番外2
今日の目覚めは電子音だった。まだ4時とかじゃん・・・。俺は思い瞼を必死に
こじ開けると、ディスプレイに表示される名前をなんとか読み取る。
「もしもし?」
声があからさまに弱っていたのか、向こう側からは笑い声が聞こえてきた。
吉澤は好きなだけ笑うと、
「今日は何の日だ?」
「え?・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだろ。」
全然何も見当がつかなかったので、適当に呟く。
「誕生日?」
「違うよ!あたしはもうちょっと後!今日は、エイプリルフール。」
あ、俺は寝たくてたまらなかったが、なんだか面白い香りがしたので話を
聞き続けた。
「だから、ちょっとドッキリしない?」
「誰?」
「矢口さん。」
お、いい線。ちょうど俺と仲がよく、そしてはめてみたい娘でもある。俺は
OKすると、すぐ部屋に来るように言われた。
「え?こんな大掛かりなわけ?」
部屋に行くと、少し驚いた。吉澤の部屋にいたのは、吉澤の他に辻、加護、
紺野、高橋。大人数・・・。なんか凄い入り組んだものをしそうな気が・・・。
吉澤は俺が来るが否や、開口一番、
「まあ最終的な形としては、告って。」
「は?」
「いやだから矢口さんに告るんやて。」
「あなたしか出来無い事なんて、よろしくお願いします。」
紺野はかるく礼までしてきた。
ここで吉澤が詳しい説明に入る。俺は今日一日、マネージャーの代理を
仕事としてやるらしい。(マネージャーさんは春休み中とか)俺以外の5人は
俺を意識させるようなニュアンスを色んな所でさせて、俺自身もちょっと
ドキっとさせるような事をする。そんで仕事終わりに矢口を呼び出し、告白する。
矢口が混乱して訳分からなくなった所、もしくはそれを受けた所で種明かし、
という流れだった。
「ホンれす!!!」
辻が台本を俺に渡してきた。そこには『4月馬鹿決定戦!』なんて書いて
あった。なんて嫌なタイトル・・・。バレンタインの時は被害者だったし、
いっちょやってやるか!俺は何気気合が入っていた。あれ?でも待てよ。
「俺、二股ですか?」
「『梨華を捨ててもいい、お前が欲しい!!』くらい言うんやよ。」
芝居がかった高橋の言い回しに全員笑った。
98 :
桜満開:04/04/02 00:29 ID:ixDn4ibS
とは言うものの、マネージャーと言う仕事はかなり大変と聞く。俺なんかが
代理で、果たして大丈夫なのだろうか?
「大丈夫やよ、今日はハロモニ2本録り、コント4本やから。タイムテーブルが
あれば全然なんてことない。」
いや、そう言う問題じゃなくてさ・・・。君らの相手がいかに大変か、自覚あります?
なんて思いながらも敢えて口にはしない。俺達は荷物をまとめると、
テレ東へ向け動き出した。人数も人数なので車に納まらないかと心配していたら、
「きつい!きついって!!」
なんて言いながらミニモニ3人と紺野はなんとか後部座席に納まっていた。
助手席には吉澤が座る。出発の準備をしていると、後ろではなにやらじゃんけんが
始まっていた。あまりに騒がしいので話を聞いてみる。
「どうしたの?」
「あまりにきつすぎるから、じゃんけんで負けた人がトランク行きになるのれす!」
トランク・・・。なんか金田一の死体をトランクに入れて移動していたトリックを
思い出した。
「じゃああたしが中心でジャンボじゃんけんだぁ〜!!」
吉澤がノリで立ち上がる。
「よっしゃ!行くで!!」
加護は拳を握りしめて突き上げた。高橋は十字架のシルバーアクセを見て精神統一。・・・・皆必死だなぁ。
「せーの!じゃん!けん!ぽん!」
車の発進後、後ろでは辻加護紺野が仲良くしゃべっていて、俺の横には何故か
高橋が座っていた。車からは綺麗に咲き誇る桜の景色が見えた。
「吉澤さん。桜、綺麗でしたね。」
「見えねぇよ!!」
紺野の発言に、ふてくされながらもしっかりツッコミを入れる吉澤。まさか
あそこでジャンボじゃんけんの中心が一人負けするなんてねぇ・・・。
ちょっとだけ服が汚れている吉澤を見て少し切なくなった。
とりあえず全員の前に立ち、マネージャーをする事になったを告げ、
「じゃあこっからは俺マネージャーだから、ビシビシ行くよ!!呼び名も
全員苗字で呼び捨て。」
普段の恨みを込めて(ぉぃ)
「これ、タイムスケジュール。」
吉澤に渡されると、俺は一通り目を通し、即指示を出した。
「じゃあすぐ着替えて。7時半からリハ。」
『知ってま〜す』
ザクッ。
「あ・・・そう・・・。じゃあ頑張れよ!」
語調だけ強めて部屋を出ると、廊下でちょっと落ち込んだ。
100 :
甘口採点:04/04/02 00:32 ID:ixDn4ibS
撮影は順調とは言えないが普通通り進んでいた。でも普通通りに行って
昼飯が3時とは・・・。忙しいもんだなぁ、俺は衣装を持って移動していた。
あれ?これなんかマネージャーって言うより、雑用?
「矢口ぃー。」
俺がドアを開けると、矢口は笑顔で衣装を受け取った。俺が控室を出て、
しばらくすると、矢口は着替えて出てきた。
「・・・・・・・。」
俺は何も言わずに、その姿にただ見惚れていた。
「どうした?そんな顔して。」
「いや、なんてーか・・・・・可愛いなって・・・。」
かなり控えめな言い方な俺を見て、矢口の表情が一瞬変わる。少しだけ頬が
赤くなっているようにも見えた。
「・・・なぁーに言ってんの!当たり前でしょーが!!」
矢口は相変わらず顔を赤らめたまま、駆け足でスタジオへと行ってしまった。
俺が舌を出しているのにも気づかずに。
「80点ってトコやね。表情もっとやらかくせな。」
高橋が控室から出てくる。しっかり見られていたようで、しっかりダメ出しも入った。
「梨華よりマシだと思うけど。」
俺が笑うと、高橋も笑った。そしてすぐに辺りを見回す。誰もいないのを
確認すると、二人でまた笑った。
101 :
捜索:04/04/02 00:36 ID:ixDn4ibS
「次は・・・・。」
俺は『4月馬鹿決定戦!』の続きを読んだ。っていうかこれ誰が書いたの?
矢口の台詞は当然ないもんと思っていたら、なんか勘で書かれていて、
しかも大体当たってるし。どうやらこの台本によると、今は吉澤がさっきの
場面を目撃したと言う設定で矢口に話しかけているらしい。次の俺のシーン(?)は
昼飯まで無かった。しかしだからと言って安心は出来ない。マネージャーの
仕事は本当にやっているのだから、そっちをしなくては・・・。
俺はスタジオへと向かった。
「全員いる?」
ここでは矢口とは別のコントを撮影中。5,6期が全員いるはずなのだが・・・。
「亀井がいない!?」
困った。これが一番困るんだ・・・。亀井とはほぼ面識が無い、っていうか
話した事あったっけ?ぐらいによく知らない。
「探してくる!」
でもここは仕事だ。俺はスタジオを飛び出すと、駆け出した。どこにいるのか
なんて全然見当もつかないから、とりあえず現在は無人のはずの控室へ。
ガチャッ。
「亀井?」
「はーい・・・。」
低いテンションで返事が聞こえる。しかし声がどこから聞こえてきたのか
全然分からなかった。そんなに広くない控室を、ぐるぐる探し回る。
「あれ?」
「ここでーす。」
声は後ろから聞こえた。俺は振り返ると、呆れて一言。
「何やってんの?」
「出れなくなりました・・・。」
亀井は壁とロッカーの僅かな隙間に挟まりながら、応対してくる。なんとも
奇妙な光景だ。
「なんでそんな所入って・・・あ、隙間に入るの好きなんだっけ。」
思い出したように呟くと、一番端のロッカーから順に、コツコツとどかし
始めた。ていうか重・・・。でも時間が押してしまうから俺は精一杯急ぐ。
なんとかロッカーをどかすと、亀井はぴょんっと軽く跳ねて出てきた。
「もうするなよ。」
「それは出来ませんよ〜。ここに入ると落ち着くんです。」
亀井は全く懲りてない様子の顔。
「時間押してるから走るぞ。」
俺は亀井の手を引いて走り出した。
103 :
痛恨:04/04/02 00:39 ID:ixDn4ibS
お昼休み。俺は弁当を運んで控室に訪れた。ドアを開けると石川と吉澤、
藤本が休んでいた。
「弁当いかがすかー。」
冗談めかして入ると、
「梨華ちゃんに似てきたね。」
藤本がボソッと呟いた。え?何それ寒いって事?俺は胸に言葉の矢が
突き刺さったまま、弁当を3人に配った。そして俺も一緒に食べ始める。
談笑しながら食べていると、
「あ゛〜もうこんな時間かよ〜!」
矢口が入ってきた。俺は弁当を渡すときに一言言わなきゃいけないんだっけな。
でも・・・石川がいるのがちょっと気になった。
まあ大した事言うわけじゃないんだけど・・・、俺はとりあえず、台本通りに動いた。
「これ食って頑張れ。まだ腸がよくないなら、少し食べるから。」
ちょっとした言葉で心を軽く擽りたいのだろうか?これが効くかどうかは、
吉澤達がいかに俺を意識させているかにかかっているな。なんて思いながらも、
顔は優しく微笑んでいる俺。矢口はまんざらでもない顔で、弁当を受け取ると、
すぐに食べ始めた。
「食べきれないからちょっと食べて〜。」
吉澤が半笑いで寄ってきたのはそれからすぐだった。
104 :
痛恨:04/04/02 00:42 ID:ixDn4ibS
落ち目なのに、なんでこんなに忙しいの?暇人大学生の俺は思った。番組も
全盛期と比べて少ない所を見ると、一番流行ってた頃はどんな生活をしていた
のだろうか?おそらく俺の想像を絶するものだったんだろうなぁ。彼女達は
午後も忙しく収録をこなしていった。
段々時間が近づいてくるに連れて、なんだか緊張してきた。慣れない演技は
大西さんの時以来だろうか。番組の台本の内側に、例の台本を潜ませて読む。
スタジオの方では、全員集合してやけに盛り上がっていた。
『やった!!!』
燃えてますね皆さん。20にしてなんか落ち着きを得てしまったおっさんは
静かにその情景を見守っていた。
「じゃあ、今日はこれで解散!早く帰れよ!」
全員だべりながら帰り支度を始める。俺は矢口に近づくと、言った。
「ちょっといい?」
「何?」
「話があるから、来て。」
俺は矢口を屋上へと連れて行った。にしてもこの季節になんで屋上なんだよ・・・。
なんて今更心の中で愚痴りながら、表情は緊張でこわばっていた。
「何?話って。」
ああなんていうか、屋上に呼び出すって、定番のような、定番で無いような。
俺は覚悟を決めた。一回、深呼吸をすると、声をあげる。
「矢口!!好きだ!!」
「へ?」
矢口は素っ頓狂な声を上げ、目をぱちくりさせた。俺は台本通りに続けた。
「なんだかよく分からないんだけど、もうこの感情を抑えられないんだ!!
頭の中が矢口の事でいっぱいなんだよ!!」
恥ずかしい・・・。誰だ脚本家は!!なんて心中嘆く。
「・・・・・・・・。」
口は無言のまま、俺の胸に体を寄せ、手を俺の背中に回す。あとは皆が来るのを待つだけだ。
105 :
痛恨:04/04/02 00:43 ID:ixDn4ibS
ガチャッ。
来た!!俺は視線をドアへと移す。すると、そこに立っていたのは石川だった。
「どういうこと?」
雨が降ってきた。あっという間に本降りになり、俺たち3人を打ちつけた。
石川の目は暗くてよく見えなかったが泣いているようにも思えた。
「やっぱり矢口さんの事が好きだったのね!!」
矢口が病気だった時の一件もうまい事引きずっている。石川は近づくと、
俺の事を思いきりひっぱたいた。そしてそのまま中へと入って行ってしまった。
「梨華!!」
俺が追いかけようとすると、矢口が俺を止める。
「おいらの事が好きなんでしょ?」
それを言われると苦しい。俺は口ごもって何も言えなかった。
「そろそろ寒いし、中入ろうか・・・。」
俺はそう言って矢口の手を引く。室内に入ると、すぐに辻が大慌てで走ってきた。
「すみません!!最後のページ抜けてました!!」
辻は俺に台本を投げる。
『4月馬鹿王決定戦:完全版』と書かれている。読んでみた。
・・・・・・・・多分俺の顔色はどんどん悪くなっていたと思う。
106 :
蓮根:04/04/02 00:46 ID:ixDn4ibS
矢口、無言のまま抱きしめる。
ガチャ(ドアの開く音)石川登場。
石川:どういうこと?
やっぱり矢口さんが好きだったのね!!
石川、殴るもしくは泣きながら退場。追おうとする○○を止める矢口。
矢口:おいらの事、好きなんでしょ?
矢口、雨が降っているから中へ入るように促す。辻、大慌てで現れる。
辻:すみません!最後のページが抜けてました!!
○○、読む。青ざめてゆく顔。怒りに満ちた表情。
矢口:
「ちょっとぉ〜、中に入ろうって言うのはおいらの所なのに勝手にやりやがってぇ〜。」
台本通りに矢口は言った。
「・・・・・・・・・・・。」
俺は多分物凄い目で矢口を見た。矢口はそれを見てゲラゲラと笑う。
下のほうからも笑い声が聞こえてくる。そして矢口は最後の台詞を口にした。
「脚本家、おいら。」
俺はその場で崩れ落ちると、下にいた吉澤、加護、高橋、紺野が階段を
駆け上ってきた。そして一気にヒートアップ。
「またまたかかりました!!!」
吉澤は大笑い。よく見てみるとこいつら、バレンタインの時と全く同じメンツ
じゃねぇか!!俺は気づくと悔しくて拳で地面を強く打ちつけた。
「あ、そういえば。石川さんどうします?」
紺野の一言で、笑い声が途絶えた。え?あいつもドッキリに参加してたんじゃないの?
俺が不思議そうな顔をしていたのに気づいたのか、
「ああ、梨華ちゃんは大根やから、何にも押しえてへんよ?だから今の本当やと思ってる。」
「・・・・・・・・・どっち行った?」
「え?・・・・・階段をずっと降りていった。」
俺はそれを聞くと全速力で階段を駆け下りていった。
今日最後の大仕事のために。