【物語は】ETERNAL FANTASIAU:2【続く】

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1 ◆LhXPPQ87OI
解き放たれた世界は、終わらない物語を紡ぐ

それは人と龍と獣の…果て無く続く闘争の叙情詩


【物語は】ETERNAL FANTASIAU避難所【続く】
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1162818589/ 
参加に関してはこちらで相談をお願いします。
2 ◆LhXPPQ87OI :2006/11/18(土) 20:15:04
前スレ
【物語は】ETERNAL FANTASIA〜TRPSU【続く】
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1153141583/l50

参加におけるルールや、世界観の詳細はこちらにて確認して下さい。
TRPGまとめサイト
PC:http://verger.sakura.ne.jp/
携帯:http://verger.sakura.ne.jp/top/top.htm
3 ◆LhXPPQ87OI :2006/11/18(土) 20:16:01
 【ETERNAL FANTASIAU ルール説明】

∇基本的な約束事∇
このスレッドは『リレー小説型なりきりスレッド』です。
自分のキャラだけではなく、他の人のキャラも自在に演出する事が可能です。
それ故にスレッドをよく読み、物語を把握する事が最も重要となりますので注意して下さい。
参加希望の人は本スレ全部(第一部過去ログ含む)に目を通して下さい。
また、全部読めとは言いませんが避難所も軽く読んでおく事も大切だと思います。
以上の約束事を、参加する上での最低条件とします。

∇基本用語∇
・PC…プレイヤーのメインとなるキャラです。トリップの使用が前提条件です。
・NPC…ST(後述)が管理するキャラです。当然、自由に演出する事が可能です。
・ST…物語の進行役となる人物です。NPCを管理したり、様々な演出を用意します。

∇スレッド基本ルール∇
『文の書き方は、なるべく一人称で書く(なりきりである為)』
『PCを死亡させるレスは禁止orスルー』
『PC(NPC)のイメージを、著しく壊す類のレスは禁止orスルー』
『変換受け有り』
『どう書いていいか判らなくなった場合、避難所にてしっかりと相談する』
『最低でも6日に1度はレスを投下する』
『長期間不在となる場合、避難所に事前連絡を徹底する』
『6日を過ぎても投下が無い場合、STによってキャラが管理される(一時的処置)』
『名無しさんの投下は最低3行以上の中〜長文のみ採用する(例外有)』
『避難所でのレスもPCになりきってレスをする(補足参照)』
『名無しによる設定の投下は、それぞれのテンプレを使用して簡潔に纏める』
以上の項目が、このスレッドの基本ルールとなります。必ず守って下さい。

∇ルールの補足∇
基本的にレスアンカーやシングルアンカーは必要ありません。
レスの投下に順番や連投の制限はありませんが、場面的に暗黙のターンが発生するでしょう。
その場合、STが避難所で各PCに相談する事があります。
PCの皆さんはなるべく相談に乗ってあげて下さい。スムーズな進行を維持する為です。
避難所でのレスですが、中の人として発言したい場合は〇〇の中の人と名前を書いて下さい。
名無しさんのネタ振りも、他のTRPGより制限が厳しくなっています。
これは今までの本スレから導き出した結論です。どうかご了承下さい。
4 ◆LhXPPQ87OI :2006/11/18(土) 20:33:18
このスレッドでは一般の名無しさんからアイディアを広く募集中です。
こんなネタどうかな?って感じのアイディアを、以下テンプレに書いてご応募下さい。
応募宛先↓
【物語は】ETERNAL FANTASIAU避難所【続く】
http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1162818589/l50
※応募の際には、名前欄に設定と書いて下さると助かります。

☆街テンプレ
街名:
所属国家:
人口:人
統治形態:
統治者:
軍の有無・規模:
文化水準:
宗教:
気候:
特産物:
街解説:

☆地域テンプレ
地名:
位置:
気候:
危険度:
出現モンスター:
地域解説:
 危険度の目安
A=マジでヤバイ!!
B=・・・・ヤバイ
C=危ないかもしれん
D=普通じゃね?
E=まだまだ余裕
F=安心と安全
+や-によってさらに細かい区分がある

☆モンスターテンプレ
名前:
分類:
危険度:
生息地:
攻撃力:
防御力:
敏捷力:
特殊能力:
モンスター解説:
 攻撃・防御・敏捷の目安
A=ありえNEEEEE!!!
B=やべえな…強い!!
C=うお!強ッ!?
D=普通だな
E=ちょろいなwww
F=うはww楽勝なんですけどwwww

☆文化テンプレ
名前:
分類:
解説:
 魔法、歴史、アイテム(遺産)、等の区分を明確にするために分類の項目を設けました。
5アビサル・カセドラル:2006/11/18(土) 21:34:57
レジスタンスの陣を蹂躙してよし、倒されても爆発してよし、の兵器を投入しておいて更に兵力を投下するとは正直思えない。
だけどそれだからこそやる、ともいえる。
だからソーニャさんたちは陣へと先行する。
私がここで術に失敗し、鋼鉄の蛇が爆発を起こせばレジスタンスの陣もろともソーニャさんも死ぬというのに・・・。

磁性反発によってはじき出され、青蛇琴に吸い込まれるように宙を浮く巨大な鋼鉄な蛇。
ぎしぎしと悲鳴を上げる体を無理やり抑えながら見る私にはとてつもなく遅く感じた。
遅々として進まないその空中浮遊もようやく終わりを告げ、青蛇琴に飲み込まれていく。
自分の全長と余り変わりないにもかかわらず、平然と飲み込んでいく姿は異様なものではなるが、心底ほっとした。
気が抜けたせいか、右腕の毛細血管が破裂し、その勢いで体制を崩してしまう。
術が解けてしまうがもうそれでもよかった。
既に目的は果たしたのだから。
空間に開いた穴は見る間に復元されふさがり、周囲と同じ空、夜闇、雪雲がひろがった。

「・・・っつ・・・やった・・・」
縦目仮面をはずして小さく息をついた。被っているときは知識継承使用が可能になる。それは全ての細胞が活性化することを意味する。
大きな術を行使し、衰弱した状態でこれ以上被っているのは危険だ。
大量の汗、衰弱した身体、右腕全体からくる痛み。
だが、まだ太極天球儀は展開したままだ。
「指は動く・・・大丈夫・・・まだ我は動ける・・・。ソーニャさんを助けて、褒めてもらって・・・一杯お肉を食べるんだ・・。」
足下の雪に赤い点を滴らせながら私は陣へ、ソーニャさんを追って進みだす。
6アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/19(日) 01:06:59
さて、北の我が故郷から旅立ち何週間が過ぎたのでしょうか。私と数名のシスターは遠くの町ハイフォードを目指して
おりました。

数週間前の事で御座います、私共の修道院に一組の夫婦が尋ねてまいりました。その夫婦は夫がリザードマン、
妻が人間と言う異種族同士の夫婦で御座いました。他の場所ならとんでもない事と思われるでしょうが、ここは、
愛の女神ラーナ様の祭られている場所、その様な事はいつもの事で御座います。

その日、まだ幼いシスター達は森に食材を取りに、私は幼き頃より育てていただいた別の寺院に稽古に出ていた事が
幸い致しました。

突如、修道院の方から轟音が鳴り響き、煙があがったので御座います。

私共が戻るとそこには瓦礫が散らばるのみで御座いました。その私共の頭の上を黒い暴風が飛び去っていったので
御座います。

私と年長者で幼いシスターのお守りに当たっていたシスター・キリアは修道院の出入りの商隊にお願いし、
ハイフォードのラーナ寺院を頼る事にしたので御座います。


揺られる馬車の中、私共は身を細々としておりました。 商隊がハイフォードでは無く湿地帯に向かっている事も
知らぬままに・・・・・・。
7アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/19(日) 01:08:01
「きゃああああ!!」

幼いシスター達の叫びに私は物思いから現実に呼び戻されました。
見ると商隊の方々が彼女らに刃物を突きつけているではありませんか。

「はははは、これからお前らに商売道具になってもらうからなぁ・・・・・大人しくしろやぁ」
急ぎ彼女たちと商隊の方々の間にシスター・キリアと立ち塞がります。

「これはいったい何のマネでしょうか!?」
シスター・キリアが大声で相手を非難致しますがやはりと言うべきか、相手にされません。
「いやぁ、儲けるにはねぇ、色々方法があってねぇ」
商隊長が手にしたダガーを回しながら答えてきます。
「雌奴隷が欲しいって言う、需要もたえなくてネェ。」
・・・・つまりはこの方々は奴隷商人だったと言う事ですか

なんと言う事でしょうか、よりにもよってラーナ様を御祭りする場所にこの様な輩が出入りしていたとは・・・・・・
愛のあるお仕置きが必要ですね。

私は服についてるフードをもう少しだけ深く被り半歩前に無言で進みでました。

「ああ、大人しくはしねぇってかい?アマのくせに生意気だぜぇ」
「見せしめに斬ってあげなさい」
一人の男が私の前に進み出て私の頬の部分をナイフの腹でぺちぺちと叩きます
「おうおうおうおう、やるってのか?ああ?怪我したくないだろう?」
私は無言でその男の腕を掴んで捻り上げました。
「ぎゃあああ!!いてぇ!!放せ このやろう!!」
そのまま前方に放り投げ蹴飛ばします。私は5人の男に直ぐに取り囲まれる事となりました。

8アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/19(日) 01:08:36
「5対1だ諦めて死ねよ」
隊長・・・いや、賊の頭と言った方が正しいでしょう それが言い放った言葉に反応するが如く賊共が襲い掛かって
参りました。私は無言のまま目の前の相手にタックルを敢行しました。
「うお!!」
体勢を崩した男の両足を掴みそのまま力任せに振り回します。
「うわぁあぁ!!」

「スリダブ流奥義が1つ!!人間風車!!」
そのまま振り回した男を別の男にほおり投げます。巨大な投擲武器となった男はもう一人の男を巻き込み昏倒させます
いきなりの事にあっけに取られている賊の一人に今度は私自信が跳躍して喉元に飛び込みます。
「スリタブ流奥義が1つ!!飛翔十字拳!!」
十字に交差した腕を喉元に叩きつけられた男は苦悶の表情をしながら崩れ落ちました。
「て、てめぇ!!」
残った手下がダガーを振り回してきました。刃物が私の腹部を後ろから突き刺しました。
「きゃあああーーー」
子供たちの悲鳴が聞こえます。ですが私と長年の付き合いのキリアは冷静でした。
「大丈夫、アクアはあの程度では問題御座いません」
その言葉と共に賊のダガーが私の体を服ごと切り裂きました そして私の姿が現れる事となった次第で御座います。

「あ、あああ!?なんだテメェ!?」
私の容姿は、そうですね、一言で言うなら水で出来たデッサン人形と言う所でしょうか、自分がスライムと言う種族だと
知るのには時間はたいしてかかりませんでした。
「申し訳御座いません この様な体ですのでその様な類の攻撃には耐性が御座います」
それだけ言い終わると私は賊の頭付近まで跳躍し、両の足で賊の頭を固定致しました。
「はしたなくて申し訳御座いません、前方大回転衝!!」
振り子の原理で相手を地面に叩きつけ、最後に残った隊長に向き直ります。
「ひ・・・化け物・・・くるな。」
すでに戦意が無くあとずさっている相手にまで争う理由などは御座いません。
「今までありがとう御座いました、あなたに愛の加護を」
後ろを振り向いたその時、
「化け物がぁ!!」
賊の頭が襲い掛かってきたので御座いました。
9アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/19(日) 01:09:15
「・・・・・・哀れ」
振り向き様、刃を避け私は左の腕をくの字に曲げおもいっきり男の体に叩きこみました。
「スリダブ流奥義が1つ、破砕爆弾斧・・・・・どうか悔い改め下さい。」
無言のまま白目をむいて崩れ落ちる賊の頭を後ろに皆様の元へ向かいます。

「はい、着替え」
シスター・キリアに着替えを手渡され、私は急いで着込みました。あまり長くこの姿を晒していると子供達が怯えて
しまうと思いますので。

「遠くに明かりが見えますそこで一泊の宿を求めましょう。」
私達は、リザードマンの集落に向けて進み始めたので御座います。

10ルフォン野営地前 ◆9VfoiJpNCo :2006/11/19(日) 05:12:29
点々と、白い画布の上に血のを描きながらアビサルは進む。
少しずつ状態が回復していくのがわかる。冷たく清涼な空気が、今の火照った五体には丁度いい塩梅だった。
……しばらく無理は控えよう。
生まれながらにしてすでに頭の中にあった、星界の力を借りる術。実際に大きなものを呼び出してみて、己の程がよくわかった。
いや、わかってはいたのだが……やっと身に染みて理解できたと言うべきか。
つまりは体感だ。
弱い弱いと思って以上に自分の体は強くなかった。だが、自分の心は思った以上の芯の強さでそれを支えきったのだ。
自然と笑みをガ浮かんでくると同時に、反省と向上の念が脳内を巡る。
もっと効率の良い方法があったのではないか? もっと体に負担をかけず集中することはできなかったのか? もっとソーニャさん達のやりやすいように……。
「……?」
思索しながら進めていた足が、止まる。
いつの間にか前方に佇んでいた小さな人影に気がついたのだ。

本当に、小柄な自分よりもずっと小さい。この人影は1メートルいくつもないのではないか?
「……お嬢さん」
しわがれた声が耳を打つ。
「体の具合はどうかの? 若いとはいえ、か弱い女子の身じゃあ。無理は程々にしておかんとのう」
雪の中、人影の言葉が段々と浸透いくにつれ、姿が鮮明になっていくにつれ、アビサルの鼓動は儚さを増した。
寒風に揺れる三角の耳、丸められた背筋、瞳が隠れるほどに長く垂れたこげ茶色の毛並み、目の前の老人は明らかに人間ではない。
……コボルト?
やはり知識のみでしか知らぬその名に行き当たり、軽く混乱する。
「爺いの好奇心で恐縮じゃが、今のお嬢さんの術について詳しく教えてくれんかの? 発動からずうっと傍で見ておったんじゃが、今一よくわからん。
あんな召喚は初めて見る。まるで星の彼方からやって来たような異質な……ふむ、そうか……星な…星……」
自らの杖に顎を乗せて呟くコボルトの老人に、アビサルは我知らず僅かに後ろに下がった。
自分の性別を言い当てられたのにも驚いたが……最初から見ていたとは……?
義眼の性能にだけは絶対の自信を持っていただけに、あやうく腰を抜かすところだった。

「教えてくれんかのう?」
「お、おおお、黄道聖星術、今呼び出したは青蛇琴という――」
老人が手を挙げて止めるのを見て、言葉を飲み込む。
「ほっほっほ。いや、意外に素直じゃ……こんな天気に立ち話もなんじゃし、も少し落ち着ける場所に行こうかの」
「え――」
この申し出にアピサルが身構えるやいなや、
「!?」
老人の肉球が視界を覆い尽くした。
幻術か、はたまた驚異的な体術のなせる業か? とにかく一瞬で距離を詰められたと思った時にはもう遅い。
「おお、よう出来とる」
次に見たのは、取り外した自分の義足を手にしげしげと眺める老人の姿だった。
……本当に、いつの間に……?
片足になって雪の上に転がるアビサル。意識を失う直前に浮かんだのは、いつも集中のためにイメージする大極天球儀の図柄であった。

まだ、誰かの顔が浮かぶほど、彼女は人を観てはいない。
11ST ◆9.MISTRAL. :2006/11/19(日) 16:42:15
黒騎士とレジーナの2人は物質搬入通路の通風孔から、流通管理倉庫に向かっていた。
「ブルーディが心配だ、無事だろうか…」
「大丈夫よ、仲間が下を張ってるし。見付ければ保護できるわ」
「そうか、すまないな…」
四つん這いで狭い通風孔を進むのは、体格の大きい龍人にとって楽ではない。
2人の会話は次第に途切れていく。追っ手の心配は無くなったものの、問題は山積みのままだ。
今や黒騎士は国家反逆罪で指名手配なのだから。それにガナンを脱出したところで行く宛も無い。
「暗いわねぇ、貴方の無実を晴らさなきゃどうにもならないんだから、気合い入れなさい!」
前を進む黒騎士の尻に容赦無く拳を叩き込むレジーナ。不意に襲う激痛に黒騎士は悶絶した。

―時間は少し前に戻る

「そういえばレジーナ、お前は何時ガナンに戻ってきたんだ?」
黒騎士が治療してもらった腕を回し、具合を確かめながら尋ねる。
「1ヵ月くらい前かな。貴方が聖獣と戦ってたあの日、私もメロメーロに居たのよ」
「なんだと!?」
「あのね…街の人が迅速に避難できたのは誰のおかげだと思ってるの。大変だったんだから」
「ぬぅ……すまない……」
情けなさそうに縮こまる黒騎士を呆れ顔で眺め、レジーナは続けた。
「そりゃ貴方達は外でドンパチやってればいいでしょうけど、市民の安全を考えてほしいわね」
「ぬうぅ……本当にすまない………べぶぁ!?」
レジーナの不意打ちに黒騎士が間抜けな悲鳴を上げた。
「貴方ってば謝ってばっかりね。昔からずっとそう」
「…そう簡単には変わらんよ…お前は相変わらグハァッ!!!」
再び鉄拳が飛ぶ。口は災いの元、まさにその通りであった。

――再び現在

激痛に悶絶する黒騎士が涙ぐんでいるのを無視して、レジーナは耳を澄ませる。
胸元から淡い白の輝きが洩れ、暗い通風孔内を薄く照らす。
レジーナの持つ龍鱗は白。攻撃系のブレスは少ないが、代わりに肉体強化系が充実している。
今使用したのは感覚器官を強化する【鋭覚装身】今の彼女は遠くの音も逃さず聞き取る事が可能だ。
「…まさか敵か?」
黒騎士がそっと涙を拭いて尋ねた。
「…ううん、これは味方よ。さっさと合流しましょ、のんびりは出来ないし」
そう言うと手で『さっさと行け』と言わんばかりにシッシッと黒騎士を急かした。
12リッツ ◆F/GsQfjb4. :2006/11/20(月) 17:59:08
「ハハハ、さぁて…月まで飛んでもらうぞゴルァ!!」
ドクンッ!!不気味な躍動。同時にリッツの周囲の景色が波打って揺れる。
そして彼を中心に色彩を失っていく。まるで花が枯れていく様に。“何か”を失っていく!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
異音と共にリッツの姿がぼやけ始めた。周囲から完全に命が消え去り、それは更に広がっている。
純粋なエネルギーの塊と化した人影が、やがてその輪郭を顕にする。
禍々しい程の力が渦巻き、辺りを蹂躙して廻る。完全な姿を現した獣が、一際大きく吠えた。

機械仕掛けの大蛇が全ての首を振り上げ、獣に襲い掛かるもその姿は既に無く…
突然大蛇の胴が爆ぜて散った。大爆発をものともせず、獣の猛攻が続く。
次々と首がもぎ取られ、腹綿といえる動力チューブを引き千切られた。
大蛇はなす術無く、嬲り物にされるだけの存在に成り下がる。それほどに獣との差は圧倒的だった。
死に物狂いで地中に潜るが、尾を掴まれ阻まれた。尾を切り離して逃れた瞬間…

空が裂け、異形のモノが顕れる。

「…!?」
獣が突如乱入して来た星界の住人を睨み、威嚇する。
青蛇琴はそんな獣には構う事無く、食事に取り掛かった。地面が爆ぜ割れてハイドラが飛び出す。
見えない糸に釣り上げられたかの如く、上空を舞うハイドラが丸呑みにされ、食事は終わった。
「あのやろう……俺の獲物を横取りしやがったな!!!!」
両の足に力を込め、大地を蹴り獣が跳ぶ。蹴られた大地は砕けて雪のベールを広げた。
獣が目指すは当然、獲物を掠った青蛇琴!!
「そいつを返しやがれえぇええええええっ!!!!」
無茶苦茶である。しかしそんな無茶苦茶がまかり通る寸前で、青蛇琴は在るべき棲み家に還った。
轟音を伴う拳撃が空を裂き、降りしきる雪を吹き飛ばし、獣はようやく自分が今何処に居るのかに気付く。
もちろん、地上300mの空の上。当然ながら後は落ちるのみ…

「うおわああああっマジかよ!!やべえッ!!!」
何を今更といった感はあるが、これがリッツという獣の強さの根幹なのだ。
唯々ひたすらに目の前に在る敵を殴り倒す、たったのこれだけ。
その単純さ故に、迷いは無い。
戦場に於いて迷いは己を殺すだけだ。だからこそ、迷わぬリッツは強いのである。
13隠衆 ◆F/GsQfjb4. :2006/11/20(月) 18:01:52
――ルフォン大型兵器発掘現場
先のハイドラとリッツの戦闘を観察していた2人の人影が、疾風の如き脚を止め建物へと入る。
「まだ早いのではありませんか?奴らは半分も集まってはおりませぬ」
隠衆が一人“荒天”のエンラは不安げな表情で隣に立つ同じく隠衆“轟天”のセンカに訴えかける。
「ならぬ、修羅が出た以上は此処も長くは持つまい。ならば試し撃ちだけでも、な」
「あれは本当に修羅でしょうか?人間には使えぬ筈…」
「いいや、あれは修羅よ。間違いなく、な。《四岑》まで開けておった」
センカは歯ぎしりして唸る。

《修羅双樹八世御門》破龍の名を持つ拳聖が開祖とされる最強の肉体強化闘法だ。
しかし、それは人間には決して会得できるものではない。
どれほどの修練を積もうと、種族としての特性に由来する技故に人間には会得不可能なのだ。

(だがしかし、あの白髪の人間は門を四岑まで開けた…獣の如き姿はなによりの証拠)
センカは考え込む。もうじき頭である“舜天”のシバが戻るだろう。
もし修羅が出たとシバが知れば、必ずや戦いたがる筈。しかし隠衆の存在は表には出せない。
後々の事を考えるならば、あの時に始末しておくのが得策であった。勝てたかどうかは別ではあるが。
センカはいつの間にか自分の口から血が滴るのに気付いた。悪い癖だ…また噛み切っていた。
エンラに悟られぬうちに、手早く口元を拭うとセンカは腹を括った。
アレは見なかった事にしようと。

そもそも王国側の戦力を、一箇所に集められるだけ集めて一掃するのが今回の計画だ。
余計なトラブルは出来る限り避けたい。ただでさえ遅れが生じているのだ。
王国と公国、互いの兵力を削ぎ、東からの侵攻に備えるために隠衆は派遣されたのだ。
与えられた任を全うする。それが第一であるとセンカは自らに言い聞かせる。

だが…戻ってきた頭のシバが持ち帰った“土産”を見て、センカは思わず叫んだ。
「ちょ!?何やってんスかアンタって人はーッ!!隠密行動!隠密行動ーッ!!!!」
「いやぁ愉快痛快な業を遣う童でのぅ…ついつい拾ぅてしもぉた。かっかっかっ♪」
小脇に抱えた人間の童を転がして大笑いするシバを恨めしげに見つめ、センカは堪える。
隠衆南方先遣隊副頭目、“轟天”のセンカ。常日頃から漢方の胃薬が手放せない漢であった。
14パルス ◆iK.u15.ezs :2006/11/21(火) 00:26:47
「お前ら、さっさと起きろ!今日こそは遺跡の調査に行ってもらうぞ!」
キャメロンさんに爽やかに布団を引っぺがされた!
「はにゃ〜…まだ暗いじゃん…昨日はオヤジギャグで大変だったんだから」
そう反論するとキャメロンさんは首をかしげた。
「オヤジギャグ?何の事だ?」
すっかり記憶に無いらしい。
「覚えてないの?レベッカ姉ちゃんとパルちゃんがいなかったら大惨事だったょ、ねえ、ハッちゃん」
ラヴィちゃんがハイアットくんに同意を求めようとして……しばらく沈黙が流れる。
「あれ……?いないよぅ!」

族長さん達を叩き起こしつつ一通り大騒ぎした後、様々な憶測が飛び交う。
「拉致!?」
「相当頭がどこかにいってたからな……徘徊して道に迷ってるのかもしれん」
「モンスターにでも会ったらヤバイわよ!バナナしか能が無いんだから!」

そんな中、まだ新しい足跡を見つけた。
深く生い茂った森に適応しているので、薄暗い中でも辿ることができるのだ。
追っていくと足跡は集落の外に続いていた。もしや本当に徘徊しているのだろうか。
一回戻ってみんなに言ってきた方がいいのかな?とも思いつつ多分すぐ見つかるだろうしまあいっかというわけでそのまま行く。

「あう……どこまで行ったの?ハイアットくーん!」
さすがに戻らないとまずいかと思いはじめたその時。バナナの皮に足をとられて滑って転んだ!
「痛て!」
昨日自分で撒きまくったので自業自得である。でもそんなことはどうでもいい。
「なっ!?」
思わず声をあげてしまった。なぜなら顔を上げてみると目の前に巨大な都市の遺跡があったのだから!
足跡だけたどってきたおかげで幻惑魔法にかからなかったのだろうか。何気なく門柱に手を触れてみる。
すると、急に意識が遠のくような感覚……何かが流れ込んでくるような感じがして。
起きているのに、夢を見た。

いろんな風景が一度に見えるような不思議な夢。
よく分からないけど、すごく綺麗なところだった。見た事も無いような高度な文明……。
常ならざる力を持つ歌と、音が紡ぎだす現代ではあり得ないほどの魔法。それは、繁栄の限りを極めた古代の都市……。
でもその都市が崩れ去る姿も同時に見えたんだ……。やり場の無い悲しみや、焦りや、怒りも……。

「うわああああっ!?」
自分の叫び声に我に返る。
「はぁはぁ……今のは……?」
遺跡に宿った想いを見てしまったというのか。暁の瞳の先代所有者だけでもお腹いっぱいなのに!
再び地面を見ると、門が開いていて、明らかに中に入っていった足跡がある。
昨日はあれ程来れなかったのにどうしてハイアットくんは来れたのだろう。
まさか……彼は本当に……いや、今はそんな事はどうでもいいのだ。
「大変!!早くみんなに知らせなきゃ!!」
もと来た道を急いで駆け戻る。
15レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2006/11/21(火) 08:54:44
またこの夢だ…真っ白な世界に、たった1人でピアノを弾く少女…
「ねぇ、あなたは誰?アタシに何を伝えたいの?」
呼び掛けると少女は演奏を止めて、こっちに振り向いた。淋しい笑顔。

変だ。アタシは絶対この少女に会った事があるはず…覚えてるもん、この笑顔を。
でも、何故か思い出そうとする度に、いきなり記憶がぼやけて消えてしまう感じになる。
もどかしいのを我慢して、少女の隣まで歩く。間近で見るとはっきり思い出せそうになった。

  …貴女…に……奏で……しい………

僅かに声が聞こえた。やっぱりリザードマンの村で聞こえた声はこの子だったんだ!
「奏でるって何を奏でるの?」

  …思い出……して………約……束…

「約束?思い出す?ちょっと、意味わかんないわよ!?」
夢の世界が突然、ガラガラと音を立てて崩れ始めた。
「嘘ッ!?落ちる!?ちょっとーッ!!!!」
真っ白から真っ暗へ、アタシは転がり落ちて……目が覚めた。最悪の目覚めだわ……


最悪なのは目覚めだけじゃなかった。あの馬鹿が居なくなったみたい。
どうせトイレ探して迷子になったんでしょ、とか思ったら…どうやら既に昨日迷子になったらしい。
村の人達も協力して、集落付近を隈なく捜索したけれども見付からず仕舞い。
「一体何処をほっつき歩いてんのよ!あの馬鹿は!!」
道端の小石を思い切り蹴り飛ばしてぼやくと、ラヴィが重い口を開いた。
「実は…ラヴィ見たんだお。ハッちゃんが明け方頃にどっか行くの…トイレだと思ってたのに…」
しょげ返るラヴィの頭を撫でて、励ましてやる。ラヴィは悪くないもんね。
「…あれ?そういえばパルは?」
「パルちゃんはあっちの方を探してたよぅ」
まさかパルまで行方不明とかじゃないでしょうね!?ヒヤリとした時、村の入口に馬車が停まった。
一応聞きに行ってみよう、この時間に着いた馬車だ。もしかして見掛けてるかもしれないし。
アタシとラヴィは馬車に向かって走り出した。
16サブST ◆AankPiO8X. :2006/11/21(火) 21:11:49
「メインシステムは・・・生きているな。都市機能は半分以上潰れているか・・・」
青年はジャジャラ中枢部のコンソールを操作しながら、次々に表示される画面を瞬時に読み取っていく。
彼はジャジャラの都市機能管理用ホムンクルスとして造られた2体の片割れ。
中枢のメインフレームと接続された彼は、ジャジャラ内部の出来事は手に取る様に把握出来る。
当然の如く、遥かな時を経て帰還した片割れの存在も。
「おかえりハイアット。君がいればジャジャラは完全に甦る。今度こそ僕達は・・・」
モニターに映し出された映像に、都市内を走る人影。ハイアットだ。真っ直ぐに此処を目指して来る。
青年は優しく微笑み、接続を解除した。兄弟とも言える存在であるハイアットを迎えに行く為に・・・


「あっれぇ〜?こんな所に曲がり角なんかあったかな・・・無かったような」
ハイアットは道に迷っていた。彼が時間を超越した後に増設された通路だとは知る由も無い。
更にあちこちが破壊され、通路はますます入り組んだ状態になっているのだ。
迷うのも仕方ないと言える。
「困ったなぁ・・・本格的に迷子だよコレ、時の流れって残酷・・・おや?」
ふと前方に明かりが見える。ハイアットは躊躇う事なく明かりに向かって進む。

明かりの下には1体の古びたゴラムが倒れていた。おそるおそる近づき、動かないかどうか確認する。
どうやら完全に機能停止しているようだった。・・・かに見えただけだった!!
ウィーン・・・ガション!ガション!!ビーッビーッビーッ!!
『侵入者発見、侵入者発見。手足の骨をへし折った後、爪を1枚1枚丁寧に剥がします』
無機質な機械音声が、やたらと物騒な事を宣言して襲い掛かって来た!!
「ちょ!?怖ッ!!なんか怖いよ!!普通『侵入者は抹殺する』とかでしょ!?」
突然の急展開に、ハイアットは回れ右して全力疾走で逃げ出した。
殺されるよりも、リアルに怖いゴラムの台詞にすっかり血の気が引いている。

しかし時の流れは残酷だった。迷子のハイアットはでたらめに逃げた結果、行き止まりに追い込まれたのだ!
『侵入者捕捉、侵入者捕捉・・・爪を剥がしたら、そこに塩水をポタリポタリと垂らします』
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
17アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/11/22(水) 22:00:58
「見たじゃろう。空に映った女とハイドラを飲み込んだ大蛇。この童の術と聞けばお前だって拾ぅてしまうじゃろうに。」
悪びれる様子もなく笑うシバの言葉にエンラがぴくりと反応する。
だが、センカは違う。
これ以上話がややこしくなる前にと畳み掛けるように言葉を並べる。
「そんな事より!王国の戦力は予想以上ですよ!ハイドラの一体はあっさり倒されたし、もう一体も時間の問題でしょう。
機は今しか・・・!」
「わかったわかった、準備は任せる。ところで、儂の見立てぢゃと・・・」
言葉を選んでいたつもりだが、シバに遮られて全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
もしや修羅双樹八世御門を開くリッツの事に気付いていたのではないか、と。
拭ってはおいたが、血の匂いが零れればなんらかを察するかもしれない・・・鼓動が早くなる。

「この童、儂等の知らぬ術を使うという事を差し置いてもいい拾い物かも知れんぞ?」
盛大にこけるセンカ。
絶対に考えもなく興味本位で拾ってきたと判っているからだ。
もう勝手にしろと言わんばかりに無言でその場から姿を消した。安堵に胸をなでおろしながら。

##############################################

眼を開けると、目の前に蝋燭が小さな炎を揺らしていた。
ここはどこだろう?
辺りを見回すと、突然コボルドの顔が映り驚きの余り息を呑む。
確かに寝起きにいきなりコボルドの顔は驚くに値するけど、驚いたのはそんなことじゃない。
私の義眼は映像だけでなく、オーラや熱源、気流まで見ることができる。
目の前のコボルドには映像と熱源以外何もない。
生きていれば必ず出るオーラがないのに驚いた。
世間ではこの技術を「気配を断つ」と言うらしいけど、私はそんなこと知りもしなかったから。

「おや、、気付いたかい?」
老コボルドは部屋の各所の蝋燭に火をつけながら声をかけてくれた。
声は柔らかだけど、オーラが見えないので感情が読めない。表情も人間と違うのでわかりもしない。
圧倒的に情報が足りない。
わかっていることは、いつの間にか義足を取られ、気絶してここに連れてこられた、というだけ。
とにかく太極天球儀を展開させて陣を張る。
私を中心にした直径2Mの力場が360度展開される。これでどんなスピードだろうと手が出せないはず。

展開した陣の力場に支えられ宙に浮きながら辺りを見回すと、部屋は小さなものだった。
今いる部屋の一番奥のベッド、入り口は老コボルドの後ろ。窓は一つもない。気流の流れがなさ過ぎる。もしかしたら
ここは地下かもしれない。
過呼吸に陥りそうになりながら辺りを見回して分析。
「そう怯えないでおくれよ、お嬢さんや。とって食うつもりなら傷の手当てなんぞしやせんて。
狭い部屋じゃし、それは畳んでくれんかのぅ。」
しわがれた声と私でもわかるくらいの大げさな笑みで両手を挙げている・・・。
敵意はないということなのか?
言われて気付いたけど、右腕には包帯が巻かれていて、義足も元通りになっている。
「あ、あ、ありがとう、ごごごござい、ましす。あ、あの・・・あなたは・・?」
自分の状態に驚いて反射的にお礼を言いながら陣を解除。
ベッドに座ると老コボルドは温かいお茶の入ったカップを渡してくれた。
「外は寒かったじゃろう?まあ落ち着いてこれを飲みなされ。」
渡されたカップを手に持って老コボルドの顔を伺うが何もわからない。
ただ揺らめく炎とコチコチと規則正しくなる時計の秒針。そしてお茶の良い匂いに満たされる暖かな室内。
敵意はないようだし、傷の手当てもしてくれた。
言われるままにお茶を飲むと体の芯から温まるように美味しかった。
18アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/11/22(水) 22:01:28
「わしはここらを塒にする爺いでの、空に女や蛇が出て驚いて出てきたら、ふらふらなお嬢さんを見つけて運んできたん
じゃよ。今戦争中で物騒ぢゃからのぅ。」
・・・なんだろう、何かが違うような気がするけど・・・頭に霧はかかっている様にはっきりしない・・・
「ぼぼぼ僕は、あの、おっ男・・・です。」
「ほほほ、わしらコボルドは鼻が利くでの。まあ、男としておこうか。」
もっと違うことを言わなきゃいけないのに、口走ったのはお嬢さん、という言葉に対する反論だった。
でもそれがあっさりと認められ、何か毒気が抜かれてしまうような・・・
結局のらりくらりとこちらの質問には殆ど答えない老コボルドに、私は黄動聖星術の最後の継承者であること。
黄道聖星術はこの星を含む星界の秘密を解き明かし、その力を利用する術であること。
遺伝子情報による知識継承をしていること。太極天球儀・日輪天球儀・月輪点球儀は1000前から受け継がれていること。
そしてロイトンでのソーニャさんとの出会い、行動を共にする経緯まで話してしまっていた。
かいつまんだ概要だけとはいえ、話す必要のない事まで・・・。
注意深くしていたつもりでも所詮は殆ど人と接していない私。海千山千の隠衆頭目であるシバにかかれば誘導尋問によって
全てを引き出すことなど簡単だったのだろう。
それに狭い部屋、揺らめく炎、規則正しい時計の音、薬湯、充満する香。全てが用意された装置だったのだ。
知らず知らずのうちに私の警戒心や判断能力は鈍くなっていく。

「あ、あれ?僕・・・なんでこんなに話しちゃったんだろう・・・。」
「年寄りだと話しやすいじゃろ。爺いも素直な話し相手で嬉しいわい。」
「え?」
「ほれ、おぬしのどもりも随分と治ってきたの。」
「あ、ほんとだ・・・。おじいさんが治してくれた、の?」
「年寄りの知恵袋じゃて。
さて、その見返りといってはなんじゃが、一つ占いをしてくれないかの。この土地の戦争の行く末を。」
「はい、わかりました。」
すっかり打ち解けた私は縦目仮面を被り太極天球儀に手をかざす。
「・・・危険・・世界を喰らい力とする獣・・・蠢く憎悪・・・巨星が集う・・・陰謀・・・」
ふと顔を上げると目の前の老コボルドの目が驚くほど鋭くなっていた。
「あの、これは・・・さっき我が青蛇琴に食べさせた鋼の蛇、ですけど、アレは蛇退治じゃなくて、本当は蛇を倒させない為に
なんです。
鋼の蛇を毟り食らう恐ろしい力の持ち主がいたから。蛇の爆発、だけじゃなく、世界を喰らい尽くしちゃいそうだったから・・・。」
一転した鋭い目つきに緊張しながら伝えると、老コボルドはしばらく考え込んでしまう。
「ふむ・・・嬢ちゃんや、素直だったご褒美にいいものを見せてやろう。おいで。」
数秒の重い沈黙の後、外へといざなう老コボルド。
ルフォンに近づいてからは暖気の術をかけておいたので寒さに震えることはないけど、雪が積もっているのを見ると視覚的に
寒さを覚える。

「おわ、誰?」
縦目仮面を被っている私の出現に驚いたような声を出すのは、外に立っていたコボルド。
声からすると若そうだけど、獣人の年齢ってわかりにくい。この人も同じようにオーラがない。
コボルドはみんなこうなんだろうか?
だけど私は更に驚くべき事に気付いた。
この雪の積もる中、二人には足跡がついていない。重力制御で殆ど浮いている私でも僅かならがらに足跡が残るのに・・・
「のう、エンラ。ぬしは何か儂に言わなければならぬ事はないか?」
老コボルドにそう囁かれ、汗をだらだらと流すその姿を私は不思議そうに見ていた。
だから、すぐ脇に大穴があって、その底に巨大なグレナデアが鎮座していることに気付くのにもう暫くかかってしまったのだ。
19名無しになりきれ:2006/11/22(水) 23:27:26
後ろは行き止まり、上にも下にも逃げ場なし、そして真正面には……
『爪を剥がした後、塩水をかけます。』
いつか見たような、なんだかとてもサディスティックな感じのゴラムが一体。
この状況、仲間もいないし。すでに僕の心は腰砕け状態で恐怖から足がプルプル震える。
だけどそんなこと向こうは待っててくれない、どうしようと考える間もなく相手の拳は僕に向かって伸びてくる。

――無意識だった。

拳が僕に届くまでの刹那、腕は勝手にホルスターからただ一つの戦う手段≠手にとっていた。
火を吹き発射される何発もの光弾がゴラムの腕に突き刺さっていき衝撃で拳が僕から逸れ後ろの壁を突き破る。
壁に突き刺さりぬけなくなった腕、今が好機だ、僕はゴラムの中心部に銃を向ける。

「本当にすまないっ!」

銃を持つ腕が光っていき、銃がバチバチと音を立てながら震える、
僕の持っている銃《ローヴェスタン》は使う生命力によって威力が変わる。
生命力を入れれば入れるほど、それに応じて力を増す。

このまま破壊しようとトリガーに力を入れたとき、すぐ横にあるゴラムの腕に刻まれている数字を見て僕は気付いた。
「そうか……君だったのか、久しぶり……」
なんとなしに分かっていた、あのちょっと変な感じ、知っていたんだ僕は彼を。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

すでに腕から送られたエネルギーに銃は暴発しそうな勢いだ。
このまま撃つしかない、それに、撃つのを止めたところで、彼の中のメモリーはすでにどうしようもなく劣化していて。
現在もはや命令を読み取る部分しか残されていないんだ、どちらにしよ攻撃を止めるなんてありえない。

「許してくれとは言わない、むしろ……恨んでくれ、お願いだよ。」
銃口から眩いばかりの光りが溢れ一瞬全てが真白の世界になる。
そして、ゴラムの胴体は跡形もなく吹き飛んでいた……静かに、だけど、確かに僕の頬を伝っていく涙、
僕が造られた人形でも泣けるのは、皮肉にもこの手で殺してしまった大切な友達が居たからなんだ。

   『なあ、いつもいつも命令命令、仕事仕事だと疲れちゃうだろ?』
   『……私に肉体的疲労はありません。』
   『いや、だからさ、精神的に嫌になっちゃうじゃん、どう?仕事なんて抜け出して釣りにでも行かない?』
   『命令違反……命令違反は爪を剥がして塩水の刑です。』
   『ひぃぃぃい!怖いこと言わないで行こうよ釣りぃ〜』

思い出すのは、あの懐かしい陽だまりの日々……

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

今、彼の亡骸を前に、自分はどんな顔をして立っているんだろうか、
どんな顔をして立っていればいいんだろうか?君は、こんな僕になんと言うんだろうか?
黙って、怒りもしないでただ悲しそうにピアノを弾くのだろうか?
「教えてくれ……お願いだ、僕は、身内に銃を向けるためにここまで来たっていうのか!?」

―『それは違うよハイアット』―

帰ってくるわけないと思っていた答えが帰ってきた。
僕は後ろを振り返る、目の前には僕に似ているような雰囲気の青年が一人立っていた。
「……おかえり」
そういい笑う彼の存在が信じられなくって、けど確かに彼は居て……
「…………た、ただいま」
20アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/23(木) 00:00:17
交代しながらとはいえ、不慣れな土地での馬車の運転は難しいもので御座います。
結局、集落には朝方に着く事となりました。

そう言えば今日はまだラーナ様へのお祈りを済ませておりませんでした。私とまだ数名のシスター達は馬車を降り、
見張り番にシスター・キリアを残して朝日に向かって数度礼拝を行いました。

その時で御座いました。集落の方から二つの人影が向かって来たので御座います。
「ちょっとすみません」
親子にしては少し違うような、姉妹でございましょうか、その方々は私共に行方不明のお知り合いを見てないかと
お尋ねになられました。
「申し訳御座いません ちょっと見かけておりません」
私は素直にお答えさせて頂き、他の方々も同様にご存知ありませんでした。

その時で御座います。
「み、見たぞ!!知ってる!!だから助けてくれ!!」
馬車の荷台から声がしたので御座います。それは奴隷商の頭で御座いました。猿ぐつわの縛りが甘かったのでしょうか?
「た、助けてくれ!!そいつは人間じゃない!!」
「お待ち下さい、少々、お話を聞いては頂け・・・・・・・」
運命と言うものはかくにもいたずらに出来ているのかも知れません。言葉が終わらぬ内に突風で私のフードが取り払われ
素顔を曝け出す事となったので御座います。

「スライム!!」
「大変だよぅ!!助けなきゃ!!」
運命とはやはりいたずらに出来ているので御座いましょう、どうすれば、理解頂けるか、
この時の私には術が御座いませんでした。



21パルス ◆iK.u15.ezs :2006/11/23(木) 01:17:36
集落のすぐ近くまで走ってきたとき、毎度おなじみの四人組が行く手をさえぎる!
というよりきっと本人達はさえぎっているつもりだ。
「一人で出歩くとはいい度胸だな……」
「もう貴様だけは許さん!!」
「今日こそぶっ殺―す…いや、もはや殺すのも生易しい!!」
「我らが受けた屈辱……100倍にして思い知らせてやる!!」
無駄に迫力のあるオーラを出しながら4方向から迫ってくるという
凝ったお出迎えをしてくれたところ悪いが、急いでいるので無視して走りぬける。
「待て!どうやって縄から抜けたか知りたくないか?」
無視すればいいのについ振り向いてしまった。
「知りたーーい!!」
「我らの日頃の行いがいいので貴様のお友達の変なコート着た兄ちゃんが
『放置プレイか、なんてひどい事をするんだ!』とか言ってほどいてくれたのだ!」
それはハイアットくんじゃん!!優しすぎて泣けてくるよ……!!思わず呆然としてしまったのだった。
「「「「スキありっ!!」」」」
襲い掛かってきた瞬間、地面を蹴って跳び、近くの木の枝の上に乗る。
すると4人はさっきまで僕がいた場所でごんっと派手な音をたてて頭をお互いにぶつけた!
「残念だけど僕はハイアットくんみたいに優しくないッ!」
というわけで新技!!【エレキックバウンド】発動!! 睡眠学習した技なので
出来るわけないがダメでもともと。実験台になってもらおう!が、予想は大きく外れた。
初めてのはずなのに、何度も弾いたことがあるみたいに指が勝手に動いて……
あれよあれよという間に少しばかり刺激的な旋律が組み上げられ、空中に紫電が弾け、
電撃の網が四人組を縛り上げる!!
「「「「ぐあああああああ!!!」」」」
なんと、骨まで透ける勢いで感電している!自分でもびっくりだ。
ここまで睡眠学習って効果があるとは思わなかったのでやりすぎてしまった。
「ご、ごめん!!」
伸びきってぴくぴく痙攣している4人組を放置して、集落へ急ぐ。
ハイアットくんはきっと虫も殺さないような人だから一人にしてると確実に死ぬ!!
4人組には悪いけど一刻の猶予も無いのだ!
22ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/11/23(木) 21:36:05
こんな朝早くから馬車が来るなんて、珍しいよぅ。もしかしてハッちゃんを見掛けたかも!
レベッカ姉ちゃんも同じ事考えてるよ、互いに頷き合って馬車に駆け寄ったんだお。

「全く大変な目に遭いましたね。ググさんの故郷ですから、一先ずは安心でしょう。」
そう言って馬車から降りて来たキレイなお姉さんが、うんと伸びをして独り言。
何かあったのかな?・・・まさかハッちゃんが『えっちな事』を!?
あのお姉さん、すごく美人だもん!ありえるよぅ!

   *********************************************

ハッちゃんは無実だったけど・・・結局は振り出しに戻っちゃったよぉ。しゅんとしてたその時!
「み、見たぞ!!知ってる!!だから助けてくれ!!」
馬車の荷台から声がしたんだよ。見ると縛られてぐるぐる巻きのおじちゃんだよ。
「た、助けてくれ!!そいつは人間じゃない!!」
「お待ち下さい、少々、お話を聞いては頂け・・・・・!?」
フードのお姉さんが言い終わらない内に、強い風でフードがめくれたんだよ。
その下にあった素顔・・・・。透明な彫刻!?
「レベッカ姉ちゃん!この人スライムだよッ!!人型に擬態してるッ!!」
即座に包丁・・・箱は今持ってないよぅ!!スライムは人喰いのモンスターなのに!!
包丁が無いとラヴィは唯のホビットじゃん!!
「待って下さい!アクアは決して人に危害を加えるような者ではありません!」
キレイなお姉さんが慌ててラヴィ達の間に割って入ってきたよ。その表情は真剣そのもの。
すぐには信じられないけど・・・でも、こう言われちゃったらラヴィは手は出せないし・・・・。
「実は私達は・・・」
キレイなお姉さんは、ここに来るまでに起きた出来事の一部始終をみんなに話してくれたよ。

   ***************かくかくじかじか****************

「成る程、そのハイアットさんを捜していたのですか。」
スライムのアクアお姉さんが感慨深そうに頷く。
ハッちゃんはラヴィ達にとって仲間だし、遺跡案内人が居なくなったら困るよぅ。
それに、何とかコマンダーだしね。
「それにしても、パルは何処まで捜しに行ったんだろうねぇ・・・・。」
23ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/11/23(木) 21:37:16
レベッカ姉ちゃんが心配そうな顔をした時、族長さん家の戸をババーンと開けてパルちゃんが入って来たよ!
「大変大変大変だーッ!!ハイアットくんが・・・ハイアットくんが遺跡に!!!」
ぜえぜえ息を切らしてる。多分ここまで全力で走り続けたんだね、パルちゃんすごいかも。
「あの馬鹿が遺跡にどうしたの?まさか入ってったとか!?アハハ、ありえないわよ。」
レベッカ姉ちゃんも事態がよく分かってないみたい。ちんぷんかんぷんな感じ。
「ハッちゃん一人で遺跡に入るなんて無茶だよぅ。途中までに強いモンスターがいっぱいいるよ?」
「でも足跡を追ってたら遺跡に辿り着けたんだよ!?つまり遺跡にいるって事でしょ!?」
「「えっ!!」」
レベッカ姉ちゃんとラヴィの声が見事にハモったよ。確かにそれはハッちゃんが危ないよ!
「きっとハイアットくんは自分の・・・!いやなんでもないや・・・・。」
何かを言いかけてパルちゃんは『しまった』って風な顔をした。何か隠し事してる?
「ちょっとパル、あんた何か知ってるの?この際隠し事は無しだよ!?」
レベッカ姉ちゃんが問い詰めると、パルちゃんは観念して話始めたよ。信じられないような話を!

   ***************かくかくじかじか****************

「分かりました。つまりパルスさんは恋人であるハイアットさんを助けるために遺跡へ向かうのですね。」
「「「・・・え?」」」
アクアお姉さんの一言に、三人の声が綺麗なハーモニーを奏でたよぅ!!
「ちょ!僕はそんなんじゃ・・・」
「皆まで言う事はありません。エルフとホムンクルス、結ばれぬ恋に胸を焦がす貴女の想い・・・感動です。」
「いや、だからね・・・」
「良いのです!何も恥じる事ではないのです。愛の形は無限に存在するものですから。」
「あ・・・あの・・・」
「この私、まだ未熟ではありますが・・・是非とも貴女の恋にお力添え致します!」
「あぅ・・・」
すごい迫力だったよ、あのパルちゃんが一方的に押されっぱなしなんてッ!!
ラヴィはまだ付き合いが浅いからアレだけど、レベッカ姉ちゃんは口をポカーンと開けっ放しだしぃ・・・・。
お、恐るべきラーナ様の恋愛自由主義!!
唯一ホッとしたのは、ラヴィじゃなくて良かったって事かなぁ♪
24ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/11/23(木) 21:38:24
隅っこで小さくなってるパルちゃんを、なるべく見ない方向で、遺跡探索の準備に取り掛かったよ。
でも突然アクアお姉さんが『あっ!でも私はハイフォードに向かう予定が・・・・。』って困ったり。
その時のパルちゃんもすごかったお。

『そうだよ!そのリザードマンさんの結婚式しなきゃ!遺跡は僕達だけで行くよ!』って猛反撃開始!!
でも・・・シスター・キリア様がやってきて、
『あら、結婚式ならこの村で行いますよ?ググさんの故郷ですし。安心して行ってきなさい。』
のありがたい言葉でパルちゃんに瞬殺カウンターが決まってみたり・・・・。
で、今また小さく丸まってる訳で。気の毒だと思ったけど、よく考えたら結構お似合いだよぅ。

ラヴィは恋愛とか興味無いから、パルちゃんの事が少しうらやましいのかも。
いつかラヴィにもカッコイイ王子様が現れるのかなぁ。知り合いに本物の王子様がいるけどぉ・・・・。
大の仲良しって意味で『好き』だけど、恋愛って意味で『好き』じゃないしねぇ〜♪

そういえばチィちゃん、今元気にしてるかなぁ・・・・。
25ST ◆9.MISTRAL. :2006/11/24(金) 23:25:56
「うぅおおおおおっ!!出せ!出ぁせやぁゴルァァァアアアッ!!!!」
これで何度目の爆発であろうか。ジョージは深い溜息と共に、扉の向こうで暴れる主に頭を抱える。
侵略派がによるパルモンテ家襲撃から、早1週間が過ぎた。
ジョージとメリーの2人は、現当主であるイアルコを護る為、ジョージの実家に身を潜めているのだ。
だが、生まれ育った環境の差からか、イアルコは生活ブロックの雑多な空気が気に召さないらしい。
「余をこのような豚小屋に監禁しおって糞執事が!!出さんかこのバカチンッ!!!」
「豚小屋ですと!?せめて納屋でしょうが!!……ゴホン、それはなりませぬぞ若様」
生家を豚小屋呼ばわりされ、一瞬カッとなったがどうにか堪え、ジョージはイアルコに言い聞かせる。
「若様の身を案じ、我々は侵略派の手が届かぬここへ避難しているのですぞ?どうかご理解下され」
「理解できるかボケェ!!かれこれ1週間は外に出ておらぬのだぞ!?もう辛抱ならぬ!!」
このようなやり取りが、ここ1週間の間ずっと飽きもせずに繰り返されているのである。

「…困ったものですな。若様が生きている限り、侵略派にとっては都合が悪いから
 執拗な襲撃を仕掛けるのでしょうが…正直これ以上襲撃が続けば若様を守るのも困難…」
ジョージが唸るのに対し、メイドのメリーは顔色一つ変えず呑気に紅茶を飲んでいる。
そんなメリーを見てジョージは羨む。自分には彼女のような余裕が無いと。
パルモンテ家の執事として180年勤め上げてきたが、未だに自らの無力さに苛まれ続けている。
代々平和的な立場を貫いてきたパルモンテ家は、昔から他の貴族から風当たりが強かった。
龍人の社会は実にシンプルだ。『力を持つ者が上に立つ』ただそれだけなのである。
勿論社会を構成する上で最低限の決まりや政は存在してはいるが、根底に流れるのは力の掟なのだ。

そういう意味では公王ギュンターは武力とカリスマを兼ね備えた希代の指導者であった。
セレスティア崩御以降、個人主義が浸透した龍人に於いて、国家の概念を再び成立させたのだから。
龍人戦争時代の王、アーダの右腕として優れた政治手腕を発揮し、自身も戦線を駆けた英雄。
ギュンターは成るべくして王と成った。それが今の貴族達の共通認識であった。

あの日、暗殺未遂事件が起こるまでは…
26ST ◆9.MISTRAL. :2006/11/24(金) 23:28:10
公王暗殺未遂事件は、12貴族を始めとする全ての龍人達に絶大な衝撃を与えた。
揺るがぬ絶対の柱が揺らいだのだ。
この事実はガナンの政治形態そのものを、根本から瓦解させるおそれがあると言える。
それだけに穏健派の家系は焦った。当然だ。時期が時期である。
王国との激突は避けられない上に、無敵を誇った第7機鋼大隊の中央戦線敗退…
戦争推進の動きはどうあがこうが変えられない。ならば身の振りは慎重にならざるを得なくなる。
そんな中で王国との停戦を独断で進めようとしたパパルコ=パルモンテは絶好の標的となった。
侵略派ではなく、同じ穏健派からである。
既に12貴族には穏健派と呼べる派閥など存在しないのだ。
我が身可愛さに、志を同じくした友を侵略派に売り飛ばしだのだ。
結果パルモンテ家当主パパルコは、侵略派の一角アイゼンボルグ家の謀略に嵌まり、謀殺された。

侵略派御三家のレーゼンバッハ家、アイゼンボルグ家、パルプザル家を中心に攻撃的思想の
 一大勢力が動き出し、公国は現在公王不在の中で完全なる侵略型軍事国家へと変貌したのである。


「くぉらあああ出さんかーッ!!余は…余は限界突破しそうなのじゃあああ!!!!」
またまたイアルコの叫びが建物を揺らす。やれやれといった表情でジョージはドアの向こうに言い返す。
「耐え忍ぶ心!それが忍耐の精神なのですぞ!若様、どうか耐えるのです!!」
「アホか!何が忍耐じゃ!!もう勘弁ならん!!1週間貯めに貯めたモノを産み落としてやるわい!!!」
イアルコの言葉にジョージが顔面蒼白になった。生まれるのだ、ウ〇コという名の破壊神が!!
当然ジョージは阻止しなければならない。思い出が詰まった実家を、守らなければ!!

「若様ッ!早まってはなりませぬ!!!」
「フゥーハハハハハーッ!!ならば早くドアを開けんか!余は既に準備万全じゃい!!」
言われるがままにドアの鍵を外して開けた途端、強烈な突風がジョージを吹き飛ばす。
騙されたとジョージが気付いた時には、もうなにもかも手遅れだった。電光石火の逃げ足。
リビングを駆け抜け、玄関まで一直線。イアルコの脱出計画は成功した…かに見えた。
玄関の前に立つメリーが、最高速度に達したイアルコの顔面へ神速の正拳突きをカウンター気味に叩き込むまでであったが。
27ST ◆9.MISTRAL. :2006/11/24(金) 23:29:12
パリーン!と、小気味よい音と共にガラスの雨が薄汚い路地裏に降り注ぐ。
そして数瞬の遅れでグシャリと鈍い音。
メリーのカウンターはイアルコの体を易々と弾き飛ばし、窓を突き破って家の外まで送り出した。
「ブ…ブハッ!?はぁ…はぁ…さ、作戦成功じゃ!余は自由を勝ち取ったのじゃーッ!!!!」
そうは言うが陥没した顔面に、落下に伴う打撲、撒かれたガラス片による裂傷…
血まみれの重傷だ。とても自由を勝ち取った者の姿とは言い難い。今にも倒れ込みそうである。
「しまった!若様ッ!そこを動いてはなりませんぞ!!私が行くまでじっとしてて下さいませーッ!」
窓から上半身を乗り出して必死に哀願するジョージ。
あっかんべーしながら邪悪な笑みのイアルコ。
そんなイアルコのすぐ真後ろに忍び寄った暗殺者。

「や、やっぱり動きまくって構いませぬぞーッ!!」
「どっちなのじゃ!?ボケ執事!!はっきりせん…んがっ!?」
イアルコがジョージに向けて振り上げた拳が、暗殺者の振り下ろしたナイフを持つ手を打ち払う!
奇跡としか言いようの無い出来事に、ジョージとイアルコ、そして暗殺者の3人が呆然となった。
「な、何じゃお前はッ!?……ははぁん、さては余の屋敷をブチ壊した狼藉者の一味か!!」
驚きの表情はすぐさま怒りの形相に変わり、イアルコは暗殺者を睨みつける。
1週間分のストレスも手伝ったか、凄まじい力が沸き上がり、イアルコの龍鱗が強い輝きを放った。
「ちょうど良いわ、運動不足で困っておったのじゃ…ぶ っ 殺 す!!!!!」

腐っても12貴族の家系に名を連ねる者、その内に秘めたる力の強大さは計り知れない。
完全に解放された力を渦巻かせて、イアルコは凄惨な笑みを浮かべる。
今ここに、後の世をひっくり返す“小さき覇王”の伝説が幕を開けた……
28イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/11/25(土) 03:20:57
さあ、吹っ飛べとばかりに息を吸い込んだ途端にメリーの横槍、瞬き三連打で舞い上がる暗殺者達。
まあ、余裕でした。
「若! お怪我はありませんか!?」
「うむ、もう治ったわ!」
胸を張って言いながら、ジョージ宅に駆け戻るイアルコ。

「若、一体どちらへ!?」「厠じゃ!」「ああ……」「メリー! 余が戻るまでにその命知らずどもをゲロさせおけい!」

五分後、イアルコがすっきりした顔をロビーに出す。
ます目に映ったのは無表情でゴム手袋を脱ぐメリー、続いてソファーの陰で震えるジョージ、そして最後に何か人間の尊厳が失われたような面持ちで転がされている暗殺者三人組であった。
「で、やはりミュラーの手の者であったのかの?」
「その通りで御座います」
異様な光景を気にした風もなく尋ねるイアルコ、頷くメリー。
この二人の共通点は、とにかく結果至上主義ということであった。過程など終えた直後に脳内宇宙の遥か彼方なのである。
「それだけではありませぬぞ若っ! なんとあろうことか! ミュラー閣下は若にあらぬ罪を着せ、懸賞金まで掛けてきたのです!!」
「あらぬ罪ぃ〜〜?」
渋い顔をするイアルコに、ジョージは一枚の紙切れを差し出した。
「なになに……この者、公王陛下暗殺の実行犯ディオール=ライヒハウゼンの片棒を担ぎし反逆者である? 忠実なる公国臣民は見かけ次第最寄りの警備隊詰め所に……」
「いくらなんでも反逆者の烙印などとは、あんまりでは御座いませぬか!! 龍人貴族としての誇りある死の尊厳すら奪うとは、真にあんまりで御座います!」
「落ち着け爺、奴の打った手は正しい。余でも同じことをしたじゃろう」
「しかし、若――」
「しかし、主犯がディオールの馬鹿タレとは心外じゃのう。まあ、ミュラーにとっての優先順位からいってそうなるか」
「若! こんな事態になってまで何を呑気な!!」
憤慨するジョージを無視して、イアルコはメリーに言った。

「どうじゃメリー? 総督府のミュラーの首を獲れるか? もちろん、一対一で誰の邪魔も入らぬ場合での話じゃが」
「3ラウンドいただければ」
この素っ気ない答えに腕を組む。
メリーがいい加減な事を言うはずはないし、一度見た相手の戦力査定を間違うはずもない。可能と言うなら、それはその通りなのだろう。
ここから逆転を狙うには大将首を獲るのが一番。
だが、どうしてもイアルコは踏み切れなかった。一つの不安材料のせいである。
「ブレスは? ミュラーのブレスは想定の内かの?」
「いえ、しかし赤鱗属のそれであれば、ある程度の予想と対策はできて御座います」
「ふむ……よそう。甚だ面倒じゃが、地道に再起とやらを図ってみようかの」

意は決したとばかりに家宝のブーツの踵を鳴らし、イアルコは悠然と玄関へ足を向けた。
「若、何処へ!? 外は危のう御座いますぞ!!」
「アホ。狭いガナン、そんなに急いでどこ行くの? ってなもんでどこに居っても危険じゃわい。ならば、火中の栗を拾ってやるまでのことよ」
「はあ……つまり、どうなさるおつもりで?」
黙って上を指差すイアルコ。首を傾げるジョージ。

「……はて、二階に何が?」「阿呆! 上じゃ! 上に戻るんじゃ! レーゼンバッハの屋敷に潜り込むぞ!!」「えー!?」
「然る後にガナンを脱出じゃ! 事は急を要する! かけあーーっし!!」「然る後とはあああっ!!?」「そこはそれ、まあおいおいとなあ〜〜!」

こうして三人は、再びガナン中枢の闇の中へと踏み出したのである。
29アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/26(日) 23:48:25
突風であらわになった私の素顔にお二方が戦闘態勢をお取りになられました。
「レベッカ姉ちゃん!この人スライムだよッ!!人型に擬態してるッ!!」
小さいお嬢様が私を威嚇しながら何かを取り出そうと致しました。
「スライムってたしか、人を・・・」
人を食べると申したいのでございましょうか、生まれてこのかた、水と木の実しか口にした事が御座いません。
どしたものかと考えておりますと、私たちの間にシスター・キリアが割ってお入りになられました。

シスター・キリアの必死の説得どうにか誤解は解けましたし、原因となった奴隷商達も屈強なリザードマンの戦士に
囲まれては何も出来ないでしょう。誤解も解けた所で私どもは簡単な自己紹介などを済まし、ラヴィさんたちのお話を
落ち着いて聞く事となったので御座います。

一通り、説明を聞かせて頂き、ハイアットさんと言う方とそのハイアットさんと仲の良いパルスさんと言う方が朝から行方が
わからないと言う事でございました。
ひとしきり話し終えた頃、扉を破らん勢いで、触覚を生やしたエルフの女性の方が飛び込んで参りました。
先ほどの話しの内容から察するにこの方がパルスさんなのでしょう。
「どこいってたのよ心配したでしょうが!!」
とレベッカさんにヘッドロックを極められてますし。
パルスさんのあの慌てよう、そして、先ほどのお話し、どうも、只の仲間がいなくなったとは違う様な・・・・・・
その時でございます、ラーナ様より愛のお告げを頂きましたのは、

『そうか!!パルスさんとハイアットさんは恋仲なのですね!!』

あの慌てよう間違い御座いません。と、なると、私も愛の女神に仕える物、取るべき行動は只1つ。
「わかりました。つまりパルスさんは恋人であるハイアットさんを助けるために遺跡へ向かうのですね。」
何か三人が驚かれてますが、いきなり私が喋ったからでしょう。
「皆まで言う事はありません。エルフとホムンクルス、結ばれぬ恋に胸を焦がす貴方の想い・・・感動です。」
「いや、だからね・・・」
愛の話しになると急に恥ずかしくなる方は大勢いらっしゃいます しかし愛は恥ずべきものではありません
「良いのです!何も恥じる事ではないのです。愛の形は無限に存在するものですから。」
しかし、見たところ多分そのハイアットさんと言う方が冒険の前衛を担っていたのでしょうか、
戦士と呼べそうな方がいらっしゃいません。これは、怪物と遭遇した時、危険なのでは?なれば
「この私、まだ未熟ではありますが・・・是非とも貴方の恋にお力添え致します!」

その時私はすっかりとある事を忘れていたので御座います。

30アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/11/26(日) 23:49:17
その事を思い出したのは遺跡への探索準備をしていた最中で御座いました。
「あっ!でも私はハイフォードに向かう予定が・・・」
そうでした私共は今まで生活していた修道院が崩壊したため、ハイフォードのラーナ寺院に向かう途中だったのです。
すっかり忘れておりました。どうするか思案しているとパルスさんに一生懸命にハイフォードに行く事をお奨めされました。
パルスさんの優しさに改めてこの恋はお手伝いせねばと思ったいた所、シスター・キリアがいらっしゃいまして
「あら、結婚式ならこの村で行いますよ?ググさんの故郷ですし。安心して行ってきなさい。」
と、ありがたい言葉を頂きました。

「あ、そうそうシスター・アクア、キャメロンさんは信用出来そうな方なので今回の報酬の代わりに私共をハイフォードまで
 お連れ頂くと言う事になりましたので、頑張って下さいね。」

さすがシスター・キリアです、伊達に修道院の会計役をしてる訳では無いのですね。
「そうそう皆様、アクアですが、神に仕える身ですが、スリダブ流格闘術を身につけておりますので戦闘には困らないでしょう。
 ただ、彼女が魔に連なる物より生まれた為、奇跡をおこす事が彼女には出来ませんので、神官としてではなく戦士として
 お連れ下さい。」

さて、準備も出来ましたし、私共は遺跡に出発したのでございます。
その道すがら私はある事を考えておりました。それは、修道院の再興の費用を稼ぐ為何か出来る事は無いかと言う事で御座います。
31パルス ◆iK.u15.ezs :2006/11/27(月) 10:30:39
「そうか、そういうことか!妙に仲がいいと思ったよ、がんばって助けて来い!」
こうして、二重に勘違いしたキャメロンさんのもはや全てがどうでも良くなったような
笑みに見送られつつ遺跡に出発したのです。なんてことだ!!

「てやーー!!」
途中で出てくる小さいモンスターを元気に食料化しているラヴィちゃんとは対照的に、僕は沈んでいた。
「いい加減気を取り直して!いいじゃない、勝手に言わせとけば」
「はぁ……」
今日何度目かのため息をつくと、レベッカちゃんが僕の顔を覗き込んできた。
「それとも、もしかして図星〜?」
ニヤニヤ笑いながら性質の悪い冗談を言ってくる!
「何が!?ただのバナナメイトだし両方ボケのコントだし恋人じゃなくて変人だし!」
もちろん全力で否定する! それに気が晴れない理由がもう一つあるのだ。
「ラーナは苦手なんだよなぁ……だって……」
そうなのだ!あんな過去が知れたりしたら……よく都市伝説にある、神殿の裏にあって
一週間も入っていれば敬虔な信者になって出てくる部屋に10年ほど入れられてしまう!
「なるほどね、まあ……がんばれ。ところでなんでアイツがホムなんとかだって思ったの?」
「出発の前の日に、都市の快適な環境を保つ仕事してたとかって言ってたんだ。
その時は街の清掃員でもしてたのかと思ったけど……、龍人にしては体格が小さいんだよね、ブレスも持ってなさそうだし……」
「都市管理用のホムンクルスで、自分の役目はどこかで覚えていてあの遺跡に
引き寄せられたってわけか……。確かにつじつまは合うけどねえ……
アタシはちょっと信じられないよ。そもそも過去から来たって時点で有り得ない!」
僕も信じられない。そうだとしたらあんなに人間っぽいはずはないのだ。
人につくられたものはどんなに人に似せたって、心持たぬ人形でしかないのだから……。
が、アクアさんはすっかり信じてしまったようだ。スライムだけあって素晴らしい適応能力である。

「すごーい!着いたお!!」
ラヴィちゃんが遺跡の門に駆け寄る。
「パルの足跡追跡のおかげね」
「まさしく愛の力!」
アクアさん、それは絶対違うし!!それに……
「僕はまだ……誰かを好きになっていいほど強くない……」
誰にも聞こえないような声で、呟いた。
「何してるの?置いていくよ!」
「う、うん!!」
レベッカちゃんに呼ばれ、急いでみんなを追いかける。
やりにくいことこの上ないが、人手が増えてよかったと思うことにした……。
32ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/11/27(月) 20:29:36
デケェ図体の割には動きが速い、最悪だな。間合いをとろうにもさっぱり融通が利かねぇ。
「おいロシェ!挟むぞ!!チョロチョロやられちゃ埒があかねぇ!!」
俺の指示通りロシェが側面に素早く回り込む。残る蛇の首は10本、俺達は2人。
ハナッから話になりゃしないが、1つだけ手があった。かなり分の悪い賭けになるがな。
「ジーコさん、駄目ですよ!!数が違い過ぎますって!!」
ひらひらりと蛇の猛攻を躱しながら、ロシェの野郎は情けねぇ悲鳴を上げてやがる。
「最低6本は引き付けろ!!分かったか!!!」
「えぇ!?む、無茶苦茶だぁっ!!」

3ヵ月前からだ。俺の愛用のハンマーに信じられねぇような異変が起きたのは。
『オンスロート』と銘打たれた特注のバトルハンマー。もう20年近く使い続けている。
常に戦場でぶん回してきた相棒を、俺は何よりも信頼している。何よりもだ。
だからこそ、俺はその異変にすぐ気付いた。
インパクトの瞬間、自分が感じる手応え以上の破壊力を発揮する事に。
最初は気のせいだと思った。だがある日ゴレムの残骸で試した時、それは確信に変わった。
それからは様々な実験を試してみた。もちろん『異変』の正体を探るためだ。
結果として分かった事は1つ。
【このハンマーは攻撃時の衝撃を蓄積し、それが一定量を越えると次の攻撃で解放される】
不便なのは貯まってる量が目に見えねぇから、だいたいの勘に任せるしかないって事だ。
だがそれも今じゃあずいぶんと慣れたもんだ。後1発ブチ込めば、ってのが分かってきた。
貯まった衝撃は『取っておく』事は出来ねぇのも不便だな。
大振りのハンマーじゃ、攻撃が当たらない事なんざしょっちゅうだ。無駄打ちは出来ねぇ。

そんでもって今、この『オンスロート』には・・・限界まで衝撃が貯まっている!!
一撃で『足付き』を木っ端微塵に吹っ飛ばす威力だ。この蛇がいくら頑丈でも無事には済まねぇ筈だ。
「おもくそバチ喰らいやがれ!!!」
蛇の追撃を振り切って、首の根本近くまで一気に走り込む!
さっきからチラチラ見え隠れしてやがる本体目掛けて、俺は渾身の一撃を叩き込んでやった!!

ドゴォオオオオン!!!!

直撃の瞬間、大地が震え、半径30m近い範囲が陥没して巨大なクレーターが出来上がる!!
33サブST ◆AankPiO8X. :2006/11/28(火) 08:35:31
「やっと戻ってきたんだ。“僕達”はね、ずっと待っていたんだよ?ハイアット」
優しい笑みを浮かべたまま、一振りの奇怪な形状の剣を持った青年が歩いて来る。
ジャジャラを護りし『剣』と『銃』
その2体のホムンクルスが、一万二千年の時を経て再び出会った。
「久しぶり・・・なのかな」
ハイアットは苦笑して答える。彼にとっては数百年の別れでしかなかったからだ。
「君と僕が揃えば、もう一度ジャジャラは甦る。そうすればまた平和に暮らせるんだ」
遠い目で崩壊した遺跡を見回し、青年は大袈裟に両手を広げてハイアットに告げた。
「君と僕とアーシェラの三人でね」



「うわっ!?危ないなぁ・・・もう」
苔に足を滑らせ転びそうになったレベッカが悪態をつく。
遺跡内部はかなり古く、滅び去ってから流れ過ぎた時の重さを感じさせた。
「・・・皆さん、気をつけて下さい。何か、来ます!!」
アクアがそう言うと同時に床が小刻みに揺れ始める。相当巨大なものが接近して来るようだ。
「おっきな岩とか転がってくるのって、冒険物語ではお約束だよね〜♪」
「ちょっとラヴィ!物騒なこと言わないでよ、もしホントに・・・」
おどけて冗談を言うラヴィにレベッカが注意しようとして、全員の表情が凍り付く。
「「「「転がって来たあああああ!!!!」」」」
四人の悲鳴が、迫り来る地響きをBGMに見事なハーモニーを奏でた。



青年の言葉にハイアットの顔が強張る。何故なら、
「どういう意味だ!?アーシェラが生きているなんて・・・ありえない!」
無限の寿命を持つホムンクルスとは違い、アーシェラは龍人だ。生きている筈はない。
「そうか、そういえば君は居なかったからな。こっちにおいでよ、彼女も会いたがってる」
ハイアットは信じられないといった表情だったが、気を取り直し青年の後に続く。

暫く歩くと、ハイアットにも見慣れた風景になっていく。間もなくジャジャラの中枢だ。
「着いたよ。さあ、皆で再会を分かち合おうか」
大掛かりな自動扉が開き、中から現れたのはカプセルに入った若い女性の姿。
セレスティアの女王であり、そして“物”に“心”を与える技術を編み出した大魔導師・・・

アーシェラ・ムゥ・セレスティアその人だった・・・
34レオル ◆4y0KG/egwI :2006/11/29(水) 11:22:50
大地をも震わせる衝撃、これほどの威力ある攻撃を食らって倒れるものなどない。
更にいえばジーコは自らの放った一撃に確かな手ごたえを感じていた。
このまま敵は破壊され、完璧な決着がつきひと段落つける。

……はずだった、しかし、蛇の頭はまだ蠢いていた、本体は確実に無事ではないはずだ。
しかし蛇はまだその活動を停止していなかったのだ。
「おいおい・・・全くいやんなるぜ。」
計算が狂わされたジーコが苦笑して言う、いや、こういうしかなかった。
まだ諦めてはいない表情のジーコだが厳しいのは言うまでもない。
仲間のロシェは蛇の頭を引き付けて逃げ回るので精一杯だ、とてもではないが反撃に移れる状況じゃない。
このままではじりじりとやられていってしまうのは目に見えている。

そして今まさにジーコの後ろの蛇が食らいつこうとする時、遠くに人影が見える。
「お二人とも伏せてもらえると非常に効率がいいのですが、よろしいですか?」
静かだが不思議と響く声にジーコは一瞬の判断で体を深く沈める。
ガシャンッというようなガラスの割れるような音が一体の蛇を中心に辺りに何十にも重ねられていく、
ジーコが振り向くとそこには残骸と貸した鉄くずが、蛇の形ですらない残骸が横たわっていた。

時が止まったように静かになる、蛇はまだ随分とあるのだがそんなことは関係ないように。
人影はゆっくりジーコの方向に歩いていくる。白に赤が入っている貴族のような服装、レオル。
その凍りついた目をジーコに向ける。
「なにを呆気に取られているのですか?早くその機械を倒した方がいいですよ。」
「・・・ハハハハハ!!なんつータイミングだ、しかもオメェかよ!」
「ええ、それといいタイミングなのはこういう時の約束事でしょうに。」
「ちょっと話していないで助けてくださいよー!!」

ロシェの助けを求める声に、二人はお互いに頷き、ジーコは奔りレオルは魔方陣を展開する。
オンスロートの打撃と魔術による援護で次々を蛇を破壊していく。
しかし、六匹もの蛇を一瞬で倒すことはむずかしく、ロシェに一匹の蛇が向かっていく。
「ひえぇぇぇ!!かわせないぃ!!」「そのはめている指輪を使ってください!」
間に合わないのに気が付いたレオルは咄嗟にロシェに言う。
「どうやって!?」
ロシェがこう言うのも無理はない、彼がはめている指輪、それが何の意味を持つのかロシェに判断する術はない、
ましてや使うと言われてもどうしたらいいか分からないに決まっている。
「いいですから、はめている方の腕を振り上げるだけでよいのです!」
何かして初めてわかることというものもある、ロシェは腕を振り上げ夜の暗闇に指輪を置いて
初めて指輪が、大切な親の形見がかすかに光っていることに気付いた。
そして蛇が腕に触れた瞬間、指輪は眩い閃光を放ち、蛇は崩れるように消えていく。
最後の蛇が崩れ落ち、戦いは終わった…………

「しかし、なんでオメェあいつの指輪にあんな力があるって分かったんだ?」
ジーコの素直な質問にロシェも興味を抱く。ロシェでも知りえなかったことをなぜ知っていたのか?
「別に、知っていたわけではありません、ですが、男が指輪を着けるというのは戦場ではあまりない。
 つけるとしたら、親しい人の贈り物、親の形見、様々な想いがこもっているものだと思ったからですよ。」
レオルの回答に二人は困惑する、答えにまるでなっていないからだ。
「いや、確かにこれは親の形見です、でもだからなんで分かったんですか?」
「……だからですよ、その指輪には親の生き方そのものが込められている。
 親は子を守りたいものでしょう、親である指輪が貴方を守ったにすぎませんよ。」
話しを聞いていたジーコは自分の槌を見てレオルに聞く。
「ってことは、俺のオンスロートも20年の付き合いだから不思議な力が宿ったのか?」
「……察しが良いですね、その通りです、いま、“世界”は変わろうとしている、いや、すでに変わりました。」
なにを知っているのか、どこまで知っているのか、もしかしたら全てを知っているかもしれないレオル。
その淡々とした冷静な表情からはなにも読み取れない。
「オメェ・・・一体何モンだ?」

「言いませんでしたか?≪味方殺し≫のレオル・イザードですよ。」
35リッツ ◆F/GsQfjb4. :2006/11/29(水) 22:23:28
凄まじい勢いで地面が迫って来る!いや、正確には凄まじい勢いで地面に向かっている。
リッツは重力には勝てなかった、至極当然の結果ではあるが。
「うおわあああぁぁぁああ!!!」
ドンッ!!雪を跳ね上げて地面に激突した…かに見えたが、実際には違っていた。
落下の瞬間にリッツは地面を全力で殴り付けたのだ。もちろんだが意味は無い。
当たり前である。

地面を殴り衝撃を相殺するという発想に辿り着いたまでは良かった。
だが向きを計算する頭脳が足りなかった。それも致命的な程に。
人間とは、何かしらの長所と引き換えに短所を持っている生き物なのだ。
リッツの場合、それが頭の悪さだっただけで、これは人間として仕方の無い事なのである。
「くそ…マジに死ぬかと思ったじゃねーか!!」
あの高さから落ちてこんなセリフが出てきた時点で、人間としては少し間違っている気はするが。
「そういや他の連中はどうなってんだ?」
リッツは駆け出す。仲間の無事を確かめて、それからルフォンの格納庫を破壊する為に。
いくら闘志の炎が燃え上がっていても、それだけは譲れない。
敵を倒しても仲間を死なせたら、リッツにとってそれは敗北でしかないのだ。


――ルフォン発掘兵器格納庫
グレナデア、かつて世界を作り替えた獣イルドゥームを滅ぼす為に造られた存在。
しかしイルドゥームの圧倒的な力の前に、グレナデアは無力だった。
ロールアウトした計3機のグレナデアは、1機目が破壊された際に残る2機は破棄された。
その後アグネアストラが造られたのだ。毒を以って毒を制す、この考えは正しかった。
かくして危機は去り、再び訪れた平和の中にグレナデアは埋もれていったのである。

「これが…グレナデア……」
余りに巨大な存在に、アビサルは驚きを隠せなかった。
大極天球儀から得た空間情報と、実際に自分の目で見るのとではまるでスケール感が違う。
「シバ様、自分は隠し事など……しておりました申し訳ありませんでしたーッ!!」
あっさりと白状するエンラに、シバは笑顔で軽いゲンコツをくらわす。
「修羅が出たんじゃのぅ…センカめ、あやつ1人で行ったか…」
「私は…い、一応止めたりしたのですが…聞き入れては頂けませんでした…」
うなだれるエンラを憐れむように、シバは目を細めて見つめ続けていた。
36レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2006/11/29(水) 22:24:25
「綺麗だろう?でもこれは入れ物にすぎないんだ。からっぽなんだよ彼女は」
カプセルを愛おしげにそっと撫でて、青年は続ける。
「あの日ジャジャラはイルドゥームによって滅びた、アーシェラもその時に死んだよ」
「それじゃあ…その身体は……まさか!?」
ハイアットは震えを止める事が出来なかった、脳裏を過ぎった『答え』に恐怖したからだ。
「ふふ…そのまさかだよ。彼女は用意していたんだ、『予備の身体』をね」
青年のセリフが終わらぬうちに、力無くへたり込む。
そう、『予備の身体』…それはすなわちホムンクルスの素体!!


――遺跡内部の通路
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ!!!!!
地響きを立てながら迫り来る巨大な鉄球から、アタシ達は必死に逃げる!!
てゆーか洒落になってないっつーの!!なんでこんなのが転がって来るのよーッ!!!
「ぱ…パル!何とかしてーッ!!」
「無理ッ!!」
「だよね!!」
即答するパルを責める事は出来ない。そりゃそーだ、アタシだって同じ返事するもん。
「皆さん!左側に曲がり角があります!」
アクアの発見は全員に希望の光を与えてくれた……かと思った。
「…って行き止まり!?冗談でしょう!?」
悲鳴混じりのアクアの声が聞こえた瞬間、すごい脱力感。あ、これヤバイ…
「今ふと気付いたんですが…私はスライムなので潰れても平気でした」
「「うわ!ずるい!!」」
パルとラヴィがハモった。アタシは息が切れて乗り遅れ。てかマジ限界っぽいんですけど!?


――ジャジャラ中枢
「どうやら来たようだね、『中身』が」
青年が手を翳すと壁面に映像が映し出された。4人組…全力疾走中のパルス達である。
「アーシェラは自らの記憶及び人格情報を3つの楽器に封印したのさ。いつか来るこの日の為に」
映像が拡大表示され、パルスとレベッカの持つ楽器《アーシェラの瞳》が鮮明に映し出される。
「1つ足りないのは予定外だったけどね、それも今となってはどうでもいい事だよ」
何も言えずに黙り込むハイアットの肩を叩き、こう付け加える。

「その代わりに、もっと素晴らしいものがあるからね。生まれ変わった彼女の魂が…」
37ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/01(金) 21:53:55
モニターを通じてパルス達が来ていることに気付く。
駄目だ、来てはいけない、そう思ってもそれを伝える術は僕にはない。
なんでこんなことになってしまったんだ。なにもいえずに黙ることしかできない。
「その代わりに、もっと素晴らしいものがあるからね。生まれ変わった彼女の魂が…」
信じられない言葉が聞こえた、生まれ変わった魂…それを使う気なのか?
「やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」
ホルスターから銃を取り出しアーシェラの入ったカプセルに向ける。

「無駄だ、君にはできない、だって君は彼女を愛している、違うかい?」
引き金においた指が震える…引けない、引けない……なら!!
銃を青年に向ける、こちらの銃に気付いた青年がいち早く剣を伸ばし僕の腕を突き刺した。

「ハイアット、どうしたんだ、君が一番彼女に会いたいはずだろう?」

確かに僕は彼女に会いたかった。どんなことをしても過去に戻らなければならなかった。
僕が今まで支えられてきたのも彼女の存在があったからだと言っても過言ではない。
想い続けてきた人が手の届く位置にいる、それがどれほど嬉しいかも分かっている。
でも信じたくない、彼女が自分の体に保険をかけるなんて…
そんな、そんなだったら、僕はなぜ彼女に惹かれたんだろうか?なんで彼女を思い続けたんだろう。
生も死も同じ僕たちに生を教えてくれた彼女は、不死なんて憧れていなかった。

彼女は用意していたんだ、『予備の身体』をね

「そんなわけない!違う!それは違う!!彼女はそんな人間じゃない!!」
青年の言葉がフラッシュバックし僕を蝕む、自分がおかしくなっていく感覚。
自分が崩れ落ちていく感覚、立っていることもままならないほどの吐き気。

アーシェラは自らの記憶及び人格情報を3つの楽器に封印したのさ。いつか来るこの日の為に

「………………っっっっっ!!!!」
その瞬間、僕は自分の何かが壊れたのを感じた。事切れたかのようにその場に崩れ落ちる。
なにも分からない、何も考えられない、全てを全否定された、僕の生き方も全部。
これまで過去に戻ろうという考えも、全てを否定された………

あの風の中で聴いた君のピアノの音は―――――今はもう聴こえない。
38アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/01(金) 23:06:45
「ええええ!?このまま帰すんですか?」
シバの余りに意外な言葉にエンラが聞き返してしまう。
好奇心だけで拾ってきたとはいえ、隠衆たる自分達の顔を見られ、あまつさえグレナデアまで見たアビサルを帰すといわれては無理もない。
「傀儡の術を施している時間も無いしの。修羅が相手ではセンカでも手に余ろうて。
ならばあの嬢ちゃんの影に入り、連れて行ってもらうのが良策というものぢゃ。」
「・・・修羅と戦いたいだけの癖に・・・」
「なんかいったかっ!?さっさと準備せんか!」
「はいぃ!」
ぼそっと呟いたセンカにシバの怒鳴り声が飛ぶ。
忍び特有の会話法、『ヤマビコ』で行われたやり取りで、アビサルにまったく気取られることなく二人の会話がなされていた。

##################################################

部屋から出ると雪は既に止んでいた。
二人のコボルドのやり取りの様子を不思議そうに見ていると、空から光がさしてくる。
大雪を降らしていた雲が去り、十六夜の月が夜の暗闇に刺すような冷たい光を落としたからだ。
光に照らされ、顕わになる巨体。
「これが…グレナデア……」
思わず呟きがもれてしまった。
太極天球儀から得られた空間情報や無機質な数値データでは決して得られぬもの。
凶星というに相応しい圧倒的な質量に、そして禍々しいオーラに私は震えた。
ソーニャさんはこんなものを手に入れてどうしようというのだろう・・・?

「これを巡って公国と王国が戦争をしていてな、ここらを塒にする儂等はいい迷惑なんじゃよ。」
まるで私の考えを見透かすようにシバが声をかけてきた。
縦目仮面を被っているから表情はわからないはず、そう思うのは私の浅はかだった。
オーラや態度に私の戸惑いは十二分に表れていたのだろう。
「お・おじいさん。これは、目覚めさせてはいけないもの、です。存在意義を奪われた者の無念が・・・溢れ出ています。破壊の象徴・・・!」
「そうじゃとも。愚かにも公国も王国もこれを手に入れ戦い使おうとしておる。」
「・・・」
どっと汗が吹き出るのがわかった。
私は今、始めて戦争の狂気を感じたのかもしれない。
あらゆる正義と憎しみが交差し、人を狂気に駆り立てる。なんて不毛な・・・。
「・・・これは、ぼ・僕が・・・星界へ、追放・・・します・・・!」
自分の判断が正しいかどうかわからない。
でも、これはもうこの世界に存在してはならない、と思うから・・・。

太極天球儀を展開させ、意識を集中させようとすると、『バチッ』と弾かれる様な音が。
それは展開した力場にシバが弾かれた音だった。
「イ、イカン。公国兵が来たんじゃ!今は逃げるんぢゃ!」
弾かれた肉球から煙を上げながら搾り出すように警告をしてくれた。
まだ見えないけど、熱源が複数見て取れる。
振り向いた時には既にシバが先行しているので、慌ててその後を追う。
落ち着いて観察すればそれがエンラの工作だと見抜けたかもしれない。でも、それをさせない状況を作ったシバの老獪さが上をいっている。
39アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/01(金) 23:07:46
しばらく逃げた後、岩陰でようやく一息つけた。
「お嬢さん、あれを封印できるのなら一番ええが、公国兵が見張っておるからのう。
そうじゃ、これをやろう。」
シバが渡してくれたのはレジスタンスの野営地から格納庫までの抜け道の地図だった。
大人数で来るには適していないが、少数でなら公国の監視網にかからずに到達できる。
レジスタンスの強い者、精鋭だけを集めこの地図を使いもう一度戻ってくるように、と。
そしてグレナデア封印を行って欲しい。
それがシバから地図と共に託された願いだった。
「あ・ありがとう・ございます・・・。では、一度ソーニャさんのところへ行きます、ね。」
お礼に頭を下げ、あげたときにはシバの姿は無かった。
現れた時と同様、去るときも気付かせないその手際には驚いたが、今は一刻も早く帰りたかった。
疑念を早く打ち消したかったから。
ソーニャは恐ろしい兵器を利用するような人ではないと、封印に賛成してくれると。
私の何の根拠もない、縋るような願いを確かなものにしたかったから。
だからシバが私の影の中に潜んでいるなんて気付きもしなかった。

「ソーニャさん・・・いた・・・。強い星が集まっている・・・。
座標軸確定、進入角確定、重力反転、斥力生相・・・・」
位置と角度を確定させ、重力を反転。
私は空に向かって落ちていった。
高く高く体が上がるにつれ、地上に残る私の影は小さく頼りなくなっていく。
そして一定面積を割ったとき、その影からシバがはじき出されるように飛び出てきた。
「ぬぅ、ぬかったわい。まさかあのように飛ばれるとは。しかたがない!」
渋い顔で豆粒ほどにまでなったアビサルを見送り、その場から姿を消した。

地上でそんなことがあっただなんて露知らず、私は上空で太極天球儀に手をかざしていた。
そこから読み取れるものは【謀略・利用・狡猾・老獪・術数・闘志・虚実混濁・・・】
ショックは受けなかった。
騙されていたわけだけど、私のグレナデア封印するという事には変わらないから。
頂点に達し、斥力が消え徐々に重力が作用してくる。重力に引かれ私はルフォン野営地へと落ちていった。

重力制御でふわりと舞うようにソーニャさんの横に降り立つと、周囲の兵士が槍を突きつけてくる。
襲撃直後に突然空から降って沸けば当然な対応だろう。
ソーニャさんが怒鳴りつけるように私の事を説明してくれ、槍は下がる。
仮面をとって挨拶をしようとしたけど、思わず声が喉に詰まってしまった。
ソーニャさんの脇越しに見える三人のオーラに。

それはまるで岩。目の前に聳え立つ巨大な岩山。
それは静寂の野。風も、木も何も無い、ただ寒々と広がるイメージ。
それは脈動する生命。荒々しく輝く生命の伊吹。そして、世界を食らう獣。

思わずソーニャさんの後ろに隠れてしまった。
でも、それじゃいけない・・・。
「ご、ごめんなさい・・・。術の影響で気絶しちゃって、ちっ近くに住むコボルドのおじいさんに手当てしてもらっていたんです。
それで、これ・・・。そのおじいさんから貰った地図、です。」
喉がからからでうまく喋れないけど、何とか伝えて地図を差し出した。
40アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/12/01(金) 23:42:32
もうすぐ目の前まで巨大な鉄球がせまっておりました。絶対絶命でございます。
「あ、もうダメ・・・・・」
レベッカさんがその場にへたりこんでしまわれました。
その時でございました。

「ここの壁の隙間から風が吹いてるよぉ!!」
ラヴィさんが行き止まりの壁の隙間から風が吹いてるのに気がついたのは。
「「「そこだぁ!!」」」
四人一斉に、ここ一番力一杯の蹴りを壁に打ち込みました。

ぎぎぎぎぎぎ・・・・・と音を立てて隠し扉らしき場所が開いていきます。鼠が通れそうな程開いて
扉はそこでとまってしまいました。悠久の時が扉を塞いだのでしょうか。
「ダメダァーーーーーーーー!!イヤーーーーーーー!!」
レベッカさんがますますもって大変な事に・・・・・・・・

「5分あれば扉をたたっきれるよぉ!!」
ラヴィさんのその言葉に私は迷わず鉄球に向かって駆け出しておりました。
スライムの特徴の1つに形状変化と言う物がございます。
体を通路と同じ大きさまで膨張させ出来うる限り硬い硬度まで硬くします。
「もって3、4分です!!私は潰れても平気なのでその間になんと・・・・・かぁああああ」
叫んでる間に私の体に重たく回転を加えた鉄球がめり込んでまいりました。
皆様が脱出するまでなんとか時間を稼がなくては。

「レベッカちゃん!!しっかり ラヴィちゃんをサポートするよ!!」
パルスさんがレベッカさんの背中を叩いて一喝を入れております。
「わ、わかった!!」
立ち直ったレベッカさんが大きく一息入れて楽器を手にいたしました。
「はぁああああああああああ・・・・・」
ラヴィさんは剣豪のごとく愛用の包丁を構えて扉に向かっております。
ピシ・・・・と少し私の体が悲鳴をあげ始めておりました。
41パルス ◆iK.u15.ezs :2006/12/02(土) 01:48:26
〜♪〜
前に進むって 決めたなら
立ちはだかる壁片っ端からぶち破れ!
限界突破の波動 伝わってくるでしょ?
Limit brake! 君の前に道は無い!
Non stop! 君の後ろに道はできる!
〜♪〜

さっきまであんなに走っていたのに大したものだ。どうやらこういう状況専用の呪歌もちゃんとあるらしい。
ラヴィちゃんの猛攻により、扉にひびが入り始めた。
「もう少し……なんだよぅ!」
僕は何をしているかというとショールを棚引かせながら華麗なダンスを……
「背景でタコ踊りしてないで手伝って!」
と、間奏中のレベッカちゃん。これには深い意味があるのだ。
「みなさんっ!逃げてください!!」
そうこうしているうちにこっちが限界突破したらしく
鉄球が再び転がってきた!ちなみにアクアさんは張り付いたまま……。
その瞬間、【ダンス・マカブル】剣を頭上に掲げる決めポーズで完成!
黒星龍に祈りを捧げ、破壊の力を借り受ける舞踏だ。
「あと一分足りないお!」
「いやーーっ!?」
そんな二人の悲鳴が響く中、天井近くまでジャンプする!!

空中で剣を両手に持ち替え、上段に構える。
握っているのはもちろん、植物すら切れない上に人を半裸化するしか能の無いどうしょうもないやつだ。
だからこそ、これに賭ける!

「とおッ!!!」
裂帛の気合と共に扉の上部に突き立てる!
すると……嘘みたいにサクッと剣先が貫通する。
「あれ?」
拍子抜けしたついでに重力のなすがままに落下!扉の下まで切れ込みが入る。
それと同時に扉の壁にくっついてない方半分が分離して倒れた!
一瞬遅れてラヴィちゃんとレベッカちゃんがその中に飛び込み、僕はそのついでに押し込まれる!
さらに一瞬遅れて鉄球が轟音を立てて目の前を通過していくのだった……。
その様子を見つめながらラヴィちゃんとレベッカちゃんが顔を見合わせてしみじみしている。
「助かった……けど変態剣に負けたのはちょっと悔しいんだお……」
「服しか切れない真半裸ソードのくせにどうして……」
ザコ山賊半裸事件によりナイスな愛称がたくさんついてしまったが
これでよく分かった。不思議なことに物質は異様によく切れるらしい。
「あ!アクアちゃんは!?」
「私なら大丈夫です」
人型に戻ったアクアさんが何事もなかったように歩いてきた。スライム強い!

逃げ込んだ場所を見回してみると、さっきまでとは明らかに雰囲気が違う。
天井や壁の至る所に刻まれた古代文字、いたるところに設置された魔法装置。
扉が古くなって開かなくなったのではなく、初めから普通は開けれないようにしてあったとしたら。
ここからはおそらく古代王国の上層部だけが知っていた一般の人々からは隔絶された領域……。
42イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/02(土) 01:49:50
その日、ガナン政策ブロックは荒れに荒れた。
予想だにもしなかった場所で次々と謎の火の手が上がったからである。
「過激派だあああああああーーーーーーっ!!!」
屋敷の外から聞こえるどこぞのアホの絶叫、続いて起こった意外と近い爆発に、カールトン・レーゼンバッハはガクっと膝の力が抜けるのを感じた。
「……我が国に過激派なんぞおったか?」
「はて……この場合、王国側の破壊工作員の線を疑うべきかと?」
副官の自信なさげな言葉に、この戦場の匂い漂う壮年の龍人は仰々しく椅子から腰を浮かして言った。
「かもしれぬが、その線では余りにも手際が良すぎる。あれほどの量の爆発物を密かにガナンに持ち込む事は困難至極。
更に言えば、密かに仕掛ける事など不可能と言っていい。ここは、内部の者によって予め準備されていたと見るべきだな」
整えた立派の口髭をしごきながら、カールトンは執務室の隅を飾っていた長槍を手に取った。
「内部の……? まさか、裏切り者のライヒハウゼンが?」
「さあてなあ……?」
上半身を投擲の体勢に固めたまま近づいてくる当主に、副官は噴き出す恐怖の感情を必死に抑え込んだ。
ギシリリと筋肉と間接の力む音が聞こえてくる。果たしてどれ程の威力になるのかと生唾物のそれを、
「ま、すぐにわかる」
カールトンは真下へと、つんざくような鋭い呼気とともに打ち下ろした。

「おんっぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!???」

床をぶち抜いた槍の行く末に思いを馳せる間もなく、足元から地獄の亡者の叫びが聞こえてきた。
「な、なななななな何が!?」
「うがぎゃギアがさおえっぱぎぎぎっぎええええええええええええ!!!!!」
物凄い勢いで床を震わせ現れたのは、豪奢な貴族服に身を包んだ少年であった。
服装に見合って顔立ちも結構な出来映えのはずなのだが……今の少年の第一印象を例えるなら、陸揚げされたトラフグといったところか。
まあ、どてっ腹を槍が思いっきり貫通していては無理もない話である。
「ぅ若ああああああああああああああああ!!???」
「あぎぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
そのまま、少年は呆気にとられる副官の脇を抜け、執務室の扉に鍵をかけた。
「あ」「馬鹿者!!」
幾重にも合金が用いられた特注の扉である。破城槌を持ってしても、ぶち破るのには数時間を要するだろう。
つまり、このままでは応援は絶望的。
瞬時に少年の狙いを把握した当主の叱責に、副官が慌てて剣を抜き、ドアに手を伸ばす。
「めりぃぃいいいいいいいいいい!!!」
させるものかと仁王立ちの少年の叫びに眉をしかめた瞬間、
「…………あれ?」
副官は、自分の体が執務室の壁にめり込んでいるのに気がついた。

自分が作り少年が広げた床の穴から飛び出した影が、電光のような右フックで副官を壁画にしてしまうのを見て、カールトンを感嘆の口笛を鳴らした。
「クックック、余裕じゃのうカールトン。果たしてどこまで…おぶっ! ぐえっふっごっほげっほ……!?」
「……まったく、大した行動力と生命力だよ。パルモンテの子倅殿?」
盛大に吐血を繰り返しながら、偉そうな態度を崩さないイアルコ少年に苦笑。
「……なるほど、確かパルモンテ家はガナン建設に最も深く関わった家であったな。それなりの仕掛けはあって当然か」
「そそそ、その通りじゃああああ……っ! 覚悟せぇよ! おんどりゃあタマとったるけぇのうっ!!」
「若っ! 若っ! 御気を確かにぃいいいい!!」
いくら待っても死にそうにないイアルコ。それを支える老執事。何故かお茶の準備にかかる不気味なメイド。
それらを泰然自若と見据えたまま、カールトンは素早く、執務机の上に置いてあった得物に手を伸ばした。
「メリィィィイイイイイイイイっGOォオオオオオオオオオオ!!!!」

イアルコの叫びとほぼ同時に、解き放たれた銃火と疾風が、嵐のような交差を見せた。
43ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/03(日) 15:13:09
へっ、すました野郎だぜ。だが助かった、あのままじゃあ俺は死んでただろうな・・・。
「よォ、こりゃどうなってんだ?」
「見て分かりませんか?今現在我々は敵の襲撃を受けているのですが」
「ンなこた分かってんだよ、俺が言いてぇのはなんでテメェはそんな実力を隠してたのかって事だ」
「なら最初からそう尋ねればよいではありませんか。貴方は言語能力に問題がありそうですね」
顔色一つ変えずにさらっと言い切りやがった、ついカチッと来たが何とか我慢する。
こんな所で無駄口叩いてる暇なんざ、これっぽちも無ぇからな。
「部隊の方はどうだ?動ける数が足りねぇと格納庫に人を回せねぇぞ」
「心配は要りません。既に大多数は避難を完了しましたから。しかし負傷者の数はまだ不明です」
「そうか・・・よし、それじゃ後は任せたぜ」
「どちらに行かれるのですか?」
オンスロートを構え直した俺を見て、うろん気な顔になるレオルに俺は言った。
「決まってんだろ、これからカチ込み食らわしてやるのさ」
「やはり貴方は馬鹿ですね、間違いない。」
「俺はオメェみてえに賢く生きられねぇんでな」
そうさ、不器用なやり方しか出来ねぇ。だがそれでも構わねぇのさ。それが俺の生き方だからだ。

「おっ、こんな所にいやがったか!」
背後からの呼び掛けに俺とレオルが振り返ると、そこには白髪小僧が立っていた。
どうやらコイツも戦っていたらしい。服はボロ布のように傷んでいる。しかし負傷は見られない。
「元気そうじゃねぇかよ白髪小僧。これから連中に一発食らわしに行くんだが、来るか?」
「おぅよ、でもその前に他の仲間達は無事か?」
「ああ何とか避難したようだ。体勢を立て直すのに時間は掛かるだろうからな、置いて行く」
「そっか・・・無事ならいいんだ。敵側にも時間をくれてやる訳にゃいかねえし、行くか!」
「・・・やれやれ、全く困った人達ですね。まあいいでしょう、私も同行致します」
突然レオルが自分の意見をひっくり返した。一体何を考えてやがるんだ?どうにも読めねぇ・・・。
「勘違いしないでいただきたい。私はあくまで当初の予定通りに行動しているだけですから」

そういえばそうだったな、確か3人で乗り込む段取りだったか。
そうと決まれば話は早い。さっさと突入してグレナデアをブン取るだけだ!!
44ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/03(日) 15:14:50
俺達がルフォンに向かおうとした時、後方の兵達が悲鳴を上げた。
「な・・・雪崩が来るぞーっ!!!」
なんてこった!今夜の大雪で新雪がかなり積もっていたのか!?
蛇ゴレムの暴れた衝撃は、ルフォンの周囲に連なる山々を揺らしていたって事かよ!!
白塵のうねりがゆっくりと近づいて来る!
「おい!このままじゃ山の裾に集まった部隊が全滅じゃねぇか!!」
狼狽する白髪小僧、何やら考え込むレオル、当然俺には雪崩をどうこう出来る訳が無ぇ!!
「フン・・・アビサルを捜して回ってりゃ、随分と大変な事になってるじゃない」
女が居た。まるで燃えたぎる火のような・・・赤い髪の女。コイツはどこかで見た記憶が・・・。
「あーっ!!テメェ赤毛!!何しに来たんだよ!!」
白髪小僧が赤毛の女を指差して叫んだ。と同時にレオルも女が何者なのか気付いたようだ。
「ほぅ・・・レジスタンスの『爪』と『牙』が揃うとは。興味深い組み合わせですね」
『爪』?ってまさかあの『炎の爪のソーニャ=ダカッツ』か!?

とんでもねぇ事になってきやがった・・・先の中央戦線で暴れ回った『爪』と『牙』の2人が揃った!?
俺は震えが止まらなかった。噂でしか聞いた事はないが、奴らの力はおそらく本物だ。
何故なら、「火の無い所に煙は立たない」からだ。
事実、奴らが向かった戦場は全て王国側が勝利している。圧倒的な戦力差があったにも係わらず。
一体どのような力を持ってるかは俺も知らねぇが・・・コイツらは間違いなく強い。

「下でウロウロしてる間抜け連中がどうなろうと知ったこっちゃないけどね・・・」
そう言ったソーニャの周りに陽炎が立ちのぼる!
「あの雪崩を放っておいたら、可愛いアビサルが巻き込まれるかもしれないしねぇ・・・」
ゆらり、ソーニャの髪が炎に変わる!!
「だから消し飛ばす!」
手を翳した先には照明の松明。それが突如爆発して炎が蛇ゴレムの残骸に襲い掛かる!
「あの子はこう言ったよ。『ガスが詰まってる』ってね。雪崩を飛ばすにゃ火力が要る」
残骸の中身に引火した松明の炎は、山を飲み込む程の巨大な爆炎となって雪崩を消し去りやがった。
「それにアタシは寒いのが嫌いなんでね」

おどけた調子で肩を竦め、深紅の魔人はそう言うとニヤリと笑った。
45ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/04(月) 00:22:23
イアルコはメリーが勝つと信じて疑わなかった。電光石火の踏み込みでメリーの拳が唸る。
しかし、次の瞬間には出鱈目なダンスを踊るように宙を舞うメリーの姿。
カールトンには傷一つ無く、メリーのメイド服は銃撃によって穴が穿たれていた。
「なッ!!!!」
あまりの驚きにイアルコは呆然となった。あのメリーが一撃も当てる事も出来ないなど…
「…ありえぬ」
絞り出すように呻くイアルコ。メリーの体がドサリと床に倒れ、カールトンは憐れむように言う。
「私を倒せるとでも思ったのかね?至極つまらない冗談だな」
銃口をイアルコに向け、残念そうな表情で首を横に振る。
「父親に会わせてあげよう。君の小さな勇気に対する私からのご褒美だ」
「させません」
引き金を引く直前で、跳ね起きたメリーが銃を持つ手を蹴り飛ばす!
そこから反転して回し蹴りを繰り出すがカールトンの姿は既にメリーの背後に移っている。
「…ッ!!」
即座に反応するメリーの肘打ちも、やはり空振りに終わる。力の差は歴然だった。
カールトンは12貴族の中でも上位に位置する強さの持ち主、その実力は未知数なのである。

再び対峙するメリーとカールトン。じりじりと間合いを狭め、互いに出方を伺っている。
永遠にも似た数秒の間を終わらせたのはカールトンだった。
銃口を素早くポイントし、迷わず撃つ。狙うはイアルコだ。当然メリーはそれを阻止する。
疾風迅雷、まさに瞬間移動の如き早業で弾丸の軌道に割って入りイアルコの盾となった。
「……若様…許可…を……」
息も絶え絶えに言うメリー。傷付き今に倒れそうになりながらも、彼女は踏み止まる。
「きょ、許可?」
「…はい…若様に……銃を向けた…狼藉者を…地獄に叩き込む許可をいただきたく…」
この期に及んでもまだ勝利を諦めぬメイドの背中を見つめ、イアルコは主として命令した!
「うむ!許可する!!フルボッコにしてやるがよい!!」
「かしこまりました」
メリーが応えると同時に、彼女の両腕が鈍い機械音と共に“変形”した。
ガトリング砲となった両腕が一斉に火を吹く!轟音が鳴り響き、弾丸の嵐が全てを薙ぎ倒していく!!

「ちょ!?め…メリー!!!?」
予想外の出来事に、またもや呆然とするイアルコ。隣のジョージが苦い顔で呟いた。
「やはり、ヴァルキリエでしたか…」
46ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/04(月) 00:23:15
砲撃が止み、硝煙が立ち込める室内に静寂が戻ってくる。
カラカラと崩れ落ちる細かい瓦礫の音、そして、余裕とばかりに拍手するカールトンの嘲笑。
「ようやく本性を出したか、人形め」
硝煙と粉塵が吹き飛び、カールトンの姿が露になる。衣服はボロ布のようになっていた。
「全く珍しい物を拝見した、まさかまだ動く機体が残っていたとは驚きだ」
残念げな表情で無惨な状態になった衣服を軽く払い、カールトンは話を続ける。
「セレスティアが造りし戦闘用ホムンクルス『ヴァルキリエ』シリーズ。
 本当に驚きだよ。下級氏族のメイドにしては高い能力だと思ったがそれ…」
「黙れ」
一切感情の無い冷たい声と、再び火を吹く両腕がカールトンの台詞を遮る。
「痛いじゃないか、それに屋敷が目茶苦茶だ」
砲弾の直撃を受けている筈なのに、平然として室内の破損具合を見回しているではないか!
「…!」
メリーが眉をしかめる。その事実にイアルコは衝撃を受けた。
彼の知るメリーは常に無表情だった。どのような時も眉一つ動かす事はなかったのだ。
だがしかし今確かにメリーは眉をしかめた、つまりそれほどまでの強敵だという事なのだ。

イアルコの脳裏に一瞬だが逃げるという考えも横切る。完全に相手を嘗めて掛かっていた。
このままでは返り討ちにされるかもしれない。だがイアルコにも退けぬ理由がある。
父の無念を晴らし、公国内部の陰謀を叩き潰すという目的がある。今ここで退く訳にはいかない。
しかし勝てる見込みは窮めて薄いのもまた事実。決断を下さねばならなかった。

ガトリング砲が弾切れとなり、メリーは更なる変形を始めた。
捲り上げたスカートの下から現れたのは、すらりと伸びた美しい脚。その脚に縦の亀裂が走る!
ガシャ!横にスライドして迫り出し、展開したのは20連装マイクロミサイルポッド!!
夥しい数のミサイルが発射され、屋敷の一画は爆炎に包まれる。
「メリー!ここは一旦退くのじゃ!!」
突き刺さる槍を乱暴に引き抜き、イアルコは叫ぶ。今は逃げる、そう決断したのだ。
メリーの体や役に立たなかったジョージについてあれこれ言うのは後からでも遅くはない。
主の命令にメイドは頷くと、背中から現れたブースタを点火させて屋敷から脱出する。
勿論、主と執事をそれぞれの手に掴んでいるのは言うまでもない。
47ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/04(月) 01:33:44

「聞いたかの? 攻撃隊の一方は三人だと」
ルフォン山麓のレジスタンス野営地に到着したのは夜明け前のこと。
リザードマンたちが設えた湿原の「整地」は完璧で、
冬眠期に入った非友好部族の集落を幾つも通過ポイントに利用し、合流までの行程はおよそ二日分を短縮した。
それでも間に合わなかった事からして、よほど戦況は切迫しているらしい。
私たちの準備は、公国軍基地襲撃の計画日に合わせての行動だったが、これは
「聞いてないわ」
私たちは夜襲の第二波に備えて移動中だった本隊と途中合流し、
こちらの輜重隊を引き渡すとすぐに斥候活動へ同行。
レジスタンスの兵たちは鹵獲ゴレムを先鋒に百余騎、私とシャミィも騎乗し後へ付き従う。
夜明け近くだが日は山の裾に隠れて未だ昇らず、雪は弱まりつつも、視界の不自由に変わりは無い。

私たちが隊の後列に就いているのは、無理やり積んだ装備が重くて馬の足が遅れがちなシャミィと併走しているせいだ。
彼女は馬の鞍に一門の大型魔導銃「霜乃武(しものふ)」をぶら下げている。
銃は私の身長より、勿論彼女よりも大きい。およそ人間と戦うための武器には見えない。
長大な砲身に無骨な機関部、銃架付き。
遠く南方から流れ着いたニャンクスの傭兵は、偶然手に入れたこの銃に心底惚れ込み、
幼少から長らく嗜んでいた剣術さえとうとう捨ててしまった。

「ジンはあの、いけ好かない王国騎士団長とやらと話をしたのでは?」
振り向いて、片手に持ったランタンの灯をシャミィへかざすと、彼女の金の瞳は眩しげにまばたきうつろった。
「したけど」
シャミィが手を振ってランタンを避けるよう指図する。灯りを下ろして、
「彼が私に教えてくれたのは、作戦の即時凍結と方面軍再編成。
三人の男が茶碗の船で海へ漕ぎ出した話なんか、おくびにも出さなかったわ」
レジスタンス隊との、ほんの数時間前のランデブーを思い出す。
騎士団長アルト=サイカーチス、彼が私たちの応対をした。
48ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/04(月) 01:34:30


「敵は未確認の新型ゴレムと聞いた。
どうやら我々は、実地試験の的に使われたらしい――ふざけた話だ」
騎士団長は齢三十ほどの背の低い男で、紅白二色の制服に、凍えた防寒具を羽織って座り込む。
印象は冴えない。労苦に蒼ざめた表情の中、両の眼ばかりがぎらつく。
口髭に付いた霜が、焚火の熱で溶けて滴っている。濡れた髪からも。
俯いたまま、向かいに座る私の顔を見ようともせず、アルトは誰へともなしに言葉を継いだ。
「指揮系統の混乱があって、奇襲直後に隊を分断された。
連絡の取れない彼らはルフォン攻略の主力部隊の一部だ。作戦は延期される」

焚火の周囲は、馬車の隊列を行き交う兵たちで慌しい。
降りしきる雪と宵闇の中、号令、点呼、湯と薬とを求める声が四方から発せられる。
怪我人を運ぶにも、最寄で安全な基地までは大分距離があった。
一度ばらけてしまった編成を繕いながら、睡眠不足と負傷者のための休憩を接ぎながらの移動だ。
今夜の合流は、彼らの最初の休止を私たちの隊が捉まえる格好となった。

団長は消息不明の補佐官に代わって、隊付きの紋章官ひとりに業務を任せていた。
忙しい最中、彼がわざわざ焚火に私を招いた訳は分からない。
恐らくは、一大戦地を前にして突然の部下の背信、
そして遅ればせに現れた傭兵気取りの小娘の顔を見て、己の身を哀れむに足る窮地と自覚するためだったのか。
消えた補佐官とレジスタンスの隊長たちは、手ずから兵隊を連れて勝手に追撃へ出た、との噂を私は耳に入れていた。
「生憎と、夜襲を受けた野営からここまで大した距離はない。
手練の者を集めて斥候にする。可能ならば救出隊も出したいが、まずは我々が逃げ延びなければならない。
荷物は御苦労だった。だが正直に言って今の所、君に教練を頼んでいるような余裕はない。
そこでつまり、君たちの役割は一つだ。今はとにかく邪魔をするな。私の目の届く範囲で煩い真似はするな。分かるか?」
「分かります」
アルトは深く頷くと、おもむろに立ち上がり、私から顔を背けたまま言った。
「失せろ」
私は言われた通りにした。


それからシャミィを連れ出して、二人で騎士団の紋章官に掛け合った。
斥候部隊への同行は快く了解され、そしてここに居る。
「昼さえ寒さが骨身に凍みる北国、非番の夜に酒は欠かせぬ、か。
だがの、夜営を奇襲されてなお醒めぬ酔っ払いとは、兵隊として置いとくにはあまり外聞が良くない」
「しかもその酔っ払いが指揮官補佐とあっては……団長殿も人間不信になる訳だ」
「レジスタンスの『白い牙』もだ、所詮は山出し。どうする、投げるか? この仕事」
「王国正規軍のくせに金払いは悪そうだ。もう少しだけ、働いてるフリしようか」
我ながら過ぎたお節介とも考えたが、引き渡した荷物の箱にはしっかりと用法を記してある。
だからと言ってそのまままともに扱えるとも思えないが、最低限の義理は果たして代金分だろう。
後は戦地で公国の新型ゴレムを見物して、危うくなれば適当に逃げる。余計な世話まで焼くつもりはない。
「私は例の酔狂者三人を見てみたいな。おぬしはそうは思わんか?
どうする、本当に連中が三人だけで、公国軍の関を破ってしまったら?」
「この眼で直にそれを見たとしたらね。私、傭兵を辞めるわ」
馬上のシャミィがくっくと笑った。真白なコート姿の彼女は、フードまで被るとまるで耳付きの雪だるまに見える。
「ジンの傭兵廃業を祈って」
「ひどいわね」
前方を行くレジスタンスの斥候隊が、ふと足並みを止める。襲撃された野営地の中ほどまで、辿り着いたようだ。
皆が馬から降り、私たちも倣って下馬した。
49ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/04(月) 01:35:33

雪野原には潰れた天幕、置き忘れの物資、打ち捨てられた武器が点々と散らばっていた。
レジスタンスの兵たちは散開すると、それぞれ天幕周辺の深雪を漁り、呼び掛ける。
彼らに続きつつ、シャミィがふと呟いた。
「何だか匂うの」
「ゴレムの燃料と少し違うな。火薬でもない……ガス? 新型ゴレムの?」
立ちこめるガスの匂いの他に、特別不審な事物は見当たらない。
馬を下りてしばらくの間、突き立っていたシャミィの耳もやがて伏せた。
新たな攻撃の痕跡も、予兆もない。敵襲は第一波で中断されたようだ。

斥候隊に交じって、雪に埋もれた兵隊、或いは死体を救い上げているうちに、空が明け始めた。
大部分の兵が襲撃時すぐに避難していて、取り残された者のうち生存者はほんの数人だった。
レジスタンスは掘り出されたばかりで寒さに震える仲間の口へ、気付けの酒を流し込む。
聞く所によると、夜営を襲撃した敵は巨大な蛇のゴレムで、地面を潜って進むのだとか。
「ズィーガー・タイプへは先に網を張っておくより仕方ありません。
だから、移動の頻繁な私たちには天敵だったんです。まして地面の下から襲われるなんて誰も……」
斥候隊指揮は王国騎士のレニーという女性で、
新型ゴレムの残骸らしき黒焦げの装甲板を前に、私へ話し掛けてくれた。
「貴方ならどうしたかしら?」
「実際に見てみない事には、まだ何とも。
頼りない返事でごめんなさい、『ゴレム狩り』の名が泣きますかね」
私の言葉に、レニーは気弱な笑みを浮かべた。彼女は金の長髪と整った顔立ちが美しい、若い女性だ。
戦場に立つにはあまりに線が細い。剣を佩かせても一応さまにはなっているが、およそ鎧が似つかわしい容姿ではない。

「こちらこそごめんなさい、試すような事訊いてしまって。
でも正直信じられないのよ。その、誤解しないで欲しいのだけれど、
貴方の腕を疑っている訳ではなくて、ただ、あまりにも想像と違っていたから。
失礼かしら? 私だって、女だてらに騎士なんてやってるのにね」
「女だてらに――」
焼け焦げて脆くなったゴレムの装甲板を、ブーツで踏み割る。
レジスタンスは何らかの手段でこれを屠ったのだ。私でも狩る方法は不足しない筈だ。
「剣客商売を続けていくコツはひとつです。男に依存しない事」
「それじゃ、私は失格かもね」
レニーは肩をすくめた。そこへ誰かが彼女を呼びつけ、レニーは私とゴレムの残骸から離れる。
入れ替わりに傍へやって来たシャミィはなんと、殊勝にもあの重たい銃を徒歩で運んでいた。

「夜も明けたの。どうやら分断された隊は、予定を繰上げで山に登ったらしいでの」
「船頭多くして船、山に登るとは正にこの事ね。追うの?」
「連中には追うより他ない。貴重な戦力を、一隊長の独断でむざむざ失わせる訳にはいかん。
それにの、これはほんの小耳に挟んだ噂だが、例の『白い牙』は斥候隊長の想い人とな」
やはり向きではない、と思った。
後ろを見遣れば、鹵獲ゴレムの周りにレニーと分隊長たちが集まっている。
追跡班を選り出す相談のようだ。その内に、レニーが私たちへ手招きする。
50ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/04(月) 01:36:10

「やはり、リッツたちは山へ登ったと思う。足跡を見た者が居るから。
他に行方の分からない隊は、予定されていた攻撃隊の半分も下回っている。
もしルフォンへ向かったとしても作戦の履行は不可能よ。無用な犠牲を出さないためにも、連絡員は必要だわ」
皆が頷く。頷きながら、誰もが心配げな面持ちでレニーを見詰めている。
しかし彼女は、そうした視線を気にも留めない素振りで話を続けた。
「私がゴレムで追うから、他は負傷者を連れて本隊へ戻って。
あくまで作戦は中止よ。仲間の犬死にへ手を貸したり、見過ごせはしないわ。それは分かってる。
そこでなんだけど……」

レニーは私たちの方を向くと、
「ギルビーズさん? 出来るなら、貴方たちに同行願いたいの。
危険な仕事だという事は重々承知の上でお願いするわ。どうかしら?」
レジスタンスの分隊長たちは、私を見たまま何も言わない。
突然の抜擢は、身内の犠牲者を一人でも減らしたい理屈だ。
そのまま言葉にするのは後ろめたいのだろうが、要はそれだ。私はそっと手を掲げて、二本の指で輪を作る。
するとすぐに、レニーが微笑えんで
「私が騎士団に掛け合います。もし落とせなければ、私が自腹を切っても良いわ。
……報酬は言い値で構わないわよ? 諸経費込みは勿論、現金払いも保証する」
「私はクラーリアの傭兵ギルドに登録していません。
報酬金額がギルドの規定を受けていない事はお分かりですね?」
「良いから、言ってみなさいよ」
値段を言った。
レニーは事も無げに頷くと、仲間にメロメーロ商工会銀行の、サイン済み証書を用意させた。
私は受け取った小切手に要求した通りの金額を書き、レニーへ見せる。また頷く。問題なし。

契約は成立した。私とシャミィは招かれるままに、パンツァー・ゴレムの後部座席へ乗り込む。
シートへ身を埋め、レジスタンスたちの準備を待つ間にシャミィがぼやいた。
「私には一度も相談しなかった。違うかの?」
「だってあなた、話のあいだに文句言わなかったじゃない?」
ブラッシングを怠けて荒れた相棒の毛並みに、手袋の上から爪を立てる。
生きて帰れる限りはボーナスの心配が無用になった。これこそ傭兵冥利に尽きる。
51イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/04(月) 04:06:50
ド派手に空を飛んで逃げたのは、ほんの一分足らずの間だけ。その後は肩を並べてガナンの政策ブロックの込み入った路地をひた走る三人であった。
一見したところ、目論見外れて脱兎の如くといった様子だが、
「ぷふ……っ!」「ブッ!」
どちらがともなく吹き出す、余裕のイアルコとジョージ。少し下がって足を動かすメリーは冷然としたものであった。
銃弾を雨あられと浴びたはずなのに、彼女の体とフリル付きのメイド服には、それらしき戦いの跡がまったく残っていない。
痕跡といえば、坊ちゃまの一張羅に空いた大穴くらいなものである。
「ブハハハハハハハアハハハハハッハハハハハ!! 何が『やはり、ヴァルキリエでしたか』じゃ爺っ!?
博物館にすら行った事もないのにシリアス顔で大法螺こきおって! あやうく笑い転げてしまうところじゃったぞ!!」
「若の方こそ、堂に入ったうろたえぶりでしたぞ!? 私めももう歳なんですから、衰えた集中力に水を差すような悪ノリは如何なものかと!!」
「いやあ、メリーの熱演についつい乗せられてしまっての! まったく、普段の能面ぶりとのギャップに正直戸惑ったぞ!」
「オスカー女優ですから」
爆笑の渦の中、さらりと合いの手を入れてきたメリーに、キョト〜ンと顔を見合わせる二人。

「オスカーって何じゃ?」「はて? 確か、リオネ様の飼っておられる馬の一頭がそのような名前だったかと……?」
「馬と女優に何の因果関係があるんじゃ?」
「ふうむ、何やら卑猥なものを連想させる響きですなあ」「ふうむ、年寄りはこれだから困る」

などとアホな事を言っている間に、目的の場所を駆け抜け、回れ右して二歩、三歩。
辿り着いたのは政策ブロックの端も端、未開発のまま二十年ほど放置されている一画であった。
「しかし、若も大したものですなあ。あんなに勉強を嫌っておりましたのに、パルモンテ家秘伝の抜け道の数々はすべて把握済みとは……」
「うむ、国庫から小遣いをチョロまかすのに色々と使ったからの」「ハッハッハ、爺は何も聞こえませんぞ」
「国庫からっ!!!!」
「いやーーーー!! 聞きたくなあああっい!!!」
二人がいつもの通りにボケ合っている間に、メリーがマンホールに偽装した抜け道の蓋を持ち上げる。
中は入り口より少し大きいだけの縦穴で、底の見えない闇が広がるばかりであった。
「……若、これは一体どこに通じておられるので?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた。この穴を最後まで滑り落ちると……!」「落ちると?」
「なんと! ラライアの麓にまであっという間に行く事ができるのじゃ! 全長ざっと一万ウン千メートル!! いやまったく、造った奴の顔が見てみたいわ」
「尻が擦り切れたりやしませんか?」「なあに大丈夫じゃ。ケツに火がついて死んだ奴はおらん」「はあ……」
「それより、ブレーキのタイミングを誤ると挽き肉になるそうじゃから、先頭は任せたぞ爺!」

老執事が口を開くよりも早く、容赦なく奈落の底へと蹴り飛ばす坊ちゃま。
恐れ気なくメリーが続き、そのすぐ後に自身も颯爽と飛び込む。
レーゼンバッハ家襲撃による目的は果たされた。次に向かうはガナンの外、王国との最前線だ。
内心会いたくないないと思いつつ、それでも会わねばならぬ許嫁の顔を思い浮かべ、滑りながら漏らしそうになるイアルコであった。
52ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/04(月) 20:57:30
絶体絶命の大ピンチをなんとか切り抜けて、ようやく安心できるよ・・・はふぅ・・・・。
そこは見たことない「ヘンテコな物」がいっぱいの部屋だったよ。
みんなぜーぜー息を切らして座り込んじゃってる。ラヴィも疲れてヘトヘトだよぅ・・・・。
「ねぇ、少し休もう。アタシもうホント無理・・・・。」
レベッカお姉ちゃんが大の字に寝っ転がって、だら〜んって延びちゃった。
「ダメだよレベッカちゃん、いかにも何か起こりそうな部屋だよ?危ないってば」
パルちゃん心配し過ぎ。ラヴィがそう言おうとした時、奥から話し声が聞こえたような・・・・。

   *********************************************

ハイアットは真っ白な世界の中で、一人立ち尽くしていた。何処までも続く白亜の領域。
「アーシェラ・・・君は本当に生に縋り付いてまで世界の終わる瞬間を見たいと思うかい?」
ハイアットの呟きに応えるかの如く、揺らめく様に現れたグランドピアノ。
スツールには美しい女性が腰掛け、悲しげな眼差しでハイアットを見つめている。
『私は・・・あの時程、自分に定められた時間を呪った事はありませんでした。』
すっと立ち上がり、隣に立つと彼女はハイアットの頬をそっと撫でる。
忘れる事はなかった。優しい手の温もりを、そしてハイアットには存在しない命の輝きを・・・・。
『ジャジャラを始めとする《天の三角》は皆、イルドゥームによって墜ちました。
 シャッハやトゥーラの民も・・・全て死に絶え、繁栄に終止符が打たれたあの日・・・・。』
アーシェラは瞳を閉じて遠い日から、これまで流れた時を埋めるかのような深呼吸を一つ。
『貴方は私の目の前から姿を消しました。都市の動力システムに異変が起き、時空の断裂
 に貴方が飲まれたと知った時、既に私は正気ではなかったのかもしれません・・・・。』
「アーシェラ、それじゃあ君は!?」
『逢いたかった・・・・。もう一度貴方を・・・抱きしめたかった!』
しかし重ね合う身体は光の粒子に変わり、次第にアーシェラの姿は溶ける様に消えていく。
「待ってくれ!行かないでくれ!!アーシェラ!!!」

ハイアットの叫びは、白い闇へと吸い込まれ・・・
再び彼は一人立ち尽くした。絶望感と無力感に搦め捕られながら・・・・。
53イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/05(火) 16:08:40
カールトンは半壊した執務室を見回し、眉をひそめて髭をしごいた。
あれだけの銃撃に晒されたはずなのに、火薬の匂いが余りにも微量だ。火の気がまったく残っていないのもおかしい。
「なんと……?」
メイドのガトリング砲の破壊跡を見て、ようやく違和感の正体に気がついた。
これは弾丸によるものではない。正体はわからないが、とにかく別の何かだ。
過程と結果が結びつかない場合は、大抵過程の方が間違っているものだ。カールトンは自分の人生哲学に基づき、速やかな事態の把握に努めた。

あのメイドがヴァルキリエでないとすれば……空を飛んだのは、恐らく子倅のブレスによってであろう。
最強の風を操るパルモンテの直系だ。そのくらいは容易いはず。
つまり、自分は幻を見せられていたという事になる。
赤鱗属の幻のブレス。消去法でいくとあの老執事以外に考えられないが……何の素振りも見受けられなかった。
鮮やかというしかない。
相手を完全に術中に嵌めておきながら奴らは逃走した。それは自分の暗殺が目的ではなかったからなのだろう。
疲れきったため息をつき、カールトンは自分の机の三番目の棚を開けた。
鍵が外されている。
「やはりか……」
三重底にまでして隠蔽していた、あの連判状≠ェ消失していた。
「……子倅め、公国を二分するつもりか」
あれを持って行くところなど知れている。公明正大な彼女は、何があろうとも自分達を許しはしないだろう。
そう、例え公国そのものが消えてなくなろうともだ。
何としても、阻止せねばならん。
ここで初めて、平静でいたカールトンの眼差しに、彼本来が持つ熱狂の光が差した。

「あいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ふむふむ、やはりか。なるほどのう」
「熱熱々あつあつあっつあつあつあつあつあちゃあああああああああああああああああ」
「ミュラー、カールトンの戦バカはともかく、イフタフ翁の名まであるとは……公王陛下の威光も衰えたりといったところか」
「若はお尻と背中が熱くないんですくわああああああああああああああああああああ!?」
「それよりも、ハラワタの方が煮えくり返っとるわい」
公王暗殺未遂事件からの侵略派御三家の政権の掌握振りを見るに、何らかの根回しがあるとは思っていたが……まさかまさかの不心得者の数に、唸るばかりのイアルコであった。
その手にある書面には、ギュンター公を廃し、御三家主導の貴族連合の設立に賛成する者達の名が連ねられていた。
いわゆる、企みの念を押すための連判状というやつである。
署名は本物、ご丁寧に全協力者の花押まで書かれている。
もはや、御三家それぞれの当主が保管しているのであろう、これの真偽は疑うべくもないのだ。

「自信満々のカールトンの事じゃから、きっと手元に置いてあるものと思っておったが、いやはや、上手くいったもんじゃ」
「爺も、張り切って昔とった杵柄を振るった甲斐が御座いましたぞおおおおおおおお!!!」
「うむ、でかしたぞメリー」「およよよよ」
ワザとらしく泣き崩れるジョージの声を聞きながら、イアルコはいつになく真剣な顔をしていた。
できれば頭だけを潰して何事もなく済ませたかったが、ここまで悪化した事態にあっては、それはもう不可能だろう。
自身が公国を滅ぼすやもしれぬ。そんな方向に行きつつある我が道を思い、
「ま、龍人の長い人生じゃ。亡国の憂き目の二つや三つ、ザラにあるじゃろうて」
実にあっけらかんとしたイアルコ坊ちゃまであった。
54リッツ ◆F/GsQfjb4. :2006/12/06(水) 21:31:26
センカは雪の降りしきる中を風のように駆けて行く。修羅を始末するために。
積雪は40cmを越え、普通ならば歩く事すら困難を窮めるというのに、足取りは羽の如く。
「シバ様が気付く前に始末しなければ…」
呟きは白い息とともに吹雪に吹き散らされ、雪山の夜闇に消えてゆく。
最新のゴレムとやらも全く歯が立たないのに、ルフォンを守るのは頼りなさげな兵士達。
ギガントと呼ばれる重武装の機体も、あの怪物の前ではブリキの玩具も同然だ。
「人間の分際で。私の修羅と奴の修羅、どちらが上か…」
ギリリと牙を噛み合わせ、闇の向こうを睨み据える。
(思い知らせてくれる!!)
斜面を登って来る明かりを目掛けて、一際高く跳び上がるセンカ。
蹴られた雪の絨毯に白い大輪の華が咲く。


「本当にこの方向で合ってるんでしょうね?」
レオルが胡散臭いと言わんばかりに、リッツを横目でちらりと見遣った。
リッツ、レオル、ジーコ、ソーニャの4人はグレナデアの格納庫を目指している。
初めはルフォン市街を抜け、真っ正面からの強行突破を予定していたが、変更となった。
相手方の夜襲のタイミングから、内通者の存在は明らかだ。それ故に突如作戦を変更したのだ。
「この辺は俺にとっちゃ庭みたいなモンなんだよ、ちょっとは信用しろっての」
「へぇ…たまにいるぜ?テメーのお山で迷子になるマヌケな猿大将とかねぇ」
「ンなッ!?」
得意気に胸を張るもソーニャの一言でガクリとよろけた。慌てて体勢を立て直し、互いに睨み合う。
「このやろ…赤毛!テメーは俺に喧嘩売ってンのか!?あ!?」
「あぁ!?アンタごときがアタシに喧嘩売ってもらえるとでも思ってんの?アホ白髪!」
まるでキスをするような超至近距離で火花を散らす様を、レオルとジーコは呆れ顔で眺めていた。
「全く、これでは先が思いやられますね。いざという時までこの調子では…問題です」
「ハハハ、まぁ喧嘩する程仲が良いってなァ。案外にあっ…!?」
「「似合ってたまるかバカヤロウ!!」」
ジーコの言葉を真っ二つに叩き斬ったのは、2人の絶妙なツッコミであった。
「「…………ふん!」」
しばし顔を見合わせ、互いに背ける。やはりタイミングは完璧。
(似合ってんじゃねーかよ!)
ジーコは心の中で小さく舌打ちした。こんな事は口が裂けても言えない。
55パルス ◆iK.u15.ezs :2006/12/07(木) 00:10:01
「やたらごちゃごちゃした天井ねぇ」
寝転がったレベッカちゃんに言われて上を見てみる。これはすごい。
考古学者が来たら大興奮のあまり鼻血噴出するだろう。
「うわあ……すごい」
「何がすごいの?」
レベッカちゃんが不思議そうに聞いてくる。
普通は魔術師か操術師でもない限り古代文字なんて読めないので当然だ。
天井にびっしりと刻まれているのは消し去られた古代の歴史と知られざるこの世界の秘密だったんだ!
適当に目についた一文を読み上げる。
「夜空に輝く星はここではない世界の姿。星界は狭間、混沌にして根源……
星界より舞い降りし六星龍、発祥の地を支配し、我ら人を作る」
「読めるんだ!?」
「全てがはじまりし発祥の地は…………」
面白そうなところが調度良く欠けている!
「そんなところで止まったら気になるでしょ!」
「お二人とも……ラヴィさんが向こうを気にしておられますが……」
アクアさんに言われてみると、奥ではラヴィちゃんが透明な真ん中で開きそうな扉の向こうを覗き込んでいた。
「ヤバイよぅ!!」
半泣きになって訴えてくる。目に飛び込んできたものは……
異形の剣を持った青年の後姿と……今にも彼に取って食われそうなハイアットくん!?
「まずい!!」
とっさに突入しようとドアに触れた瞬間、信じられない事が起こった。
―未知の生体反応感知、危険生物と認識、即刻排除する―
無感情な声と共にドアが一瞬のうちに変形し、立体になっていく。
「「「「のわああああ!?」」」」
慌てて後ずさった後、目の前にいたものは……
両の翼をはためかせて宙に浮遊する、天馬の姿をした魔道機械……!
―我が名は《白のガーディアン》……侵入者、覚悟!―
56アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/12/07(木) 00:19:56
どごぉ!!と言う音と共に鉄球は壁にめり込んで止まりました。
「ああ、痛かった」
体を今度は極限まで柔らかくして鉄球の下敷きになった部分を引き抜きます。
皆様と合流すべく私は開いた扉へと向かいました。

そこは不思議な部屋で御座いました。まるで何かの実験場の様な場所。
皆様は無事でおりましたが、まるで何か起こりそうな・・・・・・

何か話し声が奥から聞こえてまいりました・・・・・

・・・・・・・・・・・・場所は変わってリザードマン集落・・・・・・・・・・・・・・・・

「あの、シスター・キリア 少しお話いいですか?」
酋長の家でブレイクタイム中のシスターキリアは、何事かと、後ろにいた声の主、キャメロンを見返した。
「シスターは町についたらどうするおつもりなので?」
何故その様な事を聞くのかと思いつつも道中、御世話になるであろう人に答えるのは義務と思いキリアは答える。
「寺院の手伝いや、処理をした後は、またどこかに派遣されるかと。」
前の席に腰を掛け手には何か商売道具でも持ってるのだろうか、キャメロンはいつになく真面目な顔つきをしていた
「実はシスターに大事なお話しがあるのですが・・・・」

・・・・・・・・・・・・場所は戻って遺跡内部・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いったい誰がいるのでしょうか?」
もしかして探していたハイアットさんでしょうか?しかし、さっきのトラップを見るにもしかしたら何かの
罠なのかもしれません。いったいどちらなのでしょうか?

57サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/07(木) 19:43:45
「行かないでくれーっ!!!!」
叫びながら悪夢から跳ね起きたハイアットは、自分の身体が自由に動かない事に気付く。
拘束具によって両手足が壁に固定され、完全に身動きが取れない状態であった。
「目が覚めたかい?」
顔を上げると、そこにはかつての友がいた。
「ぐっ・・・何をするんだ!離せ!!」
「無駄だよ、君は逃げられない。運命に逆らう事は出来ないんだよハイアット」
必死にもがく姿を、愉快なものを見ているかのように笑い、青年が答えた。
「これは運命だったんだよ、最初から全て仕組まれたシナリオ通りのね・・・」
「運命・・・ふざけるな!!彼女はやっぱり望んでなんかいなかった!僕にはわかる!!」
激昂して暴れるハイアットは渾身の力を込めて拘束具を壊そうとする。
「この時代に・・・もうジャジャラは甦ってはいけないんだよ!何でわからないんだ、ハインツェル!!」


【グラールロック、金獅子の宮殿】
幻獣の頂点に立ち、それを統べる幻獣の王グラールは雲一つ無い青空を睨み、待っていた。
失われた壁の外より来たる、侵略者を。
不意に宮殿内に気配が生じたのを感じ、グラールは『眼』を向ける。
気配の主は、身の丈3mはあろうかという巨漢。グラールはこの巨漢を知っていた。
『久しいなグレッグス、エーナセフィラで共に戦って以来かもしれぬ』
そう言うと身をよじり、巨漢・・・“十剣者のイェソド”の方へ向き直った。
「・・・頼みがある」
永い時を経て再会したというのに、イェソドは至極単刀直入に話を切り出した。
グラールは眉間に皺を寄せたが、「ふん」と鼻で溜息をつく。この男は昔から変わらない。
それに対し自分は変わってしまった。
剣を棄て、誇りを棄て、十剣者である事を棄て、獣の姿で様々なセフィラを渡り歩いた。
逃げ続けたのだ・・・あの存在から・・・

「“奴”が来る。手を貸して欲しい」
イェソドの申し出を受けるか、グラールは迷う。勝てる筈がないのだ。
世界樹を狙う大罪の魔物に。
しかし、グラールはこのズィームセフィラに来て待った。かつて護れなかったものを護る為に・・・
『管理者の剣か・・・《最深部》は黙っておらんぞ?』
「承知の上だ」
短い言葉に込められたのは、決して揺るがぬ鋼の決意。
グラールは低く唸り、古き盟友の決意に応えた。
58サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/07(木) 19:44:41
 【ジャジャラ遺跡、中枢部】
「いいやそれは違うな。再びセレスティアの繁栄は約束されたものだからね」
いつの間にかハインツェルはハイアットの持つ魔導銃をくるくる回して遊んでいる。
腰のホルスターが空なのを見て、ハイアットの顔がサッと青ざめた。理解してしまったからだ。
これからハインツェルが何をしようとしているのかを。
《天の三角》と《地の三角》。計6都市には、それぞれ都市管理用のホムンクルスが存在する。
『剣』と『銃』、2体のホムンクルスが所持する武器は都市機能管理システムの鍵なのだ。
「ハインツェル!やめろ!!」
1万2千年の妄執は壁となり、彼の叫ぶ声は届かない。こんなにも近くに居るのに・・・。
ハインツェルは管理システムのスロットに剣と銃をゆっくりと差し込んだ。
その瞳に狂喜の光を灯しながら・・・


あの日は僕にとって運命の分岐点だった。仮死状態から目覚めた時、既に世界は変わり果てた。
思い出も、なにもかもが無くなってたんだ。僕は絶望したよ。
でも僕は諦めなかった。セレスティア時代の遺跡を巡って捜し続けたのさ。
このジャジャラを!僕の還るべき場所を!
寿命を持たない僕にとっては、探索の旅は特に苦にする事もなかったよ。
情報は着実に集まってきてたし、全てが順調だった。自分の剣をどこかに無くしてた事以外はね。
当然必死に捜したよ。そんな僕に声をかけてくれたのは、死神と名乗る1人の仮面の男だった。
古代遺跡に詳しく、彼の組織は様々な古代の遺産を蓄えていたんだよ。
彼は僕に古代都市の情報提供と引き換えに、剣の探索を協力すると約束してくれたのさ。
それから暫くして、死神から連絡があった。剣を見つけ出してくれたんだよ。
組織の保管庫に僕の剣『ジルヴェスタン』があると言われ、地図を頼りに保管庫を目指した。
その途中で僕は出会った。彼女の楽器にね。運命はまだ僕を見捨ててはいなかった!
僕は狂喜したさ、彼女を蘇らせる為には三種の奏器は絶対に必要だったから。
だけど思わぬトラブルがあった。楽器の旋律が僕に予想外のダメージを与えたのさ。
結果として僕は記憶の大半を失ったんだ。
全ては振り出しに戻り、いやもっと酷い。何故なら自分が誰なのかすら分からなかったんだから・・・
59サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/07(木) 19:48:36
3ヵ月前、メロメーロに現れたアグネアストラを見て、僕は記憶を取り戻した。
自分で言うのもアレだけど、それからの行動は早かったよ。
すぐに保管庫へ引き返し、ジルヴェスタンをを手に入れて僕はジャジャラを目指した。
聖獣の消滅は願ってもないチャンスだったからさ。ガリアト湿原を安全に探索できたからね。
そして世界律の変化が、都市機能の一部を復活させたおかげで僕は帰って来れたんだよ・・・


「このジャジャラへとね」
都市の起動を確認して、ハインツェルはやや興奮気味に、ここに至るまでの道程を語り明かす。
それを聞いて、ハイアットは衝撃のあまり声が出なかった。
2人は全く同時期に、この時代で目覚め、この時代に飛ばされ、帰る場所を探していたのだ。

「ふふふ、どうやらたどり着いたようだね。」
ハインツェルが中枢官制室の入口を見て、にやりと笑う。
ドアの向こう側から微かに聞こえるのは、パルス達の・・・仲間達の声!
「ようやく、ようやく元通りになるんだよハイアット!幸せだったあの頃が!!」

ハインツェルの声に呼応するかのように、遺跡全体が振動を始める。
かつて空に浮かび、世界を支配した伝説の都が・・・
1万2千年の時を経て再び空へと浮上を開始したのだ!!
60アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/08(金) 23:52:03
夜が明ける頃、私は前を行く四人の背を見ながら雪道を歩いていた。
足元は新雪だけれども、重力制御のおかげで歩くのに苦労はない。
雪は降っていても徐々に明るくなりだした空を見ながら、数十分前のことを思い返していた。


「ああ、この道なら知ってるが、獣道だぞ?地元の人間だって殆ど知らないのに・・・。ここらにコボルドなんて住み着いてたのか。」
地図を見たリッツさんは懐かしくも嬉しそうに地図を確認している。
獣道のうえ高低やその配置ゆえに多人数ではいけないけど、伏兵も配置する場所もないルートだと。
ましてやゴレムなど入り込める場所ではないと付け加え、案内を買って出た。
こうやって話す姿はいい人に見えるけど、私はその正体が危険すぎる存在だと知っている。
世界を喰らいつくす危険がある存在だ、と。
「いいじゃねえか。あの騎士の坊ちゃんの事だ、今夜の奇襲で作戦延期とか言い出すのは目に見えているからな。
正面からの陽動はやめだ。俺達で分捕っちまおうや。」
岩山のようなジーコさんがそれに賛同する。

「・・・コボルド、ですか・・・。いいでしょう。行きましょう。」
盛り上がる二人の後ろから、静かに同意を伝えた魔術師。レオルさんの言葉に私は鳥肌が立った。
レオルさんの言葉と共にほんの僅かに、多分絶対気付けないであろうオーラの揺れ。
動揺や、逡巡ではない。全てを了解したような・・・。
荒涼としたオーラだからこそ、その小さな揺れがよりはっきりと感じられてしまう。
多分レオルさんは殆ど察している。
地図の出所であるコボルドのおじいさんが、ただの住人でない事。
もしかしたら、私の思惑までも・・・そんな気にされてしまう・・・。
そしてそれを承知の上で、確実な何かを持って賛同している。そう感じてしまった。

「じゃあ早速行こうじゃないか。明日着くギルビーズ隊を笑って出迎えてやるわ。
うちの隊を陽動に正面に向かわせるから、ここの四人でいいね?」
「え、あ・・あの・・・僕・・・」
「なんだい、アビサルも来るかい?地図を持ってきたのもあんただしね。来たいのなら付いておいで。
だけど危険だからあたしから離れるんじゃないよ?」
「あ・・・はい・・・」
地図を渡してから出発まで僅か数分。
その展開の速さに、ソーニャさんにグレナデアについて聞けなかった。
どの道、二人っきりでないと聞けないのだけど・・・


結局、二人っきりになる合間もなく、今に至る。
前ではソーニャさんとリッツさんが口喧嘩をしている。
罵り合ってはいるけど、なんだか楽しそう。あんな近くでにらみ合って、息もぴったりで・・・

・・・なんだろう・・・この胸のもやもやは・・・
何か私の中でどす黒い何かが渦巻いている・・・
リッツさんが危険な存在だというのはわかっていたけど、近くにいて肌で感じたせいかもしれない。
グレナデアと同じ、もしかしたらそれ以上に危険な存在なのかも・・・。
そう思うようになるのにそんなに時間はかからなかった。

コボルドのおじいさん・・・どこで仕掛けてくるんだろ・・・
それでリッツさんが死んでくれれば・・・
もしグレナデアまでたどり着いたら・・・グレナデアと一緒に星界に追放した方が・・・

どんどん自分の考えが怖い事を考え出しているのに気付いたけど、止められない。
多分今の私はとっても醜い顔になっている・・・
それを悟られないように、私はそっと縦目仮面を被った。
61グレナデアを見下ろし ◆9VfoiJpNCo :2006/12/09(土) 00:06:38
送り出したハイドラの反応が途絶えて数時間後、その晩をぐっすりと眠ったベルファーはグレナデアの全景を見下ろせるお気に入りの場所にいた。
「ババンババンバンバ〜〜〜ン♪」
発掘作業の折に湧き出した温泉の一つにゆったり肩まで浸かり、哺乳瓶片手にご機嫌と鼻歌を口ずさむ。
傍らに現れた気配に、天を仰いで手拭いジャバジャバ。
「硫黄の匂いは戦場の香り。太古の戦場に程近い、グレナデア温泉にようこそ」
「…………」
「血行促進、治癒力助長はもちろんのこと、内臓疾患、関節痛、視力の衰え、酷い火傷にハゲ、虫歯、痔には軟膏オロナイン♪
当温泉にも治せぬものはお決まりの、頭の病気と恋の病♪ こればっかりは僕様も、大匙投げてハイお終い♪」
「ウキャ?」
「なんだサルか。ここは私有地だぞ、速やかに去りたまえ。さもなくば使用料を請求するぞ」
「去る者は追わず」
「来る者拒まず、六神合体ゴッドマーズ」
降って湧いた老人の声に意味不明な言葉で返し、ベルファーは哺乳瓶に口をつけた。

「虎の子が苦もなく捻られたというのに、相変わらずの余裕ですのう伯爵?」
「うん、まあ、ハイドラは試作品だし試金石だし〜。敵の本隊を足止めできただけでも御の字かなってね」
「ふむ、確かに向こうの大将は完全に尻込みしておりますな。主力の数人が戻ったとしても、難癖つけて攻撃を先送りにするのは間違いないかと」
「おお、神よ。頭の良い人達はなんと愚かなのでしょう」
おどけるベルファーに、老人は無言を持って返した。
「……アレをね、どうやって運ぼうかと色々考えてたんだよ」
「良案は浮かびましたかな?」
「いくつかね。けど、やっぱり起動させるのが一番手っ取り早いかなあ。最善は埋め直して慰霊碑でもおっ建ててやることなんだけどねえ」
「ほっほっほ、ご冗談を。ここまで漕ぎ着けておいてそれは――」
「うん! そうしよう!」
「……は?」

善は急げとばかりに前も隠さず立ち上がるベルファー。
「ウッキャイ!!」
同時に、温泉に浸かっていた子猿の一匹が見えざる大宇宙的倫理観の働きによってその股間にしがみつく。
「臭い物には蓋! スイッチオン!!」
高らかに宣言し、哺乳瓶を握る手に力を込め――そうはさせじと老人が瞬く。
しかし、僅かに遅い。
そこまで読み切った上でのベルファーの行動である。
そして、そこから先もある程度は予測していた。
「フフッ」
突如現れた老人以外の気配の主によって、哺乳瓶が跳ね上げられる。
「そう、すべては僕様の計算通り! 貴方はずうっとここで起こる事の成り行きを――」
乱入者の存在に足を止める老人、ベルファー自信満々といった表情で子猿諸共華麗に反転。その者へと指を突きつけ、
「……誰?」
首を傾げた。
岩の上から見下ろすのは、黄金の仮面を被り星図の柄のマントで全身を包んだ、ただならぬ雰囲気の人物であった。
予想とはまったく違う、斜め上どころか明後日の方向の登場人物に呆けながらも、ベルファー見事に哺乳瓶をキャッチ。
そして更に、二つの気配が背後で起こる。
「やはり計算――誰っ!?」
のんびりと温泉に浸かる黒猫獣人と半馬人間の姿に、ベルファーまたも予想外と無意味に回転。

だが、度重なる驚きの衝撃も、彼にとっては退屈な人生の彩りのようなもの。
「初めまして皆さん。生まれたままの姿で失礼。生まれてきてザマーミロ。ベルファー・ギャンベルです」
股間の子猿共々誇らしげに胸を張り、
「僕様は君達より格上だ。以後、よろしく」
ふてぶてしさ極まる一礼でもって、ベルファーは転がり始めた大きな何かに挑む姿勢を正した。
62ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/09(土) 01:23:57
――ガナン政策ブロック レーゼンバッハ邸

執務室の散らかった様を眺め、カールトンは込み上げる笑いを堪えるのに必死だった。
上手くいき過ぎていただけなのだ、抵抗しない獲物など、家畜と変わりはしない。
「やられましたねカールトン卿。遊びも結構ですが、我々の目的を忘れないで頂きたい」
気配もなくカールトンの隣に現れたのは、公国軍元帥ミュラー=アイゼンボルグだった。
「ふむ、確かに遊び過ぎたな…全く、パルモンテの小伜に“してやられた”よ」
「口実、ですかな?」
愉快そうに笑うカールトンの眼に暗い狂気が揺らめき、ミュラーは思わず身震いした。
カールトンは公王ギュンターと共に龍人戦争を生き抜いた英傑だ。
今でこそ一線を退いたものの、その実力は現役時代に比べて微塵も衰えてはいない。
「勿論そうだとも。ガナン内で消すのはなにかと問題も多いのでな。だが…外でなら」
「成る程、公王陛下暗殺未遂に加え、レーゼンバッハ家を襲撃…ガナンから逃亡の後、
 戦線に巻かれ非業の最期を迎える、と?実に陳腐なシナリオですが、まぁいいでしょう」
多少不満をあらわにしたが、ミュラーはその案に承知した。
中央戦線が突破され、戦線は徐々に北上している。王国軍の快進撃は止まる事を知らない。
「グレナデアをもう一度使う。虫けらの群れが吹き散らされるのは愉快痛快だろう?」
カールトンは壁に開いた穴を撫でながら、ミュラーの方へ振り返る。
「アダマンティン製のガナン外壁部を貫通した上に、居城の最上階半分以上を消し去る
 程の威力だ…。戦場に撃ち込めばどうなるか、非常に楽しみでならんよ」
ミュラーは何も言わなかった、グレナデアの性能テストは彼にとっても興味があったからだ。
「ふふふ…邪魔な小娘もろとも始末出来れば、テストも出来て一石二鳥というものだ!」
バンザイのポーズでイアルコが脱出した壁の大穴から差し込む夕日を受け、カールトンは叫んだ。

(ん…?二鳥じゃなくて三鳥では?)
ふとツッコミそうになったが、流石に怒らせるのはまずいだろうと我慢するミュラー。
例え冷酷非情な軍人であっても、ちゃんと場の空気は読めるのである。
63ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/09(土) 09:45:01
ったくよォ、仲良しこよしじゃねぇか。俺はヤレヤレと肩をすくめた。
山を登り始めてから、こいつらはずっとこの調子だ・・・。

アビサルというチビが持って来た地図は、俺達にとっては非常にありがたかった。
襲撃を切り抜けたものの、部隊の再編やらで時間をくって即座に反撃に移れなかったからな。
結局少人数での奇襲に切り替えたって訳だ。直接グレナデア格納庫を叩く、実にシンプル。
しかしよォ・・・このチビはさっきからムスッとした顔だが、何か違和感があった。
好きな女取られてヘソ曲げる餓鬼のツラじゃねえ、隙あらば殺してやろうって眼だ。
その視線は真っ直ぐに白髪小僧に向けられてやがる。
レオルも気付いたのか、眉を寄せてたが黙ったままだ。まぁここで何を言っても無駄だろうな。
他人の色恋沙汰にゃ、なるべく触らねぇのが一番だってことだ。

「もうすぐ夜が明けますね。日が昇らない内に攻め込みたかったのですが・・・」
レオルがグナード山の向こうを見て、少し不服そうに呟く。確かに空が薄明るくなってきたな。
「その心配ならいらねえよ、着いたぜ?」
そう言って白髪小僧が指差す先には、馬鹿みてぇにでかいドーム状の建物が建っていた。
山の斜面に建てられたそれが、格納庫って訳か・・・つーか「被せただけ」って気がするな。
つまりそれだけグレナデアがでかいって事だろう。俺は気が遠くなるのを感じた。
大昔の連中は何を考えてこんな馬鹿でかいモンこさえやがったんだ、と。
「伝承では聖獣を倒す為に造られたと聞きます。それほどまでに聖獣は脅威だったのでしょう」
まるで俺の心を読んだかのようにレオルが口を開いた。
「あの様子ではまだ本体の三分の一は地中に埋まっているようですね」
相変わらずの無表情だったが、レオルの言葉の中には多少の苛立ちみたいなのを感じとれた。
こいつもやっぱり人間ってか。何となくだがホッとした。たまにこの男は得体の知れねぇ不気味さがある。
「そんだけ埋まってんならそのまま埋めちまおうや」
「・・・・・・」
冗談の通じねぇ奴は嫌いだ、ったくよォ。

「明かりが一つも点いてないってのは気になるわねぇ、何か見えるかい?」
赤毛がチビにそう尋ねたその時、
「!?き・・来ますよ、てて敵ですッ!!」
チビの声と同時に、空から何かが降って来やがった!!
64ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/09(土) 16:09:54
現れた番人、それはイミテーター。ミミック等に代表される擬態型魔法生物だよぅ。
猟理人にとって1番厄介な相手・・・なぜって?普通の生き物とは体のつくりが違うからねぇ。
骨格から筋繊維まで、特定の内臓器官を持たないイミテーターには猟理方法が通用しないの。
でも、攻撃はできるよ!今は万能な4番が使えないけど・・・こんな時のためにコレがあるッ!!
『侵入者を排除します』
ぶんッと刃状の翼を広げて突進して来るのを寸前まで引き付けて避けると、ラヴィは包丁を抜くよ。

6番包丁、『十六夜』。ラヴィは滅多に使わないこの包丁は、2本で1組の丸鉈包丁!!
ホビットの筋力じゃ普通の猟理包丁は重過ぎるから、本来のスピードを発揮できないの。
だからホビットっていう種族のスピードを最大限に活かせる小振りの包丁がラヴィにピッタリ!

 ギィイイインッ!!!
火花が舞い散りながら刃が食い込んでいくよ、このまま振り抜いて開いた傷に突き刺し・・・!?
 ドゴッ!!
急停止したガーディアンが、無理矢理に蹄の一撃をラヴィに叩き込んだと解ったのは、
ラヴィが壁際まで吹っ飛ばされてからだったよぅ。
反射的に自分から跳んで、攻撃の威力を消さなかったらたぶん死んでたかもぉ・・・・。
「ちょっと待ってな!!最強の歌で・・・って、あれ!?《星晶の瞳》が鳴らない!?」
レベッカ姉ちゃんがリュートを演奏しようとして、いきなり悲鳴を上げたよ!
「え・・・嘘ッ!?僕の《暁の瞳》も音が出ないよ!?ど、どうなってるのーッ!?」
パルちゃんの楽器まで?ほんとにどうしちゃったの!?2人の呪歌の援護無しじゃキツイよぅ!!

さらにガーディアンはラヴィ目掛けて突進して来た!これじゃ避けられないよぅ!!
目をキッと開いて、迎え撃つ構えを取った瞬間、ラヴィを飛び越える人影!
「スリタブ流奥義、飛天月光落とし!!」
壁を蹴って高く飛び上がるアクア姉さん!バク転の要領で体を捩り、ガーディアンの背中に激突!!
メキメキと破砕音を立ててガーディアンが逆くの字に折れ曲がっちゃったよ!?
「今です、ラヴィさん!スリダブ流奥義、鬼神卍固め・改!!」
アクア姉さんの手足がぐんぐん伸びて、がっちりと巻き付いちゃったよ!?すごい!!
「私の体は“斬られ”ても平気です!」
65ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/09(土) 16:10:56
「なるほど〜、おっけぃ!!!」
ラヴィは息をスーッと吐いて、十六夜を逆手に持ち替えるよ。
ラヴィの編み出した最強の猟理闘法クック・マカブル、いくよ〜せーのッ!!!
「とりゃあああああああああああああ!!!!!!」
ラヴィが最高速度を出せるのはたった7秒間だけ。その7秒で絶対やっつけるッ!!!

   ********************************************* 

突然過ぎる楽器の故障に、レベッカとパルスは自分の楽器を茫然としながら見つめていた。
手入れは毎日欠かさない。楽士にとって楽器は命と同じ、異常があればすぐに分かったはず。
しかし二人の楽器は突然音が鳴らなくなった。
それもそのはず、楽器に封じられた魂が還るべき器を目指し、楽器から出て行ったからだった。
だが二つの魂は器に戻ることが出来ないでいた。
楽器に封じられたアーシェラの魂は三つ揃わなければならなかったからだ。
「くそッ!一体どうしちゃったんだよ!!絃もリフトも、何もおかしいところなんて無いのに!」
レベッカが必死にリュートを弾くが、やはり音は全く出ない。それはパルスも同様だった。
(僕は楽器無くても戦えるけど、呪歌の支援が無くなるのは厳しいかも・・・・。)
パルスは前方でガーディアンと戦っているラヴィとアクアを見て、剣を抜いた。
とにかく今の自分にできる事をしよう。パルスはそう結論を出したのだ。

   *********************************************

 キンッ!
澄んだ金属音が響き、ガーディアンの身体はバラバラ。その切り身は綺麗に横一列でラヴィは深呼吸。
「一丁上がりだ・・・よーッ!?」
上出来だから満足だったのに、ガーディアンの切り身がまたまたくっついていくよ!!
「な・・・!?しまった!?」
アクア姉さんが人型に戻る途中でガーディアンの再生に巻き込まれてる!
スライムとイミテーターは同じ系統のモンスター、下手するとアクア姉さんが吸収されちゃう!!
「・・・く・・・あぁっ!!」
苦しげな声、なんとかして振りほどこうとしてるけど・・・間に合わない!?
「少し熱いけど我慢して!」
ラヴィの横を駆け抜けて、パルちゃんが炎を纏うダンスと一緒に、剣を閃かせたよ!!
66パルス ◆iK.u15.ezs :2006/12/10(日) 01:55:34
「やめろ、アスラ!!」
浮上による揺れの中、ハイアットは叫んだ。
仲間たちに襲い掛かっている魔法仕掛けの天馬は、大切な友達のうちの一人だったのだ。
「君は誰とでも仲がよかったもんなあ。でも無駄だ。もうあいつは君の事なんて覚えていないよ」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

アクアさんが危ない!!旋律術が封じられた今、あの手で行くしかない!
最も早く移動する方法は滑ることだ。剣の柄で、いつもは格納してある靴底のローラーを立ててセットする!
ちなみにマジックアイテムでもなんでもない子ども達に大人気のローラー付きシューズである。
「ちょ!?危な!!」
「大丈夫、滑るのは慣れてる!」
「……笑えね――ッ!!」
レベッカちゃんの声をバックに、助走を付けるように駆け出した!
通常よりも格段に早いスピードで回転し、ファイアステップを組み上げる。
もちろん今回は剣の片面だけに火が付くようにアレンジ済みだ。
ガーディアン側に炎をまとった面を向けて、今にも融合しようとしている接合部を焼き切った!
「ありがとうございます。ほんの少し吸収されたようですが……」
と、さり気なく怖い事を言うアクアさん。でもこのまま一気に行く!
ガーディアンはあっという間に元に戻ってしまった。単なる物理攻撃は効かないようだ。
スライムと同系統、弱点は炎……こうなったら全体を炎で溶かすしかない!!
左足を軸に跳び、滑空しながら4回転スピン【クワドラブルアクセル】で斬りかかる!!
振り向きながら着地する。炎の渦に包まれ、崩れ落ちる……かに見えた。
「やった!?」
が、まだ堕ちなかった!
『耐久力50パーセント消耗。強敵と認識。リミッター解放……!』
純白の光と共に床全面に魔法陣が展開される!自分の顔から血の気が引くのが分かる。
魔法陣の大きさが尋常ではない、発動すれば無事では済まないだろう。
「パルちゃん、これってそんなに……!?」
ラヴィちゃんの言葉に無言で頷く。
「くっ、魔封じの呪歌さえ使えれば……」
レベッカちゃんが悔しげに壁を叩いた……。
『【セラフィックローサイト】発動』
無情にも光属性の破壊魔法が発動する……かと思ったその時!!
「やめろおおおおおおお!!」
響いたのはハイアットくんの声!!
『…………!?』
ガーディアンがその声に呼応するかのように動きを止め、光の魔法陣が消える。
『はいあっと……?』
さっきまでが嘘のように大人しくなった。
突然ハイアットくんの声が届いたのに理由があるとすれば、アクアさんの欠片を取り込んだからかもしれない。
そして僕たちの方を見て言ってくる。
『お願い、はいんつぇるを止めて……狂っちゃったんだ……ジャジャラを愛するあまり……』
気のせいかもしれないけどとても悲しげに見えた。ハインツェル……いや、まさか、単に名前が同じだけだ。
「ようこそ、君たちは幸運だ。この素晴らしい瞬間に立ち会えるのだから!」
でも……そう言って歩いてくる青年は、確かに……
ちょっと前の仲間で、すごく弱そうだったけどそれでも僕を助けてくれたハインツェルくんだった……。
「この前は世話になったね、パルス」
「う…そ……」
自分の取り落とした剣が、床に落ちる乾いた音が響いた……。
67グレナデアを見下ろし ◆9VfoiJpNCo :2006/12/10(日) 03:47:38
「ぶえーーっくしょい!」
盛大なクシャミをかまして再び温泉に浸かるベルファー。どうやら湯冷めしたらしい。
ま、この寒空で素っ裸ともなれば当然至極であろうが。
「やあ、風邪には気をつけた方がいいですよ。先生も、この寒さですっかり参ってしまったんですから」
下半身だけを湯に浸けたアオギリがにこやかに言い、口元まで浸かってコポコポと気泡を上げるクロネの頭に手を置いた。
「私の名はアオギリ・コクラク。こちらの御仁は断流クロネ・コーフェルシュタイン卿。
――龍人の名門の出たる貴方ならば断龍≠フ名に聞き及びがおありでしょう?」
ケンタウロスの若武者の名乗りを受け、目を見開いてベルファーがクロネを見やる。
かの龍人戦争において実質的なトドメをもたらした者の一人……そう、彼は認識していたのだが、
「……これが? ギュンター公やカール叔父さんの話とは随分と違うなあ」
そのギャップに、ただ腕組みして唸るばかり。
温泉に浸ったその生き物は、暖炉の傍で丸くなっているアレとまったく同じ顔で、何やらフイフイ鼻を鳴らしていた。
「実にいい湯だと、先生は仰っています」
「あ、そう。まあ、お爺さんの反応からしてみて本物なのかねえ」
彼にとっての絶対者と肩を並べる二人の登場により、シバはすでに姿を隠す事をやめていた。
杖を突き、だらりと長い毛を垂らし、まったく読めぬ表情で控えるのみである。

「で、何の用なのかな? まさか、わざわざ僕様の裸を見に来たわけじゃないっしょ? ……それとも、斬りに来たとか?」
冗談めかして言うベルファーに柔らかく笑むアオギリ。
その笑顔の奥にある物騒なものに、ベルファーは思わずグビリと哺乳瓶でもって喉を鳴らした。
やるつもりなら、それはとっくの昔に済んでいるのだ。
「そちらの方は、どうなのでしょうか? グレナデアが埋め立てられると困るようですが?」
水を向けられ、岩の上に佇んでいた黄金仮面の人物は厳かに言った。
『其は、ただ星辰の織り成す導きに従ったまで』
果たして男か女か、人間なのかすらもわからぬ不思議な声である。
「なるほど、観察者気取りの方ですか。そのくせ星が照らす運命に干渉しようとは、中々含むところがおありのようで?」
『万物の理を覆さんとする、御主等程ではない』
その響きから仮面の下の感情を読み取る事も、また不可能であった。
不気味にして荘厳、その印象に尽きる。
「おーい、用がないなら僕様上がっちゃうよー?」
場に走るピリピリとした緊張感を吹き飛ばそうと、哺乳瓶を弄びながら話を急かすベルファー。
「ああ、すみません」
素直に頭を下げるアオギリ。
どこまでも、相手を敬う丁寧な物腰である。底知れぬ不気味さでいえば、軍配はこの若武者にこそ上がるのかもしれない。
「用件は単純です」
柔和な顔にそぐわぬ修練の結晶のような手。その指先を、この地に渦巻く因果の中心へと向け、
「一撃のみ、アレの大筒をお借りしたい」
天弓神槍、草原に吹く風の如く申し候。
68リッツ ◆F/GsQfjb4. :2006/12/10(日) 16:45:17
突然の出来事に、リッツは訳も分からず吹き飛ばされた。
小石が跳ねるかのように、雪を舞い上げながら斜面を転がり落ちていく。
殴られた、そう理解するのに約1秒。しかしその1秒は致命的なタイムロスとなる。
隠衆が一人、隠衆南方先遣隊副頭目“轟天”のセンカ。
彼が使うはリッツと同じ《修羅双樹八世御門》。
全く同じ業(わざ)の使い手ならば、その勝敗を別つは技量の差のみだ。

「な…何だ!?敵か!?」
ジーコが襲撃者の姿を目で追うが、一向にそれを捉らえる事は出来ない。
肉体能力の限界を遥かに越えた強化がもたらす速度は、常人には決して辿り着けぬ領域。
(次で仕留める!)
センカは4つ目の門、《四岑》を開く為に体内の氣を練り上げ、周囲の大氣と同化させた。
そして気付く。自らの氣と同化するはずだった大氣が、急激に失われつつある事に!
(…どういう事だ!?)
目を凝らし、大氣の流れを見た瞬間…センカは背筋が凍るような殺気を叩き付けられた。

まるで渦、底無しの…全てを巻き込み、喰らい尽くす蟻地獄の如く広がる渦が見えた。
「痛ぇじゃねーか、コラ…」
吹雪のカーテンの向こう側より聞こえるは、純粋なまでに激しく、熱く、猛る怒り。
「俺は16までこの辺に住んでたんだけどよ…挨拶でワンパンくれんのは初めてだなァ…」
冷たい眼で睨み、牙を剥いて唸るは白き獣。
長い頭髪を吹雪に揺らし、ゆっくりと起き上がり、ぎりぎりと音を立てて拳を握り絞める。
センカが《四岑》を開くより先に、リッツが《四岑》を開いたのだ。
「チッ…人間の分際で……ほざくな!!!」
雪を蹴りセンカが跳ねる!電光石火、まさに稲妻の疾さでリッツに肉薄して拳撃。
大砲の炸裂にも似た轟音が響き、リッツの身体が大きく退け反った。
センカは攻撃の手を緩めはしない。更なる一撃を繰り出す為に上体を反らし、力を込める。
「だからよ…痛えってんのが聞こえねぇのかクソが!!」
追撃を返す拳で相殺するリッツ。拳と拳が激突し、その衝撃波が吹雪を引き裂いた。
「…ぐ…ぅッ」
予期せぬ反撃に、刹那の惑いを見せるセンカ。その隙を逃すリッツではない。
空を裂き、剛腕をセンカへと叩き込む。
センカも両の脚を踏み締め堪え、みしみしと軋む筋肉を捩伏せ、反撃を見舞う。

拳と拳、互いに退かぬ攻防が幕を開けた。
69リッツ ◆F/GsQfjb4. :2006/12/10(日) 16:46:09
いきなり目の前で始まった戦いに、唖然とする4人。
その人間離れした破壊力は、打ち込む拳の立てる轟音と、巻き起こす風圧が証明している。
「あ…あれが…白髪小僧の…本性って事かよ…ありえねぇ…」
震える声で力無くジーコが呟く。無理もない。
拳が行き交う2人の周囲には、吹き付ける猛吹雪すらも掻き消されているのだから。
「しかし、妙ですね。何故コボルトが我々を攻撃するのでしょうか」
平静を取り戻したレオルの一言に、ほんの僅かだがアビサルの肩が小さく揺れた。
(気付かれる?…でも、ここでばれるのは…)
「も、もももしかして、ぼ僕達を公国…のひ…人と間違ってるるんじゃな、ないかと…」
出来る限り平常を保つよう試みるも、その声は自然と振るえてしまう。
だがこの場合は普段よりどもってしまうアビサルの口調が幸いしたようだった。
「ふむ…なるほど、それでは誤解を解かなくてはなりませんね」
(…えっ?)
予想外だった。レオルは事もなげに、戦う2人の所へ向け歩き出す。
このままではまずい…アビサルは必死に思考する。レオルはもしかして全て見抜いているのでは?
そんな風に考える。しかし確証は無い。下手に動けば、あの男は容赦無く自分を攻撃する。
ただそれだけは確信していた。
どうするか…。仮面はアビサルの苦悩を隠してくれてはいるが、レオルを止めてはくれない。


ドオォンッ!!これで何度目の激突だろうか。両者文字通り1歩も退かずに打ち合っている。
「しぶとい…」
ドオォンッ!!強烈な横殴りの一撃がセンカの頬を打ち抜き、意識が途切れそうになる。
ドオォンッ!!センカの突き上げる拳がリッツの顎に直撃し、僅かにその身体を浮かせる。
「ぐ…やるじゃねぇか…」
そして、つい先程からは一切のガードをする事なく、一撃ずつ交互に殴り合っている。
どちらが先に力尽き倒れるか…これはまさしく究極の我慢競べであった。
「ハァ…ハァ…いい加減に…倒れ……ろ」
ドオォンッ!!
「うるせぇ…ハァ……ハァ…犬野郎!!」
ドオォンッ!!
「うぐあ……ッ!?…負ける…訳に…は…いかぬ!!!」
ズドオォンッ!!!
「ガハァアッ!!……っ!!ハァ…そりゃ…ハァ…俺もだ!!!」
ズドオォンッ!!!
意地と意地がぶつかり合い、この我慢競べはまるで終わる様子はなかった。
70アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/12/11(月) 23:33:18
ガーディアンに少し吸収された際、彼の意識が私の中に入り込んできました。

『ハインツェルもう、やめよう・・・・・・ジャジャラが、アーシェラは、もう蘇らない・・・・・。』

パルスさんが見つめる先の青年がハインツェルさんだと瞬間に理解出来たのは、ガーディアンとの意識を数秒ですが
共有したからなのでしょう。前から歩いてくる青年の目には狂気が・・・・・・・・・・・
その時で御座いました、私の体から力が・・・いいえ、まるで魂が抜けてくかの如く、その場に倒れこんでしまったのは。

・・・・・・・場所は変わってリザードマン集落・・・・・・・・
手にした宝珠をキリアに差出し震えた声でキャメロンは勇気を振り絞った。
「・・・・・28年前、まだオレが冒険者だった頃、ある、海人(シーマン)にあったんだ。」
シスター・キリアはただ静かに話しを聞いていた。

・・・・・・ジャジャラ遺跡内部・・・・・・・・

意識がはっきりとはしませんが皆様が何かを言っているのだけがやっと理解できました。
その中でこの声だけがはっきりと意識に直接響いてまいりました。
「さぁ、新しい時代の始まりだ!!」

培養液に浮くアーシェラの眼がうっすらと開き始めた事に気がつく物はまだ誰もいなかった。

・・・・・・・リザードマン集落・・・・・・・・・
キャメロンの独白は続いていた。
「その海人は、オレに1つの依頼を頼んだんだ。それはある寺院に子供を置いてきてほしい。それと、この宝珠を
預かって欲しいと」
そこまで聞いてキリアは静かに口を開いた
「その寺院と言うのはもしかして・・・・」
「スリダブ寺院」
「その子供と言うのは・・・・」
「人型のスライムの子供」
なんという事だろうか、まさかこの様なめぐり合わせがあるとは、シスター・キリアは驚きを隠せないでいた。

・・・・・・・・・・再びジャジャラ遺跡・・・・・・・・・・・
「何故だ!?何故目覚めないんだ!?」
狂気にも悲鳴にも例えれるような絶叫でハインツェルは叫んだ。
うまくいくはずだった、彼女の魂が分けられた二つの楽器、そして転生した魂、確信があったのだ。
倒れたアクアに無造作に近づき顔を鷲掴みにする。
「な!?こいつ、記憶を封じられてる!?」

・・・・・・・・・・リザードマン集落・・・・・・・・・・・・・
「海人はいっていたよ、この宝珠には記憶と魂を封じ込めたって、時がきたら必ず渡す相手が現れるだろうとも、
ただ、こんな事もいっていたな、何故か二つの魂が封じ込められたとも」
衝撃の告白にキリアはどうするべきなのかを悩んでいた。
「つまりそれはアクアの記憶だと・・・・」
「おそらく・・・・な」
71グレナデアの砲火 ◆9VfoiJpNCo :2006/12/12(火) 02:33:39
「若いのう」
「若いですねえ」
天蓋の向こうで弾け合う気配に、クロネとアオギリは年寄りじみた感慨を込めて呟いた。
「恐れ多くも見苦しいところをお見せしてしまい……真に申し訳御座いませぬ」
噛み締めるように言い、ぞわりとシバの毛が揺れる。
……莫迦者め。
伏せられた瞳が灼熱の舌を巻く。この老人は憤慨しているのだ。
事もあろうに正面からなど、忍びとして失格の烙印を押されても文句は言えない戦法だ。
万策尽き果てたのならば、それもよかろう。力及ばぬのならば、それもよかろう。
しかし、センカならば最初の不意打ちで皆殺しの手もあったのである。
人間憎さに目が眩むとは……愚かしいにも程がある。
傍目には完全に抑え込まれているように見えるシバの怒気。
それを知ってか知らずか、依然としてふやけた調子で話を進める黒猫と若武者であった。

「一応聞くけど、角度と向きはこれでいいんだよね〜〜!?」
「ええ、万全です」
ベルファーの叫びに、グレナデアの長大な砲身の上に降り立ったアオギリは、涼やかな声で返した。
「よし、ここでロックと」
温泉に浸かったまま、哺乳瓶で奇妙な形を空を描くベルファー。
同時に、グレナデアの主砲が重厚な響きを上げて安定の気配を見せる。
その明らかな連動ぶりにアオギリは賞賛の拍手を送り、クロネは瞳孔を真ん丸にして尻尾を揺らした。
一体如何なるカラクリによるものか……恐らくはベルファー以外に理解する事も用いる事もできぬのであろう。
流石は大陸一の頭脳の持ち主と言うべきか、何にせよ褒めるにはかなりの素直さが要求される青年であった。
「ねえ、断龍さん? あの子ちょっと大丈夫なの?」
「むにゃん?」
「お空も見えないのに狙いをつけるとか言ってさ。どこに撃ちたいのか知らないけど、暗算で弾道計算できるようには見えないんだよねえ」
「弾道計算ってにゃに?」
猫そのものといった顔で聞き返すクロネに、ベルファーは少しばかりの無言をもって話を収めた。
「まあ確かに、如何な達人であっても大筒と弓では勝手が違う故、初弾で命中するとは誰も信じられぬであろうな」
「……いや、勝手云々の問題じゃないんだけどね。――って彼、弓矢しか使った事ないの?」
「うむ、天弓神槍とはよく言ったものよ。かの永遠の若武者は、一万里先の羽虫の目玉すらも射抜いてみせる、人智を超えた腕前の持ち主なのだ」
「ハッハッハ! それはもう、腕前じゃなくって怪奇現象と言うべきだね」
妙に行き違いながらも会話の弾む黒猫と博乱狂気の後ろで、黄金仮面とシバは立ち上る湯煙の如く佇んでいた。


吹き荒ぶ雪の中、寄せては返す荒波二つ。
方や荒ぶる血の色の、獣の瞳に人の顔。方や鋭き氷雪の、瞳の色に獣の牙。
打ち打ち打たれ、いざや沈めと白布の原に混ざり合う。
男が踏み込む、憎し憎しと真っ直ぐに。
男が踏み込む、今はただ生来の激情の赴くがままに。
どちらかの、あるいはどちらもの命を奪う交差の刹那、それは起こった。
いや、興ったと云うべきか。
鋭き雷の一対が、眼下の天蓋を貫き奔った。残された轟きは、柔き雪に包まれた山々を震わせる。
怒涛の如く、雪崩落ち候。
誰かが叫び、手を伸ばした。
誰かが動き、呑み込まれた。

朦朧とする意識の中、彼は迫る天蓋と、その向こうで産声を上げる巨影を見た。
72ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/12(火) 12:46:34
何かが光った、そう思った直後だった。
一瞬の出来事だったさ。山の斜面が吹っ飛んで、次の瞬間には雪崩が俺を押し潰していくんだ。
まともに身動きとれねぇまま押し流され、赤毛やチビやレオルの姿もあっという間に見えなくなった。
そして白髪小僧・・・奴は雪崩に飲まれる寸前まで殴り合いを止めようともしてねぇ。
最後に薄れ行く意識の中で、俺は今までの人生で出会った強敵達を思い出していたよ。
こいつが走馬灯ってやつか、こんなのも中々悪くねぇもんだな・・・ってな。

  ######################################

雪に混じり鮮血が舞う激闘に、終幕が訪れようとしていた。
「おい、そろそろ・・・降参しろ・・よ。じゃねぇと・・・・死ぬぞ?」
迫り来る白き爆流をものともせず、リッツはセンカに言い放つ。
「・・・吐かせ・・・人間っ!!!」
怒りに牙を剥き出し、センカは渾身の一撃を、最後の一撃を繰り出すために命を燃やした。

疲労と負傷が限界にまで達した肉体は、既に各所が崩壊を始めている。
『三華』までしか開けていない状態で『四岑』を開けた敵と戦い続けたのだ。
当然の結果と言える。技量の差をもってすればいともたやすく倒せた相手だった。
しかしセンカは憎しみに負けたのだ、己の中に巣くう人間への憎しみに勝てなかったのだ。
だからセンカは応じてしまった。一撃ずつ打ち合うなどと、馬鹿な誘いに乗ってしまった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

雄叫びと共にセンカの放つ最後の一撃が、リッツの顔面を捉らえた・・・かに見えた。
「クソが・・・まだこれからじゃねーかよ犬野郎・・・」
悲しげにつぶやくリッツの鼻先寸前で止まった拳。
憎しみに呑まれ、誇りを捨てた修羅は真っ直ぐにリッツ睨んだまま、息絶えていたのだ。
命の灯を絶やしてまで、撃たねばならなかった訳ではない。しかし、センカは撃った。

死してなお、センカが歩むは修羅の道。
送るリッツは静かに目を閉じ・・・

死闘を繰り広げた2人も、押し寄せる雪崩の中に消えた。

  ######################################

この日こそが、大陸を揺るがす大戦の始まりだと俺が知ったのは、もう少し後の事だった。
73名無しになりきれ:2006/12/12(火) 13:49:01
74アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/12(火) 23:26:32
「なんてこった・・・!」
息を呑むソーニャさんの台詞は眼下を流れ落ちる雪崩の事を言ったのか、余りにも巨大なグレナディアのその姿に対してなのかはわからなかった。
雪崩が起こった瞬間、ソーニャさんにしがみついて私達にかかる重力を反転させて空に向かって落ちた。
響き渡る轟音とすさまじい乱気流に飲まれながら私達は展開した陣図の中で空を彷徨った。
何が起こったかもわからず、ただただ宙を舞う羽のように。

「アビサル、あんたリッツの戦いに手を出したろ?」
雪崩が収まるのを待つ間にかなりの高度まで落ちてしまった。
その間、ソーニャさんは思い出したように私に尋ねる。
「・・・は・・・い。」
気付かれていた・・・

「結界術は心得ております。」そういって私の張った結界から出て行き、二人を制止しようとするレオルさんの行動に私は焦った。
多分あのコボルドはおじいさんの仲間。何らかの情報を引き出されては困る・・・
戦いは熾烈を極め、双方共に消耗していた。
二人とも殺す事もできたけど、グレナディアの周りには将星が集っていて、まだリッツさんを失うわけには行かない。
だから、私はレオルさんがあのコボルドを取り押さえる前に、殺した。
密かに呪文を唱え、コボルドの空間座標に重ねて星界の嵐を召喚した。
ほんの二秒。
僅かにコボルドの周りにノイズが走った程度。
たった二秒間といえども、星界の嵐に晒されて無事であるはずがない。ガンマ線やエックス線、強力な磁場は内臓も脳も破壊しつくした、はずだった。
でもコボルドは雄たけびを上げながら動いた。
肉体的には確実に死んでいた。でも、それに勝る気力で動いた。
その姿に私は恐怖し、空へ落ちて逃げたんだ。
雪崩を察知したわけじゃなかった。本当に偶然の産物・・・

「周りが手を出しちゃいけない戦いってのはあるんだ。漢同士がプライドをかけた戦いって奴がね。
そういうことわからないと、いい男になれないよ?」
反省して落ち込んでいると思われたのかな。
ソーニャさんは優しく言い聞かせるようにいってくれた。
でも私はそうは思わない。目的があるのに、その過程の闘いを優先させるなんて理解できないから。

「やれやれ、すっかり埋まっちまったね。リーーーッツ!」
「いっ行きましょう、ソーニャさん・・・」
「ん?何言ってんだい?」
地上に降り立つと、辺りを見回しながら疲れたように呟いている。
どうやら掘り返すつもりらしい。
でも、この雪崩でリッツさんも死んでくれてもいい、と思っている私がいる。
「み、見てください、グレナディアはもう姿を現しました・・・!星の眼の観測によると強力な霊子砲を放ったんです!」
「ああ、だから急いで間抜けどもを掘り起こして・・・」
「もう時間がないです!ぼぼ僕達の目的はグレナディアの奪取!できなければ・・・破壊!」
「アビサル?」
懸命に雪を掘り起こしてリッツさんを探そうとするソーニャさんに私は苛立ちを覚えた。
目的より優先させる事ですか?リッツさんという人は。
その胸に渦巻くどす黒い何かを打ち消そうと私は声を荒げてしまう。
「リッツさんは、危険です!今の戦闘でも僕が結界を張っていなかったら、みんな、リッツさんに命を吸われて死んでいました!
そんな危険な存在、助ける必要ないです!生き残った僕達で・・・もっ目的を遂行する事が故人の意思を尊重する事になりませんか!」
「アビサル!」
縦目仮面を外し、まっすぐとソーニャさんを見つめた。リッツさんより私と一緒に来てくれるように祈りながら。
でも、鋭い一言と乾いた音が雪原に鳴り響き、私の祈りは打ち砕かれた。
「アビサル、いいかい!?仲間は何があっても見捨てちゃいけないんだ!人としてそれは最低限の事なんだよ!
あいつらはこんなくらいじゃ死なない!・・・いいから、三人を探しな!占いでも目でもなんでもいい!早く!」
「・・・ジ、ジーコさんは下の方まで、流されちゃったみたい、です。でも気絶しているだけ。
レオルさんは、あっちの方に。埋もれていますが無事です。
リッツさんは・・・・あそこです・・・生体反応が低・・・下・・・しています・・・。」
ヒリヒリとする頬を押さえながら雪の下を視て、ソーニャさんに伝えた。
「そうか!まってな!すぐ掘り起こしてやるからね!」
髪の毛を炎に変化させ、リッツさんの救出を始めるその背中を見ながら、私はゆっくりとあとずさる。
静かに縦目仮面を被り、「さよなら・・・」小さな呟きと共に私は空に向かって落ちた。
75アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/12(火) 23:31:03
##################################################

『星辰の導き通り・・・来たか!千年の種子!そして伊吹を告げる奈落の大聖堂!』
岩の上に静かに佇んでいた黄金仮面が小さく呟き見据える先に、私は着地した。
既に太極天球儀は展開しており、私の360度を覆う陣図であり、障壁となっていて、全てを拒絶する力場を形成している。
私を捉えて眼を向けたわけではない。
まるで私がここの位置に着地する事がわかっていたように、予め眼を向けていたのだ。
・・・誰だろう?私はこの人を知っている・・・それに、あの星見曼荼羅のマント・・・一族のみに伝わる物のはず。
既に一族は私を残し誰一人として生きてはいない。
思い出そうとすると小さく頭痛が走り、思い出せない。ただ「知っている」としか。
『やめておけ、プロテクトがかかっている。思い出そうとしても無駄な事。』
対面する黄金の仮面と木製の縦眼仮面。同じ星見曼荼羅のマントとローブ。
私の思考を読んだかのように黄金のマスクの人物が宣言する。
そう言われ私は思考を打ち切った。
思い出せないものを思い出そうとしても時間の無駄。
それより先にやる事がある。

温泉につかる龍人、黒猫獣人。半人半馬、そしてコボルドのおじいさん。
黄金の仮面の人物だけでなく、全てが恐ろしく強大な気を持っている。
「我が名はアビサル・カセドラル!グレナディアを封じに来た。
あれはこの世界にあっていいものではない!故に星界に追放する!」
これだけの人物達を前に言い切ったとき、私は気付いた。
なぜ、グレナディアに拘るのだろう?なぜ、こんな危険を冒してまでこの場に立ち、宣言を・・・?
自分の行動に理由がない事に愕然とした。
まるで誰かに操られこの場所にきて、こう言わされている様な感覚。

だけど、そんな感覚に囚われていられる状況でもない。
即座に私は理由を作り、術を展開する。
そう、無駄な犠牲を出さないよう警告するために来たのだ、と。
「グレナディアと共に星界に呑まれたくなければ、すぐに去ね!
我、空の理を知りて天則を曲げん!ポタラの果て、銀叡の彼方、其の空間を今ここに導き・・・」
呪文の詠唱と同時に私の周囲の空間が星界のそれに飲み込まれていき、景色が変わる。
青蛇琴を呼び出すために広げた門は200M。それでも私の体は限界を迎えた。
でも、この術は違う。
何かを呼び出すのではなく、ただ空間を呼び出し蝕ませるだけ。
そこにあったものは全て星界に投げ出され、後には不毛の大地しか残らない術。
侵食は進み、私の周囲30mは既に星界へと沈み、何もない漆黒の空間となっている。
うかつに近寄れば星界へと放り出され、永遠に彷徨うことになるだろう。
もうこれで大丈夫・・・後は勝手に侵食が進み、必要とあれば街ごとグレナディアを追放できる!
あ・・・でも、制御しないとソーニャさんまで巻き込んでしまうかも・・・
自分でも今更という思考を駆け巡らせながらも、眼前に立ち並ぶ強力な気の持ち主達から眼を離さずに凝視していた。
正面にて虚空を解き放たんとする星図柄のマントとローブ姿の術者を見下ろし、次いで黄金仮面へと、皆の視線が集中する。
「お知り合い?」
ベルファーの問いかけには答えず、かの者は流水の如く宙を舞った。
風に膨らむ衣装より、複雑な文様の球体が浮かび上がり、展開した本人の体を包み込む。
『焦らず、急がず……正しき星の道への初の併せと参ろうか』
それは、向かい合って広げられたアビサルの大極天球儀と似て非なるものであった。
文様の複雑さ、緻密さは言うに及ばず、輝きの力強さにも数段の違いがある。
更に密度が、圧力が、迫力が、禍々しさが……しかし、何よりもの差異は誰にとっても一目瞭然であった。
天球儀の表面に中程まで埋没した状態でするすると滑り巡る、二つの球体がそれだ。

その一つは太陽であった。
その一つは月であった。

積雪に染み渡る血のように空間へと侵食する星の彼方の虚無を物ともせず、もう一つの天球儀はやって来た。
制御に集中するアビサルの目が見開かれる。
「何者だ!?」
『ふむ、まだその程度の門しか開けぬのか。未熟未熟……汝の今までの怠りが手に取るように見えるわ』
「何者なんだ!?」
『とっくに存じておろうはず』
互いの天球儀が触れ合うギリギリの間隔で、視線と言葉を交し合う。
仮面越しにもかかわらず、己が芯まで見透かさんとするその眼力に、アビサルは腸を絞られるかのような重圧を覚えた。
静寂の中、
『……では、いざ試みん』
「やめ――」
最後の一線が詰められる。
大極、日輪、月輪、不完全と完全なるそれらが重なり、絡み合い……今再び、恐るべき規模でセフィラは開かれた。
それは実に、二百五十年ぶりの出来事であった。

収まるどころか急速な広がりを見せ始めた虚無の渦。
「アッハッハッハ!! 我が家の庭で何してけつかるお馬鹿さん!? いや、実に興味深い!!!」
いつの間にやらグレナデアの頭部の上で腰に手を当て哺乳瓶を傾けていたベルファーが、迷惑顔で楽しそうといった風に叫んだ。
「ふうむ、これは……」
「何かご存知なのですか、先生?」
「うんにゃさっぱり。しかし、似てはおるな」
「……ええ。そしてどうやら、これは失敗のようですね」
その横で、あくまでも日常会話的な態度を崩さず何やらと話し合う師弟。
「君達随分余裕だけど、まさかこのままトンズラするもりじゃないだろうね?」
「貴方はお逃げにならないので?」
爽やかに聞き返してくるアオギリに、ベルファーは哺乳瓶を口から離し、少し真摯な顔つきになって言った。
「被害の規模によるね。僕の計算によると、アレは限界まで膨らんだ後に爆ぜて消える。周りの空間を巻き込んでね。
それが採掘場周辺までならかまわないけど、さすがにルフォン市街までとなるとねえ……」
言葉の途中で山が揺れる。
「アプローチせざるをえない」
辺り一面の白を輝かすお天道様へ向け、ベルファーは高々と哺乳瓶を掲げた。
揺れが、一層激しさを増す。
すでに広がりゆく虚無により、グレナデアを押し固める地盤は崩壊の一途を辿っている。自由を取り戻すのは容易い事であった。

「まあ、一先ずは…………飛べっ!!」

盛大極まる唸りと軋みを塗り潰す、特大の火柱を噴き出し浮き上がった姿は、簡単に表すなら歪な人型と言うべきか。
その両肩に長大な砲を載せた、四足歩行の巨大にして豪壮な、獣性溢れる人型である。
見える限りで最も高い山の頂近くまで垂直に上がったその光景は、さながら見る者の心を震わす一つの天災の如き様であった。
果たしてそれは、恐怖によってか畏怖によってか。

各人の胸に抱かれた、あらゆる感慨を吹き消さんばかりに、グレナデアは無言にして明快な、存在感という雄叫びを上げた。
77ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/13(水) 07:34:14
――ガナン動力ブロック最下層、第7霊子炉
タッタッタッ…。規則正しいリズムで薄暗がりの中を2人分の足音が通り過ぎて行く。
足音の主は黒騎士とレジーナだ。
この2人は上層階での騒ぎに紛れ、動力ブロックに潜入していたのだ。
「パルモンテの坊ちゃまは上手く逃げたようね、こっちも急ぐわよ」
「そうだな。しかしどうやってガナンから出るつもりだ?もう物資搬入通路は押さえられてるぞ」
声を潜め、会話する2人。周囲には人影は見当たらぬものの、用心に越した事は無い。
まあレジーナのハイヒールの靴音が響く時点で、声を潜めてもあまり意味はなかったが。
「それについては準備出来てるわよ。だからここに来たんじゃない、ほら見えてきた」
レジーナの指差す方を見て、黒騎士は目をぱちぱちさせた。
その指先が示したものは、あまりに大き過ぎて一見しただけでは何であるか判らなかったのだ。
かつて聖獣を滅ぼす為だけに生み出された破滅の使徒、その名はグレナデア……

ルフォンから発掘されたグレナデアは、ガナンに運ばれたが格納するスペースが無かった。
それで動力施設増設に伴う地下拡張工事で用意された空間を臨時の格納庫に作り替えたのである。
ラライア山嶺の中に直立する円柱型建造物のガナンにおいて実際に地上に露出している部分は、
 全体の半分程度でしかない。この拡張工事は地中部を横に広げて動力施設を建築する筈だった。
それが急遽予定変更となって、グレナデアの臨時格納庫に利用したのである。

黒騎士は聳え立つグレナデアを見上げ、嫌な予感を全力で否定していた。
「まさか…いやまさかな………なぁレジーナ、ひとつ聞いていいか?これをうば…」
「奪うのよ、よく分かってるじゃないの。それなら話は早いわね、今か…」
「おい!?冗談だろう!?いくらなんでも無茶苦茶だ!!」
慌てて黒騎士がレジーナの肩を掴んで制止するも、すぐさま叩き込まれた肘打ちに強制的に沈黙。

そんな2人に、前方の暗闇から声が掛けられた。
「姉さん?随分と早かったね」
「ギルバート、準備は出来た?ちょっと予定を早めるから」
暗闇から現れたのは黒髪の長髪に鍔広帽子、襟元ではためく深紅のスカーフを身に着けた男。
寡黙にして迅速、凄腕のスカウトとしてレジスタンスに参加していたギルであった。
78碧い場所で ◆d7HtC3Odxw :2006/12/13(水) 21:59:52
そこはただ・・・・ただ碧く広くて狭い場所、そこに二人きり、28年もの間、二人きり

「ねぇ、お姉ちゃん・・・・・」
「なぁに?」
「お外が騒がしいよ?」
「そうね、もうすぐここから出れそうね。」
その言葉にはしゃぐ少女、寂しげに笑う女性

「そとに出たらうんとお話しするんだ。」
「そうね、きっといっぱいお話しする事があるわね。」
「うん!!私にいっぱいお話ししてあげるんだ、ととさまやかかさまや、みんなの事」
「そうね、私もお友達に会いたいわ。」

夜でも碧いその場所に二人きり 二人の顔に陰りあり
「でも、お姉ちゃんここから出たら・・・・・」
「大丈夫、私にも戻らなきゃいけない理由があるから」
「でもでも、体はもう無いんじゃ・・・・」
「それも大丈夫、ちゃんと5つ目を用意してるから」
「あなたこそ、お外には怖いおばさんや、おっきくて黒いのがいるんじゃないの?」
「きっと私が強くなってるから大丈夫」

二人の心配事は尽くこと無く、深夜になろうと碧い場所
「誰も死んだりしないよね?」
「大丈夫だと、思う・・・でも、もしもの時は私がなんとかしてみせるよ」
「本当、お姉ちゃん?」
「ええ、本当よ、だからもうお休みなさい」
「うん、お休みなさい」
「お休みなさい」

広くて碧くて狭い場所、いつまでたっても二人きり、解放されるのはもうまもなく、龍人の女性とシーマンの少女
いつまでたっても二人きり。

79ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/14(木) 20:52:42
「嘘だよね・・・?どうして君が?」
剣をカランと落としちゃったパルちゃん、まるで信じられないものを見たって感じだよぅ。
もしかして知り合いなのかな?
でもあのハインツェルって人、なんだか悪い奴っぽい!
こんな時、ラヴィはどうすんのーッ!!

ラヴィがオロオロしてる間にハインツェルがアクア姉さんの頭を鷲掴みにしたよ。
記憶がどうのこうのとか、よくわかんないけど・・・これだけは分かる!
「このーッ!!アクア姉さんを離せッ!!」
猟理人は包丁を人に向けてはならない、この掟を破らずに済む方法・・・それは素手で殴るッ!!
十六夜をその場に放り捨てて、一気にダッシュ!くらえラヴィパ〜ンチ!!
「邪魔だ!!」
「えっ!?」
トップスピードに乗ったラヴィの攻撃を、ちらっと見ただけで避けた!?
すかさず反撃がくるけど、ラヴィもギリギリで避けるよ。・・・強い!この悪者、強いよ!?
「アスラ・・・始末しろ。僕達の楽園を乱す侵入者に裁きを下せ。」
その一言におとなしくなってたガーディアンが、またまた動き始める!?

でもこのガーディアンは・・・ハッちゃんの友達なんだよね?じゃあ倒せないよ!!
さっきのパルちゃんの攻撃で、火が弱点なのは分かってる。唐紅なら簡単に倒せると思う。
けど、ホントに倒しちゃったら・・・きっとハッちゃんは悲しむよぅ。友達がいなくなるのは辛いもん・・・・。

   ***************10年前***************

「よーし二人共、今日はここまでだ。よく頑張ったな。」
ドラッドの声に、ラヴィとアンナは安堵の溜息をつき、その場に座り込む。
修行は厳しく、二人は毎日限界まで疲れ果てていた。
それでも決して諦めず、切磋琢磨を続ける二人をドラッドは誇りに思っていたのだ。
しかし黒包丁を受け継ぐことができるのはたった一人。
ドラッドは全く異なる特徴の二人を交互に見比べ、思案する。
総合的な技術・能力共にアンナの方が上だったが、少々プライドが高く熱くなりやすい。
冷静な判断ができなければ、猟理人としてはやっていく事は不可能だ。
それにアンナは上流階級の出自のため、どこと無く人を見下した感があるのも問題だった。
それは猟理人に依頼する者は傭兵を雇う金の無い貧しい者達が多い事に由来する。
80ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/14(木) 20:53:38
そんなエリート気質のアンナと、正反対に位置するのがラヴィだった。
技術的には既に並の猟理人を遥かに上回るが、性格が呑気過ぎる上に争いを好まない。
危険なモンスターとの戦闘が猟理人の仕事だ。
穏やかな性格では基本的に長続きはしない。というよりも、途中で命を落とすだろう。
ラヴィがドラッドの弟子になってから早4年、そろそろ一人前のお墨付きを貰う頃だ。

ドラッドは悩んでいた。どちらも猟理の腕前は達人級だが、精神面で少々不安が残る。
猟神とまで称された伝説の猟理人も、老いには勝てない。
まだドラッド自らが教える事ができる内に、全ての技と包丁を引き継がせたかった。
そして遂に叶わなかった生涯を懸けた夢、『究極の猟理』を自分の技と包丁で叶えてほしいと。
その最終候補こそが、アンナとラヴィなのであった。

このように後継者を決められないまま、時は流れ・・・運命の日が訪れた。
その日はアンナとラヴィ、二人にとって忘れる事の無い最悪の一日だった・・・・。

   ***************再び現在***************

友達がいなくなるのは嫌・・・・。
友達が死ぬのはもっと嫌・・・・。
だからラヴィには斬れないよぅ、これ以上ハッちゃんが悲しそうなのは嫌だよぅ!!
いつもヘラヘラ笑ってて、みんなに弄られてるハッちゃんの方がホントのハッちゃんなんだお!

ラヴィは疲れて立ってるのもキツイよ、全速はあんまり何回も使えないのに無理したから・・・・。
でもなんとか踏ん張ってもう一度チャレンジ!!アクア姉さんを助けるッ!!
「え!?何?動いてるの!?」
レベッカ姉ちゃんの声がして、突然床がラヴィを押したような感じがしたよぅ!!
この感じって・・・ものすごい勢いでこの部屋が上に向かって動いてるんだ!!
「ジャジャラが真の姿を取り戻すんだよ。運が良い、記念すべき瞬間に立ち会えるなんてね。」
「止めろハインツェル!今ならまだ間に合う!」
ハッちゃんが叫ぶけど、ハインツェルはそんなの全然聞いてないっぽいよぅ。


ラヴィ達はどうなっちゃうのーッ!?
81ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/14(木) 22:22:05
あれは私の管轄外だ。あれはゴレムではない、動く一城だ。
レジスタンスが計画を焦ったのも無理はない。
砲塔を背負った鋼鉄の巨人が、撃ち崩された山肌に立ち上がり彼方を向く。
巨人はその全長からして、一歩歩けば砦のひとつも易々と踏み潰せるであろう。

私とシャミィ、レニーは、雪に埋もれた王国騎士を掘り起こす。
乗ってきたゴレムは最初の砲撃で生じた雪崩に巻き込まれ、斜面の下のほうで横転したままだ。
私ら三人、五体満足で生きているのが不思議なくらいの転がり方をしたもので
シャミィは運良くも「霜乃武」を失くさずに済んだ事を喜んでいた。

一方のレニーは顔色が悪い。
「白い牙」の安否が気懸かりなのだろうが、山に登った筈の彼と、もうひとりの王国騎士は見当たらない。
あの様子からして、もし彼らが爆心地近くで巻き込まれたのなら生存の見込みすら薄い。
「息はしてるわ。大丈夫、気絶してるだけね」
彼女は騎士と、顔と顔とを間近に近付けその呼吸を確かめた。
半身を掘り起こされた騎士は大男で、
彼が意識を失いながらも片手にしっかと握りしめたままのハンマーはこれまた大きい。
男こそは騎士団の古強者ジーコ・ブロンディだと、レニーが教えてくれた。
「あの雪崩だ、骨折くらいはしていてもおかしくないわ。ゆっくり上げたほうが良さそうね」
「骨は牛より太そうだがの」
男の脚を埋める雪を崩しながら、三人がかりで慎重に引きずり上げるが恐ろしく重い。
どうにか斜面に踏ん張って悪戦苦闘しつつも、数分の後に彼を救い出す事が出来た。
すぐにその場へ横たえ、レニーの躊躇いがちなビンタ数発がその頬を張ると、
ジーコは起動したグレナディアの咆哮に勝るとも劣らない、盛大なくしゃみとともに目を覚ました。
「お、おう……かあちゃん!? あ、いや、レニーか」
騎士は身体を起こして、キョロキョロと辺りを見回す。
「ジーコさん、お怪我は!? それと他の二人は……団長補佐と、リッツは!?」
「不思議と怪我はねぇ、ちょいとフラつくくれぇだ。
リッツ達の事は……教えてやりてぇのはやまやまだけどよ」
「俺が生きてンのも不思議なくれぇの雪崩でよ。生憎と、見失っちまった……情けねぇ体たらくだ」
「そんな、ジーコさんが無事で何よりです。しかし何故? どうしてこんな無茶を?」
「ああ」
レニーの詰問に顔を背けたままジーコは自分の頭頂へ手を伸ばし、凍りかけのモヒカンを指でほぐしていた。
なおもレニーが顔を寄せると、男はばつの悪そうな顔をして、答える。

「昨日言った通りよ、俺ら三人で連中をブッ潰すってな。
他の奴らはレオルとあの団長殿が、上手い事逃がしてくれたからな。
ついて来ちまったのも大分居たが、みんな麓に置いてきた。どっかに隠れてる筈だ。
結局登ったのは俺らと他に二人、赤毛の女とチビだ。ロイトンから来たとか言ってやがったな」
82ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/14(木) 22:23:15
そこへシャミィが、不機嫌そうに口を挟む。
「まず何故に三人で攻め入るなどという酔狂を?」
「何だオメェ、獣人か?」
ジーコは怪訝そうにシャミィを見る。
掘り出された直後の彼のぼんやりとした目付きは、いつしかぐっと眼光鋭くに変わっていた。
「ニャンクスだ。シャムウェル・アルフェミィ、傭兵だの」
「この二人は傭兵です。『ゴレム狩り』ギルビーズさんとシャミィさん」
「違う、我が名はシャムウェル・アル――」
私がシャミィの横腹を肘で小突いた。戦士ジーコはしばしの間、私と彼女を眺め回すと、おもむろに口を割る。
「ニャンクスの嬢ちゃんよ。漢の言葉ってなぁ、一度口に出したら引っ込めらんねぇモンなのよ。
俺とリッツとレオルってのは昨日、団長さんの前で『三人で公国の基地にカチ込む』っつったんだ。三人だけでな」
「全く、死人が三人で済めば良いがの」
「喧嘩は止して。二人を探さなきゃ」
レニーが言う。当初の目的を思い出し皆は一瞬、山頂の怪物に目を遣った。
公国軍駐屯部隊の発動とは違うと見たが、兎に角事情も分からずに、あれの足下に近付くのは危険極まりない。
「レニーさん、御一緒します」
傍の木に立てかけておいた槍を取り、逸って斜面を登り始めるレニーに続こうとした。
しかし彼女は振り返ると、
「いいえ、私が一人で行くから、貴方たちはゴレムを起こしに戻って」
「そうは言っても私、給料分働かないと気が済みませんので」

「車がコケたのか?」
「私は提案する、こやつに車を牽かせれば良かろうと。動けるのであろう?」
「あたぼうよ」
シャミィに指差されたジーコはハンマーを担ぎ上げると、それを振るって見せた。
軽々と振り回しているようでも、風を切る低い唸りがハンマーの重量感を十分に感じさせる。
彼の腕力なら、ゴレムの一台などすぐに引っ繰り返せそうだった。
「しかしレニー、奴らをこんな目にあわしちまったのは俺の責任もある。こんなザマで良いのか?」
「騎士団員として、ここで貴方を失う訳にはいきません。先に逃げて」
「分かった。今日の事は本当に済まねぇ、必ず戦場で埋め合わせをする。
それとだ、レニー。白髪小僧は……リッツは、こんな所でくたばるようなタマじゃねぇ。きっと生きてる。任せたぜ」
「勿論、私は信じています」
そう言い残すと、彼女は駆け上がっていった。後を追う私に彼女は気付いただろうが、今度は断らなかった。
シャミィはやはり機嫌を損ねた様子だったが、特に文句も言わずジーコと残った。
83とある女の道程:2006/12/16(土) 10:03:15
白い津波が全てを押し流し、王国軍の野営地は見るも無惨な状態となっていた。
幸いにも死者の数は少ない。事前に避難していた事が功を成した為だ。
朝日に照らされ、白銀に煌めく雪原を無心に掻き分け赤毛の女は呼び続ける。
殺し、奪う事しか知らなかった彼女に、新しい生き方を教えてくれた男の名を。

「リッツ!!どこまで埋まってんだい!!リーッツ!!」

仮面の少年が示した場所を懸命に掘り返し、その指は凍傷で赤黒く変色していた。
けれども彼女は止めようとはしない。
嫌なのだ。失いたくないのだ。その男は彼女にとって辿り着くべき場所だから。

          † † † † † † †

彼女は4人兄妹の末っ子だった。何をするにも兄や姉の後で、彼女は何時も不満だった。
初めて父親から槍の稽古をつけて貰ったのも、兄や姉達が『仕事』を覚えた後だった。
不満はいつしか怒りに変わり、その怒りは彼女を支える強さに変わった。
歳が10に届くと、彼女は人を殺した。それは1番上の兄だった。

『アタシはコイツよりも強い。だからアタシに仕事をちょうだい。』

切り落とした兄の首を父親に向けて放り投げ、次の日から彼女は山賊となった。
彼女はそれからも己に磨きをかけて、槍の腕前は歴戦の兵すらもたやすく倒す程だった。
それでもまだ足りなかった、彼女は満足出来なかったのだ。
世界は広い。無情なまでに。
とある仕事でバニーガールとの戦いに敗れ、彼女は更なる『力』を求めた。
《メダリオン》の力を手に入れてからも、敗北への不安は消えずに彼女の中で燻り続けた。

世界を滅ぼす獣を見た時、その燻りは吹き飛んだ。
所詮は人間、限界という名の壁を知った。
そして、その壁を越えた男と出会い、彼女の世界はがらりと変わった。
胸が熱くなった。自分がとてもちっぽけな存在に感じた。
そこが彼女の新たな人生の出発地点だった。
彼女は歩き出した。ちっぽけな自分を、再び強い自分へと鍛え直していく為に・・・。

          † † † † † † †

グナード山から朝日が射し、半刻の時間が過ぎた頃ようやく彼女は男を見つけ出せた。
既に両手はひび割れ、血が滲んでいたが構う事なく抱き起こす。

「死んじゃ駄目だからな!アタシを置いて逝くなよクソ白髪!!」
84遺跡慟哭 ◆d7HtC3Odxw :2006/12/16(土) 23:30:50
巨大な軋みとうねりをあげ、森が崩れ去る。そして、過去の都市がその姿を再び現すのだった。
ギ・・・ギ・・・・ギギッギギイイイイイ
安息の地の突然の崩壊にやり場の無い怒りを吼え狂うモノ共がいた。
ーーーー遺跡内部ーーーーー
「アスラ・・・どうした?早く侵入者を・・・」
そこまで言いハインツェルの言葉は遮られた。
「ハインツェル、そこのスライムのお姉さんのお陰で僕の封印は解かれたよ。」
予想していなかった反応にハインツェルは戸惑った。
「な、何を言ってるんだ?」
白のガーディアンは真っ直ぐハインツェルとハイアット二人を見つめて変化を始めた。
その姿は、天使の羽を持った、髪の短い
「アーシェラ!?なんで?」
ハイアットが叫ぶ
「僕はアーシェラじゃない、アーシェラの姿をモチーフに作られたガーディヴァルキリエ 「アスラ」だ。」
アスラはハイアットを、ハインツェルを、そして、驚きの連続に唖然としてるパルス、レベッカ、ラヴィを見て最後に
まったくあらぬ方向を見た。
「僕の本当の任務は都市内部全ての命を守る事だ。そして今、この場所に脅威が迫ってる。」

暗き空に一閃の煌き、その光禍々しく一点を目指す。
「これを見て・・・・私が感じ取った脅威だよ。」
アスラは魔方陣の中に映像を映し出した。それは巨大な光の矢
「このままだとジャジャラ直撃だ 僕はコレを止める。でも一人じゃ無理だ、そこの二人に出来れば手伝って欲しい。」
そう言って、パルスとレベッカを指差した。
「か、かってな事をするな!!」
ハインツェルが叫んで踊りかかる・・・・が途中でその動きを止めた。
「か、体が動かない?」
アスラはにっこり微笑むとハインツェルの頬を撫でた。
「僕の遺伝子コードにはアーシェラの遺伝子が使われてるんだ。つまり、5番目のアーシェラとも言える。君たちは
 アーシェラには攻撃できないようにされてるだろ?だからこの姿の僕には逆らえないんだ。」
さらにアスラは二つの楽器に手をかざした。
「今、魂をここに戻すよ。」
「やめろおおおおおおお!!」
ハインツェルの叫びが木霊した。

ーーーーリザードマン集落ーーーーー
「族長!!大変ダ!!」
物見の戦士が族長の家に息を切らしながら転がりこんだきた。
「ドウシタ?地震デ何カアッタノカ?」
「メガニュームノ大群ガコッチムカッテル!!」
「何ダト!?」
ギイイイイイイイイイ!!
人間の大人よりも巨大な蜻蛉の大群が黒い波の如く押し迫ろうとしていた。
「女、子供ハ安全ナ場所二!!戦士ハ武器ヲ摂レ!!」
酋長の言葉にリザードマンが迅速に動く、
「ググ、必ず戻ってね。」
「安心シロ、オレハオ前ヲ悲シマセナイ」
新婚の二人が熱く抱き合う。
「ミセツケルナ、イクゾ!!」
「ゴゴノアニキ、マッテクレヨ」
騒ぎの中キャメロンの持つ宝珠が淡い光を放ってるのに気がつく物はいなかった。
85パルス ◆iK.u15.ezs :2006/12/17(日) 16:20:16
「どうして!?君はここを守り抜きたいはずだよ!?ここまでして……甦らせたかったんでしょ!」
「違う!アーシェラが復活しなければ……彼女がいなければ僕は存在する意味がないんだ!」
「そんなこと無い!どうしてそんなこと言うの!?」
その問いに答えたのは、未だ拘束されたままのハイアットくんだった。
「僕達は……どんなにあがいたって……作られた人形だから……
女王を護るために作られた忠実なる人形……」
哀しみを通り越した無表情……その頬を静かに一筋の涙が伝っていく。
剣を拾い上げて叫びながらハイアットくんの拘束具をぶった切る。
「例え作られた存在だとしても……人形なんかじゃないよ!人形は泣かないし!
バナナ食べないしっ!しょうもない事しないよっ!」
ハインツェルくんは狂ったように笑い出した。
「フフ……ハハハハ!! また僕達は人形じゃないっていうのかと思ったら……
よく分かってるじゃないか、ハイアット。そうだ、我らは女王の忠実なる人形!」
ハインツェルくんはよく分からない機械から異形の剣を取り出した。
「何を……?」
「アーシェラが甦らないのなら……この都市と共に死ぬ!ジルヴェスタン、こいつの生命を奪え!!」
剣を構え、跳躍するのが見えた。狙いは見なくても分かっている。
「させない!」
レベッカちゃんの前に走り込み、左腕の盾を掲げる!
一瞬後、剣を受け止める鋭い金属音が響く。埋め込まれた六つの魔石による特殊強化が施されているから
防ぎきれたものの普通の盾なら粉々になるほどの衝撃だ。
「何?何なのーッ!?」
「レベッカちゃん……逃げて!」
レベッカちゃんか僕のどちらかでも殺せば、この都市は破壊されることになる。
それならより殺すのが簡単なほうを狙うのは目に見えている。
「ふふ……ならばお前を先に殺してやる!どうせどっちが先に死ぬかの違いだからな!」
矢継ぎ早に斬撃が閃く。あのラヴィちゃんの攻撃を軽々とよけたぐらいだ、話にならない程強い。
でも殺されるわけにはいかない……彼が正気を取り戻すまで!やっとの思いでその一撃一撃を弾く。
「お願い……目を覚ましてよ!」
やがて壁際まで追いつめられた。
わずか数秒だったかもしれないけど、ここまで防ぎ続けたのが不思議なぐらいだ。
「残念だがこれが正気だ」
とどめとばかりに最後の一振りが振り下ろされた!!
……もう防ぎきれない!ここでみんなこの都市と一緒に心中なんて絶対いやだ……!!

でも、そうはならなかった!僕はこういう時に限ってやたらと運がいいのだ。
閃くは、純白の光! 直視するには眩しすぎるぐらいの目映い光。
そして、振り下ろされようとした剣が弾き飛んだ!!
「俺のバナナ友達に手を出すなんて百万年早いぜ!」
ハインツェルくんは振り下ろしたはずの剣が手の中に無いことにしばし呆然とし、その表情を怒りにゆがめた。
「貴様……!訳の分からないことを抜かすな!」
颯爽と銃を構えているのは……他でもない、僕のバナナメイトでした!
「ハインツェルは俺が止めてみせる。君とレベッカちゃんはアスラと一緒にこの都市を護ってくれ!」
あの乱戦にも関わらず、振り下ろされた剣を正確に撃ったのだ!
繊細で大胆で、何があっても惑わされず真っ直ぐに前を見つめる目。
その瞳に宿るのは、どんな時だって、決して狙いを外さないだけの心の強さ。
彼は……本当に……過去から来た最強コマンダーだったんだ!
86ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/17(日) 17:11:35
とんでもねぇな・・・ありゃ人間がどうこう出来る代物と状況じゃねぇぞ?
空に飛び上がり、不気味な咆哮を轟かす巨人を見て俺は口をあんぐり開けたまま固まった。
さらに空には何やらヤバそうな裂け目が広がってやがる。
正直言うと、今すぐにでも逃げ出したかった。たが身体がちっとも動きやしねぇ。
本能レベルの恐怖に麻痺してやがるんだ、なのにレニーとギルビーズは行った。
死ぬかもしれねぇのに、山に向かって行ったんだ。正気か!?
「逃げんのかの?」
隣のチビ猫が真ん丸の目で俺を見上げ、ニヤニヤと笑っていた。
コイツはなんでこんなにも平気そうなんだ?

俺は18の時に冒険者になった。家を飛び出して、まだ見ぬ冒険に胸を高鳴らせてたよ。
運よく気の合う仲間にも恵まれて、何もかもが順調だったさ。
デカイ稼ぎも何度かあって、金には不自由しなくなった時、仲間の一人が引退した。
商売を始めるとか言ってな、俺もその頃から傭兵の仕事が多くなってパーティーは解散した。
今思えば、あの頃が俺の人生の分かれ道だったんだな・・・。
稼いだ金で特注のバトルハンマーこさえて、傭兵稼業一本に絞ってからは災難続きだったよ。
まあそれでも俺は不満なんざ無かった。なんだかんだで生き残って来れたんだからな。
いつの間にやら『不動の砦』なんて大層な名まで付いてよ、天狗になってたのかもな。
今じゃガタガタ震えるしか出来ねぇ、唯の腰抜けだってのによ。ハハハ、笑えるだろ?

なんでかは分からんが、俺は自分の身の上話をしていた。恐さを紛らすためだろうか?
「・・・笑えんの」
ぽそりとチビ猫が呟く。相変わらず笑ったままだ。
「いかなる時も己の命を秤に掛けられる者だけが、生きて残るからの。お前は正しい」
俺はチビ猫をまじまじと見つめ直し、続く言葉を待った。
「秤に掛けれても、それを無視する輩もおるがの。さて・・・ジンは無事じゃろうかの」
何かを期待するような目で俺を見上げて笑うチビ猫に、俺はヤレヤレと肩をすくめた。
あぁ馬鹿だ。俺ってばマジで大馬鹿野郎だぜ。
オンスロートを背負い直して、巨人を睨む。やっぱり怖ぇ、だがもう退けねぇ!!

「自慢だがな、俺は敵から逃げたトキはねぇんだよ。だからよォ・・・、
ちょいとばかり無茶苦茶だが、やってやろうじゃねーかよバカヤロウ!!!!!」
87ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/17(日) 21:51:00
「ここは任せて、君は君のことに集中するんだよ?最初はちょっとうるさいだろうけど我慢してくれ」
パルスにそう言い聞かせてアスラの元に送り出して、ハインツェルとお互いに黙り向き合う、
彼と向き合った瞬間に空気が変わっていくのを感じる。僕達全員に対する明らかな殺意だ。
そして落ちていた剣がハインツェルの手に吸い付かれるように戻っていく
張り詰めた空気、僕とハインツェルのたった数mの間の空間には誰一人として入れないだろう。
外界から隔絶されていくのを感じる、時が止まっているようだ。
この中で動いているものはハインツェルの持つ剣だけ、剣先だけがまるで生きているように蠢き伸びていき、
刃は何十にも分かれる。その姿はもう剣なんて言葉は不適切だ、ただ全てを切り刻むだけの物になっていく。
「…………ハインツェル、本気≠ネんだな?」
聞くが返事はない、本気なんだ。そして一つの声が戦いの火蓋を切って落とした。

     刻め!!!<Wルヴェスタン!!

「くっ!!」
地面を、壁を、天井を、全てを凄い勢いで斬り付けていく!ただ暴れるだけに見える。
だけどそうじゃない、彼だって僕だってホムンクルスだ、演算を目的に造られている。
しかし、おかしい、刃は僕のほうに全く到達しないどころか、すり抜けていってる?
「ハハハハハハッ!!!何もお前と戦う必要はない!!あの二人ともこれで切り刻んでミンチにしてやる!その方が早い!!」
そうだった!何も俺の相手をする必要なんてなかった!刃を自由自在にできるんだったらだれだって切り刻める。
こんなことに気付かなかった俺は馬鹿だ!!
「ハインツェル!場所を移そうか!?」
僕は力を込めローヴェスタンをハインツェルの足元に向ける、トリガーに指を掛ける、
あたりが眩い光りで満たされていき。足元にはかなりの大穴が空き、ハインツェルが落下していく。
「き、貴様!!いい加減に!!」
「それはこっちの台詞だぜ?ハインツェル、いい加減にしておけっ!!」
そして僕もハインツェルが落ちた穴に飛び入りその後を追う。この下は中庭だった……

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「ハイアット君が!!」
「落ち着いて!パル!あの馬鹿は大丈夫だって!」
落ちていったハイアットに動揺するパルスをレベッカがなだめ、アスラに話しかける。
「アスラ……だっけ?アンタはこの都市内全ての命を守るのが役目なんでしょ?」
「そうだよ、なんで?」
「だったら今すぐあの二人を助けるべきなんじゃないの?」
至極最もな質問だ、確かに全ての生命を守るのが目的ならあの二人のどちらも殺させるわけにはいかない。
しかし、かえってきた答えは機械のように残酷だった。
「あの二人は命あるものじゃない、あれは消耗品じゃないか、もっと適切にいうと自立型管理用ユニット、生命には入らない、守る必要性はないよ」

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
88ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/17(日) 21:51:32
着地したのは中庭、そう、アーシェラとハインツェルと、三人でよく遊びにきていた思い出の場所。
「……相変わらずここは綺麗だな、ハイアット、アーシェラもここにもう一度来たかっただろうに。」
綺麗なんかじゃなかった、年月はどんなものも消し去っていく、荒れ果て、ボロボロになった中庭。
それでも、それでも俺達にはここは変わらない場所に映った、聖地のように、いや、俺達にはここは聖地そのものだった。

「……ハインツェル、そうだね、綺麗だ、だけどアーシェラはもういない。」
「抜かすな!!お前は僕を裏切った!アーシェラの復活を拒んだ時点で、僕の知っているお前は死んでしまった!」
「アーシェラは……俺達に命は二度はない≠ニ教えた、憶えているよねハインツェル?」
「………………」
俯き返事を返さないハインツェルを待たずに俺は話しを進める。
「アーシェラは命を大事にしていたよ……俺達の命だって、大事にしてくれた、一度だけの命だと、そうだったよね?」
「黙れ!!死んではなんの意味もなくなるんだ!!」
そう叫んだあと、ハインツェルは涙を拭い、さっきまでの涙でぬれてくしゃくしゃになっていた顔が嘘のように鋭くなる。
俺は理解した、ハインツェルは今俺を殺す決意≠した。僕は銃を構え、ハインツェルは剣をさっきの形状に戻す。
「ハイアット、悪いが圧倒的にお前を破壊させてもらうぞ、時間がもうないんだ!」
そして刃の波が押し寄せてくる、躊躇いも何も無い、俺を殺すための刃。
「うお"ぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
飛んでくる刃をできるかぎり撃ち弾くが、何百と折り重ねられた刃は俺を正確無比に切り刻んでいく、
分かっているんだ、ハインツェルとまともにやっても俺は勝てない。それぐらい圧倒的に力が違うんだ。
だけど、引く気は無い!ここで出来る限り食い止める!死んで構わない!いや、死んでも行かすわけにはいかない!

――これでいいんだよね?アーシェラ
89現れた少女 ◆F/GsQfjb4. :2006/12/18(月) 01:24:27
ソーニャはリッツを抱きしめるが、ぴくりとも動かない。脈拍も弱く、危険な状態だった。
《修羅》は発動の際に大量のマナを消費する。
本来ならば、自身のマナと周囲のマナを同化させる事によって発動させる術である。
それ故に《修羅》はマナの扱いに長けた、ニャンクス族とコボルト族にしか使い熟せない。
マナを無尽に吸収し続けるリッツの《修羅》は、周囲のマナが枯渇した場合自身の生命力をも根こそぎ奪う。

「くそ…体温が下がり過ぎてる。このままじゃあ…助からない!」
ソーニャは腰にぶら下げたランタンに火を燈した。その火は瞬く間に吸い取られていく。
《火炎魔人(フレイムマイスター)》と名付けたこの能力は、炎を取り込み自在に操る。
「死なせないよ…アンタだけは絶対に死なせないよッ!!」
革鎧を外し上着を脱ぎ捨てると、上半身を裸になって力いっぱいに抱きしめた。
人を越えた体温となったソーニャは、リッツを暖めて体温の低下を防ごうとしているのだ。
しかし弱り果てたリッツの身体から、命の輝きが消えていく…間に合わなかったのだ。

腕が力無くだらりと垂れ下がり、もう二度と動く事はなかった。
冷たくなった体を必死に揺さ振り、言葉にならない叫びとともにソーニャは泣き崩れた。


ここは十字街道の東の果て、ベルバッツの街。
黎明の静けさが街を包み、徐々に昇る朝日が惨劇の痕を照らし始める。
生きている者は誰1人として存在しなかった。人間だけでなく、あらゆる生物が死に絶えていた。
たった1人の殺戮者を除いて、だが。
八翼将が1人、昆虫族クラックオンの戦士。黒殻の武神、煉獄の志士スターグ。
僅か数時間の間に、人口14000人の街は廃墟へと変えた破壊と殺戮の権化である。

じゃり、と土を踏む音にスターグは振り返ると、そこには少女が立っていた。
少女の格好は見慣れぬ衣装。まるで見た事の無い素材で編まれた物に見える。
そして細い腰には、不釣り合いな2振りのカタナを提げていた。
「あのぉ〜すいませ〜ん♪グラールロックっていう所に行きたいんですけどぉ♪」
スターグの姿や足元に広がる屍の数々に、全く怯える様子もなく、少女は声をかけた。
無論、スターグは答えない。

完全に少女の方へ向き直ると、ゆっくりと大斧を突き付けた。死の宣告である。
90現れた少女 ◆F/GsQfjb4. :2006/12/18(月) 01:27:19
「ん〜?人の話聞いてます〜?もしかして言葉通じないのかなぁ…」
頭をポリポリ掻きながら困ったような笑みを浮かべる少女だったが、次の瞬間には笑みが消えた。
スターグが巨大に似合わぬ速度で瞬時に間合いを詰め、斧による横薙ぎの一撃を繰り出したからだ。
その一撃は空を裂き、衝撃波は刃の延長となって周囲の家屋を横一文字に切り裂いた。
当然の如く少女も胴が上下に泣き別れとなるはずだったが、その姿は何処にも見当たらない。
「異文化コミュニケーションて難しいなぁ。携帯圏外だしGPSナビ使えないしぃ」
隣でへらへらと緩い笑顔で、スターグを見上げながら何やら小さな四角い物を弄っている。
「ここは暴力反対の方向でどうかひとつ……ってダメ?」
スターグは無言のまま、次々と少女に向けて攻撃を繰り返すが、やはり当たる事はなかった。
400年もの間、数多の敵を葬り去ってきたスターグの腕は、決して鈍い訳ではない。
だがしかし目の前の少女には傷1つ付けられないでいた。
明らかに異質な少女に、スターグは自分の対峙している存在が人外のモノであると悟る。
もう既に手遅れではあったが。

パシャッ。軽い音が鳴る。その直後ベルバッツの街を壊滅させた殺戮者が、膝を折って崩れた。
スターグの胴から上は綺麗に“無くなって”おり、腰の断面は鮮やかな曲線を描いている。
「あちゃー、まだダメでしょうが。フライングしちゃったら私が斬れないじゃん」
少女は腰のカタナに話し掛けた。勿論だがカタナが返事をするはずがない。
だが少女は1人で会話を続ける。まるでカタナの声は少女にしか聞こえないかのように。
「せっかくの道案内がこれじゃ、意味無いし。アカマガ、今度やったらご飯抜きだよ?」
不満そうな顔で少女はカタナを抜くと、残るスターグの死骸を切り刻んだ。
後に残ったのは、クラックオンの体液のみ。
何故なら刻まれた身体は全てカタナに…十剣者の剣、《アカマガ》に“消し去られ”たからだ。
「動かない的なんか斬ってもつまんない。あ〜あ、早く“奴”を捜さなきゃ」
遠く西の空に渦巻く“門”を見て、少女はちろりと舌なめずりする。その眼は狩人そのもの。
「冬休み返上した分は楽しまなきゃ損だもんね、アカマガ」
そう言うと、異なるセフィラから来た少女は“獲物”を目指して歩きだす。西へ西へと……
もはや流す涙は枯れ果て、嗚咽の声も尽き果てた。
うずくまるソーニャの背後に、突如として雪を固める重量感が発生する。
自分達を見つけた誰かが近づいてきたという気配ではない。明らかに今この瞬間、出現したものだ。
取り乱したりとはいえソーニャは戦士である。
本能的に振り向いて身構えようとし、
「…………っ!?」
更に根深い、根源的本能に基づいて硬直する。
……振り向けば死ぬ。動けば死ぬ。声を出せば死ぬ。
一種、悟りにも近い思いが渦となり、ソーニャの体を凍てつかせたのだ。
重量感が動いた。横たわるリッツの横に並ぶように、それもまた力なく雪に崩れ落ち、倒れ伏す。
……え?
それは、先程リッツと戦ったコボルドの死体であった。
死体で間違いない。かっと見開かれた瞳が、死の衝撃ですら揺るぎもしない彼の勇ましさを如実に表していた。
気配はこの死体? 何故、死体が?
零下にあって流れ落ちたソーニャの冷や汗が、雪に染み込む。
そして、
『連れ行かん』
暗い、深淵の淵を覗かせるような声が淡々と響いた。
『良き戦士を連れ、赴かん』
…………死神? まさかそんな!?
並ぶリッツとコボルドに、暗い暗い影が差す。
『いざ、決戦の地へと、聖戦の時へと……いざやいざいざ赴かん』
影に取り込まれるように沈み始めた二人を見て、声にならぬ叫びが火の如く、ソーニャの全身を巡って焼いた。
『その時までのしばしの間、ゴウガの影に抱かれよ』

「死んでなんかいない!!」

ソーニャの炎が弾け、激昂はそのまま熱波となって辺りの白きを歪ませる。
「死んでなんかいるもんかあああああああああああああああ!!!!!」
紅蓮の髪の盛り虚しく、燃ゆる瞳の熱き虚しく、命亡き者消え逝かん。
深淵の暗き声が去り、彼女の炎が周囲の雪を溶かし尽くした後の事。
並ぶ両者の骸は、何処へなりと消え去っていた。
東方大陸、スメラギ・アウグスタ皇城の一室にて。

スターグは相変わらずの読めぬ表情で、身じろぎする事もなく、その一部始終を見つめていた。
自らの映し身が無残に散る様を見ても、彼の触覚は震えもしない。
死は、クラックオンにとって恐怖の対象足りえないのだ。
種族の特性として、恐怖を感じぬクラックオン。
それすら塗り潰す超恐怖をも乗り越えたこの男にあるのは、静かに輝く超新星の魂であった。
「どや? 上手いこと行きはりましたやろ?」
傍らにて、飄々とした観のリザードマンがせわしなく杖を振り、言う。
「クダラナイナ」
スターグは、彼の企みを一言の元に断じた。
「いや、確かにアンさんのコピーを勝手にこしらえてエサにしたんは悪い思うてますよ? ほれこの通り、えろうすんまへんでした」
「…………」
「そんな怖い顔しなさんな――って、元からやったか。こりゃまた失礼。堪忍してえな。
とにかく、必要やったんよ。なんせ再集結する十剣者は全セフィラを通じて最強の連中やさかいな。多分やけど。
いや、多分言うても間違いないで。選考基準は力のみっちゅうことやったさかいな多分。……ワイ、また多分言うた?」
彼の名は、大祭司ザルカシュ。
こう見えても、このセフィラにおける最高の術者の一人である。
それは疑いようもない。
でなければ、星辰を読み、新たなる十剣者の出現地点を推測することなど到底不可能。
ましてや、その場に大胆な仕掛けを置いておく事など……。

「ほら、最強も最強や。前にバチき回したようなヘタレどもとはてんでちゃうねん。アンさんやったらわかるやろ?
無傷では済まへん。痛い目見ぃひんためにも、根回しはちゃんとしとかんとな」
「…………」
「なに!? 屁でもないってか!? カーッ! 吐いた唾飲まんとけよ! このバケモン!!」
シュルシュルと舌を伸ばし、珍妙に巻くザルカシュ。驚きや呆れを表す仕草なのだろうが、よくわからない。
「ゲコ! ……ま、そんなこと言うても、もうアンさんのコピーを通じてあの娘はんの剣に仕込ませてもろたし〜。
フッシュッシュ。これが後々効いてくるんよ。ジワジワとボディーブローみたいに? それとも劇的クロスカウンター?」
楽しげに紡ぎ出される言葉の奔流を意識の外に追いやり、スターグは物見の鏡の向こうを眺めた。
遥か西に広がる、ゼアド大陸の光景を。

彼は、ただ誓いを果たすのみ。
彼はただ、己が生を全うするのみ。

それこそが、それこそのみが、戦うクラックオンの前に続く他ならぬ道であった。
93運命の出会い ◆F/GsQfjb4. :2006/12/18(月) 19:26:46
どのくらいの間、抱き抱えたままの姿勢だっただろうか。涙は涸れ、呆然と空を見ていた。
リッツは死んだ。この事実を受け入れたくなかったが、どうする事も出来ない。
「ねぇ…これからアタシはどうすりゃいい?」
呟くソーニャは山頂付近に突如発生した時空の渦に顔を向け、ぼんやりとそれを眺めた。
渦は更に巨大な裂け目に変わり、世界の外へと完全に繋がったようだ。
「返事くらいしなよ…バカ…」
白髪を優しく撫で下ろし、慈愛に満ちた母のような表情でソーニャはそっと唇を重ねた。


3ヵ月前、メロメーロの街
去っていく黒騎士を見送り、拳を握り締める。『次は決着をつける』奴はそう言った。
確かに協力してアグネアストラと戦いはしたが、本来ならば敵同士だったのだ。
それをすっかり忘れてた自分に、少し腹が立った。
「…上等だよ、必ずケリ着けてやるからな。テメーこそ死ぬんじゃねーぞ?黒騎士」

鼻を擦り、苦笑いすると壊れた町並みを見渡して「あ〜あ」と溜息をひとつ。
「収穫祭ってレベルじゃねーな、こりゃ復興するのに時間かかるぞ…」
「ねぇねぇ、君はこれからどうするの?」
話し掛けてきたのはパルス、先程まで共に戦った仲間だ。泣いていたのだろうか目が赤い。
「んあ?俺か…そうだな、またレジスタンスに戻るつもりだよ。あんた達は?」
パルスの傍にはリュートを抱えた少女レベッカと、髭を生やした無愛想な男エドワード。
「うん、僕達はしばらくこの街の人の手伝いとかする予定」
「そっかぁ、頑張れよ。それじゃ俺は行くぜ」
小さく手を振り、その場を後にする。そうだ、まだやらなければならない事があるのだ。
公国を叩き潰すという目的が残っているのだ。

崩れ落ちた街門を出ようとした時、後方からリッツを呼び止める声。
雪のように白い髪のリッツとは対象的な、炎のような赤い髪。声の主はソーニャだった。
「な…なぁ、聞きたい事があるんだけどさ…ちょっとだけいいか?」
心なしか頭髪のように頬が淡く赤い。
「んあ?誰だ、お前?」
怪訝な顔でソーニャを上から下まで眺め回し、率直な疑問で応えるリッツ。
これが後に『牙』と『爪』、最強のレジスタンスと呼ばれる2人の出会いであった。

そしてそれは…世界を滅ぼす魔獣と、世界を救う炎の英雄との、最初の出会いでもあった……
パシ・・・・と乾いた音が遺跡に響いた
「あんた!!同じ仲間じゃない・・・・!!」
レベッカはそこまで言ってハッとアスラの顔を見た。そこには今にも泣きじゃくりそうな情け無い顔があった。
「だって!!僕にはあの二人を止めれる程の力なんか無いんだもん!!あの最強の二人を完全に
 止めれるとしたらアーシェラだけだよ!!僕はアーシェラに近いだけでアーシェラじゃないんだ!!だから・・・・」
ただ強がってただけでせき止められてた言葉が溢れ出てくる。
「アーシェラの魂が戻るまでここを守るんだ。」

遺跡外周に出た時、その光はもう迫って来ていた。
「手伝うってどうすればいいの!?」パルスが大声で叫ぶ。
「簡単だよ!!心のおもむくままに奏でて!!そうすれば弾き方は楽器が教えてくれる。」
そう言ってアスラは翼を展開させて空中に浮遊し、少し前に進んだ。そのすぐ後ろに巨大な魔方陣が展開される。
「いくよ・・・・・僕はジャジャラのガーディヴァルキリエだ。必ず守り抜く!!」
一度軽くアスラが手を叩くとその手には不可思議な形のギターが握られていた。


If you surely ..the birth.. are exposed unjustly and dangerously by 
me to defend an escutcheon Eges invincibility your person, everything 
is bet and defended by me. 
For me, in Eges me, Eges I am Eges. 

Even if what kind of thing exists to defend you surely, having given 
birth to defend an escutcheon Eges invincibility your person : you to 
me even if it defends, the body of fritters, and it scatters. 
For me, in Eges me, Eges I am Eges. 

歌声に合わせて巨大なシールドが成型されていった。

ーーー碧くて狭くて広い場所ーーーーー
「お姉ちゃん・・・・お外が大変みたいだよ?」
「そうね、ここで待ってるなんて言ってられないかも」
「どうしよう?お姉ちゃんのお友達も大暴れしてるよ?」
「ねえ、ちょっと力かしてくれる?」
「ここから出るの?」
「うん、ごめんね、早くしないと二人とも死んじゃうかも」
「わかった、お外に行ったらあたしによろしくっていってね。」
「解ったわ、じゃあ手を私と合わせて。」
「こう?」
「そう、そして、外に出るイメージを、外の体に飛んでくイメージ・・・」
二人の体が青白く光始めた。

ーーーー遺跡内部ーーーーーー
「どうしよぉ・・・・おきないよぉ・・・・」
鳴動する遺跡の中、ラヴィは倒れこんだアクアを心配そうに覗き込んでいた。
「パルちゃんたちは、大丈夫かな・・・」
三人が出て行った階段に目を向けてた時、かすかにアクアの指が動いた様な気がした。
95リーザードマン集落 ◆d7HtC3Odxw :2006/12/19(火) 01:14:31
「弓ヲ撃テ!!」
ボボガ酋長の号令で一斉に弓が空を舞う。その第一波が先頭のメガニュームの集団を貫いた。
ギギャアアア!!
痛みと苦痛と怒りと狂気、尚も大群は止まる気配無し。

「来ルゾ!!」
誰かの一言と同時にメガニュームが突っ込んできた!!
「ゼリャアア!!」
ゴゴが自慢の双斧を振り回して次々と蜻蛉の羽を、体を切り刻む。
「兄弟タチ!!無事カ!?」
戦闘槌を振り回しながらググが叫んだ。
「ググ!!オレヲ空マデウチアゲロ!!」
「オーライ!!兄貴!」
ググの戦闘槌にひょいっとゴゴは乗りググはおもいっきり空に向けて打ち上げる。
「ウーーーラララララ」
回転しながら上昇し、一匹、二匹、と切り刻む。また降下しながらも新たな敵を切り刻む。
しかし、数はまだまだ増えていた

「きゃあああ!!」
非難していた女、子供達の所にもメガニュームは入り込んできた。 今まさにその恐怖の顎が獲物を捕らえようとした
その時、一本の鉄棒がメガニュームの体を貫いていた。
「殺生は好みませんが、お許し下さい」
シスター・キリアがその鉄棒を引き抜くと体中の体液を噴出してメガニュームは動かなくなった。
「ふぅ、アクア程では無いですが、少しは武の心得も御座いますので」
ほっとしたのもつかの間、新たなメガニュームがキリアの背後を・・・・つこうとして、強力な衝撃に吹っ飛んだ。
「あぶねぇなぁ、油断しすぎですよ、シスター」
キャメロンはにっこり笑うと吹っ飛ばしたメガニュームに向き直り、体勢を立て直そうとするそいつに容赦なくしかも
的確に急所に豪腕を当てていった。その手には鋲が打たれた手袋がされている。数十秒後には、そのメガニュームはまったく動かなくなっていた。
「久々に暴れてやるか。・・・・・・・あいつは、今も傭兵してるんだろうかな・・・」
なんとなくキャメロンは昔の冒険仲間を思い出していた。
96パルス ◆iK.u15.ezs :2006/12/19(火) 11:28:25
暁の瞳を見て驚いた。形が変化していたのだ。
それは別にいいんだが天使の羽なんか着いちゃってる!
―さっき魂を戻されたときに何かされたみたいだ―
と、本人は言っている。きっと長い年月のうちに忘れていた古代の曲の数々を
アーシェラの遺伝子に触れることによって思い出したのだろう。

気がつくと、何かに操られるように聞いたことも無いような曲を演奏していた。
これは呪歌ではない。魔方陣を展開するのはマナに干渉する魔法の特徴だ。
古代文明の繁栄の一翼を担ったと伝えられる、今は失われた術……《魔術唱歌》!
レベッカちゃんが、こいつだけに任せておけないとばかりに声をあわせて歌い始める。
彼女の知るはずの無い言葉の歌を。

〜♪〜
Because I promised you to be defended
from all suffering to defend an escutcheon
Eges invincibility your person,
Eges I am Eges in Eges me in me who can
strengthen more than anyone in me.
〜♪〜

シールドが完成した時、破壊の化身はもう目前までせまっていた。
レベッカちゃんと目配せして頷きあう。その瞳に宿るのは少しの迷いも無い決意。
レベッカちゃん、僕は……少しだけ、怖いよ。
だからこそ、目をそらしたりしない。睨みすえて、迎えうって見せる!!

全てを貫く破壊の槍と、全てを守り抜く無敵の盾が今、激突する!!
97ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/19(火) 22:37:47

あまり正気ではない。朝から。
「リッツがたった一人で真っ向から、公国の機甲部隊に突っ込んでいくのを見たわ。
私たちが遅れて街に入ったその時点で、既に駐屯隊は壊滅状態。先鋒を切ったのはやはりリッツだったって」
「白い牙」の俄かには信じ難い武勇伝について話しながら、レニーは足早に斜面を上がっていく。
その後に私が続いて、振り返ってももうシャミィたちの姿も見えなくなった。
雪は雪崩れた直後で凍ってもおらず、しかし斜度が急で、木々は皆倒されているから手掛かりもない。
槍を杖にして地面に突き、時折指で雪を掻きながら登った。
それでも二人とも、ばてて息を切らすほどやわな作りではない。

人気のない山中を登る間、私たちは話しながらも、眼差しはずっと辺りの地面を調べていた。
グレナディアの巨体と、空の裂け目のお陰で日差しは弱い。
雪目の心配をせずに済んだが、それでも眼球が乾いて痛んだ。濡れた手袋の指で目を擦る。
消えた二人の居場所は依然として知れないが、一先ずは出来る限り、砲の発射地点へ近付こうとしていた。
今の所、飛竜や使い魔が哨戒している様子はない。やはり基地は通常業務外に在る。
グレナディアの砲撃目標は何処か、憶測すら覚束無い。
瞬間の強烈な光に、私の目は眩んでいたが
それでも、砲撃の角度がレジスタンスの野営地と合わない事くらいは見えた。
推理の上でも、始めからあれを使えば奇襲などという蛇足で標的を散らす意味など無かった筈だ。
あれを使わなければ破壊出来ない強力な基地や兵器を、レジスタンスが所持していたとも思えなかった。
「白い牙」がそれだとしたら、笑止だ。
真実なら真実と認めるまで、私は可能性を排除する。

「レジスタンスの皆が勝ち鬨を挙げてるその傍で彼はひとり、ゴレムの残骸と敵の死体の山に佇んでた。
そこで何をする訳でもなくただ、遠くを見つめてぼおっとしててね。彼の真白な髪が陽に透けて……」
「そして物憂げな横顔が」
気まぐれに入れた茶々でお互い少し笑って、それからまたレニーが続けた。
「そう、そんなもの。私は一目で彼に惹かれた。
でも不思議ね。私が好きになった男は強い男だったけれど、私、彼の強さに惚れた訳じゃなくてよ。
俗な物言いになってしまうけど、何だろう。こう、強さの内に秘めた脆さ、っていうのかしら?
まあ、それもきっと些末な一部ね。あまり理由付けしてしまうのも野暮でしょ?」
野営地で聞いた噂通りの色恋話を、彼女は楽しそうに語った。
生き死にも知れない男が相手の惚れた腫れたなんて縁起でもないけれど、私は黙って彼女の好きにさせる。
もし、リッツの武勇伝が真実なら、生きている彼に会ってみたいとも考えたが。
98ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/19(火) 22:38:29

私が、ひとり喋るレニーを見越す度、頂上の怪物と奇妙な黒い裂け目が嫌でも目に付いた。
曇天に空いた鋭い鉤裂きはグレナディア以上に得体の知れない不気味さを湛えている。
私は考えた。自分が馬鹿にした三人と、結局は同じ事をやろうとしている。目的こそ違えど――
「信じてる、なんて嘘ね。祈るような気分。
でも女としての自分より、王国騎士としての自分が大事だから」
しかし考え様によっては、この状況はチャンスだ。
グレナディアは起動してしまったが基地の装備はあれ一つでもない。盗んで儲けになる物は有形無形、沢山ある。
虎穴に入らずんば虎に喰われる心配もなし、とは言うが
虎を一度やり過ごせさえ出来れば逃げ場もあるだろうに、元より虎穴が私の財布なのだから同じ事、か。

精霊の消滅とグレナディア、古代遺跡の発現とは関係があるのだろうか。
ライン大河の一戦で精霊消滅が衆人の知る所となって以来、戦場を取り巻く空気が変わった。
誰が口にするともなしに、しかし誰もが訪れつつある「大局」の気配と緊張を感じ取っていた。
大陸全土を戦火で席巻したこの戦争でも、収まり切らないほどの「大局」の兆しだ。
浮き足立ってるのは戦争屋だけじゃない。国中がきりきり舞いになっている。
精霊消失が既に大事件で、本当なら戦争などしている場合でもないだろうに。
「騎士団も、レジスタンスにも私の気持ちに気付いてる人が何人も居て
いまいち分かってくれなかったのは当の本人くらいなものだわ。ありがちな話でしょ?」
「レニーさん、上を」
斜面の上方が一瞬だけ炎で煌いた。陽炎が立ち昇り、何者かの絶叫。女の声だ。
レニーは咄嗟に佩いていた剣を抜き、声のした場所まで駆け上がった。
99ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/19(火) 22:39:15

「炎の爪」が一人うずくまっていた。
歳も私とそう変わらない、燃えるように赤い髪色をした少女だ。
目は泣き腫らし、眼差しはあらぬ方向を見詰めている。
顔立ちはしゃんとすれば鋭く凛として見えたろうに、泣き疲れた目端は引きつり、頬も強張っていた。
彼女の身元が知れたのは、投げ出された槍斧と髪色の特徴からだ。私はレニーに教えた。
「ソーニャ・ダカッツ。『紅蓮の爪』」
「どうやら、そのようね」
ソーニャは私たちに気付いたらしく、相変わらず遠くを見詰めたままだが小さく、頷いた。
彼女の傍へは剣を収めたレニーが出向き、屈んで、顔を突き合わせる。
「ソーニャさん、リッツは……」
「逝っちまったよ」
レニーの表情が硬直する、息遣いまで。
「死んじまったんだ。助けられなかった、アタシ……」

「爪」がリッツの死と、その後の出来事について話す。
聞いた通りではレジスタンスの英雄リッツの死は確実で、彼を殺した敵と死体の行方はやはり予想もつかない。
話を聞き終えたレニーは後ろを向くと俯いて、しばらく頭を振ったり、目頭を指で押さえたりしていたが
それも僅かな間、すぐに詰問へ戻った。その声は震えていなかった。
「ジーコは下で私たちが見付けました、無事です。団長補佐……レオル・メギドを?」
ソーニャが指差して示した場所は、そう離れてはいなかった。
私たちが登って来た道から少しずれた辺りだ。しかしここからでは誰の姿も覗えない。
今度は私が尋ねた。
「傭兵仲間の『チビ』は?」
うずくまったままろくに身動きもしなかった少女が、突然ぴくん、と身体を震わせる。
虚ろな瞳にも生気が戻り始めた。「チビ」は彼女の仲間か。やや声を上ずらせながら
「そうだ、アビサル」
思い出したように呟くと、武器を拾って立ち上がった。

立ち姿で彼女の印象が変わった。
一見はレニーのように細身だが、鎧や毛皮の上からでもそれと分かるくらいに筋肉質だ。
立ち上がる際の、ほんの軽い足運びからも動作の滑らかさが見て取れた。
初め出会った時は前評判を疑ったが、まんざら嘘でもなかったらしい。
「アイツ、何処に!」
「何処に?」
尋ねるが、彼女はかぶりを振る。雪崩ではぐれたのかと訊いたが、そうではないと答えた。
「あの爆発はアタシらは逃げられたんだけど、またはぐれたんだよ。
何処へ行ったか分からない……でも! あのデカブツをえらく気にしてたから……まさか、アイツ一人で」

レニーはソーニャから離れ、私のほうに寄った。私たちはソーニャに背を向けて会話した。
「レニーさん?」
「私は……団長補佐を探します」
そう言って、レニーは教えられた団長補佐の居場所へ顔を向く。
表情は知らせを聞かされた時から固まったままで、口調も重く沈むようだったが
「『チビ』は放って置く、そういう事で?」
途端にレニーの顔が歪み、
「私の口から言わせたい?」
併せて言葉も激した。腰に当てていた手は下り、無意識にか剣の柄に当てられる。
言おうが言うまいがどうせ同じ、見殺しは当然の選択。
彼らにとって傭兵稼業など、給料は別としても、そいつが何処で犬死しようが知った事じゃないだろう。
「いいえ。団長補佐の救出に私は要りますか?」
「当然よ、その為に貴方を頼んだんでしょ? ゴレムを狩る仕事が無いのなら、それを手伝って貰うわ」
「了解しました」
100ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/19(火) 22:40:07
「待ちなよ! アンタら、アイツとリッツをこのままにしていく気かい!?」
振り返って見たものは、私たちに槍を突き付け構えるソーニャだった。
真っ赤な髪が逆立ち、頬は上気し、視線はレニーに据えられていて、何故だか私はシャミィを連想した。
私はそうっと後退りして槍の切っ先から逸れたが、レニーはソーニャと相対したまま、収めたばかりの剣をまた抜くと
突き付けられた槍に刃をぶつけて乱暴に払い、響く金属音より更に鋭い語勢でがなった。
「そうしない理由が私にあるっての!? 貴方が抱いてたそれは死体よ、言った通りに!」
突然の怒鳴り声に私もソーニャも目を丸くし、身体を固くした。
やがて、落ち着きを戻したソーニャが静かに口を開く。
「アンタ……も、か。そうだったんだろ?」
「そうよ、それが貴方に関係あって? 私たちに死人を助ける余裕なんてないわ」
「だから『チビ』は置いて行きます」
剣呑な目付きでレニーは私を見たけれど、彼女も怒鳴るだけ怒鳴って落ち着いたようだ。表立って声を荒げようとはしない。
「随分とはっきり言うのね」
「言ったのはレニーさんでしょう?」

「……やっぱり団長補佐は私一人で十分。
いえ、この斜面じゃ一人でも二人でも大差ないと思うから。それに……」
「でしょうね。それじゃお暇も頂けた事ですし、私は彼女とグレナディアの足下まで」
私の返事にレニーは驚いたようだったけれど、グレナディアへ接近する危険は今更な話だ。
どうせここまで登ったのだから、グレナディアの格納庫跡を調べてみたかった。
「貴方はもっと慎重な人だと思ってたけど。給料分はどうしたの?」
「時と場合によります」
「そのようね」
彼女は肩をすくめた。

レニーが団長補佐を探しに降りて行き、今度は私たちが残された。
空の裂け目はさっきよりも心無しか広がっているように見えるが、一方のグレナディアは歩きもしない。
踏まれる心配を除けば近付いてしまったほうが却って安全かも知れない。
「行きましょう。『炎の爪』とご一緒出来るとは、光栄です」
私の心変わりが不可解に思えたらしい、ソーニャが首を傾げる。
恋人に死なれた悲しみも、一旦は目先を変えて紛れさせたか。
「アタシに付き合うのかい? アンタだって、得はないって言ってたじゃないか」
「死体を掘りに行くのは面白くありません。ただ、その死体が金の宝物庫にあるとなれば話は別です」
少女の切れ長の目が、また一段と細まる。
「アビサルは死んじゃいないよ」
「レニーもリッツさんの事、そう言ってましたね」
「そりゃ軽口のつもりかい」
「一日に二人は多いんじゃないかって」
相手が一歩、前へ踏み出した。このまま続けても、距離が槍斧のリーチと合わないから斬られる事はなさそうだ。
「私の古い知り合いに、死体と寝るのが趣味の男が……」
案の定、殴られた。私は雪に倒れ込む。
繰り出された拳は鼻の頭を狙っていたけれど、私が素早く身を引いたため骨を折られずに済む。
喧嘩慣れした殴り方で助かった。ただ、鼻から滴る血は両手の甲で何度拭ってもなかなか止まらなかった。
雪の上に這いつくばる私を、ソーニャは何も言わずにただ見下ろすばかり。私は彼女へ笑いかけた。
「殴るなら一回1000ギコです。でも出来れば、二回目以降は顔から外して下さい。
鼻とか顎とか、歯とか折っちゃうとみっともないんで。それと、蹴りは1500ギコ……」
みぞおちを蹴り込まれた。
痛みで身体が折り曲がったが、どうにか吐き気には耐えられた。手加減してくれたらしい。

ソーニャの座っていた所からは、グレナディアの足ももう間近だ。
彼女の後姿が遠ざかるのを待ち、私も荷物を取って立ち上がった。距離を保ちつつ、彼女へ就いて行く。
101サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/20(水) 22:29:43
「やあ、お嬢さん。今暇かな?よければ一緒に紅茶でも」
突然背後から掛けられた声に、驚くそぶりもなく十剣者の少女は笑顔で振り向いた。
「もち奢りですよね?」
「当然」
少女と同じく十剣者のヒューアが、照れ臭そうに笑って答える。
「補填要員が貴女だったなんてね、予想外かな。はじめまして剣者メイフィム」
「こちらこそ。ビークセフィラから来ました五代 命(ごだいみこと)です。剣者名はゲプラー、
呼び方はメイでいいですよ♪学校の友達はみんなそう呼んでるから」
そう言うと人懐っこい笑顔でヒューアに手を差し出す。

《十剣者》、それは《世界樹》の葉であるセフィラにそれぞれ配置される防衛システム。
その名の通り剣を持ち、外敵からセフィラを護る事を主務とする《最深部》の創りし人形。
あらゆる法則から切り離された存在で、セフィラ内では無敵に近い戦闘能力を保有する。
物理・魔法共に遮断する絶対結界を始め、それぞれの剣に固有の特殊能力を持っている。

「でもどうして私が昔使ってた名前を知ってたの?」
不思議そうにヒューアに尋ねるメイに、腰の刀を指差して答える。
「二刀流の十剣者は3人しかいないからね。そして女性型はその中では1人しかいないし」
「あ〜、なるほどねぇ・・・そういえばそうだったっけ♪」
自分の頭に軽くゲンコツして、ぺろりと舌を出す様は普通の少女にしか見えない。
しかしメイは普通の少女ではないのだ。
その気になれば、1人でセフィラを崩壊させる事すら可能な力を持っている。
「ところでグレッグスに会いたいんだけどね、道がわかんなくて・・・」
「グレッグス?」
「え〜とね、あの子の剣者名はイェソドだったかな?」
うーんと唸り、懸命に思い出そうとしているメイに、ヒューアは驚きを隠せなかった。

イェソドを「あの子」なんて呼ぶ輩は、ケセドくらいしかいなかったからだ。
「もしかしてイェソドの知り合いなのか?」
「知り合いも何も、そりゃ可愛い後輩だもん。まぁ今回はお仕置きしに来たんだけどね〜♪」
途端に残虐な笑みを浮かべるメイ。ころころと表情を変える少女にヒューアは苦笑した。
「イェソドの奴、何かしたのかな?」
「はい、反逆罪で《最深部》から抹殺命令が出たんですよ〜」

その返事に、ヒューアの笑顔は固まってしまった。
102サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/20(水) 22:30:57
「・・・抹殺命令!?」
ヒューアは予想外の答えに、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「そりゃ、《管理者》の剣を借りパクしちゃってるし。ただでは済まないでしょ?」
何故当たり前の事を尋ねるのかといった風に、メイは逆に聞き返した。

《管理者》、それは《十剣者》を束ねる《世界樹の使徒》を指す役職名である。
各セフィラに1人、担当の《管理者》が配属され、時を司る能力を持つ剣を所有する。
基本的に《十剣者》の1人として活動するが、セフィラによっては少し異なる場合もある。

ヒューアは背筋が凍る思いだった。
つい先日、イェソドとグラールから協力を頼まれ、それを引き受けていたのだ。
今自分の目の前にいるのは、数多の《十剣者》の中でも最古参にあたる実力者だ。
イェソドに荷担していると発覚した場合、確実に命は助からないといえる。
ヒューアが戦って勝つのは絶望的なまでに、戦闘能力差が開いているのである。
「どうしたの?なんだか顔色悪いけど」
下から覗き込むようにして、震えを必死に堪えるヒューアを心配そうに問い掛ける。
「い・・・いや何でもない。それよりあれは一体誰が?」
慌てて話題を変えようと、北西の空を指さす。そこには黒い染みが在った。
空を引き裂くように広がりつつある闇に、メイは不機嫌そうな顔になる。
「お仕置きはとりあえず後回し。“奴ら”が来たからね」
「な、何だって!?」
またもや驚きの声を上げるヒューア。近いうちに来るとは聞いていた、しかし今とは。

《十剣者》の存在理由はセフィラを外敵から護る事である。
ならばその“外敵”とは何か。それは“奴ら”と呼ばれる《大罪の魔物》の事だ。
《大罪の魔物》は《種(シード)》という種の形で発生する。
その《種》はセフィラに侵入した後、生物の感情を喰らいながら成長していく。
そして《種》は充分な量の感情を取り込んだ後、生物に寄生して《発芽》する。
この段階になって初めて《大罪の魔物》という存在として認識される姿となるのだ。

「それにね、あの子の事だから多分何か考えがあって借りパクしたと思うの」
先程までの軽い口調とは、まるで別人かの如く無感情な声でメイは小さく呟いた。

空を蝕む闇を。
そして・・・その闇から現れるであろう世界の天敵を、憎むように睨みながら・・・
103サブST ◆AankPiO8X. :2006/12/20(水) 22:32:31
メイとヒューアは廃墟と化したベルバッツの街を後にした。
セフィラを滅ぼす大いなる災厄の種が蒔かれたからだ。
「ここに来る途中で、3つは処理できたけどね。『姦淫』と『怠惰』と『飽食』かな」
ふとメイの表情が曇る。
「どっかの馬鹿があの穴開けたおかげで『業怒』を取り逃がしちゃった。マジ最悪」
忌ま忌ましげに悪態をつく。
「だが、まだ種の状態なら倒せるさ。発芽する前に何とか始末出来れば問題なしだよ」
「そう上手くはいかないって。そもそも奴らが一度に4つも同じセフィラに向かうとかさ、
ぶっちゃけありえないから。このセフィラには多分、アレがあるんだと思う・・・きっと」

《大罪の魔物》には全部で七つの種類が挙げられる。
『傲慢』『貪欲』『姦淫』『業怒』『飽食』『嫉妬』『怠惰』
これら七種類の欲望に分類される《大罪の魔物》は、その名に因んだ欲望を喰らう。
例えば『傲慢』の魔物ならば、人の驕りや歪んだプライドが《種》を育てる餌となるのだ。
通常、《大罪の魔物》は同じセフィラに複数で現れたりはしない。ある例外を除いては。
例外とは魔物にとって真の目的である《創世の果実》を喰らい、新たな《世界樹》となる事だ。
その為なら本来は互いに干渉しない魔物も、複数で連携して襲って来る。
つまり・・・このズィームセフィラは、今まさに未曾有の大災厄が迫りつつあるのだ。

凄まじい速度で街道を駆け抜ける2人、目指すは北西の空。
「まさか、ここは奴らに滅ぼされたセフィラからの難民受け入れ先として創られた場所ですよ?」
「でもほら、このセフィラは1番新しいでしょ?可能性は否定できないよ」

メイの言葉にヒューアは黙る。確かに可能性はある。
なによりも彼には心当たりがあった。獣人達が聖地と称する場所に納められたモノ・・・
龍人達が死に物狂いで封じたその存在こそが、そうなのではなかろうか。
ヒューアは黙り込んだまま、隣を駆ける少女をちらりと見た。
本当の事を正直に言うべきか言わざるべきか・・・一瞬ではあったが判断に迷う。
正直に全てを打ち明け、メイの協力を得られれば・・・イェソドの事も或いは・・・
そんな考えが頭の中をぐるぐると巡り、数秒後。ヒューアは結論を出した。

「メイ、貴女に力を借りたい。実は俺達は今・・・・・・」
104ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/20(水) 22:46:01
「え、今もしかして動いた・・・・・?」
心なしかどうか分からないが確かに動いたような気がしたラヴィは
アクアの肩を揺する、そして確かに反応したアクアに呼びかけようとする。
「ねぇ・・・起きてよぅ・・・」
そう言った瞬間、空気が裂けるような感覚が辺りに響き、そして、
近くの床が砂のように細切れになり上に巻き上がり、吹き上がる粉塵に紛れ一つの影が飛び上がってくる。

最早腕と一体化している剣は生き物のように蠢き辺りを這っている。
目は理性の中に確かに狂気を放ち、口元は歪な笑いを浮かべている、そう、ハインツェルだった。
「……なるほど、小娘と、あと使えなかったクズか、僕は急いでいる、どちらも今すぐに千切りにしてやる!!」
「ハ、ハッちゃんは!どうしたの!?」
「……ん?ああ、ハイアットのことかい……?」
ハインツェルは具合が悪くなったかのようによろめき、息を切らし始める。額は汗でまみれ。
自分でも信じてないかのように言葉を必死に口からひねり出す。
「ああ……殺したよ℃Eすしかなかった!なんでだ!僕のたった一人の兄弟!!」
ハイアットを殺したことで本当に自分の存在など意味がなくなってしまったかのように表情には虚無感が漂う。
「貴様達≠フせいだよ、全部そうだ、僕がハイアットを殺した状況に置かれているのも全部貴様達≠フせいだぁぁっ!!!」
そして絶叫する、なんともいえない絶叫を、剣がハインツェルの感情をあらわすかのようにあちこちを破壊していく、
「どうしてくれるんだ!?僕を本当の天涯孤独にしやがった!!ハイアットは良い奴だったさ!貴様達≠ノ誑かされる前まではなぁっ!!」

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

あたりが血で染まっていた、だれの血といえば自分としか言いようがない。僕の血だ。
斬り傷は骨にまで達しているものもあり、僕は痛みすらもう分からない、だけど僕はここで倒れるわけにはいかない。
「……ハイアット、口数が少なくなったな、どうした?」
「……そうかい?君が話しかけてこないだけだろ……兄弟。」
何気ない会話だ、当たり前の会話、街中でこんな会話があっても不思議じゃない。

―ガガガガガガガガガッ!!!

ただ、ぶつかりあい、はじけ飛びあっている弾丸と刃を除けば。実際話している時間なんてない。
秒間100はいくかという刃達をただ必死で撃ち落しているのだから。
そして一秒、一秒経つごとに確かに刃は僕の体を切り刻んでいっている。
そして、とうとう限界が来た!指に一瞬、ほんの一瞬力が抜け落ちたのだ、
その間に刃は僕の体に叩き込まれ続け、僕は膝をつき吐血をする。
「あがっ!!……はーっ……はーっ……」
「……狙わないからそうなる、君は相変わらず優しすぎる奴だね、一回も僕に撃とうとしない≠ネんて。」
あれだけギラついていた殺気が消え、なんともいえない忍びなさと哀れみの目が僕を見つめる。
「なに……言ってるんだ……?撃たせて……くれるような暇も……くれないくせに……」
「違う!最初の初撃!不意撃ちのとき!僕の頭を狙えば決着はついていた!他にも僕が気を抜いていたときなど山ほどある!!」
ハインツェルにそういわれて、僕は一つの答えしか言えなかった、とても単純な答えだ……

「殺したく……なかった、どうして、僕が君を殺すことができるんだい……」
僕の答えにハインツェルはとてもつらそうな目をして、提案をした……
「ハイアット……今ならば自分自身で決着を付けれる……僕だって殺したくない、」
そういいハインツェルは刃を戻す、自害しろといわれ、僕は自分の握っている銃を見る。
そして、ゆっくり銃を自分のこめかみにあてる、だけど、これでいいのか?僕は、まだ死んでいない……
「言うな!!……諦めはない!まだまだこれからだっ!!」
立ち上がろう!僕はまだ動ける、例え死に近いとも、まだ死んでいるわけじゃないんだ!!
足に力をいれてゆっくりと立ち上がる、骨が軋み血があちこちから流れ出るが、今は気にしない!

「さあ……こいよ…ハインツェル……」
「……切り刻めジルヴェスタン=v
そして、刃が伸びたかと思うと、床に付していた、だんだんと遠のく意識。
「……ハイアット、よく戦った、これまでの実力の差がありながら、よく最後まで戦ったな、ゆっくり眠れ……」
返したいのに、言葉が出ない、体に力が入らない……何も見えない、最後の言葉の後、ハインツェルの気配が消えたのは分かる。
きっと皆の方に行ったんだ……止めなくちゃ……駄目だ、力が……アーシェラ……皆。

―すまない。
105リザードマン集落 ◆d7HtC3Odxw :2006/12/21(木) 00:56:51
「フン、甘イ!!」
ボボガ酋長が杖をメガニュームに突き立てる。即座に反転、背後のもう一匹に骸を投げつけた。
「ゴゴ!!ググ!!被害ハドウナッテル!?」
「戦士達ハ重症5!!軽症18!!死人ハマダ出テナイ!!」
ググが肩で息しながら答えた。
「避難先ハキャメロン ト シスター ガ守ッテクレテル。」
ゴゴも満身創痍の状態だ。
「デモ敵マダフエテル!!」
空には黒雲の如くメガニュームの大群が控えていた。

「オリャアアアア!!月まで吹き飛びな!!」
キャメロンの豪腕が一匹また一匹と吹き飛ばす。
「セリャア!!ハイ!セイ!!」
シスター・キリアの鉄棒が叩き伏せる。
「こうして背中を預けれるってのも、」
「悪い事ではございませんね。」
こんな時なのにキャメロンは少し照れた笑いを浮かべた。
「もし、よかったら、これからも・・・・」
こんな環境の時にしかもついちょっとの間知り合ったばかりなのに俺は何を言い出そうとしてるのか、そんな感情が
ついつい頬を緩ませた・・・・が、それは無残にも一撃で引き裂かれた。
「こんなに安心して背中を任せれるのは夫以来だわ。」
「へ?」
ついつい間抜けな声が出てしまう。
「旦那って・・・・?」
「あら、私、結婚してますのよ。夫はスリダブ流のハイマスターをしてますわ。」
「あ、そ、そうなんですか・・・」
なんか体から力が抜けていくのをキャメロンは感じた。

キャメロンの胸ポケットに入れていた宝珠が更に強く輝き始めた
「な、なんだ!?」
その強い光にメガニュームが怯え逃げ出してゆく。
そして、強烈に碧く光ったかと思うと一条の碧い閃光が空に放たれた。
ギギャアアア
その閃光に驚いたのかメガニュームが逃げ出し始める。
「た、助かったのか?」
キャメロンは周りを見回し呟く。

あれだけいたメガニュームが去っていく。どうやら閃光に恐れをなしたようだ。
だが、まだ、脅威は去っていなかった。この惨状をこれ幸いと喜ぶ物がいたのだ。
106アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2006/12/21(木) 00:58:01
ーーーー碧くて狭くて広い場所ーーーー
「いくよ」
「いこう」
「「約束の出会いの場所へ」」

碧い閃光となった二人はついに表に出て、約束の場所へ進む。

ーーーー遺跡外部ーーーー
槍と盾 ついに衝突する。その衝撃にジャジャラが大きく揺れる。
禍々しいその力はついに盾を後退させ、それと同時にアスラの体にもヒビが入る。
「まさか、こんな!?」
アスラが絶叫する。
「まだまだぁ!!」
レベッカ、パルスが奏でる。
その時、別の場所より碧い閃光が向ってきた。
「別場所からも!?」
レベッカが驚愕した。しかし、
「やっと来た!!アーシェラが帰ってきた!!」
アスラが歓喜の声を上げる。
「あの碧い閃光がアーシェラ!?」
「そうだよ!!絶対落とすもんかぁーーーー!!」
力を振り絞ってアスラは盾を前進させた。」

ーーーー遺跡内部ーーーー
「さぁ、、、殺してやる」
ハインツェルの剣、ジルヴェスタンがラヴィとアクアに襲いかかった。ラヴィが思わず目をつぶる。
まるで長い時間が経った様な錯覚、自分が生きている事を理解したラヴィが恐る恐るハインツェルを見ると
「な、お前!!役立たずの癖に!!」
アクアが剣を受け止めて立っていた。
「アクアお・・・ねえ・・・ちゃん?」
しかし、アクアは振り返る事なく、いや、ハインツェルにも興味は無いといった感じで受け止めた剣を投げると
アーシェラの入ってる培養槽の前に進んでいった。
「お前!!アーシェラに近づくな!!この役立たずが!!」
激高したハインツェルがアクアに斬りかかる・・・・が何故か途中で止めてしまった。まるで本能がしてはいけないと
告げてる様だった。
培養槽の前まできたアクアはその培養槽に、手をかざして、呟く。
「これでいいの?お姉ちゃん」
その時、培養槽とアクアに碧い閃光が降り注いだ。それと同時に、培養槽の中のアーシェラの目が見開き、
轟音と共に培養槽が砕け散った。そして、辺りが見えなくなるほどの光が溢れた。
溢れた光が収まったその時、そこには二人の姿があった。
一人は龍人の女性、もう一人はシーマンの少女
龍人の女性は声高らかに宣言した。
「ハインツェル!!剣を収めなさい!!アーシェラ・ムゥ・セレティアスの名において命令します」
呆然とするハインツェルにアーシェラは歩み寄り、しっかりと抱いた。
「ただ今、ハインツェル、辛かったでしょう、ごめんなさい」
がくりとハインツェルは膝を落として泣き始めた。
107イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/22(金) 02:36:13
公国南部、王国方面へと続くとある街道上での事。
「へっへっへ、観念しなあ!!」
「かかか頭ぁ! オレっち右の金髪の娘がああああ!!」
「あ、じゃあオレ真ん中真ん中真ん中あああああああああああああああああ!!!」
流人と思わしき美しい女の三人連れを、強面の――どっから見ても人間のクズといった面相の男達が取り囲んでいた。
血走った目で鼻息の荒い連中。その数およそ三十弱。
いわゆる山賊団という類のアレであった。

「いやあ〜、しかし見事に引っ掛かるもんじゃのう」
「まあ、あの通りの美人ですからなあ。術者冥利に尽きますわ、本当に」
街道から少し外れた岩陰に潜み、高みの見物を決め込むイアルコとジョージ。メリーはといえば、お茶の支度の真っ最中。
一見まったく心ない人達に見えるが、別に彼女達の不幸を茶菓子に午後ティーを味わおうといわけではない。
山賊どもの不幸を茶菓子に味わってやろうという腹積もりなのである。
「今か! 今この瞬間で一網打尽か!?」
「いやいや若、頭目が飛びかかってからの方がよろしいかと!」
ご丁寧に起爆装置≠ニ銘打たれた箱に手をかけ、目を輝かせるイアルコ坊ちゃま。
ぶっちゃけて言えば、三人連れの女は山賊をおびき寄せる為にジョージが作った幻影であった。
その正体は、ただの火薬の詰まった樽である。

道中、女子供に年寄りだけでオゼゼもたんまり持っていそうという、絵に描いたような獲物然とした御三方を
狙う不逞の輩の数たるや、それはもう尋常では御座いませんでした。
そんな、メリー様の右フックだけで尽く壊滅していく殿方達を御覧になったイアルコ坊ちゃまが、
「つまらん!」
と、仰ったのが、今回の罪のないイタズラの始まりだったので御座います。
「フハハーッ! わけもわからず吹き飛ぶ連中の間抜け面が目に浮かぶわあああ!!」
鬼で御座います。

「フハァーッ!!! では、いったっだっきまああああああああああああっす」

――すわ、スイッチオン。
さようならお馬鹿様達、ご機嫌よう。
そうなる寸前、山賊の頭目が、かの有名なルパンダイヴの構えをとった瞬間に、その御方は
調べと共に颯爽と現れたので御座います。

「何だあ!? このギターの音はあああ!?」
「誰だ!? どこにいやがる!!?」「クソォ! なめやがって!」
「あそこだあっ!! あそこにいるぞお!!!」「なにぃ!?」「なんじゃあ!?」「何モンじゃあ!?」

街道並木の一際高い頂点に、ギターを奏でる影一つ。
その下半身、ピッタリとした下穿きは金糸銀糸を用いてパワフル華やか。
その上半身、厚手のマントを背に流し、逞しい逆三角形の赤銅色をあらわにしたるはエネルギッシュでベリー強か。
その顔、口元目元のみを露出した隼マスクの笑み――爽やか!!!

「ななな、何モンだテメェ!!?」
「フフッ、見てわからんか?」
「わからんから訊いてるんでぇあ!!!」

それは、今時流行らないヒーローの登場というやつで御座いました。
108イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/22(金) 04:10:09
ギターの曲調を男のカタルシス全開な弾き語りに変え、開口一番。その御方は仰いました。
「……愛と暴力は似ている……♪」
『『いや、似てねえよ』』
総ツッコミで御座います。

「……愛こそすべて。それ以外は何もいらない……♪」
『『お金も欲しいヨ!!!』』
「……愛で空が落ちてくる……♪」
『『ワケわかんねえよっ!!!!?』』
「……ああ♪ 何故♪ 人は暴力でしか愛を語れぬのか……♪」
『『決めつけんなよっ!!!!!!!!!』』
何やら滑稽な合唱が展開された事に大層お疲れな様子で、頭目様は肩で息をなさいつつ仰いました。
「だあああああっかっら誰だっつってんっだああああああああああああああ!!!!!???」
「貴様ら悪党に名乗る名などないわっ!!!」
「散々引っ張っといてうあだgしうgiuggjkaiuahiuahohoaufuhauegfoaoえおえおえ!!!!」
「愛と暴力に伝道師!! スカイ・トルメンタ四世!!! ラーナに代わりお裁きを申し渡す!!!!」
『『どっからツッコミゃいいんだよっっっ!!!??』』
「とおっ!!」
「とおっじゃねえって――ぎょわあ!?」
その飛び降りざまの顔面への膝爆弾が、宴の始まりで御座いました。

「スリダブ流! ミル・マスカラス!! ドス・マスカラス!! エル・マスカラス!!」
「ぐわおあ!?」「ぎゃああ!!」「あいだべほ!!?」
賊の方々の頭から頭へ、地に足をつける事なく様々なダイナミック技を披露するトルメンタ様。
華麗で御座います。力強う御座います。
そうやって、方々の半数程が半ば天に召された頃の事。
「こんの卑怯モンがあ!! バッタみたいに跳ね回ってんじゃねえぞ!? 地に足つけて男の勝負を――」
「よかろう!」「へっ?」
「マスクチェンジ!! グラン・トルメンタ三世!! ラーナに代わりて天誅を下す!!!」
なんと、トルメンタ様は顔の前で両腕を交差させ、瞬く間に鷲のマスクにお変わり遊ばされたのです。
その技の数々たるや、、まさしく剛≠フ一文字で御座いました。
「スリダブ流! 剛双満月輪!!」「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」
「スリダブ流! 悪漢大風輪!!」「やめやめてやめてやめてとめとめてとめおれやめとうわ!!!!」
「スリダブ流! 人間大火輪!!」「ぶえげろぐげうげおげおげおげおげおげろげろげろ!!!!」

「愛を忘れた子羊達よ。今はただ、心安らかに眠れ」
方々が全員お休みになられるまで、ものの五分といったところで御座いましょうか。
御自身が築き上げた屍の山を踏み越え、トルメンタ様は立ち尽くす流人の娘様方に手を差し伸べられ、仰ったのです。
「さあ、もう大丈夫だぞ君達。……ん? 我輩か? なあに、ただの旅の神父だ。愛と暴力の伝道師と人は――」
「変態にしか見えんわ!!!!」

――すわ、スイッチオン。
盛大に爆裂する街道。気絶したまま苦悶の表情で吹き飛ぶ山賊達。
その中にはもちろん、あの神父様のお姿も御座いました。
「いやはや、完全にタイミングを読み違えましたなあ」
「ううむ、勿体ないからとりあえず押してしまったのじゃが……見事に全員死んどらんな」
鬼で御座います。

「フハハハハハハハ!!!」
「ん? 爺、何じゃこのギターの音は?」「さあ、やけに男のカタルシスを感じさせる――」
「……愛と暴力は似ている……♪」
「全然似とらんわ――って、貴様いつの間にそこに!?」
「愛と暴力の伝道師!! スカイ・トルメンタ八世!! ラーナに代わってお涙頂戴!!」
「マスク戻っとる!?」「さっきと微妙に名前が違いますぞ!?」
「電流爆破とは、中々の不意打ち!! 実に見所のある子羊達だ!! ――とおっ!!!」
「ぎゃああええええええええ!?」「ひええええわあああああああっ!!?」
お二人が同じパターンでしこたま愛を解かれたのは、まあご愛嬌と言いましょうか、因果応報と言いましょうか。
兎にも角にも、心強い旅の道連れが加わったので御座います。

ああ、坊ちゃま、お茶の用意ができました。
109ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2006/12/22(金) 17:56:34

   ***************8年前***************

「「水竜グルムルを猟理する!?」」
ラヴィとアンナちゃんの声がピッタリに揃ったよぅ。
宿に帰って来た先生は、水竜グルムルを猟理する仕事を王様から引き受けたって教えてくれたお。
突然の大仕事に少し唖然としてるアンナちゃん、もちろんラヴィもポカーンだよぅ。

水竜種は龍の眷属、竜の中でもちょいと変わった種族なんだお。
竜種は空を飛べるのが普通だけど、水竜種は水中に適応した身体の作りなの。
どちらかと言ったら・・・竜ってよりも魚に近いかなぁ?
翼の代わりに鰭が発達してて、水の中を超すごい早さで泳ぎ回るんだよぅ。
それともうひとつ、その巨体もすごい!飛ばないで水の中で生活するからだって。
重力という枷に捕われない水中は、その身体をより強く大きくするって先生が言ってた。
グルムルはそんな水竜種の中でも特に大型で、凶暴な性格で、とんでもない奴らしい。
ラシャル湖近辺の町や村には、すでにたくさんの被害を出してるみたい。

ラヴィも随分とお仕事してきたけどぉ・・・こんな大物なんて初めてだよぅ。
「猟理はワシとお前達の3人でやる。この猟理がワシの引退猟理じゃ。」
「・・・え?」
今先生が何を言ったのか、よく分からなかったよぅ。
「そしてお前達のどちらかに黒包丁を継いで貰う。この猟理はそれを決める試験じゃの。」
うそ・・・やだよぅ!!ラヴィは先生からまだまだ教えてもらう事が残ってるよぅ!!
「分かりました。必ずや期待に応えます。」
「な!?アンナちゃんッ!?先生が引退しちゃうんだよ!?」
「ラヴィ、私はね・・・世界最高猟理人になるの。仲良し師弟ゴッコに興味無いから。」
そう言ってラヴィは突き飛ばされちゃった、あんなに怖いアンナちゃん見たの・・・初めて・・・・。

110レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2006/12/22(金) 21:25:22

   今こそ奏でて、私の魂の謌を!

アタシの周りが真っ白になって…夢に出てきた少女がピアノの横に立ってた。
「あなたでしょ?ずっとアタシに何か伝えようとしてたのは」
アタシの問い掛けに、少女がニコッと笑って…その姿が大人の女の人に変わっていった。
   そう、貴女なら必ず私を…星晶の瞳の声を聞く事が出来ると信じていました

突然アタシの両手に星晶の瞳が現れる…んだけれども、形が変わってる!?
「これって、やっぱり星晶の瞳だよね?」

   はいそうです、本来の姿を取り戻した真の星晶の瞳です

今までに感じた事が無いくらいに、胸の鼓動が高鳴って…その鼓動は星晶の瞳に伝わる。
アタシは…やっと楽器に認めて貰えたんだ。
そう直感した。これまでとは比べものにならない程に、しっくりと手に馴染む。

身体と溶け合うような一体感、星晶の瞳とアタシの魂の鼓動が重なり合う時…
真っ白な世界はガラスのように砕け散り、再びジャジャラへと戻ってきた。
「いける…アタシは…アタシの夢は!何処までだって行けるッ!!!」

ギュビイィィィィィィイイイイン!!!!

思い切り掻き鳴らし、周りを見渡した。
空に浮かぶ古代都市!迫り来る破滅の矢!!それを防ぐ不滅の盾!!!
何これ!まるで絵本の中のお伽話みたいじゃない!!…これで燃えなきゃ嘘だよね!?
「パル…アタシね、今すっごいドキドキしてるッ!!もう最ッ高に熱くなってる!!!」
アスラの展開させた魔法陣の盾は、更に輝きを増しながら都市を覆っていく。
この盾を支えるのは、アスラとパルとアタシしかいない!!
「レベッカちゃん、やっぱり歌が好きなんだね!よぅし、僕だって負けないからーッ!!」

積もり積もる遥かな時の埃をアタシ達の魂の謌が残らず吹き飛ばして、輝きは光の爆発に変わった。
もう何も怖くなんかない。隣には最高の友達が居て、この手には最高のリュートがある!!!
これ以上を望むなら…後は、アタシ自身の成長しか残ってはいないわよね!!
だったら聴かせてあげる!破滅の矢が全てを滅ぼすなら、アタシの謌は全てを救ってみせる!!!

「いくわよ!パル!!」
「オッケィ!レベッカちゃん!!」

「「届け!燃える魂の旋律!! A Happy New World! 」」
111レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2006/12/22(金) 21:26:19
       〜♪〜♪〜♪〜♪〜
それは永遠で それは思い出で それは煌めく夢…
眩し過ぎる太陽の輝きを 手の平に閉じ込めたら
果てしない道(未知)を行く 私を照らし、導き、支えてくれる!

ねぇ 君に届けたい 伝えたい これまでのありがとう!を
そう 私が選んできた 困難も 悔しさも悲しみの涙も
ずっとずっと一緒に もっともっと沢山 掴み切れなくなるまで…


これは幻で これは戸惑いで これは凍える風…
切な過ぎる記憶の扉を 思い切って蹴り開けたら
終わらない未知(道)を行く 私と笑い、泣いて、歩いて行ける!

さあ 君と分かち合いたい 喜びたい これからの旅路で
ほら 今まで選んできた 出会いも 別れも本物の輝きに変わる!

そっと瞳を閉じると…浮かぶのは 最高の冒険!!
そっと瞳を開けると…広がるのは 新しい世界!!

ねぇ 君に届けたい 伝えたい これまでのありがとう!を
そう 私が選んできた 困難も 悔しさも悲しみの涙も
ずっとずっと一緒に もっともっと沢山 掴み切れなくなるまで…

今こそ飛び出せ!遥かなる…Happy New World !!
       〜♪〜♪〜♪〜♪〜


テンションが限界突破!喉の奥底から響き渡る歌声が、世界を変えていく!!
光が全てを包み、何も見えなくなっていく中で、アタシとパルはしっかり手を繋いでる。
温もりが、優しさが、触れ合った手から流れ込んで来るのが分かる。
矛盾なんて言葉は嘘っぱちだったってコト。だってアタシ達は勝ったんだもん。
届かない歌なんか、絶対に無い。伝わらない想いなんて…絶対に無いんだから!!


「最ッ高に燃え尽きたーッ!」
疲労MAX100%で、テラスにへたりこむアタシ達の所へアスラが飛んで来るのが見えた。
112アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/24(日) 23:19:35
私を囲う天球。
黄道聖星術を行使する為の陣図であり、障壁である私の絶対領域。
そこに今、同じ天球・・・いや、私以上の天球が触れ、重なり合ってくる。
言いようのない異物感と喪失感が私を貫き、身動きする事すらできないでいた。
『・・・初の蝕なればこれも道理、か。』
重なった天球儀の中で黄金の仮面の人物が呟くが、その声から感情は読み取れず、私の『眼』を持ってしてもその姿は掴めない。
その言葉が何を意味するかすらわからなかった。
ただ、私にできる事と言えば、小さく呻き声を上げるだけ。
『蝕はもたらされた。発芽前なれどいい機会だ、己が手足の動かし方くらい教えておいてやろう。』
「や・・・やだっ・・・」
私の背後に立つ黄金の仮面の人物の言葉の意味は、すぐに身をもって知る事になる。
見えざる力によって左腕が持ち上げられ、天球の内壁へと導かれていく。
抗う事も虚しいほどあっさりと私の左腕は天球を突き破ることなく、内壁へと沈んでしまった。

直後、空間を侵食する虚空から巨大な腕が出現した。
否、それは腕の形をしたモノ。
巨大な液体状の紋様が集まり、一本の漆黒の腕を形作っている。
それは巨体を宙に浮かせるグレナディアの足首を掴むとそのまま握りつぶし、虚空に引きづり込もうとする。
「アッハッハッハ!こちらからアプローチするというのに積極的じゃぁないか!」
足を引っ張られガクンと身が沈むグレナディアから投げ出されながらベルファーはそれでも哺乳瓶を放さない。
「このまま終わると思ってけつかるなよ?」
まるでオーケストラの指揮者のように、優雅に、激しく身振りをするとグレナディアがそれに連動して出力を上げる。
引き合いによって虚空からの腕に握りつぶされ、引き摺られる足が付け根から引きちぎられていく。
ケーブルや様々な部品を撒き散らしながら自由を取り戻したグレナディアが飛ぶ。
引きちぎった足と大量に撒き散らされた部品類と共に虚空へと沈む腕。
「足なんて飾りですよ。僕様偉い人だけどそれがわかるの。」
片足をなくしながらも空中で体制を整えたグレナディアの各所が開き、無数の砲身が虚空へと向けられる。
近すぎるため肩に背負った二門の霊子砲は使えずとも、千に及ぶ重火器がいっせいに火を噴いた。

迫る無数の砲にも黄金の仮面には微塵も揺らぎが見られない。
『歪空間包護展開・・・』
術の展開と共に、虚空に沈んだ腕が再度顕われ私達を護るように掌を広げる。
無数の霊子砲、重火器はその掌を避けるかのように、不自然な軌道を描き虚空へと消えていった。
これは軌道を変えたわけではない。
霊子砲は確かにまっすぐに進んだ。
ただ、その空間が歪曲し、歪曲した空間をまっすぐ進んだので結果的に軌道を曲げたように見えたのだろう。
初めて知る術のはずなのに、私は予めそれを知っていた。
思い出しているといったほうが正確なのかもしれない。
『匂陳上宮!月妖日狂!極星天瀑剣召喚!!』
砲が途切れた瞬間、次なる術が展開される。
虚空からの腕に巨大な剣が握られ、瞬時にグレナディアの胸を貫き背中を突き抜ける。
『発芽もせぬ念体ではあるが、感覚を掴む程度にはなったであろう。
蝕はもたらされ、伊吹の刻は迫る。奈落の大聖堂よりその知らせを告げよ。
努々忘れるな、我は常に汝とともにある。』
私の背後で黄金の仮面の気配が消え、ようやく動けるようになった。
全身汗だくでひざが震える。
わからない事だらけだけど、はっきりしているのは上空に見える串刺しにされたグレナディアとその堅固と虚空へと沈もうとしている腕。
目的は果たされた・・・でも・・・
113アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2006/12/24(日) 23:21:56
「もうちょい右、そーうそう、そこでよーっし!」
どこからかベルファーの声がする。
その次の瞬間、閃光と共に腕がはじけ飛んだ。
グレナディアの主砲が虚空ごと貫き、腕を弾き飛ばし、遥か遠くの目標物へと撃ちだされたのだ。
「こうもイフタフ扇の言うとおりだと面白みがないけどね、カール叔父さんとの約束もあるから仕方がない。時間だ。
いかがかな?龍を護るために生まれ、戦う事すら叶わなかった想念一万年分の一撃は?
プロトタイプとはこもっている思いの重さが違うだろう?」
高笑いと共にベルファーが現れる。グレナディアの上で仁王立ちしながら。
星辰を読み解きこうなる事はわかっていた。
グレナディアを公王暗殺と、対抗機体となりうるプロトタイプの破棄は予め計画されていたのだ。

「いつの時代も試作品は試金作だし〜。敢闘賞としてそれは差し上げよう!」
グレナディアは三機作られた。
プロトタイプ、一号機、二号機。
一号機はイルドゥームに破壊され、二号機と元々投入予定のなかったプロトタイプが破棄された。
串刺しにされているプロトタイプグレナディアより、僅かながらではあるがより重厚に、より洗練されたフォルムを持つグレナディア二号機。
空間すら貫く主砲に異形の腕は、空震を引き起こしながら周囲の空間を巻き込み消滅を始める。
腕も、剣も、それに貫かれているプロトタイプグレナディアも空間ごと消滅していく。
「敢闘賞をあげた代わりに、これだけの事をしたお前様を貰っておきたいのだけど・・・保護者の多い子だな。どなた様?」
おどけた顔のベルファーの視線の先には、虚空対消滅の煽りで宙に投げ出された私を抱きとめてくれたレオルさん。
対消滅する空間とそれによって巻き起こる空間振動をものともせずに空中に佇み対峙する。
「ドラグノフ公国十二貴族がギャンベル家当主ベルファー卿とお見受けします。
私は王国騎士団補佐官レオル・メギド。この者は我が軍所属、差し上げる事はできません。
それと、星霜の眠りから目覚めるなり主砲を放つなど。グレナディアを奪還するものとしてはこれ以上貴重なエネルギーの消耗は控えていただきたい。
運ぶのが手間ですからな。」
消耗して足がおぼつかない私を、後ろに控えて戸惑い気味な騎士の女の人に預けてレオルさんは堂々と宣言する。
レオルさんは知っていたんだ。
世界率が変わったことにより、想念の染み付いたグレナディアが起動するとどういう事態が起こるかわからない、と。
それ故、制御不能になった時、被害が最小限に抑えられるようにエネルギーも最低限しか入れていないことを。
114グレナデア消失 ◆9VfoiJpNCo :2006/12/25(月) 03:01:03
済ました顔で言うレオルとやらを見下ろし、ベルファーはますますもってご機嫌といった様子で哺乳瓶を仰いだ。
「そう! 君の読み通り! この二号機の燃料はギリちょんでね!! 実はこうやって浮いているのも辛いんだよ!」
徐々に、グレナデアの歪な人型が傾いていく。
下からその威容を見上げるすべての者は、有り難味のない絶望的な直感を共有した。
「――よって落ちるっ!!!」
急に手を離された錘のように、いきなりの大加速で自由落下に入るグレナデア。
その主砲の第一射、第二射を確実に上回るであろう衝撃に備え、ある者は毒舌とともに身を伏せ、
ある者は運を天に任せ不敵に笑った。
それは果たして誇るべき事か、それとも――いや、やはり誇るべきであろう。
誰一人として、祈った者はいなかった。

ジンレインは天を見上げたままのソーニャの手を取り、手近な洞へと引っ張り込んだ。
それでどうなる?
――とは思ったが、まあ、体が勝手に動いてしまったのだからしょうがない。職業病である。
逃げられぬのならば、せめて死の原因を最期まで睨み付けていてやろうと、落下するグレナデアの巨体へと顔を向ける。
今まさに、とんでもない物が、雪の景色を砕いて潰す。
まばたきは、もったいないのでやめといた。
「……なに?」
雪崩よりも早く迫ってくるであろう落着の衝撃が来ない事に呟き、眉をひそめる。
なんと、グレナデアの足元は潰れるどころか歪んですらいないではないか。
傍で見ていたソーニャの気配が変わった。焼け付くような、熱い情念に満ちたものになる。
何事かを叫びつつ、炎の爪が穂先を前に疾く駆け出す。
白を割って突き進むその後姿は、さながら火竜の舌の如し也。
思わず見入ってしまったジンレイン。素早く気を取り直してグレナデアを注視する。
……沈んでいる?
駆け出し、その足元を覗き込む。
「ワケ……わっかんない」
大地は、雪に埋もれた山岳地帯の色ではなく、井戸の底の如き無明の闇の暗きであった。

「さすがだ! 流石極まる影帝ゴウガ! まっさか自身の影にグレナデアまで収納できるとは……どうやって殺そう?」
巨大な影、まさしく巨影と言うべきそれに沈み行くグレナデア二号機の頂点で、真剣に頭を悩ますベルファー伯爵。
忍術、影劫空界。
本来、ただの日に落ちた二次元の存在でしかない影を、異空間を孕んだ闇とする術である。
その利便性に反し非常に制御が困難らしく、シバ程の使い手であっても収納規模はせいぜい一個小隊程度。
城一つに匹敵するグレナデアを呑み込まんとする、帝の影の暗く深きは果たしてなるや?
「次に目覚めた時、この眺めがラライアの山々になっている事を――って、やっぱ怖ええええええ!!」
『契約は守る』
足元まで来た影にガタガタブルブルするベルファーに、ゴウガの声がかけられる。
不可思議な響き故、まったく位置が割り出せない。
「……よぉ〜し、いつか分析してやる。――ん?」
密かに決意するベルファーの子供みたいに輝く瞳の端に、炎をまとって突っ込んでくる女の影が映った。
115グレナデア消失 ◆9VfoiJpNCo :2006/12/25(月) 04:07:17
全身是、怨敵目掛けた炎の槍の如き也。
ソーニャの雄叫びは明瞭ではあるものの、心に確かに響きはするものの、意味のある言葉にはなっていなかった。
影の上で待ち受ける形となったベルファーが、哺乳瓶を高々とかざす。
途端、炎の爪のすぐ傍で盛大な雪の花が咲いた。
高所からの砲撃である。
伏せ、雪上の獣のような鋭き眼でおおよその発射地点を見上げたジンレインは、その理不尽に大きく顔を歪ませた。
「新型ゴレム!? 空でも飛べるの!?」
思い思いに、周囲の山の頂から砲を向けるは重厚なりし人の型。
公国の次なる主力としてその名も高い、噂の新型ゴレムギガント≠ナあった。
その数、実に十四機。

荒天≠フエンラは、大の字に寝そべって真っ赤な舌をべろんと出した。
「疲れた〜〜死ぬ〜〜〜〜」
クソ重いギガントの一機一機を影に沈め、山頂まで運んだのは彼である。
まだまだ未熟な彼の影劫空界は一機を収納するのが限界なため、計十三回半もこの厳しい頂を往復して配置したのだ。
移動で肉体を酷使。術で精神を酷使。酷使酷使の二重奏に耐え切ったエンラ。今はただ、白い吐息を荒げるのみ。
「……休んでから帰ろっと」
毛足の長い犬種故か、生来の持ち味故か、この寒さの中にあって尚、呑気な寝息を立てられるコボルドであった。

「うん、配置は万全みたいだね。短時間でいい仕事だ。今度会ったら骨をやろう」
炎の髪の女を足止めする砲火の具合を見やり、満足顔のベルファー。
白衣に着替えたその姿は、すでに胸まで影に浸っている。
「断龍さんと天弓君は、一緒に行かないんだねえ? 君らの助けに来たのかと思ったんだけど」
『彼らには、彼らの思う所がある故に』
返すゴウガの響き。佇むシバは、黙して影へと呑まれ行く。
虚空より現れた腕との戦闘の際に、クロネとアオギリは何処かへと姿を消していた。
敵さんも、一枚岩ではないのかもしれない。
少し、考えに耽るベルファー。

ルフォンはこれで問題ない。
グレナデアが消えたとなれば、戦略的にほぼ無価値の地である。
わざわざ、駐屯部隊やギガントの相手までして占領しようとは思わないだろう。
王国軍とレジスタンスは、緩やかに撤退する。まともならする。アホでもする。○○だったら仕方ない。
問題は、これをガナンに運んでからだ。
カール叔父さんやミュラーなんかは、こいつと今までのメーヴェがあれば決戦兵器として事足りるとか思いそうだが、
自分は違う。こんな物では足りやしない。
……戦闘データが欲しい。
東より虎視眈々とゼアドを狙う、史上かつてない脅威を思い、ベルファーの頭脳は途方もないスケールの数式を連ねていた。

ベルファーの、何故か親指を立てた右手を最後に、完全に闇へと沈むグレナデア。
後に残るは、砲の音色と女の叫び。
今はまだ、退くべきやと鳴り響く。
116イアルコ ◆neSxQUPsVE :2006/12/26(火) 17:17:15
「愛と暴力の伝道師! スカイ・トルメンタ六世!! ラーナが吹けば桶屋が儲かる!!」
「その一番弟子!! イアルコ仮面!! 世の中銭じゃ! 銭がすべてじゃ!!」
「同じく一番弟子!! マスクド・ジョージ!! ぎっくり腰とは無縁ですぞい!!」

『スリダブ流!! 愛と暴力のスリープラトォオオオオオオオオオオオンッッ!!!!』

隼、モグラ、アライグマのマスクを被った三人組は、セリフとは正反対のてんでバラバラな攻撃を繰り出し、
今日もまた、街道に巣くう賊の一団にラーナの深き愛を解いたのであった。

終着点がほのかに霞んで見えてきた街道脇の木陰の下で、メリーの入れたお茶をお供に小休止。
「我が一番弟子達よ! 今日もご苦労であった! この分であれば、来るべき新団体の旗揚げ戦にも参加できるぞ!」
「んむ、まあスッキリするんで暇潰しには丁度良いの」
「若、次の決めポーズは如何致しましょうぞ?」
スクワットで汗を流すトルメンタの教えに完全に毒されたイアルコとジョージは、茶を飲みつつもそんな話をするばかり。
メリーは黙々と、後片付けをするばかり。
「イアルコ仮面よ。新団体の紅一点となるべきメリー嬢のスカウトの件は、その後如何かな?」
「いや、相変わらず『メリーはメイドで御座います』の一点張りでのう。引っ張り込むには難儀しそうじゃ」
「ふうむ、実に勿体ない。数多くの闘魂を指導してきた我輩の目から見ても、メリー嬢の実力は計り知れぬというのに」
本人を前にはばかる事なく会話する、トルメンタとイアルコ。
ちなみに、イアルコは素顔になっていたが、この神父様にとってはそれでも坊ちゃまはイアルコ仮面なのらしい。
「そういえば、メリーは2117年度の無差別級世界統一王者なのだとか言っとったのう……」
「なにっ!! 無差別級世界統一とな……っ!!!???」
イアルコの思い出しながらのセリフに、スクワットをやめて目を見開くトルメンタ。
「……超大型新人か……」
「なんのこっちゃ」
何の王者なのか聞きもせずに重々しく納得するのが、彼らしい――と、短い付き合いながら思うイアルコ坊ちゃまであった。


ゼアド大陸中央部。
東は一角獣の森の手前まで、西はメロメーロの街の手前まで、南北の端は時勢によって千変万化。
古くからの南北の緩衝地帯であり、ここ十数年の両大国の主戦場であり、龍人戦争においては様々な英雄の
活躍で知られる神話の舞台であった、大陸一の大平野。
人々からは俗に中原≠ニ呼ばれる地を眺め見て、イアルコはふんぞり返って難しい顔を作った。
「前に見学に来た時は、戦線はもっと南の方じゃったんじゃがのう……公国騎士団も地に堕ちたもんじゃ」
「いやいや、ここは褒めるべきで御座いましょう。ゴレムもなしに寡兵で戦線を維持するとは、流石はリオネ様と」
「わかっとるわい。リオネの前で言ったら殺されるからの。今の内に言ってみただけじゃ」
現中原の一応の北端であるサリアの街。
王国軍主力とぶつかり合う公国騎士団の司令部が置かれた、領事館の一番高い塔の最上階で
イアルコ一行は軟禁状態の目に会っていた。
まあ、当然である。
ガナン司令部からは反逆者と認定されているのだから。地下牢にぶち込まれなかっただけマシだと思うしかないのだ。
「しかし、遠いところをわざわざ頼ってきた許婚を十日も閉じ込めおるとは……実に愛ある扱いじゃのう」
「このままではいかんぞ、イアルコ仮面。屋内でのトレーニングには限界があるからな」
何故か、一緒にメリーの茶を飲んで話に加わっているトルメンタ。
一緒くたにされてとっ捕まる義理もないのに、実に付き合いのいいオヤジであった。

「……む、一番弟子達よ、来客の気配だぞ」
「若! きっとリオネ様に違いありませんぞ!」「ようし、者ども!! 泣き落としの準備にかかるのじゃ!!」
そこはかとなく気品のあるノックの後、ゆっくりとドアが開かれる。
「おお、リオ姉様!! お久しぶりで御座います! イアルコはお会いしとう御座いました〜〜!!」
普段とは打って変わった歳相応の表情を浮かべて突進する坊ちゃま。その豹変ぶりにこけるジョージとトルメンタ。

今ここに、ようやくもって、イアルコ・パルモンテは許嫁リオネ・オルトルートとの対面を果たしたのである。
117ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/26(火) 21:24:37
―公国首都、霊峰都市ガナン政策ブロック
公王の居城ゴルテンイグースにて、公国12貴族が一堂に会する会議が開かれた。
集まったのは公国の中枢といえる重要人物ばかりで、警備も平時の数十倍の厳重さである。
城の地下に存在する会議室、シュバルツバルトはその名の通り黒い森の中を彷彿とさせ、
淡く照らす小さな照明は円卓を囲む8人と、周囲を固める護衛の影を揺らめかせていた。

時計の針は既に頂を回り、日付が変わった頃、
「さて、皆様お集まりになられましたので会議を始めさせていただきます」
と、起立して宣言するはミュラーだがその表情には何やら陰りがあった。
「おや?マリオラの嬢ちゃんが見当たらんが…?」
訝しげにミュラーへと尋ねるはイプタフ太老、と同時に室内に僅かなざわめき。
「マリオラ女大公は…体調が優れぬとの報を受けております。本日は欠席かと」
ほんの一瞬、苦虫を噛むように顔をしかめるが直ぐさま元に戻すとミュラーは着席。
「本日の議題は獣人達の動向に関して、我々の今後の対応を決議したいと考えております」


会議は凄惨たるものだった。
遺産の力を過信する古参貴族と、最前線で獣人の脅威を目の当たりにしたベルファーが
真っ正面から衝突し、会議は荒れに荒れた。こうなる事は予定通りだったのだが、それでもミュラーは悲しかった。
ギュンターの統一国家思想は、ミュラーが思っていた以上に深く根差していたのだ。
「間に合わないのは明らか…ならば、我々だけで成すべきだ。そうは思いませんか?」
誰もいない謁見の間に、ミュラーの独白は続く。
「新たなる秩序は我々こそが創らなければならない…」
「あれあれ〜?僕様が不機嫌な顔なら解るけど、君がそんな顔するのは不思議だなぁ」

王座の後ろからニコニコ顔で飴玉をしゃぶりながら現れるは、博乱狂気。
「ミュラー君さぁ、僕様にとって1番怖いものって何か、知ってるかい?」
頬張る飴玉をレロレロと玩び、ベルファーは珍妙なポーズを決める。
「『退屈』だよ。物を創りだす閃きを退屈はゆっくりと蝕み、静かに腐らせてゆく…」
ふざけたポーズのままだったが、その眼は狂気の彩りに煌々と輝いていた。
「猛毒のようなものなんだよ、ミュラー君」

狂気の眼差しにミュラーは僅かに微笑むと…ベルファーと共に闇に沈んだ。
118ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/26(火) 21:25:28
―ゴルテンイグース、会議室
皆が解散した後、静まり返る室内に1人。公国陸軍大将カールトンである。
彼は苛立ちを堪え、椅子に身を任せていた。
会議の内容を思い出す度に、額の龍角が熱く疼く。その身を焦がす程の怒り故に。
所詮は我が身可愛さに寝返った穏健派の腰抜けだと、猛り狂う自身に言い聞かせるが…
とても憤怒の焔は消せそうになかった。
現役を退いた事を悔やむがもう遅い。
「ミュラーはまだ分かっておらんようだな…あれでは、奴のやり方と同じに過ぎぬ…」
円卓の央に立つ燭台の灯が、弾けるように燃え上がり、“もう一人”の姿を照らし出す。
公国12貴族が1家、シュナイト家当主のアルフレーデ=シュナイトであった。
口元をヴェールで隠し、おおよその表情は読めないが、その瞳は確かに笑っている。
「そうは思わぬか?アルフレーデよ」
カールトンの呼び掛けに、少し頷くと優雅な手つきで1組のカードセットを取り出した。
鮮やかな手捌きで卓上に次々と置かれていくカードを無言で見つめるカールトン。

程無くして卓上にはカードにより、陣図の如き奇妙な模様が出来上がっていた。
「何と出た?」
尋ねるカールトンの声が、心なしか震えているようにも聞こえたが無言で首を横に振って応える。
「そうか…叶わぬか。せめて汚らわしい獣共に一矢報いるを有終の美としたかったが…」
深い溜息と共に立ち上がると、並べられたカードの1枚が勢いよく燃え始めた。
焼け焦げ、丸く折れ曲がるカードに描かれるは…黒き鎧と見紛うかの甲殻を持つ戦士。
「逝くので?」
アルフレーデの短い問いに、カールトンは威厳に満ちた面持ちで応えた。

「逝く。我が戦、見届けよ…そして心に刻むがよい。龍の誇りを…龍の誓いを!」


―ガナン動力ブロック、臨時格納庫
「馬鹿な!!リッツが死んだだと!!?」
黒騎士の叫びが格納庫内に響き渡る。ギルの語るルフォンでの出来事は黒騎士を震撼させた。
当然であると言える。黒騎士は暗殺未遂事件の意外な真相を呆けた顔で聞いていた。
なによりも黒騎士を打ちのめしたのは、生涯のライバルと思っていたリッツの死だった。
「あいつが…そう簡単に死ぬ筈が無い…必ず、必ず生きている!」
ギルの話では死体は発見されなかったそうだ。
黒騎士は僅かな希望に縋り付き、祈った。
119ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/26(火) 21:26:18
―ゼアド大陸北東部、ラタガン渓谷
12貴族会議から4日が過ぎた夕暮れ。カールトンは単身ガナンを発ち、敵を待つ。
敵、則ち煉獄の志士スターグ率いる甲殻兵団を。
カールトンが身に纏うは深紅の鎧。かの龍人戦争の際にも身に着けた物である。
「むぅ、要らぬ事を…」
遥か後方より響くゴレムの大部隊の行進曲に、照れたような怒ったような、難しい顔になる。

現れたゴレムの1個大隊は、12貴族が1家メルディウス家のオペラ率いる公国葬奏楽団だった。
戦場の敵兵を残らず葬る戦慄の旋律、美麗にて可憐、高貴にて荘厳、“旋律の魔女”推参。
「ずるい人…私の壮行を受ける事無く逝かれるとは」
透き通る鈴の音に似た声が、日も傾き闇が射す渓谷に染み込むように広がる。
しかしカールトンは振り向かず、唯々無言で前方を睨み据えたまま微動だにしない。
そんな彼に、オペラは何か言いかけたが…寸で言葉を呑んで止めた。
分かっていたのだ。もう手の届かぬ所に居るのだと。
だがそれでもオペラは手向けの壮行曲を、死地に赴くかつての夫に届けたかった。

一方でカールトンもまた、これまでを想い、これからを想い、かつての妻を想う。
恐らく自分は死ぬ。いや、確実に死ぬ。だからこそ、もう一度顔を見たかった。
かつてのように抱き締めてやりたかった。だがそうはいかないのだ。
置いて来た筈なのだから。
公国陸軍大将としての自分、公王の友としての自分、唯の龍人であった自分…
妻を愛し、我が子を愛し、家庭を愛し、国を愛した自分…

総てを置いて来たのだ。戰に赴くが為に!!

『聴かぬ』その一言すら、口には出来なかった。故に、歯を食い縛り堪える。
そんなカールトンを見て、オペラは可笑しくて思わず笑い始める。
「どうやら忘れ物は有りませんね。…武運を!」
溢れる涙もそのままに、オペラはタクトを振り部隊に指令を出した。帰還命令である。
向きを直し、来た道を返すゴレムのたてた地鳴りは、オペラの嗚咽を掻き消した。

そう、彼は忘れてなどいなかった。闘爵と称され、羅刹の路を歩んだ漢の生き様を…
その志を。これだけは置いては来なかったのだ。
日が落ち、松明の明かりが遠く前方より迫る“敵”を薄く照らし…
カールトンは立ち上がり一喝。

「獣達よ…紅蓮燃ゆ我が志、討ってみせよ!!!!!」
120ST ◆9.MISTRAL. :2006/12/26(火) 21:27:34
―暗い闇の中
「そんなに嫌かい?カール叔父さんを利用するのは」
ベルファーは相変わらず飴玉を舌で転がして遊ぶのに熱心のように見える。
今ベルファーとミュラーが立っているのは、ガナン最下層の封印施設。
そこはこの都市を制御するホムンクルスが眠る場所。
「気は進まないさ、焚き付けて戦場へ追いやるなど…平常では無理だっただろうな」
「だけど、適任者は叔父さんしかいなかった。そうだろう?」
「そう、彼しかいなかった。それが惜しい」
ミュラーが心底悔しそうに壁を殴り付け、じわりと血が滲み短い朱線を引く。
あの会議でのベルファーの言動は全て演技であった。
大幅に誇張した獣人の将達の力を訴えかけ、他の貴族に失笑を買ったのには目的があったからだ。
あの日以来、ベルファーの中で幾度となく繰り返された計算は、1つの結論を出した。

獣人に有って龍人に無いもの…それは、結束である。
案の定、彼の言葉に耳を傾けたのは、カールトン、そしてアルフレーデだけだった。
計画通りに会議は大荒れとなって、何も決まらぬ内に解散という結果が残ったのだ。
「確かに、我々の意志を揺るがぬものとするには、“贄”が必要だったが…」
ミュラーは荘厳な作りの扉を見上げ、扉に刻まれた紋章に手を翳す。
「これで手際良く死んじゃってくれたりしたら僕様的には超ハッピーだけどねぇ」
何も悪びれた様子も無く、さらりと言い放つベルファーをミュラーが睨む。
すると『怖い怖い』とでも言うかのように肩を竦め、おどけた調子でペロリと舌を出した。

 ∵ロック解除、立ち入りを許可します∵

無機質な機械音声に従い、開いた扉へと進む2人。
開く扉の隙間から溢れ出す光が、薄暗い最下層の廊下をゆっくりと照らしていく。
「さて、これからが忙しいぞ?我々には仕事が山積みだからな」
「ふぁ〜ふ…労働規準法の範囲内でヨロシク」
欠伸を噛み殺し、やる気の無い緩い返事を返すベルファー。



歴史が…そして世界が…静かに動き始めた
ほんの小さな流れも次第に寄り集まり…
やがては全てを飲み込む大河と化すだろう
その流れに身を委ねるか…
その流れに抗うか…
運命の物語は、新たな舞台へと移る……
121ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/26(火) 23:16:50
「アーシェラ、僕らは造られた人形なんだよね?」
机があり、三人が座っている……懐かしい光景が広がる。過去の光景が。
「そう言っている人の話し、聞いちゃったんだ、人形だから、使い捨てだって言ってた……」
悲しそうに言うハインツェル……僕も同じような表情だ、二人とも引き摺っている、造られた人形という事実を。
でも、そんな二人の言葉を真剣に聞き、目を逸らさずにいた人がいた、アーシェラ……
『ねぇハイアット、ハインツェル、生まれた形は問題じゃないのよ、ただ、どう生きるか≠ナ決まるの。』
「でも!みんなは人形だって、皆を守りたい、それもプログラミングに過ぎないって言うんだ……」
僕が泣いている、、全てが怖かったんだ、自分とは違うもの達がどうしようもなく怖かった。
そんな僕をアーシェラの暖かい手が包む。
『そんなことないわ、あなた達のその心はあなた達だけのものよ、胸を張って……』

これからどのくらい経った頃だろうか、病棟に、僕の姿があった。
隣には、アーシェラの姿があった、昔はハインツェルに比べ僕はかなりナイーブで、
終始周囲の目を気にしていた。これは、僕が周りの目に耐えられずに自殺を図り、未遂に終わった時のことだ。
「……生きている、なんで。」
そう言う僕の目はまるで死んだ魚のようで、生きることを望んでいる目じゃなかった。
『ハイアット、私ね……あなた達が生まれた時……』
「なんでこんなに僕を苦しめるんだよ、人形劇≠ヘもういいじゃないかぁっ!!」
悲痛な叫びを上げる僕をアーシェラは見てやりきれないように唇を噛む。
『一体、自分がなにをいっているのか分かっているの!?』
「分かってる、嫌だっ、もう嫌なんだよ、殺してくれ……殺してくれよっ!!」
その瞬間、アーシェラが僕の頬を叩いた、赤く腫れる頬が生きている℃魔伝えている。
『それが答え≠ネの!?そんなに簡単に生命を……全部を手放しちゃうのっ!?』
「………………」
『ハイアット……あなたは何にだってなれるし、どこにでもいける、なんでか分かる?』
「………………」
『生きているからよ、今暗闇にいても、太陽を見に行けるの……だから、殺してなんて言わないでっ!」
アーシェラから涙がこぼれる、このときを僕は忘れることができない。
凄く強くて明るくて、涙なんて流すような人じゃなかった……

―『私……あなた達を作って本当に良かったとおもっているわ』―


走馬灯が消え……意識が戻ってくる、無意識に手を顔の前に持ってくると、あの十字架が握られていた。
「ありがとう、また助けられたね、君の想いに……」
十字架を強く握り締め、落とした銃を拾い、ボロボロの体を引き釣りながら必死にハインツェルの後を追う。
「分かってるよアーシェラ……ハインツェルは助けるよ…」

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
                      
「さぁ、殺してやる」
ハインツェルの剣、ジルヴェスタンが鞭のようにしなる。
ラヴィは無意識に目をつぶる、わかっているのだ、避けようのない死が来ると。
その時、何かをはじくような音が辺りに響く、おそるおそる目を開けると。
そこには血で塗られ真っ赤になったハイアットがハインツェルの剣に弾を撃ち込んでいた。
「ハっちゃん!!」
「な、なんでお前が……死んだんじゃ、いや、死ななくてももう限界のはず……」
驚きを隠せないのはラヴィだけじゃなかった殺したと思っていたハインツェルも同じだった。
しかし、ハイアットはそこに立っていた、傷だらけで、今すぐにでも消え入りそうなほどの呼吸だが
確かにそこに居た。
122ハイアット ◆uNHwY8nvEI :2006/12/26(火) 23:17:33
「ハインツェル……僕はね…結構…タフ…なんだぜ…」
嬉しさを隠せないような顔をハインツェルが一瞬だけ見せる、だがその後はさっきの通り殺気に満ちた表情だ。
「……なんでだ、なんでなんだ!!なぜお前はこいつらをそんなに庇う!!そんなになってまでこいつらを助けに来ようとする!!
 アーシェラを、アーシェラを忘れているのはお前の方じゃないか!
 いや、アーシェラだけじゃない!昔のこと全てを忘れたな!?」
「忘れられたら!!……忘れることができたら、どんなに楽だろう……」
目をつぶり顔を上に向けるハイアット、まるでなにかを思い出すかのように。
「忘れたい……僕が造られたってことも、皆のことも、昨日のことも、忘れられたらどんなに楽だろうか……」
ハインツェルから殺意が消え、ただ黙ってハイアットを見つめる、まるで何かに縛り付けられたように。
「僕はね、守れなかったんだよ、アーシェラも、皆も、全部から逃げ出してきてしまったんだ、できることなら忘れたい、自分の罪を」
全てから逃げ出した、時を越えたということが、今もハイアットを縛り付けている。
「でもね……無理≠セ」
そして、ハイアットはその真っ直ぐな目をハインツェルに向ける。なんの迷いもないその目を。
「あの時の後悔も、そして今持っている後悔も、もうどうすることもできないんだ、でもね、でも……」
拳を握り締め、自分の顔の前に持っていく、それは決して折れない決意の表れでもあった。
「今日、僕の腕は確かに動く、人の笑う顔を見るたび、だれかの悲しみを消すたび、だれかを救うたびに、」
言葉を続けながらゆっくりとハインツェルの方に歩いていく、しっかりと一歩一歩を踏みしめ、
十字架の真ん中にある光っている球を外し、銃に込める。

――「アーシェラがね、笑ってくれるような気がするんだ、皆がね、笑ってくれるような気がするんだよ」――
そして、ハインツェルにゆっくりと銃を向ける、初めてまともに向けた銃。トリガーに指をかけ、ハインツェルに魂の叫びを放つ。
「だからこそ、僕はお前を止める!アーシェラが笑っていられるように!!」
打ち出された弾丸、今までとは違い淡い光りを放っている弾丸、そして、それはハインツェルのこめかみに撃ち込まれる!
しかし、血が流れ出ない、それどころか傷一つ負っていない、だが、ハインツェルには明らかな変化があった。
その場にうずくまるハインツェル、頭を抱え苦しむ姿、明らかな異変だった。しかしハイアットはなぜこうなっているのか。全て理解していた。
「弾丸コードNo00『Memorys』 ハインツェル、アーシェラを、思い出せっ!!」
彼が放った弾丸、それは過去の柩を解き放つ、今ハインツェルの頭には様々な過去が思い出されている。
「……僕は、僕はアーシェラを……ただ甦らせたくて」
「…でも、君のやり方はアーシェラは望んでない…」
「僕は…………」
「アーシェラの願いを忘れ、彼女を悲しませるか……彼女の思いを受け取り、彼女と共に生きるのか、戦いはそこにあるんだっ!!!ハインツェルッ!!」
「でも、でも僕はアーシェラがいないと駄目なんだぁぁぁぁああっ!!!」
苦しみそうにハインツェルは絶叫し剣をハイアットに向け振り下ろそうとした時、高らかな声が響いた。

「ハインツェル!!剣を収めなさい!!」
聞き覚えのある声に、ハインツェルの体が止まる、アーシェラの声だ。
「……ア…アーシェラ……」
振り向くと、確かにアーシェラの姿があった。ハインツェルの腕から剣が滑り落ちる、
「久しぶり、ハインツェル」
「…………」
アーシェラの言葉にただ俯きなにも言わずに黙る。そんなハインツェルに歩み寄る。
「ハインツェル……?どうしたの?」
「……僕は、僕は……とんでもないことを……」
そういい目を逸らすハインツェルをアーシェラがしっかりと抱き締める。
「ごめんなさい、辛かったでしょう……ごめんなさい。」
それを見ていたハイアットも、ハインツェルの肩に手を置いて言う。
「ハインツェル、本当に、辛い思いさせて、すまなかった、お前ばっかりに……押し付けて。」
がくりと、ハインツェルは膝を落とし、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
123ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/28(木) 19:57:38
何者かの奇妙な術によって、グレナディアの巨体は影に沈んで消えた。
現場に唯一人の龍人も共に消え去り、残された私たちは山頂からの砲撃に晒されていた。
今の装備で、大型機を遠距離から相手取る事はどだい無理だ。
一向に姿を見ない公国軍駐屯隊も、この分ではどこに潜んでいたか知れたものではない。
「退け!」
叫んだ。離れた岩場に、王国騎士の軍服を着た男とレニーを見付けたからだ。
レニーはローブの少年を抱いており、あれがソーニャの言う「チビ」だとしたら人数が合う。
逃亡を躊躇する理由は何も無い。立ち竦んでいた「爪」が、はっと気を取り戻した。
「アビサル!」
「ひとまず降りて!」
ゴレムの砲撃は離れた三人へも及び、彼らは岩場から一目散に走り出した。
逃げる合間に団長補佐がレニーから「チビ」を預かって跳ぶと、空中浮遊で私たちを先導する。
私とソーニャは彼を追って斜面を駆け下りつつレニーに寄り、
「あの子がアビサル?」
「そうだよ、ソイツ無事かい!」
ソーニャに応えるように、団長補佐に抱きかかえられた少年が、か細い声で何かを話す。
砲声と着弾音に遮られ聞き取れないが、例え彼が死にかけていようと今は山を下りる事が先決だ。

山頂を見上げると、同じ峰に配置された一機が私たちを追って動き始めていた。幸いにして一機分の砲撃が止む。
しかし相当な距離を開いているにも関わらず敵影は、見る見る内に大きくなり、こちらへ近付いているように感じる。
感覚はまんざら嘘でもないようで、追跡者は遠く離れていても目に焼き付く、巨大な炎を背負っていた。
僚機や随伴兵は居ない。ルフォン基地の装備は、単独投入が可能なまでに高性能化されたマルチプレイヤーらしい。
「敵が追って来る! 早く走って!」
「そりゃアンタは飛べるから楽だろうけどさ!」
今回ばかりはソーニャに同感だった。
柔らかい雪を踏んでもつれそうになる足を、ぎりぎりで押さえられる程度で半ば滑り降りる。さすがに息が上がった。
剥き出しの頬が風に当たって、切れそうに痛む。槍は流石に邪魔になって捨てた。ソーニャもだ。
私たちの半歩後ろで、砲弾で掘り返されて落ちる雪の音がした。的の小さいせいか照準が甘くて助かる。
もしも砲台がグレナディアだったら、こうは行かなかっただろうが。
124ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/28(木) 19:59:41
下りるだけ下りると傾斜が緩くなった。
砲撃は次第に弱まっていったが、今度は件の一機が背面のバーニアで急加速、接近中だ。
二足歩行機らしいが尋常でない移動速度、多少の障害物は押し潰してしまえる重量が効いたか。
一方の私たちは、急に道が緩やかになると足運びのペース調節が追い着かず却って走り難い。
ソーニャが石に蹴つまづいたレニーを助け起こすのを待っていると、突然目の前にシャミィの運転するゴレムが着けた。

幌が上がると後部座席から、ハンマーを担いだジーコが降りて
「全員乗れるか?」
皆が口をつぐんだ。乗りたいのは山々だが、座席が少々足りなく思える。
互いの顔を見合わせているうちに、団長補佐レオルが一旦地面へ降り立った。
「私はこのままで構いません。アビサルさんは移したほうが良いでしょうか?」
「少しばかり席が足りんと思うがの」
車は四人乗りだ。彼を乗せてやろうとすると積み上げるしかない。
全員の目が「チビ」の保護者に行く。彼女は考えるまでもなく言った。
「アンタはそのまま飛んどけ。バカチビ頼むよ」
レオルは頷き、再び体を宙へ浮かせる。
過剰載積の憂慮が無くなると、私たちは一斉に、幌を開けたゴレムへ飛び乗った。
そうこうしている間にも敵は近付いてきているのだ。走る事を止めても、身体のテンションが収まらない。
「シャミィは後ろに! レニーさん、運転お願いします」
「分かったわ」
レニーがハンドルを握り、私は助手席へ就いた。後部は三人で少々手狭だ。
押し入るハンマーの巨漢にソーニャが悲鳴を上げる。
「狭い、狭いよちょっと! 何でアンタわざわざ乗ってくんの、流されたんならそのまま麓に降りてっちまえばいいんだよ!」
「オレがニャンクスの嬢ちゃん抱えてやっからよ」
125ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2006/12/28(木) 20:00:13
ジーコがシャミィを膝に乗せると、ソーニャはどうにか苦も無く座れるようになった。
すかさずレニーがゴレムを発進させる。窓から、アビサルを抱えて併走するレオルが見えた。そして背後。
バーニアの炎が機体に隠れて見えにくいが、敵の新型は目測約一キロまで差し迫っていた。
やがてゴレムは斜面の向こうに隠れてしまうが、あれが砲撃を再開すればカマを晒した私たちの車はいい的だ。
揺れる車の中で、シャミィが私に「霜乃武」を掲げてみせると
「後ろを向け」
「魔導銃? こっから撃つ気か」
「対ゴレム用の狙撃銃だ。何もせんよりは撃ったほうが逃げられる」
「そりゃもっともだ……ほれ、こんなもんか?」
ジーコが身体を捻って後ろを向き、銃を構えて身を乗り出そうとするシャミィの腰を持って支えた。
「低い」
「手前に似合わねえ、でっけえ武器使うからだ」
彼女の脚がジーコの肩に乗ると、シャミィの下半身が更に持ち上げられ、空中で寝そべる格好になる。
始終跳ね回る車でそんな姿勢を取って、安定は決して良くないが、
私は彼女が、今にも倒れそうな枯れ木によじ登って狙撃する様を見た事があった。
ニャンクスのバランス感覚なら、車上射撃などお手のものだろう。私は人間なので人間に分相応な道具を用意する。
「ソーニャさん? これ」
私はポーチから幾つかの手榴弾を取り出すと、ソーニャに手渡した。中身は発火装置と火薬、魔晶石の粉末だ。
安全ピンを抜いてから、信管をどこかに叩き付ければ発火する。発火後数秒で爆発。
「直接ぶつける必要は無いけど、嫌がらせ程度に」
「煙幕かい」
ついでに魔晶石も渡してやった。彼女なら、土壇場でも素早く着火して魔法を撃てる筈だ。

「見えてきた」
後部座席で、大型魔導銃を構えたシャミィが呟く。
と同時に、敵機からの機銃掃射が始まった。轍を追うように、銃弾に雪が散る。
「やっぱり機関銃積んでんのか、チキショウ!」
「慌てるな、当たらなければどうという事は」
数発の弾丸が車体をかすめる。装甲の一部が弾けて飛ぶ、甲高い音がした。
運転席のレニーが急ハンドルを切ると、車が大きく蛇行する。機銃の火線が逸れる。ソーニャが短く口笛を吹く。
「アンタ上手いね」
「私にあまり期待しないで!」
口振りとは裏腹に、レニーは巧みにゴレムを操り、木や岩や、続く敵の銃撃をかわしていった。
しかし蛇行が続いた分、敵との距離も縮まる。
バーニア噴射の轟音を伴奏に、避弾傾斜の丸みを帯びた黒い人型の機体が現れる。
シャミィが撃つ。轟く砲声の後、やはり金属音。反撃に警戒したか、敵は速度を緩めた。
その隙にソーニャも立ち上がって煙幕弾を放った。白煙が敵の姿を再び隠す。
「ギルビーズさん、あれが麓まで追って来たら?」
レニーが心配げに尋ねてきたが、敵ゴレムは現段階でどうこう出来た程度のものでもない。
頼もしい返事などとても出来ない、一言で返す。
「燃料の心配をしましょう」
126ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2006/12/28(木) 23:11:55
「しかしよォ、乗ってみると意外にイイもんだな。」
今俺とちび猫は雪山の斜面をゴレムに乗って駆け上がる最中だ。
ん?なんでゴレムなんかに乗ってるかって?んたこたぁ簡単じゃねぇかよ。
このちび猫のお嬢ちゃんは、あのギルビーズ隊の一員だからさ。車輪の操縦は専門分野だ。
このゴレムは無限軌道っていう複数の車輪に板を繋いだ輪っかを巻いた不整地走行用。
このタイプにゃ随分と苦い汁飲まされてきたからな、正直複雑な気分だぜ。

「あのアホみてぇにヤバイ事になってる近くに奴らがいるんだよな?」
「知らんがな。」
ステキ過ぎるぜ嬢ちゃんよォ、じゃあ俺達ぁ訳分からん道をあてずっぽうに走ってるってか?
たまんねぇよ、ったく。頭を掻きむしってると前方に小さな爆発が見えた。
いつの間にかあのデカブツは消えちまってる。今なら危険て程じゃねぇな。
ベルトからスコープを外し、様子を見た。
案の定いやがった。赤毛に・・・ありゃレオルじゃねぇかよ!生きてたってか!!
「嬢ちゃん!見えたぜ、足付き10機ちょいに追われてやがる!回れるか!?」
「易い御用じゃの、舌噛むから黙っとれ?」
「おぅ、わかアブッ!!!?」
返事終わるまで待っててくれたっていいと思うんだぜ?
じわっと口の中に広がる鉄臭い味を飲み込むと、俺はオンスロートの柄を握りしめた。

 >>123-125

嬢ちゃんの銃はえらくデカイ砲身だ、大人でも“遊ばれちまう”くらいにな。
だがしっかと狙いを定めるその眼を見て、俺はようやく嬢ちゃんが狩人だと思い出した。
猫みてぇな外見に騙されちゃいけねえな、こいつらは生れついての“狩人”なんだ。
「ちょいと右かの?」
くい、と右に砲頭をずらし引き金を弾く。直後に轟音。
見た目通りの威力って事かよ、おっかねぇな。なるべく怒らせねぇように努力するか。

立て続けの砲撃で、足付きは残り4機にまで数を減らし山の麓が近付いてきた。
「ふむ・・・。」
「どうしたんだい?」
なにやら銃を弄りながら不満げに唸る嬢ちゃんに赤毛が尋ねる。
そんな様子を見て、ギルビーズがほんの一瞬だったが「あ〜あ」といった顔をした。
どうやら銃がブッ壊れたらしいな。
参ったぜ、クソ寒いのによォ。手がかじかむから冬の山は嫌いなんだよ。

「残り4機か、踏ん張るしかねぇな」
127サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/01(月) 08:45:01
永きに渡る眠りから醒めた女王の姿を見て、ハインツェルは泣き崩れた。
時の流れは何もかも押し流し、もう二度と戻っては来ないと思っていた安らぎの瞬間・・・
「ハイアット・・・アーシェラ・・・僕は、僕・・・は・・・ああああああああああああああああ!!!!」
それはハインツェルの叫びが打ち砕いた。

「・・・くっくくく・・・くははハハハハハハハハハ!!」
「ハインツェル!?どうしたんだ!?」
狂ったように笑い始めるハインツェルに、ハイアットが駆け寄る。
「やっぱり・・・お前ばかりだな・・・ハイアット!!」
「なっ!?」
ハインツェルの体に絡み付く不気味な黒い霧状の“何か”が揺らぎのたうつ。
「アーシェラは何時もお前ばかりを見ていた・・・同じ日に造られ・・・同じ役目を持って・・・」
黒い霧が次第に大きくなる。
「全く同じはずなのに・・・僕は・・・選ばれなかった・・・」
ハインツェルの体が輪郭を失い始め、ゆっくりと黒い霧と同化していく!
「何時もアーシェラはお前だけを見てお前だけを愛して・・・お前だけを想った・・・」
「ハインツェル!!」
アーシェラの呼ぶ声はもう、ハインツェルには届かない。
既にハインツェルというホムンクルスは・・・この世界には存在していなかったからだ。

『だから、僕はずっと思ってたんだよ・・・お前が消えて無くなればいいのにってね・・・』

狂おしい程に渦巻く『嫉妬』の塊の中で、ハインツェルだった存在が・・・
黒い殻を破り、新たな姿へと生まれ変わった・・・『大罪の魔物』の姿へと!!


          ━グラールロック━
世界を蝕む巨大な力の鼓動に、グラールとイェソドは気付き立ち上がる。
「発芽したらしいな・・・」
「ふむ、天の三角が再び墜ちるか。グレッグスよ、行くか」
グラールの巨体が歪みんで消えると同時に立っている男は、十剣者グラール=ビナー。
「いつの間に入って来てたかは知らぬが・・・発芽した以上、倒さねばならんな」
「・・・・・・・・・」
目を閉じ、何かを考えるかのようなグレッグスに問い掛ける。
「どうした、グレッグス」
「いや・・・何でもない。“跳び方”は忘れてはいないな?」
「・・・当たり前だ」
グラールが眉をヘの字に曲げて答えると、2人は空間を“跳んだ”。
128サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/01(月) 08:46:26
          ━十字街道━
前方の空に広がる亀裂が、強烈な光に吹き消されたのを見てメイとヒューアが立ち止まる。
「どうやらこの世界にはとんでもないモノがあるみたいね。無理矢理押し潰すなんて」
遠く微かに見える破壊の巨人に、驚きつつもメイは感心したように軽く口笛を吹く。
「だが既に種はこちらに侵入したようだな、早く捜し出さ・・・!?な、なんだこれは!?」
ヒューアが種の発芽を感知して思わず悲鳴を上げた。直ぐさまメイも発芽を見付ける。
「まさか!ちょっとこれは早過ぎやしないか!?」
「いいえ、これは別の種だわ!『業怒』じゃない!!・・・これは『嫉妬』!?」
予想外の出来事に、メイも若干取り乱したようだ。
2人が大罪の魔物が放つ黒い波動を辿ると、そこは空の彼方!天空都市ジャジャラ!!


          ━ジャジャラ内部━
管理室の中を凄まじい障気が吹き荒れる。世界を滅ぼす大罪の魔物の出現。
あまりに突然の展開に、その場にいた全員が言葉を失っていた。
『なぁハイアット、どうして君だけがアーシェラに愛されているんだい?』
もはやハインツェルの面影など、微塵も見当たらぬ異形が静かに尋ねた。
口調こそ穏やかではあったが、その内に秘めた嫉妬は煉獄の炎の如く燃え盛る。
「そんな事は・・・」
『無いとでも?・・・違うね!今もお前は心のどこかで僕を嘲笑ってるんだろう!?』
ハイアットは友の心の闇に気付かなかった自分の愚かさに打ちのめされた。
思い返せば、確かにアーシェラは自分と一緒に過ごす時間の方が圧倒的に多かった。
ハインツェルはしっかり者だから、何でも1人で決めて1人で出来るから・・・そう思っていた。

母親であり同時に愛する人でもあったアーシェラには、ハインツェルに構って欲しくなかった。
自分は弱く、ちっぽけな存在だから・・・アーシェラが傍に居てくれるのが当たり前だと。
だがそれは違っていたのだ。
ハイアットの知らぬところで、ハインツェルの心の闇は嫉妬に狂い始めていたのだ。

『お前が存在する限り、永遠にアーシェラはお前を見続ける!僕はずっと1人だ!!』

この世界で最も孤独な存在となって、ハインツェルだった魔物が吠えた。
その咆哮は幸せと思い込んでいた幻への決別と、愛を望みながらも得られなかった怨嗟。
129サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/01(月) 08:47:49
          ━ジャジャラ外周部━
突然の浮遊感に、パルスとレベッカはバランスを失って尻餅をついた。
「ったたた・・・なんなのよもう!」
「ちょ!?まずいよレベッカちゃん、この遺跡・・・落ちてるっ!!」
腰を摩りながらパルスが辺りを見回し、やがて顔色を真っ青にして悲鳴を上げる。
「制御システムにエラーが発生しました。2人はワタシにつかまって下さい」

着地と同時にアスラが翼を広げ、パルスとレベッカは即座に従った。
制御システムに異常。つまりハイアットかハインツェルに何か起きたと分かったからだ。
「もしかして・・・ハッちゃんが負けた!?」
わなわなと震えるパルスの手を、レベッカの手がしっかりと握り、その震えを止める。
「パル、あいつはバカだけど簡単に負けるような奴じゃない。信じてあげな!」
レベッカの力強い言葉に頷くと、パルスは頭の中の不安を振り払い大声で気合いを入れた。
「最強のコマンダーだもんね!負ける訳が無いっ!!アスラちゃん、急いで超特急!!」

          ━ジャジャラ内部━
『あの戦いで不様に生き残って以来・・・この日が来るのを待った。永かったよ、とても』
ハインツェル=ギルティの腕が横薙ぎに払われ、衝撃波がハイアットを吹き飛ばす。
「が・・・はっ・・・」
満身創痍のハイアットにとって、これ以上のダメージの累積は死を意味する。
「ハッちゃん!!このぉーっ!!!」
ラヴィが十六夜を勢いよく抜き放ち、ハインツェル=ギルティへと突進した。
迎え撃つ衝撃波をいとも軽々と避け、2本の包丁で神速の連撃を展開させるが・・・
『無駄だ、ムシケラの分際で調子に乗るな』
「え?抜けない!?」
突き刺した包丁が高速再生する身体に巻き込まれ、ラヴィは一瞬だが無防備となる。
次の瞬間、衝撃波がラヴィを直撃して声すら無く跳ね飛ばされてしまった。
動きを妨げぬよう防具を着ていないラヴィは、一撃で致命傷にまで追い込まれる。

立ち尽くすアーシェラに向かって、悠然と歩いて進むハインツェル。
『さあアーシェラ。僕と一緒に来るんだ、ずっと一緒に・・・ッ!?』
ドンッと鈍い音が鳴り、ハインツェルの身体が後退る。進路を遮ったのはシーマンの少女。

「お姉ちゃんには指1本触っちゃダメ!そんなの・・・あたしが許さない!!」
130アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/01(月) 21:26:26
「アクア・・・・起きなさい・・・アクア」
誰かが呼ぶ声が致しました。
「アクア、時間だ!!起きろ!!」
はっと顔を上げますとそこにはマスター・ホースエリアがおられました。
「試合前に精神統一もいいがしすぎで遅刻したらいい笑いものだな。」
いままでの事は夢・・・・いいえ、きっとこちらが夢ですね、もう大分前に、マスター・ホースエリアはお亡くなりになられましたし、
「いいんじゃない、ホース、無理に気張ったって普段の力なんか出ないしな」
「ジンちゃん、そういう事言うなよ。門下生が見てるだろ、それにこれは最終試験だぜ。」
マスター・ジンカキノイまでいらっしゃいます・・・・・思い出しました、これは私のスリダブの最終試験の時の様子・・・・
ぐらりと視界が曲がったかと思いますとまた、場面が変わりました。

「マスター・エル・サント今日もご指導お願い致します。」
ああ、これは、スリダブの中でも最も芸術的な技を持つと称されるマスター・エルサントに技の数々をご教授頂いていた頃の様子ですね。
「アクア・・・今日は多少厳しい技を教える、覚悟はいいかな?」
「はい!よろしくお願い致します。」
・・・・・・・・・・数時間後私はボロキレの様に床に倒れこんでおりました。
「アクア、人ならぬ身でここまでよくスリダブの技磨いたものよ。他のマスター達もお前には一目置いておるぞ。」
「あ・・・ありがとうご・・ざい・・・」
「無理に喋るな、肩をかして貰え、おい、フランク!バッドボーイ!アクアを部屋まで運んでやれ。」
お二人の肩を借りて、やっと自分の部屋に戻ったのを覚えております、その数週間後あの大技を会得できたのは。

また視界が切り替わり、こんどは随分と殺風景な荒野に立っておりました。隣には兄弟子のタルツさんがおります。
ああ、そうか、人里離れて家族と暮らすハイマスター・ファンク・シニア様の牧場に行った時の記憶ですね、確か、
ハイマスター・シニアには2人のお子様がおられました。そうでした確かこの時、
「いいか、自分よりも力も強く体も大きい相手がいるとしよう、その時はどう戦えばいいと思う?」
ハイマスター・シニアの質問に私は困っておりました。
「解んないか、答えはな、足を徹底的に痛めつけて動けなくさせるだ、もちろんスリダブの技にもあるからな、後で
 技能書を読んでしっかり勉強しておきなさい。」

いったい、何故今私は過去を振り返る旅路にいるのか?疑問に思いながらまた視界が変わるのを心待ちにしておりました。
131アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/01(月) 21:27:11
切り替わった視界には、冬の寺院の庭・・・・確か、この時私は泣いていたはずです。
人間では無い、魔物として生れ落ちた自分への嫌悪感、そして、いわれの無い迫害・・・・・・・
「どうした、アクア」
大きな黒い手が私の肩を叩きました。
「あ・・・ゼーラスさん・・・・」
彼はゼーラス・アマーラ 兄弟子の一人で、結構怖いと他の門下生から言われてた人
「何かあったのか、話してみろ。」
でも、普段の彼は面倒見のいい気のいいお兄さんみたいな人でした。
「魔物は・・・・生きてちゃダメだって、町の人に・・・・」
「そうか・・・・だけどなアクア、人を怨んじゃダメだ。そしたら町の人はもっとお前を嫌う。」
「じゃあどうすればいいんですか!!」
絶叫した私に優しく微笑んで彼は一冊の本を私に渡して下さいました。
「この本をまず、読んでごらん」
その本こそ、後にお使えさせて頂くラーナの経典でございました。

さらに視界が変わり、私の目の前には男の人が見上げる様な形で立っておりました。
「君が門の前にいた子かい?」
ああ、今は亡きグランドマスター・パワーロード・マウンテンと初めてお会いした日、そう、スリダブの門に何もわからずいた
あの運命の日、そこまで遡って来たのですね。
これから先の記憶はありませんし、ここで旅も終わり・・・・と思った時で御座いました、新たな世界が広がったのは。

「アクア・・・・不甲斐無き父を許せ。今宵ホワイトラグーンの部族は消滅する。しかし、せめてお前だけでも生きてくれ。」
見たことも無い男性の方と女性の方が私を見て泣いておられるのです。
「アクア・・・許して、もうこうするしか方法は無いの、見つからない為に貴方の姿を変えてしまう私を許して。」
遠くから進撃の合図が聞こえてきます
「くぅ・・・・何故・・・戦わねばならんのだ。」
男の方は武器を取り部屋を出ていかれました。その直ぐあと今度は別の男の方が入ってまいりました。
「奥方様、アクアさまをお預かりいたします。」
「お願いするわ・・・・貴方に任せます」
「ハッ」
ああ、そうか・・・・・そう言う事だったのですね、これは私の封じられた記憶・・・・・・・そして音をたてて空間が壊れると
そこにはシーマンの少女が立っておりました。

「ねぇ、思い出した?」
「思い出しました、何もかも」
「ねぇ、私の大切な友達がね、危ないの 力を貸して欲しいの」
「私はあなた あなたは私、遠慮は要りませんよ、さぁ、いきましょう」
「うん、いこう」
私達二人は手を?ぎ歩き始めました。光の差す方向へと
132甦った記憶の一片 ◆iK.u15.ezs :2007/01/02(火) 13:31:42
それは、一夜の幻のような出来事。そこは、人間の領域と海の民の領域の狭間。
月明かりが白い砂を照らす。さざ波が寄せては返す夜の海辺に、竪琴の音が響く。
寂しげに、儚げに……奏でるは、海の民の少女。
「きれいな音……君が弾いてたの?」
その音に引き寄せられるように現れたのは、
少女と見まごうような整った顔立ちのくせに変な髪飾りを付けた、森の民の少年。
少年といっても外見と実際が必ずしも対応していないのがエルフ族の常だ。
「ふふっ、これ、人を呼び寄せる呪歌なんだ。でも良かった、怖そうな人が来なくて」
10歳と少しと思われる少女が無邪気に笑って言う。
「お兄ちゃん、森の民なのにこんな海辺にいるってことは冒険者さん?」
「まーそんなとこかな?」
少女はそれを聞いて、弾いていた竪琴を差し出す。唐突な申し出だった。
「このハープはご先祖様から受け継がれてきた大切な物なの。
これを人間の世界に持っていって欲しいんだ。
ちゃんと誰かに受け継がれなきゃいけない物なんだって。私達の部族は……ううん。何でもない」
私の部族はもうすぐ滅びるかもしれないから、と言いかけて慌ててその言葉を飲み込む。
「人間の……世界? 君は人間じゃないの?」
尋ねて、少年は、少女の首に鰓があることに気づいた。
「私はシーマンのホワイトラグーン。少しだけ人間の血が入ってるの」
ホワイトラグーン……絶滅寸前の稀少種。
「じゃあ君達は人間と仲いいんだ」
「そうだよ。でも……人間と仲良くしてるからか他の部族から嫌われてて……」
語りながら、少女の表情が翳る。
「ねえ、どうして人間と仲良くしちゃいけないの? 人間っていい人達だよね!?」
「うん。今までにすっごく素敵な人達に会ったよ。数え切れないほど……。
だからさ、きっとすぐ良い弾き手が見つかる。任せて、ちゃんと持って行くから」
「良かった……、そうだよね! ただ持っていくだけでいいの、そうすれば自然に次の弾き手の所に行く」
この時の少年は知らなかった。受け取ったハープの名を。
ラーナの大司祭にして伝説の呪歌手でもある龍人戦争の英雄、黄昏のアリアが使っていた楽器である事も。
「僕はパルス、次会うときに覚えててくれたら嬉しいな!」
「次……会うとき?」
「そうだよ?」
パルスは、また今度会えるのは当然といった顔をしていて。だから少女も答えた。
「……分かった。 お兄ちゃんも覚えといて、私の名前は……アクア!
偉大な人間のご先祖様にあやかった名前だよ!」
こうして久方ぶりに人間界に渡った竪琴が、
どのようにして後の紅き龍の巫女の手に渡るかはまた別のお話。
133アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/05(金) 01:21:09
グレナデア消失から二日。
私達は北端の都市ルフォン。元領事館、現作戦本部の迎賓室にいる。
部屋にいるのはソーニャさん、ジーコさん、ギャルビーズさん、シャミィさん、そして私。
分厚いステーキを小さく切り分けあむあむとよく噛んで食べ、三皿目のお代わりをするとジーコさんが目を丸
くしている。
私の体のどこに入っていくのか不思議なのだろうけど、とにかく身体が肉を欲しているのだから仕方がない。
それだけ消耗が激しかったのだから。
ゆっくりと食べながら、あの日の戦いを思い出していた。

#############################################

「くそったれ、オンスロートの衝撃使い切っちまったのが辛いぜ。」
悪態をつきながら四機のギガントに立ち向かうジーコさん。
ジーコさん自身もその持っているハンマーも大きかったけど、それは人間サイズでの話。
重装ゴレムに比べれば話にならないほど小さい。
機動性も降り積もった雪を掻き分けるジーコさんと、重力制御ユニットによってすばやく駆け寄るギガント。
勝敗は見えている。
でもジーコさんは覚悟を決めたように雄叫びを上げながら走る!
「いい漢じゃないか!死なせはしないよ!受け取りな!!」
そんなジーコさんを見てソーニャさんがゴレムの上に立って炎と化した髪を振り乱すと、その炎がジーコさんの
ハンマーへと纏わり付いていく。
エンチャントの魔法・・・。
多分魔法ではないと思うけど、同じような効果を狙ったのだと思う。
でも、それは予想外の結果を見せた。
炎は纏わり付いた先からウォーハンマーに吸い込まれてしまったから。

ソーニャさんは術が失敗したかと唖然としたけど、ジーコさんはそんな余裕はなかったみたい。
もう間合いは詰まっている。
そのままハンマーをギガントに叩きつけるしかないのだから。
その激突の瞬間。凄まじい爆発音と共に爆炎が起こり、ギガントは吹き飛び大破炎上。
ジーコさん自身が一番びっくりしていたんじゃないかな。

ジーコさんの持つウォーハンマー『オンスロート』は攻撃時の衝撃を蓄積する事ができる。
それの応用なのだろうか?ソーニャさんの炎も蓄積したわけだ。
炎+衝撃で爆発。しかも重装ゴレム『ギガント』を一撃で吹き飛ばす程の。

驚いたのはギガント(正確に言えばそれを操作している人)も同じだったみたい。
一撃で大破炎上させる人間の存在は驚愕以外何者でもないもの。
勢いに任せて突っ込んでくる事をやめ、ジーコさんを囲む三機。
それをみて動いたのがギルビーズさん。
「馬脚を止めたね。」
ゴレムから降りると、どこに持っていたのか筒を地面に突き刺して着火。
*ポン*という控えめな炸裂音を響かせた。
空中に浮くレオルさんと私の頭上で何かが弾け辺り一面にキラキラとした何かが舞う。
不思議に思って手にとってみると、ただの銀色の紙みたい・・・
でもこれはただの紙じゃなかった。『ちゃふ』というらしい。
「こんな山肌じゃいつまで持つかわからないから、急いで。」
ギルビーズさんの言葉の意味がわからない。
レオルさんはこの紙を知っているのか言葉に従い、高度を下げギガントにこともなげに近づいていく。
もう手を伸ばせば届くくらいの距離。
私はレオルさんにしがみついて身を硬くするけど、ギガントは動かない。

第二世代ゴレムズィーガーは遠隔地から無線操縦でゴレムを動かしている。
だから、無線を遮断する『ちゃふ』を散布し、その間に受信ユニットを破壊してしまう。
ゴレム狩りの異名に相応しい効率のよい方法だといえる。
携帯用のチャフは効果範囲が狭い上に山肌ではすぐに風に流されてしまう。
だからジーコさんがギガントの動きを止める必要はあったとはいえ、その手際にはソーニャさんも舌を巻いていた。
134アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/05(金) 01:21:59
その後ギガントが山肌を下っているのを見て駆けつけたレジスタンスの人達と合流。
グレナデアの二度の砲撃に浮き足立っていた彼らをまとめたのはレオルさんだった。
ルフォンに配備された新型重装ゴレム『ギガント』14機全てを破壊したこと。
グレナデアはリッツさんが命を代償に撃退した事。
そして最後の言葉は「打倒帝国」だったと。

多分この言葉を私以外が聞いていたのなら事態は変わっていたかもしれない。
でも、私以外あの場所にいた人間はいなかった。そして私は何も言わない。
だからレジスタンスの人たちはレオルさんの思惑通り動いた。
強大な一つのうねりとなって。

################################################

そして今私達はルフォンの迎賓室で豪華な食事を取っている。
扉の向こうの執務室からは怒鳴り声が聞こえてくる。
中には指揮官アルトさんと、補佐官レオルさん、そして王国騎士レニーさんがいるはずだ。
グレナデア奪取失敗の上、戦略的無用な地のルフォンを占領したことに対する怒りの声だ。
最北の都市を不用意にに占領しても占領するためのコストというものがかかるらしい。
グレナデア奪取に失敗したのなら戦力を温存して他戦線に回すことも必要なのに、この戦闘で損害も出たのだから。
難しい事はわからないけど、局地戦闘ではなく戦略的戦術的見地に立つと勝ったからって褒めてもらえるとは限ら
ないらしい。
でも、レオルさんの行動は間違っていなかったと思う。
あの時ああいわなければ、レジスタンスの人たちは恐慌状態に陥り、部隊は瓦解していただろうから。
「貴様なんぞ最前線に飛ばしてやるからなっ!!!」

ひときわ大きく扉の向こうから聞こえてくる怒鳴り声にジーコさんをはじめ室内のみんなが苦笑を浮かべていた。
今こうやってお肉を食べられるのもレオルさんの手配のおかげな訳で、余り笑えないと思っているのは私だけらしい。
特にソーニャさんは機嫌がいい。
占領した後、リッツさんの死体の場所を聞かれて占ったから・・・。
「リッツさんの星はまだ落ちていません。巨大な影星に覆われていてその姿は見えませんが、近い将来必ず再び
合間見えるでしょう。」
その言葉を聞いたときのソーニャさんの表情。まるで飛び上がらんが如く。
その後ろでうっすら涙を浮かべながらそっと立ち去るレニーさん。
私は複雑な心境だった。
だから、言わなかった。落ちてはいないけど、堕ちてはいる、と。

「アルトのヒステリーはまだ治まりそうもないし、風呂にでも入ってくるか。」
「あ・ああ・あの、じ、事情聴取は・・・」
「いいんだよ、そんなもん。それよりあんた、風呂の時間になるといつもどっかいっちまうよね?
いい温泉もあることだし、ジーコとしっかり入ってきなよ。」
事情聴取のために呼ばれていたのに、ソーニャさん達は事も無げにお風呂に入ると出て行ってしまった。
「え、あ、あの・・・きゃっ!」
「おう!男同士裸の付き合いといこうや!」
多分ソーニャさんに頼まれていたんだと思う。手際がよすぎるから。
私を小脇に抱えて抗議の声も無視して露天風呂へと運ばれていった。
135アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/05(金) 01:22:55
結局脱衣室まで運ばれ、有無を言わさず星見曼荼羅のローブを剥ぎ取られ、裸にされちゃったけど女だって気付かれ
なかった。
太極天球儀と日輪宝珠、月輪宝珠、タオルで隠したとはいえ・・・。
見られたことにショックを受けるべきか、見られても女だって気づかれなかった事にショックを受けるべきか・・・
「なんでえ。そんな義手や義足恥ずかしがっていたのか?そんなもんくらい気にするんじゃねえよ!
それよりこの玉と一緒に風呂に入るつもりか?」
三つの宝珠は術者の身体の一部といってもよく、不可視の力によって繋がっていて自分でもはずせない旨を応えて、
そそくさとお風呂に身を沈める。
なるべく見られないように。
「何を恥ずかしがってやがんだ。漢なら堂々と胸を張れ!」
そういって完全無防備でのし星と歩いてくるジーコさんの体は筋肉の塊。そして傷の塊。
それはまさに戦いを生活にしてきた故にできた芸術のような身体。
でも、無防備すぎてとても直視できない。
何か話しているけど、私は顔を上げることもできなかった。

色々あって混乱しているのを差し引いても私は黄金の仮面の人物について思い返す事はなかった。
いや、思い返せなかったのだろう。
何か重大な結論に到達したはずなのに。
これが思考プロテクトゆえの事なのだけど、それを自覚する事すらできずにいた。

いまの私は風呂から出ることもできず、星空を見上げる事もできずにジーコさんが出るのが早いか私が湯あたりするのが
早いかの耐久レースの真っ只中なのだから。
136ジョン・リーブ ◆DMluABX9IM :2007/01/05(金) 10:43:08
「そろそろ出るか?これ以上入ってたらのぼせちまうだろ?」
「はは・はい」
湯あたりするんじゃないかと思っていたアビサルがホッと一息つき出ようとすると湯煙の先から声が聞こえる。
「なんやなんや、もう出るんかいなオッサン?痛みに強うても風呂は温めやないとのぼせるんか?」
「おい、こんなところで挑発すんなよ、くだらねぇな。」
そういって呆れながら出ようとするジーコに更に挑発の声がかかる。
「なんや、逃げるんかいな、どんな勝負でも受けるのが漢やないんか?
 なんや、そか、外見メチャコワモテでも、単なる雑兵かいな。強い漢が逃げ腰っちうんはおかしい話しやからなぁ。」
雑兵といったのがまずかったのか、ジーコはそのままもう一回風呂に入り湯煙に隠れている男の方に歩き出し、
真正面から男を睨みつけ腕を組んでアグラをかく、
「おいてめぇ、いいじゃねえか、後で茹蛸になって後悔すんなよ。」
乗ってきたジーコを見てニヤリと笑う男。これを待ってたと言わんばかりの表情だ。
「そっちこそ釜茹にならんよう気いつけや、ワイの名前はジョン・リーブや、一つ手合わせ頼むで、ジーコ・ブロンディ?」
「ははははははっ!!知ってて声かけるなんざぁ随分と勇ましいじゃねぇかよ、気に入ったぜ、でいくら掛ける。」
「3000Gikoや、そんくらい普通に持ってるやろ?勇ましい不動の砦さんなんやろ、そないな金ぐらいはした金やろ。」
不敵に笑い会う二人、そんな二人を見送りつつ出ようとするアビサルを両者が腕をひっぱり湯に戻し叫ぶ。
「「公平なジャッジのための見届け人で決定!!」」
137遠き誓いの夜 1 ◆9VfoiJpNCo :2007/01/05(金) 19:13:55
――七孔噴血。
まさか、実際にそんな死に様を、それも大量に見る事になろうとは……これ以上ない胃の収縮を感じ、微かに呻く。
苦さを含んで見開かれたサファイアの瞳に映るのは、主と共に最期を迎えた龍人帝都の成れの果てであった。
戦の顛末を知らずにこの光景を見た者は、一体何を持ってして驚きの絶頂とするのであろうか?
累々と積まれた八翼師団と近衛騎士団の屍か。それとも、勝利を認識する間もなく七孔噴血にて果てた獣人達の無残な骸か。
はたまた、打ち壊されたミレニアムの残骸か。
……いいや。
確実に違うであろう。そんなもの、これらの前では霞にも満たぬ。
クロネは尖塔の上より見下ろし、その数を数える。
「九体か……誰だか知らんが、よくもまあ殺せたものだ」
おお、見よ!
巨大な城を押し潰し、大聖堂を散らし、広場を割り、帝都の眺めを打ち砕き、横たわってはブチ砕きたるその様を!
それは、巨大であるのは勿論の事ながら、死して尚、圧倒的な存在感を漲らせた亡骸であった。
――龍。
龍の亡骸である。
少なくとも、クロネにはそうとしか思えなかった。

動く影を発見し、崩れた屋根の上を駆けるクロネ。
降り立ち、うずくまって震える後ろ姿に声をかける。
「……アオギリ、無事であったか」
振り向いた若武者の、顔中の孔から噴出し続ける鮮血に息を呑むも、傍へ寄って肩を貸す。
足元には、彼と故郷を同じくする偶蹄種族の戦士達が、七孔噴血の果ての原となっていた。
「無事、です……無事…ここで、死しては――ゴホッゴホッ……ッッ!!」
「もういい、楽にしていろ」
「何の、ための…生と死か……っ!!!」
血の塊と共に魂からの言葉を吐き出す、ケンタウロスの若武者。
それこそが、彼の真の貌なのであろう。

アオギリを引きずって、帝都の中央、深紅の龍の胴体によって割られた広場まで移動する。
狼煙でも上げて生き残りを集めようかと思ったのだが、遠目でもそれとはっきわかる先客がいた。
「ギラクル殿! 傷を負っておられるのか!?」
身の丈十三尺にもなろうかというミノタウロスの大王の、血に塗り潰された白銀の鎧姿に驚き叫ぶクロネ。
黒猫の知り得る限り、想像し得る限りにおいての――いや、想像を超えた果ての果てたる、最強の武士である。
その彼が……まさか、重傷などということは……?
「大事無い。全て返り血だ」
それもまた、驚くしかない一言であった。

「また、死に損なった」
「…………」
「友を失い、国を失い、民を失い、彼らの崇めた愚かな王だけが残り……永い永い時が経ち……未だに死ねず。
さりとて、狂う事もできず…………この血の滾りを捨て去る事もできず……」
静かに、鎮魂の碑の如く立ち上る狼煙を見上げ、誰にともなく淡々と言葉を紡ぐギラクル。
クロネとアオギリは、ただ黙って耳を傾け、彼の内なる空虚に思いを馳せた。
「いつか……いつかは、訪れるのであろうか…………この身を焦がすに足る時が……」
『来る』
振り向くと、闇で出来た男がいた。
――影帝ゴウガ。
古代イヌ科獣人種族《ノール》の、ナンバー1にしてラスト1.
目の前にしてすら、鋭利な犬の顔を持った長身のシルエットとしか見えぬこの男は、影が差すは世の必然とばかりに
何の前触れもなく、クロネらの背後に佇んでいた。
「……来る、とは?」
『聖戦の時、勝利の時、涙の時……即ち、我らの死する時』

この日――龍人戦争という大嵐の過ぎ去った、この日の夜。彼らの追い求める真の敵は定まったのだ。
138地獄の行軍 ◆9VfoiJpNCo :2007/01/05(金) 20:49:37
光信号にて、渓谷の上に配備したスカウト兵からの知らせが来る。
――北東ヨリ迫ル軍勢ヲ確認、ソノ数約2000。
「……予想以上に寡兵だな」
カールトンはピンと張った自慢の髭に手をやり、読めぬ双眸にて呟いた。
二千とは、一個大体にも満たぬ数である。
死を覚悟した最精鋭のみの布陣で待ち構えるカールトンらであったが、それでもこれよりは多い。
「返信しろ。武装の確認と総数の再確認に努めよ、と」
控える伝令に指示を下し、自身はギガントの肩に乗ったまま渓谷の出口を睨み続ける。
アルフレーデのカード占いだけを頼りに、一番可能性が低いとされる侵攻ルートにて気を張り詰める事、62時間。
これで、もし東の沿岸諸国郡からの大ガラン山脈ルートであったなら、見送ってくれた元妻に往復ビンタでお迎え
されるかもと、不退転の決意もピークに達していた頃の事である。
……ようこそ。
カールトンは口の動きだけでそう言って、鼻から肺への新鮮な夜の空気で眠気を払った。

「スカウトよりの再確認が来ました! 総数およそ1800! 武装は、原始的な近接武器の類を備えた者が数百!
残りは皆、素手だそうです! 銃火器、及び飛び道具と思われる物は一切見当たらず、との事!」
「……軍隊ではないな。モンスターか、それとも野蛮人の群れとでも言うべきか」
遠き過去の決戦の日において垣間見た、あの怪物の率いる集団ならば当然であろうか?
記憶の海に漕ぎ出しそうになった己に活をやり、カールトンは手振りと共に朗々と号令を下した。
「砲兵隊に伝えよ! 作戦通り、敵部隊の先頭が渓谷の中程に到達した時点で仕掛ける! わしの指示を待つ必要はないと!」
「ハッ!」
この状況で打つべき手は唯一つ。渓谷両側、高所よりの十字砲火である。
数分後には炎の大蛇と成らんとする、曲がりくねった道を前に、カールトンは極自然と瞬きをやめた。

先走った者もなく、足並みそろえた一斉射撃。
さすがは我が精鋭と誇るでもなく、鳴り止まぬ轟音に震える渓谷をじっと見つめるカールトン。
ここからでも、ちらほらと火線が見える。もはや、北東辺境へと続く唯一の陸路としての命脈は断たれたに違いない。
まあ、年数人と赴く者もいないので、そこら辺はどうでもいい所である。
問題は、その地形を歪める程の砲火が、敵にどれだけの被害を及ぼしたかだ。
砲撃開始より、約十分。
「スカウトからの報告は?」
星空を覆い、月を隠さんとする炎と煙が、静まった渓谷から立ち上る。
「全軍! 動く影あらば遠慮はいらぬ! 弾の果つるまで撃ち込めい!!」
首を振った伝令に口を開く間を与えず、カールトンは二丁の拳銃を抜いて檄を飛ばした。

――来る。
煙の向こう、炎を越えて、土砂の積もった道越えて。
ただ、粛々と…………踏み越えてくる。
地獄の鬼すら泣いて逃げ出す、地獄から来た者共が、地獄の如く煮え滾り……。

今、この地より、異国の大地を地獄へといざない候。
139クラックオン十烈士 ◆9VfoiJpNCo :2007/01/05(金) 22:07:19
敵軍の先頭、雄々しい角を天へと伸ばした異形の影が煙の向こうに見えた瞬間。
渓谷出口を囲む形で、やや距離を置き半円形となって展開していた決死隊が、一斉に引き金を引いた。
このプレッシャーを前にしての迅速な反応。大したもの……とは、とても言えぬ。
皆、その姿を見たくなかっただけなのだから。
その異形を直視したくない一心で、これ以上は一歩も進ませまいと、皆が一心不乱に撃ち続けただけなのだから。
彼奴のプレッシャーにほとんどの者は耐えられぬであろうと、前もって発砲を許可したカールトンの判断は正しかったのだ。
両翼の丘に置いたギガントとカノーネの十字砲火が、地獄から顔を出そうとする連中を盛大に穿つ。
プレッシャーは、揺らぎもしない。
影が一歩進むごとに、目眩に吐き気に立ち眩み。
「不味い……不味いぞ」
この攻撃に彼奴が死ぬどころか怯みもしないのは、別にいい。
覚悟していた事だ。自分が死ぬ気で何とかしてみせる。
カールトンは、それでどうにかなると思っていたのだ。
だが、これは……ああ、これは……?
この自分が命を捨てて立ち向かわねば敵わぬであろう、最大級の圧力の持ち主が。

明らかに、複数いるのである。

こちらの弾薬が尽きる前に、連中は反撃を開始した。
銃火の嵐と炎と煙をぬって、三つ――いや、五つの影が迫り来る。
二つの視認に手間取ったのは、その速さもあるが、カールトンの視野の外へと飛び出すものだったからだ。
左右に飛んだ赤いのと青いの。どう考えても両翼のゴレム目掛けての動きである。
撃ち落とすには遠い上に速過ぎる。カールトンは運を天に任せ、残り三つの影を討つべく視線を動かした。

一つは、胴体から伸びた四本の腕それぞれに、オーガ用ではないかと思える金棒を携えた……アント・クラックオン。
もう一つは、長大な二振りの棘付き鎌を自前で備えた……マンティス・クラックオン。
そして残る一つ、自分の乗るギガントへと正面から、文字通りに転がってきた敵に呻き、飛び下りる。
「うおお!!」
ギガントの片足を吹っ飛ばしても回転と進行をやめず、Uターンしてくるクラックオン。
躊躇わず銃撃。
鋼の盾をも貫く銃弾を、その高速の回転でもって弾き、カールトンを轢き潰さんと轍を刻む。
寸前で横に回避。
このまま行き過ぎるかと思った敵が、急ブレーキをかけて素早く逆回転するのを見た瞬間、
「この野郎っ!!」
カールトンは吠え、炎のブレスを纏わせたサイドキックで回転野郎を吹っ飛ばした。
岩にめり込んでも形を崩そうとしない球体に、思わず舌打ち。

背中を覆う、硬く分厚い甲殻での回転進行戦法を用いる……メガボール・クラックオンである。
140スターグ推参 ◆9VfoiJpNCo :2007/01/05(金) 23:47:41
蟷螂の刃が、ギガントの装甲を紙人形の如く薙ぎ払う。
蟻の金棒が、カノーネの胴体を蛙みたいに潰していく。
銃弾を浴びせ続ける歩兵には見向きもしない。それは彼らにとって脅威ではないのだろう。
この暴威に対して、勇気ある雄叫びが上がった。
カノーネに乗るベテラン操縦者が、最良のタイミングで蟻に向けての近距離射撃を敢行したのである。
束の間沸いた歓声は、煙を引きながら後退りするクラックオンの無事な姿で戦慄の吐息となった。
ベテラン恐れず冷静に、すかさず快心の次弾。
加速した砲身ごとくらわせようかという、暴発ギリギリのゼロ距離射撃。
爆発炎上し、後方へ弾かれるアント・クラックオン。
だがそれでも、地にはしっかと踏みしめた二本の足があった。
爆煙が晴れた後に見えたのは、凄惨な焼け焦げと傷こそついたものの、ほぼ無傷といって言い状態の甲殻である。

……あれでも、応えぬだと?

在りえない事だ。
仮に、あの蟻がクラックオンでスターグに次ぐ強度の持ち主であっても、在りえない。
あんな目に会えば、アダマンテインの装甲版とて微かながら穴が空く。
鋼よりも硬いのは確かだろうが、まさかアダマンテインより硬い天然の甲殻など……在り得るはずがないのだ。
「何らかの術……いや、技か?」
一対一の形となったメガボールの突進をかわしながら、カールトンは冷めた眼差しで戦場の把握に努めていた。
純粋な強度のみで在りえぬのならば……考えつく答えは一つだけだ。
恐らくこいつらは、クラックオン秘伝の防御法を駆使している。
しかも、自分にそれを見切られぬようにと、インパクト時の一瞬のみに限定して使っているのだ。
「頭使ってんじゃねえか、虫ケラども〜〜〜〜〜〜……!」
どんな技にも発動の兆しというものがある。
このカールトンの前でそれを隠して戦えるだけの腕を持つ、スターグの最精鋭。
認めるしかない、万夫不当の猛者達であった。

決意よぎるカールトンの瞳に、狂おしい炎が灯った。
「そうならそうで、最高級で持て成してくれるわ……っ!!!」
握った拳銃ごと両腕に、紅蓮の炎がまとわりつく。
懲りもせずに正面から迫るメガボールに向けて、炎の銃弾を発射。
弾けぬと悟ったのであろう、先程までとは打って変わった身のこなしで、球体を解いてかわすメガボール。
思ったよりも、遥かに反応が早い。
まともにやり合えば、長引く上に負傷は必至。
ならば、この一息でたたみかけて押し通り、後方の本隊へと渾身を振るわん!

大きな力の差のない達人同士での戦いでは、些細の呼吸の虚が命取りとなる。
こいつは、本気を出すのが一瞬遅れた。仕留める事ができる。
「いただく!!」
回避で崩れたメガボールへと奔るカールトン。
炎を巻いたとどめの連射は、
「のおおあ……っ!!!」
直前で向きを変え、転じて防御の弾幕となった。
衝撃が、散って吹き抜ける。
百メートル以上も離れた粉塵の向こう、渓谷よりの攻撃である。
カールの目に映ったのは、自身の放った衝撃波で、すっかり視界良好となった土砂の上にて拳を突き出す異形の戦士。
「スタアアアアアアアアアアアアアアアッグ!!!!!」
真っ直ぐに、一直の火線となるカールトン。

頭頂の角まで含めた、身の丈およそ十五尺。このセフィラにおいて最も強靭な体躯を持つ男。
スカラベ・クラックオン……煉獄の志士スターグ。
今ようやく、ゼアドの果てに推参す。
141サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/06(土) 00:22:19
          ━十時街道━
遠い空に浮かぶ古代都市を睨み、ヒューアはすかさず転移の術を発動させた。
「メイ!今からあそこに行く!手を出して」
このセフィラの十剣者が得意とする転移術だが、メイには使う事は出来ないのだ。
メイの唯一の欠点である。最古の十剣者の中でも極限まで戦闘能力に特化した存在。
それ故に他の十剣者にはたやすい事も、メイには窮めて難しい事だったりするのである。
「ありがとう。私ってば戦う事以外、ロクに取り柄が無くってさ」
苦笑するメイが、ヒューアの手をしっかりと握り締めた。


          ━ジャジャラ内部通路━
大変な事になってしまった・・・六星都を制御するホムンクルスが失われる・・・
それは《創世の果実》へと至る、星道の封印が解かれるという事だ。
ワタシはジャジャラの2体・・・則ちハイアットとハインツェルを護る為の存在。
それなのに・・・彼らを護る事が出来なかった!
思考ロジックに改造を受けてハインツェルに操られていたけれど、今なら自由に動ける!
「アスラ!もっと急いで!」
レベッカさんがワタシの背中をギュッと抓る。痛覚は無いので、別に平気ではあるが。
「了解しました。2人共、しっかりと捕まってて下さい。振り落とされないように!」
通路を縫うようにして、壁面すれすれの右折左折を繰り返し、中枢へと向かう。

速度を更に上げ、ワタシは彼らの無事を祈った。
例え造り物のワタシにも、若干とはいえ感情は存在するのだ。
自らに課せられた使命を全うする上で、障害が発生すればワタシとて不安になる。
かつて滅びたジャジャラを知るが故に、何としても彼らを護り通す使命感に突き動かされる。


この時、まだワタシは知らなかったのだ
恐怖という名の感情を・・・そして絶望の味を・・・
永い月日がワタシに心を育てる機会をくれた。
この後でそれを、今日ほど呪わしいと思った事は無いだろう。
142名無しになりきれ:2007/01/08(月) 03:05:10
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143ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/01/08(月) 04:48:51
なんだかよくわからねぇ展開になっちまったが・・・まぁいいか、受けて立つぜ!!
とまぁ調子よく返事しちまったのがマズかった。
あれから軽く1時間は温泉に浸かりっぱなしだ、流石に俺も頭が朦朧としてきた。
だがそれは奴も同じ、既に目の焦点が合ってねぇ。もう少し粘りゃ勝ちだ。
「オイ、もうそろそろアカンのとちゃうか?」
「ハッ、笑わせんじゃねぇよ。余裕すぎてあくびが出るぜ。」
「さよけ、せいぜい無理せんこっちゃな・・・。」
へへ、このタイミングで降伏勧告してきたってこたぁ奴はもう限界が近いな。

このまま踏ん張りゃ勝てる!ってか何で俺がこんな我慢しなきゃならねえんだ?
そもそも俺が勝っても大して得する訳でもねえし、それにこのチビも・・・!!
「おいチビ!?しっかりしやがれ!!!」
チビは盛大に鼻血を垂れ流しながら、すっかり茹で上がってやがる。
慌ててチビを掴んで湯舟から出してやると、背後から不気味な笑い声が聞こえてきた。
奴だ、そう思った瞬間に俺は気付いた。湯舟から出てしまった事に!!
「あんさんの・・負け・・や・・ハハ・・・ハハハぶぐぶく」
あの野郎!沈んでいきやがった!?てこたぁオメェもやべぇじゃねーかよ!!
「おいコラ!何やってんだ、さっさと出ろ。マジで茹で蛸になるつもりかオメェは!」
意識を失ったジョンを抱え上げると、俺はチビの隣に寝かしてやった。
「てか何で俺がこいつら介抱してやらなきゃいけねえんだよ!アホか!」
俺の叫びは風呂場に虚しく響き渡り、急に動き回ったせいで立ち眩みがして俺も倒れた。


「炭焼きと照り焼き、どっちがいいんだテメーら」
轟々と燃え上がる炎を揺らしてるくせに、氷みてぇに冷たい声の赤毛が俺達に言った。
チビは氷枕で頭を冷やしてベッドに寝かされている。
第一発見者は、俺達の帰りが遅いのを心配して見に来たレニーだった。
赤毛はチビの事を弟みたいに可愛がってたからな、怒るのも当然だわな・・・。

で、今俺達は究極の選択を迫られてるって訳だ。
炭焼きと照り焼き・・・焼かれるのはもちろん、俺とジョンなんだが。
「なぁ姉ちゃん、それどっちも死ぬんちゃう?つか人間焼かれたら死ぬっちゅうに!」
「そりゃそーだ、焼け死ぬわな。焼き方が違うだけだし。」
「うわぁ・・・サラっと怖い事言いはった。」
144アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/10(水) 00:05:43
私の無くしていたモノ・・・・・記憶、本当の姿 そして、水中生活の為の他種族よりも強靭な・・・・筋力
「こぉのぉおおおおお!!」
渾身の力を籠めてその巨体を押し返します。ですが、それが精一杯の反撃方法でございます。
体格が違いすぎるのに加え、嵐の様な錬激が私を襲います。
『邪魔をするなぁ!!』

何十度目かの頭上からの衝撃を両手で受け止め 私の腕はすでに赤黒く変色していました。
『邪魔だ!邪魔だ!!邪魔だ!!!なんでみんな僕の邪魔をするんだ!!』
ハインツェルさんはその巨躯を上下左右に揺らし頭を抱え苦悩していらっしゃる様でございました
『僕は・・・ただ・・・ハイアットみたいに愛されたかっただけなのにぃ!!』
哀しい事にございました、愛に飢えていたが故の暴走、愛に気がつかなかった為の悲しみ
ですが、だからと言って暴挙が許される訳ではございません。ラーナの名に懸けて止めなければなりません。

『こぉのぉ!!』
組まれた腕が巨大な鉄槌の如く振り下ろされました。
「まだまだぁ!!」
ですがそれと受け止めると同時に鈍い激痛が私の腹部を襲いました 
自分の腹部を見るとそこには尻尾に絡まった異形の剣が刺さっておりました。
シーマン特有の緑がかった赤い血が剣から滴り落ちました。
『ハハハ・・・・ハハハハハ・・・・!!お前が悪いんだ!!僕とアーシェラの邪魔をするからぁ!!』
焦点の定まらぬ目に狂気の目を光らせ嫉妬に焼け狂う魔獣が吼えます そして覚悟が決まりました。
『ハハハハ・・・・・ん?・・・・くっ、ぬ、抜けない!?』
剣の刺さった腹部に力を込め、がっちりと剣を筋肉で掴みこみます そして振り下ろされた両手もがっちりと掴みこみました。
『くぉおお 放せ!!放せ!!このぉ!!』
がっちりと剣とり両の腕を掴みこみ押さえつけます。ハインツェルさんは自由に動く足を使って私に強力な蹴りを何発も放ってまいりました。
「放しませんよ、例え死んでも、この剣と腕は放しません!!」
しかし、出血の為か意識が遠のきそうになったその時、遠くから段々と何かが近づく音が聞こえてまいったのでございます。
145カールトン ◆neSxQUPsVE :2007/01/10(水) 03:16:40
正面、再び繰り出された右拳の圧力に全身を持っていかれそうになりながら、かろうじてかわす。
「るおおおおおおおおお!!!」
見栄と遠慮と自制をかなぐり捨てた全力の二丁拳銃が、火花を散らしてスターグという暗黒へと吸い込まれる。
複数の硬い音が耳を打つ。利いた風には見えない。
そして、反撃は避けられない。
息つく間もなく、左の拳が膨大にうねり狂ってカールトンの上半身を通過する。
そう、通過である。
霞のような、空を切る手応え――ながらも、スターグの気配に戸惑いはなかった。
オレンジに輝く火の粉を散らして、風よりも速く、カールトンはこの怪物の死角であろう頭の後ろに回り込んだのだ。
その全身は、比喩ではなく人型の炎となっていた。

自身を炎そのものとする。
自身を風とせしめる。
自身を流れる水に変化させる。
自身を闇と化して影に潜む。

龍人の《ブレス》を己へと用いた場合の究極形が、この肉体のブレス化≠ナある。
如何な鉄壁の甲殻と言えど、その隙間から意志ある炎が入り込むなどという理不尽を防げるはずもない。
これこそが、カールトンがスターグという理不尽に対してくらわす死ぬ気≠フ攻撃であった。
左拳を回避してから、首の付け根目掛けて行くまでの間、およそ一秒足らず。
カールトンが必殺を確信した瞬間、
「「「!!!???」」」
大気が幾重もの波紋を描いた。

真後ろへの衝撃波だと!? いや、全方位へか……っ何をした!!?
「うぐは――んにゃろお……!!」
吹き散らされて消滅しかけた体を、必死の思いで統合して生身に戻る。
「敵わぬとはわかっていたが、道連れにもできぬとはな」
崩れようとする足元を必死に支え、スターグの異形を見上げて笑う。
「――じゃ、次行ってみようか」
カールトンは、齢350を過ぎた大貴族らしからぬ笑顔で告げた。

奥の、奥の手。死ぬ気¢謫弾。である。
146カールトン ◆neSxQUPsVE :2007/01/10(水) 04:31:11
――すわ、スイッチ・オン。
この戦場の喧騒の中でも力強く響き渡るカールトンの指パッチンを受けて、後方で控えていた工兵が
何やらと叫びながら起動させる。
といっても、別に大した仕掛けではない。
ただ、被害が甚大なものになるだけの、初歩的な罠だ。
小さな破裂音に続いて大きな何かが倒壊するような音が渓谷に響き、すぐにその招待が明らかになる。
崖の上から、辺りを埋め尽くすスケールで垂れ落ちてくるのは、○の○○。
……ではなく、刺激臭のするゲル状の蛍光オレンジであった。

「ベルベル印の合成燃料だ。驚く事に、バケツ一杯の燃焼でギガントが一週間休みなしで動かせる。火にくべたりすると
大変なんだこれが。……十日は燃え続けるな、盛大に」
カールトンは迅速に退がり始めた手兵達を横目に、黙して動かぬスターグの前で、見せ付けるように銃をホルスターに納めた。
瞬間、左の肘から先を炎と化して、追撃に移った三匹のクラックオンを遮る巨大な赤壁を構築する。
基地の在庫を洗いざらいぶちまけた石焼釜の完成である。
「つまりだ」
スターグが動いた。
奴さん、べらぼうに速いが、それでもこちとら極限集中状態である。
タイミングは、同時であった。
「みんな、死のうぜ?」
小首を傾げて、軽く不敵に言ってやる。


感じたのは、風であった。
鋭い音が鳴ったような気もするが、耳にはまったく入らない。
当然だろう。目に映ったものの方が、遥かに衝撃的だったのだから。
最初は走馬灯が実体化したのかと、アホな事を本気で思ってしまったくらいである。
この瞬間、不動のスターグが初めて明らかな動揺の気配を見せた。
「……アーダ?」
カールトンへの拳を阻んだ乳白色の全身鎧姿を見て、そう思うのも無理はなかろう。
「イヤ、現龍人王カ。……確カ……」
龍人王の証にして全龍人の頂点の顕現である《六龍牙》をまとえるのは、この世で唯一人だけなのだから。
「……ギュンター・ドラグノフ」
それは紛れもなく、過去の戦場で幾度となく預け預けられた戦友の背中であった。

「ギュンター!! お前何で――」
「戦友の身を案じる心と行動に、何か理由が必要なのかな?」
いや、そりゃ要るだろう……とは、さすがに言えずに詰まるカール。
「まあ………………ぶっちゃけ、オレ暇だったし」
「……言うに事欠いてそれか、貴様」
「いいじゃんいいじゃん。とりあえず仲直りしちゃってさあ? この場は、ね〜?」
振り向いて、跳ね上げられた兜の中身、自分と同い年のクセして滅法若い顔立ちに無意識に歯を剥き出す。
こいつは、こいつだけは……相も変わらず、若いわ軽いわカッコいいわ…………!!

「今夜は、オレとお前でダブルドラゴンだ」
「やだよ。カッコわりい」
「…………」「…………」

とりあえずの共闘は、大人気ないクロスカウンターによって始まりを告げた。
147パルス ◆iK.u15.ezs :2007/01/10(水) 17:08:14
――ボボガ族集落――
メガニュームの大群が去り、胸をなでおろしたのもつかの間。
「ぬわんじゃありゃああ!!」
キャメロンが素っ頓狂な声で叫ぶ。無理も無い。
上空に巨大な建造物の塊が浮いていてその上それが地上に迫ってきているように見えるのだから!!
「一体どうなってんだ!アイツらは大丈夫か……?」
キリアは目を閉じ、祈った。
「ラーナ様…どうか彼らをお守りください……」

――ハイアットの夢の中――
闇に墜ちた意識の底で、優しく笑いかける対なる存在。
それは、たった一人の兄弟、共に生まれた魂の片割れ……。
「ごめん、俺は……お前のこと……少しも分かってなかった」
「どうか自分を責めないで。君は一つも悪くない。こうなったのは全部僕自身のせいなんだよ?
僕が醜い心を持ってしまったから……。僕は君と違って心なんて持っていい器じゃ無かったんだ……」
「……それは違う、君は優しすぎただけだ…!!待ってくれ、ハインツェル!!」
その叫びは漆黒の海に溶けた。

――遺跡通路――
「よく聞いて……ハインツェルが大罪の魔物に食われてしまった!
その罪は嫉妬だ…。アーシェラの寵愛を受けたハイアットへの狂おしい程の嫉妬……!
しかも……アーシェラは自分が犠牲になって彼を助けようとしている!」
アスラちゃんが震える声で告げる。
「無茶なお願いだって分かってる……でも頼めるのは君たちしかいない。
もう一度力を貸して……!!ハインツェルとアーシェラを助けて!!」
「今更なに言ってんの、ここまで関わったらやるっきゃないじゃない!!」
レベッカちゃんのその言葉を聞いてアスラちゃんは少し微笑んだように見えた。
「……ありがとう」
そう言って不思議な呪文を歌い上げる。僕の手の中に光の粒が集まってきた。
「……これは?」
「君にワタシの体の一部を託すよ。暁の瞳に選ばれた君なら使えるはずだ……」
148パルス ◆iK.u15.ezs :2007/01/10(水) 17:11:51
――中央管制室――
「お願い、もういいの……もうやめて……!!死んでしまうわ!!」
アーシェラは命を賭して自分を庇うアクアの横に駆け寄る。そして、異形の魔物に静かな声で告げた。
「ハインツェル……私を連れ去るのです。それが目的なのでしょう?」
『アーシェラなら分かってくれると思っていたよ……さあその手を離せ!!』
「お姉ちゃん……いけない!! 死んでも…離さ…ない!!」
絶え間なく猛攻を受けつつもアクアは力の限り叫んだ。
『どうして分からない? アーシェラは僕と来るべきなんだ……
そして……彼女と共ににこの下らない歴史に終止符を打ち、素晴らしき新世界を作り上げる!』
異形の体から発された幾筋もの廠気……夜の闇より暗い、漆黒の霧がゆらめき、
アーシェラにまとわりついていく。
「ダメえええええッ!!」
アクアは絶叫した。その声が届いたかのように……
『なっ!?』
電光石火のスピードで、漆黒の触手を閃光が切り裂いた!!
「行ったらダメ!それじゃあ誰も救われない!!」
そこには、光り輝く一振りの長剣を携えたエルフがいた。
それを見たアクアは力つき、崩れ落ちるように倒れた。

霧を切り払った瞬間、僕はもう一つの声を聞いた。
〔苦しい……助……けて〕
きっとこれが、ハインツェル君の本当の声。一番苦しんでいるのは他の誰でもなく彼自身のはず。
やっぱりこの前に見た、誰も傷つけない優しい青年が本来の姿だったんだ……。
『なぜだ……!?この体は斬れないはず!!』
「その剣はワタシの体……光と生命を司るガーディアンの一部分だ!」
アスラちゃんが答えた。その隣にはレベッカちゃんもいる。
『おのれ、たかが劣化コピーの分際で!!』
怒りに吼える異形……その身から放たれた凄まじい廠気が吹き荒れる。
「アーシェラさん、“アクアさん”をお願いっ!!」
廠気の渦を一閃し、異形の魔物と対峙する。
〔嫌だ……誰も傷つけたくない……〕
『なぜだ…なぜ邪魔をする?お前なら僕の気持ちが分かるだろう?』
重なって聞こえてくる二つの声。
『パルス……いや、森の民の長、パルメリス!!』
「知ってたんだね……、あまりにも愚かだった最後のエルフの長のこと……」
知っていて当然かもしれない。彼はずっとこの世界を見てきたのだ。
古代文明が滅び去ってから今まで、悠久とも思える時間を、たった独りで過ごしてきたのだ。
一人の女性に愛される日、それだけを待ち望みながら……。
どんなに孤独だっただろう。どれほど辛かっただろう……。
「ハインツェル君の気持ち、痛いほど分かるよ。だからこそ……絶対引けない!!」
優しすぎたから、誰も傷つけたくなかったからこそ、あまりにも深くなってしまった心の闇……。
誰にも気づかれないままに……もしかしたら、彼自身にさえも。
「大罪の魔物……お前なんかに絶対負けない!!」
149アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/10(水) 22:12:25
気が付くと私は、何もない空間に立っていた。
ただ自分がいつもの星見曼荼羅のローブを纏い、縦眼仮面をつけていることだけはわかる。
見回すと、目の前の空間に数十畳ほどの広さで幾何学的な格子模様が引かれ、その上で白と黒の星が淡く輝きだす。
そしてその人物はいた。
黄金の仮面の人物!
『奈落の大聖堂よ・・・。』
呼びかけられ、私は全てを思い出した。
グレナデアを巡って何があったのか。すっぽり抜け落ちていた、黄金の仮面の人物について。
その瞬間、私の身体はガクガクと震えだし、大量の汗をにじませる。

どちらが上なのか下なのかもわからず、足が地を踏む感覚もなく、二人の間に敷かれた格子が絶対座標のように居場所を決める。
格子の上では黒星が生まれ、それに囲まれた白星が星屑のように舞い散り、新たな黒星を生む。逆もまた有り。
白と黒の星が入り混じって渦を巻き、遠くで星の生まれる音が聞こえる。
「こ・・・ここは・・・?あなたは・・・!」
夢?それとも意識下に侵入されている?でもなぜだろう、この感覚。懐かしさ?安らぎ?
『我は常に汝と共にある。』
思考に直接応えるような言葉。その言葉は更に続く。
『汝の【目】はどこにある。何を見ている。』
圧倒的に厳かでありながら、一片の激もないその言葉に私はビクっと体を縮こまらせた。
だけど次の瞬間、格子の上の星々に違う姿を垣間見る事になる。

こちらの隅では浮かぶ古代都市。
半透明の女性、触角をつけたエルフ・・・それに、駆け回る大きな包丁?
手前にはソーニャさんをはじめ、みんなの姿が
東の隅には星を観測するリザードマン。
中央から離れつつある放浪の少年貴族。
そして中央に迫る甲殻の者。それを迎え撃たんとしている赤燐の者・・・。

無数の星の一つ一つに人物、建築物、兵器・・・様々なものが重なって見える。
「これは!?」
思わず声を上げると、黄金の仮面の人物は小さく顎を動かす。
その向けられた白星が並ぶ一帯に、一つの黒星が産み落とされ、周囲にあった白星が砕け散り私の掌へと欠片が流れ込んだ。
『−−−−』
黄金の仮面の下から告げられる事実。
その事実に私は耐え切れずただ叫び声を上げる。
その叫びにより、この世界が壊れた。

#############################################

「うあああああああ!」
叫び声と共に身体を起こすと、そこはどこかの一室。私はバスローブを着ていて、ベッドの上。みんなもいる。
「あ、あれ・・・ほ、僕・・・確かお風呂で二人に腕を引っ張られて・・・うぅ・・・」
「安心して、もう大丈夫よ。」
心配そうに覗き込んでくれるレニーさん。
混乱して必死に思い出そうとするんだけれど、この言葉のせいで部屋の温度が上がって空気が凍りついたなんて気付く余裕はなかった。
「あんたら・・・あんな子供に・・・!もういい、もう選ばなくてもいいわ。何を選んでもケシ炭になるんだから!」
だから、ソーニャさんがジーコさんとジョンさんに死刑宣告をしている事にも気付けなかった。

「おぬしはアレを怒らせたのかの?」
「・・・ええ。」
「なぜジンは生きておるのかのう?」
「・・・私もそれが一番不思議なの。」
部屋の隅でギルビーズさんとシャミイさんが巻き込まれない距離を保ちながら、事態の推移を見守っていた。
150来訪 ◆9.MISTRAL. :2007/01/11(木) 01:40:21
人にはそれぞれ大切なものがある…

ボクと姉さんはいつも一緒だった。何をするのもずっと一緒だった…
生まれる前に父さんを亡くし、母さんは女手一つでボクと姉さんを育ててくれた。
ボクにとって、掛け替えの無い家族、たった2人の家族。
旅立つ時、母さんは泣くのを必死に堪えてたと思う。
ボク達の行く場所を知ってたから。そして、もう二度と会えないと分かってたから…
姉さんは「平気よ」と強がってたけど、きっとボクと同じで泣きそうなのを我慢してた。
泣いてる場合なんかじゃないって事は分かってるけど、それでも辛いのは仕方無い。
ボクと姉さんの肩に世界の運命が乗っかってる事だって、ちゃんと理解してる。
でも…家族が離れてしまうのは辛い。
世界と家族、秤に架けて良いものではないけれど、それでもボクは…


凄まじい衝撃に意識が遠退く。
予想外の“穴”の出現に、ボク達は弾き飛ばされた。
「姉さん!?姉さんッ!!」
世界に開いた“穴”が引き起こした渦が、瞬く間にボク達を押し潰し、引き離した。
“到達点”がずれる!そう思った時には遅く、ボクは莫大な力の流れに飲み込まれた。
もう既に姉さんの姿は何処にも見えなくなっている。
このままじゃ…全てが無駄になる。ボクだけでも辿り着けなければ…
意識を研ぎ澄まし、両腕に全神経を集中させる。
「頼むよ!フィーヴルム!!」
ボクの意志に応えた《アニマ・ギア》が、その力を解放した。

世界を変える“力”を……



 ――ラライア山嶺、中腹部
「一体何が起きたんだ、おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」
肩を揺さ振られ、ボクは意識を取り戻した。心配そうにボクを見る先生に苦笑で答える。
「はい…何とか…大丈夫みたいですよ。それよりもここは?それに姉さんは?」
辺りは一面の銀世界。いくら見回しても、姉さんの姿は無かった。
「ディアナは…どうやらはぐれたようだ。そして“到達点”からは程遠い…」
舌打ちして先生が遠くの空を睨んでいた。
そこには穴が開いていた、ボク達を弾き飛ばしたあの“穴”だ。
「間に合わないな。アニマは動くか?」
「はい、さっきの解放でかなり消耗してますけど、ちゃんと起動しますよ」
ボクはそう答えると、両腕のガントレットを眺めた。

151来訪 ◆9.MISTRAL. :2007/01/11(木) 01:41:11
「アニマが呼び合ってる…姉さんは“この時代”にちゃんと辿り着いていますよ!」
ガントレットに取り付けられた12の《アニマ》が、対になる《アニマ》を求めている!
ボクは安堵の息を吐く。“到達点”には辿り着けなかったけれど、姉さんならきっと…
「ルフォンが向こうに見えるか……どうやらここはラライア山嶺だな」
ここがラライア山嶺!?こんなに綺麗な雪が積もる景色が!?ボクは信じられなかった。
ボクが生まれた時代のラライア山嶺は、ゴツゴツした岩だらけの荒廃した景色だったから…
いや、ラライアだけじゃない。何処だって同じだ。なにもかも、全部壊された世界だ。
たった1人の狂気が、世界を目茶苦茶に破壊し尽くしたんだ。
だからボク達はこの時代にやって来た。歴史を変えて、未来を消し去る為に。
例えその結果、ボク達自身も一緒に消えてしまうとしても…
「どうやら時間切れだな。あんな事の直後だ、修正速度が速くなってるんだろう」
そう言う先生の体が、徐々に色彩を失いながら薄れていく!!

そう、同じ時間軸に同じ存在が存在する事は、時の大河が絶対に許さないからだ。
「先生…」
「そんな顔をするな、今はお前達だけが頼りなんだぞ?」
優しく笑って、先生がボクの肩を叩く。
傷だらけの手…いつもボクと姉さんを導いてくれた、先生の手…
「…先生、必ず…必ずボク達が変えて見せます!だからッ!!……だから…」
「最後くらい先生はよしてくれるかい?もうお前達双子は俺の生徒を卒業するんだからな。
 決して諦めるなよ、前だけを向いて進むんだ。大丈夫、お前達なら出来るさ…」
とうとう触れることすら出来なくなって、先生の姿が輪郭も失い始めている。

「お別れだ、後は頼んだぞ…ドゥエル!!」
消える間際、先生は親指をぐっと立てて笑った。いつもやってた勇気の出るおまじない。
「はい!ありがとう…ございましたッ!!ヒューアさん!!!」
光の粒子になって、ボクの恩師は世界を去り…ボクは暫くの間その場で1人、泣き続けた。

涙は全部流してしまおう、ボクは泣き虫だから…
心も殺してしまおう、ボクはとても弱虫だから…
これからボクが“やるべき事”に…涙も、心も“必要無い”んだから…
152ギュンター ◆neSxQUPsVE :2007/01/12(金) 18:28:11
左の盾で防いだものの、その衝撃を堪えきれるはずもなく、天高く宙を舞う。
「うぉぁわあああああああああああああああ!!!!」
「ナイッシューー!!」
自分を見上げて叫んだカールトンも、間髪入れずに同じ天を抱く羽目になった。
「だぅあああああああああああああああ!!!!」
「ナイスアッパー!!」「うるせーっ!」
墜落は同時、二人共にブレス化で衝撃を限りなくゼロに抑えて構え直す。
無言のまま、スターグがゆっくりと間合いを詰める。
「接近戦はダメだ。距離置いて攻めるぞ」
「よし、アレ行くか!!」「行くか!!」
言って炎となり、スカラベを翻弄する動きを見せるカールトン。
この間、自分はひたすらにチャージである。
六星龍の牙から生み出された鎧《六龍牙》の助けを借りて、究極の一閃を練り上げる。
カールトンの炎が、自分とスターグの頭部を結びつける直線状のみを残して燃え盛る。相手の注意を逸らしての熟練の誘導だ。
自分は、ただ真っ直ぐに放つだけ。

「――六龍閃!!」

兜の口部分がスライドし、六種のブレスの輝きが混ざり合った光の束が発射される。
スターグの即頭部へと、真っ直ぐに。
しかし、この怪物は死角から来た光線を、紙一重で避けて見せたのだ。
「マジっ!?」「うそっ!?」
六龍閃は、かすめたスターグの頭部甲殻を何の抵抗もなく削り取り、渓谷に小さな穴を空けて世界の果てへと一直線。
当たりさえすれば、何物をも貫く光である。
正面から待ち構えていたとしても到底避けられるはずもない光線を、余所見までさせられた上でかわすとは……。
「あのガタイで……何てまあ繊細な御方」
呟いた途端に、衝撃波が渦を巻いた。
「ぅわああああああああい!!!」「ぬおああああああ!!!」
さっきよりも遥かな高みへと巻き上げられて、枯葉のように回転するダブルドラゴン。
二対一、スターグが部下を動かさないのは、分離したカールの左腕が
いつなりとでも撒き散らした合成燃料に引火できるのを見抜いているからだ。
だが、そこまでのお膳立てをして戦ってみても、勝利は絶望的であった。

「ごめんカール! オレもう限界!!」「おいこら! まだ十分も経ってねえぞ!?」
「ブランク長いんですううう!! 今だって、六龍閃の代わりにゲロ吐くかと思ったんだもん!!」
「若いのは外面だけか、この暗君め!」「うるせえ! お前、オレがどんだけ食っちゃ寝してたか知らねえだろ!!」

逆切れ口論に発展しかけたところで、ブレス化して回避行動に移る二人。
危ういタイミングで、寒気のする拳圧が螺旋となってダブル壮年の間を通過する。
続けて続けて、息もつかせず拳が唸る。
「ひええええ!!」「ひええええ!!」
どうやら奴さん、もう自分達を地上に下ろすつもりはないらしい。
冗談ではなく、自分のスタミナはもう限界に近い。ブレス化も使えて後数回といったところだろう。
逃げるにせよ戦うにせよ、何らかの切っ掛けが切実に欲しい場面である。
「辞世の句でも詠むか、カール!?」「ハッ! 縁起でもねえ!!」
生きようとする活力に溢れる戦友に言葉に、ギュンターは笑った。
奴の悲壮感を拭い去ることができただけでも、無理を押して来た甲斐があったというものである。
何としても、この場は生き延びる。
それさえできれば、言うことはない。

決意漲るギュンターの目に、見覚えのある黒猫の影が映ったのは、まさしくその時であった。
153ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/01/15(月) 01:27:57
「とりあえず・・・お前ら死んどけ、な?」
赤毛の身の回りに陽炎が立ち、部屋の明かりのランタンから火が勢いよく噴き出した。
こいつぁヤバイぜ!赤毛はマジで殺る気だ!目が笑ってねえ!!
俺はまだ何とかなる。オンスロートを盾にすりゃ、一撃は堪える事ができるだろうよ。
だが隣のジョンはそうはいかねぇ。見たところ普通の人間だ。
あいつの炎をくらったら・・・まず助からねえだろう。
「悪ぃな、ちょいと我慢しろよ!!」
電光石火。自分で言うのもアレだが、かなりの速さで立ち上がると、ジョンを蹴り飛ばす。
「ちょ!?おま!!!?」
「賢しいよ!!!」
ジョンが悲鳴を上げたのと、赤毛が炎の弾丸を発射したのは同時だった。
真っ直ぐ一直線に俺を目掛けて突き進む炎に、オンスロートを振り上げ弾き飛ばした。
「っ!?」
案の定、炎はオンスロートに吸い込まれて霧散する。虚を突かれた赤毛は無防備だ。
「悪ぃけどよ、俺は餓鬼にゃ興味無ぇんだ。しかも男なんざありえねぇよ。」

一気に肉薄して赤毛を押し倒し、腰からナイフを抜き取ると壁のランタンに投げ付け叩き割る。
部屋が暗闇に覆われ、赤毛の燃え盛る髪がぼんやりと室内を照らした。
「あぁ!?何しらばっくれてんだい!アビサルは『女』だよ!!!」
え・・・?今なんて言った?あのチビが女だとかって聞こえたような・・・。
「ちょ・・っと待ってくれ、訳分からなくなってきた。」
その場に流れる微妙な沈黙。ちらっと横を見ると猫娘とギルビーズがニヤニヤしてやがる。
レニーは両手で口元を覆って、変態を見るような軽蔑の眼差しで俺を見ている。
「あんな小さい子に2人がかりで・・・ド変態が!!100回死ね!!」
とうとう赤毛がトンデモない事を口走りやがった!なんだか俺も泣きそうだぜ。
「何をやっているのですか、全く貴方達は。」
気まずい沈黙を破ったのはレオルだった。どうやら会議は終わったらしいな。


しばらくして、チビが意識を取り戻したおかげで俺とジョンは焼死体にならずに済んだ。
とんだ災難だぜ。なにはともあれ、変態の烙印を押されずに済んだので俺は安堵の溜め息だ。
せっかくの風呂上がりにすっかり肝が冷えたんで、もう一度入り直すかと思った矢先。

レオルが信じられねえ事を言いやがった。
154ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/01/15(月) 01:30:14
レオルの話はこうだった、ノッキオールの戦闘で白髪が倒したロンデルが生きていたと。
そして中央戦線が押し返されて、王国側がライン大河まで撤退したと。
「現在ロイトン周辺に展開した公国軍を再編し、中央に切り込んで来ると予想されます。」
「なるほどな、あの野郎生きてやがったか。」
公国南部方面軍第三師団長、ゲルタ=ロンデル大佐。通称『鋼鉄の虎』。
元エリオノール王国の将軍で・・・かつて俺の親友を見殺しにした男だ!!


侵略戦争末期だった。直属の部下の命を救うために公国に無条件降伏したロンデルは、
その時別の作戦に出ていた俺達を助けに来なかったんだ。
孤立した俺達の部隊は、ろくに戦えずに全滅だった。この俺を除いてだがな。
所詮は傭兵、金で雇った安い命だ。奴にとって俺達は使い捨ての駒だったんだろうよ。
だがな、いくら金の繋がりとはいっても傭兵を見殺しにしていいってモンじゃねえだろ。

エリオノールが公国領に収まってから、ロンデルは旧王国軍を纏め上げ、南部戦線で猛威を奮った。
当然ながら俺は傭兵として参戦したさ。ロンデルは公国の犬に成り下がったからな。
俺も一切の容赦無しに戦う事ができたよ。死んでいった仲間の仇を討ちたかったしよ。
けれども決着は着かないまま、奴はノッキオールでくたばったと聞いた。
実際に俺はそこで見たからな。山積みになったゴレムの残骸や、公国兵の死体を。
あの白髪がたったの1人でやらかしたんだ。俺が何年も追っ掛け続けた仇敵を、叩き潰した。
悔しかったぜ。目的が無くなっちまったんだ、張り合いが無けりゃ傭兵なんざできねぇ。
でも奴が生きてるとわかったなら、俺のやるべき事はたった1つ、ロンデルを討つ!!

「ロイトン周辺の公国軍は多くても2個連隊程度でしょうね。戦線は下がり続けてますから。」
「だがよ、中央までの400キロを兵隊かき集めながら進めりゃずいぶんな数になるぜ?」
「素直に真っ直ぐ戻ってきたりはしないだろうね。アタシならペダンを経由して下から攻める。」
地図を囲んで、俺とレオルと赤毛が唸る。
中原からロイトンまでは、特に険しい道じゃない。平野が続く開けた土地だ。
メロメーロの北を流れるライン大河は、緩やかに曲がりくねってロイトンまで伸びている。
途中には大小含め街が点在するが戦略的に重要じゃない。
155ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/01/15(月) 01:31:16
逆にそれが問題でもある。敵国であっても公国軍は必要以上に街を攻撃したりはしない。
元々は侵略された違う国なんだから当然の如く地元の連中だっているだろうしな。
気にくわねえのは公国のやり口だ。
支配した国には経済支援して、国政を安定させ「公国の傘下に入ってよかった」と錯覚させる。
その国の王侯貴族にも本来の地位と同等の立場を与え、表面上は何も変わらないように錯覚させる。

これが公国の仕掛けた最悪の落とし穴だ。
周りの国に戦う前から、「戦争に負けても公国ならば」と少しでも思わせたら・・・。
侵略への抵抗は弱くなる。
そりゃそうだ、負けても平和に暮らせるなら、本気で生き死にに出て行く事はないからな。
公国の侵略がとんとん拍子に進んだ理由は、単純に優れた軍事力だけじゃない。
頭のずる賢い王がいたからだと、レジスタンスを支援するオーウェン伯爵は言っていた。
俺もその通りだと思う。支配されてるはずの連中が、何故あんなにも公国のために戦えるのか、
その理由を考えたら答えは1つしかなかった。誰も戦争なんざ望んじゃいないからだ。
今の平和が続くために、公国が導く平和のために、連中は戦っているんだ。
はっきり言って最悪の敵だ。自分達の目的と結果をすり替えられてる事に気付かずに、
公国を盲信し続ける支配された国の兵士達は、正直にとても手強い。
公国からゴレムや、遺産とかの軍備増強物資でガチに武装しているってのもあるが・・・
奴らが強いのはそんな理由じゃない。『心』だ。戦場で生き残るには意思の強さが必要だ。
どんなに強い剣を持って敵を倒し続けたって、最後に心が折れたら死んだも同然だからだ。

そういう意味では奴らは強い。
公国を倒そうとするクラーりア王国は奴らからして見りゃ悪の国だろう。
例え公国の支配から開放しているという事実を説いても、それはもう奴らには届かない。
むしろ奴らは他の国も平和にしようと、攻め込んで来る。幸せの押し売りってヤツだ。
やがて自分達は戦争の無い平和な世界を築き上げるために戦っていると勘違いし始める。
理由がどうであれ、戦争は戦争でしかないってのにな。

これが、公王ギュンター=ドラグノフのやり方だ。
カリスマと悪知恵と武力を全部兼ね備えた、希代のクソッタレ野郎って訳だ。
156ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/01/15(月) 01:32:32
「おそらく、虎はライン大河沿いに進軍すると思う。」
突然ギルビーズが地図の一点を指差して言った。そこにあるのは・・・ロックブリッジ!?
「そうか!確かにここを落とせば王国軍は、北上の際に迂回路を使わざるを選なくなる!」
レニーの顔がみるみる青ざめていく。ロックブリッジは河川幅2キロのライン大河を通過
する上で最も使用される頻度の高い橋だ。橋幅が600メートルに及ぶこの橋は交通の動脈。
「でもそれじゃあ公国だってゴレムを通すのに苦労するハメになるぜ?」
赤毛が必死に何か嫌な考えを振り払うように、レニーに反論した。
でもって、その嫌な考えは俺にもすぐに辿り着く事ができた。

「獅子十字軍45000人が、ライン大河で足止めされるっちゅう事やろ?」
ジョンが苦笑いしながら地図に赤線を大きく2本引いた。進軍ルートだ。
今回のグレナデア奪取作戦に乗じて、既に王国主力の獅子十字軍が大河を渡り終えている。
「公国が大河から南に展開したら、王国は真っ裸やな。おもくそ透けとるやんけ!」
「グレナデアが餌だとすれば、我々は見事に釣り上げられた魚、ですか・・・。」
レオルは意外と冷静だった。俺はコイツはあまり好きになれねぇが、頼りにはしている。
「ねぇ、この事をあのクソ司令官サマは知ってるのかい?」
「いいえ、アルト様は存じませんね。そして伝える必要もありません。」
レオルはゆるりと首を横に振る。当たり前だ、あの坊ちゃんにコレは・・ちょいと荷が重い。

とんでもないコトになっちまった・・・。
ロンデルを倒しに行くのはいいんだが、こりゃ少々厄介だな。クソッタレ!!!
157レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/01/15(月) 22:12:42
純白の輝きが一閃、ハインツェルだった存在を切り刻み、何本かの触手が宙を舞った。
すごい!凄すぎるよパル!!なんだか別人みたいにカッコイイじゃないの!!
あんな強かったなら今までは何だったの…って感じだけど、今はそうも言ってられない。
アタシがやるべき事。それはパルの“力”になってあげる事!!
「パル!燃えるのと痺れるの、どっちがいい!?」
ヒラリと舞うような動きで軽やかに触手の攻撃を避け、パルがこっちに振り返る。
「痺れるやつかな、聞いた事ないし!」
「オッケー!!それじゃあい……うわっ!?」
アタシを直接狙ってきた!?ぎりぎり間一髪で避けたけど…次はどうだろう…
「させないッ!!」
パルがアタシと触手の間に割り込んでくる。すかさず剣を切り返して、触手を撥ね飛ばした。

その瞬間、はっきりと見えた。死角になってる方向からパル目掛けて触手が迫るのが!
「ダメ!避けてパルーッ!!!」
「…ッ!?」
脇腹から串刺しになり、パルの華奢な身体がふわりと浮いた。
まるで時間の流れがとてもスローになったかのような感覚、全てがはっきりと見える。
パルがやられる瞬間も、最初っから最後まで、くっきりと見えた…見たくなんかないのに!
桜色の唇から、朱線が伸びて…若草色の服にじわりと黒ずんだ染みが広がって…
とさり、と軽い音を立てて倒れ込む。素人目にも判る、明らかな致命傷!!
「パルーッ!!!!」
アタシは絶叫した。喉が枯れそうなくらいに。張り裂けそうなくらいに!!
『ふふ…ふふふ…ははは…あーっはははははははははははっ!!!!』
狂ったように笑うハインツェルを睨み付けて猛ダッシュ!アタシが敵う相手じゃないけど…
それでも絶対に許さないッ!!!



『邪魔するからこうなるんだ…どうして僕らの新たな旅立ちを祝福してくれないんだ?』
そう言って辺りを見回し、ハインツェルはクスクスと笑う。
今や室内に動く者は、悲しみに泣き崩れたアーシェラと、狂喜するハインツェルだけであった。
『まずは忌ま忌ましい思い出を消し去ってからだ、あの中庭をね…壊してしまおうか』
壁を吹き飛ばすと、ハインツェルは眼下に広がる荒れ果てた中庭を憎らしげに見つめる。

『さようなら、ハインツェル…さようなら、ハイアット。僕はもう、過去に決別するぞ!!』
158アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/16(火) 23:43:41
意識を取り戻した時、目の前は 赤・・・赤・・・赤・・・血の赤・・・・
ハイアットさんも パルスさんも ラヴィさんも そして目の前で今レベッカさんが・・・・・・・
ハインツェルさんの豪腕に悲鳴をあげる事も出来ずに吹き飛ばされ・・・・・・
お姉ちゃんの絶叫と魔獣の笑い声が響きます。

(アクア・・・・まだ動けるかい?)
不意に私の耳に聞こえる懐かしい声が致しました。
「そ、その声は!?」
「アクア、どうしたの誰と話してるの?」
お姉ちゃん・・・・いえアーシェラさんが私の事を心配なされて声をおかけになられました。

・・・・・・・・あれ?お姉ちゃん・・いえ、アーシェラさん?私は・・・・何故呼び方が・・・・
ああ、そうですか、もうこの姿を維持出来なくなるから、長く表にいた私に戻るから・・・・・

(でも君はその前にあいつにやっておく事と言っておく事があるんじゃないかな?)
またあの懐かしい声、威厳に満ちたあのお方の・・・・・・
(そうさ、スリダブの技は力で振るうんじゃない、心で振るうってな)
さらに声が重なります。
((さぁ!!命ある限り、スリダブの闘志は倒れちゃいけない!!))

「うぉおおおああああああああああ!!」
崩れた体をもう一度起こし、気合を只、一点に集中します。
『このぉ、死に損ないがぁ!!寝てればいいものを』
私の異変に気がついたハインツェルさんの怒声が大気を揺るがし、辺りを震え上がらせます。
「死に損ない?違いますね・・・・・確かにこの戦い 私達の負けです」
ですが私は不敵に笑いながら言いました。
「でもあなたは本当の勝利者じゃない!!」

気合十分に一気に間合いを詰めます。右腕に赤色の闘気を立ち上らせながらその腕を力任せに喉元に叩き込みます
「スリダブ流奥義 西方破災碗!!」
轟音と共にハインツェルさんの体が浮きました。逃す程甘くはありません。
「どれだけお姉ちゃんが心配してたか、それを泣かして!!これはお姉ちゃんの分!!スリダブ流 三十二砲陣脚!!」
両の足を水平にハインツェルさんの鳩尾に決め込んで地面に着地します
「まぁだまぁだ!!そして、これがハイアットさんとラヴィさんの分です!!スリダブ流 打撃究極奥義!!」
赤色の闘気を構えた手刀に絡ませ、全てを砕くイメージを持ちます
「絶・手刀!!」
かってグランドマスター・パワーロード・マウンテンがもっとも得意としていたこの技を胸元に叩き込んだと同時に
パリンと言う音を立てて私の体は透明な人型彫刻に戻っておりました。
壁を蹴り、反動で相手の頭上高く飛び、頭部に狙いを定め落下、あてるのは同じく頭部、
「これはパルスさんとレベッカさんの分です、スリダブ流奥義!!鋼鉄頭撃!!」
地面に着地と同時に凄まじい轟音が辺りに響きました。そして振り向いたと同時に、
『きく訳が無いんだよぉ!!』
強力な一撃が私を吹き飛ばしたのでした。


159アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/16(火) 23:44:48
「う”ぁあああああああ」
押しつぶされた私の体が悲鳴をあげます。スライムの体でも吸収しきれない程の衝撃が襲います。
気を抜くとなにもかも潰されてしまう圧倒的な破壊の意志・・・・・その力から開放されたのは小さな爆音からでした。

『爆音?』
異変にきがつき辺りを見回す 魔獣 その先には毅然としたアーシェラさんの姿が御座いました。
「ハインツェル・・・今、ジャジャラの自爆コードを作動させました 十数分後にはジャジャラは崩壊します」
決意を固めた目で女王は魔獣を見据え、一歩、また一歩と近づきます。
「さぁ、私を連れて、脱出して下さい」
その言葉に私は必死にもがき止めようとしましたが体が限界なのか動きません。
そしてハインツェルさんの腕に抱かれたアーシェラさんは只、微笑んで一言、 「大丈夫、信じてますから」 と言ったのでございます。
その目には決意の静かなる炎が灯っておりました。

爆音が連続して鳴り響きます、まるで悪夢を歌う狂想曲の様に・・・・
そのなかを狂った笑い声が彼方の闇に消えて行くのを私は見ている事しか出来ずにおりました。
そしてその声が次第に聞こえなくなった頃、一際巨大な爆発が起きたので御座いました。

その爆風の最中、意識が途切れ行く中で私は歌を聞いた気が致しました。


160イアルコとリオネ ◆9VfoiJpNCo :2007/01/18(木) 01:23:18
再会の喜びを分かち合うべく、両手を広げて扉に向かったイアルコ。
その笑顔を、顔面よりも大きな靴の裏が踏み止める。
「んぎゅしっ」
首の骨が折れかねないくらいの勢いに急ブレーキをかけたのは、深蒼の鎧をまとった美丈夫であった。
美丈夫――彼女を表すのに、これ程適した言葉もあるまい。
身の丈、優に六尺を越え、七尺に迫ろうかという威風堂々たる体躯の上にて、目映く煌く黒髪蒼眼。
真にもって、言う事なし。
さながら、神話の中核を担う英雄騎士の如き面容の持ち主である。
「そうだな、久しぶりだ。前線を指揮する身故、パパルコ殿の葬儀にも参列できず……心から申し訳なく思っている」
声も低く、張りがあり伸びやか。
「足蹴にしているのは、申し訳なくもないのですかなあ……」
呟くジョージを見下ろし、口だけで笑む美丈夫。
そうすると、天然で紅い唇が強調され、多分に女性的な面影が浮かんでくる。
実際女性なのだから当たり前――とは言い切れぬ、性別を超越した勇往極まる美しき英傑。
それが、リオネ・オルトルートという人物であった。

「十日もの間、窮屈な思いさせてしまってすまなかった。色々と立て込んでいたものでな」
立ち話もなんだと愛用の長槍《流墜星》を傍らに、メリーのお茶を味わうリオネ。
卓を囲むのは彼女の他にジョージ、トルメンタ。そして陥没した顔面を戻すべく鼻をつまんで引っ張るイアルコである。
「何かあったのですか? 我らは逃亡の上に軟禁の身であったが為に、最近の情勢はまったくですので……」
「北東辺境にて起こった大火が原因で、カールトン侯が亡くなられたそうだ」
いい子ぶりながら皮肉を混ぜるイアルコを真っ直ぐに見つめ、リオネは淡々と告げた。
一瞬、沈黙が落ちる。
「…………はあ!?」
これには坊ちゃま、さすがに間抜け顔にて開口ものであった。

「あのボケ――ではなく、最強の紅龍角種であるカール候が火…で、ですか?」
「私も確認のために手の者を走らせたのだが、カールトン侯の行方は知れず、更に大火は収まらず
北東部一体を焼き尽くす勢いである――という事実が呑み込めただけであったな」
「なんともはや……」
唸るイアルコに、リオネは言葉を続ける。
「まあ、その他にも難事凶報はあれど、今お前の耳に入れておくような事はない」
「はあ……あの、リオ姉様、僕が命からがらの思いで手に入れた連判状には御目を通していただけましたか?」
美丈夫は髪を揺らし、瞳の奥の静かな怒りを揺らして頷いた。
「もちろんだ。……公王陛下を害した者は言うに及ばず、それに協力した者も、知りながら我が身可愛さに
見過ごした者も、知らずとはいえ逆賊の尻馬に乗った者も……皆すべからく討ち果たす所存」
……それ、ほとんど皆殺しになりませんか?
とは、その迫力の前にとてもではないが言えず、生唾を飲むイアルコ坊ちゃまとジョージ。

「ハッハッハ! まったくもって物騒な子羊だ! どうやら我輩の愛と暴力でもって――」
「うわあああああああああ!!!」
一人、空気を読めず快活に笑うトルメンタに飛びつく主人と執事。
「……だが、それもこれも前線を押し戻してからの話になるな」

歯痒さの余りに卒倒しそうな面持ちで呟く許嫁の口から出たのは、
「何としても、あの海≠越えて彼奴らを叩き潰さねば……」
『海?』
中原において最も縁遠い、その響きであった。
161ST ◆9.MISTRAL. :2007/01/18(木) 20:42:52
-港町ロイトン、公国軍駐屯地
公国南部方面軍第三師団長ゲルタ=ロンデル大佐は、1人静かに思い悩んでいた。
先のノッキオールで戦った反乱軍の『白い牙』、そして公王暗殺未遂で全国指名手配
 された黒騎士ディオール。更に第四機工大隊の中央戦線敗退と悩みの種は尽きない。
「最近めっきり前髪が薄くなったな…ハゲたら真剣に怨むぞ、全く」
メロンティーをぐいと飲み干し、カップを机に置いた。と、同時に深い溜息が零れる。
無理もない。部下の大多数をノッキオールで失い、本国からの増援は期待出来ない。
このような状況下において、生粋の軍人たる彼に出来る事は唯の1つ。
待つ事である。
援軍でもなければ、支援物資でもない。言わば“機会”を待つのである。

戦局とは生物と同じで、常に変化し続ける。長年の勘が『今は待て』と告げたのだ。
ならそれを信じるより他あるまい。大局を見極められなかった者は、何時の時代も敗者なのだ。
「そろそろ動く筈だがな。大河まで押し返す事さえ出来れば…」
カップを持ち上げ、つい先に自分が程飲み干したのを思い出して眉をしかめた。
茶を諦めて席を立つと、窓際に向かう。
外に広がるのは、活気に満ちた港の喧騒。ロンデルがこの街に来て、早くも1ヵ月になる。

彼はこの風景が好きだった。故郷のメロメーロの市場に似た賑わいが、とても懐かしく感じる。
街を飛び出し、傭兵崩れの冒険者から小国の将軍にまで上り詰めるまで、一切振り返る事
 もなく駆け抜けた。若かったというのもある。あの頃に比べ、今の自分は随分と老いた。
最近では昔を振り返ってばかりなのが、なによりの証拠と言える。
「いかんな…まだ早過ぎる。私にはやり残した事が山積みだよ。コリン、ヒューア…」
かつての友の名を呟き、拳を握り固めた。老いてなお武人、『鋼鉄の虎』の名は伊達ではない。
全身から滲み出る覇気に、部屋のドアをノックしようとした兵士が思わず震え上がる程に。

兵士からの報告を聞き終えるや否や、ロンデルは勢いよく立ち上がり、ニヤリと笑う。
「よし、出るぞ!ロックブリッジを落とす!!」
どうやら“待ち人”が来たようだ。
この1ヵ月の間、ずっと心待ちにしていた“機会”という名の待ち人が…

その日の夕方、ロンデル率いる西部方面軍混成部隊が、ロイトンの街を発った。
162パルス ◆iK.u15.ezs :2007/01/19(金) 20:59:00
アーシェラと大罪の魔物と化したハインツェルが去り、爆音の中、アスラは微動だにせずに佇んでいた。
自爆コードが作動する。ガーディヴァルキリエである自分は都市の一部分に過ぎないから……
全てが崩れ去ると同時にその役目を終えて消えることになるのだろう。
でもその前に……アーシェラが信じたこの者達に、最後の希望を託そう。

何がどうなったのか分からない。
ただ一つ確かなのは、決して負けてはいけない戦いに負けてしまったこと。
僕に助けを求めていたのに……確かに聞いたのに……ごめんね、助けられなかったよ。
悪夢に呑まれた意識の中……甦るのは最悪の日の記憶……。
魔物に食われた青年よりもあの時の自分の方がずっと、血も涙も無い化け物みたいだった。
傷が痛くて……心はその何倍も痛くて、少しも動けずに、声も出せずに、ただ涙だけが零れ落ちた。

〜♪〜
風のように 荒野を駆ける旅人よ
もしも道に迷ったら 耳を澄ましてみるがいい
心の声 聞こえてきたら それが未来への羅針盤
だいじょうぶ 一人じゃないから
いつもいつだって 見守っているよ
果てしなく遠くて 限りなく近い場所で
〜♪〜

暖かい太陽の光に照らされているみたい。優しく抱きしめられているような感覚。
微かな意識の中、白き守護者が歌う声を聞いた。
さっきみたいな難しい魔法語ではない、心に真っ直ぐに届く言葉で。

〜♪〜
今はまだ真っ白な本に 綴られる明日は
想いという名の糸で紡ぐ 未来のタペストリー
たとえ君の信じる道が 闇に閉ざされたとしても
この世界に 明けない夜が無いなら
変えられない運命も 在りはしない!
〜♪〜

――本当に嬉しかった。この時代にも貴方達のような人がいたこと……
  アーシェラを……この世界の未来を……どうか……――
微笑みかけるアスラちゃんが見えたような気がした。その姿は、天使のようだった……。

そして……
「パル、起きて!あのバカはとっくに起きたわよー」
レベッカちゃんの声が聞こえる。目を開けてみると、湿地帯の地面に倒れていたのだった。
「……僕は……何を……?」
隣ではアクアさんが、何やら魘されているラヴィちゃんを起こそうとしている。
もうどこも痛くなくて、一瞬、もしかしたらずっと幻を見ていたんじゃないかって思った。
でも、目の前には建造物の残骸らしきものが散らばっていて、服は血だらけで、そして何より……
右手には、光り輝く剣がしっかりと握られていたんだ。
「アスラちゃん……」
また一つ、大切なことを知った。作られた物が心を持たないなんて、真っ赤なウソだってこと!
「その想い、受け取ったよ!」
アスラちゃんの想いの結晶を、強く強く抱きしめた……。
163リーヴ ◆DMluABX9IM :2007/01/19(金) 22:15:51
「そんで?傭兵はもちろんこの作戦とは別の料金貰えるんやろうな?契約はグレナデアで終わりや、新規契約せなあかんやろ。」
皆の空気が重くなっているところにリーブが呑気ともとれる言葉を口にする。
「まあ、それなりには」
「あかんあかん、そら困るで、きちんとした金額提示してもらわへんと。」
それなり、というレオルの反応にリーヴは『駄目駄目』というように手を振り呆れる。
「おい、金の話しなんて後でいいじゃねぇか。今は一刻も早くロックブリッジにだな・・・」
リーヴの金に執着する態度があまり気に食わないのかジーコが遮る。
「阿呆か、金のこと決めへんでどないするっちゅうんや、お前戦いしたくて傭兵やってんのかいな?そら人間やないで。化けもんや」
しかしリーヴはジーコに対し頭がおかしいとでも言うように手をヒラヒラさせる。

「ちょっと待てよ、さっきから金々って、それしかないのかテメーは」
ソーニャも段々と腹が立ってきたようでリーヴを睨みつける。
「・・・ホンマに阿呆かワレ、金以外でどうするっちゅうんや?今回の作戦、ぶっちゃけ王国の生か死かっちゅうことや。
 それでのうても数ヶ月間は劣勢が続いてたんや、ここが王国の捨て時っちゅうやつやで。」
レニーやレオルの前で王国の捨て時とまで吐くリーヴは悪びれた様子もなにもない。さらにはこんなことまで言い始めた。
「ええか、これはワイの願望やない、傭兵の心の内や、傭兵をこっち側に付けたいんならきちんとした金用意しとかないとヤバイっちゅうことや。
 公国に売り込みにいってもええっちゅう傭兵は山ほどおるんやないか?正直ワイも公国に付いたほうがええと思うてるぐらいや。」
公言した裏切りの可能性を聞いたジーコがリーヴの胸倉を掴む、
「温泉の時、俺はお前が中々面白い奴だと思った、だが違ぇ、金で今の仲間を裏切れるって言うお前は・・・ただの糞野郎だ。」
「・・・ホンマに格好ええな、歴戦の勇士さんは、言う事が違うわ、そやけどな、忘れるんやない、だれもがお前みたいに強うて、
 奇麗事吐いても、生き残れるような『勇士』やないんや!お前の当たり前、ワイ等にとっての『異常』でしかないんやで!」
そういって胸倉を掴んでいる手をリーヴは払いのける、

「とにかくや、ワイの言ったこと、いざ出発の時になったら分かる思うで、決められた金なしで命張れる傭兵なんかおらんで。
 偽善者か、血に飢えた化け物以外はな。しかもこの戦、作戦したら勝とうが負けようが公国に行き難うなる。
 傭兵味方に付けたい思うんなら、せいぜい金のこと考えるんやな・・・」
そういってリーブは部屋で出て行った。
164イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/01/23(火) 12:43:37
イアルコが海についての説明を求めようとしたところで、伝令の兵士が飛び込んできた。
示し合わせたような、とは言うなかれ。
事件のタイミングなど、得てしてそんなものなのである。
「物見よりの報告です! 南の方角に海≠ェ出現! 高波となってこちらに迫っております!!」
波が来るって?
もしかして、頭の温かい人なのかしらん? と顔を見合わせるイアルコとジョージ。
中原は大陸で最も海から遠い地域である。そこに海とはどうなんざましょ?
「街壁までは?」「およそ十分!」
「ならば、見えるな。イアルコよ、己が瞳でしかと見るが良い」
泰然自若と言って、窓を開け放つリオネ。
「遠眼鏡がいるか?」「いえ、視力は素で8.0ありますので」「羨ましい話ですなあ」
バルコニーに乗り出したイアルコの目に映ったのは、轟々と飛沫を散らして迫る巨大な波頭であった。

「なあああああああああああっみいいいいいいいいいいいいっっ!!!???」

何とかけて波、驚嘆しながらもつい洒落を繰り出してしまうのがイアルコという少年のタフなところである。
「今の戦況も、すべてあの海が故と言っていいだろう。王国軍との衝突の度に、どこからともなく現れては消えて行く」
坊ちゃまの洒落に気づいた素振りもなく、目を細めて逞しすぎる許嫁が言う。
なるほど、リオネがいて押されるわけだ。
あんな天変地異が、都合良くこちらの不利になるようホイホイ出てきたのでは、如何な女軍神でも勝ち目はない。
この一目と僅かの間で即座に現況を把握するイアルコ坊ちゃま。
例えどんなにヒネていようとも、頭の回転が天才的なのは動かしようもない事実なのである。
「リオ姉様、やけに落ち着いておりますが、打開の策はあるのですかな?」
「策? フフッ……」
ああ、物凄く綺麗です。カッコいいです。
でも、そこで笑ったりなんかしないでよ!? 不安になってしょうがないでしょうが!!
「考えがないわけではない。……むしろ、私にはこれしか打つ手がなかった」
慣れない遠慮に口をもごもごとさせるイアルコを見下ろし、リオネは静かに深く息を吸い込んだ。

「打って出る!! 皆の者は速やかに出陣の準備にかかれ! 南門にて轡を並べ、我が天上の武威を渇仰せよっっ!!!」

爆発したかの如きその大声量に、バルコニーから吹っ飛ぶイアルコ。
「いやああああああああああああああああああああ!?!!!」
「いざ、飛ぶが如く行かん!!」
「とおっ!!!」
「…………」
すぐにリオネが、意気揚々とトルメンタが、スカートを気にした風もなく黙ってメリーが、坊ちゃまの後に続いて飛び下りる。
もちろん、ジョージは階段を使った。
165サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/24(水) 19:00:06
「さてと、俺達も行こうか。あの子達なら大丈夫だよ、保証する」
離れた丘の上からパルス達を眺め、ヒューアは仲間の方へと振り返った。

少々時間は遡る。
自壊を始めたジャジャラ内部に残されたパルス達、皆揃って意識も無く重傷であった。
「酷いな・・・間に合うか?」
グラールが辺りを見渡し低く唸る。
ヒューアは既に治癒の術式を使い、救助に取り掛かっているようだ。
「長くは持たんな。奴は去った、我々も行くぞ」
「待てよイェ・・・じゃなかったグレッグス、この子達を見捨てる気か?」
その言葉を聞いたヒューアが治療を中断して、グレッグスに非難の眼差しを向ける。
「発芽した魔物をこのまま放っておく訳にはいかん。我等の役目はセフィラの守護、
それは全てに於いて優先される。違うか?ヒューアよ」
険しい表情のグレッグス、何時になく饒舌なのは焦りの顕れか。
「どのみち発芽しちゃったら追跡は出来ないし、慌てずに捜すしかないわよ」
メイはあっけらかんとして、剣の手入れを始めた。果てしなくマイペースである。


大罪の魔物は1つのセフィラに1体しか存在する事が出来ない。
7種類の大罪の種はセフィラ内に複数存在出来るが、発芽可能なのは常に1体だ。
そして、その7種類は決して重複しない。
つまり1つのセフィラに、種は7つまでしか侵入する事は出来ないのだ。
発芽した魔物が倒された場合、その時点で最も多くの欲望を喰らった別の種が発芽する。
最悪のケースとして、大罪の魔物が7連続で順番に発芽したために滅びたセフィラもある。
種の間に倒せなかったら、セフィラの危機はより大きなものになるだろう。
故に十剣者は素早く種の侵入を探知して討伐に向かう。
種によって個体差はあるが、宿主を支配して発芽に至るまで平均で約1ヵ月。
極端に早いケースだと、僅か2時間弱という記録もある。
そして十剣者が魔物を探知出来るのは、種の間だけだ。発芽した魔物は存在を探知は出来ない。
グレッグスが焦るのは、そういった理由からなのだ。かといってメイは落ち着き過ぎだが。


「これで良し、後は全員運び出して完了だな」
ヒューアがパルスとアクアを両脇に抱え上げ、グラールがラヴィとレベッカを、
グレッグスがハイアットを抱え、メイに手を差し出す。しかし、メイはその手を取らなかった。
166サブST ◆AankPiO8X. :2007/01/24(水) 19:01:10
受け継がれた想い、パルスは新たな剣を鞘に納めると全員に向けて、力強く宣言した。
「行こう!アーシェラさん救出大作戦だよ!!そしてハインツェル君を止める!!」
「ああ、行こう。・・・でも何処に?」
レベッカの素朴な疑問に一同が静まり返る。手掛かりは全く無いのだ。
そもそも、どうやってあの状況から助かったのかすら、まるで分からないのだから。
「・・・あいつは多分、マイラに向かったと思う」
沈黙を破ったのはハイアットの呟き。

えぇっとね・・・マイラは地の三角のひとつ、海に浮かぶ海上都市だよ。
あ、地の三角ってのは古代セレスティアの6大都市で、空に3ヵ所と地上に3ヵ所。
合計6ヵ所の、星龍が住む都市だったんだ。
古代龍人文明は繁栄に繁栄を究めたけれど、聖獣の暴走で滅びちゃったのさ。唯一、ガナンを残して。
今のマイラは海の底に沈んでるはずだけど、都市機能はジャジャラ同様に生きてると思う。
ハインツェルは六聖都の封印を全部開放するつもりじゃないかな。
もう一度セレスティアを甦らせるために・・・

「マイラ遺跡・・・何か思い出せそうで・・・出せなさそうで・・・」
アクアがしきりに頭を押さえ、記憶の糸を手繰り寄せようとして唸る。
彼女の中に息吹くシーマンの記憶。そこには確かにマイラの名があったはず。
「どうしたのパル?さっきから顔色悪いけど、大丈夫?」
「・・・・・・・・・げ・・・い」
「え?」
顔面蒼白のパルスが搾り出すように告白した。
「僕、泳げない・・・どうしよう」
マイラは海底、当然ながら水の中。そこに行くまでにも船に乗る必要がある。
泳げないというのは、ある意味致命的な足枷であった。
「大丈夫大丈夫、アタシだって5mくらいしか泳げないから平気よ」
泣きそうなパルスの肩をポンと叩き、レベッカが親指を立てて笑ったが・・・

「「「いや、大丈夫じゃないよ」」」
ラヴィとハイアットとアクアが一斉にツッコミを入れた。
167ST ◆9.MISTRAL. :2007/01/26(金) 21:31:33
歴戦の勇士か…随分とまぁ勘違いしてやがるな。俺ァそんなモンじゃねえのによ。
出て行ったジョンに、俺は昔の自分を重ねちまった。夢物語を見ていた馬鹿な自分を…
「まぁ金なら出るだろうよ、問題は金なんかじゃねぇしな。レオルはどう思う?」
「そうですね、規定額は保証されるでしょうからその辺は問題ありませんね。しかし…」
レオルは言葉を切って考え込む。そう、問題は金じゃない。時間だ。
ルフォンからロックブリッジまでは馬を飛ばしても1週間はたっぷりかかる。
なにより、そこまですんなり行ければの話だがな。どうやっても途中で公国軍とぶつかる。
ここは公国領内だ。敵の腹ン中での行軍は上手くはいかねぇだろう。
「試してみる価値はあるとは思うのですがね…賭けになります」
レオルの目が鋭く細められた。相変わらず嫌な目だ、俺は小さく舌打ちした。


ジョンはやり場の無い苛立ちを、もやもやさせながら廊下を歩く。
この建物も僅か半日前までは敵の領地、あまり居心地の良いものではなかった。
自分の中で渦巻く苛立ち、その正体は分かってはいたが、それを認めるのは許せない。
だからこそ、逃げてしまった。
自分に無い輝きから、その輝きに焦がれる自分から…
不動の砦も炎の爪も、英雄と呼ばれている存在だ。自分みたいな一兵卒ではない。
「死んだら終いや、ワイは間違っとらん…」
そう自分に言い聞かせるが、納得出来ない。何故なら分かっているからだ。
それでも、ジョンは求めていると。手の届かない光にも、いつか手は届くと。
「名誉で腹ァ膨れるかボケ!100人の拍手より100Giko硬貨の方が遥かにええわ」
窓の外には、崩れた瓦礫を撤去するゴレムの姿が見える。

ルフォンの公国兵は皆投降して、街のメローネ神殿に収容された。
今ゴレムを操縦しているのは、レジスタンスの者達だ。名前は何だっただろうか。
うろ覚えなので、特に思い出せなくとも気にする事なく、ぼうっと外を眺め入る。
「他人に嘘はつけても、自分には嘘は通じんかの」
突然背後から掛けられた声に、ジョンは思わず飛び上がりそうになった。
「だぁほ!!ノックくらいせんかい!!………いや、ツッコんでくれんと困るがな」

慌てて平静を装ってはみたものの、目の前に立つ小さな賢者には、全て見透かされているような気がした。
168ST ◆9.MISTRAL. :2007/01/26(金) 21:32:22
トコトコとシャミィが歩いて来て、窓枠によいしょとよじ登る。
「羨むは恥に非ず、お前さんは素直になれんようだの。誰かさんにそっくりじゃ」
そう言って鈴の様に笑う猫人に、ジョンは無意識の内に掴み掛かった。
「お前に何が分かるんや!?俺の何が分かるっちゅうんじゃ!?俺はな……俺は…」
それ以上言葉を続ける事が出来なくなる。琥珀色の瞳に引きずり込まれそうになったからだ。
乱暴にシャミィを振り放し、ジョンは再び窓の外を向いた。
自分の最も弱い心を鷲掴みにされたような気分だ。酷く気分が悪い。
「ワイは金の払いが良かったさかい、この作戦に参加したんや。自殺しに来たんとちゃうで」
「金、かの。何でも算用してそれに普遍価値を見出だせる程にお前さんは賢いか」
「何やとコラ、もっぺん言うてみい!」
「賢いようで“賢く見えるだけの生き方”が、本当にお前さんの望む生き方ならそれもええがの」
シャミィの瞳がすうっと細くなり、ジョンの目を下から覗き込むように迫る。

暫くの沈黙。今度は逃げなかった。ジョンは瞬き無くしかとシャミィの瞳を迎え撃つ。
永遠に思えるかの数秒間が過ぎ去り、先に口を開いたのはジョンだった。
「フン、阿呆の真似して死ぬんはゴメンや。せやけどな、ワイは銭さえもろたら…行くで」


――ルフォン兵器格納庫
「うお!こりゃスゲー!余裕で使えるじゃねーかよ!!」
ずらりと列んだ“足付き”を見て、俺は心底ぶったまげた。ざっと見ても40機はある。
グレナデアが潰した格納庫とは別に、開発中の新型の格納庫があったとレオルが言った時は
『どうせあっても2,3機くらいだろう』とか思ってたが…まさかこんなにあるとはなぁ。
もし、あの時この試作機までワラワラ出てきやがったら俺達は間違い無くアウトだったな。
全くよォ、金玉縮むっつー話だぜ。俺達はとことんラッキーだったって訳か。
「つまりこの新型で中央までブッ飛ばすってことだよね?やるじゃん、ガリ男♪」
「…?ガリ男?」
赤毛にバンバンと背中を叩かれ、スゲー嫌そうな顔のレオルが尋ねると…
「あぁ、それとも『ガリ勉君』の方が良かったかい?」
「どちらも結構です。私の名ま…痛ッ!?」
ドスッ。膝蹴りが綺麗に決まる。

そのやりとりに、俺とチビは腹ァ抱えて笑い転げたってのは言うまでもないよな?
169アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/01/27(土) 00:03:03
「ところでさ・・・・」
ハイアットさんが照れくさそうに頭をかきながら言葉を紡ぎだしました。
「みんな、僕のために来てくれたんだね・・・・ありがとう。」
レベッカさんがハイアットさんの肩を叩きながら笑っています。
「本当にありがとう・・・・・・・・レベッカさん、パルスさん、ラヴィちゃん・・・・・それと・・・・」
ハイアットさんはじっと私を見つめて止まっておりました。
「えーと、・・・・・・・どちら様?」
そう言えば初対面でしたね。

ーーーーーリザードマン集落ーーーーーーー
「遺跡が・・・・落ちた。」
キャメロンは目の前の出来事を只呆然と見つめていた。その隣ではシスター・キリアが皆の無事を祈っていた。
(・・・・・今のうちだな・・・・)
そんな二人の後ろをそっと何者かが通り過ぎようとしていた

ーーーーー湿地帯ーーーーーー
「うわあぁ ヒッドィ」
「それは無いよぉ」
「え、ええ!?ええええ ちょっと待ってよ」
ハイアットさんがお二方に非難の嵐を浴びされております
「あ、あの、お二人とも私達は初対面ですから・・・・」
今だ気を失っておられるラヴィさんを担ぎながら私はおろおろするのみで御座いました。

ーーーーーーリザードマン集落ーーーーーー
「キリア様ーーーー」
ふいに後ろからの子供の声に二人が振り向くとそこにはまだ幼い修道女の少女とその間に・・・・・
「げぇ、なあああ」
そこには修道院に出入りしていた商人改め、奴隷商の親玉がいた。
「ちくっしょぉ!!こうなったら」
親玉は迷わず少女に駆け寄り、その細首に腕を絡めた。
「いいか、お前ら、これ以上近づくなよ、せっかくさっきの騒ぎで抜け出せたんだ、また戻ってたまっかよ。近づいたら
 わかるよな?」
どこに隠し持っていたのかナイフを少女に突きつけながら親玉は後ずさり始めた。
170リザードマン集落 ◆d7HtC3Odxw :2007/01/27(土) 00:04:46
「その子の代わりに私が人質になります、だからその子を開放しなさい」
シスター・キリアが親玉に要求するが、
「はっ、聞こえねぇなぁ・・・・いいか動くなよ。」
親玉は聞く耳を持っていなかった。
「なぁ、お前、もしかして、奴隷商グルムトか?」
キャメロンが冷静な声で親玉を見つめながら質問した。
「あ?ああ、そうだ、オレがグルムトだ、あんた誰だ?」
キャメロンは二、三度頭をかいて、あえてゆっくりと言葉を綴った。
「なぁ、あんた、キヌドに恥ずかしくないかなぁ?その行動」
グルムトは怪訝な顔をしながらも下卑た笑いと言葉を返してきた。
「何を言うかと思ったらよ、キヌドだぁ?儲けりゃいいんだよ、儲けりゃぁよぉ」
「そうか・・・・あんた商人として最低だな・・・いや、商人ですらねぇ!!」
叫んだと思った瞬間グルムトの両手に激痛が走った。
「いってえ!!な、なんだこりゃ」
その両手にはざっくりと刺さったトランプのカード、怯んだ瞬間に少女はその魔手から逃げ出した。
切り札を失ったグルムトは逆上して、キャメロンに奇声を上げながら襲い掛かってきた。
二人が重なり閃光一閃、暫しの沈黙の後 悪漢がうめき声を上げながら地に伏した。
「テメェ・・・・もしかして奇術師 キャメロン かよ・・・・」
「商いの心を忘れた哀れな奴・・・・・眠れ」

その昔、傭兵の中に異色の存在がいた、武器にカードと拳を使う異端の戦士、ある日を境にその男は傭兵業界から
その姿を消した。そして、その男はわずかな者の記憶にだけ残る事となる。その男は仲間から『奇術師(マジシャン)』と
呼ばれていた。

「ふぅ・・・・・嫌なもんだな、昔の呼び名ってのも」
一人呟いたところで、キャメロンは太ももあたりの異変に気がついた。
「ん?なぁお嬢ちゃん、抱きつくのはあっちじゃないのか?」
そこにはさっきまで掴まっていた少女がしがみついていた。シスター・キリアを見ると何かニコニコしている。嫌な予感に
襲われつつキャメロンは尋ねてみた。
「あの、シスターこの子が離れてくれないんですけど・・・・?」
「その子、あなたのお嫁さんになりたいと申しておりますよ。」
暫しの沈黙、そして、絶叫が集落中に響いた。
「いやいやいや!!まだ子供でしょ!!」
「愛に年齢は関係御座いませんよ」
「いやぁ!!あると思いまっすがそれにまだこの子何歳?」
「アリスは8歳ですね」
「昨日誕生日で9歳だよ」
「いやぁ!!!ダメでしょ」
「「愛に障害無しです」」
「た・・・助けてーーーー」
絶叫するキャメロンの袖を少女がぐいぐいとひっぱった。
「な、何かな?」
「宜しくね、ご主人様」
「マジたすけてーーーーーー!!」
さらなる絶叫が響いた
171パルス ◆iK.u15.ezs :2007/01/29(月) 23:54:50
「よく無事で帰ってきてくれた!
……いや、別にお前らの心配してたわけじゃないぞ?死なれたら寝覚め悪いだろ?」
キャメロンさんは、心底安堵した様子でぶつぶつと言い訳しながら無造作に袋を渡してきた。
「まだ調査報告書書いてないよ?」
「今回はいいんだ、崩壊しちまったら書けないからな」
それにしてもこの袋、やたらと重い。もしかして……と思って中を覗き込んでみると
「わあああああ!?ちょ!こんなに貰えないよ!!」
破格の金額が入っていた!ただでさえ調査対象消失しちゃってるのに
こんなに貰ったらキャメロンさんが大赤字。間違いない!
「黙って貰っとけ!!」
どうしても貰って欲しいらしい。
そうか……きっとこれは壮大な旅に出る僕達に送る餞別!!ならば貰うっきゃない!!
「キャメロンさん……このご恩は3年ぐらい忘れませんッ!!」
「そんな目で見るな、キモいキモい!」
そんな所に小さい女の子がとことこと歩いてきて開口一番。
「ご主人様!!変なエルフに貢がないで!!」
……よく分からないがキャメロンさんも色々大変なようだ。

「話したいことがあります」
アクアはシスターキリアを呼び止めた。
「我侭をお許しください。私は……」
そこで、アクアは言いにくそうに口をつぐむ。しかし、キリアには分かっていた。
「記憶を取り戻したのですね。あの方達と共に行くのでしょう?
気を付けて行ってきなさい。それから、貴女に渡す物があります」
キリアは、アクアの記憶が入っていた宝珠を彼女に手渡した。
「いかなる時もラーナ様の教えを忘れないように。
それから……必ず生きて帰ってくるのですよ」
「……ありがとうございます!」
二人は、固い約束を交わした。

ハイアットは膨大な量の地図を広げて考え込んでいた。
「やはり最短ルートはここを突っ切るのがいいか?
でも今戦争やってるんだっけ?嫌だなあ……」
そこに、レベッカのリュートの音が聞こえてきた。
聞き覚えのある曲、遠い昔に何度も聞いた曲。
「“果てしない幻想曲”……いつもアーシェラが弾いてた……どうして君が?」
その問いに、レベッカは自信満々に答えた。
「本当にいい曲は時代を超えて生き続けるから!
アタシも精一杯歌うからさ、必ずアーシェラを取り戻そう、“ハイアット”!」
「初めて呼んでくれたね……」
「何のことかな〜〜?」

修羅場になったらいけないので急いで逃げてくると、ラヴィちゃんが起きていた。
そして、ラヴィちゃんは迷うことなくこう言った。
「パルちゃん、ラヴィも行くよぅ!一緒にアーシェラ姉さんを助けるんだお!」
今回の事は、ラヴィちゃんは偶然巻き込まれてしまっただけで
本当はこんな危険な旅をする理由なんて何も無いのだ。
それでもラヴィちゃんは一緒に来ると言ってくれた。
「ラヴィちゃん……」
「だって……友達だから!」
これからどんな試練が待っているか分からないけど……
みんなと一緒なら怖いものなんて何も無い、そんな気がした。
172レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/01/30(火) 13:52:05
一体どんな気持ちでアーシェラはこの歌を唄っていたんだろうか…
演奏しながらアタシは、ぼんやりとそんな事を考えてた。
優しい歌詞に秘められた叶わない夢に向けた憧憬の念、やっぱりあの人は分かってたのかな…
こうなる事が…いつまでも続く平和なんて無いんだって事が…
そう考えたら、なんだか無性に悲しくなってきた。
同時に自分がいかに甘い気持ちでいたかを、痛いくらい思い知らされる。
「必ず、助けるよ…」
間奏の間に、聞こえないようにそっと呟く。
叶わない夢なんか無い。それをアタシに教えてくれた人を思い出して、勇気が少し湧いてくる。


あれは4年くらい前、季節は冬の終わり頃だったかな?あの人と出会ったのは。
とにかく変な人、第一印象はそんな感じの人だった。
「かーちゃんが言っていた。天を司り、地を統べる男に不可能は無いと…」
店に入ってくるなり、意味不明な決め台詞と謎のポーズ。もうすぐ春だなぁと思ったっけ…
「あの…どんな御用件でしょうか?冷やかしなら死んで下さい」
「フッ、いきなり厳しいな。接客の応対に『死ね』とは…攻撃的ってレベルじゃないぞ?」
又しても謎のポーズ。ちょうどその日はアレで苛々してたから容赦なかったっけ。
「てゆーか、うざいから今すぐ死ね」
「コイツを直してほしい。この街で最高の職人がいると聞いて来たんだ」
無視された事にもカチンときたけど、その男が置いたリュートを見てアタシはキレた。
どうやってここまでボロボロにできるのか。ってくらいに傷んだ状態だったから。
楽器は命と同じくらい大切な物、それをこんなになるまで放置したこの男に殺意すら感じた。
「………ソレ置いて即刻消えろ、マジで目障りだから」

当時のアタシはキレやすい上に、喧嘩早いから気がつけば男の胸倉掴んで頭突きしてた。
もちろん盛大に鼻血を噴いて悶絶する男の横腹に、蹴りをブチ込んで追い撃ちをかける。
「いい蹴りだ…真っ直ぐで、全く迷いが無い」
「喧しいわ!てか迷うかボケ!!」
アタシとその男、タードとの出会いは世にも最悪な形だったんだよね……


「レベッカちゃん、晩御飯だって!早く行こう!」
向こうでパルが目をキラキラさせながら手を振ってる。
早く行かないと、アタシの分まで食べられちゃうね。ダイエットの事は暫く忘れようかな…
173イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/01/30(火) 14:59:15
ずわんと、地面がたわむ。
高波による地響きではない。騎乗したリオネの第一歩目によるものだ。
サリアの街の南門から打って出た勇壮なる一騎は、それほどに巨大で力強かった。
主人の深蒼の鎧をより一層濃いものに見せる、迫力に満ちた湯気立つ赤銅色の馬体。
地割れから噴出した灼熱の奔流のような鬣。
そして目、穏やかな草食動物のそれとは思えぬ、血に飢えた血の色の目。
英傑リオネ・オルトルートは、この愛馬にデス≠ニいう名を付けた。
戦場で最も多くの死をもたらす存在ゆえにである。

馬の名は死=B
ならば、その背に乗るのは死神か?

「我が刃達よ!!」
いや、軍神であろう。
「我が誇りたる一矢一矢よ!! 度重なる敗退を耐え忍び、よくぞここまで研ぎ澄ました!!」
高波へと歩を進めながら、リオネが吠える。
「よくぞ、この時まで引き絞った!!」
南門の内側には、彼女の率いる公国騎士団の主力一万騎が突撃の合図を待っていた。
負け戦が続いたにもかかわらず、一人として覇気の衰えた者はいない。
ただ射手を信じて己の鋭さを保ち続ける。
彼らはまさに、軍神リオネという弓に引き絞られた一万本の矢であった。

「反撃の時は来たれり!! ここより南へ中原二千里、脇目も振らず死あるのみ!!
ただ我が背中を追い駆けよ! ただ己が誇りを胸に進め! 常にリオネは、お前達の前を行く!!」
デスが止まる。
リオネが長槍《流墜星》を頭上に構え、旋回させる。
「今、道を開かん!!!」
まるで竜巻、余りの速度に円盤状となった槍から轟々と風が巻き起こる。
更に、もう一段、もう二段、人智を超えて槍が回る。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああ…………っ!!!!」
まさかと、見る者は思うだろう。
確かに、呼気猛々しく高波を迎えるリオネの姿は、不可能を可能とする神話そのものだ。
だが、まさかこの天変地異を……まさか、まさかと思わずにはいられない。
そして同時にしかし≠ニも。
槍の加速が仙域を抜け、神域をも抜け、リオネのみが抱く頂点に達する。
その怪異に驚きの唱和が上がった。
ただ荒れ狂う風だけを残して、回る槍が跡形もなく消失したのだ。
変わらずそこにあるはずなのに、リオネの手にあるはずなのに、誰の目にも何も見えぬ。
彼女は、不可視の旋刃を前方へと解き放った。

「武りゃ嗚呼ああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

突き進むべき道は、天を衝く雄叫びと共に開かれたのだ。
174イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/01/30(火) 15:48:51
後世に残るであろうその偉業を、街壁の上から眺めるイアルコ坊ちゃま。
感心感激を通り越して、これはもう失禁物である。
「ハッハッハ!! イアルコ仮面の未来のワイフは凄まじいな! うむ、リングネームは《超巨大女竜巻&馬》とでもしようか」
動じた風もなく豪快に笑うトルメンタと、黙ってお茶を勧めてくるメリーを左右に唸る坊ちゃま。
割れた高波は、丁度サリアの街を避けるように流れていく。
流れきるのを待たずに、騎士団主力が出陣する。
ここから攻勢に転じようというのが、リオネの作戦なのだろう。
一見では馬鹿げまくった力技に見えるが、中々どうして知恵が働いていたりもする。

サリアの街まで退いたのは、迫る海のルートを限定するため。
そして、ここまでの散々な敗退ぶりは、すべて敵軍を油断させるための芝居だったのだろう。
いくら海を断つリオネの武威があったとしても、広大な中原で戦っては勝ち目は薄い。
彼女は引いて引いて引き込んでの、カウンターの一矢に全戦力を注ぎ込んだのだ。
「確かに、これしか手はないのう。……とすれば、この進軍は敵の本陣を叩くまで止まらぬか」
「左様で御座います。リオネ様は、三日三晩で中原を駆け抜けると仰いました」
イアルコの呟きに、背後で控えていた騎士が答える。
確か名前はジェマといったか、性別不詳の中性的な顔立ちの若者である。
リオネとの繋ぎ役として傍に置かれた人物だが、まったくもって無愛想な奴であった。
不満そうでもある。
恐らくは、損な役を任せられたとでも思っているのだろう。
まあ、どうでもいい。
人から煙たがれるのは慣れっこのイアルコであった。

「さあて、では我らも行くとするかの?」
「かしこまりました」
「ようしっ! 子羊達に愛と暴力を教えてやらねばな!」
「何処へと?」
自身は馬に乗れないのでメリーの背中に飛び乗るイアルコに、ジェマは無表情に尋ねる。
「女のケツを追いかけるのは好かん。しかし待っているのも退屈じゃ。ならば、存分に引っ掻き回してやろうと思っての」
信仰する軍神を女と言われたことに眉を動かすジェマ。悪戯小僧の顔をするイアルコ。
「ま、お前は黙って余のケツを追っかけてこい」
「…………」
「退屈はさせん。それどころか、主人の助けになるやもしれんぞ?」

こうして、三騎と四人の別働隊は血生臭い中原へと発ったのである。

……あれ? ジョージどこ?
175アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/30(火) 23:14:13
会議の夜から二日目の夜。
そして進軍を開始してから初めての夜。
女だって知られた私は、ソーニャさんと一緒に女性仕官用テントにいた。
他にレニーさんやギルビーズさん達もいるはずだけど、今はいない。

「ロイトンで会ってから二週間も経っていないけど結構伸びたねえ。ぼさぼさ髪をこうするとすっかり女の子じゃないか。」
「あ・・すいません・・・おお女の一人旅はきっ危険、だから、、僕が自分で切ったんです・・・。」
ソーニャさんに髪を梳いてもらいながら、たわいもない会話が続く。
もう女だって隠す事ないから【僕】は止めてもいい。っていわれたけど、島を出るときに自己暗示をかけているから一年くらいは
解けないって応えたら「念の入った事だ。」って笑ってくれた。
私も一緒に笑い声を上げていると、ソーニャさんの声色に真剣みが帯びた。
「なあ、アビサル。ロイトンでなし崩しに連れてきちまったけど・・・あたしらはこれから今までよりももっと大規模な戦争に入って
いくんだ。
今日は何事もなく行軍できたけど、明日からはそろそろ散発的な遭遇も出てくるかもしれない。
だから・・・もし、その、なんだ・・・」
ソーニャさんの言いたい事はわかる。
私の後ろに立っているので表情は見えないけど、私の頭に置かれた手からその感情は伝わってきた。

「ぼ・・僕は・・僕たち一族はずっと星を観測してきききました。
星を見て地上で何が起こっているのか、みみみんな把握、してきたんです。
でででも、実際に触れた事はな、なかった・・・んです・・・。僕が旅に出たのは、実際に・・・触れてみたかったらか・・・世界に!
ソーニャさんとの出会いも、い、い、今ここにいることも僕の目的にあっているんです・・・。
そ、それに、最近気分はいいんです・・よ。おおお肉も一杯食べられるし・・・えへっ。」
あの日から私の眠りは浅い。
どんな夢を見ていたのかは全く覚えていないのだけど、毎晩うなされているらしい。
鏡を見て自分でもやつれ具合がよくわかる位だから。
ソーニャさんが心配するのも尤もだと思う。
そんなやつれている身体とは裏腹に、私の気分も体調も日に日によくなっている。

世界に渦巻く夢のような歓喜、身を焦がす憤怒、極上の悦楽、比類なき哀切。
それらが坩堝のごとく渦巻く戦場に近づくにつれ、その深淵を呼吸するように私は高まっていく。
もちろん、これを自覚するのはまだ先の話だが・・・。

「そ・・う、か。ったく!毎日毎日この小さい身体にどれだけの肉が消えているんだい!?
きっちりあたしの側にいてはぐれるんじゃないよ!」
ソーニャさんの声が一瞬沈んだ気がしたけど、すぐに明るく乱暴に私の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜて笑い声を上げる。
私も転がって笑っていた。

#####ソーニャの回想##########

ルフォン領事館会議室。
リーヴが部屋を出てしばらく後にレオルが話題を変えるようにソーニャに尋ねる。
「アビサル、ですか。彼・・・もとい、彼女は?部屋で寝させている・・・結構です。
【炎の爪】殿。彼女とはどこで知り合ったのですか?」
「ン?ああ、ロイトンで海賊に絡まれていたのを助けてね。そのままなし崩しに連れてきちまったんだ。」
「そうですか。それはよい拾い物をしましたね。」
急な質問にその意図がわからず、とりあえず答えるソーニャだが、【拾い物】という表現に柳眉がピクリと動く。
不穏な粒子が部屋に漂い始めるが、レオルは気にする様子はない。
「情報は色々錯綜しておりますが、報告書、兵達の証言、そして私の見たことを総合しますと、グレナデアを一機破壊
したのは彼女の力です。
それだけでなく、宿営地を夜襲した新型ゴレム、ハイドラ、ですか。アレを一機、そして夜空に【炎の爪】殿の巨大映像を
浮かび上がらせたのも彼女の術ですね。」
「・・・何が言いたいんだい?」
炎を宿す瞳の質問を氷原の様な瞳で受け止め言葉を続ける。
176アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/30(火) 23:14:27
「私がなぜ彼女を救出したか、ご理解できていませんでしたか?
彼女には大きな力がある、という事ですよ。
その反面、肉体的には脆弱で、精神的には不安定です。どなたかの行き違いと勘違いで今現在寝込んでしまっているように、ね。」
鋭く細められた目がジーコに向けられると、ジーコは小さく咳払いをして視線を外した。
「彼女には私達王国騎士団やレジスタンスように忠誠心も公国への敵対心がない。あなた方レジスタンスのように金銭
的繋がりもない。
つまるところここにいる理由がないのです。
そのような不安定要素は戦略的に困り者でしてね。
しかし、あなたにはよく懐いているようだ。ですから・・・」
「あたしにアビサルを操縦しろって言うのかい?」
「不思議ですね。何かご不満のようだ。あなたが彼女を連れてきた時、こうなる事は想定しなかったのですか?
まさかご自分の立場を忘れピクニックにでも誘っていたつもりで?
・・・よろしいですね?もちろん私もできる限りの協力はいたします。」
感情的に割り切れない事があったものの、拒否する理由も見つからず、レオルの提案を呑むことになる。
その後部屋を出て、アビサルを引きつれ兵器格納庫で小芝居を繰り広げる事になるのだった。

#####################################

明けて翌日。
レオルの行動は早かった。
現在ルフォンのには王国騎士団、レジスタンス部隊群、傭兵隊に分けられる。
元々グレナデア奪取のために集まった戦力なので、それが失敗に終わった今、レジスタンス部隊群や傭兵隊は王国
騎士団の指揮下から離れている。
レオルは迅速な決定を期待できない騎士団を切り離し、【運命の牙】を隠れ蓑に部隊再編成を行ったのだ。
名目は【リッツの弔い合戦】という事でレジスタンス部隊群をまとめ、破格の報酬を提示し傭兵部隊を買い上げる。
「裏帳簿というものはこういう時の為にあります。」
事も無げに言い切るレオルにジンレインが目を輝かす。
公国の識別信号コードや、広域チャフなどを売り込んでいた。

#######################################

そして更に一日。今日の朝。
ロックブリッジを目指してレジスタンス部隊が出発をする。
部隊に割り当てられたのはズィーカタイプ10機と兵員輸送用の大型パンツァータイプをあるだけ。
ゴレムは王国にとっても貴重な戦力である。
特にズィーカタイプとなるとなおさらだ。
それをこれだけ割り当てたのもレオルの手腕といえるだろう。
「アルト様に【進言】してなるべく早く私達も向かいます。それまで時間を稼いで頂ければ結構です。」
「露払いだけして満足するような奴はいねえからな。早くこねえと出番はねえぜ?」
朝日に照らされながらレオルとジーコ、好対照な二人が別れを告げる。
「出発します!」
先頭のゴレムから呼びかけるレニーはこの一行に加わった数少ない王国騎士の一人だった。

大切なものを取り戻す為、生きる為、報酬の為、過去へと決着の為、復讐の為、導かれるままに・・・
兵士達とともに様々な思惑も乗せてゴレムは駆け抜ける。
目指すは決戦の地ロックブリッジ!
177ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2007/02/03(土) 19:28:46

ルフォンの基地が背後に遠ざかる。私たちの乗ったゴレムは、シャミィの運転で隊列について行く。
あの雪山で使ったゴレムより大型で、搭乗スペースも広く確保されてはいたが
後部座席が私の荷物とシャミィの銃――修理を終えた「霜乃武」、そして「ノルスピッシィ」の二挺に占領されてしまい、三人乗りに。
「まんまと釣られたの」
シャミィは何かにつけ皮肉じみた物言いをするものの、私の決断に反対らしい反対は一度もしなかった。
王国騎士団のレオルは何処か得体の知れない男だったが、金払いに関しては信用出来る。
勘が外れてしまえば丸損だが、どの道いつでも勘が頼みだ。
「あの男、軍閥でも作る気かの」
「かもね」
レオル・メギドの、美しいが味も素っ気も無い、能面のような顔を思い起こす。
あの男の表情はパターンに乏しい。私が知る限り、張り付いたような無気味な微笑、或いは完全な無表情の二種類だけだ。
狐目の中で時折微かにぶれるだけの瞳が、あくまで腹の底を見せる気は無いとあからさまに物語っていた。
ああいう目をした人間は必ず一角の人物で、相手をするにも油断がならない。
まるきりの愚行に走る心配が要らず、その点は安心でもあるのだけれど。

それになまじ学のある人間より、一本気な馬鹿の方がかえって何をするか分からない。「炎の爪」と、消えた死体の事だ。
「『白い牙』の件、シャミィはどう思う?」
「噂の力がネクロマンシィ(死霊占い)に使えるものか、私の知識の埒外だ。分からんの。
ただ、私もニャンクスだからという訳ではないが、獣人の戦士とやらがどうも気に罹る」
「そうね――傭兵殿は?」

私の隣、兵法書を被って寝た振りしていたジョンが身を起こす。
「……宅かて傭兵やないけ。大体それ、ワイなんかの横でくっちゃべってええ話題とちゃうやろ?」
彼が私たちのゴレムに乗り込んでいるのは
あのような事があった後でジーコやソーニャと同乗するのは気まずかろうとの、シャミィの計らいによってだ。
私を流し見てせせら笑う傭兵ジョン・リーブ、いつかは驚く程に良く回った舌鋒も今朝は重たい。
金、実質、現実と口にしておきながら自らも感情的になる辺り、主義の徹底は難しそうだ。
私はシャミィとは違って守銭奴に特別の興味は無いが、別の理由で相談しておきたい話題があった。
「一昨日の晩、シャミィがあなたに話しちゃったんでしょ?」
「そやかて……」
「私の代わりに報酬の話を出してくれたから、お礼よ。あなたに悪役を買って戴いて助かったわ」
「嫌味なやっちゃ」
会話を求められているのを悟ってか、ジョンが目隠し代わりの本を後部座席へ放る。私は話した。
「同業者として、ある程度までは切り札を共有しておきたくてね。
彼の裏金の源泉にも当たりを付けようとしてる最中なの。クライアントの懐を探るのは流儀に反するけど」
ジョンがにやりと笑い、傍目には朴訥そうな田舎者の顔に、狡猾の色を走らせる。
「そらそうや、ワイらにとっちゃ流儀の先にそもそも御法度やで。
で、女傭兵。どないな訳でもって、アイツのハラ探っとるんかいな?」
一瞬答えを考えあぐねたが、簡潔な説明は結局思い浮かばず、咄嗟の言葉で濁した。
「シャミィに同じ」
「獣の勘か」
良い解釈だと思った。今度は彼に尋ねてみる。
「あなたは? 彼の口約束は、危険に見合った額だと?」
「オッサンの前でああも大口叩いといて、あないな金額提示されたらもう辞めますとは言えんやろ」
「傭兵これ即ち金に釣られて走る狗、か」
「自分は違うとでも言うんか?」
「私はいつでも私個人の為の狗よ。その為なら偽善者にも、血に飢えた化け物にもなってみせるわ」
「あー、よう似合うわ、幾らでも『逃げ』の作れる理屈。女っぽいで」
「ありがとう」

話が終わったと見て、ジョンが座席に深く座り直す。
今度はバンダナを額からずり下ろし、目隠しにしようとしている。
「もうええか? ほな、お喋りは終いや。ワイは眠いさかい、もう変な話振らんといて」
「はいはい」
「それとな、アイツの裏金の調べ、難ならワイも一枚噛むで。ただこの仕事が一段落着いてからや。
この戦、大戦っちゅう他にどうもけったいな事が多い。今の世の中、道義ばかりでは喰っていかれんしな」
思わず横を振り返った。バンダナに隠れかけた彼の眼と眼が合い、何故か二人して呵々大笑する。
それからすぐに彼は眠った振りへと戻り、私もシャミィも休憩地まで口を聞く事が無かった。
178イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/02/06(火) 15:03:32
中原の大地を一万余の騎士達が駆け抜ける。
上空からならば、まるで一体の龍が天を昇るかの如く見えたであろう。
それは一糸の乱れも遅れもない、最高練度のみが成し得る鋒矢の陣であった。
先頭を行くのは、我らが女軍神リオネ・オルトルート。
「死ねええええええええええええええええええ!!! 死ねええええええええええええええええ!!!」
笑顔で雄叫び、一振りで十数もの武装した兵士を舞い上げる。
案の定、高波の向こうに陣を張っていた王国軍の気の緩みは甚だしいにも程があった。

無理もない話である。
この数ヶ月、圧倒的な海≠ニいう力の加護を受け、一兵も失う事なく勝ちを収めてきたのだから。
今回もそうだ。彼らは高波に浚われて抵抗する意気の挫けたサリアを楽々と占領するつもりだったのだろう。
死ぬ覚悟のない兵士達、指揮官達。そんな緩みは一目でわかる。
波を割った瞬間に、リオネはこの一矢の命中と貫通を確信した。

「リオネだ!! リオネがいるぞ! 討て! 討てぇい!! 誰でもいい! 討てば歴史に名が残るぞ!!」
後方で取り乱す千人長らしき人物の叫びに、リオネへの包囲は縮むどころか広がりを増すばかり。
槍を向ける歩兵達の顔は、わかりやすい恐怖の色で塗り潰されていた。
もちろん、王国軍も歴戦の集まり。混乱に流されるような雑兵だけではない。
自ら矢面に立って、士気の回復と大将首の手柄という一石二鳥を試みる者も、確かにいたのだ。

「リオネ!! いざ尋常に勝負!!」 「よし、死ねい!!!」
「一騎打ちだ!! 受けて立てっ!!!」 「未熟! 死ねいっ!!」
「おのれリオネ! この百人斬りのバルドが貴様の首を――」 「知らぬ! 死ねい!!!」

……だがまあ、いるにはいたが、そんな勇気ある者達は一合と持たずに血煙と化したのである。
この吹き荒れる武の嵐に、王国軍の誰もが思い、戦慄し、恐怖の虜となった。
これは、止まらない。
最後まで衰えず、中原南北二千里を踏破をしてしまうであろう、と。

「くそう!! リオネめ! あの雌竜めっっ!! 海は!? 海は使えんのか!?」
中原中央、ガルム要塞。
王国の旗がなびく屋上から遠眼鏡で戦況を眺めていた男は、この反撃に憤怒収まらぬといった調子であった。
中原の均衡を担う猛虎聖騎士団四万を率いる王国譜代の臣、ダズート将軍である。
「なりませぬ閣下! あのような乱戦の最中で海を使えば、御味方にまで被害が……」
かまわぬ! ……その叫びを呑み込むだけの分別はまだあったので、歯軋りするダズート。
「ならば、彼奴めに網を打ち掛けよ!! 対巨獣用のミスリル製の物があったであろう!?」
「それはもう最初に試みて、三十人の屈強な捕らえ手諸共引き千切られました!!」 「あいうえええ!!」
「狙撃だ! 弓矢でも大砲でもいい! ありったけをくらわせてやれば――」
「あの速度では、ロクに狙いもつけられませぬ!!」 「くきぃぃぃぃいい!!」
進退窮まるといったところか。
元より正攻法では勝ち目はない。だからこそ王国はあの海に頼ったのだ。
「ええい!! ならばならばならば…………っっ!!!!」
血走った眼をぐりぐりと動かし、ダズートは振り向いた。
「また……力を、貸して頂きたい」
彼の後ろに佇んでいた数人の異形の影へと、不承不承に言葉を紡ぐ。

ゼアド大陸の、特に内陸で暮らす者達にとっては余りにも縁遠い存在故に、怪物としか見えぬその者達。
数十もの種族に分かれて、まったく違う生態を持つに至った彼らを、陸の者はこう呼んで一括りにしていた。
水生種族――アクアノイドと。
179天馬を駆る者 ◆iK.u15.ezs :2007/02/07(水) 00:01:26
――大丈夫だから、目を開けてごらん。朝焼けがすごく綺麗だよ。
すごい……飛んでるの!?
不思議。空って一つだけなのに一瞬も同じじゃないんだ!君はどの空が一番好き?――
――全部。でも強いて言うなら……今みたいな空が一番だ。
天空を翔ける翼。それは幼い頃の憧れ、はるか未来への希望、かけがえのない相棒
そして……決して逃れられない罪の証。
空を、世界を知ってしまったから、そこにいられなくなった?
否、翼を持っていたから逃げ出した、それだけのこと。
“私を知る者”はもう誰もいない、それが私に与えられた罰。
だからせめて、“私が知った者”が、幸せに生きてくれる事をいつも願う……。

「知ってる?噂によるとゴレム狩りは人間の若い女の子らしいよ」
「マジで!?マジで!?」
「それに比べてうちの隊長ときたら……あれ、隊長は?」
「そろそろ出発の時間だというのに!」
「……起こしてきます」
こんな他愛も無い会話をしているのは、レジスタンスをしている庸兵隊《暁旅団》の人々。
見たところ何の変哲も無い普通の部隊だ。エルフばかりということを除いて。

「ムニャ……そのこには……ゆびいっぽん……ふれさせない……」
その隊長は、寝言のような寝言を言う。
「いい加減おきてください!」
そして、目覚まし担当の旋律士がアーリィバードを演奏するまで起きない。
演奏すること数分。ようやくもぞもぞと起きだして、出発したゴレムの一団を見て一言。
「……それじゃー私たちもそろそろいこーか」
この状況、どう見ても遠足に置いていかれた子供である。が、隊長は慌てる様子も無く
どこからともなく食パンを取り出してかじり始めた。
「そろそろ行こうかじゃないです!何してるんですか!?」
「見ての通り朝ごはんを食べ……あいたたた!」
目覚まし係は返事を聞かずに隊長の耳を引っ張った。
「分かったから、耳はやめて!」
さすがに降参したらしく、隊長は小さいベルを取り出して振った。
雪原に涼やかな音が響きわたる。
「おいで、シルフィール!」
呼び声に応え、舞い降りしは、一対の翼を持つ白馬……幻獣ペガサス。
透き通るような瞳に、純白の毛並み、空翔ける魔力を纏った翼。
その姿は、風の精霊にあやかった名にふさわしく、幻想的で優しい。
「今回は長い飛行になりそうだけどよろしく」
たてがみを撫でて優しく微笑み、騎乗する、この美しき幻獣の使い手は
美少年というべきか、美青年というべきか。太陽のような金髪とエメラルドの瞳をもつ森の民。
こうなると、口に食パンをくわえていることがとても悔やまれる。
そんな彼の後ろに、各自のペガサスに騎乗した部隊員たちが飛んできた。
「やっと起きましたか!」
「昼間旅団にでも改名したら?」
部隊員たちがからかっているのを気にも留めず、よく分からない号令をかける。
「それでは、わたくしセイファート隊長率いる《暁旅団》、出発しんこーう!!
任務はゴレム部隊よりも一足先に到着してロックブリッジ手前で公国軍をひっかきまわす!」
こうして、幻獣ペガサスを駆るエルフ達で構成された異色の部隊、《暁旅団》は
ロックブリッジに向かって飛び立ったのであった!
「あ!イチゴジャム塗り忘れた!」
『黙れボケ隊長!!』
隊員達の声が見事なハーモニーを奏でる!団結力は折り紙つきだ!
180名無しになりきれ:2007/02/10(土) 19:25:34
ホライゾンシュトローム!!
181雌伏の時 ◆9VfoiJpNCo :2007/02/12(月) 02:02:42
メロメーロの街。
未だ朝靄明けぬ早朝のこと、宿屋の息子は早起きして井戸へと向かった。
もちろん、家のために水を汲みにである。彼は誠実真面目な働き者なのだ。
あの謎の災害からおよそ半年、街はすっかりと昔のとまではいかぬものの交易都市らしい活気を取り戻していた。
宿にも徐々に客足が戻ってきている。
特に今度の客は印象的だ。恐らく、今まで一番の変わり者ではなかろうか?
「お〜〜う、少年! 孝行してるか〜? 親孝行はできるうちに存分にしとくもんだぞ〜!」
ついでに花壇に水でもやろうかと思っていたら、その印象的な客の一人がやって来た。
手拭いを首にかけ、傷だらけの逞しい上半身を顕わにした青年である。
「ああ、おはようございます、ギュンターさん」
「んおう、おはようさん! 顔洗って歯ぁ磨きに来た! 水くれ、水!」
「はあ、お水ならお部屋にお持ちしたはずですけど?」
「やだよ! せっかく井戸があるんだから! 朝一は気持ちよくザバババっと引っ被ってやらんと!」
そう快活に言って、歯磨き片手に両腕を広げるギュンターさん。
一瞬、何の意思表示なのだろうと口を開けた宿屋の息子だったが、すぐに思い当たり、汲んだばかりの井戸水を引っ被せてやる。
「サンキュ〜〜〜♪ 目が覚めるぜ〜〜〜え♪」
いつも元気一杯で、一日中物凄いハイテンション
とにかく黙っていれば生粋の男前なのに、信じられないくらいに子供っぽい人なのである。
「よ〜〜っし、そんじゃあお返しだ! 脱げ少年!」
「勘弁してください!」
「じゃあ、剣を教えてやろう! 一日で岩が斬れるようにしてやるぞ?」
「必要ありませんから」
「え〜〜〜〜〜!? 遊んでくれよ〜〜〜〜!」
これでも大の大人か……と呆れつつも、決して嫌いにはなれない。
それどころか、段々と心惹かれていく。
ギュンターさんは、そんな不思議な魅力を持った人であった。

……まるで子供だ。
宿の二階、客室の窓より井戸端で騒ぐ公王と少年を見下ろすクロネの面持ちは、風にそよぐ木の葉のそれであった。
「呆れるか、断龍?」
痛々しい包帯姿の男、カールトン侯爵がベッドの上にて淡々と訊く。
その左腕は、肘から先が完全に失われていた。
クラックオン達を封じ込める業火を作った代償だ。
「……かつて、龍人帝都で合間見えた時と余りにも変わらぬので……驚きはしたな」
「そうか、わしはどうだ?」
「とっくりと老けたにゃあ」
カールトンの年齢は人間にして五十程度。外見もそんなものだ。
だが、
「……奴は、そんな男と同い年なのだ」
公王ギュンターは、どう見積もっても二十歳がせいぜい。
「奴が生まれた時は大層な難産だったらしくてな。赤子の頃はよく熱を出して心配されていたそうだ」
だからかは知らぬが……そう言わんばかりに頭を振り、カールトンは誰にともなく言葉を紡ぐ。
「十歳、なのだそうだよ」
「……?」
「奴の精神年齢だ」
闘爵と呼ばれた男の、それは積もりに積もった悲哀であった。
「奴はその時から何も変わらぬのだ。そのままなのだ。俺と共に世界帝国やら統一国家やらの実現を熱く語り合った
純粋極まる情熱と理想に滾るガキ大将のままなのだ」
いっそ涙を流せれば、嗚咽の一つも漏らせたならば、どんなに楽になれるだろう?
「そんな男が、世界の覇者だと? 万民を導く王者だと?」
……だが、哀しみに溺れるには、夢を見続けるには、彼は余りにも強すぎたのだ。
「奴は……奴は、倒されねばならぬ男なのだ」

この空気の中、井戸端の無邪気な声は、耳に痛い。
……まだ、その時ではないな。
クロネはヒゲをそよがせ、ただ無言の背中で物語った。
182ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/12(月) 17:39:59
そこは闇の中。僅かな光すら届かぬ真なる深淵。
2人の龍人は息を潜め、闇の先に“在る何か”を見据えていた。
「今ならまだ引き返す事も出来ます。本当に宜しいですか?」
そう問うたのはミュラー、公国軍元帥である。
その声色には、“その先に在る何か”に対する畏怖と、そして憧憬が混在していた。
「ずるいねぇ君は。そうやって僕様にブレーキをかけるなんてさ。とっくに引き返せない
 ところまで来ているにも関わらず、だ。ミュラー君、忘れたのかな?」
答えるはベルファー、公国随一の天才にして狂人。
闇の中でもしかとミュラーを見つめ、言葉を続けた。自分自身にも言い聞かせるように。
「この選択は必然だよ、ミュラー君。そして僕様は君の選択に乗った、これ以上に理由
 は必要無いだろう?“彼”は滅びなければならない。世界の存亡を賭けた選択だ」
ミュラーは無言でベルファーの言葉を聞いている。しかし、その表情は苦い。
「獣人も既に気付いているだろうしね、早い内に動かないと我々に未来は無いよ?
 これは我々龍人が始末しなければならない問題だ。奴らには譲れないからねぇ」
「そう…でしたね。申し訳ありません、私はまだ迷っていたようです。我々にもう時間は
 残されていないというのに。“祖龍”の目覚めはなんとしても阻止しなければ…」
奥歯を噛み鴫り、ミュラーは一歩足を踏み出した。
信じられぬ程の重圧、息をするのもやっとな存在感に2人は負けじと進む。

祖龍、アンティノラ。
6星龍の母であり、全ての龍の眷属がやがて還る生命の根源。
遥か古の闘争に於いて獣人の平和を、繁栄を、一夜にして焼き払った源初の龍。
其はここに在った。
幾星霜の眠りに入り、再び目覚める時を待っているのだ。
獣人が聖地と称し、禁忌とする封印の地で。
セフィラの央であり果てであり、“世界樹の主(リーヴ・スラシル)”へと至る門の向こうで。

唯々、待っているのだ。
愚かしい我が子らを再び焼き払うその時を。
その為に祝福を与えたのだ。
天を司り、地を統べる“力”を。今一度の破壊と再生を齎す、大いなる祝福を…

彼の祝福を授かりし者、金色の龍鱗を持ち、6星龍の眷属たる龍人と竜を束ねる龍人王…

その者の名はギュンター=ドラグノフ。
183サブST ◆AankPiO8X. :2007/02/13(火) 09:01:07 0
−−ジャジャラ遺跡崩壊直前
「どうしたのだメイフィム。ここはもう崩れ去る、急ぐぞ」
差し延べた手を振り払ったメイを、訝し気な顔で見るグレッグス。
「ゴメン、ちょっと用事があるから先に行ってて。私なら平気、いざとなったらアカマガを使うし」
ひらひらと手を振って「行け」と促すメイ。グレッグスは渋々ながらそれに従った。

彼女は十剣者の中でも最強と呼ばれる存在だ。
地上500mの空中都市に、置き去りにしたところで死ぬ事など絶対に有り得ない。
最初は自分を処断するために残ったかと思ったが、どうやら違ったらしい。
グレッグスも、その“存在”が遺跡内部に侵入したのを感知したからだ。
だがメイならば問題は無いだろうと、グレッグスはヒューアを追って外へと跳んだ。

「さてと、あなたは一体何者かな?このセフィラの《記録(レコード)》には載ってないけど」
倒壊を続ける遺跡の通路の奥に向けて、メイは声を掛けた。
その瞳は先程までの穏和な雰囲気は微塵も残されてはおらず、鋭く磨がれた刄の如く。
「だんまりってのは良くないよ。答える気がないなら・・・実力行使になっちゃうけど」
ゆっくりと腰の剣に手を伸ばす。

「あら暴力反対ですわ、剣者メイフィム。いいえ・・・“使徒”メイフィムでしたわね」
通路の奥から現れたのは、透けるような白い肌に、艶やかに映える漆黒のドレス。
カツ・・・カツ・・・と音を立てるは、大小様々な歯車の付いた、鋲打ちのロングブーツか。

その姿にメイは眉を寄せた。あまりに似過ぎたその姿。
先程のエルフの少女、確かパルスといったか。まるで鏡に写したかのような酷似。
唯一の相違点は耳の形だった。やや短いその耳は、ハーフエルフである証だ。
一瞬メイはパルスの縁者かとも思ったが、明らかにそれは違う。
何故ならば目の前の少女は、このセフィラに“存在しない筈の存在”だったからだ。

セフィラの《記録》とは、文字通り世界における全ての事象を余す事なく記録したものだ。
メイはこのセフィラに来た際に、《最深部》より《記録》を与えられている。
つまり、このセフィラに存在する全ての生物を個体識別する事が可能なのだ。
にも関わらず、この少女に関する因果事象は、セフィラの《記録》には一切載っていないのだ。

どう考えても異常だ。メイは少しだけ距離を量り、即座に斬り掛かる間合いを引いた。
セフィラに侵入する異分子の排除、これも十剣者の任務だからである。
更に、この少女はメイの事を知っていた。“剣者”ではなく、後任の“使徒”である事を。
これは現在このセフィラではメイしか知らない事実だ。だが目の前でクスクスと笑う少女は知っていたのだ・・・

184パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/16(金) 00:23:03 0
うっそうと草木が生い茂った道なき道を進む!
先頭を行くラヴィちゃんの包丁が今日も冴え渡る!
そのすぐ後ろで、千切りになった植物をお鍋のフタで受け止めると……
「あら不思議☆ サラダの出来上がり♪」
お鍋のフタにこんもりと盛られた雑草サラダを後ろの三人にアピール。
「ンなもん食うな!」
レベッカちゃんの回し蹴りが器用にお鍋のフタに叩き込まれ、雑草サラダが宙に舞う!
「ねえバカ、いつまでこんなところ通るのよ!?」
回し蹴りの勢いでそのまま半回転し、ハイアット君に尋ねる。
「戦争に巻き込まれないようにできる限り短い距離を選んだらこうなった!
僕の計算にぬかりは無い!」
と、地図を広げたハイアット君。
「だからって未開の地を通る奴があるか!?ルート係クビだあああ!!」
「ひえええええ!?お助け!!」
連日の、まるで未開地探検のような道中にレベッカちゃんがついにキレた!!
ハイアット君を締め上げにかかる!
「レベッカさん、落ち着いてください!」
「戦争に巻き込まれたら恐いんだよぅ」
「そうそう、公国ってゴレムとかいうやつを使ってるらしいし!」
「ゴレムとは古代セレスティア文明が作り出した恐怖の兵器だ!
大型の馬車のような……そうだなあ、あんな感じ」
地響きとともに地面が激しく揺れ始めた。
ハイアット君が指差したほうから、片っ端から木を薙ぎ倒しながら
凄まじい存在感を持つ何かが近づいてくる!
「え!?」
さっきまでの和やかなムードは一瞬にして吹き飛び、場は緊迫感に包まれた!
「ゴレムキタ――ッ!!」
叫びつつもすっかりお馴染みになったフォーメーションを展開し、臨戦態勢に入る!
その時、ゴレムから声が聞こえてきた!
『マイクテストマイクテスト……よし、おっけいです!』
そこで少し間が開き、別の人の声になる。
『フハハハハ!!ゴレムを手に入れた我らの前では貴様らなど赤子同然!
その素晴らしい悪運も今日で終わり……年貢の納め時だ!
ただし我らの前に平伏して資金援助をするなら特別に許してやろう!』
その言葉が終わらないうちに
ゴレムから変な装置が出てきて、あさっての方向に向かってビームを乱射し始めた!!
『あれ?方向が違う!』
『ちょっと貸してみ。これか?』
変な装置ではなく本体ごと回り始めた。
『二人とも手を出すな!こっちだって!』
今度は後ろに向かって急発進した。
『○×△□☆!!!』
車内で内戦が勃発したようだ。こんな時にとるべき行動はただ一つ。
「さあ、行こうか!」
何事も無かったようにみんなに爽やかに声をかけた。
185ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/16(金) 02:36:23 O
突然現れて突然仲間割れを始めたゴレムさん、これってチャンスだよね?
「あんなに早く走れるならアレ貰っちゃおうよ」
あぁーッ!!ラヴィが言おうとしたのにぃ!!レベッカちゃんに先を越されたよう!!
「ちょ!?あれはゴレムっていうヤバイ兵器なんだってば!!危ないよホントに」
ハッちゃんがササッと木の影に隠れながらそう言うものの・・・
「なるほど、それは名案かもしれませんね。おそらく中身は例によって彼らでしょうし」
キュピーン!
アクア姉さんの目が光るよう。歩くのにみんな疲れているから、楽したいんだね♪

「そうと決まれば速攻あるのみ!!行くよッ!!」
パルちゃんが剣をスラリと抜いて猛ダッシュ!アクア姉さんもそれに続くよ。
もちろんラヴィだって遅れる訳にはいかないし、東雲を取出して大きく背後に回り込む!
中に乗ってる人達を外に出しちゃえば、いくら怖い兵器でも単なるガラクタだよぅ♪
「とりゃああああああ!!!」
ふわりと華麗にジャンプしてゴレムの上に飛び乗ったパルちゃんが剣をテキトーに突き刺す!
「おわぁ!?ヤバイヤバイヤバイ!!こんな事してる場合じゃねーよ!!ビーム撃てビーム!」
「ちょ!?弾切れなんだってばよ!?さっきのでからっぽだよコレ!!」
「なんだとッ!!!?」
「うわッ!なんか入って来た!!なんじゃこりゃあ!!」
隙間からアクア姉さんが身体を軟化させて侵入したみたい。
パルちゃんも容赦なく剣を『黒ヒゲ危機一髪』的なノリで突き刺し続けてる。
ゴレムの中は阿鼻叫喚の地獄絵図になっちゃいました♪
「これかな?」
後ろからラヴィとレベッカちゃんはドアの開き方を探してたけど・・・中々見付からないよぅ。

もう面倒臭いから・・・斬っちゃおうか♪そーれッ!!!
 ギィーン!!
東雲の一閃がドアの開閉部分を一刀両断すると、やっぱりボロボロになった例の4人組。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、一斉に転がり出て来たお。


「マジでスイマセン・・・出来心だったんです。ホントにもうしませんから・・・」
「「「「 殺 さ な い で !!」」」」
泣きながら命乞いする4人組を、縄できつく縛り上げたけど困ったよぅ・・・・。
「また性懲りもなくやってくるんじゃないの?えぇコラ!?」
みんなでギロリと一睨み。なんだよぅ!!
186アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:54:40 0
行軍一日目夜。
レジスタンス部隊は主だった者を集め、作戦会議を開いていた。
軍議には参加したことのないアビサルだったが、今日はその中央にいる。
なぜならば、この軍議はアビサルの要請によって開かれたものだから。

ソーニャが会議の口火を切り、これからの進路を指し示すと周りからは一斉に反論が吹き上がる。
それも当然だった。
ゴレムの足でこのまま直進すればロックブリッジまで5日で到着する。
にもかかわらず、示された進路は中原を大きく南へ下り迂回したルートだからだ。
このルートでは2週間以上はかかる。
反論が吹き荒れる中、ソーニャの脇から歩み出るは縦目仮面を被ったアビサル。

その異様な風体に反論の中にどよめきが混じるが、それに応えることなく術を行使した。
太極天球儀が展開し、ゼアド大陸の地図が映し出される。
精密な立体映像が10畳ほどの大きさで。

########################################

「みなさん、これが今の状況です。この黒い星が私達と王国軍。白い星が公国軍です。」
地図上に点在する白い星、すなわち公国軍部隊の場所とロックブリッジ。
そして現在地を考えれば、なるほど最初のソーニャの言った通りのルートなら接触せずに済む。
とはいえ、それでもその行程は時間がかかりすぎる。

その声にそっと中原中央に点滅する黒い星と、ロイトン沖に金色の星を伴う白い星を指し示して
応えるアビサル。。
「この星は暁旅団の皆さんです。そしてこちらがロックブリッジに向かう公国軍。
公国軍は各地を回って兵士を集めながら行軍。編成しながらですとどうしても足は遅くなります。
更にここ。何らかの力場によってライン大河の一部が溢れ中原へと流れています。
この影響でライン大河沿いに進軍する公国軍は大幅な迂回を余儀なくされる。
そんな中、空中からの牽制を受けることにより行進速度は無いも同然。
僕の計算に依れば公国軍より三日前にロックブリッジに到達できます。」
「公国には飛竜部隊ってのがあってな、暁の連中の空中優位性ってのはないも同然なんだがな?
それに連中エフルの部隊だろ?霊法が使えなくなったそうじゃないか。それでどれだけ足止めでき
るよ。」
「飛竜部隊は来ません。少なくとも僕たちが公国軍に接触するまでは。」
反論する傭兵の男に断言してガナンを指し示す。

ガナンには赤色の星が揺らめいている。
「巨凶星に不穏な動きがあります。この影響で飛竜部隊の出発が遅れることになります。」
それなら北ルートの方が更に早い、という声が上がる。
小さく首を振りながら手をかざすと、地図上の光点が様々に動き出す。
地図上の時間を進めているのだ。

中原に輝く白く大きな星が、ガルム要塞に輝く黒い星と青色の伴星に押されるように後退していく。
「このように、公国軍が後退してくるので接触する事になります。
後退しているにもかかわらず星気の衰えが見えない。ですから北ルートは通れません。」
「・・・この位置ってことはこの星は公国軍主力部隊!リオネの部隊だろ!?で、こっちはガルム要塞。
いくら猛虎聖騎士団四万といってもこんな風に後退させられるわけねえだろ。」
リオネの武勇は既にゼアド大陸全土に響き渡っている。
それが敗走するとは考えられないほどに。
その言葉が発端となりアビサルの情報が正しいかどうか、という根本的な疑問が軍議参加者達の間に
生まれ始めた。
187アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:55:21 0
ざわつく一同にソーニャが口を開こうとするが、振り向きもせずに片手で制し、言葉を綴る。
「先ほどのライン大河の溢れた行き先が中原はガルム要塞。おそらくこれが戦局に関係しているとは
思いますが・・・。
あなた方の疑問ももっともです。では証を見せましょう。上を見てください。一瞬だけですよ?」
言われるままに見上げる傭兵、レジスタンス達から言葉が発せられたのは【それ】を見た数秒後だった。
余りにもありえないことを目の当たりにすると人は言葉を失う。
まさにその状態。

【それ】は夜空に輝く月だったもの。
一瞬ではあるが、その月に一線が走り、瞼を開いた巨大な一眼となり地上を見下ろしたのだ。
「僕の眼は義眼です。本来の眼は見たとおり、星界にある【星の眼】として地上の全てを見ることができ
ます。
さらに星辰の動きによって未来を測定できます。
これが黄道聖星術の秘術。もはや占いではなく、厳然たる事実なのです。」
「みんな見たかい。こいつの言う事の正確なのはこの【炎の爪】ソーニャが保証する。
こいつを羅針盤にしてロックブリッジを目指す。いいね!?」
詭弁によって巻かれ、驚きで心が空白になったところでソーニャが畳み込むように宣言すると、もはや
異論を挟む者はいなかった。
ロックブリッジに戦える状態で公国軍より早く到着する。
これが絶対条件なのだ。
斥候を放ち、戦闘を重ねながら行くのも時間的には変わらないかもしれない。
だとすれば頼れるものには頼っておこう、といった思惑も重なっての事なのだが・・・。
「よっし、じゃあ進路は頭に叩き込んだね。明日は早くから出発するから今のうちに休んどきな。」
こうして軍議は終了し、各自テントや持ち場へと帰っていった。

「・・・アビサル、あの月、あんたの術なのかい?それとも・・・本当の・・・?」
散会したあと、そっとソーニャがたずねるがアビサルは仮面をとらず、応える事もなくテントに向かって歩く。
(・・より大き・・・な・・・狂気のた・・め・・・に・・・)
自覚できない心の声に気をとられていたが故に。

###########################################

翌日から迂回ルートによる行軍が始まった。
曲がりくねり、整備されていない険しい道が続くため行軍速度も上がらない。
過ぎる時間に兵士達の間には焦りと苛立ちが募るが、それでも辛抱強く行軍を続ける。
その間、力を使い果たし寝込んでしまっているアビサルは見ていた。
暁旅団がロンデル率いる西部方面軍混成部隊に奇襲をかけるところを。
ガナンでグレナディアが起動し、大混乱に陥るところを。
【海】の出現によってリオネが撤退の一途を辿る事を。
全ては星辰の示す通りに事態は動いていく。

そしてルフォンを経ってから17日目。ロックブリッジより数十キロの地点にて、西部方面軍混成部隊確認の
報を斥候のスカウトからもたらされた。
この日接触する事は既に占われており、行動も事前に打ち合わせは済まされていた。
新型ゴレムで公国軍認識信号をあげながら接近し攻撃。
この奇襲によってロックブリッジ攻防戦は幕をあげたのだった。
188アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:55:33 0
数の上では公国軍が圧倒していたが、兵を集めながらの行軍に空からの一撃離脱の強襲に悩まされて、
指揮系統も徹底しきれていない混成部隊。
奇襲で出鼻をくじかれ、要請した飛竜部隊の到着も遅れて士気は下がっていた。
一方、レジスタンス部隊は後続の獅子十字騎士団の到達まで時間を稼げばよい。
到着すれば挟撃して一気に勝利を収める事ができるだろう。
ゲリラ戦を織り交ぜた遅延戦闘でじりじりと戦線を下げながらの戦いが続いていた。

##########################################

戦闘が始まってから5日目。
西部方面軍混成部隊本陣の指揮官テントに二人の人物が向き合っていた。
「・・・随分と手こずっているね、鋼鉄の虎殿?」
テーブルを挟んで向かい側で紅茶を啜る男の呟きはロンデルのこめかみに血管が浮かび上がる。
「明日には飛竜部隊が到着するとの報が来た。これで一気に畳み掛けられる。
あなたが手を貸してくれていればもっと早くにお互いの目的は達せられたでしょうがな。」
愚痴の一つや二つこぼれてしまうというものだ。

フードを目深に被り、その顔すら未だ見えないでいるが、その力をまざまざと見せ付けられた。
ロイトン沖、海中遺跡マイラを浮上させたあの光景は未だにロンデルの脳裏に焼きついている。
この男はセレスティア復活の為に自分に協力を申し出たはずなのだ。
メロメーロ、この男の言うところの地の三角が一つ地底都市イルシュナーを落とし、ドラグノフ公国の世界制
覇をなすために。
なのにこの男は今に至るまで一切の戦闘をしようとはしない。
「僕には僕にしかできない事があるのさ。お互い役目は弁えようじゃないか。
なあに、目的は同じ、龍人の世界のために、さ。」
ローブのおかげで顔は見えないが、その身から溢れ出る狂気は隠しきれない。
穏やかな言葉の端々から感じるそれにロンデルは背を向け、テントからかすかに見えるメロメーロの光に眼
を向けた。
半年前、黒騎士ディオールと共に同じ光景を見たことが随分と昔のように思えてならなかった。
189ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/18(日) 04:30:41 0
謎に満ちた少女。余りに異質な存在感にメイは神経を研ぎ澄まし、何時でも攻撃に転じる体勢を整える。
少女の存在は《記録》には無かったが、少女の身に着けたブーツには《記録》が在った。
正確にはブーツそのものではない。そのブーツに取り付けられた歯車に、だ。
「ワタクシは貴女と争うつもりはございませんわよ?」
余裕の笑みにメイは少々苛立った。彼女は何度となく異界からの侵略者を退けてきた守護者だ。
しかし目の前の少女は、これまで戦ってきたどの存在よりも危険だと、歴戦の勘が告げる。

じり…と間合いを狭め、メイは少女に問い掛ける。
「あなたの目的は何かしら、“そんなもの”を持ってるのに“たまたま居合わせた”なんて事はないよね?」
「勿論ですわ。ワタクシは確認する為に此処へ来たんですもの。ちゃんと“彼”がこの時代に居るかどうか」
そう言うと手に持った紅い日傘をふわりと広げる。同時に足の歯車の1つが回転を始めた。
「このままでは崩れてしまうわ、なんとかして頂戴…エプロサル」
遺跡内部に生い茂る蔦が、少女の声に応えるが如く一斉に動きだしたではないか!
蔦は爆発的な速度で増殖と成長を繰り返し、瞬く間に崩壊する遺跡をまるごと縛り上げていく。
「これでもう少しの間はお話ができますわね」
遺跡中に広がった蔦を愛おしい様に撫で、少女はメイへと振り向き微笑んだ。
桜色の美しい唇が弧を描き、翡翠の瞳は揺れる事なくメイを真っ直ぐに見据えている。

精霊。この時代には存在しない筈の力が、現実にメイの前に広がっている。
世界律の変化と、《根源》の消失によって精霊は完全にこのセフィラから消え去った筈だった。
だが今ここに精霊の力が働いている。植物の精霊力が満ち溢れ、蔦を媒介に実体化しているのだ。
どう考えても有り得ない出来事だった。
「確か、アニマ…だよね?これって。封印されて以来、誰にも渡ってない技術の筈が…
 今こうしてあなたのものになってる。どうやら、あなたの正体が判ったわ…」
自分の考えに寒気立ったが、そうとしか考えられない。《記録》に干渉無く失われた技術を持つ者…
則ち歴史の空白を行き来する事が可能な存在。
「あなた、この時代よりも未来から来た。そうでしょ?なら《記録》は白紙の状態だもの
 あなたの存在が一切記されていなかったのにも納得できるわ」
「だとすると、一体どうなさるおつもりですの?」
「決まってる…ここで消去する!!」
それはまさに光速、光よりも速く間合いを消して腰の二刀を閃かせる。
回避する事など到底不可能。人は光よりも速く動く事は出来ないからである。当然の結果だ。

だからこそメイは次の瞬間、致命的な隙を作ってしまった。当たらなかったのだ。
絶対に当たる筈だった攻撃が、紙一重で避けられた事実に戸惑ってしまったのだ。
(今のは確実に私が速かった、…なのにどうして!?)
「ふふ…今の攻撃は確実自分の方が速かった、とか思っていますわね?」
声はすぐ耳元で聞こえた。目の前の少女は瞬間移動としか思えぬ速度でメイの隣に移動している。
「貴女は確かに強い。けれども、ワタクシには絶対に勝てない…」
死の宣告にも等しい一言が鋭い痛みを伴い、メイの脇腹にて爆ぜ割れて…弾き飛ばされた。
創造から初めての“痛み”にメイは声にならない悲鳴を上げ、壁を突き破り悶える。
「じ……時…間…を停め…た…」
肺の空気を搾り出すかの様に口にしたメイの台詞は、少女の表情に深い愉悦を浮かばせる。
そう、少女は時の流れを“停止させた”のだ。
彼女の持つ《アニマ》、《烈風のフィーヴルム》の能力…時界域支配の成せる業である。
190ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/18(日) 04:32:35 0
「抜いたらどうですの?“三本目”は飾りではないでしょうに」
またもやメイの知覚反応速度を越える移動により、少女が攻撃を繰り出す。
十剣者の持つ絶対結界は、自身に攻撃が加えられる瞬間にのみ展開されるシステムだ。
つまり、時を止め結界が発生する前に直接攻撃をされたら十剣者といえダメージを受ける。
「…こんなに酷い敵は…初めてかも……」
息も絶え絶えにメイは少女を見る。
三本目、則ち使徒に与えられる特別な剣の存在まで知っているとは。
この少女はどこまで知っているのか。おそらく剣の能力も既に知っているのだろう。
どう考えてもメイの不利は動かない。かつてない強敵に、メイはいつの間にか笑っていた。

戦う為だけに創られた人形、戦う事だけが存在理由、ならば戦う相手が強ければ強い程に…
メイの心は燃え上がる!ようやく巡り逢えたのだ。
数多の戦いを経て、自身の奥底に秘めた“飢え”を満たしてくれる強敵に…巡り逢えたのだ。
「あはは…まいったなぁ…楽しくなってきちゃった♪『削り取れ、アカマガ!!』」
2本の刀身が主の声に応え、その姿を変えた。目に見えぬ程に細い、無数の繊維状の刃。
十剣者の剣能力で最凶の性能を誇るアカマガ、その刃は触れた物質を『根底から否定する』

それは僅か一瞬の出来事であった。
遺跡内の空気を始め、あらゆる物質が消滅を開始したのだ。床も壁も全てが“削り取られ”ていく。
「アニマは精霊と同じ法則で起動する以上、媒介となる事象が無ければ起動出来ない!
 甘かったわね、私に少し時間を許し過ぎたんじゃない?」
凄まじい速度で“無”が広がっていく。あらゆる存在の繋がりを根底から断ち消し去る。
アカマガの刃は少女を捉らえ、その体を巻き込み消滅させた。
伸縮自在、数万にも及ぶ繊維状の刃から逃げる事は難しい。
遺跡のほぼ半分近くを消し去ると、メイはアカマガを元の姿に戻して鞘に納めた。
もう何処にも少女の存在は感じられない。決着したと溜息を吐いた途端、メイの腹が裂けた。

突然過ぎる余り、何が起きているのか理解するまでにたっぷり数秒の時間を要した。
アカマガによって消滅した筈の遺跡が、“何事もなかった”かのように存在しているではないか。
「だから“三本目”を抜けばよかったのに。人の親切を無駄にしてはいけませんわよ?」
涼しい声に全くの無傷、少女が相変わらず余裕の笑みでそこに立っていた。
「何をされたか、まるで理解出来ないみたいでしょうから、ちょっぴり教えて差し上げますわ」
そう言うと少女の歯車の1つが回転する。次の瞬間には辺りの景色がさらに変わり始める。


「ワタクシは貴女と争うつもりはございませんわよ?」
余裕の笑みにメイは少々苛立った。彼女は何度となく異界からの侵略者を退けてきた守護者だ。
「これで3回目ですわねぇ…3度目の正直という言葉もございますし、ワタクシも用事が
 山ほど残っておりますので…そろそろ失礼させていただきましょうか」
「何を言ってるのかよく分からないけど、あなたは危険だわ。ここで排除する!」
それはまさに光速、光よりも速く間合いを消して腰の二刀を閃かせる。
勿論、その攻撃は当たる事はなかった。
「お馬鹿さん、いい加減に気付いてもいい頃ですのにね。まぁ“彼”がちゃんとこの時代に
 来ているのが確認できたし、歴史は変動を始めたようですわね…」
そう呟く少女の長い髪の端が、ノイズの走ったかのようにぼやけて明滅した。
未来が確定状態でなくなった為である。しかしながら、完全な変動には程遠いようだった。
少女の存在が抹消されないのが、なによりの証拠である。

「さてと、ドゥエルが心配ですわ。あの子泣き虫だから、泣いてるかも…」
全てが静止した時間の中で、優雅に傘を広げると少女は軽やかな足取りで歩き始めた。
191レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/02/18(日) 07:49:07 O
こいつら…本当に懲りない連中だなぁ。呆れるのを通り越して感心しちゃうよ。
「愛について教えを説きましょう。先ずは…」
どうやらアクアさんの『必殺!愛の説法(殺法?)』が始まったようだ。かわいそうに…
「ぎゃあああああ!!愛関係ないコレ愛関係ない痛痛いッ!!!」
腕の間接はがっちりホールド決まってるし、逃げようにもロープで足を縛られてる。
こりゃ改心する前に命がもたないんじゃないかな?

30分後、一通りの説法(殺法?)を終えてアクアさんが戻ってきたから作戦会議開始。
アタシ達が進んでるルートは道無き道。当然ながら町や村からもかなり外れてる。
食料は現地調達も含めてボボガ族の村で用意した物があるから平気として…
問題は十字街道にぶち当たる所だ。
この辺は現在激戦区域らしく、アタシ達はより慎重に進まなきゃならない。
時間を無駄にできないので、一気に突破する必要があった。戦争に巻き込まれるのは嫌だし。
これに関してはみんな同意見だった。今は一刻も早くハインツェルを追い掛けないと。
「という訳でセプタの街から南西に抜けて街道を横切るのはどうでしょうか」

アクアさんの提案は至極明快だった。
確かにこのルートならギリギリまで人目に付かずに移動できる。
戦線も街からライン大河にかけて伸びてない限りは、もっとも安全な道順だといえた。


で、今のアタシ達は戦線のド真ん中にいる。
そう…まさかの公国軍が自陣を大幅に引き下げたために、バッチリ巻き込まれたって訳。
アタシ達はソッコーで捕まって、現在捕虜として軟禁されちゃってるのよ。最悪だよね。
「うぅ…なんで俺達まで捕まるんだ!?」
リーダーのトムが半泣きで愚痴った。そりゃアンタ達は犯罪者なんだから当然でしょうが。
「けれど…これは予想GUYだよ…こんな所で足止めくらうなんて」
ハイアットもすっかり意気消沈している。いや、ハイアットだけじゃない。みんなもだ。
「どうにかして脱出できないかなぁ…」
パルがテントの外を見回して溜め息。外には見張りの兵士が2人。その他にも数人がうろうろ。
「まいったね、武器は取り上げられちゃってるし…どうしよう。なんか良いアイデアない?」
そう言ってパルがこっちに振り返ったその時、外で何か騒ぎが起こったようだ。

これは…脱出のチャンスかな?
192朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:45:01 0

八つ裂きにされた歩哨の死体を、「ゼロ」のホビットが三人がかりで酒樽へぶち込む。

木樽から溢れたエール酒が地面の血だまりを、テントの周りに掘られた樋へと押し流す。
と一緒に、誰かの欠けた親指が泥水に浮かんだ。打ち合いの最中で、剣の柄ごと落とされたものだろう。
三人が黙々と設える死体のアルコール浸けは、見せしめとして他の部隊へ送り付ける荷物だ。
ホビットたちの血生臭い所業に、アンナは微かな親近感を覚えた。

襲われた公国軍夜営地は本陣から離れた小規模の部隊で、
且つ練度の低い民兵でもあった為、奇襲への反撃能力は無きに等しい。
しかしそれを差し引いたとしても、今回の夜襲は「ゼロ」の闘士の秀でた戦闘力のみが為し得る早業。
襲撃は十分足らずで決着、味方側に死傷者は居らず敵の取りこぼしもなし。
おまけに戦闘に火を使わない彼らの物資回収率は高かった。
驚いた事に、夜襲部隊の殆どが年端も行かぬ少年たち。
ホビット故の外見は勿論の事、実年齢も十五を越える者が居ない。
一糸乱れぬ統制で、家畜でも潰すように淡々と人間を屠るホビットたちの姿は無気味なものだ。
アンナは過剰殺傷がお家芸と評判の「ジェイコブズラダー」頭目レインにこそ、むしろ人間味を感じたくらいだった。

そのレインは敵を仕留めたばかりで未だ温かい血の滴る青龍刀を手に、テントを回って追剥ぎを監督している。
レインの義兄ジェリーも、今頃は目的のテントを訪問しているだろうが
八年振りの「親友」との再会を前にして、アンナには精神統一が必要だった。
立ったその場で忙しなく足踏みするアンナ、一動作毎に靴裏で、横たわる公国軍兵士の頭を踏みしだく。
ぐしゃぐしゃに骨を砕かれた男の首は盆の窪から下がおかしな角度に曲がり、砂に頬擦りする顔は早や生気も失せている。

公国軍の兵を踏みつけにして佇む彼女、
革鎧にデニム地のズボン、薄汚れてえび茶色のマントとカウボーイハットの女剣士は狩人アンナ。
猟理人見習改め始末屋、人肉捌きの「朱包丁」。今日は革長靴の上段蹴り一撃で兵隊を殺した。
折角の包丁は使わないのかとレインにからかわれたが、元猟理人だからと言って
殺しに毎度包丁を使わねばならない義理があるでもなし。殺し屋として名の知れた今、むしろ使わぬ有利が大きい。
猟理人鉄の掟を破りながら、師の教えを私闘に用いた事に対する気後れなどは既に消えている。
人も魔物もいずれ同じ肉ならば捌き方は然して違わず、知恵ある敵の狩り方に少しばかり工夫を積むだけ。
獲物に合わせて道具を変えるのも猟理の基礎であり、処世の知恵だ。
鎧を着込んだ人間相手に猟理包丁は決して最適な武器とは言い難く、アンナの昔の腕が生きるのは専ら敵を殺してから。
見せしめに人肉を調理して、皿と並べてみせるのが彼女の得意であり看板仕事。
193朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:46:07 0

「姉さん」
アルコール浸けの係りをしていたホビットの一人がアンナの元へ駆けつけて、樽の盛り付けについての意見を求めた。
「中身が一人だと結構空きがあるんだけど。もうニ、三個首を浸けるとかしたらいけないかな?」
ホビットが、近くに転がっていた別の死体を指差す。
仰向けになった一体は喉笛がぱっくりと裂かれている。首を完全に切り離すのは簡単だが、
細かな部品をぎゅうぎゅうと詰めてはかえって訳が分からなくなる。単体で、全身をしっかり沈められるのが適当だろう。
「他を混ぜるとちょっとうるさいし、下品に見えるな。このままが格好いいんじゃない?」
軽い身振り手振りを交えながら、素材の配置に関する簡単なアドバイスも加える。
アンナの料理にしても、調理過程で死肉から、およそ人格を想像させ得る要素を取り除けていくのは簡単で味気ない。
元来の造形を著しく歪めてありながら、同時に材料が人体であると明確に表現する事こそが、
完成品に強いグロテスクの属性を負わせる秘訣とアンナは信じている。

「ありがとう。で、姉さんが仕留めたソイツ、きっと隊長じゃないかな?」
ホビットの少年が言うのは、アンナが踏み付けている兵士の死体だ。
身なりが派手だし、鎧の背の紋章も他の死体と違う。アンナは足を上げて見た。
「みたいね」
アンナが退くと、少年が伏せて這い寄って、太刀と脇差のナイフを腰から抜いて調べた。
死体が剣を佩いたままなのは、抜く間を与えず蹴り殺された為だ。
剣の護拳の装飾を値踏みした少年が、アンナへ歓喜の口笛で知らせる。
「やっぱり物持ちいいよ。耳は取らない?」
「数珠は作ってないから要らない。あなたが持ってったら? 荷物も」
少年は頭を掻いた。気弱に笑み、名残惜しそうに死体から離れると
「遠慮しとく。俺が殺したのでもないのに、ずるいからね」
樽が仕上がり、方々のキャンプでも宝探しを終えた子供たちが口笛で合図し合う。
アンナは身を屈めて隊長の腰巾着を拾い、金貨を一枚抜くと少年へ投げ遣った。
少年はぺこりとお辞儀して、仲間の元へ走っていく。後へ残す血糊の靴跡がなければまるで何処かの村の子供だ。
果たして――ラヴィに出会わなければ、自分の他に
こうして流す血を持った人々の在る事も知らぬままに、全てを終えていただろう。
194朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:47:10 0

酒樽に押し込まれた公国軍の歩哨は、今夜の襲撃の犠牲者第一号だ。
滲み出す血で、満杯の安酒が真っ赤に濁る。樽が揺れるたび、皮一枚で繋がった首が酒の中で泳いだ。
彼ら民兵も恐らくは王国領の生まれだろうに、ジェリーは「故郷を裏切り蹂躙した醜行の報いだ」と言う。
軍務そっちのけで略奪に奔走する民兵隊への憎悪が口走らせたにしても、
ホビット流民の子にしてはあまり皮肉な物言いだから、聞くたびアンナは笑いを噛み殺す。

ホビットは悩まない。
社会生活のしがらみを嫌い、自由人である事を何よりも尊ぶという種族のアイデンティティさえ、
三百年前の戦争で駆り立てられた一日で捨て去ってしまえる柔軟さ。
それとも本能的な生への執着が、千変万化する環境への適応を強いるのだろうか。
かつて安住を許された筈の世界から爪弾きにされる、流刑者の身の上はアンナの同情を誘った。
骨の髄からホビットという生き方を愛する親友からは遠くて、逆に奇形(フリークス)の「ゼロ」が自分に近い。
修行時代の癖で一本を除いて研ぎを続けている、師匠の形見の黒包丁。
捨てるに捨てられない調理器具を持て余す自分を嘲ったレインに、親しみこそすれ憎めなかった理由はそれだ。

クラーリア王国特派員からの暗殺依頼を受け、アンナはレイン、ジェリーの兄弟、そして「ゼロ」と組んだ。
獲物が自分の知り合いだと打ち明けるなり、兄弟は「良い巡り合わせ」と彼女を歓迎する。
何処の馬の骨とも知れない殺し屋に行き当たるより、見知った人間に殺される方が相手も成仏できるだろう、と。
アンナにとっては出口の無いままに八年抱え続けだった愛憎をぶちまける最後の機会。アンナの自覚はおぼろげだが――
ラヴィの名を聞いた時、確かに手中の「鉄朱(てつあか)」が疼いた。彼女は衝動の赴くままに従い、依頼を承諾した。
テントでジェリーと話し込む、耳触りも懐かしい八年来の声。
アンナの肩を越さない長さで切り揃えられた金髪が夜風になびく。
顔を向けた先に、レインが青龍刀とランタンを掲げて立っていた。
「さあ、揃えたぜ。ウチはてっぺんからケツまでガキばっかりだが、ちゃんとやれたろ」
頷く。レインが乱杭歯を剥き出しにして笑う。彼は梨顔のジェリーと好対照の、吊り上った顔付きをしていた。
眉の傷で引き攣る右目じりや、うなじで一本にまとめたドレッドヘアが顔の細さを際立たせ、
暗がりに銅色の肌がくすんでみえるお陰で、今夜は特にホビットらしからぬ面相を現す。
「連中の荷物は森に隠した。で、流石に包丁使うんだろ?」
「どうして? 丘の荷馬車に置いて来たわよ」
「まあいいさ。首級は猟理人の分だけ持ち帰るのか?」
「その通り」
「人肉は日持ちが悪いからな。行こうぜ」
二人は、夜営の真中に設けられた広場へと歩いていった。
195朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:48:36 0

広場の焚火の回りには「ゼロ」と共に、公国軍に囚われていた冒険者一行も集められていた。
「ホビットさんたち、レジスタンスの人?」
不安げな面持ちでパルスが尋ねる。一行は公国軍に捕縛された時のまま、縄に繋がれていた。
ひざまずいた姿勢の彼ら、一人ひとりの背後に「ゼロ」が立ち、抜き身の剣をちらつかせる。
「まさか、盗賊だよ。僕らは王国軍と契約してるんだ」
ジェリーが愛想良く質問に答える。
見る者に一片の敵意も感じさせない穏やかな表情だが、視線は常にラヴィに据えられ、ぶれる様子が全くない。
「でも、みんな……まだ子供だよぅ!?」
ラヴィの叫びに、思わず顔を見合わせるハイアットとレベッカ。
「みんなラヴィちゃんと同じくらいに見えるんだけど……」

四人の盗賊は恨みがましくジェリーを睨む。
キノコ狩りのブタよろしくと、彼らにゴレムを渡したのはジェリーだった。
「縄を解けないってどういう事だよ!? お前、騙したな!?」
「あんたら、子供か」
子供にそう言われてトムは一変、意気消沈する。
「月並みな言葉だけど、恨みはないよ。君らには悪いが」
「こんな事してる場合じゃないんだよ!」
「僕はこんな事してる場合なんだ、レベッカさん」
「つけてたのか……」
「そこの四人が」
レベッカに睨まれ、また一段と恐縮する四人組。一行には武器もなく、逃げ場もない。
苦々しく地面を見詰めるばかりの数分が過ぎると、アンナとレインの二人が広場へ訪れた。
アンナを見て唖然とするラヴィだったが、一方のアンナは無表情に彼女を見下ろすと、
「仕事が済んだわね」
「まだだよ、まだ生きてる」
レインがラヴィの後ろに回り、青龍刀の白刃を首筋へ押し当てる。身を逸らして逃げるラヴィは
「アンナちゃん、どうして……今更何がどうだっての!?」
「姉御、自分でやるか?」
「いいわ。やって」

「待てよ、一人足りない」
ジェリーの言葉に、レインの青龍刀が振り上げられたまま止まった。
すかさずその場の全員が、縛された人間の数を目で、指で数え始める。一人足りない。
繋がれているのはレベッカ、パルス、ラヴィ、ハイアット、四人組。
ぐるりと囲む五、六十人ばかりのホビットたち。レイン、ジェリー兄弟、アンナ。
「アクアさんかな?」
「アクアさんだね」
「縄抜けできたんだ?」
「スライムだもんね」
196朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:49:14 0

小兵に似つかわしくない声量で、ジェリーが怒号する。
「結界を急げ、誰も入れるな!」
たちまちに「ゼロ」が散開するが、早くも茂みの奥で悲鳴が上がる。
鞭のしなるような音と共に、ひとりのホビットの身体が森から広場へ投げ出された。
折れた剣が後から放り込まれ、遂に満を持して真打ちが登場する。
「愛の足りない、子供たち……」
現れた修道女は両の拳を重ねて握り締め、指の関節を鳴らす真似をしてみせた。
三節棍を手にしたジェリーと「ゼロ」がずいと歩み出て、女を迎え撃つ。
その間に、広場でレインが青龍刀を振るう。
彼は縛られたままのラヴィたちを人質に、アクアの動きを封じようとしたのだ。
「仲間を見殺しにはしまい」
ラヴィが目敏く、気の逸れたホビットのだらしなくぶら下げられた刀を見付けた。
素早く転がり込み、自ずから刃へ体を晒す。ホビットは慌てて刀を打ち払った拍子に、彼女の縄を切ってしまった。
レインが青龍刀で斬りかかろうとするも、ラヴィが部下と縺れ合っていて狙いが定まらない。
躊躇している彼の背中にハイアットが頭突きを喰らわせ、隙と見てラヴィはアクアと反対側の茂みへ駆けた。
「必ず! 助けに戻るから!」
そう仲間へ告げて走り去ったラヴィを、アンナが追う。ラヴィの逃げた方向は森の外れ、小高い丘へと続く道だ。

アンナは行きがかりに、「ゼロ」の荷馬車から包丁を二本取った。
一本は師匠の四番包丁、もう一本は刃渡り二メートル超のマグロ裂き大刀「鉄朱」。
八年前から唯一研がれていない、アンナの得物の六番包丁。巻かれていた布が落ち、赤錆に覆われた刀身が晒しになる。
何故咄嗟に二本取ってしまったのか、走りながらアンナは考えた。
しかし答えの出ないまますぐに森は開け、月明かりに照らされた丘へラヴィに追い着く。
野営地では、激しい殺陣の行われている事だろう。殴り合う修道女とホビットの、荒ぶる声。
197オザワ:2007/02/20(火) 23:08:14 0

      ,-‐-.、     ⊂⊃  _.,-‐-、
     /    `` ‐。 /⌒ヽ_´     \
   // ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ヽゝ \  <良コテのみんながんばるお〜
  / (/(/(ソソノ(/ / † ノ へ/ゝソソヽ\,\   
 (/(/丿`' ⌒   ( ヽノ       .⌒''ヽ)\.)
            ノ>ノ
            レレ
198アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/02/22(木) 00:12:49 0
赤き、赤き月夜よ、何故、幼き心を狂気に駆り立てたのか・・・・・愛が足りなかったと言うのならお教え致しましょう。

じりじりと包囲を縮める集団、数はまずは4,5人程といった所でございましょうか。その手には各々獲物を携えておりました。
そして、前と後ろからまずは二人踊りかかってまいりました。わが身を一旦屈め反動で空高く飛び上がり両方に蹴りを見舞います。
いつもでしたら大抵はここで気絶するか、うろたえるものなのですが、今までの相手と違い相当訓練されているのか、動じる事なく、
体勢を整え、包囲に戻ってまいりました。

静寂・・・・・そして一瞬の緊張、風が吹いたその瞬間に、怒声が響き、一斉に襲い掛かってまいりました。

剣をかわし、相手の体に拳を沈めては掴み投げ、フレイルの打撃を受け止め、そのまま投げ飛ばし、気勢を張り上げ、
服が裂け、鎧を割り、相手の正体を認識し、認識され、怯むことなく尚、一人として折れる事なく向かい来る錬度の高き闘士達、惜しむは愛が無き事で御座います。
それにまだ気がつかれてはなりません、私は密かに体の一部を周囲に広げておりました。
そして、好機が訪れました。相手側が埒があかぬと感じたのか一旦陣形を組みなおそうと攻撃の手を休めたので御座います。
その瞬間、その背後に、全面に、左に右に、人影が出現したので御座います。そして一瞬の隙を突き、相手を絡め取り、間接を極めます。
実は、この人影、全て私の体で御座います。密かに足元から形状変化の応用で周辺に体を張り巡らして、そこから分身を出したので御座います。
しかし、分身ですから長くは力が持たないでしょう。本当の狙いは、これからで御座います。
相手を捕まえたまま、体に一気に元に戻します。引き込まれる力、そして、ぶつかり合う衝撃、さらに、

「愛の足りぬ 子供達よ、愛をお教えしましょう!!スリダブが奥義が1つ 剛熊碗激極!!」
足りないのならば愛を持って抱きしめましょう、力いっぱい、力の続く限り!!

それとは別に私は体を一部のみ気がつかれぬようパルスさん達の方へ伸ばしておりました。
199ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/23(金) 15:30:44 0
   ***************8年前***************

「どうして貴女なのよ・・・私の方が優れているのに!!」
辺りを覆う燃え盛る炎を映し、血の涙にも見える瞳から流れ落ちた一筋。
その双眸は怨嗟に満ちて、茫然と立ち尽くすホビットの少女を突き刺すように睨み続ける。
「どうしてなの・・・アンナちゃん・・・・。」
やっと開いた口からは、ぽそりと呟き声一つ。心なしか震えが混じり、かすれている。
「決まってるでしょ?黒包丁を持つのに相応しいのは私だからよ!!」
狂気に彩られた形相が牙を剥き吠えた。その足元に横たわるのは二人の師の屍。
殺したのだ。それは実に呆気ない事であった。


背後から袈裟斬りにバサリと一断ち。それが猟神と称された、伝説の猟理人の最期だった。
その瞬間に稲妻の如き速さで、包丁箱を引ったくるラヴィを反す刃で切り伏せたのだ。
結果、包丁は箱から飛び出し散らばった。ラヴィの手元にあるのは包丁箱と中身の三本。
そして互いに相対したまま、今に至る。


「さあ、大人しく残りの包丁を渡しなさい。それはもう私の物よ」
「違うよぅ!!」
ぎゅっと包丁箱を抱きしめてラヴィが断固拒否した。
「いいえ違わない!!黒包丁の所有者としての実力は私の方が上だもの、私の物よ!!」
最強である事への果てなき妄執、呪いにも似たそれに支配されたアンナにラヴィの声は届かない。
「さあ!渡しなさい!!」
先に仕掛けたのはアンナだった。電光石火の一太刀が風を裂いてラヴィを襲う。
寸分の狂いもなく狙った一撃が、ラヴィの首を撥ねるかと思われた瞬間、『それ』は起き上がる。
水竜グルムル。魚竜種最大の体躯を誇り、湖畔を主な棲息地とする竜である。

三人によって猟理した筈のグルムルはまだ生きていたのだ。活け作りなのだから当然だが。
身体の大半を開きにされて尚、のたうちまわり暴れ狂う生命力はまさに竜ならでは。
振り回された尾による不意打ちに、二人は為す術なく跳ね飛ばされてしまった。
その凄まじい一撃にアンナは湖へと放り出され、ラヴィは湖畔の森の中に飛ばされる。

「ぐぁ・・・ッ!?まだ動けたなんて・・・私の猟理は・・・完璧だったはず・・・・。」
水面に顔を出して、アンナは目の前の光景を否定した。
グルムルはますます暴れ狂い、周囲の木々を薙ぎ倒しながらのたうちまわり続けている。
竜が持つ驚異的な生命力にアンナの猟理人としてのプライドが爆発する。
「たかが素材の分際で・・・調子に乗るな!!!!!」
幸いにも包丁は岸に残されている。アンナは全力で岸まで泳ぎ着くと、猟理を再開した。
   ***************数十分後***************
完全に息絶えたグルムルを見下ろし、アンナはふと気付く。ラヴィの姿が見当たらない事に。
「今は・・・今はまだ預けておいてあげるわ。私も随分と深手を負ったものね・・・・。」
力無く笑うその瞳には、業火の如く燃える憎しみと苛立ち。
地面に散らばる包丁を拾い上げて、アンナはふらつく足取りでその場を後にした。

この日、伝説の猟理人の名を受け継いだラヴィは王宮に招かれ、宮廷猟理人となる。
そしてアンナはこの日を境に、猟理人の世界から姿を消した。
200パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/24(土) 00:25:45 0
「うお!?変なの来た!」
「でもあいつはあそこで戦ってるぞ?」
トム君と愉快な仲間たちが騒ぎ始めた。確かに粘液状の物体が這ってきている。
アクアさんは少し離れた場所でホビット達に愛の抱擁をお見舞いしているけど……
アスラちゃんがアクアさんの一部を取り込んで記憶を取り戻したことを考えると
スライムは分裂した小さい欠片も本体の影響下に置けるんじゃないだろうか。
「し・ず・か・に!!」
気づかれたら元も子もないのでトム君達を黙らせる。
思ったとおり、スライムが縄の結び目に入り込んで解き始めた。
青龍刀を持ったホビットににらまれた気がしたが、幸い気づいてはいない。

「ぐ……兄貴!助太刀頼む!!」
アクアさんに締め上げられているホビットのうちの一人が叫んだ。
唯一こっちに残っている青龍刀ホビットがその様子を見て舌打ちをして呟く。
「人質にしようと思ったが仕方がない。先に片付けるか」
青龍刀が振り上げられる。手始めにトム君が今にも剣のサビになろうとしている!
「ちょっと待った!」
縄がほどけるまで何とかして時間を稼がなければ!
「なんだ?」
「その人達公国の人じゃないよ!本当だよ、ほら、敵の僕が言うんだから……」
とりあえず刀を止めて答えてくれた。
「ああ、知ってる。お前たちも運が悪かったな、犯罪者と一緒にいたばっかりに」
「じゃあどうして……」
「決まってるだろ? 金だ」
これ以上会話してくれる気はないらしく、再び青龍刀が振り下ろされる!
……と思われたが、アクアさんの欠片が刀身に張り付いてそれを阻んだ!
たった今縄ほどきが完了したのだ。
「何!?」
青龍刀ホビットの驚きの声を合図に7人が一斉に散る!
「アンタら、さっさと走るのよ!!」
「は、はいっ!!」
レベッカちゃんと4人組が一目散に駆けていく!うまくいけば武器を取り返してきてくれるはずだ。
「くっ、いつの間に……逃がすものか!」
彼らを追いかけようとする青龍刀ホビットの前に立ちふさがる!
するとホビットは驚異的な機敏さでほぼ垂直に飛び上がり、上から斬りかかってきた!
腕にぐるぐる巻きにしてあるショールを素早くほどき、応戦する!
最終奥義“鉄のカーテン”!!布切れを両手で突っ張って持つことにより刃を防ぐという
常識を超えた離れ技! どう見てもアホだが武器が全部取られているので仕方がない!
201パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/24(土) 00:26:47 0
「!?」
一瞬後、青龍刀が止まる。空中のホビットの表情に驚愕が走る。
が、着地する頃には冷静な顔に戻っていた。
「なるほど……ムムル蛾か」
タネを見事に言い当てたので解説をしてあげる。
「正解!これはメロメーロを出発する時にレベッカちゃんのご両親が贈ってくれた
美しさと鉄壁のガードを兼ね備えた逸品……」
解説が全部終わらないうちに下段の構えを取って斬りかかってきた!
間一髪で飛びのいて避ける。身長差が大きい場合にその差を逆手に取る攻撃法だ!
こんなのをこいつの俊敏さでやられたら避け続ける保証は無い!!
が!ニ撃目が来ようとしたとき、相手は突然足を滑らせた!足元には例の黄色い物体。
「俺のことも忘れてもらっちゃ困るなあ!」
ロングコートのナイスガイが右手にバナナの皮を颯爽と携えて立っているのだった。
コマンダーだけあってバナナの皮の狙いも正確極まりない。

それを見た青龍刀ホビットは下を向いて奇声を発し始めた。キレたのだろうか。
「ふふ……」
なんだかとってもヤバい気がする。そして、それは奇声ではなく笑い声だった。
「あはははははは!!」
顔をあげた彼は、初めてホビットらしい顔をしていた。
「ジェリー!俺はこいつらと遊ぶからそっちはお前でどうにかしてくれ!」
アクアさんに締め上げられているホビットに声をかけ、こっちに向き直る。
「最近退屈しててさ、だって全然俺と対等に遊べる奴っていないんだよね。
……でも君たち二人は楽しませてくれそうだ。俺をがっかりさせるんじゃないぞ!」
心底楽しそうな表情。遊ぶのが大好きで好きなことには一直線に突っ走る性格。
方向性はちょっとアレだが、彼はやはりホビットだったのだ!
自慢の青龍刀を振りかざし、やる気……というより殺る気が全身から満ち溢れている!
「「ひええええええええ!?」」
ハイアット君と僕の絶叫と共に、命がけのお遊戯が幕を開けた!
202ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/24(土) 15:17:39 0
「この辺でいいんじゃない、あなたの大切な“おともだち”は見てないわよ?」
その言葉に立ち止まり、振り返る。その表情に普段の愛らしさは微塵も見当たらない。
「ずっとこの日を待ってたんだよぅ・・・・。先生の包丁が戻ってくるのを。」
何時になく真剣な面持ちで真っ直ぐにアンナと対峙するラヴィ。
手には包丁箱『艶八房』を抱えている。中身は入っていない、空の包丁箱だ。
ここに納まるべき包丁はアンナが持っている。8年前のあの時から、ずっとだ。
「奇遇ね、私も待ってたのよ。この日がくるのを・・・嬉しさのあまりに涙が出そうだわ。」
心底嬉しいといった表情のアンナは、巨大な包丁を構えた。鈍い朱に染まる刃が月の光に揺らめく。
刀身の形状からドラッドの6番包丁『虚帝(うつろいのみかど)』と判別できたが、その色は・・・・。

血塗られた怨念を顕したかのような赤。

「先生の包丁になんてこと・・・酷い・・・・。」
思わず呻くように呟くラヴィの手が、怒りに震える。
ゆっくりと十六夜を抜き、ラヴィも身構えた。6番包丁はその猟理人の最も得意とする包丁。
いわば全力での戦いにこそ真価を発揮する、猟理人にとっての最後の切り札である。
「酷い?どうしてかしらね、この包丁『鉄朱』は“私の”包丁なのに」
そう嘲笑うアンナの一言が引き金となった。
疾風迅雷、ホビット族の持つ超スピードで瞬く間にラヴィが間合いを詰める。
「返せッ!!」
短い言葉に込められた怒りが、刃に乗ってアンナに襲い掛かり・・・受ける刃と刃が火花を散らす!


猟理人の技量とは、生物の身体構造の熟知に始まる。
効率よく素材を解体する技術こそが、全ての猟理の基礎となるのだ。
ラヴィには人を相手に戦った経験は無きに等しい。だがアンナは違う。
“人の身体”を“効率よく解体”する技術を習得している上に、ホビットの構造にも詳しい。
アンナが「ゼロ」と組んだ本当の理由・・・それは、ホビットの身体構造を知る為だった。
他のメンバーに悟られぬよう、一人・・・また一人と殺しては“実験台”にしていたのだ。
たった一人のホビットを殺す為だけに、「ゼロ」は利用されていたに過ぎない。
プライドの高いアンナが、協力などありえないのだ。所詮は亜人種、ゴミ同然の価値しかない。


戦いは早くも決着が近付き始めていた。最初はラヴィが圧していたように見えた。
しかしそれはアンナの仕掛けた罠だ。アンナはじっくりと品定めをしていたのである。

これから“猟理する素材”を、じっくりと・・・

203名無しになりきれ:2007/02/24(土) 16:00:59 0
たまに上げないと落ちるのだよ
この世界はな!
204イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/02/27(火) 16:00:12 0
死≠ェ駆ける。
自らの蹄にかけられ、かかる飛沫を存分に吸い込み、赤く染まって駆け抜ける。
その巨大な人馬一体は血煙の中で輝くに、最も相応しい生き物に見えた。
先陣を薙ぎ払い、抜けたところでリオネのデスに一騎が並ぶ。
「リオネ様」
背に燦然とはためく公国旗と髑髏に咲いた蓮の花というオルトルートの旗を負った、中性的な顔立ちの騎士である。
「突出しすぎております。両翼はこれ以上追えませぬ」
騎士の駆る馬も千金に値する張りと躍動感であったが、さすがにデスの横では馬と呼ぶのもおこがましく映ってしまう。
こうして轡を並べるだけでも、刻一刻と命を磨り減らしているのは明白であった。
「リオネ様!!」
「……ジェダよ」
悲鳴寸前の騎士の呼びかけに、ようやくリオネが口を開く。
目は真っ直ぐに前を見据えたままだ。
「それでよい」「ハッ……」
「ジェラとジェナに伝えよ。これより大白鳥の陣を展開する」
崇拝する軍神の言葉に、騎士――ジェダは心臓が二つになったかのような錯覚を覚えた。
「他に言いたいことがあったのではないか?」
鼓動を抑えようと口元をきつくするジェダに、軍神の更なるお声がかかる。
この主人からの質問は、非常に珍しいことである。
「ジェマが、酷く不機嫌そうです」
若者は言っていいものかと少し迷った後に、かすれた声を出した。

ジェダ、ジェマ、ジェラ、ジェナの四つ子は、リオネの傍近くに仕える騎士である。
四人はその特殊な生まれからか、どこに居ようとも、どれだけ離れていようとも、完璧な意思の疎通ができるのだ。
公国騎士団が一糸の乱れも見せずリオネの手足の如くなるのは、彼らの尽力によるものが大きかった。

「さもありなん。あれは人を不快にさせる天才だ」
「いくら許嫁でパルモンテの当主とはいえ、ジェマを付ける必要はなかったではありませんか?」
言って、ジェダは蒼白になった。
口が過ぎたと思ったのだ。
「あれが、もし私の十分の一程にも逞しくあったならば……」「はあ……?」
「きっと私は、見向きもしなかったであろうな」「……はあ」
光の速さで折檻されるかと身を硬くしたジェダは、続くリオネの楽しげな響きに阿呆のように返すしかなかった。
「あれは自分勝手で品のない言葉を平気で吐く上に、どんな汚い手でも平気で打つ。龍人貴族の名門でありながら、およそ美徳や高潔さとは縁のない男だ」
「それは……最低では?」
目の前の女軍神とは釣り合わぬにも程がある。まるで正反対の人物だ。
「そうだな、最低だ」
なのに、何故かリオネは笑った。

ガルムの前庭≠ニ呼ばれる、要塞前に置かれた防壁陣地に二騎が着く。
ここでようやく、リオネは血の乾きに滾るデスの足を止めた。
周囲に蔓延るただならぬ気配に対処するためである。
「……下がっていろ」「いえ、ジェダはお傍を離れませぬ。例えお力になれずとも盾くらいに――」
「ふんっ」「ひいやあああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
嫌がるジェダを馬ごと片手で放り投げ、流墜星を構えるリオネ。
辺りに塩の香りが漂い始めたのは、それから一呼吸もせぬ内のことであった。
205アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:14:16 0
レジスタンスと公国西部方面軍混成部隊の戦闘は続く。
激しい戦闘という訳ではない。どちらかというと、のらりくらいと引き伸ばすような戦闘。
遅延戦闘というらしいけど、それでも・・・!
私がいる本陣からは、前線での戦闘を肉眼視できることはない。それでも・・・!
中原に充満する戦争の狂気は私の肌から伝わり、五臓六腑にしみ込む様だ。
ここのところ私は常時縦目仮面をつけている。
縦目仮面をつけると知識継承の使用が可能になる反面、全身の細胞が活性化するので負担も
大きいから長時間の着用はできなかった。
だが戦場の空気は私に活力を与え、常時着用を可能にしていた。

私は本陣司令部でじっと太極天球儀を見つめる。
それが仕事。
星の眼と占いで敵の陣形や戦術を見て、それを司令部に伝える。
刻々と変化していく戦況を先読みし、罠を仕掛け、消耗戦へと導いていくのだ。

#####################################

夕暮れ、戦闘もあらかた終了したのを見計らって私は司令部テントを出た。
彼を迎えに行く為に。

「・・・ああ、疲れた。何の因果でこないな土木工事をしとるんやっちゅうねん!」
誰に言うでもなく大きな独り言を口走りながらリーヴさんがやってきた。
鎧を着けず、泥まみれの服につるはしを背負いながら疲れた様子で歩いてきている。
レジスタンスの2割は戦闘には参加せず、ギルビーズさんの指揮の下、罠作りを行っている。
地の利を行かし、大規模な軍隊用の罠を作っているらしい。
今日のリーヴさんはその二割に入っていたんだ。

「おお!?なんや、どなたはんかと思うたら参謀殿ではおまへんか。
こないな場所にどないなご用件で?」
一日土木作業で疲れているのか、私にかける言葉に棘を隠そうとすらしていないようだ。
いつのも私ならこんな風に言葉を投げかけられれば逃げ出してしまうところだけど、縦目仮面を被って
いる今なら、普通に受け取れる。
「リーヴさん、あなたにお願いがあります。」
「おいおい、わいは疲れとるんや。こないな下っ端の傭兵なんかにお願いなんて恐れ多い。
炎の爪とかにお願いしてや。」
「あなたしかいけないのです。あなたはなんの宿縁も宿星も背負っていない。
だからこそ・・・、壊宿となりえうる。僕のお願いを聞くのは、あなたの運命です。」
「・・・はぁ?何わけのわからんこと言うとるんや?」
「これが、あなたの抗えざる運命です。」
しっしといった感じで手を振って私を追い払おうとするリーヴさんに手を差し出す。
私の手に握られているのは、一見するだけで高価だとわかる青い宝石。
「これはブループラネット。この大きさ、価値はわかりますね?
二重契約ではありません。ただの残業手当と理解してください。」
「こ、これは確かに、抗えぬ運命やな。それで、運命はわいになにをせいゆうとるんや?」
差し出されたブループラネットを受け取り、それを凝視したまま私に尋ねてくれた。
206アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:14:45 0



「なあ、お前の占いに依れば明日には公国軍の飛竜部隊が到着するンやろ?こんなことしとってええん
かいな?」
「・・・はい・・・。」
馬上でリーヴさんにしがみつきながら私は小さく返事をする。

今まで暁旅団の活躍で制空権を握っていたけど、飛竜部隊が到着すれば戦況は大きく変わる。
飛行速度、耐久度、攻撃力、射程、およそ殆どにおいてその戦力は暁旅団を凌駕するだろう。
やや優位に立てるのは旋回能力くらいか・・・。
「いつごろ来るのかわかっていればそれなりの準備はできる。」
ギルビーズさんの心強い台詞だけど、楽観視はできない。
苦しい戦い・・・いや、一気に戦局が傾く事だってありうる。

そんな重要な局面だけど、私はこうやって陣を離れている。
どの道、飛竜部隊の移動速度はこちらの伝令速度を上回る。
私がいくら星の眼で動きを察知し伝えたとしても、それが前線に伝わる頃には既に飛竜部隊は通り過ぎ
たあとだろうから。
ソーニャさんもレニーさんもジーコさんも既にそれなりの準備と対策はできているといっていた。
だったらもう私の役目はないのだ。

私達がメロメーロに到着したのは空が白み始めた頃。
馬上で寝ていた私はともかく、一晩中馬を走らせ続けていたリーヴさんは流石に辛そうだ。
まだ眠りから覚めている人も少ないようで、街は静かなものだった。
朝靄の立ち込めるなか、家々が立ち並び、整備された広い道に私は驚きを隠せなかった。
ロイトンの大きさにも圧倒されたけど、ここはそれ以上だ。
日も上がればレジスタンスの飼料部隊が来て、大量の物資を買い付けていくだろう。
職を求める傭兵や、一山当てようとする商人たちで溢れ、戦争特需で町も活気に溢れるはずだ。
そんな町の様子も見てみたかったけれど、時間がない。
「このまままっすぐ、町の北に出てください。」
「お前は後ろで寝取ったからええやろうけど、ワイはもう限界や。朝飯くらい食わせえや。」
力ない返事で馬を御して到着したのは一軒の宿屋。
「おいちゃん、コーヒーとトースト。コーヒーはめちゃ濃い奴で頼むで。
それとこっちのチビにはメロンジュースでええわ。」
「あ、お肉!お肉もお願いします。」
「朝から見るだけで胃がおもたなるわー。」
寝ぼけ眼で注文してはぐはぐ食べていたので、げんなりするリーヴさんの顔も、この宿屋から溢れて有り
余る強い気にも気づく事はなかった。


町の北はずれ、立ち入り禁止と札と木の柵の向こう側に広がる大きな穴の前に私達は立っていた。
「何ぢゃこりゃ!ごっついのお!」
「半年前、アグネアストラが這い出た傷跡です。」
「精霊の消失した時期と一緒やんけ!しかもアグネアストラやて!!??・・・・ってなんや?」
「古代魔法文明セレスティアの遺物です。」
リーヴさんのボケを受け流し、あたりを調べると結界が敷かれていた。
多分街の人はここに穴があることを認識できていない、それにここに近づこうという気が起きないはずだ。
復興がなされているとはいえ、これだけのものを埋め立てるには至っていないのは仕方がないことだ。
「ちょ、ちょっと待ったらんかい!お前どこに行くつもりや!」
結界に穴を開けようとしていると、慌てた様子で方を掴まれた。
「僕の占いによると、もうすぐ恐るべきものが来襲します。
このまま手を拱いていれば王国、公国問わず、中原の戦線が崩壊する危険があります。
だから、僕はそれに対する準備をしにいきます。
リーヴさん、ありがとうございました。あとは僕一人で行きますから。」


207アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:15:19 0
アグネアストラが偶然ここに埋まっていた、そんなわけはない。
この地下には古代セレスティア文明の地底都市イルシュナーが埋まっている。
悠久の年月と地殻変動によってアグネアストラの封印は解いてしまったけれど、機能はまだ生きているはず。
地脈を引き寄せて動力としているのなら、封印機能が失われた分都市自体へエネルギーは溜まっている事
になる。
そう、私の全細胞が教えてくれたいた。
この感覚、まるでグレナデア破壊に駆り立てられたあのときと全く同じ感覚だけど、それを自覚する事はでき
なかった。

「アホンダラ!この状況でワイ一人帰ったら今度こそ炎の爪に消し炭にされるやんけ!
それに残業手当分はきっちり働かさせてもらうで!」
一礼していこうとしたら、リーヴさんがすごい形相で一緒についてきて驚いてしまった。
何が彼をこれほどまでに駆り立てるのか、わからないけど、最優先するのはイルシュナーへとたどり着く事だ。
これ以上追い返すこともなく、私達二人は重力制御をしながら穴の底へと落ちていった。
巨大な穴にもかかわらず、その深さに底は闇に包まれ見る事ができない。
まるで奈落の底へと降りていくように。

#############################################
西部方面軍混成部隊本陣
夜明けと共にロンデルはテントを出て空を見上げる。
飛竜部隊の到達を今か今かと。
今日到着という報はあっても、午前か午後かもわからぬ到着だが、それでも待ってしまう心情が今の戦況を
あらわしていた。
そんな背中をテントの中から見守るフードの人物。
あいも変わらず落ち着いた様子で紅茶を啜っている。

「・・・なぜ君がこのセフィラにいるのかな?」
『星辰の導きのままに・・・』
フードの人物の背後には幽かな姿で黄金の仮面の人物が立っていた。
共に顔の見えぬもの同士だが、視線を向け合う事もなく会話は続く。
「ふん。我が妹君が僕の仕事を取っちゃいそうなのだけど、君がその星辰とやらで導いたのかな?」
『第八の大罪が現われし故に我は生まれた。全ては定められし事・・・。』
「八?」
『第八の大罪・・・。哀れなり愚かなり。救われぬモノ。其の名を【正義】といふ!』
「・・・いいさ。天の三角が頂点、衛星軌道都市ライキュームを帰還させるのは君の方が得意だろうから任せるよ。」
フードの人物の言葉を受け、黄金の仮面の人物の姿は虚ろに透けていき、やがては消える。
紅茶を飲み干したフードの人物はようやく立ち上がり、遥か先にあるメロメーロの町へと目を向ける。
208レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/03/01(木) 18:08:58 O
なんかとんでもない事になって来ちゃった!早くみんなの武器を探さないと…
「さっきチビがあの辺から箱を引ったくってたぜ?あそこにあるって事じゃねーか?」
トムがアタシ達の軟禁されてたテントの隣の貨車を指差してる。
なかなかやるじゃないの。これであの襲撃者を何とかできる!!
「よーし、急ぐわよ!ぐずぐずしてたらパルが危ない!!」
「その前に俺達の縄を何とかしてくれ、縛られたまんまじゃどうにもならねぇよ」
トムの主張は至極尤もらしいけれども…縄を解いた途端に裏切ったら…
ぶっちゃけアタシが危ない。
でも今は非常事態だし、時間は待ってはくれない。信じるしかないよね。
「いい?もしも裏切ったらどうなるのか分かってるでしょうね!?」
アタシの確認にトムは即答する。
「裏切ったりしたら…ってか今そんな悠長な事言ってる場合じゃねーだろが!!」
「そうだそうだ!俺達まで殺られるかもしれねーしな!」
他の3人も必死っぽい。そりゃそーだ、言う通り殺される可能性があるんだもん。
こいつらだって必死になるわよね。よし決めた、信じる!!
「ほら手出して!」
「え…?信じるのか?俺達はおまえらの敵なんだぞ?」

カチーン!!
「人がせっかく信用してんだから素直に手ェ出しなさいよアホ!!!」
ムカついたんでキン〇マ蹴り上げたら、トムは「ぎぼぁーッ」って悲鳴と共に撃沈。
ヤバイ、もしかしなくても戦力ダウン!?
「ざ…雑草…魂が……ッ」
「「「トムッ!?なんて酷い事しやがるんだオメーわ!!」」」
悲壮感全開でアタシを責め立てる3人、ちょっと力入れ過ぎちゃった…かな?


一方その頃、パルスとハイアットは攻撃から逃げ回るのに精一杯であった。
「ひいぃぃいいい!!当たったら死ぬ!絶対死ぬ!!」
情けない悲鳴を上げて必死に逃げ回るハイアット、バナナの次弾装填には時間がかかる。
つまり、単純にバナナを食べるという事。
いくらなんでもこの状況下でバナナを食べてる程、ハイアットも馬鹿ではないのだ。
「どうしよう!このままじゃ……!?」
甲高い金属音。パルス目掛けて容赦無く振り上げられた刃を受け止めたのは…

「けっ、別にテメェらを助けるためじゃねーからな。俺達が助かるためだ、勘違いすんなよ?」

燃える山賊ド根性!!リーダーのトム!!!
209イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/03/03(土) 01:08:23 0
潮が満ち始める。
この中原に、潮の香りが吹き抜ける。
リオネの周りを囲む形で出現した小さな海は、瞬時にして辺りを磯辺の風景へと変質させた。
この怪異に名を付けるならば、海の召喚≠ニでも言うべきだろうか?
まあ何せよ、眼前の脅威の呼び名など、この軍神には意味のない事であった。
「リオネ・オルトルートとお見受けする」
泡混じりといった響きと共に、海面から顔を出す者達。
その数、十六。
鱗に覆われた者、甲をまとった者、軟体の者、発光器官を備えた者と、明らかに同じ種族の者はいなかったが、一同の共通点もまた明らかであった。
全員が、海に住まう者達。
「我ら、七海十六聖臣。故あって汝の敵に手を貸す立場にある」
正面の半漁人の名乗りに目を細め、黙って耳を傾けるかに見えたリオネであったが、
「覚悟を決め――」
不意に、流墜星を一閃させる。
予備動作なしの神速が、どう見ても物理的な間合いの外にあったタコ頭を消し飛ばした。

「な〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!???!」

驚愕し戦慄する、残り十五。
即死したタコ頭が沈むと同時に、彼が海面下からリオネへと伸ばしていた触腕が浮かび上がり、程なくして持ち主の後を追う。
「……確かに戦は勝てば官軍。勝利の前では如何なる手管も正しき事……とはいえ、名乗りくらいは聞いてやるつもりであったが……」
淡々と低く言うリオネの姿は火の一言。愛馬デスもまた、さながらに火の如し。
「戦いの作法も知らぬ下種共には、相応しき死をくれてやろう」
人馬一体――まさしく炎の一文字がそこにあった。

一閃、一閃、また一閃。
彼女の槍が唸る度に、確実にこちらの命が散っていく。
各種族を代表する無類の強者達が、歯牙にもかけぬとは正にこの事。
「こ、こいつ、強すぎる……っ!!」
ほとんど水と変わらぬ体のおかげで一切の物理攻撃が通用しない、と自慢していたクラゲ種族のエチゼンが
何も出来ずに槍の露となったのを見て、半漁人――マーマンのリョウマは全身の鱗を逆立たせた。
一同に走ったのは恐怖である。
そして場を支配したのは、圧倒的な武力に対する畏怖であった。
「シン! かまうな! 一切の足場を沈めてしまえ!!」
堅牢さと海の召喚術の腕前を誇る、貝の種族一の使い手の名を叫び、リョウマは起こした無数の水竜巻でリオネを牽制する。
牽制といっても、全力の技だ。
「ふんっ!!」
だが、この怪物にとっては、やはり足止め程度なのだろう。
一撃で戦列艦にをも致命打を与えるはずの破壊の渦は、捻りを利かせた槍の一突きで悪夢みたいに消えてしまった。
「シィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッン!!!」
仲間の血で染まった海を必死にかき分けて、恐慌寸前の理性を震わせ叫ぶリョウマ。
だが、返ってきたのは彼の断末魔であった。
「…………」
天然ミスリル甲の六枚重ねを串刺しにして高々と掲げる軍神。その形を成した絶望には、もはや言葉を失うしかない。
「は……ハハ…ハハハハハハハ……」
いや、笑うしかない。
これが笑わずにいられようか!?
佇む軍神の足元、つまりデスの蹄の下には足場などなかったのだから。
シンは最初から全力で術を行使していたのだ。こいつはただ顔色一つ変えずに、一瞬で馬ごと水面に浮かぶ木の葉の境地に達してのけただけ。
逃げればよかった? いや、逃げる事も適わなかったろう。
すべては、彼女の前に顔を出した瞬間に決していたのだ。

無言で振り下ろされる一閃に割られるリョウマの脳裏に浮かんだのは、彼らの崇める女王の御美顔であった。
目の前の軍神と重なって見えたからである。
質は違えども、その圧倒的な美と恐怖によって……。
210遥かな高みより:2007/03/03(土) 10:33:24 0
ここは地上3万8千メートル、地上と星界との境界にあたる高度領域。
そこで地上を見下ろすのは機械仕掛けの巨大な“龍”であった。


「こちら“ドラッヘ”、現在軌道空域に到達。地上の標的を確認後、掃討を開始する」
私の名はトレス=カニンガム。公国空軍大佐だ。
かつてリエッタ共和国の騎士団長であり、霊鳥バラマと共に空を翔け抜けた天空騎士。
しかし友であったバラマを失い、翼を剥がれた空の騎士も…今や唯の軍人だ。
戦争に敗れた私達に、選択肢など存在しなかった。
本当に無かったのか?と聞かれたら、私はおそらくこう答えるだろう。
“無かった”と。

『カニンガム大佐、後方より星界獣の接近を確認した。直ちに迎撃せよ』
オペレーターの言葉通り、索敵盤に映し出された一点の白。かなり大きいようだ。
「了解、近接戦闘の動作試験も兼ねてみるとしよう。…ベルセルク射出!!」
機体の背に格納された24本の無線誘導式小型光剣、《ベルセルク》が一斉に発射された。
青蛇琴を目掛け、まるで群れをなして襲い掛かる獣の如く《ベルセルク》が殺到する。
星界に住まう巨大な蛇が細切れにされて、重さの無い世界へと散らばるまでに約12秒。
これが…これこそが公国の持つ恐るべき技術。
ゼアド大陸の北半分を僅か5年で制圧したのも納得できる。
自分達がいかに無謀な戦いをしていたか、その力に直に触れ、思い知らされた。
勝てる訳が無い。誰もがそう言うだろう、そして今の我々を責める事など誰にできようか。

従う以外に道は無かったのだ。

今でも自分にそう言い聞かせながら、私はかつての同盟国を侵略している。
決して楽な死に方はできないだろうな。何時もそう思い、“敵”を討つ。
赦せと祈りながら、“敵”を討つ……。

中央戦線に於ける王国連合軍の進撃を阻止する為、私はこの遥か空の果てに居る。
地上からこのドラッヘを肉眼で確認するのは不可能だ。完全な奇襲爆撃。
既存の航空戦力の常識を覆す『高さ』からの、陽電子砲による掃射は防ぐ事など出来まい。
私が引き金を引けば中央は大きく動くだろう。
展開した連合軍の戦力は壊滅的打撃を受け、オルトレート家率いる地上軍が戦線を塗り替える…。
更に、地上にはドラッヘと対を成すもうひとつの機体…ティーガーも配置されるという。
公国の勝利は揺るがぬものとなったと言って過言ではない。

しかし私の中に漠然とした不安が消える事はなかった。
かつて私が…私達がそうだったように、打倒公国を胸に戦う者達がいる。
真の自由と平和を願い、命を散らす者達が遥か彼方の地上には存在しているのだ。
それが不安であり、羨ましく堪らなかった。
本当は自分もまだあそこで戦っていたのではないのか、と。
捨てた筈の誇りと信念が、未だに未練がましく私の中に残っているのかもしれない。


『カニンガム大佐、星界獣の反応停止を確認した。作戦行動を続行せよ』
淡々と指示を出す官制の通信に、私は我に返る。悪い癖だ、すぐに思い詰めるのは。
「了承。作戦開始時間まで高度を維持。17:00より作戦を開始する」
手元の時計をちらっと見る。時刻は16:47、後13分で世界の歴史が動くのだ。

じわりと滲む汗を無視して、私は時が来るのを待った。
211パルス ◆iK.u15.ezs :2007/03/03(土) 11:06:52 0
有り得ない事に、万年やられ役ザコ山賊のトム君が青龍刀を受け止めていた!
青龍刀ホビットも満更ではないようだ。
「面白い……受けて立とう!」
さらに有り得ないことに、そのまま大剣戟が始まってしまった!
青龍刀ホビットがまるで瞬間移動のようにトム君の後ろに回りこむ!
ほぼ同時、トム君が後ろに蹴りを入れる!青龍刀ホビットは紙一重で後退してそれを避ける!
対するトム君は蹴りの勢いで空中で一回転して着地、再び二人が向かい合う。
一瞬後、刃と刃がかち合う金属音が響く! 青龍刀ホビットがゆっくりと口を開く。
「貴様のどこにそれ程の力が?」
刃を交えたまま、トム君が答える。
「燃える友情パワーだ!」
「友情……?ハハハ、くだらない!そんな物、弱さにしかならない!」
ホビットは青龍刀を打ち払い、二人の間合が開いた。
「笑うなら勝手に笑え!
このバンダナにかけて誓い合った日から俺達は不滅の友情で結ばれているのだ!」
そう言われてみれば、この4人組はおそろいのパンダ柄のバンダナを巻いている。

そんな激しい戦いの中、呆然と観戦しているだけの僕とハイアット君だったが
ふと後ろを見ると、トカゲの尻尾の3人がやけに真剣な表情でリーダーの方にに手をかざしているのに気づいた!
「何それ!?怖えええええ!」
かなりキテます。ハンドパワーでも送り込んでいるのだろうか!?ハイアット君が手をぽんっと打って言った。
「あれは……古代の遺産、“バンダナ・オブ・パンダ”!巻いたもの同士でパワーリンク
できるようになるものだ。送り込まれたパワーは友情度に対して相乗曲線を描いて増大する!」
「意味分からん!」
彼らは蠍の爪の倉庫番だったので、遺産の一つや二つ持っていても不思議は無い。
不思議なのは、なぜ今までその能力を使わなかったのか!?
その疑問に答えるかのように、ボブ君がポツリと呟いた。
「この特殊効果、三日ほど前に気づきました」
「気づくの遅ッ!……て、ちょっと!」
突然力が抜けたようにへなへなと倒れるボブ君。他の二人も同様に倒れていく!
リーダーにパワーを注ぎ込みすぎたのだ!
「お前らああ!?大丈夫か…ぎゃああああ!!」
トム君が急に押され始めた。というか逃げ回っている!
仲間の援護が無くなり、いつものザコ状態に戻ってしまったのである!これはまずい!

その時!武器を抱えたレベッカちゃんが走ってきた!
「パルとそこのバカ!!受け取れえ!」
投げられた剣を受け取る!レベッカちゃんは楽器を投げるなんてことはしないのである。
「君の動きはしっかり見させてもらったよ!」
剣を翻し、青龍刀ホビットとトム君の間に割り込む!
「俺達が相手だ!」
急に強気になったハイアット君が銃を構えつつ告げる!
「何!?」
慌てて、その辺で伸びている仲間に声をかける青龍刀ホビット。
「お前らあ! 助けに来い!」
しかし、誰も助けに来ない。アクアさんの愛の抱擁で改心……じゃなくて疲れきっているからだ!
「友情パワーが足りないお前の負けだ!特殊弾頭コード番外編……」
ハイアット君が、おそらくかつて無い恐怖に震えているであろう青龍刀ホビットの額に照準を合わせた!
212ST ◆9.MISTRAL. :2007/03/04(日) 21:54:05 0
――中央戦線
激しい戦闘が続く。互いに一歩も譲らぬ攻防は、まるで終わりの無い死の舞踏会。
その中で最初に異変に気付いたのは、連合軍の傭兵部隊を率いているケヴィンだった。
公国軍の反応が先程から妙に弱腰に思えたのだ。兵力ならば僅かに勝るというのに。
(防御陣形に魔力障壁、守りを固めたか…)
ケヴィンの長年の戦いで培ってきた勘は、既に警笛を鳴らしている。
「それに…要塞まで前線を下げた?どういう事だ…連中には何の得にもならねえってのによ」
思わず疑問が口に出た事で、ケヴィンの警笛は更に喧しく鳴り響く。
「奴らが退いて行くぜ。願ってもないチャンスだ、ここらで一気に押し込もうや!!」
そんなケヴィンの隣に同じ傭兵部隊のジャックスが息を荒げて駆け寄って来る。
このジャックスとは長い付き合いになる。かれこれ8年、共に戦場を駆けた仲だ。
信頼もしていたし、いつもならその言葉に返事一つで駆け出していただろう。
だが、今は違う。
何かが違うのだ。長い傭兵生活でこんな感覚は初めてだった。

『だからこそ判断が遅れたのかもしれない』と、後に彼は“その直後に起きた天災”を語る事となる。


――ガルムの前庭
一方的な虐殺、その戦いを見たら誰もがそう言うだろう。
それほどまでに力の差は圧倒的に開いていた。
“闘龍姫”の異名は伊達ではない。そう呼ばれてしかるべき武力を備えた女傑なのだ。
リオネ=オルトルート。公国12貴族に名を連ねるオルトルート家当主にして豪傑無双。
西方に住まう悪鬼すら怯む気迫と、大陸随一の槍術を以って敵を葬る彼女が、珍しく眉間に皺を刻む。
もうじき目の前に広がる中原は、一切の命も宿らぬ焦土の荒野と化すのを知っていたからだ。
リオネにとって最も嫌いとする文明兵器による大量殺戮。戦の誉れを蔑ろにする行為であると言う。
武を尊ぶオルトルート家の訓えを骨の髄まで染み育ったリオネは、己の“技”のみを戦に許す。
龍角種であるが為か、こと闘争に於いて抜きん出た力を持つ彼女らしい考え方だ。

「ふむ…つまらぬ余興よな。されど決定ならば仕方あるまいて。ジェダ、戦を畳むぞ!」
串刺しになった最後の七海十六聖臣、海豹の暴君サムチャイの身体を槍の一振りにて払い捨てた。
決して七海十六聖臣は弱くはない。しかし相手が悪かった…いや、悪過ぎただけなのだ。
どれだけ強い海の有力者といえど、荒ぶる龍の怒りの前では“まな板に乗った海産物”でしかないのだから…

リオネの一声に応じるかの如く公国軍の中でも優れた術者による広域結界が展開する。
間もなく降り注ぐ死の煌めきから、敬愛する戦乙女を護り通す為に。


程なくして中原に降り注いだ“それ”は、地上を…戦場を…瞬く間に燒き尽くした!!
その正体は《DMS-01ドラッヘ》の最火力兵装、16連装荷電重粒子砲“業火(ゲヘナ)”である。
幾条もの光の柱が一斉に大地へと突き刺さり、それだけでは飽き足らず周囲の全てを焼き払った。
「かの聖獣を討つべくして造られたグレナデアの砲を真似たにしては…よう出来ておるな」
何ともつまらなそうに零すリオネ。目を灼く程の強烈な輝きに、瞬きすらしないのは流石。
「…むぅ…賑やかし程度にはなる、かのぅ?」

この女傑にかかれば地上を壊滅させた焔ですら、生誕祭の打ち上げ花火と同じなのであった。
213イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/03/05(月) 01:41:51 0
魂燃やしての全力疾走。
その最中にうっすらと前方に見える輝きを、人はバニシング・ポイントとか言ったり言わなかったり。
「あひあひあひあひあひあひあひあひあひあひあああああああああああああっ!!!」
とにかくダズート将軍にとっては、尻に帆かけた人生最燃焼の逃避行なのであった。
「待たんかコラアアアアアアアアアアアアアアーーーーア!!!!」
今にも禿げ上がりそうな親父のやや後ろで、イアルコ坊ちゃまも道を同じく駆け逸る。
その横に無表情のメリーと笑顔のトルメンタ、僅かに下がって引き歪んだ顔で足を動かすジェマの姿があった。
ここは、ガルム要塞の地下に張り巡らされた脱出路の一つである。

意気揚々と中原に下りた三騎と四人の一行は、まず戦線を迂回して要塞の後方に回り、目論見通りに出遅れた伝令の始末に当たった。
相手は前しか見てない馬鹿な連中である。背後さえ取れば侵入は容易い。大将を縛り上げて身代金をふんだくり、更に機密をかすめて
転がして一儲けしてやろうとしたのだ。
とにかく、髭むさい将軍を追い詰めたまでは順調だったのである。
何か降って来なければ、今頃坊ちゃまは福々しい笑顔でいられた事だろう。
まあ、結果は惨憺たる大泣きの憂き目であったが……。
「復讐してやるわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
……誰にだよオイ。

膨大な熱と光を肌で感じるくらいに近い背後で、元要塞はすでに瓦礫と化していた。
いや、正確に言うと現在進行形で化していた。
更に言うと、残酷にも光の柱は拡大の一途を辿っていた。
故に、彼らは走るのだ。
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
真っ向から迫る振り子刃を、足を止めずに器用に仰け反ってかわすイアルコ。
「馬鹿者おおおおおおおおおお!!! 罠くらい解除しとかんかあああっ!!」「無茶言うなよおおおおお!?!!」
おまけにこの道罠だらけ。全速を出せないもどかしさまでもが一行を苛むのでった。

――以降は、お見苦しく面倒臭いので割愛。

一着ダズート。
「でぃゆわああああああああああああああああああああああ!!!」
最後の難関、ラムセス二世の大暴れに全員を嵌めての、実に堂々たる一着であった。
「逃げんな金ヅルっ!!」「やなこった!」
勝利の余韻に浸る余裕もなく、出口の扉の向こうに消えるダズート将軍。
「ご丁寧に閂までかけおってからにいいいいいいいいいいっ!! ぬおおお動けん!!」
止め処ない悪態を垂れる坊ちゃまに、嫌悪感全開のジェマが口を挟み、たちまちの内にイアルコ優勢の口喧嘩に発展する。
力技で罠から脱出したトルメンタと、いつの間にか自由になっていたメリーが荒々しく二人を仲裁した瞬間に、
「んん?? 何か言ったかの?」「歯が…歯が折れた……いや折られた」「扉の奥だぞ、イアルコ仮面」「…………」
それは起こった。

「ファンタスティコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

想像だにしなかった絶叫に、頭からこけるイアルコとジェマ。
何だか、別人みたいだが間違いない。ついさっき先に行ったダズート将軍の声だ。
……だが、何故あんなにも楽しそうなのだろう? 気持ち良さそうなのだろう? わからないだけにメチャクチャ怖い。
ただの断末魔でも怖いのに、この叫びにはまったく理性の色がなかったのだから。

もはや道は前にしかなく、真っ先に選ぶであろう逃亡の選択肢の消失に震えるイアルコ坊ちゃまであった。
214ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/03/08(木) 01:04:37 0
相変わらずの泥仕合、いい加減に飽きてきた。これが今の俺の正直な感想だ。
それでもロンデルが指揮する部隊だけあって、そう簡単には退いてくれねぇがな・・・。
今日もお決まりの砲撃戦で〆だ。
かれこれ5日間続くこの消耗戦、そろそろ互いに息を切らす時期だろう。
ロックブリッジには連中の水陸両用ゴレム《メルクリウス》が4機、陣取ってやがる。
そのせいで俺達は迂闊に踏み込む事は出来ず、こうやってのらくらと撃ち合いしてるって訳だ。

「クソッタレが!弾にも限度ってもんがあるんだよ、こりゃマズイぜ・・・。」
心配なのは弾薬残量と兵の士気。流石にゴレムを使うのに慣れてる連中が有利だ。
こっちゃ素人だからな。にわか操縦でどうにかなるほど甘くはない。
練度の差ってやつがじわじわ顕れ始めたのは3日目だった。
こちらの機体は陸戦仕様の高機動型、当然だが水中戦には適していない。
よって行動範囲は橋梁上部に限られちまう。
奴らはそこに付け込んできやがった。ロックブリッジは橋幅6百メートル、かなり広い。
そんでもって水面から橋梁部までの高さは灼20メートル。この高さが厄介だった。
連中はこの橋をブチ壊しちまえばバンザイって事だからな、水面からドカ撃ちすりゃいい。
だがこっちゃそうはいかねぇ。橋を落とされたら完璧にアウトだ。
だから橋の縁にぶら下がりながら下の敵を迎撃しなけりゃダメだ。つまり行動可能範囲ゼロ。
で、連中からすりゃ俺達は宙吊りの的。にも拘わらず連中はまるでやる気の無いような戦い振りだった。

時間稼ぎ、と俺は判断した。判断材料は3つある。
まず1つ。連中は明らかに攻撃の手を緩めている。一切の得にならねぇのに、だ。
もう1つ。ロンデルが指揮する部隊の割りにはいまひとつキレが無い。
ロンデル本人が出張って来てないのもそうだが、何か不自然なバラバラ具合が見える。
俺達も似たようなもんだからな、向こうも混成部隊なんだろう。
で最後に1つ。ちびっ子の占いによれば、明日にゃ飛竜部隊が到着するらしい。
つまりロンデルは戦力の再編を待つために、こうやって時間稼ぎをしているって事になる訳だ。

6日目になった。これで空からの攻撃も加わるのはムカツクな・・・

まぁ今日も仲良くドンパチかと昼過ぎにロックブリッジを見回した時、地平線に影が見えた。
この距離であの大きさ、こりゃかなりデカイ。いや、デカイとかってレベルじゃねーぞ!?
「なんだ・・・ありゃ・・・。」
あ〜、自分でもずいぶんとマヌケな声だったと思う。
直ぐさま腰のフックに架けてある双眼鏡を覗いた俺は、さらにマヌケな叫び声を上げた。
公国軍の陸上移動要塞型戦艦《ニブルヘイム》。
ゴレム数百を格納出来て、それ自体もとんでもない重武装した不沈艦・・・。
「ロンデルの野郎、コイツを待ってやがったのか!!」

やばい!こっちにゃアレと戦り合えるような戦力は無ぇ!!どうすりゃいいんだ!!?
215クラックオンの万里行 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 00:01:41 0
焦げ目も絶妙に匂い立つ焼き魚にカボスの汁を垂らしながら、クロネは短く答えた。
「やっぱり、真っ直ぐ歩いてくるだろうにゃあ」
看病と称して明らかに遊んでいるギュンターの、差し出した匙を左右に振る姿にカールトンが唸る。
「こうして左腕を失っても燃え盛る感覚は伝わってくる。つまり、山火事はまだまだ続くのだぞ?」
「クラックオンは溶岩を糧とする種族だ。如何な大火とはいえ、熱で殺せるとはとても思えん」
スターグの緩まぬ進行を頑固に信じる黒猫に、カールトンは蔑んだ笑いを浮かべた。
「これだから蛮族は……化学反応というものをまったく理解しておらんから困る」
「かがくはんのう?」
「火に囲まれて苦しくなったことはないか? 燃焼は酸素と結びついて発生する。あの規模の炎の中では何者も生きられるはずがないのだ」
「おお、息ができないってことなのかあ」
「…………」
合点が行ったと頷くギュンターと、腕を組んで帽子をいじくるクロネ。
つまり、スターグの生存に足る判断材料がないのである。
「この250年で、奴が一番腕を上げた」
だがそれでも、
「もはや、一対一で打倒できる者は唯一人をおいて他にあるまい。そんな男が火にまかれて死ぬなど……」
在り得ぬ。認められぬ。信じられぬ。
クロネは、彼の生を疑ってはいなかった。

ガナン北東部。
大火収まらぬ辺境の惨状が、巨大な夕焼けにも似た美しさとなって見渡せる山の頂にて。
その男はいた。
いや、その男達はいた。

アント・クラックオン《ジオル》     マンティス・クラックオン《ザオウ》
メガボール・クラックオン《ダルゴス》  ワスプ・クラックオン《ビード》
ウィーヴィル・クラックオン《ハゾス》  ロングホーン・クラックオン《キバ》
ファイア・クラックオン《オウル》    ビートル・クラックオン《アカイライ》
ロキュスト・クラックオン《ホンゴウ》  キャリオン・クラックオン《ユウダイ》

そして、スカラベ・クラックオン《スターグ》

焦げ跡を残し、煙を棚引かせつつ佇む彼らの背後からも、続々と志士に従う者達が這い上がってくる。
誰も生きられるはずのない灼熱の地獄を、彼らはどうやって抜けたのか?
答えは、麓に空けられた大穴から容易に推察できた。
この六日間、スターグと十烈士が先頭に立ち、固い岩盤を掘り進んだ結果である。
その力は勿論のことだが、一筋の光明もない地の中での進軍など……人間では在り得ぬ精神力と言うしかない。
真に驚くべきは、その一途さの一言よ。
誰一人として、言葉を発する者はいなかった。
誰一人として、疲れを見せる者はいなかった。
この場の誰一人として、これからの死を拒む者はいなかった。
すでに実際、火中から地底へと飛び込んでみせたのだ。揺るがぬ意志は至極として明らか也。

すべては、ただ自らの誓いのために……。
志士スターグに付き従う、ただその誓いを果たすために……。
クラックオンは、誓いのために生きる者達であった。
216後のある一説から ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 01:01:38 0
――クラックオンの万里行。

昆虫種族クラックオンが歴史の表舞台に登場する、最初にして最後の出来事である。
だからこそ、クラックオンという種族を語る上で、この万里行は絶対に欠かせない。
これには、私を始めとしたすべての歴史家が同意を示すだろう。
まあ、すでに滅び行く種族のことを語ろうとする者など、私以外にはいないのかもしれないが……。

さて、クラックオンといえば万里行――田舎の村の子供ですら御伽話として親から聞かされる程に有名な響きであるが、
その実態は意外とあやふやで容量を得ないものだ。
それというのも、資料が圧倒的に少ないからである。
些細な小競り合いの顛末までもが詳細に記され、残されている同時代の中にあって、これは実に異例と言える。
神話の時代故に、噂や誤情報の類が形を持って一人歩きしてしまったのだろう――とは、現在主流の歴史観だ。
だが、私はこれに異を唱えたい。
万里行を歴史的事実から外してしまうと、当時の情勢に説明がつかなくなってしまうからだ。
現在主流の大地震説、突拍子もない隕石説などの何事かの天変地異では決して置き換えられない、絶大な脅威がゼアドを駆け抜けたことは間違いないのだ。

当時の書記官が残した、たった一枚の擦り切れた文面が私の考えを後押しする。
まあ、雲を掴むよりましといった程度の頼りない根拠なわけだが、それでも私は思うのだ。
万里行は、確かにあったことなのだと。

悪魔に率いられた軍勢、ラライアの大地を揺るがし候。
 その数およそ一千五百也∴鼬ゥして魔物の群れとおぼしき候。
 続く地獄は、さながら神話の如し也、

後は、信憑性のない寓話ばかりが今に残っている。
だが、私は胸躍る。興奮せずにはいられないのだ。
近年、ゼアド南西部で発見された公文書に万里行のものと思われる一節が見受けられたからである。
未だ定かではない仔細は省き、ただ結果だけを言おう。
東方大陸への生還者、なし。
逃亡、及び脱落者、なし。
降伏、または抵抗を止めて捕らわれた者、なし。
つまり、生存者一切なし。

そして、そしてなんと驚くべき事に……。
彼らは……彼らを率いた悪魔は、最終的に勝利を収めたというのだ。

これは、すでに固まった最終神話を覆す一石足りうる発見である。
217万里行 第二戦 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 03:57:18 0
彼女に、師を敬うなどという心はなかった。
全盛期を無残に散らし、不様に負けた残り滓であると、常々と思う。
ましてや、彼は傲慢にも自分をまったく認めていないのだ。
この世界の最強者にして唯一無二の希望である自分を、しょうもない小娘としか思っていない。
故に、ディアナ・D・メイズウッズにとっての師とは、憎悪と侮蔑の対象でしかなかった。

彼の名は拳聖<Sロナー・ゴスフェル。
といっても、すでに隻眼となり、両腕を失った今ではかつての≠ニ付けねばなるまいが……。
無数の傷と鋭い眼光のおかげで、もはや猫としての愛嬌もすっかり失せてしまった師を前に、ディアナはクルクルと日傘を弄んだ。
「――では、行って参りますわ」
彼からは、その真髄たる拳ではなく足技と歩法の妙味を伝授された。
失われた拳の分は、もう一人の師アルフレーデの銃技にて十二分に埋め合わされたと、ディアナは自負している。
それは、新しい武術への昇華であった。
事実、自分だけではなく周りの誰もが賛辞を惜しまぬのだから、きっとそうに違いないのだ。
否定するのは唯一人、目の前のかつては猛き白虎のみ。

「匠が自らの手による完成を悟るのは、加えるものではなく、省くものがなくなった時だ。
 ……芸術には程遠い」

ゴロナーが自分に下した評価である。
ディアナには、それが我慢ならなかった。
「過去のアナタを完膚なきまでにして差し上げれば、その愚評は覆るのかしら?」
「いきなり自分に関わる者を消してどうする」
このもっともな言葉には、唸るしかない。
「お主が弱いとは言っておらんよ。ただ完成には程遠いと言ったのだ」
「ならば、どうすれば認められるのです!?」
我知らずと搾り出してしまった叫びに三角の耳を動かし、ゴロナーは喉を鳴らして短く答えた。
「わしの口から聞いたところで、お主はそれを認めはすまい。大層な自分の頭で考えよ」
「……まず、アナタの朋友の一人、スターグを始末しますわ」
「ほう、アルフレーデから聞いたか。あのオカマは恐怖症に苛まれておるから、当てにならんぞ」
「倒せば認めていただけますか?」
「倒せれば、な」
白猫、ここで初めて面に肉食獣の輝きを宿す。
「下らぬ自負は捨てよ、伴わぬ見栄は捨てよ。最初からすべてを投げ打つ覚悟で挑め。挑戦者となれ」
この言葉にディアナは歯噛みした。彼はアニマ・ギアの解禁をほのめかしているのだ。
「それでもって、ようやく勝負はトントンかにゃあ?」
全盛期であろう彼の壮絶な笑みを見たのは、後にも先にもこの一瞬だけであった。

山風にドレスの裾をはためかせ、彼女は優雅にヴァイスリンデを傾ける。
突如として目の前に現れてやったというのに、クラックオン達に驚きはなかった。
……この薄汚い虫けらどもめ。
内心の差別的な苛立ちはおくびにも出さず、悠々と最も見事な体躯を持つ者の前へと足を動かす。
「自己紹介は不要ですわね」
身の丈十五尺の彼を見上げて、ディアナは蔑みきった笑顔を作った。
「どうせ、この逢瀬は一瞬ですもの」

クラックオンの万里行における、ラダカン渓谷突破戦に次ぐ第二の関門。
誰にも知られず、語られぬ両者の対決の始まりである。

そういう遣り取りの積み重ねにこそ、後の世の命運は揺れ動くのだ。
218獄震 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/10(土) 13:01:59 0
割れ鐘の如く、歪に響き揺れ拉ぐ。
「か――っ!?」
全感覚を遮断する衝撃に突き上げられ、ディアナ・D・メイズウッズは宙高く舞う土砂と道行きを同じくしていた。
言うまでもなく、これ志士スターグの打ち下ろしによる初撃故也。
女子供相手に非情なる神速の先制、されど卑怯とは言えぬ。
先に攻撃の意を見せたのは自分。彼奴目はそれに応えただけ。ただ思惑を超えて速かっただけなのだから。
……なんて手の早い……でも、確かに避けたのに――なんという威力!
「ルぅールーーーーーーーーーーーーーーーーっツ!!!」
この汚辱、早速もって雪ぐべし。
ロゴスの歯車、乙女の激情に突き動かされ、赤くなりて火花を上げる。
一瞬にして衝撃に破られた鼓膜が戻り、破片に傷つけられた網膜が再生する。
これぞ、肉体の強化と超高速再生を司る《躍動》の力也。
「イリっシオン!!」
続けて乙女、得意の歯車《雷鳴》を廻し候。
たちまちの内に雷走るヴァイスリンデ、この電磁帯びし矢弾は軌道速度威力すべてにおいて、甚だ理不尽となるもの也。
ギア開放により体勢を立て直し、乙女の指が反撃の引き金にかかるまで、これ実に一刹那のことであった。。

撃ち出されし無数の散弾、曲がり曲がりて志士の死角へ向かい行く。
最強無敵を自負するディアナの必勝の攻め、防ぐ術は果たして有りや無しや?
乙女の笑みが説くと語る。
一撃で仕留められなかったことがすべての帰結、即ち貴様の敗北は天の理、地の自明と。
しかしスターグ、笑みには応えず。
ただ、静かに激しくその攻めにのみ動きを見せる。
瞬間にして響いたのは、雷爆ぜて鉄砕け塵と還るが様を明快に表す音であった。
――果たして、何故?
《躍動》により数十倍に引き上げられたディアナの動体視力は、おぼろげながらもその正体を見たり。
スターグの、甲殻を物凄まじく揺れ動かして防ぐ様を。
彼女は知らぬ。知るはずもない。
これぞ、眼下の志士が編み出した、クラックオン八十二万年の歴史の上で初めての武技也。闘技也。
その性故に、武の蓄積なく朽ち果てるが宿命であった昆虫種族に生まれた、初にして究極の戦技也。
知る者これを《獄震》と呼ぶもの也。

人の戦の歴史において、火薬の発明が革命を起こしたように。
昆虫種族の歴史においては、獄震こそがそれなのである。
果たして人は、このような革命をもたらした不詳の発明者を何と呼ぶだろうか?
もし仮に知ったならば、恐れ敬い憎しみ込めて呼ぶのではないか?
悪魔の如き天才であると、革命児であると。
さあ人よ、呼ぶがいい。

――叫ぶがいい!

その男の名はスターグ。
後の世広く永く、悪魔と呼ばれるに値する者也。
219決着は人知れず ◆9VfoiJpNCo :2007/03/10(土) 14:53:49 0
この恐るべき魔性の技を見て、
「……ふっ」
地に降り立ったディアナは笑った。鼻で笑った。嘲った。
「野蛮で醜い怪物に相応しい、まったく美しさのない技ですこと」
スターグがそうであるように、彼女もまた集大成たる天才である。
攻防一体にして死角なき獄震の凄まじさ、わからぬはずがない。
それでも、笑う。笑うのだ。
自らこそが、至上であると。
確かに、己の体機能を始め自然から時空までもを自在に操る彼女には、余裕を持って然るべきだろう。
驕り高ぶっても仕方がなかろう。
「さあ、見なさいな! ……と言っても、アナタは何もわからず間抜けに死んでいくのだけれど」
――廻る。
「フィーヴルム!」
《疾風》の歯車、その名の如く疾く廻る。
時間よ止まれ。我が前に平伏し従い廻りたれ!

だが、ここで違和感が走る。
「――え?」
固まるはずの世界が、スターグが、相も変わらず動き続けているのだ。
動揺を見せる面に、獄震の拳、真正面より唸り来る。
反応遅れて回避ならず。逸らし和らげ、それでもやはり垂直に舞う。
「ルールーツ……っ!」
だが問題はない。あらゆる痛手も《躍動》さえ廻せばたちどころに完治する。
問題は、思いのままにならぬ時空にあった。
……何故?
問い質した所で、黙して迫るスターグが語るとは思えない。
……まさか?
大層な自分の頭で考えよ――この場において浮かんだ師ゴロナーの言葉通りに巡らし張り詰め、
……風が殺されている、とでも?
ディアナは、生まれて初めての戦慄を覚えた。
もはや、常時発動となって姿霞むスターグの獄震を見て、直感したそれが答えであったからだ。
風の精霊が時空間に影響を及ぼす明確な原理は、未だに未知の深淵にある。
確立しているのは、精霊力を操る術だけなのだ。肝心の精霊が応えてくれねばどうしようもない。
「フィーヴルム!」
ならば致し方ない。対処を変えて行使するのみ。挑むのみ。
幸いにして、自身だけに効果を及ぼす時間の加速は問題なく発動した。
そう、問題はない。これだけでも、自分に充分に無敵足りえるのだから。
時の戒めを断ち切り、閃光となったディアナ。死ねよ消えよとスターグ目掛けて殺光と化す。
空間に、激震走る。
……どうして!?
またしても、くらったのはディアナであった。
……どうして、そこに拳があるのよ!!??
二人の速度差は優に数百倍にも開いているはず。先読みにしてもべらぼうに過ぎる精度だ。
――それでもって、ようやく勝負はトントンかにゃあ?
屈辱噛み締め《躍動》を廻すディアナの脳裏に、ゴロナーの言葉が痛く苦く響き渡った。
この先、彼女は嫌いな師の言葉を繰り返し聞くことになるのであった。。

何度も、何度も、その気丈さを打ち砕き、嫌と叫ばせてしまうほどに……。
220ST ◆9.MISTRAL. :2007/03/10(土) 22:09:35 0
――ガナン北東部
物言わぬ鋼の行軍を、10km程離れた丘の上にて待ち受ける部隊があった。
最新鋭のゴレム《イクスゼアーテ》20機による公国首都防衛軍の1部隊である。
「クラックオンの一団を捕捉、《イクスゼアーテ》全機攻撃準備完了です」
副官の報告に、部隊長のベルダン=レーゼンバッハがインカム越しに指示を出した。
「よし、ムシケラ共を残さず灰にしてやれ!!」
ベルダンの指示と同時に、《イクスゼアーテ》の荷電粒子ライフルが発射され…

なかった。

爆発音が轟き、辺りは瞬時に火の海と化す。隊員達は訳も判らず恐慌状態となった。
「な…!?何が起きた!?………?なんだ、あいつは…?」
ベルダンはモニターをチェックして周囲の異変を捜し、1人の少年を見つけて呻く。
明らかに異常だった。炎に撒かれているにも拘わらず、笑顔でこちらに向かい歩いて来る!
「隊長…これは、精霊反応であああああああああああああああ!!!!!!」
又しても《イクスゼアーテ》が炎を撒き散らして四散した。
あれでは搭乗員は助からないだろう。どう見ても即死にしか見えなかった。
「くっ!ちきしょう!!親父の弔い合戦だってのによ!!こんな訳わからん奴にッ!!」
そう叫んだ次の瞬間、ベルダンの機体は爆発炎上し20機のゴレムは全て破壊された。


黒煙を吹雪で消し飛ばして、遠くの彼らに気付かれるのを防ぐ。
寄り道する時間は勿体ないからね。彼らには“やるべき事”をやってもらわないと。
「困るんだよね、彼らはここで死ぬべきじゃないから。ごめんなさい」
ゴレムの破壊を確認して、ボクは《霧氷のテクタリヌス》をギアに戻した。
《アニマ》…かつてエルフの指導者レシオンによって造り出された人造精霊獣。
自我を持つ精霊を完全に制御する為の技術を模索する過程で試験的に完成された存在。
その力はオリジナルである精霊の根源、イルドゥームを遥かに凌駕したものだった。
エルフと完全に同調した《アニマ》の力を使えば、この世界を簡単に破滅へと導くだろうと
 レシオンの息子のモーラッドは《アニマ》の存在を危惧し、レシオンを説得する。
だがレシオンは『エルフこそ世界を管理する選ばれし民である』という主張のもとに戦争を始める。

【龍人戦争】…ゼアド大陸に住む者なら誰でも知っている、人類史上最初の大戦だ。
世界史では悪の王とされる、龍人の王アーダ=アドミラルは当時、戦争に反対したのだ。
けれど一方的な侵略にいつまでも黙る龍人じゃなかった。
瞬く間に戦火は拡大し、大陸全土を巻き込む大戦にまで発展する事になる。
ここまでは“誰でも知っている”歴史。
ここからは“極僅かの者だけが知る”歴史。

《アニマ》に対抗する為に、アーダはイルドゥームを再び蘇らせようとしたが失敗した。
“断龍”と“破龍”。2人の獣人を筆頭に、獣人達の暗躍がアーダの計画を阻止したからだ。
では『金色の四英雄』と呼ばれた彼らが倒したのは、一体何なのか…
そう、《アニマ》だ。12の属性を統べる究極の人造精霊獣、《無のエクスマキーナ》。
他の《アニマ》を取り込み、世界へ浸食を始めた《エクスマキーナ》を止める手段は無かった。
だからモーラッドは真の管理者である《十剣者》の協力を得て、世界の外へと放逐したんだ。
自ら不死の楔を撃ち、永遠に《エクスマキーナ》を監視する道を選び、虚空の果てを漂った。

これで世界は平和になる筈だった。

でもそれは間違いだった。使徒の反乱によって世界を隔てる壁は消え去り、“彼”は戻ってきたんだ。
遥か古の時代、同じ様に世界を追われた始まりの龍と共に。この世界に生きる、全ての生命へと復讐する為に…
221ST ◆9.MISTRAL.
この世界に帰還した《エクスマキーナ》と《租龍アンティノラ》を倒す手段は無かった。
なす術なく人類は蹂躙されて、ボク達の戦いは始まった。
“断龍”クロネ、彼が《アニマ》の存在を母さんに教えた事で、ボクと姉さんが選ばれた。
精霊の…《アニマ》の力を限界以上に引き出すのは、ハーフエルフだけだったから。
ボクは正直言って戦いは嫌いだ。
でも、クロネさんは「過去を変えて未来を消す以外に方法は無い」と言ったから…
だから、今こうしてボクはここにいる。未来を消し去る為に、この時代で人を殺してる…


いきなり遠くに姉さんを感じて、ボクは驚いた。この先にいるのは…スターグ!!
「姉さん!?どうして彼らに!?」
理由はさっぱり解らない。けれどもこれだけは判る。
「姉さんはスターグを殺す気だ!!」
凄まじい精霊力が遥か前方に渦巻いた。《アニマ》の真の力…《霊獣化(ユニゾン)》!
展開しているのは【生命】、《久遠のルールーツ》。これではスターグに勝機は無いに等しい。

今スターグが死ぬのは勿体ない!彼らには中央の戦局を混乱させる役目がある。
ただでさえもう歴史は動き出してるんだ。“ボク達が知っている歴史”とは、別の方向に…



そこに在るのは“人”ではなかった。そこに在るのは“獣”でもなかった。
そこに在るのは……《アニマ》。
命とその根幹たる躍動を司るは《久遠のルールーツ》。
既にクラックオン十烈士に、立っている者はおらず、煉獄の志士たるスターグも膝を折る。
それはクラックオンの不死に等しい生命力が故だった。

『調子に乗るなムシケラ』
ディアナは“奪い取った”のだ。彼らの生命そのものを!!
彼女がただそこに存在するだけで、クラックオンの勇士達は地に倒れ伏したのである。
『弱い…弱すぎる…このムシケラにワタクシが劣るなんて、あ り え な い!!!!』
草木は涸れ、大地からも命の輝きは消え、ディアナの中へと呑まれていく。
『なのに何故!?先生はワタクシを…ワタクシの強さを認めてくれないの!?』
吠え猛る山吹色の魔獣を目指し、スターグは立ち上がる。生命力を奪われて尚、立ち上がる。
何が彼を奮い立たせたのか、それを知る者はいない。
あの日、誓いを交わした“盟友(とも)”以外には!!

「…………………」
突風と衝撃を纏いて黒の弾丸が迫る!拳が巻くは真空の牙、数多を貫く豪矛!!
普段のディアナならば、《烈風のフィーヴルム》の時流操作で難無く避けただろう。
だが今は《久遠のルールーツ》と《霊獣化》している最中だった。
《霊獣化》中は他の属性を一切起動する事ができない。
その代わり、《霊獣化》した際は通常時よりも強力な能力を行使できるのだ。
それ故に、今のディアナはこのスターグの攻撃を自力で回避しなければならなかった。
渾身の力を篭めたスターグの一撃。まともに食らえば唯では済まない。
しかしディアナは避けようとすらしない。そして豪矛が彼女の心臓を串刺しにした。
それだけでなく、更なる回転と振動の余力が肉を引き裂き、血を捩り、彼女の身体を空高く舞い上げた。

究極にして完全なる一撃。これを避けられる筈がないのである。
何故ならば、ディアナは《アニマ》の力を過信した。その力を己のものと驕った。
至極当然の結果なのだ。
いくら天才的な戦闘感覚を持っていても、それを磨ぐのを怠っては意味は無いのだから。
舞い上げられたディアナの身体が地に落ちると共に、スターグも崩れ落ち、片膝を着く。
煉獄の志士は静かに力を込め、再び立ち上がる。
例え1人であろうと、逝かねばならぬと。

約束の地へと…