自分でバトルストーリーを書いてみようVol.21

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248魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:39:37 ID:???
【第四章】

 ゾイド同士の戦いにギャラリーが立ち会う余地は少ない。死闘を演じる鋼の獣達を人間
が生身で観察することなどもってのほか。
 だからこそ、今宵も馳せ参じていたケーニッヒウルフ「テムジン」。頭部コクピット内
でブロンコ、憮然。相変わらずの、決戦の舞台からは相当に離れての観戦には流石に苛立
ちを隠せない。しかしこれはこれで、仕方ないのだ。一連の作戦はもともとヒムニーザ単
独での任務。彼奴の能力を最大限に生かすための舞台選びは尊重されなければいけない。
 遥か彼方の三対三決戦、ギャラリーはいないが監視者はいる。満天の星空と双児の月と、
そして彼ら主従。決戦は審判と言い換えるべき様相を呈してきた。

 深紅の竜と黒衣の悪魔。疾駆しつつも横目で睨み合う両者。竜の足下では次々と地面が
爆ぜ、低空飛行する悪魔の真下は馬蹄形の土煙が追随する。そんな敵の動向を、注意深く
観察する両者。例えばもし片一方が急停止し、もう片方がそれに気付かず突っ走りでもし
たら後者は高い確率で敗北する。抜き去ってしまった瞬間、背後が隙だらけになるからだ。
両者は単に互いの瞳のみならず翼を、足を、ちらりちらりと伺う。
 不意に、どちらともなく疾走が止んだ。互いの足下、土煙が一掃の高まり。駆け引きの
必要無しとどちらも認めた合図。
 翼を水平に構えつつ、依然低い姿勢で臨む深紅の竜。剣士と化した竜の狙いはこの二枚
の翼から繰り出す重い一撃。これを浴びせてこそ他の様々な技が生きてくる。
 対する黒衣の悪魔は直立姿勢のまま宙に浮き、身構えず、四肢の力さえ抜いた自然体。
これこそがこのゾイドの構え。構えぬからこそ何を仕掛けてくるのかわからない。
 お互いを遮る砂埃が止むと共に、重なり合う視線の鋭きこと。…だがヒムニーザは気が
ついた。目前の竜が見せた変貌に。
(こいつ…ジンプゥの間合いギリギリまで近付いてやがる)
 剣の道で言うならば一足一刀の間合い。あと一歩、お互いが踏み込めば攻撃が見事に命
中してしまう間合いだ。この距離を維持するということはつまり、派手に殴り合うのを希
望している。そんな攻防に耐え得るだけのタフな心を引っさげて、あの少年は帰ってきた。
(…立ち直りやがった。よもや、あれだけ折れ砕けた心が治ったというのか)
249魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:42:16 ID:???
 実のところ、立ち直りはしたが万全には程遠い状態でもある。ブレイカーの胸部コクピ
ット内、拘束器具でがっちり固定されたギルの額には既に玉の汗が浮かんでいる。特訓を
終えてから休まずにこの場に向かったのだから無理もない(この愛らしい相棒の機転で身
体を洗い流せたのは大きいが)。だが少年の表情から迷いは失せた。荒行「波の飛沫斬り」
を達成した成果をこの決戦の場で披露すれば良いのだ。…できなければ全てが水泡に帰す。
しかしそれで恐れるわけにはいかない。
 不意に黒衣の悪魔、翼をひと扇ぎ。それを合図に左へ回り込む。間合いを崩して好機を
狙う接近戦の常套手段だが、それは深紅の竜も同じこと。土砂が跳ね、鏡のごとく左へ回
り込む様は思いのほか軽やか。更に悪魔が左に回り込めば竜も左に追随。右に回り込めば
右。円の動きに派手さはないが、翼のひと扇ぎの度、又地面に蹴り込む度、互いの視線が
腕に、足にと突き刺さる様は一撃を巡る緊迫の攻防。僅かな隙が命取りだ。
 ふと気がつけば、ヒムニーザの無精髭が濡れている。いやこれは彼の汗。この攻撃なき
攻防に気をとられる余り、伝う汗にも気付かずにいた。彼も又、先日の襲撃で蓄積した疲
労が抜け切れない。だが問題はそれだけではあるまい。
(刻印の力は俺をどんどん蝕んでいる。長期戦は勝算が薄くなるだけ)
 悪魔の左腕が、消えた。いや目前の竜目掛けて伸びたのだ。神速の突き、標的は言わず
もがな竜の胸部コクピット。
 だが肩・肘・手首が伸び切る前に、切っ先がぶれた二本槍。衝撃に悪魔の姿勢もグラリ、
揺らぐ。打突失敗の原因を悪魔と主人は右方に見出した。…右肘に、竜の双剣。翼を水平
に構えたまま、悪魔の仕掛けに見事合わせた左の「翼の刃」。
 しかしながら翼の刃は致命傷に至っていない。深紅の竜も又揺らぎ、よろめく。…胸元
に出来た傷は確かに悪魔の二本槍によるもの。相打ちが、両者の一撃を相殺した。
 胸を摩るギルガメス。ひりひりと痛むがそれよりも特訓の成果に溢れた笑み。
「あれはさざ波、あれはさざ波…」
 姿勢を戻す。翼を引くと同時に翼の内側に隠れた双剣。再び少年が肩をほぐし、力を抜
けば、竜も又自然と戻した低い姿勢。
250魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:43:44 ID:???
 悪魔も相手の動向を睨みながら直立姿勢に戻す。…無精髭の、痙攣した右肘。刻印の副
作用。実はこのコンビに技を喰らったのはこれが初めてだ。
「やるじゃあないか、坊や」
 少年が耳を貸せば、不謹慎なことを色々囁いてリズムを崩してやろうという考えだ。し
かし竜の側から反応はない。…音声があったらしいことは全方位スクリーンの表示で確認
済みだが、スピーカーのスイッチはとっくの昔にオフ。女教師の声以外、拾わぬよう竜と
少年は事前に打ち合わせていた。脱力と共に集中力を高めていく少年、竜にとってはそれ
が至上の幸福とばかりに軽快な動作を再開。
「…洒落臭い!」
 再び翼をひと扇ぎする悪魔。竜も低い姿勢のまま地を蹴り、間合いを計る。

 魔女と鬼女の攻防は攻守がくっきりと分かれた。スズカが機獣斬りの太刀「石動」振る
い、剣技を頼りに斬り込めば、エステルはそれをかいくぐり、近付いて拳の一撃を試みる
展開。彼女達が初手合わせした時と酷似してはいるが、しかし全く違う点も多い。
 お互いが、お互いを観察することでそれは容易に実感できた。向こうで争う男達同様、
彼女達の額にも早々に玉の汗が浮かんでいる。寒々とした夜の荒野で掻く汗は、見掛け以
上にお互い疲労している証。長期戦はどちらにとっても望ましくない。
(…ならば何故この女、この前見せた大技を仕掛けてこない?)
 訝しむ鬼女。ロードゲイルのごとき魔性のブロックスゾイドをねじ伏せる力を持ちなが
ら使わない。この場で使うなら何者かにばれる心配もないというのに。…お互い、相手の
切り札を理解している。殊に鬼女は、目前で身軽に動く魔女の切り札は防御不能と承知し
ながら挑んでいるのだ。しかし、いくら疲労しているとはいえそれを繰り出さないとは…。
「どういう了見!?」
 何度目かの技の交差を躱しつつ、凄む鬼女。相手の血液が沸騰しつつあるのを肌で感じ、
魔女は構えを一層深くする。
「『蒼き瞳の魔女』よ! 何故に貴様、先日ジンプゥを苦しめたあの技を使わぬ!?」
「あ、あー…」
 宿敵から投げ掛けられた又も同じ質問を受けるとは思っていなかった。殺気が失せ、と
ぼけた表情で首を傾げる。
「死ぬ程体力使うのよあれは。それに…」
251魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:46:04 ID:???
 魔女の答えが余程不満だったのか。漆黒の瞳から殺気迸らせ、一気に間合い詰める鬼女、
神速の袈裟掛け。それを紙一重で躱す魔女、拳振り上げ目指す渾身の一撃。だが密着に近
い間合いにしっかり用意していた鬼女の防御。鎖骨目掛けて襲い掛かる拳をがっちり「石
動」の柄で受け止め、弾き返して続けざまに薙ぎ払い。
「それに、何だ!」
 息つく間もない剣技を一歩、又一歩と退いた末、剣も拳も交わらぬ距離まで離してから
構え…いや、腕組みし右掌を頬に当てる。余裕綽々の魔女。
「教育上、好ましくないってところかしら」
「…はあ?」
 この女、舐めているのか。正反対に鬼女の怒りはたぎる一方。
「あの子達、他人を当てにしていたら強くなれないでしょう」
 鬼女の漆黒の瞳がますます輝きを失っていく。後ろに結った長い黒髪がゆらり、風にな
びくがそれでさえも彼女が解き放つ裂帛の気合いによるものかと錯覚せずにはおれない。
「…その意見には同意。しかし不快だ! そういう台詞は私を倒してから言え!」
 大上段に構えられた「石動」。石動一刀流・合掌の構え…魔女でさえも受け切れなかっ
た必勝の構え。辺りを震わす耳鳴りのような金属音は他ならぬこの太刀より発せられしも
の。何しろこの「石動」こそ太刀型の金属生命体。人の生き血吸わんと吠えている。
「今度こそ貴様の脳天、かち割ってみせる!」
 魔女の予想より早く訪れた決着の時(それは彼女が望んだことだが)。両手を手刀にし
つつ、一層深い左前の構え。次の一合で、全てが決まる。

 竜と悪魔の死闘は未だ決着の様相を見せない。傍目には永久に続くのではないかと思わ
せる戦況は誠に息苦しい。初手で確定したような流れだから致し方ないが…。
252魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:48:11 ID:???
 とにかく一足一刀の間合いを維持して睨み合い、動き回る。ちょっとでも隙が出来たら
仕掛けの始まり。刃が、槍が、蹴りが走る。だが相手は防御ではなく、相打ちを試みる。
ブレイカーもジンプゥもそうだ。結果、予定通り相打ちとなり、姿勢が崩れる。どちらも
連続攻撃を加える好機が獲得できないまま。これで両者のいずれかがブズゥやライネケ
(第三話・第四話参照)のような特殊能力を備えていたら又違う展開になるのだが、幸か
不幸かどちらも接近戦主体の正当派ゾイドと来た。最早パイロットの精魂尽き果てるまで
殴り合い、斬り合うより他ないのか。
(それは…俺の負けだろう)
 この場で只一人、攻防の長期化はあり得ないと承知している者の弁だ。ヒムニーザの額
に埋め込まれた刻印は彼に過度な負担を強いて止まぬ。ジンプゥが受けたダメージの反映
も去ることながら、刻印が発動している限りシンクロによる相棒の華麗な動きと引き替え
に、自身が激しく消耗していく。スズカには隠しているが、本音を言えばあと何分持つか
もわからないのだ。今、彼を支えているのはひたすらに気力のみ。
 ジンプゥ、直立姿勢から軽く身構えたかと思えば、次の瞬間弾け放たれし左の回し蹴り。
だがしなやかな一撃に対し、今日初めて退いて躱したブレイカー。
「これはさざ波…じゃない!」
 敵コンビの実力からすれば一見何とも拙い攻撃。左の爪振り上げ、一気に間合いを詰め
る深紅の竜。
 これぞ、無精髭の罠。空を切った悪魔の回し蹴りに続き、しなる尻尾。その又後に控え
るは残った右足での後ろ回し蹴り。
 それでも、竜は躊躇わない。悪魔の懐深く飛び込み、左の爪を振り降ろす。一撃は又し
ても互いの攻撃と相殺された。悪魔の肩を叩いた竜の爪、竜の頬を叩いた悪魔の尻尾。一
撃の圧力に又もお互い間合いを離し、姿勢が崩れる。
「…やはりさざ波じゃあなかった。良いぞ、ギル。彼奴の動き、よく見えてる」
 自らに言い聞かせる少年。既に肩で息する程苦しい筈だが、善戦はそれを感じさせない。
 一方剛を煮やしつつある無精髭。自らの腿を何度も叩き苛立ちを露にすると、休む間も
なくレバーを捌き仕掛けを再開。
 ふわり宙を浮いたかと思えば何の変哲もない、右足の飛び前蹴りだ。
「これは…何?」
253魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:50:39 ID:???
 確かに何の変哲もないが、目前に飛び込んできてはいる。迷い半分、決断した答えは左
の翼での叩き返し。しかし反撃は無精髭の思うつぼ。
 左の翼が掠る瞬間、五体すぼめた悪魔。縮小した標的に深紅の竜、まさかの空振り。風
に泳いだこの翼こそ、悪魔が誘い出した真の標的。すぼめた五体をバネと変え、翼を壁に
見立て叩き込んだ渾身の蹴り一閃。
 竜と悪魔との距離が一気に離れた。一足一刀の間合いが崩れたのだ。
「…しまった!」
「好機到来!」
 感情が露になったパイロット二人。互いの相棒は既に小型ゾイド数匹分も離れている。
マグネッサーシステムの推進力を頼りに技を繰り出すにはもってこいの距離だ。
 ここぞとばかり大きく翼を扇ぐジンプゥ。地を強く蹴り込んで間合いを詰めようとする
ブレイカー。だが目前で竜とパイロットの視界に入ったもの。…弓矢を引き絞るように半
身に捻ったジンプゥ、矢に当てはまるのは無論左腕の二本槍!
 雷鳴轟き、火花散り、明らかになった二本槍の切っ先は竜の胸元。…突き刺さってはい
ない。がっちりと、竜の両掌が受け止めてはいる。だがこの姿勢に少年、戦慄。
「…『風車』か!?」
 受け切ったのではない。術中に陥りかけている。…力比べの最中に槍を接続部からわざ
と外し、梃子の原理で竜を前のめりにさせる。バランス崩した竜目掛けて身を捻り、右腕、
翼、足、尻尾…と、一気に浴びせかける「風車・六枚羽根」がその狙いだ。前の戦いで深
紅の竜に手傷負わせたブロックスゾイドならではの妙技。
「『…どうする?』」
 同じ言葉を呟くがニュアンスは全く違う。一層翼を振動させるジンプゥ。対するブレイ
カーは地に爪先を立てた。いつ、二本槍を外してくるか。迷う主人に向けて、全方位スク
リーンの正面に開いたウインドウ。「な、何だよブレイカー! 今、それどころじゃあ…」
 ウインドウに描かれた波形。それは徐々に大きくなる。
「そ、そうか。ごめん…同じ、だね」
 今又、少年が肩をほぐしたことを悪魔と無精髭の主従が知る由もない。
 二本槍が、外れた。
「いくぞ! 風車…な、何ぃっ!?」
254魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:52:37 ID:???
 爆ぜた地面。竜の鶏冠六本が花火のごとく広がり、先端より放たれし蒼き炎。梃子の原
理で竜の姿勢を崩す予定が覆った。機に乗じ、己が推進力を頼りに深紅の竜、体当たり。
 悪魔の出掛かった技が、崩される。地に叩き伏せられ、そこに振り降ろされる翼の刃。
横転して回避し、透かさず立ち上がるがそれまでには目前に迫った深紅の竜。よく見れば
「一足一刀の間合い」が復元しているではないか。
「…あれは中の波ってところかな」
 とぼけた台詞は自信に結果が裏付けされてきた証。一方苛立ちが頂点に達しつつある無
精髭だが、その時彼方では。

 大上段に妖刀「石動」構えたスズカ。鬼女の狙いは只一つ、目前で身構える「蒼き瞳の
魔女」の脳天のみ。果たせれば愛する者が請け負った使命の半分が達せられるのだ。黒の
長髪が蛇のごとく風にうねり、扁桃型の涼しげな瞳が見る間に釣り上がる。殺気に怒気が
倍加され、般若と化した美貌。
 対するエステルはゆったり構えたその姿に限れば至極穏やか。だがもともと眼光鋭く、
普段は本人でさえ持て余し気味の蒼き瞳は一層鋭さを増す。切れ長の眼を細め睨み、一歩
も退かぬ殺気をぶつける相手は言わずもがな目前の鬼女。
 互いのしなやかな足が、動いた。砂を掴む音を一度、又一度繰り返し、その感覚が徐々
に短くなり…遂に、駆ける。
 吠える、二人。呪詛のごとく。両者の間合いが触れ重なるや否や。
 叩き込まれた「石動」。鋼の太刀は、だが又しても中途で勢いを失った。頭上寸前、が
っちり受け止めた魔女の両掌。…鮮血は、滴り落ちない。真剣白刃取り、完成。しかしこ
の形こそ、真の攻防の幕開け。
「喰らってしまえ、『石動』ぃっ!」
 鬼女に呼応し発せられた耳をつんざく金属音。高鳴りは魔女の生命を吸い取る合図。そ
れは魔女も望むところ、たちまち輝きほとばしらせる額の刻印。太刀掴んだ両掌から溢れ
る光。妖刀が光を吸い尽くすか、光が妖刀に限界を突き付けるか。拮抗、崩れる気配無し。
255魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:54:58 ID:???
 やがて、落ち着き始めた高鳴り。「石動」が許容範囲を越えたのか。一瞬、表情が強張
りかけたスズカ。…しかしそれが、すぐさまもとの憤怒に満ちた形相に戻る。訝しむエス
テル。大概、平静を装う時は取るに足らぬ策を講じているのだ。だが鬼女は憤怒を維持し
た…こういう時は必勝の策を講じているもの。
 表情の変化と共に、剣の圧力が抜けたかに見える。徐々に押し返す魔女。
 遂に逸れた切っ先。刀身ごとねじ伏せられる。勢いと共に鬼女、転倒。剣を地に叩き伏
せ、魔女が振り上げた拳。そのまま渾身の一撃を浴びせるかに見えたがそれこそが鬼女の
策。地べたに横たわるスズカの右手は既に…懐!
 しなった、鬼女の右腕。至近距離での手裏剣撃ち。外しようもない秘策の一撃は…しか
し、空を切った。肘が伸び切るよりも前に、絡み付く魔女の右腕。手裏剣が虚しく後方に
放たれる間に、残る左腕で鬼女の肩を押さえ付ける。激痛に鬼女が浮かべる苦悶の表情。

「…スズカ!?」
 元々血色良くない無精髭の頬から色素が抜け落ちた。…膨大な冷や汗と共に、流れ出た
のだ。鎖断ち切る野獣のごとく、吠えるヒムニーザ。今や彼を拘束せんと試みる、強大な
理不尽の神。己が生命を賭さぬ限り、彼に勝機は訪れない。
 咆哮と共に閃光弾ける偽りの刻印。
 ジンプゥにも到来した異変。主人同様、額に埋め込まれた碧色の水晶体を明滅させつつ、
右腕を弓引くように振り絞る。…右の装備はハサミのごとき二本の刃。牙と化し、蝶番が
壊れんばかりに大きく開く。左の二本槍程射程はないが、敢えて振るう真意は如何に。
「これはさざ波? 中の波?」
 ギルはスクリーンに釘付け。相手の射程は短い、もっと引き付けていい筈だ。
 ハサミが一足一刀の間合いを、破る。今一歩、今一歩、今…。
 ブレイカーの目前で、閉じた蝶番。飛び散る火花。空を切ったバネの音が辺りに谺。一
瞬の静寂に、今度は少年の血の気が引く番。
「ね…猫騙し!? しまった!」
 身を屈め、深く構える深紅の竜。慌てて無闇な攻撃を返すよりも丁寧に受け切るが上策。
…それは正解だった。構え直すまでに、竜の視界遠くまで一気に離れ飛んだ黒衣の悪魔。
「これで終わりだ! 機獣殺法…」
256魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:56:26 ID:???
 悪魔の左腕に抱えた二本槍は既に消失。それを少年が認識するまでに、竜の両脇から襲
い掛かる二本槍。錐を揉む高鳴りを、どうにか両の翼で受け切ってみせる。
 はね除けた二本槍。だがこの瞬間、創出された完全無防備の隙。悪魔にとって絶好機。
「風斬り、十字!」
 その名の通り陣風となって、神速接近。刃広げた右腕が、伸びる。
「これは…大波!」
 少年が悟った天王山。広がった間合いが急速に狭まる。決着の時まであと数秒。
「ブレイカー、魔装剣!」
 腹のそこから声振り絞れば、スクリーン上の各ゲージが急上昇。極限の集中力、発動の
証。限り無く百%に近いシンクロ率の獲得はまさしく特訓の成果。
 竜の頭部、前方に鶏冠が展開。短剣と化したそれと共に、首を鞭のごとく唸らせる。
 目前まで迫る悪魔。その禍々しき右腕をかいくぐって、首は伸び切った。…悪魔の腹部
に、突き刺さった「魔装剣」。注ぎ込まれるエネルギーは傷口より溢れ、ほとばしる。
「1、2、3、4、5っ!」
 数え切った、必殺の五秒。ぐいと短剣引き抜けば、目前で倒れ伏す黒衣の悪魔。揺れる
大地。土煙が立ち篭める。…それが徐々に晴れた時、露になった悪魔の成れの果て。これ
でも人造物か、全身を痙攣させ、もがき苦しむ様は断末魔のもの。
 今一度身構える深紅の竜だが、それも僅かな時間。よろめき、足下から崩れ落ちる。横
たわった竜は全身で息継ぎを続けた。勝利の恍惚に伴う、途方もない疲労感。
 胸部コクピット内。相棒と同じように全身で呼吸する若き主人がそこにはいた。レバー
を添えた両掌が、離れない。握り締める余り、指が動かなくなってしまったのだ。いやそ
れ以前に肩や顔の筋肉まで鉛のように思い。疲労感はギルの感覚を奪い、涙腺にだけ自由
を与えた。…勝利の美酒に、酔い痴れる涙。

 鬼女の右肩を、二の腕を魔女は引き絞る。渾身の脇固めは逆転を狙う鬼女必殺の手裏剣
撃ちを躱し、全身を地べたに押さえ込んだ。あと数センチも力強めれば鬼女の腕は折れる。
 鋭利な視線で、エステルは睨む。苦悶浮かべるスズカの視界に割って入った魔女の威圧。
この状況に陥ってでさえ、怯む様子を見せぬ鬼女。却って睨み返す、その真意をエステル
は探る。ちらり、ちらり、視線を移した末に…。
「ああもう、止め止めっ!」
257魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 12:59:14 ID:???
 突然の休戦は、勝勢確実なエステルから申し入れたもの。極めた肩から腕を外すと立ち
上がり、膝に手をつきながら特大の溜め息。…理不尽な、余りに理不尽な結末は瀬戸際に
立っていたスズカを身じろぎさせる。
「な!? 『蒼き瞳の魔女』よ、これは何の…痛っ!」
 激痛は右腕から。先程まで捻り上げられていたのだから無理もない。脂汗をハンカチで
拭うエステル。だが目前の鬼女から視線を外すことはない。
「あれだけやっても降参しないじゃない。…左の袖、探ってたわよね?」
 図星だ。鬼女は唇噛み締める。そう、左の袖に隠した手裏剣で、今度こそ仕留めようと
考えていた。限界まで右腕を捻られ姿勢が崩れた時こそ魔女の最期と、決意していたのだ。
「私はね、あの子達が勝てば十分だから。万が一破れるようならこんな命、くれて…」
 言い掛けた魔女の視線が揺らいだ。見る間に血の気を失った頬、そして唇。腰を上げは
するが直立を維持できずよろめく様は本当に先程までの気丈な彼女なのか。

 全方位スクリーンの片隅に、死神をギルは見た。
 全身軋ませ、ゆらり立ち上がった黒衣の悪魔。風王機ロードゲイル「ジンプゥ」。
 あり得ない。そんな馬鹿な。たった今、彼奴は倒したはずじゃあないか。特訓の成果
「魔装剣」が、完璧に決まったはずじゃあないか。どうして、どうして!
「見事だ坊や。いや、ギルガメス君よ! 我らが必殺の『風斬り十字』を破るとはな!
 だが…詰めが甘かった。あと0.5秒、エネルギーを注げば本当に負けていた」
 ヒムニーザの声は通信を遮っている以上、聞こえはしない。だが他ならぬ少年の相棒が、
冷静に分析し原因をウインドウで示す。鶏冠の短剣を突き刺し、1、2、3、4…カウン
トと、少年の秒読みを照合した時、少年の声がやや早く終わって短剣が引き抜かれている。
魔装剣は、未完成だった。
「『風斬り十字』は破れたが、それでも我らが勝つ。…はあっ!」
 掛け声と共に、眩い閃光放つヒムニーザの刻印。水色の輝きと共に、ジンプゥの額に埋
め込まれた碧色の水晶も明滅。光は瞬く間に全身を包み込み、あれ程のダメージが嘘のよ
うに修復される。再び姿勢正した黒衣の悪魔。
「サクリファイス。…刻印ならではの緊急措置って奴、だ」
258魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:00:34 ID:???
 モニターに、コントロールパネルに撒かれる喀血。口から溢れるそれを拭い、今にも消
えてしまいそうな瞳の輝きを今一度、視界に突き立てる。
「君の刻印は、自分では発動すらできない。切り札を引いた我らの勝ちよ」
 一歩、又一歩、ジンプゥは近付く。翼を、右腕のハサミを引き摺りながら。サクリファ
イス(生け贄)でどうにかダメージを修復させた黒衣の悪魔だが、それでも飛べる程では
ない。しかし、それで十分なのも又事実だ。何しろ深紅の竜は…。
 先程まで勝利に酔い痴れた涙は、敗北を呪う涙に変わっていた。額の刻印も最早風前の
灯、輝きの衰えは瞳も同様。負けたのか、僕は、僕は。
(ギルガメスの、馬鹿ぁっ!)
 突如脳天に叩きつけられたのはテレパシー。動かなかった筈の四肢が痙攣。…スクリー
ンを見渡し、唯一の発信源を探す。ウインドウを通じ拡大、又更に拡大され、表示された
女教師の浮かべる涙。
「貴方、何で今まで頑張ってきたのよ! こんなところで、こんな奴に負けていいの!?
 男なら、大事なものがあるならもう一度立ち上がりなさい! 根性見せなさい、ギル!」
 あんなに奇麗な女性が、瞳を充血させて。何処か達観した雰囲気をかなぐり捨てて。人
目も憚らず泣き喚くエステルを視界に捉えた時、少年の瞳から失せた濁り。再び、ぼんや
りと輝き始めた額の刻印。
 スズカは地べたにへたり込んだまま、自身の力では見ることのできなかった魔女の半狂
乱を呆然と見つめるのみ。…だが、やがて唇を噛み締めたのは覚悟の証。
 深紅の竜の脇腹にまで、遂に辿り着いた黒衣の悪魔。振り上げられた右腕。開くハサミ。
「これで、終わりだ!」
 振り降ろされたその時。…地面に突き立ったハサミ。しかし、宙を舞ったのは土塊のみ。
油も金属片も見当たらない。身をよじらせ、紙一重で躱した深紅の竜。少年の指先に、力
は戻った。悪魔が再び右腕振り上げるよりも早く、若き主従が、吠える。
「ブレイカー、魔装剣!」
 再び首を鞭と化し、しならせつつ展開された鶏冠の短剣。悪魔の脇腹を正確に捉える。
夜明け前の荒野を照らすエネルギーのほとばしり。
「1、2、3、4、5、これで…どうだ!?」
259魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:01:55 ID:???
 言葉と共に、ゆっくり短剣を引き抜く。咄嗟の判断で紡いだ言葉こそ、僅かな誤差の修
正策。その結果はすぐに明らかになった。…尻餅を、ついた悪魔。今一度両腕を支えに立
ち上がろうとするが、尻がやや浮いたかと思いきや今度は肘が、崩れる。
「どうした、ジンプゥ!? 立て、立てぇっ!」
 レバーを懸命に振り絞る。上半身を右へ左へと揺さぶる悪魔だが、それで身を起こすこ
となく、やがて仰向けに、倒れた。
 よろよろと、ブレイカーが…深紅の竜が、立ち上がる。一秒、二秒、動かぬ気配を見せ
ぬ悪魔を目の当たりにした時、遂に星空見上げ、勝鬨。
 少年の涙は止まらない。勝利でも、敗北でもない、きっとそれは感謝の涙。

「…結局は、破れたか。わざわざ危険な可能性を膨らませて、だ」
 純白の狼が、地を蹴る。但し吠えはしない。何故ならこの四脚ゾイド、王狼ケーニッヒ
ウルフ「テムジン」の使命は作戦に失敗した者の暗殺。それに加え、目的地には疲れ切っ
た深紅の竜もいる。これ以上はない好機に銃神ブロンコの仏頂面にも溢れる笑み。…だが
変化する状況は又しても彼を裏切った。
「この光点…。リゼリア守備隊!? 又してもか、だが何故こうも簡単に発覚する…」
 モニター上、中型ゾイドを表す複数の赤い光に色めく銃神。正直なところ、葬り去るの
だけなら容易い。しかし身を隠すのに適した障害物は何もない。狙撃可能な距離に近付く
までにこちらの正体は完全に察知される。どうする、それでも仕掛けるか。
 だがそこに追加された、銃神の決断を鈍らせる要素。…赤い光点に引き続き、わらわら
と押し寄せてきた白い光点。Zi人の生体反応。中には3S級ゾイドのそれも複数垣間見
える。歩兵か、それとも素人か。いずれにしろ、作戦中止だ。水の軍団の正体は絶対的に
秘密にせねばならない。あの傭兵共を残しておくのは余りに悔やまれるが…。

 ゾイドウォリアー風情に軍隊を大量に呼べる筈などない。死闘を演じた四人と二匹の外
周を取り囲むのは、東リゼリアの村人達だ。老村長と、せがれのパン屋も松明を掲げて集
結している。そして彼らの中に割って入るかのように、群れを為す紅角石竜レッドホーン
数匹。いずれも青・赤・紫の三色で彩られたリゼリア国旗が錣に描かれた守備隊専用機。
260魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:04:56 ID:???
 それらが囲む風景は、何ともきな臭い。腹這いになるブレイカー、仰向けに横たわるジ
ンプゥ。立ちすくむエステル、地べたにへたり込んだままのスズカ。激戦を戦い抜いたパ
イロット二人は依然、コクピットの中。
 その片方。ブレイカー独特の「ゆりかご機能」で傷を癒すギルの表情は暗い。
「守備隊…それに村の人達まで…」
 どうして今日は、頬がこんなに紅くなったり蒼くなったりするのだろう。いずれにしろ
言えるのは、私闘がばれた、ということ。決戦に勝利し、どうにか生き長らえたギル達だ
が、これでゾイドウォリアーの資格が完全に剥奪される。
「エステルさん、お待たせしました」
 一匹のレッドホーン、頭部コクピットが開く。降りてきたちょび髭の守備隊長は小走り
して女教師に近付くと早速敬礼。対して深々と御辞儀するエステル。
「ありがとうございます守備隊長さん、村長さん。あれが…交通事故したゾイドです」
 言いながら、後ろを指差す。惚けたギル、扁桃型の瞳を丸くしたスズカ、そして…吹き
出すヒムニーザ。ブレイカーでさえ、大きな顎が外れたかのようにポカンと開けっ放し。
「ちょ、ちょっと待て! 幾ら何でも俺達を交つ…!?」
 スピーカーを介して怒鳴り散らそうとするヒムニーザだが激痛が先に立つ。
「はいはい、怪我人は静かにね。それではよろしくお願いしまーす?」
 もう一度、御辞儀。早速守備隊長と配下、それに村人一同は作業に取り掛かる。事故な
どして放置されたゾイドを回収する場合、体格が大きすぎれば運搬が大変だ。そこで人手
を集め、ある程度解体してから運搬と相成る。貧しい村にとって格好の臨時収入。
「これで良いのか、『蒼き瞳の魔女』よ…」
 スズカの声に、振り向くエステル。瞳の輝きは悪戯っぽさと、寂しさとがない交ぜ。
「取り引きをしたのよ。それに貴方、負けたら『処刑』されるとは考えていても、『自決』
しようとは考えてないでしょ? 私の生徒に変なトラウマ、植え付ける必要はないからね」
「成る程、全てはあの少年のために、か。確かに女が良過ぎる」
 嘆息したスズカ。暗躍する水の軍団に関する情報(つまりヒムニーザ達)を提供する代
わりに私闘を見逃してくれと願い出たわけか。破れた理由がわかったような気がした。
261魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:09:05 ID:???
 スピーカーに聞き耳立てていたヒムニーザ、憮然。その分、瞳に生気が戻りつつあるが。
(死ねるわけねぇだろ、馬鹿野郎…。全く、金と女以外にやる気を植え付けさせやがって)
 エステルは立ち去ろうとしたがふと立ち止まり、振り向きざまに言い放つ。
「それと、今度会った時はちゃんと名前を呼んで欲しいわ」

「ブレイカー、そろそろ良いでしょう?」
 ピィと甲高く鳴き、長い首もたげ胸部コクピットを露にした深紅の竜。暗い室内から怖
ず怖ずと這い出てきたギル。どうにかまともに歩ける程度には回復した模様。
 最初に視界に飛び込んできたのは女教師の蒼き瞳だ。あれ程の激戦を経て尚、輝きに慈
愛の柔らかさが満ち溢れるのだから誠に底知れない。…次に飛び込んできたのは彼女の右
手。それをしっかり掴んで…レバー以外に掴めるものがあったことに人知れず感動して、
降り立ったのは夜明けを控えた星空の下。
「良くやったわ、ギル」
 言いながら撫でられる頬。素直に嬉しい。だが実のところ、子供扱いだよなと少々口惜
しげなのも事実だ。少年は今より背伸びしたくなってきている。
「ありがとう、エステル先生。それより、何で守備隊や村の人達が…」
 女教師がさっきも見せた寂しげな表情に、少年は半ば真意を理解した。
「村長さん達に、話せることは話したわ。それで、助力をお願いしたわけ。
 でもギル。その代わり、私達は今すぐ旅立たなければいけない」
「儂らはそこまで慌てなくてもと思うのじゃがのぅ…」
 二人に割って入った老村長とせがれのパン屋。毛糸の帽子を脱ぎ、老村長は挨拶する。
「ですが又同じ手口で村が狙われるやも知れません。私達が去れば安全なのは事実です」
 気丈に言い放つエステル。ギルも残念だが、覚悟を決めるより他なかった。今日の戦い
のように、今後も上手く立ち回れる保証は何処にもない。
262魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:10:42 ID:???
「わかりました。そこまで決意が固いのなら。でも、約束して下さい。ほとぼり冷めたら、
又遊びに来て下さい。お待ちしております」
「ギルガメス君、その時は今よりもっと上手いパンを用意してやるからな!」
 村長のせがれに言葉掛けられ、涙腺が弛んだ少年。無言の頷きは再会の誓いでもある。
 東方、レヴニア山脈の稜線からようやく漏れ始めた青白い輝き。あれ程ギルを嘲笑っ
た星空でさえ、遂に明けようとしていた。

「おのれ、チーム・ギルガメス!」
 モニターを介し、怒鳴り散らす水の総大将。銃神ブロンコの報告は、あの冷静なカリ
スマを激昂させて余りある。何しろ「ゲリラ殺しのジンザ」「破戒僧グレゴル」に引き
続き「風斬りのヒムニーザ」まで破れたのだ。おまけにヒムニーザに至ってはリゼリア
守備隊の手に落ちたと来た。
「ブロンコ、次は貴様の番だ。…狼機小隊の使用を許可する!」
「はっ! しかし、よろしいのですか? 狼機小隊は対『某国』用の…」
「構わぬ。チーム・ギルガメスが生き長らえれば結局は『某国』に知れる。『B計画』
のために彼奴らを手中に収めんとするのは間違いなかろう。
『B計画』阻止のために、最早なり振り構ってはいられぬだろう」
「わかりました、総大将殿。狼機小隊を用い、必ずやチーム・ギルガメスを潰して御覧
に入れます」
「よくぞ申した、ブロンコ。期待している。惑星Ziの!」
「平和のために!」
 夜明けの山に、遠吠えするケーニッヒウルフ「テムジン」。水の軍団の追撃は、とど
まることを知らない…。                          (了)
263魔装竜外伝第六話 ◆.X9.4WzziA :2005/11/18(金) 13:16:50 ID:???
【次回予告】

「ギルガメスを囲む狼の群れは、如何なる状況でも彼を狙うのかも知れない。
 気をつけろ、ギル! 猿(ましら)の戦士は、敵か味方か…!?
 次回、魔装竜外伝第七話『竜と群狼と、そして』 ギルガメス、覚悟!」

魔装竜外伝第六話の書き込みレス番号は以下の通りです。
(第一章)194-210 (第二章)215-228 (第三章)235-245 (第四章)248-262
魔装竜外伝まとめサイトはこちら ttp://masouryu.hp.infoseek.co.jp/
264Innocent World2 円卓の騎士:2005/11/19(土) 17:28:38 ID:???
 兄が身体の支配権を手放したというのか。不可解にも思ったが、ここで尋問していては
全員が海の藻屑と消えるまでだ。
 リニアとラインハルトが飛び込むなりハッチが閉じ、エナジーは数階層分の天井を最大
出力のキャノンで貫いて飛び始めた。

「……まったく、この船を一撃で沈めるなんて」
 ぼやくアレックスが放つ、二発目の砲撃。穴を空けた天井から覗き見えるのは、自分達
が降りてきた階段。しかし階段が通るシャフトはゾイドが通るようには設計されていない。
 どうする?

 答えは数秒後に得られた。トリガーを引き絞るアレックスの指。三度目の閃光。
「う、うそだろォォッ!?」
 アレックスは中央の支柱もろとも階段を吹き飛ばし、エナジーがギリギリ飛行できる程
度のスペースを確保したのだ。
 しかし支えを失い、歪み出すシャフト。たちまち外壁が破れ、水が滝のように流れ落ち
てくる。その水流に逆らい、翼を輝かせてエナジーは飛ぶ。機体が通った後からシャフト
の崩壊が始まり、水圧で捻じ曲がった金属片が海底へと沈んでいく。
「アレックス、間に合うのか!」

 リニアの叫びにかぶせるように、とうとうシャフトが獣の咆哮の如き断末魔を上げて傾ぐ。
「間に合わせます、ご心配なくッ!」
 遂に前方からも水が流れ込み、四方を水に囲まれるエナジー。しかしその速度は落ちず、
前方の泡立つ水壁に向かって飛び込む。

 ――刹那の間、モニターを白い泡が覆う。次の瞬間、機体は勢いよく薄暗い虚空へ飛び
出していた。

 逃げ帰ってきたセラードを迎えたのは、アーサーからの冷たい視線。そして、リノーの
容赦ない平手打ちだった。
「仲間……死なせといて、なにをいけしゃあしゃあと帰って来てんのよ!」
 手柄欲しさに命令違反、結果がただでさえ人数の少ない仲間を更に一人死なせる失態。
それで一人逃げ帰ってきたとあっては、いまの彼に考え付く限り最悪の状況である。
265Innocent World2 円卓の騎士:2005/11/19(土) 17:31:28 ID:???
 だがこんな状況でも彼は、自分が全面的に悪いとは思っていなかった。あらゆる手段を
駆使して、彼の頭脳は自らの責任を否定する。
 ――あのバケモノがどう危険なのか、説明しなかったアーサーが悪い! それに僕より
強い“剣”を与えられながら負けたあの武士道野郎もだ!

 アーサーが近付いてくる。叱責か、殴打を覚悟してセラードは身を硬くしたが、アーサ
ーはただ溜め息をついて呟いただけだった。
「……もういい。お前の能力の限界が、よくわかった」
 たったそれだけの言葉を重く言い放つと、彼は“聖域”に入っていってしまった。入れ
替わりにセラードは茫然から醒め、目も眩むような屈辱感がその精神を焦がす。

 『僕の限界がわかった』?
 『もういい』?
 ふざけるな。このままにしておくものか。

 竜巻のように荒れ狂う怒りの炎が、目標を定めて集束する。悪いのは、自分に恥をかか
せた敵だ。
 どこか冷めた面持ちでこちらを見ているリノーを睨み返すと、彼は部屋を出て行った。

 “市街”が白く染まる。
 見回せばどこも、一面の雪景色。道路では、滅多に使われることの無い除雪車が久々の
出番を与えられ、脇で見ているロードスキッパーに得意げなエンジン音を聞かせる。
 そろそろ本格的に冬になる頃だ。とはいえ、この雪の量は異常である。
 それでも人々は、『ただの異常気象』だと信じて疑うこともしなかった。気象という自
然の力に、何者かの作為が影響する筈などなかったからだ。

「あぁ〜……さむい」
 毛布にくるまって小さく震えるレティシアの姿が妙にかわいらしく、エルフリーデの頬
が自然に緩んだ。その微妙な表情の変化を相手は見逃さず、すぐに年齢に似合わない艶の
ある声で「なぁに笑ってんのよォ」と口を尖らせる。
266Innocent World2 円卓の騎士:2005/11/19(土) 17:57:15 ID:???
「ううん、普段あんまり大人びてるもんだから、はじめて歳相応のアクションを見たなー
……ってさ」
 その時、ドアを開けてエメットが飛び込んできた。
「帰ってきましたよ、オリバーさんたち」

「……なるほど、これがポケットに入っていたと」
 アレックスがキーに指を走らせる。オリバーのポケットに『なぜか』入っていたディス
クを、店のコンピューターで解析しているところだった。
 その横では、エルフリーデが泣きそうな顔でオリバーと向かい合っている。
「もう、また無理したんでしょう……そんなに私を心配させて楽しいの? オリバー……」
 これだけ馬鹿をやっていれば、被害者意識を持たれても仕方がないか。
 涙を見せまいとこらえる少女は儚げに映り、守りたいと――彼はそう思った。
「オリバーさん、これはどうやら……」
 目を向けた彼がモニター上に見出したのは……見たことのない、ライガータイプのゾイ
ド。このディスクに収められていたデータはその設計図だ。
 だが、誰が何の為に?
「罠でしょうか? データを見る限り、ロストテクノロジーの塊みたいな機体ですが……」
 オリバーがまさに欲していた情報が、皿の上に綺麗に盛り付けられて差し出された。普
通に考えればまず罠だ。
 しかし、罠だとしたらこんな高性能機、それも未確認の新型のデータを偽造するだろう
か? 第一、オリバーのポケットにディスクを入れる機会など“騎士”にはなかった。だ
とすれば残る可能性は――。
「――兄さんだ」
 感情の読み取れない表情で、リニアが呟く。
「兄さんは私とラインハルトの前から姿を消し、あの艦でこのデータを仕上げた。そして
これを自らポケットに入れ、アレックスの前に現れて身体のコントロールをオリバーに返
した」
「待ってください。兄とは――セディール・レインフォードのことですか?」
 アレックスの刺すような視線にも彼女は臆さず、頷く。
「私は兄さんを信じる。これはきっと、彼なりの“贖罪”なんだ」
267俺設定満載短編・ゾイドブリッツアー:2005/11/24(木) 01:57:04 ID:???
時はへリック共和国軍とネオゼネバス帝国軍の大戦からおよそ百年後。
場所は東方大陸。我々の世界において『ゾイドフューザーズ』と呼ばれる物語の舞台である。
しかし神の気まぐれか、いつしか『フューザーズ』本来の時間軸から分岐したこの世界においては
Ziファイターこそ多数存在するもののRDたちの姿は影も形もない。
さらに言えば『フュ―ザーズ』自体も『バトルストーリー』と呼ばれる物語とは
事実上別の時間軸に存在しているので、旧大戦の記録が我々の知識と一致するかどうかも怪しい。
そして、この世界の東方大陸には三つの大国が隣接し政治的なイニシアティブを握るべく暗闘に明け暮れているのだ。
この物語においては惑星Zi人の言語を翻訳する際、便宜的に国名をわかりやすく改変している。
へリック共和国系移民が多く存在する『青の国』。
ガイロス帝国系移民が多数を占める『黒の国』。
そして―――今回の物語の発端となるネオゼネバス系の『赤の国』。

とある軍高官の邸宅。横一列に植えられた植木をなぎ倒して10機のゾイドが邸宅を後にする。
『黒の国』を中心に『赤の国』でも正式採用されているゴリラ型ゾイド、ハンマーロック。
彼らの先頭を行くのは共和国系の技術で開発されたゴリラ型ゾイド、レイコング。
「お頭、ガンタイガーみたいな足の速いゾイドにおっかけられるのは覚悟してたんですがね」
刹那、光の帯がゴリラ部隊をかすめていく。
小型ゾイドなら一撃当たれば機能停止か、あるいはそれ以上の威力か。
「あんなゴツい飛び道具を持ってる奴におっかけられるなんて聞いてませんぜ!」
「言うな、黙って走れ!」
必死の思いで敷地内の小さな森に飛び込むゴリラ部隊。それを追撃するのは赤い二足歩行ゾイド。
近年レブラプターの後継機として採用されたパラブレードと呼ばれる機体である。
実際は『赤の国』の大型強襲ゾイド・デスレイザーの支援機として同時開発されたが
ネオコアブロックの出力と遠近両方での高い攻撃力を買われ一部が個別に配備されているのだ。
ほどなくゴリラ部隊はパラブレード隊に追いつかれ、肉弾戦が始まった。
それはさながら一昔前の不良学生による河川敷での喧嘩の様相を呈している。
268俺設定満載短編・ゾイドブリッツアー:2005/11/24(木) 01:58:46 ID:???
「行ってください、お頭!」
「頼んだぞお前ら!俺らは先に・・・逃げる!」
「後で落ち合いましょう!」
一機のハンマーロックを連れて逃走を図るレイコング。そのコックピットには中肉中背の男と
身動きができないように縛られた少女の姿があった。
先の会話といい、ゴリラ部隊の構成員がまっとうな職に就いているようには見えない。
ある程度走破したところで、草陰から何かが彼らを狙って飛来してきた。
先行していたハンマーロックの脇腹を紙のように切り裂く。急速に生命力を失い、崩れ落ちた。
「待ち伏せかよ!」
一機のパラブレードが先回りしていたのだ。
少なくともゴリラ部隊よりは敷地内の勝手を知っているし最高速度はハンマーロックを上回っている。
十分にありえることだった。プラズマレールキャノンをかわし躍りかかるレイコング。
敵の両手をしっかりと握りこむ。コング優勢かと思いきや敵頭部のエクスブレードでつつかれる。
さらには小型機とは思えないほど太い足で蹴りをもらう。
「政府の犬は教科書通りやってりゃいいんだよ!」
無理矢理引き抜いたエクスブレードで敵の首を切り落とし、両腕を引きちぎる。
戦闘不能となったパラブレードを残し、コングは合流したハンマーロック隊と共に夜の闇に消えていった。

「で、俺に猿退治をやれと?」
「はい。サル型の野生体が人里で暴れた時は事態の収拾に貢献したとか」
「それ専門じゃないんですけど、ねぇ」
軍高官の使者は盗賊退治と令嬢の救出を男に依頼した。盗賊は『青の国』に根城を持ち、
関係があまり良好とはいえない『赤の国』は手が出せないのだ。
本来なら恥を忍んで『青の国』に助けを請うことが当然、なのだが父親は軍の非主流派に属していた。
派閥の中でも下から数えたほうが早い彼が最新鋭機のパラブレードを警備に回せたのも奇跡と言っていい。
そのため弱みを握られるリスクを犯してまで助けるような重要人物ではない、
あくまで秘密裏に救出せよとの指示が下ったのだ。
269俺設定満載短編・ゾイドブリッツアー:2005/11/24(木) 02:00:14 ID:???
その後、人里に下りてきた野生ゾイドの激しいラッシュをかわし捕獲に成功した様子が
『赤の国』全国ネットのニュースで放映され、それを見た父親が藁にもすがる思いで接触してきたのだ。
「・・・わかりました、やってみましょう。ただ、用意してほしいものがあるんでね。
潰しのきくブロックス一機と―――」

一週間後。
「こちら偵察兵。『青の国』の討伐部隊の主力ゾイドはベアファイターです」
「ベアか。四足高速型ほどじゃないが山岳戦にはもってこいだな。可変機能と厚い装甲も持ってる」
「ベア部隊はいつでも突入できる状態です。作戦開始から撤収までギリギリのタイミングになるかと」
「わかった。手早く終わらせる」
「あの・・・」
「なんだ?」
「本当にやるんですか、アレ」
「お嬢さんにケガはさせないさ」
直後、盗賊のアジトに轟音が響き渡った。どこからともなく放たれた砲弾が着弾したのだ。
作業をしていた二機のハンマーロックが直撃弾をくらい炎上した。残り6+1。
砲撃は止むことなく続き、地面にいくつも大きな穴を穿っていった。
「お頭、レイコングの外装パーツはまだメンテ中ですぜ!」
「ああ、くそっ!ハンマーロックを全部出せ!」
砲弾が飛来した方角を向く。朝日がまぶしい。敵は太陽を背にして自分たちをあざけ笑っているのだろう。
「実弾でこれだけの威力を出せるのは、ゴジュラスのバスターキャノンしかありえねえ」
残り全てのハンマーロックが砲撃地点に急行。だがそこにはバスターイーグルのキャノンを背負った
傷だらけのパラブレードだった。あっけにとられていると、その機体から閃光が走った。
手下が向かった地点での爆発。パラブレードが自らのコアを爆破させたのだが、お頭と呼ばれている男は
そんなことは知る由もない。体中の血管が怒りで沸騰する。
270俺設定満載短編・ゾイドブリッツアー:2005/11/24(木) 02:01:44 ID:???
一方、アジト内の牢屋。膝を抱えてうずくまる少女の姿があった。そこに一人の男が姿を現した。
「あなたは?」
「助けにきたのさ。走れるか?」
二人は男が通ってきた通路を逆走し、一機のギラファノコギリクワガタ型ゾイドに乗り込む。
それはワンブロックス、またはバラッツと呼ばれる超小型ブロックスのギラフソーダに酷似していた。
しかし、その装甲は白く、フレームは爽やかな青色だ。パラブレードのプラズマレールキャノンを装備している。
可能な限り音を立てないように脱出するが運悪く盗賊のボスが操るレイコングに見つかってしまう。
「しっかり捕まってろよ。ちょっと怖い思いをすることになるぜ」
バラッツのプラズマレールキャノンから大出力のビームが放たれる。
コングはパラブレードとの戦闘時と同じように横滑りでかわし、今度は砲身そのものを掴んだ。
「むしり取る気か!」
「俺は一つの芸で食ってる男じゃねぇ」
ジャーマンスープレックス。いわゆる投げっぱなしジャーマンだ。レールキャノンを失いながらも体勢を元に戻す。
パルスキャノンを撃ちつつ突進。最大出力で繰り出される二つの拳をすり抜け、
コアブロックとパワー増幅用のライトブロックに一撃を見舞う。
作動不良を起こし地面に伏したコングを尻目に帰途につくバラッツ。
遥か後方の山中では小破したハンマーロックにベアファイター隊が襲いかかっていた。
271俺設定満載短編・ゾイドブリッツアー:2005/11/24(木) 02:02:35 ID:???
翌朝。邸宅の玄関先に立つ3人の男。
「今回の君の働きには本当に感謝しているよ。これが今回の報酬だ」
「どうも。金塊の数が最初の取り決めより多いようですが?」
「感謝の気持ちさ。こんなことしかできないがね」
「ありがたく受け取っておいた方がいいですよ。しかし、なんでブロックスを砲台の代わりにしたんですか」
「いや、普通に砲台を調達するより安くつくし」
「ああ、そうですか」
「何だよその顔。もしもの時はリモコンで動かすなり直に操縦して脱出するなり色々できるだろ?
もっとも、俺の相棒『ブリッツソーダ』を乗り捨てるつもりは毛頭ないけどな」
「相棒、ね・・・あのパラブレード、レイコングにやられた私の機体なんですよ」
「正直スマンカッタ」
「ところで、娘の姿が見えないが」
「今回のことは精神的に大変辛いものがあったと思います。よろしく伝えておいてください」
行く当てもなく、舗装されたゾイド用道路を行くブリッツソーダ。『青の国』にある故郷に帰ろうか、と思う。
そこへ赤い見慣れないブロックスがやってきた。コックピットに座っていたのはあの御令嬢ではないか。
「何でついてきてるんだよ?」
「箱入り娘の生活はもう沢山なの。お父様の立場上色々と問題もあるし。この際だからついていっちゃおうかと」
「帰れ!」
「何よ失礼ね。せっかく最新の実験機を持ってきてあげたのに。ハーケンっていうのよ、この子」
「なおのこと帰れ!そんな不具合の洗い出しも済んでなさそうな物をどっから持ってきた!」
2人の道中は始まったばかりである。 (終)
272復讐は刃と共に ◆5QD88rLPDw :2005/12/03(土) 22:06:35 ID:???
「動くな…動くとお前の姪の命が危うくなる。
俺の目的はラ・カン!あんただけだ。」
時は遙未来。更なる自然災害によりゾイドが発掘される時代。
世界はディガルド武国の席巻とそれに反旗を翻し再起を賭ける…
ディガルド討伐軍の進軍の最中の出来事である。

今を去ること…30分程前。
「しまった!?読まれていたか!」
その時討伐軍は不利と知りながらも敢えて崖に挟まれた細い峡谷を進軍。
その出口に運良く進行ルートを読んでいたディガルド軍の一軍の襲撃を受ける。
極点戦力差およそ8:1。絶望的な戦力差であった…。
その戦力差は一見リーオの武器で充分抵抗できそうでは有るが…
それは相手がバイオラプターの話。今はメガラプトルを中核とする混成小隊が相手。
ティゼの駆るブラストルタイガーより灼熱の雨が放たれる。
それにより後続に被害を与えるも先頭では数機のゾイドが必死に相手を抑えていた…。

逆にディガルド軍側でも想定外の出来事が発生していたのも討伐軍は知る由も無い。

「高速で接近するゾイド有り!その数…1です!」
「機種は!?」
「…コマンドウルフ?いえ!?一致しませんカスタムタイプにも該当機種無し!」
「映像を回せっ!」
「ディガ!」
その映像には青光りする装甲を纏い背に銃剣を思わせるの武装を持ったコマンドウルフ。
該当機種が無いのは四肢の付け根。
肩等に3角形の頂点を組むように付いたサーボモーターを装備したドラムモーター。
更に四肢と牙、背の付け根より伸びる…多分4連インパクトカノンの基部、
その左右に2機並んだ4機の銃剣がメタルZiである事だ。
要するに…たった1機の小型ゾイドでも危険性が異常な存在の急速接近だった。
更にその速度もコマンドウルフの最高速度を軽々一回りも超える物。
驚かない方がおかしいのである…。
273復讐は刃と共に ◆5QD88rLPDw :2005/12/03(土) 22:46:31 ID:???
「ちっディガルドか。折角情報を手に入れたのにこれとは…。
だがラ・カンは俺の得物だ!貴様等には指一本!
いや!ソードウルフの装甲の擦り傷一つもやらん!」
背の砲塔が閃光を放つ。この装備は元々このコマンドウルフに有った物。
相棒のインパクトウルフの主力兵器だ。つい最近機体が変質した際に性能が変わり…
それの一撃はバイオゾイドの装甲を貫く光の球を発生させるようになっていた。
同時に4機バイオゾイドが沈む。
エヴォルトと言う現象らしいが…エヴォルト様々と言った所だ。
慌てふためくバイオゾイド共。もうここいつ等には俺達を抑える術は無い。
空から援軍も来るがその為に装甲を犠牲にした飛び蜥蜴。グイとか言ったか?
背の機械の鼻は冷酷に奴等の動きを捉えて示す。
それで終わりだ…トリガーを引けばそれで火の玉と化して地面に落ちる。

「な…コマンドウルフの亜種に100機を超える我が軍が推されているだと!?」
運の良さそうで実は悪かったディガルドの指揮官。悪いがお前に用は無い。
そいつに俺は通信する。
「おい…?さっさとそこを退け。そうすればこれ以上お前等に攻撃しない。
退かないなら…俺の復讐のために死んでくれ。以上だ。」
一方的な脅し。ディガルド武国は所詮バイオゾイド共の驚異と恐怖が戦力の半分。
それに屈しない者にはめっぽう弱い。絶対の立場の傘に隠れた臆病者。
更にその下にその力で屈させられた人々。実際には烏合の衆以下に成り得る。
恐怖で従えた者等更なる恐怖の前では一溜まりも無い。
コマンド程度で戦線が崩壊するのだから当事者が感じる恐怖は計り知れない。
その指揮官は何とか恐怖に屈せず向かってくるが…
俺達が通り抜けた後に4枚におろされていた。

目の前で討伐軍の奴等が呆気に取られている。
あいつ等は俺が自身以外に護る者が無い為にこの芸当ができた。
この事を理解できる奴は余り居ないようだ。ソウルタイガーやケーニッヒウルフ。
そこら辺が隙無く身構えているが…他の奴等は俺の事を味方だと思い込んでいる。
最近は続々と仲間が集まっているそうだから便乗させて貰おう。
何喰わぬ顔で俺は…先頭の奴等を通り抜けた。
274復讐は刃と共に ◆5QD88rLPDw :2005/12/03(土) 23:45:07 ID:???
殺気が全く無い白銀のライオン。ムゲンライガーを通り抜ける。
最近現れたらしい。話ではこいつは俺の相棒と違いエヴォルトをしても…
その必要が無ければ元の蒼いムラサメライガーに戻るそうだ。
他にも真紅のハヤテライガーと言う姿にも成るらしい。
乗り手のルージ共々要注意の相手だ。
ソウルタイガーのセイジュウロウと並んで厄介な存在だ。

今度は巨大な大猿…デッドリーコングの前を通り過ぎようとする。
すると…
「おい?無茶するなよ…そんなのじゃ早死にするぜ?」
ドスが利いたそれでも優しそうな男の声が聞こえる。雷鳴のガラガだ。
巨漢で毫腕、豪快で強引。相棒のロンと一緒に少し前まで抵抗組織を持っていた。
ここらで解るだろうが俺の相棒の機械の鼻は他の奴とはかなり性能が違う。
ディガルドの奴等が持っている情報を結構な距離から根こそぎ取ってくる。
そのお陰で俺は常に事情通に成れる。比較的安全に物事を行なえるのだ。
彼等の情報をある程度持っているのも見た目と裏腹に凄い相棒の力の賜物。
感謝しても感謝しきれない。

どうやら渓谷を抜けた少し後で野営地を設営する様だ。
ここで俺にチャンスが訪れる。角を強化したランスタッグとソードウルフ。
その2機が目の前に現れたのだ。

そして…話の冒頭に戻る。

無防備の相手など組み伏せるのは容易い。
ラ・カンの姪のレ・ミィがとんでもない傍若無人な言葉を口走っているが無視する。
だが…困った事にラ・カンはそのまま通り抜けようとしたのだ。
こうなったら声を荒げて足を止めるしかない。相手の方が1枚も2枚も上手だった。
反省してももう遅い。更に困った事に…
脇を固める討伐軍の主力はかなり遠巻きに俺達を包囲。
普通に考えなくても逃走は不可能な状況となっていた…。
275復讐は刃と共に ◆5QD88rLPDw :2005/12/04(日) 00:24:27 ID:???
「またみたいだね…大概初めて合流する奴は揉事を起こす。君?
要求はなんなんだい?」
ロンがコクピットから出て無抵抗をアピールしながら俺に問う。
それならこっちも奴を驚かせる為にそのままコクピットから出て地面に降りる。
そこで周囲か一斉に騒ぎ出す…
それもその筈で俺の相棒は元々野良ゾイド。それにそのまま乗っている。
相棒と俺が離れても相棒は止まらないのだ。それに相棒は用心深い。
油断無く…そして力を掛けすぎず傷付けずランスタッグを押さえ付けている。

「大したものだよ…野良ゾイドを乗り熟すなんてそんな話は初耳だからね。」
一時的に形成逆転。取り敢えずもう1度要求する。
「ラ・カン…用が有るのはあんただけだ。ソードウルフから降りて…
俺の相棒の前に来い。その間に俺はソードウルフに方に行く。」
返答の是非を問わず俺はソードウルフに向かって走り出す。
この場合待っては成らない。待てば俺は一方的な絶対悪となる。
あくまで自分勝手の域で俺の評価を持たせなくては成らないのだ。落とせば…
直に誰かが俺を討つ。ソードウルフのコクピットが開き、
同じくラ・カンは相棒に向かって歩き出す。

擦れ違いざまにお互いの顔を一瞥する。俺はそのラ・カンの顔に驚愕を覚えた…。
そこに在ったラ・カンの顔は嘗てキダ藩を統治していた時と同じ顔。
藩を捨て逃げた男の顔等そこにはなかった。それでも…ラ・カンは親の仇。
捨てられた藩に残された俺達の家族は一方的にディガルドに蹂躙された。
襲われた際に姉2人と妹と弟は焼き払われた。一つ身で俺達を育ててくれた…
母は偶々キダ藩の中枢に近かりし血縁の1人として嬲り殺しにされた。
家を焼かれた際に運良く焼き払われなかった俺だけが残された。
目の前で母を殺される様を見ながら…。
「命はまたの機会にしてくれないか?ロウフェン。」
後から聞こえて来るラ・カンの声。何時の間に素性がばれていたのだろうか?
ここで俺の目論見は淡くも崩れてしまったのだ。もう2度と俺の刃は届かない。
既に…”仇としてのラ・カン”は自らのを後悔の炎の海で焼き払っていたのだ。
そこに居たのはディガルド討伐軍のラ・カンのみ。
276刃は折れて ◆5QD88rLPDw :2005/12/04(日) 01:13:40 ID:???
「ラ・カン!追わなくて良いんですか!?」
ルージはラ・カンに問い詰める。命を狙った相手を見逃したのも不満だが…
それよりもそこで彼を口説き落とそうとしなかった。そちらの方にも不満が有る。
「良いんだルージ。刃が折れた者に戦え等、口が裂けても言えない。
力が有るなら使えと人は言うだろう。だがそれを彼に言える程…
私の肝は据わっていない。それにそんな言葉を掛ければミィ共々私もこの世に居ない。」
大きく息を吸ってラ・カンはルージにこう言った。
「私は結局あの時、討伐軍を旗揚げした時の約束を守れないかもしれない…。
だが、それが敵わなくてもその足場ぐらいは…土台ぐらいは作りたい。」
それを言い終えたラ・カンは唯青い空を見上げるだけだった…。
それを見てルージはそれ以上言葉を続けようとしない。
それを語るラ・カンの声にこの件に関しては完全に無理と言う答えを感じ取ったのだろう。

「…さて。如何するかな?相棒?」
俺は相棒に尋ねる…すると相棒は思いきり遠吠えをすると森へ入り込んだ。
取り敢えずは食事らしい。レッゲルを捜しに入っている相棒。
そう…取り敢えずは…生きてみる事だ。
今までの道は砕け散った。ならもう1度道を探せば良い。それだけの話。
ラ・カンを討てなかったのでその後配置替えに成ったキダ藩進行部隊の奴等を…
根こそぎ仕留めた俺にはもう仇は居ない。有る意味快挙だ。
「今度は…賞金稼ぎでも始めるか。その次は…」
全速力で駆け抜けた復讐の道程。そのお陰で再起への時間はたっぷり有る。
因みに…俺が逃げ去る際にラ・カンに吐いた捨て台詞それは…

「人違いだった…笑って許せ。」

極上のかつ傍若無人の負け惜しみだった…。
何時か…何時かこれを取り返す!そう胸に誓う。
問題は如何やってそれを取り返すか…?大難問だった。

ー 終 ー
277悲しき機獣 1 ◆h/gi4ACT2A :2005/12/09(金) 22:15:26 ID:???
文明が隆盛を迎えたある時代、とある研究所にてある画期的なゾイドが誕生した。
「成功だ!ゾイドの常識を覆すぞ!成長する戦闘ゾイドだ!」
「成長する戦闘ゾイドとは?」
「本来のゾイドは戦闘用に改造されたらその成長はストップする。
しかし、このゴジュラス系ゾイドをベースとした実験体“G−003”はその常識さえ
超越した画期的ゾイドなのだ。最新鋭の生機融合技術により、生身でありながらも機械
としての強さも併せ持つ。今はまだ赤子の状態であるが・・・これから様々な事を
教え込んでいけば、あの我等の仇敵、バイスの奴等に一泡ふかせられるかもしれんぞ。」

しかし数日後、後の世の人々に“神々の怒り”と呼ばれる天変地異によりそれまで人類が
作り上げてきた文明は一瞬にして崩壊し、研究所の期待を一身に背負った“G−003”
も行方不明となった。

そして数千年の時が流れた時代のある山村、外の世界ではディガルド武国と呼ばれる
軍事国家が近隣諸国を荒らしまわっていたのだが、その山村では無縁の話だった。
彼等とて一応行商の話等からディガルドの恐ろしさは知っていたが、山村にはディガルド
の欲しがる様な物は無い為、襲われる事は一切無く、貧しくも平和な村だった。
そんな山村に住む一人の少女が山菜を取りに山に登っていた時、ある物を発見した。
「こ・・・これは・・・何?」
少女が見付けたそれは彼女の見た事も無い物だった。小動物位の大きさで、銀色に輝く
不思議な生き物。恐る恐る触って見ると、金属の様な触り心地であったが、暖かかった。
「もしかして・・・ゾイド?」
直感的にそう思った少女はそのゾイドが衰弱している事に気付き、次の瞬間そのゾイドを
抱いて走っていた。山の中にはわずかではあるがレッゲルが湧き出している場所があった。
そこでレッゲルをあげれば元気になると考えたからだ。そして実際に元気になった。
278悲しき機獣 2 ◆h/gi4ACT2A :2005/12/09(金) 22:18:32 ID:???
野生ゾイドと言う存在さえ忘れ去られ、ゾイドと言えば地中から発掘される乗り物
として認識されている傾向が強いこの時代。少女はそのゾイドの正体が何なのかは
さっぱり理解出来なかったが、とりあえず安心した。その事がきっかけとなり、ゾイドは
少女になつく様になった。しかし村に連れて行けば皆が騒ぐと思った為、山の中で一人
こっそり出会うと言う事をやって行く事にしたのだった。

その後しばらくは何事も無く時は流れていたのだが、ちょくちょく他の村人に秘密に
山奥に入っていく少女の行動に他の村人が不穏に思わないはずが無く、怪しんだ一人が
少女の後をこっそり後をつけていた。そしてゾイドはついに見付かってしまったのだ。

「見ろ!この銀色の体・・・小さいがこれは恐らくディガルドのバイオゾイドに違い無い!」
「違うよ!ただの勘違いだよ!そんな事無いよ!だってあんなに大人しいのに・・・。」
カマや斧、竹槍で武装した村人に囲まれ、怯えるゾイドを少女は必死にかばった。しかし、
少女一人で勝てるはずも無く、直ぐ引き離され、斧を構えた村一番の力持ちがゾイドへ
斧を叩き込もうとした。その時だった。斧がゾイドの体を叩き斬ると思われた瞬間、
少女がゾイドの前に飛び出して来、少女は背中から斧で切り裂かれたのだ。
「お・・・お前この後に及んでもこのバイオゾイドを庇い立てするか!?」
「ち・・・ちが・・・逃げて・・・は・・・やく・・・。」
これが少女の最期の言葉だった。そしてゾイドは物凄い速度で逃げ出し、村人の捜索にも
関わらず、完全に姿を消していた。村人はバイオゾイドの大群が村を襲うのでは?
と恐れたが、その後も特に何事も無く数年の時が流れ、村人達もその様な事件は
すっかり忘れてしまっていた。が・・・
279悲しき機獣 3 ◆h/gi4ACT2A :2005/12/09(金) 22:20:25 ID:???
「うわぁ!怪物だぁ!」
その事件から数年後、山村を一体の銀色に輝く巨大なゾイドが襲った。神々しくも
思えるその銀色の体とはうわはらにその目は憎悪に怒り狂っており、山村はわずか
数分で消滅した。山村を襲ったゾイド・・・それは数年前、少女が山奥で発見した
小さなゾイドが成長した物だった。それがまさか古代文明人の遺伝子操作で生み出された
実験体“G−003”であるとは誰一人として想像だにしないであろう。
古代文明の記憶を持ったまま現在を生き続ける一体のゾイドを除いて・・・

「と言う話があったそうだ。多分お前も似た様な物だと思うからその辺の見解をどうぞ。」
『なるほど。自分を庇って死んだ少女の仇を討った謎の銀色のゾイドね・・・。泣かせる話
だが・・・、その村の奴等も可哀想ではあったな。それはそうとだ、今目の前にいる
ゴジュラスタイプ・・・、我々に敵意を燃やしているみたいだが・・・どうする?』
「え?あれ?バイオゾイドじゃないの?」
『いや、違うだろう。どちらかと言うと奴は我の同属だ。しかし・・・あれはもしや
エーマキングダム研究所の遺伝子操作ゾイドか?あそこの作るゾイドはどいつもコイツも
気味悪くなる位強いから嫌いなんだよな〜・・・全部ぶっ倒したけど。今でもこう目を
閉じれば、奴等の気味の悪さに泣き叫ぶご主人の姿が・・・。いや〜ホント可愛かったな〜。』
「ってオイオイ!襲って来たぞアイツ!もう戦うしかないぞ!」

月の光さえ遮られた暗夜の山奥で人知れず、銀と緑・・・二体の巨竜が激突した。

                おわり
280名無し獣@リアルに歩行:2005/12/29(木) 10:39:45 ID:???
で、次スレ経ってるのはいいが落とすのか?
281名無し獣@リアルに歩行:2005/12/29(木) 10:41:15 ID:???
次スレ
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.22
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/zoid/1133444671/l50
282竜と船頭 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 03:34:45 ID:???
「…コイツは大したもんだ。」
正直に驚き相棒と共に既に死に絶えていたと言われていたそれの顔を見上げる。
ウルトラザウルス。嘗ての人はこの巨大な竜をそう呼んでいたらしい…。
しかしその個体差たるや既に常識の範疇を通り越している。これだけは確かだ。
何故俺と相棒はこの巨大なウルトラザウルスの背中に居るかというと…
俺と相棒の無茶が原因だったりする。

「ビックリしましたよ…まさか筏で隣りの大陸を目指そうなんて凄いです。
でも私達が偶々通り掛からなかったら海の藻屑でしたね…。」
数年に1度俺達の住む大陸の何処かに現れる行商人。それが目の前の彼女だ。
俺に話しかけてきたのは俺と同じぐらいの年だろう…。
紫色の髪が印象的なちょっと…(悪い意味ではなく)抜けていそうな顔の娘だ。
「所で…まだお名前を聞いていませんでした。貴方のお名前は?」
その声に俺は大見得を張って虚勢を張って格好を付けて名乗る。
「俺はロウフェン。コイツは相棒の…インパクトウルフ。
ブルーアベンジャーだ。」
それに合せて相棒も遠吠えしてみせた。

「それにしても…なあ?カリン?如何して1人だけなんだ?」
俺はカリンにこの質問をした事を後悔した。彼女の目に突然涙が溢れ出したからだ。
績を切った様に俺にしがみついて泣くカリンを突き放す程の冷酷さは俺にはもう無い。
恩讐の刃を失った俺には目的が無く唯遠くに行きたいと言う一心で筏を造ったぐらいだ。
半時も経った頃漸く落ち着いたらしいカリンからその顛末を聞く事となる…。
この背の上に有る沢山の瓦礫の山。それの生まれた原因を。

「グイでない飛行ゾイド…それも白い奴だったって事だな?」
「はい…何の警告も無く突然襲って来ました。でももう良いんです。
たとえ相手を倒したとしても壊れた物は治りませんし逝ってしまった人は帰ってきません。」
正論だ。至極当然の代わる事の無い事実。完全に諦めて心が折れた思考だ。
「ならさっさとこれを片付けよう。もしかしたらまだ助かる奴も居るかもしれない!
相棒!鼻を利かせろ!生きている匂いを嗅ぎつけるんだ!」
283竜と船頭 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 04:00:24 ID:???
それから日が暮れるまで俺達は生きているかもしれない人を探す。
結果は散々なものだった…が何もしないよりは遙にましな成果だった事は間違い無い。
カリンに看取られて息を引き取る事のできた物が10人以上居たからだ。
「辛かったかもしれないがカリン…ましだったろ?」
涙を拭きながらカリンは頷く。少なくとも彼女に看取られた人達は他の奴より幸せだ。
誰にも看取られること無く逝った者や死に様を弄ばれた者に比べれば天地の差だろう。
世の中は死ぬ事にだって不公平だ。
…そしてその不公平に泣くのは何時も力の無い存在だけである。

ウルトラザウルスは指示された通りのルートを唯泳ぐだけらしく、
カリンの話ではずっとこの背中の家で育ったそうだ。陸地には縁の無い生活。
それ故にディガルドや他の脅威に晒されることの無かった人々。
そんな生活だけに空から来た白いゾイドの襲撃は致命的だったのだ。

朝が来る…空に一瞬輝く何か。相棒の鼻はそれがゾイドで有る事を示す。
「カリン…隠れているんだ。良いか?何が有っても絶対に中から出てくるなよ。」
それだけ告げると俺は答えを聞く事無く相棒に乗り込み甲板の中心に陣取る。
やがて…シルエットが見えて来るそのゾイド。
相棒に係わらずゾイドという存在は非常に物知りだ。直にそれが何者か?
それを弾き出す。近付くそれはデカルトドラゴン。
2体の恐竜型ゾイドを合体させてドラゴン型に仕立て上げた強力な合成生命体。
そいつは音も無く俺達の居る甲板に降り立った…。

「そこに居るのは誰だ!この神聖なる竜に足を付ける等…無礼極まりない!」
何を言っているんだ?デカルトドラゴンに乗っている馬鹿はとんでもない言葉を放った。
「ならお前はそんな不遜な事をして良くその言葉を言えたもんだな?頭でっかちめ!」
俺がその言葉を言い終わった途端エレクトリックディスチャージャーの電撃が奔る。
「ぷっ!図星を吐かれてそれか…お前頭悪いだろ?それに乳酸菌ちゃんと執ってる〜?」
手応え有り!相手の攻撃が激しくなる。どうやら挑発に引っ掛かったらしい…。
威嚇射撃でも無く確実に俺達を葬ろうとして打ち出された攻撃。
それを相棒は交わす事無く背の剣で切り払う。戦闘開始の瞬間だった。
284持つ者の権利と義務 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 04:26:45 ID:???
しかし問題が有る。非常に厄介な問題だ。
あのデカルトドラゴンの装甲は間違い無くリーオの物。
中途半端な攻撃は全く通じそうにも無い。その上相棒と同じく高機動戦闘型。
その上相手は空を飛ぶ。グイの時の様に相手が格下でない以上は落せるか?
それも解らない。だが俺はやらないと成らない!そう言う思いが生まれている。
今このウルトラザウルスの甲板の上で俺は重要な事に気付いてしまったからだ。
俺には復讐する機会が有った…それを成す手段が有った…その事に。
そう!不幸のどん底に見えて…まだ俺は幸せ者だったのだ。
カリンというそれがしたくてもままならない存在に出逢ったことで思い知らされた。
だからこそ…絶対に負ける訳にはいかないのだ。

だからと言って状況は後転する訳じゃないし限りある財産で奴に勝たねば成らない。
ここからが腕の見せ所といった所だ。
瓦礫とは言え相棒が隠れる事のできる場所が沢山有る。
それの陰に隠れながら俺は…久しぶりにあの手を使う事にした。

「馬鹿な!?奴が何処にも居ない!?」
デカルトドラゴンのパイロットは焦っている。
それもその筈で相棒が攻撃を仕掛けて来るのを見て奴は攻撃しようとするが…
そのコクピットに俺が居ない。その事に気付いたからだ。
しかもそれで攻撃の正確さが失われること無く攻撃が続けられている。
かなりのショックを受けている事だろう…。
乗っていても乗らなくても変わりない動きと強さ…そう思っていて俺が悲しく成ってきた。
それ程相棒の操縦再現のレベルが高いという証明だ。

その間に俺は瓦礫の一つに隠れてディガルドの歩兵部隊から嘗てくすねていたそれ。
スナイパーライフルを構えている。弾丸は接触後に爆裂するスプレッドシェル。
これをデカルトドラゴンの関節部…それも首筋に見えるコアブロックにぶち込む。
その為に隙を伺っているのだ。更に罠として瓦礫の幾つかに…
奴の白銀の装甲が反射する光に反射する鏡のようになる物を仕掛けている。
先ずは捨て扶持に1発。奴の足元にスプレッドシェルを撃ち込んだ。
大慌てしてその場を逃げるデカルトドラゴン…いい気味だ。
285葛藤する者しない者 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 04:59:47 ID:???
狙撃が終わると俺は直にビークルに乗り込みその場を離れる。
数秒経つこと無く今まで俺の居た場所は電撃を纏った瓦礫の散弾に替わる。
奴は挑発に乗った振りをしていた事がこれで解る。だが…
だから頭でっかちだと言う事だ。俺もそうだが相手も自分が主導権を握っている。
そう思っているに違い無い。だが主導権を握っているのが何方か?
それはそうで有る事を疑って掛かる者こそが手に入れる事ができるものだ。
奴の動きにはそれが無い。つまり…デカルトドラゴンの性能に頼ったお山の大将。
乳酸菌どころかDHAも足りなさそうな相手だった。
どうしてそんな栄養素の事が解るかって突っ込まれても困る…
それは全て相棒のデータに有ったものだ。

私は…隠れてその戦闘を見ているしかなかった。
私は唯の船頭で商品を陸地に運ぶ手伝いをしていただけだ。
ゾイドには乗った事も無いし戦い方なんて何も解らない。
ロウフェンさんと白いゾイドに乗っている人…何方が正しいのすら解らない。
否、多分…何方の言い分も正しいのだろう。唯それから目を背けているだけだ。
昔お爺ちゃんに聞いた事が或る。
「この世界に間違った考えなんて無い。立ち位置が替わればその意味も替わる。
同じ位置に立ったとき…自分がその考えを持たないという保証は無い。
それに悪い事を悪い事として行なう者は最も馬鹿な存在。
争いは正しい事が打つかるから起こる事だ。何方が正しいと言う答えは無い。」
でも私はそんなに強い考えは持てないし持ちたく無い。
自分が正しいと思う事で必死に苦境に耐える事しかできない身だ。

「…強いな。本当に地上人は馬鹿で愚鈍な羊なのか?」
コクピットで私は思う。規格外コマンドウルフのエヴォルト体。
それを駆る青年は高度な戦術を駆使し機体から下りて私のデカルトを狙撃してきた。
本来なら空からそれを適当に撃ち続けていれば終わる事だった…。
それに上層部が考える神聖なる存在に対する信仰と言う物にも疑問が或る。
仲間がした事だが神聖な存在の上に住む者を神聖な者を傷付けてでも排除、粛正する。
私にはそれがあべこべにしか思えないのだ。
唯…私達から事実という物を覆い隠して奪っているだけかもしれない。
286馬鹿と馬鹿と馬鹿 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 05:55:21 ID:???
長引く戦闘…あちこちで紫電が奔り光が弾ける。
その中で踊る2機の機獣。その美しくも見えた戦闘は唐突に閉幕の鐘を鳴らされる。
「この不遜者共め!神の怒りを受けて見よ!」
その言葉と共に数機のデカルトドラゴンが砲撃を開始した。

私は…気付くと青いコマンドウルフの青年の隣りに寝かし付けられていた。
「あ…目が覚めましたね。良かった…。」
私の顔を覗き安心している紫色の髪の女の子の顔が私の上に有る。
「はっはっはっは…お前仲間に見捨てられた様だな。いい気味だ!あいててて…。」
青年が痛みを堪えて嘲笑っている。だがそれに釣られて私も笑い出していた。
「(いい気味だ!本当の馬鹿は私だけでなく空に住む無知な私達だった!
今私の前に居る2人が羊な訳が無い!私達と同じ人間だ!)」
自嘲のふんだんに篭もった笑いは私の気の済むまで続いた…。

「へぇ〜…空の上に住んでいたってか?はっきり言って笑えない話だな。」
ロウフェンの言葉は関心と憤慨を含んだ匂いを孕んでいる。
深く責めないのはカリンが目の前に居るからだろう…。
一方カリンの方は私がここを襲った者で無い事に心底安心している様だ。
「そう言えば…貴女の名前は聞いていませんでした。お名前は?」
何故か後で吹いているロウフェンを無視して私はカリンに新しい名前を告げる。
「私は…シープで良い。元の名前はもう必要無い。」
今回の一件で私は空を捨てる決意をした。偽りだらけの楽園に未練は多分もう無い。
私は私の居場所を都合良く見付ける事が出来たのだ。
私と同じく馬鹿な2人。丁度バランスの良い居場所。妙に落ち着く場所。
今まで絶望的にまで乾いていた何かが足りない感覚。
それが私から消え去っていた事に気付き私の表情は自然と緩んでいた。

「さて…今回の目的はこのウルトラザウルスの侵入場所を探すことだ。」
シープが何時の間にか上の立場に居る事が気に食わなかったが俺は慇懃無礼に対処する。
表情を多少硬くするがそれ以上は無い。争う事自体無駄。もう解っている事だ。
まあ俺と同じぐらいに知識は有るだろうから問題無いだろう…。
287馬鹿と馬鹿と馬鹿 ◆5QD88rLPDw :2006/01/03(火) 07:21:21 ID:???
俺達の後では何時の間に仲が良くなったのか?
相棒と奴のデカルトが仲良く瓦礫を片付けている。
使えそうな物は3日ほど前から回収を始めて殆ど揃っている。
運良くカリンの関係する物は一通り揃っても居るので精神的負担は軽いだろう。
問題はシープが趣味で如何でも良さそうな物を一杯拾ってきた事だが、
持ち物の管理は本人各々に任されているので関係無いだろう…。
時間は一杯有る。前にもこんな事を言った気もするが当然気にしない。

住む場所は…当然ウルトラザウルスの中にする。
あれだけの攻撃を受けて全く傷1つ付いていなかった甲板。
それから考えると中に居れば奴等に攻撃を喰らう心配は少ない。
まさか神聖な存在の中に弾をぶち込む馬鹿は無神論者ぐらいだろう…。
どう言う風の吹き回しか解らないが天空人と言う奴等は、
勝手に過去の遺産を神格化しているのだ。だが府に落ちない点が或る。
これまで手を出さなかった甲板の上の集落。それを急に襲った事。
シープの話ではこれまで髪の背に住む物を傷付けるなんて話は無かったらしい。
シープの推論では焦っているらしいと言う事だ。
ディガルドからレッゲルを巻き上げいたと言う話から考えればそう成るそうだ。
飼い犬に手を噛まれそうに成って焦っている…笑える話だ。

4日前に火花を散らしていた相手同士が仲良く?同じ事をしている。
カリンはその風景を見て笑っている。失ったものの代わりは少ない。
だが得たものはその内大きな物に成るかもしれない。
少なくとも今の状況では誰か話せる者が居るだけで随分と違うだろう…。
この一件で彼等は人1人では寂しくて生きて行けないかもしれないと言う事を知った。
一つ賢くなった馬鹿3人。取り敢えずは同じ方向を向いて歩いて見ようと考えた。
先に何が有るかは解らないが現状を打破する。それが当面の目標だった…。
まあ打破できるかどうかは未定だがそれは彼等自体に掛かっている。

ー おちまい ー
288名無し獣@リアルに歩行:2006/01/07(土) 07:32:14 ID:???
誘導

次スレ
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.22
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289名無し獣@リアルに歩行:2006/01/07(土) 07:34:15 ID:???
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290名無し獣@リアルに歩行:2006/01/07(土) 07:35:16 ID:???
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291名無し獣@リアルに歩行:2006/01/08(日) 21:48:14 ID:???
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292名無し獣@リアルに歩行:2006/01/08(日) 21:49:21 ID:???
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293名無し獣@リアルに歩行:2006/01/09(月) 09:51:27 ID:???
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294名無し獣@リアルに歩行:2006/01/10(火) 22:38:57 ID:???
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295名無し獣@リアルに歩行:2006/01/11(水) 19:22:00 ID:???
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296名無し獣@リアルに歩行:2006/01/12(木) 19:59:33 ID:???
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297名無し獣@リアルに歩行
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