【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはローゼンメイデンの一般向けSS(小説)を投下するスレです。
SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう。
18禁や虐待の要素のあるSSの投下は厳禁です。それらを投下したい場合は、エロパロ板なりの相応のスレに行きましょう。
次スレは>>950を踏んだ人が、またはスレ容量が500KBに近くなったら立てましょう。

前スレ
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 7【一般】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191748088/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 6【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1184419565/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 5【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1178641673/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 4【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1171710619/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 3【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1156249254/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1146976611/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1143018114/

関連スレ

Rozen Meiden ローゼンメイデン SS総合 8
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1164813753/

保管庫
http://rozen.s151.xrea.com/
http://www.geocities.jp/rozenmaiden_hokanko/
http://rinrin.saiin.net/~library/cgi-bin/1106116340/
2名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/24(月) 11:01:46 ID:uiySuxju
は・や・く!

つ・づ・き!

は・や・く!
3名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/24(月) 12:17:41 ID:35EUoMFi
1乙
4名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/24(月) 20:15:01 ID:B4T/bGX5
>>1乙女
>>前スレラスト
真紅そっちいっちゃらめぇぇ!!!!!
5名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/25(火) 21:33:42 ID:Y18Ofy+V
ここって前々から誰か専用SSスレだよね!
6名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/25(火) 23:38:01 ID:L3yr4pUw
>>1
乙です

このスレは変な金糸雀厨に荒らされないといいなぁ
7名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/26(水) 00:37:41 ID:/xh01Jgy
続きマダー
たった二日の放置プレイに切なさ爆発で俺もそろそろ限界だずぇー
8名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/26(水) 00:37:45 ID:yqRgmVoM
>>6みたいな奴がいると初めて来た人なんかは本当に金信者が荒らしてるとおもっちまうんだろうな
9名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/26(水) 02:20:17 ID:NvK9Kv0Q
>>1
乙〜
10Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:33:01 ID:v+k5TiQ4
>>1乙です

152〜164(一部カット、一部修正) 164〜168(終わり)までいきます


152

僕は部屋から出して貰った。ローゼンは他にやらなければならないことがあるらしい。一体いまになっても何をしているのか、
考えるだに恐ろしい気がする。廊下に出るとスゥーウィーはもういなかった。
もし、薔薇乙女達がいまのローゼンの話を聞いたらどう思うだろうか?
みんな自分自身に誇りを持っている。みんな自分を生み出してくれたローゼンを愛している。でも、その愛は決して返されない。
頭が疲れきった状態で屋敷の廊下を渡り、角をまがって入り口近くまで戻ってきた僕は、壁際に腰掛けている真紅に一方的に
話している雪華綺晶を見かけた。
僕がローゼンと話しているあいだに、2人は屋敷のなかでふっと出くわしたのだろう。

「確かに、確かに、あの人間は普通ではない。マエストロの業も間違いはないでしょう。あなたは知っている…お父様は、
お父様は…あの人間を気にいっている。本当に気にいってるのです。」

真紅は放心状態のまま、ただ愛しげな瞳で末の妹を眺め続けているだけだ。
ほとんど自分の言葉が彼女の耳に入っていないことにも気づかずに、雪華綺晶は永延と話を続けていた。
またいま近くに僕がきていることにも気づいてはいない。

「アリスとしか会わないはずなのにお父様はあの人間と会った。はなしをした。関係があるといってもいいかもしれない。
お父様とあの人間のあいだにはなにかある。お父様はあの人間のためになにか心のなかで考えている。気になりませんか?
あなたはどうなのです?…何かが起こりつつある。そうです、お姉さま。あなたが知っていないことを私は知っている。
きっと…お父様は心が死にかけているように見えます。お父様の業は健全で、誰も適わない…私達に愛を注いで…考えが明晰で…
でも、その愛が壊れてしまっている。愛が壊れて…お父様はこうしたこと全てを憎んで、…憎んでいるのです!でも、私達のお父様は…
…あー…お父様は私達に手を触れる。分かりますか?…あの手、あの指先が…。お父様は真紅のマスターを気に入っている。
あの人間について何か計画している。アリスでない者に、会ったのですから。わたし?ちがう。ちがう。わたしはあなたを助けませんよ。
わたしがお父様に関わる役は降ろされた。かれがお父様に関わるのです。かれがお父様をたすけるのです。つまり…
もしかれがアリスの代わりに、わたしたちを止めたらどうなります?お父様は、あなたは、みんなはなんていうのでしょうか?
え?かれはドールを愛していた。強さだけが少女の気高さを決めるものでない。かれはマエストロだった。かれは計画をもっていた。
戦うことなんてまちがっていたの…?とんだ嘘っぱち!こうしたことすべてをひとつにまとめるのはわたしの役目なのかしら…?…
わたしが?……お姉さま、わたしを見てください。ちがう!あの人間がなすのです!」
11Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:35:10 ID:v+k5TiQ4
155 - recut

激しいめまいが襲い、軽快で緩慢な死の香りがした。僕は死のうとしているのかもしれない。ここでアリスが完成しない限りは、
少なくともこのローゼンの世界からは絶対に出れないのだ。水分を渇望する喉…。

屋敷の廊下を、再びあてもなく歩き回る。残された命のエネルギー…ATPとADPの交換が行われ、着実に底へと近づきはじめる。
あいかわらず絵画の両側には、いろんな人を映した絵画がかざられている。

大きな部屋へといきついた。明かりも消えて、廃れてしまっている部屋だが、もしここが人の住処として正常な状態であったのなら、
たいそう豪華な部屋だったに違いない。部屋の隅に置かれた立派なピアノ、並べられた書棚、美しく凝った装飾の窓ガラス…。
この部屋で、薔薇乙女達四人が集合しているのを見つけた。みんな眠っている。壁に寄りかかり、翠星石は雛苺を抱いている。
同じく壁に背を任せ、真紅と雪華綺晶は肩を寄せ合って眠っている。少しびっくりする光景だ。草笛みつさんもそばで同じように
寝ている。

眠りを邪魔するのも悪いかなと思い通り過ぎようとしていたが、真紅が鋭く自分の気配を見抜いてきた。「ジュン…いるのね?」
「真紅」こうなっては仕方ないので、彼女に応じ方向転換する。
真紅は目を薄く開き、眠気と戦っているようだった。「お父様と…話したの?」次第に意識を取り戻し、動き出す。すると真紅の
肩に寄りかかっていた雪華綺晶が重力の支えを失い、すてんと床に落ちた。彼女もすぐに金色の目を開ける。
なぜなら彼女に真の眠りなどないからだ。
「ああ…、ローゼンと話してきたよ」そう薔薇乙女に話すことは、どうしようもなく心を申し訳ない気分にさせた。
また三日水も含んでいない喉から発せられる声は、自分でも驚くほど枯れていた。
「そう…」真紅は答え、視線を下を落とす。「どんな話を…?」
僕は昨日のかれとの会話を思い出そうとした。「お前たちには何が足りなかったのか聞いてみたよ…」
「お父様はなんと?」
「それは…」続きをいおうとすると、翠星石や雛苺までじっと僕を見つめていることにふと気づいた。みんなが僕の言葉に耳を
傾けていた。くそ…、これからの僕になにが起こるというんだ。「アリスに足りなかったものがおまえたちに足りなかったもの
だって…」
「そんなの答えになっていませんよ!」信じられないというように翠星石が悲鳴を上げた。「ふざけるなです!」
「翠星石落ち着いて」真紅がなだめる。「続きを、ジュン」
僕はうろたえた。この続きに真紅は希望を賭けているが、本当の絶望はこっからなのに。鋼鉄より重たい口が開かれる。
「アリスが…完成するまでは…薔薇乙女の…歴史は終わらない…って…」
「そんなのできっこありませんよ!」再び翠星石は言い、真紅のところへかけよると彼女の手を持った。「私の言ったとおりです。
真紅、私達はかえりましょう!いくらなんでもばかげています、こんなこと!ローザミスティカは新しい持ち主を拒絶し、
堪えきれず壊れ、また作り直される。そんなんでお父様は道は開けている、っていうんです。考えても見てください、真紅。
誰が気にするってんです?」
「…帰れなどしないのだわ」真紅の青い瞳は絶望の色をしていた。「帰ることなど…できないのだわ…いえ違うわ…帰るところが
ないのよ…」
「ジュン!お願いです」
今度は僕に翠星石の矛先が向けられる。僕はどきっとした。「お願いです、ジュン。もうこの糞溜めに梯子をかけられるのは
お前しかいないです、ジュン。お父様に言ってください。目を開けて、閉じ篭ってないで私達をちゃんと見てくださいって!」

アリスゲームの盤はすでに機能を失っていた。
薔薇乙女たちの交わす囁きにもはや意味はなく、うつろなる声だけがこだましていた。
12Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:37:20 ID:v+k5TiQ4
156

「だが、なぜ……なぜすべてがだれかのものであり、おれのものではないのだろうか? いや、おれのものではないまでも、
せめてだれのものでもないものが一つくらいあってもいいではないか。時たまおれは錯覚した。工事場や材料置き場のヒューム管
がおれの家だと。しかしそれらは既にだれかのものになりつつあるものであり、やがてだれかのものになるために、おれの意志
や関心とは無関係にそこから消えてしまった。あるいは、明らかにおれの家ではないものに変形してしまった。では公園のベンチ
はどうだ。無論結構。もしそれが本当におれの家であれば、棍棒を持った彼が来て追い立てさえしなければ……確かにここはみんな
のものであり、だれのものでもない。だが彼は言う。"こら、起きろ。ここはみんなのもので、だれのものでもない。ましてや
おまえのものであろうはずがない。さあ、とっとと歩くんだ。それが嫌なら法律の門から地下室に来てもらおう。それ以外の所
で足を止めれば、それがどこであろうとそれだけでおまえは罪を犯したことになるのだ。"さまよえるユダヤ人とは、すると、
おれのことであったのか?」

人形師ローゼンは、手に古そうな本を持ち、その内容を床に腰掛け僕に音読していた。
僕はただ黙って聞いている。恐らくそれは日本の書物だとは思うが、僕がさっき初めて彼と会話したときに日本人と名乗ったことから、
彼はこの選出し読み上げているのだろうか。僕がもしイタリア人だと名乗れば、…あるいはアリスゲームの勝者が別の国の時代で
でたときの契約者がイギリス人だったら…彼は別の本を音読していたのかもしれない。

「…家……消えうせもせず、変形もせず、地面に立って動かない家々。その間のどれ一つとして定まった顔を持たぬ変わり続ける
割れ目……道。雨の日には刷毛のようにけば立ち、雪の日には車のわだちの幅だけになり、風の日にはベルトのように流れる道。
おれは歩き続ける。おれの家がない理由がのみ込めないので、首もつれない。おや、だれだ、おれの足にまつわり付くのは?
首つりの縄なら、そう慌てるなよ、そうせかすなよ、いや、そうじゃない。これは粘り気のある絹糸だ。つまんで、引っ張ると、
その端は靴の破れ目の中にあって、いくらでもずるずる伸びてくる。こいつは妙だ。と好奇心に駆られて手繰り続けると、
更に妙なことが起こった。しだいに体が傾き、地面と直角に体を支えていられなくなった。地軸が傾き、引力の方向が変わったの
であろうか?コトンと靴が、足から離れて地面に落ち、おれは事態を理解した。地軸がゆがんだのではなく、おれの片足が短く
なっているのだった。糸を手繰るにつれて、おれの足がどんどん短くなっていた。擦り切れたジャケツのひじがほころびるように、
おれの足がほぐれているのだった。その糸は、へちまのせんいのように分解したおれの足であったのだ。もうこれ以上、一歩も
歩けない。途方に暮れて立ち尽くすと、同じく途方に暮れた手の中で、絹糸に変形した足がひとりでに動き始めていた。するすると
這い出し、それから先は全くおれの手を借りずに、自分でほぐれて蛇のように身に巻き付き始めた。左足が全部ほぐれてしまうと、
糸は自然に右足に移った。糸はやがておれの全身を袋のように包み込んだが、それでもほぐれるのをやめず、胴から胸へ、
胸から肩へと次々にほどけ、ほどけては袋を内側から固めた。そして、ついにおれは消滅した。後に大きな空っぽの繭が残った。
ああ、これでやっと休めるのだ。夕日が赤々と繭を染めていた。これだけは確実にだれからも妨げられないおれの家だ。だが、
家ができても、今度は帰ってゆくおれがいない…」
13Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:38:53 ID:v+k5TiQ4
「坊や、彼が何を言っているのか果たして分かりますかな?」
僕の前にラプラスの魔が屈み、指を立てて聞いて来た。
「彼が何を言っているか、坊やには分かりますかな?これは簡単な弁証法のたとえ。それも極めてシンプルな弁証法ですよ」
ラプラスの顔をこんなにも近くから見るのは初めてだ。
「さあ、坊っちゃん。クールに振る舞い、リラックスして、かれを理解するんです。至って簡単な弁証法…自分という存在の
位置づけは何処なのか帰るところとは何処なのか、突然朝目覚めたら巨大な虫になっていたことを発見しただとか自分から
自分の名前が逃げ出してしまっただとかそんな変異はまずございません…自分は自分であり続けます。あなたはあなた私は私。
この私がいるときあなたは私でないし私がいればまた薔薇乙女は薔薇乙女。あなたが他のだれでもない限り、あなたはあなた
という罪を担っている。これが弁証法の考えの例えですよ。よろしいですかな?その論理にあるのは愛と憎悪のみ。
愛するか憎しむかだけなのです…」
「黙れ!野良兎め!」
ローゼンは怒りに高ぶった声を出し、手に持っていた本をラプラスに投げつけた。「野良兎め…失せろ…フィールドの
目め…忌々しいフィールドの目め…」

するとラプラスは立ち上がりそわそわと僕の前からこういい残しながら立ち去った。
「それではそろそろ私はずらかるとしましょうか、ソーン。翌日道化師が汽車の踏み切りとレールの間で見つかったりしないようにね。
最後に人を怒らせたりすれば、兎は夜彼の息子のおもちゃ箱に移されてしまう」

ラプラスが部屋を去ってからしばらく。ローゼンも僕もずっと口を閉ざし、沈黙だけが流れた。
ずっと彼と一緒にただ同じ部屋にいる。自分でなにをすべきかは分かっていた。だが、そうはならなかった。
そうもしているうちに彼は本を床に置くと、僕の前から歩き去っていってしまったのだった。
一人その場に残される。

「あ、あれは…?」
そうしてローゼンがいなくなったことで初めて、僕は後ろで横たわっているある人影をやっと見つけたのだった。
それはドールショップの店主であり彼の弟子の、槐の姿だったのだ。ずっと闇のなかでローゼンの背中のうしろに隠れていた。

僕は理解した。
槐がもう呼吸をしていないことを…。酸素を吸い生命活動をしていないことを…。彼は死んでいた。
なにがどうしてこんなことになったのか何がしたいのが自分でも分からなかった。ただ顔と頬がどうしようもなく熱くなり、
僕は泣いた。老婆のように泣いていた。…槐と薔薇水晶。師であるローゼンに挑み、薔薇水晶を創り上げ、アリスを目指した
彼と彼女の願いと野望は、こんな形で終わってしまったのだ。自分でも悔しかった。どうしてこんなことに?槐は殺されてしまったのか?
でもだれが?どうして殺されなければならなかったんだ?槐の姿そして薔薇水晶の一途にアリスを目指し戦い続けた姿を思い出す
たび、悔しさで涙は増したのだった。
生まれて初めて、僕は神に本気ですがりたい気分になった。

だが神はおろかこには自分以外のだれもいない。床を這い、手をのばす。取り囲む闇ばかりが方向感覚を失わせ、
ついに体力の限界を悟ったとき、最後視界が完全に閉ざされるまでに見たものは、地に落ちてゆく自分の右手の先だった。
14Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:39:28 ID:v+k5TiQ4
157 - recut

「あああ、おなかへったなの〜」
急にぎゅうとお腹をならし、雛苺は床に転げて呟いた。「最近ずっとなにも食べていないのぉ〜!」
真紅は無言で頷く。薔薇乙女の長い長い一生のうち数えるほどの、それは珍しい雛苺への賛同だった。
「私もここ最近紅茶も飲んでいないのよ…そうだわ!」急にポンと手のひらをグーで叩き、真紅は提案した。「姉妹みんなで
なにか食べられるものを作りましょう。鍋料理のような、みんなで楽しく食べれるものを!」
「さんせーなの!」
「な、なんか真紅が料理の話をしだすと危ない流れになる気もしますが、ここは翠星石も協力せざるを得ないのです。やってやりますよ。」
「みっちゃんさんもどうかしら?」真紅はみつも誘う。
「えっわたしも?いいの?ありがとう!」ここにカナもいてくれれば。みつはぎりぎりでその言葉を心にとどめたのだった。
15Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:41:23 ID:v+k5TiQ4
160 - recut

「真紅〜、とりあえず食べられそうなものいっぱい集めてきたなの〜」どっかの見つけた来たのか、木製の小さなかごの中に、
見たこともない大量の植物っぽいのを入れて雛苺がやってきた。
「そう、雛苺。ではこっちに運んできて頂戴」真紅またやはりどっから取って来たのか鍋を用意し、蒔きとなる木を重ねた上に
設置している。鍋は、蒔きを囲むように置かれた三つの石に丁度支えられていた。
「いえっさ〜なの」
雛苺が運んできたそれを見て、翠星石は面食らった。「それはなんです、チビ苺」
「きのこに、白菜に、」濃いエメラルド色の植物を指して雛苺はいう。「これはレタスに…」
「ちっげーですぅ!」翠星石は悲鳴をあげ、地を踏みしめた。「いったい何処の惑星からとってきた植物なんです?こんなの
毒はいってますよ毒。ローザミスティカを腐られる効能があるに違いありません」
「いいじゃないの、翠星石。気にしすぎよ」真紅があやしてきた。「お父様だってここにいるんだから、食べられるわよ。
さ、ホーリエ」名前を呼ばれた人工精霊が真っ赤に発光し、蒔きに火をつけた。すでに鍋の湯を熱し始めている。
「な…。ところで、真紅、その鍋の湯はまさか…」
「無意識の海から汲んで来たわ」
「闇鍋をするなんて聞いてませんよ!!」翠星石は叫喚した。
「あら、大丈夫よ。それに他にないんですもの」真紅は自信たっぷりに鍋の中の水をかき回す。「無意識の海だって熱すれば
無難な水ができるに違いないのだわ。知らないの、翠星石?向こうでも海の水は熱して塩分をとれば飲める水になるそうよ」
「そ、そんなバカな…」
「さ、雛苺、それらを入れてしまいなさい。いえ全てではないわ。鍋料理に適したものを私がこの目で選び抜いてみせるのよ」
「ああ…予感は的中したです…。真紅とその地獄の闇鍋パーティーが始まりました…」
「なんかいった、翠星石?」
「いえいえ、じゃあ私はだしになりそうなものでも探してきますよ」
そして踵を返し、進もうとした矢先 −「きゃあ!」翠星石の目の前になにかが空より隕石の如く落下してきた。
「掴まえましたわ!」
雪華綺晶だった。両手には、見たこともない鳥類が握られている。「これもきっと食べられますでしょう!」
「白薔薇はなんか肉系をとってきたですか…まあ雛苺のやつよりはましそうですね…」
「でかしたわ、雪華綺晶」
既に真紅の闇鍋の悪魔的儀式の準備は着々と進められていた。
鍋に入れられた怪しげな植物が湯の中でゆでられ、出てきたダシが湯を緑色っぽく染め始めている。
「さあ、その鳥をこの鍋に入れておしまい!」
すると雪華綺晶は顔を青ざめさせて退いた。「その鍋はなんですの紅薔薇のお姉さま?」
「名づけて…"真紅オブザハッピネス"よ」
やはり何処からひろってきたのか、小さなおわんの器にスープを入れて味見すると真紅は言った。
「いい具合ね。きっとおいしく出来るわ」
16Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:42:34 ID:v+k5TiQ4
ところが、雪華綺晶は明らかにその鍋に恐れを抱いていた。「"真紅オブザダークネス"なのでは?」
「末の妹の癖に生意気な口を叩くわね」
味見を続けながら真紅は雪華綺晶を横目でにらみつけた。「さっさとこっちに来て座りなさい。姉の命令よ」
言われたとおりに、恐る恐る雪華綺晶は真紅の隣に座った。まるで未確認生命体を見るような目つきで鍋を眺めている。
不意をついた真紅の手がぱっと伸び、雪華綺晶の手から二匹の鳥を奪い取ると鍋の中に放り込んだ。
「あああああっ!」
雪華綺晶は声を張り上げ、信じられないという風に真紅を見つめた。「何を、何をなさるのです!?せっかくの鳥さんが!」
「なに、あなた、生で食べるおつもりだったの?」
真紅もまた非難するような視線で白い妹を見返す。「鶏肉は煮るとおいしいと思うのだわ」
「なんてもったいない!」
それから雪華綺晶は半べそかきながら身を乗り出し、鍋の中の可哀想な鳥さんたちを見つめた。
「肉は生で戴くものでしょうに?折角の新鮮で赤色の肉が廃れてしまう!」
「肉を生で…」味見しながらリピートし、真紅は雪華綺晶の口元を眺める。
それから、突然その口の中に人指し指を突っ込んだ。
「あがが!」急な侵入にびっくりする雪華綺晶。
「その獣のように尖った犬歯!」真紅はまさに指摘したその犬歯の上に指を置く。「それでも乙女なの?こんな歯をしてるから、
肉を生で食うものだなんていえるのよ!少しはハンバーグだとか上品で高潔な食べ方も知りなさい。あなた今までその歯で肉食獣でも
噛み切ってきたのかしら?」
「ふがーっ!がー!」雪華綺晶は反論しようとするが、歯の上に指が置かれてはうまく喋れない。
憤慨した顔をみせつつようやく真紅の指を口から追い出すと彼女は言った。「既に死んだものなんて喰らっておいしいのですか!?」
「まあ、呆れた!」口に手を添えて真紅は大げさに返す。「思考そのものが獣そのものなのだわ。雛苺よりひどい。やはりあなたは
雛苺より幼い妹ね。というより、幼さの次元がもはや人心を超えてしまおうとしているわ」
「それに、そっちのはなんなのです?」
しかめっ面で鍋の中の別の物体を指差す雪華綺晶。
「ジャ・ガ・イ・モよ!」真紅が言った。「そうだわ、鍋料理というよりシチュー路線なんてどうかしら?」
「…どうとでもするのがいいです」
雪華綺晶は言い捨て、その鍋から離れるとゴロゴロ野原を寝転がった。「ジャガイモ、お姉さまが食えばいいですわ」
また一口スープを味見しすると、真紅はため息をついた。「はぁ…、救いようがないわね…」
17Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:44:24 ID:v+k5TiQ4
161

いまごろ現実世界では天と地がひっくり返っているのだろうか。真紅の闇鍋は成功した。
ドールたちはほとんど鍋料理をみつと楽しく食べ終えてしまった。もとより食材がよかったらしい。というより、唯一その場
の人間だったのみつがどうにか助けて、料理らしい料理になるようへと手助けしたのだった。
さすがに鳥まるごと鍋にいれたものはドールたちから遠慮されたが、耐え切れず結局雪華綺晶がそれを平らげた。その噛み砕きっぷり
はまたしても姉妹達を恐怖に陥れた。

「いやぁ、びっくりですよ。まさかこんな味が作られるなんて、鍋料理っておいしいんですね」満足そうに言う翠星石は、
まだどこかそれが信じ切れていない様子だ。「いまごろルーヴル美術館のなかでモナリザの顔が怒り狂っているんじゃないんですか?」
「どういういみ?これは必然なのだわ」口元を拭く真紅。「当たり前のことでしょ?」

「あれ、真紅は、それはなんです?」
まだ何か残されている長細いビンを翠星石は指差した。
「ああ、これは…」真紅もおもむろにそれを手に持ち、キャップをあける。「多分なんかの飲み物よ。紅茶はどうしても見つからないから
諦めたけれど、代わりにこれで喉を潤しましょう。さ、あなたも。」
「あ、真紅ちゃん、それ…」みつが警告しようとした時は手遅れだった。
恐らく酒瓶だと思われるそれを真紅は直接口に含んでいる。人形とはいえ10代前半の少女の為の飲み物ではないそれ。
真紅の口からビンが離れた。「ぷは…なに…これ?」
既に真紅の顔の頬は紅く紅潮し、視線が泳ぎ始めている。そして突然、こういった。「おいしいのだわ!」
「え?」
「ちょっとあなたたち!!翠星石雛苺雪華綺晶!こっちにきなさい。すぐに!」
まるで命令口調で言った真紅に2人ほどのドールが振り返ったが、いつもの真紅がそこにはいなくなっていることを悟るのはほぼ
それと同時だった。
「なにしてるの!くるの。い・ま・す・ぐ!」
「マイヤミコンサートでも開くのですかお姉さま」皮肉めいた質問をしてきた雪華綺晶にいきなり真紅がブチ切れた。
「訳の分からないこといってないできなさいっていってるの!!」声の勢いだけで雪華綺晶の白い髪がはためき舞い上がる。真紅は
完全に頭に血が上っていた。雪華綺晶の首を片手でつかまえ、足で彼女の左足を払うと手痛く彼女を野原にたたきつけた。
上から七体目を押さえつけたまま、真紅は自分の飲みかけのビンの残りを無理やり雪華綺晶に飲ませた。
「これで姉のほんとの愛ってのが分かるものよ!!」と真紅。すでに翠星石と雛苺は十分に2人から距離をとっていた。

ビンは空になった。終始見開きっぱなしだった雪華綺晶の目。
頬を紅潮させたまま、上からふっと真紅は悪女っぽく微笑みかける。「どう?最高でしょ?」
「あ…あっつ…」真紅をふりほどき、雪華綺晶は独りでによろよろ立ち上がろうと試みた。「体があつ…でし」
そうしても間にも真紅は二瓶目に手をかけ、やはり直接飲みしていた。もしかしたら本当にそれを心からおいしいとは思っていなかった
のかもしれない。だがアリスゲームを一度仮にも制して尚足りないといわれる自分に完全にぐれ、酒にあけくれるように堕ちて
しまった少女のようにそれは思えた。
「あっつ…胸が…あつい…」一方無理やりそれを飲まされた雪華綺晶はふらふらと野原をふらつきながら自分のドレスに手をかけて
いた。「熱い…脱ぎた…」
「あわわわわ白薔薇のやつほんとにやらかしそうです!」いつかした翠星石の予言をまさに七体目はその通りに実行しそうに
なっているのだった。
「どうせ見たいのでしょう!?」
よろめきつつかなりきている台詞を言い出す。胸の露出されている部分のドレスをはためかす。
「私が究極の少女になるかどうかより、そこを気にしているんでしょうが!そうですか!これが気になるのですね!レディー?
レディー?レディー?レー、レー、レー、レー、レー、レー、エあ!わお!wah!ah!oh!hah!」
「いえいえいえいえ誰も気にしてませんからもうこれ以上狂うなです!」
18Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:45:05 ID:v+k5TiQ4
「waahh!」
真紅に続いて雪華綺晶まで酒が効き酔っ払い、完全に発狂してしまった。片脚でくるくる跳ねながら空に向かって絶叫する。
「ohコックロビン!ひとのこころを奪ってアリスに昇華ってなんなの?自分の手ですりゃいいのに!wah!woow!
愛?愛?愛?愛?愛?愛?愛?愛?ohブルシットどうせ私の踊る姿が見たかっただけだったのしょう??」
天を仰ぐように両手を持ち上げ、くるくる踊り出す。「踊ればいいのね。ohシット!ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる見える
見える話したいことはこれだけ!?」さらに驚くほどの大声が発せられる。「まわるわたしはまわるアリスゲームはまわるる
ゲームはまわるくりかえされるなんてなんて無意味なの!!ohシット迷子になる遠くはなれるまたあえる!ファックアップ
だれがとめるのこんなこと?ohおとーさまがとめてくれるの?oh−とーさま!6x[:xpo」
そこへ、同じく頬を真っ赤にして酔っ払い状態の真紅が加わった。「しんじてきたただ一つのこと!ずっとねがってきたただ一つのこと!
だれが一番叶えてくれるのかしら?何度も何度もいってるのに絶対わかってくれないのだわ!!」

真紅と雪華綺晶は泥酔状態のまま互いに肩を組み、続きを歌うように叫びだした。

「きいてくださいおとーさま!3le:¥ゲームのおきてに幻でないものがひとつもなかったのです!ともにいって、
死体を焼く蒔き「わたしたちは永遠の姉妹」となって一緒に燃え上がる「ずっとずっと、」のが「ローザミスティカ」美しい…
お父様のばかっ!なぜわかってくれないの??」

「うう…、真紅も白薔薇も2人してなんだかちょっと楽しそうです…」
きっと近いうち自分もそれになる。いやそれを望んでいるのだった。

「ぜぇ…はぁ…はぁ」真紅と雪華綺晶は力尽きたように床に手を就き、互いに離れた。「嘘だと知っていても…魂に火を点す…」
ふっとなにかに気づいた様子の雪華綺晶があれっと顔を上げる。「私に火が点ったら…融けてなくなるのでは…」
「いっそ融けてなくなりたいわ」真紅の首から上は真っ赤に高揚していた。いまそれを懸命に冷やそうとしている。「ああ…
一度くるってみるって…気持ちいいわね…自分が自分でなくなりそう。お父様はどこ?」
「だから、すぐ近くにいますよ」体を休めるように野原を転げ仰向けになって雪華綺晶が答える。「私なにを喰わされたのかしら…」
「はぁ…、はあ、そう」息を乱しつつ真紅は自分の手をみつめる。「はあ…わたしさっき…お父様のことをなんと…?」

もし四日前の真紅がいまの2人を見たりすれば、顔を手で覆うに違いない。そして何時間も鞄の中に閉じ篭るに心二つを賭けてもいい。
前の真紅もこうなることなんて望まなかっただろう。このような糞穴から生まれたことを知ったいまとなる前までは。

「そのミニスカートでドロワーズが見えないってどういうことなの、雪華綺晶?あなた、下着は履いているの?」
「やだ、そんなこと聞かないでください、お姉さまぁ」
雪華綺晶のミニスカートをめくろうとする真紅の手から、彼女は野原を転げて逃げる。
ローザミスティカもマスターもなかった。
19Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:47:42 ID:v+k5TiQ4
162 - repaired

「はぁ……ねえ翠星石、雪華綺晶、それに雛苺も」野原に突っ伏した状態のまま真紅は姉妹達を呼びかける。「聞かせて頂戴…
いまのあなた達にとってのアリスゲームって、何?」
「私は…そうですね…いまとなっては、ですか…二度と繰り返したくない過去というか取り戻したい過去というか…です」
「もうアリスゲームはいやなの。でも、いなくなっちゃったかなりあや水銀燈や蒼星石にも戻ってきて欲しいの」
「虚偽な踊り」
「はぁ……」ドレスを地面に密着させたまま、真紅はため息をつく。「翠星石は正しいかも。アリスが完成するなんて夢の
また夢だったのかしら。私は疲れちゃったわ…。ねえもしかしてアリスゲームって、もともとちゃんとしたゲームとして成り立って
なかったんじゃない?」
「そ、そんな根本からひっくり返るようなこと言うなですぅ…」
「だってぇ…」へんな真紅らしくない声を喘ぎ出して、彼女は野原をまた転げていう。「ローザミスティカは集めすぎると壊れるしぃ…
新しい方法が見つかったと思えばそれも没ぅ…マスターたちと一つに繋がってもだめぇ…」
語尾を延ばして、まるで水銀燈のように真紅は喋っている。

「結局どうすればアリスになれたのか知りたいわぁ…。私のしたことは正しいの?お父様は何も告げては下さらないのよ。
いまだからいえちゃうけど…生きることは闘うことといってたのは…そうして自分の気持ちに逆らって私の意向をゲームの
宿命に向けさせようとしてただけなのだわぁ…本当は逃げたくて逃げたくて仕方なかったの…だって闘う建前でのうのう生きる
ことだって出来たじゃないの…ああお父様ぁ、どうしてお父様は私達にアリスゲームを課したの?」

「決まっているじゃないですか。アリスを完成させるためですよ」
「ああ…そう、そうよそう…そうだわ。すっかり忘れていたのだわ」ごろっと野原を転げる。「アリスゲームはどうすれば
勝てるんだっけ…?」
「方法など見当たりませんです」
「あら…?私としたことが、どうもおかしいわ。何も思い出せない。アリスゲームの勝者って何故そんなにも求められていたの
かしら?教えてくれる?」
「私達が大地に触れている限りは分かりっこない気がしますよ。これからどうしましょう、真紅?やけを起こしてないで、
大真面目になっていまこそそれを決める時です。アリスに孵化するか、家にかえるか。ですよ」
20Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:49:32 ID:v+k5TiQ4
163 - repaired

僕とローゼンが再び対話するときがきた。
体力消耗で一度気絶した自分のもとへ、再びローゼンが闇の中を歩いて迫ってくる。

「お前は真紅と契約してそれ以来…アリスを求めた私の神聖なるゲームを見てきた…。私のアリスゲームを見たお前はそれと同時に
恐怖を味わってきた。幾度とない恐怖を…。生死の危機を、倫理道徳モラルの恐怖を…」

彼の姿は闇そのものとなっており、影と本人が逆転しているのではないかと思ってしまう。
その人の形をした闇の影…ローゼンは僕の目の前に腰掛けて問いてくる。「お前はその恐怖に陥れた真紅や私を憎んだことがあるか?」

いまこの状況で僕に彼と会話しろというのがあまりにも酷だった。きっと四日…四日たったのだ。飲まず食わずが。
枯れきった喉。長い間使われず衰退しきった筋肉の神経。それらを必死に目覚めさせて喋る。
「………僕は彼女達に…合えてよかったと思っています…」

「お前は私の作った薔薇乙女に出会い、真紅と契約し、アリスゲームを見てきた。お前はドールたちを…真紅を愛しているか?」

ローゼンは僕の目の前でじっと顔を見つめる。彼をこんな近くでみたのは初めてだった。こんなにも近いのに、金髪の髪が見える
だけで顔は完全に闇に隠されてしまっている。

「僕は…真紅と一緒に…アリスゲームを終わらせようと協力してきました。その過程で辛いことも…楽しいことも…思い出がたくさん
出来ました。彼女たちのおかげです…」

相手の目を発見できないまま交わすこの会話は、間に一線を引かれたような奇妙な空間での行いに思える。
ローゼンの顎が持ち上がった。なにやら奇妙な種のようなもの持ってを口に含んでいる。

「お前はどんな方法で私のアリスゲームを終わらせようとした?なぜ終わらせることを望んだ?ドールの中に、今頃アリスを諦めた
姉妹や私に会うことを恐れる姉妹が出てきているだろうか?人の愛に疑問を持つということの意味を知らない者に、アリスを
求め続けてきた私の数百年間を言葉で説明することは不可能だ。愛…愛にはその蔓に多くの棘を持っている」

手に見えない薔薇を横に持つような仕草をしつつ、ローゼンは続ける。「愛とは……呪縛だ。愛に捉われたとき、人は自由を失い、
同時にあらゆる目に入るであろうことを失う。愛という名の呪縛を解こうと…、相手の愛を求める心、渇望する心…支配欲、
愛への脅威、それらに必要なものが目に見えないとき…やがて人は愛の対象を殺すことで己を解き放とうとする本能に目覚める
ことがある。多くの人間が心の奥に持っている闇であり…獣であり…棘(いばら)だ。"心の棘"とは友にならねばならない。
棘を友に持ったドールこそが全てを殺し、アリスゲームを制することも出来た」
21Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:50:48 ID:v+k5TiQ4
人形師ローゼンは間をおき、床の闇を見つめると、再び顔を上げなおし続けた。

「自分が真に生きるていることを明かす為には、愛することと殺すことを知らなければならない。誰かを愛することと、
同時に誰かを殺すことは生きることの本能だ。全てのドールに、お前にも、私にも愛する権利と殺す権利は盤によって与えられる。
愛し殺す権利はな...だが、愛と殺しを美化する権利はない。愛することと殺すことが噛み合わない"心の棘"は…相手と自分…
二つの魂が完全に相容れないときに生まれる」

ローゼンは一端話を止める。次の言葉を考えているようだった。

「本能のみに従って、人を愛し、殺すことの出来る透き通った精神を持つ者が愛の呪縛に捉われた自分自身を開放するために必要
だったのだ。だがその者は決して心と道徳、力の化け物なのではない。彼には愛に満ちていて、心があり..道義心も兼ねている。
誰よりも相手の愛を理解できる。相手の全てを本当に理解し…その上で、だからこそ、その相手を憎み苦しめようとすることでもなく、
哀れむことでもなく、戒めることもしないで、原始的な殺戮本能を発揮して殺せる者だ。それが実現したときのみ、彼は相手の
魂を自分のものとして得ることができるだろう。ドールを倒し、ローザミスティカを奪い自分のものにしたアリスゲームと同じに...
二つの魂は真の純粋さを以って融合できるのだ。それそのものになり、見て触ることが叶い、ついにそれは実現する。
だがもし相手の魂を十分に理解せず、或いは望まない死を相手に与えれば、魂は新しい持ち主を拒絶する。魂に拒絶された身体
と心は永遠に苦しめられるだろう。いかに愛しい存在であっても、愛する者を殺さなければならないとき…それを自分で美化
してはらない。美化せずに、感情を持たず、殺すことの出来る天性的な本能が求められる。なぜなら、有終という意識の瞬間
こそが愛において最っとも恐るべき心の棘の突き入られるところだからだ。」

僕の前でローゼンが顔を揺れ動かした。語調が変わる。
僕は、ローゼンがいま本当の願いを告げようとしているんだと察した。

「薔薇乙女達は、私の催したゲームの意味、私のなろうとしたものを理解できないのかもしれない。もし私が殺されなければ
ならぬ運命にあるのなら、少年…誰かが行って、薔薇乙女達を再生させてほしい…。私のしてきたこと、お前の見てきたことを
使って…なぜなら、ドール達は既に呪縛の連鎖を憎しみ始めているからだ。もしお前がこれらのことに真に理解できるなら…、
ジュン、おまえがそうしてくれ…わたしのために。」
22Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:54:51 ID:v+k5TiQ4
164

久しい外。
ローゼンとの最後の会話も終えた僕は、久々に屋敷の外に出た。
四日ぶりの空…だが、この空もまたnのフィールドの夢のなかのものなのだ。

頭痛を覚えながらもどうにか階段をくだり、野原に出ると、四人の薔薇乙女たちと草笛みつさん、柿崎めぐさん全員が一斉に
集まっているのが見えた。

そのとき…僕はなんかのドラッグを口に含み、また新たなビジョンでも見つけたのかと錯覚した。

真紅と雛苺に翠星石、雪華綺晶の四人が両手を広げて鳥の真似をしながら輪を作って走り回っている。気高さもなにもなく、女児のように。
しばらく見なかった四日のあいだに、一体彼女達になにがあったのだ。互いに闘おうとする意思の糸は完全に途切れていること
は分かったが、それ以外の部分でも、ローゼンの予言と独白はアリスゲームのことを言い当てていた。

彼女達の走り回る輪の中心には、蒔きが燃やされる炎と、その上に置かれた鍋があった。僕のいない間に食事会でもあったのか?
鍋は既に空で、ドールやマスター達が既に食べつくしてしまったように思える。

「輪になってバラの花輪を作ろうよ。ポケットいっぱいのお花〜」輪をつくりながら歌う雛苺。
「ハクション!ハクション!」その続きを真紅が歌う。まるで子供のようだった。
「みんな倒れちゃった。」最後雪華綺晶が歌うと、それと同時にいきなり全員野原に転んだ。一挙に崩れ落ちる四人。まるで
怪しい儀式かなんかを連想させる。

薔薇乙女たちは戻りつつあった。新しい姿を求めて。

「はぁ、はぁ」野原にぶっ倒れた真紅は息を荒げ、姉妹達に向けて聞いた。「次はなにする…?」
「鬼ごっこ〜」雛苺がすぐさま言った。「鬼を決めるなの。イーニーミーニーマイニー・モ〜、足の指をつかまえろなの〜」
「もう疲れたから却下なのだわ。走りたくない」
「木登りはどうです、真紅?私の世界樹は手ごわいですよ」「落ちたら壊れてしまうわ」
「レミングスでもやりますか?」その次に雪華綺晶が提案する。
「レミングス?」野原に寝転がったまま真紅が聞き返した。「きいたことないわ」
「"自殺ねずみ"です」やはり仰向けになっている雪華綺晶がそれを説明しだした。「年に一度数が多くなりすぎたかれらは…
みずからの数を調節し生き残るためにその一部が自ら崖から海に飛び込むのです。少数を犠牲にして大数を生き残らす賢いかれら」
「薔薇乙女が自殺するの?あっちの岸辺から列を成して無意識の海に飛び込むの?もっと静かで無難なものにしない?」
結局次の遊びが浮かばず、全員沈黙していたところ。

「ねぇねぇななばんめ、七番目は何でできているんだっけ?」雛苺がいきなり身を乗り出し、野原を転げる雪華綺晶に
むかってききだした。「からだが普通じゃないんだよね?七番目って。アス…えっと…アスファルト体でできているんだっけ?ね?」
雪華綺晶は何かに噛み付かれたように天を見上げた。"アストラル体"です。道路のコンクリートと一緒にしてくるなんて。
一度真紅に破れ、敗者となったのにも関わらず、真紅の下僕となってまだ動いていることを水銀燈が"姉妹が怒っている"と言った。
その水銀燈がもし、一度死ぬ前にマスターと契約していたのならば私はいまごろオディールと契約して、あなたを孤独の底に
放り落として最後喰らってやったところなのに。あるべき姿に戻していたのに。そういう意味では…自分にとってすれば水銀燈
も十分神聖なアリスゲームを穢していた。マスターとも契約せずにゲームを戦う?
いえ。
もうゲームの盤のことは考えても無駄だった。もっと新しい、別のことが始まろうとしている。
「甘いおさとう、すぱいすに他すてきなものすべて。そんなもので私はできていますよ。雛苺」雪華綺晶は答えた。
「だから七番目はそんなにしろいんだ…」
雛苺は本気にしているようだった。「あっ!」それから、急に目を輝かせて他のなにかに興味を移す。
23Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 22:57:14 ID:v+k5TiQ4
「ジュンなのー!」久々にでてきた僕に最初にきづいたのは、雛苺だった。駆け寄ってくる。「ジュンが戻ってきたなのー!」
雛苺は顔に満面の笑みを作り、僕の足にしがみついてくる。
やめてくれ…もう体力がないんだ。僕は棒のように立っていた。「ジュン!ジュン!」彼女はやめない。
「ジュン、しばらく見なかったわね」真紅や翠星石までやってくる…視界がぐらつき、地軸が揺れる。「ジュン…」
僕は、バタとその場で槍に貫かれたように倒れた。

「ジュン!」
真紅がすぐに駆け寄ってくる。
「あ、ああ…大丈夫…だが、ちょっと横にさせて…」
野原を背に倒れ、空を虚ろに見上げる僕の顔を、心配げに見つめる真紅、雛苺、翠星石の目。そしてすっと出てきた7つめの目
だけが嘘を僕に向けていた…。そう、僕を心配する六つの目は、もう一つのことを僕に迫っていた。もう分かっていた。

そして、全てが一つにきちんとまとめられる方法も分かり、それは許可されている。

「お父様と…話してきたのね?」
「ああ…真紅」
弱りきった体で、僕は答える。
この目は完全には開かれていない。頭痛はさらに激しくなる。
「真紅…水銀燈の剣を持ってきていたよな。あれはどこにある?」
唐突で突飛な質問に、一瞬真紅の青い瞳が戸惑いに見開かれた。しかし程なくして、おろおろと真紅は答えた。
「…無意識の海のちかく、浜辺のほうに…」
「そうか。体を起こしてくれ…」僕は手を伸ばし、真紅にそれを引っ張ってもらった。立ちあがり、いつまた倒れてもおかしくないと
自分でも分かるほどのがくがくした足取りで、僕は浜辺を目指して進む。
一歩一歩すすめる毎に両足はひどく痙攣していた。まるで故障したロボットのような歩き方だ。

「真紅、真紅、ジュンは一体なにをするつもりなんです、これから?水銀燈の剣を持ってどうしようというのですか?」
翠星石は真紅の横に並び、問い掛けた。
「始まるのだわ……これから。"解決が"」
真紅の青い目には恐怖と確信、ディレンマを兼ね添えていた。

「"ジュンが薔薇乙女長女の剣を使って、解決をもたらす"」

その言葉を受け止め、ついに理解した翠星石は石のように固まった。「…いまはじまるのですか…?」
「…いまよ。」恐らく翠星石と同じ恐怖を真紅は味わっていた。「いま。時間の猶予はきえた。ジュンはもう動き出している」
真紅の目を、に翠星石や雛苺、雪華綺晶が取り囲むように見つめていた。

「歌がはじまる。それは私達にも奏でられる、終わりの歌よ…」
24Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:03:18 ID:v+k5TiQ4
165 - end

これで僕も元の世界から完全に離れることになる。だが僕はもう糞みたいな人間世界の制約に縛られるつもりはなかった。
僕が習ってきたことは決して紅茶の入れ方だけではない。
薔薇乙女達は自分を探しながら成長していた。
アリスを忘れ、乙女として始め出した彼女達は自らの原点を探していたのだった。ここから始まった、0からの新しい成長を。

真紅、翠星石、雛苺、雪華綺晶は野原で再び鍋の回りに集まっていた。その中心で雪華綺晶が両手に氷のステッキのような
棒を握り、鍋をしきりにリズミカルに叩いている。氷と鉄の奏でる、原始的なドラム音。それは再生の祭祀に思えた。
そのドラム音がけたましく鳴り響くなか、真紅と翠星石が頻繁に口を開き、なにかの言葉を交し合っている。だが2人が何を
話しているのか僕には聞き取れなかった。

"誰もが僕にそうすることを望んでいた。"
中でもローゼンがそれを強く望んでいた。彼は屋敷の中で、僕が蔓の棘の苦痛を取り除いてやるのを待っているように思えた。
同時に彼の魂を理解し受け入れることの出来る、真に純粋の存在の到来を求めていた。

第七ドールの叩くドラムの音のテンションが高まる。取り囲む薔薇乙女たち。
その音楽は、はっきりとこう主張していた… "Father?"  "yes , son?"  "I want to kill you ..."

ローゼンはただ望んでいた。棘から解き放たれることを。ただの、自分の作った人形に殺し合いを課した悪趣味な人間ではなく、
人形師としてアリスへの夢を残しつつ、きちんと人形や人間の為になって去りたいというのが彼の望みだった。
薔薇乙女たちもまた、救いの手を求めていた。薔薇の魂の開放を。

無意識の海に身をゆだねる。全身を包む冷たい感覚と彼の記憶の溶媒。全て彼のものであり、無意識の海のものである。

みんながローゼンを心から愛し慕っていた。姉妹達にはそれが出来なかった。アリスゲームの存在と共に自分のすべきことを失い、
ただ呪縛のみが残されたとき、そのしがらみの棘から己を放つ為の原始的で真に純粋の心を持てなかったのだ。

"Mother?..."

nのフィールドそのものさえ、彼の呪縛からの開放を望んでいた。
ローゼンが宿命を受けていたのは、アリスですらあり、紛れもなくそのnのフィールドであったのだ。

"I want to .... fuck you"

ジュンは無意識の海から顔をだした。その瞬間フィールドに雷が打たれ、迸る光が海のジュンの姿を浮き彫りにし、人形師ローゼン
に約束の刻の到来を知らせた。終わりが始まったのだ。
ジュンは陸地にあがり、水銀燈の剣を右手に取った。剣にはいまだ乾いた血がついている。また彼には理解出来ない文字がそこには
刻まれていた。
25Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:06:09 ID:v+k5TiQ4
第一ドールの剣。

その剣を地面に突き立て、ジュンは膝をついて屈むと、しばらくこれからのことを黙想した。
やがてそれを終えると目を開け、自分の手のひらを見つめつつ、ゆっくりとその場で立ち上がった。
原始の姿に変身しつつ首を上げ、フィールドの空を覆う渦巻く雲を見上げる。
目に見えぬ子供達が歌を歌っている。かもめのように声をあげている。
もう一度雷がフィールド内に打たれると、それに呼び醒まされたようにジュンは動き出した。

    come on , baby take a chance with us...

   "さあ…、おれたちと一緒にやろうぜ…さあ、おれたちと一緒にやっちまうんだ…"


 《姉妹達やマスターとの絆なんて馬鹿げているわ。くだらない戯言。世界に必要なのは私とお父様だけ……》

 《お父様が愛しくて愛しくて…殺したい程愛しくて…狂うほどの愛はやがて壊れて 別の感情に変わってしまった》

 《大切なのは姿なのではなく、存在そのもの。お父様はお父様なのだわ》


    come on , baby take a chance with us...

   "さあ…、おれたちと一緒にやろうぜ…さあ、おれたちと一緒にやっちまうんだ…"

ジュンの目に涙はなかった。
小走りで野原を通り過ぎていくと、一瞬雪華綺晶とじゃれあう真紅と目が合った。真紅はジュンが水銀燈の剣を持っていることに
気付いたが、何も言わなかった。隣の雪華綺晶だけがジュンに意味深に微笑みかけていた。ジュンは素早く2人の横を通り過ぎる。
階段を駆け登る途中で、次に雛苺とその髪を楽しげにいじっている翠星石を見かける。一瞬だけ翠星石と目をあわせると、
すぐに翠星石はジュンから目を逸らして深々と目を瞑った。

         come on,baby take a chance with us!

     And meet me at the back of the Blue bus Doin a Blue

     rock On a Blue bus Doin a Blue rock Come on , yeah... 

   "青色のバスの後ろで落ち合うんだ 青色の岩にしたがってやるんだ さあやっちまうんだ…"

ジュンは階段を登りきり、屋敷の入り口に吸い込まれるように入っていった。
屋敷の中に明かりはまったくついていない。ジュンは闇と一体化しながら剣を右手に持ち屋敷の中をつき進んだ。
雷鳴が再び轟き、屋敷に入り込む光がジュンの行く先の道を白く照らす。その白い印を追ってジュンは通路を進む。
外では子供達が歌っている。さっきと同じ所と思われる部屋から、ローゼンの声がこちらへ聞こえてきた。

「ドール達は…命を持っている…だが偽物…偽物なんだ…その器が人形である限り…。器がない幻は神秘だ…しかし…命はない…」

ローゼンは地面に座り込み、頭を両手で抱えながらぶつぶつ独り言をいっている。
扉の前にたち、部屋の中に入ると、ジュンはローゼンに近づいていった。

剣を両手に持ち直す。暗闇の中に浮かぶ薬指の指輪が赤く発光する。
ついに忍び寄ってきたその闇の影に気付くと、ローゼンは独り言をやめて首を上げると気配のした方向にゆっくりと顔を向けた。
彼の前には闇の中にそそり立ち、深呼吸をして剣を握りしめる漆黒の姿のジュンがいた。
闇の最終点で最後2人の目が会う。

《どうして人形を作っているの? それはね…》

ジュンは剣を片手で持ちあげると、勢いつけてローゼンめがけて振り下ろした。

  come on with me!

  "俺とやっちまえ!"
26Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:09:05 ID:v+k5TiQ4
同じころ、外の薔薇園では四人の薔薇乙女がラプラスの魔を取り囲みそれぞれの道具で寄ってたかってかのアリスゲームの案内役を
殺しにかかっていた。雛苺の蔓に捕まったラプラスの腹を雪華綺晶の氷の剣が裂き、真紅のステッキが頭を殴り、翠星石の如雨露が
腰を砕いた。ラプラスは抵抗もせずに殺されていく。

生存本能の働いたローゼンは床を転げ、振り下ろされる剣先から逃げた。水銀燈の剣が地面を叩き火花を散らす。
ジュンは剣を振り上げると再びローゼンに襲い掛かった。ローゼンは転げてよける。剣がまた地面にあたる。
さらにもう一度ふり落とされる剣先から逃げると、人形師ローゼンはジュンの腕の下を掻い潜り体を起こした。
闇と同化した神の姿がジュンの目前に立ちはだかる。

  all right!

 "いまだ!"

ジュンは殺人本能を全開にさせて剣を振った。ローゼンの身体に剣身が食い込む。
まだ足りない。ジュンはローゼンの体から剣を引き抜くと、二度目両手で思いっきり今度は腹に剣を食い込ませた。
鈍い音が鳴り、彼の腹部から赤い血の飛沫が飛び出す。その反動で死を味わうローゼンの表情が一瞬暗がりから明るみに出る。
ジュンはさらに剣を腹から引き抜いた。血の色を再び帯びた水銀燈の剣が赤く煌き、闇の中で鋭い光を嬉々として反射する。
改めて剣を振りもう一度斬りつける。ゴッと音が鳴り、流れ出る血の量が増す。さらにもう一度差す。ローゼンの影の形は崩れていく。
剣を持ち替え、別方向から振る。血だらけになったた彼の顔は目を瞑っていた。

     yeah!

    "いいぞ!"

水銀燈の剣に切り刻まれたローゼンの身体はバランスを失い、ふらつき床に倒れ込んだ。
子供達の歌声が大きくなり、行為は絶頂に達する。…人形師は生の極点にいきついた。

    kill , kill , kill , kill , kill , kill , kill ,

    "殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、殺れ、"

ラプラスの魔の腹には裂け目が開いた。中身にはぬいぐるみのように綿がつまっている。容赦なくその裂け目に追撃を食らわせ
裂け目を大きくする雪華綺晶。真紅も、翠星石も無言だった。ラプラスの魔の首がこぼれ落ち、横たわっていく。もう一度氷の剣が
振られると完全に胴体は真っ二つに割れた。


        kill...

     "コロセ.."

そしてジュンは部屋をあとに出で、ただ呪われた空を見つめるのだった。
27Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:09:59 ID:v+k5TiQ4
166 - The rozen end

血まみれになって横たわった人形師ローゼンは最期、つぶやくように、
「アあ…やっと…休めるのだ…だが、今度は…帰っていく私がいない…」
とことばを言い残し、やがてもう動かなくなった。

彼の身体がついに息絶えたその闇の奥より、生暖い風が勢いよく空間を吹き抜けた。
28Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:11:26 ID:v+k5TiQ4
167- finale

光の消え失せた暗黒の屋敷の廊下。ジュンは自分の人生全ての体力をここで消耗しきってまったような足取りで歩いた。
視界が揺らぐ。向こうへ続いていく廊下がねじれている。
満身創痍。手を壁ついて体を支え、一歩一歩ごとにふらつきながら、必死に進む。
壁の両側に飾られた絵画が自分を見つめている。ロウソクのおぼろげな明かりだけが頼りだ。

身体の重度に衰弱した、亡霊のような状態でジュンは長い間歩き続け、ようやく目指していた場所へ辿り着いた。
そこは先ほど見たローゼンの人形師としての、光のない暗い作業場だった。そこにもう一度入る。
作業場にはいってすぐの机。そこに先ほどにはなかったものが、今はあった。

一枚のメモと、そこに書かれた文字。日本語だった。

  "全ての薔薇乙女を殲滅させ、アリスゲームを振り出しにせよ!"

ジュンはそのメモに目を通す。
そしてそれとは別に、彼はローゼンの作業場から幾つかの裁縫の道具を手に取りだした。道具一式を裁縫箱に詰める。
それを終えると足を引き擦って作業場をあとにする。また長く暗い廊下を進む。疲労は限界を超えていたが、すでに身体が
呪われているのが分かる。ついにジュンは屋敷の出口を見つけ出し、扉を通り外に出た。
世界は変わっていた。
灰色に広がる曇り空が迎える。ジュンは広大なバラ園を前に立ち尽くした。

彼はすでに四人の姉妹達がバラ園に集まって、ラプラスを囲って殺しを済ましていたことを発見した。
対する四人の乙女たちも顔をあげ、階段の天辺に忽然と姿を現した人物を見つめた。

右手に握られた血の滴る剣。頬に縫わされた血の赤い跡。左腕には、自分達の一部を創ったものであろう道具を敷き詰めた裁縫箱が
抱えられている。ジュンが闇に隠れてそこには立っていた。

真紅、翠星石、雛苺、雪華綺晶はそのジュンの姿をただ呆然と見上げていた。何が起こったのかは歴然とていた。これが真実だった
のだ。フィールドの空は暗く曇っているが、わずかに差し込む光がジュンを照らしている。

四人の姉妹のうち、真紅が先立った。腰を下ろして地面に膝をつき、ジュンに対してひざまずく。
その輪が広まっていくように、翠星石もおもむろにそろそろと跪いた。隣の雪華綺晶も片膝をゆっくりと地面におろす。
なにか恐ろしい変化がおきたことに不安を覚えながらも、雛苺も姉妹達に則った。人間であるみつもめぐも。
六人全てが階段の上のジュンに対して跪き、誠意を示す。
29Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:12:54 ID:v+k5TiQ4
真の純粋な魂は承認された。

ジュンは上から彼女たち六人おのおのを睨みつける。
そして階段をニ、三段ほど下ったのち、血に赤くきらめいている水銀燈の剣を手から放り投げた。
剣は宙を飛び、下の階段に落下すると金属音を打ち鳴らしながら数段下まで転がり落ちては止まる。

乙女達は再び立ちあがった。
ジュンに呼応し従うように、真紅、翠星石、雪華綺晶がそれぞれの武器を手から離す。
剣、ステッキ、如雨露…各々がゆっくりと地面に置かれる。雛苺が蔓を体から切り離し、その蔓が野原に垂れ落ちる。
彼女達は全て武器を放棄し、無防備となった。

それを確認したジュンは階段を下りきり、無言で姉妹達の輪に近づいていった。彼はまだ唯一指輪を手に嵌めたままの雪華綺晶に
目を留めると、彼女の左手をゆっくり持ち上げた。雪華綺晶も大人しくされるままになっている。ジュンはもう片方の手で七体目の
指輪を丁寧に抜き取り、自分の裁縫の道具の箱のなかに入れた。こうして、薔薇の指輪を持つ姉妹は誰一人としていなくなった。

だがジュンの左手のみには、まだ嵌められた指輪がそのまま彼の指に残されている。

彼は自分の裁縫箱のなかに入れた七体目の指輪に、ドイツ語ともヘブライ語ともつかない言語で次ような意味の文字を刻まれて
いるのに気づいた。

  "槍の長女に対する末の妹は、杯"

するとジュンは今度、柿崎めぐのもとへと寄った。手に黒い羽一枚を取り出して、めぐの手にそれを持たせる。
「優しい嘘も微笑みも終わり…私達が死ぬはずだった夜もまたもう残されてはいない…」

記憶のクエスト − 探求と再生は終わった。
ジュンはバラ園に立ったまま首を別方向に向け、どこか遠くを見つめ出すと、そちらに向かって歩き出した。
雛苺と翠星石は不安げにジュンを見上げる。
それでも姉妹たち四人は左右にどき、ジュンに道をあけた。
ただの一言の会話も交わすこともなく、ジュンはその間を横切り、一人バラ園から遠くへと離れていく。
バラ園に取り残された四人。これはジュンの意思によるものだ。
彼女たちは彼の後姿を見送りつつ、互いに顔を見合わせたが、やがて結論が出ると静かに、乙女達はそのジュンの背中を追い始めた。

背後に乙女達がついてきているのをしってかしらずか、ジュンはまるで人間のものとは思えないおぼついた足取りで
フィールドから出て行った。

彼の現実世界へと帰っていった。


"だが..今度は帰っていく私がいない..."
30Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:14:10 ID:v+k5TiQ4
168 - crezit

誰もいないnのフィールドの夜。真っ暗闇の屋敷と、広大な薔薇園。

そこに浮かぶ薔薇乙女の煌く人工精霊たち。メイメイ、ピチカート、スィドリーム、レンピカ、ホーリエ、ベリーベル、スゥーウィ。

七つの光の球は夜の薔薇園の上を自由に飛び回っていたが、やがてそれぞれ特徴のある光の軌跡を描きながら、徐々にフィールドの
上空へゆっくりと集まっていった。
人知れず行われる夜の美しい光たちの演劇。

人工精霊たちは互いに近づいてゆき…ついに上で融合すると、一つの光りの点となった。その瞬間…新たな天体が生まれた。
真っ白な閃光が煌く。白い閃光は爆発的にフィールド中を包み込み…あろうことか、フィールドを破壊し始めた。
これは人工精霊が七つ同時に集まったときのみに行うことができる秘密の儀式…アリスゲームのハルマゲドンだった。
枯れの野原が、薔薇園が、中庭が、全てが爆破され炎上する。

<作中使ったサイト、スクリプトなど>
・AmbigramMatic
ttp://ambigram.matic.com/ambigram.htm
・LiveDoor ドイツ語翻訳
ttp://translate.livedoor.com/german/
・OWN−AGE.COM online gaming media and resources
ttp://www.own-age.com
・シソーラス(類語)検索
ttp://www.gengokk.co.jp/thesaurus/

ローゼンの屋敷は強烈な白光に晒され、ついに音を立て発火した。
窓ガラスが、壁が、柱が…あらゆるものが白銀の炎に包まれ燃え上がっていく。
屋敷の中でローゼンクロイツの絵画が炎に焼かれ、壁から剥がれ落ちる。
炎はいたるところへ燃え広がり、文字通り地獄の煉火となっていった。何もかもを焼き尽くし喰らう。そして無に返す。
薔薇園の方では、燃やされた薔薇の花弁が無数の火の粉となって飛び回り、やがて闇の中に消化されていく。

<作中参考にしたサイト、小説>
・RozenMaiden−Wikipedia
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3
・Marathon.bungie.org(game)
ttp://marathon.bungie.org/
・闇の奥
ttp://www5.big.or.jp/~hellcat/index_app_now.htm
・フリードリヒ・ニーチェ −WikiPedia
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7
・世界樹 − wikipedia
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%82%B0%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%AB
・マザー・グースの中の歴史
ttp://mothergoose-room.com/study/study_page0003.htm
・『ロック講談:ジム・モリソン』其の七【水晶の舟】
ttp://soulkitchen.blog6.fc2.com/blog-entry-361.html
・クリストファー・マッキントッシュ『薔薇十字団』
ttp://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0698.html
・小説「天使と悪魔」
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E4%BD%BF%E3%81%A8%E6%82%AA%E9%AD%94
・DanBrown.com
ttp://www.danbrown.com/
31Rozen Maiden LatztRegieren [:弑殺 The End:2007/12/27(木) 23:15:21 ID:v+k5TiQ4
屋敷の壁は大炎上し、どんどん形を崩していった。
不気味な軋みと唸りの轟音をあげて壁は崩壊し傾き倒れ、砂塵が舞い上がる。
暗闇のさなか、目も眩む白光のフラッシュが煌き、屋敷の中から大爆発が起こる。煙を上げて外部の壁を吹き飛ばす。
燃えた破片が飛び散る。光の軌跡を描きながらそれは宙を飛び、やがてゆっくりと降下を始める。
そのあいだにもフラッシュは連続的に何度も何度もあちこちで起こる。壁の断片が四方散り散りに砕ける。
巨大な建物が脆くも炎に包まれ崩れ落ちていく破壊の饗宴。

<作中登場した音楽>
・マザー・グース − Who killed cock robin? (邦題:誰が駒鳥を殺したか) phase39
ttp://home.att.ne.jp/iota/spiral/cockrobin.html
・マザー・グース − London bridge is falling down (邦題:ロンドン橋落ちた)phase77
ttp://home.att.ne.jp/iota/spiral/london-bridge.html
・シューベルト − Erlking (邦題:魔王)
ttp://jp.youtube.com/watch?v=jkuGuwHwCas
・ワーグナー − ワルキューレの騎行 phase57
ttp://jp.youtube.com/watch?v=GSKL5E3zSjs&feature=related
・LinkinPark − Numb(邦題:無感量) phase85
ttp://jp.youtube.com/watch?v=eQCE2iK6tG4
・ドボルザーク − 新世界 phase93
ttp://jp.youtube.com/watch?v=Vlci-kCEaKE&feature=related
・John williams − Battle of the heroes(邦題:英雄達の戦い)phase100
ttp://jp.youtube.com/watch?v=FrFhHpBpg0g 
・The Doors − Break on though(邦題:突き抜けろ) phase108
ttp://jp.youtube.com/watch?v=tah0OnS3nBU
・The Doors − The End(邦題:ジ・エンド)phase61,phase165 - end
ttp://jp.youtube.com/watch?v=iJfw7ezitCM

まさに世界が炎に包まれ終わりを告げようとしているとき、七色のこんぺいとうのような光の粒の雨がそこには降り注いだ。
紫色や赤色、緑色や蒼色…黄色に桃色…美しい光の雫がゆらゆら舞いながら空より落ち、白銀の炎の海に飲まれていく。
一つ残らず炎と焼かれたローゼンの屋敷と薔薇園は、その炎そのものと一体化した。
残された屋敷の柱や瓦礫が焼け落ち、溶け込む。銀色の炎に飲み込まれては一つとなる。

そして……炎は少しずつ小さくなり始めた。

何もかもが炎と同化し、全てが白く燃え尽きた後には、微塵の闇も残っていなかった。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/27(木) 23:54:57 ID:1qTn0CKb
スレを私物化してた糞作品がようやく終わったか
よかったよかった

↓ここからカナのSS
33名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 00:25:42 ID:b2A8p2+W
終わってしまったか・・・
>>10-32
毎回楽しみにさせて貰ってました。相変わらずローゼンが再開される気配は無いのにここまで熱意のこもった秀作を最後まで書ける人はなかなかいないよ。
本当にお疲れさん。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 00:30:31 ID:nBR+7zdx
お、終わったのか?
>>31
乙!
まるで映画でも見ているかのような展開。
ラストはニーベルンゲンの指輪のような情景。
その描写だけでも凄い。

ただ、頭の悪い私はもう2回くらいはじめから読まないと
伏線やらなんやらが理解できそうにないorz

とにかくお疲れ様。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 00:41:03 ID:ykNl1D9w
金糸雀が主役のSSが読みたいかしら〜
36名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 00:47:01 ID:b2A8p2+W
ごめん間違えた・・・
>>10-32じゃなくて>>10-31

>>32はいつもの粘着犯だった
37名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 11:07:26 ID:1UyE3fSg
いや本当にお疲れ。これだけ書くのは凄いよ。もういっぺん頭から読んでくる
しかし俺も一年くらい放置してるやつ仕上げんと
38名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 14:46:07 ID:cIa2YQHe
↓ここからカナのSS
39名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/28(金) 23:53:15 ID:F4g+0xeQ
>>10-31
あ〜とうとう終わっちゃったか。。。だが100万回GJと言いたい!
正月は暇だから俺ももう一度最初から読んでみるよ
大作お疲れ様でした
40名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 02:30:32 ID:35dBtT3o
作者の自演賞賛レスうぜぇ

↓カナのSSよろ
41名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 04:05:49 ID:xhURW6Q3
作者からすればマジ哀れな奴に見えるんだろうな自演とか言ってる池沼は
42名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 04:08:03 ID:VBeElfW9
後書きキボン
43名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 04:24:38 ID:gRYnENTK
超大作の完成乙。
ところで、ラストはJUM以外の人間の帰還過程も明示的に書いてもらわないと、何か落ち着かず。。。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 14:24:35 ID:35dBtT3o
↓ここからカナのSS
45名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 15:15:12 ID:X22j84Pi
人気最下位のゴミ人形のSSなんかお前以外誰も望んでないよ
46名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 17:48:28 ID:861MPa1J
また金糸雀信者が暴れてるのか…
47名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 18:39:15 ID:35dBtT3o
アンチ必死だな
カナのかわいさに嫉妬してるんですか?www
48名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/29(土) 23:42:53 ID:ij+9nQyN
痛い金糸雀信者に荒らされているスレがあると聞いて飛んできました
49名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 00:13:43 ID:9uq28c6L
このスレに投下が少なくなった理由

×一つの作品がスレを独占状態だから
○みんな金糸雀厨に嫌気がさしたから
50名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 00:28:11 ID:AXm4NXfh
たしかに金糸雀は書きづらくなったな。金糸雀厨のせいかどうかは別にして
正直あんまり長いんでアンチの一人芝居なのか厨の仕業なのかそれとも何か
別の第三の勢力があるのかわかんなくなってきた
まぁ俺の場合最大の理由は単に書けないからなんだけどな
51名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 00:57:14 ID:xhskCrJf
カナのSS書こうと思ってもこういうクズがいるから嫌気がさして書く意欲無くす
いや寧ろカナ信者のフリしたカナアンチでワザと荒らすことで意図的にカナSSを書かせない魂胆なのか
だとしたら見事に術中に嵌ってるな
まあ書いたとしてもこんなのカナじゃねえ 三流クズSS書きがとか文句つけるんだろうな
52名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 02:58:29 ID:ytYQK7Jo
willcomなんか永久規制されたらええねん
53名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 04:27:03 ID:06dCqHBK
ローゼンスレで特に書き込むことがないときに金糸雀の話題出すのはもはや信者とかアンチとか関係なしに挨拶みたいなもんだから
54名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 10:38:36 ID:AXm4NXfh
この際だから確認したいんだが、これは最萌で過剰な宣伝や多重投票等により金糸雀が優勝したために
(この時の経緯を知らないんでこれも実際どうなのか知らんのだが)アンチが粘着してるってことでいいのか?
あるいは最萌というイベント自体にアンチがついてて、この金糸雀の件を材料に最萌の印象を
悪くしようとしているとかそういうことか?
どっちにせよこれだけの長期間粘着できる人間なんて今まで見たこと無いぞ。逆に凄いわ
55名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 13:28:55 ID:ytYQK7Jo
その優勝もローゼン自体のアンチがこういう状況になるのを望んで
多重や宣伝しまくったからって説もある。どっちにしろ最萌が原因なのは間違いないはず。
あまりひどいなら規制依頼出したほうがいい
56名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 18:22:44 ID:8w6eknuX
ここ と この板にあるもうひとつのSSスレ ってどう違うの?
57名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 21:34:01 ID:xTKDvnY3
金糸雀信者が粘着してるかしてないかの違いw
58名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 21:58:40 ID:9jW7o9+o
>>56
向こうはグロや実装石もおkとかじゃなかったかな
まぁ実装は実装スレでやれって感じだが

つーかアンチでも信者でもいいけど、いっそ全部のローゼンスレに居座るくらいの気合が欲しいな
半端なんだよなこいつ
59名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/30(日) 22:03:06 ID:ytYQK7Jo
ほぼすべてのローゼンスレを荒廃させて1月ほど前に規制されたじゃないか
もうあんなのは勘弁
60名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/31(月) 15:39:50 ID:Ps4hwycP
ちょっと豪華な長編SSで胃が重たいから、
次は軽めの明るい話を頼む。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:10:56 ID:2zDZDvVW


━━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━━

━━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━━

━━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━━





              貴方の生を頂きながら




62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:11:42 ID:2zDZDvVW


「ふぅ・・・」

冬の街の中、ある一人の男が寒そうに背を曲げながら、とぼとぼと歩いている。

その男はついさっき、職を失った。いや、自分から辞めたと言った方が正解だろう。
営業職だった男の仕事は、実際は営業とは言わず、
契約店舗に設置した多数の機器の管理運営や修理、その機器から出る売上の集金や、
売り上げ増進の為の機器入れ替えやメンテナンスと言った雑多な業務を
たった一人でこなす事を強要された、言わば現場の末端に属する、
会社には使い勝手の良い雑務従業員に他ならなかった。
変に生真面目な上に不器用で、手を抜く事をあまり知らないその男は、
いい様に使われ、遂に精神面と体調面にかなりの不調をきたし、自分から退職した訳だった。

そんな経緯の男はふらふらと歩きながら、これから先をどうするか考えていた。

これからどうしようか・・・再就職なんて、俺の歳や学歴ではまともな所なんかありゃしない・・・
ほんの少しの貯えもすぐに使い切ってしまうだろう・・・
某番組みたいに1日1万円生活チャレンジなんてのも、やろうと思えば出来るだろうけど・・・
いや・・・無理だろうな俺には・・・いっそ死んじまいたい・・・ああ、だめだ、そんな度胸すらない・・・

しかし精神と肉体が弱っている男の思考は、負の面にしか向かわなかった。
そのまま公園にたどり着いた男は、水呑場で冬の寒さにキンキンに冷やされた水をグイグイ飲み、
ハァー・・・とため息をついてベンチに腰を下ろす。
ふと、男は思った。
そういえばこんな所、今まで来た事も見た事も無い・・・何処だここ・・・大体どうやって来たんだ・・・
知っている道を歩いていた筈の男が、気が付けば自身が知らない場所に来ている。
職を手放した30半ばの人間がこの歳で迷子だなんて、恥以外の何者でもない。
男は少し焦りながら辺りを見回すと、一軒の店が目に映った。


「DOLL HOUSE・・・」


人形の館?マネキンや蝋人形でも売っているのか?
しかし後に書いてある字は何と書いてあるんだ? “ かい ”と読むのか?
読み書きがそれほど得意ではない男はそう思いながら、その店に足を進めていく。


カラン・・・カラン


男が扉を開けると、来客と帰客を知らせる鈴(りん)がやや濁った音を立てて鳴る。
店内。
そこは男が初めて見る場所・・・いや世界だった。
よくある百貨店やブティックのマネキン人形などとは明らかに一線を画す、
いわゆるアンティークドールと呼ばれる多数の少女人形達が、静かに飾られている。

「西洋人形・・・」

なんでこんな所に入ったのか、男は自分でも良く理解できない上
あまりの存在感を醸し出す人形達の視線を浴び、気味悪ささえ感じた。
しかしどこか人形達の視線は物悲しく、何かを伝えかけようとしている気がして
男にその店から出る事を思いとどまらせる。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:12:27 ID:2zDZDvVW

「いらっしゃいませ」

少しして店の奥から、長身の優男が男を出迎えに来た。
店主なのだろうか、眼鏡をかけ、清潔に髪を整えたその姿は男よりやや背が高く、
切れ長の目を柔和に微笑ませながら、どこか男を値踏みするように挨拶をしてくる。


「皆、主に迎え入れられるべく、愛される為にその時を待っているのですよ」


店主らしき男は、展示されている少女人形の一体を愛しそうにそっと抱き抱えながら
男にその少女人形を抱く様に手渡してくる。
男は少し躊躇しつつも、その人形を店主と同じ様にそっと抱いてみた。
人の幼児ほどの大きさの人形は、自分の胸でまるで安心して眠っている様にすら見える。
暖かさは無い。が、何故か暖かさすら、体温すら感じる。
その上どういう素材で作られているのか、柔らかい弾力が男の腕に伝わってきた。
更に今すぐにでも目を開き、微笑みかけてくる錯覚すら男に伝える。

「どうやら今の貴方は、色々な事で大変お疲れのご様子」

店主は微笑みを絶やさず男に両腕を差し出してくる。
少女人形を返して頂こうと言う意味らしい。
男は少し惜しみを感じつつも、店主に少女人形をそっと抱き渡した。
惜しい・・・?人形に?少女の人形に?俺は少女趣味じゃないぞ・・・
それなのに何で?こんな感情は初めてだ。
男は少女人形を返しながら、自分の内に芽生えた感情に驚いていた。
その様子を店主は見逃さず、口の両端を上げ、男の瞳を見つめつつ問いかけてくる。

「忙しい事が、幸せを掴む絶対の条件だと思いますか?」
「え・・・?」

「文明社会の中では、金銭なくしての生活や幸せは得られません。そうですね?」
「え・・・ええ・・・」

何を言い出すんだこの店主は。
男の疑問は当然だったが、店主はそれに構わず男に問い掛け続ける。

「では心の安らぎや愛情は、貴方の求めに答えてくれる者は、金銭で得られると思いますか?」
「風俗・・・と言いたいんですか?」

「ご冗談を。一時の性の快楽で安らぎや愛しさを、貴方自身は真に得られると?」
「・・・・・・からかっているんですか」

男は少し苛立ち始めた。
飄々としたこの店主に、自分が受け持ってきた営業店舗先のマネージャーのような、
相手を舐めた、自分を馬鹿にした気を感じたからだ。

「いえいえ。ですが貴方の心の内に芽生えた気持ちは偽りだと思いますか?」
「!?・・・」
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:15:43 ID:2zDZDvVW

客商売ならある程度相手の心内も読めなければ勤まらないのは
男も良く分かっているが、それにしても気持ち悪いくらいに
この店主は相手の心を透かして見る人間だ。男はそう思う他無かった。

「お客様は、ドールを見初めるのは今まで無かったご様子ですが」
「・・・・・・」
「どうでしょう。この店に御出で下さったのも、きっと縁あっての事」
「・・・・・・」
「お客様自身の少女を、アリスを求められてはいかがでしょう?」
「アリス・・・?」

不思議の国のアリスのことを言っているのか?
タキシードを着た時計を気にするウサギの後を追ってワンダーランドに迷い込んだ、
その少女とここにある少女人形と何の関係があるんだ?
男は少々不審に思ったが、こういう店主の心など、知るだけの努力をした所で
逆に馬鹿にされ適当にあしらわれるのがオチだ。だったらこちらも適当にあしらい無視するしかない。
どうやら自分の言葉に男が付き合うのを止めたと感じた店主は、
その微笑みを少しだけ柔らかいものに変え、礼儀正しく男に薦めの言葉を伝えた。

「どうぞじっくりと御覧なさって下さい。お客様の御眼鏡に叶う少女がおられます事を願っております」


店内の美しい少女人形は、どれも生きているとしか思えない程の存在感だった。
いや、むしろ生きていないのが不思議としか言いようが無い。
大きさや姿に差異はあれど、その全ての少女人形達に生命を感じてしまいそうになる。
そんな少女人形達の中、誰の視界にも入る事すら許されない様に、隅に追いやられ薄くほこりを被った人形があった。
頭から薄汚れたベールの様な布を被せられ、うずくまる様にしているドール。
男はそのベールを取ろうとして、店主の方を見た。

「ええ。お客様が望む物をご覧下さい・・・」

取って良いという事らしい。男はそっとベールを取った。薄く積ったほこりが舞う。
ベールを外された少女人形は、一糸纏わぬ姿だった。
その人以上の美しさと、儚さを漂わせる姿に、男は息を飲む。

「!・・・・・・これも・・・売り物・・・ですよね」
「本来なれば売るに出すものでは有りませんが・・・しかし“ それ ”を見初められるとは」

自身の身体を両腕で抱え込むようにし、両足を重ねて座り目を瞑った美しい顔の少女。
店内に入る薄明るい光を反射し、鮮やかに切りそろえられた銀色にすら見えるパールがかった、白い長髪。

「“ それ ”はイミテーションではありますが、宜しいので・・・?」
「イミテーション?贋作?・・・これが?」

「人形師には師がおりました。それは師が創り出した作品を超えるべく、造り上げられた作品の一つ。
 師のドールは途中で放棄され、完成させられることすら叶いませんでした。
 ですが人形師は師を超える為、師が完成させなかったドールを寸分違わぬまでに模して、完成させました」
「・・・それが何でこんな扱いを?」

「目覚めなかったからです」
「?目覚めなかった?」
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:17:23 ID:2zDZDvVW

この店主はまた判らないことを言う。
じゃあ生きて目を開けるとでも言いたいのか、人形が。
男は言葉に出したかったが、そのまま店主の言葉を聞く事にした。

「そして二体目を模し、三体目を模し、四体目、五体目、六体目。
 どれも師には追い付けず、またどれも師には近づけませんでした」
「じゃあこの人形以外にもまだ同じ様なものが他にあると・・・?」
「いいえ。“ それ ”を残し、後はすべて人形師が壊しました」
「・・・どうして・・・と・・・聞いてもいいのかな?」
「“ それ ”が、もっとも可能性を秘め、また、残していたからです」
「・・・生きて動き出す可能性を・・・とでも捉えればいいんですか?・・・」
「信じるか信じないか、“ それ ”を私が決定付ける事自体愚かしいとは思いませんか」
「・・・一々癇に障る言い方をされますね・・・」
「これは失礼を。しかし、人形師は七体目にして遂に師を超えようとする人形を創り上げ、生み出せました。
 ですから、もはや“ それ ”は不要の人形。
 お客様が“ それ ”をお求め下さると仰るのでしたら、私共としましても喜ばしい限りです」

七体目?生み出せた?いい加減にしてくれ。
自分だけが理解してる道程を掻い摘んで他人に一方的に聞かせる様な人間には、ろくなのは居ない。
しかし・・・この人形だけは妙に気にかかる。どれくらいの値段がするのか知らないが、
聞いてみるだけなら金を取られる事などありはしないだろう。
男はそう思い、店主とは目をあわさず、ボソッと呟くように聞いてみた。

「・・・幾らするんですか」

「置いていてもいずれは破棄するだけの存在ですので・・・70万では如何でしょうか」
「なっ?!ななじゅう万??」

じょ、冗談じゃない!俺の貰っていた給料の3月分か、それより上じゃないか!・・・

普段ならこんなキャッチセールス以下の暴利品など、
一喝してその場から立ち去るくらいの気概は持っていた男だったが、それでも“ それ ”には
言い値だけの、いや、それ以上の価値があっても不思議ではないと、男は思った。
当然ながら持ち合わせなど無い。だが、なけなしの貯金を切り崩せば払えない額ではない。
しかしそうしてしまうと、数ヶ月もせずに自身が路頭に迷うのは目に見えていた。

「・・・・・・・・・・・・」
「ではこうしましょう。価値というものは確かに人が決める物ではあります。
 お客様がここに御出で下さった出会いもまた私共にとっては価値。その価値と、
 私共が“ それ ”に見定めた価値を差し引いて、30万落とさせて頂きましょう。如何でしょうか」

「・・・・・・この近くにATMはありますか・・・」

もう、男の心は、銀色がかった白髪の“ それ ”に魅絡められていた。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:18:33 ID:2zDZDvVW

「大事になさって下さい」
「・・・ええ。こんな豪華な鞄とドレスまで付けて頂いて有り難うございます」
「そのままの姿の“ それ ”を、お客様がご自宅まで連れ帰られるには世間は厳しいですので」
もっともな話だ。裸体の人間の少女にしか見えない人形を抱いて歩いていれば、
変質者として通報されるのがオチだろう。

「そうそう、言い忘れていました。“ それ ”には名前がありまして」
「名前?」
「ええ、名前です。“ それ ”の名は、MercuryLamp」
「マーキュリー ランプ・・・・・・水?電灯?」

店主は、知識の乏しい男の気持ちを害することなく微笑んで、柔らかく伝え直した。

「MercuryLamp、すいぎんとう、と、呼んでやって下さい。字で書くとこうなります」

店主はウェイターに似た服装のポケットからメモと万年筆を取り出し、
鮮やかな字でその名前を書いて男に手渡した。

“ 水銀灯 ”

「水銀灯・・・灯って街燈の燈じゃなくて?」
「“ それ ”はイミテーションですので、“自ら光る事”は叶わないのです。
 “誰かに灯してもらう”のが関の山。それを人形師は気づいてしまったのです」
「・・・それであの姿で放置ですか・・・」
「そうです。では私からお客様へもう一つ。光を閉ざすのは闇。闇から産まれ出でるのは光。
 白の装束を纏った“ それ ”は、今だ闇の中で彷徨い続けているでしょう。
 いえ、白き肌が故に、白き頭髪が故に、闇のままの心は光に塗り篭められたままなのかも知れません」

まったく・・・
意図不明な店主の言葉には、もはや苦笑しか沸いてこない男だった。
店主はそんな男の顔に、少しゾクッとするような笑みを見せ言葉を続ける。

「ですが、強く貴方が望むなら、強く貴方が願うなら、強く貴方が想うなら・・・
 きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう・・・
 貴方の生を持って、貴方に伝える為の言葉を持って・・・」
「そ、・・・そうですか・・・ま、まぁ・・・大事にしますよ・・・安くはない買い物でしたからね・・・」

さすがに最後の言葉に嫌なモノを感じた男は、軽く会釈だけをして足早にその店から立ち去っていった。
店主に教えてもらった、自分の知っている駅のある道を辿りながら。
その背中には届いてはいなかっただろう。店主の最後のこんな言葉など。





             ・・・貴方の生を頂きながら・・・




67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:20:36 ID:2zDZDvVW
続きは書き溜めれた時に
68ピチカー党員 ◆7gMVTXcVsA :2008/01/01(火) 08:03:51 ID:GKlUp5Ii
俺もカナのSS見たいな(荒らしじゃないよ)
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 08:41:34 ID:zX01i7Cp
文章うまいな。お年玉かこれは
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 18:31:55 ID:CyYC/QvT
↓そろそろカナのSSが始まりそうな予感
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 20:35:31 ID:/VwtRvxv
キム信者死ね
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 21:22:07 ID:O2fdjx8D
新年早々自演荒らしとは…一度脳みそくりぬいて診てもらった方がいいんじゃないか?
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/02(水) 21:46:18 ID:S5bOgsJW
一昨年くらいから長編書いてるけど全然完成しねー
はじめは勢いよく書けたんだけど途中で詰まってしまった
書けない時は書けてる分の推敲するとか音楽かけるとか逆に耳栓するとか
自分なりにいろいろやってみるんだけど、それも去年の頭くらいから効かなくなった
書ける人ってなんであんなに書けるんだ?
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/03(木) 15:49:07 ID:M9Mh0lFP
書けないものは諦めて
新しい話を始めるが吉
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/03(木) 20:45:48 ID:JhAULg5Y
最初は好調、途中から詰まる。

RPGツクール思い出した。
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 00:46:31 ID:BW+i+YLz
>>61
俺も今年の4月から無職になるので主人公の男に親近感を覚えた。
続き期待してます
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 22:08:40 ID:UWD/ShEU


━━  扉とは 隔たる事を生み出す物です  ━━

━━  開く術(すべ)は容易くもあり また難在りき処  ━━

━━  鍵とは 隔たる事に力を与える術(すべ)です  ━━

━━  では その鍵を解く術(すべ)は 鍵を回す術(すべ)は  ━━





           鍵は廻り始めました

           貴方の生のほころびで

           貴方の想いのまばゆさで




78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 22:14:22 ID:UWD/ShEU


あれから数日が過ぎた。

「ただいま・・・」

誰もいないアパートのドアが開き、生気を欠いた声が入り口から部屋に伝わる。

靴を脱ぎ、少し苦しそうに息を吐きながら男は思った。
やっぱり体の調子がおかしい。人込みの中に入るだけで動悸が激しくなって息が苦しい。
食材を買いに行くだけでこの調子だ・・・タバコを吸ってるからだとか、そういう問題じゃない。
微熱も続いているし、めまいもする・・・やっぱり今までの仕事や人間関係のストレスからなのか。
こんな調子じゃ仕事を探せても、まともに働けない・・・・・・今は精神や肉体を回復させるのが第一だ。

そう思いながら、男は手に提げたスーパーのビニール袋を
小さな折り畳みテーブルの上に置くと、ベッドの横に置かれた鞄に向かう。
その大変豪華かつアンティークな作りの鞄は、あの店から買ったドールを仕舞っている物だった。
男は鞄をまるで壊れ物を扱うように、愛しい異性の頬を優しく撫でるようにしながら、そっと開ける。

「帰ってきたよ・・・水銀灯」

水銀灯。
その纏い(まとい)はゴシック調と例えればよいのだろうか。
鞄の中には鮮やかな白のドレスを纏い、滑らかな白のブーツを履いたあの少女人形が、
自らの身体を抱えるようにして横になって眠っていた。
銀を蓄えるような長く伸びた白髪。羽根のように分割されたスカートには黒い逆十字の模様。
ドレスの下から覗かせ鮮やかな光を反射する下着。
そして見る者を魔性の如く魅了する、目を閉じた美しい少女の顔。
人間で言うなら十四 五歳の少女の姿を、四 五歳の少女程に縮尺した大きさ。
妖かしの精と書いて妖精と言う言葉は、この少女人形にこそ、相応しい例えなのかも知れない。

男は、自分の瞳や意識が水銀灯の身体や顔に吸い込まれてゆく錯覚を覚え、軽く頭を振った。

「きょ・・・今日こそはお前・・・いや、君を・・・」

そう言いながら男は流し台に向かい、丁寧に丁寧に両手を洗う。

男はあの日から、この少女人形に触れてはいなかった。
自分が触れる事でこの少女を汚してしまうのではないか。そう思っていたからだ。
眺めているだけでも十分満足だったし、眺める事でひび割れた心が癒される感じがした。
だが、これは自分が大枚はたいて買った物だ。そう「 物 」なんだ。

触れて手に取らずに眺めるだけで、所有欲を満たす為だけに、何十万も無駄にしたのか?
自分の好きな様にしなくてどうする。見ただろうあのエロチシズムな肢体を。
また見たくは無いのか?触りたくは無いのか?
違う。そんな事をする為に買ったんじゃないだろう!
いや、確かに触りたい、抱きしめてみたい。だけど、もっと違う何か、上手くいえないが、
吸い寄せられる、疲れた今の俺に何かを感じさせてくれる、そんな引力があったからだろう!

そんなことを自問自答しながら、今日まで数日触れることすら自重してきた。
しかしそれももう限界だった。
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 22:18:06 ID:UWD/ShEU

「・・・・・・」

入念に手を洗い終えた男は、やはり入念にタオルで手を拭き終え、
そのタオルで服の埃を静かに払ってから、少女人形が眠る鞄の前に座った。

「水銀灯・・・お前を抱かせてくれ・・・」

そう言いながら男はそっと、そっと少女人形に触れた。
その指先は躊躇しながらも少しづつ、少しづつ、その鮮やかなドレスの素材に吸い込まれてゆく。
そして少女の柔らかい弾力が、男の指先に伝わりだした。
あの店で抱いた少女人形と同じ感触、いやそれ以上に「 人 」に触れるような感触。
風俗すら数えるほどしか行けなかった経験の少ない男には、まるで本物の女性に触れているような感触。
まるで本物の少女に触れているような、罪を犯すような背徳の感触。

躊躇するな、たかが人形じゃないか。これは俺のものだ、そうだ、俺の「 物 」なんだ。
人の少女を「 抱く 」訳じゃない。何も罪を犯すわけじゃない。
ただの人形を腕に「 抱く 」だけじゃないか。
今更童貞じゃあるまいし、何をそんなに、何をこんな人形にどぎまぎしてるんだ。

そう自分に言い訳をしながらも、男は自身の胸の鼓動が高鳴り、
顔が高潮するのを感じて仕方が無かった。
男は少女人形の両足と身体に両手を入れ、優しく、そっと抱き上げた。
銀を纏う白髪がさらりとこぼれ、えもいわれぬ芳香と柔らかい弾力が、
男の心を突き抜けてゆくと同時に、 かくっ と少女人形の首が仰向けにしなだれる。

「あっ!」

いけない!何故か男はそう思い、膝を立てながら急いで少女人形の身体を胸に抱き、
もう片方の手でしな垂れた頭を包み込んだ。

「・・・水銀灯・・・」

男の胸の中には少女人形・・・水銀灯が文字通り抱かれている。
瞳を閉じ、身の全てを男に委ねるように、眠り姫の如く抱かれている。

愛しいとはこういう事を言うものなのかと、男は水銀灯の顔を見つめながらそう思った。
誰の目にも触れさせたくない。何者からも守ってやりたい。
もしかするとこれが父親の気持ちと言うものなのか。
そう思う男を何故か言いようのない気だるさが襲ったが、それを覆い隠す満足感で心は満たされつつあった。
ふと、男の心に疑問符が浮かぶ。何故この少女人形は、水銀灯は目を瞑ったままなのだろうと。
あの店にも目を瞑ったドールは確かに何体かはあった。しかしそれらは、
身体を起こせば目を開かせたり動かせたりする、スリーピングアイやフラーティングアイとか呼ばれる物だった筈。
何故目を開かないんだろうか。壊れているとも思えないし思いたくも無い。開かないんだったら触って開かせてみるか?

・・・・・・止めよう。傷付けでもしたら台無しになるしそれに・・・・・・まぁいい。
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 22:20:16 ID:UWD/ShEU

そんな自問自答を男はしつつ、胸に抱いた水銀灯を見つめながら心で語りかけていた。


( お前の目は・・・一体何色なんだい・・・水銀灯 )


長くゾクっとするような魅惑の睫毛に覆われた瞼は、
本来開かせるべき少女人形の瞳を覆い隠したままで何の変化も無い。
本来なら光を受け取り鮮やかな彩光を見せるべき瞳は、闇の中に埋もれたまま。

「・・・お前の身体も、柔らかいんだね。とても・・・とても綺麗だよ、水銀灯・・・」

そっと、優しく、包み込むように、自分の娘を胸に抱くように、男は目を瞑りながら
少女人形を・・・水銀灯を抱きしめる。
男の言葉に埋もれながら、男の身体に包まれながら、少女人形は揺られている。


ピチャッ・・・  ポチャン・・・


流し台の蛇口から落ちる水の滴りが、水を蓄えたままの食器に幾度と波紋を創る。
その緩やかで小さな音が、この水銀灯の鼓動のように感じられて
狂おしいほどの愛おしさが男の胸に響き渡った。


━━  愛すればいい・・・父親のように  ━━


ただ抱かれる為だけに費やされた時間なのに、異常なほどに時は喰らわれ、
闇が、冬の空を支配していた光をあっという間に喰らい尽くしていった。
僅かに響いた幻聴を、男の耳に残しながら・・・





           鍵は廻り始めました

           貴方の生のほころびで

           貴方の想いのまばゆさで




81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 22:23:53 ID:UWD/ShEU
スーパードルフィー水銀燈の画像にドキドキ。
続きはまた次回
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/04(金) 23:55:35 ID:N9xW/CP0
うまいなぁ。そういや前にもオリキャラ書いてる人何人かいたよな。あれ続きもうないのか?
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 20:19:25 ID:YZvHzNbo
昔のやつはもうどんな話かも忘れたがな
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 21:22:16 ID:dip2zQ6b
ジャンクの話なんかもういいから早くローゼンメイデン一かわいいカナのSSを書くのかしらー
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 21:31:16 ID:TnHK2Agl
自演がばれたからってこっちに来るなwww
86名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:12:45 ID:ZgR087PX


━━  闇から産まれ出でるのは光 その色は眩き白色  ━━

━━  安息と回帰 生誕の前 その景色は皆 闇の色  ━━

━━  始まりの色 終わりの色 互いに表裏一体の色  ━━

━━  瞳の闇に映るのは 貴方という光を持つ命の色  ━━





  蘇は贋作 なれど 貴方の想いで 真作へと換わるでしょう




87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:14:10 ID:ZgR087PX


「お気に召してくださいましたか、“ あれ ”は」


男は再度あの店に顔を出していた。その顔は以前よりもやつれている様に見える。
来店するつもりは無かったが、想いを込めて何度か水銀灯を抱いた際に
手入れの方法などを聞いていなかった事に気付き、こうして足を運んできた訳であった。

「ええ・・・不思議ですね、あの人形は。本物の少女が、ただ眠っているとしか思えないです」

相変わらず、人の心内を除くような笑みを見せる店主の言葉に
男はごく素直に答え、その心内を言葉にしていた。
店主は ほう と言うように柔らかに眉を上げ、男の言葉に答える。

「そう仰って頂けると、見初めていただいた“ あれ ”も喜びましょう」

男はその言葉を聞きながら、店内に鎮座する多数の少女人形達に目を這わせる。
ここにあるドール全てには、えもいわれぬ不思議な魅力がある。
しかし、あの水銀灯のような魔性の魅力を持った少女人形は、他には無いかもしれない。
もしかすると店に出ていないだけで有るのかも知れないが、多分、もう売りには出ないだろう。
偶然とは言え、自分が手に出来たあの水銀灯は、やはり相当な物なのだろう。
そう思いながら男は、店主にここに来た用件を伝えようと口を開いた。

「その事で少し聞きたい事が。手入れの仕方や、必要な用具を教えてもらいたいんですが」

店主はその男の言葉に、笑みを絶やさず答える。

「確かに手入れは必要です。ここに展示してあるようなドール達であれば」

店主の言葉は続く。

「しかし“ あれ ”は贋作なれど、真作の第五と同じく、オリジナルと同じく、“ 時 ”を巻く事が出来ます」
「は? 時をまく?・・・」

またか。
この店主は他人が相手の事情を知っていると仮定した上で、勝手な物事を喋る。

「目覚めれば手入れなどは不要のもの。お客様、“ あれ ”にどのような想いを込められましたか」
「目覚めるって・・・やっぱり目は開くんですか、あの水銀灯は」

「どうやら、まだのご様子。ですがご心配なく、お客様は既に“ あれ ”を名前で呼んでいらっしゃる」
「・・・・・・意味が・・・わ・・・」

意味が判らないと、そう言おうとした時、急に自分の胸が鼓動を激しく打ち出し、
立っていられないほどの息苦しさとめまいを感じて、男は思わず店主にもたれかかってしまった。
店主はまるでそれを予期していたかのように、男を受け止め肩を貸しながら、
ロッキングチェアーに座っていた少女人形を棚に移動させつつ、
その空いたロッキングチェアーに男を静かに座らせてあげた。
男の動悸と息苦しさが徐々に納まりだすと、店主はどこから取り出したのか
水の入ったグラスを男に手渡し、飲む様に勧めた。
店主に笑顔は無く、そのかわりやや物悲しい顔を携えながら男にこう言った。
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:16:20 ID:ZgR087PX

「目覚めには苦しさが伴うものです。貴方が“ あれ ”に目覚めを欲するならば、それは必然」

何を言っているんだ。しかし息苦しさはまだ収まらず、男はそれを言葉に出せない。

「見る限り、確かにお客様の想いは通じておられるでしょう」

男の息が整いだしたが、吐き気を伴うめまい感はまだ収まらず、
店主の言葉を聞くに留まるしかなかった。店主の言葉は続く。

「真作は放棄されました。しかし自らの“ 想い ”で命を掴み取り、目覚めました。
 ですが人形師の造り出した“ あれ ”は、贋作。“ 想い ”は燈りませんでした。
 真作は師が創り出し生み出しましたが、人形師は模し造り出したに過ぎなかったのです。
 自らが無から創り上げ生み出したものでなくては、目覚めは促されなかったのです。
 人形師が思いを込めても、創造の知と労が調和をし育まれなければ、目覚めないと判ったのです」

男の動悸は治まったが、今度は意識が薄れだしてきた。

「しかし想いを込め、目覚めを促す事が出来るのが第三の立場なら、
 一心の愛を一身に注ぐ事が可能であるならば、
 マスター足りえる方であるならば、“ あれ ”は遠からず、確実にお客様に答えるでしょう。
 人形とは“ 人 ”を模した物。想いの強さと愛情は、無を有に変え、器に魂を呼び、
 やがては“ 人 ”を模した者になるのです」

そこで店主はやや間を置いて、今までの話と関連が無い、
意味をなさないとしか思えない様な言葉を話し出す。


「闇から産まれ出でるのは光、その色は眩き白色。安息と回帰、生誕の前、その景色は皆闇の色。
 始まりの色、終わりの色、互いに表裏一体の色。瞳の闇に映るのは、貴方という光を持つ命の色」


視界がクリアーになり始め、自分の意識が遠退くのを感じると同時に、
店主の声が遠くから聞こえ出し、本来の自分の意識が、自身の内に篭り始めるのを男は感じつつあった。

「さあ、本日はこれにて閉店の幕となりました。どうかお気をつけてお帰り下さいませ。
 また御出で下さる事がありますように、私から言葉をお送り致しましょう」

男の意識は深遠の闇に、甘美なる香と感覚を伴って、落ちようとしていた。
遠くから、遠くから響くように聞こえる、店主の言葉を伴って。





  ・・・蘇は贋作 なれど 貴方の想いで 真作へと換わるでしょう・・・




89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:23:12 ID:ZgR087PX


━━  わたしは  闇から産まれました  ━━

━━  あなたが  愛をくれたから  ━━

━━  あなたが  想いをくれたから  ━━





     わたしを  愛してくれますか




90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:24:22 ID:ZgR087PX


“機械の入れ替え、ちゃんとしてもらわないと困るんだよね”
(ですから、無理だとFAXや口頭の事前連絡でお伝えした筈です)

“売り上げが上がらないとあなたも困るでしょう”
(上部からの除却指示ですので、私には権限はありません・・・)

“この両替機、急に硬貨が通らなくなったんだよ!どう責任取る気?”
(・・・投入ガイドの底板が無くなっておりますが・・・どなたか取り外されましたか・・・?)

“じゃあ部品発注で早く直せよ!”
((こっちが設置した両替機の部品を故意に紛失させておいて・・・ふざけるな・・・))

“それじゃあ何か!うちの従業員が意図的に備品を取ったと言いたいのか!?”
(ですから、どういった理由で取り外されておられたのかお教え願いたいと言っているだけで))

“機械の位置さぁ元に戻してくんない”
((何回目だ、大概にしろ・・・ワックス移動で勝手に設置場所動かすんなら、自分達で直せ・・・))

“あ、その日応援に行ってくれ。お前の集金や機器入替はずらせばいいよ”
((・・・もう何十回目だ、こっちの仕事には一切の応援や支援は回さずに・・・))

“おかしいだろお前。何でそれお前に引継ぎされてないの”
(いや、では何故引継ぎ事項すら、部署移動の連絡すら自分に通達が無いんですか)

“あー  お前の事は信用しないからそのつもりで”
((ふざけるな・・・着任早々顔も出さずに電話でそれか・・・俺の仕事も見ないで何が判る・・・))



あれは? これは? それは? 早く! まだか! なんだこれは!
応援宜しく!なに言ってんの?なんであんたを手伝わなきゃいけないの?
いやいや手伝ってもらわないと困りますよ!体調が悪い?別にあんただけじゃないだろ?
一人?気楽でいいよねなんでも自由に出来てさ!天国だよね!わはははは!
応援が欲しい?何甘えてんの?そんなのはどうでもいいから機器修理の応援に来い!



・・・・・・いい加減にしてくれ、いい加減にしてくれ、いい加減にしてくれ!!



「  !  っ・・・はぁ はぁ はぁ はぁ・・・・・・ぅっ・・・うぅっ・・・う」


91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:26:28 ID:ZgR087PX
夜中。
閉じたカーテンの隙間から、月の光が僅かに入り込み、部屋に灯りを与えていた。
男は目を覚まし、上体を起しながら両手で顔を覆う。
鼓動は激しく打ち続け治まる様子は無い上に、寝汗で身体と寝間着は湿っている。
辞めた筈の仕事に、人間に、いまだ追い詰められている自分が情けなくなり、
男はつい嗚咽を漏らした。

もういい、もういいんだ。俺は俺なりに仕事を頑張ってきた。
ほんの少数だけどちゃんと俺の仕事振りを認めてくれた人もいたじゃないか。
こんな事ばかりじゃない、きっとこんな事ばかりじゃないんだ。
それに今の俺は一人じゃない・・・一人じゃないんだ。
水銀灯・・・

男は目の端に滲んだ涙を両手で拭い、少女人形の眠るトランクを見つめる。
何日か前。あの店から戻ってきた男は、あの日の記憶が殆ど思い出せないでいた。
どう戻ってきたのか、気が付くと自身のアパートの前に居た始末だった。
ただうっすらと覚えているのは、あの店主の言葉。

“ 瞳の闇に映るのは、貴方という光を持つ命の色 ”

男にとってそんな言葉はどうでも良かった。
今は水銀灯の顔を見たい。その頬をそっと撫でてやりたい。その髪をとかしてやりたい。
子猫を抱くように、そっと抱いて可愛がってやりたい。
いや実は慰めて貰いたいのかもしれない。
何も映さない目に、何も物を言わない唇に、偽りの少女に、母性を感じたいのかもしれない。

悪い夢から目覚めた今の男は、少女人形に会いたくて仕方が無かった。
男は部屋の明かりをつけようとするが、パチパチと音がするだけで明かりはつかない。
蛍光灯が切れたのだろうか。予備はあった筈だから昼間にまた換えよう。
そう男は思いながら少女人形・・・水銀灯の眠るトランクをそっと開け、
いつもの様に水銀灯をそっと抱き抱えると、
酒に酔うような気だるい感覚や、甘美な安息の感覚が男の心を包む。
男は小さな声で愛しそうに水銀灯に語る。

「水銀灯・・・ごめんな、情けない男で」

水銀灯は何も語らない。何も見えない。何も動かない。
しかし聞く事は出来る。感じる事は出来る。男の心を。優しさと悲しさを。やるせなさを。切なさを。

「ああ・・・ほんとごめん、こんな寝間着のままで。でも手は綺麗に拭いてるから・・・はは」

何を弁解してるんだろうか。何も喋らないこの少女に。
男は自分を滑稽だと思い、思わず小さな笑いを漏らした。
優しく、優しく水銀灯の頭を撫で、頬を撫で、
そっと指先で蕾のような紅色の唇をなぞりながら、男は水銀灯を柔らかく部屋に座らせる。

「・・・本当に綺麗だよ、愛らしいよお前は。・・・もし、許してもらえるなら・・・」

膝を出して、目を瞑ったまま座る水銀灯の前に、男はそっと手をつく。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:27:44 ID:ZgR087PX

「こんな情けない俺の・・・甘えを聞いてもらいたいんだ・・・いいよ・・・な?」

そう言って男はそのまま寝そべり、
水銀灯の膝に頭を預けながらその小さな細い腰に手を添える。
それは膝枕だった。男は少女人形に膝枕を求め実践した。
他人が見たら明らかに引いてしまうだろうその行為。
しかし男にはどうでもよかった。
偽りでもいい。異常と呼ばれても構わない。
この柔らかさと、ほのかな芳香に、少女と、少女の持つ母性を感じて、癒されたかった。

男は目を瞑る。
昔に感じた、子供の時に感じた母への安らぎと香りが、暖かさが、感じられる気がした。
ふいに男の瞼越しに、淡い光が反射したと同時に、
頭をくらりとさせるような感覚と、ほのかな甘さを漂わせる何かが顔にかかる。

何だ?男はそう思って目を開ける。


「!?  ぅううわわわわ!??!」


それは水銀灯の瞳に月の光が反射して起きたものであり、
顔にかかったのは、銀色を内に秘める水銀灯の鮮やかな白髪であった。
男の頭は思わず水銀灯の膝からずり落ち、そのままワタワタと後ずさりをした。

ど、どういう事だ、唐突に目が開いてるなんて?しかも顔がこっちを覗き込んでいたぞ?

男は唾を飲み込みながら、伏せたままの顔を、身体を、少しづつ上げていく。
視界に入るのは水銀灯の姿。月の灯りを纏い、首を傾けぎこちなく立ち上がる水銀灯の姿。

「!!なあっ?!あ・・・ぁゎわ・・・わわわ・・・・・・」

声にならない男の声と同時に、水銀灯は崩れ落ちた。
しかし、そのまま這いずる様に、水銀灯は男の元へ向かう。
恐怖。畏怖。
人で有るまじき「 物 」が、「 人 」と同じ姿を持って自分の元に這いずり寄って来る。
男の身体は振るえ、硬直し、動く事が出来なかった。
しかしその目だけは目の前に起きている現実を、水銀灯の姿を克明に捉えていた。
無表情の顔。人ではない美。
開く事が無かった人形の瞳は今はっきりと開き、男の姿を、顔を映し出している。
男の心が恐怖で張り裂けそうになったその時。
目の前の人形の顔が変わった。悲しさを湛え、今にも泣き出しそうな顔に。
美しい少女の、人間の少女の顔に。
その瞬間全ての恐怖は掻き消え、男の身体は水銀灯を抱きしめていた。
小さな少女の身体は震えている。確かな命を持っている。

男は確かに感じた。今自分の胸の内で息吹く存在の温かさを。
そしてあの日思い出せなかった店での記憶が、言葉が男の脳裏に思い出てくる。

生きている、生きているんだ、この少女人形は。本当に生きているんだ。
あの店主の言っていた意味は、こういう事だったのか。
93名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:29:47 ID:ZgR087PX

少女の顔が不意に男の顔を見上げ、
美しく薄い赤を携えた紫の瞳で男を見つめながら、紅を含ませた艶やかな唇が動く。

声は無い。
だが、脳裏には、心にははっきりと響く。
小さく、泣くようなその言葉。





     わたしを  愛してくれますか





男の目に涙が滲み、荒み退廃した心に明かりが灯る。
ああ、これは夢なのか。
夢なら、夢なら醒めないでくれ。
この夢をずっと手元に出来るなら、これを本物に出来るなら、俺はもう何も要らない。


「水銀灯・・・俺の所に来て・・・くれたんだね・・・・・・」


男の小さな言葉に答える様に、水銀灯の細い腕がぎこちなく動き、
その細く、美しく、小さな指先でそっと男の目から零れようとしていた涙をすくい取った。
泣き笑う様なか弱い水銀灯の笑みが、僅かに差し込む月明かりに照らされ男の瞳に写り込んだ。
男は願う。この夢が永遠に醒めない様にと。そして男の意識は闇へと浮かび上がっていった。
愛しい生きた少女人形を。水銀灯を抱いたまま。





━━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━━

━━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━━

━━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━━





              貴方の生を頂きながら




94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:33:40 ID:ZgR087PX
まだ続きます、すいません
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:35:32 ID:inuxponP
リアルタイムで見てた。うまいなしかし
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/06(日) 23:38:14 ID:TnHK2Agl
いくらでも続いてくれ、いつまでも待ってるぜ
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/07(月) 01:16:42 ID:RBSDRY0p
>>73
今更だが自分の最も好きな曲効きながら原作なりアニメを見直すと構想が浮かぶかもしれん。
敢えて洋楽聴きながらがおすすめかも?かなり個人的な推奨だがThe Doorsの曲なんかまじで頭にイメージ浮かんでくる。
てか、なんか前スレに3rdアルバムの love street の歌詞書き込んでいる人がいてびびったんだが
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/07(月) 01:24:54 ID:4DfMEFuJ
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/07(月) 01:49:04 ID:VUNCl+N5
とりあえずageてみるか
100名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/08(火) 10:00:41 ID:5a+6+6FI
>>32,35,38,40,68,70
カナのSSを待ってる人がこんなにいるのに
それを無視してまた別のSS始めてるのか

結局このスレの連中も金糸雀アンチと同じだな
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/08(火) 11:37:31 ID:JQQ4jauM
カナかわいいよカナ
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/08(火) 19:27:36 ID:IUlo7VH7
キム信者はいい加減糞キムが嫌われてることに気づけよwwww

人気最下位(笑)
コミケでも一人だけタオル売れ残り(笑)

こんなゴミのSSなんか誰も書かんわwwwwwwwwwwwwwwww
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 00:50:21 ID:b3T3juDg


━━  ともし火は  ともりました  ━━

━━  燈は消えています  灯は灯りました  ━━

━━  許されるのは  唯一つのともし火  ━━





        これを本物に出来るなら

         俺はもう何も要らない




104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 09:09:50 ID:PuE1CZoY
↑中二臭くて見てらんない。もう書くの止めたら?

↓ここからカナのSS
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 10:48:01 ID:tUN1wMqs
投下も書き込みも出来ない?
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 10:50:21 ID:tUN1wMqs
書き込みは出来るのになぁ
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 22:58:13 ID:5YJKY1S4

やっぱり>>103は正規の続きか?エロパロでは一行目開けるとはじかれてるみたいだが
>>103はどういう理由で書き込めないのかわからんな。とりあえず俺もテスト
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 23:24:40 ID:/DwJE6QM
闇を漂う意識が現世という次元に引き戻され、男は目を覚ました。
小さな少女人形、水銀灯の膝枕の元で。

ぼんやりとした意識の中。
あれは、あの光景と身体に感じた感触は幻だったのかと男は疑う。
そう思うのか?
目覚めた意識が遠くから男自身に声をかける。

男の後頭部に感じる柔らかな感触。
頬に感じる、ややもすると幼子よりも小さな手の感覚。
鼻腔に届くかすかに甘い草花のような芳香。
男の瞳を見つめオドオドとした笑みを見せる美しい少女の小さな顔。
やや遠慮がちに男を覗き込む少女の瞳。
命のともし火を輝かせる、水銀灯の鮮やかな白髪が男の顔にかかり、
心を暖かくするような優しい香りが、男の意識を確実なものへと引き戻す。

「・・・夢じゃなかったんだな・・・・・・水銀灯」

首をかしげるように見せていた弱々しい笑みを、水銀灯は安堵の笑みに変えた。
それを見た男も、父親が娘に見せるような笑みを水銀灯に返す。
と、同時にはっとして、小さな水銀灯の膝枕からゆっくりと自分の頭をはずした。
そのままそっと上体を起し、膝枕のまま女性座りをした水銀灯を見つめ、男は思った。

自分の身体の半分程の、この少女人形に、
命を持ってくれた少女に、俺は膝枕をしてもらって寝ていたのか・・・
あれ?でも確か俺は水銀灯を抱きしめてそれから・・・
そこから覚えていない。しかしそれまでの出来事は確実に覚えている。
そういや、俺が抱きしめたままだったもんな。そりゃ苦しいし男臭いから俺から離れるよな。
でも確かにこれは夢じゃない。あの店主の不可解な言葉の意味はこういう事を知らしていたんだ。
ああ・・・しかし可愛いなぁ・・・本当に綺麗だなぁ・・・・・・
まてよ・・・でもこうして膝枕をしてくれていたって事は・・・

水銀灯はきょとんとしながら不思議そうに男の顔を見つめている。
身体が小さいだけで、どこからどう見ても美しく愛くるしい人間の少女だ。
男も水銀灯を不思議そうに見つめている。
こちらは無精ひげが生えた、ややむさ苦しい寝起きの顔をした30半ばの中年だ。

「!すっすすすいぎんとう!」

男は顔を赤らめ素っ頓狂な声を出す。水銀灯はその声にビクッと身体を震わせた。

「おおおお、俺の顔、寝顔ずっと・・・み、見てた・・・のか?」


━━  え?・・・あ あの・・・その・・・  ━━ 


言葉は無かったが、まるでそう言っているかのように
水銀灯は柔らかく握った片手を自分の口に添え、目を宙に泳がせている。
その顔に、頬に、うっすらと紅がさす。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 23:28:45 ID:/DwJE6QM
「うわーーーーーーー!!!」

その声に水銀灯の身体が再びビクンッ!!と震え、
男はそれに気付かず顔を真っ赤にしながら急いで洗面所に向かった。
洗面所ではジャージャージャブジャブと水音が聞こえ、その後にガーガーガリガリと機械音も聞こえた。
その間、水銀灯は子猫のようにきょとんとしたままだった。

  ・
  ・
  ・

「・・・水銀灯・・・えっと・・・俺の事が判る・・・よな?」

顔を洗い綺麗に無精ひげを剃り終えた男は、改めて水銀灯の前に座って優しく話しかけた。
昨日までは美しい人形だった少女。
今日からは命を持った、人間としか思えない小さな美しい少女。

( はい ゆうべは驚かせてしまって ごめんなさい )

小さく艶やかな紅色の唇が柔らかく動き、男にそう伝えるが、やっぱり声は無かった。
しかし男にははっきりと聞こえる。
弱々しいが、透き通った声が、耳からではなく頭の中から。

「うわ・・・なんか照れるな・・・っくし!はっくしょん!」
( ?どう したんですか )

どうやら男は風邪を引いたらしい。
冬の、気温が下がった部屋で、
何も羽織らずに少女の膝枕で夜を明かしていたのだから、当然と言えば当然だった。
今の内ならバスタブに湯をはわして身体を温めれば、悪くなる事も無いだろう。
男はそう考え水銀灯に断りの言葉をかけた。

「ぐす・・・じょじょっと待っててくれ・・・」

うわ、鼻水が出そうだ。ずずず・・・ぅえ・・・喉が気持ち悪い。
本当に目覚めてくれたあの子の前で、こんな醜態を続けて晒してるなんて・・・俺すげーかっこ悪い。
そう思いながら、男は小さな風呂場のバスタブに湯をはり出した。
後ろを見ると、水銀灯がこちらに来ようと身体を起こしている。が、“ どたっ ” と倒れたではないか。

「あ! 水銀灯!?」

男は急いで水銀灯をそっと抱き起こす。
どうやら上手く起き上がれないらしい。

( ご ごめんなさい うまく 動けなくて )

申し訳なさそうな小さい声が、男の頭に届く。
男は抱き起こした水銀灯を優しく立たせてあげると、自分は前かがみになって、
赤子の立ち練習をするように、水銀灯の小さな両手を自分の大きな両手でそっと包み、
水銀灯の透きとおる薄赤紫の瞳を見つめながらこう言った。

「大丈夫。大丈夫だよ、水銀灯。ほら・・・ゆっくりと歩いてみな、大丈夫だから」

一歩 二歩 三歩・・・
男は水銀灯の手を引きながら、ゆっくりとゆっくりとゆっくりと歩かせてあげる。
覚束ない(おぼつかない)足取りだったが、水銀灯は不安そうな顔を男に向けながらも、
確かにその足を前に進めている。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 23:30:00 ID:/DwJE6QM
「上手い上手い。自分で歩くのはこれが初めてだもんな。でも、ちゃんと歩けてるぞ」

男の優しい声が水銀灯を褒める。
その声に、不安そうだった水銀灯の顔が、おずおずとながらも笑顔に変わっていく。
男はその顔にやはり笑顔で答えると同時に、こう思った。
それにしても本当に不思議だ。この小さな柔らかい手から、薄っすら体温まで伝わってくるなんて、と。
水銀灯の足取りが確実になるにつれ、男の頭がめまいを感じ、胸の鼓動が早くなっていく。
何だ?・・・急に・・・またストレス的なものが出てきたのか?・・・
そう男は思ったが、昨日まで現実でありえなかったものが、在り得ない出来事や行為が、
今こうして現実として起きて、触れ合っている行為に興奮しているだけだと感じ、そう納得する事にした。

そうこうしながら、男はそのまま水銀灯を風呂場まで連れてきてしまった。

( ここは 何ですか )

水銀灯が男の心に尋ねる。

「ズズ… ふ くしゅっ!・・・風呂場だよ」
( ふろ  ば ? )

「そうか、知る訳無いよな。簡単に言えば熱いお湯で身体を綺麗にして、
 そこのバスタブ・・・お湯の中で身体を温める場所だよ」
( ? きれいになって からだが温かくなるんですか ? )

「うん。人間はどうしても汚れたり体が冷えたりするからな。
 一日に一回は身体を綺麗にして、身体を温めるんだ」
( お父様は いまからからだをきれいにして 温めるんですか ? )

「お、おとうさま?! ・・・俺が?!」
( だって わたしを愛してくださるのは お父様です )

「あ、いや・・・え、お、俺・・・」
( 愛してくれますか と 言ったとき 来てくれたのか と 泣いて答えてくださいました )

「あああ!も、勿論そうだ!当たり前じゃないか!だからそんな泣きそうな顔をしないでくれ!」
( うれしい  お父様 )

「・・・俺も、俺も凄く嬉しいよ、水銀灯」
( わたし お父様と この “ふろば” をご一緒したいです )

「ぇ ええっ!・・・」
( だめ   ですか )

「ぅう・・・そ、そんなすがるような目で見ないでくれよ・・・」
( お父様 )
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 23:30:52 ID:/DwJE6QM
男は考えた。その顔は風呂に入る前からのぼせている様にも見える。

どうする?元々は人形だ。しかし今はあまりにも美しい少女だ。
よく考えろ。店で最初に見たあの美しい裸身を、遠慮無しに見る事が出来るんだぞ。
よく考えろ。あの日からこの人形はお前の“ 物 ”だったじゃないか。
よく考えろ。俺は少女人形の服を脱がして喜ぶ様な下衆な真似だけは、一切してないんだぞ。
よく考えろ。あの日からこの少女を自分の“ 者 ”として、どれだけ愛しんで(いとしんで)きたんだ。
よく考えろ。人形という“ 物 ”から、人間と同じ“ 者 ”になってくれた少女の気持ちを。
よく考えろ。今のこの現実を。状況を。自分の気持ちを。想いを。

よく考えろ。目の前の少女が、自分を想ってくれている気持ちを。


長い沈黙にも思えた。
しかし実際はほんの数秒にしか過ぎないだろう。
男は口を開いた。
苦笑いをする様に、遠慮がちに、しかし嬉しそうに、照れくさそうに。


「解った。じゃあ一緒に入ろうか、水銀灯」

( はい! )


美しくも、どこか幼い雰囲気を漂わせていた水銀灯のオドオドした顔に、
淡く、美しい、笑顔と言う花が開いていった。





━━  ともし火は  ともりました  ━━

━━  燈は消えています  灯は灯りました  ━━




             お父様




112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/09(水) 23:36:46 ID:/DwJE6QM
>>107
103以降の投下が急に無効にされだしておかしいおかしいとは思ってたんですが。
一行目を詰めたら何とか投下出来ました。
書き逃げ荒らしみたいな真似になってしまってすみませんです。
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 01:19:54 ID:A88iPbRw
急に途絶えたから不安だったぜ!!こんちくしょう、GJだ!!
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 18:06:27 ID:VPIV4AMh
糞銀燈のSSは中二臭くてつまらんなー
感想レスも一つしか付いてないし
これがカナのSSだったら五つ以上は楽に付いてただろうね☆
115名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 18:32:37 ID:dqvtd9O6
この先無職が良くない目に遭うのは間違いないようだな
これ他のドールズは絡まない話になるんかね?
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 18:37:13 ID:VPIV4AMh
言われてすぐレスつけるあたりが自演臭いな
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 18:57:36 ID:b33MAcjA
なら>>116が何かss書いてみなよ。
一連の流れで書く気の失せたカナのssネタくらいなら提供するぞ。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 19:28:39 ID:6w9n+WFN
相手すんなよ
119名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 21:28:29 ID:A88iPbRw
>>117
おめぇさん屈しちゃいけねぇよ
是非そいつを書き起こして欲しいもんだ
120名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 21:49:11 ID:KdGWcgcc
ほんとほんと
>>114が言ってるみたいにゲロ以下の
幼稚な作文垂れ流してる>>112を追い出すためにも書いてうPしてくれ
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 22:30:00 ID:b33MAcjA
あーあ、もういいや。ネタだけ書いとくよ。

老いたバイオリニストが息を引き取った。
彼の持ち物は1枚だけプレスされた、自分の演奏を録音したレコード。
金糸雀はこの老人に昔会っていた。
たった5ドルで売られていたそのレコードには、金糸雀と演奏者の思い出が詰められている。
上機嫌でレコードに聴き入るみっちゃんの傍らで、金糸雀は思い出の中の青年に問いかける。
そこにプレスされていた曲は……

おいら的にコンセプトは「船の上のピアニスト」
スレの空気が良くなったら書くかも知れないが、今は書く気が全くおきないなー。
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 22:35:24 ID:A88iPbRw
>>121
OK、いつまでも待ってるぜ、空気か、どっかに避難所でもあればな・・・
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 22:42:28 ID:KdGWcgcc
すべては>>112のせいだからなあ
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/10(木) 22:49:30 ID:A88iPbRw
俺は楽しみにしてるんだな、これが。
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/11(金) 02:00:34 ID:fcwPTyG8
お前らあんまり荒らすと1003が来るから、やめなさい。
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/11(金) 13:37:56 ID:sk0kuaMt
金糸雀ほどオリジナリティ溢れるキャラがかつてあっただろうか?
水銀燈にしろ翠星石にしろ蒼星石にしろ、結局のところ、はっきり
言ってどこかで見たような設定のキャラだ。それに比して、金糸雀
は外見的にも性格的にも、既視感を感じさせない。そういう意味で
金糸雀こそローゼンがおのれの人形師の想像力を全開にして
生み出した、一世一代のマイスターヴェルクなのだ。
こうしたオリジナリティ溢れるキャラは概して想像力の欠ける俗人
の称賛に恵まれないものである。卑賤なにわかヲタは、記号化
された「仕組まれた萌え属性」に気付くことなく飼い馴らされ、
既存の萌えを打ち破らんとするオリジナリティに、歩み寄る努力
さえせずに排撃しようとするのである。
言うなれば、他のドールズの愛好者たちは、とどのつまり「ツンデレ
萌え」だの「ボーイッシュ萌え」だのといった、記号化された萌え属性
に属さしめ得るのに対し、金糸雀派はどの属性にもカテゴライズされ
ることのない、独立した「金糸雀萌え」なのである。
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/11(金) 14:20:51 ID:72z+YYdV
カナリアはハゲキャラだろうが
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/11(金) 16:00:24 ID:VSaLsenu
うわ気持ちわり
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 04:51:13 ID:5Z4ZUc9v
>>126
真紅、雛苺、薔薇水晶、雪華綺晶は?
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 09:29:24 ID:Q9OhbbOS
小さな小さな風呂場は、湯気で一杯だった。
早く入りに来いと言うように、白く温かい靄(もや)が風呂場を包んでいる。

「はっくしゅん!・・・寒ッ!」

男は少し抵抗はあったものの、水銀灯に服を脱ぐように言い、自分も服を脱ぎ始めた。
最初は ? と言う顔をしていた水銀灯だったが、
服のままじゃ入れないし身体も綺麗に出来ないんだよと男が言うと、
なるほど!すごい! と言わんばかりの驚きと尊敬の顔で男を見つめながら、楽しそうに服を脱いでいった。
身体を動かすのにも大分慣れてきたらしい水銀灯は、丁寧に服を脱いでゆき、
やがてその美しい裸体を無邪気に晒しながら男に尋ねてきた。

( これで よろしいんですよね お父様 )

「あ、ああ・・・き、綺麗だね、水銀灯は」

動き出し、命を持ったとは言え、その白い身体は人形であり、各部には球体関節が見られる。
そうは言うものの、それ以外はやはり美しい少女の裸体であり、その初々しさが男にはとても眩しかった。
あんまりジロジロ見るもんじゃないなと、男は心で苦笑しながら裸になった。


( ? なんですか これは ? )
「やっ!やめなさいっ!女の子がそんなことするもんじゃない!」

( ご ごめんなさい   でも わたしにはそういうのはありませんので なんだろうと思いまして )
「そりゃ無くて当たり前なんだけどな・・・」

( ね? ついてませんでしょう? )
「判った!見せなくていいから!それに女の子はそんなところ軽々しく見せちゃいけません!」

( お父様 おかおが赤いです )
「・・・さあ、もういいから早く風呂に入ろう、水銀灯」


見るもの触る物全てが初めての体験である水銀灯の探究心に焦ったものの、
まるで子供そのものの行動や、その小動物のような仕草に、男は、
もし娘を持つと、今感じてる保護欲や愛情みたいなものが芽生えてくるのかなと思った。

十分に湯が張ったバスタブ。
男は敷いたマットに腰を下ろし、自分の身体に流し湯をしてはっと何かに気付き、思った。
自分の前にちょこんと座る水銀灯の身体に、本当に湯をかけても大丈夫なのだろうかと。
その水銀灯は、自分を難しそうに見つめる男の視線に気付き ? と言う顔をしていたが、
男の心内(こころうち)を何となく理解したらしく、男にこう答えていた。

( わたしのことは大丈夫です お父様 )
「え?ああ・・・でもその・・・」

( お父様に きれいにしていただきたいです )
「そう、言ってくれるんなら・・・じゃあ、お湯・・・かけるからな、水銀灯」
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 09:33:44 ID:Q9OhbbOS
もうこれ以上考えても仕方が無いし、本人自身がそう言ってくれている。
男はそう割り切り、微笑んで自分を見上げてくれている水銀灯を後ろに向かせ、
その鮮やかに美しい銀が映える長い白髪をそっとかき上げてやりながら、
湯を優しくゆっくりと、その滑らかで華奢な美しい背中にかけていった。

( ああ・・・  すごく・・・ きもちがいいです・・・  お父様 )

目を閉じ、うっとりとした声と表情で、水銀灯は男の心にそう話しかける。
その水銀灯の、美しく、艶めかしく、それでいてどこか幼い姿と表情に、男は見とれてしまう。

本当に・・・どこからどう見ても人間の女の子だよな・・・
部分部分は人形だって感じさせるけど、それでもなぁ・・・いかんいかん!何考えてるんだ俺・・・

ちょっと宜しくない考えが頭に浮かんだものの、すぐにそんな考えは消え、
自分に全ての信頼を寄せてくれている水銀灯の身体に、二度三度優しく湯をかけてあげていた。
そして男は先に狭いバスタブに浸かりながら、水銀灯に、おいでと呼びかける。
その呼びかけに、おずおずと水銀灯がバスタブに両手をかけて、大胆にまたいで入ろうとした為、
水銀灯のあられもない場所が目に飛び込んできて、男は噴き出しそうになり急いで目をそらした。
当の水銀灯は不思議そうな顔をしながらそっと湯船に浸かり、男の身体に自分の身体を預けてきた。
水銀灯の美しい白髪が湯船に広がり、銀色の光を張り巡らせながら男の身体に触れてくる。
子猫が安心して頭をもたげるように、水銀灯もまた、男の身体に頭をもたれかからせ、
うっとりとした顔で、湯の温かさと、男の身体と言う安心を感じ取っていた。

・・・・・・西洋人形ってのは・・・女の子ってのは、ほんと・・・目のやり場に困る。

水銀灯から香る、春の草花のようなほわっとした微かに甘い芳香と、女の子らしい身体の柔らかさに、
困っていいのか嬉しがっていいのか、男の身体と心は葛藤を続けていたが、
自分の胸に身体の全てを預け、気持ち良さそうに目を閉じて
初めての湯を感じている水銀灯の美しくも可愛らしい顔を見ている内に、やがて葛藤は消え、
すぐに父性愛のような暖かい感覚に変わっていった。
しかしそれを揺るがす様に、水銀灯の探究心が悪戯娘の如く男にもたれかかってくる。

( お父様のこれ ふにゅふにゅしています なんだか 大きくかたくなってきました )
「な!? お、おい触っちゃいけないってさっき・・・ああ・・・いやこ、これはその・・・」

( お父様苦しそう・・・ だいじょうぶですか ? )
「だだ!大丈夫!すぐに元に戻るから!だからもぅ触らないでくれ・・・」

( でも・・・ )
「心配かけさせて悪かった!というか・・・不純で本当にすまない・・・」

 ・
 ・
 ・
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 09:35:29 ID:Q9OhbbOS
その後男は当たり障り無く水銀灯の身体を洗ってあげ、自分の身体を洗っていると、
水銀灯が男の背中を洗いたいと言ってくれた為、お願いすることにした。
その男の背中を小さな手で一生懸命洗いながら、水銀灯が話しかけてきた。

( お父様のせなか とてもおおきいです )
「そうか? そうかな・・・」

( お父様・・・ )
「ん? なんだい、水銀灯」

( わたしを目覚めさせてくださって・・・ すごく・・・ うれしかったです・・・ )
「・・・ 俺も・・・君が、俺のところで目覚めてくれて、すごく嬉しいよ・・・水銀灯」

男のその言葉を聞き、水銀灯は小さく細い腕で男を背中から抱きしめ、自身の身体を密着させた。
そして、自分の気持ちを、身体を通じて受け止めて欲しいと言わんばかりに、こう呟いた。


( お父様・・・   大好きです・・・ )


その小さく儚い言葉が、男の頭の中に、胸に響き渡る。
えもいわれぬ言葉の温かさを、水銀灯自身の温かさを背中に感じながら、
男は水銀灯にそっとささやいていた。

「・・・水銀灯・・・また、泡が付いちゃうぞ・・・」

水銀灯はその美しい瞳を閉じて、男に、信頼の、甘えの言葉で答える。

( へいきです  お父様が また あらってくださいますもの・・・ )
「・・・水銀灯」

男の手が、背中から回された水銀灯の小さな手に重なる。
そして思った。
この少女の心さえあれば、水銀灯さえいてくれれば、俺はもう少しだけ頑張れるかもしれない。
そして思った。
この幸せをずっと得られるのなら、俺は生きていける以上の欲を望まない。

そう本心から思った。





━━  愛とは  形の無い具現  ━━

━━  想とは  容の無い具現  ━━

━━  心とは  それらを抱擁する器  ━━





 移に叶うべき器となり得る事を願いましょう




133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 09:38:04 ID:Q9OhbbOS
エチくさくてすいません
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 10:01:32 ID:L1hcbomS
どう見てもエロパロです本当に
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/12(土) 23:12:41 ID:tR4NSxBm
糞銀燈の中二SSはよ終われ
カナのSSの方が面白い
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 00:09:18 ID:d/+Noy6X
じゃあ添削してやるから早く金のSS今すぐ書け
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 01:20:05 ID:Shk1dTpF
つーかもう『金糸雀SSスレ』みたいな専用スレ立ててそっちでやれよ糞キム信者は
138名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 01:21:47 ID:566kgr6p
アンチじゃないけどその方がいい気がするほどにウザイ荒らしだな
139名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 03:45:18 ID:EqYiJmXp
久しぶりに来たがいまだにこんな馬鹿みたいなことやってるのかw
ワロタwwwww金糸雀アンチだか信者だか知らんがその根気には頭が下がるw
また何ヵ月後かに来るよw
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 10:42:34 ID:9i/aBSw2
いい加減スルーしなよ。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/13(日) 23:08:18 ID:7Kyk4j9i
ほんとだぜみんな。
糞銀燈の中二SSなんてちゃんとスルーしなよ。
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 01:12:01 ID:e/xPoAlB
>>133
低脳がいつも自演しまくって何か妄言吐いてるけど全く気にしなくていいよ
>>135,141みたいなのは毎回恒例でもう空気みたいなもんだから
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 14:09:49 ID:yhdmkOf0
自演してるのは金糸雀アンチの方だろ
今までのSSは他のキャラに比べてカナは全然目立ってなかったし
ここでカナが活躍するSSを求めても何ら問題はないだろうが
まあアンチにとっちゃ「キムなんかローゼンメイデンじゃないよwww」とか思ってるんだろうけど
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 14:26:46 ID:7BSBAFGr
まあやり方が問題なわけで…回線つなぎかえて自演したり
人の作品非難ばかりしてりゃあうぜーと思われて当然。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 14:28:58 ID:TcTO2yEu
はい。
若い女を殺して食らう食人マンガでつ。

(氏賀Y太 作)
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date66572.jpg

DELキーは「eat」でつ。
146名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 14:29:52 ID:edWJNChU
求めるばかりで作ろうともせず文句ばかり言う人は救えない
まぁこのスレにおいては>>135の様にイタイ我侭な金糸雀ファンを演じている工作活動も見受けられる

様はSS書く人は好きに書いてよし!
147名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 18:29:19 ID:m09zVAed
原作やアニメですら何のためにいるかわからんようなカスを活躍させろとかアホか
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 20:42:29 ID:B6lzQpte
ドール製作の暗部みたいな話おk?
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 21:35:45 ID:edWJNChU
バッチコーイ
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 23:00:31 ID:j/L6kcGY
おk!
偽クソ銀の作文野郎追い出すんなら応援するぜ、そしてカナSSも書いてくれ
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 23:19:30 ID:edWJNChU
ここに…思いの丈をぶつけてこい…

ローゼンメイデン系スレ荒らし対策本部@シベリア
http://etc7.2ch.net/test/read.cgi/siberia/1194808047/
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 23:27:35 ID:70OBUHAd
結局>>150一人がこのスレから消えれば平和になるんだよなあ
>>135>>141もこいつの自演なんだし
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/14(月) 23:44:42 ID:B6lzQpte
書いてるうちに未来っぽくなったんだが流石にこれはNGか。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/15(火) 00:01:58 ID:tX5aelXs
その後みたいな感じか?おkだろ
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/15(火) 00:47:39 ID:Z7PWp6mw
書いてるうちにいろいろと設定変わって数百年後になったがとりあえずw

ふと蒼星石は考える。
・・・あれからどれだけの年月が経ったのだろう。
最も鮮明に憶えているのは日本という国で出会った少年のことだけ。
彼は僕達に課せられた宿命や存在を変えてくれると期待したけど・・・結局何も変わらなかった。
あれからまた何度も目覚めて、眠って・・・。
こんなことを思い出すということは、再び目覚めの時が来ているのだろうか?
あれから50年?100年?どれほど長い年月が経ったのかすらわからない。
姉である翠星石を殺してしまってからはもう何もかもがどうでもよくなってきた。

瓦礫だらけのビルの一室に取り残されたひとつの鞄。蒼星石の眠る鞄である。
そこへ薄汚れた、汚い男二人が近づいてきた。
「おい、高そうな鞄があるぞ!
「中身は何だ?早く開けてみようぜ」
男の一人が鞄を開けようとするが開かない。
「硬くて開かねえ」
「レーザーで焼きってみよう」
もう一人の男が小型のレーザーカッターを取り出し、光度を丁度良いくらいに調整する。
その光を鞄の鍵の部分に当てると、金属の部分は見る見るうちに溶けていった。
「もう少しだ」
ジジジ、と鍵を切っていく。
「これでいい」
鍵は完全に壊された。
男が鞄に手を伸ばそうとした瞬間、二発の銃声がコンクリートの部屋に鳴り響いた。
二人の男は頭を撃ち抜かれ、一人は鞄の上に倒れ臓物と大量の血をぶちまけていた。
「こちらオーウェンス。クズを二人始末。サンプルケースを回収する」
人を二人殺した男は、まったく顔色を変えずに倒れた男を蹴り飛ばし、鞄を持ち去った。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/15(火) 10:23:55 ID:tX5aelXs
また連投できない?とりあえず続き期待
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/15(火) 20:16:42 ID:0zceHhDX
サイバーなローゼンメイデンキタw
158アイ・アム・レジェンド(謎):2008/01/16(水) 01:32:57 ID:qa1xfOM/
>>155
『おい・・・冗談だろ』
蒼星石は意識がほとんどない状態だった。ただ人の声だけは聞こえる。
声の持ち主は、先程自分を持ち去った男の声だ。
程なくして蒼星石は目を覚ました。
「ここは・・・」
はっきりしない意識の中で蒼星石はおぼろげに言った。
「喋るアンドロイド。実に良くできている」
男はすぐさま腰のホルダーから銃を引き抜き、蒼星石の頭に突きつけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!それにアンドロイドって」
無表情な顔が余計に恐怖を煽る。
「自らが作られしものということすら自覚できなくなるほど、優れた人格形成。新型か」
「確かに僕は作られた存在だけど・・・」
咄嗟の出来事で戸惑いを隠せない蒼星石。そんな姿を見て、男は特に警戒すべき相手でもないと考えたのか、銃を下ろした。
「いいだろう。お前のことを話してみろ。ただし少しでも不穏な動きをすれば破壊する」
再び男から殺気立った気配を感じ取った。この感じはどうも好きになれそうもないと思った。

蒼星石はこれまでの経緯を男に話した。自分はローゼンという人形師によって創られたこと、アリスゲームという戦いのこと、そして自分の姉妹達を殺してしまったこと。
男は黙って聞いているだけだった。
「というわけなんだ。信じてもらえる確信はないけどね」
「いや、納得した。そのおとぎ話のような設定によって自己を確立させているというわけか。確かに国立図書館あたりを漁ればそれらしい話くらいは見つかる。連中は頭がいいから捏造された記憶を植えつけることも可能だろう」
「連中?」
「お前を造ったアンドロイドどもだよ」
男の話によると、世界はアンドロイドという機械による攻撃で荒廃しており、すでにほとんどの人間は死んだか地下に潜伏しているらしい。
彼はその中でもアンドロイドを駆逐することで生活の糧を獲ているハンターだという。
「アンドロイドは元々俺達が作業用として作ったものなんだ。それが今じゃこの有様さ。まったく親不孝な連中だ」
その時初めて彼は表情を、苛ついた顔に変えた。
・・・話す言葉がない。お互いによく喋る性格ではないため、時間が止まったかのような感覚に陥る。
「さっきも言ったように僕はそのアンドロイドとかいうものじゃないんだ」
なんとかこの空気を追い払おうと蒼星石は口を開いた。
「ああ、わかった。これからの会話ではそのことを前提とした上で話そう」
男から人間らしい感情のこもった言葉が出てくる。
「しばらくまともに口を聞けるヤツとは会ってなくてな。・・・ところでさっき言ってた自分の姉妹を殺したって話だが」
蒼星石の脳裏にかつて姉妹だったドール達が過ぎる。
「あれは仕方なかったんだ。馴れ合いだけじゃ何も解決しない。隙があれば命を奪う。それが宿命なんだ」
自分に言い聞かせるように言った。
「同感だな。生きるためには仲間だろうと殺す。たとえ血の繋がりがあろうと」
男は手に装着した金属の物体を取り外すと、傷ついた手の平を蒼星石の顔の前に差し出した。
「この手にはな、何百人という人間を裏切り、殺してきたやつらの血がついてるんだ。その中には家族や兄弟もいる」
言葉が出なかった。
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/16(水) 09:09:29 ID:Bx7FJqp9
世紀末か!
ケンシロウでも出てきそうだ乙
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/16(水) 16:54:00 ID:NNaSFCkP
すごくウマいな、引き込まれるぜ
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/16(水) 22:31:29 ID:VI62y1fR
また金糸雀アンチの作者か…
蒼星石とかどうでもいいっつーの

↓カナのSSよろ
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/16(水) 22:40:50 ID:r8RZVxmf
ひぐらしのなく頃に

 カナカナカナカナ・・・
163名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 00:37:16 ID:BgoiJGb4
どのドールも嫌いじゃない俺から見ると、どうして自分の好きなドール以外を否定しようとするかまるで分からん。
164名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 00:41:19 ID:prr/SnwN
>>163
151のスレで聞けば大体わかるがな、これが
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 02:33:58 ID:XuWd6Ra5
>>163
いやだって161は職人叩いてこのスレ潰そうと1人で必死になってるアンチローゼンだし……
そいつの言ってる事について深く考えない方がいいよ
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 15:59:07 ID:0cONP4cQ
金糸雀信者は他ドール信者からは考えられないような行動を平気でするからな〜
こいつらはローゼンファンと思わない方がいいよ
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 17:29:41 ID:N8YApGiv
>166
うん、アンタはファン名乗んなくていいよ
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 21:03:25 ID:iC/nEs6G
60 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/31(月) 15:39:50 ID:Ps4hwycP
ちょっと豪華な長編SSで胃が重たいから、
次は軽めの明るい話を頼む。


61 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/01(火) 02:10:56 ID:2zDZDvVW


━━  強く貴方が望むなら 強く貴方が願うなら 強く貴方が想うなら  ━━

━━  きっと “ それ ” は貴方に答えるでしょう  ━━

━━  貴方の生を持って 貴方に伝える為の言葉を持って  ━━





              貴方の生を頂きながら


流れを読まずにクソ作文を流し始めたこいつが全部悪い。
だから早くカナのSS書けよクソ共がっ!!!!
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 21:29:26 ID:N8YApGiv
>>168
自分で書いてください
お待ちしております
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 22:21:38 ID:0bq3qGMX
でもここに投下しなくていいよ
金糸雀個別にでも投下し・て・ね♪
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/17(木) 22:25:44 ID:prr/SnwN
相手すんなよ、痛い人になりきってると思ってる本当に痛い人だから
172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/18(金) 00:52:00 ID:r+PmDzea
ID:iC/nEs6Gは一人で毎晩荒らしに来るあたりがまた痛いwww
こいつが自演してもすぐ分かるww
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/18(金) 00:53:00 ID:gTPiX2W5
>>158
「無口だな。俺が怖いか?」
「そうじゃないんだ。さっき僕は宿命のために大切な姉妹の命を奪ったと言ったけど、それだけが解決の道じゃないという考えもどこかにあると思ってるんだ。そう考えると苦しくなってきて」
「だがお前の答えは『裏切り』だった」
「裏切りだって?これは僕の信念に基づいた結果だ。他のドール達が甘すぎたんだ。皆平凡な毎日を過ごそうと必死で、でもそれも長くは続かないものだってわかってるくせに。内心イライラしていたんだ」
蒼星石は自業自得だよ、とでも言いたげな表情で語った。
「随分と殺気立った考え方だな」
「お互いにね」
蒼星石は思った。こんな何もない草臥れた世界でも自分と似通った人間がいるのだと。

−僕は今幾多の人々を殺していた男と会話をしている。
でもただの人殺しじゃない。青い瞳からは殺めたことによる後悔や罪の意識が感じ取れる。そういう目だった。
それはどこか遠くを見ているような気がして、とてももの悲しげだった。
蒼星石は思う、この男もまた、自分と同じように心に深い傷を負った人間なんだと。

「ねえ、ところでさっき話したように、僕はマスターを探しているんだ。良ければ君に…」
「冗談はよせよ。今の状態でも十分危険なんだ。その上で得体の知れないヤツらの抗争に加担するなんてヤバすぎる」
「そう、無理強いはしない」
「この世界のことが理解できたら、それどころじゃないってこともわかるさ」
男は立ち上がって、遥か遠くの方を眺めた。
「どうしたの?」
「来るぞ」
「来るって?」
「アンドイドどもだ!」
そう言うと男は窓から飛び降りた。
「死にたくなければついて来い!」
蒼星石は一瞬戸惑ったが、すぐに意を決して窓から飛び降りた。
「うわ!」
落とし穴にはまったかのようにとてつもなく高いビルから落下していく。
このままでは男は地面に叩きつけられて死んでしまう。
そんなことを考えていると、先程男が眺めていた方角から轟音とともに建物が崩壊していくのが見えた。
一体あれはなんなんだろう?
そして目を下に向けたとき、すぐ目の前には地面があった。
「レンピカ!」
咄嗟に人工精霊の名を呼ぶと、蒼星石は何事もなかったかのように地面に着陸する。
「彼は?」
「ここだ」
「あの高さから落ちて無事だったの?」
男は青く光る靴を鳴らした。
「衝撃吸収ブーツだ」
「へえ、そんなすごいものがあるんだ!」
蒼星石はなんだか好奇心が沸いてくる気がした。
「話している暇はない急ぐぞ!」
「わかったよ」
瓦礫の街の中を軽快に駆け抜ける男。
間違いなく危険な状況だが、蒼星石はそんなに焦りは感じなかった。
大昔に人間や姉妹達と遊びまわった時のような感覚。何かとても充実した気分に満ち溢れていた。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 03:10:02 ID:G0FMlmAv
水銀灯が目覚めてから、男の日々は今までになく充実していった。

親とも連絡を取る事も無く、友人らしい友人もいなかった男にとって、
水銀灯と言う命を持った少女人形が、掛け替えの無い存在になったのは言うまでも無く、
水銀灯の方も、自分を目覚めさせてくれた男を父親だと感じて大層慕っている日々だった。
また、男の手ほどきで料理なども覚え、
小さな身体で甲斐甲斐しく嬉しそうに料理を作っては、男に振舞うまでになっていった。
男もどうにか警備の仕事にありつき、以前より安定はしないものの、何とか暮らしは成り立っていた。

朝。男はいつもの様に目覚め、上半身を起こして軽くベッドで伸びをする。
中々爽快な目覚めだと男が思うと同時に、すぐその鼻にご飯の焚ける甘い匂いと、
味噌汁の香ばしい香りがもぐりこんで来る。水銀灯が作ってくれている朝ごはんだ。
流しの方に目をやると、小さな椅子を台にして炊事をしてくれている水銀灯の姿と、
美味しそうな匂いを醸し出している味噌汁の鍋が見える。


( おはようございます お父様 起きられましたか )


男が起きた事を感じ、にっこりと振り向く水銀灯。
その美しいドレスには不恰好としか言いようが無い、小さな白い割烹着のような服を上から着込んでいる。
水銀灯のドレスを汚さないようにと、どうにかこうにか男がこしらえた物らしい。
美しい銀が揺らめく長い白髪も、綺麗に纏め上げられている。
まるで昭和の時代に見られた、食事を作る地方家庭の母親の様な水銀灯の姿に、
男は毎朝えもいわれぬ嬉しさと懐かしさと温かさを感じていた。

「ああ。おはよう水銀灯・・・悪いな、いつもいつも・・・」
( それは 言わない約束ですよ )

「ははは 毎朝この会話から始まるな」
( でも わたし楽しいです こういう朝のごあいさつ )

男は苦笑しながら顔を洗ってくると水銀灯に言い、洗面所に向かう。
水銀灯は( はい )と笑顔で答えながら、小さな折り畳みテーブルに
よいしょよいしょと朝食を運んで行く。
男はその姿をチラチラ見ながら、この上ない幸せを感じつつ顔を洗った。

「それじゃあ、いただきます」
( はい いただきます )

熱々のじゃがいもと玉ねぎの味噌汁に、かりっと焼けた たこさんウィンナーと市販の漬物。
そしてふっくらと炊き上がった山盛りのご飯。男と水銀灯は手を合わせて朝食を口に運ぶ。
ふかふかのご飯の甘さと、絶妙な味加減の味噌汁が、男の胃と脳を一気に活性させていく。

「ズズッ・・・っ くあー・・・美味い、美味いなぁ!ほんとに美味い!」
( うふふ お父様 毎朝ちいさな男の子みたいですよ )

「そうは言ってもなぁ、本当に美味いんだから。でも、よく短期間でこんな味が出せるようになったなぁ」
( お父様のお教えが お役に立ってますから )

嬉しそうに微笑みながらそう言う水銀灯に、一人の時には絶対に感じ得なかった
安堵や幸せ、大事な者を庇護したいと言った感情と愛情が、男に湧き上がってくる。
この感情はあの日からずっと耐える事無く、男に生きる源のようなものを与え続けていた。
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 03:11:50 ID:G0FMlmAv
今日もその幸せを感じつつ、男は水銀灯にこう話す。

「今日の現場な、 モグモグ ちょっと・・・ズズ・・・遠いんだ」
( 食べながらのお話は おぎょうぎが悪いです お父様 )

「んグッ・・・モグモグ・・・ す、すまん。でな、今日は結構距離のある所での誘導なんだ」
( はい )

「それで帰りが結構遅くなると思うんだ。晩飯は買って帰るけど、その・・・暗くなるから」
( はい わかっています  わたし 暗いのへいきですから 気になさらないで下さい )

「すまんな、留守で誰も居ないはずの部屋に、明かりが点き出すと不振がられるから・・・」
( ごめんなさい 一度しっぱいしちゃいまして・・・ )

「ああ!いやいや、幸い両隣は今も空き室だから、そんなに気にするな。 な、水銀灯?」
( はい・・・ じゃあ暗くなるまでは ご本を読んでいてもいいんですよね? )

「そうしてくれるとありがたい。TVとかはカバー被せてイヤホンでなら、見てもだいじょうぶだから」
( わかりました )

どうと言うこと無い出社前の会話だったが、
水銀灯を迂闊に人目にさらす危険を避ける為に、毎朝確認する事でもあった。
その後は他愛も無く和気藹々とした会話で朝食が済み、男は出社の用意を、水銀灯は洗い物を始めた。
やがて水銀灯は洗い物を終え割烹着を脱ぎ、纏め上げた髪を下ろして、男を見送る準備をする。
身支度を終えた男は、ドア口で靴を履きながら水銀灯の方を振り返った。
その愛らしく美しい笑顔に、銀がきらめく白い長髪。そして水銀灯を纏うゴシック調のドレスとブーツ。
そのドレスとブーツの滑らかなほどに鮮やかだった白色が、日を追うごとに黒くなっているのを男は申し訳なく思った。
あの店主の、水銀灯が目覚めれば手入れは不要と言った事を鵜呑みにした自分を恥じながら、水銀灯を見つめる。
自分を見上げて、にこっと笑顔を返してくれる水銀灯に父性愛をくすぐられながらも、男は申し訳なさそうに口を開く。
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 03:12:39 ID:G0FMlmAv
「じゃあ、行って来るよ。近い内にそのドレス、ちゃんと洗ってやるからもう少しだけ、我慢してくれな」
( お気になさらないでください お父様  なんだかこの服 じぶんで黒くなってゆくんですから )

「いやいや・・・それが汚れというんだよ水銀灯」
(   ?   )

きょとんと首をかしげる水銀灯と苦笑する男。
自分の言っている事と水銀灯の言っている事にはどこかズレはあるが、それもまた会話の味と言うものだ。
男はそう思うことにした。途端にめまいがする。

( ! お お父様! )
「ん・・・んん、大丈夫、いつもの事だよ。もう気にしなくていいから、後はゆっくりしてなさい」

( ・・・でも・・・ )
「さ、もう行かなくちゃ。そうそう、本は新しいの図書館で借りてきてるから、続きが読めるぞ」

( ・・・はい・・・  じゃあ 気をつけて行ってきてくださいね )
「ん。行ってきます!なるべく早く帰ってくるから、留守番宜しくな」


( はい! お父様 )


男は微笑んで、水銀灯に小さく手を振りながらドアを閉めた。
ドアの内側には、水銀灯の少し寂しそうな顔だけが残っている。



やがて男の足音が聞こえなくなると、水銀灯は少し背伸びをしてそっと・・・ドアの鍵を掛けた。

177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 03:15:30 ID:G0FMlmAv
アンカー打てばよかった…
>>173さん、割り込みしてしまい申し訳ないです。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 10:50:46 ID:kXJaEPo2
二人とも乙!
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 17:07:03 ID:d0R3vhfi
糞銀燈や糞星石のSSはつまらない
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 18:10:01 ID:hjUKsJMd
>>174->>176
続きが気になるなぁ・・・。個人的な予測だが折り返し点が近い気がしたw
乙です
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 19:32:39 ID:BwGGBKRc
ふふ、なんという素晴らしいもの出してきやがる・・・
しかし途中どうしてもこれがよぎった

               。    _|\ _
            。 O   / 。  u `ー、___
          ゚  。 \ヽ / u ⌒'ヽ゛  u /   ゚
          -  ・。 / ; ゚(●)  u⌒ヽ i   @ 。
        ,  ゚ 0 ─ { U u r-(、_, )(●) .| / 。  ,'´ ̄ ̄`',
         ゚ ,,、,r-'⌒l u //トェェェ、 ) 。゚ / o    ,! ハ ハ !
      。 ゚ r-'⌒`ー-'´ヾ,. ir- r 、//u / 。 ・゚  l フ ム l
        ヾヽ、_,,,、-、/ミ,ヽヽ/ ノ_, -イ-、\   ∠  ハ ッ j
          ー = ^〜、 ̄r'´ ̄`''jヽ、  〃ヾ ゚ 。 ヽ フ   /
 jヽjvi、人ノl__     / /  ヽ´{ミ,_   ̄`'''-ヽヾ    ` ̄ ̄
 )   ハ   7      /  / `'='´l  ̄i'-、_,,ン ノ 。
 )   フ    て   /  /   !。 l  l  - ニ
 7   ッ    (  __ヽ、__l ___ .!。 l__l__,-=-,___
  )   !!     ( ,-=-, ∠ヾゞゝヽ ,-≡-,l  l-=二=-,
  ^⌒~^⌒^~⌒^└==┘   ̄ ̄ ̄ ヽ==ノヽ=ノ\__/
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 19:36:51 ID:wpcooCqi
>>173の続きまだー?
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/19(土) 23:33:44 ID:r1iWVjbq
>>179
同意。カナのSSの方が面白い
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 00:02:43 ID:L0HVGbQI
>>183自演乙
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 00:10:41 ID:aucMtYa9
自演荒らしの相手なんざしなさんな
せっかく投下もあったってのに
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 00:57:54 ID:p/DoHqHy
いつもの事とは言え、やっぱり少し退屈。

水銀灯は男が仕事に出かけてから少しの間だけ、そう思っていた。
だけどこれから楽しい家事が出来る。男の為に、自分の父親の為にしておいてあげられる事が出来る。
男がやらなくてもいいよといっていた洗濯物。しかし水銀灯は洗いたくて仕方が無かった。
普段はコインランドリーを使用する男が、念のためにと買っておいた洗濯板と大きな洗面器。
いや、洗面器ではなく、むしろタライと言った方がいいだろうか。
水銀灯はそれで洗濯物を洗い始めた。洗い方は男がやっていたのを見ていたので覚えている。
小さな手で こしこし こしこし と一生懸命洗う。洗剤をつけて こしこし こしこし と一生懸命洗う。

( お父様の しゃつ・・・ おおきい・・・ )
( お父様の おしごとの服 おおきい・・・ )
( お父様の くつした・・・ おおきい・・・ )
( お父様の したぎ・・・ ・・・ ・・・おおきい・・・ )

それぞれを洗いながらクスクスと楽しそうに小さく笑う水銀灯。
さすがに脱水は出来ないので、そのまま漬けおき洗いにしておく。これも男がやっていた事だ。
気がつくと水銀灯のドレスと顔は、泡まみれの水びたしになっている始末。

( びしょびしょ・・・ お父様もいないから あれ 使おうかしら )

水銀灯はそう思い、左手を上に挙げて人差し指を立てながら目を瞑る。
するとうっすらとした光が水銀灯の身体を纏い、ドレスや顔についた水と泡を消していく。
まるで水銀灯が頬を濡らす前のように、水銀灯がドレスを濡らす前のように、消えていく。
何も無かったように水銀灯の顔とドレスが、水と泡に塗れる(まみれる)前の状態にもどっていった。
何故水銀灯がこういう事を出来るのか当の水銀灯にも解らず、
いつの間にか出来るようになっていた、としか本人にも言いようが無かった。
何度か、割れた食器や濡れた衣服を男の前で元に戻して見せた事があったが、
それを見ていた男が度々苦しみだしたので、これは男が、父親がいる時に使ってはいけないものなのだと
無意識的に悟り、それ以来使わない様にと自分に言い聞かせていた事だったが、
今は男は仕事で居ないので、水銀灯はちょっとだけ使ってしまったのだった。

( きれいになった・・・ )

水銀灯は満足そうに頷き、洗濯物を漬けおきにして男が借りてきてくれた本を読み始める。
挿絵の入った童話が水銀灯のお気に入りで、それを色々と読んでいった。
中でも水銀灯が気に入ったのは「不思議の国のアリス」で、夢中になって読んでいた。

やがて安アパートのガラス窓に入る日差しの角度と量が変化し、昼の光が夕の赤みを含みだす。
視界に入る光の色が変化を帯びた事にようやく気付き、水銀灯は、ふっと顔を上げた。
夕方だ。ちょっと寂しい色。もうすぐしたらお父様が帰ってくる時間。
いつもなら。
でも今日は遅いと言っていた。本当なら夕飯を作ってあげて待っていたいけれど、誰かに見られたりするといけない。
だから大人しく待って差し上げるのが今の自分に出来る大事な事。
この空の灯りが続く間、本を読みながら、お父様が帰ってくるのを待とう。
水銀灯はそう思いながら、窓越しに夕の空を見上げた顔を下げ、また本を読む事にした。
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 00:59:22 ID:p/DoHqHy
 ・
 ・
 ・

( ・・・ ・・・ お父様 )

窓の外。

既に夕の赤が描いた世界の公演は幕を引かれ、変わって夜の濃紺と星の瞬きと言う新たな舞台へと、空は変化していた。
直視する事の叶わなかった、太陽と言う光に代わり、その姿を面々と直視する事が出来る月の光が、
水銀灯の薄く美しい色合いで作られた赤紫のグラスアイに、灯(ともしび)をともす様に反射する。
あれから更に時間は流れていたが、未だに男は帰っていなかった。
水銀灯の不安そうな呟きが、明かりと人気(ひとけ)の無い部屋に零れ落ちる。
お父様はどうしたんだろう・・・。ご連絡をしていただけないほど忙しいのだろうか・・・。
直接床においてある、型の古い電話機に目をやる水銀灯。
それが何なのか、どういう物なのか、どう使うのかは男・・・父親から教えてもらっていた。

遅くなる時はそれで連絡をくれていた。3度音が鳴って切れた後、もう一度鳴るのがお父様からのご連絡の証し。

( お父様・・・ もう まよなか です・・・ どうされているんですか お父様・・・ )

不安が募ってくる。
自分を包んでくれる温かくて大きな存在である、子供の様な一面を持つ優しい父親。それが今は影も形も見えない。


プルルルル! プルルルル!


電話だ!
水銀灯の心に光の花が開く。しかしここで取ってはいけない。そういう約束だ、男との・・・父親との約束だ。


プルルルル!


ここで一度切れるはず。水銀灯は待った。


プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


切れない?!どうして?!お父様じゃないの?!
だれ?!わたしはしらない!わたしは取れない!お父様とちがうと取っちゃいけないんだもの!


プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


別の意味で水銀灯の不安が見る見るうちに膨れ上がってくる。
こんな夜中に電話なんか一度もかかってきた事など無かったからだ。
しかもこの電話は男からでは、父親からではない。明らかに知らない者からだ。
でも、もしも、もしも・・・男からだったら、父親からだったらどうしよう。
水銀灯の心は葛藤を続けていた。そんな水銀灯を誘うように電話の音はいまだ続いている。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:07:31 ID:p/DoHqHy
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プッ・・・
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:08:42 ID:p/DoHqHy
5分ほど鳴っていただろうか。
水銀灯が意を決して恐る恐る受話器を取ろうと手を掛けようとした時、急にそれまで鳴っていた音が消えた。
あ・・・ と水銀灯が思うと同時に、月の灯りに照らされた窓の外に奇妙な影が入り込み、
そのシルエットが水銀灯を覆い隠そうとしてきた。そして再び電話が鳴り響く。先程よりも大きく。

プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!


( ひっ!? )


人ではない水銀灯が恐怖を感じる。
拙いながらも人と同じ感情が育ち、人として愛されてきただけに、それはもはや当然の心理だった。

ブツッ!

その恐怖を膨れ上がらすかのように、受話器も取っていないのに電話が勝手に喋り出す。


…ヒトヲマタセルノハ アマリヨロシクナイ…  ソウオシエラレマセンデシタカ… アナタノダイスキナ オトウサマニ… クククク… ブツッ!


奇怪な声が途切れる。同時に ゴッ… という音が水銀灯の後ろから聞こえた。
あの影が黒さを増しながら窓ガラスを抜けてくる。物理的に遮断された空間を無視して “ ヌメリ ” と入り込んでくる。

( なに・・・ これ・・・ )

それを水銀灯は怯えながらもただ見据える事しか出来なかった。
見据える事でしかこの恐怖に対抗する術が無かったからだった。
黒いそれは、ガラス窓の上部に上体を下に反らすようにして “ ズルン ” と入り込んできた。
いや、“半分”だけ入ってきたと言えばいいだろうか。
そして顔らしき部分に赤い二つの光が、縦を裂くように細長く光り始め、
頭らしき部分からは二つの細長い影が更に伸びだすと同時に、怯えて動けない水銀灯の意識に直接声が響いた。

((燭台は同なれど、ともる明かりは異に等しき。永久(とこしえ)には到底及ばぬとは言え、見事なものです))

喋った?!目の前の何かがわたしの心に直接話しかけてきた?!
わたしがお父様に話しかける手立てと同じ事をしてきた?!
自分が全く経験した事もない未知の何かが目の前に現れて、自分と同じ能力で自分の心に入り込んでくる。
水銀灯は混乱した。

((異形の奇である己が人である為の演者を続けても私には無意味。怖さなどお前には無の心理でしょう?))
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:09:37 ID:p/DoHqHy
逆さ状態の影が水銀灯の心にそう喋る。
この得体の知れない何かが何をしたいのか分からないが、自分に危害を加えるつもりは無いらしい。
そう思うと恐怖心は薄れ始める。しかしこの影の言った意味は判らない。

( あ・・・あなたは・・・ なにですか? どうして・・・ここにきたのですか? )
((ふむ。器は完全に形成されていますか・・・宜しい))
( こ 答えてください! )
((お前をその身体に呼び、器を形成させた者はもうすぐ死ぬでしょう・・・))
( !? ど どういう意味ですか?! )
((お前は何故そうしていられると思うのです。何故・・・お前が意思を持ち、その身体で動く事が出来ると思うのですか))
( 何を  言っているんですか?・・・わからないことは言わないで下さい )
((万物はすべからくその命を他に寄生する事で、他の命を奪う事で成り立っているのです))
( わたしには わからないです それにそんなことを聞きたいのではありません )
((笑止な事を。では砕いて教えてあげましょう。お前はあの者の命を吸い取る事で、今を生きてきたのです))
( ?! わ・・・わたしが お父様のいのちを 吸う?! そ そんな事などしていません! )
((信ずる信じずに関わらず、お前がこうして己の意思を持ち、動き、伝える事が出来るのが全ての証))
( ・・・い いったい何が言いたいのかわかりません! )
((お前は命を吸い続けました。男の命を糧にして。契約の指輪すら形成できない贋作の、抑制無き吸引で))
( わた・・・わたしは 何も知りません! それに わたしはお父様を愛していますから そんな事はしません! )
((では問いましょう。何故“ 時 ”を巻いたのです。指輪無き吸引は無作為の命吸。それを何度繰り返しました))
( とき? ときなんて知りません!わたしはお父様に何もしていません!どうしてそんないじわるを言うのですか? )
((幼きは残酷な罪の証。お前は昼間、自分の身体に何をしましたか。思い出しなさい))
( ひ ひる ま ? ・・・!? あ あれは・・・お お父様がいないから ・・・だから )
((存在の可視、不視は関係有りません。“ 時 ”を巻く事は、命の吸引を急速に増長する要因なのですよ))
( わた わたしはそんなこと  し  知らなかったんですもの! )
((お前は今知りました。生きて動けるこの事実を今知りました。それは偽り無き真実にして、今ここで発生し続ける現実))
( わ・・・ わたしが・・・ おとう さまの・・・いのちを吸って  生きてきた・・・ )
((お前が昼間“ 時 ”を巻いた事で、あの男は事故に遭いました))
( じ?! じこ!? )
((誘導の最中に飲酒をした者の暴走車に轢かれ、瀕死の状態になっています))
( ど どうして!? そ そんなのうそです!!! )
((逃げる時間はありました・・・しかし・・・“ 時 ”は男を弱らせ、暴走車を避ける事すらさせ得なかったのです・・・))


( あ   あああ・・・  そ  そん な・・・ )



((贋作であれ、真作であれ・・・時の流れは平行にして非ず。
  繋がりの環を望むも永久に遠き、成就無に等しく、都合届かぬメビウスの環になる表裏にしか成らず・・・))

191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:11:58 ID:p/DoHqHy
188だけああいう風に区切らないと後がうp出来ませんでした。すいません。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:18:07 ID:J8f27UfT
だから糞銀燈のSSつまらんっつーの
もう投下すんな
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:24:12 ID:jcJX9Tom
>>173
「やけに楽しそうな顔だな」
「昔を思い出しちゃってね」
「スリル大好き大いに結構。だが今はマジで危険だ。スピードを上げるぞ」
男の全身が薄っすらと赤く光ると、今までの倍の速度で走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
不規則に積み上げられた瓦礫が蒼星石を邪魔する。対照的に軽快に瓦礫をジャンプで飛び越えていく男。
「これじゃ置いていかれてしまう!邪魔だ!」
蒼星石は鋏を出現させると、衝撃波で瓦礫の山を吹き飛ばした。スクラップや建造物の一角が飛び散る。
走りながら男が後ろを振り返ると、瓦礫が次々と吹き飛ばされていくのが見えた。
「なんてヤツだ!あんなエネルギーギアを内蔵しているとは!」
次の瞬間には蒼星石は男のすぐ横を走っていた。
「やっと追いついた」
「そこのビル!」
落ち着く暇もなく男は正面のビルを指差し、人間とは思えないほどの跳躍力で飛び込んだ。
蒼星石も後に続く。
「なにしてる!こっちだ!」
瓦礫の中の小さな隙間に潜り込む男。
慌てて蒼星石が中に飛び込む。
「君はあいつらを倒すのが専門じゃなかったの?」
「君というのはよせ。ラスティだ」
男が自ら名を語るとは思わなかった。
「それじゃラスティ。なぜ戦わないの?」
「時と場合ってのがある。今はその『時』じゃない。アレが通り過ぎてからだ」
「アレ?」
「見ていろ。面白いものが見れる」
ビルが微かに振動し始める。やがて地震のように振動し始めた。
「来るぞ!」
「な、何なのあれ・・・」
二人の目の前には全長五十メートルほどの高さのロボットが立っていた。
四本足と青いカメラアイが不気味に光る。
「まるで蜘蛛だ」
「生物捕獲用装甲体『スパイダー』だ。アンドロイドどもが狩りのために造った悪趣味なデカブツだ」
「狩りって・・・人間を!」
「まあ見てろ」
四つの足に支えらた中心部から数本のケーブルが伸びてきた。
それらは瓦礫を弾き飛ばした。そこには外れなく、人間が隠れていた。
ケーブルの先からクローアームのようなものが出てきた。
それは怯える人間に迫ろうとしている。
「あの人、殺される!助けないと!」
蒼星石が飛び出そうとすると、ラスティは肩を引っ張って引き止めた。
「馬鹿言うな。俺が殺される。『時』を待て」
「そんな!目の前で人間が殺されようとしているんだよ!」
「もう遅い」
蒼星石が人間の方を振り返ると、人間は頭をクローで粉砕され、脳が飛び出していた。そこにケーブルからさらに小さなケーブルが出てくると、一気に人間の脳に向けて突き刺した。
「ひどい・・・なんであんなことを」
不機嫌そうな顔をする青星石。ラスティも良い顔をしなかった。
「いつ見ても気分がいいもんじゃない」
ラスティは地面の方を向いたまま目を瞑った。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:29:31 ID:8JCnD0qW
なんというコンボ・・・お二方gj過ぎる・・・
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:31:02 ID:aucMtYa9
二人とも乙であります
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:35:21 ID:jcJX9Tom
なんか独自のSFワールド展開しちゃってすいません。
最終的に人情ものに縮めるつもりなんで。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:36:59 ID:5veWRCUw
>>192
禿同!!!もっもっとノイローゼになって自殺するくらいにののしってやれーーー!!!
ほんとマジでニセ銀作文書きは新打法がいいよ?
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 01:37:46 ID:8JCnD0qW
チジメルなんてもったいないぜ!
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 12:51:29 ID:I7TabeKT
>>191>>193
乙なんだぜ!
続きがwktk!
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 16:48:44 ID:rH6CLoKM
>>191
分かっていたとはいえこの展開はきつい、これからどうなるんだろう
男はこのまま死ぬのか、水銀灯が吸ってきた命を戻すのか(出来るかは知らんけど)、それとも両方とも…
あと兎、死ね
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:07:04 ID:I7TabeKT
いやもう俺は贋作だろうが銀様と一緒に暮らせるならば死んでも悔いはない
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:17:01 ID:wHzeMJdo
水銀灯の心は砕け散ってしまいそうになっていた。
自分がこの世に生を受けた事で、自分が目覚めた事で、自分の父親である男の命を削り続けていた事実に。
その父親である男が今、自分の存在がきっかけで、自分の力がきっかけで、確実な死を迎えようとしている。

((やがてお前の意識もその身体から剥離し、消滅、人で言うなれば死を迎えるでしょう))

呆然となってうなだれていた水銀灯に、影が追い討ちをかける様に話す。
うなだれていた水銀灯の顔が、錆びたゼンマイのようにぎこちなく回り影を見る。
影を見る美しいガラスの瞳は、今まで男から頂いていた生気の宿り火を失いかけていた。

(  し・・・ ぬ・・・ )

水銀灯のその声は、もはや先ほどまでの透き通る美しいイメージは無く、壊れたトーキングドールの様な濁った声になっていた。

((そう。誰にも変え得る事が叶わぬ終着の場、お前と男の舞台は、閉幕を迎えます))
( わた しが  めざめてしまった から・・・すべては  わたし の せいな のです か? )
((男が望み、お前と言う意識を呼び、お前が目覚め、男と共にこの今を生きてきた、それは誰の罪でも有りません))
( それ な のに  それなの に  わたし は   どうして・・・ )
((男の命を削り続けたのが罪だと感じるのであれば、それは正解では有りません))
( な ぜ ? )
((お前は壊れかけた男の心を救い、癒し、生きる力を与えました。それは抗えぬ死への運命とは異なる、希望の力))
( わたし が  お父様 を  ? )
((お前も感じてきた筈です。男の愛情と抱擁の温かさを。お前が男を癒し、愛を芽生えさせたからこそ、得られたお前への愛を))

男の愛情と抱擁の温かさ。
影のその言葉に、目覚めてから今までの、男との楽しい日々や想いが、水銀灯の心に幻灯の様に映し出される。


わたしが初めて目覚めた時に、涙ぐんで強く温かく抱きしめてくれたお父様。
わたしの膝枕で、子供の様に安らかな寝顔を見せてくれたお父様。
わたしの手を取って歩く練習をさせてくれたお父様。
わたしが初めてお風呂に入った時に、優しくお湯を掛けてくれたお父様。
わたしの身体を優しく、そっと丁寧に洗ってくれたお父様。
わたしに大きなシャツを優しく着せてくれたお父様。
わたしに読み書きや挨拶を教えてくれたお父様。
わたしに色々な本を読んで聞かせてくれたお父様。
わたしに料理の仕方や掃除の仕方を教えてくれたお父様。
わたしを色々な所に人目を忍びながら連れて行ってくれたお父様。
わたしに人々の暮らしの色々な事を教えてくれたお父様。
わたしとテレビを見て涙を流していたお父様。
わたしとニュースを見て怒っていたお父様。
わたしにおどけて見せて、わたしを笑わせてくれたお父様。
わたしのちょっとした事に感動して、涙ぐんでくれたお父様。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:21:02 ID:wHzeMJdo
わたしと過ごしてくださった全ての日々に、笑顔と温かい抱擁が満ちていた。
わたしがずっとわたしでいられたのは、お父様がわたしを導いて、目覚めさせてくださったから。

わたしを人として見て下さって、妻として、恋人として、そして・・・お父様の最愛の娘として接して下さった想い。
その全てが、わたしが、わたしとして、今まで活動して来られた・・・生きて来られた証し。

楽しかった・・・ 嬉しかった・・・ ずっとこの時間が続くと・・・ ずっとそう信じていた・・・
それなのに・・・ それなのに・・・ わたしの為に・・・ わたしのせいで・・・
わたしの大好きな・・・ わたしの愛してやまないお父様が・・・ いなくなってしまう・・・



( お  おとう さま・・・  おとう さま・・・ )



胸に湧き上がる切なさと、失いたくない記憶、想い。
失いたくない、大きな、大きな、父親と言う、掛け替えの無い愛。
光が消えかけた水銀灯のグラスアイに雫の潤いが満ち、それが涙となって、水銀灯の頬を伝った。

( おとうさま・・・ おとうさま・・・ )

水銀灯の華奢な両腕がキシキシと力なく動き、小さな白い掌が自身の顔を覆う。
影はその様子を沈黙を持って見ていたが、やがて静かに、水銀灯の心にはっきりと問いかけてきた。

((男はもう死ぬでしょう。それは免れぬ黄泉への出立。しかし・・・お前はまだ動けるのです。・・・お前はどうしたいのです))

その言葉に水銀灯の顔を覆っていた掌が降ろされる。
憔悴の表情と濡れたグラスアイがあまりにも痛々しかった。

((もう一度だけ尋ねましょう。お前はどうしたいのです))

心に響いてくる影の声に水銀灯は反応しなかった。
しかし光を失いかけたグラスアイだけは、その影をしっかりと見据えている。
影は、涙で濡れた水銀灯のグラスアイに灯っていた光が、
先程より僅かに色を変えているのを確認し、それを返答だと読み取った。

((・・・自ら吸引を・・・男からの供給を絶ちましたか。成る程、その手立てをよく見つけられたものです))
( ・・・・・・ )

((では、願いなさい。強く、何よりもお前の愛しい者の為に、願うのです))
( ・・・つヨ く・・・ )

((その纏いの白が、お前に滞留している少なき命を燃して煤(すす)となり、お前の願いを光に変えるでしょう))
( ね ガう・・・  おとうさ マ・・・  お と・・・さマ )

((今まで男の安否を願う度、纏いはそれを受け煤となしてきた、その願いを今、容に変えるのです))
( お とウ さま・・・   お父様!! )
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:24:00 ID:wHzeMJdo
言葉すら構築する事が困難になり始めた水銀灯が全ての想いで願う。
それは男の元へ、自らの身体を、意思を、父親の元へと羽ばたかせる事。
水銀灯は願う。ただ願う。傾きかけた身体を祈りの姿に変えて、ただ願う。
やがて水銀灯の背に柔らかい、しかし確かな光が宿り始め、容を成してゆく。
それと共に、黒の滲みが、鮮やかさを残していた白きドレスとブーツを覆い尽くし始め、
そして鮮やかだった水銀灯の白髪からも白を奪い始め、内に眠る銀を露にし始めた。
その白を吸い取りながら、水銀灯の背に、光を纏った容が広がり始めた。

それは、光の翼。

水銀灯の願いが、想いが容となり、その背に鮮やかに光を放つ翼を創り上げていた。
“ バサリ ” と翼が羽ばたき、祈りの姿で座る水銀灯の身体をギギギと立ち上げさせる。
その光は影だった者の姿から黒を奪い、その姿を、本来の姿を露にさせてゆく。
そして影は掻き消され、替わって、光の中に立ち上がり、タキシードを着込みシルクハットを被る、兎の顔を持つ者を出現させていた。

((偽りの纏は、清き願いの光の中では愚に等しかったようで・・・))

その姿が水銀灯のグラスアイに写りこむ。
水銀灯はその姿をどこかで見た記憶がある。
そう。まるであの本に出てくる、不思議の国のアリスに出てくる、ウサギの様だと。

( あ・・・ アリ すの  ・・・ヒ ト )

((逆十字(リバースクロス)が黒を退け、白に染まりし今こそ・・・お行きなさい、偽りの燈(ともしび)、あの男のアリス・・・水銀灯))

兎の顔を持つ者はそう恭しく(うやうやしく)言い、
ダンスを求める礼の様にシルクハットを脱ぎつつ、水銀灯にうなだれながらガラス窓を掌で指し示す。
その掌の求めにガラス窓は消え、濃紺な色の夜空と月が水銀灯を出迎えた。

水銀灯は、目覚めたあの時の様なぎこちない動きで二歩三歩と窓辺に足を運び、
そしてその身体を月の夜空に飛翔させていった。
やがて水銀灯の姿が見えなくなると、兎の顔を持つ者も虚空へとその姿を掻き消してしまう。
意図を解さぬ言葉を残して。



     二つの光 交わりて 紅の結晶を創り給わんとす
     幾年月 真作生まれし度 業に塗れ

     人を模し物を創りし度 寄代を求め
     二つの光 紅の結晶に創り変えん

     ただ それだけの業を願うが為に
     魂の光が 真の燈の呼び水となりて



     『 罪深きは   ローゼンなり 』


205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:29:32 ID:wHzeMJdo
あと1/3ぐらいです。展開がナニでアレですが、どうか多めに・・・
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:35:51 ID:8JCnD0qW
あれ、目から液体が・・・
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/20(日) 23:59:55 ID:I7TabeKT
投下連日のGJです!
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 00:01:19 ID:MhLEZ9IY
ああ…なんか変な言葉でレスしちまったorz
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 01:33:55 ID:YGjcAVEN
さっさと終わらせろよ糞銀燈の糞SSなんか
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 12:44:30 ID:61hqxqaj
乙です
水銀灯の純情さに(ノд`)
「紅の水晶」に別のドールたちの気配を感じたが、さてこれからどうなるのだろう
211ロックマンJUM:2008/01/21(月) 21:40:58 ID:/zu9eoHw
何か荒れてるなぁ


このタイミングで投下しても大丈夫かな?
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 22:39:50 ID:YehQ3Lnt
荒れてるのはいつものあの件、誰が何投下しても同じ事しか言わない人
投下はばっち来い!
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 22:58:44 ID:wPpl9o0G
209が一人で荒らしてるだけ
投下は誰でも大歓迎さ
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:23:56 ID:TOMLt5zW
濃紺の月夜に薄い光の粒子が、細く儚い帯をなして糸の様な線を描いてゆく。

水銀灯は飛んだ。愛しい父親の元へ。
どこに居るのかなんて判らない。どこに行けば父親を見つけられるのかなんて判らない。
だけど解る。はっきりと解る。
心が、自分と言う魂が、自分をこの身体に呼び寄せてくれた父親の心を、魂を求めている。


会いたい 逢いたい ごめんなさい わたしの為に わたしのせいで
こんなわたしを呼んでくださって こんなわたしを目覚めさせてくださって こんなわたしを愛してくださって
でも嬉しかった 本当に嬉しかった 今まで育ててくださって 今まで愛でてくださって
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい

わたしの・・・ わたしの愛してやまない・・・ ただ一人のお父様!


水銀灯の懺悔と後悔、愛された想いと愛する想いに呼応するように、光の翼は水銀灯の身体を男の元へと導いていく。
光の帯が夜空に軌跡を残すにつれ、水銀灯の白い身体も少しづつくすみ、ピシピシと小さな亀裂を作り始めていた。
そして翼の光が強くなり、更なる速みを増しながら水銀灯の身体を男の元へと導く。


 ・
 ・
 ・


有栖川と言う珍しい名を持つ大学病院の
集中治療室のカーテンが引かれた一角に、助かる見込みの無い人間が運び込まれていた。
水銀灯の父親を演じ続けてきた、あの男だった。
身体の損壊が酷く、病院に運び込まれた時点で既に手の施しようが無い状態だった為、
出来うる限りの応急処置と延命措置が施される他、手立てが無かった。
目は開いているものの、意識らしい意識は殆ど無く、脳死に近いような状態であり、
ベッドの側には人工心肺装置と心電図、無数の包帯とギブス、点滴と保護カバーが、損壊した男の身体を覆っていた。
シューシューと言う人工心肺の音と、 ピッ   ピッ と言う不安定な音を立てる心電モニターだけが、
男が今を辛うじて生きている事を知らせていた。
その灯り(あかり)の落ちた一室の窓側に、 ふっ と、うっすらと淡い光が灯る。
鍵が掛かっている筈の窓が少しだけ開き、外界の空気を導き入れながら、男が寝かされているベッドのカーテンを僅かに揺らした。

  カツッ ドッ…

何か小さな物が落ちる様な音がしたかと思うと、続いて少し硬さのある音が、
何かを引きずるような音と混ざりながら男のベッドに近付いてゆく。

  キシッ  ズズ  コツッ  ガタッ…   キシッ  ズズ  コツッ  ガタッ…
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:25:03 ID:TOMLt5zW
それは水銀灯だった。
必死に飛び続け、遂に男の元に辿りついた水銀灯の身体は、かつての柔らかさを失いあちらこちらがひび割れを起こし、薄黒く くすんでいる。
光の翼に想いを注ぎ込み、男からの命の吸引を、供給を自ら断ち、滞留した残り少ない命を使い続けた為の結果だった。
水銀灯の願いと命を吸い取り続け、色の変わったドレスとブーツだけが、嫌味の様に滑らかな黒色の無傷さを誇示している。
ボロボロになり、光の翼も消えた小さな身体の水銀灯は、自由に動かせなくなった腕を何とか使い、男のカーテンを必死にめくっていく。

( ヲ オと おさマ・・・  おとう サま!! )

そして、命の灯火を殆ど失ってしまった水銀灯の赤紫のグラスアイに、
変わり果てた男の姿が映ると、水銀灯の顔がすぐにくしゃくしゃの泣き顔に変わった。
しかし・・・涙は出ない。とめどなく溢れる筈の涙すら、もう・・・流せなくなっていた。
生気溢れる人の命を持つ“ 者 ”から、生気枯れ果てようとしている人を模った(かたどった)“ 物 ”へと変わり果てようとしてる証だった。


こんなに悲しいのに・・・ こんなに辛いのに・・・ もう・・・ 泣いて涙を流す事すら・・・ 出来ないなんて・・・

お父様が・・・ こんな・・・ こんな痛々しい姿になってしまったのは・・・ 全てわたしのせい・・・


何とか気を保っていた水銀灯の心が、今度こそ砕けてしまいそうになったその時。
水銀灯の心に声が流れてきた。

(・・・その声は、水銀灯なのかい・・・)

( ?! ォ お トウさま? )

水銀灯は自分の心に流れ込んできた声に自分自身を疑った。
それは間違いなく自分の愛する男の声だったが、
明らかに喋ってはいない上に、瞳孔の開きかけた目は病室の天井に向いたままだったからだ。

(・・・ごめんな、帰れなくなって・・・晩飯買えなくて・・・)

( お・・・とう・・・s ま )

男は損壊した肉体に辛うじて繋ぎとめられている魂で、その自分の心で、直接水銀灯の魂に話しかけてきていた。
枯れ尽きた筈の涙という泉が、水銀灯のガラスの瞳に再び潤い、くすんで表層が剥離しかけた水銀灯の頬に伝う。

( おとうさま・・・おとうさま・・・おと ぅ ・・・s )

濁り、言葉も不明瞭になりかけていた水銀灯の言葉が再び透き通りだし、そしてそのまま嗚咽に変わる。
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:26:19 ID:TOMLt5zW
( ごめ ん なさ い  ・・・ごめん なさい・・・ わた s ・・・ わたしの せ いで・・・ )
(・・・何故泣くんだ・・・これは俺自身が避け切れなかった不注意からさ。ははは、情けないもんだ・・・)
( ちが・・・ 違うんです・・・ わたしが わたしが今ま で  ・・・お父様のいのちを吸ってきてしまったk から・・・ だから )
(・・・そうか・・・感じてない訳じゃなかったけど、でも、そんな事俺には関係なかったんだぞ、水銀灯?・・・)
( どうし て? だって・・・だってあのアリスの人が・・・そう言ったんです )
(・・・ああ、誰の事だか何となく判るよ。でもな水銀灯、俺だっていつかは死ぬんだし、それが早いか遅いかだけさ・・・)
( そんなのいやです!! お父様はしんではいけません!! お願いです!! しなないで!! しなないで!! )
(・・・水銀灯。きっと悲しい顔で泣いてくれているんだろうね。でもごめんな、もう何も見えないんだ、動けないんだ・・・)
( あ ああ・・・ いや・・・ いやです・・・ いやです!! そんなこと言わないで!! 言わないで!! )
(・・・水銀灯、泣かないで聞いてくれるかい。俺、すごく嬉しかった、お前と出会えて。お前が目覚めてくれて・・・)
( うっ・・・ う・・・ おとう さま )
(・・・お前と出会えなかったら、きっと自暴自棄になって、本当に自殺とかしてたかもしれないんだ・・・)
( おとう さま・・・ お  とうさ ま・・・ )
(・・・お前は、俺に生きる希望と力、大事な人を愛する事や、守りたいって心から思える感情を育んでくれた・・・)
( お・・・とう さま )


(・・・・・・愛しているよ 水銀灯 ずっとずっと  誰よりも一番に 誰よりも君を愛してい る・・・水銀 灯・・・・・・)


自身の心に優しく流れた男の心からの言葉。だが、男の心がその言葉と共に消えかける。
水銀灯は “ ハッ!? ”として男を呼び戻そうと必死に声を掛けた。


( わたしも誰よりもお父様を愛しています!!! だから! だからしなないで!! )


必死に水銀灯の腕が保護カバーが被さったままの男の身体に触れようとするが、
ギチチチと鈍く音を立て動かした片手がブヂンと音を立ててダランと下がる。

( おねがい!! まだこわれないで!! わたしのゆうことを聞いて!! わたしのうで!! )

その言葉に相反するように、どうにか水銀灯の身体を支えていた、
かつて美しかった片脚が、膝の球体関節からバギッと壊れ、水銀灯の身体を床に倒してしまう。

( っ・・・く お父様! お父様!! お父様っ!!! )

お父様の意識が、魂がいなくなってしまう・・・そんなことはさせない!誰にもそんな事はさせないっ!!


( もうわたしの身体はチリになってもいい!! だから、だからもう一度! もう一度だけお父様をわたしのこの胸に!! )


その悲痛なほどの魂の叫びに、水銀灯の背が最後の灯火を宿し、光の翼を甦らせる。
しかし飛ぶ事はもう出来ない。
水銀灯の身体を持ち上げ、かろうじて動かせる事が出来るもう片方の腕を、
保護カバーから辛うじて覗く男のボロボロの腕に添えることしか出来ない。
だがそれで十分だった。
男のベッドにもたれかかるように半身を預け、砕け、千切れ下がった片脚と片腕を投げ出しながら水銀灯は更に願う。


( お父様! お父様!! お父様っ!!! わたしは! わたしはお父様と一緒です!! いつまでも! どこまでも! )



その言葉に翼が今までにない白色の光を放ち、男の身体と水銀灯の体を瞬時に包んでいった。

217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:28:00 ID:TOMLt5zW
━━水銀灯? 水銀灯・・・来ちゃったのか・・・こぉら、ダメだろ━━

 ( お父様こそ、だめです。こんな所に来ちゃ い け ま せ ん )

━━ふぅ・・・そんな子供に言うような言い方やめてくれよ。俺いいオッサンなんだから━━

 ( わたしにはお父様はお父様ですけれど・・・わたしの子供みたいなものですもの )

━━な?そんなの初めて聞いたぞ。俺そんなに子供っぽいところあったか?━━

 ( だって、わたしの膝に甘えに来てくださる時なんて、可愛い子供そのものですもの )

━━は ははははは! い、いやその・・・まいったなぁ・・・だって水銀灯の膝は気持ちいいし、安心できるしさぁ━━

 ( でしょう? うふふ。これからもずっと一緒です、お父様。行きましょう )

━━・・・いいのか水銀灯は?━━

 ( はい!わたしはずっと・・・ずっとお父様のそばにいます。ずっといつまでも愛してください・・・ )

━━水銀灯・・・もちろんじゃないか!俺は永遠にだってお前を愛すると誓える!誰にも邪魔はさせない━━

 ( じゃあ・・・ )






━━行こうか━━

 ( はいっ! )




俺と水銀灯の
わたしとお父様の


あの世界へ。

218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:31:40 ID:TOMLt5zW
    ピ――――――――――


重態患者の命を知らせる心電モニターが甲高い音を立てて鳴り響く。
僅かに心音を表していた小さな波は、何の変化もない平坦な図を示すだけだった。

男は死んだ。

そのすぐ側には、焼け焦げたような色の1メートル前後の大きさを持つ、少女を模した人形がベッドにしな垂れかかっている。
あちこちがひび割れ、片手片脚が砕け千切れている、バサバサの長い髪を持つ、出来損ないの焼け焦げたマネキン。
ただ、その人形に着せられている服とブーツだけが、新品の鮮やかな滑らかさを持つ、生地の黒さを輝かせていた。
そして、マネキンの長い睫毛に覆われた赤紫の濁ったガラスの瞳が、モニターの薄緑色を反射させていた。



ただ無機質に・・・反射させていた。


   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:38:39 ID:YehQ3Lnt
ここで終わり、か…?

俺は今・・・猛烈に感動している…
ぬあああああああああああくぁwセdrftgyふじうこいぉ;p
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/21(月) 23:41:38 ID:TOMLt5zW
なんか見もフタもない内容ですいません。
次の更新で本来書きたかった部分に到達しますんで・・・
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 00:49:19 ID:EJio1SMG
>>193
蒼星石が男の肩に触れると、脳裏に残像のようなものが流れ込んできた。
(これは・・・彼の記憶の一部?)
若い女性、中年の女性、飛び散る血、そして涙の雫。
グロテスクなものが次々と蒼星石の頭に、目に明確なビジョンとして流れ込んでくる。
(ひどい・・・なんて苦しい過去なんだ)
彼女がラスティの記憶の断片を見ている中、彼はスパイダーをじっと観察していた
研ぎ済まれた感性を集中させ、鋭く中央コア部分を凝視する。足やケーブルは止まっていて、完全に停止している。
「時間だ。何を泣いている」
「え?」
蒼星石は気がつくと、頬から涙が零れ落ちていた。
「涙を流すなんて久々かな」
「赤の他人のために泣く必要はない」
ラスティの顔が始めて会った頃のように無骨なものに戻っている。
「泣いたことはないのかい?」
スパイダーのコア部分から人間の形をした物体が降りてくるのが見えると、ラスティは体性を起こした。
「涙?そんなものは枯れ果てた!」
そう言って瓦礫から飛び出すした。
正面に銃を構える人間のような姿をした物体、アンドロイドに突っ込んでいく。
ラスティは速かった。アンドロイドが銃を構える頃には既に終わっていた。
アンドロイド達は綺麗な断面図を描き、胴体を切り裂かれていた。
「終わった」
蒼星石は壊れたアンドロイドの中に佇むラスティの方へ向かった。
「今日はもう終わりだ」
「君は本当に人間?」
「ああ」
どう見ても人間とは思えない動き。彼もアンドロイド?という疑念が過ぎったが、きっと進んだ世界の技術なんだろうと結論付けておくことにした。
それよりも今は一刻も早くこの場から離れたかった。臓器や血が飛び散り、生々しい殺戮現場と化しているようなところには一分一秒でもいたくなかった。
「ねえ、そろそろ帰ろうよ」
「俺に帰る場所はない。ただ放浪するだけだ。それに」
ラスティは言葉を切ると、今はただの死体と化した人間のところへ行き、ナイフで胴体を切断した。
死体は強力な酸を浴びたかのように蒸発していった。
「こいつらの後始末もしておかないと後々厄介なことになる」
そう言ってスクラップとなった車の下敷きになった死体へ近寄る。
その時、蒼星石の脳裏に死体が動き出すビジョン、デジャヴが起こった。
「危ない!」
「!?」
ラスティが気づいたときには、死体の手は鋭い剣のようなものになっていた。
蒼星石は咄嗟に鋏を投げつける。
「間に合え!」
死体が手を振りかざした瞬間、鋏は脳を貫き、そのまま蒸発した。
ラスティは蒼星石の方を振り返った。
「つまりこういうことになるわけだ」
「ここからは危険な匂いがする。早く離れよう」
「そう言うなら仕方ない。命の恩人に逆らうわけにもいかないからな」
「恩人だなんて。大げさすぎるよ」
「この世界で他人を救うようなヤツはいない。お前くらいなもんさ、そんなお人好しは。さ、行くぞ」
二人はすぐにその場を去った。
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 00:59:05 ID:gY0Fi4qa
>>220
>>221
お疲れ。二人ともGJ過ぎる!!
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 01:10:35 ID:EJio1SMG
>>221
一応ラスティには寝場所にしている隠れ家はいくつかあるらしく、その内で最も近い場所に寄る事にした。
そこはこの荒廃した街の中では唯一まともに形が残っている木造の家―といっても屋根は穴だらけで窓ガラスも割れているが―で休むことにした。
隠れ家に着いた頃には既に外は真っ暗で、荒廃した街並みがより一層不気味さを高まらせていた。
「ここが家なんだね」
「とはいっても勝手に住んでるだけだがな」
ラスティは家に入ると、正面の階段の裏に回り地下室への秘密のドアを開けた。
「こっちだ」
中に入って電気をつけると、そこは先ほどまで見てきた街とは打って変わってとても綺麗な部屋だった。
「この家の持ち主が避難シェルターとして使っていた場所だ。電力は永久供給できる。植物栽培もできる」
「へえ、こんなすごいところ初めて見たよ」
蒼星石は驚きの眼差しであたりを見回す。
「適当な場所を探して休んでくれ」
「ラスティは寝ないの?」
「お前が寝てからにする」
ラスティは蒼星石を寝室へ案内した。
「ここだ」
「あの、できない相談かもしれないけど」
「なんだ?」
「できれば鞄の中で眠りたいんだ」
「鞄?最初に入っていたあの鞄か?」
「そう」
ラスティは少し考えた。蒼星石は不安そうな顔をした。
「今日は無理だ。後日考えよう。今日はここで我慢してくれ」
「いや別にいいんだ。無理を言ってごめん」
寝室には大きなベッドが二つ並んでいた。
蒼星石はベッドの中に潜り込むと、疲労からすぐに寝てしまった。

それから1ヶ月ほど、そういう生活が続いた。
1ヶ月も暮らしていると、この世界の状況が大よそつかめてくる。
蒼星石も何度かラスティとともにアンドロイドを破壊したが、あまり気分の良い物ではなかった。
自分達と同じ造られし存在を破壊する行為というのはどうも気分が悪い。
ちなみに鞄はラスティがいつの間にか見つけてきてくれたらしく、蒼星石が寝室に入った時無愛想に床に置かれていた。
寝室はあるのに、彼が寝ている姿を見ることは一度もなかった。
そんなある日の夜、蒼星石は思い切って尋ねてみることにした。
「ねえラスティ」
「なんだ?」
「君はどうして寝ないんだい?」
「関係ないことだ。それに俺は必要最低限の睡眠に相当する薬を投与している」
「そんなことして体に良いはずがないよ。前から気になっていたんだ」
「話したところでつまらんことだ」
「僕達は仲間だ。つまらないと思うことはないよ」
ラスティは黙り込んだが、しばらくして重い口を開いた。
「あれは十年前、俺がまだガキのころだった。まだ人間が社会の最高地位に存在していた時代。それが終わりを告げた日だった」
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 01:32:36 ID:EJio1SMG
>>223
その日ラスティは政府軍大学の講義を終え、家に帰るところだった。
いつものようにスーパーカーでハイウェイを爆走していた。
彼の家は街から数十キロ離れた郊外にあった。住民はごくわずかで、静かなところだった。
「まったく、世界最高府の大学とはいえ、軍隊に関することばかりじゃ体が持たないぜ」
車のスピードを上げ、次々と車を追い抜いて行く。この疾走感が心地良い。
「遅い遅い!ん?なんだあれ?」
モニターに映っていたのは、都市のビル群に接近しつつある筒状の物体であった。
「ミサイル?映画の撮影か?」
そう考えたがこれは大胆すぎる。ではいったい何か、などと考えているうちにミサイルはビルに衝突した。
途端にとてつもない爆発が起こる。
ラスティは目の前が真っ白になった。わけもわからずただ叫んだ。
それからしばらくしてふと目が覚めた。
あたりは炎に包まれ、ハイウェイは半壊していた。
ほとんどの車は使い物にならなくなっており、人々も死に絶えていた。
「(俺は助かったのか?一体何が・・・)」
家族のことが頭を過ぎる。
「(そうだ、親父、母さん、エリン!)」
ラスティは走った。壊れたハイウェイをひたすら走った。
体のあちこちが痛む。それでも走った。
走り続けて数時間、家に着いた時には息も切れ切れ、今にも倒れそうだった。
ラスティは家のドアを蹴り飛ばし中に入った。
「親父!どこだ?母さん!」
すると、家の奥から懐中電灯の小さな明かりが見えた。
段々と近づいていくる。
「ラスティ!無事だったんだな!」
「ああ。それより一体何が?母さんとエリンもいないし」
「さっきニュースで世界各地で戦争が起こったと言ってた。ここも安全じゃなくなる」
「戦争?ああ、なんてこった!でもそれより母さんたちは?」
「街へ出かけた。俺は今から探しに行ってくる。お前は家の中で待ってろ」
「あ、ああ。俺にはもう何がなんだか」
父親が出て行くと、ラスティはすぐに自分の部屋に戻って寝てしまった。
結局その日、父親が帰ってくることはなかった。

「それでお父さんはどうなったの?」
「帰ってきた。俺を殺しに家族と一緒にな」
「殺しにって・・・お父さんじゃないか!」
「街へ行ったときにスパイダーに頭をやられたんだ。外見は人でも中身は殺人マシーンだ」
「そんな!ひどすぎる」
「親父はまだ意識があったのか、俺を撃てと言った。だがそんなことできるはずがない。しかしやらなければ殺される。泣く泣く俺は護身用の銃で親父の頭をぶち抜いたさ。そのままお袋と妹もな」
蒼星石は胸が辛くなるのを感じた。
「あれ以来、寝ていると誰かが殺しに来る夢を見るようになり、恐ろしくて眠れなかった。実際に遅いに来たやつもいる」
ラスティの顔はとても悲しげだった。
蒼星石は触れてはいけないところに触れてしまった気がして申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。無理な詮索をしちゃって」
「いや、いい。ただ、俺もお前も仲間を殺しながらも生きている。その事実だけは忘れないようにするんだな」
そういってラスティはベッドに入った。
「あれ?今日は寝るの?」
「話したら久々に眠りたくなってきた。今日は眠らせてくれ」
「うん、睡眠は大事だからね」
徐々に心を開きつつあるラスティのことを嬉しく思い、蒼星石もまた深い眠りに着いた。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 01:57:17 ID:EJio1SMG
>>224
しかし別れは突然やってきた。
この世界に平穏などありはしない。
いつものようにラスティはアンドロイド狩りに出かけて、帰ってくる。
それだけのはずだった。
部屋の隠し扉が開く音がした。
「おかえり」
蒼星石が出迎えるが、ラスティは無反応だった。
いつもなら無愛想ながら返事はしてくれた。明らかに様子がおかしい。顔も青ざめている。
「どうしたの?」
「お前に頼みがある」
「なんだい?」
「俺を殺してくれ」
「え?」
蒼星石は一瞬、凍ったかのように止まった。
「頼む。俺を殺してくれ!」
ラスティは普段の調子を取り乱して叫んだ。
「一体何があったの?いきなり殺せだなんて!」
ラスティは蒼星石の両肩を着かんで、目を見つめた。
「よく聞け。アンドロイドに捕まって変な改造をされた!多分このままじゃ洗脳されて俺じゃなくなる。くそ!なんて失敗だ!俺はもうおしまいだ!」
ラスティは気が狂ったかのように壁を叩いた。
「お、落ち着いて!なんとかなるよ!」
とは言ったものの具体的な案はなかった。
「なんとかなる?ふざけるな!こうしている間にも俺の脳は破壊されてるんだ!すでに自殺できないようにプログラムが働きかけてる!畜生!なんてこった!」
「だからって・・・僕に殺せだなんてやめてよ!もう嫌なんだ!」
蒼星石は涙を流した。
「もうこれ以上大切な人の命を奪うのは・・・嫌なんだ」
取り乱していたラスティは蒼星石の頭に手を置いた。
「良かった。お前はまだ生きる資格がある」
「え?」
「俺は何人も殺しているが、既に罪悪感なんてない。それどころか生き甲斐とすら感じる時もあった。こんなの人じゃない。ただの殺人鬼だ。だがお前は違う。罪の意識があるだけでも十分だ」
「そんなことない!君だって罪悪感を感じていたはずだ」
「大昔の話だ。ここまできたらもう後戻りはできない。だがお前にはまだ未来がある。悔い改めることはいくらでもできる。そんなヤツに殺してくれだなんて言った俺が馬鹿だった」
ラスティは腰からナイフを取り出した。
「さあ行け!俺はなんとか頭を掻っ切ってみる」
ラスティは頭にナイフを向けた。蒼星石はそれを掴んで必死に止めた。
「駄目だよ!今までだってなんとかなったじゃないか。今度だって!」
「もう無理なんだ!頭を弄くられたら死ぬしか道はないんだよ!」
二人が争っていると、いきなり部屋自体が揺れた。
「うわあ!」
激しい揺れに二人は床に叩きつけられた。
「いたた、一体何が・・・あ・・・」
蒼星石が顔を上げると、そこに立っていたのはアンドロイドだった。
青い目を光らせ、右手のソードで蒼星石を貫こうとしていた。
アンドロイドが腕を振り上げる。
蒼星石は鋏を構えようとするが間に合わない。
「くっ!」
やられた、と思った。恐る恐る目を開くと、そこに立っていたのはラスティだった。
「手間かせさせやがって・・・うぐ・・・」
アンドロイドのソードは見事にラスティの胴体を貫き、腹からは血が大量に零れていた。
「ラスティ!」
ラスティは渾身の力を振り絞ってナイフでアンドロイドの首を切り裂いた。
アンドロイドはその場に立ち尽くしたまま機能を停止している。
「ここがバレるとはな」
ラスティは突き刺さったソードを抜き取り、その場に倒れこんだ。
「しっかして!ラスティ!」
ラスティは息も絶え絶えながら、震える手で蒼星石の頭に手を置いた。
「これで楽に死ねる。お前に殺してもらわなくて良かったよ」
大量の血が口から流れている。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 02:20:12 ID:EJio1SMG
>>225
「もう喋っちゃダメだよ!」
「いいんだ。俺はもうすぐ死ぬ。だから最後の言葉だけ聞いてくれ」
蒼星石はこれ以上何も言わなかった。彼が死ぬのを止めることはできない。
それに死ぬことが彼の望みでもあったのだから。
「わかったよ」
「このメモリーペンダントを持っていてくれ」
ラスティはポケットから小さなクリスタルのようなものを取り出し、蒼星石に渡した。
「これは?
「俺の今までの生きた証が入ってる。つまり日記だ。これから先はお前がこいつに日記をつけてやってほしい」
「約束する。必ず」
「それを聞いて安心した。これでやっと逝けるぜ。蒼星石、会えて嬉しかったぜ。久々に人間に戻れた」
死んだ。そして最後に初めて名前で呼んでくれた。
蒼星石はラスティの瞼を伏せてやった。
「ラスティ、君のことは忘れないよ。短い間だったけど、それはとても貴重な時間だった。それは絶対に忘れない」
ラスティは自分のことを殺人鬼だと思っていた。しかし少なくとも蒼星石はそうは思わなかった。
彼は非常に人間的で、物事を罪深く考えすぎていただけなのだと蒼星石は思っていた。

停止していたアンドロイドの腕が動き出す。
ソードはラスティの前に立っている蒼星石の胴体を切り裂く。
それがアンドロイドの最後だった。それとともに蒼星石の最後でもあった。
「う・・・(動けない。それに段々意識も遠のいていく)」
蒼星石はああ、これが死ぬってことなんだなと思った。
(もういいや。これで死ねるなら。僕も後を追うよラスティ)
「いいわけないよ・・・」
蒼星石は泣きながら独り言を言った。
「たった今交わした約束を反故にするなんて・・・いいわけないじゃないか」
しかしもはや蒼星石に起き上がるだけの力はなかった。
クリスタルを取り出す。録音のスイッチを入れた。
「最初で最後の日記だ。ラスティ、初めての日記だけどこれが最後になりそうだよ」
蒼星石は笑った。
「こんな時に笑うなんておかしいけど、こんな時だからこそなんだ。僕はもう逝く。ラスティや翠星石、君達のいるところにね」
もうダメだと体が言っている。それでも最後の力を出して蒼星石は喋った。
「きっといいところなんだろうなあ。僕の大切な人達がみんないるんだから」
蒼星石は動かなくなった。ゼンマイが切れたわけではない。二度と起き上がることのない深い眠りである。
彼女の最後の顔は微笑んでいてとても美しかった。

おわり
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 02:25:13 ID:EJio1SMG
結構勢いで書いてたんで文章ごっちゃですいません。
それもこれも手違いですべて消してしまい、一から書き始めるハメになってしまったせいですが。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 02:26:03 ID:U6g/64Re
(;ω;)
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 09:07:43 ID:VU7T19HV
なんという欝エンド・・・
ドールズの行き着く先もBAD ENDなのかと想像してしまった
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 18:44:44 ID:s6JTSvca
ようやく糞星石の糞SSが終わったか
最初から最後までつまんなかったな

↓そろそろカナのSSよろ
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 19:05:00 ID:chzHM5Ww
金「みっちゃーん」
み「カナー」
今日も平和でしたとさ
――FIN――

これで満足か
232名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/22(火) 19:12:28 ID:QRTAyYH9
>>231
俺も似たような事書こうとしてたw
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/23(水) 08:33:32 ID:O8mymW5c
哀れな>>230
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/23(水) 18:20:30 ID:3oXkDjNs
ある工房の一室に、その男はいた。

彫りが深い美男子顔を持ち、
柔らかくウェーブがかった金髪の少し伸びた後ろ髪を束ねた長身のその男は、
重々しい顔で、工房の大きな机の上に置かれている“ 物 ”を見つめていた。
それは二つあり、そのどちらも“ 物 ”としては壊れていた。

背の高いその男は、それを見下ろしている。
男のその側には小さな姿がある。それは“ 生きている ”少女人形だった。
左の目に紫の薔薇をあしらったアイパッチを付け、薄い紫の色調を基本とし、
開きかけた薔薇の蕾を逆さにしたようなデザインの、透き通るような錯覚を思わせる生地で作られた
鮮やかなドレスを着込むその美しい少女人形は、男を見上げていた。
男の重々しいその表情に悔しさとも、悲しさともつかない色が混じり始めると、
表情の乏しかった少女人形に、僅かに切なさのような表情が浮かび上がってくる。

「お父様・・・」

男を見上げ少女人形がそう小さく呟きながら、白い小さな掌を、
そのドレスの鮮やかに美しく長い袖に覆われた細い腕を、そっと男の脚に添えてゆく。

「・・・薔薇水晶」

そう少女人形の名を呼び、
視線をその少女人形・・・薔薇水晶に向けた男が少し悲しそうに微笑んだ所で、後ろから声がかかった。


「滞りなく筋書きは演じられ、また、幕は引かれました。どちらの演者にも・・・今上がる舞台は用意されておりません」

「・・・ラプラス」


声をかけたのは、タキシードを着込み小さなシルクハットを被った、男にラプラスと呼ばれたあの兎の者であった。
男はラプラスに向き合う。ラプラスはそれを会話の了承と取り、男に話し出す。

「坊っちゃんの夢から御出で頂く方(ほう)には少々骨が折れましたが、あの者・・・いえ・・・あの方の所からは問題無く・・・」
「・・・それで、あの男は・・・満足だったのか・・・?」

「それを私に問うまでもなく、槐(えんじゅ)・・・目覚めすら出来なかったあなたの娘が全てを語っているではありませんか」
「・・・私の娘などではない・・・私の光が生み出した・・・ローゼンが創り上げた者を模した・・・ただの人形だ・・・」

「・・・そうでしょうか。例えそうだとしても、あなたの水銀灯を手にし、愛で、育て、共に過ごしたあの方はそうは思わないでしょう」
「・・・・・・」

「ローゼンが、あなたの師が生み出し創ろうとした水銀燈を模したとは言え・・・あの方を父親として目覚めさせ、
 目覚めぬ人形を水銀灯として、娘として目覚めさせたのは、偽りなき事実にして、あなたにとって誇るべき現実・・・違いますか」
「・・・・・・」

「確かに、無から創造を育み創り出し・・・未完であったローゼンの作を模しただけのあなたの娘は、
 厳密にはあなたの娘ではないでしょう。ですが、今あなたに寄り添い、あなたを父親として愛してやまないその薔薇水晶は・・・
 あなたが無から創造を育み創り出し、生み出し、魂を呼んだ、間違い無きあなたの愛娘。
 あの方が無から水銀灯としての確かな魂を創造し、呼び、育み、娘として愛す事が出来たのは・・・
 あなたに創造主としての確かな力があるからです。それはローゼンにすら覆す事は出来ません。
 そして、あの方にとっては贋作ではなく、真作以外の何者でもなかったのです」
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/23(水) 18:21:49 ID:3oXkDjNs
槐(えんじゅ)、そう呼ばれた男はラプラスのその言葉に、
机に横たわる焼け焦げたような裸身を晒すひびだらけの人形に目をやった。
その槐の姿を見上げていた薔薇水晶が、槐を見上げたまま、静かに槐に話しかける。

「お父様・・・この者は・・・私のお姉様です。私がお父様をお慕いしてやまないように・・・あの人を愛しました・・・
 こんな姿になったのは・・・あの人を愛したからこそ・・・だから・・・お姉様の気持ちがわかります・・・」
「・・・薔薇水晶・・・」

「ですから・・・認めてあげてください・・・お父様が嫁がせてあげた・・・お父様の娘として・・・」
「そうだったな・・・私があの男に対した厭わしい(いとわしい)業を・・・自分が造った娘を受け止める責を負わねば・・・」

槐はそう言って再び机に目を向けた。
その机の上には二体の少女人形が横たわっている。
一体は身体の部分部分がひび割れ、焼け焦げたように黒くなった裸身を晒しているものの
腹部のみが元の素体の白さを残していた。
もう一体はどこにも傷は見られない美しく白い裸身を晒していたが、腹部のみ、どこにも見当たらなかった。
それは共に同じ姿形を持った少女人形“ すいぎんとう ”と呼ばれる少女人形だった。
槐は焼けた水銀灯のボロボロの裸身に、そっと、そっと、自分の大きな手を添え、
その指先で表層の剥がれた水銀灯の黒くくすんでしまった頬を優しくなぞる。
水銀灯の濁った赤紫のグラスアイは、それに答える事無く、長い睫毛に覆われた瞼を動かす事無く、虚空を見続けているままだった。

「私の造った・・・私の娘・・・あの男が愛でた・・・あの男の命を吸い・・・寵愛を受け続けた・・・あの男の娘・・・・・・すまなかった・・・」

そう呟く槐の表情が、ともすれば泣いてしまいそうなものに変わってゆく。
その言葉と表情はあの男へのものなのか、それとも自分が造りだした偽りの娘へのものなのか。
いや・・・あるいは、そのどちらへのものなのかも知れない。

「・・・お父様・・・」

槐の、その懺悔とも後悔ともつかない感情の流れを受けた薔薇水晶が悲しそうに呟き、身体を寄り添わせ槐を見上げる。
薔薇水晶の柔らかい身体の温かさと、自分を労わるかのような仕草を受けた槐は、
何でもないと静かに優しく呟き、その長身を屈めて薔薇水晶をそっと抱き上げ、
薔薇水晶の身体を机の上に柔らかく立たせてやっていた。
その机の上に横たわる二体の“ すいぎんとう ”を、薔薇水晶は見つめる。
薔薇水晶はそっと片膝をつき、腹部の無い片方にその小さな手を添える。

(この者は知らない・・・同じ姿だけれど・・・この者は私のお姉様ではない・・・だけど・・・悲しい意識が残留している・・・)

そして、黒くボロボロにひび割れたもう片方にも手を添えた。

(感じる・・・お父様がお造りになられた・・・私のお姉様・・・奥に眠る器に・・・残していった想いを感じる・・・)

薔薇水晶はボロボロになった水銀灯の虚空を見つめ続けるその瞳を、そっと閉じてあげた。
槐は、薔薇水晶のその行動を見終えながらラプラスの方に振り向き、尋ねた。

「師の・・・私の光であるローゼンの掌で踊れというのか、貴様は」

その言葉にラプラスの兎の面がにやりと歪む。しかしすぐにその表情を消し逆に槐に問いかけた。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/23(水) 18:22:51 ID:3oXkDjNs
「そう取るも、取らざるも、あなた次第。幾世に渡りローゼンメイデンを追いその業を絶つと、
 あの時から誓ったのはあなた自身。この地に全てのローゼンメイデンが集い、目覚めた今、
 用意された舞台に出番を待つ演者を欠いたままで、その責を取り得る事など不可能。
 誓いが偽りのまま煙(けむ)となる事を、あなた自身が望んではおられないでしょうに。
 その為にあなたは、幾世にも誓い渾身の意を持って、その末に偽りではないあなた自身の創造した薔薇水晶を生み出した。違いますか」

「・・・・・・わかったような事を・・・迷宮の彷徨いへ導く者がその口で・・・よく言う」


「全ての紅の結晶はあなたの師、あなたの光であるローゼンが与えた物。
 あなたも後を追うようにこの水銀灯を糧にして、あの方の命と魂を、水銀灯の魂を糧にして、
 結晶を残したまま彷徨う真作の意識を呼び戻す為の器を創る事を認めたのは事実。
 紅の結晶がどう生み出されてきたのか、理解し、そしてここに実践された。それはあなたにとっての、担うべき罪」

「・・・これが、最初で最後だ。そうでなければ誰がローゼンの後を追い、このような罪を犯すものか・・・・・・薔薇水晶・・・」


槐は、睨むように向けていた視線をラプラスから外すと、
二人の話を聞いていた薔薇水晶の方に向き直り、その小さな肩に自分の手をそっと添えて優しく囁いた。

「この今から、私達は完全な罪人(つみびと)になる・・・悪と言う名の役を演じきらなければならない。それでも君は・・・私を父と呼んでくれるか・・・」
「お父様・・・」

何かを背負う意思を見せた槐のその言葉に、小さく柔らかに首を縦に振った薔薇水晶は、
金色(こんじき)の瞳を閉じ、肩に添えられた槐の、父親の大きな手の上に、自分の白く小さな手のひらを添えながら、
美しく長い白髪が映える頭をそっと擡げ(もたげ)かからせた。

237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/23(水) 18:25:53 ID:3oXkDjNs
うまく行けば、今日中にもう一度投稿できるかも知れません。
一先ずはこれで。
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 00:17:41 ID:2rtlmJm8
乙〜
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 01:52:51 ID:8Uo4wSvS
その、自分の全てを信頼し身を委ね、共に罪人となる事を受けてくれた表しに、
槐は薔薇水晶の白く滑らかな美しい頬をそっと撫で、ラプラスに振り向きながら問いかけた。

「これがローゼンの生み出した傀儡(かいらい)である・・・貴様の筋書きだとしても、私は貴様の傀儡にはならんぞ」
「滅相も無い。創造主であり、またその影である貴方を操るなど」

「なら、お前の身体に纏わり付いた見えぬ糸を操るローゼンに伝えるがいい・・・
 奔放な気まぐれの愛の為に、地獄に垂れた蜘蛛の糸を昇らなければならない、薔薇乙女に負わせた業を悔いろと」
「・・・あの方は創造の雲をたゆたい、奔放の海を彷徨う光・・・巡る事叶う時あれば、お伝えしましょう」

槐は、捕まえようの無いラプラスの返答に一瞥をくれると、薔薇水晶に向き直り話しかける。

「・・・もう、後には戻れない。いいね、私の娘・・・薔薇水晶」
「はい・・・お父様」

そう言って互いの瞳を見つめあった後、槐は水銀灯の黒くボロボロの身体をそっと持ち上げ、
白さを保ったままの腹部を優しく外すと、腹部の無いローゼンの真作である水銀燈に、その腹部を接合し始めた。
腹部が付いた水銀燈のその部分に、薔薇水晶が囲うように両手をかざすと、やがて徐々にではあるが腹部が淡い光を放ち始めた。
その光は環になりながら腹部からゆっくりと浮かび上がり、
更に眩さを放つ何かを伴って、水銀燈の身体の上で立体の円を描く輝きを放ち始める。
その眩さと、光の円の中央で更なる光を放ち続ける物を見たラプラスが、ほぅ… と感嘆の呟きを放った。

「素晴らしい・・・互いの想いがこれ程までに繋がり・・・真なる容となって実を結ぶとは・・・」

それに続いて変化の少ない表情を、やや驚きに変えた薔薇水晶も小さく呟く。

「これが・・・私の身体にも・・・」

そう言って愛しそうに自分の胸に手を当てる。
それを見てラプラスは、にやりと頬をゆがめた。

「ローゼンの“ 者 ”であればまさしく・・・紅の結晶・・・ローザミスティカだと言えましょう。
 媒体の少女人形を創り出し、それを主にふさわしい者に与え、魂を宿させ、その主の命を吸いながら、
 互いの想いと時間を、愛と記憶を、器に変えて、紅の結晶となす。
 その確かな容は、何百体に一つ生成できるかどうか。
 薔薇乙女はそれを真の器として、元より授かり幾世を渡り、
 想いを受け続けながらそれを育み、一つに成す業を背負っているのは・・・既にお分かりですね」

薔薇水晶それを黙って聞いている。

「しかし・・・残念ですが、これはローザミスティカとは言えません。何故ならローゼンの創った人形が宿した器ではないからです。
 これは真作の意識を呼び戻す、媒体の器。紅にあらざる白色の光。お分かりですか・・・薔薇水晶。
 等しく率は同じでも、魂を宿した・・・いえ・・・宿していた器でも、成り立ちの質は違うのです」

それを聞いていた槐が、表情を変えずにラプラスの話をさえぎる。
240名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 01:54:10 ID:8Uo4wSvS
「もういい。そんな事は元より承知だ。・・・続けよう、薔薇水晶」
「・・・はい。お父様・・・」

薔薇水晶は頷くと立体の円の中で光を放ち続ける、ローザミスティカに成り損ねた眩き白の結晶に、両の掌を近づけてゆく。
結晶は光を放ちながら手の中に静かに収まりだし、薔薇水晶はそれをそっと自分の胸元に近づけると、
それに呼応するように薔薇水晶の胸が薄く光を放ち、結晶が薔薇水晶の胸にゆっくりと吸い込まれていった。

(はっきり解らないけど・・・気持ちが・・・私の胸に広がってくる・・・)

「・・・大丈夫かい・・・薔薇水晶」
「はい・・・お父様」

槐の気を使うような問い掛けに薔薇水晶は静かに頷き、両膝を突きながら、横たわる水銀燈の胸元に両手を添えてゆく。
薔薇水晶は自身の身体を媒体として、男と水銀灯の想いを結晶となした器を媒体として、
彷徨いの海を漂う水銀燈の意識を紅の結晶・・・ローザミスティカに呼び戻そうと意識を集中し始めた。

(・・・ ・・・ ・・・浮かび上がってくる・・・私の胸の奥から・・・想いが・・・)
(伝わってくる・・・この者に残っている・・・思いが・・・)


二つの結晶から開放され、浮かび上がり、流れてくる想い。
創り出され、生み出されても、完成すらしてもらえなかった身体。創造主から宿らされた想いが深い故に宿ったその魂。
愛をその未完成な一身に頂きたいが為に、必死になって自らの身体を接合した魂。
疲れ、困憊し、この世に諦めを見せていながらも、その者が一身の愛を捧げたが故に宿った魂。
目覚めて初めての、涙を流して送られた愛に包まれた魂。

暖かな記憶。切ない思い。
残留した二つの記憶と想いが薔薇水晶の心で入り混じり、流れあう。
父親への記憶を呼び覚ます為に、父親の愛を受けた鏡映しの自分の想いを、
水銀灯の想いを、真作である水銀燈のローザミスティカに送り続ける薔薇水晶の心に、
唐突な悲しみと絶望に近い想いが浮かび上がってくる。
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 01:59:08 ID:8Uo4wSvS
( じ?! じこ!? )
( ど どうして!? そ そんなのうそです!!! )
( あ   あああ・・・  そ  そん な・・・ )
((やがてお前の意識もその身体から剥離し、消滅、人で言うなれば死を迎えるでしょう))
( わた しが  めざめてしまった から・・・すべては  わたし の せいな のです か? )
((男が望み、お前と言う意識を呼び、お前が目覚め、男と共にこの今を生きてきた、それは誰の罪でも有りません))
( それ な のに  それなの に  わたし は   どうして・・・ )


わたしが初めて目覚めた時に、涙ぐんで強く温かく抱きしめてくれたお父様。
わたしの膝枕で、子供の様に安らかな寝顔を見せてくれたお父様。
わたしの手を取って歩く練習をさせてくれたお父様。
わたしが初めてお風呂に入った時に、優しくお湯を掛けてくれたお父様。
わたしの身体を優しく、そっと丁寧に洗ってくれたお父様。
わたしに大きなシャツを優しく着せてくれたお父様。
わたしに読み書きや挨拶を教えてくれたお父様。
わたしに色々な本を読んで聞かせてくれたお父様。
わたしに料理の仕方や掃除の仕方を教えてくれたお父様。
わたしを色々な所に人目を忍びながら連れて行ってくれたお父様。
わたしに人々の暮らしの色々な事を教えてくれたお父様。
わたしとテレビを見て涙を流していたお父様。
わたしとニュースを見て怒っていたお父様。
わたしにおどけて見せて、わたしを笑わせてくれたお父様。
わたしのちょっとした事に感動して、涙ぐんでくれたお父様。


楽しかった・・・ 嬉しかった・・・ ずっとこの時間が続くと・・・ ずっとそう信じていた・・・
それなのに・・・ それなのに・・・ わたしの為に・・・ わたしのせいで・・・
わたしの大好きな・・・ わたしの愛してやまないお父様が・・・ いなくなってしまう・・・


( お  おとう さま・・・  おとう さま・・・ )
((男はもう死ぬでしょう。それは免れぬ黄泉への出立。しかし・・・お前はまだ動けるのです。・・・お前はどうしたいのです))
((もう一度だけ尋ねましょう。お前はどうしたいのです))
((では、願いなさい。強く、何よりもお前の愛しい者の為に、願うのです))
((その纏いの白が、お前に滞留している少なき命を燃して煤(すす)となり、お前の願いを光に変えるでしょう))


会いたい 逢いたい ごめんなさい わたしの為に わたしのせいで
こんなわたしを呼んでくださって こんなわたしを目覚めさせてくださって こんなわたしを愛してくださって
でも嬉しかった 本当に嬉しかった 今まで育ててくださって 今まで愛でてくださって
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい

わたしの・・・ わたしの愛してやまない・・・ ただ一人のお父様!


身体が自由に動かない・・・ああ・・・もうわたしの身体が・・・硬くなってきている・・・・・・痛い・・・痛い・・・
だけどこんなの・・・今までずっと・・・お父様がわたしに下さった痛みには絶対に及ぶことすら・・・・・・ない・・・
逢いたい・・・逢いたい・・・  お父様・・・  お父様・・・

242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 02:00:33 ID:8Uo4wSvS
( ヲ オと おさマ・・・  おとう サま!! )


あああ・・・お父様・・・  お父様・・・ こんな・・・こんな事って・・・  ぜんぶ・・・ わたしが悪いんだわ・・・
こんなに悲しいのに・・・ こんなに辛いのに・・・ もう・・・ 泣いて涙を流す事すら・・・ 出来ないなんて・・・
お父様が・・・ こんな・・・ こんな痛々しい姿になってしまったのは・・・ 全てわたしのせい・・・

(・・・その声は、水銀灯なのかい・・・)
( ?! ォ お トウさま? )
(・・・ごめんな、帰れなくなって・・・晩飯買えなくて・・・)
( おとうさま・・・おとうさま・・・おと ぅ ・・・s )

( ごめ ん なさ い  ・・・ごめん なさい・・・ わた s ・・・ わたしの せ いで・・・ )
(・・・何故泣くんだ・・・これは俺自身が避け切れなかった不注意からさ。ははは、情けないもんだ・・・)
( ちが・・・ 違うんです・・・ わたしが わたしが今ま で  ・・・お父様のいのちを吸ってきてしまったk から・・・ だから )
(・・・そうか・・・感じてない訳じゃなかったけど、でも、そんな事俺には関係なかったんだぞ、水銀灯?・・・)
( どうし て? だって・・・だってあのアリスの人が・・・そう言ったんです )
(・・・ああ、誰の事だか何となく判るよ。でもな水銀灯、俺だっていつかは死ぬんだし、それが早いか遅いかだけさ・・・)
( そんなのいやです!! お父様はしんではいけません!! お願いです!! しなないで!! しなないで!! )
(・・・水銀灯。きっと悲しい顔で泣いてくれているんだろうね。でもごめんな、もう何も見えないんだ、動けないんだ・・・)
( あ ああ・・・ いや・・・ いやです・・・ いやです!! そんなこと言わないで!! 言わないで!! )
(・・・水銀灯、泣かないで聞いてくれるかい。俺、すごく嬉しかった、お前と出会えて。お前が目覚めてくれて・・・)
( うっ・・・ う・・・ おとう さま )
(・・・お前と出会えなかったら、きっと自暴自棄になって、本当に自殺とかしてたかもしれないんだ・・・)
( おとう さま・・・ お  とうさ ま・・・ )
(・・・お前は、俺に生きる希望と力、大事な人を愛する事や、守りたいって心から思える感情を育んでくれた・・・)
( お・・・とう さま )


(・・・・・・愛しているよ 水銀灯 ずっとずっと  誰よりも一番に 誰よりも君を愛してい る・・・水銀 灯・・・・・・)


( わたしも誰よりもお父様を愛しています!!! だから! だからしなないで!! )
( おねがい!! まだこわれないで!! わたしのゆうことを聞いて!! わたしのうで!! )
( っ・・・く お父様! お父様!! お父様っ!!! )

お父様の意識が、魂がいなくなってしまう・・・そんなことはさせない!誰にもそんな事はさせないっ!!

( もうわたしの身体はチリになってもいい!! だから、だからもう一度! もう一度だけお父様をわたしのこの胸に!! )

( お父様! お父様!! お父様っ!!! わたしは! わたしはお父様と一緒です!! いつまでも! どこまでも! )



243名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 02:01:52 ID:8Uo4wSvS
━━水銀灯? 水銀灯・・・来ちゃったのか・・・こぉら、ダメだろ━━

 ( お父様こそ、だめです。こんな所に来ちゃ い け ま せ ん )

━━ふぅ・・・そんな子供に言うような言い方やめてくれよ。俺いいオッサンなんだから━━

 ( わたしにはお父様はお父様ですけれど・・・わたしの子供みたいなものですもの )

━━な?そんなの初めて聞いたぞ。俺そんなに子供っぽいところあったか?━━

 ( だって、わたしの膝に甘えに来てくださる時なんて、可愛い子供そのものですもの )

━━は ははははは! い、いやその・・・まいったなぁ・・・だって水銀灯の膝は気持ちいいし、安心できるしさぁ━━

 ( でしょう? うふふ。これからもずっと一緒です、お父様。行きましょう )

━━・・・いいのか水銀灯は?━━

 ( はい!わたしはずっと・・・ずっとお父様のそばにいます。ずっといつまでも愛してください・・・ )

━━水銀灯・・・もちろんじゃないか!俺は永遠にだってお前を愛すると誓える!誰にも邪魔はさせない━━

 ( じゃあ・・・ )






━━行こうか━━

 ( はいっ! )




俺と水銀灯の
わたしとお父様の


あの世界へ。
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 02:03:33 ID:8Uo4wSvS
「あ・・・あっ・・・あ・・・うぅ・・・」

水銀灯の最後の記憶が、父親と共に旅立っていった最後の想いが、
薔薇水晶の胸の奥で輝く偽りの白きローザミスティカから溢れ出してくる。


(こんな・・・こんな・・・こんなに胸が切ない・・・どうして・・・)


愛してやまない最愛の父親が死んでしまう。己が存在し続けた事がきっかけで。
もしもこれが自分なら、この事実を受け止められるだろうか。
そんな事などある筈が無い。今自分の側に居て下さって、自分を支えて下さっておられるお父様が死んでしまうなんて。
そんな事など起こる筈が無い。信じれる筈が無い。私を愛して下さるお父様がいなくなってしまうなんて。
でも、もしも、もしもこんな事が現実に起きてしまうなら、自分に耐えられるだろうか。
自分は受け入れる事が出来るだろうか。判らない、判らない、判らない、判らない、判らない・・・
でもお姉様は、これを受け入れ、自分の身体を燃しながら、自分のお父様の元に向かって、光になった・・・

こんな事が現実であって欲しくない。こんな思いはしたくない。私はお父様から離れたくない。
お姉様の様に・・・この世界から共に消える事が・・・二人の行く幸せの道だなんて・・・私は・・・私は・・・
こんな想いのカタマリが・・・ローザミスティカだなんて・・・
こんな想いが渦巻いたまま・・・こんな想いを抱いた器を胸に秘めて・・・薔薇乙女の者達は・・・幾世を渡っているだなんて・・・


「お・・・お父様・・・お父 様・・・」
「ば?薔薇水晶!?」

「お願 いです・・・抱きしめて・・・ください・・・切なくて・・・苦しくて・・・ああ・・・ああああ・・・」
「薔薇水晶!!」

何かが起こっている。このままでは薔薇水晶の精神が崩壊してしまう。
そう思った槐は慈愛の限りで薔薇水晶を抱きしめた。
乏しかった表情を、切なさと悲しみで溢れ出した泣き顔に変えて、
アイパッチに覆われていない金色の瞳から、あらん限りの涙を流す薔薇水晶が受けた想いが、槐にも流れ込んでくる。

「あ? ぅ ああ・・・ああ・・・」

この時槐は初めてローザミスティカの真意を・・・いかにして紅の結晶が想いを糧に生成されていたかを知った。
こんな想いを抱いて・・・命と愛と時を吸い取り、創られていたのかと。
ローゼンはこんな物を器にして、薔薇乙女達を自分のアリスへ昇華させる為に、
自分の愛を受けさせる為だけに、こんな想いを犠牲にさせてまで、薔薇乙女達に業を負わせたのかと。
あの男と、自分の造った模造品である水銀灯の心の繋がりは、これ程までに強かったのかと。

(もし・・・これが私と薔薇水晶だったら・・・私は・・・薔薇水晶を失う事に・・・耐えられないかも知れない・・・)

薔薇水晶を抱いたまま、強く瞳を閉じ、歯軋りを見せる様に口元を歪めた槐の頬から一滴(ひとしずく)の涙が流れる。

245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 02:05:39 ID:8Uo4wSvS
ローザミスティカの真意を知らぬまま別たれた影である槐と、
薔薇乙女を模して創造された薔薇水晶の流す涙を見たラプラスは、何も言わなかった。
いや、言えなかったのかも知れない。
常に達観の極みにあり、傍観の席で人の営みと言う演劇を見続けてきたラプラスも、
事実を知らぬまま運命を追い続けて来た者達には、さすがに酷だと思ったのだろう。
しかし操りを演じる者としては言葉せぬわけにはいかない。
ラプラスは静かに口を開いた。

「・・・夢の狭間をたゆたう意識は間も無くその道を見つけ、自分の在るべき場所に戻り、ひと時の眠りに付くでしょう。
 真作の内に存在する器が、真作の胸に光る燈(ともしび)が・・・そう答えています」

槐は何も答えなかった。

「いずれ近い内にその水銀燈にも、マスターをあてがわねばならぬでしょう。
 それを花開かせた時、舞台は真の演劇へと加速の時を進めましょう。
 私は乙女達に踊って頂く為の、筋書きを考察しますゆえ・・・今宵はこれにてお暇(おいとま)致します」

そう言ってラプラスは空間を裂き、消えてしまう。
後に残された槐と薔薇水晶は、今だ抱き合ったままだった。

槐は改めて誓った。
ローゼンの蒔いた気紛れとも呼べる愛の種を全て摘み取ってやると。
想いに縛られ、想いを糧にして刻(とき)を彷徨い続ける、哀れな薔薇乙女達の業を絶ってやると。
自分の薔薇水晶をあえて悪へと染めさせ、ローザミスティカを奪わせ、アリスへと昇華させ、
ローザミスティカに込められた薔薇乙女達の想いを全て、自分と薔薇水晶が背負ってやると。
貴様が忌み嫌った、不完全と己から剥離した、欠点である、貴様の影である、この槐を認めさせてやると。

薔薇水晶も誓った。
お父様の為に、悪を演じようと。冷淡な役に徹しようと。
今自分を抱きしめて下さり、自分が感じた想いに共に涙を流して下さるお父様が側に居て下さる限り、
薔薇乙女達の想いを受け止める事が出ると。
偽りの水銀燈を、逢う事すらなかった自分の姉妹の想いを、改めて心に受け止めようと。




二人の側で、水銀灯の身体が崩れていった。
器に残した父親との想いを託し、崩れていった。



水銀灯と言う名の偽りの灯が・・・遂に・・・消えていった。

246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 02:08:08 ID:8Uo4wSvS
次回のエピローグで終了します。
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 05:32:27 ID:4ovTp8Lp
>>230
このキモ妄想のデムパSS書きを早く追い出して
ほかの作家にカナのSSを書かせてくださいお願いします
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 12:04:14 ID:mga7JN11
>>246
投下乙です
水銀灯と男の最後の会話は何度読んでも切なくなる……
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 12:44:30 ID:kpaLxS9c
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 12:54:31 ID:hvCOfN5P
いちいち相手するな、いつものアレだ。と釣られてみたりもする
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 13:08:43 ID:wF2/VWHg
http://yy63.60.kg/v090/
みんななかよし掲示板できたよー
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/24(木) 19:58:58 ID:2rtlmJm8
>>246
乙乙乙〜

な、泣いてなんかないんだからねっ!!///
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/25(金) 00:49:55 ID:fKDJk2+E
変な横棒で区切ってた文章はずっと中二病文章だと思ってたけど、なるほどなぁ…
ちゃんと回収して一応分かるようにまとめられてる…
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/25(金) 03:32:05 ID:qWs9xdST
中二病だとか捉え方は人それぞれなんだし読者としては面白ければそれでいいよ
ローゼンメイデン自体を厨臭いって言ってた奴が前いたくらいだし
まあアンチだろうけど
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/25(金) 21:06:16 ID:iMzFlTNh
ま、『面白い』SSじゃないのは確かだ
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/25(金) 23:55:02 ID:okVUlf8f
中二病ってキム信者のことだろwwwwwwwwwwwwwww

> 636 名前:名無したん(;´Д`)ハァハァ[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 21:13:44 ID:28s6kpFF
> カナリア好きは、「敢えて不人気なデコ出しキャラを好きな自分」が好きなんだろ^^
> 正直に言えよw
>
> 642 名前:名無したん(;´Д`)ハァハァ[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 22:20:16 ID:33NEsrw+
> >>636
> 確かに金糸雀信者ってそういう中二病っぽいイメージがある
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/26(土) 11:23:36 ID:jsvPnbE5
>>246
乙です
完全な番外編にみせて微妙にシリアスにアニメ本編と関わってるタイプのSS好きだ
258名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 01:27:58 ID:UA0iph6O
ところで保管庫はいつになったら更新されんのさ?
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:02:55 ID:ClSkyWXc
━━ エピローグ ━━



槐と薔薇水晶の誓いは、ラプラスに造りだされたアリスゲームと言う大舞台に幕を開き、
そして薔薇乙女達の、余りある紅の想いを受け切る事無く・・・儚く散っていった。

余りに大きすぎる刻(とき)の想いと、姉妹達の心の繋がりに・・・
全てのローザミスティカの想いを受け止めること叶わずに、その身を半壊させ父の名を呼び続けた、薔薇水晶。
最愛の娘がその全ての想いを受けきれず壊れてゆく様に・・・
半狂乱になりながら娘を抱きしめ、薔薇水晶の名を叫び悲痛な涙を流した、操られし影の創造主、槐。

共にその身を光の中に散らし、現世から消えていった。
あの男と水銀灯の魂が・・・旅立っていった様に。


 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:16:38 ID:rcwFFZu2
姉妹の命とも、想いの全てとも呼べるローザミスティカを奪い合う・・・
想いを受け継ぎ昇華の道を辿る果てに、穢れや醜悪とは無縁の美しき存在に孵化するアリスへと、
その身を花開かせる筈であった愛憎の舞台遊戯の終焉から、数ヶ月が経とうとしていた。


有巣川大学病院。

病院の窓が開いた一室に、その儚い美しさを湛えた少女は居た。
少女の名は柿崎めぐ。
胸に難病を抱え、死ぬことも叶わず、生きる事すら間々ならず、
死を夢見て、生を疎ましく思うその少女は、横たえていたその身をベッドに起こし、
窓の外の青空を見つめていた。その窓辺を、二羽の白い蝶が舞っている。

(珍しい日・・・こんな高い所まで蝶が昇ってくるなんて・・・)

そう思いながら暫くその空を見ていた柿崎めぐは、
やがて静かに、透き通る儚さを纏った綺麗な声で、誰も居ない薄い青の空間に話しかけた。

「ねぇ・・・もう、争う事なんて・・・・・・無いんでしょ・・・」

その言葉に、共にベッドにその身を座らせていた小さな“ 者 ”が、静かに答えた。

「・・・さぁ・・・どうかしらね」

その小さな姿には見覚えがある。いや、忘れる事など決してない。
その“ 者 ”は、真作のローゼンメイデンにして、真の燈(ともしび)である・・・あの水銀燈だった。

「ふふっ・・・やっぱり素直じゃないのね、水銀燈って」

柿崎めぐは、自分の左手薬指にはまる、薔薇をあしらった美しい指輪を嬉しそうに見つめながら、そう答えた。
その薔薇の指輪は、淡く薄い紅(あか)の暖かな光を柔らかく放っている。
まるで (もう・・・そんな事はしないわ・・・) と言いたげに、柿崎めぐの心に優しく触れる様に、
ほんのりと薄い明滅を繰り返していた。
水銀燈はほんの少し照れたようなそぶりを見せると、ベッドから立ち上がり、
背に生えた小さな黒い翼をそっと優しく羽ばたかせながら、開いた窓枠にその身を立たせた。
柿崎めぐは、水銀燈の小さな背中を少しだけ悲しそうに見つめながら、そっと問いかける。

「・・・また行っちゃうんだ・・・」

寂しそうなその問いに、水銀燈は首をすくめるようにして柿崎めぐに振り向くと、優しい目をして答えた。

「・・・散歩よ、散歩・・・まったく・・・そんな顔で見ないで欲しいわぁ・・・」
「だって・・・この前なんて二日も帰ってこなかったじゃない・・・」

「色々する事があるのよ。あのおバカさん達の近くに居るんだから、気が休まる訳ないでしょぉ?」
「・・・私の側じゃ、だめなの・・・?それとも・・・また何かするの?」
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:19:49 ID:rcwFFZu2
不安そうな柿崎めぐの表情と問い掛けに、水銀燈はほんの少しだけ優しい笑顔を見せ、
背中を向けながらぶっきらぼうに小さく答えた。

「ちょっと・・・空が見たくなったのよ・・・高いあの空のずっと向こうが・・・だから、すぐ帰ってくるわ」

柿崎めぐは、
薬指にはまる指輪の暖かさが、先ほど以上に優しい暖かさに変わったのを感じ、
その答えがはぐらかしではなく、本当の事だと理解した。

黒い姿と黒い翼を持つ、美しく儚い、生きている少女人形。
黒い纏を持った、本当は光る心の白さと優しさを持つ、自分に遣わされた黒き天使。
あのアリスゲームから帰還した水銀燈の心が、より一層自分に伝わってくる。
以前の様な、悲しさと、切なさと、ぶつけようの無い怒りと、絶望の様な感情は、もう流れて来ない。
時には荒々しかった、泣き出しそうな感情の波はもう・・・穏やかな波に変わっている。
自分の心に、大事な存在への愛しさと慈愛の感情が芽生え、ここまで育めたのも、
この水銀燈が自分の側に居てくれたから・・・
そしてこれからも、きっと側に居てくれて、自分を導いてくれる・・・


柿崎めぐはそう改めて心に感じると、ベッドからその身を下ろし、


「そう・・・気をつけてね、水銀燈」


水銀燈の言葉に答えを返しながら、窓枠に立った水銀燈の小さくなめらかな頬に、優しく口付けを送った。

「!なっ?!なにを!・・・・・・?!」
「!?・・・・・・」

柿崎めぐからの思わぬ愛情に驚き、顔を赤らめて彼女の方に振り向く水銀燈。
その水銀燈の美しい赤紫のグラスアイに柿崎めぐの瞳が映り込んだ時、一瞬だが何かが心をよぎっていった。
自分が見た事もない、記憶にすらない、冴えない中年男の優しそうな微笑みが・・・よぎっていった。
柿崎めぐの脳裏にもまた、自分が見た事が無い水銀燈の姿が、
白いドレスに包まれ、本当に嬉しそうに微笑む水銀燈の笑顔が・・・よぎっていった。
ほんの一瞬のビジョン。ほんの一瞬触れ合った、感じたことも無い二つの心。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

水銀燈と柿崎めぐ。
お互い、瞳を見つめ合ったままだったが、互いの瞳に映るその像は今までと何も変わっていなかった。
何も変わらないお互いの姿。
しかし先ほどの姿は、どこかで知っているような気がした。
お互い尋ねあった所で何も判る筈など無い。だから聞く必要も無い。
柿崎めぐは水銀燈からそっと離れ、水銀燈は再び空の方を向いた。
そして水銀燈は自分の背に生える、黒く小さな翼を大きく開かせた。
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:25:17 ID:rcwFFZu2
「・・・水銀燈」

背中から聞こえた柿崎めぐのその言葉に、もう一度だけ振り向いた水銀燈が問いかける。

「ねぇ、めぐ・・・」

柿崎めぐの瞳を見つめる水銀燈の心には、もうあのビジョンは二度とよぎる事は無かった。
その柿崎めぐも、水銀燈の瞳を見つめている。
水銀燈の問いに、柿崎めぐは「なに?」と、問い掛け直しはしなかったが、一言だけ、こう言った。
静かに、優しく、微笑みながら・・・こう言った。

「・・・・・いってらっしゃい」

優しく送り出してくれるその言葉。
聞く必要なんて何も無い。めぐも・・・私のマスターもきっと同じ事を感じていたんだから。
水銀燈はそう感じ、少しだけ目を細めた優しい笑みを見せて答えた。

「大人しく寝てれば・・・花の一つも持ってきてあげてもいいわよ」

柿崎めぐはその言葉に優しい微笑みをたずさえたまま、

「そんなもの・・・いらない」

そう答えた。

そんな物、必要ない。既に私には花が咲いてくれているんだもの。
あなたと言う、美しく気高い、心に眩しい白さを宿す、あなたが・・・水銀燈って言う・・・優しい花が咲いてくれているんだもの。
私の心の中で、私に咲き続けてくれている、水銀燈と言う名の・・・あなたって言う優しい花が・・・咲き続けてくれているんだもの。

「いってくるわ・・・」

その柿崎めぐの気持ちは、きっと水銀燈にも届いているのだろう。
水銀燈も微笑んだまま柿崎めぐに背を向け、黒い翼を羽ばたかせて空に舞っていった。
黒い羽根を幾枚か空に舞わせながら、水銀燈は舞っていった。



やがて窓辺に舞っていた蝶も、緩やかに舞いながら、柿崎めぐの視界から遠ざかってゆく。
水銀燈の舞わせた幾枚かの羽根に、たった一つだけ混じっていた、白く光り輝く羽根のように。



(きっと・・・きっといつか・・・あの姿の水銀燈に・・・あの白い姿で微笑んでくれた水銀燈になって・・・戻ってくるんだわ・・・)



遠ざかる水銀燈の姿を見つめながら、
黒く舞う中に、たった一つ光をきらめかせながら舞っている羽根を見つめながら、
遠ざかる二羽の白い蝶を見つめながら・・・柿崎めぐはそう心の中で呟いていた。

263名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:33:40 ID:rcwFFZu2
二人の中に映ったあの姿は、水銀燈のローザミスティカの中にほんの僅かに残留していた、
あの男と水銀灯の記憶の名残だったのかもしれない。
もしかすると、薔薇水晶が紅のローザミスティカに送り続け、ほんの僅かに残っていた、
白きローザミスティカの想いの一欠片が、水銀燈の中で燃え尽きただけなのかも知れない。

たとえそうだったとしても・・・そうでなかったとしても・・・
冴えない中年男と、美しい少女人形の・・・共に生きた記憶の証である事には違い無いだろう。





白い蝶は舞い上がり続ける。
天高く、何者にも遮られる事なく舞い上がり続ける。
空の光を浴び、白く煌めきながら舞い上がり続ける。

天の彼方に登るように、光を浴びながら、白い蝶は舞い上がり続ける。





・・・・・・ いつまでも どこまでも ずっと ずっと一緒だよ  愛しい俺の娘 ・・・・・・

・・・・・・ いつまでも どこまでも ずっと ずっと一緒です  愛しいわたしのお父様 ・・・・・・





水銀灯と男の想いを乗せ、白き蝶は舞い上がってゆく。




どこまでも、どこまでも・・・






【  Fin  】
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 03:57:12 ID:rcwFFZu2
今までお付き合い有難うございました。
贋作とは言え水銀燈を好きな方々には申し訳なかったと思います。
そして水銀灯に謝罪しておきます。悲しい運命に描いてしまってごめんなさい。
それではこれで。またROMに戻ります。
265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 08:52:09 ID:EiIwyHj8
つまらなすぎて吐き気がした
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 10:04:41 ID:5dsrrko9
モニターに唾を吐いて殴り付けたのは初めてだ。それくらいの幼稚ヘド作文って事だ
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 12:14:19 ID:n0UN83+Q
>>265-266
だったらこういうスレに来なければいいのに…
>>264
GJですよ。雰囲気に浸れたのが良かった。
268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 13:36:26 ID:5gUtCB1e
まぁいつもの人でしょ
SS作ってくれる人には感謝だよ
269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 14:05:31 ID:56EO1e8A
>>264
お疲れ様でした
270名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 14:17:30 ID:5dsrrko9
>>264
下らない内容の幼稚文章でスレを汚すなよ?wwww
それが証拠に誰も感想なんて書いてないだろwwww
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 15:55:49 ID:n0UN83+Q
では>>270の高尚な感想と、現在連載中の作品が無いこのスレを活性化させる
素晴らしいSSを期待しよう。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 19:19:46 ID:F1re4KTu
>>264
党員ですが何にも申し訳ないことなんてないぞ
シリアスな展開に普通に感動したし良作的な意味で面白かった。GJ!
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 21:54:26 ID:UA0iph6O
また>>270が一人で粘着してんのかw
コイツはSSが投下される度に飢えた豚みたいに湧いてくるなあ^^
まあ職人がこういう必死な害虫を気にする必要は一切なし
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/27(日) 23:10:54 ID:EiIwyHj8
いいかげん誰かカナのまともなSS書けや
こっちは糞銀燈や糞星石のSSが見たくてこのスレに来てるんじゃないっつーの
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 01:31:58 ID:zmGNa66e
>>264
完成乙〜
ちゃんとひとつの話としてまとまってる。色々あったが最後は甘々って感じw
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 01:52:13 ID:fQk6dro8
>>264
お疲れ〜。
鬱展開のSSも好きだけど猛烈に感動した
また気が向いたら投下頼むよ
いつもの痛い子が文章が幼稚だとか吠えてるが、所詮は妄言だから許してやってくれ

277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 01:57:52 ID:ztqBHUGq
>>264 涙が止まらないよ…水銀灯かわいいよ。良いコだよ。
めぐ、 ばらしー、槐も好きな私はうれしいよ。
最後に銀様出してくれてありがとう。
本当にどのドールも幸せになって欲しいな…
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 06:31:14 ID:i7rcq6O6
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 07:54:02 ID:PFmlyExE
「まともな」って書いてあるだろうが
ちゃんと読めボケ
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 10:36:44 ID:i7rcq6O6
簡単に釣れますたwww
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 12:34:09 ID:vwZrdWH9
WILLCOMなんか永久規制されたらええねん
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 16:06:06 ID:4lqrMFp7
無視せずにしっかり相手してあげてるおまえらの優しさに俺は涙したよ
283名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/28(月) 18:58:05 ID:PFmlyExE
金糸雀アンチが必死に自演してますね^^
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/29(火) 23:34:59 ID:1hsvgIxG
金糸雀アンチ死ね
285名無しさん@お腹いっぱい。:2008/01/31(木) 20:18:23 ID:0pjODvOs
Five to One
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/01(金) 23:10:39 ID:hBHCdQ5x
ローゼン警察24時 金糸雀巡査篇

「今日も○○警察は悪質な犯罪者を逮捕するべく出動するのであった!」

ジャーン!完

金糸雀はみっちゃんと部屋でよくある警察24時を鑑賞していた。
 「うん!うん!みっちゃんありがとう。すごく面白かったかしら〜
  もしカナが警察官だったらカナは真紅たちをまっ先に捕まえに行っちゃうかしら?
  し〜んく〜!た〜いほだぁぁぁ!!う〜んここはキュートに逮捕しちゃうぞ♪かしら?」
その様子を見ていたみっちゃんはというと
 「・・・・」
 「あら?みっちゃんどうしたかしら?なんだかすごく苦しそうかしら?」
みっちゃんは金糸雀を見ながら顔を紅潮させて目は血走り肩で荒く息をしていた。
 「それはね〜カナ・・・あなたが〜・・・すっごく〜・・・かわいいからよ〜!!!」
 「はうう!」
金糸雀は思わず後ずさる、この後の光景が容易に想像できたからだ。
今まで何十回と繰り返されそしてこれからもあるであろうアレ
 「あ゛〜!!もう我慢できない〜〜〜!!!カナカナカナカナカナカナカナカナ〜〜〜〜〜!!!」
みっちゃんは金糸雀に飛びつき金糸雀の体をひょいと抱き上げ辛抱たまらんといった感じで包容し金糸雀にほおずりの反復運動を開始した!
 「ぐ!・・うぶぶ・・!みっちゅあん!ほっぺが暴行罪かしら〜!?」
 「でも警察官か〜!カナに制服着せたらきっと可愛いだろうな〜!
  今度はミニスカローゼンポリスね!」
金糸雀はまたアレをやられてはたまらないと思い
 「や、やっぱり遠慮するかしら〜!?カ、カナは来年から本気だすかしら〜!?」
みっちゃんは悲しそうな顔で
 「そう・・・残念・・・」
金糸雀はみっちゃんが今にも泣き出しそうな顔をしているのを見て慌てて
 「みっちゃん泣かないで・・・み、みっちゃんを少しからかっただけかしら・・・」
それを聞いたみっちゃんは
 「ホント?」
と聞き直し
 「ホント!ホント!本当かしら〜!お、おほほほほ!」
そして
 「カ、カナ〜・・・!」
 「はうう・・・」
金糸雀は後ずさる・・・
 「カナカナカナカナカナカナカナカナ〜〜〜〜〜!!!」
 「うぶぶぶ!!ぶるあ!み、みっちゃんほっぺが殺人罪〜〜〜!!!」
また金糸雀の日常は過ぎるのであった。


一年くらいぶりに投下しました。
つまらなかったらすまん
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/02(土) 21:56:51 ID:yMNFOckx
あれだけカナのSSカナのSS騒いでた信者どこいったの?wwww
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/03(日) 00:15:16 ID:rkgTQLNh
( ^ω^)いるお
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/03(日) 03:43:39 ID:BJRu2zl/
>>288
おとなしくなっとるw
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/03(日) 12:50:27 ID:XUQ1ddiS
やっぱり1人だけなんだなwwwww
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/03(日) 18:46:17 ID:pqF/r16v
>>287
虐待AAで規制くらったらしい
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/03(日) 23:59:29 ID:prJUePVf
>>286
投下お疲れ〜

>>287
この際もうあの発達障害児はスルーで
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/04(月) 23:00:17 ID:MCHHdSTa
誰か原作の続き書いて
294名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/05(火) 01:05:08 ID:NGpd0iq6
>>293
カ「やったー!カナがアリスになったかしらー!」

ローゼンメイデン完

これで満足か?
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/06(水) 00:30:12 ID:OmWznMji
>>294
反射的に「アナカリス」という言葉が頭に浮かんだw
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/06(水) 12:11:56 ID:nFD1dSjF
>>295
このスレで分かる奴は多分君と俺だけだw
……たしかカプコンの格ゲに出てくるキャラだよな?
297名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/06(水) 16:46:18 ID:RfKmeKF9
え?水草の一種だろ?熱帯魚飼ってるやつには分かるだろ
298名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/06(水) 23:34:41 ID:OmWznMji
【MAD】ローゼンメイデンで「終末」‐ニコニコ動画(RC2)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2073924
299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/07(木) 01:00:21 ID:zcLXTgAz
なんかみんな文章上手いですね
今まで平気で投下してきた自分の文章を見直したが
恥ずかしい限りだよ
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/07(木) 08:02:17 ID:bH/FSYmG
三ヶ月後…そこには元気に走り回るカナリアの姿が!

「もうアリスゲームなんかしないよ…」

しかしこのカナリア、ノリノリである。
と、ここで種明かし、ここのカナリア全部偽物。
これには仕掛けられたほうもビックリ!
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/08(金) 01:33:49 ID:VSuSiNTK
そこは「もうアリスゲームなんかしないかしら…」
といって欲しかった…
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/08(金) 07:27:01 ID:D8GNQ7gV
カナリアがコメントではなく違う人の吹き替えって感じで
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/08(金) 16:08:26 ID:BfVhKc0z
>>299
別に文章が下手であろうが上手かろうが、
面白かったらそれでいいと思うんだぜ?
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/09(土) 21:57:55 ID:GMDXuN91
期待age
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/09(土) 23:53:42 ID:HCut7Qsg
あれ?カナがかわいい
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/10(日) 17:36:28 ID:uU6dfMyi
>>295
コブラブロー
307名無しかわいいよ名無し:2008/02/12(火) 23:56:40 ID:OZ9VOBGj
>>235
マジで泣いた、本当に久しぶりに泣けてすごく嬉しかった・・・切なくて切なくて
すまなかった・・・の所で涙腺が・・・GJ!!ありがとう、本当にありがとう!!!

これからもまた書いてください!!!応援してます
308ミルク32改変:2008/02/13(水) 01:42:31 ID:yVELKfj1
ねえ 真紅 またふられたわ 忙しそうね そのまま聞いて
ゆらゆら重ね上げた 分厚い本のかげから
ねえ  またふられたわ 
ちょっと吹き出さないでよ この服高いんだから
うまくはいかないわね 今度はと思ったんだけどな
あんたときたら 紅茶なんて飲んでてさ
あたし 随分笑ったわね 
いつのまにブランデーなんて飲むようになったのよ

ねえ 真紅 悪いわね ふられた時ばかり現れて
笑ってるの 怒ってるの そんなに無口だったかしらね
ねえ 真紅 聞いてるの 
今 それ どうしても読まなきゃならないの
忙しいものなのね マスター持ちともなると ほんとかしら

なんで あんなにあたしたち 二人とも意地を張りあったのかしらね
真紅 もう200 あたしたち ずっとこのままね

ねえ 真紅 もう時間でしょ
帰るわ もう寝るの?
表は雨降り夜 もう少し いようかしら……

ねえ 真紅 ねえ 真紅 ねえ 
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/13(水) 01:51:23 ID:s/ipkK32
シリアスなラプラスを見ていると、
薔薇水晶に「じょ、女王様、もっとぶって!」とマゾっていた
奴と同一人物とは思えないなw
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/13(水) 21:54:57 ID:+vWfw2XW
>>309 マゾな兎か・・・全くもってレベルの高いキャラクターだぜ。
漏れ的には何と無く親近感が湧いたw
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/13(水) 22:15:06 ID:0WYLXK9s
>>308
これは・・・水銀燈?真紅はどうなっているのか詳細希望です
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/13(水) 23:45:55 ID:yVELKfj1
>>311
中島みゆきの「ミルク32」という唄の改変ですよ。
シチュエーションはご想像にお任せします。

ただ、唄の雰囲気がこの2人にぴったりに感じたので。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/14(木) 09:42:46 ID:cSGeFVaj
>>310
その上ガチホモ。
「くんくんvsラプラスの魔」でBL展開しやがった
どMぶりを発揮するのは「薔薇水晶改造計画」な

マゾ、ガチホモ、ナルシスト…
兎、どんだけ属性つければ気がすむんだw
314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/15(金) 01:17:55 ID:cK76aVpc
>>313 兎がPINK板の住人とオフ会とかしたら、物凄くエロトークで盛り上がりそうだなw
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/16(土) 23:34:04 ID:QtIE00O6
多分エロトークで終るとは思えない…
恐らく何人かは確実に アーッ に…
316名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/17(日) 02:07:44 ID:p4dnDB1s
>>315 そう言われるとリアルすぐるなww

ラ「・・昔から、男は度胸と申します・・何事に対しても体験の扉を開くという行為が、未知への一歩へと繋がるのです・・ふふ・・・覚悟はよろしいですか?」

名無しA「ちょw・・アーーーーッ!!」
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/17(日) 23:40:49 ID:h6mgo0BF
>>317 ガチホモウサギ全開状態www
けど薔薇水晶的な女性を相手だと……
318名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/23(土) 23:04:33 ID:hw1TQw9Y
保守
319名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/24(日) 22:30:49 ID:zFYpAxpm
そんなことより早くカナのssを…
(;´Д`)ハァハァ
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/28(木) 20:01:21 ID:LnXLKkt8
カ「雛苺〜っ!」
雛「カネマツ〜っ!」
今日も平和でしたとさ

これで満足か?
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/02/28(木) 21:09:49 ID:sfl1cJYD
このスレ読むといかに糞キムが嫌われてるか分かるなwww
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1202516620/
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/02(日) 00:22:01 ID:Qy+6mtLi
ああ、薔薇水晶改造計画ね
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1785

ところで、
アリスゲームが起こらなかった
もう一つの世界を見つけた翠星石が
蒼星石を見付けて胸キュンな話を思いついたんだが
導入部がうまくまとまらなくてねぇ・・・
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 11:39:15 ID:q4MIQTuq
アリスゲームが起こった世界で蒼星石が死んで悲観しながらN世界漂ってたら
ラプラスの魔が現れてアリスゲーム無しの世界へ案内される。
付いてみたらその世界の蒼星石と翠星石とが楽しく過ごしてて
ずっと見てるうちに胸キュンして蒼星石を奪おうとする。
しかしその世界の翠星石が妨害して翠星石同士が戦いあう。

こーいこと?
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 22:27:51 ID:7DRHjwLQ
蒼星石が2人…?
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 23:00:34 ID:zUB8XRnT
ローゼン外伝〜122万時間前の記憶〜水銀党血風録(1)

1867年10月14日に徳川慶喜が征夷大将軍を辞し大政奉還、
12月9日に王政復古の大号令が発せられるに至り、幕府は事実上崩壊した。
しかし、それに納得しない幕臣は、真紅軍に対抗し戊辰戦争が勃発した。

副長・翠星石は、負傷した局長水銀燈に代わり水銀党を率いて戦うが、
真紅軍のホーリエの前に敗北する。さらに、水銀党は、翌年3月6日
甲州勝沼の戦いに敗退。その後、nのフィールドで再起を謀っていたが、
4月3日不意の真紅軍包囲により、局長水銀燈が真紅軍へ出頭。
翠星石は、江戸へ向かい勝海舟らに直談判し、水銀燈の助命を嘆願したが実現せず、
1868年4月25日、水銀燈のローザミスティカを没収される。

その後も、翠星石は、水銀燈を率い、旧幕府軍と交戦するが、同年8月会津戦争が激化。
副長翠星石は、会津藩に忠誠を誓う蒼星石と一部の党員を残して、幕臣榎本武揚と共に、
蝦夷地へ向かった。榎本らの幕府軍は、五稜郭を占領し、自ら蝦夷共和国を名乗るも、
宮古湾海戦における敗戦以後、真紅軍の蝦夷地上陸を許し、箱館総攻撃は目前であった。
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 23:16:14 ID:CD1KdNnT
ここでタイトル

   『翠星石最後の1日』
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 23:18:55 ID:zUB8XRnT
ローゼン外伝〜122万時間前の記憶〜水銀党血風録(2)

1869年5月10日夜
 翠星石「水銀党員の人間ども!耳の穴かっぽじって良く聞くですぅ!」
 党員「翠様!翠様!翠様!翠様!翠様!翠様!」
 翠星石「この翠星石が、敵から酒を分捕ってきてやったからくれてやるですぅ!」
 党員「副長!有難うございます」
 翠星石「ただし、軍律を乱してもらっては困るので皆一杯ですよ!」
 雛苺「雛も一杯飲むの――――!」
 
 金糸雀「副長、ちょっといいかしら?」
 翠星石「・・・ついに第7ドールが目覚めたですか」
 金糸雀「そう、真紅の総攻撃は明日かしら」
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 23:38:26 ID:zUB8XRnT
ローゼン外伝〜122万時間前の記憶〜水銀党血風録(3)

 翠「チビ苺!よく聞くです!」
 雛「どうしたの。翠星石、こわいの〜」
 翠「この如雨露とスコーンをジュンの家族に届けるです」
 雛「雛いやー」
 翠「チビ苺!なぜ言うことが聞けないのですか!」
 雛「雛知ってるよ、官軍のアリスゲームは明日でしょ。
   雛も一緒にたたかうのー!帰るなら副長も一緒じゃなきゃ、いやー」
 翠「チビ苺!断るというならローザミスティカを奪うですよ!」
329名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/04(火) 23:56:06 ID:zUB8XRnT
ローゼン外伝〜122万時間前の記憶〜水銀党血風録(4)
1869年5月11日
  官軍の総攻撃が始まる。五稜郭陥落は時間の問題であった。
 幕軍の敗走は明らかであり、真のアリスを自称する水銀党員の中にも、
 脱走者も少なかった。
 翠「待つです!こっから先に引き下がる奴はジャンクにするですぅー!」
 党員「おおおおおお、銀様!銀様!銀様!銀様!」
 
 官軍陣営
 紅「陥落はまだかしら?どうしたの?騒がしい」
 兵士「す・・水銀党が反撃をッッ!!」
 紅「そう、幕軍にもアリスがいたようね・・・」

  ・・・122万時間前のアリスゲーム(完)

 以上、続編を希望してやまない私の妄想。というか続編の予想してたら
 こうなってしまいました。オーベルの伏線で幕末で特別編とか。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/05(水) 17:51:26 ID:czA/4LIc
ちょwww翠星石たちはどうなったんだ?
331名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/05(水) 22:32:23 ID:YrCYV3dx
>>323324
あー、そういうんじゃなくて、
ただ、会いたいと言う思いが別世界の扉を開くみたいな感じだったんだけど
ラプラス使うとなぁ・・・翠星石の強い気持ちで導かれたという物語とはイメージが変るもんでして。

因みに終盤こんな感じで書いていたけど、もうこの話は捨てよう。

「蒼星石―っ、何ボーッとつっ立ってるです?」
はるかに高い空を仰ぎ見て立ち尽くす蒼星石の元に、いつもの翠星石の明るい声が響く。
翠星石の幻を見送った蒼星石が振り返ると、そこにはいつもの変らない翠星石が笑っていた。
「今、翠星石と話をしていたよ。一言だけでもお別れを言いたかった……」
「はぁ?蒼星石どうしたですか?翠星石ならちゃーんとここにいるじゃねぇですか」
「そうじゃないんだ。君じゃない君が、いなくなった僕を他の世界にまで探しに来てくれたんだ…」
説明にならない説明を聞いて、翠星石はケラケラ笑う。
「翠星石が2人もいる訳ねーですぅ、変な蒼星石ですぅ」
蒼星石は苦笑しながら姉に答える。
「そうだよね」
そして心の中でつぶやいた。
「ずっと僕の事を思っていてくれた君に、一言ごめん、って伝えたかった……」
違う世界に生きる2人でも、いつか会える事を信じたい。
どこまでも澄んだ蒼星石の瞳には、ただ青く広がる空だけが写っていた。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/05(水) 23:08:08 ID:czA/4LIc
捨ててしまうなんてそれこそ勿体無い
ぜひ見せていただきたいのですが…
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/10(月) 21:03:08 ID:ZB3rnMLp
あの薔薇水晶によるアリスゲームが終わって、もう幾日が過ぎたのだろうか。
残された翠星石の小さな心は、蒼星石の幻影を探して、深いNのフィールドの底へと降り立った。
今日も翠星石は一人、入り口も出口も見えず、上下も判らない濃い闇の空間に体を預けながら、
眠れない夜をゆらゆらと漂って、時の迷路の中で蒼星石の幻を追い続けている。
「会いたいです……蒼星石」
彼女の願う事は唯ひとつ。
訪れる度に、徐々に奥深くへ足を踏み入れてゆく翠星石は、とうとう静寂と闇に抱かれた深いNのフィールドが眠る世界へ辿りついた。
黒い霧の立ち込める先は、行き止まりの空間。この向こうにはもう、世界の扉はない。
闇の向こうにかすかに見える何百、何千もの青く淡い光の集まりが、
弱くゆらめきながら、翠星石のはるか遠くを迷い子のように通り過ぎてゆく。
それはまるで、遠い世界に置き去りにされた人の想いが連なって、
明かりを灯して囁きあっているかのように、いつまでもせわしく明滅しつづけていた。
翠星石には、フィールドの果ての向こうを伺い知る事は出来なかったけれど、
黒い霧の狭間からその光景を眺めながらただそこに佇み、来ることの無い人をあてもなく待ち続けていた。
どのくらい時が過ぎたのだろうか。
やがて翠星石は、ひとつの蒼い光が背後からその流れに加わろうと、飛び去っていくのを見つけて目を疑った。
それは、弱い輝きであったけれど、翠星石が決して見間違える事のない、なつかしい輝きを発していた。
「レ…レンピカ?」
彼女の小さな心に衝撃が駆け巡る。
その幻にすがる様に、彼女のつま先は迷わず闇の向こうに踏み出していった。
「ま…待つです、レンピカ!」
翠星石は無我夢中で闇に消えようとするレンピカを追う。
やがて、蒼星石の人工精霊の光がおぼろげに闇を照らし出し、その向こうにある扉を浮かび上がらせる。
その光に誘わるように、翠星石も扉の前に辿り着いた。
それは、こちらの世界に住む者には、決して見つけることが出来ない扉。
この世界ではないもう一つの世界。
翠星石は迷わず扉を開けた。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/11(火) 01:16:00 ID:xmJCYEuW
翠星石は、柴崎時計店の鏡の前に立っていた。
人気のない店には、ただ時計の音だけが鳴り響いている。
「ここは……」
カレンダーと夏の日差しが、この世界の時の移り変わりを伝えている。
いつもの街並み、いつもの人々、いつもの生活がそこでは営まれている。
店の中から見たそこは、翠星石の住んでいた世界と全てが同じだった。
ジュンの家に帰ろう……。
蒼星石への思いを振り払うように、ジュンの家へと帰る翠星石。

だが、戻ってきたジュンの家の庭先の光景は、翠星石の知っている昨日までの日常と大きくかけ離れてるものだった。
彼女は大きく狼狽した。
雛苺が庭の木の下で、膝を抱えてふてくされていたのだ。
「ちび苺?!…な、な……??」
幻でも見ているのだろうか、とっさには目の前の光景が信じられず、呆然と雛苺に見入る翠星石。
やがてその顔は、嬉しさにみるみるほころび始めてゆくが、
はっと我に返ると、そんな風に感じた自分の感情が、嬉しいやら恥ずかしいやらに思えて、
すぐに駆け寄って抱き寄せたい感情を抑え、そろそろと雛苺の背後に回始めた。
「くぅー、こうなったら、思いっきりちび苺を驚かせて、ついでにぐりぐりしてやるですぅ、
翠星石に散々心配かけた報いを受けるですぅ」
妙な理屈をこねながら徐々に距離を詰め、にじり寄る翠星石。
「ちび苺っ!いつ、帰って来たで…」
翠星石が叫びながら雛苺に襲いかかろうとしたその時、彼女の背後から響く声が、彼女の全ての言葉を消し去った。
「雛苺、ジュン君が呼んでるよ。何か悪戯したの?」
その声に、弾かれたように振り返る。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 01:49:03 ID:qJdjFW1i
wktk
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 22:14:14 ID:zQhSB+3T
大きく見開かれた翠星石の瞳に映る蒼星石の姿。
「そ、蒼星…石」
優しく微笑む蒼星石は、あの日のまま何一つ変わっていない。
脳裏に甦り溢れる思い出の数々は、彼女に言葉を紡がせる暇さえ与えず、込み上げる熱い思いは激流のようにほとばしる。
なつかしい笑顔、髪の柔らかさも頬の感触も、昨日の事の様に憶えている。
「ずっと、ずっと待っていたです、蒼星石ぃぃぃ」
彼女の頬に涙が流れる。
両手を広げ、蒼星石の名を涙でかすれた声で呼びながら、翠星石は蒼星石を強く抱きしめようとした。
しかし、その腕は蒼星石の体を虚しくすり抜けて空を切る。
「!!」
何が起きたのか分からず、翠星石はその場によろめいて膝を付く。
「そ…蒼星石!」
ふり返ると、蒼星石は翠星石に気付いた様子もなく、
ただゆらゆらと陽炎のようにゆらめきながら雛苺の方へと歩み去ろうとしている。
蒼星石には翠星石の言葉は届かない。
「蒼星石、翠星石が見えないですか?わからないですか?」
祈るような言葉を重ねても、懸命にすがりつこうとする努力も報われず、
実体を成さない影のような蒼星石に思いは届かず、体に触れることさえできなかった。
「雛苺、ほら、僕も謝ってあげるから、一緒に行こう」
呆然とする翠星石の傍らで、雛苺にやさしく語りかける蒼星石の声が、彼女の耳にやさしく響く。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/12(水) 22:20:18 ID:zQhSB+3T
桜田家の窓が開き、一人のドールが庭先へと降りてきた。
それは、翠星石には信じられない光景だった。
「まーったく、ちび苺のお行儀の悪さはサカリのついたネコ以下ですぅ、ジュンが怒るのも無理ないですぅ〜っ」
彼女の言葉に、翠星石の体は凍りついた。
その場で立ち尽くす翠星石の傍で、三人の薔薇乙女達は仲良く手を繋いで、桜田家へと消えてゆく。
翠星石は一人、その後姿を眺めながら立ち尽くしていた。
「……そうですか、ここは蒼星石がアリスゲームを望まなかった未来なのですか…」
この世界は、アリスゲームを誰も求めなかった、翠星石が欲して止まなかったもう一つの世界の姿だった。
薔薇乙女たちが争うことなく日々を送る、翠星石が夢にまで焦がれたもう一つの未来。
彼女の瞳から、涙の雫が滴った。
「やっと、見つけた…です……」
その言葉とは裏腹に、自分が、この世界では存在してはならないもう一人の翠星石だと言う事をも感じていた。
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/13(木) 22:05:53 ID:+bGN5rWi
白い世界に風は流れてゆく。時は翠星石の上を通り過ぎてゆく。
いつもと同じ場所で演じられるいつもと同じ生活。
庭先から室内を見続けている翠星石の瞳に写る、幸せな日常の情景。
楽しそうな会話を弾ませるもうひとりの自分の姿。
永遠に埋まらない硝子一枚の厚さが隔てる距離の遠さ。
翠星石の心を締め上げる静かな寂寥感。
「ジュン、真紅、雛苺、……蒼星石」
彼女に出来る事は、決して聞こえる事のない言葉を、ただ独り言のようにつぶやくだけ。

そんな彼女の思いを察したのだろうか、ふと、顔を上げた蒼星石は、そのままドアを開けて庭先に目を向けた。
「今、翠星石に呼ばれたような気がした…」
「変な蒼星石ですね、翠星石はさっきからちゃーんとここにいるじゃねぇですか」
「そうなんだけど……何故だろう、君が何処かへ消えてしまったような、とても悲しい感じがするんだ」
「翠星石が蒼星石を置いてどっかに行くことがありえねー様に、蒼星石も翠星石を置いてどっかに行くことがありえねーことなのですぅ」
翠星石の自身に満ちた言葉を聞いて蒼星石は苦笑した。
蒼星石がアリスゲームを放棄して、今の生活を選んだ事には何の後悔も無い。後に翠星石から本気で叱られたりしたけれど、
蒼星石は翠星石にとても感謝している。
「翠星石があの時、僕を止めてくれたおかげだね」
「そうですっ、蒼星石はもっと翠星石に感謝しやがれーですぅ」
見つめ合って笑いあう2人の姿。
やわらかな風のように蒼星石の言葉が流れる響く。

「そうですか・・・こっちの翠星石は、ちゃーんと蒼星石を守ったですか……」
そんな2人を眺めながら、翠星石は寂しく笑う。
蒼星石をとめられなかった自分の情けなさを後悔し、そんな自分自身に嫌気がさして、彼女はその場にうずくまる。

どれほど時間が経っただろうか、やがてひとつの足音が、肩を小刻みに震わせながら顔を伏せている翠星石の元に近づいてきた。
それに気付いた翠星石がゆっくり顔を上げると、そこには、まっすぐに彼女を見つめる真紅の青い瞳があった。
「真紅……翠星石が見えるですか…?」
「翠星石……迎えにきたのだわ」
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 16:19:54 ID:/pqP4TKP
乙〜
なるほど、こういう繋ぎだったのか・・・翠星石は可哀想だけど
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/15(土) 21:48:45 ID:QA8IX4o+
この話はあと半分くらいで終わり。
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 15:13:59 ID:HbVLRUWS
「ここは…」
真紅が鏡を抜けると、そこは暗い人形工房だった。
翠星石の様子を心配していた彼女は、ホーリエに居場所を探させ、翠星石を追って世界の扉を越えた。
ひっそりとした工房で、机に向かいただ黙って作業をする金髪の青年。
真紅の脳裏に、アリスゲームを仕掛けた人物の記憶が鮮かに甦る。
「あなたは…」
真紅の呟きが聞こえたのだろうか、ふと槐の手が止まった。
やがて彼は、振り返らず独り言のように語り始めた。
「……想いは時として、奇跡のような夢を実現するものなのかもしれない」
真紅が彼に様々な問いを投げかけようとした時、槐の側に一体の人形が歩み寄ってきた。
「薔薇水晶…」
彼女の気配に一瞬身構えた真紅だったが、薔薇水晶は真紅に気付く事なく、槐に甘えるように彼の膝の上に頬を寄せる。
金色の目を開いて槐に甘える薔薇水晶の左目には薔薇の眼帯は無く、その瞳は静かな優しささを湛えている。
彼女はこの世界で、ローゼンの第7ドールという役目を演じてはいなかった。
「オトウサマ…誰カ…イルノ?」
槐は微笑み、少女の髪をなでながら答える。
「ん……いいや、僕たちの他には誰もいないよ、薔薇水晶」
「オトウサマ……」
槐には自分が見えているのだろうか?真紅は、自分の存在が不鮮明なものでしかない事実に、言い知れない不安を感じた。
「教えてちょうだい、この世界は一体!?」
「君が見る世界もまた一つの真実の姿。だが世界を結びつける闇は細く、移ろいやすい。気をつける事だ」
その後、槐が真紅の問いに答える事はなく、やがて彼は中断していた作業に戻っていった。
真紅は確信した。
「この世界は……アリスゲームが起こらなかった未来、なのだわ」
彼女の前に広がるここは、ただ平和で、暖かく、優しい世界。
望むべくも無い幸せが、ここにはあった。
真紅は無言で槐に別れを告げると、翠星石の元に向かった。
342名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 19:06:50 ID:HbVLRUWS
真紅はただ、翠星石を待っていた。
「翠星石、この世界にあなたの歩むべき未来はないわ」
うなだれている翠星石に、真紅は静かに語りかける。
「帰りましょう、私たちの未来が生まれる世界へ……存在の否定された世界から、私たちの世界へ」
翠星石は黙って真紅の言葉を聞いていたが、やがて絞り出すようなちいさな声で呟いた。
「……いやです。ここには蒼星石がいるです」
「おねがいだから戻って頂戴、ここにいたって、辛くなるだけよ」
「だけど、翠星石は…」
言葉をためらいながら、真紅から顔を背けたまま、彼女は言い切った。
「辛くてもいいです。もう、寂しい思いのほうがしたくねぇです」
2人の間にしばしの沈黙が流れ、やがて翠星石は悲しげに言葉を結ぶ。
「翠星石の事は放っておいて欲しいです……」
小さな安らぎの世界に身をゆだね、思い出に閉じこもろうとする翠星石の肩に、真紅のちいさな手が触れる。
存在を否定されたこの世界で、たった二人だけ存在すると言う確かな感触。
「あなたも解っているでしょう翠星石、ここは私達にとって幻でしかない世界だという事を」
翠星石の脳裏に先ほどの光景がよぎる。
この世界で生きるもう一人の翠星石、自分でない自分が蒼星石と一緒に幸せでありふれた日常を過ごしているこの世界が、なぜ、自分達の世界じゃなかったのか。
翠星石にはそれがたまらなく悔しかった。
差し伸べられた真紅の手を振り払い、翠星石は真紅に懇願する。
「一言だけ、一言だけでも蒼星石と話をさせてくれなのです!」
「翠星石…」
「だって、こんなに近くにいるのです、こんなに……」
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 19:24:29 ID:HbVLRUWS
蒼星石は感じていた。見えないけれどもう一人の翠星石が自分を呼んでいる事に。
真紅と翠星石のやりとりに気付いた訳ではなかったが、それでも蒼星石は、姉の思いに答えるかのように空に向かって問いかける。
「翠星石…君なのかい?」
翠星石の顔が輝いた。一縷の望みを抱きながら、蒼星石向かって感情のままに言葉がほとばしる。
「蒼星石!翠星石がわかるですか?!」
だが、蒼星石は、あたりをきょろきょろと伺うだけで、目の前で訴えかける翠星石の姿に気付く気配は無い。
「ほら、ここです、ここにいるです!」
必死に訴えかける翠星石の姿を見続けることに耐えられず、真紅は黙って目を伏せる。
「蒼星石っ、そっちじゃないです!こっち向けですぅ!!」
どんなに言葉を重ねても、痛々しいほどの翠星石の心の叫びが蒼星石に届く事は無く、声は次第に力を失い、やがて止まった。
しばし押し黙って、悲しげに蒼星石を眺め佇む翠星石。
「……やっぱり、蒼星石には翠星石の声はとどかねぇです」
震える声で小さく呟くと、寂しく微笑みながら真紅の方に向き直り、彼女の願いに同意した。
「わかったです、真紅……」
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 19:27:04 ID:HbVLRUWS
翠星石は蒼星石に、最後の別れの抱擁をする。
『どうかこの世界では幸せでいられますように』
泉に水が満ちるように、切ない願いは蒼星石に伝わってゆく。
「す……翠星石…!?」
暖かな想いに抱かれながら、蒼星石の脳裏に彼女の思い出がゆっくりと流れてゆく。
蒼星石ははじめて知った。
別の世界で起きてしまったアリスゲーム、その引き金になった自分、
懸命な姉の説得を振り切って戦いを挑み、姉の目の前から消えていった自分と残された翠星石の想い。
やがて、彼女の思いが、翠星石の姿を蒼星石の前におぼろげに浮かび上がらせてゆく。
自分を抱きしめながら涙する翠星石を、蒼星石は今、ようやくその瞳に映す事ができた。
心を千切るような痛みの向こうにある彼女の願いは、ありふれたささやかな事。
伝えたかった思いを託した後、翠星石は蒼星石の額にそっと唇をあてて別れの言葉をつぶやいた。
「さよならです……蒼星石」
言葉を失う蒼星石の前から、翠星石は静かに消えていく。
声を聞く事も、触れることも適わなかったもう一人の翠星石を、今、蒼星石ははっきりと感じていた。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 19:34:21 ID:HbVLRUWS
蒼星石―っ、何ボーッとつっ立ってるです?」
夕暮れのはるかに高い空を仰ぎ見て立ち尽くす蒼星石の元に、いつもの翠星石の明るい声が響く。
翠星石の幻を見送った蒼星石が振り返ると、そこにはいつもの変らない翠星石が笑っていた。
「今、翠星石と話をしていたよ。一言だけでもお別れを言いたかった……」
「はぁ?蒼星石どうしたですか?翠星石ならちゃーんとここにいるじゃねぇですか」
「そうじゃないんだ。君じゃない君が、いなくなった僕を他の世界にまで探しに来てくれたんだ…」
説明にならない説明を聞いて、翠星石はケラケラ笑う。
「翠星石が2人もいる訳ねーですぅ、変な蒼星石ですぅ」
蒼星石は苦笑しながら姉に答える。
「そうだよね」
そして心の中でつぶやいた。
「ずっと僕の事を思っていてくれた君に、一言ごめん、って伝えたかった……」
桜田家に明かりが灯る。
違う世界に生きる2人でも、またいつか会える事を信じたい。
どこまでも澄んだ蒼星石の瞳には、ただ宵闇に広がる空だけが写っていた。
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/16(日) 20:02:09 ID:HbVLRUWS
月光が降り注ぐ静かな夜。
元の世界で一人月を眺めている翠星石に、真紅は声をかけた。
「ごめんなさい翠星石、でも私は……」
その言葉を遮るかのように、翠星石は言葉を返す。
「何も謝る事はねぇですよ、真紅」
「翠星石……」
翠星石は、ゆっくりと真紅の方に振り返る。
「心配はいらねぇです。もう、あんな世界には用はねぇです」
強がりを真紅に気取られまいと、翠星石は明るく振舞う。
「えへへ、翠星石はちーっとも悲しくなんかねぇですよ、こんなの何ともおもっちゃいねーです…」
月影に彼女の表情を窺い知る事は出来なかったけれど、
言葉の調子とは裏腹に、翠星石の瞳からは大粒の涙が溢れている事に、真紅は気付いていた。
「全然平気です……」
ついに訪れる事が適わなかった楽園の姿。儚い幻に過ぎない世界ではあるけれど、懐かしい人たちの暮らす世界。
翠星石は今、その世界に住む蒼星石への思いを胸にしまった。
少しの間、真紅は、翠星石の寂しげな背中を見続けていたが、やがてその場を去り眠りに就いた。
未だトランクの中で眠り続ける蒼星石。
翠星石の言葉にならない思いが、あの世界の蒼星石の姿と重なり合い、涙の雫となって滴り落ちる。
「蒼星石・・・翠星石は待っているですよ……」

再び薔薇乙女たちの未来は動き出した。
この世界で彼女たちは、どんな夢を見るのだろうか。


おわり
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/17(月) 02:58:32 ID:HszGjhVE
久々の力作だった、乙
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/18(火) 03:17:23 ID:n5rJ3Sk7
ふと話が浮かんで、どぴゅっびゅるるーっと書きなぐってから読み返してみると
つまらなかった
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/18(火) 03:17:48 ID:n5rJ3Sk7
すまん、あげてしまった
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/18(火) 18:26:37 ID:wv2bVFRJ
乙〜よい話・・・翠星石が切ない・・・
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 14:33:58 ID:OU31bnvZ
さて、ローゼン復活記念として
上の話を書いていたときに
軽い感じで書いたのでも出しておきませうかの
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 14:34:37 ID:OU31bnvZ
「じゃーーーん、金糸雀颯爽のデビューかしら!さあ、契約するかしら!!」
あるバイオリニストの夢の中、金糸雀は初めてのミーディアムを探していた。
ローゼンが第3ドールを作り始めて、かなり焦っていたのだった。
「実際このままでは、カナの立場があぶないかしらぁぁ・・・」
バイオリニストの青年は、金糸雀の突然の出現にかなり狼狽し、腰を抜かしておろおろしている。
たたみ込むように、契約を強要する金糸雀。
「この金糸雀様と契約すれば、あなたはチョー有名人間違い無し、
バイオリンだってカナのテクニックを持ってすれば、チョーチョー一流間違いなし、
もう良い事尽くめかしら〜」
目の前で奇妙なポーズで決めている金糸雀に、何かヤバイものを見ているとしか思えず、青年は逃げ腰になっている。
「あ、ちょっと、引かないで、待つかしら!」
完全に信用を失っている金糸雀は、バイオリンに手をかけた。
「ほらほら、こんな風に演奏、することだって出来るかしら〜」
逃げ腰だった青年が反応する。一応、演奏技術は一流なので、それに食い入るように見とれ始めたのだった。
好感度を与えることに成功した金糸雀は、すかさず超絶技巧や作曲の絶妙さをアピールして、青年との契約になだれ込もうと画策する。
「うほ、この完璧なまでのトリル!ほらほら、契約すればもっともっと聴かせてあげるかしら〜」
しかし、ここでタイムオーバー。青年は夢の世界から現実へと戻る時間になった。
「あ、ちょっと、待つかしら〜!!」
そんな金糸雀の叫びなんかお構いなく、青年は目が覚めた。
そして、さっきまで金糸雀が演奏していたバイオリンソナタを、不思議な思いで五線紙に写し取った。


時は流れてみっちゃんのアパート。
休日のひと時にオーディオから流れるバイオリンソナタ。
みっちゃんは今日もご機嫌でカナと戯れている。
「む〜、みっちゃん、その曲・・・かんべんして欲しいかしらぁ〜」
「あら、カナこういう曲ダメだった?曲調がカナに似てたものだから……」
2人一緒にお菓子を作りながら、今日もラブラブな一日が過ぎてゆく。
「ねぇみっちゃん……みっちゃんは最初、カナと出会った時、どう思ったのかしら?」
幸せででろでろ状態なみっちゃんに、金糸雀は聞いてみた。
「んもう、天使が私の処にやって来たのかと思ったわ」
その答えに気を取り直した金糸雀は、過去の自分に言い聞かせるのだった。
「そうよね、あの時はどん底まで落ち込んだりしたけど、
結局、あのバイオリン弾きがカナの魅力にこれっぽっちも気付かなかっただけなのかしら!!」
金糸雀がチラッと目にしたそのCDは、今日では結構有名な曲として、その逸話と共に語り継がれている。
作曲者の名前はタルティーニ。
曲名は『悪魔のトリル』である。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 15:28:22 ID:AlzywCNV
投下乙です
つまり有名な曲で不吉なタイトルがついてるやつは
全てカナの曲がオリジナルだったんだよ!!
モーツアルトの『魔笛』とか
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 15:53:42 ID:AP14NGrq
ローゼン復活記念として俺も何か書かざるを得ないな
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/20(木) 20:02:16 ID:OU31bnvZ
>>354
go-!
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 19:46:19 ID:5aVgckPs
>>354
まだかな?
まだかな?
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/31(月) 01:04:17 ID:IgIoHOMf
一応、書いてみた・・・長くなりそうな予感

変な日本語だよ・・・どんどん指摘してくれ・・・

ローゼンは天才だった。自分が作るものには他を寄せ付けない魅力がある。
昔から自分でその才能を自覚していたし、周りにもその実力を高く評価してくれる人も、僅かではあるが居た。
だがその才能だけでは生きていけない。
天才でも金を儲け、飯を食わねば死ぬ。そしてドールを作るのにも、やはり金無くしては何も出来なかった。
だがローゼンには人形作りしかなかった。それ以外、何も出来なかったし、能力もやる気もなかった。
親には見捨てられ、身内には変人だと陰口を言われた。が、彼にとってそんなことどうでもよかった。
「ドール」これが彼の全てだから。だが、その異常な熱心さは次第に彼を一人にしていった。
世の中の愚民共はなかなかローゼンの作り出すドールの真の魅力を理解しようとしなかった。
もちろん、素晴らしいとよく褒め称えられるが、そもそも奴等の脳内ではドールはオモチャの域を超えなかった。
だから相当な評価を貰えない時が殆どだった。所詮、「オモチャ」だった。だれもそこから芸術性を見出そうとはしなかった。
ローゼン自身、別に誰かに理解して欲しいとは思ったことは無かったが、自分が作ったドールに相応だと思う値段を付けても誰も買おうとしなかった。皆口をそろえて高いと言った。
値を下げて売らざるを得ない。だから収入は少なかった。

彼は「作品」と「商品」を分けて考えていた。
作品は自分の全てをかけて作るものであり、彼自身のために作るものだ。
それに対して商品は、ただの資金集めのためのもの。だが彼は全ての商品にもそれなりの愛情は注いでいるたつもりだった。
いや、正確には「愛情」というより人形師としてのただの「プライド」なのかもしれない。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/31(月) 01:08:58 ID:IgIoHOMf
最近のローゼンはひたすら「商品」作りに追われていた。「商品」を作らなければ収入も無く、作品を作る事が出来ない。
が、「商品」の制作費と生活費で収入の殆どが消えた。このままでは何も出来ないではないか。
そんなことで悩んでいたある日。
ふと街中を歩いていると、何やら人が集まっているのが目に入った。
ローゼンはそれが気になり、その人ごみを掻き分けて最前列に出た。
するとそこには、ピチピチのタキシードを着込んだ、中年中背中肉の男が一人、椅子に座り一体の人形を抱えていた。
何の変哲も無い人形だ。塗装ははみ出ているし、腕の関節の合いも最悪だった。隙間だらけだ。服も服だ。素人臭がプンプンする。
なにより致命的なのは、その人形には「生気」が感じられない。もはやそれは人の体を成していない。いわゆるゴミ同然の出来だ。
なのにこの人集りは何なのだ。ローゼンには理解出来なかった。彼は興味津々な目でその男と人形を見つめた。
「今日はお集まりいただき、有難うございます。」
男は突然立ち上がると、ハットを取り、頭を下げて観衆に適当な挨拶を述べた。
「では、はじまりはじまり。」男がそう言うと、拍手やら喋り声やらでざわついていた人々は一斉に静かになった。
そして、それは始まった。
「君がボクのパンを食べたのかい?」その男が人形に話しかけた。
すると人形がパクパクと口を開けて男に返した。
「いいや、僕じゃないよ」
「嘘だ。パン粉が口についてるじゃないか」と男。
「ギクリ。バレたぁ」と人形。
「はっはっはー。ひっかかったな」
ローゼンは驚いた。人形が主人と会話をしているではないか。
「こ、これは・・・魔法か何かの類か・・・・」ローゼンは思わずそう言った。すると横に居た観客の少年が言った。
「おじさんバカじゃね?腹話術だよ。」
「ふ、ふく・・・わじゅつ?」あまり世間と関わる事が無いローゼンにとってそれは初耳だった。
「うわまじかよ。」少年は信じられないという表情でローゼンをあざ笑った。
「あのね。あの人形は自分で喋ってるんじゃないんだ。あのおっさんが人形の代わりに、口を閉じて声を出してるんだよ。」
少年はそう説明すると、その男の方を指差した。そして言った。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/01(火) 22:43:46 ID:XPOawt+o
wktk
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/05(土) 19:38:35 ID:WYX+PES6
続きまだー?
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/06(日) 14:04:15 ID:ghks4G75
かなり古くなるがケットシーさんの「あべこべろーぜんめいでん」の続きが読みたい・・・

KYすまん。

362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/12(土) 02:21:46 ID:kjSzI2hV
つづきは?
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/12(土) 02:46:33 ID:bxkfeWxo
ち、ちょっと待ってくれすまん
学校とバイトが忙しすぐる
今日はもう寝る・・・
364sage:2008/04/12(土) 09:44:03 ID:7YuGF0pE
よし、続きはこうだ

少年はそう説明すると、その男の方を指差した。そして言った。
「君がぼくによって作られた人形であることと同じようにね」

そう、この物語の全てが寂しい少年の人形遊びだった。
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/16(水) 14:09:40 ID:4Wnm0NS0
みんな連載再開を確かめるまでは自粛してるのかな?
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/17(木) 09:19:15 ID:7PrhErVZ
まさかあんな展開にするとは…。
矛盾無く展開できるのかな>作者
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/17(木) 11:14:59 ID:SBG2nKWo
gdgdに終わらせたラスト無理矢理繋げるために
平行世界とか持ち出したんだろ
368357:2008/04/17(木) 20:54:53 ID:0QI4mQzQ
すまぬ・・・忙しすぎる
一応話はある程度考えてあるんだが、結構長くなりそうなんだ・・・
でもこのまま放置はしない・・・つもり。たぶん。

>>366
>>367
さんは俺に言ってるのかな?
俺は>>364じゃないよ
369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/18(金) 00:36:07 ID:bXEtVn8I
>>368

つ今週号のYJ
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/30(水) 01:01:33 ID:TxnyYTLW
保守
371Rozen Maiden LatztRegieren:2008/05/02(金) 00:52:53 ID:uOez24ef
久しぶりです。Rozen Maiden LatztRegierenを書いた人です。

切なるお願いがあって今回書き込みました… よかったら手を貸していただけないかと。

いま、というより結構まえから、新しいローゼンSS「アリスゲームが終わったら」ってものを書いているのですが、
そこで、一緒に協力して書いてくれる人がいると嬉しいのです。というのは、やはり自分ひとり手だけで書いていると、
キャラクターの書き方にムラが出てしまうのです。つまり…、まあぶっちゃければ、気に入ってるドールの活躍する場面だけ
文がやたらすすんで、そうでないドールが活躍するときはやっつけ仕事みたいな文になっちゃうのです。

それぞれのドールのバランスが絶妙だからこその原作なので、SSを書くときに、こういう傾向があると展開がうまくいかなくなります。

自分が特に描写に苦戦しているドールは、雛苺、双子、金糸雀で、他はまあ生き生きとした(?)書き方はスラスラいけるんです…。
特に双子にまつわる話しがダメでダメで仕方がない…


なので、そういう部分の描写を、だれか、手伝ってもらえないでしょうか。
「アリスゲームが終わったら」は、相変わらずドアーズのジ・エンドが(以前よりも増して)テーマ曲みたいに登場していて、
LatztRegierenと似たような展開もありますが、話の規模じたいは、LatztRegierenの二倍か三倍くらいの大きさになると思います。
(量的には少なくなる。LatztRegierenは770kbだったが、今回は500kb前後で完成したい。現在の製作段階で129kbある)


もし、以下に書くようなストーリー設定のSSのなかで、自分なりに苺とか双子とか金を活躍させたい!というSS書きの方が
いらっしゃれば、是非是非協力お願いします。また、もうちょっとどういう話しになるか具体的に教えてくれ、
そうしたら考えるという人も、よかったらメールください。
372Rozen Maiden LatztRegieren:2008/05/02(金) 00:54:51 ID:uOez24ef
「アリスゲームが終わったら(When the Alice−Game’s over)」

・ストーリーは、アニメ二期の純粋な続き。前半はアニメ三期の予想みたいなSSになり、例によって第七ドールが
顔を出してきて、真紅達を追い詰めて、そして後半になると、いろいろとカオスになってくるという流れ。だと思う。

・話の規模はアリスゲームのうちにはとどまらない。(○○がアリスになった、アリスゲームとは○○だったんだ、
ジュンがヒキコモリを脱した、といったところで、話は終わらず、むしろそのへんは中盤の通過点にしたい)つまり…、
このSSで語りたいのは、アリスゲームが終わったら、ドールはどうなるんだという話や、アリスゲームを超えたところで起きる、
nのフィールドのとある事件なのだ。

・言ってしまえば、このSSは、第七ドール主人公の、雪華綺晶が視点の話になる。(しかしもちろん、雪華綺晶が雪華綺晶らしい
活躍をするには、他のドールの行動や心情があってこそだ)

・LatztRegierenは、結構ふざけたところがあったが、今回は真面目さを最後まで突き通したい…


ちょっと分かりにくいと思うので、次は具体例。このへんの描写で苦戦してる。。というものです。でも、こうなるとは限りません。

・雪華綺晶のあの手この手で惑わされる、真紅とか双子…の、反応!(原作のように絵画にピシっとなったりはしない。けれど、
雪華綺晶サイドのアイデアが肥大化しすぎて、真紅達がリアクションに困っている!)
・薔薇水晶とエンジュとか
・とにかく、双子(SSは、アニメ二期の続きがそうなるであろうように、蒼星石が眠ったままの状態からスタートする)
・その他、ジュンの家でワイワイやる系
373Rozen Maiden LatztRegieren:2008/05/02(金) 00:57:09 ID:uOez24ef
以下はSSの序章です。次のやつを呼んで、どんな感じの話か掴んでくれれば、嬉しいです。
興味持ってくれた方で、双子を活躍させたいぜ!という方や、また,きらきーならオレに任せろ!という方でも
構いません。よかったらメールください。くださった方には、おおまかなストーリーを公開して、後に自分の描写の苦戦している
部分をメールに張ってを送信して、相手に書いてもらって、それををまたこちらに送り返してもらえれば、と思っています。
どうかよろしくお願いします。
374アリスゲームが終わったら:2008/05/02(金) 00:58:04 ID:uOez24ef
phase 0 : 序章

アリスゲームは最終局面を迎えている。

でもこれは到底、お父様がかつて望んだような状況ではありません。
それはお父様が一番知っているはずでしょう。

貴方が私を破滅させるために用意された敵に対して、私の力は何の効力も発揮しないのです。
私の姉妹たちも,それぞれの判断で闘っているけれど,いまnのフィールドを支配する敵は,nのフィールドに自分の法則を
忘れさせるほどの力で,薔薇乙女の姉妹を散り散りにするのです。

私の人工精霊スーウィも,取るべき道が見つからずに,ただ,すぐ目の前に存在する強大な混沌に抗して,消え入りそうな
白い輝きを放っているだけ…。

薔薇乙女に許された時間は,もう尽きようとしています。
この破滅が終わったあと,伝説には再生が始まると耳にしていますが,伝説が本当かどうかは第七ドールの知り得る領域の圏外です。


最後に私が告げられる,お父様への永別の言葉は,私がさっきにも紅薔薇の第五ドールに告げたこの言葉の他には,何もありません。

「私はゲームの盤上を動くドールの駒を勝者の目で見てきた。いま,私はそれを敗者の目から見ている。
お父様の心が引き起こした恐怖が,すべてを破滅させるのも,きっとそれは運命なのでしょう………」
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/02(金) 04:14:22 ID:i96S97mw
なんだか面白そうな事になってるね。
自分は実力ないのでROM専だけど、期待しております。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/02(金) 11:42:52 ID:+DV3KjNS
話がものすごく複雑そうですね
真紅たちの反応に困っていると言うと?
377名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/02(金) 15:13:15 ID:gN8Y+9HT
六神合体ローゼンメイデンとか言ったり。
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/02(金) 21:52:50 ID:78jkIFw/
しかし人の作品に手を入れるとかえって悪くなったりしないだろうか
多分破綻しちゃうんじゃないか?
返ってきた物をそのまま使うのではなく、ヒントや取っ掛かりにするってことかな
379374:2008/05/02(金) 23:44:57 ID:uOez24ef
ううむ,真紅たちの反応というのは、つまり、話しの中盤あたりかな、雪華綺晶が真紅達に喧嘩ふっかけにいくときに、
その雪華綺晶に対して、

真紅たち「(゜д゜)」

みたいな反応しかかけなくて、困ってしまう。原作とかの真紅様ならもっとたくましいリアクションと勇気を見せてくれるだろう…
というか…。

いわばリレー小説みたいにSSを創っていきたいと思っています。>>378さんのように、

>返ってきた物をそのまま使うのではなく、ヒントや取っ掛かりにするってことかな

ということもすると思います。
とある場面限りに至っては、ほとんど協力者側にまかせっきりにもなるかも。アバウトです。

また、こちらの考えたストーリーだけで相手に協力してもらうのも一方的なので、協力してくれる人の、

「こういう話を書いてみたいぜ」

という提案があれば、その設定の話が「アリスゲームに終わったら」に織り交ぜることができるかどうか、積極的に考えて見ますし、
むしろ、そういうほかの人のSSネタに飢えてます。(が、しかし、第七ドール関連に限っては、もうネタが満杯になりつつある。
銀と紅も、もう結構たくさん、たまってしまっているが、他はガラガラ!是非ストーリーを提供してくれ!)

一緒にストーリーを考えて大作SSを創り上げてゆきましょう。


メール待っています。
まだ他に疑問などもあればきいてください。

[email protected]
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 05:51:45 ID:Q9DJLeV1
確かに氏の雪華綺晶は生き生きしてる印象。キャラへの愛あればこそなんだろうな。
やられっぱなしでしゃくにきた真紅達が、逆に罠を仕掛けて雪華綺晶を迎え撃つ…なんちって。
381名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 10:18:02 ID:3pT7q2Jh
>>374
おいらは>>333とか短編を何作か投下してたけど
作風的に戦闘主体で長編はムリかなぁ。
あと残ってる弾は書く気の失せた>>112位しか今のところ無いし。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 10:22:17 ID:3pT7q2Jh
あれ、アンカーミス。
>>112じゃなくて>>121でした。
50年の時を越えて届いたラブソング。な話ね。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 15:39:02 ID:Sigb0wgZ
糞キムは出さない方がいいと思う

・もともとストーリーにいなくても何ら問題ない
・シリアスな雰囲気が壊れる・嫌われてる

こんなクズ出しても作品の質落とすだけだろうし
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 21:44:10 ID:3pT7q2Jh
>>374
ヒントや取っ掛かりという意味では
こんなのどうかな??

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19200
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/03(土) 22:47:36 ID:qwZ6vIdJ
SSに限らず他人の作品を見るのはいい刺激になるな。Latzt作者氏じゃなくても、詰まってる書き手は
色々焦ってみるといいぞ。MADとか音楽伴ってるのは書きながらでも聴ける
「薔薇乙女の楽園」とかttp://www.nicovideo.jp/watch/sm1107909とかは俺も昔書いてた頃は世話になった
最近でもないが、俺的に最近当たったのはこれttp://www.nicovideo.jp/watch/sm1664016
あとは普通にアリプロ聴きまくった。劇中使われてる曲もそうでないのも
ただ、それだけでは「情景が浮かぶ」程度なんだよな。Latzt作者氏も音楽は聴きまくってそうだし
普通に手伝いたいが、俺も2年くらい一文も書けてないからなぁ
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/04(日) 04:37:08 ID:q/A5Q68i
リレー小説か、自分も某アニメのリレーに参加した事ありますよ。
何もかもが懐かしい・・・製本にまでなったもんなぁ・・・

老婆心ながら374さんに一言。
共同リレー小説は以下にお互いの思考や理解を文面で表すかが重要です。
そして次にリレーしてもらう相手に、状況を解ってもらう様な書き方も必要になってきます。
多分脚本書くのと同じでしょうね、感覚的に。
本格的にやりたいのならメールでのやり取りより、専用スレを立てたほうが
より色々な声も聞けるでしょうし打ち合わせもし易いんじゃないですか?
後、リレーでどんな展回にされても、それをある程度納得して
筋書き立てして行けるだけの気構えだけは持っておいたほうがいいですよ。
応援してますんで、焦らずに趣味としてやっていって下さい。
そうしないと持ちませんよ?
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/04(日) 07:34:16 ID:hrohZpzR
374氏がメイン脚本&シリーズ構成みたいなものか。
388374:2008/05/05(月) 20:38:11 ID:D4Jlt/bH
いろいろ悩みが発生して書き込みがおくれてしまった…

>>384さん>>385さん MAD紹介してくれてありがとう。動画のコメントとかみてると自分も頑張りたい気持ちになってくるよね。

(ついでですが、これは自分が前につくったMADです。かなり重症なMADですけど…。水銀燈のMADです。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm864109


話を戻すと…、正直じぶんもこういう試みは初めてなんでうまくいく自信はあまりありませぬ。
また、このSSのために専門スレ立てるのもちょっと恐縮…。あと、製作途中のSSや大まかなストーリーは、
協力してくれる人に見せたりするのは当然だけれども、そうでない人にまでまだあまり見せたくない気持ちも。
やっぱ、公開するときは完成SSをドンと載せたいというか。2chスレだと誰でも見れてしまうのが難。

かといって、いまのところ、ぶっちゃけメールが一通も届いてないという、悲しい事実も。
そこがちょっと悩んでいるところです。

でも、確かに、スレ立てすれば、割とやりやすいし色々な人がすぐ意見だせたりしますよね。
>>386さんの助言はおおいに参考になります。

あとは、確かにリレー形式みたいな感じでいければと書きましたが、他にもちょっと考えた形式があります。
それが、自分のかいたSSをばっと見せて、それを協力者に、どんどん修正してもらったり勝手な話を付け足してもらったり
という形です。

ただ、やっぱり断らなければならなさそうだなと思うことは、ちょっと自分のわがままが強めになりかねない予想がされる
ということ…というのは、ストーリーは大まかに決まっていて、こればっかりは、あまりは壊したくないんですよね。
つっても、その決まっているという部分は、雪とか銀とか紅で、ほぼ双子とか苺はぜんぜんフリーですが。(金は少し決まってる)
もちろん雪とか銀とか紅に関する話のアイデアでも、ストーリーとズレが大きくなければ、普通に導入を考えますが、
そうでないときは、ちょっとわがまま発動するかもという断りを…させていただければと。まあじゃあそのストーリーはなんだ、
ってなって、それを教えなければなかなか話しも始まりにくいのかもしれませんね。あと他にありえるパターンとして、
考えていたストーリーとはズレちゃうけれども、そっちの話のほうが普通に面白そうなので、急遽そっちに路線変更!
なんてのもありそうで、ほんと、予想できない。しかも、せっかく路線変更したのに、ふと気が変わって、やっぱり元に
戻そうというのも起こりうる。まさに脚本つくりあれこれという感じですね。

結論をいうと、悩んでいます。どうすればいいのだろうか。
ただ言えることは、やはり、このまま自分一人だけで書くと、かたよったSSになっちゃうよ。:p

特定の人だけで会話を交し合える掲示板みたいなところがあればちょっと理想的だけど、そんなところ、誰もこなさそうだよね。
2chにしろよ、みたいなね…


もし、どっかのスレで打ち合うのだとすれば、

1.SS全体のストーリーを教えて、協力してくれる人がいるかどうか確認する
2.ストーリーは章ごと12話に分けてある。一話ごとのおおまかなストーリーの流れを話し合いで決める
3.実際にみんなで書いてみる
4.自分一人で最終調整(→2あたりにくり返し)

といった流れでしょうか。まあ実際やってみなきゃ何起こるかわからんですけどね。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/06(火) 05:09:31 ID:1+z/DEqA
それ用のブログでも作ってみては?
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/09(金) 01:04:31 ID:QGcevZvR
まぁ確かに、実際に作品を見てみないことには何とも言えない。>>374氏、メールさせて頂きました。
何かそれっぽいのがそうです。しかしこのGmailとやら容量ウハウハwww
391374:2008/05/10(土) 11:38:21 ID:Gfr7jHLn
>>390
ありがとうございます!
さっそく返信の内容を考えさせてもっています。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/12(月) 20:08:22 ID:OSnl6E/B
もうメールのやり取りしてるのかな?何か展開あった?
しかし連載始まったってのにいまいち活気が感じられんな
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/13(火) 17:35:38 ID:VRRvB2jV
やりとりも見てみたい。
394390:2008/05/13(火) 22:57:03 ID:DDUdpc4u
>>374氏は今本編書いてる途中と思われるので自分が勝手に言ってしまおう。
既にメールのやりとりしてます。ストーリーの要約など頂いて本格的に動き始めた感じです。
メールの内容はネタバレ臭くなるので晒すのはやめた方がよさ気。
SSが入ってるわけじゃないからスレ違いになるし。
出来上がるのもまだ先になると思うし、それまでは忘れてた方がいいかと。

えーと、あと>>374氏の作品に他の人間の手が入るってことで、>>374氏の世界が壊れちゃうんじゃないかと
不安な人もいると思いますが、自分はちょっと添え物させてもらうくらいで、書かれるのは氏の物語です。
ストーリーや世界観が変わることは多分ないから心配はいらないです。それじゃうざがられる前に帰る。
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/15(木) 23:36:40 ID:EjF23Aoy
>>392
連載も本格化するまではな。今くらいのペースで投下があれば充分だろう
本スレの方は賑わってるから行ってみれ

>>394
おk期待
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/17(土) 14:19:51 ID:758dKE05
書くなら自分のHPでやってくれ
延々とスレに投下されると他の作者がいなくなる
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/18(日) 01:08:29 ID:HYZS0nWH
キム信者乙
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/26(月) 00:00:01 ID:4yrBEIOj
保っ守
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/31(土) 00:09:21 ID:7NmpSUA5
いつのか忘れたが、JUNと真紅が秋葉原に行くSSが面白かった
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/31(土) 02:59:04 ID:m6mf+STV
………めぐも………
・ベットを起こして窓を見ながら歌を歌っているめぐ
・看護士がめぐに郵便袋を渡す
看護士「めぐちゃんに宅配便よ」
めぐ「ありがとう」

・看護士が立ち去り
・水銀燈が姿を表す
・宅配袋から2冊の本を取り出すめぐ
水銀燈「珍しい。外の世界に興味をもったの」
めぐ「ううん。新装版ローゼンメイデンがでるって聞いたから、お父様に頼んだの」

水銀燈「新装版、ローゼン、メイデン?」
めぐ「ええ、だって私は水銀燈のミーディアムだもの」
水銀燈「全く、私は貴方をミーディアムだなんて認めたわけじゃ…」
めぐ「見て!一巻は天使さんが表紙よ」
水銀燈「えっ、どれどれ?やだぁ、二巻は金糸雀じゃないのよぉ」

・二人とも読み続ける
めぐ「私も少し載ってるわ!水銀燈のミーディアムですものね!」
水銀燈「だから、私は認めてないんだから」
めぐ「額装イラスト、欲しいなぁ(ボソッ)」

・その場を何も言わず立ち去る水銀燈

水銀燈の心情「めぐのためなら」
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/31(土) 03:01:23 ID:m6mf+STV
そんなこんなで新装版ローゼンメイデンを買った人を次々に襲っては、本を奪って行く水銀燈。
こんなんでアリスゲームが開始されます☆

皆さんに比べて、とても稚拙で単純なストーリーだと思います。
私自身、トピが独占化されてるようで不快に思ってました。
けれども、トピ主さんが独りなのが可哀相に感じたので悩んだ末、
勇気だして、稚拙な文章を書かせて頂きました。
皆さんも、この趣旨に沿った小説やコメント、
批評、賛否や苦情を書かれては如何でしょうか?
ストーリーでなくても趣旨にあってれば良いと思うので。
もっと皆さんが意見交換出来れば良いと、私個人は思います。
402名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/31(土) 08:33:21 ID:us++uNGt
色んな意味で話が見えない
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/02(月) 11:59:01 ID:8SV2V7xN
ローゼンとクロス物でオススメは?
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/04(水) 18:27:22 ID:FMG8pm4k
水銀燈と衛宮士郎の組み合わせってのがあったなぁ<クロス
「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
毎号3,480円 創刊号は特別価格1万円。
うん、あれだ。
創刊号が馬鹿高いけどディアゴスティーニとかそんな感じの週刊誌?だ。
毎週パーツ付の本が発売され、それを全巻コンプリートすると鞄付の水銀燈が完成するという代物。
当然俺は買い始めたが、後少しで全て揃うという時になって休刊しやがった。
多分何かの…いや、かなりの確立で金糸雀の仕業だ。
残りが鞄だけという所でぱったり休刊になる所から考えても、ヘッポコ策士の仕業に違いあるまい。

まあ、

そ ん な 事 は

ど う で も い い。

だって鞄以外は全部揃ってるんだもん。
では、早速組み立てましょうかね…。
406「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/09(月) 22:23:49 ID:2ti3jiZF
…えーと、記念すべき創刊号は…と…。
ふんふん…ドールの紹介を書いたうっすいテキストとローザミスティカだけ、か…。
これで1万円はお買い得なのだろうか、うーむ…。
とりあえず散財して7冊買ったが…いきなりローザミスティカ揃ったらどーなるんだ??
やる事無いのでローザミスティカを真空パックから出してみる。
と、同時に光り輝き始めるそれ。
…キラキラしててお世辞抜きに綺麗だな、これは…。
2号のゼンマイネジと組み合わせてペンダントとしてもお勧め…か…。
商売上手だな。2号は1冊しか買ってないけど。
407「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/09(月) 22:24:12 ID:2ti3jiZF
さて、3号は服…の、一部。
そこから30号の辺りまでずーっと、服。
いや、訂正。
たまに髪の毛(一部)とか目(右目だけ)とかも入ってるな。
しかし、7号の針と糸だけってのは、切ない物が、ある。
ンでもってその針と糸でドレスとかをチクチク縫っていくのは更に切ない物があった。
そして切ない上に当然疲れる。
ので、カボパン完成した時点で今日はお休みなさい。
408「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/09(月) 22:24:37 ID:2ti3jiZF
「Zzzzzzz…」
『………ココハ………』
「…ムニャ…助けて銀様…」
『…………………フフッ…オヤスミナサァイ』
「Zzzzzzz…」
『…デモ…イビキウルサイワァ…』
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/10(火) 00:01:24 ID:k0uWbU38
投下していいですか?
410どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 00:07:23 ID:G1+8RS2T

ねぇ、メグ

歌ってくれない?

ねぇ、メグ

髪をとかして頂戴

ねぇ

メグ・・・・・・
411どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 00:11:31 ID:G1+8RS2T


深夜

寝静まった病院の一室

窓を開けて歌う
一人の少女、メグ

『今日は来てくれないのかな、』

メグは歌うのをやめて呟いた

『あらぁ、歌やめちゃったの?』

気がつくと窓の外には
漆黒の翼を持った天使
水銀燈がいた

『水銀燈、今日は来てくれないかと思った』

嬉しそうにメグは言った

『そろそろ貴女が寂しがる頃だと思って来てあげたのよ』

病室の窓に腰掛けて
水銀燈は答えた
412どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 00:13:45 ID:G1+8RS2T

『ねぇ、髪をとかせてくれない?』

メグは窓の外を見ている
水銀燈に言った

『いいわよ、別に』

最初の方は嫌がっていたりもしたが
最近ではメグがとかしたいと言えば素直に応じるようになった


『ねぇ水銀燈』

髪をとかしながら水銀燈に話し掛ける

『どうしたの、メグ?』

『貴女の髪、とっても綺麗ね、まるでお月様の光をそのまま髪にしたみたい』

うっとりしたように
水銀燈の髪をとかすメグ

『貴女の長い黒髪も綺麗よ、きっと私が似合うような髪は自分の髪以外は、貴女の髪だけよ、』

水銀燈の細い指が
そっと、メグの髪を撫でる

『貴女に誉められるなんて、明日は雪でも降るかもしれないわね、』

メグがそう答えると

『フフフ、最近は言うようになったじゃなぁい』

と感心する水銀燈




夜が明ける

『また来るわぁ』

そう言い残し、水銀燈は
飛び去っていった
413どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 00:16:31 ID:G1+8RS2T

その日の夜


『こんばんわぁ、メグ』

水銀燈が病室に入ると
メグはいなかった



次の日も


その次の日も


しばらくたったある日
いつもの様に
夜、病室に行くと静かに
眠っているメグが居た

そっと、隣に腰を掛ける

そして言葉を失った
414どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 00:19:46 ID:G1+8RS2T

メグの病気はもう、
メグの生命を食い荒らし終わり
メグの体は最後の時を迎えようとしていた。

『ねぇ、メグ・・・』

聞こえるか聞こえないか
解らないくらいの小さな声


『貴女は私が来るといつも歌ってくれたわよねぇ』

震えた声は
徐々に大きくなる

『ねぇ、歌って頂戴、せっかく来たのに、寝たままなんてひどいんじゃない?』

水銀燈の瞳から一滴

大粒の涙が零れた
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/10(火) 01:44:10 ID:ulsfsmZ9
泣いた
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/10(火) 01:53:08 ID:zRUER3ap
>>405
糞キム死ね
417どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 06:34:42 ID:G1+8RS2T

夜の病室に水銀燈の
声だけが響く


水銀燈の声に気付いたのか
目を覚ますメグ

『どうしたの、水銀燈?そんなに悲しい顔しないで』

『メグ・・・』

水銀燈普段と変わらない態度のメグを見て
胸が締め付けられるようだった
418どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 06:37:21 ID:G1+8RS2T

『メグ、ダイジョブなの?』

水銀燈は冷静さを
保とうと必死だった

少しでも気を緩めたら
溢れだしそうだったから


『ねぇメグ、せっかく私が来てあげたのに髪もとかしてくれないの?』

普通を装うが、
それも限界に近かった

『ごめんなさい、水銀燈
少し体調が悪くって、』

メグは体を起こし、
弱々しく微笑んだ


『貴女が体調悪いのなんていつもの事じゃない、それより髪をとかしてくれない?何だか今日は貴女の傍にいたい気分なのよ』

そう言って水銀燈はメグの体に寄り添った
419どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 06:41:24 ID:G1+8RS2T

髪をとかしながらメグは言った

『ねぇ水銀燈、覚えてる?この前貴女、私の髪の事誉めてくれたわよね、すっごく嬉しかったわ』

本当に嬉しそうにメグは言った

『覚えてるわぁ、だってそれぐらい貴女の髪も綺麗だから・・・』

普通の会話をしてるだけでももう駄目だった、
大粒の涙が水銀燈の頬をつたって零れ落ち、
ベッドのシーツに涙の跡が何個もつくる


『そんなことより、ねぇ、歌ってくれない?貴女の歌
私けっこう好きなのよ?』

髪をとかされている間
水銀燈はメグの歌に聞き入っていた。
420どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 06:56:10 ID:G1+8RS2T


夜が明ける頃、メグは水銀燈にある話をした

『力を使いすぎると指輪に取り込まれちゃうって本当?』

メグの質問に水銀燈は
ぶっきらぼうに答える

『えぇそうよ、指輪に取り込まれ、最後にはドールと一つになる、』

メグの質問の先にある言葉に想像がつき胸が締め付けるような感覚になった


『じゃあ、私がもし死んじゃいそうになったら、水銀燈、貴女に力を使いきってほしいなぁ、そしたらずっと貴女と居れるでしょう?』

『何言ってるの?まるで今すぐ死んじゃうみたいな言い方しないでよ、縁起悪いわぁ、それに貴女を取り込んだりしたら私まで病弱になりそうだもの、』

水銀燈が冗談として流そうとすると

『お願い、たぶん・・・最後の、』

あまりにも真剣なメグの態度に思わず

『わかったわよぉ、でも、もし死にそうになったらよ?貴女はまだまだ死なないわぁ』

それは、メグに言ってるというより
自分に言い聞かせるための言葉だった


『なら嬉しいわ、最近は水銀燈が来てくれるから生きてるって楽しいって久しぶりに思えたから・・・』







翌日

メグの容体はやはり急変した
421どうやら水銀燈の髪が黒くなったようです:2008/06/10(火) 07:45:00 ID:G1+8RS2T



『メグ!!』

水銀燈が病室に入ると
メグはにっこり笑った

『じゃあ、よろしくね』

メグはそれだけ言って目を閉じた


もう助からない、
水銀燈ははっきりと感じた

『メグ、』

一言呟いたあと、
水銀燈は大きく翼を広げた


水銀燈は外に出て
がむしゃらに力を使った


まわりの景色が涙で歪んでいく
それと対照的に
メグと過ごした日々は
鮮明に思い出される


徐々に指輪から
送られてくる力が弱まってくるのを感じ、
水銀燈は思わずメグの名前を何度も呟いた

『メグ、』
最初は聞こえるかどうか
わからないような
小さな呟き

『メグ』
だんだん名前を呼ぶ声は大きくなる


『メグッッ!!』
最後には悲鳴の様な
悲痛な叫び声に変わっていった

涙で何も見えなくなり
水銀燈は泣き崩れた

意識が薄れていくなか

『ありがとう、水銀燈』

メグの声が確かに聞こえた気がした。



次の日


『しってる?○○○号室の患者さん失踪したらしいわよ』


『知ってるわ、前からちょっと変な子だとは思ってたけどまさか失踪するとはねぇ、』







確かに貴女は、私と一緒になったのかもしれない



貴女は、本当にこれで良かったのかも知れない

でも私は・・・

でも、貴女の歌声は、
私はもう聞けない


貴女に髪をとかしてもらうことも

胸(ここ)に居るなら答えてくれてもいいんじゃなぁい

ねぇ、


メグ





水銀燈は
病院の屋上で呟いた


寂しげな秋の風が
水銀燈のいぜんより少し長くなった

綺麗な黒い髪を揺らした



423どうやら水銀燈の髪が黒くなったようですww:2008/06/10(火) 07:50:05 ID:G1+8RS2T
悲劇っぽく真面目に書いた
反動で書いちまったwww
悲劇の良い話で終わりたいなら
読まない事をオヌヌメする











〜舞台裏〜

銀『髪染めたり今回は大変だったわぁ』

『お疲れさま水銀燈、』


銀『いや〜貴女死んじゃったわねぇwww』

メグ『確かにアニメでも原作でも弱ってたけど殺すことないわよね』


銀『乳酸菌とれば一発で生き返ったのにねぇ』

メグ『ならそのヤクルト頂戴、』

銀『それとこれとは話が別よぉ、』


メグ『ちょーだいちょーだいちょーだいちょーだい!』

銀『わかったから駄々こねるのやめなさい!』

メグ『やった〜』



ちょきん


ぱたん


すとん




『悲劇だけじゃ悲しいものねぇ』



おしまい
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/10(火) 12:32:13 ID:G1+8RS2T
保守
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/10(火) 13:24:51 ID:ulsfsmZ9
舞台裏ひでぇw
426「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/10(火) 19:00:49 ID:d4hJkCFt
鞄以外は揃った「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
重要パーツ(ローザミスティカ等)は当然複数購入して万一にも備えている
一週間、仕事で疲れた体に鞭打って裁縫した結果、何とか服は出来た。
31号はお腹のパーツ…だけ。
…念のために3個買った:けど…これだけでどーしろと言うのだろうか…。
やる事も無いので理解に苦しみつつ32号の胸へと進む。
うむ、やはり胸は“ぽんよぽんよ”と柔らかい。
一時ほど弾力を楽しんだ後、33号のお尻へ。
これまた柔らかい。
仮組みと称して重ねてみる。
うむ、ナイスバデー。
427「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/10(火) 19:01:29 ID:d4hJkCFt
その後、腕や足の身体パーツに混じって人工精霊の申し込み用紙が…。
申し込み用紙が…入ってました…有効期限が2ヶ月前に切れてる申し込み用紙が…。
…ごめんよ、水銀燈…そしてメイメイ…。
今日はもう寝ます。
失意のまま、寝ます。
水銀燈の現状は…。
胴体手足=パーツ揃うもガランドウ。
服   =一応完成。ハンガーに掛けてる。
それ以外=ほぼ手付かず。
人工精霊=俺のポカミスのお陰で無し。
…馬鹿馬鹿、俺の馬鹿…。
枕元に輝くローザミスティカを見つつ失意のまま今日はもう寝る。
428「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/10(火) 19:01:54 ID:d4hJkCFt
「うーん…銀様…鞭はダメェ…ムニャムニャ…」
『…ヤク…早く…リナサイョォ、コノ…』
「ムニャ…銀様ゴメンナサイ…グー…」
『…ドンナ…ゲンガマス…ナルノカ…』
「Zzzzzzz…」
『…キョウモイビキウルサイワァ』
429「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/11(水) 11:00:13 ID:IgInv+10
鞄と人工精霊以外は揃った「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
重要パーツ(ローザミスティカやお腹等)は当然複数購入して万一にも備えた。
いや、正確に言うなら2体は確実に作れる。
俺の体持たないと思うから作りはしないけど。
一週間の摺り合わせの結果、何とか本体は説明書通りに出来た。
次は中身(生命の糸含む)だ。
3,480円払って歯車一個とかマジ勘弁して。
まあ、綺麗な彫刻に…金メッキか?
とにかくそれ単体でも溜息出るほど綺麗だけどさ…。
430「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/11(水) 11:01:00 ID:IgInv+10
何とかギアボックス1を完成させ、胸部分にはめ込む
生命の糸を滑車などを介して肩からダラン。
次はギアボックス2。
これまたネジ一個とかマジ殺す。
やっとの思いで完成させてお腹に(ry
その次はやっぱりギアボックス3。
デアゴ商法にいらいらしつつお尻に(ry
生命の糸は太ももの球体間接が収まる所からダラン。
時計みたいに小さい部品ばっかりが連続で続いたので疲労と怒りがピーク
今日は胴体完成したところでお休みなさい。
431「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/11(水) 11:01:34 ID:IgInv+10
「ムニャ…うーん…ネジはイヤァァァ…ムニャムニャ…」
『…順調に…進んでるのかしら…』
「ムニャ…銀様歯車のメイメイマジ止めて…」
『…ふふっ…かなり、楽しみねぇ…』
「Zzzzzzz…」
『…このイビキにもだいぶ慣れたわぁ』
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/11(水) 19:28:50 ID:J4mgTRuM
ここって桃種の漫画版Rozen Maidenの
二次創作SSを投下してもいいんでしょうか?
アニメ版のストーリーに即したSSじゃないとダメですか?
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/11(水) 19:34:34 ID:J4mgTRuM
ここって桃種の漫画版Rozen Maidenの
二次創作SSを投下してもいいんでしょうか?
アニメ版のストーリーに即したSSじゃないとダメですか?
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/11(水) 22:49:54 ID:J4mgTRuM
二重投稿してすみません…orz
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/11(水) 23:11:19 ID:H/2kdCWJ
別にいいと思うぞ
確か過疎だったから統合したんじゃなかったっけ
よく覚えてないが
436「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/13(金) 19:39:03 ID:AS6Hk+vP
鞄と人工精霊以外は揃った「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
いよいよ今回で完成だ。
お約束のように複数冊を組み合わせて植毛し、目を入れてヘッド完成。
胸、お腹、お尻を組み合わせ、生命の糸を繋げる。
繋がった生命の糸を更に手や足へ繋げる。
そして余った生命の糸を翼取り付け部分から出し、
目立たないように切って…。

「よし!マイ水銀燈完成!!」
437「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/13(金) 19:39:27 ID:AS6Hk+vP
いや、完成ではない。
正確には完成と言うべきではない。
だってローザミスティカ、まだ水銀燈の体外にあるもん。
それに服着せてないし。
しかし、時刻は午前1時。
お仕事今日の午前7時30分から。
更に付け加えると明日は日曜でお仕事お休み。
ちょっと勿体無いけど起動は日曜にして、お休みなさい。
438「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/13(金) 19:39:53 ID:AS6Hk+vP
「ムニャ…銀様銀様…ムニャムニャ…」
『やっと、完成ねぇ…』
「ムニャ…銀様と…アハーン♪」
『…マエストロとまでは行かないけど中々だったわよぉ?』
「Zzzzzzz…」
『…よろしくねぇ、イビキの大きなマスターさぁん』
439432:2008/06/14(土) 13:58:52 ID:ohTRqW2J
>>435
どうもです。
書きあがったら投下させてもらいます。
440「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/14(土) 19:41:43 ID:Ift/qAUQ
鞄と人工精霊以外は揃った「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」
いよいよ飾りっぱなしだったローザミスティカその1を水銀燈に入れる。
…をを、吸い込まれるよーに入って行く。
次にペンダントの役目から開放されたネジを背中のネジ穴に突っ込んで…。

キリキリキリ…。

をを、説明書のように巻かなくても巻かれて行く。

…キリキリキリ。

緩慢に起きる水銀燈はしかし、俺をじっと見て、言った。

「…ドレス、先に着せなさいよぉ…」
441「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/14(土) 19:42:21 ID:Ift/qAUQ
俺はその願いを無視し、水銀燈を後ろから抱きしめた!
「ち、ちょっといきなり何するのよお馬鹿さぁん!」
ぢたばた暴れる水銀燈を無視してモフモフ。
ひんやりしたボディがゆっくりと温まっていくのを堪能する。
「銀ちゃんマジ暖ったけーwww翼もフワフワ、マジたまんねーwwwwww」
「…い、いいから放しなさいよぉ!」
嬉しさのあまり芝を生やす俺。
動き始めたローザミスティカに戸惑っているのか真っ赤っかな水銀燈。
むふー…耳の先から足の小指までほんのりピンク色なのは何かこう…。

そ そ り ま す な 。

「…い、いいから…そ、そろそろ放しなさいよぉ…」

や だ 。
442「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/14(土) 19:42:45 ID:Ift/qAUQ
結局30分位モフり続けた結果、水銀燈はゼンマイが切れたのか、真っ赤になってダウン。
俺はこの隙にとドレスを着せる事にした。
ではまずカボパンからなんだけど…何この背徳感…。
とてつもなく悪い事しているようでドキドキしますぞ!?
越えてはいけない一線を越えてしまいそうでワクワクしますぞ!?

『…そのために…私を買ったんじゃないのぉ?』

…ぬ?
何?この声。
この声、何?
頭に…っつーか心に響くこの声何?

『いい加減気付きなさいよぉ…このお馬鹿さぁん…』
443「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」 :2008/06/15(日) 21:34:10 ID:4aZ80sLu
「あー、やっぱりお前かー…」
ドレスを着せている手を止め、動かない水銀燈を見つつ言う俺。
『…やっぱりって何よぉ…』
動かないはずなんだけどちょっと機嫌が悪くなったように見える水銀燈の声が頭に響く。
よーし、そんなに可愛いんだから拗ねるな拗ねるな。
『拗ねてなんか無いわよぉ…』
あらまあ…何か照れて困って赤面してませんか?水銀燈さんや…。
『…そ、それはぁ…あ、貴方がお馬鹿さん過ぎるからよぉ!?』
まあとにかく服をちゃんと着せましょうかね。
下着だけってのは刺激強過ぎるし。
444「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/15(日) 21:35:03 ID:4aZ80sLu
ドレスを着せ終えた水銀燈を見る。
まずはとっても綺麗な顔。
ほんのりピンク色。
うむ、キスしたい。
ペロペロ頬を舐めまわしたい。
『…お、お馬鹿さぁん…』
次はボディ+ドレス。
流石は薔薇乙女。
どこに出しても恥ずかしくないボディラインにゴシック調ドレスが良く映える。
さっきはこのボディを抱きしめてたんだよなぁ…。
まだ足りん!もっと抱きしめさせろ!!
『…は、恥ずかしいじゃないのよぉ!』
445「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/15(日) 21:35:35 ID:4aZ80sLu
翼+手足。
そんなに大きくない翼は飛べそうに無いけどとってもラブリー。
細っこい手足もとってもキュート。
差し出されたら手と言わず足と言わず全身にキスしたい。
そしてそのまま抱きしめたい。
…今回は言わないの?
『…お、お馬鹿さぁん!貴方が恥ずかしい事ばっかり思うから混乱しちゃったのよぉ!!』
そして心!
間違う事無き純真無垢な乙女!!
気高き騎士の如き精神と純情可憐な少女が同居するはこの世の至宝!!
ビバ、マイラブスイート水銀燈!!
『…い、幾ら何でもそれは褒め過ぎよぉ…』
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/15(日) 22:09:52 ID:d0qOH5ua
妄想爆発ワロタ
447「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/16(月) 22:33:00 ID:ApDHDmLr
まあ、それはさて置きドレス着せ終わったし再起動しましょうかねぇ…。
さて、…と…ネジどこへやったっけ?
『…い、今は巻かないでよぉ?』
何故?
『…あ、貴方が恥ずかしい事ばっかり言うから…。
 あ、貴方の事まともに見れなくなっちゃってるのよぉ…』
そんなもん当然、無視します。
『馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!このお馬鹿ぁあああぁぁぁーっ!!』
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/16(月) 22:33:23 ID:ApDHDmLr
何やら喚き声が頭の中に響くがそれを無視して水銀燈を抱き上げ背中の穴にネジをインサート。
キリキリ…と自動巻きされるはずだけど何故か動かない。
さては組むの失敗してジャンクになっちゃった!?
『誰がジャンクよこのお馬鹿ぁ!恥ずかしいから動きたくないのよぉ!!』
何この我侭。
俺は貴方をそんな風に育てた覚えは無い。
育てられた覚えも無いだろうけどやっぱりそんなの関係無い。
巻き巻き…巻き巻き…。
…そう言えば俺の事見れないって言ってたよな?
見なくて済むよう後ろから抱きかかえて巻き巻き…巻き巻き…。
うっはwww水銀燈の胸マジやーらけーwwwwww
興奮して芝を生やしつつ巻き巻き巻き巻き…。
449「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/16(月) 22:33:45 ID:ApDHDmLr
『…貴方って本当にお馬鹿さんよねぇ…感心しちゃうわ…』
巻き終わってるんだから喋れ。横着するな。
『だからぁ…その…恥ずかしい…っての…理解できる?』
勿論。
だったら…とか響きだす声を無視して思う。

そんなお前も大好きだ。

…?
おや?
…何か…変ですぞ?
反応が無くなりましたぞ!?
緊急事態発生ですぞ!!
450「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/16(月) 22:34:50 ID:ApDHDmLr
>>446
Youも妄想炸裂しちゃいなYo!!
451「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:04:36 ID:366vH3Ry
姉さん!緊急事態です!!
「…は、恥ずかしすぎてどうしていいか分からなくなっただけよぉ!」
おお、再起動成功!
「まったく、このお馬鹿さんは本当に…」
よしよし、膨れるな。綺麗な顔が台無し台無し。
そう思いつつ頭を撫でてるとしばらく固まった後、膝の上に座りましたぞ?
「本当に、貴方ってばお馬鹿さんねぇ…良い意味、悪い意味両方で…」
溜息を吐きながら俺に体を委ねる水銀燈。
俺はそんな彼女の頭を再び撫で撫で。
「ねえ…」
ん?
452「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:05:16 ID:366vH3Ry
「…どうして私を…買ったの?」
それは当然聞かれると思ってた。
だから用意していた事を言う。
「まあ、いろいろあるけど綺麗なお人形…ってのが一番目。
 二番目はその人形が自分の意志で喋って動くから」
「綺麗なのは当然としてぇ…本当にそれだけで買ったの?
 他に隠してる事あるんでしょ?人には言えないコトしたいとかぁ…」
即聞き返してくる水銀燈。
しかし悲しいかな、彼女の期待に沿うような事は全くこれっぽっちも考えてない。マジで。
でも、そう言っても水銀燈の目にはますます疑惑の色が膨らむわけで。
人には言えないコト=エッチなコト=ぶっちゃけ性交渉したい…と言って欲しそうな顔してるわけで。
453「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:06:02 ID:366vH3Ry
「お、おおおおお馬鹿さぁんッ!誰もそんな事思っちゃいないわよぉッ!!」
切れられたので逆に聞く。
じゃあ、どう答えて欲しかったの?
そしたら水銀燈、真っ赤になって再び無反応。
…乙女心は複雑だね…。
454「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:07:48 ID:366vH3Ry
再び固まった水銀燈を後ろから抱きしめて椅子に座る。
外を見る。
馬鹿みたいに良い天気。
よっぽどの馬鹿以外はお外ではしゃぎたくなるほどの良い天気だ。
ひとしきり田圃なぞを眺め終えたので膝の上に座りこちらを見ている水銀燈を一撫で。
「…俺が水銀燈を買った本当の理由は人を信じる事が出来ないからなんだ」
「…人を信じる事が出来ない?…何それ…馬鹿みたぁい…」
人を信じる事すら出来ないのに、人形を信じれるのか?
そう言いたげな水銀燈に苦笑する。
「…俺…小学校の時にさ…スケープゴートで晒し者にされたんだ…。
 スカート捲りを流行らせた真犯人として…俺は全く係無いのに…さ…」
455「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:09:42 ID:366vH3Ry
「はぁ!?何それ!?貴方って本当のお馬鹿さんね!違うなら違うって言えばいいじゃないのよ!
 黙って嘘の罪を受け入れるのが格好良いとでも思ってるのぉ!?貴方って本当に最低の馬鹿ね!!」
…と、何故か激怒して剣を振り回してる水銀燈に苦笑い。
彼女は俺が苦笑いしたのに怒って更にヒートアップ。
…本当に純真だねぇ、この子ってば…。
「何ヘラヘラ笑ってるのよぉ!?真面目に答えなさいよぉ!!」
「いや、違うって言っても俺、その先生に嫌われてたし…。
 それに、小学生が夜遅くまで職員室に一人立たされて…。
 挙句の果てにぶん殴られてまで抵抗できる訳無いじゃないか」
「それでも違うなら違うって言いなさいよぉ!」
「じゃあ、逆に聞くけどさっき俺が抱きしめた時…何で本気で抵抗しなかったの?」
気楽に聞いた。
そして俺は後悔した。
この時の水銀燈の表情の変化を記録する術を持ってなかった事に。
456「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/17(火) 19:10:12 ID:366vH3Ry
「だ、だってほらぁ…あれよぉ?…マスター…ううん…あの、そのぉ…。
 …み、みみみミーディアムになるかもしれない人間、傷付ける訳には行かないじゃなぁい…」
ほんにもーこん子はめんこいのぅ…。
再び抱きしめて頭撫で撫で。
「な、何するのよぉ…話はまだ終わってないわよぉ…」
「小学生にとっちゃ先生ってミーディアム…いや、親みたいなもんなんだ。
 だからそいつがどんな奴でも黒と言ったら黒。白と言ったら白」
「貴方ってば本当にお馬鹿さんねぇ…」
ため息を吐いて苦笑する水銀燈に微笑み、言う。
「そんな事が繰り返しあったんで人を信じる事が出来なくなりました。
 でも、それでは寂しいのでずっと信じる事が出来る何かを探していました」
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/17(火) 19:10:48 ID:366vH3Ry
言い終わった俺を水銀燈は真剣な目で見、口を開く。
「だから、この水銀燈をずっと信じたい…貴方はそれを本気で言っているのね?」
「もちろん」
肯く俺に水銀燈は溜息を吐いた後、最高の笑顔を見せてくれた。
「私は週刊ローゼンメイデンシリーズの第1ドール、水銀燈。これからよろしくねぇ「」」
「こちらこそ。よろしく、水銀燈」
俺は水銀燈が差し出した手を優しく握った。
458名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/18(水) 01:08:40 ID:piOYwCvN
>>450
俺には出来ねーぜ!Yeah!
そしてちょっと予想外の展開にビビったZe!
459「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:45:58 ID:VwHpu/3z
「まあ、それはそれでさて置き…」
握った手を離した瞬間、水銀燈から笑顔が消えた。
あれ?俺達良い雰囲気じゃなかった?
「…メイメイが居ないのは知ってるけどぉ…鞄は…どこぉ?」
「無い」
即答する俺に水銀燈は目をパチクリさせた。
「…え、えっとぉ…銀ちゃんよく聞こえなかったわぁ…」
「もう一度言うけど、無い。鞄が…」
始まる時に休刊になった。
それを言う事は出来なかった。
水銀燈が先ほど振り回してた剣の切っ先を俺の首に押し付けたからだ。
460「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:46:23 ID:VwHpu/3z
「あ、貴方って本当にお馬鹿さぁんッ!
 いったい私にどこで寝ろって言うのよぉッ!!」
言われて考えてみる。
布団。
水銀燈に手を付ける前日、寂しいからと飼い犬(黒レト)を抱いて寝たので毛だらけ。
ここに寝かせようものならドレスが酷い事になるのは目に見えてるので却下。
椅子。
一応埃等は積もってないけどこれで寝るのは無理。
水銀燈がこれに腰掛けて居眠りしているのは絵になると思う。
思うんだけど、水銀燈が凄い目で睨んでるから没。
それ以外は…と…。
461「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:47:16 ID:VwHpu/3z
「…私に情熱を注ぐのはいいんだけどぉ…後の事…考えてるぅ?」
疲れた溜息を吐かれたので、俺は微笑んで言った。
「考えてるわけ無いじゃないか、このお馬鹿さんめ」
「か、す…す、すす少しは考えなさいよこのお馬鹿ぁああぁぁーッ!!」
思いっきり剣でビンタされました、はい。
ミーディアムになるかもしれない人間、傷付ける訳には行かない。
そう言ったのどこの誰だよ?
そんな事を考えながら俺は意識を失った。
これってアレだね。
殴られると同時に水銀燈にドレインかけられたね、間違いなく。
462「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:47:52 ID:VwHpu/3z
こりゃ、仕事首かもしれんね。
何とか電話機まで這って行って明日仕事休むと伝え、ぶっ倒れた俺の正直な感想。
こんな時まで仕事の事を考えるオレサマ、マジでワーカホリック!
そして突き刺さる水銀燈の冷たい視線!!
「この水銀燈を無視して何するかと思えば…そんなくだらない事したかったのねぇ?」
何だとメガトロン!
「許さなぁい…そう言ったのよぉ?お馬鹿さぁん…」
463「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:48:17 ID:VwHpu/3z
「怒っちゃ駄目だぞ?血圧上がっちまうから」
今度はこちらが溜息を吐く番だ。
ただ、水銀燈が俺の喉に剣の切っ先を押し付けるのは予想外だったが。
「それでぇ?」
良いから続きを言え。
でも、変な事言ったらこのままサクッと逝く。
そんな顔の水銀燈。
それに答えたのは。
「…乳酸菌…採ってる?」
間の抜けた俺の声だった。
464「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:49:15 ID:VwHpu/3z
「言われてみれば…乳酸菌…採って、無いわねぇ…」
「ははッ、すぐ用意いたしますです、はい」
すぐ用意しろと視線で命令する水銀燈に、慌てて返事するけどへたり込んだままの俺様、マジ情けない。
それより情けないのは…水銀燈、お前だあっ!
雨の日に捨てられた泥だらけの子犬のような視線勘弁してくれませんか?
「…ち、ちょっとぉ…何で動かないのよぉ…」
「水銀燈に叩かれ吸われて力が出ない…マジで」
「…私の乳酸菌はぁ?」
「力が出るまで待って」
指をくわえ、心底寂しそうに聞く水銀燈に答える。
お前ってばそんなに乳酸菌食品が好きなのか?
いや、知ってたけどさ…。
465「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:50:01 ID:VwHpu/3z
「まあ、鞄は次の休みにどーにかするとして…。
 とりあえずの寝床…適当な空き箱にタオル詰めたので良い?」
ヨーグルトにミックスフルーツを混ぜつつ聞く俺。
「もう、それでいいわぁ…」
これ、水銀燈さんや。近づき過ぎです離れなさい。
素っ気なく答えても目が輝いてる状態では雰囲気ぶち壊しですよ?
こーら、つまみ食いしようとするなって…いいから皿に盛るまで待てってばよ。
「いいじゃなぁい…生まれて初めての乳酸菌なんだからぁ…」
466「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/22(日) 17:50:26 ID:VwHpu/3z
ヨーグルトを美味そうに。
本当に美味そうに食う水銀燈と、それを眺める俺。
「美味い?」
「ふふっ…食べてみるぅ?」
「それは水銀燈のだからだ〜め」
「このお茶目さんめぇ〜」
言って俺のおでこを突付く水銀燈。
これだよ、これこれこれぇええぇぇっ!
この伝説の黄色い救急車がすっ飛んで来そうな甘ったるい空気ッ!
これを堪能したいがためにドール買ったんだよッ!!
「…本当に、お馬鹿さんねぇ…」
いや、そこで素に戻って呆れないで。
467名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/22(日) 18:01:26 ID:VwHpu/3z
      そんな>>458に手紙が届きますた・・・
          _____
         / ヽ____//
         /   /   /
        /   /   /
        /   /   /
       /   /   /
       /   /   /
      /   /   /
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
       |                    |
       |                    |
       /    ̄ ̄ ̄ ̄      /_____
       / YOU巻いちゃいなYO /ヽ__//
     /               /  /   /
     /  人工精霊一同    /  /   /
    /   ____     /  /   /
   /             /  /   /
 /             /    /   /
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/   /   /
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/23(月) 03:01:15 ID:MtKn6r29
www
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/24(火) 02:16:35 ID:2oOEBHJF
なんか俺、勧誘されてるW
470貼り付け:2008/06/26(木) 23:16:53 ID:/x7kghUq
クラスメイト「あれー柏葉さん、いい指輪してるね。ちょっと見せてよ」

     巴「さわらないでぇ〜(発狂)」

    教室 ざわざわ 「今のなにー」「指輪くらいでね〜」
       「桜田から貰ったんじゃねw」「あ〜図書館で仲良しだもんね〜w」

    梅岡「柏葉、規則はちゃんと守ろうな。先生が授業終わるまで
       預かっとくよ」

     巴「いえ、これは大切なものなんではずしませんから」

    梅岡「桜田と仲良しだもんな。大切な友達から貰ったものは、
       思いがこもっていて、とても大切だと先生も思うけどここ
       は学校だからな。今は外そうな」

    教室「やっぱりね〜」「あいつら付き合ってんじゃねえの?」

     巴「あの先生、何か勘違いされてませんか?」

    梅岡「何かな柏葉、言いたいことは何でも先生に言いなさい」

     巴「では。先生、わたしは桜田君みたいなオタひっきーじゃなくて、
       店長一筋です」
471貼り付け:2008/06/26(木) 23:18:24 ID:/x7kghUq
梅岡「・・・店長ってまさか、あの駅前の雇われのことか、柏葉?」

 巴「はい、そうです」(きっぱりと宣言)

梅岡「・・・あいつは高校の時、先生の同級生だったんだ。あいつほど不真面目な
   奴はいない。先生は不真面目な奴は大っきらいだ。柏葉、あいつとは別れなさい」

 巴「何で先生にそんなこと言われなきゃならないんですか?私たちは本気で愛し合っています」

梅岡「柏葉、先生はあいつがどれだけ多くの女をたぶらかしてきたか知っているから言ってるんだよ。
   先生は生徒が不幸な目に逢うのに耐えられないんだ。分かってくれるか、柏葉」

 巴「先生は店長のこと嫌いだから、そんなこと言うんです。いい加減なこと言って、証拠でもあるんですか?!」

梅岡「あるさっ!先生はあいつに彼女を3回も取られたんだ!そしてあいつは欲望を発散したらすぐに次の女に
   手を出した。先生は許さない、、、今度は柏葉まで俺から奪い取ろうというのか、、、」
472貼り付け:2008/06/26(木) 23:19:33 ID:/x7kghUq
生徒「おいおいマジかよ」「柏葉さんって」「先生なんか燃えてねえか?」

梅岡「とにかく柏葉、もうすぐ授業だから放課後に職員室に来なさい。いいね」

 巴「構いませんが、先生が何を言おうと私の気持ちは変わりませんよ?」

梅岡「先生は信じているよ柏葉。柏葉がいい子だってことは、先生が一番知ってるからね」

  ラプラス「おやおや梅岡先生、柄にもなく取り乱してどうしちゃったんでしょう。
       それに、俺から奪い取るって、フフフ。それに先生が一番知ってるって、、、」

  くんくん「くん、くん、くん、先生の背後から事件のニオイを感じるの。これはきっと何かあるの!」

  ラプラス「流石は私のくんくん、鋭いね、フフ。これはもしかすると、、、おっと、もうこんな時間。
       この先の筋書きを兎風情に語る術など、一体どこにありましょう。」

  くんくん「ラプラスは何か知っているのっ!」

  ラプラス「フフフ、くんくん。君だけには続きを教えてあげるよ、私たちの愛の語らいの後で。
       如かして、次の扉を見つければ、開けたくなるのが人のサガ。この扉の向こうには何があるのやら、、、」

  くんくん「扉の向こうで梅岡先生と巴ちゃんが体育倉庫にいるニオイがするの、くんくん」

  ラプラス「相変わらず鋭いね、私のくんくん。・・・もう時間がない、私たちも先に行こうとしましょう。
       それでは皆さん、ごきげんよう」

  くんくん「次回も、よろし〜くんくん」
473貼り付け:2008/06/26(木) 23:22:04 ID:/x7kghUq
ちなみにBAD END は

クラスメイト「あれー柏葉さん、いい指輪してるね。ちょっと見せてよ」

     巴「さわらないでぇ〜(発狂)」

    教室 ざわざわ 「今のなにー」「指輪くらいでね〜」
       「桜田から貰ったんじゃねw」「あ〜図書館で仲良しだもんね〜w」

    梅岡「柏葉、規則はちゃんと守ろうな。先生が授業終わるまで
       預かっとくよ」

     巴「いえ、これは大切なものなんではずしませんから」

    梅岡「桜田と仲良しだもんな。大切な友達から貰ったものは、
       思いがこもっていて、とても大切だと先生も思うけどここ
       は学校だからな。今は外そうな」

    教室「やっぱりね〜」「あいつら付き合ってんじゃねえの?」
       ははは くすくす ひそひそ ははは くすくす ひそひそ・・・・・・・・・・・・・・

     巴「ぅえろうぇろうぇろ〜おえ〜」

    教室「うわ〜吐いた〜」「きたね〜」

こうして、巴も不登校になりますた。めでたしめでたしww
474名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/29(日) 19:18:26 ID:rxQ7G7uF
保守
475「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/30(月) 00:08:52 ID:EMgLy17U
「お腹も膨れたし今日の寝床も安心ねぇ…」
空になった食器を見ながら幸せそうに言う水銀燈。
目まで細めちゃってまぁ…。
これで『にゃー』と鳴いたら猫ですよ?
しかし水銀燈は『にゃー』と鳴く代わりにちろりと唇を舐め、
「これでぇ…この家の案内してくれたら言う事無しよぉ〜?」
そう言って更に目を細めた。
妖艶である。
だけど…ああ、だけどっ!
ほっぺにヨーグルトが付いてたりするので雰囲気ぶち壊しである。
「よしわかったお姫様。早速案内致しましょう」
水銀燈をお姫様抱っこしつつ、ほっぺのヨーグルトを味見。
うむ、旨い。
そして、トマトみたいに真っ赤になった水銀燈。
とても、可愛い。
「…お、お馬鹿さぁん…」
476「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/30(月) 00:09:20 ID:EMgLy17U
黄色い救急車を呼びたそうにしている母者を横目に案内開始。
まずは、台所。
「…今、居る所じゃないのよぉ…何がしたいのぉ?」
「カアサマに水銀燈の紹介を…」
言われて母者を見る水銀燈。
一度俺を見、もう一度母者を見て。
「私は週刊ローゼンメイデンシリーズの第1ドール、水銀燈。
 この人間に作られたお人形よ。よろしくねぇ」
うむ、ナイス猫かぶり!
「黙りなさい!」
477「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/30(月) 00:09:41 ID:EMgLy17U
まあ、お約束の洋物ダッチネタはさて置き次は店場に移動。
「…服屋…なのねぇ…。
 …でも…年を召したご婦人方向けばーっかりよぉ?」
私のは無いのか?と、少々呆れ気味の水銀燈。
あるにはあるがと陳列棚の一角を指差す俺。
視線を辿った水銀燈は…真っ赤になって、切れた。
「…ば、ばばばば馬鹿じゃない!?貴方本当に本当に馬鹿じゃない!?
 どこをどうしたらこの水銀燈に幼稚園の服やブルマを着せたりなんて事を考え付くのよぉ!
 …何ニヤニヤしてるのよぉ!?何、頭の中で着せてるのよぉ!!」
いや、似合うと思うんだけど…。
「この、お馬鹿ーッ!!」
478「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/30(月) 00:11:07 ID:EMgLy17U
「…貴方の母親に幼稚園の服を押付けられた時は眩暈がしたわよ、本当に…。
 …で?…次はどこを案内してくれるのよ?」
…庭…と、呼べないような、庭ですな。
雑草は伸びてないから良いんだけど…。
「…言えてるわねぇ…庭園…って、雰囲気は微塵も無いしぃ…」
元々芋畑にする予定で耕したからなぁ…。
ほら、よく見れば植わっている所が畝上に…。
「…芋…ねぇ…庭師でも雇えばぁ?」
暗に双子も買えと言う水銀燈。商売熱心な奴め。
しかし、そんな金なぞ欠片も無い。全部水銀燈につぎ込んだしな。
「お馬鹿さんねぇ…」
「…何なら水銀燈がしてみる?庭師」
「…黒薔薇だらけの手入れされていない庭がお望みならして良いわよぉ?」
よしわかった勘弁してくれ。
「…ちょっと…それ、どーゆー意味よぉ…」
479「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/06/30(月) 00:11:46 ID:EMgLy17U
さて、一通り案内は終わったわけだが何故かお姫様はご機嫌斜め。
「犬小屋の案内とか良いわよぉ…見たらわかるしぃ…。
 それよりも…何であの建物は案内しないのよぉ…」
小石蹴飛ばしてたりする水銀燈の指差す先に佇むのはちょっと大き目の倉庫。
俺は溜息を吐いて、言った。
「ジャンクで中がいっぱいだから」
「…ジャ!?」
目を大きく見開いた水銀燈は血相を変えて倉庫の入り口へ走っ…。
…走って行こうとして、こけた。盛大に。顔面から。
「…ったぁ…い…」
「よーしよし。ジャンクッつっても今がそんなだけだ。
 お前含めて捨てたりしないから落ち着け」
真っ赤になってる水銀燈を抱き上げ…何故真っ赤なの?
「…あ、貴方が“お前”なんて言うからよぉ…」
涙を溜めたままこっちを見上げる水銀燈。
…さっきの殺気が消えた可愛いお嬢ちゃんですな、まるで。
480名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 21:27:36 ID:2JFmZtBs
突然ですが、人形板や漫画板のスレの話題にインスパイアされて作ったSSを投下します。

「草笛みつの遭遇」
−今日も仕事を終えて帰宅する人形愛好家の草笛みつであったが・・・−

みつ「ただいまー!仕事終了〜って、そういえば今日もカナはジュンジュンの家でお泊りか・・・
    ジュンジュンの家で大事な用があって今日も帰れないらしいけど・・・。
    あれ・・・部屋の鏡が・・・」

ttp://rozen.no-ip.org/contents/rozen_uploader2/src/1190685231944.gif

雪華「ギチギチギギチギチギ・・・・ミツケタミツケタ、金糸雀のマスター・・・」
みつ「あぁ・・・・なに・・・これ・・・」
雪華「こんばんは。私はローゼンメイデン第7ドール......雪華綺晶。」
みつ「・・・・・」
雪華「あなたのことを鏡の中から見ていました・・・。
    どうやら人形愛好家のようですね・・・。金糸雀のマスター・・・。
    可愛らしい趣味.....ですね・・・。」
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 22:38:03 ID:X+t0C07K
>>480
やべえ…この雪華綺晶マジでやべえよ…(((( ;゚Д゚))))
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 00:43:36 ID:Vu3UqG8N
PEACH-PITの漫画原作のSSです。
483雪華綺晶はここにいる 1/38:2008/07/02(水) 00:46:12 ID:Vu3UqG8N
病室に備えられたベッドの上で、柿崎めぐと水銀燈は身を寄せ合って眠りに就いていた。
時刻は午前2時を過ぎ、部屋は夜の闇に満たされている。
静かに寝息をたてるめぐが唐突に目を覚ましたのは、何かに呼ばれたからだ。
鼓膜を震わせる人の声ではなく、心に直接語りかけるような不思議な声がめぐを呼んでいる。
めぐは上半身を起こし周囲を見やったが、声の主はどこにも見当たらない。
奇怪な現象に不安を覚えためぐは隣の水銀燈を一瞥したが、彼女はこの異変に何ら
反応することなく、それまで通り眠ったままだった。
めぐがどうするべきか迷っていると、不意に呼び声は止み、代わりに新しい変化が訪れる。
部屋に設えられた洗面台の鏡が、仄かに光り始めたのだ。
めぐはそっとベッドから降りるとスリッパを履き、鏡の前へと向かう。
まるで水面のようにいくつもの波紋が鏡面に広がり、鏡自体が光を放っている。
めぐは鏡の前に立っていたが、鏡に映るのはめぐの姿ではなく、白い少女の姿だった。
右の眼窩から咲く白い薔薇。金色の瞳をそなえた左の目。淡い桃色を帯びた白髪に純白のドレス。
雪華綺晶は微笑を浮かべ、穏やかな眼差しをめぐに向けている。
あまりに幻想的な姿の少女に、めぐは息を呑んで見つめ返す以外にない。

「死に魅入られた飛べない小鳥。黒薔薇のお姉さまのお友達」

鏡から声は響かない。代わりに、鏡の中の雪華綺晶が口を動かすと、彼女の声がめぐの心に
流れ込んでくる。とても清らかで澄んでいて、乾いた心にすっと深く浸み込むような声だった。

「あなたは……誰? 私を迎えに来てくれた天使なの…?」

半ば反射的に胸の前で右手と左手を組み合わせるめぐに応える事無く、雪華綺晶は
笑みを浮かべたまま瞼をやわらかく下ろす。

「貴女は可哀想な小鳥。
 大空を舞うことも、死ぬことも許されない籠の中の鳥。
 私はそんな貴女を救いたい」

瞼を上げ、金色の瞳がめぐを捉える。その眼差しは慈愛に満ちているが、大切な何かが
致命的に欠け落ちている。眼前のめぐを見ているようで、実は誰も見ていないかのような
どこか空虚で奇妙な視線。

「救う……? 私のことを救ってくれるの? 白い天使さん」

「夢を見せてあげる。
 生の痛みも、死の苦しみもない楽園へ連れていってあげる。
 幸せな夢に抱かれて安らかにお休みなさい」

そんな雪華綺晶の囁きに、めぐは目をしばたたかせる。
心臓に障害を抱えて生を享けためぐは、世界に絶望しきっていた。家族は彼女の前から去り、
将来も夢も希望もなく、外を歩くだけのささやかな自由さえも許されない病床のとりこだ。
非情なこの世を見限っていためぐは、自分自身の存在を消去する"死"に一縷の希望を見出し、
もはや自分に残された救いはそれ以外にないとまで考えていた。
しかし目の前に突然現れた白い天使は、それまで思いもよらなかった別の救済をめぐに
もたらそうとしている。
彼女の言うような理想的な世界へと導いてくれるというのなら、めぐとしては是非もなかった。

「そう…。素敵なお誘いね」

陶然と微笑むめぐをいとおしげに見つめた雪華綺晶は、未だにベッドの上で眠り続ける水銀燈に
視線を移した。つられてめぐも水銀燈を見やる。

「お姉さまと指輪の契約を」

「水銀燈と…?」
484雪華綺晶はここにいる 2/38:2008/07/02(水) 00:48:26 ID:Vu3UqG8N
問いかけるめぐに雪華綺晶は鷹揚に頷き、目を閉じたまま自身の左手に優しく右手を添える。

「黒薔薇のお姉さまの指輪を、貴女の左手の薬指に。
 それが叶ったときに、迎えに上がります」

そう言い残して、雪華綺晶はめぐの制止の願いも聞かず、鏡の奥深くへと消えてしまった。
鏡は輝きを失い、部屋は元通りの暗闇と静寂に包まれている。
現実味を欠いた出来事に、めぐはしばらくの間鏡の前から動くことができなかった。



翌日。
窓から陽光が射す病室のベッドで、めぐはさも幸せそうに微笑みを浮かべていた。
水銀燈は壁に背を預け、そんな様子のめぐを冷ややかな面持ちで見つめている。
水銀燈の表情はいつも通り不愛想もあらわだったが、その実内心ではめぐの状態を
いぶかしんでいた。めぐが夢見がちであるのは今に始まったことではないが、
今日の彼女はいつも以上に楽しげで想像の中に浸っているように水銀燈は思った。
めぐも水銀燈が自身の変化に気づいたことを知り、悪戯めいた笑みを送る。

「ねえ水銀燈。知りたい? どうして私が笑っているのか」

「別に。興味ないもの」

心を見透かされたことが屈辱で、水銀燈は反射的にそっぽを向くが、
それでもやはり好奇心には抗えず、ちらちらとめぐへの視線を送ってしまう。
そんな妙に子どもじみた様子の水銀燈にめぐは苦笑すると、満を持したように
極上の笑顔で昨晩の顛末を説明し始めた。

「夜にね、天使がやってきたの。二人目の天使」

「……天使…? 二人目…?」

思ってもみなかっためぐの言葉に、水銀燈は眉を顰めた。
めぐは昨夜の出来事を、必要以上に叙情的に話す。
自分を呼ぶ声が心に響いたこと。鏡が光り、その中に白い天使が立っていたこと。
彼女がめぐを夢の世界へ導いてくれること。
そのためには水銀燈と指輪の契約を交わすことが必要であること。
歓喜もあらわに話を続けるめぐとは対照的に、水銀燈の紅い瞳は怒りに満たされていった。
めぐの話の内容から考えるに、ローゼンメイデンシリーズの誰かがめぐと話したことは明らかだ。
水銀燈を激怒させるのは、ベッドで人間と共に眠る彼女を覗き見て、あまつさえ自身を
無視し、めぐと話を続けていたという点である。
人間など薔薇乙女が動くために必要なエネルギー源に過ぎないと公言している
水銀燈にとって、成り行きからとはいえ人間と同居し、同じベッドで眠るという馴れ合い。
それを目撃されたことは水銀燈の孤高と沽券を貶める恥辱以外の何物でもない。
その上その妹は、昏々と眠る水銀燈をまるで取るに足らないを言わんばかりに捨て置いたのだ。
やすやすと寝首を掻けるはずの水銀燈を、その姉妹は無視した。
薔薇乙女は互いの気配を概ね察知できるため、たとえ眠っていようと水銀燈が
姉妹の接近に気づかないはずはないのだが、事実として不覚にも彼女は敵の陣地侵入を
まんまと許してしまった。
その姉妹に水銀燈への敵意があったのならば、水銀燈は痛恨の不意打ちを喰らって
アリスゲームを脱落していてもおかしくはなかったのだ。
水銀燈が今もこうして動いていられるのは、謎の薔薇乙女に見逃してもらったからと
考えても差し障りは無い。
それに加えてそんな危機を露知らず、安穏と眠りに耽っていた自分自身の迂闊さにも
腹が立つ。
姉妹の中でも一際高い自尊心をもつ水銀燈を三重の屈辱が責めさいなみ、
真紅の双眸に激昂の情を滲ませていた。
485雪華綺晶はここにいる 3/38:2008/07/02(水) 00:50:55 ID:Vu3UqG8N
「天使の貴女が私の命を使ってくれないから、二人目の天使が見かねて
 来てくれたのね、きっと。私を天国まで運んでくれるのよ。素敵よね」

「バカじゃない。つまり殺されるってことじゃないの」

怒りを面に晒しては品位に欠ける。それを良しとしない水銀燈は、胸に渦巻く激情を
秘め隠したまま冷えた眼差しをめぐに向けた。
めぐと語ったという姉妹の意図は、今のところ全く不明だった。
苦痛のない理想郷へ導くなどという子供騙しの甘言でめぐを釣ろうとしている思惑は
理解できなくもないが、たとえめぐと水銀燈が契約を交わしたとしても、その姉妹が
利することなど何も無い。それどころかかえって状況が悪化するだけだ。
なぜなら媒介を得た薔薇乙女の戦闘能力は増大し、結果的には水銀燈と敵対する
その姉妹の首を自ら絞めることにしかならないからだ。
そんなことも分からないほどその姉妹は愚鈍なのか、はたまた水銀燈とめぐの
2人を冷やかしに来ただけなのか。

「ねえ水銀燈…指輪の契約、交わしてよ。
 黒い天使の水銀燈と、白い天使のあの子の2人で
 私をこの世界から解放して欲しいの」

「……まんまと騙されて踊らされて。どうしようもないバカね、貴女って」

そう嘯きつつも、水銀燈の胸に去来するのは得体の知れない焦燥感だった。
目の前の死に取り憑かれた少女は水銀燈の心をかき乱す。
めぐが死を、自身の存在の消滅を願うたびに、水銀燈はなぜかいたたまれない気持ちになる。
得体の知れない薔薇乙女に誘惑されて、めぐが一層強く死にたがるという今の状況は、
水銀燈自身が下手人に愚弄された事実と等しいまでに不快であった。
水銀燈は猫なで声で契約をねだるめぐを軽くあしらうと、宙を飛んで病室の鏡の前で
静止した。

「どこに行くの? 水銀燈」

「そのふざけた妹を潰しにいくの。この水銀燈をからかった罪は死に値するわ」

めぐを一瞥する水銀燈の目には、まぎれも無い怒りと憎悪に満ち溢れている。
そんな恐ろしげな様子の水銀燈にひるむ事もなく、めぐは残念そうにため息をつくと
なぜか嬉しげな笑顔を浮かべた。

「そっか。殺しちゃうんだ、あの子。
 さすが水銀燈。黒い天使だから死神って訳ね。
 私の命も、そうやって刈り取ってくれればいいのに」

「……天使だの死神だの…私はローゼンメイデン第1ドールの水銀燈。
 想像をめぐらせるのは貴女の勝手だけど、現実と妄想の区別が
 つかない子はイカレてるようにしか思えないわ」

「またまた。すぐにそうやってはぐらかすんだから」

めぐはけらけらと笑い、水銀燈は不満げな面持ちの程をより一層強くする。
めぐが自分の命を使い切ってくれるように水銀燈に頼む度に、彼女はこうして
話を逸らしたり何らかの言い訳を見繕って願いをはねのける。
今ではこのやり取りも、お互い馴れたものだった。

「気をつけてね。負けちゃ嫌よ」

「…………」

めぐの声援に応える事無く、水銀燈は鏡を入り口としてnのフィールドへと進んでいった。
486雪華綺晶はここにいる 4/38:2008/07/02(水) 00:53:25 ID:Vu3UqG8N
同刻、薔薇屋敷にて。
瀟洒なテーブルを挟んで、翠星石と屋敷の主人である結菱一葉が椅子に座っている。
テーブルには両者の前に薫り高い紅茶を湛えたティーカップが置かれ、中央には瑞々しい
薔薇の花を生けた器が備えられていた。

「ジュンはチビ苺に甘すぎるのです。そんなことだからチビ苺がつけあがって暴走するです。
 真紅も真紅ですよ。雛苺の主なら家来のしつけはしっかりするべきです!」

「子どもは元気なのが一番だ。無理に押さえつけてはいけないと私は思う」

微笑んでささやかな助言を送る一葉に、翠星石はつんとそっぽを向いて容赦の無い
ののしりを浴びせかける。壁一面をガラス張りにあつらえさせたその部屋は
清潔な日光を余すところなく透過し、翠星石と一葉を温かく包み込んでいる。
ガラス越しに望む一面の薔薇園は、見ているだけで心が洗われるような明媚な眺めだ。
愚痴をこぼしながらもこうして茶飲みの相手を律儀に務めてくれる翠星石を前に、
一葉は心地よい時間を過ごしていた。



翠星石は帰り際にいつも、鞄の中で眠り続ける蒼星石の顔を見るようにしている。
鞄の中で身体を丸めたまま動かない蒼星石は、本当にただ眠っているだけのように見える。
魂を込められた生きた少女人形であるローゼンメイデンシリーズ。その一人の蒼星石は、
こうして動かない本来の人形になっていてもなお瑞々しい。
繊細な焦げ茶色の髪。薄桃色の唇。男装の麗人を思わせる凛々しいかんばせ。
不意に瞼を上げ、その澄んだ紅と翠のオッドアイを覗かせながら長寝を恥じ入って
そっと頬を赤らめる。そんな光景を翠星石は幻想して止まない。
壊れ物を扱うかのように、翠星石は蒼星石の頬に優しく手を添える。
翠星石の面持ちは穏やかで、微笑さえ浮かんでいる。しかし雨水を限界まで
溜め込んだ曇り空のように、危うい色が常にその面持ちに見え隠れしていた。
そんな翠星石の姿を後ろで見守っていた一葉は、いくらかの逡巡の後に、
かすれた声で尋ねた。

「蒼星石は…元に戻るのだろうか」

翠星石は後ろを振り向くと、申し訳なさそうにうつむく一葉を鋭く睨みつける。
愛らしい少女の顔には不似合いな、憎悪に満たされた眼差しだった。
しかしそんな目つきから、一瞬後には憎しみが霧散し、代わりに悲哀の色が
彼女の双眸を彩っていた。
蒼星石が魂の抜け殻になってしまった原因の大本は一葉にある。
一葉はその罪を悔い、せめてもの贖罪として蒼星石を紅茶を嗜む際に同席させ、
まるで植物状態の患者の意識を取り戻させるかのように彼女に声を掛け続けてきた。
一葉とて、蒼星石が復活することは翠星石と同様に悲願であるのだ。
それを知った翠星石は彼の意を酌んで茶会に同席し、一葉に対する憤りを
少しずつ赦しへと塗り替えてきた。

「――戻るです……戻るですよ。おじじ」

一葉とて、いたずらに翠星石を怒らせるために先のような質問を投げかけたのではない。
彼も真実を知り、希望をもちたいのだ。蒼星石の心が還ってくるという望みを。
それを悟った翠星石は、悲しみを紛らわせるように胸を張って普段の強気な口調を取り戻す。

「蒼星石のローザミスティカは水銀燈のアンチクショウがもっていきやがりましたが、
 翠星石達が必ず水銀燈から取り返すです。翠星石の意識も、nのフィールドのどこかを
 さまよっているはずなのです。絶対に連れ戻すですよ!」

堂々とそう言ってのける翠星石を前にして、一葉はしばし無言で彼女を見つめた後、
目礼でもするかのように目を瞑り、「よろしく頼む。翠星石」と力強く応えた。
487雪華綺晶はここにいる 5/38:2008/07/02(水) 00:55:27 ID:Vu3UqG8N
その頃、桜田宅。

「ふんふんふ〜ん♪ お掃除しましょ〜ぴかぴかに〜♪」

桜田のりが鼻歌を口ずさみながら床に掃除機をかけていた。
掃除機の大きな駆動音にまぎれて、のりの歌声はほとんどかき消されている。
普段通りの上機嫌を保ったまま、のりが物置部屋の前まで掃除機を滑らせていくと、
彼女はある異変に気づいた。物置部屋のドアが開かれたままになっていたのだ。

「あらぁ〜? 変ねぇ。いつもちゃんと閉めてるはずなのに…」

何気なく部屋の中を覗くと、入り口の正面奥にはいやおうなしに目に付く大鏡が
据えられている。
しかしその鏡面に映るのはのりの姿だけではない。不可解な存在も一緒に映っていた。
薄桃色の白い長髪に白い服。美しい容姿を具えているにも関わらず、その眼差しは
白痴のように虚空の一点を凝視したまま動かない。雪華綺晶だった。
全く予想していなかった異常事態に、のりの思考は空白と化し、身体は金縛りにでも
あったかのように動かない。
すぐ傍で硬直する人間の存在に気づき、雪華綺晶が首をかしげてのりの顔を見つめる。
彼女は悠然と笑って白い歯を晒した。金色の左目に狂気の入り混じった親しみの情が灯る。

「ウ キ ャ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ァ ァ ァ 〜〜〜〜! ?」

掃除機の騒音を遥かに上回るのりの絶叫が桜田家に轟き渡った。

「な、何だ!?」

ジュンが自室から飛び出し、階段を駆け下りて声の出所へ走る。
ジュンの部屋にいた真紅と雛苺も人間用の階段をそろそろと降りて、のりの元へと向かった。
のりは腰でも抜かしたかのように床にへたり込み、悲鳴の残滓を喉から搾り出している。
ジュンは耳障りな音を上げる掃除機の電源をオフにすると、事の次第を訪ねた。
遅れて真紅と雛苺の2人も到着する。

「か、かか鏡の中に…お化けがいたのぉ…!
 ゆ、幽霊がお姉ちゃんをじっと見てたわぁ……!」

震えながら自らの肩を掻き抱いて、のりは懸命にそう訴えた。
今にも泣き出しそうなその顔は、恐怖の程を言葉よりもなお雄弁に物語っている。
「幽霊ですって…?」と小さく声を上げ、意外に臆病な真紅の顔がわずかに引きつる。

「お化け? ゆうれい?」

特に臆した様子も見せずに雛苺が大鏡の前まで歩き、鏡を検めるがおかしなものは
何も映っていない。

「なにもいないわ、のり」

「そ、そんなぁ〜〜! お姉ちゃん、確かにこの目でぇ〜」

座ったままそう訴えるのりの背中を雛苺がよじ登ると、雛苺は満面の笑みを浮かべて
小さな手でのりの頭を撫でる。

「のりってば怖がりなのねー。ヒナはゆうれいなんか怖くないわ!」

「大方掃除機かけながら夢でも見てたんだろ。姉ちゃんはいつもボケっとしてるからな」
488雪華綺晶はここにいる 6/38:2008/07/02(水) 00:56:37 ID:Vu3UqG8N
つまらない下らないとばかりに鼻を鳴らすと、ジュンはさっさと自室へ戻っていってしまった。
「信じて〜ジュンく〜ん」というのりのすがる声にも、ジュンはまるで取り合わない。
相変わらず怯えているのりに雛苺はまとわりついて思う存分にはしゃぎ、その一方で真紅は
左手を軽くあごに添えて黙考している。

「3人そろって何してやがるですか?」

背後からの不意の掛け声にのりがびくんと大きく震え、のりの肩に乗っていた雛苺がころんと
床に落ちて「きゃっ!」と可愛らしい悲鳴を上げる。
声の主は今しがた薔薇屋敷から戻ってきた翠星石だった。
妙な雰囲気の3人を見かねて声を掛けたのだ。せめて翠星石だけにでも信じてもらおうと、
のりは鏡の中に潜む亡霊を目撃した顛末を彼女に説明した。
話が進むにしたがって翠星石の表情は次第に明るくなっていき、話を聞き終えた後は
満面に喜色を浮かべ、興奮した様子でこう断言した。

「蒼星石です! きっとその子は蒼星石ですよ! 蒼星石が帰ってきたです!」

翠星石はのりが見た幽霊の正体を、nのフィールドでさまよっている蒼星石の意識だと
考えているのだ。身体に戻れずに困っているので、翠星石達が集まる桜田家を訪れ、
助けを求めに来たのだと翠星石はそう判断した。
蒼星石の復活を切望している翠星石の希望的観測の色は強いが、確かに可能性の
一つとしては考えられる。
真紅としても、鏡からのりを見つめ返したという幽霊の正体は、ローゼンメイデンの誰かでは
ないかという確信に近い思いがあった。
鏡の中の幽霊うんぬんというのりの言葉には不覚にも慄然としてしまったが、よくよく考えれば
鏡をnのフィールドの出入り口にしているのは幽霊などといういかがわしいモノではなく、
自分達薔薇乙女ではないか。

「のり。鏡の中にいた幽霊の姿形を、できるだけ詳しく教えて頂戴」

真紅の凛とした声に、のりはようやく冷静に物を考えられる程度の落ち着きを取り戻した。

「うう〜〜んと…。ほんの一瞬だけしか見られなかったからよく覚えていないんだけどねぇ。
 白っぽい色の髪をしてて、髪は長めだったと思うの。お姉ちゃんを見て、ニタッて
 笑ったのよぅ。怖かったぁ〜…もう失禁ギリギリよぅ」

「う……。そ、蒼星石と似ても似つかんですぅ…」

傍から見ても気の毒になるほどに翠星石は肩を落とし、よく状況が飲み込めない雛苺は
「蒼星石が来たのね!」と翠星石の前言内容を鵜呑みにし、はしゃいでいる。

「何という不謹慎なのです! このおバカ苺! やっぱりオマエの頭は金糸雀以下なのです!」

唐突に怒り出した翠星石に追いかけられて逃げ回る雛苺には構わずに、真紅は思考を続ける。
のりの証言内容から考えるに、その薔薇乙女と思しき誰かは水銀燈か、ジュンの心の領海で
以前に見かけた謎のドールであると考えられる。どちらも白い長髪であるからだ。
水銀燈は前に物置小屋の大鏡を入り口として桜田家に攻め込んできたことがあるし、
他人を小馬鹿にするかのような彼女の不敵な態度は、のりに向かってニヤリと笑ったという
下手人の行為と一致する。犯人が水銀燈である可能性はかなり高い。
真紅達を陥れるための策略の一つとして鏡の中から桜田家を覗いていたと考えるのなら、
その計画の内容をつきとめて阻止しなくてはならない。蒼星石に続くアリスゲームの犠牲者は、
もう一人も出してはならないのだ。
もう一人の容疑者である謎のドールが犯人であったと仮定するなら、事態は水銀燈が
関わっている場合よりも一層由々しいものと考えざるを得ない。
件のドールは、その能力や思想や気性などの一切が不明だ。
謎のドールの正体はローゼンメイデンの第7ドールではないかと密かに疑っている真紅としては、
その実体を早急に掴んでおく必要がある。
489雪華綺晶はここにいる 7/38:2008/07/02(水) 00:58:11 ID:Vu3UqG8N
水銀燈と謎のドールのどちらが犯人であろうと、鏡の中に現れた理由と目的を知ることは
真紅にとって重要な急務だった。

「翠星石。雛苺」

未だに追いかけっこを続けている2人を呼び止めると、真紅は手短に自分の推理内容を
披露し、犯人をつきとめて桜田家を訪れた理由を問い質す必要性を説いた。
彼女達の不安を煽ってはいけないので、謎のドールに関しては極力言葉をにごし、
不審人物程度に説明を留めておいた。

「真紅すごいのよ〜。くんくんみたいなの〜」

雛苺のそんな反応に真紅はピクンと片眉を上げた。照れは隠しているようだが普段の
澄ました顔はいくらかほころんで、隠しようのない嬉しさがにじみ出ている。

「くんくんには及ばないにしても、私がその気になればこのくらいは造作もないことよ」

「おのれ水銀燈〜! 蒼星石だけでは飽き足らず、今度は翠星石達のタマまで
 とりに来やがりましたか〜!」

翠星石は、犯人の正体を蒼星石のローザミスティカを奪った怨敵・水銀燈だと思っている。

「さあ。ぐずぐずしていたら犯人に逃げられてしまうのだわ。さっそくnのフィールドへ
 向かうわよ」

蒼星石のローザミスティカをもつ水銀燈を懲らしめ、ローザミスティカを彼女から取り返すべく
意気込む翠星石以上に、雛苺はいつにも増してはしゃいでいる。全身を使って喜びを表現し、
その童顔には満面の笑みが輝いていた。
不思議に思った真紅がその理由を尋ねると雛苺曰く、
謎の犯人を捕まえてこれ以上の犯罪行為を食い止め、目的を自白させるというこれからの
行動はくんくん探偵のそれそのものである、と。
そんな雛苺の子どもじみた発言に真紅はハッとすると、彼女はやわらかい笑みを浮かべ、
労をねぎらうかのように雛苺の左肩に右手を乗せた。

「雛苺。この真紅の家来としての役割がようやく板についてきたようね。
 中々の仕事を働いたわ」

意図が不明な真紅の言葉に雛苺は困惑するが、真紅はそれに構わず恍惚とした表情で
二階のジュンの部屋へと向かっていった。
後に残された翠星石と雛苺はお互いに顔を見合わせるしかない。
しばらく後に真紅が2人の前に戻ると、彼女は探偵帽をかぶり、胸元を飾る紅いケープの
上に探偵ケープを重ねて羽織っていた。
桜田家に住む真紅達薔薇乙女が揃って熱を上げる人形劇の「くんくん探偵」。
その番組プレゼントに真紅が応募し、見事射止めたくんくん変身セットだった。
ジュンの部屋の本棚に大事に納められていたその宝物を持ち出し、彼女はくんくんを
想いながら廊下でそれを身に纏ったのだ。真紅の肩には小綺麗なポシェットが
下げられ、その中には彼女が集めた探偵必携アイテムがしまわれている。

「し、真紅…。その格好は…」

「犯人は私達が必ず捕まえるわ。そして見事事件を解決するのよ。
 私達、薔薇乙女探偵団が!」

拳を握り締める真紅に、「ヒナも探偵やりたいのよ〜」と嬉しそうに飛び跳ねる雛苺。
そんな2人の様子を、やや引いて見つめる翠星石。

「良い点に気づいた雛苺には、探偵助手という名誉ある役目を与えてあげるわ」
490雪華綺晶はここにいる 8/38:2008/07/02(水) 00:58:57 ID:Vu3UqG8N
「うーいっ、ヒナジョシュやるのよーっ!」

真紅が差し出すポシェットを雛苺は嬉々として受け取り、大切な宝物であるかのように
胸の前で抱きしめた。探偵助手などという名前の役割を振られて彼女ははしゃいでいるが、
その仕事内容の実際は、真紅にとって都合の良い荷物持ちでしかない。
盛り上がる真紅達をよそに、動き回れる程度まで恐慌から回復したのりは困惑していた。

「ううぅ〜……。お掃除は大体終わったけど、今度はお買い物に行かなくちゃならないわ…。
 お姉ちゃん、お化けが怖くて外なんか歩けないわぁ。
 ジュンくーん! お買い物に行くんだけど、お姉ちゃん怖いから付き合ってよ〜う」

「一人で行けよバカ!」

階段下からののりの呼び掛けに、ジュンは部屋から一歩も出る事無くそんな返事をした。

「うう……。つれないのねぇ、ジュンく〜ん…」

くすんと鼻を鳴らして、のりが買い物の支度のために物置部屋の前から立ち去っていく。

「さあ。事件解決のために! 薔薇乙女探偵団、出動よ!」

真紅の号令のもと、3人は意気揚々と大鏡からnのフィールドへと進んでいった。


隔たったフィールドとフィールドを繋ぐ暗黒の亜空間を3人は飛びながら先へと進んでいる。
真紅はくんくん探偵になりきってやる気に満ち溢れ、雛苺は真紅から預かったポシェットを
肩に掛けたまま楽しげに後に続いている。翠星石はやや2人の空気に乗り切れていないものの、
蒼星石のかたきである水銀燈を倒すべくその瞳に強い意志の光を宿している。

「籠目 籠目」

暗闇をわずかに震わせる澄んだ歌声が響き、見渡す限りの闇の海に呑まれて儚く消える。

「籠の中の鳥は 何時 何時 出会う?」

そんな声の主の問いかけにも、高速で空間を飛翔している真紅達は全く気づかない。

「夜明けの晩に 鶴と亀が 滑った」

千年生きるといわれる鶴と、万年生きるといわれる亀。
ともに長寿の象徴とされる縁起の良い動物だ。その2つが滑って死ぬという不吉な歌詞。
わらべ歌にあるまじき不気味で奇妙な凶兆を意味した歌だった。

「後ろの正面 だぁれ?」

誰にも気づかれることなく闇の中から真紅達の背中をじっと見つめる、炯々と光る金色の
瞳が一つ。
白い髪と白い服のその姿は、夜闇を漂う白い人魂のようにも映る。
実体をもたない精神体である雪華綺晶は、現実の中では存在できない幻の少女人形だ。
そのため、そこに在りながら気配を誰にも認識されることがない。
真昼の太陽の下を浮遊する透明な幽霊のような薔薇乙女である。
その眼差しに愛情と親しみとやわらかな殺意を孕ませて、雪華綺晶は遠ざかる3人の姿を
いつまでも静かに見つめていた。


491雪華綺晶はここにいる 9/38:2008/07/02(水) 00:59:41 ID:Vu3UqG8N
真紅達がnのフィールドへ出かけた少し後。
パソコンに向かってインターネットショッピングにいそしむジュンは、部屋の窓ガラスを叩く
ノックの音に気がついた。
音の出所を見やれば、日傘を片手に掲げて宙に静止する金糸雀がそこにいる。
彼女の意図を酌んだジュンは窓を開け、部屋の中へと入れてやった。
常に真紅達薔薇乙女がたむろしているはずのジュンの部屋が、今日はとても静かだった。
部屋の主のジュン以外には誰もいないからだ。

「ジュンジュン。真紅達はどこにいるのかしら」

「知らないよ。犯人を見つけ出す、とか妙なことを言ってたけど…」

部屋の本棚に納めてあったくんくん変身セットを真紅が持ち出す際、何に使うのかと
ジュンは何気なく尋ねてみたが、彼女は詳細を語らず、ただ犯人を見つけて事件を
解決する、としか言わなかったのだ。

「真紅達…またカナを仲間はずれにしてどこかへ遊びに行ったのかしら!
 この策士金糸雀を怒らせると後になって怖いのかしら!」

頬を膨らませてぷりぷりと怒る金糸雀を無視して、ジュンはネットサーフィンを再開する。
そんな様子のジュンに金糸雀は一層不機嫌になり、苛立たしげに腕を組む。

「ジュンジュン! お茶とお菓子を用意して欲しいかしら。この金糸雀がわざわざ
 足を運んできてあげたのに、それを無視する真紅達なんてもう知らないのかしら。
 平和のための話し合いをかねたお茶会も、カナ一人で始めちゃうのかしら」

「煩いな。下にティーセットとお菓子が置いてあるから、勝手に食べてればいいだろ」

「なっ、なんて冷たいのかしら!? もういいのかしら! カナ一人でできるんだから!」

そう言い捨てて、金糸雀はその顔に不満を露にしてジュンの部屋を出て行った。
階段を乱暴に降りる金糸雀の両目には、うっすらと涙が滲んでいる。

「皆でカナをバカにして…! やっぱりカナを分かってくれるのはみっちゃんだけかしら。
 ここまでコケにされて、黙って引き下がるほどカナはお人よしでも甘くもないのかしら。
 こうなったらこの家のお菓子を全部食べ尽くしてやるのかしら! 兵糧攻めかしら!」

『金糸雀……』

突然の声に、金糸雀は周囲をきょろきょろと見回すが、傍には誰もいない。
ただの思い違いか空耳だろうと考えて金糸雀がまた歩き出すと、再び奇妙な声が
金糸雀の胸に届く。
人や他の姉妹の声とは違う、心に直接響くような不思議な声だった。

「な、何かしら…? …………。分かったかしら! 真紅達かしら! どこかから
 カナをからかっているのね! そう簡単にはこの金糸雀は騙されないのかしら!」

金糸雀は近くの部屋を片っ端から覗き込み、天井も見上げるが、どこにも誰もいない。

『金糸雀…。来て。こっちよ』

正体不明の声に、金糸雀はだんだん恐怖を覚え始める。
姿は見えないのに声だけは聞こえるのだ。
これは前にみっちゃんの家のテレビで見た、人をたぶらかし冥府へと引きずり込もうとする
怨霊とかいう恐ろしい存在ではなかろうか。

「か、カナはもう負けを認めてあげるのかしら…。いい加減姿を見せるのかしら…。
 真紅。雛苺。翠星石…」
492雪華綺晶はここにいる 10/38:2008/07/02(水) 01:00:42 ID:Vu3UqG8N
声に誘われるまま金糸雀は恐る恐る歩を進め、声の出所であると思われる部屋まで
たどり着く。着々と募っていく恐怖と危機感が命じるままに、一目散にこの家から
逃げ出した方が賢明だっただろう。しかし謎の呼び声にはそれを許さない、不可思議な
魅力があった。まるで好奇心を直接揺さぶりかけるようでいて、心理を巧みに操る術を
熟知しているかのようである。
部屋のドアは背の低い金糸雀でも入れるように半開きになっていた。
まるで金糸雀が部屋に入ってくるのを見越していたかのように。
ドアを引いて中に入ると、そこにはぬいぐるみや玩具、額縁に入った絵画や何に使うのか
分からない奇怪なオブジェが山と積まれ、混沌の様相を呈して余りある。
そんな中で一際目を引きつける大鏡。その偉容に魅了されるかのように、金糸雀は
鏡の前まで歩いていく。
今の彼女の行動は、甘い匂いに釣られて食虫植物の口へと自ら足を運ぶ、
小虫のそれと大差がない。
その事実に金糸雀が気づかないのは、彼女が愚かしいからなのか、それとも声の主の
魔力によって思考の一部に霧がかかっているからなのか。
鏡の前に立った金糸雀の姿が、鏡面に映し出されている。
緑がかった灰色のロールヘアに赤い薔薇をあしらったハート型の愛らしい髪止め。
翠緑の瞳に桃色の頬。日の光を思わせる黄色の上着に、オレンジ色のドロワーズ。
そんな鏡の中の絵が揺らぎ、一瞬後には雪華綺晶のそれに切り替わる。
予想だにしない異変に金糸雀は声を失い、雪華綺晶はゆったりとした笑みを浮かべて
右手を開いて前にかざす。雪華綺晶の右手から伸びる白い茨は鏡面を通り越して
白蛇のように金糸雀の首に巻き付き、先ずはその悲鳴と助けを呼ぶ声を封じた。
苦悶の表情もあらわな金糸雀の全身を次々と茨が縛り上げ、彼女は何が起こったのか
理解する暇もなく、鏡の中の世界へと引きずり込まれていった。



蜘蛛が巣にかかった獲物を糸でがんじがらめにするように、金糸雀の全身は白の茨で
縛り上げられている。金糸雀は首を始めとした身体の拘束の痛みに耐え切れずに、
とっくの以前に気を失っていた。そんな金糸雀をいたわる慈悲など一片も見せず、
雪華綺晶は茨で束縛した彼女をずるずると引きずりながら暗黒の中を進んでいる。
雪華綺晶の顔には何の表情も浮かんでおらず、ただ爛々と光る金色の瞳が前を
見据えているだけだ。
現在の状況は雪華綺晶にとっては僥倖だった。ローゼンメイデンシリーズの大半が
集う桜田家を監視するべく、物置部屋の大鏡を覗き窓としていた彼女が、うかつにも
家の住民に見つかってしまったのは用心深く狡猾な彼女にしてはらしくない失敗だった。
しかしそんな損得勘定を度外視したある種の狂気が、雪華綺晶には備わっている。
一秒でも早く身を隠すべき局面でもなお相手に微笑む程度の異常性は。
しかし事態は雪華綺晶の思ってもみない方向へと進んでいく。何を思ったのか、
真紅、雛苺、翠星石の3人が揃ってnのフィールドへと入ってきたのだ。遥か彼方の
領域には水銀燈の気配まで感じる。昨夜、彼女の媒介候補に契約の誘いを
かけたことが水銀燈の心情に何らかの影響を及ぼしたらしい。
さらに好都合なことに、残りの金糸雀まで桜田家にやってきていた。
渡りに船とはまさにこのことだ。
彼女を利用してある計画を実行するべく、雪華綺晶は動くことにした。
実体をもたないアストラルより成る雪華綺晶は、nのフィールドの中では十全に
活動できても、現実世界の中では存在することが許されず、現実に及ぼすことができる
影響力も姉妹の中では格段に弱い。鏡の中から話掛けて相手の心を揺さぶったり、
現実と虚構の境界面である鏡の近くのドアを開いたりするだけで精一杯だ。
雪華綺晶は巧みに金糸雀を蟲惑し、彼女が内側に潜む大鏡の前まで招き寄せた。
四肢は物質化できないものの、霊体という身体の制約には関係ない具現化した
茨ならば現実側にいる金糸雀を絡め取って捕まえることが可能だ。
まんまと金糸雀の虚を衝いた雪華綺晶は、素早く金糸雀の手足を縛り上げ、こうして
nのフィールド側へと引きずり込むことに成功した。まずは上々の成果を収めた
雪華綺晶は、次の段階へと手を進めるべく金糸雀を闇の奥深くまで引きずっていった。


493雪華綺晶はここにいる 11/38:2008/07/02(水) 01:03:20 ID:Vu3UqG8N
「お姉さま。お姉さま」

少女の甘い囁き声が届き、金糸雀は目を覚ました。
まず気づいたのは辺りの暗闇だ。
気を失う寸前まで居た桜田家の物置部屋も薄暗かったが、今居る場所はそこの比ではない。
星一つない夜よりもなお暗い濃密な黒闇が、空間の全てを支配している。
ついで気づいたのは身体の節々をうずかせる鈍い痛みだった。
白い茨によって幾重にもきつく縛り上げられた金糸雀の身体には、その苦痛の痕跡を
感覚の上ではっきりと残している。
最後に気づいたのは闇の中に在ってもなお白くまばゆい少女の姿だ。
うっすらと笑みを浮かべ、左目には温情が満ちている。
その瞳の奥におぞ気立つような冷酷な色が潜んでいようと、彼女の本性を知らない
者にとってはかすかな違和感を感じ取る以外にその狂気を見破る術はない。

「あ、貴女は一体誰なのかしら…?」

おずおずと尋ねる金糸雀の質問に何の反応も見せず、雪華綺晶はただにやにやと
微笑むだけだ。
同性でさえも虜にしてしまいそうな美しく甘い笑顔。甘すぎて吐き気を催すほどの。
黙ったまま何も喋ろうとしない得体の知れない少女に、えもいわれぬ不安が金糸雀の胸で
増大していく。何とか自分のペースで話を進めようと、彼女は空元気を振り絞って
雪華綺晶を威嚇するかのように胸を張る。

「ひ、人に名を尋ねる前に自分から名乗るのが礼儀というものね!
 このカナとしたことがうっかりしていたかしら。
 ローゼンメイデン筆頭の策士金糸雀よ!
 貴女も一度くらいはこの名を耳にしたことがあるはずかしら」

「………誰?」

きょとんとした様子で首をかしげる雪華綺晶に、金糸雀は見事に出端を折られて
意気消沈する。彼女の名前が相手に覚えられていないということは、もうこれで
何度目だろうか。そんなにも金糸雀という薔薇乙女は姉妹の中で影の薄い存在
なのかと、快活な彼女をして落ち込ませるほどだ。
そんな彼女が見えていないかのように、雪華綺晶は自身を指差してうわごとのように
つぶやく。

「私はだぁれ?」

「え…? う…ええっと…。ば、バラバラの姉妹か何か…かしら…?」

そんな噛み合わない問答を経て、金糸雀は無性に帰りたくなった。奇妙な呼びかけで
彼女を誘い出し、ここまで引っ張り込んだのは状況から考えて目の前の少女だという
ことは明らかだ。そんな不気味なことをする下手人と暗闇の中で2人きりというこの状況。
それでもなお安穏としていられるほど、金糸雀の肝は太くもなければ馬鹿でもない。
それに何より、この少女はどこか怖いのだ。乱暴な言葉で威嚇するわけでも武力を
突きつけるでもないが、正気を疑いたくなる奇矯な態度と、左目の瞳を覆う慈愛の
ヴェールの先に時折垣間見える、尋常でない何かが金糸雀の背筋を凍えさせる。
帰りたくなっても、nのフィールドの出口の場所はおろか自分が今どこにいるのかさえ
分からないことに、今更ながら金糸雀は気がついた。

「お姉さまは可哀想」

「えっ…? お姉さまって…カナのことかしら? 可哀想って突然何を言ってるのかしら?」

「認めてもらいたくても認めてもらえない可哀想なお姉さま。誰にも愛でられず、
 小さな籠の中の世界で、届かない唄をさえずり続けるか弱いカナリア」
494雪華綺晶はここにいる 12/38:2008/07/02(水) 01:06:12 ID:Vu3UqG8N
雪華綺晶の紡ぐ言葉は抽象的で、金糸雀には彼女が何を言っているのか
半分以上理解できなかったが、それでも「認められない」と「か弱い」という2つの
フレーズは金糸雀の頭に強く響いた。
そしてそれらの発言は自尊心が高い金糸雀を怒らせるのに十分なものであった。

「なっ、何を言うのかしら!
 カナにはみっちゃんがついてるし、雛苺だって友達かしら!
 カナのパワーだって、ローゼンメイデンの中で一番かしら!」

肩を怒らせる金糸雀を見て、雪華綺晶はやわらかく微笑む。
雪華綺晶の発言は当てずっぽうではない。実体をもたない幻影の人形という点で
他のドールズとは一線を画す彼女には、相手の心理状態が実際に目に見えるのだ。
金糸雀はああ嘯いていても、雪華綺晶にははっきりと見えている。
彼女が他の姉妹達から軽んじられ、その力を認められていないこと。
そして自分の実力に不安があるから、策略などという力に頼らない手段に訴えていること。
彼女の心の奥底に秘め隠された僅かな劣等感を、雪華綺晶は的確に見抜いていた。
金糸雀が憤怒するのは、図星を指されたことを無意識のうちに否定したいがためだった。

「私は貴女を救いたい。貴女の力となりたい。お姉さま」

やわらかく瞼をおろした雪華綺晶は、穏やかな笑みを浮かべて優しくそう伝えた。
目上の者に敬意を表するかのように、彼女の開かれた左手は自身に胸元に
そっと添えられている。
そんな雪華綺晶の言動に、金糸雀はやや心を許してしまう。
金糸雀の目の前の白い少女は、確かにその行動と雰囲気に不審な点も多いが
こうして彼女を仰ぐ態度を示し、「お姉さま」などと呼んで敬っている。
「力となりたい」という言葉からも、彼女が金糸雀に助力しようとする意思をもっている
ことは確かだろう。先の失礼な発言も、彼女の性格によるのかもしれない。
姉妹の中でも目下に見られがちな金糸雀が下手に出られるというのはかなりの珍事であり、
同時に彼女の自尊心をくすぐる喜ばしいことでもあった。

「……まあカナも戦略の手札が増えるのは嬉しいし、貴女がカナの仲間になりたい
 ならやぶさかでないのかしら。カナを尊敬して協力を惜しまないというのなら
 カナの妹分にしてあげてもいいのかしら」

腕を組んで得意気に話す金糸雀を見て、雪華綺晶は悠然と笑う。
その艶然とした笑顔の裏には、周到に騙した相手を頭から丸飲みにする大蛇の如き
禍々しさが巧妙に隠されていた。

「はい。お慕いしています。黄薔薇のお姉さま」

陶然とそう呟いた雪華綺晶は、金糸雀のあごに手を添えると、刹那のうちに唇を
重ね合わせていた。唇をふさぐ唇の感触に覚える違和感よりもなお金糸雀の
心を捉えて放さないのは、彼女の右目に映る雪華綺晶の澄んだ金色の瞳だ。
その虹彩の奥に潜む曰く言いがたいおぞましい感情を、金糸雀は文字通り
至近距離から覗き込むことになった。
恐怖に凍える金糸雀の手先は震え、その膝は無様に笑い、唇を押し付けられたまま
彼女は動くことができない。
雪華綺晶の左目には恋する乙女のような、恍惚とした色が浮かんでいる。
その理由は金糸雀とのキスをただ愉しんでいるのか、それとも震え上がって動くこともできない
彼女の姿に歪んだ愉悦を見出しているのか。
雪華綺晶が唇を離して解放すると、金糸雀はその場にへたり込んで自分を見下ろす
白い少女の顔を見つめ返す。
その笑顔に大切な何かが決定的に欠け落ちているのに気づき、金糸雀はようやく悟った。
彼女が金糸雀に敬服しているどころか、猫が捕まえた獲物を死ぬまでなぶり続けるように
ただ金糸雀を手のひらの上でもてあそんでいたということを。
遅ればせながら自分の誤解と白い少女の内面に巣食う狂気に気づいた金糸雀は
その場から逃げ出そうとするが、なぜか手足が痺れてまるで動けないことを知った。
495雪華綺晶はここにいる 13/38:2008/07/02(水) 01:08:35 ID:Vu3UqG8N
「あ…あれれ…? どうしてかしら…? カナ、全然動けないのかしら…」

座った姿勢のまま困惑した面持ちで呟く金糸雀を、雪華綺晶は正面から優しく抱きしめる。
目を閉じて微笑むその顔は掛け値なしの慈愛の色で彩られていた。
白い少女のやわらかな抱擁に、金糸雀の胸でわだかまっていた不審や恐怖といった
負の感情が霧散していき、後に残ったのは心地良い安心感だけだった。
金糸雀の視界を覆う薄桃色の白髪と純白のドレスはまるで深い霧の中をさまよう
かのようなイメージを彼女に与え、その思考を白濁させ全てを白く塗りつぶしていった。

「お姉さまたちに伝えにいきましょう。貴女の想いを。貴女の力を。
 私が助けてあげる。私がついていてあげるから。
 優しい夢に抱かれて踊り続けなさい。それはきっと、とても楽しいから」

そんな甘い無垢な囁きに、金糸雀は安心して瞼を下ろし、雪華綺晶の見せる
幸せな夢の中に沈み込んでいった。



nのフィールドの中の一つの世界を水銀燈は当てもなく飛翔していた。
彼女の眼下には洋風の建築物が無数に近いほど建ち並び、そこに住むはずの人間は
一人もいない。
めぐの病室に昨夜現れたという姉妹を倒すべく、こうしてnのフィールドへとやってきたはいいが、
肝心の下手人の姿がどこにも見当たらない。
ヒステリックなところがある水銀燈の紅い双眸は、怒りと苛立ちで赤く燃えたぎっている。
薔薇乙女は互いの気配を大まかに察知できるため、病室の鏡を出発点として移動の
痕跡をたどり、咎人の気配を追っていけば制裁は簡単に達成できると水銀燈は思っていた。
しかし実際には罪人の足跡はおろかその気配さえもまるで掴めない。
水銀燈が無能だからではない。本当に痕跡も気配も全く無いのだ。ありえないことだった。
下手人は病室の鏡に突然湧いて出て、そして煙のように存在ごと消え去ったというのか?
それではまるで幽霊か何かではないか。物理的にも論理的にも考えられない、非現実的で
不可思議な事件だった。

「何だっていうの…? まったく…!」

犯人の行方は杳として知れず、解決のめどもまるで立たない。迷宮入りしてしまった事件を
前にして、水銀燈は悔しさと腹立たしさに歯噛みし、我知らずそんな言葉を漏らす。
このまま無限に続く平行世界を当てもなく探索していても埒が明かない。
一度病室に戻り、態勢を整えなおそうかと水銀燈は考え始める。
その時だった。

「……!?」

今いる場所からそう遠くないフィールドで、薔薇乙女の強い力の奔流を水銀燈は感じ取る。
昨日の今日で、フィールド内で大きな動きを見せている姉妹の誰か。
これは状況から見て水銀燈が捜し求める下手人以外にはありえない。
待ちに待った犯人のしっぽを遂に掴んだ水銀燈は、その端整なかんばせに獰猛な笑みを
浮かべて舌なめずりをする。

「そこを動くんじゃないわよ…今すぐジャンクにしてあげる!」

方向転換をした水銀燈は、めぐを誘惑し自分を愚弄した度し難い愚か者を誅戮するべく、
全速力で標的の居場所へと飛んでいった。


496雪華綺晶はここにいる 14/38:2008/07/02(水) 01:11:05 ID:Vu3UqG8N
nのフィールドへと犯人探しに乗り出した真紅、雛苺、翠星石の3人だったが、意気込みこそ
したものの成果らしい成果は何も上がっていない。
なぜならば犯人の足取りが全く掴めないからだ。
同じローゼンメイデンの誰かの仕業だと考えていた真紅だが、下手人と思しき姉妹の
気配はまるで感じられない。報われない探索に疲れ果てた3人は、テーブルやベッド、
衣装棚やソファーといったありとあらゆる家具が並べられたこのフィールドで休憩をとっている
最中だった。

「真紅…。水銀燈の奴は一体どこにいるのです…?」

「静かになさい。今考えているのだから」

疲労もあらわな翠星石の声などどこ吹く風とばかりに、真紅は澄ました顔のまま、椅子に
腰を落ち着けている。真紅の小さな口にはパイプの吸い先が銜えられ、まるで優雅に煙草の
味と香りを愉しんでいるかのようだ。ただしそのパイプには煙草の葉も入っていなければ
紫煙もくゆっていない。それもそのはずで、彼女が手にしているパイプは本物を模したただの
玩具なのだ。それは真紅が蒐集した探偵必携アイテムの一つで、こうしてパイプを銜えて
みることで真紅は偉大なくんくん探偵を追想し、彼の推理力を肖ろうとしているのだ。

「真紅ーっ。もうヒナ疲れたよー。もう手が動かないのよー」

真紅の隣では、雛苺が彼女に向かって懸命に扇子をあおいでいる。この扇子も、真紅が
集めた必携アイテムのうちの一つだった。人間用に設計された扇子は軽量であっても、
それを使うのが幼児のように小さな薔薇乙女とあっては、扇子の重量とあおぐための運動は
いささか過酷であったかもしれない。姉妹の中でも特に非力な雛苺が担い手とあっては
なおさらだ。

「弱音を吐いていてはこの真紅の探偵助手は務まらないわ。雛苺。
 しっかりと仕事を果たしなさい」

「うう〜〜…。ジョシュのしごとは大変なのよ…」

「ま〜ったく…。とんだ名探偵がいたもんですぅ…」

探偵助手という役職名に踊らされてまんまとこき使われる雛苺と、椅子に座ったまま
名探偵を気取る似非探偵の真紅を一瞥し、翠星石は深々と嘆息をする。
ぶつぶつと毒づく翠星石には耳を貸さず、真紅は思考の中に没入する。
薔薇乙女は互いにその位置と気配を大まかに知ることができても、限界というものはある。
お互いに離れすぎていると気配が分からなくなってしまうのだ。
真紅達が知る由もないが、今この瞬間にも水銀燈はnのフィールドの中を飛翔している。
しかし互いの空間的距離が隔たりすぎているために、真紅達も水銀燈も互いにその存在を
感知することは不可能だった。
真紅がくんくん変身セットを持ち出して身に纏うために多少はもたついたといっても、
のりが犯人を目撃してからほとんど間を置かずに犯人の探索と追跡を開始したのだ。
そのわずかな隙に下手人は位置を感じ取れないほど遠くへ逃げてしまったというのか?
そうだとしたら犯人は大した逃げ足の持ち主であると推測される。
もしくは探偵を謀り煙に巻いて翻弄する怪盗さながらに、気配を遮断し隠れ場所を
全く悟らせない未知の能力でももっているというのか? そんなことがありえるのだろうか?
そんな突拍子もない仮定が真紅の頭に閃きかけた時、彼女はある異変を察知した。
遥か彼方の領域に感じる、薔薇乙女の力の発露を。

「雛苺! 翠星石! 犯人の手がかりをついに見つけたわ!」

勢いよく椅子から立ち上がった真紅を見て、翠星石がげっそりとした表情を浮かべる。

「ま〜た真紅の妄想が始まったですぅ……」
497雪華綺晶はここにいる 15/38:2008/07/02(水) 01:13:35 ID:Vu3UqG8N
捜査を開始して真紅が見つけたと騒いだ「手がかり」は10個以上。そのうち、事件解決に
役立ったものは一つとしてない。全て真紅の思い違いと勘違いによるものだ。それに度々
付き合わされた翠星石としては当然の感想であった。

「捜査に必要なのはッ! どんな小さなことも見落とさないッ! 観! 察! 力!」

拳を力強く握り締め、心酔するくんくんの口癖を昂然と叫ぶ真紅。
その大声に、体力を消耗して手近なベッドにうつ伏せになったままの雛苺が
のっそりと顔を上げた。

「真紅。犯人たいほ…なの?」

「そうよ雛苺ッ! さあ貴女達! しっかり頭を働かせて姉妹の気配をさぐって
 御覧なさい! ここから離れたフィールドに薔薇乙女の力を感じるはずよ!」

尋常でない様子の真紅に圧倒されて、2人が彼女の言われたとおりにしてみると、確かに
かなり遠い位置の世界に薔薇乙女の力が存在している事を感じ取ることができた。

「本当なの! 真紅すごいのよ!」

決定的な手がかりを掴んだことで、滞っていた調査が一気に進展したことに喜ぶ雛苺は
たまっていた疲労も消し飛んだらしい。はしゃいで回る雛苺の様子に、真紅はより一層
気を良くする。そんな2人とは対照的に、翠星石は頭に沸々と湧く不審な点と違和感を
反芻した後、おずおずと口を開いた。

「少し待つです、真紅。翠星石もさっきからちょくちょくローゼンメイデンの気配を
 さぐっていましたが、全然見つからなかったのです。
 何で今いきなり気配が現れるです?何かおかしくねーですか…?」

翠星石の言い分はもっともだった。姉妹の存在を確認できる限界距離の内側に犯人が
潜んでいたのなら、今まで見つけられなかったはずがない。実際に気配は感じなかったの
だから、犯人は限界距離の外側まで逃げてしまったと考えるのが妥当だ。
しかし今になって、かなり離れた位置に姉妹の存在を翠星石達は感じている。
下手人のいる場所はここからかなり遠い。
この距離は、存在を感じ取れる限界距離を大幅にオーバーしているのではないか?
まるで目視できる距離を遥かに超えた先にある山が噴火し、大地を揺らす圧倒的な
威力の振動によってその噴火を感じ取るかのようだ。
その違和感を論理的に説明できるほど翠星石は賢くなかったし、たとえできたとしても
冷静さを欠いている今の真紅はまともに聞き入れはしなかっただろう。
雛苺はそもそも彼女に高度な論理的思考など期待する方が馬鹿げている。

「そんなことはどうでもいいの! 犯人が動き始めたからに決まっているでしょう!
 さあ! 犯人がまた雲隠れしてしまう前に、さっそく現場へ向かうのよ!
 私達薔薇乙女探偵団の初陣を、見事勝利で輝かせるために!」

「う…初陣って…こんなアホらしーことまた繰り返すつもりですか…?」

事件の解決と犯人確保という探偵冥利に尽きる至福の瞬間。それを目の前にして
常に真紅に漂う淑やかな雰囲気は微塵も残さず消し飛び、今や躁狂の程を呈して有り余る。
興奮もあらわな真紅の先導に、雛苺は満面の笑みを浮かべて続く。
翠星石はそんな興奮状態の真紅に呆れつつも、憎き水銀燈から蒼星石のローザミスティカを
取り返すべく、決意も新たにして真紅の隣を飛翔する。
翠星石は自分の感じた違和感の正体を熟考し、真紅は翠星石の発言内容を冷静に
吟味するべきであった。姉妹の存在を感じ取る限界距離の遥か外側から薔薇乙女の
力を感じ取るという矛盾。その真相はつまり、真紅達が目指す場所に構える者が
広大な空間距離をも越えて伝播させるほどの巨大な力をもっているということに他ならない。
真正面からぶつかるにはあまりに危険な敵の存在。それに思い至る者は3人の中に
一人もいなかった。
498雪華綺晶はここにいる 16/38:2008/07/02(水) 01:16:31 ID:Vu3UqG8N



下手人と推定される薔薇乙女が潜むフィールドは、緑の木々に覆われ、清澄な空気に
満たされた森の世界だった。
真紅達は長い飛翔移動の果てにたどり着いたフィールドの地を踏みしめて、ここのどこかに
いる姉妹の気配を追って森の中を歩いていく。
真紅達に先んじてこの世界へ到着していた水銀燈も、自身を愚弄した妹に制裁を下すべく
薔薇乙女の力の出所へ向かって進んでいた。
目指す場所が同じなだけに、真紅達と水銀燈が出遭うのは必然であった。
目の前に現れた3人の薔薇乙女の姿に水銀燈は瞠目し、一方で真紅は事件の
第一容疑者である水銀燈を発見し、真紅がジュンの心の領海で見た第二の容疑者である
謎の白いドールをどこにも見つけられないことから、水銀燈が事件を起こした張本人であると
確信した。

「そう…。そういうことだったの」

先に口を開いたのは水銀燈だった。その静かな声はかすれ、彼女の真紅の瞳には何の色も
浮かんでいない。怒りと失望が渾然となった激情はその顔に浮かばず、ただ握り締めた拳を
わななかせるだけだ。
めぐの見た白い少女の姿と眼前の3人のそれが一致しないのは、大方水銀燈をかく乱する
ために仮装か何かでもしていたのだろう。
随分手が込んでいる事だ。
挑発に挑発を重ね、怒りに駆られた水銀燈をこうしてnのフィールドまで誘い込み、まんまと
罠にかかった獲物を3人で袋叩きにする。そんな卑劣な策を練っていたのが、よりにもよって
真紅だったとは。
実力では薔薇乙女の中で自分と唯一対等の妹だと認めて警戒し、同時に一目置いていた
真紅が、こんな汚い罠にはめようと画策する卑怯で悪辣な存在だったとは。
彼女が事あるごとに掲げるアリスゲームの平和的終局が聞いて呆れるというものだ。
言葉巧みに翠星石と雛苺を抱きこんで協力し、水銀燈を倒して彼女のローザミスティカを
首尾よく奪った後は…幼稚で間抜けな雛苺でも闇討ちする腹だろうか。
真紅に対する幻滅と失望は、乾いた笑いとなって水銀燈の喉から搾り出される。
邪悪な手段でアリスに至ろうとする眼前の紅い佇まいの少女への哀れみと軽蔑の情に押され、
一度は胸の奥に沈んだ憤怒が、再び煮えたぎる溶岩のように吹き上がり、水銀燈の
総身を狂おしいまでの怒りで焼き尽くす。
確かに真紅の謀略にはめられて1対3という不利な状況へと追い込まれた。
戦いが厳しいのは明らかだ。しかしそれが何だというのか。
思考を沸騰させる獰猛な怒りは、そんな状況の不利でさえ瑣末であると切って捨てる。
澄ました顔をして姉妹を奸計に陥れる眼前の妹は、神聖なアリスゲームを真の意味で
穢す度し難い存在だ。もはや一秒たりとも生かしてはおけない。
今すぐに水銀燈自身の手で誅殺し、あの俗物をゲームの盤上から排除する必要がある。
水銀燈の怒りの程が臨界を迎え、今まさに戦闘態勢に入ろうとした時に、真紅は彼女を
右手で指差し、高らかに言い放った。

「水銀燈! 貴女が事件の犯人ね!」

「………………………え?」

全く考えもしなかった真紅の発言に水銀燈は呆然とし、自分の耳と相手の正気を同時に疑った。
真紅の顔は自信に満ち溢れ、自分の言葉に酔いしれているかのような雰囲気さえ窺わせる。

「水銀燈! この翠星石の根城にのこのこ現れるとはいい度胸してるですね!
 のりを脅かしたことを認めて謝罪するです!
 それと蒼星石のローザミスティカ返しやがれですぅ!」

「もうしょうこはあがっているのよ水銀燈! ねんぐのおさめどきなのよ!」
499雪華綺晶はここにいる 17/38:2008/07/02(水) 01:20:03 ID:Vu3UqG8N
真紅に続き、翠星石と雛苺にまで指を差されて好き勝手に言われる水銀燈。
彼女からすれば全く身に覚えのない、理解不能な仕打ちだった。

「……何を訳の分からないことを言っているの?
 貴女達が私を騙してここに誘い込んだんでしょう…!?
 この水銀燈の恐ろしさはまだ分からないバカな子は…」

「往生際が悪いわね。水銀燈。見苦しくてよ」

怒気みなぎる水銀燈の言葉を遮って、真紅は悠然とかぶりを振った。彼女の凛然とした
眼差しには、確信と同時に水銀燈に対しての哀れみの色が込められている。

「いくらとぼけてもこの真紅には通用しないわ。証拠は揃っているのよ。
 貴女がジュンの家の鏡から覗き見をしていたことは、この私の推理と
 のりの証言から明らかなの。無駄な抵抗はおやめなさい」

「ジュン…? 鏡…? 覗き見…? 何おかしなこといってるの?」

「まだ知らん振りするかですぅ! とっとと白状するです!」

「水銀燈があんなことするなんて、ヒナは思っていなかったのよ。
 まじめでやさしい人だったのに…ヒナ悲しいのよー」

口々にそんな事を言われて、水銀燈は混乱の極みにあった。水銀燈を謀ったのは
真紅達のはずなのに、なぜ彼女達から自分が犯人扱いされているのか、全く分からない。

「水銀燈…。探偵に犯罪の証拠を突きつけられた犯人は皆、自分の負けを
 認めて動機を告白するものだわ。素直に敗北を受け入れてごらんなさい。
 きっと気持ちがすっきりするはずよ。
 さあ。なぜあんなことをしたのか理由を話してみなさい。黙って聞いていてあげるから」

自分自身に陶酔するかのように大げさな身振り手振りで話を続ける真紅には、普段の
彼女らしい淑やかな雰囲気が皆無だ。余りにも痛々しい狂態を余すところなく晒している。
水銀燈からすれば支離滅裂なことをまくし立てる真紅達は、常軌を逸しているようにしか
思えない。
よく見てみれば、真紅は妙な帽子とケープを身に着けている。
薔薇乙女を生み出したローゼンは神にも等しい存在だ。ローゼンの創った身体と
ドレスの上に余計なものを身に付けるということは、彼の意匠と造形を否定するにも等しい
最大の侮辱と冒涜である。そんな涜神じみたことを平気で行い、真紅らしからぬ卑劣な
策略に打って出るという変わり果てた今の彼女を見て、水銀燈はようやく今の状況を把握し、
そして納得した。
今の不可解な状況を明快に説明する解答を、水銀燈はようやく得たのだ。

「真紅。貴女、可哀想ね」

水銀燈の身を焦がしていた激怒も今では消え去り、後に残ったのは憐憫の情だけだ。
彼女の紅い瞳に宿るのは怒りでも憎しみでもない。哀れみの色だった。

「前々から変な子だとは思っていたけれど…とうとう頭がおかしくなっちゃったのね。
 そんなヘンな格好をして、訳の分からないことを話し続けて、取り乱して」

見る影もないほど豹変してしまったかつてのライバルを見て、水銀燈の胸を空しさと
哀しみが吹き抜ける。自分を支えていた柱の一つが壊れて崩れてしまったかのような、
張り合いを失ったかのような喪失感を彼女は覚えていた。

「……ヘン…ですって…? 訳が分からない……ですって…?」
500名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 01:20:22 ID:dk7hfGDI
ほんと糞キムって役立たずで嫌われ者のクズだな
501雪華綺晶はここにいる 18/38:2008/07/02(水) 01:22:36 ID:Vu3UqG8N
真紅の声色が決定的に変化したことに気づき、彼女の後ろに控える雛苺と翠星石が
びくんと身体を震わせて、その顔を青ざめさせていく。
それは真紅がくんくんに入れ込む情熱の程を知る者だけに許された反応だった。
静かに怒りにわななく真紅の様子には気づかずに、水銀燈は視線を雛苺と翠星石に移す。
思慮に欠ける幼児に等しい雛苺は仕方ないにしても、翠星石まで真紅の狂気に
侵食されているというのは同じ薔薇乙女の姉妹として、水銀燈には嘆かわしく思われた。

「手荒な真似はしたくなかったのだけれど…犯行を認めないなら仕方ないわね。
 水銀燈。
 あらかじめ言っておくけれど、私は暴力でアリスゲームを制するつもりはないわ」

「よく言うわね。雛苺と翠星石を連れてきておいて。
 三人がかりで私を仕留めるつもりでしょう」

水銀燈の言葉にも、真紅はまるで聞こえていないかのように反応しない。
実際に怒りに駆られて聞こえていなかったのかもしれない。
真紅の青く澄んだ瞳は今や烈火の怒りに赤く染まっている。

「だからこれはアリスゲームには関係ない、薔薇乙女探偵団による犯人逮捕よ。
 聞き分けのない犯人は、力ずくで確保されても文句は言えないのよ」

意味不明な口上を並べて、結局は自分を袋叩きにするつもりの真紅を、水銀燈は
哀れむ以外にない。
今の真紅は痛々しくて見るに耐えなかった。ここまで錯乱して逸脱してしまった真紅など、
水銀燈は見たくなかった。いっそこの場で潰してやった方が情けというものだ。

「真紅…。本当に壊れちゃったのね。
 惨めだわ。
 もう貴女はこの水銀燈にここで倒されなさい。
 そのまま無様に堕落するよりも、その方が幸せというものよ」

「雛苺。翠星石。水銀燈を捕まえるわよ。探偵の領分を越えているけれど、
 事件解決のためには仕方ないわ。彼女をジュンの家まで連行して自白させるわ」

「うぃ!」

「わかったです! 覚悟するですよ水銀燈! オマエにカツ丼地獄を味わわせて
 やるですぅ!」

臨戦態勢に入った真紅達3人を冷然と見据えて水銀燈もまた翼を展開し、眼前の
卑劣な妹達を殲滅するべく行動を開始しようとする。
その時だった。

「この金糸雀をさしおいて、一体何を盛り上がっているのかしら?」

木々の間から4人の薔薇乙女の前に現れたのは、開いた日傘のはじきを肩に乗せた
金糸雀だった。全く予期しなかった薔薇乙女の出現に、他の4人は呆気に取られて
悠然と笑う彼女を見つめる。

「何よ。あのちびっこいのは」

冷えた眼差しを金糸雀に向けながら、水銀燈は誰に問うともなく呟く。
他の姉妹同様、水銀燈も金糸雀の顔を覚えていないらしい。

「金糸雀……? どうして貴女が今、ここにいるの?」

「翠星石たちに構ってもらいたくて追ってきた…です…?」
502名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 01:24:23 ID:dk7hfGDI
糞キム出てくんなクズが
死ね
503雪華綺晶はここにいる 19/38:2008/07/02(水) 01:25:44 ID:Vu3UqG8N
「金糸雀も真紅のジョシュになりたい…なの?」

各々の質問には答える事無く、金糸雀は沈黙を保ったままだった。その緑色の瞳には
暗い影が差していたが、そんな微妙な変化にはこの時点では誰も気づかない。

「誰なのか知らないけれど、この私に自分から姿を見せるなんて…マヌケな子ね。
 貴女もついでにジャンクにしてあげるわ」

不敵に笑う水銀燈へ目を遣った金糸雀は、展開していた日傘を閉じて胸の前で掲げ持つ。

「ピチカート!」

主の命に応じて現れた人工精霊は、日傘の周りを螺旋状に周回飛行し、瞬く間に日傘を
ヴァイオリンへと変化させた。
左肩にヴァイオリン本体を乗せて右手に弓を掲げた金糸雀は全く躊躇する様子を見せずに、
本体に設えられた弦に弓の毛を添えて演奏を開始する。

「!?」

あざやかな音色は強烈な突風と化し、油断していた水銀燈を空まで吹き飛ばす。
彼女の油断も無理からぬ。水銀燈が軽く挑発したとはいえ、何のためらいも通告も示さず
即攻撃に移るような姉妹の存在など、彼女は想像だにしなかったからだ。

「金糸雀…!? 貴女…一体何を…!?
 水銀燈を捕まえるにしても、やり方が乱暴すぎるわ!」

ありえない事態に狼狽の声を上げる真紅に顔を向けた金糸雀には、普段のドジで明朗な
彼女らしい雰囲気が微塵もない。刃のように鋭く冷たい視線は水銀燈のそれにも匹敵する。

「金糸雀…何かこわい感じなの…」

「なに先走ってやがるのですオバカナ!
 何にもしてねーくせに美味しいとこだけもっていこうとするなです!」

うろたえる真紅に怯える雛苺、怒る翠星石を冷たく見据える金糸雀は勝気な笑みを浮かべ、
満を持したように口を開く。

「カナは、貴女達を倒しに来たかしら。計画なんかに頼らなくても、
 実力で貴女達を倒せることを証明してあげるかしら」

ヴァイオリンから紡がれる旋律は烈風に変換され、真紅達をまとめて軽々と吹き飛ばす。
その威力は普段の彼女のそれと比較にならないほど強力だ。
初撃を食らって弾き飛ばされた水銀燈の傍に落下した真紅は、ダメージにうめきながら呟く。

「どういうことなの…? 何故金糸雀が私達を…。まさか真犯人は…金糸雀…!?」

「…………」

地に倒れ伏したままそう独り言つ真紅を見下ろして、水銀燈もまた考えを巡らせた。
真紅が水銀燈を指差し犯人だ何だのとわめいていたのは、頭がおかしくなってしまった
彼女の狂言か妄言だと水銀燈は思っていたのだが、突然現れた金糸雀によってその認識を
改める必要に迫られた。
水銀燈のみならず、真紅、雛苺および翠星石の4人をまとめて倒そうとしている金糸雀は、
水銀燈を誘い出した事件に大きく関わっていると考えるしかない。金糸雀が偶然この場に
現れたにしてはタイミングが良すぎるからだ。4人揃うのを狙っていたとしか考えられない。
金糸雀が真紅達も同時に攻撃していることから、互いが手を組んでいないことは明らかだ。
それどころか、真紅達は金糸雀の出現を予期すらしていなかったような発言をしている。
504雪華綺晶はここにいる 20/38:2008/07/02(水) 02:01:16 ID:Vu3UqG8N
ここから導き出されるある仮定――実は真紅達も水銀燈と同様に何者かを追ってここまで
誘導されたのではないか?
常軌を逸した発言や格好をしている真紅が実は正気であり、何らかの事件を解決する
ために犯人を追ってここまでやってきて、犯人を水銀燈と勘違いしていたと仮に考えるのなら、
全てつじつまが合うのではないか?
にわかに信憑性をおびてきた真紅の言葉と今の状況を検めた水銀燈は、低く抑えた声で
真紅に問う。

「昨日の夜に鏡の中に現れた妹を探して、私はここに来たの。
 真紅、もしかして貴女も――」

そんな水銀燈の発言に、真紅は驚いた顔を彼女に向けた。

「家来の家の鏡に現れた姉妹を追って、私達はここまで来たわ。
 水銀燈…貴女ではなかったの…?」

「ふざけないで。そっちに行ってなんかいないわよ。
 どうやら私も貴女も嵌められたようね。
 あの金糸雀とかいう妹に」

真紅の双眸に怒りを滾らせて金糸雀を睨む水銀燈。それに気づき、真紅が慌てて止めに入る。

「待ちなさい水銀燈! 金糸雀は元々アリスゲームに消極的な子よ。
 どこか様子がおかしいわ。鏡に現れたのが貴女じゃないのなら、
 白いドールが関わっているのかも…」

「煩い! こうして仕掛けてきてるのだから、あの子が犯人に決まっているでしょう!
 小賢しい罠でアリスゲームを穢す子は、この水銀燈が容赦しない!」

真紅の制止の声も聞かずに突貫する水銀燈を見取って、金糸雀は次の攻撃態勢に移った。



そんな戦いを高みから見下ろす金色の瞳が一つ。雪華綺晶だった。
気配を薔薇乙女に認識されない彼女は、大胆にも戦いの場からいくらも離れていない木の枝に
ゆったりと腰を落ち着けて彼女らの動向を見守っている。
能面のようなその顔は、本当に熾烈な戦いの光景が目に映っているのかどうかも疑わしい。
金糸雀を利用して、雪華綺晶以外の薔薇乙女を全滅させること。
これが雪華綺晶が実行した計画の全容だった。
雪華綺晶は他の姉妹と違い、アリスに至るために7つのローザミスティカを1つに束ねるという
手段を採らない。彼女は薔薇乙女の媒介の心を奪うことでアリスになろうとしているドールだ。
そのため、狙うのは薔薇乙女の体内に封入されたローザミスティカではなく、媒介の方だ。
しかし媒介を狙う上で、薔薇乙女の存在がどうしても邪魔になる。
なぜなら薔薇乙女の媒介は彼女達が活動し戦うためのエネルギー源であり、死守するべき
存在だからである。雪華綺晶が媒介を狙おうとするなら、そうはさせまいと自身の媒介を守るために
必ず薔薇乙女達は反撃にでるだろう。
ならばどうすればいいのか? 答えは至極簡単で、先んじて邪魔な薔薇乙女達を排除すれば
いいのである。無論、薔薇乙女達の行動を監視し、彼女らの隙を狙って媒介を手中に収めるという
手段も隠密を特技とする雪華綺晶としてはやってやれないことはないが、手間と時間が掛かりすぎる
煩雑な方法の上に、どこかで失敗した場合薔薇乙女との直接対決を強いられることになる。
他の姉妹と比較して際立った戦闘手段をもたない雪華綺晶としては、なるべく避けたい事態だ。
そんな面倒でリスキーな手を採らなくても、雪華綺晶の行動を妨害する薔薇乙女達を先にまとめて
消しておけば、媒介は自分の身を守る手段を失うことになる。そうなれば後は無防備の媒介を
悠々といただくだけだ。赤子の手をひねるよりも簡単である。
金糸雀は今、雪華綺晶に魅入られて敵愾心を全開の状態にされている。
金糸雀の心に潜む、他の姉妹に認めてもらいたいという承認の欲求を増幅させられたのだ。
相手の心理の弱点につけ込むことが得意な、雪華綺晶ならではの方法だった。
505雪華綺晶はここにいる 21/38:2008/07/02(水) 02:03:37 ID:Vu3UqG8N
その上、雪華綺晶の傀儡である金糸雀の力を底上げするために、彼女はある細工を
金糸雀に施していた。
薔薇乙女がnのフィールド内に入ると、彼女らと媒介を繋ぐ力の供給ラインは一時的に
途切れてしまうのだが、金糸雀を通して現実世界に居る彼女の媒介まで力を逆流させた
雪華綺晶は、指輪の契約による供給ラインの接続を強引に強化した。
今や金糸雀はnのフィールド内にいながら十全に媒介から力を吸い上げられるのである。
それどころか、雪華綺晶の指示一つで、媒介が死ぬ限界ギリギリまで力を無理やり
吸い上げられるようになっている。
そうすれば金糸雀の戦闘能力は、一時的にせよ薔薇乙女の中で最強になるはずだ。
さらにこの計画を磐石にするのは、真紅、雛苺および翠星石の3人がnのフィールド内での
戦闘を強いられるという今の状況にある。彼女達は今、媒介からの力を得られない。
必然的に彼女らの戦闘力は半減し、金糸雀が勝つ見込みはさらに大きくなる。
金糸雀を使って真紅ら3人を文字通り粉々に粉砕し、水銀燈のみを再起不能のまま
生かした状態に追い込むことができれば、もう金糸雀は用済みだ。雪華綺晶の支配下に
ある彼女を操って、自害させるだけで事足りる。
もしも金糸雀が負けても、それはそれで構わない。雪華綺晶にとって邪魔な薔薇乙女が
一人消えるだけだ。前者に較べて利益は少ないが、それでも得るものはある。
つまり金糸雀が勝とうが負けようが、結局雪華綺晶は得をするのだ。
金糸雀と水銀燈が本格的な交戦に入ったのを見届けた雪華綺晶は、全く躊躇する事無く
禁断の指示を下す。媒介から吸い上げられるだけ力を奪え、という指示を。
姉妹を姉妹とも思わずに、チェスゲームのごとく盤上の手駒を動かして局面を進めていく
雪華綺晶。悪魔のようなこの計画を平然と実行する彼女は、相変わらず眉一つ動かさずに
眼下の光景をぼんやりと見つめていた。



雪華綺晶の指示により媒介から力を過剰に吸収し続ける金糸雀は、それを余すところなく
たけり狂う暴力に変換する。

「最終楽章、破壊のシンフォニー!」

宙に浮いた金糸雀の周囲を取り巻く竜巻は、彼女の近くの木々を手当たり次第に吸い上げ
嵐の中で瞬く間に粉微塵にする。最強の技をいきなり繰り出した金糸雀には、遊ぶつもりも
出し惜しみするつもりもまるでない。一気に勝負をつける気だ。
水銀燈は翼を展開して増大させ青く燃えたぎる羽を無数に射出した。水銀燈とアリスゲームを
愚弄した度し難い妹を矢ぶすまに仕留めてのけることで、怒れる彼女の誅戮を示してみせる。
そのつもりだった。
しかし圧倒的速力の竜巻を前にして、彼女の攻撃はまさに風前の灯だった。
風の壁に羽が触れた瞬間に青い炎は消し飛び、同時に羽も残らず微塵切りにされる。
更なる怒りに昂ぶる水銀燈は、眼前で大量の羽を凝縮し始めた。
通常の数倍の密度の羽から構成されるそれは、彼女の身の丈を数倍する黒槍だった。
その硬度は本物の鉄槍にも匹敵し、全力で飛ばしたときの威力は岩の壁をも穿つ。

「ジャンクになりなさい!!」

怒号と共に風の渦の中心にいる金糸雀めがけて射ち出された槍は、容赦なく標的の胸を
串刺しにする。そう信じていただけに、立て続けに起こった事態に水銀燈は唖然とする。
必殺の勢いで飛ぶ槍は竜巻の中ほどで動きを止め、風の膨大な運動エネルギーに屈して
渦の流れに巻き込まれた。金糸雀の周囲を螺旋状に回る槍は、程なくして中心に近い
位置から2つに折れ、4つに折れ、跡形も残さず切り刻まれる。
風の刃が複雑に絡み合う竜巻の渦中は、もはや超強力なミキサーも同義だ。
捉えた物体のことごとくを八つ裂きにする鏖殺の攻勢防壁。
そんな絶大な風の要塞を前にしても、次々と溢れ出る怒りに血色の瞳をなお赤く染めて、
水銀燈の闘志は微塵も揺らがない。
506雪華綺晶はここにいる 22/38:2008/07/02(水) 02:06:22 ID:Vu3UqG8N
「レンピカッ!!」

みなぎる怒気もあらわに、水銀燈は蒼星石から継いだ人工精霊の名を叫ぶ。
彼女の右手の近くを素早く飛翔する青い瞬きは、一瞬後には水銀燈に庭師の鋏を
握らせていた。
鋏を振りかぶり渾身の斬撃を竜巻に向かって見舞うと、刹那ではあるが中心の金糸雀へと
続く通り道が斬り開かれる。
それぞれに個性的な攻撃手段をもつ薔薇乙女達の中でも、蒼星石の武器である庭師の鋏は
切断にのみ特化している分、その斬撃の威力は凄まじい。
苛烈な破壊力の竜巻も、この鋏の前にはわずかではあるが遅れをとった。
この機を逃すまいと、水銀燈は風の壁に空いた道を全力で飛翔する。その右手には鋏が
携えられたままだ。度重なる屈辱に水銀燈の思考は烈火ので憤怒沸騰している。
手ずから金糸雀を真っ二つにしてやらなければ、もはや彼女の怒りは鎮まらない。

「いけない!」

眼前で繰り広げられる怒濤の攻防劇に、水銀燈の後ろでそれを見ていた真紅はしばし
呆気にとられていたが、水銀燈が金糸雀に斬りかかろうとしているのを見取った彼女は
ハッと我に返った。
金糸雀を庭師の鋏から護るべく、前にかざした右手のひらから薔薇の花びらを大量に放出する。
紅い花弁の奔流は水銀燈の後を追い竜巻にできた通り道に滑り込んだ。
竜巻の渦中に突入した水銀燈は、みるみる塞がっていく風の斬り傷へ続けざまに斬りつける。
彼女とて無謀ではない。鉄の硬さに迫る黒槍が砕け散った時点で、渦の中に捕らわれたら
最後であることは承知している。
金糸雀の周囲の空間は、彼女が滞りなく動作をするために無風である。風の壁を突破した
水銀燈は、ヴァイオリンを演奏し続ける金糸雀に向けて誅殺の鋏を振るった。

「ピチカート!」

「なっ…!?」

こうなることを見越していた金糸雀は、自身の人工精霊へと合図をした。彼女の背後から
敏速に飛び出したピチカートは、的確に水銀燈の右手に衝突して彼女の手から庭師の鋏を
弾き飛ばす。至らない主を補う分、優秀な性能をそなえたピチカートならではの秀逸な動作だ。
金糸雀は周囲を取り巻く竜巻を解除した。鋏を失った水銀燈を確実に仕留めるために、
指向性の衝撃波を至近距離から彼女に叩き込むつもりだ。
水銀燈だけは人間と指輪の契約を交わしていないため、完全に壊してしまうと雪華綺晶は
媒介を手にすることができなくなってしまう。よって彼女だけは殺さぬよう手加減するように、
金糸雀には雪華綺晶よる制限が予め掛けられていた。

「追撃の」

頼みの鋏を失い、反撃も回避も防御もかなわない一瞬に、水銀燈はやけに眼前の光景が
緩慢に見えていることに気がついた。ヴァイオリンの弦に弓の毛を奔らせる金糸雀の動作も、
彼女のまばたきさえもゆっくりと明確に見て取れるが、それにも関わらず水銀燈自身はまるで
機敏に動けない。
暴走状態にある金糸雀の攻撃を至近距離から無防備で直撃。当然ただでは済まないだろう。
スローモーションに見える世界で、そんなことを漫然と考える水銀燈の視界を覆ったのは――
紅い花びらの壁だった。

「カノン!」

凄烈な風の砲撃の前に広がったのは、真紅が放った薔薇の花弁より成る障壁だ。
元は金糸雀を斬撃から護るために放ったそれだが、水銀燈が危険と見るや、真紅はそれを
急遽水銀燈の前に配置したのだ。
507雪華綺晶はここにいる 23/38:2008/07/02(水) 02:11:48 ID:Vu3UqG8N
紅く仄光る花の壁は、金糸雀が放った衝撃波を受けてあっけなく砕け散る。
なにぶん今の金糸雀の攻撃はその威力が熾烈に過ぎている。
加えて今の真紅は媒介のジュンから力の恩恵を受けられないという不利な状況にある。
必然障壁の強度は普段のそれよりも弱くなり、鉄壁の防御など望むべくもない。
真紅の機転により水銀燈は必滅の窮地を逃れたものの、壁を貫いた威力の残滓が水銀燈の
総身を打ちのめして彼方へと弾き飛ばす。
その上、彼女の右の翼をボロボロに損壊させていた。
防壁の展開が間に合わず、加護を受け損なった右の翼が衝撃波に直接晒されたのだ。
もしもあの技が直撃していたら、水銀燈を一撃で再起不能に追い込んでいたであろうことは、
彼女の壊れた翼が雄弁に物語っている。
後方の森の中へと弾き飛ばされた水銀燈には、再び金糸雀に立ち向かう様子も見られない。
全身に受けたダメージを前に動くことができず、今の一撃でダウンしてしまったのかもしれない。
水銀燈が飛ばされた方向へこれ見よがしに不敵に笑う金糸雀は、真紅に向き直って
好戦的な笑みを浮かべた。

「さあ真紅。それに雛苺、翠星石。今度は貴女達の番かしら」

敵意に満ちた眼差しを向けられて、真紅は苦々しい面持ちで歯噛みする。

「戦うしか…ないようね」



その頃。
草笛みつは勤務する会社の机に向かい、ファッションデザイナーが起こしたデザイン画を
元にして、机の上に広げられた紙に型紙を引いていた。
いつか独立し自分の洋服店をもちたいみつが夢の先駆けとして選んだパタンナーと
呼ばれる仕事だ。
続けざまの仕事で疲労と集中力の途切れを感じたみつは、背筋を伸ばして腕と首をほぐす。
疲れた心を癒そうと、みつはポケットから携帯電話を取り出して待ち受け画面を表示した。
そこにはみつが自作したドール服を身にまとう金糸雀が映し出されている。
みつが指示した凝ったポーズをとっている金糸雀は、彼女にとって天使のように愛おしい。
しばし待ち受けを見つめてトリップし乾いた心を潤おすと、さきほどまで身体を包んでいた
疲労感が見事にやわらいでいる。仕事を終えて家に帰ったら、今日はどんなことをして
金糸雀と遊ぼうか。そんな幸せな空想に頬を緩め、しばしの休息を終えたみつは、
意気込みも新たに製作中の型紙に向き直る。
すると突然、白色の紙の上に赤い点がいくつも浮かんだことにみつは驚いた。
とっさの異変に目をむくみつをよそに、赤い点はポタポタと音を立てて次々と増えていく。

「う…あ…あれ…?」

事ここに至り、ようやくその異変の正体に彼女は気づいた。彼女の鼻から血が滴り落ちている。
みつは慌てて自分の顔に左手を添える。やおらその手の薬指に嵌められた契約の指輪が
まばゆく輝き始め、ついで燃えるように熱くなった。

「ふぐっ……!?」

みつはうめき声を上げて、たまらず左胸を手で掴む。心臓が狂ったように早鐘を打ち、
そのせいで胸が激しく痛むのだ。
全身に冷や汗が浮かび、視界は焦点を結ばずぼんやりとかすんでいる。
先の鼻血は、異常な動悸によって急上昇した血圧が、鼻の微細な血管を破裂させたことが
原因だった。相変わらず心臓は高鳴り続け、全身は遠泳でも行った後のように疲れてだるい。
たまらず机の上に突っ伏したみつは、ぐらぐらと揺らぐ視界の中に左手の指輪を据えた。
それを見て、みつはぼんやりと金糸雀の言葉を思い出していた。

『みっちゃん。カナが他のローゼンメイデンと戦う時は、みっちゃんの力を
 貸して欲しいのかしら。カナとみっちゃんでアリスゲームを制するのかしら』
508雪華綺晶はここにいる 24/38:2008/07/02(水) 02:15:42 ID:Vu3UqG8N
金糸雀が言うアリスゲームというのも、何かのお遊びだとばかりにみつは思っていたのだが、
熱をもって光る指輪と、全身から力を吸い取られていくような虚脱感に、みつは金糸雀が
本当に姉妹のローゼンメイデンシリーズと戦っているのではないかと疑わざるを得ない。
愛する人形に命をとして力を貢げるのだとしたら――――― 一端のドールフリークとして、
何という幸せで理想的な最後だろうか。

「嗚呼…私のカナ…はぁ、はぁ…カナ…私のカナ…ハァ…ハァ」

金糸雀とみつを繋ぐ契約の指輪をいとおしげに撫でさする彼女は、恍惚とした表情で
愛しい金糸雀の名を囁き続ける。動悸で呼吸は乱れ、鼻血を流し続けながら、
みつはうっとりとした顔で金糸雀の名をうわ言のように口にし続けて、最後にはぶくぶくと
泡を吹いて気絶した。
みつの尋常でない様子に気づいた同僚が彼女を病院に担ぎ込んだのは、
みつが気絶してから少し経った後の話である。



戦いの動向は、真紅達3人の誰から見ても絶望的なものだった。
金糸雀が展開している「破壊のシンフォニー」は攻防が一体化した難攻不落の絶技である。
竜巻の中心にいる金糸雀を捕らえようと雛苺が苺わだちを、翠星石が世界樹の茎を
竜巻に向かって伸ばしても、それらは風の壁に触れた瞬間に微塵に切り裂かれてしまうのだ。
高速回転する竜巻の中はもはや削岩機も同然で、圏内に捉えたものを無差別に切り刻む。
術の発動に必要なヴァイオリンを破壊しようと、真紅が薔薇の花を意図的に竜巻の中へ
巻き込ませても、それらの花びらは無数の風の刃の前に原型を保つことができない。
花びらは風の中に入った数瞬後に、残らずすり潰されてしまう。
金糸雀の方もただ防御に徹しているばかりでなく、真紅達を竜巻に巻き込み粉砕しようと
たびたび3人へ突撃する。風の中に捕らわれたら最後の彼女らは、逃げるのでやっとだ。
一髪千鈞を引く回避の連続は、いつ次に失敗し粉々のジャンクにされるか分からない。
疲弊と焦燥で3人は限界に達しつつある。

「真紅……どうしたらいいのです…? このままだとマズいです…!」

「まずいのよ真紅!」

「……………!」

確かに2人の言うとおりだ。真紅達の攻撃は意味を成さず、金糸雀の攻撃は確実に3人の
体力と気力を削ぎ続けている。
このまま戦闘を続けていれば、いずれ竜巻に粉砕されることは明らかだ。
あの技を攻略する方法を考えなくては生還はない。
唯一水銀燈が竜巻の防壁を抜けて中心の金糸雀へと迫ったが、真紅達には壁を斬り裂く
ことが可能な攻撃手段などありはしない。仮に壁を突破できたとしても、傍にはべらせた
人工精霊で侵入者の動きを邪魔し、その隙に至近距離から高威力の攻撃を叩き込まれる。
一見すると攻守共に完璧であるかのように映るが、金糸雀が竜巻の解除から追撃に移るまで
に一瞬のタイムラグがあることを、水銀燈と金糸雀の攻防を後ろで見ていた真紅は知っている。
ならばその隙を衝くことで勝機が見えるはずだ。
そのためには当然、あの破滅的な威力の暴風障壁を突破しなくてはならない。
何とか壁を抜けて金糸雀の前に到達しなくては…。そのためには…。
思案を巡らせる真紅に、ある奇策が舞い降りる。成功するのか失敗するのかどうかも分からない
危険な賭けだが、もうこの手を使う以外にこの窮地を脱する方法はないと真紅は考えた。

「雛苺! 翠星石!」

真紅の凛とした掛け声に、2人が振り返って彼女を見る。

「私達3人の力を一つにすれば…金糸雀を止められるはずよ!」

真紅は2人を呼び寄せ、手短に作戦内容を説明した。
509雪華綺晶はここにいる 25/38:2008/07/02(水) 02:19:24 ID:Vu3UqG8N



竜巻の中心部でヴァイオリンを奏で続ける金糸雀は、不可解なものを渦の中に見咎めた。
紅い色をした円形の物体である。それは風の流れに屈する様子も見せず、一定の位置を
保ったまま自分の居る方向へ近づいてきている。
不審に思った彼女は、謎の異物を粉砕せんと今まで以上の出力で竜巻の回転速度を
上げるが、紅い円は多少揺らぎこそしたものの、相変わらず金糸雀の元へと進んでいる。

「……!?」

戦いが始まってからずっと浮かんでいた余裕の笑みが、この時初めて金糸雀の顔から消えた。



それは死と隣り合わせの危険極まりない作戦だった。
真紅は今、自身の周囲に薔薇の花弁を展開して竜巻の中を進んでいる。媒介から力を
供給されない今の彼女は、半減した力の全てを防御のみに集中させていた。
薔薇の壁は無数の風の刃に晒され、次々と切り刻まれ、崩れ、はぎ取られていく。
真紅は絶え間なく壁に花びらを供給し続け、破壊され続ける障壁を修復し再生させ続ける。
真紅の全精力を賭した連続再生は、破壊のペースに辛うじて追いつき、再生と破壊は
危うい均衡を保っていた。
真紅は防衛に徹しているので、狂風の中を金糸雀に向かって進む余力などあるはずもない。
なのになぜ真紅が金糸雀との距離を詰め続けられるのかといえば、真紅は今、翠星石が
猛スピードで前進させる世界樹の茎の上に乗っているからだ。
真紅は金糸雀まで至るための移動手段として、翠星石の力を借りた。
翠星石も真紅と同様に、高速で茎を前に進めることだけに全力を割いている。
1秒でも真紅の負担を軽減するためだ。
茎のどこが切断されても、真紅は竜巻に巻き込まれてしまう。
よって真紅は茎の根元から先端までを、鞘のように花びらの壁で覆っていた。
残る問題は作戦の要となる真紅が立つ足場の悪さだ。
真紅の周りは暴風に包まれ、その上高速移動する世界樹の茎に乗っていたとあっては、
いつ振り落とされるか分からない。彼女は今、究極的に不安定な場所にいるのだ。
その問題を解消するためには、雛苺の力が必要だった。
今真紅の足首、膝、腰および胸には雛苺の苺わだちが絡みつき、わだちの先を茎と縛って
結ぶことで、真紅の姿勢と位置を固定させていた。
この方法により真紅は安定した体勢と足場を確保することができ、防壁の維持と再生に
専念することができた。
真紅の防御力と翠星石の突進力と雛苺の固定力。
その三つを一つに合わせたこの作戦は、ついに竜巻の壁を突破するに至る。

「雛苺!」

「うぃ!」

真紅の合図に雛苺は彼女を縛る苺わだちをほどいた。竜巻の中心は無風であり、
そこに飛び込んだ真紅は花びらの壁を解除する。その途端、彼女を運んでいた茎は
絡み合う風の刃に巻き込まれ粉々にされる。

「ピチカート!」

「ホーリエ!」

真紅と金糸雀の声はほぼ同時だった。真紅にピチカートが飛び掛り、それを防ごうと
真紅の背後から紅い瞬きが素早く飛翔し、2つの人工精霊はぶつかり合って動きを止める。
510雪華綺晶はここにいる 26/38:2008/07/02(水) 02:22:35 ID:Vu3UqG8N
「くっ…!」

竜巻を解除した金糸雀は目前の真紅に必殺の一撃を見舞おうとするが、その動作の
切り替えには一瞬の隙がある。間髪入れずに金糸雀との間合いを詰めた真紅は、
ヴァイオリンの弦に弓の毛を添えようとする彼女の右手を先んじて掴み上げた。
これでもうヴァイオリンを弾くことはできない。勝利を確信した真紅は残る右手で決着を
つけようとするが、その刹那、焦りの色もあらわだった金糸雀の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
左手のみでヴァイオリン本体を数回転させた彼女は、素早く人差し指で弦をはじく。

「反撃のパルティータ!」

「!?」

ヴァイオリン本体から放たれた衝撃波は真紅を弾き飛ばし、彼女の勝機を奪い去った。
その場しのぎの非力なカウンター技であっても、媒介から力を限界まで吸い上げている
今の金糸雀のそれは、真紅に強烈なダメージを与えて余りある。
金糸雀は余裕の笑みを浮かべ直し、弦に弓の毛を添えて攻撃体勢を整えた。

「追撃の」

水銀燈に放ったときの、優に2倍以上のパワーがヴァイオリンに充溢していく。
水銀燈とは違い、媒介がいる真紅には手加減が無用だ。粉々にしてしまって構わない。
思いがけない反撃とその威力に、真紅はとっさの防御壁を展開することができなかった。
金糸雀の必滅の一撃は、至近距離から直撃必至だ。

「カノ……!?」

あと一歩というところで金糸雀の両腕を硬直させるのは、両腕を締め上げる黒い羽。
金糸雀は弦の弓の毛を奔らせることができず、追撃を繰り出すことができない。
この機を逃すまいとダメージに軋む身体も顧みずに彼女の背後に回り込んだ真紅は、
両手を握り合わせて振りかぶる。

「目を覚ましなさい!」

真紅の渾身の打擲は金糸雀のうなじにクリーンヒットし、彼女を地面まで弾き飛ばした。
地面に倒れた金糸雀には、起きて真紅達に反撃する様子も見られない。
真紅の一撃で気絶したらしい。
そうしてようやく一髪千鈞を引く戦いは終局を迎えた。

「目を覚ましなさいとか言いながら…眠らせてるですぅ」

宙に浮かんだまま金糸雀を見下ろす真紅と、うつ伏せになったまま動かない金糸雀を
見て、翠星石はそんな皮肉をため息交じりで呟きながら胸を撫で下ろした。
真紅も何とか金糸雀を止められた事に安堵の息を漏らしていたが、そんな時に、倒れ付す
金糸雀に向かって止めを刺そうとする黒い影を見咎めた。水銀燈である。

「雛…」

真紅の声に先んじて、地面から伸びる幾多の苺わだちが水銀燈を迅速に締め上げる。
苛立ちもあらわな水銀燈の形相を向けられても、雛苺は両手を開いて前にかざしたまま
引こうとしない。弱虫な雛苺にはらしくない、勇気と決意に満ちた行動だった。

「水銀燈…! 金糸雀はもういじめちゃめーっ、なのよ…!」

戯言を言うなとばかりに嘲笑を浮かべた水銀燈は、レンピカを呼び寄せて庭師の鋏を
取り出すと、瞬時に苺わだちを切断して自由となる。
511雪華綺晶はここにいる 27/38:2008/07/02(水) 02:25:34 ID:Vu3UqG8N
そうして再び金糸雀に飛び掛ろうとする彼女の前には、真紅と翠星石が立ちはだかっていた。

「どうして私を止めるの!? これだけ馬鹿にされて貴女悔しくないの?
 穢れた罠でアリスゲームを貶めたその子には、当然の最後だわ!」

鋏の切っ先を鼻先に突きつけられても、真紅はまるで揺らがない。
翠星石も怯えた様子はあるが、ほぼ同様だ。

「す…水銀燈…! オマエがやる気なら、翠星石達が相手になるですよ!
 その鋏も、レンピカも蒼星石のローザミスティカも取り返してやるです!」

『我慢しなさい。翠星石』

懸命に声を張り上げる翠星石に、真紅が小声でそっと囁いた。

『私達はnのフィールド内で力を使いすぎた。その上あの子とまで戦ったら、
 力を使い果たして螺子が切れてしまうわ。そうなったら全滅よ。
 気持ちは分かるけど、ここは引くべきだわ』

「うう……。チクショウ…チクショウ…ですぅ…」

涙目で歯を食いしばる翠星石。交渉においては相手に弱みを見せてはいけないように、
真紅は凛然と水銀燈を真っ向から見据えた。

「金糸雀は、私達が連れ帰ってよく言い聞かせるわ。
 それに、この子の様子は普通じゃなかった。
 謎のドールが絡んでいる可能性もあるの」

「言い聞かせる…? 謎のドール…? また訳の分からないことを…。
 まともだとは思ったけど、やっぱり貴女イカレちゃったんじゃなぁい?
 まだそんなおかしな格好をしてるし」

挑発する水銀燈は、真紅がいまだ身に付ける帽子と探偵ケープをふたたびあざ笑う。
これには真紅も怒りが噴出しかかったが、今彼女と戦ったところで、先に真紅自身が
話した理由からデメリットの方がはるかに大きい。それを冷静にわきまえている彼女は、
内心でたぎる怒りをぐっとこらえた。

「………何とでも言いなさい…。それより貴女こそいいの?
 その壊れた右の翼…私達3人を前に、足かせにならなければいいのだけれど」

「………ッ」

これには水銀燈も閉口するしかなかった。翼から羽を射出して相手を矢ぶすまに仕留める、
という戦法を主として採る彼女からすれば、片翼になった今は戦力が半減したことに等しい。
1対3という状況だけでも厳しいのに、その上力が半分になった今となっては、水銀燈の
勝利はほとんど望めないことになる。

「……まぁいいわ。私も今日は疲れちゃったし、特別に見逃してあげる。
 その子が起きたら伝えて頂戴。またこんな下らない真似をしたら、
 今度こそ水銀燈がジャンクにしにいく、って」

いくら好戦的な水銀燈でも、勝ち目のない戦いに自分から臨むほど無謀ではない。
アリスゲームを制してアリスに至り、ローゼンに逢うという悲願をもつ彼女からすれば、
戦略にはできる限り磐石を期する必要がある。
状況から撤退が必要だと判断した水銀燈は理性で強引に溜飲を下げた。
肩をすくめながらそんな事を嘯いて、レンピカに庭師の鋏を消させた後、
真紅達に背中を向ける。
512雪華綺晶はここにいる 28/38:2008/07/02(水) 02:27:43 ID:Vu3UqG8N
そうして空に飛び立とうとした時に、真紅が彼女に声を掛けた。

「水銀燈。助けてくれてありがとう。
 あの時貴女が金糸雀を止めてくれなかったら、私はきっとやられていたわ」

「…………」

真紅はうっすらと笑みを浮かべて水銀燈にそう伝えた。
彼女は忘れもしない。金糸雀の致命的な追撃を受けざるをえないと思われた瞬間、
彼女の腕を締め上げた黒い羽を。そのおかけで真紅は今もこうして立っていられるのだ。

「……何勘違いしてるの? 貴女に借りをつくるなんて冗談じゃないの。
 借りを返しただけよ。助けたなんて思わないで」

水銀燈は真紅に振り返りもせず、抑えた声でそう切り返した。
真紅も彼女と同様に、金糸雀の一撃から水銀燈の窮地を救っている。自身を愚弄した
金糸雀の狼藉を阻止し、同時に真紅を絶体絶命の危機から救い出すことが、彼女に
とって受けた屈辱をすすぐ上で最も効率が良いと判断したのだろう。その算段の裏に
どんな思惑が潜んでいるのかは分からないが…。
素気無く空へと舞っていく水銀燈の後姿を見て、真紅はそっと微笑んだ。
そして地に倒れ伏したままの金糸雀へと向き直り、事後処理に取り掛かることにした。



倒れた金糸雀を囲む真紅、雛苺、翠星石の3人。それを人知れず樹上から俯瞰する
白い薔薇乙女が一人。戦いの動向を見守っていた雪華綺晶だ。
気絶している金糸雀は、物理的に動作を停止している。こうなると雪華綺晶が得意とする
心理操作を及ぼすこともできず、したがって金糸雀を自害させることも叶わない。
これから彼女は、真紅達に事件についての様々な尋問を受けることだろう。
自身の意図や能力が露呈する事を快く思わない彼女は、金糸雀の雪華綺晶に関する
記憶の全てを抹消し、逆探知を不可能にするために傀儡の操り糸を惜しみなく切り捨てた。
それっきり雪華綺晶は、無関心もあらわに金糸雀には一瞥もよこさない。
用済みの金糸雀などよりも、よほど注目すべき薔薇乙女がいるからだ。
彼女の仕掛けた巧妙な罠はあと一息というところで失敗した。終わってみれば、
アリスゲームから敗退した薔薇乙女は一人もいない始末だ。
敗因を挙げるとするならば、真紅の秀逸な機転、といったところだろうか。
伊達に薔薇乙女の大半を束ねているわけではないようだ。その実力は確かなものである。
雪華綺晶の金色の瞳は、他の薔薇乙女には目もくれず、真紅だけを凝視していた。
その目には愛情の色を湛えて余りある。その瞳の奥にどんな忌まわしい心情が
巣食っていようと、傍目には姉を慕う妹の優しい眼差しにしか見えないだろう。
今回の"実験"から、力をもって正面からぶつかる正攻法は得策でないということが判明した。
煩雑ではあるが、気配をさとられない雪華綺晶の特性を生かした暗躍に打って出て、
他の薔薇乙女達の隙を衝き彼女らの媒介を密やかに奪い取ることが必要だ。
そのためには、現実に影響を及ぼすための実体がどうしても要る。
彼女はnのフィールドでしか存在できない、虚ろで儚い亡霊のような存在でしかないからだ。
世界と薔薇乙女に対して確かな作用を与えることができる、実体の身体。
それを得るために、計画の一つとして姉妹の誰かを"喰う"ことにしよう。
雪華綺晶が見下ろす4人の薔薇乙女のうち、一際弱小で思慮に欠けるうってつけのカモ。
真紅の隣で疲労のあまりへたり込む雛苺は、雪華綺晶の向けるおぞましい視線に
気づけるはずもなかった。
そして真紅。雪華綺晶がアリスに至る上での最大の難関が彼女であり、同時にアリスゲーム
攻略の要となる存在だ。

「真紅。私の大事な紅薔薇のお姉さま」
513雪華綺晶はここにいる 29/38:2008/07/02(水) 02:29:16 ID:Vu3UqG8N
やわらかな微笑を浮かべ、陶然とその名を呼んだ雪華綺晶は音もなくその場から消失した。



「金糸雀…。金糸雀…。起きなさい。金糸雀」

闇の中から、誰かが名前を呼んでいた。過酷な運動に身体は軋みを上げ、まだまだ彼女は
休息を必要としていたが、無遠慮な呼び声に意識は覚醒を迫られる。
金糸雀がすっと目を開けると、そこに見えたものは自分の前に並ぶ真紅と雛苺と翠星石と…
自分を無表情に見つめる金色の瞳が一つ。その目の隣に咲く薔薇の花と、白い長髪。
刹那、金糸雀の脳裏に去来する雪華綺晶との遭遇の記憶。
鏡の中に引きずり込まれ、玩弄され、唇を奪われて覗き込んだ瞳の奥に垣間見えた
身の毛立つ歪んだ心。
おぞましい恐怖の体験が高速で回想され、金糸雀はたまらず悲鳴の声を上げた。
しかし恐慌も長くは続かない。その場にいた誰よりも金糸雀の悲鳴に驚いたのは、他ならぬ
彼女自身だからだ。一瞬後には雪華綺晶に関する記憶の輪郭は薄れ、煙のように形を
失い、跡形もなく霧散していた。
なぜ自分が悲鳴を上げたのか理由が分からずにきょとんとする金糸雀は、悲鳴を喚起したと
思われる人物の風貌をよく確認し、それが既知の知り合いであることに気がついた。

「う…あ…あれ…? バラバラ、かしら…?」

「何をそんなに驚いているの?
 薔薇水晶には貴女も何度か会っているでしょう?」

真紅の指摘にも、金糸雀はしばしの間反応することができない。それほどまでに彼女は
誰かに似ていた。それが誰で、自分とどういう関係なのかはまるで思い出せないが…。
金糸雀の斜め前で淑やかに座る人形は、その名を薔薇水晶という。
金色の瞳をもち、左目には紫色の薔薇をあしらった眼帯をつけている。純白の長髪に
紫水晶の髪飾りを添え、薔薇の花弁を想起させる意匠のドレスをまとう寡黙なドールだ。
彼女の創造者である人形師は、ローゼンの弟子を自称する槐という青年だ。
槐はジュンの住む街に工房を構え、ドールショップ「Enju Doll」を営業している。
ローゼンメイデンを凌駕する至高の少女人形を創ることを目的としているが、その活動は
人形創作のみで、アリスゲームに関与したりローザミスティカを奪ったりすることはない。
槐の紹介でジュンの家に住む薔薇乙女達と薔薇水晶は知り合った。
互いはその存在の種類や意義が似ているため仲が良いのだ。
薔薇乙女を超える人形を創るために、真紅達の外見や言動、雰囲気や魅力などを探る
ための調査を槐から仰せつかっているのか、薔薇水晶は時々ジュンの家に遊びに来ている。
nのフィールドから金糸雀を連れて帰還した真紅達は、金糸雀との戦闘で受けたダメージや
体力の消耗を媒介のジュンから力を受けることで回復させていた。
その最中に偶然、薔薇水晶がジュンの家を訪れたのだ。
薔薇水晶の姿を見て思うところがあった真紅は、自分達が回復し金糸雀に尋問を始めるまで
ジュンの家に留まるように頼み、それを彼女は事も無げに了承した。
時刻は19時を過ぎ、すっかり暗くなった頃にようやく真紅達は完全に回復した。
一息ついた彼女達は、未だ眠ったままの金糸雀を起こし、質問を始めることにしたのだ。

「え…? あれ…? カナ、どうして動けないのかしら?
 …し、縛られてるのかしら…!?」

「ごめんねぇ金糸雀ー。でもげんこうはんたいほ、なのよ」

金糸雀の手首と足首には、雛苺の苺わだちが絡み付いて縛り上げ、身動きを封じている。
朗らかに笑う雛苺は、幼児ならではの無邪気さと残酷さが同居しているようで
金糸雀にはその無垢な笑顔がどこか恐ろしい。
514雪華綺晶はここにいる 30/38:2008/07/02(水) 03:01:41 ID:Vu3UqG8N
「金糸雀…。オマエは今、籠の鳥ですぅ。
 生かすも殺すも翠星石達次第なのです。
 翠星石達に働いた狼藉の数々…よもや忘れたとは
 言わさん…ですよ…?」

翠星石の瞳には、意地悪な嗜虐の色など灯っていない。そこにあるのは、掛け値なしの
怒りの感情だけだ。暗く冷たい眼差しを向けられて、まるで身に覚えのない金糸雀は
どう対応していいのかすら分からない。
困惑もあらわな金糸雀を見て、さらに突っかかろうとする翠星石。
彼女を鶴の一声で黙らせた真紅は、無感情な声と表情で金糸雀に問う。

「金糸雀。はじめに聞くわ。アレは貴女が自分の意思で起こしたことなの?
 それとも誰かに指示されてやったことなの?」

「あ、アレ…? 一体何を言ってるのかしら、真紅?」

「とぼけるつもりかですぅ! このチビカナ! オマエのせいで翠星石達が
 どれだけ危ない目に…」

真紅は翠星石の眼前に腕をかざして無言で制すると、まるでこうなることを可能性の
一つとして想定していたかのように、淡々と金糸雀を捕らえた経緯を説明した。
鏡に現れた犯人を追ってnのフィールド内を探索していたら突如金糸雀が出現したこと。
金糸雀と戦闘を強いられたが危ないところで勝利し、気絶させた彼女をここまで運んだこと。
それを聞く金糸雀は驚きもあらわで、その表情や仕草はごく自然であるように真紅は思った。
記憶喪失を装って自分の起こした凶行を誤魔化しているようには思えない。
そもそも真紅達に友好的だった金糸雀が急に豹変し、姉妹達を葬ろうとすることの方が
不自然なのだ。
金糸雀が言うには、全く身に覚えがないらしい。
昼にジュンの部屋に遊びに来たが、それからの記憶が今まで綺麗に抜け落ちているという。
それを聞いた真紅は頷いて、次の質問に移った。

「金糸雀。薔薇水晶の姿に何か感じるものはある?
 今日、彼女と会ったり話したような感じはしない?」

金糸雀は斜め前に座る薔薇水晶を凝視するが、彼女を見つめ返す無感情な薔薇水晶の
顔からは何も思い出せない。ただかすかに不快感らしきものを覚えるだけだ。
かすかな記憶と感情の残滓は、それらをかき集めても明確な言葉で説明ができない。
無表情な薔薇水晶は何を考えているか分からず、どこか捉えどころがないように思えるが、
その金色の瞳には紛れも無い確固とした意思と理性が宿っている。
どこかで自分は、それと似たような目を見たことがあるのではないか?
澄んだ金の瞳に宿る、慈愛と憎悪。理性と狂気。秩序と混沌。歓喜と悲哀。
対立し相克する感情が同居する、矛盾に満ちた不可思議な眼差し。
薔薇水晶と似ているようでいて、決定的に一線を画す不気味な視線。
それをいつかどこかで向けられたような気がするが、単なる気のせいのような感じもして、
確かなことはまるで分からない。

「分からない…かしら…。でも、何だか不思議な感じはする、かしら」

「…………」

そんな答えに、真紅はあごに手を添えて黙考する。
くんくん変身セットこそもう身に着けていないが、今の彼女には少しだけだが探偵じみた
雰囲気が漂っていた。

「……私は前に、ジュンの心の領海で薔薇水晶によく似た白いドールに
 会ったことがあるの」
515雪華綺晶はここにいる 31/38:2008/07/02(水) 03:04:57 ID:Vu3UqG8N
「僕の心の中で……!?」

それまで少女人形達のやりとりを静観していたジュンも、これには驚きの声を上げた。
自分の心の中に正体不明の存在が徘徊していると聞かされて黙っていられるほど、
彼の神経は太くない。
静かに頷いた真紅は、白いドールと出遭ったいきさつを話し始める。

「ジュンの無意識の海に、その子は突然現れた。
 外見は薔薇水晶にそっくりで、全体的に白色が強いドールだったわ。
 あの時、ジュンの領海には他の多くの世界からの海流が流れ込んでいた。
 その海流に乗ってどこかから現れたのね、きっと…。
 その子は私に見つかると、その場からふっと消え去ったの。
 まるで幽霊か何かのように」

真紅は事実を事実のまま話しているだけなのだが、怪談じみたその内容は場の空気を
重くする。臆病な翠星石に至っては震えを隠せない様子だ。意外にもホラーに対して
強い耐性をもつ雛苺はきょとんとしていたが。

「じゃ、じゃあまさか…昼間、鏡の中に現れたというのも…」

「その白い子の可能性が高いわね。水銀燈ではなかったのだし。
 薔薇水晶。念のために聞くけれど、貴女じゃない…わね?」

「はい」

真紅の問いに、薔薇水晶は鷹揚に頷いた。

「わたしは昼間、お父様の工房に控えていたので」

真紅とて下手人が薔薇水晶などと本気で疑っているわけではない。白いドールと薔薇水晶は
驚くほど似ているが、細かなところで確かな差異がある。白いドールが右の眼窩から白薔薇を
生やし純白のドレスに桃色がかった白い長髪という姿なのに対し、薔薇水晶は左目に眼帯を
添えて紫色のドレスをまとう紫がかった白い長髪という格好だ。
真紅は白いドールの姿を一瞬しか目視することができなかったが、それでも彼女が薔薇水晶で
ないことはそれらの差異と雰囲気の違いから明らかだ。
考えられる可能性の一つを確実に潰すことで真相に至る道をより堅固にするために、真紅は
彼女に確認したのだ。

「薔薇水晶でもないのなら…その白いヤツは一体何なのです……?
 ま、まさか…のりが言っていたみたいに、ほ、本物の幽霊が……」

怯えた翠星石は、誰に問うともなく震えた声でそう訴える。今にも泣き出そうかという声だ。

「………ドッペルゲンガー…なのかもな。
 薔薇水晶の」

「ど…どっぺる……? 何ですそれ…?」

「生霊のことだよ。生きている人間の分身の幽霊で、外見がそっくりなんだ。
 自分のドッペルゲンガーを見た人間は、近いうちに死ぬって言われてる。
 ここにいる薔薇水晶の影みたいなものか」

「や、やめるですジュン! このバカチビ人間! 怖いこと言うなですぅ!」

机の椅子に座るジュンのすねを翠星石は思い切り蹴り上げ、ジュンは悲鳴を上げて悶絶する。
516雪華綺晶はここにいる 32/38:2008/07/02(水) 03:09:01 ID:Vu3UqG8N
怒りに目をむくジュンと、そんなことにはまるでかかわらずに頭を抱えて震える翠星石。
今までの状況と彼女なりの推理からある事実を確信した真紅は、逡巡の後、話そうとする。
真紅とて認めたくのない由々しい内容の推測だ。ならばいっそう姉妹には打ち明けたくない。
真紅がこれから口にする内容は、ただ彼女達の不安を煽る禍言でしかないのだから。

「その白いドールはきっと、貴女達ローゼンメイデンの姉妹の一人でしょう」

真紅に先んじて声を上げたのは、意外にも薔薇水晶だった。
真紅の躊躇を見取ったのか、それとも彼女自身思うところがあったのか、低く落ち着いた
薔薇水晶の声色は、いつにも増してなお重い。
寡黙な薔薇水晶には珍しい発言に、ジュンと翠星石の喧嘩によってやや浮ついていた
空気が再び緊張感を帯びる。

「お父様は、ローゼンメイデンの一人を模してわたしを創ったと仰っていました。
 その白いドールの姿がわたしに似ているのなら、それはわたしの原作となった
 ローゼンメイデンなのでしょう」

自らの出自の由縁を淡々と話した薔薇水晶は別段変わった様子も見られない。
その無感情だった瞳が、ただかすかに憂いの色に滲むだけだ。
その微少な変化に気づいたのは彼女の顔をじっと見つめていた真紅だけだった。
薔薇水晶の生まれた理由を今初めて知った真紅の胸に、痛ましい感情が広がっていく。
コピーはオリジナルを越えることはできない。いかにそれが出色の出来であったとしても、
模造は模造でしかない。原作を真似ている時点で、それは唯一性と独創性を欠いた
追従でしかないからだ。
ジュンが謎の白いドールを薔薇水晶のドッペルゲンガーうんぬんと言った事は、期せずして
薔薇水晶への痛烈な皮肉となってしまった。厳粛にその存在価値をオリジナルの下位に
位置づけられる彼女は、言わばオリジナルが日の光を浴びて輝いた結果、その足元に
形作られる地面を這う暗い影でしかない。
白いドールが薔薇水晶の影ではなくてその逆なのだ。
薔薇水晶のオリジナルが現れた以上、そのコピーである彼女の立場はどうなるのか。
真紅の胸を不憫の情で締め上げるのは、世界に2つとない薔薇乙女の第5ドールという
自負からくる優越感の裏返しなどではない。創造者によって一方的に運命と存在理由を
背負わされる人形の悲痛を、真紅だけでなく、薔薇水晶もまた彼女とは違う形で
胸に抱えていることを知ったからだ。

「真紅」

真紅の悲しげな顔を見て、薔薇水晶は無表情のまま声を掛けた。

「わたしは自分がローゼンメイデンの模造であっても構わない。
 ただお父様の望むがままに。
 それがわたしの願いであり、わたしが在る理由なのですから」

一文字だった唇の両端が、ほんのわずかに釣り上がる。それは本当に淡い、薔薇水晶の
微笑みだった。
愚直なまでに創造者に忠実であろうとする薔薇水晶は、たとえその出自に思うところは
あっても父親である槐を深く愛し、その身の器に誇りをもっている。
それに対して真紅は、アリスを生み出すためのアリスゲームをローゼンの意向に反する形で
終わらせようとしている。果たして自分は度し難い逆徒なのか。そんな皮肉に我知らず
苦笑した真紅は、厳粛な面持ちでそっと薔薇水晶に頭を下げた。

「御免なさい。失敬だったわね」

「いいえ」

気にせず話を進めて欲しい、という薔薇水晶の意を酌んだ真紅は、彼女の配慮に甘えて
自分の意見を述べることにした。
517雪華綺晶はここにいる 33/38:2008/07/02(水) 03:13:18 ID:Vu3UqG8N
「私も薔薇水晶と同じことを考えていたわ。
 昼間鏡の中に現れた白いドールは、薔薇乙女の第7ドールだと思うの」

「だ、第7……?」

「ヒナたちの妹…なの?」

「ほ、本当なのかしら…? 真紅…」

翠星石と雛苺と金糸雀が驚いて声を上げ、真紅を不安げな面持ちで見つめる。
真紅は今まで、この推測を彼女達に伝えなかった。事件の下手人を捕まえにいく時にも
言葉をにごし、容疑者は水銀燈もしくは"不審なドール"程度にしか説明しなかったのだ。
それは確信ももたず、いたずらに彼女達を怖がらせてはいけないという真紅の配慮だった。
第1ドールの水銀燈から第7ドールの全てが同時に目覚めているということは、アリスゲームが
本当に開始したということに他ならないからだ。姉妹と戦うことを厭う彼女達からすれば、
それは最も忌まわしい事態だろう。
困惑もあらわな翠星石と金糸雀、きょとんとしている雛苺の視線を受けて真紅は先を続ける。

「私ももしかしたらとは思っていたけれど、薔薇水晶の証言から
 確信したわ。今日起こった事件の首謀者は第7ドールよ」

「ど、どういうことです…!? 説明するです、真紅!」

「水銀燈も鏡に現れた姉妹の誰かを追ってnのフィールドへ来たと言っていた。
 私達と状況が同じだわ。
 私達は水銀燈と同じように、第7ドールにnのフィールドまで誘い込まれた」

「……つまり翠星石達も水銀燈も…踊らされたってことです…?」

「ふぇ…ダイナナはすごいのよー」

「そして私達3人と水銀燈が集まったところで金糸雀…貴女が現れた」

「うっ……そんなこと言われても、カナ、覚えてないのかしら…」

「ここからは私の推測よ。
 金糸雀。貴女は第7ドールに接触し、操られていた可能性が高い」

「カナが…!? 第7ドールに…!?」

「そうよ。私達4人を一箇所に集めていたのが第7ドールなら、
 その後の展開も第7ドールによる計画のうち、と考えるのが自然だわ。
 貴女は今日、ジュンの家を訪れた後に第7ドールに捕まって
 何かの方法で操り人形にされたのよ。
 そして私達と水銀燈を倒すための手駒にされた」

「そっ、そんなはずはないかしら! よりにもよって薔薇乙女一の
 策士のカナが敵の罠にはまるなんて…」

「金糸雀…。オマエ、少し黙れ。……ですぅ…」

「は、ハイ…かしら…」

名誉毀損とばかりに反論しわめき立てる金糸雀の頬を、翠星石が乱暴に掴む。
未だ縛られて身動きの取れない彼女は、怒りに暗く燃える翠星石の眼差しを至近距離から
突きつけられて気圧され、言われたとおりにするしかない。
真相がどうあれ金糸雀に痛めつけられたという事実に、翠星石はまだ怒っているのだ。
518雪華綺晶はここにいる 34/38:2008/07/02(水) 03:17:55 ID:Vu3UqG8N
「危ない戦いだったけれど、私達は何とか勝つことができた。
 もしも負けていたら、私達4人はもちろん用済みの金糸雀も
 第7ドールの手でローザミスティカを奪われていたはずよ。
 本当に危なかった。最悪の場合、今日中に薔薇乙女は
 第7ドール以外全滅していたはずだから」

そんな真紅の言葉に、翠星石と雛苺は背筋を凍らせる。
彼女達からすれば、ささいな事件を解決するために遊びで探偵ごっこを楽しんでいただけだが、
彼女達が関わった事件にはそんな破滅的で悪辣な罠が潜んでいたというのか。

「捕まえた金糸雀から第7ドールのことを探れないかと思ったけれど、
 金糸雀の記憶は消されている。
 第7ドールと薔薇水晶の姿は似ているから、彼女を見て何か思い出すかと
 期待したのだけれど…。
 でも金糸雀は薔薇水晶を見たときに、明らかに混乱していたわ。
 記憶の消去は完璧じゃない。金糸雀は確実に第7ドールに何かをされている」

「何か気味が悪いのかしら…。
 何かをされて、何も覚えていないなんてあんまりかしら…」

「なーにをのん気なことをほざいてるですオバカナ!
 オマエの頭の中に! 謎を解く鍵が入っているのです!
 さっさと思い出しやがれですぅ!」

「うぐぐっ…や、やめるのかしら翠星石…!
 し、真紅…! カナはもう暴れたりしないから
 自由にして欲しいのかしら…!」

「あら。そういえばそうだったわね。
 すっかり忘れていたわ」

真紅は雛苺に指示し、金糸雀を縛っていた苺わだちを解かせた。
真紅が金糸雀の身体を拘束させていたのは、まだ金糸雀が操られている可能性が
あったからだ。これまでの会話と金糸雀の様子から彼女が正常であることを確認した真紅は
金糸雀を解放することにした。
しかし場合によってはまだ第7ドールの支配下にあった方が良かったかも知れない。
金糸雀が気絶している間に、何かされた形跡はないか、何かの力の影響下にないかと
真紅は彼女を入念に調べた。
あわよくば金糸雀を操る糸をたどり、下手人まで至ることはできないかと期待したのだが、
結局金糸雀を操った犯人の手がかりは何も得られなかった。

「その第7ドール…自分からは姿を現さず、自分の正体に繋がる
 手がかりも残さず消していく。
 かなり周到で用心深いドールですね」

ゆるんだ空気を締め直そうという配慮からか、そんなことを淡々と話す薔薇水晶に、
真紅も真剣な面持ちを取り戻して頷いた。

「そうね。まるで実体が掴めないわ。
 姉妹の身体を乗っ取って戦わせて、その正体は誰にも分からない…。
 本当に幽霊のよう。のりは先見の明をもっていたようね」

「そんなもんアイツにあるわけないよ。ただの偶然だろ」

「何もしてねーくせに偉そうなこと言うなですチビ人間。
 第7を見つけたのりの方がオマエよりずっと役に立つのです」
519雪華綺晶はここにいる 35/38:2008/07/02(水) 03:21:00 ID:Vu3UqG8N
「なっ何だとー!? お前達の手当てをするのに、
 今日僕がどれだけ力を吸い取られたか…」

「そんなの媒介として当然の務めですぅ。
 むしろ翠星石に力を貢げて光栄に思えですぅ」

再びいがみ合い場の空気を乱す翠星石とジュンを軽くたしなめて、真紅は第7ドールに
対する総括を話し始めた。

「金糸雀を操って私達を襲わせたり、足取りや正体を掴ませないところから
 かなり狡猾で慎重な妹よ。罠の内容も悪質に過ぎるわ。
 正面から攻めてこないで姉妹を罠に陥れようとする分、
 好戦的な水銀燈よりもよっぽど危険でたちの悪い薔薇乙女だと考えていいわね。
 その正体も能力もほとんど不明だけれど、分かっている範囲では
 姉妹の身体を乗っ取る力をもっていて、外見が薔薇水晶に似ていること。
 それと鏡の中に現れるらしいから不用意に大鏡には近寄らないこと」

真紅の分析と留意点に、その場の薔薇乙女達は頷きを返す。
雛苺はその中でも特に幼稚で思慮に欠けるので、真紅は彼女には念を押して注意をした。
そんな折、ドアをノックする音が部屋に響く。

「ジュンくーん、それにみんな〜。お夕飯ですよー」

ドアを開けて笑顔を覗かせるのりに、雛苺がはしゃいで両手を挙げる。雛苺の後に
金糸雀がそろそろと続き、翠星石に睨まれてばつが悪そうな表情を見せていた。

「わたしはそろそろ帰ります」

そう一人呟いて立ち上がる薔薇水晶に、真紅が微笑んで声を掛ける。

「たまには夕飯を一緒にどうかしら?
 のりの料理はなかなかのものよ。
 貴女にも事件の解決を手伝ってもらったのだから、
 せめてお礼くらいはさせて欲しいもの」

「…………」

薔薇水晶は逡巡していたのか、しばしの沈黙の後、こくりと頷いた。



「今日は薔薇水晶ちゃんも食べていってくれるのねぇ。お姉ちゃん嬉しいわぁ」

のりの爛漫とした笑顔を向けられて、薔薇水晶は無表情のままかすかにうつむく。
どうもそれが彼女の照れの仕草であるらしい。
テーブルの上には真紅、雛苺、翠星石、金糸雀、薔薇水晶、のりの分の料理を載せた
皿が並べられている。ジュンはこういった団らんの空気は苦手なので、テーブルから
離れたソファーに座ってテレビ番組を観賞していた。
メインの料理は定番の花丸ハンバーグで、ソースのかかったハンバーグの上に花を模した
形の目玉焼きが乗せられている。その端にはパセリとニンジンも添えられ色合いも豊かだ。

「みっちゃんにはかなわないけど、ノリノリのご飯もけっこういけるのかしら」

「…ケチつけてないで黙って食べるです」

翠星石の睨みにも耐性ができたようで、金糸雀は相変わらずの様子でハンバーグを
ほお張っている。
520雪華綺晶はここにいる 36/38:2008/07/02(水) 04:03:03 ID:Vu3UqG8N
香り立つ花丸ハンバーグを前にしても、翠星石の瞳にはかすかな憂いが灯っている。
今日、珍しく水銀燈に遭遇した彼女は、蒼星石のローザミスティカを彼女から取り返す
チャンスがあった。しかし金糸雀の妨害のせいで水銀燈には逃げられ、結局悲願を
果たすことはできなかったのだ。
今日の事件が第7ドールが仕組んだことだとしても、翠星石からすれば蒼星石の復活を
叶えられなかったことを悔やむ気持ちがいつまでも残る。
しかしものは考え方次第だ。水銀燈に出会う機会はいつかまた訪れるだろう。
その時こそローザミスティカを奪還し、蒼星石を元に戻せばいいのだ。

「(蒼星石…翠星石がいつか元通りにするですからね…!)」

胸の内で誓いを改めた翠星石は、蒼星石と一緒に食卓を囲む日が訪れることを夢見て
ハンバーグにナイフとフォークを添えた。

「お味はいかが? 薔薇水晶」

「おいしい」

真紅の問いかけに、薔薇水晶は黙々と口に運んでいたハンバーグをそう評した。
彼女は朴訥でお世辞が言えるほど器用ではない。本当に美味しいと思っているのだろう。

「あらあら。嬉しいわぁ薔薇水晶ちゃん。お姉ちゃん頑張った甲斐があるわ」

「のりの花丸ハンバーグはもうさいこうなんだから!」

朗らかな笑みを送るのりと雛苺に、薔薇水晶は無表情な顔を少しだけゆるめて、
そっと笑顔を浮かべた。
そんな食卓の光景を見て、真紅は想いに耽る。
第7ドールが現れたということはアリスゲームが本当に始まったということだ。
得体の知れない白い妹の悪辣な罠に嵌められて危険な目に遭ったが、結果としては今日も
こうして安らかな夕食を皆で迎えることが出来ている。
第7ドールが画策しようと、真紅が姉妹を守るのだ。真紅には優しい姉妹達がついていて
くれている。皆で結束すれば、何を恐れることがあるだろうか。
それに水銀燈。好戦的なのは相変わらずだが、真紅を絶体絶命の窮地から救ってくれた。
アリスゲームに対する姿勢の違いから相容れず、2人の間には深いみぞがあると真紅は
思っていた。しかしそのみぞが今日少しだけ埋まったように彼女は感じた。
いつの日か、水銀燈とも理解し合えるかもしれない。
そんな幸せな想像に、真紅は優しい笑みを浮かべた。

微笑む真紅をジッと見つめる瞳が一つある。
それは薔薇乙女たちが囲むテーブルの傍の、食器棚の中からの視線だった。逆さにされた
硝子のコップの一つに金色の瞳が悪趣味な模様のように浮き上がり、誰にも知られることなく
真紅と、姉妹達を静かに観察している。
その瞳には優しげな色が宿っているが、暗がりに浮かぶ炯々と光る金色の目は、
まるで闇の中から息を潜めて獲物を狙う、肉食獣のそれであるかのようにも映る。
慈愛に満ちた禍々しい眼差しは、誰にも見咎められる事無くいつまでも真紅達を捉えていた。


521雪華綺晶はここにいる 37/38:2008/07/02(水) 04:06:04 ID:Vu3UqG8N
その夜遅く。
消灯時間も過ぎた頃になり、病室は夜闇に暗く塗りつぶされている。
めぐはベッドに横にならず、上半身を起こしたまま窓ガラス越しに空を見上げていた。
淡い月光が窓から差し、部屋を仄かに明るくしている。
やおら月明かりを超える強さの光が洗面台の鏡からあふれ出した。
鏡が眩しく輝くと、そこから姿を現したのは水銀燈だった。

「おかえり。水銀燈。帰りが遅いから心配しちゃった。
 やられちゃったんじゃないかと思って」

「…馬鹿言わないで。
 私が他の姉妹に負けるなんてありえない」

水銀燈が今まで病室に戻らなかったのは、金糸雀との戦闘で半壊した右の翼を癒していた
からだ。メイメイとレンピカのそれぞれの総力を使わせて今まで治療していた翼は、
何とか見られる程度までは回復した。
元に戻ったのは外見だけで、芯の部分は未だに傷ついているが。
なぜそんな事に今まで時間を費やしていたのかは、水銀燈自身にもよく分からない。
単にめぐに負傷を見咎められるのが屈辱だからなのか、それとも別の理由が存在するのか。
ただあのままの姿で帰りたくないと水銀燈が思ったからそうしただけだ。

「それでどうだった?
 昨日の白い天使は殺したの?」

笑顔でそんな恐ろしげなことを問うめぐに水銀燈はやや呆れたが、刹那の逡巡の後に
不満げな顔で応えた。

「殺してないわ。
 でも痛めつけてあげた。
 もうここに来ることもないでしょ」

水銀燈は昨日病室に現れた雪華綺晶を金糸雀だと勘違いしたままだ。
殺さずとも真紅と共に裁きを下した金糸雀は、それに懲りて二度とやってこないと思っている。

「そっか……。
 水銀燈。貴女優しくなったわ。
 前の貴女なら、きっと躊躇わずに殺してる」

「馬鹿じゃない。単なる気まぐれよ。
 私は最凶の薔薇乙女なの。優しいはずなんかない」

水銀燈はさも呆れたと言わんばかりに肩をすくめて嘯いた。彼女自身、アリスゲームを貶めた
金糸雀を始末したかったのだが、状況がそれを許さずに誅戮は未遂に終わった。
そんな事実は彼女の沽券に関わるのだから言えるはずも無い。
それでもライバルの真紅を見捨てられずに助けてしまったのは、冷徹な水銀燈らしからぬ
行動だったのだが。

「ううん。貴女は変わってしまったわ。
 私のつまらない命も使ってくれないくらいに」

「!」

めぐの言葉は水銀燈を不安にさせる。秘め隠していた認めたくない部分を揺さぶられるようで、
水銀燈は不快な気持ちになり言葉に詰まった。
水銀燈は仏頂面のままめぐから目を逸らし、黙り込む。
そんな彼女を見て、めぐはやわらかく瞼を下ろし、唄うように呟いた。
522雪華綺晶はここにいる 38/38:2008/07/02(水) 04:08:57 ID:Vu3UqG8N
「私が関わったことで、貴女の大切な部分を歪めて
 壊してしまったのだとしたら…それはとても罪深いことね。
 私には本当に生きる価値がない。
 早く死んでしまえばいいのにね」

「…………」

めぐは目を閉じたまま、誰かに懺悔するかのようにうつむいていた。
水銀燈が本当に稀にしか見せない、痛ましいものを見るような眼差しにも
彼女は気づいていなかった。
2人は歩み寄れば寄るほどに、本質的な部分で遠ざかっていく。
めぐは死から、水銀燈は媒介の獲得から。
お互いが望むものから離れていく。
水銀燈は自分の気持ちと今の雰囲気が息苦しくなって、窓辺に寄り空を見上げた。
空には白く輝く月が浮いている。
水銀燈の銀色の髪も、紅い瞳も、物憂げな表情のかんばせも、等しく淡く照らしていた。


                                      
                                              fin
523名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 04:10:42 ID:Vu3UqG8N
ローゼンメイデンのSS初挑戦です。
動く蒼星石も書きたかったなぁ…orz
524名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 18:30:16 ID:Mw7LDZS3
続きが気になる
乙です
525名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/02(水) 21:38:39 ID:LF9HLXae
これは読ませる
526名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/03(木) 14:50:40 ID:KFIthV0f
乙です
文章・展開ともにうまい はらはらしたぜ
527名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/05(土) 11:57:14 ID:DJuccZ0K
乙です。
久々に読ませるSSが来た。
続きを是非!
528名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/05(土) 13:26:23 ID:4Zg+VWmk
なww
529「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/06(日) 23:53:34 ID:Su/gm5gQ
真っ赤になって動けなくなっちゃった水銀燈を抱いて入った倉庫の中。
そこは埃にガソリンやオイル。それに錆臭さが漂う馬鹿の城。
一般ピープルも“それ”に興味がある人も引くゴミ置き場。
“それら”を見た水銀燈は溜息を吐いて。
「確かにジャンクねぇ…どうするのよぉ…この壊れたバイク…」
バラバラ…。
そう、冗談抜きでバラバラになってる古いバイクを眺めながら言う。
「いや、壊れてない。修理中」
ジャンクじゃないやい!…と、ムキになった俺。
こっちはすぐエンジンかかる、これは磨くだけ…これも磨いて塗装すれば…。
必死にゴミじゃないと言い続ける。
「…修理中ねぇ…」
どーでもいいわよぉ、そんなのぉ…と、バイクと俺から興味が無くなりつつある水銀燈。
こっちもボロボロ、これは錆だらけ…あら?これはパンクねぇ…。
そんな事を言いつつウロウロ。挙句の果てに冷蔵庫を見つけてヤクルトを要求する始末。
…そーかい、そーかい…そんなに興味が無いのかい。
そう一人で拗ねていると水銀燈がヤクルトを2本、持って来た。
…1本くれるの?
530「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/06(日) 23:53:54 ID:Su/gm5gQ
埃の積もった椅子に腰掛けた水銀燈は楽しそうに2本目のヤクルトを飲み始めた。
ちょっと残念。
「…何よぉ、その目の意味する所はぁ…」
「一本くれるのかと思っただけ」
いじけてレンチを弄ってる俺を哀れに思ったのか、
彼女は飲むのを一時中断して溜息を吐いた後、にっこり微笑んだ。
「仕方ないからジャンクの名前聞いてあげるわ。感謝しなさいよぉ?」
この時俺は『砂漠で遭難中、オアシス見つけました!』とか『ココにいても良いんだ!』な顔をしていた。
冗談抜きでホンマにあんたは天使様やぁ!
「ふふっ…おだてても何も出ないわよぉ?」
531「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/06(日) 23:54:18 ID:Su/gm5gQ
調子に乗った俺、聞かれたのをいい事にバイクのことを喋り倒してました。
まずは1963年式ホンダCB72型レース仕様。
当然、ライト、ウィンカー、ストップランプなぞ付いてやしません。
色は昔のホンダレースバイクのお約束の赤。
「…で、色から付けた名前が“真紅”」
「しん…くゥ?」
右から左に聞き流してた水銀燈から再び立ち昇る、殺気。
これはヤバイ。
「でー、その白と銀色のが“水銀燈”」
“真紅”を壊されちゃならんと別のバイクを指差す俺。
「…これが…“水銀燈”?」
彼女はバイクを指差して聞き返してくる。
眉の間の皺が『勘弁してくれ、マジで』と言っている。
今度は機嫌を損ねたんかい、お前は…。
532「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/06(日) 23:54:40 ID:Su/gm5gQ
フレームと足回りをメッキしてタンクと外装をミッドナイトブルーに塗って…。
…それでホンダ翼マークを黒にして銀でMercury Lampeと書けば最凶のNSR250完成…。
てな事を20分ばかし語った結果水銀燈のご機嫌は回復。…ちょっと、疲れた。
ニコニコ顔の水銀燈、
「オレンジと青銀はぁ?」
と、他の名前を聞く余裕も生まれたみたい。
最も他のは名前決めてないんだけど。
「本当にお馬鹿さんねぇ…」
…今回は微笑み入った優しい“お馬鹿さん”ですなぁ…。
533「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/06(日) 23:58:15 ID:Su/gm5gQ
ンでもってバイク弄ってる所を見たいと水銀燈が言うのでそのままお楽しみ時間突入。
現在サービスマニュアル片手にシリンダーヘッドの組み立て中。
水銀燈はちょっと退屈そう。
…そうだよね…女の子こーゆーの嫌いだよね…オイル臭いし…。
「…で?…何で“水銀燈”より“真紅”を先に治すのぉ?」
…やっぱり飽きてたみたい。
今日はもう終わりにしよう。
その一言を言う前、
「ひょっとして浮気してるとかぁ?」
水銀燈は、言った。
お前は何を言ってるんだ?
振り向いてそう言おうとして、俺は驚いた。
…コイツ…立派な女の目をしていやがる!!
まあ、それはさて置き…。
「…お、置かないでよぉ…い、意識して…その…そ、そういう顔したんだからぁ…」
…演技かい…。
534「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/07(月) 00:00:08 ID:vHubGRKN
とにかく。
「前のオーナー…まあ、マスターみたいな人と約束したんだ。
 サーキットを走らせる…って」
馬鹿みたい。
自分でも、そう思う。
免許も無い上にピザデブなんだし。
けど水銀燈はちょっと夢見る表情に。
「…サーキットを走らせる…かぁ…素敵ねぇ…」
…夢見てからかちょいとロマンチスト入ってますな。
そして夢から覚めて。
「…けど…その体型でぇ?免許はぁ?」
「お願いそれ言わないで」
一気に現実に引き戻された。
…そーいや水銀燈に免許用の金、注込んじゃったよなぁー…。
一人落ち込む俺に水銀燈は何故か優しい笑顔を見せていた。
535「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/07(月) 00:01:12 ID:vHubGRKN
ンでもってその日の夜。
水銀燈が寝床に収まったのを確認して消灯。
近くに誰か居ると言うのは安心すると実感。
「…ねぇ…もう寝たぁ?」
瞼を閉じて10分ほどした頃、水銀燈が問いかけて来た。
「いんやー…まだ起きてる…」
とは言うものの半分寝ています。
水銀燈が何言ってるのか良くわかりません。
とりあえず、“水銀燈”を先に治せと言ってたのでやんわり断りました。
意識を手放す前に聞こえたのは…。
「お休みなさぁい…イビキの大きな…」
と言う水銀燈の呟きです。
続きが気にはなります。
なるんだけど…何だろう、この頭痛は…。
536「週刊ローゼンメイデン(水銀燈)」:2008/07/07(月) 00:02:56 ID:vHubGRKN
「今日もお仕事…お休みねぇ…」
外を眺めながら気だるそうに呟く水銀燈。
「それ言うなっての…」
体温39度で返事すら辛い俺。
取説に起動直後は体調不良になると書いてたから
覚悟はしてたもののココまでとは思ってもいなかった。
昨日頭痛を感じたときに風邪薬飲んで置きゃよかった。
そう思っても後の祭り。
水銀燈はそんな俺をチラッと見て翼を広げ。
「じゃあ私は少し散歩してくるわぁ」
…薄情者めぇー…。
そんな事を考えながら俺は目を閉じた。
537「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:45:10 ID:vHubGRKN
…で。
…何でこうなってるんだろう…。
俺は眠ったはずだ。
…なのに何で水銀燈に服を脱がされてるんだろう…。
そして、何で全裸の水銀燈に押し倒されてるんだろう。
全く理解できない。
「これは夢よぉ?だからぁ…私を楽しめばいいのよぉ?」
水銀燈が俺にキスをする。
酷く妖艶に微笑みながら。
「理性を解き放って獣になっちゃいなさぁい」
彼女の赤い瞳が暗く輝いた。
「…理性を…解き放つ?」
「そうよぉ?そしてぇ…この水銀燈を玩具にしなさぁい」
甘い声が頭に響く。
心のどこかで、糸が、切れた。
538「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:46:00 ID:vHubGRKN
「…なのに何でこうなっちゃってるのよぉ…」
困った顔の水銀燈(全裸)。
「うはwww水銀燈マジやーらけーwwwwww」
理性が解き放たれ獣になった俺(全裸)。
「押し倒してきたら吸いつくして殺してやるつもりだったのにぃ…」
「ほっぺフニフニwwwおっぱいもーみもみもみwwwwww」
「お馬鹿はさっきから芝大量生産してるしぃ…」
 …この芝ラプラスの口にでも詰め込んでやろうかしら…」
ぬふぅ!俺様以外の名を呼ぶとはぁああぁぁッ!!
かくなる上は最終奥義発動で俺様の虜にしてくれるッ!!!
「水銀燈モフり祭り開催!!1!!wwwwww」
「いい加減に落ち着けぇ!!」
水銀燈に剣でぶん殴られて奥義発動失敗。
変わりに発動したのは水銀燈のスーパー説教タイムだった。
539「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:48:22 ID:vHubGRKN
「だいたい貴方はお馬鹿さん過ぎるのよぉ!何が水銀燈モフり祭り開催よぉ!!
 どこの世界に理性を解き放ったら目の前にいる女の子を抱きしめて撫で回す奴がいるって言うのよぉ!!
 こんなに綺麗な女の子…いえ、ドールが目の前にいたらぁ…ほ、ほほほ他の事するのが常識でしょ!?
 貴方って本当に本当に本当ぅ〜にお馬鹿さんねぇ!そんなだから友人も恋人も居ないのよぉ!!」
…姐さん、この子止まりそうにありません。
しかも何、微妙に赤面してやがりますか。
何が『ほ、ほほほ他の事するのが』ですか。
具体的に言いなさい。
…と、落ち着いた挙句、妙に冷静な俺(全裸で正座中)。
「お、おおおお馬鹿さぁーんっ!そんなの私の口から言えるわけ無いじゃないのよぉ!!
 察しなさいよぉ!愛し合ってる男と女が二人きりで…その…す、する事よぉ!!」
混乱して挙動不審でトマトみたいな顔色の水銀燈(全裸で不思議な踊り)。
…何このカオス…。
540「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:52:06 ID:vHubGRKN
不思議な踊りを踊り続ける水銀燈と正座したままそれを眺めるとも無く眺める俺。
二人の間に流れる珍妙不可思議な時間。
…何とかしないといかんよなぁ…やっぱし。
「いい加減にお前も落ち着け」
「もう!また抱きしめるぅ!、すぐそうやって撫で回す!放しなさいよぉ!!」
何この駄々っ子。もう苦笑止まりませんなぁ。
「…わ、笑わないでよぉ…」
「ほんにも〜…めんこいめんこい」
「だ、だからぁ…な、撫でないでよぉ…笑わないでよぉ…」
だが、断る。
撫で撫で撫で撫で…。
優しく、それでいてねちっこく、気持ちを込めて撫でる。
「…も…、やぁ…」
541「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:56:16 ID:vHubGRKN
一通り撫でて満足したので…。
「…あ、あれのどこが一通りなのよぉ…満足するの遅すぎよぉ…」
…とにかく真っ赤っ赤になった子猫ちゃんを抱いて、
「ちょっ!?…な、何す…きゃっ!?」
横に、ゴロン。
さすが夢の世界。
思うだけで布団出てきましたぞ!?初夜の雰囲気ですぞ!?
「ちょ!?…し、しししし初夜って何よぉ!?
 そ、そりゃあ誘いはしたわよぉ!?でもその前にしなきゃならない事がぁ〜…!!」
言ってみただけ、言ってみただけ。
少しは落ち着け。
「…ふ、布団の中で裸で抱き合って落着ける訳無いじゃないのよぉ!!」
はーい、はい。良いから落ち着きましょうねぇ〜。
撫で撫で撫で撫で…。
542「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 20:57:45 ID:vHubGRKN
再び真っ赤になって沈黙する水銀燈。
言いたい事をもう一度言うのは今しかない。
「性処理に買ったんじゃない。一緒に居たいから、作った。
 俺にとってのアリスが水銀燈だったから、お前を選んだ。
 今はただ、そばにいて欲しい。ずっと抱きしめていたい。
 それが俺の望み。
 だからこうして抱きしめて撫でてるんだ」
「そ、それは前にも聞いたけどぉ…」
顔色が戻らない水銀燈を抱っこしつつ撫で撫で。
極楽ですな。
「…ちょっと待って」
「何?」
素に戻らないでよう。
…と、ちょっと落ち込んでる俺。
「今言ったの本気?」
…と、何故かやたら真剣な水銀燈。
どったの?何かミスった?…俺。
543「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 21:02:05 ID:vHubGRKN
「だから“自分にとってのアリスが水銀燈”ってのは本気なのかと聞いているの」
あ…そっちね?
…よかったよぅ…。
おいちゃん、何かとんでもないポカしたのかと思ったよぅ…。
「よーし、こっちに帰ってきなさぁい」
よしわかった水銀燈…?
「何でお前服着てるの?さっきまで全裸だったのに…」
「真面目な話だからよ」
かわされた。
さてはマジか!?
「そう、言ったわ」
「そうか」
「そうよ」
そう言う事に、なった。
544「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/07(月) 21:03:23 ID:vHubGRKN

「確かにお前は俺のアリス…つまり理想の少女だけど…」
「ふざけないで。これは真剣な話よ」
凛…ッ。
とした声が、響く。
「そう…真剣な話なの。
 二人にとって…ね…」
そう言って微かに微笑む水銀燈はまさしく、アリスだった。
どんな花よりも気高くて、
どんな宝石よりも無垢で、
1点の穢れもない、
世界中のどんな少女でも敵わないほどの至高の美しさを持った少女。
それが、水銀燈だった。
545名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/08(火) 16:22:47 ID:Sc3Ph1pj
妄想系のSSは、「作者は俺か?」ってくらいに同調できないと
正直読み辛いのぅ。
546「週刊ローゼンメイデン(書いてる人)」:2008/07/09(水) 02:23:24 ID:ZS62iRhg
>>545
ごめんよぅ…
エンジュ、ばらすぃ、兎が出てくるの早くするよ。
547名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/10(木) 19:40:33 ID:LRMwjdAD
>>523
無駄のない文章の構成力と、話への引き込ませ方が凄いな。
所で再開された原作にも薔薇水晶って出てくるの?ここだけよく解らなかった。
オレも続き期待
548名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/11(金) 20:27:52 ID:yHUNEpCA
>>547
薔薇水晶はアニメだけのオリジナルドール
原作準拠で進めながら薔薇水晶を終盤で、しかも味方で登場させるなんて
この作者さん何か狙ってるぽいな
続きがあるとみたよ
期待します>>523
549523:2008/07/13(日) 01:36:20 ID:9p7EDpCP
拙作を読んでいただき、その上感想まで書いてくださった方々、
どうもありがとうございます。

>>547氏、>>548
薔薇水晶は>>513のメル欄に記してある通り単なるゲスト扱いで、
深い意味や何かの伏線といったつもりで書いた訳ではありませんでした。

投稿させていただいた拙作のテキストデータの容量が101KBあり、
続きを書くとすると確実に50KBをオーバーすると思われるので、
スレの残りの容量(現時点で454KBが使用済み)の関係から
今のスレへの投下は無理そうです。
何か書けそうであれば次スレに続きらしきもの、もしくは新規の話を
投稿させてもらいたいと思います。
550「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/18(金) 21:38:51 ID:fsG1YByY
けど、ぶっちゃけ流れに付いて行けません。
俺、空気読解力0だし。
「で?何ゆえ水銀燈はそんな真剣に?」
「そうねぇ…私が貴方と契約したくなったから…でしょうねぇ…」
「契約?ミーディアムとかの?」
「そうよぉ?その、ミーディアムとかの契約」
水銀燈はそう言った後、くすっと小さく笑った。
確か契約って跪いて指の薔薇にキスするんだっけ。
よーし、土下座でも何でもするぞー。
そう喜んでいたら水銀燈は。
「さあ、お父様…手をお出しくださいませ」
優雅に跪いて、そう言った。
…って、それ違う!違うそれ!
逆逆逆逆逆逆!!
551「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/18(金) 21:39:55 ID:fsG1YByY
「どこも、可笑しくないわぁ。
 私が貴方をお父様と認めたからよ…それがほんの気紛れだとしても…ね…。
 それより怪しい踊りを踊るのは止めなさぁい。これは神聖な儀式なんだから」
「いや、いきなりそんな事言われても何かその…恥ずかしいし…」
「ふふっ…貴方…いえ、私を作り上げたお父様に『可愛い』とか、
 『お前は俺の理想の少女だ』とか言われたりする方が何倍何倍も、恥ずかしかったわよぉ?
 おまけにお父様は生まれたての少女をぎゅっとずっと抱擁してくださって…。
 その上、優しく慈しむように私の全身を余す所無く愛撫してくださったんですものぉ…。
 私の髪の毛一本、ドレスの刺繍一針…私の全てはお父様のものよぉ?
 私の全てにお父様との絆が詰まっているのよぉ?」
水銀燈は挙動不審な俺に一気にそう言った後、クスリと笑って。
「さあ、お父様…手をお出しくださいませ」
もう一度、催促した。
…何この羞恥プレイ。
胃がチクチクツネツネと痛いんですが。
552「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/18(金) 21:40:40 ID:fsG1YByY
何もない、ただ、広いだけの空間。
最初、そんな所で水銀燈に押し倒されてたのは、覚えている。
次にあったらいいなと思ったら布団が出てきたのも、覚えている。
…なのに何故、荘厳な雰囲気と薔薇の香り漂う優雅な庭園にいるんでしょうか。
「なぁ…水銀燈…」
「どうしたのぉ?」
返ってきた満面の笑みに溜息一つ吐いて質問。
「ここ、何も無い所じゃなかった?
 後、何でそんなに性格急変したの?」
「契約と言う神聖な儀式にあのフィールドは似つかわしくないわぁ。
 それからぁ…私は元々こぉ〜んな性格よぉ?」
…いぢわるなのは“地”ですか…。
「それより…契約先に終わらせなぁい?
 話が進まないからぁ」
「…そだね…話…進まないよね…」
553「週刊ローゼンメイデン(契約)」:2008/07/18(金) 21:41:45 ID:fsG1YByY
俺の前に跪いた水銀燈。
そして彼女に促されるまま手を差し伸べた。
彼女は俺の手を取り…。
ほんの一時、視線が合う。
水銀燈は柔らかに微笑んだ後、俺の手の甲に顔を近付け―――。

光が

溢れた。
554久保竣公@匣の中の人形:2008/07/19(土) 19:33:54 ID:twd7itnr
コソコソ
こっちに転載するよ・・・。
誤字はゆるしてちょ

狭い


暗い


怖い



今私は箱の中にゐる。
箱の中に独りでゐる。
もう数へるのも億劫なほど時間が過ぎた。
幾年が過ぎただらうか。
此処から出たい。
555久保竣公@匣の中の人形:2008/07/19(土) 19:34:54 ID:twd7itnr
ふと目が覚めた。
時計の針は6時を指してゐた。
なんだ未だそんな時間か。
私はまた眠る事にした。

最近妙な夢を見た。
私は暗闇にぽつんと一人で立つてゐた。
其の向かふには白い…いや銀色の髪を生やした少女がゐた。
私は救ひを求めて少女の元へもがくが体は一向に動かない。
少女は逆を向ひて去つてゐく。
私はもがくのを止める。
なにか空虚を感じた。

私は眠れ無かつた。
556久保竣公@匣の中の人形:2008/07/19(土) 19:35:52 ID:twd7itnr
早起きは三文の得と云ふ。
今日は早起きして朝食を作る。
一人で住むには廣すぎる家だ。
昨日の作り置きの味噌汁を温める。

私は温まる間に新聞に目を通ほした。大正12年8月12日と日付はなつてゐた。
さふいへば夏だつたな
と独り事が出た。
季節は夏だ。元来外に出ない質の私は季節感がずれて仕舞つてゐるやうだ。

朝食を済ませて居間に向かふ。
何時もの様に書き物をする為だ。最近ネタに困つてゐる。
ふと足元に感触がある。
見てみると見慣れない箱が在つた。
体は無意識に手をのばす。まるで取り付かれたやうに。
左の手はぎうと握り拳を作つてゐる。汗がしみ出た。
557久保竣公@匣の中の人形:2008/07/19(土) 20:20:41 ID:MSRuuyYU
中には人形がゐた。
見るからに西洋人の顔立ちだ。
私は異人を見た事はないが明らかに日本人ではない。第一髪の毛が銀色をしてゐる。
手を伸ばす。
抱き上げる。
良く出来てゐる。
曇り一つない肌
漆黒のドレス
頭にはカチウシアを着けてゐる。鞄をもう一度みる。
中には大層豪華に装飾された螺があつた。
558久保竣公@匣の中の人形:2008/07/19(土) 20:25:33 ID:MSRuuyYU
手にとるがずつしり重い。
何の螺だらうか。
昔見たことがある。薇式の人形用だらう。となるとこの人形は動くのか。
螺穴を探すが見つからない。
大抵は背中に在る筈…
あつた。
小さな孔があつた。
がちあ…
刺さつた。
きり…きり…きり…
薇の音が響く。
時計の薇を巻く様に。
時計の薇を巻けば時計は息を吹き替へす。
人形も又息を吹き替へした。
顔が此方を向く。良く出来てゐる。
「やあ お人形さん」
559名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/23(水) 02:26:41 ID:qUtgnEwO
突然だけど英語読める人には是非紹介したかったローゼンSS
ttp://www.fanfiction.net/s/4028039/1/Dream_of_Something_Better
ttp://www.fanfiction.net/s/3487228/1/Rozen_Maiden_Die_Erwachende_Rose_Distel

水銀燈なSSでかなり面白い。バトルモノ。海外二次創作サイトfanfiction.netより。
現在120個ほどローゼンSSがある

ただちよっと癖のある使われた方をしてる英単語があるので列挙すると
own = 直訳なら"所有"だが、ここでは「オリキャラ」という意味で使われているらしい。
例) I do not own rozen maidens 「このSSにオリジナルのローゼンメイデンは登場しません」

WTF,WTH = What the fuck , what the hell の略で「何ですって!?」「何なの!?」
例)Megu... You really ... WTF!? 「めぐ…あなた…どんだけぇ!」

lol = lots of laugh の略「笑」「w」 みたいな感覚

時間があったら翻訳もしてみるかもしれない
560久保竣公@匣の中の人形:2008/07/23(水) 07:16:26 ID:hgLxv9cv
私は人形に喋り掛けた。
別段私は人形愛者では無い。

人形は此方を向いた。
カラクリだらう。
陶器の様な肌。
さらりとした髪の毛。
美の集大成だ。
「貴方が私を目覚めさせたのかしら」
体に雷が落ちた。
人形が話したのだ。
きつと カラクリだ
きつと 蓄音機だ
きつと…
私は様々な思惑を巡らせる。
しかし其の蓄音機は間髪入れずに私に電流を流す。
「汚い部屋ね。」
確かに話してゐる。
「お前、名は。」
名前を尋ねて来た。
私は名前を答へた。
全く…人形相手に…
「不本意だけど仕方ないわね。
早くこの薔薇の指輪に誓いなさい」
さう云ふとそれ(彼女と云ふべきか)は手をさしのべて来た。
白い細い指には大層な装飾が施された指輪が填められてゐた。
無意識に体が動く。

こうして私の非日常的な受難の日々が幕を開けた。
561名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/26(土) 11:21:55 ID:xEYCZJB1
注意:ウルトラファイトを知ってないと全然理解出来ないネタです


ローゼンファイト!! 「早すぎた葬送曲」

翠星石と蒼星石の二人が物陰に隠れて何かやっております。

「翠星石の言う通り、挟み撃ちで一網打尽にするですよ。」
「うん。分かったよ。」

そこで現れましたはローゼンメイデン第五ドール真紅。二人が待ち構えている事も
知らず、のん気に歩いております。

「それ! 今です!」

真紅へ一気に前後から襲い掛かる翠星石と蒼星石。袋叩きであります。
さしもの真紅も一溜まりも無く倒れる。

「やった。真紅を倒したですよ。」
「それじゃあ葬式をしよう。」

真紅の葬式を始めた翠星石と蒼星石。両手を合わせ、念仏を唱え始める蒼星石ですが、
そこで翠星石が突き飛ばした。

「翠星石はクリスチャンですから十字を切るです。」
「ダメだよ。念仏を唱えて。」
「蒼星石こそ十字を切るです。」

二人は双子とは言え、それぞれ宗教観が違う様であります。双方一向に引くつもりはありません。
そして、今度は二人の殴り合いが始まってしまいました。

「姉妹で争うなんて醜いわ。」

そこで真紅が立ち上がり、二人を一網打尽。真紅の勝利であります。
562名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/28(月) 05:42:47 ID:PI16leAd
書き手のレベルが高すぎるうぅぅ…
これじゃ俺のSSなんて投下できない……
563名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/28(月) 18:36:41 ID:E87G45ex
さあはやく勇気を出して投稿するんだ
564久保竣公@匣の中の人形:2008/07/28(月) 22:07:48 ID:8WN/M5rS
「ああん?餡掛炒飯?」
ラヂヲから人の声がする。
「最近だらしねエな。最近だらしねエつて…」
之が今流行りの「歹笞」とか云ふ番組らしい。
友人が薦めて来たのでつひつひ聞いて仕舞つたのが運の尽き。私は虜になつて仕舞つた。
物書きの日常は暇だ。仕方ないのでかうして時間を潰してゐる。
そして奇妙な同居人も。
「一寸つと…そろそろ『くんくん』だわ。代わつて頂戴」
確り溶け込んでゐる。
あの邂逅と云ふべき出会いの後、彼女から話を聞いた。
565久保竣公@匣の中の人形:2008/07/28(月) 22:19:26 ID:8WN/M5rS
『私達は《ロヲザミステイカ》と云ふ物…詰まり解り易く云ひ換へると《命》の様な物だけど、其を姉妹で取り合ふ《アリスゲヱム》を闘ひ抜くの。だから私達は《ミヰデイアム》詰まり《媒介》を必要とするの』

彼女はさふ云つた。
今私の指には指輪が有る。
契約の証ださうだ。

「水銀燈、頼むからラヂヲをいじらないで呉れ。断末魔の叫び声が聞こへる。」
水銀燈はラヂヲをいじる手を休めない。
「もう直ぐ『くんくん』が始まるわ。早く調整して」

ハア 又今日も水銀燈に酷使される。
566久保竣公@匣の中の人形:2008/07/30(水) 22:32:57 ID:q5d5pZdO
今日は暇なので庭いじりをしやうと思つた。久しく手入れをしてゐない。
日差しは強い、真夏日だ。
麦藁帽子を被り軍手をはめる。

「おい、水銀燈。草むしりを手伝つて呉れ。」
縁側に座つてゐる水銀燈に話しかけた。
「いやあよ。汚れるし不潔だわぁ」
予想通りの答が返つて来た。
仕方ないので一人ですることにした。

「良くもまア此処まで伸びるものだ。」 最早悪態をつくを通り越して感嘆して仕舞ふ。
水銀燈は矢張り空を見てゐる。
まだ心が通つてゐないのか。
567名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 01:15:57 ID:537vGIUC
『魍魎の匣』に出てくる「匣の中の娘」を人形バージョンにしてるんだよね これ
568久保竣公@匣の中の人形:2008/08/07(木) 12:23:13 ID:uZIlWP/+
手が草臭くなつて仕舞つた。
余り好ましくない臭ひだ。
汗もかいたし風呂にでも入らう。しかし風呂を沸かすのは大層手間だ。歪みねえから銭湯にするか。
箪笥から下着とタヲルを取り出して石鹸も用意した。



水銀燈は銭湯には入られないな。留守番してもらふか。

私は水銀燈に留守番する様に伝えた後、銭湯に向かつた。

569久保竣公@匣の中の人形:2008/08/07(木) 12:27:22 ID:uZIlWP/+
誰も居ない。
彼も居ない。
私だけ。

孤独には馴れてゐる積りだつたが何故か寂しい。
彼との出会いが私を変へた様だ。
空を見る。
夕日は沈んで仕舞ふ。
夜の帳が降りやうとしてゐる。

庭に出てみる。
彼の手入れは完璧とは云へないがそれなりに整つてゐる。

ああ目眩がする。

570久保竣公@匣の中の人形:2008/08/07(木) 19:37:40 ID:uZIlWP/+
良い湯だつた。
思ひの外空いてゐた。
家に早く帰らう。
時計は7時を指してゐた。

何か焦る気持ちがする。
自然と速足になる。

雲行きが怪しくなつて来た。
一雨来さうだ。

案の定降つて来た。
急な雨だ。スコヲルとか云ふ南方の雨のやうだ。
雷も響く。
早く帰らねば…

家に到着した。戸を空ける。
「水銀燈。水銀燈。」
ずぶ濡れのまま水銀燈の名を呼び乍ら駆け上がつた。
571久保竣公@匣の中の人形:2008/08/07(木) 19:40:04 ID:uZIlWP/+
床には水溜まりが出来た。
何処だ
何処なんだ
目には開ききつた縁側の障子が写つた。
まさか…


居た。
水銀燈は庭に倒れてゐた。
泥まみれ雨まみれになつてゐる。動かない。
はつとした。
顔が青ざめる。
水銀燈を抱き抱えた。
だらりと四肢は反応が無い。
家に入れた。
タヲルにくるみ汚れを拭つてやる。矢張動かない。
どうしたことなのか。

私は仰向けになり電灯を見た。
大の字になつた。
何故だらう。
自然と目から涙が溢れた。

あの水銀燈との生活は幻想だつたのか。唯の夢だつたのか。

572名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/07(木) 19:55:04 ID:evzqTxVv
このシリーズ嫌いじゃないがどうコメントすりゃいいんだw
573久保竣公@休憩中:2008/08/07(木) 20:22:03 ID:uZIlWP/+
結構堅いみたいだね。仕方ないね。
歪みねえコメントまってます。
574名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/09(土) 10:17:47 ID:LLQArT+Z
これは縦書きで読みたいね・・・
575久保竣公@匣の中の人形:2008/08/09(土) 19:07:54 ID:3RySFKL5
体が重い。
服は泥まみれだ。
何かにくるまれてゐるやうだ。
隣には彼が寝てゐた。
何故私は彼と寝てゐるのだらう。彼の顔の辺りの畳が濡れてゐた。
泣いてゐたの

鉛のやうに重たい手を上げて
彼の顔に手を添へた。
彼は眠つたままだ。

自然と私の唇が動いた。
そして微かな声が口を出た。

「ありがたう…」

576久保竣公@匣の中の人形:2008/08/09(土) 19:38:04 ID:3RySFKL5
すつかり辺りは明るくなつた。
私は未だ寝てゐた。
昨日の騒動で参つて仕舞つた。
嗚呼さふだ 水銀燈の泥を落としてやらないと

昨日から動かない水銀燈。
そもそも人形が動く訳が無い。
幻想だつたのだ。
さふ自分に云ひ聞かせ水銀燈のスカアトに手をかけた。

バチン

閃光が走つた。

「全く。油断の隙も有つた物ぢやないわ。下劣ね。」

水銀燈が立つてゐた。
577久保竣公@匣の中の人形:2008/08/09(土) 19:40:30 ID:3RySFKL5
まるで嘘のやうに立つてゐる水銀燈。何故だ。
「一寸くらつとしただけだわ。大した事ないわ。」
何が大した事ないだ。肝を冷やしたぞ。

「水銀燈、僕が下劣なのは解つたから君の姿を何とかしろ。」

凡そ人形には見へない彼女がゐた。

「解つてるわ。だから何か着替へを持つて来なさい。」

まるで私は召し使ひのやうだ。
云はれるまま私は箪笥に向かつた。
578名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/13(水) 02:56:15 ID:FjSMRNVl
>>264
今更だが乙。
水銀灯をプリキュアのルミナス声で脳内再生して読んでると、涙が止まらなくなった…
男も幸せだったんだろうな、きっと。

他の職人もいい作品を書いてくれている。
これからも頑張ってくれ。
579久保竣公@匣の中の人形:2008/08/13(水) 22:17:50 ID:iDciAnbR
ポツプコヲンと大戦略が有れば
他には何も要らぬ。
-久保竣公の中の人-

探しては見るが水銀燈に丁度良い大きさの服が無い。
手ぶらで帰つても鉄拳制裁間違い無しであらう。
一番下の箪笥を開けると懐かしい浴衣が在つた。母が作つて呉れた浴衣だ。未だ子供の時代の物だから水銀燈には適当だらい。
幸ひに虫食いは無かつた。私は浴衣を取り出して居間に向かつた。
「丁度良いのが在つたぞ。着替えなよ。」
水銀燈を手招きする。
彼女は不満げな顔をして此方に向かつて来た。

580久保竣公@匣の中の人形:2008/08/13(水) 22:27:25 ID:iDciAnbR
開口一番
「なによこれ」
と御言葉を頂戴した。
「まあいいから着てみなよ」
別に変ぢや無いと思ふ。
彼女は浴衣を両手で持ち上げるとツカツカと浴場の方に向かつた。
畳には矢張泥が付いてゐた。
とりもあへず雑巾を取り出して拭いた。汚いのは許せない性格が出る。

浴場から水銀燈が浴衣を着て手にはドレヱスを。
「これ洗つて頂戴。」
ドンと手渡される。後で洗つて置こう。
「如何かしら。」
私は似合つてゐると返事した。
心持ち彼女が紅くなつたやうな気がした。
「べ…別に貴方の考えなんかだふでも良いンだからね」
世に云ふツンデレつて奴だ。
581久保竣公@匣の中の人形:2008/08/15(金) 20:42:06 ID:SSaraUrW
珠には仕事をする。
今は小説の仕事が一つ有る。
細々と生計を建ててゐる訳だ。
サテ…だうしやうか。

ドン

確か題名も決めてゐなかつたなァ
ドン

珠には推理小説も良いな

ドン

筋肉質の外人が下着を取り合ふなんてだうだらう。

「うるさい」

台所からの騒音に対して怒鳴る。気が短い性格では無いが。
犯人は目星が付いてゐる。

台所に向かふと、矢張彼女がゐた。ラムネと格闘してゐた。
「もしかして飲み方を知らないのか。」
彼女は恥ずかしさうに目をラムネに逸らした。
可愛い仕草も見せるものだ。
彼女の手からラムネを取り上げると私はビヰ玉を押した。
はぜる音がした。
彼女は電撃を喰らつたやうに飛び上がつた。
彼女は此方を見やうとしない。
負けず嫌いなのだらう。
「ほれ。こうするのだ。」
彼女の手にラムネを渡した。
ラムネの香りが鼻を刺す。
私は仕事に戻る。
足が敷居を跨いだ時
彼女が呟いた。
「ありがたう」
582名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 17:29:22 ID:SHac4UZ2
499 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 14:06:59 ID:5uHzk3Re
ローゼンメイデン ハリウッドで実写映画化

ワーナーブラザースは15日、『ローゼンメイデン』の実写映画化を正式に発表した。
同作品はPEACH-PIT原作の人気漫画及びアニメ作品で、一部のファンからは熱狂的な支持を得ている。
大ヒットとなった「マトリックス」シリーズを手掛けたウォシャフスキー兄弟が、今回は何とも意表をつく作品に手を出した。
日本のアニメの大ファンで知られる彼らだが、まさかこの作品を手掛けるとは意外に感じるファンも多いのではないだろうか。
『実は2年前からこの作品にハマってしまって、自分の手で実写映画にしてみたいと思っていたんだ』
堰を切ったように、アンディ・ウォシャフスキーは興奮気味に熱く語り出した
『オタク・アニメのカテゴリに分類されて、一般受けしなさそうだという意見もたくさんあったよ。でも僕はそうは思わないんだ。
 魂を持つドール達が、愛する父に会うために悲しい運命を辿っていく、これはもう誇るべきストーリーなんだ。
 実写にすればこの作品が本来持っている素晴らしさが存分に表現できると確信しているんだ。
 だからこそ今回、周囲の反対を押し切り踏み切ったのさ。期待は絶対に裏切らない。
 哀しくて儚い、でも美しいアリスゲーム(作中でドール達が戦う行為)をお見せできると思うよ。』
物語の“主役”ともいえる“ドール”は子役にCG加工を加え人形と人間の中間のような雰囲気を出す手法を取るという。
製作の中心となるのは日本製アニメの海外配給を多数手がけてきた米国のADV Filmsで、
製作費は6億ドル、公開は再来年夏になる見通し。

【ジュンが】ローゼンメイデン実写映画化 part6【ジョセフに】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/comicnews/1182689647/l50
583名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/16(土) 20:23:54 ID:+D+i9Rx5
yippee ki yay , mother f*cker
584もしもタイで…:2008/08/20(水) 21:29:55 ID:bL3uGpbM
           もしもタイでローゼンメイデンが実写化されたら…

タイでローゼンメイデンが実写化に世界は震撼した。そしてそのタイトルは…

               『ローゼン7姉妹 対 人形軍団』

余りにも衝撃的過ぎるタイトルに世界はやはり震撼した。

OPが始まると、第一ドールの水銀燈から第七ドールの雪華綺晶までのローゼンメイデンのドールズが
横に揃って並んでそれぞれのポーズを取っているシーンがある。しかし、良く見ると真ん中に
何やら見覚えの無い珍妙なキャラクターがいる。実はそれが本作の主人公だったのである!

主人公はタイに住む御仏を敬う信心深いタイ人の少女。今日も朝早くから最寄の寺の仏像に祈りを捧げようと
寺へ向かっていた時、その寺に泥棒が入り、仏像が盗まれる。泥棒は仏像を海外のアンティークマニアに
売って儲けようという魂胆だった。仏像を取り戻すべく奮戦する主人公だが、あえなく銃で脳天を撃ち抜かれて
殺されてしまった。

御仏を愛し、敬い、御仏に殉じた主人公に感激したローゼンとラプラスは、主人公をドールとして再生させる。
タイ神話に登場する女神を思わせるドールとして再生した主人公は、再び仏像泥棒と対峙する。

「仏様を大切にしない奴は死ぬべきよ!」

そう言って、ドールとして再生した際に身に付けた超能力を駆使して仏像泥棒を惨殺。
取り返した仏像を寺へ返してめでたしめでたし…とは行かなかった。

今度は恐怖の呪い人形軍団がタイを襲った。人間の恨みつらみが凝り固まって誕生した
純粋な悪意の塊である呪い人形軍団はタイの人々を無差別に呪い殺して行く。
タイ存亡の危機に主人公が御仏の力で立ち向かうが、多勢に無勢。忽ち窮地に陥る。

そこで突然主人公の救援に現れるのがローゼンメイデンのドールズ。
本編においてアリスゲームのライバル同士なのが嘘の様な連係プレーで主人公の窮地を救い、
それぞれの能力を生かして主人公と共に呪い人形軍団を各個撃破して行く。

最後に残った呪い人形軍団の総大将を主人公とドールズが総攻撃するシーンは、後に

                「ローゼンメイデン集団リンチ」

と語り継がれる程の伝説的神シーンとなる。

呪い人形軍団を全滅させた後、主人公が御仏の力を使って呪い人形軍団に呪い殺された人々を
蘇らせ、タイに平和が戻り、ローゼンメイデンのドールズも帰って行く。

最後は主人公が元の人間に戻って、今までの様に仏様に祈りを捧げる所でEND


…と、この衝撃的な内容に世界はやはり震撼した。
585もしもタイで…:2008/08/20(水) 21:31:25 ID:bL3uGpbM
                    映画を見た人の声

「ローゼンメイデンと仏様の絶妙なコラボレーションに感激した。もう二度とやらないで欲しい。」
                               日本国 桜田ジュン

「雛苺の活躍が見れただけでも嬉しかった。続編の類は絶対に作らないで欲しい。」
                               日本国 柏葉巴

「タイ映画と聞いて心配だったけど、中々良かった。もう二度と見たくない。」
                               日本国 桜田のり

「タイの人が演じる雛苺も中々素敵だった。続編は期待したく無い。」
                          フランス オディール=フォッセー

「新しい水銀燈像を開拓してくれたのに感激した。もう絶対にやらないで。」
                               日本国 柿崎めぐ

「日本とタイの文化の違いを思い知らされた。もう二度とローゼンメイデンの実写化はさせない。」
                              日本国 PEACHI−PIT

等々、映画の内容を絶賛する声が多数を占めた。
586名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 12:42:58 ID:4ILlfTTx
大決戦!超薔薇乙女8姉妹
587名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/25(月) 21:27:37 ID:4ILlfTTx
銀→ゾフィ 燃える(銀はアニメで、ゾフィはバードン戦で)
金→初代 ドジ(初代は逃がしたベムラーを追ってハヤタと衝突した)
翠→セブン 人格が変わる(レオに出演した際、人格がかなり変わってて批判があったらしい)
蒼→帰マン 地味
紅→エース 上から目線
雛→タロウ 未熟設定、末っ子イメージ
雪→レオ 下のと同じ感じ
薔薇→アストラ 上のと同じ感じ


ローゼンとウルトラマンは似ている!
588久保竣公@匣の中の人形:2008/08/30(土) 01:36:29 ID:h5dZiEz5
「ヤンジヤンを買いそびれた。」 -久保竣公の中の人-


快晴だ。
夏も終はりに近づいた。
過ごし易い日々だ。
たまには外出するのも必要だろう。仕事も一段落ついてゐるからキヤンプなんかも良いかも知れない。よし決定だ。
彼女は相変はらず空を眺めてゐた。
「水銀燈、キヤンプに行かないか。」
彼女は無反応のまま別にどつちでも構わないと云つた。
もしかしたら彼女の態度が変はる契機に成るかもしれない。

直ぐ準備にかからう。

押し入れから道具やらを引き出す。飯ごう 水道 寝袋 云々
案外揃つてゐるものである。
彼女は腰を屈め不思議そうに見てゐる。初めて見たのだらう。
案外大荷物にはならなかつた。彼是全て詰め込む性格は遺伝しなかつたやうだ。必要最低限と云うやつだ。
明日の朝が待ち遠ほしい。
589久保竣公@匣の中の人形:2008/08/31(日) 00:27:12 ID:kC9jkiy7
目が覚めた。
外は晴れてゐた。
私は神に感謝しながら寝床をでた。時間は6時過ぎ。早起きの方だ。

箪笥からシヤツとズボンを出して着替へる。あ、顔を洗わなければ。
洗面所に向かう。
しかし先客がゐた。
「人形が鏡を見てはいけないかしら」
怒られて仕舞つた。

荷物の確認は済んだ。
さてと、後は水銀燈をだうするかだ。流石にそのままでは奇妙どころか下手をすれば警官とデヱトだ。
「私は鞄の中に入つて行くわ」
水銀燈がいきなり提案してきた。さふいへば彼女と私の心は繋がつてゐるとか云つてゐたな。

「済まないが頼む」
590久保竣公@匣の中の人形:2008/08/31(日) 23:32:16 ID:kC9jkiy7
結構な荷物だ。
背中に荷物
右手には鞄
左手には袋
運動不足気味の体にこたへる。
目的地は近所の山。だいたい4キロくらいだらうか。
詰まり1時間は歩くと云ふ事だ。
まだまだ日差しが強い。汗が滲みでる。




着いた。
予想より矢張時間がかかつたみたいだ。
鞄から水銀燈が出てきた。
開口一番
「全く…もう少し丁寧に運べないのかしら。お前は雑なのよ。」
お叱りのお言葉を頂戴した。
「ああ解つた解つた。」
生返事で返す。
水銀燈は ふん と云ふとまたあつちを向いて仕舞つた。扱い辛いものだ。珠には可愛い仕草でも見せれば良いのに。
ああさうだ。
アレを最近てにいれたのだつた。私が鞄を探ると出てきた。
水銀燈の大好きなくんくん人形。仕事の関係で出版社から貰つた物だ。
「ほら水銀燈、くんくんだぞ」
くんくんを水銀燈の頬に押し付けた。彼女の頬が紅ゐに染まつた。矢張目を合わせまいと頑張り乍ら手からくんくん人形を奪い取つた。まるで小動物。予想通りの反応。
591所謂普通のニート:2008/09/01(月) 06:01:26 ID:h+0fDUEZ
パソいじってたら昔書いたやつを見つけたので投下します。
話的にはトロイメントのその後です。サブタイトルまで付けて痛い限りですが、よろしければ御覧下さい。


カチッ…ボーンッボーンッボーンッ……

「ジュン君、今日は遅いわね」
「幾らなんでも遅すぎるです!」
「そうね、いつも夕飯までに帰ってきていたのに…」
 時計の針はたった今、午後の八時を過ぎた。だがジュンはまだ帰っていなかった。
 彼が対人恐怖症により登校拒否をして引き篭もっていたのはもう過去の事だ。今は休んだ分の遅れを取り戻す為、そしてより良く勉強をする為に町の図書館に通い詰めている。彼女たちもそれは理解しているつもりだ。しかし……
「これならまだ夜中にシコシコ勉強されている方がマシですぅ!」
「それは私も同感ね。本来私たちドールズとミーディアムは離れるべきではない存在よ。……ジュンにはもう一度その辺の事を再認識させる必要があるわね」
「そ〜です、その通りです真紅、帰ってきたら二人でチビ人間を調教するですぅ!!」
 変わりやすく、そして揺れやすい乙女心はそう簡単に制御できるモノではない。しかもジュンに対して素直になれない真紅と翠星石に心の制御など不可能の注文だろう。
「さぁ早く帰って来るですチビ人間。お仕置きの時間です、ひっひっひっ…」
「待ちなさい翠星石。その前に邪魔者を排除する必要がありそうね」
 エキサイトしつつある翠星石にそう言った真紅の表情が厳しいモノに変わった。そして睨む先にはのりがいる。
「えっ? わ、私??」
「のり、今すぐ自分の部屋に戻りなさい」
「で、でもぉ…」
「いいから急ぎなさい」
 いつになく強い口調で真紅が声を出した。のりは慌ててドアを開き自室へと向かう。そしてのりが階段を上がる音が聞こえなくなると、真紅は再びさっきまでのりがいた方向を睨んだ。
「? どうしたです真紅?」
「それで隠れてるつもりなの? いい加減出て来なさい」
「いやはや鋭いですね。お二人の日常をもう少し見物したかったのですが…」
 聞き覚えの声と共に、ニュース番組をしていたテレビの画面が真っ白に光る。
「Nのフィールド…それにこの声は…」
 予想通りテレビの画面から姿を現したのはタキシードを着た兎、ラプラスの魔だった。
「暫く振りですね、お嬢様方」
「また現れやがったですか、この性悪兎!」
「あれだけの事をしておいて……よく私たちの前に顔を出せたわね!」
「これは酷い言われよう、あれはローゼン殿が待ち望むアリス誕生の為、致し方無い事です。……まぁ、手段は選びませんでしたがね」
 笑いを抑え込むようにラプラスの魔は口元に手を当てた。しかし真紅たちにはその仕種、その言動の全てが一々癇に触る。
「スィドリーム!」
 自分の人工精霊に呼びかけ、翠星石は如雨露の取っ手を握る。そして家の中にいる事も忘れてラプラスに向かって突撃した。
「お前さえ…お前さえ余計な事をしなければ、誰もあんな辛い戦いをせずに済んだのです! 蒼星石も…雛苺も…ローザミスティカを失う事無く、今も笑っていられたのです!!」
 左右で色の違う瞳に涙を浮かべながら翠星石が庭師の如雨露を振るう。しかし、ラプラスはまるで攻撃が来る場所を知っているかのように、いとも簡単にそれを避けた。
「短気は損気、急いては事を仕損じると申しますよお嬢様方」
「余計なお世話よ。今度は何を企んでいるの」
「私に企みなど御座いませんよ。私はただ頼まれただけなのですから…」
「どう言う意味です!」
「私の言葉の意味を知りたければ後ろをご覧ください」
 目を離した隙に逃げるのではと疑いながら二人は後ろを見た。
 丁度その時、別の世界へ通じるNのフィールドが静かに開き、誰かが出てきた。
592所謂普通のニート:2008/09/01(月) 06:12:54 ID:h+0fDUEZ

「ば、薔薇水晶!!」
「…違うわ翠星石、あれは薔薇水晶じゃない……貴女は誰なの?」
「うふふ、初めましてお姉様方」
「彼女の名は雪華綺晶(きらきしょう)、正真正銘本物の第七ドールです。その証拠に彼女からローザミスティカの波動を感じるでしょう?」
 静かに目を閉じて、真紅は気配だけを感じてみる。
すると自分や翠星石と同じ波動を真の第七ドール雪華綺晶を名乗る者から感じとれる。

「本物…みたいね。目的はなんなの?」
「私の望みは自分の身体を持ち、アリスゲームに勝ってアリスになる事」
「身体を持つ?」
「実は彼女は自分の身体を持っていないのです。あの身体は貴方たちが以前出会った
 薔薇水晶の成れの果てにローザミスティカを入れただけの仮初めの器でしてね」
「私はローザミスティカだけの存在のまま、今までNのフィールドを彷徨っていたの。だから自分の身体が欲しい。本物のローゼンメイデンの身体が! アリスの器が!!」
 そう言って雪華綺晶は近くにいた翠星石に飛び掛った。
「こ、この身体は翠星石だけの物じゃないです。絶対に渡さんです!」
「その通りよ」
 雪華綺晶に向けた真紅の左手から植物の蔓が伸び、雪華綺晶の動きを封じた。
「…これは?」
「苺わだち…思い出と一緒に雛苺が私の中に残してくれた絆と言う名の能力(ちから)よ。ホーリエ!」
 右手を雪華綺晶に向けて、真紅は自分の人工精霊の名を叫ぶ。
 そして呼び出されたホーリエは体当たりをするが、雪華綺晶は大したダメージを受けていなかった。
「…弱い」
「それなら翠星石のも喰らうです、スィドリーム!」
「…無駄!」
 まだ自由の残っていた手を翳した雪華綺晶が、二人の人工精霊を弾き飛ばした。そして雪華綺晶は二人の気が逸れた隙に絡みついた蔓を引きちぎり身体の自由を取り戻した。
「…どうやら本気で戦う必要がありそうね。行くわよ翠星石!」
「合点承知です!」
 真紅は右手に愛用のステッキを握り、左手から出した花びらが雪華綺晶を囲んだ。その隙に翠星石が庭師の如雨露を振るおうとした時、ラプラスが間に割り込んだ。
「また邪魔をする気なの?」
「本日は彼女の顔見せが目的でしてね。少々名残惜しいのですが…今夜の所はこれにて終幕といたします」
「随分勝手な言い分ね。それで私が納得するとでも思ってるの?」
「お前みたいな性悪兎は二度と悪さが出来ないようにここで消えてもらうです!」
「あなた方二人のマスターの居場所を知っていると言ってもですか?」
「何ですって?」
 ラプラスが指を鳴らすと窓に公園と二人の人間が映し出された。どうやら以前雨が降ってきた時、翠星石が雨宿りしていた公園のようだ。
 最初は誰かと思ったが、目に映るシルエットで二人の謎はすぐに解けた。
「…ジュンと巴?」
「ほほぅ…これは中々良い雰囲気ではないですか。彼も隅には置けませんね」
「あ、あの二人は学校のクラスメイトよ。一緒にいても不思議はないわ」
「分かりませんよ? 例外もありますが男女とは本来互いに惹かれ合う存在なのですから。それにしてもこれは赴き深い。こんな時間の逢引は、まるでロミオとジュリエットを思わせる」
「ち、ち、ち、チビ人間めぇぇぇ!!!」
 映像を理解した瞬間、ついに溜まっていた翠星石の怒りが大爆発した。
 勉強には辞書が必要だし人に慣れる必要もあるから、と言ってジュンは連日家を空けていた。だから彼の未来を考えた二人は引き止める事をしなかったのだ。
 しかし、それを口実に家を出て勉強もせずに遊ぶなら話は別である。
「も、もう許さんです! 今日こそあの浮気者のチビ人間を血祭りにあげてやるです!!」
「落ち着きなさい翠星石。今はこっちの二人を…」
 しかし振り向いた時には、既にラプラスと雪華綺晶の姿はなかった。
593所謂普通のニート:2008/09/01(月) 06:21:56 ID:h+0fDUEZ
時は少し遡り、午後八時前―――

「柏葉、ミルクティーとポタージュ、どっちがいい?」
「ありがとう、じゃあポタージュ」
 公園のブランコに座っている巴にポタージュを渡し、ジュンは隣のブランコに座った。
「悪いな、こんな時間までつき合わせて」
「ううん、気にしないで。私もこの前あった事を詳しく聞きたかったから」
「…聞いてて気分の良い話じゃないぞ」
「それでも教えて欲しいの、雛苺や他のローゼンメイデンの子たちがどうなったのか……雛苺のミーディアムだった私には知る権利があるはずよ」
 ジュンは視線を月に向けたまま、自分が見た事をありのまま話した。第七ドールを語った偽者、薔薇水晶の事。その裏にいた槐と白崎の事。
 そして雛苺と蒼星石の二人は元に戻らず、ただの人形のままになっている事。
「残った二人は…どうしてるの?」
「…二人共平気そうにしてたけどな。たまに真紅は泣きそうな顔してるし……翠星石なんて夜に鞄の中で声を殺して…結局僕はあいつらに何もしてやれないんだ」
「…悲しいね。私だったら多分…」
 ふと、巴の言葉が途切れた。不審に思ってジュンが視線を戻すと、巴の頬を涙が伝っていた。
「お、お前まで泣く事ないだろ…」
「…ごめんね、桜田君も辛いのに…」
「べ、別に僕はなんとも……そ、それより頼んでた本、翻訳出来そうか?」
「まだもう少し掛かりそうなの。私には良く分からなかったけど何に使うの?」
「……それは…」
 少しの間、ジュンは言おうか言うまいか悩んだ。しかし手を貸して貰っている以上、話しておいた方が良いと判断した。
「…前に真紅の腕が水銀燈に千切られた時の事は話したよな」
「うん、教えてもらった。確か桜田君が腕を直したって…」
「その時水銀燈が言ったんだ。在り得ないって。それで気が付いたんだ。ローゼンがどれだけ凄い人形を作っても、やっぱり人間なんだって…」
「それって…どう言う事?」
「ローゼンが人間である以上、絶対に越えられない壁じゃ無いんだ。あの時はただの偶然だったけど、この先努力すればあの時と同じ事が出来る筈だ。余計なお世話って言われるだろうけど…僕は雛苺や蒼星石を元に戻してやりたい…」
 巴はいつになく強く決意を語るジュンに昔の面影を見た気がした。
「強いね、桜田君は…」
「…べ、別に強くなんてないよ。ただあいつらの泣き顔を見たくないだけなんだから…」
 ジュンは少し顔を赤くして照れていた。彼は褒められる事にあまり慣れていなかったのだ。さらに…
「また今度、桜田君の家に遊びに行ってもいいかな」
「え? あぁ、最近柏葉と会うのずっと図書館だったから随分会って無いもんな」
(…そんな意味で言ったんじゃなかったんだけどね)
「雛苺の奴、喜ぶだろうな」
「そ、そうだね…」
そう、彼はやたらと鈍かった……

「きぃ〜ッ、ちびちびの元ミーディアムめ〜! 真紅、どうするです?」
「そうね、放っておくわ」
「そうです、放っておくで…ええぇ〜! 一体どうしたです真紅」
「ジュンが先を見ている以上、私たちはジュンの人生に介入すべきではないわ」
「し、しかしそれではジュンをあの女に取られてしまうですよ」
「私は家来としての本分さえ弁えればそれで良いわ。帰るわよ、翠星石」
「帰るって…あっ、ちょっと待つです真紅」
 公園の隅に見えるカーブミラーが眩しく輝いて、Nのフィールドへの扉が開いた。
(ジュン、私は貴方に会えてよかった。私はマスターに恵まれたわ)
 静かに目を閉じて、真紅はうろ覚えのローゼンの面影に想いを馳せた。

おまけの次回予告 (次回予告の音楽を聞きながら脳内変換してください)

「本当に…成長したわねジュン。それでこそ私のミーディアムよ」
「ちょっと待つです。ジュンは翠星石のミーディアムです」
「後から来た貴女は黙ってなさい。こう言うのは早い者勝ちなのよ」
「きぃー、こうなったらジュンに決めてもらうです。さぁ、どっちを選ぶです」
「い、いきなりそんな話を振るなよ。急に言われたってこんな事決められるわけが…」
「やっぱりチビ人間は優柔不断です」
「成長したと思ったのは私の勘違いだったみたいね」
「お、お前らなぁ……」
「次回、ローゼンメイデン ラストワルツ…『決意』。薔薇乙女の誇りに掛けて…」
                           ラストワルツ第1話「日常」 糸冬
594所謂普通のニート:2008/09/01(月) 06:27:28 ID:h+0fDUEZ
とりあえず第一話を投下です。
残りはまだ書きかけのまま放ったらかしなので、完成したらまた投下します。

読んだ人が不快に思わないのであればの話ですが……
595名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:11:10 ID:DX9viqan
予告でニヤついてる俺きめえwww乙
596名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:28:34 ID:NTvkbDM0
だからこのスレから離れられないんだって。良作の予感。
完成してから就職してくれ。頼む!
597名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 07:25:16 ID:kRXlblE7
一応関連するだろうから紹介しておく

創作発表板(エロなしの二次創作ができる新板)にあるスレ


−Rozen Meiden− ローゼンメイデン
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220167635/
598久保竣公@匣の中の人形:2008/09/02(火) 23:36:41 ID:hEMWXA5f
非日常の生活は新鮮である。
空気が違へば気分も違ふ。
真に快活である。
荷物を放り出し、服を緩めて草の布団に横たわつた。
春眠暁を覚へずと誰かが云つてゐたが
秋眠暁を覚へずと書き直すべきだらう。
まだお昼であるからシヱスタといかうではないか。

そして私は秋のそよ風に眠りを誘はれて夢の世界に足を踏み入れた。

599久保竣公@匣の中の人形:2008/09/02(火) 23:37:48 ID:hEMWXA5f
私は今何をしてゐる?
私は今何をすべき?
自問の日々を送る。
真紅のこと
アリスゲヱムのこと
お父さまのこと
私はその為に今まで闘つて来たが今はだうだらう。
三文文士のミヰデヰアムと無駄な日々を過ごしてゐる。
このままではだめだ
そうなのだけど…
最近は彼と居るのが楽しくなつて仕舞つた。初めて満たされる感覚を味わつた。
そして彼は私の隣で寝てゐる。
何故か私までも眠たくなつた。
いつもは鞄でしか寝ないと思うのだが
今日は彼と一緒に寝てみたくなつた。
600久保竣公@匣の中の人形:2008/09/02(火) 23:40:52 ID:hEMWXA5f
結構続いて仕舞ったですね…
SSスレッドが沢山有り過ぎて困惑気味です。
住人さん読者さんは居られるでしょうか。個人的には読者さんの感想励まし等々を頂けたら創作の励みになると思います。
601名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 23:49:36 ID:FbplZzKy
全体だうコメントしろと云はれるのですか
602384:2008/09/03(水) 02:22:18 ID:aHm4oMue
こんばんは。
数ヶ月ほど前に、書きたいSSの協力者がほしいということで書き込みした、
384です。

今書いてるSSは「アリスゲームが終わったら」というタイトルですが、
今回は前作のRozenMaidenLatztRegierenに加え、別スレで創作を書かれている
「水晶の星空」というタイトルのSSのお人に協力をもらって、
二人でSSを(メールでやりくりなどしながら)創作してます。

SSの完成はまだだいぶ先になっちゃいそうですが、どういう話になるかは
ちょっとまとまってきた感じなので、今回本編投下に先駆けてだいたいの
話の流れだけ紹介するプロモーション短編SSをつくってみました…!
よかったら読んでみてくださいね。
まあ、実を言うと完成そのものが疑わしいからせめて先にプロモだけでも…!
という気持ちで書いたのですが。


ところがスレの残り容量が7kbしかない……!これじゃ投下しきれん!
ということで、SS総合スレのほうを借りました。

http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1164813753/l50

>223あたりからはじまってます。
603384:2008/09/03(水) 02:40:43 ID:aHm4oMue
あっ。それから、>390さん、メール一通送りました。
604所謂普通のニート:2008/09/03(水) 23:29:57 ID:Uu6eYUQM
>595様
 私自身、読み返してニヤリとしてしまいました

>596様
 就職の予定は無いのでご安心を(ダメニンゲンWWW
 ただ完結まで書けずに終わる可能性があるので、その時は平にご容赦を
>597様
 ありがとうございます。
 自分はスレの立て方を知らないので助かりました。
 第二話以降はそちらのスレに投下させていただきます。
605名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 23:39:06 ID:MCPd5VNG
>>600
住人であり、読者です。総合から来ました。
多分ROMが多いのではないかと。
終わりまで期待しておりますので頑張って下さい。
606久保竣公@匣の中の人形
やっぱりここが一番かしら。

辺りはすつかり日が暮れた。
意外に気温が低くて目が覚めた。起き上がる気はせず空を眺めてゐる。夜の帳が降りやうとしてゐる空に夕星を求めたが見つけず仕舞ひだ。
矢張起き上がる事にした。
手が何かに触れた。
水銀燈だつた。
彼女は未だ寝てゐた。
嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な気持だ。
荷物の中からタヲルを取り出して水銀燈に被せてあげた。
風邪をひくぞと小声で囁き乍ら。
さて、飯でも作るか。