クセナキスについて

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148名無しの笛の踊り
>>143
あまり気は進まないがマジレスしてみよう。(part1)

> まず問題点の整理。彼はセリエルを初等数学の果てしない演算のように捉えて
> いたこと。だから自分は違う数学の理論をつかうのさ、という程度で捉えて
> いたのでこの際理論的に矛盾があるなしはあまり意味のあることではない。
彼のセリエル理解は不十分だったから、彼の理論がおかしくても問題ではない?
最初が間違っているからそれ以降が正しいかどうかは問題ではないということ?

創造的誤解は飛躍的進歩の母というのは、ドビュッシーのベートーヴェンや
ヴァーグナーの理解などにも見られる、よくある話だと思うが。

> クセナキスを聞くときにいつも思う事は、彼の音楽からは人間同士の関り合い
> がまったく聞こえてこずに、とてつもない音響結果がでてくるという印象は
> はじめて彼の音楽に接した9年前からほとんど変わることがない。
だからテープ音楽が一番面白い、ということになる。それはそれでいいと思うが。

> たとえば室内楽作品でそのギャップは大きいようにみえる。室内楽
> という極めて人同士の暖かい温もりに満ちた空間ですら、
西洋近代音楽に引き付けた価値判断に過ぎないように見える。

> パリンプセストではピアニストとその他のメンバーとの殺し合いに聞こえる。
モルシマ−アモルシマは? アクラタは? 例外はいくらでもある。

> 彼の内戦の記憶から生まれた音楽だからと主張することもできようが、
> 果たしてこのような態度は音楽という場でやっていいことなのか?
ますます、西洋近代音楽に引き付けた価値判断に過ぎないように見える。
149名無しの笛の踊り:2001/02/20(火) 00:39
>>143
引き続きマジレスしてみよう。(part2)

> 晩年はオーケストラの作品が増えるが、ほとんど妥協の場所になっているこの
> ジャンルで多数の作品を残すのは、彼自身にとって金銭的な事情もかかわって
> いたのではないのか?皮肉にもこの態度は武満と接点を持つように感じる。
オーケストラ作品は委嘱で書くもの、という基本を忘れているのではないか。
また、彼の最初の2作(晩年にそれ以前の作品も出版を許可し始めたが)は
オーケストラ作品で、全盛期にもテレテクトールやノモス・ガンマのような
傑作が書かれたことも、都合よく忘れているのではないか。

「オーケストラは妥協の場所」になったのは、まともにリハーサル時間を
確保しなくなった、ここ30年程度の話に過ぎない。その時代に、晩年の
武満とクセナキスにかくも多くの委嘱が世界中からなされたのは、武満は
演奏が簡単で、クセナキスはメチャクチャな演奏でも作曲者はわからない
という事実が周知された結果なのは確かだが。

> その武満が幸福な最期というならば、クセナキスの最期は惨めだった。年を
> 取るにつれて音の密度はあきれるほど減り続け、プレクトのように衰弱とし
> か言えない作品まで生まれたのは、あのデビューにふさわしくはなかった。
作品の質を問題にするなら、武満も「惨め」なのは同じだと思うが。

> むしろ、年を取ってから反対勢力も増えた。
それは、武満は日本の天皇になれたが、クセナキスはフランスの王様になれ
なかった(ブーレーズに勝てないのは当たり前だが:王様は天皇とは違って、
実務にも長けていないといけない)からにすぎない。
150名無しの笛の踊り:2001/02/20(火) 00:41
>>143
乗りかかった船で最後までマジレスしてみよう。(part3)

> Paul Mefanoは「クセナキスの音楽はおもしろいねぃ。たかが効果音
> だけどさぁ。」というコメントを残したが、亡くなってしまった今、
> このコメントの意味は深い。
伝統的な作曲家が、クラスター的な作曲家を「効果音」と罵倒するのは
大昔からよくあることで、深い意味はない。ベリオも、新ロマン主義に
転じる以前のペンデレツキをそう非難していた。

> たとえMefanoがクセナキスに劣る作曲家としても。
メファーノの発言であることに意義を見出すとすれば、彼は作曲家で
ある以上に指揮者であることを思い出すべきだろう。彼はシェルシの
紹介を先頭に立って行ってきた一人でもあり、単に音楽観が保守的
だからそのような発言をしたのではない可能性もある。

> 時間外の音響を提唱しながら、録音メディアの発達にもっとも相応しい
> 音楽になってしまったことを、彼は本当に喜んだのだろうか?
クセナキスの言う「時間外構造」というのは、要素積み上げ方式ではない
音楽の構造化のことを指しており、音楽が録音メディアに定着されること
とは何ら矛盾しない。語感からの連想だけで突っ走るのはやめよう。

> 普及が進んだとはいえ、彼の作品を満足に聞けることはほとんどない
> 日本の現状で、決してクセナキスの批判を行ってはならない。
クセナキスの作品が満足に聞ける国なんて、世界中どこにもないのでは。
むしろ日本は、クセナキスに好意的な国だと思う。実演の質はさておき。