9 :
牛歩戦術 :
04/02/11 02:03 ID:/n2YdsnO Wonder neighbor 1. Let’s cook 「もう昼か・・・。」掃除機を押入れにしまい、椅子に座って時計に目をやった。 12時。今日は講義がないから、特にすることもない。暇だ。 “俺”はただの大学生。普通に大学行って、適当に遊んで、普通の生活を送っている。 ただ一点をのぞいては・・・。そのせいで俺はサークルにも入れないでいた。それは あまりにも突然訪れる。あの日あの時あの場所なんて限定は全くなく、24時間体勢で 俺を襲う。 ピンポーン♪ どうやら来たようだ。玄関へ向け足を進める。 ガチャッ。 ドアは向き質な音を立てて開いた。 「勝手に入るなー!!!」大声を上げたが、石川はびくりともせずに平然とした 表情をしている。あれ?と俺が悩んでいると石川は耳から耳栓を抜き、 「ジャジャーン。」 「ジャジャーンじゃないよ!」更に石川は合鍵までかざしてみせた。うそーん。 「ご飯。」 「はい。」 「愛がないよぉ〜!!!」渡されたカップ麺とタイマーを持ちながら石川は泣いた。 「人の家で好き放題のりかっちのほうが愛がないよ。」俺がそれだけ言うと、石川は 目をウルウルさせて俺をじっと見た。俺は慌てて焼きそばを上に乗っける。 「ひど〜い。もういらない。」石川はクルッと後ろを向くと、ゆ〜っくりと一歩だけ 足を前に出した。ただ見てるだけの俺。石川は振り返り、言った。 「本当に行くよ?」
10分後 現在の進行状況、(3歩−2歩)×2 「・・・・分かった。作るから。」その一言を聞いた瞬間石川の表情は満面の笑みへと移り変わった。 凄い勢いでソファに座り、勝手にテレビの電源をつける。 「みのさんって、結局怒って適当にまとめて終わりで相談になってないよねぇ。間違いない!!」 なんなんだその変わり身の早さ・・・。俺は仕方なく台所へ向かって料理を作り始めた。今日は何にしようかな〜? 暫くして出来上がると、 ガチャッ。 「また勝手に入ってきた奴がいるー!!」俺は心の中で絶叫した。辻だった。 「美味しそうな匂いれす〜。」なんでここ3階なのに・・・辻は1階に住んでるのに・・。そういえば鍵掛けてなかったか。 「あ、ののあがって。狭苦しいところだけど。」石川が言うと辻もソファに座りテレビを見始める。もういいよ・・・。 最近人生諦めも肝心だと悟った。実を言うとしっかり3人分作っておいたのだ。
11 :
名づけ下手 :04/02/11 02:06 ID:/n2YdsnO
「今日は海砂利水魚か〜。」おなじみのネタにももう飽きた。クリームシチューを見ると、 石川は必ずこうコメントするのだ。カレーはミスターポポ、うどんは中村獅童、パスタは タンポポ。暫く談笑しながらクリームシチューを少しずつ平らげてゆく。残り3分の1 ぐらいのところで俺は口を開いた。 「で、今日は食べに来ただけ?」 「ううん。8:2でご飯だけど・・・。」石川は残りを全て口に運び、落ち着いたところで 改めて話した。 「お仕事。」 「今回は誰?」 「ごっちん。」 「ごっちんか・・・・。用件は?」 「横にいるよ。」 「へ?」
12 :
75点 :04/02/11 02:07 ID:/n2YdsnO
俺は言われるがままに横を向いた。横を向くと後藤が俺のクリームシチューの残りを全部食べていた。 「うぃ。」 「え!?」また勝手に入られた。大丈夫か?俺の家。 「このクリームシチュー、まあまあじゃん?」後藤はあっという間に俺のクリームシチューを、俺の、俺の!!!(以下略) 「じゃあ部屋来て。」なんだか一方的にペースに流されている気がする。俺は満たされないお腹をさすりつつ、 同じ階の後藤の部屋へと向かった。 部屋に入ると、俺は聞いた。 「んで、どうしたのごっちん。」後藤はエプロンを着ながら答えた。 「あのね、ちょっと食べて欲しいものがあるんだけど。」え?もしかして?? 「今度彼氏の誕生日で、料理作る事になったんだけど。」あ、やっぱそんなもんか人生。 「正直な感想を教えてね。」 「はい。」これが俺の”仕事”だった。俺がこの仕事を始める事になったのは、ほんの偶然からだった。
「値段だけあって広いなここ。」俺は大学入学と同時に高校時代からバイトでこつこつためた金と親の仕送りで一人暮らしを始めた。 その時点でかなりの金が貯まっていた俺は、部屋ぐらいいいところに住もうと少し奮発した。そして引っ越ししてきた翌日、挨拶に お隣さんのチャイムを鳴らした。 ピンポーン♪ 「はーい。」ん?嫌に声高いな・・・。アニメっぽいっていうか・・・。 ガチャッ 「え?」俺は一瞬硬直して、動けなくなった。向こうはそんな俺を見て微笑んでいる。石川梨華だ!!! 「あ、あの・・・引越しして来たので今後ともどうぞよろしくお願いします。」緊張する俺に石川は微笑みながら答えた。 「はい。」 「で、これ。パンを作ったんでよかったらどうぞ。」高校時代付き合っていた彼女に料理を叩き込まれていたため、俺は結構料理には 自信があった。石川はパンを見ると一口、目の前で食べてくれた。 「ほふぃふぃ〜!!!」食べ終わる前に少し驚いたような表情で石川は言った。 「すごいですね〜、今度教えてくれませんか?」ありがとう、元カノ!!お前の事は覚えている限りは忘れない!!
それから俺は夢のような日々を送った。毎日向こうの仕事が終わった後、料理の指導をする事になったのだ。 そして親しくなってくると、石川は言った。 「引越しの挨拶って、ほかにどこ行ったの?」 「隣の二部屋だけだけど?」 「あ〜、じゃあ知らないかぁ。」 「?」 「あのね、ここのマンション、「娘。」と卒業生、合わせて11人住んでるの。」 「11人?!」これには流石に驚いた。石川だけでなくあと10人も!? 「お仕事行くときの待ち合わせに便利だからぁ、同じにしたの!相部屋もいるけどネ。」ニコニコしながら言う石川。 俺の口元も当然緩みっぱなしだった。 料理を一通り教えた頃、石川は俺に言った。 「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」 「うん。あったの?」 「うん。明日連れてってあげる。」
「え?ここって。」彼女たちの事務所。え?ここでお茶くみでもするの?俺はそのまま事務所の奥へと進められた。するとそこには・・・つんくさん?! 「おお、石川、こいつか?バイト探しとるっちゅうやつは。」 「はい、適任だと思います。」あの〜、話が進んでますけど。 「せや、座れや。」俺は言われるがままに座る。 「お前さんに頼みたい仕事は、まあ、なんちゅうのかな、「子供悩み相談電話」、しっとる?」 「はい。」 「あれの「娘。」版をやってもらいたいんや。名づけて『娘。悩み相談』」 「はい?」唐突な話に、俺は少しついていけないでいた。 「やっぱ、芸能界っちゅう場所におると、嫌でもストレスは溜まる溜まる。悩みの種だっていくらでもあるんですわ。 そこでいくら話しても芸能界に全く影響のでえへん素人に悩みを聞いたもらえたらええんちゃうか?思うて探しとったんやけど、 石川がお前ならええんちゃうか言うてな。」一気に説明される。 「はぁ。」 「バイトやけど、自給とかにすると収入が安定せえへんやろ、せやから月給の代わりに、こんなもんでどないやろか?」 目の前に提示された金額は自分の想像を遥かに超える額。モー娘。の悩みを聞いて、お金を貰う?しかもこんなに!美味しすぎる!! 「マンションの範囲だけでかまへんから。」 「やります!!」 「よっしゃ、この契約書にサイン。」俺はテンションが上がりまくっていたため全く契約書を読まずにサインした。そしてサインしたあとに気がつく。 「24時間体勢で悩み相談電話で受付。たとえ夜中であろうがたたき起こされて話を聞く、拒否権はない」・・・・・割が合わないかも・・・。
16 :
パンチ佐藤 :04/02/11 02:13 ID:/n2YdsnO
まず最初に出てきた料理はミネストローネ。ああ、今日の仕事は楽そうだな〜。ただ後藤が目を細めている気になる。 あの〜、本音聞きたいんじゃ?まあまずい事もないだろう。俺はスプーンでスープを拾い上げ、一気に口に入れた。 「!!!」こ、これは・・・。 ガタッ。 俺は立ち上がり、トイレに向かって体を動かした。後藤がそれに素早く反応して壁となる。 「ちょっとトイレ。」 「感想。」左・左、右・右、下・下、上(?)・上。隙間を通ろうとするもことごとく阻まれてしまった。 やばい・・・・キテル・・・。俺は声を絞り出した。 「さ・・・・・砂糖?」 「あ。」俺はふらっとした後藤の横を急いで駆け抜けた。なんてベタなんだ・・・。塩じゃないだけに始末が悪い・・・。 トイレから戻ってくると、後藤は再びミネストローネを作り始めていた。しばらく爽快な気分で料理の完成を待つ。
17 :
隠し味 :04/02/11 02:14 ID:/n2YdsnO
「はい。」リベンジマッチ。さて、今度はどうか・・・。俺は慎重に一口、二口と口に入れた。 「?」なんか変だぞ?おかしいので一気に飲み干す。 「!!!!!」ま・・・・マサカ・・・・。 「これ・・・・どこの水使った・・・?」後藤はボウルを俺の目の前に置いた。 「これだけど・・・・。え?!あ!!ぞうきんしぼ」全部聞き終わる前に俺はトイレにダイビングヘッド。 次に出てきたのは後藤お得意の創作料理。今回はトーストに納豆を乗せたものだった。後藤は電子レンジに入れ、時間をセットすると、 イスに座った。うとうとしている。また嫌な予感がしてきた・・・。 「・・・時間間違ってない?」いつまでたってもできないので俺は後藤に聞いた。 「へ?」後藤は慌てて目を開けた。俺は後藤が立ち上がる前に電子レンジの元に向かった。 「あ、黒。」俺は急いで電子レンジを切り、トーストを取り出した。後藤が食い入るように見ている。・・・食べたほうが良さそうだ。 契約書の文字が頭をよぎる。『拒否権はない』 パクッ。 あ、なんだろこの感じ。あ、そういや俺猫舌・・・。納豆が下の上でどろどろ溶けてく。でもって苦い・・・。なんで? バタッ!!! 「大丈夫?!」俺はかろうじて納豆を全て飲み込み、完全に火傷した舌を頑張ってまわした。 「・・・・・寝たら?」 「え。」
18 :
試食タイム :04/02/11 02:16 ID:/n2YdsnO
「さっきからフラフラしてるし、瞼重そうだし・・・。寝不足で力ちゃんと出せてないでしょ。」 「・・・すごいね。分かっちゃうなんて流石だよ。じゃあお言葉に甘えて、寝る。」後藤はそれだけ言うと、ソファの上で目を閉じた。 どうやらさっき電子レンジをセットしてから、自分がうとうとしていることにさえ気がつかないほど眠かったようだ。よほど疲れてるんだな。 俺は自分の着ていたコートを脱ぎ、後藤の上にそっとかけた。 すっかり目が覚めた後藤の作った料理は抜群で、俺は思わずうなってしまった。すると匂いにつられて石川と辻が再び現れた。 「美味しそうぉ〜。さすがごっちん。」石川が鍵をくるくる回しながら部屋の奥へと入ってくる。 「鍵、何本持ってるの?」 「料理上手い人の家だけ。」だけ、って・・・。4人で食卓を囲み、軽い試食会を行った。 「おいしいれす〜。これならいくられもいけます〜。」ミネストローネがどんどん辻の胃の中に納まってゆく。あれ? 昔体重関係の悩み俺に相談してこなかった?俺の視線なんてお構いなしにトーストも一気にがっついてゆく辻。 もしかしたら俺が成長期で一番食べた時期よりも食べているかもしれない。
19 :
姐御 :04/02/11 02:17 ID:/n2YdsnO
「今日はありがとう。」後藤は軽くおじぎをした。 「いやいや。」石川がニコニコしながらお辞儀し返す。食べるだけ食べて・・・。 「じゃあまたいつか。」俺は3つ先の部屋へと戻り、中に入った。鍵をちゃんとかけ、チェーンをつけた。そして台所へ行き、片付けていなかった さっきのクリームシチューを片付けようとした。 「あれ?」皿は全部しっかり洗われて、きっちりしまわれている。 コンコンッ。 「・・・・・・?!」ベランダで石川が手を振ってこっちを見ている。それを見た瞬間俺は体を180度回転、玄関へと視線を移した。既にドアが開けられている。 「う゛〜、通れないれす〜。」しかも辻が必死に入ろうとしている・・・。俺は玄関に行った。辻が嬉しそうな顔をする。 バタンッ!! ガチャッ 「!?」 ドンドンドン!!! ドアを叩く音なんてお構いなしに今度はカーテンを閉めた。更に窓を叩く音。俺は耳栓をしてソファの上に寝転がった。 ブーン。 携帯が震える。耳栓を外し、電話に出た。 「うっさいわぼけー!!!!」いきなりの大声に、俺はソファから思いっきり跳ね上がってしまった。 「ね、姐さん!!!!」電話の主は中澤だった。 「何やっとんねんワレ。ベランダに石川出して、放置プレーか?」おれは慌ててカーテンを開き、窓を開けベランダに出た。石川が明らかに機嫌の悪そうな顔をしている。 俺は上を向くと姐さんがこっちを睨み付けてきた。 「次また石川をいじめたら、クビやぞ。」ドスの効いた声に俺はただ、 「はい・・・。としか言えなかった。何これ、集団いじめ? 石川と辻を部屋に入れ、俺は言った。 「で、何?」二人は同時に答えた。 『おなか空いた』 続く?
20 :
えっと :04/02/11 02:19 ID:/n2YdsnO
駄文スマソ。 もし呼んだ人がいたら一言、「つまんなくてすんません。」 ないと思うけど少しでもいい反応があったら続く。
おー俺の立てた糞スレ有効利用してもらえてうれしいです 狼の習性で長文は苦手なんで流し読み+人をほめるのができないんで 悪いんだが ところどころ誰が話してるのかわかりにくい気がする でも続き読みたいんでどんどん書いて下さい
22 :
えっと :04/02/11 15:51 ID:/n2YdsnO
誰からも反応なくて終わりかと思いました(汗) 読みたいといってくれる人がいて本当に嬉しい限りです。 頑張って書いていきます。今夜には頑張ってうpします
sageで羊でこのスレタイだとあんま人来ないよw 気長に待ちな
24 :
えっと :04/02/11 20:34 ID:/n2YdsnO
一人でもいてくれたら充分ですw
このスレに先に目をつける人間がいるなんて…。 俺もノッとて小説書こうと思ってた。そういうわけで応援する
小説総合スレッドで更新情報を掲載させて頂きたいのですが、 できましたら、正式なタイトルなどありましたら、教えていただけませんか?
27 :
えっと :04/02/11 23:31 ID:/n2YdsnO
>>26 マジですか。
一応「Wonder neighbor」って名前です。
28 :
えっと :04/02/11 23:33 ID:/n2YdsnO
>>25 どうもです。いつ終わるか分からないけど俺が終わったら
自由に使ってください。
29 :
えっと :04/02/11 23:35 ID:/n2YdsnO
2 別れさせ屋 今日の講義は午後からだったので、俺は12時頃に目を覚ました。着替え、簡単なブランチを済ませるとテレビをつける。 ちょうどサングラスをかけたおじさんがボケをかましていた。周りが適当に笑ったところでゲストの紹介。 「あ。そういや今日か。」石川と飯田が(飯田は面識ないが)ゲストとして出演していた。いつも通りボーっとその画面を見る。 やっぱ可愛い・・・。普段喋ったりしてると大して感じないが、やっぱり彼女はアイドルなのだ。そんな石川を見ていて、 俺はふと思いついた。 「ワンギったれ。」携帯持ってたら面白いけど・・・。まさかね。仕事中だし。 石川はちょうど文字をボードに書き込んでいた。しかし突然手の動きが止まり、ペンを置くと手を下へ下げた。 持ってるよ・・・。面白くなったので日ごろの仕返しと言わんばかりに何回かした。 「あ、そろそろ行かなきゃ。」石川の出演が終わった頃、俺は家を出た。
階段教室で講義中・・・。 ブーン。 ブーン。 ブーン。 やるんじゃなかった・・・。向こうはこっちに仕事の電話をしやすいように、俺の大学のスケジュールを大体把握していた。 それを利用して授業中に延々とワン切りしてきている。しかも複数人で。 「今度はこいつか・・・。」と言った感じでいろんな人からワン切りを受ける。そろそろ誤りの電話でもするべきだろうか? いや、そんなことをしてるようでは・・・。馬鹿みたいな葛藤が続く。 「あ、着暦全部埋まった。」そりゃそうだろう。こんだけの人数でやってくるのだから。向こうは別に復讐とかじゃなくて、 遊びでやっているのはわかるが、ちょっとタチが悪いぞこれ。 ブーーーーン。 今までかけてこなかった人から電話が来た。また一人増えたのか・・・。 ブーーーーン。 しかしそれはどうやらワン切りではなさそうだ。俺は幸い一番後ろの席だったので、椅子の下に隠れて電話に出た。
「仕事の話、だよね?」俺の問いに、矢口は答えた。 「うん。今から部屋行っていい?」 「行ってもいいけど、今大学で講義受けてるから、ちょっと待ってくれない?」 「やだ。今すぐ帰ってきて。」やだって・・・。あ、そういえば俺拒否権ないんだっけ。 「・・・分かった。」とりあえず相談の電話を入れてくる子は全員俺のスケジュールを把握している。しかしこのように拒否権がないのをいいことに、 自分の好きなタイミングで呼び出す子も少なくない。特に同い年の矢口は気を使ったりはまずしなかった。 「帰る。」横にいた友達にそう言うと、友達は言った。 「お前単位やばくない?」俺ははっとしたが、 「なんとかなるさ。」おそらくこのときの俺の表情は諦めに近いものだったに違いない。 こんな事考えてもしょうがないがこのバイト、果たして割に合っているのかどうか、たまに考える事がある。何お前贅沢なこと言っているんだという人は 山ほどいるだろう。でも実際にこの仕事をやったら、きっと悲鳴を上げるに違いない。バイトなのに、自分の生活を捧げなくてはならないのだ。 例え遊んでいるときでも、電話一本で梗塞されてしまう。そのため大学は入って2年間、告白されても全部断ざるをえなかった。(といってもほんの数回だけれど) 俺は講師に一言断ると、そのまま教室をあとにした。
ガチャッ。 「おかえり〜。」 「ただいま〜って、え゛―?!」反射的にただいまと言ったが、なんで矢口、中にいるの? 「石川に借りた。」 「あ、そう・・・。」平然と言う矢口。俺はただ呆れるしかなかった。 「今日の仕事の内容は?」 「キャハハハ。」矢口はテレビを見て笑っている。あの〜、ちょっと? 「おーい。」 「え?ああ今日はね、ちょっと厳しいかも知んないけど、おいらちょっと、別れたくてさ。」 「は?別れたい?」 「そ。だから新しい彼のフリして。」新手だ。今までそんな相談なかったぞ。(あってたまるか)大体、子供相談室の変形なのに・・・。でも、 「ということは、いつもより?」俺が言うと、矢口は答えた。 「うん、ボーナスは入るよ。」や・る・し・か・な・い!(拒否権ないけど) 「じゃあ、明日午前11時に部屋来るから。」打ち合わせを終えた後、矢口はそう言って帰っていった。とりあえず、打ち合わせ通りの服を買いに行かねば・・・。
「これいいよぉ〜。あ、これも!」こいつに頼んだのは間違いだったのだろうか・・・。石川はたくさんの服を目の前に興奮気味に俺に渡してきた。 「そんなに騒いだらバレねぇ?」 「大丈夫大丈夫〜。」深々と帽子を被った10代の女の子がハイテンションで騒いでる。それだけで充分注目を浴びてしまうのに石川はまるで気にしていないようだ。 まあ石川がこんなテンションでこの場所にいるなんて、誰も夢にも思わないだろう。 「付き合ってるわけでもないのにそう言う風に書かれたら迷惑じゃん?」俺が気を使っても、石川は全然気にしていないようだった。 「だから大丈夫だよ〜。」服を渡されたところで俺は思い出したように言った。 「そういえばさ、報復(ワン切り返し)されたけど仕事中に携帯持ってるりかっちも非がない?」石川は服を増やして俺に渡した。 「控室に置いて行くの忘れたの。でも何回も、何回も、してこなくたっていいじゃない?」 あ、やばい、ちょっと怒ってる。つみあがってゆく服を見て俺は思った。 「じゃあこれ着てみて。」石川にたくさんの服を渡され、試着室に入る。にしても矢口はなんでこんな格好をさせようって言うんだろう。着替え終わり、 鏡に写る男を見ていると、石川が突然言った。 「3秒前〜」え?何カウントダウンしてんですかこの人。 「2・1・ほいっ!!」カーテンが開き、俺の視界は一気に開けた。なんか若干名こっちを見ている。その表情を見て俺は思った。 「マジでこれやるの?」
翌日、矢口と一緒に矢口の彼氏に指定した喫茶店へと向かった。矢口が俺を見て最初の感想は、 「キャハハハ!いいいい!!いける!!」確かにいけるだろう。でもなんかやなだ〜この格好。とりあえず俺は袋に服を入れた。 「じゃあ一言目は打ち合わせ通りね。」喫茶店への道のりで矢口は言った。本当に言うの?でも拒否権のない俺は従う他なかった。 「なんか目茶目茶バカみたいなんだけど。」 「えー、そんなことないよ。」矢口はテンションが下がる一方の俺を見てまた少し笑う。これを見ていい!いい!言う石川の気が知れてる。てかなんでこんなもん 売ってるんだよ・・・。 喫茶店の目の前まで着くと、矢口の彼氏はもう既に到着していた。ガラス越しに顔が見える。 「そういえばあいつだっけ。」俺は思い出すようにつぶやいた。この仕事の特権とでも言おうか、マンションにいるメンバーが誰と付き合っているかどうか、 全員教えてもらう権利を持っている。もちろんフリーの子もいるわけで、石川も今はそのうちの一人だった。 「行こう。」矢口の一言とともに俺達は喫茶店の中へ入った。物凄く恥ずかしい気持ちを抑えて。
35 :
生き恥 :04/02/11 23:46 ID:/n2YdsnO
店内に入ると、俺はすぐにトイレで着替えた。そして矢口と合流すると、やはり笑われた。そして周りが物凄い目でこっちを見てくる。 俺達は他の客と目を合わせないようにして、矢口の彼の席に座った。 「誰?」矢口彼は俺を見て物凄い不振な眼で見ている。無理もない。俺だって彼の立場なら、凄い目で見るだろう。 「あんたと別れたいの。このディアスと付き合うから。」俺を見て言う矢口。 「ボンジョルノォォォ♪」手に持つアコーディオンの間抜けな音色とともに俺は挨拶をした。 「バカ?」 ザクッ。 早速俺の胸をえぐるような一言。カウボーイハット、腕によく分からないひらひらをつけてジーンズは穴だらけ、サンダル。手にはアコーディオン。 顔はガングロにメイク。そして挨拶に「ボンジョルノォォォ♪」バカ以外にどう表現しろというのか。いくらなんでも石川やりすぎ・・・。 「真里トォォ、別レテェ、コレマスンカァ?」打ち合わせ通り片言の日本語で話す。その度にアコーディオンを鳴らすのも忘れずに。ああ、死にたい・・・。 矢口彼はそんな俺を見て、口を開いた。
36 :
合体悪口 :04/02/11 23:47 ID:/n2YdsnO
「お前誰だよキモカス。」キ・・・キモカス・・・。なんか物凄い言われをして俺はひどくショックを受けた。 「そうよあんたはキモカスに負けたのよ!」キモカス・・・。 「なんで俺がこんなキモカスに!!」 「うるさいわねぇキモカスのほうがあんたより」 「キモカスキモカスうるせぇぇ!!!」俺は思わず叫んだ。しかし、 『黙れキモカス。』矢口と彼は同時に叫んだ。 「・・・はい。」泣きそうになりながら下を向いて黙る。俺が黙ると二人はますます拍車がかかったようにもめ出した。凄い勢いで口論が展開してゆく。 あまりにも熱中しすぎて、俺が変装を解いたのにも気がついていないようだった。しばらくして俺は気がついた。そういえば俺の仕事は、二人を別れさせる事だっけ・・・。 俺は口を開いた。 「あの〜・・・。」俺に対する矢口彼の一言は、 「なんだよカス。」『キモ』が消え、『カス』の言葉の重みが増す。キモカスよりダメージが大きかった。なんとか口を開けて続けた。 「けんかするほど仲がいいという言葉もありますし、やり直してみては?」 『誰がこんな奴と!!!!』二人同時に俺を鬼気迫る表情で叫んだ。 「じゃあ、別れるで、決まりですね。」
「すごい切り替えしだったね。びっくりしたよ。」 「まあね。大分心と身体が傷ついたけど。」俺はびしょぬれになったコートを見る。あーあ、全部終わってから着替えるべきだった。にしても途中で 着替えたのに二人とも気がつかないほどに口論しているのにはびびった。てか結局あの変装全然必要なかったような。 「別れ際に水かけて一発って、女がやるもんだと思ってた。」俺が言うと、矢口はまた笑った。そして矢口はハンカチを取り出すと、俺の服を拭いた。 「ありがと。」俺は少し口元を緩ませた。意外に優しかったりするんだよな。同い年とは思えないくらいしっかりしてるし。 「じゃあお昼ご飯、おいらがおごっちゃる!」 「マジで?久々じゃん。」自然な笑顔で矢口は答えた。 「同い年のよしみだよ。」俺達はそのまま焼肉屋へと向かった。 「あ。」突然矢口は気がついたように足を止めて言った。 「皆も呼ぼうか?」 「そうだね。」何人呼ぶ気だ?
「あの〜。」 「時間がないからとにかく食べて!!!」矢口は話す暇を与えてくれない。苦しいんですが?それでも目の前の皿は全然減らない。 「あと10分、頑張れ〜。」後藤は無表情で自分はゆっくり食べながら言った。なんで? 「おごりって言ってたじゃん!!!」俺の一言にも、矢口は耳を貸す気はないようだ。 『30分以内に5人前1人で食べきったらタダ(失敗の際は料金きっちり頂きます)』まさかこれに挑戦する破目になるとは・・・。 「まあ食べきったらおごりだよ。」矢口の一言はつまり、食べ切れなかったら自腹を意味する。5人前。 「あと8分〜。」石川がニコニコしながら言う。 「やっば!!」慌てて口に詰め込む。しかし肉はそう簡単には減ってくれない。苦しんでいると徐々に時間が迫ってきた。 「ご馳走様〜。」横で同じチャレンジに挑戦していた辻が余裕たっぷりの表情で完食。 「うそぉぉ?!」 「驚いてる時間はないよ、あと3分。」後藤は矢口のビールをひゅっと拾い上げ飲んだ。俺も飲みたいけどそんな時間もない。 とりあえず焼肉以外のものを口に入れる暇も余裕もなかった。
「はぁ・・・・はぁ・・・。」なんとかギリギリ食べ終わった俺は、そのままぐったりと壁に寄りかかった。矢口は俺を見て、言った。 「もっかい行く?」 「え?!」 「冗談冗談、キャハハ!!」酔ってますます矢口は饒舌になっていた。俺はそれについてコメントする余裕もなくボーっと天井を見た。 焼肉から立ち込める煙が穴に吸いこまれてゆく。なんだか自分と少し似ている気がした。 横を見ると辻が本当にまたチャレンジを開始していた。さっき全く変わらぬ速さで食べて行く。皆びっくりして辻を見た。 辻は食べる事の喜びをかみしめるように食べてゆく。 「ごちそうさま〜!」笑顔で余裕の完食。 「恐ろしや・・・。」こいつの胃はまぎれもなく宇宙のようだ。 続く
40 :
えっと :04/02/12 00:01 ID:JTx+udE/
2話終わりです。 3話考えなきゃ。明日学校で考えるか。 部活やってるんでなかなか書けないかもしれませんがなるべく 頑張って更新していきたいと思います。(火曜は学校が休みでした)
狼からまたきましたよー更新乙 なんか萌えますな 気になったんだが改行ちょっと変じゃない? うまく改行すればすごく読みやすくなると思うよ 狩狩の職人とか参考にするといいよ 一読者の意見でした。楽しみにしてるんで頑張ってください
話のテンポがいいからおもしろかった 当分落ちないからがんがれー
43 :
えっと :04/02/12 19:22 ID:JTx+udE/
>>41 改行難しいんですよね、どのくらいですればいいのか分からなくて。
次は統一してみます。ある理由があってなるべく今日中に3話仕上げ
たいんでがんがります。
連投ごめん
>>43 自分なりのルール決めてみれば?
おせっかいだったらスマソ
46 :
えっと :04/02/12 21:30 ID:JTx+udE/
>>45 ルールですか。なんだか他の作者さんの作品を見てみると、
1文で改行している人が多いからそれがいいのかな?と
思ってはいるのですが、短い文も多いんでなかなか・・・。
とりあえず頑張ります。
47 :
えっと :04/02/12 23:11 ID:JTx+udE/
今回ちょっとチャレンジをしてみました。 主人公と石川、視点が何度か入れ替わりますので、 ☆=主人公 ★=石川 名前の欄につけますので、よろしくお願いします。
3. fever 「頭痛・・・・・。」 朝起きると、身体がだるい事に気がついた。額に手を当ててみる。 ・・・熱いかもしれない。何とか起き上がると、体温計を探した。 「あれ?ここに入れてたはずなんだけどな〜・・・。」 棚を開けて探してみるもなかなか見つからない。 「捜し物は何ですか〜♪」 聞きなれた声が聞こえてきた。 「体温計。」 「見つけにくいものですか〜♪」 その声は尚も歌い続ける。 「だから体温計だって。」 振り返ると、やはり石川が歌っていた。もう勝手に家に上がられることは諦めた。 でも今日はあまり来て欲しくなかった・・・。 「たんすの中も 棚の中も 探したけれど見つからないのよ♪」 石川はその手に体温計をかざして見せた。 「何で持ってんの?!」 声を張り上げてツッコミを入れると、頭に激痛が走った。 「頭痛―・・・。」
「38度7分。」 結構な高熱だった。これではバイトは出来そうにない。 俺はとりあえず言った。 「ちょっと2日はバイト、相談だけにして欲しいんだけど・・・。動き回るのは勘弁。」 そもそも電話相談なんだし当たり前と言ったら当たり前だが、最近は色々な場所に動き回るのが中心だったから 一応釘を刺しておきたかった。石川は言った。 「じゃああたしが全部相談受けておくよ!」 「やめとけ。」 薄れ行く意識の中、俺は必死に説得をした。30分話すと、石川はどうやら分かってくれたらしく、 「はーい。」 とだけ言った。 「じゃあ看病してあげる!!」 石川が言った瞬間、全身が激しい悪寒に襲われたのは、おそらく気のせいではない。 「や・・・。」 俺はそのまま倒れた。 「ほらぁ、介抱してあげるから。」 石川は俺を死体のようにベッドまで引きずり、布団をかぶせた。 「ありがと・・・・。」 「じゃあちょっと、料理作ってくる。」 その分には問題ない。俺が教えたんだからある程度は大丈夫なはず。
50 :
☆気合☆ :04/02/12 23:20 ID:JTx+udE/
台所まで来ると、石川は自分の身体の異変に気がついた。 「あれ・・・?」 石川は額に手を当ててみた。どうやら熱があるみたいだ。 でも看病するって言ったからにはやらなくてはならない。 「よしっ・・・。」 石川は気合を入れ直して料理を作ることにした。何を作ろうかな・・・。 そうだ!卵酒なんか熱のときはいいよね。えっと、お酒と、卵と、砂糖と・・・。 あった。 「はくしゅん!!」 あぁ〜、辛いな〜・・・。 ここで1回話を戻す。それは前々日のこと・・・。
51 :
えっと :04/02/12 23:22 ID:JTx+udE/
なんか自分で見てて色の差が分からない(汗)
>>50 は★です。変えた方がいいな・・・。
☆=主人公
※=石川
にします。すみませぬ。
「はっくしゅん!!」 阿倍の大きなくしゃみに俺は言った。 「なっち大丈夫?」 この日の俺の仕事は買い物の荷物運びだった。しかも安倍が、 「明日買い物に行くんだけれど、荷物持ちいるから誰か行く人〜。」 と挙手したため人数が増えた。相変わらず拒否権のなさに泣きたくなる。 その分確かに貰ってはいるけれど、使う時間もあまり与えられていないだけに、むなしかった。 「うん、大丈夫だべ。風邪流行ってるから気をつけないとね。」 笑顔で返してくれる安倍。更に横にいる高橋が言った。 「そう言ってる安倍さんが一番危ないんですよ?」 独特の喋りで軽くジャブ。 「もう、そんなこと言って。」 先日卒業したばかりでも、全然付き合いが変わらないのはいい事だと思う。 まあ同じマンションに住んでいるのだからある意味当たり前なのだけれど。 「これ持って〜。」 吉澤から2袋追加。とうとう持ちきれず肩にもかけた。 「おぉ、かっけー。」 何が?止めを刺すように石川も2袋。 軽く寒い風が肌に当たる。今日は大分寒い。風を受けて、 安倍がまたくしゃみをした。 「はくしゅん!!」 「本当に大丈夫ですか〜?」 吉澤が安倍の顔を覗き込む。 「うん大丈・・はくしゅん!!」 「うわ!!」 吉澤は慌ててハンカチを取り出し顔を拭いた。 二人はそのときの寒さと安倍のくしゃみから感染したことに、 全く気がついていない。当の安倍は既に元気に復活しているわけだが。
「あ〜・・・砂糖入れすぎた・・・。」 石川は考えた。・・・よし。 「卵酒作ったよ〜。」 石川の声が聞こえて俺は目を開けた。石川は机の横の椅子に座って 俺を優しい笑顔で見ていた。 「ほら。」 「え・・・・。りかっち?卵酒って普通、コップに入れて飲むよね?」 俺は卵酒が収納されている容器に目をやった。 「で、でも、たくさん飲んだ方が、効くかな〜って・・・・。ごめんなさい。」 珍しく謝られて俺は少し困ってしまった。 「卵何個使った?」 「4個。」 「4個?!」 俺の声にビクッと身体を震わす石川。 「ごめん、大声出して。じゃあ、飲むよ。」 俺はなんとか立ち上がり、スープを入れるボウル(巨大)に入った卵酒を、 スプーンを使って、ゆっくりと飲みだした。 「うん、美味しい。」 石川はそう言われると笑顔で頷いた。 「(佐藤の帳尻あわせで卵4個も入れたけど、美味しいならまあいいか。)」 石川はそんなことを考えていた。 「(これ甘いな〜。りかっちってこんなに甘党だったっけ?)」 俺はそんなこと口に出せずに飲み続けた。全部飲み干すと、 「ありがとう。じゃあまた寝るわ。」 と言って俺は布団に入り、目をつぶった。 「あ、耳栓いる?」 石川に言われ、目を開ける。 「ありがと。」 俺は耳栓を入れると、また目をつぶり、そのまま眠りに落ちた。
「(熱冷まシートとかないかな?)」 石川はふらふらと部屋を出て冷蔵庫を探し始めた。しかし見つかる気配はない。 「・・・これでいっか。」 湿布しかなかったけど、無いよりマシだろう。 石川は部屋に戻り、彼の額に湿布を貼り付けた。説明が気を全く読まずに。 「・・・あたしも貼ろうっと。」 ペタッ。 「気持ちいい〜・・・。」 とりあえず一休み。普段向こうには仕事じゃないところでもお世話になってるんだから、 たまには恩返ししないと。石川は次に自分が何をすべきか考えた。・・・・・・よし。 「掃除しよう!!」 確か押入れに入ってたはず・・・。石川は押入れを開いた。 「うっ・・・。」 奥のほうに入っていて、なかなか取り出せない。石川は渾身の力を振り絞った。 ガン!!!! ガシャン!! 掃除機を取り出せたはいいが、飛び出した掃除機を抑えきれず、反対側の壁に激突。 壁にかけられていた皿は音を立てて崩れた。 「あぁ・・・・。」 石川は血の気がひいた気がした。不幸中の幸いと言えば、彼は耳栓をしているので音が聞こえていないことか。 とりあえずどうにかしなくちゃ・・・。 ウィーン・・・。ガリガリッ。 若干嫌な音もしたが、これくらいしか処理方法が思いつかなかった。そのうち同じ皿買ってくれば一応問題はないだろう。 慎重に掃除を終えて時間を見てみると、もうお昼を回っていた。熱があるときは食欲もわかないけれど、何か食べさせないと。 えっと、病気のときの食べ物と言えば・・・。なんて名前だっけ?えっと『ぞう・・・』あ、あれだ!! 石川は彼に貰ったレシピを調べた。 ・・・あった♪
スポッ。 「お昼ご飯出来たよ〜。」 耳栓を抜かれた弾みで目が覚めた。しかしまだ頭が痛い。あれ、おでこに冷えピタが・・・。 ありがたいな、買ってきてくれたのか。 「お昼ご飯?」 「うん。」 石川に連れられ、なんとか食卓へとたどり着く。 「何これ?」 目の前の料理に対して俺は質問を聞かずにいられなかった。 「お雑煮♪」 「・・・嫌がらせ?」 「えぇ?!なんでよぉ!!病気のときは食べなきゃ!!」 「いや、それ雑煮じゃなくて雑炊じゃ・・・。」 「あんま変わらないよ〜。」 「変わるよ!!まぁいいや、せっかくだしいただきます。」 卵酒の件もあるし、俺は石川を傷つける前に食べる事に決めた。少しずつ食べてゆくと、 石川と目が合った。 「食べる?」 俺が訪ねると、 「・・・うん。」 石川は静かに食べだした。あれ?石川のおでこにも冷えピタが?俺がじっと見ていると、 石川はこっちの視線に気がつき、食べるのを止めた。そして一言、 「じゃあ何かあったら言ってね。お薬置いておくから。」 と言って部屋から出て行った。 俺はお雑煮を食べれるだけ口にし、薬を飲むと、再び眠りについた。
しばらくして目が覚めると、身体が少し軽くなっているのに気がついた。薬が効いているのだろうか。 身体を伸ばし、一息つく。首を軽く回すと、とりあえず起き上がり、リビングへと移動した。リビングに来る途中、 俺は声を出した。 「りかっち、なんか大分よくなったみた・・・・い?」 リビングを見渡すと、石川がソファで少し苦しそうに寝ていた。俺は素早く直感し、冷えピタをはがし、 普段は押入れの奥にある氷枕を取り出した。氷を入れタオルを巻き、石川の頭をそっと持ち上げると、 その間に枕を入れた。そして毛布をかけてあげると、俺は静かに一言、つぶやいた。 「ありがとう・・・。」
57 :
※梨華姫※ :04/02/12 23:34 ID:JTx+udE/
「・・・・・?」 石川は、どうやら自分が寝てしまっていた事に気がついた。よく見ると毛布がかけられている。 あれ?あたしこんなの敷いた覚えないけど・・・。ボーっとしていると、台所から音が聞こえて来た。 そっちに視線を移すと、彼が何か料理を作っていた。視線を感じたのか、彼はこっちを見て、言った。 「あ、起きた?俺はもう熱下がったみたいだから、お雑炊、作ってやるよ。」 ニコッと笑う。石川も微笑み返した。また世話になっちゃったな〜。 「ほいっ、出来たぞ。」 食卓に並べられたそれは、当たり前だけど雑煮とは全然違うものだった。 「美味しい。さすがだね。」 石川がそう言うと、彼は静かに言った。 「どうも。」 雑炊を食べ終わると、彼は言った。 「りかっち自分の部屋で休んだ方がいいでしょ。」 「そうだね、でもちょっと動くの辛いや・・・。」 まだ身体だるいし、ここで寝ていたい。すると彼は予想外の行動に出た。 「じゃあ・・・・・こうするか。」 ひょいっ。 「キャッ!え?うそ?!」 「我慢我慢。」 でも、お姫様抱っこ?! 「大丈夫だよ、歩ける!」 なんだか恥ずかしくて、必要以上に拒んでしまっている。でも彼は言った。 「さっきは動くの辛いって言ってたじゃん。」 彼は軽い荷物を運ぶようにスタスタと玄関まで歩き、ドアを開けた。 「靴はあとでね。」 部屋の前に着いたところで、石川は彼に鍵を渡した。
ガチャッ。 「この部屋入ったの久々だな〜。」 いつも向こうが来てばっかりだし。俺は石川の部屋と思われる場所に入ると、 ベッドにそっと石川を降ろした。 「じゃあ氷枕と靴持ってくる。」 氷枕と靴を持って家に入り、部屋に入ったとき、石川は静かに寝息を立てて寝ていた。 可愛い寝顔だった。 「姫、氷枕でございます。」 俺はそう呟くと石川の頭と枕の間に氷枕を置いた。全ての作業を終えると、俺はベッドの横に座り、 ふーっと息をついた。今日は大変だったな。てか俺治ったのかな?どうも薬の効果で一時的に熱が下がっているだけのような・・・。 うっ。 「頭痛―。」 部屋帰って寝なおすか。俺が立ち上がったとき、石川は俺の手を掴んだ。 「もうちょっと、もうちょっとだけ・・・。ここにいて?」 まだ起きてたのか。石川にそう言われて断れるはずがなかった。俺は少しどきどきしながら言った。 「・・・・・うん。」
数日後・・・。 「なんか掃除機最近調子悪いなぁ。」 俺が呟くと、石川は突然焦った。 「え?!そ、そんなことないんじゃないの?!」 テンパってて面白かったので、さっきから言いたかった事を言う事にした。 「あの〜、りかっち?俺のおでこに貼ったの冷えピタクールじゃなかったの?」 包帯の巻かれたおでこを摩る俺を見て、石川もおでこを摩る。 「あれしかなかったの〜。」 「おでこがヒリヒリする・・・。なんか色おかしくなったし・・・。」 「あたしも・・・メイク重ねまくり・・・。」 ご使用になる前に必ずお読みください 貼付部を紫外線にあてると光線過敏症を起こす事があります。 (1)戸外に出るときは天候にかかわらず、濃い色の衣服、サポーター等を着用し、 貼付部を紫外線にあてないでください。 (2)はがした後、少なくとも4週間は同様に注意してください。 二人に幸あれ 続く
60 :
えっと :04/02/12 23:43 ID:JTx+udE/
3話終わりです。今回依頼がないからローテンポかもしれません。 4話はなんとか明日中にはうpしたいと思います。
イイヨイイヨー 意見取り入れてもらってサンクス 俺は非常に見やすくなりました これからは就職活動で忙しくなるんであまり感想書けませんが 頑張ってください
62 :
えっと :04/02/13 21:13 ID:UtUejVbG
>>61 見やすくなりましたか。よかったです。
今日も頑張って4話書きたいと思います。
63 :
タイミング :04/02/14 00:01 ID:LeDR8IFe
4. 泉家物語 講義が終わり、教室を出ると、俺は友達に話しかけられた。 「今日このあと合コンあるんだけど行かない?」 久々の誘いに俺は喜んで乗った。 「マジで?!いくいく!!」 ブーン。 「ごめん。用事入ったみたい・・・。」 俺はディスプレイに表示される名前を見ながら泣く泣く友達の誘いを断り、 電話に出た。 「紺野、久々だね。何、今日は?」 「出来れば直接会ってお話したいんですが・・・。」 紺野は、俺に敬語で話す数少ない子の一人だった。 「分かった。すぐ帰るよ。」 最近このパターン多いなぁ、遊ぶ暇が全然ない。家賃と遊ぶための金を手に入れるためのバイトなのに、 後者の使い方を全く出来ていない・・・。逆に言えば、それだけ貴重な体験をしている。今はそれをありがたく思おう。
「紺野―。」 俺の部屋の前にいた紺野に手を振って話しかけると、紺野は笑顔で言った。 「おはようございます。」 芸能人の性?それほど気にせず家の中へ招き入れる。紅茶を入れ、話を聞く。 「傷心デート?」 紅茶を一口すすると、俺は続けた。 「傷心旅行みたいなもんってこと?」 「はい。旅行してる時間ないので・・・。」 でもあれって一人でするから意味があるんじゃ?ていうか傷の痛みがぶり返さない? でもこんな楽でお得な仕事ないし、久しくデートなんかしてないし、楽しそうだし。 「OK、分かった。で、いつ?」 紺野は嬉しそうに答えた。 「今度の金曜日です。新しく出来たショッピングモールがあるんですけど、そこに行きたいなぁって。 ゲーセンとかもあるみたいですよ。そこに朝10時に集合したいんですけど。」 俺はとりあえずその場所を教えてもらった。 「分かった。じゃあ、木曜日ね。」 紺野に言うと、紺野は軽くお辞儀をして、俺の部屋から出て行った。 「今回当たりだな〜。」 俺は少し表情を緩めてしまった。
ブーン 「お、次は誰ですか〜?」 ディスプレイには『吉澤ひとみ』の5文字が写し出されていた。俺はすぐに電話に出た。 「よっすぃー久々、どしたの?」 「遊びに行こう〜!」 いきなりだったのでびっくりした。お、美味しい仕事が次々と? 「いつ?」 「今度の金曜っす〜!」 え?マジですか? 「いや、その日はちょっと・・・。」 「え〜?!吉澤もその日しか空いてないっすよ〜!!」 よく考えてみると当たり前の事だ。二人は同じグループで、同じスケジュールで働いているのだから、 休みも当然被る。そして俺には拒否権はない。つんくさん、このくらいの事態、予測してくださいよ・・。 とりあえず、やるしかない。 「分かった。じゃあ場所は決めさせて。」 「やった〜!」 電話の向こうから喜びの声が聞こえる。場所は当然あの場所に決定。 「新しいモールすかぁ!いいっすね〜!」 ゲーセンがあるのもポイントだろうか。吉澤はあっさりOKした。 「時間はどうしようか?」 「そうっすね〜・・・。朝10時くらいでどうすか?」 緊急事態発生。修正すべし。 「ちょっと早くしていい?」 「え、いいっすよ〜。」 とりあえず9時半に決定。吉澤は最後までいいテンションで話していた。
「さて、どうする・・・。」 白紙の紙を前に、俺はうなっていた。とりあえず行動予定ぐらいは立てないとどうしようもない。 とりあえず適当な理由をそれぞれに使いまわして右へ左へ移動して・・・。とりあえず俺は頭の中で思い描いた計画を紙にぶつけた。 「これでよし・・・・。」 でもこれをちゃんとしっかりこなせないと、今回の仕事は成功しない。 「やるしかないぞ・・・。」 「何を?」 「うわ!!!」 突然背後から話しかけられて紙を隠す。今日はドアの開いた音すら聞こえなかった。 しかし石川は確かに今俺の後ろにいる。 「今日はどっから入ってき・・・・何その格好。」 俺は振り向くと、石川の格好に驚いた。何故かサンタルック。 「季節外れの梨華サンタ〜。」 石川はくるりと一回転とした。可愛い。でも口から出た言葉は、 「へぇ。」 とりあえず今は、なぜだかよく分からないが紙を見られてはいけない気がした。 「ひどいなぁ〜。喜ばせてあげようと思ったのに。」石川は少しだけ切ない表情を浮かべた。 「ところでどこから入ってきた?」 俺が聞くと、石川は押入れの方へと歩き出した。掃除機を入れているほうではない、 もっと大きい・・・・え?まさか・・・。 「ここにずっと入ってたの。」 石川は押入れの中で体育座りした。 「嘘〜?!」 「嘘だけど、ここ。」 石川は壁に手をかざした。 パタン!! 「・・・・・・。」 壁は開き、そこからは見たことのある風景が。 「ドア?」 そう聞くと石川はうなずいた。 「埋めろ〜!!!!」
67 :
計画開始 :04/02/14 00:09 ID:LeDR8IFe
AM9:25 俺は吉澤よりも先に待ち合わせ場所に着いた。さて、問題なのは吉澤の遅刻だ。それをされると俺が遅刻してしまう。 紺野はおそらく時間通りにちゃんと来るだろう。では吉澤は・・・。 「早いっすね〜!」 色々考えていると後ろから話しかけられた。遊びで来ているせいか、しっかり時間通りに吉澤は到着した。 「どこ行く?」 俺が聞くと吉澤は答えた。 「ここに来たからにはやっぱ服見ないと!」 予想通りの返答をありがとう。心でつぶやき、俺たちはとりあえず一番近くの店に足を踏み入れた。 「あ〜これもいいなぁ〜。う〜ん・・・・。」 吉澤は服選びに結構迷っていた。俺はすかさず言った。 「決まらないなら外で待ってようか?」 「うん、お願いするっす。」 「じゃあ決まったらメールして。」 俺はゆっくりと店内を出た。
AM10:00 「間に合った・・・。」 紺野が待ち合わせ時間より早く来てしまう可能性を考えて待ち合わせ場所をかなりずらしたのが仇となった。 俺が息を切らしながら待ち合わせ場所に到着すると、そこには既に紺野の姿があった。俺は息を整えると、話しかけた。 「待った?」 紺野は俺を見ると笑顔で、 「いえ全然。どこに行きましょうか?」 と言った。 「そうだな、買い物でも行く?」 「はい。」 俺はさっきの店の3店先の店をチョイスした。 「これなんかいいんじゃない?」 俺が紺野の身体にコートを重ねると、紺野の表情が変わった。あれ? 「これ、買ってもらって、『可愛いよ』なんて言ってもらったなぁ・・・。」 嘘!? 「じゃ、じゃあこれは?」 俺は手早く服を入れ替えた。 「これは・・・『うん、似合う。いや、何着ても似合うな』なんて・・・。」 うわ〜!!何やってんだ俺!!! 「俺選ばない方がいいかもね。」 俺は苦しい表情を浮かべながら言った。俺としてはただに合いそうな服を選んだだけなんだけどなぁ。 「いえ、でも嬉しいです。」 フォローしてくれるあたり出来た子だ。 ブーン 「ちょっとトイレ・・・。確か階の一番端だったよな。」 俺はそう言って店内を出た。そしてすぐにメールを開く。 『決まったっす〜☆』
「お、いいじゃん。」 「へへ。」 俺に誉められて笑う吉澤。店内を出ると、吉澤は言った。 「次はゲーセンっす!!」 吉澤の一言と共に、最上階のゲームセンターへと向かった。ゲーセンに到着すると、 俺に都合よく凄く広かった。到着すると早速吉澤はある物に目をつけた。 「これとるぞ〜!!」 UFOキャッチャーだ。吉澤はすぐに100円玉を取り出し、開始した。 「・・・・・・・よし・・・・・よし・・・・・あ〜!!!!もう1回!!!」 吉澤が何度もやっているので俺は言った。 「ちょっと他のところ見てくる。」 「うん。それまでの間にとってやるー!!」 珍しく「っす」がないところから結構気合が入っているようだ。俺は急いでエレベーターに乗った。 乗ったのは俺一人。 ウィーン・・・。 ガタン!!! 「あれ?」 どうやらエレベーターが止まってしまった。 「嘘!!マジかよ!!」 機械に計画を破られてしまうなんてなんてこった。俺はドアをガンガン叩いたが、 だからと言ってエレベーターが動き出す事はなかった。 俺結局10分のロスをしてしまった。
「大丈夫ですか?」 「え?」 「お腹。」 疑わね〜!!どうやら紺野は俺が腹を壊したと思っているらしい。あんまり心配させるのもなんなので俺は言った。 「お腹はもう全然大丈夫、むしろお腹が減ったぐらいだよ!!」 俺がそう言って笑うと紺野は真顔で言った。 「じゃあ食べに行きましょうか。」 「え?」 完全に墓穴を掘ってしまった。せめてもの救いはレストラン街がゲーセンの1階下という配置だという事。 でも飯食っている最中に吉澤から電話があったら・・・。 「(今かかってきたらやばい。)」 俺はラーメンをすすりながら、ひやひやしていた。 ブーン 「(!!!)」 極力紺野に焦りの表情を見せないように、俺はメールを見た。 友達からだった。 「(なんだよ・・・)」 俺は心の中でホッとした。とりあえず今俺にはこいつのメールの返信を打つ余裕はない。 悪いな友人A。 なんとか電話、メールが来る前にラーメンを食べ終えると、紺野は言った。 「ゲーセンに行きませんか?」 「うん。」 広いし、見つかりはしないだろう。俺は別に気にせず賛成した。
71 :
大ピンチ :04/02/14 00:35 ID:LeDR8IFe
紺野がゲームをしている間に、俺は吉澤の元へと急いだ。流石にもうUFOキャッチャーは終わっているだろう。 ・・・・ん? 「とぁ〜!!!そりゃぁ〜!!やった〜!!!」 まだやっていた。近づくと、ぬいぐるみが5,6体、袋の中に押し込まれている。 「すごいな。」 びっくりして俺は呟いた。 「イェーイ!!あ、まだやるからまたどっか行ってていいっすよ?」 なんか、一緒に来た意味無くない?でもすごく都合がよかったので俺は紺野を探しに歩いた。 「あ、トイレ行きたい。」 本当に行きたくなったので、トイレまで行き、用を済ませた。トイレから戻ると、紺野に会った。 「紺野。」 紺野はこっちを向くと、笑顔で言った。 「あ、さっき吉澤さんと会いました。」 !! やばい? やばい? やばい! 「なんかUFOキャッチャーですごいとってましたよ!一個貰いました。」 笑顔一杯なのは何?素?嫌味? 「偶然ってすごいですね。」 心の底からの笑顔?完全な作り笑い?俺が何も言わないでいると紺野は、 「どうしました?」 と心配そうに表情を覗き込んできた。どうやら本当に偶然会ったと思っているようだ。 よかった〜、なんか抜けてて。そんで二人が特に会話をしてなかったみたいだから助かった。
72 :
大ピンチ2 :04/02/14 00:43 ID:LeDR8IFe
再び紺野に適当な理由をつけ、吉澤の様子を見に行くと、吉澤は満足そうな顔でぬいぐるみを見ていた。 「あ、もう満足したっす。次は〜・・・、ここのすぐ近くにあるカラオケにいくっす!」 え?このモール出ちゃうの?でもとりあえず拒否権がない俺。ついて行く事にした。 「久々っすねぇ、カラオケ。」 「そうだね、かなり前に1回行ったっきりじゃなかったっけ?」 確かそのときはストレス発散週間とか名づけてカラオケに毎日いろんな子と言った記憶がある。 そのせいで喉がガラガラで大変だったが、楽しかったのは覚えている。 カラオケに入ると、俺は吉澤に言った。 「先行ってて、トイレ行ってくる。」 部屋番号を確認すると、俺は一旦カラオケから飛び出した。 「やばい、走れ!!」 あんまり時間がない。とりあえず出来るだけ速くゲーセンにつき、紺野をカラオケへと誘導しなくては。 俺は全力疾走でショッピングモールのエレベーターに飛び込んだ。今回は止まらず最上階へ。 「ふう・・・。」 ウィーン。 「!!」 目の前に紺野が立っていた。この光景に対して、紺野はどう思うだろう? 「・・・・トイレはこの階にもありましたよ?」 俺は一瞬こけそうになった。まだ俺のお腹の心配をしていてくれたとは。 「大丈夫。てかさ、カラオケ行かない?歌って発散しよ!」 俺は紺野の手を引くと再びエレベーターで下り始めた。
カラオケに再び入ってきて違う女の子と受付。店員からの視線が物凄く痛かったが、 我慢して受付を済ました。とりあえず吉澤との部屋と階が同じようだ。 紺野は部屋に入ると早速何曲か曲を入れだした。俺がそのあとに1曲入れる。 そこで俺は携帯を取り出して、相手のいない電話で話した。 「ごめん、仕事の話だから、ちょっと外出るね?」 俺はそう言って誰からもかかってきてない電話を抱えて部屋を出た。そのまま吉澤の部屋へ。 なんかめちゃくちゃ急がしいな・・・。 吉澤部屋に着くと、既に歌いだしていた。ストレスたまってるのかな?窓の外から手を振ると、 吉澤は笑顔で手を振り替えした。俺は室内に入ると、さっきとは別の曲を入れた。 ブーン 「あ。」 今度は本当に仕事の電話のようだった。 「ごめん、仕事だ。とりあえず話してくる。」 俺はそう言って部屋を出た。紺野の部屋へ移動しながら電話の主と話しだす。
74 :
大ピンチ3 :04/02/14 01:02 ID:LeDR8IFe
「もしもしごっちん?今仕事中。」 「誰の?」 後藤はすぐに聞き返した。なんだかかかってくると面倒なタイプに当たったな・・・。 なんて説明しよう。下手にごまかすのもバレそうだし・・・。俺は一瞬考え、 正直に答えることにした。 「よっすぃーと紺野。」 後藤と吉澤が仲いいのを考慮して吉澤の名を先に出す。 「あれ、よっすぃーは二人で行くって言ってたと思うんだけど?」 !!まずい!!まずい!! 「大人には色々あるの。」 オイちょっとそれ意味わかんねぇよ俺!! 「2歳くらいしか違わないじゃん。」 「まあそうだけどさ、で、相談?」 とりあえずはぐらかして本件を聞く。 「うん、でも明日でいいよ。めっちゃ忙しそうだから。」 ありがたい。電話を切ると、俺は紺野との部屋に入った。 ちょうど俺が入れた曲が始まるところだった。 ダン!ダン! ドラムの音とともに俺は軽くシャウトした。イントロを経て、俺は歌いだした。 「there goes my old girlfriend♪」 「英語ですか?」 「え?」 紺野に言われて画面を見る。あ!!間違えた!!こっちに入れたのはB‘zの『憂いのGypsy』だ!! エアロの『What it takes』じゃない!!イントロ似過ぎ!!俺は慌てて日本語で歌いだした。 曲が終わると、紺野は言った。 「すごいですね、いきなり英語で歌っちゃって!!」 紺野に尊敬のまなざしを受け、罪悪感を感じる。俺はその場にいられなくなり、 「ドリンクお代わり行って来る。」 と言って部屋を出た。
吉澤との部屋に戻ると、ちょうどまた曲が始まるところだった。 「ギリギリっすよ〜。」 今度こそ「What it takes」を歌う。歌い終えると、英語で歌った事からか、 再び尊敬のまなざしを受けた。 吉澤が1曲歌うのを聞いたあと、俺はドリンク、と言って部屋を出た。 今度は本当にドリンクをとり、紺野との部屋へ。 「遅かったですね、混んでたんですか?」 紺野が聞いてきたので俺はうんとだけ答えた。 紺野が歌を歌いだそうと言うときに、ドアは突然開いた。 「!!!」 俺は、自分の顔が青ざめてゆくのがよく分かった。 吉澤は俺をすごい目で見ている。そんな吉澤を見て、紺野は言った。 「吉澤さん、また会いましたね!!」 無邪気な笑顔に二人はこけた。
76 :
種明かし :04/02/14 01:14 ID:LeDR8IFe
俺は全部洗いざらい、最初から全部説明した。それにしてもなんだろう、この二股がバレたみたいな感覚は。 でも、二人の反応は、そういう激しいものとは程遠かった。 「それで最初ダメって言ってたんすか〜。」 俺に拒否権がないのをよく知っているので、吉澤は普通に許してくれた。 「でも・・・。」 吉澤は続けた。 「今回は仕事じゃなくて、ただ単に遊びに誘っただけっすよ?」 「え?!」 俺バカみたいじゃん・・・。いつもいつも仕事でしかこういう関係持たなかったから、 区別がついていなかったけれど、吉澤はもはや立派な友達のようだった。 「うわぁ〜・・・。俺何やってんだろ〜・・・。」 頭を抱えていると、紺野は言った。 「じゃあ、このあとは3人で楽しみましょうか。」 「そうっすね!」 「そうだね。」 全会一致で可決。片方の部屋は退室し、一つの部屋でカラオケを楽しむ事にした。
77 :
チョコっと :04/02/14 01:21 ID:LeDR8IFe
「喉ガラガラ〜。」 家に帰ってきて一言つぶやいた。そう言えば、後藤の相談ってなんだったんだろう。 俺は気になったので後藤の部屋に行く事にした。 ピンポーン・・・。 ガチャッ。 「あ、いいよ、上がって。」 俺は言われるがままあがると、後藤は言った。 「明日バレンタインじゃない?チョコ作ったから味見してくれない?」 にしても料理の毒見系が多いなこの子は。でも別に美味しいから問題ない。 後藤が俺に差出たチョコレートは、結構凝った作りで模様が付けられていた。 パクッ。 「うん、甘くて美味しい!」 それ以外特に表現が思いつかなかった。 「よし、ありがとう。もういいよ。」 え、もう終わり?早!!俺はなんか拍子抜けした感じが否めない。 でも終わりって言われたんだからいいか。 このとき俺はまだ、これが次の日への伏線だなんて、夢にも思わなかった。 続く
78 :
えっと :04/02/14 01:22 ID:LeDR8IFe
今回ちょっと長めでした。ラストを見てもらえば分かるように、 バレンタインネタを書きたかったので昨日までに4話を終えた かったんですが・・・。なかなか難しいものです。 5話はバレンタインが終わらないうちに仕上げられるように努力します。
79 :
えっと :04/02/14 15:36 ID:LeDR8IFe
今読み返したら、あっち行ったりこっち行ったりでなんかだめだ・・・。 しかもカラオケのネタなんて知らない人にはなんのこっちゃだし・・・。 なんかすみません。
いや面白いよ その調子で頑張って!
81 :
えっと :04/02/14 21:33 ID:LeDR8IFe
>>80 ありがとうございます。ここに来て思ったんですが、
「頑張って」の一言って、本当に励みになります。
自分のしがない文章でも面白いと思って頂いていると思うと、
胸がすごく熱くなります。頑張って今夜中に5話書き上げます!
(明日練習ですけどねw)
82 :
えっと :04/02/15 00:43 ID:gseg6OOp
う〜む、14日には間に合わなかったかw これから更新します。
83 :
寝ぼけすぎ :04/02/15 00:45 ID:gseg6OOp
5.ビタースイート AM6:30 ピンポーン 「・・・ん?」 俺は不意に鳴ったチャイムで目が覚めた。誰だろ、こんな朝早くに・・。俺はベッドから飛び降りると、 眠い目を擦りながら玄関まで歩く。 ガチャッ。 ドアを開けると、そこには後藤が立っていた。 「おはよう・・・どうしたの?」 あくびを軽くしながら応対する俺。かなり醜態をさらしてしまっているな・・・。 「ほい。」 後藤は小さな箱を俺に渡してきた。俺は頭がボーっとしていたので何の事だかよく分からず、 「何これ?」 と言ってしまった。後藤ははぁーっ、とため息をつくと一言。 「チョコ。」 そういわれてやっと思い出す。 「あ!!そうだった!今日バレンタインか。どうもどうも。」 俺は笑顔で受け取った。 「義理だよ、一応言っとくけど。」 「分かってますって。」 「じゃあ、今日これから仕事だから。バレンタインに仕事なんていいことないよ、義理チョコたくさん配らなきゃいけないからさ。」 後藤は少しだけ愚痴ると去っていった。
AM7:30 ピンポーン 「お?」 後藤が来てから二度寝しようと思ったが、他の誰かも来るんじゃないかと 期待していたため寝なくて正解だった。 ガチャッ。 今度来たのは安倍松浦。たまたま仕事に行く時間が重なった、と言うところか。 「どぞ〜。松浦の手作りだから美味しい事間違いなし!ですよぉ〜。」 ああ、松浦は世渡り上手いタイプだよな〜、とつくづく思ってみたり。でもそれでいてナルシストなのがまたいい。 「今度また荷物持ちお願いするべさ。」 え、またですか?チョコを二つ、手に持ち、俺は言った。 「はーい。松浦もいつでもかけてこいよ、悩みがあるなら。」 「はいっ、でもあんまり無理しない方がいいですよ?」 目上への対応本当に上手いなこの子。イや〜この子は伸びますよ(誰 「ありがと。じゃあお二人さん、お仕事頑張って。」 俺はそう言ってドアを閉めた。これで3つ・・・。あと8つ、期待していいのかな?
85 :
10円? :04/02/15 00:47 ID:gseg6OOp
AM8:20 ピンポーン お次は誰かな?段々楽しくなってきた。 ガチャッ 「お、姐さん、おはようございます。」 俺が期待のまなざしで見ているのに対し、中澤は言った。 「娘。の皆は仕事の後くるみたいやぞ。良かったなぁ、チョコ仰山もらえるで。」 中澤はそれだけ言うと俺から背を向けた。 「え?姐さん、チョコは?」 「裕ちゃんがここ来たんわただの報告や。」 「え〜!!」 贅沢言い過ぎかもなぁ。でもせっかく来たのだから欲しかった。 「せやったら・・・・ほれ!」 中澤はひゅっと俺に何かを投げつけた。慌ててキャッチする。 「・・・・・。」 中澤はチロルチョコを手に悲しげな表情を浮かべる俺を見て、笑いながら去っていった。
Ten minutes after・・・ ピンポーン 「あれ?なんで?」 あとはもう仕事後に来るはずだから、新聞の集金だろうか?それとも視聴料の徴収? 「はーい。」 とりあえず返事をして財布を持つと、俺は玄関まで小走りで行った。 ガチャッ 「あれ?」 ドアを開けると、そこには高橋が立っていた。俺の事をじっと見ている。その表情があまりにも真剣だったので俺は聞いた。 「どうしたの?なんか相談?」 高橋は何も言わずに、さっき後藤がくれたのと同じような箱を差し出した。 「?ありがとう。」 俺が受け取ると、高橋は俺の顔をじっと見た。心配そうな表情をしている。俺が微笑むと、高橋は安心したように笑みをこぼした。 俺が口を開くと、 「あ、何も言わないで。あとで、いいから・・・。」 意味深な発言を残し、高橋は逃げるように走り去っていった。 「???」
「さっきのなんだったんだろう?」 俺は高橋に貰った箱を見て悩んだ。とりあえず開けてみる。 「・・・・!」 それは、昨日後藤に試食を頼まれたチョコレート、しかしちょっとだけ不恰好で、昨日のよりも大きかった。もしかして、作るためにわざわざ後藤に習った? 俺は慌てて松浦と安倍のチョコを開封する。 「あ、形違う・・・。」 このチョコの大きさ、一人で後藤に習っていて、一人だけ仕事前に渡しに来た。ということはもしかして・・・・。 「・・・いやいやいや!!」 そんなはずはない。おれは20のオッサンだし。でも中澤の発言と明らかに矛盾している。 このチョコが本命だと考える方が自然・・・なはず。 「でもなぁ〜。」 部屋で一人つぶやく。最近はそうでもないが、昔は結構悩みを聞いたりはしていた。そのため結構仲がいいが、 高橋からそう言う視線で見られたことは一度もなかった。 「悩みを聞いてもらっているうちに、好きになっちゃって・・・。」 なんだかどっかの芸能人の結婚記者会見の映像が流れる。 「・・・・・・いやいやいや!!」 俺は慌ててにやける顔を叩いた。
ブーン 「ん。」 どうやら仕事のようだ。あれ?今むしろ向こうが仕事中じゃないの?なんだかよく分からないがとりあえず電話に出た。 「もしもし。どしたの矢口、仕事中じゃ?」 俺は何故か矢口は矢口と呼ぶ。同い年の女の子だと、どうしても高校を思い出してしまってこうなった。 「うん。仕事中だよ。今回の仕事は、番組のスタッフをやって欲しいんだけど。」 へ?スタッフ? 「とりあえず来て。そしたら説明するからさ。」 「お、おう。」 こういう仕事と直接接点のある仕事は珍しかったため、俺は少しだけうろたえた。 「局は?」 「テレ東。」 ハロモニか?俺はすぐに車の鍵を手に持ち、家を出た。
「で、何、スタッフをやってってどういうこと?」 俺は14人の控室に到着すると、質問した。飯田が集団から一歩出ると、答えた。 「実はスタッフの人が熱で倒れちゃって・・・。その代わりをやって欲しいんだ。」 え?なんで俺?一人ぐらいなら対応効くんじゃ?俺は思った事をそのまま口にした。 すると新メン以外は明らかにばつの悪そうな顔をした。 「いや、それが・・・。」 飯田は少しだけ気まずそうに、話し始めた。 それは、去年のバレンタインデーの事・・・。
90 :
悪質な手口 :04/02/15 00:55 ID:gseg6OOp
「大道具さん〜!!」 辻に呼びかけられて大道具の男は立ち止まった。 「どうしたの辻ちゃん。」 「ちょっと来てくらさーい!!」 辻は男の手を引っ張ると男はそのままよく分からないうちに連れて行かれた。 「ちょっと、どうしたの?」 男は聞いた。辻は何も言わない。男はそのまま辻に控室へと連れて行かれた。 部屋に入ると娘。の全員が男を見て言った。 「ハッピーバレンタイン!!」 男は喜び、箱を全部貰う。そこで安倍が笑顔で言った。 「全部食べてくださいね!」 「うん!」 大変そうだったが、男は喜んで答えた。それを見て、矢口が言った。 「じゃあ今ここで食べてくださいね!!」 男は一瞬困ったが、 「うん!」 と答えるとラッピングをはがし、チョコレートを取り出した。 「・・・・。」 入っていたのはハーシーチョコレートうん十個入り。 よく見てみると全部同じサイズの箱なので一気に開封。 全部同じものだった。男の顔が青ざめたところで、矢口はもう一回言った。 「ね?」 この男、一度言った事は絶対にひかない男だった。それを分かって、メンバーがセレクトした、 いわばターゲット。 男は何とか全部食べたが、すぐに頭に血が登って倒れた。
「で、昨日からその人様子がおかしかったらしくて・・・。今日・・・熱だって言って・・・、 休んじゃったみたい。」 飯田の言い方がなんだか申し訳ない感じで切ない。 「だからおいらたちが責任持って代わりを探しますって言っちゃったの。」 いや、矢口さん?結局大変なの俺だけじゃないですか。 「お願い。」 高橋がさっき見せたような、心配そうな表情で言う。 「・・・分かりました。」 別に拒否出来ないけど、こんなに頼まれて嫌な気はしなかった。俺が引き受けると、 全員でいっせいに色々言ってきた。 「ウェイトリフティングのチャンピオン!!」 「高校時代短距離でインハイ!」 「昔6時間耐久『命』のポーズで100万円とった!!」 そんなようなことを残り11個。 言い終わると、石川が言った。 「って皆に言っちゃった。」 「嘘!?」
「おいおい昔の根性はどこへ行った?にしてもお前ウェイトリフティングのチャンプの癖に細いな〜。」 「すみません・・・・。」 俺は何も言えずにただ働く。大道具の仕事は意外に大変だった。とりあえず、重い。道具を運びながら あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そんなとき、たまたま高橋とすれ違った。目が合うと、高橋は笑顔になった。 どうしよう・・・。向こう本気かな? 一仕事終え、機材室の横の壁によっかかりながらボーっとしていると、話しかけられた。 「どしたん、しけた面して。」 加護だった。 「ああ、あいぼん。なんかさ。」 俺が話そうとすると、加護は言った。 「愛ちゃんの気持ち、裏切ったらあかんぞ?」 「え?」 「それだけや。ほな。」 加護はそう言うとそのまま去っていった。それにしても、こんなシリアスな場面にその衣装はないでしょ・・・。 コント前だから仕方ないか。OAお楽しみに!(何
93 :
葛藤 :04/02/15 00:59 ID:gseg6OOp
俺はなんとか仕事を終えると、他に仕事がある娘。よりも先に家へ帰った。家に帰ると、俺は高橋から貰ったチョコを、 まず口に入れた。 「・・・ビタースイート。」 そんな歌を思い出させる味だった。苦いが甘い。それがこのチョコへ与えるには最も適切な表現だった。 チョコを食べながら、加護の言葉が頭の中でぐるぐる回った。 「裏切ったらあかんぞ?」 「俺はどうしたらいいんだろ・・・。」 いや、普通にOK出せばいいじゃん。と思う人もいるだろうが、これはそんな簡単な問題じゃない気がした。 自分では明らかに荷が重過ぎる。とても背負いきれるものではないのは明白だった。付き合えるならそれはすごい嬉しいけど、 俺はあくまで仕事で彼女と繋がっている、それだけの関係だから・・・。でも断るのは勿体無さ過ぎる・・・。
ピンポーン 俺が葛藤する中、チャイムは鳴った。 「はーい。」 俺は小走りで玄関へ。ドアを開けると、高橋が入ってきた。高橋の目は、今まで見た事のないような、 大人の目をしていた。俺達はしばらく、ただ見つめあった。 「いいよ、あがって。」 しばらくすると俺は口を開いてそう言った。高橋はこくりと頷いて中へ入ってきた。 二人でソファに座ると、高橋は言った。 「どう?」 高橋は聞いた。俺は回答に困った。 「えっと・・・その・・・・なんていうか・・・。」 高橋は突然目をつぶって俺に体重を乗せてきた。 「え?!」 高橋の両手が俺を軽く包むように伸びる。 「愛ちゃん?」 どうしよう・・・。 ピンポーン 高橋は目を開いた。そこで俺はそっと高橋の腕をどけると、 「はーい!」 と言って再び小走りで玄関へと向かった。 ガチャッ。 「ハッピーバレンタイン!!」 吉澤を先頭に矢口辻加護紺野の5人が部屋へと上がってきた。 「あ、愛ちゃんもう来てたの。」 吉澤が部屋の奥を見る。部屋の奥へと入ると、5人は改めて俺にチョコを渡してくれた。 渡し終えると、矢口が言った。 「皆の前で食べてよ。」 「え、大道具さんみたいなことはないよね?」 「そんな、同じネうぐっ!!」 吉澤が途中まで言ったところで加護が口を塞いだ。ネって何?不審に思いながら、俺は箱を開けた。
「・・・・・・・・・・。」 もう一つ、 もう一つ、 もう一つ、 あと一つ。 「・・・・・・・・・・。」 「いやぁ〜、高橋フライングはダメだよぉ。」 吉澤が高橋を見て言う。 「でも、美味しいかどうか自信がなかったんで、感想さっきも聞いたのに答えてくれないし・・・。」 え?さっき? 「せっかくごっちんに習って皆であげようっていう話だったのに、なんで先に行っちゃうの〜?」 辻が笑う。 「てことは・・・・・・・・。」 俺は静かに呟いた。俺がその続きを言う前に、紺野が止めを刺す一言。 「え、もしかして本命と勘違いしちゃってました?」 俺の表情を見て、矢口が言った。 「ドッキリ大成功〜!!!」 大笑いする矢口。その途端に6人は騒ぎ出した。俺はただ、全部全く形の同じチョコ5つを見ていた。 ボコッ!! 「いて。」 後ろから加護に叩かれた。 「アホ。」 加護はそう言うと大笑いした。俺もただ笑うしかなかった。騒いでいる中、高橋に聞く。 「じゃあ、さっき迫ってきたのは?」 高橋はあっさり答えて見せた。 「眠くなっただけ。」
96 :
意味深 :04/02/15 01:05 ID:gseg6OOp
全員が帰ると、俺はチョコをむなしく食い始めた。一瞬でも期待した自分がバカみたいだ。冷静に考えたら、高橋が自分なんかを好きになるはずないのに、 あんな目で見られたら信じてしまうじゃないか。 「ふぅ〜。」 溜息をつく。 「はっぴ〜?」 甲高い声が押入れの方から聞こえた。俺は棒を取り出し、押入れの扉が開かないように仕掛けた。 「あれ?あれ〜?ちょっとぉ!!開けて〜!!!」 しばらく眺めて笑ったあと、開けてあげた。扉が開いた瞬間石川は一言。 「まあ元気出せよ。」 バタン!!! 「ちょっとぉ!!開けてよ〜!ごめん〜!!!」 口調がムカついたので思わずまた閉めてしまった。ドアを開けると石川は口を閉じたまま押入れから出てきた。 「はい。」 石川は俺に箱を渡してきた。 「何?これ。」 「チョコ。」 俺はチョコを急いで開けてみた。すると、そこにはさっき見た量産型とは全く異なった形をしたチョコが入っていた。 「じゃ〜ねぇ〜。」 石川はそのままドラえもんのように押入れに入って、戸を閉めた。 ・・・これって? 続く
97 :
えっと :04/02/15 01:09 ID:gseg6OOp
5話終わりです。 これを14日に書きたくて1日1話のペースでここまでやってきました。 (と言ってもくだらないものですがw) だからこれからはちょっとだけペースを落すかもしれません。 部活で疲れた体に鞭打って書いてたのでこれ続けたら身体がもたないかもしれないし。
なにやらよさげなIDですな 松浦も同じマンション?ハロプロ関係がどこまででてくるのか楽しみだ! 個人的には新垣登場に興味があります(ヲタではないけど) 無理しない程度に頑張ってください
99 :
えっと :04/02/16 19:39 ID:Y5IvB8sE
>>98 新垣ですか、実を言うとここの小説に興味を持って書き始めたものでして
それを頼りにキャラを構成しているため新垣のキャラがちょっと分からない
んです(汗)
>>99 確かに分かりにくいですねw
俺の書いてることはスルーしてもらってけっこうなんで
好きなように書いてください
101 :
えっと :04/02/16 21:14 ID:Y5IvB8sE
>>100 どうもすみませんw
100届いちゃいましたね。びっくりです。まさかこんなに続けられるとは・・・。
今から頑張って書きますか。
6.Wise Trap バレンタインのあの一件から、しばらく仕事が来なかった。俺自身も頭の中で色々こんがらがっていたから、それでいいと思っていた。 相変わらず石川は仕事のない昼は飯を食べに家にやってくるが、どうもいつもと違う目で見てしまって、話も弾まなかった。 一人だけドッキリに参加せず、オリジナルのチョコ。後藤に習わなかったのは別に問題ではない。俺が一通り教えた上レシピもあげたのだからチョコくらい作れる。 でもあの石川がドッキリに乗らなかったことに問題があるのだ。なぜ?俺の疑問は膨らむばかりだった。 しばらく休みが続き、正直もう仕事やめようかな、なんて思ったりもしていた。お金は充分溜まったわけだし、 目的は達成されていた。そんな時、 ブーン。 「もしもし。仕事?」 後藤だった。 「うん、部屋来て。」 俺は重い身体を持ち上げると、部屋を出た。
PM1:00 ガチャッ。 「ん?」 後藤の部屋に入ったら、マンションにいるメンバー全員が終結していた。なんだか、あらためて凄い絵だなと感心する。11人の真ん中に立った後藤が、言った。 「遊ぼ。」 ?よく分からなかったが、断る理由もなかった。 「いいけど、どんな?」 すると後藤は言った。 「鬼ごっこなんだけど、ごとー達全員が、鬼。」 はい? 「で、逃げて。捕まったらゲームオーバーだから。分かった?」 「分かんないよ!!!」 俺は怒って返した。 「名づけて後藤真希鬼ごっこ!!制限時間は午後5時まで!!逃げろー!!!」 やっと後藤が司会の理由が分かった。これ昔漫画でやってた奴のパクリじゃん。 梧桐清十郎鬼ごっこのパクリじゃん。あれは確か捕まると・・・リンチ? 俺は慌てて逃げ出した。 「タッチは10秒でアウトやぞ〜!!」 中澤が叫ぶ。いい大人まで参加してる〜?!
104 :
新喜劇 :04/02/17 23:53 ID:ygpbHBpo
PM1:15 しばらく潜んでいると、棟と棟の間の道に、加護が現れた。ちなみに俺達は大半がC棟に住んでいる。 他には松浦がA棟、安倍、紺野がB棟だ。 「?」 加護は何をしているのか、気になったのでちょっとだけ接近した。加護は皿に乗ったケーキを地面に置いた。 「俺一応人としてのプライド捨ててないんですけど・・・。」 ケーキに明らかに紐ついてるし。誰がひっかかるってんだあんな罠。加護が笑いながら去っていった頃、 「?」 辻が現れた。ケーキを見ている。辻は周りに誰もいないことを確認すると、皿を持ち上げた。 ザッ!!! 「!!!」 辻の頭上からネットが降ってきた。しかしびっくりしているのは俺で、辻はまだ気がつかずに必死にケーキにがっついている。 「のの?!なんでお前やねん!!!」 加護が戻ってくると、驚いて絶叫した。 「ほぇ?・・・なんなのれすか?!これは!!!」 辻はようやくネットの存在に気がつき声をあげた。コントやってるよ・・・。俺は半ば呆れ気味にその場を立ち去った。
PM1:30 ザッザッザッ。 後ろから足音が聞こえた。振り返ると、後藤がこっちを見ている。後藤はわずかに微笑むと、こっちに向かって走り出した。 「正攻法?!」 俺は慌てて走り出した。まさかまともに追って来る奴がいるとは!!しかしそう来るのも無理はないほど、 後藤は素人離れしたフォームで走っていた。男女の差あれど、距離差を全く開けなかった。リンチだけはごめんだ!!! 俺は必死に逃げ、なんとかA棟まで走った。自動ドアをこじ開け、エレベーターに乗り込む。 「ハァ〜っ・・・。」 ウィーン・・・・・。 なんとか巻いたか?
ガタン!! 止まった?エレベーターのガラス部分から、外の様子が見える。吉澤と目が合った。吉澤の目が笑う。俺は「閉」ボタンを押し続けた。 このエレベーターなら・・・。 シーン 「?」外から吉澤がよく分からない、と言った顔をしている。エレベーターはそのまま上へ。たまにあるのだが、 エレベーターによっては「閉」ボタンを押し続けていればドアは開くことなくそのまま上へ上がってくれる。 俺は何とかそのまま5階まで上がった。 螺旋状のストリップ階段を降りながら、外の様子を伺う。一段一段降りながら、外の方を見ると、 まだ辻加護のコントは続いているようだ。 2階まで降りると、視界に高橋が飛び込んできた。高橋は後ろを向くと、言った。 「皆、おったで〜!!」 そういえばこの前は演技入ってたせいで訛ってなかったな〜、ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。 俺は階段を昇った。少し慌てると段と段の間に足を滑らせ突っ込みそうになる。しかし階段を昇ると、 3階の奥から安倍が歩いてくるのが見えた。隙間から2階をのぞく。高橋、紺野、吉澤。上には安倍、中澤、矢口。 ・・・。
「これで終わりだべ〜!!」安倍は嬉しそうに声をあげて階段を駆け下りた。中澤矢口もあとに続く。 同時に2階からは高橋、紺野、吉澤が一気に駆け上って行く。そして遂に ・・・。 「あれ?」安倍はなぜ目の前に、高橋がいるのか、よく分からなかった。挟み撃ちにしたはずの男は、 忽然と姿を消してしまった。高橋はびっくり顔をして何も言えない。 「なっちさん?」 ドン!!! 「?!」 突然1階と2階の間で凄い音がした。6人はすぐに2階まで降りた。 「やれやれ・・・。」 彼は立ち上がると、言った。 「じゃね。」 タッタッタッタッ・・・。 「??」 全員、一体何が起こったのかよく分からなかった。まるで目の前でマジックを見せられたような、 そんな感覚だった。
俺はとっさに階段がストリップ階段なのを利用して、上下から6人から来るまでの間に隙間に身体を通し、 階段に摑まってぶら下がっていた。キダムもびっくりだ。捕まったらリンチ、というある種の極限状態が、 俺の身体能力を上昇させているのかもしれない。 そして頃合いを見計らって着地。足に思った以上に衝撃が来てびっくりした。もう二度としてたまるかこんなこと (てか出来ない)
PM2:30 俺は建物から出ると、適当に身を隠すところを探して走り回っていた。そして、テニスコートが目に入った。 マジここ家賃高いだけあっていろいろあるな〜としみじみ感じながら、俺はコート横のベンチに腰をかけた。 今度集団で来られたらフェンスでもよじ登るかもしれない。 しばらく座っていると、突然黄色い物体が目の前に現れた。慌てて避ける。 ガン!!! テニスボールはフェンスにぶつかると跳ね上がり、俺の目の前にゆっくりと振ってきた。手に取る。 「おしい〜。」 テニスコートに目をやると、石川がラケットを持って構えてきた。 「おい!これはやめて!ちょっと危ない!!りかっち!!」 「お蝶娘。とお呼び!!」 なんなんだよこのノリ。よく見るとラケットが落ちている。もうヤケクソだ!俺はラケットを手に取った。 「・・・・行くぞ岡君!!」 石川から繰り出されるサーブをなんとか打ち返すと、向こうからあっという間に鋭いショットが身体に向け飛んできた。 なんとか打ち返すと、もう1球、別の角度から飛んできた。なんとか止める。打球の主は・・・。
「お松とお呼び!!」 松浦登場。面白がって打って来た。 しばらく死ぬ気ラリーが続いたあと、2球に対して俺は渾身の一振り。2球ともに二人の頭を越え、二人は球を追った。 ポーンッ。 ポーンッ。 ボールが落ちるのを確認すると、石川は言った。 「アウトですわよ藤堂さ・・・・・あれぇ?!」 そこには誰もいない。俺は二人がボールを追っている間に逃げていた。あんなの相手してたら死ぬ!! 残った体力を振り絞って、俺は必死に逃げた。
PM3:30 なんとか走っていると、目の前に今度は白い、そしてさっきより遥かに大きい物体が視界を遮った。 「うわ!!」 ガン!! 受け止められず、俺は顔面でボールを受けてしまった。この季節ボールとか当たると痛いんだよな〜・・・。 ヒューン 「うわ!!」 もう1球降って来た。今度は避ける。ボールの主を見た。やはり吉澤だった。吉澤は、俺が彼女の存在に気がつくのを確認すると、言った。 「勝負っすよ〜!!!」 ジャンピングサーブ。とりあえず俺はレシーブした。そして浮いた球をアタック。これは捕れないだろ。捕れても深追いだ。 逃げるには充分な時間が出来るはず。俺はそう思って逃げながら後ろを振り返った。 ・・・・回転レシーブ!?吉澤は鮮やかにボールを裁くと、またもスパイクを繰り出してきた。 思わず反射的に足が出る。 吉澤はそれを見て大幅にバック、そして後ろへダイビングレシーブ。なんと捕った。しかし次の攻撃には回れず、 ボールは無情にもそのまま地面へと落下した。
112 :
俺? :04/02/18 00:03 ID:Zsbgcz0s
吉澤は汗を拭くと、言った。 「負けたよ・・・。さあ、行くんだ。俺?俺は追わないよ。君には負けたよ・・・。 フッ、久しぶりに、本気になれた気がするよ・・・。」 え?誰キャラですか?なんかイケメン(もしくは勘違い)系?まあ好意は受け取ろう。 俺は走り出した。 「こらぁー!!!!」 俺はびっくりしてすぐに後ろを振り返った。矢口が吉澤を叱ったみたいだ。 矢口はすぐに走り出した。俺は疲れた身体に鞭打ち、走った。流石に女の子には負けない。 矢口もそれに気がついたのか、こけた。 「いたぁ〜い。」 矢口は上目遣いで俺の方を見た。 「(無視)。」 俺はそのまま走り出した。 「またんか!!」 豹変した矢口はすぐに立ち上がり、再び走り出した。しかし矢口が追いつけるはずもない、 俺はすぐに矢口を振り切ることに成功した。
113 :
ジム軍曹 :04/02/18 00:05 ID:Zsbgcz0s
PM4:00 走っていると、またも前方に、誰かが見えた。中澤だった。仁王立ちしてこっちを見ている。 「本物の鬼だ!!」 俺は方向転換すると、加速した。 「ちょいまたんかい!!!」 キレた中澤は俺を追って走り出した。俺はC棟の方へと走っていた。 またも前方に、今度は紺野。 「行ったで紺野!!」 中澤は走りながら叫んだ。 「え?や!あ!!えぇ?!」 焦る紺野を横目に俺は通過した。 「なんでやねん!!!」 中澤がキレながら俺を尚も追う。走りながら横を見ると、 辻がまだこんがらがって加護が必死にネットをひっぺがしていた。 俺は急いで自分の部屋まで階段で登った。やばい、最近運動してないから、 体力が・・・・。俺は何とか家に入った。 バタン!!! そしてそのまま奥へと・・・。
中澤は彼の部屋の前まで着くと、ドアノブに手をかけた。 「戸締りちゃんとせなあかんぞ?」 中澤は少しにやっと笑うと中へ入った。 「おーい、もう無理やで正味な話。でてきーやー。」 中澤はまずトイレを開けた。いない。 風呂、部屋、リビング、いない・・・。 「?おらへん・・・。」 押入れを開けても、いい大人が入ってたらちょっと引くし、やっぱり入ってなかった。 なんでや?窓も鍵かかっとるし・・・。中澤は仕方なく部屋を出た。 ガチャッ。 「あ。」 ドアを開け、外へ出ると、こっちをやばい!っと言った目でみている男1名。 なんと石川の部屋から出てきた。どういうことや? 「さ、さよなら!!!」 彼は猛スピードでその場から立ち去った。 「あ、追わな。」 中澤は少しして気がついた。
PM4:15 危ね〜、俺は少しホッとしながら階段を降りていった。すると、上の方からけたたましい足音が聞こえた。 また?!そりゃ1対11だけどさ。安倍が凄い勢いで走ってきた。ピンチランナーですか?俺の体力はもう限界に近い。 どうかわす?階段を降りながら考えた。今度はよじ登ってみるか?いやもう無理だな・・・。もはやまともに逃げるしかなかった。 そして1階。そのまま外へ出ようとすると、 「・・・・・・・・ど、どうも・・・。」 中澤安倍以外の9人、全員集合・・・。 「・・・・・あ!!あんなところにNEWSが!!!」 全員一瞬俺の指差した方へと視線が動く。 タッタッタッ。 ガシッ。 「あ。」 「誰がひっかかるかいそんな手。」 高橋にしっかり摑まれてしまった。そしてゆっくりと10カウント。
「ゲーム終了〜!!!」 後藤が言うと全員拍手。 「惜しかったねぇ、あと45分だったのに。」 石川が俺に話しかける。やばい、殺られる・・・。 「じゃあ行きましょうか。」 松浦が言うと全員で移動開始。え?拷問部屋ですか?俺はとりあえずローテンションで何も言わずに着いていった。 一行はそのまま中澤の部屋へ。 ガチャッ。 「ちょっと待っててね。」 俺は外で一人待たされた。少しだけ待つと、吉澤が出てきた。なんかよく分からないとんがり帽子?を付けて。 「いいっすよぉ〜。」 中へ入る。 パン!!パン!!! 『ハッピーバースデー!!』 全員声を合わせて言った。え?誰の?・・・・ん? 「あ、俺の誕生日って今日か!!」 言われてみて初めて思い出した。誕生日なんて完全に忘れていたのだ。 「え?忘れてたん?」 中澤が少し呆れ気味に俺を見る。しょうがないじゃないか、忙しくてそんな事考える余裕がなかったんだから。 11人にハッピーバースデーの歌を歌ってもらうと、俺はようやく誕生日だと言う事を実感出来た。 にしてもなんで祝ってくれるの?俺がよく分からない顔でいたのに気がついたのか、安倍が、 「日頃のお礼。」 と言って笑顔を見せた。あ〜もう、やめね〜この仕事!!!この日俺はそう誓った。 続く
117 :
えっと :04/02/18 00:10 ID:Zsbgcz0s
6話終了です。今回仕分けが細かいですが量自体は多分そんなでもないです。 面白いかどうかは分かりませんが・・・。今回も分からない人には分からない ネタが何個も出てくるし・・・。
梧桐清十郎ってw わかんない人にはわかんないだろうなw あえて書かせてもらうと誰の視点で書いてるのかわからないとこがあったかな 特に「彼」ってとこに違和感感じた。「彼」だけど「俺」っぽいっていうか。上手くいえないけど・・・
119 :
えっと :04/02/18 17:45 ID:Zsbgcz0s
>>118 視点を動かさないと話が進まないところがあって・・・。
彼は自分でも違和感感じてます。主人公名前がないからなぁ。
いっそ他人の視点は(今後あるか分かりませんが)”俺”に
すればいいのかもしれません。
中澤だったら「あいつ」とかいいかもね
121 :
えっと :04/02/19 22:56 ID:u/1uLH+N
>>121 そう言ってもらえるとほんとうれしいです
これからも差し出がましいこといっちゃうかもしれないけど
楽しみにしてるんで頑張ってください
123 :
えっと :04/02/20 18:54 ID:nLy1pjrY
>>122 頑張ります!
珍しく今日部活早く終わったんで更新します。
7.エンダァァァァー 石川、辻と3人でいつものように昼飯を食べていると、チャイムが鳴った。俺は慌てて残っていた飯を口に入れ、 辻の渋い表情を横目に玄関へと走った。 ガチャッ。 「こんにちは、ちょっといいですかぁ〜?」ドアを開けた途端、松浦が顔を出した。少しびっくりして一歩ひく。 すると松浦はすかさず部屋の中へと入ってきた。 「お邪魔しまーす。」 一応挨拶は忘れない。松浦は奥へ入ると、昼食の匂いをすぐその鼻で察知した。 「おぉ!すごーい。」 石川と辻が食べる本格インド風カレー(あくまで”風”)を見て、松浦は声をあげた。 「石川さんが作ったんですかぁ?」 「うん、すごいでしょぉ〜。」 今回珍しく石川が調理。出来もなかなかのものだった。松浦が石川に少しカレーを分けてもらう中、 俺は聞いた。 「今日は何?」 松浦は口の中の物を飲み込むと、答えた。 「ボディーガードをしてもらいたいんです。」
「ボディーガード?俺に?」 この細身の俺にボディーガードを頼むのは、かなり筋違いな話ではないだろうか? 別に高校時代運動していたからある程度体力には自信があるが、 「ボディーガードなんて、とてもじゃないけど俺の出来る仕事じゃなくない?」 思ったまま口にした。 「いえ、基本は仕事の時怪しい人がいないかどうかの監視をしてくれればいいんです。」 松浦の話によると、最近ストーカー?と思われる人影を仕事から帰る途中見ていて、 それが近寄れないように監視してほしいとのことだった。それなら大丈夫だな、と思い、 「分かった。」 とだけ答えた。 「じゃあ明日お願いしますね。」 明日?!あの・・・。 「明日・・・・試験・・・。」 「お願いしますね!!」 満面の営業スマイル。・・・。
126 :
兵器投入 :04/02/20 19:00 ID:nLy1pjrY
「俺はなぜここにいるんだろう?」 泣きながら車を運転する。助手席には松浦。俺単位微妙なのに・・・。 「頑張ってくださいね〜。」 ニコニコ笑う松浦が、余計に寂しさを誘う。俺は悲しさを紛らわそうと、適当にMDを車に入れた。 曲が流れる。洋楽だったためか、松浦は?な顔をした。俺はそれに気がつき、 「洋楽やめとく?」 と聞くと、少し申し訳なさそうにはい、と答え、自分でMDを取り出し、松浦自身が持ってきたMDを入れた。 曲が流れてくる。・・・・?聞いたことあるような・・・でも思い出せない。なんだ?しかし歌い手の声ですぐに分かった。 「あや・・・や・・・・。」 俺は少し呆れてつぶやいた。どうやら自分のアルバムを投入して来たようだ。松浦は曲に合わせて楽しそうに口ずさんでいた。 「どないやねん・・・。」 俺は松浦が聞こえないようにつぶやいた。
まず最初はTBS。赤坂だ。ちょうど新曲のプロモーションと言う忙しい時期に当たってしまったようだ。 ミニマラソンで見覚えのある心臓破りの坂を進み、車庫へ。 「えっと、うたばん?」 「そうです!一応、スタジオで見学していってください。」 俺は言われるがまま見学へ行った。 とりあえず驚いたのが、予想以上にリハーサルが多かった事だ。軽く流れを説明してそれで終わりかと思いきや、 さすが歌番組らしくないだけのことはあって、緻密だ。念密な打ち合わせが行われ、カメリハなどたくさんのリハを経て、 ようやく本番が始まった。 「にしても豪華だ・・・。」 司会の二人を見てしみじみした。面白いし、いや、面白いのは当たり前か。二人とも立派な芸人だし(何か間違っている) にしても、こんなに早いうちから撮影するとは・・・。トークが終わると次は歌録りだった。曲は一度も聞いたことのない曲だったので、 少し驚いてしまった。早いうちから色々聞けるなんて、羨ましい。たまにはデモテープくらいくれたっていいじゃないか。
松浦の歌を見て(聞いて)いると、凄いオーラを感じ、そっちの方を見た。狂乱の貴公子、ガッくんことGackt。 どうやら二本撮りらしい。Gacktは俺の存在に気がつくと、俺の方に近寄ってきた。カラーコンタクトが雰囲気を一層引き立てる。 Gacktはやはりボソッと言った。 「君は?」 「松浦の、ボディーガードを頼まれまして・・・。」 俺は柄にもなく緊張しながら答えた。普段散々芸能人と接してるのに・・・。やっぱ彼女らはそう言う感覚じゃないからかなぁ。 「そう。よろしく。」 Gacktは俺に手を差し出した。え?なんで?握手ですか?俺はとりあえず手を出し、握手した。 グシャッ。 「はぅ!!!」 「じゃ。」 Gacktは相変わらず呟く様に言うと、俺の背中を一回軽く叩き、去っていった。 ちょうど松浦がそのとき戻って来た。松浦は俺の手を見て、言った。 「どうしたんですか?手、腫れあがって真っ赤っ赤じゃないですか!!」 「・・・・なんでもないです。」
129 :
機能停止 :04/02/20 19:03 ID:nLy1pjrY
うたばんの撮影が終わると、俺達はすぐにTBSを飛び出さなければいけなかった。流石売れっ子。忙しい。俺が片手で運転をする中、 松浦がうたばんで貰った弁当にがっついていた。そういえば朝も食べてたなぁ。てかまだ10時とかですよ? 「あやや1日何回食べてる?」 「えっと・・・7回?」 多!!エネルギーの源は食べる事なのか?!一瞬辻の姿が揺らいで消えた。 「次は講談社か。」 「うん、グラビア。」 スピーカーから流れる音楽が止まった。松浦がMDを取り出すと、次のMDを探し始めた。 「あやや以外で。」 それだけ言うと俺はもてあましていた右手に軽く息を吹きかけると、左手一本での運転を再開した。
飯あんなに食べたあとにグラビア・・・。水着じゃなくてよかったネ。新曲が春頃発売らしく春系の衣装に身をまとった松浦を見ながらそう思った。 あんだけ食べて、へそ出せるなんてある意味脅威だな・・・。 「お疲れ様でした〜。」 撮影はあっさり終わった。松浦が着替え終わると、俺は言った。 「よくカメラに向かってあんなに笑えるよね。」 プロに対して言う発言ではなかったが、俺にはよく理解出来ない感覚だった。昔から写真を撮られるのは好きじゃなく、撮る方が全然好きだった。 そんな俺からしてみれば、カメラに向かって色々な表情を浮かべる松浦は不思議で仕方がなかった。 「お仕事だしぃ〜、可愛く撮りたいから。」 あ、そっか。ナルっ気があるの忘れてた。俺は納得した。全然話が飛ぶが、俺は不意に思い出したので、聞いた。 「そういえば学校ってどうしてるの?あんまり皆話さないけど。」 「今からですよ。」 「今――?!」
車が学校に到着したのは12時ぐらい、松浦の教室に到着するともう昼休みが始まっていた。松浦はクラスの友達に混じりすかさず弁当を食べだす。 「また食べてるー!!!」 俺は教室の外で見張り中。明らかに不審な目で見られて警備員に逆に監視されそうになったので事情を説明した。廊下でパンを食べながら、周りを見る。 ・・・だめだ、生徒ばっかりでこの中に混じられたら全然分からない。俺意味無いじゃん。自分の無力さに悲しさを覚えた瞬間だった。
俺は結局5,6時間目は車の中から学校へ侵入しそうな怪しい人物がいないかをずっとチェックしていた。放課後になると、 松浦は急ぎ足で車に乗り込み、次の仕事場へと向かう。 「えっと次は・・・。」 スケジュール表をぱらぱら捲る松浦。松浦は指を止めると言った。 「ラジオ、ですね。ゲスト出演します。」 というわけで出演する番組がOAされているラジオ局まで車で行く事になった。そうか、労働法で遅い時間は生だとまずいんだっけな。 ラジオ番組の裏側は、少しドタバタしているらしい。横で生放送で行っている番組があり、凄い騒ぎ様だった。 スタッフがあっちへこっちへ走り回り、CMのたびにディレクターがダメだし。こっちはなんていうか、平和だ〜。 和やかな雰囲気のままラジオも終了した。
ラジオ収録が終わると、もう夜になっていた。今日の仕事はこれで終わり、と言う事で俺は松浦と一緒に家へと車でそのまま帰ることに。 「ボディーガードは最後家に着くまでがボディーガードですよ?」 松浦がよくあるんだかないんだか分からないような台詞を発した。 「はいはい。」 俺はこのとき、完全に油断していたような気がする。相変わらず片手運転は続いていたが、別に誰もいないじゃん、 と正直余裕ぶっこいていた。しかし家に近づくと、妙な事に気がついた。 「・・・さっきからあの車、つけてきてない?」 俺は呟いた。松浦は後ろを見るとすぐに表情を変えた。 「あれです!」 俺はスピードを少し上げた。一応確認のためだ。後ろを走る車との差は全く縮まらない。 左へ曲がっても、右へ曲がっても、車は着いてきた。俺は叫んだ。 「ペーパードライバーをなめるな!!」 「え?!」 「嘘だよ。」 俺が笑うと、松浦はホッとした顔をした。
134 :
蛍原流 :04/02/20 19:09 ID:nLy1pjrY
なんとか車を撒き、マンションの駐車場に到着すると、あたりは完全に真っ暗だった。 「あ〜あ、もうこんな時間だ。」 俺が嘆くと、エンジン音が聞こえてきた。後ろを振り返る。俺はすぐに声をあげた。 「やばい!撒き損ねた!!」 車は到着し、男が出てきた。なんていうか、オタクっぽい風貌?ただ太ったタイプじゃなくてよかった、 がりがりタイプならなんとか・・・。と思っていたら男はナイフを手に取った。 「邪魔する奴は逝け!」 ブン!! 俺は奇跡的にナイフを避けた。すると松浦が俺に一瞬だけ近づき、渡してきた。 「これ!!」テニスラケット? 「そそそそ。よし、岡。エースを、 ねらえねーよ!!てか2話続けてこのネタかよ!!」 何こんなときノリツッコミさせるんだこいつは。そんなことをしている間に男は突っ込んできた。
135 :
NG :04/02/20 19:11 ID:nLy1pjrY
ブーン!! 男は腕を上から振り下ろしてきた。俺はそれをラケットで迎え撃つ。 カン!!! 鈍い音とともに、ナイフが空中で回転した。 「キャッチ!!」 松浦の言葉に、俺は反応してナイフをそのまま感覚のない右手で受け止めた。 グチャッ。 「あ。」 なんて間抜けな・・・。 ピューッ。 血がそこらじゅうに吹き出た。 「うわ!!」 運良く血が男の目に入り、男は目を擦り始めた。しめた。俺はこれをチャンスとばかりにすかさずキックを繰り出した。 う・・・力が入らない。 ボンッ。 「あ。」 なんとか当たっても、威力は微々たるものだった。俺はそのまま出血多量で貧血を起こし、立てなくなってしまった。 男はまだ目を擦ってる?・・・視界がおかしくなってきた。
136 :
恐 :04/02/20 19:12 ID:nLy1pjrY
うすれゆく視界の中で俺が見たのは、誰かが男を投げ飛ばす風景。男が地面に叩きつけられると “誰か”は男の上に馬乗り、マウントポジションに入った。ああなんてむごい。男はボコボコに顔を殴られ続けた。 男は未だに視界が遮られているままで誰にやられているのか全然分からないようだった。男が気を失ったところで、 “誰か”は俺に近づいた。 ・・・松浦?ボディーガードなんていらないじゃん・・・。俺の意識はそれ以上続かなかった。
次の日、昼頃のニュース。 次々とフラッシュを浴びながら、松浦が珍しくカメラとは違う方向を見て言った。 「ホント、恐かったです。助けていただいて、どうもありがとうございました。」 表情はその恐怖を物語っている。横にはお礼を言われて納得の行かない表情の男1名。何?いつの間に事実摩り替えたの? 目がちかちかして来た頃、報道陣が更に質問を続けた。 「お二人は、お知り合いですか?」 「はい、同じマンションに住んでいて。最近夜道に気配を感じてたんでボディーガードを頼んだんです。」 報道陣の質問は続く。 「男がナイフで切りかかってきたとき、どう思われました?」 「怖かったですよぉ〜。でもこの人、ナイフを素手で受け止めて、男を投げ飛ばしたんですよ!!ちょっと興奮しちゃいました。」 少し笑みをこぼす松浦。 「男は顔面にかなりの傷を負ってましたが。」 松浦は少し興奮気味に答える。 「ああそれはそのあとまた松浦に遅いかかってきたときに右ストレートでズバッと!!」 「では・・・・・・。」 フェイドアウト。 続く
138 :
えっと :04/02/20 19:16 ID:nLy1pjrY
7話終了です。私事で恐縮ですが、テストが近づいてきました・・・。その前に もっと書いてしまいたいなぁ。勉強と部活と小説の両立ってのはなかなか大変そうです。
おっ更新乙! なんつーかすごい読みやすくなりましたね どこが変わったのかはわかんないけど 成長が見られてうれしいですw ところどころに入れてある小ネタも気づくと楽しいですね テストですか、高校生でしたっけ? そうなら小説は後回しにしたほうがいいですよ 以上大学生より
140 :
えっと :04/02/21 19:09 ID:7qXuVQkr
>>139 読みやすくなりましたか、それはよかったです。
月曜から1週間前なので、それまでに8話は更新
したいですね。ただ8話は9話に繋がる展開なんですよね・・・。
141 :
えっと :04/02/22 22:08 ID:Cj801PTk
なんだか書いてたら初めてドラマっぽい?話が出たり架空の人物が 出てきたりしました。更新します。これを最後に次の更新はおそらく テスト後、3/5か6日あたりになります。
8. ピンポン玉 ボディーガードの一件から、大学にいると妙な視線を感じるようになった。気がつくと変な男達に囲まれている。 それでも単位が危ないから出続けなければならない。変な男達を頑張って撒きながら、俺は授業に出続け、 なんとか進級までこぎつけた。 家でほっとしていると、押入れの方から声が聞こえてきた。 「ちゃ〜おぉ〜。」 俺が押入れの扉を開けると、這う様にして石川は出てきた。 「よいしょっと。」 なんとか身体を全部通し、部屋に入りきると、石川は言った。 「旅行行かない?」 「旅行?」 突然だったので俺は驚いた。てかそんなに暇あるの?石川は話を続けた。 「温泉旅行なの。中澤さんが行けなくなっちゃって、一人分キャンセルするのも癪だから、どうかな、 って思ったんだけど、どうかな?」 俺はすぐに答えた。 「いくいく!」 「自腹だけど。」 「おい!!」
143 :
低血圧 :04/02/22 22:15 ID:Cj801PTk
明日と聞いたので俺は慌てて支度を始めた。1泊だからたいした荷物はいらない。 適当に服類をスポーツバックに詰め込み、すぐに支度は終わった。 メンバーは石川、後藤、吉澤、矢口、安倍。どうやらある程度年齢の行ったメンバーにして 騒がしいのを排除したようだ。確かにその方が疲れないから温泉に行く意図を的確に捉えている。 ただ一つ俺に問題があった。 「朝早いんだよな〜・・・。」 朝に弱い俺にとって、5時集合は地獄だった。でもまあ集合がC棟なだけマシだった。 それに間違いなく彼女は遅刻するだろう・・・。
AM5:00 「眠い・・・。」 俺はあくびをすると、目を軽く擦った。とりあえずほとんど揃っていた。 「やっぱり来ませんね。」 石川が矢口に言う。 「いつものことだよ。」 矢口はいつものように笑っている。後藤は今にも眠りそうな顔でフラフラ。吉澤が支えている。 「ごめんごめん!寝坊したべさ〜!!」 A棟の方からドタバタと音が聞こえてくる。5分遅れ、今日は90点でしょうか。 「いいよ、上出来。」 俺が言うと、 「え、でも、35分も遅刻しちゃった!!」 矢口が後ろで噴出す。俺は何を言っているのかよくわからなかった。矢口は笑い終わると、言った。 「なっちにはね、30分早く時間教えておいたから、大丈夫だよ?」 「・・・・ひどぉ〜い!!」 安倍は口を膨らませた。
「え、電車?」 俺は駅に着くと、呟いた。 「そだよ、それが?」 後藤が答えた。 「大丈夫?」 「大丈夫。」 後藤はそれだけ言うとさっさと行ってしまった。 俺達は電車で新幹線のある駅までの間、特に視線を感じることもなく普通に行くことが出来た。 無理もない。平日、早朝。そこまで人がいるわけでもないし、大体が眠そうな表情をしている。 そこまで目が行かないのだろう。 駅に着くと、眠る後藤を吉澤と二人で担ぎながら電車から降りた。そしてそのまま新幹線のホームへ。 「グリーン車?」 「そゆこと。」 確かに指定席ならある程度は・・・。でも自腹なんだっけ、なんか俺だけ痛くない?他は年収うん千万なのに。 まあ旅行を共にさせてもらうだけ、姐さんに感謝だ。 今回仕事じゃないし。
「爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・爺・・・・婆・・・・。」 どこを見てもご老人ばかり。辺りを見回すと『老人ホーム温泉旅行ツアーご一行』の旗が見えた。なるほど。 席は二人ずつということで俺は石川と一緒になった。他はそれぞれ後藤吉澤、安倍矢口の組み合わせ。いつも通りな感じがするが、 俺はバレンタインのときから未だに石川を意識してしまっていた。真意を聞かないことには、いつまでも気持ちのモヤモヤは消えない。 いわゆる、好きでない子でもチョコを貰うと急に好きになってしまう、あの現象なワケだが・・・。石川をじっと見た。 やっぱなんだかんだ可愛い。なんで俺ここにいるんだろ。 「?どうかしたぁ?」 石川は俺の視線に気がついたのかそう言った。 「いや、別に・・・。」 「ふぅ〜ん。じゃあいいや。」 石川はそう言うと窓に視線を移し、なにやら鼻歌を歌い出した。・・・聞けない、なんていうか、恐くて。 びびってしまう自分が情けなく、弱く感じた。
147 :
仁義ない :04/02/22 22:22 ID:Cj801PTk
電車の中で駅弁を朝飯代わりにほおばる。石川と違うのを買ったのでお互いに少しずつ分け合いながら食べていると、 車両間を繋ぐドアが開いた。 「ん?」 誰かが入ってきた。おかしいな、この車両ほぼ老人ホームで貸切なのに・・・。 「・・・。」 その姿を見て、6人は絶句した。や○ざ?やく○なのか?真っ白いスーツ、サングラス、 オールバック、顔に傷。男は俺達の目の前まで来ると、胸ポケットに手を突っ込んだ。 「!!」 拳銃?!男はすぐさま手を取り出した。 「サインしていただけませんか?子供がファンなもので・・・。」 全員座っていながらこけそうになる。 「(びっくりしたぁ〜)」 「(でも絶対○くざっす!)」 「(怖いからこれ以上近づかないで!いやほんとに!)」 「(眠い・・・。)」 「(ファンなら安心だね)」 「(マジびびった〜。でもや○ざかな?)」 どれが誰かはご想像にお任せします。男はサインをしてもらうと、ポケットから何かを取り出した。 シャキーン! ナイフ?! 今度こそやばい?!男はナイフを振り上げた。
「いや、しゃれにならないっすよ、マジで。」 俺が言うと男は申し訳なさそうに言った。 「すみません、自分、顔恐いんで。」 恐いだけですか?俺はりんごでウサギを次々と仕上げてゆく男を見ながら、 冷や汗をふき取っていた。 「上手〜。」 石川は感心している。俺にはりんごの皮が血にしか見えないんですが? 「できました。どうぞ。」 全員にうさぎを一つずつ配る。 「あぁ、そうだ。」 またポケットに手を突っ込み、なにやら小さな筒を出してきた。 ・・・薬? 「爪楊枝です。」 全員再びこけそうになった。
旅館に到着すると、まず矢口が声を上げた。 「おぉ!!ごっちんやる〜!!」 「いいでしょ、探すの苦労してさ〜。いろんな人に穴場ないか聞いたんだ。」 後藤は満足そうな笑顔で答えた。冬なのに意外と客がいない。しかし寂れている訳ではなく、 まさしく穴場と言えるような風貌だった。 奥へ入ると、本当にホテルと言うよりは旅館だった。温泉、卓球、和室。まさに「和」である。 「わび」「さび」を感じつづ部屋に入ると、やはりそこも「和」な造りだった。俺は中澤の代わりだったから安倍、 矢口と同じ部屋だった。残り3人が隣の部屋。 「着いたぁ〜。」 安倍はそう言うと、畳の上で転がった。俺は座布団を3つ取り出し、座った。置いてある和菓子を口にする。 「お茶入れるね。」 矢口が部屋にあるコップを置き、入れてくれた。 「ありがと。」 矢口は自分、安倍の分も用意すると、自分も座布団の上に座り、お茶を飲んだ。 「はぁ〜、辻加護とか連れて来なくてよかったわ〜。」 同意。
150 :
売れそう :04/02/22 22:26 ID:Cj801PTk
しばらくまったりしていると、安倍が言い出した。 「温泉行くべ。」 隣部屋の3人も誘うと、浴衣を着ることになり、俺はトイレに隔離された。 「ちぇっ。」 当たり前なのに何故か悔しがりながら俺は俺でトイレで着替え。 5分後・・・。 「お〜、あんたも意外に似合うじゃん。」 矢口に言われて俺は少しだけ照れた。お二人さんにはかないません。 全員出揃うと、俺はノリで一言、言ってみた。 「シャッフルユニット?!」 全員お互いを見ると、笑顔で「せ〜の」の後に言った。 「温泉6〜!」 いいなぁ、こんなメンバーがシャッフルで揃う事ないし。 (まあ元は同じグループだけど、今となってはね)
151 :
ス :04/02/22 22:27 ID:Cj801PTk
男湯女湯に残念ながら別れていて(贅沢言い過ぎ)、俺は一人男湯に入った。でも、温泉と言う事は、定番ですよね。 身体を洗い、露天風呂につかると、女湯の方から声が聞こえてきた。こういう場合大体興奮させてくれるような話のはず・・・。 ごくり(おっさん) 「あ!ごっちんまたおっぱ」 キター! 「待って!!」 おい!!吉澤がせっかくその手の話をしだしたのに矢口が遮った。 「向こう側、いるよ?」 流石娘。一のエロ(略)俺の考えを完全に読みやがった。 「・・・・・・なっちさん最近どうですか?」 石川が一瞬の静寂の後突然言った。おそらく何を言おうか考えたのだろう。チッ。俺は脳内で舌打ちした。 しかし向こう側は何故か完全に沈黙してしまった。
女湯・・・。 安倍は遠い目で、陽が少しずつ沈み始めている空を見ていた。 「(梨華ちゃんのバカ!!だめだよ!!)」 吉澤は小声で石川に言った。 「(だ、だって急に言われても思いつかなかったんだもん!!)」 「いいの。」 どうやら聞こえていたらしい。安倍に4人の視線が集まる。 「だって今日はそれで来てるんだべ?楽しもう!」 「・・・そうっすね!じゃあごっちん、ミュージカルはどうすか?」 男湯・・・。 「『今日はそれで来てる』?どういうことだ?」 どうやらこの旅行は、ただの単純な旅行ではないらしい。何か裏に、事情が絡んでいる・・・。 別に考えたところでそれの推測すら出来ないと判断した俺は、一足先に露天風呂を後にした。
夕食は部屋で和食。たまにはこういうのもいいな。俺こういうの作れないし。ここで再び矢口が、 「辻加護連れて来なくてよかった〜。」 同意。特に辻。宇宙の胃袋の手にかかったら、俺は食べるものを失ってしまう。 食べ終わると、俺達はすぐに卓球台へ移動した。人数が多いので3点先取の勝ち残りというルールで行われた。 「ほい!」 元テニス部の石川。 「えい!」 運動神経抜群の後藤。 「たぁ!」 同じく抜群の吉澤。 その3人を核にチャンピオンは形成されていった。それに翻弄される成人3人。全然勝てない。 石川とかもっとトロそうな気がするんだけどなぁ。ちなみに石川相手にはほとんど3−0だった。 やっぱり知らず知らずのうちに意識してしまっている。
卓球台は1時間だけ借りていたので、使い終わると部屋に戻った。そしてトランプ。 なんだか修学旅行のような感覚なんですけど。やはり定番は大貧民。いざやろうというとき、 「あ、なっちはやらないや。」 安倍は外へ行ってしまった。気になるなぁ。 3ゲーム終わったところで俺はジュースを買いに外へ出た。確か自販機は旅館の外だったよな・・・。 浴衣のせいか、外は寒かった。2つ並んだ自販機で、俺は適当にジュースを買った。 ガタンッ。 ジュースを取り出すと、なんとなく、外の方を見た。あれ?自販機の左側に安倍が座っていた。 しかし様子がおかしい。目から涙が流れているようだ。 「・・・!!」 俺が見ているのに気がついたのか、安倍は驚いた顔で俺見た。 「どうしたの?」 俺は聞いたが、安倍の口から出た言葉は意外な物だった。 「えっと、目がかゆくてかいてたら、かきすぎて、涙が出ちゃった。」 「あ。そう・・・。」 とりあえず言いたくないなら無理に言わせる必要もない。俺は適当に合わせると、 「じゃあ、なっちも大貧民入ろうかな?」 なんだか必死に明るくいようとしているように見えて痛々しかった。
俺と石川は二人、罰ゲームでジュースに買いに行かされていた。まあつまり貧民、大貧民だ。 「あそこで8で流しておけば〜。」 石川が悔やんでいる。今更悔やんでもしょうがないだろ。俺だってあのとき・・・。そのとき不意に俺は安倍のことを思い出した。 「そういえば、なっち、どうかしたの?」 石川はすぐに過剰反応した。 「え、え?な、何もないよ?!」 挙動不審になりながらごまかす石川。これなら落せる。 「りかっちは嘘つくとき、眉毛がよく動く。」 俺が指差してやると、 「え!?」 石川はすぐに慌てて眉毛を触った。 「嘘だけど。」 「えぇ?!」 石川はそれを聞くと余計に焦りだした。 「で、何があったの?」 石川は観念すると、話し始めた。 「なっちさん、彼に振られたの。誤解で。」 「誤解?」 「うん、詳しくは言えないけどね。それで、それを忘れさせよう、って矢口さんが言い出して、 旅行に行くことになったの。でも・・・あたしが思い出させちゃった・・・。」 石川は落ち込んだ表情を浮かべた。俺は石川の肩をポンと叩くと言った。 「そうやって落ち込むなんて、らしくないよ?ポジティブポジティブ!」 「・・・うん!はっぴぃ〜!」 いや、はっぴぃ〜はどうかと・・・。とりあえず持ち直しただけいいか。
156 :
短! :04/02/22 22:32 ID:Cj801PTk
部屋に戻ると、 「遅〜い。」 とすぐ矢口に突っ込まれた。 「ごめん!」 俺が謝ると、安倍が立ち上がって言った。 「よし揃ったしカラオケだべ!」 吉澤がそれに反応して、俺に言った。 「あ、またあれ歌ってよ、英語の奴。」 俺は思い出し笑いをして噴出した。
ん?このイントロは・・・。安倍はマイクを持つと歌いだした。 「wow〜wow〜wow〜♪」 Time goes by・・・。全員若干気まずい表情を浮かべた。それに気がついたのか、間奏の時、 「やだなぁ、いつも歌ってるべ?」 と笑ってみせた。1周後、安倍の続いての曲は、 「想い出は〜い〜つも〜キレイだけど〜♪ それだけじゃ おなかがすくの♪ 本当は〜せ〜つない夜なのに〜♪ どうしてかぁしら? あの人の涙もお〜もいだせないの〜♪」 歌い終わって安倍は一言、 「ね?」 全員ホッとした。 その後、石川がカントリー娘。でブーイングを食らったと思えば、吉澤後藤安倍がMr. Moon lightを格好よく決めたり。 俺何歌おうかな〜、矢口と安倍が二人でふるさと(矢口が言い出し全員一瞬ドキッ。)を歌う間に考えた。 「It’s my life〜♪」 う〜む、結局洋楽の有名どころなんだよなぁ、俺。
カラオケが終わると、部屋に戻って就寝となった。 「いいじゃん別に〜」 「開けたら殺す!」 矢口のその一言を最後に襖で完全に仕切られてしまった。ブーブー。別に何もしないってんだ。 ・・・保障はしないけど。 実は窓で部屋間繋がってることに気がつき、ちょっとイケない考えが頭をよぎる。窓からいけるかも? カーテンはないし、見るくらい、ええやん。 窓をそっと開けると、向こうの窓際に安倍が座っていた。こっちには気がついていない。 月明かりがその美しさをより一層引き立てている。しかし、その瞳から一筋の雫が流れ落ちた。 なんだか必死に泣かない様に耐えているような顔だった。
ファサッ。 「?」 俺に毛布をかけられた安倍は、少しびっくりした顔で俺を見た。俺はその横に座ると、言った。 「風邪ひくよ?」 安倍はそんな言葉よりも、涙の弁解を再び始めた。 「いや、これは・・・そ、そうそう!コンタクトが痛くて!」 「無理しなくていいよ。」 俺は本心をそのまま口にした。 「む、無理なんかしてないべさ!」 「俺の仕事、覚えてる?こういう時にこそ、相談してくれないと。」 安倍は何も言わずに俺を見ていた。 「辛い時は、思い切り泣いた方がいいときもあるんだよ?」 俺が優しく微笑みかけると、安倍は満杯のコップから水が溢れた様に泣き出した。 ずっと必死にこらえていたのだろう。 俺は肩を回し、ゆっくりさすりながら何も言わずに泣き止むのを待った。
安倍は泣き止むと、詳しいいきさつを話してくれた。 安倍は大西優さん(素人)という人と付き合っていた。その大西さんと言う人は浮気超反対派な人で、安倍もそれを分かった上で滅多な事がない限り 男性との食事の誘いを断っていた。彼が大好きだったのだ。でもあるとき凄く仲のいい仕事仲間(男)と仕事の合間に昼食を食べに行ったら、 それだけで週刊誌に撮られてしまった。 『なっち 共演中の俳優とお昼の一時』 仕事仲間とご飯を食べに行くという、普通の行為に対してひど過ぎる言いがかりだった。当然その週刊誌以外はそれが分かっていて、 取り上げはしなかったが、彼はそれだけでもうだめだった。そして破局。大西さんは話すら聞いてくれず、 「やっぱりなっちはアイドルだし、そんな事もあるんじゃないかって、思ってた。でも、信じてたんだ!それなのに!」 とそれだけ言うとその場から立ち去り、番号拒否され、メアドも変えられてしまった。
俺は話を聞き終わると、話ながら泣いてしまった安倍の涙をハンカチで拭い、頭を撫でた。 「!・・・・。」 安倍は驚くも拒否はしなかった。俺は言った。 「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」 俺は更に、安倍の目を見ながら言った。 「ごめんね、力になれなくて・・・。」 「そんな・・・そんなこと、ない・・・・べ・・・。」 また目を潤ませる安倍。安倍はその顔を俺の胸にうずめた。 「うわ?!」 安倍は毛布を俺にも分けるようにかけてくれた。俺はその上から安倍の肩に再び腕を回した。 「話を聞いてくれるだけで、うれしい・・・。」 泣きながら途切れ途切れに、安倍の声が聞こえた。俺の胸が涙に濡れてゆく。 「なっち・・・・。」 俺は呟きながら、肩をまた、ゆっくりとさすった。
ガラガラ!! 「二人で何やってんのー!!!」 矢口の突然の叫び声に俺達は飛び上がるくらい身体を震わせた。 二人で一つの毛布、俺の胸に顔をうずめる安倍、肩には腕が回っている。こりゃ変に疑われても仕方がないだろう。 「なっち〜?もう切り替えて見つけちゃったのかな〜?」 男を見つけちゃった、という意味か。 「うん。」 『え?!』 俺と矢口は同時に声をあげた。 「嘘だべ、あはは。」 笑い出す安倍。俺達もつられて頬を緩めた。 今日初めて、安倍の笑顔を見た気がした。
帰りの電車の席は、石川と吉澤が入れ代わる形になった。(だってごっちん寝てばっかりなんだも〜ん、とのこと) しかし蓋を開けてみれば俺と後藤以外全員寝てしまった。珍しいなと思ったのと、席が隣なのもあって、 俺は後藤に昨日の話をする事にした。その話を聞き終わると、後藤は言った。 「なっちはね、なんていうのかな。ピンポン玉みたいなんだよ。」 「ピンポン玉?」 「そう、ちょっとの衝撃でも吹っ飛んじゃって、壊れやすい。」 壊れやすい・・・。確かに安倍はそう言うところがあるかもしれない。昔、全く同じような形で彼と別れている安倍は、 そのときは実家に帰って泣いた、と『ふるさと』のような話を聞いた事がある。切り替えが効かず、尾を引いてしまうのだ。 俺の正直同じようにちょっと引きずるところがあるから、気持ちがよく分かる。昨日はそんな想いでおせっかいをしてしまった。 そのときの安倍の姿を見て、安倍の「脆さ」を感じた気がした。離したら壊れてしまいそうな、そんな感覚だった。 「俺はどうすればいいんだろう。」 俺はふと、つぶやいた。後藤は答えた。 「何もしなくていいんじゃない?」 「え?」 「だって言われてから動くのが仕事じゃん?」 あ、そうだった。言われてもいないのに動いたらまたおせっかいだ。 「なっちが自分から何か言ってくるまで、待とう。」 後藤はなんだか遠い目で、呟いた。
マンションに着き、解散して部屋へと戻った。なんだか、短かったような、長かったような・・・。 とにかく色々考えさせられる旅行だったと思う。これから、安倍は立ち直っていけるのか・・・。 誤解で安倍に何の非もないのに別れたのだから、しばらくはきついかもしれない。 少しすると、矢口が部屋にやって来た。中に招き入れると、聞いた。 「仕事?」 「うん。」 矢口は真剣な表情で言った。 「なっちと大西さんのよりを戻して!!」 「はい?!」 さっき後藤と出した結論を吹き飛ばすような声に、俺も吹き飛んだ。 続く
165 :
えっと :04/02/22 23:18 ID:Cj801PTk
8話終わりです。すんませんこんなところで終わって。 しかも改行で1回マジで致命的なミスを・・・。(他にもあるかも?) とりあえずこの先の展開を考えつつ期末に臨みたいと思います。(考えてないのかよ)
更新乙 試験頑張ってねーノシ
更新乙です。 以前にも改行とかの話が出てたけど、 個人的には行の先頭は揃えた方が良いと思います。 一マス空けるなら、かわりに一行分下げて書いてみるとかね。 文字のサイズは多分 最小で見てるんだろうけど、 わざと”中”まで上げて、その表示を意識しながら改行してみてはいかがでしょう。 話のテンポが良いので、読みやすくなれば もっと面白くなると思います。 長々と偉そうなこと書いてスミマセンデシタ。 期末テスト頑張ってください。応援してます。
そうだなー 1文字とか2文字だけ次の行に行きそうな時は その前のキリのいいところで改行した方がいいかも
169 :
えっと :04/02/23 18:27 ID:xqdSwZKz
>>166 168 試験頑張ります!部活も。体力落ちちゃうんで。
自分の思っているより早めに改行した方がいいのかもしれません。
>>167 中ですか。俺”小”で見てるんですよ(汗)
なんか今打ってる画面では並んでるのにいざ書き込むとずれてたり・・・。
試験後には改善してお送りしたいですね。
こんな風に書きに来るなら書けよとか思うかもしれませんがちょっと
ご勘弁を(汗)
ところで保全とかしないとdat落ちしちゃうんでしょうか?そこら辺
全然よく分からないんですよ。
>>169 そうそう落ちることは無いと思うよ
気にせず勉強しな、俺ができるだけ保全しとくから
171 :
えっと :04/02/23 20:30 ID:xqdSwZKz
>>170 どうもありがとうございます。
安心して勉強することにします。
保全
ほ
朝保全
一日一保
良小説スレ保全。 試験頑張ってください。 小説も期待しています。
177 :
えっと :04/02/29 04:46 ID:OP+J9aen
どうも、目下勉強中です。眠いです。なんでパソコンをいじってるかと言うと
歴史の試験用プリントなるものを作っているからなのですが(誰も聞いてない)
>>176 こんなしがない駄文を良小説と言ってもらって本当に嬉しいです。
試験頑張ります!
続きはもう考えてあるだけに書きたくて仕方がないのですが、我慢して試験に
望みます。ちなみに試験は月曜から5日も続くので(汗)金曜日部活終わったら
残った体力ここにぶち込みます。
留守番保全
捕鯨
起き保
ほ
おは保
183 :
えっと :04/03/05 17:40 ID:G/4b2OC4
試験終了しました!保全してくださった方々、どうもありがとうございます。 では、これから一気に残りの体力(現在24時間不眠中)を使って書きたいと 思います。
9. Dramatic story 矢口の一番最近の相談は別れさせることだった。そして今度はよりを戻すこと。 なんだってんだ一体。それに、 「ごっちんとさ、なっちが自分から相談してくるまで待ったほうがいいんじゃないか? ってことになったんだよね。」 「それだとなっちが壊れちゃうと思う。」 壊れる?後藤との話でその単語に敏感になっていた俺はちょっと反応してしまった。 「なっちは、相談する勇気がないよ。大体あんた自分で相談するなって言っちゃったじゃん。」 確かに。俺は昨晩の自分の台詞が頭をよぎった。 「ごめん、でも今俺に出来る事なんて、こうやって慰めることしか出来ない。」 この言葉で安倍はこれ以上相談する気を失くしていたとしたら・・・。 「よし、やる!」 でも、どうやって?難しい問題だった。大体大西さんと会った事もないし。それにしても・・・。 「なんで矢口、そんなに詳しく昨日の俺たちの会話知ってるの?」 矢口はやばっ、といった表情で沈黙した。 「・・・・・・・・じゃあ任せたから!!」 そして矢口はそのまま去っていった。
結局おせっかいを焼く形になってしまったようだ。しかし・・・。 「俺大西さん知らないし・・・。」 独り言を呟く。 「お困りのようだね〜。」 例の如く押入れから声が聞こえたので、俺は押入れを開いた。 「りかっち知ってるの?大西さんの事。」 「もちろん!ライブとかにもよく差し入れしてくれたもん!」 ライブで・・・差し入れ? 「えっと、大西さんって、何やってる人?」 「A.事務所の人 B.テレ東スタッフ C.ビックカメラ店頭社員 D.コンビニ店員。」 なんか全部出逢い方想像つくなぁ。 「てなんで4択なんだよ!!」 しかし俺のツッコミなんて石川は聞いてくれない。 「大西さんが仕事していた順に並び替えください。」 「嘘ぉ?!」 「早くしないと!みのさんとバトれない!!」 「えっと・・・DCBA!!」 俺は出来るだけ早く答えた。 「一番早く正解したのは・・・・・・・・・石川梨華!! 『え?やったぁ〜!!!』」 「おい!何下手な一人芝居してんだよ!!」 「嘘だけど。」 「え?!ここまでやって?!てかどこからどこまで嘘なの?!」
「正解はC。別れる前はA。」 「てことは別れて仕事やめちゃったってことか。」 「うん。大西さんが新しくやりたいことが見つかった、ってのが表向き。 実際は大西さんが芸能人不信になって辞めたがっていたのと、 なっちさんの仕事に悪影響を出さない為に辞めさせたがっていた会社側 双方の思惑が合致したって所。」 石川が難しい言葉使って話しているの初めて聞いたかも・・・。俺は驚いた。 「でもなんでその事知ってるの?」 俺が聞くと、石川は説明してくれた。 「たまたまそのビックカメラに行っちゃったの。そしたら大西さんがいて。 最初は目を逸らしたりしてきてちょっと寂しかったなぁ〜。なんとか話したら、 『この仕事をやってることは誰にも言うな』って釘刺されちゃったの。 今大西さんが何やってるのか知ってるのあたしだけじゃないかな?」 なるほど・・・。とりあえず今の話を聞いている間に、俺が今後すべき行動を脳内で整理した。 そして聞いた。 「どこのビックカメラに勤めてるの?」 石川に教えてもらうと、俺は言った。 「バイトに行ってくる。」 とりあえず俺は次の日、面接をすることになった。
「よし行くか。」 俺はビックカメラの面接へ行く準備を済ませ、家を出ようとした。すると、 「ちゃ〜お〜・・・・。」 なんだか死にそうに元気のない声が聞こえてきた。押入れを開けてやると、 エクソシストのように這って入ってくる石川。 「どした?」 顔色が明らかに悪い。石川は答えた。 「熱〜・・・・・。助けて〜・・・。」 知恵ね(以下略) バイトはあっさり採用となった。明日から、「仕事」のために仕事。 しかしその前にやらなきゃならない事がある。こっちも「仕事」だ。 「お雑炊だ〜。」 今回はそれに加えちゃんとした卵酒も作ってみた。何気ない嫌味に石川は気づく気配はない。 食べ終わり、石川を横にすると(何故か俺のベッド)、 「熱下がったな。」 「そこおでこじゃなくて顎!!」 顎をしゃくる俺に怒りの一言。 「ああ、ごめんごめん。」 わざとらしく笑って見せると改めて額に手を当てる。 「大分下がったな。今日仕事休んじゃった分、頑張れよ。」 「うん!」 石川はニコニコと笑顔で答えた。この子、テレビで画面の隅とかにいると 暗い表情のこと多いのになぁ、そんなことを思いながら俺は微笑み返した。 ドキドキを少しごまかすように。それに石川は対してもう一度笑うと、言った。 「じゃあ看病してくれたお礼に大西さんの性格教えてあげる!!」 それは願ってもないことだった。人の心を動かすには、 その人の心を知らなければならない。 「マジで?サンキュ。」 俺が言うと、石川は歌い出した。 「何もい〜わ〜ず〜に♪付き合ってくれ〜てサンキュ♪」
カーン。 鍋を叩くと石川は凄く不機嫌そうな顔でこっちを見た。俺は言った。 「7点。」 「何点満点?」 「100。」 「え〜ちょっとは増やしてよ〜。あたし一応歌手〜。」 え?初耳ですぅ。(ひどい) 「じゃあ√7。」 「やったぁ〜。」 石川はそれを聞くと喜んだ。バカ・・・・。石川は喜びながら、言った。 「じゃあ『king of大西』にしてあげる!」 「いやそんなに知りたくないから。」 俺は大西さんのパーソナリティーを叩き込まれ、明日に備えた。
189 :
助演男優 :04/03/06 00:26 ID:qgxcExkc
次の日から、俺のビックカメラでのバイトは始まった。そういえば、仕事中に相談受けたら どうするんだろ?電話相談に切り替えか?そんなことを思いながら、俺は大西さんとはじめて会った。 思ったよりは普通の人で、でも凄く雰囲気のある人だった。大西さんは言った。 「分からない事があったら何でも聞けよ!」 「はい!」 「まあ俺も入ったばっかりだけどね。」 大西さんはそう言って笑った。これはチャンスだとばかりに俺は聞いた。 「前は何やってたんですか?」 俺が聞くと、大西さんは笑いながら答えた。 「そいつは言えねぇ。」 「え〜、いいじゃないすか〜!」 「だめ。」 でも、石川の話によると・・・。 「お願いします!」 「う〜ん、分かった。」 石川の言った通り、大西さんは3回目で答えた。分かりやすい人だな。 「芸能事務所で仕事しててな。」 「え?!マジすか!?どんな人いました?」 あ〜、演技力必要だな〜、俺の仕事段々拡大されてないか?
「モー娘。」 大西さん、もしかしてもう割り切っちゃってる?大西さんがあまりにも あっさり答えたので驚いた。ならば深く突っ込んで核心に迫るしかない。 「話したこととかありますか?」 「ああ、仲良かったぞ〜。『娘。悩み相談室』なるものをやっててな。」 ・・・え?俺は全身に何かが走るような衝撃を覚えた。 この仕事は、俺が初めてではなく、前に大西さんがやっていた・・・? 俺はなるべくこの衝撃を「驚き」の表情に変えるように努め、話を続けた。 「そんで相談してるうちに付き合っちゃったりしてたんじゃないんすか?」 「うん・・・まぁ、な。」 認めたから割り切っていると考えるのか、それともこの「ため」をどう読むのか・・・。 やりすぎると今後聞きずらいと判断した俺は、適当に話を変えてその場の空気を軽くした。 とりあえず、石川から聞いた大西さんの趣味に合わせて。
191 :
心の病 :04/03/06 00:29 ID:qgxcExkc
「・・・・・・・。」 俺は家に帰ってくると、ソファに座り、ぼーっと色々考えた。大西さんから聞いた事を。 「俺は・・・・・・。」 俺は、ただの後釜なのだろうか?今までこのポストを、自分だけの特別なものだと思って 一人喜んだりしていた自分が馬鹿みたいに思えた。 石川のこのバイトを薦められたときのことを思い出した。 「いいバイトないかって言ってたよねぇ?」 「うん。あったの?」 「うん。明日連れてってあげる。」 別に、俺がこの仕事をやる初めての人だとか、そんなことを何一つ言ってない。でも石川は、 つんくに頼まれて適当な人を探していただけなのだろうか?所詮代理、所詮バイト。例えば 俺がそのうち辞めたら、また新しい人雇って・・・・。その流れがずっと、続いてゆくのだろう。 別に当たり前の事なのに、何故か嫌な気持ちになった。なんでだろう。説明が出来ないおかしいな感情に、 俺は悩んだ。
192 :
名言 :04/03/06 00:31 ID:qgxcExkc
数回のバイトを経て、俺は大西さんと飲みに行く事になった。俺の気持ちのモヤモヤは 未だ消えていなかったが、仕事はちゃんとしないといけない。俺は切り替えて仕事に望んだ。 石川のマニュアルによると、酔うと口がべらぼうに軽くなるらしい。なんでそんなに詳しいのか聞いてみたら、 「なっちさんのノロケ話。」 なんでもマニュアルはそれで手に入れたデータで9割近くを占めているんだとか。 適当に大西さんが酔っ払ったところで、俺は話を始めた。 「そういえば、前の仕事のとき付き合ってた娘とはまだ続いてるんですか?」 「いや、もう別れた。」 表情に曇りがあまり見えない。平然としている。 「えー勿体無いっすよ!!どうして別れたんですか?」 酒を飲んでいるせいか、ためらうことなく大西さんは言った。 「向こうの浮気。」 「ちなみに誰ですか?」 「安倍なつみ。」 あ、なっちとは言わない。 「え゛――!!?浮気とかしなさそうですけどねぇ?」 とりあえずフォローをしつつ話を繋げた。 「俺もそう思ってた!!!」 突然キレ気味になる大西さん。やばい!やりすぎたか?! 「でも・・・雑誌に載りゃ・・・。」 大西さんは泣きそうな顔で、ちょっと上を向き、言った。 「見えないものは、見えないままの方がいいのかもな・・・。」
193 :
2次会? :04/03/06 00:32 ID:qgxcExkc
大西さんと別れた後、俺は矢口と落ち合った。とりあえず近況報告を兼ねてだが、 飲みに行くのがメイン。俺は大西さんとの食事では話すのに必死でほとんど酒を 口にしていなかったから、一気に行った。 「行くねぇ〜。」 笑う矢口。矢口も酒を飲むと、聞いてきた。 「どう?今の所。」 「誤解は全く解消されてないみたいだね。でもまだチャンスはあると思う。 大西さんもまだなっちのこと好きなんだ。」 「手はあるの?」 「ないけど・・・やるしかないだろ。そっちの方は?」 「相変わらず、コントでもNG連発するし。」 あまり余裕持ってやるもんじゃないみたいだな・・・。 「にしても大西さんも雑誌じゃなくて彼女の事信じればいいじゃねぇかよ。」 酒の回ってきた俺の口からは本音が飛び出した。 「あ〜それおいらも思った!!」 「だよね?!そこで信じてやれないのはだめだよな。でもまあ素人と違うから そう簡単なもんじゃないんだろうけど。」 そう、簡単じゃない。日に日に石川の事が気になってゆく自分がいたが、 そう思っていつも頭の中からかき消していた。 そんな俺がこんな事言うもんじゃないんだろうけど。 信じてあげれなかった大西さん。 信じてもらえなかった安倍。 この二人の関係と心の修復は、難題だった。
「そういえば聞きたいんだけどさ。」 俺は酒の追加注文をしてから言った。 「なっちと大西さん、別れてどのくらいになる?結構経ってない?」 「うん、半年ぐらい前?」 やはり俺と入れ替わっている。タイミングもぴったり。でもそこで俺は一つ、 新たな疑問が生まれた。 「え、じゃあ半年も引きずっちゃってるって事?!」 俺はちょっと大きめの声で言うと、矢口は何故か焦りだした。 「あ・・・なんていうか・・・・。」 「どうしたの?」 「その・・・・本人が忘れかけてるときに旅行提案しちゃったらしくて・・・。 その趣旨を分かられちゃって・・・・ぶり返しちゃっ・・・た。」 騒がしい居酒屋の中で、この空間だけは、確かに今静けさが走った。 「・・・その後始末を俺がやると?」 「後始末なんて聞こえ悪いなぁ!!!なっちのためだよ!!」 そうだけど・・・。どうなのよこれ?
195 :
Aの憂鬱 :04/03/06 00:39 ID:qgxcExkc
次の日、俺は安倍の部屋に足を運んだ。 「(いるかな?)」 チャイムを押して数秒後、ドアが開いた。 「あ、どうしたの?」 安倍はいつも通り笑顔で迎えてくれた。しかし、今日はなんだか その笑顔が作ったようなものにしか見えない。 「元気かな・・・・って思って。」 安倍はすぐにその言葉の意味を理解した。 「うん、全然大丈夫!えっと、中入る?」 いつもより声を張り上げる安倍。強がっているのも表情で読み取れてしまう。 「うん。」 家の中に入ると、安倍はキッチンで何か飲み物を出そうとしている。 安倍は聞いてもいないのに、話し出した。 「仕事の調子も凄くいいし、あ!!」 ガシャン!! 安倍はコップを落として割ってしまった。 「大丈夫!?」 俺はただ怪我はないかとか、そう言う意味で言ったのに、 安倍はこれを別の意味として捕らえてしまった。 「うん!全然・・・・全然大丈夫だから、心配しなくてもいいんだべ?」 安倍の目は潤んでいた。声も震えている。 「ほんと・・・・ほんと・・・大丈夫だから・・・。ごめん、ちょっとトイレ。」 安倍は小走りでトイレに駆け込んだ。中からはすすり泣く声が。これじゃ俺も矢口と同じだな・・・。 凄く罪悪感を感じた。 「ごめん、俺帰るわ。」 「え?!い、いいの!!いいべさ!!別に大丈夫!!」 精一杯、平然を装うように努めている声が聞こえた。 「ありがとう、別に用事が出来ただけだから、気にしないで。」 俺はそう言うと安倍の部屋を出た。
その後、しばらく動きのないまま、俺は二つのバイトを続けていた。ただし相談室のほうは 電話相談に切り替わり、事前にメールを打つ、という事になった。ビックでのバイトを終えると 俺は急いで電話をかけなければならなかった。時には数件。このままだと俺の身も持たないし、 安倍が与える仕事への悪影響も凄いらしいので(現にそれを相談内容にしてきた娘もいた) 俺は一気に勝負に出る事にした。 「え・・・・・ここ?」 大西さんは俺のマンションに着くと、少し表情に陰りを見せた。ゲームで適当に釣って 仕事帰りの夕方家に誘ったのだ。来たら今更帰るとは言いにくいだろう。 「どうしました?こっちですよ?」 A棟の方をじっと見ている大西さんを呼んだ。 「お、おう・・・。」 ここで俺が少しでも表情に出てしまったら負けだ。ボロを出してもだめ。 絶対にそんなこと思いつかないだろうが気づかれたら終わりなのだ。
「ここです。」 大西さんは未だに動揺した顔つきをしていた。そりゃそうだろう。 なんせここは石川の隣の部屋。大西さんだって、知っているのだろう。 ガチャッ。 バタン。 「すみません、ちょっと待っててもらえますか?」 「ああ。」 俺は部屋に入り、ドアを閉めると言った。 「なんでいるの?」 石川がソファに座っていた。なんか雑誌を片手に持って。 「これ。」 石川はそれを俺に渡してきた。 「・・・・・え?!」 これって・・・まさか。 「やるじゃ〜ん。」 石川は俺に笑ってみせた。 「いや、違うって!」 「じゃ〜ねぇ〜。」 石川はそのまま押入れに入っていった。・・・・・。 ガチャッ。 「すみません、汚かったんで。」 「おう、上がるぞ。」 とりあえず俺が先にリビングの方へと行くと、
「よ!ほ!!」 辻加護がゲームをしていた。思わずこける俺。 「どうした?」 「あ〜待って待って来ないで!!」 俺はこけた体勢から大西さんの目の前に飛んだ。 「お前器用な事するなぁ。」 「ちょっと待っててください!!ごめんなさい何度も。」 大西さんを俺の部屋に入れようとドアをそっと開けて覗き込むと、 ・・・よかった。誰もいない。大西さんを中にいれ、リビングに行く。 「ちょっとさ、仕事中だから、帰ってくんない?」 もうどうやって入ったかなんてどうでもよかった。なるべく小声で話す。 「え〜、ケチくさいこと言うなや〜。」 「そうれす〜。ゲームぐらいしたっていいじゃん!」 「マジちょっと勘弁・・・・じゃあ明日!明日な!!」 「え〜もうお開き〜?」 後ろから高橋の声がしてまたしてもこける俺。 「どっから湧いて出てきた。」 「トイレ借りてたでけや。なんでお開きなん?ケチやね〜。」 「仕事、大西さんとなっちの件。」 それだけ言うと3人の顔つきが変わった。 「・・・しゃーないな。」 加護がそう言うと、3人はそのままテレビ側の壁を触った。 「ここ回転扉になってるんやで。」 加護が突然言った。 「え?!」 「嘘や。」 高橋が笑う。3人はそのまま入り口からちゃんと退室していった。
「マジすみません。色々汚くて。」 「もうゲームのセットしてあったんだ。」 「え?あ、はい!」 俺達はしばらくゲームをした。俺はまだ二十歳だし、いいけれど・・・。 大西さん、いくつですか?そんなことを思いながら、とりあえず「来客」を待った。 「おい弱いな〜。」 しかも強!というより自分の力を測る物差しが辻加護とかしかいなかったから、 自分の力を過信していただけかもしれない。 ピンポーン 「?」 大西さんは玄関の方に視線を移した。俺は無言で立ち上がり、玄関へと小走りで向かった。 ガチャッ。 「上がって。」 俺は彼女にそう言うと、そのまま奥へと連れて行った。
200 :
修羅場 :04/03/06 00:45 ID:qgxcExkc
『!!』 二人はびっくりした顔をして、お互いの顔を見あっていた。安倍は俺に聞いた。 「どういうこと?」 俺が答える前に、大西さんが俺を見て言った。 「お前、まさか・・・。」 「そうです。俺が二代目『娘。悩み相談』です。なっちに大体の事は聞きました。」 「・・・帰る。」 大西さんは俺と安倍から背を向け、歩き出した。 「待ってください!!」 俺の声に、大西さんは立ち止まり、こっちを振り返った。悲しげな表情を浮かべていた。 「話を、聞いてあげてください。別れるときだって一方的で、何も聞いてあげられなかったでしょう?」 「・・・・。」 大西さんは何も言わない。それを見て安倍は今にも泣きそうな顔で、言った。 「あれは、ドラマの撮影の合間のお昼ご飯を、たまたま同じ時間休みだった人と言っただけだべ・・・。」 言い終わると、目から涙が零れ落ちた。たったこれだけの事を伝えられずに、安倍はどれほど苦しんだのだろう。 その潤んだ瞳が物語っているような気がした。
201 :
復縁 :04/03/06 00:46 ID:qgxcExkc
「・・・証拠は?」 大西さんは呟いた。 「・・・え?」 安倍は声を振り絞って反応した。 「証拠を見せてみろよ!」 「もういいじゃないですか!!!」 二人の視線が俺に一気に集まる。その目から、俺は思わず叫んでしまった事に気がついた。 語調を若干弱め、俺は話を続けた。 「彼女のこの涙こそが、何より確かな証拠じゃないんですか?なっちの涙につまった気持ちを、 あなたが受け止めないで、誰が受け止めてあげるっていうんですか!誰が抱きしめてあげられるっていうんですか!!」 部屋中を沈黙が襲った。おそらく数秒の事だったのだろう。しかし俺には何時間にも感じた。 大西さんは静かに安倍の横に近づくと、涙を流す安倍の顔をそっと自分の胸に連れ込んだ。 「・・・・!!」 その途端、安倍は声をあげて泣き出した。俺は何も言わずに、静かに別の部屋へと入った。
202 :
Aの食卓 :04/03/06 00:47 ID:qgxcExkc
少しして部屋に戻ると、二人はもうすっかり仲直りしていた。 「(い・・・居づらい・・・。ここ、俺の部屋なのに・・・)」 ラブラブですな。俺はそっとキッチンに入り、夕飯の準備を始めようとしたら、安倍がそれに気がついた。 「なっちがやるべ。」 いやだから、ここうち・・・。 「肉あるべか?ジャガイモ、にんじん、たまねぎ・・・・。」 肉じゃがか。たまたま揃っていたので全て安倍に渡した。 安倍の肉じゃがはなかなかのものだった。料理自慢の俺には及ばないにしても(何様)、 見るからに美味しそうで、俺と大西さんは思わずうなってしまった。3人で食卓を並べ、 3人で仲良く食事を、 「あーん。」 出来るかボケ(怒)若干ハブられ感ありながら、3人で仲良く食事をした。
「じゃ、気をつけて帰って。」 俺が玄関で二人を送る。 「送っていくよ。」 大西さんが安倍を見て言う。いや、送っていくってあんた・・・。 二人が去ると、俺はさっき石川に渡された雑誌を手に取る。 「なんだってんだこれ・・・。」 俺は記事のタイトルだけ見ると、ベッドに投げ捨てた。 『モー娘。矢口 男漁り』 続く
204 :
えっと :04/03/06 00:54 ID:qgxcExkc
9話終了です。自分なりに精一杯ドラマっぽく、感動を目指して書いてみたのですが、 やはりそういうのは難しいですね。すみません、ヘタレで。 しかも当初の雰囲気から何の間違いか恋の話が大分絡んじゃいまして・・・。最初は そんなつもり全くなかったのに・・・。嫌だという方がいらっしゃったら、どんどん おっしゃってください(恋の話やらドラマ的話やらについて) 一応今のところは一番最初の予定だった11話で終わりたいのであと2話となって しまいました。ここからまた一層力を入れていきたいと思いますので、最後までよろしく お願いします。
ガンガッテ!! あと二話かぁ・・・・ 終わりがあると思うと寂しいなぁ・・・
試験&更新乙! あと2話頑張って!
test
更新キター! 乙ですー
209 :
えっと :04/03/06 17:30 ID:qgxcExkc
>>205 ドラマが11話構成が基本だったので、もし1話書いて反応があったらそれだけ
続けようかなと考えてました。寂しいと思っていただけると書き甲斐があります。
期待に答えられるように頑張ります。
>>206 試験は・・・まあまあまあ(汗)いや別に悪くはないですけど。
体力が抉り取られました。残り2話、話は動きますがうまく書けるように
頑張りたいと思います。
>>208 どうもです。なんかキター!っていうのも見ると喜んで頂けてるのかなと
勝手に喜んでいる自分がいますw残り2話も、そのキター!の文字が見られる
ような内容にしたいですね。
残り2話、ここまで出たマンションの住人達全員1回は出したいと思います。
ほんのちょこっと、って人も結構いますけど(というか大部分w)
一応保全
211 :
てS :04/03/08 23:14 ID:uX22cKXs
T
212 :
えっと :04/03/08 23:34 ID:ycnOVVOT
更新します。あと最終話は2回にわけて更新しそうです。長くなりそうなんで。
10.Headache 春休み直前、俺への異常な視線はかなり強くなっていた。友人は視線の主を気にしながら、俺に聞いた。 「お前あれ利用しない手ないだろ。」 ん?俺はよく意味が分からない、と言った顔をしていたのが分かったらしく、彼は付け加えた。 「適当に「これ私物だ」とか言って売りつけろ。松浦亜弥とか知り合いだろ?」 うわ〜、ひどい。でも、 「金は全然困ってないから。」 あの「仕事」、給料だけは無駄にいいからなぁ。 「え、あんな高そうなマンション住んでんのになんなんだよ?!田舎のボンボンか? ボンボンなのか?!」 うわ〜、なんかキレられた〜。でもここで仕事内容言えないよな。聞こえたらまずいし。 俺は適当な言葉を探し、言った。 「バイトが、訳アリでね。」 彼を何とか説得。でも周りの熱き男達はジワジワ近づいてきていた。 「何もないから!!君達のもん!!ではないけど・・・。何もないから!! ね?ただの友達!!」 あ、最後の一言余計かも。思ったときには遅かった。男達は更に近づいてくる。 「(・・・・逃げろ〜!!!)」 後藤のフォームを意識して俺は駆け出した。
「はぁ〜・・・・。」 俺は校舎の影に隠れてその場で座り込んだ。なんでこんなにファンの方々多いんでしょう? 明らかに右肩下がりなのに。そんなことを思っていると、うわさをすれば影。 ブーン 「もしもし。どうしたの?」 電話の主は辻だった。 「勉強を教えて欲しいのれす。」 「前もそんな話なかったっけ?そのときは確か・・・。」 「あーもう言わなくていいのれす!!」 飯だけ食って帰りまくってたよな〜。食費経費で落せないのかね? 「何テストでも近いの?」 「そうなのれす。留年は洒落にならないし。」 それは思う。今現在周りにも1人、大学にいるが、大分気まずい。 辻だとその人と比べて更にきつい状況になるだろう。 「分かった。じゃあ切るよ。いつやるかは家帰ってから話そう。」 「あ、あいぼんも一緒れす。」 「加護も?」 俺はあくまで普通のトーンで呟いたはずだった。しかし次の瞬間、強烈な視線を感じた。 ・・・やばい・・・。 「分かった。じゃ、切る。」 ピッ。 俺は全力で走り出した。
酷い目にあったもんだ。なんとか逃げ切り、俺は家に戻る事にした。とりあえず今日はもう校内にいたくなかった。 部屋に戻ると、すぐに加護からお呼びがかかった。そして部屋に着くと、明々後日の夜10時から俺の部屋で、 ということになった。時間が決まった途端、加護は俺に笑いながら言ってきた。 「にしても最近どうでっか?」 こういわれたら決まり文句を言うべきなのだろうか? 「ボチボチでんな。」 とりあえず答えたら、 「ちゃうちゃう、そうやのうて、恋の話や。」 もう一度ニヤリと笑う加護。 「どうですか?そこんとこ。」 週刊誌の事か・・・。こいつ、事実を分かった上で俺をからかってやがる。 「うるせぇな〜、矢口に聞けばいいじゃねぇかよ。」 一応確認を込めて言う。すると加護の口から凄い一言が飛び出した。 「え、でも矢口さんは「おいらたちラブラブです〜」言うてはりましたよ?」 あの野郎・・・・・・。俺の顔を見て、加護は言った。 「心配せんといてや、言うてへんわそんなこと。」 「言ってたまるか。」 「まあ「なんであいつなんかと」とは言うてたけど。」 ムカツクー!!ガラにもなくキレそうになる。
216 :
逃走体勢 :04/03/08 23:41 ID:ycnOVVOT
加護はまた俺の顔を見て話し出した。 「しゃーないんちゃう?矢口さん別れたばかりやったし狙われてたんやろ。 てか今思うたんやけどぉ。」 「何?」 「ぶっちゃけ自分どう思ってんの?書かれた事。そこまで悪い気はせーへんやろ。」 何を言うかと思えば・・・。 「・・・・正直に言っていい?」 俺は玄関に向けて歩き出した。それを目で追うだけの加護。 「なんやそれ。」 俺は靴をはき、ドアを開けると、部屋の奥にいる加護を見て言った。 「人による。」 「(正直)言うてへんやん!!」 「ほなさいなら。」 俺は関西弁の真似をしながらドアを閉じた。
バタン! 「はぁ〜・・・。」 部屋に着くなり俺は溜息をついた。今度こそ正直に言うと、 矢口と週刊誌に載ったという事自体は、向こうの気持ちは どうであれ悪い気はしなかった。街を歩いていて周りからは そう言う風に見えてたのかな?と思うと少し嬉しくなったりもする。 しかしだからと言って矢口に恋愛感情を抱いていると言う訳ではない。 教室でも言ったように、いい友達だと思っている。少なくとも、俺は。 ただ、問題は・・・。 「し〜あわ〜せで〜すかぁ♪」 こいつに、石川にからかわれるのが、なんだか凄く嫌だった。 特に「幸せ」とかそう言う言葉を使われると。 「矢口さんいないんだ〜。」 押入れからいつものように這い出てくる石川。 「いい加減飽きてよそのネタ。」 とりあえず仕事が終わると毎日のように冷やかしに来るこいつは一体・・・。 そう思い俺は言った。 「え、ネタなの?」 石川は真剣な顔つきで言った。 「は?矢口に聞かなかった?」 てか聞かなくても分かれよ。ん?演技?でもそんな演技うまい方でもないよな・・・。 あれ? 「ラブラブとか聞いたんだけど?」 もしかして、本気で言ってる?顔が真剣なまま微動だにしなかったから、俺は言った。 「あれガセだよ。俺ら全然そんなんじゃないって。てか週刊誌なんか簡単に信じないで。」 ちょっと愚痴が入ってしまったが。
「・・・・・な〜んだぁ、そっかそっか・・・。」 石川が独り言のように呟いた。 「え?」 「え?」 「いや、なんでもない。」 俺は慌てて言った。なんだ?今の反応・・・。めっちゃ気になるんだけど・・・。 石川はまるで誤魔化すかのように(俺にそう言う風に映っただけなのかもしれないけど)言った。 「ねぇ今日のご飯何〜?」 「え?食べるの?」 「いいじゃ〜ん別に〜。一人じゃ寂しいでしょ?」 「まあそうだけどさ。」 三食いずれかの時間帯で、仕事がなく家にいると、大抵このようにして飯を食べに来る・・・。 あのあとつんくさんに電話して聞いたら、食費経費で落ちないらしいし・・・。 俺は知らず知らずのうちに溜息を吐いていた。
カテキョ当日。 とりあえず色々覚悟してから俺は二人の到着を待った。時間になるとチャイムが鳴り、 二人は教科書などを持って入ってきた。 「もう一度聞くけど、本当にいいの?」 俺は聞いた。 「任しとき!」 「大丈夫れす!」 「じ、じゃあ行くぞ。数1から。」 今回教える科目は数学、国語、英語、歴史の4科目。しかも今日中にやれと言うのだから、 かなりきつい。夜中の何時までかかるか分からないが、メチャイケ期末試験ダントツビリの ツートップ。間違いなく大変だろう。 「まずこれ。『1−4』は?」 加護に振る。 「ん〜・・・・・−3?」 「正解!やれば出来るじゃん!!」 「わーい!!」 二人はハイタッチした。 「よし次。」 「またんか!!」 加護がツッコミ。 「これ高1やのうて中1や!!」 「あ、気づいた?」 さすがに馬鹿にしすぎたか?どうやら加護の逆鱗に触れたようだ。 「当たり前や!!どついたろか!!なぁのの!!」 「高1レベル〜!!」 辻はまだ喜んでいた。
「やっぱりダメじゃん。」 まさかこれほどのものとは思わなかった。試しに数列の基本問題をやらせてみたが結果は酷いもの。 よくよく考えてみれば、『1−4』を即答できなかった上疑問系だった奴らだし。 「中学レベルに落す?」 「だめれす!テストがあるのれす!!」 「諦めたら?」 「カテキョなら励ましいや!」 「じゃあコツコツやるしかないな。」 というわけで1から説明をじっくりと始めた。例題の説明後基本問題をそのやり方に沿ってやらせる 方法で進んでいった。途中で質問する事で眠らせないようにするのだ。そして2時間後。 「ここでΣはどうするの?」 「・・・・・こう?」 辻は不安げにノートに書き込んだ。 「出来るじゃん!!」 数学、success。 「つーかさ。」 数学を教え終わったところで俺は言った。 「俺より紺野とかの方がリアルタイムで受けてる分ちゃんと教えてくれそうじゃん?」 シーン。何故か二人は黙ってしまった。え?なんで?俺なんか悪い事言いました? 「あさ美ちゃんは・・・・・。」 辻は困ったように笑いながら、言った。
俺は英語のテストを受けさせている間に、高橋と紺野の部屋にお見舞い(?)に向かった。 紺野はベッドの中でボーっとしながら天井を見ていた。 「あさ美ちゃんったら熱まで出さんでもええのにね?」 「いや、あれは俺も熱出しそうになったよ。ショックだよな、同じ人間として(ひどい?)」 軽く英語の基本問題を見た後にこの部屋に来たのだが、ひどいものだった。 頭痛がするぐらいに。紺野は起き上がって呟いた。 「さすがにthe worldを『なるほど』と訳されたときは眩暈がしました。」 うわぁ〜、笑えねぇほどひどい間違いだ。思ったのだが、メチャイケは番組で、 完全に他人事だから笑えるんだよな。いざ教えるとなると笑えない。 「なんやったっけ?そのあとの・・・・そうだ!あれで倒れたんやねぇ。」 高橋は思い出したように言った。 「うん。」 「どんなの?」 「あさ美ちゃんまた倒れちゃうからあたしが言うと、 Chemistry are too fast for two.を」 なんだその文。珍回答を待ちわびてるようにしか見えない。まさか・・・。 「自信満々に、『あれ、ケミストリーって二人?違う?四人?二人。』 って書いたんやね確か。」 ある種創造の神だ。まさに紙一重。
222 :
ポタラ :04/03/08 23:50 ID:ycnOVVOT
部屋に戻ると、試験はちょうど終わっていたので採点することにした。 「・・・・・・・・・・・・・。」 メチャメチャッ!イケテル〜!!オープニングが頭をよぎる。 「あの〜、辻ちゃん?これ・・・・何?」 そうとしか聞き様がない。 「え、“あなた”、“べジット”、“私”による三角関係のコイバナ。」 問題:次の文を日本語に訳しなさい。The next time you visit my house, I will lend you that book you wanted to read. (正解:今度あなたの私の家に来たときに、あなたが読みたがっていた本を貸しましょう。) 辻の回答:次の時間あなたとべジットと私の家、私は本を、あなたは欲しい二つのリード 「あの、日本語にすらなってないですよ?」 「それはきっと問題がおかしいのれす!!」 「てかべジットってどっから出てきたの?」 ベジットといえばドラゴンボールで悟空とべジータが合体したときの名前。 そんなの知ってるのか? 「ここれすよ!!」 なんか怒り気味の辻。辻が指差したのは、visit。あ〜やっぱり。 てか笑えない・・・。
223 :
下? :04/03/08 23:52 ID:ycnOVVOT
ここで英語のリスニングを行ってみた。CDを再生する。この問題は、地図を見て行われる。 人に質問をされるから、その質問からその人はどこに行きたがっているのかを選択する。 A地下鉄BファミレスCホテルD学校E図書館。女の外人の声が聞こえてきた。 “Please follow me to the mita subway line”おー結構早口。 「え?満たされない?」 どっちかが呟いた。・・・・はい?どっちが言ったのかと思ったら、辻だった。 回答:C。 「なんでCなの?てかこの人なんて言ったと思った?」 「私を抱いて満たされないのお願い。」 「おい!そんな問題出ないから!!」 「だからホテルかな〜と。」 もういい・・・・。 英語 unsuccessful。
歴史の問題。なんでも1年のまとめのため範囲はほとんど全部らしい。きついなぁ〜。 とりあえず年号からはじめてみた。 「何年に平城京に移った?」 「えっとなんやったっけ・・・・。」 加護が悩む。辻も考え込んでいる。 「ほら、語呂合わせあるでしょ?」 俺が言うと、二人は顔を見合わせて言った。 『NATO爆撃平城京!!』 「なんだその物騒な語呂合わせは〜!!!!」 俺は大声で叫んだ。 『え?違うの?』 「いや、あってるけど。普通納豆食べて平城京だろ。」 「覚えにくいやんなぁ。」 「れすね〜。」 そうか? 「じゃあ平安京は?」 『無くした彼女と平安京。』 なくしが794か、って納得してる場合じゃねぇ〜!! 「なんでだ〜!!!まあ合ってるからいいんだけどさぁ。」
225 :
歴史続き :04/03/08 23:54 ID:ycnOVVOT
徳川綱吉が発令した「生類憐みの令」とはどんな令で、どんな問題が生じたか。 以下の単語を使って答えなさい(動物、魚、鳥、犬、食料、人民) 回答:動物愛護の命令で、魚鳥を食料として飼養することを禁じ、特に犬を愛護させた。 極端に走ったため人民を苦しめた。 辻:動物愛護協会を作り、人民とともに魚、鳥を食料とせず、 一家に一匹犬を飼う事を義務付けた。 加護:釣りに行って魚を釣り、ハンティングで鳥を射抜き、番犬として犬を飼うことを 禁止して人民は苦しめられた。 加護の最後の番犬って一体・・・?てか“動物”使ってないし。正解を教えると、 加護は言った。 「え〜なんやその答え、ののの答えの方がよっぽどそれっぽいでぇ?」 両方とも犬の所間違いすぎですよ、とは言わなかった。
現国のテストをさせている間、俺は窓の外、ベランダに出てボーっとテストが終わるのを待った。 横を見ると石川の部屋も明かりがついている。まだ寝ていないようだ。次に上を見上げる。 中澤がいた。ベランダから、夜空を眺めている。俺は話しかけた。 「姐さん聞いてよ〜。」 「・・・・ん?おお。お前か。」 随分反応が遅かったので、俺は言った。 「あれどうしたの?大丈夫?」 「たまには悩みくらいあるわ〜。」 いや、俺いるじゃん。 「いつでも相談に乗るよ。」 「う〜ん、せや、そのうちお願いするわ。」 中澤はそう言うと再び夜空の星を見上げ、なにやら考えているような表情をしていた。
227 :
毒舌 :04/03/08 23:57 ID:ycnOVVOT
続いて近世の俳句。 霞さへ まだらに立つや とらの年 松永貞徳 「さて、なぜ霞はまだらに立つんでしょうか?」 俺は辻に振った。 「え?・・・・・・冬だから?」 「どんな答えだ〜!!!しかもこれ冬じゃね〜!!」 俺も答え見るまで分からなかったけど。 「じゃあ春だから?」 加護が言う。 「そう言う問題じゃねぇ〜!!春だけどちげ−!!!」 流石にイライラが募った。大声を出してしまった。心を落ち着けると、 俺は答えを言った。 「まだらと、とらのまだら模様を掛けてるんだよ。」 二人はとりあえず納得した。そしてそのあと加護が言った。 「掛詞ってどないな意味やったっけ?」 「1語に二つ以上の意味を持たせるものだよ。例えば「待つ」と「松」とか。」 「あ〜寺田が出来へんやつやな。」 !!?
『終わったぁ〜。』 3人で声をあげる。夜中の2時。ようやく全ての科目が終了した。1教科1時間しか かけれなかったけど、とりあえずテストの方は何とかなるだろう。 「テスト絶対40点超えるぜぃ!」 辻が言う。いや・・・、そんなレベルなの?4時間もやったんだから活かしてよ。 それでも二人は満足そうな笑顔で部屋へと帰っていった。 ブーン。 「ん。」 俺は携帯を手に取り、ディスプレイを見た。中澤だった。 「もしもし、まだ起きてたの?」 「あんな下が騒いでて寝れるかっちゅうねん!んで、終わったみたいやから、 さっきの話、したいんやけど。」 「うん。分かった。」 「こんなこと相談するんわ、どうかと思うんやけど・・・。」
バン!!! けたたましい音を立てて、押入れが開いた(吹っ飛んだ)何事?! 「なんや?!」 あまりの音に中澤も電話越しから聞こえたのか、驚きの声をあげた。慌てて俺は寝室から 押入れの方へと走る。すると押入れから石川がいつものように出てきた。しかしなんか いつもと雰囲気が違う。 ・・・目が据わってる? 「ヒック・・・・・。」 酔っ払い!?のんべえ?! 「ちょ・・・ごめんなさい!急用出来たみたい!!」 「あ、あぁ・・・そうみたいやな・・・せや、また今度な?」 中澤はちょっと残念そうな声で言っていたが、俺はこの時点ではそれに気がつかなかった。 俺は、さっきからフラフラ歩き回っている石川に話しかけた。 「石川どうしたの?てか酒飲むなよ、バレたら色々と問題だぞ。」 「たまには飲みたくなっらりするのよ〜。」 絡み上戸か?石川はそのままソファに倒れこみ、 「水〜・・・。」
230 :
急展開 :04/03/09 00:01 ID:RmEDyCUP
「はぁ〜・・・・。」 水を一気飲みすると、石川は溜息をついた。そしてコップを置くと、相変わらずフラフラした足取りで、 俺に近づいてきた。 「?」 石川は両手を広げ、体全てを俺に預けた。 「うわ!おい!大丈夫か?!」 石川は相当酔っ払っているようだ。しかし俺の思惑に反して、石川の腕は俺の背中へと回った。 ちょうど抱き合う形になる。 ・・・・え? 「あ!分かった!またドッキリだろ!!」 俺は慌てて、ドキドキをごまかすように言った。しかし石川止まらない。顔が少しずつ俺に近づいてゆき、 そのまま・・・。 暫くして石川の唇が離れると、その悪戯な唇から、とんでもない言葉が発せられた。 「好き・・・・。」 その目は俺の目をじっと捉えている。ここでさっきよりひどい頭痛がした。 続く
231 :
えっと :04/03/09 00:02 ID:RmEDyCUP
10話終了です。こんなところで続きにしちゃってすみません。でも今まで 動きの全くなかった二人に動きが欲しかったので、つい(汗)
更新乙! え〜〜〜〜!!気になる〜〜〜!!!
いやああああ!!!!こんなところで切らないでーーーーーーーーーーーーーーーー 気になって気になって!!!!!
234 :
えっと :04/03/09 21:59 ID:RmEDyCUP
>>232 ,233 すみません(汗)再放送でやってたAge35に影響されました(爆)
いつも録画して見てたからいいんですけどもしそのときリアル
タイムで見てたら毎週辛くてたまんなかっただろうなぁ、っと
思っているうちにそんなのが書きたくなって・・・。
マジすみません、俺も読者だったらこんな所で切られたら発狂
しちゃいます。
取り合えず保全 最終話期待してるよん
236 :
えっと :04/03/11 00:10 ID:v2MUtlg7
11話(前半)更新します。
11. Eternal… 「好き・・・・。」 その目は、確かに俺の目をじっと捉えている。俺はどうしていいのか分からず、 口ごもってしまった。やばい、ドキドキしている。でも・・・。俺が明らかに 困った顔をしているのに気がついたのか、石川は言った。 「・・・や〜だぁ〜冗談だよぉ〜。」 そこまで言うと、石川は再び全体重を俺に預けてきた。 「・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・りかっち?」 「・・・・・・・・・・・。」 「なんで泣いてるの?」 俺は湿った肩に気づいて呟いた。 「・・・・なんでも、ない、よ?」 途切れながら必死に声を出しているのが分かってしまった。石川は少しして落ち着くと、 千鳥足で押入れの中へと入っていった。
238 :
寒い夜 :04/03/11 00:13 ID:v2MUtlg7
なんだったんだろう。 俺は頭を冷やすために玄関から外へ出て、手すりに腕を乗せてよっかかると、軽く溜息をついた。 そしてそこから見える月を、なんとなく見ていた。ベランダだとダメだ。石川がいるかもしれない。 それでなくても最近思わせぶりな態度をとってきた石川なだけに、凄くドキドキして、同時に凄く焦った。 もしかしたら大西さんの存在が俺の頭を更に混乱させているのかもしれない。 「・・・あ〜もう!!」 自分の中に芽生えた感情を消し去るかのように、必死に頭を掻き毟る。別に消す理由なんてないはずなのに。 ガチャッ。 石川の部屋のドアが開く音がした。俺は慌てて部屋に戻ろうと、ドアに手をかけたが、間に合わなかった。
「よっすぃー?」 出てきたのは石川ではなく吉澤だった。じゃあさっきの事も全部知っている?俺が吉澤の顔を見ていると、 吉澤は一瞬だけ表情を曇らせた後、笑顔で言った。 「何してんの?」 「ちょっと頭冷やしてるだけ。」 俺がそう言ってさっきの体勢に戻り、月を眺めていると、 「その姿、かっけーっすよぉ〜。」 吉澤は俺の横で同じ体勢をとった。 「よっすぃーには負けるよ。」 俺は吉澤を見て軽く微笑んだ。するとその顔を見た吉澤の口から、びっくりするような言葉が飛び出した。 「その笑顔、罪深いっすよ。皆言ってる。」 「はい?」 俺はえ?と思ってそのまま顔に出し、声に出した。 「そんな優しい顔で微笑んじゃって・・・。何も感じない女の子はいないっすよ。」 「・・・・そうなの?」 俺としてはなるべく相談しやすい環境作りのためにやっている、ただの営業スマイルみたいなものなのだが・・・。 どうやら成功しているらしいが。 「そうっすよ。だから、責任取らないと、ダメだよ?」 ダメっすよ、ではなく、だめだよ、と言ったのが印象的だった。吉澤が自分の部屋へ向け歩き出した時、俺は呼び止めた。 「ドッキリじゃないよね?!」 俺はドッキリであって欲しいのか、そうではなくて欲しいのか、自分の気持ちに整理がつかなかったが、聞いた。 吉澤は振り返り、意味深な笑顔で言った。 「判断は任せるっす。」
翌日早朝。俺はチャイムによって浅い眠りから覚まされた。あまりよく、寝れなかったため、 俺はすぐに応対する事が出来た。中澤だった。どうやら仕事があるからこんな時間に来たらしい。 「こんな事お前に言う事ちゃうかも分からへんけど・・・。」 「なんでも言ってよ。」 俺は吉澤の言う「罪深い」笑顔で微笑んだ。中澤は話し始めた。 「うち、お見合いさせられて。」 「はいっ?」 誰が何を? 「せやから、お見合い。」 「誰が?」 「うちが。」 「なんで?」 「それを今から説明するんやないか!!!」 あ、そうなのか。中澤は気を取り直して話し始めた。 「あれは2ヶ月前やったかな・・・。おかんが突然家に来たんや。」
「あれ、おかんどないしたん?」 突然の来客に、中澤は驚きながらも出迎えた。 「裕子に見せたいものがあるんや。」 母はバックから長く薄っぺらい、本のようなものを取り出した。 「なんやそれ。」 「見てみい。」 中澤は渡されると、写真を開いた。するとそこにはスーツを着たなかなかのイケメンが、 緊張した表情で写っていた。これってもしかして・・・。 「お見合いセッティングしたで。」 「はぁ!?」 中澤は大声を上げて叫んだ。意味が分からない!意味が分からない! 「裕子もええ年やし、最近苦しゅうなっとるし、そろそろ、ええんちゃうか?」 何がええのか、説明は不要だった。だから、その言葉はダイレクトに中澤の胸に突き刺さる。 「あ、相手くらい自分で探すわ!!!」 この広い芸能界、誰かが拾ってくれてもおかしくはないはず。 「そう言うだけ言って一体何年待たせるんや。全然気配ないやんけ。」 うっ。それを言われると痛かった。
「『会うだけや。』そう言われて結局うちはお見合いした。」 中澤は一息つくと、続けた。 「ええ人やった。うちの事も好きみたいやし、何もケチ付ける所が見当たらんかった。 会社を経営しているから年収もがっちりやし、性格もええし、顔もええ。」 俺は黙って話を聞いていた。 「気がついたら結婚を申し込まれてな、ああ、別にこの人でええんちゃうかな? とその時は思ってOKした。もう結婚式の日取りも済んでるんやで?事務所には まだ言うてへんけど。」 なんか俺の知らないところで凄いことになってるな、口には出さなかったがそう思った。 「でも、やっぱなんか違うん。うちはあの人を、恋愛対象として見れてへん。きっと、 これからもずっと・・・。そう思いながらも今更断れん思うて過ごしてたら最近、 好きな人が出来てな?うち、どないしたらええかな?もうよう分からんのやわ。」
他人に流されない、自分の道をしっかり自分で決めて進んでゆく人。俺は中澤裕子という 人物をそう認識していたから、この告白は意外でならなかった。しかし、逆に考えれば、 中澤が初めて自分に本当に弱い一面を見せてくれた、ということなのだろう。 俺は暫く考えた末、言った。 「どっちがいいかとか、そういう回答を求めているのだとしたら、俺には決められない。」 中澤は少し驚いた顔をした。 「これは姐さんの人生において大事なターニングポイントに成りえる。だから、これは姐さんが 自分でゆっくり、よく考えて決めるべきだと思う。俺の無責任な発言で姐さんの人生が決まって 欲しくない。」 中澤は真剣な顔で俺を見ている。 「恋愛は結婚とは違うと考えるのか、それとも延長線上にあると思うのか、俺はまだ判断できるほど、 大人じゃないよ。ただ一つ、俺が言える事としたら、自分に嘘をつかないで、後悔しないと思える道を選んで。」 俺が話を終えると、中澤は難しい顔をしたまま、しばらく何も言わずにどこか下の方を見ていた。
長い静寂の後、中澤の重い口がようやく開いた。 「せやな・・・。あんたに相談して正解やった。これからじっくり、考えさせてもらうわ。」 中澤は玄関の方へと歩き出した。俺は何も言わずにその背中を見た。なんだろう、この感じ。 中澤はドアに手をかけ、部屋を出る前に振り返った。 「ありがとな。」 バタンッ。 「はあ〜。」 朝からハードな相談だった。もっとこう、他愛もない相談こないかな?というより、 「誰か俺の悩み聞いて〜・・・・。」 誰も聞いてくれるはずがないが。一番話しやすい奴が悩みの種だし、矢口も週刊誌のことがある。 中澤も相談し返しずらいし、安倍は話してるうちに大西さんの話に摩り替わるだろう。じゃあ・・・・ 後藤?いや、ダメだ。そんな悩みを聞いてくれるタイプではない・・・。安倍のときはたまたま気分が 乗っただけだろうし。
ブーン。 「噂をすれば?」 他愛もない相談を期待、もしくは相談を受けてくれる事を期待。 「もしもし。相談?」 高橋だった。 「うん。今仕事してて、石川さんの元気がないんやけど、どったらいいかな?」 !!えっと・・・。それは俺が聞きたい。 「どんな風に、元気ないの?」 「足腰弱くて。」 ! 「作り笑顔出来てなくて。」 !! 「声軽く枯れてて。」 !!! 「なんか目が腫れてて。」 !!!! 「あんたならなんかしっとるかな、と思ったんだけど、思い当たる節ない?」 ありますとも、ありえないくらいに・・・。でも言えたもんじゃないわな・・・。
ここで一瞬、俺の耳に悪魔が囁いた。逃げる方法を思いついてしまったのだ。 「いや、分からないけどよっすぃー昨日りかっちの部屋から出て行くの見たから、 何か知ってるかもよ。」 俺は携帯を口から思い切り離して言っていた。吉澤の言葉を思い出した。 「責任取らないと、ダメだよ?」 「え、今なんか言った?」 高橋に聞かれて俺は言った。 「おや、別に。とりあえず、今はそっとしておいてあげて。相談待つから。」 内心来ないで欲しい、と思いつつ。この回答が、今の俺には精一杯の答えだった。 「そっか・・・。だそうですよ石川さん。」 「えっ?!!!」 「嘘や。」 またやられた。電話越しで笑う顔が頭に浮かんだ。 「とりあえず知ってるみたいやけど、聞かないでおいた方がいいみたいやね?」 「・・・・はい。」 と、年下に遊ばれてる・・・。
「じゃあもう一ついい?」 「いいよ。」 もうなんでもこいや〜! 「いいって。」 高橋は誰かに言ったような声で言った。少しの間を置いて、高橋ではない声がした。 「どもども久しぶり〜。」 「!!・・・・ひ、久しぶり・・・。」 そ、その声はまさか・・・。 「あれ?元気ないな〜。あたしの相談なんか聞いてる場合じゃなさそう〜。」 間違いない、 「美貴ちゃん・・・今回は何の相談?」 精一杯親しく呼んで、”美貴ちゃん”。俺の唯一管轄外の相談相手にして、 一番苦手な娘・・・。 「えっとぉ。」 「あ、待って!この間みたいな事だったら、聞きたくない・・・。」 この間、とは・・。
俺が藤本の相談を聞いたのは、ひょんな事からだった。それは俺がこのバイトを 始めて間もない頃・・・。 「うん、ありがとうございます!」 ちょうど松浦との相談が終わった時、 ピンポ〜ン 「?誰だろう?」 松浦が入り口へと小走りで走ってゆく。 ガチャッ。 「あ、ミキたん♪」 お。新顔。確かここには住んでなかったな? 「あれ?あんた誰?」 あんたって・・・一応年上ですけど。まあわかんねぇか。 「この人が悩み相談の人。」 「あ〜、あれかぁ。じゃあたしも聞いてもらいたい事あるんだけど。」 俺の管轄はマンションだけだったが、一人でも多く知り合っておいておこうと 思っていた俺はあっさりOKした。 「じゃあちょっと、来て。」 藤本に連れられて部屋を出る。あれ、なんで?もしかして・・・変な期待をする。 屋上に着くと、藤本は言った。 「ストレスが溜まってて・・・。」 藤本は上着を脱いだ。え?マジで?いいの?
249 :
結果。 :04/03/11 00:30 ID:v2MUtlg7
ピンポ〜ン ガチャッ。 「お帰り〜。どうだった?ミキたん。」 「うん、すごく良かったよ〜♪」 俺はフラフラになりながら、松浦の部屋には戻らず、自分の部屋へと戻っていた。 するとそこで石川とばったり会った。 「あれ?!どうしたのっ?!顔血まみれだよ!!」 「ちょっと・・・・ね・・・・。」 俺は力尽きてその場で倒れた。
俺の拒否権がないのを上手く利用した、実に残忍な犯行だった(言いすぎ?)。 松浦といい藤本といい、なんなんだこの恐ろしい戦闘能力は・・・。 二人の仲がいい理由が分かった気がした瞬間だった。 「流石にあれはもう大丈夫だよ〜。ストレスはたまってるけど。」 ビクッと俺の体は震えた。 「で、何?」 やっぱやだよこの人・・・。絶対ヤ○キーだったって・・・。かなりびびりながらも一応仕事をする。 「辻加護がウザい。」 ダークな話題だー!!!!こういう話聞きたくねーー!!!!てか高橋止めろ〜!!!! 確かに辻に一度、相談を受けた事があった。 『藤本さんに無視される』 そのときはあたりさわりのない事言って励ましたっけな・・・。ここは・・・、 「確かにガキくさいし、無駄にテンション高いし、美貴ちゃんみたいな性格の娘には ウザいと感じられても仕方がないと思うけど、向こうだって、仲良くしたくてやってるんだよ?」
251 :
絶対王政 :04/03/11 00:33 ID:v2MUtlg7
「仲良くなんか出来な〜い。」 いや、そう言われましても・・・。 「でももうすぐいなくなるんだから、最後ぐらいは仲良くしてあげても、ね?」 これで決まらなかったらどうしよう。 「え〜、あのキャラ辞めたらいいけど。」 いや、あれ辞めたらもはや辻加護じゃない・・・。 「辞めるまでの辛抱、演技、作り笑顔、得意技でしょ?ね?」 あ、やばい、結構暴言吐きまくった。電話越しから悪魔の笑顔が垣間見える。 「じゃあそれでストレス溜まったらまたよろしく♪」 ひ、いやーーーー!!!!俺にとってはホラー映画なんかより全然恐い、一言だった。 電話は高橋に戻る。 「ありがとね〜。」 そのまま電話は切れた。・・・・俺、心も体もボロボロになりそう・・・。 ブーン 「また?!」 すぐに電話に出る。 「もしもし矢口?」 「今から事務所まで来て。」 「え?なんで?」 「来れば分かるから。」 もしかして、週刊誌の件ですか?しかも事務所に呼び出し?え?もしかしてやばい? とりあえず行くしかない。俺はマンションの車庫へと向かった。
事務所の駐車場を降り、室内に入る。そしてそのままつんくがいるはずの場所へと。 近づいてくると、なんだか凄い言い争いをしているようだ。めちゃめちゃ聞こえる。 「せやから付きおうとる事怒ってるちゃうねん!!」 「だから付き合ってないです!!」 「じゃあなんであんな遅い時間二人でいるんだよ!!!」 矢口、つんく、マネージャー。凄い激しい論争、1対2の状況。矢口だから相手が出来るのだろう。 「あの〜、来ましたけど。」 矢口に助け舟を出した。俺の声を聞いた途端口論はぴたりと止み、つんくさんはこっちを振り向いていった。 「来たか。で、どうなんや?」 うわ〜、かなり端折ってる〜。意味分かるから問題ないけど。 「あの時は依頼された仕事の近況報告です。飯食いに行ったのは友達としてですよ。」 「ね?」 矢口が二人を見て言った。 「ほんまみたいやな。」 「ですね。」
「助かったぁ〜。ごめんねいきなり呼び出して。」 「うん。」 矢口は体を思い切り伸ばすと、愚痴るように言った。 「にしてもおいらがいくら言っても信用しないのになんであんなにすぐ納得するんだよ〜!」 俺はとりあえずなだめ、聞いた。 「でもあれって何?俺と付き合ってると思って怒ったの?」 「ううん。あんな夜中に撮られた事。つんくさんも別に付き合っても仕方がないと 思ったうえでこの仕事やってもらってるみたいだから。」 「大西さんの事もあるし?」 俺は核心に迫る一言を言った。 「そう・・・・え?」 矢口の表情が一変した。 「知ってたの?・・・大西さんが、悩み相談やってた事・・・。」 「ああ、本人が教えてくれたよ。」 矢口はそれを聞くと、真剣な目つきになって、言った。 「じゃあ言っちゃうけど、正社員じゃなくて、バイトに相談室をやらせることにしたのは、 そう言う理由なんだ。」
254 :
ともだち :04/03/11 00:36 ID:v2MUtlg7
「そう言う理由?」 「大西さんとなっちが別れた後、なっちがかなりダメダメになっちゃった訳でしょ? だってあの旅行だって別れて半年たってるのに、簡単にぶり返してあれだったんだよ?」 それだけ親身になって相談を受けるような立場だから、別れちゃうと引きずるに違いない。 しかも事務所で顔を合わせる度に苦しまれたら困る。ならバイトにあのポストをやらせれば、 大西さんのような事態になったとき楽だ。クビにするだけだし。」 俺は一瞬、ゾクッと体が震えたような気がした。 「ってつんくさん考えたみたい。」 「・・・・・。」 言葉が見つからなかった。俺がこのバイトにつくまでに、そんな色々な思い、 考えが交差していたのか・・・。俺黙っていると、矢口は言った。 「でもさっきうれしかったよ?」 「え?」 「『飯食いに行ったのは友達としてですよ』って。おいらの事、仕事の対象としてじゃなくて、 友達として見てくれてるんだなぁって思ったよ。」 俺はそれを聞くとニコッと笑った。 「当たり前じゃん。」 それを聞くと、矢口も微笑み返した。
255 :
えっと :04/03/11 00:38 ID:v2MUtlg7
11話前半終了です。あんな風に引っ張ったのにあんなんですみません(汗) 多少現実無視してるのは気にしないでください(ぉ
イイヨーイイヨーガンカッテ
いい感じですよ! 待ってますよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
258 :
えっと :04/03/11 23:35 ID:U6aw8Olp
>>256-257 どうもです。頑張ります!
今書いている途中なのですがどうやら11話だけで住人全員
出そうです。あと6人もいますけどw
まってますりー まってますよ! がんばってください!
おう、どうなるどうなる? 楽しみにしてます!
ミキティー…。
262 :
えっと :04/03/12 23:04 ID:XEARmyWl
>>259 今日中には終わらないっぽいですがなるべく早く仕上げれるように
頑張ります。
>>260 期待に添えられるようにしたいですね。ラストだし、いい終わりを
かけるように・・・。
>>261 ごめんなさいw(汗)
ミキティーの戦闘能力はいったいいくらあるのか? スカウターが欲しくなりました
264 :
えっと :04/03/13 23:15 ID:EzrJmi++
>>263 俺も欲しいかもしれませんw
いよいよ最後の更新となりました。上手く書けたかどうかは分かりませんが、
精一杯書きました。
家に帰ってくるともう昼になっていた。とりあえず俺は昼飯を作り始めた。 当然仕事中の石川の姿はそこに、ない。当たり前の事なのに、今日は凄い違和感を覚えた。 「・・・・・・まず。」 食べれたものじゃない。なんだこれ。俺は調味料を確認すると、原因に気がついた。やばい、 動揺している。どうしても石川のことが頭から離れない。それ程昨日の石川の姿は衝撃的だったし、 吉澤や高橋、藤本、矢口の一言一言が合わさって複雑に交錯し、俺の心に影響を与えていた。 「(これ食べれねぇな・・・・。どうしよ・・・。)」 コンビニか?いや、ここはむしろ・・・。 「いてくれよ〜。」俺は呟き、部屋を出た。
「上手い!」 「当たり前じゃん。」 後藤は誇らしげに言った。今日後藤がオフなのは知っていたので、いるかどうかの問題だったが、 いてくれて助かった。 「でも料理ミスするなんて珍しいね。どうかしたの?」 後藤は俺に聞いた。 「・・・色々、あってね・・・。」 どうする?相談すべきなのか?後藤は俺が難しい顔をしているのを見て、言った。 「難しいことよく分からないけど、悩み聞いてばっかりで自分の悩み吐き出すところないなら、 聞くよ?」 俺は凄く胸を打たれた。こういう意外な優しさほど嬉しいものはない。 「ありがとう。」 俺はそれだけ言ったが結局話せなかった。後藤の気持ちはありがたい。ありがたいけど・・・ 自分で解決したい気持ちもあった。
その後数日間、石川は俺の前には現れなかった。会いに行こうと思ってみたりしたが、 どうしてもチャイムが押せない。結局この日もチャイムを押せず、部屋に戻ろうとしたら、 声をかけられた。 「テスト出来た〜!!!」 ん?振り返ると、辻加護がセットでご登場。 「今日テストだったの?」 『うん!』 「どうだった?」 『出来た!』 「何点くらいだともう?」 『50点!!』 俺はそれを聞くとこけそうになる。出来た!と言って50点・・・。でも前と比べたら全然マシか。 それが二人のレベルな訳だし。まあ自信満々なのが逆に危なさを感じるが、 テストの結果を楽しみに待つことにしよう。 そしてさらに数日後。 「やっぱ50点行ってたで〜!!!数学なんか61点や!!!」 加護が超ハイテンション。いいのか?それで・・・。辻も似たような点数で大喜びしていた。 二人が嬉しそうに部屋へと帰ってゆくと、反対側から紺野が、沈んだ表情で歩いてきた。 同じ階に住んでいるから珍しい光景ではなかったが、その顔を見て俺は話しかけた。 「紺野どうしたの?浮かない顔して。」 「はい・・・・。テストが悪くて・・・。」 あ、同じテストか。 「どんくらい?」 「一番低いのが71・・・。」 紺野最低点>加護最高点・・・。そりゃそうなんだろうけどさ・・・。
「そういえば石川さん元気なかったんですけど、何かあったんですか?」 「え?!」 な、何?その聞き方。 「うん、ちょっと、な。」 俺は目線を逸らしてしまったことに気がつく。すぐに紺野の眼をよく見て、優しく微笑む。 「お互い、がんばろう。」 「はい!」 紺野も笑い返してくれた。こうやって見てみると本当に効いてるな、この顔。責任・・・・か。 やっぱり石川に会って、話をした方がいいのだろうか?でも今の俺はそんなに強くなかった。 人には背中押すアドバイスを言えるくせに、自分は動けない。説得力ない男だな、俺って奴は。 「でもいつも相談受けてばっかりで疲れませんか?私でよかったらいつでも言ってください。」 あれ、もしかして皆そんな風に俺見てる? 「それ、ごっちんにも言われた。」 俺は笑った。紺野はそれを聞くと微笑み、 「じゃあ、私はこれで。」 さっきとは違った顔をして自分の部屋へと歩き出した。俺も強くならないとな・・・。 そんなことを思いつつ部屋のドアに手をかけた。
次の日、俺は用事で事務所へ行った。つんくさんへの定例報告というものがあり、 3ヶ月に1回、事務所に来る事になっていた。つまり今回が2回目。まあ簡単に言うと、 誰が病んでいるか、誰が精神状態がいいか等の話から今後の曲に反映させる、というもの。 「石川か。」 つんくさんは困ったような顔で呟いた。煙草を吹かすと、続けた。 「で、後藤はええみたいやな。」 「はい。彼女は料理の味で分かりやすく出ますからね。昨日食べたけど、かなりいいみたいです。」 逆に体力がギリギリだとこの間みたいな事になるわけだが・・・。 「他は〜・・・。辻加護。テストがよかったと。」 「いやそんなによくはないですけど。」 俺が言うと二人で笑った。 「留年はかっこつかへんからな〜。」 「ですよねぇ〜。」 つんくさんは煙草を灰皿に押し付けると、聞いてきた。 「石川は、どんな風にあかん?」 「・・仕事でも結構ひどい状態みたいです。」 俺はなるべく平静を装って答えた。 「ん〜・・・。お前のせい・・・ちゃう?」 ビク!!俺は全身の毛が逆立ったような気がした。 「そんな、ことはないです、よ、ハハハ・・・。」 「そうか・・・。」 なんとか動揺しているのはバレなかったらしい。
270 :
柔術? :04/03/13 23:23 ID:EzrJmi++
俺は事務所を出た瞬間、誰かと衝突した。と思ったときには俺は宙に浮いていた。 ドン!!! 「うへ!!」思い切り地面に叩きつけられる。そのままマウントポジションを取られた。 誰だ?顔を見てみると・・・。 「あれ?!すみません!つい条件反射で!!」 じょ・・・条件反射って・・・。そいつは思いきり俺に謝ってきた。松浦だ。 何処で覚えたんだそんな技。 「あ、そういえばさっき後藤さんが探してましたよ。」 「ごっちんが?電話してみるか、とその前に・・・。」 「はい?」 「降りてくんない?」 「あ。」 松浦は慌てて降りると、俺は携帯を取り出した。 「もしもし?俺を探してたって聞いたんだけど。」 後藤はすぐに反応した。 「うん。ちょっと渋谷まで来てくれない?」 「分かった。渋谷の何処?」 俺は場所を聞くと、電車の方が都合がいいと思い、駅へ向かって歩き出した。
指定された場所に着くと、そこには何故か安倍もいた。なんか後藤がうんざりした表情なのが気になる。 「あれ?」 不思議に思っていると安倍はすぐに近づいてきた。 「ねーねー、どっちがいいと思う?」 安倍はかなり嬉しそうな表情で、2本のネクタイを目の前に出してきた。 「優の誕生日、どっちがいいかな〜?って思って。でも優ならどっちも似合うべ。」 大西さんか。ここで俺は呼ばれた意味を理解した。貧乏くじじゃん。 「ちょっとご」 言い切る前に既に後藤は抜け殻となっているのに気づいた。 「速!!」 「ねぇどっちがいいべか〜?」 安倍はしつこく聞いてくる。 「う〜ん・・・・・こっち!!」 あたかも真剣に考えたかのように答えると、安倍は満足そうな笑顔を見せた。 「じゃあ買ってくるから、これ持ってて!!」 俺は買い物袋を渡された。安倍は嬉しそうにレジへと歩いていった。
買い物を済ませ、とりあえずファストフードの店に寄った。あまり何処かで長居すると また撮られる、という俺の判断だった。 「この前は、ありがとうございました。」 安倍は俺にお礼を言ってくれた。 「ううん、あんななっち見てられなかったんだもん。お節介かとは思ってたけど、 気づいたら動いてた。」 よくもまあ無い事無い事言うなこの口。 「あ。」 安倍がつぶやいた。 「どうしたの?」 安倍の視線の先を覗いてみると、中澤と若い男が、店内に入ってきた。 「あの人、お見合いの?」 「うん。気になるべ。」 二人はなんと隣の席に座った。この店は一席一席仕切られていて、硝子は霧がかっていたため、 向こうは気がつかなかった。俺達は二人とも近い側に座って耳をすました。
中澤は暫くすると話し始めた。 「あのな、うち色々考えたん。」 「何を?」 「田中さん、あんたはええ人や。でも・・・でもちゃうねん。なんかうち、 ここまで流されてきてもうたけど、あんたの事を愛す事は出来へん。」 「!!」 安倍が声を出しそうになったので俺は彼女の口を手で塞いだ。 「だから、この結婚の話、なかったことに、出来へんか?」 間。俺達は硝子からぼんやりと見える二人をじっと見つめていた。旗から見たら、 かなり妖しい光景だったに違いない。やがて田中さんと呼ばれた男は口を開いた。 「いつか、そう言うんじゃないかって思ってました。確かに僕らの関係は、 恋とはいえない。中澤さんのように素敵な人なら、きっと僕よりいい人が見つかりますよ。」 田中さんの表情が眼に浮かんだ。 「(いい人〜)」安倍は小さな声で呟いた。
「そんで、好きな人がでけて、今から告白しに行こう思うてます。」 『え?!』 二人は同時声を上げ、お互いの手で口を塞ぎあった。店内が騒がしかったため、 なんとか気がつかれなかったようだ。 「そうですか・・・。頑張ってください。応援してますよ。」 二人はいつの間に食べ終わったのか席を立ち、店を出る準備を始めた。 そして二人が去った後、安倍が言った。 「見に行くべ!裕ちゃんの告白!!」 俺は安倍に強引に引っ張られながら店を後にした。 中澤の後ろを尾行すると、中澤はモヤイ像の辺りで立ち止まった。え?こんな場所で? 勢いに身を任せちゃうのか?俺達は声の聞き取れ、尚且つ気がつかれない絶妙なポジションを探し、 ギリギリまで近づいた。やがて中澤の前に一人の男が現れた。 「何ですか?話って。」
見覚えのある顔だった。でも芸能人だっけ?スタッフ?あれ?まあいいか。 「(姐さんってああいうのが好きなの?)」 俺は聞いた。 「(うん。好みはデビュー当時から変わってないべ。)」 安倍は笑いながら答えた。そんな話をしているうちに中澤は既に思いの丈をぶつけていた。 あとへ返事を待つだけ。 「いいですよ。」 その声が聞こえた途端俺達は顔を見合わせて笑った。中澤は彼に言った。 「せや、さっそく紹介したい友達がおるんやけど、出てきいやそこの二人。」 ビクッ!! 俺達は身を震わすもまだ隠れていた。 「気づいとるっちゅうねん!」 俺達は仕方なくモヤイ像の裏から出てきた。 「あ・・・・あはは、どうも・・・。」 安倍は必死に作り笑顔。俺も慌てて笑顔を作る。 「姐さん・・・いつから気づいてた?」 「それは言えへんな。」 中澤はにやりと笑って見せた。
その日の夜、中澤は俺の部屋に訪れた。部屋に迎え入れ、飲み物を一杯出した。 「酒の方がいい?」 「いや、これでええよ。」 「今日は、どうしたの?」 俺が聞くと、中澤は笑って答えた。 「分かっとるくせに。」 中澤がそう言うと、二人で笑った。 「なっちはどのくらい広めた?」 「全員。全員うちの結婚話しっとったから驚いてたで〜。お前が背中押したとか込みで。」 「マジで?相談増えたりして。」 俺はまた笑った。一杯飲むと、中澤は言った。 「ホンマ、ありがとな?お前のお陰や。」 「いやそんなことはないよ。」 「あるがな。」 「俺は背中押しただけだから。自分の道へ足を踏み出したのは姐さん自身。」 「カッコええこと言うな〜ホンマに。」 「言えないとこんな仕事できません。」 俺がそう言うと、また二人で笑った。
「じゃあうちそろそろ行くわ。洗濯物直してへんねん。」 中澤はそう笑うと玄関の方へと歩き出した。ドアをあける音がした後、中澤の声が聞こえてきた。 「ん、どないしたんそんなしけた面して。」 ?誰か来たって事か。誰だろ? バタン! 入ってきたのは石川だった。『しけた面』中澤が形容した通りの顔だった。いつもの明るい笑顔を 微塵も感じさせない、切ない表情。会ったのはこの間以来・・・。それだけで変に意識してしまうのに、 わざわざ玄関から、しかもあんな表情で入ってこられると・・・。 「珍しいね。わざわざ玄関から来て。」 俺は平常心を保とうと必死だ。石川は何も言わずに、表情も変えずに俺に近づいていた。 俺は高まる胸の鼓動をごまかそうと、必死に言葉を探した。 「な、なんか悩みあるの?」 「うん。」 石川はようやく返事をした。石川はそのまま更に近づいてきて、俺の肩におでこを当て、 もたれかかってきた。 「胸が、痛いの・・・。」 心拍数がどんどん上がってゆく。やばい、ドキドキが止まらない。俺は気を落ち着けるべく口を開いた。
「酔ってないよ、ドッキリでもない。」 俺が声を出す前に、石川は俺の言おうとしていた事を予測し、道を塞いだ。 「今言わないと、ずっと言えないと思うし、今にも胸が張り裂けそうだから・・・・。」 俺は、俺の肩辺りが濡れ始めているのに気がつくと同時に、鼓動が更にスピードアップしてゆくのを感じた。 石川は顔を上げると、俺の目を見て言った。 「あたしは・・・・・。」 そこまで言うと目から大粒の涙。俺にはこの涙の意味がよく分からなかった。 「あたしは・・・・・。」 仕切り直すも、石川はどうしてもその先が言えなかった。俺はそんな石川をそっと抱き寄せた。 もう、言いたい事は分かったから、いいんだよ? 「あ・・・うっ・・・ぅわぁ〜ん!」 石川は声を上げて泣き出した。俺は抱きしめる腕の力を強める。
石川が泣き止むと、俺の胸がびしょ濡れなのを見て、申し訳なさそうな表情で顔を上げると、 この間の話から話してくれた。 「矢口さんとの記事、ショックだったの。矢口さん、意地悪するし・・・。」 『おいら達ラブラブです〜』の件か。 「それで、冗談だって聞いて、ほっとしたんだけど・・・。もしかしたら早く言わないと、 本当に誰かとああいうことに、なるんじゃないかって。よっすぃーに相談したら、行け!って 言われたんだけど、あたし勇気がなくて・・・。そしたらよっすぃーったら、 『このジュース飲めば言える』 って、明らかにお酒なのに渡してきたんだよ?でもその気持ちが嬉しくて、飲んだらなんとなく 気持ちが伝えられる気がして。行って、言えたし、キスまでしちゃったけど、あなたの反応見たら・・・。 答えが返って来るのが恐くなっちゃって、冗談、って言っちゃった。そしたらなんか、あたし、 だめだな・・・って。そう思った途端に、泣いちゃった・・・。」
俺はただ静かに、石川の事を見つめていた。体はまだ抱きしめたまま。 「最低だよね?お酒のチカラ借りて、一方的に告るだけ告って、勝手に泣いて・・・。 このまま終わりかなって、思ってたら、中澤さんの話が耳に飛び込んできて。・・・ 凄いなって思った。きちんと自分の気持ちに答えて。だからあたしはそれに、 背中を押してもらおうと思ったの。」 「背中を?」 「うん。だから、今しかない。今このときを逃したら、きっともう言えないから・・・。」 石川はじっと俺の目を見つめると、その唇を開いた。 「あたしは・・・・・。」 再び目から涙が漏れる。
「だめだあたし・・・泣き虫で、弱虫だ・・・。」 俺は石川をそんなに弱い娘だと思っていなかったためこの情景を半ば信じられずにいた。 自分へと想いを伝えようとしているその姿に何も言えない自分にも苛立ちを覚えた。 「ごめんね・・・・さっきから泣いてばっかりで・・・。なんか、 ネガティブな自分が帰ってきちゃったのかな・・・?」 俺は石川をぎゅっと抱きしめた。 「・・・?!」 「もういいよ・・・何も言わなくていい・・・。もう、りかっちの気持ちは、 俺に伝わってるよ?」 石川は俺の胸の中から顔を上げると、枯れそうな声で言った。 「だめ・・・これはあたしの、けじめだから・・・。言うって決めたの・・・。」 「じゃあ、背中押してあげる。」 「・・・え?」 俺は何も言わずに、顔を近づけた。石川の目は少しおびえているようにも映ったが、 俺は一気に唇を奪ってしまった。 「・・・・・・・・・・。」 暫くして唇を離すと、俺は一言だけ、言った。 「俺はいつまでも待つから。」
石川は涙を流し、軽く頷くと、まだ温もりが残る唇から言葉を放った。 「あたしは・・・・・・・・あなたが・・・・好き・・・。」 「俺も・・・・りかっちの事が好き。いや、梨華の事が好き。」 俺がそう言うと、石川の目から再び雫が零れ落ちた。 「あれ?なんで伝えられて、あなたも好きって、言ってくれたのに・・・。 涙が止まらないよぉ・・・・。」 俺はそんな石川の姿を見てたまらなくなり、優しく微笑みかけた。 「止まるまで、ずっと抱きしめててあげる。」 「・・・・その笑顔、反則だよ・・・・。」 この笑顔の責任、ちゃんと取れたかな?
「あのね、恐くて言えなかった理由、もう一つ、あったの。」 石川は泣き止むと、言った。 「何?」 「もし付き合って、そのうち別れたとしたら、あなた、クビになっちゃうから・・・。」 俺の事を考えて、言えなかったというのか? 「馬鹿だな・・・。別れるのって嫌いになったからだろ?付き合う前からそんなこと 考えなくていいのに。」 「あなたなら、別れても好きかな・・・って。」 俺はドキッとした。物凄く恥ずかしい台詞を言ってくれた石川に、俺もお返しを。 「俺がクビにならなくても済む方法、あるよ。」 「なぁに?」 「ずっと、一緒にいればいいんだよ。」 俺は照れくさくて少し笑った。 「・・・これ以上、泣かせないで。」 石川は微笑みながら、でも涙を浮かべながら俺の胸に顔を埋めた。 俺はそんな石川の髪を撫でた。 「付き合い始めはいつだって、永遠を信じるものだよ。だから、俺達も信じてみようよ。」 この世に「運命」なんてものが存在するなら、ね。
「今日はタンポポか〜。」 石川はいつも通り、オフはうちで食事。辻も当然のようにパスタを口にしている。悲しいかな、 付き合い出しても俺たちの関係に変化は、ほとんど感じられなかった。変わったと言えば、 呼び名がりかっちから梨華になったくらいか。それだけ二人はそばにいながら、お互いの気持ちを 胸にしまい込んでいた、もしくは気がつかなかったのかもしれない。だから、 「え?もう付き合ってると思いました!!」 なんて言う娘もいた。 辻が去った後、俺のどこが好きなのか、聞いてみた。 「う〜ん・・・。そう言われると困るなぁ。」 「困らないでよ!!」 あんな涙涙で告白されたのに、ないの? 「美味しい所?」 「え?」 「料理ね。」 「あ、なんだ。」 「何考えてたの。そっちはどうなのよぉ〜。」 「俺?う〜ん、好きに理由なんていらなくねぇ?」 「あ!ずる〜い!」 「いや、梨華だって答えになってないし。」
かくして俺はいつ爆発するか分からない爆弾を抱えた。 いつまでこの仕事を続けられるか分からない。 二人がいつまで一緒にいられるか分からない。 でもこの不思議なご近所さん達との物語は、まだ始まったばかりだ。 俺達が出会ったのが、運命だったら、の話だけど。 『ねえ どうしてすごく愛してる人に 愛してる と言うだけで ルルルルル 涙が出ちゃうんだろう 』 おわり
286 :
えっと :04/03/13 23:43 ID:EzrJmi++
遂に終わってしまいました。最初書き始めたときは『レスなかったらやめよう』 と想っていただけにこんなに続いて自分でも驚いてます。ワードを見てみたら86 ページになってるし・・・。 前半はコメディ(になっていたのだろうか?)メインで行っていたら、バレンタインの 話から、いきなり恋が絡みだして・・・。自分でもどうなるのか分からずに書いてました(汗) 書き始めた当初、こんな展開になるとは全く予想していなかっただけに必死に悩みました。 そう言う意味ではちょっと中途半端な作品になったかもしれません。シリアスな場面は、 極力しめれるように頑張ったのですが・・・小説書くのって難しいです。 書いていて思ったんですが、皆さんからの返信ほど励まされ、力になるものはない、 と思いました。お褒めの言葉を頂く度に喜んでいる自分がいました。皆さんがいなかったら、 絶対ここまでたどり着けなかったと思います。 最後に、読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
287 :
えっと :04/03/14 00:13 ID:bO2C8lPs
288 :
えっと :04/03/14 00:14 ID:bO2C8lPs
289 :
えっと :04/03/14 00:17 ID:bO2C8lPs
おもしろかったよ。初めてでこれだったら、随分文章書く力はあると思う。 またなんか気が向いたら書いてみてください。
ほんとに!初めて書いてこんなにおもしろいなんて・・・ 次回作品期待してますよ!
完結乙です。 初めの頃の良い意味での勢いというか、 無軌道っぽい所が好きで読んでたんだけど、 そこから最後の方へと上手くまとめられていて凄ぇっす。 次にまた何か書いたら是非読ませて頂きたいと思います。 興奮気味で訳の分からん感想スマン
あと、
>>269 つんくはタバコ吸わないって
まことが何かの番組で言ってた。
小説にこんなツッコミ入れたらマズイっすかね。
294 :
えっと :04/03/14 23:43 ID:bO2C8lPs
>>290 おもしろかったと言って頂くばかりでなく文章力まで誉められるとは!
めちゃめちゃ嬉しいです。
>>291 そこまで言われると言葉がないです。感無量です。そのまま次回作への
プレッシャーへ(汗)まだほぼ白紙なんです(爆)
>>292-293 そうですね、最初は勢いで書いてましたwでも段々話を繋げていって、
後半、特に8回から話の流れが大きく変わっていく中で台詞回しかなり気を
使いました。
吸わないんですか!?やっちまった〜 _| ̄|○
こういうツッコミ、どんどん言ってもらってかまいません。実は妹が石川好きな
所から一時期見ていた番組+音楽番組でのイメージ+皆さんの小説のみで作ってるので
矛盾がたくさん出ていてもおかしくないです。ここに来たのもほんの偶然からでして。
こんな自分でも次回作を待って頂けるのでしたら頑張って構想を練ります。
でも部活がシーズンインしてくるとなかなか忙しくなりますが。
あともし
>>25 さんまだ見ているならここに小説書いてもらって結構ですよ。
俺はまだ時間がかかりそうですし(汗)
あー終わっちゃった・・・ もっと読みたい
296 :
OC :04/03/15 11:51 ID:L17fVpIZ
>>25 さんうpできますか?
もし、時間がかかって、そちらがよければ、
保全代わりにちょっと短いやつ乗せますけど?
完結乙&オメです! 楽しい小説をありがとうございました!
298 :
えっと :04/03/15 18:07 ID:nwAcdXDo
>>295 そう言っていただけると嬉しい限りです。
そして後日談を少し書きたくなってみたりw
>>296 もしかしたらもうどこかで書いてらっしゃるのかもしれませんね。
一日反応がなかったら乗せていただけますか?
>>297 どうもです。『ありがとうございました!』なんて言われると
少し照れますね。
299 :
25 :04/03/15 19:54 ID:kk7pf08H
>>296 いんや、どぞどぞ。
作者さんお疲れ様でした。
久々に良い小説に出会った気分です。 まだまだ容量に余裕があることだし埋め立てるつもりで 第二弾を書いてみては?
301 :
えっと :04/03/15 21:18 ID:nwAcdXDo
>>299 (25) どうもです。まさかこんなに長く続くとは思いもよらなかったので
待たせすぎちゃいましたかね?
>>300 良い小説なんて言われると嬉しくて飛び跳ねそうになります(汗)
(シーズンもうすぐ入るのに怪我したら元も子もないなぁ)
第二弾とはこの話のですか?それともまた新しい奴を?
とりあえず今の所何種類か案を自分の中で出しているんですけど
今回のようなコメディタッチ(?)なものとは全く異なったものに
なるかもしれません。その前にちょっと名残惜しいのでこれの番外を
ちょこちょこと載せるかもしれませんが(ぇ
302 :
OC :04/03/15 21:27 ID:chEU1EXm
作者さんからお許しが出たから、じゃあまあ少し書いてみようかな。 実はこれからうpするとこは本編の真ん中あたりの一話です。 だから、その前に長い設定話と、後日談があったりします。 ですが、作者が帰ってくるまでのことなんでここだけにします。 まあ、もし読んでくれている人がいたら(いない気もしますが)困ると思うので、 設定だけは書き込んでおきたいと思います。 初めて書いたんで下手で下手でどうしようもないし、保全代わりなんで、 とりあえず飛ばしてもらって結構です。
>えっと
脱稿乙 人物の感情を描くのがうまいと思った
また書いたら読ませて欲しいなぁ
>>302 期待してますよ
304 :
OC :04/03/15 22:10 ID:chEU1EXm
期待されてもちょっと困りますが… まあ、今日は設定だけ。 ネタ元はぶっちゃけると狼の幼馴染スレなんですが…
305 :
設定1 :04/03/15 22:12 ID:chEU1EXm
亀井○○(主人公) 設定上、亀井の兄ということにしたかったんで苗字はこうなりました。 高校二年生。勉強そこそこだが運動は超高校級。 ついでにケンカは負けなし。現在、石川が彼女。 藤本美貴 主人公の○○の隣に住んでいる幼馴染。○○との付き合いは十二年になる。 主人公とは同い年(現実はもう大学二年生くらいの年ですが) 残りは普段のミキティです。 吉澤ひとみ(実際には話の中でしか登場しません) 設定上主人公の親友が欲しいためどうしても男としてしまいました。 吉澤推しの方すいません。主人公とミキティと同い年(本当はミキティの一つ下) ちなみに、ケンカは主人公なみに強いです。しかも、超モテモテ。
306 :
設定2 :04/03/15 22:13 ID:chEU1EXm
石川梨華(この話のキーとなる人物です) つい最近主人公に石川のほうから告って主人公の彼女になってます。 上の三人と同い年。 亀井絵里(出てきません) 主人公の義理の妹です。年は中二。ブラコンです。 亀井家は父の連れ子が主人公で母の連れ子が絵里ちゃんです。 結構複雑な家庭となっています。 田中れいな(彼女もほとんど出てきません) 主人公の生き別れていた実の妹です。年は絵里ちゃんと同じ(本当は一つ下)。 最近母親が死んでしまったことでその存在が明らかになった。 最近会ったばっかりなので主人公を兄としてまったく見ていない。 主人公と絵里ちゃんと一緒に暮らすが亀井家の家庭事情を複雑にしている張本人。
307 :
OC :04/03/15 22:17 ID:chEU1EXm
とりあえずこんなとこです。かなり無茶な設定なんですけど、 まあ、アンリアル小説なんで… 明日には保全の代わりにのせたいと思います。
308 :
えっと :04/03/16 01:25 ID:jH/5llz8
>303 人物の感情は特に気を使いました。やっぱ命ですし。 多分次もここで書こうかなと思ってます。スレ立てれるほどの 器でもないんで。もちろん皆さんのあとで。それまでに良い物を 作りたいですね。 >OCさん 頑張ってください!俺も頑張って次の話の構想を練ります。 とその前に時期ネタ(っていうのもどうかと思うんですが)を一つ。 番外一つ書いたんでうpします。出来は保障できませんが(汗) ちなみに短めです。
番外1 ブーン。 携帯は突然鳴った。ディスプレイは珍しい名前を表示していたので出てみる。 「もしもし、つんくさん?」 つんくさんは俺とはあまりに対照的な、なんていうか興奮した声で言った。 「矢口が、入院した。」 「え?!」 いきなりの事だったので驚いた。詳しい事情を聞いてみると、感染性腸炎にかかり 入院したとの事。でもそれにしても、 「俺にそれ言ってどうするつもりなんですか?」 「え?」 「いやだから、俺に何かして欲しいんですか?」 「・・・・・・。」 ピッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・。 えーーー!!!ただの話したがりかよ!!!ニュース見りゃそのうち知るだろうしさ。 数分後、 バン!!!! 押入れの方から破壊音と悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。
「いい加減、押入れ壊れるからさ」 「矢口さんが!!!」 俺の声は完全に遮られた。 「あの〜?」 「矢口さんが!!!」 再び。 「梨華?」 「完成性腸炎!!!」 ここでこける。なにそれ?どこら辺完成してるの? 「知ってるよ、矢口が感染性腸炎になったんだろ?」 傷つけないように訂正しておく。 「うん!」 「ところで君はなんでここにいるの?」 「え?」 石川の動きが完全に硬直する。 「今、何時?」 石川の目が泳ぎだした。 「午前9時。」 部屋中を静寂が支配する。石川は少しだけ考えたような表情を見せた後、 後ろを向いて押入れへと飛び込んだ。
次の日、俺はつんくさんと一緒に見舞いに行った。一人では入れないからだ。 看護婦に連れられて俺とつんくさんは進んでゆく。そして『田中真里』 と書かれた病室の前で看護婦は言った。 「どうぞ。」 看護婦はドアを開けると、すぐに仕事へと戻っていった。 「よう田中、元気か〜?」 つんくさんがニヤニヤとしながら声をかけると矢口は少し不機嫌そうな顔で、 「はい、一応。」 とだけ答えた。有名人は苗字だけ全く関係のない別の苗字を使って入院する事がほとんどだ。 矢口も例に漏れず今は『田中』だ。 「いやしかしびっくりしたわ〜、ホンマ。いきなりやったからなぁ。」 俺は何も言わずに矢口の手の甲から延びている管を見ていた。腸炎だけあってご飯が食べれないのだろう。 「点滴・・・久しぶりに見たな。」 俺が呟くと、矢口は言った。 「どういう意味?」 「いや、昔ちょっとお世話になって。」 「病気?」 俺は一瞬答えに困ったが、正直に言った。 「急性腸炎。」 何かが崩れる音がした。
矢口が退院したのはそれから2日後の事だった。途端に俺に仕事が舞い込む。 「悪いね〜、忙しいでしょ。」 矢口の看病だった。別に退院したからと言ってもう治ったわけではなく、自宅静養が必要だった。 「春休み近いし、看病は慣れてる。この仕事始めて2回もやってるから。」 同じ人の、だけど。俺はてきぱきと矢口の世話をすると、それだけでは飽き足らず、部屋の掃除もした。 仕事が一通り終わり、寝ている矢口の横に座っていると、 ガチャッ。 『?!』 ドアには鍵がかかっていたはずですけど?俺はびっくりして矢口のベッドの上に落ちていた。 「矢口さん変なことしてないですよねぇ〜?!」 なんか焦った声、表情で石川が部屋に飛び込んできた。石川は俺が矢口のベッドの上に落ちているのを見ると、 「え?そうだよね、あたしなんか、本気なわけないよね・・・。歌も演技も下手だし・・・。」 あれ?ネガティブモード勝手に入ってる?てか歌とか演技とか関係ないし。 「違!!違うよ!!看病してただけだから!ね?」 色々ややこしくなるからあまり来て欲しくなかったな・・・。
「はぁ〜・・・。あの時の言葉、全部嘘だったのね・・・。」 「だから誤解だって!!」 石川は完全に一人の世界に入って落ち込んでいる。 「でないとあんなに恥ずかしい言葉言えないよね、 『ずっと、一緒にいればいいんだよ。』とか、 『付き合い始めはいつだって、永遠を信じるものだよ。』とか」 「ほほう。」 矢口が目を光らせる。 「石川、その話、もっと聞かせて。」 「え?!マジやめて!!」 抵抗むなしく、あのときの台詞、全部詳しく述べられてしまった。 「恥ずかしくて死にそう・・・。」 俺は頭を抱えて蹲った。石川はなおもネガティブモード。 「あ〜もうなんであんな事言ったのかな〜」 「どうせあたしなんかブツブツブツブツ・・・・。」 「うるさ〜い!!!!!」 ビク!!!二人は一瞬にして呟き(ぼやき?)をやめて、矢口の方を見た。 「うっとうしいんだよ二人とも!!寝かせろ!!」 あ〜あ、キレちゃった。石川にとってこれは決定打となった。
314 :
臭!! :04/03/16 01:37 ID:jH/5llz8
「あたし、なんで生まれたんだろう・・・?」 やばい、極論入った。矢口がここで俺に耳打ちする。 「(え!?やだよそんなの!!)」 「(元はと言えばあんたがベッドの上に転んだから悪いんでしょ!責任持ってよ!)」 「(・・・・・・分かったから、笑うなよ?)」 俺は矢口に押され、石川の元へ。 「あたしなんて生まれてこなければ・・・・。」 「そんなことないよ。」 「・・・え?」 「梨華が生まれた理由、俺にはちゃんと分かるよ。」 あ〜、何言ってるんだろう、俺。少し間を置くと矢口から痛い視線が。 言うしかないらしい。 「なぁに?」 俺は精一杯の『罪な笑顔』で言った。 「俺が愛するため。」 「大好き!!!」 石川は抱きついてきた。 「(涙が出るほど単純・・・。)」 俺の表情を見て矢口はやはりケラケラと笑っていた。
石川を子猫のようにあやし、適当なことを言って部屋から出すと、また次の来客が現れた。 中澤だった。仕事帰り急いできたらしく少々息を切らしていた。 「矢口大丈夫か?見舞いにきたで〜。ん、なんやお前もおったんかい。」 中澤は途中から明らかに声のトーンを変えて入ってきた。 「仕事だから。席外そうか?」 「いや、ええよ別に。ほらフルーツやで〜。」 「裕ちゃんやる〜!!でもまだそんなにたくさんは食べれないや。少しずつ食べる。」 中澤はあ!とした表情をして言った。 「うちとしたことが!せやった腸炎やったなぁ!!まちごうた!!!」 途端に慌てだす中澤。 「いいよいいよ!こいつが全部食べるから。」 「ええ?!!」 俺は指を刺されている事に気づくと大声を上げた。
続いて現れるは辻加護。お、皆さんちっさい。俺は別に小さい方ではないので なんだか巨人になったような感じだった。 「大丈夫れすかぁ〜?」 「風邪のときは寝てるが一番や。」 あれ?なんか間違ってない?矢口は諦めたような表情で相槌を打っている。 流石年配者・・・。かわしが上手い。 「御土産持ってきたれす」 お見舞いの品ね。別に誰も突っ込まずに会話が進んでゆく。 「じゃじゃ〜ん。」 あ、花だ。珍しくまとも・・・・・ん? 「あの〜、お二人さん、これって・・・なんていう花でしたっけ?」 俺が聞くと、 『菊』 ひゃぁぁぁぁぁ!!! 俺は心の中で絶叫した。え?何?分かっててやってるの?この子達。 「ありがとう〜でもちょっとお見舞い向きじゃないかな?」 矢口、病気で弱っているらしく、怒る気配なし。
その後、次の日まで次々と、娘達の嵐。マンションの住人は当たり前、 マンション以外からもメンバー全員一度は顔を見せた。 「もう来ないかな。」 とりあえず全員来て、矢口を寝かせておくと、(本当ならずっと寝かせている方がいいのだが) 俺も眠くなってしまった。少しだけ、ベッドの横の壁に寄りかかって眠る。 なんか凄い環境にいるな、と改めて思いつつ。 ふと目が覚めると矢口もボーっと起きていた。汗かいたかな・・・。俺は矢口に着替えを渡した。 「汗かいたから着替えとけ。」 俺が部屋を出ようとすると、 「手伝ってぇ〜。」 と変な声を出す矢口。 「・・・はいはい。」 俺が軽くあしらうと矢口は軽くブーイングした。ドアを閉め、ドア越しで会話をする。 「いい加減新しい彼氏作れば?(俺の負担減るし。)」 「いや、当分は、いいや。」 「なんで?」 「今は、一人の時間も悪くないかなって。それに、おいらは一人じゃないし。皆がいる。 病気になって、それが分かった気がするんだ。」 次々と押し寄せる娘達。 「それと過ごす大切な時も、時には恋愛より必要なんじゃないかな?」
矢口は数日後、見事に復帰してみせた。最高の笑顔とともに。 「よっし!遅れた分取り返さないとね!迷惑もかけたし!!」 俺はようやく自由に・・・ならなかった。 「本当に何もしてないよね?」 「してないって!!!」 石川は未だに記事を少し疑っているのだろうか。不安そうな顔で俺に訴えてくる。 本当に大変な娘を選んでしまったようだ。俺は石川の不安を消し去るべく、 おでこに軽くキスをしてあげた。 「これで信じて、ね?」 仕上げに優しく微笑んでやる。そうすれば石川は、すぐに喜ぶ事でしょう・・・。 「うん!」 ほらね。とりあえず俺達は少しずつ、進んでいこう。困ったときは、矢口が言ったように、 皆いる。 「ご飯何〜?」 一人感慨に耽っていたのに現実に戻された気がした。まあいいや、これが俺達だし。 「今日は・・・サイコロステーキ。」 石川のときが止まった。 「え〜っと・・・・・う〜ん・・・・。う゛〜ん・・・・。今日は、ごきげんようだね!!」 苦しいけど、合格。
319 :
えっと :04/03/16 01:49 ID:jH/5llz8
終わりです。番外『1』ってのが気になりますが(汗)保険だと思っていてください(ぉ とりあえずOCさんが明日乗せるまでの繋ぎと言う事で完全な思いつきで書いてしまいました。 ちゃんと設定を練っているOCさんに失礼かも・・・。
320 :
OC :04/03/16 08:39 ID:l072WD9R
タイムリーなネタいいですね。 俺の場合設定を練ってるというより長い話の途中の一話なんで… ということで、初めからシリアスモード全開なんで (石川が好きだからというわけではないですけど) シリアスな物が嫌いな人は見ないほうがいいかも…
OVER CLOSE ガラガラ、バン いつものように美貴はベランダ越しに入ってきた。 美貴「ねえ、○○。寝ちゃった?」 俺「・・・・いや。」 美貴「じゃあ、今晩一緒に寝て良い?」 俺「・・・」 美貴「何もしなくていいから。 そばにいたいんだ。」 俺「・・・ああ。」 俺は美貴に背中を向けて寝た。 美貴はそんな俺を後ろからギュッと抱きしめて寝ていた。 何年ぶりだろうこうして二人で寝るのは… 美貴「なあ、ヨッスィーに告白されちゃったよ。中学のときからずっと好きだって・・・ 私どうしたら良いのかな?今までも何人も告白されたことあるよ。 けど、ヨッスィーは他の人とは違うよ。友達だもん。あんたの親友だもん。 簡単には答えは出せないよ。どうしたらいい?」 背中越しに聞こえる美貴の声。 あまりにも切ない声だった・・・こっちが悲しくなるくらい・・・
俺「・・・・」 美貴「なあ、何とか言えよ!」 吉澤が美貴のことを好きなことは知ってた。いや、つい数時間前に吉澤から聞いた。 その後告白することも聞いてた。お前はどうしたいとも聞かれた。 何も答えることが出来ない自分がいた。 応援することも、止めることも出来なかった。 俺「・・・・俺に聞くな。俺が決めることじゃない。」 美貴「どうしてそんなこと言うの? 私はあんたの意見が聞きたいの。 あんたが言ったらそのとおりにするから・・・」 俺はその言葉で美貴のほうを向いた。 ベットの中での俺と美貴との距離はあまりに近くて、近すぎて美貴が見れないくらい。 美貴は今にも泣き出しそうでそれがいとおしくて、でもどうすることもできなくて・・・ 美貴は幼馴染だから・・・抱きしめちゃいけないんだ・・・ 抱きしめたらすべて壊れる。そう思った。 俺「いいか、これは吉澤からの告白だ。他の人ならいざ知らず、吉澤からだ。 吉澤がお前に真剣に告白したんだ。それに答えれるのはお前だけだ。 吉澤が知りたいは俺の気持ちじゃない。お前の気持ちだ。 だから、俺に決める権利なんかないんだ。」
『バカ』美貴はそういうと泣きながらキスをしてきた。 そのキスはただ唇を強く押し付けるだけの不器用なキスだった。 けど、痛いくらいに気持ちが伝わってきた。 初めて知った美貴の本当の気持ちだった。 美貴「わかった?私はあんたが好きなの。 付き合うなって言ってほしかったの・・・」 俺「・・・・・・俺・・・・お前が・・・・す」 美貴「ダメ!・・・雰囲気に流されないで。私が欲しいのはそんな答えじゃない!」 俺「・・・」 美貴「やっぱり私帰る。自分の家で寝るから。じゃあ・・・おやすみ・・・」 そういって美貴は自分の家に帰っていった。 俺は初めて知った美貴の本当の気持ちに戸惑った。 同時に自分で自分が嫌になった。 あんなにも真剣に俺と向き合ってくれた美貴に対して自分は・・・ 俺は美貴と向き合うのが怖かったのかもしれない・・・ だから、向き合おうとしなかったのかもしれない・・・ だけど今からはもっと真剣に考えよう。今までのこと、これからのことを・・・ そう思うとその日は寝ることが出来なかったが答えらしい答えも見つけれなか
だけど今からはもっと真剣に考えよう。今までのこと、これからのことを・・・ そう思うとその日は寝ることが出来なかったが答えらしい答えも見つけれなかった。
325 :
OC :04/03/16 08:58 ID:l072WD9R
えーと初めてなんで(言い訳)最後の部分ちょっと切れてしまいました。 とりあえず、初めからこんな急展開で申し訳ありません。 どうしてもここまで至る部分を書くと長くなってしまうので… まあ、機会があったらいつかどこかで書くかもしれませんけど(書かない気がする)。
>OC GJ 最初から読みたいがコレの続きが気になる どっか他所で書いてるの?
327 :
OC :04/03/16 12:33 ID:ajTk0X0g
いえ、書いていません。HDDの中に眠っています。 一応、話自体は出来上がっていますが、 心理描写がイマイチなんでかなり手直しをしなくては読めたものではありませんので… この続きは完成してるので見直したらすぐにのせることが出来ると思います。
うわあ!なんか賑やかになってきてうれすい タイムリーなものあり、昔の雰囲気に戻ってきつつあるのはとてもうれしい! 作者様方、自分は書く能力ないんで、ほんとにすごいと思ってます。 がんばってください!!!うれしい
329 :
えっと :04/03/16 15:11 ID:jH/5llz8
>OCさん 心理描写難しいですよね、自分のは8話以前と以後で書き方が 全然変わりました(汗) 続きも前も、是非読ませていただきたいです。
330 :
OC :04/03/16 16:09 ID:y0STvMG0
う〜ん、前ですか…見せるのが恥ずかしいできなんですよね。 心理描写とか、言い回しとかは、ある作者さんを参考にしてますけど。 その人の書く世界観にはどうも及ばなくて… まあ、とりあえず続きを載せます。
それから三日 美貴は学校には来ていなかった。 俺は相変わらず答えを見つけられずにいた。 いくら考えても見つかりそうにない答えを必死で探していた。 学校に行っても何もする気が起きず窓の外のグランドを見つめていた。 美貴には会いたかった。でも、答えがない俺には会う資格が無い。 俺の頭の中は壊れたCDプレーヤーのように同じフレーズをリピートしていた。 どうしたら俺は美貴に答えてやれるのだろうか・・・ 美貴は幼馴染だ。俺にとって一番大事な人だ。 それは今までもこれからも変わらない。美貴にとっても同じなんだろう。 けど、美貴が欲しいのはそんな答えじゃない。それは分かってる。 それは、俺たちが互いに同形に思い、同型の強さのではあるが、 それが、同系のキモチではないという差異からくる、 求める答えと出したい答えのズレなのだろう。
昼休み いつものように屋上でボーっとしていた。 誰とも話したくなかった。一人でいたかった。けど・・・ そのとき石川さんがやってきた。 梨華「どうしたの?○○君?」 俺「・・・ゴメン。今は誰とも話したくないんだ。」 梨華「そっかゴメン。でも、一人でそんなに考え込まないで。 誰かに話したほうがいいときもあるよ?」 …そうなんだろうか? 実際一人で考えても埒が明かなかった。 …そうかもしれない・・・・俺と美貴との考えは平行線だった。 どんなに近くにあっても、決して交わることのない答えの出ない線… 誰かに変えてもらわなければ交わることは無限大の彼方でもない。 こんな話彼女である石川さんに話してはいけないのかもしれないけど、 でも、もういくら考えてもダメだ・・・ すべての思いを正直に話してみよう…
俺「・・・あいつに告白された・・・」 梨華「あいつ?・・・美貴ちゃんか・・・」 俺「うん。」 梨華「それでどうしたの?」 俺「わからないんだ。」 梨華「わからない?」 俺「うん。・・・ごめん石川さんにこんな話失礼だよね。 俺、石川さんの彼氏なのに・・・」 梨華「いいの。話してよ。美貴ちゃんの気持ちはなんとなく知ってたから…」 俺「・・・俺、藤本のこと大事だよ。 あいつといる時間が一番楽だし、いたい場所だし、 俺がいるべき場所だとも思う。それが恋かと言われたらそうかもしれない。 けど、もし恋人になったらそれが変わってしまう気がして・・・それが怖いんだ・・・」 梨華「そっか。羨ましいなそんな関係。」 俺「羨ましい・・・?」 梨華「あーやっぱり羨ましくないや・・・」 俺「どっちなのさ?」
梨華「うーん…お互いがお互いのことをいるべき場所だと思うのは羨ましい。 けど、楽だから、互いを意識しないから、いるべき場所だって言うのはいやだな。 そんなの、恋でも何でもないし、それって逃げじゃない。楽な場所にいたい。 そんな場所がいるべき場所だなんて思うのはさ。」 俺「違うのかな?」 梨華「少なくても、美貴ちゃんは思ってないよ。楽だからいるべき場所なんだって。 ○○君といるのは切なくて辛くて、苦しくて…ホントは今すぐにでも逃げ出したい。 それでも一緒にいたい。それは好きだから。切ないのも辛いのも苦しいのも、 全部あたなが好きだから。そこが本当にいるべき場所なんだと思う。」 俺「・・・」 梨華「自分の気持ち押さえ切れないくらい○○君が好きで、 どうしようもなかったんだと思う。だから打ち明けたんだよ。 本当にいるべき場所を手に入れるために、そして逃げないために。 もう彼女にとって…あなたとの幼すぎる関係は終わりの音をを告げている。 子供のままじゃいられないの。子供のままじゃ彼女の心は壊れちゃう。 ○○君はどうなの?互いに気持ち隠して、異性として認識しない。 まだこんな、ままごとみたいな関係続けるつもり? あなたにはそれに答える義務がある。」 そんなこと言われなくたって分かってる。 俺には美貴の気持ちにこたえる義務がある。 けど…だけど…選べない… 選択肢は分かってる。たった二つしかない… だけど、選ぶことが出来ない
梨華「まだ、分からないの?簡単なことじゃない。 ただ、素直に自分の気持ちと向き合えば・・・」 俺「でも・・・」 永遠に続くと思っていた関係。どちらかがいなくなるその時まで・・・ けど、それは簡単に壊れてしまうものだった。 壊れることを恐れて知らなかったことにすれば良いのかもしれない。 俺がそれを望むのなら美貴はそうするだろう・・・ だけど、代わりに美貴の心は壊れてしまう。 幼い関係じゃあ子供じゃない美貴は支えることは出来ない。 梨華「逃げるな!」 そうだ、俺の気持ちはもうずっと前に決まってたんだ。 ただ素直に向き合おうとしなかっただけだ。 向き合うといいながら、向き合っていなかった。 そう、ただ怯えてただけなんだ。 逃げていただけなんだ。・・・もう迷わない。 俺「・・・俺は・・・俺は・・・今まで何してたんだ・・・」 梨華「もう自分の気持ち分かったよね? なら、こんなことでボヤボヤしてる暇あるの?」 俺「・・・俺行くわ!あいつのとこ。」 梨華「あ〜あ、やっぱり私振られちゃうんだ。 けど悔しいから私から振ってあげる。いいよ。行って来い! ホントはちょっとは期待してたのにな・・・私のほう選んでくれるかもって・・・ 私を振ったんだから、いや振られたのか…どっちでもいいやそんなの。 絶対幸せにならなきゃ許さないんだから。」 そう言った石川さんの顔は笑顔だったけど目から涙が零れ落ちていた。
336 :
OC :04/03/16 16:23 ID:JbgixgR2
とりあえずここまで。 基本的に主人公はヘタレです。ミキティ意外だと結構しっかりしてるんですけど、 ミキティのことになると突然ヘタレと化してしまいます。
いやん・・・イイヨイイヨ! 更新待ってるよ!濡れ場あるのかな?
338 :
えっと :04/03/16 17:38 ID:jH/5llz8
>OCさん 乙です。心理描写すごいです。俺こんなの書けません。 私事ですが一応どんな話にするか、だけ決まりました。 でもまだまだ時間がかかりそうです(汗)引き続き、 よろしくお願いします。
339 :
OC :04/03/17 08:46 ID:Ix4h9F+r
>>337 え〜と…濡れ場ですか…この話自体にはないんです。すいません。
ですが、実はアナザーストーリー的に本編の裏側で濡れ場だけがあったりします。
>>338 次の話もメチャメチャ楽しみにしてます。がんばってください。
実は心理描写は自分ではあまり気に入ってないんです。
本当はミキティの心情をしっかり書きたいのですが、なにぶん自分が男なもんで
主人公よりになってしまって…
340 :
えっと :04/03/17 22:33 ID:DWGYz+gp
>OCさん この先書きますか?それともここでとりあえずストップ?
まってますよー
342 :
OC :04/03/18 00:30 ID:3SC5IpyU
もうちょっと続きます。 まだ見直してないんで見直したら明日にでも書き込みます
おねがいですよ!
俺「・・・石川さん、ありがとう。」 ありきたりな言葉で、肯定も否定もしない言葉、ただのお礼の言葉。 そして、たぶん今、石川さんを最も傷つける言葉。 『ありがとう』という言葉、だけど俺にはこの言葉しか見つけられなかった。 それが心の底から思う本当の気持ちだから。その言葉で伝えたかった。 俺「本当にありがとう石川さん。君は俺なんかじゃなくても、もっと素敵な人と出会えるよ。」 でも、美貴は俺じゃなきゃダメみたいなんだ・・・ そして俺も美貴じゃなきゃダメなんだ・・・ 俺は走った。一刻も早く美貴に会いたかった。
俺「…ははは」 自分の情けなさに笑うしかなかった。 結局、俺が怖かったのは自分自身だったのかもしれない。 美貴のことが好だった。 美貴も知っていたのかもしれない。 俺は美貴を好きなことを知らないフリしている、 美貴はそんな俺のことを知らないフリしている、俺が知らないフリをしているから。 自分が怖かった。 欲情、嫉妬、不安、葛藤、そんな醜い感情を抱く自分が怖かった。 美貴を自分の感情のままに傷つけてしまいそうだから。 美貴を傷つけるものは許せない。たとえ自分でも。 自分が嫌だった。 美貴が俺を好きだといっても醜い感情は消せない。たまらなく嫌だった。 幼馴染のままだったら美貴を傷つける感情は抱くことが無かった。 だから幼馴染というままごとみたいな関係にすがった。 幼い関係なら醜い感情なんか抱かなくてもいい。
だけど、そんなのは俺のエゴだ。結局美貴を傷つける。 美貴は自分の感情に、俺の感情に負けるほど弱くなかった。 けど、忘れてしまえるくらい強くもなかった。 これがただの幼馴染であれば気持ちが抑えられた俺と、 幼馴染という関係だけでは気持ちのやり場がなくなった美貴との 強さと弱さの違いだった。
ピーンポン 美貴ママ「はーい。あれ○○君?どうしたの学校は?」 俺「それは良いんです。それより、あいつは?」 美貴ママ「あら、朝一緒に学校行ったんじゃないの?」 俺「え!?・・・すいません、俺これで失礼します。」 バカ野郎!あいつに三日もあってねーぞ。何してんだよ! 美貴ママ「そうか、あなたたちももうそんな年頃ね。美貴を頼んだわよ。」 美貴ママは何でもお見通しだ。 俺「はい。」 俺は迷わずに答えた。 もう迷うことはない。そう思っていたから。 それを見た美貴ママはニッコリ嬉しそうに笑った。 俺は美貴の行きそうなところをしらみつぶしに探した。 しかし、美貴はどこにもいなかった。 俺「あいつ、どこに行ったんだよ?くそー もしかして、あいつ・・・」 俺はれいなと初めて会った公園に行った。 そう、ここは十二年前美貴と初めて会った公園でもあるから。
348 :
OC :04/03/18 12:01 ID:VrrdUFr3
ということで、ヘタレ君なりにがんばってます。 ちなみに、新境というのは日本語にはない勝手に作った造語です。新たな心境という意味です。 えっとさん>もう新作できてますか?出来ていたら、俺にかまわず載せてください。 楽しみにしているので。
349 :
えっと :04/03/18 18:23 ID:XQCjt1O/
>OCさん まだ打ってませんが形は結構出来てきてます。 今回ファンタジーで話はいたって真面目のはずなのに敵の名前のせいで 緊張感が薄れてしまう感じになっちゃってます(汗) あと相変わらず6期は出ません、俺が分からないという理由なのですが(親父
どっちもガンガレ!!
小説応援保全
352 :
えっと :04/03/20 23:13 ID:F3qElz7t
やっと形が自分の中でも見えてきたのでプロローグだけうpします。 と言っても短いし、まだなんのこっちゃですけど。 あらかじめ言っておきますが、ファンタジーなだけに戦いのシーンもあるし、 死んだりもします。だからそう言うのが嫌な人にはあまりお勧め出来ないかも しれません。 あと視点が『俺』のような主人公視点から●●と言った名前視点にしました。 だから結構お褒めの言葉を頂いている人物の感情が死んでしまうかも?(努力は します) まだ小説2作目なので大目に見ていただければ幸いです。 タイトルは。『REVOLUTION』です。
REVOLUTION プロローグ その日は星がきれいな夜で、遅刻者が出ても仕方がないほどだった。15人目の高橋が、 予定より15分ほど遅れて中澤の家に到着すると、『会議』は始まった。中澤が壁にかけられている ホワイトボードの前に立ち、残りの14人は並べられている机に座っていた。 まるで学校で授業を受けているかのように。 「明日、軍が隣国に出兵する。せやから、明日、出兵後、突入する。」 彼女達15人は、 『革命軍』と言われていた。軍と言っても、戦いを続け、死、 裏切り等で遂に15人にまで減ってしまったが。 「明日が、最後の戦いになると思う。」 中澤の言葉に、全員真剣な顔つきで中澤を見ていた。 「ここでカタをつけへんと、もう人も時間もなんも足らへん。せやけどこの人数やし、 うちは怪我してるさかい、こんな作戦を取った。」 中澤はホワイトボードに城の図を書き込み始めた。城を書き終わると、4分割した。 「四面楚歌や。」 バンッ、と中澤はホワイトボードを叩く。それにより眠りかけていた矢口は目を覚ます。 「矢口、今うちが何言うたか言うてみ?」 「え?結婚に縁がないなぁって?」 「言うとらんわそんなこと!!!」 いつものやり取りながら、全員笑った。
「つんくの城は広い。」 中澤が言うと、紺野が反応して言った。 「東京ドーム5個分です!」 「そう言う例えはするなっちゅうねん!!」 中澤はキレのいいツッコミを放つと、気を取り直して話を進めた。 「東西南北、4つの門から攻め込む。出兵ゆうたって、少しは残ってるはずやからな、 それを分散させて倒すんや。」 「おお、裕ちゃんやるべな!で、どう分けるべか?」 安倍の問いに、中澤はホワイトボードに書き込むことで答えた。 北:飯田・吉澤・石川 南:後藤・松浦・紺野 西:矢口・保田・加護・高橋 東:安倍・辻 ・藤本・小川 「こんな感じやけど、質問はあるか?」 「「「「「はい!!!」」」」」 一斉に手が上がる。
「ほい吉澤。」 「なんでうちらの所は3人なんすか?」 「それうちも同じ質問。」 後藤が同意する。中澤は答えた。 「基本的に戦力を均等に分けたつもりや。北はまあ、 石川は置いといて二人ともごっつう強いからな。」 「ちょっと中澤さん、ひどいですよぉ〜。」 石川が反論するが、無視された。 「後藤の所も後藤がいれば大丈夫やろ。松浦もおるし。」 「あの、私は?」 紺野がちょっとだけ控えめに手を上げる。 「紺野も充分な戦力やで?」 紺野はそれを聞くと少し嬉しそうな顔をした。 「はい。」 「藤本。」 「安倍さんとタイプ被ってません?加護辺りと入れ替えた方がバランスいいと思うんですけど。」 安倍は槍を操り、藤本は魔法剣士。近いといえば近いが・・・・。とってつけたような建て前に、 中澤は説得するように説明した。 「そうすると戦力が傾くねん。」 「はーい。」 藤本はなんだか納得のいかなそうな表情をした。
「次、辻か。」 「あい、なんであいぼんとのののコンビを分けたりするのれすか?」 「遊ぶからや、次。」 淡白な対応に、辻と加護は三十路コール。しかし中澤の壁を砕く一撃で止んだ。 「はい。」 「加護、こりへんなぁ、お前。」 加護はキレかかる中澤なんか気にも留めず、真面目な顔で言った。 「おやつはどないすん?バナナは入るんか?300ゴールドまで?」 「遠足やなーーーい!!!!!」 中澤の体から闘気が浮かび上がる。 「うわぁぁぁ!!!」 全員びびって机ごと3歩、後ずさり。 「次。」 誰も手を上げ(れ)なかった。 「以上か?せや、あとは・・・通信機ぐらいか。これは明日説明すればええな。 今日はコレで解散や。皆、明日で決めるで?」 「よぉし!いつものやるぞ!」 飯田の掛け声で、全員で円を作り、手を重ねる。 「せーの。」 『行きまっしょい!!』 15人それぞれの思いを乗せて、声は夜空にこだました。
357 :
えっと :04/03/20 23:21 ID:F3qElz7t
プロローグ終了です。まだ説明不足で全然訳が分かりませんが、 一章で大体洗いざらい説明するつもりです。
ふぁいと
359 :
えっと :04/03/21 22:11 ID:TTQpsKU6
更新情報が何故かストップしていて誰も気づいていないかと思いました。 とりあえず1話、更新します。
360 :
1話 :04/03/21 22:13 ID:TTQpsKU6
15人は解散後、それぞれの家に帰り、そのまま眠りについた・・・・はずがなかった。 逆に寝ている娘など一人もいなかった。それぞれの想いが、夜空とともに彩られてゆく。
361 :
1話 :04/03/21 22:15 ID:TTQpsKU6
「いよいよやな。」 加護はダガーを研ぎながら、辻は斧を磨きながら話していた。 「明日で、この苦しい生活ともおさらばできるのれす。」 彼女達を始め、国民は皆、つんくが王に就任後から始まった重税に苦しめられ続けていた。 これはあくまで噂だが、つんくが王になった途端に兵力などが強化された事から、 税は軍部とつんく自身の私利私欲の為に使われていると言われていた。おそらく事実だろう。 そのため加護が盗みを働き、罪に罪を重ねる日々を送っていた。そんなある時、幼なじみの辻に、 革命軍への入軍を、誘われた。 「皆の力で国を変えるのれす!!」 最初はバカバカしい、と思って加護は相手にしなかった。そんな事をしている暇があったら、 食料を盗みに出ないととてもじゃないが生きてはゆけない。第一、強大化した国の軍隊に、 適うはずがないだろう。加護は盗みを続けた。
362 :
1話 :04/03/21 22:16 ID:TTQpsKU6
そんなある日、いつものように街へスリに出ようと言うとき、街がやけに騒がしい事に気がついた。 人が多ければ財布もたくさんある。加護は急いでそこへと向かった。しかし、そこで見た光景に気をとられ、 加護は誰の財布も奪えなかった。革命軍が・・・国営軍の第六部隊と戦って、押している?あの人数で?! 何より目に付いたのは魔法。背の高い不思議な雰囲気を持った女性から放たれる、炎、風、氷、雷・・・。 見たこともないものばかりだった。この国には、魔法は存在しない。時代の流れに押され、自然消滅していた。 しかし隣の国では、“契約”をまだ続けている。一方この国では毛嫌いされ、つんくも軍隊以外は禁止していた。 つんくが魔法に対して恐怖心を覚えているのが理由だという。その魔法を、使いこなしている人がいる。 最初はバカバカしいと思っていた革命軍も、こりゃ本当に革命を起こせるんじゃないか?と加護は思った。
363 :
1話 :04/03/21 22:17 ID:TTQpsKU6
「のの、うち、革命軍入るわ。」 「え?!本当れすか!?」 辻は喜んで加護を中澤の家へと連れて行った。 「うちがリーダーの中澤裕子や。よろしゅうな。」 リーダーは30前後の若い女性。こんな若くして革命を行おうとしているのか。 加護は革命軍の勢いのよさの理由が分かった気がした。 加護は盗みを働いていたその素早さを生かすため、短刀を二本手に持ち、疾風のごとく相手を切裂く、 というスタイルを中澤に見出された。辻は対照的に斧を持って相手を攻撃するパワータイプ。 タイプは違えど同じ志。そして幼なじみだった二人は名コンビとして、 時には迷コンビとして革命軍での地位を築いていった。 「不安やけど・・・・。それよりも。」 加護がそう呟くと、二人は目を見合って言った。 『ワクワク!』 明日の戦い、そしてその後の事に対しての、二人の率直な気持ちだった。
364 :
1話 :04/03/21 22:18 ID:TTQpsKU6
後藤は一人、自分の部屋で目をつぶり、精神統一をしていた。・・・いよいよ明日だ。 敵はおそらく手薄の状態だから、案外あっけないかもしれないが、それでも油断は禁物。 何より自分の班は3人班。自分のかかる負担も大きいものとなるだろう。 だから自分はしっかりと2人をリードし、助けていかなければならない。 後藤はゆっくりと目を開けると、 「いちーちゃん・・・。」 尊敬すべきその名前を呟く。市井沙耶香のためにも、後藤は絶対に負けられなかった。 そして、彼女の意思を継いで、明日の戦いに望む。 「明日で、全部終わるから・・・。」 後藤は部屋に飾ってある写真に向かって手を合わせ、祈った。全てが終わると、 後藤は小さな声で、独り言を呟いた。 「あ、もう眠い・・・。」 後藤はそのままベッドへと落ちた。
365 :
1話 :04/03/21 22:19 ID:TTQpsKU6
「どうしたの?そんな所で。」 矢口は眠れずに外へ出て、よく考え事をしたり、リラックスしたりしている丘へと向かうと、 先客がいた。安倍だった。 「矢口こそ、どうしたんだべ?」 安倍は愛くるしい笑みを浮かべた。 「眠れなくてね。やっぱ明日だと思うとキンチョーしちゃって。」 「なっちもだべ。ここまで長かったからね。」 「そうだね。」 安倍は革命軍結成の一員、矢口はそれに食いついてすぐに入ったから、 二人とも革命軍での歴史は深い。もう6年くらいが建つだろうか。 「最初入ったときはおいら14,5だもんなぁ〜。」 「あのときは驚いたよ〜。若いな〜って。」 安倍はそう笑うと、星を見上げた。 「綺麗・・・。」 「ホントだね・・・。」 二人でしばらく夜空に浮かぶ、満天の星空を眺めていた。美しく輝く無数の星達。 一つ一つ違って輝いて見えた。 「明日、全部終わったら、裕ちゃん女王だべ?」 安倍が言うと、二人は大笑いした。 「裕ちゃんが女王!!!キャハハ!!」
366 :
1話 :04/03/21 22:20 ID:TTQpsKU6
「なんや文句あるかい!」 後ろから声がして、二人はビクっと体を震わした。恐る恐る後ろを振り向くと、 中澤が仁王立ちしていた。 「ひ!!裕ちゃん!!いやぁ、女王になっても王子様は迎えに来ないかな〜って。」 「(それ状況悪くしてるべ!!)」 「まあええわ。今日の所は許しといたる。」 中澤は二人の横に腰掛けた。 「ホンマ、明日で決めるで。明日しかないんや。もうこれ以上死人も出したぁないし、 明日以上に敵が手薄になることもないやろ。」 死人を出したぁない、これが明日で終わりにしたい一番の理由かもしれなかった。 もう全員、死に行く仲間なんて見たくなかった。 「そうだね、よぉしぃ!気合入れてこー!」 矢口が丘から叫ぶ。 「今日みたいに遅刻するんやないで?なっち。」 「何それー。ののだって紺野だって石川だって高橋だって遅刻したのに〜!」 「そう言って自分の罪を軽くしようとしない。」 矢口に言われ、 「はーい。」 返事はしたものの安倍はまだ不満げな顔をしていた。 「あ、やっぱり皆もいるの?」 保田がその声に反応して丘に上がってきた。 「圭ちゃん。」 安倍が笑顔で出迎える。 「どう?明日?」 矢口が聞くと、保田は答えた。 「敵なんかあたしの大剣で蹴散らしちゃうわよ!」 「普段圭ちゃんが男にやられてるアレね。」 「ちょっと矢口!何それ!!」 4人はそのまましばらく、夜空中を彩る星の雨に、祈りを込めて、眺めていた。
367 :
1話 :04/03/21 22:21 ID:TTQpsKU6
チーン・・・・。線香を炊き、黙祷。紺野、小川の日課だった。 二人の両親は、国営軍による革命軍への奇襲攻撃のため死亡していた。 そのため二人と一人暮らしをする高橋の家で3人暮らしていた。 2人は復讐のため革命軍に入ったのだ。 「明日で、この国は変わるよ。」 小川は写真に話しかけるように呟く。 「あたし達の苦しかった生活も、終わるんだ。」 そんな横で、紺野は、 「もう食べれません・・・。」 バシッ! 「!!?まこっちゃんあたし目覚まし時計じゃないよぉ〜!!」 「黙祷しながら寝ちゃお父さんとお母さんに失礼でしょ!」 ぶすっとした表情のまま、紺野はタロットを取り出した。 「もう全部1種類ずつしか残ってないや。でも高いからなかなか買えないしな〜、 明日最後になりそうでよかったよ。」 よかったって・・・。小川はなんか妙な気持ちになりつつも何も言わなかった。 「そろそろなんか食べよっか。」 小川はそう言うと、地面に魔方陣を書いた。どこかの国の言葉を唱えると、 その中心から異世界の生物が浮かび上がる。 「じゃあ、お願いね。」 小川はその生物に告げると生物は無言のままキッチンへと空中移動した。
368 :
1話 :04/03/21 22:22 ID:TTQpsKU6
ガチャッ。 「あ、愛ちゃん。何してたの?」 少し遅れて帰って来た高橋に、紺野は聞いた。それに対して高橋は笑って答えた。 「ん、星を見てたんや、ニヒヒ。」 高橋は紺野を見ると、言った。 「あさ美ちゃん、頭ちょっと腫れとるやん。ほれ。」 回復魔法を唱える。紺野の頭の上のたんこぶはすぐにひいた。高橋は賢者である。 元々隣の国に住んでいたため、他の魔法使い、僧侶と違い最初から魔力を持っていた。 「ありがと〜。まこっちゃんが馬鹿力でさ〜。」 頭をさする紺野。 「あさ美ちゃんに言われたくないよ〜。タロット師か武道家かはっきりしてよ。」 そう言われると紺野は『殺陣』を始めた。 「あさ美ちゃんはタロットの魔法と格闘で最強目指してるんやね〜。」 繰り出される紺野の腕からは空気を切裂く音。これでいてタロットで数々の魔法を 使いこなすのだから恐ろしい。尤も、タロットの方は全種類使いこなせるわけではないが・・・。 「食べようか。」 小川が言ったので二人は食卓に視線を移すと、もう料理は出来ていた。 「相変わらずその召喚獣凄いよね〜。織田哲郎ぐらいすごいよ。」 「だからあさ美ちゃんそう言う例えはしないの!!」
369 :
1話 :04/03/21 22:23 ID:TTQpsKU6
吉澤は家で一人、入念にナックルをセレクト中。 「う〜ん・・・・。」 どれにしよう。単純に打撃力の高いものを選ぶのか、それとも魔力のこもったものを 選んで物理攻撃に強い敵に備えるか・・・。吉澤は悩んでいた。やはり敵陣に突っ込むの だから入念に選ばなければならない。 ガチャッ。 「よっすぃ〜、来たよぉ〜。」 入ってきたのは石川だった。吉澤が難しい顔をしているのを見て、吉澤に言った。 「どうしたの?」 「どっちにしようかな〜って。」 2種類には絞ったが、そこから先に進まなかった。石川はすぐに答えた。 「片方ずつつけたら?」 あ、それ面白い。僧侶の石川、いわば素人だからこその答えに、 吉澤は言われるがままにその案を頂くことにした。試しにはめてみる。 「なんかかっけーかも。」 軽く腕を何度か突き出す。 「よっすぃ〜かっけー!!」 暫く騒ぐと、石川は吉澤に体を近づけた。吉澤は何も言わない。石川が抱きつくと、 吉澤は言った。 「この戦いが終わったら、この関係も終わりにしようね?ちゃんと彼作ってさ。」 「・・・・・うん。」
370 :
1話 :04/03/21 22:26 ID:TTQpsKU6
交信中、交信中。飯田はぼーっと窓から外を見つめていた。明日はいよいよ決戦だ。 革命軍副総長として総長の中澤を支えてきた飯田にとって、感慨深いものがあった。 革命軍結成から苦節うん年。遂にここまでこぎつけた。思えば色々な事があった。 結成時はわずか5人、一時は最高で30人近くまで増えた事もあったが、やはり国営軍は強い。 そして圧倒的に人数が多い。でも自分たち15人が、国営軍の何百の戦力に劣るとは思えなかった。 それぞれの質の高さは、向こうをはるかに凌駕している。明日も国営軍の一部分の実力者達が いなければ問題なく事は運ばれるだろう。彼ら以外の国営軍は、たいしたことはなかった。 だからこそ、奇襲に意味を成すのだ。さて問題は・・・。いかにしてそいつらを降伏させるかだ。 つんくを殺してしまうとまずい。軍内にも王座を付け狙う輩がいると聞く。 そいつらにとって好都合になってしまう。 まあそこら辺は、中澤がしっかり考えているだろう。自分は今は、明日の戦いに備えるだけ・・・。
371 :
1話 :04/03/21 22:28 ID:TTQpsKU6
「泡泡泡〜♪」 松浦がそう口ずさむと、藤本は聞いた。 「何それ?」 「え〜、なんだろ?泡泡泡〜♪」 手で風呂の泡をすくい、ふぅ〜っと吹く。泡は桃色に輝いた。 「いや、あやや、それなんか、気味悪いからやめよう?」 「え〜?桃色で可愛いじゃん♪」 松浦の放つ魔法は、自由自在だ。回復系の魔法は使えないが、攻撃系の魔法は大魔導師を 自称する飯田の凌駕する威力を持つ。しかもこういう風に悪戯な使い方も出来る。 松浦がその気になれば、今二人が入っている風呂の色を桃色に変えたり、 風呂の大きさを倍にしたりも出来るのだ。 「明日だね。」 松浦の背中をゴシゴシと洗いながら、藤本は言った。 「うん、終わったら国のみんなの為の国にしようね!」 二人が革命軍に入軍した理由は、 他の例にも漏れずそれだった。重税を強いられ苦しむ生活を、どうにか改善出来ないか? そう思っていた時に中澤に誘われて入ったのだ。
372 :
1話 :04/03/21 22:29 ID:TTQpsKU6
「藤本、お前学校で剣術の成績トップやろ。その力、国を変えるために使う気、あらへんか?」 即決。このまま学校を卒業したら、そのまま国営軍へと入れられる所だったから、ちょうどよかった。 それに松浦がくっついていく形となった。最初は何も出来なかった松浦も、飯田に魔法の才能を見出され、 一流の魔法使いとして開花した。藤本も魔法を覚える事で、魔法剣士へと成長した。 二人とも革命軍の中で重要な戦力だ。 水で背中を洗い流すと、二人は交代した。 「今日はちゃんと洗うよ!」 松浦は珍しく自力で藤本の背中を洗い始めた。 「いつも手で洗ってくれると嬉しいんだけどね〜。」 藤本の嘆き声にも対して反応しない松浦。 二人の風呂場トークはそのまま2時間に渡り繰り広げられた。
373 :
1話 :04/03/21 22:30 ID:TTQpsKU6
満天の星空。今にも零れ落ちそうな輝きの中、一筋の雫が流れ落ちる。 雫は輝きを失うことなく、線を残しながら消えた。この夜の、 たった一度きりの出来事でも、見落とす人はいなかった。それぞれが、 それぞれの願いを込めて・・・。しかしこの瞬間、15人は確かに、 一つの願いを星に込めていた。
374 :
えっと :04/03/21 22:33 ID:TTQpsKU6
1話終了です。プロローグでは全然よく分からない状態でしたが、少しは 分かり状態になったでしょうか?ようは革命を成功させようと突入する 革命軍と、国の戦いの、ファンタジーです。
面白くなりそう 期待してます。
376 :
えっと :04/03/22 23:53 ID:g1DhzJv+
>>375 どうもです。でも敵がふざけ過ぎてて冷めるかも(汗)
敵をハロプロの他の人にしようにも全然キャラが分かりましぇん(ぉぃ
というわけで戦いの前半戦はかなり「Wonder neighbor」の初期のような
コメディなノリになるっぽいです。必ず随所随所閉めるんで、見逃して
ください(願)
よいですよ!作者さんの良いように!楽しみに待ってます
378 :
えっと :04/03/24 23:21 ID:OhxZQ/ox
>>377 ではお言葉に甘えて、行き過ぎないようにしたいですが・・・。
少なくとも今回ちょっとだけ匂いがします。
更新します。
379 :
えっと :04/03/24 23:22 ID:OhxZQ/ox
第二話「突入」 集合時間に間に合ったのは14人中ほぼ半分の8人。本当に大丈夫かい・・・ 中澤は家の中で頭を抱えた。おそらく昨日色々な想いから寝付けなかったのだろうが、 本当にこれから戦うって言う自覚があるのだろうか? 「まあなっちは今に始まった事じゃないしね〜。」 矢口が笑う。安倍に関しては既に諦めていた。というか一人だけ早い時間を教えた。 でも遅刻した。 「なんでやねん!!」 『で』の部分を思い切り強く叫ぶ。丁度その時、昨日に続いて二日連続の遅刻の高橋が 紺野と一緒に走ってきた。 「あれ?そういえばなんで小川はちゃんと来てんねん?」 中澤は小川に聞いた。 「あたしは最初から早めに来ようと思って来ただけです。ご飯は作っておいて。 多分あさ美ちゃんが目覚まし壊したんじゃないですか?昨日は『見える・・・神の右が!!』 とかなんだか言って腕思い切り振り下ろして家壊しかけましたし。」 滅茶苦茶な話だったが、高橋に聞いても同じ話をするだろう。しかしこの、 よく言えば『意外性』のある所こそ、紺野の武器であった。戦いでも相手からは 想像もつかない戦法が光る。(タロット+武道という組み合わせ自体先駆者と言えるが)
380 :
2話 :04/03/24 23:23 ID:OhxZQ/ox
「圭坊、見てきてくれんか?」 「はーい。」 保田は中澤に言われると中澤家のすぐ近くにある後藤宅へと向かった。もう既に予想はついている。 保田は拳の準備をした。 「(よっすぃ〜がこの役回りだったら死に掛けるぞ〜?)」 保田はベッドの前に立った。ベッドには確かなふくらみ。 「ごっちん起きろー!!!」 拳が布団を鮮やかに捉える。拳はそのまま布団へと深々と突き刺さった。・・・・むぅっ?感触がない。 「引っかかったぁ〜。」 後藤が後ろから笑いながら現れた。格好を見るともう出る準備万端のようだ。 「もうとっくに集合時間になってんのよ!行くよ!!」 緊張もあってかピリピリしていた保田は、後藤の腕を思い切り引っ張った。 「んあ?」 いきなりだったからか後藤はちょっと驚いたような表情をした。遅刻に対する罪悪感なんて 後藤には存在しないらしい。
381 :
2話 :04/03/24 23:24 ID:OhxZQ/ox
保田が後藤を連れて来ると、残す所は松浦藤本コンビだけとなっていた。外で遅刻者全員が罰として 正座をしながら待っていると、二人はフワフワ空中を浮きながらやってきた。 「ごめんなさぁ〜い!!!寝坊しちゃいましたぁ!!」 精一杯の誠意で釈明を図る松浦。藤本は別に何を言う訳でもなく松浦の後を追って飛んでいた。 二人が着地すると、中澤が鬼の形相で家から現れた。 「お二人さん、社長出勤でんな?」 二人は即深々と礼。 「まあええわ、今日で最後やし、な?それに出兵後時間いくらでもあるしな。」 中澤は優しく微笑むと、二人を家に招きいれた。 「(中澤さん今日随分と穏やかだね?)」 松浦は藤本に小声で呟いた。 「(女王になる準備じゃん?)」 そう言うと二人は密かに笑った。
382 :
2話 :04/03/24 23:26 ID:OhxZQ/ox
「全員揃ったみたいやし、最終チェック含めて始めるで。」 中澤は一人一人にバッジのようなものを配った。 「これは?」 皆口々に呟く。中澤は答えた。 「これは探知機兼通信機や。バッジの裏のボタンでうちと繋がるで。あとこっちからは一方的に 話しかけられるよーになっとるから。進撃状況を見て、指示出すわ。」 指示出さずに行けるのが最も理想だが・・・。とは言わなかった。 「一応昨日見た表、もっと詳しく書いておく。 まあ昔の話やから今はもう違う形になっとるかもしれへんが・・・これが城の内部や。」 4分割された城の、更に細かいマップが書かれた。とりあえずパッと見て分かる事は、北と西、 南と東は王の間へ続く道へ行く際に合流する。そして両方共に、合流地点先の階段を昇った所に 王の間への入り口が存在する、ということくらいだ。 「写メールしておくと便利ですね。」 「だから紺野ぉ!!」 中澤は即座にツッコむ。 「王の間の入り口二つもあるんですか?」 高橋が手を上げて質問した。 「うちが最後に入ったときは少なくともそうやった。」 つんくが王となる前、中澤は王室で働いていた。丁度入れ替わりでつんくが王となったから、 面識はなかった。
383 :
2話 :04/03/24 23:27 ID:OhxZQ/ox
「4つの門、さっき見てきたんやけど、最低限の兵は、やっぱり門番しとる。そこをどう超えるかは 各グループごとに任せる。ただし、あんま騒ぐんやないぞ?じゃ、班に分かれて作戦決め開始!!」 中澤が手を叩くとそれぞれ机を動かしてグループごとにまとまった。 その情景はさながら学校のグループワークのようだ。
384 :
2話 :04/03/24 23:27 ID:OhxZQ/ox
北班 「どうする?」 仕切るのは飯田。吉澤は言った。 「単純に強行突破が楽でいいっすよ〜、かっけーし。」 「意義な〜し!」 石川も嬉しそうに賛同。 「だめ!!そんな危ないことしてられません!」 「よっすぃ〜が強いから大丈夫ですよ〜。」 こいつら同じ班にしないでよ裕ちゃん・・・ 飯田は心の中でただ嘆くばかりだった。
385 :
2話 :04/03/24 23:28 ID:OhxZQ/ox
西班 「じゃあどうしよっか。」 仕切るのは保田。 「はい!おばちゃんの色仕掛けで相手が吐いてから通る!」 「吐くって何よ!!!」 「加護ナイス!!」 矢口爆笑。 「高橋なんか意見ある?」 保田が振ると、 「えっと・・・faqetjhfegkmchpqwaurqti・・・」 「もういいや。」
386 :
2話 :04/03/24 23:28 ID:OhxZQ/ox
東班 「どうするべかー?」 安倍の声に、 「はーい!ケーキを横に置いておくのれす!!」 「で?」 藤本が聞くと、辻は続けた。 「食べてる間に・・・ああ!だめれす!!のの!食べちゃ!!」 勝手に場面を想像して混乱しだす辻。 「ああ捕まっちゃ・・・・・。」 辻はそこまで言うと放心状態に。 「だめみたいですね。」 小川が呟くと、 「だね。」 藤本も呟いた。
387 :
2話 :04/03/24 23:29 ID:OhxZQ/ox
南班 「zzzzzzzzzz。」 「後藤さん起きてくださいよぉ〜!!」 「・・・・後藤さんを囮にしていきますか。」 紺野は真顔で言う。 「それもだめぇ!!」 松浦は中間管理職とでも言おうか、そんな状態で孤軍奮闘中。 「・・・・じゃあ松浦さ」 「もっとだめぇ!!」
388 :
2話 :04/03/24 23:31 ID:OhxZQ/ox
「皆、ええ作戦出来たか?」 『はーい!!』 絶対嘘や・・・。中澤は心の中で嘆くも、何も言わないでおいた。練りに練った計画よりも 咄嗟の機転の方が強い、中澤はそう信じていたからだった。 「じゃあ全員黒板に書いた地点につけ!そんで着いたらうちに報告せい。全員着いたら出撃や!!」 『はい!』 「大丈夫や、お前達なら行ける!!行って来い!!」 『はい!!』 14人は更に大きな声を上げて次々と中澤の家を飛び出していった。中澤はその姿を確認すると、 機能を停止してしまっている左手を右手でさすり、「司令室」へと移動した。 時間後、最後の北班から報告を受け、『革命』は始まった。 「さあ、皆どう抜けるんやろうな?」
389 :
2話 :04/03/24 23:33 ID:OhxZQ/ox
〜東班の場合〜 「あのすみません。」 話しかけられて兵士二人は横を向いた。横に立っていたのは綺麗な女性。兵士達は思わず見とれてしまった。 門番は基本的に実戦に借り出される事がないので、革命軍とは面識がないのだ。 「どうしました?」 「ちょっと、来てくれませんか?」 女性は上目使いで、顔を赤らめながら囁くように言った。 「は、はい。」 兵士はちょっと期待しながら茂みの奥へとついて行く。もう一人の兵士は羨ましそうな顔をしてそれを見た。 「すみません。」 兵士は声をかけられて振り向く。これまた綺麗な女性。たださっきよりも若い、18くらいだろうか。 「ちょっと、来てくれませんか?」 兵士は腕を掴まれた。腕は胸元に引き寄せられる。 「はい・・・。」 この女性は気づいているのかいないのか、さっきと同じ茂みへ連れて行かれた。 「あれ?」 そこにはさっき連れて行かれた仲間が、のびていた。 ガン!! 「!!」 後ろからいきなり頭を何かで殴られる。え?どういうこと?? 「ごめんね、革命軍で〜す。」 藤本が耳元で囁く。しかし兵士はそれが聞こえる前にはもう意識を失っていた。
390 :
2話 :04/03/24 23:35 ID:OhxZQ/ox
〜西班の場合〜 西の門でも東の門と同じく、二人の兵士が立っていた。矢口はそれを確認すると、囁いた。 「(いい?打ち合わせ通りに行くよ。)」 「(この案出したの矢口さんとちゃいますがな。)」 「(いいから!行くよ!)」 二人は大きな箱を担ぐと、門の前へと歩き出した。 「なんだね?君達は。」 兵士は矢口に聞いた。 「お届け物でーす。」 「誰に?」 あ、やば。つんくが何か貰うとしたら全部把握してそうだし・・・適当に主戦力組を・・・。 「は、ハイドさんと木梨さんに。」 うわ〜組み合わせ無茶無茶だ〜。せめて『月の子』で統一した方がよかったかな? 「分かりました。お通り下さい。」 兵士はいきなり敬語に切り替えると、二人を通した。 「お勤めご苦労様です。」 加護も標準語を使い、そのまま奥へと入っていった。 しばらく歩くと、二人は箱を地面に置いた。 「圭ちゃん重〜い!!!」 箱から保田が飛び出す。 「愛ちゃんはそうでもなかったなぁ。にしても、 やっぱり持つ方と入る方逆の方が合ってたんちゃます?」 「じゃんけんに負けたんだから文句言っちゃだめよ。」 高橋が加護を宥めると、4人は更に奥へと歩き出した。
391 :
2話 :04/03/24 23:36 ID:OhxZQ/ox
〜南班の場合〜 門の前には街と面しているからかここだけ3人。でも問題ない数だ。 「二人かぁ。面倒臭いし、やっちゃおうよ。」 後藤が言うと、松浦が猛反論した。 「だめですよ!そんな危ない!!」 「・・・後藤さんに一票。」 「え〜?!ちょっ、こんちゃ・・・・行くんですかぁ?!」 自分こんなキャラじゃないのに、この二人に挟まれたらただのツッコミに成り下がっている事に 松浦は心の中で溜息をついた。 「賛成多数で可決。ほら、腹くくるよ。あややだって強いんだからさ。出来るでしょ?」 「・・・・分かりました。」 松浦は覚悟を決めた。確かに後藤が言う通り、自分は力があるし、そこら辺の兵士を秒殺する事ぐらい簡単だ。 でも、なるべく騒ぎを起こさないうちに安全にやった方が、やっぱり確実だ。いつ出兵した兵が戻ってくるかも分からない。 でももうやるしかないらしい。 3人はスタスタと門の方へと歩き出した。兵士は5メートルまで近づいた所で不審な動きに気がつく。 「おい、なんだ?」 返事しない3人。それぞれ別々の兵士に近づいてゆく。 「DEATH」 紺野はカードを出して呟いた。声もなく倒れる兵士。 ドンッ。 松浦とぶつかった兵士は、それだけで倒れてしまった。 「ドッキドキ♪」 松浦は笑った。 「おっおい!!」 後藤の前にいる兵士は、叫んだ。しかし刹那、胸に傷が現れ倒れた。松浦と紺野には、 いつ後藤が刀を抜いたのか分からなかった。
392 :
2話 :04/03/24 23:37 ID:OhxZQ/ox
〜北班の場合〜 「城内見学に来ました〜。」 飯田が兵士にそう言う。 「そんなの、やってましたっけ?」 兵士は困った顔をしている。 「やってましたよぉ〜、通してくださいよ、ね?」 石川がねだるように言うと、兵士は渋々どいた。 「行こっか。」 飯田の声に、二人は返事をする。 「あれ?」 兵士が呟く。 「何か?」 石川が振り返った。兵士は言った。 「どこかで、お会いしましたっけ?」 「え?・・・・・・・・・・なんだろう・・・。」 石川は必死に思い出そうと悩みだした。それを見て、飯田がぴんと来る。 あの顔は・・・。 「だめ!石川!行くよ!!」 しかしその声は間に合わなかった。 「あ〜!!!半年前の街頭戦!!」 石川は満足そうな顔でそのまま歩こうとした。 「待て、お前ら、革命軍だな?」 「なんで分かるのぉ〜?!」 「梨華ちゃんの馬鹿!!」 すぐに吉澤は攻撃に出た。正拳突きは的確に兵を捉えた。猛一人の兵が、 槍を振り回す。 ボゥッ!! 次の瞬間、兵士は黒焦げになってその場で灰と化した。
393 :
2話 :04/03/24 23:38 ID:OhxZQ/ox
飯田は通信機を取り出すと、言った。 「北班、なんとか通過。」 『これで全員やな。皆、頑張っていけや。』 「了解!」 東西南北全班、元気よく答えた。いよいよ、『革命』が本格的に開始する。
394 :
えっと :04/03/24 23:39 ID:OhxZQ/ox
2話終了です。次からは話の終わりに「To be continued...」って書くことにします。 どうも分かりにくいので。
保全は大切
396 :
えっと :04/03/27 18:02 ID:WqxOvZiA
小説総合スレッドの
>>326 に触発されました。そして思いました。
「これうpしていいのだろうか・・・。」
まずいです。ふざけすぎました。でも前回に引いた伏線を消せないので
あきらめてうpしたいと思います。
397 :
3話 :04/03/27 18:05 ID:WqxOvZiA
第3話「Masked・・・」 「何ここ?」 開けた土地。崖までついている。でもすぐそばに作り物の海。 まるで映画のセットのような風景(と、紺野なら例えて中澤に 怒られるだろう)に、安倍達はただ呆然とした。 「なんか滅茶苦茶な場所。」 藤本がきょろきょろと辺りを見回す。 「ここ、本当に城内れすか?」 辻の疑問を、小川が解消する。 「実際の城はもっと奥。その周りを、所謂『鬼神』達の好きなように いじられてる。」 『鬼神』とは国営軍の主戦力達の略称。一部以外名前しか知らないため、 一体どんな能力を持っているのか分からない。ここには一体誰がいるのか・・・。 「お前ら!!待て!!ていうかずっと待ってた!」 4人は声をかけられて、振り返った。そこには、二人の男、40代くらいの男と、 20くらい?の青年が立っていた。 「ワカゾー、なんか言ってやれ。」 片方の男に言われ、ワカゾーと呼ばれた男は言った。 「お、お前達の墓場はここだ!!」 「芸人には用はないべ。」 安倍を先頭にスタスタと歩き出す4人。 「おい!なんだよそれ!俺ら『鬼神』だぞ?!一応!!」 「え?」 4人はそう聞くと表情を変えて振り返った。
398 :
3話 :04/03/27 18:06 ID:WqxOvZiA
この、100%芸人の空気を出している二人が、『鬼神』?もしかして、 国営軍ってたいした事ないんじゃないの?と思わざるをえないオーラを、 二人は発していた。 「俺は木梨憲武。」 「ハロプロ関係ないじゃん。」 「美貴ちゃん!そう言うこと言ってるとあさ美ちゃんになる!!」 小川が慌ててツッコむ。でも木梨は構わず乗ってきた。 「今回はハロプロっていうより、『う○ばん』だから。」 「えぇ?!」 「驚いちゃダメだべさ!!驚いたら負けだべ!『うた○ん』って言葉に 反応しちゃだめだべさ!!」 安倍の説得に3人はなんとか持ち直した。 「あ、でもそれだとしても『月の子』の片割れは関係ないのれす。」 「リンク飛び飛びみたいなもんでしょ。」 「あ〜もう小川まで!!もうどうでもいいから戦うべさ!!」 「よし、じゃあワカゾー!変身だ!」
399 :
3話 :04/03/27 18:07 ID:WqxOvZiA
「僕当時の記憶ほとんどないんですけど・・・。」 ワカゾーは困った顔をして呟いた。 「何?!そう言うこと言ってる場合か?!行くぞ!!」 「あの・・・大体俺ノリダーがカプセル投げて初めて出てくるから・・・ それに服小さすぎて着れません。」 「う〜ん、それも逆にピンポンだな。じゃあ俺が一人でやる!」 憲武の腰に変身ベルトが現れる。 「カ〜イワレ巻き巻きぃ♪」 変なポーズを取り出す憲武。 バキッ!ドゴ!!グシャッ!! 変身中容赦なく殴り続ける辻と小川の格闘系召喚獣イノキング。 「ネーギトロ巻き巻き〜♪」 尚も続く攻撃。戦う前にして既にボロボロの憲武。 「巻いて巻いて〜♪手巻き寿司〜♪」 「だからどうしたのれす!!!」 斧を思い切り横に振る。 「あとう!!」 斧が当たる前に憲武は空高く飛び上がった。ベルトの中心の赤い円が 高速回転する。憲武の姿は見る見るうちに変化していった。 「!!」
400 :
3話 :04/03/27 18:08 ID:WqxOvZiA
憲武、いや仮面ノリダーが崖の上に着地すると、4人は爆笑した。 「笑うなそこ!!!ノリダー・・・フェスティボー!!」 ノリダーは左右二本ずつの指を額に合わせると、そこからビームが飛び出した。 「うそぉぉぉ?!」 安倍と藤本はなんとか攻撃をかわした。それとは対照的に辻と小川、 並びにイノキングは見事餌食になった。 「うわ!!!」 「ノリダーカーニボー!!」 今度は手をスペシウム光線の構えでスペシウム光線のようなビームを放って きた。今度は安倍と藤本が食らった。 「攻撃する暇ないよ!!!」 藤本が剣を取り出すも近づけない。安倍は槍を構えるとダッシュで ノリダーの眼前まで飛んだ。 「ノリダー・・・投げ。」ノリダーは安倍をキャッチすると言った。 「え?!あ!!うそだべ〜!!!!!」 名前の通り、安倍は崖の下へと投げられた。 ドン!!!
401 :
3話 :04/03/27 18:10 ID:WqxOvZiA
「安倍さん大丈夫ですか〜?!」 小川が下へと召喚獣に乗って降りた。藤本と辻は飛び降りて着地する。 「痛たたたた・・・。めちゃめちゃだべさ!あいつ。」 「そりゃどうも。」 ノリダーは既に下へ来ていた。物騒な武器の後ろに立って。 「ノリダーキャノン砲!!」 ドン!!! またしてもそのまんま、キャノン砲を至近距離でぶっ放した。全員4方向に 散らばる。砲弾は崖の根元と激突し、激しく弾けた。 「なんなんだよあれ!!」 藤本がキレかかる。 「なんでもありだね。」 小川が呆れたような顔をしてつぶやく。ノリダーは今度はどこからか はしごを取り出した。 「ノリダーはしご!!」 スポッ。 「え?」 4人は見事にはしごの隙間にすっぽりと入れられた。 「とりゃ。」 こける4人。 「え?それだけ?」 安倍が言うと、 「悪いか!!」 ノリダー逆上。ノリダーは構えると、叫んだ。 「ノリダー西武警察!!!」 ノリダーがそう叫ぶと、辺りはいきなり大爆発を起こした。 「うわ!!!!」 全員バラバラに吹き飛んだ。
402 :
3話 :04/03/27 18:11 ID:WqxOvZiA
「痛―い・・・。」 藤本は作り物の海の近くまで吹き飛ばされていた。剣を使い、なんとか 立ち上がる。本当に目茶目茶だ。あんなふざけてて、強い。最悪にタチが 悪かった。 「ノリダー・・・・。」 気づくとノリダーは既に藤本の目の前にいた。 「え?!」 藤本はノリダーにひょいっと、お姫様抱っこされた。 「海に落ちなさい!!」 「いや〜!!!!」 ザップーン!!! 藤本は無残にも海へと落とされた。さっきの爆発での傷が凄く滲みる。 なんとか浮き上がると、砂浜めがけて泳ぎ出した。・・・寒い。 何やってんだろう、と自らに疑問を投げかけたくなったが、とりあえず 今は這い上がって目の前の敵を倒す事のほうが先決だった。 「絶対倒す!!」 海から出ると、藤本は走り出した。しかし体が重く、すぐに一回倒れた。
403 :
3話 :04/03/27 18:15 ID:WqxOvZiA
「む・・・どこへ行った?」 ノリダーは辺りを見回したが、4人の姿は見当たらなかった。ここに来て 広すぎるエリアが仇となったようだ。 「なら、ノリダー・・・・・地震!!!」 ノリダーが技を発すると、辺りは突然強い地震に襲われた。 「うわ!!!」 木から辻が落下する。 「そこか!!」 ノリダーは辻に向かって駆け出した。しかしすぐに転倒する。 「うわ!!地震でフラフラする!!」 ノリダー自滅。倒れているノリダーを横目に、小川は飛行用の召喚獣に 乗って辻を回収した。既に安倍と藤本も乗せてある。4人はそのまま 崖の上に再び上がった。 「どうするべか?何もかも滅茶苦茶だべ、あいつ。」 「とりあえず、ありったけの技ぶち込みましょう。」 藤本が言うと、3人は同意した。 「でも効果的にやらないと、あんだけ技があると簡単に防がれそうですよ。」 「じゃあ、まこっちゃんがまず・・・・・・・でどうれすか?」 「分かった、行って来ます!」 小川はすぐに行動に出た。
404 :
3話 :04/03/27 18:16 ID:WqxOvZiA
「バカ!」 小川に言われてノリダーはすぐに振り返った。 「なんだと?!ノリダー・・・・。」 ノリダーが技に入る前に、小川の召喚獣達は攻撃に出ていた。ヘビの召喚獣が 体に巻きつく。 「何?!」 ノリダーは成す術なくあっさりと巻きつかれてしまった。辻が斧に気を 溜めながら、ノリダーの元へとダッシュしてゆく。 「はぁぁぁ・・・・・!!」 辻は斧を振り上げた。斧が光る。辻の得意技が発動される瞬間であった。 「NON STOP!!」 斧が振り下ろされる。その瞬間ヘビは姿を消した。ノリダーは自由の身と なったが、逃げる時間はもうない。 「あ゛あ゛!!!!」 斧はノリダーの胸部に直撃した。着弾点から鮮やかな光が辺りを包む。 ノリダーは空中へと浮き上がった。 「くそぉ!!ノリダー・・・ああ!!!」 ノリダーが次の技を出す前に、魔弾がノリダーの背中を捉えた。ノリダーの 背中は見事に凍りつく。藤本が浴びせたものだ。 「さよならだべ。」 そういわれてノリダーはそっちの方を向く。そして気がついた。今自分は 確実にその声の方へと吹っ飛んでいる事に。安倍は槍のとがってない方を 地面に突き刺し、置いた。
405 :
3話 :04/03/27 18:17 ID:WqxOvZiA
「ちょっとむごい倒し方でしたね。」 小川は手で目を隠しながらも確実にその姿を見ていた。見事に槍の上に 突き刺さった遺体は、グロテスクでありながら芸術的でもある、と安倍は 言うのだが・・・。どうも3人には惨殺死体にしか見えなかった。 ガラ・・・・ッ。 「あ!!」 ワカゾーが怯えながらこっちを見ていた。その姿には戦意のカケラもない。 「どうする?」 安倍が3人に聞く。 「別に殺す必要はないのれす。」 「でもここで見逃したら後ろから攻撃、なんてことされるかも。」 小川の意見を鵜呑みにした安倍は槍を回収して構えた。 「ご、ごめんなさいぃ!!!」 こいつも『鬼神』なら何かあるはず・・・。なら早いうちに手を打つべし。 鉄は熱いうちに打て、だっけ?あれ?なんか違うべ?まあいいか。安倍は 一気に突っ込んだ。 「!!」 ワカゾーはポケットから棒状の携帯食品を取り出すと、食べた。途端に ワカゾーの動きが変わる。安倍の槍による3連打を、鮮やかにかわし、 3打目が終わった所でワカゾーは槍の上に乗っかった。
406 :
3話 :04/03/27 18:18 ID:WqxOvZiA
「はぁ・・・はぁ・・。」 ワカゾーは息苦しそうに呼吸を繰り返すと、槍の上から降りた。やはり こんなでも、鬼神は鬼神だ。にしてもこのポパイのような変身っぷりは いかがなものか。安倍はそんなことを思いながら槍を構え直した。 「行くべ!!!」 安倍は槍で「斬る」から「突き」へ攻撃を転換した。 「うわ!!!」 かわし続けるワカゾー。後ろから辻も斧で加勢した。 「やめてください!!!」 全てことごとくかわすワカゾー。それにしても何故攻撃はしないのだろう? 藤本は傍観しながら考えていた。 「美貴ちゃんも見てばっかりじゃないで加勢してくらはい!!」 「はいはい。」 剣を構える。剣はすぐさま炎に包まれた。藤本は剣を上段に構え、思い切り 振り下ろすと、火の玉がワカゾーへ向かって一直線に伸びていった。 「ひぃ!!」 ワカゾーは安倍と辻の連続攻撃を避けつつ、火の玉を蹴りで上へ弾き飛ばして しまった。その動きはまさに人知を超えた動きであった。それなのに未だに 攻撃らしい攻撃は全くしないワカゾー。 「なるほど・・・。」 藤本はよーく理解すると、1対2の肉弾戦に加勢した。 「わ?!うそ!!」 ワカゾーは更に焦る。しかし、それでも攻撃する気は全くないようだ。 来る攻撃来る攻撃をかわし続ける。藤本はそんな中、ワカゾーの体ではなく 別のものに狙いを定めた。
407 :
3話 :04/03/27 18:19 ID:WqxOvZiA
「え?」 ワカゾーに今日初めて攻撃が当たった。ただし、ポケット。中から携帯食品が 飛び出した。辻がすぐに手に取り、開封する。 「あ!やめて!!」 ワカゾーの言葉なんて、食べ物を前にした辻には聞こえない。辻はあっという間に 全て平らげてしまった。と同時に、ワカゾーのスピードが弱まり始めた。 そして遂に、 ザク!! 安倍の槍がワカゾーの腕をキャッチ。 「う!!!」 ワカゾーはその場で倒れこみ、転がった。腕を必死に抑え、こっちをチワワの ような目で見ている。 「ようはあの食べ物を食べると一時的に素早くなれるんだけど、攻撃力は フツウのまんまで、ノリダーを逃がす専門の鬼神だった、ってこと?」 小川の読みはズバリ正しかったらしく、ワカゾーはそれまで以上に怯えだした。 「さあどうするべ?」 安倍がひょいっと槍を持ち上げると、そのままワカゾーも宙に浮いた。 「ゆ、許してください!!」 目は本気で許しを求めている。戦意ゼロ。 「じゃあ・・・、こうしよっか。」 小川が召喚獣を出す。魔術師タイプの召喚獣。 「何がいい?」 小川の問いに全員思い思いの回答をした。 「ケーキ!」 「カエル。」 「犬!」
408 :
3話 :04/03/27 18:21 ID:WqxOvZiA
結局可愛い犬で可決となり、ワカゾーは犬にされそのまま放たれた。 「ばいばーい。」 辻が少しだけ残念そうな顔をして手を振る。ケーキにしてどうするつもり だったんだ?!と誰もが思ったが口にはしなかった。 「裕ちゃん?鬼神撃破。」 『鬼神?なんでおんねん。誰や?』 「ノリダーと、ワカゾーだべ。」 『もしかして、うちらが今日ここに来る事バレてたっちゅうことはないよな?』 「え?」 4人は固まった。そしてノリダーの台詞を思い出していた。 「お前ら!!待て!!ていうかずっと待ってた!」 「鬼神は出兵してるはずなのに・・・あたし達を待ち伏せしていた?」 藤本が呟くと、中澤は声を上げた。 『なんでバレてんねん?!もしかして・・・いや、考えたあないことなんやけど、 ええわ。全員に回線を繋ぐで。皆?』 [はーい!!] 全員の返事が聞こえる。 『うちらの中にスパイがおる可能性がある。』 [え?!] 全員驚きの声を上げる。しかし中澤の推測が正しければ、一人はバレたことに 声を上げている。中澤がここで全員に言ったのは、スパイへの牽制だった。 誰だか分からない以上、お互いに注意を引いてほしかったのだ。 『せやかて、お互い信頼しないんは頂けへん。あくまで可能性の話やから。』 中澤は一応そう付け加えた。 スパイの存在の可能性をここで匂わせた事が、後の悲劇を生む事になるとは、 中澤は当然知る由もなかった。 To be continued…
409 :
えっと :04/03/27 18:23 ID:WqxOvZiA
更新終了です。・・・・なんて、いうか・・・・・。 m(_ _)mいろんな人にごめんなさい。 仮面ライダーののスレの作者の皆さんごめんなさい。 少しでも期待して待っていた方ごめんなさい。 ここで退かないでください。敵の名前、技とか何もかもふざけてても 話は真面目に書きます。
がんがれ!!
いや、バカバカしくて面白いからいいけど、 文章読んでてどういう状況になってるのか分かりにくいとこがあったから、 そこらへんはちょっと気をつけてくれると嬉しいかも。
ほぜ
413 :
えっと :04/04/01 01:59 ID:38sXqhVs
414 :
4話 :04/04/01 02:03 ID:38sXqhVs
4.「Chmeistry」 ―中澤が全員に連絡を入れる少し前― 北班(飯田班)は門をくぐり、しばらく進むと、妙な事に気がついた。 いつまで経っても城にたどり着かない。いくら道進めど、そこにあるのは 森ばかり。でも天井もしっかりある。3人は城の広さに呆れ始めていた。 「よっすぃ〜疲れたよぉ〜。おぶってぇ〜。」 吉澤の背中へと抱きつく石川。吉澤はしょうがない、と言った表情で石川を おぶった。 「おぶらないの!!石川!そうやって甘えているといざ一人になったときロクな事がないよ!」 あ、やばい。二人がそう思った時には時既に遅し。飯田は得意の説教へ向け頭を 働かせていた。 「いい?毛利元就がね?息子達3人に1本ずつ矢を渡したの。」 それって有名な例え話だけど、この場合の説教には全く関係ないじゃん!! 二人は分かりつつも、聞き入れるしかなかった。(ていうかまず毛利元就 なんて名前だしちゃ駄目でしょ、中澤さんに叱られるっす!と吉澤は心の中で 思ったが胸にしまい込む。)
415 :
4話 :04/04/01 02:04 ID:38sXqhVs
いくら進んでも森森森。そして飯田はさっきの失敗(たとえ話のチョイスミス) から一人でたとえ話のネタを捜して交信中。吉澤はいい加減だれて来ていた。 そんな時、 「・・・・?なんか気配感じませんか?」 吉澤がそう呟いたときには、もう敵は姿を現していた。国営軍中最強を誇る “化学”部隊の外人兵、通称『三択隊』。吉澤は石川を降ろし、身構える。 飯田は交信中で全く敵に気づいていない。自分が戦うしかないようだ。 「梨華ちゃん、飯田さんの交信解いて。」 吉澤はそれだけ言うと駆け出した。 「分かった。」 しかしその返事は吉澤に届いていないだろう。吉澤は既に三択隊(大量人数) を一人で相手していた。鮮やかな技の数々で、次々と敵をねじ伏せてゆく。 1人辺りほぼ一撃で勝負をつけている。一般人が見たら、触れもしないのに 敵が勝手に倒れてゆくように見えるだろう。それ程吉澤は、速い。 「飯田さん!」 石川は見惚れている自分に気がつき、急いで飯田をこっちの世界に呼び戻す。 「え?・・・三択隊!!!なんでいるの?!」 「あ。」 そういえばそうだ、石川は飯田に言われて気がつく。何でここにいるの? 丁度タイミングよく中澤が連絡を入れる。 『うちらの中にスパイがおる可能性がある。』
416 :
4話 :04/04/01 02:06 ID:38sXqhVs
「え?!」 二人は驚きの声をあげた。それしか出来なかった。それ以外にどういうリアクションを とれと言うのだろう。でもそれならば今の状況も合点が行く。スパイが自分達の出撃日を 教えた事で、国営軍の主力はほとんど城内に残っている。だから化学部隊もいる。 でも・・・撤退する気なんか、サラサラないだろう、全員。今は、目の前の敵を倒す、 それだけ!飯田は魔力を右手に蓄える。そして標的に手をかざすと、炎を放った。 火の玉が疾風のごときスピードで三択隊達を襲う。 「!?」 三択隊は何か言う暇すら与えてもらえずに、燃えた。 「やった!」 ここの班はやっぱり強い!石川が影ながら喜んでいると、後ろから何か音が 聞こえ、振り返った。 「・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」 石川は絶叫すると、眼中に写った悪夢を消し去るべく、体を90度横に向け、 一心不乱に駆け出した。しかし悪夢はスピードを上げ、追いかけてくる。 スパイ、本当にいるかも・・・石川がそう感じずにいられないのは、自分の 弱点が上手く敵に利用されていたからだろう。とりあえず、石川は追いかけてくる、 巨大な鶏(と思われる魔獣)から逃れようと走り続けた。
417 :
4話 :04/04/01 02:07 ID:38sXqhVs
「石川待って!!」 飯田は走り出した石川に気がつくと、声を出して止めようとした。しかし 石川はこっちの声に反応すら見せず、必死に腕を振って、遠くへと行って しまう。飯田が石川の名前を4度叫び、5回目に、今までの中で一番大きな 声を出そうとした時、 「あれ?!」 遠くからそんな甲高い声が聞こえた。その一瞬後、石川は忽然と姿を消して しまった。 「石川?」 返事がない。飯田はとりあえず瞬間移動で、石川がいたはずの所まで移動した。 見てみると、石川は見事に落とし穴にはまっている。なんか泣いている様にも 見えるが・・・。とりあえず飯田は鶏を焼いてしまおうと振り返った。 ・・・・いない? 「飯田さん!!!」 石川の叫び声に、飯田はすぐ反応し振り返る。穴が少しずつ、少しずつ塞がってゆく。 ただ中が潰されるわけではなくて助ける手段を失うだけのようだ。飯田は冷静に分析した。 「分析してないで出してください!!!」 石川が叫んだ瞬間、穴は完全に塞がってしまった。 「出れない〜!!」 すぐに危機感のない声が穴からフィルターがかった状態で聞こえてきた。
418 :
4話 :04/04/01 02:08 ID:38sXqhVs
「え?何これ?!」 尚も穴からは石川の声だけが聞こえる。飯田は耳を済まして聞いてみた。 なんだか下手くそな一人寸劇な感じなのは気にしてはいけない。 「え?『どこでもドア』?!」 !!? 「嘘!!いやぁぁ!!来ないで〜!!!」 石川の声と同時に必死に呼吸しているような声も一緒に聞こえる。 「いやぁぁぁ!!!だめだめだめだめだ」 ここで声が忽然と途切れてしまった。飯田は一瞬だけ考えると、穴の表面を 爆破させた。そして覗き込んでみたが、誰もいない。どうやら化学軍が作った 『どこでもドア』で、石川はどこかへさらわれてしまった、と考えるのが妥当か。 おそらく今、石川をさらったのは・・・。化学軍総長、通称『化学くん』あの 嫌がり方からしておそらく間違いないだろう。二人の出会い(?)は何年前かに さかのぼる。飯田の記憶では確か雨の日、魔力が尽き、傷つき倒れていた石川を、 化学くんが見つけた。敵だと分かっていながら惚れてしまった化学くんは、 殺したと偽ってさらって家へとお持ち帰りして洗脳装置を使用しようとしたらしいが、 直前に吉澤が助け、現在まで幾度となくさらわれかけてきた。その都度その都度、 吉澤が化学くんをボコって解決してきたが、今回は吉澤から離れている所を 狙われてしまった・・・。飯田は吉澤に伝えるべく、瞬間移動をした。
419 :
4話 :04/04/01 02:10 ID:38sXqhVs
「来ないで〜!!」 石川は必死にもがく。 「とか言っておいて離れないじゃないですか。」 ローテンションな声を放つオタク顔は、石川の眼を深く傷つけてゆく。 「だって狭いんだもん!!」 石川が連れて来られた空間は、凄く狭く、円形の形をしていて逃げ道がない。 離れようにも化学くんから離れられないのだ。しかも化学くんが作った道具の 作用か知らないが、魔法が全く出せない。手のうちようがないのだ。 「これ、飲んでください。」 化学くんが差し出した飲み物は、もう色からして妖しくて、石川は離れられるだけ離れた。 壁際に思いきり体を引っ付ける。 「ほら。」 「イヤ!!!よっすぃ〜助けて〜!!!ここは、え〜っとなんか丸くて狭いのよぉ!! え〜とそんでもって化学くんが襲ってくるぅ〜!!!」 「何説明してるんですか?聞こえやしませんよ、防音ですから。」 石川は構わず声を出し続けた。 「なんか特殊な加工してるみたいだけど間違いなくこのエリア内にある〜!!!」 石川は最後の希望に賭けて一通り説明を終え、今度は化学くんから出来るだけ 離れようと右往左往。でも化学くんはジリジリと詰めて来る。果たして石川は 無傷(いろんな意味含む)でこのエリアを突破できるだろうか?
420 :
4話 :04/04/01 02:11 ID:38sXqhVs
三択隊が来ては倒し、来ては倒しの繰り返し。さっきからずっとその繰り返しに、 吉澤と飯田は体力が蝕まれてきていた。 「何人いるんだよ〜!!!」 吉澤はいい加減ウンザリした表情で、でもひたすら寿司やらテンプラやら 口走っている外国人軍団を料理し続ける。石川が人質に取られていなかったら 間違いなく通過だっただろう。目の前にいる外人をアッパーで吹っ飛ばすと、 後ろから襲い掛かってきた外人を振り返りざまハイキックで一蹴した。 「多分どこかで大量生産してる。」 飯田が言うと、吉澤は少し気持ちの悪そうな顔をし、辺りを見渡した。 「気持ち悪くないっすか〜?やっぱ化学軍は。」 とりあえずこの広い森の中で探さなきゃいけないものは二つ。三択隊の生産地と、 石川と化学くんがいる場所。とりあえず中澤経由で石川の場所に関しては ヒントはあった。漠然としているが。吉澤は走り出した。走りながら、 振り返って飯田に叫ぶ。 「じゃあ、梨華ちゃんはあたしが探すんで、飯田さん、発信源叩いてください!」
421 :
4話 :04/04/01 02:12 ID:38sXqhVs
飯田はそう言われたはいいものの、全く手がかりがない上仮説が正しい保証もなく、 明らかに“美味しくない”方の役回りを押し付けられた事に、少し不満があった。 「まあ二人の仲に免じて許しますか。」 飯田はそう独り言をつぶやくと、前を向く。三択隊が、滝の様に止め処なく 溢れ返っている。そう言って大袈裟でないほど、どんどん増えていた。 飯田は詠唱を唱えると、手を前にかざし、呪文を唱えた。 『真夏の光線』 夏の灼熱の光が、三択隊を次々と焼き尽くしてゆく。たった1回の魔法で、 辺り一帯の三択隊は全滅してしまった。 「大魔導師を、甘く見ないでね?」 大魔導師・・・飯田は自らをそう自称する。本来、飯田レベルの魔法使いで、 回復魔法も使える場合、周りから賢者と呼ばれる。しかし彼女はそれを嫌い、 自らそう名乗った。 「賢者ってなんか合わないの。能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ?だから 賢者なんてあからさまな名前じゃなくて、カオはonly oneで行くの。」 なんか勘違いな発言だったから、周りは流した。しかしここではその頭脳が 遺憾なく発揮される事になる。
422 :
4話 :04/04/01 02:14 ID:38sXqhVs
「もし仮に、仮説が正しいとしたならば・・・。」 発生源を叩くのは容易い事だ、それに気がついた飯田は、飛んでいった。 発生源と思われる場所へ。別に正確な場所が分かっているわけではない。 というより、分かる必要はない。それは凄く簡単な事だった。飯田は飛んで いると、やはり三択隊の姿が見えた。さっきのように思い切り魔法を放つ 必要はない。手刀に魔力を込め、通過しながら次々と切裂いてゆく。 飯田は何も考えずにどんどん進んでいけた。もう道は見えている。 「!!」 見つけた!飯田は静かに着地すると、少しだけ驚いた。いかにも怪しい洞穴から、 三択隊は次々と生産されていた。こんなあからさまな場所だったとは・・・。 飯田は三択隊が同じ方向からどんどんこっちへと来ているのを見て、 逆に道を辿ったのだ。もしかしたら、複数の場所に仕掛ければ、こちらに 勝ち目はなかったが、おそらく機械をそんなに作る時間がなかったのだろう。 「バイバイ。『ねえ笑って』」 飯田は唱えた。彼女の持つ、最も破壊力の優れた魔法を。口から言葉が離れた瞬間、 洞穴は内から大爆発をもって崩壊していった。そしてその破片たちが、 次々と三択隊へと襲い掛かって行く。 「テッカドーン!!!」 そんな断末魔の叫びも、飯田は気にならなかった。 「よし・・・と。」 飯田は再び宙に浮くと、吉澤を探しに飛び立った。
423 :
4話 :04/04/01 02:15 ID:38sXqhVs
三択隊の数が急激に減ったのが“気”で分かる。飯田の方は成功したようだ。 しかしこっちは全く手がかりをつかめずにいた。気を感じ取って探そうとしてみた。 しかし石川と化学くんの気はいかんせん弱過ぎて、三択隊の気に邪魔され、 感じ取る事が出来ない。しかしこれでまだ探しやすくなった。例え完璧な隠れ家 であろうが、その人間の発する気は、一部の、トップクラスのほんの一握り にしか調節し、隠す事は出来ない。化学くんが鬼神と違う所はそこにあった。 ただ、弱すぎる・・・。 「どこにいるんだよ!!!」 荒れながら、自分の周りにいる残りの三択隊を一掃すべく、技を放った。 『Baby!Knock out!!』 息もつかせぬ連続攻撃が、周りにいる三択隊を次々と地面にひれ伏させてゆく。 三択隊は倒れると間もなく発火、そのまま灰となった。 「飯田さん。」 吉澤は上を見上げる。飯田は目が合うとゆっくりと地面に足をつけた。 「三択隊、全部消せば分かりそう?」 飯田は既に吉澤の思惑をきっちりと読んでいた様だ。 「はい。」 「なら・・・。」 飯田は左手を空に向け、掌を大きく開くと、そこから無数の星屑達が、 飛び立った。一瞬の空白のあと、あちこちで悲鳴が聞こえる。どれもかしくも 「食べたいなぁ〜」だかなんだか言っているが、二人は無視。
424 :
4話 :04/04/01 02:17 ID:38sXqhVs
「・・・・・・・・・・・。」 吉澤は目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。しばらくして、僅かな気の動きを感じ取ると、 一心不乱に駆け出した。飯田は慌てて追いかける。吉澤は目を瞑ったまま、 気の元へ駆けて行く。 ガン!!! 「・・・・・・・・・・・。」 眼を瞑っていたせいか、木と激突する。木は音を立てて崩れ落ちた。道が 開けると、吉澤はまた走り出す。飯田は怯えながら追いかける。しばらく 走り続けて、吉澤は立ち止まり、目を開いた。 「ここから、二つの気を感じます。」 吉澤が指を刺したものは、かなり大きな大木だった。これなら中身が円形でも 頷ける。飯田はすぐに炎の矢を、木へと放った。 「!!」 なんと炎は弾かれ、そのままこっちへと戻ってきた。吉澤は飯田の後ろに 隠れる。飯田は落ち着いた表情で、すぐにバリアーを出し防いだ。 「魔法は効かないみたいね。」 吉澤はバリアーからはみ出て燃えた左腕を摩りながら、全身に気を蓄積していく。 「行きます。」 吉澤は前傾で駆けて行く。右手を軽く後ろへ引き、雄叫びをあげる。やがて 大木の前へとたどり着くと、吉澤は蓄積されたエネルギー全てを放出した。 『Moon light blast!』 ビルが崩れるくらいの騒音と共に、辺り一面、閃光が走った。閃光は大木を貫き、 後ろの全ての木々の生命をも奪い取る。今度は閃光の代わりに、砂煙が二人の 視界を遮ってゆく。その中から吉澤は、確実に二人を見つけると、飛び出した。
425 :
4話 :04/04/01 02:18 ID:38sXqhVs
「いやぁぁぁ!!!やめてぇぇ!!!」 気を感じ取るまでもなく、石川の絶叫ですぐに見分けがついた。石川は吉澤が 技名を唱えたため避けれたが、化学くんは直撃を食らったらしい。化学の実験を 失敗して黒焦げになったような顔をして、恐ろしさに更に磨きがかかっていた。 「来ないでぇぇ!!」 割れた眼鏡を押し上げると、化学くんは再び石川を追いかけ始めた。髪の毛 なんてもう無いに等しい。ただ眼だけは相変わらず死んだ後藤ま、もとい、 魚の目をしていた。(m(_ _)m) それにしてもいつもより激しく石川を追っているように、飯田には見えた。 「抱きしめてチューしたあ゛あ゛〜?!」 なんだか口走っている化学くんを、吉澤は黒焦げの襟元を掴んで思い切り 持ち上げた。吉澤は化学くんと目を合わせると、笑った。 「A潰すB燃やすC凍らすD粉々にする。梨華ちゃん、どれにする?」 「ひぃ!!ごめんなさい!!」 「え〜、あたしそんなの怖くて選べなぁ〜い。」 そんなこと言いながらも、石川の目はしっかり笑っている。吉澤はフッと 笑うと、一旦化学くんを降ろしかけた。 「もうしません!!」 化学くんは少しだけ安心した表情で言った。しかし次の瞬間、吉澤は化学くん から手を離すと、そのまま重力に従い地面へと向かった化学くんの体を思い切り 蹴り上げた。もちろん、スイートスポット直撃。 「!!!!」 声にならない叫びを上げながら化学くんは天高く舞った。 飯田には泣いているようにも見えたという。そして数秒後、 天井から破片が降ってきた。それを吉澤は満足そうに確認すると、 ゆっくりと歩き出した。
426 :
4話 :04/04/01 02:20 ID:38sXqhVs
「すご〜い!!」 石川は興奮して叫んだ。その矛先は吉澤によって破壊された森。道は一直線に 城への入り口まで伸びていた。 「裕ちゃん?」 飯田は思い出したように通信機を取り出し、言った。 『なんや?』 「やっぱりスパイいるみたい。じゃないとただでっかいだけの鶏の魔獣なんか 作るはず無いもん。」 信じたくは無いけど。もしかしたら吉澤かもしれないし、石川の自作自演かも しれない。まあ石川がそこまで体を張れるのかと言ったら分からないが・・・。 『まあ、怪しい動きがあったら発信機ですぐ分かるからな。大丈夫やろ。』 中澤との通信はここで途絶えた。直後、吉澤は言った。 「化学くんには何もされなかったの?」 「なんか変な薬飲まされそうになったけど・・・。」 「けど?」 飯田が聞くと、石川は少しだけ言いにくそうな顔をして、答えた。 「木が壊れたとき、化学くんが全身に浴びてた・・・。なんかあれ、 惚れ薬っぽくて・・・。そのせいで、激しくなった。」 吉澤は思い当たる節があったが、口を閉じたまま笑っていた。 To be continued…
427 :
えっと :04/04/01 02:25 ID:38sXqhVs
4話終了です。次辺りから話がちょっとずつ入り組み始めます(多分)
428 :
えっと :04/04/02 00:49 ID:ixDn4ibS
429 :
えっと :04/04/04 00:16 ID:r2pyzeC+
更新します。今回はかなりネタっぽくなくて真面目です
430 :
えっと :04/04/04 00:17 ID:r2pyzeC+
5.「狂乱の貴公子」 南班(後藤班)のエリアは北班、東班と、かなり違っていた。二つのエリアの 特徴としては、城に入るまでどこまでも広い、自然の景色が広がっていた。 (片方はセットのように見えたとしても)しかし南門は、何の障害もなく、 あっさりと入り口までたどり着いてしまった。あっけない、と言ってしまえば それまでだが、なるべく傷を作らずに王の間までたどり着きたい彼女達にとっては、 それは好都合な事だった。 コンコンッ。 「誰かいますか〜?」 「ちょっ、何こんちゃんノックしてんの?!」 松浦は睡眠学習中(自称)の後藤をおんぶした状態で必死にツッコミを入れる。 どうも二人のせいで自分のキャラが潰されているような・・・、って、今は 革命を遂行する事が先決、キャラは二の次。あたしがいないとこの班は成り 立たないんだから。松浦がそう自分に言い聞かせている間に、紺野はさっさと 入っていく。松浦は慌てて追いかけた。
431 :
えっと :04/04/04 00:19 ID:r2pyzeC+
ドアを開けると、2人は一面に広がる異様な光景に、目を奪われた。視線の 先の“建築物”の一つの発する、大音量で後藤は目が覚めたらしく、呟いた。 「んあ〜?暗いね。」 明かりと言ったら蝋燭しかなく、何故か壁からは滝が流れ落ち、天井からは 薔薇が下がっている。誰がどう見ても異常、と言うだろう、そんな光景を見て、 紺野が一言。 「素敵です!」 「紺野(頭)大丈夫?」 紺野は後藤の言葉も聞かずに、流れている滝に近づいた。 「マイナスイオン、たっぷりです〜。」 「分かるのかよ。」 松浦はフッと呟くと、いけない!と言った表情をして手で口を覆った。 とりあえずいつまでもここにいてもしょうがないので、奥に進もう、 と言うことで話がまとまり(松浦がまとめ)、一直線に伸びている道へ 体を向けると、人の気配に気がついた。 「!!!」 後藤がさっきまでの表情から一変する。気がつくと目の前には、男が椅子に 足を組んで座っている。松浦には速過ぎて、一体どうやって男が現れたのか、 見えなかった。
432 :
5話 :04/04/04 00:20 ID:r2pyzeC+
「お前は・・・・Gackt・・・。」 Gackt。後藤がそう呼ぶ男は、茶色い髪に青い目を持つ、少女漫画にでも出てきそうな 顔をした美男子だった。彼は鬼神の中の一人で、hydeと二人で「月の子」と呼ばれていた。 後藤が前に出そうになる足を、必死に理性で止めているように震えている。 Gacktはボソボソと何か言っているようだが、声が小さすぎてよく聞こえない。 「ごめん、そんなに人は殺したくないんだけどね。仕方がないかな・・・。」 ポキポキと手の関節を鳴らすと、Gacktは立ち上がった。立ち上がってみて 分かったが、180くらいあるだろうか、結構な高身長で、足も長い。 Gacktは軽く手首足首を捻り、屈伸すると、眼が変わった。 途端にすさまじい程の重圧を、松浦は全身に感じた。横を見ると、 後藤も紺野も体を震わせている。まずい、あたしも震えてる・・・。 松浦は止められない手の震えに、一瞬絶望感を感じた。でもやるしかない。 あの速さだ、逃げる事も許されないだろう。 Gacktは少しずつ、でも確実に3人に近づいてくる。後藤も紺野も動かない。 紺野はおそらくあまりの重圧に動けないだろう。あたしが・・・あたしが行くしかない! 「あああ!!!!」 松浦は似合わない雄たけびを上げると、唱えた。 『ヒヤシンス』
433 :
5話 :04/04/04 00:22 ID:r2pyzeC+
松浦は呪文を唱えた瞬間、その場から消えてしまった。少なくとも紺野には そう見えた。しかしそうではない。松浦は瞬時にGacktの背後にまで移動していた。 Gacktはすぐに振り返ったが、その時にはもう、松浦が攻撃を仕掛けていた。 『Good bye boy』 真っ暗闇の室内が、一瞬光に包まれる。松浦の掌から放たれた光の矢は、 Gacktの背を捉え、その衝撃で辺り一面を破壊した。蝋燭が消え、完全な闇。 紺野はタロットカードを何とか選ぶと、 『SUN』 暗黒の世界に光をもたらした。そこで紺野は驚くべき光景を目にする。Gacktの 拳が、松浦の脇腹に深々とめり込んでいたのである。松浦は完全に意識を失っている ようで、少しピクピクと震えている。いくら普段ボケボケの紺野でも、この状況に 怯えずにはいられない。Gacktは腕を上げたまま、つまり松浦を宙に浮かせた常態で ボソッと一言、言った。 「惜しかったね。ちょっと効いたかな・・・。」 Gacktは別に松浦の呪文を避けたわけではない。耐えた。そしてカウンターを 一撃。これほど口にするのは簡単で、実際に実行不可能なことはない、そんな風に 紺野は思った。松浦の呪文の破壊力は折り紙付き。現にGacktの周りは派手に 吹き飛んでいるし、さっきまでGacktが座っていた椅子なんてもう椅子であった 事すら忘れてしまうような形になっていた。そして松浦を拳で、たった一撃で ノックアウト。まさかこんなに強いとは・・・。 紺野はどうしようもにない絶望感に教われ、逃げる事すら出来ないほど足が すくんでいた。
434 :
5話 :04/04/04 00:23 ID:r2pyzeC+
後藤に視線を移してみると、さほど驚いているように見えない。むしろ 予想していたかのような表情で、Gacktの姿をじっと睨みつけている。 「ほら。」 Gacktは拳をぶんっと振ると、松浦が二人の目の前まで飛び、地面に落ちた。 紺野は急いで松浦の元へと走り、しゃがんで松浦の胸に耳を当てた。 ・・・・かなり弱っているが、まだ息がある。どうやら致命傷には至っていないようだ。 ただ瀕死で、もう戦えないのは明らか。どうする?この鬼神の前に、どうする事も 出来ずひれ伏すのか?また手が少し震えてきた。同時に視界が少し曇る。 ・・・涙? 震える手に宿った雫を、舐めてみる。しょっぱい、絶望ってこんな味だろうか? 「紺野。」 不意に後藤に声をかけられ、紺野は慌てて涙を拭くと答えた。 「なんですか?」 「あややを連れて先行って。」 「!!」 後藤の提案に、紺野は驚いた。一体どういう意味か、理解できずに、すぐ 質問する。 「どういうことですか?」 後藤は少し肩を震わせている。覚悟したような眼、 左手で既に鞘をしっかり握り締めていた。 「ごとーが食い止める。」
435 :
5話 :04/04/04 00:24 ID:r2pyzeC+
後藤から発せられた一言は、紺野の気を動転させるには充分すぎるほどの 衝撃だった。さっきあれ程までに圧倒的な力を見せ付けられた相手を、一人で 食い止める?紺野には全く理解できなかった。 「む、無茶です!!!」 しかし後藤から帰って来た言葉は、冷静で、悲しかった。 「じゃあこのまま全滅する?」 「・・・・。」 何も言い返せなかった。 「分かったら、行って。」 「・・・『strength』」 紺野はタロットを取り出し、唱えた。後藤の攻撃力が上がるよう、後藤に 差し出すと、後藤はほのかな光に包まれた。紺野が松浦を背負うと、 「・・・帰ったら、また笑おうぜぃ。」 後藤は笑っていた。紺野はそんな後藤の様子に返事する事が出来ず、一礼すると、 走り出した。Gacktの横を。一瞬襲われるかと思ったが、興味がないのか、 紺野は全く危害を受けなかった。そのまま走り抜ける。 「後藤さん・・・・死なないで・・・。」 言えなかった一言を、紺野は口にした。
436 :
5話 :04/04/04 00:26 ID:r2pyzeC+
後藤は剣を抜いた。剣はすぐさま光に包まれる。オーラブレードと言われるもので、 己の闘気を剣に込め、攻撃力をアップさせ、闇属性の敵には更なる効果を発揮する。 「それにしても心外だな・・・。一人で僕を倒そうだなんて。」 Gacktも壁にかけられていた剣を取り出すと、こちらは黒い光に包まれた。 Gacktはオーラブレードだと分かっていながら、敢えて闇属性で勝負を仕掛けてきた。 後藤へのハンデのつもりだろう。その油断、後悔させてやる、後藤は己の気を 全て開放した。 「!!」 Gacktはひるみ、一歩下がる。予想外の気に驚いたようだ。 「へへっ。これでもまだそう言うの?」 Gacktは何も言わずに、自らの気を開放した。今度は後藤が一歩退く格好になる。 「『月の子』を、なめないほうがいいよ。」 後藤はそれを聞くと口元を軽く緩ませ、Gacktへ向け己を走らせた。
437 :
5話 :04/04/04 00:27 ID:r2pyzeC+
「・・・!!」 吉澤は突然立ち止まった。 「どうしたの?」 石川と飯田は不思議そうな顔をして、真剣な顔つきの吉澤を覗き込んだ。 吉澤は遠くで物凄い気と気のぶつかり合いを感じたのだ。そして、その片方が 後藤だとすぐに理解した。もう一方、闇の気でとんでもない気を発しているのは 誰だか分からないが・・・。 「あのバカ・・・。」 後藤の気を遥かに凌駕している事は、気を読み取れるなら赤子でも分かる事だった。 このまま勝負を続けても無駄なのは分かりきっている。なのに何故? 「え?何が?」 飯田に呼ばれ自分の世界から連れ戻される。 「よっすぃ〜も交信しちゃったらあたし話し相手いなくなっちゃうよぉ。」 「ああ、ごめん。先、行きましょう。」
438 :
5話 :04/04/04 00:28 ID:r2pyzeC+
紺野は必死に走り続けていた。彼女の周りにまとわりつく『SUN』より 明かりは確保されていたため、かなりすんなりと進む事が出来た。そして やっと、本物の城の入り口へ。城に入ると、とりあえず地図の写しを広げ 直した。とりあえず階段を目指して歩くわけだが、その前に行き止まり部分に、 敵に見つからないようにこっそりと移動した。そして松浦を降ろすと、 タロットを取り出す。 『JUDGEMENT』 カードから放たれた一筋の雫が、松浦の額に零れ落ちる。 雫は水面に落ちたかのように松浦の全身を波紋の様に広がってゆく。 このカードの効果はつまり、瀕死者の復活。 「・・ん・・・・・。」 松浦なんとかある程度傷が癒えた。が、まだ意識は戻ってくれない。 こんなに早くこの手のカード達を使う事になるとは・・・。 紺野は一瞬迷ったが、 何迷ってんの!松浦さんの命が今は大事でしょ!と思い直し、 『HERMIT』 紺野が唱えた瞬間、二人は透明なカーテンに包まれた。そして周りからは 完全に姿を消した。これで30分しのげる。紺野は落ち着くと、寝息を立てる 松浦の横に体育座りすると、顔を膝に沈めた。
439 :
5話 :04/04/04 00:29 ID:r2pyzeC+
剣と剣のぶつかり合う、渇いた音が聞こえる。直後に、今度は爆音、風を切る音。 後藤は壁に叩き付けられたが、剣を地面に刺し、なんとか立ち上がった。 「何故だ・・・何故倒れない。」 Gacktは後藤に少しずつ、恐怖さえ覚え始めていた。さっきから一体何回決定打級の ダメージを与えただろう。何度斬っても、何度殴っても後藤は倒れなかった。 もはや話すことさえきつそうな様子だと言うのに! 「今の、ごとー達の、な.で、ごとー以外.、.んたとまともに、・・・戦う力、 ある.は、もう、よ...と、....しか、いな.・・・。」 もはや言葉にならない部分も出始めていたが、自分自身、声が小さかった Gacktは、なんとかそれを聞き取る事が出来た。 「意外な名前が出たな・・・。昔はもっといたとでも、言うのか?」 Gacktはありえない問いをした。いるはずがない、自分とまともに戦う力が ある奴なんて。そう信じきっていたからある意味これは後藤への勝利宣言だった。 しかし、 「いた。いち....なら、...を倒せた・・・。」 「・・・?!」 Gacktはこの言葉に過敏に反応した。俺を倒せた?ふざけるんじゃない。 Gacktは少しだけ頭に血が登った。そして決めた。こいつを、すぐにでも 地獄に突き落とす、と。 「でも、..―ちゃんは、...から、ごとーも、・・・行くよ?」 後藤は左足を何とか一歩、踏み出すと、構え直した。 To be continued…
440 :
5話 :04/04/04 00:31 ID:r2pyzeC+
更新終わりです。若干短めですが。
てst
まってるよん
443 :
ねぇ、名乗って :04/04/08 22:58 ID:431DzwIP
作者さんおつです。初めて読みました。 酒飲みながら読んでたんですがすっげー楽しかったです。続き早く読みたいな〜。 スパイが押しメンじゃないこと祈りつつ応援してます。
444 :
えっと :04/04/08 23:42 ID:uC4gEkQr
>>442 レスありがとうございます。
正直4回レスがなくて泣きそうでしたw
レス感謝です。お待たせしました。
>>443 レスありがとうございます。
シリアスにネタと交じりまくってどうなのよ?って感じだったので
こういう風に言ってもらえるとすごく励みになります。
スパイは・・・まあなんともいえませんがw
更新します。
445 :
6話 :04/04/08 23:44 ID:uC4gEkQr
6.「Music channel」 西班(保田班)の侵攻状況は、いたって順風満帆といえる。まさか宅配便の ふりをしてあんなにあっさりと通れるとは思わなかったが、そのあとを特に 敵に逢う事もなく、門まで到達。4人は談笑しながら進む余裕さえ見せている。 「宅配便でーす。」 「もうええわ。」 加護がタメ口でツッコもうが、矢口は気にしない。非常にリラックスしていて、 気楽なムード。その一方では後藤とGacktが死闘を繰り広げている事を思うと、 いささか不謹慎にも見えるが、彼女達は全くその事実を知らないから、 仕方のないことだった。 4人で笑っていると、門はひとりでに開いた。 「・・・宅配便に反応しちゃった?」 保田はどこかから自分達の会話を聞いているのでは?と思い門の上に 視線を移す。 「入れっちゅうとんねんから、入りましょ。」 そんな保田の苦労むなしく、加護を先頭に3人ともずんずんと奥の方へと 行ってしまった。 「え?ちょっ・・・・待ちなさいよ!!」 保田は慌てて3人を追って中へ。 バタン 『!!』 4人が中へ入るのを確認したかのように、門は音を立てて閉まった。
446 :
6話 :04/04/08 23:46 ID:uC4gEkQr
「・・・何ここ。」 なんで門から中へ入ったはずなのに、小部屋?4人は訳も分からず、とりあえず ちょうど4つある椅子に腰掛けた。そこで4人には気がついた。この部屋の壁は 全て透明で、向こう側に何かが見える。 ・・・・男が二人、長い机で4つの空席を挟んで座り、トークをしている。 片一方は40くらいの背の高そうな男、もう一方は30くらいで、帽子を被り、 背の小さそうな男。そしてその男達を、たくさんのレンズが捉えている。 ・・・ビデオカメラ?よく見るとカメラは無人で、勝手に移動したりして二人を 映している。魔法仕掛けだろうか。 [巨人開幕3連敗ですよ。] 大きい方の男の声がいきなり聞こえてきた。 [でも3連敗した年、3度!日本一になってますから。まだまだ行けます。] 「なんやあのあさ美ちゃんトーク。」 高橋が呟く。 [さあ、そろそろ参りましょう、本日の目玉はこの方々ですどうぞ!!] 若い方の男の声がした途端、目の前の戸は開き、まるで自分たちへ入って来い、 と言わんばかりの空気になった。なんだか拍手が凄い聞こえてくる。 「・・・行く?」 矢口が入り口?の方を指差すと、3人は静かに頷いた。とりあえず、 道はココしかないようだから、これが罠だろうがなんだろうが行くしかない。 4人の意思は一つだった。4人は吹き荒れる煙の中、鮮やかにスタジオ? に入室。2人の間の椅子に座った。
447 :
6話 :04/04/08 23:48 ID:uC4gEkQr
「はい、というわけで今週の目玉は・・・えっと・・・。」 中居は4人に視線を移した。4人は訳が分からず、とりあえず視線を合わせている。 「矢口・・・保田・・・高橋・・・加護・・・じゃあ『やや高』の皆さんです!」 中居が手を振りに紹介すると、またどこからか拍手の音。とりあえず言える事は、 『やや高』と言う言葉は4人のプライドを傷つけるには充分だった、ということだ。 ここからはしばらく、中澤が怒り出しそうなトークを。 「最近どうよ?ごっつぁんが卒業した時点でやばいなって思ってたけど今度は なっちで辻加護もいなくなるんだよ?」 「貴さん、一人忘れてます!!」 矢口が必死に『忘れられた人』を指差す。石橋はそこに視線を移すと、 「・・・お前なんでここにいるんだよ!」 保田一蹴。 「えぇっと、ホダさんでしたっけ?」 更に仲居が追い討ち。 「保田ですよ!!!昔なら良かったけど今更そんな弄り方しないでください!!」 半ば呆れ気味に見ている若手二名。白い目、白い目。 「テッテケテーはどうなの。訛りは取れた?」 「だから、これは訛ってないんですよ。」 ブルータス、じゃなかった。 高橋、お前もか。
448 :
6話 :04/04/08 23:50 ID:uC4gEkQr
加護は本来なら真っ先に乗ってしまいたかったが、流石に不謹慎だから黙ってみていた。 今、みんながどこで戦っているかも分からないというのに。辻の心配をしながら、加護は じーっとやり取りを傍観していた。 「仲居さん、加護が白い目で見てます。」 矢口は喋ろう喋ろうと必死。仲居はすかさず、 「いや加護お前白目ないべ?」 誰もいないはずの空間から笑い声が聞こえる。 「じゃあそろそろ曲紹介の方へいって頂いて。」 仲居がジェスチャーをすると、4人はせーの、と小さく声を出して、言った。 『それでは聞いてください。『やや高』でって違―う!!!』 「見事にハモったなぁ。」 石橋は感心したように4人を見る。息の荒い4人に、中居は、 「ではトータライザーの方を用意させて頂きまして・・・。」 と立ち上がると歩き出した。 ノリツッコミが流され、されるがままの4人。スイッチを持たされると、 中居が台本をそのまま読み上げる。 「正直この人は苦手だという人がいる。」 おなじみの音楽がドコからか流れ、 『2』 という数字が機械に写る。着いた瞬間石橋の口が開く。 「おい保田!後輩がビビってんぞぉ。」 「なんでですか!!分からないじゃないですか!」 「おばちゃん怖い。」 加護が呟くと、どこからかまた笑い声が聞こえる。
449 :
6話 :04/04/08 23:51 ID:uC4gEkQr
「では次の質問行ってみましょうかね。」 なんかいつまでも続きそうな気もするが、とりあえず傍観。 『正直保田が苦手だ。』 『2』 爆笑の渦。矢口さんとか、わざと押してるやろ?と心の中で思いつつも傍観。 保田は一人慌てて弁解?を繰り広げてゆく。焦れば焦るほど笑いが巻き起こってゆく。 「保田それでやめたんだろ?」 矢口は助けるそぶりすら見せず、ただただ笑うばかり。高橋がここで立ち上がる。 「そんなことないですよ!」 「え?じゃあ保田のいい所言ってみてよ。」 石橋の問いに、 「a32q593utg,cnmzlkgajdkd@ewpitewa65u」 「もういい。」 石橋がジェスチャーをすると、モールス信号を送る機械が本当に目の前に 現れてきた。驚く4人。石橋はなんでもない表情でそれを消すと、笑ってみせた。 「じゃあ次は、お菓子の方を、ご用意させていただいております。」 中居が声を出すと、誰が運んでいるわけでもないのにケーキを乗せた台が 飛んできた。加護の目の色が変わる。 「どうぞ、ご自由にお食べください。」
450 :
6話 :04/04/08 23:54 ID:uC4gEkQr
「いらねぇよ!!」 矢口が突然立ち上がると、びしっと中居を指指す。あ〜、せめて食った後に してくれへんかなぁ、なんて落ち込む加護の気持ちも知らずに。 「おいら達あんたらと遊んでる暇はないの!!鬼神なんだか知らないけど、 とにかく今すぐどけー!!!」 き、決まった・・・。矢口が一人満足そうな笑みを浮かべていると、 石橋の口が開いた。 「じゃあしょうがないな。死ね。」 すごく冷たい目をしている、人間かどうか疑ってしまうほどに。 加護にはそう見えた。やはり鬼神は違う。ふざけた奴等ばっかりでも、 戦う時の殺気は、そこらの兵士とは明らかに一線を画する。 石橋はどこからかバットを取り出すと、もう片方の手に出したマイクを、 中居に渡した。 「させるか!!」 矢口が肩袖からナックルを取り出し、二人へと接近する。しかしその前に、 仲居から必殺の一声が放たれた。 「エ゛ン゛ダ゛ァァァァァァァ!!!!」 強烈なダミ声とぶれる音程。それだけでも充分過ぎるほどきつい声なのに、 中居の声はただの声ではない。『魔声』と呼ばれる術で、声を攻撃に帰ることが 出来る、近世では珍しい術。しかし本来は歌のもっと上手い術師が補助のために 使っていたのだが、 ってそんな解説している場合じゃない。 加護は自分が壁まで魔声の衝撃で飛んでいることに気づいた。 気づくと同時に、体に痛み。
451 :
6話 :04/04/08 23:55 ID:uC4gEkQr
「くそ!!」 加護はすぐに立ち上がると、ダガーを両手に持って駆け出す。マイクを握る 中居の手に力が入るのが見えた。 シュッ!! 「花屋の〜・・痛!!!」 魔声完全発動の前に、加護はダガーを投げ中居の手に見事命中。中居は マイクを落としてしまった。腰からもう一本取り出し、石橋の方へと 突っ込む。 「うわ!!!」 石橋は怯みながら片手を前へかざした。加護は構わず斬りつける。しかし 次の瞬間、石橋の手の目の前に、突然『コナキジジイ』像が姿を現し、 加護の攻撃はそれへと直撃した。コナキジジイ像が真っ二つに割れると、 加護はなんだか像にウィンクされたような気がして、 悪寒で動き鈍ってしまう。すかさず石橋がバットをフルスイング。 しかしここは加護。最近は太り全盛期の速さはないものの、まだまだ 革命軍内ではトップクラスの速さを持つ。飛び上がるとそのままバク中。 着地するとその反動で前へと飛んだ。 「決まりや!!!」 フルスイングから石橋はまだ体勢を立て直せていない。 決まった、そう思った瞬間、 「ア゛〜ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛〜〜〜〜〜〜!!!!! 果゛てしない゛ぃ゛ぃ゛〜〜〜」 防御という防御体制を全く取れないまま、加護は再び壁まで吹き飛んだ。
452 :
6話 :04/04/08 23:57 ID:uC4gEkQr
「ホンマ、ムカつく声やわ〜。」 加護は服の汚れを軽くはらい、立ち上がると3人の元へと駆けた。 矢口は直で食らったから大分聞いているのかと思いきや、瞬時に 背中から盾を取り出し衝撃を抑えたらしい。ピンピンしていた。 矢口は軽業師だが、その身体には数々の武器が秘められていて、 一体いくつ武器や道具があるのか、矢口以外は誰も知らない。 「どないします?ここは2対2が妥当やと思うんですけど。」 「そうだね、おいらもそれがいいと思『う!!』」 矢口が突然子途切れたように倒れる。加護は倒れた矢口の方へと振り返った。 「?・・・変な冗談してる場合ちゃいまっせ。・・!!」 突然、延髄辺りを強い衝撃が走った。すぐに痛みは薄れる意識で気に ならなくなる。加護は膝を落すとそのまま倒れた。なんとか最後の力を 振り絞り、振り返る。 ・・・・!! 「おばちゃ・・・・・・。」 加護の頭を、中澤の言葉がフラッシュバックする。 『うちらの中にスパイがおる可能性がある。』 間もなく加護の意識は途絶え、高橋もそれを追う様に倒れた。
453 :
6話 :04/04/08 23:58 ID:uC4gEkQr
中澤は早くも出始めた班の異変に対し、必死に冷静さを保とうとしていた。 後藤班が完全に分裂、後藤だけが残り、残り二人が進んでいる。それだけでも 心配になるのに、松浦の体力が一瞬にして0に近い所まで落ち込んだ事、後藤の 体力がどんどん落ちてゆく事、そして、3人とも連絡がつかない事。 この3つが、中澤を更に不安にさせていた。 『HERMIT』の効果で通信の電波が上手い具合に届かないのだ。しかし中澤は そんな事を知る由もなく、とりあえず後藤と連絡をつけようと必死に呼びかける。 「ごっつぁん!!ごっつぁん!!」 いくらその名を呼んでも、返事は全く聞こえてこない。後藤は無視して 一定のスペース内を動き続けている。 「くそ!!!!」 机を思い切り叩くと、下唇を噛む。 あいつ、何やってんねん・・・。 体力メーターなんて、つけるんじゃなかった。 どんどん死への階段を昇り続ける後藤なんか、見たくない。 部屋を退室していて、聞き逃すんじゃなかった。 皮肉な事に、ちょうど中澤が退室していたときに、後藤達はGacktと遭遇していた。 中澤が見たのは、松浦の体力が瞬時に減少した所から。 自分は・・・何をすれば・・・。
454 :
6話 :04/04/09 00:00 ID:uIQMOJ+c
「ん?」 後藤にすっかり気をとられて、他の班をまったくチェックしていなかった事に気がつく。 なんと一人別行動を取っている輩がいるではないか。中澤は話しかけた。 「おい!!」 『え?!?!』 いきなり話しかけられたせいか、物凄く驚いている。そんなに驚かれると、 お化けにでもなった気分で中澤は少しムカついた。 「どうしたんや?そんな所でちょろちょろと。」 中澤は核心に迫った。あまり考えたくはないが・・・。 スパイの可能性も否定出来ない。 『トイレを探しに。』 「ああ、せやな、城内入ったんやからトイレもあるか・・・。」 やれやれ・・・。自分の記憶によると、大分豪華なトイレが・・・。 今はもっと凄い事になってるかもしれないが。 「・・・・?」 またトイレかい。今度はこいつかい・・・。 ったくどいつもこいつも緊張感っちゅうもんが足りない。 ・・・・?あれ、トイレって、こんなに多かったっけ?まあええか。 中澤は立ち上がると、鬼神の資料を取りに別室へと移っていった。 その間、探知機によってモニターに映し出されている“点”は、 静かに王の間へと、確実に向かっていた。 To be continued…
455 :
えっと :04/04/09 00:08 ID:uIQMOJ+c
更新終了です。 最近、部活動のシーズンイン、新学期の始まりでかなり書く時間が 制限されてしまっています。だからこれから更新速度が落ちてしまう かも分かりませんが、どうか暖かい目で見守ってあげてやってください。
456 :
ねぇ、名乗って :04/04/09 21:56 ID:WG9TliNz
えっとさん、お疲れ様です。いや、飯田の呪文とかセンス良いな〜と思いました。 気長に続き楽しみに待ってます。
457 :
えっと :04/04/13 23:46 ID:EzrJmi++
>>456 レスありがとうございます。
呪文の名前はちょっと考えますね。曲名にしたいな〜と思っても
シングルしか知らないもので。
出来ればメール部分に「sage」と入力して頂くと嬉しいです。
更新します。今回は2話(?)更新です。
458 :
7話 :04/04/13 23:48 ID:EzrJmi++
7.「solitude battle」 安倍班は順調に城内に入り、しばし休憩の時。小川が召喚した結界召喚獣によって 4人は姿が隠れ、まったりと少しだけ休んでいた。そんなとき、小川は一人トイレを探しに出かけた。 ずっと緊張感漂う場所を歩き続けていたため、トイレに行きたくなるのも無理もない。 他の3人はこれをいい機会と、丁度いい休憩時間としていた。 どうやらこの階のトイレはここだけらしい。反対側へ歩いて行ってしまったため、 随分と探すのに時間がかかってしまった。“光のカーテン”を着込んでいなかったら 間違いなく鬼神と遭遇して死んでいただろう。 姿を消した小川は、なんとかトイレにたどり着いた。 「・・・・・・・。そうだ!」 We’re alive、じゃなくって。 小川は男女両方の入り口部分に、あることをした。 「あ、小川お帰り〜。」 帰って来た小川に対し、まったりとした表情の安倍達。 「・・・何笑ってるんれすか?」 「え?いや??」 小川は辻に指摘され、自分が笑っているという事に気がついた。
459 :
7話 :04/04/13 23:50 ID:EzrJmi++
一方飯田班。 こちらも安倍班同様、城内に入り、侵攻を続けていた。特に敵に出会う事も ないことから、とりあえず隣国への出兵自体は取り止めていないらしい。 ただ鬼神だけは皆揃って残っている。出来れば当たらずに行きたいものだが・・・。 飯田がずっといい緊張感を持ったまま、先頭を切って城内を進んでいると、 石川が飯田を呼び止め、恥ずかしそうに言った。 「あの〜、ト、トイレ行ってもいいですか?」 思わずこける二人。吉澤に関してはこけながら地面を叩き割ってしまった。 「分かった。早めにね。」 飯田に言われ、石川は小走りでトイレを探しに駆けてゆく。その姿を見届けると、 二人は壁に寄りかかり、座った。 「いつもなら「しないよ!」とか言うんですけどねぇ。」 「よほど我慢できなかったんでしょ。とりあえず、軽く結界張るね。」 飯田は立ち上がると、一仕事始めた。
460 :
7話 :04/04/13 23:51 ID:EzrJmi++
「あれ?」 石川は気づくと見覚えのない入り口にまで来てしまった。つまりここは・・・・・・。 南門? 石川はどうやらトイレを見つけられないまま南の入り口まで来てしまったようだ。 別にこの城は入り組んだ造りをしているわけではないが、とにかく広い。 その広さが石川の頭を混乱させてしまったのかもしれない。 そのままゆっくりと進む。左右に視線を移しつつ進んでいると、何かにぶつかった。 「?」 何かある。 壁と自分との間に、透明でよく見えないけど、何かが。 触れることは出来るけど、なんだかよく分からなかった。何かの罠だったら嫌だし、やめとこう。 石川は方向転換すると、反対方向へと歩き出した。その透明な空間から発せられる寝息に気がつくことなく。 「あったぁ〜・・・。」 やっとトイレを見つけると、石川は嬉しくてすぐに中へと入った。 なんか凄い金に物を言わせたような内装に、ちょっとひきながら、 石川は個室へ入り、戸を閉めた。
461 :
7話 :04/04/13 23:52 ID:EzrJmi++
石川は用を足し、戸を開けると、目の前に驚くべき光景が飛び込んできた。 合成獣、通称『キマイラ』。名前の通り、動物と動物を“合成”する事により、 全く新しい力を持った獣である。今石川の目の前にいるのは、ライオンと龍を 掛け合わせたもの。さっきまではいなかったはずなのに、何故?石川は必死に考えた。 そしてキマイラの足元に視線を移すと、疑問は解決した。 「(トラップ!)」 キマイラは魔方陣から召喚されていた。おそらく誰かが魔方陣に触れると数秒後に キマイラが発生する仕掛けだろう。しかもこのキマイラは大型種。出口を完全に 阻まれている事から、倒すしかない。しかし、直接命を奪う力は石川にはなかった。 だから、石川の選択肢は一つ。魔方陣を消し、キマイラの召喚を消す。 「(でも、どうやって・・・。)」 石川は考えた。魔方陣を消滅させる種類の呪文は、石川にはない。 考えているうちにどんどんキマイラは近づいてきた。 「(ど、どうしよ〜!!!)」 もう、腹をくくるしかない。やるしかないのだ。一応いくつかの攻撃魔法の契約は 交わしたが、放った事は一度もなかった。でも、打つしかない。 「(いくよ!!!)」 石川はキマイラに向かって、人差し指と中指を立ててみせた。
462 :
7話 :04/04/13 23:54 ID:EzrJmi++
『ピース!!』 シーン・・・。 キマイラには、両指の隙間から石川の情けない顔が見えたかもしれない。 「(出なぁ〜〜いぃぃ!!!まだレベル足りないよぉ!!どうしよどうしよ!!)」 出ないならそれまで、次次!石川は手と手を合わせると、魔力を圧縮する。 両手は七色に輝く。石川は思い切り両手を左右に広げると、手と手の間には、 透明な膜が姿を見せた。 『シャボン玉ぁ!!』 十数個のシャボン状の魔弾が、キマイラに襲い掛かる。体の大きさ故、 キマイラには逃げ場がなかった。 ボンボンボンボン!! 破裂する魔弾が、キマイラにジワジワとダメージを与える。 「よしっ!」 成功した事に、石川は思わず声を上げて喜んだ。でも飯田さんとか、 あややだったら数百個は出るんだよなぁ、って、今はそんな事考えている 場合じゃないよね、こいつを倒さなきゃ。石川は更に呪文を試す。 『チュッ!』
463 :
7話 :04/04/13 23:55 ID:EzrJmi++
声がハートとなり、キマイラの方へとフワフワと飛んでゆく。 これは本来誘惑系の呪文だが・・・。キマイラはハートが目前まで迫った所で、 シッポを思い切り振りハートを弾き飛ばした。壁に激突し、ハートは弾けて消えた。 「あたしってそんなに魅力ないかな・・・・?」 石川はその場に座り込むと、いじいじと落ち込んだ。 嗚呼、神様、あたしを何故生んだのでしょうか・・・。 そこまでは行かないにしても精神的に完全にノックアウト。しかし少しずつ 近づいているキマイラに気がつくと、 「こないでぇ〜!!!」 そんな事すぐに忘れた。キマイラは聞いちゃくれない。どんどん近づいてくる。 あ〜もう!!石川は再び覚悟を決めなおす。 あやや、ごめん!! 『ズバッと!!』 炎の塊が放たれる。キマイラは大きな体をギリギリまで動かし、なんとか 避けると、塊は壁に大きな穴を開けた。 「(打てた・・・。けど・・・。)」 けど、当たらないよぉ!! どんどん近づいてくるキマイラ。もう場所がない。 どうする? どうする? 石川は少し上を見上げた。 ・・・よしっ。
464 :
7話 :04/04/13 23:56 ID:EzrJmi++
石川は心の中でもう一度だけ、松浦に謝ると、その呪文を唱えた。 『ズバッと!!』 今度はかなりの低弾道。キマイラは飛び上がり、天井スレスレあたりで宙に 浮いた。通過する塊。塊はそのまま突き進み、魔方陣のあたりに到達した時、 石川は右手の人差し指、中指をビュッと下に下げた。指に操られた塊は直角に 魔方陣の上へと落下。地面は大きな音を立てて割れ、魔方陣が崩れる。 するとキマイラはそのまま姿を消した。 石川は少しだけ乱れた呼吸を整えると、思わずペタンとその場で座り込んでしまった。 楽な姿勢で、甲高い間抜けな声を上げる。 「助かったぁ・・・。」
465 :
7話 :04/04/13 23:58 ID:EzrJmi++
「にしても遅い!」 飯田が痺れを切らして声を上げる。例えトイレを探している最中に迷ったのだとしても (現に石川は迷ったわけだが)、この遅さは異常だ。1時間以上待たされている。 飯田はいい加減待ちくたびれた。手に魔力を蓄積すると、呪文を唱える。 『Memory』 目の前の空間に、石川の映像が映し出される。映し出された石川は言った。 「あの〜、ト、トイレ行ってもいいですか?」 「ここ見ても意味無いっすよ。進めましょ。」 吉澤に言われるまでもなく、飯田は石川を『早送り』する。石川はどんどん歩いてゆく。 そしてしばらくして立ち止まったので『再生』に切り替える。 「あれ?」 不思議そうな表情をする石川に、呆れる二人。 「・・・。」 飯田は無言で映像を消した。もう分かった。どれだけ迷ったか。こんだけ迷えば しょうがない。とことん待ってやろうじゃない。飯田はどかっと座り込み、 どこか遠くを見るような目で何も言わなくなった。 「・・・交信されるとこっちが困るんですけどね〜・・・。」 吉澤は聞こえない事を分かっていながら呟いた。
466 :
7話 :04/04/13 23:58 ID:EzrJmi++
石川がフラフラと帰って来たのはそれから30分後の事。 飯田は立ち上がると、言った。 「大分迷ったでしょ。時間たっちゃったから、行くよ。」 「・・・・・・。」 石川は疲れた顔でえ?と言っているように見えた。 なんだかあまりにその表情がみじめだったから、吉澤は助けに出た。 「飯田さん、あと20分だけ、ここで休みません?」 「え〜・・・・分かった。20分だけね。」 再びどかっと座る飯田。倒れこむように崩れ落ちる石川。 吉澤はそんな二人を見て、ちょっとだけ微笑んだ。
467 :
7話 :04/04/14 00:01 ID:bO2C8lPs
蝋燭の明かりのみが頼りの暗闇の中、もうすっかり紅く色を変えてしまった剣と剣。 対峙し、しばらくの沈黙の後、再び動き出した。互いにぶつかり合い、少しでもその姿を 紅く染めようと躍起になっているかのように、 激しく、速く、強く・・・。 やがて一方の剣。光を放っていた剣が、その生涯を終えた。二つに見事に分かれたその剣の先は、 無残で、弱い。生き残った剣の持ち主の男は、静かに笑みを浮かべると、一気に襲い掛かる。 なす術なく、体中から赤を吐き出してゆく死んだ剣の主である女。それでも女は倒れない。 声にならない声をあげ、掌に魔力をため、自らの全てを放出する。そこから放たれた光が、 男の体を焼き尽くすように照らす。掌から何も出なくなったとき、女は座り込み、 男がいた方向から投げられてきた剣の刺さった腹を、懸命に、どうにかしようと剣を引っこ抜く。 紅い液体が噴出し、顔を更に紅に変色させる。女は手をかざし、何やら口走ってみたものの、 手からはもう何も出なかった。その代わり、目から静かに透明な、塩辛い液体が口内まで流れ込む。 声にならない絶叫。 果てしない闇が、女の体を貫いた。女は力なく地面にひれ伏す。闇を放出した男も、 追う様に地面に倒れると、胸を十字に切る。 手を地面に置くと、男は静かにその場から消え去った。 To be continued
468 :
0 :04/04/14 00:02 ID:bO2C8lPs
0.「エース」 二人の出会いは必然だったのか、はたまた偶然だったのか。 それは定かではないが、後藤と市井は革命軍という枠の中で出会った。 「また新しい仲間が増えたで。ほれ、自己紹介しいや。」 中澤に少し荒っぽく押されながら、後藤は全員の(当時8人)前で名前を名乗った。 それが終わると中澤から軽く後藤の能力について説明が入る。 剣技を主とするが、本来なら違法とされる魔術所を父親が独自のルートで 手に入れていたため、魔法を使いこなす。更に武術、槍術も全て学校でトップクラスの成績。 何をさせても良かったため、 「市井、お前が教育係やれ。剣技をもっと鍛えたれ。」 後藤は余計なお世話だ、とこの時思った。自分の剣術は確かなものだし、 人に教えられる程甘いものだとは思っていなかった。 しかしそれはただの過信だったという事を、後藤は実戦ですぐに身をもって教えられることになる。
469 :
0 :04/04/14 00:03 ID:bO2C8lPs
「死ね!!」 後藤は声がすると同時に後ろを振り返った。兵士が剣を自分へと振り下ろして きている。後藤はなんとか剣で受け止め、魔法で凍らせた。それを見た市井は、 遠くから歩いてきて説教。 「まだまだ甘い。敵はどこにいるか分からないんだから、五感をフルに活かさないと、 生き残れないよ。」 市井は厳しい目をして後藤に言った。言っている傍から市井の背後に兵士の影。 「いちーちゃん危ない!!」 しかし市井は敵を見ることすらなく、剣を後ろに振ると兵士の脳天を直撃。 「だからそのいちーちゃんってのはやめ・・・ま、いっか。」 兵士は無言のまま地面へと潰れた。後藤はその強さに惚れ惚れしたという。 後藤はやはりまだ未熟であった。だが光るものを感じた市井は、教育係として 責任を持って育てた。ある時は夜通し剣の特訓をしたり、ある時は真夜中の山に放置して 自力で帰らせてみたり。幾分酷な試練も市井は与えたが、後藤も市井を信頼していたので、 大した問題にはならなかった。
470 :
0 :04/04/14 00:05 ID:bO2C8lPs
「すごいなぁ、いちーちゃんは強くて。」 ある時、戦いが終わり、兵士の死体の見えない丘の上まで登って、二人でなんとなく 時をもてあましていた時の後藤の一言だ。 市井はそれを聞くと、語りだす。 「ごとー、強いってのは、どういうことだと思う?」 「え?何いきなり・・・。」 後藤はふにゃっと笑うと、少し悩み、 「やっぱ強い奴を倒せる、いちーちゃんみたいな人じゃないかな。」 「そいつぁ違うな。」 「え?」 あっさり否定されて後藤は驚いた。市井の目が真剣そのものだったので、 後藤は反論することなく続きを聞いていた。 「いいかごとー、自分より弱い奴を助ける事が出来て初めて、強いと言えるんだ。 だからあたしなんかまだまだ。でもこれだけは言える。 国みたいに、権力だけ振りかざして国民のために何も出来ないのは、 強さなんかじゃない。だからごとー、強くなろう。 皆を守ってあげられるくらいに、な。」 市井は遠くの空を見上げるように視線を移す。 真っ青な空は、まるで強さを純粋に求める市井の、心の透明さを表しているかのように、 後藤には思えた。
471 :
0 :04/04/14 00:06 ID:bO2C8lPs
「飯飯飯〜!!」 矢口が大声を上げて中澤家食堂に飛び込む。並べられた料理を見るが否や、 眼にも留まらぬ速さでエビフライをがぶり。しかしその瞬間矢口は全身に 微量の電気を感じた。 「ひっ!!!」 びっくりしてその場に硬直する矢口。後藤が放ったものだった。 「だめだよやぐっつぁん。これは皆で食べるんだから。」 後藤は料理を食堂に並べると、また台所へと歩いてゆく。 この日は作戦会議を兼ねて中澤の家で全員食事をする事になっていた。 新しく4人、革命軍に入ったばかりのため、親睦を深める意味合いもある。 しばらく楽しい食事の後、中澤がいつものように話す。 「明日、未納税の徴収に兵士が大量に町へと降りてくる。兵を一気に減らす チャンスや。ノルマ、一人10人や。」 両手の指を広げる。全員の表情が真剣なものへと変わり、詳しい説明へと 移った。 「市井後藤はC5地点配置。」 『はい!』 当時エース格と言える市井と、まだまだ発展途上で荒削りながら、力を内に秘めている 後藤のコンビはゴールデンコンビと称されていた。 「二人はノルマ上げてもいいんじゃないべかな〜?」 安倍がニコニコと二人を見ると、二人も笑顔で応えた。
472 :
0 :04/04/14 00:08 ID:bO2C8lPs
次の日、二人は順調に敵を料理していった。来る兵来る兵切り裂き、 ノルマなんてものはとっくに達成。二人で競うように戦っていた。 後藤は一種の興奮状態に陥っていた。自分の力が過信ではなく確信に変わった今、 負ける気がまるでしない。とにかく目の前の敵を倒し続け、それでも足りないとばかりに 敵を求めかなり前進していた。 「ごとー!出過ぎだ!!」 市井の声も届かない。後藤はどんどん進んでゆく。 前線の方まで来ても、後藤の強さは光った。まるで歯が立たないと分かった敵は、 なんと4人がかりで後藤に襲い掛かった。一振りで全て斬る後藤。 しかし次の瞬間、 「んぁ?!」 後藤は身動きが取れなくなっていることに気がついた。斬り終わった瞬間、 後藤に生まれた一瞬の隙を衝かれ、後ろから取り押さえられてしまった。 「ちょっ、離してよ!!!」 いくら後藤といえど男の力には勝てない。いや、本来なら勝てただろうが、 ここまでで体力も魔力も、知らず知らずのうちに消耗してしまっていた。 魔法も出ない。暴れていると、目の前に兵士が一人、現れた。剣を構えている。 剣を横に構え、兵士はそのまま突っ込んでいた。 こ、こいつ、仲間ごと刺そうとしている?! 後藤は精一杯もがいた。しかし兵士も懸命にしがみつき、絶対に離れない。 剣は少しずつ、少しずつ後藤に近づいてゆく。 もう、避ける時間はない。
473 :
0 :04/04/14 00:09 ID:bO2C8lPs
ザクッ!!!! 「!!!」 後藤は信じられない光景を目の当たりにした。 市井が間に割って入り、身を挺して剣の犠牲となったのだ。市井は胸から 流れる大量の血に気がつくと、そのまま倒れた。 「・・・あ・・・あ・・・・・・・・・・。」 兵士は構え直している。後藤はまだ体を掴まれていた。 「いち・・・いち・・・・い・・・・ちゃ・・・。」 兵士は容赦なく、後藤の胸めがけて剣を進める。しかしその時、後藤の中の 眠れる獅子が吠えた。 「いちーちゃん!!!!」 体を取り押さえる兵士の腕を引きちぎると、体を引き寄せ、突っ込んでくる兵士の 剣先めがけて投げた。数秒後、兵士は見事に串刺しとなった。後藤はそのまま剣に光を集め、 市井の体を貫いた罪深き兵士に、一撃、放った。 『バカやろう!!!!』 兵士は左右に完全に体が分担され、光のオーラはそのまま八方向へと伸びてゆき、 周りの兵士、全てが餌食となった。
474 :
0 :04/04/14 00:10 ID:bO2C8lPs
「はぁっ・・・・はぁっ・・。!!いちーちゃん!!」 後藤は思いだしたように市井の下に駆け寄る。市井は倒れたまま動かない。 目も見えないらしく、声の聞こえる方に体を傾かせるものの焦点は定まっていない。 「ご・・とぉ・・・。」 「いちーちゃん!!」 後藤は思い切り泣きじゃくった。止め処なく溢れ出す涙は、市井の頬を少しぬらすと、 市井は頬を少し緩ませた。 「少しは・・・強くなれた、かな?・・・」 「何言ってんの!!いちーちゃんは・・・強いよ!!! ごとーを守ってくれて・・・だから!しっかりしてよ!!!」 市井は『強いよ』まで聞くと、静かに目を閉じた。 その表情は不思議と安らかで、それが後藤の涙腺を余計に刺激した。 市井の真っ赤な体にしがみつき、必死にゆする。 声を上げ、名前を呼び続ける。 後藤のその一連の行動は、夜まで繰り返された。
475 :
0 :04/04/14 00:12 ID:bO2C8lPs
静かな部屋の中、全員何も言わず、ただ椅子に座ってそれぞれがそれぞれ、 どこか見ている。誰も何も言い出さない。ただ後藤だけは、ずっと嘆き続けていた。 「ごとーのせいだ・・・。ごとーが弱いから・・・。 ごとーがもっと強ければ、いちーちゃんは・・・。」 誰も後藤を責めたりはしない。そればかりか、誰も後藤の方を見たりもしなかった。 後藤は立ち上がると、机に両手を置く。 「なんで責めないの?」 誰も何も言わない。一人一人に視線を移すが、誰一人として後藤と目の合う人はいなかった。 「責めるなら責めてよ!!その方がまだ楽だよ!!!」 机を思い切り叩く。 後藤はとうとう堪えきれずに涙を流してしまった。そんな後藤を見て、 飯田がすっと、立ち上がった。 「じゃあ言うよ。」 後藤の前に立つと、目をしっかりと見て、飯田は言った。 「いつまでも自分を責めてないで、紗耶香の言った通り、強くなれるように努力しろ! それが、紗耶香の、ためじゃ、ないかな・・・・。」 後藤はここでやっと気がついた。飯田が涙ぐんでいた事を。 飯田だけではない。みんな、泣いている・・・。 全員抑え切れなくなってしまった感情を、その場で必死に尚も抑えようとしている。 そうだ・・・つらいのは自分だけじゃないんだ。強くならなきゃ、ううん、なるんだ。 それがいちーちゃんが目指していた事、いちーちゃんが望んでいた事・・・。 「まだまだ甘い。敵はどこにいるか分からないんだから、五感をフルに活かさないと、生き残れないよ。」市井の台詞は受け継がれてゆく。完全にエースとなった、後藤によって。今、この言葉は、あの娘の胸に、確実に刻まれている。 0「エース」完 To be continued
476 :
えっと :04/04/14 00:14 ID:bO2C8lPs
最後改行しくじった(泣) 更新終了です。
477 :
ねぇ、名乗って :04/04/14 20:30 ID:upkl7qBh
更新されてる〜!!! お疲れ様です。いつも楽しく読ませてもらってます。がんばってくださいね。
478 :
えっと :04/04/14 23:10 ID:bO2C8lPs
>>477 ありがとうございます。
もし名前の横のE-mailの欄に「sage」と入れていただけると
ありがたいです。
出来るだけ速く更新できるように努力しますので。
479 :
えっと :04/04/16 22:17 ID:jH/5llz8
更新します。また2話(1.5話)
480 :
8話 :04/04/16 22:20 ID:jH/5llz8
8.「悪魔の微笑」 「・・・う・・・ん・・・・。」 声が聞こえると、紺野はすぐに沈めていた顔を上げた。松浦は目をうっすら と開けて、でもまだ起き上がれない。陥没した脇腹は『HIGHPRIESTESS』で 修復したものの、やはりダメージは大きいようだ。 「松浦さん、よかった・・・。」 紺野は松浦の手を握ると、ホッとした表情で微笑んだ。しかし松浦は状況を あまりよく飲み込めていない。 「えっと、こんちゃん、ここは・・・どこ?あたし・・・痛!」 傷の痛みと同時に、松浦の表情が苦痛以外の理由でもう一度歪む。 全て思い出してしまった。 Gacktとの敗北について。 一撃。 たった一撃叩き込まれただけでKO。圧倒的な力の差。 松浦は悔しくて仕方がなかった。拳を強く握ると、自然と目から涙も流れ出た。 「・・・・・・あれ?後藤さんは?」 松浦にとってみてすれば普通の質問だった。意識を失ってからの戦況を何も 知らないのだから。紺野はそれを充分に分かっていた。 分かっていたが・・・。 紺野の返事は、その目から落ちる涙だった。 「どうしたの?!」 松浦は慌てて起き上がると、痛!と脇腹に手をやった。
481 :
8話 :04/04/16 22:21 ID:jH/5llz8
自分が瀕死状態に陥ってから今まで、何が起こっていたのかを聞くと、 松浦は表情を渋くして、でも言った。 「後藤さんなら大丈夫だよ!強いから!・・・強いから・・・。 ・・・エースだもん。」 段々と声のトーンが落ちてゆく松浦。身をもって強さを体験しただけに、 強がり以外に何者でもなかった。しかし後藤を信じていないわけでもない。 あの強さは本物だ。後藤ならきっと、Gacktを倒してくれるはず。きっと 『HERMIT』で隠れていたから見えなかっただけで、もう通過しているはず。 今はそう信じるほかなかった。 「はず」尽くしでいやになるが。 「そうですよね!じゃあ、あたし達もそろそろ行きましょう。どうにかして 安倍さんの班と合流しましょう。」 紺野は立ち上がると、両手をギュッと握り締めた。 松浦もそれに追う様に立ち上がる。 「痛いなんて言ってられないよ。行こう!」
482 :
8話 :04/04/16 22:23 ID:jH/5llz8
「さっきと大分雰囲気違うね。」 松浦は城内の雰囲気を見てそうコメントした。普通の城なのに、Gacktの 趣味で造られていたらちょっとっていうかかなり退く。 「残念です。」 紺野は寂しそうな表情で相槌を打つ。やっぱり頭、大丈夫? 松浦がそんな事を思っているなんて知らずに、紺野は辺りを見回していた。 はっきり言って二人ともきょろきょろし過ぎで少し挙動不審だ。 生まれて初めて城に入ったことで、それなりにテンションが上がってるのかもしれない。 「それにしても広いよね〜。」 当たり前の一言なのに、紺野は思わず納得してしまった。 広い。 その一言に尽きる。東西南北の門の位置から半端ない広さを予測していたが、 予測値を遥かに上回る土地面積に度肝を抜かれた。 「一坪いくらですかね〜?」 またまた場違いな発言をしてしまう紺野。それを聞いた松浦は、少し呆れて、 「そんな事言ってる場合じゃないよ。」 「そうでしたね。」 「で、どうする?」 「どうしましょう。」 「どうしましょうじゃないよ!迷ったんだから!」
483 :
8話 :04/04/16 22:25 ID:jH/5llz8
そう、二人は見事に迷子。 小川、石川と同じように、迷子。 中澤の地図を全員ちゃんとメモしなかったのが災いした。もう全然どこに いるのか見当もつかない。でもとりあえずどんなに変な方向へ歩いても 東門方向にしか行かないだろうから、さほど問題ではない。 それはそれで安倍班と合流できるチャンスだ。今この二人だと物理攻撃が 少し、弱い。紺野の武道だけで太刀打ちできるほど、鬼神は甘いものじゃないのだ。 安倍、藤本、辻と見事なまでに物理攻撃に長けたメンバーがいる班と合流出来たとしたら、 かなり事を楽に進める事が出来るだろう。 「安倍さん達との合流に都合がいいかもしれませんね。」 「安倍さんの班って、誰がいたっけ?」 「えっと、のんつぁん、真琴、ミキちゃんでしたね確か。」 最後の一人の名前を聞くと松浦の目の色が変わった。 「行こう!!」 分かり易い人だなぁ、なんて思われていることも知らず、松浦はいきなり 謎のやる気を出して前へと歩き出した。何を根拠にそっち? 紺野はとりあえず着いて行く。なんとか横まで追いつくと、並走。 その時だった。
484 :
8話 :04/04/16 22:27 ID:jH/5llz8
「あれ?」 角を曲がった所で突然二人は妙なオーラを浴びた気がした。 よく見ると壁から発せられたものだった。松浦はフリを少し、踊ると、 『ズバッと!!』 シーン。 「あれ?」 松浦は自分の手を見て不思議そうに呟く。 どういう事だ?松浦さんの魔法が、出ない。魔法が・・・・ あ!ここで紺野はピンと来た。 「これトラップですよ!魔封じ!!」 魔封じとはその名の通り、魔導師の魔法を全く使えなくしてしまうトラップだ。 しかしこれは確か賢者しか使えなかったような・・・。 「賢者までいるの?!」 松浦はやばいと直感し、すぐに体を方向転換、しようとしたら、 「!!」 突然足元がやわらかくなる。すぐに足が沈んだ。気持ちの悪い感触に、足が 飲み込まれてゆく。なんと地面は沼と化していた。少しずつ、ほんの少しずつ 地面へと足が下がってゆく。 「二重トラップか・・・・。」 松浦と紺野は二人で頭を抱えて唸った。こんなに簡単にひっかかるなんて。 バカみたいだ。 それはそうと、どうやって抜けよう。 紺野は冷静に今時分絶ちの状況を分析し始めた。
485 :
8話 :04/04/16 22:27 ID:jH/5llz8
1.松浦さんの魔法を使って吹き飛ばす ×魔封じ 2・あたしのタロットで抜けだす ×魔封じ 3.あたしの拳で切り開く ×沼 じゃあどうしろと?他にここから抜け出す方法特に思いつかない。 4.ヒーロー参上! いやいやそれは都合のいい話。紺野はまた頭を抱えた。 そんな時、頭を抱える二人の前に、一人の少女が現れた。 二人は少女の顔を見た途端、表情を若干ゆがめた。
486 :
8話 :04/04/16 22:29 ID:jH/5llz8
「里沙ちゃん!」 紺野は声を上げた。新垣はそんな紺野に軽く会釈。 「久しぶり。んで、さよなら。」 新垣は、言わずと知れた寝返りっ娘。ある日突然手の平を返したかのように 革命軍を抜け、国営軍へ。給料が良かったからだとかなんだか聞いた事があるが、 これでスパイの話がなんとなく理解できた気が、松浦だけした。 全部こいつがやった事なら・・・。 若干の希望も混じっていたが、無理な推理というわけでもなかった。 でも・・・・。松浦は少しずつ沈んでゆく中、疑問をぶつける。 「誰?トラップし掛けたの。お豆はこんなの作れないはずだけど。」 新垣はそんな質問されてもフッと1回だけ笑う以外は、リアクションを 特にとらない。ちょっとした間の後、すました顔で答えた。 「“松浦”は知らなくてもいいことだよ?」 松浦は少しカチンと来た。紺野にもそれはよく分かった。その場にいたら 誰でも分かるくらい、分かり易い顔を松浦はしていたのだ。 「そう、じゃあ、言いたくなるようにしてあげる。」 挑戦的な松浦の一言に、新垣は はぁっ?と一言わざとムカつく言い方で松浦に目を合わせると、 「マジすか〜?この状況、分かってないんじゃないの?」
487 :
8話 :04/04/16 22:32 ID:jH/5llz8
バシバシッ!!! 「!!」 松浦は突然往復ビンタをされた事にすごく驚いた。叩かれた後、頬を左手で 摩る。 「放っておいても死ぬから、せいぜいそれまでいじめてあげる。」 今度は足が出た。松浦はそのまま脇腹に蹴りを受けてしまう。 幸い反対側だったからよかったものの、少し響いたらしい。松浦の表情が 再び曇る。 「ここで!あたしが!あんたらを!倒したら!鬼神に!入れて!くれる! んだって!」 蹴りのラッシュ。 少しずつだがじわじわと松浦を痛めつけていた。身体的によりも、精神的に。 紺野は二人の状況を傍観しながら、やばいな・・・。と一人頭をかいた。 里沙ちゃん、何も分かってないよ? 里沙ちゃんに鬼神になれる力なんてないし、絶対騙されてるって。 だから、今ならまだ間に合うから、革命軍に戻ってこよう? 口には出さなかったが、紺野は訴えかけるような目で、蹴りを続ける新垣を見ていた。 少しして松浦へと視線を移し、顔の表情を見る。 ・・・・やっぱりやばいな・・・。 そう思っていると松浦は口を開ける。
488 :
8話 :04/04/16 22:33 ID:jH/5llz8
「分かってないのはそっちの方。」 「は?」 相変わらず相手にしない新垣。おそらく新垣にはこの台詞は苦し紛れの 捨て台詞にしか聞こえていない。しかし松浦の次の一言で、彼女は顔を こわばらせる事になる。 「忘れないでほしいなぁ、あたしはそこら辺の魔法使いとはレベルが違うから。 この魔方陣が対応してる、いわゆる『fifth elements』以外の。 光と闇の魔法、どっちがいいかな?」 新垣の体はすぐに震えだした。顔からは完全に血の気がひいている。 逃げ出す前に、松浦は唱えた。 「じゃあね、バイバイ。『涙色』」 新垣の周りの地面が、新垣中心に半径5メートルほどの闇の円を描く。 円はすぐに黒い沼と化し、黒い手が大量に湧き上がってくる。何十本も。 手は新垣の足を力づくで掴み取る。 「あ゛あ゛!!!」 新垣は少しずつ、ずるすると引っ張り込まれてゆく。さっきと形勢が完全に 逆転した。表情から覇気が全く感じられなくなった新垣に、 松浦が最期通告をした。
489 :
8話 :04/04/16 22:34 ID:jH/5llz8
「もう一度聞くけど、トラップ張った人は誰?言う気になったかな?」 「あ゛!あ゛!言う!言うよ!!」 しかし黒い手は新垣の肩まで掴むと、 一気に永遠の闇へと引きずり込んでゆく。絶叫が、城内を響き、声の主は 暗黒へ。松浦はケロッとした表情で笑った。 「敬語、使わないとね♪それとちょっと遅かったかな?」 強い・・・。 やはり松浦は強かった。松浦は今度は光魔法を魔封じの描かれている壁まで 放つと、壁は一瞬にしてピンポイントで消え、消滅した。 そして沼を消し去り、 「先行こうよ。」 何事もなかったかのような顔で微笑んだ。 「はい。」 この人絶対的に回したくないタイプだ・・・。 紺野は少しだけびくびくしながら、先を行く松浦にくっついていった。
490 :
8.5話 :04/04/16 22:36 ID:jH/5llz8
8.5「meditate」 城内の一室。決して鬼神以外は入る事が出来ない、『回復室』の中に、 Gacktはいた。巨大な水槽のようなものの中に、特殊な液体が一杯に 注がれている。Gacktは生まれたままの姿で、口に酸素マスクをつけた状態で、 ただただ回復の時を待っている。 傷は、予想以上に深かった。まさか後藤がこれだけのダメージを与える力を 秘めているとは、全く想像していなかったせいか、傷は妙に痛む。 本気を出さなければならなかった事に、Gacktは己を恥じた。 たかだか18だかそこらの小娘に対して、手を抜けなかったのだから、 鬼神のプライドを傷つける要素としては充分だ。 そしてもう一つ、Gacktは気になっていることがあった。
491 :
8.5話 :04/04/16 22:37 ID:jH/5llz8
「今の、ごとー達の、な.で、ごとー以外.、.んたとまともに、 ・・・戦う力、ある.は、もう、よ...と、....しか、いな.・・・。」
492 :
8.5話 :04/04/16 22:38 ID:jH/5llz8
小さな声だったが、自分にははっきりと聞き取れた。一人目はまだしも、 二人目に挙がった名前は、Gacktにとってはかなり意外な人物といえる。 スパイから全員の能力等の情報は貰っている。だから全員がどの程度の レベルにいるかも把握しているつもりだった。 後藤は予想以上の強さであったにせよ、強いという事は情報として入っている。 松浦があっけなさ過ぎて意外だったが、残りでスパイから強いと聞いていたのは、 4人くらい。その中にその名前は入っていなかった。 どう見てもあいつが強いとは思えない。 Gacktは悩んだ。 ただの苦し紛れのはったりか、それとも・・・。 まあ、どちらにせよ、大きな問題ではない。 例えそいつが後藤より強くても、何の問題にもならないのだ。 何の問題にも・・・。
493 :
8.5話 :04/04/16 22:39 ID:jH/5llz8
「Gackt・・・。」 名前を呼ばれて目を開く。ガラス越しに現れた人影は、彼の親友。 「hyde・・・。油断していると、痛い目にあうみたいだよ。」 間もなく戦うであろう友に、革命軍の感想を告げる。Hydeはフッと笑うと、 小さな体を軽く伸ばす。 「油断も慢心も、ないよ。ただ全力で、計画通り進めるだけ。」 その目を見るとGacktは安心したように頬にしわを作る。 「そうだね。もうあれは方は済んだのか?」 「うん、とっくに。」 hydeは人差し指で首を切る様な仕草を見せ、舌を出す。 そしてもう一度笑った。 To be continued...
494 :
えっと :04/04/16 22:40 ID:jH/5llz8
更新終了です。
更新されてる〜。 続きメッチャ気になります。
おもしろいっ!! それにしても松浦つよいな〜。
497 :
えっと :04/04/21 00:04 ID:TTQpsKU6
>>495 レスありがとうございます。
期待されているような面白い物をかけていたらと思います。
>>496 レスありがとうございます。
もしかしたら少しだけ強く描写しすぎたかもしれません。
こんなに強いのにGacktには秒殺されているし、なんかいい加減だ・・・。
更新します。
ここからまた人が死んだりします。それと同時に一つの謎が解決
したりも。
498 :
9話 :04/04/21 00:06 ID:TTQpsKU6
9「すれ違い」 「ん・・・・・・。」 加護が目を開けると、目の前に倒れている石橋と中居が眼に入り、少しだけ 吐き気がした。どうやら死んでいるようだ。加護はすぐに視線を別の方向へと移す。 すると、保田が高橋を問いつめている光景が、加護の眼に入る。 加護はまだ意識がはっきりしていない。しかし保田が高橋の方に掴み掛かった所で、 加護は自分が意識を失う直前の出来事を思い出した。 「(スパイはおばちゃんやったんや!)」 加護はそう直感すると、ダガーをすぐに両手に持ち、立ち上がった。 少々足元がふらつくが、そんな事は言ってられない。高橋が危ない! 「愛ちゃん危ない!」 二人は声が聞こえるとすぐに振り向いた。その表情からは戸惑いが見える。 加護は構わずダガーを保田の体へと突き刺す。 「!!」 高橋はすごくびっくりした目で、保田と加護を交互に見る。 「か・・・、な・・ん・・で・・・。」 保田はそう言い残すと、力なく地面に倒れる。少しだけ痙攣を繰り返すと、 保田は絶命した。 「大丈夫か?まさかおばちゃんがスパイやったとはなぁ・・・。」 加護のそんな言葉に対して、高橋は未だぶるぶると体を震わせている。 「かーちゃん、ちゃう、ちゃうねん・・・。」 高橋は涙を流すと、必死に声を絞り出した。 「スパイはあたしや・・・。」
499 :
9話 :04/04/21 00:07 ID:TTQpsKU6
「スパイはあたしや・・・。」 その言葉は加護に、頭に隕石が降って来たかのような衝撃を与えた。 加護はすぐにはその意味を理解する事が出来ず、え?とだけ何度も何度も ただ繰り返した。加護はやがて自らの震えに気がつく。 「保田さんは、あたしをスパイと見抜いて・・・泳がせるために、わざと、 あたしだけ軽く気絶させて・・・・、あたしが、つんくに報告に行っている 間に・・・・。」 もう声にならなくなってしまった高橋は、ただただ子供のように泣きじゃくる。 加護も目の前がくもって何も見えなくなっていた。
500 :
9話 :04/04/21 00:08 ID:TTQpsKU6
・・・・・・・。
501 :
9話 :04/04/21 00:09 ID:TTQpsKU6
「何?寝返り?でも保田の入る枠はないなぁ。」 「ですよねぇ。」 「違う。ちょっと事情が変わったのよ。だからあたし一人で倒す事にしたの。」 もう敬語を使う気はサラサラない。保田は大剣を持ち、改めて構え直した。 そんな保田を見ても、石橋は余裕の表情。 「無理無理。だって保田魔法使えないじゃん。肉弾で二人を相手するなんて 出来っこないもん。」 石橋が言っていることは尤もだった。確かに、よりによって大剣の保田が、 なんでも実体化させてしまう石橋と魔声を操る中居を相手するのは、 戦いの素人から見ても無謀だと一目で分かる構図。それでも保田は、 「そうよ?」 そう呟くと、保田は二人の視界から完全に消えてしまった。 「「あれ?」」 きょろきょろと辺りを見回す二人。 「遅い。」 保田は既に石橋の後ろ。石橋はかわす暇がない。大剣が石橋の背中を切裂く。 「痛!!!」 石橋はすぐにバットを取り出し、保田へとフルスイング。しかし保田は剣で それを受け止めると、今度は流れるような連続攻撃。 バットで何とか受け止めてゆく石橋。その攻防は暫く続いた。
502 :
9話 :04/04/21 00:11 ID:TTQpsKU6
「起きろ。」 高橋は肩を叩かれて目を覚ました。叩いたのは中居。 中居はまだ意識のはっきりしない高橋に、伝令を申し付けた。 「つんく王に報告だ。革命軍の進撃状況について。早く行け!」 保田はその二人のやり取りを見逃さない。しかし敢えて見てみぬふりをした。 保田の考えた計画では、ここで高橋が戻ってくるまでの間に二人とも倒し、 帰って来た高橋に尋問する、というもの。そのためにも、すぐに二人とも 倒さなくてはならない。 とりあえず、中居が高橋と話している間に・・・。 「貴さん、そろそろ終わりにしよう。」 保田はそう言うと自らの体内から大剣へ、気を流す。剣は気の力でまばゆい輝きを発し、 石橋には大剣が更に大きくなったように錯覚した。 『Baby!Knock out!!-type sword-』 吉澤のとは異なる、大剣ヴァージョンの『Baby!Knock out!!』 他にも後藤ヴァージョンも存在する。 剣の大きさからは考えられない連続攻撃が、石橋の全身を掻き毟ってゆく。 鼻にかかった独特の声が悲痛に響き続ける。
503 :
9話 :04/04/21 00:12 ID:TTQpsKU6
「やべぇじゃんやべぇじゃん!!」 石橋の瀕死に気がつくと、中居はマイクを握り締める力を一層強めた。 倒れている石橋へ、救いの手を。 一発逆転! 中居は思い切り声を張り上げた。 『あ゛〜あ〜〜〜〜〜果゛でじな゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!!』 その声と共に、石橋の時が止まった。 「えぇぇぇぇ〜〜?!」 だみ声が、驚きのあまりいつもより3割増に汚い。何故か保田には全く効果がなく、 石橋はフェータルな打撃を受け死亡。 理解できなかった。保田はそんな中居を見て、自分の耳の穴に、 指を指してみせる。 「!!」 石橋の耳に、ついさっきまで入っていたはずの耳栓が、保田の耳に装着されていた。 そう、魔声は聞こえなければ、なんの衝撃もダメージも受ける事がないのだ。 「ふふっ。」 保田は軽く笑い、ウィンクをすると再び大剣を構える。
504 :
9話 :04/04/21 00:14 ID:TTQpsKU6
「ぐは!!!」 しかし中居には、そのウィンクだけでも充分強力な攻撃だった。 一瞬にして逝去。 「なんでよ!!!失礼しちゃうわ!」 保田はくるっと体を180度回転させると、言った。 「高橋、どこ行ってたのかな?」 ビクッ! と寝ている高橋の体が、一瞬震える。保田は大剣を地面に突き刺すと、 高橋の傍まで歩いた。 「ほら!」 無理やり起こされた高橋は、保田から完全に目をそらし、冷たい目をしている。 「質問には答えるのが礼儀ってものよ。」 高橋は何も言わず、保田の顔を全く見る気配もない。 保田は高橋の両肩に手を乗せ、掴んだ。
505 :
9話 :04/04/21 00:16 ID:TTQpsKU6
「スパイでしょ?」 高橋は顔を相変わらず背けた状態で、罰の悪そうな顔をしている。 「事情説明してよ、あたし達、仲間じゃない!」 その時だった。 「愛ちゃん危ない!」 加護がダガーをもって、保田に突っ込んできた。 え? 訳が分からないうちに、保田は体に鋭い痛みを感じた。 ・・・熱い・・・。 「か・・・、な・・ん・・で・・・。」 それしか言えなかった。保田は倒れると、事態をなんとか飲み込む。そうか、 あたしがスパイだと勘違いして・・・。 まずったな、こりゃ裕ちゃんに叱られちゃうや。 ・・・・?体が、小刻みに震えてる。なんか心地よい揺れだな、眠くなってきた。 矢口、あとは、任せたよ・・・。保田の時は途切れた。
506 :
9話 :04/04/21 00:18 ID:TTQpsKU6
「・・・圭ちゃん?」 矢口は保田の声が聞こえた気がして、目が覚めた。なんとか小さな体を 起こすと、横では信じられない光景。 保田が・・・死んでいる。 「・・・・なんで・・・。」 横にいる二人を見る。加護のダガーについた血を見た矢口は、すぐに今何が 起こったのかを理解した。頭に血が登ってくる。矢口は体を制御できなくなった。 「加護お前!!」 矢口は加護の方へと突っ込んだが、至近距離まで近づいた所で、攻撃が出来なくなった。 泣いている・・・二人共。 矢口は地面に着地すると、震えを抑えきれなくなった右手で、目から流れる涙を拭った。 「蘇生・・・・。」 なんとか涙をグッと堪えると、矢口は呟いた。無駄だと分かっていても、 聞いてしまった。 「・・・え?」 「蘇生早く!!!」 聞き返されて思わず語調を強めてしまう矢口。こうでもしないと涙が すぐにでも流れてしまう。 「無理です・・・・蘇生の効果があるのは・・・。」 高橋の言葉をさえぎるように、矢口は叫ぶ。 「うるさい!とにかくやれ!!」 「瀕死まで・・・・。」 「いいから!!!!」
507 :
9話 :04/04/21 00:19 ID:TTQpsKU6
3人とも、泣いていた。ただただ保田の死体の前で、静かに涙を流す。 落ち着くのにはしばらく時間が必要だった。ようやく落ち着いた頃、 「でも高橋、なんでスパイなんてしたの?」 もうスパイだということを明かしてしまった高橋に、隠す理由はない。 そう読んだ矢口は思い切って聞いてみた。高橋はそれでも少し答えにくそうに、 「・・・・・里沙ちゃんに脅されました。」 「お豆?」 意外な名前が出てきたことに、二人は驚いた。 でもよくよく考えれば、自然な流れなのかもしれない。 元々金だかで寝返った新垣。なら出世して更なる給料アップを望みたい。 そこで前いた革命軍の一人を脅迫する事で情報を右から左へ流し、 手柄を立ててゆく・・・。 ずる賢くも確実な方法だった。 「裏切ったあと、いきなりひょっこりと目の前に現れたと思ったら、 昔の事持ち出されて、脅されて・・・。それで今日突入する事 教えちゃったりして・・・。」 すごく申し訳なさそうな顔をする高橋。二人はそんな高橋を責めるような事は しなかった。 いや、出来なかった。
508 :
9話 :04/04/21 00:21 ID:TTQpsKU6
『お〜い皆、新垣撃破!それと・・・後藤と保田の死亡が確認された・・・。』 中澤の声が聞こえてきた。3人は声が聞こえると、全身に強い衝撃を覚えた。 そんな・・・。 「もし、もう少しだけ・・・。」 加護が呟く。 「言うな!!!」 矢口が止めに入る。しかし加護はそのまま全部言ってしまった。 「ガキさんの撃破の連絡が、早く入ってたら・・・。」 この一言がとどめだった。3人の涙腺は耐えることを忘れ、何故こんなにと 思ってしまうほどの涙が目から溢れ出る。 もし、あそこでああしていたら。こんな言葉は戦場において、いかに 無意味であるか、3人ともよく知っていた。生きるか死ぬかの戦いに、 そんなくだらない言葉は意味を成さない。充分過ぎるほどそれを理解したうえで、 それでも、そう思わざるをえなかった。 3人は涙が枯れ果てた後、ゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと歩を進めた。 胸を指で十字に切り、祈りを捧げながら。 To be continued...
509 :
えっと :04/04/21 00:22 ID:TTQpsKU6
更新終了です。なんてーか、最近1話1話が短くてすみません。 次の話もグロい部分を含んだりするのでご注意を。(グロくなる描写力ないかも)
やっぱりおもしろいっす。最初一人遅れて家に帰ってきた高橋を疑い、台6話で、てっきりおばちゃんだと思い疑わなかったのに・・・。 見事に裏をかかれました。
なんかドンドンおもしろくなっていくなぁ
おばしゃん可愛そうなのれす。 でも勘違いしておばしゃん殺してしまったアイボンはもっとかわいそうなのれす。 でもこの小節面白いのれす。
513 :
えっと :04/04/26 23:35 ID:vs0Yh38J
>>510 レスありがとうございます。
スパイは色々神経使いました。最初遅れさせることで流石に妖しすぎるから
ないだろうと思わせたかったのですが・・・まだまだ未熟者です。
>>511 レスありがとうございます。
序盤と話の種類が違いすぎるような気もしますが、そう言って頂けると
嬉しい限りです。これからもドンドン面白く出来たらなと思います。
>>512 レスありがとうございます。
今回は君が・・・・可哀想になってしまいます。これ以上はネタバレなので
控えます。
更新します。
514 :
10話 :04/04/26 23:36 ID:vs0Yh38J
10.「Sacrifice」 安倍班は、4班中最も順調に進撃を繰り広げている、といえるだろう。 飯田班のように一人トイレから帰ってこなかったり、後藤班、矢口班の ような状況には、今の所逢っていない。鬼神との対決においても、一番の 当たりくじを引いた形。そのため4人は余裕を持った表情をして歩いていた。 そう、ついさっき矢口班が見せていたような、あの表情をして。 「お〜ついた〜。」 藤本は声を上げた。王の間の外周にたどり着いたのだ。あとは階段を探し、 登れば王の間はすぐそこ。 「遂に来たのれす。」 無言で頷く小川。そろそろ笑っているばかりではいられない。緊張感を 持っていかなければ。しかしそんな小川の気持ちなぞ、辻は気づかない。 「休憩するのれす。まこっちゃん、ケーキ!ケーキ!」 「じゃあちょっと休憩入れるべ。まこっちゃん、コック召喚!」 「そうですね、まこっちゃん、お願い。」 「・・・・・・。」 気分をぶち壊されつつも、仕事はきちんとこなす小川だった。
515 :
10話 :04/04/26 23:38 ID:vs0Yh38J
「おお、すごい包丁さばき。」 安倍が妙な事に感心する。コック召喚獣が次々と料理を仕上げる中、4人は 地面にシートを敷いて座っていた。 「お弁当作ってきたのれす。」 辻はどこからかバスケットを取り出した。中からは溢れんばかりのサンドイッチ。 「・・・・・何しに来てんだよ!!!」 流石に藤本もツッコミを入れたが、既に辻は3個平らげた後。しかも無言で サンドイッチを差し出してくる。 「・・・・・・。」 藤本は無言のまま受け取ると、勢いよくがっつく。もうやけだ。 辻と安倍はなんだかすごくまったりした感じだが、藤本と小川はどうも そんな気分にはなれなかった。2人も仲間が死んでいるのに、この和やかな 雰囲気はいかがなものか。 藤本は、ここまで順調に来すぎていることに問題があるのではないかと 推測している。 思えば鬼神中、ノリダーは最も安全牌。もしGacktかhydeに当たっていたら、 後藤のように、ひとたまりもなかっただろう。中居、石橋でさえ苦戦を 強いられた可能性は充分にありうる。 とりあえず、このまま誰とも当たらずに王の間にいけるのが理想だが・・・。 Hydeの姿が未だ見えないのが、不気味な感じがした。
516 :
10話 :04/04/26 23:39 ID:vs0Yh38J
安倍ももちろん分かっている。こんな風に和やかな空気でいていいはずが ないということを。辻もそれを充分分かっているのではないだろうか。 敢えて和やかに、敢えて明るく。 ただでさえ暗い報告が多すぎる。 後藤、保田の死。 嫌な報告が多いだけに、暗くなってしまうムードを、明るくさせようと いう、安倍なりの心遣いだった。 「ほらのの、そんな食べ過ぎてお腹痛くなっても知らないべよ!」 精一杯の笑顔は、果たして3人にはどう映っているのであろうか。
517 :
10話 :04/04/26 23:40 ID:vs0Yh38J
「どこが入り口なの・・・?」 小川は遂に愚痴った。さっきから王の間へと続く階段を探し、円状の通路を ぐるぐると回っているのだが、まるで流れるプールのようにいつも戻ってきてしまう。 「魔法がかかってる、ってのが有力か。」 藤本は冷静に分析する。さっきから何週も何週をして、全く階段が見つからない という事は、何らかの方法で隠されている、と考えるのが妥当。 物理的に隠してあるとしたなら、少しばかりの跡が残っているだろうし、 何週も回っているのだから流石に少しは目がつく。全くそう言う点がないと いうことは、よほどうまい具合に通路に壁を作ったか、あるいは魔法で幻覚を 見せているか。 壁の確率は低かった。何故なら自分達が突撃日を決めたのは昨日で、今の 今までに壁を作る労力は無駄といえる。魔法の方が明らかに楽だ。 「解いちゃうね。」 藤本は、魔力を両手に込める。魔法剣士の、両方使いこなす事が出来る特権的部分を、 ここで活かさない手はない。 藤本は口にする、呪文の名を。 『銀色の永遠』 部屋中のモヤモヤした空気が、一気に晴れてゆくように、空間そのものの 空気が一変した。視界に階段はない。反対側にあるようだ。 「行こっか。」
518 :
10話 :04/04/26 23:41 ID:vs0Yh38J
あとは階段を上るだけと言うこともあってか、妙に4人は和やかな空気を 保っていた。階段を探すため、ゆっくりと歩いてゆく。 そんな中、一人だけ若干表情が浮かない。 安倍だった。 「あ、なっち最後尾着くから、のの、先頭お願いね?」 「はーい!」 変に思うよりも、先頭を任された喜びから辻は大きな声で返事をした。 藤本と小川も別に特にどうする訳でもなく普通に歩く。 先頭と最後尾は危険が隣り合わせ、2,3番目の二人は安心なのだ。 さっきより、強く感じる。 安倍は後ろにずっと気配を感じていた。そのため最後尾に回ったのだ。 なんだ?この、圧倒的な邪気は。安倍は考えた。あらゆる可能性を。 そして一番可能性が高い可能性は・・・出来れば一番避けたい可能性だった。 東西南北の4つも門が存在し、王の間への行き方がたくさんあるということは、 いわば「外部」の革命軍が、知識において「内部」の国営軍に、適うはずがない。 自分達の場所にノリタケを張ったのは満を持してではないだろう。革命軍中そこまで 協力とはいえないあのコンビを、駒として置いたのだから・・・。
519 :
10話 :04/04/26 23:42 ID:vs0Yh38J
安倍はその場で立ち止まった。3人はそのまま気づかず前へと進んでゆく。 ゆっくりとした足取りで、少しずつ小さくなってゆく3人を見て、 安倍は思い切って振り返った。 あのコンビをあの場所に置き、道が繋がっている北門に化学軍を置いたのだから、 答えは一つ。安倍の考えが正しければ、振り返れば、そこにいるのは ・・・hyde! やはりhydeはそこにいた。Hydeは少しだけ意外そうに首を傾げると、 静かにサングラスを外した。そして、口ずさむように呟いた。 「Good morning Mr. Fear.....。」 やばい!あの詠唱は!!! hydeの手には邪気がもう溜まっている。妨害して放てなくする時間はない。 槍を構える暇もない。しかもこの呪文は・・・・! 「皆!早く!!早く行って!!!」 安倍は前の3人へ、力いっぱい叫んだ。
520 :
10話 :04/04/26 23:44 ID:vs0Yh38J
「え?」 3人は突然後方から聞こえた安倍の叫び声に、訳も分からず振り返った。 一体どうしたというのだろう、そんな風に楽観的に振り返ったのは、 辻一人だったが。 「え?」 そこには誰の姿もなかった。安倍の姿でさえも。 「なちみ〜?」 辻の間の抜けた声が、狭い空間の天井を反射し響き渡る。返事は、 やはり返ってこなかった。3人はとりあえずキョロキョロと辺りを 見回してみたが、安倍の姿は、どこにもなかった。だんだん嫌な予感が 3人を襲い始める。しかし3人はその可能性を否定して安倍を探し回った。 「なちみ!!!」 「安倍さん!!」 「安倍さん!!」 必死にその名を叫ぶ。しかし声を出せば出すほど、その声はそっくりそのまま 跳ね返ってくる。帰ってきて欲しい声はどこからも聞こえてこなかった。 どんどん上がってゆく声のトーン。 震える体を抑えて、3人は走り回った。その狭い空間を。
521 :
10話 :04/04/26 23:45 ID:vs0Yh38J
「ねぇのの、戦いが終わったらさぁ。」
522 :
10話 :04/04/26 23:46 ID:vs0Yh38J
「なちみ!!!なちみ!!!」 ひたすらに声をあげ、外周を走り続ける辻。疲れ果てても尚走る事をやめない。 辻にとって、安倍はそれ程重要で、大きな存在だった。 「あ!!!」 何かに躓いて、辻は転んでしまった。しかし擦り傷の痛みなんてどうでもいい、 辻は立ち上がると、また走り始める。必死に、名前を叫び続ける。 「はぁっ・・・はぁっ・・・。」 呼吸がどんどん激しくなってゆく。動悸が自分でもよく聞こえるほどに、 激しく響く。やがて辻は、思いのみで動かし続けた体を止める。 もう走れない。 でも走らなきゃ。 でも足が動かない。 でも探さなきゃ。 でも苦しい。 でもなちみを・・・。 でもでもでも・・・・。
523 :
10話 :04/04/26 23:47 ID:vs0Yh38J
「何するか決めた?なっち、夢があるんだべ。」
524 :
10話 :04/04/26 23:48 ID:vs0Yh38J
「?」 なんとか呼吸を整えようと、必死に息を吸っては吐いていた辻は、不意に 天井から降ってきた、何かに目を奪われた。 振ってきたのは、白い花びらだった。花びらが、少しずつ、上から降ってきて、 地面一面を花びらで埋め尽くす。 それはまるで雪のようだった。 降り積もってゆく花びらは、やがて辻の肩にもかかる。 それは少し場違いな、幻想的な風景だった。 辻が手を差し出すと、花びらは掌に乗っかる。それを指で掬い取ってやると、 辻は息を吹きかけ飛ばした。 これは一体・・・? 呼吸が少しずつ落ち着いてきた頃、花びらも止む。気がつくと周りの地面は ほとんど白い花びらに埋め尽くされて、雪景色にも似た儚さを見た気がした。 ドサッ。 突然、白い花びらの上に、蒼紫色の物体が、落下した。 「・・・・・え?」
525 :
10話 :04/04/26 23:49 ID:vs0Yh38J
「ののも甘いもの大好きでしょ?だからさぁ。」
526 :
10話 :04/04/26 23:53 ID:vs0Yh38J
辻は自らの目を疑った。 疑って、疑って、それでも足りないくらいに、ひたすら疑った。 信じる事が出来ない。いや、信じたくない光景が、視界を支配する。 辻の体の震えが、いよいよ激しさを増してゆく。すぐに手を差し伸べたいのに、 体が震えて動かない。 「あ・・・・あ・・・・。」 辻は声を出す事以外、何も出来なかった。膝を着くと、呼吸が再びあれ始める。 すぐに目から涙がこぼれてきた。 蒼紫色の物体がピクッ、と微動し、黒ずんだ指が剥がれ落ちると、 涙は加速した。 「ああああああ!!!!!!」 泣き声に驚いた二人が慌てて駆けてくる。到着すると、 二人はすぐにその悲愴な光景に、胸を痛めた。 花びらが再び振り出す。真っ白の花びらは、蒼紫色の、ミキサーで ぐちゃぐちゃにされたように、変わり果ててしまった安倍の体に、 静かに降り注いだ。
527 :
10話 :04/04/26 23:54 ID:vs0Yh38J
「一緒にお店開こうよ!ののとなら楽しいと思うべ〜。」
528 :
10話 :04/04/26 23:55 ID:vs0Yh38J
To be contniued...
なんや?この手法めっちゃ引き込まれてまったわ。 しかもこんなところで切るなんて殺生やて・・・寝られへんようなったらどう責任とってくれんねん!? っちゅうか続きまってます。
ほんとに・・・いいところで
531 :
えっと :04/04/30 23:03 ID:xssDweMv
>>529 レスありがとうございます。
遅れてすみません、ただもう少し待っていただけないでしょうか。
>>530 レスありがとうございます。
いいところで切る事でドラマの次の回を待つドキドキ感といいましょうか、
そんな気持ちを感じていただいたら幸いです。
すみません、また0話行かせていただきます。
532 :
0−2 :04/04/30 23:04 ID:xssDweMv
0−2「嘘」 一人の小柄な男が、戦場でフラフラと歩いていた。しかしだからと言って 怪我したわけでも、疲れたわけでもない。たらたらと歩いているだけ。 そんな男の後ろに一つの影が襲い掛かる。男は振り返ると、次の瞬間には、 影はその姿を失った。 「やれやれ・・・。」 男は手を全く出していない。男は余計な邪魔が入ったと、つまらなそうな顔を していた。 「あかんぞ敵に背中を見せたら。」 手を出したのは女だった。女はいつものように男に説教をする。対して背丈の 変わらない男は、同じ高さの目線で返す。 「裕ちゃんは用心深すぎるよ。あの程度の敵にやられるような僕じゃない。」 裕ちゃんと呼ばれた女は、はぁっ、と溜息をつくと、唇の回転を早める。 「hyde!お前はいっつもいっつもいっつもいっつもそうやな!何度言うたら わかんねん!伏兵っちゅうもんが一番怖いんやで!?ガックンだって言うとるがな! そんなんで死んでも知らんぞ!!」 「知らなくて結構。」 hydeは再びフラフラと歩き出す。廃墟と化した城の中を。そんな彼を、 長身の男が話しかけた。 「裕ちゃんの言うとおりだよ。hyde。」 「あ〜もう皆保護者か!!!」 hydeの声は、大きな空間でよく響き渡った。
533 :
0−2 :04/04/30 23:06 ID:xssDweMv
「3人流石やな、今回の戦いで我が国も大分有利になった。」 まことが王座に座り、跪く3人をたたえる。しかし3人は跪いているからと 言って、忠誠を誓っているわけでも、お慕い申し上げてるわけでもなかった。 「まこっちゃん無理し過ぎやて。訛るなら訛るで、おとなしく統一せな。」 「うっさいわ!!誉めてるんやから大人しく喜んどけ!!」 「あれれ〜いつからまこっちゃんそんな気の強いキャラになっちゃったの〜?」 Gacktが低い声でまことをからかう。 「まこっちゃん言うな!!」 「まこっちゃん褒美の方またスティックとかだと嫌だよ。」 「だからまこっちゃんちゃう!!まことさんとか言えや!! 大体スティックなんかあげた事ないがな!」 「偉そうにしたらあかんでまこっちゃん。王座なんかに座って。」 「あ〜もう!!!」 こんなふざけた3人でも、実力が確かだから、まこと時期国王は3人の無礼な 振る舞いに罰を与えたり、叱ったり出来ない。3人は戦争の時必ずパーティーを 組み、そのパーティーは別名『阿修羅』と呼ばれていた。 激情に刈られると手が付けられない中澤、 戦いの中でどこか哀愁を見せるGackt、 戦いの後に見せる笑顔が印象的なhyde。 三者三様の戦闘スタイルは敵国にも恐れられ、全ての国営軍中最強のパーティーと 言われていた。
534 :
0−2 :04/04/30 23:07 ID:xssDweMv
3人とも年齢が近く、入軍前からも知り合いで、凄く仲が良かった。 そのためか、悪ふざけもしょっちゅう。まだ若かった3人は、他愛のない 悪戯で、よく城内の貴族を困らせていた。 でもいざ戦闘になると、やっぱり3人は戦闘値の桁が違う。 強ければ何やっても許されるわけではないが、その愛すべきキャラクターで、 3人は慕われていた。 「中澤〜、お前何勝手に熱愛発覚とか言って中居君巻き込んでるんだよ。」 「貴さんが広めたって聞いたんですけど。」 「ちが、違うよぉ〜。何言ってんだよ〜。」 中澤は鬼神のメンバーとも仲が良かった。これは中居が入軍と同時に力を見せ、 鬼神に入隊。石橋と木梨がコンビ解消、ピンとなった事もあり、石橋と中居 という新しいコンビが誕生したばかりの頃の絡み。二人でふざけていると、 前から中居が歩いてきた。 「おい中澤〜、お前熱愛発覚なんて言って自分の希望言ってるんじゃねぇよ!」 ダミ声は昔も変わらず、中居はいつものように現れる。3人でトークを展開していると、 木梨が道を通りかかった。 「中澤そう言うのも逆にピンポンだから。」 最近(現実ではかなり昔だが)ヒットしたネタを“てんどん”でひたすら 使いまわす芸人魂たっぷりの木梨も、昔と変わらなかった。
535 :
0−2 :04/04/30 23:08 ID:xssDweMv
「王が死んだ?」 王がある日、急死した。それに伴い、まことが王となる。自然な流れだった。 しかし、 「まこっちゃんがいなくなった?」 突然の報告に中澤は驚きを隠せない。まことが突然の失踪。原因も全く見当が つかないが、とりあえず置手紙すら残さずに忽然と姿を消してしまった。 それにあたり、国は臨時でつんくを王位に置き、1年経ってもまことが 見つからなければ、その時はつんくを正式な王とする。それが法皇の意見。 そのままその案で可決となった。 王の急死、後継者一番手まことの失踪、悪い噂が立たないはずがない。 当然、まことが王になると思っていたし、なるべきだと思っていた中澤は、 疑問を感じずに入られなかった。 Gacktとhydeが遠征で出かけている期間、中澤は動いた。二人の事は信用 していたが、二人がいなければ自分に敵う実力者は城にはもういない。 それを見込んでの行動開始だった。
536 :
0−2 :04/04/30 23:09 ID:xssDweMv
行動開始は夜だった。流石に白昼堂々とまことの部屋に入るのは気が ひける。誰かが見ているかもしれないのに、そんなリスクを背負う必要性が 感じられない。中澤はまことの部屋に入ると、部屋中を虱潰しに荒らした。 いつ戻ってくるか分からないと言う考えから、部屋は綺麗なまま残されている。 そんなに荒らすわけにもいかないので、とりあえず上辺だけ色々調べ回した。 ・・・・特に何があるというわけでもなく、中澤はベッドの上に腰を降ろした。 「・・・まこっちゃん。」 中澤はまことに国王になって欲しい、というよりもなるものだと思っていただけに ショックが大きかった。しかもよりによってつんくが王?そんなふざけた事が! 中澤は不意に下を向くと、あるものに気がついた。 「赤い・・・?」 ベッドの下の僅かな隙間に、赤い何かが見えた。中澤はすぐにベッドを 無理やり動かす。すると、そこからは信じられないようなものが中澤の視界に入った。 「(血文字・・・。)」 その文字ははっきり「つんく」と読めるもの。 中澤はベッドを直すと、すぐに部屋を飛び出した。
537 :
0−2 :04/04/30 23:15 ID:xssDweMv
バン!!!! 「誰や!!!」 つんくは夜遅くまで王の間に居座る事が多い。 それもこれも周りを警戒しているからだとしたら? 「お前!!!まこっちゃんを・・・・!!」 国王の急死だって死因は分かったものではない。つんくはいわば、 校長の座を付け狙う教頭の立場だったのだ。中澤は剣を両手に持ち、 つんくの首しか目に入らない。 そのまま突っ込む。 「ぅらぁぁぁ!!!」 中澤は思い切り剣を振った。 完璧なスピード、角度。かわせるはずがない。 「やめろ!!!」 しかし、腕を後ろから掴まれた中澤は、完璧だったはずの全てをあっさりと 阻まれた。後ろを振り向くと、取り押さえていたのはなんと、信じられない。 「ガックン、なんでおんねん!!」 中澤は諦めなかった。暴れてGacktを振りほどくと、今度は拳をつんくの 心臓めがけて、思い切り突き出す。 『Blurry Eyes』 「うっ!!!!」 突然体の動きが鈍る。突き出した拳は、あっさりとGacktに止められてしまった。 「何を・・・・した・・・。Hyde・・・。」 中澤はほとんど動かせない体をなんとかhydeの方へと向け、精一杯に声を 絞り出す。しかしhydeは中澤に目さえあわせず、 「処罰はどうしましょう。」
538 :
0−2 :04/04/30 23:16 ID:xssDweMv
中澤は結局、城の外へと捨てられた。Hydeのかけた呪文は能力抑制呪文だった。 有効期間はhydeが生きている限り無限。中澤は今では一応問題なく戦えるほど までに回復したが、このときはほとんど動けず、3日這ってなんとか城下町まで たどり着いた時には、力尽きて死に掛けていた。 そこで中澤を救ったのは、安倍だった。 「?」 倒れている中澤を、最初に発見した安倍は、とりあえず近づき、 「生きてるべか〜?」 軽くつついた。 ピクッ。 「うわ!!!な〜んだ生きてるなら生きてるって言えばいいのに。」 安倍は中澤を担ぐと、家へと連れ帰り介抱。中澤はその後リハビリを重ね、 なんとか人並み以上に戦えるまでに回復した。 リハビリ中、中澤の心の中に常にあったのが国への復讐。しかし今の自分の 体ではどうにもならない、と体を鍛えながらも半ば諦めていた。
539 :
0−2 :04/04/30 23:17 ID:xssDweMv
そんなときだった。 つんくが国民に重税を求め、ひどい政治を働き出したのは。中澤は思った。 これはチャンスや。 中澤はこれに便乗し、重税を課すつんくを倒し、国を変えよう、と革命軍を 結成する事にしたのだ。 つまり中澤は本心から国を変えようなんて、これっぽっちも思っていない。 完全な後付である。国に追放された後、巨大な廃墟を利用して家を作っていたため、 税も払わず。中澤は国営軍の最強パーティーとしてのプライドを、全く捨てていなかった、 最初は。 頑張っているメンバーの姿に、中澤はやがて感化され、段々国民側で物事を 見れるようになっていた。 ・・・・昔の事を思い出してもしょうがない。 今日、決めるためにも・・・。 「皆待ってろや。」 中澤は過去への疑問、想い、全てをぶつけるべく、静かに立ち上がった。 To be continued…
540 :
11話 :04/05/02 22:32 ID:ixDn4ibS
11.「浸食」 「ああああああ!!!!!!」 辻の悲愴の叫びは、その空間で切なく響き渡る。その変わり果ててしまった カラダ、肌の色、形。辻は安倍を見ては目をそらし泣き、向き合おうとして 安倍を見てはまた目をそらし、泣きの繰り返しだった。 「なち・・・・なちみ!!・・・・・あああ・・・・・。」 辻の体が、高熱の患者のように激しく震える。小川は辻を後ろから抱きしめ、 なんとか震えを止めようと抑えつけた。しかし辻の震えは収まるどころか 強くなるばかりだった。 「い・・・一緒に・・・・お店・・・あ・・・・あああ!!!」 いつまでも流れ落ちる涙。あまりに大きい辻の泣き声に、安倍の目は開いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 安倍はほとんど身動きすら取れないほど浸食が進んでいる。それでも辻の 泣き声に、安倍はなんとか答えようと、まだなんとか形を保っている口元を、 なんとか動かした。 「は・・・・い・・・ど・・。しん・・・・しょ・・く・・・。」 3人は身を激しく震わせた。目の前にいる瀕死の状態の安倍に加え、 hyde、浸食という、彼女達にとって耳障りの決してよくない言葉を、 二つも同時に聞いてしまったから、ショックは大きい。 動揺しないはずがなかった。そして今、安倍は「花葬」されている・・・。 花びらの雪が舞い終わりし時、それは安倍の生命の終わりを意味するのだ。
541 :
11話 :04/05/02 22:33 ID:ixDn4ibS
浸食とは恐ろしい呪文だ。放つまでに詠唱を唱えなければならないから、 間近にいなければかわすのはそう難しい事ではない。呪文を唱えた瞬間、 hydeの全身から黒い光が放たれ、僅かにでもその技が体に触れれば、 かすっただけだとしても、その体の部分はすぐに変色し、腐食。しかも それは伝染し、少しずつ広がってゆく。最悪の場合、自分の脳が腐食して 行くのを感じながら、無残な死を遂げる。 安倍はまさにその、最悪の場合に近い状態だった。 今までも、何人もの仲間達が浸食によってこの世を去っている、 革命軍にとっては一番注意しなければならない呪文の一つである。 それなのに、防げなかった。 花葬はいわば、死の宣告。カウントダウンのようなものだ。紅いの雫と ともに呪文にかけられた者の体を少しずつ埋めて行き、ばらばらに散らばる 花びらが全て舞い降りる頃、花葬を受けている敵の命は止まる。
542 :
11話 :04/05/02 22:35 ID:ixDn4ibS
「悪い事は言わないから、降伏したほうがいいよ。」 後ろから声がして、3人はすぐに後ろを振り返る。そこには小柄なビジュアル系が、 突っ立ってこっちを見ていた。Hydeだ。 「花葬が終わるまであとざっと10分。それまでに俺を倒し、瀕死の彼女を 助けられる術者まで連れて行けるか?退けば、俺は別に今は手を出さない。」 確かにhydeの言う通りに動くのが、賢い選択といえる。 「月の子」の片割れを、実質6分で倒す? 考えが甘過ぎる。 しかしそんな風に冷静に考えられる状態ではなかった。少なくとも、辻には。 「あああ!!!!!!」 斧を振り上げ、hydeに飛び掛る。hydeは仕方ない、と目で笑うと、術を唱えた。 『HONEY』 hydeの手からドロドロの蜜が放たれる。蜜は辻の全身に降りかかった。 「うわ!・・・・甘ぁ〜い。」 辻は一度着地すると、ぽわんとした表情。なはずがなかった。 こんな時までそんな辻ではない。辻は再び飛び掛った。いや、正確には 飛び掛ろうとした。しかし辻は、蜜によってほとんど身動きを取れなくなっていた。 「くぅ・・・・うぅ!!」 辻は泳ぐように斧を持ってもがいたが、蜜は剥がれない。hydeは辻を見ながら、 ゆっくりと詠唱に入る。 「Good morning Mr.」 ボン!!!
543 :
11話 :04/05/02 22:37 ID:ixDn4ibS
閃光弾が、hydeを捉える。hydeが横を打たれてきた方向を振り向くと、 そこには剣を構えた藤本が立っていた。 「悪いけど、こっちはそんなに頭のいい判断なんて、出来やしないみたいだよ。」 「それがお前らの答えか・・・。なら。」 hydeは何もない所に手をかざし、握り、それを降ろすと、何もない所から 剣が現れる。剣をゆっくりと顔の前に立てると、呟いた。 『READY STEADY GO』 hydeはその言葉だけを残して、忽然と姿を消す。気配すら感じ取れない。 「え?」 藤本の構えに隙が出る。その瞬間、 「後ろ!!!」 藤本は小川の叫び声で、慌てて剣を後ろに構える。Hydeは瞬時に藤本の真後ろに まで到達していたのだ。 キン!! 藤本は勢いよく180度回転すると、hydeが既に第二撃放っていた。 「(速い!!)」 藤本は受け止めることしか出来ない。 キン!!キン!!キン!! 激しい剣と剣のぶつかり合い。お互い一歩も退かない激しい攻防が、 しばらく続いた。 上段から中段、下段、また上段、横。Hydeの剣は身軽に色々な方向を駆けてゆく。 その度に藤本は合わせるように剣を構えると、隙を見ては突きを繰り出し、 突破口を見出そうとする。しかし下から跳ね上げられ、またもhyde優勢。 しかし藤本はそれを華麗にかわす。
544 :
11話 :04/05/02 22:38 ID:ixDn4ibS
次第に、hydeが少しずつ前へと出始める。ここは男女の差か、体力に分が あるhydeが押し始めたのだ。hydeは笑うと、スピードを速めた。そのとき、 けたたましい音を立てて怪物が二人の勝負に割って入る。 小川の召喚獣だった。 hydeはそれをかわすと、召喚獣はそのまま辻へと突っ込み、蜜を全て消し去った。 「まこっちゃんありがとう!」 辻はぶんぶん腕を降ると、斧を構える。すぐに動き出すと、小川の新たな 召喚獣を放った。ケンタウルス。2人と1体でhydeを囲む。 それでもhydeの顔は涼しかった。 「観念するのれす!!」 「何笑ってんだよ。」 「そこ、どいてもらえない?」 何を言われてもhydeの表情を変わらなかった。それどころか、 「警告を、無視した時点でお前らの死は決定済みだ。Good morning」 hydeの両手に邪気が迸る。 「させるか!!」 藤本を皮切りに一斉に飛び掛った。しかし、3人の動きは僅かに遅かった。 「Mr.fear...。 浸食。」
545 :
11話 :04/05/02 22:40 ID:ixDn4ibS
hydeの体から8方向に、黒い光線が飛び立つ。全ての物を貫くように、 光は高速で広がった。空中にいる2人と1体に避ける術はない。 ドサッ! 藤本は勢いよく地面を転がる。 「ハァッ・・・ハァッ。」 剣を地面に突き刺すと、それを支えに立ち上がる。しかし立ち上がった ところで、剣は音を立てて崩れた。 「・・・くっ!!」 藤本は剣で光を弾くことで、体に触れる事をなんとか防いだ。しかし藤本の 代わりに、剣はその役目を終えてしまった。藤本は背中にかけていたもう1本の 剣を取り出し、構える。そして他の二人を見た。 小川は直前に術を解き、召喚獣自体を消してしまったため、全くダメージが ないようだが・・・・。 「あ・・・・・あ・・。」 辻は自分の腕をまじまじと見つめている。どうやら腕で光をガードしてしまったようだ。 左腕の表面は、すぐに蒼紫色に変色した。 「あ・・・・ああ!!!いや!!いやれす!!」 少しずつではあるが、確実に広がってゆく蒼紫の染み。その中心から じわじわと腐食が始まる。それはまるで迫り来る死の恐怖を味あわせるため、 わざわざ遅く進んでいるようにも見えた。 「辻!切れ!!!体全部腐っちまうぞ!!!」 藤本は辻に向かって絶叫する。辻は広がってゆく染みに視線を移し、覚悟を 決めると蒼紫色の部分をえぐる様に斧で切り取る。 「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 痛みを必死にこらえながら、辻は全てを引きちぎった。
546 :
11話 :04/05/02 22:42 ID:ixDn4ibS
「はぁっ・・・はぁっ・・。」 辻はズボンを軽くちぎると、欠落した腕に巻きつける。斧を持つと、再び hydeに向かって構えた。Hydeは3人を見て、言った。 「あと7分だけど、どうする?」 そう、hydeは急いで3人を殺す理由はない。むしろ花葬が終わるまで待って、 絶望感を味合わせてから殺した方が、hyde的に“面白い”のだろう。 藤本は正直、反吐が出る程ムカついた。 絶対に、倒す。絶対に助ける。 Hydeは相変わらず涼しい表情で、3人に一通り視線を移す。 「どちらにしろ、君達の物語の結末は同じだけど、戦うというのなら、来な。」 3人は構えた。 無言の返事。 hydeはそれを聞くと、両手を大きく広げた。 『winter fall』 hydeの後ろから激しい吹雪が吹き荒れる。しかし、小川の反応はhydeの 予想以上に速い。小川の掌から飛び出した、雪のように白く、無表情な 美女が甘い吐息を口から吐くと、吹雪は全てhydeの方へと跳ね返っていった。 「くっ!!」 hydeは両手を前に出し、吹雪を避けるようにガードの構え。その瞬間に 出た隙を、藤本は見逃さなかった。戻ってゆく吹雪の流れに乗って、 スピードを得た藤本がhydeへと剣を向ける。剣はこの吹雪の中、赤い炎で 燃えていた。 「やあ!!!」
547 :
11話 :04/05/02 22:43 ID:ixDn4ibS
斬った瞬間、藤本は決まったと確信した。 現にhydeは倒れたのだ。 吹雪も止み、雪まみれになっているhydeを気にも留めず、3人は安倍を 助けられる人材と連絡を取ろうと通信機を取り出した。 「亜弥ちゃんか、あさ美ちゃんのタロットだ!」 とりあえず、自分たちと同じサイドから王の間を目指す後藤班と合流しよう、 ということになり、その通路を逆送することで話がまとまる。 そのときだった。 ――――――――― 七色の光が、小川の体を貫いた。 「・・・え?」 ドサッ。 小川は受身も取れずに倒れた。藤本と辻は、慌てて後ろを振り向く。 hydeが立っていた。かなりのダメージを受けながら、何故か。 「もう、お遊びはお終いだ。」 To be continued...
いやあ、ほんと書くの巧いですね。どんどん引き込まれます。 なっちは助かるのか?ぴーまこは無事なのか?ののも患部を切っただけで大丈夫なのか?・・・いろいろ気になりますね。
549 :
12話 :04/05/06 22:22 ID:kxAI6xoV
12.「火-葬-花」 「どうして・・・。」 藤本は一言、hydeを見て叫んだ。 「どうして生きている!確かに仕留めたはずなのに!」 辻は気がついたような顔をすると、座り込んで小川を摩る。 「まこっちゃん!!まこっちゃん!!」 そんな中、hydeは苦しそうな表情のまま種明かしをした。 「お前に斬られる直前、『Shallow sleep』で浅い眠りに入ったんだ。 この技は元々体力の即回復のためのものでね。あのまま食らったら即死 だったろうが、眠っている間常に回復状態になれるから、なんとか 斬られたダメージも、少しは回復した。…それだけの話だ。」 hydeが一歩踏み出す。するとその胸辺りの赤い染みが広がる。そこから ゆっくりと、血が流れ落ちた。 ポタッ。 hydeが苦痛で表情をゆがめる。拳を握り締めると、一歩、また一歩と、 ゆっくり3人に近づいてゆく。 「もうやめろ!戦える体じゃないはずだ!!」 藤本は思い切り声を上げる。その振動だけでhydeの表情は再び曇った。 無理もない。藤本の攻撃は完璧だったのだ。アレを食らって、平気なはずがない。 たとえ多少の回復をしたとしても、それは同じな事。 それでもhydeは歩を進め続けた。
550 :
12話 :04/05/06 22:24 ID:kxAI6xoV
「・・・やめる?」 足を前に出しながら、hydeは呟く。 「それは無理な話だね。もう少しで、もう少しで俺たちの計画は達成される・・・。 ゴフッ!!」 hydeの口から、赤黒く、生暖かい液体が弾き出された。明らかにhydeの体には 限界が来ている。それでもhydeの目は、未だ死んでいなかった。 「行くぞ。『HEAVEN’S DRIVE』」 hydeの周りの空中に、いくつもの車輪が、現れる。 「!!」 その技は、紺野の『WHEEL OF FORTUNE』と酷似していた。つまりどんな技か、 3人はよく知っている。なんとか意識をギリギリ保っている小川の表情は、 更に青ざめた。車輪が回転を始める。次第に回転音でうなり声が、室内中を 響き渡り、hydeが両手を横から前へ振ると車輪は勢いよく3人の方へと 突っ込んだ! 「うわ!!!」 いくつもの車輪が、3人を壊れそうなスピードで迫る。まず車輪は小川に 向かってスピードを上げた。小川はほとんど動けない。思わず目を瞑った。 ガン!!!
551 :
12話 :04/05/06 22:25 ID:kxAI6xoV
「・・・・?」 小川は自らの肉体になんら衝撃がないことを疑問に思い、目を開いた。 「のんつぁん?」 なんと辻が、小川の命を奪おうと迫り来る車輪を、全て体を張って受け止めていた。 hydeはそれを見ると、容赦なく車輪を増やしてゆく。 「!!」 あまりに数が増えた事で、辻は思わず小川を抱えて飛び、車輪をかわす。 すると今度は壁に跳ね返って車輪が再び突っ込んでくる。 それはまるでピンボールのように、室内中を縦横無尽に駆けてゆく。 藤本は、狙いが2人に定められているのを確認した所で、2人には悪いが 囮になってもらおう、と思った。構え、hydeの胸に、狙いを定める。 さっき斬った所を、少しでもかすれば、勝機が見えてくるはず。 目立った動きをしないように、剣の内側に光の魔法を込める。込めつつ、 藤本は少し、後悔していた。 回復呪文を習わなかった事を。
552 :
12話 :04/05/06 22:26 ID:kxAI6xoV
「絶対あった方がいいって〜!教えてあげるから、ねぇ〜。」 松浦の一言を、藤本は無視していたのだ。 「ようは怪我する前に勝ちゃいいでしょ。」
553 :
12話 :04/05/06 22:27 ID:kxAI6xoV
確かに怪我する前に勝てれば、回復呪文は必要ない。それにある程度の 怪我なら耐えることが出来る。しかし、それは自分1人で行動している時、 もしくは行動しているパートナーが、松浦のように実力者か、回復呪文を 使える者である場合に限定される事を、藤本は気づきながら気づかぬフリを していたのかもしれない。 このように、回復呪文を唱えられる人物自体が重傷を負ってしまった パーティーで、更にその者が自分より防御の面で明らかに劣る場合・・・。 そんな特殊な状況、あり得ないと高をくくっていた。しかし今、目の前に ある現実がそれだ。もし、あのとき・・・・。 そんな事を言っていてもしょうがないから、とりあえず今出来ることは、 可能な限り早くhydeを倒し、回復呪文を使える人を探す事しかない。 藤本は、静かに呪文を唱えた。 『ヒヤシンス』 そう、これは松浦がGacktに破られた、あの技である。 そんな事を知りもしない藤本は、この呪文を使って一瞬にしてhydeの懐に 到達した。藤本はフッ、と笑うと、思い切り剣を振り下ろす。
554 :
12話 :04/05/06 22:29 ID:kxAI6xoV
『ブギートレイン-light-』 ブギートレインの光魔法ヴァージョン。藤本の持つ必殺技だ。しかし剣が hydeの体を捉える前に、車輪が藤本の背中を強打する。 「ぐっ!!!」 更に数を増した車輪が、今度は藤本を集中的に襲いだした。ただ当たるだけなら まだ可愛い技かもしれない。しかしこの技の恐ろしい所は、車輪が常に 高速回転しているために、下手すると肉が抉り取られてしまう事にあった。 「あああああ!!!!」 藤本はなんとか剣で防ごうと試みたが、努力もむなしく、ダメージを重ねてゆく。 かすっても確実に擦り傷が出来、じわじわと藤本の体力は蝕まれている。 辻がそんな藤本を見て、さっき藤本がそうしたように突っ込んだ。 「やああああ!!!!」 斧に気を思い切り込める。助走を付け、辻は飛び上がった。 「NON ST..うわ!!!」 たちまち車輪の大群が辻に突っ込んでゆく。それに驚いた辻は技を放てず、 斧で車輪を斬った。車輪は弾かれそれぞれの方向へと散る。 そしてそのうち一つの車輪が、無情にも・・・。
555 :
12話 :04/05/06 22:30 ID:kxAI6xoV
グチャッ!! 「!!」 音がして、振り向いた瞬間、辻の表情が完全に凍りつく。 その視線の先では、蒼紫色の固体が、車輪の高速回転によって掻き毟られ、 パラパラと宙を舞っていた。 ゆっくりと、固体は空中で分解してゆく。 個体の間からは、ついさっきまで生きていた事を証明するかのように、 微量の血が顔を出す。 その頃、車輪は壁を跳ね返り、もう一撃、今度は安倍の元腹部を捉えた。 無残にも体が真っ二つに割れる。 それと同時に、舞い落ちる花びらは姿を消した。 しかし何故か安倍の顔だけは、綺麗なまま、残されていた。 多少蒼紫がかってはいるものの、それは美しく、儚い。 目を閉じたその表情は、どこか安らかに見えた。その顔に、車輪の第三撃。 「!!!」 3人は、生気を奪われたような顔で、でも瞬きもせずに、その状況を ただただ見つめていた。そのときだった。 ドサッ。 腕だったと思われるものが、突然辻の目の前を落下する。 その瞬間、辻の表情が一変した。
556 :
12話 :04/05/06 22:31 ID:kxAI6xoV
「あああああ!!!!」 さっき、恐怖と悲愴を胸に叫び声を上げた、あの表情とはまるで違っていた。 その目は殺気立ち、あまりに辻のイメージとかけ離れたオーラを放っていた。 「ああ!!!!!」 声にならない声をあげ、辻はhydeに向かって猛進する。 「何?!」 hydeは慌てて車輪を全て操作し、八方向から辻を襲わせた。あっという間に 辻を囲むと、そのまま体の方へと突っ込んでくる。 しかし、なんと辻は、 「(!!)」 その場にいる全員は、自分の目を疑った。なんと辻は、たった一振りで 車輪を全て破壊、機能停止させてしまったのだ。 辻は尚もhydeに向け全力疾走を続ける。Hydeは更に車輪を追加して、 辻に突っ込ませるも、結果は何度やっても同じだった。辻は確実に、 hydeの目前にまで迫った。hydeはおそらく射程距離に入った辻の瞳を見て、 身も心も凍るような感覚を覚える。 その眼は、とても人と呼べる代物ではなかった。例えるならば、破壊神。 辻の持つ斧さえ、hydeには信じられないほどに巨大な斧に見えた。
557 :
12話 :04/05/06 22:33 ID:kxAI6xoV
「ぅらぁぁぁ!!!」 ズバッ!!! hydeはなんと、一瞬にして胴体を真っ二つに引きちぎられた。考える暇すら 与えられることなく、hydeは屍と化す。命を失った殻は、音を立てて重力に屈した。 しかし辻の攻撃は、それで終わらなかった。 「ああ゛!!ああ゛!!」 辻は何度も何度も、hydeを斧で斬り刻んだ。斬って斬って斬りまくった。 その度にhydeだった殻は軽く地面を跳ね、どんどん細かくなってゆく。 粉々になり、いよいよほとんどそこには何もなくなると、今度はさっきまで 体があった地面に、辻は斧を立てた。 「やめろ!!!」 たまらず藤本は声を上げた。しかし辻はそれで動きを止めるどころか、 ますます拍車がかかったようにスピードを上げる。 辻の欠落した左腕部分からは、血が流れ落ちる。血が地面に流れ落ちると、 辻はそこを斬った。そのときの衝撃で他の所に水滴が落ちると、 今度はそこを斬った。 「やめて!!!」 小川が力を振り絞って、辻を後ろから抱きしめた。 しかし、小川に強く抱きしめる力は残っていない。 でも辻の動きはそこで止まった。 「こんなこと、安倍さんが望んでいた事じゃないよ・・・。 安倍さんの為にも、絶対革命を、成功させよう?」
558 :
12話 :04/05/06 22:35 ID:kxAI6xoV
「・・・・うっ・・・・ぅ・・・っ・・。」 辻は再び震え始めた。変わり果てた安倍を見た時のように体を震わせると、 やがて涙を流した。斧が地面に落ちる。辻はスイッチが切り替わったかのように 大声を上げてわんわん泣き出した。 「・・・・・。」 間もなくして小川がその場で崩れ落ちる。hydeの放った『虹』の威力は、 予想以上に強力だったのだ。そして小川は自覚した。 ・・・・・。 小川は少しだけ考えると、通信機を取って声を出す。 「中澤さん。」 『・・・・なんや?』 少しだけ間を置いた後、返事が聞こえた。 「皆に回線、繋いでください・・・。」 『・・・・分かった。』 中澤は小川が何をしたいのか察し、悲しそうに答える。回線が繋がったのを 確認すると、小川は話し始めた。
559 :
12話 :04/05/06 22:38 ID:kxAI6xoV
「皆・・・聞こえる?私、小川は、もうすぐ・・・死ぬかもしれません。」 『え!?』 一斉にどよめきのような声が聞こえる。小川は満足そうに微笑むと、続けた。 「でも、最後に一つだけ、言いたいことがあるから、聞いて? 皆と過ごした日々、楽しかった。・・・・月並みだけど、絶対に ”生きて”ね・・・。」 よほど無理をしていたのか、小川はそこまで言うと、一気に深い眠りに落ちた。 「・・・・・・・。」 二人は黙ったまま、小川の手を両サイドから握っていた。そして少しすると、 安倍の残骸が残っている所まで歩き出す。 「火葬しようか・・・。」 「え?」 藤本の声に対し、辻は回答に困った。 「あたし達の手で、眠らせよう?こんな花びらじゃなくてさ。」 「・・・うん。」 藤本は剣を上に翳す。すると剣先から小さな炎が姿を見せる。 藤本は、ぼやけた視界を左手で必死に凝らそうとしながら、ゆっくりと 安倍に剣を向けた。1回だけ、深呼吸をすると、火をつけた・・・。 To be contniued...
560 :
えっと :04/05/06 22:43 ID:kxAI6xoV
更新終了です。
>>548 書くのが巧いだなんて・・・まだまだ未熟ですが物凄く嬉しいです。
結局このような結果になりましたが、まだ捻りありますのでご注意を(ぉ
こうなりましたか・・・次は彼女か彼女が犠牲になるのかとおもってたんですが・・・ あとずっとごっちんの、 「あんたとまともに戦えるのはよ...と...」の二人目がずっときになってるんですよね〜。 呼び方によっては”...”なんていくらでもいますから。 う〜、たのしみだ。
初めて読みました。続き楽しみです。 がんばってください。
563 :
13話 :04/05/09 21:15 ID:uIQMOJ+c
13.「out of data」 『おお!』 それが合流した飯田班矢口班全員の最初のリアクション。角で丁度対面したから、 驚きにも似た声をあげた。ただ、それには安堵感もかなり含まれている。 仲間との再会、そして人数が増えたという事でホッとした6人は、思わずその場で 座り込んで休憩し、話し込んでしまった。 「圭ちゃんは残念だったね。」 そんな事を口にする人は誰もいない。もちろん後藤、安倍や小川について 触れる人もいない。加護、高橋を気遣ってか、飯田班が積極的に話題作りをした。 「皆!トイレは気をつけて!トラップがあってキマイラ出てくるから!」 『はいはい。』 石川の言葉を、いつものように全員聞き流す。 「あれ、梨華ちゃんトイレはいかへんのとちゃう?」 「し・・・しないよ!」 「じゃあ何しにトイレ行ったんだよ。」 矢口はもう完全に笑っている。 「まあまあ、ケースバイケース♪」 吉澤の一言で全員笑う。 そろそろ落ち着いた、という頃、飯田を先頭に再び6人は歩き出した。
564 :
13話 :04/05/09 21:15 ID:uIQMOJ+c
「よっすぃ〜。」 最後尾を歩いている石川に、吉澤は呼び止められる。吉澤は振り向くと、 石川は首にかけていたペンダントを外し、吉澤に渡した。 「これは?」 「あたしの魔力たっぷり込めた、お守り。」 吉澤はそう言われると、昨日夜遅くまで起きていた石川を思い出した。 あれは、そのために・・・。 吉澤はペンダントを受け取ると、すぐに首にかけ、笑顔を見せた。 「ありがと。」 その言葉を聞くが否や、石川は吉澤の腕を取り、腕を組む。 「ちょ、ちょっと梨華ちゃん?!」 「いいじゃ〜ん♪」 満面の笑みの石川を見ていると、嫌と言えない吉澤だった。
565 :
13話 :04/05/09 21:17 ID:uIQMOJ+c
少し歩くと、王の間へと続く階段が見えた。 「いよいよだね。」 飯田が緊張した表情で呟く。 「来た〜・・・。」 矢口がギュッと拳を握り締めたそのとき、 ズン!! 「伊東四朗?」 「ちゃうわ!」 吉澤のボケに即座に対応する加護。『ズン!!』は決して声などではなく、 騒音並みの足音だった。 ズン!!ズン!!ズン!!ズン!! 歩いてきたのは、人型のマネキンだった。真っ白いマネキンは6人の前まで 歩いてくると、立ち止まり、機械的な声を発した。 「ココハワタシノエリア。」 マネキンはそういうと一瞬にして姿を変えてゆく。 ・・・・ 『ごっちん?!』 「後藤さん?!」 マネキンはなんと、後藤と全く代わり映えしない姿へと変身を遂げてしまった。 そして、 「あたし、この城内で死んだ人の情報を全部コピーして、使う事が出来るの。」 声色までもが、後藤そのもの。
566 :
13話 :04/05/09 21:19 ID:uIQMOJ+c
後藤の姿をしたマネキンは、剣を取り出すと、剣はあっという間に光を 帯びる。 「やばい!皆逃げろ!!!」 吉澤の叫び声と共に全員横へと飛ぶ。 『Be in love!!』 振り下ろされた後藤の剣から放たれる光。それは避けた6人の方へと方向を 変えていた。 「くっ!」 飯田が結界を張る。結界に弾かれた光は斜めへと飛んでゆき、壁に直撃。 壁は派手に弾け飛んでしまった。 「うひょ〜、威力もコピーだよ。」 矢口が呆れたように声を出す。それを聞く事無く、一人後藤へと飛び出した 影があった。 吉澤。 吉澤はダッシュで後藤の目の前に到達、腕を思いきり前へと繰り出す。 「・・・・くそ・・・・。」 吉澤の拳は、後藤の顔面、僅か1センチにも満たないであろう位置で止まっていた。 「うぅ・・・・・。」 吉澤には、どうしても後藤の顔を砕く事は出来ない。マネキンも知った上で 全く動きもしなかった。 「よっすぃ〜は甘いよ〜。」 それは本物の後藤のようにさえ見えた。しかし、
567 :
13話 :04/05/09 21:20 ID:uIQMOJ+c
『スクランブル』 右手で魔法、左手で剣、そして足技。一瞬にして三つの攻撃が繰り出される。 吉澤はその技をよく知っていた。だから精一杯かわしに行く。 まず足技は下段の左回し蹴りだから飛び越えが利く。 それは問題なく避ける事が出来た。 さて、次は魔法だけ・・・と思ったら、このスクランブルは吉澤の知っている スクランブルとは違うものだった。 後ろ回し蹴り?! もう既に魔法が放たれ、自分は空中で自由に動きが取れない。 そう、下段の回しは誘い、飛び上がったのを見て左足を地面につき、 右足を 支点に鋭く回転。魔法が直撃すると同時に、蹴りを吉澤はもろに食らった。 ガードの意味がないのではないかと思えるほどの威力。 更にもう一撃、剣が蹴りによって飛ばされた方向に構えられていた。 斬られる!! 吉澤が死を覚悟したそのとき、矢口が素早く走って吉澤を抱え、後方へと 飛んだ。軽業師だから出来る芸当。二人は全員のいる所に戻ると、石川が 吉澤にすぐ回復呪文をかけた。それを見て飯田が立ち上がった。 「ここで手を出せないで苦しむのはこてこて過ぎるから、皆もっと割り切ろう?」
568 :
13話 :04/05/09 21:22 ID:uIQMOJ+c
飯田さんまたよー分からんことを・・・。 なんて加護が思っている中、飯田は既に攻撃を開始していた。 『真夏の光線』 真夏の灼熱の光が、一直線にマネキンへと伸びてゆく。後藤は避けない。 それどころか、 「カオリ、やめて!お願い・・・。」 目に涙をため、情に訴えた。さっき割り切るって言ったばかりの人に効くわけ・・・。 5人が期待した時、 ヒュッ! ドン!! 光は急に角度を変え、後藤の後ろの壁に直撃した。5人は白い目で飯田を見る。 後藤はほっと胸を撫で下ろし、ふにゃっと笑うと、冷徹な目で言った。 「ごとーのために、死んで?」 剣を構え、猛スピードで6人の傍まで走る。速過ぎて逃げる時間はない。 後藤を思い切り剣を振り下ろした。 キン!! 矢口が小手で剣を受け止めると、上へと振り上げ、自分の体勢を整える。 そしてすぐに後藤へと飛び込んだ。
569 :
13話 :04/05/09 21:23 ID:uIQMOJ+c
「いくで!」 それを見て加護も動いた。革命軍の中でもスピードのある二人の同時攻撃に 対して、後藤はどう出るのか。4人は固唾を呑んで見守った。 矢口が足から短剣を引き抜き、細かい連続攻撃を繰り出す。しかし後藤は 全て鮮やかにかわし、同時にダガーで攻撃をしようとしていた加護を蹴りで 処理していた。加護はガードすると、ダガーで改めて攻撃、反対側からは 矢口がどこから取り出したのかナックルを突き出す。 両側からの攻撃。後藤はなんと、ダガーを指で挟みとめ、ナックルは直接 手で受け止めて見せた。共に恐ろしいスピードで後藤に迫っていた攻撃だっただけに、 2人は驚きを隠せない。 後藤はニヤリと笑うと、ダガーを折り、ナックルを、つまり矢口を持ち上げてしまった。 「!!」 「どーん。」 後藤は矢口を思いきり加護へと投げつけた。至近距離過ぎて避けられない。 二人は派手に地面に叩きつけられ、“水切り”の石のように地面を跳ねる。 「・・ごっちんってこんなに強かったの?」 吉澤はそんな中、一人冷静に呟く。2人は何とか立ち上がり、再び後藤に 攻撃を仕掛けた。
570 :
13話 :04/05/09 21:26 ID:uIQMOJ+c
あのマネキンが言うには、奴の能力は情報を全てコピーし、使用する事。 つまり今までの攻撃は全て後藤が持っていた技、能力。オリジナルを超える事も 劣る事もないはず・・・。 「困った顔しているよっすぃ〜のために解説〜。」 後藤はそんな吉澤を見て、そう言うと、矢口と加護の攻撃を数ミリの見切りで かわし、両足を思い切り伸ばして2人を左右へと吹っ飛ばした。 両サイドの壁へと激突する2人。 「つ、強い・・・。」 瓦礫の下で、矢口は呟いた。後藤はそんな矢口に目も暮れず、吉澤の目を 見て話す。 「確かにこれは後藤真希のコピー。でもね、人間っておろかだよね。 知らず知らずのうちに力をセーブしちゃうの。それはあんた達も皆一緒。 しかも後藤真希は、それに加えて潜在能力がたっぷりあった。ガックンが 負けてたら、完全に覚醒しちゃってたんだろうね。危ない危ない。あはっ。」 最後の笑い方が嫌に耳障りでウザかった。つまりスクランブルは、後藤が 既に持っていたもの・・・。 後藤が話し終わると、何故か石川が前へと歩を進め、後藤へと少し近づく。
571 :
13話 :04/05/09 21:27 ID:uIQMOJ+c
「他の人にもなってみてよ。」 「ちょっ、石川何言ってんの?!」 飯田が石川を見て声を上げる。後藤は答えた。 「えーやだ。だって。」 後藤はここでため、一度だけ笑った。 「使えないもん。」 その目は虫唾が走るほどに冷徹。 「あはは・・・・。あ?!」
572 :
13話 :04/05/09 21:29 ID:uIQMOJ+c
突然の閃光弾に、後藤は仰け反ってかわそうとするも吹き飛ばされた。 驚異的な威力とスピード。 後藤は成す術なく壁に激突した。壁はドミノのように崩れ、後藤を下敷きに してゆく。後藤が瓦礫の下から起き上がる前に、術者は次の攻撃に移っていた。 『シャボン玉ぁ!!!』 数百という数のシャボンが、後藤の全身を一瞬にして包む。そして一つの シャボンが後藤に触れると、シャボンは一斉に弾け、中の魔弾が後藤を襲った。 「あああ!!!!」 シャボンは次々と、絶え間なく破裂してゆく。 [何もかもがデータ外。理解不能理解不能。データ、再入力の必要があります。行います。名前:] 『HEAVEN’S DRIVE』 「なんで?!」 息もつかせぬ連続攻撃。車輪の威力もhydeと同等。再入力の暇すら、 マネキンには与えられなかった。こいつ・・・何故この技を!? マネキンの脳内は必死に情報を整理し、取り出そうとするも、損傷が大きく、 言う事を聞かない。そんな中、術者はマネキンの目の前に立った。 「なんで?って顔しているけど、すごく簡単な事。」 術者はそう言い放つ。 ・・・!!なるほ。 ここでマネキンのコンピューターは完全にシャットダウンし、バラバラの マネキンへと姿を変えた。崩れ落ちる音が、穴だらけの壁に跳ね返ってよく響く。
573 :
13話 :04/05/09 21:30 ID:uIQMOJ+c
長い沈黙が、戦いの後の6人を襲う。そんな中、長い沈黙を破るべく、 「(梨華ちゃん、なんか言ってよ。)」 「(えぇ?!なんでよ!!う〜ん・・・。)」 石川が一言。 「え〜っと、・・・いい音でしたね!!」 更に深い沈黙が、凍り付いてしまった5人を襲う。 そんな中、長い沈黙を破るべく、 飯田が一言。 「よし!石川の氷魔法もキレが上がった所だし行こうか!!」 飯田はめのまえの階段を駆け上ってゆく。 「なんですかそれ!!」 石川が叫ぶ中、5人は慌てて飯田を追いかけた。
574 :
13話 :04/05/09 21:31 ID:uIQMOJ+c
階段を登り、6人は遂に王の間の目の前にまで辿り着いた。 緊張した表情の6人。 「開けるよ?」 吉澤は全員に目線を合わせると、一気にドアを開いた。 バン! 確かにそれは、王の間だった。 赤いじゅうたんが一直線に王座まで伸びていて、無駄に広い。 吐き気がするほどありがちな風景。 ただ一点を除いては・・・。 「え?」 入ってきた自分たちに対して、つんくはあまりにノーリアクションだった。 完全シカトとかそんな生ぬるいものじゃない。微動だにしないその姿に、 6人は逆に恐怖を覚えた。 「なんとか言ったらどうなんだよ。」 矢口が威嚇しても、表情一つ変えない。それどころか、瞬きさえしそうにない。 なんだって言うのか。
575 :
13話 :04/05/09 21:32 ID:uIQMOJ+c
576 :
13話 :04/05/09 21:33 ID:uIQMOJ+c
「行き止まり?!」 藤本は思わず愚痴をこぼす。階段を登った先に、扉がなかったのだ。 つんくが就任後失くされたらしく、今あるのは壁のみ。 「時に回り道・・・。これが青春って奴ですかね?」 「あさ美ちゃんそれ違うと思う。」 「とりあえず壁がないのなら、ぶち壊すのれす!!」 辻は斧に気を込める。先程だし損ねて消化不良なところもあったのか、 辻は思い切りぶちかました。 『NON STOP!!』 ドン!!! 壁は派手な音を立てて吹き飛んだ。それと同時に、 「うわ!!!」 中からは、流石に驚いたのか、悲鳴のような声が聞こえた。 「UAいいですよね。」 「それはちょっと無理やりなのれす。」 後藤班安倍班は揃って王の間へと足を踏み入れた。
577 :
13話 :04/05/09 21:34 ID:uIQMOJ+c
5人で部屋に入ると、よく分からない光景が視界に入った。 皆驚き、怯え、困った表情をしている。それはいい。 しかしその対象が問題だった。 それは自分達に向けられているものではない。藤本はその視線を目で追った。 ・・・・・!! 「どうしたんですか飯田さん!!なんで困った顔してるんですか?! やったじゃないですか!」 藤本の問いは、飯田が答える前に吉澤の問いによって中断される。 「てかなんで真琴生きてんの?!」 「ほぇ?」 小川はなんでもない表情をしている。改めて驚く飯田班矢口班。 「えっと・・・あの後死んだかと思ったら脈全然あって、寝てただけだったから 亜弥ちゃんの回復魔法とこんちゃんの『MAGICIAN』の魔法を連発したら・・・・ 回復した。で、それは!!」 藤本はすぐ聞き返す。飯田の表情は以前暗く曇っていた。 「ちが・・・違うの・・・。あたし達じゃない・・・やったの。」 「は!?じゃあ!」 藤本は振り返り、指を指すと思いきり声を上げた。 「じゃあこの転がっているつんくの首は、なんだっていうんですか!!」 To be continued...
578 :
えっと :04/05/09 21:37 ID:uIQMOJ+c
>>561 レスありがとうございます。
こうなりましたw
ちょうど後藤の発言と繋がってる場面が今回出ました。
名前はあげてませんが、まあ分かるかと思います。
>>562 レスありがとうございます。
これからもずっと読んでいただけるような面白い話にしたいです。
頑張ります!
なるほどあのときのきれっぷりから、つじちゃん、もしくはののちゃんだったのかとも思ってたんですが、 『い・ろ・ぐ・ろ』だったとは・・・ ってか小川ピンピンしてるし、ってか大どんでん返しだし・・・ほんとに意表ついてくれますな。
580 :
14話 :04/05/16 00:00 ID:9/R2O/+l
14.「Truth@」 王座に座るは首失いし国の王。足元に転がるはその王の生首。誰がどう 見ても、これはまさしく「革命」が完成された構図であった。しかし・・・。 「実際は革命軍ではなく、他の誰かが殺したという、信じがたい事実。 この状況に紺野達はただただ言葉を失うのであった・・・。」 「何やってんのあさ美ちゃん。」 「この場面に相応しいナレーション。」 「いらんわ。で、どうします?」 加護が問いかけても、誰も口を開く事はなかった。どうすると言われても、 今は何がなんだか分からない。 「とりあえず・・・。」 飯田は重い口をやっと開くと、自分でも嫌になるくらいありふれた一言を、 口から放った。 「状況を整理しよう。」
581 :
14話 :04/05/16 00:02 ID:9/R2O/+l
「あ、あたしが報告に来たときはまだ生きてました!!」 高橋が手を上げて言う。そういえばこいつスパイだったっけ、全員ふと 思い出す。高橋の話から、全員が王の間の周りの回廊に辿り着く前は、 少なくともつんくは生きていた、という事になる。 「本当に飯田さんたちじゃないんですか?」 松浦の問いに、飯田は首をブンブン振る。 「あたし達がここに来たときはまだ首ついてたけど、その・・・ 乗ってただけみたい。」 王座に眼をやりながら、飯田は嫌な顔をした。血が流れていないのがむしろ グロテスクさを演出している。全員首に目を合わせることなく、話し合いは 続く。 「つまり誰かが高橋の報告後、あたし達がここに来るまでの間にここに進入、 つんくを殺した。ってことだな・・・。」 吉澤は王座に近づき、首のあるはずの部分をじっと見る。 「・・・・・・・。大体、あたし達以外今この城で生きているのって、誰?」 石川がふと呟く。全員考える。自分たち以外、誰か生きているだろうか? 「・・・・!!」 全員ある一人を思い浮かべていた。後藤を殺した、憎き、そして最強の鬼神。
582 :
14話 :04/05/16 00:05 ID:9/R2O/+l
バン!!! 全員口を開こうとした時、ドアが強引に開かれる。入ってきたのは、 「豚バラブロック・・・。」 紺野が呟く。 「Gackt・・・。」 松浦の目は恐怖に怯えている。先程の敗北は松浦の精神面においてかなりの ダメージを与えていた。Gacktは全員の姿を見回すと、不思議そうな顔で、 「お前達、どうやって・・・。特に壁突き破ってきた方・・・。Hydeはどうした?」 hyde、という単語を聴いた瞬間、辻がピクッと震え、明らかに怒った顔で、 声を張り上げた。 「あんな奴、ののが倒したのれす!!」 「何!!」 Gacktの表情が一変する。その目からは、怒りと悲しみが両方涙となって 滲み出ていた。 「貴様ら・・・・。」 Gacktの邪気が体でじかに感じ取れる程膨れ上がる。 「あ、ご、誤解しないで!つんくは殺してないから!!」 何弁解してんだよ、全員白い目で石川を見る。しかしGacktはそんな事 聞いちゃいない。 「くそっ!!!」 ドン!!! 全員目が点になる。Gacktが蹴った壁は跡形もなく崩れてしまった。あまりの 迫力に全員一歩後退する。
583 :
14話 :04/05/16 00:07 ID:9/R2O/+l
「くそっ!!!」 グチャッ!!! 「!!!」 全員、さっきよりも驚いた。なんとGacktは落ちていたつんくの頭を 踏み潰したのだ。血や変な汁が飛び散り、全員更に一歩引く。 目は飛び出し、管がバラバラになった顔とかろうじて繋がっている。 顔は少しすると途端に溶けてなくなってしまった。全員瞬きもせずに、 その情景を騒然とした表情で見ていた。Gacktは落ち着くと、口を開く。 「そうだ・・・いい機会だから教えてやろう・・・。 つんくが国民に何故重税を強いていたかを・・・。」 Gacktは王座まで歩くと、つんくの体を今度は丁寧に、そっと地面にどけると、 王座を横から押した。 「!!」 王座は静かにスライドして行き、そこから下へと降りてゆく階段が現れる。 全員相変わらず次々と目の前で起こってゆく光景を、見ることしか出来ない。 Gacktは静かに階段の一段目に足を乗せると、言った。 「着いてこい。信用できるのならな。」
584 :
14話 :04/05/16 00:08 ID:9/R2O/+l
全員着いて行く事を選んだ。ここで着いて行かないと、謎が謎のまま 終わってしまうし、進まない事にはどうしようもない。この場に留まっても 全く得られるものがないのなら、多少危険でも着いて行った方がいい・・・。 階段で10段くらい降りてゆくと、そこはなんてない普通の部屋だった。 Gacktは奥まで歩くと、手をブロック状の壁に添える。すると触れた1ブロックは 陥没し、そこから小さな9ブロックが浮き上がってきた。 1ブロックごとに数字が1〜9まで書かれていて、Gacktはボダンを4度押す。 『1029』 部屋は静かに振動を始めた。全員なんとかその場で転ばないようにと体を 沈め、体勢を保つ。揺れが静まり、立ち上がるとGacktの前に空洞が生まれていた。 そしてその中には溢れんばかりの札束が。 ゴールド数はもう天文学的数字ではないのだろうか。 「これは?」 飯田が冷静な顔のまま質問する。 「国民から集めた金を、つんくは全部溜めて、国民の望んでる公共施設建設の 資金にしようと思ってたんだよ。・・・そんな事も知らずにお前らは勝手に 革命だとか言って・・・お前らは!!!!」 再びGacktの体から邪気が溢れ出る。全員吹き飛ばされかけるも、その場で 踏みとどまった。 「だからおいら達は何もしてないって!!」 「問答無用!!!」 Gacktは第一歩を踏み出した。
585 :
14話 :04/05/16 00:09 ID:9/R2O/+l
『ストップや。』 中澤の声が突然聞こえ、Gacktも思わずその場で足を止める。その表情が 曇ったが、全員その理由は分からなかった。 「裕ちゃん!!」 矢口が興奮気味に叫ぶ。Gacktは罰の悪そうな表情で言った。 「裕ちゃん・・・。」 「!!?」 全員Gacktの方を見る。しかしその姿を知る由もない中澤は話し出した。 『さっきから話、全部聞かせてもろうたわ。そんで分かったわ。 昔からの謎も、何もかも。皆、分かったで。つんくを殺したのはhydeのはずや。』 「え!?」 「くっ・・・。」 Gacktは下唇を噛んでいた。
586 :
14話 :04/05/16 00:10 ID:9/R2O/+l
587 :
14話 :04/05/16 00:11 ID:9/R2O/+l
つんくは妙な気分でいた。革命軍が今日突撃してくる事を知った上で、 自分が王座に座っているという事実。 普通なら突撃する事が分かっているんだから非難する。だがGacktが言った。 「大丈夫です。僕たちの強さは絶対ですよ。それに誰かがボロを出して王が いないと気づかれたりしたら、それこそ全員一気に始末するチャンスを失います。」 確かに鬼神の強さは絶対的だから心配する事は何もないはずだが、何故だか つんくは妙な胸騒ぎを覚えていた。 嫌な予感、という言葉がこの場合しっくり来るのかもしれない。 次々と知らされる撃破の報告。嫌な予感はもしかしたら現実に変わるかもしれない。 高橋が来た時点で思った。とりあえず、王の間の周りにはhydeがいるから 心配ないとは思うが・・・。 Hydeの強さには絶大の信頼を置いていた。特に今日のような日は、 夜になれば・・・・・・。
588 :
14話 :04/05/16 00:12 ID:9/R2O/+l
ガチャッ。 「失礼します。」 hydeが中に入ってくる。何の報告だろうか。つんくは目を逸らすことなく hydeをじっと見ていた。 「何の用や?」 「Gacktが苦戦しています。後藤真希によって。」 「ホンマか?!くそっ、Gacktまで苦しいとはな・・・。でも大丈夫やろ。」 「はい、Gacktが負けるはずありませんから。そしてもう一つ、言わなければ ならない事があります。」 hydeの言い方は妙に含みを持っていて、つんくにはそれが妙に引っかかった。 「どういう意味や?」 hydeはニヤリと笑うと、溜息を一息つく。 「まあ、宣告。ですかね。」 「宣告?」 「はい。死の。」
589 :
14話 :04/05/16 00:14 ID:9/R2O/+l
本当にそれは一瞬の出来事で、つんくは気がつかないうちに死んだ。 Hydeの剣は、鮮やかにつんくの首を通過してゆく。血は出たが、 全部魔法で消し去る。そして首を魔法で軽くコーティングし、切り目と 繋いで固定した。これでどこから見ても生きているように見える。 「よし・・・。」 hydeはあくびをすると、ふらふらと回復室へと歩いていった。 きっと自分が着く頃にはGacktが使っている事だろう。Hydeは歩きながら、 静かに呟いた。 「あと少しで、俺達の夢、叶うな。」 To be continued
590 :
えっと :04/05/16 00:15 ID:9/R2O/+l
すみません、こんなに間置いたのに、こんな量で。
>>579 レスありがとうございます。
出来れば話の内容を詳しく書くような感想は控えていただきたいのですが・・・。
いるかどうか分かりませんがもしかしたら読んでいる方が他にいらっしゃる
かもしれませんので。
591 :
15話 :04/05/17 22:40 ID:xT5JE0Bz
15.「TruthA」 Gacktは相変わらず罰の悪そうな表情のまま、下唇を噛み、何も言わない。 いや、言えないのかもしれない。中澤はそんなGacktを尻目にどんどん話してゆく。 全ての真実を。 『Gacktとhydeは二人で野望を抱いていたんや。 「つんくを殺して王座に着く」っちゅうな。 その上でどうしたら自分らが王座に着けるか考えた。 幸いつんくには子供はおらん。皇族も王となるには高齢すぎるか幼すぎるか。 ならつんくの指名となる。』 チッ。 舌打ちが、王の間の中で響く。Gacktの姿を見て、藤本は少しだけ笑った。 『でも二人は軍人としての評価、信頼は厚かったけど、人間的に信頼は 薄かった。なにより闇の部分を見抜いていたんやろうね。つまりつんくは 二人を選ぶ事はない。でもだからと言って暗殺して、自分たちに王座は 与えられるのか?いや、独房で一生を終える事になるだろう。 そこで二人は考えたんや。』 中澤はここで少し溜める。この間はGacktの二度目の舌打ちを招いていた。
592 :
15話 :04/05/17 22:41 ID:xT5JE0Bz
『革命軍を利用しよう。』 !! 全員スピーカーを食い入るように見つめる。 一体どういうことだ? Gacktだけは相変わらず同じ表情をしていた。 『高橋から聞いて今日攻め込んでくる事が分かった。だからこの突撃に便乗して、 二人は作戦を立てた。』 だんだんとGacktの体が震えを覚えてゆく。全員Gacktを警戒しつつ、真剣に 中澤の推理に耳を傾ける。 『hydeが王の間を守り、高橋の報告後、中へと入って殺害、そして革命軍を 全員始末した後、国民、皇族などにこう説明する。』 コツ、コツ、コツ・・・。 足音が聞こえる。全員後ろを振り向いた。そこにいたのは・・・。
593 :
15話 :04/05/17 22:42 ID:xT5JE0Bz
「裕ちゃん!!!」 矢口が声を思い切り張り上げる。中澤は少しだけ微笑むと、続ける。 「僕たちが苦戦している間に、革命軍につんく王を殺されてしまいました。 だから、私達の手で、革命軍を全員始末しました。王は死の間際に、 『国はお前達に任せる』とおっしゃられました。未熟者ではありますが、 これが王の遺言ゆえ、私達二人で何とか国を生計してゆきたいと思います。 ま、こんなところやろ。ガックン?」 『ガックン??』 全員不思議そうな顔をする。中澤は笑うと、 「久しぶりやな。」 「裕ちゃんもね。」 『裕ちゃん?!』 今度は全員叫ぶ。今度こそ聞き間違いではなく、確かに裕ちゃんと言ったのだ。 「えっと。・・・・どういうこと?」 飯田は中澤の方を向く。中澤はなんでもないような顔で、答えた。 「昔、一緒に戦った、仲間や。国営軍としてな。」 『え?!』 「まあ昔の話だけどね・・・。」 Gacktが呟く。 「昔?」 その言葉に引っかかったのは小川だった。中澤は少しだけいやな顔をすると、 「しゃーないな。話すわ。」
594 :
15話 :04/05/17 22:43 ID:xT5JE0Bz
全員一旦隠し部屋を出ると、中澤は全てを明かした。自分の過去の事を、 王国から追放されたという事、革命軍を作ったのが本当は自分の復讐のため だった事まで、全て。誰もが話を聞きながら信じられない、という顔をして、 中澤を見ていた。しかし、中澤の話はここで終わらなかった。 中澤は周りの反応を見て、一人一人に視線を移し終えると、話を再開した。 「それでな、まこっちゃんの部屋にさっき行ったんや。人望が厚かったし、 とりあえず失踪中っちゅうことになっとるからな。部屋はまんま残ってた。」 中澤はここで喋るのをやめた。全員固唾を呑んで中澤の次の言動を見守る。 「そこでな、おもろいものを見つけたんや。」 中澤はにっと笑うと、回想を始めた。
595 :
15話 :04/05/17 22:44 ID:xT5JE0Bz
596 :
15話 :04/05/17 22:45 ID:xT5JE0Bz
部屋はその当時のまま、何も変わらずに残されていた。いつか必ずまことは 帰ってくる、皇族達の僅かな儚い望みをよく表している。 しかしそれでも、まことはもう帰っては来ない。 中澤は少しだけその場で目を瞑った。 「・・・・・・・・・。」 自然と閉じた目の隙間から水が流れる。中澤は手でそれを必死にごしごしと 擦り、はぁっ、と溜息を着くと、呟く。 「まこっちゃん・・・。」 自然と零れた言葉だった。月日が流れても、友の声を忘れる事はない。 友の姿を忘れる事はない。それは親しければ親しいほどに、当たり前で、 ごく自然な事。 少なくとも中澤は、まこととは親友と呼べないにしても、友達、と呼ぶには 親し過ぎる関係だったと思っている。思い出すのは辛いが、思い出さないと もっと辛かった。中澤はまことの顔を思い浮かべると、少しだけ笑った。 「・・・・・・・・・・。」 もう一度目を瞑り、今度は手を握って黙祷を捧げる。 1分ほどの闇の後、中澤は意を決してベッドを動かした。あのときのように。
597 :
15話 :04/05/17 22:46 ID:xT5JE0Bz
当時は頭に血が登って、全く気がつかなかったが、今思い出してみると、 あのダイイングメッセージには明らかに不自然な点が一つあった。 それは、文字があまりにもはっきりと、鮮明と描かれていた事。 死を前にした人間が、それほどくっきりと文字を描けるだろうか。 しかも血を使って。はっきりと残すにはかなりの血が必要なのに対して、 かなりの量の血を使えば最後まで書き終わることなく死んでしまう可能性が高い。 なのに・・・。 「!!」 文字はあの時と同じ様に、くっきりと、鮮明に描かれていた。 月日が経って、全く薄れることなく残っている。 これはどういうことか、中澤はすぐに理解した。 この文字は・・・・。
598 :
15話 :04/05/17 22:47 ID:xT5JE0Bz
「保存魔法がかけられていてたんや。」 『!!』 これにはGacktも過敏に反応した。 明らかに動揺しているのが誰の目からも明らか。中澤は鼻で笑うと、続けた。 「でもまこっちゃんは魔法を使えへん。つまり・・・。」 「誰かの手によって意図的に残された文字、ということですか?」 松浦が冷静な表情でそう呟くと、自然と松浦へと視線が集まる。 「これがもしhydeのせいだったら、中澤さんが追放された夜、なんでGacktと hydeが城に残っていたのに説明がつきますよね。」 「流石賢いなぁ。その通りや。あの日は完全な奇襲やってん。元々二人は おるはずなかったんやし。うちにそうする様に仕向けた、と考えるのが自然やな。」
599 :
15話 :04/05/17 22:49 ID:xT5JE0Bz
「つまり・・・。」 松浦がGacktの方を向くと、全員の視線が今度はそっちへと移る。 「まこっちゃんを殺したのは、つんくやない。ガックンか、hydeや。」 Gacktは中澤と目を合わせたまま、ただただ黙っていた。目を逸らすことなく、 中澤と暫くにらみ合いを続ける。 「・・・・・・・・・・・。」 長い沈黙。そして・・・。 「皆、言うとおりだよ・・・。」 Gacktは重い口を漸く開く。中澤はその言葉を聞くとニヤリと笑った。 「えらい素直やん。」 Gacktはピクッと体を震わせ、目を細めたが、攻撃に出るようなことはなく、 「ここまで完璧に推理されちゃお手上げだよ。」 Gacktは両手を上げてみせると、笑顔になった。 なんだというのだろう、この余裕は。全員心底Gacktの行動に嫌悪する。 しかし、中澤はそれ以上に余裕だった。 「じゃああとはガックン倒すだけやな。」
600 :
15話 :04/05/17 22:52 ID:xT5JE0Bz
「裕ちゃん相変わらず冗談巧いね。」 Gacktは笑いもせずにそう言うと、中澤は笑う。全員二人の世界に着いて いけず、まるでスクリーンで上映されている映画を見ているかのような感覚を 憶えていた。なんというか、絶対に届かない、そんな感覚。 「『BLURRY EYES』がかけられた状態でどうするつもりかな?」 『BLURRY EYES』とは中澤が国から追放される日にhydeにかけられた抑制呪文。 この呪文にかかると戦闘力を物凄い制限され、まともに戦えなくなってしまう。 しかも効果は術者が術を解くまで。しかし、 「アホ。Hydeが死んだから、全然切れとるわ。あんな呪文。せやからもう、 体は動くで〜?」 「!!!」 全員目を疑う。 中澤は話し終えた頃には姿を忽然と消してしまったからだ。 「!!!」 再び目を疑う。 中澤はGacktの目の前に現れ、日本刀をGacktの首元に突きつけていた。 「今、殺ろうと思えば、殺れたで?なんか、抑制呪文中に鍛えて人並み以上の 動きができるようになったせいか、体がめっちゃ動くんやけど。前より強なってるわ、うち。」 中澤は笑って見せると、日本刀をGacktの喉から引いた。 「・・・術が解けているのは本当みたいだね。」 Gacktは一歩後退すると、何もない所から剣を取り出す。 「行くよ。」 To be continued...
601 :
えっと :04/05/17 22:53 ID:xT5JE0Bz
更新終了です。 こんなところで悪いのですが、今週テストのためこの間みたいに 更新が遅れてしまいそうです。
602 :
16話 :04/05/23 21:42 ID:kVrMkGQc
16.「Death crow’s wife」 キンキンキン!! ガン!!
603 :
16話 :04/05/23 21:44 ID:kVrMkGQc
もうかれこれ5分くらいだろうか。二人の戦いは想像を絶するレベル。 革命軍は誰一人として、その一挙一動を見逃さなかった。目を離すことをも 惜しむような、そんな戦い。 それほどまでに、二人の動きは信じがたいものだった。 「裕ちゃん・・・。」 矢口は固唾を呑んで見守る。手と手を握り合わせ、胸の前に出し、祈った。 でも、それにしても・・・。 矢口、いや全員頭の中に一つ疑問を抱えながら、この戦いを見ていた。 中澤裕子はこんなに強かったのか? さっきの話からして今まで力を大分制限されていたらしいが、それにしても 凄過ぎる。きっと速過ぎてほとんど見えない、という娘もいるだろう。 いくら動きを抑制されていたとはいえ、これほど格差があっていいものか。 普段の戦いにおいて中澤のランクは藤本クラス。 決して弱くはなく、むしろ主戦力の部類に入るが、 後藤や吉澤、飯田ランクには敵わない。 しかし今のこの実力はおそらく、いや、間違いなく、後藤真希を超えている!
604 :
16話 :04/05/23 21:45 ID:kVrMkGQc
しかしとりあえず今はそんな事どうでもいい。 とにかく今はただ、中澤がGacktを倒すよう、祈るだけ・・・。 矢口は決して目を離さないと、胸に誓った。 刀と剣の激しい攻防戦。人によっては金属と金属が交じり合う音しか 聞こえないに違いない。矢口自身、目で追うのがやっとだった。 刀と剣も何とか見えるくらい。避ける事なんてまず出来ないだろう。 次第に中澤が押し始めた。矢口は握る手の力を強める。Gacktが次第に 苦しそうな顔をしながら後退してゆく。そのときだった。 パキッ。 『!!!』 なんと中澤の刀が、真っ二つに折れてしまった。おそらく長年使ってきたために たまった金属疲労から来たもの。Gacktは容赦なく剣を振り下ろす。 しかし中澤も負けない。
605 :
16話 :04/05/23 21:48 ID:kVrMkGQc
『上海の風』 魔法?! 全員目を丸くする。 全員てっきり中澤は魔法を使えないものだと思っていたから、びっくりして 何も言えなくなってしまった。 おそらく本当に使えなかったのだろう、今までは。 となるといよいよ中澤の実力の底が見えなくなってきた。 気づくともう動いている戦況。魔法によって吹っ飛ばされたGacktを、 中澤は既に拳で攻撃を加えていた。Gacktは剣を落としている。 今度は肉弾戦が始まった。 中澤の連続して放たれ続けるパンチを、Gacktは物の見事に掌で受け止める。 その時中澤は背後に気配を感じた。
606 :
16話 :04/05/23 21:49 ID:kVrMkGQc
「?」 後ろを振り向く。 !! それはGacktの足だった。 Gacktの人並み外れた柔軟性が、無理な角度の足の返しを可能にしているようだ。 交わす時間がない!!全員目を思わず瞑った。 ビュッ!! しかし聞こえてきたのは風を切る音だけ。なんと中澤はブリッジでかわし、 そのままバック転から両足でGacktの足を挟んだ。 「!!」 「うおりゃぁ!!!」 思い切り足を下へと下げると、Gacktの体は宙を浮く。 Gacktの脳天はそのまま地面へと・・・・。
607 :
16話 :04/05/23 21:51 ID:kVrMkGQc
ドンッ。 「な!!」 なんとGacktは叩きつけられる前に自ら体を撓らせ、さっきの中澤のように ブリッジの体勢をとった。地面についているのは足だけ。それに対し中澤は腕だけ。 どっちの方が踏ん張れるかは、言うまでもない。 「ふん!!!」 Gacktはなんとありえないこの体勢から、そのまま起き上がり、中澤を空中へと 吹き飛ばした。Gacktは休む間もなく空中へと飛ぶ。 無重力状態の中澤へ、今度こそとばかりに蹴りを。 しかし中澤はその時、詠唱を唱えていた。
608 :
16話 :04/05/23 21:53 ID:kVrMkGQc
『DEATH CROW』 中澤の体が黒い光を帯びる。と思った時には中澤の姿は既にそこにあらず。 黒い光はGacktの体へとまっすぐ伸び、貫くと、その周りから起こる衝撃に 全員吹き飛んだ。 中澤は見事に着地し、Gacktの方を振り向く。 Gacktは片腕で着地すると、すぐに体勢を整えた。 二人とも、大したダメージはないようだ。 「武道も・・・よっすぃー並?」 飯田が本当に小さな声で呟く。全員ただただ驚くばかりだった。 パンチもキックも、威力、精度共に1級品。 さっき同様、目で追うのがやっとの攻防が続いてゆく。 「あれ・・・・。」 紺野はふと、二人を見て、 「笑ってませんか?二人とも。」
609 :
16話 :04/05/23 21:54 ID:kVrMkGQc
「準備運動はこんなもんでエエやろ。」 「ああ。」 『え?』 その言葉の真意を聞けないままに、二人の姿は完全に消えてしまった。 でも確かに聞こえる、何かと何かがぶつかる音。 そしてその音が発生した辺りからは、常に強い衝撃が外側へと広がっている。 実力のある娘、そして動きに定評のある娘はなんとかその動きを目で追えているが、 他はただ音に合わせて1テンポ遅れて首を曲げるだけ。 全員首が痛くなるくらいに左右へと視線を動かす。 それでも中澤とGacktは全然疲れていないように、というより呼吸すら 乱していないように見えた。 ある時部屋の中央、空中に二人の姿がはっきりと現れた。お互い右手を引き、 気を蓄積している。 「うらぁ!!!!」 拳と拳が交わった瞬間、室内を閃光が走った。 そして一歩遅れて、物凄い衝撃が、二人から室内全体へと広がってゆく。 逃げ場すらない。抵抗する事すら出来ず、全員壁まで吹き飛ばされた。
610 :
16話 :04/05/23 21:57 ID:kVrMkGQc
やがて、光で何も見えかった視界が開ける。二人ともお互いに瀬を向け、 その場に立ち尽くしている。 どうなったんだ?! 全員固唾を呑んで見守る中、とうとう耐え切れなくなった中澤が膝をついて倒れた。 「裕ちゃん!」 矢口が壁にぶつかり負傷した体も気にせずに駆け寄る。 「くっ!!」 Gacktも地面に手をつき崩れ落ちた。どうやらさっきの勝負は相打ちらしい。 二人とも何とか立ち上がると、すぐに向き合い、睨み合う。 「矢口!」 中澤が手を差し出す。矢口はすぐに理解し、その手をめがけて筒のような物を 投げた。筒はぴったり中澤の掌に納まり、中澤はそれを持つと剣のように構えた。 すると筒の頭からは闘気が飛び出す。 オーラブレード。 「オーラブースターか・・・。」 Gacktは若干嫌そうな顔をした。 オーラブースターとは、オーラブレードを放つ上で役に立つアイテム。 これはオーラを蓄積するだけで簡単に剣状に姿を変えてくれる。 しかも増幅装置が着いているため、使用者の実力以上のオーラブレードを 放てるというオプションもついている。別にオーラブレードは棒切れでも 何でも放とうと思えば何ででも放てるし、実力があれば素手からでも放てるが、 消耗が早く、威力もオーラブースターを用いた場合に遠く及ばない。
611 :
16話 :04/05/23 21:59 ID:kVrMkGQc
「なら。」 Gacktは何もない所からいつもように剣を取り出し、剣に邪気を込めた。 こちらも負けずに恐ろしい量のエネルギーを剣先から放出している。 「・・・・・・・・・・・。」 両者8メートルほどの間隔を置いて睨み合い。 気を抜く事を許されない、二人の周りをやがて、風が舞い始めた。 風は二人以外を周りから排除するかのように激しくなってゆく。 「うわ!!!」 全員慌てて離れるも、当の本人達は完全に集中しきっていて、まるで外の様子を 気にすることはない。誰も近づけない空間に、二人だけの決戦。 全員直感した。 次の一撃で勝負が決まる!
612 :
16話 :04/05/23 22:01 ID:kVrMkGQc
睨み合いは尚も続く。どちがら先に攻めるのか、お互い目を睨み付け合う中、 巧妙な駆け引きが行われているのだ。しかし同時に、二人の体は蝕まれてゆく。 二人は常に闘気、邪気を放出し続けているのだ。しかも半端ない量を。 もしこのままこの状態が続けば、いずれ両方ともエネルギーの放出で 干からびてしまうだろう。耐え切れなくなった方が、先に攻める。 しかし先に出たということは、相手に自分が苦しいという事を教えてしまう ことになるのだ。二人の我慢対決は続いてゆく。 いつまで経っても二人のエネルギーは衰える様子がない。とうとう夜に なってしまった。月の光が、室内へと流れ込んでくる。今日は満月らしい。 次第に二人は息を乱し始めた。しかしそれでも衰えることはない。 それどころか、更に増幅されているように、全員は感じた。永遠にこの画が 続くのではないか?そんな錯覚を覚えてしまうほどの静寂。 聞こえてくるのは、二人を取り囲む風の音だけ。 そしてとうとう、耐え切れなくなった一方が飛び出した。
613 :
16話 :04/05/23 22:02 ID:kVrMkGQc
『!!』 全員驚いた。 先に飛び出したのはGacktの方だったのだ。 考えてみればオーラブースターと直接では分が悪かったのだろうが・・・。 全員握る手の力を更に強める。中澤はGacktが飛び出したのを確認すると、 闘気を一気に放出する。なんとまた一次元上へと行ったのだ。 「なんてスケールのでけぇ戦いだ。」 吉澤はひしひしと闘気を身に感じながら、少しだけ震えていた。 Gacktは手を思い切り振り上げる。それに対し中澤は小刻みにステップし、 どこからでも対処の効く様に動いている。死角はない。 Gacktが腕を一気に振り下ろすと、中澤は右へと移動し、剣を振り上げた。 「いけーーーー!!!!」 矢口は思い切り叫び声を上げた。 決めてくれ!!! 全員心からそう願う。 そしてその願いは、中澤が右へと移動した所で確信へと変わっていた。
614 :
16話 :04/05/23 22:04 ID:kVrMkGQc
決まった! 誰もがそう思った時、まさに中澤が闘気を最大限に高め、Gacktへ全てを 叩き込もうとしていたその瞬間、Gacktの口元が、僅かに緩む。 『Vanilla』 Gacktがそう呟くと、Gacktの邪気は誰でも感じ取れるくらいに一気に膨張した。 左右へと闇の波動が、一気に伸びてゆく。 中澤は剣を振り下ろしているから、交わすことも受け止める事も出来ない。 どうしようもなく絶望的で無感情な闇が、中澤を貫いた。
615 :
16話 :04/05/23 22:07 ID:kVrMkGQc
外傷がほとんどない。 だから逆に、全員が倒れている中澤を屍だと理解するのに時間がかかった。 見た目では、寝ている人にしか見えない。表情も安らかで、傷らしい傷は 擦り傷くらいしかない。でも、中澤は息絶えている。 全身を闇の波動が中澤を包み込み、今も尚体を蝕んでいる。 矢口はすぐに駆け寄ると、中澤に泣きついた。 「裕ちゃん!!!!裕ちゃん!!!」 全身がガタガタと震えている。 邪気に包まれた中澤の体は、触れるだけでダメージを与えるのだ。 本来なら誰かが身を挺して矢口を止めなければならない所だが、 矢口の気持ちを思うと、誰も止める事は出来なかった。Gacktは鼻で笑うと、 返事をすることのない中澤に話しかける。 「忘れたのか?僕は月の子だ。」 Gacktは中澤の横にしゃがみ、顔を見る。 「......。」 小声だったが、矢口には確かに何と言っているか聞こえた。 その一言は、矢口の脳内を混乱させ、蟠りを残させるものとなる。 Gacktは離れ、全員を視界に捕らえられる場所まで下がると、 「あとはお前達を殺せば、国は僕の物・・・か。 とりあえず、雑魚は消えろ。」 Gacktの右手に邪気がたまる。
616 :
16話 :04/05/23 22:08 ID:kVrMkGQc
「やばい!!」 飯田は左手から魔弾を放ち止めに行く。しかしGacktの動きがそれを勝っていた。 『鶺鴒』 Gacktがその言葉を唱えると、部屋中全体を重苦しい空気が包んだ。 激しい重圧。やがて何人もの娘の体を黒い闇が包み込む。 『!!』 闇に包まれた娘達が、次々と地面に吸い込まれてゆく。次々に聞こえる悲鳴。 そして革命軍は、あっという間に僅か5人にまで人数を絞られてしまった。 「レベルの低い奴は消える、それだけの事だ。」 Gacktはなんでもないように言う。 「みんなをどこにやった!!!!」 飯田が鋭い目つきでGacktを睨む。 「下の独房の奴等の相手を、ちょっとね。」 わざと親指を下に向け、挑発的な態度をとる。 それを見た瞬間、頭に血が登った吉澤が飛び出しかけるも、藤本がそれを止めた。 矢口はまだ中澤の体の傍でしゃがんでいる。 Gacktは5人全員を見回すと、不思議そうに呟いた。 「それにしても・・・高橋は何故残った?」 To be continued...
乙! 続き待ってます。
618 :
17話 :04/05/26 00:07 ID:kb64SQiB
17.「秘められし・・・」 Gacktの質問に対して、高橋は焦るだけで、全く答える事はなかった。 「もう一度聞く。どうしてお前は残ったんだ!!」 Gacktは強い語調で叫ぶと、地面を思い切り踏む。地面はすぐに陥没し、 軽い地割れが起こり、全員その周りから一歩退く。 Gacktは軽く息を切らすと、整えるまで月の光を浴びていた。 落ち着いた所で、Gacktはもう一度高橋の方を見た。 「『鶺鴒』はその空間内から一定レベルの闘気、魔力、邪気を持ち合わせて いない者を排除する呪文だ。つまりここに残ったという事は、強い、ということだ。 だが・・・。」 チラッと高橋を見ながら、Gacktは鼻で笑う。
619 :
17話 :04/05/26 00:08 ID:kb64SQiB
「一人浮き足立っている。」 「そ、そそそんなこと全然ないです!!!」 「敵相手に敬語だし。」 「ないよ!!!」 「訛ってるし。」 「な、訛ってません!!」 「また噛んだ。しかも敬語。」 「うっ。」 高橋はそれっきり黙りこんでしまった。Gacktはまた笑うと、すぐに表情が沈む。 「分からない・・・。」 頭を抱えて悩みだしてしまった。それを見た矢口はゲラゲラ笑っている。 Gacktは思い出していた。 スパイ・高橋愛について。最初から・・・。
620 :
17話 :04/05/26 00:09 ID:kb64SQiB
621 :
17話 :04/05/26 00:10 ID:kb64SQiB
「スパイ?」 「ああ。」 hydeに聞いて初めてその事を知ったが、最初は正直、寝耳に水。 裏切りに続いてスパイとは、裕ちゃんも大変だな、なんて敵ながら少しだけ 同情していた。でもそれは新垣の働きによるものだと聞いたとき、同情は 高橋本人へと移動する。 新垣の目は完全に出世に眩んでいて、そのためならどんな手も惜しげもなく使う。 個人としては大した力があるわけではないが、そういう奴に弱みを見せると 怖い目に合ってしまう。高橋はそんな良い例だった。新垣をより一層警戒する きっかけをくれた事に感謝すると共に、同情し、なるべく酷な注文は、 個人的にはしないようにしよう、そう思って初めて会った。 そしてGacktは自分の考えの間違えに気づく。 酷な注文はしないようにしよう、ではなく、出来なそうだ・・・。
622 :
17話 :04/05/26 00:11 ID:kb64SQiB
「は、は、初めまして!高橋愛です。」 「いや、そんな改まった自己紹介されても・・・・。この間戦わなかった?」 hydeに指摘されあわわと焦り出す高橋。 「昨日の敵は今日の友、って言うじゃないですか。そんなわけでよろしく お願いします。」 「え?今なんて言った?」 Gacktは早口の訛りについていけず、最初のうちはかなり手こずった。 「いやだから、aqawwretfgryjui;/.olk,mutjynrhtbgevrf。」 「もうちょっとゆっくり、訛りなしで言ってくれない?」 「いや訛ってないですって。」 全然ゆっくりになってくれない上、全く自覚症状がない。 こいつは果たしてスパイとして機能するのか?答えはイエス。 最初の頃は紙に言葉を書いてつんくに報告させられ、不思議そうな顔をしていた。 だんだんと慣れてくるとようやく聞き取れるようになったが、 次に新たな問題が発生する。
623 :
17話 :04/05/26 00:12 ID:kb64SQiB
「なるほど、よう分かった。」 つんくがなんとか聞き取ると、報告は終わりを告げた・・・はずだったが、 「中澤さん言ってましたよ。つんく殺すのは簡単だから鬼神をどうするかだって。」 ピクッ。 それを聞いた瞬間つんくの表情が目に見えて歪む。 一言多い。 これは情報を漏洩する役職の人間としてはかなり致命的。 この勢いで口を滑らせ、向こうにスパイだということを察せられてしまっては 元も子もない。つんくはそれによって、hydeに教育係を押し付けた。 「今更教育なんていりませんよ。」 高橋の主張はあっさりと却下され、hydeはいやいや仕事をする破目になる。 しかし、高橋は土壇場でとんでもないミスを犯してしまった。
624 :
17話 :04/05/26 00:13 ID:kb64SQiB
「ということは・・・。」 つんくはちょっといやそうな顔をして、呟いた。 「明日攻め込んでくるんか。」 「はい。8時から詳しい作戦についての話し合いが軽く行われます。」 「ほう、8時に・・・・。8時?」 「はい。8時です。」 「お前、大丈夫か?今8時5分前やぞ?」 「え。」 高橋は王の間にかけられた時計に眼をやる。 「あーーーーーーー!!!!」 「急げ!!!何があってもあと5分でつけ!! 変に遅刻してバレたら最悪やぞ!!!」 「失礼します!!!」 高橋は窓から飛び降り、そのまま中澤家へ向かって飛び立っていった。
625 :
17話 :04/05/26 00:14 ID:kb64SQiB
626 :
17話 :04/05/26 00:15 ID:kb64SQiB
結局どんな理由でかは分からないが、高橋はもうスパイであることがバレ、 完全に革命軍側の人間に戻っていた。 「昨日の敵は今日の友、なんて自己紹介のとき言ってたっけな・・・。」 Gacktの呟きに高橋は頬を赤く染める。 「結局今日の敵、になったみたいだけど・・・。僕の中にお前が強かった イメージはない。」 高橋はちょっと悔しそうな顔をして、拳を思い切り握り締めた。 だが藤本以外の残り全員は、納得していた。この結果について。 「だが残念ながら、お前は強くないと色々矛盾が生じる。ということは・・・。」 Gacktはかなり考えながら言葉を発した。 「レベル制限ギリギリなのか?いや、それでも後藤の言っていた事と矛盾する・・・。」 Gacktがそう呟いた瞬間、全員過剰に反応した。 後藤の言っていた事。 一体後藤は、何を言っていたというのだろうか。 全員の視線に気がついたのか、Gacktは周りを見ると、 「そういえばマネキンはどうやって倒した?」 ガクッ! 上手く交わされ全員すべる。
627 :
17話 :04/05/26 00:16 ID:kb64SQiB
「おい、聞いてるのか。誰が倒した?この中でマネキンと戦ってるのは、 吉澤、飯田、高橋、矢口・・・。藤本以外全員か。まあとりあえず、 誰が倒したのか、見させてもらおうか。」 Gacktが手を宙に浮かべると、巨大なモニターのような物体が現れた。 そしてそのモニターには、先程のマネキン戦の様子が映し出されている。 「!!」 一番驚いたのは藤本。 高橋が、『HEAVEN’S DRIVE』を放っている! そしてもう一つ驚いたのが『シャボン玉』の数。 ありえない数のシャボンが、マネキンに襲い掛かってゆく。藤本はなんだか 訳が分からず、高橋の方をチラ見していた。一方Gacktは、 「hyde・・・余計な事を。」 そう呟き、後藤の一言を思い出していた。
628 :
17話 :04/05/26 00:17 ID:kb64SQiB
「今の、ごとー達の、中で、ごとー以外.、あんたとまともに、 ・・・戦う力、あるのは、もう、よっすぃと、高橋しか、いない・・・。」
629 :
17話 :04/05/26 00:18 ID:kb64SQiB
もしかしたら後藤は、高橋をスパイだと知った上で、一戦交えた事が あるのかもしれない。そうでないと説明がつかないほどに、藤本は ありえない、と言った表情を浮かべていた。 しかし一つ気になったのが、常にその力を発揮しているわけではなく、 弾みで突然目覚める事だった。Gacktは少し考え、 「なるほど・・・。自覚はあまりないみたいだが、覚醒すると危険だ。 やはり、全員殺さないといけないみたいだね。」 Gacktがそう呟くと、全員身構えた。 「今夜、君達の希望は泡となって消える。」 To be continued...
630 :
えっと :04/05/26 00:20 ID:kb64SQiB
>>617 レスありがとうございます。
ここからすぐに終わるようで結構長いので、最後までどうかお付き合いください。
ほ
632 :
0−3 :04/05/31 22:09 ID:hKoREKMW
0−3「Secret...」 「以上で報告終わりがし。」 「ご苦労やった。」 これは、ようやくつんくが高橋の言葉を聞き取れるようになって来た頃の話。 高橋はつんくへの報告を終え、家へと帰ろうとしたとき。 「愛ちゃん。」 「はい、何か用ですか?hydeさん。」 hydeは高橋を呼び止める。 高橋は早く家に帰りたくて、かなりウザったく感じていたが。 「教育係って言っても大して何もしてないから、一つ呪文を教えようかな、って。」 高橋はすぐに食いつく。Hydeのあの強力な呪文を一つでも吸収出来れば、 少しは役に立てる、そう思ったからだ。ただ高橋は不安もあった。 果たして自分がhydeの呪文を果たして、使いこなせるだろうか? 「で、何教えようかな・・・。」 hydeが迷っている間にも、高橋は不安と期待の中渦の中で悩んでいる。 Hydeはそれに気がつくと、言った。 「君は自分が思っているよりも、強いよ。」
633 :
0−3 :04/05/31 22:10 ID:hKoREKMW
hydeが高橋に教えたのは『HEAVEN’S DRIVE』。 一見、紺野の『WHEEL OF FORTUNE』と全く同じ技に見えるが、威力はそれを はるかに凌ぐ。それは紺野とhydeの単純な実力差では説明出来ないほど、 差のあるものだ。 「仮にお前が紺野と同じ魔力だとしても、『HEAVEN’S DRIVE』は 『WHEEL OF FORTUNE』の1.5倍車輪が大きく、数が多く、スピードも速い。 ただし、マスター出来なければかなり中途半端なものとなり兼ねないから、 しっかりやるぞ。」 hydeは特に何も考えていなかった、と言うのが正解かもしれない。 今はスパイだが、新垣が何かで死に次第、完全に革命軍に戻られる可能性が あるというのに、hydeは呪文を教えた。 新垣が死ぬと言う可能性が頭に無かったのか、 高橋を繋ぎとめる自信があったのか。 hydeが死んだ今はもう分からないが、少なくともこの時点では、高橋は上で 書いたようなことは全く考えてなく、与えられた責務をこなす事に必死だった。
634 :
0−3 :04/05/31 22:13 ID:hKoREKMW
「・・・完璧。」 hydeの言葉に、高橋は今日初めて笑顔を見せる。Hydeはその笑顔を見て、 「元に戻っちゃったか。」 とだけ呟いた。 「あたし帰ります。」 高橋はすぐに窓から飛び出す。落下しながら魔力を調節し再浮上、そのまま 夜空を舞う様に帰ってゆく。
635 :
0−3 :04/05/31 22:14 ID:hKoREKMW
「今日の会議はここらへんで終わりやな。じゃあ、また明日な。」 中澤の声と共に、会議は今日も終わりを告げる。 高橋はみんなで家に帰ろうと、紺野と小川がいる方へと向かった。その時、 ガシッ。 「!!」 急に肩を掴まれ、高橋は飛び上がるほどびっくりする。 目を大きく開け、後ろを振り向くと、肩を掴んでいたのは後藤だった。 後藤の表情は、完全に曇りきっている。 「ちょっと来てくれない?」 「は、はい・・・・。」 あたしなんか悪い事したやろか〜? 恐喝される小学生みたいにびくびくしながら高橋は後藤についてゆく。 中澤の家を出ると、後藤は空を飛び、後ろを振り向いた。 遅れて飛び上がる高橋。ゆっくりとした飛行が続く。 それが逆に高橋に恐怖を感じさせた。そして二人は何もない、開けた広場まで飛ぶと、着地した。
636 :
0−3 :04/05/31 22:15 ID:hKoREKMW
「高橋・・・。」 「はい・・・。」 何をされるのだろう。高橋はかなりびくびくしていた。 「昨日さ・・・・。」 後藤はかなり溜めを作りながら話す。 「お、お金ならないです!!」 「違うよ!!!」 「ごめんなさい!!!」 高橋はびびりっぱなしで、後藤は申し訳なさそうな顔を一瞬だけするも、 すぐに表情を引き締めた。 「昨日、城から飛び出すところ見たんだけど、どういうこと?」 「!!!」 後藤の口から飛び出した言葉は、あまりに予想外だった。高橋は考えた。 どうする?しらばっくれるべきなのか? 「ねぇ。答えて。」
637 :
0−3 :04/05/31 22:17 ID:hKoREKMW
638 :
0−3 :04/05/31 22:18 ID:hKoREKMW
高橋がちょうど城で報告をしていた時、偶然後藤は市井の墓に一人、 祈りに行っていた。週1回は必ず祈りを捧げに行く。 それが後藤の日課だった。 「もうすぐ、きっともうすぐ終わるから・・・。」 ついで、と言っては失礼だが、後藤は亡くなっていった他の仲間達にも、 黙祷を捧げる。目を瞑れば、そこは闇。静かな霊園の中、後藤は一人、涙した。 「もうそろそろ行くね・・・。」 後藤は市井の墓を撫でると、ゆっくりと、歩き出す。 墓は城の南門付近にあったため、かなり慎重に進まなければならない。 そのため安全な空のルートを使う事が多かったが、この日は気まぐれで 歩いていた。不意に視線を空へと上げれば、星空が綺麗に輝いている。 それは革命軍と国との争いでさえ、簡単に全て飲み込んでしまいそうなほど 壮大なものを感じさせた。一つ一つの輝きから、海のように広がる光たちに 暫くうっとりとする後藤。しかし目の前を通過した物体によって、あっさりと 現実世界に戻される事になる。 城の窓から、高橋が飛び出した。落ちる。持ち直す。 舞うように空を飛んでゆく。その一連の動作は、後藤に物凄い衝撃を与えた。
639 :
0−3 :04/05/31 22:20 ID:hKoREKMW
「どういう・・・・こと?」
640 :
0−3 :04/05/31 22:22 ID:hKoREKMW
「どういうこと?」 後藤にせがまれ、高橋は更に目を大きく開ける。高橋の脳内はフル回転していた。 どうすればいいのか、とても脳内で情報を処理し、判断しきれないくらいに、 高橋は焦っていた。そのため言葉が出ず、 「言えないってことは・・・。」 後藤はそこまで言うと、猛スピードで高橋の目の前に突っ込む。 その右腕は思い切り引いている。それはまるで放たれる前の拳銃のように。 「ちょっ、待ってくださ」 ピタッ。 後藤の腕は、高橋の目前で正確にストップした。 「少しは言う気になった?」 後藤の笑顔は、その恐ろしさを引き立てるオプションとしては充分過ぎる。 とりあえず否定しなければ。高橋の脳内で結論が出された。 「な、なんにもないですよ。変ですよ、後藤さん。」 後藤は高橋の目をじっと見る。高橋も目を見つめ返す。 二人の視線が、しばしの間絡みあった。 「じゃ、次は止めない。」 後藤は3歩引くと、さっきよりもスピードを上げ、突っ込んできた。 今度は拳を止める様子も無い。止むを得なかった。
641 :
0−3 :04/05/31 22:23 ID:hKoREKMW
ピュッ!!! 高橋は何とか後藤の拳をかわした。 そしてかわした瞬間、高橋の目が明らかに変化する。後藤はすぐにそれに気づく。 「?」 高橋はすぐに行動に出た。 『HEAVEN’S DRIVE』 「え?!」 高橋の周りに現れた車輪が、後藤へと襲い掛かる。後藤は知っている。 それがhydeの技だと言う事を。 そして紺野の『WHEEL OF FORTUNE』も。 だから、後藤は思わずひるんだ。地面に落ちていた枝を拾い、後藤は オーラブレードを形成、なんとか弾くも一つの車輪に吹き飛ばされる。 「うっ!!!」 予想以上の威力に、後藤は更に驚かされた。一体どういう事だ? 高橋の魔力が普段と明らかに異なっていた事に、焦らずにはいられない。 『シャボン玉ぁ!!』 1000単位のシャボンが、後藤に降り注ぐ。 一つでも割れば魔力の波紋が広がり、大ダメージを食らうことになるだろう。 なら! 後藤は瞬時に判断し、動いた。
642 :
0−3 :04/05/31 22:24 ID:hKoREKMW
「うおぉぉぉ!!!」 後藤は何と、シャボン玉へと突っ込んだのだ。 尚も高橋の手からはシャボンが放たれ、後藤の方へと伸びている。 シャボンと後藤との距離がどんどん狭まる。 1メートル、50センチ、20センチ、5センチ。 「とぅ。」 フェイント!! 高橋が気づいた時にはもう遅い。後藤は空中を舞い、そこに枝を落とした。 天才だからこそ瞬時になせる業。所詮シャボン、枝だけでも割れる。 パンッ!! パンパンパンパンパンパン・・・・・・・。 破裂したシャボンが周りのシャボンを破裂させ、その連鎖は高橋自身を襲うものとなる。 一気に打ち寄せる波紋を、高橋はかわせない、後藤は空中で思った。 なんせ、かわす距離がないのだ。もうあと1秒もしないうちに高橋は自らの 技で地面にひれ伏す・・・。 しかし後藤が考えている以上に、高橋の実力は底なしだった。
643 :
0−3 :04/05/31 22:25 ID:hKoREKMW
高橋は避けるそぶりを全く見せない。その代わり、高橋は手を迫り来る 魔力の波に向けて翳してみせる。すると魔力はどんどん高橋の手の中へと 吸い込まれていった。 「!!!」 吸収。 これはかなり実力のある魔導師でないとまず成功することなく自滅する技。 しかし高橋は全魔力を己の中へと戻してしまった。 そして高橋はすぐに動き出す。空中に飛び、後藤に襲い掛かったのだ。 「くっ!!」 後藤は瞬時に両拳に闘気を蓄積、一気に放出する。 『Do it!』 拳の形そのままに大きくなった闘気が、まるでロケットパンチのように 高橋へと突っ込んでゆく。二つとも凄まじいスピード。かわせるはずがない。 しかしまたも後藤の期待は裏切られ、絶望感に駆られる事になる。
644 :
0−3 :04/05/31 22:26 ID:hKoREKMW
バン!!! なんと、高橋は両方の闘気を左手一振りで払い飛ばしてしまった。 後藤の方へとそのまま飛んでくる。 更に、高橋は両腕に闘気を蓄積し、さっき後藤がして見せたように、放った。 『Do it!』 合計4つ。後藤は腹をくくる事にした。 「うぉぉぉぉ!!」 後藤はそのまま突っ込む。高橋の目は、どうせまたフェイントだろ?と言った目。 しかし今回は違った。なんと後藤はそのまま突っ込んだのだ! ドンドンドンドン!!! かなりのダメージを受けつつも、後藤のスピードは全く衰えない。 そしてこの裏の裏をかく行動によって、後藤は高橋の目の前に、あっさり 到達した。 「!!!」 高橋の目が、一瞬恐怖に怯える。瞬時の判断力、実行力、やはり後藤真希は天才。 『Baby!Knock out!!-type gun-』 拳から、さっきとは比べものにならない闘気が、弾丸の如く飛び出した。
645 :
0−3 :04/05/31 22:27 ID:hKoREKMW
ドサッ。 「あ・・・あ・・・・。」 高橋は、放心状態のままカオナシのように唸っている。 わざと顔面真横を通過した弾丸で、高橋のトランスは完全に解けてしまった。 トランスの解けた高橋は、もはやいつもの高橋。物凄くびっくりした顔のまま、 高橋は地面へと落ちた。 後藤はゆっくりと、その後を追って着地する。 「ご、ごめんなさい!!!」 後藤が着地した瞬間に、高橋は絶叫した。 後藤はそんな高橋を見ると少し口ごもり、 「・・・なんか調子狂うなぁ。」
646 :
0−3 :04/05/31 22:29 ID:hKoREKMW
高橋は全部話した。自分がスパイをやっていると言う事、その理由、いきさつ全て。 全てを告白した高橋は、涙を流して、 「もう革命軍にいられません。 まこっちゃんとあさ美ちゃんによろしく言っておいてください。」 「いや、いて。スパイも続けていいから。」 後藤の口から飛び出した言葉は、また高橋の顔をびっくり顔へと変貌させる。 後藤はそれを見て笑うと、 「ただし。」 こう付け加えた。 「ガキさん倒したら、スパイごっこはおしまい。OK?」 ごっこ、と付いていたのが高橋には不服で仕方がなかったが、 「はい。」 高橋にはこう答えるしか、道が無かった。 その後二人はそれまでと全く変わらない関係を保ったまま、革命の計画も 着々と進んでゆく。ただ一つ、後藤の心に高橋愛の強さを残して。 To be continued...
647 :
えっと :04/05/31 22:30 ID:hKoREKMW
>>631 保全ありがとうございます。
駄目ですね、最近更新遅くて。なるべく早く次回を書けるよう頑張ります。
648 :
18話 :04/06/02 21:29 ID:vAXGYoFV
18.「最初の扉」 「・・・・・・・ん・・・・。」 目が覚めるとそこは薄暗い牢獄だった。 加護は辺りを見回すと、目の前に倒れている辻の存在に気がつく。 立ち上がると少し立ちくらみがしたが、なんとか辻の前に辿り着き、 「おい・・・・のの・・・。」 ゆっくりと肩を摩る。辻は少しだけうなされているような声を上げたあと、 静かに目を開いた。 「あい・・・・ぼん?」 むくっと起き上がると、痛みを感じた瞳はかすかに歪む。 痛みを感じた左肩に目をやると、肩口から血が流れていた。それを見ると 同時に、二人は思いだす。自分達の身に何が起こったのかを。 二人はすぐに視線を真上へ、自分達が落ちてきた天上を見上げた。
649 :
18話 :04/06/02 21:30 ID:vAXGYoFV
650 :
18話 :04/06/02 21:32 ID:vAXGYoFV
『鶺鴒』 その声が聞こえた瞬間、全身に強い重圧を感じたのを、今でもはっきりと 二人は覚えている。そして、地獄へと引きずり込まれていく様な、あの 忌わしい感覚。横をふと見ると、紺野が物凄い悲鳴を上げていた。 何か、昔のトラウマを思い出しているような顔をして。 紺野の悲鳴が最高潮に達した瞬間、視界から紺野が消える。 正確には、二人が消えた。目の前の景色が、完全に変わってしまい、 足元に何もないことに気がつく。 「・・・・・・え?」 刹那、自由落下が始まる。二人とも、落ちてゆく。 二人はすぐにお互いの存在に気づき、同時に他のメンバーは誰一人いないと言う事も知った。 「のの!」 「あいぼん!」 手を思い切り、伸ばす。 しかし、無情にも二人は近づく事無く、ただただ落ちてゆく。下を向くと、 もうそこは地面だった。二人とも目を瞑る。
651 :
18話 :04/06/02 21:33 ID:vAXGYoFV
「・・・の割には怪我、少ないなぁ。」 加護は自分の体を見て、コメントする。 その理由を、辻はなんとなくではあるが気づいた。 「天上、近すぎやしねぇれすか?」 辻は地面に落ちている小さな石ころを拾い、天上めがけて思い切り投げる。 スルッ 『!!!』 なんと石は天上とぶつかるどころか、すり抜けて消えてしまった。 「決まりやな、ここがあの噂の地下牢や。」 加護の言う噂とは、つんくの城の遥か地下には、城下町の地下にまで地下牢が 続いていて、出口が街の何処かにあるが、街から入ることは出来ず、 城からもどうやって入るのか、知っている者も僅かに限られる、と言うもの。 あくまで噂だとばかり思っていたが・・・。 ここでは犯罪者ではなく、敵国の主戦力を突っ込んでしまうと言うのが基本らしく、 つまり強敵がこの先待ち構えている可能性がある。 「とりあえず、進むしかないみたいれすね。」 辻がグッと拳を握ると、 ガン!!! 「痛!」 突然、加護の頭に何かが落ちてくる。すぐにそれは地面に落ち、跳ねた。 さっき辻が投げた石だった。
652 :
18話 :04/06/02 21:34 ID:vAXGYoFV
地下牢、というのはやはりあくまで噂で、どちらかというと個室、 しかもかなりワンルームワンルーム大きい様子だった。 両側にドアがあるから、ばれない様に進むのも一苦労。 いちいち無駄な戦いをしていてもしょうがないから、二人はなるべく慎重に進んだ。 とりあえず、道は一本しかないから、それが出口へと続く道だと信じて二人は進んでゆく。 ガチャッ。 不意に、後ろのドアが開く。二人は慌てて後ろを振り向いた。 「はぁ〜・・・・・。」 大あくびをして出てきたのは・・・・・。 「ば、ば、ば・・・。」 『化け物〜!!!!!』 二人は扉から姿を見せた大悪魔に、二人は絶叫せずにいられなかった。 全速力で逃げ出す。“化け物”と呼ばれた女は、しばらく意味がよく分からなかったが、 「待て〜!!!!!」 すぐに二人を追いかけた。
653 :
18話 :04/06/02 21:35 ID:vAXGYoFV
「はぁっ・・・はぁっ・・・。」 二人は息も整わないうちに、さっき見たこの世のものとは思えない“化け物”に ついて熱く語っていた。 「なんやねんあの白塗り!口紅はみ出とったし!!」 「それより何より大きすぎれす!横に!」 「黒髪とあのけったいな格好はありえへんわ!!」 「悪かったわね。」 『ひゃぁ!!!』 なんとあの体格に追いつかれるなんて、二人はびっくりして後ろを振り返ると、 息一つ乱さずに立っている“化け物”。 「化け物じゃなくて、私は犬神凶子。ハッハッハッハッハッ。」 笑い声とともに、二人は突然激しい邪気を感じて後方へと軽く吹き飛ぶ。 どうやらこの犬神凶子と名乗る化け物の能力は、中居正広と同じく魔声のようだ。 しかも中居と違い、その肺活量から繰り出される声は物凄い威力を放っている。 これはどうやらかなりの強敵のようだ、が・・・。
654 :
18話 :04/06/02 21:40 ID:vAXGYoFV
「化け物って言ってすんまへんでした。ほな、さいなら。」 「さいなら。」 下手な関西弁の復唱の後、二人はそーっとその場から立ち去ろうとした。 「待ちなさい。」 ビクッ! 二人はその場で立ち止まる。 「な、なんやろか?」 「なんやろか?」 関西弁にちょっとした上達が見える中、犬神は世にも恐ろしい顔で、 「Gacktさんからちゃんと伝わってんのよ。あんた達を始末するようにってね。 ハハッ、ハッハッハッハッ!!」
655 :
18話 :04/06/02 21:42 ID:vAXGYoFV
またも凄まじい邪気に二人は吹っ飛ばされる。 「あ、このまま飛ばされて逃げればエエやん。」 「エエやん!!!」 二人はそのまま身を任せて進んでゆく。 「バカめ・・・。更に勢い増やしてあげるわよ。」 深く息をついた後、 『フレッシュ♪フレッシュ♪フレーッシュ♪』 「うはっ。」 二人の飛ばされるスピードが更に上がる。 そのまま逃げれる、二人がそう思った瞬間。 『壁?!』 目の前に迫り来る壁。いや、正確には自分達が歩み寄っているのだが。 避ける暇はなさそうだ。
656 :
18話 :04/06/02 21:44 ID:vAXGYoFV
「ちぃ!」 加護は背中に装着していた盾に短刀を刺し、短刀を壁にめがけて投げた。 そして辻を引っ張り寄せ、その盾に足を伸ばす。 ドン!!!! 盾は一瞬にして弾け、二人は地面に叩きつけられた。 しかし大分ダメージも軽減できたのも事実。二人は擦り傷を気にする事無く、 今度は犬神へと向かってゆく。素早い動きの加護と、単純に足の速い辻。 直線と曲線のスピードスターが、明らかに動きの遅そうな犬神へと突っ込む。 そういえばさっきはなんであんな一瞬で目の前に現れたのだろうか? 加護は一瞬気になったが、そのまま攻撃へ。しかし、犬神の無茶苦茶さは、度を超えていた。 「ハァ!!!」 なんと、激しいメイクが施されている目から、謎の光線が発射される。 「?!」 慌てて避けるも、光線は壁に当たると跳ね返り加速。両目から放たれた、 二本の謎の光線が二人を常に襲う。 「うわ!!わ!!あ!!」 必死に避け続けるも、だんだんと疲れてくる。こいつはやばい、二人は一気に 攻撃する事にした。しかし、犬神から第二の飛び道具が発動する。
657 :
18話 :04/06/02 21:46 ID:vAXGYoFV
ギュン!!! 『うそ!?』 なんと、今度は爪が一気に伸び、二人を襲った。爪2本と2本の光線。 同時に4つのものを避けなければならない。 「ちぃ!!!」 加護はダガーを思い切り爪へと投げつけた。しかし、ダガーはいとも簡単に 跳ね返され手元に戻ってくる。そして犬神は、更に滅茶苦茶な技を魅せる。 後ろを振り向き、 『ハァァァ!!!!』 なんと魔声を利用して、体ごと突っ込んできた!! 「化け物〜!!!」 辻は一気に決めるべく、今日一番の気を斧に集約。4本を掻い潜りながら、 突っ込んでくる犬神を待った。 『NON STOP!!!』 ドン!!! 「グハ!!!!」 『グハ』の声により、二人は『NON STOP』で飛ばされた犬神とは反対方向へと、 勢いよく吹き飛ばされた。
658 :
18話 :04/06/02 21:47 ID:vAXGYoFV
「痛たたた・・・・・。」 崩れ落ちた壁の瓦礫から辻は起き上がると、口から煙を吐いた。 加護も一歩遅れて顔を出す。 「このままじゃ埒があかないのれす。」 「せやな。どないする?戦っても倒せるかわからんで。」 辻は少し悩んだ表情を見せた後、テヘヘと笑い、 「倒せないのなら・・・。」 耳元で囁かれた加護は、思わず爆笑した。 「それごっつキモいやん!まあええ、行くで。」 「へい。」 二人は起き上がると、走り出す。『NON STOP』の現状の破壊力から考えて、 犬神は相当派手に吹き飛んだはず。 しばしのランニング経て、二人は気を失いのびている犬神を発見。 二人はニヤリと笑った。
659 :
18話 :04/06/02 21:48 ID:vAXGYoFV
「ん・・・・・。」 気を失っていた巨漢は、無駄にいい声を響かせながら、体を重そうに起こした。 すると途端に爆笑が聞こえ、犬神は思わず目を大きく見開く。 しかし、それが余計に爆笑を増大させる事となった。 辻加護は二人で指を指して笑いこけている。なんだかよく分からないが、 犬神はムカついた。昔から笑われるのが一番嫌いなのだ。 「なんなのよ!!!」 魔声ではなく、普通に叫ぶ。すると二人はびびる所か、更に爆笑。 「もう!!!」 立ち上がって、犬神は気がついた。自分がどうやら、とんでもない格好を しているということに。まず、さっきまで威圧感を放っていた服が、 完全なテニススタイルに。しかも無駄に爽やか。顔を触って更に気づく。 化粧も見事に取られ、髪型も・・・・。 「予想以上にキモなったなぁ。」 「これはこれでええやん。」 「よくないわ!」 二人で爆笑。・・・・・犬神凶子はすぐに理解した。こいつらか・・・。
660 :
18話 :04/06/02 21:49 ID:vAXGYoFV
「もう決めた!あんた達殺す!!」 こんな台詞をも笑いを誘ってしまうのは、手に持たされているラケットのせいだろうか。 よく見ると足元にはテニスボールのオブジェ。・・・。 耐え難い屈辱の中、犬神は何を思ったのか、ボールを鷲掴みすると、 『?』 グシャッ!! 『!!』 粉みじんに潰してしまった。目を丸くする二人。 「死ね!!!」 ボールに魔力を込め、犬神は思い切りストロークした。スイートスポットを 直撃した音がする。そして次の瞬間、 ヒュン!!! 「!!・・・・・。」 加護の頬をかすめ、加護の頬からは血が流れ落ちた。二人は思った。 もしかして、作戦ミス? どこら辺が作戦なのか凡人にはとても分からないが、とりあえず二人は焦り、 強攻策に出ることに決めた。
661 :
18話 :04/06/02 21:50 ID:vAXGYoFV
「死ね〜!!!」 5発くらいいっぺんに球が飛んでくる。 「行くで!!!」 「うん!!!」 二人は手を繋ぎ、気を溜めた。そして、 『W type3 VACANCES』 二人の合体奥義、『W(ダブルユー)』のうちの一つ。この奥義は相手から 来る物理攻撃全てを跳ね返す。 テニスボールは全て二人の前で一時停止すると、凄い勢いで犬神の方へと戻ってゆく。 速度アップのおまけもついて。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 ドンドンドンドンドン!!! 犬神は勢いよく後方へと吹き飛んだ。しかし今度は手を緩めない。 二人は更に追い討ちをかけるべく、それを追った。
662 :
18話 :04/06/02 21:52 ID:vAXGYoFV
『W type2 Sindbad』 そう叫んだ瞬間、犬神には二人が姿を消したように見えた。 が、すぐに加護が視界に入る。 ただし、4人くらい。 「?!!」 加護がスピードを限界まで上げ、超高速による残像を生む事で相手を混乱させる、 それがSindbad。そしてその間に、 「たぁぁ!!!!」 後ろから辻が決めに入る。犬神の背中を、辻は斧で切り裂いた。 「あ゛あ゛あ゛!!!」 しかしこの技はあくまで締めの伏線にしか過ぎない。二人は最後の奥義を開放した。 『W type1 Rhapsody』 加護は超スピードそのままに、辻も負けず劣らぬスピードで、様々な角度から敵を、 二人の体力が尽きるまで切裂き続けると言う恐ろしい技。 犬神凶子はわずか10秒で断末魔の叫び声を上げ、二人はその魔声に吹き飛ばされた。
663 :
18話 :04/06/02 21:53 ID:vAXGYoFV
「痛てててて・・・。」 二人は起き上がると、犬神だったものを振り返りもせずに、先へと進んだ。 「とりあえず、先進むで。」 To be continued...
更新乙です。 F91、もしくはDBですかね。そのくらいしか知らない。
665 :
えっと :04/06/03 18:27 ID:euyid8D3
>>664 レスありがとうございます。
F91、DBって・・・なんですか?
D(ragon)B(all)???
そろそろ500KBに届きそうなんですが移転を考えた方がいいんでしょうか?
667 :
えっと :04/06/04 19:07 ID:8XSq6Ihp
>>666 ドラゴンボールは大丈夫です、全巻持ってます!
残像について言っていらしたんですか。
とりあえず聞いてみることにします。
>>667 ゴメン、言葉が足りなくて。
では、小説のほう頑張ってください。
669 :
えっと :04/06/06 00:32 ID:muGKYRS2
671 :
名無し募集中。。。 :04/06/13 14:02 ID:4Zwli04i
672 :
えっと :04/07/20 18:05 ID:bMTSGw1x
673 :
えっと :04/07/20 18:10 ID:bMTSGw1x
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えっと :04/07/20 18:18 ID:bMTSGw1x
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えっと :
04/07/20 18:19 ID:bMTSGw1x 向こうで書くのは抵抗があるのでネタバレを一つ。 死んだメンバーは卒業メンバーです。 辻加護卒業に間に合ってよかった・・・。