斑目「はいよー 新スレ建てたよー」
咲「はい ありがと 乙でした」
斑目「はいー」
咲「ん? あれ?」
斑目「え? 何すか?」
咲「んー・・・いや・・・うーん・・・」
咲「こんなふうに斑目が新スレ建てた事 前になかったっけ?」
斑目「//////え? そうだっけ?」
咲「だいぶ前・・・ あれ? ちょうどこのSSシリーズ読んでた気がする・・・」
咲「・・・・・ん?覚えてない?」
斑目「・・・・覚えてないなぁ」
咲「あ?そう? 確かあの時私ちょっとレスしたとおもうんだけど・・・」
斑目「そうだっけ? うわやっべ全然覚えてねーー」
咲「ん・・・そっか ま ならいいや ごめんね」
斑目(そりゃ覚えてますとも・・・つーか思い出してたよ 今日スレ建てして前スレの
SS見てすぐ でも言わん方がいいだろ 容量オーバーした事なんて
アレはある意味俺だけの思い出! 墓まで持っていくのだ!! なんてね)
ああ
でも
やっぱ 覚えててくれるんだなぁ
ああいうのも
4 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:00:16 ID:???
この際ですから最後まで駄文投稿させていただきます。しばしお時間
いただきます。五分後くらいに投稿再開します。
5 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:04:44 ID:???
その声にロビーでかったるそうに寝転がっていた無頼の男たちがのっそりと起き上がった。
明らかに正統な参加資格を有した少年、少女ではない。職業軍人のようなその風貌からは歴戦の
戦士であることが伺われた。
「いいんですかい? まあ、ガキのお遊びに付き合うのも一興ですか!!」
「そう言うな、イヴァン。雇い主に従うのが傭兵の務めだ。ミカルも行くぞ!!」
「はい、リゲル大佐!!」
「おいおい、あれ、ガゼルバイジャン戦役で実戦装備された奴らじゃねえの? 黒の三連弾?」
「いいのか? 明らかにID認証の不正だよな。」
「高額でゼノン社のキリキア副社長に引き抜かれたらしいぞ。知―らねっと!!」
職員たちはボソボソ噂話をしている。
****************************************
深入りした「MANKEN」チームは撤退に苦労していた。『国境線』まで退く事ができず被害を大きく
していた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『みんな! 『国境線』まで退けたら無駄追いしないで!!』
春奈は無理に追えば逆に抵抗を激しくしてこちらの被害を大きくすると思って自制を呼びかけた。
しかし双子も感性が先鋭化して周囲の状況が見えずにいた。調子付いた味方も春奈の指示に従わない。
元々、個人プレーのゲーマーたちの集まりで統制が取れないのが明らかになってきた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『みんな言う事、聞いてくれない!!』
[ブルーディスティニー]=【アレック】『俺の方も駄目だ!! 双子たちも我を忘れている!!』
そこへ敵の増援部隊が到着した。そして逆に事態はさらに一変した。
****************************************
6 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:05:45 ID:???
「あれ、グ・・・○フとド・・・」と斑目
キッとした表情で職員が睨む。
「あ、はいスイマセン・・・。クフとトムですね・・・。」
****************************************
[クフ]=【ルドルフ】『お嬢!! ご無事で!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『たっ助かったわ〜。爺〜(涙)』
[レッドフォックス]=【ミハイル】『【やられはせんぞ!やられはせんぞ貴様如き・・・】』
[クフ]=【ルドルフ】『若!! 退いてください!! 後はお任せを!!』
[黒の三連弾@]=【リゲル】『じゃあ、まいりますか!!』
[クフ]=【ルドルフ】『【この風!この肌触りこそ戦争よ!】 開発から携わったワシの力見せてくれん!!』
[黒の三連弾A]=【イヴァン】『【見事だな! しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ! その○ビル
スーツの性能のおかげだということを忘れるな!】』
[グリーンラクーン]=【アニー】『ああもう、こいつらもコテコテのガノタや。疲れるわ〜。』
しかし彼らは口真似だけでは無く、圧倒的な力で巻き返しを図った。しかも黒の三連弾は意図的に相手
の機体を残忍に破壊していった。明らかに威嚇や精神的動揺を狙った作為的な戦術であった。
その効果は絶大だった。味方は恐怖で凍りつき、戦意喪失し始めていた。
[クフ]=【ルドルフ】『わはは、サクとは違うのだよ、サクとは!』
[黒の三連弾@]=【リゲル】『このまま本陣まで攻め込みますか?』
[クフ]=【ルドルフ】『いや、この辺でよかろう。目的は達した。これ以上すると不正がばれる。』
敵が撤退した後も、双子たちを含めて恐怖で凍りついた味方が戦場に取り残された。
春奈は口惜しそうにつぶやいた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『負けた・・・。』
7 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:07:18 ID:???
第六章 魔王の逆襲
「あれ、絶対、大人だよなー!! 汚ねー。」
「こんなもんじゃね? ゲームっつても政治がらみのプレイだし。つまんねー。」
「こっちも本職の人たちに助け頼めばいいんだって!!」
プレイヤーたちは口々に不平不満を口にしていた。厭戦気分と閉塞感で皆くさくさした気分になっている。
双子たちも消耗が激しく疲れた表情を見せている。先鋭した感性は逆に精神を消耗させるらしい。
双子たちの負担に頼るのも限界のように思われた。
春奈とアレックもヘトヘトな顔でロビーの椅子にへたり込んでいた。そこへ斑目が慰労にきた。
「よう、二人ともごくろうさん。コーヒーでも飲んでさ!」
疲れた春奈は苛立って斑目に当り散らした。
「コーヒーなんか飲んでる場合じゃないよ!! あれ絶対IDの認証の不正しているよ!! 委員会に
通報できないの?」
「うーん、プレイ中は不正のチェックは難しいらしい。巧妙に仕組んでいるらしいからね。」
「みんなは我がままばかりだし、双子はあんな調子だし!!」
くたびれた顔をしたアレックが春奈の金切り声にうんざりしてキョロキョロ周囲の様子を伺った。
「あれ? 今気付いたんだけど、ヌヌコ来てないんだ?」とガッカリした表情を浮かべた。
「・・・・・。あんたホント分かりやすいよね。誰かさんみたい!!」
アレックはムッとしてその場を立ち去った。
8 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:08:24 ID:???
「そう、苛立たずに・・・。」と斑目は春奈に言った。
「ごめんなさい・・・。」 春奈はしょんぼりした表情を浮かべた。
しばらく二人は黙りこくっていたが、ふいに春奈が斑目に尋ねた。
「ねえ、斑目さん、母さんと昔何かあった?」
「ブーーーーーーーーー」と斑目はコーヒーを噴出した。
「なっナンデそんな事思うのかな?!」
「いや、ただ何となく・・・。母さんの事話している時の斑目さんの表情が違うから・・・。」
(勘のいい子だよな・・・。)
「何も無いよ。ご両親とうまくいってないのかい?」
「ううん、二人とも出来過ぎなくらいいい人。問題は私自身なの。」
「と言うと?」
「ぬぬ子ちゃんは不思議な存在。双子たちもすごい力がある。私と一緒と思っていた千佳子も最近では
妙に変わった。上手く言えないけど何かが変わった。才能や努力とは違う何かが彼女たちにはある・・・。
私には何も無い・・・。そんな気がするの。」
(ほっホント勘がいいよな、それだけでも才能だと思うが(汗) 俺の事もやっぱり『あの人』は
気付いてたのかな?)
「でも双子たちは君を必要としているよ。二人の力も君がいなければ実現しなかったと思うよ。」
「うん・・・。アレックに謝ってくるね・・・。」
そう言って春奈は駆けていった。
斑目は手を振って彼女を送り出した。
「ははっ、まいったね。『彼女』と何かあったのかなんて・・・。・・・・。そう・・・何も無かったんだよ・・・。
何もね・・・。」
斑目は一人薄暗いロビーにたたずみながら静かにコーヒーをすすっていた。その丸メガネは彼の心を
おおい隠すように薄っすらと曇っていた・・・。
*****************************************
9 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:09:19 ID:???
ミハイルは口惜しそうに言った。
「あの白い悪魔さえいなければお前たちの助け無しに勝てたんだ!!」
ルドルフは彼をたしなめた。「若!! 戦場に『さえ』や『なければ』はありませんぞ!!」
「分かっている!! 次はこうはいかん。完璧な作戦であの白い悪魔を粉砕してくれる!!」
「その意気ですぞ、若。大きな声では言えませんがゼノン家の再興の為に私も尽力いたします!」
「せや、とうちゃんは好きな開発の仕事に夢中やけど、じいちゃんの無念はうちらが果たすんや!!
かあちゃんは『あほらし』とか言ってるけどな!!」とアニーも鼻息を荒くしている。
「あのサザビー家のボンボンもチームから追い出したしなー。謀ったなーとか負け惜しみ言ってたけど。」
「【坊やだからさ】」とミハイルはせせら笑った。
「目立つ行動はつつしまねば!!」とルドルフは言った。
「ご成人されるまでの辛抱です。ご成人されれば遺言でゼノン社の株が相続されます。そうすれば憎っくき
サザビー家から経営権を奪えます!! 幸い副社長のキリキア殿がお味方です。」
遠目で傭兵のリゲルたち三人は三人の様子を見ていた。
「なあ、あの人たちって、ゲオルク・ミハイロヴィチ・ゼノンの親族なんか?あの『温暖化の革新』とか言って
た思想家で経営者の。皇族の血筋とか自称していた。」とイヴァン。
「あれだろ? 温暖化は先進国の退廃の象徴で、新たな人類の新天地は凍土の溶けた極東だとかいう過激思想。選ばれた民の生存圏はR国の極東からN本の東北からC国のM州部、果てはT半島の北部まで
及ぶとか主張してたくさんの国から危険視されたやつ。」とミカル。
「おい、口を慎め。スポンサーが誰であろうと俺たちは金さえもらえばそれでいいんだ。その金で故郷を
復興するのが俺たちの夢だろう。そいつが各国から危険視されて、それを危惧したサザビー家が経営を
乗っ取ったからって俺たちに関係あるまい。もっとも今の経営者がゼノニズムに傾倒しているのは皮肉な
話だがな。」
「ちげえねえ。」と二人は笑った。
施設内放送ではゼノン社長の演説が放映されていた。
「・・・あえて言おう、カスであると!・・・従業員諸君!立て! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ諸君!・・」
10 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:10:33 ID:???
******************************************
「何こそこそしてるわけ?」と春奈はアレックに問いかけた。
「わ!! びっくりした!! ハルナか!! スー姉さんが来ているんだって?」
「? いるけど? 何、あんたスージー先生が怖いわけ?」
「こっ怖くなんかないよ!! ただ少し苦手というか・・・。」とアレックはオドオドして言う。
その様子が少し可笑しくて噴出しそうになったが、それをこらえて春奈はさっきの態度を謝った。
「ああ、いいよ、気にしてないよ。ところで今後の対策なんだけど・・・。」
「うーん、お互い疲弊したから敵が攻めてくるのにも間があるとは思うんだけど奴らの対策が思い浮かば
ない。双子の疲弊も考えないといけないし。みんなの戦意も落ちてるし。」
二人が悩んでいるとスージーがヒョコヒョコ顔を出した。
「わ!!スー姉さん!!」とアレックが驚く。
(プププ、本当に苦手なんだw)と春奈は思った。
スージーは春奈の方を向いて言った。
「戦場ニ神ハイナイ。
生キ延ビルモノト死ニユク者
勝者ト敗者ヲ分カツノハ
神ノ仕業デハナク
一個人ノ意志ガ敵対スル者ノ意志ヲ
駆逐・殲滅シタ結果デアル」
そう言ってスージーはプイッと立ち去っていった。
「? これってアニメ? 漫画? スー姉さんもコアなのたまに引用するからなー。」
アレックは首をかしげていた。
春奈はこの引用が何から引かれたか知っていた。春奈の目に光が戻った。
「試してみたい事があるの!! 整備係の職員さんに相談して、みんなに説明するの手伝って!!」
11 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:12:36 ID:???
それから二人は慌しく忙しく動いた。整備の人に硬金属の簡易な槍と厚手の盾を作ってもらうように
依頼した。
「いいよー。ここは何でもそろってるし、特注でそういうのも加工できる施設も整ってるからね。」
機体の修理や整備のスケジュールも詰まっていたが、整備担当は快く引き受けてくれた。
そうしたバックアップの優劣も対戦総合評価であったからだ。
そして渋るプレイヤーたちを集めて何度も打ち合わせをした。最初は非協力的であったチームメイトも
具体的な作戦を理解し、閉塞を打開できる道筋が見えてくると次第に協力するようになった。
そして開戦通知が送られてきた。
春奈は叫んだ。「発進!!」
*****************************************
斑目とスージーは頭にタンポポを生やしてボーとお茶をすすっている。
斑目「お茶が美味いデスナー。出番少ないデスナー。」
スージー「ソウデスナー」
*****************************************
12 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:13:28 ID:???
第七章 心神雷火
隊は三つに分けられた。中央の平地の隊はアレックが指揮し、盾と長槍を構えて密集して前進する隊形
を取った。右翼の丘は春奈が指揮し機動装甲車を使って騎兵隊を組織して進撃した。そして双子は
少数で左翼の森林地帯を抜けて奇襲する作戦を取った。
アレックはこの作戦の結果がどうなるか検討もつかなかったが春奈を信じる気になっていた。
[ブルーディスティニー]=【アレック】『とにかくリーダーを信じて前進!!』
「ニゲチャダメダニゲチャダメダ」 スージーがちゃかすかのように言う。
アレックは自分の不安を見透かされた気がしてカーと赤くなった。
****************************************
[レッドフォックス]=【ミハイル】『んー、予想どーり!! 【戦いとはいつも2手3手先を考えて行うものだ】
案の定、あの白い悪魔どもが遊撃隊として森林地帯から攻めてきたな。後は罠に仕掛けた爆薬や
中距離砲の一斉射撃で仕留めればいいだけだ。ゲッゲッゲッゲッ。他の隊は爺たちにまかせりゃいい。」
ミハイルは邪悪な笑みを浮かべて笑った。
[グリーンラクーン]=【アニー】『エゲツねー。我が兄ながらエゲツねー。せやけど勝たなあかんね。闘う
からには勝たなあかんね。ほな爺の隊に合流してるからな!!」
*****************************************
13 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:14:45 ID:???
「あー怖くて見れない。もうこれゲームって言えるのかな。」
個室で斑目はぼやいている。同室のスージーは斑目の事お構い無しに、パンツと薄いネグリジェ姿で
がさごそカバンを漁っている。夜更かしして寝坊したあげく、そのままの姿でウロウロしていた。
(大体なんで同室なんだよ。)と目のやり場に困りながら斑目は思った。
施設側の手違いで何故か同室になっている。双子たちにはイヤラシーとか言われてしまうし、周囲の
職員に説明するのも疲れてきたし、スージーは相変わらずだし・・・。
「マダラメ、ベットの上に上げたカバン取って!!」
「へ? 何で俺が?」
「届かない。」
「じゃあ取るよ! うわっ!!」
斑目はベットの上に乗っかって手を伸ばしたがシーツに足がからまって転倒してしまった。
同時にスージーも巻き込んでベットの下に転倒してしまったのだが、なにやらムニュムニュと生暖かい
ものが自分の顔を押しつぶしている。木綿のような感触で・・・形は・・・あれ?この割れた形の・・・。
ガチャッと扉を開く音が聞こえる。
「斑目さん!! 始まりまし・・・あら、ごめんなさい! お取り込み中だったみたいで!!
いいんですよ!! 今は自由恋愛の時代ですから互いに合意なら!」
係りの事情を良く知らないというか勘違いしている女性職員が慌てて立ち去った。
「あ!! 待って!! なっ何か勘違いしてませんか!! ワタシは確かにツルペタ・・いや何言ってる
んだ、大体、この女の本当の年齢は・・・ガハッ・・スー・・・ネクタイで首を絞めるな・・・ガクッ」
*****************************************
14 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:16:27 ID:???
中央の隊をルドルフの指揮で攻めていたが密集戦術が思ったより堅固で攻めあぐねていた。
[クフ]=【ルドルフ】『思った以上に堅固だな。あんな戦術、近代戦では見たことないぞ。軍隊経験のある
私でさえ見たことがない。誰だ?あんな戦術考えたのは?」
[グリーンラクーン]=【アニー】『どや?調子は?』
[クフ]=【ルドルフ】『これはお嬢!! 何、今は攻めあぐねてますが左翼を任せている黒い三連弾が
左翼を突破すれば問題ありません。若が白い悪魔を倒してこちらに合流すればさらに万全です。』
(だといいのだが・・・)ルドルフはかすかに不安を覚えた。
左翼を任されているリゲル大佐は前方から機動装甲車で突進してくる一群を確認した。「人型」である
このバトルスーツの利点は人が使用する機体に合わせた機動力を持てるという点であった。
[黒い三連弾@]=【リゲル】『ガキにしては中々考えるな・・・。』
[黒い三連弾B]=【ミカル】『所詮、子供のお遊びですよ。少し脅してやりましょう。』
[黒い三連弾@]=【リゲル】『そうだな。あっと言う間に戦意喪失してしまうだろう。いくぞ!!』
三人は後方の友軍を引き離してホバークラフトで前方の軍団に突進した。そこでリゲルは目を疑う
光景を見た。指揮官と思われる黒っぽい赤の機体が被弾して操縦不能になった味方を銃で撃ち、
隊から弾き飛ばし、隊の侵攻を妨げる障害を無理やり取り除いていた。
[黒い三連弾@]=【リゲル】『なっなんだ?いくらゲームで命の心配は無いとはいえ、あんな非道、軍隊
でもしないぞ!!」
[黒い三連弾A]=【イヴァン】『大佐!!』
[黒い三連弾@]=【リゲル】『ああ、すっすまん。いくぞ!!』
15 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:17:28 ID:???
黒い三連弾は春奈たちの一団に突進した。リゲルの機体と前衛の機体が衝突した。前衛機はリゲルを踏み越えていった。
[黒い三連弾@]=【リゲル】『【俺を踏み台にした!?】』
隊に乱れは無かった。リゲルは一太刀指揮官にライトサーベルをくらわせようとしたが、一団として
突進した衝撃でリゲルの機は後方に弾き飛ばされた。そして無我夢中でヒートホークや槍を振り回す
一団の攻撃にずたぼろになった。後方の二人は横に弾き飛ばされた。
[黒い三連弾A]=【イヴァン】『おい!!大佐と通信が途絶えたぞ?!何があった?!』
[黒い三連弾B]=【ミカル】『まさかあんなガキにやられたのか?! おい、あいつらを追え!!』
森林地帯で白い悪魔を待っているミハイルはジリジリと焦燥していた。いつまでたっても敵が罠に
現れないからだった。
[レッドフォックス]=【ミハイル】『何で現れない? 罠に気付いた?』
[グリーンラクーン]=【アニー】『どうなってるん? 後方から火の手があがってるわ!!』
[クフ]=【ルドルフ】『馬鹿な・・・。あそこは武器庫ですぞ・・・。黒の三連弾が蹴散らされたと?』
武器庫にかけつけた黒の三連弾は驚いた。武器庫に火が付けられ次々に誘爆して紅蓮の炎をあげて
いた。
[黒い三連弾B]=【ミカル】『おい!! 大佐の機体の頭部だぞ!!ひでえ、ズタボロだ!!』
そこで彼らは見た。紅蓮の炎の中に超然と立ち、手招いている鮮血の色の『魔王』の姿を・・・。
[黒い三連弾A]=【イヴァン】『魔王が・・・魔王が・・・地獄に我々を手招いている・・・。』
**************************************
「いやー、火をつけるの好きだなー。あの子の母親も好きなんデスヨー(汗)」
↑
シリアスな展開についていけない斑目
「マムシ72歳モジョークガ地ニ落チタモノダナ」
「ほっほっとけ!」
**************************************
16 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:18:53 ID:???
黒い三連弾率いる左翼が中央の隊に逃れてきた。
[クフ]=【ルドルフ】『お前たちどうした?! 黒の三連弾はどうした?!通信が途絶えたぞ!!』
**************************************
「うわあああああああああああ」とイヴァンがロックが解除されたコントロールルームから飛び出した。
「イヴァン!! ミカルはどうした?!」と先にコントロールルームから開放されたリゲルが叫んだ。
「ミカルは・・・ミカルの魂よ、故郷に飛んで、永遠に喜びの中に漂い給え…」とイヴァンは息絶え絶えに
答えた。
その時、ミカルのコントロールルームのロックが開いた。
「勝手に殺すな・・・。」とやはり息絶え絶えに答えた。
「大丈夫か!!お前たち!!」
「大佐・・・あんな子供が・・・もういいでしょう・・・あの故郷に一緒に帰りましょう・・・。子供の頃に
無邪気に黄昏まで遊んだあの丘に帰りましょう・・・。」
「おおお、俺が悪かった!!故郷からお前たちを連れ出した俺が悪かった!!一緒に帰ろう!!」
リゲルは号泣して二人を抱きしめた。
***************************************
[クフ]=【ルドルフ】『ええい、通信士はどうした?! いくらリアリティーのためとはいえ、各機に長距離
通信機能を持たせないというのは問題だ!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『そんなことより爺・・・、囲まれちゃってるよ・・・。』
「すげえ・・・古代戦でしか実現できないハンニバルの野戦包囲網を現代に復活させた・・・」
軍事オタらしい職員は息をのんでその光景を魅入っていた。
斑目も凍りついた表情でその光景に魅入った。
17 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:20:20 ID:???
[クフ]=【ルドルフ】『こっ降伏宣言を!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『降伏宣言はにいちゃんの隊長機からでないとでけへん。それに、
にいちゃんは遊軍で離れていて通信が途絶してるわ・・・。』
[クフ]=【ルドルフ】『・・・・・・・』
沈黙があたりを包んだ。隊長機の春奈が現れた。誰もが春奈の次の言動に注目した。アレックも
静かに「王」の言葉を待った。双子たちも罠を見破った春奈の指令ですでに合流していた。
ここで言うべき言葉は決まっていた。何故と聞かれても答えることはできなかった。
四国志のゲームが好きでたまたま知る事になった漫画のセリフ。女の子が読むには少し恥ずかしい
ので黙っていたが、以前から好きだった漫画のセリフが脳裏に浮かんだ。
[キングクリムゾン]=【春奈】『至純な闘いを穢す邪な思惑の入り乱れた世界・・・。こんな世界が本質的に
変わることを求めぬ者たちにお前たちの心火をたたきつけろ!!』
雷撃や火花が飛び散ったような感覚が全体を襲った。斑目もそれを感じた。さめた職員たちも
言葉を失って少女にすぎない春奈の言葉に心を奪われていた。
「これは・・・カリスマ誕生か・・・。双子たちの能力が媒介になってるのかな・・・」 斑目はかろうじて
「正気」を保ってスージーに聞いた。
「『聖』という文字は王が『天意』を聞いて民に口で伝えるという意味があるそうです。巫女を介して王が
その意志を伝えたんでしょう。」
「ジャンヌかはたまた魔王か・・・、いずれにせよ、俺が春奈ちゃんに『彼女』の面影を求めるのは間違い
だ。春奈ちゃんは春奈ちゃんだよ。」
斑目は目頭を抑えてこみ上げてくるものを抑えようとした。スージーは静かにそんな斑目を見た。
「アナタノソノ愛ガ彼女ノ心ヲトラエタコトナドナイノダヨ」と静かに言った。
「ははっ、プラチネスかい? 分かっているよ。分かっていたさ。」
ああ、堪えきれそうに無い・・・。
その時スージーは不意に斑目にキスをした。斑目は少し驚いたがこれがスージーなりの思いやりだと
思って何も言わなかった。勘違いしている女性職員がオタオタしているが説明する気も起きなかった。
ただ一言、「すまん・・・。」とだけ言った。
18 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:21:18 ID:???
「魔王」の命令で黒い森が意志を持つかのように全軍が動き出した。
[クフ]=【ルドルフ】『魔王の意志は我々を殲滅するつもりのようです。お嬢、この緊急避難塹壕に
お逃げなさい。』
[グリーンラクーン]=【アニー】『爺は?』
[クフ]=【ルドルフ】『私は大丈夫です。あなたの参加資格が無くなります。私のは不正入手ですから
惜しくはありません。』
そう言ってルドルフは無理やりアニーを塹壕に押し込んで蓋をした。
(何・・・所詮子供の遊びだ・・・。生命を取られるわけでも無し。ああ、しかし正気を保っていられるか
どうか・・・。どうか・・・どうかもう一度、若とお嬢の笑顔を見られますように・・・。)
19 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:22:04 ID:???
第八章 戦争と平和
大急ぎでトラップを仕掛けた森林地帯から中央の隊に戻ったミハイルは目を疑った。通信機は黒い
堕天使に狙撃されて破壊された。本部を介しての戦況の確認は規定の確認以外は禁止されている。
ミハイルは初めて戦況を理解した。
アニーもまた塹壕から這い出してその惨状を目の当たりにした。すでに掃討戦に入っていて、
周りには誰もいない。
ふと見ると敵方の隊長機が一人でいる。護衛はいなかった。
[グリーンラクーン]=【アニー】『魔王? 何様のつもりや!! なんだっていうんや!!
倒せないわけがない!! 倒せないわけが!! ただの人間や!!』
アニーはそう叫びながら春奈に突進した。アニーはサクのヒートホークを春奈の機体の頭上に振り
下ろした。あと数センチというところでヒートホークは狙撃されて折れた。
そして突進する白い悪魔に手足を切断されて吹っ飛んだ。
[スノーホワイト]=【万理】『間に合った〜』
[ブラック・ラグーン] =【千里】『駄目だって!! 油断してボーとしてちゃ!!』
[キングクリムゾン]=【春奈】『来てくれると思ってたよ。』 春奈は微笑んだ。
転がったアニーの機体をミハイルが拾い上げて逃げた。
[グリーンラクーン]=【アニー】『はっ離せえ〜。何で倒せんのや! 勝ったと思うなよ〜』
[レッドフォックス] =【ミハイル】『何ダルマみたいにされていきがってるんだ!!降伏だ!!』
[ブラック・ラグーン] =【千里】『あ、赤い狐だ!!撃つ?』
[キングクリムゾン]=【春奈】『ううん、本部で降伏宣言を受理した所。みんなにも通知がいくよ。』
20 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:23:03 ID:???
*************************************
春奈とアンディーと双子たちは本部施設に戻ってきた。
春奈たちは自分たちのした事に確信が持てずに不安な表情で斑目を見た。
もちろん春奈たちの行為は褒められたものではない。しかし斑目は笑って言った。
「大丈夫、大丈夫」
ほっとした表情で春奈たちは斑目に抱きついた。
春奈は言った。
「人って・・・怖くて・・・凄まじくて・・・そしてすごいんだね・・・。」
「うんうん」 斑目はただそれだけ言って春奈の頭を撫でた。
チームメイトと双子たちと祝勝会で少し話してから春奈はアレックの姿を探した。
アレックはロビーのソファーで疲れきって寝ていた。
「アレック、本当にありがとう。あんたがいなかったら勝てなかったよ。」
アレックは疲れた様子でただ頷くだけで返答した。
「私のこと、クラッシャーとか魔王とか呼んでみんなひどいんだよ。」
「それは褒め言葉だよ。みんな、自分たちの声の代弁してくれる人を求めていたんだ。そして俺も・・・。
俺にはやっぱりリーダーには向かないのかな・・・。」
(そう言ってくれるんだ・・・。うわ・・・やば・・・マジでやばいよ・・・)
春奈は顔を赤らめた。アレックは不思議そうに春奈の顔を見た。
「ああ、本当にくたびれた。癒しにヌヌコに会ってから帰国したいな、痛て!何で蹴るんだよ?」
21 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:24:00 ID:???
第九章 春奈の蒼穹
こうして私の冬休み最大のイベントは終わりました。
秘守義務にもかかわらず、一部ではネット上に魔王降臨とか、白い悪魔と黒い堕天使とか、伝説誕生
とか風聞が飛び交ってます。
私も調子に乗って漫画の真似をして、祝勝会では皆に
「心火を深奥に蓄えつつ、いつの日か再び集まりて敵を鏖殺するその日を待て!!」
と言ったのを斑目さんにたしなめられました。みんなには受けたんですがね。
私たちのした事は正しかったでしょうか?
いいえ、そうは思いません。そう思うべきでもありません。でも斑目さんがいてくれて本当に
良かった。誰も自分の行動が本当に正しかったかどうか判断する事はできません。
私たちは独善的すぎたのでしょうか?「我が過ち」というべきものだったのでしょうか?
そうかもしれません。
でも私たちは「何かに」勝ちました。これが私たちの生きる世界。
温暖化も過去の過ちでさえも、すべて私たちのもの。誰のものでもありません。
空を見上げればそこにはオゾンが切り裂かれ穿たれた蒼穹があります。
でもその蒼穹の彼方から過酷に容赦無く照りつける裸の太陽でさえも私たちのもの
だという事が今は分かるのです・・・。
**************************************
22 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:24:53 ID:???
「爺が無事でよかったわー。」
「結局、俺たちのチーム、不正がばれた上、ゼノン社が参加者に人体実験的に投与していた
感情抑制の薬が委員会にばれて失格だもんな。」
「薬の件はうちらも知らなかったし。危なかったわー。わたしらも投与されるかもしれへんかったんやな。
おかげで社長退陣したし、目的に一歩近づいたな!!」
「あの殲滅戦で精神的ショックの後遺症を調査する委員会の査問がきっかけとは皮肉だよな。」
「とりあえずほとぼり冷めるまで、引き続き冬休み前の短期留学先のかあちゃんの実家で
世話にならな。」
「大阪から東京にばあちゃんきてるんだよな・・・。嫌なんだよな、日本名で呼ぶから。」
「しゃあないやん、二重国籍なんやし。機体名だって『赤いキツネ』と『緑のタヌキ』やで?気取んな。
伊衛門にいちゃん。」
「何で商家のしきたりでそんな名前を・・・。お前だって米子じゃん!!」
「あ!! ぬぬ子ちゃんにまりちゃん!! それにちさちゃんも!!」
「あーよねちゃん!!元気してた?冬休みどうだった〜?」
「それがなあ、とてもエゲツないやつらにおうたんよ。」
「寄寓だよね〜。私たちもとんでもなく嫌な奴らに会ったのよ!!」
「やっぱ、どこにでもそういう奴おるんやなー。」
「千佳子!! お願い! 宿題見せて!!」
「安心してください。春奈さん。ばっちり終わらせてますから!!その代わりコス・・・」
「ゲ!! やっぱりお前、腹黒!!」
***************************************
その光景を遠くから斑目が目を細めてウンウン頷きながら見ていた。
「やっばり、殺伐としたのよりこういうほのぼのとした光景が彼女たちには似合うなあ〜」
スージー曰く。「やっぱりアンタバカー?」
最終回に続く。
23 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 02:31:03 ID:???
やっと投稿終わった・・・orz 超長駄文に時間をいただき失礼しました。
なお、このSSの団体や政治的?発言や似非科学的発言はこの中だけの
設定ですのでご了解ください。
引用は主に機○戦○ガ○ダムファーストと某三国志漫画から引用させて
もらってます。
アン・斑の外堀を埋めるSSですので次でなんとか終わらせますので
気長につきあっていただければ。
うわ新スレ!?乙乙乙。
超大作も乙!とりあえず前スレ感想たち置いとく。あなたのはまたじっくり読んでから書かせていただくよ。
>ラジヲのおじかん【師走】
久しぶりだ〜。それも成田ライヴ収録かいw
なにはともあれ酔っ払いにブチギレする於木野さん萌え。ひょっとして於木野さん(荻上さんではなく)の人格ってコレだったりして。
裏に回ってはしゃぎまくる曜子さんがかわいいことかわいいことw田中の声が聞こえてこないのはもう止めることもできないというこったろう。こっちメインにしたマイクもあればよかったのにwww
いつもの整頓された収録と違ってグダグダ感がとてもよい。たまにこういうのっていいよね。
そしてヤナ。
>「・・・まぁ、いろいろあったわ。」
kwsk。
>koyuki ll(最終回)
完結お疲れ。そしてゴチ。
俺
>>469ですが、コメントまで拾っていただき感謝感謝。
『ココに居てもイイヨ』は『日本に居ていいよ』ではない。『スーがスーのままで居ていいよ』という赦しの呪文だ。
荻上さん以上にかたくなで余計な殻をかぶっている彼女は、笹原とはまた違ったかたちでスーを赦してくれる人物を必要としていたのだ。
だがその存在であるべき斑目自身もごく最近「赦してもらった」クチで、自分の恩人が自分と同じ苦境にはまっているとは思っていない。彼はよもや彼女が自分と同じレベルで悩んでいるなどとは判らないのだ。
俺にはこれが辛かった。最終的に咲さんに強引に背中を押されたところで、読んでてものっすごいほっとした。
メインストーリーの部分が決着して本当によかったと思った。
で、『サブ』ストーリーである斑咲のお別れエピ。俺は迂闊にも「咲さんの斑目離れ」なぁんてものの必要性には目もくれていなかったよ。脱帽だ。
咲さんが斑目をもてあそんでいたとは微塵も思わないが、彼女が心のどこかで「コーサカ以外のオタク星人」を重宝に思っていた可能性は実は大きい。コーサカと結婚した今、互いに赦しあう相手を見つけた斑目を、咲さんも手放さなきゃならなかったんですねえ。
となクガ2〜koyuki連作にかけてコーサカが出てこないため咲さんが少し寂しそうに見えるが、まあそれは物語外で慰めてくれ、コーサカ。
いじょ。今回もいい話読めて嬉しかったよ。結婚式編は面白愉快とのこと、腹筋鍛えて待っときます。
25 :
24:2007/02/20(火) 05:11:54 ID:???
そして小ネタを一本投下。書き上げてしまってから言いたいことが山のように出てきたがマケルモンカー!!!
タイトルは『きゃんでぃ☆デート』、ポッケに持ち運びも便利な2レスで。つうか削って削ってギリギリ2レスなんで失敗したらすいません。
いつもの感想レスの方が文字数あるんじゃねーのとか思いながら、まいりますー。
今こんな気持ちで笹原さんを待ってる、いつもと明らかに違う私。どうしたんだろう、胸が苦しい。
5年以上も自分を欺いて生きてきて、笹原さんと一緒なら本当の自分のままで生きていけるって思って。それからもうこんなに季節が過ぎた。
あれからも何かにつけて笹原さんに迷惑かけて、だから今日みたいな日くらいは思いっきり甘えてみようって心に決めて(こんっなに覚悟してるって時点でなんか矛盾してんだけど)、先月末から1週間迷ってわざわざ約束取り付けて、また1週間待ちに待って。
今日は笹原さんとデートの日。ちょっと早めに着いた待ち合わせ場所は公園の一角。今日はほんとにいい天気。
朝だってイイ感じに目覚めて、着替えの間つけっぱなしにしていたテレビの占いは中吉。
……『CHU☆吉』なんつって。キャー私ナニ言ってんだナニ言ってんだバンバン!!!
服だって気合が入りまくりで、大学の友達が見たら温暖化でどうかしたくらいに思われそうなオンナノコな服。
いつものコートの下は今日が快晴じゃなかったら場違いもいいところの、白いセーターにピンクのスカート。さすがにナマ足は無理だったんで白のストッキングを履いているけれど、笹原さんだってコレ見たら逆に心配するんじゃないだろうか。
お化粧も春日部先輩に教わった成果の集大成。ちかごろ自分で気になりはじめているアゴのラインに軽く影を入れて、チークもわざとらしくならないように(っつかヤリすぎると田舎っぺになんだよなコレが)紅を差して。
仕上げにとっておきのルージュを入れる段になってテールんトコが決まらなくて、最初っから3回もやり直して。
胸のドキドキを必死に押しとどめて、彼が来たらどんな顔すればいいかリハーサルしてみた。
『やあ千佳、今日のキミは最高に美しいよ』
『そんなことありません完士さん、完士さんが私をきれいにさせてくれるんです』
ねえか。ねえよな。
バッグの中から出してみたり、また戻したりしているコレを早く笹原さんに渡したくて、でも本当はうんと勿体つけたくて、それで手の中で握ったり離したりしてたら中身が溶けちゃうっていうのに。
あっ。き……来た!
「ごめんごめん、待った?」
「いえっ……!わっ私もいま来たトコで……っ」
「なんか後ろの樹、ばんばん叩いてたけどどうかしたの?」
「あ、あーあー、いえちょっと、虫、そう虫がいたもんですから」
「そか。……あれ?荻上さん」
「はひっ?なななんでスカ?」
「いや、なんか……いつもとイメージ違うな、って。あ、スカートだからかな?可愛いね、その服」
「……アリガトウゴザイマス」
「お化粧とかも変えてるの?なんか、こう……」
「無理してるって言いたいんですか!?」
「いやいや!そんなことないって。荻上さんあんまりそういうイメージなかったからびっくりしてさ」
「普段ダサダサで悪かったですね」
「荻上さぁん、俺そんなこと言ってないでしょ?」
「あ……すみません、ごめんなさい」
「あのさ、今日の荻上さんさ」
「?」
「その……すごいカワイイな、って」
「ナニ言ってんですか、もうっ!」
「そんな怒んなくたってー」
あー、やっぱり無理だ。いっきなりベタベタに甘えたら笹原さん喜ぶかなって思ったけど、私のレパートリーにそんなキャラありませんでした。
結局いつもみたいな不機嫌テンションで、いつもみたいに笹原さんが私をなだめながら、そうして二人並んで歩き始めた。
今の私は――そう、キャンディみたいなもので。まだまだむき出しで置いておけるものじゃなくて。
中のアマアマな自分を隠したまま、こうして笹原さんと歩くのが精一杯なのだ。
ただ、その自分を隠すモノは昔みたいなトゲトゲしい固い殻じゃなく、薄くて柔らかくてカラフルな包み紙で。
今は……こんな人通りの多い公園や街のど真ん中では無理だけれど。
でも、あとで二人きりになったら、その時こそは私のこの包み紙を解いてもらおう。
そして大好きな彼に、私の全部を味わってもらうのだ。
おわり
……えー。えーっと。
先日とあるCDを入手しまして。その1曲目がこれ『きゃんでぃ☆デート』でした。
いちおう二人の初バレンタインあたりを想定して書いてますが投下のタイミングがずれたのが悔しいんでチョコと明言するのをやめました。っつうか書き始めたのがバレンタイン後だし。
最近出来のいいSSが大量投下されていますが揃いも揃ってダウナー系なんで(いまチラっと春奈読んだらダウナーじゃないっぽい……ええい見なかったことにw)、ちょいテンションageで行ってみようかと。
原作軸ではアフタ投稿のごたごたあたりとなるハズですが、ほんとはオギーこんなこと考えてツンデレ音頭踊ってんじゃないかなと。
ねえか。ねえよなw
しつれいしましたー。
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1168708176/l50x こっちからの続きです。
荻上「中島、これぇ・・・」
中島「まあ、お互い積る話もあんべ」
荻上の東北訛りの問いに、中島も東北弁で返した。
中島は、困惑してた笹原に視線を向けた。
中島「つーわけだから、じゃ行きましょーか」
中島は笑顔で、笹原の背中を強引に押した。
腐女子仲間も背中を押すのを手伝って、笹原は困惑しながら場を離れた。
三人が去った後、荻上が口を開いた。
荻上「あ・・・謝っても謝っても許されることじゃないけど、あの時はゴメンッ!」
荻上は涙ながら、その場に手をついた。
荻上「ス・・・スンマセンッ!ホント、スンマセン・・・」
それをじっと見ていた巻田は、笑みを浮かべながら口を開いた。
巻田「荻上さん、いまプロの漫画家なんだってね。中島さんから聞いた」
荻上「ま、漫画家つーか、まだ読み切り数本載せてもらったくらいで」
荻上は静かに、腰を上げた。
荻上「巻田くんは、なんで中島と?」
巻田「うーん、なんか数日前に突然尋ねて来たんだよ」
巻田は、照れとも困惑ともいえない表情で、微笑みながら話した。
荻上「じゃあ東京に?」
巻田「うん、東京に引っ越してたんだ」
荻上「ゴメンね、本当にゴメン!」
荻上は、力強く目をつむりながら謝った。
巻田は、構わず話しを続けた。
巻田「今はそれくらいの個人情報なんて、手に入れるのは容易いみたいだね」
荻上「ま、巻田くんは、今何を・・・」
巻田「去年から大学に通ってるんだ。それまでは・・・分かるでしょ?」
笑みを浮かべながら話す巻田を見て、荻上はなんともいえない気分にさせられた。
去年から大学生ということは、それまでは社会に参加しづらい状況であったこと。
それを話す巻田の表情を見れば、自ずと理解できた。
荻上「わっ、私になんか出来る事があったら!」
巻田「今更?そんなのないよ」
巻田は苦笑しながら、淡々と話した。
荻上は、ただ呆然としていた。
自分への嫌悪感と、巻田への申し訳なさでいっぱいだった。
巻田「・・・でも、そうだな。一つだけあるかも」
荻上「な、なに!?」
呆然としていた荻上は、大きな目を更に見開いた必死の表情に変わった。
巻田「荻上さん。僕と、もう一回付き合ってよ」
荻上は、ただただ困惑していた。
巻田は、微笑みながら続けた。
巻田「冗談だよ。さっきの笹原さんだっけ?あの人が今の彼氏なんでしょ。
やっぱ、あの人のも描いたのかな?」
荻上「描いたよ。自分の本性は、やっぱ変えらんねぇ!笹原さんも理解してくれたから
だから付き合ってる。でも、巻田くんが描くの止めろって言うんなら止める!」
荻上は、腕を力いっぱい真っ直ぐ下に伸ばしながら言った。
巻田「僕も理解できてたら、こんな遠回りせずに済んだのかな」
荻上「そんな、そんなこと。悪いのは全部私で!」
巻田「違うよ。責任は僕自身と中島達にもある。中島達が絡んでたことも
なんとなく気づいてた。でも、今日ここに連れて来られて、それが確信に変わったよ」
荻上は、目を白くしながら巻田の話を聞いていた。
巻田の表情は微笑ではなく、少し口元が締まった表情になっていた。
巻田「あの本にショックを受けたことは事実だ。でも、君だけが責任を負うのは間違ってる。
あの本にショックを受けたのは、ほんの数日だけだったんだよ。でも僕は事を大袈裟に捉えて
そのウチ学校でも噂が広まり、学校に行きづらくなった。ここからは君に責任なんてないんだ。
勿論、中島達にもね。今日、君が謝ったことで、その数日の苦しみの責任は果たされたんだよ。
でも中島達の責任は果たされてないかな?ハハッ」
巻田は、そう言って笑った。そして話を続けた。
巻田「その後の引き篭もってた期間は、僕だけの責任だ。でも僕は、それを君や親のせいにしてきた。
本当は、あの事件の話が学校中に伝わる前。いや、伝わってても学校に行くべきだった。
あの事件を、引き篭もった“キッカケ”にしようとして、イジけて引き篭もってただけだ。
好きな人の些細な妄想も許せず、噂で周りの視線を気にして逃げた。逃げただけだった。
ただ自分が弱かっただけだ。その証拠に引越してからも引き篭もってた。
・・・なんてね。引き篭もってたとき、そんなこと考えたんだよね」
巻田は、寂しく微笑んだ
荻上は巻田の言葉に救われつつも、全てを納得したわけではなかった。
荻上「そんな、自分を卑下しないで。それに、そう言われて、ハイそうですかって言えない」
巻田「いや、ホントに。荻上さんの責任は果たされたんだよ」
そう言うと、巻田はビル間に垣間見える夕日を見た。
巻田は、少しトーンを低くして言った。
巻田「もし今、僕が荻上さんの趣味を理解できるなら荻上さんは・・・」
また声のトーンを戻し、巻田はこっちを振り返って微笑んだ。
巻田「いや、うん。なんでもないよ、ハハハ」
寂しそうに微笑む巻田に、荻上の心はキュンと痛んだ。
辺りが暗くなり始めた頃、あの三人も戻ってきた。
笹原は不安げで、申し訳なさそうな表情をしてた。
中島「二人で、なに喋ってたの?怪しいー。ねぇ、笹原さん?」
中島は悪びれる様子も無く、無邪気に言い放った。
荻上と巻田は、お互いの顔を見合って苦笑した。
三人は近くのファミレスで、ヨタ話に浸ってたそうだ。
中島「ふーん・・・」
中島は、じっと荻上と巻田を見つめた。
見つめられた、荻上と巻田は困惑気味だった。
今日は、ここでお開きになることになった。
荻上「じゃあ、中島」
中島「うん!また会おうね」
中島は、満面の笑みで荻上と別れた。
荻上「じゃ・・・また、巻田くん」
巻田「うん、またいつか」
遠くの方で中島と腐女子仲間が、巻田を待っているようだった。
荻上と巻田は、互いの携帯番号を交換して別れた。
巻田が中島達の元へ駆け寄るのを見届けて、荻上と笹原も反対側へと歩き始めた。
巻田「ごめん。じゃあ、行こうか」
巻田が、そう言うと三人も反対側へと歩き始めた。
中島が足を止め、反対側へ去っていく二人へと振り向いた。
そして、気味の悪い表情で微笑んだ。
シャアアアアー・・・キュッ
―ガチャッ
シャワーから上がった荻上は、笹原の寝ているベッドに入っていった。
二人は当然のように、お互いの身体を求め合った。
荻上が、いつにも増して求めていると笹原は感じてた。
荻上「今日は、いつもより感じるんで・・・」
荻上の、その言葉に笹原の動きが一段と激しくなった。
荻上は笹原の下で、体を抱きながら天井を見てた。
頭に浮かぶのは、巻田の寂しそうな微笑みばかりだった。
朝起きたら、荻上はベッドにいなかった。
朝食の仕度か、台所から音が聞こえてくる。
もう一週間くらい、笹原は荻上の家で寝泊りしていた。
笹原「おはよー」
眠い目を擦りながら、台所で挨拶した。
寝癖も無く、身だしなみを整えた荻上が笑顔で答えた。
笹原も、会社に出掛ける準備を始めた。
笹原「じゃあ、行って来るね」
笹原が照れながら言うと、荻上は玄関で笑顔で見送った。
玄関を閉めると、すぐさま昨日の夜のことが頭を過ぎった。
笹原「それにしても昨日の、荻上さんは凄かったな・・・」
笹原は膨らみそうな股間に気づき、すぐに妄想を止めた。
いつものように満員電車に揺られて本社に向かう。
今日は派遣先ではなく、本社で一日中仕事だ。
―笹原さん?
人口密度の高い車内で、笹原のすぐ横からだった。
笹原「えっ?中島さん!?」
中島「昨日はどうもー」
中年サラリーマンに押し潰されながら、中島が苦しそうに挨拶した。
香水と甘い香りに、笹原も苦しみの中に快感を感じた。
だが、すぐに荻上のトラウマの原因であることを思い出し、気を引き締めた。
中島「きゃっ!」
中島は群集から押し出されるように、笹原と密着した。
笹原は、背中に中年男の独特の臭いを感じながら、前では中島の柔らかさを感じていた。
中島がどういう人間かは理解してたが、一方では悶々としたものを感じざる得なかった。
中島「ハハ。なんか、すいませんね。」
苦しそうに、少し息を乱した中島の声。笹原の股間はMAXだった。
とまらないドキドキ。悲しいかな。エロゲーの、似たようなシーンとダブらせていた。
そうこうしてる内に目的の駅に着いた。
笹原「ふうー、大変だったね。大丈夫?」
中島「ええ、大丈夫です。でも、笹原さんとあんなにくっつけて嬉しかったかな。」
笹原は、少し驚いた表情で中島を見た。
中島は、少し息を乱し火照った顔で笹原を見つめた。
笹原「おはようございまーす」
程よい声で挨拶すると、そのままデスクに向かった。
以前は、おぼついてた仕事も、今では慣れた手つきでこなすようになってた。
そんな仕事も一段落着いて、休憩室からコーヒー片手に窓から外を眺めたとき。
笹原「あれ、中島さん?」
それは、どこか緩んだ表情の中島ではなかった。
いつもと違い、真剣な表情で社内に入っていくのが見えた。
そんな大人っぽい女性的な一面が、笹原のオタクの性を刺激した。
36 :
春奈の蒼穹:2007/02/20(火) 22:10:13 ID:???
>目眩く夢酔い
あれ?投稿終了ですか? まだ途中? まだ読みきってないので感想は
のちほどしますね。
>まとめサイト管理人様
うひゃー スレにまたがって投稿するもんではありませんね。二行ほど
抜けてました。特に話に支障はないのですが、収録の際には
>>4-5の間に
下記の二行差し込んでいただけると幸いです。
お手数かけます。
この様子にゼノン社の本部に待機している男、ゼノン社専務のルドルフ・シュタインが慌てた。
「いかん!! 若とお嬢のピンチだ!! お前たち、出番だぞ!!」
前スレの530様、531様、532様、533様、それと
>>24様。感想を寄せていただいてありがとうございました。
>また落ち着いたら感想を…。
ぜひお願いします。それが明日の糧になります(w)
>目から水が溢れてとまらねえ・・・。
過分なお褒めに感謝。「真っ赤な誓い」も斑スー(しかも出産)だけに、適度な生殺しと続きを楽しみにしてます。
>スーはもっと楽天的なきがする
ごもっとも。ホントは飄々とした彼女が大好きなんスけど。
初登場時は何を考えてるんだか分かんないヒトでしたが、9巻「スージーといっしょ」での荻上とのやり取り見てると、なんか胸の奥にイロイロしまい込んでたり、辛い思いもしてるかもと思いました。
>やはり咲は偉大だった
やっぱり、斑目の生き方を変える『スイッチ』を持っているのは、咲だなと思うのです。
原作でもそのスイッチを発動して、悶々と苦しむ斑目を『解放』してほしかった……。
>荻上さん以上にかたくなで余計な殻をかぶっている彼女は、笹原とはまた違ったかたちでスーを赦してくれる人物を必要としていたのだ
。
その通りだと思います。
前述の通り、何か胸の奥にしまっているように見えるスーを救済するには、恋人がいて後に結婚してしまう(であろう)オギーや大野さんでは永続性がなくて、男性陣では、やはり斑目しか可能性が残ってない……。
それが僕の斑スー萌えの根拠です。
>咲さんの斑目離れ
咲の「喪失感」ですが、9巻の「告白」での泣きを深読みすると、アリなんじゃないかな〜と思っていたのデス。
一応、前スレ402〜403「となりのクガピ2」のエピローグの所(咲が昔の集合写真に写った斑目の姿を見る場面)を読んでもらうと、その切なさも彼女の中でいい思い出に昇華されているようになっています。
ちなみに、「となクガ2」での(斑目の高坂夫妻への妙な意識の仕方)と(咲のあるセリフ)は、予告した結婚式編からつながる伏線でもあります。いいのかこんな風呂敷広げて……。
>春奈の蒼穹
BREAK AGEキタ━━(゚∀゚)━━━!!いや失礼。でもミハイルとアナスタシアがトーマスとジェラルディンに重なる俺を誰が責められよう!
つうかむしろ今のガンダムの延長線上なんでしょうね。いつかこういう時代が来るのを夢見てたらゲームに時間掛ける余裕がなくなってたという、哀しい俺の心を癒してくれるSSですよ実に。
さてオハナシの眼目は斑目とアレックの掘り下げだったようで、なんだか読み終えたらアレックがめちゃめちゃ可愛らしくなってました。コイツにも受け属性の血が……嗚呼。
ゲームに関してはほぼ実況感覚でツッコめそうなのでパス。まあでもバトルスーツのデザインはアレだ、きっと大河原御大が2026年にもまだ現役参画してるんだよウン。バンチで連載してる探偵マンガの方を思い出さないでもないがw
前作までが荒唐無稽な筋立てながら割と現実チックな事件を濃く書き込んでいたのに対し、本作はエンターテインメント寄りに描写したようで『フィクション』として純粋に楽しむことができた。楽しそうだな、20年後。
次回で最終回とのこと、ぶっちゃけ「終わる……のか?」感も否めないがw頑張ってください。作者氏がまとめようとしている斑アンだけでなく、そこに双子たちが関わるのかどうかなどと興味は尽きない。増えても良いのでヨロ。
それにしてもミハイルとアニー、『最終巻いっこ前から登場』とは良い血を引いている。双子VS双子(しかも互いのことを知らないまんま友達!)なんていう構図も贅沢だし惜しい、惜しいよ作者氏。もっと活躍させてやってくれ。
そして。
>斑目とスージーは頭にタンポポを生やしてボーとお茶をすすっている。
>斑目「お茶が美味いデスナー。出番少ないデスナー。」
>スージー「ソウデスナー」
なごんだw
ようやくまとめて感想を……。どれも、いい読みモノでございました。
>2月14日
斑目切ない…。1年ぶりに来室した日が2月14日って(しかも一縷の望みを抱いて来訪)、余計に切ないです。
しかもそこで咲の婚約話聞かされるとは……(涙)。
>斑目、思う
「歩く」もそうでしたけど、描写の細やかさと心象とのリンクがお見事です。
読んでいて『イイ意味』で寒々しい気分になりました。
それにしても28で童貞かあ…。
>ラジヲのおじかん
きっとあると思ってました公開録音。しかも、コミックでの山場(斑目と咲のやりとり)の間に収録されているとは!
於木野さん、ベンジャミン相手でヨカッタね。
そして一番ウケタのは……、
>ほらほら一緒に飲みゥエロエロエロエロエロエロ・・・・。
(笑)
>春奈の蒼穹
前作とトーンが変わっていて、多彩なシリーズものだなと感心しました。
あと、1カ所に寝泊まりする話でもあるので、合宿モノみたく、春奈や双子のゲーム外の生活行動なんかも詳しく見たかったなあと贅沢なことを言ってみます。
>大体、この女の本当の年齢は・・・ガハッ・・スー・・・ネクタイで首を絞めるな・・・ガクッ
ガクブルワロスwww
>きゃんでぃ☆デート
……もうね、可愛くってしょうがない(w)。女の子の大事な1日を、その心の移ろいを、見てきたかのように書いてる(w)
荻上さん、咲のアドバイス実践して超頑張ってるし。
>今の私は――そう、キャンディみたいなもので。
ここからオチまでの「ワタシはキャンディ論」と、わ、わたしの全部を あ ああ 味わってももももら……(動揺以下略)の部分は、読んでて『素で』ヨダレが出ましたよ。マヂ。
>目眩く夢酔い
「きゃんでぃ☆デート」の直後にコレかい!と、SSスレの振り幅の広さに愕然としました。
なんか、読んでいて中島が憎らしくなってしまった。
正直なところモニタに向かって、「ナカジマぁ? テメーは、8巻ラストで荻上が覚悟した時点で存在価値は消えたんだYO! 色仕掛けスンナこのクサレアマ!」と罵倒するくらい憎らしかったです。
……そう思わせるということは、それだけ作者氏の筆力のなせるワザですね。
まんまと掌の上で転がされているワタシに、どうか続きを……お願い……欲しいの(笑)。
41 :
春奈の蒼穹:2007/02/22(木) 00:45:58 ID:???
>目眩く夢酔い
中島は忘れた頃にやってくる・・・字余り・・・。ではないですが、「中島
性悪説」!!キタっすねー。なにやらサスペンスタッチの陰謀の匂いぷんぷん
な展開・・・。たぶんこれで終わりではないでしょうから、続きに期待!
スレ建ての影響でスレ分割投稿になってもうしわけなかったですねー。
>きゃんでぃ☆デート
2レスの短編ながら、実に丹念で丁寧な描写です。長編苦手なのに冗長に
長くなってしまっている自分とは違う方で良いです。今回も誤字ニ箇所あった
し自分の・・・。
くー、オニャノコしてますねー。デート前の化粧や服選びで心浮き立つ描写
と「ねえかねえよな」という素の飾り気のない荻上の対比がいいデス。
もちろん固い殻ではなく薄くて柔らかくてカラフルな包み紙が、精一杯の
おしゃれをした外見としての美味しい荻上でしょうし、中のアマアマな自分
は飾り気ない素の美味しい荻上でしょうね。
>そして大好きな彼に、私の全部を味わってもらうのだ←俺が食いたいw
42 :
春奈の蒼穹:2007/02/22(木) 00:47:30 ID:???
>>38 >BREAK AGE
知らなかったのでググッて調べてみました。オンラインゲームの時代設定は
思いつきだったのですが、すでにこんな緻密な世界設定の漫画があったんです
ねー。機体名に似たようなのもありますがただの偶然ですw
春奈とアンディーは異能力を持たせず普通人(?)として、この世界に関わって
もらうつもりでしたので、舞台設定の風呂敷を広げすぎましたが、考えて
みると二十年後って想像もつきません。古典漫画では「鉄腕アトム」が
すでにいますが今はいません。逆にトランジスタや真空管で銀河を超えたり
もしてませんが、バイオやネットなど昔の人が想像もしてないものも
あるし。けっこう、そういうのを妄想した娯楽的な気分で今回のは好きに
書かせてもらいました。次回で決着はさせますが、オムニバスなので
いくらでも短編は書けるとは思います。
>>40 >春奈や双子のゲーム外の生活行動
正直、絵板では「公式」キャラですが、(いまさらと言われそうですが)
SSスレでは非公式準オリキャラというのもあり、主人公と旧キャラ以外の
キャラとのかかわりは避けてましたし、踏み込めませんでした。
が、指摘いただくと妄想が膨らんできます。機会あれば番外編とかで新世代
を書いてみたい気がしてきました。
うわ、感想とレスだけで2レスになった orz
「や〜ん!かわいい!!」
新生児室前のガラス張りの前で加奈子は嬉しそうな声を出した。
「ちょっと目元が斑目に似てない?」
田中のカメラからはシャッター音が次々と聞こえる。
「あっいたいた!」
その時大きな声とともに乾いたサンダルの音が廊下に響き渡る。
「おいっ!ここ病院だぞ!静かに出来ないのか!」笹原は少し強めの口調で声の主をたしなめた。
「ごめん!」兄に言われてバツが悪いのか、舌をぺろりと出しながら恵子は謝った。
「てんちょーこれ!」恵子は持っていた紙袋を咲に渡した。
「ありがと、ご苦労さん!」
「斑目は?」
「もうすぐ・・・」咲がそこまで言いかけたとき、近くの扉が開いて斑目が出てきた。
「どもっ!おめでとさんです!」
「ああ、ありがと・・・。」
「スージーは?」
「よく寝てるよ・・・疲れていたんだろうな・・・。」
「無理ないよ・・・あれだけ頑張ったんだものね・・・
あっそうそうこれっ!」咲は恵子から受け取った紙袋を斑目に差し出した。
「えっ?」
「私からの出産祝い!袋から出してみて!!」
「あっ・・・うん」
斑目は紙袋の中に入っている物を取り出した。
「これって・・・・」
「そう、ベビー服!うちで若いお母さんをターゲットにし
た新商品!!女の子用を恵子に持ってこさせたの。」
「ありがとう・・・でも結構高いんじゃないの?」
「いいのよ・・・スージーにはうちでモデルしてもらってい るから・・・
マタニティー物を取り扱った時も評判良かったし・・・・。」
「ああ・・・あれね・・・・。」
斑目は心の中で冷や汗を流した・・・。
スージーは日本に来てから時折、咲のショップのモデルとしてHPに掲載されていた。
容姿が幼く、金髪碧眼の彼女はすぐに10代の女子達から支持を得て
休日にはショップが人で溢れ変えると言った状態であり、朽木の提案で定期的に
握手会を開催するようになった。
人気は女子だけでなく、「いざ!めくりめくお兄ちゃんワールドへ!!」と
叫びながら『小学5年生』を『妖精さん』と考えているような方々からも
支持を得ており、連日『某所掲示板』にて盛り上がっている状態であった・・・。
しかし『店舗の場所』が場所だけに握手会に『その類の人間』が姿を現すことは
無かったのだが・・・(この話しはまた別の機会に・・・)
「ありがとう・・・あいつも喜ぶよ・・・」
「でもあんたが『親父』になるなんてね・・・」
「はは・・・」
すまん今日はここまで・・・・・
ごぶさた〜。sageるようになったあんたは一段と輝いて見えるぜ!
とりあえず今回は事件もないように見えるが、ティーン向けモデルがいきなりマタニティモデルになったら『その類の人間』が黙ってないだろうとは思ったw
斑目が大変な目に合ってるかもしんない「別の機会の話」も待たれるところであるなwww
ともあれSS書き復帰オメ。なんて言ったらいいか解らんのだが、作品全体に流れている「真夜中な雰囲気」がなんだかキモチイイよ。
はじめサスペンスフルだったんでどうしようかと思ったが、読み手としてちょっと別の解釈を始めたところだ。
続きを楽しみにしている。ヨロ。
46 :
マロン名無しさん:2007/02/27(火) 21:37:36 ID:6dXty5Qd
まぁもう生殺しにも慣れ、、、、てねーよ!
>真っ赤な誓い
きたきた!「生殺し師匠」も着実に話が進んでますね。
スージーと咲とのつながりとして、「ショップのモデル」という線があったとは……。確かに10代に人気出そう。
咲の服の趣味から言えば、もう少し上の年齢層に訴求したいところだろうけど、若いうちからお客として掴んでおけば、将来も期待できるし、ウハウハですな。
そういえば、紳士服店のチラシモデルも外人起用がありますね、ふとアレを思い出してしましました。
ラストの「はは・・・」という頼りない笑いが斑目らしくて……、またその心中を思うと複雑かもしれないと思いました。
続き楽しみにしてます!
最近、身の回りでイロイロとありまして、思ったより筆が進んでないのですが、予告がわりというか、序章として1つ投下させていただきます。
「koyuki」の続きですが、鬱はありません。
「1」「2」で辛かった分、仲間達に大いに祝ってもらおうというものです。
あ、でも斑目さんにとっては別の意味で辛いかも……。
【オープニング】
映像:ヘリが仙石原から芦ノ湖を超えて会場のホテルを空撮。
朽)「……卒業から7年の歳月が流れました。胸に宿るものが、今また、この瞬間に燃え上がろうとしているのでアリマス。
……将来『第三新東京市』になるであろう、ここ箱根芦ノ湖畔に吹いているのは、湖からの湿り気を含んだ風。青空の向こうに遥かボストンを想いながら、めでたい角出のはじまりです」
映像:ホテル内披露宴会場をパン。参列者数100人弱の規模。その隅にある放送席がズームされると、礼服を着た朽木と久我山が座っている。
<朽>「みなさんコンニチワ!
本日は『椎応の総受け』こと斑目晴信先輩と、『ボストンの暴れロリ』ことスザンナ・ホプキンス嬢の結婚披露宴の模様を、会場の箱根フリントホテルより中継いたしマス。実況はワタクシ朽木学。向こう正面の解説は久我山親方でお送りします。親方お願いします」
<久>「な 何で親方なのかは、き 聞かないよ……(ニガワラ)」
<朽>「さっそくですが親方。誰がこの新郎新婦のカップリングを予想できたでしょうか! 非常に意外なんデスけれども……」
<久>「こ この組み合わせじゃあ斑目は、圧倒的に し 尻に敷かれるよね。ま 斑目は人生を賭けてウケを狙ってるとしか思えないよ」
<朽>「『尻に惹かれる』なんて何かエロいですのう。親方は、新婦が意外なプリケツと見ましたか?」
<久>「し 『敷かれる』だよ、まったく。……おれの声は賑わう場所では通らないのに……な 何で放送席にいるんだか……(ブツブツ)」
<朽>「(汗)えー、ではここで新郎新婦の控室を呼んでみましょう。ピットレポーターの恵子サン?」
映像:新郎の控室前。ひっそりとしている。
<朽>「おろ? 恵子サーン!」
映像:いきなりフレームインする恵子。
<恵>「ウルセー! 気安く呼ぶんじゃねえッ! まだ何の動きもネーヨ!」
(ブチッ!)
映像断線。
<朽>「ヒーッ!! ((( ;゚Д゚)))」
<久>「ど ど どうしたんだ。あんなに殺気立って…?」
<朽>「恵子サンは一部の好事家から斑目サンとのカップリングが噂されていたキャラですから。小生が推察するに、この展開は彼女にとって面白くないのではないかと……」
<久>「こ 好事家って……何の?」
【会場内テーブル紹介】
<朽>「……気を取り直して、出席の皆者のご様子を見てみましょう。すでに多くの招待客が着席しておりマス。春日部女史〜レポート願いまーす」
映像:高砂側から出席者の円テーブルを映している。そこに咲がフレームイン。
<咲>「だから私はもう結婚して『高坂』なんだってば。クッチー全然おぼえないよな。本当に院生か?」
<朽>「ハハッ、ソーリーソーリー! で、テーブルのご様子はいかがデスカ?」
<咲>「それがさあ……、さっき斑目の会社のテーブルを見て来たけど……」
<朽>「はあ」
<咲>「あそこの課長さんから、『おめでとうございます!』とか、『まだ準備しなくていいんですか?』とか言われたのよ。しまいにゃ社長までつれて来て紹介されて、2人して、『ホプキンスさんって……日系アメリカ人の人だったんですね』とか言われたわ」
<久>「……そ それ、思いっきり誤解されてるよね……」
<朽>「そりゃあかすか…いや、咲サンは髪染めてるし、斑目サンの会社に行って、『ハルノブゥ〜』って呼び出したんでしょ? きっとその時の印象が強いんでしょうなあ」
<咲>「げえ、なんでクッチーがソレを知ってるのよ。あ あれは、スージーのことで斑目を説得するために必要な……///////(赤面)」
<朽>「おろ、どうしたんでありますか?」
<咲>「なんでもないわよ!……それにしても斑目の奴、会社の人たちに相手のことちゃんと話してなかったんだね……。まあ、『ホンモノの新婦』が出て来た時にゃあ、あのテーブルのリアクションは見ものだよ(ニヤリ)」
<朽>「見ものって………教えてないんデスカ。事実を……(激汗)」
<久>「しゃ 社長が挨拶するんだよな……や やばいよな」
<朽>「あ、あと現視研の皆さんが座っているテーブルの様子はどうですか?」
<咲>「あー……。もう始まってるよ〜」
<久>「は はじまってるって、な 何が?」
<咲>「アンジェラが、式が始まる前からうちらのテーブルに入り浸って、大野と一緒にもう酒盛りしてるんだよね。あーあ、笹原夫婦が頭抱えてるよ。で、ワタシも行きたいんだけど?」
<朽>「あ、どーぞ行ってください……。テーブルに居なくてよかった(汗)」
映像:急に控室前の映像が入る。恵子が立っている。
<恵>「……おーい、クッチー。新郎控室前なんだけど……」
<朽>「おろ、恵子さん。いかがなさいましたか?」
<恵>「ついさっき、新郎の部屋に新婦とスゲーゴツイ外人が入っていったんだけど、なんか今、斑目サンの悲鳴が聞こえるんだよね……」
映像:集音マイクを控室ドアに当てる恵子。
『……あ痛っ!スーごめん、なんでもないから!そんなんじゃないから!痛いってば!……』
<恵><朽><久>激汗。
<久>「な なんか嵐の予感がするな……」
<朽>「ま、まあコレは聞かなかったことにしましょう」
<恵>「するのか!」
<朽>「コホン。では気を取り直して……。斑目家、ホプキンス家結婚披露宴、まもなくゴング……いやいや、まもなく新郎新婦の入場です!」
<つづく>
短くてスマン。とりあえず本番前の様子です。
阿鼻叫喚の披露宴本番につづきます。
スレ汚し失礼しました。
(…………そーか、続きは同人誌にして売ればいいのか!)
↑ピコーン!!(AA略)
あ、書き忘れましたが、彼らが実況中継まで行う予算はどこから出ているのか……それは続きを読む中で明らかになっていきます。
それと、クッチーの最初のナレーションは、サッカー日本代表のワールドカップ予選での有名なアナウンスのインスパイアです。
NHKの山本アナは泣かせます。
「手紙」の作者の人、某所での予告どおり、パクらせていただいております。ご無礼をお許しください。
以上です。
>>54 グッジョブ!(日本語イントネーションで)
ドンドコドンやっとくれ。スデに大笑いしながら読んでるがこの先の怒涛の展開も期待だ!
>(…………そーか、続きは同人誌にして売ればいいのか!)
やべ………ただいま本気で迷い中。
グランドフィナーレ&オールスターだから同人に載せる方がいいのかもしれません。
でもこれやったら、「生殺し」どころじゃなくって、「寸止め」ですね。
「結婚前の事件」の話もあって、ソレを先にうpすべきだったと後悔。いっその事、そっちをこのスレでうpするか……。
>(…………そーか、続きは同人誌にして売ればいいのか!)
ええ、そうなさるのは作者様のご自由ですが、ここで御作を楽しませて
いただいている自分にも購入できるよう、通販のご対応だけはよろしく
お願い申し上げます。
作品は相変わらずの切れ味で、堪能いたしました。GJ
58 :
マロン名無しさん:2007/03/01(木) 08:15:30 ID:fYGNqmTn
まぁ商業主義の否定はオナニーだしねぇ…。
GJ
ハラグーロキター
60 :
56:2007/03/01(木) 18:55:55 ID:???
>>52-54 ホントすみません。
「koyuki」下敷きに同人誌一冊作ろうと準備していたの最中だったので、ついSSスレでもその流れで書き込んでしまいました。
フライング投下も含めて、いただけないミスでした。事情知らない人にはお詫び申し上げます。
61 :
56:2007/03/01(木) 18:58:21 ID:???
真っ赤な誓いの中の人です。
感想を頂いたので返事を・・・・
>>「別の機会の話」も待たれるところであるなwww
ええ・・・・とんでもない『ゲスト』を入れる予定です。
>>まぁもう生殺しにも慣れ、、、、てねーよ!
すんません・・・・筆が遅くて・・・・・・。
>>スージーと咲とのつながりとして、「ショップのモデル」という線があったとは……。
この設定は最近思いついた事です。
げんしけんの他のメンバーがどのような進路に着いたかは自分の頭の中で
決まっていましたが、スージーだけは決まっていませんでした・・・・。
卒業後に結婚・・・と考えていましたが、彼女には今でもこうしてメンバーが
集まることが出来る為のキーパーソンの役割にしたく、咲のショップモデルと言うところに落ち着きました。
もう少し、生殺しは続きますがご容赦くださいwww
「ン・・・・」心地よい暗闇の中で誰かに呼びかけられた・・・・
「ダレ?」声は聞こえないが返事があった様に感じた・・・・。
「ソウカ・・・・アナタナノネ・・・・今行クカラ・・・・」
スージーは目が覚めた、重そうな瞼のまま、ムクッと起き上がった瞬間
下腹部に痛みが走った。
「あっ起きたの・・・大丈夫かい?」ベッドの横には斑目がいた、腫れぼった目疲れている様子であった。
「呼ンデル・・・・」
「えっ?」トントンと音が鳴ると、ガチャリと病室のドアが開き、看護師が入ってきた。
「スザンナさん、授乳の時間です(英語)」覚えたての、たどたどしい英語であったが、看護師の言葉にはやさしさが感じ取られる。
「thanks・・・自分デ行ケル・・・」彼女はベッドから足を下ろすと再び下腹部に痛みが走り、表情を歪ませる。
「おいおい、無茶はするなよ・・・」体を支えた斑目の言葉にスージーは彼の目を見つめ親指を立てた。
「ダンシャク様ハ無敵デス!!」
「あっそうなの?」斑目の額に一筋の汗が流れた。
「善デモ!悪デモ!最後マデ貫キ通セタ信念二偽リナドハ何一ツナイ!!」
「はは・・・(言いたいことは解るけど・・・・・)」
彼女はそのまま斑目に体を預けたまま病室を出た・・・・。
>真っ赤な誓い
生殺し乙。
我が子の意識を感じてるのか、スーは。人類の革新ですね。
「男爵様〜」ってネタに疎いんですが、武装練金?
>「あっそうなの?」
この一言に、斑目の苦労と慣れとがにじみ出てるみたいで笑いました。
「こういう嫁をGetした斑目も幸せだ」と思われがちだが、案外キツイぞ、オタネタの分かるロリ嫁は……(経験上激汗)
続き気長に待ってます!
身勝手な選択で、うpしたSSをドジンに回した俺参上。
すみません。改めてスレ汚しにまいりました。
>>49-52の身代わりに、新しい話を書いてスレに捧げます。
12レスくらい投下させていただきます。よろしくお願いします。
【2011年4月6日/合衆国 ボストン】
留学を終え、スージーは久しぶりにボストンの自宅に帰っていた。
帰国して1週間ばかり経ったある夜、彼女はいつも通り両親と食卓をともにしていた。
比較的裕福な家庭であり、彼女のきょうだいも独立した今は、両親とスーの三人暮らしになっている。それだけに、両親にとって長期留学していた愛娘との生活は嬉しくてたまらないことだろう。
母親の手料理に舌鼓を打ち、これまでのように日本での生活について尋ねられながら、食事を終える。
食後のコーヒーを飲み終えたころ、スージーは意を決し、軽く深呼吸してから、自分の思いを吐露した。
(以下英語)
『私ね、日本で結婚して、日本に暮らそうと思うの』
普段の日常会話も乏しく、自分の心を打ち明けることの少ない娘が、いきなり結婚について発言した。
母親は意外なほど落ち着いて聞いていたが、父親は動揺を隠せなかった。
父親は、わずかな手の震えを悟られまいと、ゆっくりコーヒーカップを置いた。
真意を掴みにくいスージーの瞳を、のぞき込むようにして問い掛ける。
『……スザンナ、相手はどんな男なんだ? 何、「ヘタレ」?……どういう意味だいその日本語は?』
スージーは日本から持ち帰ったパスケースを開く、中にはアキバで撮った大判のプリクラが貼ってあった。
父親に『マダラメ』の姿を見せた。
父は凹んだ。
『私はすぐには認めることはできんな……。家族を呼んで会議しなくてはならんぞ。弟も呼ばねばならん。おい、ロスの大叔父にも一報入れておけ!』
父親は立ち上がり、妻に吐き捨てるように指示すると、頭を抱えて書斎へと引きこもった。
よほどショックだったのだろう。
ボストンは歴史が古い町であり、市民は頑固で外部の人間には厳しい気質も有しているという。
娘が『外国人』の、しかも『日本人』の、さらには『どう見ても情けない男』の妻になる……それを認められない父親は典型的なボストニアンなのだろう。
『…………』
スージーは、リビングのソファに体を沈め、視線をパスケースに落としたまま黙っていた。
いつもの仏頂面ではあるが、いつもとは違う。
母親がスージーの隣に座り、パスケースを持つ彼女の手を優しく握った。
『お父様は厳格すぎるわ。スザンナ、貴女が決めたことなら仕方がないことよ。その相手があなたを愛してくれるなら、なおさらね』
母親は、娘の結婚の意志を理解してくれていた。
とはいえ、父親の反対は辛い。さすがのスージーも、伏し目がちに自分の部屋へと戻った。
こういうときは、『底抜けに陽気なアノ女』にでも電話しようと彼女は思っていた。
この町にはイタリア系の移民が多い。面と向かって尋ねたことはないが、きっと『アンジェラ』もその血を受け継いでいるのだろう。
アンジェラには、日本から帰ってきてすぐに電話をしている。マダラメとの事を話すと、彼女は大げさなくらいに驚いていたが。
部屋の電話でアンジェラの家をコールする。
出てきたのはアンの母親だった。母親も娘と同様、陽気で開放的な女性だ。
『…………』
『ハロー? バートンですが、どなた?』
『…………』
『その無言っぷりはスザンナね。おかえりなさい。アンはしばらく居ないけど、今度ウチに遊びにいらっしゃいな。おばさんがパイを焼いてあげるわ』
『………?』
『やっぱりアンは教えていないのね。あの子ったら“カナコの所に行ってくる”って言って、日本へ旅立ったのよ。用事はすぐに済むからスーには内緒にするようにって……。おかしな子よねぇ』
内緒の話をペラペラしゃべる陽気なおばさまとの電話を終え、スージーはいぶかしげな表情で受話器を置いた。
一体、内緒ですぐに済む用事とは何なのか…………。
ハッとして、スージーは『何か』に気づいた。
『!!………Holly shit!!』
彼女らしからぬ言葉が口を突いて出てきた。
次の瞬間には、スージーは自分の体が入りそうなくらいのスーツケースをベッドの上に放り投げ、荷ほどきして間もない荷物を再び詰め込もうとした。
嗚呼しかし、日本への往復の旅券はどうすればいいのか。何とか都合をつけて、急いで日本へ行かないと……。
「カナコ」にも電話してみよう、アンが来ていないか……。
焦る気持ちは、慣れ親しんだ日本語によって表された。
「マダラメガ、クワレル……!」
スージーは、思わずベッドの脇にひざまづいて、胸の前で十字を切った。
厳格な父親への反発もあってか、彼女は他の家族ほど熱心なクリスチャンとは言えなかった。
礼拝もろくに参加せず、日本のサブカルチャーにうつつを抜かす娘は、父親から何度も叱責を受けた。日本への留学が許されたのも、母親の説得があったからこそである。
しかしこの日ばかりは、スージーも神に祈らざるを得なかった。
『天国の主であり、永遠の父なる神よ。イエス・キリストの御名によってあなたに願い求めます……』
『……どうか、彼の人の操が守られますように……』
【2011年4月8日/西東京】
春の陽気が眠気を誘う午後。
斑目は、(有)桜管工事工業の事務所で事務処理に追われている……はずだったが、入力作業の合間、たびたび窓の外に目を移していた。心ここにあらずだ。
(スーは今ごろ、何をしているのかな)
スージーが帰国して1週間あまり。
この2、3か月の間に天国と地獄を味わった斑目は、彼女がいない今、心にポッカリと穴が空いたような気持ちを味わっていた。
携帯電話を手にして、スーの電話番号を出す。スーは帰国したため国内の住所がなく、携帯電話も解約していた。
斑目が何度も緊張し、照れながらコールした番号はもう、他人のものになっているのだろう。
「斑目君……、マダラメくーん!」
「……は、はいッス」
課長の呼ぶ声に、斑目はハッとして立ち上がった。
「春だし、研修企画の仕事も終えたし、気が緩むのも結構だけどねぇ。『彼女の事』は仕事が終わってから考えてくれよ(笑)」
周囲のデスクに座る同僚たちの間からも笑い声が漏れる。
「スンマセン、はは…」
斑目は頭を下げながら愛想笑いを返した。
課長の言う『彼女』と、斑目の想う『彼女』は同一ではない。課長は、2週間ほど前に事務所に現れた美人(高坂咲)こそ、斑目の付き合っている彼女だと、今も誤解していた。
小さな会社なので、もう職員全員の共通認識にもなり、最近はよく『彼女ネタ』でからかわれてしまうのだ。
咲との仲を疑われるのは、悪い気分ではない。しかしもう彼女は人妻だ。斑目も最初のうちは『違います』とやんわり否定していた。
しかし、『他に本命がいる』『外国人と付き合っている』などと、本当のことを話しても信じてもらえそうにないので、そのうち斑目は考えるのをやめた。
(……まいったなこりゃ……)
斑目がヤレヤレと思いつつイスに腰掛けた時、今度は女性職員が彼の名前を呼んだ。
「斑目さん、斑目さーん、お客様ですよ」
「俺に?…………ってエエッ!?」
デスクから受付の方へと顔を上げた斑目は驚きの声をあげた。
『今度は』、田中(旧姓大野)加奈子がニコニコしながら受付に立っていた。
一児の母とは思えない若々しさとストレートな黒髪、他を圧倒する(乳の)存在感。
斑目は上司に目を向けた。上司からも受付前に立つ美人が見えた。
「……あ、あのう……課長」
「斑目くん……君って一体……」
周囲の同僚も斑目の意外な交友関係にどよめいている。
(ヤバイ、また誤解される!)
危機感を感じた斑目は、オーバーアクションで全否定を開始した。
「いッ、いや違いますヨ! 彼女はダチのツレのソレで……! エート、エート……あぁそーだ、大野さんじゃなかった田中さん、左手を上げて見せて左手! いやグーじゃなくてパーで! パーでみんなに指輪見せて!」
騒ぎが収まり(といっても、騒いでいたのは斑目だけだが)、加奈子と斑目は、事務所の小さな応接室のソファに座って向かい合った。
女性職員が興味津々の顔でお茶を出した後、加奈子が口を開いた。
「すみません、急にお邪魔しちゃって。大学に行った帰りに寄らせてもらったんです」
「大学? 何しに?」
「はあ、卒業証明書を受け取りに行ったんです……」
加奈子の夫、田中総市郎は服飾専門学校を卒業し、今は都内デパートの服飾部門で働いている。本来なら、もっとクリエイティブで『自分の趣味』に近い仕事をしたかったのだが、その夢はまだ叶っていない……。
加奈子としては、夫の夢をサポートしつつ、自分たちのコスプレもまだ続けたい。そこで通訳の仕事をすることとなり、卒業証明を受け取りに大学へ足を運んだのだという。
斑目は、少し疲れの見える加奈子の表情を見て『現実は厳しい』と思った。
(サークル仲間が次々に結婚するってのは幸せな事だと思ったけれど……皆が皆、順風満帆ってわけでもないんだな……)
お茶を一口飲んで、斑目は加奈子に語り掛けた。
「疲れてそうだね。何かあったら相談していいからって、田中に伝えといてよ……」
「へぃ?」
妙な返事をした加奈子は、ハッと何かに気づき、笑顔で両手を振った。
「いやだ斑目さん。私たち生活に困ったり疲れてたりなんかしてませんよ!」
「いやだって……大野さん、なんかいつもよりテンション低いし」
「生活の方はダイジョーブです。総市郎さんが勤めてるの伊○丹だし。お金がいるのは、レベルアップして素材にも一層こだわるようになったコスプレの方でして……」
(伊○丹って超大手じゃん……順風満帆じゃねーかチキショーめ!)
笑顔が戻った大野は、直後、眉をひそめて話を続けた。
「……あの、その、テンションの話なんですが……。斑目さん、今度大学に行く時には気をつけてくださいね」
「何のこと?」
斑目は首をかしげて、再びお茶をすする。
大野は、周りに誰もいないのに、秘密の話をするように半身を斑目の方に近づけてヒソヒソと語った。
「いま、大学の事務局には、北川さんが居るんですよ」
ブーッ!
斑目は勢いよく茶を吹いた。
彼と同期生となる北川百合絵は、サークル自治会の権力を使い、一時は現視研を取りつぶそうとし、また現視研の部室使用禁止と社会奉仕活動を押しつけた『宿敵』だ。
(……まあ、部室使用禁止は『春日部さんのボヤ騒ぎ』が原因で俺らが悪いんだけどね)と、斑目は遠い目をして振り返った。
北川は、斑目たちが原口とひと悶着を起こした数年前の夏、事態を収拾した人物の一人として大学事務局にあいさつに行っている。
それ以来のコネと学生時代の実績から、パートタイマーとして事務局で働いているのだ。
加奈子は、卒業証明を受け取る際に、北川からさんざんイヤミを言われたらしく、それでゲッソリしていたのだという。
おおかた、加奈子の胸が気にくわないのが原因であろう。
斑目は、お茶で濡れたメガネを拭きつつ、(卒業証明書、郵便で受け取れば良かったのでは?)と思ったが、野暮なツッコミはしないことにした。
「……で、今日はその忠告をしに来たってわけなの?」
「いいえ違うんです。実は最近、アンジェラから電話があって……」
「はあ」
「アンから、『総受けは今も部室に行ってるのか?』って質問されたんです……。あと、スーとのことでお祝いを贈りたいから住所教えてくれと聞かれました」
「……俺、『総受け』なの……?」
顔に汗をしたたらせた斑目の問いに、ハッと自分の口をふさぐ加奈子。
「い、いや〜気にしないでください(激汗)。アンの考えてることって良く分からないしぃ。……住所も、手元に手帳が無かったからまだ教えてないんですが……」
斑目は納得いかない顔をしていたが、住所については、「別に教えてもいいよ。ありがたいことだよ」と答えた。
加奈子はホッと胸をなで下ろしてから、話を続ける。
「……でもちょっと気になることがあるんです。昨日のお昼前にはスーからも電話があったんです」
「スージーから?」
斑目は自然に身を乗り出していた。
「はい、それが……『アンはそっちに来ていないか?』って聞かれたんです。……変でしょ。斑目さんは何か心当たりありませんか?」
「???」
斑目にも、外国人コンビ2人の意図は見えなかった。
【2011年4月8日/斑目のアパート前】
その日の夜。
斑目はファミレスで、漫画誌を読みながら食事を済ませ、レンタルビデオ屋で1時間以上もウダウダと借りるソフトを選んでから、ようやく自分のアパートへ向かっていた。
夜道を歩き、アパートの前にさしかかるという時になって、斑目は目を凝らした。
「あれ!?」
自分の部屋のドア前に、『何か』が置いてあった。
よく見ると、アパートの外灯に照らされているのは、海外旅行に使われる大きなスーツケースだ。
見覚えのある、サムソナイトのスーツケースだった。
外灯に照らされて伸びる影で、ケースの向こうに誰かが座っているのが分かった。
ケースに隠れてしまうような、小さなからだ。
「まさか……」
斑目がスーツケースまで歩み寄った時、気配を察知して、その『誰か』が立ち上がった。ケースの上からヒョッコリと、スージーがその頭を出してきたのだ。
「うわっ、やっぱりスーじゃんか!」
天地がひっくり返ったかの如く驚く斑目を、スージーはいつもの仏頂面で静かに見つめていた。
<つづく>
以上です。
ボスト二アンの気質とか、イタリア系移民が多いとか、ネットで調べた付け焼き刃なので、厳密に調べて違っていたらスミマセン。
ボストン美術館には世界最高品質の浮世絵コレクションがあるとNHKスペシャルでやってました。
これをネタにスージーの日本好きの源流に浮世絵があるのかと推察してみましたが、ボストンのコレクションは門外不出、展示もしない封印品だそうで、危うくSSに書いて失敗するとこでした。
>北川は、斑目たちが原口とひと悶着を起こした数年前の夏、事態を収拾した人物の一人
↑これは拙作「Zせんこくげんしけん」を指します。つまりこのお話は、大学時代の「時をかけるオタク」斑目の生み出したパラレル、可能性の未来の1つということにもなります。
次は水曜か木曜か。呆れずに待っていてください。
お邪魔しました。
>>64 「男爵様」は和月先生の作品「ガン・ブレイズ・ウエスト」にて登場した
『甲冑装備』で空も飛べちゃうお方です。
台詞は彼の執事が言ったものです。
この男爵様は作者のお気に入りとなり、機会があれば再度登場させたいと考えていて
自作の『武装錬金』にて
『全身甲冑(フルプレートアーマー)の武装錬金・バスターバロン』として、まんま巨大ロボットで復活!!
「善でも!悪でも!〜」も『武装連金』の『戦士長・キャプテンブラボー』の台詞です。
>koyuki3
乙おそ!!(汗)
いけ、アンジェラ!!(それ違うだろ)
あ、でもスーが先に着いたのか…
とにかくwktkシテ待ってます!
>真っ赤な誓い
子供二人の出産に立ち会ってる俺が来ましたよ。
うちのニョーボはそこまで敏感ではなかったようだが、けっこうあると聞いている>精神交感
ほんとは大仕事終えて寝てたい筈なのに、まるで呼吸をするような自然さで我が子に
会いに行くスーを読んで、出産直後のことを思い出した。各種コメントから既婚者ではない
と思っているが作者氏、イイ感じだ。
そこまで人の心がわかる人がなぜ俺たちを生殺しにw
>koyuki3〜フェチ、襲来(1)
>父親に『マダラメ』の姿を見せた。
>父は凹んだ。
もう2レス目で爆笑ですよ。スーパパの心中察するに余りあるw
あとがきで書いているようなストーリーの補強描写は俺も好きなので多用している。真実
は俺も知らんが、ストーリーを読んでいく際にイメージが広がりやすくなるんだよね。
他にも仕掛けがチラホラ見えるし今後が楽しみだ。
そして北川(旧姓)さん。ちっちゃいってことはいいことなのです!
椅子に腰掛けるスージー、彼女の腕の中には数時間前まで彼女と一心同体であった命が
はだけた胸に顔をうずめていた。
母乳を飲み終えた我が子を看護婦に託し、立ち上がろうとするスージー
だが、下腹部の痛みからか、足がおぼつかない・・・・・。
斑目が彼女の体を再び支える。
奥から看護師の一人が車輪の付いた歩行器を持ってこようとしていたが看護師長が黙ってそれを制した。
ゆっくりとした足取りで廊下を進み部屋に入るとベッドの前で止まった。
ベッドの高さは、今のスージーの状態では降りることは出来ても上がる事は難しそうであった。
斑目はベッドの高さを調節しようとリモコンに手を伸ばそうとした時、
病室を出てから黙ったままであったスージーの口が開かれた。
「ネコ夜叉!オスワリ!!」
「えっ!?」
「おすわり!!!」
斑目は腰を下ろし目線を彼女に合わせる。
スージーは彼の細い首に白い腕を絡ませる。
「hug・・・・・」顔を赤らめてボソッとつぶやいた・・・・。
「あっうん・・・・」斑目も顔を赤らめた・・・・
(なんで、こんなにドキドキするんだろう・・・・。)
斑目は彼女をお姫様抱っこをする形で持ち上げ、ベッドへ寝かすと、スージーの体から離れようと
腕の力を緩めた・・・・だが彼女の方の腕は緩めることなく斑目の首筋にしっかりと絡めていた。
グッと彼女の腕に力が入る。
斑目の顔はその引き寄せられる力の方向、彼女の顔へと近づいていた。
ちょっと……こんな美味しいトコロで続くのか(笑)
うわああああ(汗)ホント生殺しwww
妄想が暴走する前に続きを!!!
お互いの鼻先の間が数センチまで近づく・・・
「hold・・・チガウ・・・・hug・・・」高潮し懇願した顔でスージーはつぶやいた。
斑目は背中に両腕を回し、そっと触れるように抱きしめる、
彼の胸板には小ぶりであるが、しっかり張った彼女の胸の感触が伝わっていた。
「晴信・・・アタシ・・・ガンバッタ・・・・baby・・・・アタシ達のbaby・・・」
スージーの体が震える、そして斑目の頬に熱いものが触れた。
彼は彼女の涙が自分の頬を伝って来たとすぐに理解でき、そして自分も震えていることに気づく。
斑目は彼女の言葉にただ「うんうん・・・」としか言えなかった。
数分その状態が続いただろうか、震えが収まった斑目は少し体を離し、スージーと見詰め合った。
彼女の頬には行く筋かの涙の跡が走っている。
斑目はまだ濡れている彼女の頬を親指でそっと拭い
そして、彼の顔がゆっくりスージーへと近づいていく・・・・。
「スージー・・・ありがとう・・・・・」
そのまま二人の唇は重ね合わされた。
うはあああ
すんごいいいシーンでまた 生殺しwww
よゥしわかった!
俺は続きが投下されるまで二人がこのまんまでいると妄想することにした。
かれこれ10時間か。
どれくらいの時間が経ったであろうか・・・・。
わずか5分くらいであったのにもかかわらず、彼らにとっては何時間も過ぎたように感じていた。
お互いの唇は離され再び見詰め合う・・・。
彼らの周りには何者にも寄せ付けない壁が出来ていた。
しかしこの壁は次の瞬間にぶち壊された!
「んーゴホンッ!!!」彼らのものとは違う咳払い、斑目はその方向へ目を向ける。
半分開かれた病室の扉、そこには咲が意地悪そうな目でこちらを見てにやけていた。
「あわわわあわあああ!!!」斑目は慌ててのけ反るとそのままバランスを崩して尻餅をついてしまう。
「かすか・・・いやもとい・・・咲さん・・・イッタイイツカラソコニ・・・・。」
赤面で冷や汗だらけの斑目、言葉もうまく出せない。
その横でスージーはいつもの無愛想な顔に戻っている。
「えーと・・・斑目が『ありがとう』って言った所かな・・・・・」
咲の顔はニヤニヤしている。
(みっ見られた・・・『春日部さん』に・・・いやっ落ち着け・・・・キスなんて結婚式の時、散々見られているじゃないか・・・)
「いやあ・・・暑いね・・・今日は暖房なんてつけなくていいんじゃない?」
(たっ助けてくれ!!)斑目はスージーを見上げる。
「イヤン!アタイ、モウオヨメニイケナイ!!!!」
彼女のその言葉にトドメを刺されたのか、彼のタマシイは抜けてしまった。
「プッッッッッ!!クーッククク・・・」
スージーはそんな斑目を見てか、それとも自分の言葉にウケてしまったのか、
込み上げた笑いを抑えられずにいる。
そんな二人を見て溜めていたものを吐き出すかのごとく咲も笑い始めた。
「ごめんごめん・・・からかうつもりはなかったんだけどね・・・・。」
まったく、悪びれた様子も無く咲は謝った。
「あんなに慌てて・・・あいかわらず『オタクっぽい』ね・・・。」
「はは・・・こちとら『オタク星人』ですから・・・こういう事には慣れておりませんので・・・。」
何とか、平常心を取り戻した斑目は立ち上がった。
「とっところで他の連中は・・・・」何とか話題をそらそうと必死である。
「あっそうそう!さっきアンから連絡入って、スージーのご両親が日本に着いたから、今、田中達が空港へ迎えに行ったところ!
他は笹は・・・・」その時、病室の扉が勢いよく開き、息を切らせて恵子が入ってきた。
「てってんちょー『おねーちゃん』がう・・・産まれそうだって・・・」
「えっオギーが?解った、先に行っておいて!!」恵子は慌てながら部屋を出て行く。
「チカ・・・・」
「スージー俺、ちょっと様子見てくる。大丈夫だから!!!」心配そうなスージーを気遣いながら咲と共に病室をあとにする。
長い廊下、斑目の前を進む咲
「斑目!!」振り向き彼に声をかける咲
「今日のあんた、すっごくかっこいいよ!!」
「へっ!!いっいまなんて・・・・」あまりの突然の台詞に面食らう斑目
「『かっこいい』って言ったの・・・・父親になったあんたが・・・・」
「あ・・・う・・・」
「だから、ずっとそのかっこいいままでいておいて・・・・
そうすればあんたはずっと幸せだから・・・」
「うん・・・・」
「でももし・・・スージーや子どもを泣かすような真似したら私たちが許さないよ!!」
そう言うと咲はくるりと前を向き先へ進んだ・・・。
斑目は右の手のひらを見つめる・・・
(わかっているさ・・・『春日部さん』あの時『真っ赤』になったこの手に俺は『誓う』事が出来たんだ・・・・
ありがとう・・・・『春日部さん』・・・・)
「ほらっ何しているの・・・早く行くよ!!」
「ああ・・・・」
斑目は再び歩み始めた・・・・・。
おわり
ラストは駆け足気味でお送りしました『真っ赤な誓い』無事完結させることが出来ました。
斑目の心の中には憧れの『春日部さん』がこれからも存在し、それは『大切な思い出』となり
愛するべき『スージー』と『我が子』を守っていくことでしょう・・・・。
このSSの世界観でのキャラ設定を付け加えておきます。
斑目:留学してきたスージーと『あるきっかけ』で付き合うようになり結婚
仕事も順調、結婚を機会に引越しをしたが、前のアパートとはそれほど距離は離れていない。
スージー:留学当初、咲に頼まれショップのモデルバイトを行うが予想以上に好評
モデル事務所からオファーが来るが咲がシャットアウトしている。
結婚後、毎日斑目のための弁当を持たせたとき『行ってきますのチュウ』をされるのが何よりも楽しみとしている。
笹原:編集者として一人前になり荻上と結婚、公私共に支えていける仲
荻上:在学中にデビュー、留学してきたスージーを気にかけ、色々と面倒を見ている。
スージーが斑目と付き合い始めてから、少し寂しい様子も見せていた。
田中:服飾専門学校を卒業後、某オタク系アパレル会社に就職、自分の能力を存分に生かし日々充実した毎日を過ごす。
大野:卒業後、『海外の絵本』の翻訳の仕事を行う。自宅が仕事場であるため、育児と両立が出来ている。
休みには娘を連れて一緒にイベントへ行く。
残りのメンバーの設定はまた後で発表します。
>真っ赤な誓い
GJ!
真っ赤になった手に誓う。家族と共に生きる決意。
大人になったマダラメを、「かっこいい」と評した咲。きっと少し頼もしく、大きく見えたのではないでしょうか。
……生殺しも、完結すると寂しい……。
だが、設定を公開したり、マダラメとスーの「あるきっかけ」を明かしていないあたり、続編はあると見た。
期待してますぜ。
93 :
92:2007/03/08(木) 18:30:49 ID:???
生殺しマスターさんお疲れさまでした。
こちらも話の続きを投下させていただきたいと思います。
8レスの予定です。
「ホントごめん!……ひょっとして、ずっとここで待ってたの?」
アパートの外灯に照らされて、コクンとうなずくスージー。大きなスーツケースを引きずり、おそらく道に迷いながらここまで辿り着いたのだろう。
斑目は、その健気さに胸がきゅっと締められるような気がした。
スージーのケースを持ってあげて、ドアを開けた斑目。部屋へ招き入れたが、彼女はキッチンのあたりで棒立ちのまま斑目を見つめている。
「……何か、ついてる?」
部屋の中央に立った斑目が尋ねるや否や、スージーは斑目の懐まで距離を詰める。
斑目はドギマギし、緊張して彼女に触れることは出来ない。
スーは、そんな緊張もお構いなしに、斑目の両肩に手を載せてぶら下がるような姿勢で背を伸ばす。
顔と顔が近づいて、目つきの悪い瞳は斑目の顔をじーっと見つめ続けた。
斑目の緊張感が高まるが、ふと気付くと、スーは目と目を合わせてはいなかった。斑目の瞳を見ているのではなく、「メガネ」を観察していた。
「???」
続いてスーは、斑目の首、耳のあたり、胸元へと顔を傾けてクンクンと鼻を鳴らした。
(何かヘンな臭いでもするのか?)
焦った斑目だったが、次第に『辛抱たまらん状態』になってきた。
凶悪に可愛い子猫(スージー)が体を密着させて鼻を鳴らしているのだから。
一方のスージーは冷静だった。
彼女は、斑目の体に『アンジェラの形跡』が残っていないかをチェックしていたのだ。
もちろん斑目が気安く堕ちるとは思っていないが、彼はヘタレで、何より総受けなのだ。どんなシュチエーションで陥落するか分からない。
メガネに口紅はついていない。
彼女の香水の残り香はない。
(ヨカッタ。マダブジ……)と判断した途端、スージーはぐいっと体を引き寄せられた。
その体は、徐々に包み込まれるように抱きしめられていく。
(チョ、ソーユーツモリジャ……マダラメ? リセイガトンデル?)
斑目は何やら一人で盛り上がってしまっている。『知性ゲージが他の所へ回されてる』感じだ。スーはそんな斑目を鎮めようと、彼の状態に合ったセリフネタを口にした。
「ヤッチャエ!バーサーカー!」
……これは逆効果だ。むしろヤラレそうなのはスージーの方なのだ。
そんな中、斑目のつぶやきが聞こえた。
「『コユキ』に会いたかった……」
囁くように、安堵したように、静かに思いを込めた一言は、今まで幸薄かった男の切なる願いでもあった。
スージーは、(ヤレヤレ……)と思いながら、自分も彼の薄い胸板に身をゆだねた。そして両手を斑目の背中に回し、優しくポンポンと叩いてあげるのだった。
【2011年4月9日/新宿】
時計の針は12時を指し、日付が変わった。今頃ボストンは午前10時ごろになるだろうか。
アンジェラは、新宿区内のマンションのリビングで、国際通話可能な携帯を使って母親と話をしていた。
まるで通話相手が目の前にいるかのように、リビングをウロウロしながら、時折肩をすくめ、手を振りつつ話をする。
(以下英語)
『マミィ、何でスーに話しちゃうわけ!?』
母親を責めるというよりは、その脳天気ぶりを笑うように飄々と語るアンジェラ。
何を言ってもこの母には通じないと分かっているし、母親からスージーに秘密が漏れるのは『折り込み済み』だった。
アンジェラは母親に、『オヤスミ……っていうかそっちは朝ね。バイ』と優しく声を掛けて、エリクソンの通話ボタンを切ると、軽くため息をついた。
『スー……意外に早く気付いたわね……。準備不足だけど、始めるかな』
電話が終わったのを察してか、『ねえアン、スージーも日本に来てるの?』と、キッチンから英語で尋ねる声が聞こえてきた。
やがてカタコトと音がして、カップとティーポットを持って高坂(旧姓春日部)咲が近づいてきた。
ここは高坂真琴と咲の住むマンション。アンジェラは前夜からこの部屋に転がり込んでいたのだ。
二人はリビングのジュータンの前にペタリと座り込んで話しはじめた。
『スーも今日着いたみたい。カナコかマダラメに連絡を取れば、彼女も“参加する”でしょうね。……それよりもサキ、急にやってきてごめんね』
『いいってば。どうせ月の半分以上は一人暮らし状態なんだもの。昼間も自由に使っていいのよ』
咲は余裕ある表情で、カップに視線を落として紅茶を注いでいた。
高坂家にとっては、結婚後のバタバタした生活が落ち着いて、はじめての来客だ。ちょうど寂しくなりそうな時期だけに、アンの来訪は嬉しかった。
しかもアンは、『結婚式に出席できなかったから』と、咲の結婚祝いを兼ねた『あるプラン』を示してくれたのだ。
『でもアン、本当にいいの? こんなにまでしてくれて悪いんだけど……』
『いいのいいの。私もこの機会を使って、やりたいコトがあるの。マコトとサキをダシにして、協力してもらってるようなものだから、気にしないで!』
アンジェラは手渡されたカップを手で包み、その温かい感触を楽しみつつ、咲に語り掛ける。
『マコトも仕事が忙しくて大変ね。パソゲーの英語版があれば私も買いたいな……』
『あんまりインターナショナルにしてほしくない仕事なんだけどね…ハハハ』
苦笑いする咲だったが、直後のアンの小さな呟きが耳に入った。
『……スーなら、日本語だって読めるけどね……』
『アン?』
『……ん、何でもないよ。それよりもマコトのスケジュールは大丈夫?』
『ええ、今週半ばを過ぎたら休みが取れるって言ってたから』
『日本人ってみんな忙しくて大変ね。私なんか前日でもこういうプランはオッケーなのに。……じゃあサキ、“例の件”もよろしくね』
アンジェラはニッコリと笑って紅茶を口にした。
【2011年4月9日/笹原家前】
土曜日の昼下がり。
休日の斑目は、スージーを連れて笹原家へと向かっていた。
斑目の体をチェックして、『何か』を安心したスージーが、朝から『チカニアイタイ』と言い出したのだ。
(漫画家になった彼女に、急に会えるとは思えないが……)
斑目は恐る恐る笹原完士に電話をしてみたところ、千佳は脱稿直後の抜け殻状態にあるらしく、運良く訪問しやすいタイミングになっていた。
笹原も卒業後、大学の近くで暮らしているが、斑目が彼らの家に足を運ぶのは、今回が初めてであった。
機嫌良く歩いているスージー。その後ろをついていく斑目。スーは結局、急な来日の理由を教えてはくれなかった。
だが斑目の心中には、前日の田中加奈子との会話で、『何か』が起きつつあるという予感はあった。
その予感は、意外な形でやってくるのだが……。
笹原家の前にさしかかったとき、玄関先で意外な人物と出くわした。
「うわ、スージーやんか! 何でガイジンがここにおんねん!」
目の下にクマを作って、カバンを小脇に抱えた藪崎がそこにいた。少しばかり体のボリュームが増しただろうか。
「……あれ、キミ確か元漫研の……」
「ドウモ。マダラメさんでしたね。笹原さんも居てはりますんでドーゾドーゾ」
「そっちの用事は?」
「もう終わりました。……あのアホ原稿が間に合わん言うて泣きついてきよるから、仕方なぁーく徹夜で手伝ってやったんですわ。ま、敵に塩を送るようなもんです。ほんま菩薩ですわワタシ。慈愛の権化(笑)。だいたいアイツのネームが……」
1つの質問に10の言葉で返すように話し続ける藪崎。彼女もまだマイナーながら漫画を描き続けており、時折、ここに手伝いに来ているという。
表の騒がしさに気付いたのか、ドアが開いて、これまた目を腫らし、クマを作った笹原千佳が顔を出した。
「……泣きついてません!」
千佳の顔を見て、スージーが駆け寄っていく。藪崎はため息をついてその場を去った。
「これ以上おると野暮ですわ。ほなごゆっくり」
【2011年4月9日/笹原家リビング】
精根尽き果てたような表情で、しかし優しく、自分の子どもをあやす千佳。もう一人の子をスージーに抱かせているが、どこか危なっかしい。
赤子も身の危険を感じているのか顔がこわばっている。
リビングのテーブルを挟んで座っている斑目が、千佳に詫びた。
「悪いね。疲れているところにおじゃまして」
「いえ、私も嬉しいです。気分転換にもなりますし……あ、すみませんチョット失礼します」
千佳は離れた場所に移って背を向け、わが子に母乳を与えはじめた。
赤面して目をそらした斑目。そらした目線の先にはスージーがいた。
もう一人の子を抱いていたスーは、見よう見まねで自分のブラウスの前をはだけて、ブラも取ろうとしていた。
「わーっ、ちょっと待てスー!」
慌てて止めに入る斑目。妻の代わりにお茶を煎れてきた笹原完士も驚いた。
スーのもとで怯えていた子どもは、完士が抱くと安心した表情を見せた。一方のスーは、千佳の隣に座って授乳の様子を観察している。
「スー、あんまりジロジロ見ないで」という困惑した声が聞こえてきて、斑目と完士は赤面する。
「……あいかわらずですねスーは」
「いやはやこっちの身がもたんよ」
そう答えながら、斑目は笹原を見る。
妻の休息に合わせて休みを取り、サポートをしている彼の姿に驚きを感じていた。
再び斑目はスージーを見る。
(彼女とこうして過ごす日は、来るのだろうか?)
思えば、昨日会った田中加奈子も、元サークル自治会の北川(旧姓)も、新たな仕事に就き、それぞれの生活をより良いものにしようとしている。
自分とは違う世界のように感じていたが、周りは少しずつ変化を見せているのだ……。
今の斑目には、目の前の笹原のように振る舞う自信など、あるはずがなかった。
ふと、斑目と笹原の携帯電話、そして千佳の仕事机の上に置いてあった携帯電話も、相次いでメールの着信を知らせてきた。
「?」
笹原と斑目は自分に届いたメールを確認する。
「え?」
思わず声をあげた斑目。メールの発信者は『咲』だった。
斑目をスージーのもとに走らせるため、説得してくれた咲。駅のホームで互いの唇を重ねた記憶がよみがえり、斑目は胸が熱くなる。
もちろん今の彼は、スージーのことを大切に想っている。
しかし、渡辺美里が歌うように、『卒業できない恋』もある。遠い思い出にしてしまうには、アノ体験はまだ生々しすぎた。
「……斑目さんは行けますか?」
笹原の声にハッと我にかえる。斑目はまだメールの文面を読んですらいなかった。
急いで目を通すと、昨日来の『何かが起きる予感』が現実になってきたのを感じた。
『温泉旅行に1泊ご招待』
高坂夫婦の結婚を祝って、仲間内で伊豆の温泉へ繰り出そうというのだ。
参加費は約1万円の交通費のみ。まさに『ご招待』だ。
そして、その主催者は、アンジェラ・バートン。
(彼女、何を考えているんだろう……)
斑目は気付いていなかった。
彼の肩越しに寄りかかるようにしてメールの文面を覗いたスージーが、妙に険しい表情をしていたことを……。
<つづく>
今回はここまでです。
お粗末様でした。
伊豆の混浴露天風呂で火花を散らす金髪美女二人!
誘惑と嫉妬、愛憎渦巻く酒池肉林の生き地獄。
果たして斑目は耐えられるのか?
次回、「私の愛したメガネ」にご期待ください。
>真っ赤な誓い
完結おめでとうございます。いつも楽しく生殺されておりますた。
つか、ベビーラッシュだw
斑目とスーと子供に幸あれw
>koyuki3
>伊豆の混浴露天風呂で火花を散らす金髪美女二人!
>誘惑と嫉妬、愛憎渦巻く酒池肉林の生き地獄。
こ、混浴だとぅ!?先生、ポロリはありますか?
生き地獄…ガクブルよりワクテカのほうが混ざっています。
メガネの人が慌てまくるシチュ大好きなので、ものっそい楽しみにしとります。
追伸:「本」のほうも頑張ってくださいね〜
>真っ赤な誓い
生殺しマスター略してナマスタ!約2ヶ月の連載乙。読んでるこちらもずいぶん生殺されたよw
さてそんなわけで初めから読み返してみるとなるほどオギーがいない。うは、ヤラレタ。
お話のほうもまたいい流れでした。
スーはきっと体が小さいってだけでもけっこう負担になる出産を、彼女なりに懸命に頑張ってたんだなとか。
その自分への勇気づけのためにも、『ハラワタヲ〜』だけはなんとしても言ってやろうと狙ってたんだなとか。
オチに使われたオギーも、実はスーの出産に影響受けて産気づいたっつうことなんだろなとか。
うむ、よい話だった。ありがとう。
しかし斑目。いま動けないスーのためにオギーの様子見てこようってんだろうが、お前はニョーボについててやれやw
>koyuki3
耐えられないのはコッチのほうですw
この展開はまた(裏)もアリってことですよね、うんそーだそうに違いないっ!
それはそれとして浮気チェックしてるスーがたまんなく可愛かった。先行き楽しみっス。
えーっと・・・設定の続きです。
高坂:プシュケにて多忙な毎日を送る日々、咲と結婚した以外特に変わっていません。
咲 :ショップ経営は軌道に乗り、都内に3つ支店を増やすことになる。
常に現場に出て、リサーチは欠かさない。多忙ながらも毎日を楽しんでいる。
久我山:医療機器メーカーの営業を続けている、趣味のイラストは辞めることなく続けている。
最近は高坂が担当するゲームの原画を提供することもある。本人は趣味で描いている理由からギャラを受け取らない。
朽木:卒業後、プシュケにて広報として就職、色物キャラを生かし、イベントの企画や司会、ラジオパーソナリティー等
オタク業界人系タレントとして活躍している。
恵子:専門学校卒業後、咲のショップに就職。
あと彼らの子供たちの設定(真っ赤な誓いから18年後)も
斑目・ホリィ・晴美
斑目夫妻の長女、椎応大入学後げんしけんに入部、名前は両親がそれぞれ考えた。
『ホリィ』はスージーがたぶん『あの漫画』から名前をとったと思われる。
この親にしてこの子あり!オタク濃度はかなり高い。
スレンダーな長身美人、母親と歩いているとよく姉妹に間違えられる。
高坂マコ
高坂夫妻の長女、椎応大4回生で前年度のげんしけん会長、父親の影響かギャルゲーや美少女キャラが好き
だが母親の性格は受け継がれており、オタク嫌いではないが、だらしなかったり、煮え切らないことが嫌い。
今まで男性と付き合った事はない、実は子供のときから面倒見てもらっていた斑目に・・・・。
田中ようこ
田中夫妻の長女、名前は母親のコスネームから、椎応大3回生、げんしけん現会長
父親の影響で手先は器用、コスプレも自分で作るがアクセサリーや小物等、造型の腕前は父親を超えている。
母親譲りの巨乳だが髪はショートカット。
笹原圭士
笹原夫妻の長男、幼馴染の晴美と共に椎応大げんしけんに入部。
アニメ・ゲームは言うに及ばす、サバゲーや声優ラジオへの投稿など趣味の幅は広い
ようこに片思いしている。
今年はある目的の為、大阪への旅行を計画している。
107 :
底冷え:2007/03/10(土) 05:02:06 ID:???
その日は、底冷えのする寒い日でした。
「寒いなぁ・・・。」
「そうですか?」
「・・・やっぱり、故郷ってもっと寒いの?」
「そうですね・・・、寒かった、と思います。」
「そう。・・・懐かしい?」
「・・・あんまり思い出したくないですかね・・・。」
「そっか。ごめん。」
「・・・謝らないでくださいよ・・・。」
「ごめん」
「ほらまた。」
「・・・ははは。」
「・・・あはは。」
「・・・じゃ、早く家に帰ろうか。」
「・・・はい。」
その日は、底冷えのする寒い日でした。
でも、二人にはあまり関係のないことかもしれません。
たまには1レスのショートも良いですね。
短いながらも荻上の過去と、今の幸せと……。
ただ今、長編を構想中です。
その前にひとつSSを投下しますのでお楽しみに。
>>107 なんかイイ、漠然とイイと思っていたが今思い当たった。
地の文だ。
「寒い」以外なにも書いてないのに情景の浮かぶリフレインGJ。
>>109 ついに本文を1レスも投下せずにナマゴロすのかw
楽しみに待ってますよー。
動かざること久我山の如し
(対戦相手を撃破するのに)疾きこと高坂の如し
静かなること初代会長の如し
買い漁ること斑目のごとし
仕事サボって何やッてんだ状態でスレ汚しにやってきました。
>>102で、「伊豆の混浴露天風呂で火花を散らす金髪美女二人!」と予告したにも関わらず、温泉まで行き着きませんでした(切腹)。
その前段階で個人的にオイシイ場面が浮かんだものですから……申し訳ない。
koyukiと銘打ったシリーズの「1」「2」は比較的鬱展開だったのですが、これは呑気な旅行ものになってしまいました(汗)。斑目たちと一緒に観光を楽しんでいただければ幸いです。
13レスくらい投下します。
よろしくお願いします。
【2011年4月16日/東京駅】
土曜日の朝。
東京駅八重洲口の一角にあるコーヒーテラスで、高坂真琴とアンジェラ・バートンがタンブラーを片手に談笑していた。
咲は2、3歩離れた場所に立ち、携帯電話で自分の店に連絡を入れている。
「……うん、うん。じゃあ悪いけど店の方、よろしくね」
咲は電話を切って、二人のもとに戻った。
彼らの足下には荷物のカートが置かれている。軽い朝食を終えて、これから仲間達と合流。アンジェラ主催による『高坂夫妻結婚記念温泉旅行』として、伊豆へと向かうのだ。
英語と日本語が行き交う会話。3人とも『絵になる』容姿だけに、周りを行き来する人々の中でもひときわ目立っている。
この後、別の意味で、さらに目立つことになるのだが……。
「おはようございます!」
最初に合流したのは、田中総市郎、加奈子夫妻だった。
総市郎が4人分はあろうかという大荷物を抱え、背負い、引きずっている。その中身はもちろんコスチュームの山だ。
咲は総市郎の荷物の山を見て、大学卒業前の『撮影会』の記憶が蘇る。
「うわー……いつもお疲れ……。今回一泊旅行のはずだけど……」と、声を掛ける咲に、総市郎はやや高めのテンションで、「もうね、今日はアンジェラとスージーと『高坂さん』の分もバッチリ持ってきたから!」と答える。
呆れる咲の隣で、夫である真琴は、「うわぁ、楽しみだなあ」と呑気に笑う。ジロリと睨む咲。
「……ちょっとヤメてよ。私のコスチュームはそこら辺のロッカーに入れてきなよ……」
田中夫妻の赤ちゃんは、スリングに包まれ加奈子の胸元で寝息を立てている。アンジェラが中腰になってその寝顔をのぞき込み、目を細めた。
寝ている赤ちゃんの頬をなで、ぷにぷにとした手をつまんで握手する。
その様子を見ていた加奈子が、アンジェラに語り掛けた。
『アン、あなたも欲しいんじゃないの?』
『うーん、そうねえ……』
加奈子は、子どもから視線を外さないまま答えるアンジェラに、疑問に思っていたことを単刀直入に聞いてみた。
『……ところで、今回はどうしてスーと一緒に行動していないの? 何かあったの?』
アンは、笑顔で加奈子を見上げる。
『だって彼女、帰国したばかりでしょ。彼女の父さん厳しいから一緒には行けないと思ったの。私、サキの結婚式に行けなかったでしょ。二人にオメデトウを言って、ついでにマダラメも祝福してあげようと思ったのよ』
サラリと答えるアンジェラに、加奈子は納得がいかない表情で「ふーん」と頷くだけであった。
続いて、笹原夫妻がやってきた。
旅装は完士だけで、千佳は身軽な格好で双子のうち一人を抱っこしている。千佳は連載漫画の打ち合わせの予定が詰まっているため参加できず、欠席となったのだ。
二人とも寝不足なのか、目を真っ赤に腫らしている。
「オギー残念だね」
咲が声を掛けた。
「スミマセン咲さん」
「いいってば。でも旦那だけ参加して……いいの?」
「ええ。ここ数日、自分の仕事も忙しかったのに、朝まで私のネームの構成を一緒に考えてもらったし……。今回はゆっくり楽しんでほしいかなって……」
二人が完士に目を移すと、目を閉じたまま、生きる屍のようにゆらゆらしている。
高坂真琴が、「笹原君、笹原君?」と肩を叩いて2度3度呼び掛けることで、「……あ、ああオハヨゥ……」とか細い声が返ってきた。
咲は再び、千佳を見て、抱えていた子どもが一人であることに気付いた。
「そういえば、もう一人の双子ちゃんは?」と尋ねたとき、駅構内に響くような大声で、「ゴラァ『荻上ェ!』 とっとと先に行くとはどういう了見やねん!」と、藪崎の怒号が聞こえてきた。
「いいかげん旧姓で呼ぶのやめてください」と千佳。
「この方が怒鳴りやすいんや。……だいたいワレは人のことベビーシッターか何かと勘違いしとるやろ!」
千佳は、耳元まで来て叫ぶ藪崎を指して、「……この通り『助っ人』がいますので……」と力無く笑った。
藪崎のおかげで一段と騒がしくなった人の輪を見て、「うわ…、入り辛いなあれは」と呟きながら、斑目がスージーを連れてやってきた。
何となく、スージーを隠すように、斑目が前に立って歩いている。
ジャケットとデニムのパンツにスニーカーというラフな姿の斑目。どれも安物だが、スージーと並んで歩くことが多くなってからは、少しばかり格好を気にするようになったらしい。
咲はタンブラーを口にしながら、『不器用だけど衣装を頑張ってみた』といった雰囲気の斑目の姿を見る。
その姿に目を細め、「ふふ…」と微笑んだが、直後にスージーが斑目の陰から出てきた時には、思わずコーヒーを吹いた。
スーは、柔らかい黄色のワンピースを着ていた。しかもノースリーブでミニ。さらに単色のニーソックスをはいて、素足が少しだけ覗いている。
ワンピの白い襟の中央にはピンクの大きなリボンがあり、金髪のツインテールと同じタイミングで揺れていた。
『萌えてください』と言わんばかりの妙な気合いの入り方に、咲ですら、『ドコのマンガから出てきたのよ?』と聞きたくなった。
「うわあ、記号のカタマリだな」
「咲ちゃんもこういうカッコすれば、『萌え』になると思うよ」
「絶対シマセン」
盛り上がる仲間達と、いつもの愛想笑いであいさつを交わす斑目。
その傍らでスージーは、斑目のジャケットの端を掴んだまま、ジーッとアンジェラを見ていた。
アンジェラは相変わらず露出度が高い。シャツの胸元を大きく開き、太股も露わなミニで駆け寄ると、胸が当たるほどに斑目に近づいて、彼の手を取ってニコニコと微笑んだ。
カタコトの日本語で「スー、マダラメ、オメデートゥ!」と繰り返している。
赤面でカクカクと頷くばかりの斑目。
アンジェラはスージーの刺すような視線に気付くと、彼女に視線を落としてニッコリと笑い、『Hi』とあいさつした。
スーが、仏頂面のまま『……Hi』と返すと、アンはにこやかな表情のまま英語で語り掛けた。
『スー、お家に電話したらお母様が、“スージーは友達とクリスタルレイクにキャンプに行ってる”って言ってたわ。……お母様は優しいのね』
『…………』
今回スージーが訪日することができたのも、母親の理解と協力があってこそだった。
『……でも十日近くもキャンプに行くなんて、お父様も心配されるんじゃないかしら?』
眉をひそめてムッとするスーに、アンジェラは『ゴメンネ』とウインクして、咲たちのもとに戻っていった。
二人の会話の意味は、斑目にはさっぱり分からなかった。
「これで全員だっけ……、ん?」
咲は、パシャ、パシャ……と、駅構内でフラッシュの明かりが灯されているのに気付いた。
デイバッグを肩からさげた現役会長の朽木が、「イエーイ!」と叫びつつ、デジカメで一団を撮影しながら歩いてきた。
「やめんかい!」
思わず叫ぶ咲。
怒鳴る女に生ける屍、奇行の男、萌えの記号をまき散らすガイジン女など、オカシナ団体は東京駅構内で思いっきり浮いていた。
【2011年4月16日/東海道新幹線のホーム】
手製の旗を持ったアンジェラを先頭に、元現視研一行が新幹線に乗り込む。
発車のベルが鳴り、ホームで見送る千佳に向かって、咲や加奈子が窓越しに手を振る。
その様子を『ホーム側から』撮影していた朽木は、危うく乗り遅れそうになった。
ドアに挟まれそうになりながら乗り込む朽木。『駆け込み乗車はおやめくださいッ!』と駅員のアナウンスが響いた。
クッチー、さっそくやらかす。
一行を乗せた新幹線は、西に向かって走り去った。
手を振って見送った千佳は、新幹線が見えなくなると、ふぅと軽いため息をついた。
彼女の後ろのベンチで、双子を抱っこしている藪崎は仏頂面をしていた。座って待っている間に、周りにいたご老人達から、『たくましいオカン』に間違われていたのだ。
「おもんないわ〜。何が乳の出が良さそうな体やねん。『荻上ェ』もう帰るで!」
「藪崎さん、せっかくだから、何か美味しいもの食べて帰りませんか?」
「は?」
「だって、見送りだけやって終わりじゃ面白くないじゃないですか。私の用事も大半は明日だし……」
双子の一人を千佳に返した藪崎は、空いた手であごをさすりながらニヤリと笑った。
「……ふむ、よっしゃいこ。溜まっとるんやな、ええでええで〜。普段の夫への不満やドロドロした感情をドンドン吐き出すんやな。弱みを聞いてやるでぇ」
「不満なんかありません!」
仲が悪いのか良いのか分からない二人は、並んでホームの階段を下りていった。
【2011年4月16日/新幹線車内】
新幹線『こだま』は静岡県の三島駅へ向かう。
そこでローカル線とバスに乗り換えれば、目的の温泉地までは2時間半で到着する。
三島までは『こだま』を利用するため、自由席車両でも席は空いていた。
周辺が空いている席に爆睡中の笹原を『安置』。残った一行は、通路を挟んで4人がけの席を並べて旅行を楽しんでいた。
しかし、その一角は微妙な空気を醸し出していた。
斑目の隣にアンジェラが割り込むように座り、その向かい側には、追いやられたスージーと、デジカメで景色や一行の姿を撮影しまくる朽木が座っていた。
アンジェラはふくよかな胸を、斑目の腕と肩に押し当てるように密着している。
『ソーウケ、メガネフェチとして貴方と旅行するのが楽しみだったのよ。今日はエンジョイしましょう!』
「え、なに?……いやそんなにくっついて話しても意味分かんないし……(アンの吐息が耳元を襲う)……ッあぁっ……!(滝汗)」
咲と加奈子は、斑目たちの席を呆れた顔で眺めつつ、パックの静岡茶を飲んでいる。
「……なにやってんだか、あの席は……」
「アンはメガネフェチなんで、斑目さんで遊んでいるのかもしれませんが……。うーん、今日は飛ばしてますね……」
田中や高坂…それぞれの夫は、それぞれの妻の心配をよそに、オタ話に花を咲かせていた。
アンジェラが手荷物から、ラッピングした小箱を出して開け、手製のクッキーをつまんだ。
『はーいマダラメ、私がサキの家で焼いたクッキーよ。食べてみて』
「……え、何、サキ…さんが何だって? ああ、クッキーねどうもイタダキマス………ってうぉ!?」
慌てる斑目、ぽかんと開いていたその口に、アンジェラが優しくクッキーを入れてあげたのだ。
いかにもアメリカンホームメイドといった風味のチョコチップとクルミの味わいが口の中に広がる。
さらにアンジェラは、斑目の口元にこぼれた粉を指先ですくった。至れり尽くせりの状況に、顔面紅潮の斑目は声も出ない。
『はい、スーもクチキもどうぞ!』
続いてアンジェラは向かいに座る二人にクッキーを分け与え、さらに小箱を加奈子に渡し、彼女らの席にもお裾分けした。
「おいしい!」
「これいけるわ」
さっきまでアンの所業を心配していた加奈子や咲も、お手製クッキーの味に籠絡されたかのように、そのままお菓子の話題で盛り上がり始めた。
スージーは、クッキーを無造作に口に放り込みながら、目の前で展開する痴態を見守る。内心は面白くない。
(……『ソレ』ハ、ワタシノダ……)
そんな気持ちを知らずに、朽木は無遠慮に斑目とアンの姿をデジカメで撮影していた。
スーは、朽木のカメラに手を伸ばして語り掛ける。
「マチルダチューイ、アノォ……ハジノカキツイデデアリマスガ、シャシンヲトラセテイタダキタク、オ、オネガイモウシアゲマス!」
「おぉ、カイ・シデン! スージー殿がワタクシを撮ってくれるでありますか?」
「……(無言で頷く)」
「それはかたじけない!」と、朽木がデジカメを手渡すと、スージーはしばらくデジカメのメニュー画面を見つめ、素早い手つきで『カードのフォーマットを初期化』して、その後で朽木の顔を撮影した。
「ゥオォーーーーッ!? ナンテコトヲーッ!」
朽木の悲鳴が車内に響きわたった。
【2011年4月16日/バス車中】
三島駅で新幹線を降りてローカル線に乗り換えた一行は、続いて修善寺駅で路線バスに乗った。
彼らが向かうのは、伊豆の中央部、天城山系に囲まれた温泉地であった。
レトロなデザインにオレンジのカラーリングのバスが、トコトコと山々に囲まれた国道を走る。車内では、一部間違った日本語の歌がアカペラで熱唱されていた。
『♪ウランッデモォ〜ウランッデェモォオ〜、ココロウラワラ〜アナタ〜、ヤマゲモ〜エエ〜ルゥ〜!』
ご機嫌のアンジェラが、この日のために憶えたという演歌を歌う。あやふやな日本語をカバーするかのようにクッチーもこぶしをきかせてデュエットしている。
『♪アメギィ〜モゥォゥエェ〜』
バスの乗客は彼らだけではないのだが、頭を抱えているのは咲くらいで、乗り合わせたオジジオババの観光客も手拍子とヤンヤの喝采を送っている。
「いいぞねえちゃん!」
「外人さんステキヨ〜!」
他の乗客の喝采に手を振り、投げキッスをして応えるアンジェラと朽木。
加奈子も、「アンがあんなに上手に日本語で歌えるなんて驚きました!」と感心している。
「そういえば私のマンションで練習してたっけ……」
加奈子の隣に座っていた咲は、アンジェラが彼女のマンションに泊まり込んでいる間、演歌「天城萌え」を繰り返し聞いてたのをおぼえている。
それ以外にもアンジェラは、英語字幕のない日本語のアニメを、ビデオで何度も繰り返し見ていた。咲はビデオの内容について詳しく尋ねることはなかったが……。
【2011年4月16日/浄蓮の滝】
温泉地に行く途上、観光スポットがあるということで途中下車した一行。爆睡中の笹原は危うくバスの中に『置き忘れ』されそうになった。
降り立った駐車場では、観光バスや乗用車がひっきりなしに訪れ、土産物屋や屋台は観光客で賑わっている。
総市郎が加奈子に語り掛け、「ここが、さっきの歌に出てきた場所だよ……人が少なければ、『撮影』にもってこいのロケーションなんだけどね」と残念がった。
そこは浄蓮の滝。
20メートル以上の落差がある天城の観光名所だが、谷間の下にある滝壺までは、200段以上の石段を降りていかなくてはならない。
彼らが立っているのは、その石段の入り口付近だ。
新緑の鮮やかな緑に包まれた谷の向こうから、人の賑わう声に混ざって、微かにドドドドド……と滝の音が聞こえてくる。
咲やアンジェラは、さっそく名物の『わさびソフトクリーム』を買い食いしている。辛口版はクリームの甘みとともに、舌にピリピリと刺激がくる。
咲がニヤニヤしながらわさびソフトをスプーンですくい、立ったままゆらゆらしている笹原の口に突っ込んだ。
「……んぐンッ!」
ビクッと目を覚ます笹原に、真琴が「おはよう」と声を掛けた。
その様子を遠目で見ていた斑目は、(……『春日部さんのソフト』……)と、笹原にちょっとしたウラヤマシサを感じつつ、ベンチに座ってため息をついた。
「いやもう移動だけで疲れたわ……」
朝から続くアンジェラの過剰サービスに疲れ気味の斑目。そんな彼の隣に、再びアンジェラがやってきて座った。
その手には、わさびソフトを持っている。
『これピリピリして食べきれないの〜。マダラメお願い』
「……これ、俺にくれるの?」
朝からスージーが不気味に沈黙しているのが気になる斑目だったが、気の弱い彼はアンジェラの接触も強く断れない。
いま周りにスージーの姿は見えないので、仕方なくわさびソフトを受け取った。
その間、アンジェラは、店舗とトイレがならぶ一角を眺めて、何かのタイミングを伺っていた。
ペロリとソフトクリームを舐める斑目だったが、その直後にアンジェラも、彼が持っていたソフトをペロリと舐めた。
驚く斑目に、ニッコリと微笑みかけるアンジェラ。
ちょうど『その瞬間』を、トイレから出てきたばかりのスージーが目撃した。
彼女の視線上には、滝に向かう石段入り口付近にたむろする仲間達の姿が見えたが、その一角で、ソフトクリームを交互に舐める斑目とアンジェラが見えたのだ。
そんな劇的状況も知らず、「あ、スージー。滝まで降りましょう!」と誘う加奈子。
スーはコクリと頷くと、ベンチに座る斑目の前にスタスタと歩み寄った。
「あ…スー、ドシタノ」
声が裏返る斑目。メガネの奥の瞳が緊張している。
「…ネコヤシャ…」
「……それってもしかして、『オスワリ』ですかぁ?」
「Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.」
「ネコヤシャオスワリ」で肩車をするハメになった斑目。
滝が見えるまでの約200段の下り道を、肩車のまま降りていく。苦悶の表情を浮かべながら歩く姿は、まるで初期ジャッキーチェン映画の修行シーンのようだ。
飛沫が涼しげな浄蓮の滝を眺め、その滝をバックに朽木のデジカメで記念写真を撮る一行。だが、斑目はその間もスージーを肩車したまんまであった。
「うーん、斑目先輩、もうちょっとずれてくれないと、『上のスージー殿』で滝が隠れちゃいマスヨ!」
滝とスーが並ぶけったいな記念写真を撮った後、高坂や笹原たちは滝の周りの河原でマス釣りを楽しむ。田中夫妻は赤ちゃんに川の水を触らせては、その愛らしい姿を写真に納めている。
咲やアンジェラも、川の冷たい水を活かしたわさび田を眺めたり、男性陣が釣ったマスを焼いて食べながら談笑していた。
ただ斑目だけは、肩車のままウロウロしていて落ち着きがない。
スージーの『感触』がいつもと違うのだ。頭に接する部分がいつもよりも密着していて、暑くて汗ばむほどであった。
しかも今日のスージーはミニのワンピにニーソックスで絶対領域を作り出している。その生足部分が直撃していた。
「あ、あの……今日はちょっと密着しすぎじゃないデスカ?」
恐る恐る尋ねる斑目に、頭上のスーからは即答が返ってきた。
「アテテンノヨ!」
結局斑目は、200段の階段を登って帰る時もスージーを肩車し、ヒーヒー言いながら移動するのであった。
【2011年4月16日/天城七滝】
再び路線バスに乗り込んだ一行は、天城トンネルなどを眺めながら移動。バスは、急斜面を緩やかに上り下りするために螺旋状に造られた『ループ橋』を降りていく。
「うーむ、ループ……いい響きですね」と、朽木が感心している後ろで、疲れ切った斑目は、隣に座る笹原と一緒に爆睡していた。
ループ橋を降りてすぐに下車し、橋の下をくぐるようにして移動した一行は、温泉宿が並ぶ「河津七滝」へとやってきた。
「伊豆の踊り子」で有名な滝を中心に、七つの滝を見物できる観光スポットでもあり、滝を見ながらの露天風呂も楽しめるという。
咲や加奈子はガイドブックを手に、温泉郷の一角にある喫茶店に入る。
「ここのイチゴのデザートが美味しいんだって」
「お昼の軽食と一緒に食べましょう」
盛り上がる女性陣。
「新幹線の車中からずっと食べっ放しだな」と呆れる田中。
「あぁ、この人たちも女だったんデスネ」
斑目が疲れた表情で応える。
田中は小さな喫茶店の店内を見渡し、「……座りきれないから、俺ら隣のソバ屋で食うから」と加奈子に語り掛け、男性陣を引き連れて移動した。
斑目、田中、高坂、笹原の四人は、ざるソバをすすりながら何気ない会話を交わしていた。
田中がズルズルッと最後のソバをすすって食べ終わった後、隣に座る斑目に問い掛けた。
「斑目、『ああいう時』は態度をハッキリさせた方がいいぞ……。経験上、曖昧な態度は後で自分を苦しめるからな」
「え、何のこと?」
「とぼけるなよ。スージーご立腹じゃないのか?」
「あ〜、そうねぇ……(汗)」
高坂がその会話に入ってきた。
「あの〜、アンジェラなんですが、この旅行を機に、『やりたいことがある』って言ってたそうですよ」
「……やりたいことねぇ。おれ、それに巻き込まれてるのかな……」
斑目は深いため息をついて、残りのソバをつゆの中に放り込んだ。
<つづく>
以上です。
この後一行は問題の温泉宿にチェックインします。スンマセン、露天風呂対決は次回です。
伊豆はドライブしまくった場所なので、個人的に思い入れが強くなって、旅行部分が長くなってしましまいた。
あとは、あの「斑目放浪記」の影響もあるかなと。
スーの母親がアンに伝えた「クリスタルレイクでキャンプ」ですが、同地はジェイソンが出ることで有名です(((;゚Д゚)))
わさびソフトは描写してるほどピリピリはしないですが、オススメです。
荻上さんが参加しないのは残念ですが、彼女が加わると、スージーの方がオギーにべったりで浮気しそうなので(笑)涙を飲んでもらいました。
では次回もよろしくお願いします。
>斑目、田中、高坂、笹原の四人は、ざるソバをすすりながら何気ない会話を交わしていた。
……朽木にソバ食わせるの忘れてた……。
>>130 ww
しかし、朽木の扱いこんなのばっかりだなww
koyuki3
あなたもすごい生殺しではないですかww
>>130 鬼忘却wwwwwww
>koyuki3
アンとスーに挟まれて ラメさんが萌え尽きそうです
ラメのあたふたする姿が何よりも好きなワタクシとしましては
ぜひともアンに頑張ってもらいたいところです。
そんでそれを見たスーがshitしてさらにヒートアップ…みたいな。
>130
ドンマイクッチーwwwwwww
>koyuki3
「マダラメガ、クワレル……!」とか「ヤッチャエ!バーサーカー!」とか「アテテンノヨ!」とか今回のスー様おはしたのうございますwww
きっとこの切迫感が今後の温泉対決の大きなフリになるに違いないっ!
>>130 まあ、なんだ。イ`。
さて・・・軽く投下しますかww
『明日会える?』
昨日の夜受け取ったメールを大野は電車の中で見返していた。
田中は卒業制作に追われているにもかかわらず、大野のイベントにも付き合っていた。
さすがに期限前となり、ここ暫く、大野から距離を置き、メールのやり取りだけでお互いのモチベーションを保っていた。
そんな中、l久しぶりに田中に会える喜びで携帯を見る彼女の目はどこか嬉しそうであった。
田中のアパートの前に立ち、ベルを鳴らす、ガチャっと開いた扉から以前より髭が伸び、少し疲れた様子の田中の顔が覗いた。
大野は促されるまま部屋に入り、リビングのいつも座っている場所へ腰を下ろす。
部屋の中は几帳面な田中らしくなく、物で溢れかえっていた。
忙しくて、掃除できなかったのであろうと大野は考えた。
掃除を手伝って欲しくて自分を呼んだのなら、それはそれで構わない、その時は今日一日だけ卒業制作の事は忘れてもらって
甘えさせてもらおう・・・・そう考えると笑いが込み上げてきた。
(いけないわね・・・・今一番忙しいときに何を考えているのかしら・・・でも田中さん疲れているようだし私が支えてあげないと・・・・
そうだわ・・・確か以前作ったコスが押入れの中に・・・今夜はそれで・・・)
「大野さん!」田中に声をかけられハッとする大野
「何ですか?」(いけない、何ワープしているのかしら・・・・)
自分を真剣なまなざしで見つめる田中に彼女はドキマギしていた。
田中は立ち上がりリビングの隣に続いている和室へのふすまに手をかけた。
「今日は見せたいものがあるんだ」そう言うと田中はふすまをガラリと開けた。
137 :
マロン名無しさん:2007/03/15(木) 19:29:42 ID:EFvd05C5
期待age
>名前で呼ぶ日(前半)
wktk
後半に超期待!!!
>名前で呼ぶ日(前半)
えっもう次が後半なの?
なんか俺好みのプロットになってるよマスター。どんどんやってください。
>・・・今夜はそれで・・・
大野さんw
田中もっと疲れちゃいますからwww
>名前で呼ぶ日(前半)
これまたイイトコロで次につなぐんだから……
>私が支えてあげないと・・・・
ここまではいい。
>今夜はそれで・・・
問題はコレだ(笑)。大野さん大胆になって……(涙)
あと、
>>116-128に感想寄せてくださってありがとうございます。
>>131氏はじめ、クッチーみんなに大人気(&同情)。クッチーもこれで浮かばれます(泣)。
>>132 >あなたもすごい生殺しではないですかww
マスターほどではございませんw
>>133 とにかく今回の目標は、「アンはエロく」「スーはかわいく」「斑目は情けなく」なのでご期待に添いたいトコロw
スーは感情を表に出さないキャラですから「嫉妬」をどうヒートアップさせるべきか、難しいですね。
>>134 >はしたのうございますwww
はい。そこが狙い所です。彼女には、「はしたなく」「かわいく」怒ってほしいものです。
>>103-104さんにレスしてませんでしたのでこの場を借りて……。
>先生、ポロリはありますか?
>この展開はまた(裏)もアリ
……キタイサレタラヤリタクナルゼェ〜クククッ!……
開かれたふすまからは狭い四畳半の部屋には似つかわしくなく、白に統一され、その白さはまるで輝いているようであった。
大野は息を飲んだ。
その白さは、部屋そのものでなく、部屋の真ん中にディスプレイされるように置かれた『モノ』からである。
「田中さん・・・」
「ああ・・・卒業制作・・・昨日完成させたんだ・・・・・」
心なしか田中の声は震えている。
「あ・・・・あの・・・後は・・・モデルに着てもらって写真を撮って・・・提出するんだ・・・」
「えっ?」
「だから・・・大野さん・・・大野さんに着て欲しいんだ・・・サイズも合わせてある・・・・」
「田中さんこのドレスって・・・」加奈子が質問をしようとした瞬間、田中の細い目が大きく開かれ意を決したように口が開かれた・・・。
「大野さん・・・いや・・・『加奈子』・・・このドレスを・・・モデル以外でも着て欲しいんだ!!」
「えっ?」突然『名前』で呼ばれてキョトンとしてしまう加奈子
「俺、卒業制作は加奈子の為に作ろうと考えていた・・・一生に一度だけ着るものを自分の手で作りたかったんだ!!」
田中の顔はどんどん紅潮していく、今にも泣きそうなぐらいだ・・・。
「だから『加奈子さん』俺と結婚下さい・・・そして式でこの『ウエディングドレス』を着てください!!」
田中は直立不動のまま頭を下げる、そのままの状態で沈黙が流れた。
田中が頭を上げたとき目の前には加奈子がいた。加奈子は身長の低い彼に目線を合わせるとゆっくり彼の首筋に腕を回し抱きついた。
「はいっ『総市郎さん』・・・・・」加奈子の肩は震えている・・・・。
その肩を包み込むように総市郎は彼女を抱きしめた・・・・。
おわり
死亡フラグキター!
wktk
どうもバキスレから誘導されてきました。そんなに長くも無いですが2つに分けて
投稿します今日は前編で
1, 心の奥
斑「次の会長はどうするの?」
恵「え〜私まだやるつもりなんだけど。」
笹「そんなんでお前就活どうするんだ?」
恵「まぁ何とかなるんじゃン?」
荻「・・・・こんな適当な人に会長を譲ってよかったのか未だに悩んでます」
荻上の卒業式のげんしけんOBも含めた追い出しコンパで皆はそれぞれ話しをしていた。コーサカと久我山は仕事でいない。
咲「じゃー荻上の卒業と漫画家としての成功を祝ってかんぱーい」
全「かんぱーい!」
皆が乾杯しいざ宴が始まろうとしていたその時
笹「えーちょっといいですか」
咲「ん?」
笹「実はですね・・荻上さんも卒業して連載漫画を一本もって僕も仕事が軌道に乗ってきたこともあり・・・・僕たちこの夏に結婚します!」
全「えー!!」
大「ほ、ホントですか荻上さん?」
荻上は最大級の赤面顔になっていた
荻「・・・ホントです」
大「わーわーどうしましょどうしましょ何のコスプレしましょうか」
咲・荻「しなくていい(です)!」
145 :
144:2007/03/23(金) 01:51:20 ID:???
衝撃の結婚発表から数ヶ月後、結婚式を数日後に控えて笹原と斑目は新宿の同人ショップに来ていた。
結婚したら常時荻上さんが家にいるのだから買い物に行きずらくなるということで、独身最後の買い物兼飲みをしようということで斑目から誘ったのだ
斑「やっぱOVAだけに1万はたけーよな」
笹「普通に2期製作してくれないっすかね」
いつものように他愛もない会話をしているところ、ふと見覚えのある声が耳に入ってきた
咲「なんで!また仕事!?これで4週間も会ってないよ!荻上の卒業式のときも来なかったし、、、、結婚式は来れるんだよね、、、、分かった、、、じゃ」
大きくため息をつく咲を見つけ斑目は躊躇しながらも話しかけた
斑「あれ〜春日部さん」
咲「お!笹やんに斑目じゃん!何しに、、っておめ結婚式の直前だってのに何やってんだ!」
二人が抱える紙袋の中には大量のグッズが入っていた
斑「笹原の独身最後の煩悩を手助けしに来たんデスヨ」
咲「ふーん、いささか助けすぎじゃない?あっ、丁度あたし店閉めるところなんだけど飲みに行かない?ホントは高坂が来るはずだったんだけどあの馬鹿エロゲー作りがおわらねーとさ」
いつものように「高坂と」に多少の心苦しさを覚えつつも普段どおりに斑目は振舞っていた
斑「あーいいね、近くに行きつけのお店があるんだけどいってみない?」
咲「よし、決定!ほら笹やんも早く早く」
146 :
144:2007/03/23(金) 01:54:16 ID:???
いきつけといってもたまに会社の人達とたまに来る程度の一軒の飲み屋に入って行く。
今日の咲のペースは早い。いつも早いほうなのだが今日は普段の大野さんを大幅に超えるほどのハイペースで飲んでいる。
おかげで一時間もするとすっかり酔って、高坂への愚痴が始まった
咲「コーサカがさ〜エロゲー作りが忙しいって言ってぜんぜん会ってくれないのよ〜。やっぱエロゲーで十分なのかな〜」
笹「・・・そーゆー答えようのないことを言わんでください」
その後も延々とコーサカへの愚痴が続いていた。しかしその愚痴がだんだんとその形態を変えていった。
最初の愚痴はノロケと紙一重のかわいいものだったが30分もすると真剣なものへとなっていった
咲「笹やんが結婚するっていってさ、あたしもコーサカとの結婚をちょっと意識してみたんだ、でもさ今みたいな何週間も家を空けることがしょっちゅうある上にあの天然の性格でしょ?だから現実的な未来ってものがまったく見えてこないのよね。」
斑目は複雑な気持ちで聞いていた。安心することを諦めたということは同時にわずかながらも期待を心の奥底に持っておくことを意味する。それだけにコーサカへの真剣な愚痴は聞いているのがつらかった。
咲「・・・やっぱ別れるのかな、、そろそろ」
笹・斑「!?」
突然の咲の言葉に二人は激しく動揺した。そう、激しく動揺した。
咲「電話は向こうからかけてこないと大抵つながらないし、おかげで今日まで3週間一言の会話もなし。友達にもさっさと別れればって言われるしさ、、、」
斑目は咲がため息をつくとコップを口につけたまま固まっていた。あわてた笹原が励ましの言葉を発した。
笹「高坂君が春日部さんのことを何よりも大事に思っているのは皆しってますよ。高坂君とは親友だし別れるなんていわないでくださいよ」
笹原の軽い苦笑いを含みつつもきちんとした励ましを受けるにしたがって、咲も段々と元気になっていった。そんな中斑目は笹原とともに励ましつつちびちび酒を飲んでいた。
147 :
144:2007/03/23(金) 01:58:05 ID:???
2,決定
結婚式当日
笹荻の結婚式があと少しで始まる時間まで来ていたが高坂の姿はまだなかった。
咲「おっそいなーもう式始まっちゃうよ」
田「電車かなんかが遅れてるんじゃないかな?」
TRRR・・TRRR・・
ふいに咲の電話がなった
咲「あっ、コーサカだ!はいもしもし、、、、、、、えっ!何言ってるの!?、、、、『今日は』ってのはこっちのセリフよ!、、、、ねぇ待って!」
「ツーツーツー」
咲はうつむいたまま動かなかった。
皆が何が起きたのかを察したが言葉には出さなかった。
特に斑目は5日前の電話越しでの喧嘩を目撃しているだけに気が気ではなかった。
咲「・・グスッ」
全「!?」
咲は泣き出してしまった。皆おろおろしはじめた。斑目には泣いた理由について全て察しが着いてしまった。
コーサカと話すのもあの電話以来だろうし、なにより大した励ましの言葉も見つからずありきたりの励ましばかりでひたすら酒をのんでいた頼れない「オタク星人」
の自分と違って、ついこの間別れようか悩んでいた咲を必死に励まして高坂を「親友」と呼んでくれた笹原の結婚式なのである。
その結婚式を欠席するということで咲の心の堤防がついに崩れたのだろう。
咲「どうして・・・今日だけは・・・」
斑「・・・」
咲「あいつらは・・・親友なのに・・・」
長い沈黙。斑目は何もいわなかった。何を言っても彼の心は茨の道であることを理解していた。
148 :
144:2007/03/23(金) 02:03:41 ID:???
その後大野達によってなんとか咲も落ち着き、結婚式は滞りなく終わった。結婚式の後、げんしけんメンバーのところに笹荻が来た
大「荻上さ〜ん笹原さ〜んおめでとうございま〜す」
笹「相変わらず酔ってますねー大丈夫ですか?」
大「うふふふ・・・だいじょうぶですよ〜」
田「悪いな笹原。こんなめでたい席で」
いつものげんしけんメンバーで話をしていた。
『何をいっても茨の道・・か』
斑目が深いため息をついていると
高「おそくなってすいません。笹原君荻上さんおめでとうございます」
咲「あっ・・」
高坂が来たのだ。おそらく急いだのだろう、多少息が荒い。
笹「あっ高坂君、ありがとう。仕事は大丈夫?」
高「うん。ある程度のめどがついたから今日は帰っていいことになったんだ。」
高坂が来て皆が一安心している中、咲は一人悲しそうな−しかし真面目な−顔をしていた。
149 :
144:2007/03/23(金) 02:05:36 ID:???
咲「・・・どうして」
高「ん?」
咲「どうして今日これまでこれなかったの!」
高「それは電話でいったのと・・」
咲「つまり仕事で来れなかったんでしょ!笹原と荻上の結婚式に!」
高「うん」
咲「コーサカこの間電話で結婚式は来るって行ったじゃない」
高「それは」
咲「いい!言い訳ならいいよ!笹原はあんたと別れようか真剣に悩んでたあたしの話を聞いて、あんたの事を『親友』って呼んでくれたのに!」
高「咲ちゃん」
咲「それなのにコーサカは結婚式にこなかった・・」
高「咲ちゃん」
咲「笹原だけじゃない、他の皆だってコーサカが来なかった追い出しコンパとかでも心配してくれてたんだよ!」
高「咲ちゃん!」
咲「それなのに・・それなのにコーサカは・・」
高「咲ちゃん!」
咲「もういい!別れ・・」
高「咲ちゃん結婚しよう」
咲「笹原と荻上には悪い・・・え??」
咲だけでない。皆が驚いている。高坂が来るなり突然プロポーズしたのだから当だ。
もちろん斑目も
150 :
144:2007/03/23(金) 02:06:38 ID:???
『高坂が・・・プロポーズ!?』
高「ホントは昨日までに仕事終わらせたかったんだけどさ。終わらないと今月の給料の前借を許さないって言われちゃって」
「パカッ」という音がすると高坂の手には指輪があった。
高「2ヶ月前から予約はしてあったから5分でもらえたんだ。そのおかげでなんとか今日プロポーズできたよかったよ」
咲「・・2ヶ月も前から?」
高「うん」
斑目の気持ちは深く深く沈んでいった。理由は咲がついにプロポーズされたからだけではないと分かっていた。
『コーサカ・・・こんなにいい意味で純粋に素直に生きている人間・・・』
斑目の頭には自分の行動がどんどん流れ出てきた。部室で初めて二人だけでいたときのこと。現視研が活動停止の時の発言。寿司屋。咲の卒業直前での部室。咲達の追い出しコンパ。それにこの間の居酒屋などなど。そして斑目は感じた
『器が・・・違う』
斑目はその瞬間、悲しみと供に、安心できる、してもいいような気がした。
咲「そ、そんない、いきなり」
高「いきなりかな?自然なことだと思うよ。僕は咲ちゃんが好きです、ずっと一緒に居たいです。咲ちゃんはどうですか?」
咲「・・・・そっか・・・・・ありがと。」
高「ん・・じゃあ」
咲「結婚・・・しようか」
その言葉で周囲は歓喜で溢れそうになった。斑目も、である。
大「おめでとうございます!」
ク「お、おめでとう」
笹「ははっ、主役とられちゃったなぁ」
恵「まぁ主役なんてアニキには似合わなかったんでしょ」
皆が喜んでいる。咲は特別に満面の笑みで喜んでいる。その満面の笑みの中には一粒の涙があった
151 :
144:2007/03/23(金) 02:08:52 ID:???
以上7レスが今日の分です。
書いてて皆さんの文章の構成力などの凄さに驚きました全然雰囲気が出せませんでしたし。
また後日、近いうちに後編を投稿しますこれからもよろしくお願いします
>144
おつ。よかったよ。
153 :
マロン名無しさん:2007/03/23(金) 02:36:41 ID:xk6+1YkD
>>144 なんか凄い想像させられる・・・名作の予感
>>144 いらっしゃいませ〜。
コッテリ系の文章好みだ。当て馬にされた笹荻がいささか気の毒だがw
各キャラ並行描写で物語のゴールが隠されてるのが興味を引く。wkwk
後編が楽しみっス。これからもヨロ。
>>144 斑目視点で話が進むと難しいと思うけど普通に問題ないな〜雰囲気も全然出てるってかすごい出てるし
良作保守
157 :
144:2007/03/25(日) 23:17:34 ID:???
どうも、後編の推敲が終わりましたのでこれから投下したいと思います。
158 :
144:2007/03/25(日) 23:19:26 ID:???
3,動揺
数ヵ月後の7月、咲と高坂の結婚式の二週間前に現視研メンバーは集まって飲み会を開いていた。
大「結婚生活はどうですか?」
笹「いやあ・・まあ普通ということにしておいてもらえますか?」
荻「・・・別にもう森川さんや安沢さんと飲みに行っても気にしませんよ」
笹「いやだからね、あれはあくまで打ち合わせというか接待というものであって・・」
荻「だから別にいいんです」
斑「ちわーす」
斑目が遅れてきた。最近斑目は仕事に精を出している。以前より会社の人と話すようになったし、昼飯を社の人間と食べることも増えている。
しかし斑目は今日残業したから遅れてきたのではない。一度家に帰ってあるものをとってきたのだ。
そして斑目は今日、ある覚悟を決めていた。
咲「おっ、斑目〜遅いじゃん!!どうしたの?」
斑「いや〜最近会社の業績も伸びてきて残業も増えましてネ」
咲「ふ〜ん。あ、そういえば今日あたしと」
咲は隣の高坂の腕をつかんだ
咲「コーサカの結婚式の招待状送っといたわよ〜ん」
そう言うと咲はコーサカの頬に軽くキスをした。その姿を見て斑目はわずかな不安がなくなり100%確信した
『これなら・・笑ってすませられるな』
159 :
144:2007/03/25(日) 23:20:27 ID:???
飲み会は順調に進んでいった。大野と恵子は酔って笹荻にからみ、久我山と田中と朽木と斑目はプシュケの新作のエロゲーについて語り合っていた。そして高坂と咲はくっついて話していた
笹「じゃあ僕達はそろそろ・・」
大「ええ〜帰っちゃうんですか?」
笹「ちょっと明日荻上さんの漫画の重大な打ち合わせがありまして。じゃ、先に失礼します」
斑「おう、じゃあ結婚式でな」
笹原と荻上が帰ったので絡み上戸の大野と恵子は手持ち無沙汰になってしまった。
斑「ちょっとトイレ行ってくら」
と、斑目がトイレに行ったので次の標的を斑目に決めた
大「斑目さん・・咲さんの結婚についてどう思ってるんでしょうね〜うふふ」
恵「え〜別にあんなオタクもとから諦めてんでしょーし大したショックもないんじゃん?」
そんなことを話しながら大野がふと右を見ると斑目のリュックから何かがはみ出ている。
大「あ、あれなんでしょうね〜」
大野はどうやらそれを次の絡みネタに使おうと思ったのである。さっそく手に取るとそれは普通の茶封筒であった
大「え・・・」
中を見てみるとそれは例の斑目の『最後の砦』。そう、春日部のコスプレ写真である。
恵「こいつこんなもん持ってたの!?ってかなんでもってきてんだ?」
一瞬の沈黙そして敏感な二人はすぐに察する
恵「あいつやっぱ、、、、、、、、、ってことだよな」
恵子が大野に耳打ちした
大「ええ、それで間違いないと思います」
恵子は立ち上がった。
恵「ちょっとトイレ」
そう言うと恵子はトイレの前まで行った。斑目が出てきた
160 :
144:2007/03/25(日) 23:21:34 ID:???
斑「なんだい?恵子会長」
恵「おまえちょい来い」
斑目を廊下に連れて行った恵子の目は厳しい目をしていた
恵「何を考えてる?」
斑「へっ?いや別に何も・・」
恵「うそつけ!じゃあなんなんだこれは!」
バサッ、という音と供に出されたのは斑目の最後の砦であった。
斑「えっ!???いや・・・・・・・べつに・・・・・そんな・・・」
斑目は動揺した。咲のコスプレ写真を手に持って怒りの表情を浮かべている。そんな事をする理由は―
恵「お前・・今日告白するつもりだったろ」
斑「・・・・」
その通りだった。今日決めてきた「覚悟」とは咲に好き「だった」と言うことだった。今の状態なら言っても悪い関係にはならないと判断したからだ。そして「安心」しようと思っていた。
『ばれた・・・・のか。どうする?説得するか?この何年かの自分の苦しみ、後悔を説明すればわかってくれるんじゃないか?』
『そろそろ俺も安心していいじゃないか。そうすれば俺も次に進めるじゃないか・・・・。』
斑目の頭がスナネズミになっているなか、恵子が思いもよらぬ言葉を発した
恵「お前・・いま春日部ねーさんがどんな状態か知ってるのか」
斑「えっ・・」
恵「ねーさんはな、今でもコーサカさんと中々会えなくて、このまま結婚してもいずれ別れちゃうんじゃないかって不安でいっぱいなんだぞ!」
斑「!?」
『そんなばかな・・・あんなに・・・』
斑目の心はグラグラと揺らいだ。ここ二ヶ月限りなく0に近ずいていた期待が0に近いままではあるが以前の何倍にも膨れ上がるのを感じた。そしてそんな自分に−これはここ最近で二度目だが―ひどい嫌悪感を持った
恵「お前が覚悟ができてないからずるずると気持ちをひきずってるのなんか知らないがお前が今告白して春日部ねーさんを動揺させてあの二人の幸せを邪魔するのだけはゆるさねぇからな!」
そう言うと恵子は斑目に封筒を押し付け何事もなかったかのように戻って行った。
斑目はただひたすらそこに立ち尽くしていた。
161 :
144:2007/03/25(日) 23:26:21 ID:???
斑目は皆にあいさつもせずに飲み屋を後にした。そして家に着くと斑目はベッドにうつぶせになった。
『俺にはあの場で告白する本当の覚悟ができていなかった・・・・本当に覚悟ができていたのならあそこであんなに動揺しないはずだ・・・』
その後、斑目はゆっくりと立ち上がり、ポストに向かい、中から一通の封筒を取り出し、その中にある紙に書いてある『欠席』に丸を書いた。
162 :
144:2007/03/25(日) 23:27:15 ID:???
高坂と咲の結婚式の前日、斑目はパソコンをいじりながら考え事をしていた。
『あれで・・・よかったのかな』
数日前、二人の結婚式の招待状に「欠席」の返事を送った。飲み会で恵子に言われたことが原因じゃないといえば嘘になるがけっしてそれで気まずくなったからというわけではなかった。
『あいつらがうまくいってないってわかって二度も馬鹿みたいなこと思った人間が結婚式にはいけねーよな』
あの飲み会以来何度も考えた。咲と高坂の結婚式に行かず現視研メンバーと疎遠になってしまえば本当に仲のよい友人はいなくなる。
会社の人間も一応あの二ヶ月間によって親しくはなったものの自分のオタク趣味を公開できた人間は一人もいない。
『・・大した仲間もできずにこのまましがない人生過ごして終わりかな』
そんな事を考えていたところ不意に斑目の携帯が鳴った。
斑「笹原・・?」
携帯の画面には笹原の名前が映っていた。
斑「なんだろう・・・もしもし」
声「あ・・斑目?」
『!?』
笹原の携帯でかけてきたのは恵子だった
163 :
144:2007/03/25(日) 23:28:27 ID:???
4,同類
斑「あ・・うんそうだけど」
恵「あんた・・明日の結婚式来ないんだって?」
斑「・・・」
斑目は何も言わなかった。あの飲み会の日のことが頭に浮かんできた。
恵「・・気にするな」
『気にするなって・・』
斑目はまだ無言だ。
恵「あんたの気持ちはわかるけどさ」
斑「・・・」
斑目は恵子のいつものテンションにだんだんと腹がたってきた。自分が悪いのは十分分かっている。だがそれでも放っておいてほしい時にこれはきつかった。
恵「ねーさんもあんたが来ないの寂しがってるからさ」
斑「・・・何でわかる?」
恵「え?」
斑「何で俺の気持ちが分かるって簡単に言えるんだ!」
斑目は気がつかないうちに大声を出していた
斑「俺は春日部さんと高坂がうまくいってないって聞いて・・素直に悲しめなかったんだ!しかも2度も!そんな人間が・・結婚式に行っていいわけないだろう!」
恵「、、、、同じじゃん」
斑「え?」
恵「あたしと同じじゃん、って言ったの」
斑目は訳が分からなかった。なんだかんだで現視研メンバーでなにかと自分と一番かけ離れているのは恵子だと思っていた。
164 :
144:2007/03/25(日) 23:30:06 ID:???
斑「・・どこが同じなんだよ」
恵「今の境遇がね」
斑「だからどこがだよ」
恵「・・・・・コーサカさんも・・・・」
斑「!?」
恵「結婚するのは・・春日部ねーさんだけじゃ・・ないんだよ」
『あっ・・』
斑目はすっかり忘れていた。恵子が現視研に入りびたるようになったのは高坂に近ずくためだったことを。そしてひょっとしたら恵子も―
恵「あたしもあんたにあんな感じで怒っちゃったけどさ・・実は人のこと言えなかったんだよね」
やっぱり―斑目の予想はあたった。恵子も高坂のことで自分の中にあってほしくない気持ちがあったことに気がついたのだろう。
恵「あたし・・・・告白しようとしたんだ。アニキの結婚式の日に。もう耐えられなくて、もちろんねーさんに断りを入れて相談してからのつもりだったけどね。
そんでその日に覚悟決めたつもりで行ったらアニキに言われたんだ。『お前・・告白する気だろ』って。ははっ、まさかアニキにこんなこといわれるとはね・・あたしもオタクくさくなったもんだよ。」
斑「・・・」
恵「そんであたしは怒られたり怒鳴られたりするのかと思って構えてたらさ、あのアニキはこう言ったよ、『おまえ現視研好きだろ』って」
『現視研・・仲間・・?』
恵「これを言われちゃーな、なんも出来ねーっつーに。なぁ?」
『そうか・・現視研が好きか・・・か。さすがだなぁ笹原・・。が、それならば・・・・・敢えて言おう!』
斑「ありがとう恵子ちゃん。俺は結婚式に行く。そして・・恵子ちゃんは反対するかもしれないけどちゃんと自分の気持ちを告白する」
恵「は!?えっいや、ちょ」
斑「もう決めた。おれも覚悟を決めたんだ。じゃ」
恵「え!ちょっと・・」
ツーツーツー
電話はきれた。
斑目は笑顔だった。
165 :
144:2007/03/25(日) 23:32:24 ID:???
5,告白
恵「まだ来ない」
結婚式当日、恵子はあの後何度も電話をかけたがでない斑目に尋常じゃない覚悟を感じ、他の人にばれないように斑目の告白を止めようとしていた。
笹「どうした恵子、もう式始まるぞ」
恵「ん?いやちょっと・・トイレにね」
笹「ふーん・・。じゃあさっさと戻って来いよ。ところで斑目さん知らないか?」
恵「ええ!ん、ああ、まだ来てないよ」
笹「ちょっと電車が遅れてるって言ってたからなあ、、見たら席教えとけよ」
恵「う、、うん」
しかしその後も斑目は来ない。式まであと2、3分しかない。仕方がなく恵子は席に着いた。そして式がまさにはじまろうとして咲が部屋から出てきた。
咲「ふ〜さすがに緊張するな」
斑「やーあ春日部さん」
166 :
144:2007/03/25(日) 23:33:16 ID:???
咲が振り返るとそこには汗をかいて息が少しあがっている斑目がいた。
咲「あんた来てくれたの?え、でも招待状には欠席って・・」
斑「いや・・まぁ・・急に用事が消えてね。それでまぁ・・きたって訳ですよ」
咲「ふーん、ま、来てくれてありがとね。じゃあ中にあっちの出入り口から入っといて。もう式始まっちゃうから」
斑「あの・・春日部さん」
咲「ン?」
ガタン、という音が静かだっただけに若干響いてドアが開くとそこには恵子が立っていた。
最後の確認にきたのだろう。恵子の顔がみるみる青ざめていった。そして怒りの言葉が発せらられそうなそのとき、斑目は静かに言った
斑「春日部さん・・・おめでとう」
恵子は驚いた。口からでそうになっていたセリフは体の奥へ消えていった。
167 :
144:2007/03/25(日) 23:34:14 ID:???
咲「え・・あぁうん、ありがと。なんか改まって言われると恥ずかしいね」
斑「いやいやなんつーかね、うん・・まぁおめでとうって事だ。こんな席に仕事くらいでこねーのはやっぱりとおもって来ちゃったよ。」
咲「うん・・・・ほんとにありがと。式もう始まるから恵子と中入っといてね。んじゃ、あとでね!」
ガチャリ
唖然としている恵子を斑目がドアを開け中に入れる
斑「早く行かないと・・・もう今にも式が始まるんだから」
そのまま恵子を引き連れて斑目は席に座った。そして一息ついて斑目は思った
『これで・・本当に終わりだ。 今度は嘘じゃない 』
168 :
144:2007/03/25(日) 23:36:23 ID:???
大「いやー咲さんきれいでしたねー本当に感動しました!」
久「こ、これで現視研内で3組目だね」
式は無事終わり、各々が話している。大野は感動で少し泣いているようだ。恵子以外のみんなが満面の笑みを浮かべている。特に斑目が。
恵「斑目・・ちょっと・・」
斑「ん?なんだい?」
恵子は斑目を連れ出し、そして問いただした
恵「おまえ・・告白するんじゃなかったのか?」
『やっぱりそうか・・そりゃそうだよな・・』
斑目は今日は恵子と話さなければならないだろうと覚悟していたのでこうなることは予測済みだった
斑「したよ・・あれが告白だ。あれが今の俺の気持ち、正直な気持ちだ」
恵「・・・・なんでだよ」
斑「え!?」
恵「なんでそんな風に簡単に割り切れるんだよ!!」
『え?・・・まさか実は恵子ちゃん・・・まだ俺と同じなのか?』
恵「あたしは・・・あんたに電話もしたし説教もしたのに・・・今日のあんたの告白を全力を出してとめられなかったよ!」
『やっぱりそうか・・・・・・ってそりゃそうか俺より4つも年下なんだからな。』
恵「あんたに電話したのだって大野が言ってきたからだし今日だってもっといろんな方法が・・」
斑「恵子ちゃん・・」
恵「みんなすげーんだよ・・あんたも・・ねーさんも・・」
斑「いや違う」
恵「違わねーよ」
斑「いや違うんだよ。恵子ちゃんも言ったじゃん状況が同じだって。おれだってまだ電話のあった時と大して変わっちゃいないよ」
恵「・・・・変わって無くてあんな・・あんなことできるのかよ」
斑「できるさ、『気がつけば』ね」
169 :
144:2007/03/25(日) 23:37:32 ID:???
恵子は訳が分からない、とでも言いたげな顔をしていた
斑「笹原は言ったじゃないか『現視研が好きだろ』って。現視研の仲間のほうが今の俺にとっては何百倍も大事なだけだよ」
恵「そうやって割り切れるところがすげーって言ってんだよ!ちくしょう・・なんでだよ・・前までは今までの関係でよかったのに・・・それ以上を全く望んでもいないのに・・なんなんだよ・・・どうすればいいんだよ」
斑目の心は穏やかだった。目の前で異常なまでに悩んでる女子がいる状況とは思えない落ち着きようだ。不思議と斑目は自分がどんな事を言えばいいのか理解していた。
斑「んー、これはセリフの受け売りなんだけどね。『忘れたい物ほど心には重く重く残ります。でもそれを忘れようとはねつけてはいけない。どうするかというと、想い出にするのです
想い出にすればそれは現実ではなくなる。そして想い出がよみがえった時に人はそれを糧に先に進むことができる』ってゆーね。要は多少期待したりするのは仕方が無い
大事なのは変わっていくことを現実にひきずるか想い出にするかどうかってことさ。そしてそれにさえ気がついてれば次に進める。それに・・これはオリジナルだけど・・・・皆が望んでいるものは変わらないんだよ。」
斑目は長いセリフを言い終えてふと、思った
『漫画って人生の役に立つな・・・まぁいいか、事実だし』
170 :
144:2007/03/25(日) 23:38:20 ID:???
恵子はしばらく黙ってうつむいたままだった。やがて顔をそらしつぶやいた
恵「ふん・・そんな事まで漫画頼みかよ・・・ほ、ホントにオタクだな・・・あ、あんたは・・。」
斑「まぁ・・それでいいんじゃない?なんたって俺の前世は蛇だからな!!」
恵「はぁ!?なんだよそれ?オ、オタとか以前にい、意味わかんねーし」
斑「ははっ・・・・。じゃ、行こうか?みんな待ってるし」
恵「先行ってていいよ・・・トイレ行ってくるから・・・」
『泣き顔は見せられない・・ってとこかな・・・・まぁいっか』
斑「ん・・・・じゃあ先に行ってるよ。」
斑目は向きを変え二次会の会場へ歩いていった。
『あー・・・・・夏コミ楽しみだなー・・・ひぐらしはもうないのが残念だけど。』
笹「あっ斑目さんどこ行ってたんすか。今今度の夏コミどうしようか話してたとこですよ」
咲「おいおいあんたらあたしの結婚式でまでオタトークかよ。ったく、よく飽きねーな。」
斑目はコーサカと供に居る咲を見た。
『まぁ・・・・いい恋だったんじゃないかナ?』
斑「初日はともかく2日目は始発で行かなきゃな。スーや新入会員は?」
荻「あ、現役の人たちは漫画喫茶で待機するらしいですからたぶん別行動になっちゃいますよ」
咲の言葉があってもオタク最大の祭りコミフェスについての話題をやめない現視研メンバー。そしてそれに辟易とした風ながらも話の輪にいる咲。
恵「どーも、現役はまだまだ元気なんでね!」
そこに「トイレ」から戻った恵子が加わる。そしてまた話は続く。
変わっていったことを想い出にして
本当に大切なものは変わらずに――――
171 :
マロン名無しさん:2007/03/25(日) 23:43:50 ID:bPdZbDOn
以上13レスが後編です。
機会があればもう一度書きたいですが、、、なんせ12月にこの作品に出会ってからずっと
くすぶってたものを作品にするのに大長編でもないのに3ヶ月もかかっているので
筆力的にほとんどかけないと思いますが今後もよろしくお願いします
神降臨ktkr
SSでここまでの気分になったのは卒業式シリーズ以来だ。スゲー名作です。是非次も!
P.S.なんかケータイでしか見れなかったんで微妙な文章構成を見れないのが残念でした
良かったよ
グッジョブ
>↑の作品
いい話だった。絶妙なヒッカケをいくつも散りばめて最後まで読み手を引っ張った手腕に敬意を表する。
たぶんほとんどのげんしけん読者は恵子の恋は受験あたりで決着ついたと考えてるんではないか(少なくとも俺はそうだった)。ふんふんなるほどねーととても面白く読めた。後半のツヨガリ恵子なんか萌えた萌えたw
ひぐらし知らんが、エンディングのフレーズもそうかい?こゆの好きだ。
テンポよく読めるシナリオ方式も本作には適していると思うし、バキっつったらアレでしょ?背中に鬼の貌つくったりする?らしい作風で楽しかったよ。
さてところで俺のお願いも聞いてくれるか?
あとで「あー、あの○○よかったよね」って余韻を楽しむために、是非このSSにタイトルをつけてくれないか。
また書けたら読ませておくれ。ありがとさん。
>144
凄く良かった。
特に、恵子の描写。
「まだ高坂のことで傷つく」という部分が、恵子のキャラクターに深みを与えていると思った。
必死な台詞とかも、すごく可愛いと思った。
…斑目に関してはもう、ひたすらせつなくてもう…。
こんな風に、きっちり諦めるまでの描写を原作でやって欲しかった
…と、今でも未練タラタラの俺ガイル。
とにかく、すごく良かったです。
>想い出にすればそれは現実ではなくなる。
>そして想い出がよみがえった時に人はそれを糧に先に進むことができる。
まだ『げんしけん』を思い出にできない俺はどうしたらいいですか(泣笑)
時間が解決してくれるさ…それも切ないけどナ
178 :
マロン名無しさん :2007/03/29(木) 00:46:51 ID:lvEkXbUF
辛い…それも辛いけど記憶に残り続ける限り応援し続けたい
でもね、まずは時間がないと解決しないんだよ? そりゃあ時間が解決しない事もある。必然の可能性って言うのかな。
けれども斑目はもう1つの可能性をもう持っているじゃない。
なにも難しく考える事じゃない。ただ、もう少しだけその「もう1つの可能性」に甘えていいの。
だから斑目、あなたはいつかこの経験を懐かしいなぁと笑える日がくるわ。
何故かって? まだ分からないの?
昔の恋を懐かしむ事が出来るのは今が幸せだから──よ。
ね、斑目。あんたは幸せになんのよ!
ここはなんとも暖かいスレじゃのう…。
外人娘混浴露天風呂対決。ポロリもあるよ。
3月下旬はイロイロあって、前回から2週間も開いてしまいました。スミマセン。
その間、斑目の切ないSSが登場して、凄い感動しながら読んでました(←早く自分の書き上げろよと。)
ようやく一区切りついたのでうpします。
ちなみに、今回登場する温泉旅館のモデルは2つあります。
一つは伊豆湯ケ島の「落合楼」。趣のある和風建築が好きです。
もう一つは、天城温泉の「天城荘」で、滝の川岸の露天風呂は凄いです。
片方は慰安旅行で、片方はドライブデートで行きました。おすすめです。
ちなみに、SS読む前に、天城荘の露天風呂の写真をご覧になると、イメージしやすいと思います。
ttp://www.amagisou.jp/contents/intro.htm
すみません。
ちょっと用事発生。
11時ごろに投下させていただきます。
【2011年4月16日/旅館「天城楼」前】
「みなさんヒドイでありますよ。ワタクシが旅館に先行して手続きをしてあげていたというのに!」
皆が昼食を取っていた間、一人存在を忘れられていた朽木が嘆く。
「……ゴメン。素で忘れてた……」
田中が頭をかいた。
一行は温泉旅館「天城楼」へ。
露天風呂が自慢の宿だとアンジェラは言う。
広いロビーに入ると、天城山の天然木を用いた額や、ソファーが並んでいる。
「おー!いかにもなロビー。温泉宿って感じがするねえ」
真琴と一緒に玄関を入ってきた咲が驚きの声をあげる。その後ろに立つ斑目が、ちょっと背を伸ばして中をうかがうと、女将とおぼしき和装の女性が仲居さんを連れ立って出迎えているのが見えた。
古くからの温泉宿は、廊下が複雑に入り組んで一種の迷路のようになっているところが多い。
きびきびした動きの仲居さんに部屋まで案内されつつ、斑目は、「ここを右に曲がって、つぎに2つ目の角を……」と必死に来た道を反復している。
高坂真琴は、ニコニコしながらその後ろをついてくる。彼はきっと斑目よりも正確に来た道をトレースできるだろう。
さらにその後ろを、眠たげな目を擦りながら歩く笹原と、意味もなく壁や階段を撮影しながら歩く朽木が続く。彼らはきっと部屋を出るたびに迷うことだろう。
田中は荷物をフロントに預けて別行動を取り、カメラを片手に一人で宿の中や外の景観を撮影に出ていた。
妻加奈子のコスプレ撮影用のロケハンだ。
斑目たちが部屋にたどりつこうかという時、女性陣の泊まる部屋から咲と加奈子が出てきた。
「あ、遅いぞ男チーム」
機嫌良く声を掛ける咲。これから加奈子と2人で露天風呂を見に行くという。
キャッキャと盛り上がりながら小走りで去っていく。
「元気いいなあオイ……」
ネコヤシャオスワリで200段を往復したダメージを残している斑目は、彼女たちを力無く見送った。
続いて女性陣の部屋から、ちょっと遅れてスージーが出てきた。斑目とはち合わせになり、何かを訴えるような目で斑目を見上げていたが、ぷいと視線をそらして咲と加奈子の方へと駆けだしていった。
【2011年4月16日/旅館内男性部屋】
彼らは、旅館の奥まったところに位置する広めの部屋をふたつ借り、男性部屋と女性部屋に分けて泊まることにしていた。
部屋にはそれぞれ格子戸の入口があって和の趣を醸し出している。
木の香りが心地よい。
カラカラと開けて部屋に入ると、広い和室の奥、窓を通してまぶしい新緑が目に飛び込んできた。
「いい部屋を取ってもらいましたね」
高坂はさっそく、旅館の縁側には必ずあるソファに腰掛けて窓の外を見た。
中央のテーブルでは、朽木と笹原がどっかり腰をおろしてお茶を煎れはじめた。
「うわぁ、この部屋は結構高い場所にあるんですね」と、高坂が目を輝かせる。
「どれどれ?」
斑目がソファの傍らに行き、窓の外を見た。
遠方にドウドウと音を立てて落ちる大きな滝が目に入ったが、窓からの視線は滝の頂点と同じあたりにあった。
視線を落とすと、旅館から滝壺の方へ降りていく階段が見え、滝のそばの川岸には広めの露天風呂が見えた。湯船は一つではなく、大小の露天や屋根付きの風呂が見える。滝を眺めながらの風呂はさぞ爽快であろう。
斑目が窓から細い体を乗り出してさらに見渡すと、離れた場所には五右衛門窯の風呂や温水らしきプールもあった。まさに露天のテーマパークである。
ちょうど川岸では、咲、加奈子、スージーの三人が露天風呂を眺めているのが見えた。
咲と加奈子は無邪気にはしゃいでいる。
「すげーなあの露天風呂空間。なんか……いろいろあるぞ……」
「はい、20種類以上の混浴露天風呂が自慢だそうですよ」と、斑目の隣で景色を楽しんでいた高坂がサラリと答えた。
「……ふーん…………」
約30秒の間をおいて……
「こ…こ、混浴ゥ〜ッ!?」
廊下にまで響きわたる斑目の声。
「あれ、聞いてませんでした? 混浴と言っても水着着用ですけどね」
高坂はにこやかに笑うと、部屋の真ん中で朽木と並んでお茶をすすっている笹原のもとに歩み寄った。
「笹原君、朽木君、部屋にくる途中にゲームコーナー見つけたんだけど、後で行かないかい?」
「え、そんなのあった? 高坂君、よく見てるなあ」
「『CHANP OF FIGHTERS 95』とかレトロな格ゲーもあったよ」
「うひょー、そんなものまで現役でありましたか!」
暢気な会話を交わす後輩達を尻目に、斑目の頭の中は『混 浴 露 天 風 呂』の六文字がクルクルと舞い躍っていた。
ちょうど眼下には、階段を登って旅館に戻ろうとする咲たちの姿が見えた。スージーを先頭に、咲、加奈子が続く。ふと、上を見上げた咲と目が合ったが、斑目は素知らぬふりで首を窓から引っ込めてしまった。
(ここここ混浴か……)
斑目の脳内では、滝を眺めながら、両脇をスージーと咲に挟まれて湯船に浸かっている実に都合のいい映像が浮かんでくる。
「………目さん、斑目さん?」
「…あっ、ハイハイハイハイ?」
高坂に呼ばれて慌てて返事をする。彼の妻が妄想の中に出てきたことを恥じて、すでに顔が赤くなっている。
「斑目さんも後でゲームしに行きませんか?」
「あ、ああ行こうかなぁ〜」
眉を下げ、愛想良く笑いながら、斑目は湯呑み茶碗を受け取った。
【2011年4月16日/旅館内廊下】
高坂を先頭に、斑目、笹原、朽木が連れ立って部屋を出た。
ゲームコーナーへと向かう途中で、廊下の向こうから浴衣姿のアンジェラがやってきた。
彼女はほかの女性陣とは別行動を取り、さっそく旅館内の内風呂に入ってきたらしい。ほてった頬に手ぬぐいを当てながらご機嫌で歩いてきた。浴衣一枚では隠しきれない豊かなボディラインに、表情の変わらぬ高坂を除いて、男性陣の頬が赤くなる。
「いいねえ。いかにも温泉って感じだね」
「そうですのう」
笹原と朽木は、アンにあいさつしながら田中ばりに目を細めて笑う。
思わぬ眼福。笹原は、妻が留守番で良かったと思うのであった。
【2011年4月16日/ゲームコーナー】
ゲームコーナーは、和風旅館の一角を改装し、和の空間に似合わないアーケードゲームやプリクラ、コインゲームが並んでいた。
皆、思い思いにゲームを楽しむ。
笹原と朽木は格闘ゲームの対戦で、ほとんど2人がかりで高坂に挑むがまったく敵わない。それでも、中学高校とハマってきた思い出も手伝って、中毒のようにコンティニューを繰り返した。
アドレナリン出しまくりで、交互に『魔王』高坂に挑む奮闘ぶりをアンジェラが見守っている。彼女は、笹原のたどたどしい説明から、「ゲームコーナー」という単語を読みとり、ニコニコしながらついてきたのだ。
一方、斑目は一人離れて、懐かしのバイクゲームをプレイし、バイク型の筐体にまたがり、右に左に体を傾けていた。
(混浴かあ。緊張するよな……)
プレイしながら、彼の頭の中はまたも露天風呂対策に支配されていた。
湯上がりのアンジェラを見た後だけに、「結構いいかも……いやいや、皆のいない時間帯を見計らって露天へ行こうか」とブツブツ考えていたのだ。
物思いにふけりながら機械的に体を左コーナーに傾けた時、『ガククンッ!』とバイクの本体が大きく揺れた。
「うぉ?」
「Hi MADARAME, ツーリングシマショウ!」
いきなりアンジェラがバイクのシートの後ろにまたがり、斑目の背中に抱きついたのだ。
「ちょちょちょちょちょっとアンジェラサン!? ゲーム機は2人乗りじゃないんだから……」
振り返ってたしなめようとした斑目だったが、背中にふっくらとして弾力のある感触がグイグイと押しつけられ、彼女の浴衣の裾がはだけて白い足が視界に入ってきた。
しかも湯上がりの温かくしっとりとした空気が斑目に絡みつき煩悩を刺激する。
ギシギシと音を立てるバイク。頭の中がボーッ…としてきた斑目は、再び『ガクン!』というバイクの傾きに揺さぶられて慌てふためいた。アンジェラが重心を傾けて、勝手に右に左にとコントロールしはじめたのだ。
「MADARAME, ブレーキ!」
「あ、ハイ!」
二人三脚のコントロールで、斑目とアンジェラはゲームのコースをクリアした。
「year!!」
バイクを降りて、ハイタッチするアンジェラ……相棒の斑目は抜け殻のように力無くタッチに応える。
(ゲーム機、壊れなくて良かった…)と、安堵したのもつかの間、背後から、「盛り上がってるね〜」という声が聞こえてきた。
ゲームコーナーには、いつの間にか全員が揃っていた。
田中夫妻はプリクラで記念の一枚を撮って楽しみ、咲とスージーは高坂の全勝を見届けてから、斑目たちのバイクゲームを見学していたのだ。
『凄いでしょ!二人でクリアしたんだから!』
『これ二人乗りのゲームなの?』
英語で語りだすアンと咲。一方で慌てる斑目。コレは咲とスーの二人には見られたくない光景だったのだ。
「………」
スージーは刺すような視線を放っている。しかしそれは斑目にではなく、アンジェラに向けられていた。
『どうしたのスー、怖い顔をして?』
アンジェラは何食わぬ顔をして語り掛ける。
スージーはゲームコーナーの奥を無言で指差した。アンジェラ、斑目、咲がその指の先へと視線を向けると、そこには旅館レクリエーションの代名詞である『卓球台』が鎮座していた。
『あれをプレイするのね。いいわよ』
「コノストレイツォ、ヨウシャセン!」
【2011年4月16日/ゲームコーナー卓球台】
ビシッッッ!
アンジェラが最初のサーブを決めた。
鋭い音とともに、ピンポン球がコートに直撃して跳ね、対面に立っていたスージーは一歩も動くことができなかった。
全員が卓球台を囲み、固唾をのんで見守っている。
最初はのんきな表情で外人娘対決を見学していたが、アンジェラのサーブの速さと厳しさに、たった一球でその場の空気が緊張した。
「スージー、相手はスポーツなんでもこいのアンジェラなのよ、無茶しないで」
加奈子が心配そうにス−ジーに声を掛けた。
スージーは視線をアンジェラに向けたまま、「ヒロミ、ヨクココマデジョータツシタワネ。ワタクシモウレシイワ」とつぶやいた。
スージーのネタに思わず田中や笹原が反応する。
「あ、エースをね○え?」
「おチョウ夫人って、学生のくせになんで『夫人』なんスかね?」
しかし、アンジェラがピンポン球をセットすると、再び緊張感が走る。
テニス仕込みの大きなモーションからサーブを放つ。
ビシッ!
カッ!
またもスージーは微動だにせず、弾道を見送った。
「スージー?」
審判役として卓球台の脇に立っている斑目も、首をかしげて声を掛けた。
スーは、フゥとため息をついて口元をニヤリとつり上げた。
「ミキッタ。セイントニオナジワザハ、2ドトツウヨウシナイ」
再び田中と笹原が反応する。
「あ、今度は聖○闘星矢だ」
「2度同じ技は通用しないと言いつつ、さっきのサーブ2度目だったよな?」
スージーは、初めて腰を低く構えて打ち返す姿勢をとった。
「ウケテミルカイ、ボクノトリプルカウンター」
「あ、今度はテニプ○だな」
「面白いですね」
「うん面白い見せ物だ」
周りがオタネタに反応するなか、アンジェラは3度目のサーブを繰り出した。
ビシッ!
跳ね返る球を見据えて、今度こそスージーがラケットを繰り出した。
「ギャラクティカマグナム!」
ガスッッ!
鋭い音がしたが、誰もがピンポン球の行方を見失っていた。
ただ高坂だけが、その弾道を追う事ができたらしく、一言、「……斑目さん……」とだけつぶやいた。
その言葉を聞いた咲や笹原が、斑目の方を見ると、彼はすでに白目をむき、口から泡を吹いて、立ったまま気を失っていた。
そのコメカミには、ミシッ…という音を立ててピンポン球が食い込んでいた……。
「うわっ、斑目! ちょっとアンタしっかりしなさい!」
咲に介抱される斑目。あぜんとする笹原や朽木。惨劇を激写する田中。スージーはそれを見届けると、ラケットを置き、ゲームコーナーを後にした。
「ひょっとして、コレを狙ってたのかしら…?」と、加奈子は背筋の凍る思いがしていた。
アンジェラは、去って行くスージーの背中を憂い顔で見送った。
【2011年4月16日/露天風呂「滝の湯」】
滝の音がドウドウと響いてくる。
川岸に立てば冷たいしぶきが飛んできそうだ。
「いいねここ」
「うん」
笹原と高坂が海パン姿で肩にタオルをかけてやってきた。斑目が後に続いている。
斑目は、トランクスタイプの水着をつけて、ついさっきピンポン球が食い込んだコメカミをさすりながら歩いている。
(まいった……田中の言う通りだな)
斑目は、自分の態度の曖昧さを後悔した。
スージーは怒っていた。
あの後、笹原たちと一緒に露天風呂に行く際に、愛想良く謝って一緒に行こうと誘うつもりだった。しかしスージーは女性部屋から出てこなかった。
「後で行く……ですって」
部屋の入口の格子越しに、加奈子が首を振る。スーは先週笹原家を訪ねたときに借りた大量の同人誌を、部屋で読みまくっているのだ。
(今度はキッッッパリ!…態度に出さないとなあ〜……)
『キッパリ』までは勢いがあるが、語尾になるほど力が入らない。
意思が弱いという問題だけではない。いざアンジェラのにこやかな微笑みと豊満な肉体を前にしたら、どんな男であっても躊躇してしまうに違いないのだ。
高坂と笹原は、斑目の悩みなど露知らず、さっそくかけ湯をして、露天風呂に体を沈めた。
外はまだ明るい。昼も夜もない忙しい仕事をこなす彼らにとって、こんな日中から温泉を楽しむというのは贅沢なことでもあった。
定番のセリフが口をついて出てくる。
「フー、極楽!」
斑目は、彼らが入っている風呂の隣にある湯船を選んだ。
畳んだタオルを岩の上に置き、さらにメガネを外してタオルの上へ。熱い温泉に細い体を肩まで沈めると、勢い良く落ちる滝を見ながら大きくため息をついた。
「斑目さーん、コメカミ大丈夫ですか?」と、笹原に声をかけられ、「ああ、まあな」と苦笑いを返した。
【2011年4月16日/旅館内女性部屋】
スージーは、部屋の縁側のソファーに座って、同人誌を読んでいる。眼前のテーブルには、同人誌が2〜30冊は重ねてあった。
時折、大滝のあたりからかすかに声が聞こえてくると、緑が映える窓の外をちらりと見る。
スージーは、『怒りの根源』である斑目の姿を探すが、遠くて見つけることができない。
そのとき、カラカラ…と格子の開く音がした。
(ハンセイシテ、ムカエニキタカ?)と、入口へ目をやるスージー。だが、そこに現れたのはアンジェラだった。
スージーは、ぷいと視線をそらした。
それを見たアンジェラは『フフフ』と笑って目を細め、矢継ぎ早に彼女に話し掛ける。
『スージーまだいたの?』
『今晩のディナーの段取りをしてきたわ』
『私たちも露天風呂に行きましょう!』
しかし、スージーは同人誌を読むばかりで応えない。
フゥと、ため息をついたアンジェラは、自分のボストンバッグからタオルと水着の袋を取り出す。
『じゃあ先に行ってるわ。サキとマコトに当てられてマダラメも寂しいだろうし、相手してあげなきゃね……』
視線は同人誌に向いたまま、ピクッ、と微動するスージーの眉。
『……スー、「素直になりなさい」……じゃ、お先に!』
アンジェラは再びカラカラと格子戸を空けて部屋を出た。
部屋の中は、窓の向こうから聞こえる滝の音やせせらぎの音、風が揺らす葉の音が支配している。
窓からの陽の明かりで同人誌を読んでいたスージーだったが、気が付くと陽はだいぶ傾いて、白いページを薄いオレンジに染めつつあった。
「…………」
パタン!
スージーはテーブルの上に読みかけの同人誌を置いた。
自分のバッグを引き寄せ、中からタオルを取り出す。
「…………」
一瞬、風呂支度をするスージーの動きが止まった。
水着を忘れてきたのだ。
来日後、温泉に行く話を聞いて、この日のために買っておいたのに……。
テーブル上の同人誌に目を移した。
(シンカンバッグニイレルトキ、ミズギヲソトニダシタッケ……)
珍しく頭を抱えるスージー。
だが、咲がこの旅館の案内を見ながら、『水着の貸し出しもしてくれるんだって』と加奈子と話していたのを思い出した。
彼女は据え置き電話の前に座り、深いため息をついてから、フロントを呼び出した。
【2011年4月16日/露天風呂「滝の湯」】
「おーい」
斑目たちの入っている川岸の露天風呂に、田中と朽木がやってきた。
「うひょー絶景ですなぁ。ワタクシちょっくら、プール風呂の方に行ってくるでアリマス!」
朽木は離れた場所にあるプールへと向かった。
一方、田中は水着にパーカーを羽織り、一眼レフのデジタルカメラを片手にやってきた。笹原と高坂に声を掛け、大滝をバックに記念写真を撮った。
「田中さんは風呂に入らないんですか?」
「ああ、まずは記録をね。おい斑目ー、お前も写真撮るぞ」
田中は斑目に声を掛け、笹原たちと同じ湯船に入るよう促した。
「別に俺はいいよ」
「そう言うな、記録だ」
「ヘイヘイ、相変わらず几帳面だな田中は……」
面倒くさそうに隣の大きな湯船に入る斑目。大滝を背にして高坂、笹原と3人で並ぶ。
2、3枚撮影した後に、田中がフレームから顔を上げて注文をつけだした。
「……動きがほしいなあ」
「動き?」
「ちょっと立って、お湯をかけ合ってよ」
「俺らグラビアアイドルかよ?」
何だかんだと文句を言いながら、適当に露天風呂の湯をかけ合ううちに盛り上がりだす斑目、高坂、笹原。
「アハハハハ」
「童心に帰るってやつですかね」
「それっ」と、不意に高坂が斑目を背後から羽交い締めにし、笹原が湯をかけたり、斑目の肩にかかったタオルで首を締めるポーズを取った。
「おー、いいよソレ」と田中がシャッターを押した。
撮影を終えて、ハァハァ肩で息をする笹原や斑目。
田中はデジカメのモニタを確認する。
「さて、目的の写真は撮ったし…」
「目的?」
「あ、いや記念写真の。…じゃあ俺、林の向こうの五右衛門風呂で嫁さんと子どもが待ってるから、そっちに行ってくるよ」
田中は離れにある五右衛門風呂へと向かった。
【2011年4月16日/露天風呂「釜の湯」】
田中加奈子は、コスプレ以外では自分の肌を露出することを嫌う。彼女は仲間たちが川岸の露天風呂にいる間は、離れの露天や釜風呂を楽しもうと思っていた。
子どもは旅館から借りたベビーカーの上で、スヤスヤと眠っている。
その姿を見守りながら湯船に浸かっていると、夫の総市郎がデジカメを抱えて戻ってきた。
総市郎は、カメラをバッグにしまい込み脱衣スペースに置き、その上から脱いだパーカーをそっと置いた。
子どもの寝顔を見て細い目をさらに細めると、軽く体を洗ってから湯船に浸かった。
そして一言、「撮れたよ『注文のショット』……」と加奈子に告げた。
「ありがとうございます。『千佳さん』へのお土産ができました………ウフフフッフフフフ……♪」
不気味に微笑む妻を見ながら総市郎は、(笹原、斑目……すまん……)と心で詫びるのだった。
【2011年4月16日/露天風呂「滝の湯」】
「作画が間に合わなくて文字でごまかした番組ってあったよな」
「何でもDVDで挽回しようとするのは良くないですよね」
「でもあれ、オンエアが遅い地域では修正されていたそうですよ」
斑目、笹原、高坂の3人が、露天風呂に浸かりながらオタトークで盛り上がっていると、今度は咲が旅館からの階段を降りてきた。
オレンジのビキニ姿で、肩からバスタオルを掛けて、「コーサカー!」と手を振りながら近づいてきた。
「咲ちゃんも今は『高坂』でしょ」と真琴に突っ込まれ、「アハハついついね……」と照れ笑いする咲。完全にノロケモードだ。
「それにしても凄い滝だねー」
斑目たちの入っている湯船の側まで来た彼女は、立ったまま大滝を眺めている。
メガネを外して湯船に浸かっていた斑目は、目を細めてその姿を見上げた。ぼんやりとだが、学生時代に海へ行った時と変わらない美しいプロポーションが確認できた。
ふと咲が湯船を見下ろし、「ヤダ斑目なに見てんのよイヤラシイ」と笑いながら突っ込んだ。
「え、いやっ、違うっつーの! メガネ外してっから誰が来たかわかんねーんだよ!」
声で分かるのは明白なのに、大慌てで弁解する斑目。咲はその言葉を聞き流しつつ、夫である真琴に笑顔を向けた。
「ねえねえ、『子 宝 の 湯』っていうのがあるんだけどぉ、外 か ら 見 え な い 洞窟風呂ですごいイイ雰囲気なの。後で行かない?」
ブッと吹く斑目と笹原。真琴は「いいよ咲ちゃん」とサラリと答えて立ち上がり、「じゃまずは向こうの露天から入ろうよ」と、二人で露天風呂巡りを始めた。
「…………」
「…………」
残された斑目と笹原は、赤面したまま湯船に浸かっている。
静かになった川岸は、ドウドウという滝の音や、川のながれる音が響いている。視線の先にある別の露天風呂に、高坂夫妻が必要以上に身を寄せ合って浸かっている。
「……あ〜、朽木くんはどこまで行ったのかなぁ……」
笹原は、居づらさを感じて、朽木が向かったプール風呂の方へと歩いて行った。
「あ……俺も……」
斑目が笹原を追いかけようと立ち上がった時、ザバッという音がして、彼の細い体に何かが絡みついた。
「うおっ!」
ドブンと湯船の中に沈む斑目の体、いささか温水を飲み、慌てて上半身を起こす。
そこには、自分の体に絡むように抱きついている『誰か』がいた。
今日、バイクゲームで感じたのと同じ感触、同じ香り。
目を凝らすと、咲に負けず劣らずのビキニ姿でこちらを見つめる金髪美人の姿が確認できた。
「あ、アンジェラ!?」
『サキたちもあんなにくっついているんだし、スーは素っ気ないし、私たちも楽しみましょうよ』
甘く囁きかけるアンジェラ。斑目の耳には、サキとかスーとかエンジョイくらいしか聞き取れないが、何かを奪われそうな期待感……否、危機感はあった。
(キッパリと、キッパリと意思を……)
斑目はアンジェラの両肩をつかんで、密着しようとした体と体を離した。
「あ、アンジェラ!……さん、おおお俺は今、す スージーと……」
キッパリ意思を示そうとした斑目だったが、意外にも恥ずかしげな目をして頬を赤らめているアンジェラの表情に気付いて、ふと目線を下げた。
自分が彼女の両肩を強くつかんでいるために、豊かな胸が彼女自身の腕に押されて、いつも以上に刺激的に前へ前へと突き出されていた。熟れた果実がビキニの布地を破らんばかりに……。
「ブッ!」
思わず自分の鼻を両手でかばう斑目。刺激が強くてハナヂが出そうだ。
両腕の拘束が外されたアンジェラは、這うようにして斑目の細身のからだにすり寄る。彼の薄い胸板に、彼女の柔肌が徐々に密着していく。
温泉の湯に揺られながら、二人の体が重なった。
(ルナ先生だ……『いけないルナ先生』が今、実写で俺の目の前にいる!)
すでに斑目の脳は錯乱していた。
アンジェラは、露天の傍らの岩場に置いてあった斑目のメガネを手にして、斑目の顔にメガネをかけてあげると、再び体を密着させた。
『やっぱり、メガネがあった方が素敵よ………本当はね、マダラメ……ワタシ……』
アンジェラが英語で何かを語り掛けてきたが、もはや彼の耳には届かない。
彼女のしなやかな腕が斑目の背中にまわされると、もう斑目は逃げられない。細かに震える彼の唇に、ぷっくりとして艶かしいアンジェラの唇が重なろうとしたとき……、
ザバァーッ!
2人の頭上に冷水がかけられた。
『Oh!!』
「ひゃああぁあッ!」
斑目とアンジェラが、川岸の方に顔を上げると、大滝をバックに桶を手にしたスージーが仁王立ちしていたのだ………
………スクール水着で。
「ブォォッ!」
再び自分の鼻を両手でかばう斑目。予想外の刺激にハナヂが放出寸前だ。
スージーが着ている水着は、旅館から借りたものだった。
小柄な彼女のサイズでは、旅館が子供用に用意していたスクール水着しか合わず、結果、紺色のスク水着用となったのだ。
『やっと来たわねスージー』と、アンジェラが微笑みかける。
スーは湯船に浮かぶ2人を見下ろして叫んだ。
「オマエラノ……オマエラノチハナニイRoqあwせdrftgyふじこlp!!!!!」
ケンシロウのネタを口にしたつもりが、語尾が混乱している。
素で怒っているのだ。斑目は恐怖した。
しかも、さらに事態は悪化していく。
「ちょっと、そっちで何やってるのよ?」
斑目がギョッとして離れた場所の湯船を見ると、向こうから騒ぎを聞きつけた咲が、高坂と一緒にこっちを見ていた。
「あ、いや〜何でもないよ!」
アンジェラと密着しながら『何でもない』と笑っている。
「ハイ?」咲は眉をひそめた。
斑目が顔面蒼白でその場をごまかそうとした時、ザブザブッ!とスク水姿のスージーが露天風呂の中に踏み込んだ。
彼女は、斑目の背中から手をまわして、強引にアンジェラから引き離す。
斑目の体を背中からぐいっと引き寄せて、彼の顔を自分の方に向けると、いきなり唇を重ねた。
2人の体勢は、キス……というよりも、『吸血鬼が犠牲者に覆いかぶさって血を吸っている』ようにも見えた。
『!』
驚くアンジェラ。強引なキスは続く。まもなく1分が経過しそうなとき、スージーと斑目の唇が離れた。
「プハアァアッ!……し、しっ、したっ! 舌舌舌舌舌がっ!」
意味不明の悲鳴をあげている斑目。
さすがのアンジェラも真っ赤になって、自分の頬に両手を当てて見守るしかなかった。
しかし、意を決して再び湯船の中に身を沈め、スージーと斑目の側に近づき、斑目の正面から彼の手を取って自分の方に引き寄せた。
水面下で、ムニュッとした感触が斑目の手を刺激する。
「むむむッ……ムネッ、ムッ、むむっ! 胸胸胸胸胸がァ!」
『スーでは、こうはいかないでしょ……』
メガネが湯けむりと興奮で曇る斑目の耳元で、アンジェラが甘く優しく囁いた。
カチンときたスージーは、斑目の体を再び自分の方に引き寄せようとする。
アンジェラがそれを阻止しようと彼の体に抱きつく。
その繰り返し。
斑目の頼りない細身の体は、暴風雨の中で揺れるカカシのように右に左に、前に後ろに抵抗することなく揺さぶられた。
やがて、斑目の体は脇に追いやられた。
慌てて身を起こして、湯船の中で座り込んだ彼は、2人の外人娘の方を見た。そこには、初めて目にする修羅場が展開されていた。
アンジェラとスージーは、もう斑目そっちのけで、湯や水をかけあったり、取っ組み合いになって互いのほっぺたをつねり合っている。
ビキニやスク水の肩ヒモがずりさがり、危うい状態になっているのも気にせずに暴れている。
「ちょっと、アンタ達もう止めな!」
さすがに咲が止めに入ろうとする。
湯船に入ってきてアンジェラとスージーの間に割って入った。
『サキは関係ないの!』
アンとスーは、強引に咲を湯船の中央へ突き飛ばした。
突き飛ばされた先には、斑目が呆然とした表情で座っていた。
斑目のビジョンには、この瞬間が、まるでスローモーションのようにゆっくりと映った。
外人娘2人に突き飛ばされた咲の体が、次第にこっちへ向かってくる。
2人ともみ合った拍子に、咲のビキニの肩ヒモがほどけて………。
「キャアァァッ!」
咲の悲鳴に、湯をかけ合って暴れていたアンジェラとスージーも動きを止めた。
2人の足下に何かが絡まってきた。
咲の水着のブラ部分だった。
その先には、湯船の中にペタリと座り込んで、両手で胸を隠している咲の姿があった。動揺して真っ赤、彼女らしくない恥ずかしげな表情を見せている。
『………』
「………」
スージーとアンジェラは、お互いに見つめ合い、自分たちの愚を悟って咲に詫びた。
『サキ、ごめんね!』
「ショウジキ、スマンカッタ」
アンが咲の水着を拾い上げて咲のそばに座り、ブラを手渡した。
「……もう、一体何があったのよ……恥ずかしい!」
咲がブラを装着し、胸に手を当ててドキドキした鼓動を抑える。
離れた湯船の向こうからは、「咲ちゃん、どうしたの、大丈夫?」と、高坂の声が聞こえてきた。
露天風呂の3人は、この瞬間、『あること』に気がついた。
「………あれ、斑目は……?」
そう思った矢先、彼女達は自分が入っている温泉の湯を見た。
次第に色を変えてくお湯。無色透明のアルカリ性単純泉が、みるみるうちに赤く染まっていくのだ。
「?」
スク水のおしりのあたりの乱れを指で整えるために一人立っていたスージーは、湯船の中を見下ろして、つぶやいた。
「……ハナヂ……」
咲やアンジェラが慌てて立ち上がる。
湯船の中には、斑目の体が沈んでいた。
水中で鼻の辺りから鮮血が流れ出し、湯船を真っ赤に染めていたのだった。
「うわわッ! 斑目しっかり! コーサカこっち来て!」
「……いや、咲ちゃんも高坂だって……」
「そんなコトいいからコッチニキナサイ!」
騒ぎを聞きつけて、プール湯で遊んでいた笹原や朽木、また、田中一家も川岸の方にやってきた。
「何だ何だ」
「あれ、斑目さん?」
川岸の露天風呂へ着いた彼らは、高坂にお腹を押されて、口からピューピューお湯を吹いている斑目の姿を目撃したのであった。
そして斑目は…………朦朧とする意識の中で、この日の『映像』を一生涯脳内に焼き付けておこうと誓ったのであった………。
<つづく>
お粗末さまでした。
ね、ポロリあったでしょ(咲だけど)。
スージーのスク水…………おれきっと今夜………(あ、やな空気)
ちなみに、モデルになった温泉旅館も、水着の貸し出しをやってました。ほんとにスク水タイプでした………男用だけど。着たの俺だけど。
次がラストになります。
長くてホントにすみません。
イイヨイイヨー!
グッジョブ。
>koyuki3〜フェチ、襲来(4)
と、とにかく笑った笑ったwww
ここまでいったら美味しいどころじゃねーーー!!!
今回のツボ:「暴風雨の中で揺れるカカシ」
>ね、ポロリあったでしょ(咲だけど)
漏れ的にはむしろ一番…
>ほんとにスク水タイプでした………男用だけど。着たの俺だけど。
斑目のスク水姿も見たかったです。(マテ
そしたらきっと、おれきっと今夜………(あ、やな空気)
ゲフンゲフン、失礼しますた。
続き楽しみにしてます!!
205 :
マロン名無しさん :2007/04/03(火) 00:08:45 ID:rWoPK4dK
いいねぇ〜
スーとアンジェラが斑目取り合ってるよぉ〜w
オロオロする斑目が良いですね〜
「ルナ先生」懐かしい〜
でも斑目の世代って知らないのでは?と歳がバレる事を言ってみる。
あ、これが初カキコだ
>koyuki3〜フェチ、襲来(4)
スージーのスク水でごはん3杯おかわりできた俺が通りますよ。
来ましたねー温泉キャットファイト。
ナニ考えてるか解らない=策略家キャラと思わせておいて実はストレートな肉食獣だったスーが本気で怒るともうイキナリ実力行使ですかっ!kissというよりbiteであろうその行為でおかわりがもう3杯です。
そしてアンの意味深なコメントの真意は?生涯の思い出映像に出会えたもののその生涯が終わってしまいそうな斑目の血液は生産が間に合うのか?見どころがいっぱいだw
最終回まで楽しみにしてるっすよ。
>思わぬ眼福。笹原は、妻が留守番で良かったと思うのであった。
たぶん今ごろ奥さんの筆センサーがピコーンと。
千佳「はっ!完士さん!?」
薮崎「んん?どうしたんやオギウエ?」
千佳「あ、いっいえなんでもありません、ちょっと虫の報せが」
薮崎「……なんでもないにしては顔が怖いで。一瞬引いたわ」
208 :
144:2007/04/04(水) 22:12:56 ID:???
どうも、海外旅行に行ってる間にこんなに良い感想がついてて驚いてます。
今また次の作品も書いてますがまだ4〜5行です(笑)
>>175 恵子の恋は自分もほとんど終わってるとは思っているんですが
7巻の合宿で恵子が寝てるコーサカをハートマークつきでギャグっぽく
見つめてるのもあったんでこうゆう風になりました。
タイトルは元々つけていたのがあったんですがつけてる方もすくなかったので
つけなかったのですができればつけたかったので『TRUTH』でお願いします
あ、ちなみに「バキスレからきた」のバキスレというのはSS総合スレのことです。
まさかげんしけん単体でSSスレがあるとは思っていませんでしたので
>>144 今度はぜひ斑恵「海外旅行編」でw げんしけんでSS書き始めた身としては
総合スレがあると逆に思ってませんでした。てっきり単体ごとにしかないのかと
思ってた。この話も(仮)でもタイトル考えといてくださいな。
>koyuki3〜フェチ、襲来(4)
代われ!! 俺と代わるんだ!!! 斑目ェェェェェェェ
巨乳とヒンヌー、おっぱ○ポロリなんて何の天国だwwwwwww
ってこれが感想か俺。スージーは寡黙なので表現するのが正直大変と
思ってましたが、これは実に感情豊かなスージーですね。
(勝手に)シリーズ化していたセカンドジェネレーション」-双子症候群-
の独自設定の完結編投下させていただきます。
スージー萌え主流の流れにもめげずアン×斑を完結させました。
かなり長くなったので他の方々の投稿に支障の無いよう小分けに投下
します。最初に独自設定から投下して後、数分後に本編投下します。
では・・・
これは絵板起源の「セカンドジェネレーション」-双子症候群-の独自設定
です。一応、「初期設定」とされるキャラクターの設定を拝借していますが、
独自に改編した部分もあります。
ここだけで完結されたバラレル設定ですので他のSS師さんたちや絵師さんた
ちの設定との差異はご了承ください。
また実在の団体、人物をモデルにした架空の設定がありますが、これも政治的思想的
個人的価値観とは一切関係ない物語の上だけのものです。
科学的表現もありますが完璧なる似非科学です。
□舞台設定
げんしけん最終回から二十年後の世界の東京郊外の新興都市
□登場人物設定
旧世代の登場人物は斑目晴信、アンジェラ・バートン、スザンナ・ホプキンス
のみの登場。その他メンバーは名指しも登場もしない方針。
□物語設定
物語はオムニバス形式で独立しており各自主人公が異なりますが、
前作の設定を一部引き継ぐ場合があります。一応、時間系列順に列挙して
おきます。
:げんしけんSSスレまとめサイト 「その他」カテゴリー収録
@「ぬぬ子の秘密」 主人公 服部双子(ぬぬ子) A.C.2026年
A「斑目晴信の憂鬱」 主人公 斑目晴信 A.C 2026年
B「アンの青春」 主人公 アンジェラ・バートン A.C 2010年
C「千佳子の覚醒」主人公 田中千佳子 A.C.2026年
D「春奈の蒼穹」 主人公 高坂春奈 A.C.2026年
E「スザンナの消失」 主人公 スザンナ・ホプキンス A.C.2027年4月前後
□登場人物(○旧世代 ◎新世代 ☆オリジナル △シリーズ登場人物)
○斑目晴信
新世代たちの中学校に用務員として赴任。過去にアンジェラと短期間交際し
ており、認知していない息子が一人いる。最近、その存在を知った。
○アンジェラ・バートン (アン、アンジェラ)
米国にて社会心理学研究をしている。斑目との間に一子あり。
○スザンナ・ホプキンス (スージー、スー)
新世代の中学校に英語教師として赴任。容姿は昔と変わらない。
◎千里(ちさ) 十四歳以下同
笹荻の娘。妹の万理と二卵性双生児。性格は積極的で物事に頓着しない。
漫画、アニメ好き。
美少女愛好趣味もある。どちらかというと消費系オタ。叔母や親友の春奈と
ファッションやゲームの話題で気が合う。
オンラインゲーム「GX−ガノタックス」ハンドル名「サウザンド」搭乗機「ブラック・ラグーン」
◎万理(まり) 前作でうっかり万里の変換せずにいましたので他の方々の
設定との区別の為に万理で通します。
同じく笹荻の娘。性格は消極的で思慮深い。納得のいかない細事に拘る面も
ある。腐女子趣味で創作もする。漫画、アニメ好き。創作系オタ。親友の
千佳子と気が合う。
オンラインゲーム「GX−ガノタックス」ハンドル名「ミリオン」搭乗機「スノーホワイト」
◎千佳子
田大の娘。温厚で大人しい性格。父親に似て凝り性で几帳面な面も。漫画、
アニメ好き。消費系オタ。腐女子趣味。コスプレは嫌い。
思春期の難しい年頃で母親のコスプレ趣味には嫌悪感。その後何かの
きっかけで目覚める可能性あり。
◎春奈
高咲の娘。ボクササイズをしている。オタク趣味は無いが、父親の影響で
オンラインゲームの格闘ゲームが好き。
ファッションにも興味があり、アバターの服などのデザインを趣味にして
いる。
父親の天才性?は引き継いでいないが、母親のリーダーシップの素質の萌芽
がありそう。
オンラインゲーム「GX−ガノタックス」ハンドル名「アップルシード」搭乗機「キングクリムゾン」
◎服部双子(ぬぬ子)
突然、転校してきた厚底メガネのおさげの少女。メガネを取ると絶世の
美少女という古典的設定。その他にも秘密が多そう。
☆アレクサンダー・バートン(アレック) 十五歳
このパラレル設定での完全なオリキャラ。斑目とアンジェラの息子。
無責任な父親を拒否。
その反動でオタク趣味も寄せ付けない。しかし思いっきり素養がある。
母親似のスポーツマンで格闘技を習得。
オンライン格闘ゲームには興味がある。
オンラインゲーム「GX−ガノタックス」ハンドル名「ホワイトスネイク」搭乗機「ブルーディスティニー」
△ミハイル・ゴットルフ 十四歳
「春奈の蒼穹」登場 日本の大阪出身の母親と某国人とのハーフ 双子の妹がいる。
ガノタ オンラインゲーム「GX−ガノタックス」ハンドル名「大佐」搭乗機「レッドフォックス」
「スザンナの消失」ゲスト出演 和名は別。
△アナスタシア(アニー)・ゴットルフ 十四歳
「春奈の蒼穹」登場 日本の大阪出身の母親と某国人とのハーフ 双子の兄がいる。
あやしい大阪弁を話す。「GX−ガノタックス」ハンドル名「中尉」搭乗機「グリーンラクーン」
「スザンナの消失」ゲスト出演 和名は別。
△《藍玉》
「スザンナの消失」登場 スザンナの敵役 少しお馬鹿。 ライカンスコープ(獣人)族
△《瑪瑙》
「スザンナの消失」登場 《藍玉》の配下 顔を覆う長髪の女性 マーメイド系 参謀役。
△《翡翠》
「スザンナの消失」登場 《藍玉》の配下 犬か猫かよくわからない 人狼?猫? 諜報役。
△《琥珀》
「スザンナの消失」登場 《藍玉》の配下 新入りで一番若い 茶髪のギャル系 ネコミミ娘。
第一幕 逢瀬 斑目とアンジェラ
どこともいえぬ一室で男女が睦みあっている。二人は年頃の男の子の親ではあったが、一見すればそれを感じさせない若々しい外貌をしている。
その男・・・斑目晴信は照れくさそうにじっと天井を眺めながら、そのトレードマークとも言うべき丸メガネをかけ直しながら言った。
「もう・・・いいだろう?」
「いいえ、駄目よ。久しぶりに会ったんですもの。もうしばらく・・・こうさせて・・・。」
そう言いながら、その女・・・アンジェラ・バートンは斑目の首筋に顔をうずめて、目を瞑りながらスンスンと首筋の匂いを嗅いでいる。
斑目は椅子に座りながらじっとしているが、段々気持ちが落ち着かなくなっている。
一方でアンジェラは穏やかな表情で斑目に寄りかかっている。
「落ち着くわ・・・。あなたとこうしていると・・・。」
そう言いながらアンジェラは目を瞑りながら首筋から耳たぶの方へ顔をすり寄せながら、やはり匂いを嗅いでいる。
斑目はその微妙に肌の触れ合う感触にビクビクとしてのぼせ上がったように顔が赤らむ。
「君・・・やっぱり変だよ・・・人が見たら・・・」
「あら? 変? 誰も見てないしいいじゃない。それとも変なのは私の方かしら?」
アンジェラははにかみながら照れくさげに顔を離して斑目の方を見た。
「いや・・・まあ・・・あんまりしないかな・・・こうして匂いを嗅ぐのって・・・、ハハッ。」
「不快?」
アンジェラに不安な表情で聞かれて斑目は慌てて打ち消した。
「いやいや!! とんでもない!! ただ・・・」
不快であろうはずがなかった。アンジェラの上気してほんのりと紅色に染まった白い肌からは控えめな香気がたち、斑目を幻惑させた。香水の類はつけていないのに欧米人特有の強い体臭はアンジェラからは感じられなかった。
瑞々しく潤んだ肌の感触が斑目の肌にまとわり付くように吸い付くと気狂いさえしそうになる。
アンジェラの柔和な丸みを帯びた顔のくりっとした澄んだ碧眼が不思議そうに斑目を見つめる。その瞳に見つめられて斑目は目をそらしながら言った。
「気恥ずかしくてしょうがない。君は初めて会った頃とさっぱり変わってない。大げさだと言うのなら二十代後半にしか見えないよ。」
アンジェラは微笑んだ。
「あら? それは嬉しい事言ってくれるのね。でもあなただってやっぱり若々しいと思うけど。」
それは斑目もよく人には言われる。一人で好き勝手に趣味に生きていると所帯持ちよりは若々しくなれるものらしい。だがアンジェラの若々しさはスージーの尋常じゃないソレは例外としてまた別格と思われた。
「まあ・・・私はガーディアンだったし・・・。スージーのおかげね。」とアンジェラはつぶやく。
「ガーデン?」と斑目は聞き間違いをするが、アンジェラはそれには答えず微笑んで言った。
「アジア系の人たちは体臭が控えめだと言うけど、あなたのそれはさらに控えめで落ち着くわ。」
「最近はそれでも日本人男性も体臭を気にしているよ。」
「でも私にはあなたのそれが一番落ち着くの」
「うーん、でもやっぱり君は少し変かもね。」
「あらひどい。」
二人は笑いあった。
体を寄せ合いながら久しぶりに再会した二人は最近あった出来事をとりとめとなく話し合った。
斑目は自分の身に起きた・・・正確には自分の身の回りの人間に起こった不思議な出来事をアンジェラに話して聞かせた。
「色々たいへんだったのね。」
「イエイエ、それほどでもアリマセンヨ。」
斑目は頭を掻きながら答えた。
「でも・・・少なくともチカコの例を除けば大体は現実の範囲の現象とも言えるけど・・・。チカコの事例は明らかに「物理的法則」を超えた現象だったし・・・。」
「イヤイヤ、俺にはどれも現実のものとは思えないよ。」そう言って斑目は首を振った。
「そうでもないでしょ?。双子の感応能力もヌヌコの浄化能力も本来人が持っているコミュニケーション能力や共感能力の延長ですから。特にヌヌコの力はゲシュタルト心理学で説明できます。」
「ゲス・・・何だって?」
「ゲシュタルト心理学。あなただって言ってたそうじゃない!! 聞いてるのよ、XとYの記号で・・・。」
「あっあれはオタクサークルの活動目的を適当に誤魔化した説だって!!」
斑目は慌てて手と首を振って昔の若気の至りのような説を得意げに吹聴していた過去を思い出して冷や汗を流した。
(よくもまああんなの得意げに『彼女』に言って聞かせていたよな・・・。今の俺にはできん・・・。)
アンジェラは斑目が昔の事を思い出したついでに「誰」の事を思い出していたかを察してプクーと頬を膨らませてむくれてみせた。
「あら?誰の事を考えていたんでしょうね〜」
アンジェラは意地悪げな口調で言う。
「いや、その、あの・・・。」
アンジェラは斑目の動揺した姿にプッと吹きだした。
「まあ、いいわ。とにかく『1+1=2+α』なの。「『全体の総和は部分の合計よりも大きい』の。古い心理学説の見直しとしてこの心理学は発展したの。」
「んー、それがヌヌ子ちゃんとどう関係あるのかさっぱりワカランデスヨ。」
「具体的に言えば記号の集合は単体の記号の意味を超えたものになるというのかな。実際、漁業民族は体に目の模様を刺青して目の大きい動物に擬態して鮫に襲われないようにしたり、紋章には魔よけの意味が持たれていたり・・・。」
「えと・・・つまり?」
「つまり人類には『集合的記憶』によって共通認識する・・・もうよしましょう。要するに今回私はヌヌコに会って色々研究したくて来日したわけ。」
学者を職業とするアンジェラは日本に研究目的で来日していた。もちろんアレックも連れて・・・。
「アレック君は元気そうでなによりだよ。この前、GXなんたらとかいう国際ゲームではみんなも世話になったし・・・。」
斑目は何気にアレックの話題に触れた。GX・ガノタックスという国際オンラインゲームで春奈たちはアレックと一緒になったのだった。
「あら? あなたまだそんな他人行儀な・・・。」
「いや・・・だって・・・ねえ・・・。」斑目はバツの悪い顔をして言う。
「まあ、いいんですけど。」とアンジェラは困った人たちねという表情で微笑んだ
「とっところでGX・ガノタックスってずいぶん大掛かりなゲームだよねえ。春奈ちゃんの父・・・『彼』が企画したゲームだなんて知らなかった。けっこう軍事転用とかスケールのある話でついていけなかったよ。」
斑目は間の悪さにゲームの話に話題を変えた。
「そんな大げさでも無いけど・・・あのゲームはそういう軍事的な技術も重要視されているけど、民間医療の義手や『義体』の開発にも貢献しているの。」
「まるで『鋼殻防衛隊』だね。不思議な出来事ばかりでアニメの世界に迷い込んだかと思ったよ。」
「元々『鋼殻防衛隊』自体がサイバーパンク小説の祖とも言えるウィルヘルム・ギブスン、彼の著作『ヒューロマンサー』の影響を受けた日本の漫画家の原作を基にしているし・・・。」
「うん・・・。」斑目は頷いた。
「そしてそのアニメの影響を受けて映画の『サイバトリクス』がアニメや漫画の表現手法を映画に取り入れた・・・文化の混交や混血こそが無限に変化する世界の真実だわ・・・。」
ウンウンと頷きながら斑目はアンジェラの「語り」の熱の入り方に少し戸惑った。こういう話に興奮してくると段々積極的になってくるアンジェラの性癖をよく知っていたからだ。
「アン・・・あのね・・・。」 過熱するアンを抑制しようと斑目は話しかけた。
「・・・私とあなたの間にアレックがいるように・・・。」
意図せずアレックの話題に戻った。
「そっそうだね。アレックも混血だね。少し意味は違うけど。」
「私はユダヤ系との混血だし・・・。」
「あ!! そうだったの? そういうのとかって無頓着で・・・。」
斑目は思った。よくよく考えてみれば自分はアンジェラの事を何も知らない。その事が急に恥ずかしくなった。そういう事に再会してからも関心さえ抱いてなかった事にも・・・。
「じゃあ、詳しくないけど色々しきたりとか厳しいんじゃ・・・」と斑目は聞く。
「まあ、昔と違ってニューエイジですから厳しくないわ。でもアレックの場合には頭の固い一族の長老たちの手前『割礼』の儀式だけは受けさせたけど。」
「ごめん、そういう儀式って分からないからノーコメント。」
「私も説明するの面倒だからパス。」とアンジェラは無邪気に笑った。
そんな無邪気さが斑目を今でも苛む。本来であれば普通に一緒になっていれば二人で・・・いや三人で乗り越えてきた事柄の一つであったに違いなかったのだ。
「そうそうアレックが子供の頃に『割礼』の事を友達にからかわれたとか言って泣いたりした事もあった。それからケョロロショーグンのアップリケを恥ずかしいから嫌だって・・・。男の子って難しいわあ。」
アンジェラは二人の失われた時間を埋めるかのようにアレックの子供の頃の話を滔々と続けた。
「スミマセン。」
「え?」
「本当にスミマセン。」
斑目は心からアンジェラに詫びた。そして椅子の上でがっくりとうなだれた。アンジェラはやはりそばに寄り添って言った。
「何で謝るの? 『責任』とかそういう事は言わないで。必要ならそうしてただけ。必要じゃなかったから何も求めなかっただけ。」
「ならどうして君は今俺とこうしているんだい? 俺は別に必要じゃないんだろう?」
斑目は泣きそうな顔でアンジェラを見つめる。
「あなたは私にとって必要。今も必要。でもあの時私があなたに何かを望んだとしてもそれが善い結果にたどり着いたかどうかは分からない。今も『彼女』の事が忘れられないの?」
「まさか!! もう何年たつと思うんだい!! でも分からない・・・俺にはどうにも分からなくなった・・・。」
斑目は丸メガネの下に手を滑らせ、目を覆って下を向いた。
アンジェラはそんな斑目を椅子から押し倒した。そして驚く斑目の耳元に顔を寄せて囁いた。
「あなたは私の直感であり閃き。あなたをおいて他にそんな人はいません。私の中の何がそうさせるのでしょう? あなたの中の何が私からあなたを奪ったのでしょう?」
「分からない・・・分からない・・・。」
そう呟きながらも斑目はこんな時でも自分の中の『男』がそそり立つのに気付いて、ため息をつきながら天井を仰いだ。
「そう・・・誰にも分からない。でも今はただ自分を自分足らしめる『ゴースト』の囁きに従いましょう・・・。」
アンジェラは斑目を愛しむように抱きしめた。
第二幕 学校生活 アレックと春奈たち
アレックは思った。
母と『斑目氏』が会っている事は薄々気付いていた。その事に対して自分が特に思う事は無い。『あの人』は法的にも父では無い。そして心情的にもだ。
『無理も無いとは皆さんも思いませんか? 生まれて一度も会った事の無い人を父などと!!』
アレックはカメラ目線でそう言った。
『あの人』はただ単に母の『男』。自分にとっての関係はそれでしかない。問題は自分がその事にふてくされるほど子供では無く、また割り切れるほどの大人でも無いという事。
しかも母の来日に随行して編入された学校が『男』の職場であるという事。
そうした事実が生々しく自分にまとわりつき、その原因と毎日のように気まずく顔を合わせている事に忍従しなければならないという事が問題なのだと。
でも『あの人』との関係を知る者はこの学校には少ない。ヌヌコはかつて『事件』で一緒に行動した都合上知っている。チカコは母が彼女の母親と親友という関係上薄々気付いていると思われるが、二人の口からその関係が語られる事は無いと思っている。
『だから成り行きとはいえ日本在住の間、彼ら日本のクラスメートとの交友を素直に楽しめばいいと思っています。』
「カメラ目線で誰に向かって話しているんだい? アレック?」
アレックはその声の方を振り向いた。彼は自分と同様短期留学で編入された少年だった。同じハーフという親近感から親しくなった友人であった。
「いや、誰でもないよ、イエモン君。」
アレックがそう答えると、彼、伊衛門はフーと深く息を吐いて首を振って大げさなゼスチャーをして言った。
「何度言えばいいんだ? 僕はイエモンじゃなく、ツ・バ・サだと言ってるじゃないか!!」
アレックは不思議そうに「あれ? でも貰ったクラス名簿には・・・サキ・・・上の字難しくて読めないや・・・イエモンって・・・。」と質問した。
「苗字が読めなくて今時珍しい名前の方が読めるというのも君の日本語の知識も偏ってるな!! それは間・違・い!」
伊衛門はムスッとした表情で言い返した。そして話題を変えて教室の角に固まっている女子グループの方をこっそりと指差して言った。
「それより・・・角の女子グループ・・・こっち見てるけど何を話していると思う?」
アレックもこっそりと教室の角に視線を向けると確かに春奈たち女子グループがこちらを見てコソコソと内緒話をしている。
「総受け」
「総受けやな」
「総受けですね〜」
「総受け・・・かなあ・・・」
「総受けね」
「ええ!! 何で? 何で? ヤオイに興味無いちさまでどうして? アレックは見ての通りスポーツマンじゃん? どういう基準かさっぱり分からない?!」
春奈は友人たちの批評が意外で驚いていた。
「いや、何でって言われてもね〜。」と頭を掻いて千里が答える。
少し離れたところでは別の腐女子グループがアレックたちの方を見てクスクス内緒話をしていた。
「アレック君ってさー。70年代とかさー、80年代
のアニメのヒーローっぽくない?」
「あはは、言えてるー。じゃあツバサ(伊衛門)君は今風の新世紀系よね〜。古いけどコードリアスとかさ。」
「あの二人仲良くてヤバイよね〜 アレック×ツバサで何か出来ちゃうよね〜」
彼女たちの会話は春奈たちにも聞こえていた。実際、二人の容貌は的を得ていた。アレックは精悍な古典的ヒーローっぽかったし、伊衛門は長身で痩せてて女性っぽい顔立ちで当世風と言えた。
「だろ? だろ? フツー そうなんじゃないの?」と春奈はみんなに食い下がった。
それに対して千佳子は「まだまだですね、彼女たちの見る目も」と言って首を振った。
みんなはその意見にウンウン頷いている。
「じゃ、じゃあ伊衛門君は?」と春奈がむきになって聞くと皆は答えた。
「鬼畜攻め」
「にいちゃんの事言うのもなんやから強気攻めくらいにしたろ。」
「怒涛の攻め寄りのリバ可」
「魔王攻めです〜」
「サド攻め」
「さっさっぱり分からない!!」と春奈が言うと「春奈ちゃん、意外と人を見る目ないな〜。にいちゃんは見た目と腹の底違うで。」と伊衛門の妹の米子はケタケタ笑いながら言った。
少し遠く離れたところでアレックと伊衛門の二人は春奈たちのグループを遠巻きに見ていた。
「ホント、何を話しているんだろうね。」とアレックが言うと、彼女たちの視線の意味に気付いた伊衛門は舌打ちして言った。
「チッ、あの腐れアマども腐った目で俺たちを見ているな。」
「クサレアマドモ? ごめん、スラングかローカルの言葉かい? 早口でよく分からなかったよ、イエモン君。」
「ああ? ツ・バ・サだと何回言えば分かるんや!! でかい図体して頭の中はカラッポかい!! ド低脳ガーーッ ケツから手え突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろか!!」
伊衛門の言葉を聞き取れなかったアレックに対して伊衛門はやはり早口でまくし立てた。
「ごめん、それも聞き取れなかった。漫画・・・じゃなく日本語のテキストには載ってないね。その言葉。」
主に母親の買う一般的な日本語の漫画を(こっそりと)読んで日本語を習得したアレックには伊衛門の言葉は理解出来なかった。
きょとんとするアレックにハッと我に返った伊衛門はにっこりと天使の笑顔で答えて言った。
「ごめんよ〜、『クサレアマ』というのはね、『尊敬できる女性』という意味なんだよ。」と伊衛門はアレックに教えてやった。
「なっなるほど、メモメモ。」
アレックはさっそく覚えたての日本語を春奈に使った。
「春奈! 君もやはり『クサレアマ』だよね。」と。
パシッ
顔を真っ赤にして激怒した春奈はアレックの頬をひっぱたいてツカツカと教室から出ていった。
「?ナンデ?どうして?」
アレックは頬を手で押さえて呆然と立ちすくんでいた。
ちょうど斑目が廊下を歩いて、春奈たちの教室の入り口に差し掛かった時に、教室を勢いよく飛び出す春奈とすれ違いにぶつかりそうになったが、春奈は斑目に目もくれずプリプリ怒りながら廊下を早足で歩いていく。
驚いた斑目は教室を覗きながら「どうしたんだい〜」とのん気そうに声をかける。
そんな様子を女子たちはウンウン頷きながら見て言った。
「総受け」
「総受けやな」
「総受けです〜」
「総受け・・・だねえ・・・」
「総受けね」
そんな事もあったりもしたがアレックの日常は、むしろ母国にいた時よりも充実なものと言えた。アレックはそんなに日常に安らぎさえ感じるようになっていた。
スージーが行方不明になるまでは・・・。
今宵はここまでにしときます。第一幕から第二幕まで投下。
幕の長さに差はありますが第九幕を終幕とする予定です。
気長に宜しくお願いします。
昨晩の続きから投下させていただきます。可能な限り投下してます。
気力の続く限り・・・。なにせ個人記録の三万八千字の最長になって
しまいましたからorz。koyukiファンの方、スレッドが流れてしまって
すいません。他に長編を投下される方がいなげれば十分後に再投下します。
第三幕 下校時間 ぬぬ子とアレック
とある日の下校時間、アレックはソワソワしながらぬぬ子に声をかけた。
アレックは言葉につかえながらも「ヌ、ヌヌコ! 今日は母さんの所に行く日だろ? なら一緒に帰ろう! 」とだけ何とか言えた。
「いいんですか?」
「もっもちろん! ほら! 最近、世の中物騒だし!」
照れ隠しの手振りのジェスチャーが激しく動く。アレックの様子をはたで見ればひどく滑稽に見えた。
その様子を机に座ってひじをついて眺めている春奈が多少不機嫌な表情でアレックに話しかけた。
「あんたに守ってもらわなくても、ぬぬ子ちゃんは大丈夫だよ。」
アレックは春奈の方を向いて「どういう意味だい?」と聞いたが、春奈はすぐに分かると言ってその質問には答えなかった。
アンジェラとアレックは来日して以来、ぬぬ子たちの通う中学校の近くの賃貸マンションに住んでいた。もちろん外国人に応対するサービスを売り物にしている所でスージーもそこに住んでいる。
ぬぬ子には月に何度かアンジェラの要望でそこに通って色々研究に協力してもらっていた。普段は双子か他の誰かと一緒に行くのだが、今日に限っては誰も同行することができなかった。
そしてアレックはといえば来日してしばらく経つのに一緒に帰ることを申し出たのは初めてという体たらくだった。
「ごめん、ぬぬ子ちゃん。私も今日は塾の補講なんだ。」といつものグループで最後まで残っていた春奈はぬぬ子に謝った。他のメンバーは用事があって早く帰っていた。
「いいんですよ。いつもみんなには付き合ってもらってばかりで・・・。」とぬぬ子は首を振って微笑む。
「今度さ! 穴埋めにみんなでカラオケに行こうね! 好きなアニソンでも何でも歌ってさ!」と春奈は笑って言った。
ぬぬ子は「カラオケですか・・・。」とちょっと複雑な表情をした。
「あれ?何? カラオケ苦手? いいんだよ、下手でも好きなのを自由に楽しく歌えば!」
(そういやぬぬ子ちゃんとは一度もカラオケ行ってないや・・・そんなに歌が苦手なのかね・・・)
春奈はそう内心で思いながら気を使う発言をした。
「ううん、歌は好きなんですが・・・。」と何やら煮え切らない態度でぬぬ子は困った顔をした。
「? まあいいや。じゃあアレック頼んだよ!」
「ちぇ! なんか偉そうだね。前の事を根に持ってんじゃないのかい?謝ったろう。それにイエモン君だって慣れない日本語を誤って教えて悪かったって言ってたし・・・。」
「それを素直に信じるあんたは本当にめでたいよ。嫌いじゃないけどね。」と春奈は笑って塾に向かうためにカバンに教科書を片付けて教室を出て行った。
その「めでたい男」アレックも、春奈の言葉の意味を図りかねて首をかしげながら、やはりこの世の邪悪や悪意とは無縁そうなぬぬ子と一緒に下校した。
ぽかぽかした陽気の中、町の緑化政策で花に彩られた通学路を二人は歩いていた。ほのかな花の香気が辺りを包む。アレックはテクテクと隣を歩くぬぬ子に見とれてのぼせた表情で歩いていた。
アレックの昔を知る者がその様子を見たらさぞ驚いた事だろう。少なくともぬぬ子に会う前の昔のアレックは無愛想な鎧を身に纏い、それが「強さ」だと信じている少年であった。
ぬぬ子がその「強さ」に対する考え方を一変させた。かつて春奈がリーダーを務める団体競技でメンバーとの意見の対立に口を挟めないでいる自分の「弱さ」というものを自覚した。
そしてリーダーの春奈に対する不平不満をなだめて収めた自分の意外な一面にも驚いた。その事は後で春奈に感謝されたがその時「日本人より日本的」と言われて内心でショックを受けた事は黙っていた。
『あの人』もかつては自分の事を蛇と自称し『偽悪者』を装っていたという。自分も結局は『偽強者』であり、それに気付かせてくれたのはぬぬ子だと思っていた。
そのぬぬ子が今自分の隣を歩いている・・・。こんな日がこようとは・・・とアレックは思った。
「? どうしたんですか?」
ぬぬ子に見とれるアレックの視線に気付いてぬぬ子がアレックの方を見た。
「いやいや!! 何でもないよ!!」とアレックは慌ててかぶりを振る。
「そうですか・・・。」とニッコリ笑ってぬぬ子はまた正面を向いて歩き出した。小柄なぬぬ子はアレックの頭一つ下くらいの身長差があった。見下ろすようにアレックはぬぬ子の姿を見た。
三つ編みの髪は肩口に下ろされている。手で覆ってしまえそうになる小さい顔には小さな唇が赤く花びらのように輝いている。大きな厚底メガネはぬぬ子の美観を損ねているようにも思われたがアレックには気にならなかった。
まだ見た事が無い素顔はとても綺麗だと噂されているがアレックにとってはぬぬ子の無垢な内面そのものに心奪われていたから気にかけてはいなかった。とはいえ抱きしめてしまえば手折れてしまいそうな愛らしい姿と細い肩幅を見ると抱きすくめてしまいたくなる衝動にかられる。
「こんにちは!」
ふいにぬぬ子が声を上げた。見ると商店街に差し掛かって八百屋の老夫婦が挨拶を返してくる。
「おやおや、ぬぬ子ちゃん、今日はボーイフレンドと一緒かい? いいねえ。」
「いやだ、おじさんたら。」とぬぬ子は恥ずかしそうに返答する。
「今日はお買い物はいいのかい?」
「ええ、後でお伺いします。」
「じゃあ良い物取っておいてあげるからね。」
八百屋の老夫婦はにこやかに手を振った。
アレックは驚いた。大資本の店舗が大勢を占める母国ではもう見られない光景だった。商店街の行く先々でぬぬ子は声をかけられる。中には昼間から酒を飲んで軒先に座っている柄の悪そうな人もいたが、そんな人さえもぬぬ子の顔を見ると表情を緩めてにこやかに話しかける。
「飲み過ぎは体によくないですよ。」
「ぬぬ子ちゃんにはかなわねえな。」
そんなやりとりが自然に交わされている。
大都会の近郊地方都市で過疎化は免れているようだが、この商店街の賑わいは一般的な傾向からは外れていた。
「よく買い物に行くの?」とアレックが聞くと
「ええ、一人暮らしのところを気を使ってもらってます。」とぬぬ子は答えた。
「え? そうだったの?」
「両親とも共働きな上、単身赴任なんです。」
「そうだったの・・・知らなかった・・・。」
アレックは初めて知るその事実に少なからずショックを受けた。そして健気に一人暮らししてその苦労を全く表情に出さないぬぬ子が一層愛おしく感じられた。
そして商店街を抜けて人通りの少ない通りに差し掛かると、不埒な感情は無いものの、その愛おしさを抱きすくめる事で表現したい衝動にかられていた。
アレックのフルフルと震える腕がぬぬ子の背後に伸びてしまう。
だがその時・・・
ドサッ!!
アレックは複数の人間に取り押さえられた。
「何だ?! お前ら? 離せ!!」とアレックは叫んだ。
(くそ!! 白昼堂々強盗か?)
「こいつ!! ぬぬ子ちゃんに何しやがる!!」
その言葉にアレックは「へ?」と間の抜けた声を出して驚いた。よく見るとその声の主は教室で見かけた事のある同級生の女の子だった。他の者もとても凶悪な強盗には見えず、年齢も性別もバラバラな普通の一般市民っぽかった。
そばでは「みんな!! 違うんです〜 離してあげてください〜。」とぬぬ子が叫んでいた。
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次の日、教室で憮然とした表情でアレックは春奈に言った。
「・・・知ってたな・・・。」
春奈は前日のその様子を聞いてケタケタ可笑しそうに笑いながら答えた。
「だからそのうち分かるって言ったじゃん!! ぬぬ子ちゃんに何かイヤラシー事でもしようとしたんでしょう?」とニヤニヤしながら春奈は言った。
アレックは慌てながら「そっそんなことしてないよ!!」と否定した。
「本当に? まあいいわ。最初はね、学校で問題行動起こしていた子くらいだったのよ。『事件』の時にもそんな影響は無かったんだけどね・・・。次第に町に『ぬぬ子信者』が増えてきてね。
程度は個人差があると思うけど今や町全体が一つの生き物のようで、ぬぬ子親衛隊だと思った方がいいよ。」
「んな・・・」 アレックは絶句した。ぬぬ子が一箇所にいられず転校を繰り返していたという話は聞いていた。そしてその理由も実感できた。母親のアンジェラが研究したがるのも分かる気がした。
その時、千佳子が二人に話しかけた。
「ねえ、最近スージー先生の姿見てないと思わない?」
「スージー先生?」と二人は同時に声を出した。
言われてみれば最近担当の英語の授業は代行されていた。理由は『研修中』という。それにしては長いとは思っていた。
「斑目さんなら何か知ってんじゃない?」と春奈はあまり気にしない様子でそう答えた。
「そうね・・・。放課後、『部室』で聞いてみましょう。」と千佳子は言った。
春奈はたいした事じゃないように思っているが、アレックはそうは思わなかった。昔から・・・そう、昔からスージーが何かする時、それはその行動以上の意味がある事を知っていたからだ。
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放課後、いつものメンバーは斑目の仕事場の用務員室、みんなが『部室』と呼んでいるところに集まった。
「スージー先生?」
と斑目は今まで気付いてもいなかったと言わんばかりに意外そうな声を出した。
「そういやそうだ。猫みたいに神出鬼没なんで気にしてなかったよ! 道理で平穏なはずだ!」などと言う。
斑目は「崔先生はご存知ですか?」と最近一緒に囲碁を打つ事が多くなった老教師に尋ねた。その崔と呼ばれる教師はアジア系在日外国人であった。
国際化の潮流で最近はそういう人材を広く受け入れるようになっていた。彼は囲碁部の顧問でもあった。かつて日本で流行った囲碁漫画のファンでもあり、その縁で斑目とも親しくなった。
もっとも周りに囲碁をする教師が少ないので無理やり相手させられていたというのが正しいのだが・・・。
「そうですねえ・・・。それが校長らも歯切れが悪くて詳しい事情知っている人がいないんですよ。どうしたんでしょうねえ。」と首をかしげて心配そうな表情をした。
「いやいや、心配することないでしょ! どうせ無断欠勤か何かしてるのを体裁のために誤魔化してるんですよ! ケロッとして出てきますよ!」と斑目は笑い飛ばした。
「だといいんですがねえ・・・。あ、ここ。」と言いながら老教師は碁石を碁盤に置いた。
「ありゃ?!」
かつては老教師は同じ外国人教師同士でありながら、保守的な価値観の持ち主でもあったので、スージーに対してはその外貌と言動のエキセントリックな点に嫌悪感を抱いていた。
しかし『部室』で斑目と対戦しているのを興味深そうに見ているスージーに覚えてみますかと声をかける事でスージーを理解するようになった。
正確には何度か対戦していくうちに手の内を読まれ、遂には完全に敗戦するに至り、ショックで二、三日寝込んだ後にスージーの崇拝者になったのだった。
「これでもプロ直前までいった身なんですがねえ・・・。」と老教師は苦笑しながら言ったものだった。
斑目は慰めるつもりで「スージーの打ち方は常軌を逸してますから気にする事はありませんよ。」と言うと、逆に老教師は憤慨して言ったのだった。
「とんでもない!! 囲碁は奇策やでたらめでは勝てませんとも!! スージー先生は不動の正攻法で私を攻め、一瞬のミスを見逃さずに怒涛の奇襲で正当に勝ったのです!! まぐれで勝ったというのはむしろ私に対する侮辱です!!」
「ははっ、すいません、囲碁には詳しくないので・・・あのスージーがねえ・・・。」
そんなこんなで今やこの老教師はスージーの支持者、いや崇拝者であった。スージーの教育法や生活態度に対して難色を示す同僚教師も多かった。
しかし一方で同じくらいの数、スージーのやり方を表面だけ模倣して失敗する者や、崇拝する同僚教師も多かった。彼は一部で批判の対象になっている『部活動』を認めて、正式な同好会として発足させ顧問になる事を申し出てくれていた。
「何・・・何をやるか決めない自由な活動があってもいいじゃありませんか・・・。そこから何かが生まれることもありますよ・・・。」と老教師は笑って言う。
「結局、斑目さんも知らないわけね。」と春奈はがっかりしたように言う。すると千佳子が「アンジェラさんは知らないんですか?」と口を挟んだ。これは 斑目に聞いているというより斑目とアレックの二人に聞いているといってよかった。
「え? あ? さあ、聞いていないなあ。」
と二人は同時にうろたえて答えた。
そんな様子を春奈をはじめ、みな怪訝そうに見ていた。この二人の関係は千佳子とぬぬ子くらいしか知らないが、段々この二人の不自然な態度は周囲に奇妙に思われ始めていた。
「千佳子の方こそどうなのさ? お袋さんと友達なんでしょ?」と春奈が聞くと、千佳子は「知ってたら聞いてないですよ。」と肩をすぼめて答えた。
「そりゃそうか。」
「それよりさ、今週末、みんなでさ、アキバ行かない?」と千里が言った。
「どちらかといえば池袋の方がいいかな。」と万理。
「私もそうねえ・・・。万理の意見に・・・。」と千佳子。
「うちも池袋に行ってみたい!! 」と米子。
「私も欲しいのが・・・。」とぬぬ子。
「ええ? アキバ組は他にはいないの?」と千里は騒ぎ出す。
「ああ、俺アキバ行ってみたい!!」と伊衛門。
「チッ」と千里。
「なぬ?! てめ・・・チサトちゃんそれは無いなあ。」と伊衛門。
千里はそれには答えず「アレックは?」と聞いた。
「俺は・・・イケブクロ組は女性専門なんだよね・・・。アキバに・・・。」
「あ、ごめん、わたしゃ週末駄目だから! アバターの製品の納品日なんだ!!」と春奈が手を合わせながら謝った。春奈はアバターのデザイン会社を『起業』していた。最近は中学生でも起業しやすい環境を作り、それを起業家振興政策が後押していた。
もちろん社会教育的で模擬的な面もあるが、ちゃんとした正式な売買契約も交わされ、収益や利潤は本人や投資者に還元されていた。当然未成年なので親が後見人になるし、利潤も学費として貯蓄されている。
春奈のデザインはゲームに採用されたり、一般の服に採用されたりして実際売れていた。最近ではゲームよりこちらの活動に夢中になっていた。
「順調だね。」と斑目は春奈に声をかけた。
「えへへ、そうなんだ!! 最近では小物や内装品にも手を広げているんだ!!」と嬉しそうに春奈は答えた。
ファッションや経営に興味を持っているのはもちろん母親の影響だろう。しかし確実に母親とは違うジャンルで自分の好きな事を開花させていた。
「じゃあ、週末アンジェラさんちに集合しましょう。引率者はアンジェラさんと斑目さんに任せて。」と千佳子は言った。
「あれ? やっぱりそうなるわけ?」と斑目は苦笑しながら言った。
週末に遊びに行く話が盛り上がってくると、スージーの事はみんなケロッと忘れてしまっていた。スージーの事にみなが関心が薄いのではなく、むしろスージーの普段の行動ぶりから、特に心配するとかそういう対象ではなく、
放浪猫のようにケロッとした表情で何事も無かったかのように姿を現す・・・そんな感覚が当然のようになっていたからであった。
しかし一部の「もの」たちにとって、スージーの消失は簡単な意味に捉えたりできるものではなかった。
*********************
中学校から少しばかり離れた路上に駐車している車の中で、一人の男性と二人の女性たちが話している。
「御上(おかみ)、やっぱりいないですニャ。」
「チッ。やはり先手を打たれて姿を消したか!!」
そう言うのは、胡散臭いホストが着るような上下白のスーツに身を包み、某アニメの二期目に登場するキャラがかけていたようなサングラスをかけた男であった。
染めたとは思われない金髪と抜けるような白い肌から北欧系の外国人と思われるが、一方で流暢な日本語をその男は話した。
また、その男を「御上(おかみ)」と呼び、話しかけた女性の容貌もゴスロリ風とまではいかないまでも、ロングスカートにフリルをあしらった類の服に身を包んでいる。顔は犬のようでもあり、猫のようでもあったがどこか愛嬌があった。
「やはり・・・『餌』でおびき寄せるしかないですね。」
続けて発言するその女性もまた奇抜な外貌をしている。その髪は座席に座っていても、ひざ下まで達していると分かるほど長かった。前髪は顔を覆いつくし、わずかな隙間から覗かせる顔立ちからは美人と推測はできたが、どんな表情をしているか一瞥しても分からなかった。
服装はエキゾチックなオリエンタル風とも言うべきデザインで露出が少なく手足を覆うような感じで民族衣装のようでもあり、どこかアニメや漫画の服のようでもあった。
「ムー。昨日の様子じゃそれも難しかろう。」と男は渋い顔をして唸った。
「別に相手は素人ですニャ。難しくないでショ?」と最初に発言した女が言うと、男はやはり渋い表情で「騒ぎが大きくなる。それに成功しても町全体が我々に襲い掛かってくれば町を出る前に俺たちの逃走経路が無くなる。」と言った。
「御上の勘は正しいでしょうね。想像以上の力ですね、あの子。町全体があの子を無意識に守っています。あの子に危害を加えたらおそらくリミッターの外れた暴徒と化すでしょうね。」
そう冷静に状況を分析したのは髪の長い女性の方だった。
男は「どうする?」とその女に尋ねた。
「町から引き離しましょう。それに必ず町を出る機会があるはずです。」
「おお!! さすが!!」と男は喜んだ。
「新入りのあの娘にがんばってもらいましょう。」と長髪の女は言った。
「では任せたぞ・・・。今はスザンナ・ホプキンスと名のってるんだったな・・・。今度こそあの女を倒す!! そして世界の帝王となるのだ!!」と男は叫んだ。
「あー、ちょっと、ちょっと。ここ通学路な上、路上駐車禁止ね!! 何この車種? 赤い上にエンブレムがツノみたいだね。改造車じゃないの?」
警官がコツコツと車の窓を叩きながら注意した。
「あ、すいません、すいません。すぐ出しますんで、お見逃しを〜。」
「間抜けだニャ〜」
「御上、もっと威厳を(汗)」
第四幕 陰謀 アンジェラと斑目そしてアレック
土曜日の朝、アレックはいつもより遅く起きた。もそもそとベットから這い出しながら、ああ、今日はみんなとアキバに行く日だったなとぼんやりした頭で考えていた。
シャワーを浴びてからバスタオルで頭を拭きながらキッチンに入っていくと母のアンジェラがリビングにいた。そこでアレックはハッとして立ちすくんだ。何故ならアンジェラの他に斑目がそこにいたからだった。
いても不思議では無い。斑目も引率者としてここで待ち合わせする事になっていたからであったからだ。なのにアレックは声をかける事ができなかった。
朝日の差し込むリビングで二人はコーヒーを飲みながらたたずんでいる。アンジェラは詩集を開いて詩を朗読している。アンジェラは漫画やアニメも好きだが詩を朗読するのも好きであった。アレックも幼い頃からその詩人の詩を聞いていた。
『情熱、脈搏、活力において測りしれない
《生命》をもち、
陽気で、神聖な法則のもと自由きわまる
行為をなすようにと造られた、
《近代人》を、わたしは歌う。』
斑目はコーヒーをすすって肩肘をつきながら穏やかな表情で詩に耳をかたむけている。もちろん詩は英語で朗読されているから、斑目には意味は分からないであろう。
しかしそんな事を意に介さぬように二人は朗読を続け、そして静かにそれを聞いている。
『・・・わたしは性欲と食欲をよいものと信じる。
見ること、聞くこと、感ずることは、奇跡である、
そして、わたしのどの部分も、どの垂れっぱしも、
ひとつひとつ奇跡である。
内も外もわたしは神聖である、
どんなものでもわたしの触れるもの、
わたしの触れられるもの、
それらはわたしを神聖にする・・・』
アンジェラが好きなこの詩人は卑猥と非難される事もある。しかし『生命』と『情熱』と『人間』を賛美するこの詩人をアンジェラが謳い上げる時、アレックはこれを少しも卑猥だとは感じなかった。
時々アンジェラは本から目を外して斑目の方をにこやかに見る。斑目もその度に頷いている。
二人は朝日に照らされて輝いて見えた。アレックは自分を含めた三人がまるで今まで一緒に暮らしてきた家族であったかのような錯覚に襲われた。休日の朝を家族三人で迎える在り来たりな光景のように・・・。
ありえるはずの無い光景にアレックはひどく動揺した。アレックはバスタオルを頭から被ったまま声をかける事ができずに、その場に立ちすくんだままだった。
ようやくアンジェラがキッチンにいるアレックに気付いて声をかけた。
「あら、アレック!! 起きてたの?! 朝食は?」
「・・・いやいい。フレークとミルクですませる・・・」とアレックは無愛想に呟いて冷蔵庫を開けた。
「やっやあ、おはよう。アレック君。」と斑目が声をかける。
「あ、どうも・・・。」とやはり無愛想にしか答えられない。そう言ってアレックはミルクとフレークを取り出し、こそこそと部屋に引っ込んだ。
「? どうしたんでしょう?」とアンジェラは不思議そうな顔をする。
「さっさあ?」と斑目も戸惑った表情をする。
「ちわー、斑目さん来てるー?」
「あ! ちさちゃんたちも来た様だね。」と斑目は玄関の方を見た。
*********************
結局のところアキバ組は斑目を筆頭として伊衛門、千里、アレックの四人だった。一方池袋の乙女ロード組はアンジェラ、ぬぬ子、万理、米子、千佳子の五人だった。二組は別々に行動して午後から合流して昼食を供にし、一緒に帰る予定になっていた。
「スージー先生の家、全然人気が無かったね。」と千里が斑目に声をかけた。
「ほんとにねえ。まあそのうち戻ってくるでしょう。」 そう言いながら、斑目は心ここにあらずで久しぶりに訪れるアキバの風景に目を奪われていた。もちろん時々訪れてはいたが、昔と違って用件だけすませるとさっさと帰ってたから街の変化に気付かなかった。
斑目は目を追ってかつてアンジェラと来た店や自動販売機を探した。
(無い・・・。)
あるはずが無かった。街は都市計画で大きく変貌していた。パソコン部品等の機器を販売する店は激減していた。オタク系の店の占める割合も昔ほどでは無い。
街を歩く人々の様相も変わっていた。子供連れの親子の姿も目立つ。また渋谷とかで見かけるような少年や少女たちも普通にオタク系の店に入っていく。また、コスプレと分類される衣装とも言えない独自のファッションをして街を闊歩する子もいた。
もちろん昔の自分たちのような地味な少年たちのグループも見かける。歩きながらオタ話をする子供たちの様子を横目に見て斑目は和やかに微笑んだ。
だが街全体の雰囲気は以前とは少し変わっていた。不干渉というよりも互いの表現を尊重するような雰囲気に変貌していた。
何故こんな気持ちになったのだろう。理由は分かっていた。子供たちと一緒だからだ。何かが変わった。それは『彼女』を「げんしけん」に受け入れてからだったのだろうか。
斑目はふと千里に話しかけた。
「ねえ、ちさちゃん・・・。昔はね・・・俺は春奈ちゃんのお母さんをサークルから追い出そうとするような奴だったんだよ・・・。」
千里はふいにそんな事を言われてしばらくキョトンとしていたが、ニカッと笑って「斑目さんが? 嘘だあ! もっとましな嘘つきなよ!」と言って、お気に入りのキャラのフィギュアの展示ケースに駆けていった。
「かわいい、かわいい、おもちかえり〜」
「チサト、それ犯罪だから・・(汗)」とアレックは冷や汗でそれを制する。
伊衛門もフィギュアに心奪われて目が千里のように萌え状態になっていた。
「いいよなあ、いいよなあ。」
「ねえ、この造形・・・理想形だよねえ・・・。」
あまり気が合いそうに無い二人も同じ趣味を前にした時には波長が合うらしい。
逆に興味が無いアレツクは一人落ち着かずソワソワしている。そしてふと十八禁コーナーが目に入り、ギクッとしてソワソワしたが、気になってどうしても目がそちらの方にいってしまっていた。
その様子に気付いた千里と伊衛門はニターと邪悪な笑みを浮かべてアレックをからかった。
「ヤラシーんだー」と千里。
「あれー? 堅物そうに見えてけっこう・・・。」と伊衛門。
アレックは慌てて「いや、これはその・・・」と否定しうとしたが、余計滑稽に見えた。
伊衛門が「こういうの、日本語で何て言うんだっけ?」と千里に聞くと「うんとね、うんとね・・・。」とはしゃいで言っている。
「ははっ、駄目だよ、十八禁コーナーは!!」と斑目は(中学時代から出入りしていた自分の事は棚に上げて)子供たちを制した。
斑目はこうした子供たちの様子を見て目を細めて思った。自分の昔の事は信じてももらえなければ相手にもされていない。『彼女』の思い出は本当にあったことだったのだろうか?
全てが・・・全てが変わっていく・・・。閉鎖された世界が解き放たれ、異分子や異端を受け入れながら絶えず混交して無限に変わっていく・・・。『あの人』への想いも遥か彼方の忘却の彼方へこうして消えていくのだろうか・・・。
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斑目はふと千里に話しかけた。
「ねえ、ちさちゃん・・・。昔はね・・・俺は春奈ちゃんのお母さんをサークルから追い出そうとするような奴だったんだよ・・・。」
千里はふいにそんな事を言われてしばらくキョトンとしていたが、ニカッと笑って「斑目さんが? 嘘だあ! もっとましな嘘つきなよ!」と言って、お気に入りのキャラのフィギュアの展示ケースに駆けていった。
「かわいい、かわいい、おもちかえり〜」
「チサト、それ犯罪だから・・(汗)」とアレックは冷や汗でそれを制する。
伊衛門もフィギュアに心奪われて目が千里のように萌え状態になっていた。
「いいよなあ、いいよなあ。」
「ねえ、この造形・・・理想形だよねえ・・・。」
あまり気が合いそうに無い二人も同じ趣味を前にした時には波長が合うらしい。
逆に興味が無いアレツクは一人落ち着かずソワソワしている。そしてふと十八禁コーナーが目に入り、ギクッとしてソワソワしたが、気になってどうしても目がそちらの方にいってしまっていた。
その様子に気付いた千里と伊衛門はニターと邪悪な笑みを浮かべてアレックをからかった。
「ヤラシーんだー」と千里。
「あれー? 堅物そうに見えてけっこう・・・。」と伊衛門。
アレックは慌てて「いや、これはその・・・」と否定しうとしたが、余計滑稽に見えた。
伊衛門が「こういうの、日本語で何て言うんだっけ?」と千里に聞くと「うんとね、うんとね・・・。」とはしゃいで言っている。
「ははっ、駄目だよ、十八禁コーナーは!!」と斑目は(中学時代から出入りしていた自分の事は棚に上げて)子供たちを制した。
斑目はこうした子供たちの様子を見て目を細めて思った。自分の昔の事は信じてももらえなければ相手にもされていない。『彼女』の思い出は本当にあったことだったのだろうか?
全てが・・・全てが変わっていく・・・。閉鎖された世界が解き放たれ、異分子や異端を受け入れながら絶えず混交して無限に変わっていく・・・。『あの人』への想いも遥か彼方の忘却の彼方へこうして消えていくのだろうか・・・。
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アキバ組はオンラインゲームや家庭用ゲーム、携帯ゲームの普及ですっかり数を減らしたゲームセンターに移動していた。
対戦型のゲームの交流もオンラインゲームの普及で色々な地域からの参加が簡単になっていくにつれて減っていた。それでもそうしたコミュニティーの需要が全く無くなるわけでは無く、辛うじてアキバには残っていた。
「この!! くそ!!」と女の子にあるまじき言葉を発して格闘ゲームに熱狂しているのは千里であった。対戦相手は伊衛門だった。
千里もたいしたプレイヤーだったが伊衛門は一枚上手で軽く千里をあしらっていた。
「くそー、また負けたー。もう一回!!」
千里は思ったよりも負けず嫌いで激情家であった。
「何度やっても無駄、無駄、無駄w」
「キー、クヤシー。何かこのいやらしい闘い方、見覚えあんだよねー。」
「あ、くそ!! 何かこの間合いを取る戦法どっかで見た気が・・・。」
『ん?』
千里と伊衛門は顔を見合わせる。
「きっとオンラインゲームでどこかで顔を合わせているかもね。もちろん、HNは互いに公表すべきじゃないけど。」とアレックは二人の対戦を見て言った。
「そうなんだよね。どこかで会ってるかもね。」
「そうだな。ゲームの付き合いとリアルの付き合いは区分けしないと勝負事だけにトラブルの元だしな。」
「じゃあ今度はアレックと・・・。」
新世代の子供たちはその辺の割り切り方が実にクールであった。
斑目は三人の様子をただ見ているだけであった。元々格闘ゲームは得意な方じゃない上、機種の激変でもう現役世代についていけなかった。ボーとして見ていると、プラタなどのブランドに身を包んだ目も覚めるような美人が斑目に近づいてき
た。
「お隣・・・よろしい?」と上品な物腰で斑目の顔を覗き込みながらその美女は微笑んだ。その女性は金髪碧眼であったが流暢な日本語で話しかけてきた。
「どっどうぞ、どうぞ、汚い椅子ですが!!」
と斑目はサッサッと長椅子の隣を手ではいて美人に勧めた。
「ありがとう。お若い方々ばかりでこんな素敵な殿方がいらっしゃるなんて思いませんでしたわ。」
「いえいえ、日本語お上手なんですね。」と斑目はデレデレしながら言っている。
アレックはその斑目のデレデレした様子に気付いて、ムッと不機嫌な表情を浮かべた。
他の二人も斑目の隣に座っている女性に気付いて囃したて始めた。
「あれー? 斑目さん、デレデレしてる〜」とニヤニヤしながら千里と伊衛門はからかう。
その女性は子供たちの方を向いて「あら? 可愛らしいお子さんたち。あなたのお子さん?」と言った。女性の言葉は古めかしいが丁寧な日本語であった。艶やかな目じりとしっとりとした唇の美しい女性であった。
「いえいえ、友人たちの子供でして! 保護者としてついてきてるだけです!」と斑目は笑いながら言った。その言葉に「なぬ?」という表情でさらにアレックは不機嫌になる。
「あら? あなたの携帯・・・。素敵ね。」
女性は伊衛門が腰に吊るしている携帯に目をとめて言った。伊衛門の携帯は真っ赤なカラーにプラスチックで突起がついていた。
「分かりますか?」と伊衛門は喜んで聞く。
「分かりますとも・・・。赤くて、ツノがあるんですもの・・・。性能も三倍かしら?」と女性は伊衛門に優しそうに微笑んで聞く。
「三倍です!! 三倍!! よくお分かりですね! 特注で通常の三倍の情報処理機能があるんです!! ここがですね・・・。」と伊衛門はすっかり気を許して携帯電話の機能を説明している
「ねえ、よろしければお子さんたちと一緒にお食事でもいかが?」と女性は斑目に話しかけた。
「いや、それは・・・。」
この後、アンジェラたちと合流する予定もあったから斑目はその申し出に躊躇った。
「あら、よろしいじゃございませんか。わたしの車で移動して美味しいものでもいただきましょう。」
「くっ車ですか? いえこれから知り合いたちと合流しなきゃいけませんので残念ですが・・・。」
斑目は本当に残念そうに答えた。
「ねえ、お姉さんの車ってどんなの?」とすっかり気をよくした伊衛門が聞いた。
「あら、見たい?」
「うんうん!」
いつもの伊衛門とは違ってすっかり無邪気な少年のようになっている。みんなは顔を合わせて「じゃあ、車を見るくらいなら・・・。」とゲームセンターの外へ出た。
「かっかっこいい・・・。」と伊衛門は目を輝かせて車に見とれていた。
その車は九十年代のランボルギニー・ディアブロを赤く染めてエンブレムにツノがついていた。
伊衛門以外は顔を合わせて「どこが?」と内心で思っていたが声には出さなかった。
「でしょう、でしょう!! 古い型ですけど。あ! ガキども何してる!」
急に声を荒げた女性にみなはビクッとした。
車の陰で少年たちがコインで塗装に傷をつけていた。そこにすごい形相の美人がヒールを履いたまま蹴りをいれてきたので、少年たちはその勢いに気おされて逃げ出した。
「ハアハア、あのクソガキども・・・。はっ。」
我に返った女性は唖然としているみんなに気付いて慌てて取り繕った。
「あらいやだ、わたくしったら。はしたないまねを。ホホホホ。」
その時、斑目の携帯が鳴り出した。
「あ、すいません、たぶん連れからです。失礼。」
そう言って斑目は携帯に出た。相手は千佳子からだった。
『はいはい。千佳子ちゃん。こっちはもういいよ。』
『小父さん!! たいへんなの!! アンジェラさんとぬぬ子ちゃんが!!』
『なっ何? どうしたの?』
『それが・・・。二人の姿が見えなくなって・・・。心配して探したら、ネコミミとシッポをはやした二人の女の子が気絶している二人を背負ってあっという間にビルの谷間を駆け上がって・・・。とっさの事で・・・。』
『ええ!!』
斑目はカメラ目線で『少しワンパターンだと思いませんか?』と言った。
「誰に言っているのかしら?」と美人の女性は斑目に聞いた。
斑目はハッとしてその女性の方を向いた。
女性は微笑みながら「もうお分かりだと思いますが、警察に通報しても無駄ですよ。彼女たちに危害は加えません、ご心配なく。わたしたちが用があるのは『スザンナ・ホプキンス』だけです。
あなた方の誰が彼女と連絡取れるか分かりませんが、《藍玉》が待っていると伝えれば分かります。」
その《藍玉》と名のった女性は、唖然とする斑目を後に、優雅な微笑を浮かべながら車に乗った。
「あー、あなた駐車違反・・・。」と交通警備員が声をかけた。
「すいません、すいません、すぐ車だしますわ。」とその女性は慌てて車で走り去った。
********************
その女・・・《藍玉》は車を走らせながら、携帯に手を伸ばして、配下の《瑪瑙》に電話した。
『計画通りか?』
女は急に乱暴な口調になる。
電話の相手の《瑪瑙》・・・参謀役の長髪の女は答えた。
『ええ、《琥珀》ちゃんはよくやってくれましたわ。』
『《翡翠》の方の段取りも大丈夫だな?』
主に諜報活動担当の《翡翠》・・・猫だが犬だか分からない娘もアンジェラとぬぬ子の身柄確保に参加していた。新入りの《琥珀》だけでは難しいと思われたからだった。
『御上もご苦労様でした。』
『あるじをこき使いやがって。[女体化]は[獣人化]より疲れるんだよ。あの丸メガネのキン○マ握りつぶしてやりたくなったぜ。ああ、いやだいやだ。』
『フフフ、本当にご苦労様です。これもライカン族の繁栄のため。奴らにはあの女をおびき出すメッセンジャーになってもらわなくては・・・。』
車は信号に引っかかり一時停止した。その時後ろから白バイが追いかけて、《藍玉》の車の隣に寄せて言った。「あー、携帯使ってましたね。免許証!!」
「・・・・・・・・・・。」
第五幕 探索 斑目とアレックそして千佳子
週末の「お買い物」は急遽取りやめになった。事情を知らない二組の双子たちにはアンジェラとぬぬ子は用事が出来て先に帰った事にした。さらわれる現場に居合わせた千佳子は少し動揺していたが、うまく状況を取り繕ってくれた。
二組の双子以外の者たちはアンジェラの家に集まって対策を検討した。もちろん「お買い物」に同行しなかった春奈もその場にはいない。斑目とアレックと千佳子の三人だけだ。
「スージー先生に用があるからって・・・。一体何なの? どうなってるの? あいつら何?」
千佳子は激しく動揺している。斑目はその問いには答えずに携帯でスージーに電話を入れた。
プープー・・・・
電話は予想通りつながらなかった。
「千佳子ちゃんのお母さんも知らないんだね?」
「ええ、前にも言った通り。心配症の母ですけど流石にスージーもいい大人だからって。小父さんやアレックも知らないの?」
「もっもちろん!!」と二人は声を合わせて言った。
「・・・アンジェラさんは知ってたのかな・・・。」と千佳子はボソリと呟いた。
「うーん、・・・知ってたとしても我々に今それを知る事は出来ないからね。最も知っていればさらった奴らが我々にスージーに連絡をつけろとは言ってこないだろうし・・・。」
「知っててもむざむざ悪党に教える人じゃありませんよ!!」とアレックが怒鳴って机を叩く。
その様子に斑目と千佳子はビクッと驚いて萎縮した。
「あ・・・すいません。」とアレックは二人に謝った。
斑目はその場を取り繕うように「まっまあなんだ!! 前の事件とは違って二人の身に危害が及ぶ事はなさそうではあると思うけど・・・。」と言った。気を使い極力みんなを安心させるように努めた。
「結局、スージー先生に連絡つかないと、あいつらの正体も背景も目的も分かりませんけどね・・・。」と千佳子はフーとため息をつきながらも気休めに微笑んでみせた。
「・・・スージーの部屋のスペアキーって預かってないかな・・・?」
ふと思いついたように斑目がアレックに尋ねた。
アレックはしばし熟考した後で「・・・確か預かっていたはずです。探してみましょう。」
アレックは席を外して部屋の中を物色した。
「あった!! ありました!!」そう言ってアレックはスージーのマンションの鍵を持ってきた。
「とりあえず何の取っ掛かりも無いからスージーには悪いけど部屋に手がかりがあるかどうか探してみよう。」と斑目はアレックから合鍵を受け取りながら言った。
「学校が言っているように研修に出てるんじゃ?」
と千佳子が聞くと、
「いや、聞いてみたんだけど違うようだ。変だ。平教員の無断欠勤なのに学校の上の方でスージーの事を庇っているみたいだ。」と斑目は首をかしげた。
三人はアンジェラのマンション内にあるスージーの部屋に向かった。
「何か気まずいなあ・・・。」そう言いながら斑目たちはスージーの部屋に入った。
以前にもスージーの家には入った事はあるが、改めて入って見ると貴腐人らしい部屋である事がよく分かる。部屋にはヤオイ系同人誌が所狭しと置かれている。
しかし一方で冷蔵庫には日持ちのするドリンクとか最低限のものしか入っていない。家具や電化製品はすべてレンタル。自分のものは極力持たず、まるでいついなくなってもいいようにしているかのようだった。
「千佳子ちゃん・・・。女性の家だからねえ、俺たちが勝手に物色するわけにもいかないから、そっちの方の手がかりは頼むよ。」
「ええ、分かりました。小父さんは他の手がかりを探しててください。用があったら呼んでね。」
そう言って千佳子は寝室の方に向った。
「俺たちはパソコンの方の手がかりがあるかどうか探してみよう。」
斑目とアレックはスージーの机の上に置かれているノートパソコンを起動させてみた。
「特別、ロック解除とかパスワードは必要無いみたいですね。」とアレック。
「うん・・・。というかほとんど業務連絡とか仕事上の用途にしか使われてないね。」と斑目。
(の割りにセキュリティーとかいい加減だな・・・。)
内心でそう思ったがスージーの消失とは無関係そうなので黙っていた。
「ねえ、斑目さん・・・。僕たち監視されてませんか?」とアレックがふいに斑目に尋ねた。
「? どうしてそう思うんだい?」
「だって・・・二人をさらう奴らは尋常じゃないですよ。そんな奴らが僕たちにも出来る事をしないなんておかしいですよ。」
「・・・。言われて見ればそうだね。どういうことだろう。」
二人は顔を見合わせて戸惑った表情を見せた。
千佳子が寝室から出てきて「駄目ですね。寝室にも何もありません。」と途方にくれた表情を見せた。
三人は改めてスージーの部屋を見た。それなりにアニメキャラのアクセサリーや同人誌等で貴腐人風の部屋を演出していたが、生活の痕跡は著しく感じさせなかった。
台所も使われた形跡は無い。衣類も千佳子の話では宅配クリーニングによって洗濯されているらしかった。封を切られていないクリーニングもある。部屋の清掃もおそらく清掃業者が行っているようだ。
それなのに領収書や請求書も見当たらない。
「平教師の給料でここまでできるものかな?」と斑目は呟いた。
「たぶんここの賃貸の名義とか支払いの名義は母の名義になっていると思います・・・。」とアレックは言った。
「どうして?」と斑目は驚く。
「家でスージー姉さんの使ったと思われるクレジットの請求を見た気がします。それに本当に大事な『思い出の品』はスージー姉さんは母に送って保管してもらっているようでしたから。」
「つまり・・・自分の身の回りにはいつ捨ててもかまわないものしか置いていないという事か・・・。ウーム。」
斑目は唸り声を上げた。
(スージー・・・今どこだ?)
*********************
ぬぬ子とアンジェラは蛍光灯の光で青白く光る装飾も何も無い部屋に軟禁されていた。気を失っていたが、目が覚めるとベットに丁寧に横にされていた。よほど巧妙に気絶させられたらしい。特に怪我は無く痛みも感じられなかった。
アンジェラが周囲を見回すとベットの他に監視カメラだけがある。バスルームにはトイレも完備され必要なものはそろっていたが、凶器となる可能性のあるものは置いていなかった。
『捕虜』としてはそれなりの待遇と言えた。
「ここ、どこでしょう?」と不安そうにぬぬ子がアンジェラに尋ねる。
「さあ? 少なくとも国内であることは間違いなさそうね・・・。」とアンジェラは答えた。
ふいに密閉されていたドアが開く。
ドアには白いスーツにサングラスをかけた長身の伊達男が立っていた。両脇には長髪の女性と茶髪の少女が男に腕組みして立っている。
男は微笑んで言った。
「手荒な事をして申し訳ない、元『ガーディアン』のバートン女史。そしてヌヌコ嬢。用が済めば開放する。わたしたちが用があるのは『スザンナ・ホプキンス』なんだ。あなたたちには撒き餌になってもらう。」
『ガーディアン』という言葉を聞いてアンジェラは身構えた。
「あなたたち何者? ここはどこ?」
男は余裕の表情で答えた。
「誰とは馬鹿げた質問だ。元『ガーディアン』の君ならもう薄々気付いているだろう。ライカンスコープ族とその眷属だよ。わたしの事は便宜的に《藍玉》と呼ぶといい。こちらの長髪の女性は《瑪瑙》、そしてこの子は《琥珀》。
もう一人《翡翠》がいるが別の任務遂行中なので後で紹介しよう。」
誇らしげにその男は言った。
「すげえ、御上!! そんな長いセリフ、カンペ無しで喋った!!」と茶髪の少女ははしゃいで言った。
「フフン、すごいだろう。」
《藍玉》はさらに得意げに喋った。
「ここは昔、夢のゴミ輸送システムとして開発されたのにリサイクルやゴミ分別の時代の流れで放棄された施設を改造した夢の『秘密基地』だ!!数年前に国が統一された某国の旧体制派の残党の組織を乗っ取ったんだがな。」
ここまで《藍玉》が喋ると、隣の《瑪瑙》がたしなめて言った。
「御上、喋りすぎですよ!!」
「いけねえ!!」と《藍玉》は舌を出した。
「・・・とにかく身の回りの世話はわたしたちがやります。もちろん一流のホテルの接客とまではいきませんが我慢してね。」と《瑪瑙》は微笑む。
《藍玉》は腕を組みながら「一応、聞いておくが『スザンナ・ホプキンス』の行方は知らないか?」とアンジェラに聞いた。
「知らないわ。もっとも知っていても言うはずありませんけどね。」とアンジェラは毅然として言った。
その様子を《藍玉》はフフンと鼻で笑った。「まあ、そう言うとは思ってたがね。もっともシラを切っても強制や自白剤とか使わなくても情報を引き出す方法はあるから無意味だがね。」
《藍玉》は続けざまに言う。
「そしてそのお嬢さんの秘密もいずれ『スザンナ・ホプキンス』に喋ってもらおう。一体何を企んでいる?」そう言って《藍玉》は立ち去った。
後に残された《瑪瑙》と《琥珀》はぬぬ子とアンジェラの方を向いて言った。
「ああ見えても御上はお優しい方です。(馬鹿がたまに瑕ですが)心配する事はありません。」と《瑪瑙》。
「オバチャンたちを無傷で運ぶの苦労したんだからね!! すげえ重いしw」と《琥珀》は笑って言う。
「なっ、オバ・・・、口の悪い子ね!! それにわたしは重くなんてありません!!」とアンジェラは憤って言う。
「へへん、十代過ぎたらみんなババアだよ!!」と《琥珀》は十代の傲慢さで言う。
「あっあら、二十代に見えるって事?! 中々良い子ね!!」とアンジェラはコロッと機嫌が直る。
「ふふふ。《琥珀》は良い子ですとも。ところでオバチャンというのはわたしも入るのかしら? さあ、行きますよ!!」
そう《瑪瑙》は言って《琥珀》のほっぺたを引っ張りながら部屋を出た。
「痛てて、姐姐ごっごめんなひゃい・・・。」
《瑪瑙》に引っ張られて《琥珀》も立ち去った。
後に残されたアンジェラとぬぬ子は身を寄せ合った。そしてぬぬ子が「アンジェラさん・・・怖い・・・。と身を震わせて抱きつくのをアンジェラは抱き返して言った。
「大丈夫よ。きっと大丈夫。」
きっとあの人が救いに来てくれる。そしてスージーも・・・。そう・・・かつて祖母が・・・その小さな命が・・・幼子が・・・、狂乱の欧州から脱出する貨物船の中で、永遠の少女の腕に抱かれて守られたように今はわたしがこの子を守らなければならない・・・。
(ところで・・・可愛いわね、この子・・・。アレックが夢中になるのも無理ないわね・・・。)
アンジェラはムラムラとしてぬぬ子に頬ずりした。
「アンジェラさん? あ・・そこは・・・。キャー。」
「おのれは何やってんだー(怒)」と《藍玉》が叫び声に驚いて戻ってきた。
「おっ女の子同士はいいのよ、ハアハア。」
「良い訳無いだろー。それに誰が女の子だ!!」
「えーん、えーん。」とぬぬ子は泣いている。
「おお、よしよし。」と《藍玉》はなだめる。
「このシーンだけ見てるとどっちが悪役か分からないわね。」と《瑪瑙》がため息ついた。
第六幕 スザンナ登場 スザンナと斑目
「どうだ? 《翡翠》から連絡きたか?」と《藍玉》は《瑪瑙》に聞いた。
「ええ、連絡はきたのですが・・・。」と《瑪瑙》は戸惑った表情で答える。
「? 何だ? どうせあいつらに『スザンナ・ホプキンス』の居所なんて突き止められるわけないんだからな。あの女の方から接触してくるに違いないんだ。」と司令室の椅子をブラブラさせながら《藍玉》は言った。
「・・・それが・・・彼らはさらわれました。」
「な!!」
驚いて《藍玉》は椅子から落ちた。
「やられた・・・。味方をさらうとは発想がぶっ飛んでるな。ということは『スザンナ・ホプキンス』も組織を動かしたって事か・・・。一体奴のガーディアンは今は誰なんだ? ガーディアンがいなければ俺たち同様、社会との接点を持てないんだからな。」
「分かりません・・・。申し訳ありません。」
「まあいい。引き続き調査と監視を続けてくれ。今のところ、五分と五分・・・いや依然六分四分でこちらが優勢だ。」
*********************
スージーのマンションを三人で出た途端、大型のバンが横付けされ、三人は有無を言わさず拉致された。その手際のよさは明らかに特殊訓練を受けた者たちの動きだった。
「おわ!! なんだ!! おまえら!!」
(こんなんばっかだな、俺・・・。)
「静かに!! 我々は味方です。あなた方は監視されてます。監視の目を振り切るのにご協力ください。」とエージェントたちは静かに斑目たちに告げた。普通ならそれに納得して大人しくさらわれるような事はあるまい。
だが斑目たちはすでに『普通』の状態から大きく脱線しているのだ。味方にさらわれ敵に追いかけられるとは変な話だとは思ったが大人しく彼らに従った。
慌ててバンを追いかけてくる車があったが、あっさりと引き離された。そして別の建物から違う車に乗り換えるという念の入用で追跡者を振り切った。
そして今、斑目は一人でどこか分からない暗い部屋の中央に置かれた椅子に座っている。目が慣れてきても周囲の様子は分からない。全くの闇だった。
「・・・・・・・・」
静寂が辺りを包む。斑目はじとりと冷や汗を流した。周囲には何の気配も無い。だが突然背後から声がした。
「聖なる者、真実の者、ダビデの鍵を持つ者
彼が開けばだれも閉じられず、彼が閉じれば
だれも開かないお方はこういわれる。
わたしはあなたの業をしっている。わたしは
だれも閉じることのできない門を、あなたの
前に開いている。」
斑目はギョッとして体が硬直した。聞き覚えのある声・・・。スージーだった。
(いつのまに・・・全然気配を感じさせなかった。)
「あなたの前にその門は開かれている。その門とは違う門をくぐる『覚悟』があるなら振り向きなさい。」
スージーの声ではあるが冷淡な声が虚空に響く。斑目は振り返ろうとした。しかし体が動かなかった。どうしても振り返る事が出来なかった。斑目は冷や汗でびっしょりとなった。
「・・・それでいいのです。意志がすべてを決します。ですが意志を超えた力もまたあるのですね・・・。アンジェラがあなたを好きになるとはわたし自身も予想してませんでした。」
斑目はやっと一言言うことができた。
「アンジェラが・・・。」
「分かってます。大空を飛翔する鳥が深遠な湖に棲みたいと思わないように、湿潤で深く清い湖に棲む魚が空を飛ぼうとは思わないようにあなたは自分の本分に従いました。その境界を破る者が現れました。」
すると部屋に明かりが灯った。慌てて斑目が振り向くと誰もいなかった。椅子の前には出口があり、そこをくぐるとアレックと千佳子、そして普段通りのスージーがいた。
「あ、小父さん、どこにいたんです? スージー先生ならここに!!」と千佳子は斑目の方を見て言った。
「はぐれてしまったかと心配しました!」とアレック。
そしてスージーは「リーターヲ助ケタインダ!!」といつも通りアニメの真似をしてふざけている。
「ははっ・・・。」
さっきの事は夢だったのか、幻だったのか・・・。もし振り返ってたらどうなっていただろう・・・。
********************
《藍玉》は《翡翠》から受け取ったレポートに目を通している。《藍玉》のいる部屋には配下の三人のほかにアンジェラとぬぬ子もいる。
一番新入りという《琥珀》は「ほらネコミミ、ネコミミ」と半獣化してしっぽをフリフリさせながら、同世代のぬぬ子を相手にふざけている。ぬぬ子はクスクス笑って楽しんでいる。
「あ、すまん、これ何て読むんだ?」と《藍玉》は隣の参謀役の《瑪瑙》に聞く。
「御上、それは戸籍謄本(コセキトウホン)と読むんです。」
「馬鹿だニャ。」と猫顔の諜報役の《翡翠》が笑う。
「うっうるさい、英語圏で暮らすのが長かったから日本語は苦手なんだ!!」
「でもこの前、英語のスペルも間違ってたニョ」
「・・・・・・・・ゴッゴホン!! このレポート本当なのか?」
「アイ。」と《翡翠》が答える。
《藍玉》はアンジェラに向って言った。
「・・・・あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は奴の前で階段を登っていたと思ったら、いつの間にか降りていた』。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、
俺も何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。」
「・・・ええ、それやりたかったのね・・・。いいわよ〜。フー(汗)」とアンジェラは疲れた顔で言った。
「アンジェラ、あんた『初代』の事は知ってるのか?」と《藍玉》は急に真剣になってアンジェラに聞いてきた。
「? 何を聞きたいか分からないわ。『初代』って何のこと? 会った事も無い。わたしだってスージーの全てを知ってるわけじゃないの。」
「・・・そうだな・・・。だが会ったやつもいる。なのになんで存在の物理的証拠が無いんだ?」
「?」
アンジェラは何をそんなに不思議がっているのか理解できないといった顔をした。
「《翡翠》、調査では『初代』の在学中の記録を調べたんだな。」
「アイ。」
「在学中の委員会、ゼミの教授、その他同窓生はやつの事を覚えている・・・。」
「アイ。ずいぶん時が経っているから苦労したニャ」
「なのに在学記録も戸籍も居住地も経済活動の記録が無い・・・。あっても他人名義・・・。」
「アイ。」
「そっそうか!! 全部、現金決済なら記録は残らんな!! 偽造証明書とか!!」
「その痕跡も無いっス!! ボス。」
「じゃあ何か・・・。記憶には残っているのに物理的に存在する事を証明ができない・・・。物理的痕跡を消すのは不可能だ・・・。」
「じゃあ、この娘はどうだ? あ、こっちで聞かせろ!!」
そう言って《藍玉》は部屋の隅に《翡翠》をひっぱっていった。
「この娘の両親は実在するニャ。共稼ぎの普通の両親ニャ」
「偽装で仮親ってことは?」
「両親の身元、出生届け、母子手帳の記録・・・。まったく不備はないニャ。ただ・・・。」
「なんだ? 何かあるのか?」
「転校以前の『信者』たちからこの娘の記憶が消えてるニャ。」
「なぬ?」
「両親も離れて暮らしていて、生活費を仕送りしてるんだけど、なんか・・・娘の存在は知っているというか、信じていても具体的には何も覚えてないで仕送りだけせっせと送ってるニャ。」
「・・・じゃあ何か? 一方は実在しないが人の記憶に残り、もう一方は実在するが人の記憶から消えていく? てっきり『初代』がこの娘に関係があると思ったんだが・・・。」
《藍玉》は《琥珀》と戯れているぬぬ子の方を向いて呟いた。
「・・・じゃあ、あの娘は誰なんだ?」
*********************
「ここにSOS(スージーを・S・畏れ敬い・O・崇拝する・S・)団が結成されたわけですが・・・」
スージーが演説する。
「誰がだ!! 誰が!!」
斑目が突っ込む。
「本題に入れ!! 本題に!!」
「コホン・・・。不心得な下僕が一部騒いでいるようですが、アン・ヌヌコ救出計画を始動したいと思います。」
「ねえ、何で学校に来なくなったんですか?」と千佳子が聞く。
「転勤。」
「へ?」一同驚く。
「酔っ払って校長の頭にビールぶっ掛けたら転勤になった。」
「そっそんな理由で転勤なんてパワハラですよ!」とアレックが義侠心から騒ぎ出した。
「どうも他にもいっぱいやったみたい。」
「ははは。だからか! みんなの口が堅かったのは!」と斑目が笑った。
「どうして連絡してくれなかったんです? みんな心配したんですよ。」と千佳子が言うと
「せっかくだから赴任前に有給休暇全部使おうと思って。」とスージーはケロッとして言う。
斑目は高笑いして「わはは、そんな事だと思ってたよ!」言ったが、内心では(下手な嘘くさいが調子を合わせとこう、うん。)と思っていた。
斑目は続けざまに聞いた。「それでどうやって二人を助けようか?」
スージーは部屋のロッカーから何か衣服らしきものを取り出した。
「これは某国で開発された強化服です。白兵戦の低コスト化と生存率の向上のために開発されたものです。これをアレックとチカコ、着てください。」
二人はそのビチビチの強化服を別室で着替えてから部屋に戻った。
「なっ何か胸の辺りがキツイですね〜。」と千佳子が窮屈そうにしている。
中学生離れしたそのプロモーションに斑目とアレックはそろって顔を赤らめて顔を背けた。
「オーダーメイドではないので我慢して。その上から服を着れば目立ちません。」
「おっ俺には?!」と斑目はスージーに聞いた。
「・・・・・・・。」
「無しかよ!!」
(とりあえず何でそんなの持ってるの?とは聞くまい、聞くまい(汗))
「その防御力はこんなもんです。」
そう言ってスージーはやはりロッカーから拳銃を取り出してアレックにいきなりぶっ放した。
ドン!!
アレックがもんどりうって吹っ飛んでいる。
「痛ててててて。」
「おっおい!! 俺の息・・・。」
「俺の?」とスージーはニヤニヤしている。
「いや、何でもない・・・。大丈夫か? アレック君!」と斑目は顔を赤らめてアレックに手を差し伸べた。
「ええ、大丈夫です。」と咳き込みながら答えた。
「敵は撃ちますよと断ってから撃ちませんからね。」と平然とした表情でスージーは言った。
斑目はこの予測不能の行動力を頼もしいと思うと同時に改めて恐ろしく思った。
第七幕 救出 スージーと斑目そしてアレック、千佳子
スージー一行は斑目の運転するバンで「潜伏地」に向っていた。
「そんな分かってるんだったら早く助けるなり、さらわれないようにすればよかったのに!」
斑目はスージーに対してぼやいた。
「二人に危害は及びません。準備が整わない内は動くに動けなかったのです。」
「もう準備は万端という事?」
「ええ、携帯でテレビ中継を見て御覧なさい。」
斑目は千佳子に携帯を開いてもらって、車のフォルダーに固定してテレビを観てみた。
テレビは異様な光景を実況中継していた。GX-ガノタックスで使用された国産初号機・・・機動○士ガ○ダムそっくりな機械が街中で暴れまわっていた。もちろん器物を破損するだけの示威行動であったが、マスコミ、ネットで騒然となっている。
「こっこいつは?!」
斑目は驚いてスージーに聞いた。
「敵の目をひきつけてもらうようハルナと双子たちに頼んでます。ついでに潜伏地に自警隊を誘導してもらいます。」
「・・・いやはや・・・。(汗)」
(準備万端というわけか・・・。)
春奈と双子には害は及ぶまい。そんな手抜かりをするようなスージーでもないだろう。そこまでできる人が常人であるはずが無い。
彼女は何者なのか? 誰も彼女の心の内を知る者はいない。だがそれでもなお、スージーは自分たちの・・・げんしけんの仲間なのだと斑目は車を走らせながら思った。
一向はとある場所の排水溝の通気口から潜伏地に向かった。通気口を抜けて潜伏地のある場所に縦に横にとスージーを先頭に斑目、アレック、千佳子が続いて進んでいた。スージーが上に伸びている梯子を昇って、それに斑目が続いて昇っている時、思わず斑目はスージーに尋ね
た。
「なあ・・・スージー・・・。大学生活は楽しかったかい?」
それに対してスージーは無言で何も答えなかった。だが僅かに微笑んで頷いた気がした。
スージーはその時、斑目が下からキルト文様の巻きスカート(中にはズボンを穿いていたが)中を覗いていると気付いて斑目の顔に蹴りを入れた。
ゲシ! ゲシ!
「痛て! 痛て! 見てないって!! やっやめろ、スージー!」
「二人ともふざけてないで進みましょうよ〜」
下でアレックが騒いでいた。
*********************
潜伏地の外で起きている出来事は《藍玉》たちを動揺させた。
「あ、くそ。こっちにゆっくりと誘導してやがる。」
テレビに見入っている《藍玉》は叫んだ。
テレビでは機○戦士ガ○ダム似の機体が自警隊を誘導しながら彼らのアジトに真っ直ぐ進んでいる。
「あ、高射砲の直撃くらった! 所詮対人兵器か・・・。国家の機密兵器を持ち出せるほど今のスザンナのガーディアンは組織力を強化させてるのか・・・。『裏』社会で急造の組織を作った我々とは違うな・・・。せめてガーディアンの正体が分かればな・・・。」
《藍玉》は追い詰められているはずなのにそれを忘れて楽しむようにテレビに見入っている。
テレビでは直撃をくらったその機体の一挙一動に注目が集まっている。レポーターの解説もストップして沈黙が支配している。ネットの書き込みもストップしているとの事だった。
《藍玉》も黙って見ている。
頭と左腕を吹き飛ばされたその機体はヨロヨロと立ち上がり、右腕を高く掲げて(空砲の)ライフルを空に向って撃った。
その瞬間、テレビのレポーターは激しく実況を再開し、ネットの書き込みは過熱した。
「おお、誰かは分からんが、お約束を忘れていないな。うんうん。」と《藍玉》は感心している。
「それどころじゃありません。あの機体がやられたのはこのアジトの真上ですよ。このままだと某国の残党と自警隊との市街戦になります。」
《瑪瑙》は慌てて《藍玉》に訴えかけた。しかし《藍玉》はたいした事でも無いように答えた。
「まあ、失敗しても面白かったから満足だ。組織は壊滅してもまた作ればいい。それに目的は『スザンナ・ホプキンス』だ。奴は必ず来る。」
そのケロッとした言い方にアンジェラは呆れて《瑪瑙》たちに言った。
「あなたたちも大変ね。何でこんな人に仕えているのか分からない。」
《瑪瑙》は微笑んで言った。「ええ、御上は馬鹿ですけどね・・・。でもわたしたちは楽しいんですよ。わたしは不治の病でした。みんなにかわいそう、かわいそうと言われて死を待つだけでした。
その時、御上が現れて言ったんです。『お前には素質がある。この俺に仕えるか皆に看取られて幸福のうちに死ぬか、選べ。』って言ったんです。」
「そんな・・・そんな選択をさせるなんて、あの男はあなたを利用しているだけですよ。」とアンジェラは言った。
「さあどうでしょう。そうかもしれません。でもわたしはみんなに同情されて悲劇のヒロインみたいに死ぬのはまっぴらだと思いました。
わたしは自分の『生』を選び取ったのです。後悔はありません。一人で『天国』に行くくらいならあの人と『地獄』に堕ちたいと思ってるんですよ。」
「・・・・」
アンジェラは押し黙った。
《琥珀》も言った。
「あたしも親父の顔知らなくてさ、お袋が再婚した人はいい人だけど自分の居場所って気がしなくてさ・・・。学校の勉強もわかんねえし、渋谷でタムロしてると、いいカッコしいの『見回り先生』が自分に酔って説教たれんのよ。」
体を左右に揺らしながら嬉しそうに《琥珀》は話し続ける。
「そんな時に御上が爽快にそいつぶっ飛ばして『お前の素質を嗅ぎつけた。お前が必要だ。』って言ってくれたんだ。説教より嬉しかったね。」
その《琥珀》の嬉しそうな表情を見てアンジェラは何も言えなくなった。
「何、お前たち話しているんだ? そろそろ奴が来ると俺の勘が言ってるぞ。予想もしない不意をついてな。」
「こんなふうにな!!」
《藍玉》は叫んだ。
その叫びに皆が驚いていると、天井の通気口が開いてそこからスージーが鉄の棍棒を振りかざして《藍玉》を襲撃した。
鉄の棍棒は《藍玉》の頭部を狙って振り下ろされたが、《藍玉》が右腕でそれを防いだので頭部への直撃は避けられた。だかガードした《藍玉》の右腕は痛々しくえぐれて血を流した。《藍玉》は後方に飛んで退避した。《瑪瑙》と《琥珀》も傍によって守護する態勢を取った。
スージーはくるりと反転して着地した。そして「撲殺天女、撲殺天女」とふざけるように言った。その後からアレックたちがドサドサと通気口から落ちてきた。
「あいたた・・・。チカコ、重いよ。」とアレックが言うと「わたしそんな体重ありません!」と千佳子が怒った。斑目がのそりと立ち上がり、アンジェラと目が合うと照れくさそうに言った。
「やあ、アンジェラ、遅くなりました。」
スージーはその長い髪を三つ編みに編んで、さらにそれを頭部に巻きつけていた。右手には鉄の棍棒を床にコツコツと当てて音を立てながら身構えている。キルト風の巻きスカートの下には拳銃がホルダーに収められている。
《藍玉》は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ほら見ろ。油断してたら怒涛の一手だ。見かけに騙されるなよ。こいつには何度・・・。」
「御上、そう言いながらジリジリ後ろに下がってるっス!! こんなガキに!!」と《琥珀》
「いえ、《琥珀》ちゃん。御上の言う通りです。棍棒は軽い素材で出来ていますが非力でも遠心力で振り回せるように先端は重くトゲで打撃面を雑に破壊するようになってます。所持している拳銃もおそらく弾丸が変形する柔らかい素材で貫通力をわざと落としています。
再生能力を発揮できないように理にかなった選択です。」と《瑪瑙》は興奮しながら続けて言う。
「素敵!! 素敵だわ!! 聖賢と暴虐が微塵のぶれも無く同居してます!! こんな敵を殺せるなんて!!」と《瑪瑙》は半月刀を両手に身構えて言った。
「その敵に何度も負けてるニャ。」
《翡翠》が駆けつけてきた。
「《翡翠》!!警備兵は連れてきましたか?」
「ぬかりないニャ。」
「じゃあ、一斉射撃で一網打尽ですね。」
配下たちの言葉にオロオロしたのは《藍玉》の方だった。
「いや・・・それは卑怯と・・・。」
「御上!! そんな甘い事を言っていたから負け続けてたんじゃないんですか?! それとも・・・」
少し嫉妬を含んだ言葉で《瑪瑙》が《藍玉》を制した。
「わっ分かった・・・。まかせる・・・。」
駆けつけた警備兵たちは銃口をスージーたちに向けた。号令で一斉射撃を待つだけであった。
「やっやばくないか?!」と斑目はうろたえた。
「チェックメイト。」とスージーは静かに懐から奇妙なヘッドホンのような器具を取り出して、ぬぬ子に手渡した。
「ぬぬ子、これをつけて好きな歌を歌いなさい。」
ぬぬ子は戸惑いながら「いいんですか?」と聞き返した。
「いいのよ、これは『バジリコ』って夢探偵のアニメに出てきた器具をモデルに開発されたものなの。」
アンジェラはにっこり笑って言った。
ぬぬ子はその器具を受け取って身につけると歌いだした。
その器具の機能とぬぬ子の歌の効果を斑目はすぐに理解した。それは奇跡の歌だった。歌そのものはありきたりなどこかで聴いたようなありふれたアニソンだった。しかしその声はまるで多重奏で歌われたかのように重層的に鳴り響いた。
その歌は耳ではなく脳に直接伝達されていると理解した。おそらくその伝達は物理的な音の伝達の限界を超えて潜伏地全体に人を介して伝わっているに違いなかった。
警備兵たちは銃を下に下ろしてその歌を聴き入っている。その歌は日々の生活で感じられる悲しみや優しさを想起させ、波打つように心に響いてきた。
これは現実だろうか? 遠くから聴こえてくるようでもあり、近くから聴こえてくるようでもある。良く知っているようでもあり、まったく知らないようでもある。走馬灯のようにあらゆる感情と記憶が押し寄せる。
憎くもあり、愛おしくもある。悲しくもあり、喜ばしくもある。そんな気持ちを想い起こさせてくれるのは『彼女』ではなかった。そう・・・もうすでに『彼女』ではなかったのだ・・・。
我に返って自分の身に起こったことが他の者たちにも起きた事を知った。そして同じような感覚を感じたアンジェラと見つめあった。そして全てが決着したと知ったのだった・・・。
第八幕 最後の闘い アレックと《藍玉》
警備兵たちはがっくり放心状態になっている。彼らはすでに戦意喪失していた。
「なっ何が起きた?」と《藍玉》はうろたえた。
「落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…わたしに勇気を与えてくれる。2…3…5…7…11…14…17…19・・・。」
「おっ御上、落ち着いてください。14は素数じゃありません!!」と《瑪瑙》。
「まっまだ勝負はついてないって!! 警備兵がいなくてもわたしらだけで勝てるって!!」と《琥珀》は叫んだ。
《瑪瑙》は首を振って言った。「いいえ、まもなく自警隊が無抵抗のこの基地に押し寄せます。それに彼女たちに、特にぬぬ子に危害を加えようものなら、警備兵がわたしたちに押し寄せます。逃げましょう。」
「いや・・・いっ一騎打ちを所望する!!」
《藍玉》の言葉に敵味方一同唖然とした。いまさら一騎打ちを申し出ても劣勢が変わるわけではないのにと誰もが思った。
「いいでしょう。受けましょう!!」とスージーの返事にはさらに敵味方驚いた。
「ただし一騎打ちするのはこのアレックです!!」
「おっ俺?」
意外な指名にアレックは驚いた。
「アレック!! オスワリ!!」
その言葉にアレックはビクッとしてひざまずいた。
(お前・・・どんだけ躾けられてるんだ・・・。不憫な息子よ・・・(涙))
斑目は涙した。
「勝った! 俺は勝った!!」
《藍玉》は叫んだ。配下の女たちも喝采を送っている。「あんなガキ、一ひねりっスよ!!」と《琥珀》も騒いでいる。
その様子にアレックもムッとした表情を浮かべた。これでも格闘技を学んでいるし、なにより強化服を着ている。無様な闘いはしないはずだと思った。
「なめるな!! 受けて立つぞ!!」と叫んだ。
敵側の《琥珀》の姿を見て千佳子が目を細めて首をかしげている。
「チカコ? どうしたの?」とアンジェラが聞いた。
「ムム? いえね、あの子・・・。どっかで見た記憶が・・・。子供の頃かなー。あれー?」
臨戦態勢になった二人は向き合った。
すると《藍玉》の体がみるみる膨れ上がり服が破けた。そしてアングリと口をあけて驚いているアレックをはじめ斑目一行の目の前で《藍玉》は獣人と化した。そして狂獣の咆哮を上げた。
ゴアァァァァァァァァ!!!!!
アレックはプルプル震えてスージーの方を向いて言った。
「いや・・・あれはないでしょう・・・。」
「イケ、ネコヤシャ!!」
「アッアイアイサー(涙)」
ベキ、バキ、ボキ、グシャ ビチャ
「ゴハァ、貧弱、貧弱ゥゥゥゥ。」
ほとんど一方的な戦闘にすでにぬぬ子はフラフラと倒れそうになり、見てられず目を覆う者もいた。スージーがレフリーになって試合を取り仕切っている。
「はひふへ・・・。」
第一ラウンド終了して這いながらアレックは戻ってきた。「俺、シリアスなキャラだと思ってたんだがなあ・・・。」
セコンドの千佳子が水やタオルを手渡している。
「第二ラウンド カーン。」とスージー。
グワシャ メキメキ ガン ドクドク
第二ラウンドは杖をついて戻ってきた。「マジ無理! 不可能!」 よろめきながらアレックは言った。
そんなアレックにスージーが囁いた。
「『アレ』をやれば必勝の切り札を授けます。」
「『アレ』? いや、あれは恥ずかしいなあ・・・。」
「あ、そうですか、ヌヌコの前で無様に負けると・・・。」
「ホント、スージー姉さんは汚いなあ・・・。分かった。切り札をください!!」
スージーはニコリと笑って自分の手の甲をナイフで切って血の滴る手をアレックに差し出した。
「先祖より引継がれし契約をここに結ばん。さあ『血の契約』です。接吻しなさい。」
アレックはそれに従って血の滴るスージーの手に接吻した。するとアレックの傷はみるみると癒えた。アレックは驚きながらも目の前の敵を倒す事が優先事項だと思って問うのは後回しにした。
「アレック、『アレ』です。『アレ』。」
スージーはそう言いながらニタニタしている。
「『アレ』ですね、『アレ』。」
襲いかかってくる獣人を前にアレックは顔を赤らめながらラッシュパンチを繰り出した。
「無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄ァァァァ!!」
獣人は吹っ飛んでもとの人間の姿に戻った。
「ぐはあ〜。よくもぉぉ、おのれこんなあぁぁぁ。」
「テメーノハ敗因ハ・・・タッタヒトツダゼ・・・タッタヒトツノ単純ナ答エダ・・・テメーハオレヲ怒コラセタ・・・。」
スージーは冷淡に言い放った。
《藍玉》はのたうちまわって言った。
「逃げる! 逃げるぞ! お前たち、俺を逃がせ! 俺は生きるぞ!!」
「はい、御上!」
三人は盾になって《藍玉》を逃がした。
アンジェラが「あなたがたを置いて逃げるような卑怯者にどうしてそんなに義理立てするの?」と彼女らに言うと、《瑪瑙》は言った。
「地獄までも一緒と言ったではないですか。人に尽くすのは別に損得からだけではないでしょう。あなただってそうでしょう?」
アンジェラは反論できなかった。
「ただ《琥珀》ちゃんはお返しいたします。まだ道を選ぶには早すぎますものね。」
《瑪瑙》の言葉に驚いて《琥珀》は「ええ、いやだよ、姐姐たちと、御上たちと一緒にいるよ!!」と泣いて叫んだ。
「駄目ですよ。」
そう言って《瑪瑙》と《翡翠》は突入してきた自警隊に投降した。そして《琥珀》をアンジェラたちに預けた。
基地は自警隊に無抵抗で制圧され戦闘員はすべて投降した。斑目一行も自警隊の保護下に置かれた。
そして置き去りにされた《琥珀》はその場に泣き崩れて、慰めるアンジェラの言葉をよそに、ワアワア大声で泣いていた。
その様子を後ろで見ていた斑目はスージーがいないことに気付いた。
「あれ? スージーは?」
*********************
《藍玉》は通気口を逃走経路として必死に逃げていた。狭い通気口は這うのが精一杯だったが、逃走経路としてすでに確保してあるのでここを抜ければ安全である事を知っていた。
「くそ! 《瑪瑙》たちは上手く逃げたか? 捕まっても後で助けに行くからな!! リターンマッチだ! 『あの場所だ!! あの場所に行きさえすれば!!』」
入り口に差し掛かってほっとして《藍玉》は通気口の蓋に手を伸ばした。だが通気口は外にいる誰かの手で開けられた。
その瞬間、弾丸が《藍玉》の両目をつぶした。
「目っ目がぁぁ目があぁぁ。」
「バルス!」
「! その声はスザンナか?! 逃走経路まで先回りか!! しかもこんな狭い通路じゃ獣人化もできん! だが銃じゃ俺は殺せんぞ。」
「わたしの血を塗った弾丸なら?」
「・・・お前のその無駄の無い用意周到さが嫌いなんだよ!! ここはもう少しかっこいい必殺技で倒すもんだろうが!」
「ヤレヤレ、命乞イカ? ダガオ前ハ生物トシテノ一線を超エタ。ダメダネ。」
「そのセリフたぶん正確じゃねえぞ。これで倒せたと思うなよ、カリスマ悪役は『復活』するのがセオリーってもんだ。たとえ最後は地獄に落ちるとしてもな。いずれは地獄でまた会おう。」
《藍玉》は閉じられた目から血の涙を流しながら微笑を浮かべ穏やかに言った。
スージーも静かにその言葉に頷いた。
そして引き金を引いた・・・。
終幕 スザンナの消失
改めて斑目はアンジェラの方を見た。もはや迷いは無かった。この答えにたどり着くまでにどれだけの時間を無駄にしたというのだろう?
アンジェラもまた再び生きて斑目に会えた事を喜び、斑目の方に歩み寄っていった。
だがそれでもなお、人の意志を超えた出来事というのは避けられない。破損したパルブが破裂してアンジェラの胸部に破片がぶつかるなど誰が予想できよう。
アンジェラは信じられないという表情を浮かべて、血のにじんできた自分の衣服に視線を落とし、そして斑目の方を見て崩れさった。
慌てて斑目もアンジェラに駆け寄って、必死に傷口を抑えた。
千佳子もぬぬ子も青ざめて立ちすくむ。アレックはただ呆然と目の前の死を無力に見つめる自分を呪うだけだった。
アレックは「誰か・・・誰か・・・助けてください・・・血が・・・血が止まらないんです・・・。」とただ泣き喚くだけの男が自分の父である事をもはや恥じたりはしなかった。
アンジェラは途切れそうな意識の中でか細く呟いた。「うれしい・・・。幸せだわ。こうして私のために泣いてくれるなんて・・・。ああ、でももし助かったなら・・・。」
アンジェラは歌った。胸部に重い損傷を受けていたからちゃんとした歌にはならなかったが・・・。
『わたしと一緒にきて下さい。
輝く海を超えてあの国へ
わたしたちが見知った世界を遥かに超えたところで
夢の世界より遥かな彼方で
これまで味わったどんな喜びより
遥かな彼方で待っているのです。』
「それ、『イノセント』だろ?いいから!!もう歌わなくていいから!!」
『わたしと一緒にきて下さい。
愛する者にしか見えないこの道を
楽しい夜の年月の彼方に
涙を そしてわたしたちが無駄にした年月を超えて
光の中に続いている道です。
わたしと一緒にきて下さい。
この山の奥の彼方の国へ
いつも心に抱いていた音楽の全てが空を満たしています。
沈黙の歪みの中で歌えば
心は開放されます。
そうしている間にも世界は回り続け
そして落ちていきます・・・』
途中でアンジェラは意識を失い、どこまで歌ったのか夢の中で歌ったのか、それとも彼方の国で歌い続けていたのか分からなくなった・・・
*********************
「で、どうなったわけ?」
と春奈は尋ねた。
春奈とアレックはボクササイズのスパーリングをしている。
「どうしたもこうしたも、破片は深くまで達しなかったらしくて・・・。胸の部分は血管が細かいので出血が派手に見えただけなんだってさ・・・。」とアレックは憮然として答える。
「へえ、九死に一生を得るならわたしもがんばってみようかな、巨乳!」と胸を持ち上げ、春奈はポーズを取ってみせる。
「かっからかってんのか?!」
アレックは顔を真っ赤にして怒り出した。
「冗談、冗談。で、斑目さんは渡米してアンジェラさんと一緒にいると・・・。あんたが斑目さんの息子だなんて意外と言えば意外なような、当然といえば当然なような・・・。」
「・・・・・・。」
「アレックはずっとこっちにいるんでしょ?」
「しょうがないね。大体、『この単語何? ああこれはね?』なんてデレデレしたやり取りそばで聞いてられないね!」
「要するに仲がいいのに当てられて逃げてきたと・・・。」
シシシと笑いながら春奈は言った。
「・・・・・・・。」
「結局、スージー先生は転勤とか言っていなくなるし、斑目さんもいなくなるし、寂しくなるね。」
「ヌヌコがいるから俺は全然。」
その言葉にムッとした春奈は少し意地悪げに言った。
「ところでさー。《琥珀》って言われてた子いたじゃん。」
「ああ、何か他人のような気がしないんだよね。父親を知らないなんて他人事とは思えない。親身になって相談に乗ろうかと思ってるんだ。」
「ふーん、偉いねー。ところで、ところで!! あの子、双子たちの従兄弟だって!! しかもあたしたちの一つ下! アレックとは二つ下になるのかな。」
「え! そうだったの?」
アレックは驚いて聞き返した。
「そうそう。千佳子がどっかで会ってるって感じたのは間違いじゃ無かったんだ。双子の叔母さん、父親の名前絶対明かさなくて双子の父さんたちと揉めたらしいよ。それで疎遠になってたって!」
「・・・・・・・」(何か嫌な予感・・・。)とアレックは思った。
「でさー。その話、斑目さんにしたら顔青ざめちゃって! 必死に指を折って数えているんだよね。」
ピタ
アレックのボクササイズのスパーリングの動きが止まってワナワナと震える。
「まっまさか・・・まさか!! あの野朗!!」
『こっこれでも許せると思いますか!! 皆さん!!』とカメラ目線でアレックは叫んだ。
「? 誰に言ってんの? 話変わるけどさー・・・斑目さんが渡米する日! ぬぬ子ちゃんが『一人前の泥棒さんになるまで待っててください』とか言うんだけど、これ元ネタはアニメ?」←ダメ押し
アレック 卒倒
「あれ? アレック?」
その時、トレーニングルームに双子たちがドヤドヤと入ってきた。
「春奈ちゃん、春奈ちゃん! 大変なの! あれ? アレックどうしたの?」と千里。
「ああ気にしないで。どうしたの?」
「母国に帰国したよねちゃんから送られてきた動画なんだけど、これがびっくり!!」と万理。
「よねちゃんが空港で見かけた人を携帯の動画に収めたのをメールで送ってきたんだけど、これがびっくり! 見て見て!」と千里は興奮して叫ぶ。
春奈は言われた通り、携帯動画プレイヤーに転送された動画のデーターの再生画面を見た。
R国の『東方を制圧し統治せよ』を意味する都市の国際空港で一人の金髪碧眼の少女がクマのぬいぐるみを抱えて空港を歩いている。服装や保護者らしき人と一緒なのを見ても、一見普通の十代の少女のようにしか見えなかった。しかし・・・。
「あれ? スー・・・スージー先生に似ている・・・つーか、どう見ても・・・。」
「でしょでしょ!」と双子は声を合わせた。
三人は体を乗り出して食い入るように動画に見入った。
動画はその場の音声も拾っていた。
「スー先生! スー先生とちゃう?」
米子の存在に気付いたその少女は米子の問いには答えなかったが、米子の方を向き、携帯で撮影されている事に気付くと、無愛想な表情を和らげた。
まるで『カウガール・ビバップ』のラストシーンのように手をピストルのように指を立て、そしてゆっくりとその手を下ろしウインクした。そしてもしスージーであったら滅多に見せたことが無かったであろう笑顔で微笑んだ。
「バーン!」
完
投下終了です。もうこの際なので最後まで投下しました。時間とスレ占有
失礼しました。koyukiファンの方々にはすいませんでした。
あと
>>242と
>>243が重複してます。誤字も一箇所見つけてしもた・・・。
私のセカンドジェネレーションはこれで終了です。続ける度に設定が
増えてくるのでやめときます。
(マイナー路線ですが)私のアンと斑目の物語は終了です。スージーはじめ
旧世代は退場です。
あくまでもパラレルですので、別設定の双子症候群に挑戦されたい方は
私の設定を気になさらず書かれてください。
くたびれたのでこれにて失礼〜。
>スザンナの消失
大作乙&シリーズ終了乙でした!
でもまだ色んな話つくれる余地ありありですよねこの設定。
外人コンビの正体が………元ネタが何なのか疎いので分かりませんが、社会の知らない影の部分で闘うという、アンダーグラウンドな話割と好きです。
それを『彼女ら』でやるのが意外で楽しい。
アンの回想に出てくる北欧からの出自とスージーとの因縁など、バックグラウンドも気になります。
敵役が憎めないのも良い。
つか………恵子? 斑目?………??? あの野郎…恵まれ過ぎだろ(笑)。
>koyukiファンの方々にはすいませんでした。
>(マイナー路線ですが)私のアンと斑目の物語
なんの。koyukiの書き手が双子症候群を待望してたので無問題。
僕も9巻出るまでは斑目はアンと繋がれば…と思ってましたし。
>『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…わたしに勇気を与えてくれる。
わかった! 俺も数えてみる(孤独泣)
>>203-209様、ご感想どうもありがとうゴザイマス。
>斑目のスク水姿も見たかったです。(マテ
やはりそのシチュエーションでは、笹原とダブルでスク水を来て露天風呂デスネ!
>スーとアンジェラが斑目取り合ってるよぉ〜w
SSの斑目って、ほんと恵まれていますな。自分で書いていてナンですが、素でウラヤマシス。
>「ルナ先生」
二次元しか愛せない
↓
現実の女と付き合ってもギャップ感じる
↓
交際失敗
↓
斑目クンが死んじゃう!
↓
個人授gy(ry
>スク水でごはん3杯おかわりできた俺が通りますよ。
絵板でもおかわりしていただいてアリガトウゴザイマスwww
>たぶん今ごろ奥さんの筆センサーがピコーンと。
ちょ、オモシロ!!
千佳と薮崎はちょうど食事を経てティータイムにまでなだれ込んでいるいはずなので、ありそう(笑)。次回たぶん出ないけれど、恵子も置いてけぼり(外人コンビ避けたとも思われる)を食って合流してたりして……。
>スーが本気で怒るともうイキナリ実力行使ですかっ!
>これは実に感情豊かなスージーですね。
スージーがどこまでジェラシーを表面に出すか難しいトコロですよね。
9巻で笹原のミゾオチを殴りつけたようにさり気ない実力行使をしたり、猫夜叉オスワリのように気に入らぬコトに対して結構ストレートに情感を出す部分も(オマケ4コマですが)散見できましたので、そのあたりを参考にしていました。
280 :
マロン名無しさん:2007/04/09(月) 00:06:10 ID:HpRS84aK
ageます
>>278 ああ、どうもこんな書くのも読むのも投稿するのも一苦労な長駄文に感想ありがとうございます。
とりあえず晒しておかないと冷静に、かつ客観的に自分の書いたものを
見れなくなってますから・・・。気をつけていたつもりでしたのに誤字がぁぁぁ。
まあ、それはよいとしてとりあえずハッピーエンド?の一区切りがつかない
と落ち着かなかったものでしたから。
後は後日譚のような形で短編を読みきりで続けるやもしれません。
とりあえずしばらくは人様のものをゆっくり鑑賞させていただく心積もりです。
koyuki続編を気長に心待ちしております。
>スザンナの消失
前半読んでるうちに最後まで投下されちゃったw
最終話お疲れ様でしたー。残念ですがまずはひと段落ですね。
しかしアレックのキャラ立ちましたねー見事に。初登場時には拳銃弾一発で倒れてたのに、最後は半死半生ギャグまでこなすように。こいつは父親以上だw 一方で血みどろの暗黒抗争がありながら、ストーリーがなんだか呑気に展開していくのはお見事でした。
そして最終的に旧世代のハッピーエンドと、新世代の新ストーリーへの含みを残して終える。シリーズ長編の風呂敷のたたみ方としては理想的ですね。誰かが続き書いてもおかしくない。
……えー。書きたいこと一杯あるんで整理して改めてどっかに。いずれにしてももうちょっと読み込んでからにします。
なんでとりあえず「双子の叔母さん」話キボンヌしきますね。ほんじゃ。
283 :
マロン名無しさん:2007/04/12(木) 22:57:45 ID:036+BvRG
あげ
ほしゅ
285 :
マロン名無しさん:2007/04/15(日) 10:08:21 ID:PErmq8rI
ほしゅ
第一の要求
人命の人種別国別による重さと値段?
回答!!命にはハナから価値はない!!
第二の要求
法律・宗教以外で戦争を含めた「殺人はいけない」という理由
回答!!理由はない!!あれば法律や宗教など必要ない!!
第三の要求
世に棲む生きとし生けるものすべてが自由に平等に美しく明るく楽しく暮らせる幸福と善意と優しさと愛に満ちた世界の要求
回答!!そんな世界は永久にない!!
287 :
マスター オブ 生殺し:2007/04/15(日) 20:15:12 ID:QwLXLfrE
お久しぶりです!!
新作の構想も出来上がりタイトルも決まりましたのでそろそろ投下します。
なお自分は関東へ今まで3回しか行っていないので間違ったところがあるかもしれませんが
ご容赦ください!!
大阪府平方市
とある家の一室とう言うより『一室の押入れ』と呼ぶのがいいだろう
締め切られたその中でブラウン管が明々と灯りテレビの前に座る『女性』の顔を照らしていた。
彼女はテレビに映る人物に話しかけている・・・・。
傍から見たら『危ない光景』であろう・・・
だがテレビに映る人物とは会話が成り立っている、どうやらテレビ電話のようなものだと思われる。
「それで、本題は何なんだ?」
「ええ実は・・・『奴』がいきなり原宿に行きたいと言い出しまして・・・」
「東京か・・・・・しかし何でまた?」
「いやそれがマッタクモッテ・・・奴のすることは毎日ロリ画像を眺めて自分のジョイスティック動かして
海老のにおいを漂わせているだけでして・・・・」
「ふむ・・・」
「それがいきなり『おしゃれなカッコでクレープ食べりゅ〜』とかなんとか
まあ『穴』を使えば簡単ですけど・・・」
「でもそうやって外に出て行くことは奴にとっても良いことではないのか?」
「そうなんですがね・・・でもいきなり原宿・・・この数ヶ月『委員長』までしか遠出していない奴が・・・
何か裏があるような気がして・・・・そこで『天使長』出来れば一緒に・・・」
「う〜ん」テレビに映された人物『天使長』と呼ばれた彼女は険しい顔をした。
どこまで部下の仕事に干渉して良いのか?職務上の立場と『原宿でクレープ』という魅惑がせめぎあっていた。
乙!
順調に生殺してくれてるようでGJ!
どんな話になるのかまだ見えないけれど期待してるよ。
ほしゅ
>悪魔が来たりて笛を吹く
アレとのコラボですね。期待保守
ホッシュ
今くじアンの1巻を買ってきた。
本編はさておき(スマンくじアンファンの人)問題は巻末のおまけ漫画。
何とその後のげんしけんだ。
(と言っても3ページほどだが)
ネタバレになるので詳しいことは書かんが、その中である重大な出来事があった。
実は俺、今その後の現視研系の長編を書いている。
以前書いた話の続きなのだが、以前の話でも今書いてる話でも、斑目相変わらず桜管工事工業から通ってる。
さて、どうしたものか。
自分の話はあくまでもパラレルと割り切って進めてもいいが、一応俺は原作の設定になるべく忠実にをモットーにしている。
(まあオリキャラ11人も出した人間が言っても説得力無いが)
まあいい、何とか辻褄合わせ考えてみよう。
しまった、読み返してみたらサラリとネタバレしてしまっていた。
ごめんなさい。
まあ、ネタバレというほどでもないんじゃないんですか。
少なくとも笹原卒業後の話書いている人はほとんど「なんじゃこりゃあ!!」
(松田優作調)と思っているはず・・・たぶん。
296 :
名無:2007/04/24(火) 23:04:16 ID:mXMCuoju
確かにあのネタは驚いたなぁ〜
買ってくる
まあ…はは。
何気にさらっとあの爆弾発言は…
まあ斑目が元気ならそれでいいんですけどね
アレはもうしょうがないw大野さん爆弾発言以来の衝撃でしたwww
こんな大胆な梯子外しをされるとは思ってもみなかった。
俺も(今まで書いたものも含めて)パラレルってことにする。
ぼくおしめイケズ。んもう。
保守
SSが遅れてすまんほしゅ
お久しぶりです。
以前やたらと登場人物の数だけは多いSSを書きまくっていたバカです。
実は今、以前書いた夏コミの話の続編を書いています。
正直言って、まだまだ書き終わりません。
何しろ40レス(1レスあたり40字×20行ぐらい)を超えているのに、まだ前半が終わりません。
そんな長編を書いている中、斑目君がえらいことをしてくれました。
前の話も今度の話も、斑目が桜管工事工業から部室に通ってることを前提で書いてたのに、それを見事にチャラにされてしまいました。
「あくまでも自分の話はパラレル」と割り切ってもいいのですが、敢えて原作にこだわってみることにしました。
そんな訳で長編の中で説明するつもりだったのですが、それが長くなり過ぎたので独立したSSにしました。
当初は「〜人いる!」シリーズの外伝とするつもりでしたが、他の方々のSSの前にもつなげられるように、汎用型で仕上げてみました。
15レスで5分ほど後に投下開始します。
笹原たちの代の会員たちの卒業式の数日後、斑目は会社を辞めた。
理由は言うまでも無い、春日部さんの卒業だった。
とは言っても、春日部さんの来ない部室に用は無いといったニュアンスではない。
どっちかと言えば、部室に行けば嫌でも春日部さんとの4年間を思い出してしまいそれが辛い、そういう理由だった。
理性の上では吹っ切ったつもりでも、感情の方は今でも未練タラタラなのだ。
そこで物理的に部室に行く生活習慣を絶つべく、先ずは会社を辞めることにしたのだ。
今住んでるアパートも、近い内に引き払うつもりだ。
会社を辞めてから3日目の昼、斑目は久しぶりに外へ出た。
この2日間、彼は自分の部屋から1歩も出なかった。
会社の人に会うのが怖かったからだ。
3日前、最後の仕事を終えた後、社長の机の上にそっと辞表を置いて帰った。
一応社長や事務のおばちゃんでも使えるように、パソコンのフォーマットを整理し、彼らに分かるように手書きの説明書を作って置いてきた。
彼らはブラインドタッチは出来ないが、1本指で入力は出来るので何とかなるだろう。
そうは言っても、この2日間は落ち着かなかった。
何時会社から電話があるか分からない。
携帯の電源を切り、息を潜めるように過ごした。
3日目に出てきたのは、部屋の食料の買い置きが尽きたという、極めて単純で現実的な理由からであった。
とりあえず近所のコンビニに行き、弁当を買った。
『今までだったら、このまま部室に向かうんだよな』
などとふと考えたのがきっかけとなり、斑目の頭の中で猛烈な勢いで思索が始まった。
2日間家に引きこもっていた反動で、外を歩いたことで一気に脳が活性化したのだ。
そして思索が途切れて我に返った時、斑目は部室の前に立っていた。
習慣とは恐ろしいものである。
『何で俺はここに居る?』
そう思いつつも、斑目は観念して部室に寄ることにした。
『ひょっとしたら、これが最後になるかも知れんしな』
「うぃーっす!」
部室には笹原が居た。
「やあ斑目さん、こんちわ」
「あれっ、お前もう仕事始まってるんじゃなかったっけ?」
3月に入って卒業が決まると、笹原は早くも研修を始めていた。
「派遣は正社員よりハンディ背負って社会に出るんだ、始めるのが早いに越したことはないさ」
笹原の上司、小野寺のそういう信念からの措置だった。
「実は今から出勤なんすよ」
その後斑目は、「くじアン」の新刊をネタに、笹原と他愛の無いオタ話に興じた。
そこへ会長に就任した荻上さんと、入学はまだなのだが某イベントに参加すべく来日していたスーがやって来た。
荻上「何で卒業したはずの人間が2人もいるんですか?」
笹原「いやはは…俺は今から出社でね」
斑目「あー俺は会社辞めたから」
話の流れのせいでサラリと告白してしまう斑目。
だがそのひと言は、ディオのスタンドのように部室の時間を数秒間凍結させた。
やがて凍結解除され、笹荻揃って声を上げた。
「えっ!?」
「ジョブチェンジ?」
スーがナチュラルな英語でつぶやいた。
斑目「だってホラ私服でしょ?」
そういう問題ではない!
荻上「やっぱり春日部さんが…あっ!」
思わず自分の口をふさぐ荻上さん。
斑目の爆弾発言のあまりの衝撃に、春日部さん以外の女子の間で緘口令の敷かれていたトップシークレットが、つい口をついて出てしまったのだ。
笹原「春日部さん?…あっ!」
相変わらずリアル恋愛には朴念仁な笹原も、さすがに荻上さんのひと言の意味に気付いた。
明らかに今のひと言に、斑目が赤面滝汗で過剰に反応しているからだ。
斑目「なっ、なっ…」
次の言葉が出て来ない。
笹原「斑目さん?…まさか、これってもしや?」
スーの次のひと言が斑目に止めを刺した。
「好キッテコトダヨ」
斑目は暴発した。
「知ったな!うわああああああああああああ!!!!!!!」
絶望先生風の絶叫と共に泣きながら部室から逃走することが、この時の斑目に出来る最善の措置であった。
その後斑目は、どこをどう歩いたか覚えていない。
日が暮れるまで町を彷徨い続けた。
気が付くと、夕暮れの町を自分のアパートに向けて歩いていた。
『やってしまったな、ついに。これでもう2度と、部室に顔は出せんな』
途方に暮れながら帰ってくると、自室の前に人影が見えた。
背は低いががっちりした体格の、頭の禿げ上がった初老の男だ。
傍らには彼の物らしい鞄が置かれていた。
その人影に斑目は見覚えがあった。
「社長!?」
思わず声を上げてしまう。
人影の正体は、斑目の元の職場「桜管工事工業」の社長だった。
「よう遅かったじゃねえか」
何が何やら分からぬまま、斑目は社長を自室に招き入れた。
とりあえず社長に座ってもらい、お茶を用意する。
お茶の用意をしつつも斑目は落ち着かなかった。
怒られるか殴られるか、はたまた人情絡みの説得をされるのか、そういう不安が大半であったが、別な不安もあった。
オタルームに一般人のお客を招き入れたことに対する、本能的な不安だった。
部屋の中は、以前会員たちが来た頃に比べれば、かなり片付いていた。
その代わりに段ボール箱が積み上げられている。
いずれここを引っ越すつもりだったから、この2日間部屋にこもっている間、ひたすら部屋を片付け荷造りをしていたのだ。
とは言ってもそこは斑目ルーム、一般人の目には怪しげに見えるグッズはまだまだあった。
だが社長はそれらには目もくれずに、黙って座り込んでいた。
斑目がお茶を出すと同時に、社長は開口一番こう言った。
「お前さあ、仮にも大卒の学士様で事務職なんだから、就業規則ぐらい読んどけや」
「しゅうぎょうきそく?」
予想外の単語に、思わずオウム返しに言ってしまう斑目。
「そんなもんあったんすか?」
「失礼だなあ、そりゃうちは従業員ウン十人の零細企業だから、法律的には作らなくてもいいよ。でもな、作っちゃいけないとは言ってないんだから、そりゃ作るさ」
「で、その就業規則が何か?」
「いいか、うちの会社はな、特別な理由が無いなら、辞める1ヶ月以上前に俺に言わなきゃいけないんだよ」
「そうだったんすか?」
「そりゃそうだろ?お前さん、いくらオタクだからってマンガの見過ぎだよ。今時辞表だしてハイさよならっつー訳には行かないの!」
この場合のマンガとは、コミックとアニメの両方の意味があることは言うまでも無い。
(この年代の人は、アニメのことをマンガと言う人が大半だ)
「いいか、辞めるとなったらお前さんの後釜探さにゃならんし、その後釜に引継ぎもせにゃならん」
「はあ…」
昔気質の職人のような社長のことだから、頭ごなしに怒鳴られるかもと覚悟していた斑目、意外に理詰めで攻めてくる社長に面食らい、大人しく拝聴し続ける。
「それにだ、労基法じゃこっちがクビにしようと思ったら、1ヶ月以上前に言って退職金用意せにゃならん。だったらそっちにもこれぐらい求めても、バチは当たらんだろう?」
「そうですね…」
「それとも何か?惚れた女が卒業するってのが、特別な理由だとでも言いたいのか?」
再び赤面滝汗の斑目。
「なっ、何でそれを?…」
「そりゃ分かるさ。毎日のように大学の部室に飯食いに行き、嬉しそうだったりガッカリしたりしながら帰ってくるんだよ。普通女絡み以外あり得んだろ、そんなの」
「ははは…」
「知ったな!」と叫んで逃げ出したい衝動をかろうじて耐える斑目。
「まあ真面目な話、お前さん辞めてどうするんだ?次の仕事はもう決まってるのか?」
「いえ…」
「無茶な奴だなあ。そんじゃあさあ、お前何かやりたいことはあるのか?」
「いえ、特には…」
社長は斑目の両肩をガッチリと掴んだ。
「えっ?」
緊張で体を硬直させる斑目。
「だったらうちに戻って来い!」
「えっ?」
「お前が何かうちの仕事以外にやりたいことがあって辞めるんなら、俺も止めんよ。でも、とりあえずそんなもんは無いんだろ?」
「はあ…」
「それにだ、お前失恋のショックで自殺とかする気があるのか?」
「いっ、いえそんなこと…」
必死で首を横に振る斑目。
「だったらうちに戻って働け!いいか、どんな悲しいこと辛いことがあっても、人間は死なない限り生きていかなきゃならないんだ!」
「まあ、そりゃそうですね…」
「そして生きるってのは金を使うってことだ!金を使いたきゃ金を稼がにゃならん、金を稼ぎたきゃ働かにゃならん。つまり生きていくってことは働くっことだ!」
「はあ…」
「分かったら明日から出て来い!この3日間は有給にしといてやるから!」
社長は自分の鞄から作業着を取り出して斑目に渡した。
「社長、これ上下ですね?」
「そうだ、明日はこれ着て来い。スーツは畳んで持って来とけばいいから」
「と言いますと?」
「明日からお前さんに、外の仕事の基礎を教えてやる」
「おっ、俺配管工もやるんすか?」
何時の間にか斑目、戻るとも戻らないとも言わないまま、明日出勤するのが前提のように話を進め始めていた。
「まあ助手程度で本格的なやつじゃないけど、何せ人手不足だから今後は外の仕事もちょくちょく手伝えや。その代わり帰りにゃ部室にも寄って来ていいぞ、いや寄って来い!」
「えっ?」
「実はうちのカミさんから言われてるんだよ。お前さん真面目に働いてる割にモテなさそうだから、誰か女紹介してやれって」
「奥さんがですか?」
社長の奥さんは重役兼経理担当で、斑目とは職場で毎日顔を合わせていた。
「でもさあ、俺のその手の人脈って、水商売系しか居ねえんだよな。どうもお前さんみたいなタイプには、やっぱり女のオタクの方が似合いそうだしな」
「それはそうですね…」
「だからさあ、この先お前さんに新しい出会いがあるとしたら、やっぱ大学の方じゃねえかな?」
「新しい出会いっすか?」
「まあまだ今は、そういうこと考えられねえだろうけどな。でもまあそう言わず、また明日から行ってこいや。後輩たちだって寂しがってるんじゃねえか?」
「いや、それはどうだか…」
昼のことを思い出す斑目。
『向こうだって気まずいだろう…』
「ああもう、まだるっこしいな!いいから明日から会社来い!そんでまた昼飯ん時に部室行って来い!ちょっとぐらい遅れて帰ってきてもいいからさあ!(大声で)返事は!」
「はいっ!」
社長の気合いと迫力に思わず返事してしまう、受け体質の斑目だった。
斑目の部屋を出た社長、夜道を数歩歩いてピタリと立ち止まる。
そして振り返ると、角の方に向かって話しかけた。
「あんなもんで良かったかい?」
角の向こうで、数人の人間がうろたえるような気配がした。
「出て来いよ。居るのは分かってんだから」
ばつの悪そうな顔で、角の向こうからぞろぞろと出てきたのは、現視研の面々だ。
昼間部室に居た荻上さん、スーに加え、大野さん、クッチー、恵子の5人だ。
荻上「こんばんわ…」
朽木「いやあ社長さん、よく分かりましたなあ」
社長「そりゃ分かるよ、人の部屋の前であんだけガチャガチャ騒いでたら」
荻上「ははは、すいません…」
恵子「ったく、大野さんが騒ぐから」
大野「私ですか?どっちかと言えば朽木君が…」
朽木「わたくしでありますか?」
社長「ああもう、それぐらいにしろ。まったくお前らなあ、盗み聞きするならもう少し静かにやれよ。まあ斑目はいっぱいいっぱいだったから、多分気付いてないと思うけどな」
一同「すいません…」
「それにしてもよう、昼間お前らが来た時にゃ何事かと思ったぜ」
斑目が逃げ去った直後、部室では「第1回 斑目さんをどうしよう会議」が開かれた。
就職活動の帰りのクッチーや大野さん、それに遊びに来た恵子も会議に加わり、先ずはとりあえず斑目の退職を何とかしようということになった。
(この後笹原は出勤した)
そして一同は桜管工事工業に出向き、全員で社長に理由を話して頭を下げて、斑目の退職撤回をお願いしたのだ。
実は社長、これによって春日部さんのことを知った。
まさか大学卒業した斑目が、春日部さんに会えればそれでいいという中学生並みの恋愛をしているとは、さすがに想像出来なかったのだ。
社長「だってそうだろ?得体の知れない若いの5人にいきなりそんなことされちゃ、普通ビビるだろ?ましてやそん中にゃ、こんな外人のおチビちゃんまで居るし」
チビという言葉にスーが反応した。
スー「誰ガ顕微鏡デナイト見エナイみじんこどちびカ〜!」
大野「Sue〜〜〜〜!!!」
社長「(驚き)そこまで言ってないって…何だ日本語分かってるじゃねえか、このおチ…いや外人のお嬢ちゃん」
大野「まあ分かっていると言うか何と言いますか…ハハハ…」
スーの言葉がアニメの台詞であると説明するのは手間と考えたか、現視研一行は笑って誤魔化した。
荻上「今日はいろいろとご迷惑をお掛けしました」
社長「まあいいさ。おかげで斑目を引き戻す口実が出来たんだからな」
実は社長、現視研の面々が訪問するまで、斑目を辞めさせる気満々だった。
昔気質の彼は、今まで目をかけてやった斑目が黙って辞めたことを心底怒っていたのだ。
その一方で、彼は斑目が辞めるのを惜しいとも思っていた。
中卒のコンプレックスのせいか、社長は大卒という肩書きを世間以上に重く見ていた。
実際話してみると、自分や他の社員たちに比べ、いろいろものを知ってるし考えている。
大卒が1人居るといろいろ重宝する、本気でそう思った。
だが自分の会社のような零細企業に大卒の社員が来ることは、斑目が最初で最後かも知れない。
だが勝手にフラリと辞めた奴を簡単に戻すのも、気持ち的に落ち着かない。
そんな「さあどうしたものか」な状態の時に、現視研の面々がやって来たのだ。
それは彼にとって渡りに船であった。
社長「それにしてもダメな先輩だよなあ、斑目って。こんなに後輩たちに心配かけやがってよう」
荻上「まあ、それがあの人の味ですから…」
本音を言えば『斑目さんは、笹原さんと付き合うきっかけを作ってくれた恩人だから』というのもあったが、さすがにそれは言えなかった。
荻上「それに今、現役の正規の会員って私だけなんで、たとえOBの人と言えども1人でも多い方が心強いんです」
恵子「あっ、ひでえお姉ちゃん」
大野「まあまあ、椎応の学生じゃないって意味ですから。ちゃんと荻上さん、あなたも会員だと思ってますよ」
朽木「それに斑目さん来てくれないと、男子はわたくし1人になってしまうであります」
スー「置物モ、ドカシテミルト景色ガ落チ着カナイワネ」
社長「何でえ、やっぱその嬢ちゃん、日本語喋れるじゃねえか」
荻上「まあ、喋れると言うか何と言うか、ハハハ…」
やがて社長は斑目の部屋の方を向き、こう言って立ち去った。
「いい後輩持ったなあ、斑目よう」
翌日、斑目は再び桜管工事工業に出勤した。
朝の内は社長と共に外の仕事をし、昼前に大学の近くまで戻って来た。
そして車から降ろされた。
「ゆっくりして来いや。後の事務仕事は、今日中にやってくれりゃ何時からやっても構わねえからよう。ただし、残業代は付けねえけどな」
社長はこう言うと、斑目を置き去りにして会社に戻った。
「うぃーっす」
斑目が部室に入ると、荻上さん、スー、クッチー、大野さん、恵子の5人が出迎えた。
恵子「あっ、斑目さんが帰ってきた!」
荻上「(笑顔で)お帰りなさい、斑目さん!」
一同「お帰りなさい!」
斑目「ははは…メイド喫茶じゃないんだから…」
恵子「いやこの場合はやっぱ『お帰りなさい』でしょ、斑目さん。何せあんた、ここの主なんだから」
斑目「俺は初代会長ですか…(突如敬礼し)恥ずかしながら帰ってまいりました…なんちて(苦笑)」
朽木「(立ち上がって敬礼し)おつとめご苦労様でした!」
斑目「あの、朽木君、ムショ帰りじゃないんだから…」
スー「あむろトハ、イツデモ遊ベルカラ」
斑目「えっ?…もしかして、あれをやれと?」
大野「まあ、お約束ですから」
一瞬間を置いて呼吸を整えると、斑目はスーのネタ振りに応えた。
「僕にはまだ、帰れるところがあるんだ…こんな嬉しいことはない」
そう言って斑目はニカッと笑い、会員たちも笑い、現視研の部室にはいつも通りのゆるりとした空気が戻った。
ゆるりとした空気漂う部室の中で、斑目は思った。
もしかしたら初代会長が俺に引き継ぎたかったのは、会長職というよりも現視研を見守り続けることだったのかも知れない。
あの人が何年ここに居たのかは今となっては分からないし、俺もこの先何年ここに通い続けられるかは分からない。
まあいいか、そんな先のことを考えてもしょうがない。
運命か宿命かは知らんが、行けるとこまで行ってみるさ。
そして可能な限り、ここに来る若いオタクたちの行く末を見守り続けて行こう。
まあ見守るだけで精一杯だがな。
以上です。
現在執筆中の長編の方も、近々投下したいと思います。
ちなみに今度は学祭の話です。
そして登場人物の人数は…また増える予定です。
う〜ん、流石に斑目といえど、辞表を机においてそのままトンズらで
辞められるとは思わないと思うが・・・。
就業規則云々以前に民法の2週間縛りがあるわけですし。(民法 第627条第1項)
あとどうでもよいですが、就業規則は10人以上雇用する使用者には作成義務があります。
(労基法 第89条)
氏の作品のファンで、基本的には面白いSSだったので余計気になりました。
無礼のほどご容赦を。
>>319 ちょっと気になったことがあって読み直しに来てみたら、早くも感想が…
すみませんすみませんすみません!!!
どうやらいろいろ勘違いしていたようです。
やっぱSS書く時には、ちゃんと資料で確認すべきですね。
なまじちょっとだけ社労士の勉強やり始めたのが仇になってしまいました。
就業規則は何か50人以上ぐらいで記憶してました。
(多分安全衛生か何かと勘違いしてたんだと思います)
あと解雇に関する項目は読んだのですが、2週間縛りの方までは未確認でした。
重ね重ね失礼しました。
今回のはひとつ、社長の勘違いと斑目の若気の至りと解釈して頂けると幸いです。
雇用者側は不当に人身拘束する権利を有しないという理由から労働者側の
「権利」として辞めたい時にはいつでも辞める事はできるとは聞きます
よね。(もちろん二週間後に、有給を消化して?) あんまり詳しくないけど。
業務の引継ぎ漏れや解雇扱いによる双方の不利益のトラブル回避の為に
まず慣例としては退職届け提出の二週間後に双方の合意の下辞めるのが
通常でしょうけど。
けっこう雇用者や被雇用者も労使トラブルに巻き込まれないと知らない
ままというケースもあるらしいからいいんじゃないですか?このくらい。
俺なんか斑目失踪させちゃいましたものね、気まぐれと勢いと思いつきでw
あーはっはっはっはっ・・・、俺はどうしよ斑目・・・orz
斑目お前って奴は……。
バイトとかもした事無さそうなので、「逃げる」と云う意味ではかなり有りかと。
続き楽しみにしてます。
>>319 現実にそれやって辞めたって話聞いたことあるよ。
ただ、やっぱ保険証の返還とかしてくれないと困るって会社の総務が言っていた。
俺が聞いた話の場合、総務の人が回収に行ったんじゃないかな?
中小企業に実際勤務してると、「連絡もよこさず突然退職してるヤツ」や、「アメリカ映画ばりに『お前今日でクビ』って社長に宣告されるヤツ」がホントにいるとよく判るのですよw
事務上のコトはどうにかなるモンです。なので逆に本作はリアリティを感じてしまった。
基礎固めは必要でしょうが、この作品においては修正や注釈がなくても楽しめると思います。
さて感想。つじつまあわせお見事!
いろいろ考えてるようで実は大して考えもなく会社プイ辞めしてるのが斑目っぽくてよかった。
学生時代から生活感のなかった斑目、実は実家裕福とまで言わなくてもどうにかなるご身分なのではないかと考えたことがあったのを思い出した。
そして社長に直談判に行く現視研メンバーえらいw
このアルゴリズムは原作にはないものなのですが、これまで積み重ねてきた「〜いる!」シリーズならではの連帯感や結束感が生きていますね。
おもしろうございました。いいGWだ。
>帰ってきた斑目
う〜ん、GJ!
色々とうっかりさんなところがマダラメらしくていいと思った。
実際、辞め方良く知らなくてこんな辞め方する奴いるだろうしw
残った人には迷惑だけどwww
しっかし、シャチョーさんといい現視研メンバーといい、
愛に溢れてるなあw
斑目は幸せなヤツだよ。
…ワシの中では一ヶ月前に退職願を出してきっぱり辞めてるトコしか想像できなかったので、
このSSはなんだかとても安心いたしますた。
326 :
マロン名無しさん:2007/05/07(月) 10:40:45 ID:zNTnAt8J
age
ぽしゅ
328 :
マロン名無しさん:2007/05/12(土) 22:19:02 ID:svOzHAqC
そういえばmixiの方で144氏がいましたね。これからもSSを書いていくとあったので期待して待ってます
329 :
マロン名無しさん:2007/05/16(水) 06:28:13 ID:CoU3mJae
age
初めまして、初めて鬱斑目話を書いてみました。
初めてで、しかも携帯からの投下ですが7スレ程汚します。
ザワザワと賑わう居酒屋に、現視研のメンバーが集まっていた。
OBの笹原、斑目、田中、久我山、高坂、春日部と、現会員の大野、荻上、朽木、スザンナ達だ。
笹原達の追い出しコンパ以来、このメンバーが全員集まるのは久しぶりだった。
収集をかけたのは高坂と春日部。
「皆飲み物何にする?」
田中の言葉に皆が酒を注文する中、春日部が一人オレンジジュースを注文した。
「どうかしたんですか咲さん?」
いつもは飲まない物を注文した春日部に大野が聞く。
「私、今酒飲めないんだ」
困った様な春日部の言葉に、高坂を除く全員が目を丸くする。
しかし、大野と荻上は、すぐにその意味を理解した。
「まさか!」
「咲さん?」
全員の目が春日部に集中する。
「あー、うん。今妊娠してる。三ヶ月だって」
照れて赤くなりながら、春日部は自分の下腹を優しく撫でる。
「本当でありますか!?」
「やっぱり。おめでとうございます!」
口々に祝福の言葉が贈られた。
「どうかしましたか斑目さん?」
笹原が隣に座っている斑目に声をかける。
呆然としていた斑目は、我にかえると眉を寄せて苦笑した。
「ははっ、何かびっくりしちまってさ。」
「そうですよね。春日部さんがお母さんかぁ……」
感慨深気に言う笹原に「七ヶ月後だけどね」と春日部がツッコミを入れる。
その光景を見ながら、斑目は笑う自分をどこか遠くで見下ろしていた。
(この滑稽な男は何だろう)
諦められたつもりでいたのに、何故こんなにもショックなのか自分でも分からない。
(希望があるとでも思っていたのか?
だからこんなに苦しいのか?)
「近い内に結婚式するから、皆来てね」
笑顔で言う高坂に、斑目は答えられなかった。
腹の底に、タールの様なドス黒い感情が溜っていく。
たった独り、斑目だけが二人を祝福出来ない。
自己嫌悪で今すぐここから逃げ出したくて堪らなくなる。
「トイレ行って来るわ」
いたたまれなくなった斑目は、そう言って席を立った。
(このまま帰る訳にはいかんか……)
用をたした斑目がトイレから出ると、出入口に春日部が立っていた。
どんな顔をして良いのか分からず、斑目は軽く手を上げて前を通り過ぎようとする。
そこに、春日部が声をかけた。
「あんた何変な顔してるの?」
春日部の言葉に、斑目は自分自身の醜さを見透かされた様でドキリとする。
「式絶対来てよ?これでも、皆には高坂の事で感謝してるんだから」
そう言って笑う春日部の笑顔が、斑目にはとても美しく見える。
(幸せそうな笑顔
俺の物では無い
高坂の笑顔)
「もちろん行くよ」
(笑え。笑え)
斑目は自分にそう言い聞かせ、辛うじて苦笑した。
「そ、良かった」
春日部が斑目の横を通り過ぎ、トイレへ入って行く。
斑目は笑顔を作ったまま、皆の元へと帰って行った。
(好きな人が幸せなら、もっと嬉しくてもいい筈だろ?)
独り帰路につきながら、斑目はゆっくりと下を向いて歩く。
かなり酒を飲んだのにも関わらず、まったく酔えなかった。
(そうだ、これで本当に手の届かない存在になったんじゃないか。諦められる!)
(諦められる?)
そこまで考えて、斑目は自分の胸をギュッと掴んだ。
(じゃあ、何でこんなに苦しいんだよ?
全然平気になんてなってないくせに!)
今までは、確に希望があった。
二人が別れるかもしれないと云う希望が。
しかし、今は違う。
二人の『絆』が確固たる形で体現される。
子供が産まれる事によって。
泣きたかった。
泣いて感情を吐き出してしまいたかった。
しかし、眼は渇くばかりで、腹にはタールが溜り続けている。
「春日部さん……」
斑目の呟きは、道路に落ちて、消えた。
以上です。
初心者で勝手が良く分かりませんでした。(^_^;)
>どうしようもない
わっ、新作が来てた!
うーむ、特別ひねった展開が無い代わりに、ありそう感はヒシヒシと伝わってきますな。
原作の外伝っぽい。
初めてとしては上々の出来だと思います。
あとこの話の斑目君にひと言だけ。
斑目よ、そういう時にはこう叫んで走り出すんだ、明後日の方へでいいから。
「絶望した!こんな情けない自分に絶望した!うわあああああああ!」
340 :
マロン名無しさん :2007/05/17(木) 23:32:15 ID:faBP4gQx
久々の投稿かぁ〜
斑目の未練が露になってるなぁ〜
>どうしようもない
初投稿乙です
これはいい欝SSでつね…(泣笑)
文章とか、雰囲気とか、すごく読みやすくて良いです。
(だからこそ、さらにラメの憐れさが際だつというか…(涙))
結婚式編も読んでみたい、と言ってみる。
できれば是非。おながいします。
たちなおれ斑目!
うああ、感想ありがとうございます!
>>339 〉初めとしては〜
ありがとうございます。
〉叫んで走り出すんだ〜
自分もそう思います(笑)
>>341 〉文章とか、雰囲気とか〜
ぐはぁっ!嬉しい……。
〉結婚式編も〜
よ、予想外のお言葉。でも絶対これ以上に鬱ですよ?
ずっとSS投下してみたかったので、反応いただけて本当に嬉しいです。
まぁ、ぶっちゃけると、自分の経験談なんですけどね(爆)
だからこそ思いきり鬱に書けたんデスケド。
続きは正直難しいです……。
>どうしようもない
新作だー。乙さまです。しまったレス返しも来ちゃってる(汗)。
一レス行数が少ないですが一文あたりの文字数も短いので、結果バランスのいい投下になってるし読みやすかった。
中身は……(; ;)哀しすぎる。作者氏のご経験となればなおさら涙が止まりません。イ`。
携帯で長編は大変だと思うけど、本作くらいの掌編は読む方も気負わずに読めるので個人的にはけっこう好きだ。
本作から何編か派生できそうだし、また書けたら投下お待ちしてますよん。
うわああ・・・
いつの間にか新作が・・・
何でしょうこの胸をキュンキュン締め上げる内容はwww
>どうしようもない
ほんと、どうしようもなく切ないですね…。
斑目ぇ……。
そこまで苦しいのなら、思いっきり吐き出して爆死した方が心が安まるような気もしないでもない……。
苦しむ斑目を見て楽しむ我々がいる…
348 :
マロン名無しさん:2007/05/24(木) 13:28:03 ID:aBrC21Gy
age
あぼーん
「どうしようもない」の続きが出来ましたので投下します。
鬱になる予定が違う話に!?
こんな高坂も有りかと。
斑目は自宅の玄関を開き、空を仰ぐ。
(いい天気だ……。)
ボウッとそんな事を考えながら、溜め息をつくと、目的地へと出発した。
結婚式場へと到着した斑目は、先に着いているであろう現視研メンバーを探す。
(来ちまったな。)
春日部の結婚式。
ふっきれてなどいない。
しかし、斑目の選択肢に「欠席」の文字は無かった。
春日部と約束した事もあるが、欠席する事で他のメンバーと顔を合わせづらくなるのが嫌だったせいだ。
「こんにちは。」
後ろから声をかけられた斑目が振り向くと、そこには白いタキシードに身を包んだ高坂が立っている。
一瞬ドキリとしながら、「よう。」と挨拶を返す斑目。
眩しいほどに白いタキシードは、高坂に良く似合っていた。
「今日の主役がこんな所に居て良いのか?」
「はい、まだ時間ありますから。」
キッパリと言う高坂の表情はいつも通りの笑顔で、緊張は見られない。
「皆は先に咲ちゃんの所に行きましたよ。」
奥を指差す高坂の言葉に、斑目は困った様な笑顔を浮かべる。
もちろん、春日部のウエディングドレス姿は見たい。しかし、行った所でこの前の様に辛くなるだけだ。
そう思い、その場に立ち尽くす。
「しっかし、以外だったな……。」
ポツリと斑目が呟く。
「まさか春日部さんが『できちゃった結婚』なんてな。もっと二人で居たかったんじゃねぇか?」
からかいなどではなく、斑目は素直にそう思っていた。
「そうですね……。」
少し言い淀む高坂を、斑目は以外に思う。
「ちょっと良いですか?」
高坂は斑目を人気の無いロビーへと誘った。
二人で歩きながら、斑目は内心又地雷を踏んだのかとビクビクしている。
(マズイ事聞いたかな……。)
ロビーにあるソファーに座ると、高坂は笑顔を消し、真剣な表情で斑目と向かい合う。
「誰かに聞かれると思ってました。いずれは皆にも言おうと思ってます。」
「?」
何を言おうとしているのか分からず、グッと斑目が身構える。
「これ、咲ちゃんにも言って無いんですけど。
実は、子供、僕がワザと作ったんです。」
ポカンと口を開けた斑目が、「はっ?」と聞き返す。
突然の告白だが、それが何を意味するのか斑目には分からない。
「僕、咲ちゃんと結婚したかったんです。」
「いや、でも、お前らならそんな事せんでも、結婚出来たんじゃ……?」
もやもやとした感情を押し殺し、斑目が尋ねる。
「そうですね。急がなくても、いずれはそうなっていたと思います。」
迷いの無い、高坂の答え。
「でも、それだと僕と咲ちゃんの仕事が落ち着いてからになっていたんじゃないかな?
二人共忙しくて、結婚所じゃ無かったから。」
斑目の心がチクリと痛む。
「咲ちゃんが『結婚』を望んでいる事は分かってました。はっきりした『絆』が欲しかったんだと思います。
でも、仕事が軌道に乗っているとはいえ、この時期に結婚は言い出せなかった。もちろん僕も……。」
そこで言葉を切ると、高坂は苦笑して斑目を見た。
「だから子供を作りました。いやおう無しに結婚出来る様に。」
斑目は自分の足元を見つめながら、高坂の言葉を反芻する。
(春日部さんはそれを本当に望んでいたんだろうな。)
そうでなければ、あんな笑顔が出来る筈が無い。
「それは、春日部さんの為か?」
「はい。でも、半分以上は僕自身の為です。」
思ってもいなかった高坂の言葉に斑目は驚いて顔を上げた。
「僕も不安だったんです。咲ちゃんが何時まで僕の側に居てくれるのか。」
いつも堂々と自信が有り、春日部を振り回していると思っていた高坂の意外な一面に、斑目は戸惑う。
「咲ちゃんはいつも頑張っている人だから。
前、大学の火事の時に気付けなかったのは、そんな彼女に、僕が甘えていたからだと思います。
咲ちゃんよりも、本当は僕の方が彼女が居ないと駄目なんですよ。」
斑目は何も言えなかった。
(そう言えば、高坂が春日部さんの事を必要だと聞いたのは初めてだな……。)
何故か、あまり嫌な気分では無い。
今まで、斑目は春日部を一方的に想っているだけで、高坂の存在を忘れていた。
嫌、気にはしていたが、『春日部が高坂を好き』な事だけに気を取られ、『高坂が春日部を好き』な事を考えていなかった。
斑目は高坂が嫌いでは無い。その技術と生き方は尊敬すらしている。
だからこそ、自分と比べて卑屈になっていた。
(俺は……。)
暗い霧が晴れる様な感覚。
(結局、俺はただ春日部さんに『想われている』高坂が羨ましかっただけだ。二人を見ようともしないで、自分の価値観で二人を見て、決めつけて、指をくわえて見てたんだ……。)
「斑目さん?」
自分の思考に没頭してしまった斑目に、高坂が声をかける。
「ああ、悪い。」
ハッとして高坂を見ると、その顔には笑顔が戻っていた。
「良いのか?こんなこと俺に言っちまって。」
斑目の言葉に、高坂は笑って頭を掻く。
「皆にも言うつもりなんですけど。咲ちゃんもこの事気付いてるみたいなんですよ。」
「え、そうなの?」
「責任取れって言われましたし。」
何と言って良いのか分からず、斑目は顔を背けた。そして、ポツリと言う。
「案外尻に敷かれそうだな。」
「そうですね。」
二人で苦笑していると、此方にやって来る現視研メンバー達が見えた。
「こんな所にいた!もう時間だよ高坂くん!」
笹原が手を降って叫んでいる。
「あ、いっけない」
高坂は立ち上がると、小走りに控室へと戻って行った。その後ろから斑目もメンバーの元へと歩く。
皆と席へとつきながら、斑目は自分が笑っている事に気が付いた。
ドス黒いタールは何処かへ消えてしまっている。
まだ胸の痛みが消えた訳では無い。春日部への想いも消えてはいない。
それでも、二人を祝福出来る事が純粋に嬉しかった。
(いつか、思い出に出来るかな?)
春日部と高坂が入場して来るであろう扉を見ながら思う。
司会が登場し、音楽が鳴り響く。
扉がゆっくりと開くのを、斑目は少し辛く、それ以上に幸せな気分で見守った。
終わり
以上です。
高坂が咲に『甘えている』事が書きたかった訳です。
ノロケですね。
>結婚行進曲
ああ、うう、すごくいいですね。
コーサカがすごく生き生きしてる気がして、読んでて楽しい。
んで、ラメさんが救われてる。
(前回の「どうしようもない」で一度どん底な気分を味わってるからこそ、
このすがすがしい気分がすごく際立ってる。)
もー!文句のつけようがない!!スバラシイ!!
いい話読ませてもらいました。
コーサカ視点は自分も挑戦したことがありますが、
ふだんは見えない「人間らしさ」と、
あと抜け目がないっつーかちゃっかりしたイメージでかくとわりと雰囲気出る気がする。
>結婚行進曲
こりゃまたある意味問題作。
結婚する為に子供作ったって…
考えようによっては自己チューで鬼畜な所業だが、高坂がやると一途な愛ゆえの緊急措置に見えるから不思議だ。
まあ咲ちゃんも承知みたいだから結果オーライかな。
斑目もある意味救われたし。
それにしても、下世話なことは百も承知でいろいろ考えてしまった。
どうやってわざと子供作ったんだろう?
コンドームに穴開けといたとか、体温計細工しといたとか、ピルとビタミン剤とすり替えたとか。
いやいや高坂のことだ、散々咲ちゃん責め倒して意識朦朧状態で生で…
失礼しました。
もう感想来てる!
>>360 うわー、ありがとうございます。
高坂には一度咲について語らせてみたかったのですよ。
>>361 やはりツッコまれたか……。
正解は、『バックで動いてコンドームを破った』でした!(爆)
高坂が狙わないかぎり失敗は有り得ないと思っているので。
詳しくはエロパロで
364 :
マロン名無しさん:2007/05/28(月) 22:55:05 ID:yYJlh6qt
本業の芸能プロデューサーが忙しいらしいぞ
>>365 それは初耳だ。というかむやみに個人情報を晒す場ではあるまい。
自重せよ。
367 :
マロン名無しさん:2007/06/04(月) 07:57:12 ID:pwNHExki
>>なんで知ってんの?関係者?
アイマスにハマってて自サイトすら更新してないって話なんじゃないかと。
てゆーかスレはSSで伸ばそうぜ。
俺も頑張るようorz
369 :
マロン名無しさん:2007/06/10(日) 06:49:10 ID:RJH6G3/3
age
キメェ
またどーせすぐ落ちるさ
あと168KBしかないか、SSスレ。
今書いてる長編、まだ前半も終わらないのに、およそ80レス分突破してしまった。
途中までで投下しようかとも思ったんだが、それだとスレ2つにまたがってしまうことは確実だ。
そこでその長編から派生した短編を書いて先に投下しようと思ったんだが、それも長引いて長編化しつつあるし、うーむ…
既に作品を書いているならスレのことや外野の意見は気にせずに投稿するべきだ。
投稿しなかったら後悔することになるだろう。
オギーが妄想を作品にしなかった時のように。
またいでも、しっかり読ませてもらいますから!
でも80レス分って凄いね。
他人のふんどし・・・じゃなかった。
他人の書いたSSをベースにして、自分なりのSSを書きました。
たいした話じゃありませんが、読んでいただければ幸いです。
377 :
マロン名無しさん:2007/06/17(日) 23:46:19 ID:4qLCsGEH
斑恵!斑恵!
昨日のうちに投下しようと思ったらモデムが壊れて接続できなくなってしまった・・・。
何かの呪いか?
というわけで SSの狭間で 前半10レス投下します。
荻上と笹原が結ばれてから2週間が経とうとしていた。
笹原は落ち着かない。
ここ1週間ばかり笹原は荻上さんに会っていないからだ。
どうやら笹原と結ばれたことで創作意欲が異様に沸いてきたようで、
作品を仕上げるのに夢中になってるらしい。
今はその作品を仕上げる以外のことは考えられないといって、ほとんど会うことがない。
携帯でメールを送ってもそっけない返事しか返ってこない。
ふうっ。
げんしけんの部室で笹原がため息をつく。
(まあ、普通の子ではないから覚悟はしていたけど・・・・)
もうちょっと二人で過ごす時間をとってもいいんじゃないか?
そう笹原は思うのであった。
笹原が気にしているのは荻上のことだけではなかった。
斑目も、ここ1週間、部室にきていないのである。
あれだけ毎日、昼休みになるとコンビニ弁当を
持参して部室で食べていたのに・・・。
待てよ?と笹原は思った。
二人が部室に来なくなった時期が妙に符号するなあ・・・。
何かよからぬことを考えそうになって笹原は首を振る・・・。
(それはないわ)
うーんとおおきくのびをして時計を見ると既に昼だ。
(飯でも買ってくるか)
そう思った笹原は大学の近くのコンビニで弁当を買うことにした。
笹原がコンビニに入るとちょうど斑目が弁当を買っていた。
会社が近くなのでこういうところで顔をあわせることがあっても不思議ではない。
「あ。斑目さん。」気軽に声をかける笹原。
「仕事忙しいんですか?最近、部室で顔見ませんけど。」
「あ・・・うん・・・そういうわけじゃないんだけどね・・・。」
そういうと斑目は笹原と目を合わせるのを避け、コンビニを出て行こうとした。
「??どうしたんですか?」
斑目の不審な態度に疑問を感じた笹原が後ろから声をかける。
「あ・・・いや。なんでもないんだ。気にしないでくれ。」
まるで笹原から逃げるように去っていく斑目の背中を笹原は疑いの眼差しで見つめた。
(どうして、俺を避けるんだ?)
(やべー。笹原にでくわしちゃった・・・)
コンビニから出ると額に噴出す汗をぬぐいつつ斑目は思った。
恵子とやってから笹原にあわす顔がない・・・。
部室にいくと恵子や笹原に会うかもしれない。
その時、俺はどういう顔をすればいいんだ?
やっぱ笹原にはそのことを報告しなくちゃならんのか?
斑目はそのことで悩み部室への足が遠のいていたのだ。
(変に思っただろうな。今日の俺の態度・・・)
そう気にかけながら斑目は弁当を持ってとぼとぼと会社に戻っていった。
(なんで、あんなこそこそするんだろ。何か俺に対して後ろめたいことでもあるのかな?)
笹原は斑目の不振な態度がずっと気になってしようがない。
大学が終わり、自宅に戻ってからも、斑目の態度が頭にこびりついてはなれない。
(荻上さんもそうだ・・・普通、男女がああいう関係なったら
もっと親密な交際がはじまるんじゃないのか?)
(荻上さんが俺を好きなのなら・・・なんか・・・もう・・・もっと・・・こう・・・)
もどかしい気持ちが心に渦巻き発散できないもやもやが澱のようにたまっていく。
そういえば荻上さんの描いた漫画は斑目さんが良く出てたよな・・・。
もともとメガネ受けだっていってたし・・・。
ん?斑目さんって上石神井連子が好きだったよな・・・確か・・・
・・・あの二人・・・お似合いなんじゃないか・・・
笹原には嫌な過去があった。
高校の時、つきあってたと思っていた彼女が実は既に他の男とつきあっていたということがあったのだ。
しかも相手の男性は部活で自分の先輩にあたる人間だった。
その女の子は優柔不断で笹原の告白を断ることができなかったと言っていたが・・・
体よく二俣をかけられていたというだけかもしれない。
真相は笹原にもわからない。
やがて女性の態度が自分に冷たいものとなり、先輩の態度も変わった。
(おかしいな?)
二人の自分に対して豹変した冷たくよそよそしい態度が気にかかるうちに
男の方から「俺の彼女に手を出すな」的なことを強く言われて笹原と彼女の関係は終わった。
その時、笹原は誰もいない部屋でこっそりと咽び泣いた。
本当にその娘のことが好きだったからである。
その苦い思い出は過去のものとして心の奥底にしっかりと鍵をしめて忘れることにしていた。
そんな苦い思い出がよみがってきた。
その経験とここ暫くの荻上・斑目の態度がオーバーラップする。
(あの時とおんなじだ・・・)
笹原はゴロリとベッドの上で寝返りをうった。
(実はあの二人は既にげんしけんのみんなに内緒でつきあってるんじゃないか?)
それを知らずに皆があおり立てて・・・
いや、でもそれはないよなあ。だって、俺、荻上と最後までいっちゃったし・・・
(それだけか、あの時と違うのは)
・・・でも・・・荻上さんは流されうけだし・・・
大野さんと咲さんが俺と荻上さんを結び付けようとして
積極的に動いたので荻上さんが本当のことを言えずにズルズルときてしまったという可能性は考えられないか?
荻上さんは斑目さんと俺との間で心が揺れ動いていた・・・その証拠があの漫画だ・・・
あの部屋でのことはその場の雰囲気で俺を選択することになってしまったが実は斑目さんへの思いも残っていた・・・
後で冷静に考え直して結局、斑目さんの方が好きだと判断した・・・
もしくは最初の1週間、俺とつきあううちにやっぱり俺の方がダメだとなったとか・・・。
そうだ。あの時、荻上さんは「・・・やおい観賞から突入っていうこの状況は・・・ちょっとイヤかも・・・」
っていってたのをあえて俺が強気でいっちゃったんだよな・・・。
あれは本当は断り文句だったんじゃないか?
笹原の頭の中に宿った一点の疑問は次第に黒雲のように心を覆い始めた。
はは・・そんな馬鹿な。そんなことあるわけない。
でも、二人の不振な態度。
一度、妄想がはじまってしまうとなかなかおさまらない・・・結局、同じ考えが頭の中で
繰り返し繰り返しリフレインされる。
これは・・・疲れているんだ・・・
馬鹿なことを考えるのはよそう・・・そう考えると笹原は布団にもぐりこんだ。
荻上さんの部屋。
ベッドの上で斑目と荻上が寝ている。斑目は仕事から帰ってきたばかりなのかワイシャツのボタンをはずし、
ネクタイは半分はずしかけただらしない状態だ。荻上はシュミーズを着て、斑目の横ではべっている。
「晴信さん・・。」
「ん?」
「いつになったらわだす達のこと笹原さんに話してくれるの?」
荻上は斑目の胸の辺りに手をはわす。
「あー。そのうちそのうち。」
「そんただこといって、このまま笹原さんとつきあったふり続けるのは笹原さんにも悪いし、傷口深めるべ。」
そういうと荻上は斑目のネクタイをキュッと締めた。
「いてててて。ちょっとやめれ。しかし・・・言うきっかけがないんだよなあ。」
「大野や咲が余計なことすっから・・・。」
「千佳。彼女らは善意でやったんだからそんなこというもんじゃない。余計なお世話ともいうが。」
「もー。晴信さんが秘密にしようっていうから・・・こんなことになったんでしょ。」
「それを言われると・・・。」
「この優柔不断!」
荻上は一層の力を込めて斑目のネクタイを引っ張った。
「いてて・・・。」
「はやぐわだしたちのこと笹原さんに言ってあげないと・・・このままではみんな不幸になるべ。」
荻上は斑目の股間に手をはわせる。
「わかってるよ・・千佳。タイミングを見計らって本当のこと言うよ・・・。」
斑目は荻上の唇に自分の唇を重ねようと顔を近づけた。
「晴信さん・・・。」
「千佳・・・。」
「はわわっ。」
笹原は飛び起きた。
「ゆ・・・夢か。」
(なんて夢見るんだ。)
笹原は目を覚ますために顔を洗ったが、さっき見た夢が正夢の様な気がしてしようが無かった。
「だめだ。こんなに気になるようじゃ何も手につかない。」
これは確かめなきゃいけない。
(・・・でも荻上さんに聞くわけにはいかない・・・斑目さんにメールしよう。)
斑目は笹原からのメールを受け取った。
『話したいことがあります。お時間とっていただけないでしょうか?』
普段のふざけた感じのメールではなく笹原の真剣な様子は文章からも伺えた。
「やっぱわかっちゃうよなあ・・・あのことだよなあ・・・」
自分が恵子とやっちゃったことが笹原にバレたと思った斑目は頭を抱え込んだ。
(こういう場合、普通の人はどう対処するんだろう・・・)
しばらく考えたが結論が出ない・・・仕方がない。とにかく笹原と会うことにしよう。
斑目はメールを送り返した。
『バレたんだったら仕方ない。今夜午後7時半に居酒屋○○○にきてくれ。そこで詳しく話する。』
メールを受けとった笹原は脳天を思い切りはたかれたようなショックを受けた。
・・・やっぱりあの二人・・・・つきあってたのか・・・。
今日は以上です。残りは数日中に書き込みます。
斑恵期待されていた方、話が全然関係ない方向に飛んじゃいます・・・
申し訳ありません。
でわ また
>SSの狭間で
リアルタイムで読みました。
斑荻疑惑ですか…
案外有りそうで無かった組み合わせなんですよね。
少なくとも連載当時には無かったような気がします。
まあ逆に連載終了後、客観的に全体を俯瞰できる時期になったからこそ出たパターンかも知れません。
後半を期待してお待ちしてます。
>>SSの狭間で
疑心暗鬼笹原非常に興味深い。なるほど「ちょっとイヤかも」をそう捉えるのかw
深い、深いよオギー……っつうか笹原の考えるオギー!悪女な上に恋人の前では
お国言葉丸出しだよオギー!
この流れ面白いっスよ。居酒屋攻防に思いを馳せてしまう。作者氏の邪魔するわけ
に行かないから書かないけどあーもあろこーもあろ。ワクテカこの上ない。
後編楽しみにしてます。
>>390 いや〜考えたのは連載当時だったんですが・・・
いろいろあって途中までつくってそのままにしていた作品なのです。
この作品を考えたのは・・・やっぱ笹 荻があまりにスムーズにくっつきすぎるのが面白くなかった
もっと波風あっていいんじゃないかと思ったのが動機ですかね。
>>391 笹原の夢に出てきたオギーはオギーに見せられた笹X斑の笹の部分が荻に転換してるのです。
そーいや荻の頭の中の笹って実物より悪ですよね。
まあ作品を見て「起っちゃった」くらいですからそれが元ネタで笹原の夢に出てくるくらい
強印象だったんでしょう。
391さんの想像通りの展開になってるかどうか?後半、投下します。
メールでOKの返事を出した後、笹原は何も手につかず、大学の授業も耳に入ってこなかった。
一日中、笹原の心を最悪の可能性がしめていた。
斑目に会うのが恐いような嫌なようなうつろな思いで時間が瞬く間に過ぎていく。
午後7時半 大学近くの居酒屋○○○・・・何度かげんしけんのメンバーと飲みにきたことがある場所だ。
斑目がおそるおそる店に入ると奥のスペースにつくられた小さな座敷に笹原がいた。
「よお。待った?」
斑目ができるだけ軽く声をかけるが、笹原は憮然とした表情で座っている。
マイナスのオーラがあたりに放たれ、近づきにくい雰囲気だ。
(うわっ。怒ってるよ・・・)
思わず引いてしまう斑目。
座敷に上がって笹原の正面に座る。
お手拭で手を拭きながら注文を取りにきた店員さんに
「とりあえずビール大ジョッキ2本。あとジャーマンポテトとベーコンエッグロールとカルボナーラ。」
と自分の注文を済ませると笹原の方に向き直って
「笹原、お前も何か頼むか?」と言った。
「いや。僕はいいです。」
強張った表情を崩さずに笹原は答える。
「そ・・・そうか。じゃ、それでお願いします。」
と店員に答えると雰囲気を和らげようと笹原の方に向き直って質問する。
「・・・で・・・げんしけんは最近どうだ?」
「今日はそんなことを話しにきたわけじゃないでしょ。」
(うっ。余裕なしかよ。)
斑目は緊張し、額から汗が滲み出る。
(どうしよ。怒ってるよ。笹原。)
暫く沈黙が続き、斑目の頭が混乱する。
とりあえずばれたんなら謝っておこう。そう思った斑目は突如、笹原に向かって頭を下げた。
「ごめん。笹原。」
急に謝る斑目を見て笹原は
(やっぱり・・・嫌な予感は当たったか・・・)
そう思い、あきらめとも絶望ともなんともいえない感情が心を支配し、大きくため息をつく。
「はあ〜っ」
顔には縦線が幾つも刻まれる。
そんな真っ暗に落ち込む笹原の表情を見て、斑目は更に焦る。
「あっ・・・本当に悪かった・・・ほんの出来心だったんだ・・・。」
「えっ。」
笹原は斑目を睨みつける。
「出来心って・・・二人はつきあってないんですか?」
「え?いやつきあってはいない・・・。やっちゃったけど・・・。」
「えっ!?・・・やっちゃったって・・・セックスですか?」
「おい。声が大きい!・・・知らなかったのか?」
「知らないですよっ!!」
(あれ。知ってると思って話したんだけどなあ。)
斑目の頭が混乱する。
(バレたんじゃなくて、単に笹原が推測でそうなんじゃないかと思っただけなのか?)
笹原の顔が怖い。
笹原は斑目へのジェラシーが心の中で黒い雲となって渦巻きはじめたことに気づいていた。
それと同時に荻上さんへの愛が今までに無い深いものであることーー
特に自分以外の男が荻上を抱いたとなると荻上がどうしても手放したくない
愛しい存在であったことに改めて気づくのであった。
「いつ、どこでやったんですか?」と笹原
「え・・えーと今から1週間前・・・俺の部屋で・・・。」
斑目はびびっていた。笹原の顔が今まで見たことがないほど怒気を含んでいたからだった。
(1週間前・・・ちょうど荻上さんが、ちょっと創作活動に入るから暫く会えないといった時だ・・・)
(やっぱりそうか・・・そうだったのか・・・)
笹原は心の中にあふれようとするジェラシーを必死で抑えながら搾り出すように言葉を吐いた。
「まあ・・・やっちゃったものは仕様がないです。斑目さんも彼女を愛していたんでしょうし。」
「いや。別に愛はなかったなあ・・・ついついなりゆきで・・・」
どこまでもバカ正直な斑目であった。
「すきでもないのに!!そんなこと!!!やっていいと思ってるんですかっ!!」
バンっと机を叩き、叫んで立ち上がった笹原の怒りは
『第一回緊急コミフェス対策原稿ほとんどできてねぇよ会議』で久我山に対した時の2〜3倍増しであった。
斑目は完全にびびった。
「はひっ・・・申し訳ないです。」
斑目は頭を下げながら思った。
普段はあんなに喧嘩してるのにさすがこういうときは兄妹なんだなあと
妹のことをこれほど心配し思いやるとは・・・というか兄にとって妹とはこれほどかけがえのない大切なもんなのか・・・
妹持ったことのない俺にはわからん・・・。
「まさか・・・もしかして・・・・斑目さん・・無理やり・・・ってことはないですよね?」
笹原の目がいままでにみたことのない狂気を帯びている。
「はあっあ!?無理無理っ!!俺にできるわけないっしょ!!・・・っつーかどっちかっつーと俺が襲われたのっ!!」
「えっ!?そんなわけないっ!!」
笹原は一段と声を大きくして机を叩いた。
「でたらめ言わないでくださいっ!!そんなことあるわけないっ!!」
オーダーを持ってきた店員がびっくりした目で二人を見つめる。
「さ・・・笹原・・・落ち着け・・・落ち着けって。」
斑目が必死に笹原をなだめようとする。
店員がそそくさと注文された品物をテーブルの上に並べる間、二人は黙ってにらみ合った。
「ではごゆっくり。」
店員はひきつった顔でそういい残すと逃げるようにその場を去っていった。
斑目は冷や汗がダラダラ流れているのを感じた。
そして、これ以上、笹原が怒らないように祈るような気持ちで話すことにした。
「いや。ホントだって。だって・・・はっきり言って、俺童貞だったけど(斑目ちょっと顔を赤らめる)
・・・彼女、20人以上とやってるっていってたぞ。」
「え・・・そんな・・・そんな馬鹿な。」(荻上さん処女だと思ってたのに・・・)呆然とする笹原。
頭の中で必死に”あの時”のことを振り返る・・・いや、俺も処女かどうかなんてわからんな・・・経験なかったしな・・・。
余りに予想していなかった展開に頭は真っ白・顔には縦線が入る。
「ほんとだって。(あれ?知ってたんじゃなかったのか?)
勢いでみんなでってのもあって・・・それ抜かすと10ちょいだそうだが・・・」
「・・それってげんしけんの人間も入ってるんですか?」
「え?いや?高坂は狙ってたみたいだけど、げんしけんの人間とはやってないでしょ。」
「え?高坂狙ってたんですか?」
「あれ?おまえ知らないはずないだろ?・・・おかしーなーあんなにあからさまに誘ってたのに・・・。」
ここでなにか会話がかみ合わないことに二人とも気づくべきであったが、二人とも頭が混乱しているので
全然、気づくことなく話が続く。
斑目「多分、これは予想だけど・・・ほとんど高校時代に経験したんじゃないかな。」
高校時代・・・荻上さんの空白の時代・・・何があったのか笹原も何も知らない。
そうか・・・荻上さん・・・中学の時の事件の影響で自我が壊れて自棄になって男と遊びまくってたのかあ・・・
それは笹原の予想もしなかった荻上の高校時代であった・・・勘違いだけど。
暫く・・・といってもほんの数分だが・・・沈黙が続いた後、笹原が搾り出すように話し始めた。
「彼女・・・斑目さんは知らないと思いますけど・・・中学の時に事件を起こしましてね・・・」
一転してしんみりとした口調で話し始める笹原。
「それが理由で学校の屋上から飛び降りて・・・下に木があったおかげで奇跡的に助かったんですよ。」
「へえー。それは知らなかったな・・・。」
(春日部さんは友達に染められたって言ってたけど・・・そんな事件があったんだ・・・
あんなに化粧が濃くなったのも金遣いが荒くなったのも、男関係が荒れたのも。その中学時代の事件のせいか)
と斑目は惠子のことだと勘違いして考えている。
「それで・・・多分、そのことが原因でかなり荒れた高校時代を送ったんじゃないかなあ・・・。」
笹原は考える・・・荻上さんが斑目を襲ったということは
それだけ斑目さんが好きなのではないだろうか・・・
一呼吸おいて笹原が続ける。
「斑目さんがいい加減な気持ちで抱いたとしても・・・彼女から誘ってきたというのは彼女の心の中では斑目さんが
一番だということですから・・・責任とってもらいますよ。」
「え・・・やっぱ責任とらなきゃダメ?」
ふと顔を上げた斑目の目に飛び込んできたものは目に涙をいっぱいにためている笹原の顔だった。
断腸の思いとはこういうことをいうのだろうか
ーーー好きで好きでたまらない人でも、その人の一番の幸せを願うならば、
自分が潔く身を引くのが最善の道・・・笹原は自分の心にそういいきかせた。
(荻上さんが斑目さんを選んだんだ・・・荻上さんが幸せならそれでいいんだ・・・)
笹原はあふれる涙をぐっとこらえた。
「だって・・・どうせ大野さんや咲さんもそのうち知ることになるわけですから。
大学の部活の後輩に手を出しておいて何も知らないではみんな許さないと思いますよ。」
「そ・・・そうだな・・・。」
斑目は心の中で咲の姿を思い浮かべた・・・これで完全に思いを断たなくてはいけないな・・・
もともと可能性のない恋心だが、完全にあきらめなくてはならないとなるとやはり未練が残る・・・
心の片隅が小さな針でつつかれたようにチクっと痛んだ。
「責任とるって・・・結婚しろってことだよな??」
おそるおそる笹原に聞き返す斑目。
「当たり前でしょ。結婚を前提としたお付き合いをしてくださいといってるんです。」
「・・・やっぱりな。」
斑目の視線が宙を舞う。
「でも・・・本人から『間違ってもアタシに惚れないように』『初体験相手に勘違いすんなよ』
って言われたんだけど・・・。」
「そんなの本気じゃないでしょ。どうして彼女の本当の気持ちをわかってあげられないかなあ。」
キっと睨み返してくる笹原を見て斑目は慌てて下を向いた。
「結婚となると笹原とは兄弟ということになるな・・・。」
斑目は小さな声でポツリと呟いた。
「え?兄弟?(穴兄弟ってことか?この人は・・・突然、何を言い出すんだ?)なんで兄弟ってことになるんですか?」
「え?だって・・・そうだろ?」
「もしかして・・・穴兄弟っていいたいんですか?」
「え?笹原・・・なにをいってるんだ?まさか・・・おまえ・・・おまえも彼女とやっちゃってたのか?」
笹原は顔を真っ赤にしながら言った。
「やりましたよ?いけませんか?」
「ええっ!!」
斑目は驚き、思わずビールジョッキを倒してしまう。ジョッキからビールがテーブルの上へ
そして床にこぼれおちるのを見て慌ててジョッキを戻し、お手拭でこぼれたビールをふき取り始める。
(斑目さん・・・驚きすぎ・・・俺と荻上さんがやっちゃってるのまさかまだ知らなかったのか?)と笹原。
床を拭きながら斑目が叫ぶ。
「実の兄弟でやっちゃったらまずいだろ??犯罪だぞ!!」
「はあ?なんで、そういう話になるんですか?」
あれ?頭が混乱してきたぞ??・・・いや混乱はずっとしているが・・・混乱に拍車がかかる。
「いや・・・だっておまえ。恵子とやっちゃったんだろ?」
「なんで恵子の名前がここで出てくるんですか?荻上さんでしょ?」
「はあ???なんで荻上さんなんだ???」
「???斑目さんがやっちゃったのって荻上さんでしょ???」
「ええええええええええええ。違う。違うぞ。笹原。俺がやっちゃったのは・・・恵子だ。」
お互いに顔を見つめあったまま呆けたように暫く静寂の時間が経つ。
そしてお互いにそれぞれ勘違いしていたことに気づくのであった。
10分後
「・・・それで・・・やっぱり俺は恵子と結婚を前提にしてつきあうべきなのでしょうか?」
呆けた表情で斑目が笹原に問う。
「いや・・・もう・・・それは・・・斑目さんのご自由に。」
「ご自由にっていうと・・・別につきあわなくてもいいということでイインデスカ?」
「まあ恵子にとっては20人のうちの間違ってやっちゃった中の一人でしかないでしょうし・・・
斑目さんには申し訳ないけど・・・。」
精神的にめっちゃ疲れた・・・もうどうでもいいや・・・という顔をして笹原が応える。
(うわっ!荻上さんの時と違ってなんとなげやりな・・・兄弟愛ってこんなものなの・・・)
それが笹原を見ながら思う斑目の感想であった。
翌日、荻上の家。
「最近、全然、ゆっくりする時間がなくて・・・ごめんなさい。笹原さん。」
「あ・・・いや。別にいいんだけどね。」
「これ、できた原稿なんですけど・・・よかったら感想なんか聞いてみたいと思って・・・。」
パラリとめくってみると正統派の恋愛漫画だった。
(こういうのも描けるんだ)
笹原はちょっと驚いた。
笹原がモデルと思われる主人公が荻上のような女性を相手にした甘ったるい恋愛漫画であった。
(まるで、荻上さんの希望を描いているような漫画だな・・・)
パラパラと漫画をめくって読んでいく。
ヒロインの主人公への自己犠牲的で盲目な愛が特に深く印象に残る作品となっていた。
それはおそらく今の荻上さんの気持ちがそのまま作品に投影されているのであろう。
同時に笹原は今、どれだけ荻上さんに愛されているかを感じることができて感激していた。
(これは荻上さんから俺への形を変えたラブレターなんだ・・・)
荻上は漫画を夢中で見ている笹原の顔をおそるおそる見る。
と、何か顔に陰が射しているのに気づく。
「どうかしたんですか?」
不思議に思って尋ねる。
「な・・・何が?」
「何か疲れているみたいですよ。笹原さん。」
「いや・・・昨日・・・ちょっと精神的に疲れることがあってね・・・。」
苦笑する笹原。
(ほんの少しでも荻上さんを疑った俺はバカだ。ごめんね。荻上さん)
そう心の中で荻上に手を合わせて謝る笹原であった。
更に翌日の昼休み
部室に荻上が一人いると久しぶりに斑目が顔を覗かせた。
「こんちわ荻上さん久しぶり。」
「あ。こんにちわ お久しぶりです。」
「あー。暑いねー。もう10月なのにねー。温暖化かなー。」
そういいながら椅子に座る斑目。
ちらっと荻上の方の様子を見る。
「笹原は元気かね?」
「え?元気ですよ。昨日も久しぶりに会いましたし・・・。」
ふふふ・・・と笑う斑目。
「どうかしたんですか?」
「いや・・・笹原の奴ね。何を勘違いしたのか俺と荻上さんがつきあってるって勘違いしちゃってね。
たいへんだったんだよ。」
えっ
という顔をして斑目を見る荻上。
「どこをどう考えたらそういうことになるんだか・・・笑っちゃうよね・・・」
そういって荻上を見ると荻上が固まっているのが見えた。
何かをじっと考えている様子であった。
(やべ 俺また地雷踏んじゃったかな?)
背中に汗が吹き出るのを感じ斑目は
「あ。用事思い出しちゃった・・・」といって部室をそそくさと出て行った。
部室を出ながら(あー俺って奴は)と自己嫌悪を感じながら額の汗をぬぐうのであった。
頭とオチを赤の他人のSSに任せてしまうというキセルSSです。
タイトルも、そーゆーことです。
勝手に他人様のSSを借用してしまい申し訳ありませんでした。
でも 面白かったら許してくださいw
いや、もう、笑わせてもらいました!(スイマセン)
しかし、笹原の愛情の深さが印象的です。笹原ならこう考えそうですね。
>>SSの狭間で:後半
バッカ野郎!通勤電車で読んじゃったじゃないかw
声上げて笑うわ電車降りてもニヤニヤが止まらないわ、いい激汗かいたさwww
「カン違いしたまんま喧嘩」シチュは双方がなにかおかしいと気付くまでにどこまで相互誤解を深められるかがキモですがこいつはお見事。
笹原の怒れるジャブに対し愛はなかったとか20人とかラッキーパンチがことごとくカウンターに決まる斑目。怒り心頭の笹原が責任とってねとばかりに放つ右ストレートに斑目も迎撃!穴兄弟クロスカウンターッ!!!(いやはじめの一歩の総集編読んだトコだったもんで)
もちろん関連SSも読み返した。ご本人キセルだのおっしゃるが、こんな腕のいい羅宇屋なら贔屓にしてやるぜぃ!
お疲れさま、楽しかった。
>>SSの狭間で
んっふっふっふっ。こういう勘違い進行形の話好きですねえw
ようやく落ち着いたペースで読めるようになりましたよ。
咲主流が多いですが、恵×斑は一番周囲の人間関係も巻き込んで物語が
動く組み合わせだと思ってました。乙でした。
たいした事じゃないんですが、関係持っても「恵子君」って斑目なら呼びそう
だけど、呼び捨てできるほど恵子に「男」にしてもらったんだろうなあと
一人解釈w
>>409 410
もうどんどん笑ってくださいw 面白がっていただいてなによりです。
”笹原の愛情の深さが印象的です。”
これ考えたとき、笹原はHすることしか考えてないんじゃないか?という意見が一部あったんですよ。
だから笹原の荻上に対する愛情を表現したいという気持ちもこれ書く動機になっています。
>>410 411
”「カン違いしたまんま喧嘩」勘違い進行形の話”
ボクも好きなんですよ。ドタバタ喜劇というか。うまい具合に話ができたんで嬉しいです。
居酒屋で勘違いが解けずそのままというシチュも考えたんですが・・・
げんしけんの部室に笹(難しい顔)・荻(なんだろう?)に咲・恵が登場
「これからいろいろあるので」という笹に興味を持って居座る咲・恵
斑登場 「愛の告白」・・・怒る恵子 爆笑咲 呆然とする笹と荻・・・
これ斑目にとって酷だなあとボツにしました。
後、荻上が笹原に冷たかったのは誕生日のプレゼントをつくっていたとか考えたのですが
あまりにベタな上、笹原の誕生日が1月13日だったのでこれもボツに。
結構、あれこれ考えながら書いたので喜んでいただいて作者としても嬉しいです。
また何かできたら投下しますのでよろしくです。
>>411 たいした事じゃないんですが、関係持っても「恵子君」って斑目なら呼びそう
言われてみれば・・・”妹さん”とかね。まあ斑目の頭が混乱してたので思わず呼び捨てになっちゃったと
考えてくらさい。
ある作品の中のエピソードとして考えたのですが、話が浮いちゃったので
独立した短編にしてみました。
ゲーム会社のこととか全然、知らないので現実と違う部分があれば目をつぶってくらさい。
題名は『夏風萌の店』です。今から投下します。
咲のマンション 咲と恵子が二人で飲んでいる。
恵子はここ暫く咲の店でバイトしていた。
明日休みということもあり、仕事が終わった後、一緒に咲のマンションで酒を飲むことにしたのである。
「だからさーそろそろこーさかさんあきらめなよー。姉さんー。」
「ばーか。ぜってーあきらめねー。それよりお前、早く金返せ。」
お互いに遠慮なく喋りあえる関係だけに本音ぶちまけトークはストレス発散にもってこいだ。
あーだこーだ言い合っているうちにいつしか夜も更け、二人ともぐっすりと寝てしまった。
416 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:36:45 ID:???
「ん・・・。」
軽い二日酔いで咲が目を覚ますと既に昼過ぎである。窓から日光が降り注いでいる。
「ん?」
別の部屋からPCをカチャカチャやっている音が聞える。
咲のマンションに自由に出入りできるよう合鍵を持っているのは高坂だけだ。
「こーさか?」
咲は驚いて跳ね起き、PCを置いている部屋に向かう。
「やあ。咲ちゃん。起きたの?勝手に上がってPC使わせてもらってるよ。」
「来るなら一言、いってよね。こーさか。」
久しぶりの高坂の来訪に喜び抱きつき甘える咲。
「何やってるの?」
「昨日までボクがつくっていたゲーム。」
「へえ。」
「それも、このゲーム、僕がプログラムだけでなくゲームのキャラクターとか
ストーリー構成とかほとんど全部任されてつくったやつなんだよ。」
「凄いじゃないこーさか!・・・って・・・こーさかって絵とか描けたっけ?」
「具体的な部分とか細かい所は専門の人に任せてるよ。でも、おおまかなキャラクターは僕が考えたんだ。」
「こーさか凄い。なんでもこなすのね。」
(さすが超人こーさか!マルチな才能は半端じゃないわ)
咲はそんな高坂を惚れ直した。
417 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:39:51 ID:???
「で、できあがりを試そうと思って、ここに持ってきて自分でプレイしてみてるんだよ。
このゲーム、宣伝も兼ねてげんしけんの皆に配ろうと思ってるんだ。」
「ふーん。」とうなづく咲。
「で、なんてゲーム?」
「うん。タイトルは『夏風萌の店』っていうんだ。」
(夏風萌・・・なんかどっかで聞いたような・・・)
「どんな内容なの?」
咲が高坂に聞く。
「主人公は女性で夏風萌というのはその主人公の名前だよ。
ストーリーはその主人公がゲームショップを立ち上げてさまざまな障害と闘いつつ
苦労しながら店を軌道に乗せて繁盛させていくって内容。」
(あれ・・・なんかどこかで聞いたような話だな・・・)
咲は嫌な予感を感じる。
「これが主人公のイラストだよ。」
そういって高坂はゲームのパッケージを咲に見せた。
そのイラストはなんとなくスタイルといい顔立ちといい咲に似ている。
418 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:40:55 ID:???
「これ姉さんじゃね?」
いつの間にか化粧と着替えを済ませた恵子が後ろにいてそう指摘した。
「はあ?」
咲が眉間に皺をよせて恵子を睨む。
「ねえ。これねえさんモデルにしてない?」
無遠慮に高坂に質問する恵子。
「えー。全然、意識してないよー。」と高坂。
「そうかなあ・・・」と首をかしげる恵子。
そういうと恵子はゲームのストーリー・内容を書いた紙を読み始める。
ざっと目を通した恵子が一言。
「これぜってーねえさんがモデルだよ。」
「まさか。」
「だって・・・途中、店を火事で燃やしそうになったり(タバコでなくて料理をしていてだが・・・)
ゲームショップの宣伝のために嫌々コスプレ大会に出されたりするとか書いてあるよ。」
そういうと恵子は咲にその紙を見せた。
紙を丁寧に読む咲ちゃん。そして高坂のゲームのプレーを見るためPCのディスプレイに目をうつす。
それはちょうど主人公の夏風萌がコスプレを嫌がって逃げたところを彼氏に捕まるシーンが
うつしだされていた。
沈黙が部屋を包む。カチャカチャと高坂がPCを操る音が部屋に響く。
419 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:42:28 ID:???
恵子が恐る恐る口を開く。
「・・・確かこーさかさんの会社ってエロゲーメーカーだよね。」
「うん。夏風萌ちゃんが、他の登場人物とエッチするオプションもこのゲームの醍醐味なんだ。」
「こーさか・・・。」
「だから咲ちゃんがモデルじゃないって!」
高坂は明確に否定して罪の意識のかけらもない天使のような笑顔を咲に向ける。
(そ・・・そうよね・・・そうよ。いくらなんでも、そんなことこーさかしないわよね)
「でも・・・これぐらい設定がそっくりってぜってーおかしくねえ?」
ついつい食い下がってしまう恵子。
高坂は暫く「うーん」と考えてから
「多分、ボク、現実の女性は咲ちゃんのことしか考えてないから、
無意識のうちにインスパイアしちゃってるってことはあるかもしれないねー。」
と心憎い言い訳をする。
恋する女は盲目です。新興宗教に洗脳された信者です。
咲ちゃんは高坂を信じた。
「どうみてもネエさんがモデルだよー。」としつこく言う惠子をグーパンチでだまらせ
「高坂がああ言ってるんだからあたしじゃないんだって!!」
と叫ぶのであった。
420 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:43:29 ID:???
さて当然、このゲーム、斑目にも配られた。
斑目 ゲームを初めて初日
(こ・・・これ春日部さんだよなあ・・・)
・・・主人公の女性が咲ちゃんとかぶり、途中でやめられなくなっていた。
(これ・・・春日部さんは知ってるんだろうか・・・)
斑目は夏風萌のエッチの相手に痩せて眼鏡をかけた萌に片思いを抱き、萌に会うために
毎日のように店にゲームを買いにやってくる自分とそっくりの大学生を選んだ。
そして今、斑目がやっているシーンは斑目の選んだ男がアニメを見ながら夏風萌をバックでやっている場面である。
(この場面どっかで聞いたような・・・)
斑目は頭の中で遠い記憶の片隅を思い出していた。
睡魔に襲われ半分、意識を失った脳みそが次の言葉を繰り返していた。
(高坂・・・魔王・・・鬼畜・・・)
斑目は当分、このゲームから抜け出せそうにない。
421 :
夏風萌の店:2007/06/25(月) 22:46:07 ID:???
以上です。
鬼畜高坂物語ですね(汗)
最初の『夏風萌の店さげある』の”さげある”は余計な部分で間違えて入っちゃいました。
ご容赦ください。
お目汚し失礼しましたー。
春日部さん……(汗)
そして斑目……(号泣)
楽しませてもらいました!
>夏風萌の店
コーサカは実際にこんなゲーム作ってると思われ。しかも何本もw
咲ちゃんはコーサカといる時は彼にベタベタだと思うので、好みの雰囲気が出てて嬉しかった。
『恋は盲目』、賛成。
そして斑目はつらかろう。その晩振り上げたソイツの下ろし場所に困り悶々とする彼の姿が
目に浮かぶようだ。嗚呼涙。下品失礼。
楽しく読ませていただいた。GJでした〜。
>SSの狭間で
ワハハハハ。
もうほとんど「それ何て時間ですよ?」状態。
よくここまで勘違いで引っ張れましたね、その粘り腰に拍手。
>夏風萌の店。
高坂恐るべし…
意識的にとぼけてるのでなく、天然ボケの無意識でやってることとは言え、こりゃやり過ぎでしょw
おそらく今回の話に書かれていない部分には、まだまだいろんなネタがあるんでしょうね。
飲み会で部下の男性店員脱がしちゃったとか、コスプレ好きの部下に迫られてペアでコスプレ撮影会する破目になったとか。
それにしても斑目の方は…これは何なんだろう。
高坂なりの誠意なのでしょうか?
>>422 423 424
反響ありがとうございますです。楽しんでもらえてなによりです。
作者冥利につきます。
>>423 やっぱ咲ちゃんネタに沢山つくってるのかなあ。
まあ咲ちゃん以外の女性をネタにしないのがせめてもの誠意?でしょうか。
>>424 「飲み会で部下の男性店員脱がしちゃったとか、コスプレ好きの部下に迫られて
ペアでコスプレ撮影会する破目になったとか。」
あ それ読みたい424さん 書いて(ハート)w
高坂やりすぎかも・・・という意識はあったんですが思いついちゃってSSとしてできちゃったものは
仕方ないw
まああれですよ。意外と納期に追われたのがつくっちゃった理由かもしれませんよ。
「結婚行進曲」の続きです。
これで終わりになります。
それでは〜
コンコン。
軽いノックの音に反応して、部屋の中から「どうぞー。」と声が聞こえる。
斑目は、ごくりと唾を呑み込むと、その白いドアを開いた。
『居場所』
「こんにちは。」
ゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた斑目の目に、ベットに座る咲が映る。そして、その横の小さなベットには、産まれたばかりの小さな命が眠っていた。
「来てくれたんだ。ありがと。」
心持ち小さな声で咲が言う。
その顔は、少し憔悴している様に見えるが、幸せそうに輝いている。
「高坂は?」
「家に荷物取りに行ってるよ。」
恐る恐る赤ん坊のベットを覗き込みながら、斑目が聞く。
「昨日産まれたんだって?」
「正確には今日の2時。」
「へぇ……。」
まじまじと赤ん坊の顔を見る斑目。
「えーと、男?女?」
「女の子だよ。名前は今考えてる所。」
感慨深い様な、それでいて苦しい様な感情が、一瞬斑目の心に沸き上がった。
「どうかした?」
斑目の表情が揺れるのを見た咲が訪ねる。
「あー、いや、何か変な感じだと思ってさ。」
焦った斑目が、咲から目を反らしながら言う。
「何が?」
「だってさ、この前まで大学生だと思ってたら、いつの間にか春日部さんが“お母さん”で高坂が“お父さん”なんだぜ?」
「私も今は高坂だけどな。」
ツッコミを入れると、咲はクスリと笑った。
「私も全然実感無かったよ。自分が母親になるなんてさ。
でも……。」
そこで言葉を切ると、咲は優しい微笑みを浮かべて赤ん坊を見つめる。
「この子を産んで、抱いた時に、凄く感動してね。」
誇らし気な咲の横顔を見ながら、斑目は胸がチクリと痛むのを感じた。
我ながらしつこいものだと苦笑する。
「二人に似たら凄い美人になるよな。あ、でも高坂ばりの濃いおたくになったりして?」
ニヤリと笑う斑目の言葉に、咲がギョッとした。
「言うな!私もそれが一番怖いんだ!」
頭を抱える咲を見ながら、斑目はホッと息を吐く。
(普通に話せるじゃないか、俺。)
本当は、まだ怖かったのだ。
自分の気持ちが。
咲への想いが。
「私さ、あんたに合えて良かったよ。」
「へ?」
唐突な咲の言葉に、斑目の動きが止まる。
「真琴とここまでつき合ってこられたのも、あんたと色々言い合って来たおかげだと思ってるからさ。」
「口喧嘩、よくしたよな。」
「うん、真琴には聞けない事も、あんたなら聞けたからね。」
「……。」
斑目は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
そんな風に思っているとは、そんな風に言ってくれるとは考えてもいなかったからだ。
「ま、おたくの友人が出来るなんて、真琴とつき合う前は思ってもいなかったけどね。」
「俺も、別の星の住人と友人になるとは思っていなかったデスヨ。」
「うっわ、おたくくさーっ。」
そう言って、二人で笑う。
斑目は、この心地良いと思える瞬間が、咲にとってもそうである様にと願った。
「うーっ。」
もぞっと動いた赤ん坊が、目を開く。
そして、近くにいた斑目をじっと見つめる。
「起きちゃったか。」
ひょいっと咲が赤ん坊を抱き上げたが、その目は斑目に釘付けだ。
「何?そんなに珍しい顔してるか?」
斑目はそっと赤ん坊の柔らかな頬に触れた。
「あっ。」
その指を、赤ん坊がギュッと握り締める。
思いの外強く握られた手から、暖かさが伝わって来た。
どれ位そうしていただろう。
赤ん坊は突然指を離すと、咲にしがみついた。
「お腹空いたのかな。」
そう言って、咲はチラッと斑目を見る。
「?」
「えーと、母乳をあげたいんだけど……。」
「ああ……。」
暫くの沈黙。
(母乳をあげたいって、母乳……。胸……。)
そこまで考えて、斑目はくるりと後ろを向いた。
「じゃあ、俺、これで帰るわ!」
「外で待ってれば?もうすぐ真琴も来るし。」
「いーって、又皆と合いに来るから。」
斑目はそう言って手を振ると、ドアを開く。外へと踏み出しながら、彼は少し立ち止まった。
「春日部さん。」
「高坂だ。」
「俺も、“高坂”さんに合えて良かったよ。」
パタンッと音を立ててドアが閉まる。
残された咲は、少し驚いた顔をして、クスリと笑った。
斑目は真っ赤になった顔をして、早足に病院を後にする。
(言えて良かった……。)
ドキドキしていた心臓が落ち着いてきた所で、斑目は立ち止まり、右手を見た。
さっき赤ん坊に握られた指が、まだ熱を持っている様に感じる。
友人だと、言ってくれた。
何の実りも無いと思っていたこの咲への想いの与えてくれた、咲との『居場所』。
それが、此処だと言うのなら、案外幸せな事なのかもしれない。
そう思い、ギュッと右手を握ると、斑目は又歩き出す。
口元に、微笑みを浮かべながら。
終わり
「どうしようもない」を書いた時はここまで続くとは自分で思っていませんでした。
実はセカンドジェネレーションシリーズへと続く話としてこの「居場所」を書きました(汗)
現視研のメンバー達が子供が出来た後も友人どおしである。と云う設定が大好きなので、斑目をその位置に立たせたかったのですよ。
彼女はきっとこの時斑目を好きになったのでしょう。
勝手に設定を使ってしまってスイマセンm(__)m
「どうしようもない」「結婚行進曲」「居場所」これにて終了。
書き間違い。
設定は「双子症候群」の設定を元にしてます。
重々スイマセン
>居場所
乙。人間、子供生むと性格が変わるなw
小さな命って奴は不思議なほど人間関係に影響を及ぼす。もちろん本人にそんな自覚はない。まあ、天使だのと言われるわけだ、実際。
咲……と高坂の、血を引いた赤ん坊。いわば二人の愛の証を、『咲の高坂への愛の証』を目の当たりにしても、むしろ自然に会話のできる自分に驚く斑目。前作での高坂の打ち明け話も記憶にあるのかもしれないが。
そして、咲からも「あんたに会えてよかった」と言われ、自分が今も――これからも、彼らの仲間であることを確信できた彼の足取りは、きっとこれまでよりも幾分軽くなっていることだろう。
斑目にとってよい救いであったろう。
いい話でした。ごちそうさん。
ところで双子症候群が元設定ってことはコレが春奈の斑目フラg(ry
乙。面白しろかった。斑 咲の後日談としてあったかくてほんわりした
続きがみれてよかったよ。
斑の恋心は叶わなかったけど高坂ファミリーとはいい関係をつくれそうで
安心した。
なんだかこの後の話も読みたくなったw 斑に恋人ができて背中を押す
高坂ファミリーとか 贅沢かな?
>居場所
乙であります!
それにしても春日部さん(高坂さんか)の愛娘、早くも斑目とのフラグ(そうなのか?)ですか…
ここで唐突に「子連れ狼」を思い出した。
妻を殺され、謀反の濡れ衣を着せられた公儀介錯人拝一刀。
復讐を決意するが、問題はまだ赤ん坊の一子大五郎。
そこで一刀は、先ず大五郎から少し離れた床に自分の愛刀の胴太貫を突き立てる。
次に胴太貫と反対側に、同様の距離を離して手鞠を置く。
そして大五郎にどちらかを選べと迫る。
手鞠を選べば母の元に送り(つまり殺すってこと)、胴太貫を選べば父と共に刺客稼業の冥府魔道を生きると言うのだ。
この究極の無茶な二者択一で、大五郎は胴太貫を選び(と言うか、たまたまハイハイして行き)これによって刺客子連れ狼が誕生する。
(アメリカで映画版を配給したプロデューサーのロジャー・コーマンは、このシーンに1番感銘を受けたそうだ)
前置きが長くなった。
この話、「双子症候群」に繋がっていくとのことですが、と言うことは赤ちゃんは春奈ですな。
果たして春奈は斑目と冥府魔道を進むことを選んだのでしょうか?
…選んだことにしといた方が面白そうだな。
つづく、かな?
438 :
マロン名無しさん:2007/07/05(木) 06:45:19 ID:hFg0gbLb
|∧∧
|・ω・) ダレモイナイ...
|⊂ バルタン スルナラ
| イマノウチ...
(∨)∧_∧(∨)
ヽ(・ω・)ノ
/ /
ノ ̄ゝ
フォッフォッフォッ
(∨)∧_∧(∨)
ヽ( )ノ
/ /
....ノ ̄ゝ
>>435-437 感想ありがとうございます!
そう言って頂けると書いたかいがあります。(これは投下しようか少し迷ってたもので)
>>436-497 続きですか?
一応これは斑目三部作で終わりですが、春奈との話も面白そうだな…………………………。
ハッ!軽くワープしてた。
ネタが降って来たらと云う事で。
440 :
マロン名無しさん:2007/07/10(火) 23:12:10 ID:YdlSskAn
age
お久しぶりです、「〜いる!シリーズ」なるオバカなSSを書いていたバカです。
「挑戦されて受けないのなら、もはや武道家とは言えない」
竹宮流の泉先生もこう仰ることだし、
>>373さんや
>>374さんも投下を勧めて下さったことだし、2スレにまたがりそうですが投下することにしました。
今回の話は、荻上会長政権下での学祭の話です。
とは言え、初めての方に先に今までの話全部読めと言うのも何だし、前の話からだいぶ経っているので、今回は先に設定その他を投下します。
あと毎度毎度何十レスも一気に投下するのも何だし、実はまだ完成してないので、時間稼ぎの意味もあって今回から10レス程度ずつ投下しようと思います。
では5分ほど後に投下開始します。
西暦2006年、一時は存亡の危機に立たされた荻上新会長政権下の椎応大学現代視覚文化研究会は、11人もの新入会員を迎え見事に復活した。
会員激増に伴なう部室の移転、親睦を図る為の海水浴、そして夏コミでの同人誌販売に3日間日替わりのコスプレと、数々のイベントを消化しつつ進み続ける新生現視研。
現在の次なる攻撃目標は学祭だ。
スーがクルルのコスを希望したことから始まって、話はケロロ小隊コス、そして夏コミで使ったベムとアルの着ぐるみコスも交えた「ウルトラファイト」風映画制作へと発展。
果たして現視研の映画制作は成功するのか?
どうなる現視研!
どうする荻上会長!
現視研の明後日はどっちだ!
・荻上会長政権下での新1年生は11人で、さらに秋からはスーとアンジェラも加わります
・部室はサークル棟屋上にプレハブ小屋を建てて移転しました
・荻上会長は、秋から「月刊デイアフター」で連載を開始します
・笹原は3人の漫画家の担当を兼任しています。
(厳密に言うと、上の2人にはメインの担当が居て、笹原はそのアシスタント的存在)
A先生 実話系雑誌でヤクザ漫画を描いている、元裏社会の住人(と言われている)
秋からヤオイ同人誌をシノギにするテキヤを描いた漫画を連載開始
B先生 分かる人にしか分からないギャグ漫画を描いてる中堅漫画家
メンヘル気味で時々自殺を図る
C先生 椎応の現役の学生で漫研の会員
その為笹原、部室にもよく顔出します
・斑目は原作(厳密には「くじアン」の単行本のおまけ巻末漫画)では会社辞めましたが、すぐに社長に連れ戻されました
(この辺の経緯は「帰ってきた斑目」参照)
・斑目は4月から外回りの仕事も手伝うようになったので、昼休み以外の時間にも部室に来ます
・斑目は1年生たち(主に女子)からシゲさんと呼ばれています
(パトレイバーのシゲさんと共通点が多いから)
・クッチーは去年の秋頃から空手を習っていて、黒帯の腕前です
・クッチーは児文研と掛け持ちしており、児文研会長を「お師匠様」として崇めています
(この辺の経緯は、「あやしい2人」とリレー企画参照)
・クッチーは女性に殴られると3倍にパワーアップします
・春日部さんのお店は、開店が夏まで遅れました
・スーが日本語で喋る時の口調は「押忍、〜であります!」が基本です
・スーは荻上会長のことを「センセイ荻上」と呼びます
・スーは漫画やアニメやゲームばかりでなく、何故か特撮や映画にも詳しいです
・アンジェラが日本語で喋る時の口調は「〜あるよ」「〜あるね」という中国人風です
・アンジェラも何故か映画には詳しいです
ただしハリウッド系のみで、これに対しスーは日本の映画にも何故か詳しいです
・藪崎さんは、夏コミで斑目に一目惚れしました
・加藤さんは、夏コミで斑目に前髪開けられた為に、意識するようになりました
・加藤さんは、空手か何かやってる様子です
(チョップ1発で藪崎さん気絶させたり、500円玉を指で曲げたりします)
・藪崎さんの後輩の猫顔の女の子は、本シリーズではニャー子と呼称します
・ニャー子は夏コミの頃から1年生の伊藤と付き合い始めました
「グラップラー刃牙」の最強トーナメント選手入場風 新1年生紹介
生後3ヶ月で初めてコミフェスに参加して以来、毎年夏冬連続参加で参加回数は現視研一。
父も母も兄もオタクのオタク一家の一人娘、神田美智子だ!
「コピー機って、どこのご家庭でも1人1台が普通じゃないんですか?」
普通じゃありません!
アニメや漫画は白帯だが、特撮ならば黒帯だ。
現視研コスプレ部門に着ぐるみの新風を吹き込んだ特撮娘、国松千里だ!
「将来の夢は、ウルトラマン誕生50周年記念作品の監督です!」
一見ロリ顔ロリ体型で可愛いが、キレると現視研一怖いぞ。
顔も体も太いが、作風は王子様とお姫様の乙女チックな古典的少女漫画。
その一方で腐女子四人組、通称腐女子四天王のリーダー格、豪田蛇衣子だ!
「趣味は荻様(四天王の荻上会長の呼び方)をハグすることで〜す!」
ちなみにペンネームは、クリスチーヌ豪田だ。
美人で巨乳だが、夏みかんをも握り潰す現視研の握力王。
元ソフトボール部の体育会系腐女子、巴マリアだ!
「特技はキャッチャーフライのノックです」
これ、案外難しいんです。
SSやラノベが得意な、ショートカットで色白の文芸腐女子。
絵は初心者レベルだが、ストーリーテリングなら任せろ、沢田彩だ!
「将来はラノベ作家になりたいです」
弱点は夏の太陽光線だ(まるでドラキュラですな)。
腐女子属性は四天王一の参謀格。
銭勘定の細かい会計担当にして、スレンダーなメガネっ子、台場晴海だ!
「私は細かくありません!先代(大野さん)がどんぶり勘定過ぎただけです!」
激しく同意…
元野球少年の初心者オタにして、身長185センチの肉体派。
今や現視研コスプレ部門の要、作るも着るも自由自在、日垣剛だ!
「ちなみに元投手ですが、さすがに9分割は無理っす」
いや、普通みんな出来ませんから…
漫研出身だが、漫画描くより演説の方が好きな、細面のメガネ君。
司会進行議長は任せろ、有吉一郎だ!
「ちゃんと漫画も描けるからね」
でも夏コミの同人誌では、事実上の編集長だ。
文芸部出身の脚本家志望。
顔も動作も猫そのもの、伊藤勝典だ!
「喋り方も猫ですニャー」
いや猫、喋りませんから…
裏方仕事なら俺たちに任せろ!
写真部出身のメガネ君とリーゼントの2人組、浅田寿克&岸野有洋だ!
「何で俺たちだけ2人ワンセットなんだ!?」
そこは流せ。
プロローグ 笹原恵子の憂鬱
『何であたしはここに居る?』
恵子は心の中で自問自答した。
今日これで何度目になるか、もはや本人にも分からないほど繰り返してきた自問自答を。
彼女の眼前のテレビでは、DVDが再生されていた。
初めてそれを見た時、恵子はDVDプレイヤーかテレビが故障してるのかと思った。
画面が白黒だったからだ。
だがよく考えてみれば、半世紀以上も前の映画なのだから無理も無い。
今画面の中では、波穏やかな洋上を船が進んでいた。
その甲板では、船員たちが集まって休憩している。
ある者はギターを弾き、ある者はハーモニカを吹いている、のどかなシーンだ。
だが次の瞬間、船は光に包まれて炎上し、沈没する…
その先の展開が、恵子には手に取るように分かった。
当たり前だ。
何しろ今日この映画を見るのは、これでもう7回目だ。
さすがに飽きてきた恵子、ちょっとだけ画面から目を離し、今居る部屋を見渡した。
彼女が居る部屋、そこはまぎれも無くオタルームであった。
大量の本が本棚を満杯にし、入り切らない分は山積みになっている。
DVDプレイヤーとビデオデッキとレーザーディスクプレイヤーが繋がれたテレビの横には、大量のビデオテープが積まれている。
他のテープはラックや棚の類いに収納してては間に合わないらしく、横腹にタイトルの書かれた段ボール箱に収納されて積まれている。
その段ボール箱の数は、軽く1ダースを超えていた。
恵子は兄の笹原の部屋以外にも、何人かの現視研会員の部屋に行ったことがある。
春日部さんの部屋を除いて、物の多寡や散らかり方には個人差はあるものの、どこもこんなものだった。
ただひとつ大きな違いがあった。
他の会員たちの部屋にある物の大半が、漫画やアニメやゲームに関する物なのに対し、この部屋ではそれらは全体の3割にも満たない。
そして残りの7割強は、特撮関連の物で占められていた。
本は特撮の資料やシナリオやムック、それに俳優や監督や脚本家の著書等だ。
ビデオ類はもちろん、特撮の映画やテレビドラマだ。
本棚の上には、怪獣の人形(軟らかい塩化ビニール製なのでソフビ人形と呼ばれる)が並んでいる。
天井からは、テグスで飛行機等(もちろん特撮ドラマに出てくる架空のメカだ)の模型が吊られている。
全長20〜30センチぐらいのものが多いが、中には全長1メートルを超えるものもある。
地震が起きたら危なそうだ。
それを警戒してか、単に部屋の主の趣味なのか、部屋のあちこちにヘルメット(いろんな特撮作品に出てくる、地球防衛チームの隊員用だそうだ)が置かれている。
壁には古い特撮映画のポスターが貼られている。
その殆どが昭和30〜40年代の作品だ。
本物かレプリカかは分からないが、かなり退色している。
ポスターを収集するオタクには、退色することを恐れて仕舞ったままにしておく人が多い。
だがこの部屋の主は「あるからには貼らなきゃ損」という考え方なのか、退色するのが自然の姿と考えてるのか、単に見せたがりなのか、堂々と貼っている。
『女の部屋には見えねえ…』
それがこの部屋に来た時の、恵子の第一印象だった。
洋服ダンスやテーブルなどの家具、それにベッドに敷かれた布団やカーテン等は地味でシンプルだった。
色彩も黒や白や茶色が中心で、女の子っぽい赤やピンクなどは見当たらない。
しかもこの部屋の主は、今自分が着る分以外の衣類は全部仕舞いこんでいる上に、使わないので化粧の類も無く、とても年頃の女の子が住んでるようには見えなかった。
「恵子先輩、ラーメン出来ましたよ」
部屋の主、国松千里が夜食を持ってきた。
何しろ夕方から見始めたので、もう夜中になっていた。
「あんがと」
食い物に対しては素直に感謝する恵子だった。
「押忍!ありがとうございます!」
「ありがとうさんあるね!」
恵子の隣で先ほどから一緒に見ていた、スーとアンジェラもお礼を言った。
国松も座り、4人でラーメンを食べながら再び映画を見始めた。
「田辺サン、私ハ見タ!確カニじゅら紀ノ生物ダ!」
黒澤映画の常連俳優、志村喬の台詞に合わせてスーが叫んだ。
『何でこんなことになったんだ…』
恵子はテレビを見つつ、ここまでの経緯について長い長い回想を始めた。
果たして恵子の身に何が起きたのか?
何故7回も同じ映画を見ていたのか?
4人が見ていた映画とは何なのか?
次回、真相が明らかになる!
(かも知れない)
すんません。
続きは来週末にでも投下します。
451 :
マロン名無しさん:2007/07/16(月) 22:21:58 ID:mGDZn0j7
>30人いる
久々の大長編ktkr
楽しみにしています。
sage忘れすまそ
すっげー楽しみです!
454 :
マロン名無しさん:2007/07/18(水) 15:27:17 ID:k/7GCvB2
age
455 :
マロン名無しさん:2007/07/21(土) 23:34:34 ID:FZl1iVSP
たいしたものではありませんが、ちょっとした長編パロディを投下します。
これはこんな性格違うとかちょっとこんな配役かわいそうとか苦情は一切、
受け付けませんのでよろしくです。
思いついちゃったものは仕方ないということで・・・。
題して「完士とおたく工場」
では いきます。
ある見知らぬ国の見知らぬ町に完士という少年がいました。
完士の母親は加奈子 父親は総一郎 妹は恵子
その他 家族には母方のおじいさんの晴信じいさん。自称マムシ72歳と
父方の爺さんの光紀じいさんがいます。
いわゆるおたくファミリーですが、妹の恵子だけはなぜか一般人だ。
仕事は総一郎父さんが服の縫製をやっていたが、腱鞘炎で仕事ができなくなり
収入が激減、家計は大変な状態だ。
加奈子母さんがコスプレ(写真撮影料)をやって何とか食いつないでいる。
完士の住む町の大半は全世界におたグッズを供給しているおたく工場が占めている。
いわゆる企業城下町だ。
工場を経営しているのはウィリー・ウォンカという謎の人物。
ウィリー・ウォンカ製のおたグッズは世界中で大人気。
世界でもっとも有名で最も謎めいていている、それがウィリー・ウォンカのオタク工場である。
しかしその工場の中は一切謎に包まれている。
15年前、スパイによって極秘の情報を洩らされたことから、ウォンカさんは人間不信に陥って、
表面上は工場を閉鎖、従業員全員をクビにしたのだ。それ以来、工場に入ったものもなければ
出てきたものもいない。
それでも毎日大量におたグッズが出荷され、世界中で飛ぶように売れている
晴信じいさんはウォンカさんのおたく工場で働いたことがあり、ウォンカさんを見たことがあった。
しかし15年前、晴信じいさんもウォンカさんに解雇されてしまった。
「みんなウォンカさんのことを初代会長と呼んでいたな。」
と晴信じいさんの話はおたく工場に勤めていた頃の昔話ばかりだ。
「おたく工場ってどんななの?」と完士くんが尋ねる。
「夏と冬コミを足して100倍にしたくらいかな。」と晴信じいさん。
「・・・あんまいきたくないな。」と完士は顔に縦線を入れて応える。
「熱気が100倍なんじゃないぞ。中のコンテンツのすばらしさがじゃよ。」
「今、動いているのは全部、機械なの?」と完士は尋ねるが
「さあ。わからん。」と晴信爺さんは答えるのみだった。
完士はおたく工場が好きでおたく工場のミニチュアをつくった。ウォンカさんのフィギアつきだ。
95%は総一郎父さんが「手伝ってやるよ」といって勝手に作ってしまったが・・・。
完士の夢は一度、おたく工場を見学することだ。
そんなある日、ウォンカさんが驚きの発表をした。
朝、完士くんが街を歩いていると人だかりがしている。
(なんだろう?)
そう思ってその人だかりのところにいくと電信柱に張り紙がしてあった。
それはウォンカさんからの告知だった。
「工場で生産するおたグッズの中に5枚だけ金色のチケットを同封しています。
それを引き当てた人はそれぞれ一人パートナーを同伴させて工場を見学する権利が与えられます。
トラック一杯のおたグッズもプレゼントします。」
慌てて家に帰ると恵子を除いた家族みんながTVの前に座って釘付けになっている。
発表はTVでもされていたようだ。
そして、今ちょうど、いきなり招待券を引き当てた人間のレポートがTVで放映されていた。
完士くんは家族の中に割り込んでTVを見る。
今回はここまで 続きはまた次回 投下します。
さて、遅くなったけど投下するべと来てみれば、ありゃまSS増えていた。
>完士とおたく工場
久々の昔話風語りと思いきや、あの映画のパロですか。
(まああの映画も確か、絵本か何かが原作だったと思うが)
こちらも導入部だけで引きですか。
ここまでのキャラ設定は、俺的にはとりあえずオッケー、上手く当てはめましたな。
続きは来週かな。
もし長い話なら、これでSSスレ、当分は2作品で週刊連載ですな。
続きお待ちしております。
遅くなりました。
続きを投下しようと思います。
前回切りのいいとこで切ったらたった3レスになってしまい、何か生殺しの人みたいな引きになってしまいました。
今回はその反動という訳でもないですが、20レスばかし投下します。
では5分ほど後にまた。
第1章 笹原恵子の回想
夏コミが終わって数日後のある日の昼下がり、現視研の部室では学祭で上映する映画の製作会議が開かれた。
参加者は、遅れて来ると連絡のあった浅田を除く1年生10人と荻上会長、「やぶへび」の3人娘、そして夏コミ翌日に一旦アメリカに帰ったはずのスーとアンジェラだった。
ちなみに恵子は例によって遅刻、クッチーは就職活動、大野さんは諸事情により後述する。
実はスーとアンジェラ、夏コミの前日に来日した際に、大野さんがアパートを紹介してもらった不動産屋を訪ね、秋から暮らすアパートの物件を探してもらっていた。
だが彼女たちの提示する条件を満たす物件は、その日は見つからなかった。
彼女たちの条件とは、2DK以上の間取りで、その2つの部屋が鍵のかけられる完全な個室であり、なおかつ1DKとあまり変わらない程度の家賃であることだった。
異国の地に住む精神的な不安と経済的な理由から、同じ部屋に住むことにしたのだ。
とは言っても、アメリカ人はある程度の経済水準で育てば、自然に1人1人のプライベート空間を求める。
その為に前述のような条件になったのだ。
だがこの時期に、椎応大学近辺でこの条件を満たす物件を探すのは困難だった。
大学周辺のマンションやアパートの多くは、学生や独身社会人の1人暮らしを対象にした、1Kか1DKの部屋だ。
2DK以上の間取りの部屋も無くは無いが、主に夫婦や親子3人以上で住む人を対象にしているので、当然家賃は割高になる。
結局その日は満足出来る物件が見つからなかったので、見つかり次第連絡してもらえるように不動産屋に頼んでおいて、2人は店を後にした。
2人が再来日したのは、昨日不動産屋から連絡があったからだ。
今朝成田に着いてからその足で不動産屋に向かい、物件を見せてもらった。
結局2人は、隣り同士の部屋が空いていて比較的家賃の安い、ワンルームマンション2部屋で契約することで落ち着いた。
ちょうどそんな時に1年生たちから連絡があった。
欠席裁判で事を進めるのも何なので、国際電話で連絡してみたのだが、2人が日本に来ていると家族から聞いて、彼女たちの携帯に連絡してきたのだ。
こうして2人も会議に同席することとなった。
荻上「ところでニャー子さんはともかく、何でヤブと加藤さんまで居るの?」
夏コミ終了後の打ち上げコンパで、ケロロ小隊コスを使っての映画制作が決まった直後、国松はニャー子に出演の依頼をした。
クルル役のスーと身長が釣り合う小柄な者が、現視研には荻上会長、沢田、そして国松の3人しか居なかったからだ。
ニャー子は国松の依頼を快諾して、現視研の映画に出ることになった。
藪崎「アホ、私らはまたじきに別のイベントで本出すさかい、ニャー子も居らんと困るんや。出番まではここで原稿描かせてもらうで」
加藤「まあニャー子貸し出すレンタル料とでも思ってちょうだい」
まあ実は藪崎さんと加藤さん、本当の狙いは斑目であり、現視研の面々は荻上会長も含めてそれを知っていたが、それ以上深くはツッコまなかった。
ちなみに今日は、2人のお目当ての斑目はまだ姿を見せていない。
「ええそれでは、第2回現視研で映画作ろうぜ会議を始めます!」
有吉の宣言と共に会議が始まった。
この頃になると有吉は、会議になるとかつての斑目のように、議長(と言うか司会進行)を務めることが多かった。
そしてホワイトボード前には、書記の神田が陣取っている。
豪田「2回ってのは?」
巴「多分この間の打ち上げでの話が1回目ってことじゃない?」
台場が挙手した。
台場「あの、始めるに当たって、私から先に言っときたいんだけど…」
有吉「どうぞ」
台場「あれからいろいろ考えたんだけど、せっかくケロロ小隊のコス作るんだから、いっそのこと『ケロロ軍曹』の実写版映画作ったらどうかな?」
思わぬ提案に固まる一同。
無理も無い、何しろ予算面で映画の話に難色を示した急先鋒の彼女からは、天地が引っくり返っても出て来ないと思われた提案がなされたのだから。
ちなみに当初の企画では、夏コミで使ったベムとアルのコスと、新作のケロロ小隊コスを使った、「ウルトラファイト」的着ぐるみアトラクションショー映画だった。
(注、夏コミでは初日に「妖怪人間ベム」、2日目に「鋼の錬金術師」のコスが行なわれた)
台場「大体本家のケロロだって、Aパートだけなら10分少々だし、放送1回分でも25分かそこらだから、8ミリ映画の上映時間としては妥当なとこだと思うの」
まだ固まっている一同。
台場「(一同を見渡し)どうかな?」
最初に凍結解除したのは国松だった。
垂れ気味の大きな眼からじんわりと涙がこぼれ、やがて子供のように「うわーん!」と大声を上げて泣き出した。
固まっていた一同が一斉に呪縛から解かれ、オロオロし出した。
「どっ、どうしたのよ千里?」
台場もとまどっていた。
1番喜びそうな彼女がワンワン泣き出したからだ。
「私嬉しいの!だって、だって本当は、私もケロロ軍曹で映画やりたかったんだもん!でも予算的に無理だと思ってあきらめて…そしたら晴海の方からやりたいって…」
そこまで言ってまた泣き出した国松を、台場は優しく抱いて「よしよし」という感じで頭を撫でてやる。
国松「それに私がアニメや漫画に興味を持つようになったきっかけが、実は『ケロロ軍曹』だったのよ」
一同「そうなの?」
ようやく泣き止んだ国松、台場から離れると高校時代の話を始めた。
国松には高校時代、アニメや漫画を専門とするオタ友達が居た。
2人は趣味こそ違えど、女オタ同士仲が良かった。
ある日その友達が「このアニメ、特撮ネタのパロディが多いから面白いと思うよ」と薦めたのが「ケロロ軍曹」だった。
国松は、ものの見事に「ケロロ軍曹」にハマった。
友達が録画したビデオを全話見て、本放送も毎週見るようになり、漫画も全巻読破し、「少年エース」を定期購読するようになり、DVDも買い集め始めた。
国松は真面目な努力家だった。
さらには劇中のパロディの元ネタを調べ、遂にはその元ネタのアニメまでも制覇した。
(特撮ネタだけは、普通30代以上にしか分からないネタも含めて全部看破した)
さらに友達の薦めで、パロディネタの多い「究極超人あーる」などにも手を出し始めた。
そんな過程を通じて、彼女は次第にアニメや漫画にハマり始め、同時にあることを悟った。
「今のアニメや漫画と特撮は、みんなそれらを見て育った人々が作っている」
「その為アニメや漫画と特撮は、お互いに影響し合っている」
「だから特撮を極める上で、アニメや漫画を極めることは避けて通れない」
こうして国松は、これまでの特撮オタク道と並行して、アニメや漫画のオタク道を進むことを決意した。
もっとも椎応に入った当初は特撮系のサークルに入る積もりだった。
だが該当するサークルが無かったということもあり、ならば大学時代にアニメや漫画を極めようと漫研やアニ研に行ってみた。
だがそれらはどうも漫画やアニメに特化し過ぎていて、初心者の国松には敷居が高く感じられた。
そして結局、ヌルオタからガチオタまでオタクの闇鍋状態の現視研へと辿り着いたのであった。
『国松さんってやっぱり真面目だな』
と内心感心しつつ、日垣は皆が気にしていると思われる懸案事項について質問した。
「でもいいの台場さん、予算の方は?」
台場はあまり厚みの無い胸を張って、高らかに宣言した。
「その点なら大丈夫!(荻上会長に)荻様、いや会長、事後報告で申し訳無いんですが、ここ数日あちこち回ってスポンサー集めて来ました」
一同「すぽんさー?」
台場は自分の鞄から、何やら書類の束を取り出した。
それを一枚ずつ手に取って見る一同。
荻上「スポンサー契約書?」
台場「まあひと口ひと口の額は少ないですが、とにかく数かき集めました」
豪田「鷲田社?これって笹原先輩の会社だね」
有吉「プシュケって…高坂先輩の会社だ」
神田「桜管工事工業?これシゲさんとこの会社じゃない!」
沢田「こっちには春日部先輩のお店が」
伊藤「こっちは久我山先輩の会社だニャー」
巴「晴海、あんたOBの人のとこ回って金策してたの?」
台場「人聞きの悪いこと言わないでよ。あくまでもOBの人の会社に頼んだんだから」
日垣「多分実際に金出してるのは、OBの方々だと思うよ」
岸野「そもそも春日部先輩の店って、店長先輩だし」
台場「ハハハ(笑ってごまかす)それより他のも見てよ」
ニャー子「これ駅前の本屋さんだニャー」
藪崎「こっちは大学の近所の喫茶店やな」
加藤「こっちは駅前の居酒屋ね…って、私たちまで加わってどうする!」
藪崎「えろうすんません」
原稿に戻る加藤さんと藪崎さん。
「まあ地域振興ってことで、いいんじゃない?」
荻上会長が場をまとめた。
「でも以後事後報告禁止よ。そういう提案なら反対はしないから(ニコッと笑う)」
台場「(ニコッと笑って直立不動の姿勢になり)GIG!」
巴「それはそうと、このスポンサーさんたち、どうすんの?ハルヒの映画みたいに、映画の合間に中コマでも入れる積もりなの?」
国松「冒頭に賛助って付けてズラッと字幕で並べたら?」
台場「まあマリアの言うのはチト手間だし、千里のに近い感じでいいんじゃない?エンディングタイトルでズラッと並べて」
沢田「晴海、素人の映画の最後に長々とエンディング見せても、誰も見やしないわよ。映画館ですらエンディングタイトルになったら殆どの人立っちゃうのに」
国松「そうよ。やっぱ特撮の伝統に則って、オープニングでスタッフやキャスト紹介して、最後は『終』の字を出してスパンと終わらないと」
豪田「まあ伝統はともかく、字幕はオープニングだけでいいってのには賛成ね。素人の映画にエンディングタイトルは大げさでしょ?」
岸野「そんじゃあスポンサーさんも、オープニングタイトルで『協力』とか付けてざっと紹介しちゃう?」
伊藤「それじゃあ味気ないから、せめて映画の前に短いCM入れてあげればいいニャー」
岸野「いいねえ、それ。映画館で映画始める前のサウナのCMみたいなやつ」
一同「サウナ?」
岸野「まあサウナはものの例えだけど、大体都心部の映画館は近所の店のCM入れる場合が多いよ。昔の映画館みたいに、動かない絵と文字だけのCMでいいんじゃない?」
沢田「何時の時代の話よ、それ?最近は殆ど映画の予告編と、普通のCMばっかりよ」
そこで突如スーが歌い始めた。
「京橋ハ、エエトコダッセ、ぐらんしゃとーガ、オマッセ〜♪」
固まる一同。
ただ1人、藪崎さんだけがツッコミを入れた。
「スー!何であんたがその歌知ってるんや?」
台場「何の歌ですか、今の?」
藪崎「関西ローカルの有名なCMソングや」
神田「グランシャトーって何ですか?」
藪崎「大阪の京橋っちゅう歓楽街にある、有名なサウナ風呂や。さっきスーがうとてたCMソングは、今でもラジオや深夜のテレビでは流れとる」
(参考)
正確には「グランシャトー」とは、サウナ風呂の他にバーやゲームセンターやパチンコや中華レストランなどが入った雑居ビルのことを言う。
日垣「で、何でスーちゃんがそれ知ってるんです?」
藪崎「多分関西在住のオタ友達が居って、アニメの映像を送ってもらってるんやろ。テープやDVDを郵送してるのか、ネットで送信してるのかは知らんけどな」
神田「それでその中に関西のCMが入っていたと」
藪崎「多分な。その友達、CMカットみたいな細かいことはせんかったんやろ」
荻上「さて、本題に戻りましょうか」
結局のところCMは、クランクアップ直前の進捗状況を見て決めることになった。
予定より早く終わりそうなら、映画の前か間に動画の形でCM制作。
予定より遅れているなら、オープニングタイトルで「協力」とクレジットを入れて字幕でざっと紹介。
とまあ、そんな具合だ。
「あと本格的に制作会議に入る前に、もうひとついいかな?」
普段自分から口を開くことの少ない岸野が珍しく切り出した。
「撮影の基本になる機材のことを先に確認しておきたいんだ。うちには8ミリとビデオと両方あるんだけど…えーと、これはちょっと先に説明した方がいいかな」
荻上「そうね、みんなその手のことは知らなさそうだから、お願い」
岸野「分かりました。まず結論から先に言うと、8ミリとビデオだと、初心者が映画を作るのにはビデオの方が向いてます」
沢田「どうして?」
岸野「簡単だからだよ」
神田「カメラの扱いが?」
岸野「それもあるけど、テープの入手から編集まで、ありとあらゆる点でビデオの方がやりやすいのは確かだよ」
巴「8ミリは難しいの?」
岸野「順番に比較してみようか」
岸野は具体的に説明を始めた。
その主な内容は以下の通りだった。
フィルム(テープ等のメモリー用ソフト)とカメラの入手
8ミリ→扱っている店は限られる
ビデオ→大概のカメラ屋や電気店で買える
照度の調整
8ミリ→シングル8(後述)の場合、昼光用と人工光用でフィルムを使い分ける
ビデオ→自動で調整出来る
現像
8ミリ→1〜2週間かかる
ビデオ→必要無い上に、その場で映り具合が確認できる
編集
8ミリ→ビューワーという手動の器械でフィルムを見つつ、切ったりつないだりする
ビデオ→パソコンの編集ソフトを使う
岸野「ちなみに俺んちには、8ミリとビデオとどっちの道具も揃っているから、どっちでも大丈夫だよ」
神田「岸野君そういう趣味があったの?」
岸野「親父のだよ、両方とも。親父は学生の時映研だった上に、俺が小さい時にはよく8ミリで家族撮ってたんだ」
沢田「ビデオの方は?」
岸野「弟が生まれた時にビデオに切り替えたんだよ、親父」
日垣「そりゃまたどうして?」
岸野「8ミリのフィルム扱う店が少なくなった上に、ビデオカメラの小型化が進んで性能もアップしたからだよ」
豪田「まあそれはともかく、今までの話じゃビデオでいいと思うんだけど」
岸野「だけど今回の場合、8ミリでないと問題なこともあるんだ。こっからは国松さんに説明してもらった方がいいかな?」
国松「うん分かった。普通の映画なら私もビデオに反対しないけど、特撮の場合はひとつ大きな問題があるのよ」
荻上「それはどんな?」
国松「ビデオだと映像が鮮明過ぎるんです」
巴「鮮明ならいいんじゃないの?」
国松「そうすると粗が目立っちゃうのよ」
一同「あら?」
国松「例えばビデオで撮ると、着ぐるみは着ぐるみにしか見えないし、ミニチュアはミニチュアにしか見えない。でもフィルムの粗い粒子の映像なら、割とそれらしく見えるのよ」
豪田「どうもピンと来ないわね」
国松「これは何も特撮に限ったことじゃないわ。例えばビデオ撮りの時代劇って、何かウソっぽく見えない?」
豪田「そう言えばそうかな…」
伊藤「今の時代劇って、言葉使いとか立ち居振る舞いが現代のまんまなせいもあって、セットの中で時代劇コスプレのコントやってるようにしか見えないんだよニャー」
ニャー子「時代劇ってあんまり見ないけど、そんなもんなのかニャー?」
伊藤「昔の時代劇の役者さんは、剣道とか日本舞踊とかやってて着物での立ち居振る舞いが身に付いてたからニャー。その点今は、着物で洋服の動きやってるからニャー」
国松「でもこれがフィルムだと、例えば必殺シリーズみたいに時代考証のイージーな時代劇でも、けっこうそれらしく見えるものなのよ」
荻上「まとめると非日常的な作品にビデオは向いてない、ってことかな?」
国松「そういうことです」
巴「そんじゃあ8ミリで行く?」
岸野「そこでお薦めしたいのが、8ミリとビデオ両方で並行して撮ることなんだ」
アンジェラ「OH!ハリウッドでやってる方法あるね」
荻上「どういうこと?」
アンジェラ「最近のハリウッドでは、映画を撮る時に同時にビデオで撮影して、それを現場で確認しながら撮影を進めていく方法が取られているあるね」
岸野「それもあるけど、もうひとつ保険の意味もあってのことです」
荻上「保険?」
岸野「先程も説明した通り、フィルムは現像から返ってくるまで時間がかかります。そしてそれまで上手く撮れているかどうかは分かりません」
台場「つまり最悪の場合、ビデオを素材にして完成させようという訳ね」
岸野「そういうこと。それに8ミリはもし故障した時、修理や代わりのカメラの手配は困難だしね。どう、国松さん?」
フィルムこだわり派は国松だけなので、敢えて岸野は名指しで尋ねた。
国松「まあなるべく避けたいけど、確かに保険は必要ね。会長、いいですか両方で?」
荻上「いいと思うわ。みんなは?」
他の会員たちも賛同し、8ミリとビデオの両面作戦で撮影されることが決まった。
有吉「それでは具体的な制作手順の話に移りたいと思うのですが、まずは企画を立ち上げた国松さんから行きましょうか」
豪田「そうね、先ずは監督さんからよね」
キョトンとした顔の国松。
豪田「ん?どした?」
国松「私監督はやらないわよ。て言うか出来ない」
一同「えっ?」
みんなが驚くのも無理は無かった。
この企画を言い出したのが国松であり、特撮についての知識は現視研随一の国松が当然監督をやるものと思い込んでいたからだ。
豪田「(立ち上がり)ちょっ、ちょっとどういうことよ!?この話言い出したのあんたじゃないの!」
台場「そうよ、あんなに楽しみにしてたのに、どうして?」
一点の曇りも無い瞳を皆に向け、国松は平然と言い放った。
「私、スーツアクターだから」
そのひと言で、夏コミでクッチーが長時間着ぐるみを着て倒れたことについてキレた国松を直に見た男子会員たちと、キレられた荻上会長は納得した。
国松にとってスーツアクターとは、神聖にして侵すべからずと言っていい聖域であり、少なくともカメラが回っている間はそれ以外の仕事を兼任出来る性格のものではないのだ。
だが話で聞いてはいるものの、直に見ていない女子会員たちは今ひとつピンと来なかった。
豪田「それがどうしたのよ!アマチュアの映画制作で監督が俳優兼ねるのなんて普通じゃない!だからあんたも監督とスーツアクターぐ…」
豪田がそこまで言いかけた時、荻上会長は素早く動いた。
席を立つや疾風のように豪田に駆け寄り、背後から飛び付いた。
両脚で豪田の胴体を挟んでしがみ付き(豪田のウェストが太過ぎて、巻き付けるまでには至らなかった)両手で豪田の口をふさぐ。
豪田「ん〜ん〜!」
荻上「巴さん、アンジェラ、悪いけど私ごと豪田さん外へ運び出して!」
荻上会長の切羽詰った言い方に、思わず立ち上がって豪田を運び出す2人。
部室の外に出て、ようやく荻上会長は豪田から離れた。
豪田「(息を荒くしながら)もう、どうしたんですか、荻様?」
荻上「いい?国松さんにスーツアクターを軽視するような発言は、最大のNGワードよ」
豪田「そうなんですか?」
巴「いくら何でも、それは大げさでは?」
話でしか聞いていない1年女子たちには、今ひとつキレた国松の怖さが実感出来なかった。
荻上「あなたたちは実際に怒られてないから、そんな呑気なこと言えるのよ」
アンジェラ「そんなにセンリ、怖いあるか?」
荻上「(顔面蒼白で)怖いわよ、思い出しても寒気がする」
そう言って震える荻上会長に慄然とする3人。
『完全にトラウマ化してるな、何をやったんだ千里?』
「会長の仰ること、決して大げさじゃないと思うよ」
3人の背後から、突然声がかかった。
一同「(振り返り)浅田君?」
声の主は浅田だった。
荻上「どうしたの?随分大荷物ね」
浅田は大荷物だった。
夏コミの時に使っていた、本来登山用らしき大型のリュックを背負っている。
それに大きな板を小脇に抱えている。
浅田「遅くなりました、会長。高校に寄って撮影機材借りて来たんですけど、思ったより時間かかっちゃいました」
一同「撮影機材?」
浅田「(荷物を床に置き)そう、レフ板とかライトとかいろいろ。それよりさっきの話だけど」
言いながら浅田は、リュックからノートパソコンを取り出して起動させ始めた。
豪田「千里のこと?」
浅田「まあ口で言っても分からないと思うから、実際に見てもらった方が早いかな」
浅田はノートパソコンを何やら操作した。
するとディスプレイの中では、夏コミ1日目のコスプレ広場の、あの惨劇が再現された。
ハルヒコスでマジ切れし、荻上会長・大野さん・田中の3人に怒鳴りつける国松。
その様子を呆然と見続ける1年女子3人、次第に青ざめる。
荻上「こっ、これどうしたの?」
浅田「実はあの日、高校の写真部の連中が来てたんです。そんでコスプレの撮影してたんですが、そん中に1人ビデオで会場撮ってた奴が居まして…」
荻上「で、その人があの1件を撮影してたと」
浅田「そういうことです」
荻上会長は3人に声をかけた。
荻上「分かってもらえたかしら?」
3人「(怯えた顔で)たいへんよく分かりました」
荻上会長たちが部室に戻ると、まずは一緒に入ってきた浅田にみんなの注目が集まった。
神田「浅田君遅刻!」
浅田「ごめんごめん、お土産持ってくるのに手間取っちゃってね」
神田「お土産?そう言えば、えらい大荷物ね」
浅田「とりあえずライトとレフ板と集音マイク、それに予備のカメラ持って来た」
沢田「そんなのどっから調達したの?」
浅田「高校の映研から借りて来たんだよ。レフ板とライトは写真部からでもよかったんだけど、カメラとマイク借りるついでにね」
国松「よくこんな時期に借りられたわね」
浅田「逆だよ。こんな時期だから借りられたんだ」
国松「どういうこと?」
浅田「うちの高校の映研って、夏休みに入ると同時に2週間ぐらい合宿やって、集中的に文化祭用の映画の撮影やっちゃうんだよ」
岸野「そして今ぐらいの時期は、編集とアフレコってとこか」
浅田「その通り。だから編集用の機材も追って借りる積もりだよ」
みんなが感心する中、荻上会長はホワイトボードに注目した。
ホワイトボード上には、映画スタッフの役職の名前がズラリと並んでいた。
荻上「どうしたの、それ?」
神田「会長たちをただ待ってるのも何なんで、千里に映画制作に必要な役職を訊いて書き出してたんです」
国松「あと会長、さっきは何かあったんですか?」
荻上「なっ、何でもないわよ。豪田さんがちょっと気分悪そうだったから、外で風に当たった方がいいと思って…」
一同『何ちゅう苦しい言い訳だ…』
だが天然ボケの気のある国松はあっさり納得した。
国松「そうですか。(豪田に)大丈夫?」
豪田「うっうん、大丈夫、心配かけたわね。(ホワイトボードを見て)それにしても、けっこうたくさんあるのね、映画の役割分担って」
台場「今も話してたんだけど、この人数でもかなりの役職は兼任になりそうね」
巴「とりあえず、スーツアクターの7人とカメラマンの2人以外から監督選任しない?」
有吉「そうだね。誰か希望者は居るかな?」
返事は無かった。
有吉「まあみんな未経験だから無理も無いか」
荻上「本来なら私がやるべきなんだけど…」
神田「会長は漫画家のお仕事がお忙しいし、何と言っても軍曹さんですし」
荻上「隊長は無責任につっ立ってるのが仕事ってことね」
有吉「国松さん、誰か推薦とか無い?」
国松「うーん…推薦と言うんじゃないけど、監督の条件みたいなのをひとつ挙げていい?」有吉「何だい?」
国松「監督に1番必要なのは、知識とか技術とか経験とか才能とかセンスとかよりも、誰に対しても偉そうに命令出来ることだと思うの」
荻上「えらくイージーな条件ね」
国松「監督ってのは作品のイメージを最終的にまとめるのが仕事ですから、それの良し悪しに関係無く途中でブレちゃ困るんです」
荻上「なるほどね」
国松「だから監督ってのは、たとえ根拠や自信が無くても威張ってなきゃいけないんです。監督がオロオロ不安そうにしたら、みんなも不安になりますから」
荻上「耳の痛い話ね」
国松「(慌てて)あっ、あのこれ会長のことじゃないですから、絶対!会長は何時だって不動心ですし」
荻上「実は心の中は揺れまくってるんだけど…いけない、また話がズレてきたわね。誰かそういう条件の人居るかなあ?」
その時、会員たちの脳裏にある人物が浮んだ。
だが浮ばなかった者も居た。
台場はロッカーから数本の割り箸を取り出し、今部室に居る人数を数え始めた。
次に割り箸の本数を数え、数えた割り箸全部の袋を取り去って割る。
さらに割れた箸の1本を手に取り、机の上のペン立てから極細のボールペンを出し、箸の根元に何やら書き込もうとする。
この時点で荻上会長は、台場が何をしようとしてるか大体分かった。
荻上「もしかして、やっぱりくじ引き?」
台場「(ニッコリ笑って)これが1番公平ですから。(一旦手を止め)あっ、いいですよね、会長?」
荻上「うーん(しばし考え)いいわ、とりあえずそれで行きましょう」
台場は再び書き始め、書き終わるとその何か書き込んだ箸をその他の箸と共に両手で握る。
台場「(割り箸を前に突き出し)さあみんな、引いて!あっ、会長と彩とニャー子さんとスーちゃんと千里、それに日垣君と浅田君と岸野君は引かなくていいですから」
国松「てことは、その残りの人数分なの、くじ?」
台場「ちゃんと数えたわよ。えーと1年生が私とアンジェラも入れて7人、まだ来られてないけど恵子先輩、それに藪崎先輩と加藤先輩でちょうど10人!」
藪崎「ちょ待て!何で私らも入ってんねん?!」
加藤「いいじゃないの」
藪崎「加藤さん!」
加藤「当たらなければどうということないわよ」
藪崎「当たったらどないしまんねん?〆切までそない間あおまへんで!」
加藤「その時はその時よ。くじ引きの結果なら仕方ないわ」
台場「さすが加藤先輩、話が分かる!そんじゃくじ引きレディーゴー!」
だがみんな、しばし引くことを躊躇した。
その僅かな時間に乱入者があった。
遅れてきた恵子だ。
(つまりここまでの回想は、厳密には後で恵子が聞いた話である)
「ちわーす!ごめんよ遅くなって。(台場の手元のくじを見て)なーに、くじ引き?何当たんの?」
言い終わるよりも速く、恵子はくじを引いた。
次の瞬間、部室内の時間が数秒凍結した。
ただひとりを除いて。
恵子「わっこれ当たり?!何か書いてあるじゃん。えらくちっこい字だな。えーと…総…」
いち早く凍結を解除した台場、喪黒のように力強く恵子に人差し指を突き出し、欽ドン賞を宣言する萩本欽一のような口調で、高らかに宣言した。
「総監督、決定!」
急転直下で監督に決定した恵子。
果たして恵子は監督を引き受けるのか?
前回の最後に残り、そして今回も残った数々の謎の真相は、次回こそ明らかになるのか?
次回、さらなる試練が恵子を待つ。
今日はここまでです。
長時間のスレ占領、失礼しました。
>「30人いる!!」
乙です。
リアルタイムで見てました。
続きが気になる!次回楽しみにしてます。
>『完士とおたく工場』
連載増えた!
つかおたく城下町のおたくファミリー……(汗)
原作も映画も知らんけど、さしあたりまだ導入部だしヒロインも出てきてないようなので
先行きが楽しみですだ。
お待ちしてますよ。
>『30人いる!』
GJ!いよいよ話が展開し始めた感が。
ところで「えーと…総…」と読んで、話の流れを一顧だにせず総受けか総攻めのことだ、
と直感した俺はたぶん心が濁ってますorz
続き楽しみにしてるよん。まったくwktkだぜ。
486 :
マロン名無しさん:2007/07/24(火) 22:07:40 ID:Hn07Y9+r
>>461 さて30人いるさんの御眼鏡にかなうキャラ設定ができてるかどうか・・・
また期待にそえるようにストーリーが続けられるかどうか・・・
できるだけがんばってみますので お手柔らかにお願いします。
30人いるさんの作品は以前から好きでした。まるでおもちゃ箱をひっくり返したような世界
・・・ちょうどうる星やつらビューティフルドリーマーのような学園祭前夜の
ワイワイガヤガヤしたそんな一番楽しくて面白い時間が永遠に続くような世界観のストーリーが
大好きなのでワクワクして読んでました。
これからもそんな面白い話 期待しております。
特に僕はオリキャラ創って既存のキャラに対応させていく才能が無いので
30人いるさんのようにオリキャラつくって絡ませられる人がうらやましいです。
多分、ボクか30人さんがこのスレのトリをとることになると思います。
僕がトリをとったらそん時はよろしくです。
>>485 元ネタは「チャーリーとチョコレート工場」ってえ映画です。
面白いからお勧め&必見の映画です。
ぜひ一回、見てください。
それでは「完士とおたく工場」続きを投下します。
「レポーターの北川です。さっそく1組目の当選者が出ました。」
北川レポーターは小柄で痩身 眼鏡をかけた女性だ。
TV画面には様々なおたグッズが乱雑におかれたいかにもおたくといった部屋がうつっている。
そこに男2人が並んで立っている。一人はかなり長身で痩せてて手足が長い
一人は中肉中背でボサボサ頭であごひげをはやしている。
「朽木であります。ウォンカさんの招待券に当選したであります。光栄であります!!」
手足をばたつかせて長身の男は応える。
「沢崎です。おたく工場へいけることが決まって嬉しいです。」
中肉中背の男が応えた。
「何?この人たち?」と加奈子母さんがクレームをつける。
「なんでこんな人たちに当たってうちはあたらないの。この人たちいかにもおたくじゃないの!!」
キーっという感じで叫ぶ。
(いや、だっておたグッズ買うのはおたくだろう・・・)
と家族みんな心の中でつっこみをいれる。
「・・・それに俺達、おたグッズ買ってないし・・・」と晴信じいさん。
「当選した理由は何だと思いますか?」
北川リポーターが(こいつらうざい)という表情をしながら聞く。
「いつもウォンカさんのおたグッズ買ってるからでありますっ!!」
「俺ら毎日、ウォンカさんの店でおたグッズ買ってるもんなあ。」
「これだけ買ってて当たらなかったら詐欺でありますっ!!」
「え〜以上、おたく工場招待券が当たって喜んでいる当選者の2人でした。
以上でレポートを終わります。」
いい大人の癖に子供のようにはしゃぐ朽木を本当にうざそうな視線で
睨みながら北川レポーターの中継は終わった。
次の日の夜のことだった。
「今日は完士の誕生日だね。」
加奈子母さんは言った。
「はい。これプレゼント」
「わあ。ありがとう。」
ちゃんと包装紙にくるんでリボンも巻いているプレゼントを渡されて
完士くんは舞い上がって喜んだ。
「もしかしたらウォンカさんの招待券がはいってるかもしれないよ。」
と総一郎父さんは言う。
「楽しみだな。明日、開くよ。」
すると晴信じいさんがゴホッゴホッと咳をしだした。
「明日までワシの寿命はないかもしれん・・・ゴホッゴホッ
ああ・・・死ぬまでにもう一度、ウォンカさんのおたく工場を見学したかった・・・ゴホッゴホッ」
そういってじっと恨めしそうな顔を完士くんに向ける。
家族みんな晴信じいさんの方を見、そして顔をあわせた。
「じゃあ。今、もうあけちゃうね。」
そう完士くんは言って、おたグッズを開く。
みんなドキドキしながら招待状が出てくるかどうか注視していた。
プレゼントは完士くんが前から欲しがっていたくじアンのケッテンクラート会長のフィギアだ。
しかし招待状は出てこなかった。
完士くんは半分嬉しく半分がっかりだったがお礼を言おうと家族をみると
みんながくっと肩を落としていた。
更に次の日
「レポーターの北川です。2組目の当選者が出ました。」
TV画面にはツチブタのように太って眼鏡をかけたスーツにネクタイを締めた親父と
短髪で髪を茶色に染めたスタイルのいい可愛い娘がカジュアルな服装をして並んで立っていた。
「僕は原口 この娘は僕の恋人の中島。」
と男が女性の肩を抱きながら自己紹介する。
「中島っていいます。招待券が当たってまんず嬉しい。」
女はペコリとお辞儀をし、東北弁で応えた。
「当選おめでとうございます。ところで、今回、招待券が当たった理由は何だと思いますか?」
北川リポータが聞く。
ふふん!とツチブタオヤジが鼻を鳴らして応える。
「僕はおたグッズのブローカーをやってるからね。ウォンカさんの商品は沢山入るんだよ。」
「はい。」
「入ってくるウォンカさんの商品を全部レントゲンで調べて招待券の入っているものを
買ったってわけさ。」
「・・・それは違反なんじゃ。」
ふふん!ツチブタオヤジがまた鼻を鳴らす。
「別にそういうことをしちゃいけないって規則はないだろ?」
「ないわよねえ。」
「この娘が(といって中島を指す)どうしてもおたく工場の招待券がほしいっていうもんでねえ。
ちょっと一肌脱いだってわけさ。」
「ほんと原口さんにはお世話になるべ。」
中島はツチブタオヤジに抱きついて頬にキスをする。
北川レポーターはうつむいて肩がプルプル震えている。
正義感の強い彼女からすれば二人のやったことは許せないのであろう。
ディレクターだろうか大柄な身体の男性がカメラの前に突然現れ
「CM!CMいくぞっ!!」
と叫んで場面が変わった。
加奈子母さんが悔しそうにキーっと歯噛みしながら叫ぶ。
「あんな卑怯な手を使う奴らが招待券を手にするなんて間違ってるわ!!」
「ほんとにあんな奴らっているんだな。」
「おたくの風上にも置けないな。」
家族が次々に答える。
次の日、完士くんが家で暇そうにしていると晴信じいさんがベッドの上から手招きする。
何事かと思って晴信じいさんのところにいくと
晴信じいさんは枕の下から5000円札を出した。へそくりだという。
「これでウォンカさんのおたグッズを1つ買ってきてくれ。」
「何がいいですか?」
「店に入ったら迷うことなくニャボリャボオルタナティブUを買ってくるのじゃぞ!!」
晴信じいさんは間髪いれずにいった。
(エロゲーかよ)
と心でつっこみをいれる完士くん。
(おじいさんも元気だなあ・・・)
完士くんは晴信じいさんに渡された5000円札を持ってウォンカさん専用のおたグッズを扱っている
店に入り、ニャボリャボオルタナティブUを手にしてカウンターへ行き
「これください。」といった。
店長の高柳が尋ねる。「これエロゲーだよね?」
「おじいさんにお使いを頼まれて・・・」完士くんが多少、顔を赤くして答える。
「晴信じいさんも元気だなぁ」高柳はあきれるように答えた。
高柳と晴信じいさんは昔からの知り合いである。
完士くんは買ったニャボリャボオルタナティブUを持って家に戻ってきた。
二人でドキドキして封を空け中身を見る。
しかし中には金の招待券は入っていなかった。
がっくり肩を落す二人。
その日の晩
「レポーターの北川です。3組目の当選者が出ました。」
TV画面には美しいブロンドの長いストレートの髪をした青い目の可憐な美少女と
短髪・金髪でダイナマイトボディのお姉さんの二人の外人が並んでたっていた。
美少女はブスっとした顔でやぶ睨みにTVカメラを睨んでいる。
(無愛想な女の子だな)
なにかムっとするものを感じながら北川レポーターが
「当選おめでとうございます。」
と言ってマイクを向けると小さな子がいきなり
「アンタ バカア?」
いきなりの洗礼に言葉を失い顔面がひきつる北川レポーター
「これっ!スー。誰にでもそんなこというもんじゃないの。」
長身の女性がたしなめるように言う。そしてレポーターの方を向き直り
「私はアンジェラ・バートン この娘はスザンナ・ホプキンス。スーって呼んでね
二人は親友よ」と自己紹介した。
(親子じゃネエのかよ)
引きつった顔面を無理やり作り笑顔に変えながら北川レポーターはレポートを続ける。
「今回招待券があたった最大の理由は何だと思いますか?」
「スーは昔からこういうのは強いの。運がいいのかな。懸賞物にはよく当選してるのよね。
多分、気合で運を引き寄せたんじゃないかな。」
とアンジェラは笑って応えた。
「当たったのは奇跡みたいなもんかな」とアンジェラ
「オコラナイカラ キセキッテイウンデスヨ」とスー
北川レポーターはブスっとした顔で睨むスーが苦手なようだ。
苦虫を噛み潰したような顔で
「ここらへんでレポートを終わりたいと思います。」というと番組は終わった。
「まあ なんでしょ。あの娘、ブスっとした表情で、愛想笑いのひとつくらいしなさいよ。」
と加奈子母さん。
「まあまあ 相手は子供だ。いいじゃないか。」
といつもと違って優しく言う晴信じいさん
「相手が自分好みの可愛い少女だからって何をかばってるんですか!!」と加奈子母さん
「僕はもう一人の女の方がいいな。ダイナマイトボディで」と総一郎父さん
「・・・あたしの胸のほうがでかいですよ」更に不快そうな顔をして総一郎父さんを睨む加奈子母さん
言わなくても言いことを言ったことに気づき顔面蒼白となる総一郎父さん。
「あなた ちょっと来ていただけます?」
そういうと加奈子母さんは顔にマスクをした。
その夜、総一郎父さんの部屋からキャーという叫び声が聞えたそうな。
更に次の日
「レポーターの北川です。4組目の当選者が出ました。」
TV画面には長身の美しい女性と童顔でキュートな男が並んでいる。
女は立ったまま男は座って格闘ゲームに熱中している。男の顔は満面の笑顔だ。
「隣に座ってるのは招待券を当てた高坂真琴 あたしは彼の恋人の春日部咲。」
レポーターに向かって女が自己紹介する。
「今回招待券があたった最大の理由は何だと思いますか?」
「こーさかはなんかさあ。勘で当てたっていってるんだけどさあ。」
と横の男を見ながら言う。
「うん。勘で当てたよ。」
「一発で当てたんだよねえ。『咲ちゃん。このゲームに招待券が入ってるよ』
って言って買ったら入ってたんだよ。」
と咲は不思議そうに言う。
「はあ・・・そうですか。」
と信じられなさそうな顔をする北川レポーター
「それでおたくとして工場へ行く感想は?」
「あたしはおたくじゃねえっ!!」いきなり怒り出す春日部さん。
「はあ?あんたおたくでしょ?おたくじゃなければなんで招待券なんか手に入れて喜ぶのよ!!」
なんで怒り出したかわからず困惑顔でレポートを続ける北川レポーター。
北川レポーターは今までのレポートのストレスが溜まっているらしく怒りっぽくなっているようだ。
ちょっとケンカ腰で質問する。
「別におたく工場へ行くのが嬉しいわけじゃねえっ!!こーさかと一緒に出かけるのが
嬉しいんだよっ!!」
それにたいして同じくケンカ腰で返す春日部さん。
「おたく工場へ行くやつはおたくって決まってるだろうがっ!!」
「決めつけんなっ!!」
二人の女はにらみ合いお互いにヒステリックに罵り合いはじめた。
その中で一人、関係ないとニコニコ笑いながらゲームを続けるこーさか。
ゲーム画面は陰惨な殺戮画面が続いている。
TVからはゲームの音と二人の女の言い争うかまびすしい怒鳴り声が響き渡る。
と、突然、例のディレクターが出てきて
「CM!!CM!!」
と叫びCMに画面が変わった。
「おたくじゃない奴がおたく工場へ行くなっ!!」
いつもと違って最初に切れたのは晴信じいさんだった。
「本当に行きたい人がいけなくて行きたくも無い奴が行くのは間違っている。」
とうなづく総一郎父さん。
「い・・・一般人がお・・・おたく工場へ行くのは邪道だよねぇ・・・」
珍しく光紀じいさんまでもがぶつぶつと文句を言う。
「でも、あの男の子かっこいいからいいんじゃね?」
とハートマークを頭の上に浮かせながら喋る恵子。
「でも、これで残る招待券は一枚だけになっちゃいましたねえ・・・」
と完士くんが喋ると、みんな完士くんの顔をみては〜っとため息をつくのであった。
完士くんは雪の降る街中をトボトボと歩きながら物思いに沈んでいた。
(もう4組も招待券が当たっちゃったよ・・・)
残るは1組だけ。でも新しいおたグッズを買う金は完士くんとその家族には無かった。
(せっかくおたく工場に行けるチャンスなのに・・・)
あきらめなくてはいけないと思ってはあとため息をつく。
と ふと前を見ると雪が降り積もっている中に1万円札が落ちているのを見つけた。
「あっ」
慌ててお金を拾う完士くん。
(このお金でウォンカさんのオタグッズを買えば・・・もしかして招待券が当たるかもしれない)
と期待に胸をふるわせた。思わずオタグッズを売っている高柳の店にダッシュする。
と 途中で小さな女の子が泣いているのに出くわした。
その女の子は頭を筆のようにくくって、耳の左右からアンテナの様に髪がはみ出している。
雪の降る中、頭や肩に雪が積もっている。
「どうしたの?」
気にかかった完士くんは女の子に聞いてみた。
女の子は完士くんに言う。
「おつかいを頼まれたんだけど、お金落しちゃったの。」
(さっき拾ったお金だ)
完士くんは理解した。
「このまま黙って店におたグッズを買いに行け」と悪魔の完士くんが囁く
「だめだよ。落とした人がいるんだからちゃんとお金は返さなきゃ。」と天使の完士くん
「お金を渡してしまったら二度とおた工場へ行けるチャンスはめぐってこないぞ。」
「そんなことで手に入れた招待券でおたく工場へ行っても楽しくないよ。」と天使
完士くんの心の中の葛藤は天使に軍配が上がったようだった。
完士くんは泣いている女の子のところに近寄ると話しかけた。
「さっき、そこでお金が落ちてたので拾ったんだよ。多分、君が落としたお金だ。」
そういってさっき拾った1万円を女の子に差し出す。
泣いていた女の子はみるみるうちに笑顔が戻る。
女の子は1万円札を受け取ると
「ありがとうございます。助かりました。きっとこのお礼はさせていただきます。」
と頭をペコリとさげてとても喜んで走って去っていった。
完士くんは女の子の去っていく姿を見ながら
(オタグッズは買えなかったけど、いいことしたなあ)
と心に暖かいものを感じていた。
「レポーターの北川です。遂に5組目の当選者が出ました!!」
TVの前に集まる一家。
TVの前ではデブで三つ網の女と長身で痩せてて腰まで届く長髪で顔面を隠している女が映っている。
「当選者の藪崎さんと加藤さんです。おめでとうございます。」
北川レポーターは二人にマイクを突き出す。
「いやあ。まさかわてらのようなもんにこんなんが当たるとは光栄のいたりです。」
デブの女がバリバリの関西弁で答える。
「本当に嬉しい。これも藪崎のおかげだわ。」
喜ぶ二人の女性を見ながらTVの前の家族一同が全員、肩を落としていた。
「終わった。」晴信じいさんの一言が家の中に響いた。
今回は以上です。続きはまた今度
>完士とおたく工場
ヒロインキターーー!
俺
>>485ですがそんなわけで元ネタ見てないんで展開が読めない!
そもそも元ネタどおりなのかどうかも判らないのでハラハラしながら楽しんでおります。
完士くんどうなっちゃうのかしらん。
こんなにキャラてんこ盛りだとまだ相当続きそうですな。
30人といい楽しい夏が過ごせそうだw
なにはともあれ、レアアイテムを求めて(工場見学に赴くかどうかは二の次
に違いないw)一喜一憂するファミリーへの共感と、家族ぐるみでソレかよ
というキモさ(いや、いい意味でねハハハ)とが混沌となって、予告編のCMで
見たティム・バートン流極彩色ワールドが表現されてると思った。
引き続き楽しみにしております。
さてご無沙汰してます。
連載作品が2本もあるところ申し訳ないですが、ひさしぶりに書きあがったので投下しに来ました。
こんな週ナカのへんてこなタイミングで申し訳ない。今からまいります。
ネタは珍しいマダ×カナ、タイトルは『Yell of magic』、17レス。
よろしく〜。
夕刻。電子と萌え文化の街も濃い色の夕焼けで覆われ、なんとなく寂しそう。
ゴールデンウイークも終わって、7月までは休日といえば日曜日しかありません。この街の活気は祝日があろうがなかろうが関係ありませんが、個人的にはやっぱりちょっとつまんないです。
わたしは今日は田中さんと別れたあと、一人で秋葉原に来ていました。田中さんが気にしていたガシャポンの新ラインナップと、わたしの個人的な趣味の同人誌を見て回っていたのです。
二年目、最終学年となる専門学校が忙しくなってきた田中さんは、近頃はあまりわたしの思うようには会ってくれません。しょうがないのでわたしも、最近はまじめに大学に行って、就職や院試のこと調べたりする日々です。
「うーん、めぼしいもの、ないですねえ。一人で来るんじゃなかったかな」
中央通りの同人ショップを出て、腕組みして考えます。
「どうせなら荻上さんとか呼び出せばよかったかしら。でも今ネームが大詰めって言ってたし――あら?」
ぶつぶつ言いながら通りを歩く人ごみを眺めていたときです。視界の端を誰かがかすめて行きました。
見覚えのあるような、ないような。ショップの大看板越しに曲がって、背中しか見えませんでしたが……え?
ひょろりと痩せた、背の高い後ろ姿。知っている人です。でも、なにか雰囲気が違います。でも、妙に確信があります。声をかけそびれてしまったので、早足でその人を追い越し、自然に見えるように振り返りました。
さりげなく顔を確認するつもりでしたが……その人を見つめたとたん、わたしは身動きが取れなくなってしまいました。
「……ひゃあ」
「うわ!おっ、大野さん?」
相手もわたしを認めたみたいで、まるで犯罪者みたいに片手を上げて顔を隠します。
「お久しぶりですね、斑目さん……ですよね?」
「や、はは、久しぶりだね。今日は一人?」
「ええ、まあ。……っていうか……聞いていいですか?」
「ん?」
目の前の人物に、4年間も同じサークルに居た相手にこんな聞き方をしてしまいました。……だって。
「どうしたんです?イメチェンなんて」
「あ――やっぱ判っちゃう?あんまり見ないでクダサイ」
だって、斑目さんが、眼鏡を外してるんです!髪の毛だってワックスでニュアンスつけて、上着はアキバ専用服ですけど、その下はおしゃれなブランドのシャツを素肌に着て、ボタンふたつも開けてるんです!
「なんで……なんでまた」
「そ、そんな笑うなよぉ」
「笑ってませんよ!」
もちろん笑っていませんし、むしろ笑えません。……だって、斑目さんが普通にかっこいいんですから。
「ええ?すごいですよ斑目さん!どうしたんですか?オタクやめちゃうんですか?」
「やめねえよ!現にこんなトコにいんじゃんか」
目の前に垂らした髪が気になるのか、何度もかき上げながら言います。
「きょ、今日はその、なんだ、馴らし運転っつーか、ちょっと気分変えてみようかなー、なんて感じで、さ」
咲さんたちの卒業を境に、斑目さんの足が部室から遠のいてひと月以上になります。わたしも今は出席率がいいほうではありませんが、毎日顔を出している荻上さんや朽木くんからも、ほとんど来ていないと聞きました。
わたしなんかそれこそ卒業式以来で、久しぶりに見た彼がこんな普通の姿でいたら、ホントに足を洗ったんじゃないかって考えても責められないと思います。
「馴らし運転?」
「いやその、……コンタクト。今日初めてなんだよね」
「えー!すごいじゃないですか、痛くありません?」
「痛かないけど、んー、目ん中に大きなゴミがずっと入ってる感じ?」
「ふふ、友達もそんなこと言ってました」
「も、ついさっき入れてきたんだけどさ、いや往生した往生した」
「いま入れたばっかりなんですか」
「全っ然入んねーの。こう指にレンズ乗せるじゃん?んで左手でまぶた開くじゃん?コンタクトが近づくとさ、目がすげえ抵抗すんだよ。『やめろショッカー!』ばりに。まぶたと指の激闘、見せたかったよ大野さん」
「あははは、ホントですかぁ?」
「とまあ、そんなワケっすよ。土地鑑のあるこの街で、眼鏡のないままで歩く感覚に慣れようとしてたトコでして」
また前髪をかきあげて言います。
「それで今日は田中、どうしたの?」
「課題と就職の準備でここのところ、日曜日はあんまり遅くまで一緒に居られないんです」
「あ、そーか。元気?あいつ」
「ええ。……斑目さん?」
「はい?」
「わたしの質問、答えてないですよ?」
「は?いや、だからコンタクトを――」
「じゃなくて!」
斑目さんも解った上ではぐらかしています。確信的な犯行なら、こちらも遠慮する必要はありません。
「斑目さん……わたし、気付いたこと言いましょうか?」
「……っ」
「そのシャツ、咲さんの趣味丸出しですよね?」
フリーズした斑目さんの顔から、だらだらと冷や汗が流れてきます。
そう。
わたしは気付いてしまいました。
斑目さんの妙に垢抜けたファッションセンスには理由があり、それはおそらく彼が現視研に顔を出さなくなったこととも密接に関係しています。
すなわち。
「やっぱり……咲さん、ですか?」
「……ハイ」
観念したような表情で、斑目さんはうなずきました。
「え!?お付き合いしてるんですか?」
「まさか、違う違う!春日部さんは相変わらず俺は眼中にないし、もちろん高坂君にベッタリだよ。まあ、彼ほとんど帰ってこないからこの表現も語弊があるけど」
まあないだろうと思っていた質問もしてみましたが、こちらは猛スピードで否定されてしまいました。でもこれで解りました。斑目さんは咲さんの卒業後、わざわざ新宿まで咲さんを訪ねているのです。
「その、ですね、オシャレの手ほどきを、少しばかりしていただきまして」
「ストップ!」
わたしは彼の解説を押しとどめました。
「なんだよ、今度は」
「斑目さん、わたし思ったんですけど」
「うん?」
「斑目さん、今夜のアニメって録画予約してますか?」
「ああ、そりゃまあ、当然」
「じゃ、斑目さん」
わたしは彼に、一歩近づきました。
「今から飲みに行きましょう。聞きたいこと、山ほどあるんですから!」
****
二人で入ったのは、おしゃれな居酒屋。しかも個室の二人席。
田中さんがなかなか遊んでくれなくなったところにネギしょって現れた斑目さん。その彼からお話をいっぱい聞こうと、少々抵抗されてでも無理やり誘おうと思っていたのですが、彼は意外なほどあっさりと一緒の夕食に応じてくれました。
それも、こんなお店です。逢った場所から歩いて5分の大衆酒場にでも行くものだと信じきっていたわたしを、斑目さんはどんどん裏切っていきます。
「ふえ〜。わたし入ってみたかったんですここ!斑目さん、どうしてこんなところご存知なんですか?」
「新宿の本店のほうに入ったことがあってさ。ここにも店があるのは知ってたんで、せっかく大野さんと来るんなら試してみようかなって」
「……あのう?」
「はい?」
「斑目さん、本当に……斑目『晴信』さんですか?」
「はあっ?」
「あっいえ、ひょっとしたら双子のお兄さんとかかなって、あははは。わたしの知ってる斑目さんとまるっきり違うんですもん」
「あのねえ。そこまで言うならいつもの俺に戻りますよ?」
さすがに疑い過ぎました。苦笑しながら斑目さんが続けます。
「俺もけっこう必死なんスよ、こんなサワヤカお兄さん。ホントならアキバ来んならリュックサック背負って、このシャツだって中にTシャツ着るだろ、常識的に考えて。そんで両手に同人ショップの紙袋抱えて。ところがどうだ!」
こぶしで軽くテーブルを叩き、すっくと立ち上がります。
「諸君らが愛してくれたマムシ72才は今様のお洒落着を身につけたために死んだ。何故だ!」
「死んでませんし、愛するってほど親密じゃなかったです」
「諸君の父も兄も、現代人の無思慮なファッションセンスの前に死んでいったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それをマムシ72才は死をもって我々に示してくれたのだ!」
斑目さんの十八番はだんだんボリュームを上げていきます。秋葉原とはいえ静かなこの店には、そろそろ似つかわしくありません。
「わかりましたよ、もうっ。降参です降参。斑目さんに間違いありません!」
宙を見据えていた偽ギレンは演説を止め、わたしを見てにやりと笑いました。
「はー、助かった。ようやく解ってもらえてよかったよ」
「わたしが認めなかったらずっとやるつもりだったんですか?」
「ギレンでダメなら『諸君、わたしは秋葉原が好きだ』を準備してましたとも。あれ尺かせげるしな」
「あぶない人ですねえ、もう」
でも、斑目さんのいつものテンションにちょっと安心しているわたしがいるのも確かです。わたしの知っている斑目さんが、現視研の長テーブルでコンビニ弁当を食べてた彼が、ようやく帰ってきたような気がしました。
そうとなれば、いよいよ本題です。
「さて斑目さん。それでですね」
「うへ。大野さん、瞳が輝いておられますが」
「あったりまえじゃないですか。女の子はこの手の話が大好きなんです。腐女子かどうかに関わらず、ね」
ちょうど注文していた生ビールが到着しました。二人でそれぞれのジョッキを持ち上げます。
「さー語りましょー話しましょー、『第一回・斑目さんの片思いはいつの間に咲さんにバレてたんだろう会議』〜」
「……その件なんだけどさ、あん時の俺、そんなにバレバレだった?」
ジョッキの端をコツンと当てて、斑目さんが聞いてきました。
「こう見えても本心を抑えるとか得意なつもりだったんですが」
「ふふふ斑目さん、女の子を甘く見ちゃあいけません。ぶっちゃけ卒業式時点で、斑目さんのこと気づいていなかったのはズバリ咲さんだけです!」
ビールを一口飲み、斑目さんに言います。彼の恥ずかしがる顔を見たくて打ち明けたのですが、斑目さんの反応は違っていました。
「……いや……春日部さんも気づいてたミタイヨ?」
「はぁっ?」
目玉が飛び出るかと思いました。思わぬ大声が出て、向かい側の個室からカップルがこちらを伺っています。
「いやその……俺さ。大野さんこの話……」
「え?あっはい、秘密ですね?わかりました!」
前髪をかき上げ、ビールを呷り、しばし目を泳がせ、……わたしを見つめます。
「卒業式の日さ、俺、打ち明けたんだよね、春日部さんに」
「えええ――」
「シーッ!」
「はわっ」
せっかくギレン演説を止めたのに、わたしが大騒ぎしたらうまくありません。慌てて口を押さえましたが、噴出し損ねた絶叫で頭が破裂しそうです。
「……え……え……え」
「指を差して笑うなあっ!」
「笑ってませんってば」
わたしの正面で真っ赤になっている人物をまじまじと見つめます。
絵に描いたようなオタク。とげとげしい語り口の理論派で、コンプレックスにまみれていて、口を開けばアニメ論議か皮肉ばっかり。会長職をやっていたものの、周りに流されることのほうが多く、トラブルが起きた時は率先してうろたえる役割のキャラ。
相手のことが好きすぎて、人を好きになってもそれを言い出せなかった人物。
「ほら式の後、居酒屋現地集合になったじゃん?あん時たまたま春日部さんと二人きりになって――高坂君、例によって会社から電話入って別行動でさ。それで、ふっとした隙に……言っちまったんよ」
身動きできなくなったわたしに、おずおずと話し始めました。
「俺としては固く決心してたわけよ、これでも。こんなの打ち明けたら春日部さんが混乱するかもって思ったし……そもそも高坂君がいる話じゃねーか、もともと勝ち目のない勝負はしない主義だったから、一生言わずに過ごそうぐらいに思ってたし」
わたしの顔を見ていられないらしく、うつむいたままビールを飲み、おつまみを口に運びながら。
「でも、その時さ、『あ、今が言うタイミングだ』って確信して。も、なんかそれまでの覚悟がどうとか、全部吹っ飛んで、『言わなきゃ』っていう義務感とかですらなくて、自然と口をついて出たんよ。『春日部さんのことが好きなんだ』って」
しばしの間をとって、斑目さんはようやく、ゆっくりと顔を上げました。
「ま、案の定フラレたわけですけどね。そん時に聞いたんだけど、わりと早くから気づいてたらしいよ……って大野さん?」
わたしは無言で立ち上がり、斑目さんの横に置いてあった荷物をどかして、彼の横に腰を下ろしました。
「ナンスカ一体」
「……ちょっと待っててください。今しゃべったら泣いちゃいそうです」
「え」
彼の右腕を、両手でぎゅっと抱きしめます。そしてそのまま、深呼吸。
「……ふう」
「大丈夫?」
「ごめんなさい、もう平気です」
顔を上げ、斑目さんに笑ってみせました。
「えーと。アレか?俺があまりに不憫だから泣きそうになってしまった、と?」
「え、近いけど違います」
「近いんかい」
「だって斑目さん、つくづく総受けなんですもん。そんな死亡フラグ立ちそうな告白なんて今どきそうそうないですし。その展開で咲さんが受け入れてたら、斑目さん帰りがけに車に轢かれてたと思いますよ」
「殺すなよっ!……でもさ」
彼はわたしのセリフにツッコミを入れて、わたしはようやく彼から手を離して。斑目さんはひと息ついたように、続きを話し始めました。
「そうやってフラれて、確信したんだよね。春日部さんのこと、全然あきらめられねーって」
こちらを向いて、ようやく笑顔を見せました。
「だから俺は春日部さんに、もっともっと俺のことを伝えてやろうって。でもストーカー扱いはごめんだから、そばにいても邪魔にはされないように。俺がそこにいることを、彼女が許容してくれるように。俺がいつまでも、そこにいつづけられるように」
髪の毛を手で払います。
「もう言っちまったから怖いものなんかなくてさ、春日部さんの店がオープンするなり花束届けに行ったんよ。その時に大野さんとかに出くわしたらそれはそれだって思って。春日部さん、喜んでくれてさ」
「思い出しましたよ。『現視研与利』って書いた花かごですよね、わたしたち二日目に行ったんです」
「それから何回か、森やら虎やらのついでのフリして寄ったんだ、春日部さんはきっと解ってたと思うんだけど。2度目だか3度目だか顔出したときに『店に来るのはいいけど、とりあえずココ行って1着でいいからシャツ買え』、って知り合いのメンズの店紹介されて」
「それがそのシャツですか?」
「そ。次にコレ着てったら試着室に連れ込まれてさー、もう陵辱三昧」
斑目さんの話によると。
おそらく斑目さんの『下心』を100%理解したうえで、咲さんは斑目さんのアタックに付き合うことにしたようです。ただ、10キロ先から見てもオタクと知れるような人間を、業界人としても店長としてもファッションを扱う自分の店に入れるわけには行かなかったのでしょう。
お店に来るたび斑目さんにおしゃれ指南を施して、シャツの着こなしを教え、髪形に気を使うよう説明し、コンタクト入れたらカッコいいよとアドバイスを重ねたのだそうです。
「でも一番言われたのは服じゃなく姿勢かな。猫背禁止令が出て、しばらく背筋がキビシかったのなんの」
さっきわたしが彼を見誤ったのも、おそらくこれが原因でしょう。慌てて追った背中は、彼の学生時代にわたしが見ていた肩を落とした挙動不審な人物ではなく、胸を張って自信に満ちた足取りで歩く青年だったのですから。
「斑目さん、カッコよくなりましたよ、ほんとに」
「お、嬉しいこと言ってくれるねえ。俺、今まで外見の評価なんかこんなに気にすることなかったぜ」
「高坂さんとは違った味が出てて、なんて言うんでしょう、頼れるセンパイって感じ?」
「うはー」
斑目さんは大げさに喜んでいますが、本当のことです。こうして彼の隣に座っていると、なにか心が落ち着きます。
忙しくて、以前ほど一緒にいてくれない田中さんの空隙を、すこし違った感触で埋めてくれているような感じ。
わたしは座りなおすフリをして、ほんのちょっと斑目さんに体を押しつけました。
「……んで、大野さん。今日の大野さんのポジションはココに決定なのかな?」
「いーじゃないですかぁ!とりあえず田中さんも咲さんもいないわけですし」
テーブルの向こう側に置いてきたジョッキと割り箸を引き寄せて、底に残っていたビールを飲み干します。
「ささ、斑目さんも飲んでください。咲さんの話、もっと聞かせてくださいよ」
「ん、ああ」
「わたしより斑目さんのほうが咲さんと会ってるんですから。ね、斑目さん、咲さんとお酒飲みに行ったりしてるんですか?」
「あるよ、一回。ほらさっき言った、ここの新宿の店」
「ああ」
「そういやさ、そんとき春日部さんに聞いたんだけど――」
斑目さん、楽しそうです。そしてわたしは彼の横顔を見上げながら、胸の奥のほうでうずく感情に戸惑っていました。
咲さんがひどく忙しかったらしい日の閉店間際に彼女を訪ね、高坂さんとも全然会えない憂さ晴らしに行って。その時も別に何があるわけではなく、ちょっとした業界ウラ話を聞いて感心して、っていう話を、まるで。
まるで海賊が金銀財宝を探し当てたみたいな口ぶりでわたしに話してくれる斑目さんの楽しげな表情を見つめているうちに、ちくちくとうずく胸の痛みがわたしを責めさいなみ始めていたのです。
「そのあとでカラオケ行こうって言うんだよ。水曜だぜ?俺は次の日仕事だっていうのに、自分が休み振ってるからって。まあ行ったんですけどね結局」
高坂さんから教わったというゲームのテーマソングを咲さんが歌って、以前は彼女がオタクに染められる姿を見たくなかったのになぜかその日はそれが嬉しかったとか。斑目さんもたまたま知っていた一般ヒット曲をデュエットして、咲さんのキーの広さにおどろいたとか。
そんな、まるで普通の恋する青年のような斑目さんを見ていて、わたしはまた目がうるみ始めていました。
「……ぅわ?大野さん、またかい?」
鼻をすするわたしに気づいて、斑目さんが慌てます。
「斑目さんって……けなげですねえ。ぐすっ」
「そんなに下向きのテンションで同情すんなよ〜。俺はなに?そんなに勝ち目のない恋をしてるワケ?」
「斑目さん、わたし今ちょっと思ったんです」
「ん、何を?」
「斑目さんは、もっといろんな人とお付き合いすればいいんじゃないかって」
「……は?」
「恋愛の経験値が低すぎるんですよ、斑目さんは。今の話だって、まるで中学生の片想いじゃないですか。せっかくファッションセンスも磨いてるんだし、もっと大人の恋愛をこなすべきなんですよ」
「そんなこと言ったってですね」
ほら、こんなあからさまな誘い文句に気付いていません。わたしは熱弁に力が入ったふりをして、彼に顔をぐっと近づけました。
「そうすれば、咲さんにどんなタイミングでどんな行動をすればいいか、もっと勘が働くようになると思うんです」
「……大野さん?」
斑目さんの膝に両手を乗せて。切なく潤んだ瞳で(自分で言うの、恥ずかしいですね)至近距離から彼を見つめて。
「斑目さん……わたし……」
「……え」
「わたし……っ」
「ちょ――」
壁に囲まれた個室は、逃げ場がありません。
斑目さんが驚いた表情で壁に後頭部をぶつけるのもかまわず、わたしは彼の唇を奪っていました。
「――ん」
唇が触れていたのはほんの一瞬です。優しい斑目さんはわたしを押しのけたりできず、ただ目を見開いてこちらを凝視するばかりでした。
「斑目さん、わたしって、魅力ないですか?」
「……ナニ言ってんの、大野さん」
自分の口に手をやり、まだすぐそばにあるわたしの目を見つめます。
「だって……大野さんは」
「その切り返しも古いですよ、斑目さん」
わたしは田中さんとお付き合いしていますし、田中さんを愛しています。
だから斑目さんにいま抱いているこの感情は、愛ではありません。
「わたし、斑目さんのこと、大好きです」
……少なくとも自意識の表層では、自分にそう言い聞かせています。
「だからわたしは、その斑目さんに、咲さんとつりあう人になって欲しいんです」
「春日部さんと……」
「斑目さん、今だけでいいです。今夜だけ、わたしのこと、好きになって下さい」
斑目さんの両手をとります。
「ずっとなんて言いません。斑目さんには咲さんっていう目標があるんですし、わたしだってお付き合いしている人を裏切る気はありませんから。でも、でも今夜だけ、斑目さんの恋人になって、そのことで斑目さんを咲さんの近くに連れて行ってあげたいんです」
わたしは、自分がお節介な人間だなって思います。
斑目さんは今、自分のペースで咲さんにアタックしているのに、わたしはそれに介入しようとしているのです。
少し前に、荻上さんに笹原さんをくっつけようとしていたことを思い出しました。わたしの行動が彼らになにか役立ったかどうか、いまだにわかりません。……そのかわり。
そのかわり二つ、確信したことがあります。一つは、わたしにできることは、そう多くはないということ。荻上さんにコスプレさせて、偶然出くわした笹原さんをキュンとさせたり、打ち合わせにかこつけて彼女の家に彼を連れ込むのが関の山です。
もう一つは、だからこそ、自分がしたいと思ったことはしてしまうべきだということでした。
「斑目さんは、咲さんがいろんなサインを出しているのを見落としてるかも知れませんよ?」
「サイン?」
「ゲームならすぐわかるでしょう?『相槌が欲しい』『褒めて欲しい』『励まして欲しい』。現実の女の子は、コマンド選択の時に画面にポーズかかったりしませんからね」
「……あ、その話解りやすい」
「その選択肢の中には、ひょっとしたら『頭をなでなでして欲しい』とか『ぎゅって抱きしめて欲しい』っていうのがあるかも知れませんよ。高坂さんとはなかなか会えませんし、咲さんだって生身の……人間なんですから」
ほんとは『生身の女だから』っていうことが言いたかったんですが表現を変えました。
「誰かにぎゅってして欲しい時、うまくそうしてくれる人がいたら、やっぱり嬉しいと思いますよ。それが何回も続けば、その人が自分をずっと見ててくれてるんだって、解りますよ。小手先の計略の話じゃなくて、それで斑目さんの本当が解ってもらえるんです」
斑目さんはわたしの言ったことを反芻しているようです。かなり長い間考えて、……ようやく、顔を上げました。
「……大野さん」
「はい」
「俺は、そんな器用な人間になれるかな……?」
言葉は疑問形で語っていますが、斑目さんの目は違いました。ひとひらの揺らぎもありません。
「卒業からこっち、彼女を普通に訪ねていけるようになって、話ができるってだけですげー嬉しかったんだ。いま言われてみると、俺はソレっぽい会話をはぐらかしてきたかもしれない」
ずっと握ったままだった両手を、逆に握り返されました。手のひらから伝わる熱が、瞳にたぎる決意が、ここにいない咲さんではなくわたしの心を揺さぶります。
「俺は……春日部さんのことをもっと解ってあげられるようになれるのかな?」
「……さあ?どうですかね」
いじわるなセリフと、その真逆の本心を、言葉と表情の両方で伝えます。斑目さんはもう、これくらいのことは理解できる人になっています。
「大野さん……いまさら基本に立ち返るけど、俺は春日部さんが好きなんだよ」
「知ってますよ、そんなこと」
「春日部さんと高坂君がお似合いなのは百も承知だよ。だけど、俺はそれでも春日部さんが好きなんだ」
「斑目さん」
わたしは彼の左手首を持ち上げ、腕時計を確認しました。もうすぐ7時。
「わたし、今から斑目さんに魔法をかけます」
「え?」
「斑目さんがわたしのことを好きになる魔法。今から朝まで……12時間だけわたしを好きになる魔法です。斑目さんは、魔法が効いている間に、強い男の人になって下さい。咲さんと釣り合う、強い人に」
いったん手を離し、彼を力いっぱい抱き締めました。わたしの耳元で、漫画みたいに息を飲む様子が感じられます。
「明日の朝になったら魔法は解けちゃうんです。斑目さんは咲さんを好きな斑目さんに、わたしは田中さんを愛している大野加奈子に戻っちゃいます。だからそれまで、わたしの恋人になって下さい」
「大野さん……俺は」
自分の手を、わたしの胴にまわそうかどうしようか躊躇している斑目さん。彼には魔法がなんだのと言いましたが、わたしの方にこそ魔法がかかっているみたいです。
なにを考えていたのでしょうか。しばらくの間があった後、斑目さんはわたしを抱き締め返してくれました。
「斑目さん、アブラカダブラ。あなたは、わたしを好きになる」
顔を起こして、彼にもう一度キスします。今度は、もっと長く。わたしの体に回された手のひらから、胸に響く心臓の鼓動から、触れ合った唇から温かい感情がわたしの中に流れ込んできます。
斑目さん。
斑目さんは、咲さんが好きなんですね。
咲さんのためになら、どんなことでもやり抜こうと思ってるんですね。
わたしは、そんな斑目さんが大好きです。わたしは、斑目さんが幸せになる姿が見てみたいです。
この先、いろんなことがあると思います。最終的に斑目さんが咲さんとお付き合いできるかどうか、わたしには判りません。
でも今、斑目さんがそれを望んでいるなら、わたしはそのお手伝いをしたいと思います。
だから――。
「斑目さん、大好きです」
キスを離して、あらためて伝えます。
「大野さん……」
「夜はまだまだ長いですよ。このお店を出たら、すこし街をぶらぶらしましょうか。それから新宿行って――はダメか、誰が見てるか判りませんね――地元に帰りつつカラオケ、どうですか?」
「……オイオイ」
明るい声で今後の計画を話すと、斑目さんは髪をかきあげて困ったような声を出しました。
「明日会社あるんだよ?大野さんも学校でしょ?」
「大丈夫!魔法は明日の朝7時で切れますから、それで家に戻ればちょっと休めますよ」
「待て。寝かさない気デスカ」
「やですねえ、愛する二人には刹那の時しか与えられていないんですよ。それに、斑目さんには女心をたっぷり教えて差し上げなければならないんですから」
「あれ、加奈子先生って思ったより厳しい?」
「スパルタですよお、ふふ」
斑目さんもノリを取り戻したようです。大まじめな斑目さんも恋に悩む彼も素敵ですが、やっぱりこの一歩引いた感じがいちばん似合っていると思います。
「たまんねーな、朝までカラオケやる体力なんて――」
「STOP!誰が夜通し歌って過ごすなんて言いましたか」
「ふぇ?」
「カラオケのあとは……」
斑目さん、勘がよくなりました。わたしは彼の、すでに真っ赤になった耳元でささやきます。
「大人の恋愛のこと、もっと勉強してください、ね」
耳たぶに、キス。
斑目さんは避けませんでした。たぶん、12時間うんぬんのあたりで展開は読めていたんじゃないでしょうか。
密着したままの胸に、ますます早くなる鼓動が感じられます。
「……大野さん」
興奮を沈めようとしているのでしょうか、鼻で呼吸をする様子とともに、斑目さんが言葉を発しました。
「はい」
「それなら、その……もう一回、呪文をお願いできねーかな」
「えっ」
「俺もホレ、往生際の悪いヤツだからさ。とどめ、刺してくれよ」
「もう。面倒な生徒ですね」
もう一度、キス。と、斑目さんがわたしの両頬を押さえました。
「サンキューな、大野さん」
「……いえ」
「大野さん、好きだよ、俺も、あんたのこと」
斑目さんからの、不意打ちのキス。
――決意の、キス。
またちょっと泣きそうになりましたが、我慢して目で笑いかけました。
****
わたしは、斑目さんが好きです。
もちろん田中さんを愛しています。ここのところ会える数が減って、若干欲求不満気味かも、ですけど。
斑目さんに対する想いは、田中さんへのそれとは随分違うように感じます。そもそも、斑目さんはわたしの方を振り向いてもくれません。
わたしは、斑目さんに幸せになってほしいと思います。彼の見つめる先がわたしでなくっても構いません。彼が、彼の想いを、彼の想う相手に100%でぶつけられるなら……わたしがそのお手伝いをできるなら、それでいいのです。
わたしはわたしの働きかけで、斑目さんが一歩踏み出す決心をしてくれたことに満足していました。今夜は夜通しかけて、彼に女性とのつきあい方を――わたしごときがおこがましいですが――教えてあげましょう。
それが彼にとってどういう結果になるかは、わたしには解りません。わたしにできることは、そう多くはないのです。
でも、だからこそ、わたしは斑目さんを全身全霊で応援してあげたいのです。
彼のキスに応えながら、わたしは自分の不思議な恋が成就した喜びに……。
そしてこれからの12時間で行なわれる恋愛への期待に、胸を高鳴らせるのでした。
****
翌日、月曜日の午後。わたしは久しぶりに現視研の前まで来ていました。けさ斑目さんとお別れしたあとも目が冴えてしまって眠れず、そのまま大学の1限を受けてきました。せっかくだから荻上さんたちの顔を見ていこうと思ったのです。
「ふわああ。こんにち――ぅわ!?」
生あくびをかみ殺しながらドアを開けたわたしの目と鼻の先にいたのは……斑目さんでした。『いつものとおり』の。眼鏡をかけて、ぺったりした髪型の。わたしは夢でも見てるんでしょうか?
「あ、大野さん、久しぶり」
「……斑目さんじゃないですか。ご、ご無沙汰してます」
スーツの上着を羽織りながら話しかけ、同時に背後の荻上さんに見えないようにウインクをしてきました。
あわてて調子を合わせると、わたしと入れ替わりにドアをくぐって出てゆきます。
「せっかく会えたのにごめんな、もう昼休み終わるから戻らなきゃ。また積もる話でもしよーや。じゃ」
「あ……。そうですか、はい。それじゃ、また」
わたしの肩をぽんと叩いて、前髪をかきあげ、ドアの外で振り返って手を振って。そうして斑目さんは帰っていきました。わたしの返事も全部聞いたかどうか微妙です。
「……大野先輩も、けっこう久しぶりですね」
いつまでも鉄扉を見つめているわたしに、背中から荻上さんが話しかけてきます。
「斑目さん……なんだか、変じゃありませんでしたか?」
「え?なっ、なにがですかぁ?」
「えーっと。うまく言えないん、ですけど」
わたしの動揺には気付かなかった様子で続けます。
「久しぶりに見た斑目さん、なんか、なんていうか……カッコいいんですよ。見た目なんにも変わってないのに」
「ええー?」
「大野先輩、今すれ違っただけだし解んないスよね。それとも私の考えすぎですかね……。最近は現視研にいても朽木先輩しか来ないから、人恋しくなってんですかね、私。たはは」
「……うーんと」
荻上さんが混乱しているので、わたしの方に心を落ち着ける余裕ができました。
「それは暗にわたしの事を責めてるんでしょうか?」
「え!あっいや、そんな、ちっ違いますよ、すいません」
「謝るってことは思い当たるってことですかぁ〜?」
「え、え、えっと」
「やですね、冗談ですよ荻上さん。コスプレでもして気を静めたらいかがですか?」
「……今のですっかり冷静になりました」
荻上さんをからかいながら、わたしはまた斑目さんが出ていったドアのほうを見ていました。
夢じゃありません。彼がわたしのすぐ脇を通ったので、気付きました。
斑目さん、ほんの軽くコロンをつけてます。かなり控えめで、そうとう近寄らなければ判らないでしょう。
ネクタイのブランドが例の、咲さんの御用達でした。あれも買わされてたんですね。
それから、ちょっと考えてようやく思い当たった違和感。彼の眼鏡……ひょっとして、度が入ってなかったんじゃないでしょうか。
「大野先輩?」
「あっああ、ハルヒと長門、どっちやるんですか?」
「どっちもやりませんっ!」
なによりさっきの、髪をかきあげる仕草。ぴんと背中を張った、颯爽とした立ち姿。自信ありげな、優しい笑顔。そんなひとつひとつが荻上さんにも伝わっていたのでしょう。
「斑目さんがカッコいいなんて大事件じゃないですか。ここはひとつ、難事件を解決しなければなりませんね」
「ナニ言ってんスか」
「わたしが蘭ちゃんやりますから荻上さんは哀ちゃんを」
「言うにことかいて幼女ですかっ!肝心の探偵がいねェし」
荻上さんの件は混ぜっ返すことにしました。
「歩美ちゃんよりいいかと思ったんですけどねえ。じゃあじゃあ、荻上さんは名探偵弥子ちゃんで、わたしはアヤを」
「しませんってば」
「アレも頭脳労働担当じゃないですしねえ。プティアンジェなんかどうですか?……あ、大変ですよ!」
「えっ?」
「わたしのできるキャラがありませんよ」
「知りませんよそんなのっ!」
まあ、せっかくですから黙っておきましょう。本人からのさっきのウインクも、そういう方向の依頼だと思いますし。
「探偵ものって女性が主役の作品、少ないんですよね。小説や実写だとけっこうありますけど、ミス・マープルやら桜乙女やらどれもこれも年齢的に納得いきませんし」
「いいじゃないスか、怪事件に首突っ込むだけなら探偵じゃなくても。歴代の魔女っ子だってホームズのコスプレくらいしてますよ」
「あら荻上さん、やる気まんまんじゃないですか。それじゃあいっそモモ&マミで」
「だからそーじゃなくてッ!てゆーか途中から古すぎです!」
わたしは荻上さんとじゃれあいながら、さっきドアを出ていった『もと恋人』を……12時間だけの恋愛を思い返してみました。
あの二人の時間で、斑目さんはなにかを得ることができたでしょうか。わたしは彼になにかお手伝いができたでしょうか。単に、わたしのムラっ気のおもちゃで終わったりしていないでしょうか。……いいえ。
いいえ、そんなこと、ありません。
前知識なしで彼を見た荻上さんの感想が、すべてを物語っています。
「荻上さん荻上さん、ちょっと話戻しますけど」
「なんですか?」
「斑目さん、そんなにカッコよかったですか?」
「……はい。カッコよかったです」
「男の人として?」
「そうなんですよ」
「好きになっちゃいそう?」
「それはありません!」
……まあまあ、ですかね。
彼の想いが、彼の好きな人に届きますように。
彼の心が、彼の好きな人に受け取ってもらえますように。
魔法でもなんでもない、彼の努力が、彼の想い人の気持ちを動かしますように。
荻上さんに強要するコスプレトークの次の話題を考えながら、わたしは斑目さんにこっそりエールを送るのでした。
おわり
以上です。ありがとうございました。
えー……。読んだら思い出したって方もいるかもしれませんが、『まだメモ』ですハイw
皆さんが連投してる時期に書きあがらなかったんですが最近収拾がつきまして、いまさら
プレイ日記ってわけにも行かずなんとか原作軸にのっけてみました。
いささかハンドル切りすぎだが許してつかあさい。
では引き続き『30人いる!』『完士とおたく工場』の2本でお楽しみください〜。
Yell of Magic
いやー面白かったです。
斑目が前向きでけなげなところがもうo(^-^)o
ぜひまだメモ次回作をお願いします
>Yell of Magic
くはあああ…やべー!!! かっこええ…!やべーーー!!!
もうなんかあんまりステキなんでftghjkl;:ちょっともちつけ。
これだからSSはやめられんばい…。
ご馳走様でした。ワシも斑目かくの頑張ろう…!!
ありがとございます〜o(^-^)o ←かわよい
最萌ハッスル→萌え尽き症候群→年度変わりで多忙→脱力、と無為に過ごしてはや半年w
久しぶりにちゃんと完成して胸をなでおろしております。もちろん一文字も書かずに過ごして
いたわけではないんですが、なぜか話が結末に向かって転がらない病にかかっております。
どうやら不治の病ですだorz
>>525 >>526 斑目を描くパターンそのものは多いわけではないのですが、バリエーションのつけかたで
無限のストーリーが広がるのがいいですね。まだメモは良いネタでした。ここの住人には
いないのかな?ゲーム作れる人。
などと他人に振りつつ。また書けたらきますね〜。
わわわ、新作増えてる!
わわわ、あと35KBしかない!
今回は6レスぐらい投下の予定だが、果たしてこのスレ、最後までもってくれるか?
そんな訳で、途中でスレ立てあるかも知れないので、そろそろと行きます。
ではまた後ほど。
第2章 笹原恵子の宣言
「無理無理無理!そんなのぜってえ無理だって!あっそうだ、くじ引きもう1回やり直そう!なっ!」
案の定、恵子は駄々をこねた。
どこからともなく取り出した算盤を机に叩きつけつつ、台場は言い放った。
「くじ引きに2度目はありません!」
『うわあ、晴海のやつ目がマジだ…』
たじろぎつつも、恵子はさらに反論を重ねる。
「なあ、お前ら冷静に考えてみろよ。あたしゃお前らと違ってオタクじゃないし、映画なんて作ったこと無いし、それ以前に昔から映画なんてあんまし見てないし」
国松「大丈夫ですよ、恵子先輩。全員映画作りは初めてですし」
藪崎「千里、それフォローなってへんで」
国松「それに映画作りの基礎なら、私がお教えしますよ。どのみち今日はその積もりで、映画の作り方の本たくさん持って来ましたし」
国松は自分の小さなリュックサック(一般人の女の子が持っているような、オタクっぽくないやつだ)から、十数冊の本を出して机の上に積み上げた。
全部積み上げると広辞苑で4〜5冊分ぐらいの厚さになった。
一同『どうやってあの小さなリュックに、あれだけの本を入れたんだ?』
恵子「あのなあ千里、あたしゃお前らと違ってバカなんだよ!お前らうかったこの大学、あたしゃ落ちたんだよ!そんなに本たくさん読める訳ねえだろ!」
国松「えーとそれじゃあ…」
国松が考え込んだその時、今度は珍客が訪れた。
「うぃーす」「こんにちは」
春日部さんと高坂だった。
荻上「こんちわ。珍しいですね、お2人揃って」
卒業後もちょくちょく部室に顔を出していた春日部さんだったが、夏に自分の店がオープンしてからは1度も来ていなかった。
高坂も新作ゲーム作りにかかっていたので、同じ頃から来ていない。
春日部「うちの店の女の子が交通事故に遭っちゃって、この近くの病院に入院してるのよ。今日はそのお見舞い。そんでついでにちょっと顔出しとこうと思ってね」
台場「高坂先輩もですか?」
春日部「その子ね、採用してから分かったんだけど、実は高坂のいとこだったのよ」
沢田「それでご一緒にお見舞いを?」
春日部「まあその帰りに、ついでにデートだけどね」
よく見れば、2人とも単なるお見舞いにしては、地味ながらお洒落な格好だ。
高坂「先月は2人とも休み無しだったからね。咲ちゃんは店が開いたばかりだったし」
春日部「高坂は新作ゲーム作りで仕事場にこもってたしね。だから少しでも2人とも時間空いてる時狙って会おうって訳」
言いながら春日部さんは、チラリと恵子の方を見る。
ちょっと恵子の前でイチャつき過ぎたかなと、軽く反省する。
だが恵子は沈み込んでいて2人に反応しない。
春日部「何かあったの?」
荻上「今度の学祭で、うち映画作ることになったんです」
春日部「そう言やそんなこと言ってたな。私金出したし」
台場「ハハハ、春日部先輩ごっつぁんです」
荻上「それで監督を恵子さんにやってもらうことになったんですけど…」
高坂が恵子に近付く。
高坂「(満面の笑みで)監督やるの?!凄いね恵子ちゃん!」
高坂のことはとっくの昔にあきらめた恵子だったが、彼の明るく端正な笑顔にはどうしても惹きつけられてしまう。
そしてそれがもはや条件反射の域にまで達していた恵子は、つい愛想よく応えてしまった。
「そーなんですよー!もーみんなあたしだけが頼りだって言うもんだから!」
高坂「がんばってね」
恵子「はいっ!笹原恵子、がんばりまーす!」
言いながら恵子は、自分が猛スピードで地雷原に向かって走り始めていることを自覚し、自らの行為に恐怖した。
一方春日部さんは、今の恵子の舞い上がり方が明らかに高坂に誘導されてのものと看破し、このままやらせていいものかどうか心配になった。
そこで恵子の真意を確かめる為に、わざと意地悪く言い放った。
「お前が映画の監督?無理無理、出来る訳ねえじゃん」
恵子「(ムッとして)なっ、何だよ姉さん、その言い方!出来るよ!たかが映画の監督ぐらい!この笹原恵子様の手にかかったらちょろいもんよ!」
春日部「じゃあ本当にやるんだな、監督?」
恵子「やるよ!やりますよ監督!見てなよ姉さん!すんげえ傑作作ってやっかんな!」
言いながら恵子は、自分が地雷原に向かってさらにアクセルを踏み込んでしまったことを自覚し、内心泣きそうだった。
『つーか、チビりそう…』
恵子は不意に、背後に強烈な違和感を感じて振り返った。
1年生たちが、キラキラした目で恵子を見ていた。
恵子『なっ何だ、そのキラキラした目は?やめろ!そんな期待の目であたしを見るな!』
だがその時、国松が目に涙を浮かべて恵子に突進して抱き付き、ダメ押しの言葉をかけた。
「ありがとうございます、恵子先輩!いや、恵子監督!」
恵子は自分の退路が全て地雷原と化し、もはや前進し続ける以外の進路は無いと悟った。
『ちょっとチビったかも…』
その後30分ばかり、夏コミの話やらOBたちの近況報告やらといった雑談を交わしてから、春日部さんと高坂は部室を後にした。
後に残ったのは、監督も決まってにわかに活気付いた会員たちと、頭上に木星でも乗ってるかのごとく沈み込んでいる恵子だった。
「えれえことになっちまった…」
国松が励ました。
「安心して下さい。この本全部読んだら、映画の作り方ぐらいすぐ分かりますから」
広辞苑のような分厚い本の束は、恵子のブルーな気分をマリアナ海溝の底まで沈めた。
荻上「だから国松さん、恵子さんはそういう文字で学ぶのは苦手なんだってば」
いつもなら「あっ、ひでえ姉さん」とか言い返す恵子だが、今はその気力も無い。
チト放って置き過ぎたかと反省する荻上会長。
だがその一方で荻上会長は、今回のことは恵子が現視研と自分との関わりを見つめ直すいい機会になるかも知れないと考え、しばらく状況を静観することにした。
国松「本読むの苦手となると、えーと…何か実践的な方法がいいですね」
スー「押忍、僭越ながら自分、ひとついい方法を知っているであります!」
荻上「どんな方法?」
スー「押忍、かつて淀川長治先生は、同じ映画を10回見れば映画監督になれると仰ったそうであります!」
浅田「何で淀川さんなんて知ってるんだ?」
有吉「確かあの人って、10年ぐらい前に亡くなってないか?」
ちなみに淀川先生が亡くなったのは98年なので、正確にはこの時点で8年前だ。
藪崎「ほんまかいな、それ?何か眉唾な話やな」
加藤「いやその話、聞いたことあるわ。『オネアミスの翼 王立宇宙軍』の山賀博之監督が本当にそれやったらしいわよ」
藪崎「ほんまですか、それ?」
加藤「ちなみに山賀監督が10回見たのは『がんばれベアーズ 特訓中』だったそうよ」
藪崎「よう分からん選択基準やな」
スー「押忍、ちなみに自分、映画解説者は個人的には荻昌弘の方が好きであります!」
浅田「だから何で荻昌弘なんて知ってる?あの人だいぶ前に亡くなったし、月曜ロードショーなんてもうやってないぞ」
藪崎「あんたこそ18かそこらで、何でそんな古い話知ってんねん?」
ちなみに荻先生が亡くなったのは88年なので、正確にはこの時点で18年前だ。
荻上「はいはい、脱線はそのぐらいにして、第1回笹原恵子総監督養成会議に戻るわよ」
加藤「ヤブ、私たちも原稿に戻るわよ」
藪崎「はいなっ」
国松「要は10回同じ映画を見れば、カメラアングルとかカット割りとか、シーンのひとつひとつの演出的な意図が分かるってことだと思うわ、淀川先生の言葉って」
沢田「確かにそれやりながら千里が解説すれば、映画のいろはを手っ取り早く学べそうね」
恵子「おいおい冗談はよせよ。映画10回って言えば、軽く20時間以上はあるじゃねえか。あたしに丸1日映画見ろってのか?」
スー「冗談デハナイ!」
神田「スーちゃん、この場合はその台詞、使い方間違ってるよ」
国松「大丈夫ですよ。短めの映画ご用意しますから」
国松は自分のリュックから、ケースの表示が手書きのDVDを十数枚出した。
市販品ではなく、自分で録画し直したオリジナルDVDらしい。
全部積み上げると、ちょっとしたDVDボックスぐらいはある。
巴「千里、あんたいつもそんなの持ち歩いてるの?て言うか、よくその小さなリュックに入ったわね」
国松「いつもはもっと少ないけど、今日は資料になりそうなのも見繕って持って来たから、ちょっと多い目なの」
巴「てことは、何枚かはいつも持ち歩いてるんだ…」
国松はDVDを1枚1枚確認しつつ何か探しているようだった。
やがて1枚のDVDを取り出した。
国松「やっぱ初心者さんにはこれでしょ?」
国松はテレビのスイッチを入れ、DVD レコーダーにDVDをセットした。
恵子「何見せる気だよ?」
国松「まあ見てて下さい。あっ、短いから安心して下さい。96分ですから」
脳内の算盤をフル回転させた後、台場は呟いた。
「それでも10回だと16時間ぐらいかかるんだけど…」
うわあ、残り27KBかい。
こりゃ次回は次スレだな。
そんなことより次回の予告。
遂に監督就任を決意した恵子。
この先彼女を待つのは、いかなる試練なのか?
果たして彼女を待つ10回観賞会用映画とは何か?
いよいよ次回、冒頭の謎の映画の正体が分かる!
何、もう分かってるって?
まあそう言わず、付き合って下さいな。
「わあ何だろう、全然分かんないよ、楽しみだなあ(棒読み)」とか言いつつ。
という訳で今回はこれまで!
スレ立てやってみるので感想とか短いのはいいけど、長編の投下はしばしお待ち下さい。
お返事を少々。
>>484 まさかリアルタイムで読んでらっしゃる方がいらしたとは。
今回は楽しんでいただけましたでしょうか?
>>485 錆びたな、俺、
あの展開で総攻め総受けが出て来なかったなんて。
ちなみに総監督という名称は、あまり特撮の世界では使われません。
特撮は普通、特撮パートを撮る特撮班と、特撮以外のパートを撮る本編班の2班体制で撮影されます。
特撮における監督とは本編班の監督を指し、特撮パートの監督は特技監督または特撮監督と呼ばれます。
最近は両方を1人の監督が担当するパターンも増えていますが、その場合は監督と特技監督の2つの肩書きを併記します。
総監督という名称は、現視研が本来アニメや漫画が中心のサークルだという矜持だと解釈して頂けると幸いです。
>>486 オリキャラというほど大層なものじゃありません。
豪田蛇衣子を見て頂ければ分かるように、全員元ネタはあります。
ただ名前もじり過ぎで元ネタ分かりにくいのや、キャラの性格いじり過ぎて元ネタから外れてきてるのはたくさん居ますが。
感想も少々。
>完士とおたく工場
2回目で早くもオールスター出演キター!
これで初代会長以外ほぼ出揃いましたな。
サービス満点!
冒頭10分ぐらいで、キングギドラ以外の出演怪獣ほぼ全員見せちゃう「怪獣総進撃」みたい。
こりゃ次回もスピーディーな展開ありそう、楽しみです。
それに引き換え俺と来たら、数えてみたら今のとこ出てるのは20人、やっと3分の2です。
「真田十勇士」で言えば、ようやく由利鎌之助が出て来たぐらいでしょうか。
(自分で書いといて言うのも何だが、分かりにくい例えだ)
しかも30人目は終盤まで出ない予定だし、どうやら終了まで看板に偽り有りの状態が続きそうです。
絶望した!
人の作品の感想書いてて、何時の間にか自分の作品の愚痴書いてる自分に絶望した!
失礼しました。
>Yell of magic
カッコイイ斑目キター!
確かに斑目って素材悪くないから、磨き方次第ではカッコ良くなりそう。
でもそれを形から教えたのが春日部さんで、中から教えたのが大野さん…
何か屈折したハーレムですな、ウラヤマシス。
それにしても大野さん、欲求不満なんすか。
田中は淡白なんですか?
それとも大野さんが激し過ぎるんですか?
それとも両方?
やっぱあの2人、いろんな意味で八丁堀の中村さん夫婦状態なのかも…
この話もまだ続け様は有りそう。
また書いて下さい、気長にお待ちしておりますので。
>>『30人いる!』
恵子頑張れ!だがチビんな、もう大人なんだからw
恋する高坂と尊敬する春日部さんに囲まれたらそらどーにもなりませんわな。ただまあ、恵子って調子に乗ると威力を発揮するタイプだと思うから、前回国松っちゃんが言ってた通り全員まるごと引っ張っていってくれそうです。
なあに、エンジンにはエンジンの仕事があるさ。アクセルブレーキクラッチとハンドル操作を誰かがやりゃいいんだ。
ついに総監督が決まった現視研映画制作部、次にくじを引くのは誰だ?
……映画、作り始めるのはいつごろだろう(ボソ)
>>538 そして感想ありがとうございます。相変わらずぜ〜んぶ特撮と特撮時代劇になぞらえて話す作者氏ステキだw
必殺2007(評価はあえて秘すが)観たところだしついていきやすい。
>それにしても大野さん、欲求不満なんすか。
>田中は淡白なんですか?
>それとも大野さんが激し過ぎるんですか?
マジレス的には田中、ガッコが忙しくなってきてあんまり大野さんといちゃいちゃしてくれないのです。
ネタレス的にはもちろん大野さん>田中ですよそりゃw
ではまた。13スレはこの辺で終了でいいのかな?
おお!書き手が増えてる
一時期の活気が戻ってきたかのようだ!
スレも新スレたってるし!!
さてこのスレ残りわずかだけど どーしようかな。
続きはやっぱ新スレに投下することにするか・・・でも返事はこのスレ使うことにしますね。
>>505 原作知らなくても面白いとは思います。
(あくまでも自分の感想)
おそらく本編に出てくる名前のあるキャラはほとんど出してると
思います。その意味で楽しいかも
また全部読んだあと、感想が聞けるとうれしいです。
>>537 選挙いきました?
元ネタがあったんですね・・・
でも他の漫画のキャラをいれて動かすっていうのはできそうでできないような・・・
よければ元ネタも付属で教えていただければよりいっそう読むとき楽しめるのではないかと
思います。
>>538 「絶望した!
人の作品の感想書いてて、何時の間にか自分の作品の愚痴書いてる自分に絶望した! 」
自分の作品と比べてかなり卑下されておられるようですが、まあ僕の作品は
パロディなのでストーリー自体借り物ですからスピーディーで面白い展開だとすれば
それは単にオリジナルの台本がそれだけ優れものということにすぎないかと。
だから「30人いる!」と比較するのは間違いですよ。
なによりストーリーが完全オリジナルてえところがなかなかできない話です。
特にずっと読んでいて「30人いる!」のすごいところは専門知識のすごさです。深いし広い・・・
やっぱ作者は関係者か何かの方ですかね?
ついでに書くと かくいうわたくしめ 最初にここに作品を投下した時、
けんもほろろの厳しい批評(おそらく投下作品中 最も酷評された作品です 何かは秘密)
が浴びせられましてすごく落ち込んだことがございますorz・・・
それにくらべれば第三者から辛口の批評を受けないだけ ぜんぜんOKでっす。
私めも30人さんにならって作品の感想?でもひとつ
Yell of magic
大野さんが天使に見えますね。でもゲームの世界という設定でしたっけ?
本物の斑目もこれぐらいかっこよければ・・・もしかしたら・・・と思わせますね。
斑目に関しては切ない作品が多い中、また違った風味で楽しめました。
ついでに読んだあと
「田中がコンビニに入るとちょうど斑目が弁当を買っていた。
(略
まるで田中から逃げるように去っていく斑目の背中を田中は疑いの眼差しで見つめた。
(どうして、俺を避けるんだ?)・・・以下続く」
などという妄想が・・・あ これは既に過去の作品か。
30人いる!
昔、漫研の後輩に「ナウシカ」と「うる星やつらビューティフルドリーマー」を
10何回(正確な数忘れた)も見せられた過去を思い出しました・・・(年齢ばれるな)
すごいのはそれだけ見てもあきなかったこと・・・はっ それは俺がおたくだからか?
山賀監督の話が出たか・・・確かに映画は撮れたけど・・・この人みてて思うのはやっぱ本来もってる
才能ってのは経験では補えないものなのかなぁと・・・あ、SSの話からずれてるなあ
まあ残りわずかだから穴埋めにちょうどいいということでひとつよろしくです。