしには載っていない
※ ※
「マジヨユー! 1日3個!」「ゲハハハハハうっそーん!」
深夜、人気のない郊外の道を、色黒のやくざ者3人が笑いながら歩いている。萌人形の職人を襲い、転売を図った下手人だ。
着流しを乱し、品のない笑いを浮かべ、酔って足どりもおぼつかない。
周りを包む闇夜に、彼らを密かに後を付けてくる人影があった。
彼らが無人の古寺の前にさしかかった時、反対側から明かりが見え、提灯を持った大柄な男が歩いてきた。左腕に包帯を巻いて吊っている。
雑談に夢中のやくざ者たちは、目を逸らして歩いている男には目もくれず、通り過ぎ様に「ふん」とその風体を鼻で笑った。
大柄の男・久我山は通り過ぎた後でブツブツと呟く。(一間…二間…)やがて、やくざ者たちの方へと振り向き、包帯を巻いた腕を突き出した。
「三間!」
バンッという音とともに、包帯に隠された仕込み銃の筆が火を噴く。弾丸がやくざ者の一人を貫いた。
残り2人は驚いて散り散りに逃げ出す。
1人が開きっぱなしの寺の門をくぐろうとした時、首に糸が絡まった。
クキュ!と音を立てて糸が締まる。寺門の屋根の上には、糸を握って田中が立っていた。苦しむ男の最期を隠すように寺の門が閉まる。
その様子を見て最後の1人がへたり込む。背後に気配を感じて振り向くと、浪人者・斑目が蛇のような目をして立っていた。
「萌人形2個……てめえの命はそんなもんだ……」
竹刀の柄から刃を出して残る一人を刺そうとした斑目。
しかし、ガタンッという音がして斑目の手が止まる。道の向こうに提灯をぶら下げて立ち尽くす小柄な町人がいて、斑目は彼と目が合ってしまう。
「あ……!」
「ひいッ」
仕置きするはずだった転売人が這々の体で逃げ去った。町人も提灯を道端に落として、一目散に闇の向こうへと逃げ去った。
燃え上がる提灯の明かりに照らされ、斑目は、「うわぁ、まずいことになっちまった……」と呟いた。
※ ※
必殺御宅人
第参話「あんたこの覚悟をどう思う」
※ ※
椎応長屋の一角、元視研(元禄由来視覚之文化研究會)の部屋では、斑目が狭い土間を落ち着きなく歩き回っていた。
「どど、どうしよう…」
「斑目君、いまさら動き回っても仕方がないよ」
上座で元締めがなだめる。
隣の田中が、「こいつは毎度毎度逆境に弱いですから」とため息をついた。
元締は眼鏡の奥の黒目を光らせる。
「まあ、どちらにせよ、仕置きを見られたからには……掟は分かってるね」
その一言に、斑目の足がピタリと止まった。
「分かってますよ。仕置きを見た者の口を封じるか……それとも……」
「結構。そこで一つ、みんなに頼みたいことがあるんだ。いま、高坂君にちょっとしたお願いをしていてね……」
同じころ、仕置きを目撃した男……商家・笹原屋の倅である完士は、神田明神近くの萌絵の店の前を何度もウロウロしていた。
完士は、江戸郊外で店を持つ親に、「商売の勉強をする」と頼みこんで家を出てきた。しかし本来、勉強するといえば京大阪に「上京」すべきである。隠れた目的は「御宅生活を満喫」することであった。
彼の父親は、完士が錦絵や絵草子ばかりに興味を持っていることに呆れて、こんな苦言を呈したことがある。
「お前はうちの店を雁金屋(かりがねや)にでもするつもりか?」
雁金屋とは元禄時代に栄えた京都の呉服商だったが、御曹司が財産を使い果たし、絵に傾倒してしまい、店が破綻している。
その御曹司とは後の法橋尾形光琳である。
困ったことに、完士は光琳と違って才能がなく、まったく絵が描けないのだ。
ただ似通っているのは浪費することばかり。それでも、完士は江戸中心部であこがれの「御宅」の世界に踏み出したいと思っていたのだ。
念願かなって家を出た完士だが、先日の夜はとんでもないものを見てしまった……人殺しだ。
正直、恐ろしさのあまり、そのまま実家に逃げ帰ろうとしたものの、江戸の御宅を一目でも見て帰らなければと思いとどまっていたのだ。
萌え絵の店の前で入りきれずにオドオドしている完士。なかなか踏み出せずにいたところに、後ろからふいに声を掛けられた。
「君、御宅の人?」
「うわっ!」
完士が振り向くと、まるで異人のように髪を染めた若侍が立っていた。
侍の割にとても優しい笑顔で接してきたその男は、高坂であった。
「いや僕は来たばかりで……」
「じゃあ、御宅の寄り合い(サークル)もまだ入ってないの?」
「あ、うん」
「それなら、一緒に来てみない? 僕も入ったばかりなんだけどね」
(武家の人と一緒なら安全かな)という思いもあって、完士は高坂に言われるがままに、椎応長屋の元視研にまでやってきた。カラリと戸を開いた高坂は、一堂に「この人、見学したいそうです」と完士を指差した。
軽く会釈した完士は、部屋の中の面々を見たとき、血の気が引くような想いがした。
前夜に古寺のそばで目撃した男・斑目が、部屋の隅に居たのである。完士は落ち着かない。斑目も表情が硬い。
そんな様子も気にせず、斑目の向かい側に座っていた田中が手招きし、一堂は普段通りの会話を楽しむ。
「高坂くん、今日お咲さん来ないの?」
「どうでしょ? 聞いてないですけど」
完士は、やはり部屋に居た久我山が座っていた(暖まった)座布団を譲られ、黙って皆の話を聞いている。その顔は動揺し、視線は安定せずに部屋の中を彷徨った。
その彷徨う視界に、棚いっぱいに絵草子や冊子、人形が飾られているのが見えた。
皆の座っているちゃぶ台へと目を移すと、あの男(斑目)が錦絵漫画の読物を手にしていた。
(あ……『漫画寸(まがずん)』だ………俺まだ今回の『くじ引き安場乱数』は読んでない)
完士は思わず、遠目に斑目の手元を覗き見ようとする。
江戸一番の絵物語の人気は、完士の住む郊外にも及んでいた。
ふと斑目が顔を上げ、完士と目が合ってしまう。サッと視線をそらす完士。斑目はバンッと冊子を閉じて立ち上がり、「ちょっくら厠いってくるわ」と部屋から出て行った。
そのうち田中が、「元締、ちょっとご相談が…」と、奥に座っていた初代元締と一緒に部屋を出る。
久我山も、高坂も用を思い出したなどと言って席を立った。
完士は元視研部屋に一人残された。
気分が大分落ち着いてきて、あらためて周囲を見渡す完士。
立ち上がって棚いっぱいの萌本や人形を眺める。
萌人形のありえない短さの衣類に包まれた太股の奥…その造形を眺めて鼻を膨らませる。
(ここなら…萌春画があるはずだ!)
恐怖よりも目先の煩悩が勝り、思わず棚を漁る完士。
その瞬間、ガラッと戸が開き、ニヤニヤしながら斑目が現れた。
慌てふためいて棚から引っ張り出した本を片付ける完士。顔は汗だくで動揺しまくっている。
斑目はポンポンと完士の肩を叩きながら、部屋の奥の縁側を指さした。
戸板一つ隔てた民家の二階から、元締や田中がこちらの様子を観察していたのだ。
「……ま、同類。ということで……」
皆が部屋に戻り、恐縮しまくっていた完士を温かく迎えた。
だが、元締は、静かに優しく、しかし恐ろしいことを口にした。
「……完士くんがもし、萌本や人形に目もくれずに逃げ出そうとしていたら、今ごろ三途の川を渡っていたところだろうね……」
ギクッと目を丸くする完士。一方、彼の隣にいた斑目がホッとした表情を浮かべていた。
田中が元締の言葉をつなぐ。
「それが御宅人の掟……。仕置きを見られたら、相手が同類でなければ……消す……。同類で良かったよ」
完士も闇の御宅人の噂は聞いていた。
「本当に……殺しまで……やってたんだ」
思わず呟いた完士に、斑目がすっくと立ち上がって呼び掛けた。
「ついてきな」
もう外は夜になっていた。
神田明神の出店の賑わいの中に溶け込むように、斑目が歩いていく。完士は人の賑わいに戸惑いながらも、何とか斑目について行く。
夜店が立ち並ぶ端で、斑目はこうこうとと明かりをともす灯籠の影に身を隠した。完士も慌てて斑目の影に隠れる。
その視線の先には、幼い兄弟が小さい手に萌人形を抱えて道行く人たちに声を掛けていた。
「人形、萌人形いりませんか〜。いりませんか〜」
夜店の中心部に向かう人の波は、小さな兄弟など眼中にない。
時折、急ぎ足の大人に一人が突き飛ばされては「気をつけろ!」などと怒鳴られる。
兄弟は涙を堪えつつ、道に落として転がった萌人形を二人で拾い上げては、また「萌人形いりませんか」と声をかけ続ける。
斑目は影からその様子を見つめ、兄弟から目をそらさぬままで背後の完士に語り掛ける。
「あれが…依頼人だ。転売屋に殺された萌人形職人の子供だよ……。今のご時世、人の物を奪って転売する奴やそれを高値で買う奴がいるが、その裏で、職人やその家族が涙を呑んでいる……」
華々しい江戸の御宅に憧れていた完士は、その裏で行われる非道に愕然とした。
「江戸で御宅を続けてもいい、俺らの寄合い(サークル)に入るも入らねえもお前さんの勝手だ。だが、この裏の仕置きを人に話した時には……」
完士は斑目の言葉を聞きながら、ある思いを抱いた。
(俺に足りないのは覚悟だ)
フラフラと灯籠の影から出て、人混みを縫うように歩く完士。幼い兄弟の前まで来と、身をかがめて目を細めて語り掛けた。
「人形…一つくれるかい?」
萌人形を受け取った完士は、かえでのような小さな掌に多めの金を握らせる。驚いた兄弟の一人が「おまけです」と、完士に萌人形をもう一つ手渡した。
立ち上がって斑目のもとに帰ってきた完士の目は、それまでのオドオドした彼のものとは違って鈍い光を発していた。
「斑目さん……俺にも、やらせてください」
「人を殺めるんだぜ。御宅人の道は、いずれ、地獄道だ。いいんだな?」
「もう……仕置料をもらいましたから……」
完士は、「おまけ」としてもらった人形をグッと握りしめた。
(つづく)
414 :
必殺御宅人:2009/02/26(木) 18:40:07 ID:???
>>294です。
>>291氏が書き込んでくださった「御宅人」ですが、
>>294では「新・必殺御宅人」の未完成データを完成させて投下すると書いていました。
が、旧シリーズの完結編を先に書かせてもらいました。
大仕事になるので前後編ですスミマセン。
土曜あたりに後編投下すると思います。
スレ汚し失礼しました。
>必殺御宅人
何たる「殺しを見たのは受験生」w
(仕事人Vの第1話のサブタイ)
続き、楽しみに待ってます。
保守で
ごめんなさい。
今日の投下は無理でし
広目天さんもフルコミ嫌で逃げたのか
あちゃー、御宅人の人もお休みですか。
すんません、私も今ちょっと加筆してまして、また来週にでも来ます。
そんじゃまた。
418 すんません 間違えちゃいました
せっかく
>>371の元ネタが、アニマックスで始まったというのに、アクセス規制とは…
丸太と床板値上がり
少なくとも12ポイント
423 :
マロン名無しさん:2009/03/05(木) 19:17:32 ID:Zx+9Yjwn
t
「?」「!」
カネに生きるは下品にすぎる
恋に生きるは切なすぎ
出世に生きるはくたびれる
すべて浮世は視覚之文化
萌えにギリギリ生活かける
仕事はよろず引き受けましょう
人呼んで御宅人 ただしこの稼業
江戸職業づくしには載っていない
※ ※
夜の帳が江戸の町を包んでいる。
神田明神から椎応長屋へと帰る傘張り浪人の斑目と、町人の完士。
彼らが歩く向こうからドタドタと、重たい体を揺らしながら久我山が走ってきた。
ゼェハァ息を切らせて、久我山は二人の前までやってきた。
「たたた、大変だぞ!」
「どうしたよ久我山」
「と と 取り逃がした転売屋が、番屋に駆け込んだんだ!」
当時、町ごとに置かれていた自警用の番屋。転売屋はそこに逃げ込んで北町の与力や同心に面接し、仲間を殺した田中や久我山、そして自分を殺そうとした斑目の人相書きづくりに協力したのだという。
「それ本当かよ!」
「も 元締の情報だ。間違いないよ」
夜の辻に立ちすくむ3人のもとに、さらに田中が駆け込んできた。
「今夜は同心たちが捕物だってんで、奉行所の方も騒がしいらしいぞ」
人相書きが手配されたら、彼らは江戸に居られない。
斑目は引きつった顔で唇をかんだ。
※ ※
必殺御宅人
最終話「あんたこの解散をどう思う」
※ ※
椎応長屋の元視研の部屋は、重たい空気に包まれていた。
中央のちゃぶ台にはろうそくの明かり一つ。それを囲むように、斑目、田中、久我山が黙って佇んでいる。
「あの転売人、俺たちが捕まるまで番屋を出ないだろうな…」
「ば 番屋の牢屋に、ひ 引きこもってるってよ」
「今のうちに、江戸を離れるか……」
ふと、田中がつぶやいた。
「いやダメだ。江戸を離れたら、俺は俺でなくなってしまう!」
斑目が語気を荒げた。御宅が生きがいの斑目にとっては、江戸以外に暮らす場所などない。
(……しかし……)江戸に残って捕まれば御宅どころではない、命すら危ういのだ。
再び黙ってしまう3人。部屋の空気は重く、暗い。
その時、カラリと戸が開いた。咲だ。
「高坂来てないよね……。どこに行ってるんだか」
「あ〜、俺らも昼間以来見てないなあ」
「ああそう。じゃまた来るわ」
あっさり外に出ようとした咲が振りかえる。
「斑目、あんたなに辛気臭い顔してるのよ」
「え、いつもの事だろほっとけよ」
「御宅の上に辛気臭いなんて救いようがないわ。もうちょっと明るくやんなさいよ」
咲は機嫌がいいのか、珍しく斑目たちを励まして、部屋を出て行った。
斑目の胸の奥に、何かがポッと火を灯した。
スッと立ち上がる斑目。田中が見上げる。
「どうしたんだ?」
「番屋の転売野郎を仕掛ける」
「む 無理だろ!」
「黙ってお縄を頂戴するより、何とか仕掛けて仕置きして……。そうでなけりゃ、あの人形師の子供らは……。完士も実家の笹原屋に駆け戻って、準備をしてるんだ」
斑目が仕込み刀を秘めた竹光を手にして出かけようとしたとき、再び部屋の戸が開き、元締が現れた。
「斑目君、僕にいい考えがあるんだけど」
北町奉行所は、夜の静けさに包まれている。
多くの与力、同心が捕物に出払い、わずかな人数が残っているだけだ。
奉行の居室では、強面の女奉行が動きやすい姿に着替え、さらに足袋を履き換えようとしていた。
足袋に足を包もうとするが、手がふと止まる。
「ふう…」
軽い溜め息が出た直後、背後のふすまの陰にスッと人の気配を感じた。
「お奉行様……足がお悪いのですか?」
ギョッとした北川が振り返るが、誰もいない。
刀を手元にたぐり寄せ、ふすまの向こうを睨みながら、相手に悟られないように鯉口を切る。
「刀を抜かないでくださいね。僕は仕掛けに来たわけじゃないんだ」
真後ろから声が聞こえた。
いつの間に移動したのか。
北川は障子を叩き付けるように開けると縁側へ出た。
庭の灯籠の影、薄暗い闇の中に元締が立っていた。
顔はハッキリとは見えず、その佇まいには殺気どころか、生気すら感じられない。
気勢をそがれた北川は供回りを呼ぶ事も忘れ、静かに問い掛けた。
「御宅人の頭目が、ここまで首を差し出しに来たのか…?」
「いや、僕は一つ提案をしにきただけですよ」
「何?」
北川が眉をひそめる。
彼女の手元に投げ出されたもの。それは江戸に潜伏する転売人の名前と住所を記した帳面であった。
「それをお奉行様にさし上げましょう」
萌え商品に限らず転売を行い、まっとうな商売人を泣かせる転売屋。商品を買い占める際には浮浪者や浪人者を雇うこともあるため、その主犯格はなかなか捕まらない。
闇の御宅人と並んで奉行の頭を悩ませる存在である。
中身をあらためると、今回出頭した転売人や、数日前に御宅人に仕置きされた転売人の名前と住所も正確に書き入れられている。
「貴様、これを元に仕置きをしていのか」
「さあ、どうでしょう」
元締はほんの少し首をかたむけて答える。
北川は吐き捨てるように問う。
「貴様の見返りは…」
「捕り物の皆さんにお配りした御宅人の人相書き……全て回収し焼き捨てていただきます」
「馬鹿なっ! せっかく尻尾を掴んだ御宅人をみすみす見逃せというのか」
元締が軽く笑う。
「ふふふ。人相しか分からず、どこに隠れているかも分からない狸よりも、名前や巣まで分かる狐の群れの方が、おいしいんじゃないでしょうか?」
女奉行・北川は躊躇した。
確かに規模から言っても、御宅人2、3人よりも転売人数十人を捕まえた方が得というものだ。
北川は思案の後、ニヤリと笑った。
「……両方取ると言ったらどうする? 貴様をこのまま捕まえて、人相書きの御宅人も、この帳面の転売人も捕まえる。お前ら江戸のクズどもを締め上げて、私の一人勝ちよ!」
気分が高揚して興奮状態となり、ククククク〜ッ…と思わず笑いが込み上げる。
そんな奉行の姿を、元締は眉一つ動かさず見守る。そして彼女の笑いが落ち着いた時に、一言ポツリとつぶやいた。
「仕方がありませんね。御宅人を助けてもらうために、もう一つの“情報”をさし上げましょう。……お奉行の、おみ足についてですが……」
その瞬間、北川奉行の顔面から一気に血の気が引いていった。
「この情報、そちらの出方によっては、江戸中の御宅人を介してふれ回ることになりますが……さて……」
四半刻(約30分)後、奉行直々の指令により、捕り物方に配られた人相書きはことごとく「人違いにつき回収」された。
代わりに配られたのは、転売人の名前と住所の写しであった。
一方、番屋でかくまわれていた転売人は、粗末な牢の床に寝そべっていた。外の気配が騒がしくなっているのが感じられる。大勢での捕り物が始まろうとしている。
(御宅人の奴らはこれでお陀仏。俺は放免さ)と浅黒い顔に野卑た笑みが浮かぶ。
その時カラカラと自身番の戸が開いた。
岡っ引きの小物らしい冴えない風体の男が二人、紙の束をいっぱいに抱えて入ってきた。
「旦那方、どうしたんだい?」
転売人が身を起こしてあぐらをかき、牢の格子からのぞき込む。
小物の一人、背の低い方が答えた。
「いやそれが、今夜の捕り物で捕まえる相手が変わったそうで…」
「あ?」
「御宅人狩りは転売人狩りに変更だそうですよ」
「ちょっと待てよ!」
転売人が格子の中から噛みつかんばかりに叫ぶ。
「御宅人が捕まらなかったら、俺はどうなるんだよ! 帰れねえじゃねえか!」
小物2人はズイッと牢に駆け寄り、転売人の足下に紙の束をドンドン入れる。
「何しやがる……!」と、言いかけた転売人が、足下の紙を見てギョッとする。
紙はすべて、彼が証言した御宅人の人相書き……北川奉行の命で回収されたものだった。
しかも、一部に油が染みこんでいる。
いぶかしむ転売人を前にして、小物が顔をあげた。
一人は完士。もう一人は、斑目だった。
432 :
つづき:2009/03/05(木) 21:30:27 ID:???
「ひっ!」
転売人が声を上げた瞬間、彼の腹に熱い痛みが走った。
斑目の仕込み刀が刺さったのだ。
「帰れなくていいんだよ。テメエは地獄に牢を移るんだ」
一方で完士が白い手袋をはめると、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、牢に投げ入れられた人相書きにボッと火が移った。
実家の笹原屋は油の問屋。
完士は発火しやすい油を用い、指の部分に火打ち石を縫い込めた手
袋から火を起こしたのだ。
炎は転売人を包み、みるみる番屋全体に燃え移っていく。
周囲の町人が火事現場で右往左往する中、すでに斑目と完士は脱出
していた。
早々に姿を消した斑目。
一方の完士は遠方から燃えさかる番屋を見つめた。
(これが俺の、覚悟……)
433 :
つづき:2009/03/05(木) 21:36:29 ID:???
数日後、日本橋に近い茶屋で、斑目、田中、久我山、完士の四人が話し込んでいた。
田中と久我山は旅支度をしている。田中は上方へ、久我山は長崎へと旅立つのだ。
「お前ら本当に行ってしまうのか」
斑目が寂しそうに尋ねる。
「まあな、一度間違いだと言われて回収されたといっても、人相書きが出回ったんだ。下手な動きをすれば今度こそ獄門だ」
「だ だからほとぼりが冷めるまで、え 江戸を離れるんだな」
完士が頭を下げる。
「すみません。俺が邪魔したせいで…」
田中は細い眼をさらに細めて、後輩の肩を叩く。
「気にするな。斑目と一緒に元視研を頼むぞ。お前らにはお願いしたいこともあるんでね」
「「お願い?」」
完士と斑目が口を合わせて反応したとき、日本橋の方から若い女性の声が響いた。
「田中さーん!」
黒髪を束ねることなくおろした乳の大きな娘が田中に向かって手を振っていた。
「お、きたきた」
田中は荷物を手にして立ち上がった。
「呉服屋“神無月”の女主人だよ。品川まで見送りに来てくれたんだ。おれ、あの人の店で働くことになってさ。それでちょっとばか
し上方で修行してくるから。だからちょうど良かったのさ」
「で、お願いって?」
「あ、彼女さ、元視研に入りたいって言ってるから。俺が戻るまでよろしく」
「はぁ…」
田中は簡単に説明すると、仲間一人一人と握手を交わして、そそくさと女主人のもとへ駈けだしていった。
434 :
つづき:2009/03/05(木) 21:41:52 ID:???
「あいつ…いつの間に…」呆れる斑目。その隣で久我山が立ち上がった。
「お 俺も行くよ。長崎で、ら 蘭学の勉強でもするよ」
「やっぱお前、いいとこの坊ちゃんなのか?」
「それよりも、ま 斑目、お前はどうするつもりだよ?」
「俺が江戸を離れるわけないだろうよ」
斑目は当たり前のように言い放った。彼が萌え文化の発祥地である江戸を離れることなどできないのだ。
そして彼の脳裏に、江戸を離れると会えなくなる「お咲」の顔が浮かんだかどうか…。それは彼だけが知る。
久我山も日本橋を越えて、東海道を歩いていく。たぶん品川に着く前に体力を失い、その体重でカゴ屋に重労働を強いるだろう。
人が右に左に賑わう日本橋で、斑目と完士だけがポツリと立ちすくむ。
「斑目さん、ホントどうするんですか?」
「大丈夫だって。幸い、俺の顔は人相の悪い“マムシ”の面構えに描かれてるからな。しばらくは大人しく浪人暮らしをするさ」
「確かに君なら大丈夫だね」
「わっ 元締!」
斑目の背後に、急に元締が現れた。彼もまた旅装だ。驚く斑目。
「元締も江戸を離れるんですか!」
「仕方がないよ。僕は奉行と向き合ってしまったんだから」
「……それなんですけど、よく鬼女と呼ばれる北川奉行が折れましたね」
「ふふふ」
元締は含み笑いをすると、「僕は木更津に行くんだけど。ここで提案」と斑目を指さした。
「次の元締には、斑目君を推したい」
「ええっ!」
日本橋に斑目の叫びが響いた。
436 :
あとがき:2009/03/05(木) 22:14:08 ID:???
スレ汚し失礼しました。
仕置のターゲットが一人だったり、解決の決めてが裏取引だったりと、前期必殺のふいんき(ry)を狙ってみました。だっていまのはつまらn(ゲフンゲフン
笹やんの技はやっばりあのネタになりました。最初は、殺しのセンスもない探索役にしようと思ったてたのですが、なんかカッコヨクなってしまいました。
北川さんはまた水虫ネタでいぢめてしまった。
さて、次回からは「新必殺御宅人」がはじまりますw
よろしくです。
てす
439 :
御宅人:2009/03/06(金) 23:04:06 ID:???
>>437さま
必殺をよくご存じの方のようで、お恥ずかしいデス。
最後の主題歌は、たまたま「負け犬の唄」で替え歌が出来たので突発的に入れました。
反省はもちろんしてません。
実は自分、錬金術のアレは見たことがないんですw
リクエストくださった
>>291氏に感謝を込めてサービスサービス♪
内容としてはもっと「げんしけん」パロっぽくしたかったのですが、シリアスに傾き過ぎました。
ちなみに自分は今の必殺のアンチとまではいきません。
もちろん不満点はありますが、もっともっと頑張れと叱咤激励したいクチです。
うーむ困った、週末になってもアクセス規制が解けません。
どうせ投下出来ないならと、また加筆を始めました。
続きは少し遅れるかも知れませんが、何とぞしばしの猶予を。
ではまた。
アク禁やっかいですね。
毎回の読みごたえを思えば待つ甲斐もありますし、気長にまってます。
秋の日の ヴィオロンの ためいきの
53‡‡†305))6*;4826)4‡.)4‡);806*;48†8¶60))85;1‡(;:‡*8†83(88)5*†;46(;88*96*?;8)*‡(;485);5*†2:*‡(;4956*2(5*―4)8¶8*;4069285);)6†8)4‡‡;1(‡9;48081;8:8‡1;48†85;4)485†528806*81(‡9;48;(88;4(‡?34;48)4‡;161;:188;‡?;
ニイタカヤマノボレ
いい加減長過ぎるぞ、アクセス規制。
保守だけじゃ受け付けてもらえないんだよ、レス代行。
毎回毎回ネタ考えるのも、きつくなって来た…
今回の規制長いねー。俺もモタモタするサブ機でイラつく気持ちもわかるが
落ち着いて茶でも飲め
つ 旦~
昨日前回読み終わったが面白かった。
数年前に一巻だけよんでなじめずに離れてたが、キャラが馴染んだらたまらんほど面白いね
アクセス規制が続いていて投下が困難なので、今日はチラシの裏的な話題を。
昨日ケロロ軍曹の劇場版4を観てきました。
そして今日はアニマックスで、劇場版3を観ました。
両作品を見比べて思ったのは、やはりメインキャラの多い作品は、脚本家が大変だなってことです。
ケロロ軍曹はメインキャラが11人いるのですが、その全員にそれなりの見せ場を用意しないと、ファンは納得してくれません。
劇場版の場合、その11人プラス準レギュラーキャラやゲストキャラを含め、およそ15人程度の登場人物で、およそ90分前後のストーリーを展開しますので、かなり難易度の高い仕事です。
ここで我が身を振り返ってみると、ただでさえメインキャラが10人以上いる漫画に、オリキャラを11人も加入させてしまい、さらに脇役も足して総勢30人で話を展開しようというのだから、素人がやるには無謀な企画だと、改めて思い知らされました。
(現に大体の予定は決まってるけど、まだ30人登場してないし)
まあ年内には決着しますんで、気長に見守っていて下さい。
ではまた。
>>449は、「30人いる!」の作者が依頼した、レス代行スレ経由のレスです。
部室に入るなり、斑目は腰を抜かしそうになった。
荻上さんとスーが並んで座っている向かい側の席に、全身を包帯でぐるぐる巻きにした男が座っていたからだ。
包帯男は声をかけて来た。
「おうこれはこれは斑目先輩」
「朽木君だったのか…」
荻上「最近スーちゃんが『るろうに剣心』にハマっちゃって…」
スー「我輩ノオ気ニ入リノきゃらデアリマス!」
斑目「志々雄真実か」
朽木「でも斑目先輩、このコス暑いですなあ。いつもこんな格好してたら、そりゃ体温上がって燃えちゃうのも無理無いですな…」
そう言いつつフラリと倒れるクッチー。
荻上「朽木先輩!?」
スー「志々雄同様、15分ガ限度デアリマスナ、コノこす」
斑目「て言うかこれ、皮膚呼吸出来てないだけじゃん!急いで包帯解かないと!」
「何があったんだ?」
今日も今日とて部室へと向かう斑目、サークル棟の前で異変に気付いた。
部室の窓に、雨戸を閉めたように板が打ち付けられていたのだ。
部室の前には、スーと荻上さんが立っていた。
そして部室からは、ドアを叩く音と共に絶叫が。
「開けろー!開けてくれー!」
斑目「朽木君の声だ(2人に)何があったの?」
荻上「あっ斑目さんこんちわ。スーちゃんが『あしたのジョー』にはまっちゃって…」
スー「朽木ヲばんたむ級マデ減量サセルデアリマス!」
斑目「死ぬって朽木君!」
まだなのかのう、アクセス規制の解除。
いい加減そろそろ、クッチーもパソコンの前でキレてる頃だな。
>2029年・斑目家のお正月
亀だが、「あしたのジョー2」を見てて、ふとこの話の田中夫婦の2029年の姿に思いを馳せた。
大野さん、40過ぎたら巨乳はともかく、かなり太目になるだろうね。
実在の人物で言えば、70年代頃の春川ますみをひと回り巨乳にしたような感じか。
一方田中はハゲ始めて危ないとなると、あと数年でツルッパゲか。
となるとこの夫婦、終盤でマンモス西が婿入りする、食料品店の経営者夫婦みたいになるんだろうな。
>455
コスプレをやり続けるために体形維持には全力を尽くしそう。>大野さん
457 :
御宅人:2009/03/21(土) 12:53:54 ID:???
>>439です。
SSスレの本筋とは全く関係ないけど、昨夜の必殺仕事人2009は凄かった。
・通り魔の狂気(最初のカットは鳥肌)
・まるで実相時アングルのような映像美
・仕事人の心得を説教される若手
・仕事をしくじり、ただの殺戮になる展開
・後のない追い詰められた状況で「つづく」
前期必殺にもあまり無いようなハードな展開でした。
叱咤激励なんて偉そうなこと書いて悪かった。
この本気をもっと見せてくれ!
458 :
御宅人:2009/03/21(土) 12:54:45 ID:???
チラ裏すみません。
SS投下する時にまた参ります。
保守テスト
こんばんわ、ようやくアクセス規制が解除されました。
本日は11スレほど投下しようと思うのですが、途中で連投規制かかるかも知れませんので、その際はちょっと間を置いて再開しますので、そのようにご理解下さい。
さてお話は、例によって現視研1年生たちの飲み会兼反省会が、撮影7日目の回想をしていた続きです。
では。
再び居酒屋。
日垣「でももっと分かりにくかったのは、スーちゃんのあれだよな」
豪田「あれは分かりにくかったわね」
巴「さすがにあの時は、みんな凍結しちゃったもんね」
有吉「でもあの女子アナの人、ちゃんとこけてたな。あの人の歳だったら生まれる前か、記憶に無いぐらい幼い頃の話だと思うんだけど…」
元々映画のきっかけがスーのクルルコス希望だったこともあってか、金髪でロリ顔美少女の外見が話題にしやすいと判断したせいか、女子アナの人が最も注目したのはスーだった。
台場からスーがアニメや漫画の台詞の物真似が上手いと聞いて、それを期待してスーにマイクを向けた。
だがスーが放ったのは、こんなひと言だった。
「コンバンワ、らっしゃー木村デス」
反応してこけたのは、テレビ局のコンビと、プロレスにも詳しい有吉だけであった。
有吉「何でスーちゃん、こんばんわ事件なんて知ってるんだ?」
こんばんわ事件とは、1981年の田園コロシアムでの新日本プロレスの興行で、倒産した国際プロレスから参加したラッシャー木村が、リング上で観客に挨拶したことである。
これが観客の失笑を買ってしまった。
当時の新日本プロレスは日本人同士の軍団抗争が盛んで、リング上には殺伐とした空気が蔓延していたからだ。
だからファンは「猪木ぶっ殺すぞ、この野朗」みたいなコメントを期待していた。
これに対し常識人(?)であるラッシャーは、「人様のリングに初めて上がるのだから」と普通に「こんばんわ」と挨拶した。
このミスマッチが失笑を生み、ビートたけしがこれをギャグとして広めてしまったのだ。
結局スーへのインタビューは、台場が間に入って「ケロロ軍曹」のメインキャラ全員の台詞の物真似をやらせることで、何とか体裁を整えた。
再び居酒屋。
有吉「何でスーちゃん、わざわざこんばんわ事件なんてセレクトしたの?」
スー「押忍!テレビを意識して、一般向けのネタをセレクトしたつもりだったのですが、問題あったでありますか?」
浅田「いや今じゃ一般的じゃないよ、80年代のプロレスネタは…」
台場「まあ何はともあれ、みんなのおかげで、映画のプロモーションは大成功だったわね」
浅田「プロモーションって言っても、深夜のニュースでの10分足らずのコーナーだったけどね」
伊藤「しかもテレビ奥東京限定ですニャー」
沢田「2時間近くも撮影中断した代償としては、知れてると思うけど」
台場「ハハハハハハ…(笑って誤魔化す)」
テレビ局の2人が帰った直後、撮影は再開された。
シーン18-Bからシーン22にかけての通しの撮影の段取りは、次の通りだった。
先ずケロン人スーツ着用の荻上会長、ニャー子、国松、そしてハルマゲドンバージョンのモアコスのアンジェラが部室の外で待機してる状態で、シーン18-Bを撮影する。
カプセルが開いて煙が噴射し、煙が出切った所で1度カメラを止める。
そこですかさずカメラの背後で待機していたクッチーがカプセルの向こう側に移動し、煙の中でしゃがみ込んだ所から再びカメラを回す。
そしてクッチーが立ち上がりつつベムの目を点灯させ、両手を上げて威嚇のポーズを決めた所でシーン18-Bは終了となる。
その直後、扇風機をフル回転させて煙の大部分を追い出し、入れ替わりに外で待機していた4人が部室に入る。
そして入り口から見て左手のセットの壁に設置された、クルルズラボのドアの向こう側に、有吉と日垣と共に入る。
この間にクッチーはセット中央に、撮影スタッフはセットの右側に配置を移動し、後はシーン22の撮影にそのまま突入という流れだ。
わざわざこんな通しの撮影にしたのは、何度もバルサンを焚いたり排気したりするのが面倒な為であった。
シーン22は煙無しでもよかったのだが、ベム復活直後に小隊の面々が駆け付けたという状況を強調する為に、敢えて煙を少し残したのだ。
わざわざ排気して煙を減らしたのは、煙の中で複数のスーツアクターが動き回るのが危険なことと、モア役のアンジェラはマスク無しで演技する為であった。
小隊の面々を後から部室に入れたのは、単純にスーツでは暑さと煙の中では長く持たないという理由からだ。
それを言い出したらクッチーはもっと大変なのだが、実は通しの撮影で行くことを主張したのはクッチーだった。
彼は今回の撮影の準備を手伝う過程で、特撮の準備がいかに手間かということを実感した。そこで最も準備の手間が少なく、効率良く撮影出来る、通しの撮影を推したのだ。
「僕チンは男の子だから、少々長くスーツ着てても何とかなるにょー」
以前炎天下で1時間着て動き回った時のことを思えば、わずか数分の撮影など、彼にとって大したものではないと思えたらしい。
有吉と日垣が一緒に入るのは、2人がドアを開ける為だ。
本来クルルズラボの扉は、上に持ち上がるように開くのだが、今回は自動ドアであることを強調する為に、わざと両開きの引き戸の形にした。
それを2人で両側からタイミングを合わせて開くのだ。
この扉の方式を豪田にリクエストしたのは国松だった。
ウルトラシリーズの歴代怪獣攻撃チームの作戦司令室のドアが、この方式だったからだ。
なお余談になるが、昭和天皇は戦後になるまで、世の中のあらゆる扉やドアは自動的に開くものだと思われていたそうだ。
つまり、常にお付きの人が陛下の死角で開けていた訳である。
ちなみにシーン22のシナリオは、次の通りであった。
(注)正式な脚本の書式では読みづらいので、SS風の書式で表記しました。
まだ蘇生時に発生した煙が残る室内に立つ、ホムンクルスのベム1号。
部屋のドアが開き、ケロロ、タママ、ギロロ(銃を持ってる)が入って来る。
ケロロ「何事でありますか!?(ベムを見て)ゲロッ!?」
ギロロ「何なんだ、こいつは?」
クルル(声)「どうやら圧縮されていた細胞が、何らかのショックで蘇ったみたいだな。錬金術による人工生命体1号、さしずめベム1号とでも呼ぶか、ク〜クックックッ」
ケロロ「ベムとは何ゆえでありますか?」
クルル(声)「ペコポンでは昔は宇宙生物をそう呼んだのさ」
タママ「あのう、ショックってどんなショックですかあ?」
クルル(声)「例えば強い光とかな」
ケロロ「強い光…ゲロッ?まさか!」
ケロロの脳内フラッシュバック。(シーン14再現)
ストロボを焚いて、タイムカプセルの写真を撮るケロロ。
(注)この頃ケロロは写真に凝っていて、フィルム式の一眼レフを愛用していた。
クルル(声)「おそらくそのまさかだろうな、ク〜クックックッ」
ギロロ「(ケロロに)またお前か〜!」
ケロロ「とっ、とにかくやっつけるであります!」
タママ「(身構えて)はいです〜!」
ギロロ「(銃を構え、タママと同時に)おう!」
「待ちな、人の部屋ん中でドンパチやられちゃ困るぜ〜」
ケロロ「ゲロッ?ならどうするでありますか?」
再びドアが開き、擬態解除したモアが入って来る。
そのままベムに向かって走って突進する。
クルル(声)「クルル時空に叩っ込んでやんな!」
モア「はいっ、ハルマゲドン1億分の1!」
フルスイングでルシファースピアをベムに叩き込むモア。
(注)このシーンの間、様子見の為かベムはおとなしくしていた。
恵子「いいか、とにかく落ち着いて、慌てずにひとつひとつ丁寧に行けよ!」
一同「はいっ!」
伊藤「ではシーン18-Bとシーン22、通しでの撮影の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意、スタート!」
シーン18-Bの撮影は、タイムカプセルを入り口から向かって右側の壁寄りの床に置き、カメラ他撮影スタッフは、全員部室の中央付近に位置して行なわれた。
全員ガスマスクを着用している。
小道具係の日垣が、恵子のスタートの合図に合わせて、タイムカプセルから伸びたコードの先に付いたスイッチをオンにする。
夜光塗料を塗られた、カプセルの蓋の覗き窓が一瞬照明の照り返しで光り、次の瞬間パカットと勢い良く蓋が開き、煙を噴き出した。
やがて煙の噴射が止まり、部屋いっぱいに煙が充満する。
恵子「よしっ、カメラ止めて待機!クッチー、出番だ!」
朽木「了解であります!」
スタッフの背後で待機していたベムスーツ姿のクッチーが、入り口から向かって右側の壁際、つまりスタッフから見てカプセルの向こう側にしゃがみ込む。
恵子「よしっ、撮影再開!」
恵子の合図に合わせてカメラが再び回り、クッチーは合図から三秒置いてゆっくりと立ち上がる。
そして威嚇するかのように両手を挙げ、同時に点灯スイッチ(今回の撮影用に掌の中に移した)をオンにして目を光らせ、「ガア!」と咆哮を上げる。
恵子「よしカット!すぐに換気だ!」
有吉が部室のドアを開けに走り、日垣が扇風機を全機フル回転させ、手の空いた者がうちわや下敷きであおいで煙を追い出しにかかる。
その間伊藤がクッチーの背中のファスナーを開け、コールドスプレーをかけてやる。
それと並行して、台場がベムのマスクの繋ぎ目からストローを差し込んで、クッチーにス
ポーツドリンクを飲ませてやる。
煙と入れ替わるように、小隊役の3人とアンジェラが部室に入って来る。
視界が確保出来る程度には排気が済んだものの、ある程度の煙が残っているのでアンジェラが軽く咳き込む。
恵子「大丈夫か?」
スーツのマスク部にガスマスクのフィルターを貼り付けたスーツアクター組と違い、モア役のアンジェラは素顔のままだ。
アンジェラ「大丈夫あるね。それに咳き込んだ方が、却って煙の中に入ったことが強調出来るあるよ。てゆーか撮影続行?」
恵子「わーった。全員すぐ次のシーンの準備にかかれ!」
ケロロ小隊役の3人とアンジェラ、それに有吉と日垣は、共にクルルズラボのドア(部屋の左側に位置する)の向こう側に入る。
クッチー扮するベムは部屋の中央に移動し、撮影スタッフは部屋の右側に移動する。
伊藤「では撮影を再開し、シーン22の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意スタート!」
再び居酒屋。
沢田「結局何回撮り直したっけ?」
神田「(記録ノートを出し)えーと10回ね」
伊藤「あの時のNG、凄く細かい理由でしたニャー」
有吉「確か1回目は、僕が扉開くのが少し遅れたことだっけ?」
国松「確か2回目は、私が少し出遅れたせいだったわね」
巴「で、3回目はニャー子さんがこけちゃったせいだったわね」
豪田「そこまではまだ良かったんだけど、その後が大変だったのよね」
アンジェラ「そうそう、特にミスタークッチーが1番大変だったあるね。てゆーか七転八倒?」
浅田「今回に限っては正解だね、その四文字熟語の使い方」
3回のリテイクでようやくオッケーとなったが、そこで恵子が爆弾発言をした。
「なあ今のシーンさあ、予定じゃモアがベムをどついたとこまでで終わりだけど、ベムが吹っ飛ぶとこまで撮らないか?」
一瞬一同が呆然とする中、いち早く国松が反応した。
「いいですね、それ!その方が、その後のベムがクルル時空に吸い込まれる特撮シーンとの繋がりも、スムーズになりますし」
荻上「でも、それじゃあ朽木先輩が持たないでしょ?」
その時豪田が、部室の外に出してあった岩型のマットを持ち込んで来た。
豪田「大丈夫ですよ。これに向かって飛び込むようにすれば」
有吉「(アンジェラが持っているルシファースピアをいじりつつ)でもこれで吹っ飛ぶほど殴られたら、朽木先輩だってきついでしょ?」
アンジェラの扮するアンゴル・モアは、ルシファースピアという杖のような道具を、杵(この場合は棍棒状のタイプのやつ)のように使って叩くことで、星を破壊する能力がある。
ルシファースピアは、棒の片方の端に三日月型の刃(と思われるが、実際は単なる飾りかも知れない)、もう片方の端には隕石状の球が付いている。
星を破壊するのに使われるのは、隕石状の球の方である。
小道具係の日垣は、ルシファースピアを作る際、先ず樹脂でベースになる軸を作り、外側を溶かした硬質ゴムで固めて作った。
叩き付けても壊れない丈夫さと、叩かれた方が怪我しないようにとの配慮から、こういう作り方をしたのだが、それでも生身の人間が叩かれれば、けっこう痛い。
朽木「その点ならば大丈夫、僕チン道場ではメディシンボールで鍛えてるから、これぐらいでは堪えないにょー」
(注)メディシンボール
ボクサー等が腹筋の打たれ強さを鍛えるのに使う、中に鉛の入った皮製のボール。
このクッチーの安請け合いが、地獄の撮影を招いた。
「にょ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
岩型のマットのところまで、クッチーは2メートル近く吹き飛んだ。
そしてマットの後ろから支えていた、手の余っている会員たちは、セットとクッチーに挟まれて圧殺される破目になった。
アンジェラの怪力で思い切り突き込まれたルシファースピアは、クッチーの予想以上に破壊力があった。
先程までの、突いたところでカットする形だけの突きと違い、本気のアンジェラの突きは、重量級の空手有段者の突き蹴り以上に重かった。
だが恵子はなかなかオッケーを出さず、結果クッチーは4回吹き飛ぶ破目になった。
さすがにクッチーが堪えたこともあり、しばし小休止となる。
神田「大丈夫ですか、クッチー先輩?」
朽木「(着ぐるみを脱いで寝転び)まあ、何とか…」
国松「監督、今のじゃダメですか?クッチー先輩、けっこう派手に飛んで、画的には十分だと思いますけど」
恵子「うん、クッチーはあれでいいと思うんだけど、アンジェラの方がな…」
アンジェラ「私何か問題あるあるか?」
恵子「問題ってほどのことじゃねえんだけど、その何と言うか…」
しばし考え込む恵子。
沈黙で見守る一同。
恵子「分かったぞ!突くから地味なんだ!」
日垣「いや、十分派手だと思いますけど」
恵子「クッチーのリアクションはな。だがアンジェラのアクションとしては、あれじゃ足りねえよ」
荻上「じゃあどうするんです?」
恵子「バットみたいに振ればいいんだよ、フルスイングで」
固まる一同。
台場「それやると、いくらクッチー先輩でもきついのでは?」
恵子「でーじょーぶだよ、なっクッチー?」
朽木「(上体を起こし)まっ、まあ何とか…」
さすがにやや弱気になるクッチー。
そんなクッチーに恵子は近付き、肩に腕を回す。
ドキリとするクッチー。
恵子「次の撮影からはさあ、腹どつきに来る棒の先の球じゃなくて、アンジェラの方を見てろ」
朽木「アンジェラをでありますか?」
恵子「そうだ。そしてどつきに来る球の方は、鞭か何かだと思い込むんだ」
朽木「鞭でありますか?」
恵子「そうやってよーく考えてみろ。金髪で巨乳の美女に、鞭でしばかれる。そういう状況って、お前さんにとっては、けっこうおいしい状況なんじゃないか?」
しばしの沈黙の後、クッチーの中で大きく脈打つものがあった。
朽木「なるほど確かに、これは凄まじい萌えシチュエーションですな!」
一同「(引いて)そうなのか?…」
恵子「そうだろ?どうだ、元気出たか?」
朽木「イエッサー!」
そして再び撮影は開始されたが、またもやNGが2回連続で出た。
ルシファースピアが長い為に、バットのように振るには思った以上に間合いが必要で、立ち位置を決めないままスタートしたせいもあり、上手く球の部分が当たらなかったのだ。
(注)ルシファースピアはモアの身長ぐらいの長さがあるが、原作の設定によれば、モアの身長は150センチ。
だが結果的に、このことがクッチーの士気を高めた。
2回のNGは棒の部分が当たってしまったのだが、棒の部分にも硬質ゴムが張られていたので、スーツ越しに当たる分には、鞭に近い感触になるのだ。
金髪巨乳美女に鞭でしばかれるという状況に、すっかりクッチーは気を良くし、ハアハアしつつピーもピーな状況になり、先程までのダメージから回復しつつあった。
気を良くしたクッチー、とんでもない提案をする。
「こうなったら女王様、じゃなくて監督、思い切ってわたくしの顔にいただけませんか、愛の鞭を?」
さすがに引く一同。
巴「うわあクッチー先輩、すっかり目的を見失ってる…」
だが恵子はノリノリだ。
「よっしゃよく言ったクッチー!それでこそ男の中の男だ!」
一同「そうなのか?」
恵子「アンジェラ、次は思いっきし顔に行ったれ!」
アンジェラ「てゆーか鉄拳制裁?」
そして10回目のリテイク。
「にょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
顔面にルシファースピアがジャストミートし、クッチーは見事に吹き飛んだ。
吹き飛んだクッチーはマットを飛び越えてセットに直撃し、セットを破壊してさらにその裏にあった部室の窓を突き破り、部室の外まで飛んで行った。
一同「クッチー(朽木)先輩!」
会員たちは、クッチーの後を追って部室の外へと向かった。
一方で恵子は、冷静な判断力でカメラマンたちに問うた。
「お前ら、クッチーが吹っ飛んで、セットぶっ壊したとこまでカメラ回してたか?」
カメラマンたちも冷静だった。
カメラ一同「はいっ!」
浅田「でも今のカット、吹っ飛んだ瞬間はともかく、セットの壊れたとこは、さすがに本編では使えないですね」
その問いに、恵子よりも早く答える声があった。
「大丈夫、メイキング映像の目玉になるから!」
声の主は、冷静な計算と熱い商魂が同居した、鋭い眼光を放つ台場であった。
部室の外へ一同が出てみると、クッチーは痙攣していた。
急いでスーツのマスク部分を脱がせて、問いかける国松。
「大丈夫ですか、クッチー先輩!?」
だがマスクの下にあったのは、恍惚とした表情のクッチーだった。
引いている一同を尻目に、クッチーはすっくと立ち上がり、高らかに宣言した。
「ふっか〜〜〜〜〜〜つ!!!!」
呆然とする一同。
浅田「何で復活するの?」
みんなが忘れかけていた設定を解説するスー。
「(政宗一成似の声で)朽木学ハ女性ニ殴ラレルコトニヨリ、3倍ニぱわーあっぷスルノダ!」
こうしていろいろあった、長い長い7日目の撮影は、ようやく終了した。
本日はこれまでです。
やはり前書き入れて10レス目で、連投規制がかかってしまい、結局3時間近くの中断を挟んでの投下となりました。
続きはまた来週の結末に投下する予定ですが、下書き的な原稿は上がってるので、平日でも校正が出来次第投下するかも知れません。
追伸
下書きの原稿が、今日で400レスに達しました。
でもまだ未完です。
ではまた。
祝日本優勝
主な書き手の人は2〜3人程度のようだが、他の人々は元気だろうか?
原作終わってだいぶ経つけど、よく続くよね。
30人は週末にがっつり読みます。乙です。
まとめサイトが更新されない…
管理人の人、足洗っちゃったのかな?
人それぞれ仕事で忙しかったり、同人で忙しかったりするもの。
まとめの人も忙しいんだと思うよ。
久しぶりに投下します。
短いですよ〜。
479 :
「妄想」1:2009/03/28(土) 03:38:07 ID:???
『表』
「あっちー」
斑目は手に持ったアイスバーをかじりながら一言呟いた。
スザンナの部屋で二人きり。
なのは良いが、暑がりの斑目にとって、この部屋は少々暑い。
けれどスザンナにはこれが適温なのだ。
家主にクーラーの温度を下げてくれと頼んでも聞き入れてもらえず、代わりにと手渡されたのがこのアイスバー。
食べ終わったらどうするのか、ここに居る間中食べ続けなければならないのか、という斑目のツッコミも、スザンナの「ジャア帰ル?」の一言で飲み込まれた。
「……」
スザンナの部屋にあった未読の漫画を読む斑目の手が止まった。
顔を上げると、少し離れて同じ様に漫画を読んでいたスザンナが自分をジッと見つめている。
「?」
斑目が不思議に思っていると、スザンナが口を開いた。
「一口チョウダイ」
半分程に短くなったアイスバーを指差すスザンナに、斑目はひとつ頷いて手に持ったそれを差し出す。
それを見て、一メートル程離れた場所に座っていたスザンナが四つん這いの形で斑目の方へと近づいて来る。
480 :
「妄想」2:2009/03/28(土) 03:41:03 ID:???
手を伸ばしてそれを受け取るものだと思っていた斑目がキョトンとする間も無く、スザンナが手に持ったままのアイスバーに舌を寄せた。
「ンッ」
下に落ちそうになっていた滴を掬い取り、更に上へと舌を動かす。
ペロペロとアイスバーを舐めるその姿に、思わず斑目は食い入る様に視線を注ぐ。
溶けた部分を全て舐め取り、次にスザンナは口を開いてアイスバーの先端へと狙いを定める。
小さな口を思い切り開いてゆっくりと納められるそれは、既に斑目の脳内で自らのナニと化していた。
カプリッ。
(うおおおおおおおっ!!!)
スザンナがナニを、いや、アイスバーを口に含んだ瞬間、心の中で歓喜の雄叫びを上げた斑目の耳に、無惨な音が響く。
ボキンッ!
歯で折られ、更に短くなってしまったアイスバーが斑目の視界に映る。
反射的に自分の股間を反対の手で押さえてしまう斑目。
何を考えていたのか一目瞭然だが、直ぐに元の体勢に戻ったスザンナはそんな斑目を見てはいなかった。
斑目は軽くかいた冷や汗を拭いながら、バレなかった事に胸を撫で下ろす。
又アイスバーを食べながら漫画を読み始めた自分へと向けられるスザンナの笑みに気づかないままで……。
『裏』へ続く。
481 :
「妄想」3:2009/03/28(土) 03:42:39 ID:???
『裏』
部屋が少し暑いと言う斑目に用意してあったアイスバーを手渡しながら、スザンナは内心ほくそ笑んでいた。
素直にアイスバーを食べながら漫画読むその姿を気づかれない様にチラチラと盗み見る。
涼を取る為に食べているせいで一気にかじりつけない斑目は、少しづつそれを口に含みながら時おり手に垂れそうになるアイスを舐めていた。
スザンナはそれをドキドキと胸を高鳴らせながら見ている。
彼女が手にしている漫画。一見表紙は普通の物だが、中身はハードなホモ漫画だ。
スザンナがそんな漫画を読んでいても斑目は気にしないが、今日ばかりはバレない物をチョイスした。
それを読みながら、斑目のアイスバーを食べる姿に漫画の内容を重ねる。
アイスバーはスザンナの脳内で知らぬ誰かのナニと化す。
まさか付き合っている彼女に視姦されているとは知らない斑目。
「?」
ふと顔を上げた斑目がスザンナの視線に気づいて不思議そうな顔をする。
一瞬バレたかと緊張したスザンナだったが、そんではないと分かり誤魔化す為にアイスバーを指差した。
「一口チョウダイ」
終わり
どっちもどっちと言うか……。
ベタネタをちょっと捻ってみた。
こんな時間にリアルタイムGJ!
短いのもいいですね。3レス目のオチも相変わらず
斑目ウラヤマカワイソスでよいよいw
裏と言われたので反射的にエロパロ行こうとしたん
ですが踏みとどまってよかったwww
むしろ数字板ですねわかります
何たる似た者カップルw
こんばんわ。
今夜は9スレお届けします。
では。
「(井端珠里似の声で)駅カラ5分ハ実ハ15分!ソレジャアそるじゃード疲レサン!〜♪」
スーが歌っているのは、ケロロ軍曹の主題歌「ケロッ!とマーチ」である。
何故彼女が歌っているかと言うと、ここはカラオケボックスだからである。
クランクインから10日目に開かれた、現視研1年生たちの飲み会兼反省会は、7日目の反省がまとまった所で居酒屋の閉店時間となった。
あと2日分(9日目は撮休だった)なので続きをやってしまおうということになり、近場のカラオケボックスで2次会と相成った訳である。
そんな次第で、8日目以降の飲み会兼反省会は、アニソンのBGM付きという賑やかな状況になった。
沢田「やれやれ、寝るのは何時になることやら」
豪田「まあ若いんだから、少々睡眠不足でもいいけど、お風呂は入りたいわね」
国松「その点なら大丈夫。近くに健康ランドあるし、少し歩いたら5時から朝風呂やってる銭湯があるわよ」
台場「あんた朝まで居る気か!?て言うか、その手の一升瓶は何だ!?」
アンジェラ「てゆーか用意周到?」
有吉「まあまあ、時間も無いことだし本題に戻るよ。結局7日目は撮影が夜まで延びちゃったから、8日目の準備は当日の朝になっちゃったんだよね」
巴「お疲れ様、蛇衣子」
豪田「まああの日のは大したこと無かったから。壁入れ替えて、カーペット敷いて、家具セッティングするだけだから、手のかかる調整は無かったし」
伊藤「いやそれでも大したもんだと思うニャー。どう見てもセットに見えなかったし」
8日目もまた部室にセットを組んでの撮影が行なわれた。
ケロロの部屋のセットだ。
当初ケロロの部屋は、誰かの部屋でロケする予定だった。
だがケロロの部屋には、一般家屋のオタルームで再現することが困難な特徴が2つあった。
1つは部屋に窓が無いことだった。
ケロロの部屋は地下室で、当然窓が無くドアも1つなので、三方を壁に囲まれている。
ところが一般的な日本家屋の部屋には、大抵窓がある。
和室が隣接してて障子で区切ってある、通り道のような部屋ならば窓が無い場合もあるが、その場合は戸が2つ以上あって、ますますイメージがケロロルームから遠ざかる。
だがそれだけならば、窓を板で塞ぐことで解決出来る。
もう1つ、浅田と岸野があちこちロケハンして気付いた思わぬ盲点は、部屋の広さだった。
ケロロの部屋は意外と広い。
と言っても、実際には四畳半か六畳程度である。
ケロロは地下の基地内に、専用の展示室と保管庫を作って、そこに大量のガンプラコレクションを保管しているので、自室のガンプラの陳列数は意外と少ない。
漫画本やビデオテープ(ケロロは今でもけっこうビデオテープを使っている)やDVDについても同様なので、ケロロの部屋はオタルームとしては物が少ない。
そしてケロロの体は普通の人間の3分の1程度の大きさしかないので、ベッド等も当然小さい。
その為、本来さほど広くない自室が、普通の人間なら考えられないほど広く使えるのだ。
これに対し、会員たちの自室のオタルームは狭い。
大抵元々が三畳か四畳半程度しかない上に、オタグッズとオタメディアで埋もれている。
仮に必死で片付けても(中身を外へ出しても)ケロロの部屋の広々感は再現出来ない。
そこで部室を使って再現することになったのだ。
(まあそれにしても、カメラワークを駆使して誤魔化すことになるが)
この日撮影したのは2シーンだけであった。
6-B 相変わらずガンプラ作りに耽るケロロ
19 ガンプラ製作中にベム復活し、その振動に驚くケロロとタママ
本来はシーン19の前後に、ギロロのリアクションとクルルと冬樹のリアクションを入れる予定だったが、それらのシーンは欠番になった。
話の展開のリズムを早める為と、仮にも主人公であるケロロの出番を強調する為に、リアクションのシーンをケロロに集中させたのだ。
このシーンの撮影に備え、荻上会長はガンプラ作りの特訓を行なった。
先ずは自宅で数個作り、次には部室に田中を招き、プロ級とまでは行かぬまでも初級ぐらいのテクニックを学んだ。
まあもっとも部室でのガンプラ特訓は、結局のところ会員全員でのガンプラ講習会と化してしまったが。
たかが十数秒程度のカットの為にここまでの特訓をしたのは、ケロロのスーツを身に着けてのガンプラ作りが意外と難しいからだ。
ケロロのスーツは、頭部の覗き窓と目との間隔が広いので、慣れないと距離感が掴みにくい。
それに着ぐるみなので、当然手は手袋を着けた状態になる。
ケロロのスーツの手には、軽作業用の薄手の手袋を染料で染めたものを使用している。
軍手ほどはぶ厚くない、細かい作業用に使われるタイプのものだ。
そのタイプのものですら、手袋着用ではケロロのように器用に組み立てることは難しい。
その為荻上会長は、手袋着用でのガンプラ特訓、そして最終的にはケロロのスーツ着用でのガンプラ特訓を実施し、遂には本物のケロロ顔負けの器用さで作れるようになった。
「どういうことなの?!」
撮影開始直前、荻上会長は珍しく大声を上げた。
当初の予定では、この日の撮影用のガンプラは、小道具担当の日垣が途中まで組んだ物を(2シーンの撮影用なので)2種類用意しているはずだった。
だが実際に途中まで組んだ物が用意されたのは1種類(オーソドックスにRX-78-2ガンダム)だけで、もう1つは新品の手付かずのガンプラだった。
しかもその新品とは、先月発売されたばかりのマスターグレードシリーズ、RB-79ボールのシャークマウス仕様だった。
珍しく声を荒げた荻上会長にたじろぎつつ、日垣は事情を説明した。
「実は昨日監督から電話があって、片方は丸々残しとくように指示されたんです」
荻上「恵子さんが?」
日垣「ええ」
荻上「どういうことかしら?…」
この時、他の会員たちは集まっていたが、恵子はまだ来ていなかった。
沢田「それよりガンダムはともかく、何でもうひとつはボールなの?」
有吉「しかもシャークマウス仕様なんて、えらくマニアックなバージョンを…」
シャークマウス仕様のボールは、2004年から2006年にかけて発売された、OVAシリーズの「MS IGLOO」で初登場なので、現視研でも知らない者は多かった。
日垣「それは台場さんの指示なんだよ」
国松「どゆこと、晴海?」
台場「ほら、それこの間発売されたでしょ?著作権のことで角川さんに交渉に行った時に頂いて、頼まれちゃったのよ。これ映画で使ってって」
一同「タイアップかよ!」
アンジェラ「てゆーか商業主義?」
「おう、みんな揃ったか」
そこへ遅れて恵子がやって来た。
荻上「ちょっ、ちょっと恵子さん…」
どういうことかと問い詰めようとする荻上会長を無視して、恵子はテーブルの上に用意されたガンプラに注目した。
恵子「ありゃ?日垣、ガンダムの方作りかけちゃったのか?」
日垣「あれっ、違いましたっけ?」
恵子「あちゃー、ほんとはガンダムの方残しといて欲しかったんだけどな」
日垣「すんません」
恵子「ま、いいや。これはこれでオタっぽくなって、却ってケロロ向けかも知んないし」
荻上「それより恵子さん、どういうことなんです?」
恵子「何が?」
荻上「何でこのガンプラ、丸ごと残したんですか?」
恵子「ああ、それね」
ようやく荻上会長の苛立ちに気付いた恵子、ガンプラの箱を開けてパーツをいじりつつ、説明を始めた。
恵子「前に晴海が言ってただろ?学祭以外にも、いろんなイベントとかコンクールとかに映画出したいから、ビデオと8ミリと両方あった方が都合がいいって」
荻上「そう言えば、そんなこと言ってましたね」
恵子「それで思い付いたんだけど、そんなら映画撮影しながら、もう1本映画でっち上げちゃえないかなと思ってさあ」
一同「もう1本?」
恵子「姉さんがケロロの格好でガンプラ作る練習してるの見てたらさ、何かそれが画的に凄く面白い気がして来てさあ…」
荻上「?」
恵子「ケロロがガンプラ作るとこだけで、1本映画作っちまったら、何かシュールなのが出来そうな気がするんだよ」
思わぬ提案に固まる一同。
恵子「どうよ?」
真っ先に立ち直った台場、壁ぐらい貫通出来そうなほど強烈な眼光を放ちつつ、恵子の手を力強く握って言った。
「やりましょう!」
一同「うわあ晴海、また商人(あきんど)の目に…」
こうして8日目の撮影と同時に、ドキュメンタリー短編映画「ガンプラを作るケロロ軍曹」の撮影が行なわれた。
先ずはシーン19からだ。
床に作りかけのRX-78-2ガンダムのガンプラと工具類が置かれ、それを間に挟んでケロロ役の荻上会長と、タママ役のニャー子が座る。
カメラ側から見て、右奥にタママ、左手前に背中を向けたケロロ、そして2人の間にガンプラその他という配置だ。
伊藤「それではシーン19、ケロロの部屋の本番を始めますニャー」
恵子「3、2、1、用意、スタート!」
カチンコと同時に、ケロロは作りかけのガンダムを左手に持って右手でパーツをはめようとし、タママはその様子を覗き込むようなポーズを取る。
同時に記録係の神田がストップウォッチを動かし、3秒経過したところで叫ぶ。
「スタート!」
その声に合わせて、4人のカメラマンは両手を交互に上下するようにして、手持ちのカメラを揺する。
一方神田は、声を出して秒読みを開始する。
ケロロとタママは、神田のスタートの声に合わせて体を不自然に揺らし、ケロロはややオーバーなアクションで部品をはめ損ねた。
そして揺られながら声を上げた。
ケロロ「ゲロッ?」
タママ「(ケロロとほぼ同時に)タマッ?」
「ゼロッ!」
神田のカウントゼロに合わせて、カメラマン4人は一斉に動きを止めた。
それと同時にケロロは後ろを振り返り、タママも顔を上げた。
ケロロ「(振り返りながら)何事でありますか?!」
つまり最初にカメラを揺らしたことで、地下のクルルズラボでの、ベム復活による振動を表現し、その振動でケロロが部品をはめ損ね、驚いてリアクションという芝居の流れだ。
ちなみにケロロが最初背中を向けているのは、動きを大きくすることで少しでも主役を目立たせようという配慮だ。
(ストーリー展開の都合上、今回の映画ではケロロの出番は割と少ない)
恵子「カット!(少し間を置いて)オッケー!」
何度もリハーサルを繰り返したのが功を奏して、1発でオッケーとなった。
ほっとする一同。
(ちなみに神田の秒読みの声は、当然アフレコ段階で消すので、念の為)
昼食休憩の後、問題のシーン6-B兼短編ドキュメンタリー映画の撮影が再開された。
どのみち音声は物音以外カットするつもりらしく、撮影しながら恵子は次々と指示を出した。
その指示は恵子にしては、えらく細かく具体的だった。
恵子「ダメだよ姉さん、部品切っちゃ。先に色塗る機械で、枝ごと色塗っちゃわないと」
荻上「塗るんですか、これ?マスターグレードって、ちゃんと色塗ってるでしょ?」
恵子「ケロロなら塗るだろ色?あいつが出来合いの色で済ます訳無いし」
荻上「色塗る機械って、エアブラシなんか用意したんですか?」
恵子「その方が、全部筆で塗るよりは簡単だろ?」
マスターグレードシリーズのガンプラは、同じ色のパーツばかり1つのランナーに集めてあり、最初から色が着いている。
その為、ランナーからパーツを切り離す前の状態で、1つの色のパーツをまとめてエアブラシで塗装するという荒技が使える。
もちろんランナーとの連結部分だけ塗り残しが出来るが、それは切り離した後に細筆でレタッチして補う。
恵子「ダメだよ姉さん、ちゃんと接着剤使わないと」
荻上「これスナップフィットだから、接着剤要りませんよ」
恵子「そん代わり簡単に外れるんだろ?ケロロなら絶対接着剤使うし」
マスターグレードシリーズのガンプラは、接着剤無しで組み立てられる。
だが当然分解しやすいので、完成品として仕上げようとするマニアは、やはり接着剤を使用するのだ。
荻上「あちゃー!水転写デカール貼るの失敗した〜!」
恵子「姉さんの絵の腕なら、手描きで描けるだろ?」
荻上「何の為のシャークマウス仕様なんだか…」
シャークマウス仕様には、文字通り開いた鮫の口のようなペインティングが施されている。
マスターグレードシリーズでは、大きな水転写デカール(要は水シールだ)で、これを再現しているが、大きいだけに失敗すると大変なことになるのだ。
恵子は荻上会長だけでなく、スタッフにもあれこれと注文を出した。
「浅田、ケロロの顔アップにして!ヤブさんはガンプラの方をアップ!」
「岸野、頭の上からケロロ撮れ!他のカメラは、その間カメラ止めて待機だ!」
「加藤さん、悪りいけど腹這いになって、下からケロロ撮ってくれ!」
こうして何度かの休憩を挟み、シーン6-B兼短編映画「ガンプラを作るケロロ軍曹」の撮影は終わった。
今回のセットは、部室の半分ほどのスペースを使ってはいるものの、壁2枚と床だけという、簡素な構成であった。
そんな構造の為、今回に限っては部室にセットを組んだにも関わらず、冷房が使えた。
だがそれでも着ぐるみで頑張れるのは、せいぜい30分が限度であった。
最初に全体の大部分に色を塗ってしまう荒技が幸いして、上手く乾かす時間と休憩とをシンクロさせて、時間のロス無く作業は進行した。
ちなみに天井は部室の天井そのままだったが、どこから借りて来たのか、アンティークなデザインのバーなどによくある、羽根剥き出しの回転の遅い扇風機が回っていた。
扇風機はわずかしか映らないが、これによりケロロの部屋の雰囲気を醸し出していた。
撮影終了後、今日は特に出番も無く見学していた、大野さんが不意に言い出した。
「今思い出したんですけど、確か笹原さんって、ガンダム占いだとボールなんですよ」
「えっ!?」
完成したボールを見つつ赤面する荻上会長。
恵子「へえ、そうなんだ」
言いながら恵子は、ボールの砲身を軽く撫でた。
恵子「姉さん、今夜これでしちゃダメだよ」
ブッとなる一同。
荻上「(最大出力赤面滝汗で)しません!」
今でもこういうミス、時々やってしまいますなあ。
9スレじゃなくて9レスです、失礼しました。
さて、間に1年近い中断を挟んで、長々と続いた飲み会兼反省会、いよいよ次回で決着と相成ります。
100レス以上も続いた割には、チトしょぼかったかななオチと共に。
ではまた。
元気が何より
リアルタイムだと、明日でスーは4年生か。
進路はどうするんだろ?
国に帰るのかな?
日本で就職するのかな?
それとも大学院に行って、斑目同様部室の主になるのかな?
「げんしけん」の劇場版が作られるらしい。
てすと
ほしゅ
>「げんしけん」の劇場版が作られるらしい。
四月馬鹿ネタとはいえ、
もし劇場版なんか作ったら、
どんなモノになるんだろう?
新参置いてけぼりでいいから合宿2時間
こっそり見てます保守
「あしたのジョー2」を見てて、低賃金もしくは無職生活で、オタグッズの為に食費を削り、元々バンタム級ぐらいだったのに、ミニマム級まで階級落とした斑目を想像してしまった。
飯は食えよ、斑目。
げっそりして、水分不足で唇が腫れたままアキバを徘徊する斑目w
こんばんわ、またバカがやって来ました。
長々と続いた飲み会兼反省会編、今回で終了です。
11レスありますので、(多分途中で連投規制入るから)ゆっくりと参ります。
では。
再びカラオケボックス。
ちなみにBGMは、有吉が歌う「哀 戦士」であった。
日垣「結局あの日の監督の頑張り様って、何だったんだろ?」
国松「どうも監督、映像感覚的な『何か』が目覚めつつあるみたいな気がするんだけど」
浅田「と言うか、いろいろ試したかったみたいだな、監督」
一同「試す?」
浅田「せっかく短いのを1本撮っちゃうんだから、ついでにカメラアングルとか照明とかで、こうすればどうなるってのを改めて実験してたんだと思うよ」
巴「そう言えば監督、何かビデオで撮った分、熱心に何度も見返してたわね」
沢田「そうそう、マジ顔の恵子監督って、何か凛々しいのよね」
ちょっとウットリ顔になる沢田に引く一同。
だがそこでアンジェラがダメ押しをかける。
「何と言うか、男前な感じだったあるね。ミスター笹原そっくりだったあるよ」
一瞬固まった一同、声を合わせて叫ぶ。
「それは禁句だ〜!!!」
「一万年と二千年前から愛してる〜♪」
沢田と台場が歌う中、有吉が切り出した。
「さてと、ようやく今日の話に辿り着いたな」
110レス以上にも及ぶ回想を経て、1年生たちの反省会兼飲み会は、2次会に場所を移してから、ようやく撮影開始10日目に当たる今日の撮影の話にこぎ付けた。
伊藤「長かったですニャー、ここまでの話」
豪田「まあ厳密には、昨日撮休を挟んでるけどね」
浅田「とは言っても、結局俺ら1年生は神田さんちに集まって、撮影用の模様替えやってたけどね」
巴「こうやって振り返ってみると、ほんの10日間でいろいろあったわね」
スー「(納谷悟郎似の声で)地球カ、何モカモ皆懐カシイ…」
アンジェラ「てゆーか一日千秋?」
豪田「相変わらず、四字熟語の使い方が微妙に間違ってるわね…」
浅田「しかし今日はまいったよ。まだバルディオス全部見てないのに、また宿題もらっちゃったよ」
国松「浅田君のは何だっけ?」
浅田「『戦国魔神ゴーショーグン』だよ。国松さんは?」
国松「『太陽の牙ダグラム』よ」
有吉「またえらく長いのをもらって来ちゃったね」
国松「そんなに長いの?」
有吉「75話あるからね」
豪田「あれそんなにあったっけ?」
有吉「初心者にはちょっときついね」
国松「大丈夫よ。私1週間ぐらいで、ウルトラシリーズの2期全話制覇したことあるから」
日垣「…そりゃ頼もしいね」
ちなみにウルトラシリーズの2期は4年間に及ぶから、全部で207話ある。
10日目のロケ地は神田宅であった。
神田の家族は、この日留守の予定であったが、現視研の面々がロケ地である神田宅に訪れた時、神田の父は出かける直前であった。
神田「あれっ?パパ、今日出張じゃなかったの?」
神田の父は、大学生の娘の父親としては若く見えた。
見た目年齢は30代半ばぐらいだ。
中途半端な長髪に眼鏡にうっすらと無精髭という、いかにも古参のオタ風の風貌だ。
今日はスーツ姿だけに、その異質性が余計に強調されていた。
神田父「おおミッチー、出発前に本社でトラブルがあってね、その処理に追われてて、ちょっと出発が遅れたんだよ」
神田の父は、目ざとく浅田と岸野のカメラマンコンビを見つけた。
彼らはかつて、夏コミで神田作のコピー本を運ぶのを手伝う為に、神田宅に訪れたことがあった為、神田の父とは面識があった。
岸野「ども、ご無沙汰してます」
浅田「すんません、まだバルディオスは全部はちょっと…」
神田父「いいよいいよ。君たちには、まだまだ見なければならない作品、言い換えればお楽しみがまだまだ残っているんだ。ゆっくり見てくれればいいさ」
神田の父は現視研の面々を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
神田父「いやあそれにしても、思い起こせば早17年、あの頃は犯罪者予備軍のように言われ蔑まれて来たが、今ではこんなにも若き後継者たちが増えるとは…」
ポケットからハンカチを出して、涙をぬぐう神田父。
日垣「(小声で)17年前って、何の話?」
神田「(小声で)89年に起きた、宮崎勤の事件の話よ。パパの年代のオタには、あの事件がトラウマになってる人、たくさん居るのよ」
有吉「(小声で)まあ確かに、コミフェス会場でワイドショーのリポーターに、『ここに十万人の宮崎勤がいます』って言われたら、トラウマになるわなあ」
恵子「(小声で)何だい、その宮崎哲弥って?」
国松「(小声で)哲弥じゃなくて勤ですよ、監督」
国松は恵子に、小声で宮崎勤の事件について説明した。
だがその間も、神田の父のありがたいオタク講話は延々と続いていた。
場所を提供してもらう恩義もあって、ついつい拝聴し続ける現視研一行。
神田父「こうなれば、私の持つ知識、ぜひ君たちにその全てを伝承したいものだ。そしてそれがまた次の世代に引き継がれれば、もう思い残すことは無い」
神田「あのパパ、そろそろ出発しないとまずいんじゃない?」
神田父「おおそうだった!すっかり出張を忘れていた。では名残惜しいが今日はこの辺で」
ホッとする一同。
神田の父の話は、確かにオタクとして押さえておくべき、ありがたい内容ではあったが、残念ながらこれ以上聞き続けていては、映画の撮影の時間が無くなる。
神田父「では最期に君たちに、また宿題を渡しておこう。まあ映画の撮影で忙しいだろうから、返すのは何時でもいいよ」
スー「(サンボマスター似の声で)このまま何も残〜らずに〜あなたと分かち合〜うだけ♪」
浅田「で、再び宿題もらったんだよな。まあみんなは初めてだけど」
巴「そう言えば、ミッチーも何か宿題もらってたわね」
神田「うん、パパの持ってるビデオはあらかた全部見たけど、新しいのが入ったからって」
沢田「何もらったの?」
神田「『ジャングル黒べえ』」
一同「じゃんぐるくろべえ?」
神田「うん、30年ぐらい前の藤子アニメ」
国松「あっそれ知ってる。確か(ウルトラマン)エースとタロウの裏番組だったせいで、あんまし視聴率取れなくて打ち切りになったアニメじゃない」
日垣「何でそんなことまで知ってるの?」
その時、歌い終わったスーが、唐突に大声を上げた。
「ちょっと待つであります!何故そんなビデオが存在するんでありますか?」
神田「何故と言われても…どしたのスーちゃん?」
スー「『ジャングル黒べえ』は、主人公がジャングルの土人だった為に、現在では再放送もビデオ化もされてない封印作品であります!」
凍結する一同。
一同『どうやって手に入れたんだよ、そんなビデオ?』
結局10日目の撮影は、神田の父が出かけ、軽い昼食を終えた後に開始された。
神田の母は、前々から友人と約束していたというイベントに出かけており、神田の兄も相変わらず友人の家に泊まりこんでいるので、夕方まで神田宅には神田しか居ない。
この日撮影の予定だったのは、以下のシーンであった。
5 秋から正式に家政婦に任命されるケロロ
6-A 家事をするケロロ
11 帰宅した冬樹と会話するケロロ
12 呼び鈴に反応するケロロ
13 大きな箱を持ったタママが訪れる
14 居間で箱の中身(タイムカプセル)を説明するタママ
21 廊下を通り、異変に駆け付けるケロロ、ギロロ、タママ
「しまった〜!!!」
台所から食卓までのエリアを見ていた恵子が、突如声を上げた。
続いて浅田と岸野も、同時に声を上げた。
「あっ…!」
荻上「どうしたの?」
顔を見合わせる恵子、浅田、岸野。
3人とも滝汗状態だ。
3人はお互いの表情で、同じ問題に気付いたことを悟った。
自然に浅田が説明役を買って出た。
「俺たちは、とんでもないことを見過ごしてました」
荻上「どういうこと?」
浅田「ケロロの撮影に当たり、俺たちはケロン人役のスーツアクターと、ペコポン(地球)人役の俳優との対比に神経を使って来ました」
神妙な顔で聞く一同。
浅田「ここまではセットや屋外でのロケが多かったから、上手く誤魔化せて来たけど、今日の撮影は、日常の家具や道具とケロロとの絡みが中心になります」
ようやく事態に気が付き、息を呑む一同。
浅田「もうみんな気が付いたと思うけど、俺たちはケロロと日向家の家具や道具との対比について、何も対策が出来てないんです」
恵子「その通りだ。みんなすまねえ、こんな大事なことに今まで気付かなくて」
国松「そんな、監督のせいじゃないですよ」
日垣「そっすよ。今からひとつひとつ考えて行きましょうよ」
恵子「…だな。よし、とりあえずいろいろ試してみるか」
神田家の居間に来た現視研の面々。
神田「ケロロって、アニメでも掃除してるのって、大体ここか廊下か、あるいはトイレか風呂場よね」
沢田「ここだと普通、掃除機使ってたわね。シャアザクみたいな、羽根飾りの付いたやつ」
日垣「しまった〜!それは作ってなかったな」
荻上「いや、作っててもダメでしょ」
日垣「と言うと?」
荻上「ケロロって掃除機使う時、持つとこを肩にかつぐようにして持つじゃない。普通の掃除機でそれやったら短過ぎるし、かと言ってかつげるサイズのじゃ…」
日垣「周囲の家具に比べて、でか過ぎますね。ケロロも掃除機も」
恵子「しゃあねえな。家ん中の掃除は、ほうきか雑巾持たせて誤魔化そう。あと姉さん、ケロロに着替えといて。ケロロ並べてみねえと、感じが分かんねえから」
荻上「分かりました。神田さん、お部屋貸して」
ケロロと化した荻上会長を連れて、現視研の一行は神田宅内を巡り歩いた。
ついでに神田は、荻上会長に更衣室として自室を提供した際に、私物の原寸大ケロロ軍曹のフィギュアを持って来た。
荻上ケロロとの大きさの比較用だ。
恵子は各部屋で、ケロロに様々なポーズを命じ、ひとつひとつ確認して行く。
傍らでは記録係の神田が、恵子の指示に従ってメモする。
「トイレはケロロ入ったら、かなり狭そうだな。ここはボツだな」
「風呂場もダメだな。本物のケロロって、ほんと小さいんだな」
「流し使う時ってケロロ、踏み台使ってたよな。アップにして足元誤魔化すか」
「洗濯機もアップだな」
「廊下なら周りに物ねえから、何とかなりそうだな」
ひと回りしたところで、荻上会長の休憩も兼ねて、恵子の考えタイムになった。
しばらく神田にメモさせたノートを見ながら、あれこれブツブツ言いながら1人で考えていた恵子だったが、やがて口を開いた。
「聞いてくれ。すまんけどみんな、今日は多分ケロロが家事やってるとこだけになりそうだわ」
浅田「やっぱりそうですか」
岸野「まあ、しゃあないですよ」
荻上「とにかくひとつひとつ試してみて、画的に良さそうなの選んでつなぐしか無さそうね」
恵子「そゆこと。んな訳で、すまねえけどニャー子さん、アンジェラ、スー、有吉、千里、それに大野さん、多分今日は出番無いから」
大野「ま、しょうがないですね」
他のみんなも同意する。
恵子「そん代わり姉さん、今日は頑張ってもらうかんね」
荻上「分かってますよ」
再びカラオケボックス。
有吉「で、結局のとこ、今日ってケロロの家事シーンしか撮ってないんだよな」
神田「そう、シーンbナ言うと、6-Aだけ」
スー「隊長出ずっぱりっでありましたなあ」
沢田「スーちゃんいつの間にか、会長のこと隊長って呼ぶようになってない?」
国松「役になり切ってるのね。クルルはケロロのこと、隊長って呼ぶし」
沢田「じゃあ私も隊長殿って呼ぼうかな。私ドロロだし」
国松「私どうしよう。ギロロってケロロ呼び捨てだし」
アンジェラ「てゆーか芸人根性?」
浅田「何か話の主旨から外れて来てないか?」
結局10日目の撮影は、ケロロの家事のシーンの撮影に終始した。
ケロロと家財道具との大きさの差を誤魔化す為に、アップが多用されることになったので、撮られた画は次の通りであった。
・流し台で洗い物をするケロロ 背後から上半身のアップ
・流し台で洗い物をするケロロ 正面からのアップ
・洗濯機で洗濯をするケロロ 背後から上半身のアップ
・洗濯機で洗濯をするケロロ 正面から上半身のアップ
・庭で洗濯物を干すケロロ 背後から上半身のアップ
・庭で洗濯物を干すケロロ 正面から上半身のアップ
・ほうきで庭掃除をするケロロ
・廊下で拭き掃除をするケロロ
巴「それにしても、今日はカメラの人は大変だったわね」
豪田「そうそう。洗濯機動かして、壁と洗濯機の間に入ったり、庭に回って、窓の外から流し台の前のケロロ撮ったりで」
岸野「それ言い出したら、照明の君らも大変だったじゃない。狭くて人間入り切れなくて、腕目いっぱい伸ばしてライト当てたり、物干し竿にライトくくり付けてライト当てたりで」
台場「まあ確かに、傍から見てても狭そうだったわよね。台所と洗濯機の正面からのアップなんて、カメラマン4人1度に入れなかったから、結局2人ずつ交代で入ったし」
伊藤「僕も目いっぱい腕伸ばして、カチンコだけカメラの前に入れてた状態でしたニャー」
沢田「録音も、後ろから録るしか無かったし」
国松「でも1番大変だったのは、監督だったと思うわ」
浅田「やっぱり?」
国松「そりゃそうでしょ。あちこちアングル変えて、何回もチェックしてたし」
豪田「そうそう、あの大雑把な人が、凄い細かいチェックしてたもんね」
恵子が細かくチェックしていたのは、ケロロと家財道具との位置関係であった。
本来通常の人間の3分の1ほどの大きさしかないケロロに対し、現視研の撮影用の着ぐるみケロロは、人間と比べてむしろ大きい。
今までの撮影では、セットか外での撮影が多かった為、人間との位置関係とカメラアングルだけを考えていればよかったが、家の中だと着ぐるみの大きさが目立ってしまう。
そこでなるべくアップ中心にしたのだが、それだけでは画的に単調になってしまうので、庭と廊下の掃除のシーンでは、ケロロの全身がフレームに入るようにした。
だがそれとて、なるべく家財道具ともろに並ばないように立ち位置を工夫し、廊下の床掃除の際にはケロロをしゃがませ、徹底的にケロロが小さく見えるように注意したのだ。
巴「そん代わり今日の撮影、結局ケロロの家事だけで終了だったわね」
台場「しゃあないわよ。恵子監督も、何故か早目に撮影終わらせちゃったし」
巴「まあおかげで、こうして飲み会やれる時間が出来た訳だけど」
浅田「そう言えば監督、今日撮影した分持って帰ってたな。家で今日撮った分見るからって」
国松「監督やる気満々ね」
有吉「何か今日の撮影は、凄いことになりそうだね。そう言えば神田さん、今日もお邪魔して大丈夫なの?」
神田「昨日同様、誰もいないから大丈夫よ。パパは出張だし、お兄ちゃんは友だちの家に泊まり込んでるし、ママも今日もイベントだから、夕方まで帰らないし…あっ!」
突如大声を出した神田に注目する一同。
豪田「どしたのミッチー?」
神田「今何時?」
各々腕時計等を見た一同、やがて揃って声を上げた。
「あっ!」
スー「あと数分で、今日の日の出の時間であります!」
こうして現視研1年生たちは、徹夜明けで11日目の撮影に臨む破目になった。
撮影開始から11日目の朝、現視研の一行は再び神田宅に集合した。
「おはよう…みんな、どうしたの?」
明らかに寝不足(て言うか徹夜明け)の顔付きの1年生たちを見て、尋ねる荻上会長。
朽木「そう言えばみんな、今日は顔色が悪いのう」
大野「そうですね」
有吉「いっ、いえちょっと昨夜、終わってから1年生だけでミーティングやってて…」
荻上「神田さん、目薬ある?」
神田「多分救急箱にあると思いますけど」
荻上「悪いけど出してあげて。今日出番なのに有吉君もアンジェラも、目が充血してるし」
神田「分かりました」
有吉「すんません」
アンジェラ「てゆーか感謝感激?」
荻上「あとのみんなは大丈夫?」
伊藤「多分大丈夫ですが…(周囲を見渡し)あれっ、監督まだ来てないんですかニャー?」
荻上「(周囲を見渡し)そう言えば、まだ来てないわね」
その時玄関の扉が開き、恵子がやって来た。
「わりい、遅くなって」
「わっ!」
恵子の顔を見て、思わず声を上げる一同。
恵子もまた、明らかに寝不足の顔をしていた。
肌がかさつき、目の周囲にはパンダのように濃い隈が出来ていた。
眠いのに無理矢理目を開いてるような感じで、思い切り目に力が入っているので、いつもは垂れ目気味の目が少し吊り上がって、不機嫌そうな目付きになっていた。
荻上会長とその上の世代の2人は、マジ切れした時の笹原に似てるなと思ったが、恵子があまりにも不機嫌そうな顔になっていたので、さすがにそれは口に出来なかった。
国松「監督、どうしたんですか?」
恵子「いや昨日帰ってからさあ、昨日撮った分のビデオ見ながらあれこれ考えてたら、朝になっちゃってさ」
国松「監督も寝てないんですか?」
恵子「監督もって、お前らも寝てねえのか?」
日垣「まあ、ちょっといろいろありまして…」
恵子「(目が吊り上がったままニヤリと笑い)何だそういうことか。若いなお前ら。ひと晩中頑張ってたのか」
日垣「まあ頑張ったというか、気が付いたら朝になってまして」
恵子「(ニヤニヤしながら日垣の胸元を肘で小突き)何しれっとした顔で言ってんだよ、このスケベ」
日垣「はっ?何の話ですか?」
恵子「あれっ?何だお前、昨夜千里とやりまくったんじゃないのか?」
ブッとなる一同。
国松・日垣「(赤面滝汗で)違います!」
事情を説明する国松。
恵子「何だそういうことか…」
再び不機嫌な顔に戻る恵子。
本当に不機嫌な訳ではなく、顔面に力を入れてないと寝てしまいそうな状態らしい。
結局のところ、今日の撮影に際してちゃんと寝ているのは、荻上会長、大野さん、「やぶへび」の3人、それにクッチーだけであった。
(と言っても今日の撮影に、クッチーの出番は無いが)
全体の3分の2以上に当たる、あとの13人の1年生と監督の恵子は、徹夜明けの最悪のコンディションで、11日目の撮影に突入した。
その行く手には、冥府魔道が待つことも知らずに。
本日はこれまでです。
次回より新章突入です。
ところでまとめサイトの管理人の方、このスレ残り100KB切っちゃいました。
もうじき終わりですんで、よろしくお願いします。
ほとんど俺専用スレみたいになっちゃってて、申し訳無いんですけど。
ではまた。
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あ
>「30人いる!」
GJ!ひさしぶりに時をおかず読めたw
神田パパ!俺もあの頃はオタクが認知(っつうかまあ許容)される時代が
来るなんて思ってなかったよ神田パパ!俺も妻子ができた今ならあなたと
いい酒が飲めると思うよ神田パパあっ!
楽しく読ませていただいてます。黒べえネタもパオパオがドラえもんに出演
したんでちょうど思い出してたとこでした。ウラウラベッカンコナツカシス
新章も楽しみにしとりますー。
>>521 久々の感想ありがとうございました。
パオパオが何故ドラえもんに出てたのかは謎ですが、これがきっかけでジャングル黒べえがクローズアップされることを祈りたいものです。
肝付兼太さんの、数少ない主役作品ですし。
さて次回ですが、それはひとえに運営さん次第です。
そう、またアクセス規制に遭ってしまいましたので。
(このレスは、レス代行スレ経由でお送りしています)
ではまた、週末には規制解除されることを祈りつつ。
てすと
斑目「スーちゃんがアイドルのオーディションに?」
荻上「この間、池袋に一緒に行った時にスカウトされて、スーちゃんが月島きらりの物真似やったら凄くウケちゃって、出るように勧められたんです」
斑目「凄いねスーちゃん」
スー「イヤア、ソレホドデモ」
荻上「次の日曜日に、テレビ放送されるそうですよ、オーディション」
斑目「そりゃまた凄い、頑張れよスーちゃん」
数日後。
斑目「放送見たけど、スーちゃん出なかったね」
荻上「スーちゃんの出たとこ、丸ごとカットされちゃったんです」
斑目「そりゃまたどうして?」
荻上「スーちゃん『バラライカ』歌ったんですけど…」
斑目「ああ、『きらレボ』の主題歌ね。それで?」
荻上「それを替え歌でやっちゃって…」
スー「デモ、凄クうけタデアリマスヨ」
荻上「バカウケしてたのは一部だけじゃないの!ほとんどのお客さんは固まってたわよ!」
斑目「あの、どんな替え歌を?」
スーはラジカセのスイッチを入れ、カラオケに合わせ、振り付け有りで歌い始めた。
「うっ!ほっ!ヤラナイカ!うっほうっほうっほうっほうっ!ほっ!ヤラナイカ!〜♪」
斑目「ぶっ!」
荻上「(ラジカセを止め)やめなさい!」
ある日の夕方、帰ってテレビを点けてみると「きらりんレボリューション」の最終回がやっていた。
ふと思い立ち、テレ東の実況スレに行ってみた。
するとそこには、劇中で「バラライカ」が流れている辺りで、「やらないか」「うっほ」の文字と、例のAAが溢れ返っていた。
HOSHU
ワロタ
放送禁止ワロス
ちなみに呼び方は「スーちゃん」でなく「スージー」でいいのではなかろか?
本筋と関係ない部分の突っ込みすまん。
ごめんなさい。
またあちこちいじって、収拾付かなくなっちゃいました。
また来週来ます。
ではまた、アクセス規制が無いことを祈りつつ。
残り80KBか
そうだね
絶チルの元ブラックファントムのオタク3人、現視研にぜひとも欲しい人材だな。
特にパティは、スーの後を継げる器だ。
ブクロとアキバは私が守る!
>>532 そんな訳で書いてみた。
荻上さんが久々に部室に来てみると、また見知らぬ顔が増えていた。
今回は前回と違い、普通の人間ではあるが、またもや外人であった。
スー「彼女ハ新会員ノぱてぃ・くるーデアリマス!」
無言で荻上さんに会釈するパティ。
金髪のショートカットで、なかなかの美少女だが、スーのようなロリロリ感は無く、クールビューティーという言葉が似合う。
荻上「この間の毛呂山君は?」
スー「彼ハ聴講生ナノデ、週ニ1回ダケ来ルノデアリマス」
荻上「彼、社会人なの?」
スー「軍曹ノ仕事ガ忙シイソウデアリマス」
荻上「何なの、軍曹の仕事って?」
スー「ソレヨリ彼女ノ特技ヲ披露スルデアリマス。ぱてぃ、例ノヤツヲ」
パティが頷いたその瞬間、全身が粉状に拡散した。
荻上「きいいいいいいいいいいやあああああああああああああ!!!!」
スー「大丈夫、タダノ超能力デアリマス!ぱてぃ、モウイイゾ」
スーの呼びかけに呼応して、パティは元の姿に戻った。
スー「毛呂山トぱてぃ、コレデアトハ未来人ガ揃エバ完璧デアリマス!」
荻上「あんた何をコンプリートするつもりなの!?『と言うことは、やっぱり毛呂山君って…』」
目指セこんぷりーと!
こんちわ。
今日は9スレ参ります。
では。
第13章 笹原恵子の苦悩
現視研の学祭出品用の映画のクランクインから、およそ半月が経過した。
この間現視研は、屋内で撮影するシーンの大半を撮影し終えた。
残る主なシーンは、屋外で撮影する戦闘シーンと、ミニチュアを使用しての特撮シーンだ。
それらの準備の為、現視研は数日の撮休に入った。
その日もまた斑目は、部室にやって来た。
「ういーっす!おやっ珍しい面子じゃねえか」
部室に居たのは、荻上会長、スー、アンジェラ、神田、国松、日垣といった現役陣に加え、大野さん、田中、久我山、高坂といった面々であった。
久我山「そ、そこの取引先の病院に行った帰りに、ちょ、ちょっと寄り道をね」
田中「俺は大野さんと、学祭とは別口のイベント用のコスプレの打ち合わせさ」
高坂「僕は1年生の子たちに、モニターをやってもらおうと思って、女の子向けの新作のゲーム持って来たんですけど…」
神田「今日は撮休なんで、部員はこれだけなんです。次から屋外の撮影中心になるんで、いろいろ準備がありますし。私も今日は、スケジュールの進捗表を直しに来ただけです」
部室には、神田がホワイトボードとマグネットシートで作成した、撮影の進捗表が置かれているのだ。
国松「私と日垣君は、この後の特撮シーンの打ち合わせの為に来ました」
スー「押忍!自分はセンセイ荻上のお手伝いをすべく、修行に励んでいる次第であります」
スーの前には、かつて荻上会長が作った同人誌と、スケッチブックが置かれていた。
どうやら同人誌の絵を見本に、模写の練習をやっているようだ。
なかなか上手い。
アンジェラ「私はスーの付き添いあるね。てゆーか同伴出勤?」
ブッとなる一同。
斑目「その四字熟語の使い方、微妙に間違ってるよ」
大野「それ以前にアンジェラ、どこで覚えたのよ、そんな特殊な日本語?」
荻上「そして私は、もうすぐ連載始まる話の、ネームを書いている次第です」
荻上会長の前には、ノートパソコンが置かれていた。
斑目「ここじゃ落ち着かないんじゃないの?」
荻上「最近じゃ多少うるさくないと、却って落ち着かないんですよ。それにこの話に限っては、部室の方がいいんです。OBの方々からいろいろお話聞けますから」
田中「そう言えば荻上さんの新連載の話、確かうちの話なんだよね」
荻上「ええ、アキバ系研究会の略って意味で『あきばけん』とタイトル付けました。私のここでの体験談を基にした、セミドキュメンタリーみたいな話です」
斑目「なるほど、ここならネタの宝庫だな。特に今日は、これだけOB居るんだから、取材し放題だし」
来ていない会員たちの今日の予定は、神田によれば次の通りであった。
豪田、巴、沢田、有吉、藪崎さん、加藤さん、恵子は自宅にて休息。
伊藤とニャー子はデート。
浅田と岸野はロケ予定地の確認。
台場はスポンサー探し。
そしてクッチーは警察官採用試験の一次試験とのことだった。
斑目「朽木君、本当に警官になるんだなあ」
荻上「朽木先輩がお巡りさんとは、世も末ですね」
久我山「だっ、大丈夫かなあ、朽木君?」
田中「大丈夫なんじゃないの。案外彼、体育会系体質だし」
高坂「それにああ見えても、根は真面目な善人ですし、意外と正義感強いですしね」
大野「でも彼と一緒に働くお巡りさんは、気の毒ですけどね」
クッチーをフォローしつつも、つい納得してしまう一同。
このおよそ20年後、まさか彼らの子供たち(斑目とスーは本人だが)が警官になり、クッチーの部下になる破目になるとは、神ならぬ彼らには知る由も無かった。
(20年後の話については、『無軌道警察ハグレイバー』参照)
斑目「それにしても、部室に人がいるのって久しぶりだなあ。何かここ数日、ずっと1人で飯食ってたような気が…」
荻上「ここ1週間、ずっと神田さんの家で撮影してましたから」
斑目「そりゃ大変だったね。あれっ?」
斑目は、部室の片隅に置かれた「神田ファミリーBOX」と書かれた段ボール箱に注目した。
斑目「これは?」
荻上「神田さんのご家族から借りて来たビデオですよ」
神田「すんません、家の者がご迷惑かけまして。それ返却は急ぎませんから、みんなでゆっくり見て下さい」
神田は斑目に事情を説明した。
神田の父と母と兄は古参のオタクであり、70〜80年代をアニメの黄金期とする、70〜80年代原理主義者であった。
彼らは若いオタと会う機会があると、その時代のアニメのビデオを出して来て、見るように薦めることが半ば習性と化していた。
結局のところ1週間撮影の為に神田宅に通った現視研の面々は、行くたびに父母兄の誰かと出くわし、そのたびに新たにビデオを半ば強制的に貸し付けられた。
そしてそれは、とうとう段ボール箱ひと箱分に達した。
斑目「ちょっと見ていい?」
神田「どうぞ」
斑目「(箱を開いて)ほほう、こりゃ凄いな。ボトムズにゴーショーグンにレイズナーか。
70年代のも充実してるな。コンバトラーVにザンボット3に…あれっ?」
急に硬直する斑目。
神田「どうしたんですか?」
斑目「(顔面蒼白滝汗で)何で『キャンディ・キャンディ』なんてあるの?」
神田「それは確か、ママがママのお友だちから借りて来たのをダビングしたやつですけど、何か問題でも?」
斑目「あの作品、原作者と漫画家が著作権で揉めて裁判やってるから、漫画単行本の復刻も、アニメの商品化も再放送も、今のとこ不可能なはずなんだけど…」
(注)この問題については、「封印作品の謎2」(太田出版、安藤健二著)が詳しい。
久我山「そっそれにしても、1週間神田さんちに通い詰めとは、随分時間かかったね」
田中「あっそれ俺も思った。脚本読んだけど、今までの進み方からすれば、3〜4日もあれば撮れそうな気がするけど」
大野「恵子さんが凄いこだわりを見せたからですよ」
国松「そうなんですよ!実際この1週間って、ほとんど1日ワンシーンのペースでしか進まなかったですし」
OB一同「1日ワンシーン?!」
荻上「本当にそんなもんでしたよ、進み方」
アンジェラ「てゆーか牛歩戦術?」
高坂「でもどうして?」
神田「ひとつには、撮影2日目以降うちの家、毎日私以外の家族が必ず誰か居たってのがあります。そのせいで撮影出来る時間が限られちゃって…」
スー「押忍!それはあまり関係無いと思うであります!」
日垣「そうだよ。撮影が延びた最大の原因は、NG連発のせいだし」
斑目「そんなに多かったの、NG?」
神田「多かったと言うか、撮影時間の9割ぐらいがNGでしたね」
日垣「それも明らかなNGならともかく、傍で見てる分には、どう悪いのかよく分からない、微妙なNGばっかりでしたけどね」
斑目「そうなの?」
荻上「ええ、私の場合で言えば、冬樹を出迎えるシーンだけで12回ぐらい、タイムカプセルを写真撮影するシーンでも、10回ぐらいNGにされましたよ」
久我山「すっ凄いね…」
高坂「恵子ちゃん真面目にやってるみたいだね。咲ちゃんも心配してたけど、これなら安心だね」
田中「いや、それはそれで心配な気が…」
神田家に通い詰めた1週間、現視研一行は恵子のNG連発の洗礼を受け続けた。
例えばシーン5の、秋ママがケロロを正式に家政婦に任命するシーン。
実際には大きさのあまり変わらない、ケロロと秋ママを同じフレームに入れる訳に行かないので、細かくカット割りしての撮影となった。
つまりこういう感じだ。
@何やら喋っている秋ママのアップ
A敬礼するケロロのアップ
B拍手する冬樹と夏美のアップ
C表彰状みたいな感じの辞令を持った、秋ママのアップ
D辞令を受け渡しする、秋ママの手とケロロの手のアップ
E家政婦任命の辞令をもらい、得意そうなケロロのアップ
この全てのカットで、恵子はもれなくNG判定を出した。
例えば@は、ただ単に秋ママ役の大野さんが、にこやかな顔で喋るだけの芝居なのだが、
8回NGになった。
Dに至っては、秋ママ役の大野さんの手と、ケロロ役の荻上会長の手とが辞令の受け渡しをするだけの芝居に、14回ものNGとなった。
問題は恵子がそれぞれのNGについて、理由を明確にしない、いや出来ないことであった。
理由を訊かれても、恵子は曖昧にこう答えるだけであった。
「いや、何て言うか、上手く言えないんだけど、何か違うんだ。すまね、もう1回だけお願い」
普段どちらかと言えば高飛車な物言いの多い恵子に、ここまで低姿勢に出られると、誰も何も言い返せない。
誰も文句を言うことも無く、恵子のOKが出るまで、延々とリテイクが繰り返された。
ただ、単に同じ様に撮影を繰り返すだけでは、フィルムの無駄になるだけなので、NGが5回以上繰り返された時には、撮影を中断してミーティングが行なわれた。
具体的にどういう画にすれば恵子が納得するかを話し合う為だ。
そしてミーティングは、ほぼ全シーンに対して行なわれた。
「クリエーター系の人って、一生に何度か何かに取り付かれたように、制作に没頭する時期があるんですよね」
唐突に口を開いた国松に、意図を掴みかねて怪訝な顔をする一同。
国松「例えば脚本家の上原正三先生は、70年代から80年代にかけて、爆発的な数のアニメや特撮の脚本を執筆されました」
斑目「特撮はあんまし知らんけど、アニメではゲッターロボとかアルベガスとかの脚本書いてる人だな」
国松「(ニコリと笑い)さすがシゲさん。で、その上原先生なんですけど、後年のインタビューによれば、当時書いた作品について、あまり覚えてらっしゃらないんですよね」
荻上「それはどうして?」
国松「先ず執筆数が膨大過ぎるってのがあります。それに30分番組の脚本は30分で書く、早書きの名人でしたし」
久我山「そっそれは凄いね」
(注)この当時の脚本家では、他に佐々木守氏や長坂秀佳氏も同様の逸話がある。
国松「まあその代わり、ネタの使い回しも多いですし、戦隊や宇宙刑事だと、完全に話のパターンが出来ていて、ネタさえ入れれば後はルーティンワークでしたし」
斑目「それでもかなり凄いんじゃないの?」
国松「そりゃ凄いですよ。で、こっからが本題なんですが、どうも上原先生、執筆中は何かに取り付かれたみたいな感じで、まるでイタコ状態だったみたいなんです」
荻上「つまり創作の神様みたいなのが降臨して、勝手に書いてるような感じと?」
国松「そんな感じだったらしいです。そして同様の例としては、やはり東條昭平監督は外せないでしょう」
神田「千里、また『怪獣使いと少年』の話?」
田中「またって?」
神田「千里って何かあると『怪獣使いと少年』持ち出して来るんですよ」
大野「まあそれだけ好きってことですね」
「怪獣使いと少年」とは、「帰ってきたウルトラマン」のエピソードである。
過去何度かいろんなSSで出て来た話なので、ここでは詳しく触れないが、興味のある方は、ググってみて欲しい。
国松「今回だけは必要なんですよ。あの話にまつわるエピソードが」
神田「どう必要なのよ?」
国松「前にも言ったように、あの話は脚本の段階ではそれほど酷くないし、陰惨な描写の大半は、東條監督が変更して追加したシーンばかりです」
神田「でっ?」
国松「私、大学入ってから、この話について文献いろいろ調べたり、パソコンでいろいろ検索したりしたんです」
神田「?」
国松「けど、東條監督の所業についての資料はたくさんあるのに、何故監督がそこまでやったかについては、どこを見ても分かりませんでした」
斑目「円谷プロの黒歴史って訳か?」
国松「と言うより、こっからは私の推測なんですけど、東條監督自身にも、何故あそこまでやったのか説明出来ないんじゃないかと思うんです」
荻上「どゆこと?」
国松「つまり監督にも、創作の神様か何か降臨して、自分でもよく分からない何かに引きずられるように、ああいう作品を作っちゃったんじゃないかな、と思うんです」
日垣「確かに、俺も見たことあるけど、あの話って何か神がかりな雰囲気はあるね」
国松「まあそうとでも考えないと、説明出来ないんです。あの話の時だけ、東條監督があそこまでの暴走した理由が」
荻上「確かに撮影始まってからの恵子さんって、何かに取り付かれたみたいになってるもんね。まあ映画10回鑑賞会の特訓の影響もあるんだろうけど」
「うーん、そこまで大袈裟な事じゃなくて、単に恵子監督、作りながら学んで行くタイプなんじゃないですか?」
国松の説に、神田は異を唱えた。
国松「と言うと?」
神田「私はどっちかと言うと恵子監督って、よしりんに近い感じじゃないかと思うんです」
荻上「よしりんって、小林よしのりのこと?」
神田「そうです。ここでちょっと質問。『東大一直線』を最初から読んだことある人って、こん中にいらっしゃいますか?」
手を上げたのは、スーだけであった。
久我山「おっ俺は『東大快進撃』になってからの分なら、読んだことあるけど…」
斑目「俺は東大(この場合は、主人公の東大通のこと)が高校に入った頃ぐらいからなら、読んだことあるけど」
神田「となると、『東大一直線』の最初の最初の方を読んだ人って、スーちゃん以外には、いらっしゃらないんですね」
荻上「最初の最初に、何かあるの?」
神田はニヤリと笑うと、部室のパソコン(部室が移転した時に新たに設置されたのだ)を操作して、検索してある画面を出した。
神田「まあ百聞は一見にしかず。これを見て下さい」
どれどれと、パソコンの前に集まった一同、驚きの声を上げた。
「えええええええええええええええええ?!」
パソコンのディスプレイには、あまりにも下手くそな絵の漫画が映っていた。
荻上「あの神田さん、これって?」
神田「これは『東大一直線』の第1話の絵です」
日垣「なっ、何たる下手な絵…」
斑目「いやこれ、下手とかそういう次元の問題じゃないぞ…」
神田「でしょ?ここに居る絵描き属性のある方はもちろん、下手すれば絵描き属性の無い方でも勝てそうなぐらい下手でしょ?」
田中「これが商業誌に載ってたの?」
神田「載ってたんですよ、これがまた」
久我山「すっ凄い時代だね…」
神田「昔よしりんの絵のことを『インクのしみ』って酷評した人が居ましたけど、この絵を見た後だと、インクのしみでも褒め過ぎって気がしますね」
荻上「ああそれ聞いたことあるわね。確か『おぼっちゃまくん』で小学館漫画賞取った時に、作品が下品だったから賞をあげたくない審査員に言われたんだっけ?」
神田「そうです。まあもっとも東大の頃のよしりんの場合、絵が下手以前に、漫画の描き方全然知らなかったらしいですけどね」
斑目「仮にもプロの漫画家が?」
神田「ええ。例えばよしりん、この当時はスクリーントーンの存在を知らなかったらしいんです」
荻上「じゃあどうやってたの?」
神田「前にプロの漫画家の生原稿見たのが災いして、アシ用に色指定してあるのを勘違いして、色指定だけして原稿出してたそうです」
固まる一同。
久我山「なっ、何で?」
神田「そうしておけば、印刷する時に勝手に色が着くと、よしりんが思い込んでたらしいですよ」
荻上「それじゃあ原稿は…」
神田「編集部の担当さんが貼ってたらしいですよ、トーン。で、ある日とうとう担当さんが泣きついて、それでスクリーントーンというものの存在を知ったそうです、よしりん」
大野「何と言うか、豪快な時代ですね」
またレスではなくスレと書いてしまった…
今回の話はまだ続きがありますので、オチらしいオチも無く、半ばでございます状態での引きとなりました。
次回、現視研における恵子論に、さらにビッグネームが挙がります。
ではまた。
あと65KBか
そだね
うむ
さて
どしたものか
あ
日曜のお昼のひと時、いかがお過ごしですか。
今日は真っ昼間から参ります。
例によって9レスですが、それでも連投規制にかかりますので、間に休憩挟んで、ゆっくり投下します。
では。
「みんな案外ケイコの評価低いあるね」
今度はアンジェラが口を開いた。
荻上「と言うと?」
アンジェラ「私はケイコのリテイク(NG)連発で、キューブリック監督の演出を思い出したあるね」
国松「キューブリックって、スタンリー・キューブリックのこと?」
アンジェラ「イエス、そうある。キューブリックもリテイクの連発で有名な監督だったあるね」
スー「押忍!それもどうということの無い、ただ廊下を歩くだけのシーンで、十数回リテイクを繰り返していた逸話がある人であります!」
ウルウルする国松。
「恵子監督って、キューブリックに匹敵する、こだわりの人だったんですね!」
アンジェラ「うーん、ちょっと違うあるね」
日垣「と言うと?」
アンジェラ「もちろんクリエーターとしてのこだわりもあってのことだろうけど、彼がリテイクを繰り返したのには、ちょっと複雑な事情があるあるね」
大野「どんな事情があるの?」
アンジェラ「キューブリックがカメラマン出身の監督ということあるよ」
一同「???」
アンジェラ「つまりキューブリックには、こういう映像が欲しいというビジョンはあっても、どういう芝居をすればいいかという、引き出しが無いということあるよ」
スー「普通の監督は、役者に対してこういう芝居をして欲しいと、具体的に説明したり、場合によっては演じて見せたり出来る訳であります!」
国松「でもキューブリックには、それが出来ない…」
アンジェラ「そう、だから彼は、とりあえず何度もリテイクを繰り返すあるよ。で、その内に役者が飽きて来て、アドリブをやり出す。そこで『それだ!』となる訳あるよ」
固まる一同。
斑目「何と言うか、意外といい加減なんだね、映画の演出って」
国松「でも確かに、ある意味恵子監督もそうですよね。頭の中に理想の映像があるらしいのに、それを上手く表現出来ずにリテイク繰り返してるみたいだし」
久我山「なっ何か、えっえらい話が大きくなってるね」
斑目「上原昭三に東條昭平に小林よしのりにキューブリックか。アマチュアの学生映画にしては、凄いメンバーが比較対象になったもんだな」
高坂「凄いね恵子ちゃん。しばらく会わない間に、随分成長したんだね」
大野「でも確かに頑張ってますよ、恵子さん」
荻上「ただ、あんまし寝てないみたいなのが、ちょっと心配ですけど」
斑目「そうなの?」
荻上「撮影始まってから、たびたび笹原さんの部屋に泊まってるんですけど、笹原さんの話だと、夜遅くまでビデオ見てるらしいんですよ。それもマジ顔で」
国松「やっぱり寝てらっしゃらないんですね、監督」
斑目「やっぱりって?」
国松「毎日段々濃くなってるんですよ、目の下の隈」
斑目「マジ?」
大野「確かに濃くなってますね。最近は目が悪くなって眼鏡かけてるから、あまり目立たないですけど」
田中「大丈夫かい、恵子ちゃん」
アンジェラ「その代わりケイコ、食欲は前より旺盛あるよ。睡眠不足は、ある程度までは食べることで補えるから、大丈夫あるよ」
荻上「確かに恵子さん、前に比べて食べるようになったわね。何しろ豪田さんや巴さんやアンジェラや日垣君と、あんまし変わらない量食べてるし」
一瞬固まるOB連。
斑目「体でかい豪田さんや日垣君はともかく、巴さんやアンジェラもそんなに食べるの?」
アメリカ人にしてはアンジェラは、さほど大柄でも無いし横幅も無い。
怪力の持ち主にしては、見た目の筋肉はさほどぶ厚くない。
それに露出しているへその周辺を見る限り、贅肉のかけらも無い。
巴もまた、体形はアンジェラに近かった。
アンジェラ「私とマリアの場合は、消費カロリーの問題あるよ。日々食べた分消費しているから、プラマイゼロあるね」
斑目「そう言えば巴さん、よくこの近所で走ってるのを見かけるな。いやはや、体育会系の人って凄いね」
「ちゅーす」
そこへ話題の人物、恵子が入って来た。
挨拶を返しつつも、慄然とする一同。
恵子の足取りが何やらおぼつかず、幽霊の様にフラフラと進んでいるからだ。
恵子「あれっ、何か今日賑やかじゃねえか…」
高坂と目が合った恵子、何とも言えぬ複雑な表情で固まり、しばし見つめる。
高坂が微笑み返すと、恵子は妙にぎこちない不自然な微笑みを返した。
荻上「大丈夫?」
恵子「だいじょぶだいじょぶ」
言いながら恵子、ビデオラックに向かう。
しばらくビデオラックを見つめていたが、やがて数本のテープをチョイスした。
かつてはアニメのビデオやDVDのみだった現視研のライブラリーも、今では特撮や一般のドラマや映画も、数多く抱えている。
その多くは、台場がスポンサー集めで駅前のパチンコ屋と契約した際に、スポンサー料の代わりに現物でもらって来たビデオテープだった。
そのパチンコ屋は、バブルの頃はレンタルビデオ屋とテレクラとコンビニを経営していたのだが、バブル崩壊後並んでいたそれらをまとめて畳んで、パチンコ屋に改装したのだ。
台場がもらって来たのは、その際に処分し損ねて倉庫に入っていた品であった。
最初はけっこうな金額になりそうだと、ほくそ笑んでいた台場だったが、DVDが普及した2006年には、ビデオテープはほとんど二束三文でしか引き取ってもらえなかった。
結局テープを運ぶ交通費の方が高く付きそうな上、国松やスーが繰り返し見たいと主張したので、部室のライブラリーに追加することになったのだ。
恵子がチョイスしたのは、その古いビデオテープの何本かであった。
「ほんじゃお邪魔さん」
お目当てのテープを手に、恵子は部室を後にした。
恵子が立ち去った後の、異様な雰囲気を変える為、荻上会長は話題を変えた。
「そう言えば国松さん、今日は特撮のことで来たって言ってたわね」
国松「とりあえず準備中の特撮シーンが三つあって、それをどうするか日垣君と相談する為に出て来たんですけど…」
彼女の説明によれば、必要な特撮シーンは次の通りであった。
・ベム1号が巨大化するイメージ
・クルル時空に吸い込まれるベム1号
・ベム1号とアル1号爆発
荻上「で、状況はどうなの?」
国松「巨大化のシーンは、今担当者が各自ミニチュア制作中です」
日垣「巨大化と言ってもイメージシーンなので、本格的な特撮のように、きれいに壊す為の仕掛けは要りませんから、ミニチュアの数が揃い次第撮影出来ますよ」
荻上「担当は2人と、あと誰だっけ?」
国松「ニャー子さんにも頼んでます。あと蛇衣子も大道具の方が手が空いたんで、手伝ってもらってます」
ニャー子は以前に夏コミで、ハチクロの青春の塔のミニチュアを、売り場のオブジェにする為に作ったことがあった。
その細かさを見た国松が、腕を見込んで依頼したのだ。
国松「もうみんな大体8割程度は出来てるんですけど…」
国松に軽く睨まれ、肩をすくめる日垣。
「日垣君の方が遅れてるの?」
いぶかしげな口調で、田中が会話に割り込んだ。
特撮に熱心なのは国松の方だが、器用さでは日垣の方が数段上だからだ。
国松「日垣君の場合は遅れてると言うんじゃなくて、自分で仕事増やしちゃうんですよ」
荻上「どういうこと?」
国松「まあ見て下さい」
国松は自分のリュックからCD-ROMを取り出し、部室のパソコンにセットして再生する。
ディスプレイにミニチュアの町並みが映った。
斑目「ほう、よく出来てるな。まだ建物が少ないみたいだけど」
日垣「俺は主に、ミニチュアのベースになる町を作ってます」
国松「確かによく出来てるんですけど、彼の場合作り込み過ぎなんですよ。見て下さい」
国松はマウスを操作して、画面をアップに切り替えた。
呆然とする一同。
画面には恐ろしくリアルな電柱が映っていた。
大野「これ、電柱の低いとこって、こういうぶつぶつありますよね?」
高坂「そのそばの塀に、番地のプレートが貼ってあるね。えーと奥東京市…」
番地のプレートの文字は、大学の近所の地名を適当にもじったものだが、最後まで読み取れた。
国松「言っときますけど、その電柱の実物、鉛筆ぐらいの大きさですから」
一同「ええええええ?!」
国松は画面を切り替えた。
今度は交通標識が映った。
今度は普通なせいか、一同の反応は薄い。
国松「(画面を切り替え)これがその標識の裏です」
一同「ええええええ?!」
標識のプレート部分は、本物同様に鉄柱部分に2つの金具で固定されていた。
国松「(画面を切り替え)これがその標識の足下です」
一同「ええええええ?!」
標識の鉄柱部分の中腹辺りが不自然に湾曲して少し傾き、根元の地面にひびが見えた。
田中「これってもしや?」
日垣「自動車がぶつかったって設定なんです」
国松「ちなみにこの標識、実物は待ち針ぐらいの大きさです」
慄然とする一同。
日垣のミニチュアワールドの驚異は、なおも続いた。
人形をデジカメで写し、縮小コピーしたものを使って作った選挙ポスター。
葉っぱが1枚1枚作られている、銀杏の街路樹。
針状の葉が1本1本丹念に作られている、松の木。
ドライバーの顔や、ナンバープレートの数字まで作り込まれた自動車。
各部屋のベランダに、大量の布団や洗濯物が干された団地等々…
「言っておきますけど、このミニチュア使うシーンって、ほんの3秒ぐらいですから」
呆然とする一同に追い討ちをかけるように、国松は付け加えた。
田中「それにしても凝ってるね。モデラー魂全開だな」
日垣「いやあ、こういうのって、やり出すとドンドン趣味の世界にハマって行っちゃうんですよね」
田中「まあ気持ちは分かるけど…」
斑目「国松さんは、こういう細かさへのこだわりは無いの?」
国松「この場合は時間優先ですよ。早く仕上げて早く撮影したいですから」
日垣「その代わりに材料費はかかってないよ。材料の大半は、大道具や小道具の材料の残りだし」
国松「まあそれはそうだけど…」
日垣「分かったよ。じゃあ今作ってる分は、他のみんなのが出来次第終了にするからさ」
国松「うーん、作りかけたんなら、最後まで作っちゃいなさいよ」
日垣「(苦笑し)どっちなの」
「あのう、ミニチュアは急がないわよ。この後の撮影は外ばっかりだから、雨の日狙ってスケジュール入れるし」
神田が割り込んだ
国松「分かったわ。じゃあ日垣君、それ最後まで作っちゃって。でも急ぎなさいよ」
日垣「了解」
『やっぱりこの2人、いいコンビかも知れないわね』
国松と日垣のやり取りを見ていて、荻上会長は思った。
次に国松がパソコンのディスプレイに映したのは、自前のデジタルビデオカメラで、ベム1号がクルル時空に引きずり込まれるシーンを試作したものであった。
「おおおおおお!」
それを見た一同が、どよめきの声を上げたのも無理は無かった。
画面いっぱいの白い渦の中に、ベムのシルエットがゆっくりと吸い込まれて行く、不思議な映像が映っていたからだ。
神田「凄いじゃない千里!」
久我山「こっこれ、どっどうやって撮ったの?」
得意そうな笑顔を浮かべていた国松、その疑問に答えた。
「洗濯機ですよ」
一同「洗濯機?」
国松「先ず洗濯機に水を張り、その水に白の絵の具を溶かします。それから洗濯機を回し、そこへ黒く塗ったベムのフィギュアを放り込んで撮影したんです」
荻上「にしては、えらく渦の回転がゆっくりな気が…あっそうか!」
スー「高速撮影でありますな」
田中「なるほど、それで普通に再生すれば、洗濯機の渦とは思えない、ゆっくりした渦になる訳か。それにこれ、ひょっとしてモノクロで撮ってない?」
ニッコリ笑ってうなずく国松。
大野「それにしても、よくこんな方法考えましたね」
国松「実はこれ、『ウルトラQ』で使われた方法なんですけどね」
荻上「そうなんだ」
国松の説明によれば、彼女が今回使った方法は、「ウルトラQ」第27話「206便消滅す」で、旅客機が異次元空間に吸い込まれるシーンの撮影で、実際に使われた方法であった。
ちなみにモノクロで撮影したのは、特撮を嘘っぽく見せない為だったが、モノクロ作品の「ウルトラQ」に対するオマージュの意味もあった。
「で、残るはラス前の爆破シーンなんですが…」
国松は先程までの笑顔が消え、別のビデオを再生し始めた。
荻上「何か問題があるの?」
国松「まあ見て下さい」
パソコンのディスプレイに映ったのは、ベムのフィギュアであった。
通常のフィギュアに比べると全体的に太く、作りが少し雑だ。
国松「これは日垣君に作ってもらった、紙粘土製のベムです」
日垣「まあ試作用なんで、作りは雑なんですが」
斑目「いや、それでもけっこう上手いよ、これ」
国松「このフィギュアには、50本ほどの爆竹が埋め込まれています」
国松はパソコンを操作しながら言った。
「で、これの導火線に点火します」
数秒の間を置いて、ベムのフィギュアが少し膨らみ、全身が破裂したが、爆発と言うにはインパクトが弱かった。
国松「どうです?」
一同「うーん…」
一同の表情から読み取れる判定は「微妙」だった。
田中「何か爆破と言うよりは、北斗神拳でやられたみたいだな」
斑目「あっ、俺もそう思った」
国松「ですよね。何か爆破と言うには、今ひとつ迫力が出ないんですよ。かと言って、これ以上爆竹入れるのも、危険ですし」
日垣「確かに。今の火薬の量でも、1度に爆発したら手が吹っ飛ぶぐらいの威力にはなりますからね」
一同「うわあ…」
国松「いざとなったら、晴海がどっかから爆破シーンだけ借りてくれるって言ってるんですけど、なるべくなら自分で撮りたいですし…」
日垣「かと言って、これ以上の爆発させようと思ったら、爆発物取扱の免許でも無いと難しいですし…」
一同「うーむ…」
また間違えた…
1番最初の分は、「その311」ではなく「その331」です。
訂正してお詫びします。
失礼しました。
さて、最初に9レスと言いましたが、構成の都合上、今回は8レスにて終わります。
果たして現視研は、爆破シーンをどうするのか?
そんな謎を残しての引きですが、次回その答えと共に、遂に28人目のキャラが登場しますので乞うご期待。
ではまた。
449KB
449か
こんばんわ。
祝日ということもあって、少し続きを行きます。
8レスで参ります。
では。
「爆発物取扱の免許か…」
そう呟いた荻上会長、携帯電話を握って立ち上がった。
国松「会長?」
荻上「ちょっと待ってて」
そう言い残して、荻上会長は部室を出た。
数分後、意気揚々とした顔で荻上会長は戻って来た。
そして国松に告げた。
「何とかなりそうよ、爆発物取扱の免許」
国松「えっ?」
荻上「ダメ元で、今電話で訊いてみたんだけど、知り合いに持ってる人が居たのよ」
国松「本当ですか?!」
荻上「本当よ。ちょうど今近くにいらしてね、あと30分ぐらいで、こちらに見えるわ」
日垣「誰なんです、その人って?」
荻上「まあいらしてからでいいでしょう。多分みんな初対面だし」
きっかり30分後、部室にやって来たのは笹原だった。
一同「笹原(先輩)?」
国松「あの、笹原先輩って、爆弾使えるんですか?」
笹原「(苦笑)俺じゃないよ。俺は付き添いで、荻上さんご指名の方をお連れしただけだよ」
笹原は後ろを向いて、もう1人の人物を招き入れた。
その人物を見て、一同は困惑の表情で硬直した。
無理も無い。
荻上会長と笹原を除いて全員初対面な上に、その人物が異様な雰囲気を持っていたからだ。
素の部分は普通で、特別変わった特徴は無い。
中肉中背で、顔も目鼻立ちは割とイケメンだ。
だが同時に、一筋縄で行かなさそうな異様さも兼ね備えていた。
やや面長で卵形の顔の輪郭。
軽く茶髪にしている割には、短く切り揃えてベッタリと寝かせただけの髪型。
それに縁が太く本体は細身の、ウルトラアイのような眼鏡。
そして見た目の年齢は、妙な貫禄と若々しさを兼ね備えている為、20代後半ぐらいにも、30代半ばぐらいにも見えた。
笹原「みんな初対面だよね。改めて紹介するよ。こちらは俺の勤務先の鷲田社の上司の小野寺さん」
小野寺「ども、鷲田社の小野寺竜二です」
一同も挨拶を返し、各々自己紹介した。
国松「あの、笹原先輩と小野寺さんは、何でこんなすぐに来られたんですか?」
笹原「俺はたまたまC先生(笹原が担当してる漫画家で、椎応大学の学生)のとこに来てて、そこに荻上さんから電話があったんだよ」
小野寺「で、その笹原から俺の方に電話があった時、俺もたまたまこの近くに在住の漫画家の先生のとこに居たんで、すぐ合流出来た次第さ」
荻上「すいません。お仕事中わざわざ来て頂いて」
小野寺「まあ他ならぬ荻上先生からのお願いだからね。俺デイアフターの編集部にも出入りしてるし。それに1回直に見たかったし、現視研ってのを」
ここまでは割とにこやかだった小野寺、突然ハードな顔付きに豹変して切り出した。
「さてと仕事の話だけど、どこを爆破すりゃいいのかな?」
率直過ぎる質問に固まる一同を置き去りにして、小野寺は続けた。
「爆薬の方は、知り合いに頼めば格安で手に入るよ。まあ俺が得意なのは橋を落とす方だけど、このサークル棟程度の規模の建物なら、いつでも木っ端微塵に出来るし」
一同『木っ端微塵!?どういう人なんだよ、この人?橋落とすって?』
国松「あの、どうして漫画雑誌の編集者の方が、爆発物取扱の免許なんて?」
小野寺「編集者の仕事って要は雑用係だからね、ひとつでもやれることが多い方が便利なんだよ」
そう言って小野寺は自分の持っている資格を列挙した。
社労士、商業簿記、シスアド、TOEICなど、ビジネスマンっぽい資格が多い一方で、極真空手初段や大型免許など、あまり編集に関係無さそうな資格も多い。
日垣「でもそれにしても、爆発物の取扱なんて、どうやって取ったんですか?」
小野寺「学生の時にやってたバイトで必要だったんでね。あっごめん、これ以上は守秘義務があるんで、詳しくは教えられないんだ」
一同『守秘義務?』
荻上「あの爆破ってほど、大袈裟な仕事じゃなくて申し訳無いんですが…」
荻上会長は小野寺に事情を説明した。
小野寺「なるほど、8ミリ映画用の爆破か。まあそれぐらいなら、すぐ用意出来るよ」
国松「本当ですか!?」
小野寺「ああ、マイトの1本もあれば十分だし、砂糖と○○○○○○○○(自主規制)混ぜれば今すぐでも…」
言いかけて口ごもる小野寺。
一同が固まってるのを見て、まずいことを言いかけたことに気付いたからだ。
一同『砂糖と○○○○○○○○(自主規制)って…何者なんだこの人?』
失言をフォローするかのように、小野寺は話題を変えた。
「まあ、爆薬の方はどうにでもなるが、問題は場所だな。ロケはどこでやる予定なの?」
国松は地図を出して、小野寺にロケ地の場所を教えた。
「うーむ、ここらだと今じゃ爆破の許可取るのは難しそうだな」
国松「やっぱりそうですか。70年代なら、そこいらの造成地で爆破し放題だったのに…」
小野寺「まあしょうがないさ。それより場所をどうするかだな…」
しばし考え込んだ小野寺、「ちょっと失礼」とひと声かけて部室の隅に行き、携帯電話を取り出して、どこかにかけ始めた。
一同「?」
やがて電話がつながって小野寺が話し始めると、一同は引っくり返った。
小野寺が流暢な外国語で話し始めたからだ。
斑目「これ、英語じゃないよな?」
大野「ええ、英語じゃないです」
スー「これはスペイン語であります!」
一同「スペイン語?」
荻上「スーちゃんスペイン語も分かるんだ。何話してるか同時通訳出来そう?」
スー「同時は難しそうですが、やってみます」
スーは傍らに置かれたメモ用紙に、サラサラと英文を書き始めた。
いかにIQの高いスーと言えども、母国語ではない言語から、また別の母国語ではない言語に瞬時に通訳するのは、小野寺が早口で喋っているせいもあって難しいらしい。
先ずはスペイン語から母国語である英語に訳してメモし(その作業自体難しそうだが)、それを日本語に直すという作戦のようだ。
メモ用紙1枚にびっしりと英文が書かれた頃、スーは顔色を変え、ギブアップ宣言した。
「押忍!申し訳ありませんが、こんな複雑な暗号、自分には解読不能であります!」
一同「暗号?!」
スー「押忍!一種の暗号と思われます!」
国松「でも、普通に英語に訳せてない?」
スー「試しに一部日本語に直してみましょう」
スーは別のメモ用紙に、日本語の文章を書き始めた。
それを見た一同の頭上に、大きな?が浮んだ。
スーが書いた日本語の文章は、以下の通りであった。
・実はクジラの足が、アルミの鉄板でして
・ポルシェに乗った電卓は平野部に降るでしょうか?
・そうですか、扇風機は新聞紙でしたか
・タイタニックの尻尾にクラゲの耳ですね、分かりました
・お手数ですが、クレーンとスパゲティをご用意いただけますか?
久我山「なっ何なのこれ?」
斑目「全っ然分からん…」
神田「スーちゃん、訳これで合ってるの?」
スー「間違い無いであります!」
アンジェラ「スーは7ヶ国語喋れるから、多分間違い無いあるよ。私もちょっとだけスペイン語喋れるけど、確かにこの単語出てたあるね」
荻上「じゃあこれは一体?」
スー「おそらくこれは、本来の単語を別の単語に置き換える形式の、暗号の一種と思われます」
斑目「それって難しいの?」
スー「ある意味、乱数表を使っての暗号よりも解読困難です」
国松「どうして?」
スー「アルファベットを数字にアトランダムに置き換える暗号は、使われている数字の統計を取ることで、ある程度解読が可能であります」
荻上「つまり言葉を置き換える暗号だと、何が何に置き換えているかが分からない限り、解読出来ないってこと?」
スー「その通りであります!特に今回、使われている単語にまるで規則性が無いので、解読表無くしては解読出来ません!例えエニグマ暗号機でも解読不可能であります!」
田中「エニグマって…そんな高度な物使った暗号よりも、あの小野寺さんの使ってる暗号の方が難しいって言うの?」
荻上「笹原さんは、小野寺さんについて、何かご存知ですか?」
笹原「実は俺も、あの人の過去については、よく知らないんだよ」
一同『どういう人なんだよ、小野寺さん?』
やがて電話を終えて、小野寺が戻って来た。
小野寺「神田さん、3日後この大学のグラウンド空いてるか、分かるかな?」
神田「えっ?ちょっと待って下さいね。(スケジュール帳を取り出し)えーとこの日は…あっ、第2グランドが朝10時から昼12時まで空いてますね」
小野寺「国松さん、爆発だけ撮影して、後で必要なシーンに合成するようなことは出来るかな?」
国松「まあ、それぐらいは何とか出来ますけど」
小野寺「よし、それじゃあ荻上さん、3日後の朝10時に、この大学の第2グランドに、みんなを集めてもらえるかな?もちろん撮影の用意して」
荻上「それは大丈夫ですけど、どうするんですか?」
小野寺はニヤリと笑い、高らかに宣言した。
「みんなに、本物の爆弾の爆発するとこを撮らせてあげるよ!」
そして約束の3日後、現視研の一行は椎応大学第2グランドに集合した。
この時間帯にグランドがたまたま空いていたのは、もうじき大学の夏休みが終わるので、試合間近のところ以外の運動部が、活動を控え始めたからだ。
荻上「集まったはいいんだけど、小野寺さんはどっから来るんだろ?」
四方八方をキョロキョロと見渡す一同。
「上からじゃないですか?」
日垣がぼそっと言ったひと言に、空を見上げる一同。
こちらに向かって、1機のヘリコプターが近付いて来る。
前後にローターのある、灰色の大型ヘリだ。
浅田「あれ、ボーイングバートルV-107じゃないっすか!」
藪崎「浅田、知っとるんか?」
浅田「ええ、主に軍隊で兵員や車両を輸送するのに使われる、大型ヘリコプターです。日本の自衛隊も使ってますし」
岸野「しかもあれ、USマリーンのロゴが入ってるぞ」
一同「えー?!」
スー「ということは、我が祖国の海兵隊のものでありますな」
恵子「何でそんなもんが、あたしらの方に来るんだよ?」
浅田「米軍のということは、正式名称はCH-46シーナイトか。こりゃ驚いたな」
藪崎「そら驚くわな」
浅田「あんな旧型のヘリが、自衛隊ならともかく、まだ米軍で使われてたのには、さすがに驚きましたよ」
藪崎「そっちかい!」
そんな会話の中、ヘリはグランドにゆっくりと下降して来た。
周囲に強烈な砂嵐を巻き起こして、ヘリはグランドに着陸し、操縦席からパイロットが降りて来た。
パイロットは、タイガーストライプの迷彩服に、パイロット用のヘルメットという服装で、細身のサングラスをかけていた。
肌の色から、アジア系と思われた。
パイロットは、度肝を抜かれて硬直する現視研一行に近付き、立ち止まると同時にサングラスを外した。
いや正確には、眼鏡からサングラス状のカバーを外した。
一同「小野寺さん?!」
パイロットの正体は小野寺であった。
意外な出来事の連続に、どうリアクションしたものかと戸惑う一同。
小野寺「(恵子に近付き)君が恵子ちゃん?」
恵子「はっ、はいっ!」
小野寺「何だ、笹原そっくりって聞いてたから、あんまりなのを想像してたけど、可愛いじゃないの。眼鏡も似合ってるし」
(注)この話の恵子は、ビデオの見過ぎで近眼になってしまい、眼鏡を着用している。
恵子「そっ、そんな…」
いつもの恵子なら『誰がアニキそっくりじゃゴラア!』となるところだが、あまりにも異質な小野寺が相手なせいか、対応に困っているようだ。
小野寺「今日はよろしくね、可愛い監督さん」
恵子「はっはいっ!でもまあ今日は、私らは見てるだけっすから」
小野寺「(一同を見渡し)えーと…全部で20人か。わざわざこいつ(ヘリ)を出して来たのは正解だったな。何しろパイロットを除いて、25人乗れるから」
今日の現視研メンバーは、外人コンビを含めた1年生13人プラス、恵子、荻上会長、大野さん、クッチー、そして「やぶへび」の3人という、大人数であった。
小野寺「あと2時間ぐらいトイレ行けないから、今の内に行っといてね」
荻上「2時間で着くんですか?」
小野寺「いや、ざっと6時間ぐらいかな」
一同「6時間?!」
小野寺「直線距離にして、ざっと1500キロぐらいあるからね」
一同「1500キロ?!」
小野寺「このヘリはフルスピードでも時速250キロぐらいだから、まあ時間はそんなもんだろ」
果たして小野寺の正体は?
彼は現視研をどこに連れて行くのか?
そこでは何が現視研を待ち受けているのか?
次回それらの謎が明らかに!
(まあ一部謎も残りますが)
こうして読み返してみると、OBたち無理に出し過ぎましたな。
後半空気になっちゃった人も居るし、ちょっと反省。
さて残り40KB。
次回の投下は、スレ立てとワンセットかも知れません。
ではまた。
保守
また保守か
こんなに大勢のキャラ動かして、相変わらず凄いな30人〜は。
GWにまたじっくり読むぜ
こんばんわ、今夜もやって参りました。
今回は7レスでお送りします。
では。
恵子「あのう、どこへ行くんですか?」
小野寺「残念ながら、守秘義務があるから詳しいことは教えられない。でも安心して、とりあえず日本国内だから」
恵子「なあ姉さん、しゅひぎむって何だ?」
荻上「内緒ってことですよ」
恵子「内緒ならしゃあねえな。まあとりあえず、外国まで行くんじゃなきゃいいや。こんなので外国連れてかれても困るし」
小野寺「まあ確かに、こいつで外国へ行くのは大変だな。何しろ航続距離が、エンジンをチューンナップしたり、燃料タンクを増設したりして、やっと500キロぐらいだからな」
藪崎「あれっ?でも小野寺はん、それやったら1500キロ先やなんて…」
小野寺「そう、一気に行くのは無理だから、途中で2回給油の為に着陸するよ。ちょうど2時間置きぐらいだから、ついでにその時にトイレ休憩ってことで」
一同『我々は、どこへ行くのか…』
小野寺の話は、さらに続いた。
「それと昼飯は用意してる?」
荻上「ええ、今日は全員お弁当にしました」
小野寺「正解だよ、それで。多分時間的に、ヘリの中で食べることになると思うから。あとみんな、これかじっといて」
小野寺は、1錠ずつパッケージされた、ラムネかトローチのような物を差し出した。
荻上「あのこれは?」
小野寺「酔い止めだよ。ヘリの揺れはまた独特だから、普段乗り物酔いしない人でも分からんからね。チュアブル錠だから、水無しでかじっていいから」
ヘリの内部は予想よりも狭かった。
左右の内壁にシートが並び、バスの客席を細くした感じだ。
天井も低い。
後部に十数箱の金属の箱が積まれ、ワイヤーで固定されている。
「何ですかな、この箱は?」
言いながら箱に手を伸ばすクッチー。
「触るな!」
大声の叱責に手を縮めるクッチー。
叫んだのは小野寺だった。
小野寺「ごめんね、脅かして。それ爆弾だから、触ると危ないよ」
一同「爆弾?!」
後ずさる現視研一同。
小野寺「まあ正確には、迫撃砲弾とか、対戦車ロケット砲弾とかだけどね。信管は別にしてあるから、滅多なことでは爆発しないけど」
恵子「あの、何でそんなもん積んでるんです?」
小野寺「君たちを連れて行く為の口実だよ」
荻上「それはどういう?」
小野寺「今日の俺の身分は、米軍海兵隊第3海兵遠征軍第13補給分隊所属、ジョン・スミス曹長ってことになってるんだ」
一同「じょん・すみす?!」
豪田「何つうベタな偽名…」
(注)日本人で言えば、山田太郎とか鈴木一郎みたいな感じ。
国松「まるでキョンの本名ね」
浅田「いやそれ、いろいろ間違ってるし」
荻上「はいはい、オタ話はその辺にして、小野寺さん続きを」
小野寺「つまり君たちをこのヘリに乗せる為に、これから行く演習地への弾薬補給のヘリに、レベル5の政治的配慮による便乗という体裁を取る為さ」
一同「演習地!?」
だが恵子は、その言葉をあっさり流して、話を続けた。
「何すか、その政治的配慮って?」
小野寺「そういう体裁にしないと、君らにヘリの燃料代を請求しなきゃならなくなるからだよ。ヘリの燃料代って高いよ」
台場「(電卓を持って)あの、どれぐらいですか?」
小野寺「(台場の電卓のボタンを操作して返し)まあ、このぐらいにはなるね」
台場「(携帯を受け取って青ざめ)こっ、こんなに?」
荻上「どれぐらいになるの?」
台場「映画の制作費の、軽く10倍にはなります」
一同「何ですと?!」
小野寺「そりゃそうさ。高い航空燃料を蛇口からダダ洩れにしながら、飛んでるような代物だからな、ヘリって」
伊藤「そう言えば『戦国自衛隊』でも、ヘリが1番油食ってましたニャー」
小野寺「まあそういう訳で、後ろに積んでる箱は、そんなヘリに乗る為のチケットとでも思ってちょうだい」
沢田「物騒なチケットですね…」
巴「まあ正直、あまりご一緒したくない代物ね」
アンジェラ「てゆーか呉越同舟?」
豪田「ある意味合ってるわね、その使い方」
いざ飛び立つと、バートルの機内はローター音が響くので、落ち着かなかった。
会話をする際には、自然に怒鳴り合いとなってしまう。
国松「行けども行けども海の上、これじゃあどこに向かってるのか、全然分かんない〜!」
浅田「多分行き先は沖縄だよ〜!」
神田「何で分かるの〜?!」
浅田「ヘリの向かってる方向と、速度と航続距離と到着時間から割り出したんだよ〜!」
岸野「それにアメリカ海兵隊第3海兵遠征軍と言えば、基地は沖縄だしな〜!」
朽木「とんでもねえ!あたしゃ神様だよ〜!」
荻上「ややこしくなるから、黙ってて下さい〜!」
そんな喧騒の中、恵子だけはスヤスヤと眠っていた。
2時間後、現視研一行を乗せたヘリは、給油とトイレ休憩の為に、1度着陸した。
着陸したヘリポートの周囲には、たくさんの戦闘機があり、その向こうに海が見えた。
荻上「あの、ここはもしや…」
浅田「空母です。型式から見て、多分エンタープライズ級ですね」
朽木「何とも落ち着かない、パーキングエリアですのう」
15分後、巨漢揃いの米海軍兵士たちに送り迎えされ、落ち着かないトイレ休憩を終えた現視研一行は、再び機上の人となった。
今度はちょうど昼飯時なので、みんな飛び立つと同時に食事を始めた。
食事が終わると、怒鳴り合いの会話に疲れたせいか、今度は全員でお昼寝タイムとなった。
2時間後、小野寺に起こされた現視研の面々は、2度目のトイレ休憩となった。
今度のヘリポートも海上にあったが、先程の空母に比べれば狭い。
浅田「今度は大型揚陸艦かよ」
台場「揚陸艦って何?」
浅田「海兵隊が上陸する為の、船舶や航空機や車両を運ぶ船だよ」
岸野「多分演習の為だと思うけど、こんな戦争始まったら真っ先に敵地に上陸する連中を運んで来る船、よく俺たちが出入り出来たもんだ」
有吉「やっぱ謎だな、あの小野寺って人…」
通算6時間の長いフライトを経て、ようやく現視研一行は目的の地に着いた、
朝の10時に出発したので、もう時刻は夕方4時を回っていた。
ヘリを降りた現視研一行は、周囲を見渡して呆然とした。
ヘリの着陸した広場の前方には、岩山がそびえ立っていた。
そして周辺には、ジャングルが広がっていた。
荻上「で、ここはどこなの?」
浅田「太陽の位置や、ジャングルの状態や、この暑さから見て、やっぱり沖縄のどこかの島ですね。本島はさっき通過してましたし」
岩山のふもと付近に、人影が見えた。
ニャー子「兵隊さんですニャー」
藪崎「何かお洒落な兵隊さんやな。ヘルメットやのうて、ベレーなんか被ったはるわ」
豪田「あっほんとだ。漫画家?んな訳無いですよね」
巴「今時ベレー被った漫画家なんて居ないでしょ」
沢田「じゃあ絵が趣味とか…んな訳無いか」
スー「押忍!あれは米陸軍特殊部隊であります!グリーンベレーは、そのトレードマークであります!」
浅田「やはりここ、米軍の演習地みたいだな。でもそれにしても、グリーンベレーみたいな精鋭部隊が出て来るとは、かなりヤバイ演習だな…」
「ありゃあ、もうそんなとこまで進んじゃったか」
一同の背後で、小野寺がつぶやいた。
いつの間にか、ヘリの後部に積んでいた金属製の箱を、傍らに置いた手押し車に積み上げて、やはりワイヤーで固定してあった。
「みんな着いたとこで悪いんだけど、さっそく撮影の準備始めちゃって。あの連中が今いるってことは、予定より演習進んじゃったみたいだし」
恵子「あのベレーの外人さんたちが、オーラスってこと?」
小野寺「その通り。俺、弾薬持って行くから、適当にやってて」
恵子「分かりました!野朗ども、行くぞ!」
一同「おう!」
現視研一行は準備にかかった。
と言っても用意するのは、4人のカメラマンと録音の沢田だけであった。
後のメンバーは、付き添いに等しい。
「あとみんな、これ着けてね」
小野寺は爆弾の入った物とはまた別の、大きな金属製の箱を持って来て開けた。
中身はたくさんのヘッドホンとゴーグル、それに使い捨てタイプのマスクであった。
荻上「あのこれは?」
小野寺「爆薬使ってる現場って、埃っぽいからね。あとこのヘッドホンは耳栓と違って、爆音を和らげる一方で、人間の声は聞き取れるから、着けたまま会話出来るよ」
現視研の一行が、ゴーグルとマスクとヘッドホンを装着し終わった直後、爆発音が轟いた。
一斉に音の方を向く一同。
先ほど見たグリーンベレーの面々が、岩山に向かって砲撃を開始したのだ。
主に対戦車ロケット砲の発射訓練のようだ。
小野寺「どうやら始まったようだな。みんなも用意出来次第、撮り始めていいぞ」
カメラマン一同「はいっ!」
ヘリが着陸した広場は高台になっており、演習に使われている岩山の中腹を見下ろせるポジションにあった。
4人のカメラマンはギリギリまで岩山の方に接近し、撮影を開始した。
遅れて録音の沢田も近付き、爆発音を録音し始める。
あとのメンバーは、その様子を緊張の面持ちで見守る。
小野寺「ここからなら、いくら撮っても問題無いけど、これ以上は前進しないでね。それと爆発はいくら撮ってもいいけど、軍の人間や兵器は撮らないようにね」
荻上「どうしてですか?」
小野寺「守秘義務が生じたら、ややこしいからだよ。まあこの訓練自体は別に極秘じゃないから、口外しても問題無いけどね」
荻上「それにしても小野寺さん、何でこんなとこに私たち連れて来られたんですか?」
小野寺「俺の昔のバイト先の上司が、今グリーンベレーの教官やってるから、そのコネで特別に許可もらったんだよ」
恵子「バイトって、何のバイトなんです?」
小野寺「悪いけど、守秘義務があるから答えられないよ」
恵子「また守秘義務っすか、じゃあしゃあないですね」
そんな会話の中、浅田と岸野がズンズンと前進し始めた。
藪崎「ちょっと!あんたらどこ行くんや?!」
呼ばれて立ち止まった2人、何かに取り付かれた目で、こう呟いた。
「呼んでいる・・・戦場が俺を呼んでいる…」
呆然とする藪崎さんの傍を、さらに加藤さんも通過して前進し始めた。
加藤「呼んでいる…戦場が私を呼んでいる…」
藪崎「ちょう加藤さんまで!」
さらに見学者にも、興奮して行動を開始する者がいた。
国松「ああもう我慢出来ない!(自前のデジタルビデオカメラを出し)私も撮る!」
さらにお祭り野朗クッチーの制御装置が壊れた。
「にょおおおおおお!!!!僕チンも写真を撮るであります!」
クッチーは自前のデジカメを取り出して、爆発の続く岩山への走り出した。
小野寺「あっ、こらああああ!それ以上先に行くなあああああ!!!!」
小野寺はカメラマンたちを追って走り出した。
他の会員たちも、前進し過ぎのカメラマンたちを必死で呼び戻そうと、大声で名を呼ぶ。
爆音と怒号の混じり合った喧騒の中、荻上会長は虚空に絶叫した。
「て言うか、小野寺さんの昔のバイトって、いったい何なんですかあああ!!!!!?」
今夜はここまでです。
次回、また新章に突入します。
(正直、章の区分は、気分でやってますので、あまり深い意味はありません)
そして、ようやく29人目のキャラ登場です。
お返事も簡単に。
>>577 感想ありがとうございました。
正直キャラ全員完全には動かし切れず、空気になってるキャラも多いなと、日々反省しています。
GW中、完結までは行かぬまでも、かなり進める予定ですので、乞うご期待。
ではまた。
残り29KB
こんばんわ。
またやって参りました。
今夜は8レスです。
では。
第14章 笹原恵子の遠征
今日も今日とて、現視研の面々は部室に集まっていた。
今日集まっているのは、1年生13人、荻上会長、クッチー、「やぶへび」の3人、そして例によって昼飯を食いに来た斑目という面子だ。
今日は大野さんは就職活動だ。
そして監督の恵子は、笹原の部屋にこもっていた。
国松「何で監督、こもってるんです?」
荻上「もうじき屋外でのバトルの撮影が始まるけど、イメージが上手くまとまらないんですって。笹原さんの話じゃ、ずっとビデオ見てるそうよ」
浅田「そろそろ撮影の方、加速しないとまずいんですけどね」
神田「そうでも無いんじゃない?もうあと残ってる主なシーンは、屋外でのベムとアルとケロロ小隊のバトルと、ミニチュアでの特撮シーンぐらいだし」
浅田「いや、まだ油断は出来ないよ。この映画、むしろ今からの屋外のシーンがメインで、ここまでは露払いみたいなもんだし」
神田「そうは言っても、まだ9月下旬よ。学祭まで40日以上あるし」
岸野「なら実質、あと20日程度だよ」
藪崎「何で?」
岸野「お忘れですか?8ミリは現像が戻って来るまで、2週間は見とかないといけません」
藪崎「ああ、そやったな」
沢田「でも2週間なら、25日はあるんじゃ?」
岸野「俺たちに、ひと晩で編集しろと?」
沢田「あっ…」
岸野「それにアフレコだって、映像が上がってからでないと、素人には無理だよ」
浅田「まあそんな訳で、現像と編集を考慮すると、実質撮影期間は、あと20日足らずと考えといた方がいいです」
有吉「ヤマトで言えば、イスカンダルまでに半年以上使っちゃった状態ってとこか」
荻上「そう考えたら、こっからが正念場ね」
国松「まあでも、昨日ので特撮部門の最大の難関だった、爆破シーンはたくさん撮れたから、何とかなりますよ」
斑目「昨日はたいへんだったらしいね」
豪田「まあ往復で1日に12時間、ヘリに揺られての遠征でしたからね」
斑目「そりゃ凄いね」
巴「まあヘリのパイロットにでもならない限り、あんなにヘリに乗ることは生涯無いでしょうね」
伊藤「同感ですニャー」
台場「でも撮影はもっと大変だったわね。私らは見てただけだけど…」
ニャー子「カメラマンの人たち、ドンドン前進して行っちゃって、後で小野寺さんに怒られてましたニャー」
浅田・岸野・加藤「面目無い…」
藪崎「ほんまですよ。私だけですやん、普通に撮影してたの」
加藤「いや、ああいう場所って、カメラマンを頑張らせ過ぎちゃう、何かがあるのよ」
藪崎「元々カメラやっとった2人はともかく、加藤さんまで取り付かれてどないしまんねん?」
加藤「でも私たちまだマシな方よ」
神田「そうですよ。クッチー先輩なんて、前進し過ぎで爆心地に近付き過ぎで、爆風浴びてましたもん」
「いやあ、わたくし危うく死ぬかと思いました」
頭がアフロになったクッチーが、神田のネタ振りに応えた。
荻上「紛らわしいことしないで下さい!」
スポンと音を立てて、クッチーの頭からアフロを外す荻上会長。
クッチーのアフロは、ケロロ小隊の面々が、着ぐるみの頭の上から被る為に、日垣が作成したヅラだった。
これを被ることで、ラスト間際の爆発に、小隊の面々が巻き込まれたことを示そうという訳だ。
斑目「なんだヅラだったのか。爆発に巻き込まれて、そうなったのかと思ったよ」
荻上「ドリフのコントじゃないんですから…」
「当面の問題はロケ地までの足ですね。運ぶ物いろいろあるし」
国松が話題を戻した。
荻上「浅田君、前に見せてもらった造成地みたいなとこ、道のりはどんな感じだっけ?」
浅田「砂利積んだトラックが通ってるぐらいだから、車で近くまで入れますよ」
荻上「となると、荷物共々車で行った方が良さそうね」
巴「また車が要りますね。この間海に行った時みたいに、また車持ち寄りましょうか?」
荻上「でも今度は、少なくとも10日ぐらいほぼ毎日だから、自家用車4〜5台を確保するのは難しいわね」
国松「まあ欲を言えば、ロケバスみたいなもんがあればいいんですけど…」
国松の視線を感じた台場が答える。
「予算的には、マイクロバス1台ぐらいは、借りられないこともないけど…」
「マイクロバスか…」
台場の思考を遮るように、そう呟いたのは加藤さんだった。
「ちょっと待っててね」
加藤さんは部室の隅に行き、自分の携帯を取り出して、どこかにかけた。
「…お久しぶりです、加藤です。実はかくかくしかじかな事情で、マイクロバスを借りられるところを探しているんですが…そう、なるべく格安で…」
数分後、加藤さんは電話を切り、一同に報告する。
「何とかなりそうよ、マイクロバス」
藪崎「ほんまですか?!でも、どないして借りはったんですか?」
ニヤリと笑ったらしいオーラを放ち、加藤は答えた。
「知り合いの人でね、家で仕事にバス使ってる人が居たのを思い出したのよ。それで試しに訊いてみたら、ちょうど今ヒマでバス空いてるそうなのよ」
台場「あの、お代の方は?」
加藤「ガソリン代だけでいいって」
台場「よし乗った!会長、いいですよね?」
荻上「そうね。加藤さん、お願いします。でも、どなたなんですか、バス貸して下さる方?」
加藤「(ニヤリと笑ったらしいオーラを放ち)それは当日のお楽しみ」
翌日、椎応大学の近所の大通りで、現視研の一行はマイクロバスを待っていた。
みんな歩道に立っていたが、伊藤と浅田だけは、路肩に停めたワゴンの傍にいる。
ワゴンは伊藤の実家から借り出したものだった。
撮影機材をバスが来てから積み直すより、最初から車1台にまとめて積み、その車で一緒にロケ地に向かった方が速いと判断したのだ。
それにロケ地へと先導する役割もあった。
伊藤が運転し、シネハンを担当していた浅田が、助手席でナビゲーターをするのだ。
今日の面子は、1年生全員と「やぶへび」の3人、荻上会長、大野さん、クッチー、そして
恵子という面々だ。
やがて1台のマイクロバスが近付いて来て、一行の前で停まった。
一同「キタ―――――――!!!」
国松「これですよね、加藤先輩?」
加藤「ええ」
そのバスは、紺色と白のツートーンカラーの、地味なマイクロバスであった。
横腹に、微かにペンキを重ね塗りした形跡が見られた。
よく見ると、何か文字が見える。
元々は、何か社名が入っていたらしい。
バスの運転席から降りて来た男の顔を見て、一行の反応は2つに分かれた。
荻上会長よりも下の世代の会員たちは、男と面識が無かった為、キョトンとしていた。
一方荻上会長から上の世代の会員たちは、その小太りで眼鏡をかけた、いかにもオタクな容貌の男の名を叫んだ。
「高柳さん?!」
バスの運転手は、椎応大学漫画研究会OBの高柳であった。
「お久しぶりです、高柳さん!」
最近では1年生たちに殆どのことを任せ、自分が前面に出ることの少ない荻上会長が、珍しく真っ先に駆け寄って挨拶した。
現視研に入るきっかけを作ってくれた高柳は、荻上会長にとっては大恩人でもあるからだ。
「お久しぶりですぅ、ヤナはん」
続いて藪崎さんも駆け寄り挨拶する。
高柳「元気そうだね、2人とも」
2人の間に壁が無くなったことに気付き、さらに付け加えた。
「それに、仲良くなったみたいだし」
藪崎「(赤面し)仲良くって…そんなたいそなもんやおませんて。オギは私のライバルでっさかい…」
荻上「(苦笑し)まあ、そんな感じですよ」
高柳「ほんと立派になったもんだ。現視研に始めて連れて行った頃には、想像出来なかったよ」
今度は荻上会長が赤面した。
ふと振り返る荻上会長。
1年生たちの「この人誰ですか?」という視線に気付いたからだ。
まだ赤面してる荻藪コンビには酷と判断したか、加藤さんが割って入った。
「改めて紹介するわ。こちらは漫研のOBの高柳さん」
高柳「ども、高柳です。言いにくい人はヤナでいいから」
加藤「そう、だからみんなヤナさんって呼んでるわ」
神田「ヤナさんか。シゲさんと組んだら、いいコンビかも」
高柳「シゲさんって?」
加藤「今の現視研の1年の子たち、斑目さんのことをそう呼んでるんですよ」
加藤さんは高柳に、その語源を説明した。
高柳「そういう事情かあ。斑目まだ部室に出入りしてるんだな」
神田「ヤナさん、シゲさんのこと、ご存知なんですか?」
加藤「ご存知も何も、2人は同学年で親友よ」
1年一同「へー」
高柳「まあ親友は大袈裟かな。卒業してからは、あんまし会ってないし」
加藤「でも漫研女子の間では、話題になってましたよ。斑目×高柳か、高柳×斑目かで、けっこう論争になってましたし」
ブッとなる一同。
国松「そっちの親友ですか!?」
高柳「俺と斑目とでねえ…まあ薄々そんな気はしてたけど」
日垣「あの、高柳先輩は、そういうのは抵抗無いんですか?」
高柳「まあ全然無い訳じゃないけど、女子のオタク相手に、そういうの気にし出したら、キリが無いでしょ?」
1年男子一同「大人だあ…」
高柳「そう言えばこの子たち、みんな現視研なの?」
藪崎「加藤さんと私と(首をつまんでニャー子を差し出し)こいつ以外は、みんな現視研ですわ」
高柳「その猫顔の子は?」
藪崎「こいつは去年入った、私ら漫研の後輩ですわ」
ニャー子「ニャー子ですぅ」
加藤「ヤナさんは卒業してから来られてないから、ニャー子は初対面だったわね」
高柳「そんじゃあその金髪の外人さん2人と、そっちの茶髪の眼鏡の子も?」
加藤「そうです。あとその茶髪の眼鏡の子は、笹原先輩の妹さんです」
高柳「笹原の?へー、あいつにこんな可愛らしい妹さん居たんだ」
眼鏡をかけ、少し痩せて顔が細くなったのにプラスして、笹原の丸顔度を実物の2割増しで覚えていた為、高柳は恵子を見ても、笹原に似てるとはあまり思わなかった。
恵子「ども、初めまして。笹原恵子です」
久々に、オタ丸出しの外見の人物との初対面なので、やや硬い対応だ。
加藤「しかも恵子さん、今回作る映画の監督さんですよ」
高柳「へー。事情は大体電話で聞いてたけど、現視研も随分アクティブになったもんだな。しかも漫研よりも、女子の比率高いし」
藪崎「それはそうと、よろしいんでっかヤナはん、こないなもん貸してもろて」
高柳「いいさ。どのみち年内いっぱいは、俺もこのバスも空いてるし」
荻上「どういうことです?」
高柳「卒業後に俺が後継いだ、実家でやってた家業が、近くに大手が進出して来たせいで大赤字なんで、年内いっぱいで閉めることしたんだ」
急にヘビーな話になり、沈黙する一同。
荻上「じゃあ今後は、どうされるんですか?」
高柳「とりあえず、年内はのんびりと残務整理さ。伝手はあるから再就職の方は大丈夫だよ。うちは潰れたけど、業界自体は成長産業だから、仕事には困らないさ」
荻上「そうですか…」
高柳「何かしんみりさせちゃったね。まあこの話はここまでにしよう。みんなバスに乗ってよ」
現視研一行はバスに乗り込んだ。
沢田「何か、線香臭いわね」
台場「芳香剤か何かじゃない?」
沢田「それにしては、臭いが何かヨモギっぽいわよ」
「あれっ?これなんだろう?」
座席の下の物体に気付き、荻上会長はそれを拾った。
その物体は、白くて丸みを帯びていて、軽くてカサカサしていた。
豪田「何かポップコーンのカスみたいな物体ですね」
「あっまだあったか。ちょっとごめんね」
高柳はそう言って、その物体をつまみ上げ、ポケットから出した白いハンカチで、丁寧に包む。
そして傍らの席に、ハンカチに包んだ物体を置き、ポケットから数珠を出し、手を合わせた。
そして「南無阿弥陀仏」と短くお祈りすると、物体と数珠をポケットに仕舞った。
その様子を呆然と見守る一同。
荻上「あのう、高柳さん…」
高柳「多分最後のお客さんのだよ。ご遺族の方の中に小さいお子さんがいらしてね、お墓まで行く途中で、中身ぶっちゃけちゃったんだよ」
一同『ご遺族?お墓?』
高柳「ありがとう荻上さん。後でちゃんとご遺族の方に届けとくから。あと手を出して」
「?」となりつつも荻上会長が手を出すと、高柳はポケットから散剤のような小さな紙包みを出して、その中身の白い粉を荻上会長の手にふりかける。
よく見るとその紙包みには、「高柳葬祭」と印刷されていた。
一同『葬儀屋だったのか、高柳先輩って…』
荻上「何ですかこれ?」
高柳「清めの塩だよ。まあ高温で焼いてあるから害は無いけど、一応習慣だから」
荻上「(自分の手を見つめ)初めて触ったわ、人のお骨なんて」
高柳「まあ最後の仏様は末期のガンだったから、もう全身カサカサになってたからね、お骨の方も。普通のお骨はもう少し硬くて原形保ってるよ」
恵子「何かえらい縁起の悪いバス借りちゃったな…」
おつ
17KB
A
K
I
B
A
16KB
606 :
マロン名無しさん:2009/05/13(水) 21:48:52 ID:m31Ef2Vl
16KB
16KB
16KB
16kb
16
木尾はまだ16だからぁ〜
…
あと16KB
あと16KB
あと16KB
あと16KB
あと16KB
あと16KB
あと15KB
あと15KB
またアクセス規制か
いつまで持つかな、このスレ
まあどのみち、あと15KBだけど
どうやら1日放置しただけでは、落ちないようだな。
よかったよかった。
それにしても規制解除はまだかのう…
テスト
保守
?
あ
え
お
き
う
S
J
W
/
残り14KB
残り14KB
残り14KB
残り14KB
残り14KB
14KB
14
14
14
14か
13KB
保守だけで50レスはやり過ぎだろ
650 :
マロン名無しさん:2009/07/03(金) 18:18:26 ID:M2NCy2Ha
やり過ぎだな
でもまだまだ保守
13
もういいかな
さて、どこまで続くか
1KBあれば、けっこう続くもんだな
2日放置しても落ちないんだな
もいっか
いいかな
良くない
・・・もう・・・・ゴールしてもいいよね・・・
良くない
あと12KBか
んだ
さて
どだ
どだろ
うーむ
まだ12KBあるな
あるね
あるな
あるよ
どれがいい?
あのネタだとしたら、やや苦しい
苦しい
???
ほしゅ
11KB
678 :
マロン名無しさん:2009/08/25(火) 22:06:38 ID:komCmBZo
11KB
679 :
マロン名無しさん:2009/08/28(金) 20:17:41 ID:C1Bbsr4F
11KB
11KB
11KB
11KB
AKB
AK47
ひと言ふた言なら、けっこう続くもんだ
このまま1000まで
それはさすがに無理やろw
よし挑戦
さて
うむ
sien
10KB
10KB
10KB
10
10
10
まだ10
また10
さて
あらま
んこ
こらこら
まだ10
まだ10
また10
あと9
9
9
9
9
9
9
9
9
9
九
9
く
H
玖
8
8
8
8
八
8
G
729 :
マロン名無しさん:2009/12/08(火) 13:06:36 ID:F9nsd2xy
8
8
/ \
[
8
中央大学に入学したかった
まだ出願期間前だぞw
まだ8?
あと7
7
7
7
741 :
マロン名無しさん:2009/12/31(木) 17:33:25 ID:DKayRhqC
7
7
7
7
7
7
7
7
7
7
7
7
7
6
6
6
ちごぷり
顔があのまま大人になる
6
6
6
761 :
マロン名無しさん:2010/02/21(日) 21:07:41 ID:r3gORZZW
6
6
6
6
6
6
6
6
5
5
5
5
5
5
5
5
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5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4