【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 12【一般】

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはローゼンメイデンの一般向けSS(小説)を投下するスレです。
SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう。
18禁や虐待の要素のあるSSの投下は厳禁です。それらを投下したい場合は、エロパロ板なりの相応のスレに行きましょう。
次スレは>>950を踏んだ人が、またはスレ容量が500KBに近くなったら立てましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:40:26.65 ID:5AZDSQzu
前スレ
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 11【一般】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1287763738/
過去スレ
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 10【一般】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1255756428/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 9【一般】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1222956916/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1198461642/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 7【一般】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191748088/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 6【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1184419565/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 5【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1178641673/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 4【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1171710619/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 3【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1156249254/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1146976611/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1143018114/


保管庫
ttp://rozen.s151.xrea.com/
ttp://www.geocities.jp/rozenmaiden_hokanko/
ttp://rinrin.saiin.net/~library/cgi-bin/1106116340/

避難所(規制時投下先)
ローゼンメイデンのSSスレ 避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14657/
3名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:41:07.83 ID:5AZDSQzu
■スーパーリンク
ttp://www.tbs.co.jp/rozen-maiden/
↑ TBS公式
ttp://p-pit.ktplan.ne.jp/
↑ もものたね (原作PEACH-PITのHP)
ttp://www.gentosha-comics.net/birz/index.html
↑ コミックバーズ
ttp://kanaria.ddo.jp/rozen_upload2/
↑ アップローダー (画像関連)
ttp://i.cool.ne.jp/rozen-aa/
↑ ローゼンメイデンAA保管庫
ttp://futaba-info.sakura.ne.jp/cgi/dic/chara/ziten.cgi?action=aiu_i
↑ 虹裏キャラ辞典 (実装・赤提灯など)
ttp://rozen.sync2ch.cc/
↑ 2ch RozenMaiden過去ログ倉庫
4名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:41:49.21 ID:5AZDSQzu
以上テンプレでした。


さよなライオン!
5名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 20:17:52.41 ID:5AZDSQzu
即死回避が必要らしいので
駄文埋めを図ります
6マスター探し:2011/05/15(日) 20:18:39.37 ID:5AZDSQzu
 昨日の雨が上がって空は底抜けの青さ。
 まあ、視界の端には雲も見えてはいるけれども。気にしない気にしない。
 物件も見ずに決めた郊外の古い一軒家は、つい1週間前まで学生が住んでいたせいか荒れ放題と言うわけでもなく、パッと見にはなかなかのものに見えた。
 もっとも一戸建てに庭と駐車場、物置までついて敷金礼金なしの月額3.5万円という、街中ではまずお目にかかれない格安物件というところが素晴らさの主要因であることは否定しない。
 有体に言ってしまえば田舎のボロ家だ。
 しかしそんなことは百も承知。
 にやにやしっ放しで縁側から引越し荷物一式を屋内に入れ、借りてきた1トントラックを置いてチャリで戻ってくると、俺はまだ電灯一つ据え付けてない家の真ん中で一人祝杯を上げた。
 ビバマイハウス。素晴らしい。

 いい加減に酔っ払ってから、缶ビール片手に家の中を見て回る。
 予想通りのオンボロで、窓なんかはこのご時世というのにサッシでないところさえあったものの、学生が一人で住んでいたにしてはどの部屋も荒れていなかった。
 よほど几帳面なやつだったのか、出て行く前に掃除でもしていったのか。

 異変に気付いたのは、玄関に回ったときだった。
 外から見たときは気が付かなかったが、玄関に何か四角いものが置かれていた。
 ボロ家にそぐわないと言えばそぐわない、古さという点では似つかわしいとも言えそうなそれは、革製の大きなトランクだった。
 無論俺の荷物ではない。上にうっすらと埃が積もっているから、間違いなく暫く前からここに置いてあったものだ。

──前の住人の持ち物か?

 しかし学生が持つにしては違和感がある。アンティーク趣味のおっさんおばはんあたりが好きそうな凝ったデザインだ。
 それに、忘れ物だとしたらこんなでかくて目立つものを1週間もほおって置くとは思えない。いくらなんでも気付くだろう。

──この家の備品か何かでも詰まってるのか。

 その方がまだ可能性としてはありそうだ。
 温くなってしまったビールをちびりと遣りながら、取り敢えず開けてみようと俺は決めた。
 忘れ物なら鍵がかかってるだろう。この家の品なら素直に開くに違いない。
 UHFアンテナか延長コードでも入っててくれれば御の字なんだが、と買い忘れたものが都合よく入っていてくれることを期待しながら鞄に手を掛ける。
7マスター探し:2011/05/15(日) 20:19:20.01 ID:5AZDSQzu
「……なんだこりゃ」

 あっさりと開いたそこに入っていたのは、予想の斜め上を行く品物だった。

「子供……?」

 暫く俺はその姿勢のまま固まっていた。
 丁寧に内張りされたトランクの中には、栗色のショートカットに青い服、黒い帽子を被った子供がひざを抱えるようにして……

 なんだこれは。殺人死体遺棄事件てやつか。いや腐臭はない。少なくとも俺の鼻には感じられない。血の匂いもない。じゃあなんだ。できたての病死体。まさか。
 いや死んでるとは限らないだろう。その辺のガキがかくれんぼのついでに空いたトランクに入ってみせてるんじゃないのか。
 しかし、凝固したような視線をじっと向けていても、子供は一向に起き出す気配はなく、それどころか微動だにしなかった。
 ビール缶に付いた露で濡らした指をおそるおそる口元にかざしてみたが、風の動きは感じられない。つまりは……

──いや待て。冷静になれ俺。脈だ。脈があれば生きてる。

 後から考えればお笑いなのだが、とにかくそのときの俺は「脈を取れば生死がわかる」というところに考えが固着してしまっていた。
 アル中のおっさんもかくやというほど震える手を慎重に伸ばし、子供の手首を掴んで……

「……なんだ、脅かしやがって……」

 俺はその場にへたりこんだ。汗が安堵感と一緒にどっと全身の毛穴から噴き出したような気がする。
 トランクの中にいたのは、子供じゃなかった。手首の感触は柔らかかったが人間のそれとは決定的に違っていた。人形の関節だった。
8マスター探し:2011/05/15(日) 20:20:02.30 ID:5AZDSQzu
 トランクを薄暗い玄関から縁側に運び出し、ビールをもう一缶空けてから改めて中身を観察してみる。
 中は高級そうな絹の内張りで、そこに立たせると80センチはありそうなでっかい人形が納まっている。どっちもできたての新品のように綺麗だった。
 念のため肩と肘をそっと触ってみたが、やはり両方とも人間のものではなかった。
 球体関節というやつだろう、大きさはだいぶ違うが昔懐かしのコンバットジョーやらミクロマンと同じタイプ。人間とおおむね同じポーズが取れるってアレだ。
 するってーとこいつがアンティークドールってやつか。話に聞いたことはあるし、愛好家がいるというのも知っているが、実物を見るのは初めてだった。
 人形とはいえレジンやらポリプロピレンあたりの素材で組み立てられた大量生産品とは別格だ。
 着ている物は人間用の衣装と同じかそれ以上に凝っている。髪の毛の質感も安いナイロン糸とは訳が違うようだ。
 それに何より、肌の質感や造形が半端じゃない。義肢の上張りに使うようなシリコン系かゴム系の素材を使ってるんだろうが、上っ面だけ塗りつけたんじゃなく、積層は分厚い。
 手や顔なんかは骨の上に素材そのものを盛ってあるようだ。つついてみた触感も含めてまるきり人間そのものだった。
 もっとも、よく見れば顔立ちはいささか美少年過ぎる。もう少し不細工にできていたなら、逆に人間と見分けがつかないだろう。

──こんなモン作るのに幾ら掛かるんだか。

 そんなことを考えながら鞄を閉じようとして、ふと人形の脇に置かれたものに目が行った。少し洒落た形をしているがゼンマイ巻きのようだった。
 他にオルゴールでも入ってるのかと鞄の中をよく見直してみると、案に相違してゼンマイ穴は人形の背中のほうに開いていた。
 これはすごい。ぜんまい巻いたらカタカタ動き出す、なんてお茶汲み人形も真っ青のギミックまでついてるとは、さすがこの手のアンティーク風当世物。

 しかし、待てよ。どう動かすつもりなんだこれ?
 二本足で歩くのか、時計でも内蔵されてるのか、なんにしても不自然だ。
 この体型で二足歩行なんて人間でもなければバランス取れそうにないし、頭かなんかがぱっくり割れて鳩がコンニチハって方も、斜め上すぎて幾らなんでもなさそうな気がする。
 だいたい、愛好家連中は人形買うと「○○ちゃんをお迎えしました〜〜♪」とか言うんだよな、確か。まさにこういうトランクなんかに入れて旅行に連れて行ったり。
 そんなもんに安物の家電みたいに余分な機能を付けるもんかね?

「わからんなぁ」

 謎だ。動かしてみれば分かるとは思うが。
 だが、さすがに鞄から取り出して勝手に動かすのはまずすぎる。なにやら異様に高価そうな代物だし、無闇にぺとぺと触るのでも止めておいたほうが良さそうだ。
 もっとも既に数回触ってしまっているわけだが、そこは勘弁して貰うしかない。手首などに指紋が付くような触り方をしたのは、こっちとしても事情があってのことだ。
 問題はこれが誰のものかということだが……
 鍵が掛っていなかったとはいえ、最初に期待してたような物でなかった以上、これは前の住人の忘れ物とみて間違いなかろう。
 まあ取り敢えずは大家に連絡しよう、と俺は鞄を閉じた。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 20:21:47.73 ID:5AZDSQzu
意外に容量がなかった。残念。

という訳で今のところ続きはありません。悪しからず。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/16(月) 02:54:42.75 ID:f+BB7K6m
スレ立て乙。
この板の即死回避条件ってどうなってんの?
11乳酸菌取ってるぅ? (代理):2011/05/16(月) 08:00:02.02 ID:2kVlaePz
3レス転載します。

>>10
よくある10レスで回避ってやつかも? と前スレの冒頭見て思ったんですが。
でも他のスレでは見なかったような気もする。
12乳酸菌取ってるぅ? (代理) 1/3:2011/05/16(月) 08:02:04.08 ID:2kVlaePz
シカ婆「ああ、任せといておくれ。

ところで、あんた折角里へ来たんだし、正月をここで過ごしていったらどう
だい?」

番人「ああ、いや、今夜一晩は里に泊めてもらうが、明日の朝には帰るよ。
やっぱり、西側の番人としてはあまり長くあの場所をあけておきたくねえし
な。

それに、最近、犬を飼い始めたんだ。
明日までは大丈夫なように食い物を置いてきたけど、ずっとほっとく訳には
いかなくてな。」

シカ婆「そうかい。まあ、それじゃしょうがないね。あんたは西側の警戒の
要だしね。」

番人「まあな。西側は任せといてくれ。
ただ、他の方角までは距離がありすぎて手が届かねえから、そっちは他の奴
らで警戒を頼むぜ。」

シカ婆「ああ、分かってるよ。今の侍ごとの親方はしっかりしてるし、結界
もある。心配いらんよ。

ところで、今夜はこの家に泊まるよね?」

番人「ああ、いや、この後兄貴の所へ行くつもりだから、そのままそっちへ
泊めてもらうつもりだ。

何か、実験始めちまって手が離せねえって言うけど、手え動かしながら話聞
くぐらいは出来るだろうからな。」

シカ婆「あの子は実験だの分析にのめり込んじまうとアレだから、聞くかど
うか怪しいよ(笑)

ま、これだけ大事な事だから大丈夫とは思うけどね。」

番人「ははは、兄貴は昔からああいうのにのめり込むとまわり見えなくなる
からな(笑)ま、無理にでも聞いて貰うさ。」
13乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 08:04:05.83 ID:2kVlaePz
シカ婆「ま、長老としての自覚もあるだろうからきっと大丈夫さ。

じゃあ、柿屋敷に泊まるとして、夕飯はうちで食べていくだろう?
あの家、干し柿しかないよ(笑)」

番人「ははは、それもそうだな(笑)じゃあ、もうしばらく居て、夕飯はこ
こで食わせて貰うよ。」


その後、夕飯時までは他愛のない話をする。
番人が最近飼い始めた変わった仔犬の話はかなり面白く、皆で笑い転げる。

夕飯がすむと、番人は柿屋敷へ向かう支度をする。
シカ婆さんは明日の朝里を発つ前に顔を出して行くように言い、送り出す。


銀「番人さん、全然変わってなかったね。」

シカ婆「そうだね。元気でよかったよ。」

カ「ねえ、シカさん、番人さんの話・・・」

シカ婆「ああ。」

カ「場合によってはかなり深刻よね?」

シカ婆「ああ、場合によってはそうだね。最悪の場合、この場所は捨てない
といかんかもしれない。」

銀「えっ、そんな・・・」

カ「ここまで作り上げた里を今さら捨てられるの?」

シカ婆「そりゃもう、それは大変な事になる。出来るだけしたくないね。

でも、あたしらの財産は醸しの技と醸しの種だ。それさえあれば場所は変わ
っても何とかなるさ。

それにね、弟が話したのはあくまでも最悪の場合の話だよ。
そこまで悪い方へ物事が運ぶ事は滅多にないさ。

あたしら長老は里を守る立場だからね、そういう最悪の場合の事も考えない
といけない。
弟もそれが分かってるからああいう話もしたけど、まずそこまでの事は起き
やしないよ。」
14乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 08:06:06.31 ID:2kVlaePz
カ「本当?」

シカ婆「本当だとも。今までも、心配な事はたくさんあったのさ。
それこそ、このあたりが大軍同士のいくさの場所になりそうだった事さえあ
るんだよ。
でも、実際はそんな事にはならなかった。

今回はそれに比べれば大した事じゃないさ。
結界があるからまず見つかりやしないし、見つかったら見つかったで、検地
のお役人に袖の下を握らせれば何とでもなるさ。」

カ「ああ、そうね、賄賂って方法もあるね。」

シカ婆「他にも色々方法はあるのさ。だから、あんたらは心配しないで暮ら
しなさい。」

シカ婆さんはいつもの人を安心させる笑顔を浮かべる。

カワセミと水銀燈も安心して笑顔になる。

シカ婆「そうそう、弟が帰るとき、お餠と正月料理を少し持たせてやりたい
んだ。
ちょっと料理と包むの手伝っておくれ。」

カ・銀「はーい。」


三人は少し遅くまで料理をし、いくつかの正月料理を完成させ、大きな竹の
弁当箱に詰める。
良い具合に乾いた餠をいくつか選び、弁当箱と一緒に風呂敷に包む。
15乳酸菌取ってるぅ? (代理) :2011/05/16(月) 23:16:44.03 ID:X9Ki1RvX
3レス投下します。

現在不良超長期掲載物を複数抱えてる身なので>>6-8の続きはご勘弁願いたく。
あくまで即死回避用の埋蔵物ということで。
16乳酸菌取ってるぅ? (代理) 1/3:2011/05/16(月) 23:18:44.64 ID:X9Ki1RvX
>>1
スレ立て乙っすー。

>>6-8
投下乙です。
男のモノローグ形式もいいですね。
読みやすくていい感じです。
続き・新作が浮かんだら是非投下を。
17乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 23:21:09.50 ID:X9Ki1RvX
翌朝。
番人は昼に近い時間になって現れた。

シカ婆「どうだい、あの子とゆっくり話せたかい?」

番人「ああ、兄貴は分析の手を動かしながらだけど、話はたっぷり出来たぜ。
気になる事の話だけじゃなくて、昔の思い出話までしちまったぜ。ついつい、
夜更かししちまって寝坊したよ。」

シカ婆「あはは、まあ、たくさん話せたなら良かったね。それで何か言って
たかい?」

番人「まあ、特に。考えておく、とは言ってたけどな。」

シカ婆「ま、あの子ならそんなとこだろうね(笑)

そうそう、これ。正月料理とお餅だよ。持っていきんさい。」

番人「おお、すまねえな、姉貴。ありがたく頂くよ。」

シカ婆「どういたしまして。
また、もうちょっとまめに里に顔出しんさいな。半日とかからない所に住ん
でるんだから。」

番人「ああ、気が向いたらな。
じゃあまたな、姉貴、お嬢ちゃんたち。世話になったな。」

銀「ええ、また。」

カ「またお待ちしています。」

シカ婆「ああ、またね。近いうちに来んさいよ。」

番人は軽く手を上げると歩き去って行った。


カ「不思議な人ね。」

銀「ええ、でもいい人ね。」

シカ婆「わが弟ながら、何となくうさんくさいけどね(笑)」

カワセミと水銀燈も、口には出さないが内心そう思っていたので笑い転げる。
18乳酸菌取ってるぅ? (代理) 3/3:2011/05/16(月) 23:23:10.09 ID:X9Ki1RvX
今年も残すはあと二日。
一度、カワセミが警備の当番で抜けた以外はずっと三人で正月の支度を続け
る。

例によって共同作業場に晴れ着用の支度部屋が整えられ、いつも借りている
大鏡を持って行って据える。



そして大晦日の夜。
大掃除もお節の支度も済み、いつも通り酒樽も運び込んで正月の支度は万全
だ。
年越し蕎麦を食べ、いつもより夜更かししてお喋りする。

シカ婆「今年はいい年だったね。」

銀「ええ、本当に素晴らしい年だったわ。」

カ「本当だね・・・今年は最高だったね。」

シカ婆「来年もいい年にしようね。」

カ・銀「ええ!」


風に乗って微かに除夜の鐘が聞こえてくる。

鐘の音に聞き入りながら、三人はぐっすりと眠る。
19乳酸菌取ってるぅ? (代理) :2011/05/16(月) 23:25:10.70 ID:X9Ki1RvX
>>15の一行目の恥ずかしい誤字。

× 投下
○ 転載


いくらなんでも他人様の文を自分のもの扱いしちゃいけません。反省orz
20「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:07:25.70 ID:DLCYF+zO
規制、終わったかな?
21「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:13:01.52 ID:DLCYF+zO
規制、解除されました。

転載、どうもありがとうございました。
22「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:15:19.56 ID:DLCYF+zO

一晩明けて正月。

この里で祝う二度目の正月だ。
好天は続いており、元旦からからりと晴れた青空が広がる。

三人は去年と同じく、新年の挨拶をし、雑煮とお節とお屠蘇の朝食をゆった
りと楽しむ。
料理は去年より一回り豪華になっていた。

昼からは初詣だ。
晴れ着に着替え、広場へと向かう。

一回り立派になった祭壇に順番にお参りし、北の社と南の祠にもお参りする。
去年はいろいろな事が上手く行った年だったので感謝の祈りも長く、結構時
間が掛かった。

とはいえ、元旦の合同初詣はもともと比較的簡素な行事だ。
長くなったといっても午後の早いうちに終わり、あとは広場での雑談になる。

寒い中ではあるが、甘酒と温かい汁物が出され、それなりに話がはずむ。
長老たち、親方たち、職人たち、女衆たち、源三くん、仁くん、クローザー
さん・・・皆の姿があり、入れ替わり立ちかわり新年の挨拶と雑談、そして
笑顔の交換が繰り返される。

親しい人間の増えた今となっては、いつまで経っても話は尽きないのだが、
夕方になるとさすがに寒くなり、みんな家路についた。


夜も御馳走三昧だ。
去年はあまりなかった海産物が今年は豊富になっている。
特に海老が華やかだ。

三人はご馳走を堪能する。
カワセミは例によって、あー太る太ると言いながら一番たくさん食べていた。
23「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:19:45.35 ID:DLCYF+zO
開けて二日。

朝食が終わるとシカ婆さんは重箱に料理を詰め、餠をいくつか持って柿屋敷
に行ってきた。
何でも、柿屋敷の先生は年末の鉱物調べ以来、分析にのめりこんでしまって
正月の支度もせず、ろくに食べてすらいないらしい。

シカ婆「全く、あの子も困ったもんだよ、いい年して・・・まあ、集中力が
あるのは悪い事じゃないけどねえ。」

カ「食べるのも忘れて、って凄いよねえ。」

銀(食いしん坊のカワセミなら有り得ないわね・・・)

カ「・・・ねえ、水銀燈、あなた今なんか失礼な事考えなかった?(笑)」

銀「え?何の事かしら?(笑)」

シカ婆「ま、食べ物は置いて来たから大丈夫さ。しかし、今年は正月料理を
多めに作っておいて良かったねえ。」

カ「ほんとね。品数が増えたから三が日で食べられるのか心配なぐらいだっ
たけど、丁度よくなりそう。」

シカ婆・銀(いや、カワセミの食欲なら余る事は・・・)

カ「ねえ、二人とも、今何か・・・(笑)」

シカ婆・銀「(笑)」
24「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:29:17.47 ID:DLCYF+zO

午後は書き初め、という儀式をする。
儀式と言っても大げさな物ではなく、ほんのちょっと形式ばった書の練習だ。

去年は紙があまりなかったので子供のいる家以外ではやらなかったのだが、
今年はほとんどの家でやっているらしい。

水銀燈も読書やシカ婆さんの手ほどきのおかげ、そして酪水の開発の時にい
ろいろ書いた経験から、書く事もほぼ不自由なくできるようになっていた。

ゆっくりと墨をすり、普通の筆では大きすぎるので小筆を使い、様々なおめ
でたい言葉を半紙に書いていく。

かなりの達筆のシカ婆さんには及ばないものの、なかなか上手に書が書けた。

カワセミもそこそこ書が上手いのだが、途中から脱線して水墨画を書き始め
る。
結構上手い。
そういえば以前、絵地図を巧みに描いていた事もあった。

最終的に、この家を背景にシカ婆さん、カワセミ、水銀燈が並んで立ってい
る絵をなかなか見事に描きあげる。

シカ婆さんはにこにこしながら、水銀燈の書とカワセミの画を簡単な掛け軸
風に仕立て、部屋の壁に飾る。

気づくともう夜だ。

書と画の後始末をし・・・結構、墨がとんでいた・・・食事をする。
こういう時には準備の楽なお節料理は便利だ。

食事が終わっても、今日の書と画の出来具合の話、書の歴史の話、カワセミ
がかなり画才があるという話、有名な絵師の話・・・と話題は尽きなかった。

三人は夜半までお喋りをしてから眠る。
25「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 23:29:43.91 ID:DLCYF+zO

そして三日。

この里では三が日が終わると概ね正月が終わるため、楽しい正月も今日が最
後の日だ。

天気は良いし、からりと乾燥した空気で清清しい日ではあるが、非常に寒い。
しかも風が強かった。
三人は外に出ないで家の中で過ごした。

だらだらしながら食べ続け、時折かるたや双六で遊んだりする。
正月の定番とも言える過ごし方だ。

外は風が強いようで風音が聞こえるし、どこかが微かにがたがたと鳴ってい
る。
それでも三人で過ごしていれば気になる程ではなく、家の中は温かく穏やか
だった。

穏やかで楽しい時間は早く過ぎてしまう。
気が付くともう、夕食の時間だ。

昼間あれだけ食べ続けたのにまた餠をたくさん食べ、お節料理を食べつくす。
すっかり満腹になり、食事の後片付けをする。

囲炉裏を囲み、お茶と茶菓子、そしてシカ婆さんはぐい飲みを手にする。
ぼんやりとしてあたたかい雰囲気の中、取り留めのない事を話す。

穏やかで気だるく、幸せな時間だ。



カワセミ「ん?」

シカ婆「おや?」

二人はちょっと不審げな表情になる。

銀「? どうしたの?」
26「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 23:59:02.61 ID:DLCYF+zO

突然、夜だというのに窓の外が明るくなる。
陽光の色とは違う、もっと橙色の明るさだ。

そして、大勢の叫び声が聞こえてきた。

カワセミは飛び上がり、縁側に走り寄ると素早く雨戸を開ける。
シカ婆さんも水銀燈を抱きあげてカワセミに続く。

カ・銀・シカ婆「!!」
三人は驚愕に言葉を失う。

里のあちこちに火の手が上がっていた。
まだ里全体を覆う程ではないものの、驚くほど急に火が燃え広がっている。
あたりは昼間のように明るい。

銀「か、火事?」

カ「あれを!」
カワセミは南西のあたりの一角を指差す。

そこには唖然とするような光景が広がっていた。

大勢の人間がいた。
里の者ではない。
皆、胴丸を付けるか鎧を着込み、槍や刀、弓矢、斧、木槌などを手にしてい
る。
半数ほどの人間は松明(たいまつ)も手にしている。

これは明らかに軍勢であり、兵だ。

弓矢を手にした者たちは火のついた矢をつがえ、次々と放っている。

何人かが細長い布を振り回している。
長い布を二つ折りにし、そこに何か丸っこいものを挟んで振り回し、勢いが
ついたところで上手くその布の一方を放すと、かなり遠くまで丸っこい何か
が飛ぶ。
小さな壷か何かのようだ。

壷は近場にある里の建物を狙って放たれているらしい。
建物にあたると壷は割れ、中からどろりとした液体が流れ出す。
そこへ火矢が当たると急激に炎が上がる。

乾燥続きの気候のせいでどこもかしこも乾ききっている。
折からの風にあおられ、火はあっという間に燃え広がる。
27名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 05:07:27.18 ID:H4vB7Me8
解除おめっす。

ついに来たねぇ公儀隠密(違

ジ(ュ)ン君の頑張りに期待。
28「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:03:20.21 ID:Vtxk+2ge
「者ども!」

急に大声が響き渡る。

呆然と・・・戦闘経験のあるカワセミでさえ呆然としていた・・・燃える里
に見入っていた三人ははっとわれに返る。

声のするほうを見ると、一人だけ、山の中だというのに馬に乗った男が居る。
立派な鎧兜を身につけ、抜き身の刀を掲げている。
よく見ると男は腕に包帯を巻いており、そこに血が滲んでいる。
周りの徒歩の男たちにもちらほらと怪我をしている者が居る。

騎馬の男「者ども!ここの化け物どもが隣国の卑怯者どもの手先であること
は明白だ!
やれ!殺せ!焼き払え!」

別の男「隣国の手先を殺せ!化け物どもを焼き払え!」


銀(化け物?隣国の手先?・・・一体何のこと?それに・・・殺せ、ってそんな)


兵たち「殺せ!焼き払え!」

騎馬の男「かかれ!」

全員「応!」

男たちは雄たけびをあげながら武器を構え、手近にあった数軒の家へと殺到
していく。
目は吊りあがって血走り、興奮に半ば我を忘れた状態だ。
29「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:17:43.31 ID:Vtxk+2ge
軍勢のそばの家から里の者らしい男が両手をあげながら飛び出してくる。

里人「待ってくれ!俺たちはなにも・・・がっ!!」

問答無用で槍が突き出され、男は串刺しになって痙攣する。
刺した兵は容赦なく男を蹴りはなし、槍を引き抜くと次の獲物をさがす。

話し合いなど出来る状態ではないようだ。

騎馬の男「本陣以外は散開して攻撃だ!手元に固まるな!奥へ散開しろ!
大きな建物からどんどん焼き払え!」

一同「おお!」

たいまつと武器を持った兵たちが四方八方へ走り出す。


どういった経過でこうなったのかは分からないが、里は完全に不意打ちを受
けてしまった。
軍勢・・・敵は容赦なく襲い掛かって来ている。


シカ婆「こ、こんな・・・何で・・・そんなはずは・・・結界は・・・」

シカ婆さんは両手を胸の前で合わせ、指を複雑に絡み合わせ、何か唱えよう
とした。

が、その動作を急に止め、視線が一点に釘付けになる。

カワセミと水銀燈はシカ婆さんの視線を追う。

カ「あっ!」

騎馬の男の少し後ろに道服姿の男が数人立っている。
先頭の男は豪華な道服を身につけ、星を象った複雑な紋章をあちこちにつけ
ている。
指にまじない紐のような物をまきつけ、両手で印を組んで里の中心の方を見
つめている。

カ「陰陽師・・・」

背後の闇の中からゆっくりと大きな鳥が飛んできて道服の男の一人の肩にと
まる。
・・・いや、よく見ると鳥ではない。鳥のような翼を持つが鳥ではない何か、だ。

男が何かを差し出すと、その翼をもつ何かは差し出されたものを掴み、飛び
立ってゆく。
30「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:35:43.16 ID:Vtxk+2ge
>>27
コメントありがとうございます。

ええ、やっと規制が解けました。
皆さんにご面倒をおかけしてしまっていましたが、これで自力で進められます。

しかし、一回の連載で規制が三回・・・なんともまあ。

♪ ら〜ら〜ら らら〜ら〜 ことぉばに できなぁい〜 ♪
31「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 17:48:56.76 ID:Vtxk+2ge

その間にも新たにあちこちで炎があがり、悲鳴が上がる。

三人とも棒立ちになったまま動けない。


数人の兵が向きを変え、こちらに向かってくる。

カワセミは我に返ると一瞬だけ考え、手裏剣やクナイの入った袋と玄関に置
いてあった自分の槍をひっつかみ、先程雨戸を開けた縁側から飛び出す。

銀「カワセミ!」

カ「私がここで食い止める!その間に逃げて!」

言いながら、カワセミは飛んできた火矢を槍で叩き落す。

銀「駄目!カワセミも一緒に!」

カワセミは丸々一枚開いていた雨戸を顔の幅ぐらいだけ残して閉める。

カ「あんた達は足が遅い。普通に逃げたら追いつかれる。私が時間を稼ぐか
ら、その間に皆と合流するか、脱出路へ!」

カワセミは再び火矢を叩き落す。

銀「でも!」

カ「早く!あんた達が出て、百数えたら私も行くから!」

銀「カワセミ!」

シカ婆「水銀燈、カワセミの言う通りにしよう。多分、それが一番だ。」

シカ婆さんは軍勢と陰陽師の登場の驚きから回復したようだ。

シカ婆「カワセミ!言う通りにするよ。ただ、百も数える必要はない。五十
数えたら追っておいで!」

カ「分かった!」

シカ婆さんは玄関に駆け寄り、一瞬考えたあと、荒地に強い二号車の車椅子
を抱え上げて裏口へ運ぶ。
次いで玄関に戻ると自分の草鞋を持ち、水銀燈を抱き上げて裏口に連れて行
き、手早く車椅子に乗せる。
部屋にあった小さな袋と懐刀だけを懐に入れ、草鞋を履く。
32「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 18:15:04.18 ID:Vtxk+2ge
シカ婆「出るよ!」

カ「急いで!」

シカ婆さんは裏口を細く開け、様子を伺う。
見える範囲では誰も居ない。

裏口を大きく開け、水銀燈の車椅子を押しながら小走りに東の道へ向かう。
幸い、先の方も足元が見える程度には明るい。

先の方も明るい?

辺りを見回すと、思った以上に火が燃え広がっている。
軍勢はまだ東側には回り込んでいないようだったが、先の方にもぽつぽつと
火の手が上がっている。

この乾燥と風だ。
火が燃え広がるのは相当速いだろう。
急いで何とかしないと里中が燃えてしまう。

突然、シカ婆さんが足を止め、その場にしゃがみこむ。

銀「シカさん!」

シカ婆「・・・あああ・・・あたしのせいだ・・・よその陰陽師に結界が破られた
のに気づかないなんて・・・」

銀「シカさん・・・」

一瞬、水銀燈もその場で動けなくなりかける。

しかし、後ろで戦っているはずのカワセミや、恐らく逃げまどっている里の
皆の事が頭に浮かぶ。

水銀燈はシカ婆さんの腕に触れながら強い声音で言う。

銀「シカさん!今は行かないと!きっとみんな逃げてる。誰かが皆をまとめ
ないと!」

シカ婆「・・・そうだね・・・行かないと・・・」

シカ婆はよろよろと立ち上がり、再び進み始める。
33「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 11:30:05.65 ID:yNSyo+N5
水銀燈はシカ婆さんにも押して貰いながら、車椅子を懸命に進める。

曲がり角になっている場所まで来ていったん足を止め、建物の壁のかげから
森の東側の道の様子を伺う。

銀「あっ・・・」

森の東側の脱出路のある辺りは炎に包まれていた。
軍勢はまだ来ていないのに、どうして?

ばさばさと音を立てて、炎の向こう側から何かが飛んでくる。
茶色くてちょっと白っぽく、割と頭の大きい鳥・・・いや、鳥ではない。
近くで見ると良く分かる。
それは鳥の翼に獣の頭部を持つ、異形の存在だ。

その何かは、明らかに先程の陰陽師の肩に止まっていたものだった。
・・・そして、以前、里の上空を旋回しているところを水銀燈が見かけたもの
だった。

よく見るとその異形の獣は一匹ではなく数匹おり、東の道の入り口の上空に
集まっていた。

さらに一匹の獣が飛来すると、空から何かを東の道に落とす。
その何かが落ちるとさらに大きな炎があがる。

異形の獣は明らかに脱出路を塞ごうとしていた。・・・おそらくは、先程の陰
陽師の命令で。

炎はかなり大きくなっており、ここを通る事はできない。

シカ婆「水銀燈、ここは駄目だ。共同作業場の地下の脱出路を使おう。多分、
みんなそこにいるはずだよ。」

銀「え、ええ、そうね。」

幸い、異形の獣は二人に気づいていないようだ。
二人は東側の森から離れ、進路を北に取り、共同作業場へと向かう。

微かだが戦闘の物音らしいものが聞こえる。
炎が上がっているのも見える。
34「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 12:06:36.76 ID:yNSyo+N5

二人は共同作業場がはっきり見えるところまで来る。

炎がかなり広がっている。
共同作業場はほとんどが炎上している。

広場の北側では里の警備の者たちを中心に、戦える男たちが小さな防衛線を
作り、抵抗が行なわれていた。
侍ごとの親方が大槍を振り回している。

その向こう側に何人かの里人がおり、戦う者たちの手助けをしつつこちらを
気に掛けているようだ。
何人か見覚えのある姿が見えたような気もするがはっきりしない。

一応防衛線を作ってはいるものの、不意をつかれたためか、里の方は十人も
いない。
武器や防具も少ないし、統制がとれていない。

敵ははるかに数が多い上、完全武装だ。弓矢もある。
多勢に無勢だ。
間もなく、全滅するか防衛線が崩れて散り散りになるだろう。

炎はどんどん勢いを増す。
炎と敵の陣のせいで、これ以上北側へは行けない。
様子すら見えなくなってくる。

シカ婆「ああ!」

シカ婆さんの視線の先を見ると・・・あの、地下の抜け道のある蔵が炎上して
いた。

抜け道を見抜かれたのか、単に目立つ大きな建物だから火を放たれたのか。
その木造の蔵はまるで松明のように炎上していた。
これでは地下の抜け道は使えない。
そもそも、近づくことさえできなかった。
35「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:12:32.13 ID:yNSyo+N5
あっ。

上のログ、

「二人は南側からそっと広場に近づき、物陰から様子を伺う。
 広場にたくさんの敵が見える。」

が抜けてました。

シカ&ギンは物陰から様子を伺っています。
敵の軍勢の南にシカ&ギン、北側に里の防衛線。
大勢の敵に間に入られ、合流できない状態です。
36「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:26:22.13 ID:yNSyo+N5
?「スイギントウ〜!シカサン!」

訛のある叫び声が先の方から聞こえてくる。
微かに大きな人影が見えたような気がする。

銀(クローザーさん?・・・あ、だめ!危ない!!)


敵の陣から驚愕の叫び声が上がる。
兵「鬼だあ!!」

少し立派な鎧を着た男が叫ぶ。
男「ひるむな!矢、放て!」

一瞬の間の後、ひゅんひゅんと音を立てて矢が放たれる。

向こうの方で叫び声が上がる。

銀「クローザーさん!!」

炎と人に遮られ、状況は分からない。
クローザーが矢に驚いて逃げたのであって欲しかった。


シカ婆さんは血が滲むほど唇をかみ締めていたが、決断を下し、口を開く。

シカ婆「水銀燈、抜け道は駄目だ。それにこれ以上北側へも行けない。
あたしたちは南側の脱出路へ行こう。」

銀「え?南へ?」

シカ婆「ああ。敵は自分達が火に巻かれない様に、自分達が来た南側だけは
火を付けてない筈だ。
連中をすり抜けていく事になるから厳しいが、逃げられるのはそこしかない。
カワセミと合流して、生き残りが居れば拾って、南の脱出路を目指そう。
あそこは常緑樹が多くて視界が利かないから、あの鳥もどきにも見つかりに
くいはずだ。」

銀「え、それはそうだけど、でも・・・北側にいるみんなは?」

シカ婆さんは血を吐くような声で言う。

シカ婆「ここより北の里人には・・・もうあたしたちにはどうしてやること
も出来ない。それぞれ、無事に逃げてくれて、後で合流できる事を祈るしか
ない。」

銀「・・・分かったわ。」

涙をこらえながら二人はその場を離れ、目立たないように物陰伝いに進む。
37「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:47:21.57 ID:yNSyo+N5
まわりに注意しながら、家の方へと向かう。

火は燃え広がり、あるいはさらに火矢を放たれ、ほとんど全ての建物が燃え
ていた。
周囲の森にも火が放たれたようで、ぐるりと里を丸く取り巻くように炎が上
がっている。
里は完全に炎に包囲されてしまっていた。
あたりの空気自体が熱を持ち始めており、時折熱気がうねるのを肌で感じる。

家に近づくと、裏側には誰もいないが、表側からは戦闘の物音がしている。
そして、この家も燃え始めていた。
カワセミは五十数えたら追ってくるはずだが・・・とっくにそれだけの時間
は経っているはずだ。

二人は裏口をそっと開けて家の中の様子を伺う。

家の中はまだほとんど燃えていないものの、かなり熱くなっており、熱い空
気が形あるもののように顔を打つ。
所々から煙が上がっている。

カワセミはまだ家の前で戦っていた。
雨戸が一枚だけ残して倒れており、縁側の前で槍を構えたカワセミが見える。

銀「カワセミ!」

カ「!!馬鹿、何で戻って来たの!?」
38「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 23:05:08.60 ID:yNSyo+N5
銀「東も、地下の抜け道も燃えてて駄目だったの!南に行くしかっ、危ない!!」

水銀燈の叫びを聞いてカワセミは振り向く。
少し離れた茂みから弓矢を構えた兵が立ち上がり、さらにそれぞれ槍と刀を
構えた二人の兵が呼吸を合わせて左右から突っ込んでくる。

カワセミは一瞬で弓兵に手裏剣を放つ。
弓兵は喉を押さえてのけぞり、そのまま後ろに倒れる。
矢は放たれたが、狙いがそれてあさっての方向へ飛んでいく。

刀を持った兵が右から突っ込んでくる。
カワセミは右側へ大きく踏み込みながら、勢いを付けて槍を突き出す。
兵は刀で槍を払おうとしたが、両者とも踏み込んでいるので勢いが強く、払
いきれない。
槍は兵の左肩と胸の境あたりに深々と突き刺さる。

同時に左から槍を持った兵が突きかかってくる。
カワセミは自分の槍から手を離し、斜めに身を沈めてぎりぎりで槍をかわす。
そのまま敵の槍の柄を左手で掴み、力いっぱい引く。
敵はたたらを踏んで前のめりになる。
カワセミは槍を掴んだまま一気に踏み込み、右手で順手に握った手裏剣を相
手の顔に突き刺す。
敵は槍から手を離して両手で顔を覆い、叫びを上げる。
カワセミはそのまま敵の槍を奪い、中ほどを握って半回転させ、穂先を前に
して逆手に掴み、勢いをつけて体ごとのしかかるように槍を敵に突き刺す。
敵はそのまま仰向けに倒れ、上半身が半ば空中に浮いたまま串刺しになる。
勢いでカワセミも一緒に倒れこむが、すぐに立ち上がる。

先程の刀を持った兵は膝をつき、肩に刺さった槍を抜こうともがいている。
カワセミは槍の柄を掴んでえぐりこんで兵に止めを刺し、その体を蹴り放し
て槍を引き抜く。
血が噴水のように噴き出す。

まるで鬼神のような戦いぶりだ。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/19(木) 23:17:07.68 ID:Y55aUwRs
ひなちゃがいつも乗っている三輪車
サドルを外して素っ裸にしたひなちゃを無理矢理乗せると
肛門にパイプが刺さってしまった
「うをおおおーーー!」
物凄い叫び声を上げてハンドルを掴み
物凄い速さでペダルをこいで庭を三輪車で走り回るが
壁に激突して頭を打って気絶してしまった
             ,',(><)ヽ っ   うをおおおーーー!!
            /((ノノリノ))  っ
            ((ミi!;'゚'Д゚';)ミ) 
   キコキコキコ.    ( O┬O
        ≡ ◎-ヽJ┴◎ キコキコキコ
|                    |
|                |
|                    |
|     \、,,'(><)ヽ 、   |
|     _,ノ (ノリノ))ノ))    |
|     `) ('《ミ)ミ)ノ)ミ)  ___──
|         ヽ   /      ̄ ̄ ̄
|        / , ) )   ̄ ̄ ̄──
|    '⌒)(__,/ ヽ__)(`   |
|    /'        '^\   |

   ,',(><)ヽ
   /((ノノリノ))
  (ミ(;;;)'Д`;(;;)ミ))      
  ⊂    ヽつ
  r'⌒  '(:i:) ⌒つ
  (_ノー''--*⌒´´
      ;:;,・;:.,;
40名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:33:18.49 ID:Z1b0Vtsy
連載だがなんか知らんけどダラダラうぜぇ
邪魔でほかのssが来ねえだろうが
41名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:39:52.51 ID:QMLBaxfR
ほかの来てもお前どうせ読まんだろ
42名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 23:14:22.61 ID:Z1b0Vtsy
>>41
本人乙
43名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 07:51:11.67 ID:zBTz45jH
キモイ
44「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/21(土) 08:32:46.46 ID:z4vbpOP0
ん?本人って俺の事?
>>41は俺じゃないですよ。
idとかip変えられるなら規制で中断とかしてないし(苦笑)

うーん・・・
誰が読んでも面白い、なんて物は書けないから、「つまらない」とかの系統
の批判は気にしても仕方ないけど、ほかのSSの邪魔になってるというなら
気になりますね。
一つの作品の専用スレじゃないのに、ここしばらくスレを使いっぱなしだし。

ちょっと、しばらく中断してみる事にします。

何か意見があったら聞かせてください。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 10:56:57.46 ID:1D1MNY/R
一レスごとの容量/行数に余裕があるから、変な折り返しやレス分けせずに纏めて投げればいいとは思う
書けたら投下ってスタイルもありだが、纏まったところで1章分とか丸めて投げても良い感じ
46名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 23:32:32.07 ID:zBTz45jH
>>40
以前にあらかじめ断って投下してたろう
問題があるならその時に言えばよかったろうに
47「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/25(水) 10:21:36.26 ID:p+elkCj2
>>45
うーん、変な折り返しに見えてますか。
以前、一行が長いと、環境によっては横スクロールバーを操作しないとならなく
なった事があって以来の習慣なんですが・・・今はそういう心配はないのかな?

あと、1ログの切り方ですが、だいたい一日分(2〜5ログ)が内容的にひと
かたまりになっていて・・・章より下の単位、節とか小節ですね・・・それを1
ログが一画面分ぐらいになるように分けています。
せっかく連載風にしているので、ちょこちょこ読んでくれる人が読みやすいよ
うに、一日分が内容的にひとかたまりになるようにしたいので。
(ひとかたまりが長い場合はそうならない事もありますが)

今のやり方では凄く読みづらいですか?


>>46
ありがとうございます。
48 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/26(木) 10:30:39.47 ID:kFsClQD2
ども、俺です。
今月中に33話を投稿したいと思います。
遅くなって本当にすいません。
あとタイトル(いつもの○○と△△とかではなく)
が決まったのでその時に発表しよう思います。


>>47=乳酸菌さん
俺のようにトリをつけると良いですよ。
一時的にではありますが本人である証になります。
IDは一日で変わっちゃいますからね。
ちょっち余裕がなくて前スレのケツらへんから読めてないんで、
帰ったら続きを読みます。
49「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/27(金) 00:14:36.89 ID:Ll9bKMcJ
>TEGさん
あ、どうもお久しぶりです。
新作が出来たんですね。
楽しみにしています。

>俺のようにトリをつけると良いですよ。
>一時的にではありますが本人である証になります。
>IDは一日で変わっちゃいますからね。

実は、これを読んだとき、しばらく意味が分かりませんでした(TEGさんのせい
ではないですよ)。

で、38〜44あたりを見直して初めて気づきました・・・>>38と41〜42あたりって
同じ日じゃなかったんですね(汗
>>38を夜中に投下したんで、0時過ぎててその翌日に投下したものと勘違いし
てました。・・・マヌケだ>自分

確かにこれじゃ、>>44で書いてる事はわけわからん事になってますね。
id見ても何の証明にもなってないし。
失礼しました。

もし、再開するとしたらご助言の通り、トリップつけるようにします。
50「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/27(金) 00:22:02.26 ID:Ll9bKMcJ
で、と。

アクセス規制を除いても三ヶ月に及んだ連載、「乳酸菌とってるぅ?」ですが、
まだ読んで下さっている方、読みたいと思って下さっている方はいますか?

ちなみに現在の進度は四分の三から五分の四というところ。
もし、元通りの連載のペースにすると・・・残りは一ヶ月ないと思います。
最後の方はペースアップするので、多分もっと短いです。
51 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/27(金) 01:13:13.83 ID:cnpKz3Ij
>>50=乳酸菌さん

そりゃあもちろんです。読みたいっす。
こっから本編に繋がっていくわけですし
あと、SS書く励みにもなってるんで。

俺は多分壮大な物語になると思うので終わりが見えないのです。
最後の最後までゆっくりと共に頑張りましょうぜ。
52名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/28(土) 08:52:44.55 ID:WSpyveIs
飽きた
人がいなくなったので察しろ
53 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:48:56.35 ID:/YGL+Sf3
 ども、TEGです。第33話が上がりましたんで投下開始しますよ。
遅くなってすいません、俺は最後までやりまっせ!

 俺が09年8月から投下してきた作品群へのタイトルがやっと決まりまして。
題して「RozenMaiden Fortsetzung」
Fortsetzungは独語で「継続」「続き」、トロイメントからの
時代の続きということで名づけました。
このスレ最初の投下なんで、名前欄もこちらにします。
54RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:54:04.04 ID:/YGL+Sf3
【第33話 桜田のりと翠星石の年末】

[2004/12/30 15:50]
[桜田家 台所。]

ザブザブ
のり「お皿を洗ったら〜 お洗濯お洗濯〜♪
   もう年末ねぇ〜……♪」

翠星石「あっというまでしたねぇ。クリスマスが終わってからの
    残り1週間は、とくに早かった気がするですぅ。」

のり「本当ねぇ。クリスマスって昨日じゃなかったかな?
   ……そんなわけないけどね。」

翠「……のりがノリツッコミーってですかぁ?」

のり「さあ……?」
55RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:57:55.03 ID:/YGL+Sf3
 12月30日、薄曇り。大掃除も殆ど終わり、翠星石ちゃんと
いっしょに家事をしてます。私の会社もお正月休みに入って、
あとは新年を迎えるだけ。

 今年、2004年はジュン君と巴ちゃんの進学、私の就職、
あの探偵犬くんくんそっくりの犬が来たことや、父の日には、
水銀燈ちゃんたちが、お父さんに手紙を届けられたこと。

 そして、真紅ちゃんがお家に来て1000日。この1年は、
とにかく、色んな事がありました。
56RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:15:19.95 ID:/YGL+Sf3
翠「しかし、チビチビがトモエの家でこしらえてもらってきた
  サンタの服……ちょっとうらやましいです」

のり「あらあら、それなら今度、ジュン君に作ってもらったら?
   でも、パーティーのときの、翠星石ちゃんのトナカイ姿、
   とってもよく似合ってたわよぅ!」

翠「す、翠星石は、パーティーだからって言ってちょっとハメを
  外してやっただけですぅ……真紅にサンタ役を譲ってやった
  だけのことでしてぇ――」


 我が家は、何だか前以上に賑やかになったような気がします。
私はお仕事があるから、お家に居られる時間は減っちゃったけど
その分、お休みの日には全力でこの子たちと遊んでいます。
57RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:18:20.42 ID:/YGL+Sf3
 12月25日の夜は、巴ちゃんの家から帰ってきた雛ちゃんと
真紅ちゃんがサンタクロースの格好、翠星石ちゃんはトナカイの
格好ではしゃぎながらパーティーをしました。

 12月26日からは大掃除。いつも片付けてるつもりでも、
けっこう埃が貯まっちゃったりしてて、みんなでお掃除しても
家中を綺麗にするのに3日もかかってしまいました。

 あとは、ジュン君のお部屋が終われば大掃除は終わり。
年賀状ももう出してるし、テレビはみんな年末ムード。
年賀状は、真紅ちゃんにモデルになってもらいました。
58RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:23:55.71 ID:/YGL+Sf3
ピーピーピー
のり「あっ、お洗濯が終わったみたい!」

翠「こっちは翠星石がやっとくですから、のりは手洗ってから
  さっさと洗濯物を取り込んでくださいですぅ。」

のり「はぁい!」


[16:27]

のり「ふぅ、やっと第2便が終わったわねぇ♪」

翠「一仕事終えた後の紅茶は格別ですぅ。」

のり「もう、すっかり日が暮れるのが早くなっちゃって……」

翠「もうカラスがアホな歌を歌いながら巣へ帰ってるですねぇ。
  なんか幻想的な空の色ですぅ。」
59RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:27:13.26 ID:/YGL+Sf3
 山の端から、赤、白、青。間にオレンジや薄い水色も混じって
翠星石ちゃんの言うとおり、とても幻想的。私も、この空の色は
結構気に入っています。仕事帰りに見ると、切なくなるなぁ。


のり「昔から、この時期にジュン君と外で遊んでたら、なんだか
   歯磨き粉みたいだね、って……」

翠「3色の練り歯磨き粉ですか? アレは、イマイチ仕組みが
  わからんのですぅ。一回、凍らせて縦に割ってみたいです」

のり「た、多分パソコンで検索したら出てくるんじゃないかな?
   切っちゃったら後が大変だし……」

翠「そ、そーですけど……別に翠星石は本気で言ったわけじゃ
  なくて、です……ちょいとジュンの世話になってみるです。
  数学の教科書といい、アイツはいいものを持ってるです」
60RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:32:27.51 ID:/YGL+Sf3
 翠星石ちゃんは、ジュン君をよく慕っています。真紅ちゃんも
雛ちゃんも、周りのみんなが、ジュン君のことを慕っています。
おかげでジュン君も明るくなれたし、姉として、うれしいです。


のり「翠星石ちゃんは、数学が好きなのかな? 2年前から、
   ジュン君の教科書、よく読んでるみたいだけど……」

翠「こまけー事を考えるのは苦手ですけど、問題は解けるです。
  こないだジュンに見てもらったら『すげえじゃん!』、って
  ……フフフ♪」

のり「そうなの! ジュン君は頭がいいから、たくさん教えて
   もらうといいわよぅ。私はちょっと勉強は苦手だけどね。
   そういえば、面白い話があるんだけど」

翠「何ですか?」
61RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:37:05.29 ID:/YGL+Sf3
のり「『あなたの銀行口座に、毎日86400円が振り込まれます。
    しかし、眠りにつくときこれが消えてなくなります。
    あなたならどう使いますか?』」


 これは、私が高校2年生の時に、学校の集会で耳にした話。
私も最初はその言葉の通りに意味を取ってて、「大事に使う」と
思ったけど……本当の意味を知ってから、考えが変わりました。


翠「そりゃあ、毎日それだけ振り込まれるなら、
  ある分全部使わないともったいないです」

のり「その通りだね。じゃあ、これが何のことか分かる?
   86400円」
62RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:41:20.02 ID:/YGL+Sf3
翠「86400…… 86400……
  むむっ、これは一日を秒に直した時の数ですねぇ!?」

のり「正解! つまり、1日1日を精一杯生きることが、
   とっても大切なことだってことなのね。日だけじゃなくて
   ひと月なら259万2千、1年なら3153万6千。」

翠「コレを考えたヤツは見どころがあるです。
  ……うーむ、翠星石たちも長いこと生きてきましたが、
  今こそ、時間についてよく考えるべきかもですぅ。」

のり「そうねぇ…… 86400秒をどう過ごすか、選ぶのも
   それぞれ次第。未来は選び取れるって、真紅ちゃんが
   いつも言ってるね。」

翠「まったくもってその通りですぅ。姉として鼻が高いですぅ。」

のり「ふふ……」
63RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:45:20.34 ID:/YGL+Sf3
[16:55]

ピーピーピー
のり「あっ、ご飯が炊けたわ! もうそろそろ、ジュン君たちも
   掃除が終わって降りてくるころだし、いっしょに晩御飯の
   支度でもしましょう」

翠「よーし、ジュンたちの為に気合入れて作ってやるですぅ!
  そういえば、チビチビはどっちの所で年を越すですか?」

のり「確か、年越しは巴ちゃんと神社に行くって言ってたわよぅ。
   『12時になっちゃうけど、頑張って起きるの』って。
   ジュン君も行くみたいだけど……」
64RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:48:02.46 ID:/YGL+Sf3
翠「なるほど、その日はフルに86400円を使うってことですねぇ。
  のりも行くですか?」

のり「そうねぇ。今年は、行ってみようかな?
   社会人になったことだし……2年目もうまくいくように、
   みんながいい年を過ごせるようにお祈りしなきゃ」

翠「翠星石も、そーするですぅ。」


 去年までは、初詣に行く前に眠ってしまっていたけど、今年は
頑張って起きて、みんなでお参りしに行こうと思います。
65RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:51:34.60 ID:/YGL+Sf3
[17:05]

翠「天気の方は大丈夫ですかねぇ?」

のり「九州とか大阪が雪になるって言ってたわよぅ。多分、こっちも
   少し降るかもね。初日の出が見られればいいけど……」

翠「完全武装で行くことにするです。」


 珍しく、年をまたいでの雪の予報が出ていました。雨だった
ことは何回かあったけど、雪が積もるかも……という予報は、
記憶の中にはありませんでした。
66RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:27:31.95 ID:/YGL+Sf3
のり「お給料で買った新しいコートを着ていこうかな。
   翠星石ちゃんも、前に買ってあげたコートを着ていくと
   いいわよぅ。真紅ちゃんと雛ちゃんもね。」

翠「そうするですぅ。 ヒヒヒ、ちょっと趣を変えて、ジュンを
  驚かせてやるです、イッヒッヒッ……♪」

のり「ふふ……」


 ジュン君のことになると、顔がにやけちゃう翠星石ちゃん。
本人が居るとすぐに素直じゃなくなっちゃうけど、私といると
結構素を出してくれるんです。
67RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:34:26.67 ID:/YGL+Sf3
[17:09]

ガチャッ
ジュン「よし、終わった! 姉ちゃん、片付けたぞー!」

真紅「やっと片付いたわね。」

雛苺「おかたづけ、かんりょーなの!」

翠「おっ、終わったみてーですね。ご苦労さんですぅ。」

のり「お疲れさまー! 何とか年内に終わったわね!」

ジュン「じゃ、翠星石、後お前の棚だけなんだ。
    僕たちはいじられないから、あとは頼んだぞー。」

翠「ぬぬうっ、後でやろうと思っとったですぅ!」
68RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:54:49.51 ID:/YGL+Sf3
のり「ホラホラ、ご飯を食べ終わったら、お片付けしましょう。
   ジュン君、アレはちゃんと取ってる?」

ジュン「ああ、鏡もちだろ、心配しなくても食べてないって。
    4つあるぞ、コイツらの分。」

紅「なら、夕ご飯が済んだら、鏡もちを飾るのだわ。」

雛「ヒナね、一番上にみかん置いてー、それからそれから、
  苺のおもちゃも置くの!」

ジュン「……いいのかなー……?」

のり「……いいんじゃないかな? 本当は昆布も置くみたいだし
   紙垂(しで)とか沢山飾りつけするのよぅ」
69RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:57:29.33 ID:/YGL+Sf3
ジュン「立派なのはもうクリスマスあたりに売り切れてたよ……
    ……姉ちゃん、今日は晩御飯何ぃ?」

のり「三十日だけに、お味噌汁! それから花丸ハンバーグ!」

雛「今日花丸なの!? わーい!! やったなの〜!」

翠「年忘れ特大号にしてやるですぅ、腕によりをかけて、
  気合入れて作っちゃるですぅ! 楽しみにするがいいです!」

紅「じゃあ、私も何か手伝うわ。」

雛「ヒナもヒナもー!」

ジュン「よーし、作るかー!」
70RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:59:51.91 ID:/YGL+Sf3
 例えば、翠星石ちゃんが手を挙げると、雛ちゃんも手を挙げて
真紅ちゃんがおすましして賛同し、ジュン君も立ち上がる。
蒼星石ちゃんたちが遊びに来ると、みんながみんな集まって……


雛「お皿の上に、お花のかたぬきを置いてー……」

翠「そこを目掛けて、白身と黄身を投下するです!」

紅「ジュン? ねぎを切って頂戴。」

ジュン「じゃあ、端の方を持っててくれ。」


 変わらない日常の光景だけど、一番好きな、一番大切な光景。
私は、それを支えにして過ごしてきました。勿論、これからも。
71RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:03:32.16 ID:/YGL+Sf3
のり「ふふ…… よーし、これでご飯5膳!
   今日はジュースもあるわよぅ!」

雛「わぁ……♪」キラキラ
翠「おぉ……♪」キラキラ

紅「ありがとう、のり。私は食後でお願い。」

のり「はぁい!」


[20:32]

 楽しい夕ご飯も終わり、食器を片づけ、みんなの髪を梳かして
歯磨きして、身体を拭いて、その後、みんなでお餅の飾りつけ。

 雛ちゃんが、2段のお餅の下の方が埋まる程苺の置物を置いて、
みんな笑いが止まりませんでした。翠星石ちゃんも棚の片づけを
終わらせて、これで本当に大掃除が終了です。

 一足早く、新年に向けてみんなでお願い。


のり「ちょっと早いけど、2005年もいい年になりますように!」
72RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:07:42.97 ID:/YGL+Sf3
[21:14]
[ジュンの部屋。]

ジュン「……がー……ぐー……Zzz」
雛「……すぅ……すぅ……」

翠「つくづく、どこの国も年末は忙しいですねぇ。クリスマスで
  街が盛り上がったと思ったら、次は正月って……」

紅「一日の終わりも良い眠りで終わり、次の一日も良い目覚めで
  始まることを祈るように、一年の終わりも良いものにして、
  次の一年も素晴らしく始める、心意気かもしれないわね。」

翠「おっ、いいこと言うじゃねーですか。1日の86400秒も、
  1年の3153万6千秒も、順繰り大切に使わんとですねぇ。」

紅「まあ、素晴らしいわね。その通りよ。
  ……私たちは螺子が朽ち土に還り逝く迄、人間とは比べ物に
  ならないほどの時間を過ごす」
73RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:10:59.86 ID:/YGL+Sf3
紅「だからこそ、日々を大切に過ごしていかなければならない。
  今年は、一年中平穏だったから、とても良かったのだわ。」

翠「コイツ(雛苺)もチビ人間も、大きくなった気がするです。
  もちろん、他の姉妹も、人間たちもですぅ。 今頃世界樹の
  木も、ドでかくなってるですよ!」

紅「そうね。貴女も立派になった…… 自慢の姉なのだわ。」

翠「そ、そんなこと言われたら、照れちまうですぅ……
  ……あっ、ちょいと鏡もちの位置が」

紅「……もう、9時を15分、16分を回ろうとしているわ。
  早めに切り上げて、今日は眠りについた方がいいわ……。」

翠「も、もう少ししたら寝るですよ!
  心配しなくてもいいですぅ!」
74RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:15:43.46 ID:/YGL+Sf3
[21:30]

紅「……すー……すー……」

翠「うーん…… どうも左すぎるような……ですぅ
  ちょっと真紅のくんくんを一つ借りてみるか……
  いや、バレたらヤバいからやめとくですぅ」

チャッ
のり「……あら、翠星石ちゃん、起きてたのね。」

翠「ああ、もちの位置が微妙なんですぅ。もうちょい右ですかね
  この、棚のド真ん中に鎮座させたいんですけど…… もう、
  真紅もあきれて寝ちゃったです。明日の予定はなんですか?」
75RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:18:07.35 ID:/YGL+Sf3
のり「そうねえ、もしかしたら雪が降るかもしれないから、
   ずっとお家にいると思うわ。お菓子でも作ろうかなぁ。
   夜には初詣に行くわよぅ!」

翠「そりゃー楽しみですぅ♪ 明日夜11時に巴が来るですね。
  大晦日も楽しくなりそうですぅ。じゃ、翠星石はそろそろ
  寝るですよ。」

のり「はぁい。 おやすみ、翠星石ちゃん!」

翠「おやすみですぅ。 いい夢見るですよ!」


[2004/12/31 00:19]

ガチャッ
のり『……ただいまー! 今日はみんな来てるから
   花丸ハンバー……』

のり『って……』
76RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:20:11.22 ID:/YGL+Sf3
[桜田家 階段。]
ジュン『うおー、僕の部屋からうまい棒を調達してくれ!』

雛『はいなのォ!』

金糸雀『カナは…… ここから数えて8段目にサラミ味を設置するかしら!
    加えて! 12段目にコーンポタージュでカンペキかしらァ!
    勝利は我々 カナリアンボーゲルズ の手に!!』

のり『……!?』

水銀燈『ふふ…… なかなかやるわねぇ……。
    けどぉ、こっちには うにゅーがあるわよ!
    くんくんは守り通すわ!』

紅『卵ボーロもあるのだわ。まさにおいしい作戦ね……』

翠『ヒヒヒ…… 我らがチーム135にこそ勝機ありですぅ!
  とっとと降伏しやがれですぅ!』
77RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:23:07.61 ID:/YGL+Sf3
のり『ちょっ、何やって…… くんくん……!?』ワナワナ

薔薇水晶『これは探偵ゲーム…… くんくんの方を追うの……
     さあ、くんくんはどこ……? わたしたち
     チーム蒼雪薔に 勝利を差し出しなさい……♪』

雪華綺晶『いいところに帰ってこられましたわね♪
     間もなくゲームも大詰め、3つのチームのうち
     どこが勝ってもおかしくありませんわ……♪』

蒼星石『これは、自分の陣地にあるくんくんフィギュア3体を
    20分間で多く守った方の勝ちというゲームだよ!
    フィギュアの場所は秘密で、お菓子で釣って尋問……』

のり『…… ……』プルプル
78RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:26:19.12 ID:/YGL+Sf3
のり『『こらァァァ!! 食べ物で遊んじゃダメでしょーっ!!』』
ボカァァーン!! ビリビリ……

蒼『わああ……!!』
銀『ひっ……!?』
金『ひええ!!』

翠『だから、翠星石は最初にどうなっても知らんですぅって
  言ったですぅ……!?』

ジュン『お前が一番ノってただろうがァー!』
79RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:29:04.90 ID:/YGL+Sf3
のり『……9人でお片付けしなさーーーい!!』

翠『……やっぱり、怒るとのりが一番コワイですぅ……』

ジュン『ああ……』


のり「…… すー…… すー…… ふふっ
   ……Zzz」

              【桜田のりと翠星石の年末 完】
80 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:33:31.37 ID:/YGL+Sf3
 ハイ、「RozenMaiden Fortsetzung」、
第33話「桜田のりと翠星石の年末」は
以上で完結でございます。読んでくれた方乙でした。

 一話完結の日常系を目指して書いてみました。
とりあえず、まだまだ続くんでゆっくりとお付き合い
頂ければ幸いです。

 では、また次回。グッナイ!
81「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/31(火) 12:07:47.21 ID:rmFZY9To
>>TEGさん
乙でした!

やっぱりSSはこういう、原作のメインストーリーじゃない部分に限りますよね。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 12:31:37.24 ID:jwb+BhGe
やっと規制解けたよ
自分が避難所使う破目になるかと……
って何も書いてないから駄目だけどね!

TEGさん長編乙でした。
乳酸菌さんもペースはともかく、完結まで頑張ってくだされ。
83「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 16:32:56.63 ID:sLyImOx9
微妙にご無沙汰です。

状況を見るに、結局、スレ住人(書き込みしてくれる人)が以前より減って
るんですね。

まあそれならそれで、まだ見てくれる人の意見を尊重させて頂きます。

色々意見をありがとうございました。
84「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 18:48:07.14 ID:sLyImOx9
   「乳酸菌とってるぅ?」  最近のあらすじ


のんびりと正月を過ごしていたカワセミ、シカ婆さん、水銀燈。
楽しく過ごした正月も終わりに近づいた三日の夜のこと。

不意に、里に正体のはっきりしない軍勢が現れ、里を攻撃し始める。
軍勢にとっては何か理由があるらしいが、もはや話し合いの出来る状況では
なかった。

軍勢に同行している陰陽師に結界を破られたらしく、里は完全に不意打ちを
受ける形となってしまった。

軍勢はあちこちに火を放ち、折からの乾燥と強風のため、あっという間に里
は炎に包まれる。

カワセミは時間を稼ぐために家のそばに残り、その間にシカ婆さんと水銀燈
は裏口から脱出路に向かう。
しかし、偶然か狙ってかは分からないが、複数の脱出路は全て炎に包まれ、
里の北側との行き来も出来なくなっていた。

里はぐるりと炎に取り囲まれてしまっている。
残された出口は軍勢が侵入してきた南側のみ。

シカ婆さんと水銀燈は南を目指す事に決め、まずはカワセミと合流するため
に家へ向かう。
85「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:03:49.34 ID:sLyImOx9
(本編再開)

近づくと、三人の住んでいた家も燃え始めていた。
しかし、まだ半分以上が無事のようだ。

家に近づくと、裏側には誰もいないが、表側からは戦闘の物音がしている。
カワセミは五十数えたら追ってくるはずだが・・・とっくにそれだけの時間
は経っているはずだ。

家の屋根や壁の一部が燃えている。
幸い、裏口のあたりは無事だ。

二人は裏口をそっと開けて家の中の様子を伺う。

家の中はまだほとんど燃えていないものの、かなり熱くなっており、熱い空
気が形あるもののように顔を打つ。
所々から煙が上がっている。

カワセミはまだ家の前で戦っていた。
雨戸が一枚だけ残してはずされており、あるものは盾がわりに置かれ、ある
ものはへし折られている。

カワセミは縁側の前で槍を構えている。

銀「カワセミ!」

カワセミはこちらを振り向く。

カ「!!馬鹿、何で戻って来たの!?」

銀「東も、地下の抜け道も燃えてて駄目だったの!南に行くしかっ、危ない!!」

水銀燈の叫びを聞いてカワセミは向こう側へ向き直る。
少し離れた茂みから弓矢を構えた兵が立ち上がり、さらにそれぞれ槍と刀を
構えた二人の兵が呼吸を合わせて左右から突っ込んでくる。
86「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:35:11.48 ID:sLyImOx9

カワセミは一瞬で弓兵に手裏剣を放つ。
弓兵は喉を押さえてのけぞり、そのまま後ろに倒れる。
矢は放たれたが、狙いがそれてあさっての方向へ飛んでいく。

刀を持った兵が右から突っ込んでくる。
カワセミは右側へ大きく踏み込みながら、勢いを付けて槍を突き出す。
兵は刀で槍を払おうとしたが、両者とも踏み込んでいるので勢いが強く、払
いきれない。
槍は兵の左肩と胸の境あたりに深々と突き刺さる。

同時に左から槍を持った兵が突きかかってくる。
カワセミは自分の槍から手を離し、斜めに身を沈めてぎりぎりで槍をかわす。
そのまま敵の槍の柄を左手で掴み、力いっぱい引く。
敵はたたらを踏んで前のめりになる。
カワセミは槍を掴んだまま一気に踏み込み、右手で順手に握った手裏剣を相
手の顔に突き刺す。
敵は槍から手を離して両手で顔を覆い、叫びを上げる。
カワセミはそのまま敵の槍を奪い、中ほどを握って半回転させ、穂先を前に
して逆手に掴み、勢いをつけて体ごとのしかかるように槍を敵に突き刺す。
敵はそのまま仰向けに倒れ、上半身が半ば空中に浮いたまま串刺しになる。
勢いでカワセミも一緒に倒れこむが、すぐに身を起こす。

素早く視線を走らせ、先の弓を持った兵と刀を持った兵の様子を確かめる。

弓兵はぴくりとも動かない。こと切れているようだ。

刀を持った兵は膝をつき、肩に刺さった槍を抜こうともがいている。
カワセミは兵に駆け寄り、槍の柄を掴んでえぐりこんで兵に止めを刺し、その
体を蹴り放して槍を引き抜く。
血が噴水のように噴き出す。

まるで鬼神のような戦いぶりだ。
87「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:43:37.99 ID:sLyImOx9

カワセミにそうさせているのは怒りと・・・

カ「わたし、あなたを守るからね!みんなを守るからね!」

カワセミは荒い息をつきながら、返り血にまみれた凄惨な姿で微笑む。
その場に似つかわしくないほど澄み切った笑顔だ。

カワセミは自分の槍と、拾い上げた刀を構え、周囲を警戒したまま言う。

カ「南へ抜けるしかないのね?分かった。
私がここでしばらく敵を引き付けるから、裏に大きめに回り込んで南へ向か
って。裏へは一人も通さないから。」

良く見ると、返り血だけではなく、カワセミ自身も何箇所か怪我をしている
ようだ。
幸い、それほど大きな怪我ではないようだが・・・

その間にも家を覆う炎は広がり、煙が充満してくる。
外壁からは細かい燃える破片が落ち始めている。

銀「カワセミ、一緒に!」

カ「追いつかれるに決まってるでしょう!さあ、早く行って!あんたらが充
分進んだら行くから!」

銀「でも!」

カ「早く行って!・・・んっ?」

向こう側から人が近づいて来るようだ。

炎に照らされて、その姿が見える。
再び、数人の敵兵が迫って来ていた。
88「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:52:26.89 ID:sLyImOx9

カワセミは槍と刀を構えて突っ込んで行き、その姿は雨戸の陰に隠れる。
数回、剣戟の物音が響き、いくつかの野太い叫び声があがる。

どうやらまた何人か敵兵が斃されたようだ。
再び雨戸の陰からカワセミの後姿が少し見える。


敵兵が気圧されて下がった様子が伝わって来る。
手ごわいぞっ、という叫びが聞こえる。

シカ婆「水銀燈、カワセミの言う通りにしよう。連中が気圧された今がいい機
会だ。さあ。」

シカ婆さんは裏口から様子を伺う。
裏側も火が燃え広がっている。
もはや、里全体が燃え盛るたいまつのようだった。
熱風が荒れ狂う。

再び、表側から剣戟の物音。
野太い悲鳴。

おおい、と野太い声が誰かに呼びかけている声が聞こえる。
きっと仲間を呼んでいるのだ。
急がないとさらに敵が来てしまう。

カワセミが心配だが、二人が行かない限り、彼女は今の場所で戦い続けるだ
ろう。
出来るだけ早くカワセミも来てくれる事を願って、ここは行くしかない。

裏口のあたりも、ぼろぼろと火のついた破片が落ちてきている。
腕で顔と頭をかばいながら、シカ婆さんと水銀燈は裏口から出る機会を見計
らう。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 23:50:23.93 ID:7X2cqBBz
再会待ってました!

かわせみ、おしかさん、外人さん
 ↓
めぐさん、???、えんじゅさん

脳内生まれ変わり表(適宜変動致します)
90「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:24:21.40 ID:qoYPh1r+
>>89
待っていてくれてありがとうございます。

脳内生まれ変わり表、いいですね。
この後、どう変動するんでしょうか・・・
91「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:27:12.52 ID:qoYPh1r+
裏口側も炎に包まれつつあるものの、素早く通るぶんには問題なさそうだ。
カワセミに出るよ、と一声掛けようとする。


その時だった。


パン!パン!

炎の音と戦闘の物音を圧して、不吉な音が響く。雨戸の上の方に穴が開き、
何かがひゅんと音を立てて家の中を飛び過ぎる。
頭上で木屑が散る。

この音は!


パン!パパパン!

雨戸に表側から「何か」がどさりと倒れこむ音がした。
短くうめき声が上がる。
野太い声ではない。よく知っている声・・・

からん、と槍が落ちる音がした。

銀「カワセミ!」

雨戸の横から、カワセミの手が見えている。
水銀燈は裏口へ向かうのをやめ、カワセミのもとへ向かおうとする。

シカ婆「水銀燈、危ない!行っちゃ・・・うわっ!」

背後で家の梁が燃えながら落下し、シカ婆さんと水銀燈の間に落ちる。


銀「カワセミ、カワセミ!」

カワセミが怪我して倒れてる。
早く行かなきゃ・・・

車椅子にとっては大きすぎる段差がある。
構わず進む。

車椅子は段差に引っかかって倒れ、水銀燈は投げ出される。
がちゃん、と大きな音を立て、板の間と畳の境目に叩きつけられる。
衝撃が全身を突き抜け、一瞬気が遠くなるが、水銀燈は構わず進む。
両手を使い、這って進む。
92「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:35:03.11 ID:qoYPh1r+

家の中も火が燃え広がり、煙があがり、壁に掛かった暦や書や画が燃え出す。

銀「カワセミ!」

早く行ってあげなきゃ。

炎と煙の中、進みは遅いが、着実に這って進む。
背後から叫び声が聞こえたような気がしたが、最早それも耳に入らない。

銀「カワセミ!」

燃える破片がばらばらと降り注ぐ。

もう少しだ。

天井からぎしり、と不吉な音がする。
天井が崩れかけている。

銀「カワセミ!カワセミ!!」

カワセミの手がはっきりと見える。
懸命に手を伸ばす。
あと少し、あと少しで手が届く。

燃える天井が大きく崩れはじめた。


その瞬間。
信じられない事が起きた。

水銀燈の斜め前。
何も無い空間に縦に裂け目が走った。

裂け目は大きく広がり・・・水銀燈は強い力でその中へ引き込まれた。
一瞬、黒い西洋服を着た兎が見えたような気がする。


あまりの事に思考が停止する。

数瞬の後、はっと気づくとそこは薄暗いnのフィールドだった。

銀「え?・・・え?」
93「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:48:01.93 ID:qoYPh1r+

銀「・・・!!嫌あっ、カワセミ!!」

慌ててnのフィールドから出ようとする。

出口は・・・ない!出口がない!

いつもの鏡は支度部屋だった。
しかも、支度部屋のあった場所は炎上している。

里のはずれの泉は?

その残骸らしき物はあったが、出入り口はほとんど見えないぐらい小さくな
り、濁っている。
森が燃え、干上がるか残骸が積もるかしてしまったのだろうか。

銀「嫌ぁ!カワセミ!カワセミ!シカさん!みんな!!」

水銀燈は半狂乱になってnのフィールドを探し回る。

里の近くには出られる出口が全く無い。

手当たり次第に扉を開け、覗き込む。

どこも里の近くではない。
似た風景を見つけては飛び出すが、どれも違う場所か、似ているが別の世界、
並行世界だった。

何度かは完全に並行世界に出てしまい、時にはそこにいた人間が驚いた顔を
したり、あたりが大騒ぎになる事もあったが、そんな事は気にもせず探し回
る。


探し回る。
94「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:10:35.57 ID:s7hT0b5N

どれだけ探し回ったのだろうか、自分でも分からなくなってきたが、それで
も探し回り続ける。


永遠にも等しい時間が経ったように感じた頃。
小さな出口、通る事は出来ないが覗き込むことはできる出口を見つけ、覗き
込む。

はっとする。

ここは確かに里のある場所だ。
地形に見覚えがある。

だが、あたりの風景は一変していた。

里のあった盆地の端のあたりには「鉱山入口」と墨で書かれた大きな看板が
あった。
盆地には深い穴が幾つも穿たれ、半裸の男たちが忙しく出入りしている。

建物が一つあり、そこには暦が掛けられている。
不思議な事に、視点がそこに近づいていく。

月と日付が大きく書かれ、その上に年号と数字、それから漢字二文字が書か
れている。
これは何だったか。
水銀燈はシカ婆さんから教わった暦の知識を必死で思い出す。
年号は朝廷の都合で変わるから参考になる場合とならない場合がある。
漢字二文字は干支の組み合わせで年を表す干支紀年だ。

ええと、甲、乙、丙・・・甲子、乙丑、丙寅・・・・・・
95名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 18:11:30.15 ID:luXZotpa
・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

でも
この水銀燈は
きっと、きっと、きっと。
96「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:13:50.28 ID:s7hT0b5N
え?そんな馬鹿な!

もう一回頭の中で計算し直す。

水銀燈の全身から力が抜ける。
普通の世界ならへたり込んでいただろうが、ここは重力のないnのフィール
ドだ。
水銀燈の体は力が抜けて宙を漂う。


人生五十年。
カワセミの言葉が思い出される。

nのフィールドの特性なのか、並行世界に出入りしたせいか、あるいは本当
にそれだけの時間が経っていたのか。

干支紀年で表された年は・・・人間の寿命にとっては、あまりに長い時間が
過ぎてしまっている事を示していた。


みんな・・・ごめんね、みんな・・・

自分だけが、こんな風に生き残ってしまった。

涙が流れ始める。

nのフィールドを、水銀燈の体がゆっくりと漂い始める。


みんな、いい人で・・・良くしてくれて・・・
ちゃんと生きてて・・・
カワセミは命がけで・・・命を捨ててまで・・・自分を・・・


カワセミとの絆・・・みんなとの絆・・・


自分は・・・絆を貫き通せなかった・・・

絆に殉ずる事ができなかった・・・


水銀燈の体がnのフィールドを漂って行く。


涙の雫の筋を引きながら。

97「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:15:20.15 ID:s7hT0b5N

※ まだ終わりじゃないです。念のため。

98「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:12:19.19 ID:s7hT0b5N
>>95
コメントありがとうございます。
ええ、泣いてあげてください。

>きっと、きっと、きっと。

きっと、何なのかはいくつも考えられるので分からなかったのですが・・・
まだ、水銀燈の人生(人形生)は続いていくのです。
こんな事があっても。
99「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:30:57.22 ID:s7hT0b5N
      乳酸菌とってるぅ? 


            後編 インターミッション


   〜 現代、廃教会 〜


銀「・・・・・・またお父様を探し始められるまで、かなり長い時間がかかった
わ。長い、長い時間が。」

うつむいた水銀燈の顔は半ば銀色の前髪に隠されており、その表情は窺い知
る事ができない。


銀「・・・誰が何のためにあんな事をしたのか、結局分からなかった。

最後、鉱山が見えたけど・・・後から考えると、あれはちょっと怪しいのよね。
あれは私を諦めさせるためにラプラスが見せたのかもしれない。
nのフィールドからしか見てないしね。

もっとも、あれが嘘だったとしても・・・里は・・・みんなは・・・・・・」

水銀燈は俯いたままだ。
メイメイも掛ける言葉が見つからない。


銀「・・・そして・・・私は漂い続け・・・探し続け・・・疲れ切って・・・
真紅とサラの家に辿り着いて・・・」

口調が一瞬激しくなる。ゆらり、と暗く激しい何かが立ちのぼる。
思い出すのも嫌な記憶。

銀「お父様からローザミスティカを頂いて・・・」

そして、真紅のあの仕打ち。
怒りと屈辱。
心の中に積もった闇が溢れ出す。

銀「この翼を得て・・・・・」

そして、水銀燈は大きな「何か」を失った。(ローゼンメイデン オーベルテ
ューレ参照)
100「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:42:06.61 ID:s7hT0b5N

作者註:
あまりに長くなったのでお忘れの方も多いかと思いますが、この物語は現代の
廃教会で、水銀燈がメイメイに昔の事を話すシーンから始まっています。
もう、その部分のある前スレは落ちちゃいましたけどね。


あと一応、今後の目次を。

後編 インターミッション   ←今ここ
後編 第二の章
エピローグ

となります。第二の章は第一の章と比べるとずっと短いです。

・・・正直、編分けや章分けは失敗してますね、これは。
すいません。

ちなみに終了まであと20日前後の予定です。
101「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 21:26:04.80 ID:s7hT0b5N

しばらくすると、水銀燈は一回大きく深呼吸し、顔を上げ、背筋を伸ばして
足を組む。

振り切るように口調を一変させる。

銀「結局ねぇ。漬物の里とか醸しの里って言ってたけどぉ、ほとんど乳酸菌の
里だったのよねぇ。」

(メイメイ)ふよふよ。

銀「え?何で分かったかですってぇ?あんたが読むように勧めた新聞に書いて
あったんじゃなぁい。」

そういえばそうだった。
新聞を勧めたわけではないのだが・・・

85万時間ほど前の話だ。
その頃、人間の科学技術という物が急速に発展してきていた。
水銀燈はそれには無関心だったが、妹たちの中にはマスターを通じ科学技術
の産物に詳しくなった者もいた。
そしてアリスゲームの際、そういった産物をうまく利用した、自分よりずっ
と劣る妹に水銀燈は再三出し抜かれ、逃げられてしまったのだ。

怒り狂う水銀燈に困惑したメイメイは、水銀燈も何らかの手段で人間の社会
や技術について最低限の知識を得るように勧めた。
その頃は鉄道の駅のそばの倉庫を住処にしていたため、新聞が一番手に入れ
やすかった。
鉄道を利用する人間の中には、新聞を一度読むと置いていってしまう者が結
構いたため、入手は楽なものだった。

丁度その頃、ブルガリアヨーグルト、そして乳酸菌の健康効果とやらが話題
になっており、新聞もちょくちょく乳酸菌について取り上げていたのだ。

アリスゲームのためとは言えこんな下らない物を読むなんて、と文句を言い
ながら新聞を読み始めた水銀燈だったが、すぐに結構楽しんで読むようにな
り、マメに新聞を読むようになる。
現在でも時々読んでいるようだ。
読書好きの真紅とかぶるのを嫌がっているだけで、本当は読む事が好きなの
だろう。
・・・そんな事を水銀燈自身に言えば間違いなく怒り狂うだろうから口には
しなかったが。
102名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/06(月) 00:02:30.74 ID:hpCP7woD
すんき漬けの里だったのかな

エンディングまで目が離せませんね
103 ◆TEGjuIQ24E :2011/06/06(月) 03:02:35.55 ID:PJmRqKN1
 やっとここまで読めました……
なんか、込み上げるものがありまして、
やっぱね、日常ってのは大事なものなんだなー、と……
>>87のカワセミの笑顔描写、目頭が熱くなりました。
もう本当に前・中編乙っしたっ……!!

 またも何かが始まりそうな予感がします。
乳酸菌さん、俺ァ最後までついていきますぜ!
続き楽しみにしております!!
読み落としていた
850,000時間後……だと……!?
舞台は既に未来だったのかッ!

これはやられた……
105「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:25:19.25 ID:PojudKzi


>>102
コメントありがとうございます。

お詳しいですね。
俺は今作のために調べるまですんき漬けを知りませんでした。
長野・山梨周辺の方ですか?

特にすんき漬けだけとは考えていませんが、塩が貴重な山の中で作る漬物だ
と、ああいう塩をあまり使わない乳酸菌発酵の漬物が主になりますよね。
そういった点と、奈良時代から日本にある伝統的なヨーグルト「酪」の生産
があった事から水銀燈の「乳酸菌の里」の発言になっています。

エンディングまであとしばらくお付き合いください。

>>103 TEGさん
コメントありがとうございます。
読み込んで頂いてありがたいです。

そう、日常の大切さ、それゆえに際立つ「いざという時のあり方」。
これはローゼンメイデン原作の重要な点の一つですし、もちろん一般的にも
大切な事ですよね。
そのへん、注目していただけて本当に嬉しいです。


あと、完全に書き手側の話ですのでちょっと蛇足にはなりますが・・・水銀
燈たちの里での暮らしの描写は楽しかったです。
ついつい、長引く程にw
しかし、書きながらもストーリー上こうなる事を知ってたわけで・・・結構、
切ないものがありました。

原作で桜田家のメンバーのほのぼのパート→雪華綺晶登場、劇的な展開へ、
の部分を書くとき、桃種先生もこんな気持ちだったんですかね・・・

分量的にはもう残り少ないですが、どうぞ最後までお付き合いください。

これからしばらく、暗い部分が続きますが・・・
106「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:29:39.67 ID:PojudKzi
>>104
コメントありがとうございます。

すいません、説明不足でしたね。
日本でのブルガリアヨーグルトの普及、という点で見ると40年前後しか経
っておらず、おっしゃる通りです。

85万時間、というのはヨーグルト関連のサイトで調べた、以下の記述から
概算しました。(若干の誤差は大目に見てやってください)


******

1900年代初めには、ロシアのメチニコフという学者が、ブルガリアの人々が
長生きなのはヨーグルトに含まれる乳酸菌の効果によるものが大きい、とい
う説を唱え、以来、ヨーグルトは健康食品として世界に広められるようにな
りました。

 〜ヨーグルトの歴史|乳酸菌の効果(ttp://www2.dzsq.net/post_3.html)より引用

******


ですが、貴重なご指摘を頂きましたね。
里での話が続いたので、(里は勿論日本です)話の舞台は全て日本に見えて
いるかもしれない・・・

作者註を入れておいた方がよさそうです。

ご指摘ありがとうございました。
107「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:42:09.36 ID:PojudKzi
作者註(補足):
作品の舞台になった場所ですが、「里」は勿論日本のどこかです。
廃教会も原作通り日本のどこかです。

ですが、インターミッション等で回想しているシーンの舞台は日本とは限りません。
インターミッションで出てきた新聞のエピソードはヨーロッパのどこか、での話です。
オーベルテューレの舞台も勿論ヨーロッパ(多分イギリス)ですしね。
108「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:46:36.33 ID:PojudKzi

水銀燈は立ち上がり、先に持ってきた器といくつかの皿を洗面所で洗う。
幸いにして水道はちゃんと機能しており、水には不自由しない。

次いで物置に行き、灯油の入った青い安っぽい大きな容器・・・新聞によればポ
リタンク、という物だそうだ・・・を台車に載せて持ってくる。
廃教会の隅に据えつけられていた年代物の石油ストーブのタンクの蓋を開け、
苦労しながら灯油を入れる。

銀「まったくぅ、人間ってどうしてこんな不便な容れ物を作るのかしら。ド
レスが汚れちゃうじゃなぁい。」

ドールにとっては胸ほどの高さのある容器で確かに扱いづらく、水銀燈がぼ
やくのも無理はない。
しかし、この容器でないと駄目らしいのだ。

ある時、たまたま道路を見ていたら、建物の裏にこのポリタンクという物が
たくさん並んでいた。
しばらく経ってから見ると、それらのポリタンクにみんな灯油が入っていた。

水銀燈とメイメイは、廃教会の物置に同じような青いポリタンクが入ってい
るのを見つけていた。
次にポリタンクが並んでいる時にそれを一緒に置いておいてみたら夕方には
灯油が入っていた。

どういう仕組みで灯油が入るのかは分からないが、ガスも電気も来ていない
この廃教会では石油ストーブが唯一の暖房であり、煮炊きの道具なので、灯
油があると助かる。

助かるが、水銀燈とメイメイにとってはもっと小さな容器の方が望ましい。

次にポリタンクが並んでいた時には小瓶や花瓶、水差しなども置いてみたの
だが、それらには灯油が入っていなかった。
どうしてもポリタンクでないといけないらしい。水差しや花瓶の方がずっと
綺麗だし便利なのに。
人間のやることは不可解だ。
109「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:54:38.91 ID:PojudKzi

水銀燈は石油ストーブに火をつける。
百年ぐらい基本構造がほとんど変化していない道具であるし、以前に鉄道の駅
舎で使っているのを何度も見たので使い方は分かる。

そして、ヤカンをゆすいで水を入れ、ストーブに乗せる。

とりあえず、作業はそれで一段落らしい。
ストーブから少し離れた椅子に座る。

メイメイは気になっていた事をきいてみる。

(メイメイ) ふよふよ。

銀「え?話の続きぃ?続きなんかないわよ。
・・・それにアンタ、ローザミスティカを得た後のことは知ってるでしょぉ?」

(メイメイ) チカチカ。

銀「ああ、まあ、別行動した時の事はあまり話してないけどぉ・・・別にい
いじゃなぁい。」

ふよふよ。

チカチカ。

ふよふよ。

銀「ああ、もう、分かったわよ、もぅ。話してあげるわよ。
お湯が沸くまでの間だけよ?

全くもう、アンタって詮索好きなおばさんの魂から作られたのぉ?」

水銀燈は椅子に座りなおす。

銀「言っとくけど、大した話じゃないわよ?

あれは目覚めの順番で言うとぉ・・・57万時間ぐらい前の大きな戦争の時代、
石造りの町、軍隊が寝こけてて、パンツァーとか戦車とか呼ばれてたブサイ
クな鉄の塊があって・・・そんなのの上空で真紅とやりあって、結局逃げられ
た時があったでしょ?(トロイメント6話、水銀燈の回想シーン参照)

その次の目覚めの時・・・・・・」


110「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 22:52:10.76 ID:PojudKzi


      乳酸菌とってるぅ? 


               後編 第二の章
  


キリ。

ぜんまいが巻かれている。


キリ、キリ。

今回は随分早い目覚めだ。
前回から7万時間も経っていない。


キリ、キリ・・・

前回の、今までの記憶が戻ってくる。
途端に胸の中に憎しみと苛立ちが湧き上がる。


キリ、キリ、キリ・・・

憎い。
真紅、妹たち、人間ども、運命・・・絶望・・・
憎い。真紅。壊してやる。


キリ、キリ、キリキリキリキリ・・・

壊してやる。壊してやる。

壊してやる!

今や呪われたドールとなった水銀燈が暗く燃える目を開く。
111「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 18:10:59.50 ID:oDKJTnye

憎しみと苛立ちに満ちて目覚めた水銀燈だったが、とりあえずは肩透かしを
食らった形になっていた。

目覚めた場所の周囲には、最も壊してやりたい真紅どころか、姉妹たちの気
配が一切なかったのだ。

憎しみも苛立ちもぶつける相手の居ないまま、胸のうちでどろどろと熱く渦
巻いている。

水銀燈の纏う雰囲気は昔とは全く異なっていた。
容姿自体は変わらない人形なのに、どうしてここまで雰囲気が変わるものか、
昔の彼女を知るものが居たら驚くだろう。

赤い目は暗く燃え上がり、眉と目は吊り上がり、全身から暗い靄が立ち上る
かのようだった。

不吉な、最凶の、呪われたドール。
水銀燈自身、それが己に相応しい事を疑わなかった。

そうとも、自分のあり方も、能力も、容姿も・・・黒い羽、闇の色の服、逆十
字・・・何もかもが呪われたドールに相応しい。

別に黒=闇ではないし、逆十字には色々な意味があるのだが、そんな事は今
の水銀燈の頭には浮かびもしなかった。

自らの放つ恐ろしく凶暴な雰囲気の中に、ひとかけら、別の物が混じってい
る事にも気づきはしなかった・・・気づこうとはしなかった。


自分達は絶望するために生まれてきたのだ。

あのいい子ちゃん人形の真紅にも、のんきな妹どもにもそれを分からせてや
る。
壊し、バラバラにして思い知らせてやる。

アリスゲームの事を忘れているわけではないが、どちらが手段でどちらが目
的なのか、最早分からなくなりつつある。


禍々しい気を放ちながら、メイメイとともに夜空を飛ぶ。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/07(火) 19:28:21.56 ID:wzY112l2
更新乙です

漫画の銀の字はめぐにのめり込むまでは遊びでアリスゲームしてるように見えるけど
アニメの銀ちゃんは破壊衝動の塊だからなぁ……(´;ω;`)
穏やかな日々が訪れますように……(‐人‐)
113「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 22:38:23.49 ID:oDKJTnye
>>112
コメントありがとうございます。

そうそう、漫画とアニメで水銀燈は結構違うんですよね。
温度差があるって言うか・・・
個人的には遊びっぽいのか、余裕がある(つもりでいる)のか判断に迷う部分
も多いんですが。

一応、今回の作品では原作の要素も入れつつ、ややアニメ寄りの立場のつもり
です。

これからの展開がお気に召すかどうかは分かりませんが、もうしばらくお付き
合いください。
114「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 22:41:52.35 ID:oDKJTnye

目覚めてから半月程が過ぎた。
姉妹は未だに一人も見つからない。

水銀燈は少々うんざりし始めていた。

今回、水銀燈のぜんまいを巻いたのは、サーカスとか言う旅芸人の一座の少
女だった。
空中ブランコ乗り、というのが主な仕事らしい。
ちらりと見ただけだが、実際、その空中ブランコと言うのはなかなか見事な
物だった。
空を飛べない人間が良くあんな事ができるものだ。

華やかな舞台で派手な衣装を身に付け、見事なショウを見せて笑顔で大見得
を切る少女だったが、その素顔はうって変わって暗く、孤独に苦しみ、怯え
ていた。
天涯孤独で一人も身寄りがいないのだそうだ。
自分は一人ぼっちで、誰も信じられず、誰にも心を許せない。
そう語っていた。

少女は職業柄、体力がある。
しかも空中が好きだし、暗さや孤独も持ち、水銀燈とは波長の合う部分もあ
る。
それゆえ、最初は糧として理想的だと思っていた。
この少女を選んだメイメイを褒めてやろうと思ったぐらいだ。

困ったのはその移動距離だ。
少女が、というよりも少女が属するサーカスがだが、頻繁に非常に長い距離
を移動するのだ。
自分は翼を持つ者で、真紅のような引きこもり人形とは違うのだから、多少
の移動など問題にならないと最初は思っていた。
115「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/07(火) 22:45:16.89 ID:oDKJTnye

しかし、人間の移動手段の進歩が急激だったとみえ、このサーカスは列車や
船、航空機を使って一晩でとんでもない距離を動く事があった。
優れた翼を持つ水銀燈でさえ、もしも自力で飛んでいたら追いつく前に力が
尽きてしまう程だ。

別に常に少女と一緒にいる必要はないものの、やはり時々は糧から力を吸い
取る必要があったし、鞄の問題もある。
次第にこの極端な移動は負担になってきていた。

今の所、少女と契約はしていない。
水銀燈はこの少女との契約は見送るつもりになっていた。
あまりに不便すぎる。
落ち着いて姉妹を探すことも出来やしない。

もっとも、複数の姉妹が同時に目覚めていて、手を組んで水銀燈を攻撃して
きた場合にはそんな悠長な事は言っていられず、全力を使えるように契約を
せざるを得ないかもしれないが。


二日後にはまた移動だそうだ。

やれやれ。
もう、ついていくのは止そうかとも思ったが、鞄の置き場所と糧にする人間
の目途が付くまではついていくしかない。

とりあえず、この周辺に姉妹の気配がないかだけは調べておかねば。

メイメイと手分けし、空を飛び回って姉妹の気配を探す。
116「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/07(火) 22:46:10.74 ID:oDKJTnye

一応トリップ付けておきました。
117「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/08(水) 18:35:12.06 ID:TwQncXj+
さらに何日かが過ぎた。

依然、姉妹たちの手がかりはない。
苛立ちは募るばかりだ。

いったい、あれから何度移動しただろう。
さほど距離は長くなかったが、こうしょっちゅう移動すると気疲れする。

別の糧や住処も探してはいるのだが、そう簡単に見つかるものではなく、依
然水銀燈は少女の属するサーカスとともに居た。

まあ、無理やり探せば良い事もないではない。
サーカスは雑多な荷物だらけなので、水銀燈の鞄は全く目立たなかった。
人形もたくさんあるし、仕掛けのある小道具もたくさんある。
ひょっとしたら水銀燈が歩き回っていても、誰も気にしないかもしれない。
そこまでする気はなかったが・・・

もっとも、見つかった場合、金と客の入りの事しか考えていない、あのろく
でもないサーカス団長は大喜びで水銀燈を見世物にしようとしかねない。
見つからないにこした事はない。


この場所での滞在はまた短いという事なので、少女にぜんまいを巻かせ、水
銀燈は夜の探索に出かける。


かなり遠くまで飛んでみたのだが、相変わらず姉妹の気配はない。
水銀燈は一休みしようと、見晴らしの良い場所に立っている木の電柱の上に
降り立ち、座る。

足の少し下のところに傘のついた白熱電球がついており、あたりをぼんやり
と照らし出している。
微かに電球の温かさが脚に伝わって来て心地よい。

風に吹かれながら、眼下に広がる景色を眺める。

この辺りはほとんど近代的な建物がなく、自然の森と昔ながらの民家しかな
い。
面白みはないが、穏やかな眺めだ。

ふぅ・・・
118「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/08(水) 18:40:44.41 ID:TwQncXj+

真紅は、妹たちはちっとも見つからない。
薔薇乙女は一人だけ目覚める事もないではない。
もし、今回がそうであれば目覚め続ける意味は無く、再び眠りにつくしかない。
いや、時間を無駄にしないためにもすぐに眠りにつくべきだ。

しかし・・・何故か、今回の目覚めは全く無意味ではない、という気がするのだ。
特に根拠は無く、水銀燈の勘でしかなかったが。


それにしても静かだ。
ついつい、しばらくぼーっとしてしまう。

何となく、今の糧候補の少女の事を思い出す。
糧としては役に立ちそうだが、なかなか鬱陶しい子でもある。

最近、少女は水銀燈を怖がっているくせに、べたついてくる。
よっぽど寂しいのか、病んでいるのか。
あなたは私のお友達だの、あなたしかいないだの。

あなたと私の間の縁だの、絆だの。

縁・・・絆・・・絆!!

一瞬で胸のうちに怒りと不快感が湧き上がる。
絆!なんて下らない不愉快な言葉!!

思い出すことさえ避けている事が浮かんできそうになり、頭がカッと熱くなる。

ブーツの片足を上げ、足元の電灯をかかとで思い切り蹴り付ける。

電球はかしゃん、と甲高い音を立てて割れ、一瞬火花が散った後、あたりは暗闇
になる。

電球の破片が地面に落下し、下の方からちゃりん、かちゃんという小さな音が
しばらく続く。

暗くささくれだった心の表面を、その甲高い小さな音が撫でていく。
119「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:09:29.95 ID:act4+AD5

結局、前の場所では何も見つからなかった。

数回移動し、今回はサーカス一行は大きな繁華街の真ん中にある公園にテン
トを張る。

あたりは人、人、人。
そして雑多な店。
息が詰まりそうだ。

鬱陶しくてかなわなかったが、人がこれだけ多いと糧候補が見つかるかもし
れない。
勿論、姉妹たちがいる可能性だってある。
・・・真紅はこういう所には居なさそうな気がするが。

ともかく、水銀燈は探索に出ることにする。


ちょっと探してみただけでうんざりした。
何だ、この下らない人間だらけの臭い場所は。

繁華街の中央部から遠ざかり、小さな店や民家が並んだ裏通りに行く。
ようやく少しだけ落ち着き、ため息をつく。

人間たちはよくこんな所に集まるものだ。
全く、度し難い愚かさだ。
ますます人間が嫌いになる。

いらいらしながら裏路地を探索する。
一応、目立たないように屋根の高さぐらいの所を静かに飛ぶ。

路地は人がほとんどおらず、静かではある。
比較的店が集まった場所があり、何軒かの店にはあかりが付いている。
工事中の店も何軒かある。

道路にはゴミがいくつか落ちており、電柱にはいい加減に張られた看板や張
り紙が目立つ。
どうという事もない繁華街の裏通りだが、苛立ち、ささくれだった水銀燈に
は落ちている紙くず、曲がった看板、破れた張り紙、そんな些細な事さえ気
にさわる。

舌打ちしそうになりながらしばらく飛び回る。
姉妹の気配も、目立つ何かもない。

一休みしようと、一軒の家の塀に降り立つ。


塀の向こう側から何かが歩いてくる。
ああ、猫か。
どうでもいい。
120「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:24:18.45 ID:act4+AD5

しかし、猫は水銀燈の方へ歩いてくると、何が気に喰わなかったのか水銀燈
をにらみ付け、毛を逆立ててフーッ、と威嚇する。

どうでもいい事なのは分かっていたのだが、苛立ち続けていた水銀燈は一瞬
カッとなる。
すっ、と翼を開き、猫に向かって羽根を一本飛ばす。

ふぎゃーっ!
猫は大きな悲鳴をあげて逃げ出す。
水銀燈は最早そちらを見ようともしない。

男の声1「ん〜、なんだなんだぁ?」
男の声2「すげえ声したよなあ?」

近くの店から出てきたらしい二人連れの男がふらふらと危なっかしい足取り
でこちらへ歩いてくる。
二人の男は若くないが年寄りという程でもない。
そろって地味なズボンをはき、白いシャツを着ている。
一人は首のところ、シャツの襟の下に細長い布・・・確か、ネック・タイとい
う物・・・を結び付けている。
もう一人は、何故かその布で額の所にはちまきをしている。

二人の男からはアルコールの匂いがぷんぷんした。
水銀燈は悪臭に顔をしかめる。
元々アルコール臭はあまり好きでないうえ、男たちの振りまいているアルコ
ールの臭いは酷かった。
まともに醸した酒なら絶対にするはずのない、粗悪なアルコールの匂いだ。

トラブルにならないように隠れるべきではあったが、何故かその気になれず、
水銀燈はそのままで居た。

男たちの一人が足をふらつかせながら近づいてきて、水銀燈に気づく。

男1「おあ?何だおめーは?」

不愉快だ。
銀「はぁ? 何のつもりだ、ゴミの分際で。気安く話しかけるな。」

男1「なんだとぉ?」
男2「やんのか、この野郎?」

男達の片方がふらふらしながら、工事現場の端っこに落ちている棒を手にし
て振り上げて凄む。
まるで迫力がなく、足元もふらついていて、かけらも危険を感じなかったが、
もう苛立ちの限界だった。
121「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:36:03.67 ID:act4+AD5

銀「クズが!」

一瞬で精神を集中し、たくさんの小羽根を巻き上げて飛ばす。
無数の小羽根が二人の男に叩きつけられ、舞い上がり、視界をなかば塞ぐ。

男1「うわあっ!何だこれ!」
男2「く、クソったれ!」

2枚の大きな羽に意識を集中すると、狙いすまして飛ばす。

男1、2「ぎゃああっ!」

狙い過たず、棒を持った男の腕と、もう一人の男の顔に命中する。

男1「い、痛ぇ〜!!」
男2「ああああ・・・」

二人は羽根が突き刺さり、血が流れ出した傷を押さえて転がる。

銀「あーっはっはっは、おばかさん!!」

サディスティックな喜びが湧き上がってくる。
水銀燈の唇は吊り上がり、残虐な笑みが浮かぶ。

冷たい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと男たちに近づく。

男「ひぃっ!」

さらに2枚の羽に精神を集中する。
狙いすまして・・・


・・・急にテンションが下がる。
何をやっているのだ、私は。

馬鹿なことをした。
こんな、「物」にあたるなんて。

ちらりと男たちを見る。
二人とも腰を抜かしている。
しかし、一人は腕を怪我しただけだし、もう一人も額を浅くえぐっただけだ。
本当に壊れはすまい。

羽根から力を抜き、もはや男たちに目もくれず、後味の悪さを感じながらそ
の場を立ち去る。


結局、この日も、妹たちも糧候補も見つからなかった。
122「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 22:31:05.04 ID:act4+AD5

>>121の末尾の一文、微妙におかしいですね。訂正。


結局、この日も成果は無く、妹たちも糧候補も見つからなかった。

123「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 22:35:03.03 ID:act4+AD5

またもや移動だ。

全くうんざりだが、今回は少しだけマシな点があるらしい。
今回訪れる町はこのサーカス団にとってゆかりのある町であり、しばらく滞
在するということだ。

どう移動したかも分からない長距離移動が続くのがこたえていた水銀燈はほ
っとする。


町に到着する。

地方都市、という所だろうか。
あの繁華街ほど混み合っていないが、そこそこ大きな建物も民家もある。
町のあちこちに書かれた文字は理解できる文字、漢字とかな文字だ。
何故かイングランド語も多少見かけるが。

ともかく、ようやく落ち着いて探索ができそうだ。

ずっと一緒にいてくれ、という少女を無視し、ねぐらにする場所を探す。


丁度いい建物が見つかった。
地味な頑丈そうな建物で、そこそこの高さがある。
建物の正面には「町立図書館」と書かれている。
最上階の裏側に屋根裏めいたスペースがある。
窓から覗くと、がらくたがたくさん置かれており、ほとんど使われていない
ようだ。

おあつらえ向きだ。
窓枠に手をかざして念を込め、ちゃちな鍵を開け、中に入る。
何年もに渡って誰も入った形跡がない。
よし、ここを寝ぐらにしよう。

メイメイと一緒に簡単に掃除をし、寝ぐらとして使えるようにする。
埃を払うだけなので大した時間もかからなかった。

残った時間でその建物の周辺をざっと探索する。
やはり、姉妹の気配はなかった。

そろそろ休むべき頃合だ。
本格的な探索は翌日にすることにし、休息を取る。
124「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 16:38:28.61 ID:Y8B6QuSZ

翌日。

本格的にこのあたりを探索する事にする。

高く飛んで全体的な地形を把握したあと、町全体を見渡せる高台へ向かう。

高台の端にある電柱の上に降り立ち、町を見下ろす。

銀「・・・小汚い町ね。」


確かに町はあまり綺麗ではなかった。
森や林はあちこちが欠けていた。
町も廃墟同然の状態の場所も多いし、建築中の建物も多い。
それに建っている建築物も粗末なものが多かった。

しかし、町には活気があった。
この国を荒廃させた戦争・・・世界中を大混乱に陥れた大戦争の一部でもある
・・・が終わってしばらく経ち、ようやく復興が本格的になってきたのだ。
まだまだ綺麗な建物は建てられないものの、雨後のタケノコのように新しい
建物が建ち、人間が忙しく出入りしていた。

皆、まだ貧しかったが、復興の活気に満ちていた。
125「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 16:45:06.90 ID:Y8B6QuSZ
しかし、その復興から取り残された者もいた。

町の外れの、誰のものともはっきりしない炭焼き小屋。
そこに薄汚れた男が寝転んでいた。

まだまだ貧しい時代のこと、粗末な服装の者は珍しくない。
その中でも男が薄汚れて見えたのは、その内面的なあり方ゆえだった。

男はそれほどの年齢ではなかった。
若者と中年の境目ぐらいの年齢だろうか。

男はこの小屋以外には家を持たなかった。
職にも就いては居なかった。
時々、日雇いの肉体労働をすることもあったが、主な収入源は別にあった。
金属拾いだ。

この頃、金属の需要が増えていたため、拾った金属くずを然るべき場所へ持
って行けばそこそこの値段で売れた。
それ自体は別に問題の無い事だ。

しかし、男はそれだけでなく、人目を避け、落ちているのではない金属・・・
普通の建築物に使われている金属や神社仏閣の装飾の金属、それ以外にも明
らかに誰かの所有物である金属をも「拾って」いた。

平たく言えば金属ドロだ。

やっている事は勿論悪い事なのだが、どちらかというと無気力ゆえにそんな
生活をしている小物であり、悪人というよりも、単にチンケな存在だった。

そして、その事を男自身も良く分かっていた。

男は上体を起こすと、傍らの徳利を持ち上げ、中身の安酒をあおる。

拳で口元を拭うと再び体を横たえる。
126「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 22:33:06.69 ID:Y8B6QuSZ

水銀燈は町の上空を飛ぶ。

町の隅々まで調べようと思うと結構広い町だ。
もっとも、建物の密集した都市部、と呼べる部分はさほど広くない。

図書館は都市部の端の方にあり、ちょうどそのあたりが都市部と旧来のまば
らな町並みの境界だ。

まずは都市部側を捜索する事にする。

夕闇に紛れて都市部をざっと一周する。
姉妹の気配はないようだ。

夜も探索するか迷う。
まだ力は残っているものの、何の目途も立っていないので、いつ長距離の捜
索をすることになるか分からない。
一旦、糧の所に戻って力を補給しておいた方がいいだろう。
少しはあの少女の相手をする羽目になるが。



夜が来て、例の金属ドロ男はむくりと上体を起こす。

ぼちぼち、北のはずれの賭場が開く頃合だ。
多少の金はある。
行くか。

徳利から一口、酒を飲んで口を湿らせると、男は立ち上がり、小屋から出る。

まばらではあるが、町の明かりが見える。
ずいぶん増えたものだ。

この町は地方都市に過ぎないが、軍の施設があったためにアメリカ軍の爆撃
にさらされ、一時はほとんどの大きな建物が無くなった。

男が青年期までを過ごした家も燃えてしまった。

それも惨いことではあったが、本当にひどかったのはその後、戦争が終わっ
た後だった。
127「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 22:36:55.16 ID:Y8B6QuSZ
家のあった場所に、たちの悪い連中が居座ったのだ。

土地の所有を証明するのはそこに住んでいる事(借りている場合を除く)、
権利関係を証明する書類、そして土地の登記だ。
戦災によって住民が家を失って土地を離れ、火災などで権利書類を失い、し
かもその地方の登記所も焼失した場合、所有を証明する事が難しくなる。

それに目をつけたたちの悪い連中が、めぼしい土地に強引に居座る。
本来の持ち主は自分の土地である事を法的に証明できず、そうなると警察も
動けない。
結局、土地はたちの悪い連中に奪われてしまう。
そういったたちの悪い犯罪が戦後すぐには何件か起きていた。

男の土地はその被害にあったのだ。

勿論、思いつく限りの手段で土地を取り戻そうとしたのだが、結局、法的に
所有を証明することはできず、組織された悪党どもに対抗できなかった。

土地を失った事もショックだったが、男はそれ以上に人間の醜さにショック
を受けた。
ただでさえ、戦争とその後の混乱で親類縁者と自分の家を失っている。
さらに、土地を取り戻そうとする努力に疲れ、混乱期に生きる事に疲れ・・・
男は全ての気力を失った。


遅く生まれた子供で親とは年が離れていたため、両親は既に他界している。
もう、親類縁者も全く残っていない。
男は元々、この地方に古くからあった有名な寺の住職の一族である。
住職の家系である本家にごく近い分家にあたる家の生まれであったが・・・


男はとぼとぼと舗装されていない道を歩いていく。

南の方には山があり、その中腹には未だに焼けて黒ずんだ残骸が見える。
だいぶ伸びてきた木々に隠れたものの、まだ目立っている。

それが、寺の今の姿だった。
戦争末期、爆弾を満載したアメリカの大型爆撃機が寺のすぐ脇に墜落したの
だ。
現場を見ていた人の話によれば、山ごと吹き飛ぶかと思うような大爆発だっ
たそうだ。

由緒ある寺と、その周りに住んでいた親類縁者は一瞬で失われた。
生き残ったのはたまたま出かけていた男だけだった。

安酒で濁った頭の隅でうっすらとそんな事を思い出しながら、男は独りとぼ
とぼと賭場へ歩いてゆく。
128名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 00:07:01.46 ID:rJBkf9Oa
>>127は誇りうる……
物語がある…!
投下を始めた頃から……
何度も言われてきたはずだ……!
乙だ…って…!
129「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:18:32.48 ID:puRwBdU5

>>128
ざわ…  ざわ…
コメントありがとうございます。 ざわ…

(うろ覚えなんですが、元ネタ、カイジかそのシリーズで合ってますよね?)


物語と言えば、>>127に出てきたような不動産乗っ取りは第二次世界大戦後の
日本で実際に何度も起きたことだったりします。学校の日本史じゃこの時期の
事は教えないですけどね。
カイジの作者がこのテーマを取り上げたら凄い漫画が出来そうです。
まあ、圧力かかって出版は無理だとは思いますが・・・
130「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:20:19.46 ID:puRwBdU5

ここしばらくは雨が多い。
このあたりは雨季があるのだろうか。

曇りや小雨ならよいが、大雨になると空を飛んで捜索するのは大変だ。
そんな日はこの世界ではなくnのフィールドを探索する。
時折、力の補給のために少しだけ糧の少女と過ごす。

サーカス団のテントにはちゃんとした個室がない。
布で仕切られたせまい個人スペースはあるが、そこで大声を出せばまわりに
筒抜けだ。
逆に水銀燈と少女の側からも周りの事が良く分かるが、水銀燈にとってはそ
れはあまりメリットにならない。
変にべたついて来る少女が鬱陶しい事を除いても、長居したい状況ではなか
った。


朝が来る。
人々も人形も新しい一日を過ごし始める。

この日も今にも雨が降り出しそうな陰鬱な空模様だ。
それでも辛うじて雨は降っていないので、飛んで捜索できそうだ。

天気が悪いが、おかげで水銀燈が昼間から低く飛んでもあまり目立たない。
その意味ではこの天気は捜索日和だ。
水銀燈とメイメイは都市部の残りの部分、そして図書館と近い都市部以外の
部分を捜索する事にする。
131「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:27:36.48 ID:puRwBdU5

町外れの小屋にも朝は平等に訪れる。

普段は昼夜逆転に近い生活をしている金属ドロ男だが、何となく眠れずに起
きていた。

ここのところ、賭場では負けっぱなしだ。
まあ、賭博で常に儲かるのは胴元だけに決まっているのだから無理もないの
だが。

辛うじてすっからかんにはならずにすんでいるが、懐はかなり寒い。
せめてもの救いは、徳利にはまだ半分以上酒が入っている事だけだった。

男は小屋の中で身を起こすと、酒で喉を湿し、ぼうっとあたりを眺める。
別に何もやることなどありはしない。

小屋の中には毛布と、拾ってきた雑誌や本・・・ほとんどが露骨なエロス絡み
のものだ・・・が散らばっている。

ふと、小屋の片隅に転がっている木切れを手に取る。
小さめの徳利ぐらいの大きさの木切れだ。
いい感じに乾燥している。

ふむ、いい形だ。
男は刃こぼれした折りたたみ小刀を取り出すと、何を目指すともなく、木切
れを削り始める。
この形だと・・・四足の獣が現れるかな。
いや、縦にしてフクロウなんかかもしれない・・・

そういや、俺は学校に行ってる頃、これが趣味で特技だったっけ。
俺の一族は木彫りや彫刻がうまい奴が多いんだよな・・・そもそも、うちの分
家の誕生のきっかけになったご先祖が木彫りの名人で・・・ひい爺さんの言う
には、俺は一族の中でも特に上手くて・・・

しばらく、男は無心に手を動かす。
自分が何かの形を作るのではなく、元から木切れに隠れている形を表に出し

てやる感じで削る。

手が止まる。

自分のやっている事が馬鹿らしくなる。
こんな事して何になるってんだ。

男は木切れを放り出し、小刀を折りたたんでしまいこむ。

徳利を手にし、酒をあおる。

ようやく眠気が来て、男は体を横たえる。
132「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:33:40.80 ID:puRwBdU5

作者よりご案内(?)

ここんとこ、結構いいペースで連載が進んでいます。
6/5の時点であと20日と書きましたが、もっと早く終わるかも。

133「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 02:07:31.67 ID:DKrHHMY5
やがて、男は浅い眠りから目覚め、中途半端に伸びをし、頭をがりがり掻く。
そういえば、最近髪が薄くなってきたかもしれない。
まあ、どうでも良い事だが。

さて・・・
バクチをやりに行くにはちょっと軍資金が足りない。
あちこちで工事をしてるから日雇い仕事はあるだろうが、かったるい。
また、どこかの鉄板でも剥がしに行くか。

男はふっ、と口元を歪めて自嘲的に嗤う。

コソ泥の真似事をして小金を稼いでは酒びたりになり、バクチに通う。
たまにバクチで勝つとその金でいかがわしい快楽にふける。
もうくたばっちまったけど、お堅い本家の連中がこのザマを見たら何て言
だろうか。

煩悩まみれの俗物、かな?
あの連中からはそう見えるに違いない。

だけど違うな。
俺は・・・・・・

男は少し考え込み、自分の気持ちを言い表すのに相応しい言葉を探す。
これでも、仏教系の学校でそこそこ優等生だったのだ。

酒で薄くもやのかかった頭でしばらく考え、概ね合っていそうな言葉を見つ
ける。

そう、今の俺は煩悩まみれなんじゃない。
何もないんだ。
空っぽ。
空ろ、虚ろ。

うつろなんだ。

男は再び、ふっ、と嗤う。

そう、俺はからっぽ、うつろ・・・になりかけている。

まだ、完全に空っぽにはなっていないが・・・もうじき、完全にうつろになり、
自分がうつろである事も気にならなくなるだろう。
134「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 02:13:35.70 ID:DKrHHMY5

金属ドロ・・・いや、金属拾いにいくための支度をする。
と言っても、金属を剥ぎ取るための粗末な工具数点と小刀、丈夫な袋を用意
するだけだったが。

用意しながら、男はふと考える。

もし、空ろになっていなかったら、いったい俺はどんな風に生きたいと願っ
ていたんだろう?
空ろになる前はまだ若かったから、そんなに具体的に考えてはいなかったか
もしれないが、それでも何かあったような気がする。
しばらく考えるが、最早、思い出すことができなかった。

それよりも金だ、金。



水銀燈たちの捜索は今日も空振りだった。
灰色の夕方の中、図書館のねぐらへと帰る。

最近はあちこち旅して落ち着かなかったので、動かないねぐらがあってそこ
へ帰れる事が心地よい。

帰る途中、サーカスのテントが見える。
興行の準備をしているようだ。

テントの中を覗くと、裏方の仕事をするサーカスのメンバーが数人おり、こ
まごまとした作業をしている。
糧の少女は他のメンバーから離れ、ステージになる予定の場所で独りで空中
ブランコの練習中だ。
水銀燈はしばらくの間、物陰から練習風景をながめる。
135「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 11:58:41.06 ID:DKrHHMY5

金属ドロ男は疲れ、小屋への帰り道をとぼとぼと歩く。
今日はあまり金属が手に入らなかった。

視界の端に、かつて一族が住職をつとめた寺の残骸が見える。

あーあ、あの寺が今もあればな。
本家でなくとも、うちの一族のもんが金に困る事はなかっただろう。

いや、待てよ。
うちの本家っていうのは住職の一族だが、住職に就いてからは女人に触れな
い、という戒律を厳しく守っている。
なので、基本的に住職には子供が居ない。
住職はある程度の年齢になると本家、もしくは近い分家の誰かを養子にして
住職を継がせるという変形世襲制だ。

だったら、自分が住職を継ぐ可能性も少しはあったわけだ。

そうしたら、金なんか檀家からいくらでも集まったんだろうなあ。
それに、色っぽい檀家の後家さんとかと知り合ったり出来たかもしれない。
そうなったら戒律なんか守るわけない。
楽しい毎日だったろうなあ。

・・・それがこんな事になるとはな。


他に考える事もなかったので、そのまま一族の事と住職の世襲について、ぼ
んやり考える。

住職の跡継ぎに決まるのはだいたい、本家か分家の15〜20歳位の若者だ。
時代にもよるが、その年齢だとまだ妻や子供がいないのが普通だ。
既に妻や子供が居て家庭を持っている場合、普通住職を引き受けない。
136「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 12:06:34.64 ID:DKrHHMY5

でも、例外ってのはあるもので、うちの分家ってのはその例外から生まれた
んだよな。
何百年か前のそのご先祖は若いときに、都から下ってきた、元々は宮仕えで
そこそこ身分もあった、学識ゆたかな女と結婚したとか。

その女との間に子供が出来たんだが、結局その女はどこかへ去っていき、ご
先祖は住職を継ぎ、残った子供がうちの分家の祖になった。

その女・・・いや、ご先祖様だからその女なんて言い方は何だな。
先祖のその女性は色々謎が多いらしい。
何か、不思議な術・・・あー、何だっけな。呪術?方術?陰陽?良く覚えてな
いが、とにかく何か不思議な術を使ったなんて言い伝えがあるとか。

不思議な術かあ・・・


はっ、下らない。
そんなモンあるもんか。

それより金だ、金。
酒。快楽。



図書館の屋根裏部屋。
水銀燈は窓辺にたたずみ、時折小雨の落ちてくる鉛色の空を見つめる。

最後に晴れた日を見たのはいつだろう、と思うほど、ずっと天気が悪い。
糧の少女の話では、熱帯の雨季とは違うものの、雨季に近いものがこの辺り
にはあるんだそうだ。
たしか、ツユとか言っていた。

幸い、ここ何日かは晴れはしないものの大雨にはならない事が多い。

おかげで水銀燈たちは昼間も捜索しやすかったが、未だに妹たちの手がかり
はなかった。

137「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 23:52:19.62 ID:DKrHHMY5

またもやどんよりとした朝が来る。

水銀燈は考えこんでいた。
今回の目覚めは無意味ではない、と感じたのは自分の勘違いだったろうか。

ここしばらく、わりと行き当たりばったりに妹たちを捜し続けていたが・・・
もう少し考えて、徹底的に姉妹を捜してみる頃合かもしれない。

しばらく考えて方法を決める。

銀「メイメイ。」

ふよふよ。

銀「メイメイ、ちょっと探し方を変えるわよ。
この世界と、nのフィールドを両方とも広く捜すわ。

まずはこの建物の鏡からnのフィールドに入って、しばらく一緒に真っ直ぐ
飛ぶ。
で、その飛んだ線を軸にした円というか球を考えて。
その球から外側に、少しずつ広がりながら回って、nのフィールドの中を出
来る限り広く妹たちの気配を捜しなさい。
使える時間は・・・夜明け前までにはここで落ち合いたいから、18時間ぐらい
かしらね。

気配があるかどうかだけでいいから、そんなに細かく捜す必要はないわ。
とにかく時間いっぱい、できるだけ広い範囲を捜しなさい。

私はまずnのフィールドで球の内側を捜すわ。
それが終わったらnのフィールドから出て、この世界をこのへんを中心にで
きるだけ広く時間いっぱい探し回るから。

これだけやれば、二人合わせればかなりの範囲を捜せるはずよ。」

チカチカ。

銀「気配を見つけたら、戦わなくていいからすぐに知らせに戻りなさい。

いい?じゃあ、行くわよ。」

水銀燈とメイメイは図書館の階段の踊場にある、下の方に「寄贈 ○○商店
街」と書かれた大きな鏡からnのフィールドへ入る。
138「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/13(月) 23:28:45.54 ID:ItVp6DJz

一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に小さくなる球を描きなが
らnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。

しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内でやたらと水晶が目立つ。
nのフィールドの風景に脈絡を求めても意味が無いのだが、それにしても多
い。
人間の世界かなにかで水晶が流行しているのだろうか?

ある場所では、まるで大量の水晶を弾丸がわりに飛ばす練習でもしたかのよ
うに水晶が散らばっていた。
水銀燈は近づき、用心しながら水晶に触れてみる。

最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。

他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
触れる事はできるが、非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしまう物もある。
全く脈絡がない。

特に意味はなかったかのかもしれない。
ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。


不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて柔
らかい物がそっと触れたような不思議な感覚がした。

水銀燈は辺りを見回す。

何もいない。

何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。

気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかったし、気にする事もあるまい。
139「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/13(月) 23:53:12.37 ID:ItVp6DJz

捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に小さな光る物をとらえる。

先程探していた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。

その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色はヒスイ色だが、微妙に虹色のような色合い
持っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。

別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。

用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。

それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。

水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続ける。



結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。


図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。

この周囲は既に捜索ずみだ。

建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。

中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。

細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/14(火) 00:15:18.90 ID:W42HNGhU
おや、七番目さんかえ

アニメ版準拠だと一番想像力を働かせられるのが七番目さん
漫画のキラキチそのものからバラシーもどき、いえいえ全くの別個の存在
よりどりみどり、あなたのお好きな七番目さんを……
141「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:19:05.58 ID:/h6lQbC0

金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。

昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。

おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。

途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。

歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。

うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。



この町ではない、とある場所で、とある人形師が軽く頭を抱えていた。

今、彼は新しい人形を造っている。
素晴らしい人形になるだろう。

しかし、完成に近づきつつある今、問題が出ていた。
彼はその人形に、水晶を扱って戦う能力・・・弾丸のように飛ばしたり、水晶の
中に何かを封じ込める能力を与えようとしていた。

試行錯誤の末、その能力を持たせることができたはずなのでnのフィールド
で実験させたのだが、結果は失敗だった。
色々な点で不安定だったのだ。

・・・まあいい。時間をかけて取り組むさ。
今までだって、相当に長い時間をかけてきたのだ。
このぐらいで焦りはしない。
また何十年もかかるかもしれないが、完璧な人形を造る事の方が大切だ。

人形を「眠らせ」、長期間待機状態にする。

そっと人形を抱き上げると、人形師は再び工房にこもった。
142「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:21:33.58 ID:/h6lQbC0
>>140
コメントありがとうございます。
確かに七番目は想像力を刺激される存在ですよね。
143「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:45:44.51 ID:/h6lQbC0
水銀燈は空を飛び続けていた。

町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。

建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。

あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。


町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。


ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。

そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
従って、水銀燈にとっては「知っている」つまり記憶にある場所、「知らな
い」つまり記憶にない場所、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。

しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。

暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・


ぱさっ、ずっ。


!!うわっ。

ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込
んでしまった。
かなり大きな蛾だ。

気持ち悪い!
144「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:56:35.17 ID:/h6lQbC0

振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。

ぬるり。

あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。

空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。

蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!


いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。

ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。

ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。

箱の真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。

上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。

その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。

ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。


はあ・・・どっと疲れた。
145「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 13:32:01.32 ID:NY3X8q2a

 〜 作者よりお詫び 〜

都合により、>>138から>>144の5ログを書き直します。

訂正があるのは前の3つだけで、後ろ二つ(水銀燈の既視感と蛾にやられる
シーン)はほぼそのままですが、一応5ログとも書いておきます。

面倒な方は、>>148まで読んだら>>151にお飛びください。
(間に別の方の書き込みが入った場合は番号がずれます)
146「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:09:03.23 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に内側へと小さくなる球を
描きながらnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。

しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内できらきら光る物が妙に
目につく。
ガラス?水晶?宝石?
ともかく、きらきらした物が明らかにいつもより多い。

nのフィールドの風景に理由を求めてもあまり意味が無いのだが、大勢の精
神世界の影響を受けて風景が変わっている場合もたまにある。
人間の世界かなにかで、そういったきらきらした物が流行しているのだろう
か?
水銀燈が見てきた今回の世界は、大戦争の始まる前の時代に比べるときらき
らした物は減っている感じだったが・・・

飛び続けているうちに、大量のきらきらした物が散らばっている場所を見つ
ける。
おかしな気配がないか気をつけながら、ゆっくりと近づいてみる。

何の気配もない。
すぐそばまで近づく。

きらきらした物は、割れている物が多い。
割れ方からするとガラスではないようだ。
断定はできないが、水晶かそれに近い物に見える。
一応、水晶と呼んでおこう。

そっと、実際に触れてみる。
最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。

他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
かと思えば、触れる事はできるが非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしま
う物もある。

あまり脈絡はないようだ・・・いや、不安定な結晶、というイメージはある
かもしれない。

まあ、直接に妹たちやアリスゲームに関係は無さそうだ。
放っておいていいだろう。


ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。
147「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:17:30.09 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて
柔らかい物がそっと触れたような不思議な感じがした。

水銀燈は辺りを見回す。

何もいない。

何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。

しばらく様子を見てみるが、それ以上、何も起きなかった。
気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかった。
まあ、気にしなくていいだろう。


捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に気になる物をとらえる。

先程調べていた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。

その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色は翡翠色だが、微妙に虹色のような色合いも持
っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。

別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。

用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
見かけも感触も水晶の六角柱状の結晶そのものだ。
しかもこれはどこも割れていない。

そして、なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。

それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。

水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続けるべき飛
び立つ。
148「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:24:13.86 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。

図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。

この周囲は既に捜索ずみだ。
建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。

中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。

細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。



金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。

昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。

おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。

途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。

歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。

うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。
149「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:46:33.15 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

水銀燈は空を飛び続けていた。

町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。

建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。

あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。


町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。


ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。

そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
人から伝え聞いたあいまいな情報のような物ならともかく、場所のように自
分で具体的に体験した物であれば、水銀燈にとっては「知っている」つまり
記憶にある、「知らない」つまり記憶にない、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。

しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。

暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・


ぱさっ、ずっ。


!!うわっ。

ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込

んでしまった。
かなり大きな蛾だ。

気持ち悪い!
150「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:48:05.05 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正のない繰り返し部分です)

振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。

ぬるり。

あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。

空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。

蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!


いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。

ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。

ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。

その真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。

上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。

その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。

ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。

はあ・・・どっと疲れた。
151「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 01:21:11.14 ID:9063gv/1

金属ドロ男は道端で目を覚ます。

ありゃ?何で・・・

しばらく考えて、自分が飲みすぎて眠り込んでしまったと気づく。
まあ、構いはしない。
どうせ何か用があるわけじゃないし、人目なんかどうでもいい。

あたりはすっかり夜になっていた。

強い酒を飲みすぎたため、口の中が荒れている不快な感じがする。
喉も渇いている。
水を飲みたい。

えーと、この辺りだと水が飲める場所はどこにあったかな・・・
ぼりぼりと頭をかきながら男は少し考える。

ああ、そうだ。
あの工場の裏手に水道があったはずだ。
あそこで飲もう。

男は立ち上がるとゆっくりと歩き出す。



嫌な感じに疲れた水銀燈は、間近にあった椅子に座り込んで脱力する。

しばらく経って、一息つくと、ようやくちょっと余裕ができる。
まず、大切な羽根をもう一回チェックし、綺麗である事を確認する。
それから気を落ち着かせてあたりの様子を見る。

ここは、大きな灰色の建物の裏側のようだ。
休憩所と書かれたぼろぼろの木の看板がかかっており、先に使った水道、木
の椅子がいくつか、足つきの灰皿が二つ置かれている。
その先に、先程見た窓付きの金属箱がある。
152「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 16:03:24.41 ID:9063gv/1

ふと、手元にあるタオル代わりにした紙に目をやる。
微かに褐色がかった灰色の粗末な紙だ。
サーカスでも同じような紙を見たことがある。
ワラバンシとかいう紙だ。

濡れてくしゃくしゃになっているが、よく見ると何か文字が印刷されていた
ようだ。
紙はお世辞にも綺麗な紙ではない。
平和な時代のヨーロッパの紙を見てきた水銀燈からすると、とても文字を印
刷するための紙には見えない。
何故、こんな汚い紙に字を印刷するんだろう。


それはさておき、これには何が書いてあったんだろう?

手元の紙はもう読める状態ではないが、さっきの金属箱にはまだ同じ紙がぶ
ら下がっている。
水銀燈は立ち上がり、使い終わった紙を放り捨て、そちらへ行ってみる。

金属箱はわずかに丸みを帯びた箱型だ。
箱の横に柱のようなものがあり、そこから箱の上に向かって、小さな屋根の
ような物がつけてある。
雨よけだろう。

雨よけの下に小さな細長い木切れが下がっており、「自動販売機」と書かれ
ている。

ふうん、自動販売機ねえ。
こんな箱が何を販売するんだか。

箱の上の方には窓があり、その中の両はじに白っぽい明かりがついている。
明かりの間、窓の中央あたりに、妙な形をした瓶が数本並んでいる。
瓶の下側には数字を書いた紙が張ってある。
価格のようだ。
どうやらこれが販売する商品らしい。

金属箱には他にも取っ手やら突起がいくつか付いているのだが、いちいち細
かく見るのが面倒だ。
箱の中ほどに吊るしてある、先程の紙の束に注意を戻す。
153「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 22:08:00.49 ID:9063gv/1

破らないように注意しながら一枚ちぎり取り、見てみる。
綺麗な印刷ではないし、紙に皺がよっている部分では印刷がずれている。
まあ、内容をざっと把握するぶんには問題ないが、ブザマだ。

紙は真ん中あたりで横に折り目がついていて、半分に畳まれた形になってい
る。
まずは上半分を読んでみる。


**************

 体に良くておいしい 乳酸菌飲料□□!

育ち盛りのお子さんに!
働き盛りのお父さん、お母さんに!
いつまでも元気で過ごしたいお年寄りに!

有限会社 S乳飲料がお届けする、最新の乳酸菌飲料です。
滋養豊富で美味!

ヨオロッパ・アメリカで健康に良いと評判の乳酸菌がたっぷり入った健康飲
料です。
一本飲めば、元気はつらつ、健康増進!
さわやかな甘酸っぱさで気分爽快!

**************


ふーん。

広告とか宣伝を書いた、チラシという物のようだ。
この箱の中の商品の事だろう。

・・・あんまり才気のある文章じゃない。陳腐ね。
154「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 22:14:34.95 ID:9063gv/1

 〜 作者より 〜

いつの間にやら、四ヶ月にも及んだこの連載。

長い間、お付き合い頂いてありがとうございます。

ついに、この話も終わりが見える所まで来ました。

あと、3〜5日で終わりになります。
(アクセス規制等の場合は除く)

最終回は普段より少し長くなる予定です。
155(代理してた人) :2011/06/17(金) 22:54:25.12 ID:OT6cn7dt
投下乙です。

いよいよ完結ですか……乙でもあり、寂しいようでもあり……複雑な心境です。
最後まで目が離せないぜ!

実はうちもArcadiaチラ裏で2本ほど長期連載を抱えてます。
こっちへの転載はいろいろな面で現実的ではないですが、興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。
156「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:00:38.79 ID:ayh0VhRq
>代理してた人さん
その節はどうもお世話になりました。

こちらとしても、4ヶ月間、ほぼ毎日書いてたので書くのが普通になっており、
色々複雑ですね。

>興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。

余裕ができたら見ますね。
今度、urlを貼っておいてください。
157「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:03:10.26 ID:ayh0VhRq

チラシの下半分、続きを読んでみる。


*********************

この乳酸菌飲料□□はヨオロッパの×××研究所で開発された最新の特殊製
法で丁寧に作り上げました。

加えて、わが国で長年日本人の健康を守ってきた幻の乳酸菌も配合してあり
ます。

この乳酸菌は、数百年の長きに渡って○県の山中で多種多様な発酵食品を作
り続け、幻の職能集団と言われた「漬物の里」、別名「醸しの里」に伝承さ
れていた乳製品、「酪・・・

*********************



えっ!?

何?・・・なに!?

何だって?
「漬物の里」、「醸しの里」!?


きっ、と箱に向き直る。

窓の中に見える商品は、見慣れない形をしているが、液体を入れる瓶だ。
しかし、それは明らかに見本であり、実際の液体は入っていない。


どうしてもその乳酸菌飲料を見ないわけにはいかない!


この箱を叩き壊すか?
大して厚い金属ではないし、継ぎ目もある。
この程度なら、思い切りやれば・・・

・・・いや、駄目だ。
それでは中身の瓶まで壊してしまうかもしれない。

いらいらするが、この箱・・・自動販売機、という物の正しい操作方法に従
うしかないようだ。
158「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:06:49.23 ID:ayh0VhRq

苛立ちつつ、箱に書かれた操作方法を読む。

ふむ。
この小さな切込みに硬貨を入れた後、押しボタンと呼ばれている突起を押せ
ばいいのか。

硬貨・・・小額のお金の事よね。
当然ながら、お金を持ち歩く習慣などない。


その時、少し離れた所から足音がする。
そちらを向くと、おぼつかない足取りで人間の男が歩いてくる。


薔薇乙女の常識からすれば、隠れるべき状況だ。

しかし、水銀燈は気がはやっていた。
そのまま、近づいてきた男に正面から向かい合う。

水銀燈に気づいた男は驚きに目を見開く。

男は薄汚く、しかも酒の臭いをさせているのだが、不思議とそれほど不愉快
には感じなかった。


銀「ちょっと、そこの人間!硬貨をよこしなさい!」

男の目がさらに丸くなる。

銀「硬貨よ硬貨。小さいお金!」


男は呆然と立ち尽くし、え、う、あう、とわけの分からない声を発するだけ
だ。

ああ、もう、全く人間って奴は!
159「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:19:46.90 ID:ayh0VhRq

いらいらする。
叩きのめしてやろうか。
それから硬貨を奪う方が早いかもしれない。

しかし・・・どうしても攻撃する気になれない。

この最凶のドール、水銀燈がどういうわけかこの見知らぬ冴えない男を叩き
のめす事ができない。
・・・いや、叩きのめす気にすらなれないのだ。

何なのだ、これは。


見ると、男はまだ呆然としている。
まったく・・・


後から考えると、少し妙だったかもしれない。
しかし、その時は体が自然に動いた。

水銀燈はドレスの内側に手を入れ、先程拾った翡翠色の水晶を取り出すと男
に向かって差し出す。

銀「ほら、これあげるから!」

男はさらに驚いたようだが、その目に理解の色が浮かぶ。
がくがくと頷くと、男は服のあちこちを探り、一掴みの硬貨を掴み出して水
銀燈に差し出す。

水銀燈はその硬貨を引っ掴むように取ると、水晶を男の手に乗せる。


水銀燈も男も気づかないが、一瞬、水晶が淡く光ったように見えた。


水銀燈は急いで自動販売機の前に戻る。
硬貨を入れる切り込みは上の方にあるので、少し空中に浮かび、硬貨を数え
もせずに次々に入れる。

押しボタンを押すと、ガタン、と音がして、箱の下方の開口部に何かが出て
きた。
見本と同じ、妙な形の瓶だ。
160(代理してた人) :2011/06/18(土) 19:53:17.79 ID:F/jNS9qk
投下乙です。
おお、翠水晶が……
これが次回作で謎の人形の動力源になるんですネ!


>URL
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=24888&n=0&count=1
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=19752&n=0&count=1

多分これで行けるかと……中身がイケてるかどうかってーと腐ってると思いますがw
もし読んで頂いても無理に感想とか頂かなくて結構ですけれども(義務感で感想くれる人がたまにいるので…申し訳なく)
厳しい批評やアドバイス等については、あれば嬉しい限りです。
161「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 00:54:34.10 ID:69cpDEu+
>>160
url、拝見しました。
余裕が出来たら伺いますね。
今は今作の締めくくりに集中していて余裕がありませんので。
162「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:01:43.66 ID:69cpDEu+
どんどん行きます。
もう、いつ最終回まで行ってもおかしくない状況なので。

コメントを頂くのは大歓迎ですが、返答は今作が終わってからになる可能性が
あります。
ご了承ください・・・
163「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:05:35.74 ID:69cpDEu+

もどかしく、むしり取るように蓋を開ける。
匂いを嗅いでみたあと、一口飲んでみる。



あ・・・・・・



間違いなかった。
間違いようもなかった。

甘みの付け方や薄め方が少し変わっているものの、あの味だ。
ずっと昔、みんなと作り上げた、懐かしいあの味・・・

ああ・・・



ふと、ここにはさっきの男もいる事を思い出す。


銀「ふ、ふん・・・」

ふん、くだらない、だろうか。何よこれ、つまらない、だろうか。
斜に構えた、強気な言葉を口にしようとする。

数秒間、ぎこちない空気が流れる。

が・・・

水銀燈は、顔を手で覆い、うつむいてしまった。


胸がいっぱいになってしまったのだ。


あまりにもたくさんの思いが溢れてくる・・・

164「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:08:43.06 ID:69cpDEu+

男は呆然とそれを見ていた。

最初は全くワケが分からなかった。
工場の裏手で水を飲もうと思い、自動販売機の明かりをたよりに歩いてきた
ら、いきなりわけのわからない奴が現れて小銭を要求された。

そいつは一応、小さな女の見かけをしているが、禍々しい気を放つそいつは
まるで魔物か般若のように見えた。

しかし、何故かあまり恐怖を感じなかった。
逃げようと言う気にもならなかった。

そのまま状況に流され・・・
今、そいつは顔を押さえてうつむき、小さく肩を震わせている。


え、ええと・・・


しばらく、気まずい時間が過ぎた後、そいつは顔を上げた。
男ははっとした。
そいつの顔からは、禍々しい雰囲気が消え去っていた。
禍々しささえ消えてしまうと、そいつはとても美しく、柔らかくて優しい雰
囲気を持ち、そして深い何かを宿した存在だった。

魔物なんかではない。
そう、まるで・・・天使、菩薩、女神・・・ああ、女神だ。

そいつ・・・いや、その女神が男の方を向く。
一瞬、両者の視線が交差する。
二人の間を何かが行き来する。

そして、その女神は、限りなく優しく、美しく・・・そしてちょっとだけ恥ず
かしげに、男に向かって微笑みかけたのだ。


男は魂の底から魅せられ、呼吸すら忘れて目の前の女神を見つめていた。

165「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:13:03.08 ID:69cpDEu+

身動きもできずにいる男に、女神は淡い光を放ちながらそっと近づいてきた。
そして、男の耳元で、穏やかな口調で短く語りかけた。
男が目を見開く。


そして・・・

女神はゆっくりと宙を舞い、自動販売機の明かりの方へ下がっていく。
その淡い光と、自動販売機の明かりが混じり始める。

少しずつ、女神は光に包まれていき・・・やがて、女神の体全体が淡い光に包
まれる。

女神は男の方を見、ちょっと首をかしげ、笑顔を浮かべる。


そして・・・女神はゆっくりと、淡い光の中へ溶けるように消えていった。




あたりはふたたび暗闇と静寂に包まれた。

男はしばらくの間、女神の消えていったあたりを呆然と見つめていた。

男はいきなり水道の方へ走っていき、水道を全開にすると頭から大量の水を
浴びた。
一回息継ぎをして、またたっぷり水を浴びる。

男は自分の手を見る。
女神に渡された翡翠色の水晶は間違いなく手の中にある。

先程まで女神がいた場所に目をやる。
そこには何も無く、後ろの方に自動販売機がぼんやりと光っているだけだっ
た。

頭から水を滴らせながら、あたりを見回す。
何もない。


何かから醒めたような目で、手の中の水晶を見、女神のいた場所を見る。


立ち尽くしたまま、水晶と、女神の消えた場所を交互に見る。

何度も何度も。

ずっと、ずっと。
166「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 02:33:19.28 ID:69cpDEu+

寝ぐらのある例の図書館はとっくに閉館していた。
人っ子ひとりいない。

しかし、今夜は図書館の中ほどの階、新聞閲覧室に明かりがついていた。

閲覧室の真ん中のソファがふさがっており、小さな手が新聞を支えて読んで
いた。

目当ての新聞を見つけるのに苦労したらしい。
辺りには新聞が山のように積み上げられている。

手の主は2通の新聞を丹念に読み返しているようだ。
片方は、食品・飲料業界の業界紙。
もう一つはこの県内の事を主に扱う地方紙だ。

それぞれの内容は概ね以下のようなものだった。


**************************
「食品・飲料ニュース」

S乳飲料、大手飲料・食品メーカーA乳業と合併

乳酸菌飲料□□等を代表製品とする乳飲料メーカー、有限会社S乳飲料が業
界最大手の一つ、A乳業と合併することになった。

S乳飲料は従業員数20名足らずの小企業であり、会社規模で言えばA乳業
とは百倍以上の開きがある。通常ならA乳業の一部門への吸収、という形に
なるのが自然であるが、S乳飲料の持つ高い技術力と保有する優れた乳酸菌
株、そしてその歴史に敬意を表し、異例の百倍差の合併という形となった。
新会社は何らかの形でS乳飲料の名かブランド名を残す予定である。

また、この合併によりS乳飲料の代表製品、乳酸菌飲料□□の製法と乳酸菌
株A乳業の新製品、Lに用いられる事になった。
乳酸菌飲料□□は知名度は今ひとつであったが、その健康効果と味には定評
があり、それを引き継ぐ飲料Lのヒットが予想される。


※有限会社 S乳飲料
本社所在地○県X町。明治中期に○県山間部にあった発酵職人集団を母体と
して設立された。
乳酸菌発酵及び発酵に用いる容器に関して高い技術を持つ。代表製品は乳酸
菌飲料□□、乳酸菌株ラク・スイート等。

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167「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 02:36:56.14 ID:69cpDEu+
もう一つ、地方新聞の方はこうだ。

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紹介!私の町

この紹介!私の町 コーナーでは県内にあるあなたの町を毎週一つずつ紹介
しています。

第38回 「漬物の里」、別名「醸しの里」

今回紹介するのは異色の町、「漬物の里」、別名「醸しの里」です。
この里は町と言ってもずっと同じ場所にある「土地」ではなく、醸し(発酵
)とそれを支える木工・焼き物技術を専門とする職能集団でした。
彼らは驚くべき事に、決まった土地にあり続けたのではないにも関わらず、
ずっと一つの里と言えるまとまりを保ち続けてきました。
職人たちは当初は県内南部の山中にある盆地にまとまり住んでいたと伝えら
れていますが、戦乱期に何度か紛争に巻き込まれて山系を転々としました。
大変に厳しい時期もあったようですが、若手の職人を中心に結束を続け、近
隣の寺などの力も借りつつその技術を伝え続け、磨き続け、山中でたくまし
く、そして楽しく暮らしてきました。

現在は里という形でまとまって住んではいませんが、山中にいくつか史跡が
残されています。また、里の職人が中心となって作った乳飲料・食品の会社
にその高い技術が伝えられ、ある意味では里は今も続いています。

また、この里は不思議な伝説があることでも有名です。里の言い伝えでは、
妖怪や鬼、生きた人形、謎の呪術使いが住んでいたという伝承があり・・・

********************


以降は民俗学的考察というものと里の住所が記されている。

水銀燈は新聞を置いた。

図書館の別の階には地図がたくさんあり、住所が分かれば色々分かる事を知
っていたが、もう、それ以上調べる必要は感じなかった。

もう、充分だ。


あの日々は消え去ってしまってはいなかった。


再び、胸がいっぱいになる。
168「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:13:03.05 ID:69cpDEu+

長い長い間、思い出すことさえさけていた記憶が一気によみがえる。
何百万時間も昔。
まだローザミスティカを得る前。
にもかかわらず、少しも色あせていない記憶。
笑顔。思い出。情景。


水銀燈はしばらくの間、静かに追憶にふける。

自ら、思い出すことを禁じていた時間を埋めるかのように。



そして・・・おずおずと、と言っていいほどためらいながら、心の中に、と
ある言葉を浮かべる。

自分には似合わない言葉。

心の中で言うのだから、誰にも聞こえるわけがない。
にもかかわらず、誰かに聞かれるのを恐れるように、そっと心の中でつぶや
く。


・・・私・・・みんなに会えなくなって・・・さびしいよ。



新聞閲覧室の空気が小さく震えた。



懐かしい笑顔・・・

抱きしめてくれる温かい腕・・・

真剣なまなざし・・・

みんなでがんばった事・・・

作り上げたもの・・・

楽しい事、おいしい食べ物、あけっぴろげなお喋り・・・


ああ・・・



時間の経つのも忘れて、追憶に浸る。

もう戻らない日々の追憶は悲しくもあったが、甘やかで温かくもあった。
169「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:22:26.47 ID:69cpDEu+

時間が過ぎ去る。
温かさは心に残ったまま、冷静さも戻ってくる。

そして気づく。
水銀燈は呪われたドールではなくなっていた。

先程まで、水銀燈は確かに「呪われた」ドールだった。
水銀燈の事を呪っている者が確かにいたからだ。


呪っていたのは・・・水銀燈だった。


そう、水銀燈を呪っていたのは・・・水銀燈自身だった。


そして今、その呪縛の一部が解けたのだ。
かつて、水銀燈とみんなが、みんなの健康と幸福を願って作った物との出会
い・・いや、再会によって。

心に、そして心を通して体に重くのしかかっていた何かが消えたのを感じる。

水銀燈は、まるで肩が凝った人間がするように、首や肩をぐるぐると回して
みる。
おどろくほど、首や肩が軽くなっていた。
自分は今までこれほど力み、強張っていたのか・・・・・・
170「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:29:29.74 ID:69cpDEu+

水銀燈は少し頭を切り替え、考える。

あの日々は素晴らしかった。そして大切な思い出だ。
決して忘れない。

そして、こういう形で部分的にでも「再会」出来たのは素晴らしい事だった。

しかし、それで何もかもが変わるわけではない。

そうとも、それだけでなにもかも変わるものじゃない。
自分にはあるべき姿と、なすべき事があるのだ。


呪われたドールではなくなった今も、自分は最凶のドールだ。


そして今後も最凶のドールでありつづけるだろう。
何故なら、自分は戦ってアリスゲームに勝たねばならないのだ。
勝ってアリスになり、お父様に会わなければならない。
会いたい。抱きしめて欲しい。

そして、色々な事を尋ねたい。
尋ねなければならない事がたくさんある。
たくさんたくさんある。


そのためには、戦って勝つには、最凶のドールであり続けなければならない。

必要なら、非情な事や汚い事だってやるだろう。
喜んでやるわけではないけれど、必要ならそうする。
そして、アリスになるのだ。
それが自分の宿命であるし、なすべき事だ。

なすべき事をやり遂げる。
きっと、それだけが・・・それこそが・・・自分を大切に思ってくれた人たち、
自分を愛してくれた人たちの想いに報いる事なのだ。

必ず、やり遂げる。



・・・見守っていてね。


171「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:40:46.13 ID:69cpDEu+

階段の方が淡く紫色に光る。
メイメイが帰って来るようだ。

水銀燈は慌てて自分の顔をチェックする。
大丈夫だ、普段と変わりない。


メイメイが敏捷に飛んで来て、傍らにくる。

ふよふよ。

銀「おかえり、メイメイ。どうだった?

そう・・・やっぱり気配はなかったのね。ええ、こっちも見つからなかった
わ。

残念ながら、今回の目覚めはハズレだったようね。
次の時代に旅立つとするわ。」

チカチカ。

銀「ん?ああ、すぐに旅立つわよ。でも、私はちょっとすませることがある
から。
あんたは先に行って、出発の準備をしておいて。」

ふよふよ。

若干、怪訝そうにしながらもメイメイは次の時代へ旅立つ準備をしに窓から
飛び去っていく。


この時代でアリスゲームが行なわれないとはっきりした以上、すぐに旅立つ
べきなのだが・・・


水銀燈はあのサーカスの少女について考えていた。

鬱陶しい子ではあったが、あの孤独な少女をこのまま一人で置いて去ってし
まうのは気が咎める。

何とか、傷つけないようにうまく言い聞かせて・・・

172「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:52:08.72 ID:69cpDEu+

水銀燈は肩をすくめる。
自分はそんな器用なことができるタチじゃない。

面倒ではあるが、どうして行かなければならないかきちんと話して、ちゃん
と別れの挨拶をしよう。
唐突にいなくなる、などということはするべきじゃない。


それと・・・一言、言ってやる事がある。
少女が一人ぼっちだ、と言っていることだ。

確かにあの少女には親も兄弟もいない。
それは変えようがない。

でも・・・少女は本当の一人ぼっちなんかではない。
彼女にはサーカスの仲間がいるのだ。

まあ、あの守銭奴のデブ団長や、ショウで自分が一番目立ちたいと思ってい
る連中はちょっと駄目かもしれない。
しかし、裏方や他の役割のメンバーには、割とマシな人間が何人かいる。
その人間たちは別に少女を嫌ってなどいない。
それなのに少女が一人ぼっちになってしまっているのは・・・少女自身が自分
がひとりぼっちだと頑なに思い込み、自分を閉ざしてしまっているからだ。

少女を孤独にしているのは少女自身なのだ。

その事についてひとこと言ってやろう。



ああ、まったく、人間というやつは面倒だ。
でも・・・


夜空の雲が流れて行き、開けっ放しの窓に月光が射してくる。
窓辺で、月光も静かに微笑んでいる。



水銀燈は翼を広げ、夜空へと飛び立った。


173「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:56:31.16 ID:69cpDEu+


 作者より
  予定より若干早いですが、このまま、最終回「エピローグ」をお届けします。

174「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:00:30.76 ID:69cpDEu+


       乳酸菌とってるぅ? 


                 エピローグ



   〜現代 廃教会〜


話し始めるときにストーブに乗せたヤカンはとっくに沸騰しており、盛んに
湯気を吹き上げている。

水銀燈は立ち上がってヤカンを手に取ると、釜飯の容器や皿、スプーンなど
を熱湯消毒する。

次いで、湯を水で薄めて人肌ほどの温度のぬるま湯を作る。

先程持っていた、茶色っぽい荒挽きの粉のような物が入った袋を開ける。
良く見ると、袋には汚い字で「米ぬか ご自由にお持ちください」と書いて
ある。


ぬかを釜飯の容器に入れ、塩の小袋・・・病院食でゆで卵が出るときに付いて
来る物だ・・・をいくつか開封して入れ、ぬるま湯を入れて手早く混ぜていく。
かなり手際が良い。

当人も楽しそうに鼻歌まじりで作業している。

ぬか床を整え終わると、どこかから持ってきたキュウリの切れ端を埋め込む。

銀「これはねぇ、食べるためじゃなくてぬか床作りのためなの。捨て漬けっ
ていうのよぉ。」
175「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:06:13.84 ID:69cpDEu+

次いで、乳酸菌飲料・・・例の大手食品メーカーA乳業のものだ・・・を持ってき
て蓋を開け、ほんの少しぬか床に垂らして浅く混ぜ込む。

銀「こうするとぬか床の熟成が早まるし、味に深みが出るのよぉ♪」

残った乳酸菌飲料を小さく喉を鳴らしながら飲み干す。
束の間、幸せそうな表情になる。


しかし、何故釜飯の容器で作るのだろう?

銀「ん?漬物は甕(かめ)で作るものなのよ。」

え?それはカメじゃないんでは?

銀「何言ってるのぉ。ほら、ここ見てみなさぁい。」


カマ
メシ


銀「ね?カメって書いてあるでしょぉ?」


縦・・・・・・メイメイは余計な事は言わない事にした。


水銀燈は鼻歌を歌いながら漬け込み作業の仕上げをする。

銀「♪ ふんふっ ふんふ ふふふふふ〜ん  
    不浄の月 腐乱のよるぅ〜 ♪」

どんな漬物が出来るのだろう。
自分は食べられないが、楽しみになるメイメイだった。
176「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:34:51.87 ID:69cpDEu+

メイメイは考える。

この漬物はやっぱりめぐに食べさせるのだろうか?

多分そうだろう。
めぐは薄味の病院食にうんざりしている。
たまには漬物でも食べれば食欲が出るかもしれない。
そして何よりも、水銀燈が自分のために食べ物を作ってくれた事を喜ぶだろ
う。

ん?
めぐは心臓に問題がある。
塩分のある漬物は大丈夫だろうか。

普段のめぐの病院食を思い出してみる。
薄味ではあるが、厳しい塩分制限はされていなかったはずだから、少しなら
大丈夫だろう。
まあ、一応、後でめぐのカルテを調べておこう。
・・・メイメイは面倒見の良い性格だった。

そして・・・人工精霊はあくまでも、器のドールではなくローザミスティカに
属するものであるが・・・メイメイはこのちょっと困ったドールが嫌いではな
かった。


めぐと水銀燈の関係はこれからどうなっていくのだろう。
今は不健全な依存がかなり混じりこんでいる。

それを乗り越えて、二人の関係は本物の絆になり・・・かつて、全う出来なか
ったと水銀燈が感じている絆を補い、そしてそれを越える意味を持つのだろう
か。
それとも、このまま共倒れになるのだろうか。

そして、アリスゲームは。水銀燈の運命は。


分からない。
分かりようもない。

分からないけれども、どうなるにせよ、その最後の時まで水銀燈と一緒に居
よう。
そう思うメイメイだった。
177「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:47:09.92 ID:69cpDEu+

夜中。

廃教会の近くの国道をトラックが数台通り過ぎていく。

数時間走ると、ある町が見えてくる。
廃教会から凄く遠くはないが、すぐ近くでもない地方都市。

トラックのうち一台が角を曲がり、その町へ入る。
正確には十数年前に近隣の町と合併して市になっていたが、今でも町と呼ぶ
ほうが似合う雰囲気の地方都市だ。

トラックはこの町にある乳酸菌飲料販売店を目指す。
その店にはちょっとしたエピソードがあった。


50年あまり前。
この販売店とは別の販売店に突然ある男がやってきた。

男は粗末ではあるが清潔な服装をし、不思議な色の水晶を紐で不器用にくく
ったペンダントを首に掛けていた。

男は乳酸菌飲料の自動販売機に書かれた店名を見てやってきたと言い、この
店で働かせて欲しいと言った。

男は、住所不定の上、身分を証明する物を何も持っておらず、保証人も居な
い。
この地方にあった寺の住職の一族だとは言うが、それを証明する物は何もな
かった。
しかも、寺は戦災で消失している。

男は書類上は正体不明に等しかった。
しかし、その男の澄んだ目、そして熱意が滲み出る雰囲気に店長は何かを感
じ取り、男を営業兼配達係として雇う事にした。

男は期待を裏切らず熱心に働き、信用を勝ち得ていった。


その後、病気や不景気等もあってその道は平坦ではなかったものの、男は地
道に働き続けた。・・・時折、ペンダントの水晶に触れながら。
そして約二十年の後、男は今の場所に自分の店を持つに至った。
現在、この地区の卸と配達を扱う主販売店だ。
178「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:00:08.11 ID:69cpDEu+

それ以降も男、改め店主は地道に働き続けた。
そしてこの町の人々のために尽力した。

学校や幼稚園への手助け、保育所の設置の世話人、福祉への協力、民生委員
への就任。

のみならず、店主は困った人を見ると放っておけない性格だった。
困った人に頼られればいつでも手を差し伸べた。

店主は誰にでも優しかった。
殊に、心弱いものや道を踏み外した者にも優しかった。
この町の元不良少年・少女で店主の世話にならなかった者はほとんどいない
だろう。

店主の綺麗に禿げ上がり、髪が一本もない温顔は何か超越した物さえ感じさ
せた。
仏様のような人、と言われる事もあった。


また、晩婚だったが良縁に恵まれ、4人の子供にも恵まれていた。

やがて、店主も孫が何人も出来、老人と呼ばれる年齢になる。
老いてもその温顔と優しさは何一つ変わらなかったが、さすがに体力は衰え、
7年前に息子に店を譲り、隠居した。

その後も体力の許す範囲で困った人の相談に乗ったり、困った人々のために
自分が出来る事をしていたが、次第に衰え・・・ついに去る年、この世を去っ
た。

家族に囲まれ、穏やかな最期だったという。

葬儀には親戚や近所の人々のみならず、市長や市会議員、同業者、店主に世
話になった福祉関係者、元不良少年・少女まで、たくさんの人が参列した。

歴史に残るような派手な人物ではないが、町の名士であり、偉人だった。
その在り方は町の人々の心に何かを残した。
179「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:07:29.35 ID:69cpDEu+

もう一つ、店主が残した物があった。

乳酸菌飲料販売店の横には小さな祠が建っている。

そこに、店主が自ら彫った石像があった。
多分、仏像なのだろう。
しかし、それは仏像としては少し変わっていた。

その仏像は、やや長い髪と優美な翼を持つ女性の姿をしていた。
服装も、どちらかと言うと洋風のドレスに近いように見えた。
手にはかつては店主のペンダントだった翡翠色の水晶が乗せられている。

像は微笑みを浮かべ、片手でその水晶を差し出していた。

この像が何かと尋ねた者もいたが、店主は言葉少なに笑顔で菩薩様だよ、あ
るいは水晶菩薩様だよ、と答えるだけだった。

こんな姿の菩薩様が居ただろうか、と疑問に思うものも居たが、ほとんどの
人は素朴な信仰心しか持ち合わせていない。
仏教に関係の深い家に生まれた店主が言うんだから間違いないだろう、と思
うだけだった。

像は見るからに硬そうな石で出来ていた。
店主が石材店で相談し、一番長持ちする石と言われて買ってきたものだ。
店主はこの像が長い間姿を保つ事を望んだのだ。


像の出来は正直に言って、本職の石工が彫ったものと比べれば劣るだろう。
どちらかと言えば素朴な出来だ。

しかし、実にいい顔をしていた。
特に、その笑顔は素晴らしかった。
初めて見る者を例外なく、はっとさせるだけの何かを持っていた。
180「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:14:19.76 ID:69cpDEu+

あの出会いはたった数分に過ぎなかった。
若き日の店主は自分の先祖たちと水銀燈の縁も、巡る想いの歴史も知っては
いなかった。
いなかったが、何かを感じ取っていた。

気力をなくし、希望をなくし、空ろになりかけていても・・・いや、ほとんど
空っぽであったからこそ、あの笑顔の本質を自分の深い所で感じ取った。

そして店主は自分があるべきと感じる生き方へと戻り・・・あの出会いを、あ
の静かに輝く笑顔をずっととどめたいと願って像を刻んだ。

永遠に消えないように。
永遠に忘れないために。


あの笑顔は・・・穏やかだが非常に強い光だった。

「絶望するために生まれてきた」
素直な心の持ち主だった者がそこまで言うほどの運命。
降り積もった悲しみや憎しみでできた深い深い闇。

ささやかな幸福への喜び。
儚い者たちが伝えたもの。
追憶、記憶、想い、愛情の記憶・・・
そういったものたちが放った小さな光。

その光が闇に打ち勝ち、心を穏やかな光で照らした。
あの笑顔はその光の勝利そのものだったのだ。
181「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:17:37.47 ID:69cpDEu+
そして・・・


・・・いや、語りすぎるまい。

その笑顔が・・・見る人の目に映り、思い浮かべる人の心の中に浮かんだその
笑顔が、充分に物語っているのだから。



像の素晴らしさに惹かれて、そして亡き店主の人柄を慕って、像には今も供
物が絶えない。



深夜。
トラックが店の前にとまり、乳酸菌飲料が冷蔵室に運び込まれる。


朝。
配達の女性たちが賑やかに出勤してくる。

乳酸菌飲料が自転車や自動車に積み込まれる。



たくさんの人のもとへ、あの里の乳酸菌の子孫たちが運ばれていく。



水銀燈の顔の石像が、微笑んでそれを見守っている。





         〜  終  〜

182「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:18:44.11 ID:69cpDEu+


  長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。

183名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 05:55:19.95 ID:R2NP7Ec0
お疲れ様でした
184名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 07:16:19.43 ID:a9tpt+Fb
完結乙。
釜飯が喰いたくなりました。
185 ◆TEGjuIQ24E :2011/06/19(日) 09:37:09.80 ID:OkWGQOtu
超大作乙でございました。
なんという読後の爽快感……総てが繋がったとき、
銀の魅力的な笑顔が思い浮かんだときに
こう、込み上げる何かが……

里でのほんわかとした雰囲気から
時代が移る直前のただならぬ空気、
浪人との出逢いそして現在、
臨場感あふれる文章最高でした。
ここに心からの 乙っした! を贈ります!
186名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 19:09:41.62 ID:XSUSutek
乙!
187「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:31:31.52 ID:XO5atWR2
>>183
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

>>184
ありがとうございます。
一時期、近作って終わらないんじゃないかと心配になったので、完結できて
良かったです。

釜飯、旨いですよね。是非食べてくださいw
ただ・・・たしか、

かま
めし

って書いてあるのは釜本体じゃなく、包装か解説書きだったと思いますし、
バージョンによって少しずつ違うはずなので、かまめしロゴがなくても怒ら
ないでくださいねw
188「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:40:56.86 ID:XO5atWR2
>>185 TEGさん
本当に、しっかり読み込んで頂いてありがとうございます。
銀の魅力的な笑顔を思い浮かべて頂けたのなら、もう、全てを読み取っていただけたんだと思います。
しっかり読んで頂いて、素晴らしいコメントを頂きまして作者冥利に尽きます。

また、途中でも何度も励ましのコメントを頂きましてありがとうございました。
それがなかったら、多分、完走できなかったと思います。
本当に感謝しております。

TEGさんは壮大なスケールの大作の途中なんですよね。
今回、自分は書き続ける事の難しさをつくづく思い知りました。
TEGさんがずっと書き続けている事、素直にすごいと思います。
多分、全部あわせれば俺の今回の作品より長いでしょうしね。
これからも頑張ってください。応援しております。
189「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:43:35.65 ID:XO5atWR2
>>186
ありがとうございます!
短くともコメントを頂けて嬉しいです。
190「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:46:21.34 ID:XO5atWR2
そして、

>応援してくださった皆様へ

コメントをくださった皆様、本当にありがとうございました。
読んでくださって、コメントをくださる方々が居なかったら、とても完走は
できなかったと思います。

心より、感謝しています。

皆様に幸あらんことを!
191「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:48:14.80 ID:XO5atWR2

あ、もしも今作について、何か聞きたいことがあれば遠慮なくどうぞ。

答えられる範囲で答えさせていただきます。



#あと、後書きっぽいものを書くかもしれません。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/21(火) 16:49:42.81 ID:kYoyL08x
>>191
では質問

・まとめサイトは欲しいですか?
・避難所は存続させたいですか?

このスレの作品ってぷん太みたいな纏めサイトに拾われないから不幸といえば不幸だよね
193「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:09:31.40 ID:lG7PhwYI
>・まとめサイトは欲しいですか?

これはスレ全体で決める事だと思いますが・・・

俺自身は別に欲しくないです。
そこそこマメにスレを見てるので、スレに載ったSSは全部読んじゃってるのでw

>・避難所は存続させたいですか?

これは管理人さんとこれから投稿予定の人で決める事だと思います。
こまめに投稿する(つまりアクセス規制が問題になる)人にとって必要な仕組み
ですからね。

俺自身はもう連載形式での投下の予定はないので、他の方のよろしいように。
194「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:43:07.12 ID:lG7PhwYI

  あとがき・・・のようなもの。


まかなかったジュン編で水銀燈がカナリアに「私がおばかさん、って言葉を
覚えたのはあなたのせいよ」みたいな事を言う場面がありましたよね。

だったら、「はぁ?」も誰かの影響で覚えたのかな、と反射的に思いました。
・・・そんな言葉、少女人形に最初から覚えさせてあったとは思えないのでw

それとは別に。
何かの機会にヨーグルトの歴史を調べていた時。
今作の中でも触れましたが、実はヨーグルト(酪)は奈良時代にはもう日本
にあったんですね。
じゃあ、それからずっと日本にあったのかというと、どうやらそうではない
らしく、戦国〜江戸時代に失伝するというか廃れるというか、とにかく絶え
てしまったらしいんです。

そして、日本は明治以降になって、ヨーグルトに「再会」したわけです。
現在の歴史の解釈ではこれが正しいとされています。

でも・・・ひょっとしたら、どこかでひっそりと伝えられていたり、あるいは
他の乳酸菌絡みの何かの中に生きていた、なんてこともあるんじゃないかな。

そんな妄想と、先に書いた「はぁ?」を水銀燈に教えた誰か。
水銀燈=乳酸菌好き。
プラス、伝承や再会・・・言い方を変えると、継がれるもの、失われるもの、
再発見・・・等のモチーフを組み合わせ、今作は生まれました。

#結果、日本の乳酸菌飲料の元祖は銀様が作った物だった、という衝撃の史
実(笑)まで出来ちゃいましたけど。


思いがけなく長編になった「乳酸菌とってるぅ?」、何か印象に残る部分が
ありましたら幸いです。
195「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:45:41.70 ID:lG7PhwYI

  おまけ。

「かわせみ」って入力して、漢字に変換してみましょう。

「川蝉」以外にも意外な漢字が当てられてるんですよね。

196名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/22(水) 22:53:49.83 ID:iBx29Mrs
完結乙でした。

カワセミ=めぐでなく、まさかあの人物(?)だったとは。
他の姉妹は何処? なんて野暮なこと聞いちゃいけませんよねぇ。
アニメマンガ通して、確かに彼女とは関わりがイマイチ薄いように見えたけど、実はこんな繋がりがッ!

面白い発想だと思いました。楽しめました、良作をありがとう。
197「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 23:17:05.33 ID:lG7PhwYI
>>196
あ、半分ぐらい誤解させてしまいましたね(汗
その姉妹の言葉遣いから時代物にした、っていう点では関係ありますが、カワ
セミと「=」ではないんです。
ストーリーの中で関係あるのは、最後の方に出てきた謎の水晶の色です。

ところで、生まれ変わりの話をしてた方ですか?
あれ、結構鋭い!と思いました。
カワセミは、実は「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」
なんです。

病人のめぐ - 翼を持ち、強気で行動的な水銀燈
まだ飛べないしほとんど歩けない水銀燈 - 作中のカワセミ

ってね。

後半はカワセミはわりと変化しちゃったんでこの印象は弱まってしまいましたが。

今回も、途中でも嬉しいコメントをありがとうございました。
198「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 23:18:32.27 ID:lG7PhwYI
訂正。

「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」

           ↓

「水銀燈との関係性がめぐと『逆』になっているめぐと似たような人」
199「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/25(土) 15:49:21.80 ID:8fcTyixi

あ、誤解のないように補足しておきますが、俺の作品をまとめサイトで取り上げて
頂くのは大歓迎ですので(^-^)
200 ◆TEGjuIQ24E :2011/06/26(日) 01:14:16.67 ID:ZyeZ3CjY
 ガッコが忙しくてなかなか参上できなくてすいません。
本編掲載あたりにペースを合わせることもままならず……
うおおお……orz


 まとめサイトは歓迎の考えです。
ちゃんとSSがイッキに読めるから、というだけなんですけども……f^_^;)
良いところで突然○ねだなんだは見たくはない訳です。


 避難所も必要だと思われます。昨今の規制地獄、いつ規制されるか
わかったもんじゃありませんからね。2時間前まで書けたのに、すら
あり得る世界です……メタクソ理不尽ですけども。


 まとめサイト掲載は、俺のもOKです。保管庫があるぐらいですから
多分どっちOKなんでしょうけど、念のためということで……。

201(代理してた人) :2011/06/26(日) 21:45:07.33 ID:2OVP1cCR
未だに10月以降の予定が不明で、長期的なことは何とも言えません。
ただ、最悪でも8月一杯くらいまでは避難所だけは管理維持できると思います。

Wiki形式のまとめサイトに関しては、@wiki辺りに簡素なものを作って作れないことはないのですが……
現状では自分自身の去就が上記の通り不透明ですし、
SS関係のwikiはwiki管が手を放した時点で死ぬ傾向があるので、ちょっと今のところ私は手が出せません。
他の方にお願いしたいと思います。

●持ち以外の方が過去作を読む場合、TEGさんのようにSSだけ連続で読めるように等、需要あるとは思います。
202名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/13(水) 14:42:32.52 ID:X+9TTVk8
オワコン
203名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/22(金) 20:58:02.65 ID:ua25ib2D
過去ログ倉庫が更新停止するそうですね
あそこにはお世話になりっぱなしでした
204名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/23(土) 10:30:24.00 ID:DSfxJ6xb
折角原作が動き出してきたのに(´・ω・) 今までご苦労様でしたとしか

やっぱアニメのほうは良くも悪くも5年前の作品ってことですかなぁ…
アニメの完結編も見てみたいんだけど無理なのかなー
権利関係で揉めそうだし…
205名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 19:58:16.74 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ〜っ!WA★RE★TA★YO〜!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高〜!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ〜っ!WA★RE★TA★YO〜!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高〜!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式
206名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 19:59:24.00 ID:KNmU/1V7
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
191919919191999999999999999999999999
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
191919919191999999999999999999999999
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
191919919191999999999999999999999999
207名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 20:00:56.34 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
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208名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 20:01:52.61 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
喰いまくって腹壊してーよ!!二式のブリーフ履きてーよ!
オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
気がついたら糞まみれそれが二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式のブリーフ
寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
喰いまくって腹壊してーよ!!二式のブリーフ履きてーよ!
オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
気がついたら糞まみれそれが二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式のブリーフ
寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
209 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:27:38.62 ID:KcK3nR8/
 12週間のご無沙汰でした。TEGです。
大変遅くなってすみません。

RozenMaiden Fortsetzung 第34話と第35話を投下しますよ。

では行きます。
34【蒼星石と結菱一葉の時計】
210RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:31:06.01 ID:KcK3nR8/
【第34話 蒼星石と結菱一葉の時計】

[2005/01/06 07:59]
[柴崎時計店 工房。]


 1月6日、晴れ。最低気温、1度。
庭の草に霜が降りている。お婆ちゃんの淹れたお茶も少し熱めだ。
そんな中でも、マスターは時計を取り出し、今日も仕事を始める。

 何やら、おかしな時計を扱っている。いったい何なんだろう。


元治「さーて、今日も始めるとするかのう。
   昨日の時計は…… と」

蒼星石「マスター、ずいぶんと変わった時計ですね。文字盤の数字が
    てんでバラバラ…… いったい、どんな方が……?」

元治「うむ。これは『クレージーアワー』と言ってな、短針の動きが
   面白いのじゃ。ホレ、間もなく正時じゃ、見ておれ。」
211RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:32:49.81 ID:KcK3nR8/
[08:00]

ヒュンッ
蒼「わあっ!  てっぺんに針が……5時間も進みましたよ!?」

元治「フォッフォッフォ…… これはな、1時間ごとに短針が30度でなく
   150度ずつ進んでいくのじゃ。インパクトは、絶大じゃろう?」

蒼「とても驚かされました…… 短針はびくともしていないのに、
  一気にジャンプするなんて」  

元治「最近世に出たものでの、確か去年だったかな。ワシも初めて見たときは
   腰を抜かしたものじゃわい。」


 時計の針はその動きを変えず、一定に、然るべき方向へ進む。
それは普通の時計でも、逆さ時計でも同じことなんだけど……。
こんな時計もあるんだね。
212RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:37:40.87 ID:KcK3nR8/
蒼「逆さ時計は何度か見たことがありましたが……」

元治「逆さ時計も、預かっておるぞ。これは昨日直し終わったものでのう、
   今日の昼前に持ち主が来られるはずじゃ。」

蒼「ふむふむ……」


 文字盤の6と12を結ぶ線を境に、2色に塗り分けられている。
裏面は、普通の蓋がしてあるけど、文字盤と同じように、左右に
均等に分かれている。

 一方には刻印がしてあって、もう一方には何もない。かなり、
変わったデザインだ……


マツ「あの薔薇屋敷の主ですね? いやあ、どうしてこんな所にと
   思いましたが……ねえ、貴方」

元治「うむ。あの大富豪がの。預かり証の名字ですぐに分かったが、
   意外にも自ら『あの薔薇屋敷から来た』と言ってのう。」
213RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:39:26.50 ID:KcK3nR8/
 薔薇屋敷。nのフィールドの中にも同じ名前の屋敷があるけど、
現実世界に、しかもすぐ近くにあることは知っていた。たまに、
ジュン君の家から外を通って戻るときに、見かけていたんだ。

 翠星石が時々それに見とれて、何回かカラスにぶつかりそうに
なったことがあった。それくらい立派なお屋敷なんだ。


蒼「あのお屋敷でしょう? ジュン君の家から少し歩いたところ
  に建っているって言う……」

元治「そうじゃ、結菱一葉という男じゃよ。先祖が華族で、この
   あたりでは有名なのじゃ。齢75、車いすで、使いの者が
   時たま世話に来るが、誰も共に住んでおらんのじゃ。」

マツ「ええ、それでもあれだけの量の薔薇を手入れしている、
   ときたもんですから、大層しっかりとした健康な体を
   お持ちなのでしょうね。私らも見習いたいですよ。」


 僕らは遠くからしか見たことがないけど、どうやらあの屋敷の
庭にも、nのフィールドのそれと同じように、たくさんの薔薇が
咲いているらしい……一度、見てみたいね。
214RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:41:25.23 ID:KcK3nR8/
元治「昔はマツと薔薇屋敷によく遊びに行ったもんじゃて。ホッホ。
   この時計も、同じようにしっかりとしておる。古い物じゃが、
   この通りよく動いておるぞ。しかし……」

蒼「どうしたんですか?」

元治「彼が時計を持ってきたときに、何やら焦りを感じたのじゃ。」

マツ「それも、かなり深刻な事態のようでした。顔が、青ざめて
   おりましたし……車いすを押していた使いのお方も、どこ
   となく浮かないお顔を……」

蒼「ふむ…… 3時間もすればここに来られるんですよね。
  少しお話を伺ってみるのもいいかもしれませんよ。」

元治「そうじゃなあ…… 何か大切なもののようじゃしのう。
   『K.Yuibishi』……本人の物のようじゃな。
   しかし下段の刻印……半分で途切れておるのか?」

マツ「『MCM』と『12th』……何の12番目ですかね?」
215RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:44:18.20 ID:KcK3nR8/
[10:21]
[公園付近。]


 クレージーアワーの修理が終わるまで、僕は公園で一息入れる
ことにした。さっきの時計の刻印、いったい何なんだろう……


蒼「ふふ……また金糸雀ったら、ジュン君の部屋に忍び込もうと
  していたら、すぐに見つかっちゃってさ」

レンピカ{ピカピカッ}

蒼「とても僕には侵入なんてできないや……はは」

レンピカ{ピカピカッ ピカッ}


「ちょっとそこの、おぼっちゃん」
216RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:47:50.37 ID:KcK3nR8/
蒼「? ……僕のことかな」

「このあたりで時計を見かけなかったかね?」


 突然呼び止められて振り向くと、そこにはマスターと同じ位の
年齢の、眼鏡をかけた男の人がいた。どうやら、時計をこの辺り
でなくしてしまったみたいだ。


蒼「い、いえ…… 僕はいま通りかかっただけなんですけど……
  よければ一緒に探しましょうか?」

「ああ、ありがとうよ。懐中時計なんだが、一昨日私達がここで
 休んでいるときに、どこかに落としてしまったようなのだ。」

蒼「懐中時計ですね。……この公園、けっこう広いから……
  ああ、貴方はここで休んでいてください。僕が、見つけますよ。」

「すまないな…… どのベンチで休んだかも覚えていなくてな。」

蒼「大丈夫です。僕、ここでよくかくれんぼとかしてますから。」
217RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:49:15.11 ID:KcK3nR8/
[10:32]

蒼「とは言ったものの……」

レンピカ{チカチカッ}

蒼「ああ、照らしてくれるんだね。ありがとう。」


 いつも雛苺たちと、かくれんぼや鬼ごっこをしてるおかげか、
公園の内部は大分把握できている。けど、物が物だからなかなか
見つからない……しらみつぶしに探すしかない。


[10:36]

蒼「あと探してないのはこのあたりだけか……」

レンピカ{カッ}

蒼「……! あった……あれ? こ、これは……」
218RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:51:28.88 ID:KcK3nR8/
 公園から一番遠くのベンチの裏で、懐中時計を見つけ出した。
見たところ、いわゆる「時計回り」の方向に動く時計のようだ。
けど、このデザイン……どこかで見たことがある。


蒼「ありましたよー!!」

「おお、ありがとうよ。 おお、これだ。良かった……」

蒼「……ところで、最近柴崎時計店に行かれませんでしたか?」

「あ、ああ……一昨日行ったが、どうしてそれを?
 この時計を落としてしまってから行ったのだが……」

蒼「これと、配色が左右逆のデザインの時計を見かけたんです。
  僕、柴崎時計店の者で…… 結菱さん、ですよね?」

「いいや、結菱という者を、私が世話をしているのだ。
 申し遅れた、私は安倍川弘という。」

蒼「僕は……蒼星石といいます。」


 安倍川さん。彼は、薔薇屋敷の近くに住んでいるようで、長年
結菱さんの家と関わりを持ってきたと話してくれた。思いのほか、
早く打ち解けられたみたいだ。
219RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:15:49.92 ID:KcK3nR8/
安倍川「そうせいせき、か。……時計店の者と言ったな。
    修理のほかに、もう一点、頼みがあるのだが……」

蒼「はあ……」

安倍川「……一葉様と、この後時計店に行くことになっている。
    最近、どうも一葉様は何かに悩んでいる。私にも、余り
    口を開こうとはしないゆえ、どうすべきか分からない。」

蒼「ああ、それでしたら…… 話を聞くつもりですよ。
  一昨日も深刻な表情をしていたと、マスターが…… あっ、
  マスターというのは、時計を修理する元治さんで……」

安倍川「なるほど、……それならば良かった。話が早い。
    では、また後程お会いしよう。」

蒼「はい。お待ちしております。」


 多分、もうこの時には「一葉さんの運命を変えに行かなければ
ならない」ような気がしていたんだろう。その時はただの庭師の
カンで片付けようとしていたけど……
220RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:23:34.09 ID:KcK3nR8/

[10:44]

ヒューン……
蒼「……安倍川さんか。使いの者って、あの人のことだったんだね。」

レンピカ{ピカッピカッ}

蒼「しかし、薔薇屋敷は大きいなぁ。ここからでもよく見えるや。」


[11:00]

蒼「ただいま戻りましたー。」

元治「おお、蒼星石や、帰ったか。お茶が入っておるぞ。」

蒼「あっ、ありがとうございます。」

元治「うむ…… 丁度良かった。この時計を良く見てくれんか。
   この、境目の所じゃ。MCMの後に、文字の『セリフ』が
   見えるじゃろう。おそらくこの刻印、続きがあるぞ。」

蒼「はい…… ……やはり」


 セリフとは、文字の先についている「鉤」のことだ。
この刻印の続きは、公園で探したあの時計の裏にあるんだろう。
221RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:24:41.88 ID:KcK3nR8/

 さっきは時計の裏面までは深く読んでいなかったけど、もうすぐ
安倍川さんと結菱さんが来るから……分かるかもしれない。


元治「!? ……な、何か知っておるのか!?」

蒼「実は、先ほど散歩に出かけていた時なんですが、
  結菱さんの使いという人に出くわして……デザインが正反対
  鏡に映したような、同じ時計を見たんです。」

元治「な、なんと……。」


[11:11]


 僕がマスターに安倍川さんに出会ったことを明かした、まさに
その時だった。店の扉が開いて、2人の老人が入ってきた。
安倍川さんと、彼が押している車椅子の上のお爺さん。

 みたところ、マスターよりも年上だった。……この人が、あの
結菱さんで間違いない。
222RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:26:18.04 ID:KcK3nR8/

ガラガラッ
安倍川「すみません、一昨日時計を修理に出した者ですが……
    ……おお、蒼星石。」

一葉「…… ……君が、蒼星石か」

蒼「はい。 結菱さんですね。」

一葉「そうとも。 ……時計は、直りましたかね。」

元治「時計なら、この通り動いておりますぞ。いい仕事を、して
   いらっしゃる…… ところで、この品についてですが……
   もしやもう一品、対になるものがありませんかな?」

一葉「……よくぞお気づきになられましたな。こちらです。」


 結菱さんの手にそっと握られていたのは、僕が探した時計だ。
こうしてみると、本当に文字盤だけ、マスターが直していた時計
を、鏡で映しているみたいだ。
223RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:28:09.63 ID:KcK3nR8/
蒼「マスター、僕が見たのは、この時計です。」

元治「ふむ、何かわけありの様じゃな……よろしければお話を。」

一葉「……裏面の刻印を見ていただけますかな」

元治「こちらは『K.Yuibishi』ですな。そして、今
   貴方が手にしている方には……『F.Yuibishi』。
   『K』は、一葉さんのイニシャルですかな?」

一葉「その通りです。」

一葉「そして…… この『F』は弟の二葉のイニシャル……。
   私は……双子だったのですよ。」

蒼「双子……!」


 結菱さんは、双子だったのか。けど、「だった」って……
224RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:31:42.36 ID:KcK3nR8/
一葉「二葉は27の時に海難事故で亡くなってしまいましてな……
   忘れもしない昭和32年6月14日……48年になります。
   この時計は、その船出の前に贈ったもので……」


 結菱……一葉さんは、そう言うと時計を裏返して、蓋の刻印を
見せてくれた。ふむふむ……さっきの『F.Yuibishi』、
下の段の1行目が『LVII』、そして2行目が『June』。

 2つを繋げると……『MCMLVII』『12th JUNE』。
そうか、この時計は1957年6月12日に、自分と弟のために
作られたものだったのか……


元治「そう、でしたか……」

一葉「私は……ずっと二葉の影に縛られて生きてきたのです。
   二葉が生きている間も、二葉が居なくなってからも……
   私は取り返しのつかないことを……」
225RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:33:25.28 ID:KcK3nR8/
安倍川「……一葉様がお昼寝をしておられるときも、うなされている
    ことがあるのです。」

蒼「……夢の中でも、ですか……」


 この時計に、そんな事情があったんだね……。いったい、何が
あったのだろう。夢の中でも、影に縛られているのかな。
この僕に、何か、してあげられることは……


マツ「……夢の中…… あっ、私に名案がありますよ。」

元治「おお、そうじゃった、そうじゃった。
   ……蒼星石よ、いまこそ……お前の力が必要じゃ。」

蒼「心の、樹……」
226RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:34:57.99 ID:KcK3nR8/

 お婆ちゃんのひらめきが、「僕が何をすべきか」に繋がった。
そう、僕は心の庭師。夢でも苦しんでいるなら、心の樹に何か
起こっているのかもしれない。

 多分、同じような経験をお婆ちゃんがしてきたというのもあった
んだろう。息子のカズキ君のことでずいぶんと悩み、苦しんだ事
があったっけ。あの時は、僕をみんなが助けてくれたな。

 よし、今度は……


蒼「はい。……やってみましょう。」

安倍川「な…… いったい、何が……!?」

蒼「一葉さんのこと……なんとなく、分かる気がするんです。」

一葉「……どうして……」

蒼「……僕も、姉と双子なんです。双子だからこそ……自分が、
  『1』として生きるか、或いは『2分の1』として生きるか。
  長い間、悩んできました。」
227RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:38:24.05 ID:KcK3nR8/

元治「そして……私もこの子に幻影を重ね、縛ってしまった。
   家族を亡くす気持ちは、私にも分かります。」

マツ「30年前、まだ9つのひとり息子を亡くしているのです。」


 僕がこの家に来たのも、そのことがあってだった。誰かの影に
ずうっと縛られながら、何十年も生きてきた。今にして思えば、
レンピカは、そんなマスターたちを支えるべく、選んだのかな。


一葉「出逢ったばかりで、恐縮なのですが…… 私もあなた方
   のお話を詳しく聞きたいのです。二葉に……最愛の弟に
   心からの詫びができるかもしれない。」

安倍川「次の店休日に、薔薇屋敷に来ていただけませんか。
    何人でもご招待しますので……。」

元治「……ぜひとも。この子と、この子の双子の姉と、姉の
   ……親友とで、一緒に行かせていただきます。」
228RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:41:05.12 ID:KcK3nR8/

[11:27]

蒼「次の店休日は確か10日…… 祝日で、ジュン君は休みだね。
  翠星石にも、話しておかないと……。」

蒼「……こんど、スコーンを作ってあげよう。」


 翠星石にだけは、心配をかけたくないからね。もう、あの時の
ように、独りで抱え込んだりはしない。
229RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:07:53.51 ID:KcK3nR8/
[20:21]
[桜田家 ジュンの部屋。]

ジュン「もう明日から3学期かー、早いなー。」

翠星石「宿題はちゃんとできてるですか? オメーいつもいつも
    最後の日になってからしかやらないですから……」

ジュン「フフフ、今度はもう完璧に終わらせてあるんだ。
    中学までの僕とは一味違う!」

翠「……す、すごいオーラを感じるですぅ……
  なかなかやるじゃねーですか、チビ人間。」

ジュン「と言っても終わったのは昨日なんだけどな……
    『X』のやつ、なかなか手ごわくなってるぞ。」

翠「さすが、翠星石が目を付けただけのことはあるです。
  さーて、そろそろティータイムにするですか!」

ジュン「そーだな、僕はコーヒーにしようかな……」
230RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:08:52.23 ID:KcK3nR8/
[20:24]
[廊下。]

RRRRRR...
ジュン「ん? こんな時間に誰だろう…… なっ、なんだこの
    名前は……『そうせいせき』!? 蒼星石なのか!?」

翠「んん? ……ああ、これは蒼星石の番号ですねぇ。
  時計屋ですから安心して出るといいですよ。」

ジュン「あ、ああ…… 本当に蒼星石なのか?」

翠「そこの黄色い本に載ってるって、のりが教えてくれたです。
  速攻で翠星石が登録しといたですから早く出ろですぅ。」

ジュン「はぁ……」


ガチャ
ジュン「もしもし、桜田ですけど……」

蒼[もしもし? その声、ジュン君だね。
  よかった、起きてて。夜分遅くにごめんよ。]
231RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:10:05.52 ID:KcK3nR8/

ジュン「ああ、蒼星石か。本当に蒼星石だったのか。」

蒼[え? ……なんだかよくわからないけど……
  いや、そうじゃなくて、ジュン君にお願いがあるんだ。]

ジュン「な、なんだ……?」

蒼[1月10日…… 暇はあるかい?]

ジュン「10日? ……ああ、8日から3連休だから、今の所は
    大丈夫だけど……何かあるのか?」

蒼[うん。 その日に……時計店に来てくれないかい?
 できれば、翠星石も一緒に。薔薇屋敷に行くんだ。]
232RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:11:22.51 ID:KcK3nR8/

ジュン「薔薇屋敷……!? あのnのフィールドの!?」

蒼[いや、違うよ。結菱って言ったらわかると思うけど]

ジュン「ああ、あそこか。 ……わかった。行こう。
    もう、10年ぐらい行ってないけど、場所分かるから。」

蒼「ありがとう。……そうだ、翠星石に代わってくれるかな?」

ジュン「おう、ちょっと待っててくれ。」


翠「翠星石ですけどー。 どうしたですか?」

蒼[翠星石……久々に庭師としての『大仕事』が入ったんだ。]

翠「ははぁ。心の樹関連ですか?」
233RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:12:26.05 ID:KcK3nR8/
蒼[うん。しかも今度は……すこし、厄介かもしれない。
 カズキ君の時よりも、大変になると思う。あくまでも
 僕の勘だけどね……]

翠「まぁジュンも連れていきますから大丈夫ですぅ! 翠星石は
  今までの翠星石とは一味違うですから、安心するがいいです。」

蒼[そっか。ふふ、よかった。兎に角、庭師にしかできない仕事
 だから……本当に危なくなったら、真紅たちにも手伝って貰う
 と思うけど……]

翠「そうそう抱え込まんでも大丈夫ですよ。翠星石たちは、双子
  である前に8人姉妹なんですから、ガンガン頼れって」

蒼[……!]

翠「真紅たちも言ってたですぅ。いざとなった時の対処は翠星石
  に任せるですよ。えーと、10日に何処に行けばいいですか」

蒼[僕のお店に来るといいよ。じゃあ、そろそろ夜も遅いし……
 僕はこれで。ありがとう、翠星石。ジュン君にもよろしくね。]

翠「お、おう、ですぅ。じゃあ、切るですよ。」
234RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:13:26.71 ID:KcK3nR8/
ガチャッ
翠「……まぁ、今の蒼星石なら大丈夫でしょう。翠星石も久々に
  がんばらなきゃあなー、ですぅ。」

ジュン「僕もついてるしな。」

翠「うへえ!? じゅ、ジュン……いきなり何ですか!?」

ジュン「紅茶入ってるぞ。飲もうよ。」

翠「わ、わかったですぅ。とりあえず、10日は、その……
  よろしく頼むです。」
235RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:14:09.49 ID:KcK3nR8/
[20:58]
[ジュンの部屋。]

ジュン「よーしお前らー、僕は明日からまた学校だから、留守番
    しっかり頼んだぞー。といっても明日行ったら、3連休
    なんだけどなー。」

真紅「合点承知、なのだわ。」

雛苺「がってんしょーちのすけ、なのー!」

翠「どこで覚えたですか…… んじゃ、おやすみーですぅ、
  いい夢みるですよー。」

雛「おやすみなのー!」

紅「おやすみなさい。」

ジュン「おーう、また明日ー。」
236RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:20:27.92 ID:KcK3nR8/
[2005/01/07 04:39]
[夢の中。]


蒼『……Zzz』

蒼『うーん…… んん……』

ガラガラッ

蒼『うわっ……! 何だ!? いきなり、崩れ……』


 突然、暗闇が崩れ始めた。崩れ落ちたところからは、
何やら光が漏れている……けど、明るい光ではなかった。
237RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:23:02.08 ID:KcK3nR8/

蒼『若い男の人が二人……よく似てる』

蒼『あれ? この人は……一葉さん、かな?』


 映っていたのは、若い時の一葉さんだった。どこか面影がある。
ということは、もう一人は二葉さん、か。何か、言い争ってる?
一葉さんの手には、懐中時計が握られてる……

 これは、一葉さんの夢の扉か。ずいぶんと、ボロボロな扉だ。
僕は今、一葉さんが夢に見ている、二葉さんとの思い出を見てる
っていうことか…… あの時計があるから、1957年か。
238RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:27:01.16 ID:KcK3nR8/

 ……あっ、そのまま二葉さんが出て行ってしまった。これは、
時計を渡せなかったのかな……? あれ? 万年カレンダーが、
机の上に飾ってある…… 6月12日……13日、進んでいく。

 14日…… 1957年6月14日? まさか、この日は……
あっ、後ろに、船が……


一葉(27)『行かないでくれ!!』

二葉(27)『僕は……あのひとと生きることにしたんだ。』


蒼『と、時計は……』

ゾワッ
蒼『!?』

グワアッ
蒼『な、なんだこの……萎れた、茨!?』


 突然、沢山の萎れた薔薇の茨が、僕の体を締め付けたんだ。
まるで、僕が呼びかけるのを止めるかのように、力強く体を
つかんで、離さない。
239RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:06:27.74 ID:KcK3nR8/

蒼『うっ……動けない……!』


 茨に捉えられたのは、僕だけではなかった。


翠『ぬぬっ、枯れてるくせに……手ごわいです』

ズズズ
蒼『翠星石! 君まで!!』

翠『ちっと夢の扉が開いてるから来てみたら、蒼星石が居たです。
  それで、ついてきてみたですけど、これは結構、やっかいな
  事情があるみてーですねっ……』

ググウッ
翠『っっああー!!』

蒼『す、すいせ……ぐうあああ!!』

グルグルグル……

         【蒼星石と結菱一葉の時計・完/第35話に続く】
240 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:24:13.90 ID:KcK3nR8/
 続きまして、第35話を投下します。
では行きます。
35【蒼星石と桜田ジュンの探求】
241RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:26:32.63 ID:KcK3nR8/
【第35話 蒼星石と桜田ジュンの探求】


[2005/01/07 06:01]
[ジュンの部屋。]

ブルブルブル……

ジュン「…… ん? 何だ……携帯鳴ってんのか? いや違……」

ブルブルブル……
「……うーん…… ぬぬぅ…… うぐっ」

ジュン「鞄! これか!」


パカッ
ジュン「……翠星石!? 大丈夫か?」

翠「……ハッ! ああ、夢だったですか。
  ジュン〜!! 怖かったですぅ!!」
ヒシッ

ジュン「わっ…… ど、どうしたんだよ、やけにうなされていた
    みたいだけど……」
242RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:29:32.21 ID:KcK3nR8/

翠「あ、ああ、特に何もないですぅ。カナシバリっていう奴です
  アレって意外に怖いんですねぇ……起こしてゴメンですぅ。」

ジュン「そうなのか…… 人形でも金縛りにあうんだな……
    ま、生きてるからな……。どうする? なんだったら
    灯りつけとくけど。」

翠「大丈夫ですぅ。とっとと夢の続きでも見てくるです。
  おやすみですぅ、チビ人間。」

ジュン「ああ。 おやすみー。」


ジュン「……とはいうもののもう6時なんだよな……
    起きとくか……蒼星石のヤツ、もう起きてるかな。」

ジュン「…… ちょっと走りに行くか。 うっ、寒い……」
243RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:32:11.76 ID:KcK3nR8/
[06:17]
[ドールハウス・EnjuDoll前。]

ジュン「だいぶ温まってきたな…… まだ槐さんも起きてないか。
    薔薇水晶はいつも7時ピッタリに起きるんだっけ。」

ジュン「マンションも静かだし…… 夜も明けてない街って
    こんな感じなのか……」


[06:24]
[柴崎時計店前。]


 1月7日、うすぐもり。最低気温0度。僕は、5時半ごろに、
お婆ちゃんに起こしてもらった。僕が鞄の中で、激しくうなされ
ているのを見て、とてもびっくりしたと言っていた。

 お婆ちゃんが淹れてくれたお茶を飲むまで、落着けなかった。
とりあえず、心を整えるために、店の外で軽く体操でもしようと
思ったとき、ジュン君が通りかかった。
244RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:35:34.17 ID:KcK3nR8/

ジュン「……時計店か。 おっ、蒼星石!」

蒼「やあ、ジュン君。おはよう。今朝は、早いんだね。」

ジュン「ああ、ちょっと色々あってな…… なあ蒼星石。」

蒼「なんだい?」

ジュン「……金縛りに遭わなかったか?」

蒼「! ……何か、体が動かなくなるっていうアレだよね……
  本当に「金縛り」かどうかは分からないけど、動けなくて。
  起こしてもらうまで、ずっとうなされてたみたい。」

ジュン「やっぱり…… どんな夢だったんだ?
    翠星石もさっき金縛りにあって……」


 とりあえずはジュン君に、いきさつを話すことにした。
すこし、気が楽になった。
245RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:41:23.89 ID:KcK3nR8/

蒼「結菱っていう人の夢をのぞいたら、急に動けなくなって……
  本当に、影を縛り付けられたような感じだったよ。僕たちは、
  たくさんの萎れた薔薇の茨に捉えられたんだ。」

ジュン「ユイビシって、あの薔薇屋敷の……だよな?」

蒼「そうだけど…… この辺だと、有名みたいだね。」

ジュン「小さいころ姉ちゃんと薔薇を良く見に行ったんだ。
    なんか、めちゃめちゃ寂れてたからがっかりしたっけ。
    それこそ、萎れた薔薇だらけだったな。」

蒼「そうなんだ。 夢の通りだ……
  なら、話は早いね。……そうだ。」

ジュン「なんだ?」
246RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:42:48.31 ID:KcK3nR8/

蒼「今日、学校は何時に終わるんだい?」

ジュン「今日は始業式だから、1時までには帰ってくるけど……
    どっか行きたいのか?」

蒼「図書館に連れて行ってもらおうかな、と思って……」

ジュン「図書館なら、今日は7時までだから大丈夫だな。
    昼ご飯とかもあるし、2時くらいに家に来てくれ。」

蒼「うん、ありがとう。 じゃあ、学校頑張って。」

ジュン「おう、じゃあな!」
247RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:47:11.42 ID:KcK3nR8/
[12:44]
[高校からの帰り道。]

ジュン「柏葉って、薔薇屋敷って行ったことある? 高台の上の
    でっかい屋敷なんだけど……覚えてなくてさ。そこに、
    最後に行ったのはもう10年くらい前かなー。」

巴「ああ、結菱さんの所だよね。行ったことがあるよ。」

ジュン「そうなんだ。」

巴「小さいころに、よくお母さんと行ってたよ。本当にここが、
  人一人の家なのかなーって……お城みたいで、そこの前を
  通るのが楽しみだったっけ。」

ジュン「へぇー……」

巴「けど、たまに庭にあるっていう薔薇園の薔薇が、殆ど萎れて
  寂れてることがあってね。」

ジュン「!?」
248RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:50:11.80 ID:KcK3nR8/

巴「そういう時は、あんまり通りたくなかったな。なんだか、
  お化け屋敷みたいで……お母さんも、そうなってるところを
  何回も見たことがあるって言ってたよ。」

ジュン「そうなんだ…… 僕も最後に行ったときは薔薇がみんな
    萎れていたな。10日に、薔薇屋敷に行くんだけどさ。」

巴「薔薇屋敷に? いつもの、あの病院の裏じゃなくて……?」

ジュン「まあ、その、翠星石達が庭師の仕事をやるっていうから、
    僕も行こうかなぁ、って。」

巴「なるほど。あの子達なら、枯れ果てた薔薇もなんとかして
  咲かせてくれるかも……そんな気がする。」

ジュン「僕も、そう思うよ。もう10年以上、薔薇屋敷には
    行ってないけど……どうなってるんだろう。」
249RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:08:27.92 ID:0fPKLiJD
[14:01]
[桜田家前。]


 2時を過ぎたから、ジュン君の家に向かった。家の中から、
真紅たちの諍い合う声が聞こえてくる。……あっ、ジュン君が
出てきたみたいだ。

ギイッ
ジュン「よう、蒼星石。行こう。」

蒼「やあ、ジュン君。 ……その」

ジュン「……どした? ……なんだったら図書館まで、カバン
    入っとくか?」

蒼「……そうさせてもらうよ。 ジュン君って、鞄を2個持って
  学校に行くんだね。重くないのかい?」

ジュン「学年主任っていう偉い先生が、『置き勉』を取り締まり
    やがってな。辞書とかも持って帰ってるんだ。もともと
    カバンは2つあるし。まあ、重いよな。」

蒼「へぇ……大変なんだね。」
250RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:14:46.25 ID:0fPKLiJD

ジュン「自転車の籠と荷台に1個ずつ載せてくるやつもいるぞ。
    すごい奴は鞄だけで10キロ行くとか行かないとか……」

蒼「……勉学も、修行なんだ……」

ジュン「……まあ間違っちゃいないよな。さ、行こう。
    僕も、出来る限り協力するよ。」


[14:20]
[市立図書館。]


 ここが、ジュン君や巴さんがよく勉強に使ってるっていう、
図書館か。結構広いけど、今日はほとんど使われてないみたいで
すごく静かだ……


蒼「とりあえず、最重要なカギになりそうなものは持ってきたよ。」

ジュン「これは……? どっちも『Yuibishi』って書いてあるけど」

蒼「結菱さんの持ってきたのと、使いの人が探してた懐中時計の、
  裏面を写したものなんだ。2個とも、半分ずつにこの刻印が
  ほどこされてて……」
251RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:18:36.71 ID:0fPKLiJD

ジュン「へぇー…… 2つで、1つって感じだな。
    名前の下にも何か彫ってあるけど……」

蒼「繋げて読んでみて。」

ジュン「……何ていうか、晴れの天気記号、みたいだな。
    どれどれ……おっ、名前の下にあった刻印が繋がった!
    2段にわたってるけど……」

蒼「そう、これは、この時計が作られた日付なんだ。
  上の段はローマ数字で1957、1957年。」

ジュン「下段は…… 『12th June』。6月12日か。」

蒼「結菱さんは、双子だったんだって。」

ジュン「そうなんだ。 ……だった っていうのは……」

蒼「海難事故で……亡くなられたんだ。そのことで、結菱さんは
  ずっと悩んでる……それで、何か分からないかな、と思って。
  裏付けも兼ねて、ちょっと、調べたいんだ。」
252RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:20:27.23 ID:0fPKLiJD

ジュン「事件の記事とかなら、本にも載ってそうだな。けど、
    ネットの方が早いかもな……」

タカタカタカッ

 慣れた手つきで、即座に検索サイトを開く。
ふふ、流石だね、ジュン君。


蒼「……ジュン君、昭和32年って、西暦だと何年になるんだい?」

ジュン「えーと……、僕が昭和63年生まれで、1988年だから……」

ジュン「1957年だな。今から、48年前。」

蒼「こういうのって、新聞が残ってたりしないのかな……」

ジュン「えーと…… こういう時こそ、ネットが役にたったり
    するんだよな……」

カタカタッ ッターン

 ジュン君は、何か、役に立ちそうなページを見つけたみたいだ。
253RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:21:55.45 ID:0fPKLiJD

ジュン「1957年、っと。これか?」

蒼「へぇ……年代記があるのか。」

ジュン「20世紀の事件について、色々とまとめてある所とか、
    ウェブ百科事典だとか……結構あるもんなんだ。
    薀蓄も貯まるし、大抵の疑問は調べがつくしな。」

蒼「ふむふむ…… 1957年、…… あった。」
 
 
 1957年、6月14日。これが、一葉さんの言っていた、
あの事故のページかな……。あの時夢の中で見た、大きな船の
写真が、ページの真ん中に載っている。


ジュン「ダイナ号沈没事件……?」

蒼「やっぱり……海難事故だったんだ。それに、この船……」

ジュン「何か、分かるのか?」
254RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:24:39.84 ID:0fPKLiJD

蒼「夢で見たものと同じ船なんだ。これがダイナ号……
  搭乗者名簿とか、載ってないかな」

ジュン「……あった。どうやら、『乗員乗客440名中、死者と
    行方不明者が1邦人含む427名。』日本人が1人だけ
    乗っていたみたいだ。その人の、名前は……」

蒼「結菱財閥のご令息、Kazuha Yuibishi……
  え……!?」

ジュン「この、Kって書いてある方の」

蒼「……違う、一葉さんじゃない……」
255RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:26:33.84 ID:0fPKLiJD

ジュン「ど、どういう…… ま、まさか。
    そういえば双子だったって言ってたよな。ということは、
    事故に遭ったってのは……」

蒼「うん。二葉さんなんだ。多分、なにかわけがあるんだろう。
  一葉さんの背負っているもの……弟さんであって、また、
  自分自身でもあったのかな。」

ジュン「事故の日付……この時計の日付と近いのか。これって、
    事故の2日前に贈られた時計なんだな。その使いの人が
    持ってきたんなら、渡せてないんだよな。」

ジュン「渡せてたら、ここにはないだろうし……船に乗る前に、
    何かあったのかもな。」
256RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:29:02.27 ID:0fPKLiJD
[15:21]

蒼「……なんだか、ジュン君の家で調べてもよかったかもね……
  ごめん、わざわざこんなところに連れ出して」

ジュン「いいや、図書館でよかったかもしれない。さっき、隅の
    方の棚の中から、こんなものを見つけたんだよ。
    ……これは、ネットにはなかったんだ。」


 ジュン君は、何やら古くて分厚い本を持っていた。
……『民明経済新書1956』。


ジュン「財閥っていうから、会社をたくさん持ってるのかな、と
    思ってな。そしたら、こんなものが出てきたんだ。」

蒼「『結菱令息、双子で新事業開拓か』? これは……
  『昭和33年頭の開設をめざし、財団を立ち上げる計画』。
  『昭和32年半ばには最終計画を立ち上げる見通し』……。」
257RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:31:26.57 ID:0fPKLiJD

蒼「一葉さんは、二葉さんと一緒に、事業を立ち上げようとした
  みたいだね。だけど……夢で見た限り、海外の誰かと暮らす
  ために、ひとり出て行ってしまったのか。」

ジュン「で、こっちが財団が出来るはずだった年の本だ。
    このページの隅の方……この記事。」

蒼「わっ、こんなに小さく……それはネットに流れないはずだ。」

ジュン「『結菱財閥新財団はどこへ? 役員が語る事情』か。
    どうやら、少し兄弟でもめていたみたいだな……」


 予想通り、二葉さんが出て行ってしまったために、1958年
に始める予定だった事業は頓挫してしまったようだ。一葉さんは、
二葉さんの結婚をどう思ったんだろう……
258RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:32:38.12 ID:0fPKLiJD

蒼「……なるほど。けっこう、情報が集まってきたようだね。
  他所で集められる限界ってところかな。」

ジュン「もう、あとは……一葉さん次第か。」

蒼「一葉さんだけに重荷を背負わせはしないさ。何て言ったって、
  僕らも双子だし、何だか似ている気がするんだ。僕も、昔は
  翠星石という存在にとらわれ過ぎていた。勿論、あの子も……」

ジュン「やっぱ、『1』か『2分の1』か、なのかなー……」


 ……今の一葉さんは『2分の1』、自分の影に掛け合わされて
まるで『4分の1』だ。

 僕たちが、『1』にしなきゃね。――心の、庭師として。
259RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:09:20.57 ID:0fPKLiJD

[15:47]
[時計店の近く。]

ジュン「……けど、本当に大丈夫なのか? 知り合ったばかりの
    誰かの心の中に入って、しかもその樹をいじるって……」

蒼「その人はとても深く悩んでいたよ。……抱えきれないくらい、
  とても深い闇を背負ってるんだと思う。それを、打ち明けて
  くれた今、もうただの他人じゃないさ。」

ジュン「蒼星石…… よし。頑張ろうぜ。」

蒼「……うん。やって、みせるよ。」
260RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:11:31.39 ID:0fPKLiJD

[2005/01/10 13:02]
[柴崎時計店。]


 そして2日後、約束の日が訪れた。お昼ご飯を食べ終わって、
僕とマスターはジュン君と翠星石の到着を待つ。お婆ちゃんが、
時折心配してお茶をたててくれる……

 ジュン君たちが来たら、マスターを連れて、薔薇屋敷に行く。
安倍川さんが話してくれたところによると、一葉さんはいつも、
この時間になるとお昼寝をするみたいだ。

 その時が、夢の扉を開ける時。久々に、庭師としての大仕事が
始まろうとしているんだ。
261RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:14:57.11 ID:0fPKLiJD
ガラガラッ
翠「こんにちはーですぅー。」

ジュン「こんにちはー。」

蒼「……やあ。」

元治「いらっしゃい。話は、この子から聞いておるじゃろう。」

ジュン「はい。 ……では、行きましょうか。」

元治「体力だけは、日々鍛えておるからな。行くとしようか。」

翠「……蒼星石、念のために鞄に入っていくがいいです。
  仕事が終わって疲れてもその中で休めるですから。」

蒼「そうだね、そうさせてもらうよ。マスター、お願いします。」

元治「うむ。」
262RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:17:56.86 ID:0fPKLiJD

マツ「気を付けて行ってくるんですよ。何かあったら、私もすぐ
   行きますからね。」

蒼「ありがとうございます。」


[13:24]
[薔薇屋敷 庭。]


 屋敷の門をくぐり、少しの坂を上った後、僕らは庭に出た。
そこは薔薇園として有名みたいだけど、目の前にあったのは、
薔薇園ではなかった。本当に……薔薇園なのかい?


ジュン「これは……」

蒼「すごい荒れようだ……」

翠「ずいぶんと弱ってしまってるですぅ。すぐに翠星石がお水を
  あげてやりますからね。スィドリーム、如雨露を頼むです!」

スィドリーム{ポオッ}カッ
263RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:20:53.45 ID:0fPKLiJD

元治「しかし、これだけの量が萎れてしまっているのでは……!」

翠「ぬう、庭師の如雨露を以ってしてもすぐに枯れちまうです!
  こりゃあ、ユイビシって人間になにか起こってるですね……」

ジュン「あの翠星石の如雨露でもダメなのか……」

蒼「事は一刻を争うね。行こう!」


[13:29]
[薔薇屋敷 玄関。]

ジュン「おお、取っ手をトントンやるタイプなのか……」

元治「久々に見たが、荘厳だのぉ。」


ゴンゴン

ギッ ギィ……
蒼「!」
264RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:23:05.82 ID:0fPKLiJD

安倍川「……これは、お待ちしておりました。ささ、中へ。」

元治「ごめんください。」

ジュン「おじゃま……します。」

翠「ごめんくださいですぅ。」

蒼「おじゃまします。」

ジュン「安倍川さん、でしたね。僕は桜田ジュンといいます……
    突然なんですけど、ここに姿見なんかはありませんか?」

元治「普通の大きさでよいのですが……ございませんかな?」

安倍川「一葉さまのお部屋の中に、立派なものがございます。
    行きましょうか。」
265RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:26:53.84 ID:0fPKLiJD
[13:37]
[結菱邸 一葉の部屋。]

安倍川「一葉さまは……眠りにつかれています。
    やはり、うなされて……」

翠「ふむふむ、これだけよく眠っていれば大丈夫ですぅ。」

安倍川「……!?
    これは……渦? か、鏡が……!?」

蒼「では、……行ってきます。」

安倍川「い、行く、とは」

翠「今から扉を開けるです。鏡の向こうの、その扉の向こうが、
  一葉のおじじの夢の中なのですぅ。」

ジュン「安倍川さん、でしたね。少し、行ってきますよ。」

元治「さて、ワシも若い衆に続くとしよう。お任せください、
   あの子たちがやるときはやるというのは、何度も見てきて
   おりますから。」

安倍川「は、はい! このとおり、よろしくお願いいたします!」


 安倍川さんは、しばらく礼をしたまま顔を挙げなかった。
その傍らで眠っている一葉さんは、辛そうな表情を浮かべている。

 もう一度、一葉さんの夢の中へ行こう。そして……心の樹を、
あの時のように生き返らせるんだ。行くよ、翠星石、ジュン君!
マスター、そして一葉さん、行きますよ!!


              【蒼星石と桜田ジュンの探求・完/第36話へ続く】
266 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:32:10.79 ID:0fPKLiJD
 ……というわけで、第34話と第35話をお送りしました。
読んでいただいた方ありがとうございます。

 この蒼星石のシリーズは第3部2番目の長編として描いてます。
原作にだけ出てきた結菱氏と、その人を取り巻く事件に、
アニメの蒼い子たちが出くわしたらどうするのか? というのを
描こうと思っています。そのまんまはアレなんで、時計とか
いろいろ出してます。

 この話は第36話に続きます。
諸事情+体調崩れによって投下が遅れてしまったことをお詫びいたします。
では、また。
267名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 17:08:01.25 ID:wAOdSLz6
投下乙です
268 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:39:35.38 ID:xO2HchhH
どうも、TEGです。
RozenMaiden Fortsetzung 第36話を投下しますよ。
今度も蒼が語ります。

>>267
乙ありがとうございます。励みになります。


では行きます。
36【蒼星石と柴崎元治の奮躍】
269RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:41:32.38 ID:xO2HchhH
【第36話 蒼星石と柴崎元治の奮躍】

[2005/01/10 13:48]
[夢の中。]

蒼「ここが…… 一葉さんの夢の中」

翠「金縛りに遭った時にみたのと同じ風景ですねぇ。
  けど、翠星石たちは本当に夢の中にいるんですか?」

ジュン「明らかに、僕らが居る屋敷の中だけど……」

元治「ふうむ…… 見たところ、確かにお屋敷の中、ワシたちが
   通された、客間のようじゃが……」

 
 一葉さんの夢の中は、おそろしく静かだった。薔薇屋敷の客間、
そのものだった。長い時を二葉さんと、そして二葉さんの記憶と
ともにここで過ごしたからかな……。
270RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:46:25.72 ID:xO2HchhH
 広い窓があり、上を見上げると天窓が見える。いくつか、細い
窓もある。ここが夢の中とは思えないほどだ。そう思った瞬間、
事態が一変した……。


グラッ
蒼「うわっ! この揺れは……」

一葉「ううう…… うおおお……!!」


 一葉さんの記憶が揺さぶられている。細い窓に、ひびが入る。
窓の外の景色が、歪みだした……そこかしこから、茨が生えては
すぐに萎れていく。今朝見た夢と……よく似ている。


翠「一葉おじじ! しっかりするです!!」
ガシッ
一葉「二葉…… 二葉あああ!!」
271RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:47:56.12 ID:xO2HchhH

 一葉さんの記憶が揺さぶられている。細い窓に、ひびが入る。
窓の外の景色が、歪みだした……そこかしこから、茨が生えては
すぐに萎れていく。今朝見た夢と……よく似ている。


翠「一葉の爺さん! しっかりするです!!」
ガシッ
一葉「二葉…… 二葉あああ!!」

蒼「っ! マスター、あたりに、カレンダーはありませんか!?」

元治「カレンダー…… あったぞい! 万年カレンダー、日付は
   6月15日じゃよ! そして……傍らに、時計がある、
   作られたばかりの……新しい時計が!」

ジュン「あっ…… 新聞が落ちている! こ、これは……!!」


 ジュン君が拾った、古びた新聞。そこには……
272RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:52:01.57 ID:xO2HchhH

蒼「『大西洋沖で440人乗り豪華客船沈没』……。
  日付は1957年、6月15日! ま、まさか!」

ジュン「……ああ。これはダイナ号の記事で間違いない……
    ここにも、DINAって書いてあるんだ……」

一葉「行かないでくれ……行かないで……!!」


グラグラッ
翠「! ま、まだ揺れてるです!!」

ジュン「これは……やばいな…… ま、窓の、外が!」

蒼「景色が……崩れていく、変わっていく……!」


 窓の外に映し出された景色が崩れ……別の風景が映し出された。
西欧の……イギリスみたいだ。なにか、物々しい雰囲気だ……。


グワシャッ……ガラガラ……
蒼「今度は…… あれは、イギリス……?」

元治「……あそこにいるのは、一葉さんではないかの?
   ずいぶんと若いが……」
273RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:54:14.09 ID:xO2HchhH

 そこには、27歳の一葉さんが、沈痛な面持ちで立ち尽くして
いた。


『遺体の損傷が激しく……東洋人の方だということしか……
 ただ、ダイナ号に乗船していた東洋人は一人でして……
 日本の千葉県出身の、結菱二葉さん、27歳です。』

『……弟さんの、結菱二葉さんに間違いありませんか?』

一葉『……ます』

一葉『……違います…… 船に乗ったのは兄の一葉です。』


蒼「!!」
ジュン「!」


一葉『兄が…… 私の名前を使って乗ったのです……』
274RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:57:16.26 ID:xO2HchhH

翠「な…… なんでですか……」

一葉「すまない……! すま……ううう……!!」

翠「なんで、名前をかたったですか!? どうして……!!」

蒼「ちょっ……落ち着くんだ、翠星石!」

一葉「私は…… 二葉の…… 死を認めたくは、なかった……。
   それに…… ……ああ……!!」


 そうか……それで、ジュンくんと見たインターネットの記事の
名前が、一葉さんのものになっていたんだね……。48年前から、
一葉さんは二葉さん自身として、生き続けているのか……


グルグルグル……
翠「!? 何かが、渦を巻いて飛んでくるです!」

バサッ! バサササ……
蒼「これは……日記帳!」
275RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:58:14.36 ID:xO2HchhH

元治「1949、1950…… 1955、1956!
   次々に、年代記として綴った日記が現れては消えてゆく!」

一葉「はあ…… はあ…… わ、私は……ざ、財閥を受け継いだ
   1949年より、年ごとに1冊の日記をつけていたのです。
   ……財閥を、また……顧みるときに……と……」


ヒュルル……パシッ
一葉「最後の……1957年の日記だ……おそらく、この状態で
   つらつらと話をするよりは……わかる……だろう……」

蒼「読ませて……いただきます。」

――――――――――――――――――――――
S32.1.14
 財閥の新事業を立ち上げる準備はあらかた整った。S25年に
父より受け継いだこの庭が、新たな船出の場となるのだ。二葉と
ともに、新時代の礎となる植物園を作るのだ。今は薔薇しかない
が、ゆくゆくは全国いや全世界に、結菱邸産の植物を届けるのだ。
すべては、薔薇からスタートする。また、21世紀に向けては、
さまざまな分野へ裾野を広げよう。
――――――――――――――――――――――
S32.1.15
 昼、二葉が、事業を支援してくれるという方を連れてきた。
欧州の若き女性で、名をピヴォワンヌという。私たちが立ち上げ
んとする事業にはこれ以上ない人物だ。花の世話も趣味であると
おっしゃっていた。日本にはしばらく滞在するそうなので、追々
事業については話を進めていこうと思う。
――――――――――――――――――――――
276RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:58:54.79 ID:xO2HchhH

 あの薔薇園が、立ち上げようとしていた新事業のひとつだった
のか。この、ピヴォワンヌという人は……どんな人なんだろう。
この日記に、書いてあるはず……


――――――――――――――――――――――
S32.1.23
 二葉が夜半を過ぎても帰ってこない。仕事があるとはいえ、
やや遅いのではないだろうか。齢満27にしても、この様態では
事業に支障が出かねない。うんと言って聞かせねば…
――――――――――――――――――――――
S32.2. 2
 ピヴォワンヌさん達との会食が行われた。庭の薔薇を、とても
気に召された様子で、我々は安心した。 …… …… 。
決算までに、庭園の計画を具体的にせねば。
――――――――――――――――――――――
S32.3. 9
 二葉はピヴォワンヌさんと東京の方へ出かけ、私は庭をいじる。
提携先の花屋にも来てもらい、配置なども考えた。やはり、和平
たるビジネスもよいものだ。波風など考えず、風の向くままに
ただ …… たいものだ…
――――――――――――――――――――――


 ピヴォワンヌさんは、一葉さんたちとうまくやっていたみたい
だね。二葉さんと、特に仲が良かったのかな。けど……この日記、
なにかが変だ。
277RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:59:37.08 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.4.12
 先日、ピヴォワンヌさんが千葉県内に引っ越しをなされた。
これで会議などがうんと楽になる。金銭的にも、事業の方へと
やりくりする幅が拡がった。何より、彼女に …… ……
が、ひとまずは庭園の拡大を急ごう。そうすれば、 ……

――――――――――――――――――――――


 ところどころ、書いてあるはずの文字が読めなくなっていたり、
不自然に途切れてたりしている。夢の中だからかもしれないけど、
何か、ひっかかるな……。
278RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:00:45.31 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.5.19
 だれかのために何かを成すことは、とても難しく、とても辛く
しかしながらとても素晴らしくとても偉大なことなのだと感じる。
二葉も奔走しているし、私もまた …… だから、力が入るとい
うものだ。まもなく、薔薇の咲き乱るるころになる。ぜひとも、
 …… ……

――――――――――――――――――――――
S32.5.24
 …… …… 。 だが、同じ私を見てはくれぬのか。
そこだけが、唯一の柵である。唯一無二の弟への憎しみは一切が
ない。だのに、…… …… 。
――――――――――――――――――――――


 読めない個所が多くなってきた。何かに深く悩んでいるような、
そんな内容になってきてる。6月の日記には、日付以外書かれて
いないところさえ出てきた。そして……

279RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:03:27.71 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.6.10
 うすら予感はして……のだが、ここまで当たるとなると、やや
寂……ような、そのような……すら抱く。二葉には、秘密にして
作っていたものが今朝届いた。ジューン・…… ……相応しかろ
う。二葉自身何も言ってこないが、双子の兄には、わかるのだ。

――――――――――――――――――――――
S32.6.11
…… ……!
…… ……!
…… ……!
 できれば、行かないでほしい。ともに新事業を行おうではない
か。しかし、…… 。兄として……うことができないのか。

――――――――――――――――――――――


一葉「行かないでくれ…… 行かないでくれ…… なあ……」
一葉(27)『行かないでくれ…… 行かないでくれ……』


 ……この年の日記は、ここからしばらく書かれていなかった。
次に書かれていたのは、日記の最後の方だった。

280RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:14:10.01 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.12.31
 私はどちらで生きてゆけばいいのか?
 どちらが正しく、どちらが間違っていたのか?
 まもなく完成する、テレビ塔も、ともに見ることが叶わないか。
 まもなく開始する、新事業すら、共に歩めないのか。
 
 私は、二葉として生き続けるべきか?
 まだ、二葉はどこかで生きているという想いがある。
 同様に、ピヴォワンヌさんも…… 悪夢、であってほしい……
――――――――――――――――――――――

一葉「うああああ…… あああ……」

翠「い、いかんですぅ! 完全に……我を忘れているです!!」

元治「なんと…… なんとか、ならぬか」

一葉「すまない……! 二葉……!!」

蒼「そのピヴォワンヌさんなら、なにか知っているかもしれない
  けど、今はそんな場合じゃ…… そうだ!」
281RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:32:27.43 ID:xO2HchhH

ジュン「何か、……あるのか?」

蒼「心の樹を…… 見に行ってみよう。それに、なにか起こって
  いるかもしれない!」

翠「なるほど、心の樹を巣食うヤバイ草を切れば……いくらかは
  和らぐかもしれんです。一時的ではありますが、やる価値は
  あるですよ!」

元治「して…… その樹は、どこに……」

一葉「…… こ…… これのことですか……な」


 一葉さんの足元に、萎れた薔薇の茨に包まれた樹を見つけた。
それは……おそろしく痩せ細ってしまった心の樹だった。
本当に長い間、苦しみぬいてきたような……そんな姿だ。

 もう、何処かから衝撃を加えれば、折れてしまいそうだった。
慎重に事を行わなければ……庭師としての、腕が試されるな。
282RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:53:51.37 ID:xO2HchhH

翠「こ、こりゃあ重症ですぅ…… 完全に茨が覆い尽くしている
  ですねぇ……。初期状態のジュンのチビ樹より酷いです……」

ジュン「ああ……」

蒼「萎れてしまっている茨は、間違いなく嫌な記憶……これを、
  何とか取り除かないと! レンピカ!!」

翠「スィドリーム! 力を貸しておくれですぅ!」

レンピカ{フゥッ……}

スィドリーム{ホォッ……}

一葉「…… これはいったい……」

ジュン「見ていてください。あいつらは……」
283RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:00:02.15 ID:xO2HchhH

翠「甘い水で、少しでも癒しを与えてあげるのです……」

ジュン「庭師なんです。ちょっと説明しづらいですけど……
    翠星石が、『庭師の如雨露』を使って心を和らげて……」

翠「世界樹さん、力を貸してくれですぅ……!!」

蒼「レンピカ、鋏を! はあああっ!!」
ズバンッ!

一葉「!」
元治「なんと!」

ズバンズバンズバンッ

ジュン「蒼星石は、『庭師の鋏』を用いて、心の成長を妨げる、
    柵……あの雑草を取り除くんです。」
284RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:15:07.31 ID:xO2HchhH

元治「ふむ…… そして、心が整えられる。」

ジュン「あいつらは、『心の庭師』なんです。」

一葉「こ…… これは…… 心強、い…… がっ、」

ズゾゾゾゾ
蒼「うわっ……!」

一葉「し、しまった……!」


 断ち切った茨の根元から、次から次に茨が生えては、瞬く間に
萎れていく。僕が茨を切るよりも早く、翠星石が如雨露の水を満
たすよりも早く、茨が生えてくる……!


ゾワワワワ……!!
翠「は、早くなんとかしねーと、無意識の海にまで流され……!」

蒼「それだけは、させない! 今生えてきた、一番太い茨を!!
  うおおおおお!!」

ズバンッ!!
285RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:25:02.43 ID:xO2HchhH

バサッ!
ジュン「いばらが……開いた! 中に、何か入ってるぞ!」

蒼「これは……新聞だね。日付は……2002年、3月18日?」

元治「3年前か……ずいぶんと、最近の物じゃな……」

一葉「そ、その新聞は…… 間違いない……」


 茨の中には、3年前の新聞が一枚だけ丸め込まれていたんだ。
その紙面の端の方、トップニュースに続いて、こんな記事が書か
れていた。

――――――――――――――――――――――
[ダイナ号生存者45年ぶりに判明 当時29歳欧州の女性]

[……通信によると、17日、1957年6月14日に発生した
 大西洋沖ダイナ号沈没事件で、行方不明になっていた女性が
 生存していることが明らかになった。]

[……現在フランス在住のピヴォワンヌ・ナーノさん(74)で
 救出後すぐに当時の実家に戻り、仕事で各地を転々としていた
 という…… 生存者99名、死者行方不明者341名となった。]
――――――――――――――――――――――
286RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:37:57.91 ID:xO2HchhH

一葉「……一枚だけ……置いておいたのだ……。それが、ここに
   出てきたのだな……。」

翠「!? ……その、ピヴォワンヌっていうのは……」

蒼「うん。さっき読ませてもらった日記の中に出てきた人だ。」


ザワ・・・ ザワ・・・

元治「蒼星石! 茨が……茨が激しく揺れておる!!」


 なるほど、ピヴォワンヌさんは、あの船に二葉さんとともに、
乗り込んでいたのか……。その時、今朝見た夢の中の、二葉さん
の言葉を思い出した。


『僕は……あのひとと生きることにしたんだ。』

287RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:45:36.78 ID:xO2HchhH

 あのひと、っていうのは……ピヴォワンヌさんのことなのか。
だとすれば、一緒に暮らす、その目前で……何ということだ。
そして……また夢の世界が、揺れだした。


ゾワゾワ……
グワラグワラ……
『黙って行けば、駆け落ちになってしまうぞ……!
 ばれでもしたら、一族の示しが、つかなくなって
 しまう……だから、行くんじゃない……!!』

『もう……止めないでくれよ……』


一葉「うううう……おおおおお……!!」

翠「蒼星石!! とにかく、萎れてる茨を薙ぎ払うです!!」

蒼「っ……! さっきより、早く茨が生えてくる……!!」
ズバンッ

ゾゾゾゾ……
元治「どうか……どうか落ち着いてください……!!」

一葉「ううう…… ……!!」

288RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:51:01.17 ID:xO2HchhH

 一葉さんの震えが、止まらなくなっていた。一番、忌まわしい
記憶を見ているようだった。僕も、辛くなってきた。とにかく、
歯を食いしばって、鋏を振るい、茨を取り除こうとした……

 翠星石も、マスターも、頑張っている。ジュンくんも、勿論、
辛い記憶と真正面から向き合っている一葉さんも……。そして、
次の記憶が現れた。もうじき出発する二葉さんが見える。


『お前は……僕の半身なんだ!! 僕にはお前が居ないと……
 お前と共にいないとだめなんだよ!!』

『それは違うんだ、兄さん……』

『僕には、僕の……幸せがあるんだよ。それが、彼女……
 ピヴォワンヌさんだ』


 この記憶が見えた瞬間、僕と翠星石とマスターは、愕然とした。
ただ、驚いた。あまりにも、昔の僕らに似ていたから……。
ジュンくんも、時折うつむいている。
289RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:58:01.08 ID:xO2HchhH

『一樹……もうどこにも行くんじゃない……』

『ごめんなさい……』

『僕は…… 君といっしょには行けないんだ』

『や、やめるですぅ……!』


 頭の中で、僕のしてきた経験がよぎる。マスターのところに、
降り立ってすぐの時。僕は一樹くんと存在を共にされていた。
マスターも、お婆さんも苦しんでいたっけ……。


『お父様の幸せは、僕の幸せだ……』

『僕はアリスを目指す……君たちと戦って……ローザミスティカ
 を集めて、アリスになるんだ』

『ぜ、絶対に……離れちゃだめですぅ!!』

『いっしょに……帰るですぅ……』

『いっ……しょ、に……』
290RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:09:06.96 ID:xO2HchhH

 翠星石には、もっと、心配をかけてしまった。翠星石は、僕を
自分の半身だと思ってくれていた。けど、僕は幸せを求めすぎて、
それを拒み続け、ついには、動けなくなっていた。

 ああ、似ているな…… なぜだろう。違うことを分かり合い、
それを認め合って、寄り添い合うことが、こんなに難しいなんて。


ザワ…… ザワザワ……

蒼「みんな違う……違うけど、完全に独りきりじゃあ……
  何にも、できやしないんだ。」

元治「その通りじゃ……色々とあったが、……ワシもお前がいた
   から、立ち直れたのじゃろうな……」

翠「その、半身ってやつに、縛られ過ぎても、それを拒み過ぎて
  ずっと逃げてても、行き詰っちまうだけなんですねぇ。」

ジュン「……僕もそうだったな。それが、自分自身だったし。
    逆上がり出来ない自分だとか、私立中学に行けなかった
    自分とか……変に負い目作ってたな。」
291RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:15:48.19 ID:xO2HchhH

 ジュンくんのように、昔の自分に縛り付けられ、心の樹の生長
さえも止まってしまう……翠星石から聞いた話だけど、最初は、
もう本当に小さな心の樹だったみたいだ。

 そして、マスターが口を開いた。


元治「……私も、事故で家族を失っておるのです。ひとり息子を、
   まだ9つの一樹を亡くしてから……ずっとそれを受け入れ
   ることなく、途方に暮れておりまして……」

元治「家内もそれから実に27年間、入退院を繰り返すまでに、
   精神を病み長く苦しんでおりました……」

一葉「……そうだったのですか……あなたも……」

元治「一樹は、私の一部であり、また家内の一部であることに、
   今も変わりはないのです……ですが、それに縛られ過ぎて、
   この子がやってきた時、名前も聞かず、ただ一樹として……」
292RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:27:39.50 ID:xO2HchhH

蒼「……翠星石も、僕も、歩み寄ることができなかった時期が、
  確かにありました。しかし……大切に思う誰かと、思い合う
  ことなしには……」

蒼「悲しいことを乗り越えることは、難しいんです……」


 しばらく、沈黙が続いた。その時、1年9ヶ月前、マスターや
お婆さんの夢を、心を翠星石とジュンくんとで巡って、一樹君の
想いをマスターたちに何とか伝えた経験を思い出した。


蒼「……その、ピヴォワンヌさんの夢を見に行けないかな。
  その人の心の樹から、記憶をたどれば……」

翠「そうですねぇ……それが、多分一番手っ取り早いです。
  おじじとおばばの夢を梯子した、あの時みたいにすれば……」
293RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:35:12.90 ID:xO2HchhH

一葉「君たちは……、そんなことが……できるのか……?」

翠「樹の幹をたどれば、世界樹に繋がってるです。……世界樹は、
  夢の中で誰かの心の樹とも繋がってるです。まあ、強く思い
  合うってことが、とても重要になってくるですけど……」

蒼「夢と夢をつなぐのが、世界樹なんです。僕らはその世界樹の、
  そこから枝分かれした心の樹を整える力を与えられた……
  『心の庭師』なのです。」

蒼「どこかに、光が溢れる穴があるはずです……。世界樹に注ぐ、
  淡い光が……」

一葉「……この部屋の天窓が、淡く光っている…… そこから、
   世界樹のある場所へ行けるのかね?」

蒼「はい…… 行きましょう、一葉さん。」
294RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:42:31.69 ID:xO2HchhH

一葉「おお…… ありがとうよ……しかし、この体では。」

ジュン「思うだけでいいんですよ。行く、と思うだけで。」

元治「私が後ろから押していきますので、心配なさらずに……」

一葉「……! か、体が、車いすごと……!! おおお……!!
   ……行こう……!」

翠「なんたってここは、一葉おじじの夢の中ですからねぇ。」


 一葉さんの思いが強く、すぐに世界樹のもとへとたどり着けた。
ここからが……正念場だ。

295RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:45:45.76 ID:xO2HchhH

[14:01]
[世界樹。]

蒼「…… これが世界樹…… この枝の先に、心の繋がる人の、
  夢への入り口がある……けど」

翠「うーむ、見当たらんですね……もう少し探してみるですぅ。
  ……まだ時間はあるです。」


 世界樹の周りを見てみたけど、枝らしきものが見当たらない。
心の繋がりさえ、少しでもあれば……


蒼「なにか、思い出せますか……?」

一葉「…… ……彼女は…… あの、生存しているという記事が
   載った新聞を読んだ後、……人づてに、近況を聞くことが
   あって…… 今もヨーロッパに住んでおるようだが……」

元治「ふむ……」
296RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:59:17.21 ID:xO2HchhH

一葉「……いま、彼女は全く別の男と暮らしているらしい……。
   ……もう、私のことなど……二葉のことすら、忘れている
   のかも……しれない……」


 どうやら、ピヴォワンヌさんは、新たな生活を手に入れている
ようだった。少し……事情が複雑になってきた。


一葉「もう、ずっとずっと前のことだ…… もはや覚えてなどは」

ジュン「……そうでもないかもしれませんよ。 ……目の前を、
    見てください。」

蒼「これは…… 枝が!」


 世界樹の枝が、か細いけど、確かに枝が一直線に伸びていた。
前にも、マスターの夢の中からここに来た時に、同じような経験
をしたっけ。……ということは。
297RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:05:12.07 ID:xO2HchhH

翠「うっすらですけど、一葉おじじのこと、覚えてるみたいです。」

一葉「ほ、本当なのか……」


 心の隅で、一葉さんのことを覚えていたのかな。お婆さんと、
マスターの夢の間に架かっていた枝よりも、まだ細い枝だ。


翠「それに…… 夢の世界への入り口が見えているということは」

元治「おそらくは、いまその女性も眠っているということじゃな。
   夢を……見ておる。」

ジュン「……今、ヨーロッパらへんは夜明けくらいかな……?
    真冬だし、その人の年齢的にも、眠りについてると思う。
    時間はそう無いけど、出くわすチャンスはあるはず……」
298RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:11:01.00 ID:xO2HchhH

翠「……ここからどうするかは、一葉おじじ次第ですぅ。」

蒼「……この先は…… 一葉さんが決めてください……。
  行きますか、行きませんか……?」

一葉「…… ……二葉、お前なら…… お前なら、どうする……
   教えてくれ……教えてくれ……!」


 一葉さんが、問いかけながら前を向いた時だった。枝の上に、
突然誰かが現れたんだ。うっすらと、人影が見える。


フッ
『…… 兄さん』

蒼「あれは、二葉さん……!?」

翠「間違いねーですぅ……」


 現れた人の影の正体は、若い頃の二葉さんだった。一葉さんの
強く問いかける言葉が、二葉さんに関する記憶を呼びおこして、
二葉さんを夢に登場させたんだね……
299RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:16:49.82 ID:xO2HchhH

一葉「ふ、二葉……二葉なのか?」

二葉『行こう。』


 二葉さんの言葉に、迷いはなかったように思えた。一葉さんも、
何かを決断したような表情をしていた……。

 その時、何もないはずなのに、一陣の風が吹いてきたような、
妙な感覚に包まれた。僕らに……緊張が走る。


蒼「…… この時が……。」

元治「いよいよ、本陣へ赴くということじゃな……
   ……一葉さん、しっかりと、手すりを握ってください。」

ジュン「……翠星石。」

翠「……仕事の、仕上げ段階ですぅ。心してかかるですよ。」

一葉「……分かった。 ……みなさん、行きますよ。」


ゴオオオ…… バシューン……!
300RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:22:35.25 ID:xO2HchhH

[14:11]
[FWT 6:11]
[ピヴォワンヌの夢の中。]

 ピヴォワンヌさんの夢の中は、思いのほか明るかった。心の樹
も、すぐ近くに聳え立っている。


一葉「……これは…… 心の樹という物か。」

蒼「ピヴォワンヌさんの、心の樹……」


 樹を見上げていると、ふと誰かがやってきた。


「……お久しぶりね」

一葉「…… ピヴォワンヌさん」

301RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:23:32.98 ID:xO2HchhH

 この人がピヴォワンヌさん……驚くこともなく、一葉さんとの
会話を進めていく……。48年という歳月を乗り越えて。


一葉「……本当にお久しぶりです、……お変わりなく……」

ピヴォワンヌ「…… ふふ、やはり、見分けのつきにくいこと。
       髪の分け目で判断しないとね……」

一葉「…… その……お話が……あります……」

ピヴォワンヌ「……ええ。私からも、お話を……」

一葉「……!?」



         【蒼星石と柴崎元治の奮躍・完/第37話に続く】
302 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:37:14.90 ID:xO2HchhH
 ……ハイ、第36話は以上です。読んでいただいた方ありがとうございます。

 原作Phase18〜21(BIRZ及びYJ3巻末〜4巻)を読んでいただけると、
一葉さんがどんな方かわかるかと思われます。こちらのほうがソフト
ですけれども……

 9月10日までに、第37話を投下しますので気長にお待ちください。
37話はついに元治が語ります。


※作者より
今回の話を書くに当たり、第14話(2部7話・真紅の話)を見直したところ
柴崎夫妻が「結婚30周年」となっていましたが、これを「42周年」に訂正
すると同時にここにお詫びいたします。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/08(木) 18:24:28.52 ID:278tAK/4
投下乙です
304 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:14:36.62 ID:ijr5eMRj
 ども、TEGです。
RozenMaiden Fortsetzung 第37話を投下しますよ。
さる後の規制のタイミングをつかめないのです。

では行きます。
37【柴崎元治と結菱一葉の苗樹】
305 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:23:57.98 ID:ijr5eMRj
【第37話 柴崎元治と結菱一葉の苗樹】

[2005/01/10 14:15]
[FWT 6:15]
[ピヴォワンヌの夢の中。]


 寒い風が、大きな屋敷を襲う昼下がり。蒼星石たちとともに、
夢の世界へとやってきた。事の始まりは、薔薇屋敷の主である、
結菱一葉さんの時計であった……。

 1月4日、一葉さんが時計店に懐中時計を修理に出しに来た時、
憔悴しきったような顔をしていた。わしらはそれが気がかりで、
次に来られた時に詳しく話を伺おうとしておった。

 蒼星石が偶然にも、一葉さんのお手伝いをしている、安倍川と
いう男性に出会い、これまた偶然にも一葉さんの時計と対を為す
意匠の時計を目にしたのであった。
306RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:26:41.18 ID:ijr5eMRj

ピヴォワンヌ「……私からも、お話を……」

一葉「…… な、 何でしょうか……」


 安倍川さんもまた、一葉さんの様子をいたく気にしておった。
心に根差す何か……それを解きほぐすべく、『夢の庭師』である
蒼星石と翠星石、翠星石の契約者桜田ジュンくんが立ち上がった。

 一葉さんは、双子の弟である二葉さんと、彼の婚約者であった
ピヴォワンヌ・ナーノさんとの間にすれ違いを残したまま、弟の
二葉さんを事故で亡くすという出来事に、心を沈めておった。


ピヴォワンヌ「……すぐ連絡をよこさずに……ごめんなさい……
       長く、苦しんだと思います……あの後二葉さんが
       亡くなられたという知らせを聞きました……」
307RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:29:51.14 ID:ijr5eMRj

一葉「…… ……それは、お互い様です……。片時も思い出さぬ
   時はありません……もう、長く……長く……」


 そして二葉さんの死を受け入れられぬあまり、二葉さんの名を
名乗り、『結菱二葉』として生きることを決意したという。その
裏には……並々ならぬ苦悩があったのじゃろう……。

 48年という長きにわたり、一葉さんは自らを押し殺し続けた。
それは、瓜二つの弟の為であった。同じように双子であり、また
一葉さんよりも長い時間、違い続けた蒼星石たちには、自分たち
を見ているふうに映ったろう……。


ピヴォワンヌ「……以来、私はずっと黒い服を着て暮らしました。
       二葉さんにも、一葉さんにも、逢えぬまま……、
       二葉さんを弔うには、これしかなすすべが……」

一葉「……結婚なさっていると、風のうわさでお聞きしました。
   もしや……その間も……」
308RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:35:30.44 ID:ijr5eMRj

ピヴォワンヌ「ええ……1974年に、ミレットという方と結婚
       しました。しかし……私はその間も……喪服を。」

一葉「……夫は…… 何とも思っていなかったのですか……」

ピヴォワンヌ「……ミレットは、それも……分かっていました。
       私が、二葉さんと婚約を交わしていたことも……
       ……しかし……」

一葉「……しかし……?」

ピヴォワンヌ「……結婚から30周年を迎えた昨年、ミレットは、
       ……こう……語りかけました……
      『いつまで、喪服を着ているつもりですか』……と。」


[2004/12/14]

ミレット『……いつまで、喪服を着ているつもりですか』

ピヴォワンヌ『……一生を共に生きてゆくと誓ったあの人が……
       死んでしまったときから…… ずっと……』
309RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:47:38.99 ID:ijr5eMRj

ミレット『貴女は……もう、十分に苦しんだと思う。30年も、
     そんな姿を見て思ったのは……、もう、いいだろう。
     私は苦しむ貴女を見るのが、辛いのだ……』

ピヴォワンヌ『…… ……ですが、もう、私の心も……ともに、
       ……死んでしまった。』

ミレット『二葉さんも、十分に……わかってくれているだろう。
     嘗ての恋人の、影から、解き放たれて……思い出と、
     重い喪服は……もう、しまおう……心の中に……。』

ピヴォワンヌ『…… ……では、もう……忘れろと……』

ミレット『忘れなくていい……忘れなくても、心に刻むのだ……
     ……愛する者の幸せを願わない者など、いない……。
     それは、誰も同じこと……』

ピヴォワンヌ『……ミレット……!』
310RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:55:43.37 ID:ijr5eMRj

…… ……


一葉「……今まですまなかった…… 二葉、ピヴォワンヌさん。
   ……自分の存在ともども、48年もの間、……縛り付けて
   しまっていたのだな…… 私は、何ということを……」

二葉『……兄さん、いいんだ…… ……本当は、駆け落ちなんて
   したくはなかった。堂々と、この人とビジネスを共にして
   いきたかった……僕は勝手に兄さんは結婚に反対だと……』

一葉「……すまない……本当は……時計と共に……ジューンブライド、
   これを祝おうとしていたのだ……!! そして……」

二葉『…… ……!』

一葉「思い出した……思い出したのだ。私も、いつしか彼女を、
   ピヴォワンヌさんを……好きになっていたことを……!」

ピヴォワンヌ「!」

蒼「!!」 翠「!!」
元治「!!」 ジュン「!!」
311RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:00:31.79 ID:ijr5eMRj

一葉「双子であることに……負い目を感じた唯一の事象だ……。
   なぜ私ではない…… なぜ二葉なんだ……? 若い私は、
   そうとしか思えなかった……」

一葉「……48年という時の中で…… ただそれだけの理由で、
   お前の名前をかたってしまったことを、強く恥じた……!
   時には、……起き上がれなくなるほどに……」


 しばらく、一葉さんは押し黙ってしまっていた……。
先ほどの事実に驚く我々も、かける言葉が見つからない。
そんな時だった。沈黙を破ったのは……


二葉『本当に……もう、いいんだよ、兄さん』

一葉「……二葉……!」

二葉『僕が出来なかったことを、今、ミレットさんがしてくれて
   いる……それだけでいいんだ……自分が愛するという事が、
   それがあればいいんだ……』
312RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:20:37.39 ID:ijr5eMRj

一葉「……そうか……そうだな……それは、私にも出来なかった
   ことでもある……」

ピヴォワンヌ「…… いいのです。もう、自身を独り半身に委ね
       たまま、苦しみ、生きるのは、…… ……やめに、
       しましょう……互いに、歩み寄って……」

ピヴォワンヌ「……いつの日か、ミレットと共にお屋敷に立ち寄
       らせていただきますから……」

一葉「……私からの…… お話、お願いです……そして二葉から
   の願いです……」 


一葉・二葉「『どうか、どうか、穏やかに、末永く幸せに……、
      お過ごしください……!』」

ピヴォワンヌ「……はい……!」
313RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:28:00.24 ID:ijr5eMRj


 しばらく、二葉さんが見守る中、一葉さんとピヴォワンヌさん
は互いに顔を合わせ、長い時の間に生じた溝を埋めているようで
あった……。そして、夢の終わりに……


蒼(……そろそろ、ピヴォワンヌさんも、目覚められます……。
  この繋がりがあるなら、また……逢えるはずです。)

一葉(うむ……ありがとうよ……)


 一葉さんたちは、ピヴォワンヌさんの後姿が見えなくなる寸前
まで、深々と礼をしていた。75歳の背中は、時折震えていた。



一葉「……さあ…… 戻りましょう、みなさん。」
314RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:36:37.13 ID:ijr5eMRj

[14:59]
[一葉の夢の中。]

 世界樹を通り、一葉さんの夢の世界へ戻る時……二葉さんは、
こちらを向いてまたも深く礼をしたまま、静かに消えていった。
わしは、その時の一葉さんの涙ながらの笑顔を忘れないであろう。

 蒼星石と翠星石が、『最後の仕上げ』にとりかかる。わしらは、
もう萎れた茨の囲わない、小さな心の樹をじっと見守った……。


翠「……世界樹よ、甘い水で……庭師の如雨露を満たしておくれ」

蒼「……庭師の鋏よ、今……力を!」


サアァァァ……

一葉「…… ……こ、これは……!」

元治「心の……樹が、伸びてゆく……!」
315RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:42:54.23 ID:ijr5eMRj

翠「健やかに…… のびやかに……!!」

蒼「さあ…… 強く……清く……!」


スウゥゥ……

ジュン「おお…… それに、見る見るうちに……屋敷の天井が、
    消えてくぞ……!!」

元治「……おそらくは、二葉さんの影に縛り付けられることと、
   この屋敷に閉じ込められることは、同じことなのじゃろう。
   束縛がなくなった今……解き放たれたのじゃな。」


 ……心の樹も、心も……二葉さんも、一葉さん自身も、な。
316RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:52:51.62 ID:ijr5eMRj

[15:07]
[薔薇屋敷、寝室。]

一葉「…… うーん…… ん……」

安倍川「…… おお、一葉さま……お目覚めになられましたか!」

一葉「ああ……何か、とても心地よい……今までの苦悩がすべて
   晴れたようだよ……」

元治「…… ぬう…… おお、ここは……」

蒼「……ああ、マスター、お目覚めに……一葉さんも。」

ジュン「……くあー…… あれ? 布団が掛けてある」

翠「おお、いつの間に……」


 ……目が覚めると、布団が掛けられておった。わしらはここで、
眠っていたのじゃったな。あんなにも克明に夢を見たことを覚え
ておったからなぁ……。
317RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:55:58.85 ID:ijr5eMRj

安倍川「みなさん、お目覚めで。この時期ですから、寒かろうと
    思いまして……」

ジュン「ああ……すいません。」

翠「ありがと、です。」

蒼「ありがとうございます、安倍川さん。……もう大丈夫です。」

元治「もう、問題はありませんぞ。」

安倍川「こちらこそ本当に……本当にありがとうございます……。」


 安倍川さんの眼には、うっすらと涙が浮かんでおった。長く、
一葉さんにお仕えしてきたそうじゃから、何度も苦しみ、悲しみ
に打ちひしがれるところを見てきたのじゃろう……
318RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:59:05.67 ID:ijr5eMRj

一葉「……安倍川にも、これまで辛い思いをさせてしまったな。」

安倍川「い、いえ……一葉さまが、元気ならばそれでよいのです。」

一葉「……安倍川、車いすを、押してはくれまいか。
   少し……庭に出たいのだ」

安倍川「……はい!」


 一葉さんには、穏やかな笑顔が戻っておった。それは、永い間
とけることのなかった、固く冷たい氷の壁が砕かれたような……
そんな表情じゃったわい……。


翠「よーし、快気祝いにいっちょ薔薇の世話でもしに行くです!」

蒼「ちょ、翠星石……待っておくれよ! 僕も行くから!」

ジュン「……ったく。 ハハハ……すみません、急に……」
319RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:28:40.20 ID:ijr5eMRj

一葉「よいではないか。最近は、薔薇の世話もままならなかった
   からな。蒼星石たちは、庭いじりも得意なのかね。」

蒼「はい、翠星石と共に、よく植物を育ててます。」

翠「何だったら、ちょいちょい薔薇の様子を見にくるですけど?」

一葉「ああ……助かるよ。ともに、また薔薇園を賑やかに……」


[15:19]
[薔薇園。]

元治「そうじゃな、あの二人の48年ぶりの『氷解』を祝って、
   何かできないかの?」

ジュン「……それなら、いい考えがありますよ。庭の真ん中に、
    公園にあるような、大きな時計を立てるんです。」

元治「ほお、時計とな。」
320RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:44:02.58 ID:ijr5eMRj

ジュン「あの懐中時計って、2つを組み合わせると、1つになる
    デザインですよね? そのデザインの時計を……」

一葉「そうだな、それはいいな。わざわざ部屋に戻って、時計を
   見に行かなくともよくなる。」

ジュン「一葉さん……!」

一葉「それに、たった今、まさに私も同じことを考えていた所
   だったのですよ。」

一葉「……柴崎さん、どうですかね。お願いできますか。」

元治「ええ、ぜひとも。大時計を作る業者さんにも、長年に亘り
   お世話になっておりますから。」

一葉「ありがとうございます。 ……時計は時計で、これからも
   大切に使わせてもらうよ、二葉。」


 蒼星石たちが庭を整え、荒れた薔薇園は少しだけあるべき姿を
取り戻しておった。またすぐに、とても綺麗な姿を見せてくれる
はずじゃろうて。
321RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:57:39.73 ID:ijr5eMRj

[15:39]
[柴崎時計店。]

ガラガラッ
元治「ただいま。」

蒼「ただいま戻りましたー。」

マツ「まあ、お帰りなさい! 大丈夫でしたか!?」

蒼「はい! ……うまく、いきそうです。」

元治「今日は、一樹に美味しい煮物を供えようかの。」
322RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:06:26.98 ID:ijr5eMRj

マツ「よかった……! 何度となく、薔薇屋敷に行ってみようか
   と思うほど胸騒ぎがして…… 無事でよかったですよ。」

蒼「ご心配、おかけしまして……」

元治「いやあ、この子らが居なければ解決はできんかったろう。
   そして……一樹もな。」

マツ「ふふ…… さあ、お茶を淹れましょうかね。」


 ……新年最初の「大仕事」を、無事に完了させることができて、
本当によかったわい。時計職人冥利に尽きるというものじゃ……
蒼星石と翠星石も、庭師としての大仕事を果たせて喜んでおった。

 ……そして、13日後の、日曜日の昼間のこと。
薔薇屋敷から、一本の電話がかかってきた。
323RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:20:56.49 ID:ijr5eMRj

[2005/01/23 12:21]
[柴崎時計店。]

蒼「時計、出来たんですか!?」

元治「おお、今しがた電話があってのお。マツから聞いたよ。」

マツ「ええ。是非とも姿を見てほしいと。ジュンくんと、双子の
   お嬢ちゃんも一緒に、って。久々に、行ってみましょうか。」

元治「今日は日曜だから、ジュンくんも家にいるじゃろう。」

蒼「あっ、それなら薔薇屋敷に行くように電話をしておきますよ。」


 この3人で薔薇屋敷へ行くのは、初めてじゃな。一樹と3人で、
初めてこの道を歩いたのは、もう38年くらい前になるのかな。
一樹も、丁度蒼星石と同じくらいの背丈じゃった。

 さて、蒼星石がやってきて、春で3年になる……。
薔薇屋敷への道すがら、少し思い出してみようかの……。
本当に、色々なことがあった。
324RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:59:15.11 ID:ijr5eMRj

[2002/04/08 16:59]
[柴崎時計店。]

元治(62)『…… 一樹…… 一樹……』

元治『……さて、そろそろ5時か……マツのタオルを変えねばな』


ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー……
元治『……どれだけの時間が経ったか。一樹が出て行ってから、
   マツの気が晴れぬまま……』


ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー
元治『……!?』

元治『おかしい…… ハトが出てきておらんのに』

ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー ……パカッ
元治『ぬう、電池の変え時か…… おや?』

元治『ハトが何かくわえておる……どれどれ……
   「……まきますか まきませんか」』
325RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:10:44.49 ID:ijr5eMRj

[17:08]
[居間。]

元治『……おや、あんな所に鞄を……危ないじゃないか……』

元治『いつ出したかのう…… 思い出せん……』

パカッ
元治『……? これは…… 薇が入っておる。
   これを……巻けばよいのか?』


キリキリ……キリッ カチッ

……
蒼『……っ、 ここは…… 』

元治『かずきいいい……!! どこに行っておった……
   どこに……!!』

蒼『…… ……』


 この1か月ほど後、翠星石たちが蒼星石を迎えに来た。
あの時は、わしもマツも、完全に我を忘れて……影に、縛られて
おったっけな……。
326RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:27:19.57 ID:ijr5eMRj

 ……それから、4ヶ月が経ち……今度は、蒼星石までもが、
どこか遠くに行ってしまった……。あの、『アリス・ゲーム』と
いう戦いに、巻き込まれたのじゃったな……。


[2002/09/01 18:02]
[柴崎時計店。]

カラカラ……
翠『……』

ジュン『ごめんください……』

元治『……いらっしゃい。…… 翠星石じゃないか。
   時計でも、壊れたかね?』

ジュン『その…… 蒼星石……を……』

元治『そうか…… 坊ちゃん、翠星石……ありがとうよ……』
327RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:40:02.58 ID:ijr5eMRj

元治『……4日前、指輪が消えておったよ。……そうじゃなぁ、
   26日の、夜半過ぎに蒼星石が来てのう……。たたかい、
   アリスゲーム……じゃったかな』

翠『……うう…… ううぐっ……』

元治『……泣かなくとも、よいぞ。蒼星石は、ここにおる……』

翠『おじじ…… うう……っ』

ジュン『……すいません……護れなくて』

元治『なぜ、君が謝るのかね? ……大方、話は聞いておる……
   蒼星石もだいぶ悩んだと……じゃが、これが宿命だと……』

翠『……っぐ、こんな宿命があって……たまるか、ですぅ……
  た、たましいが……ただ遠くへ、行ってるだけですぅ……
  よ、呼ぶ声が……すれば、その……うあああ……!!』

ジュン『……僕、蒼星石たちを……助けます。必ず救います。
    どれだけ時間がかかっても……ですから、それまでは
    ここに……蒼星石を……』
328RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:46:20.04 ID:ijr5eMRj

元治『……坊ちゃん、名前は何と言うのかい?』

ジュン『……桜田、ジュンです……翠星石と、真紅の契約者で、
    それと雛苺もいます……』

元治『そうか…… ジュンくん。』

ジュン『……はい』

元治『……蒼星石を……助けておくれ……! それまでは、
   ジュンくんのもとに……翠星石のもとに……置いてあげて
   ほしい……長年、安らげはしなかったじゃろうて……。』

ジュン『それで、いいのですか……?』

元治『もちろん…… わしやマツが一樹のことで悩んでいた時、
   助けてくれたろう。一樹も、もう大丈夫だと言ってくれた。
   蒼星石たちがいなければ、気づけはしなかったろう……。』
329RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:48:44.99 ID:ijr5eMRj

翠『……おばばにも、会わせてくださいですぅ……』

元治『マツは……今、買い物に行っておる。もうしばらくすれば
   帰ってくると思うがの……』

翠『そう……ですか…… なら、おばばにもよろしく言っといて
  ……もらえますか……?』

元治『……うむ。……また、いつでも遊びに来るがよい……。』

ジュン『……ときどき、蒼星石を連れてきます……。』


 あの時の、ジュンくんの決意に満ちた瞳は、忘れてはおらぬ。
一葉さんが、ピヴォワンヌさんの夢の世界へ行くと決意した時の、
あの表情に、瞳によく似ておった。
330RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:50:55.73 ID:ijr5eMRj

 そして、それから半年後…… まだ冬の寒さが残るころに、
彼は、約束通り、蒼星石を、そして蒼星石の妹たちを、救い出し
てくれたのじゃ……。


[2003/03/01 08:32]
[柴崎時計店。]

元治『さて…… 今日も始めるとするか……』

トントン……
元治『おや、こんな早くに…… 翠星石かな?』

元治『はいはい、今開けるぞい……』

カラカラ……
元治『いらっしゃ…… !?』

蒼『……ただいま、マスター……遅くなりました……』
331RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:53:54.51 ID:ijr5eMRj

ポオッ……!!
元治『……これは……奇跡が…… 指輪が戻っておる……!
   蒼星石……!』

蒼『心配をおかけして、……ごめんなさい……』

ガシッ
元治『いいんじゃ……よく、戻ってきてくれた……蒼星石よ……
   本当に、よく……つらかったろう。じゃが、もう心配は、
   無用なんじゃ……!』

蒼『……マスター……!!』

マツ『おやおや、誰か来て……あなた!? どうかなすって……
   あら! その子は……蒼星石かい!』

蒼『ただいま……おばあさん』

マツ『まあ……! お帰りなさい、蒼星石!』

蒼『ほんとうに……今まで、すみません……!!』
332RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:56:02.61 ID:ijr5eMRj

マツ『いいんですよ、ここに帰ってきてくれたことだけで、十分
   ですから。一樹も、笑ってくれていますよ。蒼星石、朝の
   ご飯は、もう食べてきたんですか?』

蒼『は、はい! ジュンくんの家で……7時半ごろに!』

マツ『なら、いますぐお茶を淹れましょうかね。ささ、上がって。』

蒼『はい……! ……ますたあ……!!』

元治『……これこれ、泣くでない……。』


 そして今、こうして平穏に暮らせておる。人生とは本当に奇妙
なものだ、いつ何が起こるかは分からないが、時に、素晴らしき
出会いをくれる。それが、マツや一樹であり、ジュンくん達、

 ……それに、蒼星石たち薔薇乙女じゃな。
333RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:04:49.89 ID:ijr5eMRj

[13:01]
[薔薇屋敷、庭。]

元治「ほう、これがあの大時計……いやあ、立派じゃ。」

ジュン「おおーっ、すげえ……!!」

翠「こ、こりゃあ懐中時計のばけもんですかぁ!?」

蒼「一葉さんと二葉さんの懐中時計を合わせたデザインだよ。
  これが時計の写し。」

翠「……ふむふむ、なるほどです……それで、ど真ん中に縦線が
  入ってるですねぇ。」

ジュン「しかし、屋敷の2階、3階にも届きそうな大きさだ……」


 完成した大時計はさながら、あの夢の中で見た心の樹。
時計に見とれていると、車いすに乗った一葉さんと、その車いす
を押す安倍川さんが庭に出てきた。
334RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:11:01.66 ID:ijr5eMRj

一葉「これはこれは、何から何まで、本当にお世話になりまして。」

安倍川「ぜひまた、いつでもいらしてください。それから蒼星石。
    翠星石も。」

蒼「もちろんです!」

翠「薔薇の世話に行き詰ったらいつでも呼ぶがいいですぅ。」

一葉「それと……昨日、エアメールが届きましてな。あちらが、
   ダイナ号の記事から我が財閥の情報を集め、こちらに連絡
   をしてくださいまして。」

一葉「『遅くなりましたが、本当にありがとうございました』と。
   夫のミレットさんは……『一葉さん、二葉さん。この私が
   ピヴォワンヌを一生涯かけて幸せにします。』と……。」

蒼「それは、本当に良かった……もう、大丈夫ですね!」


 何の柵もない今、一葉さんは幸せに過ごしてゆけるはずじゃて。
この薔薇園と時計が、それを示してくれておる。
335RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:13:40.76 ID:ijr5eMRj

ジュン「そういえば、時計の裏ってどうなってるんだろう……」

一葉「ははは、裏もしっかりと再現してもらっておるよ。是非、
   見てみるとよい。」

元治「うむ。では、拝見させていただきますぞ。」


 時計の裏には、真っ直ぐな樹のレリーフと、懐中時計に刻んで
あったような刻印がなされておった。あの樹は心の樹、その傍ら、
新たに、別の日付が刻まれておる。

 K.Yuibishi F.Yuibishi
  MCMLVII 12th June
 MMV 10th January
  ...forever

336RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:18:00.25 ID:ijr5eMRj

蒼「わあ……!」

元治「これはお見事だ。」

翠「…… ……」クイクイ

ジュン「……なんだ? 裾引っ張って……」

翠「……もっとよく見えるように肩車してくれですぅ。」

ジュン「ほれ。見えるか?」

翠「おお……! 裏の日付は、あの夢を見た日付ですか。」

一葉「うむ。そして、永遠にな…… しかし、双子というものは
   本当に大変だ。命あるもの、皆違うというのにな……姿が
   似ているから、なおさらだ。」

蒼「僕らのように、最初から2人で1人としての宿命があったと
  しても、それは同じこと……」

翠「翠星石は、もしすぐに何とかできないようなことがあったら、
  一番すんなりと寄りかかることのできる存在だと思うです。」
337RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:39:29.86 ID:ijr5eMRj

蒼「それは、兄弟でも、家族でも、他人でも、分かり合える誰か
  との場合でも同じだと思うんです。2分の1でも、7分の1
  でも、8分の1でも…… 中身がてんでばらばらでも。」

元治「同じように分かり合える、糸のようなものがあればよいと
   いうことですかな。」

一葉「自分と誰か、半分ずつをつなぐ糸か。……糸と半で、絆か。
   ハッハッハッ、読んで字のごとくですな!」

元治「ホッホッホ……」


 二葉さんにも、伝わったじゃろう。……心の通い合った己の中
の「半身」をつなぎ合う事、これ即ち、絆であるということが。


          【柴崎元治と結菱一葉の苗樹・完】
338RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 19:08:21.03 ID:ijr5eMRj
 ……以上で、第37話「柴崎元治と結菱一葉の苗樹-びょうじゅ-」は
完結でございます。読んでくださった方ありがとうございました。

 4話にわたった蒼星石とおじじの話では、長い時を経ながらも
消えない何かがあるしそれを伝えることもできるという所を
描きました。

 この第34〜37話を描くに当たり、一葉たちの生い立ちを把握すべく
本家ローゼンのPhase18〜21(薔薇屋敷編)を参考にさせていただき
ました。本当にありがとうございました。

では、第38話までシーユーアゲーン。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/10(土) 20:39:30.87 ID:8ngYU2OI
投下乙です
340名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/15(木) 02:26:30.13 ID:+rIp0hhN
何年か前にこのスレで、合同で長編SS作るみたいなのあった気がするんだけど、あれってどうなったの?
341名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/15(木) 23:04:11.41 ID:Wz5UvP1t
(´・ω・`)知らんがな
342名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/15(土) 17:14:07.20 ID:k4zJuTIn
オワコン
343名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/18(火) 20:10:06.31 ID:DCuTHEV3
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世

SS予定は無いのでしょうか?
344TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/10/20(木) 22:36:01.41 ID:cvUrf9I9
 どうもご無沙汰しております。
ちくと実生活の方が多忙を極めており、今日からまた
遅くも筆を執ることになりました。

とりあえず次回予告。

38【草笛みつと金糸雀の展望】

今月中に投下予定です。それでは、また。
345TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:45:48.92 ID:8cSZo3G3
 遅くなりまして誠に申し訳ございません。
ようやく投下体制整いましたので投下しますよ。
それではいきます。


38【草笛みつと金糸雀の展望】
346RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:49:28.69 ID:8cSZo3G3

[2005/02/13 13:08]
[草笛家。]

金糸雀「みっちゃーん、今日のお昼ごはんはー!?」

草笛みつ「さっき出来たよ! 名付けて……『ふわふわハートの
     スーパーオムそば』! たんと召し上がれっ!」

金「わぁ……! とってもきれいかしら! いただきまーす!!」

みつ「よーし、みっちゃんもいっただっきまぁす!」


 2月13日日曜日、快晴! 今日もカナとお昼ご飯を食べて、
みっちゃんも満足です。そう、私は草笛みつ。服飾パタンナーに
してドールコレクター、そして金糸雀の契約者です!

 パタンナーとはいっても、つい最近までは有名じゃなかったし、
桜田ジュンくん……ジュンジュンに出逢うまでは言ってしまえば
ただのOLだったわけで……

 やっぱり、この子(カナ)が来てから、劇的に生活が変わった
ような気がします。
347RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:52:50.55 ID:8cSZo3G3
[13:20]

みつ「よーし、カナ、今日はおでかけするよ!」

金「おでかけ? どこへ行くの?」

みつ「そうだねー、たまには色んなところをブラブラしたいなー。」

金「ちょっとふらーり放浪の旅、ってやつかしら?」

みつ「そんなところかな!」


 私が休みの日は、カナとコスプレとか撮影会をして遊んでます。
たまーに、どこか出かけたりするけど、大体ジュンジュンの家に
行って、同じように撮影会になっちゃいます。

 今日は、とても気分がいいんで、カナたちがいつもどんな所で
遊んだりしてるかを私も体験しようと思います! 普段は仕事で
あまり外にも出ないし……たまには体を動かさないとね。

 カナにも、この間買った私とお揃いの黄色いダウンジャケット
を着てもらって、そしてセットで買った向日葵の花のような帽子
を被ってもらって、いざ出発!
348RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:55:01.85 ID:8cSZo3G3

[13:34]
[いつもの公園。]

みつ「へぇ、ここでよく蒼星石ちゃんたちと遊ぶんだ。」

金「うん! 大体はアクティビティに遊んでるかしら。鬼ごっこ
  とか、かくれんぼとか、キャッチボールとかしてるかしら!」


 家から少し歩いたところにある、小さな公園。カナ達は、ここ
とかジュンジュンの家の庭とかでお茶会を開いたり、鬼ごっこや
かくれんぼをして遊んでるみたいです。


みつ「そうなんだー。私もよく、こういう所で遊んだっけ。」

金「みっちゃんは何をして遊んでたの?」

みつ「おままごとかなぁ? お人形を山ほど持ってきて、ここで
   筍族ごっことか、男の子がミニカーを持って来たら、砂場
   でパリダカごっことかやってたよ。」
349RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:57:05.71 ID:8cSZo3G3

金「ああ、お正月のあたりにテレビでやってたかしら。しかし、
  みっちゃんもずいぶんとスケールの大きな遊びをしていたの
  かしら。」

みつ「まあ、カナたちと同じように、鬼ごっことかかくれんぼも
   していたと言えばしてたかな? みっちゃんは、いちばん
   捜しだすのがうまかったけど……」

金「……何分間で全員捕らえたかしら?」

みつ「最高記録は……確か7人を10分かな?」

金「ってことは……うん、大体雪華綺晶と同じぐらいかしら。」


 おっ、きらきーちゃんと同じくらい、か……。探してるものを
すぐ見つけ出すイメージがあるから、かくれんぼとか鬼ごっこは
うまいのかな?
350RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:59:23.92 ID:8cSZo3G3

みつ「きらきーちゃんが一番見つけるのがうまいの?」

金「いいや、もっと上がいるわ! 雛苺、この前は4人を……
  ……2分で見つけ切ったかしら。」

みつ「どんだけっ!? すごいんだねー。」


 なるほど、雛苺ちゃんが一番こういう遊びがうまいのかぁ。
巴ちゃんが学校に行ってる間に、たまに家に遊びに来るみたいで、
カナが夕飯の時に話をしてくれます。


金「しかも、隠れたら絶対に最後にしか見つからないかしら。
  ……大体、いつもカナと1と2を争ってるかしら。」

みつ「へぇー…… ここって、カナたち以外にも、誰かしら来る
   でしょう? そういう時ってどうしてるの?」
351RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:04:50.59 ID:8cSZo3G3

金「まあ、ひとりやふたりしか来ないけど、チビッ子に混ざって
  遊ぶこともあるわ。それと、紙芝居のおじさんかな? 大体
  2週間に1回くらい来るかしら。」

みつ「そうなんだ。紙芝居のおじさん、活躍してるねぇ。」


 私が幼い頃、公園で遊んでいると、夕方くらいに、自転車に乗
って現れて、紙芝居をしてくれるおじさんがいました。この町で
も紙芝居のおじさんが名物みたいです。

 豆腐屋さんとか焼き芋屋さんも通るけど、自転車のこの人は、
公園の中まで入ってきてくれて、みんなに紙芝居を披露してから
颯爽と去っていく……そういう人です。
352RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:07:08.11 ID:8cSZo3G3

金「みっちゃんも逢ったことあるの?」

みつ「うん。ずっと昔から、この国では有名なんだ。この辺でも、
   カナが来る前から結構噂になってる人がいるよ。たしか、
   腹巻のおじさんと、なんか黒い服のおじさんがいて……」

金「カナたちは鉢巻と腹巻をしてるおじさんしか逢ったことない
  かしら。」

みつ「腹巻のおじさんは、仕事帰りとかにすれ違うことはあるね。
   日曜に会社に行くときとか公園の近くを通ったら、そこで
   紙芝居やってるのを見たことがあるよ。」


 ちょっと前にジュンジュンから聞いたけど……ジュンジュンは
その黒い服のおじさんに逢ったことがあるみたい。あいにく顔は
はっきりとは見えなかったけど、雰囲気が違うと言ってました。
353RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:11:01.43 ID:8cSZo3G3

[14:18]
[道中。]

 さて、公園を出たらしばらく歩きます。10分くらい歩いたら、
何やらすごい存在感を醸し出す古びた教会が見えました。そこは、
カナたちにもゆかりのある所だったんです。


金「こっちはー…… 古い教会かしら。最近、水銀燈はめぐの家
  にいるみたいで、ここにはあんまり来ないみたいだけど……」

みつ「誰もいないねぇ。そういえばこのあたりで、夜中に天使を
   見たー、なんていう噂が職場で流れたっけ。」

金「……それ、きっと水銀燈かしら! 夜中に見つけるなんて、
  よほど目が良かったのかしら?」

みつ「まあ、銀ちゃんもカナも、天使には変わりないけどね♪」

金「もう、照れるかしら…… もうちょっと行ったら、病院だわ。
  めぐがずっと入院してたっていう……」
354RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:14:29.34 ID:8cSZo3G3

 ここからでも一際目立つ大きな病院。この辺りだと10階建て
でもかなり大きい方。噂の『有栖川大学病院』です。


みつ「ああ、ここに…… あれ? 今出てきたの、ひょっとして
   めぐめぐじゃない?」

金「(めぐめぐ……?!)本当かしら。確か、月1で健康診断を
  受けに行ってるって水銀燈が言ってたかしら…… あらっ、
  裏の原っぱにその水銀燈がいるかしら。」

みつ「めぐめぐ、水銀燈を迎えに行ってるみたいだね。」

水銀燈「あら、金糸雀に、みつじゃなぁい。ごきげんよう。」

柿崎めぐ「こんにちは、今日はどちらまで?」

金「適当にブラブラしてるかしら。日曜日だから、みっちゃんも
  お休みだし、たまにはいいかな、と思って。」
355RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:19:10.83 ID:8cSZo3G3

 すらっとした体格の、黒髪が素敵な女の子が柿崎めぐちゃん。
銀ちゃんを肩に乗せて、幸せな表情をしています。2人が逢った
のは、3年前の、あの夏になってからだったそうです。


銀「ああ、それでねぇ…… とりあえず、人が増えてくるから、
  迷子にならないようにしっかり掴まっときなさいよ。」

みつ「まかせてよ〜! 絶対離さないわ!」

銀「いや、今のは金糸雀に言ったのだけどぉ……」

めぐ「ふふ…… 愉快ですね、みつさんは……♪」

みつ「いやぁ〜、よく言われるんだー。めぐめぐったら核心突く
   のがウマいというか……」

めぐ(めぐめぐ……?)
356RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:23:46.90 ID:8cSZo3G3

金「あはは……とにかく、気を付けとくかしら。めぐこそ、風邪
  とかには用心するかしら。」

めぐ「ありがと、金糸雀。そのあたりは大丈夫だよ。昔から気を
   遣ってきてるからね♪ ……あっ、もう2時半になるんだ。
   パパ、おやつを作るって言ってたわ。」

銀「めぐのお父様、今日ケーキを作るって張り切ってたわねぇ。
  早いところ戻りましょうか。 それじゃあね、金糸雀、みつ。」

めぐ「じゃあ、私たちはここで……」

金「バイバイかしらー。」

みつ「またねぇー!」


 ケーキと聞いたら、少しお腹が空いてきました。そういえばもう
2時半。いつもだったら、カナとおやつを作り始める時間です。
家路寄り添う二人の横顔が穏やかで、しばらく見とれていました。
357RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:26:36.51 ID:8cSZo3G3

みつ「ちょっとお腹すいたぁー。何か甘いもの買っていかない?」

金「この辺には『和菓子さとう』と『不死屋』、『ナノカドー』と
  あと『ローリン』があるかしら。」

みつ「おおっ、カナよく知ってるんだ! 一番近いのは?」

金「このあたりをよく偵察(……というかお散歩だけど)してる
  から、楽勝かしら! 一番近いのは不死屋ね!」

みつ「よぉーっし! レッツラゴー!」

金「レッツラゴー!!」


 カナの行動力の大きさを実感した瞬間でした。カナ、すごーい!
日傘を使って、空からこの町を見てきたから、頭の中にこの辺り
の地理が叩き込まれてるみたいです。私はたまに迷うけど……
358RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:29:24.01 ID:8cSZo3G3

[14:36]
[洋菓子 不死屋。]

みつ「さーて、何にしようかなー……」

金「やっぱり、モンブランかしら? うーん……」

ウィーン
鳥越「いらっしゃいませー。」

金「? あっ、巴かしら!」


 私たちがおやつのメニューに迷っていると、巴ちゃんがお店に
来ました。外が寒いせいか、お店の中に入ったとたんに、ほっと
一息ついて手袋を外していました。


巴「あっ、みつさん、金糸雀! こんにちは。」

みつ「こんにちは〜! トモトモもおやつを買いに?」
359RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:35:39.34 ID:8cSZo3G3

巴「(トモトモ……?)ふふっ、はい、おやつというか……その」

金「? 巴……?」

巴「ふふっ、雛苺のおやつを買いに来てるんです。昼前に雛苺が
  桜田君の家に行ったから、そろそろアレ、食べたい頃かなと
  思って……私も、桜田君の家に今から行くところで。」


 雛苺ちゃんのおやつといえば、すぐに苺大福が思い浮かびます。
慣れた感じで、早々と20個の苺大福を注文していました。私も
食べたくなってきた…… カナもさらに悩んでいます。


みつ「ああ、ジュンジュンの家に! 苺大福ねぇ。」

金「折角だからカナたちも苺大福にするかしら!」
360RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:45:01.18 ID:8cSZo3G3

巴「ふふ…… みつさんたちはどこへ?」

みつ「日曜日だし、あちこちブラブラしてみようかな、と思って。」

巴「それなら、玄武百貨店なんかどうですか? ここからなら、
  歩きだと少し距離はありますけど、金糸雀とお喋りしてたら
  すぐ着きますよ! 眺めのいい屋上がおすすめです。」

金「屋上?」

巴「うん。確か去年のクリスマスイブだったかな……その時に、
  桜田君と行ったんだけどね。見晴しもいいし、この辺りなら
  よく見渡せるんだよ。たまーに、雛苺ともそこに行くんだ。」


 おおっ、ジュンジュンもスミに置けないというか。聞いた話、
この二人は幼馴染で小さいころはよく一緒に遊んだとか。まあ、
大きくなっちゃったら他人同士になるというのはよくある話で。

 これも、この子たちがめぐり合わせてくれたのかな……? ま、
そのあたりは本人たちに聞いてみないと……。
361RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:12:03.32 ID:8cSZo3G3

金「今日はピーカンだし、偵さ……散歩するには丁度良いかしら。
  よぉーし、みっちゃん、これは行くしかないかしら!?」

みつ「ねぇトモトモ、何かバーゲン的なものはやってないかな!?
   かなかな!? 私、あんまりデパートには行かないから、
   その辺よく分からなくて……」

巴「今日は日曜日だから、何かやってると思います。まだ今日の
  新聞についてるチラシは見てないですけど……」

みつ「よっしゃァァ! カナ、おやつ買ったら、行くよっ!!」

金「合点承知! じゃあ、またねかしらァ!!
  あっ、これ大至急ください!」

鳥越「は、はあ…… 苺大福ですね」

巴「……ふふっ、本当に仲がいいんだねぇ。」


 バーゲンがあるとなれば、善は急げ、なるだけ早く現地に着か
ねばっ! カナは飛んだりとかできるけれど、私は走るしかない
から、とにかく急ぎました。
362RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:16:15.02 ID:8cSZo3G3

 ……けど、無理はするもんじゃないですねえ…… ろくに運動
をしないせいか、デパートに入るころにはもうクタクタ。屋上に
着くやいなやベンチにへたり込んじゃいました。


[15:03]
[玄武百貨店 屋上。]

みつ「っはあぁ……ああ、疲れたぁー……」

金「殆ど全速力で走るからかしら!? ……15時半からの
  スーパーチョコフェアには間に合いそうだけど……
  カナもちょっと疲れたかしら……」

みつ「こうみえても私……昔は速かったんだよ……ぉぉぉ」
クテッ

金「わああ……みっちゃんしっかりするかしら! ななな、何か
  飲んで落ち着いたほうが……!?」

みつ「よ、よぉし…… そこの自販機で…… はひー」

金「もう、みっちゃんったら…… カナははちみつレモンにする
  かしら♪」

みつ「じゃあ、みっちゃんもそれにしようかな! じゃ、まずは
   カナから! おっ、紙パックだから少し安いんだ!」
363RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:21:24.17 ID:8cSZo3G3

ガコンッ

 勢いよく払い出されたジュースを取ろうとしたとき……軽快な
電子音が! この音はもしや……!

ピピロピロピロ……
みつ「こ、この音は絶滅危惧されている『当たり付自販機』!?」

金「これって確か槐のお店の近くにも1台だけあったかしら。
  当たるかな……?」


 ルーレット式になっているランプを、私とカナで二人して見つ
めていると……

ピコーン! テーテッテテー♪

みつ「わわわあああ!! 当たった、当たったよぉーカナぁ!」
ピョンピョン

金「いいい、一発で当てるとは、さすがみっちゃんかしらぁ!」
ピョンピョン

みつ「どどどどどーしよう、どーしよう!?」アタフタ

ピッ
金「……あれ?」

ガコン
みつ「……あれ?」
364RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:26:28.03 ID:8cSZo3G3

 どうやら、予期せぬアクシデントが起こったようです。
取り出し口には、おしるこが一つ。


金「……何かの拍子に腕がぶつかっちゃったかしら……?」

みつ「まあ、おしるこもあたたかいから、いいや♪
   よし、今度カナにもつくってあげるよ!」

金「ほんとかしら!? おしるこは決まって正月だったから……
  とてもご無沙汰かしら。」


[15:19]

 3時を回ってから、少し寒さが増してきたようです。吐く息が
白く出ては消えていきます。カナは人形だってことも、忘れそう。
二人でベンチから、辺りの景色を眺めていました。


みつ「トモトモが言ってたように、ほんとに見晴しがいいねぇ。」

金「けっこう静かかしら…… 遊園地みたいなものはあるけど、
  ほとんど人が居ないみたい……」

みつ「まあでも、落着けるからいいよね。今度からもっとここに
   来てみようかな? マンションの屋上でもいいけど……」

金「みっちゃんの住んでる辺りには、マンションと病院以外には
  高い所もないし……こういう所も、たまにはいいかしら!」
365RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:31:22.73 ID:8cSZo3G3

 その後、ふらっと小さなゲームセンターに寄ると、小さい頃に
遊んだゲームがまだ現役で動いていて感動したり、カナにUFO
キャッチャーのぬいぐるみを取ってあげたらカナが大喜びしたり。

 ひととおり遊んでから、またベンチで一休み。ずっと私の横を
チョコチョコとついてきてくれるカナを見て、また私のとなりに
ちょこんと座るカナを見て、ふっと思いました。


みつ「やっぱ、カナが居ない生活なんて……考えられないかな。」

金「みっちゃん?」

みつ「いや、本気だよ。ずいぶん前……3年前の夏になるのかな。
   カナが戻ってこなくて、ずっと雛苺ちゃんと映ってる写真
   を見てた時に、なぜだかすっごく、切なくなって……」

金「……」

みつ「ナーバスになってた私を、カナは励ましてくれたよね?」

金「うん……」
366RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:36:22.67 ID:8cSZo3G3

みつ「2年前の2月28日に、ジュンジュン達と頑張れたのは、
   カナが、カナ達がいたからだね、今頃だけど……
   たぶん、将来もし結婚することがあって、子どもが出来た
   としても……カナは絶対に離さないから。頭の中から離さ
   ないから。」

金「みっちゃん……! それは、カナだってそうかしら。
  カナもずっと憶えてるかしら! カナの記憶力は、伊達じゃ
  ないわ!」

みつ「あははは……今でも、思い出すなあ。カナが初めて、家に
   来た日。」

金「……?」

 
 二人で、雲の隙間からのぞく透き通った空を見上げてみます。
思えばあの日も、4月にしては少し寒い、そんな昼前でした。
367RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:38:47.68 ID:8cSZo3G3
―――――――――――――
[2002/04/05 11:31]
[草笛家。]

みつ『さあて今日も、例の情報収集っと参上ー……』

□幻のローゼンメイデンがここに  2002/04/05 07:04:58
□ローゼンメイデン情報Vol.X   2002/04/05 07:17:25
□なんでだローゼンメイデン    2002/04/05 08:41:55
□本物のローゼンメイデン売ります 2002/04/05 09:04:03
□超人気ハリケン・ローゼン等々 2002/04/05 09:18:29

みつ『うーん…… 見たところ全部ガセねぇ……』

みつ『Zちゃんねるもあたったけど、スレは25スレも進展なし。
   まあ、相手はマニアも泣いて欲しがる、あの伝説ローゼン
   メイデン……仕方ないかなぁ』


ピロン♪
みつ『……あれ? メールが……』


□おまでとうごぢざいます! 2002/04/05 11:31:57
368RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:41:21.59 ID:8cSZo3G3

みつ『オークション? ……おかしいわね、今日はとくに落札は』

――――――――――――――
 mitsu-k様
 おまでとうごぢいます
 ローゼンメイデン第2ドール
 オークしょんの結果、見事にあなたが落礼しますた!
――――――――――――――

みつ『……しますた って…… 誤字ありまくりだし……
   というか何かもう落札したことになってるし……
   何なんだろう……?』

みつ『って、ローゼンメイデン!? いや、まさかそんな……』

――――――――――――――
 まくばあいはこのメーリに返信してくばさい

 1.まきますか 2.まきませんか
――――――――――――――

みつ『…… まく……? これって……』

369RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:43:53.80 ID:8cSZo3G3

[12:59]

みつ『さてお昼も買ったし、帰ったら服のパターン考えなくちゃ。
   お昼になってからいくらか暖かくなってきたなぁ……』

みつ『たっだいまー! って……』

みつ『……!? この鞄…… ……いや、まさかねぇ……
   ……この大きさ、この前落札しといたビスクドールかも!
   ちょっと開けてみよう』

みつ『薇……? まくって……これかな? 立派なお人形だけど
   ……70cmはあるかな……かなり大きいねコレ』


キリキリキリ…… カチッ!

みつ『おっ、巻き終わった! 薇人形という事は動……』

パチッ
金『…… ……』

みつ『…… ……!?』
370RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:45:49.08 ID:8cSZo3G3

金『……ここは あっ、今の時代に目覚めたのかしら。
  ずいぶんとお人形の多い部屋かしら……』

みつ『(し、しゃべった!?)……?! あなたは……』

金『ローゼンメイデンの第2ドール……一の策士・金糸雀かしら。』

みつ『…… ……え、今 な、なんて……?』ドクンドクン

金『…… ……ローゼンメイデンの、第2ど』

みつ『きゃあああああああ! この子超プリティー!!
   しかも探し求めていたローゼンメイデンんんんん!!
   かわいいいいいいい!!』
ギュギュッ

金『えっ!? ちょっ…… わわわ!?』
371RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:10:33.83 ID:8cSZo3G3

ガタガタッ ピンポンピンポン
金『ひええ!? な、何なのかしら!?』

みつ『わああっ、こりゃマズイ!』

トントントン
『どうしたんすかー!! 草笛さんどうしたんですか!!』
『泥棒でも入ったんですか!!』

みつ『あっ、ちょっと待ってて! いや違うんですうコレは!』

金『…… ……』ポカン

――――――――――


みつ「あの時は興奮しすぎて、隣の部屋の人と向かいの部屋の
   人が心配してドアを叩いてきたっけ。」

金「ハハハ…… そうだったかしら?」

みつ「オディールさんが越してくる前は、お向かいさんは大学生
   のお兄さんで『どうしたんすかー!』って叫んでて……」

金「そういえば、最初の時はかなりドタバタしてたかしら……
  まあ、今もだけど。」

みつ「あはは……」
372RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:16:09.85 ID:8cSZo3G3

金「さて、チョコフェスタ? もう始まっちゃうかしら!
  早いところカナを背負うなり鞄に入れるなりするかしら♪」

みつ「よぉーし! しっかりつかまってて!
   レッツ『みっちゃんのぼり』!!」

金「了解かしらー!」 


 ダウンジャケットをキメて向日葵の帽子を被っちゃえば、小柄
な子どもと変わらない感じになります。……3年経った今でも、
本当にカナは人形なのか分からないときがよくあります。

 そういえば明日は2月14日、チョコレートの日。日頃お世話
になってる人たちにも、買っていこうかな? もちろんカナとは、
お揃いのチョコレートを買いました。
373RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:18:45.69 ID:8cSZo3G3

[16:22]
[帰り道。]

 帰り道では、雛苺ちゃんや銀ちゃん、翠星石ちゃんのお友達と
いう3匹の猫に逢いました。カナも、この猫たちに逢ったことが
あったみたいで、よく懐かれてました。


金「しかし、いつもと違う格好なのによく分かったかしら。
  まあ、カナも雛苺たちの姉妹だから、似てるっちゃあ似てる
  けれども……」

みつ「ほれほれ、カナのマスターやってるみっちゃんですよー。」

猫「……にゃあ」
黒猫「うにぃー」
ぶち猫「みゃあ」

みつ「おー、よしよし。」

金「みっちゃんったら…… 速攻で仲良くなったかしら?」
374RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:21:29.98 ID:8cSZo3G3

[16:38]
[草笛家。]

金「ただいまーかしらー!」

みつ「たっだい……あれ? 何かしらこの箱……」

金「『A賞』って書いてあるかしら…… あれ? あっ、これ!」

みつ「えっ、何か知って…… あ! これってもしかして……!」

金「雪華綺晶とはがきを出しに行った時の…… ずいぶんと後に
  なったかしら……」

みつ「全員サービスだとか言ってたけど、やっぱりこういうのが
   届くとうれしいね! よーしカナ、開けるよ!」

金「オッケーイ! 鋏は……いや、カッターの方がいいかしら
  はい、みっちゃん!」

みつ「レッツ、ご対面〜!」
375RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:28:50.53 ID:8cSZo3G3

 家に帰ると、去年の夏に応募した懸賞の賞品が届いていました。
私の代わりに、カナがきらきーちゃんと一緒にポストまで葉書を
出しに行って……その時の冒険も、カナが熱く語ってくれたっけ。

 箱をそっと開けてみると、なにやらでっかいぬいぐるみが2つ。


金「……『くんくんぬいぐるみ超ディテクティブバージョン』
  それと『超限定ケンケン1/1ぬいぐるみケース』かしら!」

みつ「ケンケンって? くんくんのほかにも探偵が!?」

金「5期から出てきた、くんくんの弟子かしら!」

みつ「ふむふむ……ダンディーとセクシーがくんくんで、
   プリティがケンケン……といった所かな?」

金「……分かりにくいかしら……しかもちょっと違うかしら……」


 どうやら真紅ちゃんたちもこれに応募してたみたいで、今頃は
同じように賞品を開けて……大騒ぎしてることでしょう!
376RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:33:53.77 ID:8cSZo3G3

[20:02]

ミヤケ[それでハマダさん、明日はバレンタインですけれども]
ハマダ[もう家族おるがなァ。大明神に何か供えとけェ]
ミヤケ[アスリートのみなさんは……]



みつ「今日の晩御飯は〜、『星の玉子様カレー』と『だし巻き卵』
   だよー!! たんと召し上がれ!」

金「カナの好きなカレーライスかしら! 甘くて美味いかしら♪
  おお、人参とかもハート形になってるかしら!」

みつ「その辺は気合入れて作ったよ! ふふふ、よかったー、
   とっても喜んでもらえて♪」

金「もちろんかしら♪」


 美味しそうにご飯をほおばって、満面の笑顔を見せてくれる
カナを見てると、ご飯を作るにしても気が入っちゃいます。
残業で11時くらいに帰ってきても、私を出迎えてくれることも
あるので、疲れも吹っ飛びます。
377RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:36:34.15 ID:8cSZo3G3

[20:58]

みつ「ホント、色々あったけど……今こうやって居られて、
   みっちゃん幸せだなぁ。」

金「ふふ、それはカナも同じかしら。この時代に来てから、色々
  知ってきたし……」

みつ「今だってカナのこと、まだまだたくさん知りたいし」

金「たとえば?」

みつ「カナの、……誕生日とか……」

金「……うーん…… カナもなんだか思い出せないかしら……」

みつ「……まあ、思い出せるまでは、初めて家に来た4月5日に
   卵焼きケーキ作ってあげようかな!」

金「ま、それでもいいかしら! ……卵焼きケーキ!?
  それは……いけるのかしら!?」

みつ「みっちゃん張り切っちゃうよォー! もちろん、激甘で!」
378RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:38:02.52 ID:8cSZo3G3

金「ふふ……♪ やっぱり、甘い玉子のもとには何にも敵わない
  かしら!? フワッとしてグッと来て、いただきかしら!
  ……っと、もうこんな時間かしら。」

みつ「よーし、今日は仕事も残ってないし、ご飯の前にお風呂も
   入っちゃったし、寝ましょうか!」

金「レッツ就寝かしら! おやすみ、みっちゃん!」

みつ「おやすみー! また明日!」


 今夜の夢には、玉子焼きにかぶり付くカナたちが出てきそう。
今日は何だかいつも以上にカナとの未来を展望したけど、やはり
とっても明るそうです。明日は晴れるかな、カナ?


               【草笛みつと金糸雀の展望/おわり】
379名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/15(火) 23:39:24.59 ID:JZf0amby
投下乙です
380TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:41:30.25 ID:8cSZo3G3
 ……ハイというわけで、第38話「草笛みつと金糸雀の展望」は
以上で終了です。読んでくれた方本当にありがとうございました。

 またもや投下が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
とりあえず第3部は、あと4話くらいです。

 それでは、急激な気候変化と風邪に気を付けてグッナイ!
381TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:47:51.05 ID:8cSZo3G3
>>339>>379
いつも乙ありがとうございます、本当に励みになってます。

>>340
10スレ目の678にて残念ながら凍結されたとの書き込みがありましたが、
なんだか実現したら面白いと思います。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/17(木) 01:23:44.03 ID:GL/ohHpI
>>340 >>381
合同でSSって、リレー小説みたいなもの?

それとも全体のストーリーを決めてから章分けして各章を分担するやつ?

面白そうだ。……書き手が最低二人、できれば3人以上必要だけど。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/17(木) 07:34:54.84 ID:yk/V5AxD
書き手一人しか居ないように思える最近の傾向
384名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/18(金) 16:19:10.57 ID:TQmV1G8u
>>6-8を書いた者ですが、時間はあるけどネタが浮かばずでごんす。
連作か何かでよければ参加できます。

ネタ提供があれば、一人で書ける場合もあるかも。
385名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/20(日) 04:30:12.82 ID:zfbP/brZ
いつも書き込みしてるところに書き込みできないからもう最後の癒しの場だここは
386名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/25(金) 11:35:23.59 ID:+wEmxeDg
投下スレでそんなこと言われても
ならSS書いてよ
387名無しさん@お腹いっぱい。:2011/12/13(火) 22:13:26.06 ID:w1D58ZIp
読み専ですが保守させていただきます
388TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/12/31(土) 11:58:32.54 ID:Ye8PCs+a
ご無沙汰しておりましTEGでございます
なかなか投下できずにすいませんorz

次の話は年明け1週目には投稿しようと思いますので
もう少しお待ちください……

次回予告RozenMaidenFortsetzung第39話
【槐と薔薇水晶の……
皆様、よいお年をお過ごしください。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2012/01/02(月) 11:25:28.79 ID:BZLBcAmQ
あいさー
390TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:13:44.85 ID:3l9q+lot
スレのURL変わってて焦りました、TEGでございます。
あけましておめでとうございます。
たいへん長らくお待たせしました、今から投下していきます。

39【槐と薔薇水晶の丹誠】
391RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:16:03.22 ID:3l9q+lot
【槐と薔薇水晶の丹誠】

[2005/02/19 12:47]
[Enju Doll。]

槐「よし、直ったぞ」

奈々「わあ! ありがとう!!」

奈々の母「よかったねぇ、奈々。」

槐「またどこか壊れたら、来るといい」

奈々「はあい!」

奈々の母「本当にありがとうございました!」


 2月19日、薄曇り。暦の上では春のようだが、いまだ寒さは
やわらがない。そんな寒空の下を訪れてくれた人形の持ち主と、
人形の笑顔を見届けるたび、その寒さを忘れられる気がしている。
392RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:18:19.73 ID:3l9q+lot

 私の名前は、槐。2年半ほど前から、この町でドールハウスを
営んでいる人形師だ。とはいえ、今日のように誰かが店を訪れる
ようになったのは、ごく最近のことだ。

 先ほどの親子を見送った後、珈琲など飲んで一息ついていると、
娘……のような人形が、リビングとしている部屋から顔を覗かせ、
こちらへ駆け寄ってきた。薔薇乙女の薔薇水晶だ。


薔薇水晶「やはり喜ぶ顔は、いいもの……」

槐「心を込めたものが喜ばれる。本当に、いいものだな。」


 薔薇水晶は、以前に増して色々な表情を見せるようになった。
作った私が思うのも少し妙な話ではあるのだが……彼女が人形で
あることを忘れる時すらある。
393RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:20:25.74 ID:3l9q+lot

[13:32]

カランカラ〜ン
ジュン「こんにちはー。」

槐「おお、今日は速いな。」


 今日は土曜日、真紅たちの契約者・桜田ジュン君が人形の服を
仕立てに店を訪れてきた。第3土曜日ということで、彼は学校の
帰りに、そのままここに来てくれたのだ。さっそく彼は鞄から、
スケッチブックを取り出す。


ジュン「いいものが浮かんだんです。早いところ、形にしたくて」

槐「ふむ。早速作業に取り掛かろうか……」
394RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:22:08.65 ID:3l9q+lot

薔「……」まじまじ

槐「どうしたんだ?」

薔「……サイズ、などは……」

ジュン「うーん……そうだな、大きめのドールの奴なんだけどさ
    だいたいお前と同じくらいかな?」

薔「そうですか……はい、お店によく飾られるように……
  確か、もう余りがなかったでしょう……? 奥の工房、
  使わせてもらえる……」

槐「ああ、構わないが。」

ジュン「なるほど、ディスプレイ用の。」

薔「はい…… 水晶で、作ろうかと。」

槐「ハハ、ありがとうよ。」
395RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:25:06.72 ID:3l9q+lot

 彼女もまた、色々なものを作り出す。去年3月にはジュン君と
巴さんに、中学校の卒業祝いに水晶の置物を、去年の父の日には
私に沢山の水晶で出来たブレスレットを作って、贈ってくれた。
それ以外にも、手紙を書いてくれたり、絵を描いてくれたりした。
その度に、込めた思いと微笑みをくれた。

 2年前の2月28日に再びここに帰ってこられた時や、その年
の11月に雪華綺晶がオディールさんと再会した時や、父の日に
手紙を手渡してくれた瞬間には、彼女は隠さず涙を流していたな。

 夕飯の献立で意見が合わないときは少しふてくされてみたり、
くんくんがテレビに登場した時は姉たちと共に真剣にその雄姿を
見守ったり……そんな時、ふと彼女が左を向いた横顔を見る。
396RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:27:16.17 ID:3l9q+lot

[15:01]

ジュン「あっ、もう3時か…… おやつでも買って来ますけど、
    どうします?」

槐「そうだな…… いいや、先週も君が行ってくれたろう。
  だから今日は私が行って来よう。」

ジュン「そうでしたっけ……? ハハ、忘れてた……
    そうだ、先週は『マポロブルーベリー』を買いに……
    じゃあ、何か甘いもので!」

槐「うむ、わかった。あの子は、何がいいかな……」


 リビングに戻ると、彼女は左を向いていた。窓の外に、何かを
見つけたようだ。


槐「薔薇水晶?」

薔「……あっ、猫……」

猫「…… にゃー」

薔「……ふふ ……今日はとっても冷えるみたい……
  はやく寝床に戻るといいわ……」
397RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:29:07.62 ID:3l9q+lot

槐「おや、猫か。この猫は?」

薔「…… 雛苺のお友達の……猫」

槐「今日も遊びに行くのかもしれないな。私も今しがた、なにか
  軽くつまめる物を買いに行くところだった。何がいいかい?」

薔「……『カナリアサブレー』で……♪」

槐「ああ、わかった。なら、少し出かけてくる。」

薔「はい……気を付けて」


 彼女は、動き始めたその時から……眼帯を左目に着けている。
今ではもう虚しい戦いも無くなったが、そんな戦いを勝ち抜く
うえで、感情が溢れないようにと着けたものなのである。

 そう、沢山の表情を出せるようになった今…… この眼帯は、
はたして必要なのか……? そう思うことが増えてきた。
398RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:31:50.91 ID:3l9q+lot

[15:23]
[スーパー・ゴトーナノカドー。]

槐(カナリアサブレーと言えば、金糸雀も好きなんだったな。
  あの子と遊んでいるときに、10枚も持ってきていたな……。)

槐(甘いものは……チョコレートなどで良いか? 細かい作業に
  集中するには適しているからな……
  夕飯は…… ジュン君が上がってからで良いか――)

ガッ
槐「っとと…… すまない。けがはなかったか」

「あっ、あーあー…… えっと……ソーリー……アイムソーリー」

槐「……?」


 夕飯のこと等を考えながら、少し上の空になっていた時だった。
何かに足を引っかけてしまった。半ばよろけつつ足元を見ると、
左手を床に付け、右手をなんとか棚の奥に伸ばそうとしている、
小さな男の子がいた。すぐ横に彼の鞄が転がっており、どうやら
その鞄に躓いたらしい。
399RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 09:33:07.68 ID:3l9q+lot

 棚の奥に何かあるのかもしれないが、この男の子の腕の長さで
は少し足りないようだ…… さらにこの子は、私が外国から旅行
に来た大男であるかのように、緊張した面持ちで話しかけている。
まあ、少しは当たってはいるが……。


槐「に、日本語でも構わないが……」

「! す、すす、すみません!」

槐「君、何か探しているのかい?」

「あの、このお菓子のおもちゃなんですけど……」


 小さな手が指差したものは、何やらロボットの玩具が入った、
シリーズものの食玩だった。パッケージの天面には、どの玩具が
付いてくるかが書かれている。
400RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:32:17.04 ID:3l9q+lot

 話を聞いてみると、この子はあと1種類で一連のコレクション
が完成するところまで買い集めていて、まさにその最後の1種が
棚の一番奥にあり、それを取ろうとしていた、とのことだった。


槐「少しだけ待っていてくれよ。……よし、届いた」

槐「…… これかな?」

「こ、これだー! お兄さん、ありがとうございます!」

槐「ああ、こちらこそ。」


 ジュン君のチョコレートを棚の上の方から取り、レジへ向かう。
その途中、先程の男の子が母親らしき人間と手を繋ぎながら歩い
ているのが見えた。その顔は、とても嬉しそうだ。

 さて、お目当ての品物も手に入った。いくらか雲が少なくなり、
ほんのりと日の光が差して少し暖かくなった土曜の昼下がり……
時折、吹いてくる風がさわやかだ。
401RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:33:37.89 ID:3l9q+lot

[16:10]
[Enju Doll。]

薔「……ふふ やっぱり、美味しい……カナリアサブレー」

ジュン「蒼星石は、これを砕いて食べるんだってさ。」

薔「そう…… まめな蒼星石らしい……」

槐「ハハハ…… そうだ、ココナッツ味も出るそうだぞ。」

薔「ほんとう……!? なら、今度はそれも……いいですか?」

槐「ああ、わかった。見かけたら買ってこよう。」


 おやつを食べ終わると、また3人で作業を和気藹々と進めた。
ジュン君と私はドレスを、薔薇水晶はそれをディスプレイする為
の、紫水晶で出来た胸像を作り上げた。
402RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:35:05.68 ID:3l9q+lot

[17:59]

 ジュン君が家に戻り、時計の針は夕方6時を回ろうとしていた。
すっかり日も暮れ、夕闇に染まった空を薔薇水晶と眺めていると、
店の入り口に誰かの影が見えた。


「あれ? ……お兄さんだ」

槐「いらっしゃいませ、……おや、君は……昼間の。」

「あ、あの……さっきはありがとうございました、
 おかあさんに、この店でお人形直してもらえるよ、
 って聞いて」


 店に訪れてきたのは、昼間にスーパーマーケットで出くわした
男の子だった。とても悲しい顔をしているが……、人形が壊れて
しまったのか?
403RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:48:48.56 ID:3l9q+lot

槐「ああ。大丈夫だ。 おや……その人形は、今日買った……」

「その……棚に飾ろうとしたら、落としてしまって……」

槐「どれどれ…… ふむ…… ああ、腕の関節が、つなぎ目ごと
  折れてしまったのか。おっと、脚も折れているな……」

「……お願いします、直してください!」

槐「うむ、任せなさい。 じゃあ、ここに名前を書いておくれ。」

「はい。……これでいいですか?」

槐「ありがとう。……ほう、”誠人”というのか。」

誠人「おとうさんが、なんにでも心を込められる人になって
   ほしいって言って、つけてくれたんです。」

槐「そうか。うむ。君は、心からお願いしてくれたから、きっと
  そういう人になれるぞ。じゃあ、明日また、ここに来なさい。
  これは、きちんと直しておくからな。」

誠人「はい! また来ます、お兄さん!」
404RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:50:33.76 ID:3l9q+lot

 安心した表情で、誠人君は店を出ていった。元気な声を聴き、
リビングから出てきた薔薇水晶も微笑んでいる。


薔「……おとうさま、あの子は……? 知っている人……?」

槐「ああ、今日のおやつを買いに行ったときに、店で会ってな。」

薔「そう…… その人形を。」

槐「うむ。これなら、すぐに治る。」


 薔薇水晶は、誠人君が持ってきた人形をまじまじと見つめて
いたが、ふと眼帯の方に手を伸ばした。


薔「!」

薔「……おとうさま」

槐「どうした?」
405RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:53:22.36 ID:3l9q+lot

薔「…… 眼帯の 薔薇の模様のところ…… いつの間に綻びて
  しまって…… その人形の次に 直してもらえますか……?」

槐「もちろん。……ふむ、作ってから、だいぶ経ってるからな……
  何度も縫い直したものだ。」

薔「ありがとう……おとうさま」


[21:08]

 夕飯の後、1時間ほどで人形の修理が終わり、薔薇水晶の眼帯
の修繕に移る。……以前の戦いの頃から、何度も眼帯やドレスを
繕ってあげてきたので、慣れたものではあるが……

 夜9時を回っているので、薔薇水晶は眠りについている。目が
覚めたら、さっそく眼帯を付けてあげようか。


槐「そうか、もう……3年になるか……」

槐「もう虚しく戦うことはないが、ずっと、これを付けてくれて
  いるのか……」

槐「……だが……やはり、これでよかったのか……?」
406RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:55:03.82 ID:3l9q+lot

[22:57]

 修繕が終わると、時計の針は夜11時近くを指していた。喉が
渇いていたので、ホットミルクを作って飲むことにする。ふと、
テレビを点けてみると、ドラマが映った。


父[おら勝、大事にするんやぞ。ワイからの誕生日プレゼントや。
 手作りやさかい、この世に一つや。]

勝[わあい! ありがとーお父ちゃん!! 腕に着けてもええ?]

父[ええぞ、ホレ貸してみい、ワイが着けたる]

勝[おおー!! ずっと着けるわ!! お父ちゃん好きやー!!]

父[ハハ、母ちゃんにも見せたってーな、喜ぶでえ]


槐「…… そうだな、やはり、いいものだな……」
407RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:56:19.19 ID:3l9q+lot

 眠りにつく前に、そっと鞄を開けてみると、薔薇水晶は静かに
寝息を立てていた。眼帯を付けていない彼女の寝顔はどこか見慣
れなかったが、やはり疲れを癒してくれる。


薔「……すー……すー…… おとうさま……」

槐「? 起こしてしまったか……?」

薔「……すー……Zzz……」

槐「……ふふっ おやすみ、薔薇水晶。」
408RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 11:57:33.66 ID:3l9q+lot

[2005/02/20 07:00]

 2月20日、晴れ。少し冷たい風が吹いているが、とても心地
の良い朝だ。程なくして薔薇水晶も起きてきたので、昨日直した
眼帯を渡す。彼女は、笑顔でそれを受け取ってくれた。


槐「どうだ? 模様は、大丈夫か?」

薔「……ありがとうございます、おとうさま。」

槐「そうか、良かった。」

薔「……ふふ、うれしい……♪」

槐「ふふ……時に、薔薇水晶よ。」

薔「?」

槐「お前は…… この眼帯を、ずっと付けてくれているんだな」

薔「……もちろん♪ わたしも、気に入っているから……
  さあ、朝ごはんにしましょう……!」

槐「ああ。今朝は、トーストとベーコンエッグだぞ。」
 
薔「はい……バターとジャム、どちらにする……?」

槐「そうだな、バターにするかな。」
409RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 12:01:46.05 ID:3l9q+lot

[10:02]

 朝10時を過ぎ、店を開け、看板を出して店に戻ろうとすると
昨日の男の子……誠人君が息急きこちらへ走ってきた。


誠人「すいませーん、昨日人形を持ってきた……霧島誠人です!」

槐「おっ、いらっしゃい。」

誠人「あの、ロボットは」

槐「ああ、直っているぞ。もう大丈夫だ。」


 修理が完了した人形を手渡すと、誠人君は目を輝かせた。
本当に、心から楽しみにしていたんだな。


誠人「わあ! 直ってる!! 本当にありがとうございます、
    お兄さん! えと……お金は」

槐「ああ、この人形の修理費は、0円だよ。また、何処か壊れた
  ならば、ここに持ってくるといい。」

誠人「はい! ありがとうございました!」
410RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 12:03:48.94 ID:3l9q+lot

 誠人君は礼を言った後、昨日ジュン君と作ったばかりのドレス
の前に立った。ドレスが気になっているようだ。


誠人「あっ、この服…… すごく、かわいいですね!」

槐「おお、ありがとうよ。誠人君の家には、お人形はあるかな」

誠人「えと…… こんど、妹の6歳の誕生日なんです。それで、
   何かお人形を買おうかって、おかあさんと……」

槐「そうか、それなら是非、ここに来るといい。……何かを貰う
  誠人君の妹も、与える親御さんも、とても喜ぶと思うぞ。」

誠人「そうします! じゃあ、また来ます!」

槐「ああ、またよろしくな。」
411RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 12:08:42.69 ID:3l9q+lot

[10:12]

薔「……あのドレス、すごい…… もう、目を惹いた……」

槐「腕を上げたな、ジュン君。」

薔「ジュンも素晴らしい…… けど、おとうさまこそ……」

槐「ハハ…… 殆ど、ジュン君が作ったようなものだが……
  ありがとうよ。」

薔「この眼帯も…… おとうさまの 愛が見える」

槐「!」

薔「……ふふ、わたし……眼帯があってもなくても……たくさん、
  色んな顔 できるようになったけど…… わたしは、わたし」
412RozenMaiden Fortsetzung 39 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 12:10:15.03 ID:3l9q+lot

薔「もう、虚しい戦いなど、しなくてもよいけど…… わたしは
  おとうさまが、好きだから…… ずっと、付けさせて……♪」

槐「そうか…… ありがとう……ありがとうな……!」

薔「うふふ……♪」


 どうやら、私の心配は、杞憂だったようだ。心を込めて作った
ものや、直したものは……お互いをつなぐ架け橋になるのだな。
あの眼帯は、涙を隠すものなどではなくなっていたのだ。

 ……薔薇乙女達も、眠りの間に想いを込めた指輪を作り出す。
契約するときも、力を与える時も……、お互いの心が通い合う。

 ――私も薔薇水晶を作ったときは、師匠の願いを果たすこと、
師匠の人形を超えること……その思いを込めていたが、今はただ、
薔薇乙女として、姉達とこの時代を穏やかに過ごしてほしいと、
再び父親としての師匠に出逢えることを、強く望んでいる……


                【槐と薔薇水晶の丹誠/完】
413TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/01/07(土) 12:20:42.74 ID:3l9q+lot
 ハイ、以上で第39話「槐と薔薇水晶の丹誠」は、終わりです。
読んでいただいた方ありがとうございます。

やっぱり、槐とばらしーはいい親娘です……
では、また次の話までグッバイ!
414名無しさん@お腹いっぱい。:2012/01/19(木) 22:26:59.83 ID:0h9ygIH9
保守
415名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/03(金) 22:00:03.41 ID:6ZX2g8GL
保守待ち
416 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 01:59:58.13 ID:nEzFFXh9
ども、TEGです。2時から第40話を投下しますよ〜。
……「2周年記念」ということで拡大版です。

40【桜田ジュンと真紅の回顧】
417RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:15:25.80 ID:nEzFFXh9
【桜田ジュンと真紅の回顧】

[2005/02/28 07:13]
[桜田家 ジュンの部屋。]

真紅「……ジュン、目覚めの時間よ。起きなさい……」

ジュン「…… Zzz……」

紅「……ちょっと、ジュン!?」
ユサユサ

ジュン「…… んが〜……」

紅「……ゆすっても起きないわね…… こうなったら……」

ガバッ
紅「ジュン! 一体いつまで眠っているの? 『こうこう』に
  遅れてしまうわ!」

ジュン「…… んん〜……さむい…… あと……」
418RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:23:07.69 ID:nEzFFXh9

紅「あと ですって? 5分でも命とりになってしまうわ!」

ジュン「…… 5分でも? えっ……ちょっ、何時……」

紅「7時を13分まわったわ。」

ジュン「うわっ! やっべ!! 早く顔を洗わなきゃ……!」

紅「……もう」


 2月28日、晴れ。僕の朝は、起きるのがちょっと遅くなると
こんな風に騒がしくなる。前の晩に、真紅たちに「明日は早めに
起こしてくれ」と念を押しておいて、寝坊してしまったな……

 ひとまず、大急ぎで身支度をして、リビングにも寄らずに家を
後にする。鞄を自転車のかごに詰め、出発しようとした時だった。
……鞄の中から、プリントが落ちた。日付は2月25日だった。


ジュン「…… あれ? こんな手紙、いつもらったっけ……」

ジュン「『1学年へ 卒業式準備の案内』? ……」
419RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:35:56.11 ID:nEzFFXh9

[07:22]

翠星石「……なんですか真紅 朝から騒々しいですぅ。」

雛苺「ジュン、ちゃんと起きたなの?」

紅「折角私が目覚めの時間を6時50分にまで早めたというのに
  いったい、誰のためだと……」

翠「……言ってもほんの10分ですぅ……」

雛「でもでも、早起きは30円のお得なの! トモエがね、この
  あいだ、早起きして、せいふくのポケットを触ったら30円
  見つけて、ヒナにくれたのよ!」

翠「まあ、オメーは30円儲かったんでしょうけど……そりゃあ
  ちっと違う気がするですぅ」

紅「……そもそも、三文の徳は、少しだけど得するという意味の
  ことなのだわ。偶然だけど、言った通りの意味になったのね。」
420RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:39:28.80 ID:nEzFFXh9

[07:30]

ギィ
紅「あら、のりかしら。 ジュンならもう出かけ……」

ジュン「ただいまー……やっちまったなー……」

紅「ジュン!?」

翠「オメー余裕ぶっこいてていいですか?」

雛「もう7時半なの。」

ジュン「ふー…… 慌てなくて良かったみたいだ……。行こうと
    思ったら、鞄からプリントが落ちてさ。これだけど……」

紅「……どういうこと? ……9時までに?」

ジュン「今日って2月28日だろ、卒業式の会場準備するから、
    僕の高校は授業がないんだ。9時までに行けばいいって
    すっかり忘れてたよ。ホラ」

翠「卒業式ですか。……こんなに早かったですかね?」

ジュン「まあ、中学の時は11日だったからな…… 高校って、
    どこもそんな感じみたいだぞ。」
421RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:40:32.78 ID:nEzFFXh9

紅「……けど、もう少しゆっくりしていられるわね。」

ジュン「そうだな、ちょっと紅茶でも飲んでいくか…… それに、
    朝飯も食べてないし……」

雛「ジュンの朝ごはん、れいぞーこの中なの。」

翠「ちなみに今朝はサラダとトーストですぅ。ジャムでもつけて
  召し上がるがいいです♪」

紅「丁度良かったわ。紅茶を淹れて頂戴?」

ジュン「おう。」


 リビングに降りると、姉ちゃんにも笑われた。たまーにだけど、
姉ちゃんも遅く起きてもいい日に「寝坊したー」「遅刻だー」と
慌てることがあるんだ。妙なところが似るもんだ……

 皆で朝飯を食べて、高校に行き始めてからあまり観なくなった
占いコーナーも観てから、今度こそ学校に行く。朝は慌てたけど
こういう日も、悪くはない……かな。
422RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:46:07.05 ID:nEzFFXh9

[08:41]
[かしわ高校 1年2組。]

 行きがけは途中で柏葉に逢った。今朝の事を話すと、やっぱり
くすくす笑われてしまった。集合時間よりも少し早く着いたから、
教室でも他愛ない話をする。


ジュン「それでさー、真紅の奴が最近パソコンを覚えちゃってさ。」

巴「いっしょにオークションとか見たりするの?」

ジュン「くんくんグッズしか検索しないんだけどな。飽きたら、
    すぐ本読むし……」

巴「そうなんだぁ…… 真紅らしいね。」

ジュン「昔は勝手に注文とかされたもんだよ。落札タッチの差で
    間に合わなかったりとか……」

巴「……ふふ、その後言い合いとかしたんじゃない?」

ジュン「ビンゴ。」
423RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:51:31.64 ID:nEzFFXh9

[09:08]

蕨「今日は、前に知らせていた通り、式場の準備をしてもらう。
  2組は1、3組と合同で椅子並べだ。3年4〜6組の椅子を
  並べてくれ、先生も手伝うから早く終わらせて帰ろう。な!」

「「はぁーい」」

蕨「よし、じゃあ柏葉、号令を」

巴「はいっ。起立、礼!」

「「ありがとうございましたー」」


 うおっ、椅子並べか…… 体育館のステージ下からパイプ椅子
を出して並べるだけの簡単なお仕事なんだが、数が多い。2年生
から上はクラス毎に人数がまちまちだけど、大体100くらいか。
親の席も入れると、もっとか……考えただけで腰が痛くなる。
424RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:53:08.94 ID:nEzFFXh9

[09:14]
[体育館。]

 体育館に着くと、2年生があの長いマットを敷いていた。来年
はアレをやらないといけないのか……。右に左に、せわしなく人
が動いている。中学の時にも、やったことがあったな。


田中「あのマット重いんだよなぁ。」

ジュン「アレなあ。中学ん時もしただろ?」

石島「アレ敷くの結構楽しかったぜー。」


 入り口の近くで同級生と駄弁っていると、自然と中学生の時の
卒業式の話になる。柏葉も女子と世間話をして盛り上がっていた。
話も落ち着いてきた頃、威勢のいい先生の声が聞こえてきた。


教師・福田「マット終わったぞー! 椅子並べ部隊かかれー!!」

ジュン「よーし、行くか!」
425RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 02:55:09.34 ID:nEzFFXh9

 ステージの前に、わらわらと同級生の一団が到着し終わると、
柏葉と1、3組の学級委員、それと何人かが手際よく椅子が入っ
ている引き出しを開け始めた。


巴「よいしょ、っと…… この引き出し、椅子が入ってると重い
  んだよね……」

ジュン「そうそう、マットもだけどコレも重いんだよなー。」

巴「3年の時生徒会長だったから、いろんな行事でこういうのを
  やって、慣れたけどね。椅子もよく並べてたっけ。」

ジュン「ホント尊敬します。」
426RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:12:06.62 ID:nEzFFXh9

[11:08]

 8クラス分と親の席もあるから、椅子が大体並び終わる頃には
もの凄い光景になっていた。その数約800席。まるでちょっと
したホールのようだ。

 他のクラスも備品の設置が終わったようで、集合場所になって
いるここに集まりだした。もちろんみんな駄弁っている。大声で
惚れた腫れたの話をする女子もいた。 ……いいのか、それで。


「こないだカレシと別れちゃってさー」
「マジでェ!?」
「もうホントやんなっちゃうわァ」

「でさぁー、幕高の鳥海くん! 超カッコイイよねー」
「文化祭でドレスつくってたんだよねー!」
427RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:15:44.02 ID:nEzFFXh9

 ……鳥海? どっかで、聞いたような……。ああ、柏葉が前に、
クリスマスイブの日、帰り道で言っていた…… やるじゃんか、
鳥海。……幕高って、姉ちゃんと同じ高校か。


蕨「よし、終わったな!」
福田「今年の1年生は仕事が早いな! さすがだ!」


 多分毎年言ってるのかもしれないけど、確かに思ったより早く
会場の準備が終わった。時計を見ると、短針は11を差している。

 足早に教室へ戻っていく僕たちと入れ替わるように、柔道場で
式の練習をしていた2年生が次々にやってきて、体育館は再び喧
騒に包まれた。
428RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:18:16.37 ID:nEzFFXh9

[11:32]
[昇降口。]

巴「桜田君?」

ジュン「どした?」

巴「今日、お昼過ぎぐらいかな? ……桜田君の家に、行っても
  いいかな?」

ジュン「え? 別にいいけど…… 何だったら、今からでも」

巴「剣道部の先輩への贈り物を買いに、玄武百貨店に行ってから
  もう一回学校に戻らないといけないから……」

ジュン「なるほどね。じゃあ、家で待ってるからさ。」

巴「うん、ありがとう。それに、今日は…… 2月28日。」

ジュン「……そう、だな。」

巴「じゃあ、また後で……」
429RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:21:54.66 ID:nEzFFXh9

 2月28日。2年前のこの日付……、大きな、決着がついた。
時間は、とりわけ大きな区切りごとに、その時のことを思い出さ
せてくれる。

 去年もそうだったな。ただみんなでいつものように、僕の家で
ホームパーティーで盛り上がっただけだったけど、その瞬間に、
ひたすら感謝せずにはいられなかった。


[11:35]
[道中。]

ジュン「そーだな…… 今日は持ち合わせも多いし、色々買って
    帰ってやるかな。」

ジュン「やっぱ食べ物がいいか……」


 ケーキの不死屋に寄ることにした。ここには真紅だけじゃなく
翠星石と雛苺の大好物まである。次の日のおやつの分まで、沢山
買ってやろう。
430RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:23:52.23 ID:nEzFFXh9

[11:44]
[洋菓子店 不死屋。]

 まずは鈴カステラだ。翠星石が初めて家に来たばかりの時に、
姉ちゃんが差しだしてやったもので、アイツは今でもよくこれを
食べている。


ジュン「……しっかし、これをポコポコ投げてたんだよな……」

ジュン「デカくなったよな、アイツも……」


 次は苺大福だ。これは、柏葉もよくここで買っている。雛苺の
大好物……あの絵でも、すぐに分かった。そして、重い戸を開け、
外に出たんだったな。行った先は、この店じゃなかったけど。


ジュン「あの店で買ったヤツは、雛祭の日にでも買ってやるか。
    なんたって雛、だからな……」


 多分柏葉も買ってやるんだろうけど、アレはアイツの大好物だ。
もしひとりで食べきれなかったら、僕たちも一緒に食べてやろう。
みんなで腹いっぱい、「うにゅー」食ってやろう。
431RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:27:11.19 ID:nEzFFXh9

ジュン「みんな、か……」


 さて…… と、真紅の分の買い物を済ませて帰ろうとしたとき、
……思い出した。


ジュン「…… あの日も……みんな、いたな」


 あの日、僕が頑張れたのは……弱さを強さにすることができた
金糸雀や、窮地に立たされていた僕たちを助けてくれた水銀燈が
居たから。


ジュン「卵サンドと…… アイツは何がいいかな? 珈琲ロール
    とかがいいか…… 好みとか聞いとくんだったな。」


 それに蒼星石、薔薇水晶、雪華綺晶。雛苺といっしょに、4人
を助けることができたけど、僕こそ助けられたな。決着をつけた
水銀燈の拳には、8人の姉妹とその契約者の力が宿っていたから。
432RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:29:38.89 ID:nEzFFXh9

ジュン「うーん……蒼星石は抹茶ケーキだな。薔薇水晶は……、
    ガトーショコラがいいかな。雪華綺晶は、そうだなー、
    モンブランか…… 今度じっくり、好みを聞いとこう。」


 柏葉が来るまで、まだ時間はある。ここから一番近いのは……
病院の前を通って時計店だな。


ジュン「……それと、そこの『くんくんの上司の葉巻型クッキー
    25枚入り』っていうのもください。」

店員・茂森「はいかしこまりましたー!」


 やっぱり、真紅にはこれがいいかな。テレビでくんくん探偵を
観てた時も、『これが食べてみたい』って言ってたからな。


茂森「ありあしたー!」

ジュン「どうもー。」
433RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:33:54.97 ID:nEzFFXh9

[12:02]
[有栖川大学病院裏 ”緑の絨毯”。]

 いつ来ても、ここは見晴しがいい。自転車で通り過ぎる時も、
風が吹いてくると、不思議と気分が良くなる。いつものように、
ここを通り過ぎようとしたときだった。


「ジュン!」

ジュン「? なんだあ?」


 僕を呼ぶ声が原っぱの方からしたので、自転車を停め、お菓子
を片手にそちらへ行ってみる。少し高くなっている原っぱの中程、
森の近くにある切り株に、水銀燈が座っていた。


ジュン「おう、水銀燈か。どうしたんだ、こんなところで。」

水銀燈「めぐの検診よ。今、めぐを待ってる所。丁度、あんたが
    そこを通るのが見えたから……」

ジュン「そうだったのか……おっ、確かにここからなら見えるや。」
434RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:37:29.07 ID:nEzFFXh9

銀「……その袋は……?」

ジュン「そう、これこれ。丁度良かったよ。お前の分と柿崎さん
    の分もあるんだ。今日は…… 2月28日だからな。」

銀「ありがと…… あれから、2年ね。よく覚えてるわ。めぐが
  手術受ける、って言った日付でもあるし……。今朝も二人で
  話したわぁ。……ほんとに…… よかった……」


 あの日……思えば僕たちは、柿崎さんも助けていたんだな……。


ジュン「ま、これからも宜しくなってことで、な。柿崎さんにも、
    宜しく言っといてくれ。」

銀「もちろんよぉ。……あっ、もしかして、雪華綺晶の分もある
  かしら?」

ジュン「ああ。って、雪華綺晶も来てるのか?」
435RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 12:38:59.98 ID:nEzFFXh9

銀「ええ。オディールにも断ってあるし、今日はこの二人で行く
  って決めてたから。……雪華綺晶ー?」

雪華綺晶「はい! ……あら、ジュン様。ごきげんよう。」


 木の上から、雪華綺晶が降りてきた。街でも眺めていたのか?
春も近くなって、空気が澄んで眺めがいいからな。


ジュン「おう! 丁度良かったよ、ホラ、これ。モンブランだ。
    別の箱にもう一個あるから、こっちはオディールさんに。」

雪「まあ! 嬉しい…… ありがとうございます!」

銀「今日は、2月28日でしょう? あれから、2年経ったのよ。」

雪「…… そうでしたわ。もう、悪夢から目覚めてから……2年
  になるのですね……。こうして、街を眺められるのも……」
436RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:32:54.70 ID:nEzFFXh9

 本当に、コイツも明るくなったもんだ。そうだ、あの日は……
僕が雪華綺晶に初めて逢った日でもあったんだっけな。


ジュン「まあ、水銀燈にも言ったけどさ、これからも宜しく頼む、
    ということで。」

雪「ええ! この時代を生きることが、恩返し……ですから。」

銀「何かあったら、いつでも頼んなさいよぉ? 私たちの方から
  頼るかもしれないけどぉ!」

ジュン「そーいう時は、お互い様だろっ。それじゃ、またなっ!」


 手を振る水銀燈と雪華綺晶を横目にベルを一度軽く鳴らして、
「緑の絨毯」を後にする。さあ、次は……Enju Dollだな。
この時間は……アイツ、起きてるかな?
437RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:35:29.70 ID:nEzFFXh9

[12:19]
[Enju Doll。]

 土曜日には、この店にアルバイトで服を造りに来るんだけど、
昼になると薔薇水晶は昼寝してることがある。まあ、寝てたら
槐さんにケーキを渡しとくか……


ジュン「こんにちはー。」

薔薇水晶「……ジュン ……いらっしゃい……」

ジュン「おっ、起きてたか。」

薔「…… さっき お昼寝から覚めた…… おとうさまは、まだ
  寝てる……」

ジュン「そうか…… 今日は、お前に用があってさ。」

薔「わたし……? 用って…… どうしたの……?」
438RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:38:05.96 ID:nEzFFXh9

ジュン「今日は……」

槐「2月28日、だろう?」

薔「おとうさま……!? 起きていたの……?」

ジュン「槐さん! もしかして起こしてしまいましたか……!?」

槐「いいや、少しまどろんでいてな…… そこに君が来たという
  訳なんだ。それに、今日の日付を……私も、忘れはしないさ。
  また愛娘に逢えた日なのだから。」

ジュン「僕もです。2年前、あんなに頑張れたのは……槐さんや、
    薔薇水晶が居てくれたというのもあるんで……。その、
    これを……」

薔「これは…… ……ありがとう、ジュン……!」

槐「おお…… ありがとうな、ジュン君。ガトーショコラ、か。
  2年前のクリスマス、君の家でもこれを食べたっけな。」

ジュン「そういえば、そうでしたね。」


 少しだけ話をした後、丁度切らしていた赤い糸を買っていく。
その時、薔薇水晶は槐さんのエプロンの裾をずっとつかまえて、
僕の方を見ていた。本当に、仲がいいんだな。
439RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:47:14.62 ID:nEzFFXh9

[12:54]
[薔薇野マンション220号室 草笛家。]

 今日は、みっちゃんさんが家にいると言っていたからそのまま
みっちゃんさんの家に行くことにする。やっぱり玄関を開けたら
ファッションショーが始まっていた……


金糸雀「わぁー! 卵サンドバスケット8個入りかしら!」

みつ「どうもありがとう!」

ジュン「ああ、日頃の礼だよ。よく宿題とか見てもらってるし、
    みっちゃんさんには服も見てもらってるし、今日は……」

金「2月28日! カナも、ジュンの事だからみんなのところを
  廻ってくるだろうと踏んで、おとっときの物を用意してある
  かしら! あの日はカナもみっちゃんも頑張れたし……」

みつ「カナの言う通りよっ! さーて、これがおとっときの……
   じゃじゃ〜ん!!」

ジュン「お!? ……これは!」
440RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:53:07.95 ID:nEzFFXh9

金「名付けて! 『ふわふわ卵のロールケーキ』かしらぁ!」

みつ「このロールケーキみたいに、すえなが〜くヨロシクね!」

ジュン「こちらこそ……! うまいなぁ、みっちゃんさんは。」


 今度、みっちゃんさんがやってるサイト主催のイベントがある
みたいだから、槐さんの所で作ってる服でも出してみようかな。

 時計店に行く途中ふと空を見ると、金糸雀が傘を器用に操って、
空を飛んでいた。赤いポシェットと水筒をぶら下げ、颯爽と宙を
舞う。水銀燈たちの所にでも行くんだろうか。
441RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:56:32.22 ID:nEzFFXh9

[13:09]
[柴崎時計店。]

マツ「おや、ジュン君。 今日は早いんですね。」

ジュン「はい、卒業式の準備で……今、帰りなんですよ。蒼星石、
    いますか?」

マツ「ああ、いますよ。入りんさい。」

ジュン「はい、おじゃましますー……」


 時計店の前に着くと、マツさんが店先のショーケースの硝子窓
を入念に拭いていた。ピカピカ光っている硝子の向こう側には、
年季が入った時計が沢山ある。


蒼星石「やあ。やっぱり、来たんだね。あれ……? 一人かい?」

ジュン「おう、学校の帰りにそのまま来たからな。って、蒼星石
    こそ一人か?」

蒼「うん、マスターは隣町のデパートの時計を替えに行ってるよ。
  そうだね……急ぎじゃないなら、上がっていきなよ。」
442RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 22:59:11.45 ID:nEzFFXh9

ジュン「そうだな。まだ1時10分だし、丁度お前と元治さん達
    に渡したいものがあって寄ったんだ。」

蒼「渡したいもの……?」

ジュン「日頃の気持ちもあるし…… 多分わかってると思うけど。」

蒼「おっ、抹茶ケーキだね。ありがたく、頂くよ。マスターと、
  おばあさんにも、渡しておくよ。あれから、2年経ったけど
  またここに居られてることが……嬉しいよ。」

ジュン「ありがとよ。安心してくれ、僕たちがみんなそろって、
    お父さんに逢えるように……頑張るからな。それまでは
    ゆっくりこの時代、楽しもうぜ。」

蒼「もちろん!」


 外から戻ってきたマツさんと蒼星石とで談笑にふけっていたら、
時計の針は2時を指そうとしていた。蒼星石たちと別れて、再び
自転車をこぎだした時…… 暖かい風が吹いてきた。もうすぐ、
冬が終わるんだな……。
443RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 23:05:46.38 ID:nEzFFXh9

[14:14]
[桜田家。]

ジュン「ただいまー。」

ジュン「……あれ? 誰もいないのかぁ?」


 玄関のドアを開けると、返事がなかった。姉ちゃんは夕方まで
帰らないし、柏葉もまだ来てない。真紅たちは本を読んでるか、
くんくん探偵でも観てるか、……昼寝してるかだけど。


[リビング。]
ギィ
ジュン「ただい……おっと、寝てたか。」

紅「お帰りなさい、ジュン。くんくんタイム中だったのだけど、
  2人とも眠ってしまって……。私も少しまどろんでいたわ。」


 真紅は、ソファで昼寝している翠星石と雛苺を、それぞれ両腕
でそっと抱きしめていた。……真紅は翠星石よりは年下だけど、
こういう真紅は、どこか姉ちゃんらしい。
444RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 23:08:05.90 ID:nEzFFXh9

ジュン「ハハハ…… まあ、今日は少し暖かいからな。そーだ、
    いいもの買って来たんだ。」

紅「何かしら…… まあ! こ、これは私が目を付けていた……
  葉巻型クッキーなのだわ! よく、入手困難なものを……!」

ジュン「昼間に行ったら、まだ数はあるからなぁ。翠星石と雛苺
    のぶんは、冷蔵庫に入れとくから。紅茶淹れようか?」

紅「ええ、お願いするわ。アフタヌーン・ティータイムね。」

ジュン「それに今のクッキー、2周年記念ってことで! 25本
    入りのやつ買ったから、くんくんと上司のフィギュアも
    ついてるぞ。」

紅「……ありがとう、本当によくできた家来になったわね。」

ジュン「ハハハ……」


 自分の昼ご飯を食べてなかったから、お湯を沸かしたついでに
カップめんを作った。僕は紅茶じゃなくて普通の水を飲んだけど、
真紅と昼下りのティータイムを楽しんだ。

 真紅は、さっきの『くんくんタイム』とやらで観たい分は全部
観てしまったらしく、翠星石と雛苺はまだ昼寝するだろうから、
2人が昼寝で使う布団に寝かせて、2人で部屋に戻ることにした。
445RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/12(日) 23:14:45.27 ID:nEzFFXh9

[14:38]
[ジュンの部屋。]

ジュン「さーて、オークションっと。いい物出てるかな……」

紅「ジュン、……抱っこして頂戴?」

ジュン「え? ……なんだ、棚の上の物でも取るのか?」

紅「いいえ。オークションを覗くわ。」

ジュン「……このまま元の位置に直れと。」

紅「ええ。そのまま座って。膝の上に立つわよ。そしてそのまま
  くんくんグッズを探して頂戴。」

ジュン「……いいけど、勝手に落札すんなよ。」

紅「そのあたりの分別はついているわ。」


 しばらくオークションとか通販サイトとかを巡っていたけど、
気が付いたら夕方5時になろうとしていた。真紅も最初は僕の膝
の上に立って一緒にオークションを見ていたけど、ものの30分
で飽きてしまって、あとはずっと読書をしていた……
446RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 00:47:12.74 ID:ur3W8Ydy

[16:49]

紅「ねえ、ジュン?」

ジュン「なんだぁ?」


 メニューバーの時計が16時49分を示した時だった。突然、
真紅が問いかけてくる。懐中時計の蓋を開いて、文字盤を指し、
僕の方をじっと見る。


紅「……16時49分。丁度、この時間だったわね。」

ジュン「? ……ああ、決着に出た時間か。そうだったな……、
    学校から帰ってきて、それから、行ったんだっけ。」

紅「そう…… 今でも、夢に見ることがあるわ。」


 懐中時計の蓋をそっと閉じると、真紅はおだやかな顔つきで、
この2年間を振り返る。
447RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 01:02:57.33 ID:ur3W8Ydy

紅「あれから、新たな妹を迎え、雪華綺晶も実体を手に入れて、
  水銀燈とも分かり合い、……この時代の続きを歩めている。」

紅「おそらくは、本当に姉妹の、契約者の誰も傷つかない方法で
  ……アリスという存在に行きつけるかもしれない。」

ジュン「そうだな……お前らは、アリスになるために……」


 2年間、真紅たちにも平穏が続いてきたけど、それより何百年も
前は、そんなことは叶わなかった……。それは、真紅たちに何度も
聞かされてきたけど……その度、首を捻った。アリスって何だ、と。


ジュン「本当にそれって、何なんだ? 『ローザミスティカ』が
    全部集まれば、アリスになれるだ、孵るだ、現れる……
    みたいなことをずっと言ってたけどさ。」

紅「『一点のけがれもない少女』。言えることは、それだけ……
  これは……多分、変わりない結論。……アリスになれる方法
  は……、ひとつでは、ない。」

ジュン「……んだよな。そう言われたんだったっけ。」
448RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 01:15:06.06 ID:EJQq4vUY

紅「ええ。それで、その別の方法をずっと探していた。こうして
  日常を過ごしていくうちに…… いいえ、戦いと、かりそめ
  だった平穏の日々を、今までの好日を経て、確信したわ。」

ジュン「……? それって」

紅「このまま、8人……それと契約者たちとで、お父様に逢いに
  ゆくこと。」


 真紅が、雛苺が、翠星石が。姉妹たちが今まで描いてきた理想。
それが、確信になった……、真紅は、そんな表情をしていた。


ジュン「……そうか、このまま……みんなで、逢いに行くのか。」

紅「ええ。私達と、媒介……契約者たちとの絆。もちろん、指輪
  が無くても絆のある……トモエ達も連れてゆけるなら、一緒
  に行ってもらうわ。」

紅「これは、ドール単体だけでは見いだせない繋がりなのだわ。
  私達……アリスには、必ずなくてはならないもの……」

ジュン「……そっか! お前らは一人ずつ、ローザミスティカを
    一つ持っている……それが全員集まれば。繋がれば……
    ……絆、で。」
449RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 01:19:34.30 ID:EJQq4vUY

紅「その通り。さすがは私の、よくできた家来ね。」

ジュン「まあ、な。」


 真紅たちが長い年月をかけて望んできたことが叶うなら、僕は
いくらでも力を貸そう。ラプラスとの決着は、ついた。けれど、
真紅たちは自分の父親と……まだ、再会していないからな。

 ……と、ここで一つの疑問が浮かぶ。


ジュン「……けど、真紅。」

紅「何?」

ジュン「……もし逢えたとして、さ。その後は……よ。やっぱり、
    ローゼン……」

紅「そうね…… お父様のもとで、過ごすことになるわ。ずっと、
  何百年、絶望しながらも抱き続けた理想が、叶うなら……」

ジュン「…… ……」
450RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 01:30:18.18 ID:EJQq4vUY

 そうなるのは僕も分かってはいる。契約者たちも、多分これは
分かってると思う。いざその時にならなきゃ、受け入れられるか
は分からないけど……


紅「……何時になるかはわからないから、しばらくは今の世界で
  過ごすことになるわね。だから……」

ジュン「……まかせとけよ。僕の親だって、人形とかも興味ある
    みたいだから、もし突然帰ってきても、分かってくれる。」

紅「……」

ジュン「柏葉の所だって、そうだったろ。分かってくれなくても、
    僕が何とかする。」

紅「ジュン……」

ジュン「柿崎さんも、今水銀燈と過ごせてるし……さ。だから、
    大丈夫だ。……こ、この、契約に誓って、な。」

紅「ありがとう……ジュン。 ……本当に、いい家来を持ったわ。」

ジュン「……! ま…… まあな! ハハハハ……」

紅「まったく…… ふふっ。」
451RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 01:41:43.86 ID:EJQq4vUY

 この時の針はひたすらグルグル回ってるだけじゃない。同じ所
に針が戻ってきながらも、確実に、光の差す方向に、文字盤ごと
進んでいる。その針の軌跡が作るものは……螺旋というやつだな。

 やがて、楽しそうな話し声と、甲高い笑い声が聞こえてきた。
ずっとパソコンしたり、真紅と話をしたりしてて気づかなかった
けど、翠星石たちが昼寝から覚めていたみたいだ。


ジュン「あいつら、起きてるみたいだな。」

紅「ええ、そのようね。降りてみましょう。」

ジュン「おう!」
452RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:00:29.96 ID:EJQq4vUY

[17:24]
[リビング。]

 リビングのドアを開けると、台所の方から、甘い香りが漂って
いた。そこから、エプロンを付けた雛苺が満面の笑顔で僕たちの
方に駆けてきた。その手には、少しだけクリームが付いていた。


翠「おっ、いい所に降りてきたですねぇ。」

雛「さっきね、ヒナたちでケーキを作ったの! ねっ、トモエ♪」

紅「? トモエ……?」

巴「えへへ…… お邪魔してます。」

ジュン「か、柏葉……来てたのか。」

巴「うん、あれから学校で、式の後いつ先輩に贈り物を渡すかを
  話し合ったりしてて、すこし長引いたけど…… 翠星石がね、
  『上で真紅と話してるから、ここでくつろいどけです』って」
453RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:14:18.30 ID:EJQq4vUY

翠「で、今日は決着&チビチビ達が帰ってきた2月28日ですぅ。
  昨日から、ケーキでも作って祝おうってことにしてたですよ。」

雛「のりももうちょっとしたら帰ってくるの。みんなで、ケーキ
  食べるのよ!」

巴「さっ、桜田君。これをケーキの一番上に差して。」

ジュン「……よぉし。」


 「2」の形をした蝋燭をケーキに立てて、そこに火を付ける。
火を消す前に、冷蔵庫に入れておいた翠星石と雛苺への贈り物を
手渡した。


ジュン「僕からの、2周年記念品。」

翠「こ、こりゃあ不死屋の鈴カステラ! しかも超大盛りですぅ。
  ……今度スコーン……大量にごちそうしてやるですよ……
  ありがと……です。」
454RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:22:36.00 ID:EJQq4vUY

ジュン「お前は、こっちだ。お帰り2周年ってことで。」

雛「わあ……! うにゅーが……いっぱいなのぉー! ジュン、
  ありがとなの!」

巴「ありがとう、桜田君。私とのりさんからは、このケーキだね。」

ジュン「アハハ…… 姉ちゃんも、そう言ってたんだな。」

紅「ジュン、トモエ。……また色々と頼ることがあると思うけど、
  この真紅たちに力を貸してほしいのだわ。」

ジュン「もちろんさ。」
巴「ええ。」


 僕も柏葉も、みんなも……、この先、迷うことはないだろう。
枝分かれする道も、迷わずに、選び取って、進んでいけるよな。
455RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:32:38.81 ID:ur3W8Ydy

翠「よっし、じゃあ蝋燭の火を消すですよ。せぇー、のっ!」

雛「ふぅー!」
ジュン「ふー!」

翠「うきゃー! 翠星石が最大瞬間風速で消す予定だったです!」

巴「もう、桜田君と雛苺ったら……ふふ♪ さっき私も、すこし
  息をふきかけたんだ。……もう一回消す? 翠星石。」

翠「今日は、もういいですぅ。次のパーティーの席ではかならず
  この翠星石がその役目、全うしてやるですぅ?」

紅「ふふ……♪」
456RozenMaiden Fortsetzung 40 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:34:42.46 ID:EJQq4vUY

のり「ただいまぁー! おっ、やってるやってる!」

巴「あっ、おかえりなさい、のりさん! 今始めたところですよ。」

紅「おかえりなさい、のり。……あら? その袋の中のひき肉は。
  もしかして、ディナーはハンバーグかしら?」

のり「もちろん! 2月28日は絶対、はなまるハンバーグよ!」

雛「やったなのー! はなまるさんなのよー!」

翠「しかも分量からしてダブルですぅ! こりゃあ明日は走りに
  いかなきゃですぅ?」

ジュン「ハハハ…… お前らは走らなくてもいいだろっ。」


 桜が咲く頃には……真紅たちが来た時と同じ「2年生」になる。
騒がしくも平穏な時間は、まだまだ続きそうだ。

              【桜田ジュンと真紅の回顧/完】
457TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/02/13(月) 02:43:41.91 ID:EJQq4vUY
 ……ハイ、というわけで約24KBに亘った40話・決着2周年記念
第40話「桜田ジュンと真紅の回顧」は以上で終了です。
読んでくれた方ありがとうございました。
>>414-415さんは保守ありがとうございました。

>>446-447>>455はIDが違いますが、さるがやたら荒ぶって
日付変更後も2時間以上投稿不能になったので俺の電話から
投稿したものです。
(最初の方で10時間空いたのはさる食らった後の寝落ちです。)

 なんかキリがいいですが、ジュンの言うようにまだまだ続きますので
どうかお付き合いいただければ幸いです。それでは、また。
458神谷菩薩:2012/02/20(月) 03:16:36.48 ID:yE2eStfj
テストです

_____

蒼「どうしようかな」

翠「どうしたんですか?」

蒼「実はね、僕男になってしったんようなんだよ」

翠「えぇーーー!」

蒼「翠星石どうしたら良いと思う」

翠「…」

蒼「翠星石?」

翠「…」

蒼「駄目だ、完全にいっちゃってる見たいだね」

真「蒼星石。翠星石の悲鳴が聞こえたけどどうしたの?」

蒼「…ああ真紅。翠星石なら寝たよ」

真「立ちながら寝ているの?」

蒼「そうみたい。ねえ真紅」

真「なに」

蒼「僕の悩みを聞いてくれるかい?

真「いいわよ」

蒼「僕はね…」

翠「蒼星石」
459神谷菩薩:2012/02/20(月) 03:18:43.62 ID:yE2eStfj
蒼「お、起きてたのかい?」

翠「真紅達に取られるぐらいなら…」

真「何言ってるの?」

蒼「!?」

翠「スイートリーム」

真「翠星石どうして私に攻撃してるのよ」

蒼「やめるんだ翠星石」

翠「蒼星石は私より真紅を選ぶのですか」

蒼「何言って、僕は二人共…」

翠「それじゃあ駄目なんですぅ」

蒼「え?」

翠「私は蒼星石が大、大、大好きですぅ。だから…」ギュ

蒼「僕も翠星石が大好きだよ。男になって僕の気持ちが変わったんだ」

翠「そ、蒼星石?」
460神谷菩薩:2012/02/20(月) 03:19:41.78 ID:yE2eStfj
蒼「誰よりも好きだよ翠星石…チュゥ」

翠「嬉しいですぅ」

真「…翠星石、蒼星石」

翠・蒼「?」

真「ぐちゃぐちゃになった部屋をどうしてくれるのかしら?」

蒼「あぁ…すまない真紅」

翠「ち、ちゃんと綺麗に掃除するですぅ」

真「まったく、私が戻ってくる間に綺麗にしときなさいよ」

翠・蒼「はい」

バタン

蒼「じゃあ片付けようか」

翠「その前に…蒼星石ちょっと」

蒼「何?」

翠「ちゅう…いきなりキスしたお返しですぅ」

蒼「翠星石ったら」

翠「愛してるですぅ」

蒼「僕もだよ、翠星石」

461TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 17:11:33.95 ID:ITQJqgzc
>>458-460
乙でございます。

翠と蒼、もしも双子ではなかったら……もしも人間だったら、
もしも蒼が男の子だったら、いいアベックになるんじゃないかと
想う所です。ホント、いいコンビしてますよねぇ。
462TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 17:19:21.14 ID:ITQJqgzc
お、落ちてなかった。IE9のよく使うサイトという便利な画面から飛んだら
過去ログ倉庫行ってたんで焦りました……そういえば、>>387からは
微妙にURLが変わってるんですね。

というわけで…… お待たせしました、RozenMaiden Fortsetzung
第41話投下しますよ。すいませんホント、最近は月一で話が浮かぶのが
やっとなもんで……ではいきます。


41【柿崎めぐと水銀燈の夜桜】
463RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 17:45:37.33 ID:ITQJqgzc
【柿崎めぐと水銀燈の夜桜】

[2005/03/25 00:01]
[めぐの部屋。]

柿崎めぐ「…… ……はぁ」

水銀燈「…… めぐ?」

めぐ「水銀燈。」

銀「…… 眠れないの……?」

めぐ「うん……なんだか、今日は目が冴えちゃって。 ゴメン、
   起こしちゃった?」

銀「いや…… 私も、なんだか途切れ途切れに起きちゃって……」
464RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 17:54:39.62 ID:ITQJqgzc

 3月25日、快晴。と言っても、夜だから…… 満天の星空?
退院してからは早く寝ていたけど、今でも、たまに入院していた
時みたいに、灯りを消してからもしばらく眠れないことがある。

 パパは、年度末の仕事が終わってなくて、会社に泊まり込み。
だから、今夜は黒い天使さんと二人きり。


銀「よいしょ、っと……」

めぐ「水銀燈?」

銀「ちょっと、隣いいかしらぁ?」

めぐ「もちろん♪」
465RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 17:58:21.00 ID:ITQJqgzc

 何となく、窓から星空を眺めていた私の横に、水銀燈がそっと
寄り添ってくる。銀色の髪が、月明かりに照らされてとても綺麗。
今日は満月だから、灯りを消してても、水銀燈の顔がよく見える。


めぐ「ねえ、水銀燈?」

銀「何?」

めぐ「眠れないなら……ちょっと、お散歩でもしない?」

銀「大丈夫なのぉ? こんな夜遅くに出ていって……」

めぐ「…… いざとなったら、貴女に頼るわ。」

銀「もう、めぐったら…… まあ、いいけどぉ。」

めぐ「ありがと、水銀燈。」
466RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:08:11.78 ID:ITQJqgzc

[00:12]
[道中。]

 日付が変わるころには、人もあまり通らない。かすかに、車の
通る音が聞こえるくらい。この時期って、蛙とか虫が鳴いてない
から、夜中は本当に静か…… そこがまた、いいけど。

 二人で歩く道も、水銀燈の羽根の揺れる音と靴の音だけが響く。
水銀燈は空を飛ばず、私に合わせて歩いてる。 ……というか、
私の方が水銀燈に合わせてゆっくりと歩いてる。


銀「昔はよく、あの建物の上とか、教会の屋根に降りてみたりして
  いたわねぇ。まだ、めぐに逢う前の話だけど。」

めぐ「そうなんだぁ。」

銀「病院の屋上とか…… 学校の屋上なんかにも行ったわ。」
467RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:13:15.53 ID:ITQJqgzc

めぐ「ふふ、高いところが好きだったんだねぇ。」

銀「……高いところだと、辺りを見回せるし…… これは昔から
  だけど。」

銀「それに、なんだか、高いところに居ると、……ひとりじめ、
  してるような、そんな気分になってたわ…… ああっもう、
  恥ずかしいじゃないの……。」

めぐ「ふふ……」


 照れてる水銀燈は、やっぱりかわいい。斜め上、月の方に視線
だけをそらしてて……、顔を赤らめてる。背中から生えてる翼で
顔を隠したりはしていなかったから、嫌な気はしてないみたい。
468RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:20:56.84 ID:ITQJqgzc

[00:16]

 しばらく歩くと、自販機の明かりが見えた。のどが渇いていた
から、丁度良かったかな。自販機の前に立って、財布からお金を
取り出す前に、水銀燈に訊いてみる。


めぐ「水銀燈は何がいい?」

銀「そうねぇ……。 なら、ヤクルツをお願い。」

めぐ「あっ、それなら、丁度2本出てくるから…… 私もそれに
   しよっと。」


 小さく、コトンコトンと、ヤクルツが2本取り出し口に落ちる。
水銀燈がそれを両方とも取出し、片方を私に差し出してくれた。
落ち着いて座って飲める場所は…… 近くの公園、かな。
469RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:30:11.45 ID:ITQJqgzc

[00:24]
[公園。]

 水銀燈は、私と出逢う前は、高いところと教会のほかに、この
公園にも来ていたと話してくれた。 ……滑り台とかジャングル
ジムの上、やっぱり高いところに、よく一人で座ってたみたい。

 とりあえず、ベンチに腰を下ろして、二人してヤクルツを飲む。
……けど、なんだか照れる。いつも家では二人で紅茶を飲んだり、
おやつを食べたりしてるのに……静かな世界に二人だけだから?


銀「…… ……」

めぐ「……」

銀「…… きれいねぇ。」

めぐ「(!?)桜の樹?」

銀「ええ。」


 少しだけ芽が開いている桜の樹が見える。水銀灯に照らされて、
ぼんやりと樹の輪郭を映し出してる。満開になったら、夜桜……
とっても美しい。水銀燈も、夜桜とか水銀灯は好きだって。
470RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:40:30.52 ID:ITQJqgzc

銀「水銀灯…… 私の名前でもあって、あの灯の名前でもある。
  だから……私もあの灯は好きよぉ。名前も、もちろんねぇ。」

めぐ「あの、青白くて眩しい…… この感じが、いいよね。」

銀「……水銀灯って、私よりも後に作られたそうよぉ。」

めぐ「へぇー…… 灯の方が後なんだ。」

銀「私がどうやって産まれたか…… 完全には覚えていないけど、
  名前も最初からあったわけじゃないかも……、気が付いたら
  私は水銀燈だったというだけで。」

めぐ「そう……なんだ……」
471RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:42:25.43 ID:ITQJqgzc

銀「……けど、」

めぐ「でも、水銀燈は、水銀燈よね。私も、ほら、自分の名前の
   由来とか、まだ全然訊けてないし……!」

銀「あら、言われちゃったわねぇ。……ふふっ、そのとおりよぉ。
  今ここに、私がいるんだから。めぐだってめぐ。私は私よぉ。
  ……この先、お父様に逢えたら、根掘り葉掘り訊いてやるわ。」

めぐ「……そっか。ふふっ、楽しみだね。私も、お父様に逢って
   みたいなぁ。」

銀「もちろん。その時はめぐにも逢わせてあげるわぁ。」


 水銀燈がいつ生まれて、今までどう過ごしたのか……。別段、
全部は分からなくてもいいけど、誕生日ぐらいは知りたいかも。
今は、初めて逢った3年前の夏の日が、記念日という事で。
472RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:47:41.63 ID:ITQJqgzc

 ベンチから立ち上がって、公園を出ようとしたら、黒猫が一匹、
私たちの前に歩いてきた。いつもの黒い猫だった。真夜中だから、
全然気が付かなかったなぁ。


銀「あら、いつもの……」

めぐ「こんばんは。」

黒猫「ぅにぃー…… にぃ」

めぐ「礼拝堂、通って帰ってみる?」

銀「そうねぇ。真夜中の礼拝堂…… いつ以来かしらぁ。」
473RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:52:25.56 ID:ITQJqgzc

[00:38]
[旧礼拝堂前。]

 とがった屋根の上の十字架と、建物の後ろにある寒緋桜が月に
照らされていてとても綺麗。私と水銀燈と黒猫はそれをしばらく
の間ぼんやり眺めてたけど、びゅうっと冷たい風が吹いてきた。


めぐ「っ、さむーい……」

猫「うー……」ブルブル

銀「冷えるのぉ? ……中に入りましょう。席なら、あるわぁ。」

銀「メイメイ、中は大丈夫?」

メイメイ{フウッ……}チカチカ

銀「ありがと。さ、入りましょぉ。」
474RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 18:57:10.01 ID:ITQJqgzc

[00:41]
[礼拝堂。]


 礼拝堂の中は暖かくて、黒猫も長椅子の上でうとうとしてた。
水銀燈が言ってたんだけど、この猫はよくここにふらっと遊びに
来るみたい。猫の背中を撫でてあげたら、力いっぱいのあくびが。

 ……そのあくびと同時に、私たちの目の前に、ひらひらと花弁
が落ちてきた。外の桜だ。この礼拝堂はとても古いから、窓硝子
が何枚か無くなってる所がある。そこから入ってきたのかな。


銀「あら、しばらく寄らないうちに、そこの桜、満開に……」

めぐ「よく、いっしょに病院の窓から、桜見てたよね。早咲きの、
   寒緋桜。」
475RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:01:34.85 ID:ITQJqgzc

銀「……ねぇ、めぐ。夜桜見物でもしてみない? 公園のはまだ
  咲いてなかったけど、ここなら……」

めぐ「もちろん! 猫さんもいっしょにどう?」

猫「ぅにい。」コクッ


 ひとまず、みんなで裏側に行ってみることに。外は、不思議と
さっきよりも静かだった。時々吹く風で、桜の樹が揺れる音が、
優しく響いていて心地いい……。

476RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:12:19.83 ID:ITQJqgzc

[00:49]
[礼拝堂裏。]

めぐ「……きれいだねぇ。」

銀「ええ…… 水銀灯に照らされた桜もいいけれど、月が照らす
  夜桜も、素敵だわぁ。」

猫「ぅにゃあー……」

めぐ「…… こんな時間に、こういう所で、こんなに間近で夜桜
   を見るの、本当に初めてで……。ふふっ」

銀「……?」

めぐ「…… 水銀燈に逢ってなかったら、この桜……、見られて
   なかったかもしれない…… 生きてて、よかった……」

銀「めぐ……?」
477RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:17:28.95 ID:ITQJqgzc

 なぜだろう。この夜桜を見ていると…… 言葉が、あふれ出て
止まらなくなってくる。少し、水銀燈と黒猫が、目を見開いてた。
ちょっと、びっくりさせちゃったかな……?


めぐ「……ふふ、いきなりごめんね、水銀燈。なんだか……」

銀「…… いいのよ、めぐ。」

めぐ「……」

猫「ぅにー。」

めぐ「っ……ふふっ」

めぐ「……ねえ、水銀燈?」

銀「なぁに、めぐ。」
478RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:22:42.46 ID:ITQJqgzc

めぐ「……桜の木の下で、想いを伝えるのもありじゃない?」

銀「そうねぇ、なんか、前にのりの漫画で読んだような……ふふ、
  なんでも言いなさいな。私と猫とめぐのほかには、ここには
  いないんだから……」

めぐ「ふふ…… それじゃあ、ずっと一緒に居てくれる……?」

銀「……もちろんよぉ。 それは私も同じ……」

めぐ「死が二人を別つまで……」

銀「いいえ、死んでも一緒よ……。嬉しいわ、めぐ。」

めぐ「ふふ……♪ 水銀燈ぅ!」ヒシッ

銀「めぐったら…… もう……」ギュウッ

猫「……ぅにい……♪」


 ……昔までは、この子は私の命を吸ってくれるっていう意味の、
黒い天使さんだった。だけど今は……間違いなく、こう言えるよ。
正真正銘、私の力になってくれる……黒い天使さんって。
479RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:49:03.53 ID:ITQJqgzc

[00:58]

めぐ「この猫さんにも、名前を付けない?」

銀「そうねぇ…… 何がいいかしら。」

めぐ「…… 『マーキュリー』。」

銀「……『水銀』とか『水星』、ね。それ、よく知ってたわねぇ。」

めぐ「なんだか、この黒猫さんって、雰囲気が水銀燈にそっくり
   だし……、いいでしょ? 勉強してたら、憶えちゃって。
   ねっ、マーキュリー。」

マーキュリー(猫)「……にゃう! ぅにゃう!」スッ

めぐ「もう、くすぐったいよ……」
480RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:55:26.94 ID:ITQJqgzc

銀「そういえば、最近はよく勉強しているわね。いいことだわ。」

めぐ「……大学に行ってみようかな、と思って。そういう制度が
   あるって、パパが教えてくれたんだ。できたら、ジュン君
   とか巴ちゃんと、いっしょに学校に行ってみたいし……」

銀「そう…… 頑張りなさいな、めぐ。私も、出来ることはやる
  から…… めぐが強くなってくれると、私も強くなれるわぁ。」

めぐ「……ありがと、水銀燈。マーキュリーも。」

マーキュリー「ぅにゃ?」

めぐ「また、ここに遊びに来てあげるね。」

マーキュリー「ぅにぃ!」

銀「ふふ…… マーキュリーね。いい名前だわ。」


 腕時計を見たら、時計の針は午前1時を廻っていた。そろそろ、
お家に帰ろうかな。いいものを見られたし、とっても楽しかった。
481RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 19:57:05.20 ID:ITQJqgzc

[01:11]

めぐ「……あっ、もう1時なんだ。眠たくなってきたなぁ……」

銀「そうね……私もそろそろ眠りにつかないと。」

めぐ「それじゃね、マーキュリー。」

銀「またねぇ。」

マーキュリー「にぃ!」


 軽い足取りで、二人で笑い合いながら家路についた。今頃は、
パパもうたた寝しちゃってたりするのかな。ジュン君は起きてる
かもだけど……巴ちゃんは、寝てるだろうな。
482RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 20:32:49.84 ID:ITQJqgzc

[01:30]
[柿崎家 めぐの部屋。]

めぐ「それじゃ、おやすみ、水銀燈。」

銀「ええ。おやすみ、めぐ。また明日…… 今日、か。」

めぐ「そうだね。ふふ……今日は楽しかったわ。」

銀「私もよぉ。……いい夢、見るのよぉ。」

パタン
めぐ「ふふっ、今日はいい夢見られそうだよ。」

483RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 20:45:55.46 ID:ITQJqgzc

[08:00]
[柿崎家 リビング。]

チュン・・・チュンチュン

めぐの父「ただいま、帰ったぞー。待たせたな。」

めぐの父「……ん? 寝てるのか……?」


ギイッ
めぐ「……うーん…… あっ、お帰り、パパ。」

銀「……ふぁあ…… お帰りなさぁい、めぐのお父様。」

めぐの父「おっ、おはよう、めぐ。水銀燈も。珍しいな、こんな
     遅くまで寝てるなんて。」
484RozenMaiden Fortsetzung 41 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 20:49:53.04 ID:ITQJqgzc

めぐ「……たまには、いいでしょ? ねっ、水銀燈。」

銀「ええ。」

めぐの父「それもそうだな。よし、朝ご飯でも作るか!」

銀「あっ、私も手伝うわぁ。その前に身支度しなきゃ……。」


 朝8時、私たちが起きるのと一緒に、パパが仕事から帰った。
今日は、泊まり込んだ後だから一日お家にいるみたい。朝ご飯を
食べ終わったら多分寝ちゃうから、パパが起きた後にでも、肩を
揉んであげようかな。

 あの夜桜は、間近で見たっていうのもあって、今まで見てきた
夜桜の中で一番綺麗だった。今度はもうちょっとだけ早い時間に、
みんなで夜桜を見に行きたいなぁ。ねぇ、私の黒い天使さん。


                【柿崎めぐと水銀燈の夜桜/完】
485TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/03/18(日) 20:56:52.86 ID:ITQJqgzc
ハイッ、というわけで第41話「柿崎めぐと水銀燈の夜桜」は
以上で終了でございます。読んでいただいた方ありがとうございます。

今まで主役に据えたことのなかった、めぐのターンでした。
とりあえずめぐが明るくなった経緯が知りたい方は、
ぜひとも第1話から読んでみてください。

ではまた次回でシーユーアゲーン!
486名無しさん@お腹いっぱい。:2012/04/15(日) 03:00:13.05 ID:1gdM+Sqv
遅ればせながら、乙。
487TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:33:36.87 ID:BFY5j1/G
 お待たせしますた。TEGでございます。
第42話が書きあがりましたので投下します。

>>486
ありがとうございます。たいへん励みになります。


……では、いきます。

42【柏葉巴と雛苺の打明】
488RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:36:00.08 ID:BFY5j1/G
【柏葉巴と雛苺の打明】

[2005/04/07 09:02]
[かしわ高校 2年6組。]


桑田由奈「ねえ巴、もしかして、また学級委員……する?」

柏葉巴「やってみようかな。……由奈こそ、立候補する?」

由奈「ううん。私は文化委員、やろっかな。文化祭、去年やって
   委員になってみたいなって思って。」

巴「ふふっ、楽しかったよね。去年は学年全部で作品作りだった
  けど、2年生になったらクラスごとにお店を出せるんだよね。
  楽しみだなー……」


 4月7日、晴れ。今日は高校の始業式。今日から私は高校二年。
クラス替えの結果、私は2年6組に。偶然にも、中学の時と同じ
「2年6組」になったんだ。

 由奈も同じクラスで、出席番号も隣同士。だから、最初は席が
前と後ろになった。まあ、明日には席替えしちゃうんだけど……
489RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:41:15.93 ID:BFY5j1/G
由奈「学級委員、多分、巴に決まりだね。誰もやらないだろうし、
   ……1年の時もだったよね。」

巴「4年前から、かな。誰もやらないし…… けど、中3からは
  ……自分からやってみたくって……。」

由奈「そうだったっけ? ふふ……ホント、巴は真面目だなー。
   何かあったら、助太刀するよっ。」

巴「ありがとう、由奈。」


桜田ジュン「…… よおし、今年もやるか……!」


 それに、桜田君とも、また同じクラスになった。桜田君とは、
これで中1の時から5年連続で同じクラス。……桜田君も、中学
の時と同じ「2年6組」なんだね……。
490RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:45:04.50 ID:BFY5j1/G

[09:12]

ガラガラッ
教師・蕨「あー、みんな席に着いてー。 いない人はいないか?」

「席全部埋まってまーす」
「大丈夫でーす」

蕨「よーし。学級委員はー…… まだ決まってないか。じゃあ、
  最初のHRということで、ここで各委員を決めよう。」

蕨「学級委員ー。男女各一名だが希望者は――」

巴「はいっ」

蕨「おお柏葉。やってくれるのか。」

巴「はい。ぜひ……」


 先生も同じ、蕨先生。あんまり、変わり映えはしないけど……
……いや、そんなことはない。やっぱり新年度だから、なんだか
気合が入る。女子の学級委員は、すんなり決まった。男子は……


ジュン「はい」
491RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:50:46.28 ID:BFY5j1/G

蕨「おっ、桜田。男子ですぐ手が上がるのは珍しいな。」

巴(桜田君!)


 桜田君が、スッと手を挙げた。去年は全然決まらなくて、最後
まで後回しになって、それから桜田君が手を上げてたけど……


ジュン「そ、そーですか……」

蕨「やってくれるか。」

ジュン「頑張ります。」

蕨「よーし。おお、すんなり決まるのは久々だな。他に立候補は
  ないか?」

「「大丈夫でーす」」
「「この2人なら!」」
492RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:57:09.82 ID:BFY5j1/G

蕨「おっ、決まりだな。よし、じゃあ明日の席替えは頼んだぞ。
  それと早速初仕事だ。各委員の、名前を黒板に書いてくれ。
  名簿渡しておくから、それを見てくれ。」

ジュン「はい!」
巴「はいっ。」


 2人で返事をして、黒板の前に立った後、桜田君が私を向いて
つぶやいた。


ジュン(……やると思ったんだ。また、頑張ろうぜ。)

巴(…… ありがとう。)
493RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 17:59:27.70 ID:BFY5j1/G

蕨「じゃあ次は文化委員ー。男女各二名、希望者は――」

由奈「はい!」

蕨「よし桑田。やってくれるか。」

由奈「はい、頑張ります!」

巴「……くわた、っと…… 女子の方は私が書くから、桜田君は
  男子の方、お願い!」

ジュン「オッケー。」

蕨「おっ、それなら、決まりだな。あと3人は――」
494RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:11:58.42 ID:BFY5j1/G

[09:51]

蕨「えー、それじゃ始業式の会場に行こう。桜田、号令を!」

ジュン「はい! きりーつ、礼ー!」

「「ありがとうございましたー」」


 最初のHRは、滞りなく終わった。……やっぱり……桜田君と
なら、頑張れそうだな。

 ……始業式の前、先導してみんなを連れて行く時……窓の外を
眺めてみる。とても天気がいい……。もし今日がお休みだったら、
きっと雛苺たちと、朝から野原で遊んだりするのかなぁ……。

 今日は、4月7日。私のところに、雛苺がやってきたのは……
3年前のこの日の夜だった。
495RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:15:04.30 ID:BFY5j1/G

[12:15]
[帰り道。]

 最近、ふと思い出す。3年前、あの子の「世界」に行ったこと。
行ったというか、あのころは「連れて行かれた」というか……。
色々なことがあったけど、今では…… 私から、行きたいな。

 行きたい。行きたい、けど…… どうすればいいのか……。

 自転車での帰り道…… 桜田君に、今の事を打ち明けてみよう。
桜田君なら、真紅たちなら、何か知ってるかもしれないし……。
ふしぎと、周りが静かになった気がする。


巴「ねえ、桜田君。」

ジュン「ん?」

巴「今日……桜田君の家、行ってもいいかな?」

ジュン「おお、いいけど…… どした?」

巴「ちょっと、真紅に訊きたいことがあって……。」
496RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:20:33.68 ID:BFY5j1/G

ジュン「真紅に?(……くんくんのことかな……?)」

巴「…… 雛苺の……」

ジュン「…… ?」

巴「雛苺の『世界』に、行ってみたくって……」

ジュン「……ああ、アイツの…… そういえば、しばらく行って
    ないなあ…… 決着つけたときに、そこを通ったっけ。
    ……柏葉は……」

巴「…… ここ2、3日……、夢を見るんだ。あの子の世界で、
  楽しく遊んでる夢……」

ジュン「へえ、楽しそうだなぁ…… 僕はあんまり真紅の夢とか
    見ないんだけど……」


 そう、この2、3日ほど、雛苺の世界にいる夢を見てる。多分、
もうすぐであの子が来て3年になるってことを意識してたから、
と思うけど……。
497RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:27:26.83 ID:BFY5j1/G

巴「真紅も出てきたんだよ。……桜田君もね。」

ジュン「そ……なんだ……。 ……なあ、柏葉。」

巴「何?」

ジュン「…… 行こう。」

巴「行こう、って……?」

ジュン「決まってるだろ、アイツの世界にだよ。」

巴「…… うん!」


 なんだろう。なんだか、とっても嬉しい……。


ジュン「昼ご飯は大丈夫か? なんだったら作るけど。」

巴「うん、桜田君がよければ…… お願いします。桜田君の家で、
  お母さんにメールしよっと。」
498RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:33:40.84 ID:BFY5j1/G

[12:40]
[桜田家、リビング。]


ジュン「ただいまあー。帰ったぞー。」

真紅「おかえりなさい、ジュン。 ……あら、巴もいるのだわ。
   いらっしゃい。」

巴「こんにちは。」

雛苺「おかえりなのー! あっ、トモエトモエー!! トモエも
   おかえりなさいなのっ!」

巴「ふふっ、ただいま…… で、いいのかな?」

ジュン「いいんじゃないか?」
499RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:38:10.12 ID:BFY5j1/G

翠星石「おっ、巴もいっしょですか。おかえりですぅ。今、丁度
    ランチにしようと思っていたところだったです。すぐに
    作るですから、ちょおーっと待っててくれですぅ!」

ジュン「ありがとな、翠星石。なに作るんだろなー。」

雛「トモエ、ヒナね、今お絵かきしてるの! できたらトモエに
  あげるねっ! ……ちょっと、クレヨンとってくるの!」

巴「ふふ…… ありがとう、雛苺。」


 桜田君の家に行くと、雛苺が元気よく私を迎えてくれた。真紅
と翠星石も、笑顔であいさつしてくれる。心が、おだやかになる。
よし、私もお昼ご飯、作るの手伝おうかな。
500RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:46:35.28 ID:BFY5j1/G

[13:02]

 翠星石と一緒に作ったクロックムッシュを食べているあいだ、
桜田君が、私が帰り道に言っていたことを真紅に訊いてくれた。
何回も、大丈夫、大丈夫だと言ってくれたけど……


ジュン「…… というわけなんだけどさ…… 大丈夫だよな?」

紅「ええ、全く問題ないわ。」

巴「本当に…… 行けるの……?」

紅「よく聞いて頂戴、巴。 ……元々、私たちの誰とも契約して
  いないのりだって、あの時もジュンや雛苺たちといっしょに
  夢の世界に乗り込めた…… ジュンの為だって思ったら、ね。」

翠「のりどころか、薔薇屋敷のおじじや、その元恋人の許にまで
  行けたじゃないですか。それだったら、巴なんか丸腰の状態
  でもいけると思うです。」

巴「けど…… もう、指輪は……」
501RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 18:51:51.74 ID:BFY5j1/G

 私の左手薬指には…… もう、雛苺との指輪はない。3年前の
4月20日。……あの時、あの子が勇気を振り絞って……契約を
解いたときに、消えていった。

 ……それなのに、私は今、あの世界に行きたいと思っている。
……桜田君たちには訊けても ……雛苺には訊けずにいる。辛く、
苦しんだと思う。

 指輪が無ければ……あの世界までは、行けない。私はずっと、
そう思ってしまっていた。


翠「な〜に言ってるですか巴っ、そんなもんなくてもチビチビは
  オメーを夢の世界に連れてってくれるですよ。」

巴「翠星石……」


 あの子はまた戻ってきてくれた。前みたいに、楽しく遊んで、
手紙もたくさんもらって……なのに…… どうしても、これだけ
は、訊けないまま。勝手だな……私……
502RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:01:13.58 ID:BFY5j1/G

 けど……、それはすぐに、杞憂だったと知らされる。真紅が、
うつむいている私の顔を、そっと持ち上げて……目を合わせて
語りかけた。


紅「顔を上げなさい、巴。貴女が考え込むことなんてなくってよ。
  この3年間を思い起こして頂戴。 ……これは、この時代の
  契約者全員に言えることでもあるけど……」

紅「貴女と雛苺の『絆』は、『契約』を超えた、ゆるぎないもの
  なのではなくて?」

巴「…… ……!」


 そして、雛苺が2階から元気よく、私の近くに飛び込んできた。
背中から、画用紙を取り出した。


雛「トモエーっ! ほらっ、描けたなのー!」
503RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:09:30.11 ID:BFY5j1/G

 自分の肩幅ほどもある画用紙には……色とりどりのクレヨンで、
私の満面の笑顔が描かれていた。……さっきまでの心配がぜんぶ
無くなったと思った瞬間……。


巴「…… 雛苺…… ありがとうっ……!」ギュウッ

雛「ほえ!? ……えへへっ、ヒナもぎゅーっ♪」

巴「へへ…… 雛苺っ、いっしょにお昼ご飯食べよう!」

雛「うん!」

翠「……巴、翠星石だって、たまにはそこでジュンと木登りして、
  林檎とりたいんですぅ。」コソコソ

ジュン「もしもーし、聴こえてるぞーっ。明日あたり行くかぁ?」

翠「ひええ〜っ…… なんで盗み聞きするですかぁ…… この、
  チビ人間〜!」ポカポカ

ジュン「いてて…… ちょっ、脛は痛いって!」
504RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:17:32.05 ID:BFY5j1/G

[13:20]

巴「おいしかった?」

雛「うん! とってもおいしかったのよ!」

ジュン「ハハハ……本当に仲がいいんだな……」

紅「そうね…… 第82633世界。そこに行くのなら、今から
  ここでお昼寝するのが早いけれど…… さすがに、そういう
  訳にはいかないわね……」

ジュン「ぼ、僕は……」


 夢の世界に行くには、鏡を使ってそこに行く方法と、もう一つ。
眠っている人の上に浮かんだ夢に飛び込み、その世界に行く方法
がある。上手く言えないけど……この子たちの、なせる業だね。
505RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:20:24.63 ID:BFY5j1/G


翠「それなら、トモエの家に行くのが一番確実ですかね? 十分
  大きな鏡もありましたよね。」

雛「トモエのおうち行くの!?」

巴「うん、雛苺も、連れて行くよ。」

雛「わあーいっ!」

巴「行こうっ、桜田君!」

ジュン「……おう!」


 みんなで外に出ると、風に吹かれて、桜の花びらが泳いできた。
私の中の迷いを、完全に消していくように…… うん。今日なら、
……雛苺に、訊けるよ。
506RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:21:53.11 ID:BFY5j1/G

[13:44]
[柏葉家。]

巴「ただいまー。」

雛「こんにちはー、なのー! トモエのママいないの?」

巴「誰もいない…… お母さん、買い物に行ってるんだ。」

紅「おじゃまします…… ここは、3回目ね。」

翠「たしか2年前の5月に、遊びに行ってたですよね。……ま、
  翠星石はその時ちょ〜っとお楽しみでしたけどぉっ♪」

ジュン「お楽しみって、なぁ…… 出かけたら雨降ったんだよな。
    こどもの日だっけ、アレ。」

翠「それにしても、……なんか落ち着く感じの家ですぅ。」

ジュン「そーだな……、和風だし……」

巴「ふふっ、古いだけだよ。 さっ、上がって上がって。」


 翠星石が私の家に来るのは、意外にも、これが初めてだった。
あと来てないのは、水銀燈と雪華綺晶と薔薇水晶。近いうちに、
雛苺の姉妹であるみんなを連れていきたい。お父さん、驚くかな。
507RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:24:14.02 ID:BFY5j1/G

[13:48]
[巴の部屋。]

雛「うゆー…… トモエに髪をとかしてもらうと…… やっぱり
  気持ちがいいの……」サラサラ

巴「ふふっ…… ありがと。」サラッ

ジュン「ほぉー…… うまいな……」

紅「ジュン、今夜髪を梳かして頂戴。たまにはジュンにも梳いて
  欲しいのだわ。」

翠「そ、それは翠星石もその座につく権利を主張する権利が……
  ……って、あれ……?」

ジュン「まーまー、落着けって、梳いてやるからさ。」


 やっぱり、この子たちに懐かれてる桜田君を見ると、なんだか
なごんじゃうな……。雛苺も、くすくす笑ってる。
508RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:35:40.84 ID:BFY5j1/G

ジュン「しっかし、また同じクラスになるなんてなぁ。」

巴「そうだね。5年連続だって……♪」

ジュン「……なんだかんだ言ってさ、……付き合い、長いよなぁ。
    ……昔は、今よりもよくこの家に遊びに来てたっけ。」

巴「うん。小3の終わり、私が引っ越す前の日にまで来たよね。」

ジュン「……そーだっけ。ああ、そっかそっか……そうだったな。
    ハハハ……」

翠「そんなに前からの付き合いなんですか?」

巴「幼稚園から、だよね。」

ジュン「そうなるなぁ。間が3年はあいてるけど……」

紅「となると…… 10年以上ね。」
509RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:39:11.60 ID:BFY5j1/G

 私は、小学4年生に上がるときに一度、この町を離れたことが
ある。中学1年生のときに、またここに帰ってきたんだ。もう、
その頃には桜田君とはあまり話さなくなってしまっていたな……。

 転校する前は、桜田君ものりさんと一緒によくこの家に遊びに
来ていた。私もよく、桜田君の家に行ってたな。

 今でこそよく遊びに行ったりするけど、この子たちが来るまで
は、遊びに行ってたというわけじゃ、なかったんだったね。


[13:57]

翠「巴、この部屋におもちゃ箱があるとうわさに聞いてるですが、
  どこにあるですか?」

雛「翠星石も、おもちゃで遊ぶの?」

翠「よくぞ聞いてくれたです。多分ですが今から必要になるもの
  が、その中に入ってると翠星石の長年のカンが……」

巴「よいしょ、っと…… 箱っていうか、缶なんだけどね。」

翠「おおっ、ありがとです! 使えそうなものは……」
510RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:45:44.67 ID:BFY5j1/G

 翠星石がおもちゃの缶をさぐる姿は、どこか新鮮だ。翠星石は、
おもちゃの裏の名前を見て……「オメーは几帳面ですね」と呟く。
それは、むかしからなんだよね。なんにでも、名前を書いてた。

 小さなピコピコハンマーと、おもちゃのコインを手に持って、
何か考えているみたい。私が、雛苺によくやっているみたいに、
翠星石もコインを使って手品でもするのかな……?


翠(さ……さすがに、チビ達の目の前で……のりの時みたいに、
  巴をひっぱたくわけにはいかんですぅ……良心にも傷がつく
  です…… よ、よし、こうなったらこっちですぅ……!)

雛「翠星石、さいみんじゅつでもするの?」

翠「いかにもですぅ。ヒヒヒ、あなたはだんだんねむ〜くな〜る
  で〜すぅ……♪」

ジュン「……なんか、こいつが言うと怖いな……」

紅「……そうね……」

雛「うゆ……」
511RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 19:50:04.48 ID:BFY5j1/G

 そっか、鏡を使わずに夢の世界に行くには……、私が眠らない
となんだよね。……それは、分かってるんだ。だから、日がよく
あたる窓際に、ずっと座ってた。

 今日は、日差しが暖かい。猫みたいに、今にも……寝転がって
そのまま眠ってしまいそう……。


巴「ふぁー…… 日当たりがいいから……眠く…… これで……
  いいんだよね……?」

翠「よ、よぉーしよし、き、効いてるです。今に出てくるですぅ。」
 (催眠術、関係なかったですか……)

雛「…… トモエ さいみんじゅつ……効いてるの?」

巴「ふふっ…… 雛苺、とくに催眠術は……、関係ないよ……。
  私…… このくらいなら…… 平気なんだ……。……なんか
  ……ごめんね……?」

雛「そうだったの。」

翠「なっ、なんと…… おそれいったですぅ。」
512RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 20:03:57.17 ID:BFY5j1/G

[14:02]

 眠気が、強くなってきた。目をつぶれば……もう眠りに落ちて
しまいそうだけど……、打ち明けるんだ……


巴「ねえ…… 雛苺……?」

雛「なあに?」

巴「……私…… きめたの…… もういっかい…… 雛苺の……
  世界に行くって……」

雛「!?」

巴「……わたし…… 私ね、雛苺の世界に…… 行きたい……!」


 まどろむ意識の中で、やっと……言えた。雛苺、びっくりさせ
ちゃったよね…… けど…… 雛苺は、私の横にそっと寄り添い、
屈託のない笑顔で……私に、語りかけてくれた。
513RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 20:18:46.00 ID:BFY5j1/G

雛「……トモエ……♪」

巴「なあに、雛苺……」

雛「…… トモエ……! ありがとうなの。ヒナね、またここに
  戻ってこられてからも…… いつか、またあそこで遊べたら
  いいなって……ずっと、ずっと思ってた。」

巴「…… 雛……」 


 雛苺も…… おんなじことを思っていて…… おんなじことを、
打ち明けてくれたんだね……。


雛「まかせてなのっ! トモエの夢の中から……、ヒナの所に、
  行けばいいのね! ヒナ、またトモエと……そこで遊べるの、
  すごく嬉しいの……! ねっ、しんく……♪」

紅「ええ…… 今度は、もう…… 何もなしで……! ジュン、
  準備はできていて?」

ジュン「んあ…… この部屋って、こんなに日当たり良かっ……
    …… …… Zzz」
514RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 20:22:52.35 ID:BFY5j1/G

[14:14]

巴「…… すぅ…… すぅ……」

紅「……翠星石、第67982……ジュンの世界から入って頂戴。
  私たちは、こちらから行くわ。」

翠「オーケーですぅ。しっかし、久々ですねぇ。チビチビの世界。」

雛「……すぐ、逢えるなの?」

紅「この二人は…… 私とジュン、それと貴女と巴よりも長く、
  お互いを知っている…… そして、貴女も私と繋がっている。
  翠星石も……、これ以上ない最高の状況だわ。」

翠「さあっ、完璧に現れたですぅ! レッツラゴー、ですぅ♪」

雛「……うゆ! ヒナの世界で、みんなで遊ぶの……!」
515RozenMaiden Fortsetzung 42 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 20:25:22.25 ID:BFY5j1/G


 そして…… 私が次に目を開けたとき、今までで一番明るい、
夢の世界にいた。


[14:16]

巴「……んぅ、…… あれ、ここは……」

雛「トモエッ、お昼だけど、おはようなのー!」

紅「『第39433世界』。巴の精神世界なのだわ。」


             【柏葉巴と雛苺の打明/完 第43話に続く】
516TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/24(火) 20:31:52.16 ID:BFY5j1/G
 ……ハイッ、というわけで第42話「柏葉巴と雛苺の打明<うちあけ>」は
以上で終わりです。この話は、第43話に続きます。

 ……第23話から続いた、「主人公2人で、何かを伝えること」に
重きを置いてきた(つもりの)【第3部「伝心」】ですが、ジュンたちも
無事に進級したため、次の第43話が最後になります。その模様は、
明日の夜から投下しようと思います。それでは、また次回。
517TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:14:28.95 ID:jq9dZCE5
 前回に引き続いて、第43話を投下しますよ。
では、いきます。


43【柏葉巴と桜田ジュンの約束】
518RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:18:12.07 ID:jq9dZCE5
【柏葉巴と桜田ジュンの約束】

[2005/04/07 14:16]
[第39433世界。]

柏葉巴「どうやら……ここが、私の……世界、という感じ、かな。」

真紅「ええ…… 第39433世界。3年経ったけど……初めて、
   ここに入ったのだわ……。」

雛苺「ここがトモエの…… なんか、トモエのお部屋がおっきく
   なったみたいなの。」

紅「ここは…… まるで、日本の茶道に出てくる茶室のように、
  穏やかね…… それでいて、薔薇や苺…… そうね、ここは
  巴の心の中。」

巴「へへ…… 長い事、一人でいろいろ抱え込んじゃったからね。
  ……きっと、近いうちにもっと賑やかになるかもしれないわ。」


 3年前に行った、雛苺の世界は「第82633世界」だったね。
数字に、何の意味があるかはまだ分からないけど……。この世界
は、雛苺が言うとおり、私の部屋が大きくなったような場所だ。

 出窓になっている部分からは、庭園のように緑が生い茂る森が
見えて……8色の薔薇の花や、苺の花が咲いていた。苺の実も、
もちろんあちこちに生っている。雛苺も大喜びだ……。
519RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:22:19.19 ID:jq9dZCE5

雛「うゆっ、この苺、ヒナの苺みたいなの。あーっ! あれっ、
  トモコオオトカゲさんが歩いてるの!」

紅「ここは巴のフィールドなんだから、とりわけ私たちと関わる
  ものが多いみたいね。けど、巴自身の物もいくつもある……」

巴「もしも、雛苺たちが来てなくて、この世界に入られることが
  あったら…… きっと、なんにもなかったかも……」

紅「そうね…… 3年前は、どこか暗い世界だったわね。私も、
  ほかの姉妹も…… そういう時もあったわ。そこは、9秒前
  でもなんでもなく、本当に自分の世界が、ね。」


 あの子が大事にしてる「トモコ」も、ここにいる。その後ろを、
今度はくんくんが歩いてきて、真紅が目を輝かせていた。私も、
雛苺に勧められて「くんくん探偵」を1期から観てるんだ。
520RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:33:26.68 ID:jq9dZCE5

 かつては、桜田君の世界はパソコンのモニターが転がり、ただ
ひたすらテストの解答用紙が積み重なる世界だったと聞く。今は、
とても綺麗な泉が見える場所なんだとか。やっぱり、この子達の
おかげだね……。

 ふと、出窓の端にあった、開かれたアルバムを雛苺が覗き込む。
そこには……


雛「あれ……? 写真なの……。この子、トモエ!?」

巴「あっ…… なつかしい……! 7年前の写真だ……」

紅「面影があるわね。3人映ってるのだわ……。真ん中が巴で、
  左が……どこかで、見たような…… 右がのりよね。」

巴「ふふっ、その子はね……7年前の桜田君だよ。」

雛「うゆ! そういえば、ジュンの家のリビングに、ちっちゃい
  ジュンが映ってる写真があったなの。」

紅「それよりは、もう少しだけ後のようね。」
521RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:36:21.87 ID:jq9dZCE5

 小学3年生のときの私と桜田君、そして小学6年生ののりさん
が映っている写真があった。のりさんが着てるのは、さくら中学
の制服だ。右下の日付は、98年3月29日。引っ越す前の日だ。

 ……これは、のりさんが新しく制服を仕立ててもらった時に、
記念に撮った写真。私が転校する前にと、一緒に撮ったんだっけ。
まさか自分もこれを着られるとは、この時は思ってなかったな。

 写真の中の私は、小さな竹刀を握っている。この日、桜田君に
大切なものをもらった。それが、その竹刀。今も、押入れの中に
しまってあるし、たまに雛苺がそれで遊ぶこともあるんだ。

 この日の事は、よく覚えてる。……そう思った瞬間、写真から
何かが浮き出て、壁に映った。そして、古い映画が始まるように、
その写真が動き始めた……。


[1998/03/29]

ジュン(9)『巴ちゃん、あっちでも剣道するんでしょ?』

巴(9)『うん……、続けなきゃ……』
522RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:40:55.47 ID:jq9dZCE5

ジュン『これ、使ってよ! かっこいい竹刀だろっ?』

巴『えっ…… これって……』

ジュン『パパの友達が、かっこいいからってくれたんだけどさっ。
    僕は剣道しないから…… これ、あげるよ!』

巴『ジュン君っ…… ありがとう……!』


ギュロロロッ ブロロロ……

ジュン『また……っ 逢えるよねっ!?』

巴『ぜったいだよっ! ……ジュン君…… ……!!』


ブロロロロロ……


 あの日…… 桜田君に投げかけた言葉は、引越し屋さんの車の、
エンジンの音にかき消されるほど、小さく…… 次に、まともに
『会話』を交わせたのは、4年後だった。
523RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:46:11.30 ID:jq9dZCE5

紅「…… ここで終わり?」

雛「ねえトモエ、なんて言ったの?」

巴「へっ……!? …… ……元気でね、って。桜田君はその後、
  『手紙くれよー』って言ったのは聴こえたんだ。」

紅「ふふ、まあ、いいのだわ。…… 契約者たちを助けることも、
  この時代に巻かれた薔薇乙女の、淑女の使命だわ。だから、
  できることは、手伝うわ。ふふふっ、任せなさいな。」

雛「うゆ! ヒナ、トモエにいっぱいたすけてもらったのよっ。
  だからヒナもトモエをたすけるの。大切な人を守りたいの。」

巴「…… ありがとっ……。」
524RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:47:58.75 ID:jq9dZCE5

雛「えへへ…… ねっ、トモエ! もしかしてこの竹刀なの!?
  そこに置いてある……」

巴「そう、それだよ。名前が、書いてあるでしょう? 桜田君が
  書いてくれたんだ。」

紅「ジュンに見せてあげなさい? きっと喜ぶわよ。」

巴「ふふっ、そうだね……♪ 持って行ってあげよう! 雛苺、
  これ振ってみる?」

雛「うゆ! えーい!」


 いつの間にか、その竹刀が私たちの近くに置いてあったんだ。
「本物」と同じように名前が書いてある。ここでも、この竹刀を
持てるなんて……

 雛苺は、いつも私の家でやってるみたいに、竹刀を素振りして
見せたけど、振る力が強すぎたのか、振りかぶったあとでコテッ
と転んじゃってた……。
525RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:51:42.46 ID:jq9dZCE5

[14:20]
[同じころ 第67982世界 心の樹の生える泉。]

ジュン「ここまで来るのも、久しぶりだな……」

翠「あの時のクレヨンがいっぱい建ってるですねぇ……。んで、
  あのクレヨンの光の束の先に、チビチビの世界に繋がる幹が
  あるはずです……」

ジュン「…… …… おっ、あれは!」

翠「むむっ、今です!」

ジュン「よーし、多分そこで、柏葉たちと合流できるな。さあっ、
    行くぞっ!!」

グッ
バシュンッ

翠「おおっ、べらぼーに速く飛んでるです! こりゃあたまげた
  もんですねぇ。」

バシューン……
526RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 00:55:28.76 ID:jq9dZCE5

[14:22]
[世界樹の幹の上。]

ジュン「あの扉だ…… ここからでもよく見える、『82633』。」

翠「すごく歩きやすいですぅ。チビチビ一行が来るまで、ここで
  待っとくのもいいですけど……」テクテク

ジュン「そうだな。今は僕らといるから、30分リミットはない
    からなー……。」テクテク

ヒュッ……ガシャッ!

ジュン「ぶべっ!」
ズコッ

翠「な〜にドジふんでるですか…… って、ギャアアアアッ!!
  な、なんですかそれはっ……! 足に……オメーの足に何か
  食いついてやがるです!!」

ジュン「えっ…… うわッ!!」
527RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:14:31.45 ID:jq9dZCE5

ジュン「なっ…… なんだこの、ハサミは……!! カニの……
    ロブスターの鋏っぽい…… 雲の下から伸びてる……!
    完全に脛の所を挟まれた……!」

翠「ホントです……どこから伸びてるか分からんぐらい、長い腕
  を持ってるみたいですね…… けど、どーして…… ここに、
  罠なんかあるですか……? こんな馬鹿でかい鋏って……」

ジュン「……追っ手は誰もいないみたいだけど…… いや……、
    いるはずがないんだ、けど……、夢の中、何が起こるか
    ホント分からない……!」

翠「ジュンッ! ……これを外さんことには、チビチビの所にも
  いけねーです。しかし……!」

ジュン「やばい、力づくでも抜けないぞ……! 僕で開けないん
    だったら……これは……」

翠「バカッ! や、やってみなきゃわからんです! ぐぬぬ……
  こりゃあ、すごく強く…… 脚はまだ動くですか!?」

ジュン「脚は大丈夫…… だけど、これが抜けないと……」
528名無しさん@お腹いっぱい。:2012/04/26(木) 01:15:35.78 ID:Ou20m2/v
……が目立つなあ

取り敢えずほしゅ
529RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:18:41.43 ID:jq9dZCE5

翠「よし、こんな時こそ…… スィドリームッ!!」

スィドリーム{……!?}フワッ

翠「巴たちを……大至急呼んできてほしいのです!」

スィドリーム{…… ……!!}シュッ!!

翠「よろしく頼んだです!」

ジュン「頼んだっ……! さ、サンキューな、翠星石っ……!」

翠「どうにかして…… このハサミを叩き割れないですかね……
  流石に如雨露じゃあ太刀打ちできんですぅ……。何か、こう、
  刀みたいなものがあれば……」
530RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:22:53.70 ID:jq9dZCE5

[14:27]
[第39433世界 心の樹の生える陽だまり。]

 森を抜けて、一番大きな木……、私の『心の樹』が生えている
場所にたどり着いた。そこは静かで、穏やかな風の中、木漏れ日
が降り注いでいるかのように、光が揺らめいている。


紅「巴の樹は……しなやかに、まっすぐ伸びているわね。」

巴「……ありがとう、真紅。」

雛「樹の上に、光が見えるの!」

紅「準備はいい? 雛苺、巴。」

巴「うん、大丈夫。あの光の束の中に入ればいいのね。」

雛「うゆ! その先は世界樹っていう樹の幹なの!」

巴「幹……!? 幹の上に……そんな、ジャックみたいなことが
  ……できるの?」

紅「大丈夫だわ。間が3年空いたとはいえ、10年もの付き合い
  なら……人がすれ違える程には幹が太くなってるはず……」
531RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:28:39.71 ID:jq9dZCE5

 どうやら、ここからあの子の世界にはすんなりと行けるみたい。
自分の意思で、「飛ぶ」と思えば飛べると真紅たちに教えてもら
って、いざ飛ぼうとした、その時だった。


スィドリーム{…… ……!}ヒュンッ

巴「……あれ? あの光…… 緑色ってことは、翠星石の精霊ね。
  どうしたんだろう……」

紅「あら、どうしたのスィドリーム。ジュンが転びでもして……」

スィドリーム{チカチカチカチカッ……}そわそわ

紅「……! なんですって!?」

雛「うゆ!? ……何かあったなの!?」

巴「え……!?」


 翠星石の人工精霊・スィドリームが、慌てているかのように私
たちの所へ飛んできた。すぐに、真紅がスィドリームの伝えたい
ことを教えてくれた。

 ……光の向こう側、世界樹の幹の上で、桜田君たちが何かの罠
にかかって、動けなくなっていると。その罠は、まるで、巨大な
ロブスターの鋏で、足枷のように桜田君の足を挟んでいると……。

 早く、行かないと。私が、私たちが、桜田君を助けないと!
532RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:33:31.19 ID:jq9dZCE5

[14:30]
[世界樹の幹の上。]

 私たちは、自分たちのいる場所が幹の上っていうことも忘れて、
無我夢中で走った。すぐに、幹の真ん中ほどでうずくまる桜田君
と、心配そうな表情で鋏をこじ開けようとする翠星石を見つけた。


巴「桜田君! 翠星石!」

翠「来たですね! ありがとです、スィドリーム!」

スィドリーム{チカチカッ}フワッ

紅「ジュン! これは……!」

ジュン「真紅っ……! どーして、こんなものが……!」

雛「これは…… 悪いハサミなの……!」


 スィドリームが教えてくれたとおり…… ロブスターの持つ鋏
のようなものが、がっちりと桜田君の足を掴んでいる。明らかに、
最初からここにあったものじゃない……私にも、それが分かった。

 下を覗きこんでみると、はるか地面の方から腕が伸びている。
これじゃあ、あとは鋏を壊すしかない……!
533RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:39:03.31 ID:jq9dZCE5

紅「……兎に角、これを叩き割りましょう! 巴!」

巴「うん! 桜田君っ 今助けるからっ!」

ジュン「柏葉! ……その、竹刀って!?」

巴「そう…… あの時の! ……ちょっと、足に響くかもっ……
  歯を食いしばってて……!」

ジュン「わかった! ……ぬぐぐ……」

巴「っ…… ……!」
 (……あのハサミ目掛けて…… 叩き込む!)

巴「はあぁ ―― ―― っ!!」

ジュン「……!!」 翠「ひっ!?」
紅「!」 雛「!」


 振りかぶって、声を上げた瞬間に…… 何故か、竹刀が大きく
伸びていって……力が、いつもより込められたんだ。できれば、
桜田君を傷つけず……あのハサミを、打ち砕く。その思いだった。
534RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:42:12.92 ID:jq9dZCE5

雛「トモエーッ!!」

ブオンッ!! バシイッ!!
巴「「ヤァア ―― ―― ッ!!」」

バキバキイイッ……!!

紅「……とれたわ!」

ジュン「おっ……!? 取れた!! 痛く……ない! けっこう
    響いたはずだけど……!」

翠「すげーですぅ巴!! 水銀燈や薔薇水晶にも引けをとらねー
  剣裁きですぅ!」


 鋏は、一振りで砕け散った。桜田君は足が痛くないと言ってた
けど、念のために見せてもらった。確かに、痣一つ出来ていない。
竹刀は、元の大きさに戻っていった。嫌な気配も、無くなった。
535RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:49:40.06 ID:jq9dZCE5

巴「桜田君は…… 私も、守るんだ……!」

雛「トモエ…… すごいの!」

紅「あれが…… 剣道をしているときの巴……」

ジュン「ありがとな……柏葉。」

巴「桜田君や翠星石が、無事でよかったよ……」


 そういえば、雛苺や真紅たちは、私が剣道をしているところを、
実際に見たことはなかったんだよね。桜田君は、学校でときどき
見に来てくれたけど……。

 5人で、頷いて、樹の向こう側にある扉を開く。ここ数日間、
見てきた夢が……夢の中だけど、いま正夢になるんだ。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2012/04/26(木) 01:57:04.87 ID:Ou20m2/v
さる回避保守
537RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 01:58:31.84 ID:jq9dZCE5

[14:41]
[第82633世界。]

 3年ぶりに、この世界に足を踏み入れた。あたりを見渡すと、
色とりどりのリボンの道が、縦横無尽に走っている。下の方では、
わにのぬいぐるみが悠然と泳ぐ。懐かしい光景だ。

 雛苺の世界には、たくさんのおもちゃがある。デパートの一角、
おもちゃ売り場のような、私の部屋にあるあのおもちゃの缶を、
全部ひっくり返したような……そんな、賑やかな世界。


紅「5号車……くんくん号は私が一番乗りこなせるわ!」

雛「うゆーい♪ みんな速いのー!」

翠「うおお、次のヘアピンカーブで勝負ですぅ! アクセル全開、
  ハンドルを右に切るです!」


 3年前とは違って……もっと、明るい。たまに歩いてくる動物
のぬいぐるみたちも、笑った顔をしてる。雛苺たち3人は、車の
おもちゃに乗って遊んでた。あれは、桜田君があげた物みたい。
538RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:15:22.75 ID:jq9dZCE5

巴「雛苺がね、ここをぐるっと一周する頃には、おやつの時間に
  なるって言ってたよ。」

ジュン「へぇー。……ホント、楽しそうだよなぁ。」

巴「そうだね♪ …… 桜田君、あの……」

ジュン「……あの竹刀、まだ持っててくれたんだな。」

巴「うん。……大切な、宝物だよ。名前だってまだ、ここに。」

ジュン「なつかしいな…… 僕が書いたんだよな、それ。」


 私と桜田君は、ぬいぐるみの「トモコ」の上で2人して座って、
雛苺たちを見守っていた。竹刀に書かれた、私の名前を眺めては、
少しだけ昔を懐かしむ。その最中……桜田君にも、打ち明ける。


巴「ねえ、桜田君。」

ジュン「何だ?」
539RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:31:56.19 ID:jq9dZCE5

巴「……私も、守りたいな。」

ジュン「……!?」

巴「雛苺、真紅、翠星石。蒼星石たちも…… めぐさんたちも。
  そして……桜田君も。」

ジュン「…… ……」

巴「みんな……ずっと桜田君を助けてきたし……守ってきた。」


 だんだん、言葉に詰まってくる。探しても、あてはめても……
言いたいことが、なかなか出来上がらない。パズルのあと何欠片
かが、かみ合わない。そんな感覚だった。
540RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:34:14.62 ID:jq9dZCE5

 あの子たちになら、何だって言えるはず……。こんな時、素直
な雛苺たちが羨ましくなる。……だけど、自分の言葉で言うんだ。
そう自分に言い聞かせておきながら、私は俯いてしまっている。


巴「それでも私…… できることならっ、……ど、どうしよう、
  ……うまく、言えなっ……」

ジュン「……うん。ありがとう……」

巴「!?」


 ハッとして顔を上げると、桜田君は私の方を見ていた。そして
そのまま、私と同じように、途切れ途切れだけど、言葉を続ける。


ジュン「……わかった。この先は、さ…… 僕から言うよ。その
    時が来たら、僕から言うから。……7年前の、約束……」

巴「桜田君…… ふふっ…… ふふふっ……!」

ジュン「なっ……なんだよー…… 変な笑い方するよなー。」
541RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:39:52.67 ID:jq9dZCE5

 私たちを乗せている「トモコ」が、にやっと笑ってくれたよう
な気がした。頭の上では、いろんな色の鳥が群れを成して飛んで
いる。この世界に、虹がかかっていくように……

 その後、翠星石が一着で私たちのもとに帰ってきた。次に雛苺、
最後に真紅が一周してきた。……と同時に、横からお腹の鳴る音
が聞こえた。桜田君だね、と横目で見ると、すごく照れていた。


雛「今日はとっても楽しかったの! また来ようね、トモエ!」

巴「あっ、それ今私が言おうと思ったんだっ。今度は、みんなで
  来よう!」

紅「ふふ…… ジュン、早く顔を上げなさい?」

翠「ヒヒヒ、照れちゃってるですねぇ。そのへんは、チビ人間の
  まんまですか? 巴も何か真っ赤ですよぉ?」

ジュン「う、うるへー……!」

巴「ふふっ……♪」
542RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:43:18.68 ID:jq9dZCE5

[15:08]
[柏葉家 リビング。]

 みんなでリビングに降りると、お母さんがお昼のドラマを観て
くつろいでいた。私たちが夢の世界に行ってる間に、お買いもの
から帰ってきていたみたい。


巴「あっ、お母さん。おかえりなさい!」

巴の母「まあ、帰ってたんですね。お昼寝していたの?」

巴「うん。日当たりがよくってね……気づいたら昼寝しちゃって。」

雛「トモエのママー! こんにちはーなのー!」

巴の母「あら、雛ちゃん! いらっしゃい。珍しいね、週末以外
    に来るなんて。」

巴「私が、連れてきたの。……学校も今日は始業式だけだったし。
  ……ふふっ、それに珍しいっていったら、今日はね……」

巴の母「そう…… それに、って?」
543RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:46:44.72 ID:jq9dZCE5

 私の後ろから、少し照れくさそうに、桜田君が顔を出す。私の
お母さんと直接会うのは、7年ぶりだ。あの時より45センチも
背が伸びているから……お母さんはすごくびっくりしてた。


ジュン「……こんにちはー。」

巴の母「あらっ、ジュン君!? ジュン君なのね!?」

ジュン「お久しぶりです。」

巴の母「大きくなったわねぇ。こっちに帰ってきてからは一度も
    見なかったから…… あらっ、その子たちは?」


 続いて、私の足元から、真紅が前に出てくる。そしてその後ろ、
真紅のドレスの裾を掴んで、翠星石が震えている……。そうだ、
この子は人見知りだったんだっけ。
544RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:51:49.59 ID:jq9dZCE5

紅「はじめまして。以前2度ほどここに来たことはあったけれど
  …… 私の名は真紅。雛苺の姉よ。」

翠「は…… はじめまして ですぅ…… す、すす……」

雛「翠星石なの! ヒナの、お姉ちゃんなのよ!」

巴の母「へぇーっ……この子たちが……可愛いわね。 ふふっ、
    巴のお母さんですよ。宜しくねぇ。いつでも遊びに来て
    いいからね。お父さんびっくりするかもね。」

紅「ありがとう。」

翠「……ありがとです……」


 翠星石も、すぐに緊張が解けたのか笑顔になってた。やっぱり、
お母さんも私と同じことを思ってたみたい。私のお父さんと直接
逢ってるのは、まだ雛苺だけだから……
545RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:55:55.91 ID:jq9dZCE5

[15:24]

巴「さ、おやつでも食べましょっ。」

雛「うゆ♪」

ジュン「ああ! よかったら紅茶、淹れさせて。……飲みます?」

巴の母「ありがとう。お願いしようかしら。すごいわね、もう、
    紅茶を嗜むように……」

紅「ジュンの淹れる紅茶は、本当においしくってよ。」

巴「うん。お母さんも絶対おかわりしたくなるんだから。」

巴の母「それは楽しみですねぇ。」

巴「ふふっ……♪ それに今日は…… 雛苺と私が逢ってから、
  3年になる日なんだよ。」

巴の母「あらっ、そうなの! 前々から仲良くしてるのは教えて
    もらってたけど、もう3年に……おめでとう。雛ちゃん、
    巴さん、これからも仲良くね。」

巴「うん!」 雛「うゆっ♪」
546RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 02:57:35.19 ID:jq9dZCE5

ジュン「……4月7日か…… そうだ、真紅。僕がお前に逢った
    のも、ぴったり3年前だったな。よし、今日は姉ちゃん
    に頼んで、花丸にしてもらおう! 髪も梳いてやるよ。」

紅「本当に? ありがとう、ジュン。」

ジュン「5月には翠星石の分も祝ってやるからな。」

翠「そ、そりゃあ嬉しいですぅ♪ ありがとで……」

雛「今日花丸なの!? うわーい!! 花丸さんなの〜♪」

翠「うきー! セリフ遮るなです! こ、こーなりゃ翠星石も、
  花丸さんなのですぅ〜!」

紅「……もう、貴女たちは……ふふっ♪」

巴「ふふ……」


 今までだって……精一杯、いっしょに頑張ってきた。そう……
この子たちとなら。契約者たちとなら。そして……桜田君となら。
きっと乗り越えられると思う。
547RozenMaiden Fortsetzung 43 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 03:04:37.67 ID:jq9dZCE5

紅「巴? 夢の中では……何が起こるか、本当に分からないわ。
  それでも…… 貴女のように、強い想いさえ持っていれば、
  それは時に何にも勝る大きなものになるのだわ。」

翠「……巴、もうすぐ、翠星石もお前とかジュンと逢ってから、
  3年経つです。7年だか10年だか知らんですけども……、
  翠星石だって、気持ち、負けてねーですからねっ!?」

紅「翠星石…… ふふ、私たちも、守れるわ。貴女もね。」

巴「うんっ……!」


 今はまだ言わないけど……7年前の約束が、桜田君から返って
くる時……いや、今約束する。大切な人を守る……、と。


              【柏葉巴と桜田ジュンの約束/完】

                    ……【第4部に続く】
548TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 03:15:29.28 ID:jq9dZCE5

 ……というわけで、第43話「柏葉巴と桜田ジュンの約束」は
以上で終了でございます。と同時に、42話の時にもお知らせした
通り、全21話に亘った「RozenMaiden Fortsetzung 第3部『伝心』」
も、この話で完結です。読んでくださった方々ありがとうございます。

>>528>>536 Ou20m2/vさん
ご指摘&保守ありがとうございました。
たいへんありがたかったです。

>>528で出ていた「……」ですが、人々が長く言葉に詰まっている時に
臨場感を出したかったので「、」ではなく「……」を使っていた……
という次第です。表現方法については3年経った今でも勉強中ですので、
なにとぞご了承いただければと思います……
549TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/04/26(木) 03:22:56.01 ID:jq9dZCE5
 さて、第4部ですが…… 多分、大きな動きがある
かもしれません。きっと人間方面の話も増えると思います。
とりあえず、また書きあがりましたら投下いたしますので、
気長にお待ちいただければ幸いです。

 それでは、朝方冷えますので体調に気を付けられて……また、次回!


※万が一スレ生存に間に合わなかったら、避難所に投下します。
550名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/20(水) 22:53:18.73 ID:ISzRGOvO
保守
551名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/01(日) 20:23:54.63 ID:B2ti/+Gz
翠星石を無理矢理妊娠させる
産まれた女の子はもちろんオッドアイのかわいい子
10才まで大切に育てた後
子翠星石の処女をぶち抜く、当然の権利だね
母翠星石は泣いて止めようとするが
縛り上げて動けないようにしておいて
目の前で犯す
当然その後母翠星石さんもイキまくるまでやる
そのころには子翠星石も回復してるだろうから第2ラウンド
ああ少しスムーズになってる?
子翠星石は母翠星石に助けを求めるが
母翠星石は膣から大量の精液を垂れ流しながら虚ろな目で見るばかり
絶望と恐怖で泣叫ぶ子翠星石、情けなんかかけないで中だし
子翠星石は妊娠しないからこれから毎日犯してやるぜウヘヘ〜
そんな翠星石萌え〜(はぁとw
552名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/03(火) 05:33:03.99 ID:/Qhs2mie
保守
553名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/14(土) 20:36:06.49 ID:ESlTYY8R
保守
554名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/31(火) 00:06:15.80 ID:ZcmsVVGm
連載中の投稿先がダウンしてしまった
保守代わりに投稿しても怒られない?
555名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/03(金) 06:52:18.95 ID:rk63D9Ti
構わん
あと、現在422KBだから容量に注意
556名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/03(金) 14:43:21.95 ID:532pHU8T
ごめん投稿先復活してた(´・ω・`)
557名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/19(日) 17:10:26.88 ID:vtaagSHc
ほほっしゅしゅ
558TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 02:54:33.92 ID:djMsaSWk
 4か月のご無沙汰でした。TEGです。
いつも以上にお待たせしてしまってすいません。
保守してくれた方々、本当にありがとうございます。

「RozenMaiden Fortsetzung」
第44話からは、第4部に突入です。
ではいきます。


44【桜田ジュンと怪体験】
559RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:01:37.72 ID:djMsaSWk
【桜田ジュンと怪体験】

[2005/04/13 20:22]
[桜田家 リビング。]

TV[午前3時21分、家族は全員寝静まったリビングに、突如
  一本の電話が入る……こんな時間に、誰だろうか……]
TV[その時…… かかってきた電話の番号は。]

桜田のり「…… ……」
雛苺「…… ……」
翠星石「うぅ……」


TV[000、000、0000……]

のり「キャアアアアアアア!!」
雛「きゃあーーー♪」
翠「きゃあああああーーー!! はやく終われですぅ……!」
560RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:05:37.13 ID:djMsaSWk

TV[彼は意を決し電話に出る……『なんなんだ』と呟きながら。]
TV[この後、受話器から聞こえてきた言葉は……]

TV[『なんなんだ』 彼の声だった。]

桜田ジュン「うわっ……」

のり「ひええええ……! 心臓にゾワッと来たァァァ……!」

雛「ヒナもゾワッときたのー!」

翠「お……おめーら正気ですかぁ……?」


TV[その後、2時間も電話は鳴り続けた、夜が明けるまで……
  まるで壊れた古時計のように……]

ジュン「ふーん…… 結構マジなんだな……。」

真紅「ジュン。」

ジュン「…… どした真紅」

紅「部屋まで……抱っこして頂戴。ああいう類のテレビ番組は、
  いつまで経っても慣れることはないのだわ……」

ジュン「ったく、しょーがないなぁ。あと少し宿題残ってるから
    また部屋に戻るし、丁度良かったな……ホレ。」
561RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:08:39.98 ID:djMsaSWk

 4月13日、晴れ時々曇り。息抜きに紅茶でも飲もうと思って
リビングに降りたら、姉ちゃんたちが心霊番組を観ていて、この
ざまだ。まあ、いつものことなんだけどな……。

 僕の腕の中にいる人形――真紅。どれだけ不思議な事象でも、
コイツと、その姉妹が「生きている」ことには敵わないだろう。
僕はコイツらともう3年過ごしてるから、何のことはない。

 ――「ローゼンメイデン」。分からないことは色々あるけど、
たしかに言えるのは、「姉妹と契約者たちとの絆を確かめ合って
いる、とても不思議な人形」ってことだ。


[20:31]
[ジュンの部屋。]

ジュン「さて、電気はっ…… と……」

紅「はやく灯りを点けて頂戴。」

ジュン「分かってるって、そう急かすなよー。」


 真紅を抱いたまま、手さぐりで灯りを点けようとする。この家
にはずっと住んでるから、スイッチのある場所も分かる。それに
棚の位置も完璧に覚えてると思ってたけど、ソレは唐突に起きた。
562RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:10:25.15 ID:djMsaSWk

ガッ!
ジュン「あいたっ!!」

紅「ちょっ…… ジュン!?」


 思いっきり、左足の小指を棚の角にぶつけてしまった。真紅は
とっさに僕の腕から飛び降り、どこかにうまく着地したみたいだ。
ぶつけたのは、僕と真紅たちの小物をしまってる棚だ。

 さらにその2秒後、さっきの激痛でうずくまっている僕の頭に、
鈍い衝撃が走った。何が何だか、分からない。


ヒュッ ガンッ!
ジュン「ぐあああああっ!!」

紅「なっ…… 何!? 何が起こっているというの……!?」

ジュン「うおおおおお……!!」

紅「くっ……ホーリエッ! ジュンが動けないのだわ! 部屋の
  灯りを点けて頂戴!」

ホーリエ{!} ヒュウッ
563RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:13:08.29 ID:djMsaSWk

 痛みが治まるまで悶絶しきって、叫ぶだけ叫んだけど、起き上
がれなかった。まあ、叫ぶほどでもなかったかもしれないけど、
部屋が真っ暗だったのも相まってか、なんとなく怖かった。


パチッ
紅「…… これは…… ジュン!?」


 真紅の人工精霊・ホーリエが、真紅の命令を聞いて、すかさず
灯りのスイッチを押してくれたみたいだな。僕はというと、まだ
起き上がれないでいた。

 そこへ、床が響く音がした。階段を駆け上がってくる音だ。


ドダダダ
翠「なっ、なんですか今の悲鳴は!」

雛「何かあったなの? ……ジュン!?」

紅「ジュンが倒れている……いや、倒されているのだわ……」

のり「真紅ちゃん!? これは一体……!? まさかジュンくん
   までも怪奇現象の餌食に……うきゃあああああ!!」

ジュン「いっ…… いてて」

紅「ジュン! 怪我はなくて……!?」

雛「大丈夫なの……?」
564RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:14:37.69 ID:djMsaSWk

 僕の叫び声を聞いたのか、下でテレビを観ていた姉ちゃん達が
僕の部屋まで駆けつけていた。姉ちゃんは僕が倒れてるのを見て
また叫ぶ。真紅たちは、僕の表情を心配そうに見る。


ジュン「あ、ああ…… ちょっとそこの棚に小指をぶつけて……」

のり「ひええええ……痛そう!」

翠「気絶するほど痛いですか?」

ジュン「痛いぞ。気絶するほどじゃないけどな……。お前らって
    そういう経験ないの?」


 だいぶ頭の痛みも引いてきたところで、僕の頭に衝撃があった
ことを思い出した。ただ、衝撃の正体を掴めない。
565RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:16:49.32 ID:djMsaSWk

ジュン「けどなんか頭が痛いんだ。何なんだろう……」

翠「真紅、まさかチビを殴って……」

紅「仮に叩いたとしても、素手で打ったりはしないわ。」

雛「じゃあ、ジュンの頭に何か当たったなの。」

ジュン「うーん…… 確か真紅を抱えたまんま足を棚にぶつけて、
    それから……」


 何が起こったか思い出しながら、周りを見渡してみると、僕が
倒れ込んだ場所に、ハードカバーの本が1冊落ちていた。真紅が
よく読んでいる、難しい本に似ているな……。
566RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:18:44.56 ID:djMsaSWk

翠「おっ? あれはたしか、真紅の読んでる難しい本ですぅ。」

紅「あら…… 本当だわ。棚の3段目にしまっておいたはずなの
  だけれど。」

のり「……もしかして、これがジュン君の頭に。」

雛「うゆっ! 名探偵のりなの!」

紅「なるほど…… 確かにそうとしか考えられないわ。」

ジュン「あれが当たったのかぁ……。あの痛さは、角か?」


 あの鈍痛の正体は、落ちてきた本の衝撃だった。真紅が読む本
だから大きさはそんなにないけど、ハードカバーの本の角が頭に
当たったなら、やっぱり痛い。
567RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:19:43.64 ID:djMsaSWk

のり「難しすぎてよく分からないよ〜…… 私も頭痛いよ〜。」

紅「もう、のりったら、勝手に…… それは数学の本なのだわ。
  中身はフランス語だけれど。」

ジュン「『レンキンジュツ』じゃなかったっけ? 何を書いてる
    のか全然わからなかったけどさ。」

翠「真紅は勉強家だから、こういう本をいっぱい持ってるです。」

雛「ヒナもいっぱい持ってるの!」

ジュン「お前のは絵本だろ。」


 とりあえず、騒ぎはひと段落した。けど、真っ暗闇でいきなり
足に衝撃が走り、間髪入れずに頭をやられたらひとたまりもない。

 その後、雛苺が冷やしたタオルを持ってきてくれたんで、頭に
宛がいながら残りの宿題を片付け、気を紛らわすために真紅たち
と紅茶を飲んだ。
568RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 03:20:50.38 ID:djMsaSWk

[21:00]
[ジュンの部屋。]

翠「おやすみですぅ。」

雛「おやすみなのー!」

ジュン「おーう、いい夢見ろよー。」

紅「ジュン…… 置き去りにしないで頂戴? 分かったわね?」

ジュン「お前なぁ、置き去りってそんなオーバーな……」

翠「ま、ままま、まさか真紅さっきの番組を怖がってるですか?」

紅「そんなことはなくてよ! 早く眠りに就きなさい。」

翠「ぬうぅ〜……!」

雛「うゆー…… ヒナねむいのー……」

ジュン「お前ら寝る寸前までケンカか……」


 寝る前にパソコンでネットオークションを覗いている間、一度
だけ席を立ったけれど、真紅が寝言でも何か言ってきそうだった
んで、くんくんのぬいぐるみをアイツの鞄の傍に置いておいた。
569RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 09:56:19.10 ID:djMsaSWk

[20:45]
[かしわ高校 下足室。]


 外から見える校舎の窓には、一つも灯りがついていなかった。
もう夜9時前だし、いつも一番遅い野球部やサッカー部の奴らも
そろそろ帰ってる頃だからな。それにしても、暗い。


ジュン「うわ…… 夜の学校って、こんなに怖かったっけ……」

ジュン「とりあえず、最短ルートで教室に行こう。速攻、辞書を
    取れば、或いは……」


 2年6組は、下足箱のある校舎の、一つ向こう側の2階にある。
校舎が3つあって、その真ん中だ。下足箱からは1階の渡り廊下
を通り、中校舎に着いて1年8組の方から階段を登ると一番早い。
570RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 09:58:14.14 ID:djMsaSWk

ジュン「…… なんだ、まだ残ってるヤツいるんだ。部活かな?」


 2階に上がると、廊下が明るくなっていた。階段を登ってすぐ
にある、2年8組の灯りが点いていたんだ。このクラスは野球部
が何人かいたっけな。そいつらがタムロしてるんだろう。


[20:47]
[2年8組。]

桔梗谷「いや俺もこの前見ちゃったんだって」

筑紫野「お前も? マジで!」

桔梗谷「……あれ? 桜田ぁ。どしたよ、こんな時間に。」

ジュン「ああ、宿題するのにいる辞書を忘れちゃってさ。取りに
    来たんだ。」

571RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 09:59:37.69 ID:djMsaSWk

 予感は当たった。坊主頭の、元気のいい男子が2人、駄弁って
盛り上がってた。

 桔梗谷と筑紫野。1年の時の同級生で、野球部の次期エースだ。
この2人は、練習が終わった後もキャッチボールとかで遊んでる
みたいで、今日もその帰り際らしい。


筑紫野「えらいなーお前はよー。基本『置き勉』しないの?」

桔梗谷「翻訳サイト使って訳したりだよな、俺らは。」

ジュン「うーん。いつも持って帰ってるけど……」

筑紫野「流石だな。聞いた話お前確か、入試も5位くらいって。」

ジュン「……まあ、けっこう出来たかなーって思ったけど……。」

桔梗谷「俺英語の途中寝ちまってよ、あわってて解いたよ。」
572RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:06:45.14 ID:djMsaSWk

 3分くらい談笑していると、突然、話題が変わった。筑紫野が、
何かを思い出したように僕に問いかけてくる。


筑紫野「けどよォ、秀才でも『アレ』にゃ敵わねーべ?」

桔梗谷「かもなぁ。なあ桜田、知ってっかあの怪談話。」

ジュン「ああ…… あの時計の鐘の噂だろ、鳴らない筈の……」

桔梗谷「いや、他にもあってよー。7日の夜だったかなぁ、アレ。
    校長室の横の廊下の影でよ、すっげえ視線感じちまって。
    そんで振り向いたら……」

ジュン「…… ……ちょっ、そんなことまで。」

筑紫野「ははは、まあ、あそこ通るときは気を付けろよ。アレよ、
    ここ何日かで野球部の奴ら、何人か見られたらしいぜー。」


 ここ3年で「ものすごい視線を感じて身体が固まって動けなく
なった」ことは何回かあったけど、この高校でまで経験は……、
何となくしたくないような気がするな。
573RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:08:07.72 ID:djMsaSWk

[20:57]
[2年6組。]

ジュン「……よし、辞書回収完了! とっとと帰ろう……」


 辞書を片手に廊下を出る。8組の灯りは消えていたんで、あの
後すぐに桔梗谷たちは帰ったんだろう。階段を降りようとした時、
何か空気が変わった気がした。

…… ……
ジュン「……まさか、なぁ。」


 空耳、か。コワイ話をしてると「出るぞぉ」とはよく言うけど、
本当に何か出たという話は聞いたことがない……ことにしておき、
少し急ぎ気味に、2回目の帰路に就いた。
574RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:14:49.55 ID:djMsaSWk
[21:20]
[桜田家。]

 部屋に戻ると、時計は夜9時20分を指していた。真紅たちは
もう眠りについている。

 3つの鞄の横に、真紅・雛苺・翠星石のそれぞれの名前がタグ
に書かれたくんくんのぬいぐるみが置いてあった。多分姉ちゃん
が部屋を出る前に、アイツらの安眠用に置いといたんだろう。

 姉ちゃんはテレビを観ていたので、礼に紅茶を淹れてやった。


のり「ジュン君も、小さい頃たまに眠れないってぐずってたのよ。
   こわ〜い話をした後とか、特に眠れなかったみたいで、ね。
   そんな時はぬいぐるみを抱かせてやったら、すぐ寝たっけ。」

ジュン「へぇ…… そんなことが。」


 小さい頃のことは、ところどころ覚えてるけど、そういうこと
もあったんだな……。
575RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:18:33.40 ID:djMsaSWk

[2005/04/15 12:20]
[かしわ高校 廊下。]

 4月15日、快晴。午前中の授業も無事に終わって、昼休み。
一昨日頭に直撃したあの本を読む。中身がどうも気になったんで、
真紅に頼み込んでこれを借り、学校で調べることにしたんだ。


ジュン「しっかし、何なんだろうなこの本……」

桔梗谷「……おっ、桜田……」

ジュン「桔梗谷か、どうしたんだ?」

桔梗谷「お前、昨日時計の鐘の話、してたろ……?」

ジュン「ああ、アレか。…… まさか。」

桔梗谷「おう、鐘の音をよ、筑紫野が聴いたらしくってよ……。
    9時ジャストくらいだったかな。」
576RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:19:53.89 ID:djMsaSWk

ジュン「! ……本当だったのか…… けど、昨日はあのあと、
    一緒に帰らなかったのか?」

桔梗谷「いや、筑紫野が便所行くっつって廊下出てさ、その後だよ。
    昨日一緒帰ったけど、ずっとテンション低めだったぜ。」

ジュン「へぇ……」

桔梗谷「……ところでその金色の本、何?」

ジュン「数学の本なんだ。僕の家にあってさ…… 図書室でコレ
    訳しに行こうかと思って。読む?」

桔梗谷「……全っ然わかんねえや。……この渦巻きぐらいしか、
    分かるのねえや。」

ジュン「……渦巻き? 全然気づかなかった。これって、数学の
    教科書に載ってるヤツだよな。」


 この後、図書室でフランス語の本を借りて昼休みの間ひたすら
あの本の最初の方を訳してみたけど、黄金比の事以外はそんなに
深く書かれてはいなかった。本当に、ただの数学の本なのか?
577RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:21:03.66 ID:djMsaSWk

[16:22]
[帰り際。]

 放課後、ジュースでも買って帰ろうと思い、廊下を歩きながら
この本をぱらぱらっと見返していると、終わりの方に、気になる
ページが見つかった。

 そのページだけ、真紅に特に読み込まれていたのか、端の方に
凹んだキズが入っている。文字がにじんだ跡も見える。

 そこには、1ページの半分くらいの大きさの顔写真が載ってて、
あの渦巻きがまた出てきていて…… その「対数螺旋」と、薔薇
の花について書いてあったんだ。

578RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:24:05.89 ID:djMsaSWk

 そしてふと気づくと、例の壊れた時計のすぐ前に立っていた。
横には大きな鏡がある。なんとなく、髪型を気にするふりをして
鐘の音が聞こえるのを待っている自分が居た。


ジュン「…… 鳴らない、かなぁ……」


 さすがに10分も同じ体勢で居ると辛くなった。とりあえず、
今日はいったん帰ることにする。
579RozenMaiden Fortsetzung 44 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:26:21.07 ID:djMsaSWk

[19:31]
[高校への道中。]

 夕飯も終わって、宿題を始めようかと思った時だった。やはり
あの時計の音が気になって仕方なくなってしまったので、忘れ物
を取りに行くふりをして、学校に向かった。

 翠星石や雛苺には「また忘れ物?」と笑われてしまったけど、
それは気にしない。真紅には、これを話すとまたオバケがどうだ
とか言われそうだから黙っておく。

 今から行けば、行って少し様子を見て帰って……夜9時には、
十分間に合う。


ジュン「……聞こえてくるかな……あの鐘の音は。」


                    【第45話に続く】
580TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/08/23(木) 10:31:16.59 ID:djMsaSWk

 というわけで第44話「桜田ジュンの怪体験」は
以上で終了です。この話は、次の第45話に続きます。
読んでくれた方ありがとうございました。

 ……私生活が多忙を極めており、今までのように
最低でも月一では投稿できなくなるかもしれませんが、
何卒ご了承ください……orz それではまた。
581名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/23(木) 20:35:10.40 ID:dDqGmli0
乙でそた
582名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/23(日) 10:03:58.15 ID:dnND7rWG
保守
583名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/14(日) 07:31:05.39 ID:hk1EGzG1
保守〜♪
584名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/04(日) 16:35:07.69 ID:2cUmmZwL
題名:この想い、空へ届け―平成24年第五回水銀党本部フェスティバル
本文: ローゼンメイデン二次創作の祭典。当フェスティバルもおかげさまで5回目となりました。
http://www.mercuryparty.com/shf2012top.html
イラスト、小説。二次創作はSF、軍事サスペンス、コメディ、ホラー等オールジャンル取り揃え、皆様のお越しをお待ちしております。
585名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/04(日) 16:49:15.27 ID:HPDny43u
遂にここまで広告出し始めたか
キチガイのやることには限度がないな
消滅すればいいのに
586名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/04(日) 17:03:15.32 ID:4W2CQtgZ
>>584
ぐぐったら駄文同盟の掲示板からの転載じゃん。TOUINとかいうキワモノが暴れてるが、水銀党っていっても色々いるからな。ここみたく水銀党のイメージ良くしようと頑張ってるところまで晒してひとくくりにするのはどうなの?
587名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/04(日) 22:11:17.10 ID:SUOjxmOd
TOUINも最近はいうことまともになってきたし
本部含め他の水銀党系とも関係悪くないように見える
名の知られてるサークルやサイトの関係者より、そこから2ちゃんに勝手にコピペしてる匿名の愉快犯が諸悪の根源
588TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:27:11.94 ID:vJJVapVe
 どうもお久しぶりです、TEG24です。
第45話を投下しますよ。
保守・乙してくれた方々本当にありがとうございます。


ではいきます。
45【桜田ジュンと古時計】
589RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:29:30.43 ID:vJJVapVe
[2005/04/15 19:58]
[かしわ高校 例の廊下。]

 昨日と同じで、まだ学校には人影があった。たぶん、桔梗谷達
部活生だろう。廊下にも溜まってるのか、話し声も聞こえてくる。

 しかし、今日の目的は教室じゃない。あの、壊れた時計がある
例の廊下だ。そこに向かうにつれて、足元が暗くなっていく。


桜田ジュン「いや、やっぱ怖い……な。」


 この時だった。8組で桔梗谷達が話していた「もう一つの話」
を思い出したのは。視線を感じて、振り向いたら何者かが居た、
っていうあの話だ。無意識に足取りが重くなる。……すると。
590RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:33:17.67 ID:vJJVapVe
「…… ねえ ……」

ジュン「…… え 今……」


 僕を呼ぶ声がした。明らかに聞こえてきた。ほどなく、誰かの
視線も感じ始めた。廊下が長く、誰もいない上音がよく響く為か、
声にはエコーがかかって聞こえる。


「…… ジュンってば…… ……」

ジュン「な……ななな、なんでぼ、僕……?」


 何が何だか分からない。僕はただ、あの時計の噂だけを確かめ
に来たというのに……。僕がうろたえ始めると、視線が不思議と
穏やかになったような気がした。けど、やっぱり怖いものは怖い。

 そして次の瞬間――
591RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:38:26.10 ID:vJJVapVe
「ジュン……!」
サワッ

ジュン「「うわあああああ……!!」」


 羽のようなもので首筋を触られ、僕は思わず叫んだ。というか、
叫ぶしかなかった。その拍子にふらつき、床で頭を打ったのか、
一瞬気を失ってしまった。また……足と頭か……。


「なにやってるんだか……」

ジュン「だ、だだだ…… 誰だァ!?」

銀「……もう、私よ、私。……水銀燈よ。」


 我に返ると、僕の目の前にいたのは笑っている水銀燈だった。
その顔を見た瞬間すべての合点が行った。あの声と視線はコイツ
のものだったんだ。
592RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:42:09.77 ID:vJJVapVe
ジュン「なんだ水銀燈、お前だったのか……ここ、声が響くから
    全然分からなかった。」

銀「ごめんなさいねぇ、驚かせちゃったわね……」


 いや、驚かない方が不可能だっての……そう思った時、廊下の
向こうから誰かが走ってくる。さっきの悲鳴を聞いた奴が走って
きてるのか。


「どーしたァァァ!」

ジュン「! 水銀燈隠れろ! 鞄の中だ!!」

銀「え……ええっ?」

ジュン「この中に入れッ!」
593RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:44:52.51 ID:vJJVapVe
筑紫野「桜田!」

銀「…… ……!?」

ジュン「ちちちち筑紫野ォ! ネ、ネズミが出たぁ〜ッ!!」

筑紫野「ま、マジかよー…… ならいいけど……お前も早く帰れよ。」
ダダダ……

ジュン「お、おぉ。」


 走ってきていたのは、昨日話した筑紫野だった。なんとかその場
は誤魔化して、隠れていた水銀燈を鞄から出してやる。


ジュン「……ごめんよ、もう出てきていいぞ。」

銀「……ふぅっ、あんた、イヤな嘘をつくのね…… めぐなら、
  蜘蛛とか言うと思うけどぉ。」

ジュン「仕方ないだろ…… とっさに出たのがそれだった。」


 水銀燈は不貞腐れながらも笑っていた。ここで柿崎さんの話を
出すあたりがコイツらしい。本当に好きなんだな。 
594RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:47:43.43 ID:vJJVapVe
[20:34]

ジュン「けど、なんでこんな所に?」

銀「ジュンを捜していたの。それに、調べないといけないことが
  あったから、nのフィールドに居たのよぉ。」

ジュン「はあ……」

銀「そしたら、調べてた扉の向こう側にジュンが映ったから……。
  ここ、ジュンの学校で間違いないかしら?」

ジュン「ああ。ここは、僕と柏葉が行ってる高校だ。ここにまで
    繋がる扉があるのか……」

銀「いいえ、そういうわけではないわ。」

ジュン「え?」
595RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:51:53.17 ID:vJJVapVe
銀「……8日前の夜に、ジュンの家の物置に繋がっているはずの
  扉を開けたら、何故かここに出てきちゃったのよぉ。」


 何やら、事情が複雑になってきているぞ。扉の先が変わるとか、
そういうことがあるものなのか……? とりあえずは、コイツの
話を聞いてみよう。


銀「物置にしては何もないし、あの古時計、あんなの物置にある
  はずがないし…… とりあえずジュンを呼んでも、ぜんぜん
  返事が無くて。」

ジュン「はあ…… けど、偶然にも、ココに繋がってて良かった
    よなぁ。 ……コレのおかげかな。」


 契約者の左手薬指に現れる薔薇の指輪を示すと、水銀燈も納得
して頷いていた。フィールド自体も干渉してくるのかな。
596RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:56:05.43 ID:vJJVapVe
銀「この辺りも、少し捜し歩いたわ。ジュンと同じ学生服だけど
  知らない人が通るばかりで……何回か、目が合っちゃって。
  なぜかみんな坊主頭だったわねぇ。流行っているのかしら?」


 すぐ、桔梗谷たちの事だなと分かった。桔梗谷も7日の夜とか
言ってたな……今日は15日だから、8日前だな……。この時、
島のように浮かんでいたそれぞれの事象に、一気に橋が架かった。

 今から8日前、4月7日……あの日は。


ジュン「柏葉たちと、雛苺の――『第82633世界』に行った
    あの日だ……」

銀「! 何か、変わったことはなかった……?」
597RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 01:58:26.58 ID:vJJVapVe
ジュン「ああ、あった……、エビのような生き物が、世界樹の枝
    のずっと下にいたみたいなんだ。僕と翠星石が、そこを
    歩いてた時、そのエビの鋏に襲われて、さ……」

銀「……そう。……あんたたちが、無事でよかった……」


 水銀燈が、僕たちの無事に、安堵の表情を浮かべた時だった。


ボーン…… ボーン……

銀「!」


ボーン…… ボーン…… ボーン……

ジュン「!? 鐘の音だ……!!」
598RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:38:36.12 ID:vJJVapVe
 鐘の音が、5回鳴り響いた。僕は、突然のことに戸惑っていた
けど、水銀燈はいたって冷静に時計の方に耳をそばだてている。


銀「……あの振り子時計は、止まってるみたいね。この音は……
  この鏡の奥から聞こえてきたわ。」

ジュン「鏡の奥…… nのフィールドか……?」

銀「ええ。昨日、まさにnのフィールドで鐘の音を聞いたわ。」


 なるほど、nのフィールドからか。時計の世界といえば、時計
だらけの世界……柴崎さんの世界があったな。けど、柴崎さんに
何かあったら、蒼星石がすぐやってくるはずだけど……


銀「8日前からのことだけど……、めぐの部屋の鏡から、さっき
  聞こえたような、鐘の音がするようになったのよ。それで、
  真紅達にそれを知らせようと思ってジュンの所に行ったわけ。」

ジュン「そーか…… ありがとな。」
599RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:40:02.31 ID:vJJVapVe
 あのエビの鋏……鐘の音。4月7日の事、いや、この3年間も
だけど……夢のようで、夢じゃない。まだ、何かありそうだ。


ジュン「なあ、それって……毎日なのか?」

銀「毎日ってわけじゃないわぁ。」

ジュン「ってことは……昨日、やっぱり鳴ってたのか。8回。」

銀「確かに……8回だったわ。みつも聞いたそうよ。」

ジュン「みっちゃんさんもか……!?」


 みっちゃんさんも…… ということは、他の契約者も鐘の音を
聴くことになるのか。しばらく、時計の前で2人、壊れた時計の
鐘を気にするという妙な状態にあった時だった。


シュンッ

銀「!」

ジュン「なんだ!?」
600RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:42:38.26 ID:vJJVapVe
 何か小さいものが、目にも止まらない速さで走り去っていった。
瞬間、水銀燈が立ち上がると同時に翼を広げ、羽を飛ばす。その
音に驚いたのか、ソレはこちらに引き返してきた。


銀「ちょっと大人しくしてもらうわよぉ。メイメイ!」

メイメイ{ヒュンッ ホワホワ}

ジュン「おっ、メイメイ。一体何を……」


 水銀燈は、どこからともなく自分の人工精霊のメイメイを呼び
出した。メイメイは自ら暗い紫色に光り、舞っている。廊下が、
ブラックライトに照らされているかのようだ。

 見とれていると、水銀燈がいきなり僕の方を振り向いた。


銀「ジュン、目をつぶってて。」

ジュン「え」
601RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:45:17.81 ID:vJJVapVe
 メイメイが、カメラのフラッシュのように光った。驚く間も、
言葉を発する間も、ない。まばゆい光に、10秒は目が眩んだ。
廊下の真ん中では、さっき走り抜けた何かが蹲っている。


ジュン「も、もしかして本当にネズミが……!?」

銀「そのとおりね。捕まえちゃった……♪」


 何かの正体は、ネズミだった。嘘から出た誠ってやつなのか?
ネズミは目の眩みが収まっても、走り去る気配を見せない。


ジュン「お前、ネズミも捕れるのか。」

銀「礼拝堂にも時々出てきてたからねぇ。でもそれは『普通の』
  ネズミ。この子は……ただのネズミじゃあないわ。」

ジュン「…… コイツ服を着てる……」 


 このネズミは、何故だかタキシードのようなものを着ていた。
水銀燈にはどうやら心当たりがあるようだけど、僕にも少しだけ
確信めいたものがあった。コイツは――
602RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:47:24.01 ID:vJJVapVe
ジュン「nのフィールドから来たのかな。」

銀「ええ。私、8日前にそこでこの子に会ったことがあるわ。」

ジュン「ホントか! しかも、8日前って……」

ネズミ「…… 鳴ルー ウウ、眼ガァ」

ジュン「…… こ、このうえ喋るのか?」

銀「言ったでしょう、ただのネズミじゃないって。」


 このネズミは喋ることもできるようだ。まあ、以前には喋る兎
もいたからそこまで驚きはしなかった。悪い奴じゃなければいい
んだけど……


ネズミ「鳴ルゾー モウジキニ鳴ルゾー」

ジュン「時計の事かぁ?」

銀「…… ……。」
603RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:49:02.95 ID:vJJVapVe
ボーン…… ボーン…… ボォー……ン……

ジュン「おお…… 本当に鳴りやがった……」

ネズミ「アアー 鳴ッタ 鳴ッタゾー。グルグル。」


 鐘が、3回鳴った。ついさっき聞いていた分、そこまで恐怖は
感じなかった。というより、なぜだか重たくも穏やかな、そんな
音に感じられた。しかし、今のこの場所の雰囲気は逆だ。


タタッ
ジュン「あっ、オイお前どこへ……名前は!」

ネズミ「……俺ニ名前ハ無ェー。『名無しの森』ノ者ダカラナァ。

銀「!」
604RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:51:03.37 ID:vJJVapVe
ジュン「『名無しの森』…… お前、知ってるのか?」

銀「ええ…… 久しぶりに聞いたわね、その名前ぇ……。やはり、
  想像以上にとんでもないネズミのようねぇ……。」


 水銀燈の表情が、一言ごとに少しずつ険しくなる。


ネズミ「森ノ者ニハ名前ガ特ニナイ。名前ハ意味ヲ持タナイノダ。
    『名無しの森』ッテノモ 誰カガ言イ始メタダケ。」

銀「……やっぱり、そういう物言いはウマいわねぇ……。」

ネズミ「次ハ何回鳴ルノカナ。グルングルン、グルグル、グル。」


シューン……
ジュン「!」


 意味深な言葉を残して、ネズミは鏡の中――nのフィールドに
戻っていった。
605RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 10:53:22.51 ID:vJJVapVe
[20:48]

ジュン「やっぱり…… 悪い奴ではなさそうだけどな。けど、
    『名無しの森』ってのは。」

銀「nのフィールドの、奥深くにある森よぉ。世界樹がたくさん
  生えてるらしいけど、蒼星石たちもあまり行ったことがない
  そうよ。」

ジュン「へぇ……そんなところがあるのか。しかし、グルグルー
    ってのは何だろう。グルングルン…… グルグル……」

銀「前にも、グルングルン言ってたわねぇ。渦巻きみたぁい……」

ジュン「! 渦巻き……」

銀「何か、思い当たるものがあるようね。」

ジュン「ああ…… 今日は持ってきてないけどな。錬金術の本に
    書いてあってさ。」

銀「……真紅の本ね。あの子、勉強熱心だからねぇ……。」
606RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:02:01.38 ID:vJJVapVe
 水銀燈の目は、少し遠くの方を見ていた。錬金術と渦巻きだけ
で、何のことか分かったようだ。……この時は、あの本を持って
きてなくてよかったと思った。


銀「良かったらその本、今度見せてもらってもいいかしら。」

ジュン「え? ああ、いいけど……僕が言う事でもないけどさ。」

銀「いいえ、気にしないで。……そうだ、ジュン。巴にも、今の
  鐘の音の事を聞いてもらえるかしら。」

ジュン「おう、今から聞くよ。柏葉、っと……電話の方がいいな。」

銀「ホント、便利なものよねぇ。」


 携帯電話を開き、柏葉に電話をかける。確かに、こういう時に
すぐに伝えられるのは本当に便利だ。


巴[はい、柏葉です。]

ジュン「もしもーし…… 僕だけど。」
607RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:04:23.45 ID:vJJVapVe
巴[どうしたの?]

ジュン「ちょっと、訊きたいことがあってさ。」

巴[訊きたい事?]

ジュン「……時計の鐘の音、鏡の中から聞こえた、とかないか?」

巴[……あっ うん、あったよ。昨日、途中まで言いかけたけど、
  由奈もいたし……]


 予感は的中した。水銀燈に頷いてみせると、やっぱり、という
表情をしていた。


ジュン「そうなんだ…… 最初に聞いたのが何日前だったとか、
    憶えてるか?」

巴[一昨日だったよ。昨日も聞こえた、さっきもね……。]

ジュン「! そーか…… 今日のは2回とも?」

巴[うん。続けざまに鳴るなんて……]
608RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:05:44.97 ID:vJJVapVe
 柏葉も、どこか戸惑っているようだった。そして、次の柏葉の
言葉で、また点と点が線で繋がった。


巴[おととい霧子ちゃんが、あの音を聞いたって言ってたけど、
  全く同じ時間に聞こえたんだ……]

ジュン「やっぱり……柏葉も時計の音を聞けてるってことは。」

銀「そう。ちょっと、トモエと話したいわ。代わってもらえる?」

ジュン「いいけど…… ちょっ、柏葉、水銀燈に代わるぞ。」


 水銀燈は、両手で僕の携帯電話を持つ。……あくまでも冷静だ。
やっぱり、そこはアイツら(薔薇乙女)の長女だからだろうか。


巴[うん。 ……もしもし、水銀燈?]

銀「ごきげんよう。夜遅くにごめんねぇ。その、時計の事だけど。」
609RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:07:12.02 ID:vJJVapVe
巴[やっぱり…… 何か、起こってるのかな。]

銀「何かが起こってるかもしれないわね。あんまり、考えたくは
  ないけれど……あんた達が見たっていうエビだけじゃあなく。」

巴[そう、桜田君が、エビの鋏に襲われて。あの日は4月7日……]

銀「8日前ね……、私とめぐが、初めて時計の音を聞いたのよ。
  あの夜は、何度も何度も鐘が鳴っていたわ。そうね、50回
  は鳴っていたかしら……」

巴[そんなにたくさん…… 気味は悪くなかったの?]

銀「そうねぇ…… それが、そうでもなかったのよぉ。鳴り始め
  た時は、慌てふためいたけどねぇ。」

巴[そっか…… うん。私もなんだか、穏やかに感じたような……]

銀「そう…… ありがと、トモエ。なるほど、このペースだと、
  明日も鳴るかもしれないわ。」
610RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:09:33.62 ID:vJJVapVe
銀「何かあったら、ジュンに連絡してあげなさい。」

巴[うん、分かった。]

銀「……あと、ジュンと話、しなくていい?」


 オイオイ水銀燈、無茶振りにもほどがあるぞ……。噂の核心に
迫ろうかという心構えしかしてなかったからな。


巴[ん〜…… 代わってもいい?]

銀「ええ。じゃあ、代わるわね。」


 僕がアタフタしているのとは裏腹に滞りなく、僕に電話が戻る。
何を話せば……? そんなことを考えながら、また電話に出た。


ジュン「……ぼ 僕です。」

巴[……明日、土曜だけど、いっしょに学校の振り子時計の所、
  来てくれるかな……?]
611RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:11:08.48 ID:vJJVapVe
ジュン「い、いいけど…… まあ、無茶はするなよ。」

巴[それは、桜田君もでしょっ。……あっ、お母さんが呼んでる。
 じゃ、切るね。また明日……]

ジュン「ん。またなー。」


 どこか名残惜しげに電話を切って、水銀燈と顔を見合わせる。
何となく互いににやけずに居られなかったが、携帯電話を畳む
パタァンという音が廊下に響くと、また真剣な表情になる。


ジュン「だんだん時計の鳴るペースが速くなってるんだ。」

銀「そう。それと、鐘の音の数が減ってきている。あとは……」

ジュン「おっ、家から電話がかかってきてる。ちょっと出るぞ。」

パカッ
ジュン「おう、どした? 翠星石か。」
612RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/09(金) 12:13:23.88 ID:vJJVapVe
ジュン「……え? ……分かった。すぐ帰るから。」

銀「……ジュン?」

ジュン「ああ。さっきの、2回の時計の音だけどさ。真紅たちが、
    物置の姿見の前で聞いたって……今翠星石が、さ。」

銀「! ……やっぱりねぇ。」

ジュン「どした?」

銀「あの鐘の音、聞こえる人…… 場所が増えて行ってるわ。」

ジュン「……そうだな。」


 この5分後にも、2回鐘の音が聞こえた。その音を聞きながら、
今日の所は学校を後にする。21時だし、警備員に見つかったら
面倒だし……水銀燈は夜空を舞い、柿崎さんの家に帰って行った。
613RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:37:55.37 ID:emTtZ1xV
[21:10]
[桜田家。]

 僕が家に帰ると、真紅が安堵の表情で僕を迎えてきた。どこか、
小さい頃親に内緒で遠出したはずが、全部ばれていたような……
懐かしい気分になった。あの頃も何にも、言われなかったっけ。


ジュン「ただいまー。」

紅「お帰りなさい。……忘れ物を取りに行ったつもりが、色々と
  得てきたようね。翠星石から話は聞いてるわ。」

ジュン「まあ、な……」

紅「翠星石と雛苺なら、夜9時きっかりに眠りに就いたわ。あと、
  のりもさっき眠ったわよ。」

ジュン「そっか、すまないな真紅、僕を待っててくれたのか。」

紅「それは気にしなくてもよくってよ。……多分、もう鐘の音は
  しないはず……。」


 真紅はほほ笑みながらも少し切なげに、そらを見つめていた。
真紅にも、鐘の音が穏やかに聞こえたのだろうか。
614RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:39:01.81 ID:emTtZ1xV
ジュン「そうだ、12、3分前に2回鳴ってて、それだけ聞いて
    学校を出たんだ。もしかして、僕が帰ってきてる間にも
    鐘の音が……?」

紅「ええ。……ジュンが帰ってくる少し前に、1回、また1回と
  鳴って……それからはパタリと音が止んだわ。」

ジュン「なるほど……。ありがとな真紅。紅茶、淹れてやるよ。」

紅「そうね。けど、もう眠りの時間を過ぎているわ。明日の朝、
  淹れてもらってもよくて?」

ジュン「ああ。そんなら、もう寝なくちゃな。柏葉とも、学校で
    待ち合わせてるしな……」

紅「なら、明日私も連れて行って頂戴。時計を見てみたいわ。」

ジュン「お、おお。」


 再び学校にもぐりこんでから、1時間と少ししか経っていない。
それなのに、何故かもっと長く感じられた。多分これまで以上に、
非現実的な事があったからだろうか……。

 その日の夢は、眠っているネズミを捕る夢だった。
615RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:40:56.24 ID:emTtZ1xV
[2005/04/16 10:02]
[かしわ高校 例の廊下。]

 次の日、真紅を隠しているスポーツバッグだけ自転車に乗せて、
高校に急いだ。正門で柏葉と待ち合わせ、あの廊下に乗り込む。
やはり柏葉も、昨日立て続けに鳴った2度の鐘の音を聞いていた。

 真紅は時計を真剣な面持ちで見つめ、しばらくの間何かを考え
黙っていた。


巴「……何かを、伝えようとしてるのかもしれないね。」

ジュン「時計を使って、か…… なんだろう。」

ジュン「時計が伝えるものって、今何時とかだよなぁ。時報はさ、
    何時になったってのを教えてくれるよな。」

巴「……! もしかして……桜田君。」

ジュン「なんだ?」

巴「……あの子たちにとって、何かすごく大事な時が来たことを
  知らせているんじゃないかな。」

ジュン「大事な時…… アイツらの……」
616RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:42:09.93 ID:emTtZ1xV
 昨日突然、nのフィールドから出てきたネズミの件や、8日前
のエビの鋏の件と照らし合わせてみても、合点が行く。どれも、
真紅たちが居てこその出来事だ――そう思った時だ。

 突然、時計の止まっている振り子の、その後ろの空間から光が
差し始めたんだ。驚く僕たちに、真紅が問いかける。


紅「……ジュン、時計が光っているのだわ。入ってみましょう。」

ジュン「!? は、入れる……のか?」

紅「ええ。振り子のある空間……、その奥が鏡になっているわ。」

巴「わ、私も、行けるかな。」

紅「ええ。行けるわ……さあ、手を取って。」


 家にある姿見の中に入るのと同じようにして、時計の中に入り
込んだ。学校で鏡の中に吸い込まれるなんて、ヘンな感じだな。
光の中に入ると、そこはもちろんnのフィールドだった。
617RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:44:53.98 ID:emTtZ1xV
[10:10]
[nのフィールド。]

 nのフィールドに転がり込むと、そこには先客がいた。


紅「あら、水銀燈。貴女も来ていたのね。」

銀「ごきげんよぉ。鐘の音、止んだようねぇ。」

紅「ええ。何かを知らせに……そうとしか考えられないわ。」


 水銀燈も、真紅と同じように切なげな表情をしていた。


ジュン「水銀燈は、ひとりか?」

銀「ええ。めぐはまだ寝ているわぁ。ネズミも現れないしぃ……」

巴「ネズミ?」

ジュン「nのフィールドの奥の……なんだっけ、名無しの森か。
    そこから来たネズミだとかなんとか。服着てるんだ。」
618RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:46:39.62 ID:emTtZ1xV
紅「名無しの森……ですって?」

ジュン「あれ、知ってるのか?」


 名無しの森……やはり真紅にも心当たりがあるようだ。


紅「かすかにだけれど、知っているわ…… あんな遠い場所から
  わざわざ、ね。」

巴「その森っていうのも、nのフィールドにあるの?」

銀「ええ。そうね、契約者なしだと、まず行けないほど遠くにね。
  ……あら、噂をすれば。現れたわ、この子よ。」


 いつの間にか、だった。僕たちの足元に、あのネズミが座って、
半開きの眼ではあったが、じろりとこちらを見ている。


巴「わっ、本当に服を着てる……」

紅「やはり……ご苦労だったわね、お前。」
619RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:48:19.44 ID:emTtZ1xV
ネズミ「……契約者ト 元契約者カー。ナルホド。」

巴「喋られるのね。」

ネズミ「……確カ 雛苺ノ契約者ダッタ。」

巴「!? ……知っているの?」

ネズミ「nノフィールド ニ 居ルナラ 知ッテルゾー。 ソゥ、
    君タチガ2年前 兎ヲ倒シテ 運命ヲ乗リ越エタ事モ。」

ジュン「!」


 ネズミのヤツ、いつもに増してよく喋るな……。ふと、周りを
見ると、景色が時計の中の歯車に変わっていた。僕たちは、その
歯車の上に乗っている状態だ。


巴「えっ……!? ここは確か、nの……!? 何が起こるか、
  本当に分からないね……!」

ジュン「……おお……」

ネズミ「今 運命ノ歯車 動キ始メター 次ニ動クノハ 何時?
    ナンジ ト 書イテ イツ ト 読ム――」
620RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 09:50:05.56 ID:emTtZ1xV
ゴゴゴ……

銀「! あんたたち、伏せて!」

紅「……と、扉は……!?」

ネズミ「ウゴケウゴケ ウゴケー! 針ノ 指ス 先ハ 何所?
    ドコダー?」


 今度は、僕たちが時計の長針の上に立っている状態になった。
その針がグルグル回っている。こんな所でも遠心力が働くのか、
どんどん針の先に押し流される。ネズミの眼は、見開いていた。


銀「こ、これで行先を変えられてたってわけねぇ……! とんだ
  謎解きだったわぁ……!」

ネズミ「渦描クヨウニ…… ジュンノ家ノ物置…… 学校……?
    サテ次ハ?」

ジュン「うわっグングン早くなって来てやがる!」

巴「みんな、手を離さないで……!」

ネズミ「ココダー!」ピタッ
621RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 10:05:00.02 ID:emTtZ1xV
 突然、針がぴたりと止まった。針の示す先では扉が開いていて
光が差していた。しかし、ぴたっと止まったという事は、行き場
のないエネルギーが一気に襲い掛かる……!

 僕たちは、一筋の光の方へ吹き飛ばされていく。というよりは、
吸い込まれていくような感覚だった。


紅「あの扉に飛び込みましょう!」

銀「くっ…… いったい、どういうつもり……」

ジュン「あの扉の先は――!」

巴「あっ、あそこは――」

ネズミ「モウジキニ 時ハ動キ出ス…… モウスコシ 待……!
    キット……喜ブ…… オト…… イキ…… Zzz」


 最後のネズミの声は、途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、
何となく伝わった。いや、伝えに来たのか……? 気が付くと、
僕たちは柏葉の部屋にいた。あの世界は、三面鏡に繋がったんだ。
622RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:31:09.41 ID:emTtZ1xV
[12:20]
[柏葉家 巴の部屋。]

ジュン「う、うーん…… ハッ! ここは!」

巴「ここに繋がったんだ…… 良かった。」

銀「……っ、こ、ここは……どこかしら。」

紅「……ここは巴の部屋よ。」

巴「変な感じだけど、水銀燈。ようこそ、私の部屋へ。」

銀「……ありがと。」


 水銀燈はまだ柏葉の家に行ったことがなかったらしく、暫くの
間部屋をきょろきょろと見回していた。そんな様子を微笑ましく
見たところで、学校に荷物を置いてきていたことに気付く。


ジュン「やっべ! 荷物置いてきた!」

巴「私も……自転車置いたままだ。」
623RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:32:53.31 ID:emTtZ1xV
銀「ここからだと、どのくらいかかるのかしら?」

ジュン「うーん…… 歩いていくと30分はかかるな……」

紅「……足腰を鍛える意味で、歩いて行ってみるといいわ。ほら、
  こんなにも天気がいいし……」

巴「それもそうだね。行こっ、桜田君。真紅と水銀燈も!」

銀「ええ。」


 柏葉の家を出る時に、柏葉の母さんに出くわした。どうやら、
柏葉が出て行っていた事には気づいていなかったようで、僕達も
いつの間にか遊びに来ていたことになっていた。


巴の母「貴女が、雛ちゃんの一番上のお姉さんね?」

銀「ええ。初めまして……私は水銀燈よぉ。宜しくねぇ。」

巴の母「ふふっ、綺麗なお顔ですこと。いつでも、ここに遊びに
    来ていいからね。お父さんもきっと喜ぶよ。」

銀「ふふ、……ありがとぉ。」
624RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:35:42.75 ID:emTtZ1xV
[12:56]
[かしわ高校。]

 今日2度目の学校に着いて、あの廊下に向かって歩いていく。
土曜の午後、誰もいない学校は朝来た時よりも静かだった。途中、
柏葉たちと怪談話でしばし盛り上がった。


巴「それじゃ、桔梗谷くんたちが見たっていう人影って、水銀燈
  だったんだ。」

銀「そういうことになるわねぇ…… ところで巴、この学校では
  坊主頭が流行っているのぉ?」

巴「ううん、坊主頭にしてるのは、野球部とかスポーツ系の部活
  をしてる人たちが多いんだ。水銀燈が見かけたのは、みんな
  野球部だね。」

紅「ふふ、お化けに間違われたのね?」

銀「うるさいわねぇ…… ちょっとしくじっただけよぉ。」
625RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:37:44.06 ID:emTtZ1xV
ジュン「まあまあお前ら…… 僕だってほら、心霊特集観た後、
    寝てたらいきなり真紅がヌッと起きてきてだな……」

紅「違うわ、あれは……」

銀「……もしかして真紅、まだオバケが怖いのぉ?」

紅「な、何よ、そんなことはなくてよ……?」

巴「ほらほら、二人とも……桜田君も、実はけっこう……」

ジュン「だーっ、僕はそんな心霊現象なんか怖くないっての……」

紅「ふふっ、ジュンったら……」

銀「ふふふ……♪」
626RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:40:04.29 ID:emTtZ1xV
[12:59]
[例の廊下。]

 4人で笑い合いながら歩いていると、いつの間にか例の時計の
前に差し掛かった。不意にその時計を見てみると、今までと違う
所があった。針と振り子が、動いているのだ。そして……


[13:00]

ボーン……

ジュン「おっ、鳴った。」

巴「直ったんだね。ちゃんと1時を指してる……」

紅「長く止まっていた時が、動き始めたのだわ。」

銀「案外、薇が切れてただけかもしれないわねぇ。この時計も、
  だいぶ古いみたいだしぃ。」


 幸い、荷物は荒らされておらず、自転車も2台とも無事だった
ので、今日の所は帰路に就くことにする。壊れていた時計も直り、
ここ9日間の怪体験はやっと落ち着いたようだ。
627RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:44:23.95 ID:emTtZ1xV
[22:01]
[桜田家。]

 その日の夜、またみんなで懲りずに心霊番組を観た後、柏葉と
電話でこのところの怪奇現象についてまた語り合って、その後、
「大事な時」の話題になった。


ジュン「そういえばさ、『大事な時が来たんじゃないか』、って
    言ってたよな。」

巴[うん。まあ、来たというか、来つつあるというか……]

ジュン「あのネズミが言ってた通りだとすると、考えられるのは。」

巴[あの子たちのお父さんが……生きてるかもしれない……って
 ことだよね。]

ジュン「そうだなー……できるなら、アイツらが父親に逢えると、
    僕も幸せなんだけど……」
628RozenMaiden Fortsetzung 45 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:47:09.86 ID:emTtZ1xV
巴[うん、契約者に、元契約者にもできること……ささやかでも
 いいから、あの子たちの力になってあげたいよね。]

ジュン「ああ。その時までは、笑って過ごしたいと思うよ。……
    ……そんじゃ、また月曜。」

巴[うん、……それじゃあ。おやすみ。]


 ひとまず、今日もまた真紅たちの鞄のそばに、それぞれの名前
がタグに書かれたくんくんのぬいぐるみを、そっと置いてやって
から寝ることにする。

 「その時」……いったい、本当に僕たちの目の前に訪れるのは、
いつになるんだろう。

 僕と真紅たちの棚の中ほど、錬金術の本が並べられている横に
置いている、中学の卒業式の日に薔薇水晶にもらったガラス細工
の中の真紅たちの顔を眺めていると、妙に胸がざわついた。


                    【第46話に続く】
629TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2012/11/10(土) 22:51:14.53 ID:emTtZ1xV
 ハイ、以上で第45話「桜田ジュンと古時計」は終了でございます。
読んでくださった方本当にありがとうございます。


 46話も何か大きな動きがあるかもしれないので
生温かく見守っていただければ幸いです。それでは、また次回。
630名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/13(火) 00:31:12.53 ID:U0e+zsah
01: 名前:水銀党本部投稿日:2012/11/12(月) 21:46
:【完結】ローゼンメイデンSF軍事サスペンス
水銀党本部1000HIT記念小説
Black Alice Prelude――銀色の旋律――
http://www.mercuryparty.com/newpage1.html [source] [check]
CIAで対外軍事工作に従事する、高機動特装戦闘爆撃機・マーキュリーランプ。 彼女は第二次大戦中のドイツで天才科学者ローゼン博士によって作られ、後に米国の手に渡った幻の人型兵器ローゼンメイデンだった。
一九九四年、マーキュリーランプは凄惨な民族紛争が続く旧ユーゴスラヴィアに派遣される。兵器でありながら感情をもつマーキュリーランプは、米国が掲げる大義のもとに下される命令と戦場で目の当たりにする現実との間で苦悩する。
世界の闇は次第に彼女の心を蝕み始め、そしてもう一体のローゼンメイデンの登場が、仮初の安息に決定的な終止符を打つ・・・・・・
実在した戦場を舞台に繰り広げられる悲しみの叙事詩。
631名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/01(火) 12:50:57.33 ID:EKEUhXNv
632名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/16(水) 18:10:47.84 ID:ILYvZJYs
翠星石を高い高いしてやると、顔を真っ赤にして

「こ、子供扱いするなですぅ!!べ、別に全然嬉しくなんかねーですよ!」

とわめきやがる。

そうか、どうやらスリルが足りないらしいな。
もっと楽しくしてやろうと思いっきり地面に叩きつけた。

「ぎゃっっ!いたっ、バカ人間!!翠星石を落とすなですぅ。」

言い切らないうちに鋭いニードロップを腹に食らわす。

「げほっ・・うぅ・・・苦しい・・れすぅ・・どうしてぇこんな・・うっ」

するとショックでげろ吐きやがった。
なるほど、排泄はしなくても食ったばっかりのものは出てきてしまうのか。
こんな汚い人形はやっぱり洋物ダッチワイフが相応しい気がしてきた。
フリフリスカートをめくるとパンツを一気に下ろす。
633名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/06(水) 22:26:08.97 ID:jejpzgfj
634TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 03:45:21.69 ID:1LXVJYJ3
どうも、TEG24です。
第46話を投下しますよ。
保守してくれた方々、本当にありがとうございます。


ではいきます
46【桜田ジュンの邂逅記】
635RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 03:48:20.50 ID:1LXVJYJ3
[2005/04/29 12:01]
[市立図書館。]

 4月29日、晴れ。今日は、みっちゃんさんと馴染みの図書館
に来ている。来週、みっちゃんさんがドールの展示会をするんで、
そのテーマ決めがてら、ドールの本を探しに来ていたんだ。

 僕とみっちゃんさんは別行動で、このフロアを半分ずつ回って、
めぼしい本が見つかったら、それを借りてロビーで落ち合うこと
にした。


草笛みつ「さーて、ドール関係は……っと」
636RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 03:54:46.37 ID:1LXVJYJ3
「…… うーん…… ないなァ……」

「ここなら確かあったと思ったんだけどなぁ……」

みつ「あのー…… コレ ボールペン 落としたよ?」

「え? ……あっ! ありがとう……ございます。」

みつ「いえいえ、いいんですよー。」

「……!」

みつ「…… なぁに?」

「…… その ゆ……」

みつ「?」

「いや、なんでもないです、ありがとうございました!」

みつ「…… なんだったんだろ……? ま、いいや。はやいとこ
   目当ての本を探さなくちゃ。」

みつ「〜♪」
637RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 03:59:32.00 ID:1LXVJYJ3
 僕がロビーに着いてから10分ほど後、みっちゃんさんが本を
15冊は抱えて、少し急ぎ気味に戻ってきた。


みつ「おまたせ〜!」

桜田ジュン「結構借りてきたな……」


 僕はほんの3冊しか持ってきてなかったんで、みっちゃんさん
の持ってきた本の量に驚いた。とりあえず、二人掛けのテーブル
席に腰かけ、ありったけ本を広げて来週の作戦会議をする。

 ベタに西洋チックに固めるか、時節柄ということで兜を着せて
みるか……? みっちゃんさんは和洋問わずドールの装備は結構
取り揃えている。それがアダで、よく金がなくなるらしい。
638RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:09:34.75 ID:1LXVJYJ3
[12:24]
[図書館ロビー。]

みつ「さ〜て…… 展示会のテーマは、こいつで決まりかな!?
   ワルキューレ的な感じで勇ましく!」

ジュン「五月人形からどんどん行って、女騎士か。」

みつ「ピンポーン! さすがジュンジュン!」

ジュン「服は何着くらい持ってくの? 結構大がかりになるよな。」

みつ「う〜ん…… まあ5種を2着で、……10あればいいかな。
   展示が5時間で、休憩はさんでお色直しするから、お部屋
   から5人ほど連れて行かないと……」
639RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:14:32.58 ID:1LXVJYJ3
ジュン「…… ちなみに今、何体くらいいるんだ……?」

みつ「よ〜くぞ訊いてくれましたッ! カナを入れて112ッ!
   おととい、113人目の子を注文したよ!」

ジュン「ひっ…… ひゃくじゅうっ……!? まあ服の売り上げ
    があるからいいとして…… いや良くないか……」


 113。僕が今まで注文した、怪しいグッズの数にも匹敵する。
金糸雀曰く、この中に形が同じでも全く他人の人形が混ざったと
しても、みっちゃんさんならすぐにわかるらしい。


みつ「これでも結構抑えてるほうなんだよ〜。カナが来るまでは
   ひと月に1体は迎えて……」

ジュン「そりゃあ残業もやむなしだな…… 飾るところとか全然
    残ってないんじゃないの?」
640RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:20:07.39 ID:1LXVJYJ3
みつ「そうだねぇー、そろそろ夢の2LDKに、お引越しを検討
   しなくては…… でも薔薇野マンションも日当たりいいし
   何より向かいにオディールさんがいてくれてるしぃ……」

ジュン「……あのマンションって、全部間取りいっしょなの?」

みつ「どうだったかな。もしかしたら、最上階は広いかも……?
   でもそんなお金ないし……」


 多分、高い車なら買えそうなぐらい、人形に貢いでるな……。
僕は真紅が来るまではだいたいクーリングオフをしていたから、
もし今までの分を全部買っていたらと思うと、何だかぞっとする。
641RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:34:26.30 ID:1LXVJYJ3
[13:09]
[帰り道。]

みつ「そうそう! さっきすごくカッコいい男の子のボールペン
   拾ってあげたんだー!」

ジュン「そーなんだ。」


 帰り道、みっちゃんさんが本を探してる最中の出来事を話して
くれた。……あんまり興味ない話題ではあったけど、とりあえず
聴くだけ聴いてみる。


みつ「歳は…… あっ! 幕高の制服の襟元に、『2−4』って
   組章があったっけ……ジュンジュンと同学年じゃん!」

ジュン「へー……。」
642RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:40:23.33 ID:1LXVJYJ3
 ……観察眼が優れてるのか? 自分の学校で、制服の校章とか
組章は見ても、他高の奴で何年何組というのは、そんなに気にも
留めないんだけどな。


みつ「だいじょぶだって! ジュンジュンも十分イケてるって!
   このっ大統領!」バシバシ

ジュン「!? え……あ、ありがと。」

みつ「……んっ!? そーだ、あの子だよっ。」

ジュン「え……? あの金髪の?」


 みっちゃんさんがペンを拾ってもらったという人が、僕たちの
前を歩いていた。背丈は僕と同じくらいの、すらっとした金髪の
少年だった。
643RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:53:43.31 ID:1LXVJYJ3
みつ「ビンゴ! 王子様って感じよね〜。」

ジュン「……あっれ どこかで見たよーな……どこだったかな。」


 そう、どこかで見たことがあった。しかし、なかなか思い出せ
ない。一体どこで見かけたんだっけ、と考えている間に、そいつ
の姿はもう消えていた。

 3連休が明け、飛び石になっている5月2日だけ学校に行き、
再び3連休。6日も飛び石だ。姉ちゃんは、その2日とも休みが
取れていて10連休中。ひたすら真紅たちと遊んでいる。

 さて、5月3日が展示会の日だ。
644RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 04:58:58.36 ID:1LXVJYJ3
[2005/05/03 11:08]
[幕張マッセ。]

 5月3日、晴れ。みっちゃんさんの借りてきたレンタカーで、
展示会の会場にやってきた。……みっちゃんさんは免許を持って
はいるけど、車さえ人形には勝てないようで、車は持っていない。

 僕はこういう展示会に来るのは初めてだったりする。いつもは
槐さんの店で服を作るだけだし、それこそ人形も結構そこにある。


 会場に入ると、想像以上に人であふれていた。


みつ「さ〜って、ここが私たちの戦場ねっ!」

ジュン「思ったより人が来るんだなぁー。」
645RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 05:01:22.59 ID:1LXVJYJ3
みつ「人形愛好家はいたるところにいるんだよー! とくにこの
   連休を使って遠征してくる『ガチ勢』は正にターゲット!」

ジュン「おお…… みっちゃんさんの瞳に、炎が……」


 金糸雀よ、来てなくてよかったな。多分お前がいたなら、この
会場内をくまなく、しかも何周も連れまわされてただろう……。


ジュン「とりあえず、カタログも出しとくよ。」

みつ「うん、ありがとー! さて、ジュンジュンのこさえた新作、
   いくら付くかなー。」

ジュン「さあ……。」
646RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 05:04:16.26 ID:1LXVJYJ3
 先週テーマを決めた後に、一応僕も1着だけ新しい服を作った。
騎士に護られる姫君という感じで、RPGに出てきそうなお姫様
の、白い羽衣を仕上げておいた。

 展示会とは言っても、たまーに『買いたい!』という人が来る
ことがある。みっちゃんさんは即売会で服を売ったりするけど、
こういう展示会でも売れたことがあるとか。


[11:39]

 僕たちの展示ブースを見る人はそこそこ居て、時々人形連れの
人も来ていた。そこで人形や、着ている服や作ってきた服なんか
を自慢し合うんだ。そこへまた、誰かがやってきた。


「あの、つかぬことをお伺いしますけど。」

みつ「あら、いらっしゃ…… あれ!? キミは確か図書館の!」
647RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 12:49:55.53 ID:1LXVJYJ3
 ブースの前に立っていたのは、例の金髪の男子だった。先週は
後ろ姿しか見ていなかったけど、今見ると確かにカッコいいな。
とても高2には見えない、整った顔立ちだ。


「? ああ! ボールペンを拾ってくれた…… その節は本当に
 ありがとうございました! ドール好きの方だったんですね。」

みつ「ドール好き!? 否、そんな器には収まらなくてよっ!?
   キミもこのイベントに来ているなら――」

ジュン「まぁまぁ…… すいません、この人熱狂的ドールヲタク
    でして。」


 みっちゃんさんのボルテージが上がっていくのを宥めながら、
僕も話しかけてみる。やっぱりどこかで見たな…… すると。


「アハハ……俺もそんな感じだから…… あれ 君はもしかして
 桜田君じゃあ……?」
648RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 12:53:38.46 ID:1LXVJYJ3
ジュン「!? なんで僕の名前を……?」

「さくら中の桜田君だよね?」

ジュン「そ……だけど。」


 僕のことを知っているのか? 中学まで分かるとは……


「なんということだ、あこがれの桜田君がここにいる……!」

ジュン「……き 君は……?」


 戸惑いを隠せない。あこがれ……って、なんのことだろう。
649RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 12:56:28.23 ID:1LXVJYJ3
皆人「俺、鳥海皆人っていうんだ。さくら中学、元3−3、今は
   幕高に行ってる。」

ジュン「えっ、同じ中学だったのか! さっきも言ったけれど、
    僕は桜田ジュン。元3−6で、今かしわ高。」

皆人「へぇ、かしわ高か。3組からも何人か行ったけど、そこ頭
   いいよなぁ。」

ジュン「そーかな、ピンキリだよ。幕高こそ…… アレ 鳥海?
    鳥海って……」


 名前を聞いてから、やっと思い出した。高校の卒業式準備の時、
別のクラスの女子がカッコイイとか言ってた、アイツだ。
650RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 12:58:07.67 ID:1LXVJYJ3
 確か、僕の作ったドレスを見て『ああいうのを作りたい』って
言ってた奴で、柏葉も『将来のライバルになるかもね』と言って
たな。まさかこんなところで、思いがけなく出逢うとは……


みつ(……アレ もしかして私 空気……!?)

皆人「この方は? なんだか親しげだけど……」

ジュン「この人は草笛みつ。……『みっちゃんって呼んでね』
    って初対面で釘刺されちゃってさ。」

皆人「そうなんだー…… すごいや、桜田君は。ハートをつかむ
   のがうまいな。」

ジュン「いやそんなことは……」
651RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:05:56.17 ID:1LXVJYJ3
[11:56]

 しばらく人形と服について3人で談笑した後、鳥海が振り返る
ように、あの話を切り出す。


皆人「俺が桜田君にあこがれたのは…… 中1の時だったな。」

ジュン「!」

皆人「あのドレスさぁ…… 本当、すごかったよなー。」

ジュン「……あー、 あれ…… な……」


 あれから4年たった今となっては何ともなく、乗り越え、打ち
勝った記憶だけど、唐突に言われるとやはり考えてしまうな……。
ほんの何秒かだったけど、上の空になっていた。


みつ「ジュ、ジュンジュン? 大丈夫?」

ジュン「だいじょうぶだよ。今じゃ笑い話さ。」
652RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:08:20.35 ID:1LXVJYJ3
皆人「俺、あのドレスがきっかけで桜田君のようになりたいって。
   あんなドレスを作ってみたいって……思ったんだ。」

ジュン「……鳥海……。」


 すると鳥海は、また何かを思い出したようだ。さっきと違う所
といえば……


皆人「そうだ、すっかり忘れてた…… ところで」


 鳥海の目つきが、鋭くなったように見えた所だ。何の話をする
のだろうか。服を買うのか……?


皆人「『ローゼンメイデン』って、知ってるかい?」
653RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:10:45.11 ID:1LXVJYJ3
ジュン・みつ「「!?」」


 予想は大きく覆された。それも、とんでもない方向に。


皆人「親が古物商やっててさ、ずっと探してるみたいなん……」

ジュン「古物商……? それって――」


モ゛ーッ  モ゛ーッ

皆人「あっ、呼び出しの電話だ! それじゃあ、またな桜田君!
   みっちゃんさん!」

ジュン「お、おお…… また、な。」

みつ「ま、またね〜……」
654RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:13:14.25 ID:1LXVJYJ3
 多分、鳥海の携帯のバイブレーションだろう。その音がすると
すぐに、鳥海は足早に僕たちの前から走り去ってしまった。暫く、
僕とみっちゃんさんは目を見合わせていたが、あることに気付く。


ジュン「…… 今、アイツ『ローゼンメイデン』って……?」

みつ「言った言った……!」

ジュン「3年前に、真紅が動かなくなった時にネットとか本とか
    片っ端から調べたけどさ……、ネットじゃ『名前ぐらい
    なら分かる』とか『ホントにいるの?』とか、しか……」

みつ「……まあ、この界隈一般には『誰も見たことがない逸品』
   とか、『幻の最高傑作』とまで言われてるし――」
655RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:16:23.27 ID:1LXVJYJ3
ジュン「――内緒にしとこう。」

みつ「そ、そだね……。知ってるくらいに、しとく、か……。」


 僕もみっちゃんさんも、内心動揺を隠せなかった。いきなり、
ローゼンメイデンの話を切り出してきたのは、契約者をのぞくと
鳥海が初めてだ。

 鳥海の事を疑いはしないけど……今までだって真紅達が、僕ら
契約者ではない人たちと交流を果たせてきたのも知っているけど、
――なんとなく、アイツには今は言わない方がいい気がした。

 ちなみに僕の親も、姉ちゃんが生まれる前から古物商で、その
界隈ではそこそこ有名らしい。鳥海も知っているのかな。時計を
見ると12時を廻っていたので、いったん昼ごはんを買いに行く。
656RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 13:20:50.18 ID:1LXVJYJ3
[15:51]

 展示会は、夕方の4時で終わる。あれから、みっちゃんさんの
作った服も、そこそこ売れた。僕の作ってきた服も、見入る人が
多くてかなりの評判だった。

 そろそろ引き上げるかという時、一人の男が展示ブースを訪れ、
僕の作った服をしばらくの間、身をかがめて見ていた。そして、
ポンと手を叩き、問いかけてきた。


「この羽衣は…… 素晴らしい、あなたが作ったのですか?」

みつ「いえいえ! これを作ったのはこの子なんですよ!」

ジュン「ハイ、僕が…… 今日の為に作りました。」

「まさか、こんな所で、ここまで良いものに出会えるとは……。
 よければ、これを買い取りたいのですが。」

ジュン「ありがとうございますっ! えーと……」
657RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 15:45:13.58 ID:1LXVJYJ3
 終了直前で、まさかの購入の交渉だ。売れるとは思わなかった
ので、値段を決めていなかった。すると男が、背広の中から封筒
を取り出し、僕たちの目の前で開け始めた。


「……この額で売っていただけないか。」

みつ「!?」

ジュン「……!! い、いいんですか……!?」

「もちろん。この羽衣には、これだけの価値があるのですから。」

ジュン「あっ……ありがとうございましたっ!」

みつ「ありがとうございましたあっ!」


 封筒の中から出てきたのは、15枚の1万円札だった。1着に
これだけの値段が付くのは初めてだ。帰りの車の中では、この事
と、鳥海の事が頭の中で渦巻いていた。
658RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 15:52:09.86 ID:1LXVJYJ3
[2005/05/04 11:15]
[いつもの公園。]


 次の日。3連休の真ん中、しかも快晴ということで、僕は宿題
を片付けたあと、いつもの公園に出かけた。この公園は、考え事
をするには丁度いいんだ。

 真紅達は居間でくんくんを観ていたから、昼飯の時間までは、
ここでゆっくりできそうだ―― と、ベンチに腰かけた瞬間だ。


皆人「やあ、ジュン!」

ジュン「と、鳥海……? ジュンって……」

皆人「同じ中学のよしみだし、いいだろ。俺も、皆人でいいから。」

ジュン「ま、まあ……いーけど」
659RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 15:54:48.02 ID:1LXVJYJ3
 公園の門の陰から、鳥海……皆人が走ってきた。こんなところ
でも、やたら押しが強いな。とりあえず、しぶしぶ隣に座っても
いいぞと許可をだし、雑談する。途中、紙芝居屋の話題になった。


皆人「そういえばジュンって……この噂を知ってるか? そこの
   公園に週4で来る紙芝居屋のことなんだけど。」

ジュン「……ああ、僕も1個知ってる。――というか、僕がその
    噂が本当だってことも証明できる。」

皆人「本当!? よかったら聞かせてくれないか?」

ジュン「いいけど…… いつもくるおじさんって、腹巻してる、
    昔の漫画にいそうなおじさんだろ?」

皆人「ああ、俺も前バイト先に行くときによく見かけてたよ。」


 紙芝居屋の噂話は、前にもみっちゃんさんとしたことがあって、
結構盛り上がった。
660RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 15:57:51.85 ID:1LXVJYJ3
ジュン「そーか。まあ、そのおじさんしかいないって言われてる
    けど、実はもう一人、紙芝居のおじさんがいるんだよ。
    ……ハハ」


 『もう一人のおじさん』の話題を出した時のみっちゃんさんの
驚きっぷりを思い出して、少し笑ってしまった。


皆人「それってどんな……? 俺が知ってるのも、2人目の紙芝
   居屋の話なんだけどさ。」


 皆人もこれを知ってるみたいだ。しかし僕は構わず話を続ける。
何か、内緒話をしゃべってると気持ち良くなる時のような……、
そんな感じがした。


ジュン「まあ、正確には紙芝居というか、それに人形劇を交えて
    きてた。全身黒づくめのおじさんで……シルクハットで、
    顔ははっきり見えなかったけど、いかにも紳士な――」
661RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 16:02:08.65 ID:1LXVJYJ3
皆人「…… ……!」

ジュン「皆人? …… もしかして」


 皆人の表情が、昨日ローゼンメイデンについて訊いてきたとき
と同じような、真剣な顔つきになった。静寂が包む。一瞬だけ、
5月の穏やかなはずの風が、強く吹いたように聞こえた。


皆人「なあ、ジュン…… それ俺も遇ったことある。5歳の時だ。
   一回だけ。しかもあの時以来全然見かけないんだ。」

ジュン「…… ぼ 僕も5歳の時だったんだ……。そう、あの日
    から一度も見ないんだけどさ……。あのおじさん、一体
    どこまで、話してくれたんだ?」

皆人「俺がその時『それって、おじさんの話?』って訊いたんだ。
   そしたら顔を隠しながら『それはね』と言いかけたところ
   までしか記憶にないんだよ。」

ジュン「…… そんなところまで同じなのか……。僕も同じこと
    訊いてさ、気が付いたら部屋で寝込んでたんだ。」
662RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 16:05:52.21 ID:1LXVJYJ3
 なぜだ? 不自然なほど共通点が出てくる。普通ならこの辺り
で話を切り上げて、逃げていくはずだ。なのに、話をどうしても
進めずにいられない。コイツはまるで……


皆人「俺も気づいたら部屋にいたよ。それからなんだよな、俺の
   部屋のおもちゃが人形だらけになったのは。」

ジュン「僕もさ。……小5くらいから、なんとか男っぽい趣味を
    と思って、なんとなく車のポスターとか模型とかを飾り
    はじめたんだけど……結局人形の絵ばっかり描いてた。」


 ……僕のような奴だ。仮に、皆人にも小学校の頃に頭がいいと
もてはやされ続け、中学に上がると趣味を気味悪がられた過去が
あって、それを奴が話したときは――
663RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 16:08:42.75 ID:1LXVJYJ3
[11:57]

 ――しかし、そんな話題は出ず、2人とも腹が鳴ったところで
公園を後にすることにした。皆人は今日も図書館に向かうようだ。


ジュン「じゃあな、皆人!」

皆人「じゃあ!」


 皆人と別れ、自分の昼飯と真紅たちのティータイムのおやつを
買いに、スーパーに向かう。昨日の臨時収入があるし、おやつは
いつもより豪華に「くんくんのクッキー缶」にしてやろう。

 この思いがけない出逢いで…… なにか大きく、運命が動いた
ような、そんな気がした。もうすぐ、12時になる。
664RozenMaiden Fortsetzung 46 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 16:11:35.45 ID:1LXVJYJ3
 …… ……

[11:59]

皆人「桜田ジュン、か……。俺とまったく同じ体験をした……。
   そう」

皆人「俺は『まかなかった』……いや、『まけなかった』のか。
   一度は…… 目にしていたんだけどな。」

皆人「…… もうこんな時間か。まあいいや、早くいかないと……。」


                    【第47話に続く】
665TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2013/02/11(月) 16:26:16.33 ID:1LXVJYJ3
 ハイ、以上で第46話「桜田ジュンの邂逅記」は
終了でございます。読んでくださった方ありがとうございます。

 ……47話も、何かが起こります。
のでもうしばらくお待ちください。なかなか投稿できなくてすいません。
ではまた次回。
666名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/11(月) 16:39:07.16 ID:DDwpQw8b
乙でした
容量的になんかギリギリだよ
667乳酸菌取ってるぅ? (代理)
もつ
次スレは次に投下する人が立てるって感じかな