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第1話 おしまい
弾はあと3発。
周りは自分を探しているならず者たちでいっぱいです。
正は36歳のヤクザです。
だけどうだつが上がらず、このままでは一生電話番。
そんな正に昨日、おやっさんが拳銃を手渡して、言ったのでした。
「一働きして出所してきたら、おめえも幹部だ。組のもん全員で出迎えてやる!
できねえんだったらおめえはヤクザにむいてねえんだ」
正は腹をくくり、鉄砲玉として敵の組長の命を取ることにしました。
けれど、肝心なときに失敗してしまうのが、正という男です。
雨の中、水たまりに足を滑らせ、護衛たちの中にスライディング。
何発か発砲してようやく逃げ出し、なんとか路地裏に隠れたものの、
このままでは遅かれ早かれ見つかり、殺されてしまうでしょう。
路地裏にうち捨てられていたピエロの人形に、正はぼやきました。
――やっぱ俺、ヤクザに向いてねえのかなぁ。
このまま殺されるよりは、せめて一度でも反撃に出て、逃げおおせる可能性に賭けた方が得策です。
正は悲壮な気持ちで、敵の集団の中へと躍り出ました。
頼りは3発の弾丸。自分を取り囲む敵に銃を構えると、
そこは綺麗なお花畑でした。
さっぱり状況が掴めません。
ヒバリが鳴いています。晴れた空にはお日様が笑っています。
比喩表現ではありません、お日様には顔がついているのです。
ぽん! と何かが弾ける音がして、正はそちらに銃を向けました。
音は、つぼみが開いてお花が顔を出す音でした。
ぽん、ぽんっ、ぽぽんっ。一気に、お花畑じゅうのお花が開いていきます。
お花たちはにっこり笑って、合唱しました。
♪いらっしゃーい、いらっしゃーい、いらっしゃーい。
「やあ!」
いきなり声がしました。振り向くと、ピエロの人形が大きく腕を開いていました。
「ようこそ! 『だいらんど』へ! 歓迎するよ、正雄君!!」
ちなみに台詞にはルビが振ってあります。再現できないのが残念です。
ピエロは、自分をジャックと名乗りました。夜の王様の忠実な家来だそうです。
正は、何も言わずにジャックを蹴り飛ばしました。
キャー。お空の向こうにジャックは飛んでいってしまいます。
……なんだ、このイカレた場所は!?
夜の街はどこ行った? 雨はどうした? 俺を追ってた連中は……
もしかして、俺は死んだのか!?
向こうの方で、ずぅーんと重い音が響きました。
何かが落ちてきているみたいで、ビリビリ空気が震えます。
様子を見にいってみると、そこにはお姫様が立っていました。
「もしもーし、お昼ごはんの時間だから危ないですよ〜? ボ〜ッとしてると……」
ずぅーん。
ボ〜ッとしていたお姫様の上に、5メートルはあろうかというハンバーガーが落ちてきました。
お姫様は、その下で潰れてしまっているみたいです。
「……だからなんなんだよ!?」ごもっとも、困っちゃいますよね。
でも、なんとハンバーガーの下からは、白い手がニョッキリと飛び出していたのです。
手をにぎって引っ張り出してみます。ずるりずるり。
すると、パンの下からは、ぺらぺらに潰れたお姫様が出てきました。
大丈夫! お姫様はすぐに、ぷくーっとふくれて元の姿に戻ります。ああ、びっくりした!
ぱたぱたと土埃を払って、お姫様は正にお礼を言いました。
「助けてくださってありがとう!! あなたはわたしの恩人ですわ! わたしはメリーアン姫!」
ぜひお城にいらして、父にお礼を……と言うメリーアン姫をさえぎって、正は尋ねました。
「ここは……天国か?」
メリーアン姫は、きょとんとして答えました。
「てんごく、てんごく……え〜と、てんごくってなんでしょう?」
なにこの漫画。
絵も下手だし、展開も意味わからん・・・
う〜ん、たしかに絵は微妙だな、かわいらしくはあるんだが。
というか、なんなんだろう、よくわからんなこの漫画
ヤクザ+メルヘンって、どういう取り合わせだ……
メルヘンのお約束をパロディ化してくギャグ漫画……なのか?
ギャグと見るとパンチが足りない
かといって燃えも萌えも期待できそうにない
中途半端な漫画だな・・・
友達が面白そうなのが始まったって言うから読んでみた
…異世界に迷い込んだ気分だな、こりゃ
不思議の国のアリス ヤクザ版?
この作者、以前からこの絵柄でエロマンガ描いてたよ。
ま た キ ャ プ テ ン 組 か 。
予告にあった「ふりだしにもどる」ってタイトルと全然別物だし、
急遽それボツにして新しい話を描いたんじゃないだろうか、これ。
短期で打ち切られそうだなあ。
メルヘン調で話が進んでって、
ラストはマッチ売りの少女ってオチだろうな。
死ぬ前に見た幻。
メリーアン姫って、手、ドラえもんじゃねえか・・・
もうちょっと気合い入れて描けよ。
ここまで萌えないヒロインってのも珍しい。
何この漫画。
前から絵本みたいな絵を描く作者だと思ってたけど、
とうとう直球できたか・・・
でもこりゃないだろ。ほかの掲載陣に比べてすごく浮いてる。
この作者の作品でお薦めある?
>>18 俺的には、「シィナのファブリオ」がおすすめ。
俺は「Look at Me!!」だな。
キレると人格が変わって露出癖が出る英語教師と不良少年の話。
あれも、変な設定だと思ってたら、最後に綺麗に話まとめやがった。
「だいらんど」も、ここからうまい話にもっていけるのかもと期待だけはしてるけど……
でも第1話からは、明るい未来が想像できないぞ……
第2話 たいへんだあたいへんだあ♪
お日様にも、木にも花にも。なぜ、だいらんどのものには、なんでもかんでも顔がついてるのでしょう?
それは、お顔がなければお話できないからです。
ここは「だいらんど」の「お昼の国」。
どうやらあの世じゃないみたいです。なぜって、脈もあるし痛みも感じます。
メリーアン姫に名前を聞かれて、正は答えました。
「俺はただのチンピラさ! 名前なんざどうだっていい」
メリーアン姫は喜びます。チンピラさま! すてきなお名前ですこと。
ではチンピラさま、とメリーアン姫はお城に正を招待しました。
おっきなひまわりが生えた、植木鉢みたいなお城です。
ここはゆかいなひまわり城〜♪ おめめクリクリこころポカポカ♪
みんなだ〜いす〜き〜♪ メリ〜ア〜ン〜姫〜♪
そんなぼくらの姫さまが〜♪ ハンバーガーの下敷きに!?
たいへんだあたいへんだあ♪
ラッパが高らかに鳴り響き、お城の住人たちが歌いました。
さっきの今だぞ、なんでこいつら知っている!? という正の疑問はそっちのけで、
メリーアン姫もソロパートで答えます。
みなさんみなさん聞いてください♪ わたしは元気よほらこのとおり!
こちらにおられるチンピラ様が わたしを助けてくださったから!
♪チンピラ チンピラ チンピラ殿!
大合唱に合わせて、天井から王様の登場です! おひげがくるりん、3頭身の姿です。
よくぞ姫を助けてくれた! 礼をいうぞ! 若者よ!
ホウビを取らそう ホウビを取らそう♪ 望みのものをば なんなりと♪
若者っていうか、正は36歳なんですけどね。
褒美か……と正は目をつり上げ、正は辺りのお花たちを蹴り飛ばしました。
「だったら今すぐこのクソ芝居をやめて……俺を元いた場所に帰してもらおう!」
ぴたりと、あたりの時間が止まりました。まるでゼンマイが切れたみたいです。
するとどこからともなく、あのピエロの人形――ジャックが現れ、王様に何かを耳打ちしました。
次の瞬間、時が動き出し、王様は褒美を決めました。
「チンピラ殿! なんじに娘を嫁につかわす!」
喜ぶメリーアン姫。結婚だあ結婚だあ♪ とユニゾンする兵士たち。
正はびっくりです。会ったばかりの男に娘をくれてやるなんて、信じられないですからね。
「ちょうどお昼じゃ 宴にしよう♪」
「おいっ、待ちやがれコラ! 俺は元の場所に戻せといってんだよっ!!」
去っていく王様に駆け寄り、正は全力で王様を殴りました。
すると王様の首は、なんと! 殴られたのに合わせて、カラカラカラと回転したのです。
回転が収まると、何事もなかったかのように城のみんなは歌いました。
宴じゃ! 宴じゃ! 宴の用意♪ 宴の用意♪
おっきなフライドチキンを前に、正は思いました。――こいつらじゃ全く話にならねえ。
この悪ふざけを裏で笑って見てる野郎がいるはずだ! 待つんだ、そいつが動き出すのを……
宴が終わり、正はメリーアン姫のお部屋に通されました。
見ず知らずの男との結婚なんて普通嫌がるだろと言う正に、メリーアン姫は答えます。
「チンピラさまはいい人ですもの。イヤじゃありませんわ!」
「残念だったな、俺はいい人じゃねえんだ!」
正はメリーアン姫の服を引きちぎり、ベッドに押し倒しました。
手を掛けようとして……正は戸惑ってしまいました。
だってメリーアン姫の体ってば、まるで塩ビ人形みたいに起伏もなく、つるつるなんですもの。
なんにもないおまたを指でまさぐっても、メリーアン姫はくすぐったがるだけ。
「あ! わかった! くすぐりっこですわね?」
こちょこちょするメリーアン姫に、正はすっかり萎えてしまいました。
まったく、失礼しちゃいますね。これでもメリーアン姫、22才のレディーなんですよ。
耐えろ! 待つんだ、何かが起きるのを。
そう思いながら過ごして、どれくらいの時間が経ったでしょう。
正にはそれはわかりません。腕時計は壊れて止まってしまっているみたいですから。
メリーアン姫が、お昼ごはんに呼びに来ました。正はメリーアン姫に尋ねました。
「俺がここに来てから何度目の昼メシだ?」
すでに、お昼ごはんは10回目。けれどその間、正は一度も晩飯を食べてません。
それもそのはず、お日さまは円を描いて頭の上をぐるぐる回るだけ。
「夜はきませんわ。ここはお昼の国ですもの! 永遠にお昼がつづくのよ!」
メリーアン姫の無邪気な言葉に、正はついに、キレました。
大広間の扉を蹴り開けて、拳銃で王様の頭をぶん殴ります。
そしてその拳銃を、王様のこめかみに突きつけて――
「俺をここに連れてきた野郎! 誰だか知らねぇが今すぐここに出てきやがれ!
出てこねぇとこいつの脳みそぶちまけることになるぞ!?」
チンピラ様って安直な
ちょっと面白くなってきた。
やっぱり、メルヘンのお約束をパロっていくコメディになるっぽいな。
ミュージカルへのツッコミ、確かにその通りだ。
チンピラさま♪チンピラさま♪
やべ、面白いじゃんこれw
そだ、お薦め作品教えてくれたヤシ、サンクス
ピエロって一体何者だ?
RPGの名前入力でふざけてチンピラと入力したみたいな感じか。
あー、それだ。
なんかに似てると思ったら、RPGだ。
おあつらえ向きにイベントが起こったり、
画面上にいきなりキャラクター大のアイテムが現れたり、
フラグが立ったら街の人の言動が全部一新されたり、
選択肢にない行動がプログラムされてなかったり、
イベントが起こらないと日数経過しなかったり。
きっと、ゲーム「だいらんど」に取り込まれたってとこだろう。
>この悪ふざけを裏で笑って見てる野郎がいるはずだ! 待つんだ、そいつが動き出すのを……
なんだかワラタ
22歳だったのか
ていうか、こいつらに年齢設定なんてあるのか
そもそも昼しかないのに一年をどう数えるのか
ツッコミどころ多いな
メリーアン姫の裸、関節もないし棒人間みたいだし、
手も足もただの丸だからキモいなー。
じっと見てたらだんだん恐くなってきた。
サービスショットにもなってない。
なあ、あのお人形姫と結婚しても子供つくれないんだがどうするんだ?
>>33 キャベツ畑で赤ん坊が手に入ります。もしくはコウノトリが(ry
あいつら、本当にそうやって子供作ってそうだな。
第3話 はじめのい〜っぽ!
王様に銃をつきつけ、本当にやるぞ、と正は脅しに掛かります。
そこに飛び出てきたのは、ジャック。
「乱暴なことはやめてよ! 『だいらんど』は楽しいでしょ!? 何をそんなに怒ってるの!?」
やっぱてめぇか……。正は、早く家に帰せと要求します。けれどジャックは言います。
君をここに連れてきたのは夜の王様。でも、君は二度と帰ることはできないんだよ……。
正はついに一発、銃をぶっ放しました。王様の頭は、傷つくことなくカラカラ回転します。
夜の王はどこにいる? 夜の国? なら――会いに行く!
こういう世界喜んでくれるかと思ったのに、と引き留めるジャックに、正は言い捨てました。
「“こういう世界”はなあ……とっくに卒業しちまったよ!!」
お城の出口からは、黄色いレンガの道が伸びています。まるで何かのパクリですね。
夜の国にまっすぐ続く道の道中には4つの国がある、と王様は語り始めます。
「ただしおのおので試練をクリアしパスポートを手に入れなければ、次の国へは進めぬのじゃ!」
そんなルール説明も話半分に、正は道を歩き始めました。
王様は正の背中に言います。パスポートがなければ国境は越えられぬぞ。
隣国へのパスポートは、王様の王冠です!
「これが欲しくば、空から降ってくる食べ物の中より三大珍味を捜し出しすべて余のもとに……」
台詞が終わるより早く、正の手が伸びて、王様から王冠を奪ってしまいました。
と、その時――
「お待ちください!」
お城から飛び出してきたのは、バスケットにお花を持ったメリーアン姫です。
夫婦ですから一緒に行きたいのと言うメリーアン姫に、正は素っ気なく、勝手にしろと答えました。
レンガの道を歩いていると、ジャックもやって来ました。
「正雄君、正雄君! ボクもおともさせてもらうよ!」
お昼の国は好みじゃなかったみたいだけど、『だいらんど』にはまだいろんな国がある。
きっと正雄君の気にいる国が……と説明するジャックの服を、正はぱらりとめくります。
ジャックの中身は、ただの木の棒。
結わえ付けられたヒモをほどくと、バラバラになりました。
「なんでぇ! ただの作り物じゃねぇか」
ジャックのパーツを道ばたに放り投げ、正は道を進んでいきます。
その後ろで、バラバラになったジャックは、すー…と地面に吸い込まれていきました。
道すがら、お昼の国の住人たちの姿を目にします。
誰も働かねえ。誰も死なねえ。怒りや憎しみも存在しねえ。セックスもねえ!
どっちを向いても笑顔しかねえ……“こういう世界”か……
オズの国やネバーランドをまねたつもりだろうが……けっ!
正は、だいらんどが気に入らないようです。
それから、つきまとっているメリーアンも、正は気に入りません。
細い体やひらひらした服なので、早足で歩けばまいてしまえると思ったのですが、
メリーアンはいつになっても息一つ乱れず、逆に自分の方が疲れてしまいます。
このメリーアンをはじめ、だいらんどの住人たちは、とっても奇妙な存在です。
関節もなく、柔らかい棒みたいな手足。こぶしは丸くて指もありません。
肌の質感や体温は人間的だけれど、ディティールが何もないのです。
けれど……どこかメリーアンは、最初に会ったときに比べると、何か雰囲気が変わった気もします。
なんというか……ちょっぴりデフォルメが抑え気味で、頭身が上がったような……。
二人は、やがて国境にたどりつきました。
「なんだこりゃ……」
国境といいながら、それは切り立った断崖絶壁にしか見えません。
まさか飛び降りろっていうんじゃ……。
「隣の国はね、大人の国っていうんだよ、正雄君! きっと正雄君も気に入ると思うな!」
いつの間にか、道ばたの立て札の上にジャックが寝そべっていました。
「向こうで待ってるね」と言い残して、文字通り消えていくジャック。
チェシャネコかよ! またパクリじゃねえか。
「さあ、行きましょう」
メリーアンが正の背中を押します。崖の下を見ると、たしかに街が見えます。
ただ奇妙なことに、建物は皆、崖に90度傾いて張り付いているのです。
その街の下に、地面は見えません。正は目を見開いて震えました。
俺はおまえらと違って……落ちたら死ぬんだぞ……。
「だいじょ〜ぶですって! ほら!」
メリーアンが、不意に背中を突き飛ばしました。正は崖を一直線に落ちていきます!
死を覚悟した正ですが……すぐに、背中に地面の感触を感じました。
大人の国の建物は、べつに壁に張り付いていたというわけではなく、
単に、お昼の国と大人の国では、重力の方向が違うだけなのですね。
とにかく、これで国境越えもできました!
正は辺りを見回しました。薄暗い空、立ち並ぶビルから漏れる明かり。
漂う懐かしい匂いに、正は心知らず浮き足立ってしまいます。
とはいえ街のディティールは甘く、ビルといってもただの直方体みたいなもの。生活感もありません。
ちょっと訝しがっていると、ようやくこの国の住人たちの姿が現れました。
ネクタイやバッグを身につけた、正真正銘の大人の人たちです。
ただ一点――
「あらあなたたち! 今日は『小鳥の日』よピー! なんでそんなカッコしてるのピー!?」
みんなして鳥のかぶり物をしているのが、妙なところなんですけれど。
オズの魔法使いに不思議の国のアリス……
とうとう具体的なモチーフまでパクリはじめたかw
ファンタジーの要素を張り付けまくったような話だな。
パクリってのはちがう気がする
露骨過ぎる程の引用で、ここから話を広げていくんじゃね?
パクリってよりは、パロディだな。
正も「オズの国やネバーランドをまねたつもりだろうが」って言ってるし。
これからも、いろんな有名メルヘンの引用が出てきて、
そのたびにメタ視点でツッコミ入れてくんだろうな。
かってに改蔵みたいな感じか。
というか「だいらんど」の「だい」って何?
真っ先に思いつくのはdieだけど、何かの略かな?
普通に「死の国」くらいしか考えつかないな。
やっぱり死後の世界なのかな。作中で否定されてたけど。
第4話 いっかいやすみ
「あらまあ! 小鳥にならなきゃダメですよチュンチュン!」
「今日は『小鳥の日』なんだよカッコー!」
「法律は守らなくちゃいけないのよピヨ!」
口々にそう言って、正たちを取り囲む大人の人たち。
その中の一人が、正とメリーアンに、鳥のかぶり物をかぶせました。
「ほら! とってもお似合いだわピヨピヨ!」
メリーアンは喜んでいますが、正はすぐにかぶり物を脱いで、放り投げます。
大人の人たちは騒ぎます。法律イハンだ法律イハンだ!
すぐに大きな檻が降ってきて、正を捕らえました。
ガラガラと檻が運ばれていくその先には、見慣れた建物……ホワイトハウス。
そして中から現れたのは、小鳥をはべらした4頭身のおばさん。大統領様だそうです。
「あなたね? 法律を守らないのは! いけませんよ!」
にこにこ顔で正に言う大統領。と……大統領は気づきました。正の手にある、王冠に。
大人の人たちが、にわかに色めきだちました。
「王冠だ!」「王冠だ!」「あたらしい大統領だ!!」
気がつくと、正は王座に座って、「大統領ばんざ〜い」と叫ぶ人々に取り囲まれていました。
状況が、さっぱり掴めません。
「みなさん新しい大統領を歓迎しているのですわ!」
そう話し掛けてきたのは、メガネの知的な(といっても人形みたいな4頭身ですが……)女の人。
大統領補佐官のルーシーです。
「大統領になった人はどんな法律でも作ることができます! 国民はみなよろこんで従いますわ!」
ルーシーの説明に、正は呆れました。お遊びに付き合ってるヒマはない。
「法律を作ってもらわないと国民が……!」
哀願するルーシーに、正は「逆立ちでもさせとけ」と言い捨てます。すると――
「新法が発令されました! 今日は『逆立ちの日』です!」「は〜い!」
いっせいに、逆立ちをする国民たち。
正は唖然としてしまいます。が、そのうち正の頭に、ある考えが浮かびました。
――順路通りに歩くのにも飽きてきたところだ……ここらでひとつ、攻守交代といこうじゃねぇか!
国中に、正の法律が発令されました。
「今日は『悪の日』だ!! これからてめぇらは悪人になるんだ!」
まずは手始めに、適当な女の子を見つくろって、ハーレム要員に。
きっ、と空を見据えて正は叫びます。
「いいのかい!? あんたの世界がメチャクチャになっちまうぜ!?」
返事はありません。だけど、こっそり覗いているのは正にはわかっています。
――見てろよ? 表舞台に出てこざるを得なくしてやるぜ……夜の王さんよ!
いつの時代も、悪の入口といったらタバコです。第一条、タバコを吸え!
「体に悪くて人に迷惑! だから吸うんだ! いいな!?」「はいっ!」
国民のタバコをチェック。おやおや、これはチョコレートですね。
「もちろん火がついて煙が出るやつだ!」「はいっ!!」
パチパチと、タバコから火花が飛び散りました。
「……よし、次っ!」
大人なら酒飲んで泥酔してヘドをはけ! 第二条、酒を飲め!!
「もちろんジュースじゃねえ、体が熱くなって燃える様なやつだ!」
口から火を吐く国民たち。……ガソリンでもなくてだな……
花火と火吹きで、国はにぎやかです。今日は大道芸人の日だったか……?
まあいい、ここからが本番です。第三条、暴力だ!!
手本を見せるため、バットを構えて、一人のおじさんの頭を打ち据えます。
「どうせ銃で撃ったって死なねえんだ! 思いっきり……いけっ!!」
ごろっ……ぽんっ、ぽんっ。
殴った頭は、胴体を離れて転がっていきました。
さすがに正も、動揺してしまいます。ここここれが傷害致死って奴だ、へへ……へ……。
しかし、首なし胴体のおじさんはよたよたと歩き、首を拾って、かぽっとつけなおします。
「あれっ、あれ? どうなっておるのかな?」
おじさん、後ろ前になってます。
国民たちは和やかに笑います。正もデフォルメ顔になって笑います。ははは……は。
はっ、と正気に戻りました。俺は何を笑ってるんだ!?
へらへら笑ってる場合じゃない。次の法律を作らなきゃ。
第四条、コンビニ強盗! ここからは実践です。本能のままに襲え!
国民たちを従え、コンビニを探して走り回っていると、ルーシーが言いました。
「『コンビニ』はありません!」「作っとけ!」
第五条、銀行強盗!「『ぎんこう』もありません!」「作っとけ!」
第六条、とにかく強盗だっ! そのへん歩いてる奴を取っ捕まえて金を奪え!!
「『おかね』ってな〜に?」「数字が印刷された紙きれだっ」
地団駄を踏む正のもとに、数字の書かれた紙吹雪が舞いました。
「ぼくのお金は『15』だぞ!?」「ぼくのなんか『22』だもんね!」
どうやっても、思うようにいきません。悔しさのあまり、正の頭身だって縮んじゃいます。
5頭身にまで縮んだ正は、半べそをかきながら言いました。
「そうだ……エッチなことだ……。エッチなことはわるいことだ……」
なるほど! ハーレムの女の子たちが、正にこちょこちょしてきます。
やめろってば! 怒るぞ!? とじたばたする正のところに、工事員がやってきました。
「大統領様『コンビニ』ができました!」
よし! こんどこそ! 正は喜んで立ち上がり、国民たちとコンビニに向かいます。
そこで手に入れたクマのぬいぐるみを高々と掲げ、
「みんな〜っ! これが『悪』だ〜っ! 楽しいか〜っ!?」
おーっ! 大統領ばんざ〜い、大統領ばんざ〜い!
喝采を浴びて、もう4頭身になった正は楽しそうです。
そんな姿を見ながら、地面から顔を出したジャックはひとり、ニヤッと笑いました。
夜王ってなんだ
ルーシーかわええな
なんだかんだで、ヤクザの正もメルヘン世界のペースにはまっていくのか?
つくっとけ!
ワロタ
ひょっとしてこれ、ギャグじゃなくてホラーなんじゃないか?
かわいい絵柄だけどよく考えるとこれ、かなり恐いぞ。
メルヘンとホラーって、意外に紙一重だからな。
たとえば、夜中に人形やぬいぐるみが動くのはメルヘン的でもあり、
ホラー的でもある。
このままメルヘンに引きずり込まれていくのか正は。
>「やめろってば! 怒るぞ!?」
本来の正だったら、問答無用でぶっとばすんだろうに……
ジャック、何を企んでるんだ……
だいらんどの住人で、メリーアンの他にちゃんと名前の出てきたのって、ルーシーだけだよな?
この先ルーシーもメインで絡んでくるのかな。
正にエッチなことするときに
「エッチなことって、もっとエッチだったような……」
って言ってるから、もとは正と同じ取り込まれた旅行者で
元の人格がちょっと残ってるのかもね。
ルーシーが現実を思い出して正を助けるとか?
第5話 ダイッキライなもの
今日の銀行強盗も、大収穫です!
沢山のおかねを袋に詰めて、ホワイトハウスへ。ハーレムの女の子たちも大喜びです。
ただ、はしゃいでいる女の子たちの輪に加わらない子が一人……メリーアンです。
メリーアンの姿は、今までとはちょっと違ってきて、だいぶリアルタッチ。
頭身が上がって、鼻もデフォルメで省略されなくなっています。
楽しくないの? と尋ねる正に、元気なくメリーアンは答えました。
「楽しいですわ、チンピラさま」
正は、新しく作られた宝石店へと強盗に行ってしまいました。
悲しげな顔をしたメリーアンに、持っていたバスケットから、お花が気遣いの声を掛けました。
ジャックも現れて言います。「そんな顔してるとチンピラ君が心配しちゃうよ?」
メリーアンは答えます。私もなんで悲しいのかよくわからないんです。
ただ、すっかり変わってしまったチンピラ様を見てると……なんだかとっても……。
ジャックは誇らしげに言います。
「チンピラ君は変わったんじゃないよ、元の自分にもどったんだよ!」
メリーアン姫も、いっしょにいたせいでちょっと思い出しちゃったみたいだね。
と、そこに、
「あ〜らジャックちゃんじゃない! お久しぶり〜!」
ルーシーがやってきました。ジャックは、なぜかルーシーがニガテそうです。
「ぼく、いそがしいから!」地面に潜って、逃げていってしまいます。
正が宝石強盗から帰ってきました。
宝石をもらい、ありがとうございますと言うと、正はにっこり笑いました。
「よかった、大好きなメリーアンが喜んでくれて!」
その言葉が一番嬉しかったメリーアンでした。
けれど、他のハーレムの子にも正が「大好きだよ」と言うのを聞いて、がっくり肩を落とします。
と、そのときメリーアンは、ジャックが奥の方で何かをしているのを見つけました。
正の持ってた銃を持って、地面に潜っていってしまおうとしているのです。
メリーアンは駆けつけて、ぐっと銃を押さえました。
「これはチンピラ様が大切にしてるものですから……」
なくなるとチンピラ様が悲しみます。そう訴えるメリーアンに、ジャックは言います。
もういらないものだよ。大丈夫だよ、もう忘れてるよ、悲しみなんか。
「そう、忘れてる……忘れてるだけなんです……大切であることに変わりはないんですから!」
そう言って、メリーアンは銃を引っ張る手に力を加えました。
その瞬間、バン!!
銃が暴発し、弾がメリーアンの額に直撃します! 額の宝石が弾け飛びました。
ジャックが焦って駆け寄ると、メリーアンの額にはおっきなバツ印のバンソウコウ。
よかった、気絶してるだけです。
「今の姫様じゃヘタをしたら……」と安堵の息を漏らすジャックの脇に、手が伸びました。
――正です。
正は、銃を手に掴み、それを見つめました。
「ぼくはこれが大キライだ……。でもこれはぼくのものだ……。
ぼくのとっても大切なものだ……なぜだろう……
ぼくは『だいらんど』が大好きだ! でも……ここにいちゃいけない気がする……」
君はずっとここにいていいんだよ! というジャックの叫びも、もう正には届きません。
「そうだ……ぼくはここにいちゃいけないんだ……だって……
もう こっちを選んじゃったんだから……」
手にした拳銃は、ずっしりと重くて。
正は銃を振り回し、ホワイトハウスの柱を砕きました。
そうだ、おれの名前は正雄だ……大統領でもチンピラ様でもない……
「ヤクザの…… 正なんだ……」
震えながらも銃を握る手は、もうデフォルメではなく、五つの指を持っています。
涙を浮かべながら、正は叫びました。
「てめえら! 最後の法律だ!!
な に も か も ぜ ん ぶ ぶ ち こ わ せ !!」
見渡す限り、瓦礫の山。
無邪気に街を破壊する国民たちを、メリーアンは茫然と見ていました。
もう元の世界と変わらない姿に戻った正が、メリーアンに後ろから声を掛けます。
「休暇は終わりだ。先へ進むぞ!」
「はいっ!」
そこに追いかけてきたのは、ルーシーです。
「私もいっしょに行く! あんたといると、なんかいろんなこと思い出すのよv」
正は、メリーアンの顔を横目で見ます。なんだか、すごく不満そう。
ぽん、と王冠がルーシーの頭に置かれました。
「おめえが次の大統領だ!」
ハーレムを作るのよ! と高笑いするルーシーに背を向け、正とメリーアンは歩き出しました。
ジャックは、その後ろ姿を悲しげに見守っていたのでした。
むむ、なんか見えて来た感じだな
あー!
大人が子供の心を取り戻す話じゃなくて、
大人が現実から逃げずに戦う話だったのか!
今までもメルヘン部分がどことなく異様で怖かったから
違和感を感じてたんだけど、ようやく腑に落ちた。
面白い設定だなー。
正によって悪を知ってしまい、ルーシーが大統領となったこの国の
将来が思いやられるな。
まあ、正にとってはどうでもいいことだけど。
ルーシーが何かしたとこで、だいらんどのメルヘンパワーはどうにもできなさそうだがw
でもルーシーって、ジャックより立場が強そうだし、記憶の断片もあるし、何か特別な存在なのかもな。
何となく、他の住人も正みたいな形でだいらんどに
来ちゃった人なのかも、とかオモタ
お金を知らないくせに、コンビニ作れと言われると一応コンビニらしきものを
作れるあたり、現実世界の記憶が少し残ってるのかもしれないな。
メリーアンも、思い出しちゃったってことは元々人間だったってことだろうしな。
お昼の国でミュージカルやってた奴らはゼンマイ仕掛けっぽい感じだったけど、
元々のだいらんど住人と、ルーシーやメリーアンみたいに元人間だった奴らがいるのかも。
この先の国では、そういう元人間を助けつつ進むようになるのかな。
・・・って、ルーシー置いてってるか。
この先、ルーシー出てくる余地あるのか?
なんでここは大人の国って名前だったんだろ
お昼の国、夜の国はわかるけど、大人の国・・・
全部で6つ国があるらしいけど、法則性が見当たらないな。
>「ぼくはこれが大キライだ……。でもこれはぼくのものだ……。
>ぼくのとっても大切なものだ……なぜだろう……
なんか切ない気分になった
なんか面白くなってきたな
これから少しずつ真相が明らかになっていきそう
ていうか、今までの話に伏線あるような気がして
つい深読みしたくなる
「こっちを選んじゃったから」っていうの、深いな。
向いてないヤクザ生活っていう現実の象徴でもあり、
闘争と暴力と死にまみれた武器でもあり。
>>71 「キライ」なのはデフォルメされた正だからじゃなくて、
多分チンピラ正の本音なんだろうね。
フツーに続きが気になるよ。
だいらんどの住人の台詞にルビが振ってあるだけじゃなく、
デフォルメ正の台詞もルビつきで、
大人に戻ったときにルビがつかなくなるのに気づいてびっくりした。
すごいな。芸細かいな。
なかなかやるな、この作者
ほかにも色々仕込んでありそう
早く単行本にならんかな
第6話 ふりだしにもどる
大人の国の果てまで来ました。国境は、また直角の崖になっています。
「次の国はね、『子供の国』っていうんだよ!」
見ると、前と同じように、立て札にジャックがいつの間にかたたずんでいます。
「たまには童心にかえって遊んでみるのも……」とジャックが言い終わるより早く――
正はジャックに襲いかかります! 悲鳴を上げるジャックの額に銃を突きつけ、
「弾は最後の一発だ! てめぇの御主人様にくれてやる!」
そしてきびすを返し、国境へと歩を進めます。
パスポートは……と案じるメリーアンに、いらねえそんなもん、と言いながら正は飛び降りました。
「な? 問題ねぇじゃねぇか」
「パスポートはポケットの中だよ……」
地面からちょっとだけ顔を出すジャックの言葉どおり、背広のポケットにはクマのぬいぐるみ。
楽しんでいってね! と逃げ帰るジャックに、正はぬいぐるみを投げつけました。
レンガの道の先には、柵で囲まれた建物が見えます。
この建物は――学校?
学校の門を開けようとする正ですが、鍵が掛かっているようです。
うらぁ、と怒声を発して門を蹴る正の頭に、こん、とどんぐりが飛んできました。
「今日は大雪のため休校だよ!」
どんぐりを飛ばしたのは、パチンコを持った男の子と仲間たち。皆、例外なく子供の格好です。
雪なんて一体どこに。
正が男の子たちの方に歩いていると、ずぼっ! 突然足下が崩れました。
「ようこそ新入り! ボクたちはトカゲのシッポ団だ!!」
リーダーらしきパチンコの子は、落とし穴に嵌った正に、生意気な口調で言いました。
ボクたちに一人前と認められたら仲間に入れてやってもいい。
それまでおまえたち二人はみそっかす2号と3号だ。
けれど正は、そう言う男の子たちを無視して、先に進むことにしました。
ムキになって追いかけっこを始めれば、そのうち仲間と認められ、パスポートが手に入るのだろう。
だがその頃にはもう先に進むことなんか忘れてるって寸法だ!
空には風船が舞い、道のまわりには遊園地のようにいろんな遊具が置かれています。
子供の国の子供たちは、みんな楽しく遊んでいます。
童心にかえって遊べ……か。悪ふざけが過ぎるぜ、夜の王さんよ!
そう心の中で悪態をついてから、ふと、考え直します。
これは、悪ふざけじゃない。大人の国で自分は、何もかもすっかり忘れちまってた。
自分が誰なのかも、どこから来たのかも、どこへ行こうとしていたのかも。
もしもあのまま目が覚めなかったら――そう仮定して、正は戦慄しました。
はっとして、あたりを見回します。
海賊ごっこをしている男の子たち。お人形遊びをしている女の子たち。
そして……自分の後をずっとついてきている、メリーアン姫。
――冗談じゃ……ねえ!! 不意に湧いた恐ろしい考えを、正は振り払いました。
正は、子供の国の果て……崖のような国境に辿り着きました。
ほら見ろ、寄り道しなけりゃ次の国まですぐじゃねぇか。
パスポートなんかいらねえ。あんなもんは足止めさせるための罠にすぎねぇ!
そう叫んで、国境の向こうに、足を一歩踏み出しました。
するとそこは、一面のお花畑。お花たちが、おかえりなさ〜い、と声を揃えます。
「まあ! ここは『お昼の国』ですわ!」
どうやら、パスポートがなければ出発地点に戻されてしまうようです。
王様から王冠をひったくり、一直線にレンガの道を進んで国境を渡り、
ハーレムを満喫しているルーシー(飽きたら追ってくるそうです)からぬいぐるみをもらい、
途中で道を直角に曲がり、子供の国への国境にさしかかって。
正はそこで、思いました。
昼の国から大人の国へ垂直、大人の国で一回90度向きを変え、子供の国へまた垂直。
するとこっちは……
「チンピラ様? 子供の国へ行かないんですか?」
尋ねるメリーアンにも構わず、国境沿いに駆けていきます。
その果て、大人の国と子供の国と、もうひとつの国が成す、角へと。
「なるほど、ここがあんたの住み家ってわけかい……」
見下ろす先にあるのは、夜の国。墓石と枯れ木と、そして闇に覆われた国。
けれど、このまま踏み込めばまた花畑に強制送還です。
入りたければ、順路通りに国を廻ってパスポートを手に入れるしかないのです。
「よく聞け! みそっかす2号と3号! これから『トカゲのシッポ団』の入団テストをおこなう!」
首を洗って待ってろ夜の王! この落とし前は必ず……。
サスペンダーに半ズボンルックでスネ毛もあらわに、正は夜の王に怒りを燃やしました。
ところで、みそっかすの1号さんは、どなたですか?
メリーアンに質問され、リーダーは、向こうの方で落とし穴を掘ってる人物を指さしました。
浅黒い肌で気弱そうな、7頭身の青年――
正は驚きます。今まで見てきただいらんどの住人たちとは違う、リアルな人間。
「おまえどっから来た!?」
その青年、ジョゼにすごい剣幕で詰め寄ります。
すると、ジョゼは目に涙を溜め、怯えながら答えたのです。
「リオデジャネイロだよ……ブラジルの……」
ことごとくお約束を破ろうとする正が新鮮だ……
たぶんゲームとかやってて選択肢が出ても、必ずまっさきに「いいえ」を選ぶタイプだな。
正以外にも忘れてないヒトきたー??
こいつもジャックに愚痴こぼしたのかな。
つーか言葉通じてるのか。さすがメルヘン。
ジョゼって、やっぱり、現地のマフィアの下っ端だったりしたのかな?
>ルーシー(飽きたら追ってくるそうです)
待ってるゾ
国の名前、昼と夜、大人と子供ってことは、
残る二つも反対のもの同士の名前なのかな?
夜の国、見えてるのにいけないなんて!
>>84 どんな国なんだろな。
善と悪とか、敵と味方とか…?
しかし大人と子供繋がってるってことは裏面同士じゃないんだな
残りは大人の対と子供の対だったりして(思いつかないが)
この世界って六面体上だよな。ということは「道筋」どおりに展開してみるとこういうことか
ついでだからそれぞれの国にいた元は人間だったらしき人を書いてみた
┌───┬───┐
│ │ │
│ 昼 │. 大人 .│
│メリーアン.│ ルーシー.│
└───┼───┤
│ │
│. 子供 .│
│ ジョゼ.│
├───┤
│ │
│ │
│ │
├───┼───┐
│ │ │
│ │ 夜 │
│ │ │
└───┴───┘
残りの二つは男と女と予想してみる
罪と罰とかカッコいいのではなかろうか
じゃあ赤と黒
じゃあ幸と不幸。もしくは人と動物。
それぞれの国とそこの元人間には何か因果関係あんのかなー
>>88 そうすると夜の国にも元人間がいそうな予感。
夜の王自体、元人間だったりして。
もしくはジャックが……とか?
元人間は、パスポートがあれば気分次第で自由に国を動き回れるんだろうな
正は言うに及ばず、メリーアンも勝手についてきてるし
ルーシーも飽きたら追ってこれるくらいには自由
ジョゼは・・・どうやってここまで来たんだろう
少なくとも大人の国はジョゼの好みではなさそうだが
ジョゼは正の仲間になって一緒に旅するのかね。
ていうか子供の国がちょっと怖い、個人的に。
『トカゲのシッポ団』って、みそっかす達を切り捨てていったりするんだろうか?
なんかありそうで怖い。
つーか、「みそっかす」って単語、聞いたの小学生以来だ。
作者の言語感覚はすごいと思う。
でも、ジョゼには英語で聞こえてたりするのかな?
人間を引き込む権限があるのは夜の王だけなのかな。
てゆーか連れてきてどうするんだろ。まさか7人ミサキか・・・??
>96
いやブラジルならポルトガル語だろ
第7話 カラスがなくから…
入団テストと称した子供の遊びが、延々と続きます。
ジョゼは、ヤクザな風貌の正を恐がって逃げてしまい、話もできません。
トカゲのシッポ団の男の子たちは、メリーアンと正を「あっちっちだ」と囃し立てます。
正は、ひたすら辛抱です。
パスポートを手に入れたら、あんな奴らはっ倒して、こんな世界ぶっこわして……
そう心に誓って、缶蹴りの缶を踏みつける正でした。
入団テストの最終審査は、ヒーローごっこ。
正はデビル大王で、メリーアンとジョゼが子分その1とその2です。
「はじめ!」とリーダーの子が言うと、ジョゼはその場から……というか正から、逃げ出しました。
がしっ! 正はジョゼの襟首を掴みました。涙目で暴れるジョゼをなだめて、耳打ちします。
「俺は味方だ! おまえを助けてやろうってんだ!」
ジョゼの涙が、ひきました。……痛いことしない?
三人で円陣を組みます。デビル大王の悪だくみ会議です。
「いいか? パスポートは俺たちが手に入れる! おまえは先に国境に行って待ってろ!」
どうして? というジョゼに、一緒に元の世界へ帰るんだと勧めます。
するとジョゼは、顔いっぱいに恐怖の色を浮かべて、逃げ出しました。
「いやだ〜っ!! あ っ ち になんか帰りたくないよ〜っ!!」
何考えてやがる。正はジョゼの後を追いかけます。
男の子たちも正を追います。子分その2がデビル大王に追われているぞ! なんか変だけど……助けるんだ!
ほっといてよと叫んで逃げるジョゼに、正は説得します。
ここは夜の王の罠なんだぞ! ここにいるとおまえもあいつらみたいになっちまうんだぞ!?
元の世界のことなんかきれいさっぱり忘れちまうんだぞ!? それでもいいのかよ!?
するとジョゼは、足を止めて、涙を散らしながら正に叫びました。
「いいんだよ! ぼくは忘れたいんだ!! だから……」
と、その時、男の子たちが正に掴みかかってきました!
しかもトカゲのシッポ団だけでなく、他の子供たちも一緒になっています。
さすがに正も、この大人数には手も足も出ません。子供たちに、もみくちゃにされてしまいます。
「国境で待ってろ、ジョゼ! あとから行く!」
そう正は言いましたが、ジョゼは聞かずに「やめて〜っ!」と子供たちにしがみついています。
楽しそうに正に飛びかかるみんなの中、ジョゼの泣き声だけが、響いていました。
やがて、子供の国は夕暮れに包まれました。
リンゴーン、リンゴーン。学校の鐘が鳴ります。ごはんの鐘です。
正はじっと自分の手のひらを見つめました。少しばかり、指紋や指の関節が消えかかっています。
「みんな、今日はすっごく楽しかったな!」
そう言って、トカゲのシッポ団の男の子たちは、みそっかす3人の格上げを決めました。
「わあ、やった! やっと仲間になれたんだ!」
喜ぶジョゼの頭身は、なんと、正が見やるうちにどんどん縮んでいきます。
「これでもうさみしい思いをしなくてすむんだ……」
ジョゼは言います。子供の国の住人になると、お母さんが迎えに来てくれる。
一人に一人ずつ。今日こそはきっとぼくにも……。
「クリス……ごはんよ」「チャン……」「アレクセイ……」「ボブ……」
子供たちの元に、夕闇に顔の隠れたお母さんたちが現れては呼びかけていきます。
そしてついに、ジョゼの元にも。
「ジョゼ……さあ帰りましょう、温かいごはんがまっているわ……」
ジョゼの瞳に初めて、悲しみからではない涙が浮かびました。
「そいつはただの作り物だ。ついてったら最後、本当の母親の顔すら忘れちまうんだぞ」
そう言う正に、ジョゼは満面の笑みで答えました。
「うん! だからうれしいんだ!
もう殺される心配をしなくてもいいからね!」
お母さんと一緒に去っていくジョゼを、正とメリーアンは何も言わずに見送りました。
その後ろから、呼ぶ声がします。
「正雄……メリーアン……帰りましょう、おうちへ……私たちのおうちへ……」
大きく手を広げるお母さんに銃を放つと、銃弾は、お母さんの顔をすり抜けます。
お母さんは、夕闇に溶けて消えていきました。
銃口から立ち上る煙を見つめながら、正は呟きました。
「この国の……この世界の奴ら、全員……そうなのか?」
日が昇ると、4頭身のジョゼがやってきました。
明るい笑顔で、ジョゼは正たちにふわふわした縞模様の……しっぽ?をくれました。
「パスポートっていうんだって! これ……なんなの? なんでほしいの?」
説明しようとするメリーアンを、正は先へと急かします。
皆と一緒に楽しく遊ぶジョゼには決して振り返らず、正たちは、次の国へと向かうのでした。
お母さん、怖ぇ……
誰を迎えに来るのも同じ外見なのが怖すぎる。
まさに、「お母さん」っていう記号でしかないんだな。
銃弾、確か最後の一個だったよな。
“die”らんどだし死んだ人が来てるのかとは思ってたけど
まさかみんな殺された人?だとしたら不幸すぎる…
前半笑って読んでたのに一気にきたな、今回。
ジョゼって…もしかしなくても母親に殺されたのか…… (;´д⊂ヽ・゚・。
名前がある住人=元人間
だと思ってたんだけど、みんなお母さんに名前を呼ばれてたな。
こいつらみんな、元人間なのか・・・
大人の国の奴らも、皆大統領をやって取り込まれていった人間で、
昼の国も、経緯はわからないけどみんなそうなのかな・・・
それがみんな、現実世界で辛い目にあって殺された人々だとしたら・・・
だいらんどって、もしかして魂の救いの場なのか?
昼の国の王様やメリーアンも元人間なのかな?
そうすると、きっとすごい昔に死んだんだろうな…。
最初の世界のバイプレイヤーなんだし。
だいらんどが魂の救いの場だとしたらイコール天国って事か。
メリーアンの「天国ってなんでしょう?」に通じるな。
天国にいるなら天国を思い描く必要はないわけだし
天国だとしたら、現実に戻ることなんてできるのか?
確かに脈や痛みがあっても、死んでないって証拠にはならないけど、
夜の国まで行って「お前はもう死んでいる」とか言われたらシャレにならんぞ。
じゃあ完全にだいらんどの住人になった瞬間に死が確定とか。
いまは生死をさまよってて病院のベッドで目がさめる・・・
でもジャックは戻れないって言い切ってるんだよなー。
やっぱり死後の世界なのかな
メリーアンも、今現実に戻りかかってるけど、
ずっと取り込まれてて、今更現実に生きてる体があるとは考えづらいし
っていうか、夜の国まで行ったらメリーアンはどうなるんだ?
もしだいらんどが天国だとすると、なかなか面白い世界観だ。
天国って普通、生前いいことをした人間がそれを評価されて入るもんだろうが
だいらんどは、どうやら殺されて現実を忘れたい人間が入るっぽい。
死後の世界かー
ジョゼの話から考えればまあそうなんだろうが
なんか違和感あるというか、しっくり来ないというか
もう一捻りくらいあるんじゃないかと思ってしまう
最初「パスポートを手に入れたら、あんな奴らはっ倒して、こんな世界ぶっこわして……」って思ってた正が、
ジョゼたちが悲惨な現実から逃げ出してだいらんどで安息を手に入れた人間たちだと気づいたら
最後には彼らをそっとしておいて次に向かうのが切ないよ。
自分はあくまで現実を求め続ける一方、
自分には自分の、人には人の幸せがあること、わかってるんだな。
死後の世界というより、死ぬ直前に見ている幻って感じかな。
ほら、人は死ぬ前に、ほんの一瞬で自分の人生を回想するっていうじゃん。
正の場合思い出したくもない一生なので、そのかわりに、こういう世界を
その一瞬の間に体験しているのでは?
死後の世界かそれとも妄想の世界なのかは、ジョゼやルーシー、メリーアンが
実在の人物かどうかによって変わってくるよな。
妄想の世界ってのはどうかな。
その場合、正は現実に戻ったら
撃たれて路地に転がってて
「あ〜夢か」ってオチでしょ。
そりゃあんまりだ
そのうち、長期連載になってきたら、
現実世界の出来事とかも並行して描かれていったりするんだろうか
ルーシーあたりが現実世界で助かってだいらんどから脱出して、
現実世界から、死にかけの正を助ける・・・とかいう展開になったら燃える
ルーシーはキーパーソンっぽいよな。
ジャックに対して強気なのも気になるし。
ルーシーよ、まだハーレムに飽きてないのか…?
合流はまだ先なのかなー
第8話 スキなどうぶつな〜に?
「ようこそ! 次は、動物の国だよ!
自然の中で思いっきり暴れるとスカッとするよ! 今度こそ正雄君も気に入ると思うな」
黄色いレンガの道は、うっそうと茂る森の中へと続いています。
その木の上で、ジャックはインストラクションしています。
「この国は人間は入っちゃいけないんだ。でも安心して、パスポートがあるでしょ?
それをおしりにつけるんだ! そうすれば仲間に入れてもらえるよ!」
正は、厳しい顔で問いました。目的はなんだ?
「コレクションか? 水槽の中のアリンコか? 遊ぶだけ遊んで……飽きたら……」
「ちがうよ! そんなんじゃないよ! 王様は……」
懸命に叫ぶジャックに「けっ」と返し、正たちは森へと入っていきました。
動物たちの鳴き声がこだましています。
「チンピラ様、しっぽをつけないと!」
メリーアンに注意されますが、正はしっぽを捨ててしまいました。
と、そのとき、森に声が響きました。
――人間だ……人間だ……
――つかまえろ……つかまえろ……
「ほら、しっぽをつけないから」
メリーアンは、自分のしっぽを正にくっつけます。
すると次の瞬間! メリーアンは、どこからともなく飛んできた網に捕らえられてしまいました。
――つかまえた……人間つかまえた……
「えーと、お花さんをおねがいします〜」
森の奥へと運ばれていくメリーアンを、正とお花は、なすすべもなく見守るしかありませんでした。
「たすけてあげて〜。ね〜、姫さまをたすけてあげて〜」
さっきからずっと、お花がバスケットの中から、正に頼みつづけています。
でも正は思います。助け出して、どうしようってんだ!?
どこまで一緒に連れてく気だ? 現実の、ヤクザの世界に連れ出すのか?
もともと途中で捨ててくつもりだったんだ、ちょうどいいじゃねぇか。
――チンピラ様はいい人ですもの……
メリーアンの言葉が思い出されます。
「俺はチンピラ様じゃねえ……ヤクザの正なんだよ……」
ひどいよ〜、姫さまがかわいそうだよ〜。泣くお花ですが、正は構いません。
どうせこの世界だ、ほっといたってたいした事にゃならねえよ!
さて問題は、どうやってパスポートを手に入れるかです。
悩みながら歩いていると、道ばたにリスさんを発見しました。
バスケットボールほどの大きさのクルミを食べてる、確かにリスなんですが……
辺りを見回すと、「ピョ〜ン、ピョ〜ン」と口で言いながらはね回るウサギさんや、
「ガオッ、ガオッ」とポーズをとるライオンさん、アシカさんにセミさんまで……
みんな、着ぐるみの姿なのです。これが……動物の国だと!?
先の国に行くほどひどくなってくじゃねえか、と正は呆れました。
で……俺は何をすりゃあいいんだ!?
行動に困って「わおわおっ」と鳴き真似をしてみても、「はずかしー」とお花の白い目が返ってくるだけ。
動物たちに話し掛けてみても、返ってくるのは鳴き声だけで人間の会話になりません。
「姫さまみすてたこと後悔してんでしょ? ひとりじゃなんにもできないくせに!」
お花に挑発され、ケンカを始めそうになった、そのとき……
ぽんっ。正の姿が、変わりました。
モコモコの、パンダさんです。顔だけは、ごついヤクザフェイスです。
「……!? ……!! ……!?」
声が出ません。着ぐるみを外そうとしますが、どんなにがんばっても外れません。
正は、途方に暮れて、ポテポテ歩き出しました。
お花は言います。パンダさんになりきらないとダメなんじゃない? たべものとかさ〜。
ちょうど、近くに笹が生えています。
それをポリポリ口にしながら、正はなんだか、泣けてきました。
「チンピラさま?」
突然、後ろから掛けられた声! はっとして振り向きました。するとそこにいたのは、
「ブ〜ン、ルーシーよv」
ハチの姿です。大人の国に飽きたので、追ってきたみたいです。
「ほんとはね、鳴き声しかしゃべっちゃいけないのよ。でもジャックちゃん私に甘いから!」
人間に戻る方法を尋ねると、教えてくれました。シッポをとればいい。シッポがないのは人間の証拠。
「でもやめたほうがいいわよ。ここは動物の国だから、人間はオリに入らなきゃいけないのよ!」
その言葉を聞いて、正は目を見開きました。
ガッとお花のバスケットを掴み、メリーアンを助けに行こうと、威勢良く正は叫びます!
「パンダパンダパンダッ!!」
……あ、パンダの鳴き声、知らないんですね。
ルーシーキター!!!
花とケンカすんなよ、正w
メリーアンが檻に入れられてるとなれば思わず助けに行っちゃうんだな。
いい人だよ、チンピラさま。
ルーシーはやっぱり特別なんだな。
なぜジャックはルーシーに甘い?
人間時の関係が後引いてるとかかな。
>「パンダパンダパンダッ!!」
ハゲワラw
前回あたりで、いよいよこの世界の謎もとけてきたか、次あたりで
判明しそう、と思ったのに、またわけのわからん展開だ。
動物の国と来たか〜。
となると、対になるのは人間の国? それとも植物の国?
何にしても一筋縄じゃいかないんだろうな。
パンダの鳴き声藁他w
パンダパンダパンダw
「わおわおっ」ってポーズをとる正がかわいい。
笹を食べながら涙を浮かべる正がかわいい。
テキトーにパンダの鳴き声を叫ぶ正がかわいい。
にしても、展開早いよな。
6つの国ですでに3つ通り過ぎてるんだから、
まだ8話なのに
物語的にも後半戦なのか?
それとも、この先に、さらに大きな仕掛けとか、
番狂わせな展開が待ってるんだろうか?
まだ何かありそうな気配はあるな
マイナーみたいだが面白い話描くね、この作者
「ジャックちゃんは私に甘い」?
なんでジャックなんだ?
ていうか、パンダってなんて鳴くの?
やっぱ黒幕がジャックなのかな?
夜の王の使いっ走りにしては、やたら存在感あるよね。
ジャックがルーシーに甘いってのと、
いろんな行動が比較的自由ってのはどう繋がるんだ?
行動を制限してるのは夜の王じゃなくジャックなのか?
ここんとこ疑問ばっか浮かんでくるな。
実はルーシーがジャックより上の立場にいて、
お忍びで住人の姿をして旅人を監視してるとか?
>131
YAHOOで検索かけろ。>パンダの鳴き声
でももっと精度の高い検索エンジンってどっかにないのかなあ。
海外じゃGoogleとかいうのの運営がはじまったらしいけど、日本語版はまだかね。
第9話 たのしいどうぶつえん
「パンダパンダ!? パンダパンダパンダ! パンダ?」「ガオガオガオ!!」
メンチをきるパンダさんに、トラさんが胸ぐらを掴まれて慌てています。
トラさんのしっぽをビッと掴み取ると、トラさんは人間の姿に戻りました。
「なにをするんだ! 早くわたしのシッポを……」
――人間だ……人間つかまえた……
どこからともなく声が響き、元トラさんに網が掛かります。
「パンダ!」「姫さまはあっちだね!? れっつごー♪」
網の向かっていった方向を目指す正でした。凶暴なパンダさんですね。
「せっかくの『動物の国』なんだからさ〜、非人間的になってもいいのよ?」
あんなお姫様なんかほっとけば? とルーシーは提案しますが、正は無反応です。
ルーシーは呟きました。動物の国に入ると、その人が一番なりたい動物になっちゃうのよね。
「あなたならてっきり狼かなんかだと思ってたけど……案外この国を楽しんでたりなんかして!」
もう、何人(何匹?)のしっぽを奪い、網の後を追ったことでしょう。
いつになったらメリーアンのところに行けるのか、さっぱり先が見えてきません。
正は、ふと上を見上げました。こんもりとした森の木の間から見える、空。
思いついた名案を、さっそく実践。ハチの姿のルーシーに頼んで、上空から森を見るのです!
「お〜〜〜も〜〜〜い〜〜〜っ!!」
空から見ると、眼下に、なんだか森が切れて広場になっている場所があるようです。
「パンダパンダ!」とルーシーを急かしました。メリーアンはあそこにいるのでしょうか。
と、そのとき正は、気づきました。
もっと視野を広くして見てみると、だいらんど全体が見渡せます。
それぞれ直角に交わる6つの国で構成されただいらんどは、遠くから見ると、おおきな立方体。
――「だいらんど」……die(さいころ)landか……。
そう悟った瞬間、正を掴んでいたルーシーの手が外れました。
さすがに、大人ひとり(+バスケットひとつ)を持つのは、ルーシーは重労働すぎたようです。
「パ――ンダ〜〜……」
正が落ちていった先は、あの広場。モコモコの毛皮のおかげで、ケガはないようです。
「ステキなシッポですわねえポンポコ!」「奥さまこそみごとな毛並みでブーブー」
「そろそろ自然が恋しくなってきましたメェ!」「週末にでもひとつ森で暴れますかガオガオ!」
辺りでは動物たちが、人間語で世間話をしています。町の中だからしゃべってもいいんですって。
『動物の国』に……町だとぉ?パンダ!
疑問を感じながらも、町の動物に、捕まった人間はどこにいるのか尋ねました。
「人間なら動物園のオリの中よ! あんなもの見たがる動物の気が知れないわキャンキャン!」
ここは動物園です。
南国風、テレビっ子、おじさん……色々な人間が、オリの中で見せ物にされています。
ひとつのオリは、王室のようなセッティングになっていますが……中には、誰もいません。
「そのオリに入れられてた人間なら裁判中だよキーキー」
と、飼育員らしきおサルさんが言いました。
正は、無言で自分のしっぽを取り外しました。
「う……うわ……オリの外に人間が……! つかまえろー!」
騒ぐおサルさんを意に介せず、正は目をつり上げました。
「まいったな……俺が一番嫌いなパターンだぜ……」
――静粛に……静粛に……これより裁判をはじめる。
たくさんの動物たちが、そしてクマのぬいぐるみの裁判官が被告席を見下ろしています。
被告席に立つのは、他でもない、メリーアンです。
原告である動物たちは口々に叫びます。
「人間は私の仲間をたくさん殺しました!」「私の一族なんか人間に滅ぼされてしまったのです!」
「こんな残酷な生き物は他にいません!」「やがては世界をも滅ぼしてしまうでしょう!」
被告人に意見を求める裁判官ですが、メリーアンはただただ困るだけです。
「みなさんには申し訳なく思いますけど……私にいわれても」
ぶーぶーとヤジが飛び、陪審員は異口同音に、有罪を叫びました。
そして裁判官が判決を申し渡そうとしたそのとき……法廷の、扉が開けられました。
「『青い鳥』第三幕 森の場面 動物裁判……か。
あんたが悪いんだぜ……メーテルリンクさんよ!」
「チンピラ様!」
メリーアンの顔が明るくなりました。法廷はざわざわと騒がしくなります。
――弁護人、意見をのべよ……
意見か? と正は銃を構え、天井に、バン!! と一発。
大嫌いな鉄砲のおかげで、法廷中の動物たちは、耳をつんざくような悲鳴をあげて大騒ぎです。
「人間を弁護する気はさらさらねえけどさ……おめえらのやり方も思いっきり人間的だぜ!?」
獣なら獣らしく森で吠えてろや! と啖呵を切ってから、正は、違和感を感じました。
そう。子供の国で、最後の銃弾は使ってしまったはず……
銃の弾倉を確かめ、また銃を撃ってみます。
バンバンバンバンバンバン! いくら撃っても、弾はなくなりません。
……ふざけてやがるぜ!
メリーアンを引き連れて次の国へと進む正を、遠くからルーシーが眺めていました。
「な〜るほど! 『だいらんど』が嫌いなわけじゃないんだわ。それどころか……」
だんだんと謎が解けていくな。
同時に深まってきてる気もするが。
だれか青い鳥のストーリーを知ってる人、
森の場面ってのがどんなシチュエーションなのか教えてくれ…
自分の無教養が悔やまれるよ。
この国でトカゲになってるやつは、尻尾とられても生えたり
するんだろうか? とられた時点で人間に戻るからダメか?
カエルみたいにもともと尻尾のないのは、この国には
いないんだろうな。
さいころの国か。なるほど。
青い鳥、途中はほとんど覚えてないんだよなー。
ちょっと引っ張りだしてみるか。
メンチをきるパンダさんに思わずにやけた。和む。
でも動物裁判は怖い。裁判官だけ何故かぬいぐるみなのが怖い。
これも何かの伏線なのかな?
パンダって可愛い外見の割に獰猛なんだよな
正には合っている気がする
正はヤクザのくせにメルヘンに詳しいな
いや、正のどこが可愛い外見だw
元々けっこう教養あってメルヘン趣味な、
ただのチンピラには向いてないタイプの人間だったのかもな。
意地を張って大人であろうとしてるだけで。
ツンデレ?
サイコロの英語ってダイスだとばかり思ってたよ。
ひょっとして、ダイスだと複数形?
die、複数形だとdice。
ネズミみたいなもんか? mouse, mice。
さいころと死のダブルミーニングか?つづりは一緒だし。
正の来たきっかけといいジョゼといい死と無関係って事はないよな…
ルーシーのセリフ…このまま正も馴染んじゃうのかな。
つーかパスポートとった?
第10話 おかえりなさい
正六面体だから、六つの面、六つの国。あとひとつ国を抜ければ、「夜の国」です!
「楽しみですね! 夜の王様にお会いするの!」
そう笑うメリーアンを、じっと見ます。凹凸のないシンプルな顔立ち。
こんなのが現実の町を歩いていたら、えらい騒ぎです。
なんで助けてしまったんだろう、夜の国までになんとかしないと、と内心考える正でした。
「次はね、『海の国』だよ、正雄くん!」
ジャックが現れ、パスポートのイカリを手渡します。それを受け取って、正はジャックに問いました。
「次は誰の本のパクリだ?」
夜の王は相当の童話マニアのようだ。だが趣味が悪すぎる。
厳しい評価を下す正にジャックは、さすが正雄くん、とうつむきます。
「でも安心して、『海の国』は絶対気に入るよ! ボク……自信があるんだ……」
夜の王様も喜んでるんだよ、海の国を楽しんでもらえるんだから!
ジャックは不敵に笑い、「すぐに会いに行くと伝えとけ!」と国境を越える正を、嬉しそうに見送りました。
ゼリーのような海面に足を踏み入れると、イカリの重さで正たちはたちまち海底に沈みます。
慌てて海面に出ようとする正に、メリーアンが言いました。
「水の中でも息ができますわ、チンピラ様」
息ができて話せるんなら水の中の意味がない。だから安易だっていうんだ。
ぶつぶつ愚痴りながらも、正たちは海底散策をはじめました。
けれど、カニやクラゲやヒラメ……巨大な海棲生物が泳いでいるだけで、住人がいません。
アンコウのチョウチンをつつきながら、全員喰われたか?と呟くと、
「失礼ね! ひとりしか食べてないわよ!」
アンコウが口を開けると、丸くなって眠る住人の姿。
どうやら皆、イソギンチャクや真珠貝やタコツボの中に寝ているようです。
けれどみんな夢の中。パスポートの入手法を聞こうとしても、答えてくれません。
「知らない! いい気持ちで寝てるんだから話しかけないで……」
「『海のおかあさん』に聞けば? ねむいの! 話しかけないで……」
これが自信作か? と憤慨する正ですが、はたと気づきました。海のおかあさん……だとぉ?
住人に聞き込みを続けます。
「『海のおかあさん』ならすぐそばにいるわ……あたしのことはほっといて!」
「『海のおかあさん』はどこにでもいるよ。ここはぼくの場所だからよそ行ってよ……」
どういう意味でしょう。メリーアンは首をかしげる傍ら、正の表情はますます険しくなります。
「まさか……まさか夜の王の野郎……」
折り返し地点。レンガの道を直角に曲がったところに、海底から海藻が伸びていました。
「ここならまだ空いているよ……」「君たちもおいでよ……」
「とってもあったかいよ……」「『海のおかあさん』の音が聞こえるよ……」
正は、突然顔をゆがめて、声を荒げました。
「チクショウ!! チクショウ!! 夜の王っ!!」
メリーアンも手がつけられないほど、正は拳で海底を叩いて暴れます。
やがて、落ち着いた正はベルトにつけていたイカリを外しました。
重みがなくなり、正の体は海面へと浮いていきます。
「チンピラ様?」
「そこで待ってろ!」
海藻の伸びる方向へ、正はゆっくりと浮き上がっていきます。
やがて、波間からの光がだんだんと強まり、明るくなっていくにしたがって、
トクン……トクン……とかすかな音が聞こえはじめました。
正は、その音の方向へ、海面へと向かって、進んでいきました。
海面に顔を出し、ゴホゴホと空気にむせます。
すると、正の後ろから、呼び声が聞こえました。
「おかえり、正雄……」
そこには、水が寄り集まって巨大な女性の形を作っています。
包み込むように手を広げ、優しい表情をしたその女性は……正の、おかあさんの顔でした。
「てめえはただの作り物だ!」
ええ、と海のおかあさんは頷きました。彼女は童話『海のおかあさん』から作られたのです。
「正雄……あなたが書いた童話ですよ。私を生み出してくれて、ありがとう……」
正は海面を力一杯叩いて絶叫します。
「こんなことでっ、こんなことで俺が喜ぶとでも思ってやがるのか……」
「現実の私は決して良い母親ではなかったわ」
うるせえっ、と正がさえぎるのも構わず、おかあさんは話を続けます。
「でもね、これだけは信じてほしいの……一度も口に出して言えなかったけど」
「黙れっ!! てめえは作り物だっ!!」
チャッと銃を向ける正に、おかあさんは優しく微笑みます。
そして、すっと目を閉じて、胸に手を当てて――
「あなたのこと……心から愛していたのよ……」
構える銃が、震えます。力が失われ、正は自分の体を抱きかかえました。
「知ってるよ……チクショウ……」
小さく小さく、胎児のように丸くなる正の体を、おかあさんの水が包み込みます。
おかあさんは正を守るように、そのお腹に正を抱きました。
トクン、トクン……正の耳に、かつて聞いたことのある心地よい響きが聞こえます。
おかえりなさい……正雄……。
海底では、メリーアンが正の帰りを待っていました。
そこに追いかけてきたのは、「ハア〜イ! ルーシーよv」
今度は人魚のコスプレです。でも正がいないのを知り、がっかり。
「もう『おかあさん』みつけちゃったの? 今回展開早いわね〜!」
ぴたぴたと、尾びれでメリーアンの頭を叩きます。メリーアンは、すごくイヤそうです。
ルーシーは続けて言いました。
「じゃあ、せっかくのこの格好も意味ないじゃん! だって今頃はもう……」
メリーアンは、目を見開きました。
そして。
海面に顔を出したメリーアンは、目撃したのです。
おかあさんにくるまって、4頭身に縮んで眠りについている正の姿を。
「チンピラ様!!」
正、昔自分で童話書いたりしてたのか。
やっぱりおかあさんとの関係はあんまり善くなかったんだろうな。
メリーアンは他の国を知らないのにルーシーは知ってるんだな。
何者なんだルーシー。
だいらんどで安寧に包まって安らかになるのが幸せな事なのか、不幸な事なのか、これ読んでると分からなくなってくるな。
(最初、良い事なのか悪い事なのか〜と書こうとしたが、善悪等で判断出来ない事に気付いてしまった)
ところでずっと気になってたんだが、ジャックが正を正雄って言っているは何か意味が隠されているのかな?
「お母さん」も正雄って呼んでるし。
海で眠ってる人たちは、母の子宮の中の赤ん坊の象徴ってわけか。
うーん、今回不覚にもちょっとほろり
なんかすごいな正
大人の国とかの元ネタは何だろう?
>「でもね、これだけは信じてほしいの……一度も口に出して言えなかったけど」
>「あなたのこと……心から愛していたのよ……」
>「知ってるよ……チクショウ……」
悲しすぎる。
現実にはきっと、一度も愛してるって言われなかったのは、本当に愛されてなかったからなんだろう。
その報われなさを埋めるために、正は「海のおかあさん」を書いたんだろうな。
母親に愛してるって言われることは、正の心からの願望だったに違いない。
「知ってるよ」と言いながらも、これがただの願望に過ぎないってことは、重々正は理解してたはずだ。
それでも、たとえ作り物の母親からであっても、一番求めていた言葉をもらえた正は、
だいらんどを受け入れたいという誘惑に耐えきれなかったんだろうな……。
俺は「知ってるよ」は「自分の書いた絵本の母親であるあんたがそう言うってことを知ってたよ」って意味だと捉えたな
それでもあえて騙されることが救いなのかな
深いな、だいらんど
ルーシー、夜の王の側の人間には見えないし、
かといってただの住人とも思えない。
……その正体は夜の女王……とか?
だいらんどは正一人のために造られた訳じゃないよな。
「海のおかあさん」は青い鳥とかとは知名度が違いすぎるけど、
国のひとつに選ばれるほどに多くの人の心をひきつけるストーリーなのか。
だとしたらだいらんどにとって正って結構重要人物じゃないか?
正が来たから国の一つが変わった可能性はないか?
だいらんどに来た人が必ずどこかで留まるように
なっているとか。
ルーシーはだいらんど住民らしくないから
何かまだあるんだろうな。
第11話 あがり
闇の中、一筋のスポットライトに照らされて座り、正は鼻歌を歌っています。
周りには、たくさんの絵本が散らかっています。
もうひとつ、スポットライトが灯りました。
「片づけは終わりましたか?」
歩いてきたおかあさんに、正は、今やってるよと上機嫌に答えます。
気分はサイコー、ここはとっても気持ちがいい所です。あったかくて、フワフワしてて……。
――チンピラ様……
誰かが、自分を呼んだ気がしました。
けれど正は、おかあさんに急かされて、すぐに本の片づけに戻ります。
「チンピラ様!! チンピラ様っ!!」
ざばざばと波を掻き分けて、体を丸めて眠っている正に近づこうとするメリーアン。
「メリーアン……」
呼び声に見上げると、海のおかあさんの顔は、メリーアンにも見覚えがある人になっていました。
「おかあさま!?」
「でもさ〜、この絵本ぜんぜんおもしろくないよ!」
片づけをしながら、絵本に目を通して、正は眉をひそめます。
絵本には、ドスを突きつけられたり、お金をだまし取ったり、組の者の葬式に参列したり……
そんなイヤなことばっかり書かれているんです。正は、どれもだいっきらいです。
「あ、でもこの絵本だけは大好きだよ!」
笑顔で見せた絵本のタイトルはもちろん「海のおかあさん」です。
おかあさんは、どうしてか、悲しそうな顔をしました。
「この者が気になりますか?」
おかあさんに問われ、メリーアンは頬に手を当てました。私……その方の妻になったんですの!
けれど、おかあさんは言います。
「この男のことは忘れなさい、メリーアン!」
絵本を見るのに夢中な正にかわって、おかあさんが散らかった絵本をたばねます。
「そんなに嫌いなら見なければいいのに」と言うおかあさんですが、正は生返事。
だんだん、正にはわかってきたみたいです。この絵本の人がなんでイヤなことばっかりしてるのか。
「この人……自分がだいっきらいなんだ! 変だよね? なんでだろ……」
悲しげに正の言葉に耳を傾けていたおかあさんは、問いには答えず、笑顔を作って立ち上がりました。
「さあ! 全部燃やしてしまいましょう!」
「この者は破滅へと向かっています。一緒にいるとお前まで不幸になってしまうでしょう」
昼の国へ、お父上の所へ戻りなさいと言うおかあさんに、メリーアンはおずおずと申し出ます。
「い……いやです!」
――私は別れたくありません!!
そんな声が、どこからか聞こえた気がしました。
おかあさんは、絵本に夢中な正をまた急かします。でも正は、絵本を読むのを止めようとしません。
だって、正はもうちょっとでわかりそうなんです。なんでこの人が自分をきらいなのか。
新しい本は全部見ましたが、まだわかりません。もっと古い本を、正は探します。
おかあさんは、自分が束ねた本だけでも抱えて、くるりと後ろを向きました。
「先に燃やしてしまいますよ!」
「お前はそんな子ではなかったはずです!! これは命令です!!」
強い口調で忘れなさいと言うおかあさんに、それでもメリーアンは叫びます。
「いやです!!」
正は、目に涙を浮かべました。
わかったんです。一番古い本に載っていました。
そう、この絵本の人が自分をきらいなのは――
「この人のおかあさんが……この人のことをきらいだったからなんだ……」
バサバサと、おかあさんの抱えていた本が地面に落ちます。
おかあさんはいたたまれなくなって、正を抱きかかえました。
スポットライトに照らされて、正は涙を一粒、こぼしました。
「くすん……」
「……。母親よりもこの男を選ぶというのですか!?」
「すみませんお母さま!! お母さまの命令でも……私……チンピラ様のお側にいたいんです……」
メリーアンの言葉を聞きながら、おかあさんの顔は溶けていきます。
――チンピラ様……
メリーアンが呼んでいます。もう行かなきゃいけません。
おかあさんは正を引き留めます。いつまでもいていいんですよ!? 絵本は燃やしちゃえば悲しくなくなるから。
でも、そう説得するおかあさんに、正は言います。
だいきらいな本ばっかりだけど……これがないとぼくがぼくじゃなくなっちゃう……。
「ぼくはもう、これ以上自分をきらいになりたくないんだよ……」
顔を覆って泣くメリーアンに、海のおかあさんが声を掛けました。正のおかあさんの顔です。
「正雄はもうすぐ目覚めます。でもね、この子はとても疲れているの……
悲しいけど、私ではもう、これ以上癒すことはできないわ……」
正雄を助けてあげてくれませんか? と頼まれ、明るい顔でメリーアンは「はいっ」と答えます。
けどすぐに、メリーアンの顔は曇ってしまいます。
自分では何もしてあげられないかもしれない。あの方はいつも一人で悩んでいるばっかりで……。
海のおかあさんは、笑みを浮かべました。
「正雄様? 正雄様?」
メリーアンが呼びかけると、正はゆっくりと、まぶたを開きました。
海のおかあさんは言っていました。
――側にいるだけで十分彼の役に立ってるわ。ありのままの正雄を受け入れてあげてください。
メリーアンが見ているうちに、正は元の姿に戻りました。先に進む準備は、整いました。
海のおかあさんは、水泡に包まれた星形の鍵を正に渡しました。夜の国へのパスポートです。
それをしっかりと握りしめ、正とメリーアンは、海面にできた道を歩いていきます。
「さようなら……正雄……」
見送るおかあさんの元に、ジャックが現れて必死に叫びました。
「どうして行かせちゃったのさ!? このままじゃ……このままじゃ正雄君は……」
おかあさんは、ただ正と、その後についていくメリーアンの後ろ姿を見つめ、涙を流していました。
「私のかわりに……あの子を愛してあげて下さい……
残された……わずかな時間を……」
「『あがり』だ」
国境の向こうには、朽ちかけた門に阻まれ、闇に包まれた広大な庭園が見えます。
ここが、夜の国なのです。
……Congratulation!
クラッカーが弾け、ルーシーが現れました。
今度のコスプレは、ぼんぼんのついた帽子と星柄のローブ……ジャックです。
なんか忙しいので、代理なのだそうです。預かっているメッセージを、ルーシーは読み上げます。
「『夜の王様も正雄君のことお待ちかねだよ! でもね……カンタンには会えないんだ!
最後のナゾはむずかしいよ! はたしてきみは解くことができるかな?』だってさ!」
もちろん、戻るわけにはいきません。
正は、夜の国の門に鍵を差し込みます。門は、ギイイイ、と重い音を立てて開いていきました。
「行くぞっ!!」「はいっ!!」
言いたい事はたくさんある、がまずはこれだ。
最終局面近くね?もしやそろそろ連載終了?
だらだら引っ張って欲しいわけじゃないけどもっと読みたいよ…
なんだよ、この泣かせ展開…
正の母ちゃん、最後は正を守ろうとしてくれてたんか?
この話、何かに似てると思ったら双六だ。
いや人生ゲームか。
いずれにしても夜の王と会ったらあがりかな…
あと3回くらい?
でもまだ分からないことも多いよな
最初の頃と比べてずいぶんシリアスになったなー
メルヘンなのにメルヘンじゃない
どうなるかちっとも読めない
とうとう夜の国か。連載終了近いのかな。
残された残りわずかな時間ってなんだ?
やばい……思わず泣けてきた。
だいらんどに引き留めようとする側も、悪意があるわけじゃないんだな。
純粋に、正たちを危険にさらしたくないから、足止めしてるんだよな……
けど、守るだけじゃなく送り出すこともまた母の愛。
押しつけがましく言葉にしてない分、胸に迫るもんがあるな。
なんか正に死にフラグが立ってるように見える……
ジャック、正を強引に引き留めるために、
なんか危ないことでもやらかすつもりか!?
自分の人生が描かれた絵本…嫌だ
メリーアンの呼び方がチンピラ様から正雄様に変わってるな。
絵柄もまたちょっと人間らしくなってる。鼻もついたし。
作者の絵はもともとデフォルメきついほうだけど、
ほとんどもうリアルな人間と変わらない風貌なんじゃないか? これ。
もうただのお人形じゃなく、精神的にも立派に正を支える存在になったんだろうな。
俺はチンピラ様って呼び方のが好きだったな〜
>残された……わずかな時間を……
ベタベタだが嫌なフラグだ…
どっちだ?
どっちの時間が残りわずかなんだ!?
大人の国で自分を忘れたときは戻れたけど、
もし絵本を燃やしちゃったら、元に戻れるんだろうか……
第12話 オウチホドイイトコロハナイ
夜の国の庭園は、白いお花たちに包まれた所でした。
「おやすみなさ〜い」「おやすみなさ〜い」「おやすみなさ〜い」
お花たちが、誘うように正たちに語りかけます。
「ほら! わかったからとっとと始めよーぜ! 『最後のナゾ』とやらをさ!」
そう言った次の瞬間――空気が変わった。
歩を進めようとすると、靴に何かが当たった。一瞥する。――髑髏が、足下に転がっていた。
いや、足下だけではない。いつの間にか花畑は消え去り、辺りは白骨が累々と広がる荒野だ。
カタ、カタ、カタ。骸たちが動きだし、言葉を紡ぐ。なれの果てだよ……君と同じ旅人の……
ある者は剣を持ち、ある者は棍棒を手に。亡者たちは、じりじりと正たちに歩み寄ってくる。
「おやすみなさい……永遠にね! ケケケケケ……」
バン! 正の発砲が、戦闘の狼煙となった。
立ちはだかる骸骨たち。正は舌打ちして銃弾を放つ。幸い弾数は無制限だ。
近づく敵を片っ端から撃ち砕きながら、メリーアンの手を握り、群れの間を走り抜けていく。
「えらく直接的じゃねえか! おとぎの国はもうおしまいかい?」
強力な武器をもってしても、圧倒的な敵の数には押される。気づくと、無数の骸骨たちに取り囲まれていた。
足を止めた正の背後から、ずぅん…と重い足音が響いた。
「ここに到るまでにおとなしく同化されておれば……余と出会うこともなかったであろうに……」
裂けた口に爬虫類のような肌――この醜悪な怪物が、夜の王!
「ここがキサマの墓場となるのだ! そして骨となりて、永遠に余の元でつかえるがよい!!」
ぎょろりと正をねめつけ、夜の王は高笑いをする。
正は、そのマントに輝く星を撃ち抜いた。夜の王は、苦しみながら言った。
「ぐう……よくぞ余の弱点を見破った!」
はあ? 唖然とする正の前で、夜の王の体はどろりと熔けてゆく。
「だがこれで終わったわけではないぞ……
人間が悪の心を捨て去らぬかぎり、やがて第二第三の『だいらんど』が……」
「ちょっと待て、何の話をしている!?」
夜の王が熔けると、だいらんども崩壊を始めた。やがて、まばゆい光が正とメリーアンを包んだかと思うと――
――彼らは、車と人に溢れた街角に立っていた。
「……冗談だろ!?」
夏の日差しは、背広のサラリーマンには辛い。
しかし、アパートで愛する妻に出迎えられれば、そんな辛さは吹き飛んでしまう。
玄関先でのキスは、もう日課だ。
だいらんどから帰ってからは、正は、メリーアンと幸せな生活を送っていた。
食事のとき、メリーアンが言う。
「そうそう! 昼間出版社から電話がありましたわ!」
メリーアンが差し出したのは、正の書いた絵本『だいらんど』。人気を博し、また増刷になったそうだ。
「続編はまだかって! 童話作家として独立なさったら?」
正は、そうだなぁと思案する。
収入不安定になるが、さいわい貯えはあるし、なにより昔からの夢だったのだ。
夜。布団を並べて、二人で絵本を覗き込む。なつかしい風景だ。
「最初にあったのがお前だったからびっくりしたぞ」
「あら、私は一目で気に入りましたわ、あなたのこと!」
昔のことを今思い返すと、まるで夢をみていたみたい……と呟くメリーアン。そう。
「『だいらんど』は……夢だったのかもしれないな……」
電気を消して、二人は眠りにつく。
飛び起きた。
「ここは……ここはどこだ!? 俺はいったいどこにいるんだ!? 『だいらんど』か!?」
寝汗をかき、目を見開く正を、メリーアンはなだめる。
「もう帰ってきたのよ、私たち! 悪い夢を見たのね……」
夢!? 正はなおも問う。
「夢…… ど っ ち が !?」
絵本を開く。夜の国の直前のシーン。ジャックが言っている。「最後のナゾはむずかしいよ!」
そうだ……俺はまだナゾを解いちゃいない……夜の国にナゾなんかあったか!?
夜の国ならどんなワナを用意する!? 夜……眠り……夢……。
「しっかりして、あなた!」
思い当たった。あの白い花畑。白い花といえば……ケシ。ケシの花畑……「オズの魔法使い」!
「夢の中ならなんだって用意できる。ガイコツも……夜の王も……幸せな生活も……」
「部屋が! 私たちのお部屋が!」
正が真実に気づきはじめたのに伴って、景色が歪んでゆく。
「二人とも『夜の国』の入口で眠らされ、夢を見ているのだとしたら……」
どこからか、ジャックの声が聞こえる。
――だめだよ正雄くん! 君がこういうの嫌いなのはわかっている……でも、これでがまんして!
部屋はもはや原型をとどめていない。どろどろとした渦が巻いているだけだ。
――だって……たとえ本当に元の世界に帰れても……無理なんだよ……こんな……幸せは……
正の心に、一瞬躊躇が生まれる。けれど正はそれを振り切って、叫んだ。
「だが……夢は夢だ!!」
渦は回転を速め、収束していく。最後に、ジャックの声だけが残った。
――ああっ……最後のチャンスだったのに……。
正とメリーアンは、ケシの花に囲まれて、目を覚ましました。
夜の国までたどり着いた人間は、眠らされ、夢を見せられ続けるのです……永遠に。
その人が、一番望んでいる夢を……。
メリーアンは涙をぬぐって、笑います。
「ちょっとの間でしたけど……とっても幸せでした!」
正は、レンガの道の先をまっすぐ見上げます。本当の夜の王様が住む、巨木の城が建っています。
その城へと、正とメリーアンは足を踏み入れました。
「待ってろ……今、本当の現実に連れ戻してやる!!」
すっかり「最後のナゾ」に騙された……
なるほどなー、巧妙なワナだ。面白い。
現実と非現実の区別がつかなくなる恐怖。
フィリップ・K・ディックのSF小説のようだ。
>正は、そのマントに輝く星を撃ち抜いた。夜の王は、苦しみながら言った。
>「ぐう……よくぞ余の弱点を見破った!」
>はあ? 唖然とする正の前で、夜の王の体はどろりと熔けてゆく。
>「だがこれで終わったわけではないぞ……
>人間が悪の心を捨て去らぬかぎり、やがて第二第三の『だいらんど』が……」
流石にここらへんがあざと過ぎて騙されはしなかったが
しかし奥が深いなだいらんど
こんなにあっさり戻れるわけないだろと思ったら
やっぱり騙されかけてたか
偽夜の王ワロス
>人間が悪の心を捨て去らぬかぎり、やがて第二第三の『だいらんど』が……
このセリフって定番だけど、初出は何なんだろう?
メリーアンにとっては、ひょっとしたら夢の世界にいたほうが良かったんじゃないか?
正がこだわる現実って何だろう。
うだつの上がらないヤクザとして細々生きていく現実の方が、長年の夢だった絵本作家として成功する夢よりいいのか?
俺だったら、覚めない夢を見つづける方を選びたくなるよ……。
>>186 俺が知る限り初出と思われるのは、映画「ゴジラ」1作目の
「人類が核実験を続ける限り、第2第3のゴジラが現れるでしょう」
みたいなセリフ。
「オズの魔法使い」ってどんな話なのか、そういえば知らないなー
読もうかな。
>>189 女の子が犬とライオンとカカシとブリキ男と旅する話。
黄色いレンガの道を歩くのも、オズの国の目の前で幻覚作用のあるケシの花で眠らされるのも、
オズの魔法使いから取られてるんだよな。
突然だいらんとに飛ばされた正も、竜巻で飛ばされたドロシーにかぶるし、
基本的に、オズの魔法使いを土台にしてるのかもしれない。
>189
映画もあるぞ
あの映画は面白いから観といて損はない。
最近流行ってきたDVDでなら、6年後くらいには、
500円の格安で売られてそうな予感がするぞ。
>>182 そもそも、だいらんどは現実なのか・・・?
ジャックが「最後のチャンスだったのに」ってことは、本当にもう終盤なんだな。
ここからまた新しい世界に行くこともないだろうし、来月か再来月あたりにはもう最終回?
現実と幻の狭間って感じだ、だいらんど
作った奴はやっぱり夜の王かな
ていうかルーシーが夜の王な気がしてならない
>>195 それだ!!
あと気になるのは、「忙しい」って言って姿を見せないジャック。
実はルーシーに粛正されてるとか。一転グロ展開。
ジャックは夜の王の配下じゃないような気がしてきた
むしろ夜の王がラスボスじゃないだろ
ルーシーがラスボスってのは同意
第13話 コドモの気持ち
カツン、カツン――薄暗く広い大広間に、正たちの足音が響きます。
「『だいらんど』に招いた客人のうち私の元までたどり着く者は……わずかだ。
たいがいは、どこか気に入る国を見つけるものだが……私のもてなしが至らなかったのだろう……」
奥から響く、夜の王様のおごそかな声。
「お詫びとして、そなたには全てをお話ししよう。
『だいらんど』の住人は全員……死ぬ寸前にここへ連れてこられた。
正雄殿……そなたとて例外ではない。心当たりがあろう……」
道の最果てが見えてきました。城を貫く巨木。根本には、台座がこしらえてあります。
「各々の時間は死の直前で止められている。止められているだけだ! 現実世界に戻れば再び動き出す……」
そして、台座に座るのは、10メートルはあろうかという、ローブをまとった老人。
「わかるか? たとえ『だいらんど』の外へ出られたとしても……
そなたはわずか数秒しか生きられぬのだよ!」
その時、柱の陰からルーシーが姿を現しました。手には、一枚のカード。
そう。ルーシーもかつて自力でここまでたどり着いた、数少ない旅人のひとりでした。
その時褒美として手にしたのが、「だいらんど」内を自由に移動できる、このフリーパスポート。
「だいらんど」は変化に乏しい世界。ほおっておけばすぐに停滞してしまいます。
フリーパスポートを持った旅人は、自由に各国をまわって変化をもたらすトリックスターとなるのです。
「どうだ? 悪い話ではなかろう?」
けれど、正は手にしたパスポートを握りつぶしました。
あいにくだが……こんな物が欲しくてここまで来たわけじゃねえ!!
今までさんざん騙されてきたんだ。信じず、俺は現実に帰ると主張する正に夜の王は、
「だめだよ正雄君! いや正雄殿! ここに至って嘘などつかぬ!」
なんだとぉ〜!? 夜の王様の動揺を、正は見逃しませんでした。
黄色いレンガの道の終着点。……これも「オズの魔法使い」か!!
「今までの嘘は謝罪する! だがそれもそなたを思ってのことなのだ!」
オズの魔法使いの正体は……! 道の脇の垂れ幕に近づき、めくります。
「信じてほしい! 正……」マイクに向かっていた人物が、振り向きました。「……お……どの……」
――ジャック。
「てめえが黒幕か!? 今度という今度は許さねえぞ!?」
正がジャックに掴みかかると……ジャックの体から、かくんと力が抜けました。
ただの人形に、戻ってしまったようです。
と同時に、ゴゴン……と低い音が響き渡りました。
振り返ると、道のちょうど真ん中が一直線に割れ、向こう側の地面が盛り上がっていきます。
いや、道だけではありません。巨木も夜の王の体も2分割され、中身の石くれが覗いていますし、
それどころかずっと遠くまで……夜の国の敷地全体を半分に分けるように地面が割れ、
その片方の面が、扉のようにゆっくりと持ち上がっているのです。
つまり、立方体であるだいらんどをひとつの箱と捉えれば――
「箱が……開きやがった!」
正は、ルーシーに問いました。「この世界に連れてこられる直前のこと、覚えてるか?」
ルーシーは、微笑を崩さずに答えました。「話せないわ」
続いて、メリーアン。別に話してもいいようです。
「お誕生日のパレードでお父様と馬車に乗ってて……あ、そういえば何か大きな音がしたような」
時間が止められてる……か。
そう、なくならない銃弾も、いくら吸っても消えないタバコも、考えてみればその証拠です。
だいらんどの地面の裏側を、3人は覗き込みました。
「さて……中身を確かめてみるか!」
中には重力がありません。ふわふわ空中を漂いながら、一行は辺りを見渡しました。
地面を透かして、各国の様子が丸見えです。箱の中から何もかも覗いてたのですね。
「とうとうここまで来ちゃったんだね、正雄君……」
声が響きました。
振り向くと――箱の底にバネで取り付けられた、巨大なピエロの人形。
「ここが『だいらんど』のいちばん奥……ほかにもう行くとこはないよ……」
そうか、と正は合点しました。
だいらんどは……巨大なびっくり箱(Jack in the box)だったのです!
そうだよ、とジャックは言います。
けれど、ジャックは永遠に外に出られないんです。出たら「だいらんど」が終わってしまうから。
ジャックは正にお願いします。
「さっき夜の王様がいったことは全部本当なんだ。だから帰るなんていわないで……」
目的は、と正に問われて、だいらんどに人を集めていた目的を、ジャックは語りました。
「ボクは神様じゃないから、現実世界をいじることは許されてないんだ。
だから『だいらんど』を作ったんだ。そしてみんなを連れてきた……
喜んでくれると思ったんだ! 楽しく暮らしてくれると……」
「記憶を奪われ……この世界に取り込まれてな!」
「しかたがなかったんだよ! ボクだってほんとはこんなことしたくないんだ!
でも……連れてきた人たちは、みんなひどく疲れてるんだよ。
いくらゆっくり休める国を作ってあげても……はじめは楽しんでくれてても……だめなんだ!
ひとつひとつ国をたどって……深い方へ深い方へ……そしてここまで来て言うんだ。
現実へ……帰りたいと……。だから……」
「帰りたい奴は帰せばいいじゃねえか! なぜ無理に引き止めようとする?」
銃口を向けながら正が尋ねると、ジャックは叫びます。
なぜかって? 決まってるでしょ!?
「助けてあげたいからだよ!! 君たちを!!
君たち残酷な死に方をする人たちを!! かわいそうな人たちを!!」
正は銃を収めて、ジャックに背を向けました。
「俺たちは……ガキの遊びに付き合わされてたってわけか!」
箱の外へと向かう、3人。
その背中に行かないでとすがるジャックの声は、だんだんと、涙声になってきました。
「どうして……どうしてみんな行っちゃうの?
そんなに『だいらんど』がきらい? ボクのことがきらい? わからないよ……ボク……」
正は、ジャックをちらっと見て、答えます。
「おまえはよくやっている! 実をいやあ俺もけっこう楽しませてもらったよ! ただな……」
ふたたび前を見て……正は、箱の外へと踏み出しました。
「遊んでばかりいると……大人は不安になっちまうのさ!」
あああ……。
ジャックのうめき声を最後に、ゴゴン、と箱が閉じました。
なんか、切ないな…
ジャックも決して悪気があった訳じゃない。間違いなく善意だ。
ただ、大人はもう子供には戻れないんだよな…
ジャックって名前からして伏線だったってわけか。
正が感じていた視線も、ルーシーのなんでもありっぷりも、
弾数無制限の銃も何もかも、完璧に辻褄が合う。
すごい完成度の伏線の張り方だな……
ジャック、悲しむことはないぞ。
おまえの作った各国の住人となって、楽しんでる人も
いっぱいいたじゃないか。
たとえ最後には出ていったとしても、死ぬ前の最後の数秒に
楽しい思いができたなら、おまえのしたことは無駄じゃない。
たしかにムダじゃないよな。
だけどなんかちょっとさ…おこがましい。と思ってしまった。
偽善というか、自己満足というか。
ジョゼなんかは間違いなく救われてるんだけどな。
6つの国、立方体の世界、さいころ、そして実は箱か…
謎の明かし方が上手いな、この作者
一枚ずつ覆っていた布をはざしていく感じ
ジャック自身も殺された人なんだろうか?
確かにおこがましい行為だが分からなくはないな
Dice?
Die=さいころってのは、箱に繋げるためのミスリードで、
Die=死なのが本当の意味だったのかな。
>「遊んでばかりいると……大人は不安になっちまうのさ!」
正カコイイな
正はこのまま本当に死んでしまうのか
別に生き返る展開なんて望んでないけど
何か辛いというか寂しいというか
武士道みたいだな。
死ぬことと見つけたり。
数秒しか生きられなくても、正には現実であることこそ価値があるんだな。
そりゃそうだよな、夢の生活も退けたんだから。
でも理屈はわかるんだけど……自分がその道を選べるかっていわれたら、
確実にフリーパスポートの方を選びそうだ。
正ってすげえよ。
潔いよな、チンピラ様
自分もフリーパスポート選ぶだろうな
この先、どういう展開に持っていくか楽しみだよ
この作者には毎回驚かされっぱなしだから
期待してる
メリーアン、ホントにお姫様だったのか。
そういう設定なだけだと思ってた。
もうすぐ続きが読めるな
正直、こんなにはまると思ってなかったよ
何となく引力感じて読んでみたけれど
作者もこの雑誌もまったく知らなかったし
早くコミックスにならないかな
最初からもう一度じっくり読んでみたい
立ち読みじゃなくちゃんと買えば良かった
第14話 オトナの選択
操り人形の体に戻ったジャックは、現実への出口へと3人を案内しました。
「本当に帰っちゃうの?」「ああ」
正は言います。未来のことなんか誰にもわかんねえ。自分で確かめてみなくちゃな。
ドアノブに手を掛ける正に、ジャックは声を掛けました。
「わかってる? 正雄君……その扉をくぐった人は、それぞれ“自分の時間”に戻っていくんだよ?」
そう。正とメリーアンとルーシー。3人がいっしょに出て行ったとしても、
帰るところはそれぞれ別の場所と時間になってしまうのです。
「あたしパス! チンピラさんといっしょにいられないんじゃついていっても意味ないしね」
冷静に判断するルーシーとは対照的に、メリーアンはひどく動揺しています。
「わたし……正雄さまといっしょにいることしか考えてなかった! ああ……どうしよう……」
正は顔をひきしめて、銃を握りました。
「……お前は、ここで待ってろ!」
まず俺が出て行く。もし生きのびることができたら、次はお前が自分で決めるんだ。
メリーアンは涙を浮かべて叫びました。
「約束してくれたじゃないですか! いっしょに行きます! たとえ同じ時間に出られなくっても……」
メリーアンの言葉は、それ以上続きませんでした。かわりに、ぽんっ、という音。
正が見ると、そこには4頭身のデフォルメに縮んだメリーアンの姿。
ジャックが、正と出会ってからの記憶を取り上げたのです。
「安心して……本人が忘れたいと望まないかぎりすぐ思い出しちゃうから。
それに……この方がいいでしょ? これから起こることを見られちゃうよりは……」
正は、ジャックの言葉に、反論することができませんでした。
ただドアノブを回し、ルーシーに最後の言葉を残します。
「もし俺が生きのびる事ができたら……あいつが無事帰れるように見てやってくれ!」
「なによう! あたしには気を遣ってくれないの?」
ドアを開きます。その向こうには、雨の路地裏が見えました。
「いいかい? ボクが助けられるのは一人一回だけなんだ! だから、もう二度と……」
「あたしイヤよ! この娘の面倒なんか……」
口々に言うジャックとルーシーには答えず、正は、ちらりと3人を見て……
ドアから、飛び出しました。
「じゃあなっ!」
ズン!!
衝撃の次の瞬間には、体中を濡らす雨と、路地裏の埃っぽい匂いが正を包みます。
「やったぜ! 帰ってきた……」
思わず叫んだ正の目に飛び込んできたのは、自分を取り囲む男たち。
――そして、彼らの握る、無数の銃とナイフ。
「死ね!!」
いくつもの銃撃音が夜の街をつんざき、正は目をぎゅっと閉じました。
……?
銃砲が止んだというのに、正の体には痛みもありません。
おそるおそる目を開くと、目の前には――
カラカラカラと首を回転させながら銃弾を弾く、4頭身メリーアンの姿!
首だけ180度回してこちらに固定し、メリーアンは笑顔で言います。
「おいてっちゃイヤですわ、チンピラさま!」
ヤクザたちは悲鳴を上げながら、突如現れた珍妙な女に発砲していきます。
「うお〜〜〜っ!!」
正は雄叫びを上げ、前に出てヤクザたちに銃を撃ちました。バン、バン、バン!
蜘蛛の子を散らすように、ヤクザたちは逃げていきます。
シリンダーが空になり、引き金を引いてもカチッ、カチッとハンマーの音だけが鳴り――
気づくと、ヤクザたちは皆、居なくなっていました。
「は……はは……見ろ!! 生きてるぜジャック!! ざまあみやがれ!!」
俺たちは勝ったんだ、メリーアン! 振り向いて、自分を助けてくれたメリーアンを見ると――
リアルな外見を取り戻した彼女の姿が、静かにかき消えるところでした。
「Masao sama......」
伸ばした手は、正に触れることはなく。
ただ、その指にあったリングと、持っていたヒマワリのバスケットだけが、地面に落ちたのでした。
「ジャック……」
辺りは、ただ強く打つ雨の音だけに包まれます。
物言わぬヒマワリの鉢は、地面に落ちてひび割れています。
正は茫然と立ち、夜の空に、叫びました。
「ジャーーーーーーック!!」
夕日が沈みます。カラスの声が聞こえます。
アパートの本棚には、ルネサンスや中世ヨーロッパ、女王の世界史といった本が並んでいます。
パソコンの画面に向かいながら、正は愚痴りました。
わかっている事は名前と、22歳の誕生日に死んだこと。チクショー、手がかりが少なすぎるよな!
ファミリーネームもわからない現状では、ほとんど手詰まりです。
こんだけ探しても見つかんねえってことは、ヨーロッパじゃねえのかなあ……。
すっかりしおれたお花に、正は水をやりながら話しかけました。
「いったいどこの国のお姫様だったんだい、おめえのご主人様はよお」
まあ、わかったところで墓参りくらいしかできねえ。それも墓が残ってりゃの話だ……。
力なく笑い、ほとんど枯れ落ちてしまった花びらを見つめます。
「おめえももう……おしめえだなあ」
一年草のヒマワリにしては長生きした方だが、だいらんどにいりゃあ永遠に生きられただろう。
ヒマワリに背を向け、すまねえな、と詫びたその時……声がしました。
「安心して、チンピラさん!」
振り返ると、お花は昔の、だいらんどの姿を取り戻していました。
「また、みんなの声が聞こえる……ぼく……『だいらんど』に帰れるんだって!」
世話してくれたお礼をしているうちに、お花は光に包まれていきます。
ふわりと宙に浮かび、だいらんどへと戻る寸前、お花は言いました。
「あっ、まって! あのね、ルーシーが伝えたいことがあるって!
『過去ばっかり振り返ってないで、そろそろ未来に目を向けなさい』だって!」
これで約束は果たした。そうルーシーが言っていたと言葉を残し、お花は消えました。
「未来……!?」
正は、何かに気づいたようです。
ばん! 今まで見ていなかった本を机に置きます。
表紙に書かれたタイトルは――「現代の王室 今を生きるプリンセスたち」。
その1ページに、どこかで見た面影の少女の写真がありました。
プリンセス・メリーアン、14歳。
……14歳!
「まだ……死んじゃいねえ!!」
ここは、とある王国。今日は王女の誕生日で、パレードが開かれています。
国じゅうの皆が、王女を一目見ようと詰めかけます。
王女は、馬車から笑顔で手を振ります。
けれど……その民衆の中に、王女を思い詰めた顔で睨む男がいました。
ジャケットに手を入れ、男が取り出したのは――手榴弾。
男は人混みから飛び出しました。目を見開く王女を見据え、手榴弾を振りかざします!
が、その手は、一人の護衛に掴まれました。
見事な手際で、護衛は男を殴り倒します!
乱闘を恐ろしげに眺める王女を、ズン!!という衝撃が襲いました。
捕らえられた男が、連行されていきます。それを見送る護衛の背中に――王女の記憶が、重なりました。
護衛がゆっくりと、王女にその顔を向けました。
王女の顔に、喜びの色が浮かびます。
頬を、涙が伝いました。
――― 正雄さま……。
だいらんど ・ 完
ああーーーー、こう来たか、こう来ましたか!!
お見事、脱帽。
ものすごく清々しく騙された気分だ。
単行本、出たら買いにいかなきゃ。
うわあああああちょっと!鳥肌立ったよ!!
感動しちゃったじゃないかよチクショー!!ハッピーエンドかよ!
よかったな正、メリーアン。よくやったよ正!
うおおおおぉぉぉぉ!感動したーーーー!!
単行本出たら絶対買うよーーーー!!
ヒマワリ・・・良かったな、ルーシーは相変わらずだし。
それにしてもいいラストだな感動した。
でもちょっと待ってくれ
正は36歳…
メリーアンは14歳…
それって犯罪…
メリーアンが22歳になったら正は44歳か、微妙だ
俺はむしろ、バッドエンドを期待していたのだが
これはこれでいいオチだな。
ヤベ 普通に泣いた(T_T)
時間が止まった世界=時間の概念が無い世界って事は、
正が最後に死んだとは限らないって事なのか。やられた。
予想もしてなかったラストだったが、素直に感嘆したよ。
ていうか最初は素直に泣いたんだが
>>222を読んで別の気持ちが沸いてきた
くそう
くそう
じ ゅ う よ ん さ い の お ひ め さ ま だ と ぉ !?
くやし・・・いや
うらやまし・・・いや
け け し か ら ん!! け し く り か ら ん っ!!!
続編はいらんが先が気になるな。
身分違いだし。
見事としか言いようがないな
最後まで思うツボにはまりっぱなしだった
サブタイがまた何とも言えん
14才のお姫さまウラヤマシス
。・゚・(ノД`)・゚・。 いい終わり方だった
正が図書館とかで仕入れてきた本で、ちょっと古いやつだと信じるよ……7年位前の本なんだようん
感動した
その一言意外に本当に感想が思い浮かばないくらい純粋に感動した
>>222>>226>>228 14歳じゃなかろう。
メリーアンがダイランドの記憶を持ってたってことは、ラストの
テロ未遂で本来死ぬはずのところをその数秒前にダイランドに
行ってたわけで、それは22歳の誕生日のことのはずだろ?
正がメリーアンの国に渡り、現地の言葉を覚え、王女の護衛に
なるまでに8年かかったんだろう。
普通、自国の王族の護衛に素性のわからない元チンピラの
外国人は雇わないだろうから、たった8年でそこまで信用された
だけでも、そうとうな努力と幸運があったと思われる。
すっごい感動。・゚・(ノд`)・゚・。
やっぱりハッピーエンドって嬉しいな。
それもご都合主義とかじゃなくて、きちんと納得できるからこそ素直に祝福したい。
2人とも幸せに、心安らげる日々を過ごしてくれたらいいな。
最後ギリギリまでバッドエンドっぽい雰囲気で進んで、
お花の一言ですべてが明るくなっていくのがすげー。
いいラストだ。本当にいいラストだ……。
オレは
>>210だが、
>未来のことなんか誰にもわかんねえ。自分で確かめてみなくちゃな。
ここにさりげなく震えた。
正はべつに、「死ぬために」現実に戻ろうってつもりじゃなかったんだな。
他人の判断で死を決められてしまうよりは、
現実を見つめながらも、自分で戦って結果を手に入れたいって考えだったと。
そういう態度って、「オトナ」とも違う感じもするけど、確かに「コドモ」でもないな。
それこそが、たった8年間でどっかの国の王族の護衛になるだけの力の源になったんだろうなー。
「14才」に反応してるヤシ多すぎw
気持ちのいい最終回だったな
メルヘンなこの作品にバッドエンドは似合わないとは
思ってもバッドエンドしか思いつかなかったよ
ほんと面白かった
正ほんとかっこよかったよ
メリーアンが消えたところでどうなるかと思ったけど
心が暖かくなるラストだった
泣けた。感動した。素晴らしいよ!
面白い作品をありがとう!
メリーアンと正が同じ時間軸に生きていたとは限らない
なんてちっとも考えなかったからがっくりしてたから
あのラストで本当に良かった。
現代のおとぎ話だな。
かかし男で夜の王でビックリ箱だったジャックは
結局何だったのかな?
時系列で並べると
「十四歳→二十二歳(前)→だいらんど(記憶喪失)→二十二歳(後)」ってことか。
チンピラ様の記憶は無いが護衛の記憶はあるのが「十四歳」から「二十二歳(前)」時。
チンピラ様の記憶は有るが護衛の記憶が無いのが「だいらんど(記憶喪失)」時。
で、最後に「二十二歳(後)」に戻った瞬間だいらんどで失った記憶を完全に取り戻して
「チンピラ様=護衛」と認識が繋がったのかな?
だいらんどで記憶取り戻しかかってた時に護衛のこと思い出さなかったのは、
完全に記憶が戻ってないからか、単にパラドックスなのかがちょっと気になるが、なんにしても上手いな〜。
その後も色々想像できてニヤニヤしちまうし。
……ところでお父様の王様なんだが、実はまだだいらんどに居たりしてな。
一緒に死の直前を味わったとは限らんし。一緒にだいらんどに行ったとは限らんし。
あの王様がメリーアンのお父様だとも限らんのだがなんとなくそう思った。
せっかく助かったのに精神が帰ってこないんじゃ生きるしかb(ry
>>239 神ではないと言ってるけど、それに近い存在だよな。
ドラゴンボールにおける神龍みたいに、人間の願いを
叶えるために神に創られたものなのかも。
242 :
239:2005/10/25(火) 20:32:37 ID:???
童話に題材を借りてる以上、何かのメタファだとも思うんだが
だいらんどってジャック一人が創りあげた世界なのかな。人々を救うために。
何気にジャックは孤独と戦ってると思う。
お姫様と護衛じゃ簡単には結ばれないだろうなあ。
まさか命を助けたから褒美に娘をやる!とはならないだろうし。
完結してもまだまだ考察する余地がある。スルメみたいな漫画だ、だいらんど。
>>231 だからメリーアン22歳で正44歳って言ってんだろお前こそちゃんと読めや
ハッピーエンドだったんだな!!!
泣いた!
231
>>244 >>222は、「犯罪」と断定し、22歳に関しては「なったら」という仮定法の話。
「ちゃんと読」めば読むほど、14歳の方が主張のメインで、22歳はついでの
話という文章としか思えんが。
つまり14才に萌えてんじゃねーよきんもーっ☆
ということか
醜い争いだ
あとがきまでおとなしくしてろ
ハッピーエンドになったけどやっぱり変な漫画だなぁ
メルヘンだった。
あとがき(単行本より)
ども、がぁさんです!
「だいらんど-DIELAND-」をお買い上げ頂き、ありがとう
ございます! 本書は作者の9冊目の単行本です。一般向けとして
は5冊目となります。
「だいらんど」全14話は、少年画報社刊YOUNGKING OURSに掲載され
ました。
意外と認識されていないことかもしれませんが、作家は普通、“本当に
やりたいネタ”をやれる機会にはなかなか巡り会えないものです。
主人公は冴えない中年ヤクザ、かわいい女の子が一人も出て来ない、そんな
趣味丸出しの本作の企画も、お蔵入りになって当然のものでした。(いや、
作者はメリーアンもルーシーも十分かわいいと思うのですが。)
しかしOURSの編集部は、果敢にもそんな企画にGOサインを出してくださっ
たのです。なんと寛大なことか!
おかげさまで「だいらんど」は、当初の予定通りの物語を語り終える
ことが出来ました。作者としてはとても幸せなことです。OURSという雑誌に
とってこの連載が少しでもプラスになっていればよいのですが。
おとぎの国「だいらんど」は、「オズの魔法使い」や「青い鳥」「不思議の国の
アリス」など、作者が子供の頃読み耽った童話たちがベースになって
出来ています。この手の“異世界に迷い込んでしまう”タイプのお話しでは、
たいてい主人公が純真な子供たちであるため、迷い込んだおとぎの国を
抵抗無く受け入れてしまいます。
これが汚れきった大人だったらどうなるのだろう、きっと抵抗しまくるに
違いない、というのが本作の発想のきっかけでした。歪んでますね。
また、このタイプのお話しでは“大人は子供の心を忘れてしまっているからダメなんだ”
というテーマに帰結するのが普通かもしれません。この点でも、マサには大人の
代表として、最後まで意地を張り通してもらいました。ああ歪んでる。(笑)
作者が子供の頃大好きで、今でも大切に持っている童話の本があります。
「トンカチと花将軍」(共著、福音館書店)や「ぽっぺん先生の日曜日」(筑摩書
房)など、舟崎克彦さんの作品です。そのシュールでリアルでファンタス
ティックな世界に魅了された私は、現在に至るまで何度も何度も読み返
したものです。(角川文庫から、大人向けに出版されたこともあります。)
もしかしたら私は、「だいらんど」であの感動を再現したかったのかもしれ
ません。残念ながら、「ぽっぺん先生」には遠く及んでいないかもしれません
が、「だいらんど」を読んでなにかしらのイメージを受け取ってもらえたなら、
作者としてこんなに幸せなことはありません。
本作を描くチャンスを与えて下さったOURS編集部の皆様、一冊の本として
まとめさせて下さった大都社の皆様、ありがとうございます。
お手伝いのエーワン様、谷村様、那瀬様、藤倉様(あいうえお順)、どうも
ご苦労様でした。特に、CGの監修をしていただいた那瀬様には、感謝
しております。
そして、この本を手に取って下さった読者の皆様、ありがとうございます。
今後も様々なジャンルの作品を手がけていきたいと思いますのでよろしく
お付き合い下さいませ。では!
1999年8月
が ぁ さ ん
なんかがぁさん(がぁさんさんと言うべきか?)の人柄が垣間見えるなあ。
予定通り物語を終えたって事は打ち切りじゃなかったんだな。
短かったからちょっと不安だったけど安心した。
あー、ぽっぺん先生が好きなのか。なんか納得。
だいらんど読みながら、「ぽっぺん先生と帰らずの沼」を思い出したんだよな。
ウスバカゲロウを追いかけているうちに自分がウスバカゲロウになっちゃって、
その後、フナに食われたらそのフナに転生し、さらにカワセミに食われて転生し……
って感じに、ほのぼのと痛烈に食物連鎖を書いた童話。
>ぽっぺん先生
20年以上前にアニメで見たなあ。すっかり忘れてた。懐かしい
ぽっぺん先生か、懐かしいなあ
まだ本棚にあるよ
異世界に飛び込むパターンならナルニアも
入れて欲しかったと言ってみる
>>253 好感の持てる文章だよな
作品が面白くても作者がDQNぷりを晒してて
一気に萎えた経験が多々あるが、
がぁさんはいい感じだ
「本当に書きたい」かぁ…いいなぁ 作者も満足の話で感動したってのはとても嬉しい
ぽっぺん先生、聞いた事あるけど読んだことないな
子供のうちじゃないと読みにくいかもしれないけど、こんど探してみよう
確かに、今時、マンガ家自身が描きたいものを描きたいように
描かせてくれる編集部ってあんまりないらしいからな。
メジャーな少年誌とかの連載は、たいてい編集がああしろこう
しろとうるさく口だしすると聞く。もちろん、そうしないと読者の
ニーズと乖離した、一人よがりな作品を書くマンガ家もいるから
なんだろうけど……
があさんに自由に描かせたアワーズ編集部はGJだな。
9冊も単行本出してたんだな。
なんか意外なような、納得なような。
太っ腹な編集もGJだが、ただのオナヌー漫画にならなかったのは作者の力量が
あってこそだろうな。
旧作にも手を出してみたいんだが、どれがおすすめ?
旧作もだいらんどみたいなジャンルの話?
「Look at Me!!」が激おすすめ。
平成まいっちんぐマチコ先生、と見せかけて・・・
266 :
20:2005/10/28(金) 22:51:32 ID:???
同志がいて嬉しいぜー。
エロコメと見せかけといて、いい意味で青臭い青春物語だよな。
そういえばあの主人公も、不良の皮を被ったいじっぱりの善人だ。
おまけ(単行本書き下ろし)
ごはんだごはん♪ ごはんだごはん♪
ひまわり城はちょうど、お昼のごはんの時間です!
歌うお城の住人たち。そして、お昼の王様。
そんな王様の襟首を、ひょいと猫づかみ。
「お帰りのお時間よ!」
「あんたも助かっちゃったんだからさ! ここにいちゃマズいでしょ?」
王様のマントを持ってずるずると引きずり、ひまわり城を出て行きます。
王冠は、呼び止める兵士の頭にぽんと乗せました。
「次の王様、あんたね!」
ごはんだごはん♪ ごはんだごはん♪
ひまわり城は何も変わらず、こうしてずっとお昼を楽しんでいくのでした。
「ホラ! 近道出してよ! 夜の国まで旅させる気!?」
地面が波打ち、体を飲み込んでいきました。
箱の中を泳ぎながら、頬を膨らませます。
なんで私がこんなことしなきゃなんないのよ! コスプレしたって誰も振りむいちゃくれないし!
箱の底では、巨大な影ががうずくまっています。それに、声をかけます。
「あんたもいつまでも落ち込んでんじゃないわよ!」
結果的に2人の人間が助かったんだからさ! いいじゃない、しかられたことぐらい。
ほんとにもう、どいつもこいつも!
出口まで来ても、文句は収まりません。王様の胸ぐらを掴んで、言いました。
「……あの2人の面倒、ちゃんと見るのよ!? あんたが結婚決めたんだからね!?」
出口の向こう、パレードの馬車へと王様を放り投げ、ドアを閉めます。
ぱんぱんと手をはたきます。まったく! なんで私があいつらのフォローなんか……。
そしてルーシーは、遠い目をしてドアの上に座り、夜の国の明けない空に呟くのでした。
「あ〜あ、どこにいるのよ、私の王子様!」
な! そ、そう来たか!!
藤本弘先生に通じるものがあるな
うお!ルーシー!
王様も助かって正とメリーアンはケコーンか
最後までハッピーじゃないか
こっちまでほのぼの
しかし、現代の王国で国王1人の意志で、王族の結婚決定できるのかどうか。
英国のエドワード8世(現エリザベス2世女王の伯父)は、離婚歴のあるアメリカ人
女性ウォリス・シンプソンとの結婚を望んだが、国民に大反対され、やむなく弟に
譲位しなきゃならなかった。
ちょww最後まですっきりできるEDだったな。ルーシーへの不安もきれいさっぱりなくなってしまった
女性に王位継承権のない国かな?
ヨーロッパにそんなとこあるのか知らないが
ルーシーは孤独だな。
フリーパスポートを手にしたのは、ルーシーの他にはいなかったんだろうか。
誰にも胸の内を話すこともできず、永遠にトリックスターであり続けるしかない運命。
ジャックも孤独だ。
救ってるたくさんの人々は、ありがとうの一言も言えないくらいに全てを忘れており見返りもなく、
わずかに残る忘れない人は皆、自分の行動を全否定していく。
>273
…なんか泣けてきたよ(´Д⊂
>264-266
遅くなったがトンクス
まいっちんぐマチコ先生ハァハァ
276 :
マロン名無しさん:2005/10/30(日) 07:24:55 ID:tbUqpv83
264だけどマチコ、じゃなくて桜井先生もいいんだけど
委員長の清水が激萌えなのよね
当時はそんな言葉なかったけど
かなりクオリティの高いツンデレ
277 :
240:2005/10/30(日) 07:31:54 ID:???
まさかドンピシャで当たってるとは思わなかった
反省はしていない
ところでルーシーの死因って何だったんだろうな
任務中の事故死
Look at meも絶版か…
てかぐぐったら過去の作者スレが出てきた
エロスな漫画もかいてるんだな
だいらんどとのギャップ激しすぎ
エロスな漫画つっても、ぜんぜんエロくないのが特徴なんだけどな。
ベルリンの壁崩壊をテーマにしてみたり、極度の上がり性で興奮すると気絶するからなかなか最後までいけなかったり。
282 :
マロン名無しさん:2005/11/04(金) 19:48:53 ID:7DWO7Zzb
あああああああ
だいらんどはなんとか買ったけど
「Look at Me!!」が売ってねええええええええ
>1さん、ここで連載してみない?
ルックアトミーイーブックオフにあったぞ!急げ!
だいらんど購入ウラヤマシス
717 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/30(日) 23:23:22 ID:???
流石にそれはちょっと…
せめて同じ作者の短編にしようよ。
730 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 02:11:08 ID:???
>>278 別作品の連載中を「だいらんど連載中スレ」で始めるとしたら、そのマンガの
本スレで参加者をつのるのがやりにくい。
「だいらんど連載中スレで連載中」っていう、その事情をまず説明しないと
いけなくなる。
やるとしたら、せめて同じがぁさんの作品に限定した方がいい。
733 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 02:20:42 ID:???
>……いや、私、作者じゃないよ? ホントだよ?
作者だったりして。
他の有力な候補が挙がっても
作品選択に関して
>>730>>731のような大義名分が立つし
735 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 03:13:42 ID:???
そもそもスレって消費しきらなきゃいけないものなの?
だいらんどスレは作品の良さもあってもうこのまま1000行かずに終わってもいいような気がするんだけど
がぁさんスレがたって、そのあと何スレか続いて…とかってのはあらすじ書きさんにまかせるけど、
なんか無理やり再利用するのは蛇足的だと思う
738 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 03:43:49 ID:???
>>737 とんでもないことをいうね
300膳後のまま放置でもいいんじゃないかってことだろう。
>あと、単独スレでも構わないか? 1000まで届きそうにはないので、
>だいらんどだけでなく、以後ほかの作品も連載できるような体裁でスレ立てる
>というのも一つの手だと思うのだ。
あえて以後他の作品を連載できる体裁にしなかったんだから
スレ主としても他の作品を続けて欲しくは無いのだろう。
739 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 04:05:13 ID:???
スレの立てすぎが鯖の無駄遣いと揶揄される昨今、
書き込みのないスレを放置ってのもどうかと思うが。圧縮までの命だけど。
744 名前:だいらんどの中の人[sage] 投稿日:2005/10/31(月) 12:50:07 ID:???
単独タイトル「だいらんど連載中」でスレを立てたのは、
わずかでもスレタイによる集客力が望めるかもしれないし、
スレタイに作品名を冠していた方が作品名での検索にも引っかかるのでわかりやすい、
といった理由からだった。
「短期連載漫画連載中」と作品名をぼやかした場合、
まかり間違ってレスがやたら伸び、次スレに続いた場合には配慮が逆効果になってしまうし、
それにスレ立ての際、
>>1に書くテンプレについても、ゼロから考えなきゃならなかった。
そこまで冒険の要素を増やすのはどうかと思ったのだ。
もし他作品でリサイクルする場合、それが同作者の別作品にしろ、他の作家の作品にしろ、
スレタイと内容が関連すらなくなるのは、その作品のためにもならない。
後続作品について語ってると、だいらんどの話題が憚られることが予想できるのも微妙。
連載は終わってもだいらんど自体に語る要素がなくなったわけではないし、
無理な延命措置は良くないけれど、放置して細々と楽屋裏としてレスを待ちつつ、
話題が本格的になくなったら自然にdat落ちって形にすればいいと自分は思う。
連載中スレに限らない、他の普通のスレだって、そういうものだろうから。
850 名前:マロン名無しさん[sage] 投稿日:2005/11/05(土) 22:22:50 ID:???
だいらんどスレの282に激しく同意っと。
まとめると
●短編用スレとしてリサイクル
●同じ作者の作品スレに
●だいらんどを語るスレとして残し、さびれれば自然消滅を待つ
おおまかに3つの選択肢があり、スレ論としては
1番目は論外
2番目が圧倒的支持
あらすじの人はどっちかというと控えめに3番目
みたいな印象だな。
●あらすじ人の意思を尊重
というのが結論じゃなかったっけ?
>>288 確かにそんな流れだったような・・・
他のがぁさん作品をやるにしてもまた同じあらすじさんに頼むってのもどうかと。
このまま落としちゃうのは惜しい気もするけどなあ
290 :
1:2005/11/06(日) 19:15:30 ID:???
よく考えたら、もしLook at Me!をやるにしても、
「Look at Me!連載中」と「だいらんど連載中」内での連載と、
どちらも集客力という点では変わらないよなあ。
自分は今後しばらくリアルで修羅場のためあらすじ書くことは無理だが、
もし書いてくれる人がいるならば、歓迎したいと思う。
僭越ながら律子ウホ
ここの>1さんの後にやるというのはちょっと勇気が必要だけど。
まず腐海の中から単行本を探すところから始めるので
しばしお待ちを。
やったー、地元の小さい古本屋に「だいらんど」あったよー
と祭り気分で帰宅したら、なんとまあ。
>>291 楽しみに待ってるよ
>1
いい仕事だった。
乙。
294 :
1:2005/11/08(火) 17:26:13 ID:???
295 :
291:2005/11/08(火) 19:10:46 ID:???
腐海のキャプテンコミックスの塔に
がぁさんの名前を見つけて
よっしゃ!と引き抜いた。
たいむskipランだった。
まあ、たいスキも面白いんだよな。
各話のヒキもいい感じに気になるし、6話完結でまとまってるし、
もしかしたらLook at Me!!よりもむしろ連載中スレ向きかもしれない。
5,6話は書き下ろしだから処理が難しそうではあるけど。
しかし、たいスキは、雑誌廃刊がなければ、もっと連載中スレ向きの漫画になってたんだろうけどな……
そう思うと悔やまれる……
どうなるか見もののスレです
期待キタイ
298 :
291:2005/11/10(木) 14:29:51 ID:???
見つけた。
しばしお待ちを。
>298
うわ、超楽しみ。
正座して待ってます!
あしがしびれたw
おまえ張り切りすぎw
あらすじさん、頑張ってくれ
一応、開始前に楽屋とかにもお知らせ出しとく?
302 :
921:2005/11/12(土) 19:44:47 ID:???
三回読んだ。
一回目は細かい筋なんて忘れていたので素直に楽しむために。
というかやっぱりこれは面白い。いやマジで。
当時、橋本治だか高島俊夫だかが週刊誌で誉めていた記憶がある。
二回目は伏線等の読み落としがないか確認のため。
三回目はどうあらすじにするか考えながら。
一応方向は固まったのでこの土日を使って書きます。
月曜日にはもっとはっきりしたことをここでレスできると思います。
>>292 >>294 >>297 >>299 がんばります。
>>301 そうですね。
でも始める前からぬか喜びさせては申し訳ないので月曜日かなあ。
がぁさんは読者に愛されてるなあ
連載中スレが始まるまでまったく知らなかったけど
作品世界もがぁさん本人も非常に好感が持てるな
作品の入手が難しいのだけが残念だ
305 :
291:2005/11/14(月) 20:14:12 ID:???
というわけで。
書いてみました、あらすじ。
でもなあ。
自分が書くと、どうしても主観が混ざってしまって
粗筋というよりはノベライズになってしまった。
のでやりなおし。
今度は極力主観を排除して。
でも一応、両方とも貼ってみます。
どちらの形式で進めるのかはその後で決めたいと思います。
申し訳ないのですが、水曜日まで待ってください。
そ、いま決めました。「Look at Me!!」連載開始は水曜日だ!
>305
乙弟子
ちなみに更新時間は?
楽屋モードと連載中スレモードの区切りもきっちりつけて
おきたいところだな
307 :
291:2005/11/14(月) 20:30:16 ID:???
水曜日の・・・少なくとも今より早いってことはないと思う。
でも零時までには絶対貼り付けます。
>楽屋モードと連載中スレモードの区切りもきっちりつけておきたいところだな
ごめん。これ、もうちょっと説明お願い。
なにしろあらすじ書くのこれが初めてなもんで何も知らんのですよ。
>307
いや、そのまんまの意味なんだが…
楽屋モード終了がはっきり分かるようにしておいた方が
いいんじゃないかなと思っただけ。
スレタイが「だいらんど」だし、しばらく楽屋だったし。
…でもスレ読めば分かるか。すまん、忘れてくれ。
309 :
291:2005/11/14(月) 20:56:37 ID:???
あ、わかった。
更新速度をどうするか、とか
粗筋の方向性をどちらにするのか、といった内容の話は
全部、楽屋裏に持っていけばいいのね。
了解。
いざ連載開始したらもう「291」では書き込まないよー。
あんがと。
>309
このスレを、今のこの楽屋裏モードからどうやって連載中モードに
切り替えるかって事なんじゃない?
たとえば日付が水曜になったら楽屋裏終了!とか。
でもあらすじが投下されたら自然に連載モードになるかね。
じゃあ、もうそろそろ楽屋裏は終了だね。
今日の何時に投下なんだろう?
291氏、楽屋裏スレの方にインフォメーションと宣伝お願いっす。
さて、時間を戻そうか。
今は1995年の3月――
--------------------------
先月までキャプテンに連載してた「のぞみちゃんホットライン」、面白かったな。
エロ漫画出身の作家とは思えないほのぼのした作風で。
来月号ではまた復活するみたいだけど、どんな漫画なんだろうな。
312 :
291:2005/11/16(水) 21:10:26 ID:???
どうも。これから始めます。
色々と考えたのですが、
今夜は二つ用意した粗筋のうちひとつだけを貼り付けます。
両方合わせると結構な量になってしまうこと、
また同じ日に同じ話の粗筋を読みたがる人はそういないだろうと思いました。
もうひとつの方は金曜日に貼り付けます。その結果をもって、
連載二回目の粗筋を土日に書いて月曜日に貼りたいと思います。
本日貼り付けるものは出来るだけ主観を排除したものです。
金曜日に貼るものは普通の粗筋に近いものとなります。
方針についての意見はこちらでお願いします。
楽屋裏8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1131819966/l50 そんじゃ行きます。
夜 公園
ブランコにバイク用のヘルメットが置いてある。
ブランコの囲いには中高生とおぼしき少年が腰を下ろしている。
髪を染めている。服装は革のジャケットにジーンズ。
少年、オイルライターで煙草に火をつける。一息。
少年「ふ──っ ……」少年、げほげほと激しい勢いで咳き込む。「あ〜うめえ!」
少年、気付く。目の前にトレンチコートを羽織った妙齢の女性が立っている。
蛍光灯に照らされている。髪を下ろした女性、にこっと笑う。女性、コートを開く。
女性「見てぇ〜!!」女性、全裸。
314 :
マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:12:11 ID:HarAXDRN
Look at ME!!
少年、呆然とする。煙草の煙が揺れる。
少年(……出た!! 痴女だ!! 冗談の中だけの存在かと思ってたけど まさかほんとにいるなんて)
痴女、鼻歌交じりに踊り始める。コートをゆっくりと下ろす。痴女、少年に流し目。
少年(け けっこうかわいいじゃね〜か!! けど…… やっぱ不気味だぜ!! 無視しよう)
少年、立ち上がってその場を去る。痴女、手を振る。「See you!!」
朝 校舎
キンコーンキンコーンと始業の鐘が鳴り響く。
少年、制服を着崩した姿で登校する。少年、廊下を歩く。教室からざわざわと噂話が聞こえてくる。
「おい! いよいよ次だぞ 例の新任の女教師の授業!」
「やたっ 始業式で見ておれ 一発でファンになっちまったぜ」
「確か……」
少年、教室後ろ扉を開く。噂話がぴたりと止まる。「……」「……」少年の靴音がかつかつと響く。
少年、窓際の席にどさっと腰を下ろす。周囲の噂話が再開する。
「……確か大学出たてって言ってたから…22才くらいか?」
「いいよな〜 ピチピチして!」
「ファンクラブ作っちまおうか?」少年、あごに手を当てて窓の外を眺める。
少年の前に座っている少女、振り返り少年に声をかける。
少女「今学期が始まってからもう三回目の遅刻です どういうつもりですか? 池田君」
池田「清水にゃ関係ねえだろ? ほっとけよ」
清水「ほっとけません学級委員長ですから それと……」清水、体の向きを前に戻す。
清水「その不良言葉… 板についていませんね もう少し練習しては?」
池田、目を点にして立ち上がる。
池田「るせ〜な! 大体おまえは」
がらっと大きな音を立てて教室の扉が開く。ヒューッ、ピーピーと歓声や口笛が響く。
髪をまとめ、眼鏡をかけ、スーツを着用した女教師が黒板の前に立ち、自己紹介をする。
女教師「えーとえーと みなさん…… どうぞお静かに……」池田、きょとんとする。
女教師「えー… このたび一年間皆さんの英語Uを担当することになりました桜井和代です!」
拍手が響く。口笛も再開され、よっいいぞっ!!と合いの手が入る。
桜井「よろしくお願いします!」桜井、口笛が響くなか笑顔で自己紹介を続ける。
桜井「えと 私まだ教師になりたてでとってもドキドキしてるんです!」
池田(…こいつ昨夜の…)
桜井「しかも最初に配属されたのがこんなに有名な進学校… ちょっとビビッちゃってます!」
池田(痴女!?)
清水「池田君は始業式を欠席しましたから知らないでしょうけど… 新任の先生です」
池田「あ ああ…」
清水「…何か?」
池田「いや…」池田、着席。
桜井「でもこうしてあこがれの教壇に立てたんです! がんばりますのでどうぞよろしく!」
池田(……まさかな… まさかあんな変質者が… 教師になれるはずなんか…)
桜井「じゃあまず出席をとりますので… 皆さんの顔を名前を覚えさせて下さいね?」は〜い。
桜井「秋山君!」「はい!」
桜井「安部君!」「はい」
桜井「飯島君!」「はいっ!」
桜井「池田君!」「はいっ!!」池田、目を吊り上げながら大声で。
2コマ分、時間が止まる。
桜井「えええ江崎君!」「はい」
桜井「奥山君!」「は〜い」桜井、声が震えている。それを見て池田、あっと立ち上がる。
池田(何だ何だよ今の反応は!?)
桜井「加藤君!」「はいっ」
池田(幽霊見たみてえな驚き方じゃねーか!!)
桜井「金田君!」「はい」
桜井「…という風にここは…」キンコーンと終業の鐘が鳴る。「あら?」
桜井「え〜と では次回から教科書に入りますので… 予習をして来て下さいね?」
桜井、ノートをそろえる。大声で「先生、質問!!」と声がかかる。
池田「『私は昨夜全裸で踊る変態女を見ました』って…どう訳すんですかっ!?」
ざわっ・・・・
桜井「えええーと いい一部分からない単語がありますので」
桜井、顔を赤くしながら笑顔で答える。
桜井「次回までの先生の宿題にさせて下さいね!?」
教室を出る桜井、大勢の生徒たちがついていく。ざわざわざわ。
「先生あいつは相手にしない方がいいですよ!? ひねくれちゃってるから!」
「最近成績が落ち込んでてあせってるんだよな!」
池田、机に手をついて立ち上がった姿勢のまま桜井を見る。
池田(──間違いない!! 昨夜のあの露出狂女だ!!)
清水が池田をいぶかしげに見つめる。
池田(何が教育者だ!! 変態のくせしやがって!!)
下校時間 校庭
池田(けっ! これだから教師なんて信用できね〜ぜ!!)
池田(次に会ったら絶対バケの皮をはがして…)
右手から小さな声で「池田君 池田君」と呼ぶ声がする。池田、右を見る。
校舎の隅、植え込みの木に隠れて桜井和代がしゃがみ込んでいる。眼鏡はつけていない。
桜井「お話があるんだけど…… ちょっといいかな?」人差し指を唇にあてている。
池田「……」
放課後 喫茶店前
桜井「え〜と 喫茶店って入っていいんだっけ?」桜井、生徒手帳を開く。
池田「校則で禁じられてるに決まってんだろ」
桜井「そっか! じ じゃあどこか二人きりになれるとこ…」
池田「そこの公園なら誰もいないぜ」親指で方向を示す。「たまに痴女が出るけどよ」
放課後 公園
桜井、恥ずかしそうに周囲を見渡す。
池田、ベンチに座っている。桜井、その前に立っている。
池田「で……何だい話ってのはさ!」
池田、左を向く。立て看板。【ちかんに注意!!】
池田「そういや昨夜ここで痴女に出会っちまってよ… びっくりしたぜ!!」
桜井、うつむく。
池田「上も下もスッポンポンだもんな! しっかり目に焼きついてるぜ!!」
桜井、キッと前を見る。
桜井「わ…私だって池田君がタバコ吸ってるとこ見ちゃったんだからね」
桜井、震えながら。
桜井「学校に報告したらどうなるかしら」
池田、立ち上がる。
池田「おもしれえ! チクってみろよ!!」
桜井「本当に言っちゃうわよ!?」
池田「生徒の喫煙と教師の裸踊りと…どっちがダメージでかいか…」
手を広げ同じ姿勢で対峙する二人。
池田「試してみようじゃね〜かっ!!!」
睨みあう二人。やがて桜井の視線が降りる。「……」
桜井「はぁ〜〜〜っ」へなへなと地面に膝をつく。
池田「なっ なんだよ」
桜井「やっぱり… だめだったか… いつかはバレるんじゃないかと思ってたけど……」
桜井、顔色が悪くなる。
桜井「まさかこんなに早くバレちゃうなんて…」
桜井、ゆらっと立ち上がる。
桜井「やっぱり…私が教師を目指したこと自体間違ってたのかしら…」
桜井、ぶつぶつとつぶやきながら、ふらーっと歩き始める。
池田「おいっ 大丈夫かよ」
桜井、答えず公園を出る。
池田「…… なんなんだよ?」
夜 池田宅
スピーカーが大音量でギャンギャンジャカジャカと鳴り響く。
池田、嫌そうな顔でコンパクトディスクのジャケットを手にとる。
池田「……うるせえ曲!」
電話が鳴る。池田、リモコンを操作、音量を下げて電話をとる。
池田「もしもし?」
桜井「もしもし? 池田君? 桜井だけど……」
池田、リモコンを操作、音量を元に戻す。
池田「何の用だよ?」ジャカジャカ
桜井「あのさ あたしまた切れちゃいそうなのよ!」ジャカジャカ
桜井「それでさこれ以上バレないように池田君に見張り役お願いしたいんだけど…」ジャカジャカ
池田「切れるって何が?」ジャカジャカ。池田。指で開いた方の耳を塞ぐ。
桜井「ごめんね こんなこと頼める立場じゃないんだけど あの公園にいると思うから…」ギャーン
桜井「あ もうもたないみたい… あ…切れる…」ジャカジャカ。声がしない。池田、受話器を見る。
池田「おいっ!? どうしたんだよ!? おいっ!? 返事しろよ!?」
電話から謎の声が聞こえる。「………うふ」「うふ うふ」「うふふふ」
「うふふ ふふふ ふふふ ふふふ」「うふふふふ」「ふ…」ぶつん。
つーつーつー ギャーン ジャカジャカ
池田「知るかよ!!」ジャカジャカ
池田「……」ジャカジャカ
夜 清水宅
ドッドッドッドッ。外から二輪車のピストン音が聞こえてくる。清水、勉強の手が止まる。
ブオン ブオン。排気音が近づいてくる。清水、窓を向く。外を見下ろす。
フォォォン。二輪車が清水家の前を通る。清水、それを見る。
フォォォォォ・・・ 排気音は遠ざかっていく。
夜 公園 満開の桜吹雪
桜井「私はセーラームーン!!」
桜井は仁王立ちとなって宣言する。肩には小さなマント。足にはハイヒール。そして全裸。
池田、何とも言えない表情。
池田「なんか… 昨夜と人格違ってね〜か?」
セーラームーン「うん!」自信満々の顔。
池田を指差す。
セーラームーン「覚悟なさい ショッカーの怪人!!」
池田、はあ?
池田「ショッカーは仮面ライダーの……」
セーラームーン「問答無用!!」
桜井、池田に飛び掛る。視線の先に丁度桜井の腰あたりが入る。
池田「わ」
桜井、池田を地面に押し倒し、しがみつく。
セーラームーン「昼間私をいじめたお返しよ!!」はははははっ、と笑う。
池田「はっ 放せ!!」「放せっ!!」
桜井、池田の首筋にがぶりと噛み付く。
池田(何だよ何だよこの女は 何考えてんだか全然わかんね〜ぞ?)
池田、立ち上がる。
池田(とりあえず逃げる!!)
池田、走り出す。
セーラームーン「あっ またっ!!」
夜 商店街 人通りにぎやか
池田、息を切らして足をとめる。
池田(商店街まで逃げて来れば…)
池田、振り向く。
桜井「まて〜〜っ!!」
桜井、両手を翼のように広げ、マントをはためかせ、池田を追う。老若男女の通行人たち呆然。
池田「わ〜〜っ!!」
池田、泣きそうな顔で叫び出し、桜井の口を塞ぎ、腰を抱えて、その場から走り去る。
夜 再び公園
池田、息を切らせて地面にしゃがみ込む。桜井、池田の前で腰に両手を当てて立つ。
桜井「まいったか!」桜が舞う。
池田「……」やつれた表情。「まいった……」
桜井、ニコリと笑う。
桜井、鼻歌を奏でながら踊る。マントは外している。
池田「……それ…病気なんか?」
桜井「うん!」
桜井、笑顔で答える。
桜井「あたしね いやなことがいっぱいあると がまんできなくなっちゃうの!」
桜井、踊り続ける。
桜井「でね 気が付くと裸で外で踊ってるのよ」手を揺らせる。「こうやって!」
池田の前で桜井の胸が揺れる。
桜井「自分でもどうしようもないの! でもこれが気持ちいいんだ〜!」
池田、赤面する。桜井、池田に近づく。池田、後に下がる。
桜井「だってね 裸になるとどんなことだって出来ちゃうのよ私!」
桜井、子供の様な顔で。
桜井「ナイショだよ? これ!」
桜井、両手を上げてポーズをとる。
桜井「それでね こうやって踊ってると……」
桜の花が桜井を覆う。
桜井「だんだん気分がよくなってきて… だんだん心が落ちついてきて… 気がつくと……」
桜井、くしゅん、とくしゃみをする。
桜井「……」
桜井、胸を手で覆う。こそこそと木の陰に隠れる。
池田「?」
木の陰から桜井が顔を出す。ワンピースを着ている。
桜井「こうやって正気に戻ってるわけなのよ〜!!」
池田「……」
桜井「それで正気に戻るともう恥ずかしくって情けなくって」
桜井、カゼはひいてるし、と小声で。
桜井「だから なるべくストレスためないようにしてるんだけど…」
桜井の目尻から涙がこぼれる。
桜井「昨夜は始めての授業が不安で不安で…切れちゃって
今夜は池田君に見られたことで落ち込んじゃって…」くしゅん。
池田、無言。
桜井「ごめんね〜 池田君〜〜」
桜井、手で涙を拭く。
桜井「でもね これにもいいとこはあるのよ! ストレスがふっとんじゃってふん切りがつくの」
桜井、笑顔で続ける。
桜井「もう教師になる夢はあきらめた! はじめから私には無理だったのよね!」
池田「え?」
桜井「早いうちにバレてよかったのよ うん!」
桜井の目から再び涙がこぼれる。
桜井「私なんてストリッパーあたりがお似合いなんだわ!」
池田「おい何もそこまで…」
桜井「でも問題もあるのよ! ストリップ自体は魅力的なんだけど…」
桜井、悩む表情。
桜井「切れた時にしか踊れないんじゃ仕事にならないわよね…」
桜井、あこがれの舞台…と小声でつぶやく。池田、コケる。
池田「……言わね〜よ!」
桜井「はい?」
池田「病気なんだろ? だったらしょ〜うがねぇじゃね〜か!」
桜井、両手を合わせる。
池田「黙っててやるよ! あんた一人を追い出したところで…」
桜井、両目に涙を溢れさせる。
池田「かわりにまた別のくだらねえ教師が送られて来るだけだしな!」
桜井、ぐしゅっと鼻を鳴らす。
桜井「ありがとう池田君!! 先生うれしいわ!!」
桜井の感謝は続く。
桜井「はじめはとっても怖い子だと思ってたけど… 本当はやさしいのね!!」
池田(ちっ 甘いぜ俺も! 思わず情けをかけちまった! 教師なんかに!)
桜井、目をうるうるとさせて喜んでいる。
池田(……よし!)
池田「ただし!! 条件がある!!」
池田、ばん!と桜井を木に押し付ける。手は桜井の肩には当てず囲む形をとる。
池田「交換条件だ!!」
桜井、ほへ? と。
池田「…一発やらせろ!!」
桜井「……はい?」
一話 おわり
なんだこの漫画
いきなり全裸かよ
いきなり未成年主人公の喫煙シーンから入るってのも少年誌にしては大胆だな。
徳間書店はその辺の自主規制はゆるいのかな?
何この全裸マンガ
うーん。
エロ入れなきゃ気が済まないのかなあ、この作者。
絵柄も話もほのぼのしてて、全然エロくないのになー。
なげえ。ダラダラ欠かない方がいいんじゃねーか?
ま、実質作者別の特殊な経緯のスレだから
実験的なことでもいろいろやってみるといいが、これはさすがにどうかと。
なんかいいな。
この先生俺好きかも。
つか清水てツンデレ?
>池田「…一発やらせろ!!」
まあそうなるわな。てか一発でいいのか?
まず理解者から入って徐々に〜なんて展開を期待した俺がド馬鹿なのか
痴女見たさに張ってたような奴が理解者になるはずもあるまい
・・・そんなことしてたっけ
痴女ってるであろうことを予想した上で公園に行ったからか?
見たさにってよりは助けに行ってると思うけど。いや助けてないけどな。
338 :
291:2005/11/21(月) 21:07:33 ID:???
すいません。もうこのハンドルでは書き込まないと言ったんですが。
連絡がありまして。
楽屋裏では一話目との一挙二話掲載とレスしたのですが。
ごめん。あれ。ナシ。どうしても第一話目がうまくいかなかかったです。
申し訳ないのですが。これからいきなり二話を貼ります。
二話もこれでいいのかなあ、と試行錯誤しながら。
変なところがあったら遠慮なく指摘お願いします。
今後の予定は木曜日に三話目を。月曜日に四話目を貼ります。
その後の予定は次の月曜日に報告します(今度は楽屋裏に)。
それじゃ行きます。
「あんたの病気のことは黙っててやる!! そのかわり……一発やらせろ!!」
「え〜と え〜と……」「何を?」……ズルッ
Look at ME!!
夜 公園(承前)
きゃあ!! きゃあ!! ドサッ
いいいいいけないわ池田君許されないわよこんなこと「なぜ?」
え〜〜とえ〜〜とだって私は教師だしあなたは生徒だし「それがどうした?」
きゃ〜きゃ〜教育者というのは神聖な職業で「興味ないね 他には?」
私今そんな気全然ないのよだからダメ!!「うるせえっ!」
秘技スカートめくり。ワンピースの下には勿論何も穿いて無い。
え〜とえ〜と池田君は未成年だから青少年なんとか条例に
ずずっ ずびっ ぐしゅぐしゅ ずるずる ぐずっ ずるっ
桜井先生は涙と鼻水にまみれていた。服は半ば脱がされ胸が見えている。
このままやっちまうのか?できるのかオレ?これでもしうまくできなかったら
シャレにならねーぞだいたい普通の経験だって全然ねーわけだしあっそういや
避妊具なんて持ってねーぞ外に出すだけじゃやばいんだっけやっぱ……
ガサッ 振り向く二人。
「警察呼びますか?」清水委員長である。。
「だめ〜〜!!」あわてて両手でバッテンマークを作る桜井先生と生徒池田だった。
「そうですか」清水はそれ以上何も言わずに去っていった。
「あいつはガチガチに固いヤツだから絶対ただじゃすまねーぞ」
今度は池田君もまずいんじゃ…
「オレのことなんかほっといて自分の心配しろよ 教師やめたくねえんだろ」
ごめんね池田君あたし自分のことしか考えていなかった教師失格だわ・・・・・・
謝罪を続ける桜井だった。
やりたい盛りなんだもの我慢できなくなるの当然よね変な挑発しちゃってごめん
なさいね先生気にしてないから・・・・・・
池田はまずコケて、それから怒鳴った。「そんなんじゃねえ!!」
「オレがあんたを襲ったのはなあ・・・」
あんたの教師という仮面をはがしてやりたかったからだ、と池田は言った。
それでひとまず落ち着いた。
でも・・・桜井は言った。「清水さん なんでこんな時間に公園にいたのかしら」
清水は家の窓から池田の二輪車を見かけ、自転車をキコキコとこぎつつ追いかけ、
公園の入り口でそれを発見したのだった。
昼 教室
英語Tの授業が行われていた。中年男性教師のぼそぼそとつぶやくような授業を
真面目に聞いているのは清水くらいのものである。無理もなかった。教室は
夕べ商店街に出現した痴女「けっこう仮面」の噂でもちきりだった。
噂話など我関せず、今日はここまで、とつぶやくと中年教師はけっこうな量の宿題を
出した。「明日までに」巻き起こるブーイング。清水が立ち上がった。「先生」
本日はみんな、明日提出の美術の宿題で手一杯です。明後日にしてもらえませんか。
中年教師はにべもなく言った。「美術の宿題はやらなくていいです」
結構よろこぶ生徒たち。「まあいいか」「先生がいいって言ったんだから」
「おい清水! ちょいと話がある! 体育館の裏までツラかしな!!」池田であった。
「なんて陳腐なセリフなの 自分で言ってて恥ずかしくない?」
「う うるせえなあっ」
「面倒くさいから屋上ですませましょう」
放課後 階段横
「で 彼女なんだって?」池田にささやく桜井先生。
「『あなたの説明では到底納得できません もう一度弁明のチャンスを与えます
それでダメなら職員会議に報告しますからそのつもりで』全部本当のこと
言ったんだけどなあ・・・」
へなへなと崩れ落ちる桜井だった。「また切れちゃうかも」
夜 清水自宅。
美術の宿題をやっている清水の耳に二輪車のエンジン音が聞こえる。池田だった。
「いったいどこへ連れて行くつもり? 池田君は宿題終わったんですか?」
ブオンブオン きいこきいこ
「いいから黙ってついてこいよ! 納得のいく説明をしてやる」
ドッドッドッ きいこきいこ
「なあ! やっぱり後ろに乗れって じれったくてしょうがねえぜ」
きいこきいこ
「結構です ほら 早くしないと 宿題がたくさんあるんだから」
チリンチリン♪
夜 公園
「またこの公園ですか? この公園になにがあるというのです?
こんな所に来たって何も・・・・・・」
ガサッ うははははは きゃ〜 うわ〜
うははははははは! きゃ〜きゃ〜
「・・・・・・何をしているのあの人は?」
「・・・・・・だから病気なんだってば」
くるっ うはははは 清水の頭をつかみあげる桜井先生(全裸)。
「私は不可能を可能にする愛の女神様!」清水の頭から手を離す。
「これであなたの昨夜の記憶はすべて消えました!!」
「これでもうあたしも池田くんも安全です! よかったね!」うははははは
池田は小声で清水に話を合わせろと呟いた。だが清水は女神に突っ込みを入れた。
「昨夜の記憶は消えても今夜の記憶は残ったままですが」
「私は不可能を可能にする愛の女神様!」清水の頭から手を離す。
「これであなたの昨夜の記憶はすべて消えました!!」
「これでもうあたしも池田くんも安全です! よかったね!」うははははは
池田は小声で清水に話を合わせろと呟いた。だが清水は女神に突っ込みを入れた。
「昨夜の記憶は消えても今夜の記憶は残ったままですが」
桜井の目が吊り上った。「やはり目撃者は消さねばならないようね」
池田はこうなるとどうなるかわからんから、と清水に逃走を勧めた。
「嫌です」池田の指示にはなぜか逆らう清水だった。
「私は何も悪いことをしてません なんで逃げなくちゃならないの」
その間にも桜井先生は全裸のままガッチャガッチャと音を立てフェンスに登った。
「いい度胸ね! 誉めてあげる!」
フェンスの上で立とうとする桜井だった。震える足はM字開脚。池田は後ろを向いた。
「せめてひと思いに楽にしてあげるわっ!」バッ!!
桜井先生はフェンスの上から清水目がけて飛びかかった。
池田は呆れてそれを見ようともせずその場を離れようとしていた。「もう勝手にして」
2話 おわり
とにかくすごいテンションだ。
先の展開がまったく読めんw
なにこの露出狂マンガ?
もうすこし簡潔にならんかな。
わけわからん…
だが清水は結構ツボ
病気は作者のほうだなー。
落ちてないギャグ漫画みたいなオチだ。
確かに、何を意図して描いてるのかよくわからん・・・。
勝手に他の先生の宿題をやらなくていいと言い切っちゃう教師ってのも
いかがなものか。いや、そんなのどうでもいいシーンだとは思うが。
「うはははは!!」
桜井は清水に向かってジャンプした。
「死人に口なしよ──っ!!」
清水は目をつむった。
どさっ
Look at ME!!
355 :
3/7:2005/11/24(木) 20:15:07 ID:???
夜 公園(承前)
飛距離が足りなかった。桜井は清水の眼前で大の字になって地面に着地した。
なんなのこの人、と清水は言った。だから病気なんだって、と池田は答えた。
今のうちだと彼が再び逃走を勧めると、桜井がにまりと笑いながら起き上がった。
とうとう私を怒らせたわね。桜井は叫びながら逃げる二人を追いかける。私は
逃げるつもりなんてない、と反駁する清水だったが、自分の右手に繋がれた
池田の左手を見ると顔を赤らめて沈黙した。
逃げるなら人通りの多い方角を、と清水が言った。池田はそれは実験済みだと
答えた。彼女は昼間噂で聞いた「けっこう仮面」の正体を知った。
公園の階段を下りながら、池田は自分が清水の手を引いていることに気がついた。
彼は手を離して今は逃げて桜井が正気に戻るのを待つしかない、と言った。
清水は振り向き、桜井に向けて言った。
「あなた本当に女神なら空だって飛べるんでしょ? 飛んでみて下さらない?」
「はいっ!」桜井は階段の上から、またもや大の字になって、飛んだ。
桜井が目を覚ますと、手足が拘束されていた。
「正気に戻ったみたいだな」池田が言った。桜井は己を恥じた。
清水を納得させることには成功した。「あとどうするかは清水しだいだな」
池田は言った。おら知らね。清水はコホンと咳をして答えた。
「ひとつ条件があります」決して退屈な授業はしない。無理な宿題は出さない。
無意味に生徒をいじめない。つまり楽しい授業をしてください。
「本来勉強って楽しいものだと思うんです」でもそれを教えてくれる先生は
ほとんどいません。その点、先生の授業は、清水は言った。
「とても楽しかったです」その楽しい授業が続くかぎりは先生の秘密について
黙っています。「ありがとう清水さん」桜井は感謝した。
356 :
4/7:2005/11/24(木) 20:16:09 ID:???
朝 教室
淡々とした中年教師の声が教室を満たしていた。
「池田秀一 宿題の提出がまだですね」やってねえ。
「なぜやってないのです? 理由を言いなさい」やりたくなかったから。
「やる気のない者は出て行きなさい」学ぶ権利は基本的人権だろうが。
「あなたに人権を云々する資格はありません」教師がそんなこと言っていいのかよ。
「いいんです」
昼 美術準備室。
美術教師は清水の提出した宿題を泣き顔で受け取った。
宿題を持ってきてくれたのは君のクラスでは二人だけだよ。進学校の美術教師なんて
なるもんじゃないなあ。
清水は机の上にもう一人の宿題が置いてあることに気がついた。2-B 池田秀一
清水は目をゆがめながら思った。
・・・・・・いじっぱり!
357 :
5/7:2005/11/24(木) 20:16:59 ID:???
昼休み 校庭の隅 木の下
池田と桜井と清水は三人で昼食をつまんでいた。これからの対策を話し合うためで
ある。とにかくストレスをためないことだ、と池田は主張した。話は難航した。
ストレス解消につきあってくれる友達もいない。運動オンチで、趣味もない。
清水が言った。「恋人とはどうなんです?」池田が焼きそばパンを噴き出した。
それもねー、最近・・・・・・ 桜井がそう言うと池田が動揺した。
桜井は唐突に気がついたのか、あまりプライベートなことはちょっと、と
口を濁した。そこに他の生徒たちがやってきた。あまりこの場を見られたくない
池田はそそくさと身を引いた。桜井はなかなかの人気ですでにファンクラブまで
出来ていた。会員たちはおそらくは作ったばかりであろう会員カードを桜井に見せた。
握手会が始まった。「会員番号は五桁まで用意してありますから!」
そこに桜井ファンクラブたちをどいてどいてと押しのけてひとりの少女が現れた。
「新聞部の加藤です インタビューさせてください まず恋人はいらっしゃいますか」
遠くからそれを見ながら清水がすごい人気ね、と言うと、池田はふんと鼻で答えた。
かと言って嫉妬しているわけではなかった。むしろ他の生徒たちが知らない桜井を
知っていることで池田は優越感すら覚えていた。「すけべ」清水が言った。
「おれが何考えているのかわかるのかよ!」それにしても・・・桜井のやつ男がいるのか?
358 :
6/7:2005/11/24(木) 20:17:45 ID:???
午後 校内
けっこう仮面あらわる
学校新聞の大見出しにはそう書いてあった。記事には上半分が使われていた。
そして下半分は桜井の新任について書かれていた。教師桜井写真入りだった。
「一面独占してんじゃん」池田は言った。
「編集部では現在写真を入手すべく・・・ああどうしよう」桜井は動揺していた。
池田はそのふたつの記事を結びつけて考えるやつなどいないと言った。
清水はこのままけっこう仮面が現れなければすぐにみな忘れると言った。
ストレスさえためなければ、と桜井が笑っているとそこに中年教師が
通りがかった。「桜井先生 ちょっとお話が」
午後 2-B教室
桜井は見る影もなく暗くなっていた。
・・・・・・前回の続きから始めます 6ページを開けてください。
今にも死にそうな顔だった。教室がざわめく。それに気付くと桜井は
両手で顔をぺちぺちと叩き、明るく授業を始めた。「ではLesson 1!」
英語U終業後 廊下
「おい 宇田川のやろうになんか言われたのか?」
なんでもないの 心配かけてごめんなさい。
「宇田川の新人いびりは有名だからな」
「今夜・・・また切れてしまいそうですか?」清水が訊ねた。桜井はちょっと考えて、
「だいじょうぶ! 自分でなんとかするから」と答えた。
359 :
7/7:2005/11/24(木) 20:18:31 ID:???
午後 2-B教室 化学の授業
池田は窓から外を眺めていた。そして驚愕した。桜井がふらふらと校庭を
歩いていたのだった。服を両手で押さえている。今にも脱ぎだしそうだった。
おいおい!? 何がなんとかするだよっ!?
もう切れちまってるじゃね〜〜か!?
三話 おわり
中年の英語教師なんか嫌な奴だな。
今後重要なとこでいやがらせとかしそうな希ガス。
まきぞえの美術教師かわいそう。
中年教師、宇田川っていうみたいだな。
この先も重要キャラになってくるのかな。
宇田川何て言ったのかなぁ?
まさか「正体知ってるぞ」とかって脅したとか?
表の顔と裏の顔で一面独占ワラタ
よく気づかれずに済むな
だんだん作品の方向性がわかってきたぞ。
要するに教師が普通じゃないだけで、それ以外は割と普通の
学園ドラマなんだな。
清水ツンデレ確定
池田、「本当は優しい不良」タイプか。
だけど不良っぽさが足りないな。作者の描き方が悪いのかもしれんけど、優しすぎ。
悪ぶってるだけの、普通にいいヤツに見える。
367 :
1/5:2005/11/28(月) 20:01:57 ID:???
昼 2-B教室
キンコーン
ガラッ
「池田君そうじっ!!」
「パスッ!!」
「も〜」
「ごめんなさい私もパス!」
「委員長……」
368 :
2/5:2005/11/28(月) 20:03:04 ID:???
Look at ME!!
369 :
3/5:2005/11/28(月) 20:03:50 ID:???
放課後 校庭
「どこだ? どこ行った桜井は!?」いない→宇田川をおしおきするために校舎に?
そこに登場清水委員長が宇田川は既に帰宅の途上にあることを伝える。
桜井も追いかけて行ったと推測。二人は学校を出た。
それを見ていた掃除中の新聞部加藤嬢。
終業の鐘と共に走り去っていく学年一の秀才少女と学年一の不良少年・・・
「事件の予感 あとお願いね」「かとちゃーん…」
放課後 路上
宇田川の背後に迫る影。言うまでもなく桜井である。コートを開き(全裸)、今にも
襲い掛かろうとするところ、宇田川が振り向いた。
誰もいなかった。
宇田川から見えない塀の裏には、清水と、池田と、池田に取り押さえられた桜井がいた。
服を着せねばならない(清水は校舎に脱ぎ散らかされたそれを拾い集めてから池田と合流していた)。
池田が見上げるとそこにはラブホテルの看板が。「嫌よ私 絶対!」
「よしっ 清水はもう帰っていいぞ! あとは俺一人でなんとかするから」
「切れた先生とホテルで二人っきり 何をするつもりですか」眉をひそめる清水。
そこに通りがかる新聞部の加藤。まだ居た宇田川に呼び止められる。くどくどとお説教。
あの二人・・・まさかね
370 :
4/5:2005/11/28(月) 20:04:43 ID:???
放課後 ラブホテル
清水は周囲を見渡した。立派なラブホテルであった。桜井は部屋の中を走り回っていた。
池田がおとなしくしろと叫びつつ追いかける。桜井は窓を開けて「けっこう仮面参上!」と叫ぶ。
それをまだ路上にいた加藤が目撃した。
窓を閉められた桜井は二人の前で踊っていた。
「桜井先生 胸が大きいですね」清水は言った。池田が現状に耐えかねて質問した。
「宇田川になにを言われたんだよ」あいつったら一時間もかけて私のことネチネチネチネチ……
「君は教師に向いてない 不祥事を起こす前にやめたまえ ですって あったまきちゃう」
「なんだ そのとおりじゃねーか」桜井は池田にプロレス技をしかけた。腕でギリギリと顔を絞める。
チキン・ウイング・フェイス・ロックであった。「君もいじめる?」「いじめない いじめない」
清水の冷ややかな視線に戸惑う池田は弁解するが清水は自分は何も言ってないと答える。
それを尻目に桜井は部屋を出た。いわく。スリルがないから。バタン。見て〜〜〜〜!
ラブホテルを訪れる客を脅かしまくる桜井。実に楽しそうであった。
あーもー知らねっとつぶやいて池田はベッドに転がった。ふと横をみると清水が座っている。
オレ達…… 今…… 2人っきり……!?
清水はゆっくりとティーを入れていた。急速に高まる池田の鼓動。部屋を明るくしようと
枕元のスイッチを入れたらベッドが振動を始めた。止めて別のスイッチを入れると
今度は明かりが消えてしまった。「わざとやっているのですか?」「誰がお前なんかと!」「…」
ようやく照明の調節がわかった池田、部屋がほのかに明るくなった。清水が声をかけた。
「池田君…… やっぱり桜井先生みたいに胸が大きくないと ダメですか?」え!?動揺しまくる池田。
「安心してください 私 今の池田君とどうこうする気はこれっぽっちもありませんから」
池田が問い詰めようとすると桜井が部屋の扉を叩いた。「鍵が閉まっちゃってるのよ〜」
正気に戻ったようだった。
371 :
5/5:2005/11/28(月) 20:05:44 ID:???
三人は今後を相談した。
「あんたが教師に向いてるかどうかは宇田川が決めることじゃねえ オレたち生徒が決めるんだ」
清水は退屈な宇田川先生の授業より桜井先生の授業の方を皆熱心に聞いていると言った。
テストの結果にもそれは現れるでしょう、と。
「次の中間テストで見返してやればいいじゃんかよ! 宇田川の奴くやしがるぜきっと」
「でも池田君はまた赤点取るんでしょう? わざと?」
「……しょうがねえなぁ! 今回だけは協力してやるよ!」
「ありがとう 池田君 清水さん 私 お礼言ってばっかりね……」
「ところでそろそろ二時間経つんですけど」
ラブホテル フロント
「金はオレ達がはらうのかよ!」「ひ〜ん ごめんなさ〜い」
表には新聞部の加藤が張り込んでいた。三人は一計した。ドアが開く。加藤激写!
「けっこう仮面の正体みたり〜」ところが、そこにいたのは仲よく?手を繋いだ
清水と池田であった。「ごめん あとでネガごと返すよ こんなネタ記事にできないもんね!」
加藤が腰を下げて謝るその隙に通り過ぎる桜井であった。
夜 桜井自宅
「ああっ! 私ったら! 私ったら! なんてダメな教師なの!」
夜 池田自宅
「なんて一日だったんだよ今日は!」タバコを煙に咽ながらつぶやく池田であった。
脳裏には清水の言葉が浮かんでいた。 今のオレとはって…… どういう意味だよ?
夜 清水自宅
清水はラブホテルからのお土産たるコンドームを伸ばしたあげくブラブラ揺らして物思いにふけっていた。
4話 おわり
なるほど、これから毎回、桜井の秘密が宇田川や新聞部の加藤に
見つからないよう、池田と清水がドタバタするわけだな。
清水は、なんでラブホテルに詳しいんだ?
清水いいな
清水いいよ
コンドームをもてあそぶ清水に萌え
よくわからんノリだな
ていうか皆先生を見捨てはじめてる?
清水についてしかレスが付いてないんだがw
これからはあれか?池田が桜井と清水の間で揺れ動く展開か?
清水かあいいよ清水
>>377 そりゃ、ひくだろ、普通。
脱げばいいってもんじゃねーよ。
「ふんふんふ〜ん♪」しょりしょりしょり
桜井和代は入浴中。足のスネ毛を処理していた。
「やだわ…ここ伸び放題じゃない」チョキチョキチョキ
「どうせまた池田君たちに見られるんだからちゃんとお手入れしておかなくちゃ」
そこでハッと自らを省みる桜井和代であった。
「私ったら 私ったらいったい何をしているの〜」
頭を抱えてうずくまる桜井和代であった。
382 :
2/7:2005/12/02(金) 20:52:25 ID:???
Look at ME!!
383 :
3/7:2005/12/02(金) 20:52:59 ID:???
午前 学校
「はいこれ いちおう焼いてみたんだけどさ!」
その写真にはラブホテルから手を繋いで出てくる池田と清水が写されていた。
「やるじゃんこのう〜」加藤は池田を軽く肘でつつくと去っていった。
(おれは何にもやってねえ!)心中で叫ぶ池田であった。清水は写真をごそ…と懐に入れた。
午前 学校
まあね、新鮮で楽しいのはわかりますよ。年齢的にもむしろ彼らに近い、友達気分になって
しまうのも当然です。ましてあなたは美人だしプロポーションもいい、生徒達にチヤホヤされて
勘違いなさるのも無理はない。でもね、楽しくては勉強にならんのです。苦労して手に入れてこそ
本当の知識なのですよ。生徒の人気とりに専念なさるのも結構ですが、この学校には他にも教師が
いることを忘れてもらっては困りますね。我々は教師なのです。”師”なのです。
師であることの重みをもう一度考えてみてください。
昼休み 学生食堂
「ストレスをためないことが無理だということはよくわかった」池田はラーメンを食べながら言った。
桜井は弁当を前にしてうつむいていた。清水はカレーだった。
「で あんた自身の考えはどうなんだよ 宇田川のいうとおりだと思うのか」
桜井は沈黙した。目つきは何よりも雄弁だった。
「だったらいいじゃねえかよ」池田は言った。自分が正しいと思う通りにすりゃさ。
「宇田川のいうことにいちいち付き合ったってバカ見るだけだぜ ほっときゃいいんだよあんな奴」
清水は池田をじ〜〜〜〜〜〜っと見つめた。池田は狼狽した。何だよ。別に。
池田の助言は以前と変わらなかった。中間テストを待て。生徒はみなちゃんと見ているから。
しかし桜井の表情は晴れない。そこで池田は視点を変えることを提案した。あんたはその気になれば
いつだって変身して宇田川の野郎をやっつけることができる。生殺与奪を握っているのも同じだ。
それは桜井のお気に召したようだった。彼女はくっくっくっと笑った。
384 :
4/7:2005/12/02(金) 20:54:29 ID:???
午後 廊下
気を取り直して授業に向かう桜井は宇田川とすれ違った。脳裏に宇田川をやっつける図を思い描く、
それでなんとかなった。ただ笑い声が口から出てしまい宇田川は違和感を覚えたようだが。
午後 2-B
「は〜い 今日も張り切って 授業を進めましょう!」久々の笑顔だった。池田はそれを見て
ホッとしていた。考えてみたら なんでオレこんなに一生懸命になってんだろ。教師なんかのために。
「え〜と では次の部分を」桜井は指名した。「池田君! 読んでください」
池田は桜井をぎろっと睨んだ。桜井がひるむほど本気だった。だが彼女は退かなかった。池田は
一瞬の沈黙の後、立ち上がると、周囲が驚くほど流暢な発音で教科書を読み進めた。クラスメイトは
みな意外な顔をしていた。清水を除いて。
放課後 校庭
桜井は顔面蒼白だった。新しく出た学校新聞を見たのだった。そこにはラブホテルの窓から
顔を出すけっこう仮面、つまり桜井が載っていた。
「この種のホテルには一人では入れない所から共犯者がいるものと思われる」清水が読んだ。
「自らけっこう仮面と名乗ったことよりこの新聞を読んでいる可能性も大」池田も読んだ。
「大丈夫よね 顔もはっきり写ってないし」桜井は自らを励ますように言った。
清水が後ろの木の陰に加藤がこちらを伺っていることを告げる。手にしっかりとカメラを持っていた。
「彼女 勘はいいんだけど隠れるのはヘタだな」池田はつぶやいた。
そのときスピーカーからピンポーンとチャイムが鳴った。お呼び出しを申し上げます……
385 :
5/7:2005/12/02(金) 20:55:39 ID:???
放課後 校内
いやまったくたいしたもんですよ。優秀な学生ばかりのわが高の中にあったここまで赤点を
取り続けるとは。その根性だけは認めてあげますよ。さあ、もう満足したでしょう。あなたのその
幼稚なプライドも満たされたのではないですか。そこであなたに今一度社会復帰のチャンスを
あげましょう。どの科目でもけっこう、一科目だけでもいいですから平均点以上を取りなさい。
そうすれば謝罪する意思があるものとみなして今までのことは大目に見てあげましょう。一科目
だけです。あなたのふやけた頭でもなんとかなるでしょう?期待していますよ、私の親心を
裏切らないでくださいね。
放課後 帰宅路
「宇田川先生がおかしな挑発をするものだから池田君が答えを書けなくなってしまうのです」
「それであの成績表」桜井はようやく納得のいった顔をしていた。
「本人の前で噂話すんなよ!」池田は怒鳴った。
宇田川先生はわかっていてやっているふしがある、と清水は言った。そして池田に声をかけた。
「やっぱりまた全科目赤点ですか?」
沈黙の後、あんたのテストだけはちゃんと答えてやるよ、と桜井に言った。清水は額面通りには
受け取らなかった。それだと宇田川先生の期待に応えてしまうことになりますよ、と言い返した。
ふたたび沈黙の後、「それでもだっ!」池田は言った。宇田川なんて勝手に喜ばせときゃいいさ。
清水は池田の頭をなでた。ゆっくりと、いいこを褒めるかのように。池田は驚いた。なんだよ。
「自分の正しいと思う通りにすればいい」清水は言った。池田自身の発言だった。
「宇田川の言うことにいちいち付き合ってたらバカを見るだけだ」
池田本人が驚いた。さらに清水はテストでいい点が取れたら私からもゴ褒美をあげましょう、と言った。
「残念ながら池田君が期待していることとは違います!」「オレがなに考えてるのかわかるのかよ」
二人を見ながら桜井和代は私もがんばらなくちゃ、と思った。
386 :
6/7:2005/12/02(金) 20:56:27 ID:???
夜 桜井自宅
桜井和代と清水は二人で向かい合っていた。池田には秘密でストレスを分散させるためだった。
つまり清水を観客として桜井が裸で踊るのだった。当初は桜井の発案だった。しかし彼女は
やめたがっていた。
「やっぱだめ〜 正気だと恥ずかしいだけ〜っ」
しかし清水は頑固だった。
「最近感じた嫌な出来事をいろいろ考えて下さい」
桜井は考え始めた。やぱり宇田川先生、イヤだわ! 教え子に頼りきってる自分とか…
情けなくって涙が出る。そうだ電話! 昨日かかってきた電話! 仕事で忙しいって…
久しぶりに会えると思ったのに…
夜 池田自宅
「はい池田 なんだ清水かよ」
「試験勉強中申し訳ないんだけど来てもらえないかしら 桜井先生が手に負えなくなって」
「勉強なんかしてねーよ」池田は電話を机から取っていた。彼は椅子に座っていた。そして
机の上には教科書とノートが広げられていた。
387 :
7/7:2005/12/02(金) 20:57:06 ID:???
夜 桜井自宅
「来たぞ なんで清水が桜井のアパートにいるんだよ」池田は驚愕した。全裸の桜井が清水を
押し倒していた。清水の服は半ば脱がされていた。「見てないで助けてくださらない」
・
・
・
「女二人で何してたんだよいやらしい」「相談に乗ってあげてただけです」
桜井は自分の部屋をうろつきまわっていた。
「それで? あんたはなんで切れてんだよ」池田は桜井に尋ねた。
桜井は手を上げて応えた。拳が卑猥な形に握られていた。「エッチがしたいっ!」
池田はあっけにとられた。「それで清水が相手をしていたわけか」「違います!!」
池田はベッドに座った。「こいつ 切れてるときはやたらと素直になるんだよな」
そして再び尋ねた。「なあ 誰とエッチしたいんだ?」
桜井は両手を胸の前で重ね合わせた。「もちろん彼と 最近ちっとも抱いてくれないんだもん」
池田はぶるぶると震えていた。「お…男がいたのか?」
「うん」桜井和代は素直に答えた。
「…だったらなんで俺達に頼ったんだよ そいつに面倒見てもらえばいいだろ?」
「あらぁダメよ! こんなところ彼に見せられるわけないじゃない!」
桜井はあっさりと言った。
「ぜったい! 秘密にしておかなくちゃ!」
勝手にしろ、帰る。そう告げて池田は出て行った。
5話 おわり
Look at ME!!
清水がどんどん可愛くなり
桜井がどんどんどうでも良くなる
まったくだ。
つまり清水にハァハァする漫画ということですね
桜井は精神科で診てもらうべきだろ、どう考えても。
ツンデレなのは清水ではなくむしろ池田なのではと思う今日この頃
さて。
さて。
さては南京玉すだれ
397 :
1/6:2005/12/06(火) 20:29:19 ID:???
昼 学校 中間試験 英語U
「それでは……START!!」カリカリカリカリカリカリカリカリ
その中、池田は只一人窓の外に降りしきる雨を眺めていた。
「え〜と池田君? スタートなんですけど…」桜井は控えめに言ってみた。
池田が一睨みすると桜井はすごすごと退散した。
清水は背後にやり取りを聞きつつ鉛筆を走らせていた。
398 :
2/6:2005/12/06(火) 20:30:00 ID:???
Look at ME!!
399 :
3/6:2005/12/06(火) 20:30:56 ID:???
夜 桜井自宅 中間試験採点中
桜井は池田の怒りをもっともだと思いつつ彼の答案を見た。
きっと白紙だろう。せっかくやる気を出してくれたのに……
昼 学校 中間試験 答案返却
桜井は明るく元気に平均点を発表した。72点。みなさん頑張ってくれて先生嬉しいです。
「最高点は100点! 二番目の人は95点でした!」ひえ〜 だれだよ〜 生徒たちがざわめいた。
池田は自分の答案を見ていた。95点。ハッと清水を見る。100点。彼女は「にま…」と笑った。
昼 校庭 体育授業後
「くそっ!」池田はフェンスを殴りつけ芝生を蹴散らした。「ぜったい満点だと思ってたのに!!」
「一年間のブランクは予想以上に大きかったようですね」バレーボールをてんてん突きながら清水。
桜井はむしろ池田の点数に驚いていた。テストにも答えてくれないと思っていた、と。
それを伝えると池田は怒り出した。あんたに男がいようがいまいがテストには関係ない。
あんたの面倒を見るのはここまでだ。これからはその男に面倒見てもらえ。
清水がすかさず言った。宇田川先生の試験は平均60を割りました。同じ英語で試験の難易度にも
さほど差はありません。これは生徒の理解度の差なのです。
「自身を持ってください みんな先生を応援してますから!」
400 :
4/6:2005/12/06(火) 20:32:05 ID:???
午後 学校
そりゃあね。問題を簡単にすれば平均点だってあがりますよ。生徒達もいい気分になって
あなたの人気も上がるでしょう。でもそこまでしてチヤホヤされたいですか。アイドルにでも
なったおつもりですか。だから教師として…
桜井は聞いてはいなかった。脳裏ではけっこう仮面が宇田川を縛り上げた上で天井から吊るし
鞭で叩こうとしていた。桜井はくくくと笑いはじめた。宇田川はけげんな顔でそれを見た。
午後 廊下
桜井は笑いながら部屋を出、池田と手を合わせた。池田は自分の手を見た。
午後 学校
ほう、これは驚いた。赤点ばかりの中でなんでしょう。この95点というのは。もしかして
孤高の戦士池田君の全面降伏の合図でしょうか。でしたら歓迎しますよ。ひざまづいて許しを請う
生徒を見捨てるほど冷たくはないですからね…
宇田川はくどくどと話し続けた。
(一年間のブランクか)
池田も聞いてはいなかった。
(オレ…そんなに勉強してなかったっけ?)
彼は遠い目をしていた。
(そういや中学のころはずっと…)
彼が思い出したのは中学校の制服を着た清水だった。
(清水とテストで点取り競争してたんだっけな…)
池田は前を見た。
(一年間…)
宇田川はまだ話し続けていた。
(オレの…一年間…)
401 :
5/6:2005/12/06(火) 20:32:59 ID:???
放課後 校庭
池田が校舎を出ると清水が待っていた。待ってろなんて言ってね〜だろ。池田がそういうと
清水は自分達は恋人同士ということになっているのだからそれらしいところを見せる必要があると
言った。池田が周囲を見渡すと木の陰に隠れる加藤がいた。
清水は聞いた。池田は答えた。
「詫びる気持ちを行動で示せ 次の実力テストで良い成績を残せば謝罪を受け入れてやってもいい」
「それで池田君は?」池田は沈黙した。清水は言葉を重ねた。もし池田君がもう勉強に飽きて
しまったのなら無理にする必要はないと思います。清水は顔を赤らめながら続けた。
「でも もしまだ勉強を楽しいと感じるのだったら…」清水も沈黙した。そして彼女は突然言った。
約束していた御ホウビがまだでしたね。そういうと清水は池田と唇を重ねた。
それを見ていた加藤はあわてた。写真を撮ろうとしてやめる。二人の唇離れた。池田の胸が高まる。
清水は言った。次の実力テストで私よりいい成績をおさめられたら…と思ったけどやめます。
エサで釣るような真似は。呆然としている池田を残して清水はまた明日、というと帰り始めた。
彼らを校舎の窓から眺める影があった。宇田川である。
402 :
6/6:2005/12/06(火) 20:33:53 ID:???
夜 池田自宅
彼は唇の感触を思い出しつついまだに呆然としていた。そこに電話が鳴った。
もう電話するなと言ったのに。
夜 学校 宿直室
「いらっしゃ〜い フラれ女の宴へようこそ」すでに眼鏡をはずし髪も解いていた。
上掛け一枚の全裸である。
「会いたかったよ池田君 彼に電話したらもう会いたくないだって〜」桜井は泣いていた。
「もしかして オレがその男に面倒見てもらえなんて言ったからフラれたのか?」
「ううん その話持ち出す前にフラれた〜」桜井は悲しく踊りながら答えた。
前からおかしいとは思ってたんだ。最近全然デートしてくれないし〜。
池田は言った。いいよ、今日は好きなだけ踊れよ。オレが見ててやるからさ。
ねえ。ひとしきり踊り終えると桜井は言った。「見たい?」「へ?」「今まで見せてないとこ」
自制していたけど。いいよもう。桜井は腰を下ろすとゆっくりと足を広げた。「う」ほら…
どお?「あ…ああ」いいのかよおい? こいつが正気に戻ったとき全部覚えてんだぞ?
池田君ってCherry Boyでしょ? してみたい? (まさかこいつ…)
私とでよかったら…する?(こいつもう正気に戻ってるんじゃ…)
ほら…「あ ああ」(だ だったらいいよな? 何も問題はないよな?)
池田君カチンカチン…… 「うっ うるせえっ」
「安心して このエマニエル夫人におまかせなさい!」(え!?)
エマニエル夫人? やばいっ 正気になんか戻っちゃいねえ こいつまだ切れたまんまだ!
桜井はくすくす笑いながら池田を押し倒した。
6話 おわり
>バレーボールをてんてん突きながら清水
萌え。
しかしこいつら、体育着で何やってるんだ?
体育の時間にしては人がいないし。
清水はほんといいキャラだな。
それに比べて、桜井のダメダメさはもう……
教師としても女としても萌えキャラとしても最低だ。
ていうかさっぱり萌えない
清水愛しいよ清水
池田はなんで不良になったんだろうな?
409 :
1/7:2005/12/09(金) 20:14:25 ID:???
「ハイ、以上でアンケートはおしまいです!! 御協力ありがとうございました」
「いえ」
「結果は他のクラス委員長の方のと合わせて新聞の廃刊号に掲載されますので」
「はい 廃刊号?」
「そうなのよ〜〜 聞いてよ聞いてよ」
アンケートは終了したが加藤の電話は続いた。
「宇田川の奴がさ〜 あのけっこう仮面の写真が気に入らなかったみたいで…
いきなり新聞廃刊だってさ これって言論弾圧じゃん 権力の横暴だよね」
「あらあら」
「ところで話はかわるけど 清水さんと池田くんって…どっちが先に声をかけたの?
あ いや これは新聞とは関係ないんだけどさ! 純粋に個人的な興味で…
だってあれじゃん 二人って全然タイプ違うしさ! 学年トップの学級委員長と
留年ギリギリの茶髪くんとでさ! 清水さんがナンパされたのかな〜とか」
「…加藤さんは中学別なんでしたっけ どっちが…と言えば私が池田君をナンパしたことに
なるのかしら 私と池田君は中学からずっと一緒で…」
「へ〜」
「でも中学ではライバル同士で仲は悪かったんですよ 池田君も今とは全然違ってて…」
「そんでさ あんた達… うまく行ってんの?」
「多少の問題はありましたが…」
清水の口元に隠し切れない笑みが浮かんだ。
「障害はすべて取り除かれたはずです」
その頃、池田の顔面は桜井の胸に押し付けられていた。
410 :
2/7:2005/12/09(金) 20:15:04 ID:???
Look at ME!!
411 :
3/7:2005/12/09(金) 20:15:41 ID:???
夜 学校 宿直室
「ほぉ〜ら どう? 女の子の体は 柔らかいでしょ?」
「……」どうする? いいのかこのままやっちまって…
池田の心臓がどきんどきんと高鳴る。それは次第に大きくなっていった。
ここでやっちまったら正気に戻った桜井は教師をやめるなどと言い出しかねない…
桜井が池田の首筋をちろちろと舐め始めた。
(だめだもうこれ以上耐えられん残念! 帰る!)
池田は立ち上がった。そして次の瞬間ズボンの裾を桜井に引っ張られて倒れた。
「そうやってすぐ逃げる!」池田の顔面に桜井のお尻が押し付けられた。
「ほ〜ら ほ〜ら すぐに気持ちよくなるからね〜」チャックの下ろされる音が響く。
(もうダメ限界 これ以上我慢しろったって無理だ! なるようになれっ)
ところが桜井は無言のままで池田のチャックを上げた。そして池田に背を向けたまま
もそもそと部屋の角に移動すると頭から毛布をかぶった。
「もしかして…正気に戻った?」こくん。池田は脱力のあまり腰を抜かした。
「なんでぇ〜〜…」じゃあもう用もないみたいだし、帰るぜオレ、と池田は言った。
扉を開ける池田に桜井が声をかけた。もし池田君が我慢してくれなかったら私、教師を
やめなきゃならないところだった…
池田は気にすんなよ、と言って扉を閉めた。桜井はありがとう…と応えた。
一部始終を窓から覗く影に二人は気づかなかった。
412 :
4/7:2005/12/09(金) 20:16:23 ID:???
朝 学校
「フラれたぁ〜?」清水は嫌そうな顔で言った。桜井は顔を赤くしていた。
まあそういうわけでまたオレ達で面倒みることになったから…と池田は告げた。
清水は二人の間に流れる微妙な空気を察知した。
「ゆうべ…何かあったのですか?」
二人の反応はわかりやすいものだった。彼らは同時にぎくっと驚いた。
「……やっちゃったのですか?」清水は目を曲げて聞いた。
「ばっばかいうなよ! なっなあ」「そっそっ そうよね 私たち何にも…」
清水の額は寄る一方だった。
昼 学校 2-B 英語
宇田川の授業は相変わらずぼそぼそと続いていた。ほとんどの生徒は真面目に聞いていない。
授業のつまらなさだけからではなかった。池田秀一がノートをとっていた。しかも宇田川の授業で。
「頭打ったんじゃね〜の?」噂が耳に届くと池田は睨み付けた。途端に沈黙がクラスを支配する。
ぼそぼそと語りながら宇田川は横目でそれを見ていた。
昼 学校 職員室 会議中
まことに残念なことですが…先日の中間試験で不正行為がなされた疑いがあります。現在まだ
調査中ですので実名は伏せますが…事前にある教師がある生徒に問題を洩らしていたようなのです。
確かにその生徒の成績は他の科目に比べてその科目だけ極端に高くなっています。さらにこの生徒と
教師は不純な関係にあるとの噂もあり…調査の結果が出しだいしかるべき処置を…
413 :
5/7:2005/12/09(金) 20:17:29 ID:???
放課後 校舎裏 焼却炉前
生徒たちがほうきで校庭を掃く中、桜井はただ一人たたずんでいた。そこにゴミ箱をもった
清水がやって来た。桜井は清水にあやまった。迷惑ばかりかけてごめんなさい。昨夜はほんとに
なんにもなかったの。清水は聞いているのかいないのかゴミ箱を逆さにして中身を焼却炉に入れた。
さらに桜井は聞いた。ねえ…清水さん… 弱弱しい声の調子に清水は振り向いた。
宇田川先生ってなんであんなに池田君のこと敵視するのかしら…
芝生に二人は座っていた。
うちの高校の校則には髪の色に関する規定がありません というか私たちが入学した年度から
自由になったのです それで池田君は入学式の時… 何を勘違いしたのか…
「あの髪に染めてきたのです!」
「似合いもしないのに!」
「カッコイイと思っているのは自分だけなのに!」
そして宇田川先生は一目見て池田君を劣等生と決め付けてしまいました 校則の変更に最後まで
反対したのも宇田川先生だったと後で聞きました がんばっても宇田川先生は認めてはくれません
池田君もあの性格ですから溝は深くなる一方で…
「そんな確執が今まで続いてきたのです もう一年以上も!」
桜井は無言だった。清水が突然に聞いた。
「ところで先生 池田君のこと好きですか?」
「うん」うつむいたままの桜井は素直に答えてしまったことにハッと気がついてあわてて否定した。
「もももちろん生徒としてよ? へへへんな意味じゃなくて」清水は疑わしそうな顔だった。
「清水さんのことだって好きだし〜 他の生徒もみんな好きだし〜」清水は眉をひそめ続けた。
414 :
6/7:2005/12/09(金) 20:18:15 ID:???
放課後 校庭
あとからやってきた池田に清水は紙袋を手渡した。それは清水がここ一年で使ったノート全部だった。
「敵に塩を送るつもりかよ?」清水は勝ち誇った笑顔ではい!と応えた。
「塩不足でヨレヨレの人に勝ったところで…余計なお世話でしたら持って帰りますけど?」
池田はしばらく紙袋を眺め、借りる、と言った。
「あとで後悔すんじゃね〜ぞ」「ぜひ後悔させてくださいな」桜井はそんなふたりのやりとりを
見て表情を持ち直した。それで、池田は桜井に向き直った。「あんたの用って言うのは?」
「えーっとその 今日の職員会議で…ごめんなさいなんでもないの 勉強がんばってね…」
夜 桜井自宅
桜井は電気を消した部屋の中、布団の上でひざを抱えて座っていた。隣の部屋からニュース番組
の音が聞こえてくる。
もうこれ以上池田君たちに甘えられない… もうこれ以上池田君たちを巻き込んじゃいけない…
だってこれは私の…教師としての仕事だもの! あなたたちを見ていて勇気を得ることができました!
がんばって池田君! 私もがんばるから!
朝 校庭
「宇田川先生 お お話がありますっ!」
415 :
7/7:2005/12/09(金) 20:19:02 ID:???
朝 学校 相談室
「あの子は決して不正行為をする様な子じゃありません! ですからそっとしておいてあげて下さい!
池田君も今はやる気を出しているんですから!」
一気に言い切った桜井はハアハアと息を整えた。
「えらく御執心のようですなあ池田秀一に 何かありましたかな?」宇田川の返事に桜井は顔を赤くした。
「なっ何もありません 想像でおかしなことを言うのはやめてください!」
「…桜井先生…」宇田川は煙草を消した。
「プライバシーを守りたければ窓をちゃんと閉めた方がいいでしょう」
そう言うと宇田川はソファーから立ち上がった。
「特に学校の宿直室で生徒と逢引なさる時などは…もう少し用心なさってしかるべきかと…」
見られていた。
7話 おわり
あわわ
折角ちょっと桜井を見直したのに
桜井は教師辞めた方がいいんじゃないのか
正直、清水に萌える以外にどうしたら良いのやら分からん
あと宇田川キモイ
桜井ダメダメだな、ホント・・・
てゆーか池田が赤点ばっか取る理由がイマイチわからん。
劣等生って決め付けられたからってそれを実演してどうする。
ほんとわからん。
俺清水と結婚することにしましたッ!
422 :
1/12:2005/12/12(月) 21:30:36 ID:???
「やれやれ… あれほど不祥事を起こさないようにと注意したのに」宇田川はドアに手をかけた。
「まって下さい…」
桜井の声は震えていた。
「あれは… 悪いのは私で… 時々自分を抑えられなくなっちゃう時があって… その…」
彼女は振り返って言った。
「あの時は… 私が池田君を無理やり襲ってしまったんです!!」
宇田川は振り返らない。桜井の声は再び震えるような小声に戻った。
「池田君は被害者で… 罪はありません! ですから罰するなら私だけを…」
「それはそれは 私もあやかりたいものですな」
宇田川は出て行った。ドアを後ろ手にバタンと閉めた。靴音は次第に小さくなる。
あとには桜井が残された。
423 :
2/12:2005/12/12(月) 21:31:19 ID:???
Look at ME!!
424 :
3/12:2005/12/12(月) 21:31:57 ID:???
昼 学校 2-B 英語U
「え〜とこの文章は…」桜井は滞りなく授業を続けていた。それが清水には不自然に見えた。
彼女は振り返って池田に「ねえ 桜井先生…」と声をかけた。池田は驚いた顔をしていた。
「…何か?」「なっ 何でもね〜よ」池田は平静を装った。まさか授業中に清水の後姿を眺めていて
突然振り返った彼女と目が合ってしまい驚いたのだとは言えなかった。
清水は気にせずに続けた。「桜井先生 様子がおかしくありません? 一見明るそうに
見えるけど… なんだか心がここにないみたい…」
「けっ ど〜せまた宇田川にいびられたとか言うんだろ〜さ」
放課後 校庭
「大丈夫 大丈夫! なんにも問題ありません!」桜井は明るい笑顔で答えた。
「ほんとかよ? どうもあやしいぜ なんか隠してんじゃね〜のか」
「大丈夫だってば 心配してくれてありがとう でも先生は平気だから…
あなた達は勉強に専念して下さいな 実力テストもうすぐですものね」
池田はかばんを担いだ。
「…今さら遠慮なんかすんなよ 切れそうになったら電話するんだぞ!」
「はい!」桜井は元気に答えた。桜井は帰宅する二人を見た。校庭をチャイムの音が満たす。
キンコーン。
夜 公園
人影のない公園。数少ない照明。その光の中にブランコはあった。
桜井はそこに座っていた。ぎいっ ぎいっ ぎいっ ぎいっ
無言のまま、下を向いて、彼女はゆっくりと、静かに、ブランコをこぎ続けた。
どれだけの時がすぎたのか、彼女は足を止めた。彼女は前を向いた。目が吊り上がっていた。
「………」
独り言にしては大きすぎる声だった。
「あやからせてやろうじゃないの!!」
425 :
3/12:2005/12/12(月) 21:32:47 ID:???
朝 学校 実力試験 一日目
教室は試験前に喧騒に満ちていた。ざわざわざわざわざわ
清水は池田の席を見た。ざわざわ
まだ登校していない。 ざわ
職員室に教師は誰もいない。いや、いた。桜井和代であった。彼女はゆっくりと
ブラウスの第一ボタンを外し始めた。ぷち…
校舎に入ろうとする池田を待ち構える影があった。宇田川であった。彼は腕を組んでいた。
ぱさっ 桜井はブラウスを脱いだ。ブラジャーのホックを外した。ぽとっ
もうすぐで試験開始ですよ、はやく席について下さい、そういう意味のチャイムが鳴り始めた。
宇田川は池田を呼び止め話しかけた。キンコーン カンコーン
池田の顔色が見るみるうちに変化して行く。キンコーン
桜井はショーツを脱いだ。カンコーン 床に落とす。ぽとっ
「ですから試験が終わっても帰らないように 放課後事情聴取を行いますから」
宇田川は告げた。
「容疑は宿直室で行われた桜井教諭との淫らな行為についてです」
池田の顔面は蒼白だった。
「これでついにあなたの高校生活もおしまいですね」
ちゃっ 桜井は眼鏡を外した。
ばさっ 桜井は髪を下ろした。
彼女はしばらくたたずんで… 振り返って… にっ…と笑った!
426 :
5/12:2005/12/12(月) 21:33:56 ID:???
教室のドアが開かれ池田が入ってきた。
「遅いです池田君」清水が言った。「試験をボイコットする気かと思いました」
池田は応えられない。「…何かあったのですか?」「……何でもねえ!」
何でもないわけがなかった。池田の顔はかつてないほどに暗かった。
宇田川は職員室のドアを開けた。宇多川は誰かがいることに気がついた。
だがその相手は彼の予想をはるかに超えていた。
「うははははははは… けっこう仮面参上〜〜〜!!」
全裸だった。両手を大きく広げていた。首にはストッキングを巻いていた。
足にはハイヒールを履いていた。どうみても桜井教諭だった。
「さ… 桜井先生?」宇田川はあまりのことに呆然としていた。
2-Bの教室は相変わらずざわざわと喧騒に満ちていたが、その種類が変わりはじめて
いた。来る筈の宇田川が来ないのだ。
「ちょっと先生を呼びに行ってきます」清水が出て行った。池田は「あ ああ」と応えた。
清水は「失礼します」と断って職員室に入った。誰もいない。床には女性ものの服が一式落ちていた。
まるで歩きながら脱いだように並んでいた。「桜井先生!」清水は叫んだ。
427 :
6/12:2005/12/12(月) 21:34:33 ID:???
校庭の端っこをずるずると進む影が二つあった。ひとつは桜井、いやけっこう仮面。もうひとつは
それに引きずられる宇田川教諭であった。
「はっ 離せっ 離しなさい桜井先生!」声が震えていた。
「私はけっこう仮面だってば おとなしくしてないと大声だすわよ」桜井は鼻息を荒くして応えた。
「こんなところ生徒達に見られたくないでしょ?」宇田川は黙った。
ついに校舎のほとんどの窓が見渡せる位置に来た。向こうからも見えるということだった。
「よっ よしなさい桜井先生 こんなことをしてただで済むと思ってるんですか」
桜井は宇田川に馬乗りした。前後は逆であった。そして彼のベルトを外し始めた。
「あなたは教育者なんですよ」桜井はベルトを外し終えてから答えた。
「だって私 教師やめさせられちゃうんでしょ? だったらもう何したって同じじゃない」
「…では何をするつもりです」
宇田川が横転した。桜井がズボンを脱がしたのだった。
「宿直室で池田君にしたのと同じこと」
桜井はにんまりと笑っていた。
「な なんてハレンチな」
宇田川は四つんばいになって逃げようとした。
「そ〜 そ〜 池田君もそうやって逃げ回ったわよ」
桜井は宇田川の背中を踏みつぶした。
「男っていざとなると弱腰なんだから」桜井は宇田川のブリーフを脱がした。
「えいっ!」
「よっ 読めたぞ」
下半身を丸見えにされ、かえって冷静になったのか宇田川は言った。
「私を裸にしておいて人を呼ぶと脅迫し… 自分のことを黙っているように迫るつもりだろう?」
桜井は腰に手をあてて彼を見下ろしていた。颯爽とした表情だった。
「しかしな! 自分も裸だということを忘れているぞっ! ははっ 今人を呼べば自滅だな!」
桜井は「にっ」と笑い、首のストッキングを解き、宇田川の顔にかぶせ、彼を蹴り倒し、
胸を踏みけたまま、地面に仰向けにさせると、校舎の窓を振り仰ぎ、見事な発音で叫んだ。
428 :
7/12:2005/12/12(月) 21:35:35 ID:2YUlZovf
「 L o o k a t M E ! ! 」
429 :
8/12:2005/12/12(月) 21:36:11 ID:???
窓際の生徒たちはすぐに気づいた。生徒達は次々と席を立ち窓にむらがった。彼らは仰天した。
校庭に全裸の女性がいる。男を踏みつけて、手にパンストをつかんでいる。その根元は男の顔に
かぶせてある。ざわめきが校舎全体を満たすのに長い時間はかからなかった。あっという間に
生徒たちのそれは波となった。
わぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
それは歓声だった。桜井は笑顔で手を振り応えていた。宇田川はパンストに顔を包まれたまま呆然としていた。
桜井が振り返った。
「さあ! この場で素顔をさらされたくなかったら! もうこれ以上池田君をいじめないと誓いなさい!」
一瞬の沈黙。
「……誓う」宇田川は答えた。
歓声の続く中、全裸の痴女は手を振り「Good bye!!」と告げ校庭から全裸のままで立ち去った。
パンスト男も後をついていく。パンストをかぶったまま、ズボンとベルトとブリーフを両手に抱えて。
その背後をカメラに収める姿があった。加藤である。彼女はいち早く飛び出していた。つぎにようやく
教師達が校舎を飛び出したが、遅かった。加藤を止めるのが関の山である。その中に池田と清水もいた。
清水は両手に桜井の衣服を抱えている。
430 :
9/12:2005/12/12(月) 21:36:49 ID:???
桜井と宇田川は公園まで逃げた。息をつきながら宇田川はズボンを穿いた。
「…身を挺して生徒を守る熱血先生ですか 私はすっかり悪者にされてしまいましたな」
宇田川はネクタイを調えながら続けた。
「いやその情熱がうらやましいですよ 私だって教師になりたての頃は希望に燃えていたものです
でもね これから毎年毎年! 何十年も同じことを繰り返していかねばならんのです しかも
生徒ときたら年々愚かに 年々粗暴になっていく一方だ… こんな状況で情熱を持ち続けられる
人なんていませんよ あなただって今に思い知らされる時が来るはずです」
「情けない言い訳しないでよね!」
桜井は両手を腰に当てて言った。
「はずかしくないの! そんな言い訳で自分を正当化してさ!」
桜井は言いながら後ろに体を移動させた。
「池田君や私をいじめてたのも若い人を見てると不安になるからでしょ いい迷惑だわ」
桜井はガサガサと音を立てながら植え込みの後ろに体を隠した。首だけを出して続ける。
「私は決して情熱を失ったりはしませんからね! 憧れてなった教師ですもの! 絶対退屈なんか
してたまるものですか!」
「正気に戻られたようですな…」宇田川は手を後ろに組んで言った。
「はい…」桜井は顔を赤らめた。
「……あなたは今自分が置かれている立場を理解しているのですかな?」
宇田川は眼鏡を指でぐいと押し上げた。横目で桜井を見る。
「このまま私が学校に戻ってあなたのことを報告すれば…」
「…覚悟はできてます…」桜井が目を伏せて応えた。
宇多川は桜井を見た。ある光景が思い出された。
生徒たちに着任の挨拶をする新任教師の姿だった。
その教師は緊張しながらも目は希望に輝いていた。
宇田川純一郎。
431 :
10/12:2005/12/12(月) 21:37:54 ID:???
もし校庭の痴女が桜井先生だとわかったら一緒にいたストッキング男は誰かということになる。
それは困ります。ですから悪者の私としては自己保身のためにも…けっこう仮面には謎の人であって
もらわねばなりません。おそらく校舎からは遠すぎてあれが誰なのかはわからなかったでしょう。
私と桜井先生は侵入者を追いかけたけど見失ったということにします。
「宇田川先生……」
「いじわるな私は今後もあなたの監視を続けますよ さきほどあなたが切った啖呵が間違っていると
確認するためにも… いいですね 桜井先生」
「はい!」
宇田川が公園から学校へと続く坂を上っていると、学校の方角から池田と清水が走ってきた。
すれちがいざまに宇田川は「そのの公園の植え込みの中」と告げた。ふたりは釈然としない
表情で、後ろ手に軽い調子で歩く宇多川を見た。
────こうして「変態カップル乱入事件」はうやむやのうちに迷宮入りとなった
けっこう仮面と桜井とを結びつけて考える奴も誰もいなかった いいかげんなもんだ!
当日のテストも時間をずらしてそのまま行われた 事件で延期になると期待していた奴らは不平たらたらだ
ただ 予定がずれたせいで放課後のオレへの「事情聴取」は延期された 期日は未定… いまだに事情聴取は
行われる気配もない… いいかげんなもんだ!
432 :
11/12:2005/12/12(月) 21:38:22 ID:???
号外 けっこう仮面校庭でSMショー 謎のパンスト男も共演
どお? あのあともう一度宇田川先生の所に嘆願に行ったらさ あっさりOKしてくれたのよ!
お土産に持っていった「パンスト男」のアップの写真がよかったのかなあ! 顔とお尻が鮮明に
写っているやつ! かわりにネガごと取り上げられちゃったけど! あはは〜
実力試験 成績発表
二年
1 2-B 池田 秀一
2 2-B 清水 まり
3 2-D 井上 明
4 2-A 塚本 祐子
ざわめきが周囲を満たしていた。
「ありゃ! トップ取っちまった!」
さすがに池田は驚いた。
「悪りぃなあ! 一年間も遊んでた奴が勝っちまってさ!」
笑顔で振り返り清水を見た。目が据わっていた。閉められたままの口元からつぶやきが漏れる。
「うふふふふふふっふふふふっふ」彼女は池田ににじり寄っていった。後ずさりながら池田が
おい清水、と戸惑った声を出した。清水は池田の首に手を回し、唇を、ぶちゅ!!と重ねた。
周囲の同級生たちは、おおっ!!と仰天した。あまりのことに場を沈黙が支配した。ちゅぽん、と
音を立てて唇が離れる。清水はうふふふふとつぶやきながら、肩をいからせて、去っていった。
あとにはざわめく同級生たちと呆然とする池田が残された。
433 :
12/12:2005/12/12(月) 21:39:00 ID:???
それからもうひとつ あのドタバタで桜井の露出狂も治っちまったそうだ 全校生徒に
ストリップを見てもらって満足しちまったんだとか… まったくいいかげんな────
「残念そうね池田君 もう先生のストリップが見れなくて」
「あ──? 別に残念なんかじゃ」「変わりに私がやりましょうか? ストリップを?」
池田の心臓がどきんと跳ねた。
「試験の成績で私を抜いた御ホウビもまだですし…… もちろん私でよければですけど」
「マ…マジ?」
「ええマジです」
「ちょちょっと待ってよ二人とも! 私も一応教師なんだからそういう話を見過すわけには…」
清水がキッと桜井に目を向けた。「わ」桜井は思わずびびった。清水の目は動かない。
桜井はあせった。
「え〜とあのっ 私別にその…」どっどうしよう 教師として不純異性交遊を黙認するわけにも
いかないし…… かといって口出しできる立場でもないし… えーとえーと
「あ…」
桜井は頭がくらくらして来た。
「切れそう…」
「こら」
池田が思わず声を出した。
「しっかりしろよ先生!」
「だ 大丈夫大丈夫…」
「先生っ!」
Look at ME!! おわり
434 :
13/12:2005/12/13(火) 00:43:37 ID:???
「 L o o k a t M E ! ! 」
最初はわけわからん話だって思ってたけど、
結構うまくまとまるもんだな。
ハッピーエンドで爽やかな最後だ。
なにこの爽やか青春アミーゴ
エ、コレデオワリ?
なんかのギャグっすか
宇田川も本当はいい教師でしたってか?
なんかなぁ……
全体的に見ると連載スレやるほどの内容じゃなかったなあ。
あらすじ書きさんは詳しいあらすじおつでした。
とりあえず読後感はいいな
昨今の教師の質の低下や学校のあり方を鋭くえぐる
衝撃の社会派マンガ……だったのかもしれない。
外伝 清水さんの御ホウビ …とゆううつ
清水まりが指先を動かすとカチリと音を立ててラジカセから音楽が流れ始めた。♪〜
彼女はコホンと咳をした。「それでは 御ホウビのストリップを始めます」いつもの公園。夜だった。
♪〜♪〜 音楽にあわせてゆっくりとスカートの紐を解く清水。それをベンチに座って
眺めながら見ている池田の心臓は早鐘のように打ち鳴らされていた。どきどきどき ♪〜
(ちゃんと風呂にも入ってきた! 新品のパンツもはいてきた! 避妊具もしっかり買ってある!)
彼の目は期待に燃えていた。♪〜
(もしここじゃいやだと言われたらホテルに入る金も用意してある 完璧だぜ!)
清水がスカートをばさっと翻した。装飾の入ったショーツが姿を見せる。♪〜
どきどきどきどきどき 次のアクションに池田は期待した。音楽が鳴り続ける。♪〜♪〜
清水は池田に背を向けた。「はい!今回はここまで!」
「へ?」
「次のテストでまた私を抜くことが出来たならもう一枚脱ぎます 一回のテストで一枚ずつ…」
彼女は手早くスカートを着用した。
「最後までいくのは来年の秋くらいでしょうか? 冬場は衣服も増えますし…」
池田は呆然としていた。
「ではおやすみなさい」清水はラジカセを持って帰っていった。
「なんだそれ〜〜〜〜!!!」池田は悲痛な叫び声を上げた。
ちゃぽん、と音を立てて清水は湯船に浸かった。「ふ〜」思わず声が出た。
池田君が学生でいる間は桜井先生も手出しできないはず だから卒業するまでが勝負です!
卒業するまでには… 池田君と…
ざばぁと音を立てて清水は湯船から上がった。バスタオルで体を拭きながら彼女は考えた。
そうなってしまえば… 桜井先生も もう… でも…
鏡で自分の体を見て彼女は言った。「来年の秋までに… 少しは大きくなってるかしら?」
くちゅん! 桜井は自分のくしゃみで目を覚ました。「はひ?」
おしまい
まとめ方がくるしい気もするが
>>442のおかげで読後感は悪くないな。
とはいえ正直、同じ作者ってことで期待しすぎたかな。
ところで
>>251みたいなのはあるのかな。
清水が可愛すぎるんですがハァハァ
今更だいらんどを読み返してみた。
3話で、ジャックが地面に吸い込まれるシーンがあるのに気づいた。
すげー、こんなところから伏線張ってたのか。
この作者の漫画は、他もそうだけど、明確な着地点が見えないまんま進むから予想しにくいんだよな。
だいらんども、夜の国を目指すって決まるまではつかみ所のない話だったし……
どの漫画も、終わって振り返れば計算ずくの展開なんだけど、綺麗な起承転結より、もっとひねった形で話が進む。
最終回へ向けての盛り上がりとかがないからな……そこが難しかったかも。
で、まだ半分以上スレが残ってるわけだが、どうする?
背後霊24時をやれば、多分ちょうど埋まるくらいに完結するかもしんない。
世界観がはっきりしてて謎もわかりやすくキャラも立ってるから、それなりに語りやすい話ではあると思う。
全32話+おまけ。1話あらすじ4レスとして、1話につき平均10レスいけば450レス程度。
それでいいと思う
全32話か。今度はわりと長めだね。
Look at meは正直あんまり好みではなかったが、
だいらんど的な話を期待してしまったせいも
あるんだろうな。
というか、守備範囲の広い作者だな。
メルヘンも書くしエロ漫画も書くらしいからなぁ。守備範囲広すぎだ。
場面ごとに分けて、ネチネチした宇田川のセリフだけ
抜き出したりするあらすじもなかなかよかったと思う。あらすじさん乙でした。
で、背後霊をやるとして次のあらすじは?
>447はできるのかな。できればお願いしたいが。
451 :
447:2005/12/18(日) 00:05:07 ID:???
ごめん。
偉そうに言っときながら、本棚を整理したときに間違えて売っ払っちゃったらしく、手元に単行本ないんだ。
だいらんどの話をするスレでもいいんだよな?
>>443というわけで抜き出しました。
あとがきではありませんが第1話と2話の間に載ってました。
番組の途中ですがごあいさつです。
どもども、がぁさんです。「Look at ME!!」をお買い上げ頂き、ありがとうございます!
本書は私の三冊目の単行本です。前の二冊は18禁マークつき。
でも、裸の出てくるコマはこっちの方が多いかもしれません。あう・・・・。
この作品、作者は苦しみ、のたうちまわりながら描きました。
それでも、苦しんで描いたキャラクターほど思い入れは深くなるもの。
池田君、清水さん、桜井先生、加藤さん、
それぞれのこだわりや思いを、感じ取って頂ければ幸いです。
永井豪先生、勝手にキャラクター名を使ってしまって申し訳ありませんでした。
(以下、関係者への礼が続く)
そして、最後になりましたが。読者の皆様、応援して下さってありがとうございます!
また次回作でお会いしましょう。ではっ!!
1995年12月 がぁさん☆
それでは引き続き番組をお楽しみ下さい。
なんか優しい気持ちになるな
加藤ってメインキャラ扱いだったのか・・・
番組の途中ですが名無しです
とナチュラルに読んでた自分にorz
宇田川にはこだわりや思いがないってことか。
そういや第1話では名前も出てなかったっけ。
もしかして、元は宇田川と対決する話じゃなかったのかもな。
永井豪?
459 :
447:2006/01/03(火) 18:22:25 ID:???
背後霊、また読みたくなったのでamazonに注文してみた。
気が向いたらあらすじやる。
\L o o k a t M E ! !/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧
(; ゚ ∀゚ )
______/| ヽ l ヽ______
(∋ / v \| ヽ ∈)
 ̄ ̄ ̄ ̄| / 。 l 。 人 | ̄ ̄ ̄
/ / ヽ ー - / \\
/ / | | | \ヽ
/ / ヽ | \
// / | \
/ | つ \ \ヽ
/ / /ωヽ \ | |
../ / / \ \ | |
/ / / \ \ .| |
| ( く ) ) | |
| \ \ ./ / | |
| \ \____/ /. | /
| _――-\ \ / /-――___| /
|/ ⊂⌒__) (__⌒つ |/
>>459 お好きにどうぞ。
2作目の教訓は「期待しすぎないこと」だな。
462 :
マロン名無しさん:2006/01/05(木) 16:53:50 ID:0hhwHKWm
保守あげ。俺は面白かったけどなあ。
このまま落ちるのか?
他作品は微妙だしなあ。
ここまできたら短編用にすることもできないし。
考えが足りなかった気がしなくも無いが、
十分に役割を果せただろう、このスレは。
466 :
マロン名無しさん:2006/01/17(火) 00:27:47 ID:lun6MtK1
だいらんどもLook at Me!も楽しめたよ。
まったく知らないマンガを知れてよかったし。
作品がまあまあでも感謝の気持ちはあるね。
俺がぁさんの本一冊も読んだことないんだけど
お蔭でというかなんというか脳内清水がえらく可愛いことになってる
469 :
マロン名無しさん:2006/01/18(水) 22:26:47 ID:fJ2wM5Wn
清水はほんとにいい子ですね
だいらんどで終わってれば
だいらんどの話題がぽつぽつ来てたのかな。
別に今からでもすりゃいいじゃん
473 :
447:2006/01/20(金) 20:11:36 ID:???
「背後霊24時!」が入手できた。ので、あらすじ書いてみてる。
始めようと思えばすぐにでも連載始められるけど、始めちゃおうか?
それともだいらんどとか語るためにインターバル置いた方がいい?
全然はじめてくれていい。
背後霊は途中まで読んでたから参加したいな。
待ってる
これはどういう慶の話だろうな
楽しみだ
478 :
417:2006/01/21(土) 22:26:16 ID:???
了解。では明日0時より連載開始します。
……うまく盛り上げられるといいなあ。がんばる。
480 :
1/3:2006/01/22(日) 00:05:21 ID:???
わたしは――
化石になりたい。
第1話「ラッキー!?」
僕は幽霊とか死後の世界とかは信じない。人間死んだらそれっきり……そう思っていた。
だから……死んでみて驚いたのなんのって!!
僕は空に浮かび、ゆっくりと上昇していた。
頭には天使の輪っか。背中には翼。服は死んだときのパジャマのまま。
そーっと下を見ると、街が豆粒のようだ。
戸惑っていると、やがて頭が何かをすり抜けた。……床?
見回すとそこは、病院の待合室みたいな場所だった。ひしめいてる人たちは皆、頭に輪っか。
話し好きのおじいちゃんに生きてた頃の満州の話を聞かされたりしながら、しばらくすると、アナウンスが響いた。
『金子まさる様、金子まさる様。第3面接室へおいで下さい』
面接室におそるおそる足を踏み入れると、そこには事務机に向かってる女の人。
立派な羽根。ウェーブした髪。柔らかそうなローブ。気品ある顔立ち、そして煙草。
一点を除いては、ステレオタイプな天使様だ……ここ、天国かなんかかな?
「天国は今満員だよ! もちろん地獄もね!」
天使様は不機嫌そうに椅子にもたれかかった。
「だいたい今、地球に何人いると思ってんだ? 6,072,447,013人だぜ!? 毎日何万人ずつ死んでると思う!?
そりゃ神様だってこんなになるとは予想してなかったわな。それをさばかにゃならんこっちの身にもなってほしいね」
天使様は僕のカルテ(?)を読み上げた。金子まさる16才、死因は……ふーん。
481 :
2/3:2006/01/22(日) 00:05:57 ID:???
さて、と天使様は僕に選択肢を突きつけた。
天国にしても地獄にしても空きが出来るまでは数ヶ月待つ、その期間の過ごし方。
ひとつ、浮遊霊。ふたつ、背後霊。みっつ、寿命が数ヶ月の虫かなんかへの転生。
浮遊霊が気楽そうだと思ったけど、大半は二度と戻ってこないで、そのままスゥ〜……らしい。
……僕は即断した。背後霊にします!
書類にハンコを押して、天使様は言った。
もともと背後霊は、祖先から選ばれ、本来は生きてる人間全員についてるはず。
けど、今の人口は60億。百年前は15億、千年前は2億しかいなかった。祖先を総動員しても足りやしない。
しかも祖先霊の多くは地獄にいたり転生してたりで使い物にならない。
結果、地上は背後霊のいない人間でいっぱいなんだって。
「そういう奴はまたなにかとトラブルを起こしやがる! バイト使ってでも面倒みてやらなきゃならなくてね!」
そう言って、天使様は側にあるハンガー(?)をちらり。そこに引っかかってる無数のフックからひとつを無造作に選び、
「いいか? 一時的にとはいえ他人様の人生を左右するんだ! 責任感を持てよ!?」
お前自身の評価にもつながるからな、とフックを僕の襟に引っかける。
「ほんじゃ……Good Luck!」
天使様がフックから手を離した瞬間、
ギュンッ!! フックに繋がった糸が僕を地上へと引っ張っていった!
「時間がきたら迎えに行くからな〜!」
そんな天使様の声が、最後に、聞こえた。
後ろ向きにフックに引っ張られ、地上に落ちていく。やたら時間がかかる。
だんだん慣れて、けっこうアバウトなもんなんだなぁ……なんて思う余裕が出てきた時。
――地上の瓦屋根が目前に迫ってきた!
思わず悲鳴を上げながら、屋根を、梁を、天井を、突き抜ける!
きつく瞑っていた目を開くと、僕は、ゆったりと宙に浮いていた。
暗い部屋の中。目の前には、コタツで物を書いている女の人。
長い髪をゆるく束ねて、眼鏡をかけている。しかも、大人。うわ〜、ラッキー!
……いや、そんな不謹慎なこと考えちゃダメなのか。
482 :
3/3:2006/01/22(日) 00:06:39 ID:???
女の人は立ち上がった。すると僕の体もその動きに引っ張られる。背後霊だからか。
向かったのは風呂場だった……女の人は着ている物を脱ぎはじめた!
責任ある立場なんだと自分に言い聞かせても、僕はやっぱり興味を抑えられない。
背後霊とはいえど、背後から動くこともできるらしい。女の人の前に回って、バスタブに身を横たえる女の人の裸を眺めてみた。
なんつーか……大人だな、実に……。
僕がこんな大人の人の面倒を見るなんて、信じられなかった。
女の人は、おもむろにバスタブから起きあがった。そして風呂場の道具棚からカミソリを取り出す。
ムダ毛の処理かと思ってどきどきしてみたけど……様子がおかしい。
女の人はカミソリを、手首にあてがったんだ!
ちょ、ちょっ……わ〜!? 着任早々バイト先に死なれたら、僕の立場が!
右往左往する内に、僕は思い当たった。マニュアル! 慌ててページをめくる。
【はじめに このマニュアルを手にした皆さんは背後霊というとどのような……】違う!
【背後霊の心得 まず最初にお話ししておきたいことは決して……】違う〜っ!!
そうしているうちにも、女の人はカミソリに力を込め――
――すぐに思い直して、カミソリを置いて風呂から上がった。
背後霊の心得をよく読むと、
【……決して焦ってはいけないということです。】
僕はマニュアルを放り投げた。
女の人は、布団の中で眠りについた。
それを見守りながら、僕は寝ることもできず、ただ空中にあぐらをかいた。
気分は沈んでいた。コタツで女の人が物を書いていた紙を見て、僕はげんなりしてたんだ。
だって……
その紙には「遺書」って書いてあったんだもの。
――迎えが来るまで……数ヶ月……数ヶ月……。
大人の女の裸テラウラヤマシス!
なんか結構ヘヴィな展開だな。
てかまさる未練なさすぎだろ。もうちょっと慌てろよなー
だいらんどでも「死」を描いてたけど、今回も通じるものがあるな。
まさるの過去についても、正みたいに一捻りあるのかな?
「服は死んだときのパジャマのまま」、とあるから病死かなにか?
病死だったらもっと人生を儚んだりしそうだけどな。
死んだらそれっきりと思いながら、それでもいいと思って死んだっぽいってことは、
自殺とかじゃないか?
背後霊不足か、おもしろい発想だな
これはなかなか期待できそうだね。
なんかありえそうだな。<自殺
バイト先の女性を見てる内にもっと生きれば良かったと思うようになるとか。
そっちもいきなり自殺しそうだったけど。
自殺しそうな女の人が変わっていく中で、まさるも変わってくんだろ。
……つっても、まさる、現段階でもそんなに暗くないけど。
最初に「化石になりたい」って言ってるの、この女の人だよな。
どういう意味だろ。自殺と化石がどう関わってくるんだ?
492 :
1/2:2006/01/24(火) 00:00:15 ID:???
第2話「エ…エ…エッチ!?」
この女の人についてわかっていること……
年齢不詳。たぶん20台中頃。氏名不詳。低血圧らしいこと。
家族はいないのか旅行中なのか、一軒家に一人暮らしらしいこと。
コタツの遺書や本棚に並ぶ自殺関連の本から、死にたいと思っていること。
顔はジミだけど美人……かな? スタイルは……いいよなあ。男……いるのかな?
女の人は起き抜けに、天井から首の位置まで吊り下がったロープの輪を見つめた。
僕は大あわてで『やめなさい』と呼びかけた。でも女の人に声は届かない。
やがて彼女は自分で死ぬのをやめ、飼ってる猫のベスに、ごはんをあげた。
この部屋にはひとつ、変なドアがあった。やたら煤けてて、ノブはチェーンで封鎖されている。
その開かずの間(?)に向かって、女の人は呟いた。
「ごめんなさい、お母さん……まだひとつだけ……やりたい事が残っているんです。だから……」
お母さんってどういうことかは分からないけど、どうやらすぐ死ぬつもりはないみたい。
その“やりたい事”が何なのか分かればもしかして……自殺を防ぐことができるかもしれない。
僕は決意した。
――現状を把握して、この人を生き延びさせないと! 天使様が迎えに来てくれるまでは!
料理を始める女の人の背後で、マニュアルを熟読してみた。
【背後霊の使命は、宿主の生活を見守り物事が円滑に運ぶよう手助けをする事にあります。
では、具体的に宿主を操るにはどうするのでしょうか?
耳元でいくらどなってみた所で聞こえはしません。初心者が犯しやすいミスです】………。
【背後霊にはそれぞれ得物が与えられています】得物?【右手を見てみましょう】
見てみると、そこには――いつの間にか、ハリセンが握られていた!
【それを持って伝えたい言葉を一心に念じながら宿主の頭を叩いてみましょう】
ちょうどあつらえ向きに、女の人はコンロのめだまやきが焦げてるのに気づいてない。
『めだまやき! めだまやきめだまやきっ!!』
ハリセンで女の人の頭を何度も叩くと、ぼーっとしてた女の人が、めだまやきに気づき、火をとめた。……伝わった!
ちなみに、修行を積んだ背後霊なら刀や錫を使いこなすけど、初心者はハリセンで十分だってさ……。
でも、なんか背後霊っぽくなってきたじゃん!
493 :
2/2:2006/01/24(火) 00:01:04 ID:???
ハリセンで女の人を叩きながら、僕は叫んだ。
『名前は!? なぜ死にたいの!? “やりたい事”って何!?』
でも女の人は無反応。やっぱ質問を直接ぶつけてもダメみたいだ。でも……閃いた。
『自分の名前を書いてみたくなる! 名前を書いてみたくなる!』
ハリセンで叩きまくると、女の人がコップの水で、コタツに「みちよ」と書いた。
僕は嬉しくなって、その頭をなでてやった。みちよちゃんっていうんだね、君!
俄然調子を取り戻して、僕は続いてみちよちゃんをハリセンで叩いた。
『“死ぬ前にやりたい事”をやってみたくなる!』
けど、途中で我に返る。……これはやらしちゃったらダメなんじゃないか?
そう思っていると、みちよちゃんがコタツにうずくまって、押し殺した声を断続的に立て始めた。
叩きすぎたかと思ったけど、違うみたい。みちよちゃんは……その……
……ひとりエッチをしていたんだ。
「処女のまま……死ぬのはやだ……一度でいいからエッチがしたい……」
エ……エ……エッチ!? 僕は顔が赤くなるのを感じた。
ととと、ということは彼氏を見つけてあげればいいのか?
いいいや逆だ! 死なせないためには処女のままでいてもらわなきゃならないわけで……。
混乱しているうちに、みちよちゃんは体を大きくのけぞらせ、やがて脱力した。
女の人も、終わった後は落ち込むようだ。なんか納得していると、
「やっぱ死のう!」――待った待った!
みちよちゃんは大量の錠剤を用意しはじめた! 必死でハリセンで叩いても止まらない!
相手にしてくれる人なんていない、というみちよちゃんの自虐的な独り言に対して、僕は褒めことばを並べ立てて元気づけた。
でもみちよちゃんは「早く死ななきゃ」と、大量の薬を飲み込もうとする……!
なーご。
コタツに近づいて一声鳴いたのは、ベスだった。
みちよちゃんは驚いたような顔でベスを見た。そしてベスを抱き上げて、
「お前を独りぼっちにはできないよね……ごめんなさい……」
思いとどまった……のかな?
僕は安堵の溜息をついた。でも猫に助けられてしまった……
自分の情けなさを噛みしめている僕。
――そんな僕を、ベスは静かに見ていているようにも見えた。
家から全然出ないな。
このまま家の中だけで話が進んでくのかな?
それにしても開かずの間って……幽霊屋敷?
彼氏ができりゃ死ぬ気なんざなくなるだろうな。
どうでもいいけどまさるも童貞なんじゃないだろうか。
死んじまったよ…
みちよちゃんはなぜ死にたいんだろうな
そういえばまさる、16歳だよな?
で、みちよちゃんは20台中頃。
10近く上の女の人を「ちゃん」づけってのもすごいよな。
みちよちゃん仕事はしてないのかな。
しかし一方通行な話だ。みちよちゃんとコミュニケーションはとれないものか。
それともそれは背後霊として行き過ぎだことなのかな。
499 :
1/2:2006/01/26(木) 00:39:19 ID:???
第3話「なんかいる!」
一粒の錠剤を飲むみちよちゃんの後ろで、緊張してハリセンを構えた。
でも、今度は自殺じゃないみたいだ。僕は胸をなで下ろした。
……この人の背後霊になってまだ半日だけど、1週間ぐらい経った気がする。
つーか、自分が死んでからまだ半日なんだよな。忘れてたけど! ……忘れるか、フツー。
本来ならもっとこう、生涯を振り返ってしみじみしたりとかしてもいいんじゃないのか!?
こんな見ず知らずのね〜ちゃんの家で何やってんだ? と思うと、なんかムカついてきた。
今からでもしみじみしてやる! と16年の生涯を思い返した僕は――
『……なんにもなかったなあ』
しみじみした。
みちよちゃんが、「痛い」と呟いた。かざした手には、血がついている!
慌ててマニュアルをめくる僕だけど、みちよちゃんは平然と立ち上がって、棚から何かを出す。
そういうことか、と僕は察した。……辛いんだ、生理痛。
【宿主が病気や怪我で苦しんでいる場合、痛いところを手でさすってあげましょう】
とマニュアルには書いてあった。マジかい!
横になったみちよちゃんのお腹からは、触れないけど、温かさは伝わってくる。
ふと、部屋を見回した。
ところどころ壁紙が剥がれてる。あちこちがすすで汚れて、特に天井はひどい。焦げてるみたいだ。
みちよちゃん、一日中この部屋にこもってんのかなあ……
そりゃ気分も滅入るよな、「開かずの間」なんかあるし。
……自分の経験から言っても……よくないよなあ。
元気になったら外に連れ出してみようか、と思ったそのとき、僕の手を何かが噛んだ。
手をお腹から引き揚げると、指には、なんか黒いススワタリみたいなのが噛みついていた。
しかも群体。大量のそいつらが、みちよちゃんのお腹から顔を出している。
……マズいんじゃないすか、これ!?
500 :
2/2:2006/01/26(木) 00:40:08 ID:???
マニュアルをあたると、
【背後霊を持たない人は悪霊や物の怪の格好の標的となります。
人間に取りついた物の怪は体内にもぐり込み、様々な霊障(注:怪我や体の不調など)をもたらします。
これらの雑霊を取り除くのも背後霊の大切な仕事なのです】
……とのこと。
僕は雑霊を掴み、みちよちゃんのお腹から引きずり出しはじめた。
引っ張っても引っ張っても、雑霊は出てくる。
ずるずるずるずるずるずるずるずる、ずるんっ。
最終的に、一畳を埋め尽くすほどの雑霊が出てきた。体の中に何飼ってんですか、みちよさんっ!!
すると雑霊の一匹が、キーキー唸って、僕に襲いかかってきた!
思わず悲鳴を上げてハリセンを振るうと――雑霊は、あっけなく潰れて滅びた。
ハリセンを構え、残りの雑霊に雄叫びひとつ。すると、波が引くように雑霊たちが逃げていった!
僕はそいつらを追いかけて叩きつぶす。思わず笑いが漏れる。
強いぞ背後霊! さすが天から任命されてるだけのことはある! 無敵じゃん!
高笑いしながら雑霊たちを始末していると、やつらは「開かずの間」に逃げ込んでいった。
なんの! 背後霊は壁だって――
――僕は、固まった。
開かずの間の奥から――デカい化け物が、こちらを見ていた。
怖気のする深い闇のような体に、目玉だけがぎらぎらと光っていた。
たまらず僕は開かずの間から逃げ出した。聞こえなくても、みちよちゃんに化け物のことを訴えずにはいられない。
するとみちよちゃんは、「ふあ〜っ」とひとつ伸びをした。
体に何か変化を感じたらしく、身のこなしも軽く、洗濯をしにいった。鼻歌なんか歌っちゃってる。
……とりあえず、体調は良くなったみたいでなによりだ。
開かずの間を、僕はちらっと見た。
厳重にドアノブに巻かれたチェーンロック。あのカギ……みちよちゃんが掛けたんだよね。
ということは……あのバケモノの事も知ってるんだろうか?
みちよちゃんが霊が見えるってわけはないよな。
部屋を封鎖してるのは母親と関係あるとして……おそらく母親は死んでるんだろうな。
ってことは、この化け物は悪霊化した母親だとか?
初めて役に立ったな、よかったなまさる。
経験からいってもよくない、て。。。
ひきこもりだったのか??
16年の生涯を思い返してもなんにもなかったっていうのは
寂しい話だな
いいことがなさすぎて記憶を封印してるのかとも思えるけど、
そしたら人生振り返ろうとも思えないだろうしなー。
半日で人生への未練があっさり断ち切れてたあたり、
まさる的には本当にどうでもいい人生だったのかな……?
なんにもなかったってことはまさるも童貞か。
女の裸を見たのも初めてっぽい感じだな
508 :
1/2:2006/01/28(土) 00:01:10 ID:???
第4話「悪霊退散!」
みちよちゃんに隙を見ては近づく雑霊を、忙しく追い払う。
電話が鳴ってるのにみちよちゃんは動かない! 叩いて電話に向かわせた。
あ〜っ、疲れる! マジで疲れる!!
掛かってきた電話は、男からみたいだ。僕は受話器に耳を近づけた。
「こっちは今研究室総出なんですよ! で、人手は一人でも多い方がいいので」
電話の男そう言って、来てくれと頼んでる。
もじもじ迷うみちよちゃんを、僕はOKしろと叩きまくった。こんな不健康な場所から出られるんならなんだっていい!
でもみちよちゃんは「体調がすぐれない」と誘いを拒否した……体調は治してやったじゃんかよ〜!
すると電話の男は咳払い。改まった口調になり、
「先日のことは――あ〜申し訳なく思っています。もしあれが原因で大学に来づらくなってるんだとしたら……その……」
「あっ、あのっ、違うんです! あのことはあの……気にしてませんので……」
顔を赤らめるみちよちゃん。ぎこちなく別れを交わして電話を置いた。
なんだなんだなんだ〜っ!? “あのこと”って、なにがあったんだ!?
えーと、みちよちゃんが処女で彼氏が居ないことは確かなわけで。もしかしてみちよちゃん、今の男のこと……。
と、そこまで考えてそちらを見ると――またひとりエッチ始めてるし!
喘ぎながら、みちよちゃんは呟いていた。「小板橋さん……」
こ、この際個人的な感情は置いといて。
彼女が自殺を思いとどまってるのは、処女のまま死にたくないからなんだよな。
もし今の男とデキちゃったら……この世に未練がなくなっちゃうじゃん!
やっぱここはひとつ……小板橋氏とは会わせない方向で……
そんなことを考えながら、ついついひとりエッチに見入っていると、変なものを発見した。
みちよちゃんの背中に、ゼリー状のものが跳ねている。体の中に、また何かいるんだ!
引っこ抜くとそれは、裸の女の姿をした液状の物の怪だった。
マニュアル曰く、それは「淫魔」。高い知能を持ち、性的欲望をいだいた人間の体内にもぐり込む物の怪!
淫魔は僕に顔を近づけて、『ちょっと待ってね』と妖しく笑った。
それからそいつは甲高い声を上げて体をのけぞらせた――みちよちゃんとシンクロしたタイミングで。
『フフフ……イッちゃった、この娘……』
509 :
2/2:2006/01/28(土) 00:01:53 ID:???
淫魔は僕を誘惑する。背後霊でもセックスできるとか、しかも快感が宿主にも伝わる、とか――
『悪霊退散!!』
僕は淫魔をハリセンで吹き飛ばした。
みちよちゃんを苦しめてたのは、この家を物の怪だらけにしてるのも、こいつの仕業か!?
でも淫魔は偉そうに言う。みちよちゃんの性欲に引き寄せられてきただけだって……
うそをつけ!
『ホントだってば! 他の連中だって似た様なもんよ、みんな! たとえばホラ……そいつだって引き寄せられて来たクチだし!』
淫魔が指さしたのは、開かずの間。見るとドアを突き抜けて、あの黒いバケモノが出てきていた!
戻れ戻れと僕が何度叩いても、そいつはびくともしない。
『そいつは言わば“死にたい”ね! 人間の“死にたい”って感情に惹かれて寄ってくるのよ。ちょうど今みたいにね!』
淫魔の言うとおり、みちよちゃんは今にも首を吊ろうとしていた。
まだ明るいのに二度もしてしまったので落ち込んでたみたいだ。慌てて僕はみちよちゃんを叩く方に転じた。
その時電話! 小板橋からだ。みちよちゃんが応対している間に、“死にたい”の方を叩く。
そんな僕の耳に、みちよちゃんの言葉が飛び込んできた。
「アンモナイトが出た!? わかりました! すぐそちらに向かいます!」
あんもないと?
僕の目は点になった。けど、みちよちゃんはなんだか元気を取り戻したみたいだ。急にいそいそと仕度を始める。
そして心境の変化のおかげか、“死にたい”も開かずの間に引っ込んでいた。
家から出て、みちよちゃんはスクーターに乗り込んだ。
ぼーぜんとする僕に、淫魔が耳打ち。あたいらがなんでこの家に集まってくるのか。
『なんか安心すんだよね、こ〜いう……悲惨な事件があった場所ってさ!』
はっとして、僕は家を見た。そして――言葉を失った。
みちよちゃんの家は、2階がほぼ完全に焼け落ちていたんだ。
燃え残った柱がそのまま放置され、ビニールシートで不完全に隠されている。
――なんだこの家……!?
みちよちゃん、学生なのかな。
アンモナイトの研究? ってとこで、冒頭の「化石になりたい」ってのに繋がるんだろうか。
研究者かと思ったけどな。助手とか。
火事、か。お母さんは火事で死んで、後を追おうとしてるのかな。
ここまでのみちるちゃんの描写を見て研究者っぽいなと思った。
20代半ばくらいみたいだし。
しかしこの作者、情報を小出しにするよな。
なかなか形がはっきり見えてこない。
みちるちゃんに何が起きてるんだ。
ちょ、お前連呼すんなww みちよちゃんだから、名前。
やっと家出たな。ここから急展開があったりするのか?
小板橋さんはあれか、みちよちゃんに惚れてるのか。
なら死を思いとどまらせるのは簡単だぞ。
今までは会話不能の宿主とほぼ二人きりの展開だったからなー。
外に出たら話が一気に動きそう。
もしかしたら、小板橋氏にも背後霊がついてるのかもしれないし。
そしたらまさるもやっと、傍観者じゃなくなるな。
つーか、まさるの会話相手としては、今回淫魔が出てきたけど、
どんな立ち位置のキャラになるんだ? 予想がつかない。
仲間、解説役、ヒロイン、ライバル、ラスボス
今ならどのポジションも狙えるが、まぁ一番ありそうなのはただの脇役じゃないのか
517 :
1/2:2006/01/30(月) 00:00:54 ID:???
第5話「ぜんぜん違う!」
ぶんっ! みちよちゃんのスクーターが高速で街を駆ける! 引っ張られて僕も高速で飛ぶ!
みちよちゃんが道を曲がる度に、僕は大きく振られてビルに突っ込んだり、バスを突き抜けたり。
すごく恐い! みちよちゃん、スピード落として! 安全運転、あっあっ……あんぜん〜。
……目的地らしい山奥にたどり着いた頃には、僕はもうぐったりしていた。
停めてある車には「理学部自然科学科古生物学教室」って札がついてる。
みちよちゃんは、持ってきた白衣に袖を通した。その瞬間、弱気そうだった背筋が伸び、きびきびした物腰になった!
岩肌の露出した石だらけの場所に出ると、みちよちゃんの仲間らしい人たちがこちらを振り向いた。
「百瀬!」「良くなったんですか、百瀬さん!?」
地面にはノミや鎚が転がっている。この人たち何をしてるんだろう? ……石の採集?
『この者たちは化石とやらを集めておる! 大学という学舎で学んでいる者たちだ』
独り言に返事があったので、僕はびっくりした。振り向くと、そこには誰かの背後霊。お侍さんだ!
よく見ると、その場にいる人たちには、少なからず背後霊がついてるようだ。
『新入りかな?』『はっ、はい! 昨日着任しました』
うむ、とお侍さんは満足そうに頷いた。
『その娘は明るく素直で皆に好かれておる。背後霊が付くのは良いことだ』
……明るい? 不思議に思ったけど、本当だ。家にいる時のみちよちゃんとぜんぜん違う!
院生らしく、学生に「これは魚類の脊椎骨ね」とか優しく教えてる。
これがみちよちゃんの本性なんだろうか? だったら心配いらないんだけど……
――と思っていると、大学の人が離れていったあと、
「はあ〜っ」
……みちよちゃんは陰鬱な溜息をついた。疲れた!? やっぱり!?
その時、「百瀬くん」と声が掛かった。お、ころりと笑顔に変わったぞ。
その顔が、次の瞬間には驚きの色を浮かべた。
「ほら、アンモナイト! まあ部分なのは残念だけど……」
と話しかけてきたのは、アンモナイトの化石の断片を持った、優男。
みちよちゃんの顔が赤い。ん? と思ったら……やっぱりこいつ、小板橋か!
518 :
2/2:2006/01/30(月) 00:01:57 ID:???
化石を囲んで語り合う二人の周りを、僕はうろうろしながら考えた。
こいつがみちよちゃんを苦しめてる犯人。
いったい何をしたんだ? どうやって聞き出したらいいんだろう。
そうだ、背後霊がいるなら直談判して……
カエル。
僕はひきつった顔で、小板橋の頭に乗っかってるそいつを見た。どう見てもカエルです。
『ど、どうも』と挨拶しても、聞こえているのかいないのか……
背後霊!? あれも背後霊なのか!? わからないっ!
「やっぱり……僕とは話しづらいかい? この前のことは本当に謝るよ」
小板橋が、すまなさそうな笑顔でみちよちゃんに言った。
「君は悪くなんかないよ。君の気持ちに気づけなかった僕が悪いんだ」
身勝手かもしれないけど、今まで通り助手と院生の関係で……と言う小板橋。
――こいつ……みちよちゃんを振ったなあ〜!?
おのれ小板橋! みちよちゃんはこんなに好きなのに! 電話で声聞いただけでひとりエッチ始めちゃうぐらい好きなのに!
涙を浮かべて一人で地層を掘るみちよちゃん。
もしかして自殺したいのもあいつにフラれたせい? どうやって慰めてあげれば……
その時、左の方にある石の中から、かすかな声が聞こえた。
――コッチ、コッチ。ダシテ、ダシテ。
僕はハリセンでみちよちゃんを叩いて、そちらに注意を向けさせた。
みちよちゃんがノミで石を砕くと、割れた石から……アンモナイトの霊が現れた。
――アリガトウ、アリガトウ。
そう言って天に昇るアンモナイトを、僕は見送る。
みちよちゃんは、石の中からアンモナイトの完全な化石を発見したみたいだ。
いとおしそうに化石を抱きしめて、みちよちゃんは「見つけた……」と涙をにじませた。
日も暮れて、場所の使用許可も切れたみたいだ。車の前に集まった大学の人たち。
「大漁を祝して打ち上げしよう! 何食べたい?」
さしみ、焼き肉、とにかく酒! といろんな意見が出た。みんな盛り上がってるみたいだ。
……余談ながら、カエルを乗っけた小板橋は「イナゴの佃煮」と呟いてたりして。
小板橋はみちよちゃんとセックルしようとしたけど(少し無理矢理っぽく?)
途中でやめちゃったんじゃないかな?
みちよちゃんはそのまましてほしかったのに、
冷静になった小板橋がやっぱこんなやりかたは良くないとか言ってさ。
話が動き出したな。ほかの背後霊も出てきて面白くなってきた。
あのカエルは本当に守護霊なのか?
何にせよ続きが気になる
ボディチェンジの末路だ。きっと。
みちよちゃん学校ではだいぶ無理してるんだな
小板橋にふられた(?)ことが自殺しようとした原因なら、
家の火事はなんなんだろう
家は火事、あげくフられた。
なら自殺したくなるかもなあ。
アンモナイトの発見に涙を滲ませるみちよちゃん。
なんか新鮮だった。
火事があったのっていつ頃なんだ? 少なくとも振られたのよりは前だよな。
でも火事が比較的最近だとしたら、色恋沙汰なんてやってる心の余裕はないだろうし、
火事はけっこう昔の出来事なのかな?
このまままさるがいて化石の声を聞いてくれたら
みちよちゃんは一流の考古学者になれるんじゃなかろうか。
527 :
1/2:2006/02/01(水) 00:00:05 ID:???
第6話「かっこいいじゃん!」
飲み屋のお座敷には、雑霊がひしめいていた。お侍さんが、あまり雰囲気の良くない場だなと呟いて、刀を抜いた。
『掃除完了!』
雑霊たちは一網打尽! 背後霊のみんなが、一斉に拍手した。
みちよちゃんは飲み会が苦手そうだ。なのにお侍さんの宿主――大輔さんはみちよちゃんを上座に招く。
お侍さんは、大輔さんに『それくらいにしておきなさい』と鞘をあてた。すぐに大輔さんは誘いを引っ込めた。
……かっこいいじゃん! プロの背後霊! 僕は……ま、ハリセンだけど。
小板橋はみちよちゃんの隣に座ろうとした。けど、大輔さんがそれを上座に引っ張ってってくれた。
さっきからみちよちゃんは、いろんな男の人に代わる代わるお酒をつがれてる。
なんか……モテモテのような。
『明るくて美人だしスタイルいいからネ!』
僕に話しかけてきたのは、みちよちゃんに気がありそうな坊主頭の人の、背後霊。……って、外人さん?
けどみちよちゃん、相手にしてくれる人なんていないなんて……ぜんぜん違うじゃん!
僕は、外人さんと話をしてみた。
外人さんは、坊主頭氏が生まれた時から背後霊やってるけど、血のつながりはないらしい。
『本当は祖先霊じゃなきゃいけないらしいケド……ちゃんと祖先の霊がついてるのはあの二人くらいだヨ』
――大輔さんと、あともう一人、おばあちゃんの背後霊の宿主か。
背後霊にもいろんな人がいる。ヨーロッパ貴族っぽい人や、ホラー映画に出てきそうな前髪垂らして俯いた女性。
なお、若い子はほとんど背後霊いないらしい。霊不足が深刻って、本当なんだな……。
そんなとき、小板橋がやって来て、当たり前のようにみちよちゃんの隣に座った。
お前はみちよちゃんを振ったんだからあっち行けよ! と殴っても、僕の手は小板橋をすり抜けるだけ。
みちよちゃんも顔が赤い。ああっ、こんな奴にときめかないでっ!
カエルに『ど〜にかしろよこの男!』と言ってみても、やっぱりカエルは無反応。
それどころか小板橋は、偶然を装ってみちよちゃんの手を触ったり、挙げ句の果てには胸に触れた!
振った女にセクハラ! 「友達でいよう」なんて言ってたのはお前だろうがっ! 何考えてんだよっ!
僕が憤ってると、みちよちゃんはふらふらとトイレに立った。
528 :
2/2:2006/02/01(水) 00:01:01 ID:???
トイレでみちよちゃんは……また、始めちゃった。
でもやがて、正気の顔に戻ってドアに耳をそばだて、呟く。みんなの話し声が……止まってる……。
「みんな私のウワサをしてる……。やっぱり私……嫌われてるんだ!」
なんでそ〜いう発想になるかなあ! ぜったい自意識過剰だ。僕は壁を抜けてお座敷に向かった。
でもお座敷では、みんな……ひそひそ話をしてた。
「あの事件の後出て来なくなって心配してたけど……」「あの事については触れない様にして……」「つとめて明るく……」
僕は背後霊のみんなに事情を尋ねた。すると……
『家が火事になって……母上が亡くなられたと聞いている』
みちよちゃんはお母さんをとても愛していて、大学もしばらく休んでいたんだそうだ。
それでみちよちゃん……あんなに苦しんで……。
安心したと伝えてくれと頼まれて、僕はトイレに急いで戻った。
でもみちよちゃんは、カミソリを手首にあてようとしてるとこだった。いつも持ち歩いてるんですか……
お侍さんの真似をして、『やめなさい!』とハリセンを頭にあててみる。
みちよちゃんは動かない。……仕方なく、体裁構わず喚きながら頭を叩きまくる。
すると、みちよちゃんが呟いた。
「だめだ……これじゃ死ねない……どうしよう、早く死ななきゃ……」
何言ってんだと当惑する僕。するとみちよちゃんは、そうだ、と思いついた。
「急性アルコール中毒なら……お酒の席で自然に死ねる!」
で……みちよちゃんは、目を回してお座敷に大の字で倒れたのだった。こうなるよなあ……。
大学のみんなが、みちよちゃんを心配そうに見下ろしている。
僕の苦戦には、お侍さんが理解を示してくれた。宿主との絆は赤子の頃から培ってこそ成り立つもの。
赤の他人ではうまくはいくまい。天もそれはわかっているはずだ、とお侍さんは言う。
『焦らずに……出来ることをひとつひとつこなしていけばいいのではないかな?
いつかはきっとみちよ殿とも心が通じる様になるだろう』
大学の皆が、車を見送った。
車を運転するのは小板橋。そして助手席には、目を回してるみちよちゃん。
「女を送らせるなら彼以上に安全な男なんていないさ」と大学の皆は言ってたけど……
僕は小板橋とカエルを睨んで身構えた。騙されないぞ、僕は!
痛快オナニーコメディ
やたらオナニーシーンが多いな
でも生々しすぎて、なんかリアルだけど萌えない
母親が死んで休学してたなら、
小板橋に振られる→火事・母親死亡→引きこもり
って流れなのか?
でも小板橋は、自分が振ったことが休学の原因になってると思ってるっぽい。
どういうことだろう。小板橋は火事のことを知らないのか?
フツーにはなしてるし小板橋氏だけ知らないってのはないんじゃないか?
でも知ってて自分が原因だと思うなんてかなりの自意識過剰だよな。
そのへんなんか事情があるのかな。
そしてなにげにみちよちゃんピンチだ。貞操の危機だ。
頑張れよまさる!!
533 :
1/2:2006/02/03(金) 00:16:15 ID:???
第7話「見たくないっ!!」
小板橋の運転する車が、みちよちゃんの家に辿り着いた。
「たらいま〜」『おかえりなさ〜い』
出迎えたのは、ベスと……淫魔! 男同伴、セックスねv と淫魔ははしゃぐ。しません!
小板橋は酔ったみちよちゃんを抱えて、家の中へと入っていった。『性欲みるみる増加中!』と淫魔が言った。
目を覚ましてよ、みちよちゃ〜ん。身の危険が迫ってるよ〜!
ハリセンでみちよちゃんを扇いでもどうしようもない。ベスも小板橋になついちゃってるし……。
淫魔は、酔ってるのをいい事に手を出そうとする小板橋を歓迎ムード。
余計なことに、『どれ、ちょいと手助けしてやっか!』と、小板橋の体にもぐり込む。
小板橋の目が、血走った!
無防備に布団に横たわるみちよちゃんに迫る、小板橋の魔の手! 見たくない〜っ!!
『よ〜し、ボッキ度100%! それ、やっちゃえ〜!!』
淫魔が勢いよく叫ぶと! 小板橋はきょろきょろと辺りを……見回した?
みちよちゃんの棚から化石をいくつも持ち出し、みちよちゃんの寝る布団に、それを並べ始める。
……何してんだ、コイツ?
『なんか本人は楽しいらしいけど……やだ! マスターベーションするつもりよ!』
小板橋に『やめなさい』と叫ぶ淫魔。そうそう!『もったいない!』いやそういう理由じゃなくて!
そうこうしているうちに、なんとかみちよちゃんが目を覚ました。
「あれ? ここ……私どうしたんだっけ……」「はい、お水!」
小板橋は見事な変わり身で、みちよちゃんにきりっと爽やかな笑顔を向けた……。
やがて、小板橋は言った。
「この前君に振られた後、いったんは諦めたけど……」――え!?
彼はみちよちゃんに言った。
僕の思い込みだけじゃない気がする、もう一度アプローチさせてくれ、と。
「こんな危険な家は出て……僕の部屋に越して来ないか? もちろん猫君も連れて! みんなで一緒に暮らそう!」
534 :
2/2:2006/02/03(金) 00:16:54 ID:???
僕は唖然とした。
どういうことだ!? 小板橋がみちよちゃんを振ったんだとばかり……違うのか!?
淫魔が僕に耳打ちしてくる。彼女の性欲みるみる増加中!
小板橋はみちよちゃんの手を握り、その想いを告げる。
――研究室でみちよちゃんが化石のクリーニングをしてる時、独り言が聞こえた。
“化石になりたい”
「それ以来……君のことが頭から離れない……。君が欲しい」
男も女も性欲MAX。セックスよ! と淫魔がはしゃぐ。
見たくない……
けど、みちよちゃんが心から望んでいるなら、小板橋がみちよちゃんの事を本当に好きなら……
背後霊として……見守ってあげるべきなんじゃ……?
そして近づく唇を――みちよちゃんは、顔を逸らして拒絶した。
ごめんなさい、とうなだれるみちよちゃん。
『なんでよっ!? パンツびしょびしょにしてるくせにっ!』
はっとして、僕は開かずの間を見た。そこには“死にたい”が顔を覗かせていた。
小板橋は諦め、「もう二度と君を煩わせないから」と言って、帰っていった。
去っていく小板橋の後ろ姿に、みちよちゃんは呟く。しちゃったら、私……死ねなくなる……から……。
そして、ぱたっと布団に倒れこみ、うわごとのように、
「あれ? 逆だっけ? エッチしないと死ねないんだっけ? どっちでもいいや……あ〜頭がぐるぐるする」
そして僕は、彼女の望みを、聞いた。
化石になりたい……
化石になって……地面の下で……
誰にも見つからずに…… 何も考えずに……
そんなみちよちゃんを見守る僕に、淫魔が報告する。
『あいつ車の中でマスターベーションしてる!』――ほっとけ!
一瞬期待した俺がバカだった
痛快オナニーコメディ健在
なんか……この漫画の登場人物には変態しかいないのか?
Look at ME!!もそうだったけど、共感できない性癖のキャラが目立つな。
ここで素直に犯そうとしてもどうよって感じではあるが…
ひとりよがりの集まりってとこか。
なんだか小板橋が不憫に思えてきた。
みちよちゃんが死にたがってるのは、やっぱり家の火事が原因なのか
火事が原因というか、何かあるんだろうという感じはするね
ていうか小板橋物分り良すぎ
541 :
1/2:2006/02/05(日) 00:12:33 ID:???
第8話「ありがとうございます」
朝。起きたみちよちゃんは絶望的な顔で、布団に散らばった化石を見ていた。
これで死ねる、すぐ死のう、とうなだれる。ほら来た! 僕はその頭を叩きまくった。
「――ってゆうか……その前に二日酔いで死にそう……」
今日一日……無事に乗り切れるだろうか? 僕が不安に思ったその時、インターホンが鳴った。
来たのは、昨日大輔さんと仲良さそうにしてた、大学の女の人。
「おっは〜、奥山で〜す」『ソフィーで〜す』
背後霊は、あのヨーロッパ貴族みたいな女の人だった。
『ご迷惑じゃなかったかしら?』――こっちとしては、逆に助かった。
ソフィーさんは昨晩のことを聞いてくる。もしかして小板橋さんに襲われちゃった?
答えに詰まる僕。すると、
「そうね、背後霊同士でも宿主のプライバシーは尊重するべきよね」
プライバシーか……そうだよなあ。
ゆうべみちよちゃんは小板橋とエッチしかけてギリギリでやめちゃいました!
やりたくてしょうがないっていってたのにナゼでしょう? ――なんて聞けないよなあ。
それにみちよちゃんの面倒を見るのは僕の責任なわけだし。
『ねえねえ! もしかしてみちよさんが小板橋さんを襲っちゃった?』
ソフィーさんは、心配というより興味で質問してるみたいだ……聞けない! やっぱ聞けない、この人には!
奥山さんがみちよちゃんを連れ出したのは、健康ランド。さっそく二人は服を脱ぐ。
ぷ……ぷらいばし〜……。どきどきする僕に、ソフィーさんは笑う。
『いいわよ、無理に目を逸らさなくたって!』
だいたい人間は、死んでしまうと性的な欲望は消えてしまうものらしい。だから不純な感情がなければ……
『やっぱりあんまり見ないで下さる?』
奥山さんの裸をじっくり見つめていた僕の頬を、ソフィーさんは突いた。
押しの弱いみちよちゃんは、からかう奥山さんにされるがまま。けど、シャンプーの時――
「かゆいとこありませんか〜っ」「は……はい……」「頭痛は直りましたか?」
みちよちゃんは、はっとしたみたいに、言った。
「はい……良くなりました……」
542 :
2/2:2006/02/05(日) 00:13:09 ID:???
健康ランドは貸し切り状態。湯船で泳ぐ奥山さんに誘われ、みちよちゃんもお湯に浮かんだ。
……気持ちよさそうな顔をしている。
『少しはお役に立てたかしら?』
ソフィーさんがそう笑った。もしかして、みちよちゃんのためにわざわざ?
ソフィーさんは僕を『がんばり屋さん』と褒めてくれる。
『でも、なにもかも一人でしょい込まないで、たまには人に頼ってみてもいいんじゃないかしら?』
僕は反省して、昨日のことを打ち明けた。
ソフィーさんは『やっぱり二人はそういう間柄だったのね!?』と嬉しそう。
……やっぱマズったか? この人に話したの……。
でも、ソフィーさんは言った。みちよさんは、幸せになるのが怖いのかもしれない、と。
『不幸せに慣れてしまうと、望みが叶うことが逆に怖くなってしまうの。幸せな自分が想像できないのね』
しちゃったら死ねなくなると言っていたのは、そういう意味だったのかな……。
むりやりくっつけちゃうのも手かも、とソフィーさん。でも、二度振られて小板橋は完全に諦めちゃってるし……。
『……。ないしょ話をひとつ教えてもらったから……私もひとつお返しするわねv』
ソフィーさんが扇子を奥山さんの頭に乗せて何かを念じると、奥山さんが言った。
「実はね……今日百瀬さんをここに連れてきたの……小板橋さんに頼まれてなんだよね!
これ言っちゃダメって言われてたんだけど……まっ、寝言ってことで!」
みちよちゃんは、ぷくぷくとお湯の中に顔を沈ませながら、
「……ありがとうございます」
ソフィーさんは言った。
バイトで背後霊してる子は、普通他人の世話どころじゃない。だって自分自身亡くなって間もないから。
『でも……君は全然違うのね! どうしてそこまで一生懸命になれるのかしら? 不思議だわ……』
僕は、沈黙してソフィーさんから目を逸らすしかなかった……。
「さて!」
健康ランドを出た二人は、晴れやかな表情で研究室に戻って、化石から石や砂を落としてる。
「今度は化石達をキレイにしてあげる番よ!」だそうだ……。
『なんなんでしょう、この人たち?』『さあ?』と、僕とソフィーさんは顔を見合わせた。
やっぱりまさるも訳ありなんだな…
死んだってのに動揺しなさ過ぎだったもんな。
みちよちゃん、生きてく喜びも知ってるしともだちもいるし。
悲しい事故はあったけどけっこう幸せ者じゃないか。
訳ありで元の人生に未練があるなら分かるけど、
訳ありで元の人生に未練がまったくないっていうのは、
どんな事情なのか想像がつかないな……
例え訳ありでも、みちよちゃんはこれから立ち直っていけそうだけど
まさるはもう死んじゃってるからな……
・人生に嫌気がさしてて自殺とか、不治の病とかで死期が近いのが分かってた。
・みちよちゃんの今がまさるの生前に似ててつい感情移入。
くらいしか思い浮かばないな…<訳あり
前者だとみちよちゃんを通じて考えがかわってもまさるに救いはない感じだな。
そんなのいやだ。がんばれまさる。
そもそも主人公のくせにもう死んでるって時点で、救いがないんだよな。
浦飯幽助とは違って、助かる希望もない世界観だし。
548 :
1/2:2006/02/07(火) 00:01:29 ID:???
第9話「害が無い!?」
つまり、小板橋がみちよちゃんを振ったというのは勘違いで、小板橋はみちよちゃんが好き。
みちよちゃんも小板橋が好き。でも振っちゃった。なぜなら「しちゃったら死ねなくなる」から!
大人の世界だなあ、16歳の少年には荷が重いぞ……。
自殺防止を第一に考えるなら、ソフィーさんの言う通りムリヤリくっつけちゃえばいいんだろうけど。
僕は、教壇でプレゼンをしてる小板橋を見た。……うーん。あのカエルは何なんだろう。
隣の席にいるあの外人背後霊、ピーターさんに質問してみた。
ピーターさんも何かは分からないらしい。けど、少なくとも邪悪な気配は感じられない。
『小板橋君、動物がスキだから……昔助けたカエルが恩返しに来てるトカ』
害がないから神サマもほっといてるんだろうネ、とピーターさんは言った。
みちよちゃん、小板橋、奥山さん、大輔さんの4人が、研究室の倉庫を整理中。
倉庫は化石でいっぱいだ。そして古代生物の霊もいっぱいだ。
もしみちよちゃんがこいつらを見ることができたら、きっと泣いて喜ぶだろうになあ。
そんなことを思ってると、ソフィーさんが『どこまでいった?』と聞いてきた。
どこまでもなにも、あの夜以来お互い避けてるみたいで、事務的な会話しかしてない。
まどろっこしい、とソフィーさんは嘆息して、思わせぶりに僕に耳打ちした。
『ムリヤリくっつけちゃう裏ワザもあるんだけど……キミにはまだ早いかも』
――その裏ワザとは、
『はっ、背後霊同士が先に……エッエッ、エッチ……!?』
『背後霊同士が仲良くなれば人間同士も自然にくっついちゃうものなのよ』
そう言って、ソフィーさんはお侍さん――慎之助さんに「ね?」と笑う。……え?
『もちろんそれも……相手に背後霊がいればの話だけど』
……小板橋の頭の上では、カエルがバッタみたいな雑霊を狙ってる。
『え〜と……困ったわねえ……』
そのとき、ソフィーさんが奥山さんの動きに引っ張られた。
奥山さんはみちよちゃんたちに気を利かせてるつもりらしく、大輔さんと連れだって部屋を出て行ったのだ。
……二人っきりにしないで下さ〜い!!
549 :
2/2:2006/02/07(火) 00:02:58 ID:???
気がつけば二人きりのみちよちゃんと小板橋。会話ゼロ、気まずい空気だ。
みちよちゃん、また落ち込んじゃう! なんとかしないとと思って僕はカエルを見た。
……やっぱりソレしかないのか!? だいたいど〜やってカエルなんかと……
そうだ、カエルってメスが産んだ卵にオスが精子をかけて繁殖するんじゃなかったっけ!?
待てよ!? あのカエルがメスだとは限らないぞ!?
……って何マジで悩んでるんだオレ!?
頭を抱えた僕は、背後にただならぬ気配を感じた。小板橋だ!
振り向くと、僕は小板橋の体の中に頭を突っ込んでしまった。瞬間――
――コウビシタイ、コウビ……コノメストコウビ……
思念が、流れ込んでくる。小板橋の心の声!? いや違う、カエルの声だ〜っ!!
小板橋はみちよちゃんに今にも襲いかかりそうだ。僕はカエルをハリセンで叩いた!
……すると小板橋は、正気に戻ったみたいだ。
「あとはボクがやっておこう! 君はもう帰っていいよ」
みちよちゃんに笑いかける小板橋。みちよちゃんはいそいそと退散していった。
帰りしな、僕が振り向くと、小板橋は後ろを向いて目頭を押さえていた……。
夜、自宅に戻ったみちよちゃんは、パジャマ姿で布団に正座した。
「昨日は一回もしなかったし……いいわよね、しても……よし! 思いっきりするぞ!」
小板橋を想いながらパンツの中に指を差し込み、やがてパジャマの下を脱ぎ去るみちよちゃん。
そこから目を背けながら、僕は考えた。
害がないどころじゃない。今までの小板橋の変態的な行動も、あのカエルの影響なんじゃないだろうか?
……だとしても、他人の背後霊だ。いったいどうしたら……。
『警報警報!』
いきなり淫魔が現れた。強烈な性欲が接近中だという。なんか見覚えのある性欲――
僕は窓を突き抜けて外の様子を見る。植え込みの向こう、道路には小板橋の車が停まってる。
みちよちゃんの部屋を窺う小板橋の頭の上では、カエルもまた、こちらを見ていた。
――獲物を……狙ってる!?
カエルに操られてるだけで小板橋はいい奴なのか?
いや、操るほどの力が背後霊にあるか?
うーん、わからん。
操られてようがなんだろうがこの行為はストーキングだ。
カエル、追っ払っちまえよ。
そうでないと二人とも望まないことが起きるぞ。
背後霊が背後霊を排除するのはまずいのかね…
カエル…
痛快オナニー漫画が一気にグロ系に
小板橋の変わり身の早さ、なんか理解できる。
これまでも衝動を抑えられないことが多くて、そのぶん、体裁を整えてごまかすのがうまくなっちゃったんじゃないだろうか。
でも、それで外面はよくなっても、自分ではそんな自分を好きにはなれない。
こういう人間にとっては、恋愛の場での「体裁を整えた自分」と「激情を押さえられない自分」の葛藤はキッツイんだろうな。
>552
痛快オナニー漫画ってw
>帰りしな、僕が振り向くと、小板橋は後ろを向いて目頭を押さえていた……。
セクハラするのを罪に思ってないわけじゃないんだな。
カエルのせいで衝動を抑えられないことに人知れず自己嫌悪してるんだろうな、小板橋。
ちょっと好感持ててきた。
556 :
1/2:2006/02/09(木) 00:03:23 ID:???
第10話「協力……」
敵は外! 小板橋……とそれを操るカエル一匹!
砦はすでに半壊! つーかはじめから!
守るべきは……『声がデカイ、ご近所に聞かれるぞ!』と叩いてボリュームを下げたけど、焼け石に水だろう。
唯一の味方は……ノミとりしながら、あくびひとつ。
……小板橋の奴、このまま帰ってくれればいいけど……。
外に顔を出して様子を見ると、車から小板橋がいなくなってる! 奴は庭にまで入り込んできたんだ。
小板橋は何かを凝視してる。――! カーテンの端に、すき間が空いてるんだ!
僕の体で隠すのは無理だ。何か手は! 僕はみちよちゃんの体に潜り込んでる淫魔を引きずり出した。
だけど、『あのヘンタイ? いいじゃん、ほっとけば』と淫魔は言う。
『この女も見られてた方がコーフンするかもよ? そのままセックスに突入したりして!』
……いや、「見られてしまいました、もう生きてはいけません」ってなるに決まってる!
淫魔は頼りにならない。八方塞がり――と思っていると、窓辺からカリカリと音。
ベスが、外に出たがっているのだ。
みちよちゃんはカラカラと窓を開けた。小板橋は慌てて植え込みの陰へ隠れる。
ベスは植え込みをじーっと見つめた。カエルがベスに恐れをなした……のか? 小板橋はこそこそと車に逃げ戻った。
――やった! 追い払った!
偉いぞベス、と頭をなでようとすると、ベスはこちらをじろっと見た……ような気がした。まさかね……。
部屋では、パジャマを全て脱ぎ去ったみちよちゃんがびくびくと体を反らせていた。終わったのかな……。
脱力するみちよちゃんを見ながら、僕は思う。
――こんなに望んでんだし……小板橋も正面から来てくれれば協力してあげるんだけどなあ。
でも、次の瞬間考え直した。協力……って、カエルとぺたぺた抱き合ったり、か?
いやだ……できない。やっぱ両生類とはムリだ……。
思わず天使さまに叫ぶ。ど〜してカエルなんですか!? ソフィーさんみたいな背後霊だったら僕も喜んで……
557 :
2/2:2006/02/09(木) 00:04:36 ID:???
と、そのとき。開かずの間のドアが、きしんだ。
チェーンで開かないけど、向こうからノブが回されてるようだ。
“死にたい”か!? いや、奴なら壁をすり抜けて来るはず……。
まさかと思って壁の向こうに回ると、そこにいたのはやはり、小板橋だった!
よく見ると外壁は倒壊してるんだ。この部屋、外に筒抜けだったのか!
小板橋は、わずかに開いたドアから、みちよちゃんの部屋を覗こうとする。
部屋には全裸のみちよちゃんがいる! 見られちゃダメだ!
僕は喚きながら必死で小板橋をはたいた。小板橋は止まらない。遠くから何か音が聞こえてきた。ィィィィン――
――ドオオォォン!! と激しい音が響き、
カエルが弾き飛ばされ、
小板橋の背中には、長い髪にネグリジェの女の子がうずくまっていた。
女の子が、おそるおそるといった感じに目を開く。
『あれ? ここ……どこですか? 看護婦さんは!?』
茫然とする僕の前で、女の子はカエルに驚いている。
……これは、もしかして。天使さまに感謝した。願いを聞き届けて下さったのですね!?
背後霊がついたおかげか、小板橋も正気に戻ってる。ほっとして、女の子に『君……』と声を掛ける。
すると女の子は、僕の透き通る体を見て――
『おばけ〜〜っ!!』
車へ逃げ帰る小板橋に引っ張られて、逃げていった。……おばけ?
僕は慌てて車まで追いかけた。
女の子は怯えてる。落ち着いて、と僕は声を掛けた。僕も君と同じ背後霊だから……。
『わっわたし霊なんかじゃありません! 生きてる人間です!』
……どうやら、女の子は状況をまったく理解していないみたいだ。
天使さまのことすらも、『あの新しいお医者様? おかしな格好をした……』と思いこんでる始末。僕は苦笑しながら、
『違うよ! 君はそこの男の人の……あ』
見ると小板橋が、ズボンを下ろしてマスターベーションを始めていた。
その様子を間近に見せられた女の子は、顔を真っ赤にして、やがて――ふっ、と失神した。
……もしかして……
新たな試練の追加ですか!? 天使さま!!
痛快オナニーコメディ健在。
天使様ちゃんと選ばせなかったのかね…まさるの時はたしか3択だったのに。
まあこれで小板橋氏が異常な衝動にかられることはなくなるハズだな。
説明しても理解できなかったんじゃないだろうか。
まさるみたいに状況を普通に受け入れるほうが特殊なんだと思う。
普通の人間は、自分が死んだ衝撃に加えて死後の世界の混乱もあって、とても正常な判断のできる状態じゃないんだろ。
つーかこれは……萌えキャラキター?
まさるにセクースチャンス到来!!!!
やったなおい!?
>>560 痛快オナコメだから、どうせうまくいかない。これはもうお約束だろう
どううまくいかないか、そこがみどころ。
いや、だから痛快オナニーコメディって何だよw
一応物語の目的として「2人をくっつける」ってのがあるんだし、ただのコメディじゃないだろ
前途多難かもしれないけど、最後にはちゃんとうまくいくと思う
王道ラブコメは途中のすれ違いが醍醐味っしょ
この漫画はそういう意味でのオナニーが醍醐味なんですわ
564 :
1/2:2006/02/11(土) 00:02:00 ID:???
第11話「どこから始めれば……」
翌日の昼。
大学で、ソフィーさんたちに事情を話す。そのまま車が出てっちゃって、その女の子も気絶したまま、と。
その時、小板橋が姿を現した。体の調子がおかしくて、昼まで来られなかったと言う。
その背中では、女の子がうなだれていた。昨夜から……気絶したまま?
女の子はやがて目を覚ました。そして頭の上のカエルに驚いて――こちらに、気づいた。
『どっ、ど〜も……』『いらっしゃ〜い!』
キャーッと悲鳴を上げ、女の子は全速力で逃げ出した。
背後霊の移動距離の限界まで一直線に飛んでから、ゴムの要領で引き戻され、小板橋にぶつかる彼女。
そして再度失神。小板橋もめまいを感じてよろけた。
……ちょっとこれは……重症かも。
研究室のソファに横たわって休んでいる小板橋。その背後で、女の子は起きた。
女の子に応対するソフィーさんと慎之助さんは、お医者さんっぽい服装を具現化して纏ってる。
……これで、なんとか女の子とコミュニケーションをとることに成功した。
女の子の名前は、若林奈緒。今まで10年くらい病院にいたらしい。……10年?
「名医」に扮した慎之助さんは、たどたどしく演技した。
『こ……これより君には、り……りはびりていしょんを受けてもらう』
だけど慎之助さん、先輩の患者まさる殿に詳しいことは聞くように、と僕に丸投げ! ずるい!
うまくやりとおせない僕たちに、奈緒ちゃんが追い打ちの質問。
『あの……みなさんなんで体が透けてるんですか?』
最新のファッション、じゃ無理がある。えーとえーと……
『もしかして……特撮ですか、これ!?』『そうっ、特撮なの特撮! うまくできてるでしょ!?』
ソフィーさんが話を合わせると、奈緒ちゃんはなんか、勝手に納得したみたい。
リハビリってことは、やっと退院できるんですね。そう言って喜ぶ奈緒ちゃんを見て、ちょっと心が痛かった。
奈緒ちゃんは、僕に向かって笑いかけた。
『よろしくお願いしますね! まさる先輩!』
ソフィーさんはこっそり、僕に言った。
『あとは君が少しずつ本当の事を気づかせてあげてね?』
そう。彼女のためだけじゃなくて……小板橋とみちよちゃんを幸せにするためにも。
565 :
2/2:2006/02/11(土) 00:02:34 ID:???
すぐに、小板橋も気分が良くなったみたいだ。奈緒ちゃんが落ち着いたおかげか。
仕事に向かう小板橋を見て、奥山さんが「ついてってあげてよ!」とみちよちゃんの背中を押す。
そうして研究室には、小板橋とみちよちゃんがまた、二人きりになった。
すると奈緒ちゃんは僕に、昨日びっくりしちゃったことを謝ってきた。
上の空で、僕は思う。背後霊の職務として、みちよちゃんと小板橋をくっつけるためには……
この娘と……奈緒ちゃんと……エッ……エッ……エッチを……
『センパイ?』
はっと我に返った。奈緒ちゃんはリハビリの内容を具体的に知りたいという。
『そっ、そうだドラマ! 二人で一緒にドラマを作るのが課題なんだ!』
とっさに、僕は説明をでっちあげた。僕たちで担当の二人を動かして、ハッピーエンドに持ってければ合格。
奈緒ちゃんは、おもしろそう、と笑った。よしっ、われながら見事な説明だ!
『あっ、もしかしてテレビのドラマもこ〜やって作っているんですか?』
部屋を出てどこかに向かう小板橋に連れられながら、奈緒ちゃんはズレたことを語ってる。
入院してたから、テレビばっかり見てた。まさかドラマに自分も参加できるなんて……だってさ。
僕は思い当たった。そういえば、入院歴10年って――
――もしかして彼女、世の中の事テレビの中でしか知らないんじゃ……
『キャーーッ』
奈緒ちゃんの悲鳴が響いた。僕がハリセン片手に壁を抜けてそちらに向かうと、
『センパーイ! あの人……ヘンな所にヘンな生き物飼ってるんです〜っ!』
涙を浮かべて僕に抱きつく奈緒ちゃんは、その「生き物」の特徴を語る。
伸びたり縮んだりして、ヘビみたいな……?
小板橋のところに行ってみると、彼は小便器に向かってじょろじょろやってるとこだった。
『きのうなんかヘンな白いもの出してたし……』
僕は、先行きが急に不安になった。この娘と……エッチ……。
――さて……どこから始めればいいんだろう!?
慎之助さん萌え。
剣術以外はからっきしなんだろうな。
背後霊としての自覚どころか人としての常識すらないじゃないか…
この子に憑かれたからって小板橋氏は常識人にはなれない気がしてきた。
まさるも目的違ってきてないかー?
10年の入院生活って、どのくらい金かかるんだろう?
いいとこのお嬢さんだったのかな。
まさるの童貞脱出よりカエルが何者なのかの方が気になる
何か目的があって憑いてるのか、今後どうする気なのか
今はいいけどそれぞれが家にかえったらなおちゃんパニクりそうだな。
カエルと二人きりだし。
『きのうなんかヘンな白いもの出してたし……』
かろうじてオナニーコメディ
カエルの次は世間知らずの女の子…小板橋にちょっと同情する
メインの登場人物みんなして不幸だよな
火事で母親を亡くして自殺願望の女
霊に操られて変態行為を繰り返させられる男
若くして死んだ少年
病院から出ることなく人生を終えた少女
書いてて気づいたけど、まさるって主人公のくせに一番設定が不明確なんだな
574 :
1/2:2006/02/13(月) 00:04:47 ID:???
第12話「なんですかこれ〜〜!?」
みちよちゃんのシャワーのお湯を背後で一緒に浴びながら、僕は一息つく。
新人の背後霊……か。何か大変な一日だったなあ。
あの後、『看護婦さ〜ん!』と泣きついた奈緒ちゃんは、ソフィーさんに性教育を受けた。
『おちんちんはね、テレビに映しちゃいけないことになってるの! だから奈緒さんも知らなかったのね』
小さい子のならテレビで見たことありました、という奈緒ちゃんに、ソフィーさんは笑う。
『子供のはいいのよ、かわいいから! でも大人のはダメなの! かわいくないから!』
性教育を終えると、ソフィーさんは僕を引き寄せて、にこやかな顔のまま厳しく、
『作り話でごまかすのもほどほどにしないと……あとで自分の首絞めることになるわよ!?』
大変でも、時には本当のことを告げる勇気も必要、と教わった。
そんなとき、奈緒ちゃんは何か気づいたように僕に訊いてきた。
『ということはもしかして……まさるセンパイにもついてるんですか?』
答えに詰まって、『ほら! ボクまだ子供だから』とごまかす僕――ああっ、またっ!
奈緒ちゃんは『かわいんですね!』と手を打った。……あながちウソと言い切れないところがまた……。
頭を抱える僕を、ソフィーさんはすごく心配そうに見ていたっけ……。
『奈緒ちゃん……』
ぼんやりと思い返していると、みちよちゃんのシャワーが止まっていた。
見ると、みちよちゃんはひとりエッチを始めていた。みみみみみちよちゃんったらまたあ。
……やっぱ、昼間小板橋に抱きしめられたこと思い出してるのかなあ。
いや。抱きしめられた――つってもなあ……
僕たちがソフィーさんの性教育を受けてる間に、大変なことが起こっていた。
僕たちが目を離した隙にカエルが小板橋に取り憑いて、みちよちゃんを後ろから抱きすくめさせてたんだ!
――早く正気に戻さないと、二人の関係がメチャクチャに!
僕はハリセンでカエルを叩いた。けどカエルは涼しい顔。僕は奈緒ちゃんに叫んだ。
『得物を……君の得物でカエルを! 担当の君が叩けばカエルだって……早く!』
『でも……得物なんて……!』
575 :
2/2:2006/02/13(月) 00:05:28 ID:???
半泣きの奈緒ちゃんの手には、大きなピコピコハンマーがあった!
ピコッ、と大きな音を立てて奈緒ちゃんはカエルを打ち据えた。
自分の得物を震える手で持って『なんですかこれ〜!?』と驚く奈緒ちゃんそっちのけで、僕は床を見ていた。
だって、奈緒ちゃんはカエルと一緒に、小板橋まで気絶に追い込み、床に突っ伏させてたんだ。
すげー……。
――パワフルだなあ、奈緒ちゃん!
僕が回想してるうちに、みちよちゃんもひとりエッチを終えて、お風呂から上がった。
僕はまた身構えていたけど、みちよちゃんは至って平静に風呂上がりを過ごして、就寝した。
最近、ひとりエッチしても死にたくならないみたいだ。……助かるけど。
それにしても、今頃どうしてるかなあ、奈緒ちゃん……。
「さきほどは本当にすみませんでした! 急にめまいがして立ってられなくて……抱きついてしまって……」
そう言って、目覚めた小板橋は車に乗り込んだ。家に帰って休みを取ることにしたんだ。
発車のとき、奈緒ちゃんは僕に言った。
『この人の部屋に帰るのこわい……』
明日になれば会えるから、ピコハンがあるから、と元気づけても、奈緒ちゃんはまだ不安顔。
心細そうに僕を呼ぶ奈緒ちゃんに、がんばって、と僕は声をかけつづけた。……車が、見えなくなるまで。
みちよちゃんは、その場に全力でとどまってた僕のせいか、後ろ髪を引かれる感じがしてたみたいだった。
――そうして、夜が明けた。
天気は雨だった。大学に行くと、大輔さんが教えてくれた。小板橋は体調が優れなくて、休みだって。
僕は……なんだか、すごく嫌な予感がした。
……奈緒ちゃん!!
ああああ〜何をした奈緒ちゃん!!
奈緒ちゃんより小板橋氏が心配だぞ、なんとなく。
まさる、年の近い女の子が現れたからって色めき立ちすぎだ。
考えてること奈緒ちゃんのことばっかじゃねーか。
あとソフィーさん、最初に作り話したのは貴女です。
奈緒ちゃんが目を離すとカエルがまた小坂橋にとりついてしまうのか
小坂橋がまともな人間にになれるのはいつの日か…
背後霊の得物にも、威力に差があるんだな。
奈緒ちゃんのピコハンは強力なのか。
「死にたい」を倒すとか、そうでなくても敵と戦うための伏線になるのかな。
580 :
1/2:2006/02/15(水) 00:00:30 ID:???
第13話「助けに来たぞ!!」
降りしきる雨の中、みちよちゃんは小板橋のマンションに来ていた。
本当は奥山さんと二人だった。けど直前まで来て、奥山さんは部屋番号のメモとフルーツをみちよちゃんに押しつけて、帰ってしまった。
部屋は402号室。みちよちゃんは、どきどきしてエレベーターのボタンも押せない。
「やっぱりおかしいわよね!? たかだか一日大学を休んだからって……男の人の部屋に女一人で……」
引き返そうとするみちよちゃんを、僕は一心にハリセンで叩いていた。
――帰っちゃダメだ!! せめてもっと部屋の近くまで! 奈緒ちゃんが……ピンチに陥ってるかもしれないのに。
奈緒ちゃんは言っていた。部屋に帰るのがこわい、と。
小板橋も長い間まともな背後霊がいなかったんだ。部屋が悪霊の巣になってたっておかしくない。
――奈緒ちゃん!!
僕は、4階まで届くかもと思って、まっすぐ上に飛んでみた。
けど床から上半身を出したところでパジャマが引っ張られ、それ以上進めなくなってしまう。ここまでで限界か!
見ると、幸運にも目の前が402号室だ。僕はハリセンを握りしめて、扉をすり抜けた。
『助けに来たぞ、奈緒ちゃ……』
部屋の中には、
ズボンを脱いでそこら中に丸めたティッシュを転がした小板橋と、
その後ろでカエルを頭に乗せて気絶している奈緒ちゃんと、
小板橋を囲む、淫魔の群れ。
淫魔たちはいやらしい笑みを浮かべながら、僕に群がってくる。
『な〜にこいつ?』『どこから迷い込んできたの、ボク』『あの男が正気に戻るまでこいつで遊んでよ〜よ!』
僕は『悪霊退散!』と叫んで、淫魔を打ち据えた!
僕が背後霊だと気づいた淫魔たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。
奈緒ちゃんも目を覚ました。騒ぎを見て、奈緒ちゃんは悲鳴を上げながらピコハンを振り回す。
奈緒ちゃん! 魔物を全部追い払うんだ!
581 :
2/2:2006/02/15(水) 00:01:05 ID:???
力を合わせて淫魔たちを放り出した後、僕は奈緒ちゃんに笑いかけた。
『ほら! 僕たちはこんなに強いんだ。怖い奴らはみんなやっつけちゃえ!』
でも奈緒ちゃんは、他に気掛かりなことがあるみたいだ。見ているのは、小板橋。
正気に戻った小板橋は、いきなりティッシュを取り出して……!
小板橋はすっかりやつれていた。それでもカエルに取り憑かれて、行為を続ける。
奈緒ちゃんは怯え、涙を浮かべながら、小板橋を叩いた。
『ダメ〜ッ! やめてやめてやめて! 映しちゃダメ!それ映しちゃダメなの!!』
そうか、ドラマの撮影だと思ってるんだ……
僕は奈緒ちゃんに口添えした。いいんだよ、ここはその……あとで編集するから!
泣きつく奈緒ちゃんに説明した。淫魔とカエルのせいで、小板橋はエッチなことばっかりしてたんだ。
もうやっつけたから大丈夫、と勇気づけようとしたけど……奈緒ちゃんは、泣いていた。
『お母さんに会いたい……今までいつも側にいてくれたのに……。
お母さん……どこ?』
関係者以外立入禁止で……とたどたどしくごまかしても、奈緒ちゃんを癒せはしない。
ボロボロと涙をこぼす奈緒ちゃんに、僕は何も出来ず慌てるばかりだった。
そんなやりとりなどつゆ知らず、小板橋はトイレに行き――そして慌てて戻ってきた。
窓を通して、廊下のみちよちゃんと目が合ったみたいだ!
2分で服を着替え部屋を片づけヒゲを剃り髪を整えキラキラと星を背後に輝かせ、小板橋は玄関を開けた。
「お待たせしました! せっかくですから上がってって下さい」
ちゃぶ台を挟んで向かい合う、二人はすごくぎこちない。
まずい! つーか気まずい! とてつもなく! なんとかしなければ!
……状況だけを見れば、男の部屋に二人っきり。みちよちゃんと小板橋をくっつける絶好のチャンスなんだよな……。
僕は、ソフィーさんの言葉を思い出す。
――背後霊同士が先にエッチしちゃえば……
ごくっとつばを飲み込んで、僕は奈緒ちゃんを見た。――行くか!?
『なっ、奈緒ちゃん! ベ……ベ……ベッドシーンなんだけど……ここ!』
奈緒ちゃんはきょとんとした顔で、『はい?』と言った。
2分であれだけのことができる小板橋をちょっと尊敬
ていうか、それでいいのかまさる
まさるも小板橋氏もカエルも暴走ぎみじゃないか。
そろそろ奈緒ちゃんに説明してやってもいいんじゃないか?
まさるが色ボケモードから目を覚まさないと事態はうまくいかないだろうし、
物語的にも、このままうまくいっちゃいけないと思う。
淫魔って一匹だけじゃなかったんだな。
人間に淫の心がある限り第二第三の淫魔が……ってか?
淫魔が実体を持ってやってきてくれたら、おれいくらでも堕落するよ
>586
サキュパスだかインキュパスだかだな、それ。
命吸い尽くされるぞ。
588 :
1/2:2006/02/17(金) 00:13:26 ID:???
第14話「うそつきっ!!」
『ベッドで……何をするんですか!?』
ベッドシーンが何か分からない奈緒ちゃんに、僕は――プロレス、と答えた。
ベッドでプロレスさせれば、親密度がぐぐっと高まる。それがベッドシーン。
……いかん、いくらなんでも無理があるぞ!? 奈緒ちゃんもはてなを頭に浮かべてる。
かといって、本当の事を言ったって理解できないだろうし……
具体的に何をするのか。いまいち釈然としない表情の奈緒ちゃんに、僕は言った。
『二人が……つられてプロレスしたくなるように……まず僕たちで手本を示すんだ!』
ほんとにやるんですか、と顔を真っ赤にしながら慌てる奈緒ちゃんを、僕は促した。
『やるんだ! ドラマをハッピーエンドに導きたいなら、さあ! ――来い!!』
僕たちは、がしっと組み合って腕に力を込めた! でも、
『どっ、どうするんですかこれからー!?』
僕も内心、困りまくってた。ここからどうやってエッチにまで持ってきゃいいんだ? マジで!
ってゆうかエッチなんかできるのか!? オレ! 考えてみたら女の子の手を握るのだって初めてで……。
そのとき、奈緒ちゃんが僕の手を引っ張り、僕の頭を小脇に引き寄せた。
奈緒ちゃん積極的……と思ったら、彼女は力一杯僕の首を脇で絞めてきた!
僕は奈緒ちゃんから逃れて、けほけほ噎せた。
『……マネだけでいいから』『え〜っ、そうなんですかー!?』
小板橋は、フルーツを食べるみちよちゃんの口元を見て、なんだかどきどきしてる。
視線を感じて、みちよちゃんも落ち着かなくなってきたみたいだ。二人の間に、いい沈黙が流れる。
『よ……よし! 効果が出てるみたいだぞ!』
さっきから、僕は奈緒ちゃんに抱きついていた。ぴたりと密着する体。
『ででででもセンパイ!これって……これってプロレスなんですか?』
奈緒ちゃんに生返事しながら、僕は彼女の体の感触をめいっぱい感じていた。
温もりとどきどきが、死んじゃってるのに伝わってくる。それに、髪の毛の香り……
――奈緒ちゃん!
僕はたまらなくなって、奈緒ちゃんを強く抱きしめた。
589 :
2/2:2006/02/17(金) 00:14:30 ID:???
小板橋は、フルーツの汁が垂れたみちよちゃんの口元にハンカチを差し出す。
見つめ合ううちに小板橋は、ハンカチではなくその指で、みちよちゃんの唇に触れた。
僕もまた、奈緒ちゃんの背中を、おしりを、撫で回す。
『セッセンパイ!? これっ、プロレスじゃないっ! これっ……』『だいじょ〜ぶだいじょ〜ぶ』
みちよちゃんが、目を瞑った。小板橋が、みちよちゃんを抱きしめた。
そのとき、さっき追い出した淫魔たちが空気の変化を感じて部屋に戻ってきた。
壁から、天井から、顔を出して合唱する淫魔たち。
――セックスだ♪ セックスだ♪ セックス、セックス、セックス、セックス……。
『センパイッ! せっ……「せっくす」だって言ってますけど!!』
『き……気にしなくていいよ! セックスっていうのはその……プロレスの技の名前なんだから! だから……』
『ウソッ!!』
奈緒ちゃんのピコハンが、僕の頭を直撃した。
みちよちゃんが、はっとして「やめてください!」と小板橋を突き飛ばす。
小板橋はみちよちゃんから離れ、「くそっ」と壁を殴った。
そして奈緒ちゃんは、体を怒りに震わせて僕に叫んだ。
『「セックス」の意味ぐらい知ってます! 私……そこまで世間知らずじゃありません!』
テレビにだってそういうシーンはある。見ちゃダメだってお母さんに言われた。
血の気が引いた。奈緒ちゃんはポロポロ涙をこぼして言う。
『これはプロレスじゃなくて……セックスなんですか!? 私をだましてたんですか!?
どこまでがウソなんですか? ドラマの撮影だって言うのは? リハビリだって言うのは!?
……うそつきっ!!』
僕の顔は、きっと青ざめていたと思う。
小板橋も俯いて、みちよちゃんに言っていた。すまない、ただ理解してほしい。
「これ以上僕を……試さないでくれ……」
みちよちゃんは、すみませんでしたと言葉を残して部屋を逃げ出した。
雨の中、傘も差さず家へと走る。
――そして僕も、彼女の背後で、ただ放心していた。
最悪だな…
自分から部屋にきて、二人きりになって、
あげく突き飛ばされたんじゃ小板橋もたまんないよな。
ちょwwwwwwwwwwおまwwwwwwwww
童貞どころか女の子の手を握るのも初めてってwwwwwwwwwww
まさる・・・経験不足だったんだなぁ。
自業自得だが同情する。この仕事、まさるには荷が重いよ。
扱いた橋が気の毒だ。もうちょいだったのにな。
ていいかどうすんだこれ。八方塞がりじゃん
まさるの介入があるとは言え、端から見たら
みちよちゃんがどうしたいのかも意味不明だよな。
最初は、背後霊は人間と対話できないって設定はどうなんだと思ったけど、
なんか面白い形でストーリーに影響与えてるよな
言い忘れてたけど、前々回のさりげない「後ろ髪引かれる」現象の解釈も面白いと思った
最近はみちよちゃんの死にたい病おさまっていたけど、
これでまた再発しそうだな。
処女膜が化石に
これで、小板橋は3度も拒絶されたことになるわけか。
強引にくっつけるのは無理だって証明されたわけだ。
手だてとしては、根本から「幸せになるのが怖い」みちよちゃんの不安を取り除いてやるしかないんだろうけど……
そのために背後霊の立場でできることって何があるんだ?
…あるのかねぇ
奈緒ちゃんの今後も不安だ
もうこうなったらほんとに素直に話して許しを請うしかないんじゃね。
実はもう死んでます、二人をくっつける為だったんです。
…ダメっぽいな。
600 :
1/2:2006/02/19(日) 00:01:10 ID:???
第15話「みちよちゃん!!」
開かずの間からは、“死にたい”が顔を出している。
みちよちゃんは、大学の臨海実習の付き添いの頼みの電話に断りを入れている。
僕は、焼け落ちた家の二階部分に浮かんで、夕日を眺めていた。
大学に行かなくなって一週間……十日かな?
……僕のせいだよなあ。
本当なら僕が引きずってでもみちよちゃんを大学へ連れてくべきなんだろうけど……
――うそつきっ!!
ピコハンを構えて涙を浮かべる奈緒ちゃんの姿が、瞼の裏から離れない。
これは……みちよちゃんの登校拒否だろうか? それとも……僕の?
みちよちゃんは、テーブルに置いた「遺書」を見つめていた。
そう……みちよちゃんにはまだ……最後の逃げ道が残されている。
でもその切り札は……僕はもうすでに使ってしまった。
僕はどこに……逃げればいいんだろう?
ふわりと空に飛び立つ。すぐに僕は違和感に気づいた。どこまで飛んでも、引き戻されない。
そっか、リタイアはいつでもできるってことか。……バイトだもんな。
登校拒否の背後霊……職場放棄の背後霊……。
鉄塔のてっぺんに腰を下ろす。夕日は山の向こうに消え、闇が深まっていく。
そろそろみちよちゃんの所に戻んなきゃ、……戻るんなら。
他の道は、と僕は天を見上げる。天使様の元へは……帰れないよなあ。
でも、僕がいることが逆にみちよちゃんの負担になっているんだったら、みちよちゃんの所へも……。
601 :
2/2:2006/02/19(日) 00:01:57 ID:???
欠けた月を眺めながら、ふわふわと夜の空を漂う。
もしかして僕、今……浮遊霊?
いつかの天使様の言葉を思い出す。浮遊霊は、大半は二度と戻らず、そのままスゥ〜ッと……。
……そっか、消えちゃうのか……そっか。
結局……死は逃げ場所にならなかったなあ……。
ふと、気づいた。せめて……その事だけでも伝えたい。みちよちゃんに……。
そう思った時パジャマの襟に、くんっ、と引力が戻った。僕はみちよちゃんの家へと引き戻されていく。元気が湧いてきた。
――僕にもまだ……伝えられる事が残ってるじゃん!!
風を切って家に戻る。
庭にベスの姿が見えた。鳴きながら窓を引っ掻いている。……入れないのか?
家の中は暗い。嫌な予感がした。
中に、入る。
みちよちゃんが床に突っ伏していた。その上に、黒いモヤのようなものがあった。
……いや、モヤじゃない。
“死にたい”が開かずの間から完全に姿を現し、みちよちゃんを見下ろしていたんだ。
机に散らばった飲み残しの薬。
左手首の血溜まりとカミソリ。
元栓を最大に開いたコンロ。
何が起こったのかは明白だった。
『うわ……わ……』
青ざめて震えながら、僕は宙を見た。
そこには、
透明な姿になって浮かぶ、みちよちゃんがいた。
み、みちよちゃーーーーーーーーん!!!
まさるのバカバカ!一番肝心なときに側にいないなんて!
なにこの鬱展開……
まだ生きてる!きっとまだ生きてる!
だって幽霊に背後霊なんて変じゃん?もう死んでるなら引き戻されないだろ?
頼むからそうだと言ってくれよ…
すべてが悪い方向に向かう流れが納得できすぎて、この先好転する展開が全然見えない……
まさるにできること、マジで何もないじゃん。
切ない描写でほろっときてたら、すごい展開キタ
みちるちゃん、マジで死んじゃった?
ていうか睡眠薬飲んでガス漏れさせた上、手首切るって
念入れすぎですから!
みちよちゃんがこの先生きのこるには
_,,,......,,__
/_~ ,,...:::_::;; ~"'ヽ
(,, '"ヾヽ i|i //^''ヽ,,)
^ :'⌒i i⌒"
| ( ゚Д゚) < せんせいきのこっちゃうぞ、ゴルァ!!
|(ノ |)
| |
ヽ _ノ
U"U
出たな先生きのこ
きのこといえば
最近オナニー漫画じゃなくなってきたな
きのこから連想するなw
まあオナニーどころじゃない状況だからな。
それにしても、本気でこの状況を打開する策が思い浮かばない。
3択―ひとつだけ選びなさい
答え1.シースルーのまさるは突如現実干渉のアイデアがひらめく。
答え2.小板橋がきて助けてくれる。
答え3.助からない。現実は非情である。
3!3!
613 :
1/2:2006/02/21(火) 00:02:08 ID:???
第16話「からっぽの体……」
ちっ……血を、早く血を止めないと……それから薬を吐かせて……
いや、ガスだ! まずガスを止めなくちゃ!
僕はコンロへと駆けつける。でも、霊の体ではツマミを回すこともできない。
コンロを押さえても、ガスは僕の手をすり抜けて、刻一刻と部屋にその濃度を増していく。
どっ、どうしよう! どうしたら……
『みちよちゃん!』
僕は浮かぶ彼女の霊体に訴えた。
自分の体に戻って! まだ間に合うと思うから……早くしないと、本当に!
でも……みちよちゃんは、体を縮こまらせて、首を横に振るだけだ。僕は絶望的な気分になった。
そうしてる間にも、“死にたい”がみちよちゃんにのしかかっていく。
あっちに行ってろとハリセンで叩くけど、まったく効いてない。くそっ、くそっ!
それどころか“死にたい”は、腕(?)を振り上げて僕を払いのけた。
軽々と、弾き飛ばされた。
な……なんだこいつ!? なんでこんなに強いんだ? こんな……こんな物の怪にすら勝てないのか!?
みちよちゃんのからっぽの体すら……守れないのか!?
こんな終わり方……こんな……
気づいた。
僕は浮かび上がり、みちよちゃんの体を見下ろした。からっぽの……体……。
――ということは。
体に、自分を重ね合わせる。潜り込むことをイメージする。そして、確かめるように指を動かす。
みちよちゃんの体に、僕は憑依したんだ。……少しずつ、少しずつ起きあがる。
手を前に伸ばす。びた、と血まみれの手のひらが床に音を立てた。
――痛い! ――苦しい! ――痛い!
生きてるって……こんなに苦しいことだったっけ……
すっかり……忘れてた……。
614 :
2/2:2006/02/21(火) 00:03:00 ID:???
這って歩くのがやっとだ。それでもコンロに辿り着き、元栓を閉めた。
それから窓へ向かう。錠を回し、ガラガラとサッシをスライドさせる。外気が部屋に流れ込んできた。
もう限界だった。僕は憑依を解き、仰向けに床に倒れ込んだ。
宙を見ると、みちよちゃんが窓際を指さして、何かを訴えようとしていた。
――ベスが、部屋の中に入ってきてしまったんだ!
『自分で止めるんだ、みちよちゃん!』
ほら、と手をさしのべる。みちよちゃんは、おそるおそる手をこちらに向ける。
僕の手が、みちよちゃんの手を、しっかりと握った。体へとみちよちゃんを導く。
みちよちゃんは一言、
『ありがとう……』
言葉を残して体に戻ったみちよちゃんは、弱った手でベスに触れた。
「ダメ……ベス、あぶない……ガスが無くなるまで待って……」
やがて換気扇を回し、薬を吐き出したみちよちゃん。なんとか、一命は取り留めたようだ。
洗面所に倒れ込むみちよちゃんを見守っていた僕は、開かずの間へと戻っていく“死にたい”の呟きを聞いた。
――ザンネン……ザンネンダ……。
みちよちゃんはオーバードーズに苦しみながら、眠っている……。
その姿を見下ろしながら、僕は思った。
もう逃げられない。いや……逃げない! もうこんな思いはしたくない!
たとえどんな結果に終わっても……僕に時間が残されてる間は……みちよちゃんの側にいよう!
とにかくまず――彼女を外へ連れ出さなくちゃ!
ということで、秋風の吹く海辺。
臨海実習の付き添いに、みちよちゃんは来た。奥山さんや大輔さんも一緒だ。そしてもちろん――
僕は向こうを見た。学生たちの相手をしているのは、小板橋だ。
小板橋の後ろには、奈緒ちゃんの姿が、ある。
――さて! ……覚悟を決めますか!!
みちよちゃん助かったか…よかったな、まさる。
てゆーかみちよちゃんまさるのことを見たのか?
どう思ってんだろ。臨死体験とかか?
そういえば、宿主との初コンタクトになるんだな。
この接触で、ほとんど見てるだけだったみちよちゃんとの関係が、今後変わってきたりするのかな?
なんにせよ今回の件は、みちよちゃんにとってもまさるにとっても、大きな意識変化に繋がるだろうな。
まさる、死んで初めて生の実感が出てきたみたいだな
今後、死んだことを後悔しはじめたりするんだろうか・・・
だとしたらちょっと残酷だけど
いくら助けてくれた背後霊とは言え
四六時中男の子に見られてるのは嫌だろうな…
フツーにコミュニケーションがとれるような関係は無理そうなきがするな。
そもそも幽体離脱しなきゃまさるを認識できなかったわけで、
今後また死にかけることとかなければ、まさると話すチャンスはもうないだろう。
それとも、この事件をきっかけに霊感に目覚めたりするのかな。
620 :
1/2:2006/02/23(木) 00:53:16 ID:???
第17話「ごめんなさい」
奥山さんが、一人で海ではしゃぐ。
「今年の夏は泳ぎに行けなかったから……執念だねえ」と大輔さんが苦笑してる。
学生達は実習が終わるまで遊ぶのおあずけだから、院生の特権ではあるのだそうだけど。
助手の小板橋は、人数の多い学生の扱いに大変みたいだ。
「生物学科の学生と合同ですからねえ……み、みなさんにも来ていただいて助かります」
言いながら、みちよちゃんとは目を合わせようとはしない。
そして小板橋の後ろで、奈緒ちゃんはピコハンで身を固めて険しい顔。やっぱりまだ怒ってる!
僕は逃げ出したい。でも……もう逃げないってみちよちゃんに誓ったんだ!
だから勇気を出して――
『奈緒ちゃ……』
声を掛けようとしたとき、僕は出鼻をくじかれた。みちよちゃんがいきなり、服を脱ぎだしたのだ。
その下には水着。泳いで来ますね! と元気よく、みちよちゃんは奥山さんの方へ向かった。
『みちよさん……元気そうね!』
ソフィーさんが僕に声を掛ける。まさる君ががんばったおかげかしらと笑うソフィーさんだけど……
……これからがんばる所だったんですけど……うーん?
海洋研究所に到着した。
ここでの院生や学生たちの話で分かったこと。
研究所は狭くて機材も古いこと。でも、天然温泉の大浴場があるということ。
生物学科は女子学生が多いこと。でも、地質学科のみちよちゃんと奥山さんは、補って余りある美女だということ。
(で、こっちはその二人の入浴シーンも見放題と! ちょっと優越感)
そして――大輔さんの、話。
「各自、夜は気をつけるように! 特に女子! 出 る からな……ここは!」
……マジすか? と訊くと、ソフィーさんも言った。
『まあ……海が近いとね、いろいろ……』
621 :
2/2:2006/02/23(木) 00:54:21 ID:???
みちよちゃん(とベス)には、小板橋の隣の部屋が割り当てられた。
一段落して夜、部屋に入って……僕は、意を決した。
昼間から、何度も奈緒ちゃんに話しかけようと思った。
でも、他の背後霊の好奇の目や奈緒ちゃんの冷たい視線で、なかなか話を切り出せなかった。でも今なら。
ひとつ深呼吸をして、壁を抜ける。
『失礼します!』
奈緒ちゃんはピコハンを握りしめ、仏頂面でこちらを見てる。僕は、思い切って頭を下げた。
『ごめんなさい、奈緒ちゃん!』
『……なにがごめんなさいなんですか?』
頭を深々と下げたまま、僕は謝罪と、正直な気持ちを述べた。
ウソをついてたことを謝りたいこと。本当のことをどう説明したらいいかわからなかったこと。
……ウソをついてでも、しなければならないことがあると思ったこと。
『それは、みちよさんと小板橋さんを幸せにすることですか?』
奈緒ちゃんは、口調を和らげて、僕に言った。
ソフィーさんから聞いた。僕はやらなきゃならないことをやっていただけだ、と。
ただ……奈緒ちゃんと同じように若くて、とまどっていたのだと。
ピコハンを引っ込めて、久々に穏やかな表情になって、奈緒ちゃんは言った。
『だから……もう二度とウソをつかないって約束してくれるなら……許してあげます』
僕は嬉しくなって、奈緒ちゃんの手を握りしめた。ありがとう、奈緒ちゃん……。
その時、小板橋が呟いた。
「水着、水着……みちよさんの水着姿……」
鼻息荒くズボンを下ろしはじめる小板橋。
僕たちは真っ赤になりながら、窓の外、庭に移動した。
そこで奈緒ちゃんは、言った。もうひとつ聞きたいことがあるんです。
『特撮でも……ドラマでもリハビリでもないとしたら……いったい私は何なんですか?』
また一瞬、ごまかしたい衝動に駆られた。でも僕は、決意を持って、言った。
『君は……僕たちは……背後霊なんだ! 僕たちはもう……死んじゃってるんだよ』
奈緒ちゃんの顔に、驚きの色が浮かんだ。自分の口を押さえて、彼女は呟いた。
『……ウソ……』
勇気を出して謝ることができたまさるは
ひとつ成長することができたな。死んでるけど。
とりあえず言っとくか。
痛快オナニーコメディ健在。
あとソフィーさんナイスフォロー!
宿主 - 背後霊の相関図書いてみた。
みちよ(院生) - まさる
小板橋(助手) - 奈緒/カエル
奥村(院生) - ソフィー(ヨーロッパ貴族)
大輔(院生?) - 慎之助(侍)
坊主頭(学生) - ピーター(外人)
>『まあ……海が近いとね、いろいろ……』
背後霊以外の霊が出てくるのかな。
この世界の幽霊の体系ってどうなってるんだろ。
浮遊霊と背後霊、あと動物霊の存在は確認できてるけど・・・
海限定ってことは、自縛霊か?
おお…いるかもしれない。海の幽霊は恐いね。
水辺には霊が集まってくるらしい…
628 :
1/3:2006/02/25(土) 00:01:45 ID:???
第18話「嫌だ〜〜〜っ!!」
僕はもうウソをつかないって誓った。だから……僕は、残酷な真実を口にした。
奈緒ちゃんは、相当のショックを受けたようだ。俯きながら、訥々と言う。
『お医者様が、私の病気は必ず治るっておっしゃってました。お母さんも。
だから……私はまだ負けたわけではありません! 必ず病気に勝ってみせます!』
涙をにじませながら、毅然と宣言する奈緒ちゃん。体はきっとまだ病院のベッドに寝てる。病気が治れば戻れる、と。
そう言う奈緒ちゃんに、僕は言葉が見つけられず、ただ見つめるしかできなかった。
沈黙を恐れてか、奈緒ちゃんが早口で言葉を継ぎ足した。
『あのっ! 実は私も……ひとつウソをついてました!』
そう言って、自分の髪の毛を引っ張る。すると……髪の毛は、ずるっと、取れた。
『これが本当の私です! あの……笑わないで下さいね?』
髪の毛は、カツラだった。まばらに残った頭髪が、とても痛々しい。
――奈緒ちゃんの本当の頭髪は、薬のせいでほとんど抜け落ちてしまったんだ。
『でも……治療が終わればまた生えてくるって先生が……』
僕はとても悲しくなって、その場にうずくまった。
奈緒ちゃんの手が、僕に触れた。
『なんで先輩が泣くんですか? おかしいです……』
629 :
2/3:2006/02/25(土) 00:02:36 ID:???
翌朝、僕と奈緒ちゃんは、ぎこちなかった。
顔を合わせると何か顔が熱い。会話が続かず、沈黙がこそばゆい。
……ソフィーさんは、ニヤニヤこちらを見てる。
ごまかすように現状を整理した。第一に宿主の幸せを考えると、みちよちゃんと小板橋をくっつけるのが一番。
ただ問題は、あの雨の日の一件。あれ以来二人は視線も交わさず……まあ僕たちが原因なんですけど。
『小板橋さんは……まだみちよさんの事好きなんだと思います』
だって昨夜も今朝も何回も、ひとりで……と言う奈緒ちゃん。わ……わかりやすいなあ。
となると、問題なのはみちよちゃんだ。
思ったよりも明るいのは助かるけど、あの夜以来、いまいち何を考えてるのか……。
地層の露出した川辺に、地質学科は辿り着いた。
奈緒ちゃんがピコハンで小板橋に勇気を出させて、みちよちゃんに話しかけさせた。
「かっ、体とか大丈夫かい? 長いこと休んでたからその――もし辛いようだったらその……」
けどみちよちゃんは、
「安心して下さい! 私……もうすっかり元気ですから!」
にっこり笑って、学生の方へ歩いていった。
どういうこと!? 今までならもっとドギマギしてるはずなのに……
『小板橋さんのこと……吹っ切ってしまったみたい……』
呟く奈緒ちゃんに、はっとした。もし……みちよちゃんと小板橋が別れちゃったら、僕たちも一緒にいる理由が無くなってしまう!
そこまで考えたとき、奈緒ちゃんとの間を裂くように、みちよちゃんの引力が僕を引っ張る。
ゴムのように飛ばされた先には、坊主頭の学生と、背後霊のピーターさん。
坊主頭は、憧れのみちよちゃんとの会話に顔を赤くしてた。そしてピーターさんも、ポッと頬を染めて、
『ヨロシク〜v』
そう。みちよちゃんに新しい男ができるということは……僕もそいつの背後霊と……
――嫌だ〜〜っ!!
630 :
3/3:2006/02/25(土) 00:03:15 ID:???
その日は一日中、ぼーぜんとしてた。
夜の温泉でくつろぎながら、奥山さんがみちよちゃんに小板橋との進展を尋ねてる。
みちよちゃんは、誤解だと言うように目を伏せて、
「小板橋さんとは……私が端から見てると危なっかしいから……世話を焼いてくれているだけで……それだけなんですよ」
ちがうってばよ〜! という僕の声は、当然届かないわけで。
……でもマジな話、もし本当に吹っ切っちゃったのであれば、背後霊としてはその決断を応援するしかないのではないだろうか。
奈緒ちゃんと別れるのが嫌だから反対するなんてゆ〜のは、やっちゃいけない事のような気がする。
それでもし……例えばみちよちゃんが次にあいつ(坊主頭)を選んだとしたら。
……おぞましい想像に泣けてくる。
ソフィーさんは、長いこと背後霊をやってると好きになるのに性別とかは関係なくなる、と言った。
でもごめんなさい……僕にはまだムリです。
そんな僕の意識を揺り戻したのは、みちよちゃんの独白だった。
「この前ね……自分自身を外から眺める機会があって……そんな気がしただけかもしれないけど……自分がどれだけ醜いかわかったの」
いつも自分のことしか頭になくて、周りの人たちに迷惑かけてても気づかなくて……そのせいで好きな人にも嫌われた。
「それでも助けてくれる人たちがいるから……がんばらなくちゃって!」
みちよちゃん、あの時のこと……! 心の成長に、胸がじーんとした。
奥山さんとみちよちゃんの話は、すぐに小板橋との関係についての押し問答に戻った。
すると、ソフィーさんは微笑んで言った。
人間同士でもなんとなくソリが合わない人がいるのは、意外と背後霊同士が合わないせいだったりする。
つまり……たまには背後霊側の都合を優先させてもいい、ということ。
『背後霊が幸せにならなくちゃ……人間も幸せにはなれないわ!』
僕は、なんだか心が軽くなって、男湯の小板橋のところへ飛んでいった。
僕たちもがんばろうね! と奈緒ちゃんに伝えたかったんだけど……
奈緒ちゃんは、男たちの裸をモロに見つづけて、失神寸前だったようだ。
僕の前でついに事切れる奈緒ちゃん。
……がんばって〜っ!!
カツラセツナス
やっぱ登場人物みんな不幸だよこの漫画……
で、まさる、また色ボケモードに入ってる?
また奈緒ちゃんと一緒にいたいってのが目的になってるよな。
奈緒ちゃん… 抗がん剤か何か使ってたのか…
事切れたって…死んでないからw
いや死んでるけど。
奈緒ちゃんは一生懸命生きていたんだな……
確かにさ。背後霊どうしがくっついて幸せで、
つられて本人どうしもくっついて幸せになれるならそれでいい気もするな。
まさる自身恋したっていいだろう。
それがみちよちゃんの幸せに繋がるならなおさら。
逆に、男に憑いた男背後霊と男に憑いた女背後霊が恋したらどうなるんだろう……
つまり奈緒ちゃんとピーターさんがくっついたら、
小板橋と坊主頭がラブラブになるってことだな
ソフィーさん×まさるでみちよちゃんと奥山さんがくっつくのは
そんなにおぞましくないのは何でだろう
ウホッ
みちよちゃん、あの夜の記憶、やっぱりあったんだな。
ってことはまさるが助けてくれたことも覚えてるわけだ。
これから先、それが展開に関わってきたりするのかな。
640 :
1/2:2006/02/27(月) 00:01:11 ID:???
第19話「まず第一段階!」
お風呂上がりの脱衣所で、行動計画を立てることにした。ソフィーさんのニヤニヤ視線が気になるけど。
みちよちゃんもまだ小板橋が好き。自分で勝手にフラれちゃったと思いこんでるだけで、結局二人は両思い。
つまり、二人の誤解を解いてあげればいい。互いの気持ちがわかれば自然にくっつく。それがまず第一段階!
恋人同士になったら、デートを重ねて親睦を深める。それが第二段階かな?
『ディズニーランドはどうですか!? 私……一度行ってみたかったんです!』『いいね! 行こうよ!』
そうすると第三段階は……キスかな? デート3回目くらいが適当かな?
『そうなんですか? 私……経験なくて』『いや……僕もあるわけじゃ……まあその辺は臨機応変に』
で……第四段階は……ベ……“ベッドシーン”かな、たぶん。
『けっ、結婚前でもいいんですか?』『いいんじゃないかな、今の時代……』
それで、二人の関係がそこまで深まったら、第五段階……結婚。第六段階……出産。そして二人は末長く幸せに暮らしました。
なっ、なんかすごく安直な気がする! いいんだろうか、行動計画がこんなんで!?
ソフィーさんは『わからない所は本人達に任せてみちゃってもいいかもしれないわね』とアドバイスしてくれた。
とにかく、背後霊が二人協力してくれるだけでも百人力……か! なんか、自信がでてきた。
その時、生物学科の女子学生がやってきて、奥山さんに、例の「出る」ことについて尋ねた。
霊感の強い子が夜中、金縛りにあったんだそうだ。
「それで朝見てみると……床が海の水で濡れてて……」
それを聞いたソフィーさんは、苦笑いしながら呟いたのだった。
『やっぱり出たわね!? ……「教授」!!』
消灯時間――いよいよ「みちよと小板橋ラブラブ大作戦」!
まず第一段階。誤解を解いて相手の気持ちを理解させる。具体的には――
『……なんにも思い付きませんっ!!』『ああっ、しょっぱなから!!』
僕は今までのみちよちゃんの行動パターンを考えてみた。
小板橋にセクハラまがいの行為をされた後、決まって憑かれたようにひとりエッチをしている!
つまり……みちよちゃんはセクハラされる事で小板橋の自分に対する愛情を確認していたのでは!?
641 :
2/2:2006/02/27(月) 00:02:05 ID:???
ということで、小板橋の頭にカエルを乗っけてみた。
実際……あの小板橋のマンションでの一件以来、みちよちゃんは一回もひとりエッチをしていない!
もし本能全開の小板橋に新たにセクハラされれば、きっとまた……。
小板橋は早速動き始めた。部屋を隔てる壁に近づき、紙コップを壁にあてたのだ。
壁の向こうでみちよちゃんが鼻をかむ音を聞きながら、ズボンを下ろして……
『やっぱりこれ……間違ってると思います!』
……別の方法を考えよう。
といっても、もう何も思いつかない。困った。
小板橋は壁に頭を預けて居眠りしてる。が、いきなりびくっと起きあがった。
壁の向こうで、みちよちゃんの悲鳴が聞こえたのだ。
小板橋が慌てて廊下に出ると、みちよちゃんもベスを抱えて廊下に出てきたところだった。
「すみません、あのっ……今、窓の外に……お化けが……」
暗いロビー、自販機のドリンクで暖を取りながら、二人は幽霊について噂しあった。
この海洋研究所には、海で遭難して亡くなった教授の幽霊が出るという。
「それかどうかはわかりませんけど……窓の外にぼんやりした人影が」
小板橋は「学生のいたずらじゃないですか」と言う。けどみちよちゃんは不安そうに、
「私も……霊の存在って信じてなかったんですけど……この前ちょっと……心霊体験してしまいまして」
――僕のことだ。
その時、どこからともなく、ピシッと音がした。ラップ音だ!
そして廊下の奥、深い闇の底からは――
びちゃっ……
ずるっ…… ぴちゃ……
僕たちは、震え上がって小板橋の部屋へと駆け込んだ。
「あっあっ朝までいてもいいですか?」「どうぞ! というかいて下さい!」
僕と奈緒ちゃんも、得物を構えて震える。だだだ大丈夫、僕たちだって幽霊だ! 背後霊の方が強いはずだし……
でもでもと怯える奈緒ちゃんを元気づけるように、僕は言った。
『それより……考えてみて! 男の部屋に朝まで二人っきり……これは、願ってもないチャンスかもしれない!』
幽霊におびえる幽霊ワロス
まさると奈緒ちゃん可愛いな。
二人で一生懸命相談しててなんか和んだ。
ようやく普通のラブコメがみられるのかな
佳境に入ったかな
今後の展開に期待
まさると奈緒ちゃん、たどたどしく計画練ってるのが和むな。
教授はラスボスとかになるのか?
以前、奈緒ちゃんのピコハンの威力がすごいとかいう伏線もあったし、戦ったりするのかも。
恋愛との絡ませ方が想像つかんが。
カエルはまずいだろ、まさる…
で、チャンスだからあれか?
これからまずまさると奈緒ちゃんがいちゃつくのか?
つーかカエル、まだいたんだ。
649 :
1/2:2006/03/01(水) 00:02:51 ID:???
第20話「一緒にベッドで!」
「だいたい記憶や感情って大脳の神経ネットワークから形成されているわけで……」
と、合理的見地からみちよちゃんを安心させる小板橋。けれどそれより、目下の問題は、
「どうやって……寝ましょう?」
自分が床でいい、と譲り合う二人。
僕たちは宿主を叩きまくって念じた。一緒にベッドで! 一緒にベッドで!
『極限状況だからこそ普段できないことができるんだ! 我に返る前にもっと親密に!!』
でも二人は遠慮しあって、奥山さんや大輔さんの部屋に泊めてもらう方向で話をまとめてしまった。せっかくのチャンスなのに!
と、その時廊下に引きずるような水音が響いた。
悪質な悪戯だ、叱ってやりましょう! と強がりながら小板橋が廊下に躍り出ると――
足下には、したたり落ちた水でできた、足跡。
二人は体育座りの姿勢で、ベッドの上で震えた。ナイス! ナイスタイミングだぞ幽霊!
ただ……このまま朝まで震えてても意味がない。
なんとかしていいムードにさせないと。悩む僕に、
『小板橋さんのマンションでやったアレ……プロレスごっこ……効果があるのは本当なんですか?』
試してみませんか、と凛々しく言う奈緒ちゃん。いいのかいと問うと、こくんと頷いた。
さっきからみちよちゃんと小板橋は、お互いをちらちらと盗み見てる。
『ドキドキで心臓が止まりそうです!』
抱き合う僕と奈緒ちゃんの効果は、確実に現れているんだ。……心臓は止まってるけど。
『が、がんばってもうちょっとドキドキしてみようか?』『はい!』
駄目押しで僕たちが頬をくっつけてみると、宿主二人の感情も明らかに高まる!
が、事態は意外な方向に向かってしまった。小板橋が目を剥いて顔を真っ赤にして、言ったんだ。
「みちよさん……もう……限界です! この部屋から……出てって下さい!」
突然の剣幕に、みちよちゃんは慌ててベッドから降りた。でも、小板橋は続けて、
「君を……襲ってしまう前に!」
足が止まったみちよちゃんに、小板橋は吐露した。
「あの雨の日のように……君を傷つけたくないから……
愛してる女性に……もうこれ以上嫌われたくないから!」
650 :
2/2:2006/03/01(水) 00:03:44 ID:???
やった! とうとう小板橋がぶっちゃけたぞ!!
……でもみちよちゃんは、口を押さえて固まってる。
どうした! 小板橋が誤解してるってわかったんだから訂正してあげなきゃ!
まだドキドキが足りないのか!? ……早くしないと!
焦る僕の首筋に――奈緒ちゃんが、おもむろに顔を寄せた。
パジャマのはだけた鎖骨のあたりを、奈緒ちゃんの舌がチロッと這い、そっと首筋を伝う……
――僕の背を、ぞくぞくと快感が走り抜けた!
僕のドキドキがみちよちゃんにも伝わり、みちよちゃんも口を開いた。
「あの……ちっ、違うんです……」
怖くなって逃げ出した自分が小板橋を怒らせ、嫌われたと思ってた。だから……嫌いだなんてそんな……。
みちよちゃんの言葉を聞いて、小板橋の表情が和らいでいく。
「じゃあ……僕たち、初めっから……」
気持ちが、通じた!
小板橋が、みちよちゃんの手に触れる。
「怖いかい?」と訊く小板橋。「がんばってみます……」と答えるみちよちゃん。
そして、二人の唇が、触れあった。
――やった! とうとうやったね、みちよちゃん!!
感動に浸っていた僕は、奈緒ちゃんと密着してることを思い出す。慌てて離れた。
『でででもキスは確か第三段階目じゃありませんでしたっけ?』
多少は順番が前後してもいいんじゃないかな……と思っていたら、小板橋はみちよちゃんをベッドに押し倒した!
『……このまま第四段階に進んでしまいそうなんですけど……』
どうしよう!? そこまではまだ心の準備が……
手をこまねいて見てたら、みちよちゃん、キスされたまま、いきなりじたばた暴れ出した。
必死で指さすのはドアの方。小板橋や僕たちがそちらに目を向けると――
体じゅうから滴る海水、半分腐り落ちて骨の形が分かる体――
ドアから半身を突き出した幽霊が、こちらをじーっと見ていた……。
二人はその夜、寝ていた奥村さんを叩き起こして、泊めてもらうことにしたのだった。
一緒にベッドで!一緒にベッドで!
幽霊空気読め
幽霊にほめられる幽霊…w
でもこれで当面の問題は解決したな。
背後霊の心境<小板橋氏の誠意 だったってことで好感度うpしました。
もう20話か。ながいな。
こいつが「教授」? ただのエロ幽霊なのか?
背後霊じゃない幽霊も、意識とかあるのかな。
奈緒ちゃんエロス
首筋に舌這わせるなんて生娘のやることじゃないぜ
>>653 まさる、自分が幽霊だって自覚薄いよなw
この「教授」?をどうにかして、その後みちよちゃんと小坂橋をくっつけたら終わりかな?
まさるやみちよちゃんの過去はどのへんで明らかになるのだろう。
>656
どこで覚えてきたんだろうなハァハァ
小板橋とみちよちゃんがくっついたらハッピーエンドだろうし、
もうここから2人の間に一波乱が起こるとは思えない。
この臨海実習ですべて片がつくだろうな。
・火事の起こった事情
・まさるの過去
他に伏線としては何かあるっけ?
なんで小板橋にカエルが憑いてたのかってのも伏線か?
「化石になりたい」についてももうちょっと説明が欲しいと思わんか?
不幸が続いて投げやりになってただけとは思えないような。
みちよちゃんの事情は他人の口から語られたこと以外分かってないもんな
分かってるのは、火事で母親を亡くしたってことだけだよな。
それ以前は普通に明るい性格だったのかな。
火事以前は「化石になりたい」とは思ってたんだろうか。
小板橋が惚れたきっかけもこのセリフだったような。
マニアックなやつだ。
時系列で言うとどうだっけ。
小板橋惚れる→小板橋告白・振られる→火事・母親死亡→引きこもり?
読み返してみたら、化石のように土の中で静かに眠りたい――って言ってたな。
やっぱり絶望の現れなのかな。
火事と告白の時系列ってはっきりしてたっけ?
いかん、もっかい読み返すべきか…
667 :
1/3:2006/03/03(金) 00:01:17 ID:???
第21話「また……夜が」
奥村さんの部屋に朝が来た。無事に夜を越せたことを、みちよちゃんと小板橋は喜び合う。
極限状況を共に過ごした男女は強い絆で結ばれると、確かキアヌ・リーヴスも言っていた。「ラブラブ大作戦」は順調に進行中!
「で……そんな夜中に二人っきりでなにやってたの?」
奥村さん(とソフィーさん)がニヤケ顔で茶々を入れるのを誤魔化しながら、みちよちゃんたちは部屋を出た。
自室に戻った小板橋は、昨晩を思い出してゆるんだ顔でズボンを下ろす。
……これはまあ、男としては分からんこともない! 許してあげよう。
みちよちゃんはというと、こちらもまた……ひとりエッチ。
ただ、みちよちゃんの場合、小板橋への思いと完全にシンクロしてる。
仲違いしてから一度もしてなかったひとりエッチがまた始まったってことは、本当に元気になった証拠だと思う。
よかったね、みちよちゃん!
見てるのも憚られて、僕と奈緒ちゃんは外に出た。各々の部屋から、自慰に耽る音がかすかに聞こえる。
『なんか……なにかの無駄遣いのような気がします……』『確かに』
それにしても、あの舌――。奈緒ちゃん意外と……テクニシャンなんだね。
そう指摘すると、奈緒ちゃんは慌てて言う。あれはあのっ、テレビで見たシーンをそのまま……と、口を滑らせはっとする奈緒ちゃん。
『……見ちゃ行けないってお母さんに言われてたけど、実はこっそりみてました……ごめんなさい』
なんか謝られた。
昼の実習中、ソフィーさんに、幽霊について尋ねた。
『間違いないわね、その幽霊が「教授」よ!』
もう20年はこの研究所に住みついてる、古い霊。得体の知れない奴なのだそうだ。
……背後霊は別として、成仏せずにこの世に居続ける霊は次第に消耗していくもの。
生前の意識を保っていられるのはせいぜい1,2年。10年も経てば普通魂の抜け殻みたいになってしまう。
『例えば……あの人たちみたいにね!』
ソフィーさんが扇子で指し示したのは、崖から見える海面。ぼやけた姿の霊魂が、いくつも彷徨っていた。
『意識もなく……最後まで残った思念だけが人の形をして漂うだけの存在……「苦しい」とか「怨めしい」とか……』
ところが教授は何年経っても元気なままなんだって。
……どんな秘密を握っているんだろう?
668 :
2/3:2006/03/03(金) 00:01:49 ID:???
夜の温泉。
はしゃぐ生物学科の女子大生の裸を見て、僕は目のやり場に困っていた。
そこに、ただいま〜、と壁をすり抜けて奈緒ちゃんが現れた。
小板橋は買い出しに行ってたんだ。そこで薬屋にも寄ったけど、そわそわしながら変な物を買ってた。
長方形の箱で、2000円で12ヶ入りでゼリー付き……
それは間違いなく、あれです。エッチな目的のために使う道具です。
『やっぱり……お菓子じゃなかったんですね……』
小板橋はやる気満々。そうすると今夜……第四段階に進んでしまうんだろうか?
そんなことを奈緒ちゃんと話していると、突然、隣から声。
『この研究所を連れ込み旅館と間違えておるのではないか? 実に嘆かわしい!』
壁から上半身を出しているのは、Yシャツ姿の見慣れない初老男の霊だ。
『ええと……どなたかの背後霊の方ですか?』
『背後霊だと? そんな非科学的な存在と一緒にされると不愉快であるな! 私は研究者だよ!』
研究テーマは『霊について』。十分非科学的だが、そこに有る物を科学するのが研究者の務めなのだという。
そこで奈緒ちゃんが僕をつついて耳打ちしてきた。――もしかして。
正体を悟り表情を変えた僕たちに、その男はにたっと笑い、
『そこで……まず私は霊という存在を二つの要素に分ける作業から始めた。
「あの世」に属する側面と「この世」に属する側面とに……だ!』
話を続けながら、前に一歩(?)進んだ。
壁から抜け出た体には、腹から下がなく、そこから臓器や骨が見えていた……!
みるみるうちに彼はその姿を変える。
すり切れたYシャツ、腐り落ちた肉、露出した骨、暗い眼窩に光る目。
――昨晩の、幽霊!
669 :
3/3:2006/03/03(金) 00:02:29 ID:???
『出たわね、「教授」!!』
ソフィーさんが扇子を構え、そいつへと攻撃を繰り出した! だが――
『天国や地獄、魂などの「あの世」に属する事柄は「この世」からは研究する術が無い。よって「非科学的」として無視する!』
教授は講義しながら、軽々と扇子を避けた。
『一方、「この世」に顕現した物質的な現象はあくまでも「この世」の物理法則に則っているものと考える!』
例えば、と教授は続ける。私は溺死したから常に海水を滴らせている。これは通常人間には認識できない「非科学的」な部分。
『これが物理世界と接触すると……』「ぎゃっ」
教授がべちゃっと触れた女子大生の肩には、突如生臭い海水が出現した!
友達と一緒に恐がる彼女を尻目に教授は語る。
『この海水は一体何処から来たものか? 一瞬前には物理的に実在していなかったはず!
そもそも本当に海水なのか? それ以前にちゃんと原子から構成されたまっとうな物質なのか?』
その時!
駆けつけた慎之助さんが、教授を縦一文字に一刀両断した!
だが教授は、まっぷたつに分かれながらも平然と、
『――というような研究を手掛けておる! 何か質問は?』
……攻撃が、効かない。言葉を失う僕たち背後霊。
『張り合いがないのう! では次回までに予習をしておくように! 以上!』
そう言い残して、教授は煙のように消えてしまった。
「また……夜がきましたね」
消灯までもうすぐの自由時間、小板橋はぎこちなくみちよちゃんに言った。
「また……お化けが出るかもしれない。僕の部屋に……避難してきますか?」
見え透いた意図を察しながら、みちよちゃんも誘いに応じる。
しかしその時がやがやと近づいてきたのは、CCDやマイクを持った男子学生たち。
「今夜は安心してお休み下さい! 僕たちが廊下で幽霊見張ってますから! ……徹夜で!」
ビデオが撮れたらどこに売り込もうかと盛り上がる学生たちのせいで、口実がなくなってしまった。
小板橋と顔を見合わせて、みちよちゃんは言う。
「実習……あと一日で終わりですね……」
驚いて、僕も奈緒ちゃんと顔を見合わせた。こうやって一緒にいられるのも……あと一日!?
マンガのパターン的には盛りあがってるんだろうけど、
なんかつまんなくなってきた気がする。
そうか?
教授、マッドっぽくてかっこいいな。
ただ何のために今出てきてるのか分かんない。
あと1日で何か決定的に状況を変えるような波乱が起こるのか?
なんつーか、もう小板橋とみちよちゃんの関係に揺らぎがないのに、
別の方向に話を広げられてもなあ・・・
教授がなんかしら生きてる人=宿主とコミュニケーションとる方法を発見するとか?
でも1日しかないんだしなあ。
しかもバイト期間終わったらまさると奈緒ちゃん離ればなれじゃないか。
どーすんだまさる。
別に合宿後にも大学でいくらでも会う機会があるけどな。
ただ物語のセオリー的に、あと1日ですべて決着つけるっぽいってのはある。
みちよちゃんと小板橋の方じゃなく、まさると奈緒ちゃんを進展させる役割として教授は出てきたのかも。
676 :
1/2:2006/03/05(日) 00:01:18 ID:???
第22話「やっぱりやろう!」
一人で眠るみちよちゃんを見下ろしながら、話し合った。
このまま実習が終わったら、小板橋とみちよちゃんは元の曖昧な関係に戻っちゃいそうな気がする。
そうなったら、僕と奈緒ちゃんもまた離れ離れ……
『では二時限目を始めようか!』
声に振り向くと、ドアから顔を覗かせて、教授が腕組みしていた。
得物を構える僕たちに、余裕の表情で教授は語る。この世で我々の体を構成しているモノとは何か。
『壁を自在に通り抜け、長距離を瞬時に移動し、物質と非物質の狭間を行き来する……
その物質/エネルギーを仮に「エクトプラズム」と呼ぶことにしよう!
通常幽霊はこの世に留まるかぎり、このエクトプラズムを消耗し続ける。だから時間と共に存在が薄れていくのだ!』
とはいえ、僕のハリセンをまともに顔に受けても――
『……私は別だがね!』
――教授はびくともしない。
得物が武器になるのは、相手のエネルギーを奪い取る能力があるからだと教授は言う。
『しかし私は研究により、エクトプラズムの無尽蔵な供給源を発見した!』
だから攻撃なぞ痛くも痒くもない。そう高笑いしながら、教授は廊下に出て行った。
後を追うと、廊下にはカメラやマイクを構える学生たちが、ずらり。
教授は動じず、機材の回線に指を差し込む。機材は海水でショートした。
さらに教授はパキッと指を鳴らす。ラップ音だと学生が騒いだ。
『そこで君達に提案がある!』
教授は言った。条件を受け入れるなら研究成果について講義してやろう、と。
『エクトプラズムを無限に供給できれば、自分の体を好きな形に作り変える事も可能だ!
例えば……君のその無様なカツラ!』
教授は、奈緒ちゃんが頭髪以外にも欠損があると見抜いていたんだ!
大病を患って死んだ者は、エクトプラズムが不足している。だが外部から補給すれば……
『条件って……条件って何ですか!?』
食いついた奈緒ちゃんに、教授は不敵に笑った。
『君達が憑いている人間2人を……性交させること!』
教授の目的を計りかねる僕に、教授はただ低い声で笑って、消えた。
辺りは教授の起こした心霊現象で大混乱。そして最後に、どこからともなく教授の声が響いた……。
『くっくっくっ……チャンスは私が作ってやる。いいか? 今夜だ……』
677 :
2/2:2006/03/05(日) 00:01:51 ID:???
その後、どうすればいいか奈緒ちゃんと相談した。
この実習の間にみちよちゃんと小板橋がより深い関係になれば、帰ってから二人が一緒にいる時間も以前より長くなる。
『そうなれば私たちも……一緒にいられますね』『うん……』
それと、教授の言ってた事を信じるなら、奈緒ちゃんの髪の毛も治るんだ。
『でもかわりに……見せちゃうんですか? 教授に……』
う〜ん……聞くこと聞いたらソフィーさんたちを呼んで追い払ってもらうとか!
『すっごい卑怯です、それ!』
悩む事はいっぱいあるけれど、このまま実習が終わっちゃったらと思うと……
僕たちは、考えに考えて決断を下した。
『やっぱり……やろう!』
陽も落ちて、実習は終わりとなった。
夜空には花火が上がり、焚き火を囲んで学生達が笑い声をあげている。
ここは沖合いの無人島、通称「アルカトラズ」。大輔さんの企画した打ち上げの会場だ。
打ち上げは、五年前の「手製ロケット誤爆事件」以来、近隣住民の反対により浜辺では行えなくなっていた。
だから、この無人島に新天地を見いだした、というわけだ。
盛り上がる皆を、みちよちゃんは遠目に見守っていた。その隣に、小板橋が腰を下ろす。
「今年のお祭りも……これでおしまいですね」
明日からはまた、いつもの日常が始まる。
「あと少しだけ……余韻に浸っていましょうか」と言う小板橋に、みちよちゃんは「はい」と答えた。
と、その時小板橋の頭に、小さなパラシュートが落ちてきた。続いて、みちよちゃんの頭にも。
パラシュートには、「あたり」と書かれた紙が結びつけられている。
見ると、皆が一斉にこちらに注目している。とりわけ、奥山さんはニヤケ顔だ。
沈黙を割るように、大輔さんが皆に呼びかけた。
「我々はそろそろ本土に引き揚げるが……今年の『島流し』は、小板橋氏と百瀬女史に決定した!!」
僕は、はっとして上空を見る。教授がうっすらと姿を見せ、こちらに手を振っていた。
大輔さんは言う。島流しとは何か。そう――
「二人には一晩、このアルカトラズ島で野宿してもらう!!」
なんか目的が見えてきたようでもあるね。
なんか違う。
なんか順調すぎるんだよな
教授も別に妨害するわけでもないし
681 :
1/2:2006/03/07(火) 00:03:09 ID:???
第23話「本当の私」
「必要な物は全部そこにあるわ! ネコちゃんの面倒も見てあげるから安心して〜」
朝になったら迎えに来るから仲良くね、という奥山さんの言葉を残して、船は行ってしまった。
みちよちゃんと小板橋は、目を点にして、その場に取り残されていた。
「テントに寝袋、ミネラルウォーター、ティッシュに……コンドーム……」
置いてある箱の中身をあらためて、二人は苦笑しあった。
お互い意識しまくって、目を合わせずにビールを手渡したりしてる。
一方、僕と奈緒ちゃんは、教授の姿を探していた。しかし、どこにも教授はいない。
どうしようかと思ったけど、このチャンスを逃がすのはやっぱり惜しい。……やろう!
抱き合った僕らのドキドキが伝わり、二人の目が合う。
小板橋はみちよちゃんに近づき、キスをした。
――よし! 始まったぞ!
小板橋はみちよちゃんの体をまさぐり、服の下に手を伸ばす。
みちよちゃんは反射的に、小板橋の手から逃げた。
「あのっ……ほんとに私なんかと……」
本当の私を知ったらきっとがっかりする、とみちよちゃんは煮え切らない。この期に及んでまだそんなこと!
ハリセンを振りかぶる僕だけど……それは、必要なかった。小板橋が、目を見開いて言ったのだ。
「みちよさん!! 全裸になって……砂の中に潜って下さい!!」
気圧されて、みちよちゃんは小板橋の言うとおりにした。
小板橋は、なんだかすごく興奮しているようだ。体を震わせながら、化石クリーニングのハケを取り出した。
「あの……小板橋さん? 小板橋さん〜〜!」
みちよちゃんの不安声には答えず、ハケでみちよちゃんの首から砂を取り払っていく小板橋。
何やってんだこいつは! やめさせるべきかと悩んだけど……でも、みちよちゃんを傷つけるつもりはないみたいだ。
徐々に砂を取り除く部位を下に下げながら、小板橋は言う。
「……僕は子供の頃から化石が大好きで……
特に……無機質な岩石の中から生物的な美しい曲線が現れる瞬間がたまらなくて……
……たまらなくエロティックで……気がつくと……化石にしか興奮できなくなっていたんです!」
682 :
2/2:2006/03/07(火) 00:05:18 ID:???
生身の女性はぜんぜんダメで、彼女なんて一生縁がないと諦めていた小板橋。
でも、研究室でみちよちゃんの「化石になりたい」という呟きを聞いてからは、みちよちゃんを発掘したくて発掘したくて――
「気がつくと……こんなことを……してしまっているわけです!」
溜息をついて恥ずかしい思いをさせたことを謝り、服を着て下さいと言う小板橋。
でもみちよちゃんは――彼に答えた。
「小板橋さんの気が済むまで……続けて下さってかまいませんから……」
みちよちゃんは、小板橋の話が嬉しかったんだ。自分でも、小板橋に喜んでもらうことができるんだと思ったから。
だから、みちよちゃんは「本当の小板橋」を受け入れた。
「あの……私、この年でまだ処女で、小板橋さんのこと考えながら……いつも……」
そんな「本当のみちよちゃん」の告白を、小板橋もまた、受け入れる。
こうして――
二人は、体を重ねた。
いよいよ、セックスが始まる。みちよちゃんが夢にまで見たセックスが始まるんだ!
二人を見ながら、僕は涙が止まらなかった。
『二人にとって歴史的な瞬間だ! 僕たちもがんばって見守っていてあげよう!』『はい〜〜〜』
――この時、僕は気づいていなかった。
僕たちの背後に教授が現れ、目を光らせてニヤッと笑ったことに。
か、変わった嗜好をお持ちで…
てか教授何企んでんだよ教授
小板橋のこんな性癖が受け入れられるなんて
奇跡にちかいな。
小板橋、きもい男だ
まあ待てまさる。みちよちゃんだけじゃなく小板橋氏も未経験なんだろう?
はたしてそんなにすんなりと最後までいけるかどうか…
ここまでいって無理ってことはないだろう。
それより教授だ。
性交させるのが教授の最終目的なら、なんで一昨日の夜ジャマしたのか謎。
教授が覗いてなければ二人は最後まで行ってたんだろうから。
だから教授の目的は何か他にあるんだと思う。
アルカトラズ島でセックスすることで、教授の遺体が発掘されるとか。
……プロセスがまったく想像できないが。
子供生ませてそれの背後霊になろうとするとか。
……いやありえないか。教授は非科学を信じないんだもんな。うん。
それなら別に一昨日邪魔する必要はなかったわけだろ
「今」「ここで」ってのが鍵なんだろうけど・・・
今さらだが、メインキャラ二人がリストカッターと変態化石フェチって、随分イカレた設定だよな。
俺は面白いと思うけど、とても一般ウケしないだろうってのも分かるよ……。
691 :
1/2:2006/03/10(金) 00:02:20 ID:???
第24話「もう……大丈夫」
みちよちゃんと小板橋は、ついに結ばれた。……たっぷり6ページの濃密な描写で。
そんな二人を、奈緒ちゃんは顔を真っ赤にして、僕は涙をだらだら流しながら見守っていた。
おめでとう、みちよちゃん……。
『さて……』
ぎょっとして、後ろを振り向いた。教授だ!
みちよちゃんたちを見せないように慌てて遮ってみたけど、教授はそちらには別に興味も持たず、滔々と語る。
性交とは本来、新しい人間を造り出す為の行為。同時にそれは新しい魂を産み出す作業でもある。
魂とは現世においてはエクトプラズムに他ならない。つまり……人ひとり分のエクトプラズムが生成される瞬間なのだ!
だが、と教授は笑う。快楽のみを目的に行為が行われた場合、産み出されたエクトプラズムは何処へ行くのか!?
『――三時限目だ!』
教授は、奈緒ちゃんに服を脱ぐように指示した。服を脱ぎカツラを取った奈緒ちゃんは、絡み合う二人の側に立つ。
僕はハリセンを構え、そっちを見ないように教授を牽制した。
本当にこれで正しいんだろうな? エクトプラズムを補給する方法!
『もちろんウソに決まっとる!』
当然のように教授は言う。背後霊は宿主から絶えずエクトプラズムを供給されている。こんな真似をするまでもない、と。
――だったら、なぜ!?
『暗示だよ』
霊の体は髪や服も含め総てエクトプラズムで構成されている。設計図は本人の記憶のみ。
誰でも自在に姿形を変化させられるはずなのだが、死んで間もない霊は生前の記憶に引き摺られて、容易にそれが出来ない。
『だから暗示が必要なのだよ!』
小板橋の動きが早まり、終わりが近づく。
それに伴って、二人の体からは光の粒子のようなものが漏れ出していた。
そして小板橋がその精を放出したとき――
一気に、光が体からあふれ出す!
692 :
2/2:2006/03/10(金) 00:03:00 ID:???
……どくん、どくん……
光に包まれ、奈緒ちゃんの体が再構成された。
本物の長い髪が生え、体中に残っていた痛々しい手術跡が消え去る――
『先輩っ! 髪の毛も手術の痕もこんなにキレイに……見て!!』
感きわまった奈緒ちゃんに抱きつかれ、僕は耳まで赤くなった。
そして教授も、その光を体に浴びながら、呟いていた。
『うむ! 実に純粋なエクトプラズムだ! ……これでもうあと三年は研究活動を続けられる……』
ふと、教授が遠くに目を向けた。視線の先には、海上に漂う、摩耗しきった亡霊たち。
『お前達も分け前に与らせてもらったらどうだ?』
教授が言うと、亡霊たちは光の流れに乗って天に昇っていった。
教授は満足げに、淡く光る霊魂を見送っていた。
――これで……いいんだ! これできっと……うまくいく!
みちよちゃんはもう……大丈夫だ。
* * *
あたいは薄暗い家の中、もう何日もひとりだ。
あの女も背後霊も外に行っちゃって、退屈ったらありゃしない。
……けど、そんな時、とんでもないことが起こった。
開かずの間から、“死にたい”の奴がずるずるとこっちに出てきたんだ。
『ミチヨ……』
ぎょっとした。よく見ると“死にたい”の表皮が、剥がれ落ちていた。
やがて5センチはある頑丈な皮はぼろぼろと崩れ、その中身が見えていく。
“死にたい”の中身は――汚く煤けた中年女だった。
『カワイソウニ、ミチヨ……』
あたいは戦慄した。
――あんた……あんたいったい何なのよ!?
え、これで終わり? 打ち切り!?
……と思って、慌ててヤンチャン本スレ行ったら、こんな書き込みを見つけた。
20 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日:2001/02/13(火) 05:42
がーん。ほのぼの野球まんがと背後霊まんがが打ち切りになってる。
読むもんが無くなっちまったぞ!
26 名前: 名無しんぼ@お腹いっぱい 投稿日:2001/02/13(火) 11:43
一応、第一部完でしばらくしたら再開みたいな事が欄外に書いてあった
気がするんだが>背後霊24時
作者のHPに逝ってくるよ…
55 名前: 名無しさんのレスが読めるのは2chだけ! 投稿日:2001/02/15(木) 21:40
>>54 一話のページ数が増えるからかきだめるんだってさ。
作者のHPに書いてあった。
5月かあ。ヤンチャン残ってればいいけどな(ぼそ
最後のおばちゃん何ー!?
もしかしてみちよちゃんの母ちゃんか?
教授、なんかカッコいいキャラになったな
えっ、教授っていい奴なの!?
「死にたい」の中身はともかく、人間側は一応ハッピーエンドか?
みちよちゃんと小板橋がくっついて、今後どういう展開になるんだろう。
宿主のことは置いといてまさるの過去を掘り下げてく話になるのかな。
教授がエクトプラズム補給するために二人をくっつけようとするんだったら、一昨日十分目的は達成できたわけで。
一昨日邪魔したのは、海の近くでないとさまよえる亡霊たちを救えないからだったんだな。
すげーイイ奴じゃん。
699 :
1/4:2006/03/13(月) 00:05:08 ID:???
第25話「僕たちがついていれば…」
事態は凄惨だった。半泣きの奈緒ちゃん。何もできない僕。
そう。みちよちゃんの家にたどり着くやいなや、2人は荷ほどきもしてないのにエッチを始めたのだ……。
なっ、慣れなくっちゃね、奈緒ちゃん! 2人はこうやって愛を深めていくんだから……。
事が終わった。2人はちゃぶ台に向かい合ってお茶を飲む。
僕たちは――その頭を得物ではたきまくっていた。
『デートデートデート!!』『順番は多少前後したけど、今からだって遅くはないぞ!』
そんな僕たちの思いはなんとか伝わり、小板橋はみちよちゃんに話を切り出した。
「今度……デートに行きませんか?」
心底嬉しそうな顔で、奈緒ちゃんは小板橋に念を送る。
『ディズニーランドディズニーランドディズニーランド!!』「そうだ! 土曜日から化石即売会が始まりますよ!」
うなだれ涙をにじませる奈緒ちゃん。その肩を抱き、僕は慰めの言葉を掛けた。
そのうちにきっと行くチャンスもあるよ! 僕たち……これからも背後霊を続けていくんだからさ!
僕たちがお互いを見つめ合っていると、小板橋がみちよちゃんを押し倒しはじめた……また!?
『私たちのせい!? 私たちのせい!?』『いやっ……いや、そうかも』
絡み合う2人に、奈緒ちゃんは必死で耳を塞いで目を逸らす。僕もおろおろするばかり。
――それでも……僕が背後霊を始めた頃と比べれば平和な光景だ。
幸せそうだね……みちよちゃん。
ピンク色の雰囲気の中、そういえば、と気づいた。せっかくエッチしてるのに、淫魔の奴がいない。
ふと見ると、ベスが小さな水滴のようなものを目で追っていた。
水滴は畳を這ってみちよちゃんの体に潜り込み――人型に戻った。
『ぷはぁっ!! あ〜ヤバかったヤバかった!! 死んじゃうかと思った!!』
僕たちの留守の間に何があったのか……淫魔は語る。
『変なババァにパワー吸い取られてあたい死んじゃいそうになったのよ!』
淫魔が指し示したのは、開かずの間。
焼け焦げた扉には――虚ろな目だけが爛々と光り、全身から黒いオーラを漂わせた老婆の霊が顔を覗かせていた!
ど〜せ“死にたい”に取り憑かれた亡霊かなんかじゃないの、と淫魔は言った。
『……逆に“死にたい”の方が喰われちゃったみたいだけどさ!』
700 :
2/4:2006/03/13(月) 00:05:48 ID:???
それからしばらく続いた平和な日々は、ある春の日に突然、終わりを告げた。
その日大学で小板橋とみちよちゃんは、大輔さん・奥山さんに引率された学生たちを見送っていた。
皆、北海道の研究施設へと行ってしまうのだ。みちよちゃんたちもいずれ後を追うけれど……
とにかくこれで、ソフィーさんや慎之助さんとも、しばらくお別れだ。
『何かあったらお清さんに相談してね?』とソフィーさんは言った。
ちなみにお清さんっていうのは、いつもニット帽を被った学生の、背後霊。
長い髪に目元を覆われて無口に俯いた――なんていうか、井戸から這いずり出てきそうな人。
自分たちを勇気づけるように、僕と奈緒ちゃんは言葉を交わした。
『大丈夫……だよね!』『大丈夫……ですよね!』『大丈夫、大丈夫!』
一方、小板橋はみちよちゃんに、夕方家まで送りますよ、と嬉しそうに言っている。
今夜もまた……するつもりだね。
『つ……つまり僕たちが一緒にいられる時間もそれだけ増えるってことだ!』
せめて、プラス思考に変換してみた。
と、その時――
「だ〜〜れだv」
小板橋の目を後ろから隠した、女の手。小板橋が振り向くと、そこには、ツリ目で薄着の女の子が笑っていた。
「さ……さくら君、戻って来たんだ!」
「ただいまっ! さみしかった!? センセv 新学期からは日本だよ〜!」
みちよちゃんの前でも構わず小板橋に抱きつく彼女。
けど僕と奈緒ちゃんは謎の女の子より、その背後に驚き――絶句していた。
彼女の背後霊は、十二単に身を包んだ、平安の姫様だった。
しかも周りには、4人の侍女が付き従っている!
『どっ……』『ど〜も……』
挨拶をすると、じろっ、と冷たい一瞥が帰ってきた。
「ここここちら二年生の二階堂さくら君! アメリカに留学してて……」
小板橋がみちよちゃんに女の子を紹介する。
目を細めてみちよちゃんを睨む、さくら。彼女はみちよちゃんの紹介を遮って、小板橋に言った。
「ねえねえ先生、約束覚えてる? 帰ってきたらカノジョにしてくれるっていう約束!
それを信じてアメリカでもボーイフレンド作らなかったんだよ!」
701 :
3/4:2006/03/13(月) 00:06:29 ID:???
挑戦的な表情でみちよちゃんに笑うさくらの後ろで、お姫様が言った。
『これ、そこな童! その娘と小板橋は付き合うておるのか?』
恋人同士です! と胸を張ってきっぱり主張すると、お姫様は、
『では別れさせなさい!』
さくらは選ばれた人間で、将来偉業を成し遂げる定めを背負って生まれてきた。お前らごとき平民が邪魔をする事は許さぬ。
そう高飛車に言ってのけるお姫様に、僕は負けじと反論した。
『関係ないだろ、そんなこと! みちよちゃんが誰を好きになろうとこっちの勝手だ!!』
瞬間。
目の前に4振りの薙刀が突きつけられていた。――4人の侍女の、得物だ。
『雑魚が……』
無表情の侍女たちの後ろで、愉快そうに僕を見下ろすお姫様。
一方さくらは「講義が始まっちゃう! じゃあねセンセv」と小板橋たちに背を向けた。
そして去り際、数歩進んだところでさくらは振り返り、小板橋にビッと指を突きつけた。
「約束は守ってね!」
夕方、帰り道。小板橋はみちよちゃんに語った。
さくらは以前、小板橋が家庭教師をしていた時の生徒。優秀で、大学にもストレートで合格できたのだけど――
「その……惚れられてしまったみたいで」
もちろん断ったけど、あまりしつこいので、ついあんな約束をしてしまった。
「なんで断っちゃったんですか? あんなに可愛いのに」
「僕の好みからすると明るすぎます! 健康的すぎて恋愛の対象にはなりません!」
ぐっと拳を握って断言する小板橋。……みちよちゃんは複雑そうだ。
慌ててフォローを入れしどろもどろになる小板橋だけど、みちよちゃんの表情はそんなに暗くはない。むしろ安心したのだ。
僕たちは得物をしまい、胸をなで下ろした。よかった、けんかに発展しなくて!
……選ばれた人間だって? 知ったこっちゃない! 僕たちには僕たちの責任があるんだ!
『大丈夫! 僕たちがついていれば、みちよちゃんたちを護っていけるさ!』
これからも力を合わせてがんばろう、と奈緒ちゃんと決意を新たにした、
――その時。
702 :
4/4:2006/03/13(月) 00:07:04 ID:???
まばゆい光が、僕を包み込んだ。見上げるとそれは、天上からのスポットライトのようだ。
天からアナウンスが響いた。
『金子まさる様、金子まさる様、たいへん長らくお待たせしました。
受け入れの準備が整いましたので、天国受け付けまで至急お戻り下さい』
ぽんっ、と僕の背中に白い翼が生え、頭に天使の輪っかが浮かんだ。
――え?
僕の意志とは無関係に翼ははためき、僕の体を上空へと浮かばせる。
そうだ。天使さまが言っていた――時間がきたら迎えに行く、と。
奈緒ちゃんが『センパイッ』と不安そうに叫んでる。手を伸ばすけど、届かない。
遠く小さくなっていく奈緒ちゃんとみちよちゃんの名を、僕は叫んだ。
* * *
ふっ、と光が消え、辺りは夕闇に戻りました。
みちよさんが不意に背中を振り向きました。小板橋さんが「どうしました?」と尋ねます。
みちよさんは、よくわからないといった風に答えました。
「なんか急に背中が……さびしく……」「なんですか、それ?」
そして私は、なすすべもなく、天を見上げていました。
まさる先輩の姿はもう、どこにも見えません。
え?まさる主人公じゃないの?もう出てこないの?
ようやく再開したか。3ヶ月でもあんまり長く感じなかったな。
つかページ数も増えて急展開キター
ちょっと待てよ−!!
まさるこれっきり?あんまりじゃないか!
まさか転生して再登場なんてしないよな…
とりあえず小板橋、化石にしか欲情しないこと伝えればあの子は去ってくんじゃないか?
奈緒ちゃんの物語になってくのかね。
それとも天界編スタート?
奈緒ちゃんだけで、果たしてあの姫様と張り合えるのか
かなり、いや、とっても心配
これは、奈緒ちゃんのピンチにまさるが颯爽と現れる展開と見た。
>長い髪に目元を覆われて無口に俯いた――なんていうか、井戸から這いずり出てきそうな人。
どう見ても貞子です。本当にありがとうございました。
今後活躍するのかは分からんが、得物は何だろう。五寸釘とか?
え、背後霊5人?
カエルとかはともかく、こんな人数が同時に憑くのってアリなのか?
こんなのが憑いてリゃ高飛車にもなるわな…
負けるな奈緒ちゃん!まさるもきっと天国から見守ってるぞ!
712 :
1/3:2006/03/15(水) 00:02:29 ID:???
第26話「助けて!」
下では、小板橋さんはみちよさんと一緒にお風呂です。
私は火事で崩れたみちよさん宅の2階に佇んで、星空を見上げていました。
涙が溢れて止まりません。もう……会えないんですか? まさる先輩……。
――これからずっと……私……ひとりぼっちなんですか?
お風呂場に行くと、2人はセックスの最中。本当に泣けてきます。私ひとりでこの人たちの面倒見るんですかぁ〜っ!?
……といっても、私も実のところ、興味がないわけじゃありません。
最初は目を逸らしていても、どきどきしながら、つい2人の情事に見入ると……
『ふ〜ん、あいつあの世に帰っちゃったんだ!』
慌てて後ずさりました。淫魔がみちよさんの体から顔を出したんです!
『でも、ま……あいつの分まであんたががんばんなきゃね!』『ハイッ!!』
思わず答えてから、気づきました。なんであなたにそんな事言われなきゃならないんですかっ!
お風呂上がり、2人は日曜日の化石即売会の待ち合わせについて話していました。
けれどそんなとき、みちよさんの表情が、不意に曇ったんです。
「あの……小板橋さん。本当に私で……いいんですよね?」
急に不安になったのだというみちよさん。その背後には開かずの間と、何かぶつぶつ呟いているあの亡霊の姿が見えました。
小板橋さんは、自分をさくらさんと比べて不安がるみちよさんに笑いかけました。
「みちよさんでなきゃ……ダメなんです」
キスする2人に見惚れながら、私は思いました。この2人の運命は私ひとりの手にかかってるんだわ。
さみしいけど、心細いけど……まさる君の分まで……がんばらなくちゃ!
でも――その時私は、気づいていませんでした。
天井で、お姫様の侍女が様子を観察していることに。
明くる日の大学、講義中。
助手の小板橋さんは教壇の脇に控えているので、ここからは教室全体が見渡せます。
私は、うろたえていました。信じられないものが、見えていたから。
みちよさんはとても気分が悪そうでした。そう。背後には、あの亡霊が取り憑いていたんです。
何かぶつぶつ呟いている亡霊。あそこはまさる先輩の席なのに!
713 :
2/3:2006/03/15(水) 00:03:02 ID:???
誰に相談したら……と思っていたとき、ソフィーさんの言葉を思い出しました。
『そうだ! お清さん……!』
お清さんはニット帽さんの背後で、何やらぶつぶつ呟いてます。……変わんないよ〜っ!
そうこうしているうちに亡霊の周りには、侍女たちが現れました。
手に持った壺から、きらきら光る水のようなものを亡霊に注ぎかける侍女。……何をしているの?
そこにさくらさんが現れ、みちよさんの隣に座ります。
小板橋さんもそちらを見ていて、はらはらおろおろ落ち着かない様子。
私は、はっとしました。ピコハンをぎゅっと握って、みちよさんの方へ飛びます。
そう――私しかいないんだから……私がなんとかしなくちゃ!!
でも、私はそこに辿り着くことはできませんでした。侍女2人が薙刀で、私の行く手を阻んだのです。
『今はまだお前に用は無い! 控えておれ!』
お姫様は私にそう言い捨てて、さくらさんの頭に扇を置いて語りかけます。
『こやつらは昨日まぐわったのだぞ』とさくらさんに伝えて、みちよさんを動揺させるつもりなのです。
「センパイ……昨日小板橋さんとエッチしたでしょ〜!」
お姫様のもくろみどおり、そ〜ゆ〜ことってなんかわかっちゃうんだ、と揺さぶるさくらさん。
赤面するみちよさんに、さくらさんは問います。ど〜やって小板橋さんをその気にさせたのか。
「だって……私とした時はゼンゼン役に立たなかったんだもん……彼の!」
おっぱいか、メガネか。小板橋さんを喜ばせるヒミツを教えてと迫るさくらさん。
みちよさんは劣勢です。だって――その後ろでは、亡霊がぶつぶつと呟いていたから。
『ほれ! たんと霊気を注いでやったのだ! さっさと白状させておしまい!』
目を細めて笑うお姫様! 私はたまらなくなりました。やめてーっ!!
侍女の薙刀の間をすり抜け、ピコハンを構え、みちよさんの元に!
目の前に立ちはだかるもう2人の侍女! ジャマしないでっ!! ピコハンを振りかぶると――
――ピコハンに、違和感。
見ると、その片面が薙刀ですっぱりと切り落とされていたんです。
そして得物を壊された私自身にも、侍女たちの薙刀が――!
反射的に頭を守り、私は堅く目をつぶりました。
714 :
3/3:2006/03/15(水) 00:04:25 ID:???
ギィン、と音。
目を開くと、そこには――2丁の草刈り鎌で薙刀を受ける、お清さん!!
『ここはまかせろ!!』
侍女たちと相対するお清さんに『ありがとうございます!』と伝え、ついにみちよさんの席へ!
そして私は力一杯、亡霊にピコハンを振り下ろします。
片面を失ったピコハンからは空気の抜けた音しかしませんが、私は一心不乱に亡霊を叩き続けました。
やめてやめてやめてっ!! みちよさんを苦しめないでっ!!
でも、そんな抵抗も虚しく――私は、お姫様の扇に、弾き飛ばされました。
倒れ込んだ私を、お姫様は目を見開いて見下ろします。
『賤しき身分の分際でわらわに楯突く気か!? 頭に乗るなっ!!』
地を震わすような声。その眼力、迫力……全身から汗が噴き出て、体が動きません。
『使い道が残されていればこそのその身と知れ! 以後一切の口答えを許さぬぞ!!』
お清さんは侍女たちにボロボロにされ、薙刀に支えられて、力なくうなだれていました。
そしてみちよさんも、全身をかたかた震わせ、屈していました。
「化石が……小板橋さん、化石が好きだから……化石があると……喜ぶから……」
「や〜だ、化石プレイ? 小板橋さんたらヘンターイ!」
さくらさんは笑いながら席を立ち、さっそく試してみますね、と教室を出て行きました。
残されたみちよさんは、机に突っ伏しました。すると亡霊がみちよさんにおぶさって、呟きます。
……何を言っているのか――ようやく、聞き取れました。
――カワイソウニ、ミチヨ……。オマエハダメナ子ナンダヨ……。
――母サンガイナイト……ヒトリデハ生キテイケナイ……カワイソウニ……。
講義が終わりました。私の金縛りはまだ解けません。
お清さんは、もう下半身を具現化するだけのエクトプラズムもないようです。ニット帽さんも顔色が優れません。
そして、みちよさんも――。
日曜日、化石即売会で小板橋さんはみちよさんを待っていました。そこに、
「待ったぁ〜!? じゃあ行きましょ! その化石なんとかに!」
現れたのは――さくらさんでした。小板橋さんは、予想外の事態に驚きます。
さくらさんの後ろでは、お姫様と4人の侍女が、恐ろしい目つきで私を見ています。
私は恐怖に全身を震わせながら、今はもういない先輩に、一心に助けを求めました。
ちょ、なにこの怒濤の急展開…
お清さんかっこいいしさくらはしぶといしみちよちゃんはピンチだしお母さんは亡霊だし奈緒ちゃんは健気だし。
背後霊不在は良くないんだろ?戻してやってよ天使様!
この漫画でガチバトルが見られるとは思わなかった。
そりゃピコハンじゃ勝てないよな……。
ここへ来て怒濤の展開だなぁ。
バトル物路線で行くのかな。
小板橋はやっぱり変態にしか思えないよ。
あーやっぱ亡霊はお母さんだったのか
火事で死んで悪霊化したのか?
719 :
マロン名無しさん:2006/03/15(水) 18:27:33 ID:BK9khLv3
母ちゃん、みちよちゃんに執着してたんかな
死因が気になってきた
奈緒ちゃんがんがれ
>さみしいけど、心細いけど……まさる君の分まで……がんばらなくちゃ!
……まさる「君」?
とりあえずこれからの主人公は奈緒ちゃんなのか。
>>721 「センパイ」から「まさる君」かぁ。
どういう心境の変化なんだろう?
どっちかというとセンパイの方が萌えるんだがw
724 :
1/4:2006/03/17(金) 06:45:57 ID:???
第27話「だめ〜〜〜〜っ!!!」
電話で聞くと、即売会のことはみちよさんがさくらさんに教えたわけではないそうです。
だったらなんでと困惑する小板橋さんに、みちよさんは、
「私……体調が優れませんので……どうぞさくらさんといらして下さい……」
その方がきっと楽しい、とだけ言って、電話を切ってしまいました。
なにがなんだかわからない小板橋さんの腕にさくらさんは胸を押しつけ、
「じゃあはい! 今日はもう私とのデートってことで! 行きましょうセンセ!」
――そんな誘惑には、小板橋さんはなびきません。考えるのはみちよさんのことばかり。
仏頂面のさくらさんの後ろで、お姫様は言います。
『まあ良い! あの亡霊はしっかりと役割を果たしておる様だしの! あの女は放っておいても自滅するじゃろう!』
そして、冷たい目つきで私を見て、
『よく聞け! 今日はもう二度とあの女のことなど思い出させるな! さくらとの逢い引きに専念させるのじゃ。よいな!?』
私の後ろには、薙刀を構える4人の侍女。……私は、恐怖の底にいました。
即売会には、いろんな国の言葉が飛び交い、大勢の人がひしめいています。
モロッコ産ディクラヌルス1個5万円。ダンクルオクテウス25万円。カウディプテリクス70万円。
小板橋さんは、化石を興味津々に眺めます。でも、手が出せる値段じゃないみたいです。
250万円のパージェスのオパビニアの前で悩んでいると、さくらさんが売り子の外人さんとペラペラ交渉を始め、
「220万まで負けてくれるって! どうする?」「………… パス」
化石は基本的にコレクター相場だから、高いみたいです。
トリケラトプス頭部(\12,000,000)の前に腰掛けて、大学から予算出ないかなと小板橋さんは呟きます。
そこに話しかけるさくらさん。小板橋さんが振り向くと、さくらさんはトリケラトプスに体を這わせていました。
「どうかした? センセv」「いっ、いや……メガネ掛けたんだな」
顔を赤くして目を逸らす小板橋さん。さくらさんは今日、伊達眼鏡や胸の露出した服装でみちよさんを真似ているのです。
『ほう! 初めてさくらに興味を示したぞ! やはり化石と絡んでなければだめなのか?』
つくづく歪んだ男だが、あの女の言ったことが本当であると確認はできた。そう言って、お姫様は満悦そうでした。
725 :
2/4:2006/03/17(金) 06:46:35 ID:???
ここは、さくらさんの家。
なんでノコノコついて来ちまったんだと思う小板橋さんをピコハンで叩き、さくらさんが買った物を運ぶためだ、と伝えます。
こうするしか、ないんです。
お姫様が私の方を睨んでいるから。我に返させてはいけないんです。考える間を与えずに操らなければならないんです。
「ねえ! ちょっと上がってってよ! ママもセンセーに会いたがってたし!」
そう言うさくらさんに、ピコハンの効果で、小板橋さんは虚ろな目で同意します。
「そうだね。お母さんにもあいさつしないとね…………」
……今日はさくらさんの家には誰もいないことにも、気づかずに。
結局さくらさんの部屋にまで上がり込んだところで、小板橋さんは我に返り、言いました。
「どうも君といると調子が狂う。自分が自分じゃなくなるみたいだ……帰らせてもらう!」
背を向けた小板橋さんに、さくらさんはこぶし大の化石を見せます。さっき即売会で、自分で買っておいたのです。
「ディクラヌルス! でも君は遺伝子工学専攻だろ? 化石には興味が無かったはずじゃ……」
「ンふんv」
舌をちらりと見せ、さくらさんは、化石を舐めました。小板橋さんの視線が、その舌に集中しました。
「ねえわたし、まだ約束を果たしてもらってないわ……大学合格の御褒美!」
化石を自分の脇に這わせ、流し目するさくらさん。
あれはさくら君が勝手に……と抵抗する小板橋さんの口調も、弱腰です。
さくらさんは胸に、下着に、化石を挟み込んで、言葉巧みに小板橋さんを誘惑していきます。
あの時はセンセもその気だった。うまくできなかったのは気にしないで。
教え子とそうなったのが問題だったとしても、今はもうただの男と女。
「この化石……センセーにあげるv 取って……」
小板橋さんの手が、さくらさんのパンツにひっかかった化石に伸びていきます。
もう……理性は負けてしまったのでしょうか。
――だめ……
「今日は……できそう?」
――だめ……小板橋さん……。
「試してみて……」
――小板橋さん……!
726 :
3/4:2006/03/17(金) 06:47:06 ID:???
『だめ〜〜〜っ!!!』
私はたまらなくなって、飛び出しました。ピコハンで小板橋さんの頭を叩きます。
『目を覚まして、小板橋さんっ!』
壊れたピコハンからは、ピスピスと空気の抜けた音。お姫様たちの刺すような視線を背中に感じます。
『みちよさんの事思い出してっ!! そのヒトからはなれてっ!!』
――もう良い、用済みじゃ。そんなお姫様の声が聞こえました。侍女たちが後ろで薙刀を振りかぶっているようです。
『はなれてはなれて! はなれてぇっ!!』
すぐに侍女たちが私に薙刀を振り下ろすでしょう。でも、自分の身などどうでもよかったのです。
私は泣きながら、小板橋さんを叩きました。
――と。
ィィィィイイイイイイイン……
遠くから何か、音が聞こえてきました。
そして、バン!と叩きつけるような音と共に、
私の目の前に現れたのは、
何度も助けを祈った、あの人の姿!
『まさる先輩っ!!』
先輩に侍女が襲いかかり、薙刀を振るいます。先輩はなんと、それを軽々とかわしました。
私は涙を散らしながら先輩に駆け寄りました。小板橋さんが、みちよさんが……伝えなきゃいけないことは、山ほどあります。
でも――私は、違和感に気づきました。
体がすごく冷たい。触れた先輩の肩が、焼け焦げたように煙を立てる。
それに、声が……聞こえない。
『なるほど! 天から脱走して来たか!』
お姫様が、可笑しげに袖を口元に当てて笑いました。
『キサマはもう得物を持つ資格も無い……何の力も無い……
賤しき浮遊霊と成り果てたのじゃ!!』
727 :
4/4:2006/03/17(金) 06:47:41 ID:???
浮遊……霊?
『キサマが憑いていたあの女も今頃は……ふふふ……キサマも安心して露と消え……』
お姫様が先輩を脅した瞬間、先輩の姿が、ふっとかき消えました。
『しもうた! 浮遊霊は身が軽いことを忘れておったわ』
一瞬眉をひそめたお姫様は、すぐに愉快そうな表情に戻り、
『まあよい! アヤツは放っておいても自然消滅する定めじゃからの!』
侍女たちを、私にけしかけました――!
* * *
気づくと、そこは暗い部屋だった。
……ここは!? 奈緒ちゃんは!?
辺りを見回すと、異様な物が見えた。雑霊がキーキー呻いて、山を作っている。
山の中心にはちりちりの髪とボロボロの服が見える。ぶつぶつ呟くそいつは――あの老婆の亡霊だ!
そして、亡霊に覆われるように項垂れて部屋にうずくまっているのは、みちよちゃん!!
――お前たち何してる! みちよちゃんから離れろ!
音にならない声で叫んで、ハリセンを振りかぶる。
……振りかぶった、つもりだった。でも背後霊じゃない僕の手には、ハリセンはない。
くそっ! 素手で雑霊を掻き分け、みちよちゃんから離れさせようとする。
雑霊の一匹が僕の指に噛みついた。他の雑霊たちもこぞって僕に襲いかかる。
力を……力を吸い取られる!
壁際へと這い逃げると、雑霊たちはみちよちゃんの方へと寄り集まっていった。
僕はもうぼろぼろだ。エクトプラズムが足りず、パジャマも綻びている。
お姫様の言葉を、思い出した。得物を持つ資格も無い……何の力も無い……
――どうすれば……いいんだ!?
まさる帰ってきたー
ってどうすんだこれ
マジかよ……
ドラゴンボールの悟空さながら「ヒーローは遅れてやってくる」な展開かと思ったら。
どんどん状況が悪化するな。ここからどうにかなるのか?
姫様が無敵すぎ
姫様>侍女>>>>(プロ背後霊の壁)>>>奈緒>まさる(背後霊)>>>>>(背後霊の壁)>>>>>雑霊>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>まさる(浮遊霊)
お清さんと侍女1人ならどっちのほうが強いんだろう。
でも侍女は4人もいるのが恐ろしいよな……。
慎之助さんあたりなら勝てそうな気もするけど。
弱いぞまさるー!
パワーアップイベントでもあるのかね
ちょ、せっかく帰ってきたのに役立たずかよまさる!!
とりあえず誰でもいいからH中のやつら捜せ!
736 :
1/5:2006/03/19(日) 00:02:10 ID:???
第28話「魑魅魍魎の世界へ……」
さくらさんが下着を脱ぎ去り、一糸まとわぬ下半身になりました。流されそうになりながら躊躇する小板橋さんに、
「な〜に言ってるの今さら! こんなになってるくせにっv」
と言って、小板橋さんの――を化石で撫で回すさくらさん。
『2年前の情けない姿とは大違いじゃな! よいよい、いただいてしまいなさい、既成事実じゃ!』
私は、切り裂かれ役に立たないピコハンの柄でなんとか薙刀を防ぎながら、小板橋さんに必死に呼びかけました。
だめっ――目を覚まして、小板橋さん!! 小板橋さんっ!!
* * *
暗い部屋の中、みちよちゃんは電話機を見つめながら、ぶつぶつと呟いている。
「謝らなきゃ……デートに行かなかったこと……なんで私……断っちゃったんだろ?」
きっとまだ間に合うと自分に言い聞かせながらも、背中の亡霊と大量の雑霊のせいで、彼女は体を動かせない。
今となっては僕の声も届かない。早くしないと本当に手遅れに! ああっ! 得物さえ使えたら……
そう思って辺りを見回すと、小さな水滴のようなものを発見した。ぴょんぴょん飛び跳ねている。
……淫魔? お前……淫魔なのか?
淫魔に、みちよちゃんに取り憑いて操ることできるか!? と聞く。でも人型にもなれない淫魔は、もどかしそうに体を揺らすだけ。
僕は――決断して言った。僕の体からエネルギーを……吸収するんだ!
僕のエクトプラズムと引き替えに、淫魔は人型を取り戻した。
僕は亡霊を羽交い締めにして、みちよちゃんから引きはがした。今のうちにみちよちゃんに電話をかけさせるんだっ!
『あ〜もうっ! あたいエロ専門なんだかんねっ!? しんないわよ!?』
淫魔はみちよちゃんに潜り込み、みちよちゃんの性欲を刺激する。
『あの男と会えばセックスできるぞセックスできるぞ! セックスセックスセックス!』
一方、亡霊は見開いた目を僕に向け、その口を開いた。……鋭い牙が、生えていた。
――みちよは渡さない! あの子は私のものだ……。
長い髪を振り乱して僕を睨み、亡霊は僕に、噛みついた――。
* * *
737 :
2/5:2006/03/19(日) 00:02:51 ID:???
ざん! 鋭い音とともに、ピコハンの柄はついに破壊されました。私にはもう、身を守る手段もありません。
さくらさんは化石を自分の股の間に置き、小板橋さんに言います。
「ねえ、わたし……2年前から準備OKだよ。だから約束の入学祝い……ちょうだい……」
小板橋さんは、ごくんと息を呑みました。
ソファに仰向けになるさくらさんに導かれ、身を乗り出します……
私にできるのは、もう、祈ることだけです。助けて……助けて、まさる先輩!
――ピロピロッ、ピロピロッ、ピロピロッ、ピロピロッ。
小板橋さんの足下で、携帯電話が鳴りました。……みちよさん? もしかして……先輩が……!
そう確信したとき、変化が起きました。
手元に力が湧きます。ギン、と薙刀を弾きます。そして侍女を払いのけ、一直線にソファへ!!
『ばかな!! 素人の分際で……得物を成長させおった!?』
驚くお姫様の脇をすり抜け、小板橋さんの頭に――得物の木槌を、打ち下ろしました!!
「もしもし?」
次の瞬間には、小板橋さんは電話を手に取っていました。
相手はやっぱり、みちよさん! 顔面蒼白になって彼はズボンを履き直します。
「いえっ! ぜんぜん!! いえっ!! 気にしてませんから!! いっ今ですか!? え〜とその〜」
慌てる小板橋さんの電話に、横からさくらさんが声を掛けました。
「センパ〜イ? ありがとうございま〜す! おかげさまで今、彼……ビンビンで〜す!!」
プツン、と電話が切れました。
得意げな表情のさくらさん。真っ青になる小板橋さん。
「かかかか帰ります!! おじゃましましたっ!!」
さくらさんが止める間もなく、ばたばたと立ち上がり、部屋から逃げ帰ります。
悔しがるさくらさんとお姫様に、私は捨て台詞を残しました。
『これ以上私達につきまとわないでっ!!』
雑魚の分際でっ、という怒声が私に追いすがりますが――これで、小板橋さんの操はぎりぎり守り通しました!
738 :
3/5:2006/03/19(日) 00:03:53 ID:???
けれど――。
それから小板橋さんが何度電話を掛けても、みちよさんは出ません。
日が暮れた部屋で、ピ、とボタンを押して電話を切り、小板橋さんは溜息をつきました。
どうしちゃったんだろ……まさる先輩とみちよさん……。
その時、
『ちょっと……どこよここ!?』
背後がにわかに騒がしくなりました。淫魔の声です。
センパイッ! 嬉しくなって振り向く私ですが――次の瞬間、言葉を失いました。
現れた先輩の体はほとんど消えかけ、肉体は至る所が崩壊し、胸から下は完全に消え去っています。
ひどい……。思わず手で触れると、先輩の体は、じゅっと焼け付きました。
『あっコラ! あんたたち背後霊はパワーが桁違いなんだから、こっちは火傷しちゃうわよ!』
手のひらサイズに小さくなった淫魔に、怒られました。
ごっ、ごめんなさい……。私はひやっと冷えた自分の手を見つめ、胸を痛めました。
まさる先輩から、事情を聞きました。
いったんは天国の入口まで行ったんだけど、私やみちよさんが気になって抜け出してきた。
おかげで今は何の後ろ盾もない浮遊霊、ふわふわ漂うしか能のない……。
『おまけに亡霊のババァに喰われちまってパワーもほとんど残っちゃいない! ……まああたいも分けてもらったんだけどさ!』
苦しげに浮かぶ先輩は、このままじゃ消えて無くなっちゃうのも時間の問題みたい……そんなあ!!
どうにかしてパワーを供給しないと! そうだ、「教授」に教わったエクトプラズムの補給方法……。
辺りを見回すと、ベッドに寝転がって考え事をしている小板橋さん、ひとり。
すこすこすこ、「うっ」――どくんどくん。
淫魔に取り憑いてもらってエクトプラズムを補給してみたけれど、
『野郎ひとりのオナニーじゃたかが知れてるからねえ!』
もう一回やらせようか先輩に尋ねたけど、みじめになるだけだからいいみたいです……。
* * *
739 :
4/5:2006/03/19(日) 00:04:31 ID:???
――かわいそうに……だから言っただろう?
――あの男も結局、お前の体だけが目当てだったんだ!! 女が抱けりゃ誰でもよかったのさ!!
――お前の事を本気で好きになる男なんかいやしないんだ! かわいそうに……。
――お前を本当に愛しているのは私だけなんだ! かわいそうに、かわいそうに……。
受話器を取る気力もないみちよちゃんに、涙を流しながら亡霊が囁き続ける。
なんとかして……みちよちゃんに本当のことを伝えないと! でも……今の僕にいったい何ができるっていうんだ!?
……「教授」なら、「教授」なら何か方法を知ってるかもしれないなあ……。
そう思いながら、泳ぐ魚の群れを見上げた。
え!? ……海底?
『おやおや、かつての教え子の訪問とは喜ばしい! 少し見ない間に随分とやつれたもんだな!』
教授が――いた。
糊の効いたYシャツ姿で。海底に朽ちた難破船の脇に、胡座をかいて。
口を開こうとした僕を制して教授は、
『分かるぞ、皆まで言わずとも! その見窄らしい姿……』
芝居がかった仕草で手を胸の前に当て、くっくっくと笑う。
『ようこそ! ヒエラルキーの最下層……魑魅魍魎の世界へ……』
ちなみに教授は分類上、地縛霊ということになっているらしい。遺体が未だ発見されないが為に死亡した場に縛られ、動くに動けないでいる霊。
見ると確かに、水苔の生えた白骨が難破船の下敷きになっている。
『もっとも私はそんな抜け殻には何の感慨も持たぬ故、自由だがね!』
まあ気休めに念仏のひとつでもと投げやりに言われ、僕は白骨になむあみだぶつと手を合わせてみた。
海面へと浮上しながら、教授は講義してくれた。
浮遊霊の特徴はその身の軽さにある。帰属する場を持たぬ故、思い描いた所へ瞬時に移動してしまうのだ。
僕がここへ現れたのも、教授のことを考えたからか。
――ということは……北海道のソフィーさん達の所へも簡単に助けを求めに……
『勿論、霊と言えどもエネルギー保存の法則から自由であるわけではない!
遠くへ移動する程消費するエネルギーも大きくなる。北海道まで行こうとすれば……まあ津軽海峡辺りで……』
ぽん、と手を広げてジェスチャーする教授。僕は真っ青になった。
740 :
5/5:2006/03/19(日) 00:05:09 ID:???
まずはその体を何とかし給え、と教授に連れられていったのは――どこかの民家?
窓を抜けて、僕はぶっと吹き出した。そこでは、新婚夫婦がエッチをしていたんだ!
ここは教授が最近見つけたエクトプラズムの補給場所。
『君には一宿一飯の恩義があるのでな! ささ、遠慮無く補給してくれ給え』
真っ赤になりながら、僕は夫婦からエクトプラズムを受け取る。僕の体が再構成された。
性交時に放出されるエクトプラズムは溜めれば溜める程高品質になるが、この夫婦は暇を見つけてはまぐわっている。
その分、得られるエクトプラズムも薄味で腹持ちが悪いみたい。
……確かにまだ僕の体には所々ほころびはある。けど、少なくとも足まで具現化できた。
『生きている人間とコミュニケーションを取る方法?』
わざわざ会いに来た本当の理由。僕が訊ねると教授は顎に手を当てて、訓練次第で可能ではあるが難しいぞ、と言った。
『私の場合……体得する迄に10年かかった!』――そんなには待てませんっ!
『写真にこっそり写るだけなら比較的簡単に……』――意味ないです!!
ふ〜む、と考え、そして教授は――もうひとつの方法を、教えてくれた。
『夢枕に立つ……と言うのではどうだ?』
布団で眠るみちよちゃんの元に、ふっと僕は戻った。
教授の言葉を思い出す。
――我々亡霊の存在は目的意識のみで保たれている。我々が目的意識を持ち続けている限り、神とて無下には出来んのだ!
――そのことを忘れるな!
みちよちゃんは、眠りながらも涙をとめどなく流している。僕は心に誓った。
――待ってて、みちよちゃん!! 今……助けてあげるから!!
なんか最近の展開はやたら燃えるんですけど。
みちよちゃんが心配で、奈緒ちゃんが心配で、天国を前にして捨ててきたのか。
かっこいいじゃないか、まさる…
そのうえ淫魔に残り少ないエネルギーを与えるとか、まさに主人公。
あと教授がかっよすぎる。
淫魔がこういう風にいきてくるとはな。やるながぁさん。
亡霊はもうお母さんで決定だろうけど、ほんとに本人の意志なのかな。
なんていうか、この人にも目が覚めてほしいよ。
害はあるけど悪じゃない感じだ。
教授もこんなふうに生きてくるとはな〜
ぶっちゃけキモイとか思っててごめんよ教授
しかし、休載終わってから話の動きが早いね
一気に面白くなってきた
早く続き読みたい
もしもまさるが夢枕にたってみちよちゃんと対面したら、
みちよちゃんはいつか自分を助けてくれた奴だってわかるかな。
背中が寂しくなった理由、わかるのかな。
なんかまとめに走ってないか?
もともと、きっちり風呂敷を広げてからしっかり風呂敷を畳むタイプの作家なんだろうな
長かった前振りも全部、今の燃え展開のためにあった、と。
奈緒ちゃんパワーアップキター
いくら強い相手でも、心の強さで対抗できるっぽい伏線が敷かれたな
夢枕でみちよちゃんに会ったら、まさるも背後霊に再昇格してパワーアップする展開と見た
正直、ちょっとだるいなあと思ってたんだが、なんだよ、
面白くなってきたじゃないか、チクショーw
今のうちに伏線らしきものをちょっと確認しとくか。
お母さんの死とか、火事とか、まさるの死因あたりもか?
関係ないが、教授かこいいよ教授。徒弟にしてください。
>748
それいいな!宿主本人が選んだ最初の背後霊がまさる、とか。
お姫さまのしろうと発言とか、背後霊にもランクがあるっぽいしな。
751 :
1/4:2006/03/21(火) 00:23:35 ID:???
第29話「だからもうこれ以上……」
パチパチと木の爆ぜる音がする。炎の燃えさかる音がする。みちよ、みちよと呼ぶ声がする。
僕の目の前には――燃えさかる、みちよちゃんの家があった。
家の中には、火に焼かれながら目を見開く老婆。家の外には、ベスを抱きかかえて震えるみちよちゃん。
火の中から、声はいつまでもみちよちゃんにすがっていた……。
「みちよぉ!! 戻って来ておくれ、みちよぉ!!
いっしょに行くと約束したじゃないか、みちよぉ!!
私を一人にしないでおくれ!! みちよおおおお……!!!」
はっと気づくと、僕はみちよちゃんの枕元に座っていた。
みちよちゃんはうなされながら、お母さん、お母さんと呟いている。
夢……今のがみちよちゃんの見てる夢……なんて生々しい……。
もしかして僕がここに来る前に……本当にあった出来事……。
* * *
――ジャラ、と音がした。
みちよが母に手を引かれ、闇が満ちた公園を歩いている。
みちよは子供のように泣いている。無理もない。実際彼女は、幼い三つ編みの子供の姿なのだ。
「だから言ったじゃないの! お前はダメな子なんだよ! 私がいないと生きてけないんだ!」
わかってるだろうと強く手を引っ張る母に、みちよは泣きながら謝っている。
母は、なじる。一人で残しちゃおけないから一緒に連れてってやろうとしたのに……なぜ逃げちまったんだい!
みちよは謝りながら言う。私……まだやりたいことがあったの、と。
「ふん、男かい! バカな子だよ! 一人前に色気づきやがって! その結果がどうだい! よけいみじめになっただけじゃないか!」
――ヂャラヂャラと、鎖の擦れる音がした。
752 :
2/4:2006/03/21(火) 00:24:09 ID:???
「一瞬でも幸せを知ってしまうからよけい辛くなってしまうんだよ、だからあの時一緒に来ていればよかったんだ……」
ごめんなさいごめんなさいとすすり泣くみちよの手を、母は強く掴んで離さない。
「でも……これで未練は無いだろう」
いつしか、母の手は煙を立てている。みちよが顔を上げると、そこには、燃えさかる自宅があった。
「さあ! 行こう! お父さんの所へ!」
焼け焦げた全身。母は手に力を込めてみちよを見下ろす。
「もうひとりにはしないでおくれよ……私のことを愛しているなら!」
『ついてっちゃダメだ〜〜っ!!』
みちよは、不意に後ろに引っ張られた。母の手が離れる。みちよを母から引き離したのは――少年だ。
「この前……助けてくれた人……」
母が、少年を殴りつける。角材で容赦なく。鈍い音が何度も何度も響く。
「なぜお前はジャマをする!! いつもいつも!! お前がいるからみちよが迷ってしまうんだ!!」
みちよは母に、その人をいじめないでと訴える。母は耳を貸さない。
少年は動かなくなった。母は角材を投げ捨て、またみちよの手を取って、強く引っ張った。
「これ以上手間をかけさせるんじゃないよ! 行くよ!」
少年は地面に伏せたまま、息も絶え絶えに、なおもみちよに呼びかける。
『だめだ……みちよちゃん……行っちゃだめだ……』
――全身に巻き付く鎖が、じゃらっと音を立てた。
『みちよちゃんは小板橋と愛し合ったこと、後悔してるの!?』
少年の一言が、炎に踏み入れようとしていたみちよの足を止める。
「後悔……してない……」
『だったらあいつのことを信じてあげて! 小板橋はまだみちよちゃんを好きなんだ!』
揺らぐみちよを、母は殴りつける。まくしたてる。
「男のことになると簡単に騙されやがって! お前はあの男に捨てられたんだと言っただろう!? お前を本当に愛しているのは母さんだけなんだよ!!」
――ピシッ、と鎖の錠にヒビが入った。
753 :
3/4:2006/03/21(火) 00:24:52 ID:???
『ウソじゃない!! ウソをついてるのはお母さんの方だっ!! 全部さくらの策略なんだ!!』
「耳を貸すんじゃないよ!! 母さんよりもこんなどこの馬の骨ともわからない男の言うことを信じるのかい!?」
燃える角材を手に、母は少年に迫る。少年を痛めつけながら、母はみちよに怒鳴る。
「お前の事は私が一番知っているんだ!! お前は一人じゃ何ひとつできやしない……私がいなけりゃ何ひとつできやしないんだっ!!」
――ピシピシと、錠にヒビが増えていく。
『せめて……せめて自分で確認するんだ……まだ小板橋を愛しているなら……』
まだ言うかと母に叩かれる少年。みちよは耳を塞ぎ、言葉を繰り返す。
「私はお母さんが好き……お母さんが好きなの〜〜っ!!」
――パキィィィン。錠が砕け、鎖が地面に金属音を立てて落ちた。
母と少年が、見た――戒めの解かれた私を。私は母を、耳を塞ぐ“子供の私”を、睨んだ。
私はもう子供じゃない……母さんがいなくたって生きていける……
「だからもうこれ以上…… 私 を 苦 し め な い で っ !!!」
腹の底から出した私の声に、地は鳴り響き周囲の物はすべて吹き飛ぶ。
母の亡霊は、母の部屋へと吸い込まれていく。鎖で封印した、あの部屋へと。
そしてドアがバタンと閉まり――静寂が、訪れた。
“子供の私”がドアにすがりつき、ごめんなさいと繰り返している。それを苦しげに見守る少年に、私は尋ねた。
ねえ……名前教えて……あなたの……。
少年の返答を聞いたのが、夢の終わりだった。
……目覚めたときには、いつもの私の家だった。朝日が差し込み、スズメが鳴いていた。
母の部屋のドアは、わずかに開いていた。
* * *
みちよさんの家のベルを、小板橋さんが何度も押します。――返答はありません。
私がドアをすり抜けて中を確認してみても、誰もいない。どこ行っちゃったんでしょう? 先輩とみちよさん。
小板橋さん、もう北海道の研究施設に出発しなきゃならないのに……。
754 :
4/4:2006/03/21(火) 00:26:42 ID:???
結局、電話が繋がらないまま、空港にまで着いてしまいました。
溜息をついたとき、「セ〜ンセ♪」と呼ぶ声。さくらさんです!
偶然ね、と白々しく言います。パパに会いにパパのホテルに行くんだそうです。
「そうだ! センセーもうちのホテルに泊まったら?」
睨みあう私とお姫様を背に、ばかいえ、とたじたじになる小板橋さん。
と、そこに――
「待ってください! 私も行きます……北海道」
現れたのは、みちよさんと……背後の、先輩! 無事だったんですね!
* * *
今朝みちよちゃんが向かったのは、図書館だった。調べ物みたい。
僕も上半身だけの体を引きずってついていった。
みちよちゃんの精神状態は安定していた。あの亡霊も本当に“開かずの間”から出てこれないみたいだし……
みちよちゃん、よっぽど大きな怒りを抱え込んでいたんだろうな。
もっともみちよちゃん自身は夢の内容なんて忘れちゃってるんだろうけど、と思いながら画面に目を移すと――
そこには、キーワード「金子まさる」で検索された一件のニュース記事が表示されていた。
「3日午後10時頃、足立区のマンション前の路上に寝間着姿の少年が倒れているのを……」
「警察では自殺と見て家族は学校関係者から事情を……」「いじめ等の事実は確認されておらず……」
いくら耳を塞いでも、記事を読み上げるみちよちゃんの声は、僕の耳に容赦なく飛び込んできた……。
――その後みちよちゃんは空港に向かい、そして今に至る。
飛行機では、小板橋を挟んで両側に席を取るさくらとみちよちゃん。
「そ〜そ〜、うちのホテル……露天風呂が名物なんだよ! ……混浴の!」
さくらの話を、みちよちゃんは眉間に皺を寄せて聞いていた。
大丈夫! みちよちゃんも遂に戦う気になったんだ! 僕たちがついていればきっと勝てる!
僕は淫魔を手に持ち、そう奈緒ちゃんに言った。お姫様と奈緒ちゃんは口々に、
『消えかけの浮遊霊の分際で!』『北海道で決着をつけましょう!』
決意を新たにしたそのとき、飛行機も動き出した。フィィィィィン、と機体は加速し、一路北海道へと飛び立つ!
……僕を、残して。
遠ざかる爆音を聞きながら、茫然と僕は滑走路に立ち(?)つくしていた。
手のひらの淫魔が、僕に「なにやってんのよっ」と怒鳴った。
だいらんどを彷彿とさせる鬼気迫る回だったな……
母ちゃん恐い。こういう母親、現実にも存在するんだろうと思わされた。
みちよちゃんはずっと、トラウマ(鎖)に縛られてたんだな。
みちよちゃん…無理心中未遂だったんだな…
お母さんごめんってそう言う意味だったんだな。
そしてまさるは?やっぱり自殺だったのかな。
燃え展開から一気に鬱だ…
すげーなおい…
母ちゃんとのやりとり、鳥肌立ちそうだった
これ本当に痛快オナニーコメディと言われてた漫画?
つか、まさるだけじゃなく奈緒ちゃんやみちよちゃんの
成長物語でもあるんだな。
久々におもろいもん読んだ。
みちよちゃん、お母さんを憎いと思ってたのかもな。
そんな自分が許せなかった。
母を一人で逝かせて、母を憎む自分を。
だけど夢の中でお母さんをすきだと再認識して、罪悪感から解放されたのかも。
いや、逆じゃないかな。
大学の人が「お母さんを愛してた」って言ってたってことは、普段からみちよちゃんはそう公言してた。
というか、母親の呪縛が強すぎて、そう公言しなきゃいけないと思ってたんじゃないだろうか。
無理心中から生きのびても、母親に「お前は母さんがいないとダメな子なんだ」って繰り返し言われた呪縛から離れられず、
自分一人では生きる価値がないと思いこんでいた。
本当は自立した大人として生きていけるはずなんだって、ずっと心の奥底で思ってたけど、そう宣言することはできなかった。
でも夢の中で、周りを傷つけても自分を縛ろうとする母親の姿を客観視することで、過剰な母親への依存を断ち切った。
それによって、自分の人生を母親に縛られずに生きていけるって実感を持つことができたんだ。
つまり、自分勝手で醜い母親から訣別できた、ってことだと思う。
深いよなあ…
みちよちゃんが図書館で調べてた記事が気になる。
今度はみちよちゃんがまさるを助けることになるのかな。
まあ、その前に姫様か。
あ、憎いと思うようになったのは無理心中以降って意味ね。
愛してた母親を裏切って、そのうえ憎むなんて自分は最低だ!と。
呪縛の鎖は母によるもの以外に自分自身でつくり出した面もあるんじゃないかと思ったんだ。
>「さあ! 行こう! お父さんの所へ!」
お母さんの死を悼んでた大学の人も、お父さんについては何も言ってなかったから、
お父さんが死んだのはけっこう昔なんだろう。
夫に先立たれて、母子家庭で娘べったりになってたのかな、お母さん。
で、その生活に耐えかねて無理心中をはかった。
とすると、お母さんも可哀想な人だよな……。
>760
記事になるような死に方だったのかね…
まさるの家族とかはどんな感じだったんだろ。
お母さんを愛しつつ、支配されることに反発も感じてたんでないかな。
だから土壇場で一緒に逝かないことを選んだんだろう。
しかし親子って難しいよなあ…。
お母さんの愛し方は、娘を人格を持つ人間として扱ってなかったんだもんな。
みちよちゃんもお母さんを愛してはいたけど、盲従すると自分がなくなるわけで。
いくら愛する家族でも、エゴに付き合って死まで選ぶのは間違ってるよな。
子供のみちよちゃんが耳を塞いで「ごめんなさい」「私はお母さんが好きなの」って繰り返してたのが痛々しかった。
なんかエヴァのアスカを思い出した。
子供の自分と母親を、全身緊縛されながら遠くから眺めてるっていう夢も、なんか深い意味がありそうに思えた。
誰か精神分析してくれ。
>フィィィィィン、と機体は加速し、一路北海道へと飛び立つ!
>……僕を、残して。
浮遊霊は乗り物には乗れないんだな。ちょっと面白かった。
でもどうすんだ? テレポートだと津軽海峡あたりで消えちゃうんだよな。
地球の周回軌道に取り残されないってことは、慣性系には乗っかってるってことかな
そのへんはきっと教授が解説してくれるさ
769 :
1/3:2006/03/23(木) 00:01:37 ID:???
第30話「間違ってないよ……」
浮遊霊の身の軽さで、目標物を定めて跳んでいく。
消費したエネルギーは、淫魔に『スケベな臭い』を探知してもらって補給する。
ときにはカップルは背後霊つきで、『成仏させてやろう』と追いかけ回されたりもしたけれど……。
宮城・伊達政宗像。
青森・恐山。(『エロのかけらもありゃしない』場所だけど、他に思い付かなかったんだよ〜っ!)
そして――ついに北海道・クラーク博士!
辿り着いた頃には、もう僕のエネルギーは残り少なかった。
でも、ここまで来たんだ! 奈緒ちゃん達の所へ一気に跳ぶぞ! 奈緒ちゃんのことを考え、跳ぶ瞬間、
『でもホッカイドーって広いんじゃないの?』
あ……。
見回すとそこは露天風呂。一瞬消滅を覚悟したけど、よかった、消えてない! 案外近くだったんだ!
『来てくれたんですね、センパ〜イッ!!』
奈緒ちゃんが駆け寄ってきた。――あぢぢぢぢ! 文字通りの熱い抱擁でダメージを受けてしまった。
ごめんなさいと奈緒ちゃんに、無事かどうか尋ねる。すると奈緒ちゃんは、困ったような顔で、
『今の所は! でもみちよさん、なんだか……』
と、その時露天風呂の扉が開き、小さなバスタオルで胸だけを隠したさくらが現れた!
温泉で一息ついてる小板橋に、モーションを掛けに来たんだ!
『雑魚が一匹駆けつけたところで……何の戦力になるものか!』
「言ったでしょ? パパのホテル……混浴の露天風呂が名物なんだって!」
『よし! 今のうちにいただいてしまうのじゃ、さくらっ!』
「ねえ……貸し切りにしてもらっちゃった! だからこの前の続き……しよv」
『だめよ小板橋さん! 誘惑に負けちゃだめっ!!』
ああっ!! いきなり大変なことにっ!! 奈緒ちゃんは小板橋に言い聞かせながら、侍女4人の薙刀をまとめて防いでる。
……と思ったら、
「待って下さい! 私も……入ります!」
そこに乱入したのは、みちよちゃん!!
さっき奈緒ちゃんが言いかけたのは――そう、
『その……みちよさん、なんだか……大胆なんです!』
770 :
2/3:2006/03/23(木) 00:02:11 ID:???
女の子2人に挟まれ、小板橋はものすごく気まずそうだ。
体を洗おうと立ち上がると、さくらが小板橋に追い払われるのにもめげず「背中流してあげるっ」とついていく。
そして湯船に残ったみちよちゃんは、小さく呟いていた。
「確かめなきゃ……自分で……夢の中で聞いた事が……本当なのかどうか!」
そうだよみちよちゃん! 確かめるんだ! 本当の事を!
――がんばって! 勇気を出して、みちよちゃん!!
みちよちゃんは意を決して、大声で言った。
「お二人は……エッチしたんですか!?」
スッ転ぶ小板橋とさくら。……ちょっと勇気出しすぎかも、みちよちゃん……。
さくらは気を取り直して、胸を張る。
「……しましたよぉ! 先輩に教えてもらった通り化石で責めたらイチコロでしたあ!」
小板橋は首を振る。みちよちゃんは、鋭い目つきになって……立ち上がった!
「ウソ言わないで下さい!!」
体を隠すこともせず、2人の方に歩いていく。そう、みちよちゃんは気づいていた。
さくらのメガネは湯気で曇らない伊達メガネ。手ぬぐいや上げ底ブラでごまかしても、さくらの胸は自分ほど大きくない。
「私ならそんなトリック使わなくたって小板橋さんを満足させられる……満足させることができるのは私だけなんですっ!!」
図星をつかれて押し黙り、胸を隠すさくら。
すごい、すごいぞみちよちゃん! 今までとは全然違う! さくらに少しも負けてないぞっ!
(……当の小板橋は「胸は別に」みたいな顔してるのは、突っ込んじゃいけない所だろう)
『どうしたさくら!? 何を怯んでおる!! 反撃せぬか、さくらっ!!』
お姫様の怒号。けど……さくらは動かない。打たれ弱いんだ。お姫様が甘やかしすぎたせいだ。
『よっ、よく聞けさくらっ! お前は選ばれた人間じゃ! 平民相手に卑怯もなにもない!』
明らかに狼狽して必死でさくらに声を掛けるお姫様は、滑稽だ。
奈緒ちゃんと顔を見合わせて、そして僕は宣言した。さくらはもう戦意を喪失している! お前もおとなしく……
『だまれだまれだまれ! 戦うんじゃさくらっ!! 戦え戦え戦えっ!!!』
涙目のさくらの頭を扇でバシバシと叩く。さくらは復活し、お姫様は息を切らしながら得意げな顔をした。
そしてみちよちゃんとさくらは睨み合い、火花を散らした。……渦中の小板橋そっちのけで。
771 :
3/3:2006/03/23(木) 00:02:48 ID:???
「とにかくっ!! あんたみたいにダサい女にはゼッタイ……センセーは渡しませんからねっ!!」
服を着て脱衣所から出て行くさくらに、みちよちゃんは最後まで引かなかった。べ〜っ! みちよちゃんはダサくなんかないよっ!!
みちよちゃんは、さくらが去ったのを確認すると――
「ふうぅ〜〜〜っ」
くたっと安楽椅子にもたれかかった。どっ、どうしたの、みちよちゃん!?
よく見ると……みちよちゃんは、ガタガタと全身を震わせていた。
「これで……いいんだよね? 怒っても……よかったんだよね? 私……あの夢の中みたいに……」
涙を浮かべるみちよちゃんが愛おしくて、僕はその頭をそっと撫でてやった。
そうだよ……みちよちゃんは間違ってないよ……みちよちゃんはダメなんかじゃないんだ……
『で、結局3Pはいつやるの?』と淫魔。――やりません!
夜、僕はホテルの別室でエネルギーを補給してきた。
ホクホク顔で小板橋の部屋に戻ると、奈緒ちゃんが微妙な表情をしていた。補給だと釈明すると、わかってます! と彼女は顔を背けた。
それで小板橋は……と様子を見る。……思わず、うわぁ、と声が漏れた。
小板橋はベッドの真ん中で、みちよちゃんとさくらに挟まれて(ついでにベスを胸に乗せて)横になっていた。
夜這いに来たさくらと、それを監視していたみちよちゃんがどちらも譲らず、こうなってしまったみたい。
ぎんぎんと目を見開き、とても眠れそうになさそうだ。
『3P?』
違う……。拷問だ、これは……。
* * *
翌日は、よく晴れた日でした。小板橋さんの車が走ります。今日は夕張の国有林で、フィールド調査なんです。
助手席にはみちよさん。そして後部座席には……さくらさん。
「行きます!」「さくら君は部外者だから……」「行きます!」
頑として離れないさくらさんに、みちよさんは呟きます。
「くすっ。相手のテリトリーにのこのこと……」
女の戦いを予感させながら、地の果てまで続く道路を、車は風を切って走っていきました。
……ちなみに背後では、先輩が必死に車を追いかけてたみたいです。
3人で仲良くやっちまえばすっきり解決するんじゃね?
そういう問題じゃないだろ。
ヤれば済むんなら既にみちよちゃんの勝ちだし。
さくらは打たれ弱いのか。
背後霊の力じゃ敵わないけど、宿主の力では
みちよちゃん>さくら
みたいだな。みちよちゃんが完全に自信を持てるかどうかが勝利の鍵かな。
話がラブコメに戻るとイマイチになっちゃうな……
絵柄はソフトだけど、ハードな話を書いたほうが盛り上げられる作者だと思う。
みちよちゃん強くなったな…
てかお姫さまは意外と下世話なこと言うなあ。育ちが知れるぞ。
長年にわたる背後霊生活で慣れてしまったんだろう。
というか、姫様はずっと背後霊やってたのかな。
いつからさくらの背後霊なのかな。
「高貴な生まれ」とか何とか、やたらさくらの出自にこだわってるから、
先祖霊なんじゃないかな。さくらの家系を代々ずっと繁栄させてきたとか。
なにげに奈緒ちゃんも強くなってる
侍女4人の薙刀をまとめて防ぐとか、ピコハンじゃ考えられないよな
779 :
1/3:2006/03/24(金) 23:59:59 ID:???
第31話「受け取ってあげて!!」
川沿いの山道を、歩く。
みちよちゃんのリュックから顔を出し、ベスが鐘を鳴らして遊んでる。
小板橋はイノセラムス・テシオエンシスで地層がチューロン階だと判断し、コニアク階との境界を探してる。
そしてさくらは、
「人里から何キロ離れてると思ってんの!? そんっなに石っころが大事!?」
悪路を難なく歩く2人に罵声を浴びせながら、アブだかブヨだかに難儀していた。
お姫様はお姫様で『高貴な生まれであるさくらをこんな目に遭わせるとはなんと卑劣な』とか……なに言ってんだ今さら。
「だからその格好じゃ無理だって言っただろう? 車まで戻ろう! 車の中で待っていれば安全だから!」
小板橋が勧めると、さくらは悩んだ。でも、
『お前を追い払って二人っきりになるつもりじゃぞ!? 引っかかってはいかん!』
お姫様に焚きつけられ、「やだ! ついてく!」と決断した。
そんなさくらに、みちよちゃんが素っ気なく忠告する。
「じゃああんまり遅れないで下さいね、はぐれたらクマの餌食ですから!」
そう、この辺りはヒグマの生息地。リュックの鐘も、クマ避けのためなのだ。
川沿いで岩の中から見つけた化石を前に、全然疲れた様子のない2人を遠巻きに見ながら、さくらは嘆いた。
「……なんなのよ、あいつら! 付き合いきれないわよ、まったく!」
――その時、ガサッと物音。さくらは悲鳴を上げて、2人の方へと逃げてきた!
小板橋がすかさず言う。
「走っちゃダメだ! クマをびっくりさせない様にゆっくり……」「くま〜〜〜っ!!」
シカ。
草陰から姿を現したシカの姿にしばし固まって……さくらは、わんわんと泣き出した。
『これさくら! 醜態を晒すでない! 戦いはまだ続いておるのじゃぞ!! さくらっ!!』
そんな様子を見ながら、みちよちゃんは溜息をつき、僕と奈緒ちゃんは顔を見合わせた。
780 :
2/3:2006/03/25(土) 00:00:32 ID:???
やがて3人が辿り着いたのは、岩と緑に覆われた水源だった。
脇には、見事なアンモナイトの化石が露出している。
ここはね、とみちよちゃんが言った。
「私達研究者の秘密の場所なの。あのアンモナイト……パキデスモセラスは、この場所の守り神……」
僕たち霊の目にも――化石の上に、アンモナイトの霊がいるのが見える。
持って帰ることはできないけど、マニアや業者に盗掘されない様、みんなで内緒にしてるそうだ。
説明しながらさくらの顔の泥をタオルでぬぐってやるみちよちゃん。
そのタオルを乱暴に奪い、さくらはアンモナイトに腰を下ろして――言った。
「センセーにヴァージンあげるって決めたのは……私の方が先なんだから!
それ以来、一生懸命……センセーに気に入ってもらえる様、自分を磨いてきたんだから!
そんな私よりあんたの方がセンセーを満足させられるっていうんなら、私を納得させてみなさいよ!」
発言に一番驚いたのは、お姫様だった。
『納得させられてどうする!? 話し合いなぞ意味はない! 戦うのじゃ、さくら!』
敵はまた分裂している! 今ならさくらを説得できるかもしれない!
僕の言葉が通じたわけでもないだろうけど、みちよちゃんは「わかりました」と服を脱ぎ始めた。
「小板橋さんも聞いて下さい。私が以前言った……『化石になりたい』っていう言葉……」
本気だったんですと言いながら、みちよちゃんは全裸になり、泥に足を踏み入れる。
「ここは……地面が泥炭層になっています」
泥炭は植物の死骸が何メートルも堆積した地層で、微生物が少ないから埋まった物は何年経っても腐敗しない。
「私も……このまま埋まってしまえば……数万年後には化石になれるかもしれないって……思ってたんです」
アンモナイトみたいに、外側だけ美しく残って、中身は空っぽになってしまえるかもしれないって。
言いながらみちよちゃんの体は、泥の中にゆっくりと沈んでいく。
みちよちゃんは、今生きているのは何かの間違いだと思っていた……
僕は話を聞いて、涙をおさえられなかった。
――奈緒ちゃん! みちよちゃんの気持ちを受け取ってあげてっ!!
『安心して下さい、センパイッ! 小板橋さんはちゃんと理解してくれています!』
781 :
3/3:2006/03/25(土) 00:01:05 ID:???
小板橋は柔らかな笑みをたたえて前に進み出る。
「だったら……僕が何度でも発掘してあげましょう。くり返しくり返し……
化石になったみちよさんもきっと美しいだろうけど……今は……生きているみちよさんの方が愛おしいから……」
言いながらみちよちゃんの体を起こして泥を除き、そして小板橋は、みちよちゃんに口づけした。
僕と奈緒ちゃんは、ガッツポーズを取り合った! でも、さくらはまだ動かない。2人を真剣な顔で見て、
「まだ不十分よ! 最後まで見なきゃ納得できないわ!」
『何をいっとるさくら!? なぜやめさせない!?』
慌てるのはお姫様。わらわがやめさせてやるわっ、と言って飛び立とうとする――が、
『なんじゃこやつはっ!? 離せっ、気色悪いっ!!』
お姫様の体にアンモナイトの霊がからみつき、お姫様は動けなくなった。
一方、小板橋はみちよちゃんをお姫様抱っこで持ち上げる。
「じゃあ……発掘した後は……クリーニングしなければ!!」
川にみちよちゃんを横たえ、その体に水をかけ、泥を手で優しくぬぐっていく。
敏感なところに手が触れる度、みちよちゃんはあえぎ声を漏らした。さくらはそれを身じろぎもせず見ている。
お姫様はさくらに叫んだ。反撃せねば負けになってしまうんじゃぞ、戦うのじゃ、奴らの中に割って入れ!
扇を持ち出して、さくらの頭を何度も叩くお姫様の前に――僕たちは、歩み出た!
『もうやめて下さい! さくらさんは嫌がってます!』
そう。宿主の幸福を第一に考えるのが背後霊の仕事だろ!? 自分の意地を優先してどーすんだよ!?
もう諦めるんだ! さくらさんのためを思うなら!!
そう訴えると――お姫様は、と怒りに体をわななかせた。おのれ……雑魚の分際で……
『おのれ、おのれ……消してしまえっ!! 霊気を全て奪い取って消滅させてしまうのだっ!!』
ぶわっと躍り出る、4人の侍女たち!!
本気で掛かられたら敵わない。思わず眼を閉じた僕たちに、ズバッ、と切り裂かれる音が聞こえた。
――侍女の衣を切り裂いたのは、
『助太刀いたす!』
ソフィーさん、慎之助さん!! それにピーターさんやお清さん――
みんなっ!!
おお!なかなかの展開だ
つまりクリーニング作業も見られていたと。
ふむ、なかなかの展開だ。
クリーニングハァハァ
…じゃなくて、さくら意外にいい子だな。
お子さまなところはあるが可愛い。俺が発掘してやるよ。
バトルものになりそうでならないラインで話が進んでるな
なんかテーマがみんな消化されて、大団円っぽい?
まだ残ってる伏線ってあったっけ?
まさるの死因はまだ残ってるだろ。
このまま浮遊霊やってくわけじゃないだろうし。
奈緒ちゃんもだけど転生するなり本職の背後霊になるなりするんじゃね?
さくらは、背後霊のせいで競争を強いられてたことが多いんだろうな。
今回の件に限らず、もう十分だと思ってても意地を張らされて取り返しのつかないことになったりして、
人間関係にヒビ入れてきたんじゃないだろうか。
でもお姫様のせいでいつも結果オーライになって、自省することもなくて。
実は可哀想なヤツなのかもな。
母親に「ダメな子」って言われ続けて、自分の生きる価値を見失ってたから化石になりたかったわけか。
そこから掘り起こしてくれる存在が小板橋だったと。
うまくテーマに繋がったな。
宿主の方はこれでうまくいったみたいだから、今度はまさると奈緒ちゃんの話になるのかな?
790 :
1/4:2006/03/27(月) 00:03:04 ID:???
第32話「さようなら!!」
ピーターさんのバットが唸る! 「YEAAAAH!」
侍女の姿が紙切れに変化するのを見てソフィーさんは、「こいつら背後霊じゃない……」
草刈り鎌で侍女を切り裂き、お清さんが呟く。「式神……か!」
残った侍女たちに慎之助さんが刀を構え、「ならば……遠慮はいらぬな!」
あっという間に、侍女たちは紙切れとなって消滅した。
僕たちはソフィーさんたちに礼を言った。たまたま近くを通ったもんだから、と彼女は笑った。
『お清さんから聞いたわ! イロイロとねv』
ソフィーさんはにやけ顔を扇子の裏に隠し、みちよちゃんと小板橋をまじまじ眺めてた……。
奈緒ちゃんはお清さんに『無事だったんですね』と涙目で駆け寄った。お清さんは、口の端を上げてピースサイン。
『背後霊は……死なない!』
さて。残るは、アンモナイトに動きを封じられたお姫様ただ一人。
慎之助さんが、僕に得物の刀を手渡す。それを受け取り、僕はお姫様に向かった。
『なっ……なにをする気じゃ!? やっ……やめい……やめるのじゃ……』
僕は、刀を振り下ろした!
――身をすくめるお姫様と、さくらの間の空間に。
次の瞬間、お姫様の像が揺らぎ、ふわふわと宙を漂い始める。
何をしたと驚くお姫様に、僕は言った。お前は背後霊には向いてない! お前がいても、宿主の人間は苦しむだけじゃないか!
『しばらく浮遊霊にでもなって頭を冷やしなさい! さくらさんには誰か他の背後霊を申請しておくから!』
ソフィーさんの言葉に悔しがり、お姫様は空中にかき消えた。
『覚えておれっ!! このままでは済まさんぞっ!!』と、言葉を残して。
やれやれ。僕たちはみんなで、晴れた空を見上げた。
ソフィーさんはアンモナイトに『お疲れさま』と手を振った。アンモナイトも触手を振って答える。
彼(?)は土地神様で、この辺り一帯の守り神なんだそうだ。
『あー見えても背後霊より偉いのよ? そうとう古い霊だと思うわ……』
そうですね! みちよちゃんによると一億年以上昔の……
と言いかけて辺りを見回したときには――もう、ソフィーさんや皆の姿は、そこにはなかった。
あれ……みんな?
791 :
2/4:2006/03/27(月) 00:03:53 ID:???
小板橋とみちよちゃんは、本当に最後までするつもりみたいだ。
激しく交わる2人を見下ろしながら、僕と奈緒ちゃんは……2人で、どきどきしていた。
『わっ私達も協力してあげるべきですよね?』
そうだね、と僕は答えた。
『でも……触れ合えないんですよね……』
しばらく何かを考えていた奈緒ちゃんは、顔を赤くして、
『もしかして……私が裸になったらセンパイ……ドキドキして下さいますか?』
え!? そりゃあもちろん!
思わず強く言ってしまう僕の気持ちを、奈緒ちゃんも……勘付いたみたいだ。
見つめ合うだけで、鼓動が早くなる。
小板橋とみちよちゃんも、どんどん激しさを増していく。
それを見ながら、奈緒ちゃんと僕はお互い着物を脱いで、裸になった。
情熱的にキスをする小板橋とみちよちゃん。そして、僕と奈緒ちゃんの顔も、徐々に近づいていき――
『あの……火傷しちゃいます……』
うん……かまわないよ……。
合わせた手のひらが焼け、唇も熱い。でも、それが辛いとは、少しも思わなかった。
………。
『……小板橋さん、終わったみたいです……エクトプラズム……補給して下さい』
奈緒ちゃんに言われ、僕は体を重ねる2人の上に浮いた。
どくん、どくんと2人から放出されるエクトプラズムに、身をゆだねる。天へと昇る、エクトプラズムの流れに――
――ん?
エクトプラズムは、不意に流れを変えた。Uターンして下へと降りていく。
渦を描いて、みちよちゃんの体へと……そして僕も、流れに押し流され、吸い込まれる!
慌てて奈緒ちゃんに手を伸ばした。奈緒ちゃん!
奈――
* * *
792 :
3/4:2006/03/27(月) 00:04:35 ID:???
「以上です」
さくらさんにぺこりと頭を下げる、小板橋さんとみちよさん。
さくらさんは突き放すように言いました。
「よ〜〜くわかったわよ。あんたたち二人とも どヘンタイ だってことが!」
なんでこんな男に入れ込んでたんだろ、私帰る!
勝手なことを言いながら、さくらさんはすたすた歩いていってしまいました。
小板橋さんたちは、顔を見合わせて、ほっと息を漏らしました。
「すみませんでした、みちよさん! 僕のせいでこんな目に……」
二度とこういう事がないよう以後気をつけます、と頭を下げる小板橋さんに、みちよさんは優しく微笑みました。
二人のことは一件落着。……けど……
センパイ……。
その後。北海道から帰還した小板橋さんの車が、みちよさんの家に辿り着きました。
ベスちゃんを抱きかかえ、車から降りるみちよさんの顔は、晴れ晴れとしています。
「あの……良かったらお茶でも……」「喜んで!」
和やかに会話を交わしながら、玄関のドアを、開けると、
ぶわ、と炎が吹き荒れました。
外気を得て、激しく燃え上がる炎。後ずさるみちよさん。私は木槌を構えて進み出ました。
炎の中には、2体の亡霊の姿が見えます。みちよさんのお母さん! お姫様!?
――みちよぉー! 一人にしないでおくれ、みちよぉ! こっちにおいで、みちよぉー!
お母さんの亡霊が、みちよさんを見据えて訴えています。
発作的にふらっと足を前に出すみちよさん。その肩を――引き止める手がありました。
小板橋さんの、手。
小板橋さんは消防車を呼ぼうと、みちよさんを連れて場を離れます。
私は木槌を振り上げ、燃えさかる炎に向かって、もうやめて、放っておいてと叫びました。
『バカタレが……亡霊を利用として逆に取り込まれやがって……』
突然、天から声が聞こえました。そして次の瞬間、ふわっと亡霊たちを包み込んだのは。
『お医者さま! じゃない……天使さま!!』
793 :
4/4:2006/03/27(月) 00:05:26 ID:???
天使さまは亡霊たちを『あの世でお仕置してもらってこい』と天に送りました。そして私に手をさしのべ、
『私のことを天使だと認識できる様になったか! 進歩したな!
では若林奈緒よ……任務完遂ごくろうさま! 天国の門が開いてるよ』
私は慌てました。でもでもっ、まさる先輩がっ!!
『やれやれ! バカタレがもう一人……』
金子まさるは、そもそも自殺した罪でマイナス1点、天から脱走した罪でマイナス2点!
本来なら地獄行き確定なんだが人の命をひとつ救ったからな……と呟きながら、天使さまはみちよさんのお腹に、耳を近づけました。
『こいつ……赤子の受胎に巻き込まれやがったな!』
お腹に向かって、どうするよ、と呼びかける天使さま。耳をすましていたと思ったら、私に手招き。
おずおずと、私もみちよさんのお腹に、耳を当てました。――先輩の声が、聞こえました。
僕は……このまま人間に生まれ変わりたい……。
許してもらえるなら……もう一度最初からやり直してみたいんだ、人生を……。
今度はちゃんと最後まで生き抜いてみせる! だから……。
私は天使さまに言いました。
『私も……私も生まれ変わります! 人間に!! そして……』
『転生したまさると再開する? 無理だね!』
広い地球のどこの国の誰の子供に生まれるかは完全にランダム。特定の誰かと偶然に出会える可能性なんて、僅かもない。
天使さまは、残酷なことをきっぱりと、言いました。ぼろぼろ涙がこぼれます。が、
『事前に「赤い糸」でも結んでおかないかぎりは絶対……って、お前らいつの間に!?』
よく見ると、私の小指には赤い糸が結ばれ、みちよさんのお腹へと伸びていました。
じゃあ……これがあれば……!!
結局、家は全焼です。浮かない顔のみちよさんに、小板橋さんは笑って言いました。
「帰りましょうか……僕のマンションへ……猫君といっしょに!」
「あの……えーと……お世話になります」
笑い合う二人。もう大丈夫ですよね? 私がいなくても! みちよさんとまさる君を……幸せにしてあげて下さい!
『まーかせてっ!』『ゲコッ』と淫魔やカエルも顔を出します。
そして私は――赤い糸がたなびかせて、天へと飛び立ちました。
――じゃあ……次に会うときまで……さようなら!!
「背後霊24時!」ご愛読ありがとうございました。
今さらですが、既刊単行本1巻2巻のお知らせ。
単行本1巻
第1話「ラッキー!?」 >480-482
第2話「エ…エ…エッチ!?」 >492-493
第3話「なんかいる!」 >499-500
第4話「悪霊退散!」 >508-509
第5話「ぜんぜん違う!」 >517-518
第6話「かっこいいじゃん!」 >527-528
第7話「見たくないっ!!」 >533-534
第8話「ありがとうございます」 >541-542
第9話「害が無い!?」 >548-549
第10話「協力……」 >556-557
第11話「どこから始めれば……」 >564-565
単行本2巻
第12話「なんですかこれ〜〜!?」 >574-575
第13話「助けに来たぞ!!」 >580-581
第14話「うそつきっ!!」 >588-589
第15話「みちよちゃん!!」 >600-601
第16話「からっぽの体……」 >613-614
第17話「ごめんなさい」 >620-621
第18話「嫌だ〜〜〜っ!!」 >628-630
第19話「まず第一段階!」 >640-641
第20話「一緒にベッドで!」 >649-650
第21話「また……夜が」 >667-669
第22話「やっぱりやろう!」 >676-677
第23話「本当の私」 >681-682
第24話「もう……大丈夫」 >691-692
なお、2日後には単行本3巻が発売されます。エピローグとなるおまけ漫画にも、ご期待ください!
え、これで終わり?
盛り上がってきたばっかなのに
まあ、綺麗にまとまったけどなんか勿体ない
いい加減しつこいと自分でも思うが言いたい。
結局あのカエルは何だったんだ
最後まで憑いたままだったしな<カエル
なにげにお母さんの亡霊も救われたんだな。
がぁさんまとめ上手いよがぁさん
まさるの前世(?)自殺もわかんないぁ。
けどあっさりめですっきりしたラストだな
話作るの難しそうな設定だろうに、よくまとめたと思う。
カエルはピーターさんが言ってたように、昔助けたから恩返しに来たってのがFAなのかな・・・
おい淫魔、まかせてってお前ががんばっても子だくさんになるだけだぞ。
とおもったけどカエルもいるか…
痛快子作りコメディ連載できそうだな。
蝉の声が響き、ナスの牛とキュウリの馬が飾られる頃。私は翼をはためかせ、地上に降り立ちました。
そーっと小指の赤い糸を手繰り、見つけました! あそこね? 新しいおうち……。
家の中には、おっぱいを飲む赤ちゃん。かわいー……。
私は呼びかけます。私ももうすぐ生まれ変わりますから……待ってて下さいね? センパイ……。
と、視線を感じ、私は目を下に移しました。白装束におかっぱの女の子の、霊。
あなた……どなた?
『エリザベス!』
エ、エリザベスさん? ど〜見ても日本人……と思ったら、彼女は近くを指さしました。
そこにあるのは、まぐろフレーク缶の添えられた、ベスちゃんの写真。そっか。死んじゃったんだ、ベスちゃん……。
『でもずっとみちよといっしょにいられる! ずっとみちよをまもってあげる!』
みちよさんの頭に水滴を発見し、引きずり出すベスちゃん。それは淫魔でした。
『あ〜っ、あんた! こいつど〜にかしてよ! うるさくてたまんないのよ!』
耳を生やして嬉々として淫魔にじゃれつくベスちゃんに、私は微笑みました。
お二人でセンパイとみちよさんを守ってあげて下さいね?
みちよさんの家から跳んだ先は、見覚えのある、家。
意を決して、私は家の中に飛び込みました。
その一室――ベッドには、蜘蛛のような魔物がいます。ギチギチと鳴きながら、横たわる女性にのしかかっています。
その魔物を、私は大理石のハンマーで打ち飛ばしました。
――オマエハ……オレガ喰イ殺シテヤッタ娘!!
私はまだ……負けたわけではありません! ハンマーを振り下ろし、魔物を叩きつぶします!
ぱああぁ……と魔物は消滅しました。涙がにじみましたが、私は顔を引き締めます。
『必ず病魔に勝ってみせるって……まさる先輩と約束しました!』
私は、家の中を見回します。
私のお部屋……まだそのまんまなんですね……。ベッドに横たわるその人に、声を掛けました。
――安心してください、お母さん。病気はすぐに良くなります。
そして地上に一旦の別れを告げる間際、私は、飾られた生前の私の写真を見つけました。
奈緒はもう生まれ変わりますね?
短かったけれど……若林奈緒として過ごした人生は……楽しかったです。
ベスかわいいよベス
おおーこれで完結かー
なおちゃん強くなったなぁ…
805 :
マロン名無しさん:2006/03/32(土) 04:25:57 ID:xw8MO7V6
保守あげ
やっつけな印象が強いが
最初の数回がかなり楽しめた
べスも背後霊になったのか。
去年死んだうちの犬もいてくれてるといいな。
クライマックスの展開こそ描きたかったんだと思った。
基本的に毎回毎回の連載ってより、全体で計算しての伏線やテーマを重視する作者なんじゃないだろうか。
>>808 だいらんどとかは構成がうまかったな
クライマックスは詰め込み杉で逆に構成下手に見える。
収束っぷりが都合よすぎるというか。
打ちきりの危機でもあったのかな。
中盤以降に話が一度膨らんでるから
打ちきりではなかったんだとは思うが