【2次】漫画SS総合スレへようこそpart62【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1228627326/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 08:16:52 ID:m/WlbQK90
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
3作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 08:18:36 ID:m/WlbQK90
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
ロンギヌスの槍   (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html  
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜  (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/751.html
女か虎か (電車魚氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/783.html
4作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 08:27:20 ID:m/WlbQK90
テンプレ作った人乙
ハイデッカさんはどうしたんだろ

ハロイさん、完全復活ですな。
相変わらず隙の無い構成力と文章力見事です。
シュガーハート&ヴァニラソウルもひとつ。

なんかいつもシュガーハートをシュガーソウルと書き間違えてしまうw
5作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 20:20:29 ID:zw1+UyMO0
1さんテンプレ作った人お疲れ様です。

新年一発目の新スレ、盛るといいですね。
ハロイさんが復活してくれたのは何より嬉しい。
サナダムシさんがまた新作書いてくれて、
エニアさんも復活してくれるとより嬉しいな。
6作者の都合により名無しです:2009/01/10(土) 07:45:19 ID:kYtcz4IY0
新年1回目のスレで今年のバキスレの勢いが決まりそうだ
7電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/10(土) 19:07:48 ID:TDkT+9Io0
こんばんは。例によって今回もレスと感想のみ書かせていただきます。
そうそう、もう過ぎちゃったけど1月7日ってアイの誕生日だったんだぜ!

>>336さん
主役はサイと我鬼ですね。ネウロSSである都合上ウェイトはちょっとサイの方が大きいかな。
怪盗Xにアイことイミナ、伝説の犯罪者葛西に妖怪仮面な蛭、早坂ブラザーズに警察の人たち。
改めて見ると確かに凄い面子ですね。この面子を敵に回すのと地上20階のビルから飛び降りるの
どっちがどれだけ生存率高いだろう……

>>337さん
クールなアイが恰好いいのは世界の真理ですが、たまに覗かせる柔らかい微笑もまたオツなもの。
タイトルの意味はそのうち明かせたらいいなーと。
>>337さんの読みはかなりいい線いってると思います。

>>338さん
アカギ、手に取ったことないんですけどレスを見て読んでみたくなりました。アイ並みかあ楽しみだな。
アイの死は悲しかったですけど、あのまま彼女が生きてたら血族編は成立しなかったでしょうし、
仕方ないといえばないんですよねえ……
ないと思うけどもし血族編がゲーム化とかして、アイ生存ルートとか作ってくれたら
私は持ってない本体ごとそのゲームを買ってしまうでしょう。

>サマサさん
サイと付き合うのは疲れるでしょうね。天下一タチの悪い悪戯小僧ですから。
今週なんて天下の警視総監にあんな玄人っぽい拘束を……
彼のアジトからは鬼○先生の本が押収されたはず。このカシオミニを賭けてもいい。
我鬼可愛いですよ。寒冷地仕様なので毛皮はとってもモフモフです。長いおひげは物音に敏感に
ピクピク動いてますし、よく見ると尻尾の先も可愛らしく小刻みにフリフリしていて癒し系。
癒された直後天に召されるけどね……やべっ思考の話だった。すいませんでした。
8電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/10(土) 19:09:04 ID:TDkT+9Io0
>ふら〜りさん
2巻読まれたんですね。弥子はジャンプの主要女性キャラの中でも非常に人気の高いキャラクターです。
ヒロインというにはあまりに色気がないんですけど、主人公からの扱いもヒドイんですけど、
でもだからこその「魅力」があるッ! 私自身にとってもアイとは違ったベクトルで好きなキャラです。
サイ→アイの感情はふら〜りさんの言及された両方ですね。強固な信頼であると同時に、ある種の
慢心でもある感情。スルーされるだろうと思ってたので言及していただけて嬉しかったです。

>サナダムシさん
しけい荘完結おめでとうございます。
ギャグパートを読んではまったんですが、バトルパートも非常に面白かったです。
アライJrの成長が清清しい。そしてどこまでもやられっ子なシコルスキーがかわいい。
野球は結局どっちが勝ったんでしょうか。その頃にはシコルは完全ダウンしてる気がする。
ちなみに全編を通して一番好きだったのはルミナの話です。
脱皮して真の意味で超一流の格闘士になったアライとは違って、彼自身はとても平凡な少年
なんですが、だからこそより深く共感できました。
次回作もお待ちしてます。

>ハシさん(SS感想)
遅ればせながら、ネクロファンタジア完結おめでとうございます。お疲れ様でした。
原作知らないくせにF08が好きで好きでしょうがないので、8話は狂喜しながら読みました。
彼女は悪役としても素晴らしいですが、一方で「どん底まで落とされて這い上がる
少年漫画の主人公」的一面も感じられて、ついつい見ててニヤニヤしてしまいます。
F08が切り裂きジャックなら、F05はブランヴィリエ侯爵夫人でしょうか。
ジュスティーヌのミステリアスさもまた……今度の休みにでもモントリヒト買って読んでみます。
ロンギヌスも楽しんで読ませていただいてます。実は私スプリガンも知らないんですけど、
フィーアの魂の叫びには色んな意味でズキンときました。
か、完結させてない話たち、いっぱいあるなあ……この先のバトルも涙なくしては
読めなさそうです。ティア、お仕置きは仕方ないけどあんまり酷くしないでやってくれ……
9電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/10(土) 19:10:20 ID:TDkT+9Io0
>サマサさん(SS感想)
少しずつ心を融かしていく海馬、見てて和みますね。一匹狼を貫き通すと思われたエレフも
何だか馴染んできているし。でも彼いっぺんどん底まで落ちるのかあ……見たいような見たくないような。
個人的に高ポイントだったのは神官の見事なやられっぷり。それでこそ変態。それでこそ三流悪役。
カード紹介も面白く読みました。遊戯と海馬はカード戦略の上でも好対照なんですね。
カイバーマン自重。本当に海馬はカッコイイのかヘタレなのか分からないw
一見ただのお遊び企画に見えますが、キャラの会話だけでここまで読ませるには
なにげに相当な力量が要りそう。

>さいさん
まひろはいい子だなあ。こんな子が友だちだとそれはそれで苦労しそうですが。
シエルもヘルシングに出てくるキャラなのかな? と思ってたら違うんですね。
ググってみたらこれは私好みの黒髪ショートカット……三度の飯よりカレーが好きなのほほんとした
一面と、作中のブラボーへの言葉のシリアスさがいい感じのギャップです。
ツンツンツンツンに目がない私としては棚橋さんも気になってます。
デレなくてもいい。たくましく生きて欲しい。
どうでもいいといえばいいですが、「リンゴコーヒー」は絶対飲みたくありません。

>ハロイさん(SS感想)
ブラックの二面性は不可解ながらも魅力的で惹きつけられます。
その底の知れないブラックを前にしても揺らがずにいられるシルバーもいい味。
でも私はグリーンが一番好きです。
せっかくいい方向に向かっていたレッドがここでセピアを失ってしまうと、彼の進む道が歪んで
しまいそうで怖いです。せめてドクター始め他のキャラがうまくフォローしてくれることを
祈るばかり。
かつてブギーポップを愛読していたネウロキアンとしては、『〜間違えない』と『シュガー〜』の方の
続きも切望せずにはいられません。この2作も是非。
10電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/10(土) 19:25:08 ID:TDkT+9Io0
しまったコピペミスでハシさんへの返信だけ抜けた……

>ハシさん
自分をめぐって人間たちが東西奔走しているのに、当の本人(本虎?)は
そしらぬ顔で水浴び中。サイや笛吹が知ったら「死ねばいいのに」と思うことでしょう。
ネウロの警察勢のかっこよさは異常。至近の描写では今週とか。
必死こいてそれを再現しようと自分なりに試みてはいるのですが、何せ基本的に「正義」の連中なので、
思うさま欲望を発散させることでキャラが立つ「悪」の怪盗一味よりずっと難しいです。

それでは。
末尾になりますが>>1さんスレ立てありがとうございました。
11作者の都合により名無しです:2009/01/10(土) 20:18:40 ID:w9hQBDXd0
律儀な人だなあw
感想だけでSS1回分の分量があるw
12作者の都合により名無しです:2009/01/10(土) 23:54:16 ID:GvwAUmGX0
さいさんマジでどうしちゃったんだろう
心配なのでお返事だけでもぜひ。
13遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/11(日) 09:27:25 ID:QXltSiep0
第二十七話「記憶の水底」

「バカな…風神(アネモス)の加護篤き、あの城壁を…」
とても信じられないとばかりに目を見開くレオンティウス。
「しかし、あの都は東方防衛の要だ。そんなことをされて、諸国が黙っているはずがなかろう」
「はっ…当然ながら、アナトリアやマケドニア、トラキアといった国々が兵を差し向けましたが、尽く敗走に終わった
と…」
「なんと―――!どうすればそのようなことが出来るというのだ!」
「詳しくは分かりません。しかし、奴隷達を率いる首領格の二人…剣神の如き太刀を振るう<紫眼の狼>と、光輝く
白き龍を従える<白龍皇帝>。その力は、まさに神仙の業と…」
「アメジストス…<紫眼の狼>だと…まさか!」
カストルは唾を飲み込み、遊戯達に向き直る。オリオンが硬い表情で答えた。
「ああ、間違いない―――エレフだ。そして、<白龍皇帝>ってのは海馬だろうな…あのバカ共め、なんつー最悪な
ことをしてくれるんだ…」
「なんと…!エレフ…何故、お前がこのようなことを…!」
「カストル。心情は察するが、嘆いている場合ではないぞ」
レオンティウスは顔を引き締める。
「こうなってしまった以上、彼らを野放しにすることはできない…我々もイリオンへ赴く他あるまい」
「そんな…どうにかならないのですか!?」
思わず前に出ようとするミーシャを、城之内が止める。
「ミーシャ。こうなっちまったら、戦うしかねえよ」
「城之内…だけど、それじゃあエレフや海馬と殺し合うというの!?」
「そうは言ってねえ。けど、話し合いで解決なんざできそうもないだろ?」
「暴力で解決するのはよくないけど…今は、戦う時だよ」
オリオンと遊戯もそう続ける。ミーシャは遣る瀬無さそうに顔を伏せた。
「そう…それしか、ないのね…」
「ミーシャさん…大丈夫だよ。誰も、死んだりなんかしないよ。いや、そんなことはさせない」
遊戯はレオンティウスに向き直る。
14作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 09:28:14 ID:QXltSiep0
「ボク達もあの二人と闘います。どうか、イリオンまで一緒に連れていってください!」
「止める理由はない」
レオンティウスは、首肯する。
「キミ達が力を貸してくれるというのなら、我々としても有難い。だがいいのか?友と刃を交えることになっても」
「だからこそだよ」
と、城之内。
「仲間だからこそ、オレ達があいつらの目を覚まさしてやらなきゃならねえんだ」
「…そうか」
レオンティウスは、微笑む。
「見込んだ通りのいい男だな、キミ達は…期待しているぞ、色んな意味でな」
「はい!」
元気よく返事したはいいが(色んな意味ってどういうこと?)と首を傾げる遊戯であった。
「では、早速だが戦の準備を―――」
「―――いけません!」
女性の声が響き、全員が一斉に振り向く。そこにいたのはレオンティウスの母親―――先代王妃・イサドラ。
「母上…」
「先程から、話は聞かせてもらいました…レオンティウス!死を招く紫水晶の瞳…その持ち主であるあの者とだけは、
決して闘ってはなりません…!」
「おいおい、おばさん。いきなり出てきて何言ってんだよ、あんた…」
「城之内!」
レオンティウスが、城之内をきっと睨む。
「この方は我が母イサドラである!如何にキミと言えど、無礼は赦さんぞ!」
「は、はい!ごめんなさい!」
思わず最敬礼しちゃった城之内は、ひそひそ声でオリオンに訊ねた。
「なあ、オリオン。それってやっぱ偉い人なの?」
「めっちゃ偉い」
簡潔な答えであった。
15作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 09:29:08 ID:QXltSiep0
(つーか、如何にキミでもってなんだよ…なんでオレ、そんなVIP扱いなんだよ…)
「母上。一体どういうことなのですか。何故その男と闘ってはならぬと?」
「それは…」
口を開きかけたイサドラは、不意に顔を強張らせる。その視線は、ミーシャに釘付けになっていた。
「あの…何か?」
「あなたは…」
イサドラはよろめくような足取りでミーシャに近づき、その頬に手を伸ばした。
「まさか…アルテミシア…?」
「え?」
ミーシャは面食らった。
「は、はい…確かに、それは私の名ですが…」
それは間違いない。しかし、この場では<ミーシャ>と愛称でしか呼ばれていないはずだった。イサドラがミーシャ
の本名を知る機会などなかった。ならば、何故?
その疑問を口にする間もなく、イサドラはその目から、止め処なく涙を溢れさせ、ミーシャに縋り付く。
「イ…イサドラ様…?」
「おお…女神(ミラ)よ…なんということ…!」
ミーシャは困惑しながらも、イサドラの腕を振り払おうとはしなかった。
(暖かい腕…何故…?この人は、母様じゃないのに…)
彼女は何故か、思い出していた。母親に抱かれていた、幼い頃のことを。
レオンティウスや城之内、オリオンはその有様を不思議そうに見つめ、カストルは悲しげに視線を逸らした。
(相棒…)
闇遊戯が語りかけてくる。
(あのイサドラって女を見て、何か気付かないか?)
(え?ちょっとトウが立ってるけど、奇麗な人だね)
(そうじゃない!ミーシャと見比べてみろ)
そう言われて、遊戯は二人を眺める。
16作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 09:29:54 ID:QXltSiep0
(…あれ?何だか、似てる?)
(ああ…どことなく、ってレベルだけどな。それにあの女、ミーシャの本名も知っていた…)
(それに加えて、ミーシャさんに対してのあの態度…)
(―――全てはまだ想像でしかないが…オレには薄々、見えてきたぜ…)
闇遊戯は、重々しく呟くのだった。



「―――レオンティウス。御覧なさい」
まだ物心つくかつかないかの頃。双子の赤ん坊をその腕に抱き締め、母は慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「雷神の血を分けた、あなたの兄弟ですよ…」
精一杯背伸びして、赤ん坊の顔を覗き込む。
泣きじゃくっている弟。すやすやと眠っている妹。
(このこたちは、ぼくのおとうとと、いもうと)
「殿下。立派な兄君におなりなさいませ」
傍にいた、アルカディア一の騎士と称えられるポリュデウケスが、肩に手を置く。
(うん。ぼくは、りっぱなあにになるよ)
「―――兄上!」
「どうした、カストル?」
ポリュデウケスの弟であるカストルが、血相を変えて駆け込んでくる。
「それが…陛下が、件の神託の件で…」
「神託…まさか…!」
「太陽が蝕まれる日に産まれしその赤子は、破滅を招く忌み仔だと…殺してしまえと…」
皆は、何を喚いているんだろう?よく分からないけど、気持ち悪かった。知らず知らずの内に、弟と妹の小さな手を
強く握りしめていた。双子は、火が付いたように泣き喚いていた。
17作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 09:30:42 ID:QXltSiep0
(だいじょうぶだよ。ぼくが、まもってあげるから)
「女神(ミラ)よ…何という仕打ちを…!」
(どうしてないているの。なかないで、ははうえ)
「イサドラ様。御安心なさいませ。ここは、わたくしめに御任せを…!」
ポリュデウケスが、厳しい顔つきで近づいてくる。
「殿下…その手をお離し下さい」
(いやだ)
「殿下!」
(やめて!そのこたちをつれていかないで!)
「くっ…御赦しを、殿下!」
小さな手が、無理矢理引き剥がされた。ポリュデウケスは痛々しげに顔をゆがめ、双子を抱えて出ていく。
「カストル…殿下を頼むぞ」
兄の後姿を、カストルはただ静かに見送った。母は顔を両手で覆い、泣いていた。
自分はただ、悲しかった。
(おとうとといもうとを―――)
(つれていかないで―――)

心の奥深くに仕舞い込まれた、痛みと哀しみ。
悲劇は、ここから始まった―――
18サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/11(日) 09:52:55 ID:B0D82prI0
投下完了。前回は前スレ287より。
…今回の話、よく考えるとおかしいんじゃないか?と思える部分があります。
既に投下してしまったし、余程じゃない限りは気にならないとは思うので、そのままに
しますが、もし自分で我慢できなかったら修正版を書くかもしれません。
そんなに大した問題でもないんですがね…。

>>ふら〜りさん
原作のサンレッドは、器が大きく見えることもあれば、異様なほどみみっちくも思える男。
悪の組織のはずのフロシャイムは、ペットボトルは洗って捨てる、実に模範的市民です。

前スレ369
ほのぼのコメディはいい感じに書けますね。ちょっといい話は好き。
前スレ370
バキスレにおけるサンホラ系SSの第一人者(自画自賛しすぎ)としては、爆笑してもらえて嬉しい限り。
前スレ371
ゆるーい感じで楽しんでいただけたのならば何よりです。難しく考える話でもないですし。
>>ハロイさん
多分僕とハシさんのせい>サンホラ知名度
シルバーさんがツンデレにしか思えないのは、僕の脳が腐ってるからだな、多分…
原作は実はあんまり知らないけど、セピアが死ぬっぽいのはキツいな…色々痛い。
>>電車魚さん
ネウロなら我鬼を(無理矢理)懐かせることは可能でしょうか?サイと同等の強さなら、ネウロなら
体力・魔力が尽きかけてない限りは楽勝だろうし…。
社長はちょっとハジけさせすぎたかなあと思う気もしますが、原作読んだらハジけ方足りないかなあ
とも思う…つーか、ハジけさせる方向を間違ってる気もするw
エレフは今が順調だからこそ、一度大きな絶望を味わうと一気に転げ落ちていきそうな…。
カード紹介、書いてて楽しくはありますが、会話だけで話を成立させるのは確かにキツイ。あと、基本が
ギャグなんで、ハイテンションにならなきゃとても書けないのでエネルギー消費が激しいです。
19作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 19:25:40 ID:zvz33RSd0
お疲れ様ですサマサさん。
話のスケールが大きくなってきた。
まさかカードゲームの原作の話が
歴史の戦争物になってきたとはw
血族の問題もありそうですな。
20作者の都合により名無しです:2009/01/11(日) 22:17:39 ID:QV2toYVz0
サマサ氏乙!
今回は今後への重要な回でシリアスな話のはずなのに
空気読まない城の内がいいなw
どのあたりがおかしいんだろうか
21作者の都合により名無しです:2009/01/12(月) 11:41:20 ID:ne4zbJu90
新年になってから不調だなー
その分、サマサさんと電車魚さんには頑張って欲しい
これから過去話編に突入するのかな?>遊戯王
22電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/13(火) 19:52:31 ID:1XnElNrZ0
8:ENEMY WITHIN


「笛吹さーん、まだ生きてる? 死んでない?」
 勤続三十八時間目の笛吹の前に、屈託のない笑顔で現れたのは匪口結也だった。
「うっわ、目の下すっげぇクマ、真っ黒。ちゃんと寝てんの? もういい加減トシなんだから
 無理しちゃ駄目だよ。そのうち血管切れてプチッといっても俺知らないよ?」
 大量の報告書が積み上げられた机に、遠慮会釈もなく腰を下ろす。椅子に座った笛吹の顔を身を捻る
ように覗き込んで、十九歳の特例刑事はけらけら笑った。
「……匪口」
 嘆息を漏らすのは筑紫である。
 匪口の所属は警視庁情報犯罪課、世間を騒がせている虐殺事件とは関係がない。むろんだからといって
暇なわけでもないが、少なくとも笛吹たち当事者の緊張感とはまるで無縁な立場にあった。
「何をやってる。邪魔をしに来たならすぐ帰れ。笛吹さんが忙しいのは分かってるだろう」
「忙しいの分かってるから慰めに来たんだよ。そうでもなきゃ、自分の仕事終わった時点でとっとと
 帰ってるって」
 言いながら匪口はポケットに手を突っ込んだ。
 スーツ姿が闊歩する庁舎内では特に目立つカジュアルな姿。ファッション的な拘りなのかはたまた
買い替えが面倒なだけか、数年前に流行ったルーズジーンズを未だに履いている。使うとき以外は常に
額上部で固定した遠視用眼鏡といい、この若者のセンスは世間のそれとは相当ずれているようだ。
 取り出したのは包み紙にくるまれた飴玉数個だった。分かりやすくイラスト化されたフルーツと、
『いちご』『めろん』といったひらがなの文字。
「人間の脳なんてエンジンと同じさ。どれだけハイスペックでも定期的に燃料を補給してやんなきゃ
 意味がない。ってなわけで笛吹さん、これ差し入れ。こういうの好きでしょ?」
「な、ななななな何を言っている(ペリペリペリペリ)この私がそんな女子供の食うような(ガリガリガリガリ)」
 狂ったように包み紙を剥き飴を貪り食う笛吹。
 匪口は脇に控えるもう一人の上司に、『筑紫さんもどう?』と勧めたが、こちらは首を横に振っただけで終わった。
23電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/13(火) 19:54:55 ID:1XnElNrZ0
「家には帰らないの、笛吹さん?」
 イチゴ味の飴が笛吹の口内から消滅する頃、匪口が尋ねた。
「車通勤なら、終電とか気にしなくて大丈夫でしょ。それでなくても楽々タクシー代払えるくらいの
 給料貰ってるくせに」
「そんな時間はない。いつ次の事件が起こるとも知れんのだ。――それに」
 最後の飴のひとかけを飲み込み、笛吹は窓の外に視線をやった。
 地上三階、真下に庁舎の入り口を望める位置。だがここから見えるのはそれだけではない。
 『毒日テレビ』『国売新聞』『週刊便乗』。明らかに報道陣のそれと分かる車の群れ。
「マスコミ連中にあれだけ出口で張られていては、外に出るだけでも重労働だ。それくらいならここで
 仮眠を取って済ますさ」
「あー、あいつらねー。たまに朝出てくる俺らにまでマイクつきつけてコメント求めて来んだよね。
 何とかなんないのかな、ホント」
 頭の後ろに腕を持っていき、訳知り顔で頷いてみせる匪口。
「門のトコにずらーーーーーっと並んだあいつら見てるとさあ、トレーラーか何かで全速力で突っ込んで
 片っ端からドミノ倒しにしてやりたくなっちゃうよ。実際やったらすげー気持ちいいだろうなー。
 ねえ筑紫さんだってそう思うだろ?」
「思わん。そんな危険思想はお前一人で充分だ」
「えー?」
 笛吹は二つ目の飴を手に取った。今しがた一粒食べたせいか、さっきまでの激しい糖分への飢えは
消え去っていた。
 門の傍に止まった車の群れを睨む。明らかに中継車と分かるものだけでも相当な台数だ。
 それ即ち、捜査の進展のなさにどれだけ彼らが焦れているかを示している。
「……もう少し伏せておきたいが……上がどう言うかだな」
「え?」
 喉の奥で呟いたはずの言葉を、匪口が耳ざとく聞きつけた。
「笛吹さん、今なんて?」
「お前には関係のないことだ」
 部下の疑問符をすげなくあしらう。
「そんなことよりいい加減に家に帰れ未成年。今なら何とか終電に間に合うはずだ」
「子供扱いしないでよ」
 口をへの字にひん曲げる匪口。
 何のかんのと理由をつけて居座りたがる彼を、筑紫が部屋の外に追い出すまで十分かかった。
24電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/13(火) 19:56:08 ID:1XnElNrZ0


 銃器という発明を手にする以前から、人間によって滅ぼされた生物は枚挙に暇がない。
 最も古い例ではマンモスがそうだとされる。餌の減少、伝染病など他の説も有力だが、彼らが人類に
とって恰好の狩りの標的だったこと自体を否定する者は稀だろう。
 もちろん、銃器が人類の優位を加速させたのは事実だ。
 懸賞金目当てに乱獲された各種のオオカミ、毛皮を剥がれ脂はクッキーの材料にされた哀れな
カリフォルニアングリズリー。ローマのコロッセオで剣闘士の敵役として、またキリスト教徒の処刑役と
して重宝されたバーバリーライオンも、二十世紀の始めに銃によってその姿を消している。
 だが、爪も牙も持たぬか弱き人間がこんにち他種を圧倒し、地上の支配者面をしていられるのには、
それとは別にもう一つ理由がある。
「人間を狩るために準備したり訓練したりする動物なんて聞いたことないもんね。人間は他の生き物を
 狩るために、武器の用意とか訓練とかできるけどさ」
 構える散弾銃はポンプアクション。ニューヨークの地名を冠した銃器会社の名銃の、銃身と銃床を
切り詰めた接近戦仕様。アンダーグラウンドウェポンとしては世界最強クラスの代物だ。
 五メートル先の的に狙いを定め、サイは引き金を引く。ドウンという鈍い反動が腕から肩にかけて
襲い、直径数十センチの的がハチの巣と化した。
25電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/13(火) 19:57:59 ID:1XnElNrZ0
「んー……ちょっとずつ撃ち方慣れてはきたかな。葛西、右と左に散る動きも追加してよ。下から上に
 動いてくだけじゃワンパターンになっちゃう」
「了解です、サイ」
 ただでさえ撃ちづらいとされる形状。極度の反動に耐えながらこれを正確に連射するには、一般人を
はるかにしのぐ膂力を持つ彼でもある程度の熟練が必要となる。
 下から新たに現れた的は、さっきとは段違いの速さで直角に右へと逸れた。
 すかさずサイは撃った。狙いは逸れ、弾痕は的のはるか後ろの壁に穴を空けた。
 硝煙の匂いが鼻をつく。
「っだーーーーーーーーーー! この銃やっぱり当たんない!」
「サイ、サイ、弾残ってんの床に叩きつけんのは勘弁してください。暴発はやべぇです」
 手にした銃を振り上げかける彼に、慌てて葛西が制止をかけた。
「どの道ショットガンじゃとどめは刺せねぇでしょう、必死こいて練習する必要がどこにあるんです?」
「死にはしないけど、動きを止めるのに効果があるのは記録映像で確認済みだからね」
 地道な射撃訓練に飽いてきたのか、サイはショットガンを小脇に抱え、どっかりと訓練場の床に腰を
下ろした。ズボンが汚れるのも意に介さず、胡坐をかいて膝に片肘をつく。
「とどめを刺すのとはまた別さ。これはどっちかというと牽制と……それから逃げられたときの保険用」
「保険?」
 葛西が怪訝そうな顔をした。
「いつも自信たっぷりのあなたが珍しい。ひょっとしてアイの入れ知恵ですか?」
「入れ知恵って何だよ。ちょっと意見を取り入れただけだよ。俺は要らないって言ったんだけど、一度
 言い出すとしつっこいんだもんあの女」
 スライドを指で弾く固い音。
「弾丸にね、ちょっとした仕込みがされてるんだ」
26女か虎か:2009/01/13(火) 19:59:11 ID:1XnElNrZ0

『記録映像その他の資料を見返していて、気づいたことがあります』
 今この場にはいないあの女の台詞。
『≪我鬼≫に撃ち込まれたはずの散弾と、事態の収束後に現場から回収された散弾の数が合わないのです。
 傷の再生の際、確かに体外に排出していたにもかかわらず』
『どっかに紛れてなくなっちゃったんじゃないの? 現場って確か中国奥地の密林でしょ』
 脚をぷらぷらと揺らしながら、サイはそれに答えた。
『それか鳥やネズミが食っちゃったとかさ。ニュースでたまに言ってるじゃん、散弾食った白鳥が
 鉛中毒で天国直行』
『その可能性もあり得ないとは言い切れませんが』
 長いまつげを伏せながらアイは言った。
『私の推測が正しければ、これは利用可能な要素かと――』

「必要ないものだとは思うけどね」
 首を軽くひと振り。
「最初から失敗しなければいい話だ。前回はまさか檻から出てくるとは思わなかったから取り逃がした
 けど、今回は違う。装備も準備も万全さ。それから」
 ちら、と葛西を見やりながら、
「……助っ人もね」
「さあ、どうでしょうね。どんな状況でも、予防線ってのは張れるだけ張っとくに越したことありませんから」
 『助っ人』は肩をすくめ、曖昧な笑いをその口元に貼りつけた。
 含みを持たせてはいるものの、何を言いたいのかは明らかだった。真摯とは言いがたい部下の態度に、
サイは唇を尖らせた。
 もっとも今更何を言ったところで、この男の気性を叩き直すことが不可能なのも目に見えている。
 ジャキン、と銃を構えなおす。
「動く的ひたすら撃ってるだけっていうのも飽きてきたな、やっぱり悲鳴とか血しぶきとかないと
 燃えないよね。ねえ葛西ちょっとの間でいいから的役やってくれる?」
「謹んでお断りします。俺ぁまだまだ長生きしたいんです」
 胸の前で手を振る葛西。
27女か虎か:2009/01/13(火) 20:02:27 ID:1XnElNrZ0
「やるならその辺から一般人さらってきて、そいつで代用して下さいよ」
「うーん……そこまでするのも面倒臭いんだよね……どっかから都合よくいい的転がり込んできてくれないかなあ」
 どうやら地道に撃ちつづけるしかないらしい。
 息をつきながらサイは腰を上げた。
 脇に卵を挟むような緩やかな構えは、肩を襲う反動を少しでも逃がすため。それでいて銃口は数ミリたりとも
ブレず的を狙わなければならない。
 トリガーに指をかけ引き絞ろうとして、そこでサイは動きを止め振り返った。


「失礼します、サイ。再生速度の解析が終わりました」
 射撃訓練場に響き渡る声。一七七センチの長身を、やや猫背ぎみに丸めて蛭が立っていた。 
 部下を認めたサイは満面の笑みを浮かべ、構えていた手の片方を挨拶めかしてひらひらさせる。
「やー蛭よかった、いいところに。ちょうどやってもらいたいことがあったんだけど人手足りなくてさー。
 ちょっとその的の前に立ってみてくれる?」
「よ、よく分からないけど嫌な予感がするんで遠慮します」
 後ずさりながら拒否する蛭。長く協力者をやっているだけあってなかなかに勘がいい。
 チッと舌打ちしてサイは話題を替えた。
「解析終わったの? データ持ってきてくれた?」
「はい。といっても他に調べることはまだまだあるんですけど、ひとまずは再生に関するデータだけは」
 差し出されたのは何の変哲もない、プラスチックのケースに収められたCD−R。光を反射する
裏面が、鏡に映った歪んだ虹のようにきらめく。表面は全くの無地だが、ここに流行歌手のアルバムの
タイトルや、『△△ちゃん運動会写真・○月×日撮影』という見出しが書かれていても何ら違和感はない。
「解析結果をもとに計算式も弾き出しました。この数値以上のスピードで損傷を与え続ければ、
 理論上は≪我鬼≫の再生を完全に防げる計算になります。あくまで理論上は、ですが」
 サイの華奢な手がCD−Rを受け取る。
「つまりは『最低でもこの数値以上は動かないと勝てない』ってことか」
「そういうことになります」
 CDケースを人差し指と中指で挟み、くるくると器用に回転させる。プリズムの輝きを振り撒きながら
連続五回転させたところで、ぴたり、と中空で静止した。
28女か虎か:2009/01/13(火) 20:05:14 ID:1XnElNrZ0
「詳しいことは開いて見てみないとわかんないけど……蛭、あんたから見てどんな感じ?」
「正直なところ、きつい数字です。普通に考えれば相当厳しいでしょうが」
 彫りの浅い顔の眉間に、一瞬山脈のような皺が寄った。
 しかしその皺はすぐに、黒い眼光の強烈な輝きに打ち消される。
 真っ直ぐに主人の顔を見据えて蛭は断言した。
「個人的な意見を言わせてもらえば……俺は、あなたという人間に不可能なことなんてないと思っています」
 怪盗はわずかに眉を吊り上げた。
 三秒、いや五秒近く流れる沈黙。その間も蛭の目は逸らされることなく、ともすれば睨んでいるとも
とられかねぬ強さでサイの双眸を見つめている。
「くだらないこと言ってるんじゃないよ」
 部下の視線から目をそむけるように、サイは蛭に背を向けた。
「俺は客観的な見解を聞いてるんだよ。あんたの熱血ぶった青臭い精神論なんて求めてない」
「すいません。でも本当にそう思うんです」
 蛭が頭を下げる気配。
 サイは息を吐く。蛭の耳には届かないほど小さく。
 口にした言葉は、さっきまでにも増してつっけんどんなものだった。
「解析するデータはまだ残ってるんでしょ。さっさと下がって仕事の続きやりなよ」
「はい、下がります。すみませんでした」
 一度顔が上げられ、また深々と下げられる気配。
 足早に退室する間際、名残惜しげにこちらを振り返るのを、サイは気づいていながらあえて無視した。
 訓練場のドアが閉まる音。
 足音が遠ざかり途切れる頃、傍観していた葛西がようやく口を開いた。
「で、どうします。続けますか?」
 CDケースを顎に押し当てひたすら黙りこくっていたサイは、にやけた放火魔の顔を横目で睨んだ。
「部屋に戻って休むよ。飽きた。それに疲れたし」
「そうですか。それじゃごゆっくり」
「葛西はどうすんの?」
「俺ですか。俺は……まあ、しばらく暇なことでもありますし……」
 火火火、と笑い声を響かせる。
 三白眼が閉じたドアの向こうを見やった。
「あの坊主とちょっくら遊んできますかねえ」
29女か虎か:2009/01/13(火) 20:08:56 ID:1XnElNrZ0


 射撃場と無菌室は細い廊下で結ばれており、その間にぽつぽつと各個人にあてがわれた部屋がある。
 今の時間はどこも無人だ。当然のごとく最も広いサイの部屋。煙草の煙がアジト中にこもらないよう、
換気最優先であてがわれた葛西の部屋。サイに下げ渡された盗品が幅をきかせているアイの部屋。そして、
条件を尋ねられたとき南向きがいいと適当に言ったらその通りになった、蛭自身の部屋。
 天井に灯る蛍光灯が眼球を刺す。クリーンベンチの青い紫外線の下で長時間作業をしたためだろう。
 一応ゴーグルで目は保護しているが、それでも限度というものがある。
 だるさと痛みに悲鳴を上げる目を押さえながら、蛭は自分の部屋のドアノブを捻った。タオルを温めて
目に当てるのが目的だった。原始的だが即効性のある方法だ。
 しかし自分のテリトリーに踏み込もうとした瞬間、背後から這い寄るような声が耳に絡みついてきた。
「よお小僧。お疲れみてえだな」
「葛西?」
 開けかけたドアを再び閉めなおしながら、蛭は声の主を振り返った。
 口元の筋肉が強張るのを感じずにはいられない。
 もし自分の体に毛が生えていたら、きっと逆立っていたことだろう。天敵を前にしたイヌ科動物のように。
「身を粉にして働いてるってのに、あの反応じゃあ報われねえよなあ。サイも礼の一つも言ってやりゃいいのに。
 ウサギみてえな真っ赤な目しやがって可哀想によ」
 妙に優しい猫撫で声に、なおさら口元がひきつった。
30女か虎か:2009/01/13(火) 20:12:15 ID:1XnElNrZ0
「あんなのいつものことさ、慣れてるよ。感謝されたくて協力者やってるわけじゃないし」
「それでも労いの一言二言あったっていいだろうが。お前はもっと評価されるだけの仕事してると思うがねえ」
 何だ、この男は。気持ちの悪い。
 蛭は露骨に顔をしかめた。
「何の用だよ。目を休めたらすぐ続きにかかりたいんだ、用件なら手短に……」
「まあまあ、そう嫌そうな顔するなよ。お前は俺を嫌いみてえだが、俺の方はそうでもねえんだぜ。
 口にすんのも恥ずかしいようなこと平気で言っちまえるケツの青さなんか、うちの甥っ子そっくりでよ。
 五分くらいならいいだろ?」
 帽子のつばの縁をトントンと叩きながら、葛西。
 しかめっ面のまま蛭は躊躇した。気に入らない、そう最大限に気に入らない男ではあるが、それでも
同じサイの足元に跪く協力者であるには違いない。サイに高く買われているらしいことを考えても、
あまり喧嘩ばかり吹っかけるのは好ましくないと思われた。
「まあ五分程度なら」
「火火火。ありがとよ小僧」
「『蛭』だ」
 シガーマッチが擦られて煙草が灯り、灰色の煙がふうっと吐かれる。蛍光灯の灯る天井へとのぼっていく。
「――感謝されたくて協力者やってるわけじゃないって言ったが、なら何のためにサイに従ってんだ?」
「は?」
 そんなものは蛭の勝手だ。なぜ新参者の葛西などに打ち明けなければならないのだ。
「どうでもいいだろ、そんなこと。大体あんただって同じ穴のムジナだ。他にもアイとか他の協力者連中とか」
「いいや違うね」
 ここで葛西は、実に旨そうに煙を吸った。
「お前のサイへの忠誠心は群を抜いてる。あの人の犯行やら能力やらに憧れてる連中は掃いてまとめて
 消し炭にしたくなるほどいるが、お前はそいつらと似てるようで微妙に違う。かといってアイと同じか
 ってえとそんな感じでもねえ。あの女はどっちかというと、サイ個人って以上にその向こうにある別の
 モンを視野に入れてる感じだからな」
「…………」
 いい観察眼だ。一ヶ月やそこらの付き合いでの洞察としては最高水準だろう。
 それに免じて、少しくらいなら話してやっても構わないと思った。
31女か虎か:2009/01/13(火) 20:15:11 ID:1XnElNrZ0
「俺がサイに従ってるのは……」
 放火魔の口の端が愉快そうに吊り上がる。
 どんな答えを予想しているかは分からない。だがとりあえずは、それがどんなものであっても意表を
突いている自信があった。葛西の顔を真正面から睨み、仏頂面のままただ一言こう言い放ってやった。
「人間だからだよ」
「にん……?」
「人間。俺が人間で、あの人も人間だからだ」
 案の定目をしばたかせる葛西。
「あのよ蛭、俺ぁ若者文化にゃとんと疎い中年のおじさんだからよ。日本語喋ってても通訳してもらわねえと
 意味が通じねえこともあんだ。もっとこう分かりやすくよォ」
「自分で考えろよこのくらい。あんたに訳してやる筋合いなんて俺にはこれっぽっちもないんだから」
 怪物強盗の名で恐れられるサイ。
 犯行の華麗さも残虐さも、人として到達しえる域をとうに超えたと言われている。そして実際その能力も、
単なる人間には決して持ちえない超常の領域深くに踏み込んでいる。
 だがその人間離れしているはずのサイの内面が、実はひどく人間臭いことを蛭は知っていた。
 欠点だらけで矛盾だらけ。子供のように気まぐれで一貫性がない。常に自信たっぷりかと思いきや
人並みに苦悩もコンプレックスも持っており、巷で囁かれるような完璧な怪盗像とは程遠い。偶像化
された怪盗Xを崇拝する連中は、現実の彼を見れば失望すること請け合いだろう。
 だが蛭はむしろそこにこそシンパシーを覚えている。
 欠点とコンプレックスにまみれた自分と同じ人間が、常識を超えた力を手に己が目的に邁進する。
 彼が立ち向かうのは、その力をもってしても容易ならぬ障害だ。何度も振るい落とされ膝をつきながら、
それでも決して諦めることはない。歯を食いしばり、地についた膝を引き剥がして立ち上がり再び向かっていく。
 その姿を仰ぎ見るたび、胸が熱くなるような感覚を覚えるのだ。
 陶酔めいた憧れか、あるいは自己投影を孕むカタルシスか。この感覚の組成を冷静に分析できるほど、
蛭はまだ成熟してはいなかったが。
「はあ……人間、人間ねえ……」
 首を捻る葛西。どうも納得がいかないらしい。
32女か虎か:2009/01/13(火) 20:19:12 ID:1XnElNrZ0
「お前の目にゃ、あれが人間に見えるのか?」
「あの人が人間じゃなくて他の何だっていうんだよ」
 悩むのも苦しむのも、寄る辺となるアイデンティティの欠如に悶えるのも、そこから抜け出すために
死に者狂いで研鑽を続けるのも、人間という生き物にのみ許された特権だ。
 その特権があるからこそ、今日に至るまで人間は進化を続けてきた。他のどんな生物よりも速く着実に、
己自身を高めながらここまで来られたのだ。
「はぁ、よく分かんねえがまぁいいか。言葉の定義ってのは人それぞれだよな」
 何か引っかかる言い方だったが、会話を手早く終わらせたかったのであえて突っ込みは入れないことにする。
「話はそれで全部か? じゃあ俺は部屋で休むから」
「まあ待てよ蛭」
 再びドアノブを捻りかけたとき、ニヤついた声がそれを制止した。
「まだ三分も経っちゃいねえだろうが。ったく最近の若いモンはせっかちでいけねえよ」
「続きやらなきゃならないってさっき言っただろ。アイが帰ってくるまでに出しときたいデータがあるんだよ」
 ことさらに苛立った声を出すと、葛西は苦笑ぎみに肩をすくめる。
「やれやれ、しょうがねえ。そういうことならまあ引き下がるが、その前にこれだけ聞かせてくれよ――なあ」
 帽子の鍔と額の境目をかりかりと掻きながら、言った。
「そんだけ心酔してるサイに隠し事するってぇのはどんな気分だ?」
「っ!」
 顔の筋肉が引き攣った。
 上げかけた声を飲み込めたのは奇跡というほかない。
「……何のことだよ」
「火火、とぼけても顔色で丸分かりだぜ。お前は詐欺師にゃ向いてねえな」
 じとり、と背中ににじむ汗を感じる。
 何故分かったのか。悟られるような言動はしていなかったはずだ。
 いや、バレているとは限らない。単なる鎌かけという可能性も残っている。
 驚愕を振り払う蛭に、だが葛西はすかさず畳み掛けた。
「まあ、理由は大体想像がつくぜ。今のサイがこれを知ったら、揺れて不安定になるのは目に見えてる。
 そうなりゃ計画がスムーズに運ばなくなるし勝てる局面でも勝てなくなる。『あれ』の中身を見るのを
 最優先するんなら、全部済むまで可能な限り伏せておくに越したこたぁねえ。ただこりゃお前一人の
 発想じゃねえな、あの女とつるんで決めたことか?」
33女か虎か:2009/01/13(火) 20:22:15 ID:1XnElNrZ0
「なっ」
 息を呑む。
 得体の知れない寒気が足先から這い上がってきた。彼の中の気弱な青年、『依』の名で呼ばれる部分が、
見透かされる恐怖に震えているのが分かった。一方でどこまでも冷静な犯罪者『蛭』は、投げかけられる
言葉の一つ一つを受け止め分析を加えていた。
 ハッタリではない、これは確かだ。適当なことを言っているわけではない。
 問題は――
「……何であんたがそれを知ってる?」
 唇から漏れた声は、自分でも予想外に据わっていた。
 言動から嗅ぎ取っただけにしては、微に入り細に渡った鎌かけだ。解析データの流出はありえない。
 蛭自身も口外していないし、まさかあのアイが迂闊に漏らすわけもない。同じ情報を掴んでいるはずの
警察も、今のところ混乱を恐れて発表を控えている状況だ。
 単なる放火魔でしかないはずの葛西が、どんな経緯でそれを知るに至ったのか。
 キャップの鍔の影に隠れた両目が、暗く輝くのが見えた気がした。しかし血管の浮いた手が帽子を被りなおし、
確かに垣今見えたはずのその光をまた見えなくしてしまった。
「火火ッ、そんな怖ぇ顔すんな」
 ちびた煙草がぽとりと落ちる。惨めったらしく床に転がり、靴底で軽く踏みにじられる。
「心配すんな、サイに告げ口する気はねえからよ。お前とアイが何を隠してようが、俺にとっちゃあどうでもいい話だ」
「質問に答えろよ、何であんたがそれを知ってるのか聞いてるんだよ。一体どうやって、」
「おいおい、フェアじゃねえなあ。聞いたのは俺が先だろ? 答えもしねえで熱くなってんのはお前じゃねえか」
 笑みを漏らす葛西。
「心の底から見上げてる相手を騙くらかすってのは、どんな心境なのか気になってたんだが。
 お前がそういう態度なら今聞いてもしょうがねえな、またの機会にお願いするとしようかね」
「葛西! 待て、かさ……」
 煙草の燃えカスだけを残し、きびすを返して歩き出す放火魔。
 逃がしてなるかと蛭は食い下がる。
 だが葛西の後ろ襟を掴んで引き止めようとしたとき、視界が白くぼやけてかすんだ。
 あ、と思ったときには遅かった。重心を失った体はくずおれ、床に膝と手をついていた。
 極度の眼疲労による立ち眩み。
「葛西! 葛西善二郎! あんたはっ……」
 かすむ視界に放火魔の姿は映らない。火火火という特徴的な笑いだけが、青年の耳をなぶって消えていった。
34女か虎か:2009/01/13(火) 20:25:49 ID:1XnElNrZ0


 アイが懐から取り出した腕時計の文字盤には、ダイヤモンドの粒が無数に埋め込まれている。
 プラチナの文字盤に刻まれた文字を見ると、時刻は零時をまわったところだった。
「似合わん時計だな。お前の趣味か?」
「お答えする義務は特にないと考えます」
 怪盗というイメージの維持のために、サイが適当に盗みそのままアイに下げ渡した品の一つだった。
 最高の素材を最高の職人が組み上げた、ロットナンバー入りの高級品――とのことだが、世界中の
名品を盗んできた怪盗"X"にしてみればB級品の一言である。身を飾る装飾にまるで興味のないアイは、
単に狂いが出にくいというだけの理由でこれを愛用していた。
「フン、まあどうでもいいがね。それでさっきの話に戻るが」
 すげないアイの受け答えに、早坂は軽く鼻を鳴らす。
「≪我鬼≫の捕捉に加えて捕獲にも手を貸す件……受けてやっても構わんぞ」
「それは何よりです。追加報酬に関して何かご要望はおありですか?」
 アイの手元にはミニPC。携行性に優れるぶんキーボードが使いにくいのが難点の機種だが、操作面の
ハンデなど彼女のタッチはものともしない。通常のPCと何ら変わらぬ速度で、画面上に文字が打ち込まれていく。
 打たれた文字は画面上で自動的に、アイにしか解読できない暗号へと変換される。たとえ脇から覗き込んだとしても、
無意味なアルファベットの羅列としか映らない。そういうプログラムが組まれている。
「最初に提示された額の倍だ。これ以上はビタ一文譲れん。それと」
 ここまで言って、早坂は弟に視線をやった。
 弟の早坂幸宜は、兄に軽く頷いてみせてから、コツンと指先でこめかみを叩いてみせた。
 言い放つのは、冷たい印象を帯びた張りのある声。
35女か虎か:2009/01/13(火) 20:29:35 ID:1XnElNrZ0
「お前の主人と直接話がしたい」
 ふっさりと長いアイのまつげが震えた。
「それは……」
「嫌だってんなら、この話はなしだ。もともと俺らが依頼を受けてたのは捜索の方だけなんだからな。
 大体こっちはCEOが直接出張ってるってのに、そっちが下っ端のあんた一人ってんじゃ、ビジネスの
 流儀からいっても釣り合いがとれねえってもんだろ」
 『下っ端』という単語をやけに強調しながら、弟。どうやら挑発のつもりらしい。そんなものにこちらが
軽々しく乗ると、まさか本気で考えているわけもないだろうが。
 アイが黙っているのをどう捉えたのか、弟は更に付け加えた。
「それとも何だ? お前の上司は、恥ずかしくて他人の前には出てこれねーような奴なのか?」
 すっきりと整った弟の鼻梁を、アイは注視した。
 兄とは随分と雰囲気が違う。年が離れているせいもあるが、言われなければこの二人が兄弟とはまず気づくまい。
 ただ、鼻筋の整い方は共通していた。兄のサングラスを取り、口元の無理な笑いを消せば、この兄弟は
存外によく似ているのかもしれない。
 そのよく似ている兄弟は、経営にあたってはまるで異なる役割を分担している。
 兄が舵を取り、弟がそれを守る。会社の頭脳を司る兄の、手足となって弟が動く。
 実にバランスの取れた兄弟。
「……良いでしょう。主人の方も、あなた方には興味を抱いています」
 PCのエンターキーを押す。文書の入力を終え、アプリケーションを終了する。シャットダウンの選択。
 静謐な、だが聞き逃しようのない声でアイは告げた。
「おいで下さい。私どものアジトに」
36作者の都合により名無しです:2009/01/13(火) 20:30:12 ID:ZihCHPCa0
大量投下!
電車魚さん頑張って
支援
37電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/13(火) 20:31:31 ID:1XnElNrZ0
今回の投下は以上です。長くてすみません。
色々考えた結果、「分量は多少多くなっても話の区切りに合わせて投下したい」という結論に至りました。
あまりに長い場合はさすがに分割しますが、四捨五入して10になる範囲までは普通に投下すると思います。
ウェブで長文読みたくないという方には申しありませんが、ご了承願います。


>サマサさん(レス返し)
ネウロなら……うーん、どうでしょうか。
ヒス様やエリちゃんは、自分より強い者に命令されれば、はしゃぐのをやめてひたすら媚びる動物だし、
彼女ら(エリちゃんは男ですが)と我鬼ではししゃもとキャペリン並みに種類が違うんじゃないかな。
ほら言うじゃないですか。犬はエサで飼える、人は金で飼える、だが(略)
それに、ネウロは力ずくで屈服させるのは得意でも、
手懐けてゴロニャンゴロニャンさせるやり方については門外漢だと思います。

>サマサさん(SS感想)
やはりレオンティウスと双子は……
ってことはタナトス様の発言もやっぱりそういうこと……なのか……?
うわあああああサマサさんのドSー! 外道ー! 魔人ー!
「わが母イサドラである!」のシーンはレオンティウスかっこいいと思ってしまいました。
それがちょっぴり悔しかったのはたぶん彼が私の中ではネタキャラとして定着しているから。
でもこういう展開になってくるということは、彼もまた運命に抗う者の一人なのでしょう。
レオンティウスには兄としてがんばって欲しい。そしてできればおホモを卒業し、
アレクサンドラ様とくっつき尻に敷かれつつも平和な家庭を築いて欲しい。子供は娘が二人で。
38作者の都合により名無しです:2009/01/13(火) 22:21:18 ID:a9oC+Ase0
>>1さん&テンプレ職人さん
おつ華麗様ですっ! ハイデッカさんもちと心配ですが、また戻ってこられた時にバキスレが
元気であるよう、盛り上げていきませう。

>>ハロイさん
相変わらず、敵でも味方でも男性でも女性でも(セピアでも)誰を相手にしても未熟さ・
少年らしさが溢れ出ますねぇレッドは。でブラックやシルバーも、なんだかんだで年長者・兄貴っ
ぽい匂いはちゃんとさせてる。言葉や態度での表現によるものでしょうが……深い技術です。

>>サマサさん
予言の忌み子ときましたか。その運命をぶっ壊すのか、飲み込んだ上で進んでいくのか、
はたまた予言のインチキを暴くか。ミーシャもナイトに囲まれるお姫さまらしくなってきました。
>(え?ちょっとトウが立ってるけど、奇麗な人だね)
……前から思ってましたが、闇遊戯の方が常識豊かで面倒見も良くて社交性も有、では?

>>電車魚さん
うーん笛吹さんが可愛かっこいい。そしてアイ&サイの前だと「品のない小悪党」臭がしてしまう
葛西でしたが、今回は「やたら鋭い小悪党」でしたね。華麗な怪盗や強力な怪物ではない、
並外れてはいるけど人間の枠内、でも人外と絡んで潰れず。ある意味、読者目線で主人公的。
39ふら〜り:2009/01/13(火) 22:21:56 ID:a9oC+Ase0
う、失敗。一応↑は私です。
40作者の都合により名無しです:2009/01/13(火) 23:32:23 ID:MEKEN8rd0
お疲れ様です電車魚さん!
ちょっとバキスレ今、元気ないんでサマサさんとともに引っ張ってほしいです・・。

匪口をはじめ警察オールスターズが出揃いましたね。ネウロは数少ない警察が
カッコいいジャンプ漫画なので彼らにも我鬼退治に活躍してほしいところ。
葛西のちょっととぼけた、人を食ったような言葉遣いが原作以上に原作らしくていいw

41作者の都合により名無しです:2009/01/14(水) 06:22:55 ID:FsNOkzfa0
曲者キャラばかりのSSですな。
早坂とアイサイがいよいよ緊密接近して事態は急転。
この2勢力が組むと厄介そうですな。
42作者の都合により名無しです:2009/01/14(水) 18:46:01 ID:O1fmiKy60
アイは我鬼と戦うのだろうか?正面衝突で。
アイって原作では狙撃やトラップなどの使い手で
前線に出て戦うことは無かったと記憶してたけど
このSSではサイを差し置いて彼女自身の手で
決着を付けてほしいものだ。タイトル通り。


関係ないけどサイと書くとどうしても真っ先に
囲碁オタ幽霊が思い浮かんでしまう…
43作者の都合により名無しです:2009/01/14(水) 21:43:28 ID:Aeg79yf00
さいさん一言だけでもご連絡を・・
44電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/14(水) 23:43:46 ID:CbSxUX3v0
こんばんは。
しばらくスレを見られない環境になりますので取り急ぎレスのみ。


>>36さん
投下時は気づかず遅れてしまいましたが、支援ありがとうございます。
今後も何かと大量投下の機会が多くなると思いますので、
タイミングが合ったらまたお手伝いくださると嬉しいです。

>ふら〜りさん
笛吹は3巻登場ですが、もう読まれたかな。それともまだかな。彼も非ッッッ常にすばらしい
キャラクターで人気が高いので是非お勧めしたいところ。まあ3〜4巻の役どころはム○カですが。
そして何より葛西がいいんですよ! ああもう可能なら手元にある3〜19巻押し付けたい!
彼は確かに人間臭いですし、ある意味では読者目線でもありますね。

>>40さん
うーん笛吹筑紫匪口の警察後方支援組は、このSSではあまり……
基本的には4までで登場したキャラクターを中心に話が回ると思ってください。もちろん
後方組の登場にも意味はあるんですが。
葛西の喋り方面白いですよね。おじさんと自称してるくせに、言葉選びは時折若者っぽかったりして
(たぶん松井先生ご自身がお若いせい)でも>>40さんの仰る通りところどころすっとぼけてて。
書いてて楽しかったです。おっちゃん可愛いよおっちゃん。

>>42さん
そー言われると無性にサイに倒させたくなるから困ります。
たぶん「決着はサイの手で」といわれればアイに倒させたくなるんだろうなあ……w
げに恐ろしきは天邪鬼。結末あらかじめ決めててほんとによかった。
アイ、実は原作では銃すら握ってなかったりします。主人であるサイが限りなくチートに近い
パラメータの持ち主ですから、わざわざしゃしゃり出ていく必要特にないんですよね。
囲碁オタ幽霊懐かしい! 私がサイとカタカナ表記なのはXと書くとズッコケ三人組を思い出すから
なんですけど、まさか同じ雑誌に意外な伏兵がいたとはw
45電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/14(水) 23:46:36 ID:CbSxUX3v0
>>41さん宛てレス抜けテター

>>41さん
警察組以外全員極悪人ですからね。
7、8と人物描写が続きましたが、9からようやく話が動き出します。
書いてた側としては「やっと」って感じです。
どっちも恐ろしく我が強いですから、一筋縄じゃいかないと思いますね。
46天体観測:2009/01/15(木) 00:51:54 ID:G7gHxPGi0
なぜか馬があうのか、祭壇座アルターのニコルと神聖闘士アンドロメダ瞬は公私の行動を共にすることが多い。
戦闘力と実績がものを言う聖闘士の中では異例の官僚肌の聖闘士・ニコルは、
同僚の白銀聖闘士や下位の青銅聖闘士から何かと疎まれる傾向にある。
聖域内乱の首謀者、双子座ジェミニのサガに見出されたせいか、
主に功績面からのサガ擁護を標榜していたことも無関係ではないだろう。
曰く、文弱の徒。
曰く、長袖者。
曰く、木端役人。
曰く、サガの尻尾
教皇代行としての優秀さとは反比例し、ニコルを誹る声は小さくない。
そんな彼だからこそ、アンドロメダ瞬と接触をもっている事に関してはいい顔をされない。
報われない男なのだ。
自身の政治的立場の危険性を十二分に認識しているニコルだけに、瞬との付き合いに打算がないわけではないが、
アンドロメダ瞬は他の四人の神聖闘士とちがって基本的に物腰が柔らかいため、付き合いやすいのだ。
これが星矢あたりならこうは行かない、
ニコルはその職務の関係上、聖戦会戦前の聖闘士になりたての頃の星矢を知る身だけにどうしても苦手意識が抜けないのだ。

ギリシア歌劇の公演に連れ立って行く事などもあるのだが、その帰りの事だ。

「アドニス?」

「そうだ。
 先の魚座ピスケスのアフロディーテの甥にあたる少年でね。
 その出自からして才覚はある、と思うんだがいかんせん性格が、なぁ…」

長いため息をつくニコルに、不安げな目を向ける瞬。
ニコルとの付き合いは短いが、なんだかやつれてきているように見えるのだ。

「聖闘士の頂点たる黄金聖闘士の存在は、今の聖域にはなくてはならないものだ…。
 君ら神聖闘士はたしかに強い、その戦力は黄金聖闘士を超えているだろう。
 だが、黄金聖闘士は象徴なんだ」
47天体観測:2009/01/15(木) 00:52:47 ID:G7gHxPGi0
夜空を見上げるニコルの視線を追って、瞬はそこにある星座を目にする。
双子座だ。

「神話の昔から黄道を飾ってきた十二の星座、それになぞらえた光り輝く黄金の聖衣を纏う聖闘士。
 …彼らの存在感というものは、白銀や青銅にはないものがあるんだよ。
 神聖闘士はおそらく一代かぎりのものになるだろうしね」

ニコルの目には、在りし日の十二人が見えているのかもしれない。

「僕ら若輩も良いところですもんねぇ」

「…まぁ、ね。
 だがいつまでも若輩でいられない。
 次代黄金聖闘士候補は、今のところ四人いるんだが。
 内一人は本人にその気がない。
 内一人はまだまだ心身ともに未熟。
 残る二人。それが貴鬼とアドニスなんだ。なんだが…」

ニコルはまたため息をつく。

「アドニスを相手するには、白銀や青銅レベルじゃもうどうしようもないんだ。
 暴れ馬というより、もはや狂犬だよ。
 大きな声じゃいえないが、アステリオンも避けてる節がある。
 それに青銅聖闘士の一人が、…彼と喧嘩してな、聖衣が無ければ再起不能だっただろう。
 おかげで貴鬼の仕事がまた増えた。
 白銀聖闘士はそんな彼を抑えこむには力不足だろうし、聖域の実効戦力をそういう方面で消費したくない」

瞬は感づいた。
48天体観測:2009/01/15(木) 00:56:55 ID:G7gHxPGi0
「なるほど…。
 僕の弟子にせよ、ということですね?教皇代行」

「…すまない。
 亡きダイダロスの弟子たちを引き継いだばっかりでさらに厄介ごとを上乗せしちゃって…。
 紫龍にまかせたかったんだが、その青銅聖闘士は紫龍の預かりでね。
 たぶん今再開させたら殺し合いになる。
 その青銅、磨けば光るんだ。
 今、人材を失うわけにはいかないんだ…」

ニコルの脳裏によみがえるのは、拳から血を流しながら聖衣を粉砕する鬼神のようなアドニスの姿だった。
たとえ黄金候補といえども、未熟な拳でそんな真似をすればただではすまない。
だが、アドニスは殴り続けていた。
おそらく彼が殴りつけていたのは青銅聖闘士ではないだろう、彼の中にある昏いわだかまりだ。
ひそひそと噂話をする連中がいれば残らず殴り倒し、視線があえば殴り倒し、卑屈に笑うやつがいれば殴り倒し、
そうして孤独になっていく。
それでは駄目だ、だがそんな彼を導くにはニコルは弱すぎた。

「アドニスにとって仇にあたるだろう君に任せるしかない私の無能を笑ってくれ…。
 孤高に気高くあるのはいい、だが、孤独は駄目だ。
 未熟な今なら矯正は効く。」

あの日、聖域に響き渡ったサガの声。
ニコルは絶望した。
気高い黄金聖闘士だったはずの彼があんなふうになってしまった事に。
一人では駄目なのだ。
一人では歪みが分からない。一人では歪みに気づけないのだ。

「わかりました。
 微力ながらこのアンドロメダ瞬、拝命いたします」

意を汲んでくれるこの優しい少年に、ニコルは自然、頭をさげた。
49銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/15(木) 01:01:59 ID:G7gHxPGi0
前編終了。

バキスレの皆々様、恭賀新年。
銀杏丸でございます。
去年は色々ありました、今年も色々あるんでしょう…。
ノート盗まれたり携帯ぶち壊れたり、転勤したり、フラレタリ、
チャリでコケて膝がドス黒くなったり、年末に風邪引いて熱で朦朧としながら仕事したり
三が日出勤したり、そんなこんなあるけれど、私は元気です。空元気だけど!
今年も宜しくお願いします!

タイトル元ネタはバンプオブチキンの名曲「天体観測」から
戦闘神話のプレエピソードで、アドニスが瞬の弟子になるお話です
アドニスは僕のオリキャラですが、ニコルは小説版に登場するキャラクターです

では後編でお会いしましょう
50作者の都合により名無しです:2009/01/15(木) 06:21:08 ID:XIzxqgue0
銀杏丸さん乙です。
黄金になる少年を導く瞬の話ですか。
瞬は優しすぎてある意味師匠には向かないと思うけど、
どう導くのか楽しみです。
51作者の都合により名無しです:2009/01/15(木) 22:29:06 ID:8z+4GZsH0
銀ちゃんちょっと短いよ
もっとボリュームを多めに書いとくれ
お忙しいのは分かるけど

でもお疲れです。
この話2話で終わるのかな?
アドニスと瞬の触れ合いとか書いてくと
連載になってしまうと思うがw

愛戦士ニコルというとファミコンソフトを思い出す
ふら〜りさんならわかるはず
52作者の都合により名無しです:2009/01/16(金) 00:56:19 ID:1djcbcNB0
しかしニコルなんてキャラいたのか
聖矢は同人多いからな
チャンピオンでも連載してるし
53天体観測:2009/01/16(金) 20:59:20 ID:ouhJeT700
気に食わないなら、ぶん殴る。
気に食わないから、ぶん殴る。
気にいらなくても、ぶん殴る。
目に付くすべてが苛ついて、そんな自分に苛ついて、気がつけばアドニスの手のひらは瑕だらけだった。
あいつからは、母親譲りのきれいな手と言われたことがある手は、瑕だらけだった。
あいつが嫌だ。だから傷つけた手だった。

聖域。聖闘士の訓練場を見下ろせる位置にあるオリーブの古樹の下に座り込んだ彼の周りは、
そこだけ切り取ったかのように空いていた。
オリーブの樹のある方を通れば水場まで近いのだが…。
触れれば切れる。そんな禍々しいオーラを撒き散らす姿に、周囲はますます離れている。
これは確かに重症だ。

「君がアドニスかい?
 はじめまして、僕はアンドロメダ瞬。
 これから宜しく」

気がつけば間合いに踏み込まれていた。
気を抜いていたつもりは無い。だが何だ?こいつは。
今なんと言った?

「アンドロメダ…。
 …ッ!」

弾けるようにして殴りかかる。型ははっきり言ってめちゃくちゃだ、だが速い。
生身で音速を突破。小宇宙の燃えた拳は、なるほど確かに聖衣を砕けるだろう。
瞬の左手がアドニスの右手を掴む。驚愕に染まるアドニスの顔。
逃げようと身を捻るアドニス。ぐるりとアドニスの視界が回る。それでも彼は瞬を睨み付けている。
54天体観測:2009/01/16(金) 21:04:40 ID:ouhJeT700
「そう、アンドロメダ瞬」

ニっと笑った瞬の顔が、アドニスの視界からまた流れる。瞬間、背に衝撃。
訓練場のど真ん中に投げ飛ばされた。
ふってきたアドニスに呆気にとられた顔をする者たち。
そんな連中の存在に、アドニスは激怒した。

「皆、すみません!
 これから稽古を行います!危ないから下がっていてください!」

張りのある瞬の声が訓練場に響くと、一瞬水を打ったように静まり、そして蜘蛛の子を散らすようにして人がはけて行く。
瞬が投げ飛ばした相手が誰か気がついたのだ。
ひっくり返ったアドニスに侮蔑の視線を向ける者が居ないでもなかったが、
それらは瞬の刃のような視線を受け、血相を変えて逃げていった。
あとで締め上げる必要があるな、等と考えながら、瞬はアドニスに向き直った。

「さて、アドニス。
 今日から君は僕が面倒を見ることになった。
 さっそくだけど稽古を始めようと思う、時間が惜しいし。
 最低でも黄金聖闘士くらいになってもらわないと困るからね」

にこりと笑いながら無造作に間合いを詰める瞬。
無造作、されど速い。
アドニスの顎先を撫でるようにして瞬の拳が通ると、アドニスはくたりとその場にひざをついた。
脳を揺らされた、そうアドニスが気がついた時には宙を舞っていた。
小石を投げるようにして片腕で放り投げられたのだ。
重力に引かれて地に戻るアドニス。地につくまでに肉体のコントロールを取り戻す。
地を蹴る。雷光のようなアドニスの下段蹴り。
55天体観測:2009/01/16(金) 21:07:57 ID:ouhJeT700
「なめられるほどの実力もないのに、吼えるな」

兄ならそう言うだろうな、などと考えながら、瞬は意識して冷徹を装った。
上下を分からせるのに一番効果的なのは、一度徹底的にたたきのめす。
瞬が望む望まぬかかわらずに学んだ事だ。
優しさだけでは救えない。血と拳がそれを教えてくれた。
人として生きるなら人としてのルールがある。そのルールに適応する人間に矯正するのが先達の役目だ。

「畜生ッ!」

瞬の冷たい言葉に、アドニスは血反吐を吐きながら睨み付けるばかりだ。
自覚はないだろうが萎縮している。
だが、まだアドニスの目は死んでいない。
圧倒的な敵を前にして、怯まない心の強さはどこか星矢を思い出させる。
その質は大いに異なるのだが。

「弱いから言葉に惑わされるんだ、自分の弱さに向き合いなさい」

言葉が流れ、アドニスの足が払われる。
体が泳ぐ。刹那、鉄槌のような拳が振ってきてアドニスを撃った。
べしゃりという叩き潰されるような音が自分が地面に叩きつけられた音だと気がつくのと同時に、
意識を失った。

「おお、やってるな。
 …生きてるよな?アドニス」

のんきな声は盟のものだ。
髪の毛座コーマの盟。
用途を限定された為に通常の三階級の「ランク外」に位置する聖衣の一つ「髪の毛座」を纏う聖闘士であり、
城戸光政の百人の子の一人、つまり瞬とは異母兄弟にあたる男だ。
56天体観測:2009/01/16(金) 21:11:10 ID:ouhJeT700
「大丈夫だよ。
 まぁ、すこしばかり痛い目にあわないと冷静にはなれないくらい茹ってるんだけどね、アドニスは。
 聖域入りしてすぐに誰かが面倒見れればよかったんだけど…。
 十二宮の戦いの記憶が真新しい頃に聖域入りしたのが拙かったんだろうね」

地に伏せられたアドニスを見る瞬の目は、どこかつらそうだ。

「まぁ、俺も似たようなもんさ。
 なんたってほら、あのキャンサーの弟子なんだしな、俺。
 ただ、アドニスは悪意に晒されるにゃ幼すぎた」

冗談めかして言うが、内容は冗談ではない。
師の仇が兄弟。普通なら遺恨が生まれることだが、この盟にとってはそれは瑣末事だ。
優勝劣敗は兵家の常、敗れても恨むな、恨むなら戦うな、力ないのなら抗うな、抗うのなら力強くあれ。
それが当の師・デスマスクの教えなのだから。
同時に盟は実の兄弟同士で殺し合いを演じかねない可能性を避けるため、
相応の実力を持ちながらも聖衣を与えられなかったのだと気がついていた。
苛烈で酷薄であるが、身内に対してはどこか甘い。それがデスマスクだった。

「…、まぁね」

「しかしまぁ、意外とスパルタンだね瞬」

「本気で向き合わなきゃいけない時は、やっぱり拳でないといけないさ。
 …あんまり拳骨を作りたくないけどね」

「拳を作ることすら避けたら、どうやって戦うんだ?
 アテナが唯一聖闘士に許した人間が最初にもつ武器、それが拳なんだぜ?
 まぁ、だからこその瞬かな」
57天体観測:2009/01/16(金) 21:15:20 ID:ouhJeT700

盟の言葉にただ笑い、瞬は気を失ったアドニスの胸倉をつかんで無理やり立たせた。
瞬の手のひらは、光速で鎖を操るために硬い。
瞬の肉体を一番良く知るジュネをして「聖衣よるも硬い」と言わしめたその手のひらでアドニスの頬を張る。
痛みで覚醒したアドニスの意識は、胸倉を掴まれてたたされている自分に気がついた。
アドニスの膝は笑っていた。
それが身体的反応なのか、恐怖によるものなのか。前者であることをアドニスは望んだ。

「周りの声に流されるのはよく分かる。
 自分が何なのか分からなくなるのもよく分かる。
 だけど、それを自分以外にむけちゃいけないんだ。
 自制しろ、アドニス。それが出来なければ獣だ」
58天体観測:2009/01/16(金) 21:17:12 ID:ouhJeT700

瞬の強い視線に耐え切れなくなったのか、アドニスは目をそらす。
瞬間、ぱしんと頬がなった。

「目を逸らすな!
 君が見なければいけないものから目を逸らすな!」

頬を張られたのだと気がついた時、アドニスの視界は歪んだ。
痛みではない。

「何を信じたら良いんだ!!
 僕はあいつの血をひいてる!聖域を裏切ったあいつの!
 でも、あいつは!あいつは!優しかったんだ!
 僕は!あいつが嫌いじゃなかった!でも裏切り者だった!!
 敵だったんだ!
 でも僕は聖闘士になりたいんだ、あいつを否定したい。あいつと僕は違うって言いたいんだ!
 でも黄金聖闘士だったあいつは裏切り者で!
 なら僕も聖域を裏切るのかって!あいつらみんなそんな目で見てきやがる!
 違うんだ!僕は!僕はっ!僕は、僕は、僕は…」

後はもう嗚咽だった。
堪えていたものがすべて流れ出したような嗚咽だった。
59銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/16(金) 21:23:23 ID:ouhJeT700
はい、中篇です
伸びました、ええ伸びましたとも!伸びて何が悪い!さぁ!笑え!

>>50さん
瞬らしからぬセメント思考です
瞬もあの一輝の同母弟、星矢とも兄弟。ならば根は似たようなものです、異論は認める

>>51さん
伸びました!以上!

>>52
なんだかんだで20年。アニメ化したりゲーム化したりトイがリニューアルしたりいろいろありました
その当時からのファンも居るでしょう、チャンピオンのロストキャンパスで新たにファンになった人も居るでしょう
長く続いた作品の強さともいえます

では後編でお会いしましょう!
60作者の都合により名無しです:2009/01/16(金) 21:58:48 ID:mn0OSxFI0
いえーい、銀杏丸さん中篇キタ━━(゚∀゚)━━!!!!!


しっかり書きたい事を詰めてくれた方が、読む方も読み手があっていいです。
後編も楽しみにしてますぜー。
61作者の都合により名無しです:2009/01/17(土) 00:39:56 ID:5NCSUTcL0
>最低でも黄金聖闘士くらいになってもらわないと

この台詞はちょっとやだなあ
青銅より黄金の方が好きなんだよ
62作者の都合により名無しです:2009/01/17(土) 08:40:56 ID:kSKdulTg0
やっぱりセイント物を書いてる時の銀ちゃんが一番面白いな
63遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:26:37 ID:k+Wwk33U0
第二十八話「戦う者達」

<結局彼は、運命の手から逃れられませんでした。されど、憐れむ必要はないのです。
私もあなたも、誰一人逃れられないのですから。めでたし、めでたし>
―――全ての歴史を知る黒き書物・その囁き―――


死せる英雄達の戦い。
其れは、神話の英雄達と現代の決闘者達の、壮大な戦いの戯曲である。
運命を切り開くのは誰の剣か―――或いは誰もが、運命の掌の上で踊る悲しき奴隷に過ぎぬのか。
神は黙したまま、何も語らず―――

「―――ごめんなさい。取り乱してしまって…」
イサドラはミーシャから離れ、涙を拭った。
「いえ、私は構いません…それよりもイサドラ様。先程あなたはレオンティウス様に、私の兄と闘ってはならないと
仰りましたが、それはどういうことなのですか?」
「それは―――」
イサドラは息子の顔を見つめ、口ごもる。
「母上。私がその男には勝てないというのですか?」
「勝ち負けが問題なのではありません。あの者と闘うこと、それそのものが禁忌なのです」
「―――母上。<紫眼の狼>が何者であろうと、私はアルカディアの王として、逃げるわけにはいきません」
レオンティウスは母に背を向け、歩き出す。
「行かないでおくれ、レオンティウス!あの者はあなたの―――!」
その声は届かない。レオンティウスは未練を断ち切るかのように、足早に去っていく。
「イサドラ様…」
カストルが、イサドラの傍に跪(ひざまず)く。
「不肖ながら、私が陛下の御傍におります。どうか御任せを」
立ち上がり、カストルもレオンティウスの後を追って出ていく。その場にはイサドラと、遊戯達が残された。
「…色々訊きたいことはあるけどよ、今はあれこれ言っても仕方ねえ。オレ達もいくぜ!」
城之内の言葉に、皆が頷く。しかし、イサドラは血相を変えた。
64遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:28:58 ID:k+Wwk33U0
「いけません!ミーシャ…あなたまで、行ってはなりません!」
「え?だけど…」
「その方がいいよ、ミーシャさん」
遊戯がそう続けた。
「やっぱりミーシャさんを無理に戦わせたりしたくないよ。ここにいれば安全だし、それに…今回の相手は海馬くん
と、お兄さんのエレフだ」
「そうだな。万一にでも、エレフの野郎と戦場で向き合わせるなんてしたくねえ。ミーシャはここにいてくれ」
城之内も遊戯に同意する。
「なあに、首に縄引っ掛けてでもあいつを連れてきてやるさ。そこで改めてじっくり説教してやればいい」
オリオンはそう言って、イサドラに視線を移した。
「―――それに、イサドラ様が、お前と色々話したいことがあるみたいだしな。相手をしてさしあげなよ」
「…分かったわ。皆、私はここで待ってるから。どうか、無事に帰ってきてね」
そして二人を残し、遊戯達もその場を後にした。それを見送ったミーシャはイサドラに向き直る。
「イサドラ様…お聞かせ願えますか?あなたは、何を知っているんですか?」
「…………」
「あなたは私のことも、エレフのことも知っておられるようでした―――そして、レオンティウス様がエレフと闘うこと
を、あれほどまでに忌避しているのは、何故なのです?」
「ミーシャ…あなたは何も知らぬ幸せよりも、残酷な真実を知りたいと望むのですか?」
その言葉に構わず、ミーシャは言い募る。
「教えてください―――真実がどれだけ残酷でも、何も知らない方が幸せだなどと、私には思えないのです」
ミーシャはイサドラの目を真っ直ぐに見つめた。そして。
「分かりました…話しましょう。この愚かな女の犯した罪を―――」
イサドラは、意を決したように唇を開いた―――

「―――聞け、皆の者!」
軍馬に跨ったレオンティウスは、居並ぶ兵士達を鼓舞する。
「我らはこれより聖都イリオン奪還に向け進軍する!<紫眼の狼>―――そして<白龍皇帝>は恐るべき力を
秘めた強敵だ。されど、我ら<雷神に連なる者(アルカディオス)>皆生きてまた会おうぞ!」
65遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:30:40 ID:k+Wwk33U0
レオンティウスは、まるで唄うように声を響かせる。
『運命は残酷だ されど彼女を恐れるな 女神(ミラ)が戦わぬ者に微笑むことなど 決してないのだから―――』
兵士達に混じって並んでいた遊戯達は、それを聞いて目を丸くする。
「おい遊戯、今のって…」
「うん。ズヴォリンスキーさんの言ってたアレだね」
「ん?何の話だよ」
オリオンが話に割り込む。
「ボクらの時代にも、さっきの言葉が伝わってるんだ。だから、ちょっと感激しちゃってさ」
「へえ…じゃあさ、俺の名セリフとかも伝わってたりして?」
「うーん…オリオンの名前は伝わってるけど、セリフまではどうかな…てゆうか、名セリフなんてあったっけ?」
「さいでっか」
拗ねるオリオン。勇者のくせに、心の狭い男だった。
「ともかく気合い入れていこうぜ!海馬達が何考えてんだか知らねーが、ヤツらの陰謀はオレが粉砕せねば!」
「そうだね。頑張らないと!(城之内くんがやる気だと、逆に不安だなあ…ボクらが頑張らなきゃ!)」
※カッコ内は心の声です。
「ああ。ミーシャのためにも、な…」
オリオンは天を仰ぐ。
(この空の先にあいつもいる…エレフ、お前は今、何をしているんだ…?)

戦禍の爪痕が色濃く残るイリオン。しかし、そこは異様な活気に満ちていた。
今や奴隷部隊の活躍の噂は全土を駆け巡り、各地で奴隷達が蜂起していた。その多くはイリオンを訪れ、奴隷部隊
はもはや一国家とすら言える規模にまで膨れ上がっていた。
「―――諸君!アルカディアとの決戦の時は近い!」
一際高い瓦礫の山。その頂上に立ったエレフは黒剣を振り翳し、群衆に向けて演説を行う。
「同胞(ヘレネス)が笑わせる…祖国が我々に何をしてくれた!?奴らが我々に与えたのは、痛みと悲しみだけでは
ないか!今こそ思い知らせてくれようぞ―――皆の怒りと憎しみを!」
エレフはそこで大きく息を吸い込み、遥か地平線の彼方まで響き渡るような雄叫びを上げる。そして。
『人は皆 いつまでも 無力な奴隷ではない 戦うのだ 気紛れな運命(かみ)と 未来を取り戻すため―――』
その言葉に、奴隷部隊の者達は老若男女を問わず沸き上がった。偉大な指導者<紫眼の狼>。その声は彼らに
とって神の御告げにも等しいものだった。
66遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:31:30 ID:k+Wwk33U0
「海馬。お前からも彼らに声をかけてはどうだ?」
一息ついたエレフは海馬を促す。海馬はいつもの仏頂面のままにエレフと入れ替わり、静かに語り始める。
「貴様らに、信念や守るべき何かはあるか?」
突然の問い掛けに、一同はざわめき始める。それに頓着することなく、海馬は続けた。
「ないはずはない。どんな者にも、闘う理由は秘められていることだろうさ―――重要なのはその重さに耐えきれず
に押し潰されるか、それとも守り抜くかだ…」
海馬はカッと目を見開き、静謐な口調を一転させる。
「立ち上がる事もできぬ負け犬に価値などないわ!手にしたい物があるならば、剣を持ち闘うがいい!正義を語る
は勝者にのみ赦された特権―――オレから言うべきはただそれだけだ。闘え―――そして、勝て!」
先程のエレフの演説にも勝るとも劣らない大歓声が巻き起こり、誰もが<白龍皇帝>の名を叫ぶ。海馬はそれを
背に受けながら、エレフと共に瓦礫の山を下りていった。
「御二人とも、御立派でした」
「素晴らしいお言葉でしたぞ」
そこに控えていたオルフとシリウス、それにフラーテルとソロルもエレフ達に駆け寄る。
「フン。見え透いた世辞などいらん―――オレにとって、アルカディアとの戦争など余興にすぎん」
海馬は遠くに思いを馳せるかのように、天を見据える。
「オレが闘うに値するは、奴だけ…遊戯だけだ」
「遊戯…?」
不思議そうにその名を口にするフラーテル達に対し、海馬はこう答えた。
「…オレが唯一人、好敵手(ライバル)と認めた男だ。奴と決着を付けぬ限りオレは前には進めん…だからこそオレ
は奴を、己の全てをかけて倒さねばならん」
「レスボスにいたあの少年か…しかし分からんな。お前ほどの者が何故、それほどまでに彼に固執する?確かに
敵に回せば恐ろしい男だろうが、お前のその拘り様はそれが理由とも思えん」
「宿命だ」
エレフの問いに、海馬は即答した。
「オレは運命などという戯言は信じない。だが、奴との間に存在する宿命だけは否定できん―――だからこそ、オレ
には分かる。アルカディアとの戦い、そこに遊戯がいるのだとな…」
「宿命か…」
エレフは小さくその言葉を呟く。そしてまた、声が聴こえた。
67遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:33:28 ID:k+Wwk33U0
(忘レ物ハナィカィ…?)
(遠ィ日ノ忘レ物…宿命ト言ゥノナラバ、ソレコソガォ前ノ宿命ダ)
(覚ェティナィノナラソレデモヨィ。ケレドォ前ハ、マタシテモ思ィ知ルダロゥ)
(運命ノ女神…ソレガ如何ニ無慈悲デァルノカヲ―――)
(黙れ。黙れよ)
それに対し、エレフは珍しく言い返した。
(私は運命になど屈しない。私の前に立ちはだかるなら、例え運命(かみ)でも殺してみせる)

「なあ、ズィマー」
筋肉モリモリの大男が、傍にいた同僚に声をかける。
「なんだい、ヤスロー」
ズィマーと呼ばれた胡散臭い髭の男が、筋肉男・ヤスローに顔を向ける。
「暇だなあ…」
「そうですねえ…」
―――アルカディア城。大半の兵士はイリオンへ向け出兵したものの、城の警備などのために居残った者達も
少なくはない。この二人は馬番であった。
「こんなダラダラしてるところを見つかったら、ドヤされるよなあ…」
「ああ。レティー様、怒ると怖いもんなあ…あんなんだから<猛き姿は戦女神(パラス・アテナ)の如し>だなんて
言われちゃうんだよ。言っとくけど尊称じゃないよ、これ」
美しくも恐ろしい上役の顔を思い浮かべ、二人して苦笑いする―――そこに女性の声。
「ちょっと、そこの二人!」
「「ひぃー!すいません、サボってたわけじゃないんです!馬にちゃんと餌はあげてますしブラッシングもしました!
あと悪口も言ってません!」」
長いセリフを奇麗にハモった二人が恐る恐る顔を上げると、そこには上司ではなく、見知らぬ女性がいた―――
銀色の長い髪と紫の瞳が印象的な、中々の美人である。
「な、なんだ…レティー様じゃなくて、よかった…」
「うんうん。おじさん達、思わず吃驚して怖れ慄いちゃったよ」
「全くだ。それで嬢ちゃん、なにか用かい?」
からからと笑う二人に対し、彼女は簡潔に己の要求を告げる。
68遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/18(日) 14:58:54 ID:KOLzd5tg0
「馬を貸して」
「へ?」
「お願い、早くしないと間に合わないの!だから馬を貸して!」
「い、いや。いきなりそんなこと言われてもな…」
「うん。レティー様の許可を貰わないと…」
お役所仕事丸出しな態度に、女性の顔がだんだん険しくなってくる。二人は思わず後ずさり、ゴクリと唾を呑む。
「時間がないの!今すぐ貸して!」
「だから、嬢ちゃん…俺達にだって事情が」
「馬を貸して!今すぐ貸して!うーまーをーかーしーなーさーーーい!!!」
「「どっひゃー!」」
二人の絶叫は、天高くどこまでも響いたという―――後に彼らは数時間に渡り、上司に説教されることとなった。
合掌。

「―――お待たせしました!」
逞しい二頭の馬に牽かれた立派な馬車の御者台に座り、ミーシャは場外で所在なげに佇んでいたイサドラにこれ
以上ないほどの満面の笑みを向けた。
「馬番の方がとてもいい人でして、快く馬と馬車を貸していただけました。さあ、乗ってください!」
「…ミーシャ。これで本当にいいの?あなたは…」
「はい。もう決めましたから―――あの二人を闘わせてはいけません。それより早く行きましょう。すぐに追いかけ
ないと、間に合わなくなります!」
「ええ…けれど、もう一つ訊いていいかしら」
「何ですか?」
馬車の中に入りながら、イサドラは不安げに眉を寄せた。
「あなた、馬を操れるの?ちなみに私はやったことがないわ」
「…………」
盲点だった。
「だ、大丈夫です!ほらこの仔達、とっても賢そうだもの!さあお願い、マキバオーにカスケード!私達をイリオン
まで連れていって!」
ちなみに名前は適当である。ミーシャはとりあえず馬鞭を撓らせてみたが、ウンともスンとも言ってくれなかった。
―――どうにか馬が走りだしてくれたのは、二時間後のことである。前途多難な道程であった。
69サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/18(日) 15:04:46 ID:x9qGl+nW0
投下完了。前回は>>17より。
そして言い忘れましたが、>>1さん乙であります。
古代世界を包む戦火。愛すべき友と屠り合う悲劇。廻り続ける残酷な運命。
サンホラファン以外を置き去りにする展開。そして現在進行形でお転婆な妹とやたら腹黒い表遊戯。
さあ、gdgdになってまいりました。
ズィマーとヤスローはSound Horizon同人時代最後のCD<Chronicle 2nd>収録曲<碧い眼の海賊>
よりゲスト出演。名前しか出てないけど、女船長であるレティーシア様と共に、ドロンジョ一味のごとき
仲の良さと絶妙なヘタレぶりが素敵な連中です。

>>19 原作も古代エジプトで大邪神と決戦とかやらかしてたので、このくらいなら多分大丈夫なはず。
   アニメの続編とかだと、更にすごいことになってたし…。
>>20 <さっきから話聞いてたんなら、なんで今さらミーシャ見て驚いてんだよ!ミーシャはエレフと
    兄妹だって言ってるじゃん!>この辺りがおかしいと、書き終えてから気付きました。
>>21 皆さん今はまだ充電中なだけ。きっとあと一ヶ月もすれば全盛期ばりの勢いを取り戻すはず!
   バキスレはまだ終わらんよ!あと10年戦える!

>>電車魚さん
蛭さんは原作だとネウロにあっさりボコられたとしか覚えてないけど、内面のサイへの憧憬の描写が凄い。
彼が今のサイを見たら、悲しむだろうな…警察メンバーも出揃ってきて、いよいよ佳境といった雰囲気ですね。
>>犬はエサで飼える、人は金で飼える、だが(略)
電車魚さん!それ虎やない、壬生狼や!…斉藤一は突き技が得意という事実はなかったそうですが、
るろ剣ファンにとってはやっぱり彼は牙突の使い手です(ガチの新撰組ファンには怒られそうですが)。
レオンティウスは原曲じゃあんなネタキャラじゃありません。僕が勝手にネタキャラにしてるだけです。
何故か僕が書くとああなるんですよ、彼…。

>>ふら〜りさん
いやいや。原作見れば分かりますが、闇遊戯も大概な性格の悪さですよ。<最大の問題点が主人公であること>
とまで揶揄されたほどの極悪主人公ですから。特に1〜3巻辺りの彼は、まさに悪党を裁く大悪魔。
特に顔がもはや少年漫画の主人公じゃないです。
70作者の都合により名無しです:2009/01/18(日) 16:02:39 ID:U8lfiOGy0
マキバオーにカスケードじゃ馬高が揃わないんじゃw

サマサさんお疲れです。
レオンティウス対エレフが物語中盤のカギになるのかな。
阻止出来るかどうかで話の展開が違ってくるんだろうけど。
71作者の都合により名無しです:2009/01/18(日) 23:35:01 ID:jhbjnD060
サンホラは全く分からないけど
意外とシリアスな展開になってきて期待してます。
ミーシャはいい娘ですね。ドジッ子だけど。
72作者の都合により名無しです:2009/01/19(月) 00:34:40 ID:RBTf1BYj0
バキスレ職人はサンホラファン率高いのか?
ともあれサマサさん乙。
次回あたりからまたバトルになるといいなー
73作者の都合により名無しです:2009/01/19(月) 02:29:59 ID:lt7lUBDJO
サマサさん乙です
シリアス展開になってきたー!
74天体観測:2009/01/19(月) 19:18:28 ID:AlZHjnk30

「おちついたかい?」

瞬の声、瞬の優しい声に、アドニスは涙と鼻水で汚れた顔を上げた。
険のとれた顔だった。

「まぁアドニス、とりあえずこれで顔洗え」

盟は手にもっていたバケツを差し出す。
伸びたアドニスにぶちまけようと汲んでおいた水なのだが、言わぬが華というやつだ。
アドニスが泣き止み、落ち着いたころには空は茜色に染まっていた。
晩春といえども、青紫色の帳が下りてくるこの時間帯は何かもの悲しい気分にさせられる。

アドニスの記憶に残る黄昏時は、いつだって死のイメージだった。

「何もかも信じられない、どうして良いかわからない。
 なら、僕を頼ってくれないか?」

「…嫌だ。
 みんな僕を裏切る。
 母さんは僕をおいて先に死んじゃった。
 あいつは、最強のはずの黄金聖闘士だったのに死んじゃった。
 僕を聖域に連れてきたやつは、真っ先に僕を裏切った。
 汚いものをみるような目を僕を見るんだ。だから真っ先に殴り倒してやった。
 あんたもきっと、僕を裏切る。
 あいつを殺したあんたに、あいつを殺したあんたに…、あいつを殺したあんたは!
 僕を裏切る、裏切る、裏切るんだよ!」
75天体観測:2009/01/19(月) 19:22:51 ID:AlZHjnk30
俯いたアドニスの声にこめられたものの重さは、ずしりと瞬の心に切り込んだ。
アドニスの叫びは、瞬が生涯背負わなくてはならないモノだ。
仕方がなかったでは済まされない。業だ。

「はい、それまで。
 なら強くなれ、アドニス。
 お前ならできる。
 お前だからこそできることなんだ。
 その拳はそのためにあるんだ。」

瑕だらけの手のひら、小さな肩を震わせる少年の姿。
それは盟の、瞬の原風景。嗚咽を堪える幼き日の思い出。

「盟?
 でもこいつは…」

そこで初めて気がついたようにアドニスは盟に目を向けた。
アドニスにとって、唯一心ゆるした人間が盟だった。
聖域入りする以前からの知己であったというのも大きいが。
しょうがないな、といった風で勤めて明るく言う盟に、瞬は目礼を交わす。

「いつまでも女々しい事いうない。
 それにな、アドニスくん。そんな事いったら俺ぁどうなる?
 サガの殺し屋、死神デスマスクの最後の弟子だぜ?
 聖衣をまとうことすら躊躇われるような来歴だぞ」
76天体観測:2009/01/19(月) 19:25:13 ID:AlZHjnk30
気にするな、と受けて盟はアドニスに向き直る。

「いいか、アドニス。
 この瞬は強い。そりゃもう強い。なんてったって黄金聖闘士より強い。
 黄金聖闘士の弟子だった俺が言うんだ、間違いない。
 だからこいつから学べ。
 色々技盗め、で、倒しちゃえ」

ぽかんとした顔のアドニスは、年相応に幼かった。

「師弟相打つ、なんて本来ならやっちゃいけないことだろうが、なに前例は結構ある。
 なんだったら訓練中の事故ですませちゃえ、俺が書類いじってやるから」

冗談なのか本気なのかいまいちわかり辛い盟に、瞬は苦笑する。
アドニスはまだ呆然としている。

「そうだ、アドニス。
 僕は君にとって仇だ。それは変えようもない事実だ。
 だけど、君には変える事のできることがある。無限の可能性があるんだ。
 聖域の真の象徴となれる可能性。
 黄金聖闘士としてこの僕を超えられるという可能性として、ね」

瞬の言葉に、アドニスは生気が戻っていく。
同時に先ほどの言葉を思い出す。
77天体観測:2009/01/19(月) 19:33:38 ID:AlZHjnk30
━最低でも黄金聖闘士くらいになってもらわないと困るからね━

「…くらい、じゃない。
 黄金聖闘士は、地上最強なんだ!アテナの聖闘士の象徴なんだ!
 黄金聖闘士になってやる!そして、あんたを倒してやる!
 神聖闘士なんてただのあだ花に過ぎないって証明してやる!」

まずはこれでいい、目標さえぶれなければまずはいい。 瞬はそう考える。

「その意気だ、アドニス。
 まずは、僕を師とよんでくれないかな?」

暴力が他人に向けられる事を防ぐには、自分が防波堤になるしかない。
瞬らしいといえば瞬らしい。それが大事にならなければいいが、と盟は案じるが、今はまだ始まったばかりだ。
どちらにしても、「これから」だろう。

「嫌だ!お前なんかアンドロメダ瞬でじゅ」
78天体観測:2009/01/19(月) 19:42:51 ID:AlZHjnk30
ぱぁんという音が訓練場に響く。瞬の張り手だ。

「し・しょ・う!はい、復唱。」

ぐっと押し黙るアドニス。
またしてもぱぁんという破裂音が響く。
幾度かそんなやり取りをするうちに、アドニスの顔は腫上がっていた。まるで饅頭のようだ。

「…、師匠」

「これからよろしく、アドニス」

そして、一組の師弟が誕生した。

「なぁ、アドニス。
 もし何もかも信じられなくなっても、アテナだけは信じてやってくれ。
 アテナの聖闘士である事を、忘れないでくれ。
 互いを信じるからこそ、力になるんだ。
 今は無理かもしれないが、いつかは信じてやってくれないか?
 アテナは、自分を信じるものを決して見捨てないんだからさ」

盟の言葉は、すとんとアドニスの心に落ち着いた。
なぜか、それは盟の懇願のように聞こえたからだ。

「もちろん、俺も瞬もお前を見捨てない。
 お前が自分自身を信じられないなら、アテナを信じろ。
 アテナはお前を信じているからな」

盟の言葉は、盟自身に言い聞かせているように瞬には聞こえた。
満天の星空は、そんな彼らを見守っていた。
79銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/19(月) 19:54:05 ID:AlZHjnk30
はい!後編終了!
14.4kbってwwwww
黄金時代ん時と同じように7kb目安にしてたのにほぼ倍
自分で作ったキャラなのにイマイチつかみ辛かったのではじめたアドニス短編ですが、気がつきゃフルボッコってどうよ…

あと
>瞬の肉体を一番良く知るジュネをして
だれかコレつっこめよ!恥ずかしいだろ!

>>60さん
盟が以外とでしゃばってしまいましたが、こんな感じです
年末からの一連の短編は、ぶっちゃけ、確認というかキャラクターの再把握という意味合いが大きかったり…
肉のは完全に趣味ですが
オリキャラなのに一番つかみ辛いのがアドニスクォリティ…

>>61さん
ハッパをかけた、と捕らえていただきたい
僕だって黄金聖闘士が大好きですよ?そうでなきゃ延々半年以上黄金聖闘士主役の短編書きませんって

>>62さん
ちょっと複雑な気分でございます
もともと星矢SSはじめた手前、手になじんだものなので上手くかけて当たり前、真価はそれ以外のSSを書いてる時
だと思っているので、戦闘神話で星矢チーム以外を書いてる時の反応が芳しくない事に実力不足を実感するばかりです
いやはや、愚痴いうよりは手を動かせってんでありましょうがw

では、またお会いしましょう!銀杏丸でした!
80ふら〜り:2009/01/19(月) 21:10:01 ID:NyNlg4jg0
>>銀杏丸さん(私なんぞ自分が楽しむことしか考えてませんぜ旦那。その向上心には敬服です)
>その戦力は黄金聖闘士を超えているだろう。 だが、黄金聖闘士は象徴なんだ
あー……解る。銀杏丸さんの作品世界ならではの、リアルで生々しい価値観ですねこれは。
ニコルのような石田三成キャラの働きっぷり、原作の補完という意味で二次創作らしいです。
で本作の特徴、師匠格の青銅ズ。瞬が鎖でも風でもなく素手で強さを見せてるのが威厳あり。

>>サマサさん(奮闘かたじけなくありがたく。助力したく思うもなかなか構想纏まらず……)
いつもながら、海馬の正論っぷりが凄い。普通、「勝てば官軍」理論は悪役の主張で、それに
対抗する主人公側から「守るものがある奴こそ強い」と言い返すのに、その両方を矛盾無く
言ってしまってる。飾らない持論が自軍の戦意高揚になってしまうって、将として理想なのでは。

>>51
愛戦士は未プレイですが、その辺りなら月風魔伝・グーニーズ・初代ドラキュラなどが好み。
特に月風魔はダブドラ2と並び、「ラス戦BGMならDQにも負けない!」と思っております。
81作者の都合により名無しです:2009/01/20(火) 00:36:19 ID:vgNBhaOC0
銀ちゃん乙です。
瞬は原作の女々しさが無くなってしっかりと大人の男してたなー
また何か書いてくださいな。

>>ふらーりさん
ファミコンでラストダンジョンのBGMが最高なのは
コナミのワイワイワールドだと思う
82作者の都合により名無しです:2009/01/20(火) 06:28:06 ID:QY7QGV2a0
黄金ネタでまた書いてほしいな
83作者の都合により名無しです:2009/01/20(火) 19:08:09 ID:h2bjonV00
なんとなく瞬が瞬っぽくないような・・
でも銀杏丸さんお疲れ様でした。
またのご登場をお待ちしてます。
84カルマ:2009/01/21(水) 20:32:18 ID:Dq0C7N1y0
腐れ縁とでも言おうか、魚座ピスケスのアフロディーテと蟹座キャンサーのデスマスクは、
殊更仲が良いという訳でもないのに何らかの形で行動を共にするケースが多い。
この二人、同時期に聖域入りし、同時期に聖闘士になり、同時期にサガの傘下へと入った。
そのせいか、何故か聖域職員からはふたり一くくりにされがちだ。
別にそれくらいで目くじら立てるほど幼いわけではないが、両者ともになんとなく釈然としないものを感じるのは確かだ。

だからその日、巨蟹宮に在ったデスマスクのもとへアフロディーテからお茶会の知らせが届いたときは、
さしもの悪漢デスマスクも、わずかばかりの驚愕をその相貌へにじませた。
双魚宮で行われるのならば驚きもしなかっただろう、なんとアフロディーテが個人所有する邸宅で行うというのだ。
アフロディーテに甥と姉が居る事は彼自身の口から聞いていた。

「で、何で俺なんだ?
 悪党面も良いところだぞ俺ァ」

豪邸と言っていい屋敷の敷地内を、アフロディーテに先導されてデスマスクが歩いていた。
ほかに用事もなく、女の所へしけ込む気分でもなかったから、というのが理由だった。
何を思ったか、最近とった弟子・盟をつれてきてもいた。

「病に臥せって長いのさ、姉は。
 私に叶えられる数すくないわがままを叶えたい、それだけだ…」

ふん、と鼻で笑おうとしたデスマスクだったが、何か思いついたように口の端を吊り上げる。

「口説いてもいいのか?お前似ならさぞかし美人なん…」

眼前に突きつけられた黒薔薇がそれから先を遮った。
85カルマ:2009/01/21(水) 20:34:50 ID:Dq0C7N1y0

「…やるか?」

デスマスクの右手に、燐光が宿る。
死界の扉・積尸気を開いた証だ。

眼前で開幕せんとする死闘に、盟は震えを止めるすべを持たなかった。
失禁しなかっただけマシだろう、聖闘士としての修行はじめたばかりの小僧に、この殺気の渦は毒でしかない。
チリチリと大気が焦げ、小宇宙が空間を捻じ曲げる。
一触即発、といった風だが、思わぬ闖入者がそれを消し飛ばした。

「おじちゃーん。」

体重を感じさせない、跳ねるような足取りでこちらへ駆けてくる子どもだ。

「こんにちわーっ」

言いながらアフロディーテに向かって飛び込んでくる。
可愛らしい顔立ち、肩まで伸びた髪、そして天真爛漫を絵に描いたよう笑顔。
あと十年もすればさぞかし美人になるだろうと思わせる子だ。
86カルマ:2009/01/21(水) 20:37:23 ID:Dq0C7N1y0
そんな子どもをアフロディーテは軽々と抱き上げる。
水入りか、とデスマスクも積尸気を閉じたのを見計らい、アフロディーテも手の内から黒薔薇を消した。

「アドニス!
 こんにちは、君のお母さんは元気かな?」

「うん!
 お母さんね、今おかしとお茶の準備してるの!」

「それじゃ、早くいかないとね」

アフロディーテもアドニスも、そろって女顔、というよりも女にしか見えない。
特にアドニスなどは二次性徴を迎える前な為、幼女といっても通ってしまうだろう。

「甥?姪の間違いじゃねぇのか?
 こいつの一族みんなこんなんかよ…」

デスマスクでなくともそんな言葉がでようものだ。
もっとも、耳ざといアフロディーテの返答はピラニアンローズを足元に投げつけるというものだったが…。

「じゃあ行こうか?ジョナサン・フィッツジェラルド」

どこの小説家だよ、デスマスクはぼやくが、盟に促され仕方なく屋敷の中へと足を向けるのだった。
87銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/21(水) 20:53:16 ID:Dq0C7N1y0
アフロディーテ、デスマスク、盟、アドニスと
戦闘神話でキィになるキャラクターの初対面話でございます
デスマスクとアフロディーテは妙に筆がのるというか
書いているというより書かせていただいているというような気がします
熱血漢よりも冷血漢、正義感より悪漢、そんなイメージが
アドルフ・アイヒマンみたく、どんな悪党にだって大切したい家族がいるんですし
こんな肖像があってもいいはずだ!異論は認めない!

>>81さん
人間の成長というものは、外見もさることながら内面にもあるものです
瞬の特徴でもあった「やさしさ」からくる「甘さ・弱さ」が薄くなるとこうなるんじゃなかろうか
といった感じです

>>82さん
というわけでみんな大好きデスマスクです
OVAロストキャンパスだと教皇セージ、マニゴルト兄貴は誰が声をあてるのか今から楽しみです
テンマが柿原氏なので、マニ兄貴は小西克幸氏なら面白いかもw
原作のデスマスクだって紫龍がチートなだけであって、決して弱いわけじゃないんだって!
88銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/21(水) 20:55:13 ID:Dq0C7N1y0
>>83さん
まぁ、ぶっちゃけ、瞬8:○○○○2くらいで別のもん混じってますんで
ちょっとばかり影響でてます
瞬が瞬にみえない、重く受け止めさせていただきます、すみません

>>ふら〜りさん(いえいえ、偉そうな事言って申し訳ないです若輩ゆえ何事も一生懸命にならざるを得ないのです)
石田三成的立ち位置のキャラクターって脳筋ばかりの集団におくと非常に差別化できて面白いです
イメージとしてはグレンラガン第三部のロシウが近いかと
きっと数十年後には立派な顎になることでしょう、生きていられたら、ですが…w
原作でも師・ダイダロスの聖衣を素手でブチ砕いてましたんで、瞬は素手にさせたら怖いというイメージがあります
実際原作中でネビュラストームで倒せなかったやつ居ませんし
初めての弟子なんで、それだけ本気なんですよ、ということなんでしょう、多分

では、中篇でお会いしましょう!銀杏丸でした!
89作者の都合により名無しです:2009/01/22(木) 00:40:48 ID:6px2EEtC0
お疲れ様です
2大へたれ黄金の活躍楽しみにしてます
90作者の都合により名無しです:2009/01/22(木) 06:30:42 ID:Y4LjYum80
バンプの唄シリーズ?
91遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/23(金) 19:39:37 ID:74erFBkF0
第二十九話「死せる英雄達の戦い―――開戦」

「アルカディア…」
海馬と共に高台に立つエレフは、眼下に陣取ったアルカディア軍を燃えるような眼差しで見ていた。
「我が故郷にして憎き地…その死すべき者達よ…ついに貴様らを滅ぼす時がきた…!」
「クク…随分とおっかない顔だな?余程憎悪の根が深いと見える」
「…私を軽蔑するか?海馬よ」
エレフはどこか自重するように顔を伏せた。
「自らを育んだ祖国に対し、悪意と敵意しか抱けぬ私を、愚かと嗤うか?」
「オレは父を殺している」
唐突な告白に、エレフは息を呑む。
「血の繋がりも情の繋がりもない、義理の父だがな…オレはその男を、文字通り奈落に叩き落してやったよ」
「…………」
「今なお、奴に対しては憎悪しか感じない。父だから、祖国だからといって、それだけで無条件に愛や情など成立
するものか―――その怒りも憎しみも貴様だけのものだ。横から口を挟む気はないさ」
それだけ言って、海馬はエレフに背を向けて歩き出す。
「往くか…海馬」
「フン。雑魚が雁首揃えたところで、我がブルーアイズの敵ではないと教えてくれよう」
海馬は懐から例のブツ(ブルーアイズ兜)を取り出し、傲岸不遜な笑みを浮かべた―――

アルカディア軍。その中に闇遊戯達の姿もあった。
「ここが…イリオンか」
闇遊戯は感慨深く、その城壁―――正確には瓦礫の山と化した城壁跡地―――を見つめる。
「そうだ。風神(アネモス)に護られた鉄壁の城塞…のはずだったんだがな。それをこうも見事にぶち壊すとは…
あいつらを褒めたかないけど、ある意味爽快だぜ」
オリオンが溜息をつき、顔を歪める。怒ったものか喜んだものか迷っているような、何とも言えない表情だった。
92遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/23(金) 19:40:36 ID:74erFBkF0
(そうか…オリオンもここで働かされてたんだもんね)
(ああ。あいつにとっても、イリオンの城壁は憎しみの対象だったんだろうな)
(それを壊してくれた海馬くんやエレフに対して、本当は感謝したいのかもね…)
(…かもな)
ちらりと横目でオリオンを見ると、彼は遊戯達の心情に気付いたように軽く手をヒラヒラさせる。
「おいおい、そんな目で見るなよ。別に弓を引く手が鈍ったりはしねーさ」
「いや…すまない。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いいよ、謝るなって。それよか、気になってたんだけど」
「なんだ?」
「さっきから、城之内が見えねーんだけど…あいつ、どこ行ったんだ?」
「城之内くんが?確かに、オレも見てないが…」
きょろきょろと辺りを見回しても、城之内の姿はない。
「あいつ、あれだけやる気だったからな…まさか…!」
「一人で…!?」
闇遊戯とオリオン、目を見合わせて大きな汗マークである。
「―――全軍突撃!我に続け!」
そうこうしている内に、レオンティウスが槍を掲げてイリオンへと猛進していく。
「レオンティウス陛下に…続けぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」
カストルがその後を追い、続々と兵士達が進撃を始める。
―――戦いの火蓋は切って落とされた。


さて、そんなシリアスムードのイリオンから少し離れた山道。
女王アレクサンドラ率いる女傑部隊(アマゾン)もまた、イリオンへと向かっていた。
「フ…匂うぞ。生臭くも芳しい戦いの香りが…」
ほんとに分かってんのかとツッコみたくなるセリフをかましつつ、アレクサンドラは進む。
「イリオンを占拠した奴隷部隊と、その鎮圧に向かったアルカディア…」
艶やかな唇が、三日月の形に弧を描く。
「そこに乱入して、混乱したところを一気に叩く!」
93作者の都合により名無しです:2009/01/23(金) 19:41:03 ID:3hjzFCfE0
94遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/23(金) 19:41:25 ID:74erFBkF0
―――自分達の方が両軍から袋叩きに遭う可能性などこれっぽっちも考えていない。勘違いしないでほしいの
だが、これは別にアレクサンドラがアホの仔というわけではない。ただ単に、マイナス思考などアレクサンドラと
彼女が率いる女傑部隊の面々は持ち合わせていないだけである。
彼女の脳内未来はこうなっている。

アルカディアと奴隷部隊の戦闘に乱入
→勝つ
→戦利品
→レオンティウス・あと城之内とか遊戯とかその辺のいい男全部
→ハーレム結成
→(゜Д゜)ウマー

「ハハハハハ!待っていろ、レオンティウス!今日こそ貴様は私の物になるのだ!」
もはや百回は言ってるセリフと共に高笑いする―――と。
「…あ………て…ぇぇ!」
「ん?誰ぞ、何か言ったか?」
しかしながら周囲の兵達は首を振るばかり。
「ふむ…しかし、確かに何か聴こえたぞ」
「止…ダメ…やぁぁぁぁっ!」
「そう、こんな感じに。上の方から」
天を仰いだその時であった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!ダメダメダメダメ、止まってマキバオー!言うこと聞いてよカスケード!」
空から馬車が降ってきたのである!その御者台に座る銀髪の女と、確かに目が合った。
「あ」
「い」
「う」
「え」
「お」
95遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/23(金) 19:43:12 ID:74erFBkF0
そんなやり取りをする余裕があるくらいに時間はスローモーションで流れる。幼い頃から今までの記憶っぽい
アレまで、アレクサンドラにははっきり見えた。
ぐしゃっ!
「ご…………ごめんなさいぃぃぃぃぃ〜〜〜っ!」
そのまま謎の馬車は山道(というか崖)を駆け下りて(転がり落ちて、という方が現実に近い)いく。残されるは、
何があったのか分からずに立ち尽くす女傑部隊の面々のみであった。
「た…大変だ!女王様が馬車に轢かれた!」
「いかん、首とかがヤバい方向に曲がっておられる!」
「呼吸が止まっておられる!」
「脈拍が弱まっておられる!」
「つーか、死にかけておられる!」

―――こうして、女傑部隊は撤退を余儀なくされた。
一命を取り留めたアレクサンドラはその理由を頑として語らず、現場を目撃していた者達も口を噤んだ。
進軍途中で東方蛮族(バルバロイ)の苛烈なる襲撃を受け、これを見事撃退したものの女王の負傷は酷く、
戦闘継続が困難になったためと巷では囁かれたが、真偽は定かではない。
96遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/23(金) 19:44:02 ID:74erFBkF0




―――それら全てを、θは見ていた。
「…………」
頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる。
「血塗レタ花嫁…アレクサンドラ…貴女モマタ、コノ戦ィデ我ガ手ニ抱カレルハズダッタノダガナ…」
θには人の運命を決定付ける力などないが、おぼろげながら大まかな歴史の流れを読むことはできる。
予知能力というよりは人の範疇を遥かに越えた智慧(ちえ)と直感による推測に近いが、それでも的中率には
自信を持っていた。
しかし、結果はこれである。
「<唯一神>ニヨッテ定メラレシ、改竄ヲ赦サヌハズノ歴史…其レガ、狂ィダシティル…?」
それとも。これもまた、予定調和の内なのか?
θにも分からない。
「…武藤遊戯…城之内克也…海馬瀬人…オリオン…レオンティウス…ソシテ、エレウセウス…」
英雄達の名を呼ぶ。運命すらも左右しうる、巨大な力を秘めた者達。
「コノ戦ィノ果テニ、ォ前達ハ、ソシテ我ハ、何ヲ得テ、何ヲ失ゥ…?」
その声を聴くものは、誰もいない―――
97サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/23(金) 20:02:58 ID:d8FwxdAb0
投下完了。前回は>>68より。
すまん…すまん、アレクサンドラ様!ほんと誤解しないで!僕、あなたのことが大好きなんです!
それはそうと、DSで出る新作スパロボ<スーパーロボット大戦K>。勿論ファンとしては楽しみではあるん
ですが、これだけ言いたい。
ガンダムが種系だけってどういうこと?公式のデス種紹介のスクショがなんでキラ?シンは何処に?
なんで鋼鉄神ジーグが出るのに、ガオガイガー出ないの?復讐上等のヴァンが果たしてキラと同じ釜の
メシを喰えるのか?
まあ不満や不安は色々ありますが、鋼鉄神ジーグが出るだけで個人的には買いです。アニメも何気に
古きよき熱血で良作でしたし。
僕…ジーグに資金全部つぎ込んで無双するんだ…。

>>70 名前借りただけなんで、体格の問題はありませんwエレフVSレオン、どうなることやら…
>>71 ミーシャは少しドジが過ぎた…作者が全部悪いのよ。
>>72 僕は大好きですし、ハシさんも相当の通。ハロイさんやスターダストさんも名前は知ってるみたいだし、
    割とこのスレでの知名度は高いかもしれません。
>>73 シリアスになったと思ったら今回の最後でこれだよ!

>>ふら〜りさん
社長は間違いなく暴君だし、言動の大半は理解できないものばかりだけど、時に残酷な現実を突きつける
セリフもあってドキっとします。遊戯達は、悪い言い方すると綺麗事を並べているようにも見えますしね。
その綺麗事を貫き通す主人公ではあるのですが、キャラの魅力ではやはり社長に一歩譲るかな…。
98作者の都合により名無しです:2009/01/23(金) 20:46:20 ID:i91/RAie0
お疲れ様ですサマサさん。
ギャグとシリアスの混合具合が好きです。
好きなキャラほど扱いが?になるということかな?w
99作者の都合により名無しです:2009/01/23(金) 22:20:11 ID:wvTFW+J40
最初はカードバトルの物語になると思ったけど
歴史戦争もの?になってきましたな
海馬社長は確かに重いものを背負っていたわ
普段の狂騒ぶりから忘れていたけどw
100ふら〜り:2009/01/23(金) 22:47:36 ID:yUCkfbih0
>>銀杏丸さん
>「おじちゃーん。」
……。いやまあ確かにそうなんですけどね。動じず否定せず訂正させないアフロは大人だ。蟹と魚
の二人、平常時の生活内容なんかは容姿以上に対極でしょうし、確かに「あいつとは一緒にされ
たくない」と思ってそう。盟なんかはデスマスクの弟子という立場・目で、アフロをどう思ってるかな?

>>サマサさん
むう。アレク女史の大活躍がならず無念。実は今回読んでて、ほんの数秒間だけ「ウホいい女」展開
も予想しましたが、そうはならじ。そういう意味では彼女、健全で常識的な女性といえる訳ですな。
過去のドラ長編と比べたらライバルとなるヒロインの数も少ないし、まだまだはっちゃけて欲しい。
101作者の都合により名無しです:2009/01/24(土) 01:19:54 ID:Wp5iMVCa0
ふらーりさんの感想が2つだけとは寂しい。
サマサさん頑張れ。(鋼鉄神ジーグってなに?)
銀杏丸さんも長編連載してほしいな。
102作者の都合により名無しです:2009/01/24(土) 01:20:08 ID:WNJ0oewx0
サマサさん乙です。
ちょ、ミーシャ! ドジとかそんなレベルじゃねーぞ!
…タナトス様が可哀相に見えてきた今日この頃。

スパロボKが種系ばっかなのは…時代のニーズなんですかね。悲しい事ですが。
種とキャラデが同じアニメも出てるし。(名前は忘れた
しかし何故ゲッターが出ない!!
103作者の都合により名無しです:2009/01/24(土) 16:14:47 ID:62wLOr8D0
>種とキャラデが同じアニメも出てるし。(名前は忘れた

てめーは俺を怒らせた……「蒼穹のファフナー」だ……二度と忘れるんじゃない!
`00年代のリアル系ロボアニメの中では間違いなく上位に入る!
種と同じ平井絵だからって見下してんじゃねーぞ!
ついでに平井繋がりでリヴァイアスも出せ
どちらも鬼畜級の鬱アニメだからスパロボに出たら原作無視は免れないだろうけどな
104作者の都合により名無しです:2009/01/24(土) 16:38:13 ID:x81rKjLMO
リヴァイアスといえばこずえレイーポだが
同じ週にさくらタソが初恋に破れていたことはあまり知られていない
105作者の都合により名無しです:2009/01/24(土) 23:11:58 ID:WNJ0oewx0
>>103
おお、情報サンクス。
いや、別にファフナーを馬鹿にしてる訳じゃないんだ。名前が思い出せなかっただけで。
ああいう系のロボって好きだぜ。よし、今度見よう

以上、スレチなのでもう自重する
106作者の都合により名無しです:2009/01/25(日) 02:35:48 ID:EYLdo/940
>>104
中の人も大変だな
もう声優やめたんだっけか
107作者の都合により名無しです:2009/01/27(火) 22:02:04 ID:7jQbvw/u0
うーんやばい雰囲気
誰か救世主来て
108作者の都合により名無しです:2009/01/27(火) 22:03:36 ID:C0wPicgM0
 
109作者の都合により名無しです:2009/01/27(火) 22:20:03 ID:lbxV5WlI0
 
110カルマ:2009/01/29(木) 03:20:18 ID:xeDJA3rT0
中篇

「弟がいつもお世話になっております。
 姉のミュラです、はじめまして」

アフロディーテの案内で中庭へ通されると、輝くヴェールのような金髪の、美しい女性がテーブルの脇に佇んでいた。
まるで陽炎のように儚く、柳のように頼りなく、それでいて艶かしい女性だった。
女慣れしているはずのデスマスクですら一瞬見とれたほどだ、
盟など彼女の微笑みを受けただけで真っ赤になって俯いてしまっていた。
アドニスはそんな母をみて輝かんばかりの笑顔だ。
叔父と母が本当にすきなのだろう。

「彼に貴女のような美しい女性に今の今まで出会えなかった運命を呪うばかりですよ。
 弟さんとは同期でしてね、いやお話は伺っていましたが、聞きしに勝るとはまさにこのこと…。
 美の女神アフロディーテも貴女を羨むでしょう」

そういって彼女の手をとり、完璧な礼作法でキスをする。
今の彼の装束とあいまって、実に絵になっているのがまた悔しい。
すらすらとデスマスクの口をついて出る歯の浮くような美麗字句に、盟は思い切り唖然とした顔をし、
アフロディーテは変わらぬ笑顔で激怒していた。アドニスは意味がわからず笑っている。
いい女がいて口説かぬは男にあらじ、それもまたデスマスクの中に流れる伊太利亜男の血潮なのだ。

「ジョナサン…。まったく君ときたら」
111カルマ:2009/01/29(木) 03:25:00 ID:xeDJA3rT0
デスマスクの足元に黒薔薇が打ち込まれ、盟に拳骨が落ちる。この間一秒。
無論、常人のミュラには何が起こっているか分からない。
ただ、アドニスだけがデスマスクの足元に黒薔薇が咲いたことだけに気がついていた。

「あらあら、仲がいいのね皆」

楽しそうに笑うミュラ、彼女の笑みはどこか儚い。

「そりゃもう、大・親・友ですから」

からからと勤めて明るくさわやかに笑うデスマスクだったが、その心中は複雑だ。
━━なるほどこいつは厄介だ。
積尸気を操る彼には理解できた。彼女の余命が幾ばくもないないことを。
肉体と魂が離れかけている状態では、いくら医学の粋をこらしたところで無駄だろう。
かろうじて彼女が生きているのは、やはりアフロディーテの小宇宙の宿ったこの薔薇のおかげだ。
いや、よくよく探せば薔薇だけではない。
この屋敷の敷地内そこかしこに飾られた花をあしらったオブジェや、構成資材にアフロディーテの小宇宙が宿っている。
構成資材が見覚えのある聖域のものであるのは、そこまでの覚悟ということなのだろう。
神話の昔から伝わる資材の聖域外への持ち出しは極禁、露見すれば黄金聖闘士といえども処罰は免れない。
毒を持って教皇の間への階段を鎧と化す双魚宮の主、魚座の聖闘士は、古今あらゆる毒物に長じている。
魔宮薔薇・ロイヤルデモンローズなどはその集大成ともいうべき秘法であり、
その名は伝説として欧州各国の王宮にて噂に上ったほどだ。
毒と薬は表裏一体、アフロディーテは当代の魚座の聖闘士として当然毒法薬法に通じている。
しかし、そのアフロディーテの知識をもってしても姉・ミュラの命を救う事はできず、
ただ蝸牛のごとくじりじりと絶命の時を引き伸ばすより他に術をもたないのだ。
あえてデスマスクに弱点である姉と甥を見せたのは、サガに対し叛意無しを証明する意味もあるのだろう。
そして、そうまでして姉を助けたいのだ。
112カルマ:2009/01/29(木) 03:32:59 ID:xeDJA3rT0
泣かせる話じゃないか、とデスマスクは思う。
親兄弟もなく、華やかな路地の裏側で力のみを頼り、仲間や友を力無き故に喪い、
それでも力のみを信じて生きてきたデスマスクにとっては、それは自身と反する思考だ。
常なら、鼻で笑って蹂躙するところだ。

「おじちゃーん。
 ぼくねぇ!ぼくねぇ!ぼくね!」

「こら!アドニス!
 まったくもう、この子ったら…。あなたが来るのを楽しみにしてたのよ?」

だが、この団らんの中にあるアフロディーテを見ていると、何故かそんな気にはなれなかった。
妻を娶り、子をなし、老いて死んでいく。
きっとそれはとてもとても幸福なことなんだろう。
拳を振るい、闇夜に積尸気を煌かせ、教皇(サガ)の殺し屋、死神デスマスクとして生きてきた。
断末魔の叫びと、苦悶の形相の屍の上にしか栄光を築けない彼には、縁遠く、そして理解の及ばない領域。
それがきっとこの団らんなのだろう。

だがそれゆえに、怒りが湧き上がる。
━━お前の手もまた汚れているというのに…。
敵の断末魔を踏み潰した足の上に無垢な子をのせ、
敵をくびり殺した手でその子の頭を撫でている。
お前も、俺も、どうしようもないほどに穢れた存在なのだ。
言いようの無い怒りが、デスマスクの中でくすぶっていた。
113カルマ:2009/01/29(木) 03:37:31 ID:xeDJA3rT0
お茶会はデスマスクが冗談まじりにミュラを口説いたことが功を奏したのか、緊張のほぐれた中で始まったが、
小一時間ほどすぎた頃か、ミュラが咳き込みだした為、彼女が退席する事となった。

「アドニス、盟に庭園を案内してやってくれないかな?」

ミュラに付き添っていたアフロディーテが戻ってくると、アドニスにそう声をかけた。
人払いだな、とデスマスクも盟を感づき、素直に従った。
盟は空気の読める子なのだ。

中庭から二人がさるのを見計らい、アフロディーテは切り出した。

「姉は、どうだ?」

肩をすくめ、デスマスクは笑い混じりに「美人だ」とだけ答える。

「回りくどいのは嫌いなんだがな」
114カルマ:2009/01/29(木) 03:39:01 ID:xeDJA3rT0
「…生きてるだけで奇跡だ。
 お前がどれだけチョロまかしたのかは知らないが、かろうじて死ぬのを遅らせているってだけだ。
 遠からず、枯れ落ちる。
 美人薄命ってやつだな、もったいねぇ」

毒がにじむのはどうしても避けられなかった。

「…そうか。
 だが、君ならどうだ?」

やっぱりな、といった風でため息をつくデスマスク。

「俺は、殺すのが専門だ。
 だが、できなくは無い、できなくは無いが、良くて四割。
 悪けりゃ零だ」

賭けるのか?というデスマスクの言葉に、アフロディーテは押し黙るばかりだった。
115作者の都合により名無しです:2009/01/29(木) 03:44:04 ID:U7FDkwzBO
116銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2009/01/29(木) 03:46:01 ID:xeDJA3rT0
はい!中篇!
ジョナサンはデスマスクの偽名です、他意はありません

>>89さん
ヘタレじゃない!紫龍と瞬がチートなだけだい!
でも真面目な話、デスマスクに関しては余裕かまして墓穴ほった感がなくもなく…
だからこそ愛されてるんでしょう、きっと

>>90さん
というより歌シリーズですね
マニアックな曲やアニメのBGMなんかがタイトルになるかもしれません

>>101さん
長編かくには文章書きとしての体力みたいなもんがありまして、そのための体力づくりみたいな感じです
あともうちょっとしてから長編は再開しますので、どうかご容赦を

>>ふら〜りさん
なんだかんだでオトナな対応できる盟ですんで、たぶん師と同格なんでそれ相応の敬意はもってるはずです
星矢たちが修行に放り出された直後が時間軸なので、アフロも蟹も17〜18くらいなはず
うん、対応がオトナすぎだw
黄金聖闘士なんで、相応の威厳あっていいはずなんでこれはこれで…

では、後編でお会いしましょう!銀杏丸でした!
117作者の都合により名無しです:2009/01/29(木) 08:27:37 ID:IXTr+OiP0
銀杏丸さん乙です。
原作と違って陽気で結構女たらしなイタリアンなカニさんがいいですw
118遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/29(木) 18:23:36 ID:zhd227ii0
第三十話「死せる英雄達の戦い―――戦慄の白龍」

アイツのことが嫌いだった。
『よかろう…貴様の硝子細工の自信を粉々にしてやる!』
勝ちたかった。ぶちのめしてやりたかった。
『立ち上がることもできぬ負け犬め!』
だけどアイツは、とんでもなく強かった。それだけは、認めるしかない。
『<負け犬>から<馬の骨>に昇格させてやる!』
ふざけるな。オレだってやれる。オレだって―――
テメエに、勝ってみせる。


アルカディア軍と奴隷部隊の戦いは、熾烈を極めた。
赤い紅い鮮血で染まった大地は、まるで死の渚の如く。
その上に横たわる、今は物言わぬ屍―――されど彼ら一人一人に、物語はあったはずだ。愛する者がいたはずだ。
されど今の彼らに接吻(くちづけ)するものは、愛する恋人ではなく―――餓えた禿鷹のみ。
その凄惨なる戦場の一角。
「くそっ!奴隷共め…よもやここまでの勢力になっていようとは!」
「うむ。まさかこれほどの苦戦を強いられるとは…」
アルカディアの将軍、レグルスとゾスマは向かってくる奴隷達を薙ぎ払いながら歯軋りする。
戦況はアルカディアが優勢だった。兵の錬度・装備・規模、どれを取ってもアルカディア軍が勝っているのだから、
当然といえば当然の話だ。しかし―――本来ならば優勢どころか、圧勝して然るべき戦いなのだ。
だが奴隷部隊の兵達は退く事を知らぬように、執拗に喰い下がってくる。
「こやつらの気迫…只事ではないぞ!」
「むう…確かに。これはまるで…」
まるで―――神に其の身を捧げる殉教者のごとく狂信すら感じられるのだ。
「一体、何が奴らを支えて―――」
瞬間、二人の視界を閃光が貫いた。それがそのまま、レグルスとゾスマの見た最期の景色となる。二人は多数の兵
と共に、この世から影すら残さず掻き消されていた。
残されたアルカディア兵は事態が把握できずに、ただ茫然と立ち尽くすだけだ。
119遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/29(木) 18:24:24 ID:zhd227ii0
「おお…」
対して、奴隷部隊の面々は一様にその場に膝をつき、両の掌を合わせる。まるで、神にそうするように。
「―――ワハハハハハハハ!」
天空より高笑いを響かせ、その男は白き異形と共に大地に降り立つ。
「グォォォォォォーーーーーーッ!」
異形は、蒼き瞳を持つ白龍。それを駆るは、奇妙な兜で顔を覆った怪しい男―――海馬。
「あ…あれが…<白龍皇帝>…!?」
アルカディア兵は眼前の脅威を前に、震えることすら忘れていた。
奴隷部隊を率いる二人の英雄。その片割れである<白龍皇帝>の噂は確かに聞いていた。
曰く―――白き龍神を従え、風神の都を一刻と掛からず吹き飛ばした―――と。
されど、所詮は無責任な噂の類であろうと、タカを括っていた。並外れた偉業を為した者には、そういう荒唐無稽な
伝説が創られてしまうものだ。
だが。眼前に聳え立つ、これは何だ?その瞬間、彼らは全てを理解した。
―――伝説なんかじゃない!全て真実だったんだ!
「クク…雑魚共が、揃いも揃って間抜け面を晒しおって」
海馬は嘲笑いながら、右手を前方に向けて突き出す。
「ブルーアイズよ!奴らの寝惚けた頭を覚ましてやれ!」
破滅をもたらす光が、更に一閃。
「フ…更なる絶望を見せてくれよう!ブルーアイズ―――三体同時召喚!」
空間が歪み、その中から更に二頭の白龍が顕現する。
「ひっ…!」
恐怖も絶望も通り越し、アルカディア兵はもはや生贄に捧げられる子羊の如き心境だった。
いっそ、早く殺してくれ―――早く、この恐怖から救ってくれ―――
三つ並んだ白龍の大口。それが大きく開かれ、滅びの一撃が放たれる―――

「魔法カード―――<スケープ・ゴート>!」

ボワン!と、何もない空間から突如、不可思議な物体が出現する。フワフワの体毛と眠たそうな目をした、愛らしい
四匹の子羊が、モフモフと宙を漂う。
120遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/29(木) 18:25:12 ID:zhd227ii0
白龍の吐息はアルカディア兵に死をもたらすことなく、その子羊達を消し飛ばしただけに留まった。
「むうっ!?」
海馬は口の端を歪め、天を睨み付ける。そこには、黒き竜に乗った少年がいた。
「海馬ァァァーーーッ!」
叫びながら、少年―――城之内は、黒竜と共に大地に降り立つ。双方の瞳は燃えるような苛烈さを秘めて、海馬を
射抜いていた。三体の白龍にも、決して怯むことなく。
「フン…貴様か、凡骨」
対する海馬は、興味がないとばかりに鼻で笑う。
「何をしに来た?まさかオレを倒すなどと、寝言をほざきにきたわけではあるまい」
「へっ―――そのまさかだよ。海馬!テメエはオレがぶっ飛ばす!ついでにそのふざけたマスクも叩き割ってな!」
「ククク…貴様如きが、よくぞそんな口を利けたものだ。忘れたか?オレと貴様との間に横たわる、決して埋まらぬ
絶望的なまでの力の差というものを」
思い出せ―――傲然と、海馬はそう語りかける。
「今一度、硝子細工の自信を砕かれたいか?そう、あのペガサス島での闘いのように」
「海馬…!」
「おっと、すまん。あれは闘いなどといえる高尚なものではなかったな。うるさい負け犬を棒で叩いてやっただけの
ことだった―――城之内!今なおそれは変わっていない!貴様は永遠にオレに追い縋ることすらできんのだ!」
「…………」
思い出す、痛みと屈辱の記憶。
(あの日オレは、海馬に何一つできないままに負けた…)
赦せなかった。自分のことはともかく、仲間を、親友を傷つけ、あまつさえ殺そうとしたこの男が。
(だけど、負けた…アイツの立っている場所は、とんでもなく高かったんだ)
敗れ、地に這い蹲った自分。傲慢に見下ろすアイツ。
突き付けられた、刃の如き言葉。
『貴様は永遠に負け犬だ!城之内!』
負け犬―――オレは、負け犬なのか?
121遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/29(木) 18:26:01 ID:zhd227ii0
違う。違う。違う―――!
(オレは…!)
城之内は、一際強く海馬を睨み付けた。
「オレは負け犬でも馬の骨でも凡骨でもねえ!決闘者(デュエリスト)…城之内克也だ!」
その叫びに呼応し、レッドアイズも声の限りに咆哮する。海馬はそれを見据えて、不敵に笑った。
「よかろう―――そのいじましい心意気に免じて、オレが再び教えてやろう!貴様は所詮、どこまでいっても負け犬
にすぎんという永久不滅の歴史的事実をな!」
デュエルディスクに手を当て、海馬は高らかに宣言する。
「来るがいい、負け犬め―――決闘(デュエル)!」
「行くぜ、勝ち豚―――決闘(デュエル)!」

今、白き龍と黒き竜がぶつかり合う―――
122サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/29(木) 18:38:55 ID:43g055d00
投下完了。前回は>>97より。
次回、城之内VS社長…さあ皆さん、早く城之内追悼スレを立てるんだ。
どうでもいいけど、テイルズオブハーツCGエディションの存在意義が分からん。
なんのためにあるんだ、アレ…でもベリル可愛いよベリル。扱い酷いけど。
あと、今のバキは本編より花山外伝の方が面白いと思う。

バキスレがちょっと危ういけど、大丈夫、きっと…ヴァルストークファミリー(スパロボW)だってあれだけ
倒産するといいながら、一向に倒産しないんだもん…。バキスレだって大丈夫。

>>98 好きなキャラを書くときは悪ノリしちゃいますねーw
>>99 原作も古代エジプトの魔術大戦になりましたからね。ゾーク様はマジセクハラ。

>>ふら〜りさん
アレク女王はまだ出番あります。その時はもうちょいかっこよく決めてくれる…はず。
でも書いてるのが僕だからなあ…。

>>101 これです http://jeeg.tv/ 古きよき熱血ロボットアニメのテイストに溢れた、何気に良作。
>>102 竜馬もアムロもいない…望みは甲児と剣児がいいカラミをしてくれることだけです。
>>103 まあ、そう怒らずに…原作無視もスパロボの味と思える僕は多分バンプレに洗脳されてる。
>>104 リヴァイアスは実は知らない…(汗) でもロボット作品好きな人は、このスレに結構多いですね。
     なんか嬉しい。
123ふら〜り:2009/01/29(木) 22:10:19 ID:2Oylsd7Q0
勢いが弱まってるからこそ、描いて下さることがありがたく、保管して下さることもありがたく。
こんな時に繁忙期→繁忙期のコンボ食らうよう狙って異動させられた私は心苦しくもなかなか
描けず……って言い訳ですすみません。うぅ。

>>銀杏丸さん(あの時、紫龍が脱がずに戦ってくれてればねぇ……実力負けではないと言えるんですケド)
間違った日本語でしょうけど、なんかこう「伊達男」です、このデスマスクは。美女がいればスラスラと口説く、
見てくれももちろん悪くない、が盛大にケンカ慣れしてて本来の芯は粗暴乱暴、でも身内にその牙は突き
立てない、と。で改めて思うに一発即死技と毒技、二人で括られてもしょうがない特異性コンビだなと。

>>サマサさん
おぉ。なんか私には初めて、海馬が明確に「こいつは主人公勢の敵です!」と描写されたなと思えます。
しかしそれでも、催眠術でも詐欺でもなく、海馬自身の本心からの言葉と実力をもって大勢の熱狂的な
支持(つーか信仰)を得た、本物のカリスマだというのも事実。……やっぱり格が違う気がするぞ城之内。

>>それはそうと
電車魚さーん。じわじわとゆっくりとネウロ読んでますよー。現在五巻ですが、サイはほぼ完璧に
「女か虎か」で思い描いてたイメージ通りでした。アイは思ってたより可愛らしい容姿でしたね。
124作者の都合により名無しです:2009/01/29(木) 22:20:42 ID:MNAHtxqO0
城の内勝目ゼロだと思うけど負け犬は負け犬として雄々しく吼えてほしいなあw
個人的には引き分けがいいけど、やはり無理っぽいか・・w
125作者の都合により名無しです:2009/01/29(木) 23:41:11 ID:5CJmfMjF0
>銀杏丸さん
マニゴルドはイタリア人だから確かにこんな側面もあるかも。
原作ではただの間抜けな悪党だけど、こうして見ると人間味あるな。

>サマサさん
戦略上は海馬に敵わないんだろうけど、カードの性能でもやはり
城之内は勝てないのだろうか。なんとか一矢報いてほしいものだ。
126作者の都合により名無しです:2009/01/30(金) 07:19:08 ID:W6E155/s0
今はちょっと不調だけどまた盛り返しますよ
サマサさんと銀杏丸さん頑張れ
127ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 05:17:34 ID:YEwEGELp0
(――こいつは、前に進むことしかできない火だ)

 フィーアから繰り出される鋭い蹴りを回避しながら、優はそう思った。
 優の目の前には、赤い暴風があった。
 そういう形容が許されるだけの荒々しさと力強さが、いまのフィーアにはあった。
 彼女の戦い方を見た誰もが、人間とはこうも自由自在に動けるのかと感嘆し、また、重力の存在を忘れるだろう。

 まず、回転蹴りから始まり、それが二回。続けて、地面に両手をついて、腰をねじり、大きく回転を加える。
 そしてフィーアは一個の駒となり、その両足は凶器と化す。さらに、旋回する両足に宿った遠心力を利用し、絶妙なタイミングで
地面から離れ、空中蹴りの二連撃。
 その一つ一つの蹴りは、それだけで完結せず、次の動作へつながり、大きな流れを形成している。一連の流れに澱みはない。
 その上、"赤い靴"による、超スピードがその蹴りに付加されるのだ。もはや人間のくびきを超え、化物の域にまで達している。

 ――そのフィーアの攻撃を、最小限度の動きでかわし、いまだ傷を負っていない優もまた、化物と言って差し支えないだろう。
 なぜ、人間でしかない優が、動体視力の限界を超えるフィーアの蹴りについていけるのか――

(――はっきりと、見えてるぜ。お前の殺気がな)

 ある高名な合気道の達人の逸話に、拳銃の弾をかわしたという信じられないものがある。
 その達人は、弟子になぜその芸当が出来たのかを尋ねられたときに、こんな言葉を残した。
『拳銃の引き金を引こうとすると、黄金の玉のような光が飛んでくる。弾はそのあとからくるから、避けるのはなんでもない』
 一般人からすれば理解不能な論理であるが、武道には余人には計り知れない神秘的な領域が存在する。

 中国の内家拳法では、身体よりも精神の修練に重きを置く。その技量が極限に達した拳法家は、意を自由自在に操り、
銃弾を見切るなどの絶技が可能となる。このように、精神を鍛えさえすれば、現代科学の範疇を超えた現象を引き起こせる、
というのが武道家達の主張だ。事実、そのような達人が幾人か存在している。
 が、誰もがその境地に至れるわけではない。
 常に戦いに身を置き、熾烈な鍛錬を重ね、何もかもを差し出す覚悟がある者にだけ――"明鏡止水"、あるいは"水の心"――を獲得する
資格があるのだ。
128ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 05:18:19 ID:YEwEGELp0
 優は、その資格を有していた。
 スプリガンとして世界中の戦場に赴き、各国の特殊部隊や人ならざるもの、そして師であったある仙術師との死闘を経て――
優は、その"水の心"を得ることが出来た。
 優の視界には、黄金の玉のかわりに、火が見えている。それが、優のイメージするフィーアの殺気の形だ。
 その火の軌道から身体をずらせば、自然にフィーアの攻撃を回避することになる、という寸法だ。
 自分の心の中に"水"を作り、相手の思考を投影させる。
 その"水の心"は、あらゆるものを映し、あらゆるものを呑み込む……
 そして、わずかな隙を見つけ、優は、裏拳をフィーアに叩き込んだ。

「ぐッ!」

 リズムを崩されたフィーアに向けて、すかさず優はオリハルコンナイフを突き出す。が、フィーアは"赤い靴"の超スピードで
それを回避。わずかに距離をとる。
 フィーアの顔には、驚愕の色がある。なぜ、超高速で動く自分の蹴りをかわせるのか。
 その心の隙をつけば勝利を手にすることもできたのだろうが、

(だが……敵はこいつだけじゃねえ!)

 そう、優の敵は、フィーアだけではない。もう一人の御伽噺部隊――

「さて、今度は私の番だな」

 その声とともに、優のこめかみに、ごり、と何かが押し付けられた。その鋼鉄の感触に、優の心胆は一気に冷えた。
 MG42機関銃から、銃弾が吐き出される。

「うお……!」

 優は頭を抱えて伏せた。きわどいところだったが、何とか銃撃を回避する。が、それを察知していたのか、すかさずツヴァイは
蹴りで追い討ちをかけた。
129ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 05:18:57 ID:YEwEGELp0
「ぐ……!」

 今度は避けきれないと判断した優は、咄嗟に後方へ飛んだ。相対距離を稼いで緩和させた衝撃を、両腕で受ける。
 重い一撃――だが、AMスーツの高い耐久性もあって、ダメージはそれほどでもない。

「ツヴァイ!」
「フィーア、一人で戦うな。いくら高い能力を持っていたとしても、一人では、一人分の力しかだせん。……二人がかりでいくぞ」
「……わかった」
 不敵に笑って優を見るツヴァイ(狼顔の表情の変化を見慣れていない優には、わずかに頬が歪んだようにしか見えなかった)、
そして鋭い眼光で優を睨みつけるフィーア。

「そういうわけだ、スプリガン。……まさか、卑怯などとは言うまいな」
「へ、上等だよ。何人がかりでも、俺は負けないぜ」
「いい答えだ。では、ゆくぞ!」

 電動ノコギリに似た唸り声が上がり、無数の銃弾が優に襲い掛かる。"水の心"でツヴァイの殺気を察知し、優はそれを回避していく。
 フィーアのときと同じく、銃弾は一発も優に当たらない。二人の戦闘を観察していたツヴァイにとっては、それは予測の範疇だった。
 だから、MG42機関銃とは別の手段で、彼女は攻めることにした。

 ツヴァイは――あぎとを大きく開けた。太く、鋭い牙が、ずらりと並んでいる。
 そしてMG42機関銃を乱射しながら、優に向かって突撃した。彼女は"噛み付き"を仕掛けようとしているのだ。

 戦場格闘技において、"噛み付き"は基本の一つとされているが、留意点がいくつかある。
 狙いは頚動脈に絞る、前歯を根こそぎ引く抜かれる恐れがあるため、衣類の種類を吟味すべし。
 が、これらのことは、ツヴァイにとって何の意味も持たない。
 彼女の持つ狼の牙と顎は、防弾服の上からでも肉を噛み千切ることが出来る。

 銃弾の波状攻撃が、優から徐々に逃げ道を奪っていく。緻密に、狡猾に、ゆっくりと回避の方策を潰していく。
 これでは、水の心があっても逃げ切れない。
 猛烈な勢いで迫るツヴァイに対して、優は覚悟を決めた。片手で頭をかばいながら、オリハルコンナイフを構える。
130ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 05:19:32 ID:YEwEGELp0
 そして、両者は交錯して――

「ぐぶっ……」

 ツヴァイの喉笛に、ぱっくりと傷口が開き、血飛沫が盛大にあがった。がくり、と膝をつく。
 しかし――

「グルアッ!」
 獣の咆哮を上げ、ツヴァイは立ち上がった。そして、仕留めたはずの敵が再び向かってきたことに驚く優の肩に、喰らいついた。
「ぐあ!」
 みしみしと肩が悲鳴をあげる。
 AMスーツの耐久性のおかげで、牙の貫通は免れていたが、肩が外れるかと思われるほど強い力が優を苛める。
「くッ、離しやがれ!」
 蹴り、肘打ちを見舞う。が、肩にかかる力は緩まない。一度喰らいついたまま、離れない。
 そして、優は見た。血の噴水が止まり、ツヴァイの喉笛の傷が、見る見るうちに塞がっていくのを――

(こいつ、なりでただの人間じゃあねえと思ってたが、ライカンスロープかなにかか!?)

 ライカンスロープ――超古代文明が生み出した生物兵器だ。
 彼らは人間を遥かに凌駕する反射神経と身体能力を持っていたが、ここまでの再生能力は有していなかった。
 あるいはツヴァイは、ライカンスロープではなく、伝承に出現する本物の人狼であるのかもしれない。
 ともあれ、このままでは満足に戦えない。どうにかして脱出を試みようとする優の耳に、

「お前のその動きの種は知らないが!」
 という声が届いた。ツヴァイの背後から、フィーアが躍り出る。
「身体の自由さえ奪えば、関係ない!」
 フィーアの蹴りが、優の首を刈り取るべく、振るわれる――
 その刹那、本能が、理性より先に、最適解を導き出した。
 AMスーツの出力を最大にする。そして、怪力が宿った両腕で、ツヴァイの身体を掴み、持ち上げ――
131ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 05:20:43 ID:YEwEGELp0
「おおおおおおおおッ!!」
 
 迫り来るフィーアに、ぶつけた。
「な!?」
「くッ!」
 ツヴァイと激突したフィーアは、態勢を崩される。蹴りは空振りになり、そしてツヴァイとフィーアは二人いっしょに、地面に落下した。
 
「ぐ……」
 肩を押さえながら、優はうめいた。AMスーツに突き刺さったままの牙が、ツヴァイの顎の力のすさまじさを物語っている。
 痛みは残っている。だが、まだ戦える。そしてそれは、ツヴァイとフィーアも同じことだった。
 ツヴァイは無言で立ち上がり、べっ、と血と牙が混じった液体を吐き出した。
 フィーアはその背後で赤い靴を起動させ、いつでも戦闘を再開できるよう待っていた。

「まったく」
 ツヴァイが口を開いた。もう再生が完了したのか、牙が元に状態に戻っている。
「スプリガンというのは、みなこれほど厄介な奴らばかりなのか?」
「厄介ってんなら、あんたらも同じだぜ。そっちの金髪の……」
「フィーアだ」
「そして、私はツヴァイという」
「あ、ご親切にどうも。んで、フィーア……てめえの動きは、俺が戦ってきた奴らの中でも、五指に入るほど速い。
 そして、ツヴァイ。知り合いに人狼が一人いるんだが、あんたみたいな反則的な再生能力は持ってなかったぜ」
「ジャン・ジャックモンドのことか。かつて彼のデータを見たことがあるが、あまり相手にしたくない手合いだな。君と同じく」
「俺も同じ気持ちだぜ。でもま、人狼の弱点はたくさんあるからな」
「残念だが、銀器も、聖別された刃物も、私に致命傷を負わすことはできない。私の身体は、れっきとした科学技術で造られている」
「サイボーグってわけか」
「似たようなものだが、少し違う。彼らは機械で構成されているが、私は強化細胞で構成されている。まあ、それはいい。
 ――さすがはスプリガンだ。二人がかりでも、足止めが関の山とは。これでは抹殺はおろか、時間稼ぎも難しいな」
「……なんだって?」
「グルマルキン大佐はお前達を抹殺しろと仰った。が、それ以上に、私達がウィーンに来たのは、足止めの意味合いが強いのだよ。
 ロンギヌスを使った儀式――まだ、その準備が整っていない。そのための時間を、お前達と戦って稼げ、ということだ」
132ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 11:27:26 ID:yQAK6MFk0
「そうか。なら、とっととお前達を倒して、あの魔女のところへ行かないとな」
「ふ、それを許しては、私達としては立つ瀬がない。容易く勝ちを得られると思うなよ。では、フィーア、いくぞ!」
「ああ! スプリガン、確かにお前は強い。このまま生かしておけば必ず大佐を脅かす。だからこそ、ここで殺す!」
「やってみやがれ!」

 そして、死闘が再開される――


      ◇       ◇       ◇       ◇       ◇


 ──その死闘を見つめる影がある。

「なんだよ、苦戦してるどころか、十分渡りあってんじゃん」
「こりゃあ、あたしたちの出る幕、ないかもね。どうしようか」

 イスカリオテ所属――ハインケル・ウーフーと高木由美江。そして、

「ともかく、戦闘に介入するのは、まだ控えておきましょう」

 埋葬機関所属――シエル。
 教会が有する暴力の象徴である彼女らもまた、ロンギヌスを巡る戦いに、本格的に参加しようとしていた。
 が、その前に、いくつか片付けて置かなければならないことがあった。

「――私達以外にも、この戦闘を見ている人間がいるようですし」
「あー、オーストリア憲兵隊?」
「いえ、憲兵隊に私達の存在がばれても、後々ナルバレック達がオーストリア政府に圧力をかけてくれるでしょうから、大丈夫なのですが。
 問題なのは、<トライデント>です。おそらく、ここ一帯に、彼らの監視がかかっています。その監視があるままで動くと、
 <トライデント>経由で、教会がロンギヌス奪取のために動いたと各国に知られるおそれがあります。
 ……いくら教会でも、世界中を敵に回すことは出来ません」
133ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 11:28:05 ID:yQAK6MFk0
「なるほどね。で、そいつらを始末してくればいいんだな?」
「お願いします」
「了解。んじゃ、行くよ、由美江」
「あいよ」

 そういって、ハインケルと由美江は姿を消した。
 一人残されたシエルは黒鍵を構え、

「さて……うまく立ち回らなければ」

 静かに、そう言うのだった。
134ロンギヌスの槍 part.10 :2009/02/01(日) 11:30:34 ID:yQAK6MFk0
規制に引っかかってふてくされて寝たらもうお昼! orz
お久しぶりです。精神衛生状態が最悪だったので、ずっとSS書けませんでした。申し訳ないです……
話はかわって、スパロボ。自分はガイキングの参戦がうれしいですね。
で、神無月の巫女の参戦はまだですか。姫子と千歌音ちゃんのいちゃいちゃ掛け合いが見れる日はまだですかッ。

>ふら〜りさん
フュンフは書き手から見た物語の登場人物について自分がいろいろ妄想したことをぶちこんで設定したキャラなので、ロンギヌスの
槍世界の人々からすると、動機がどうしようもない、はためいわくな存在なのかもしれません。ただ、とても心苦しいのは、
グリモワールあたりの超絶捏造設定でルイス・キャロル先生を悪役にしてしまったこと……

>電車魚さん
おおお、実名は出していないのにF05の正体をお分かりになったとは。自分は作中で言及されるまで気がつきませんでしたw
フュンフの叫びに関しては、自分としても後ろ暗いところがあります。もし彼女の言うことが、現実に起こったら、
何度完成させていない物語たちに殺されていることか……

>サマサさん
城之内勝ってまじで勝って、と言いたいのですが、やはり難しそう……でも勝って!
スパロボ、ゾイドシリーズからの参戦があったということで、自分としては、無印アニメのデスザウラーの成層圏まで届く荷電粒子砲が、
スパロボグラフィックでどれだけ過剰演出になるか、すっげえ楽しみです。参戦するかどうか不明ですが……

>銀杏丸さん
美人を前にしたらころっと態度が変わる……さすがイタリア男!それでいて、自分と同じように人を殺しておきながら、幸せを噛み締めて
いる仲間に嫉妬する。デスマスク、とても人間くさくて、自分の好みのキャラです。
135ハシ ◆IXFSr.3SCQ :2009/02/01(日) 11:31:26 ID:yQAK6MFk0
以下前スレのみなさま
>>358さん
ムーは読んでて楽しいですよね。ぶっとんだ陰謀論とか素敵。
>>359さん
まあ、出し抜かれるところも魅力の一つということでw
>>360さん
自分も一番ボーが好きです。兵隊さんは雑魚キャラですが、バンダースナッチとかブージャムとか、面白い悪夢を用意しておりますので。
>>361さん
自分もボーが死んでしまうなんて、信じられませんでした。ですが……ナチ陣営には、吸血鬼製造技術を持っているミレニアムがいますし。
彼が死者として生き返ることもあるでしょうし、そうでないこともあるでしょう。ふ、ふふ。ふふふふふ。
136作者の都合により名無しです:2009/02/01(日) 17:10:10 ID:VG3zloiM0
ハシさん乙です!
まさかスプリガンで植芝盛平と塩田剛三の逸話が見られるとはw
ちょっとスレが不調の中、好きなスプリガンが読めると嬉しいです。
137作者の都合により名無しです:2009/02/01(日) 20:58:09 ID:EpHHITGn0
お疲れですハシさん。
そうか、この物語は朧戦の後、原作終了後の物語ですね。
だったら優はもう朧やティアはともかくジャンよりは
とっくに強くなってるだろうから2人掛かりは妥当ですな。
138作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 06:59:49 ID:1GG54d1I0
ボーはいいですよねえ
流石にこの作品には出せないでしょうけど
ブージャムってなんでしたっけ?
139作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 15:19:08 ID:gVam65lh0
ボーなら、続編で普通に生きてても納得しそうだけどなw
140作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 20:15:19 ID:JNOxRnj60
むしろ原作で死んだのを無視してでもこのSSで出して欲しい
ボーはスプリガンたちより好き
141作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 20:30:28 ID:tff7B36T0
何でもありですか、このスレでは?
とりみき先生の初単行本となった、古典的BL漫画『バラの進さま』はネタになりますかいな?
142作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 20:55:23 ID:JNOxRnj60
大丈夫だけど、それ知ってる人いるかな?w
ふらーりさんならあるいは・・
とりみきは知ってるけど
143作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 21:18:09 ID:vXNSYUL10
あまりにも元ネタがマイナーなら、メジャー作品とのクロスにしたらいいんじゃないかな?
144作者の都合により名無しです:2009/02/02(月) 21:39:01 ID:20gP2Qqf0
>>140
ボーが最新の格ゲーを参考にしたら、どんな強さになるのか妄想することはよくあるなw
145女か虎か:2009/02/03(火) 23:52:57 ID:7WL4/mRC0
9:KING NOTHING

 呼び出された場所から走ること一時間弱、ユキの運転する車は練馬区郊外の雑木林の脇でエンジンを止めた。
 キーを引き抜き、運転席から助手席の女を睨む。
 普段は兄の久宜が座る場所だが、後部座席に乗せることは得体の知れぬこの女に背後を明け渡すことを
意味する。そんな事態を許容する彼ら兄弟ではない。
「ここでいいんだな?」
「はい」
 車内はドライブの間じゅう、微弱な電流のような緊張に満ちていた。アスファルトを疾駆する四輪の
音と、女が数分ごとに道筋を指示する平坦な声がなければ、痛々しいまでの沈黙に逆に耳を痛めていた
かもしれなかった。
「ご案内します。どうぞこちらへ」
 しなやかな肢体が車から降り立つ。
 周囲に家はあまりない。闇路を歩む女の背を、兄と二人ですかさず追った。
 歩を進めること百メートルほど。やがて見えてきたその建物は、元テロリストのアジトというには
あまりに平凡な外観だ。予備知識なしに見れば単なる木造の民家としか映るまい。
 都内通勤圏の一軒家にしては、敷地は多少広い部類に入る。薄黄色の外壁はあまり鮮やかではなく、
むしろ胃液か胆汁のような汚らしい色に思われた。
「見覚えのある家だ」
 兄がぽつりと呟いた。
「良い記憶力をお持ちですね」
 女は立ち止まらず、またこちらを振り返ることもしない。敷地内へと続く門をまっすぐに目指しながら、
兄の顔を見ず淡白な答えを返す。
「この家が世間の話題に昇ったのは、十年と八ヶ月前の話ですが」
「その手のキナ臭い情報が飯の種だったものでね。確か、違法な人体実験で摘発されたカルト教団の
 所有だったか。今は国有地になっていたはずだが、一体どんな汚い手を使った?」
「やり方などいくらでもあります」
 門の前で女は立ち止まる。
 白い顔がこちらを向く。
「お入りください。中で主人にご紹介致します」
 このときユキはようやく気がついた。
 家の壁は薄黄色ではない。脇に屹立した街灯の光が、白い壁を染め上げているのだった。
146女か虎か:2009/02/03(火) 23:54:17 ID:7WL4/mRC0


「ようこそ、早坂久宜。それから早坂幸宜」
 通されたのは応接間と思しき部屋。といっても、フローリングの床にビニール張りのソファと、
脚の短いテーブルが置いてあるだけのシンプルな空間だ。
 ユキと兄に座って待つよう勧め、あの女はさっさと出て行ってしまった。『お茶を淹れて参ります』と
告げて去った彼女と入れ違いに現れたのは、まだ髭もニキビもないような年の頃の少年だった。
「話は聞いてるよ。なかなかやるじゃん、アイの体に傷をつけるなんて」
 ふっくらと愛らしい唇には、屈託のない笑みが浮かんでいる。サングラスの向こう側で、兄が露骨に
顔をしかめるのがユキには分かった。
 見た目だけなら自分の顔も、全く同じように歪んでいるだろう。
 だがユキの渋面の理由は、兄のそれとは全く異なっていた。
「あの女の主人……なのか? お前が?」
「そうだよ。何か文句ある?」
 飛び乗るような勢いで、少年はソファに腰を下ろした。
 ホームドラマに息子役として登場しても、何ら違和感のない天真爛漫な容姿。しかし目の前のこの
子供には、ブラウン管や液晶の中の美少年にはない、決定的な違和感がある。
 それが何なのかは分からない。ただ、何かが大きく『ずれて』いるのだ。
 昔どこかで味わった感覚だと思った。
 それがどこだったかまでは分からなかったが。
「納得いかないのは分かるけど、人を見た目で判断するとロクなことないよ。漫画とか映画とかじゃ
 決まってヒドイ目に遭ってるじゃん、見かけだけで相手にレッテル貼ってあれこれ言う奴ってさ」
「見た目以前の問題だと思うがね」
「ふふ、手厳しいね。何ならもうちょっと信用してもらえそうなカッコして出てくればよかったかな。
 アイがいなくてどこにどの服しまってあるか分かんなかったからそのまま出てきちゃったんだけど」
 だぼだぼの服の襟を引っ張りながら、少年。
 兄の目が吊り上がるのがユキには分かった。サングラスに阻まれて直接見えはしないが、きりきりと
角度がついていくのが目に見えるようだった。
 少年も敏感にそれを悟ったらしい。しかし彼は険のある視線をものともせず、それどころか予想済みと
でもいうように鼻を鳴らす。
147女か虎か:2009/02/03(火) 23:57:03 ID:7WL4/mRC0
「やっぱり気に入らないみたいだね」
「当然だろう?」
「それじゃあ……」
 パーを裏向けにしたような手で、少年は自分の顔を覆った。
 ミシリ、と音が鳴る。指の隙間から覗く部分が地割れのごとく隆起し、形を変えていく。
「これでどう?」
 顔を隠す手が離れたとき、少年は少年ではなくなっていた。
 艶と張りのあった肌は、たるみ始めた壮年男性の皮膚へ。国籍不明の面立ちは欧米人の彫り深いそれへ。
 口の周りには、品良く整えられた髭までが生えてくる。
 息を呑む兄とユキに元少年は、これだけは少年そのままの表情でフフンと笑った。先に変異を遂げた顔に
遅れて、髪が根元から白髪まじりの鳶色へと変じていった。
「……何者だ」
 兄が呻く。
「さあ? それが分かってたら苦労しないんだけど」
 『お手上げ』のポーズをしてみせる元少年。
「驚くことないさ。新聞やテレビで報道されてるより、地上はずっと怪奇に満ちてるってだけのことだよ。だから」
 兄を見て喋っていた元少年は、ここで初めてユキの方を向いた。
「その物騒なもの引っ込めてくれない?」
「っ!」
 仕込んだ暗器の構えを見抜かれている。
 元少年の弧を描く口元、唇の間から白い歯が覗く。その奥から突き出されたピンクの舌が、ユキの
記憶野への刺激となってイメージを喚起した。
 さっき感じた決定的な違和感を、どこで経験したのか思い出したのだ。
 前職を捨てるきっかけとなったあの男が、これとよく似た空気をまとっていたと。
「落ち着きなよ。俺に会いに来たんでしょ、あんたたち。一方的に利用されないためにも、後の面倒を
 避けるためにも。その積極的な姿勢は評価してあげるから、まずは肩の力抜いてリラックスしたら?」
 ドアが開く。ティーセット一式を盆に乗せ、あの女が応接間へと入ってくる。
 フィルムを超高速で逆回しにするように、元少年は少年へと戻った。テーブルに並べられるマドレーヌの
皿に、両の目が無邪気にきらめいた。
148女か虎か:2009/02/03(火) 23:58:52 ID:7WL4/mRC0
 ポットから紅茶が注がれ『どうぞ』と勧められても、無論飲む気になどなれはしない。
 それは兄も同じことらしい。湯気を立てるカップに目もくれず、少年の顔を睨み据えたままだ。
 マドレーヌを指でつまみながら、少年はやれやれとばかりに肩をすくめた。
「カタイなー、二人とも。虎を捜してる時点で目的は同じなんだし、もっとこうフランクになれないもんかな。
 ……そうだ緊張を解きほぐすために、ちょっとした雑談から始めてみようか? そう、たとえば」
 口に放り込まれるマドレーヌ。嚥下するまで噛むこと五回。
 紅茶のカップを口に運び、味わうようにゆっくりと飲んでから、
「――あの虎の≪我鬼≫って名前、あんたがつけたんだって? 早坂久宜」
 兄のこめかみがぴくり、と震えた。
「エゴを意味する言葉。坂口安吾の作品名で芥川龍之介の俳号。興味があるな、中国奥地の暴れ虎に
 どうしてそんな名前をつけたのか。聞かせてくれる?」
 兄の本棚には仕事に必要な資料に加え、国内外を問わず文学作品もかなりの数置いてある。現在身を
置く暴力の世界には一見そぐわないが、『笑顔』の取締役として社会的地位の高い人間と渡り合うことも
多い兄としては、舐められないために教養を身につけておくことも必要なのだという。
 ユキ自身は文学には興味がない。芥川でも読んだ覚えがあるのは『羅生門』のみ、安吾に至っては手に
取ったことすらなかった。
「どうでもいいようなことに興味を持つんだな」
「どうでもいいってほどでもないよ、名前ってすごく大事さ。どんな由来でつけられたものであれ、対象の
 中身を少なくとも一部分は表してるんだから」
 マドレーヌ二つ目。飲み込むまでの咀嚼は、今度は計三回。
「そしてもう一つ、名づけた人間の中身を表すものでもある。俺はあんた個人にも興味を持ってるからね。
 よかったらこの機会に聞かせてもらえないかな? ≪我鬼≫の名の由来を」
 食べカスのついた口が笑んだ瞬間、ユキの背筋に冷たいものが走り抜けた。
 牙を剥く猛獣のような表情だった。
「フン」
 笑顔の鎧を纏い続けてきた兄も、この笑みの本質には気がついているはずだ。
 盆を手に脇に控えていた女が、ここで少年の傍に歩み寄った。ソファに腰掛けた主人の口元を、
純白のナプキンで軽く拭う。
 兄が口を開いたのは、女がマドレーヌの粉を拭き取り終えたときだった。
149女か虎か:2009/02/03(火) 23:59:42 ID:7WL4/mRC0
「――偶々狂疾に因りて殊類と成る」
 低くよく通る声が何かの一文を読み上げた。
「災患相仍りて逃るべからず。今日爪牙誰か敢えて敵せん。当時声跡共に相高し、我は異物と為る蓬茅の下……」
「は? 何それ?」
「『唐代叢書』です」
 首をかしげる少年に女が補足した。
「清の陳蓮塘の編で、別名を『唐人説薈』。より厳密にはその中に収められ、李景亮の撰とされる
 『人虎伝』にみられる詩です。もっとも日本人であるこの男には、『山月記』のほうが馴染みは
 深いかもしれませんが」
「典拠のほうを先に名指されるとはな。テロだけが能の女でもないらしい」
「基礎教養です」
 いずれの作品もユキには分からない。それは少年も同じらしく、右に左にと首を捻っては女と兄を見比べている。
「ちょっとちょっとちょっとアイ、二人だけで完結してないで解説してよ。何そのミジンコ何とかって」
 業を煮やした少年が女の袖を引いた。
「人虎伝。唐代の伝奇です。筋としては特にアジア周辺でよくみられる、いわゆる人虎変身譚の一種になります。
 類似の説話は世界各地にありますが、その中でも特に有名なものの一つです」
「それが何で≪我鬼≫になるわけ?」
「それは本人に聞いた方が――」

 ほんの数秒のごく短い時間、少年の注意が女へと向く。
 その僅かな隙を兄は逃さなかった。

 セーフティの外された銃が火を噴いた。
 少年の白い喉に穴が空いた。
「ガッ……!」
 がくんと仰け反る少年の首。
 一瞬遅れて赤黒い血が、噴水となって勢いよく吹き出した。

 一発では済まさない。
 頭、心臓、肺、消化器官を収めた腹。生命維持に必要な箇所全てをハチの巣に。
 少年の体がソファにくずれ落ちた。
 応接間が血に染まっていく。
150女か虎か:2009/02/04(水) 00:03:19 ID:9mqknRJU0
「『山月記』も『人虎伝』も、エゴが人間を虎にするという話でね」
 もろに返り血を浴びたテーブルは、見る見るうちに惨憺たる有り様と化す。
 甘い香りを漂わせるマドレーヌも、結局手をつけられることのなかった二人の分の紅茶も、凄まじい
勢いで広がり続ける血の海の中に沈んでいく。
「エゴ、転じて≪我鬼≫というわけさ。芥川とも安吾とも関係がなくて申し訳ないがね。……それとも
 もう聞こえないか?」
 壊れたマネキン人形のように、ソファに投げ出された少年の体。
 それでも兄は油断しない。つきつけた銃口も睨む視線も逸らさない。
 五秒待っても十秒待っても、少年は動き出さなかった。剥き出しの白目を天井に向け、さっきまで
女に問いかけていた唇も半開きのまま呼吸を完全に止めている。
 仕留めたのか。

 だがこのときユキの胸を満たしていたのは、勝利の確信ではなく言い知れぬ不安だった。
 原因は女だ。
 撃たれた少年のすぐ隣にいた女は、大量の返り血をその身に浴びていた。衣服を染めた深紅の色彩は、
先日ユキの一撃を受けたときよりなお鮮やかだった。
 白皙の美貌すら血まみれなのに、毛筋一本分の揺らぎも見られぬその表情は不自然ではないのか。
 黒光りする銃身を目の前にして、反撃どころか防御にさえ転じようとしないのもおかしくはないか。
 動揺しているだけか、それとも。
 倒れた少年は、しかしいくら待っても起き出しては来なかった。兄は銃口を動かし女へと向けた。
「武器を持たせたままにしておいたのは失敗だったな、女。それとも油断か? 私ならここに引き入れた
 時点で、手持ちは全て没収しておくところだ」
 無言のまま立っている女。
「心配するな、殺しはせん。聞きたいことも利用価値も山ほどある。とはいえ手足の一本ずつぐらいは
 覚悟してもら……ん?」
 と。
 女の色の薄い唇から、ふっと小さくため息が漏れた。
「―――なことを」
「何?」
 ユキに聞こえなかった言葉は、兄の耳にも届かなかったらしい。
 問い返す兄に女は言い放った。
「無意味なことを」
151女か虎か:2009/02/04(水) 00:06:13 ID:9mqknRJU0
 ミシリ、と響く音。
 ほんの数分前に聞いたのと同じ音。

 血みどろの少年が、ソファからゆっくりと起き上がった。
「はー、めんどくさ」
 ホラー映画のゾンビのような姿に、吐き出された言葉はそぐわなかった。
 双眸は光を取り戻し、上半身に空いた穴が家鳴りのような音を立て塞がっていく。
「これだから裏社会の連中って嫌なんだよね。ちょっと優しくしてやったら調子に乗ってつけ上がっちゃって。
 あーあ、骨も内臓もメチャメチャだよ、全く」
 赤黒い血が口から溢れる。それはもはや血液というより、どろりとした粘土のような塊だった。

「な……」
 兄が息を呑んだ。
 銃口の先がブレたその一瞬、前後左右全範囲が隙だらけになる。
 少年が笑った。吊り上がった唇は、赤く輝く三日月に似ていた。
 獲物に狙いを定める顔。

「アニキッ!」
 考えるより先に動いていた。
 手袋の嵌まった手を掲げ、振り下ろす。

 傷の塞がった少年の喉が、再び掻き裂かれた。
 傷つけられた呼吸器が笛のようにヒュウッと鳴った。
 出血はさっきほど派手ではない。大粒の雨が滴るように溢れ落ちる。服とソファと床を汚すそれには、
呼気と吸気のあぶくが混じっている。
 だが。

「無意味と申し上げたばかりですのに」
 女の声に呼応するように、また耳をなぶる軋む音。
 かはっ、と少年の口から、また血の塊が吐き出された次の瞬間――
152女か虎か:2009/02/04(水) 00:09:23 ID:9mqknRJU0
「バカだよなあ。この期に及んで俺に攻撃するなんて」
 腹に衝撃が沈み込んだ。
 せり上がる痛みにえずいたとき、視界が一回転した。
 ソファから引きずり下ろされ床に倒されたと悟るのに、要した時間は更にもう一瞬。
「見ようによっては、これも勇気かな。いや、ただの身のほど知らずか」
 頭を鷲掴みにされた。目の前の非現実的な光景とはちぐはぐに、ひどく生々しい感触だった。
「さ、どうする?」
 唇を舐める薄い舌も、また吐血の色に染まっている。
 揶揄を含んだ疑問形は兄に向けられていた。
 銃口を少年に突きつけたまま、その場に凍りついた兄に。

「やりすぎは禁物です。彼らにはこれから役に立ってもらわなければ」
「分かってるよ」
 ユキを押さえつけたまま、女の声に少年は答える。
「とりあえず、兄貴の方はそのオモチャ捨てて。セーフティオンにするのも忘れないで。弟は手袋脱いで
 向こうの壁に向かって投げて。別に死にはしないし怖くも何ともないけど、部屋が汚れるとアイに
 文句言われるからさ」
 宣告というには軽い口調。
「早くしてよ。兄貴の前で弟の頭ザクロにするなんて、後味悪いこと俺にやらせたい訳?」
 頭蓋に食い込む五本の指に、ぎり、と力がこめられる。
「アニキ、俺はっ」
「すまん、ユキ。他に手はないようだ」
 セーフティが上がる音。
 兄の銃は固い音を立てて床に落ち、蹴り飛ばされて勢いよく転がった。回転しながら床の上を
滑っていき、部屋の反対側の壁にぶつかってようやく止まった。
「これで満足か?」
 憎々しげに吐き捨てる。
「この……化物が」
153女か虎か:2009/02/04(水) 00:12:15 ID:9mqknRJU0
 数秒にも満たぬ一語。
 兄からすれば、腹立ち紛れの罵りにすぎなかったに違いない。
 だが――

 少年の両目に火が灯るのをユキは見た。
 火は瞬く間に燃え上がり、焔となって渦巻き咆哮をあげた。

 掴まれた頭が投げ捨てるように解放される。
 華奢な体が跳ね上がり、閃光と化して兄に襲い掛かった。
「アニキ!」
 手袋の構えも間に合わない。
 壁に叩きつけられる八十キロの体。床に崩れ落ちかけたところを、胸倉を掴んで押さえつけられた。
 ガフッと咳き込む兄の顔に、炎で燃え立つ瞳が向けられる。
「誰が化物だって?」
「ク……グ、はっ……」
「答えろよ。もう一度同じセリフ俺に言ってみろよっ!」
 次に掴まれたのは髪の毛。ぐいと自分側に引き寄せて、すかさず壁へと叩きつける。
 凄まじい音がした。
 開いた傷口から血がにじみ、白い壁に新しい血の痕をつけた。
「やめた。虎の件が終わるまで生かしといてやろうと思ってたけど、もういい。あんたもう死んでいいよ。
 俺が許可する。俺が今ここで殺してあげる」
 ミシミシ、ミシミシ、あの軋む音。
 右手の先が変化した。薔薇色すら帯びた柔らかそうな肌が、爬虫類の鱗を思わせる青黒さへ。
 浴びた返り血だけはそのままに、鋭利に尖った爪が鈍くきらめく。
「じゃあね早坂久宜。さよなら」
「アニキ!」
 ユキの口から絶叫が噴き上がる。
 醜く膨れた手が兄に迫る。
 首をへし折る嫌な音を覚悟した。
154女か虎か:2009/02/04(水) 00:14:25 ID:9mqknRJU0
 たぁん。

 首を折る音の代わりに響いたのは、空気を灼いて轟く銃声。
 撃ったのは女だった。放たれた弾丸は、正確に少年の右肩を撃ち抜いていた。
 関節を破壊された腕が支えをなくす。だらりと落ちて動かなくなる。
 すかさず女は左の肩も撃った。二度目の銃声とともに激しく血がしぶき、左腕もその機能を失った。
 押さえ込まれていた兄の体が、ずずずと下がって床へと崩れていく。
「アイ! 何やって……」
「こちらの台詞です」
 振り向いた少年の睨みに、女の目はどこまでも平坦だった。
 必要とあればこの女は、主人の脳天にであろうと構わず弾丸を叩き込むだろう。眉ひとつ震わせず
口元ひとつ動かさず、冷徹そのもののこの表情のまま。
 美しい唇が声を紡いだ。
「彼にはまだこの先、果たしてもらわなければならない役割があります。この場で殺してしまっては
 予定が大幅に狂います」
「でも、こいつは俺のことっ」
 訴える少年の口調に、女の視線が冷たさを増した。
「一時の激情に流されて、全てを台無しにされるおつもりですか。今回に限ったことではありませんが、
 あなたはお考えが短絡すぎます」
「………っ」
「今ここでこの男を殺したところで、何になります。あなたの爆発した負の感情をひととき慰める程度が
 せいぜいでしょう。ただそれだけのために計画の練り直しを強いるのですか。利と労があまりに
 釣り合わないとは思われませんか?」
 少年は歯噛みした。
 壁に背を預け床に倒れこんだままの兄に、顔を背けるように背を向けた。
 破壊された肩関節が再生する。自由を取り戻した手でこめかみを押さえる。
「部屋に戻って寝るよ、バカバカしい。何で下働きに雇った連中の顔見に来て、撃たれて化物呼ばわり
 された挙句アイの説教まで聞かなきゃいけないんだよ。むかっ腹の立つ」
「左様ですか。ごゆっくりお休みくださいませ」
 頭を下げる女に一瞥もくれず、少年はすたすたと歩き出す。赤黒い足跡を点々と残しながら。
155女か虎か:2009/02/04(水) 00:17:11 ID:9mqknRJU0
 どうやらこの場は助かった、らしい。
 縫い止められたように動けなかったユキは、床から身を引き剥がして兄に駆け寄った。
 しこたま頭を打ちつけた兄は、荒い息を吐きながら天井を眺めていた。かろうじて意識はまだ残って
いる。車まで自分の足で歩いて移動するのはまだ難しいだろうが。
 ドアへと向かう少年の背中を睨む。
 今更抵抗したとしても、勝てはしないのは分かっていた。長年暴力で飯を食ってきたからこそ分かる。
 負ける戦闘はするべきではない。
 だがそれはそれとして、一言だけでも言ってやらなければ気が済まなかった。
「おいクソガキ、お前」
 少年の歩みがぴたりと止まる。
 不機嫌そのものの瞳がユキと兄を振り返った。
「何?」
 憎悪を孕んだ視線が相絡む。
 電流を流し込まれるような緊張感が流れる。

 だがその緊張は、突如として鳴り出した着信音に踏みにじられた。

 着メロではない、耳障りなまでの電子音。購入した時からのデフォルト設定で、この方が耳につくからという、
ただそれだけの理由でそのままにされている。
 兄の携帯だった。
 ダメージにまだ震える手を、兄はスーツの胸ポケットへ。取り出した携帯の通話ボタンを押す。
「……私だ。……ああ……分かったのか? ……どこ、に?」
 通話は三十秒にも満たなかった。
 話が終わって携帯を閉じた兄は、背中を部屋の壁に預けたまま、だが存外にしっかりとした声で告げた。
「≪我鬼≫の現在位置が分かったそうだ」
156電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/02/04(水) 00:19:40 ID:9mqknRJU0
今回の投下は以上です。
色んな要因でグロッキーになってるので、ひとまず今回はレスのみさせて頂きます。


>ふら〜りさん
5巻ですか、『鎧の兄弟』ですね。自分が好きな作品を読んでくださっていると聞くとやはり嬉しいです。
ふら〜りさんの頭の中のアイってどんな感じだったんだろ。気になる。
サイがイメージ通りと仰っていただけて嬉しいです。とはいえ彼の本領発揮はまだこれから、
3、4巻の時点ではまだまだ顔見せ程度。あの名場面やあの名台詞やあの珍プレーをご覧に
なったあとでも、イメージ通りと仰っていただけるかどうか。てか彼、話が進むほどにどんどん
ボケキャラと化し……あれ玄関に誰か来t
(電車魚は箱にされました。中身を見るにはフゥ〜フゥ〜クワッと書き込んでください)
157作者の都合により名無しです:2009/02/04(水) 07:15:31 ID:He1M+oCH0
やはり早坂兄弟ではとてもサイ&アイの最強コンビには適いませんな
今回は格の違いを見せ付けて良かったです
何か私生活で大変みたいですが頑張ってください
158作者の都合により名無しです:2009/02/04(水) 08:08:50 ID:l1C9sgtQ0
電車魚さん乙です!
早さか兄弟もそのキャラ通りの行動ですが、やはりサイにはまったく通じませんね
ネウロの時に化け物を経験しているというのに、懲りないというか・・w
でもサイよりアイのが大物っぽくてうれしいなあ。精神的には、ですけど。
それにしても氏は博識だなあ。山月記とか聞いたことないw

フゥ〜フゥ〜クワッ
159遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/04(水) 09:07:46 ID:GQ+1ngtp0
第三十一話「死せる英雄達の戦い―――破壊神光臨」

「フ―――このような闘いとも呼べぬ茶番、すぐさまケリを着けてくれるわ!」
天に向けて腕を翳し、海馬は咆哮する。
「往け、ブルーアイズ!貴様の力を見せてやるがいい!」
白き龍はその命令を忠実に実行するべく、巨大な口を開く。
「ブルーアイズの攻撃!滅びのバースト・ストリ―――」
「確かにスゲエよ、ブルーアイズ…けどな…そればっかで押し通せると思うんじゃねえ!」
城之内は叫び、一枚のカードを見せ付ける。
「む…!?そのカードは!」
カードがディスクにセットされると同時に、城之内の眼前に巨大な物体―――ゲーム機のコントローラーに酷似した
奇妙な機械―――が現れる。
「―――<エネミーコントローラー>!テメエも知ってるだろうが、このカードはコマンド入力で、相手モンスター
を自在に操ることができる!」
言うが早いか、城之内は既にコマンド入力を終えていた。瞬時に効果は発動され、三体のブルーアイズの内の一体
が消え去り、それは再び現れた時には城之内の傍に佇んでいた。
「城之内…貴様!」
「へっ!そしてオレは、このブルーアイズでテメエに攻撃する!」
「!」
城之内に操られたブルーアイズは一瞬、躊躇うように唸るが、それを振り払うように牙を剥き出しにして吼える。
「いきやがれ!滅びの―――いや、城之内キャノン!」
「おのれぇぇぇぇぇ!」
海馬は絶叫しつつ、攻撃から身を守るためのカードを発動させようとするが、その寸前に海馬を庇うように躍り出る
巨体があった。残された二体のブルーアイズ。その片割れが、迫る破滅の閃光から海馬を護るために立ちはだかった
のだ。
「ブルーアイズ!まさか…!」
兜の奥で海馬は目を見開く。この行動は自分の命令などではない。カードそのものが確かな意志を持ち、自らを犠牲
にした―――そうとしか思えない動きだった。
そして交差するように放つ、全てを灰塵と化す吐息。双龍は互いに滅ぼし合い、互いにこの世から消し飛んだ。
160遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/04(水) 09:08:39 ID:GQ+1ngtp0
「おっしゃあ!これで残りは一匹だけだぜ!」
快哉を叫ぶ城之内を、海馬は燃えるような怒りを込めて睨み付ける。
「おのれ…よくもオレに、ブルーアイズの同士討ちなどさせたな!」
残されたもう一体も、海馬の嚇怒が乗り移ったかのように獰猛に叫ぶ。
「城之内!ただではすまさんぞ…オレの怒り…そして、オレに牙を剥かざるを得なかったブルーアイズの怒り!オレ
のためにその身を砕いたブルーアイズの怒り!全てを貴様に叩きつけてくれよう!」
「そりゃあどうかな!オレはこのモンスターを召喚する―――<メテオドラゴン>!続けて魔法カード発動―――
<融合>!」
隕石に竜の頭部と手足がくっ付いた様な、おかしな姿のドラゴンが天から降ってきたかと思うと、それは地上にいた
レッドアイズと勢いよくぶつかり、黒煙を噴き上げながら融け合い、混ざり合う。
そして黒煙の向こうから、それはゆっくりと身体を起こした。
「<真紅眼の黒竜>と<メテオドラゴン>融合体―――<メテオ・ブラック・ドラゴン>だ!」
超高熱ガスと化した吐息を撒き散らす異形の黒竜。それは全身から噴き出す炎を自らに纏い、天空に舞い上がる。
「いっけぇぇぇぇ!メテオ・ダイブ!」
大気を、大地を、天空を焼き、灼熱の火球と化した黒竜がブルーアイズに向けて突進する。放たれた白龍の吐息すら
意に介さず、一気にブチかます!
「ギャアァァアァーーーーーーーーッッ!」
壮絶な断末魔の悲鳴と共に、強大なる白き龍は砕け散る。海馬はそれを前に、ただ立ち尽くすのみだ。
「へっ、どうしたよ海馬!ブルーアイズがなけりゃ何もできねえか!?」
「そ、そんな…」
「皇帝様が…負けた…!?」
その闘いを見届けていた奴隷部隊の面々も、余りの事に不安げに顔を見合わせる―――自分達が無敵と信じた存在
が、完膚なきまでに打ち砕かれたのならばそれも致し方ないことだった―――しかし。
「ク…ククク…ワハハハハ!」
海馬は、笑っていた。苦し紛れの笑いなどではない、異様に力強い高笑い。この状況などすぐにでも引っ繰り返せる。
そう言いたげな態度だった。
「城之内…貴様如きがここまでやるとはな…少々見くびっていたことは認めよう―――だが!」
海馬は笑いを止め、城之内に宣告する。
「貴様はすぐさま後悔することになるだろう。大人しく負けていればよかったとな!このカードが文字通り、貴様に地獄
を見せることとなる―――<地獄の暴走召喚>!」
161遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/04(水) 09:09:56 ID:GQ+1ngtp0
空が暗雲に包まれ、魔界の瘴気が流れ込んできたかのような重い静寂が世界を支配する。
「黄泉返れ―――ブルーアイズ!」
その声に応えるように、三体の白龍が再び海馬へと寄り添うように降臨する。
「なん…だと…!?」
「フ…<地獄の暴走召喚>は、墓地に眠る同名モンスターを全て復活させる効果を持つ!よってオレのブルーアイズ
は再び舞い戻った!貴様の奮闘も虚しくな―――ワハハハハハ!」
「くっ…だが、オレにはまだメテオ・ブラック・ドラゴンがいるぜ!コイツの戦闘力はブルーアイズを超える―――
いくら数を揃えたとこで―――」
「バカか、貴様」
海馬は嘲り、一枚のカードをちらつかせる。
「まさか失念しているわけではなかろうな?ブルーアイズ究極形態の存在を!」
「―――!」
「魔法カード<融合>を発動!いでよ―――<青眼究極竜>!」
三体の白龍が、今一つとなる―――
「蒼氷(アイスブルー)に煌く瞳が開かれし時、貴様は幻想しうる最悪の狂夢(ゆめ)を見る…」
顕現せしは、絶対の勝利をもたらす究極の竜!
「―――残酷な死神(カミ)を見よ!城之内!」
未だかつてない戦慄が、天地を斬り裂く雷光の如くに城之内の身体を貫く。
「あ、あ、あああ…」
「ひいい…」
地を割る咆哮。烈風を巻き起こす白き翼。その蒼き瞳に見入られただけで、武勇を誇るアルカディアの兵士達が絶望
に打ちのめされ、次々に倒れていった。それとは対照的に、奴隷部隊は色めき立つ。
「おお…あれこそは我らの守護聖竜…!」
「忌まわしきイリオンを打ち砕いた、我らが神…!」
「強靭にして無敵にして最強の存在!龍神―――アルティメットドラゴン様だ…!」
その歓声を背に、海馬は傲然と城之内を見下ろした。
「どうした城之内―――まさか、先程の作戦以外は何も考えていなかったか?」
(か…考えてませんでしたー!)
162遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/04(水) 09:10:42 ID:GQ+1ngtp0
「ワハハハハ!所詮貴様は未熟な凡骨決闘者ということだ!究極竜よ、その偉大なる咆哮で全てを塵と化し打ち砕け
―――アルティメット・バースト!」
全てを闇へと誘う光の奔流が、一瞬にして黒き隕星の竜を呑み込み、消滅させる。そしてその勢いを衰えさせること
なく、城之内すらも―――

「―――罠カード発動!<攻撃の無力化>!」

空間を歪めて出現した時空の渦が、その一撃を吸い込み、無力化する。
「む…!」
海馬はもはや城之内には目もくれず、その声に向き直る。
古の王にして、闇の王。そして、全ての決闘者の頂点に君臨する決闘王―――闇遊戯が、そこにいた。
「フ…先走りすぎだぜ、城之内くん」
「へへ…面目ねえ。お前にゃ、借りばっかできちまうな」
互いに顔を見合わせ、苦笑する。
「ついに来たか―――オレが唯一認めた男…決闘王・武藤遊戯!」
「海馬!」
大地を強く踏み締め、闇遊戯は海馬と対峙する。もはや二人の間に、言葉はない。
「「―――決闘(デュエル)!」」
ただ決意と闘志を持ちて、白龍の帝王と黒き決闘王は宿命の導くままに闘う。それこそが彼等を繋ぐ唯一の絆である
かのように。それは激しい恋心にも似た、確かな憎しみ。
(究極竜の前には、生半可な攻撃は通じない…ならば!)
先手を取るは闇遊戯。
「魔法カード発動!<融合解除>!」
融合解除―――その名の示す通り、融合によって生まれたモンスターを元の姿に戻すカード。だが海馬は薄く笑う。
「ならばそれに対し、このカードでカウンターを行う!<魔法除去>!」
「ちっ…!」
融合解除を打ち消され、闇遊戯は小さく舌打ちする。
「クク…愚か者め!かつてやられた手をまた喰らうとでも思ったか!?」
海馬は挑発するように手招きする。
163遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/04(水) 09:11:29 ID:GQ+1ngtp0
「遊戯…神を呼べ!貴様の神とオレのブルーアイズ―――真に最強たるはどちらか、決着を付けようではないか!」
「…………」
闇遊戯は僅かに逡巡したが、選択肢はない。
(確かに…究極竜に対抗しうるは、三幻神のみ!)
ゆっくりとデッキに手を伸ばし、掴み取ったカード。闇遊戯はそこから確かに、凄まじい力の鼓動を感じ取った。
「破壊神よ―――その力を今ここに示せ!」
身を裂くような風が、戦場を吹き抜ける。
「光臨せよ!力と破壊を司る巨神よ!」
大地を、海原を、天空を―――全てを砕く剛腕を振り上げながら、<巨神>がその姿を現す。
「―――<オベリスクの巨神兵>!」
姿は人間に近いが、内包する桁外れの鬼気は、それが人間とは一線を画す存在であることを否応なしに示していた。
鋼鉄のような筋肉を纏う、仄蒼く輝く巨体。そこから発する闘気だけで、心弱き者ならば即座に地に平伏すだろう。
巨大な二本の角を備えた頭部はその憤怒の形相と相成り、まさしく鬼神の如き威圧感を発していた。
彼に並び立つ者はなく。
彼が触れしは死すらも死せん。
それこそが最強の力を秘めし巨神―――オベリスク!
「滾る…滾るぞ、遊戯!」
されど、神を前にしてなお、海馬は一片の怖れすら見せない。
「貴様との闘いはいつもそうだった―――死力を振り絞った極限の決闘!全身の血の一滴までもが燃え上がり、細胞
の一片に至るまでが震え、全身をアドレナリンが駆け巡る!それがオレの力を限界を越えて引き出してきた―――
だが、今こそ決着の時!オレは貴様を倒し、決闘王の称号を奪い取ってくれるわ!」


武藤遊戯。
海馬瀬人。
運命の女神(ミラ)は果たして、どちらに微笑むのか―――
164サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/04(水) 09:48:26 ID:LQeAXrA90
投下完了。前回は>>121より。
メテオ・ブラック・ドラゴンは東映映画版遊戯王で登場したカードですが、城之内がこれを使ったという
事実はありません。まあ二次創作ということで一つ…。
あと、社長が使った地獄の暴走召喚。分かる人は分かるでしょうがこれ、完璧に本来のルール無視してます(爆)
苦情があれば書き直します。

>>ふら〜りさん
ええ。格が違うというか、核から違う強さを見せ付けられてしまいました。しかし闇遊戯は、もうちょっと
城之内に厳しくしてもいいと思います。

>>124 うん、「ボロ負け」なんだ、すまない。けれどキミは城之内がブルーアイズ三体を倒した時、「ときめき」を
     感じたはずなんだ。そういう感情を大切にしてほしい。
>>125 色んな面で負けちまいました…ただ、彼なりに本当に頑張ったと我ながら思います。
>>126 頑張ります。色々。

>>ハシさん
実はスプリガンは昔一度読んだきりでうろ覚えですが(汗)、あれほど圧倒的に強かった二人でも
「足止めで精一杯」というほどの強さ描写が素晴らしいです。僕のようにとりあえず技名叫んどけ!
みたいな書き方しかできない輩はただただ羨むばかり…
初代ゾイドネタは…どうだろ?でも携帯機スパロボは結構ぶっ飛んでるんでありえないとも言えないかも。
神無月の巫女とデモンベインはいつか参戦してほしいものですね。いざとなったら南西にある洞窟に封印
されたランプの魔神(黒髪美少女)を召喚する覚悟です。

>>電車魚さん
事情は分かりませんが、頑張れ…!そして早坂兄弟も頑張れ…!しかしサイ&アイに喧嘩を売って生きて
いられただけでも幸運なのかもしれません。流石に格が違ったか…。
サイが肉体的戦闘を担当し、アイが頭脳と精神面を担当。やっぱりこの二人、理想のコンビですよね。
さて、では最後に    フゥ〜フゥ〜クワッ
165作者の都合により名無しです:2009/02/04(水) 20:10:56 ID:DcgmPrX80
>電車魚さん
サイとアイには確かに及ばないコンビでしょうけど、早坂兄弟もまだ
何か隠し持ってる気がするな。殺しても死なないような兄弟だし。
いよいよ我鬼が見つかりましたか。次が最終ラウンドになるのかな?


>サマサさん
やっぱり城の内は負けましたか。でも、そこそこ健闘した気もする。
一応は、社長を怒らせましたからね。追い詰めは出来なかったけどw
真打登場ですか。個人的には遊戯より社長を応援したいな。
166ふら〜り:2009/02/04(水) 22:20:07 ID:bz4QWxCu0
>>ハシさん
優、流石の貫禄ですなぁ。戦闘中のモノローグを見ている限り、まだまだ全然本気じゃないのに、
二人がかりの(しかも銃器と近接格闘を混ぜた)攻撃を凌いでる。そのことをツヴァイたちが
さほど驚いていないのがまた、勇名の証というか。もっとも、彼女らもまだ本気じゃなさそう?

>>電車魚さん(アイはもっとこう、無表情ながらも冷徹冷酷な悪人ヅラを考えてまして)
サイの性格って、ありふれてそうで独特なんですよね。子供らしい、無邪気ゆえの残酷さという
ことはなくちゃんと悪。冷酷クールな大悪党かといえば感情表現豊かでそこは子供っぽさあり。
身体能力に甘えてるワガママな子供、といえば外れてない気がする。故にアイが必須、かな。

>>サマサさん
城之内……ほんのちょっとだけ海馬に認められたとはいえ、鮮やかなやられっぷり。「主人公
到着まで何かを護って時間稼ぎ」や「主人公の為に敵に傷を」「弱点のヒントを」など何も無く、
ボコボコにされる暇すらなく助けられて離脱。ま、序盤は彼がほとんど主役張ってましたしね。

>>141さん
むぅ。無念ながら私は存じておりませんが大丈夫! 私なんぞは今まで、バキや修羅なんか
に絡めているというだけで、皆々様のご好意に甘えて推理小説や特撮やゲームや史実などを
題材に描かせていただいておりますれば。まずは一筆、お描き下されぃ。

あと、意外とBL作品は知りませんよ私。そっち方面は二次創作の方が妄想の翼を(以下略)
167作者の都合により名無しです:2009/02/04(水) 23:00:47 ID:q1srvbWU0
サマサさん乙。
城之内やっぱり負けたか。
でも一応、意地も見せたところで主役登場ですな。
ストーリー面では城之内のが遊戯より目立ってた分、
バトル面では譲っても良いか。
168作者の都合により名無しです:2009/02/05(木) 00:27:08 ID:XdeGK1Zx0
サマサさんのSSは好きだけど
遊戯王のカードバトルはなんか後だしじゃんけんに思える
だって後から強いカードや特殊能力カードがどんどん出てくるんだもん
いや、サマサさんのせいじゃなくて原作のバトルからなんだけど
169作者の都合により名無しです:2009/02/05(木) 01:17:43 ID:V3X9tNt4O
澪音の世界ネタでついニヤニヤしてしまいました
170作者の都合により名無しです:2009/02/07(土) 08:26:40 ID:mi+fviyl0
ドラゴンボール地上波アニメ化記念で
誰かまたDBもの書いてくれないかな、サナダムシさんとか
171作者の都合により名無しです:2009/02/07(土) 22:17:30 ID:agKJtfWe0
DB復活嬉しい
誰かマジで書いてよDBSS
172電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/02/08(日) 12:10:58 ID:L/V2+bff0
こんにちは。
例によってレスのみさせていただきます。

>>157さん
早坂兄弟は早坂兄弟でカッコイイし実力あるんですけどねー。
格が違うというより質が違うというのが私の見方です。それが伝わらないのは単なる筆力不足。
また原作でああいう形で葛西を出し抜いたように、シチュエーションさえ許せば
一泡ふかせるくらいのことは不可能じゃないでしょう。ただアイがいるとサイの弱点は
まるっとフォローできちゃうので、サイ単独のとき限定かな……

>>158さん
自分で書いといて何ですが、原作の早坂兄弟はもっと学習能力高いような気がします。
サイよりアイのほうが大物というのは言い得て妙かもしれません。少なくとも視野はより広いはず。
山月記は弟の高校時代の教科書に載ってたのを、興味本位で手に取って読んだらハマりました。
今はネットでも読めるみたいですね。便利な世の中になったものです。

>サマサさん
ありがとうございます。おかげさまで今はピンピンしています。
そう、肉体的戦闘がサイ、頭脳と精神がアイ。なにげにこの割り振り、実は早坂兄弟にも
あてはまるんですよね。サイアイは肉体派が「主人」で、早坂兄弟は頭脳派が「上司」であると
いう決定的な違いもありますが。
このSSに早坂兄弟が出てるのには、実はその辺の対比の狙いが含まれてたりも。

>>165さん
倒れてくる木材の下敷きになっても死にませんでしたからねーこの兄弟。
工場のドーンゴゴゴゴゴも葛西の燃え〜も生き延びた脅威の二人……
実は「早坂兄弟>>>>>>>強化細胞>>>>>>>弱体化ネウロ」なのでは……?
そうですやっと我鬼発見です長かったです。これでやっとモフモフの毛皮出せる!
173電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/02/08(日) 12:11:40 ID:L/V2+bff0
>ふら〜りさん(冷徹な悪人ヅラ。ブラックラグーンのバラライカやロベルタみたいな感じでしょうか)
幼く無邪気だからこその悪なら、成長するにしたがって次第に軌道修正していきますが、
確かにサイの悪人ぶりはその域をとうに越えていますね。改心するとこなんか想像できないし、
もし改心したらそれは既にサイではない。もっとおそろしい何かだ。
身体能力に甘えたわがままな子供という見方には私も賛成です。
一方で、傍にアイがいるからこそ彼は甘えた子供のままでいられるのかなとも。
確かにサイはよくあるキャラに見えてかなり独特なキャラですよね。
私も書いててたまに「この場面ではどういう行動をとるのか」が分からなくなります。
なんか違ってね? と思ったら容赦なく突っ込みいれてやってください。
174作者の都合により名無しです:2009/02/08(日) 12:24:59 ID:S4Gs6I+i0
多分電車魚さん、このコメントだけで1時間くらい使ってるだろうな
律儀な人だ
俺は>>157だけど感想より行数多い感想返しのコメントしてもらって
申し訳無く思う。文書くの苦手なんで下手で短い感想でごめんね
175電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/02/08(日) 15:15:00 ID:L/V2+bff0
>>174さん
お気になさらず、コメント返しが長いのは私が好きでやっていることです。
というより、普通に返したつもりでもついつい長くなってしまうというのが正解。
下手で短いなんてどうかおっしゃらないで。いつも本当に嬉しく思っているんです。
気が向いたらまた読んでやってくださいませ。
176ミスターモーニング:2009/02/08(日) 22:44:13 ID:etwRt6A50
 地球という惑星には、武力や暴力に頼みを置く者にとって、絶対に避けることができな
いビッグネームがいくつか存在する。
 通称ミスターモーニング。彼もまた格闘士に恐れられるビッグネームの一角であった。
 彼と対峙し、実際に死闘を繰り広げた人々の口数は少ない。
「もう二度とあいつとはやりたくねぇ」
「彼と立ち合うと、未知の世界を体験することになる」
「もし挑むんだったら止めときな、未来を失いたくなかったらな……」
 幼少から恐れ知らずで通ってきた百戦錬磨の猛者どもが、青ざめた表情で気弱にうなだ
れる。
 ミスターモーニング。果たして彼の正体とは──。

 私は強かった。
 生まれつき体格に恵まれ、ただでさえ強かった私が空手やボクシングをたしなむ。どう
いうことかは猿でも分かる。およそ素手同士の闘争において、私が敗北する要素が皆無に
なったということだ。
 事実、私は競技試合はもちろん、喧嘩でも無敗を誇った。小学校ではガキ大将、中学校
では番長として君臨し、高校中退後はトレーニングとバイトの合間に社会のはぐれ者相手
に喧嘩に明け暮れた。
 いつしか私の野心は膨れ上がり、街の喧嘩自慢といった程度では満足がいかなくなって
いた。
 かといって専門家(プロ)になる気はなかった。ルール無用の群雄割拠を勝ち抜いてこ
そ意味がある、と私は信じていた。例えるなら、水の中に砂糖を溶かし、ぐちゃぐちゃに
かき混ぜ、最後まで溶けずに残った一粒のような存在になりたかった。
 名を上げるには、有名人を叩き潰すのが手っ取り早い。
 私はミスターモーニングに目をつけた。

 ミスターモーニングへの手がかりは無いに等しかった。実在すら怪しいほどに痕跡が少
なく、ようやく戦ったことのある者を探し出しても、固く口を閉ざし、決して多くを語ら
ない。分かったことといえばせいぜい、中年であるということくらいだ。
 靴を何足か台無しにし、私はついに有力な情報にたどり着いた。今台頭している若き闇
社会のエリートが、ミスターモーニングと親交を持つという。
177ミスターモーニング:2009/02/08(日) 22:44:59 ID:etwRt6A50
「しっかし止めた方がいいぜ、兄ちゃん。素直に教えてくれるはずがねぇし、あいつァ喧
嘩も強ぇんだ。しかも容赦ってもんを知らねぇ」
 情報屋に汚い紙幣を何枚か放り投げ、私はさっそくエリートとやらの元へ向かった。
「よう……あんたが近頃、闇社会のエリートなんて騒がれてるヒトかい?」
「だったらなんだ?」
 背が高い。二メートル近くある。ダークスーツに身を包み、派手に逆立てた髪に暗く鋭
い眼光。まさに闇社会の申し子といった風体だ。
 表向きは新進の金融会社の若社長だが、裏では政財界、果てはヤクザとも太いパイプで
つながっているという噂だ。
「ミスターモーニングと戦いたい」
「死ぬぞ。あの人は紛れもなく地上最強だ」
「だからこそ、だ」
「だったら俺を倒してからにするんだな」
 エリートはスーツを脱ぐと、いきなり私に投げつけてきた。
 ──戦闘開始。
 私の視界を塞ぐスーツの上に、ハイキックが飛んできた。まともにヒット。とてつもな
い威力だった。
 続いて拳によるラッシュ。スーツの上からの打撃では、敵も正確に急所を狙えない。ガ
ードを固め、どうにか耐え抜くことができた。
 私はスーツを振り払うと、一気に接近し、アッパーで顎を打ち抜いた。
「がっ……!」
 ぐらついた二メートルの脇腹に、私は渾身のボディブローを叩き込む。勝負あった。
「ミスターモーニングのところに連れて行け」
「ちっ、仕方ねぇ……」

 ミスターモーニングは作業服を着た平凡な「おっさん」だった。呆気に取られる私を尻
目に、エリートが仲介に入る。
178ミスターモーニング:2009/02/08(日) 22:45:58 ID:etwRt6A50
「おいおいおい仲根、なんだよこいつは……! またかよ……!」
「ごめん、兄さんっ……! どうしてもっていうからさ……!」
「しかもミスターモーニングってなに……!?」
「いやぁ、レスラーやガロンキッズの撃退、あれからも色々あったけど、兄さんの伝説に
尾ひれがついていつの間にか……!」
「ふざけんなよ、もうっ……!」
 こそこそと私抜きでエリートと話し合ったあと、ミスターモーニングは私に向き直った。
「いいぜ……! やってやる……!」
 ようやく戦えると知り、私は身構えた。
「ちなみに俺はこれを使用(つか)わせてもらう……!」
 ミスターモーニングは手に持った茶色い塊を私の足元に放り投げた。
「こ、これは……まさかっ……!」
「こんなこともあろうかと携帯してる、朝の贈り物だっ……!」
 うんこだった。しかも犬や猫のではなく、れっきとした人間の排泄物。おそらく産地は
ミスターモーニング本人にちがいない。驚いて私が腰を引いてしまった瞬間を、彼は見逃
さなかった。
「行くぜっ……!」
「ひいいいいっ……!」
 地獄だった。
 私も多少の抵抗はしたものの、朝の贈り物に対しては哀れなほど無力だった。
 体中になすりつけられ、耳や鼻の穴、口の中にまでねじ込まれた。雑菌への恐怖と舌に
広がる未知の風味に発狂した私は、失禁と号泣とを伴って逃げ出した。生まれて初めての
敗北だった。
 あれからしばらくして、私を血気盛んな喧嘩自慢が訪ねてきた。
「アンタ、あのミスターモーニングとヤッたんだって……?」
「あァ……もう二度とやりたくねェ。あいつと戦うと、未知の世界を体験することになる。
もし挑む気なら悪いことはいわねぇ、未来を失うからやめときな」
 これ以上は語る気すら起こらない。
 
                                   お わ り
179サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/02/08(日) 22:48:02 ID:etwRt6A50
皆様お久しぶりです。
元ネタは最強伝説黒沢です。
180作者の都合により名無しです:2009/02/09(月) 06:52:00 ID:zL3LBZ+b0
サナダムシさんきた!
黒沢とはまたしぶいとこを突きますねw
しかもうんこと黒沢は相性がいいw
181作者の都合により名無しです:2009/02/09(月) 20:28:31 ID:CnJt41PY0
サナダムシさんが着てくれると安心するぜ
この「私」というのは漫画キャラではなく一般のケンカ自慢を表してるのかな
中根に勝つだけでもシコルスキーより強いな
182作者の都合により名無しです:2009/02/10(火) 07:09:05 ID:SIV5d4L10
うんこの読みきりもいいけど
やはりサナダさんにはなにか連載してほしいな
183作者の都合により名無しです:2009/02/10(火) 18:15:51 ID:85BDVAZE0
アニメ記念でDBものの連載をぜひ
184遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:14:15 ID:xZdZSsv00
第三十二話「死せる英雄達の戦い―――巨神VS究極竜」

オレは最強のはずだった。
『滅びのバースト・ストリーム!』
なのに何故。貴様は。
『怒りの業火―――エクゾード・フレイム!』
無敵であるはずのオレの、更に上を往く?
『憎しみを束にして重ねても…それは、脆い』
バカな。闘いとは、怒りと憎しみをぶつけ合うものだ。どれだけ貴様が奇麗事を言おうと、それは変わらない。
必ず貴様を高みから引き摺り下ろし―――それを、証明してやる。


「お兄様…皇帝様、大丈夫かな…」
女子供といった戦えない者が集まった避難所。遠く離れた戦場の様子を見守りながら、ソロルは不安げにフラーテル
の服の裾を掴む。
「心配いらないよ、ソロル」
フラーテルはその手に自らの掌を重ねて、微笑んだ。
「皇帝様は、あんなに強いんだもの…どんな奴が相手でも、負けたりするもんか」
そうだ―――あの方は、負けたりしない。だってあの方は、僕達の英雄なんだ。
例え相手が神様だって…絶対に、負けない。そう、信じている。

「これは…本当に、現実なのか…」
カストルは信じられずに、何度も目をゴシゴシと擦る。
「三つ首の竜に、天地を割る巨神…確かに、信じ難い光景ではあるな」
レオンティウスも硬い表情で、向かい合う闇遊戯と海馬を見つめる。
かつて旅の吟遊詩人が詠っていた。遥かなる古代、砂塵吹き荒れる遠い異国における、石板に封じられし魔物を自在
に操る魔導師達の闘いの年代記(クロニクル)。
眼前で行われる死闘は、まさにその再現だった。

巨神が、ゆっくりと剛腕を振り上げ、頭上で両手を組み合わせる。
「いくぜ、海馬!」
185遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:15:46 ID:xZdZSsv00
究極竜が大きく息を吸い込み、次なる一撃に向けて備える。
「頂点に立つのはオレだ、遊戯!」
そして、両者同時に仕掛ける!
「巨神の一撃―――ゴッドハンド・クラッシャー!」
闘気を纏い輝く両拳。それはまさに神の鉄鎚と化し、究極竜に向けて振り下ろされる。
「破滅の閃光―――アルティメット・バースト!」
三つの首から同時に放たれる破壊光線は集束し、一条の雷光と化して巨神を迎え撃つ。
巨神と龍神の力がぶつかり合うその瞬間、世界は恒星の如くに眩く輝いた。
「ぐっ…!」
「ぬぅっ…!」
火花を散らす二つの存在は、互いに微動だにしない。その力は、完全に拮抗していた―――否。
僅かながら…ほんの僅かながら、オベリスクの拳が押し返され始めていた。
「ブルーアイズよ―――今こそ神を越えろ!」
主の声に呼応し、究極竜が力強く吼える。オベリスクの肉体に亀裂が入り、バキバキと音を立てて崩れ始める―――
「くっ!ならば魔法カード発動―――<神の進化>!」
崩れゆくオベリスクを光が包み込んだ。眩い光の中、オベリスクの姿が変化していく。全身が更に分厚く盛り上がり、
表面に無数の紋様が浮かび上がる。
「<神の進化>の効果により、オベリスクは最上級神のランクを得た―――<真祖・オベリスク>!」
更なる力を漲らせ、巨拳が究極竜の吐息を押し返して突き進む。
「ちっ…!ならば<巨大化>で究極竜を―――!」
「させるか!<光の封札剣(ふうさつけん)>!」
海馬が発動させようと手に取ったカードを光の剣が貫き、大地に縫いつけられる。
「―――っ!」
「海馬―――お前はもう詰んでるぜ!」
(バカな…)
オレが―――オレのブルーアイズが―――神の前に―――屈する―――敗北する―――?
186遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:16:34 ID:xZdZSsv00
オベリスクの圧力の前に、究極竜の左右の首が砕け散る。残された首は、後一つ。それが消し飛ぶのももはや時間
の問題だろう。
(オレはまた…遊戯に負けるのか…?)
(オレは…)

<フフ…苦戦シティルネ、海馬…>
(!?)
突如、脳裏に響く声に、海馬は狼狽する。
<ソンナニ警戒シナィデクレ―――キミヲ助ケニ来タンダ>
(何だと…)
<本当ハネ。人間同士ノ闘ィニ手出シスルノハ善クナィシ、贔屓ハ我ノ主義デハナィノダケレド、キミハエレフヲ随分ト
助ケテクレタカラネ―――ダカラ>
ホンノ少シダケ、力ヲ貸シテァゲヨゥ―――

瞬時に、海馬の中に言い知れぬ力が流れ込んでくる。あらゆる感覚が人間の限界を遥かに置き去りにして鋭敏化し、
思考は光の速さで駆け巡る。
(これは…!)
<我ガ力ノ一片ヲ、キミニ与ェタ。ソシテ、ァノ白キ龍ニモネ…>
海馬は究極竜を見上げる。その巨体に、黒い霧の如き瘴気が纏わりついていた。それは究極竜の全身に吸い込まれ、
その白く輝く姿を黒く塗り潰す。
そして、頭部に刻まれる不気味な紋章。それは確かに<θ>と読めた。
<冥府ノ加護ヲ受ケシ龍―――青眼死神龍(ブルーアイズ・タナトス・ドラゴン)トデモ言ゥベキカナ?>
「ガァァァァーーーーーーーーーーーーッ!」
闇に染まりし白龍は咆哮と共に、膨れ上がった力全てを吐き出す。その吐息は、真祖と化したオベリスクをも一瞬に
して粉砕し、肉の一片・血の一滴まで蒸発させる。
「な―――!ぐふっ…!」
神を打ち破られ、身を引き裂くような苦痛が闇遊戯を襲う。がくりとよろめき、逆流した胃液を吐き出し、ただ愕然と黒き
青眼の龍を見上げる。
187遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:18:41 ID:xZdZSsv00
(海馬が何かした様子はない…一体、何が起こった…!?)
「遊戯!しっかりしろ!」
崩れ落ちかけた身体を城之内が支えるが、闇遊戯はそれにも気付かぬように海馬を凝視していた。城之内も、海馬を
睨みつけて叫ぶ。
「海馬…!テメエ、何をしやがった!?どんなインチキすればこうなるんだよ!答えろ、バカ野郎!」
海馬は何も言わない。彼はただ立ち尽くしていた。まるで、何者かの声に耳を傾けているかのように。
否。<まるで>ではない。海馬は今まさに、神の声を聴いていたのだ。
万物の死を司る、冥府の王の声を―――
<ォメデトゥ、海馬。キミノ勝利ダ。ァノ仔ニハ済マナィ事ニナッタガ、我トシテモ嬉シィ>
そこに秘められていたのは、心からの祝福。そして親愛なる友人が手にした勝利と、自らがそれに貢献できたことに
対する喜び―――だが、海馬はそれをよしとしない。
(黙れ、クズが…!)
嫌悪を隠そうともせず、海馬は神を罵倒する。
(貴様が何者かなど知らん…だが、例え貴様が本当に神だったとしても、貴様のような愚かな神によってもたらされた
勝利など、何の価値もない!オレ自身の全てを懸けて、遊戯を倒す―――それだけがオレにとって勝利と呼べるもの
だ!)
<海馬…気持チハ分カルヨ。感謝シロトモ云ゥマィ。ケレド、ァノママデハキミハ負ケティタ>
(失せろ!貴様の声などもう聴きたくもないわ!)
<…申シ訳ナィ。タダ、我ハキミノ誇リヲ傷ツケルツモリデハナカッタンダ。ソレハ解ッテホシィ>
それだけ言い残して、声は闇へと消えていった。海馬の身体から沸き上がる闇の力も消え失せ、人間のそれに戻る。
死神龍もまた、元の美しく白き姿を取り戻していた。だが、それで海馬の心が晴れるわけではない。
「おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇーーーーーーーーっ!」
その場の全員を震え上がらせるほどの怒号。
「オレと遊戯の宿業の闘い…それを邪魔しおって!駄神が愚神が汚神が卑神が腐神がぁぁぁっ!」
その時。ヒュン―――と風を切り、一本の矢が海馬の足元に突き立つ。海馬はようやく我に返り、正面を見据えた。
「ちっとは黙れ、このバカ皇帝が」
群衆の中から、矢を放った男が歩み出る。海馬は眼光鋭く、彼を睨んだ。
「貴様か…軽薄め!」
「軽薄じゃねえ。オリオン様だよバカヤロー」
一見軽い、しかし怒気を滲ませた声。オリオンは足を止め、海馬と向き合った。その時、彼の姿を見た奴隷部隊の中
の一人がオリオンを指差す。
188遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:19:57 ID:xZdZSsv00
「おい…お前、今、オリオンって言ったか?」
「ああ。それがどうしたよ」
「俺は知ってるぞ…お前、元々は俺達と同じ奴隷だったんだろうが」
「そうだよ。だから、それがどうしたんだってんだ」
「どうしたじゃねえ!元奴隷のお前がなんで、俺達に弓を向けるんだ!」
男は、泡を飛ばしながらオリオンを罵った。
「お前にだって分かるだろうが!俺達奴隷が、どんな扱いされてきたか!なのに何でお前はアルカディアの連中の所
にいるんだ!?」
「そ…そうだ!本当ならお前だって、俺達に味方するのがスジってもんじゃねえのかよ!」
「勇者だなんだ呼ばれてチヤホヤされて、奴隷だった頃の悔しさも忘れたか!?」
奴隷部隊の者達から、オリオンに対して悪罵の声が次々に上がる。
「結局お前だって自分が豊かになったら、俺達を苛める側に回るのか!」
「そんなに弱い奴らを虐げて楽しいのかよ、ええっ!?」
「皇帝様は俺達の救世主なんだ!それに弓を射るなんて、この裏切り者が!」
「裏切り者!」
「裏切り者!」
「裏切り者め!」
次から次に放たれる冷たい言葉の雨。城之内と闇遊戯は血相を変えた。
「お、おい遊戯…!」
「ああ。これはまずいぜ…」
しかし、そんな罵声や闇遊戯達を余所に、オリオンは怒号の中でも身動ぎ一つしない。そして、大きく息を吸って。
「黙らっしゃい、バカ共!」
罵倒全てが吹っ飛ぶような大音響に、皆が一斉に口を閉じて耳を塞ぐ。
「お前ら、自由を求めて立ち上がったっていえば聞こえはいいが、単に強い奴らの尻馬に乗って言いなりになってる
だけじゃねえか!こいつらは単に、お前らを体良く利用してるだけなんだよ!」
「う…ち、違う!皇帝様もアメジストス様も、俺達のためにアルカディアを倒そうとしてくれてるんだ!」
反論にも、どことなく力がない。オリオンはもはやそれを相手にせず、海馬を射抜くように見据える。
「海馬!言いたいことは山ほどあるが…それを大人しく聞いてくれるタマでもねえやな。とりあえずはボコボコにして、
無理矢理にでも聞いてもらうから覚悟しやがれ!」
対して、海馬は。
189遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/10(火) 21:41:24 ID:Yd7ZI69h0
「吼えてくれるな、軽薄が…だが、オレのブルーアイズも満身創痍だ。このままでは勝ち目が薄い…しかし!」
雄々しく叫びながら、海馬は一枚のカードを天に向けて翳した。
「光栄に思え…究極竜と並ぶ、ブルーアイズのもう一つの最強形態!それを貴様に見せてやろう!」
「―――!?」
究極竜の姿が、光の粒子となって散らばる。
「出でよ…光を纏いし、最強のブルーアイズ!」
光が再び集結し、光輝く翼を、爪を、牙を、聖なる龍の姿を形作る。
その翼は優雅に、されど力強く空を駆ける。
その爪は美しい曲線を描く、天地無双の剣。
その牙は陽光を受けて煌き、神の喉笛をも喰い破る。
その龍の名は―――
「これこそ、我が<青眼の白龍>最終進化系―――<青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)>だ!
ワハハハハハハハハハハハ!」
190サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/10(火) 21:43:04 ID:Yd7ZI69h0
投下完了。前回は>>163より。
とりあえず、社長はもうちょっとタナトス様にやさしくしてあげるべきだと。だってタナトス様、
本来の主義である<等シク愛デヨゥ>を捻じ曲げてまで社長を助けてあげたんですよ?
きっと相当の葛藤があったに違いないんですよ?そこんところ、社長はもうちょい考えて
あげるべきだと、自分で書いてて思いました。
多分今のタナトス様は、バキスレ史上でも3本の指に入るくらいに可哀想なラスボスです。

あと<神の進化>と<真祖・オベリスク>は外伝作品である遊戯王Rから、<青眼の光龍>
は劇場版遊戯王・光のピラミッドから。興味があれば是非どうぞ。
あと、なんで闇遊戯との闘いに光龍を使わなかったかは、一応理由があります。まあ大した
ことじゃないけど(多分)、ツッコミがあればお答えします。

>>165 社長にとっては、敗北よりも苦い勝利となってしまいました。

>>ふら〜りさん
あれでも社長との実力差を考えると、相当善戦させたんですよ…分かりやすく言うと、本部が
勇次郎に鬼の貌を出させるくらいの善戦です。

>>167 闇遊戯は日常パートだと活躍しないですからね。バトルは目立たせてあげたい。
>>168 僕はそれも含めて遊戯王という作品を楽しみましたが、うーん…確かに後付け酷いもんなあ…。
>>169 澪音の世界ならぬ、社長の世界…飼い主たる社長に白龍が語りかけるように小さく吠える世界。イヤだw

>>電車魚さん
確かに、早坂兄弟はサイ&アイの対比ですね。そうして読み直すと、また新しい発見がありそうです。
どこか違うけれど、何かが重なる存在という構図は好き。拙作でいうと、海馬とエレフがそれだったり。
191作者の都合により名無しです:2009/02/10(火) 23:50:47 ID:VsIjvb4W0
青眼の光龍なんてあったのか・・
サマサさん物知りだなあ
192作者の都合により名無しです:2009/02/11(水) 01:31:44 ID:/jPwp/9p0
海馬はなんとなく性格がベジータに似ているな。境遇も。
曲がっているけどある意味まっすぐで誇り高い。
原作はサラッと読んだだけだけど、ブルーアイズ対三幻神戦ってあったのかな?
うろ覚えだけどエグゾディア>三幻神>ブルーアイズ等、くらいだよね強さ。
193作者の都合により名無しです:2009/02/11(水) 10:24:43 ID:qsjv7XBU0
サマサさん乙。
社長はいつもハイテンションでうらやましい。
遊戯は神のカードを3枚持ってるからずるいな。
オベリスクは社長が持っているから映えると思うけど。
194ふら〜り:2009/02/13(金) 21:37:29 ID:2OPPF1ji0
>>サナダムシさん
>こんなこともあろうかと携帯してる
してるのか……って、それはともかく。こういうことなら、とりあえず不意打ち襲撃はないわけ
ですし、撃退実績も豊富な模様。ならば、ごく普通のサラリーマンの男性からしたら、これでも
ある種の憧れではないかと。組織力皆無、個人の力で裏社会までその名を轟かす強者、って。

>>サマサさん
劣勢になっても、劣勢ならではのカッコ良さを発揮してますな海馬は。強い自信、高い誇り。
がしかし、今回の彼を見てると「お前を倒すのはこの俺だ。他の奴にはやらせん」で結局は
味方になる匂いが。タナトス様可哀想発言からしても、最終的には海馬も参加でフルボッコ?
195作者の都合により名無しです:2009/02/14(土) 23:31:07 ID:7B+ulfzU0
語ろうぜスレも落ちちゃったよ
本格的に危ないな
196健康優良ドラゴン:2009/02/14(土) 23:35:09 ID:C26tkk390
 最近、神龍がよく死ぬ。
 殺されているのではない。屋内で呼び出されたため頭を打って死に、願いを叶える時に
力みすぎて死に、近くの農夫が撃った流れ弾が当たって死に、雷が直撃して死に、寒くて
死に、暑くて死に、呼び出したらすでに死んでいたこともあった。
 神には原因が分かっていた。
 龍の模型を作るポポの仕事がやっつけになっているためだ。
 ある日、神はポポに注意した。
「ミスターポポ、神龍のことだが、もう少し丈夫に作らんか」
 うなずくポポ。ポポはナメック星人の聴力で捉えられるかギリギリの音量で舌打ちする
と、作業を開始した。
「おい、今、舌打ちしたじゃろ」
「してません」
「いや聞こえたぞ、したじゃろ」
「してません」
「いやいやたしかに聞いた」
「してません。……ちっ」
「あっ、今したじゃろ!」
 こうしてポポのニュー神龍は完成を迎えた。

 あとは神がニュー神龍に命を吹き込み、ドラゴンボールを地上に散らせば作業は完了す
る。
「ポポ、今度は大丈夫じゃろうな?」
「はい、とても頑丈に作りました」
 すると──。
「早く命を吹き込めッ! 無事に球を地上に散らせッ!」
 突然の怒号に、あわてふためく二人。
「え、今のはおぬしか?」
「いえ、神様じゃなかったんですか?」
「失敗は許さんッ! 必ず成功させろッ!」
197健康優良ドラゴン:2009/02/14(土) 23:36:02 ID:C26tkk390
 またもや同じ声。神でもなければ、ポポでもない。となれば、もはや疑うべきはニュー
神龍しかいない。
「ま、まさか……ッ!」
「神様……!」
「何をモタついている、さっさと命を吹き込むのだッ!」
 模型に過ぎない龍から発せられる、強烈な雄度。創造主である神とポポですら、持て余
すほどだ。
 神は従うしかなかった。

 ──しもべに生命供給を強要される神。

 ニュー神龍の快進撃が始まった。
 ギャルのパンティを要求した、いやしき豚に一喝する。
「色を知る年齢(とし)か!」
 噴火間近の火山の近くに住む村民が、藁をも掴む心境でドラゴンボールを集め、ニュー
神龍に祈りを捧げる。
「どうか噴火を鎮めて下され……」
 神龍は地面にパンチを入れると、にこやかに笑った。
「もう、心配ねぇ」
 直後、噴火した。
 恋人と死別した若者が蘇生を頼むと、
「邪魔だな、この舌ベロ……。お、ひ、さ、し、ぶ、り、ね」
 亡骸を手で操って腹話術を披露する。
198健康優良ドラゴン:2009/02/14(土) 23:36:58 ID:C26tkk390
 ひどい時になると呼び出されてもいないのに天下一武道会に乱入し、実力がさほどでな
い選手の背骨を折り曲げることさえあった。
 しかも都合が悪くなると、「邪ッ」「シャッ」「エフッ」「しゃべりすぎた、帰るぜ」
などでごまかす。

 ある意味では、ピッコロ大魔王以上の脅威を地上に解き放ってしまった格好となった神。
ポポとともに模型の破壊を試みるが、ビクともしない。
「こうなったら、我々で神龍を殺すしか……」
「ダメじゃ、わしらでは勝てん」
「では、どうしましょう」
「うむむ……。カリンに相談してみるか」
 ある日、ニュー神龍はいつものように蛮勇を極めていた。周囲には幾人もの怪我人が転
がっている。
「せっかく神龍に会えたんだ。チョッと遊んでったらいいや……」
「何をするだァーッ!」
「ヒイィィィィッ!」
「鬼ッ!」
 暇だったので、自分を呼び出した人間たちに暴行を加えることにしたらしい。今、彼ら
が願いを告げるとするなら、まちがいなく「神龍をどうにかしてくれ」だろう。
 ニュー神龍の巨拳が人間たちに振り下ろされようとした瞬間、
「なにィ! 俺の拳が消えていく……いや拳だけじゃない、全身が……! まさか神のヤ
ロウ、老衰にでもなりやがったかッ!」
 さすがのニュー神龍も創造主が死んでしまっては生きてはゆけない。
 まもなく巨大な龍は跡形もなく地上から姿を消した。

 同時刻、神殿では死んだはずの神が息を吹き返していた。神、ポポ、そしてこの方法を
教えた武神カリンが笑った。
「武術の勝ち」

                                   お わ り
199サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/02/14(土) 23:39:20 ID:C26tkk390
題材はドラゴンボールです。
といっても、勇次郎神龍がやりたかっただけです。
200作者の都合により名無しです:2009/02/14(土) 23:58:28 ID:+eU4zyJjO
GJ!
相変わらずのキレの良さにほれぼれします!
…サナダさんの北斗の拳ネタとか見たいなぁ
201砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:01:27 ID:1i7R+qyU0
 二月も半ばにさしかかろうとしている幻想郷は、太陽が昇っているのにも関わらず、身を切るような寒さに満ちていた。
 たくさんの雪が地面に降り積もり、太陽の光を照り返して輝いている。
 雲ひとつなく澄み切った青天は、舞い上がればさぞ気持ちがいいだろう。
 途中、氷の妖精が楽しげに仲間の妖精達と戯れているのを見た。
 彼女ら冬の化身が元気に遊んでいるのなら、まだまだ春の訪れは遠いようだ。

 ――そんなことを思いながら、アリス・マーガトロイドは魔法の森の小道を歩いていた。
 白い吐息をつき、昨日うっすらと降り積もった新雪の上を、さくさくと耳によい音を立てて。
 いつもの服装に、マフラーを首に巻き、手袋をつけ、防寒対策はしっかりとして。
 それでもこの寒空の下を歩けば、すぐに頬が真っ赤になってしまう。
 ――が、彼女の頬が赤いのは、果たして寒さだけがその理由であったのか。

 歩くアリスの手には、綺麗に包装された紙箱があった。時折それを見ては「ふふ」と小さく笑みを漏らす。
 待ちわびていた日。今日の日付は、2月14日――
 いまアリスは、霧雨魔理沙のところへ、バレンタインチョコを渡しに向かっている。


 そもそも、アリスが魔理沙に好意を寄せるようになったのは、何時からか。
 春が失われた異変からか、永遠の夜が続く異変からか、それとも、もっと別の機会だったのか――
 ただ、気がついたときには、彼女を想う気持ちだけがあった。
 慌てることもなく、戸惑うこともなく、アリスは「ああ、わたし、魔理沙のことが好きなんだ」とあっさりと自分の気持ちを認めた。
 そのときから、魔理沙のすべてが気になった。いつも彼女の行動を目で追った。いつも彼女の傍にいたいと思った。
 ただ純粋に――アリス・マーガトロイドは、霧雨魔理沙に恋をしていた。
 そして、恋する乙女にとって、バレンタインデーは決して見逃すことの出来ない一大イベントだ。
 その大イベントで成功を収めるべく、アリスは一ヶ月前から綿密な計画を立てていた。
 紅魔館の大図書館でおいしいチョコレートの作り方のハウツー本を読み漁り、境界の妖怪に頼み込んで外の世界からチョコの材料を
調達し、魔理沙にチョコを渡す瞬間からその後の場面を何度も頭の中でシュミレートした。
 準備はすべて整った。あやまりも、穴もないはずだ。
 なのに――
202砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:14:18 ID:1i7R+qyU0
(――ああ、どうしよう)
 魔法の森の中にある魔理沙の家の前で、アリスは立ちすくんでいた。
 立てかけられた「霧雨魔法店」という看板の下には、雪を被った、何に使うのか不明ながらくたが転がっている。
 いつもなら「少しは片づければいいのに」と思うところだが、そういった心の余裕がいまのアリスには欠けていた。
(――すごいどきどきしてる)
 心臓の鼓動が止まらない。大きく騒々しい音が、耳で鳴り響く。
 失敗を恐れてか、それとも、チョコを受け取ったときの魔理沙の笑顔を思い浮かべて、この胸は高鳴るのか。
 ただ一つはっきりしているのは、過度に緊張して台無しにすることは、絶対にしてはならない、ということ。
 アリスは深呼吸した。何度も、何度も。冷たい空気は、アリスの頭と体の火照りを束の間おさまらせた。
 が、いつまでも抑え切れるとは思えなかった。
 昂ぶりがぶり返してくるまえに、アリスは扉を叩く。ノックの回数は、親愛を示す三回。
 しかし、いくら待っても、答えが返ってくることも、扉が開くこともなく、扉は沈黙したまま。
「魔理沙……?」
 もしかしていないのだろうか――少しだけ戸惑いながらも、アリスは再びノックをする。
 が、やはり答えはない。どうやら本当に不在のようだ。
「なんだ……」
 アリスは大きく溜息を吐いた。一人舞い上がっていた自分が恥ずかしい。
 ともかく、この家の主がいないのなら、いつまでもここにいても仕方がない。
 アリスは踵を返し、来た道を戻り始める。
 しかし、家にいないのなら、いったいどこに魔理沙はいるのだろう。交友関係の広い彼女がいそうな場所は、いくらでも思いつく。
 それこそ幻想郷中すべての人間、妖怪が友人と言っていいほどだ。
 彼女が毎日入り浸っている博麗神社の巫女、懇意にしてもらっている(?)らしい紅魔館の大図書館の魔法使い、妖怪の山の河童、
魔法の森にある道具屋「香霖堂」の店主……と枚挙に暇が無い。
「とりあえず、手当たり次第に探してみるしかなさそうね……」
 そう言ってアリスは、魔理沙を探すべく、空に飛び上がった――
203砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:15:34 ID:1i7R+qyU0
 だけど――
 どこにも彼女の姿は見つからなかった。
 魔理沙の友人や知人を訪ね、さらに範囲を広げ、彼女が普段行かなそうなところにもアリスは赴いた。
 でも、どこにいっても「いないよ」という言葉ばかり。そのたびにアリスの心は沈んでいった。
 次に行くところには、必ずいる――そう思うたびに、裏切られた。次第に足が重くなっていった。霜焼けで顔が真っ赤になった。
 身体も心もすっかり冷め切っていた。朝の胸の高鳴りはもうどこにもなかった。手の中にある紙箱の重さが、とても空しく感じられた。
 ひょっとしたら、自分は魔理沙に避けられているのかもしれない――そう思いさえした。
 そしてアリスは、

「――それで、またここに来たってわけね?」
「……うん」

 暖房がよくきいた博麗神社の部屋、こたつに入り、いつもの紅白の巫女服を着た博麗霊夢の前に座っていた。
 実はここに来るのは今日で二度目だ。普段魔理沙は博麗神社に入り浸っているため、いるとしたらここが一番可能性が高かったのだが、
日中に訪れた時、彼女の姿はなかった。
 でも、もしかしたら――と最後の希望に縋りついたアリスだが、結局は。
 神社にいたのは、こたつの上のみかんに手を伸ばそうとする博麗霊夢ただ一人。

「そんなに残念だった? 魔理沙がいなかったことが」
 少しジト目気味に霊夢はアリスを見た。
 神社に来るなりアリスが落胆の表情で自分を見たことを、少なからず根に持っているらしい。
「悪かったわよ……」
「まあ別にいいんだけどね」
 そう言って霊夢はみかんを頬張る。
「で、どうするの? また探しに行く? もう外、真っ暗だけど」

 霊夢の言うとおり、太陽はもう山の彼方に沈み、あたりには宵闇が満ちている。
 バレンタインデーが終わりを告げようとしている。
 魔理沙にチョコを渡せないまま。
204砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:21:51 ID:1i7R+qyU0
「……ううん。もう、いいわ。あれだけ探しても、見つけられなかったし……」 

 そういったきり、アリスは口をつぐんだ。
 霊夢は何を言うのでもなく、ただみかんを口に運ぶ。
 部屋の中に静寂が満ちる。時計の音がいやに耳に響く。
 長い沈黙が過ぎて――  

「私……馬鹿みたい」

 そう呟くアリスのまなじりには、涙が浮かんでいた。
 こんなに探しても、見つからないなんて――本当に自分は避けられているのかもしれない。
 こんなはずじゃなかった。こんなみじめな思いをするために、今日まで頑張ってきたわけじゃなかった。
 苦しい。こんな気持ちになるのなら――もう、諦めてしまおう。

「帰るわ」
 そう言ってアリスは立ち上がった。 
「いいの?」
 二個目のみかんに手を伸ばしながら霊夢が言う。

「ええ。もういいの」
「ふーん。チョコ、無駄になっちゃうわね」
「…………」 

 アリスはチョコが入った紙箱を見つめる。
 今日を楽しみにしていた記憶がよみがえる。
 一人で張り切って、舞い上がって。
 唇を噛む。これ以上、こんなもの見ていたくない。

「霊夢、よかったらこれ、あなたに――」
「いらないわ」
205砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:23:03 ID:1i7R+qyU0
 拒絶の言葉は素早かった。

「それ、魔理沙のために作ったんでしょ? どうして私が受け取らなきゃならないのよ」
「だって……」
「心配しなくても、そろそろ来るわ」

 三個めのみかんを剥きながら、霊夢はそう呟いた。
 それと同時に――玄関の方から、どたどたという足音が聞こえた。
 そして――

「邪魔するぜ! お、アリスじゃないか。こんなところで何してるんだ?」

 開け放たれた戸の先に――
 散々探し回った、そして見つけることが出来なかった――
 霧雨魔理沙が、立っていた。

「やっときたわね」
「おーす霊夢。やっとって、どういうことだ?」
「そこで固まってる奴に聞きなさい」 
「???」
 
 アリスは信じられなかった。
 魔理沙が、いま、目の前にいる。
 嬉しかった。でも同時に、怒りも感じていた。
 いままで――私があんなに苦労してあなたを探していた間――

「い、いったいどこにいたのよ! 私、ずっとあなたのこと――」 
「わたしなら一日中家にいたぜ」
「え」
206作者の都合により名無しです:2009/02/15(日) 00:29:14 ID:6tqFuoYB0
いや、東方は東方スレでやったらいいんでないの
207砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:35:07 ID:1i7R+qyU0
「アリスはあんたの家にいったみたいだけど?」
「本当か? すまんすまん。なんせ今日一日、これ作るので忙しかったからな」

 といって、魔理沙は背後から"なにか"を引きずり出した。
 それを目にしたアリスと霊夢は、驚きに目を丸くした。
 二人の視線の先にあったのは――
 ぱんぱんに膨れ上がった、人間一人くらいすっぽり入るほど巨大な袋だった。

「なに……それ……」
「チョコレートだぜ」

 魔理沙の言葉にさらに驚く二人。
 その膨らみ具合から、中に入っているチョコレートの数は、おそらく三桁に届くだろう。あまりに常軌を逸している。

「そんなにたくさん、いったい誰に贈るの?」
 いち早く驚きから回復した霊夢が尋ねる。
「もちろん、幻想郷のみんなに、だぜ」
 量も量なら、発想もたいがいだった。霊夢はあきれ果てて何も言えなかった。 

「普段からいろいろと世話になってるからな。ささやかながらその感謝の気持ちを、私なりに全力で贈らせていただく、ってことさ。
ということで、」
 魔理沙がアリスの手を掴む。伝わってくるぬくもりに心臓が跳ねた。
「ちょっとつきあえ、アリス!」
「な、何に?」
「決まってるだろ。バレンタインデーチョコを配りに、さ」
「え、ええ?」
 戸惑うアリスに構わず魔理沙は、その手を強引に引っ張っていく。
「ちょっと考えがあるんだよ。てことで、霊夢も楽しみにしてろよな!」
「よくわからないけど、あんまり期待しないで待ってるわ」
 ひらひらと手を振って、部屋を出て行く二人を送る霊夢であった。
208砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:36:24 ID:1i7R+qyU0
「さすがに寒いぜ」

 ぶるる、と魔理沙は震えた。無理もない。いま魔理沙は、幻想郷の上空を飛んでいるのだから。
 アリスはその背中を見つめながら、同じ箒の上に乗っている。
 空は地上よりも遥かに寒かった。
 防寒をきちんとしてきた自分でさえそう感じるのだから、いつもの黒白の魔法使い服のままの魔理沙は相当堪えるだろう。

「家を飛び出したとき、うっかり忘れちまったんだよ」
「まったくもう。ほら、私のマフラー貸してあげる」 
「お、サンキュー」

 差し出されたマフラーを首に巻く魔理沙。それだけで寒さが凌げるわけがなかったが、何も無いよりはましだろう。

「それはいいとして――どうしてチョコを配るために、こんなところにきたのよ」

 てっきり知り合いを直接訪ねてチョコを渡すのかと思ったのだが、魔理沙が目指したのは幻想郷の上空。
 しかもこうして話している間も高度を上げている。わざわざそうするだけの理由が見つからなかった。

「だから言っただろ。ここからチョコを届けるんだ」
「え?」
「さて、このくらいの高度で十分だな。ま、いいから見てろって」

 そう言って魔理沙は、ポケットから一枚のカードを取り出した。
 アリスはますますわけがわからなくなった。
 スペルカード――"弾幕ごっこ"で使うそれが、何故いま必要になる?
 だが魔理沙は自信に満ちた笑みを浮かべ、箒の上に立ち上がり――

「じゃあいくぜ」
209砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:37:26 ID:1i7R+qyU0
 ――魔符「スターダストレヴァリエ」

 魔理沙の詠唱が、カードに秘められた魔力を開放する。
 大小さまざな星達が二人の周囲に生まれた。その数は数え切れないほどだ。
 あまりの光量にアリスは思わず目を瞑った。
 たくさんの星は目が眩むほどの輝きに満ち、まるで光の洪水の真っ只中にいるかのよう。

「これで準備は整ったぜ。それじゃあ――いけえ!」

 魔理沙の号令にあわせ、袋の口から、たくさんのチョコレートが飛び上がった。
 浮遊するそれらはきらびやかな光を放つ星の背に降り立った。
 そして、チョコを背負った星達は、流星と化した。
 淡い光跡を残しながら、夜空を飛翔する。
 長い尾を引いていく星達は光の大河となりながら、地上に落ちていく。
 スペルカードの名――まさに星屑(スターダスト)の如く、チョコを乗せた流星は幻想郷の夜空を鮮やかに彩った。

(きれい――)

 アリスはその光景を陶然とした面持ちで見ていた。
 スペルカード――魔符「スターダストレヴァリエ」で星を生み出し、それに大量のチョコを乗せて一気に届ける。
 これが魔理沙の思惑だったのだ。
 おそらくいま幻想郷の住人は、星とともに落ちてきたチョコに度肝を抜かれていることだろう。
 なんとも魔理沙らしい、常識に囚われないチョコの届け方だった。

(けれど――)

「なんとか間に合ったぜ。はは、人間やればできるもんだな」

 安堵の息を吐いて、魔理沙は「うーん」と全身を伸ばした。
210砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:38:26 ID:1i7R+qyU0
 光の大河はまだ途切れないで二人の周りを流れている。
 すべてのチョコが行き届くまで、まだ時間はしばらくかかりそうだ。

「あれ、ちゃんとみんなのとこに届くの?」
「たぶんな。あんまり調整に時間かけられなかったが」
「ふーん」
「なんだよ。なんか言いたげだな」
「別に」
 アリスはそっぽを向いた。

(たしかにきれいだったわ。でも――)
 いま魔理沙に自分の顔を見られたくなかった。
 きっと、ひどい顔をしているだろうから
(私には、渡してくれないのね)

 みっともない嫉妬をしているとアリスは自覚した。
 けれど、けれど――
「……」
 顔を背けるアリスをしばらく見つめて――魔理沙は苦笑いを浮かべた。
「なんか勘違いしてないか?」

 そう言って魔理沙は、アリスの顔に向かって、紙箱を差し出した。

「アリスには一番世話になってるから、直接渡そうと思ったんだ」
「……」
「ん、どした?」
「な、なんでもない。う、うん、ありがとう……」
「あいよ」
211砂糖菓子の流星:2009/02/15(日) 00:39:30 ID:1i7R+qyU0
 真っ赤になって俯くアリスを見て、魔理沙は笑った。
「これでバレンタインも終わりだな。いや、無事に終えられてよかったぜ。んじゃ、帰るか」
「あ……」
 ここでアリスは思い出した。まだ自分がチョコを渡していないことに。
 
「あ、あの!」
「ん?」
「すっかり遅くなっちゃったけど――そ、その。はい」
 アリスは差し出す。チョコレートの入った紙箱を。
「――いやあ」
 帽子のつばをわずかに下げて、魔理沙は言った。
「もらう側になると、なんだか照れるぜ。ありがとな」
「こっちこそ」

 そう言って、二人は互いに微笑みあった。そして箒を地上へと向ける。
 まだ地上へ降り注いでいる流星たちを見て、アリスは思う。
(いろいろあったけれど――避けられているのかとも思ったけど、そんなことはなさそうだし――ともかく、
あなたにチョコ渡せてよかったわ)
 急に疲労感が襲ってきた。眠気がアリスの瞼を閉じようとする。
「魔理沙……ちょっと寝てもいい?」
「安全第一に全力全開の速度で地上に向かうから、安心して寝てくれ」
「うん……」
 魔理沙の背に身体を預け、アリスは寝息を立て始めた。

「……まさか用意してないのかと思ったけど、そんなことはなくて、よかったぜ」
 アリスが寝たのを確認して、魔理沙は呟いた。
「来年も楽しみにしてるぜ、アリス」
 少しだけ頬を紅く染めて――魔理沙は背中越しにアリスに語りかけた。

<了>
212ハシ ◆jOSYDLFQQE :2009/02/15(日) 00:56:57 ID:Zmcr8hgJO
というわけでバレンタインデーSS「砂糖菓子の流星」でした。
本当は漫画・ゲーム・小説を題材にしたバレンタイン連作SS企画を予定していたのですが……結局間に合ったのはこれだけ。
ってか、間に合ってすらいませんね。もうしわけないです。
それからロンギヌスの方に感想をくれた皆様には、次回のロンギヌスの投下のときにお返事を、ということで。

>>206さん
東方は一応漫画として出てるけど微妙かなあと思ったのですが、せっかく完成させたのだし投下してみることにしました。
ですが仰るとおりでもあるので、今度からは気をつけます。
213作者の都合により名無しです:2009/02/15(日) 11:01:08 ID:wGc7m8pE0
>サナダムシさん
こそっとジョジョネタも混ぜてるところが芸が細かいw
しかしよくこんなネタを思いつくな。神龍勇次郎とかw

>ハシさん
いや、この状況で力作SSを投下してくれるのは嬉しいですよ。
東方は知らないけど、バレンタインのほのぼのした雰囲気がいい。

バレンタインなんて俺には関係ないけどね・・
214作者の都合により名無しです:2009/02/15(日) 13:38:02 ID:b9d2Yh680
バレンタイン連作SS企画は見たかったですね。
この一作でも勿論十分ですが。
アリス・マーガトロイド・霧雨魔理沙という名前で
百合百合なSSと思ってたんですが(本ネタ知らないんで)
読んでみたらその通りでちょっと笑ったw
いや話自体はきれいに纏まってて良かったですがw

215作者の都合により名無しです:2009/02/15(日) 16:21:50 ID:ShoF8CyC0
サナダムシさん本当に上手いな
この世のどこにシェンロンを勇次郎に見立てる人間がいるのか
オチも素晴らしい


ハシさんもこの季節ならではの企画SSですな
ほの甘い感じの作品ですな、バレンタインだけに
216作者の都合により名無しです:2009/02/15(日) 23:22:15 ID:xNjxYfEK0
バキスレの危機を救うためにサナダムシさん、ぜひドラゴンボール物の連載を!!
217ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2009/02/15(日) 23:39:03 ID:tzmTUfYB0
誰も東方知らないようなので、パチュマリあるいはフラマリ派の俺が感想を

普段は死ぬまで借りとく=盗むが身上の魔理沙が贈り物をするというのは面白いシチュだと思いました。
一方、バレンタインに右往左往して勝手に気をもむアリスは、まさしく都会派(笑)ですね。
パチェやフラン、にとりではこういう役どころは難しいでしょうから。
スターダストレヴァリエの使い方も面白いです。つーかこれ、クリスマスネタのほうが向いてるのでは?w
まあ無駄に全力投球なのが白黒なので、派手にチョコばら撒くのも魔理沙らしいと思います。

ホワイトデーはスキマ妖怪と脇巫女でお願いします。ゆかれいむが俺のロードなので。
218作者の都合により名無しです:2009/02/16(月) 00:41:19 ID:rGSgB0nu0
ハロイさんきた!
感想だけでも来てくれてうれしいよ
219作者の都合により名無しです:2009/02/16(月) 20:10:25 ID:7aW5Mvl50
ハロイ氏が来てくれたのは嬉しいが、
感想が解らない単語ばかりで愕然w
次は是非シュガーハートやヴィクテムなどで登場を。
220遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/16(月) 22:37:40 ID:u9lag56B0
第三十三話「死せる英雄達の戦い―――御子は星屑の矢で龍を射る」

陽は傾き、黄昏が世界を包む。その輝きを反射し、光の龍は静かに佇んでいた。
「シャイニング・ドラゴン…!」
闇遊戯達の肉体と精神を貫くのは未だかつてない戦慄と威圧感。
「そう…究極竜が攻撃に特化した姿ならば、光龍は万能型だ。破壊力こそはやや落ちるが―――」
その瞬間、煌きだけを残して光龍の姿が消えた。
「―――スピードはその比ではないぞ!」
「―――!」
本能に突き刺さるような恐怖に、オリオンは素早く後ろに飛び退く。次の一瞬で胸元が真一文字に切り裂かれ、血が
吹き出す。鋭利な翼を血で濡らした光龍が、頭上で嘲笑うように牙を剥いていた。
「ほお…首を落としてやるつもりだったが、上手く避けたものだ」
「ちっ…!あの図体で、なんつー速さだ!」
怪我や出血そのものは大したことはないが、光龍の動きを捉え切れなかった事実にオリオンは慄然とする。
(こりゃあ…やべえぞ!)
「フ―――ならばこれはどうだ!」
光龍が天高く舞い上がり、全身が熱を帯びて発光する。そして放たれる、聖なる息吹―――
「光の中に消えろ!白熱の閃光―――シャイニング・バースト!」
「うお、まぶしっ…!」
白く輝く吐息が、大地を灼く。寸前で空中に飛び上がり、それを逃れたオリオンだったが、その眼前には既に光龍が
迫っていた。
「ガハァっ!」
翼から発生した衝撃波で地に叩き伏せられ、苦痛に呻く。光龍は這い蹲ったその姿を見下ろし、咆哮する。あの一撃
を、もう一度見舞うつもりなのだ。
「まずいぜ、遊戯!このままじゃオリオンがやられちまう!」
「くっ…確かに、奴は強すぎる!」
その闘いを見守る闇遊戯と城之内も、焦りを隠しきれない。
「あのスピードで、自由に空を飛び回れるなんざ反則だぜ…せめて、こっちにも翼がありゃあ…!」
「翼…?そうか!」
221遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/16(月) 22:38:33 ID:u9lag56B0
闇遊戯は素早くカードを抜き出し、即座にその効果を発動させる。そして光龍がその吐息を以って、大地を再び鳴動
させた時、オリオンの姿はそこにはなかった。
「ワハハハハハ!あの世で誇るがいい―――このオレの栄光のロード、その礎となれたことをな!」
「誰がんなことで誇るか、バカ野郎!」
勝ち誇る海馬に対し、今しがた跡形もなく消し飛ばしたはずのオリオンの声が響く。
「むっ!?」
天を仰いだ海馬の目に映ったのは、黒き竜に跨って弓を構えるオリオン。その姿はまさしく、竜を駆りて戦場を舞う
流麗にして苛烈なる騎士―――
「バカな…あれは、レッドアイズ!」
「そう―――<死者蘇生>でレッドアイズを蘇生させて、オリオンと<融合>させた!名付けて―――
<黒竜騎士オリオン>!」
「へへ…助かったぜ、遊戯!」
黒竜の背からVサインを送るオリオンに、闇遊戯も親指を立て返す。
「なに!?…そうか、遊戯。貴様の仕業か!」
忌々しげに闇遊戯を睨み付ける海馬だったが、すぐさまオリオンに向き直る。
「まあいい。貴様がどれだけ小細工してやったところで、あの軽薄など我がブルーアイズの敵ではないわ!すぐさま
教えてやろう―――奴はただ、苦しむ時間が増えただけだということをな!」
「減らず口ばっか叩きやがって…このオリオン様があんな下等生命体に負けてたまるかっつーの!」
ガウ、とレッドアイズが抗議する。竜に対して下等生命体とは何事だと言いたいようだった。
「あ、いや、お前は違うよレッドアイズ。オレが言ったのはつまりほら、敵に対する挑発というか…」
言い訳しようとするオリオンの頬を烈風が掠める。光龍が翼をはためかせ、目にも止まらぬ―――否、目にも映らぬ
速度で突進してくる。
「くそっ…レッドアイズ、頼むぜ!」
任せろと言わんばかりに一声鳴いて、レッドアイズが空を舞う。光龍の突進をかわして、その背に向けてオリオンが
矢を放つが、硬質の肉体に阻まれて表皮一枚を貫くだけに終わる。
「何を喰ったらあんな身体になるんだよ…」
呆れつつ、オリオンは懐から一本の矢を取り出す。星の光を宿したかのようにうっすらと発光する<星屑の矢>。
星女神(アストラ)より授かりし、神の力が秘められし聖具。
222遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/16(月) 22:39:28 ID:u9lag56B0
「頼むぜ、星女神様…くっ!」
再び光龍の攻撃がオリオンとレッドアイズを襲う。苛烈な攻めに、完全に防戦一方に追い込まれていた。
「ダメか…全く隙がねえ!」
このまま闇雲に撃ったところで、そうそう当たってくれるとは思えない。星屑の矢が四本しかない以上、無駄射ちは
できない。
「どうにか、あいつの気を逸らすことができれば…ん?」
ふと気付くと、レッドアイズが首をもたげてオリオンを見つめていた。その真紅の瞳に、確かな決意が見えた。
―――後は任せた。
そう言っているようだった。
「レッドアイズ、お前…うわっ!」
勢いよく翼を広げてオリオンを振り落とし、レッドアイズは光龍に真正面からぶつかっていく。
「レッドアイズ!」
地上から、城之内が痛切に叫ぶ。余りにも無謀すぎる特攻―――その意味するところは一つ。
「あいつ…オリオンのために、捨て駒になるつもりなのか!」
そして、誰もがそれを見た。光の龍の吐息の前に、黒き竜が塵と化して朽ち果てる瞬間を―――
それは即ち、光龍が完全に無防備になる一瞬!
(すまねえ、レッドアイズ…お前の覚悟、無駄にはしねえ!)
オリオンはぐっと奥歯を噛み締め、宙に投げ出されながらも器用に弓を引き絞った。そして今放たれる、白銀に輝く
星屑の矢―――
「フ…残念だったなぁ!罠カード発動!<闇の呪縛>!」
虚空より次々に現れる、黒く輝く鎖。それはオリオンの身体に蛇のように巻きつき、食い込む。
「う…なんだ、こりゃあ!」
「クク…<闇の呪縛>は、暗黒の鎖によって敵の動きを完全に封じる!」
海馬の声と共に、態勢を立て直した光龍がその翼を大きく広げる。その全身がパチパチと火花を散らし、周囲の大気
すらも蒸発させていく。
「全てを焼き尽くせ!灼熱の閃光―――シャイニング・フレア!」
放たれた吐息は、地獄の爆炎。その炎は赤く、紅く、緋く―――
彼の全てを焼き尽くすまで、消えはしない。
223遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/16(月) 22:40:37 ID:u9lag56B0
「うあぁぁぁぁーーーーーっ!」
断末魔の悲鳴を残し、オリオンが炎の中に呑み込まれていく。
「オ…オリオン…!オリオーーーーーーーーーーン!」
(そんな…オリオンが…!)
絶叫する闇遊戯。その裡で、茫然とする遊戯。
「ワハハハハハ―――!」
高笑いする海馬。そして―――
「…まだだぜ」
そう呟く城之内。その手に握られた、一枚のカード。
「罠カード発動―――<時の機械・タイムマシーン>!」
「!そのカードは!?」
驚愕する海馬。そして灼熱の炎が消え去った時、そこにはカプセルのような形をした、奇妙な機械があった。
「このカードはモンスターがやられた時に発動させることでそいつを過去から呼び戻し、復活させることができる。
つまり…」
カプセルの扉がギ・ギ・ギと音を立てて開いていく。そこから現れたのは黒き竜と、それに乗った美しき射手。
「―――完全な姿で<黒竜騎士オリオン>が蘇るぜ!」
言い終わると同時に、レッドアイズが黒炎弾を放つ。完全に虚を突かれ、光龍は火球をまともに受けて吹っ飛ぶ。
「…全く、苦労させられたぜ…だが、これで終わりだ!」
オリオンが再び、弓を引き絞り。
「オリオン流弓術・新必殺―――<月を抱いた十字の焔・茨(いばら)を巻きつけて>射ち!」
そして放たれた星屑の矢は一際眩く輝き、世界は銀色に染められた。
矢はそのまま光龍の喉元に突き立ち、更に強く煌く。
それはまさに、超新星の生誕の如く。
光より生まれし龍は、より強き光の中で、静かに消えていった―――
224サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/16(月) 22:54:06 ID:DkqSN5uI0
投下完了。前回は>>189より。
いやあ、今回は一回完成したあとで保存し忘れて、丸々書き直しという惨事に…はあ。
それはそうと、テイルズオブハーツがおもろい。ストーリーはいつもの厨ニ病テイルズである意味安心ですが、
キャラクターが皆すごくいい。とりあえずベリルは僕の妹にするから(敢えて嫁にはしない)手出しすんな。
妄言はともかく、レス返しいきます。

>>191 オタクなだけですw
>>192 ベジータ系のツンデレですしねw強さランクは大体合ってる…けど、個人的には青眼は三幻神と
     同等以上と思いたい。
>>193 まあ、一枚でも卑怯としかいえない性能ですしね。オベリスクは確かに<社長のカード>という
     イメージです。
>>ふら〜りさん
なんつーかもう、アンタ予言者?ってくらいに先の展開言い当てすぎですw社長もまあ、殺る気は満々
だし悪人だけど<邪悪>じゃないので(単行本5巻までの彼はまさに悪の権化でしたが)。

>>ハシさん
一番好きなババア(敬称)が出なかったのは残念ですが、いいマリアリを見れて満足です。
そういやニコニコ発祥の某RPGだとこの二人、遊戯・社長と競演してたな…。知らなかったらすいません。
次は是非ババア(敬称)を…あれ?僕の目の前に隙間が
225ふら〜り:2009/02/16(月) 23:10:36 ID:cQMXNiEF0
>>サナダムシさん
神龍と勇次郎。発想はメチャクチャなのに、双方の設定をきちんと踏まえて纏めてしまうのが
毎度ながら流石。原作の「武の勝利」はどうにも納得できませんが、本作でのこの勝ち方は
知恵比べものの童話的(北風と太陽など)で面白いです。神&ポポの役立たなさも原作忠実。

>>ハシさん
ハイスピード血みどろバトルの達人たるハシさんですが、これは乙女ちっく且つメルヘンちっく
で良いですな。現実世界も、本作世界も寒いのに、読んでると実に暖かい。高揚に始まって
焦り、落胆、失望、一転して幸福。恋敵などがなくても揺れる恋心、読み応えありましたっ。

>>サマサさん
久々かつ思いっきりハデなオリオンの見せ場! 城之内も支援で活躍できましたし、主人公
たちが傷つきつつ力を合わせて強敵に打ち勝つ……これぞ少年漫画バトルです。また、強敵
=海馬が戦力以外の面でも印象強く魅力的だから、戦うヒーローたちも強く輝いて見えます。
226作者の都合により名無しです:2009/02/16(月) 23:52:13 ID:7aW5Mvl50
お疲れ様ですサマサさん。
ブルーアイズを駆る社長は輝いてましたが
結局最後まで1にはなれない感じですなw
227作者の都合により名無しです:2009/02/17(火) 07:09:44 ID:snVQ4yIT0
オリオン美味しいですなあ
社長は遊戯にだけは勝てないから社長らしくもある
228作者の都合により名無しです:2009/02/17(火) 22:30:02 ID:rF2YJYVo0
サマサさんとハシさんは好調でうれしい
あともう2人くらいコンスタントにうぷしてくれる人がいればな
229作者の都合により名無しです:2009/02/18(水) 19:20:58 ID:wa09ezsI0
さいさんのサイトが復活してるな
ブログは無いけど
230スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2009/02/20(金) 02:58:08 ID:0rj3seup0
第090話 「まひろと秋水、悩む」

「秋水先輩、空気ってどう読めばいいのかなあ?」
「君はいきなり何をいっているんだ?」

 ゆらっと扉を開けてしょんぼり佇んでいる。
 秋水の病室へやってきたまひろは正にそんな状態だった。
 幽鬼のごとく部屋に入るなり、閉じたての扉の前で一歩も動かず秋水を眺めている。
 グっと太眉の下がった困惑満面はもはや見慣れた感がある。何かといえばこの顔だ。.しかしどうであろうこの眉毛の明瞭
さは。古来「目は口ほどに物をいう」というが、まひろの場合「眉毛は目ほどに物をいう」のかも知れない。
(というか、そういう話の切り出し方は困る)
 病室へ見舞いにくるなり「空気ってどう読めばいいのかなあ?」は如何なものか。質問それ自体がすでに空気を読めてお
らぬ。ヴィクトリアがこの場にいれば「いきなりそういう質問をしなければいいのよ」と冷笑混じりに茶化すだろう。秋水はた
だただ物言いたげにまひろを眺めるだけだが、心情としてはヴィクトリアとあまり変わりがない。

──9月7日。夕方の一幕である。

 秋水が総角主税を下してから数日。目下まひろは彼を見舞うのが日課となっている。
 で、今日もやってきたと思ったら開口一番空気の読み方を聞いてきた。

(マイペースだなこのコは)

 ベッドサイドテーブルにズラリと置かれたハンバーガー類(いうまでもなくロッテリやの物である。病院食では物足りないだ
ろうというコトで毎日まひろが買ってきてくれている)を眺めながら、秋水は嘆息した。
 ベッドの傍でまひろは慌ただしくポテトを食べている。聞けば空気の読み方を考えるのに必死で朝から何も食べていなかっ
たらしい。勢いたるや凄まじい。瞬く間にLサイズのポテトが空になり、チーズハンバーガーが一口で呑まれ、ロースカツバー
ガーがさくりと食い破られる。まるで絶食三日目の子犬がドッグフードを見つけたような有様だ。咀嚼のたび「まぐまぐ……がっ
がっが」と名状しがたい声が漏れるのはまだいい方で、声と共にパンくずや肉片がぽろぽろとこぼれていく様は秋水に軽い
頭痛を覚えさせた。後で誰が床を掃除するというのか。掃除しきれぬ場合誰が医師や看護士に怒られるというのか。悩み
231永遠の扉:2009/02/20(金) 02:58:50 ID:0rj3seup0
間にもまひろの口周りはケチャップやソースなどの混合液でベタベタになっていく。しかし毎日ハンバーガーを買ってきて貰っ
ている立場上、あまり強く礼儀作法を注意できぬ秋水でもある。難しげに眼をつぶると、ごくごくつまらないありきたりの言葉
を差し向けた。
「もうちょっと噛んで食べた方が……」
「ぶぐっ! げほ! げほ!」
 遅かった。異常な音に目を開くと、涙目で必死に胸を叩くまひろが飛び込んできた。一気呵成にかきこんだ様々な食べ物
が咽喉に詰まったのは明白すぎるほど明白である。
「……慌てて食べるからだ」
 やれやれと秋水はコーラのカップを差し出した。透明な蓋の奥で揺れる黒い水面が魅惑的に映ったのだろう。汚れた唇は
迷いなくストローを咥え込み勢いよく吸い出した。

「あ、ありがとー」
 まだちょっと苦しそうに喘ぐまひろの口を拭きながら、秋水は暗澹たる思いになりかけていた。
(こういうのは苦手なのだが)
 本当はまひろ自身に拭いて貰いたくてペーパーナプキンを差し出した。だがまひろの手は一連の食事によってベタベタに
汚れきっていた。その状態で拭けば却って口周りが汚れかねぬほど汚れていた。「お、お手洗いで洗ってくるから!」という
提案も飛び出したが、それを飲めばまひろは口周りをソースで汚しきっただらしない姿を様々な人間に見られる羽目になる。
それを見逃せる秋水ではない。結局拭く羽目になった。
「……えーと」
 秋水の手が離れると、まひろは軽く俯いた。異性に口を拭かれるのはやはり照れ臭かったのだろう。
「ハンバーガーの包み入れてた袋でまず私の手を拭いてから、口拭けば良かったね……」
「…………そうだな」
 全身が情けない脱力感に支配されるのをありありと実感しながら、まひろの指さす袋へナプキンを放り込んだ。
「あ、ゴメン! ちょっとだけ部屋を出るね」
 まひろは何故か突然立ち上がって大慌てで退室した。と思ったら一分も経たぬうちに戻ってきたからまったくワケが分か
らない。
 再び着座したまひろは気恥しそうに秋水の瞳をじーっと覗きこんだ。見られた方は訳が分からない。疑問符を視線に乗せ
て投げかけると、彼女は観念したように肩を震わせ呟いた。目線はすっかり下を向いている。
232永遠の扉:2009/02/20(金) 03:00:15 ID:0rj3seup0
「ほら、コーラって炭酸でしょ? だからその、一気に飲んだりしたら、……炭酸が、ね」
 柔らかな頬が桜色に染まるのを見て秋水はようやく退室の理由を知った。同時に「だがあの食事の仕方は見られても良
かったのか?」という疑問も浮かんだが、異性に見られたくない一線の基準は人それぞれ。あまり追及するのも無礼だろう。
 よって秋水は曖昧な表情を浮かべつつ話題を変えた。
「で、どうして君は空気の読み方を俺に聞いたんだ?」
 どんぐり眼が心底不思議そうに瞬いた。
「空気……? 何のコト?」

 少し泣きたい気分で秋水は五分ばかりまひろを説得した。苦労の甲斐あって記憶は取り戻された。

「色々ごめん。でね、空気の読み方を気にしたのは。びっきーを、たこに似ているっていっちゃったせいで……」
「……たこ?」
 はて、と秋水は首を捻った。
 少なくても戦団から聞く限り、ヴィクトリアは人間型ホムンクルスである。肉体的にはたこと共通する部分はない。
 容貌も目鼻立ちの整った欧州少女という態だ。上部丸く足禍々しい悪魔の魚とは似ても似つかわない。
「変な話なんだけど、ほら、びっきーの髪って筒で幾つかに分かれてるでしょ?」
 秋水が自らの眉毛をツルリと撫でたのは、まひろのごとき変化をそこに求めたからである。もっとも表情硬き男であるか
ら何もない。ないが、そういう動作をついつい行ってしまうほどに感情は揺れていた。
 声音を静かに震わせながら、秋水は自分の「気付き」を述べた。
「まさかあれが足なのか。君はあれを足に見立てたのか」
「うん。そう」
 消え入りそうな声で呟くと、まひろは頭を抱えて呻いた。
「悪気はなかったんだよ。でもびっきーを怒らせちゃって」

 どうも昨夜の他愛もない雑談が原因らしい。
 まひろたち四人で茶菓子食べつつだべっていたら誰かがヴィクトリアの髪について触れた。そして話題を独占した。
 当初こそ髪質の綺麗さや色に感嘆を漏らす品評会だったのだが、沙織やまひろのような子供っぽい少女二人が居ては
たまらない。段々と髪型について下世話な例えが飛び出すようになってしまった。
 曰くカニカマ。
 曰く毛筆。
233永遠の扉:2009/02/20(金) 03:00:40 ID:0rj3seup0
 当初こそ容貌について褒めたたえられ自尊心を大いに満たされていたヴィクトリアが段々と表情を曇らせていく様を秋水
は想像し、丹田から大きくため息をついた。
(彼女は普段こそ繕っているが本性はひどく気難しい)
 で、まひろがポロっと「たこにも似てるよね」といった辺りで──…
「空気が凍りついちゃったの」
(それも当然だろうな)
「後でちーちんやさーちゃんから『空気読め』って」
(もっともな話だ。いくらなんでもたこはないだろう)
 女性の自尊心を傷つける事がいかに恐ろしいか秋水は知っている。小声で「腹が黒いなあ」といっただけでも桜花は冷然
と問い詰めてくる。(女性にとって吐いた言葉が事実か否かは重要ではない。自尊心を傷つけたか否かなのだ。その失地を
回復せぬ限り彼女たちはいつまでもいつまでも追い続けてくる)
 理性的な姉でさえそうなのだ。毒舌少女に同じコトをすればどうなるか──剣気への反応とは異質の鳥肌が背筋に芽吹
くのを秋水は禁じえない。

 大方まひろの想像世界の中では、髪に吸盤生やした生首ヴィクトリアが歌って踊っていたのだろう。
 で、それをまひろ自身は愉快で楽しい光景だと思ったから口に上らせた。だがヴィクトリアにそういう愉快な想像の背景な
ど伝わるはずもない。浮かぶのはごく一般的なたこの姿だ。よって侮蔑と受け取った。千里や沙織が慌ててまひろを制した
のも同じ理由である。
「も! もちろん謝ったよ! びっきーも後で許してくれたけど」

 ヴィクトリアの自室。ベッドに腰かける部屋の主はすでに何十年もここで暮らしているような貫禄さえあったという。
 なおこの時そこへ訪れたのはまひろ一人だったため、ヴィクトリアは本来の口調でのびのびと話すコトができた。ある意味
では気心を許しているといえなくもない。
 それが証拠か、直立不動で深々と頭を下げるまひろを見る目にはさほどの怒りも籠っていない。
「別にいいわよ。年下のアナタのいうコトにいちいち怒るのもみっともないから許してあげる。ええ。……それにしても年下の
癖にいちいちいちいち言ってくれるじゃない本当に」
234永遠の扉:2009/02/20(金) 03:01:18 ID:0rj3seup0
「やっぱり怒ってる? ごめんね。本っっっ当にごめんね。でもねでもね! びっきーが可愛くないとかそういうんじゃないん
だよ! むしろ可愛いよ!」
「アナタのコトじゃないわよ」
 半月が欠けるように瞳を細めたヴィクトリアから黒いモヤが漂い始めたが、しかし悲しいかな。ひとたびスイッチが入った
まひろはそういう「空気」をまるで読めぬ。ただただ指折ってヴィクトリアのいい所を熱弁するのに夢中である。
「まずスベスベでしょ?」
「いま私は機嫌が悪いの」
「それからお人形さんみたいでしょ?」
「いいから黙って」
斗貴子さんとお揃いの服なのもポイント高……はっ」
「…………」
 やっと気づいた時にはもう遅い。気難しく歪み切った瞳がまひろを上目遣いでじっとりとねめつけている。
「ゴメン。……ついたこさんの足を想像しちゃって」
 大慌てて三指開き直して伏し拝むが、物騒な気配はしばらく立ち去りそうにない。
「本当鬱陶しいコね。それ位分かってるわよ。アナタは空気読めないけど毒を吐けるほど賢くないでしょ? それこそたこの
ように墨吐いてる方がお似合いよ」
 ふと見ればまひろは土下座していた。ヴィクトリアは一瞬「別にそこまでしなくても」といかけたが、すぐにニタリと冷笑を
浮かべた。そして組んでいた白い足を緩やかに解くと、まひろの肩を軽く踏み、ぐりぐりと嬲り始めた。この時ヴィクトリアは
得体の知れぬ快感と陶酔感が生命開闢以来初めて全身を駆け巡るのを感じた。これが髪を侮辱した相手かと笑いだした
い気分である。
「ほらほら。早く土下座をやめた方が身のためよ。いくらアナタでも踏まれるのは屈辱でしょ?」
 小悪魔の笑みを湛えたまま栗毛を指でかき分け一段と強く押しこむ。まひろの細い肢体が軽く震えるのが伝わり、それは
果てしのない満足感をもたらした。やがて黒い靴下に包まれたつま先にコリコリとした肩肉が打ち当り、ひどく攻撃的でとろ
けそうな気分を誘発する。半開きの口から甘い吐息が漏れ、ヴィクトリアは思わず生唾を嚥下した。知らず知らずに身を乗
り出してもいた。そして足の親指に力が籠り、見た目より硬い肩を指圧する。
235永遠の扉:2009/02/20(金) 03:02:49 ID:r5wQpzs50
 一方のまひろもまた得体の知れぬ快感と陶酔感が肩から広がるのを感じていた。もっともこちらはヴィクトリアのごとき倒
錯感とはほど遠く、ただただしなやかなつま先に肩を揉みほぐされる心地よさに浸っていただけである。要するにまひろが
ヴィクトリアの足に抱く感想は犬猫程度のそれである。犬猫は親しい人間に踏まれど怒らない。痛くなければ怒らない。飼
い馴らされ哀れなほどに純粋な彼らは、例え踏まれてもスキンシップの一環と捉えて喜ぶのである。
「あ。そこ。そこ気持ちいい……」
 やがてまひろはほやーとした声さえ漏らし始めた。
(…………何なのよこのコ)
 汚物を見るような目つきをヴィクトリアがしたのも無理はない。まひろの肢体からはみるみると力が抜けていく。本当に言
葉通りなのだろう。それもやはり精神的倒錯な意味ではなく、整体院でコリをほぐされる的な意味で。
「ア、アナタの方がたこじゃない。のらりくらりとして捉えられ──…、ああもう。踏むのも馬鹿馬鹿しいわ」
 足を離しつつ出た言葉は何とも負け惜しみすぎていて、ヴィクトリアは却って敗北感を覚えた。康一君を刺し貫いた吉良
のような気分だ。
「え? もうやめちゃうの……? 気持ち良かったのに」
 身を起こしたまひろの顔はうっとりと歪んでいる。仄かな紅さえ頬に差している。とろとろと潤んだ瞳は再びの足踏みを希う
がごとく上目遣いにヴィクトリアを見る。スパンキングに親しんだ猫がその中断に喘ぐような表情だ。
「する訳ないでしょ! さっきのは仕返しなのよ!? なのにアナタをヨロコバしたら意味ないじゃない!!」
 悲鳴にも似た叫びを上げるとヴィクトリアはぜえぜえと息を吐いた。
(もう嫌。このコと話してるとペースが狂うわ。誰か助けて……)
 天下のヴィクトリアをこうまで崩せるのはまひろぐらいであろう。斗貴子でさえ彼女と絡むとグダグダなのだ。
「そんなあ」
「そんなあ、じゃないわよ」
 ヴィクトリアは必死に自分を取り戻す努力をした。その結果、小柄ながらに身を斬りそうな冷気を放てた。そうよそれこそ
私とばかり冷笑をたたえ、懸命に皮肉な調子を並べ立てる。はた目から見れば滑稽な努力であるが、当人にとっては自分
を保てるか否かの死活問題なのだ。
236永遠の扉:2009/02/20(金) 03:03:17 ID:r5wQpzs50
「もう黙って。許してあげるから今日は帰って」
「あ! ありがとうびっきー!」
 まひろが感激の赴くまま飛びかかったのは、皮肉を解するほど賢くないためであろう。
 果たしてヴィクトリアはベッドに押し倒される格好になった。
 悲鳴こそ耐えたが瞳孔は驚愕に大きく見開いた。やがて事態を把握すると、まひろの体の下でいやいやをするように首
を振った。
 もちろん物理的にいえばそうする必要はないのである。ホムンクルスの高出力を以てすれば体重49kgのまひろなど簡
単に跳ねのけられるであろう。しかしまひろに飛びかかられた瞬間に別の思案がよぎりもした。──反射的に振りはらえば
怪我をさせかねない、と。ヴィクトリアは理性的なのである。彼女なりに空気を読んだつもりなのである。まひろはやり辛い
相手だが別に傷つけたいほど憎悪もしておらぬのだ。だが皮肉にもそういう配慮や逡巡のせいで組み敷かれる羽目になっ
た。ミニスカートから覗く細足の間にまひろの膝が割り入っている。栗色の髪が緑のヘアバンチに垂れてわだかまっている。
柔らかな肉の膨らみがヴィクトリアの薄いそこを押しつぶしている。ベッドのスプリングが軋みシーツの皺が深くなり、その
上でヴィクトリアの右掌がまひろの左掌に絡め取られる。そして鼻先さえひっつきそうな距離で屈託なく笑うまひろが居て、
ヴィクトリアは狼狽を露骨に浮かべながら顔を背けた。まったく自分とは正反対の笑顔。かつては嫌悪しつつどこかで憧憬
を覚えていた笑顔。直視するのは気恥しい。取り戻した筈の自分などとっくに吹っ飛ばされている。
「く……空気を読んでちょうだい。じゃないと本当に……頭かじるわよ…………?」
 頼んでいるのか脅しているのか判然とせぬ口調だ。言葉自体もしどろもどろとしていて泥のよう。恥辱に赤らむ顔をきゅっ
と歪めながら、それでもヴィクトリアは懸命にまひろを睨みつけた。この場合、睨むコトでしか抵抗の意思を見せられぬように
思えた。
 果たしてまひろはがばと身を起してヴィクトリアを解放した。
「あ……。ゴメンね。また空気が読めなくて」
 彼女の抵抗を純粋な羞恥として読み取ったのだろう。まひろはペコペコと頭を下げた。
「…………」
237永遠の扉:2009/02/20(金) 03:04:01 ID:r5wQpzs50
 そうされたらそうされたで何だか腹立たしいヴィクトリアである。身を起して服装の乱れを直す間もいいようのない苛立ちが
込み上げてくる。

 そしてまひろが立ち去った後、ヴィクトリアはむっつりと黙り込み、
(…………スベスベで人形みたいで可愛い? フン。アナタなんかにいわれても嬉しくないわよ)
 うんうんと二度三度頷いてから千里の部屋へ行ってトランプをして、それから寝た。

 とにかくまひろはヴィクトリアとの一件以来、「空気の読み方」というのをずっと考えているという。
「事情は大体分かったが」
 秋水は腕を揉みねじりながら難しい顔をした。
 彼の見るところまひろは、真剣な会話の場であれば常人以上に他者を慮るコトができる。
 つまり生来まったく自己中心的という訳ではない。むしろ他人思いといえるだろう。
 ただし平素の生活に限っては突拍子もない言動があまりに多い。それは常人と異なりすぎる思考回路を持っているせい
だ。性質が底抜けに明るく非常に能動的なため、思いつきをすぐ行動に移してしまうのだ。「空気を読めぬ」といわれる所
以はその辺りにあるのではないか?
 とまで見当をつけた秋水だが、そこから的確なアドバイスを引き出せるかといえばはなはだ心許ない。そういった人間的
な機微において助言できるほど世界に親しんでいるかといえば否なのだ。
 というコトを伝えると、まひろは「そうかなぁ?」と首を捻った。そのひどくあどけない仕草に秋水はついつい釣り込まれて
「そうだ」と微苦笑を浮かべてしまった。しかし内心はどうであろう。春風に似た和やかな空気がすうっと吹き抜けていく思い
である。
「ほら! 剣道って相手の人の心を読んで色々するんでしょ? なら秋水先輩から何か聞けないかなーって思って」
(本当に君の感情は眉毛に出るんだな)
 身を乗り出して息せくように喋るまひろの眉毛は見事な逆ハの字である。ググっといかるそれは正に確信の証。秋水を信
じ切っている様子が見て取れた。こういう分かりやすさはまひろの得な所である。純粋ゆえにすぐ他人を信頼し、かつそれ
がダイレクトに表情に出る。ヴィクトリアが何だかんだといいながらまひろと絶交してないのもそういう気質のせいだろう。
「剣道か」
238永遠の扉:2009/02/20(金) 03:04:38 ID:r5wQpzs50
 二、三分ほど考え込むと、秋水はゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「剣道には”ニオイ”という概念がある。君がいっているのはそれだろうな」
「ニオイ?」
 鼻をくんくんとひくつかせる仕草もまた見ていて飽きない物である。もしかするとそういう仕草が見たいがために情報を小
出しにしたのかも知れない。秋水はちょっとだけそんなコトを思った。
「じゃあ剣道やってる人ってみんな犬さんみたいに鼻がいいの?」
「いや、すまない。言葉が足りなかった」
 秋水は慌てて頬を引き締めた。心底不思議そうなまひろを見ている内、らしくもなく表情が緩みかけているような気がし
たのだ。
「普通の”臭い”とは違う。カタカナで”ニオイ”と書く。”気配”の方が字としては正しいかも知れない」
「気配……」
「ああ。試合にしろ実戦にしろ、相手の気持ちは場面場面で移り変わっていく。”ニオイを読む”というのはそういう気持ちの
移り変わりを読む事をいう」
 話題が剣道にシフトしたせいか、秋水の声音は粛然としながらどこか熱気を帯びている。
 まひろはそんな口調に引き込まれたらしく、眉毛を興味深そうに吊り上げじっと秋水を注視している。
「例えば……君が俺と剣道で戦う事になったらどうする? どういう気持ちになる?」
 突拍子もない話題にまひろは比喩ではなく飛びあがった。パイプ椅子から腰を打ち上げて目を白黒させると、両手をじた
ばたと振った。
「どうって……そりゃあもう怖くて怖くて逃げたいと思うよ。だってお兄ちゃんだって敵わなかった訳だし」
「ならこうしよう。俺は何も反撃をしない。代わりに君は思いっきり打ちこんできていい」
「え。いいの?」
「体育の練習だと思えばいい。第一、打たれるのも修練の内だ」
「あ、練習だったら一生懸命やるよ私!」
「つまり君の気持ちは、『怯え』から『攻め』に変わった訳だ」
「うん。秋水先輩に逆胴とかやられる心配がなくなったから、安心してお面とか打てるよね」
「だがもしその途中で俺が竹刀を振りかざしたら、きっと君は動揺する筈だ」
「ダ! ダメだよ! 痛いのは嫌だよ! お兄ちゃんだって逆胴喰らった後燃え尽きたんだよ!」
239永遠の扉:2009/02/20(金) 03:05:01 ID:r5wQpzs50
「というように君の感情は移り変わる。繰り返すが”ニオイ”を読むという事はそういう事だ。『怯え』から『攻め』に転じ、さら
に『動揺』した君の感情を読んで初めて、”ニオイ”を読んだといえるんだ」
 鈍いように見えてなかなか察しのいいまひろである。少し勘案したのちすぐさま満面の笑みを浮かべた。
「そういうコト?」
「そういうコトだ。要するに人は、攻撃が当てられそうな時は強気になり、逆に攻撃されそうな時は弱気になる。自分の攻撃
が当たらない時は焦りも生じる。攻撃の手を一旦休めて様子見に回る事もある。とにかく、試合や実戦ではそういった様々
な心理が目まぐるく動く」
 長広舌を振るったせいか口中微かに乾いている。秋水は大きく息を吐くと、卓上のウーロン茶を啜った。
「だからある程度上達した者であれば、相手の”ニオイ”を読み、適切な動きを取っていく事が重要になってくる。もっともた
だ読むだけでも不十分だ。こちらから”ニオイ”を変えるよう働きかける必要もある」
「なるほど。剣士さんたちにとって相手の人の心って大事なんだね」
 うんうんと頷きつつ、いつの間にかメモを取ってるまひろである。
「あ、でもどうして心の動きが分かるのかなー? 剣道ってお面つけてるでしょ? だったら表情とか見えないんじゃ……?」
 秋水は顔をちょっと曇らせた。「お面」はないと思ったのである。しかし些事でもあるため黙殺した。
「強いていうなら相手の雰囲気だ。こればかりは実際にやってみないと分からないが、見れば相手が何を思っているかは
だいたい見当がつく。それに──…」
「それに?」
 栗色の髪を揺らしながら、まひろはひょいと身を乗り出した。瞳にはどういう面白い話を聞かせて貰えるかという期待感が
満ちている。
(弱ったな……。説明するには少々血生臭い例を引き合いに出さないといけないのだが)
 秋水は悩んだが、まひろの期待を裏切るのも申し訳ない気がした。
「何というか、その、じょ、定石というのが剣道にはある」 
 珍しく声が上ずったのは、考えをまとめながら喋る事にしたせいである。しかしどうもそういう会話の仕方は落ち着かない。
ゆらい生真面目なため、吟味なき言葉を上らせるのは抵抗があるのだ。
240永遠の扉:2009/02/20(金) 03:05:55 ID:tOOpAAKr0
「大抵の場合、相手はその定石に則って仕掛けてくる。逆にいえば自分を取り巻く状況さえ正しく把握できているなら、次に
相手がどういう定石で攻めてくるか予測できる」
「うーんと。良く分からないけどつまり……」
 童顔めいたOLの顔がしばし悩ましく引きつった後、おずおずと回答をのぼらせた。
「相手の人の”定石使うぞー!”っていう”ニオイ”をいろいろ考えて見抜いちゃうってコトかなぁ?」
「そういうコトになる」
 ほっと秋水は吐胸を撫で下ろした。血生臭い話題を出さずに済んだようだ。
いろ考えて見抜いちゃう」好例であっただろう。当時秋水の右手は柔術でしたたかに捻られたため握力を失していた。そこ
へ巻き落としを用いるのは定石の一つである。結果秋水は総角が定石を用いる”ニオイ”を読み、小札曰くの「立身(たつ
み)流兵法『向(むこう)』の構え!」にて対処するコトができた。

 とはいえこれは文字通り真剣勝負の中の出来事であるから、まひろに語るのは良くないだろう。
 いえば彼女の興味は剣戟に及び、最終的には秋水の負った傷に対して無用の配慮と悲しみが芽生えるであろう。

 そういった配慮を知ってか知らずか、まひろは感動したように呟いた。
「じゃあ秋水先輩は空気が読めるんだね」
「どうだろう。ちょっと違うかも知れない」
 秋水はしばし黙った。なるほど相手の心情を読むという点で”ニオイ”はいわゆる「空気」と似通ってはいる。が果たして同
じかどうか。
 そも”ニオイ”を察知された相手にとってはたまった物ではない。空気を読まぬまひろの騒々しさと竹刀の一撃のどちらが
いいかと問えば大抵の者は前者を選ぶであろう。それは可憐な少女の騒ぎだからとかではなく物理的理由だ。誰しも竹刀
でぶたれるのは嫌なのだ。
 だいたい”ニオイ”を読まれる恐ろしさを知っている秋水だ。先日における総角との剣戟はその具体的一例だ。思い返すに
剣技の数々が面白いように秋水を刻んだのは、”ニオイ”の強弱に上手く乗じたためのように思われる。現に秋水は巻き落
としこそ防げたが、それはとっくに読まれており逆に「龍巻閃」なる伝説的剣技で右脇腹を引き裂かれた。
 いまだ平癒せぬそこに軽く手を当てつつ秋水は嘆息した。
241スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2009/02/20(金) 03:06:40 ID:tOOpAAKr0
(試合巧者とはああいう男の事をいう)
 話がややブレたが、要するに”ニオイを感じる”というのは端的にいえば相手を攻め滅ぼす準備であるから、常々まひろが
要求されてやまぬ「空気を読む」という平和的かつ調和の権化のような概念とは真逆の位置にあるといえなくもない。
「だが、例えば」
 秋水はふと思いつくまま喋りたくなった。
 曰く。
 かつて総角との剣戟において巻き落としを防ぎきったのはまさに「相手の人の”定石使うぞー!”っていう”ニオイ”をいろ

 稽古の時において”ニオイを感じ”つつも相手を打たず、心理を言い当て、かつそれを受容可能な文言にて教導し、相手
の剣技発展に寄与したとすれば、秋水自身も「空気を読めた」といえるのかも知れない。
 と。
「俺もあまり大きな事はいえないが、自身の都合だけを相手に強いるのは良くないと思う。相手の都合を斟酌しなければ、
いつか必ず自分に帰ってくる」
 現に秋水はカズキを背後から刺したせいで桜花を失いかけたし、様々な苦しみを味わいもした。
「それでも君は他者を思いやれる。問題は落ち着くかどうかだと俺は思う。空気を読むというのはそういう事だと俺は思う」
「そうだよね。ちょっと落ち着いて考えた方がいいよね」
 まひろは難しそうに腕組して呻いた。

 以上、秋水の入院生活の一幕。日常会話であるため特にオチなどはない。

以下、あとがき。

お久しぶりです。
幕間は各キャラの動静を描くコトになります。まずは主人公とヒロインから。
グレイズィングへの反応が思ったより好感触なので嬉しい限り。
ベクトルは違えどあんな感じのを最低7人ご用意しております。
内1人は別スレで描いたロリババァ。忍者なので早く活躍させたいです。
忍者といえばやる夫忍道スレ用のネタが色々ありすぎて取捨択一に困る今日この頃。
全国の忍者紹介するだけでも学ぶ系のスレが一つ作れそう。何とも忍者は奥深い。
242スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2009/02/20(金) 03:07:13 ID:tOOpAAKr0
>電車魚さん
ファンとしては原作キャラが次々に出てくるのが嬉しいですね。特にシックスの登場は予想外。
一番のツボは飴を貪る笛吹さん。気位の高さと可愛気が見事に再現されてて、彼主役のSSも描いて欲しいとさえ思いますw
サイに対するアイの態度もいいですね。時に気押され時に母のように導いて、時には副官として制御に回る。包容力がある
のに甘くなく、けれど心底冷たい訳でもないアイが素晴らしい。しかしサイ一派と早坂兄弟のタッグとか垂涎モノすぎますね。
テラぐらいなら倒せるんじゃないかと。それから気になるのが葛西と早坂兄弟が逢うかどうか。

>さいさん
まひろの喰ってる物がひでえwwwwww 最近だらしねえなで撃沈しましたよ。そんな食品やだw ちーちんはいい子すよね。
友達けなされたら怒るって素晴らしい。それから火渡先生のキレっぷりが凄く頼もしいです。シエルといい感じの摩擦を起こ
してくれそうで。直情径行で歯に衣着せぬから見ててすごく頼もしい。で、前にも書きましたが瑠架のような子のが昌より
恐ろしい訳でして、彼女が疎外感感じるたびにヒヤヒヤします。明るい人に救われるコトもあれば、逆にその明るさのせい
でますます暗い方へ落ち込むコトもありますので。

>ハシさん
ブログにてF08の容貌を知った以上、頭掴まれ涙目になる彼女を想像すると(ゴクリ 眠るヒューリーを見守るピーベリーは
まるで1巻最後の斗貴子さんみたいで嬉しい。一応彼女はヒューリーに選択の余地を与えてた人なので、彼が最後の一体
になった時の心象を想像して葛藤するのはアリじゃないかと。しかし最後の最後までF08の扱いが……w パワーアップ
したと思ったら即座にかませ犬とかひどすぎるw まるでフレイザードだw 

>サマサさん
社長、タナトスを貶しすぎw 気持ちは分かるけどもっとこう手心をというかなんというか……w しかしまあ精神力だけなら
半端ない。彼なら闇バクラや闇マリクに憑依されても気迫で砕くに違いない。
>(貴様が何者かなど知らん…だが、例え貴様が本当に神だったとしても、貴様のような愚かな神によってもたらされた
>勝利など、何の価値もない!)
ここはあの声で思いっきり再生されましたね。社長のキャラ掴みすぎですw
243作者の都合により名無しです:2009/02/20(金) 07:18:33 ID:wv+/Zo3L0
お久しぶりです。
番外編は人物たちの側面を見れて楽しいですね。
まひろの空気の読めなさはもう魅力にもなってるから個人的には良いと思いますがw
ヴィクトリアはSかあw
244作者の都合により名無しです:2009/02/20(金) 08:30:17 ID:lRe9aIDL0
まひろかわいいなぁ。うざいけど。うざかわいいw

ところで>>240の8行目〜13行目は、>>241の7行目の後の文章ですね。
保管庫行きの際に要修正ですね。
245作者の都合により名無しです:2009/02/20(金) 15:33:44 ID:mlYL3Hsl0
ダストさん久しぶりだなあ。
今回はちょっとエロ風味の番外編ですね。
俺もヴィクトリアに踏まれたいな…

しかしまひろはあれだけのボディなのに
性的に悶える姿はあんまり想像できないな
246作者の都合により名無しです:2009/02/20(金) 20:07:41 ID:9qLvTDAY0
スターダストさん復活してくれてよかった。
まひろは可愛いけど彼女にしたら大変だな。小動物みたいだ。
ヴィクトリアがまひろを苛めたくなる気もわかるな。
秋水に聞いても秋水も戦い以外は空気読めないからな・・
 ドラゴンボールを集めると、どんな願いでもかなうらしい。ヤムチャは世界の
あらゆる場所を探し回って、ついにドラゴンボールを全部集めた。
「これで願い事がかなうぞー!」
 ヤムチャはものすごく嬉しそうに叫んだ。ヤムチャの足元にはドラゴンボール
が2個ころがっている。
「数が全然足りないです!」
 召使いのプーアルがケチをつけた。いやケチではなく、プーアルはとても物知
りなのでドラゴンボールの事ならなんでも分かる。
「ドラゴンボールは全部で7つなのに、ヤムチャ様は2個しか持ってないです! 
あと5個集めないと願い事はダメです!」
「うそつけ。戸棚とか便所のタンクとか全部探したけどこれしかなかったもん」
 プーアルはヤムチャの言葉の意味を考えた。そしてヤムチャに聞いた。
「ヤムチャ様、全部ってどこを探したんですか?」
「だから世界中って言ってんだろネコバカ」
「世界ってどこですか?」
「オレんち」
 プーアルはヤムチャの髪の毛をつかんで、窓から外に放り投げた。ヤムチャに
とっては数年ぶりの外の世界だった。
「あっちの海もそっちの山もぜーんぶ世界です! ヤムチャ様の家だけが世界と
か、本気で言ってるなら即入院レベルの世間知らずです!」
 ヤムチャはぼんやりと辺りを見回して、海に向かって石ころを投げてみた。数
時間ぐらいして、地球の裏側からボチャンという音が聞こえた。
「うおー! 世界でっけー!」
 そういえば天下一武道会の会場も、バスで1時間ぐらいの距離だった。世界は
それよりもずっと広いのを思い出した。
「という事は、この世界のどこかからドラゴンボールをあと5個探すの?」
「そうです! 願い事をかなえたかったら、そのぐらいの苦労は我慢するです!」
 ぜってームリ。
「シェンロンでてこーい!」
 ムリなのでとりあえず神龍を呼んでみたら、雲の切れ間から神龍が半分だけ顔
を出した。
「ドラゴンボール2個でワシを呼んだバカは貴様か」
 言い方が明らかに怒っている。しかしヤムチャだって怒っている。
「せっかく呼んでやったのにその態度はなんだー! 顔だけじゃなくて全部出て
こーい!」
「ダメ。ドラゴンボール2個ぽっちじゃこれが限界」
「じゃあそれでもいいから願い事かなえろー!」
「ムリ。体が雲に挟まって痛くてそんな余裕ない」
 雲に体が挟まる理屈が、ヤムチャにはよく分からない。分からないと面倒くさ
いはヤムチャにとって同じ意味だった。
「面倒くさいからもう帰っていいよ、マジで」
「体が挟まっているから全然動かない。親切心でちょっと出てきてやったのに、
あー損した。あー損した」
 神龍のくせにとても愚痴っぽい。2回目のあー損したぐらいで、神龍の緑色の
体が怒りで真っ赤になった。怒った神が何をするかというと、こういう事をする。
「貴様、なんとかしろ。1時間でなんともならなかったら貴様を殺す」
「殺すぐらいの元気があるなら願い事かなえろ」
「もはやそんな次元の話ではない。神の怒りは頂点に達した」
 自分の事を神とか抜かすヤツはキチガイの場合が多い。さすがのヤムチャも身
の危険を感じて、それ以上言い返すのをやめた。
「プーアール! 家の中のヌルヌルしてるヤツ全部持ってこーい!」
「もう持ってきてるです!」
 プーアルはヤムチャの考えていることが全部分かる。ヤムチャは石鹸や山芋な
ど、ヌルヌルしているものを片っ端から神龍に投げた。はさまっているのがぬめ
りで抜けるかと思ったが、神龍はピクリとも動かなかった。
「雲のギザギザが食い込んでるから、そんなんじゃ取れん。痛い痛い痛い。あと
30分で取れなかったらこーろーすーぞー」
 万策尽きた。願いをかなえるために神龍を呼んだのに、その神龍に脅迫されて
いるとか訳が分からない。訳が分からないのと殺すはヤムチャにとって同じ意味
だった。
「おいプーアル、神龍を殺すにはどうしたらいい」
「ドラゴンボールを壊すです!」
「でやー!」
 狼牙風風拳でドラゴンボールを2個とも粉々にした。神龍はピンピンしている。
「死なんぞ!」
「7個全部壊すです!」
「世界ひろーい! 5個ムリー!」
「大丈夫、ここにあるです!」
 こんな事もあろうかと、プーアルはすでに残りのドラゴンボールを集めていた。
「でかしたプーアル! あちょー!」
 ドラゴンボールを全部壊した。神龍はバラバラになって地上に落ちて死んだ。
はさまってるのが取れたという意味ではヤムチャお手柄!
「つまり最初からドラゴンボールが7個あったという事だねプーアル」
 ヤムチャは大事な点に気がついた。ヤムチャかしこい!
「そうですヤムチャ様! でも願い事は自分で努力してかなえるものです!」
「よーし! これからは外の世界で仕事を探してお金を貯めるぞー!」
 ヤムチャは引きこもりをやめて、大きな一歩を踏み出した。ヤムチャえらい!
「ところで、ヤムチャ様の願い事ってなんだったんですか?」
「世界の支配者になることだ!」
「世界ってどこですか?」
「オレんちー!」
 ヤムチャは家に引き返して中から鍵をかけた。ヤムチャおかえり!
おしまい。
251ずる:2009/02/22(日) 01:39:41 ID:boLiPUaw0
 絶望が支配するこの時代よりも、ほんの少しだけ希望が持てる時代があってもよいので
はないか。
 わずかな望みを母が作ったタイムマシンに託し、トランクスは旅立った。
 しかし、過去に向かうはずであったトランクスは予期せぬ災難に遭遇する。
「──ん? 小さな気が感じられる……」
 直後、凄まじい衝撃がタイムマシンを包み込んだ。
「な、なんだ!?」
 あっけなくタイムマシンは大破。超サイヤ人といえども時空相手ではなすすべなく、ト
ランクスは生身で時空の渦に吸い込まれてしまった。
「うっ、うわあぁぁぁぁっ!」

 ──目を覚ますと、まず木目模様の天井が目に映った。
「あっ、起きたよ!」
「よかった、お医者さんごっこカバンのおかげだ」
 時空の渦に呑まれたトランクスを救助し、介抱していたのは、眼鏡をかけた少年と、青
い丸々としたロボットだった。
「う……き、君たちは……? あとここはいったい……?」
「ぼくは野比のび太、ここはぼくの家だよ」
「ぼく、ドラえもんです」
「そうか、どうもありがとう。ところで俺はどうしてここに……」
 のび太が申し訳なさそうにいった。
「実は、ぼくたちのタイムマシンとお兄さんのタイムマシンがぶつかっちゃったんです」
「え? 君たちもタイムマシンを!?」
252ずる:2009/02/22(日) 01:40:27 ID:boLiPUaw0
 ドラえもんがのび太を横目でにらみながら、説明する。
「ぼくのタイムマシンは安全装置があるから他のタイムマシンとぶつかることなんてまず
ないんだけど、のび太君が無茶な運転をするから……」
「なんだと! 君の道具がポンコツだからいけないんじゃないか!」
「ポンコツだって?!」
 喧嘩が始まると面倒なので、すかさずなだめるトランクス。
「まあまあ二人とも、とにかく助けてくれたことには感謝するよ。しかし、いつまでもこ
うしているわけにもいかないな……」
「どういうことです?」
 身を乗り出すドラえもんとのび太。
 二人から邪悪な気は感じられない(といっても、ドラえもんに気はないが)と判断した
トランクスは、身の上を全て打ち明けた。人造人間の殺戮、師匠の死、そしてタイムマシ
ンで過去に向かっていた理由を──。
 激怒するドラえもんと、号泣するのび太。
「なんてひどい話なんだ! ぼくは人造人間じゃなくてロボットだけど許せない!」
「うわぁ〜ん! ごめんなさい〜! そんな大切なタイムマシンを壊してちゃってぇ〜!」
「いや、仕方ないよ。わざとじゃないんだし」
 二人を心配させないため、気にしない素振りをするトランクスだが、内心おだやかでは
なかった。もしこのまま戻れなければ、心臓病の薬を悟空に渡すことはできず、絶望の時
代を繰り返すはめになる。母とていつまでも人造人間の襲撃から逃れられないだろう。
「そうだっ!」
 突如、ドラえもんの頭上に電球が浮かび上がった。驚くトランクスとのび太。
「トランクスさん、ぼくたちがなんとかしましょう!」
「……え?」
 
 トランクスが乗っていたものとちがい、ドラえもんのタイムマシンは全くの無傷だった。
三人はタイムマシンの空間移動と時間移動の機能を併用し、無事トランクス出身の地球の
未来に戻ることができた。
 恐るべき人造人間、17号と18号は狂時機で時間を止めている間にスモールライトで
縮小させ、デラックスライトを浴びて超サイヤ人2になったトランクスによってあっけな
く消滅させた。
253ずる:2009/02/22(日) 01:41:15 ID:boLiPUaw0
 ついでにまだ悟空が生きていた時代に向かいフリーザを倒し、心臓病の薬も渡した。助
っ人に向かったトランクスはさすがに自分があまり活躍してはまずいと本能的に悟ったの
か、適当に手を抜きながらも犠牲を防ぎ、みごと悟飯が完全体セルを撃破した。
 父にジャストホンネを飲ませ、うとましがりながらも心の奥底では母と自分を愛してい
てくれたことを知ることができ、トランクスはうっすら涙を流した。
 元の時代でもセルを始末すると、ドラえもんたちは未来の道具を駆使して瞬く間に都を
再建させ、人造人間に殺された者も全員蘇らせた。
 いよいよトランクスとドラえもんたちとの別れの時が来た。
「ありがとう、二人とも。でもなんだか釈然としないんだよな……本当にこれでいいのか
という気持ちが取れない……」
「じゃあこれで」
 のび太はワスレンボーをトランクスの頭に当てた。トランクスから二人の記憶は消え去
った。
「ん? 君たちはいったい……? おっとまずい、今日は父さんの修業につき合う約束だ
った!」
 意気揚々と、猛スピードで飛び立つトランクス。

 つらい未来を生きてきたトランクス──そしてブルマたちにやっと真の平和が訪れた。
 そしてその平和は今後も大切にされていくだろう。トランクスがいる限り……。
  
                                   お わ り
254サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/02/22(日) 01:42:21 ID:boLiPUaw0
直後投下申し訳ありません。

補足:
狂時機…時よ止まれ。
デラックスライト…照らしたものをデラックスにする懐中電灯。
ジャストホンネ…飲むと本音しか話せなくなる薬。
ワスレンボー…記憶を消す棒。
255作者の都合により名無しです:2009/02/22(日) 11:28:35 ID:26aAtH/K0
>ドラゴンボール外伝:呑みがキャンセルになった男:
この文体、VS氏かな?そうだと嬉しいな。
相変わらず妙な着想な作品でプーアルがいい味出してますねw
出来ればまた書いてください。

>ずる
凄いサナダムシさん、俺今回出てきた道具一つも知らないわw
でもドラえもんは流石に万能だな。悟空でも勝てんw
256作者の都合により名無しです:2009/02/22(日) 11:49:26 ID:7atBpf7j0
>ドラゴンボール氏
この超高速テンポと常人には不可能なセンス…十中八九VS氏っぽいw
どこからツッコンでいいか分からないが、とりあえず家の中に二個もドラゴンボールがあったヤムチャの家スゲエ

>ずる
タイトルが今回の内容の全てを物語っているな
一見ハッピーエンドに見せながら、ドラえもんのチートぶりと、それを他の作品に持ち込んだ場合に生じる歪みを端的に描いてる
今回の道具についてはワスレンボーだけ分からなかった
一応、てんとう虫コミックスの方は全巻読んでいるのだが
257作者の都合により名無しです:2009/02/22(日) 14:02:41 ID:OL0Ei+qv0
やはりドラゴンボール外伝書いたのってVSさんか?
VSさんとサナダムシさんが並んでいるとなんか嬉しい
258作者の都合により名無しです:2009/02/22(日) 19:33:00 ID:t27e9ce60
VSさん、ちょっと腕が落ちてる気がする
やはり書き続けないと!

サナダムシさんお年おいくつか気になるw
259ふら〜り:2009/02/22(日) 20:46:51 ID:hb1CpcIu0
>>スターダストさん(ブログ&やる夫スレ見てますんで、作品に対して「お久しぶりっ!」)
>真剣な会話の場であれば
>ただし平素の生活に限っては
これがまひろなんですよねぇ。原作に忠実に、戦闘には参加しない分、原作よりも色濃く、
まひろの内面が描かれてるのが本作。秋水もヴィクトリアもペースを乱され狂わされ、その
威力でそれぞれの殻を粉砕されつつある……された、のかも。秋水には兄妹二人がかりで。

>>VSさん(私とパオさんと三人で連載陣だった時期も冬でしたね。私のSSは雪山が舞台で)
プーアルが非常ぉに可愛い! VSさんワールドの主人公に非常に多い、壮絶ロクデナシな
ヤムチャに付き添ってる姿が実に可愛い。一応ちゃんとヤムチャのことを心配してるわけですし、
最後まで毒な面もなく、原作以上の敬語というか「語尾です喋り」が何ともらぶりぃでした。

>>サナダムシさん(狂時機とマッドウオッチはどちらが正式名称なんでしょうかね?)
衝突事故で、コクピットむき出しの方が無傷、乗り込みタイプの乗員が投げ出されて気絶か。
流石のブルマも、やはりドラには到底及ばぬと。そしてフリーザも人造人間もセルも及ばぬと。
そりゃまあ予測はできることですが、こうやってしっかり物語で描写されると確かに……ずる。
260作者の都合により名無しです:2009/02/22(日) 21:02:01 ID:OvsYqqGG0
>>259
狂時機という名前が後にNGをくらい、改正されてマッドウォッチに。
正しいというか先に出たのは狂時機。
261作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 19:53:21 ID:TkSxUNeY0
なんでそんなにみんな詳しいんだよw
262作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 21:18:28 ID:cNbkwvPm0
「どう?レッドさん、すごいでしょー」
「おー…確かにこりゃ壮観だわ!」
悪の組織フロシャイムのヴァンプ将軍にいつもの公園に呼び出された神奈川県川崎市のご当地ヒーローである
天体戦士サンレッドは<それ>を見上げて彼にしては素直に賞賛した。
ちなみに今日のTシャツの文字は<スパロボK4月2日発売>である。
「しかしよヴァンプ。これもフロシャイム脅威の科学力ってやつか?」
「あ、違う違う。雑誌の懸賞で当たったの」
「…懸賞」
にこにこ笑うヴァンプ将軍を尻目に、レッドはどよ〜んとした顔で<それ>をもう一度眺め回した。
子供達が駆け回る何の変哲もない公園に鎮座する異形の物体。
それは、巨大ロボットであった。


天体戦士サンレッド 〜レッド危うし!フロシャイム戦慄の秘密兵器!


「いやー、こんなのが当たるなんて、ホントにヴァンプ様ツイてますよー」
「これも日頃の行いがいいおかげですね!」
戦闘員1号・2号も上機嫌だ。
「日頃の行いって、お前ら世界征服を企む悪の組織だろうが…それで、このロボに名前はあんのか?」
「名前ですか?」
「おう。ガン○ムとかマジ○ンガーとかゲ○ターとかよ、そういうイカした名前だよ」
「あ、じゃあこれなんてどうです?<ヴァンプレイオス>!なんせヴァンプ様が当てた懸賞ですしね」
「そうそう。それでなくてもヴァンプ様は僕ら川崎支部の代表ですもん!」
「もー、1号も2号もおだてないでよ〜」
そう言いつつ、満更でもなさそうなヴァンプ様である。レッドはそれを尻目にポツリと呟く。
「ヴァンプレイオスって…明らかにアレのパクリじゃん…」
詳しくはバンプレイオスで検索を。それはともかく。
263作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 21:19:20 ID:cNbkwvPm0
「よーし、じゃあ早速ヴァンプレイオス起動させちゃおっか!あ、レッドさんも是非乗ってくださいよ!」
「何処の世界に敵対してるヒーローを大喜びで自分とこのロボに乗せる悪の将軍がいるんだよ…ま、いいや。
巨大ロボってのも興味あるしな!」
そしてコクピットに乗り込む四人だったが、そこで気付いた。
「あの…ところでこれ、どうやって操縦するんでしょう?私、機械には弱くて…」
「マニュアルくらいあんだろ?ちょっと見てみろよ」
「あ、これじゃないっすか?」
「あ、どれどれ?」
マニュアルとにらめっこを始めるヴァンプ様だが、すぐにウーウーと唸り始める。
「専門用語多くて何が何だか分かんない…<縮退炉>とか<トロニウム>とか…ちょっとレッドさん、申し訳
ないんですけど見ていただけます?」
「お前、どんだけ俺に頼る気だよ…ほれ、マニュアル貸せよ」
分厚いマニュアルを受け取り、顎を撫でながらフンフンホーホーと納得した様子のレッド。
「これあれだ。スイッチさえ入れれば後は音声だけで自動操縦できる簡単モードがあるからそれでいけよ」
「へー、そんな簡単に巨大ロボを操縦できちゃうんだー!」
「ほんとはちゃんとマニュアル操作もできるらしーけどよ。初心者ならこっちの方がいいだろ」
「ええ、ありがとうございます!…クックック!ではゆくぞ、ヴァンプレイオス!愚かな人間共にお前の力を
見せ付けてやるのだ!」
悪モードに入ったヴァンプ様は高らかに叫ぶ。川崎市はこのまま絶望の炎に呑まれてしまうのか!?
サブパイ席でタバコ吸ってる場合じゃないぞ、我らがサンレッド!
264作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 21:20:05 ID:cNbkwvPm0


「誰かー、ひったくりよ!捕まえてー!」
若い女性が叫ぶ。その傍らにはへたり込んだお婆さん。
「へっ!ババアがこんな立派なモンぶら下げてんじゃねーよ!」
お婆さんの荷物を奪った男は下卑な笑みを浮かべながら逃走する―――
その身体が、突如宙にぶら下げられた。
「え…な、なんだよこれ!?」
『もー、ひったくりなんてダメでしょ!今から交番行くから、きっちり反省しなさい!』
その巨大な指先でひったくりを摘み上げたヴァンプレイオス。そのパイロットたるヴァンプ様はひったくりに
向かってプリプリ怒るのだった。
その足元ではバッグを取り返してもらったお婆さんが、掌を擦り合わせてヴァンプレイオスを拝んでいた。


高い煙突の上に登ったはいいものの、降りられなくなって泣いている子供がいた。
「誰かー、ウチの子を助けてー!」
母親が必死に助けを求めるが、野次馬達もどうにも手が出せない。高さが高さなだけに、下手に助けにいこう
ものなら、子供と一緒に落ちてしまうかもしれない。
「奥さん、今レスキュー隊呼んだから!少しだけ待ってて!」
「少しだけって…あの子は今も怖い思いしてるんですよ!?もういいわ、私がいきます!」
「ダメだよ、あんたまで落ちたらどうするんだ!」
と、その時。大きな手が伸びてきて、優しく子供をその掌の上に乗せたのだった。
『ホラホラ、もう大丈夫だから泣かないで。これからはこんな危ないことしちゃダメだよ』
優しい口調で子供を諭すヴァンプ様。救助された子供は、母親としっかり抱き合うのだった。
それを見つめるヴァンプと戦闘員の顔も、とても穏やかだった。
265作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 21:20:57 ID:cNbkwvPm0


「お前…何やってんだよ」
レッドは苛々した様子で貧乏揺すりしていた。ヴァンプはきょとんとした顔で答える。
「何をって…ひったくり捕まえて、子供を助けただけですよ。何か問題でも?」
「大ありだ!これは<悪の巨大ロボット>だろうが!何を正義側みてーな運用してんだよ!?もっとほら、
人間をゴミのように踏み潰したり、高層ビルを破壊したり、色々やることあんだろーが!」
「そっ…そんなことしたら犯罪じゃないですか!」
「何度も言うがてめーら悪党なんだろ!?世界征服企んでるんだろ!?もっとそこんところ自覚して悪行に
精を出せよ!」
「…レッドさんこそ正義の味方なのに、何でそんな恐ろしいことをサラっと言っちゃうんですか…?」
「俺のことはどーでもいいだろ!今はお前らの話をしてんだよ!」
「うーん…悪っぽい運用というと…あ、そうだ!次のレッドさんとの対決はこのヴァンプレイオスですれば
いいじゃないですか!」
ポンと手を叩くヴァンプ様である。
「そっかー。正義のヒーローと闘ってこそ悪の巨大ロボですもんね!」
「これで俺達もレッドさんも己の存在意義を失わずにすむじゃないっすか!」
1号と2号も同意する。レッドはやれやれと溜息をつきながらも、迫る闘いの予感に拳を握り締めた。
「全くおめーらは本当によー…ま、確かにいつもよりは白熱した闘いになりそうだな…おっしゃあ!次回は
俺も久々に戦闘服を着るとするか!」
「え!?じゃあついにレッドさんの本気が見られるんですね!それだけで懸賞を当てた甲斐がありますよ!
そうだ、究極形態ののファイアーバードフォームも用意しといてくださいよ!何せこのヴァンプレイオスは
強力ですからね!」
ちなみに普段のレッドは対決でもTシャツに半ズボン、サンダルが基本である。
「フハハハハ、サンレッドよ!覚悟するがいい、次こそはヴァンプレイオスが貴様を葬ってくれるわ!」
高らかに響くヴァンプ将軍の哄笑。負けるな、僕らのサンレッド!
266作者の都合により名無しです:2009/02/23(月) 21:21:54 ID:cNbkwvPm0


「…で?ヴァンプレイオスはどうしたんだよ?」
三日後。いつもの公園にて対決に呼び出されたレッド(戦闘服着用。足元にはファイアーバードフォームを
入れたダンボール箱)は、MK5といった有様でヴァンプ様と戦闘員を正座させていた。
「えっと…その…寄贈しました…」
「寄贈…」
「だって、しょうがなかったんです!あれすっごい税金かかるし、本部も経費としては認められないなんて
融通利かせてくれないし!」
「ねー!駐車場借りるのだってタダじゃないですし!」
「燃料代だってムチャクチャですよ!?ウチの家計じゃとても払えないっていうか…」
「言い訳はいいんだよ!それで、何処に寄贈したんだ!?」
「あの…正義の組織<アロハ・パンパース>に…」
「アロハ・パンパース…」
「知りませんか?巨大ロボで世界を守ってる皆さんですよ!そこの若手パイロットの<タテ・リョウセイ>
くんとそのお友達が使ってくれることになったんです!リョウセイくん、これで世界平和を守ってみせるぜ
って、すっごいやる気でしたよ。若いっていいですねー。ははは…」
「…………」
この怒りを、どんな言葉で表現すべきだろう?レッドはヴァンプ達にゆっくりと近づいていく。
「あ、レッドさん、どうしたんです、そんな怖い顔して…」

詳しくは語らない。ただヴァンプ将軍と戦闘員1号・2号はこの日から一週間、生死の境を彷徨ったという
事実だけは記しておこう。

天体戦士サンレッド―――
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
267サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/23(月) 21:38:13 ID:7J1uwVxM0
投下完了。
決闘神話が結構重い話なんで、息抜きに軽い話を書いてみました。
元ネタは以前も書いた天体戦士サンレッドです。サンレッドネタはあと2,3個あるんで、
もしかしたらまた書くかもしれません。
今回は原作に近い雰囲気にしてみたつもりですが、どうでしたか?

>>ふら〜りさん
社長は正直活躍させすぎましたwけど、立場的には悪役なんで、やはりやられるが定めか…

>>226 勝ったら勝ったでこれからの展開がヤバイものになりますからね。
>>227 遊戯に対する勝率は実質0%ですからね。不憫。
>>228 スターダストさん達も帰ってきたし、バキスレ復活はこれからですよ。

>>スターダストさん
まひろウゼぇwでも可愛い、ウザ可愛い。天然で魔性の女という感じですね。
しばらく幕間のようですが、色んなキャラの戦闘以外の一面が楽しみです。
社長はまあ…「助けてくれてありがとう!おかげで遊戯に勝てたよ!」なんて死んでも言わんでしょうし
(つーか、んなこと言ったらもう社長じゃねえw)かつて神様生贄に捧げた罰当たりですしね。
268サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/23(月) 21:40:19 ID:7J1uwVxM0
今気付いたけど、>>262でマジ○ガーが伏字になってねえw
保管する時、もしよかったら修正しといて下さい…
269作者の都合により名無しです:2009/02/24(火) 08:13:51 ID:4pD5adHh0
お疲れ様ですサマサさん。
天体戦士サンレッド・・知らないw
でも、サマサさんの作風とこの世界・キャラは
結構マッチしてる気がする。カンだけど。
270作者の都合により名無しです:2009/02/24(火) 19:55:15 ID:SHHEJNNd0
サンレッドとは戦隊物なのか?
なんとなくざっと読んでみてダウンタウンのゴレンジャイを思い出した
271作者の都合により名無しです:2009/02/25(水) 19:14:54 ID:qCFUq0hb0
今週のネウロ読んでの電車魚さんの反応が気になる
272遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:07:36 ID:b8DwJc+V0
第三十四話「死せる英雄達の戦い―――二度と還らざる、淡き少年の日々」

「あれが、星屑の矢…光龍を一撃とは、凄まじい威力だ」
「頑張って力込めすぎだろ、星女神様…」
闇遊戯と城之内は、その破壊力に舌を巻くばかりだ。そして。
「がはっ…」
苦通の呻きと共に、海馬は地に膝を付く。
青眼の光龍―――余りにも強大な存在であるが故に、それを打ち破られたことによるダメージのフィードバックも並の
ものではなかった。全身の骨がバラバラに砕けたかのような激痛と、脳髄を掻き混ぜられたような眩暈。
それでもなお、海馬は眼光鋭くオリオンを見据えた。
「…まだだ…オレは敗れてなどいない…!」
「その根性には頭が下がるがよ…観念しな。ここまでだ」
レッドアイズから降りたオリオンは弓を構え、海馬に向けて突き付ける。奴隷部隊の者達は、動揺の余り動くことすら
できなかった。
「命まで取りはしねえ!さっさと降参して、このバカげた集まりを解散させるこったな!」
「くっ…!」
さしもの海馬も、己の絶対的な不利を認めないわけにはいかなかった。この状況―――完全な王手だった。
だからこそ、オリオンは気付かなかった。完全な優位が故に、僅かではあるが油断していた。
突如、背後から襲った小さな衝撃と、それに続く鋭い痛みに一瞬視界が歪む。
「…え」
思わず気の抜けた声が洩れる。振り向けば、そこにいたのは。
「こど、も…?」
「いじめるな」
年端もいかぬ少女が、燃えるような瞳でオリオンを射抜く。その手に握られているのは、先端が紅く濡れたナイフ。
考えるまでもない。これで、背中を刺されたのだ。
「皇帝様を…いじめるなぁぁぁぁっ!」
「ちっ…!」
今度は腹部を狙ってきた刃を手刀で叩き落とす―――少女はその腕に、歯型が残るほどの勢いで噛み付いてきた。
273遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:08:49 ID:b8DwJc+V0
「くそっ!何なんだよ、お前!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――!?」
少女を振り解く暇もなく、今度は横手から体当たりを喰らう。ナイフ少女とどことなく似た少年が渾身の力を込めて
ぶつかってきたのだ。
思わずよろめいたところで、ようやく少女がオリオンから離れる。そして少年と少女が両手を精一杯広げて、海馬の
前で壁を作る。その姿に、海馬が血相を変えて叫んだ。
「ソロル…フラーテル…!?何故ここに来た!」
(ソロルに、フラーテル…こいつらのことか…?どういうこった、一体…)
疑問符を浮かべながらもオリオンは手探りで背中の傷を確認する。疼痛は残るが、そう深い傷ではない。相手が非力
な少女なのが幸いだった。
「くそっ、半端に刺しやがって…何なんだよ、お前らは!」
「…………」
「答えろ!なんでそんな悪党を庇うんだよ!?」
その問いに、ソロルが小さな声で答えた。
「…助けてくれたから」
「なんだと…!?」
「皇帝様とアメジストス様だけだったんだ…僕達を助けてくれたのは!」
フラーテルがそれに続く。
「皇帝様が悪党だって…?そんなことは分かってるよ。この方は立派な御方だけど、凄く悪い人だ…そのくらいすぐ
気付くよ。けれど、それがどうしたっていうんだ。じゃあお前らが正義の味方なのか…?そのお前らが、僕達に何を
してくれた…?僕達が苛められてる時に、そいつをブン殴ってくれたのかよ…!」
「そ、それは…」
「皇帝様は、そうしてくれた…私やお兄様に、手を差し伸べてくれた!」
彼らが内に秘めていた激情が、次々と溢れ出していく。
「何もしてくれなかったお前らが偉そうに説教だけするなよ!奇麗事ばかり並べるなよ!そんなのが正義なら―――
僕達は悪でいい!例えどうしようもない悪人であっても…僕達のために闘ってくれた皇帝様、それにアメジストス様
のために働くと、僕達はそう決めたんだ!」
「そ…そうだ!その子の言う通りだ!」
奴隷部隊の兵達が、フラーテルに続いて次々に気勢を上げる。
274遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:10:02 ID:b8DwJc+V0
「その御方が俺達のために、どれだけのことをしてくれたと思ってるんだ!」
「悪党だって、ちょっと頭がアレだって構わねえよ!」
「誰がどう言おうが皇帝様とアメジストス様は、俺達の英雄なんだ!」
「何も知らない癖に、偉そうなことばかり言うんじゃねえよ!」
口々に浴びせられる非難に、オリオンは先刻のように言い返すことができない。
彼とて、自分が絶対の正義だなどという空想など抱いてはいない。それでも―――彼は、想像していなかった。
まだ幼い少年達に、あれほど苛烈な怒りと憎しみをぶつけられることなど―――考えていなかった。
そして、闇遊戯達もまた困惑していた。
「オレ達は、見誤っていたのかもしれない…」
「見誤ってた…?」
「海馬もエレフも、自分達の目的のために彼らを利用しているだけだと、そう思っていた…しかし、本当にそれだけ
ならば、これほどの支持を得られるものなのか?」
「た、確かに…」
闇遊戯の意見に、城之内も頷く。
「…感じるんだ。彼らから。形は歪だが―――結束の力を」
結束―――それは心を通じ合わせた真の仲間しか発揮し得ない、どんな苦境をも跳ね返す、奇跡的な力。
「バカ者が…」
海馬は悪態を吐きながらも、口元に僅かな笑みを浮かべた。
「言ったはずだ…お前達に楯になってもらうほど、弱くはないと…」
「皇帝様…」
「離れていろ。オレの闘いは―――まだ、終わってはいない」
二人を押しのけ、海馬は再び立ち上がる。その手に、カードという名の剣を握り締めて。
「よせ、海馬!これ以上闘い続ければ、命に関わるぞ!」
「フ…甘い!甘いぞ、遊戯!オレは―――カードを手に死ぬなら本望だ!」
海馬は苦痛すら忘れたように吼える。だが不意に、その身体がよろめく。誰にも気付かれることなく現れた紫眼の男。
彼は手刀で海馬の首筋を素早く打ち据えていた。
「…エレフ…貴様…」
「赦せ、海馬」
紫眼の男―――エレフは小さく詫びた。
275遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:10:48 ID:b8DwJc+V0
「お前は口も態度も性格も捻じ曲がってはいるが、根はいい奴だ。死なせたくはない」
「…く…」
言葉はそれ以上続かない。海馬の意識は深淵に沈んでいった。
「オルフ、シリウス―――海馬と子供達を連れて、下がれ」
「はっ…!」
兵達の中から、エレフの副官である二人が姿を見せる。彼らは海馬を背に抱え、フラーテルとソロルの手を引く。
「さあ、こっちへ来なさい。ここは危険だ」
「け、けど…アメジストス様が…」
「心配するな」
エレフはただ、静かに笑ってみせた。
「ここで、全て終わりにする―――我が手で、全てを終わらせる」
「―――エレフ!」
ダン、と地面を踏み締める音に、エレフは顔をそちらに向ける。そこに、かつての親友がいた。
「…オリオンか。レスボス以来だが、ミーシャは元気にしているか?」
「ああ。てめえのせいで随分疲れちまってるがな!」
「そうか…あの子にも、辛い思いをさせてしまったな。だが、それも今日で終わる」
エレフは愛用の黒剣を、鞘から抜き出す。
「―――アルカディアさえ滅びれば、それで終わりだ!」
「させねえよ、んなこと」
オリオンは揺るがぬ決意を込めて、言い放つ。
「―――俺はお前を、必ず止めてみせる」
エレフとオリオン。向かい合う二人の脳裏を、少年の日の思い出がよぎった。


イリオンを脱走して数日。
幼きエレフとミーシャ、そしてオリオンは、草叢をベッドにして、星空の下で寝転がっていた。
「これから俺達、どうなるのかな…」
「どうにでもなるよ。こうして生きてんだからな」
276遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:11:39 ID:b8DwJc+V0
オリオンは楽観的に言ってのける。
「命さえありゃ、こうして寝てるだけで朝はまた廻り来る。何の問題もねえよ」
「―――ねえ、オリオン」
エレフに続いて、ミーシャが話しかけてきた。
「なんだよ、カワイコちゃん」
「オリオンは…これから、どうするの?」
「どうするって…」
口ごもるオリオン。
「さあて…そういや、どうするかな。俺には家族もいないし、したいこともないしな」
「…ごめん」
「謝るなよ。何にもないってこと、そりゃあ何でもありってことさ」
「じゃあさ、オリオン。お前も俺達と一緒に行こうぜ!」
エレフが身を起こして、オリオンの顔を覗き込む。
「俺達もさしあたり何かやりたいことも、行きたい場所もないけどさ…だったら俺達三人で、好きなようにやって、
好きな所に行こうぜ」
「そうだよ。私達、もう友達だよ。オリオンも一緒じゃないと、寂しいよ」
「はは。そりゃ嬉しいお誘いだ」
オリオンは、からからと笑う。
「ま、仕方ねーか。俺がついててやらねーと、お前らだけじゃ危なっかしいもんな」
「言ってろ。お前が一番間が抜けてやがるくせに」
きつい言葉と裏腹に、エレフの口調に棘はない。オリオンは屈託のない笑顔のままで言う。
「そんなつれないこと言うなよ、親友。俺はいつだって、お前の相棒さ―――エレフ。俺はいつだって、お前と
一緒に闘ってやるよ―――いつだってな」


戦場で出会った二人の男は、淡き追想を振り払う。
「…エレフ。俺はお前と闘いたくなんかねえんだ。もうやめろ、こんなこと!」
277遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:29:52 ID:HrV/T4Z80
「私は相手がお前であっても闘うさ、オリオン。ミーシャを護るため…そして、今ここにいる皆を救うためにな」
エレフは右腕を掲げ、奴隷部隊の面々を指し示す。
「彼らを見ろ!皆、かつての私達と同じだ―――理不尽に奴隷の身に堕とされた者達だ!自由も思想も与えられず
ただ辛い日々を耐え忍ぶ、運命の悲しい奴隷だ!そして、祖国が彼らに何をしてくれた!?何もしてくれやしない!
ただ奪うだけ奪い、奪えなくなれば殺すだけ―――そんな祖国(アルカディア)など、我らが滅ぼしてくれるわ!」
オリオンは答えることができない。彼はただ、エレフの瞳の中に深い闇を見ていた。
その闇は怒りと憎しみ、そして。
(なんて悲しい目をしてやがんだよ、お前)
彼の根底にあるのは、愛と優しさだ。妹であるミーシャへの愛と、そして境遇を同じくする同志達への優しさ。
(ホントの所、変わってねえんだな、お前は)
妹想いで優しかった、あの頃のエレフと、何一つ変わってなどいない。
だからこそ―――オリオンは悲しかった。
「エレフ」
オリオンはただ静かに弓を構える。
「これ以上お前が堕ちてしまう前に―――俺が、お前を射ち堕とす」
対してエレフは激情を込めて黒き双剣を構える。
「無駄だ。貴様の弓よりも、私は速い」
戦場を、重い静寂が支配する。そして僅かな夕陽の残照すらも消え去った時、二人は同時に動いた。
そう、動いたのは同時。だが。
「言ったろう、オリオン」
オリオンが矢を番え終わる前に、既にエレフはその懐にまで入り込んでいた。
「お前の矢は届かない」
言い終える前に、オリオンの右肩から左の脇腹にかけて深い傷が刻まれた。一瞬遅れて噴き出す鮮血が、エレフの
姿を紅く染めていく。紫の瞳が見据える先で、星女神の勇者は崩れ落ちる。
278遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:30:43 ID:HrV/T4Z80

「オリオン!」
「おい、しっかりしろ!」
闇遊戯と城之内が、倒れ伏すオリオンに駆け寄る。それを見つめ、エレフは冷徹に言い放つ。
「オリオンは、甘すぎた」
「何だと…!」
「私とオリオンの間には、決して埋められない程の実力差はない…なのに何故こうなった?それは、奴が私を殺そう
としなかったからだ。口ではどう言おうが、オリオンは私を殺すことなどできなかったろうさ…それが私との違いだ」
「…違わ、ねえ…」
「!オリオン、動くんじゃねえ!今のてめえは大怪我してんだぞ!?」
城之内の制止も聞かず、オリオンは身を起こす。
「お前だって、俺は殺せなかったじゃねえか…現に俺は、こうして…生きてるからな…」
「…………黙れ」
「エレフ…もうやめろ。こんなことは、やめるんだ…俺はもう、見たくねえ…お前が傷つくのを、見たくねえんだ」
「黙れよ、裏切り者め!」
エレフは今にも泣きそうな声で怒鳴り付ける。その顔はまるで、迷子になった子供のように歪んでいた。
「だったらなんでお前は俺から離れていったんだ!どうして俺と一緒に闘ってくれなかった!何故お前は…俺のこと
を分かってくれなかったんだ!俺と一緒に闘ってくれるって言った癖に!相棒だって―――そう言ってくれたのに!」
「だからだろうが…!」
城之内が、遣る瀬無さとそれ以上の怒りを込めてエレフを睨み付けた。
「友達だから、お前を止めたかったんだよ!相棒だから―――お前を助けたかったんだよ、コイツは!」
「黙れ!お前も黙れよ!黙らないと…!」

「―――そこまでだ、アメジストス」

その声は、さして大きくも荒くもない。それでいて、全ての澱みを吹き飛ばすような覇気に満ちていた。
「我は勇者デメトリウスが仔にして、アルカディアの王…」
現れたのは、雷神の力を受け継ぎし金色の獅子。
279遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/02/26(木) 09:31:39 ID:HrV/T4Z80
「<雷の獅子>レオンティウス―――」
獅子は風車のように槍を振り翳す。身を裂く烈風が戦場を吹き抜けた。
「奴隷部隊を率いる黒き剣士<紫眼の狼>よ―――お前の蛮行、捨ててはおけん」
「アルカディアの王…貴様が…」
エレフの脳裏に浮かぶ光景。惨殺された両親の姿。
「貴様が憎き地の王…我が父の…母の仇…そして…」
そして危うく生贄にされかけたミーシャ。それを指示したのは―――
「―――貴様がミーシャを殺そうとしたのかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
事実は違う。だが今のエレフにはそんなことはどうでもよかった。
目の前の男こそが、憎き祖国を統べる者。ならば―――
この男さえ殺せば、全てが終わる!
振り下ろされた<紫眼の狼>の黒き剣閃。迎え撃つは<雷の獅子>レオンティウスの雷槍。
「私が相手になろう―――アメジストス!」
「望む所だぁぁぁぁぁぁっ!」
遂に出会った二匹の獣―――その咆哮が大地を、そして天をも脅やかす。

英雄達が駆け抜けた神話の時代の最終局面<死せる英雄達の戦い>。
屠り合う狼と獅子は闘いの果てに、残酷な運命を突き付けられることとなる。
280サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/02/26(木) 09:35:16 ID:HrV/T4Z80
投下完了。前回は>>223より。
…いやあ、重い。書いててマジしんどかった。でももっと重いシーンこれから書かなきゃ…はあ。
それにしても如何に隙を突いたとはいえ、人間を遥かに越えた強さのオリオンにナイフぶっ刺せる
ソロルは普通に強すぎですwこのまま成長すれば間違いなく彼女も英雄と呼ばれることでしょう(苦笑)。

>>269 マイナー作品ですからね…一応アニメ化もしてるんですが。
>>270 戦隊ではなくピンのヒーローです。どっかがおかしいヒーロー物という意味では、ゴレンジャイに
     近いかもしれませんね。
281作者の都合により名無しです:2009/02/26(木) 17:40:26 ID:jryp3IW00
お疲れ様です。
社長たちは一本スジが通ってるので悪党でなく
ただ自分を貫いているだけですよね。
それが周りにとってはた迷惑でもあるんですがw
282作者の都合により名無しです:2009/02/26(木) 21:09:40 ID:/we0ymTT0
サマサさん乙。紫眼の狼対雷の獅子ですか。
派手でかっこいいですな。

これから先、重い描写が続いていくのでしょうか。
サマサさんは作風が温かいから、結構書いてて辛いかもしれないですね。
作品的にもまだまだ続くでしょうけど、
最後はハッピーエンドになってほしいものです。
283ふら〜り:2009/02/26(木) 21:48:59 ID:EYFyfkG10
精華の乙女でなくて申し訳ありませんが、サマサさんには♪感謝と敬意〜♪です。

>>サマサさん
・サンレッド
地方を舞台に、小規模な悪の組織と馴れ合いつつ戦ってるみたいっぽい作品といえば
懐かしの「県立地球防衛軍」を思い出します。にしても、フロシャイムの面々はきっちり善人で
ヴァンプ様は無邪気さが微笑ましいし……正直、サンレッドって要らない子に見えますな。

・超古代〜
>お前は口も態度も性格も捻じ曲がってはいるが、根はいい奴だ
いやはや。素朴にして簡潔明瞭ズバリ。サマサさんご自身はコメントで何度も解説しておられ
ますが、なんのなんの。本作でしか知らぬ身としては、海馬は十二分に(時代背景はともかく)
ヒーローですってば。彼とオリオンの二人がかりでエレフを救うのが王道……えと、主人公は?
284作者の都合により名無しです:2009/02/26(木) 23:33:18 ID:3qTjCYPy0
これからクライマックスに向けて重いシーンも多くなると思うけど
サマサさんにはますます健筆に頑張ってほしいな
重いシーンばかりだと書くのも嫌になる時もあるだろうから
たまには明るい短編を書いたりとかしながらだと嬉しい


ふらーりさん、右腕骨折したのに感想書くなんて凄いな・・
285作者の都合により名無しです:2009/02/27(金) 00:33:06 ID:4ncc9VJ40
偶然少年漫画板を見ていたら遊戯関係のssがあるとは
これも運命か何かだろうか
286被害者:2009/02/27(金) 01:01:14 ID:4ekFObh70
 砂場で山を作るより、苦心して作り上げた山を破壊する方がはるかにたやすい。平和も
同じである。
 永き闘争の果てに、この惑星は平和を実現させた。法律を整備し、異民族同士のわだか
まりを解消させ、戦争に使用される武器兵器の類を宇宙に永久破棄するに至った。星中が
一つとなり、新たに「平和暦」の一歩を踏み出そうとした矢先の事件であった。
 惑星の中心にて、全世界から公正な選挙で選ばれた代表者によって感動的な演説がなさ
れている最中──それは起こった。
 降り注ぐ閃光。大爆発。規模は半径数百キロにも及び、爆心地にいた者はむろん即死、
舞い上がった粉塵は恒星の光をさえぎる壁となり空前の氷河期を現出させ、それどころか
地軸までが狂ってしまったため気候の大異変は惑星中に及んだ。
 幾千年の努力によってようやく完全平和を実現させたこの惑星は、一瞬にして平和など
とは対極の、死の星へと生まれ変わった。
 わずかに生き延びた住人はこのような仕打ちをした神を呪った。
 しかし、屈しなかった。
 復讐心。あの爆発は宇宙人の仕業にちがいない。必ずや報復してみせる。もし本当に神
によるものだったとしたら、神だとて敵だ。
 地獄とも区別がつかぬほど劣悪な故郷を、彼らは死に物狂いで再生させた。
 やがて、大量の破壊兵器とともに、ついに住人たちは宇宙進出を決意した。目的はむろ
ん復讐戦に他ならない。
 宇宙に出て程なくして、彼らは同志を得ることができた。
287被害者:2009/02/27(金) 01:02:29 ID:4ekFObh70
 同じくいわれのない攻撃を受けた星の集まり。いわば被害者の会。程度は様々で、宇宙
船を斬られた種族もあれば、故郷の星を丸ごと失った種族もあった。共通点は、いずれの
場合でも加害者は全く姿を見せていないということだ。光年クラスの超長距離攻撃である
ことが推測される。
 どうせ復讐するならば成功率が高い方が望ましい。彼らも快く仲間に加わることとなっ
た。

 被害者の会はこれまでの全被害報告を徹底分析し、いったいどの方面、どの座標から攻
撃されていたのかをついに導き出した。
 驚くべきことに、全ての事件の原因はほぼ同じ座標から発射された攻撃によるもの、と
いう計算結果が出た。
 攻めるべき対象が絞られた瞬間だった。
「なるほど、我々を苦しめた怨敵の根拠地というわけか」
「許さぬ……宇宙から分子一つ残さず消滅させてくれよう」
「総力を挙げて出陣だ」
 被害者の会による、百近い惑星の全戦力を投入した宇宙連合軍が完成した。
 総数百万の艦隊に乗り込むのは、百万の百倍の精兵。
 怨念を動機に造り上げられた兵器は破壊力抜群だ。巨大恒星をも一瞬で滅ぼす光子レー
ザー砲を筆頭に、光速以上で敵を追尾するミサイル、従順で小型銃を操る不死身のサイボ
ーグ軍団、さらには被害者の会メンバー以外は五秒で死滅させるウイルスも開発した。む
ろん、いずれの艦にも強力なバリアが標準装備されている。
288被害者:2009/02/27(金) 01:03:15 ID:4ekFObh70
 もはや一刻の猶予もなし。恨みに燃える艦隊は、過去から現在に至るまでの憎悪を胸に
秘めて出発した。

 とある惑星──。
 今では平和なこの星も、かつては宇宙で一番といっても過言ではないほど危険な星だっ
た。常に内にも外にも敵を抱え、いつ滅亡してもおかしくない状態だった。
 しかし、この星の勇敢な戦士たちによって、それらは全て打ち砕かれたのである。
 激しい戦闘だった。「気」という名の潜在パワーを駆使して発射されるエネルギー波が
雨あられに飛び交った。
 そして、敵にも地形にも当たらず大気圏外に脱出したエネルギー波は、凄まじいエネル
ギーゆえスペースデブリにも負けず、消えることもなく、宇宙のあちこちにぶつかった。
星一個を爆砕してしまったこともあるという。
 もちろんこれは遠い先祖が引き起こした悲劇で、今の住人にまったく罪はない。
 この惑星の住人は知らない。近い将来大軍勢によって、まるで砂山を壊すような無慈悲
さで自分たちの平和が破壊されてしまうことを。

                                   お わ り
289サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/02/27(金) 01:04:57 ID:4ekFObh70
エネルギー波の行方をSSにしました。
290作者の都合により名無しです:2009/02/27(金) 07:12:31 ID:SATAEsjk0
サナダムシさん乙です
そういえば昔、悟空たちがうったかめはめ波は
かわされたあとどうなるかとおもったw

スペースデブリってなに?
291作者の都合により名無しです:2009/02/27(金) 08:12:31 ID:1FKnl72W0
語ろうスレがなくなったからってこっちに質問の場を移すなカス
292作者の都合により名無しです:2009/02/27(金) 21:07:39 ID:G6c+4n8y0
まあ、ググればいいからな

お疲れ様ですサナダさん。
今回は割とシリアスな感じの短編でしたね。
遠い過去の因縁が、未来への憎しみになるとは、深いな。
293作者の都合により名無しです:2009/03/01(日) 00:35:41 ID:ANHhMxy80
サナダムシさんにはそろそろ連載を始めてほしいな
294作者の都合により名無しです:2009/03/01(日) 11:52:33 ID:7RZOYMnrO
休み、欲しい
295作者の都合により名無しです:2009/03/02(月) 06:54:57 ID:LFkqnlAMO
三月二日
296作者の都合により名無しです:2009/03/02(月) 21:05:24 ID:V7GiOTR30
かつてのこのスレの隆盛振りを知る人間からしたら
今の状況は少し寂しい…
297作者の都合により名無しです:2009/03/04(水) 08:02:23 ID:OCj7ipy9O
すい、ようび
298THE DUSK:2009/03/05(木) 00:13:14 ID:88XZliwp0
俺は歩く悪夢。俺は破滅の武器庫。俺は登院厳重命令。俺は禁止政策物。俺は歩く天災。

――俺は破壊者だ。



第六話 『GANGSTER NUMBER 1』



――東京都 新宿区 某所

深夜。
眠らない街の一角。とあるレストラン。
優雅に流れているのはJ.S.バッハの『ゴルトベルク変奏曲』。
店内には欧州の風情を感じさせる絵画や彫刻が主張し過ぎない程度に配置され、それを照らす照明も
比較的シンプルなデザインのシャンデリアが発する大人しげな光であった。
主役である客達はレストランの雰囲気とBGMの調和を崩さぬよう、誰もが物静かな声で上品に語らっている。
ミシュラン・ガイドのお忍び調査員が店内を一目見たならば、感嘆とまではいかなくても「気が利いている」と
賛辞の呟きを洩らすかもしれない。
しかし、星の対象とはならないだろう。
何故ならば、このレストランにはあまりにも奇妙な点があったからだ。
それは純白のクロスに覆われたテーブル。
どのテーブルの上にも料理はひとつとして見当たらず、赤い液体を満たしたデカンタとワイングラスしか
置かれていない。
談笑する客達は気品に満ちた仕草でグラスを傾け、その度に唇の奥からは異常に発達した犬歯が
見え隠れしていた。
299THE DUSK:2009/03/05(木) 00:14:35 ID:88XZliwp0
 


店内の奥にはVIPルームが一室だけ用意されている。
ただでさえ高級感に溢れた店内で、セレブリティのバーゲンセールのような客層だというのに、
一体どこの御大尽がこの扉の向こうの部屋を使うのだろう。
扉を開けた先、室内のテーブルを囲んでいたのはそんな質問の回答に足る、錚々たる顔ぶれだった。
もし日本に吸血鬼退治を生業にする者がおり、この場に出くわしたとしたら、吸血鬼一掃の好機とばかりに
襲いかかるか、関わり合いは御免だと震え上がるかのどちらかだろう。
九割九分九厘は後者と思われるが。

上座に座る白髪頭を七三分けにした恰幅の良い老人は葉巻をくゆらせながら、笑顔を湛えて会話の
中心を担っていた。
ただし、色薄いサングラスの下に光る眼は少しの油断も無く、己以外の人物を見据えている。
日本国内最大の任侠吸血鬼組織である“関西寅吉会”会長、佐山寅雄である。
その佐山の左手側には、軽薄なニヤケ面を振りまきながら他の者の弁に相槌を打っている寅吉会若頭兼
前田組組長の前田裕。
更に注目すべきは前田の真向かい、佐山の右手側に並んでいる三人の男達――

チャイニーズヴァンパイア、黄元甲。尸鬼三合会首領。

ロシアンヴァンパイア、ウラジミール・パコージン。元ソビエト連邦軍第1親衛科学強化歩兵連隊長。

コリアンヴァンパイア、チェ・ドンシク。大手金融企業会長。

黄元甲とパコージンはユーラシア大陸全土に展開する強力な犯罪組織を有しており、チェ・ドンシクは数多くの
同胞と共に日本のあらゆる機関機構を裏側より牛耳っている。
いずれにしても三人が三人共、本国及び日本での影響力が計り知れない吸血鬼達であった。

日本の頂点に立つ吸血鬼(ヤクザ)と世界を股に掛ける吸血鬼(マフィア)。
誰にも知られる事は無い、しかし確実に現代社会に致命傷を与えられる者達の会合に、一人の給仕(ウェイター)が
おそるおそる扉を開けて近づいてきた。
300THE DUSK:2009/03/05(木) 00:15:53 ID:88XZliwp0
給仕は佐山の脇に身を寄せると、極々小さな声で彼に耳打つ。
「佐山様、桐敷千鶴様がご到着されました」
彼の言葉を聞いた瞬間、にこやかだった老人の顔に怒りの色が浮かんだ。
「連れてこんかい」
ドスの利いた低い声でそう命令されると、給仕は冷や汗混じりの小走りで(とは言っても店の格調高さを
損なわない程度にだが)VIPルームを後にする。
そして然程の間も無く、一人の女性が部屋に入ってきた。
年の頃は二十代半ばであろうか。漆黒のストレートロングが赤のフォーマルスーツに映える日本的な美女だ。
その女、桐敷千鶴はテーブルの下座に近づくと、佐山の方へ深々と丁寧に頭を下げた。
「親分、若頭。ご無沙汰しておりました」
外国吸血鬼勢にも挨拶は向けられる。
「黄大人、パコージン大佐、チェ会長。皆様もご機嫌麗しく存じます」
一通りの礼儀が終わった千鶴は、前田に手で促されてそのまま着座した。
座ってすぐに脚を組む辺り、先程の挨拶に敬意が込められていたのかは甚だ疑問である。
前田は佐山と他の三人に一礼すると、千鶴に話し始めた。
「桐敷の姐さん、何で呼ばれたかはアンタも承知だと思います」
彼女の顔色は変わらない。前田もお構い無しに話を続ける。

「ロシア人、中国人、韓国人、タイ人、フィリピン人、ヴェトナム人、カンボジア人……――
アタシが報告を受けているのはごく一部でしょうが、これだけの吸血鬼をアンタは人間なんぞに
売りつけている。しかも牙ァ抜いて、手足ちょん切ってダルマにしてね。一体、何を考えてんだか……
どの吸血鬼もこちらの御三方の御同胞や、仕切ってるシマの吸血鬼だ。アンタは御三方の信頼を裏切り、
親分に可愛がられた恩を忘れ、アタシの顔に泥を塗ったんですよ。これをどう申し開きするつもりですか?」

愚かしさ溢れる罪状を一息に並び立てて釈明を迫る。
問われた千鶴は人差し指を片頬に当てて首を傾げ、困ったように眉尻を下げた。
謝意や反省の色は微塵も感じられない。
「申し開きも何も…… んー、ただの資金稼ぎだったんだけどねー」
前田は彼女の能天気な態度と返答に只々呆気に取られてしまった。まるで白痴か何かを相手にしている
錯覚さえ覚えた。
黄元甲とパコージンは少しも表情を変えず不動の構えだが、佐山とチェ・ドンシクの眉間の皺は
深さと数を増す一方だ。
301THE DUSK:2009/03/05(木) 00:17:37 ID:88XZliwp0
事の重大さをまるでわかっていない呑気な“釈明”は続く。
「私ね、これからちょっと大きな事業をやろうと思ってるの。でもさ、何か事業を起こそうとしたら
資金が必要なのは当然でしょ? それにホラ、吸血鬼に人間を売るより、人間に吸血鬼を売った方が
全然お金になるじゃない。ウフフッ」
千鶴がここまで話すと、チェ・ドンシクは突如テーブルを音高く叩いて立ち上がり、母国の言葉で
彼女を口汚く罵った。
前田もすぐに立ち上がると平身低頭の勢いで彼をなだめる。
「チェ会長、ここはひとつ穏便に……」
頭を下げた姿勢のまま千鶴の方へ顔を向けた前田は、それまでとは打って変わった形相で彼女を睨みつけた。
「ここがどこか、誰の前でモノ喋ってんのか、その辺をよく考えた方が身の為ですぜ」
「はいはぁ〜い」
帰って来るのはふざけきった調子の不真面目極まりない返事のみ。凄味を利かせた脅しも然したる
効果は無かったようだ。
堪忍袋の緒が切れるのはまだまだ先なのか、前田は苦り切った顔で席に座り、辛抱強く尋ねた。

「それともうひとつ。アンタ最近、仲間を連れて“緑青町”に入ったそうですね。あそこら辺を含めた、
銀成市とその周辺地域は人間政府と合意の上の吸血鬼不干渉地帯ですよ」

「え? そうなの? 知らなかったー。私も自分の組を作るから、新しいシマに丁度良いなって思ったんだけど。
でもー、別にいいじゃない。小さな住宅地なんだし」

ふざけるか、白を切るか、開き直るか。あくまで真剣な話をするつもりは無いらしい。
前田にしてみれば怒りに任せて今すぐにでも殺してしまいたいところだが、腐っても親分の女(イロ)だ。
それにこの場には各国の頭目が顔を揃えている。佐山の跡目を自負する者としてはあまり器の小さいところは
見せたくない。
なるべくならば筋道立てて論理的に彼女を承伏させたい。組の参謀としての、新世代の日本吸血鬼としての
己が機知をこの機会に他国の要人へ知らしめておきたい。
目の前に座る世間知らずのせいで波立つ心を懸命に抑えながら、前田は噛んで含めるように千歳に
言い聞かせ始めた。
「姐さん、アンタね。関西から進出してきたウチの組がこの新宿(ジュク)に食い込む為に、親分やアタシが
どれだけの苦労をしたと思ってるんです? 何人の若え衆が血を流したか知ってますか? 誰もいない、
いちゃいけないとこに勝手に旗立てて、それで『私のシマよ』って…… そんなの通りませんよ」
302THE DUSK:2009/03/05(木) 00:19:37 ID:88XZliwp0
正論である。あまりに正論過ぎて違和感を覚えるくらいだ。

すると、ここで初めて佐山が口を挟んだ。
「お前のやってるこたァな、そこいらのチンピラ吸血鬼と同じこっちゃ」
節くれ立ってゴツゴツした指を千鶴に向けたまま、そう吐き捨てる。
若い前田と違い、前時代的なヤクザの象徴とも言うべきこの老人は細か過ぎる思慮はあまり必要としていない。
部下や外部の者がいるにも関わらず、自分が飼っていた元の愛人を徹底的にこき下ろす。
「おい、この女狐をよう見んかい。コイツにゃ吸血鬼としての仁義も名誉も誇りも何にもあらへんがな」
これ程の面罵を受けているにも関わらず、千鶴の表情はいささかも怒りや恥辱を感じさせない。
それどころか、前方へ身を乗り出して両掌で頬杖を突くと、一際甘えた声で何の脈絡も無くこう言い放った。
「ねぇ、親分。私はね、他の組長さん達ととっくの立場になりたいの。すっごく強い部下をたくさん持ってー、
あなたの息がかかってない埼玉とかに自分のシマを持ってー、“吸血鬼らしく”好きなように暴れさせてくれたら、
なぁーんにも文句は無いのよ」
ヤクザどころではない、まるで子供の言い分だ。
つい先程も佐山が口にした所謂“仁義”というものを鑑みれば、彼女の要求は常識外れも甚だしい。
当然の如く、文字通りの一笑に付される。
「そんなもんワレ、日本中の親分衆が許すと思とんのか?」
「親分、ここはアタシが」
前田は如才無く話の流れを引き継ぐと、お得意の理路整然とした論調で千鶴を諭した。
「アンタも日本中に幾つの組(コミュニティ)があるか、知らない訳じゃないでしょう? それぞれの組の親分衆と、
周辺諸国の吸血鬼、人間のお偉方。これらが話し合いに話し合いを重ねた結果、微妙なバランスの下に
共存関係が築かれている。アンタはそれを全部ブチ壊して無法社会を作ろうと言ってるんですよ。
そんなもの、誰が得をします?」
今度は千鶴がフンと鼻を鳴らして嘲笑を浮かべる。
「話し合い? 共存関係? さっすが、インテリ吸血鬼(ヤクザ)は言う事が違うわねー」
「どういう意味ですかい」
募る苛立ちが前田の口を反射的に開かせた。そろそろ腹に据えかねる頃なのか、簡単に冷静の仮面が
剥がれてしまっている。
一方の千鶴は片方の掌を腰に、もう片方の掌をテーブルに置いたまま立ち上がった。
303THE DUSK:2009/03/05(木) 00:21:46 ID:88XZliwp0
 
「いい? 人間なんてね、吸血鬼の“餌”なのよ? “家畜”なのよ? ところが今の日本は家畜が
その辺に放し飼いにされてブヒブヒブヒブヒやりたい放題。それなのに私達、吸血鬼は好きな時に
好きな場所で好きなだけ血も飲めないときてるわ。おまけに住む場所すら自分の好きに出来ない。
何それ、バッカみたい。そんなのおかしくない?」

突然の剣幕に前田は誰にも悟られぬよう密かに息を呑んだ。
子供っぽい口調こそ変わらないが、彼女の声の質が獅子の唸りにも似た獰猛さを帯び始めている。
それに内容にも問題があった。
言い方に違いはあれど、“住居”や“食事”への不平不満は組内や他組織の強硬派から常に噴出している
懸案事項であり、前田の頭痛の種だ。
佐山の威光と寅吉会の代紋で何とか押さえつけてはいるものの、程度の低い末端構成員の中には
凶行に走る者もそろそろ出てきている。
「ね、姐さんはそう言いますけどね」
気圧されつつある今の状況を打破しなければ、と内心滝の汗で頭を絞る。これでは千鶴の喚問ではなく、
己の弁明だ。
「“食事”に関しては改善されつつありますよ。老人、病人、重犯罪者、ホームレス、孤児等は優先的に
“餌”へ回すように人間政府と交渉中です。それにもうすぐアメリカの肝煎りで血液銀行も導入に――」
「私はね! ヨボヨボに萎びたジジイの血も! 原産地不明で賞味期限切れのパック詰め血液も!
真っ平御免なのよ!!」
前田の言葉を遮り、千鶴はヒステリックな怒鳴り声を上げた。
それまでの愛らしい表情と甘え声は最早完全に消え去ってしまった。代わりに現れたのは爛々と光る
真紅の瞳と剥き出された鋭い牙である。

吸血鬼界の重鎮達を向こうに回した逆ギレを見せつけられるに至り、佐山はようやく自分の愚かな選択を恥じた。
事の次第を報告された時に、釈明や謝罪の間など与えず拉致して殺してしまえば良かったのだ。
“元は囲った女”という事実にいらぬ温情を湧かせた結果、諸外国の吸血鬼の前で己の醜態を晒す事と
なってしまった。
「もうええ、前田。時間の無駄や。このボケに今までしてきた事の落とし前つけさせろや」
「へ、へい」
親分の不興を買ったと勘違いしているこの若頭は慌てて懐から携帯電話を取り出し、ボタンをプッシュして
耳に当てた。
304THE DUSK:2009/03/05(木) 00:24:12 ID:88XZliwp0
おそらくは“落とし前”の段取りであろう。
佐山の方はというと、三人の外国吸血鬼の方へ改めて向き直り、両膝に手を突いて深々と頭を下げている。
「御三方、えらいすんませんでした。今回の件はワシが命懸けでお詫びさせて頂きますよってに」
パコージンとチェ・ドンシクは沈黙を守ったまま。
しかし、黄元甲だけがフウと溜息を吐き、少しも笑わずに口を開いた。
「そう気にしてくれなくてもいい、オヤブン。我々とて君達との友情は大切にしたい。ただ、こんな事を
繰り返されてしまってはその限りではないがね」
「そらもう……」
下げた頭の裏側で奥歯が砕けん程に歯噛みする佐山。激怒の矛先が誰に向かうかは言うまでも無い。
そして、その千鶴が緊張感の欠片も無い大アクビをひとつすると、それが合図であるかのように――

VIPルームが別世界へと変わった。

いや、室内の様子やそこにいる者達に変化があった訳では無い。彼らが入室した時とまったく同じである。
レストランの中を優雅に彩っていたBGMに変化が起きていたのだ。
「You ain’t nothin’ but hound dog. Cryin’ all the time…」
それまで流れていた『ゴルトベルク変奏曲』とは打って変わった、軽快なリズムのロックンロール。
これはエルヴィス・プレスリーの『Hound Dog』だ。
店側の不可解極まる選曲に、千鶴以外の五人は眉をひそめている。

「神はたったひとつだけ間違いを犯したァ!!」

突如響き渡った蛮声に驚いた男達は、一斉に扉の方へと眼を向ける。
視線の先には一人の男が大きく開け放たれた扉を背にして佇んでいた。
その風貌は“異様”の一言。
軽く2mはあろう長身の割に体躯は幽鬼の如く痩せ細り、落ち窪んだ眼はギョロギョロと室内を見回している。
禿げ上がり気味の髪は鶏冠を思わせるリーゼントに固められ、身を包んでいるのは漆黒のライダース
ジャケットとレザーパンツ。

「それは俺達のキングを! 俺達のビッグ・エルヴィスを! 天国へ連れて行き、自分だけのものに
しちまった事だァ……」
305THE DUSK:2009/03/05(木) 00:27:50 ID:88XZliwp0
 
訳のわからぬ弁舌を打つ男の後ろには、更に二人の人物が付き従っていた。
一人は陽気な笑顔のヒスパニック系。先頭の男程ではないが彼もまた大男で、手にはこれまた大きな
ギターケースを提げている。
もう一人は一見女性と見紛うばかりに端麗な容姿の白人少年。親指の爪を噛みながら、どういう訳か千鶴を
憎々しげに睨みつけていた。

「神のケツにカマしたチ○ポを、ジーザスにしゃぶらせてやるぜェ…… ヘヘヘヘヘヘ!」

下卑た哄笑を撒き散らす男に、千鶴以外の誰もが不審者を見る視線を送っていたが、一人だけ顔面蒼白で
震え上がっている者がいた。
前田裕である。
「ジェ、ジェ、ジェイブリード……」
名前らしき単語を呟いた前田に、佐山が怪訝そうな面持ちで尋ねた。
「何や。あのアメ公、知っとるんか」
だが、カチカチと歯が噛み鳴らされる口からはいつまで待っても答えが出て来そうにない。
その様子を見ていた黄元甲が不承不承、男の素性を教える。

「“ジャックの血統” “アメリカン・バッド・アス” “大病原菌”。大層な二つ名を持ってはいるが……――」

パコージンが嫌悪と侮蔑を込めてその続きを吐き捨てた。

「――西側諸国が生んだどうしようもないクズだ」
306塩おむすび ◆2i3ClolIvA :2009/03/05(木) 00:29:58 ID:88XZliwp0
お久しぶりです。ご心配とご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ちょっとした家庭の事情でネット関係を休止しておりました。
反省と謝罪の証として第六話が終わるまではコテを“塩おむすび”に改名します。もしWWEファンの方がいらっしゃいましたら
蔑みを込めて“大先生”と呼んで頂いても結構です(塩分濃度高め的な意味で)。
何にせよ、再び元のコテを名乗るのはしっかりとバキスレに貢献してからという事で…… 今後ともよろしくお願いします。
今回は一人の原作改変キャラと大勢のオリキャラばかりで何ともしょっぱい感じですが作品の構成上、必要な回なのでご容赦下さい。
あとジェイブリードは野沢那智さん、千鶴は玉川紗己子さんで脳内再生したら幸せになれるかもしれません。
あと全然関係無いですが、めーフラとザナこまが俺のナパームストレッチ。
あと全然関係無いですが、今年も例大祭に行けなさそうなので悲しいです。
では、御然らば。
307作者の都合により名無しです:2009/03/05(木) 07:16:05 ID:XnHAFZYw0
ああ、なんにせよ復活してよかった・・
でも前の「さいさん」のが呼びやすくて良いなあw
吸血鬼の非道振りが出てておどろおどろしいですな。
塩おむすびさん、これからも頑張ってください。
308作者の都合により名無しです:2009/03/05(木) 20:36:05 ID:xuV9LU2a0
さいさんお帰りなさい!少々心配しておりました。
さいさんの悪役はおどろおどろしいけど、どこか知性が感じられて良いですね。
ご自分のペースで構わないので、これからもちょくちょくお願いします。

PS.ブログは復活しないんですか?
309ふら〜り:2009/03/05(木) 22:08:10 ID:F1y1tExz0
>>サナダムシさん
あぁ〜確かに。私も想像したことはあります。空に向けて撃った銃弾ならいずれ確実に落ちて
きますけど、気のビームはねぇ……しかも終盤は惑星破壊を遥かに越えたレベルになってまし
たし。作品によってはバトル用隔離空間があったりしますが、DBだとこういう悲劇が起こると。

>>(では、しばし御心のままに→)塩おむすびさん(それはそうとブログ復活希望つーか熱望)
お帰りなさいませっっ! 相変わらずキャラの外見や心情のみならず、その場の「匂い」が
感じられる背景描写が凄い。過去作で描かれた外国の街並、今回の上品高級なレストランなど、
行ったことないのにリアルだなぁと感じられます。こういうのに手を抜かないこと、見習わねば。
310作者の都合により名無しです:2009/03/05(木) 22:59:35 ID:AUnnEtK90
俺もさいさんの方が呼びやすいなw
とにかく復帰されて一安心
塩おむすびさんは外国に詳しそうだな
THE DUSK、なんとか完結させてね
311作者の都合により名無しです:2009/03/08(日) 12:12:15 ID:Z82iwRbQ0
さいさんも復活してくれたし、もう一人誰か復活してくれないかな
312作者の都合により名無しです:2009/03/08(日) 14:17:21 ID:pGw9tjhB0
お前らほんと復活って言葉好きな
313作者の都合により名無しです:2009/03/08(日) 14:23:53 ID:REN4/XXVO
じゃおまえが書けよ
口開けて待ってたって餌は落ちてこねぇよ
314作者の都合により名無しです:2009/03/08(日) 23:52:37 ID:gFbNnRyB0
4月半ばまで待ってくれや
会社がこの不況で潰れそうだから
その前に辞めてしばらく暇になるから
そうしたら書ける
315女か虎か:2009/03/09(月) 22:39:39 ID:OgYWWApB0
10:HELLION

 水をテーマにしたレジャー施設として一九八〇年代に開園したその遊園地は、今年の夏の終わりとともに、
少子化と大型テーマパークの隆盛に押されて閉園となった。オーナーは夜逃げ同然に姿を消し、担保に
入っていた土地も他人の所有となったが、新しい地主がアトラクションの撤去費用を惜しんでいるがために
、数ヶ月が経過した今もそのまま放置されている。
「『ウォーターゲートパーク』ね」
 血で汚れた応接間から離れた別室。新しく供されたマドレーヌを口に咥え、サイは短く唸った。
 あの兄弟の姿はない。
「一応は東京都内ではありますが、ほぼ名ばかりと言ってよい寂れた場所です。面積は三十五ヘクタール、
周囲は柵や植木などで仕切られて内部を覗き見ることは難しくなっています。潜伏場所としては絶好の条件かと」
 プール、ウォータースライダー、スパ、その他諸々。テーマが『水』というだけあって、設備やアトラクションも
全て水に関係したものになっている。
 アムール虎は水を好む、≪我鬼≫もまた例外ではない。早坂久宜の報告を受けてアイが出してきた
資料を手に、サイはふとつい先日のブリーフィングを思い出す。捜し当てるのはあの兄弟のほうが早かったが、
この女の考え自体は当たっていたことになる。
 そういえば、発見の報告から資料を渡されるまでずいぶんと早かった。まるであらかじめ用意してあったかのごとく。
 向けられた視線の色の変化に、気づいたのかアイはすぐ言い添えた。
「≪我鬼≫が潜伏している可能性の高い場所をリストアップして絞り込んだ中の一つです。
 実際の捜索に着手する前に、『笑顔』の二人が見つけてくださいましたが」
「へえ」
 やはりこの女は有能だ。裏社会叩き上げの連中が独自の情報網で探り当てた事実と同等の内容に、
頭脳による分析をもって辿りついてしまうのだから。
「行動範囲千キロとかいってたから遠征は覚悟してたけど、意外に近いところに隠れてたもんだね。
 助かったよ」
「……はい」
 資料は数十枚にも及ぶ。施設内部の図面は基本として、プールの排水口の位置から植えられた
観葉植物の品種に至るまで、よくもまあと舌を巻くほど詳細に調べ上げられている。何を行うにも
決して手を抜かないこの女だからこそ可能なことだった。
 指に唾をつけながら、サイは一枚数十秒のスピードで読んでいく。全てを把握しようとは思っていない。
一般人の域を出ない彼の知能でそこまでの芸当は不可能である。
316女か虎か:2009/03/09(月) 22:42:10 ID:OgYWWApB0
「電気や水道は通ってないんだよね。配線図や配管図も載ってるけど」
「全て供給停止状態です。もっともサイ、あなたが望まれるのなら、『復旧』させることも不可能では
 ありませんが」
 さらりと言い放つ。大言壮語でもなんでもなく、この女ならその程度の技能は身につけている。
マドレーヌをふっくら柔らかく焼くのとさして次元の変わらぬ芸だ。
「ご入り用ですか?」
「準備はしておいて。もしかしたら使えるかもしれない」
 かしこまりました、と従者は頭を下げる。
 サイは資料を置き、肘をついて細い顎を指で支えた。あの忌々しい兄弟のせいで血で汚れてしまった
応接間のテーブルとは違い、場所を変えたこの部屋のそれは磨きぬかれて曇りひとつない。清潔をよしと
するこの女の嗜好によるものだ。
 もっとも従者の努力いかんにかかわらず、清潔さなどサイの念頭になかった。
 普段からそうではあるが――とりわけ今は。
「ねえ、アイ」
「は……」
 置いた書類から顔を上げ、サイは言った。
「俺は人間だよ」
 吐き出された声はかすかに震えていた。
 一方で従者の表情は、あくまでも落ち着いて揺らがない。しゅっと細く弧を描く優雅な眉も、その下に
開かれた吸い込まれそうに黒い瞳も、主人の百分の一も情動をはらんではいない。
 感情任せにサイは吐き捨てる。爆発しそうな胸の内を言葉に乗せて叩きつける。
「化物じゃない、人間なんだ。あいつは確かにそう言ってくれた。自分が誰だか分からない、世界で一人だけ
 宙に浮いてるみたいだった俺を定義づけてくれたんだ。生まれつき正真正銘の『化物』のあいつが……」

 自分の正体が分からない。
 この血と肉がどこから来たのかも、常識の枠を踏み越えた細胞が何に由来するのかも。
 殺して詰めて積み上げた箱の数は、とうの昔に百を超えた。千を超えたと報道される日も、そう遠い
未来ではないだろう。しかしそれだけの人間の中身を見てなお、自分に通じるルーツは見つからない。
 メディアが仰々しく報じる犯行の数々は、そのまま無為に終わった観察の記録である。幾年にもわたって
当てどなく彷徨い続け、未だに手がかりひとつ掴めずにいることの、この上なく残酷な証左でもある。
317女か虎か:2009/03/09(月) 22:45:23 ID:OgYWWApB0
 自分の立ち位置が分からないということは、自分以外の何もかもが分からないのと同じことだ。二十四時間
絶え間なく続くその苦しみに耐えながら、サイはアイデンティティの欠落した人生を生き続けてきた。
 そんな彼にある男がかけた言葉。

 ――人間に決まっている。
 ――その向上への姿勢こそ、貴様の正体が人間である証だ。

「今の俺には、あの言葉以外に縋れるものがないんだ」
 濁流に呑まれゆく身に差し出された一本の藁。
 掴むにはあまりに細く頼りない。だが掴まなければただ呑み込まれて溺れるしかない。
「俺は人間だって、少なくともこれだけは確かな真実だって、あれ以来ずっと自分に言い聞かせてる。
 それだけで、すうっと心が楽になる気がする。終わりが見えなくて挫けそうでもまだ前に進める。
 そんな風に思える。……だけど」
 サイの瞳に巣食う、どす黒い色彩をアイは見たろうか。
「早坂久宜、あの男。……あの男」
 彼の唯一の希望、たった一つの確固たるよすがを、あの兄弟の片割れは否定した。
 『化物』という言葉で。
 おとがいに指の爪が食い込んだ。血が流れ、手首をつたってしたたり落ちたが、噴き上げる殺気も
指先にこもる力も弱まらなかった。
「あの男、許さない。痛みにのたうち回らせて絶望の縁に突き落として殺してやる」
 ぎぎぎ、と爪が顎を引っ掻く。指は皮を破り、深紅の蚯蚓が這ったような跡を残しながら首筋へと
下りていく。

「サイ」

 首の皮膚すら引き毟ろうとする主人の手を、そっと包んで止めたのは従者だった。
 見た目にははんなりと白く、エレガントにさえ感じられる彼女の手だが、触れてみるとその指先は
意外に荒れてごわついているのに気づく。炊事洗濯から血まみれの現場の処理に至るまで、ありとあらゆる
雑事を一手に引き受けているがゆえの瑕疵だ。
318女か虎か:2009/03/09(月) 22:48:26 ID:OgYWWApB0
「自傷行為はそこまでに。浅いとはいえ回復にはエネルギーを要します」
「ハッ」
 サイは鼻で笑った。従者に向けた瞳は荒野のようにすさんでいた。
「あんたはいいよな、アイ。自分の正体を知り尽くしてるんだから。知ったようなツラしていつも
 俺の傍にいるけど、俺の苦痛なんて結局一パーセントも分かりゃしないんだ。羨ましいよ本当」
「はい。私には、あなたの苦痛は分かりません」
 握り締めた主人の手。その指を一本一本折り込ませ、やわらかな拳の形に握らせていくアイ。
「私に限らず誰一人……蛭も、葛西も、もちろん『笑顔』の兄の方も、あなたの苦しみは理解できません。
 それに限らず、人格、目的、存在そのもの、今の時点では何ひとつとして真の意味では理解できていない
 のかもしれません」
「……何?」
 手を包み込む力は柔らかく、その気になれば即座に突っぱねられる。サイのように人の領域を踏み越えて
おらずとも、平均的な成人男性程度の腕力があれば充分だろう。
 ここでほんの少し力を込めて、この荒れ気味の手を振り払ってもよかった。しかしサイは観察を生業と
する者として、まずはこの女の言わんとするところを突き止めることを優先した。重ねられた手を拒むのは、
全てを話させてからでも遅くない。
「あなたの絶大な力は、他人を暴力と恐怖で屈服させることができますが、一方で他人に自分の認識を
 理解させることは不可能です。前者は本能と感情が、後者は理性が支配する領域。理性を納得させるには、
 力ではなく事実による証明が必要になります」
「証明?」
 最近耳にした覚えのある言葉だった。
 確か、この女自身が口にしていたのだったか。
「私はあなたのお手伝いをさせていただいてはいますが、この証明の過程ばかりは、私が手をお貸しできる
 範囲ではありません。あなたが自らの手で成し遂げるべきものです」
「は? ちょっと、話がよく分かんなくなってきたよ」
「申し訳ありません。端的に申し上げるならば……」
 サイの手のひらからアイの手が離れた。
「他人に『人間』として認識されたければ、単なる主張にとどまらず、現実の行為を以って自分が
 『人間』であると証す必要があるということです。正体の分からない苦痛に関しても、その他の
 あなたの内面における要素に関しても同様のことがいえます」
 これっぽっちも端的ではない説明に、サイは口を尖らせる。
319女か虎か:2009/03/09(月) 22:51:11 ID:OgYWWApB0
「証明証明って簡単に言うけどさ、じゃあ具体的には何すんのさ」
「それは場合によります。そう、例えば……」
 アイは言う。
 サイを人間と呼んだあの男は、その理由を彼の可能性を追い求める姿勢に見た。世の人々があの男と
同じ物差しで世界を見ているわけはないが、それでも一つの糸口にはなり得るだろうと。
「創意工夫と持てる力の限りをもって正体を求めること、それ自体があなたの可能性の証明となり、
 人間としてのあなたを周囲に示すことに繋がる。――そのように考えることはできないでしょうか?」
「……………」
「何はともあれ、まずは≪我鬼≫を仕留めましょう。急がなければ移動してしまうかもしれません」
 この女の話は小理屈ばかりで、一ミリたりとも理解できない。しかも今回はリアリストのこの女にしては
珍しく、妙な理想論とご都合主義まで混入しているような気がする。
 だが≪我鬼≫の元へ向かうのが最優先ということにだけは同意だった。
「出るよ。装備一式まとめてあるよね? 持って行くから全部車に積み込んどいて」
「はい」
「葛西も連れて行くけど文句はないね?」
「……あなたがそれを望まれるのでしたら」
 景気づけも兼ねて思い切り伸びをした。傷を再生したばかりの体は、バネのようにしなやかに
大脳の命令に応じた。
 葛西を呼びつけるため、アイは部屋の出口へと向かう。
「アイ。あんたはどうするんだっけ?」
 呼び止められた従者は振り向いて答えた。
「あの兄弟と共に現場へ向かいます」



「葛西を連れて行かれるんですか?」
 唇をひん曲げ眉根を寄せ、不満を顔全体で表現した蛭は、ついでに声音にまで不本意さをにじませた。
 いい顔をしないだろうことは分かっていたが、ここまで露骨に嫌そうにするとは予想外だった。
従者や放火魔にならともかく、主人であるサイに彼がこんな反応を見せることは稀だ。どんなに無茶な
注文をつけられようと、まずは『はい』と素直に従うのが蛭という男のはずだった。
320女か虎か:2009/03/09(月) 22:54:34 ID:OgYWWApB0
「何、蛭。あいつが俺と組んで現場組なのはブリーフィングのときから分かってたでしょ。
 今更そんな顔してどうすんの」
「いえ、その。決して、サイに逆らうとかそういうわけじゃないんですが」
 だがたとえ滅多にないことであっても、部下の反抗を許容するわけにはいかない。傾きに傾いた機嫌も
手伝って、サイの声も自然尖ったものになった。
 主人の不興を察して蛭が縮こまる。タートルネックのセーターに首が埋まる。
「だったらせめて、俺も連れて行ってください。こんな大事な局面であの男と二人だなんて……」
「駄目。あんたには解析の仕事があるでしょ。大体あんたがついて来て何になるの、高校のときの同級生
 みたいに、消化液ポタポタ垂らしただけであの虎殺せるとでも思ってる?」
 一蹴。
 きつい言い方ではあるが、事実である。この青年は頭脳には優れるものの、戦闘に関して突出した能力や
技術は持っていない。連れて行ったところで生き餌になって終わるのがせいぜいだろう。
 蛭はしばらく、まだ何か言いたげに口をぱくぱくさせていたが、そのうち諦めたのか下を向いて
黙り込んでしまった。
「納得した? 分かったら大人しく留守番しててよ。それじゃあね」
 くるりと背を向けた。
 玄関を出たところに車が止めてある。サポート兼運転手を命じた葛西が、先に運転席に座って待っているはずだった。
「……お気をつけて」
 ドアを開けて歩き出したサイを、やや気落ちした蛭の声が追いかけてきた。主人が絶対に振り返らないのを
知っているくせに、律儀に深々と頭を下げているのが気配で分かった。



「葛西!」
 放火魔は黒のセダンの運転席で一人、車内灯も点けず旨そうに紫煙を吐いていた。近づいてくるサイの
姿に気づくと、軽く会釈して助手席側のドアを開けた。
 ランプが点灯する。サイは飛び乗って腰を落ち着け、膝を組む。
「思ったより時間がかかりましたね」
「うん、蛭がちょっとゴネてさ。あいつ最近ちょっと生意気なんだよね、帰ったらちょっと一回
 しつけ直してやんないと」
321女か虎か:2009/03/09(月) 22:57:19 ID:OgYWWApB0
 葛西は火のついた煙草を口から放し、いつものあの特徴的な笑いを漏らした。
「まあまあ、そういちいち目くじら立てず大目に見てやっちゃどうです? 奴も奴なりに色々考えて
 行動してんでしょうよ」
 オレンジ色の車内灯を浴びた顔は、ただでさえ善良には見えない彼の顔をなおのこと悪人面に見せる。
顔はあかあかと照らされているのに、目元だけはキャップの鍔に隠れて伺えないのもその印象を更に強める。
 差し込んだキーを軽くねじり、葛西はエンジンを作動させた。
 るぉん、と足元から伝わる震え。
「シートベルトは締めないんで?」
「要らないよ。これって交通安全のためにあるものでしょ」
 走行中の車が高速で横転し衝突・爆発炎上を経ようとも、サイならまずもって死ぬことはない。
体細胞を炎で焼き切られて再生不能に陥るおそれはあるが、それはベルトを着用していようといまいと
関係のない話だ。
 へぇ、と、自分で聞いたわりには興味のなさそうな生返事とともに、葛西は自分のシートベルトを締めた。
「遊園地まで、普通に走ると二時間かかるそうですが。目一杯飛ばしてなんとか一時間半で……」
「一時間だよ」
 サイは言い切った。
「一時間で行って。それ以上はビタ一分譲れない」
「い、一時間て、ンな出店で値切るみてぇに気軽に言われても」
「い・ち・じ・か・ん・で行くったら行くんだよ」
 それが最後通告であると声の調子で悟ったらしい。
 口から漏れた嘆息は、諦めの色を濃く帯びていた。葛西はアクセルを踏み、人っ子一人いない深夜の
路地からセダンを発進させた。



 兄の報告を聞き、主人とともに部屋を出て行った女は、体を汚す返り血を洗い落とし、服を清潔なものに
取り替えてほどなく戻ってきた。そして主人の非礼を簡単に詫びたのち、事前の打ち合わせどおりに
事を進めるよう要請した。
「自分の上司を血みどろにした連中を信用するつもりかよ。本当にいいのか?」
 敵意すらこめた声でユキがそう言うと、絶対零度の瞳で顔を一撫でしてきた。
「仮にあなた方が再び造反を企てたとしても、先ほどと同じことです。無意味に終わるのは目に見えています。
 もちろん、素直にこちらの要求に応えていただくに越したことはありませんが」
322女か虎か:2009/03/09(月) 22:59:35 ID:OgYWWApB0
 ユキは唇の端を片方だけ持ち上げた。相手に余裕を見せつけようとするときの彼の癖だった。
「根拠のない自信は寒いぜ、イミナ、だったか? あのガキはともかくあんた一人なら、俺ら二人で
 かかればどうにでもなるんだぜ」
「本当にそう思われるなら一度、試してごらんになればよろしいでしょう。それと、今の私は『アイ』と
 名乗っています」
 女の双眸の奥に何があるのか、うかがい知ることはユキの知覚では不可能だった。
 只者ではない、それは分かる。あの主人にしてこの部下あり、醸す気配といい身のこなしといい、
断じて凡人のそれではない。テロリストとしての華々しい犯歴も、にも関わらず未だ当局に捕らえられずに
いる事実も、これなら成る程と頷くに足る。
 しかし、そこまでだった。
 目は口ほどに物を言うと俗にいわれる。だがこの女の目は何ひとつ語っていなかった。腹の奥底の企みは
おろか、人間なら当然備えているはずの感情の動きまで、ヴェールに覆い隠されたように全く見えなかった。
 この女の頭の中身はどうなっているのだろう。


 そんな疑問を覚えたのは、つい三十分ほど前の話。
 ヘリのコックピットで、ふぅっとユキは息を吐いた。
 首を動かし辺りを見回す。
 出発までに済ませておくべき連絡事項があるらしく、兄はついさっきこの場から出て行ったところだった。
ユキの目の前のウィンドウ越しに、携帯で会話している兄の姿が見える。部外者である女には聞かせたくない
話でもしているのかもしれない。
 兄の頭部には包帯が巻かれている。さっき女の主人に頭を壁に叩きつけられたときの傷だ。巻いたのは
女だった。再三の拒絶にもお構いなく処置を進める手つきは、本職もかくやというほどに迷いがなく板に
ついていた。
 兄の視線がこちらに向いていないのを確認して、ユキは女の方を見やった。
 背筋を伸ばし、足の先は揃え、両手のひらは膝の上。感心を通り越していっそ苦笑を禁じえない、
理想的な座り方で腰掛けている。細身のわりに女らしく丸みを帯びた腰は、狭いシートにきっちりと
おさまっていた。
 傷を負った兄を支えて一緒に外に出なかったのは、この女から目を離すわけにいかなかったためだが、
それ以外にもう一つ別の理由もある。
 いささか血色の薄い顔にユキは話しかけた。
323女か虎か:2009/03/09(月) 23:02:12 ID:OgYWWApB0
「おい、イミナ」
「アイです」
 すかさず入る訂正。
「……どうでもいいだろ、名前なんざ」
「そうでもありません」
 外国人ということを忘れそうになるほどの、流暢な日本語。無表情と口調の抑揚のなささえ何とか
すれば、充分にテレビ局の女子アナウンサーが務まるだろう。
「先刻私の主人も言っていましたが、名前とは対象の中身、即ち本質を示すものです。あなた方が思って
 いるほど粗末に扱うべきではありません」
「『イミナ』じゃお前の本質は表せねえってか」
「少なくとも現在の私に関しては」
 こんなことを話したいわけではなかった。
 いつ兄が通話を切り上げ、こちらに戻ってくるか分からない。まどろっこしい前置きで時間を食うより、
多少無粋でも単刀直入な切り出し方をユキは選んだ。
「その……さっきのこと、一応礼は言っとくぜ」
「? 何のことですか?」
 とぼけているのではなく本心から理解できなかったらしい。
 小ぶりな頭を傾けてみせる彼女に、ユキは舌打ちした。この女の聡明さはここに至るまでのやりとりで
証明済みだが、こういう方向には長けていないとみえる。
 面倒だった。それ以上に屈辱だった。
 だが一度言いかけてしまった以上後戻りはきかない。
「……兄貴を助けてくれただろ、さっき。お前のイカレた上司がキレて襲ってきたときだ」
 あの女が発砲しなければ、兄は今頃どうなっていたか。想像するだに恐ろしい。
 ああ、と女は小さく首を振った。
「そういう意味でしたか」
「別に感謝なんかしちゃいないが、一応は借りができたことになるからな。この借りはそのうち――」
「いえ、気にすることはありません」
 ユキの言葉は途中で遮られた。
「私はあなたの兄を守ったのではなく、あなたの兄の死により引き起こされる予定外の事態を防いだのです。
 もしそのような事情がなければ、あなたの兄が主人に捻り潰されるのを黙って見ていたことでしょう」
「!」
「あなたが私に借りを感じる必要などないのです」
324女か虎か:2009/03/09(月) 23:04:33 ID:OgYWWApB0
 両の目は相変わらず黒々と、虚無をたたえてユキを見ている。
 その奥にあるものは相変わらず読めないが、言葉が本心であることだけは充分すぎるほど伝わった。
もし兄が彼女とあの少年にとって不要な存在だったなら、この女は今と変わらぬ冷淡な瞳で、兄が
肉片になるのを最後まで見届けていたはずだ。
 傷に処置を施したのも陳謝の意の表現などではなく、ましてやナイチンゲール的な慈愛の発露とは
程遠い。今後組んで行うミッションを踏まえ、関係の極端な悪化を防ごうとしたにすぎないのだろう。
 だが、それでも。
「……借りは借りだ。そのうち必ず返す。覚えとけ」
 マネキンめいた面立ちから顔をそむけて言い捨てた。
 動機はどうあれ、この女は兄の命を救ったのだ。それは無視すべきではない事実だった。
 女が言う。
「意外ですね、早坂幸宜。あなたがそこまで義理がたい男だというデータはありませんでしたが」
「うるせえ黙れ、寒いこと言ってんじゃねーよ」
 自分でも意外だった。少なくとも兄と『笑顔』を設立する前、調査会社で裏の業務を請け負っていた頃なら、
借りだの貸しだのは意にも介さなかったはずだ。
 それを気にかけるようになったのは他人の影響だろうか。
 たとえば前職を辞めるきっかけの一つになった、ヤクザ崩れのあの男――
 と、一瞬過去に飛びかけたユキの意識を、女の言葉が引き戻した。
「それがあなたの個人的なこだわりだというのなら、そこにあえて踏み込もうとは思いません。
 ただ、一つだけ申し上げておきたいことがあります」
「何だ、そいつは」
 窓の外の兄を確認する。携帯を折りたたみ、こちらに向かって歩き出そうとしているところだった。
 あまり時間はない。この女とこうして一対一で仕事とは無関係な会話を交わすのを、兄は歓迎するまい。
 女も同じことを考えたようだった。口から飛び出したのは、オブラートも何もない直球の言葉だった。
「今回のことで私は、あなたの兄に少なからず憎悪を覚えました」
「ぞう……?」
 理性そのもので動いているようなこの女に、そんな感覚的な言葉は似合わない。
「憎悪は憎悪です。早急にこの件の処理を終え、今後一切の関わりを絶たせていただきたいと考えます」
「そいつは、」
 問い詰めようと身を乗り出しかけた瞬間、兄がヘリに乗り込んできた。
 慌てて口をつぐむユキ。何事もなかったかのように済ました顔のままの女。
325女か虎か:2009/03/09(月) 23:07:10 ID:OgYWWApB0
「ア、アニキ、電話は終わったのか?」
「ああ、少し別件でな」
 ユキに向けて頷いて見せ、次に兄は女の方を睨んだ。
「今のところは利害も一致しているし、お前たちの言う通りに動いてやる。だが最後まで思い通りに運ぶと思うな」
「承知しております。宜しくお願い致します」
 しれっと、女。
 あからさまな敵意の視線をものともせずに受け流す。言動自体は控えめなはずなのに、鉄仮面ぶりも
ここまでくると奇妙なふてぶてしささえ感じられる。
 兄が鼻を鳴らす。
 シートに腰を下ろし、ベルトを締める。怪我人とは思えぬ力に満ちた声で命じた。
「ユキ、ヘリを出せ。目標地点はさっき教えた通りだ」
「……了解」
 スティックを上に引き、ペダルを踏み込む。
 ドリフトの発生。左に滑って逃げていく機体を、別のスティックを倒して抑える。
 重力のくびきから解き放たれ、ヘリが空高く舞い上がった。
326女か虎か:2009/03/09(月) 23:10:59 ID:OgYWWApB0
お久しぶりです。
最近新しく引き継いだ仕事が思ったより忙しく、SSを書く時間がなかなか取れずにいます。
読むのはできるんだけど問題は感想書く時間だ……
他の諸々の事情もあわせて、今後の投下もしばらく間が空くかもしれません。
以下でここ数週の原作に対して少し詳しめに言及するので、最近ジャンプ読んでねーという方や
単行本派の方はスルー願います。







サイがついに帰ってきてくれたのが嬉しいです。
まあ帰ってきたと思ったらすぐに逝っちまいましたが。
もうちょっと粘って足掻くタイプのキャラだと思ってたけど、心臓やられてるっぽいし
頑張ってもお疲れ様とねぎらってくれるアイはもういないし、しょーがないのでしょう。
満足して逝けたみたいだしまあよい。

サイのアイに対する思いの強さは意外でした。「2人で1人」とまで言い切るし……
しかも泣くし……あとではぐらかしてはいたけど多分本気で泣いてるし……
もうちょっとドライな関係だろうと予想してたもので心の底からビビっています。
おかげでSS自体の展開も少々練り直さざるを得ません。
SSのテーマと最近のサイの台詞がモロかぶりしていることも地味に問題。
今まで書き溜めた分の書き直しとそれ以降のプロット調整の旅に出てこようと思います。

コミックスおまけでアイの容姿が十年前(十五歳のはず)と変わってないことへのツッコミと、
自分像編での例の変身を思い出したワカメッ子が己の珍プレーにあべべべべとなるネタを期待。
327電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/03/09(月) 23:11:30 ID:OgYWWApB0
名前かえるのわすれたー
328作者の都合により名無しです:2009/03/09(月) 23:33:32 ID:rT6hcoD00
お久しぶりですー
原作ではサイ死んじゃうし、原作自体も終わりそうだけど
このSSではサイアイが元気で何よりです。
ドライな関係のままのこのSSのエンドも見たかったですが
原作の関係準拠のエンドもいいですね。
329作者の都合により名無しです:2009/03/10(火) 07:13:01 ID:+Fi18IgN0
葛西が自分のシートベルトを〆たりするところが
彼の性格をちゃんと読んでますなw

このSSは原作のキャラを深く読んでてそれを生かしてるけど
俺もサイとアイの2人があんなに絆が強いとは意外だったな。
330作者の都合により名無しです:2009/03/10(火) 10:17:20 ID:ArDArt2O0
ネウロ読んだ事ないけど
キャラ立ってて面白いね
331遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:17:02 ID:cLed3o6n0
第三十五話「死せる英雄達の戦い―――屠り合う英雄」

「なんということか…!」
カストルは眼前で始まった二人の闘いを、悲痛な面持ちで見守る。
「何故…何故、私は陛下を止められなかった…」
レオンティウスは、同行しようとするカストルを押し止めてこう言ったのだ。
「一騎打ちで敵の大将を負かすことができれば、この戦も終わる―――決して手を出すな」
それは、確かにその通りだ。しかし―――
「それでも…あの二人だけは、闘わせてはならなかったというのに…!」
されど彼らは出会い、刃を交えた。ならばそれも、避けざる運命だというのか。
「結果はどうあれ、生きていてくだされ。陛下…そして…エレウセウス様…」


「はぁぁぁぁっ!」
月灯りの元で狼(エレウセウス)の魔剣が輝く。それは宵闇を切り裂きながら、獅子の喉笛目掛けて踊る。
「せいやぁぁぁぁっ!」
対するは苛烈に振るわれる獅子(レオンティウス)の雷槍。横薙ぎの一撃で剣閃を弾き、即座に反撃に移る。
「ちっ!」
繰り出される突きを素早いバックステップでかわし、距離を取る。それだけのやり取りで、二人は互いの実力をほぼ
完全に把握し、驚愕し、感嘆さえ覚えた。
(これが<紫眼の狼>…この男、やはり只者ではない!)
(レオンティウス―――この男、強い!)
技量は同等。力はレオンティウスが、速度はエレフが勝っている。総合的な戦闘力は互角―――
「ならば…勝つのはエレフだ…」
意識を取り戻し、ゆっくりと身を起こした海馬はそう呟く。
「皇帝様!まだ動かれては…」
「黙っていろ、フラーテル。オレは見届けねばならん。奴の闘いをな…」
「海馬…!それは違う!お前がしなければならないのは、あいつを止めることだ!」
闇遊戯は海馬に向けて叫ぶ。
332遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:18:01 ID:cLed3o6n0
「お前からは確かに感じる…エレフに対する友情と結束を!ならば、こんな闘いはもうやめさせるんだ!例えエレフ
が勝ったとしても、奴はさらに罪を重ねるだけだ!そう―――レオンティウスとだけは…殺し合ってはならない!」
自分の中のエレフとミーシャ、そしてレオンティウスに対してのとある疑惑。ここに来て、それはもはや確信に近く
なっていた。だが自分では、それを伝える術はない。自分の言葉など、エレフは聞く耳持たないだろう。
怒りと憎しみの刃。それを振るう腕は、全てを壊すまで止まらない。
「だが…お前の言葉なら…お前の声なら届くかもしれない!頼む、海馬!どうかエレフを…」
「あいつは、エレフはオレなんだ…オレだったかもしれない男だ」
闇遊戯の言葉を遮り、海馬はそう言い放つ。
「誰が何を言おうと、自らケリを付けない限りは怒りと憎しみを消すことなどできん…!」
それはまるで、自分のことのようによく分かる―――自分のことだからよく分かる。
両親を失い、その遺産を親戚に食い潰され、弟と二人で施設に放り出された自分。
後に養父となる男―――海馬剛三郎(かいばごうざぶろう)から受けた、人格が歪むほどの過酷な教育。
それによって植え付けられた怒りと憎しみ。
エレフのそれとは形は違えど、その本質は同じだった。
だから、そう。海馬にとってエレフは云わば、鏡に映した己自身だったのかもしれない。
全てが真逆であり、同時に完全なる相似形。そんな矛盾を孕んだ、もう一人の自分。
「エレフ―――オレは貴様を否定しない!オレは貴様の怒りを、貴様の憎しみを全て理解し、肯定してやる!そこの
甘ったれた連中に教えてやれ…虐げられ、傷つけられる者達の痛みと苦しみをな!」
その声は、確かにエレフに届いた―――届いてしまった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
獣そのものの雄叫びをあげ、エレフの振るう剣が更に力を増す。レオンティウスは巧みな槍捌きでそれを凌いでいく
が、その表情からは焦燥が隠しきれない。
(なんという剣を振るうのだ…!怒りと憎しみに黒く染まった、まるで闇そのものだ…!)
それだけならば、本来は恐れるに足りない。怒りと憎しみを込めて自分に立ちはだかる相手ならば、これまでに幾人
もいた。彼らとエレフの決定的な違い―――それはきっと、エレフが仲間達の想いをも背負っているから。
怒りと憎しみ。どれだけ重ねようとも、それだけでは容易に砕けてしまう。
しかし、そこに仲間との結束の力が込められたならば―――
(その結果が、この力か…!)
だが、レオンティウスは心の奥底で、別の想いが沸き上がっていくのを感じていた―――言っておくが、彼の性癖で
あるおホモな意味ではない。彼自身にも不思議だったが、そういう感情は何故か一切なかった。
333遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:18:49 ID:cLed3o6n0
そんな劣情でなくて、その想いはミーシャを見た時にも感じたものだった。どこか懐かしく―――暖かい想い。
(…勝てない。私は、この男には…)
自分には、エレフを憎むことはできない。それどころか、怒りの欠片さえ感じることができないのだ。
負ける―――そして、死ぬ。一国の王としてあるまじきことだが、それでいいとさえ何故か思った。
(この男を殺すくらいなら…まだ、殺された方がいい…)
「レオン!」
その声に、薄れかけていた意識が覚醒する。城之内が立ち上がり、自分に向けて叫んでいた。
「オレは小難しいことは分からねえし、怒りだの憎しみだのもピンとこねえ…けど、これだけは分かるぜ。エレフの
腕は、人を斬る剣を握るためのもんじゃねえ―――妹を守ってやるための腕なんだ!」
城之内の脳裏に浮かぶのは、妹である静香の姿だった。
呑んだくれの父親に愛想を尽かして出ていった母親。そして、彼女に連れられていった妹。
離れ離れになっても、忘れたことなどなかった。
遠く離れても、同じ星を見ていると信じていた。
だから―――海馬とは違う意味で、エレフの想いは痛い程に分かっていた。
分かっていたからこそ、城之内は叫ぶ。
「レオン…勝ってくれ!勝って、エレフを止めてくれ!あいつの腕を、これ以上―――血に塗れさせないでくれ!」
その声が、レオンティウスの萎えかけていた腕と心に再び力を与えた。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
風車のように槍を振り回し、その遠心力を込めて穂先を剣に叩きつける。エレフは剣を取り落としこそはしなかった
が、凄まじい衝撃に腕が痺れ、剣戟が途絶える。
「せいっ!」
その隙を突き、素早く懐に潜り込む。そして渾身の力で鳩尾を殴り付けた。
「がっ…!」
身体をくの字に折り曲げる。更にもう一撃―――
「っ…舐めるなぁっ!」
「!?」
苦痛を無視して、エレフはその態勢から剣を振り上げた。レオンティウスは咄嗟に槍で防ぐが、押し上げてくる力は
予想以上に強い。甲高い音を立てて、槍が弾き飛ばされ、地に落ちる。
「しまった…!ぐぅっ!?」
先程のお返しとばかりに、脇腹に強烈な回し蹴りを喰らう。自分の肋骨が数本まとめてへし折れる嫌な音を聞いた。
334遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:19:35 ID:cLed3o6n0
「…決まったな」
海馬は満足げな笑みを浮かべた。
「エレフの…オレ達の勝ちだ」
そしてエレフは膝を付くレオンティウスに、切っ先を突き付ける。
「アメジストス…!何故だ…何故お前ほどの男が…」
レオンティウスの声には死への恐怖はない。ただ、深い悲しみが滲んでいた。
「それほどの力を持ちながら、何故このような蛮行に身を任せる…何よりも、我らの同胞(ヘレネス)であるお前が
何故、祖国に対してこのような侵略を…!」
「―――同胞?祖国だと?」
その言葉に、エレフは眉を吊り上げた。
「祖国が私に何をしてくれた…?」
慎ましくも幸せな暮らしを奪い。優しく、愛情に溢れた両親を奪い。
「私から、愛するものを奪っただけではないか…そして、ミーシャまで…」
最愛の妹までも奪いかけた―――
「―――笑わせるなぁぁぁぁぁっ!」
咆哮と共に天高く翳される剣。それは月光を受けて銀色に煌いた。
「エレフ…もうやめろぉーーーーーーーーっ!」
オリオンは地に伏せたまま叫ぶが、それもエレフには届かない。そして今、復讐の黒き刃が振り下ろされる―――
その瞬間だった。
ドドド…
「む?」
やたら猛々しい地響きのような音に、エレフの腕が止まる。
ドドドド…ドドドドド…音は段々と大きくなっていく。
「う、うわああああ!?」
後方で悲鳴が上がり、軍勢が真っ二つに割れる。まさしく海を渡るモーゼの如くに、開かれたその道を突き進むのは
一台の馬車とそれを牽いて突っ走る二頭の馬。その御者台に座る女性の姿を見て、エレフは茫然と呟いた。
「ミ…ミーシャ…?」
疑問形なのも当然である。彼女は漫画的表現で滝のような涙を流しつつ、ヒロインにあるまじき余りにも必死過ぎる
形相で、旅人を襲う山姥の如くに髪を振り乱しながら暴走する馬車をどーにかこーにかしようとしていた。
もう自分がどこにいるのかさえ分かっていない様子である。
335遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:20:40 ID:cLed3o6n0
「いやぁぁぁぁぁごめんなさいごめんなさい死ぬ死ぬ死んじゃう死んじゃう止めて止めて止めてダメダメダメダメ」
支離滅裂な叫びもどこ吹く風、馬車は暴走を続ける。
「な、何がなんだか分からんが…魔法カード発動!<洗脳(ブレイン・コントロール)>!」
闇遊戯がカードを翳した途端、馬達は借りてきた猫のように大人しくなる。そのままエレフとレオンティウスの眼前
で、馬車は停止した。ミーシャはようやく死の恐怖から解放され、生きる喜びを噛み締めた。
詳しく語れば大長編が出来上がるほどの苦難を思い返すと、焦点の合わない眼窩から涙は枯れることなく溢れ出す。
「ああ…白々しいほど涙が熱いわ…生きてるのね、私…私はまだ、い〜き〜て〜る〜の〜ね〜…」
「ミーシャ…その、突っ込みたいことは山のようにあるが、何をしにきたんだ…?」
「ああ、邪魔しないで、エレフ。私は一しきり生命の尊さに祈りを捧げてからあなたを止めにいかないと…」
もはや、まともに会話も成立しない。彼女が平常な精神を取り戻すのには、膨大な時間がかかるかもしれなかった。
「…私が、全て話しましょう」
と―――馬車の中から、落ち着いた声が響く。姿を現したのは、妙齢の美しい女性―――イサドラ。
「は…母上…!?」
今度はレオンティウスが茫然と母の名を呼ぶ。イサドラは、どこか陰のある笑顔を見せた。
「ごめんなさいね、レオン。こんな真似をして…ほら、ミーシャ。しっかりなさい」
ぱんぱんとミーシャの頬を軽くはたく。ミーシャはやや目の焦点を取り戻し、言った。
「あ…おはようございます、お母様。いい朝ですね…」
「今は夜ですよ、ミーシャ」
と、抜けた会話をかわしながら。エレフはその中に、聞き捨てならない言葉を見つけた。
「…待て、ミーシャ。お前は今、何と言った?」
「え?いい朝だって言ったけど…」
「その前だ!…お母様、だと?何を言っているんだ?その女が私達の母親なわけが」
ない、と言う前に、イサドラが首を横に振った。
「ミーシャは寝惚けて私を母と間違えているのではありませんよ…そうではないのです」
「なん…だと?」
「母上…?それは一体…」
言いかけて、レオンティウスは顔を強張らせる。彼の中で、全てが繋がった。
バラバラだったパズルのピースが組み合わさるように―――全てを、理解してしまったのだ。
336遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/03/10(火) 15:35:58 ID:cLed3o6n0
「やはり、そうだったのか…」
(そうか…アルカディアでキミが言ってたのは、こういうことだったんだね…)
闇遊戯、そして遊戯も得心して頷く。
「おい、遊戯。一人で納得すんなよ!えーと、あれ?レオンのお袋さんがエレフとミーシャの?…え?」
もう訳が分からないとばかりに、城之内は闇遊戯の肩を掴む。
「まさか…そんな…!」
「バカな…!」
詳しい事情は分からずとも、真相を察したオリオンと海馬は愕然とする。
「陛下…イサドラ様…エレウセウス様…アルテミシア様…」
すぐ傍でレオンティウスの闘いを見守っていたカストルは、込み上げる痛みを堪えるように俯く。この場においては
イサドラ以外で唯一人、彼は全てを知っていた。知っていながら何もできなかった無力を恥じていた。
「―――今こそ全てを語りましょう、レオンティウス。そしてエレウセウス…」
イサドラは、ゆっくりとエレフに視線を送る。そこに込められた慈愛と悲しみ、そして懺悔と悔恨。
「十九年前、あなたとミーシャは生まれた…そう。闇が太陽を蝕む、あの日に―――」


―――太陽…闇…蝕まれし日…生まれ墜つる者…破滅を紡ぐ―――
その無慈悲な神託が、双子とそれにまつわる者達の運命を大きく変えた―――否。
それこそまさに、運命の意志だったのかもしれない―――
337サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/03/10(火) 15:37:24 ID:cLed3o6n0
投下完了。前回は>>279より。
アクセス規制のせいでおよそ二週間も書き込めなかった…今もネットカフェで投下しました。
次回も規制が解けなきゃちょっと間が空くかもしれません。ちくしょう。
…次回、サマサ作品史上でも最大レベルの欝展開です。そして今まで扱いがひどかったあの御方が
ついに始まります。

>>281 傍から見るだけなら魅力的なんですが、自分の近くにゃいてほしくないタイプですねw
>>282 ハッピーエンドにはなる予定ですが…そこまでいく道程は険しいものがあります。

>>ふら〜りさん
実際、社長は根っこは素晴らしいと思うのです。ただ、生い立ちから捻じ曲がってしまっただけで…
でもどうなんだろうね、普通に育っててもこういう性格になりそうな気もしないでもないw
骨折したようですが、大丈夫でしょうか?どうか御自愛を。

>>284 サンレッドみたいな感じの短編のネタもいくらかあるんで、合間にそういうのも書きたいですね。
>>285 僕がこのSSを書くのもまた運命…?うーん。

>>電車魚さんとネウロファンの皆さん
サイの死に際は色々意見あるようですが、サイの涙は冗談めかしてたけど、きっと本心だったんでしょうね…。
あの涙こそ、サイとアイが生きた証なんだろうな、と。
なんとなくだけど、彼のアイへの想いは、アイが死んだからこそやっと気付けたんじゃないかと思っています。
失ってはじめて、サイは自分のそばにいた@(アイ)がどれだけ大きかったか理解したんじゃないかと。
その人生の終わりに「これが俺だ」と言えた彼に、ただただ合掌。
338ふら〜り:2009/03/10(火) 18:08:55 ID:BJx1M+4Q0
>>電車魚さん(今7巻。丁度、ネウロのあのセリフがありました。人間そのものに興味でてきた?)
愛も友情も、共通の仇もない、トップがもつ絶大なカリスマで……ってわけでもない。けど、
サイの下にサイの目的に向かって一致団結してるんですよね彼ら。サイの方から彼らに対して
もそういう意識はない。といって(可能だけど)恐怖統制の必要もない。不思議な一団です。

>>サマサさん(ご心配かたじけなく。まぁこれも人生経験、創作の糧にもなりましょう)
>そこに仲間との結束の力が込められたならば―――
普通は主人公サイドが強敵を打ち砕く時に振るう力ですな、これ。そして敵・味方双方の回想・
叫びを浴びつつ実際勝ってしまった、と思ったらヒロインがシリアス空間ぶち壊し。緩急激しくて
読み心地良いです。大勢が元気よく賑やかな作風のサマサさん、欝展開にも期待してますぞ。
339作者の都合により名無しです:2009/03/10(火) 22:36:49 ID:SxqEplVs0
サマサさん乙です。
最初の頃のハイテンションと明るさがウソのように
暗い感じになっていきますね。鬱展開も期待してます。
十九年前の日に何があったんでしょうか?
340THE DUSK:2009/03/10(火) 23:50:56 ID:z31RII7K0

千鶴は数分前の激高がまるで嘘だったかのようにニッコリと笑い、席を立ってリーゼントの男へ近づく。
そして、彼の左腕に己の腕を絡め、身体を摺り寄せ、だいぶ上の高さにある顎髭を愛おしげに撫でさすった。
「テディベア、待たせてゴメンね? 退屈だったでしょ?」
「なァに、いいって事よォ……」
現状を完全に無視した、愛情溢れる濃密なコミュニケーションに佐山達は呆気に取られている。
尚も愛の言葉を囁き合う二人だが、後ろに従っていた少年(と呼んでも良い程の幼い顔立ちだが、
身長は千鶴より遥かに高く、体格も一人前の大人並みである)が不意に男の右腕にしがみついた。
そのままグイグイと男の腕を自分の方へ引っ張り、反対側にいる千鶴を前にも増して激しく睨みつける。
嫉妬に狂う眼光と憎悪に歪んだ表情。緑色の瞳に込められた怨念は相手を呪殺出来そうなくらいだ。
「おいおい、デイジー。何回言ったらわかるんだ。千鶴とは仲良くしろゥ……」
男の支持を得て、千鶴は勝ち誇った顔で少年に舌を出すと、ようやく佐山達五人に向き直った。

「知ってる人もいると思うけど紹介するわ。こちらはセオドア・チャールズ・ダーマー。
たぶん『テッド・“ジェイブリード”・ダーマー』っていうニックネームの方が有名よね?
ホームステイ先のアメリカで知り合った、私のお友達なの」

「“ジェイブリード”でいいぜ。ヨロシクなァ……」

各国を代表すると言っても良い五人の吸血鬼に対して、傲岸不遜な挨拶を送るジェイブリード。
“見下す”という表現が最適の角度で一人一人を吟味する彼の視線は、不自然に下を向いたある人物のところで
ピタリと止まった。
薄い唇が吊り上がり、ほとんど肉のついていない頬に皺が寄る。面白そうな玩具を見つけた子供の笑顔だ。
「いよォう、前田! 相変わらず元気そうじゃねえか!」
声を掛けられた瞬間、前田はイスから飛び上がらんばかりにビクッと身体を震わせた。
そこからたっぷりと時間をかけておずおずと顔を上げる。
「い、い、生きていたのか……」
「ああ、おかげさんでな。そりゃそうと七年前のシチリアじゃ随分と世話になったなァ……」
その言葉を聞くや否や、前田の震えはさらに激しくなり、またもや顔は伏せられた。
恐怖の反応を楽しんでいるのか、ジェイブリードはニヤニヤと笑いながら、大股な歩調でゆっくりと
彼に近づく。
「オメエが俺を売ってくれたおかげで、俺ァあの化物神父とカレー女に危なく殺られるとこ
だったんだぜェ……? 見ろよ、コレ」
ライダースジャケットの前がはだけられ、痩せ細った裸の上半身が露わになった。
341THE DUSK:2009/03/10(火) 23:53:41 ID:z31RII7K0
そこにはおびただしい数のタトゥが素肌を埋め尽くすように施されていた。
ただし、絵ではない。すべて文字、しかもある程度の長さを持つ“文章”である。
眼に付きやすい部分だけでも――

『THE FLY LAID THEIR EGGS IN MOTHER MARY(蠅は聖母マリアに卵を産みつけた)』

『JESUS CAN'T SMELL OWN SHIT ON HIS KNEES(キリストは自分が垂れた糞の臭いにも気づかない)』

『GOD SENT ME TO PISS THE WORLD OFF(神は世界にションベンをひっかける為に俺を遣わせた)』

『KILL YOUR PARENTS! KILL YOUR GOD! KILL YOURSELF!(両親を殺せ! 神を殺せ! 自分を殺せ!)』

――等の不快な冒涜的文句が隅から隅まで所狭しと彫られていた。
これは“見るタトゥ”ではなく“読むタトゥ”なのだろう。
しかし、よく見ると右脇腹辺りの文字が大きく消えてしまっている。そこに刻まれた火傷と切創が
混じり合った醜い傷痕のせいだ。
吸血鬼は頭と心臓さえ無事ならば、たとえ手足が吹き飛ぼうが臓腑が抉り取られようが再構築が可能である。
そんな不死身に近い化物の身体に消えない傷痕を残す事が出来ると言えば、聖水や十字架等の聖具、
もしくは祝福儀礼を施した武器による攻撃しかない。
“密告されたが為に殺されかけた”との言葉は真実と見ていい。
「そ、そ、そんな…… 俺は、売ったなんて……」
見ていて気の毒になる程の狼狽振りを示す前田。
その態度が嗜虐心をそそるのか、ジェイブリードの口撃は勢いを増す一方だった。
「ヴァチカン相手に点数稼ぎは大変だったろォ。密告(チクリ)ひとつでどんだけ特典があるんだか
知らねえけどよォ。まあ、昔から人間にも吸血鬼にも尻尾フリフリで成り上がったオメエだしなァ……」
“寅吉会若頭”の“極道としても吸血鬼としても恥ずべき行い”を“親分や他国の要人”の前で暴き、
おちょくる。
彼の立場や性格を充分に理解した責め方である。
「他にもサービスしてきたんだろ? 生臭大好きな出っ腹ホモ司祭の萎びたチ○ポでもしゃぶったか?
オメエはジジイ相手のおフェラ豚ならお手の物だろうからよォ…… ヘェヘヘヘヘヘヘヘ!」
佐山の方をチラリと見遣りながら、ジェイブリードは耳障りな甲高い笑い声を響かせた。

前田は俯いたままで己の膝を掴む五指に強く力を込める。
面子を潰された怒りが恐怖を駆逐していく。極道の矜持と吸血鬼の闘争心が徐々に甦りつつある。
342THE DUSK:2009/03/10(火) 23:58:29 ID:z31RII7K0
「調子こいてんじゃねえぞ……」
震える唇からボソリと呟かれた言葉は届いていない。
「あァん? 何か言ったか?」
ジェイブリードは大袈裟なアクションで耳に手を当てる。多分に挑発的な態度だ。
すると前田は椅子を蹴倒して立ち上がり、テーブルに拳を叩きつけて大見得を切った。

「合いの子がァ!! テメエなんざ売女の喰屍鬼(グール)がひり出した半端モンじゃねえか!
吸血鬼ヅラしていい気になってんじゃ――」

怒声が半ばで途切れた。
「ワルイコちゃんなお口はこれかァ……?」
気づけば血を滴らせた前田の下顎部分が、何故かジェイブリードの手に鎮座していた。
それは誰の眼でも捉え切れない一瞬の早業。
罵倒の半ば、数歩離れた距離から、動き続ける下顎を素手で力任せにもぎ取ったのだ。
前田は取り残された舌をユラユラと喉の辺りに垂れ下がらせ、驚愕の面持ちで己の下顎を見つめている。
やがて、異形の肉塊は持ち主の下へ戻る事無く、床に放り捨てられた。
間を置かずエンジニアブーツの踵がそれをグシャリと踏み潰す。
「ああッ……! あああ! あああああッ!」
己の身体の一部との無慈悲な別離に声にならぬ声が上がったが、それも束の間――

凄まじい連射音が轟き、数百の銃弾が雨あられと前田を貫いた。

見るとジェイブリードの後方で、ヒスパニック系の男がギターケースを胸元の高さまで持ち上げていた。
ボロ雑巾と化した前田の方へと向けられたネック部分の先端には、直径3cm程の小さな穴が開いている。
硝煙が立ち昇っているところを見ると、銃弾はそこから発射されたに違いない。
しかも、前田はピクリとも身動きをしておらず、その身体は間も無く灰燼に帰してしまった。
使われたのは“銀弾”だ。

「グゥ〜〜〜ッジョォブ……」

ジェイブリードはヒスパニックに親指を立てると、フラフラと酔っ払いにも似た足取りで今度は
上座の佐山に歩み寄っていく。
途中には、少しも隙を見せず身構える黄元甲ら三人。
343THE DUSK:2009/03/11(水) 00:02:52 ID:8ynzw6Bl0
「大人しくしてろォ……」
真紅の眼を光らせて三人を牽制し、遂には椅子に座る佐山の真後ろへと辿り着いた。
何をするかと思えば、側近を殺された老人の両肩へ労わるように手を置き、肩揉みのように
リズミカルに動かす。
「ワ、ワシに手ェ出してみィ。タダじゃ済まへ――」
佐山の言葉は皆まで聞かず、ジェイブリードは左手で彼の顎を引っ掴み、無理矢理天井を仰がせた。
そして、右手に握られているのは、刃渡り30cm以上はある鋭利なボウイナイフ。
「あァ、わかってるぜェ。とても面白い事になるなァ……」
ナイフが佐山の喉元にスルリと実にスムーズに刺し込まれた。
「があああああ!!」
悲鳴はすぐにガラガラといううがいに近い音に変わり、口ではなく喉の傷から洩れ出る。
血飛沫が肉を切り裂き骨を断つ生々しい音と共に周囲に撒き散らされ、テーブルクロスや絨毯を
赤く汚していく。

ごく僅かな時を経て、ドンと荒々しい音を立てながら、苦悶の形相が貼りついた“佐山だったもの”が
テーブルの上に置かれた。
もう動く事の無い濁った瞳が三人の吸血鬼を恨めしげに見つめている。
一仕事を終えた爽快な顔のジェイブリードは千鶴の方へと向き直った。
興奮冷めやらずと言ったところか、千鶴は上気した頬に手を当て、舌舐めずりを繰り返していた。
唾液によって怪しく光る唇と同様に、潤いを増している部分が他にもあるのかもしれない。
恍惚の彼女へジェイブリードが眼を覚まさせるように促す。

「よォ、千鶴。そろそろお偉方と“お話”の時間じゃねえのか?」

「そうね、邪魔者も消えたし。 ……あ、そうそう――」
“たった今、気づいた”とばかりに嫌味たっぷりの視線をチェ・ドンシクへ向ける。
「――あなたは帰っていいわ、チェ会長。特に用事も無いしね。ご苦労様」

チェ・ドンシクは猜疑と警戒を露わにしながら席を立ったが、出口へ辿り着く頃には少なからず
安堵と喜悦の表情が顔に滲み出ていた。
気が違っているのではないかと疑いたくなる日本の女吸血鬼(ドラキュリーナ)と、どう見てもイカレている
悪名高いアメリカの吸血鬼。
そんな連中から解放されたのだ。加えて、寅吉会の会長と若頭の死によって思いもよらない利権が
転がってくる可能性もある。
344THE DUSK:2009/03/11(水) 00:06:40 ID:8ynzw6Bl0
顔が綻ぶのも無理は無い。

だが、ジェイブリードは部屋から出て行くチェ・ドンシクを執拗に横目で睨み続けていた。まるで彼の内心を
見透かすように。
「ミゲル」
「あいよ、ボス。オイラにおまかせだってぇの」
ミゲルと呼ばれたヒスパニックは人懐っこい笑顔を浮かべ、ウィンクで答える。
黒いギターケースとその持ち主の口ずさむ『MALAGUENA SALEROSA』。
闇の世界とは程遠いラティーノ・ヒートは命令に忠実足るべく、コリアンヴァンパイアの後を追った。

その様子を見ていた千鶴は頬を膨らませる。
「んもう、テディったら用心深いんだから」
拗ねた口調で訴えるも、ジェイブリードがチュッと唇をすぼめてキスを飛ばした途端、顔には微笑みが戻る。
千鶴はその微笑みのまま上機嫌の弾んだ声で、残された黄元甲とパコージンに申し渡した。

「さてと…… それじゃ“本題”に入っちゃってもいいかしら?」
345塩おむすび ◆2i3ClolIvA :2009/03/11(水) 00:11:08 ID:8ynzw6Bl0
どうも、こんばんは。塩おむすびです。
今回の投下で第六回は終わりです。次回から第七話。あ、もうコテ戻せるw
次回からまたまっぴーや婦警が登場します。久しぶりに書くので自信ありませんが。
ちなみに、“セオドア”という名前の愛称が“テッド”、更に可愛くした愛称が“テディ”です。
熊のぬいぐるみ“テディベア”はセオドア・ルーズベルト第26代大統領の愛称が由来だとか。
もひとつちなみに、テッド・バンディ+チャールズ・マンソン+ジェフリー・ダーマー=ジェイブリード。


>>307さん
非道っぷりはまだまだ全然足りてないような気がするので、まだまだもっともっと。
でもこの作品では吸血鬼の恐ろしさだけでなく、人間の恐ろしさの方も書いていきたいですね。
よく「生きてる人間が一番怖い」って言いますし。とにかく頑張ります。

>>308さん
知性ですか! そう言って頂けると嬉しいですね! ちなみに私の理想の悪役と言えば『ダイハード1』の
ハンス・グルーバーです。
SSの方は書ける時 or 書きたい時にマイペースで書いていきます。お気遣いありがとうございます。
ブログは復活するかもしれないけど今はまだ考えていません。ブログする気分じゃないんで。

>ふら〜りさん
恥ずかしながら戻ってまいりまったッ!(`;ω;´)ゝ
背景描写に関してはまったく自信が無いんですよね。それに限らず文章全体に自信がありません。
常に悩むのと妥協と自己嫌悪を繰り返して今に至り、今までの作品があるのです。鬱ですな。
あとブログ熱望ありがとうございますw でもまだまだずっと後の事になると思います。
腕の骨折の具合はどうでしょう。状態が詳しくわからないので何とも言えませんが、とりあえずギプス除去後の
リハビリを頑張って下さい。関節可動域の完全回復を祈っております。

>>310さん
ハハハ、外国なんか行った事無いですよw 書物と人の話オンリーで実体験ナッシングです。
『THE DUSK』は終わらせますよー。つか終わっても更にもう一個あるんですよね、三部作だからw


では、御然らば。
346作者の都合により名無しです:2009/03/11(水) 00:28:18 ID:Dtz4GGgw0
さいさんも乙です。(塩おむすびさんは慣れない…)
今回もそうですが、さいさんの悪役は狡猾で残忍で下品な時もあれば
知性的な時もあるから気に入ってるんですよ。


でもさいさんが外国行ってないとは意外。英語ペラペラみたいなのに。
347作者の都合により名無しです:2009/03/11(水) 07:15:07 ID:DtttcHpK0
電車魚さん、サマサさん、塩おむすびさんと立て続けに着てくれて嬉しいよ。
最近スレ調子悪いけど、また盛り上がらないかなー
でも電車魚さんとサマサさん、また空いちゃうのか・・w
348作者の都合により名無しです:2009/03/11(水) 16:47:21 ID:Y2IlLou60
サマサさんとさいさんが並んでいると嬉しい
サマサさんは以前からのファンだし
さいさんは三部作を凄く楽しみにしてるからな
頑張って欲しいよ
349作者の都合により名無しです:2009/03/11(水) 21:18:17 ID:nWeFCReL0
>サマサさん
海馬は意外と情に厚いところがあるんですかね。
自分が認めた相手には遊戯といいエレフと言い
方法はどうあれ誠意は尽くす。ただの悪役じゃないですな。
鬱展開との事ですが、サマサさんらしくどこか温かさを。

>塩おにぎりさん
猟奇な吸血鬼軍団ですがどことなく可愛げもありますな。
確かさいさんはカトリックでしたっけ?その割には
キリスト様に結構な事を書いてますなw
次回からまっぴーたちが出るから絵的に変わりますね。
350しけい荘大戦:2009/03/13(金) 01:12:59 ID:D5jStPAE0
第一話「シンクロニシティ」

 しけい荘で暮らしていくには、最低でも最高速で突っ走るトラックと激突しても立ち上
がれるぐらいの耐久力を求められる。こんな世界最危険区域に指定されてもおかしくない
最凶アパートが、東京には実在する。
 現在の入居者は七名。いずれも劣らぬ曲者揃いである。
 101号室、アンチェインにして大家、ビスケット・オリバ。
 102号室、殺法の達人にしてサラリーマン、柳龍光。
 103号室、海王にしてペテン師、ドリアン海王。
 201号室、凶器人間にして手品師、ヘクター・ドイル。
 202号室、しけい荘最高齢にして家賃滞納常習犯、スペック。
 203号室には、サンドバッグにして生命力ナンバーワン、シコルスキー。元海賊にし
て現役大統領、純・ゲバル。この二人が同居している。
 彼らが一堂に会する機会は、実はさほど多くない。しかし、今日は特別だった。
 なぜなら今日は、しけい荘が生まれた日──。
 オリバからの「今日の晩飯は私のおごりだ。多数決を取って一番票が集まったものを食
べに行こう」という計らい。常時金欠気味の住民たちが狂喜したのはいうまでもない。

 午後一時、オリバを除く全住民が203号室に集結していた。誰が呼びかけたわけでも、
強制したわけでもない。光に群がる蛾の如き、本能的な行動であった。
 全ては──アンチェインの目論みを崩すため。
 灰皿と間違え吸い殻をシコルスキーに押しつけ、柳が照れ臭そうにいった。
「どうやら皆、同じことを考えたようだ」
 抜いた鼻毛をシコルスキーの眼球に吹きつけるゲバル。
「もし集まらなけりゃ、俺たちはアンチェインの掌で踊らされていただろうな」
 シコルスキーの鼻の穴にキャンディを詰め込みながら、ドリアンが頷く。
「うむ。大家さんは多数決を取って、といっていたが我々が食事の好みで一致することは
ありえぬ」
351しけい荘大戦:2009/03/13(金) 01:13:48 ID:D5jStPAE0
 必要以上に笑い、必要以上にシコルスキーに拳を浴びせるスペック。
「ハハハハハハハハハハッ! 絶対ネェナッ!」
 ドイルは貯金箱に硬貨を入れる手つきで、シコルスキーの口の中に次々とカミソリを入
れていく。
「──つまり大家さんの考えは、我々六人の食べたいものがバラバラになることだ。そう
なれば、“バラバラでは仕方ないから、カップ麺にしよう”という展開に持ち込めるから
な」
 しかし、もし六人が六人とも同じものを食べたいと望めば、いくらオリバでも要求を呑
まざるをえまい。せっかくタダ飯にありつけるチャンス、絶対に無駄にしてはならない。
 ゆえに男たちは手を結んだ。
「ところでシコルスキー、さっきから黙っているが──」
 ふとゲバルが問いかけると、シコルスキーは瀕死だった。
「──いったい何が!?」構えを取る柳。
「オイッ、ドウシタンダッ!」本気で心配して叫ぶスペック。
「私のキャンディがいつの間にか、彼の鼻に……ッ!」困惑するドリアン。
「これはスポーツじゃない……戦争だ!」実戦モードに突入するドイル。
 未知の襲撃者の存在を、本気で信じる五人。
 ようするに、しけい荘住民にとって、シコルスキーに対する暴力は無意識下の「癖」に
ま到達していることを意味していた。

 気を取り直し、話し合いを再開する面々。オリバに何をおごらせるかについて、戦闘時
でも発揮しないような真剣さで議論する。
 第一に、美味であること。第二に、高価であること。
 二つの条件をもとに、メニューを吟味する。
 議論は白熱した。それこそ夕飯前に殺し合いが始まるのではないかという、寸前のとこ
ろまで達した。
352しけい荘大戦:2009/03/13(金) 01:14:53 ID:D5jStPAE0
 だが、どうにか六人は共通のメニューを決定した。
 ──SUSHI。
 日本が誇る伝統料理、寿司。申し分のない選択である。
 柳が誇らしげにつぶやく。
「まるで蛆虫のような数え切れぬほどの米粒に、魚介類の死体が乗せられ、職人のしわま
みれの掌によって握り締められる……。寿司は我が日本の心といえよう」
「いまいち表現がよくない」
 げんなりするドリアン。
 とにかくこれで、対オリバタダ飯同盟が完成を迎えた。あとは来たる時を待つのみ。
「いただきますでしか寿司を食べられぬ者は、食事者とは呼ばぬ」
 なぜかシコルスキーが格好良く締めた。

 午後七時。オリバの前に整列する一同。
「さてと多数決を──」オリバが告げる前に皆が同時に口を開いた。
「寿司ッ!」
 しん、と沈黙が漂う。してやったりといった空気が広がる。
 とはいえ超頭脳を持つオリバ、瞬時に住民たちの狙いを理解した。
「ナ、ル、ホ、ド、ネ」歯をむき出し笑う。「六人全員が同じものを頼めば、私が難癖を
つけて安く済ませることができなくなるわけか。うかつだったよ」
 作戦勝ちを確信する六名であったが──
「残念だったな。私は君たちに私以上の自由を許さんッ! 今日は全員カップ麺だッ!」
 ──相手がアンチェインであることを忘れていた。
 うなだれる柳。放心状態に陥るドリアン。頭を抱えるドイル。泣き崩れるスペック。無
念そうに天を仰ぐゲバル。とりあえず「ダヴァイッ!」と叫んでみるシコルスキー。
 予想以上のリアクションに、さすがに戸惑うオリバ。
「お、おいおい……ほんのジョークだ。希望通り、寿司屋に行こうじゃないか」
 この瞬間、湿っていたアパートが、からっと晴れ上がった。
 オリバのいう寿司屋が回る方であったことはもちろん、ほんの十数分で店中の回すもの
が彼らの胃袋に収まってしまったことはいうまでもない。
353サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2009/03/13(金) 01:16:52 ID:D5jStPAE0
次回に続く。

前スレで終わったばかりですが、新シリーズ開幕です。
よろしくお願いします。
354作者の都合により名無しです:2009/03/13(金) 07:08:46 ID:e3Nsaqji0
おお、新シリーズ開幕とは!
早くもこの面子にあえて嬉しいです。
今度はシコルスキー主役取られないかな?w
355作者の都合により名無しです:2009/03/13(金) 07:39:23 ID:ubKtBwNm0
サナダムシさん乙!
このしけいそうも5作目くらい?
もう完全にバキスレの風物詩ですな
やはりアンチェインには誰も敵わないみたいだ
356作者の都合により名無しです:2009/03/13(金) 20:00:54 ID:CA1WLabo0
最近は回転寿司も質が高くなったからなーw
なんにせよサナダさん新連載乙です。
今回の敵は誰だろう?
いよいよピクルや勇次郎かな?
357ふら〜り:2009/03/13(金) 22:02:06 ID:BWdVW/O60
>>塩おむすびさん
口調だけなら「北斗」のモヒカンたちみたいなのを思い浮かべてしまうジェイブリードですけど、
身体能力と残虐性、そして(ある方面に特化した)語彙の豊富さは超人的。ゲス、と言いたい
けど、実際に威厳はないけど、でも迫力は充分。防人やセラスと遭遇したらどうなるかなぁ。

>>サナダムシさん
主役にして本作の最萌えキャラたるシコルが、前にも増して元気に瀕死で楽しいです。他の
面々がほぼ同じことをぞろぞろとやってる中、一人だけマイウェイしつつしかしまともなセリフ
はなく、なのにしっかり印象深く、読者の笑いをとってしまう彼。つくづく天然の千両役者です。
358電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/03/13(金) 23:26:38 ID:SYRySxbF0
こんばんは。
後で前回投下後の自分のレスを読み返してみたら妙に淡白な感じの文章でしたが
実際にはまず初読で2回もらい泣きし(サイの涙で1回これが俺だで2回)
再読で笹塚の笑顔に再度涙腺決壊し、そのあと寝る前歯を磨いてるときに思い出して
またちょっと涙ぐんだ程度には今週のネウロに心動かされています。

>>328さん
終わりそうとか言うな! 今私は現実と向き合わないよう必死で頑張ってるんだ!
ジャンプ漫画としては珍しいほどキレイに終われそうなのが救いですが。
原作での彼らの関係は本当に意外でした。今思えば自分像編ラストなど伏線は張られていたのですが。
相手が傍にいるときにはそっぽ向いて「勝手にすれば」とか言ってたくせに、相手がいなくなったや否や
俺らこんなにお互い必要不可欠だったんだと力説しまくる、こういうのもツンデレというのでしょうか。
せっかくなので原作は反映させるつもりです。
サマサさんも仰ってる通り、アイが死んだからこそ思いに気付けたっていうのもあると思うので
そこまでド直球で書く予定はないですけど。

>>329さん
こんなどうでもいいような密かなこだわりを分かってくれる人が……こんな……こんな近くに!!
彼はシートベルト締めるのを欠かさないのではないでしょうか。
長生きするため……というよりは、ただただ普通の小市民的なおっちゃんなんだと思うのです、
少なくとも放火とか犯罪とか絡まない局面においては。
火がつくととたんに凌辱(断じて「りょうじょく」ではありません)しますがね。
無駄な深読みが生き甲斐でSS書くときにもそれがモロに出るのですが、
彼らの絆の強さは私の容積の小さい脳で深読みできる範囲を超えていました。
こうなったらもう閻魔相手に地獄の国盗りでも何でもやってくれ。こいつら二人が揃えば多分可能。

>>330さん
ありがとうございます。興味を持たれたらぜひ原作も読んでみてください。
キャラの一人一人が芯通ってて面白いです。
なにげにストーリーもジャンプには珍しく作劇の基本に忠実に丁寧に作られている方かと。
原作知らない人にもこうやってお声かけていただけるってすごく嬉しいなあ。
359電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/03/13(金) 23:28:27 ID:SYRySxbF0
>サマサさん
サイの涙は本心でしょうね。いくら月影先生も腰を抜かす演技力の持ち主とはいえ、
あそこまで真に迫った表情は演技では作れないでしょう。2人で1人ってパパにも言ってるしガチ。
アイが死んだからこそやっと気付けた思い。私もそう思います。
無意識下ではずっと前からあったんでしょうけど、サイが彼女の存在をそれ以前から重視していれば、
少なくとも14巻の「心に支柱がある奴はうらやましいね」という台詞は出てこなかったはずですし。
失って初めて気付くというのも切ない話ですが、目に見えない美しいものとは
往々にしてそんなものなのかもしれません。

>ふら〜りさん(7巻! 自分像編のサイの変身の感想をぜひ聞きたいところ)
実をいうと、原作では彼らが揃って行動するシーンはほとんどないんです。
犯罪集団としての怪盗一味の描写は原作内ではごく僅か。なのでこのSS内での彼らの描写は、
大半が私の脳内補完にもとづいています。
サイが部下にあれこれ細かく口出しするタイプのボスじゃないのと、サイについてきてる目的が全員
少しずつズレてるのとで、組織構造としてはかなり適当なもんだったんじゃないかと。ボスありきの
集団のくせに肝心のボスの自我が不安定なせいで集団としての決まったカラーも作れないし。
でも個々の構成員たちの目的意識が(バラバラだけど)ハッキリしてるおかげでちゃんと
機能している。そもそもその辺が不明確な奴は加入すらできなかったんじゃないかと想像。
骨折されたのですか。いろいろご不便でしょうがどうかお大事に。

>スターダストさん(SS感想)
原作読んでたときはまるで眼中になかった錬金の女性キャラたち(※桜花除く)が、
永遠の扉のおかげでどんどん愛らしく思えてきました。SSの魔力って凄いですね。
空気の読み方について悩むのはいいことだと思いますが、エアリーディングのスキルを身につけた
まひろは既にまひろではないような気もして何だか複雑です。

>サマサさん(SS感想)
シリアスとギャグの緩急がほんと絶妙だw
ミーシャの「い〜き〜て〜る〜の〜ね〜」はChronicle 2ndあたりであったネタでしたっけ?
聴いたのがだいぶ前のことで記憶も朧ですが懐かしく感じました。
なにげにイサドラ母様が結構好きなのですけど、一方で死亡フラグバリ8でビクビクしています。
タナトス様お願いだから手加減してください。
360電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/03/13(金) 23:30:15 ID:SYRySxbF0
>塩おむすびさん(SS感想)
コリアンヴァンパイア……新鮮だ。そしてついアンニョン・フランチェスカが浮かんでしまう。
『屍鬼』の原作が好きな私(漫画版は未読ですが)にとって今週の千鶴はなかなか新鮮でした。
あの作品は上巻だけでも150人以上のキャラクターが出てますが、他に誰がどんな切り口で
出てくるのか非常に楽しみです。
また悪役が好きな私としては、こういう「敵さん全員揃い踏み」シーンはゾクゾクしますね。
オリキャラ登場私は歓迎してます。うさんくさい奴らの暗躍は話を面白くする。

>サナダムシさん(SS感想)
シコルスキー、相変わらず可哀想に。
あまりに自然すぎて読んでる私もツッコミを忘れて自然に流れていました。シコルスキーいじめが
無意識下に及んでいるのはしけい荘住民だけではない模様です。
回るお寿司を食いつくして回らなくするのは桂木弥子だけの専売特許ではなかった。彼らの新たなる
活劇を楽しみにしています。
それにしても生まれて初めて見たよこんな食欲の湧かない寿司の表現。
361作者の都合により名無しです:2009/03/13(金) 23:44:08 ID:UvSIDt4V0
いや電車魚さん返信凄いなw
でもネウロは200回で終わるんじゃないかな、やっぱり

なんだかんだでサナダムシさんの長編がスタートすると安心する。
362電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/03/13(金) 23:45:33 ID:SYRySxbF0
なんか誤解を招く表現になっちゃった気がする。
錬金の女性キャラたちが眼中になかったというのは、純粋に私の好みの問題です。
だってほとんど十代の女の子だから……
363春を呼ぶ程度の能力:2009/03/14(土) 16:22:38 ID:lCJvrNzh0
 その日、神社の境内で美しい狐を見た。
 それはそれはおかしなことだった。
 なぜかというに、今は早春、冬を越えた獣が人里へ降りてくるのはまだ少し先のことで、しかもその日は折からの雨で道はぬかるんでいた。
 しかし目の前にいる狐はうっすら濡れていながらも金色に輝いており、泥にまみれた様子など毛ほどもない。
 あまつさえその狐、
「やはりここにいたか、人間」
 しゃらりと人語を発してみせた。
「……ここにいちゃいけないっての? ここは私の社よ」
 僅かに白んだ息を吐きながら彼女がそう答えると、狐はククッ、と首を右15度に傾けた。
「お前と存在論について論議するつもりはない、人間」
「私にだってないわよ」
「ならばなんの問題がある、人間」
「……人間にんげんと気安く呼ばないでくれるかしら? 確かに私は人間だけど、博麗霊夢(はくれい れいむ)という名前を持っているのよ」
 すると狐はきょろきょろと辺りを見回し、
「今ここに、お前の他に人間はいない」
「万年閑古鳥の神社で悪かったわね」
「しかるにお前は『人間』より上位概念での識別を要求している。これは非合理的だ」
「じゃ、あんたのことは狐って呼べばいいわけ? 境界オバケの使い魔さん」
「それは誤った認識だ。私の定義は『スキマ妖怪の式』であり、そこいらにいくらでもいるけだものと一緒にされるのは分類上、不正確を極める」
 韜晦じみた狐の口上を手で振り払い、有無を言わせずそこに言葉を被せる。
「はいはいはいはい。それで? 今日はなんの用なの、藍(ラン)」
 狐──藍は再び首を右15度に傾け、霊夢の発言を呻吟する。
「お前は今、私を藍と呼んだ。すなわち、儀礼上の形式(プロトコル)として、私はそれに対応する識別子で呼称する必要がある」
 そう結論付けると、今度は首を左に15度──すなわち地面に対して垂直の軸に傾ける。
「私と同道しろ、霊夢。我が主上であらせられるところの紫(ゆかり)様がお前をお召しだ」
 返事すら待たずにくるりと背を向け、すたすたと歩き始めた藍を見やり、霊夢はそっと溜息をついた。
「……最初にそれを言いなさいよ」
364春を呼ぶ程度の能力:2009/03/14(土) 16:23:52 ID:lCJvrNzh0
 さて、どうしたものか。
 自由気儘を身上とする霊夢にとって、誰の呼び出しだろうと素直に従う義理はない。
 義理はないのだが──。
「ま、仕方ないか」
 特になにも考えずに呟くと、
「おいで、燐(リン)。お出かけよ」
 この寒気などどこ吹く風といった風情で賽銭箱の上で丸くなって船を漕いでいる黒猫を呼び寄せる。
 燐と呼ばれた黒猫は嬉しそうにニャーンと一鳴きすると、ぴょんと霊夢の胸に飛び込み、丸くなった。
「なんだ。その猫も連れて行くのか?」
「懐炉よ。こんな肌寒い日に表に出るのだから」
「だったらそんな腋が露出している装束などやめればいいだろう」
「それは言ってはいけない百年の約束、よ──」


「……で、けっこう遠くまで来たけど、まだ着かないの?」
「まだ道中ばに過ぎない」
「いったいどこまで連れて行こうっての、藍」
「『妖怪の山』だ」
「うげ」
 思わず呻く。
「どうした、霊夢」
「あそこってなんか色々めんどくさいからなぁ……」
「『空を飛ぶ程度の能力』──あやゆる理、あらゆるしがらみ、あらゆる制約から解き放たれ、真に『宙に浮く』という、
この幻想郷でも稀有な能力の持ち主が、そのようなことを言うのか」
「そりゃ言うわよ。そんな言葉遊びに付きあうほど優しくないもの、私。
めんどくさかったら帰るし、そうじゃないのならあんたについていく。それだけよ」
「なるほどな──」
 霊夢のいい加減な返答にも、藍は生真面目にうんうんと首肯する。
(ほんと、いい性格してるわ)
365春を呼ぶ程度の能力:2009/03/14(土) 16:25:11 ID:lCJvrNzh0
「しかし問題ない。いや、たとえ問題があっても、それが私たちに及ぶことはないだろう」
 その奇妙な返答に、霊夢は眉をしかめた。
 主人の影響なのか、この妖狐の言うことはもってまわリ過ぎている。
「どういうことなの……」
「水先案内人を用意してある」
「え?」
「いや、この場合、風先案内人というべきか……そら来た」
 言うや、つむじ風が吹く。
 風雨乱れて霧となり、霧は樹に流れて一滴、根に染みて土が興る。
 枝のざわめきは天に騒ぎ、霧と風を乱して虹を生む──。
 その虹すら切り裂く風を纏い、烏天狗の少女が霊夢の前に舞い降りた。
「どもども、夢はでっかく新聞記者、幻想郷最速の、清く正しい射命丸文(しゃめいまる あや)でーす!」
 団扇をひらひらさせながらビシッと可憐にかつ格好よくポーズを決める……が、
「あれ? どうしたんですか、眼なんかつぶって。まだ寝る時間じゃないですよ」
「あんたの風が目に刺さったのよ! 生木をへし折るよーな暴風ふりまいて登場するんじゃない!」
「あやややや。それは失敬」
「まったく……もういいわよ」
「反省しろよ☆」
「お前だよ! ……ったく、変なところで体温あげさせないでよ」
「あはは。今のテンション凄かったですね。まさに山あり谷あり棒折れグラフ」
「はいはい」
 霊夢と文のやりとりを黙って眺めていた藍が、会話の途切れたのを機に割って入る。
「そろそろいいか? 私は『良く分かるフェーン現象』の講釈に興味はない」
「あんたは今の会話をどこを聞いてそんな解釈になるのよ……」
 がっくり虚脱した肩を落とし、霊夢はなんかもおすっげえどうでもいい気分で呟いた。
366春を呼ぶ程度の能力:2009/03/14(土) 16:26:15 ID:lCJvrNzh0
「はあ。……それで? 文がいるとどうしてなんの問題もなくなるの?
こんな三流ブン屋ごときに、問題が自ら避けて通るようなカリスマなんてないでしょう?」
「うわ、ひどい言われよう」
「確かに、この烏天狗には我が主上やその盟友であらせられる西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)刀自、
あるいは紅魔館の御令嬢であるレミリア閣下に並ぶような存在の『格』は持ち合わせていない。
むしろ下賤な烏天狗の眷属でしかない。けだものと似たり寄ったりの生き物だ」
「貴女もけっこうひどいこと言いますね、藍さん。あんまひどいこと言うとパパラッチしますよ?」
「だが、問題は自ら避けずとも、こちらから吹きとせばいい」
 話の要点がつかめずに目を白黒させている霊夢へ、文がニコニコ笑いながらにじり寄る。
「へっへー、つまり、こういうことですよ」
「あ、ちょっと」
「霊夢、今から落ちるぞ」
 ぼそりと藍が警告を発する──が、やはり意味不明。
「え? え? どこへ?」
「空へ、だ」
「は?」
「疑似重力だ。文の能力はその領域にまで達している」
 霊夢の理解を置いてけぼりにして、事態は進行する。
 文の右手に握られた団扇は天を仰ぎ、その左手はしっかりと霊夢の腰を抱えている。
 そして、藍は今の今まで人を模したものであった姿から、九尾の妖狐の姿をとって文の肩にしがみつく。
 霊夢の胸の中では、燐がごろごろ喉を鳴らしていた。
「さーて、遠からんは風に聴け、近くば寄って錐揉み回転!
とくとご覧じろ! 誉れ高きは幻想郷最速の、『風を操る程度の能力』を!」
 ──次の瞬間、霊夢は空に落ちていた。
 ぐるうりと天地が逆様に、ただただ奈落に突き落とされるような感覚で、この蒼穹にまっしぐら。
「ひゃああああぁぁぁぁ!?」
 パニックに陥りそうな思考のなか、そんな表面の混乱とは無縁なさまで冷静に現状を観察する霊夢の中枢は、
冷静で的確な判断力をもって次のような推論を下していた。
367春を呼ぶ程度の能力:2009/03/14(土) 16:27:20 ID:lCJvrNzh0
『自分たちは射命丸文の操る颶風によって遥か上空に打ち上げられており、
そして目指す目的地が天界でもない限り──次は反転して地面に真っ逆さま』
 ああ、しかし、その推論が正しいとして、今まさに悲鳴を上げている霊夢のパニック担当がその事実を認識できるかどうか?
「いやああああああ降ろしてええええええええええ!」








バレンタインデーのお返しのつもりがなんか長くなりそうなので分割。
続きは夜……か明日。
368作者の都合により名無しです:2009/03/14(土) 22:50:01 ID:BvjP1IWC0
お疲れ様です。
サマサさんかな?
元ネタの漫画なんだろ?
でも最近バキスレで妖怪物ってないので楽しみです。
前は蟲師とかあったけどね。
369作者の都合により名無しです:2009/03/14(土) 23:56:26 ID:+IDW9xdq0
東方Projectとはw
どなたが書かれているかは知らんが通ですなw
370春を呼ぶ程度の能力:2009/03/15(日) 01:18:52 ID:pBRljPN10
 妖怪の山の頂上に風が吹いた。
 うねる気流は雨を巻き上げ、雨は霧となる。
 なおも舞い上がる霧は雲に届き、山に被さる濃霧を乱す。
 乱れた霧は天を廻り、やがてひとつところに萃まる。
 萃まる霧は乳白色に濁り、その濁りは芳香を放つ。
 かくして雲が晴れたところに、二つの人ならぬ影が浮かびある。
 その片割れは、やたら酒臭い息を吐く鬼だった。
「うぃー、ひっく、あー、ももくいながらおしゃけうめぇ」
「もう勘弁してくださいよ、萃香(すいか)さん……」
 そしてもうひとつの片割れは、涙目になりながら酌をするいかにも高貴そうな佇まいの少女。
「らめぇ。もっとおしゃけちょうらい」
 呂律がまったく回っていない、幼女のような姿をした鬼にがしがし蹴られ、少女は情けなさそうに首を振る。
「お酒なら萃香さん、自前の瓢箪持ってるじゃないですか……それ無限にお酒が湧くんでしょう?」
「たまにはぁ、ちがうのがぁ、すいかちゃんのみたぁいの。らから、ひっく、うぃぃ、おしゃけちょうらい」
「うう、なんで天人のわたくしが、こんな下女働きを……」
「うるちゃいわねぇ、ひんにゅーのくしぇに」
「ああ、そんなこと言わないでくださいぃ……」
 よよ、と崩れる少女だったが、ふとキナ臭いものを嗅いだように辺りを見回した。
「……あれ?」
「なによぉ、あたしはまだずぇんずぇんよってないよぉー、なんでじめんがゆれてんのぉー?」
「いや、ていうか、これ地震ですけど」
 確かに、びりびりと震える大地が微かに砂埃を浮かせ、山の頂上の空気を小刻みに揺すぶっている。
「しかし……このわたくしの『大地を操る程度の能力』から外れて起きているということは……何者かの作為による揺れです」
「らったら、なんだっちゅーのよぉ」
「いえ、ですから、これはなにかの異変の前触れではありませんか?」
 不審げに眉根を寄せる少女の背後から、唐突に無機質な声が掛けられた。
「どうやら風向きが変わったようだと衣玖(いく)は思います天子(てんし)さま」
「──衣玖!?」
 天子と呼ばれた少女ははっと振り返り、
「バカバカ! 今までどこに行ってたのよ!? 衣玖がいないせいでわたくし、
天界に不法滞在する萃香さんに暴力で脅されて無理やりメイドみたいなことさせられてたんだからっ!」
371春を呼ぶ程度の能力:2009/03/15(日) 01:23:12 ID:pBRljPN10
「申し訳ありませんと衣玖は思います天子さま。しかしながらなにせ昨日は土曜だったので」
「は?」
「土曜の夜はサタデーナイトフィーバーです」
 めっちゃ冷めた表情で『サタデーナイトフィーバー』とかのたまう、やや大人びた風貌の少女──衣玖に、天子には言うべき言葉が無かった。
「ちなみにこの絶妙なタイミングで参上致したのは衣玖が出待ちをしていたからです天子さま。
すなわち天子さまが萃香さまに足蹴にされつつ半ベソで酌をなさっているところを衣玖はずっと陰ながら看過しておりました」
「ひどっ」
「別にいいじゃありませんかと衣玖は思います天子さま。なぜならば天子さまは畏れ多くもドMにあらせられることを衣玖は良く存じ上げております」
「え、Mじゃないもん!」
「いいえドレッドノート級マゾヒスティッククリーチャーそれが比那名居天子(ひななゐ てんし)さまだと衣玖は思います。
ちなみに衣玖の名前は永江衣玖(ながえ いく)空気の読める妖怪です」
「……なによ、その説明口調」
「空気を読んだ結果だと衣玖は思います天子さま。そんなことよりこの地震は風向きが変わったためであると衣玖は申し上げます」
「風向きって……?」
「つきましてはすぐさまこの地を掃き清め稀人の光臨を待ち受けるのが礼儀と存じます天子さま」
「稀人って……?」
「積荷信仰(カーゴ・カルト)です天子さま。貴女さま本当に人に尋ねてばかりのド低能であらせられますね。
さあ萃香さま貴女さまのお力でこの天界にもっとも近い妖怪の山の頂上のありとあらゆる雲霧霞雹霰霜雪を吹き飛ばしていただきたく」
「うぇ? なんかすっげーめんどっちぃーこといってねー?」
「いいえ貴女さまの『密度を操る程度の能力』を以てすれば水が湯に変わるほどの時も掛かりませんと衣玖は思います。
古代種の顕現であり『疎雨の百鬼夜行』の異名を取る伊吹萃香(いぶき すいか)さまならば」
 無表情・無感動の念仏じみた早口、直立不動の姿勢でおだてあげられて喜ぶ馬鹿はそういないが、
萃香はインハイ高めのきっつい馬鹿であり、おまけに大絶賛酔っ払い中だった。
「うへへぇ。そこまでいわれちゃぁしかたにゃいにゃー。よぉしいちょやったるかー」
「お願い致します萃香さま私は水を沸かしてお待ちしております」
「え、いや、水が湯に、っていうのはものの喩えじゃないの?」
 天子が常識的な感性でツッコミを入れると、衣玖はただ静かにじぃぃぃっと彼女を凝視する。
 この世には──言葉にせずとも、心さえあれば通じる事柄はある。
(ああ、やめて衣玖! そんな冷たい眼で、『なに言ってんだこの馬鹿空気読めよ』みたいな蔑む瞳でわたくしを見つめないで!
そんな、そんな氷のような視線を向けられたら……わたくしゾワゾワしちゃうぅっ!)
(やはり天子さまはドMであらせられる)
 しかしこの場合は、通じないほうが公序良俗の為には良かったのかも知れない。
372作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 01:27:44 ID:pBRljPN10
 まあそれはそれでいいとして、すっかり上機嫌の萃香はふらふら立ち上がると千鳥足で周囲を徘徊し始める。
「みじゅがぁ、おゆにぃ、かわるとぉ……」
「熱燗です萃香さま」
「んんっ……!」
 真っ赤に染まった頬をほころばせ、ぶるっと身震い、
「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」
「用件は伝え終わりましたので衣玖はこれにて失礼します天子さま。
お湯が沸きましたらば再び戻りますのでどうかご容赦を」
「え、ちょっと待って。萃香さんめっちゃハッスルしてるけど、これどうするの?」
「神を降ろすためのお清めです天子さま」
「はい?」
「地震雷火事親父いずれも場の澱んだを吹き飛ばし清浄な空気を呼ぶための機構であると衣玖は存じております。
いわゆるひとつのエクスプロージョンつまり爆発です」
 そう言うや、衣玖は指先から稲妻を発し、雷光を借りてその場からトンズラした。
 世に言う『雷遁の術』である。
「え? え? あの?」
 おろおろと不審な挙動をする天子にお構いなく、萃香は両腕を振り上げて天に吼えた。
「甦れ、肉体の中の古生代! 海豚のように鯨のように海豹のように!」
 いきなり呂律が滑り出した萃香の周囲の景色が、そして彼女の姿形すらもありえない歪みを発現する。
 その原因はすぐさま知れた。
 今は失われし古代の妖怪、『鬼』。その純血種たる伊吹萃香の能力によって、
四方のありとあらゆる物質が通常の物理法則を無視して彼女に萃(あつま)っているための現象だった。
 すなわち、『密度を操る程度の能力』が発動する際の副次効果──重力レンズ現象である。
「出でよ! 鬼神『ミッシングパープルパワー』!」
 無節操に取り込んだ膨大な質量を体内で凝縮させ、その反動で爆発的に膨張する萃香。
 いきなり巨大化した鬼の放つ衝撃にぶっ飛ばされて無残に宙を舞う天子。
「あぁん! ひどぅい!」
 しかし騙されるな、見よ、比那名居天子の眼尻に浮かぶ一滴を。
 あれはどう見ても歓喜の涙だった。
373作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 01:30:25 ID:pBRljPN10


 妖怪の山の奥深くには神の社がある。
 そして、そこには二柱の神と、一人の巫女が、つつましく穏やかに暮らしている。
「早苗のバカー!」
 そう書いたそばから卓袱台が引っくり返った。
「洩矢(もりや)さま、どうかお怒りをお鎮めになってください」
「ヤダヤダ、あたしジャンプ読みたいのぉー! Dグレとリボーンがどうなってるか知りたいのぉー! 買ってきてくれなきゃヤダぁー!」
「あの、洩矢さま。ここは幻想郷であって、私たちが以前住んでいた世界とは違うのです。
ジャンプはおろかコンビニもございません。どうかお聞きわけください」
「なんでこんな辺鄙なところで暮さなきゃいけないのよぅ……元の世界に帰りたいよぅ……」
「それは八坂(やさか)さまと洩矢さまでお決めになったことではありませんか。
あの世界では信仰が薄れてしまったゆえ、新たな信仰を獲得するためにこの幻想郷に赴くのだと、
そう仰られたから、私も後に従ったのですよ」
 駄々っ子をあやすように、大地神ミシャグジたる『洩矢諏訪子(もりや すわこ)』を膝に乗せて頭をなでなでするのは、
かつて『外の世界』では現役女学生だった『奇跡の子』、東風谷早苗(こちや さなえ)だった。
「でもぉ……新しいガンダムも視たいのよぅ……またキラとアスランが主役でしょ?」
「お言葉ですが洩矢さま。種死の時点でその両名は主役ではありません。続編も……どうでしょう」
「えー……こんなことならWのDVDボックスだけでも持ってくれば良かったよう」
 幻想郷に電気は通っていませんよ、と喉まで出かかった言葉を呑みこみ、早苗は黙って諏訪子の髪をくしけずる。
 と、部屋の障子が開け放たれた。
「八坂さま!」
 洩矢諏訪子が土着神の頂点に立つ存在ならば、
今現れた八坂神奈子(やさか かなこ)こそはそれに匹敵する山坂と湖の権化、新興宗教を体現する、風と闘争の神である。
「八坂さま、洩矢さまにあまりわがままを仰らないよう八坂さまからも仰ってください」
 そんな早苗の懇願に、神奈子は哀しげに首を横に振る。
「早苗……」
「どうなさったのです、八坂さま。まさか良くない徴でも顕れたのですか?」
 不安に顔を曇らせる早苗よりもさらに重苦しい表情で、
374作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 01:33:43 ID:pBRljPN10
「私のマイミクはどうなったのだろうね……」
「あい?」
「幻想郷に引っ越しするドタバタで、うっかり挨拶もせずにそのままにしてきてしまったmixiだよ。
みんな、私の身になにかあったのかと心配していないだろうか」
「……垢切りはmixiでは日常茶飯事ですから、あまり心配はされていないと思います」
「ああ、やはりそうなのかい!? 私の存在なんてネット上ではその程度だったのかなあ!?」
 頭を抱えて苦悩する神のアホ丸出しの有様に、それを祀る立場である早苗こそ頭を抱えて苦悩せざるを得ない。
「あーうー……早苗ぇ……深夜アニメの新作が視たいよぉ……」
「早苗、どうだろう、妖怪から信仰を集めるなんて不毛なことはやめて、今すぐ元の世界に戻らないか?
ついでにミク友のみなさんにいきなり連絡を絶った無礼を詫びなければ!」
(この……腐れ神ども……!!)
「いい加減になさってください! ここにはアニメもない、ネットもない、つーかそもそも電気がないんです!」
 息を荒げて立ち上がり、さっきは飲みこんだはずの言葉を吐く。
 しかし、それほどまでに早苗は悲しかった。
 他の誰よりも深く敬愛し、一生を捧げると誓った二人の神の、こんな情報中毒で堕落した姿を目の当たりにするのは辛かった。
「少しばかりの不便がなんだというのです? 私だってケータイ小説とか少女マンガとか、そういう未練を全部置いてやってきたんです!
それもこれも、守矢神社再興の志に殉じる決意があったればこそです!
楽しみが無くなったのなら、その分工夫すればいいではありませんか!
暗いと不平を言うよりも、進んで灯りを点けましょう!」
 興奮してた早苗は失言に気付かなかった。
 口の滑りの良い言葉を選んだ結果、話の最後の部分が、微妙に筋からずれていたことを。
「……いいこと思いついたぁ」
「なんだい、諏訪子」
 きらりと光る諏訪子の眼光で、早苗は己の失敗に気づく。だが、気づくには遅すぎた。
「だからぁ、電気引けばいいんだよぉ。そーすれば、アニメもネットも万事オッケーだよぉ」
 ……ダメだこりゃ。
 この上ない敗北感と徒労感でがっくりきた早苗は、ずるずると畳に臥す。
375作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 01:38:28 ID:pBRljPN10
 洩矢諏訪子と八坂神奈子、幻想郷ではまことの異邦人である二柱の唯一の理解者であり信奉者であるはずの
早苗をほっぽり出して、神々の悪巧みが始まろうとしていた。

「──しかし諏訪子、電気を通すというが、どうやってだい? 幻想郷の産業革命作戦はこないだ失敗したばかりじゃないか。
地獄鴉に核融合の力を与えてみたけど、制御しきれずに暴走しかかけて一騒動だっただろう。
今度は蒸気機関程度に留めておくのか?」
「違うよぉ、神奈子ちゃん。今度は自然に優しいエコロジーだよ」
「ふむ。その心は?」
「かみなり」
「んん? それはどういう……いや待てよ、この山の天界に近い峰のあたりに、雷を操るリュウグウノツカイの妖怪がいたな」
「そうそぉ。あたしと神奈子ちゃんの能力で巨大バッテリーを創造してぇ、そこに雷を集めるのぉ」
「ふふふ、諏訪子は賢いな」
「えへへぇ」








なんか適当にやってるから話が収縮しない。
本来の目的であった「ホワイトデーの話」は遂行できるのだろうか。
待っててくださいハシさん。
俺は頑張っています。
あと即興で決めたタイトルがあんまりにも適当だったので、なんか考え付くまで無題ということで。
376作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 09:19:39 ID:bIjRPDSx0
もしかしてハロイさんかな?
ああ、ハシさんの前回のバレンタインの奴と対になってるのか。
東方は知らないけど、キャラが可愛くて楽しいです。
377作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 15:27:32 ID:hm/+SXsC0
ハロイさんなら嬉しいな
確かに会話のキャッチボールの上手さとかハロイさんっぽい
俺も東方知らないけどハシさんやハロイさんがお奨めするなら
一度調べてみるかな
378作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 16:44:44 ID:SP6ucX9a0
乙です。>>217>>367からすると
ハロイさんかハシさんですよね。多分ハロイさんかな?

会話のセンスが良いですね。割合長いのに一気に読ませる。
ところどころ説明台詞なのにテンポが良くて読み易いし。
なんか神さまや巫女様みたいなのに人間臭いなw



でも「韜晦」ってどう読むのかどんな意味なのか
教えて下さい。
379作者の都合により名無しです:2009/03/15(日) 22:15:28 ID:jYU2UrZr0
駄目だこの神様達…、早く何とかしないと…。
とかニコのノリで言ってみるテスト。
お疲れ様です。
380作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 01:35:01 ID:jqPluWpZ0
 ──顕界から遠く離れた冥界には、おぞましいほどに美しい桜の大樹がある。
 その桜の名は『西行妖』。
 梶井基次郎の言の通り、その桜の美しさは根元に死体が埋まっていることに由来していた。
 しかも、その死体はただの死体ではない。
 ある高名な歌人の娘であり、『死を操る程度の能力』を持ち、その能力のために生を儚んで自害した悲運の少女の死体である。
 少女は自らの命を絶つ際に、輪廻の苦しみをも逃れることを望んで死体そのものを結界と化し、西行妖の魔性を封印した。
 巡りめく『死』というサイクルを封じた桜は、花を咲かせることなく、にも関わらずこの世のものとは思えぬ美を振り撒く。
 決して『完全さ』を得ることのない、ゆえに永遠であり続ける、完結した小さな世界。
 そして、輪廻を逃れたことで御霊の行き場を亡くした少女は、永遠に彷徨える亡霊と為り果てた。

 ──それは遥か、千年よりも昔の出来事。

 そして、今──。


「……妖夢(ようむ)」
 死装束に身を包み、死相を顔に浮かべる少女の、幽冥の色を滲ませる声。
「はい、なんでしょう幽々子(ゆゆこ)さま」
「ひとつ歌を創ったの。聞いてくれるかしら?」
「はい、喜んで」
「詠むわよ。良く聴きなさい。──『はるがきて ごはんがおいしい うれしいな』」
「素晴らしいです、幽々子さま。なんてお深くてお美しい調べなのでしょうか」
「あら、そう? うふふ、自分で言うのもなんだけど、久々のスマッシュヒットだわ、これ」
「そうでしょうとも。まるで心が洗われるようです。季語はなんでしょうか?」
「あら、そんなことも分からないの? 季語は『春』よ」
「なるほど、ひとつ勉強になりました」
「もう、妖夢ったらホントお馬鹿さんねえ。でもそこが可愛いっ」

 そして、今──少女は亡霊として、萌えアニメばりのゆるい日常を送っている!
381作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 01:40:49 ID:jqPluWpZ0

 冥界における幽霊の来し方行きし方を司るは、かの西行妖を庭園に囲う屋敷、西行寺(さいぎょうじ)家の白玉楼。
 その現当主である『幽冥楼閣の亡霊少女』こと西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)に仕えるのが、
西行寺家の庭師であり剣術指南役でもある、世にも珍しい人間と霊のハーフ、
『半人半霊の半人前』の二つ名を持つ二刀流の帯刀少女、魂魄妖夢(こんぱく ようむ)である。
 その妖夢に課せられた主な任務は二つある。
「ところで幽々子さま、今夜の夕食はなににしましょうか?」
「えーっとねえ……そんなことより今なにか食べたいな」
「さっきおやつ食べたばっかりじゃないですか」
「そうよ。だから今度は、なにかしょっぱいものが食べたいの。口の中が甘くなりすぎちゃって」
「幽々子さまったら……それでは、いつぞやのように河童のところで魚を分けてもらいましょうか、百匹ほど」
「ううん。二百匹くらいがいいわ」
「そんなに食べたら、次はまた甘いものが食べたくなるんじゃないんですか?」
「あら、それなら甘いものを食べればいいじゃない。なにもおかしいところはないわ。そうでしょう?」
「では今のうちに、ご希望を承っておきましょう」
「魚二百匹」
「ではなくて、甘いものです」
「甘いもの、ねえ。……じゃあ妖夢」
「はい、なんでしょう」
「なにを言っているのよ妖夢。『はい、なんでしょう』なんて間抜けな答えがありますか。私は甘いものとして妖夢をいただくわ、と言っているの」
「……私を、お召し上がりに?」
「ええ、貴女をお召し上がりに。言っておくけどカニバリズムではなくってよ。そういう天然ボケは許しません」
「そんな、幽々子さま、お戯れを……」
「そりゃ生真面目にこんなことを言ったら馬鹿だわ。これはただの戯れ。でも半分本気よ? 戯れというのは本気を織り交ぜてこその戯れなのだから」
「でも、まだ日も高いのに」
「甘いものは別腹よ」
「うう、なんか会話が噛み合っていませんよう……」

 二つある任務のひとつは、主人である幽々子に全力でデレることである。
382作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 01:46:37 ID:jqPluWpZ0

 そして、もう一つの任務は……、
「──妖夢」
「……? はい、なんでしょう。お布団ですか」
「馬鹿なことを言ってないで良く聞き分けなさい。命令よ。今すぐ目の前の虚空を斬りなさい」
「──御意」
 腰に差した二振りの刀──人の迷いを断つ宝剣、『白楼剣』、
そして幽霊十匹分くらいなら一太刀で殺傷し得る、物干し竿代わりにもなる優れものの長刀、『楼観剣』。
 妖夢がガチャリと腰を揺すった刹那、その長いほうがずらり抜かれ、神速のきらめきを放って前方の空間を薙ぎ払った。
「切り捨て御免!」
 なにもない空を斬ったのならば、なにも斬れるはずはない。
 だが、まるで刀に斬られでもしたかのように、不意に空間に生じた裂け目が、ぼうと白く浮かび上がる。
 ──否、その裂け目は妖夢の手によるものではなかった。
 剣を鞘に収めながら、妖夢は敵視の眼光を宿し、三寸先に浮かぶ空間の裂け目をじっと睨め上げる。
「我が楼観剣に……斬れぬものなどあんまりない!」
 かちん。
 鍔が鞘を打ち、その音に合わせるように、眩く鋭い太刀筋が奔り、白く淡い裂け目に交差する。
 すると裂け目に無数の引き攣れた罅が拡がり、ほの白い輝きの奥からどす黒い瘴気が漏れる。
 ……その刃が裂いたのは、まさに『裂け目』そのものだった。
「見事よ、妖夢。貴女はまさしく虚空を斬ったわ。『なにもない』のが空なれば、その空に出でるものこそ虚ろなり。
貴女が斬ったもの、それは──虚と実の境界を歪ませる、すなわち──『スキマ』に他ならないわ」
「御上意に従ったまでのこと、私は貴女の剣です。これは貴女が斬ったものです、幽々子さま」
「ふふ、自我(エゴ)が弱いのね。そういうことろが貴女の良いところであり、悪いところでもある。
どちらにせよ──そういう半人前の貴女が好きよ、私は」
「もったないお言葉です」

 ──二つあるうちの、もう一つの任務、それは……
己の持つ『剣術を扱う程度の能力』を行使して、幽々子の命じたあらゆるものを斬って捨てることだった。
383作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 01:57:37 ID:jqPluWpZ0

「だけど幽々子さま、私はいったいなにを斬ったのでしょうか」
「今説明したじゃないの」
「え、しましたっけ? 幽々子がなんか意味は分からないけど素晴らしい歌をお詠みになったのはしかと耳にしましたけど」
「はあ、妖夢ってホントお馬鹿さんねえ……」
「面目ない」
 雨に打たれた子犬のようにしゅんとうなだれる妖夢の肩を、幽々子は子犬を拾った独身OLのようにきゃーとか言って抱き締める。
「んもう、可愛いっ! 可愛いな妖夢はっ!」
「えへへ、ありがとうございます……って違う! 話を変な方向に持っていかないでください」
「いきなりツッコまないでよ。天然キャラかツッコミキャラかはっきりさせなさい」
「はあ。で、なにを斬ったんですか私」
「足元を見てみなさい」
 言われた通りに視線を落とした妖夢はすぐさま硬直する。
「ニャーン……」
 そこには弱々しく鳴く猫がいた。
「ね、猫ちゃん!? な、ななななにを斬らせてるんですか貴女は!」
「さっきの『貴女の剣です』うんぬんはどうしたのよ」
「そ、そういう問題ですか!? だって猫ちゃんですよ猫ちゃん!」
「いや、普通にそういう問題だと思うけどね。
まあ取りあえず落ち着きなさい。貴女が斬ったのはその猫ではなく、その猫をここまで連れてきたモノよ」
「つまり猫ちゃんの脚ですかっ!? あああ、ごめんね猫ちゃん! 今すぐ救急箱持ってきて斬った脚くっつけるから!」
「蟹じゃあるまいしくっつかないわよ」
「蟹だってくっつきませんよ」
「いきなりツッコミに転じるなってば」
「すみません」
「ええと、どこまで話したっけ? ……ああ、そうそう。なにを斬ったかって話ね。
貴女が斬ったものは、この猫ではなく、毒ガス密室よろしく猫の存在確率の境界をいじったことで不可避的不可逆的に発生した、
この世界におけるニッチ、この世界に沸いたトマソン空間よ」
「あの、幽々子さま。それはどういう歌ですか」
384作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 02:02:24 ID:jqPluWpZ0
「……分かりやすく言うとスキマ妖怪の作ったスキマよ。この猫はそのスキマを通ることでどこからともなく現れたわけ。
だけど、そのスキマの淵に猫がすっぽりハマって抜け出せくなっていたから、貴女に斬らせてスキマを拡げたの。お分かり?」
 まったくもってこれっぽちもお分かりでないことは、眉間に皺を寄せて脂汗流しながらうんうん唸る妖夢を見れば瞭然だった。
「はい、幽々子さま質問!」
 立派な小学生にも引けを取らない元気な挙手。
「なあに、妖夢」
「今、スキマ妖怪と仰られましたが……」
「幻想郷広しと言えど、スキマ妖怪は一体しか存在しないわ。貴女の想像通りよ」
「すると、この猫ちゃんは……」
「それも貴女の想像通り。『スキマ妖怪の式の式』──」
 そう言いながら、幽々子は胸元から扇子を取り出し、妖夢の腕の中の猫の額をピシリと叩いた。
 するとたちどころに猫はその姿を変え、見るも可憐なネコ耳少女のかたちに変ずる。
「橙(チェン)!」
 自分の腕の中の少女を見て、妖夢は驚愕の声を上げる。
「だ、大丈夫か、橙! ああ、私はなんてことを……それとは知らず、よりにもよって橙の脚をぶった斬ってしまうとは!」
「だから斬ってないってば。脚もちゃんとついてるでしょう?」
「そんなことがなんの慰めになるんです!? 幽々子さまだって亡霊のくせに脚ついてるじゃないですかっ!」
「ちょっとお黙りなさい。貴女と漫才するのは楽しいけど、これじゃキリがないわ」
 ネコ耳をぴくぴくさせながら目を回している橙の懐へ、幽々子は無遠慮に手を突っ込んでもぞもぞやりはじめた。
「あわわ、幽々子さま、なんて猥褻な……気絶してるのをいいことにこんないたいけな幼女を手籠めになさるお積りですか!?
この私というものがありながら──」
「お黙り」
 べし、と空いてるほうの手で妖夢にチョップを入れ、さらにもぞもぞ。
 ややあって引き抜いた手には、一通の手紙が握られていた。
「ふうん……そういうこと」
 その折りたたまれた和紙の束をちらと見た幽々子は、くすりと艶やかに、そして甘い死の匂いを振りまいて笑う。
 そして、無駄に一生懸命に橙の介抱に努めて心臓マッサージ&人工呼吸3セットを開始しようとしている妖夢の背中に下命した。
「──妖夢。夕食の予定は決まったわ。出かける準備をなさい」
385作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 02:07:50 ID:jqPluWpZ0
「はい幽々子さま。ですが、そのお手紙はお読みにならなくてよろしいのですか?」
「読まなくても分かるわ、そのくらい」
 さらりとそんなことを言ってのける、己の主から滲み出る静かな威厳に、妖夢の胸は痺れるように震えだす。
「かしこまりました。して、どちらへ?」
 扇子を喉元にあてがい、薄く笑うその風情は、まるで斬首台に乗せられた首のよう。

「──妖怪の山」



あと、二、三回で終わればいいな、と思いますよ。
どんどんホワイトデーから遠ざかってますけど。
386作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 07:02:28 ID:0tonrKTm0
幽々子と妖夢のやり取りがゆるくていいなあw
俳句とか可愛らしいw
387作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 07:39:42 ID:3q0hXuRh0
朝から和んだ
ところどころカニバリズムとか空間切りとか
結構、きついんだけどな
原作もこんな感じのほのぼのなんだろうか
388作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 19:57:24 ID:ibMXCSs80
ハロイさん引き出し多過ぎだなw
ヴィクテムみたいなシリアス物も書ければ
シュガーソウルみたいな学園物も書け
こういう萌え系の物も書けるか。
俺も書き手の端くれとして羨ましい。

そういえば氏のサイトにあった短編も面白かったな。
389作者の都合により名無しです:2009/03/16(月) 23:58:37 ID:mvJe8hmo0
そろそろシュガーハートも読みたいなあ。。。
390作者の都合により名無しです:2009/03/17(火) 22:05:50 ID:QqVUQSCOO
二次の二次だな。まあ、東方はしょうがないけど。
391作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 06:38:28 ID:+N9CUiYK0
ホワイトデー記念作品だったんですよね。
最後はそういうオチになるのかな?

妖夢のしぐさがいちいち可愛い。元ネタもこんな感じ?
392作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 10:50:37 ID:aSvlBxAp0
 流星、空を切り裂いて──。
 などという詩美性の欠片もなく、博麗霊夢の小さな身体は猛スピードで地面に正面衝突した。
「いたた……」
 もうもうと立ち込める土埃の中から、腰をさすり立ちあがる霊夢。
 見ると、着地点が綺麗な半球上に抉れている。それはまるで、隕石が降ってきた痕のように。
 逆Vの字軌跡を描いた急上昇・急降下の終わりのころにはすっかり恐怖心が麻痺していたはずだが、
そのペンペン草一本も生えない円形を目の当たりにすると、さすがに背筋に嫌な汗が垂れる。
「これで『いたた……』で済むってのもアレな話ね。あんたの能力なの、文」
 と訊きながら、隣で密着してる烏天狗の少女を押しのける。
「もちろんそうですよ、霊夢さん。この射命丸文の『風を操る程度の能力』で気圧差のクッションを作って霊夢さんを保護したのです。
もっと感謝してくれてもいいんですよ?」
「するわけないでしょう。あんたのせいで私、この一刻で四回くらいは死を覚悟したんだから」
「しくしく……霊夢さんのつれない態度に私のハートはプリズンブレイク寸前です」
「意味わからんわ。ていうかいつまで私の腰を掴んでるのよ。離しなさい」
「霊夢さんの腰って細くて素敵ぃ。もっと触ってたいですぅ」
 人差し指で腰回りをなぞられ、猛烈な悪寒が身体中を駆け巡ってついには体表から噴出する。
「きみのそういう冗談が嫌いだっ!」
「あややや。そんな怒らなくてもいいじゃないですか、霊夢大先生」
「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ、このセクハラ記者。見てよこの鳥肌」
「烏に触られて鳥肌とはこれ如何に?」
「うるさい黙れしまいにゃ焼くわよ」
「うへ、焼かれるのは勘弁。申し訳ない霊夢さん。わっちが悪うござんした」
「……あんま謝ってるようには聞こえないんだけど」
「そんなことないですよ全然そんなことないですよ。もホント見てコレ見てこのしおらしい態度。
このうつむきつつの上目づかい、これこそ土下座したくても背中の羽が邪魔で出来ない烏天狗の悲しみです」
「はいはいはいはい、もういいわ」
「反省しろよ☆」
「お前だよ! 二度もやらすな! 天丼か!」
 分かっていてもノリで最後までツッコんでしまう付き合いの良さが、霊夢は自分でも恨めしかった。
393作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 10:57:08 ID:aSvlBxAp0
「あー、どっと疲れたわ」
 精神的疲労で凝った肩をもみもみしようとする──と思ったら、
物理的に肩の凝る原因がそこにちょこんと乗っかっていることを思い出した。
「もういいか、霊夢。私は『平和主義のためのドットイート入門』の手引には興味がない」
 そう言うのは、霊夢の肩にしがみつく一匹の狐だった。
 しかし、それがただの狐でないことは一目で見て取れる。
 人語を解するはもとより、その白い面(おもて)、金色(こんじき)の毛並み、九つに分かれた尾──。
 『白面金毛九尾』の異名をとる、伝説級の妖狐に他ならない。
「あんたのギャグはシュールを通り越してハイブロウ過ぎるわ、藍。もっと漫才の勉強をしなさい。
──で、ここ、どこよ」
「最初に伝えただろう。妖怪の山だ。もう少し精度の高い言い方をするなら、その頂上にあたる」
 妖狐──藍は身を一捩りするとたちまちに人の形を取り、二本の足で立って、怜悧な視線を霊夢に向けた。
「我が主上の思し召しにより、お前をここに連れてきたのだ。
光栄に思え。紫さまの式であるこの私が直々に迎えるという、通常ありえない礼をもってお前は遇されているのだから」
「式、ねえ。式神と言えば聞こえはいいけど、あんたは文字通りの『式』じゃない。
数式化した霊力を憑かせだけの、ただの数列(マトリクス)。
そんなもんを差し向けられて、なにを光栄に思えってのかしらね」
「いやいや霊夢さん、藍さんのことを『そんなもん』と言いますけど、考えてみると凄いことだと思いますよ。
白面の御方という格の高い妖怪の、その存在を上書きして使役なさってるのですから」
 文の横からの注釈に、藍は我が意を得たとばかりに深く頷く。
「そうだ。紫さまの偉大さを素直に理解しているあたり、なかなかお前は見込みがある」
「えへへっ。弱い者には高圧的に、強い者には媚びへつらうのが天狗流ですから♪」
 キラッ☆ってな感じでキメキメポーズのウィンクをかます文へ、半眼の霊夢の白けた呻き。
「なーに爽やかな顔して腹黒いこと言ってるのよ」
「こりゃ失敬。……ところで貴女のご主人さまはいずこに? 御尊顔を拝謁がてらぜひお世辞の一つでも申し上げなければ」
「我が主上がお見えになるのは、役者が揃ってからだ」
「なによ、私の他にも誰か呼び寄せたの?」
 藍はそれには直接に答えず、黙ってある方向を指さした。
394作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:06:39 ID:aSvlBxAp0
 雨はすでにあがっており晴れやかな蒼穹が広がり、天と地の境目が明確に引かれた山の、その頂に坐する一つの小さな姿。
 それは幼き少女の姿であり、二本の角を生やした鬼の姿であり、そしてべろんべろんになった酔いどれ天使の姿。
「萃香じゃないの! あんた、神社にも帰らないでどこほっつき歩いてたのよ?」
「んんぅ? ……あ、れいむぅ! ぐへへ、すいかちゃんはぁ、このたびぃ、てんかいにおひっこししましたぁ!
ただいまぁ、そのおひっこしいわいのまっさいちゅーなのれぇす」
「引っ越しってあんた、勝手に天界へ移り住めるもんなの?」
「んぁ、だいじょーぶだいじょぶ、てんしがいいっていったもぉん」
 ぐふふのうへへ、とご機嫌で身体を上下に揺する萃香のお尻の下では、ボロ雑巾のようになった天子がべそをかいている。
「ううう……あんまりです……腕力にモノを言わせて居座ってるだけのなのに……こんなことお父さまにバレたら、わたくし叱られちゃう……」
「ご心配ありません天子さまこの衣玖がすでに御父君にチクッておきました」
 いつの間に沸いたのか、紅い羽衣をひらひらと風にたなびかせる衣玖がしれっと告げる。
「な、なんで!? なんでそういうことするの!?」
「空気を読んだ結果だと衣玖は思います天子さま。
ドMの天子さまはこれくらい追い込まないと悦びを感じないとんだ変態天人だと衣玖は存じ上げております」
「ひどいわ、ひどいわよ衣玖! そんなこと言わないで、そんなこと言いわないでっ!」
 首を小さく振っていやいやをする貴人の態度に、『空気を読む程度の能力』を持つ妖怪はしばしの黙考、
そして立て板に水を流すのごとく澱みないあまり逆に聞き取り辛い発言。
「大事なことなので二回言ったのですね分かりかねます然らば僭越ながら空気の読めるこの衣玖が
全身全霊全語彙全知識をもって天子さまを罵倒して忠誠心の証とさせていただきたく衣玖は思います」
「ああ、ダメぇっ……!」
 なんか二人だけの世界に突入してる気持ち悪い雰囲気を遠巻きに見守る、その他一同。
「……頬を赤らめるのはともかく、目を潤ませるってのは流石に引くわ」
「これ、写真に取って私のトコの文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)に載せたら発行部数上がりますかね?」
「しかし待って欲しい。不良天人の爛れた実態など、誰も興味を示さないのではないか?」
「うはは、ほうちぷれい〜。ぐびぐびぐびぐび……ぷはぁ。ういぃぃぃぃ」
395作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:12:06 ID:aSvlBxAp0
「──む」
 ふと、藍がキツネ耳をぴくりとさせて上空を仰ぐ。
「どうしました、藍さん」
 文が訊くよりわずかに早く、「それ」は起こった。
 なんの前触れもなく辺りが陰る。しかし風は吹いておらず、陽を遮るような雲はひとつもない。
 さもあらん、何故ならこれこそが前触れであり、怪異は今から始まるのだから。
 にわかに清浄な微風が流れ、瑞雲立ちこめて日を隠す。
 おぉん、と地が鳴動し、天に反響して輻輳する。
 空から形なき威圧が落ちてくる。その色は無く、匂いも無く、しかし重い。
「このプレッシャー……!」
「まさか、赤い彗星!?」
「違う(ネガティヴ)。『神降ろし』だ……守矢の二柱が降臨する」
 厚く膨らむ瑞雲の切れ目から、神々しい光が射す。
 その神光を背負い、一人の少女が天空に顕れる。
 肩口の露出した奇妙な仕立ての巫女装束を身に纏い、若草色の髪には蛇を模った髪留め、そして蛙を模った髪飾り。
 発する後光は二重の輪となり、それぞれ右と左に廻る。
 右は乾、左は坤。すなわち天と地と、全と一と、無限と回帰と。
「『現人神』……東風谷早苗!」
 水面に落ちる水のように、するりと真っ直ぐに降りる翠の巫女──早苗。
 地面からちょうど五寸の宙にふわりと止まり、眠るように閉じていた眼をわずかに開ける。
 その夢半ばのような眼差しは、ここではないどこかに意識を飛ばしているかのごとく。
 物思いに耽るように首を微かに傾げ、真一文字に結んだ口を薄くほころばせ、痴れたような無心の笑み(アルカイク・スマイル)。
 瑪瑙のように移ろい変わる後光の輝きはいよいよ激しさを増し、それが頂を極めた刹那、神の足音がごろごろと──雷鳴が轟く。
 一瞬の金光、それに目を奪われた後に視えるものは──、
 鳳、凰、尾長雉、五色鷹を侍らせ、雲の上にて結跏趺坐を組む蒼い髪(神)の少女──八坂神奈子。
 咲き狂う蓮の香り、乱れ舞う花弁、葉の上に立ち、うてなを食む黄の髪(神)の少女──洩矢諏訪子。
「赤さんの釣り動画を作りたい!」
「ネウ×ササのBL同人読みたい!」
 ──これぞ神掛けた出落ちである。
396作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:19:26 ID:aSvlBxAp0
「おいおいおい、なんだい? せっかく神が降りてきたのに何故皆ズッコけてるんだい? まったく不遜だねぇ」
「んふふぅ、違うよぉ神奈子ちゃん、みんなあたしたちのゴッドパワーに畏れをなして平伏してるんだよぉ」
「なるほど、そうなのかい。さすが諏訪子は慧眼だね」
「そうでしょぉ? もっと褒めてぇ」
 すぱーん。
 頭に怒りマークを浮かべる霊夢と、とりあえずそれに合わせてみた文のWツッコミ。
「な、なによぉ紅白巫女! 神の頭をはたくとはそれでも神に仕える者なのぉ!?」
「お生憎さま、私が祀ってるのはあんたらみたいな腐女神じゃないのよ」
「こら! 天狗の分際でなんてことするんだい! しかもマジでグーで殴っただろ!?」
「あややや、日頃から山でデカいツラされてる怨みがつい」
「な、なんだとう! お前たちには神を敬う気持ちがないのかい!? ああ、嘆かわしいねえ!!」
「祟っちゃうぞぉー!」
 いきり立つ二柱の神の剣幕にたじろいだ文を背後に庇い、傍若無人の体現たる霊夢の突き放した言い草が叩きつけられる。
「俗ズレした神の癖に、崇めてもらおうってのがお門違いなのよ!
信仰を集めたかったらもっと身を清めなさい! 雲から落ちた神は神じゃないのよ! バーカ!」
「うぐ……」
「うわ、神に正論吐いてますわ。さすが霊夢さん、わたくしたちに出来ないことを平然とやってのけるっ」
「そこに痺れる憧れると衣玖は思います天子さま」
 事もあろうに人間に面罵されるという屈辱に耐えきれず、二柱の神の肩がわなわなと震える。
「い、いい度胸してるじゃないか。賽銭箱すっからかんの貧乏巫女が……」
「ぐうぅ……しかも最後に馬鹿って言ったなぁ……」
「なによ、だったらなんだっての? 信仰の無い神が怒ったところでなんにも怖くないわ」
「その言葉、後悔するんじゃないよ……神の怖ろしさ、味あわせてやる!」
 怒りに燃える神がひらりと舞い、
「うわーん、早苗ー!」
「助けてさなえー!」
 ぴょんと早苗のところへ飛んで行った。それでいいのか?
 未だ無我の瞑想状態にある早苗をがくがく揺さ振り、強制的に現世に意識を呼び戻す。
 実際に降神や降霊の儀式を執り行う場合、こうした行為は非常に危険なので良い子は絶対に真似しないように!
397作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:25:00 ID:aSvlBxAp0
「ん……?」
 半眼からぱっちりと目を見開いた早苗は、まず胸元にむしゃぶりつく神二柱に気づく。
「早苗ぇー! また博麗神社の貧乏巫女にイジめられたよぉー!」
「洩矢さま……?」
「しかも天狗が私の頭をドツいたんだ! 下賤な妖怪のくせに!」
「八坂さま……」
「早苗、あたし悔しいよぉ!」
「早苗の『奇跡を起こす程度の能力』であいつら懲らしめてやってくれないか!」
 早苗はやおら顔をあげ、霊夢を見る。
 じいいいいぃぃぃぃ、と粘っこい視線が霊夢に注ぐ。
 その瞳にこもったある種の異様な雰囲気に、さすがの霊夢も後ずさった。
「そうですか、悲しいですね……八坂さま……洩矢さま……」
 菩薩のような微笑みで神の頭を優しくなでなでする早苗。
「つーかぁ……」
 ぴたりと手が止まった。
「人間に頼んな!」
 守矢神社の風祝(かぜはふり)である早苗の家系に伝わる秘術が炸裂し、神はぶっ飛びあそばされた。
「へぶっ!」
「ぴゃっ!」
 威厳ごとすっ飛んでいった神になど目もくれず、早苗は霊夢へ駆け寄る。
「お姉さまーっ!」
「うげ」
 あからさまに嫌な顔をする霊夢へ、早苗のボディタックル紛いの抱きつき。
「お久しぶりです! 本当はもっと毎日お姉さまと遊びたいんですけど、洩矢さまと八坂さまの世話で忙しくて」
「ちょっと、顔近いから。それに私、貴女のお姉さんじゃないし」
「いいえ、私とお姉さまは魂で繋がった姉妹です!」
「変な声を出してすがりつかないで。あと、私の喉にあんたの息がかかってこそばゆいのよ。こら、そんなに身体をくっつけるんじゃない!」
「いいじゃないですか、女の子同士なんだから」
「あんたのそういう言い草の裏にはなんか桃色の感情が見え隠れしてんのよ!」
398作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:31:08 ID:aSvlBxAp0
「気のせいですよっ」
「気のせいなもんですか! とにかく離れてよ! ほら、神奈子と諏訪子がめっちゃ見てる!
あれ、あんたんとこでお祀りしてる大事な神でしょーがっ」
 嫉み嫉みの混じったジト目が背中に痛く、霊夢はなんとか早苗を引きはがそうとするも、
がっちり背中に回された早苗の腕は一向に外れる気配がない。ホントにない。
 しかも神々をチラ見するや、つーんってソッポ向きやがった。
「あ、そうだ聞いてくださいよお姉さま! 八坂さまと洩矢さま、また悪巧みしようとしてるんです!
衣玖さんの操る雷を利用して、快適なオタクライフを幻想郷に興そうとしてるんですよ!」
「ああっ! 密告してるよ神奈子ちゃん! 早苗が友達を裏切って先生にチクる生徒のように霊夢に密告してポイントを稼いでる!」
「なんてことだ! 信仰が死んでしまった! こうなったらもう、世界を核の炎に包むしかない!」
「ちょっと! あの神ども、なんか物騒なこと言ってるわよ!?」
「あらお姉さま、この幻想郷では常識に捉われてはいけないのですよ。世紀末でもなんでも来いってなもんです!」
「ああ、もういいから離れなさい! つーか文! あんたさっきからカメラのフラッシュ眩しいのよ!
激写してる暇があったら助けなさいよ!」
「それはできない相談ですよ霊夢さん。こんな美味しいネタを見逃したら天狗の名折れ! レッツ・パパラッチ!
あーほらほら藍さん、貴女も手伝ってください。写真は何枚あっても足りませんからね。リロード時間が惜しいんです」
「むう……このポッチを押せばいいのか? 魂は抜けないのか?」
「ら、藍! あんたまでっ!? なに考えてんのよ!」
「霊夢、この烏天狗は見込みがあるぞ。カメラを操る程度の能力を持っているのも、実にハイカラだ」
「そんなことは聞いてないって!」
 ──そんな騒ぎを肴とし、瓢箪から湧く酒をぐびぐび呑む萃香は今日もへべれけ絶好調だった。
「あー、おしゃけうめぇ」
399作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:40:51 ID:aSvlBxAp0

 しばらくたってもまだぎゃーぎゃーやってる一同の、その渦中ど真ん中の霊夢の懐から、一匹の黒猫が這い出た。
 すたっと地面に降り、鼻をひくひくさせて嬉しそうににゃーんと一鳴きする。
 いい加減でうんざりしてた霊夢がそれにいち早く気づき、声をかける。
「……どうしたの、燐。ここらへんにはあんたの好きな死体はどこにもないわよ。
作れっていうなら、やぶさかでもないけど?」
 ぎろり、と周囲を睥睨しつつ、ドスの効いた声でうそぶく。
 しかし燐は霊夢に構うことなくすたすた歩きまわり、また嬉しそうに息を嗅いで鳴く。
 次いで反応したのは、『空気を読む程度の能力』の持ち主である、リュウグウノツカイの妖怪、永江衣玖だった。
「ご一同さまこれは死臭にございます」
「どういうことなの、衣玖」
「貴女さまは実に質問するしか能のないゲス野郎にあらせられますね天子さま。死臭が漂うのならば答は一つ」
 らき☆すたのキャラソンCDのジャケットイラストみたいにビシッと天を指す、無駄にカッコよくて時代遅れのポーズ。
「死体がやってくるのだと衣玖は思います」
 ──急に気温が下がり、霜が降りた。
「まさか……『幽雅な心霊写真』、白玉楼の亡霊姫ですかっ!?」
 反射的に構えた文のカメラが、いきなりガタガタと踊り始める。パチンパチンと弾ける謎の音。
 それはポルターガイストとも呼ばれる現象──亡霊の反不在証明(アンチ・アリバイ)。
 やがてその音は一定のリズムをとり、複雑なメロディーを奏で、虹の川のごとき旋律を伴う。
 賑やかだが虚ろに響く、幽明の境を彷徨う妖しの調べ。
 辺りに立ち込める伽羅、白檀、杉の葉の馨り……すなわちお線香。
 守矢の二柱の光臨の折りの、数々の神鳥がぼたぼたと地面に墜ちる。
 そして同様に、狂おしいまでに咲き誇っていた蓮の花たちも瞬く間に萎れ、枯れ、塵芥と化して散っていく。
 奏でられる弦楽器の音色はより鬱々と、響く管楽器の音色はより躁々と、鳴る電子の音色はより幻々と。
 それこそは幽殺の調べ、見事に融和するあまり逆に不協和を紡ぎだす、紛うことない凶音。
 そうしたもろもろの不吉さに包まれて、桜色の雪が降る。
 それは幻、淡雪よりもさらに儚く、触れる前に溶けて消える。
 深々と降り積もる幻のなか、全ての者の視界が薄闇に覆われた。
400作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 11:56:52 ID:aSvlBxAp0
 しゃらん。
 涼しげに鳴る風鈴の音。
 まず顕れたのは、見事な白髪を肩で切りそろえた小柄な少女。
 腰に長短二振りの刀を指し、背後に魂魄を纏わせている。
 威風払ってその場を見渡し、目礼する。
 しゃらん。
 涼しげに鳴る風鈴の音。
 湿った風が吹く。
 肌にしっとりこびりつく、冷たくて、恐ろしくて、心地の良い空気。
 常人ならば吸っただけであの世逝きは間違いないほどに、息の詰まる甘く腐った死臭。
 しゃらん。
 三度、風鈴が鳴った。
 そして最後にすべての凶兆の根源が姿を見せる。
「皆さま、ご機嫌麗しゅう」
 死装束に身を包み、死相を顔に浮かべ、生けるものには決してる触れることのない幻のはずの、
肩に積もった桜色の雪を優雅に扇子で払う少女。
「西行寺家当代──幽々子にございます」



ちょっと一区切り。
せめて14日から数えて一週間以内には終わらせたい。
401作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 12:57:10 ID:bZRIVl940
確かに日付的にもどんどんホワイトデーから遠ざかってますねw
多分、当初は短編の予定だったんでしょうけど長編になりそうで嬉しいです。
どことなく百合百合してていいなw
402作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 15:08:54 ID:rX9q6T0i0

 夕暮れの森を、少女は歩いていた。
 夕陽を受けて輝く、透き通った金髪を風に流し、なにかを探して求めているようにきょろきょろと辺りを見回している。
「魔理沙(まりさ)?」
 少し歩いては立ち止まり、また歩き出す。
「魔理沙ー?」
 その視線は上へ下へ、右へ左へと落ち着きがない。
 それはつまり、探している対象がふらふらと落ち着きのないものであることを物語っている。
 カァ、と鴉の鳴き声がした。
 肩に羽織ったショールを手繰りよせ、ひとつ身震いする。
 春が近くなったと言えど、日によってはまだ肌寒いときもあるこの頃だった。
 日は遥か向こう、妖怪の山に沈もうとしており、夜が来るのもそう遠くない。
「夜が来る前に見つけなきゃ……」
 魔法の森の小道を歩きながら、金髪の少女はそう呟く。
 だって、夜になったらきっともっと見つけにくくなる。
 だって──。
「魔理沙? どこにいるの?」
 カァカァ、とまたカラスが鳴いた。
「ここだぜ、アリス」
 背後からの声に振り向くが、そこには誰もいない。
「上だよ、上」
 少女──アリスは言われて頭上を仰ぐ。
 そこには、魔力に冒された樹の枝に無造作に腰掛ける少女がいた。
 折れた山高帽を目深に被り、黒と白で統一されたシックな魔法使いのスタイル。
 だが、帽子から溢れ出ている鮮やかな金髪や、宝石のようにきらきらと輝く瞳は、
服の与えるべき「落ち着いた印象」を遥かに凌駕する活動的なイメージを振りまいている。
 カァ、と鴉が鳴く。
 その肩に止まらせた漆黒の鴉をあやしながら、少女──魔理沙はニコッと笑った。
 夕陽の逆光すら霞むような晴れ晴れとしたその表情に、アリスは不意に胸を突かれたような苦しさを覚える。
403作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 15:10:17 ID:rX9q6T0i0
「どうした、アリス。もうすぐ日が暮れる。逢魔が時は近いぜ」
 なにか気を呑まれるような、喉を塞がれるような感覚。
 それを振り払うように、アリスは硬い態度で応える。
「だから……なによ」
「いや、またどこかで面白いことが起こっていて、その解決のお誘いかな、とね」
「ば、バっカじゃない? 私だって、いつも貴女と一緒に行動するほど暇人じゃないの。
貴女みたいなトラブルメーカーの隣を歩いてたら、身体がいくつあっても足りないわ」
 なぜか魔理沙の目を見て言うことができなくて、ついそっぽを向いてしまう。
 それでもなぜか、なにかが気になって、つい上を盗み見る。
 魔理沙はやれやれといった感じで肩をすくめ、やっぱり笑っていた。
「つれないねぇ。同じ魔法使いのよしみじゃないか」
「じょ、冗談! 私は『魔法使い』という種族の妖怪、貴女は『魔法を使う程度の能力』を持ってるだけの人間!
同じにされたらこっちが迷惑なのよ!」
「おーおー、嫌われたもんだな私も。なあ空(うつほ)、このねーちゃんひでぇよなー?」
 肩の鴉に同意を求めると、鴉はしばらく黙った後にカーと鳴いた。
 そんな言葉に、アリスは訳もなく苛立ちを感じる。
 それはなんともない、こちらを親しい者と思っているからこその、ただの軽口。
 なのに、なんでこんなに腹立たしくて、胸に刺さるんだろう──。
「それで、なんの用だい?」
「……え?」
「だから、なんの用だよ。お前、私を探してたんだろ?」
「あ、ああ……それは、その……」
「どの?」
 なにをどう言うかは、ずっと考えてきた。それこそすらすらと五分ばかり暗誦し続けられる程度には。
 だがこの土壇場になって、その全てが崩れ落ちてしまっていた。
 『なにを言うか』は分かり切っている。だが、『どう言うか』が真っ白になってしまった。
「あの……」
「この?」
404作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 15:11:37 ID:rX9q6T0i0
「つ、つまり……返しなさいよ!」
 思い余った末に出てきた言葉は、その一言だった。
 しかもでーんと手のひらを突き出して、自分でも分かるくらいに眉間に力が入った眼差しで。
「返すって……いやいやちょっと待て」
「な、なによ。心当たりがないっての?」
「いや逆だ。心当たりがありすぎる。なにせお前の家から勝手に借りたいろいろなものが、
今や『アリス畑』として私のベッドの一区画を占領してるからな。どれを返せばいい?」
 立ちくらみがした。
「あ、貴女……人の家のものをどれだけ盗んでいったのよ?」
「盗んだなんて人聞きの悪い。死ぬまで借りておくだけだぜ」
「それを『盗む』って言うのよ」
「へえ、都会ではそうなってるのか」
「田舎でもそうなってるの!」
「ふーん、ま、それはいいや。で、どれを返して欲しいんだい?
私だって閻魔じゃなけりゃ吸血鬼でもなけりゃ月の姫でもない。どうしても入用の品があるなら、気持ちよく進呈しようじゃないか」
「そ、それは……」
「どれ?」
「あの……」
「この?」
「白いもの……じゃなくて黒いものよ!」
「んん?」
 魔理沙の怪訝そうな顔に、アリスは我に返って自分の発言の支離滅裂を悟る。
「ああ、そうじゃなくて──」
「待ってくれ。ヒントはそれで充分だ。私はこういう謎かけが大好きなんだ。
黒くて白いもの? いや、白くて黒くて? いやいや、黒いけど白い?」
「あのね、魔理沙──」
「黒かろう白かろう……違うな。驚きの白さ……いや、これだと黒の立つ瀬がない……」
 うむむ、と顎に手を当てるポーズで本格的に思索に入った魔理沙には、もはやアリスの続く言葉など耳に入っていなかった。
405作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 15:14:12 ID:rX9q6T0i0
(なんなのよ、もう……)
 やるせない気持ちで息を吐くと、肩の鴉と目が合った。
 鴉はじっとアリスを眺めていたが、やがて飽きたのかふいっと首を別の方向に向ける。
「まさか伝説のパンダマン? いやいや、私はそんなもの盗んでないぞ……いったい、私はなにを盗んだんだ?」
 なおもぶつぶつうなる魔理沙の懐で、なにか耳慣れぬ甲高い音がピーガーピーガー鳴り出した。
「うわっ!?」
 そのあまりの刺々しい響きに、アリスは思わず耳を塞ぐ。
 一方の魔理沙はその音を耳にするや、喜び勇んで胸元から四角い箱を取り出して頭の側面に密着させる。
「アローアロー、こちら霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)、本日は雨のち快晴、降水確率は100%でした!
──おお、にとり! どうした? うん、うん……なに、チルノもそっちにいるのか?」
 魔理沙が発した名前には、アリスも聞き覚えがあった。
 妖怪の山を根城にする河童の少女、河城にとり(かわしろ にとり)に、自称最強の氷精、チルノ。
 どちらも魔理沙がよくつるんでいる相手……つまり魔理沙とどっこいどっこいの馬鹿だとアリスは認識している。
「──なんだって!?」
 いきなり魔理沙が叫んだ。上下方向にけっこうな距離のあるアリスでさえビクっとなったのだから、
それを至近距離でくらった鴉の驚きたるや只事ではない。
 クケェー、と裏返った悲鳴を上げながら飛びあがり、ばさばさと周囲を盲目的に飛び回って木々に激突し、
ついにはアリスの足元にぽとんと落ちてきゅうと目を回した。
「見つけたんだな!? よし、今すぐ行くから首を洗って待ってろ! ──なに、首がなければキュウリでも洗ってろ!」
 おそらく通信機であろう箱を懐に仕舞うのももどかしく、魔理沙は枝から飛び降りた。
「え?」
 こんな高さで、とアリスが肝を冷やしたのも束の間、猫のような身のこなしで綺麗に着地した魔理沙は、
幹に立てかけてあった箒をとってそこにまたがる。
「悪いなアリス、私がなにを盗んでいったのかは宿題ってことで!」
「あ、ちょっと待ってよ魔理沙! そうじゃなくて、一ヶ月前の──」
「一ヶ月前? なんだ、ずいぶん根に持つじゃないか! まあいいさ、ヒントが増えたから次は当ててみせるぜ!」
 なにをそんなに急いでいるのか、中途半端に突っ込んだ通信機がぽろり落下するのも、
鴉がまだ目を覚ましていないのも、全部ほっぽり出して魔理沙は宙に浮かび、一直線に夕焼け空へ向けて飛び立っていった。
406作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 15:16:29 ID:rX9q6T0i0
 それをぽつんと見送る少女の、忌々しそうで、そしてどこか寂しげな後姿だけが残される。
「まったく……寝る間を惜しんで悪戯に励む悪童みたい……」
 実際そうなんだろうけどさ、と口の中で呟き、幹にもたれかかってずるずると座り込む。
「はあ……私のバカ……」
 つんつん、と地面に倒れたままの鴉をつついてみる。
 鴉はガバっと撥ね起き、慌ててあたりを見回す。
「あんたの飼い主さん、もうどっか行っちゃたわよ」
 すると鴉はカァ、と短く鳴き、小さく跳ねた。
「黒くて白いもの、か……謎々じゃないっつーの……」
 いつの間にか、膝を抱えている自分に気づき、そのことにちょっとびっくりする。
 今の話の流れのどこに、膝を抱えてしまうような……そんな気分になるような、悲しいことがあったのだろう?
「やっぱりあの馬鹿、ホワイトデーのことは知らないんだ……」
 きっと、そういうことなんだろう。
「別に、期待してたわけじゃないけどさ──」
 魔理沙は馬鹿には違いないが、決して無神経ではない。
 知っていれば、おそらく思い至ったはずだ。
 或いは──或いは、知っていてもそれに乗る気がさらさら無いか。
 どちらにせよ、これで行き止まり、だ。
 もっと上手く誘導すれば、もっと上手い結果を生み出せかもしれない。
 だけど……、
「なんでこんなに不器用なんだろ、私」
 腕の中に半分うずめた口からは、そんな弱々しい言葉しかこぼれてこなかった。
 ばさばさと飛び上がった鴉はアリスの肩に止まり、夕焼けに染まった頬を優しく突く。
「慰めてくれているの? ありがとう。……さあ、もうお行き。暗くなったら、あんたの飼い主、見つけられなくなるなるわよ。あの黒さじゃあね」
 ──そう、間もなく日が暮れる。
 夜がやってくる。
407作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 16:00:36 ID:rX9q6T0i0

ちなみに紅魔組、永夜組を出さないのは、話がややこしくなるからです
理由
・フラマリあるいはパチュマリ派なので出したら話がさらに広がって収集つかなくなる
・永夜組もほぼ同様。俺の中では輝夜を起点にものっそい愛憎関係が展開されているので

そういうわけでまだ続く
東方なんかどうでもいい住民にはいい迷惑だろうが、飛ばしてくれ
408作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 19:11:09 ID:bEMp/oTQ0
東方は知りませんが、ほんわかした雰囲気が好きで読んでます。
ハロイさんは会話の描き方が飛び切り上手いから元ネタ知らなくても
楽しめますね。
ホワイトデーの核心?に迫りつつありますねw
原作探して読んでみようかな。
409作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:20:21 ID:rX9q6T0i0
「あら、私が一番最後だったのかしら、藍?」
 物憂げな表情で問う西行寺幽々子へ、藍は頭を下げてこれに答えた。
「左様でございます。幽々子刀自」
「そう……おっとり刀で駆けつけたのだけれど、ちょっと遅れてしまったようね」
 残念そうに口元を扇子で覆う幽々子へ、妖夢がそっと耳打ちする。
「あのう、『おっとり刀』とは、『刀を差す暇も惜しんで』という意味ですので、
この通り私が腰に刀を差していては不適当な表現だと思いますが」
「貴女は口を挟まないで、妖夢」
「失礼いたしました」
「意味なんかどうでもいいのよ。『おっとり』という語呂が気に入ったから言ってみただけですもの」
「……御見それしました。さすが幽々子さま」
 感服して涙ぐむ妖夢の背後で、なにかネコ耳っぽいのがぴょこぴょこする。
 それを目敏く見とがめた藍は、そちらへ声をかけた。
「ここへ来るのだ、橙(チェン)」
 総毛逆立てて怯んだネコ耳少女──橙は、おっかなびっくり藍の前に進み出る。
「はい、藍さま……」
「お前を真っ先に白玉楼へ使いに出したはずが、なぜ今頃の御到着になられたのだ?」
「も、申し訳ありません藍さま。あたし、スキマに引っかかっちゃって……」
「お前の伝達が遅れたせいで、幽々子刀自はいらぬ恥をかいた。それについてはどう考えている」
「はい……藍さまの仰る通り、あたしの責任ですぅ……ごめんなさい……」
 叱責に肩をすくめて涙をこぼす橙にいたたまれなくなった妖夢が、なんとか仲裁しようと割って入った。
「あの、藍さん……責任というならこの私が悪いんです。私が橙を剣で驚かせてしまったもので……」
「貴女は黙っていただこう、魂魄妖夢! 幽々子刀自の従者と言えど、余計な口出しは無用! これは私と橙の問題だ!」
 一喝して妖夢を黙らせるや、再び橙に向き直る。
 喝破された妖夢は涙目になって幽々子へ振り返り、幽々子はしょうがないなあよしよし、といった手つきで妖夢の頭を撫でる。
「橙、お前は私が生み出した式だ。お前が事に後れをとれば、それすなわち私の力量が疑われるのだ」
「……ひっ、ひぐっ……うぇ……ごめんなさいぃぃ……」
 ついにべそをかき始めたことで、今度こそ霊夢が止めに入る。
410作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:22:17 ID:rX9q6T0i0
「はいはいはいはい。もういいでしょ? あんま厳しくしつけたって、子は思い通りには育たないもんよ。
手塩にかければ万事解決ってんなら、この世の子供が非行に走るわけないでしょ」
「むう……お前がそこまで言うなら。橙、これからも私の式としての誇りと責を忘れないように」
「……はい!」
 雨に濡れた後の向日葵が綺麗なように、涙の跡の残る橙の笑顔の破壊力たるや、並の火力では追い付かない代物だった。
 ここにロリコンがいたら八割方死んでるに違いない。
「さ、橙。燐があっちにいるから遊んでらっしゃい」
「え、燐ちゃんがいるんですか、霊夢しゃま!」
 化猫を依代にしているだけあって、橙の猫好きはかなり熱が入っている。
 つい今まで怒られていたこともすっかり忘れ、嬌声をあげて燐を抱きあげ、思いっきり頬ずりした。
「心配しなさんな。あんたの式なんだから、いずれ一廉の妖怪になるわよ」
 まだ橙から視線を外さない藍へ、霊夢のダメ押しフォロー。
「なんて可愛らしいんだ……」
「え? なんか言った、藍?」
「なんでもない」
 異様な瞬発力で振り向いた。
 急に人口密度が増した、もっとも非想天(有頂天)に近い妖怪の山の頂を見渡して、幽々子がほぅっと感嘆の息をつく。
「それにしても……なかなか壮観な図ね。藍、よくもここまで掻き集めたものじゃない」
「恐れ入ります」
「鬼、天人、神……レアモンスター勢揃いね。このメンツでいったいなにして遊ぼうっての?」
「それは紫さまが御到着してからだ、霊夢」
「いつ来るのよ。いい加減もう帰りたいんだけど」
「もう間も無くだ」
 ここで、集められた人物について箇条書きで紹介しておく。
411作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:23:31 ID:rX9q6T0i0

「楽園の素敵な巫女」──博麗霊夢(はくれい れいむ)・人間──『空を飛ぶ程度の能力』

「祀られる風の人間」──東風谷早苗(こちや さなえ)・人間──『奇跡を起こす程度の能力』

「半分幻の庭師」──魂魄妖夢(こんぱく ようむ)・人間と幽霊のハーフ──『剣術を扱う程度の能力』

「華胥の亡霊」──西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)・亡霊──『主に死を操る程度の能力』

「伝統の幻想ブン屋」──射命丸文(しゃめいまる あや)・烏天狗──『風を操る程度の能力』

「小さな百鬼夜行」──伊吹萃香(いぶき すいか)・鬼──『密度を操る程度の能力』

「美しき緋の衣」──永江衣玖(ながえ いく)・妖怪──『空気を読む程度の能力』

「非想非非想天の娘」──比那名居天子(ひななゐ てんし)・天人くずれ──『大地を操る程度の能力』

「山坂と湖の権化」──八坂神奈子(やさか かなこ)・神様──『乾を創造する程度の能力』

「土着神の頂点」──洩矢諏訪子(もりや すわこ)・神様──『坤を創造する程度の能力』

「策士の九尾」──八雲藍(やくも らん)・妖獣──『式神を使う程度の能力』


番外
「凶兆の黒猫」──橙(ちぇん)・妖獣──『妖術を扱う程度の能力』

「地獄の輪禍」──火焔猫燐(かえんびょう りん)・火車──『死体を持ち去る程度の能力』
412作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:26:02 ID:rX9q6T0i0

「これで、揃ったな」
 満足げに、だが決して冷静さを失わない藍の頷き。
「だったらさっさとあんたのご主人さまを召喚しなさいよ」
「なにを言っている、霊夢」
「……なによ?」
「我が主上はすでにお出でになられている。
いや──この言い方は正確ではないな。我が主上は最初からここに居られた──これも正確ではないな」
 くぱぁ、と、なにかが開く音がした。
「────っ!」
 人も神も妖怪も、その別なく一様に、その顔色が驚愕に染まる。
 目の前の、背後の、真上の、足元の、ありとあらゆる空間に、スキマ風が吹いていた。
 罅割れたような線が無数に浮かび──この世界を歪めて線が開く。
「我が主上にとって、この幻想郷は小さな掌のようなもの……。
時間も、距離も、方位も、指標も、そのすべてを掌中に収めておられる。
どこにでもいるが、どこにもいない……虚と実の狭間にこそ、我が主上は存在して居られる」
 開いた線の隙間から、どうっと瘴気が溢れ出す。
 開いた線の隙間から、無数の「目」がこちらを視ていた。
 開いた線の隙間から、虚無の歌声が近くで遠くで木霊していた。
「為に、我が主上はときにこう綽名される──」
413作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:27:21 ID:rX9q6T0i0
「『境界の妖怪』」
 半人部分である肉体はおろか、半霊部分である背後の霊魂までもが凍てつくような冷気に震えを隠せず、魂魄妖夢が呟く。
「その通り(イグザクトリィ)」
 その異名を、藍が肯定した。
 真黒に染まった風に咳きこみ、口元をマフラーで押さえながら射命丸文が呻く。
「『気味の悪い微笑み』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
 酔いの醒めた伊吹萃香が、珍しいものでも見たかのように声を弾ませる。
「……『幻想の境界』!」
「その通り(イグザクトリィ)」
 どことなく上気した表情で、うっとりと擦れた声で囁く比那名居天子。
「『幻想の狐の嫁入り』……」
「その通り(イグザクトリィ)」
 天界から流れる浄気と、隙間から這い出る瘴気がないまぜになった異界のような風廻りでも、
顔色ひとつ変えずに可憐にたたずむ西行寺幽々子の優しげで不吉な呼び声。
「『割と困ったちゃん』」
「その通り(イグザクトリィ)」
414作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:30:45 ID:rX9q6T0i0

 ──この幻想郷が幻想郷として成立した当初から、陰ながらその移り変わりをずううぅっと眺めていた少女がいる。
 その少女は『境界を操る程度の能力』という能力を持つ妖怪だった。
 万物に存在する物理的境界、万霊に存在する概念的境界、個と世界を隔てる絶対的境界、
そのすべてを操ることのできる、この世の全てを操り得る強力な妖だった。
 彼女はその類稀なる能力を使い、「幻と実体の境界」という結界を形成することで、『外の世界』と幻想郷を隔離した。
 この隔離計画により、幻想郷は幻想の中の郷となった。
 蝶の夢か、夢の蝶か──決して交わらない、二つの世界。
 ここに辿りつく者、流れつく物、それらは皆『外の世界』では消えて無くなったモノとなる。
 そう、まるで、神に隠されたように跡形もなくなり、彼の世界には幻想だけが残される。
 ……そして、この隔離計画にもう一役買っている、別の結界がある。
 その結界の名は「博麗大結界」──。

「『神隠しの主犯』──!」
 おぞましさ、胡散臭さ、薄気味悪さ、そしてほんの少しの憧れと想いをこめて、博麗霊夢はその二つ名を口にした。
「……その通り(イグザクトリィ)」
 その異名を、藍が肯定した。
「我が主上であらせられる八雲紫(やくも ゆかり)さまのお出でだ、畏みて迎えよ」
 絹を裂くような音を立て、ひときわ大きな裂け目が開かれる。
 その内側からひっそりと顕れたのは、やや長身の、そしてほっそりした少女だった。
 フリル装飾の帽子を被り、「伏羲六十四卦方位図」の「沢地萃」を象った装束、丹念にレースの施された傘を携えている。
 少女は地を踏むや、ぐるりと首をめぐらせる。だが瞳の焦点はどこにも結んでおらず、茫洋とした視線だけが一同の上を走った。
 その虚ろな目が、霊夢の上でぴたりと止まる。
 くるん、と傘を振り回し、ぱし、と小さな手で受ける。
「久しいわね──霊夢」
 誰に聞かせるでもないような小さな小さな声──それでも、まるで耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえた。
415作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:33:17 ID:rX9q6T0i0
「……そうね、出来ればずっと久しいままでいたかったわ」
 霊夢はついうっかり、そう答えた錯覚に陥った。
 だが、言っていない。言っていない。言おうとしただけ。
 なのに……、
「あらあら、それでは、私に二度とこの挨拶を言うなというのかしら?」
 にたぁ、と口の裂ける嗤い。
「この言葉を贈りたくなるのは、貴女だけ……ああ、実に久しいわ、霊夢」



再び中断。
やっとゆかりん登場書けた。
今更だけど、マリアリとゆかれいむ書くだけなら途中の二十レスくらいまるまるいらないことに気がついた。
なんでこんなことになったんだろうな。勢いって怖ろしい。
416作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 20:46:41 ID:ufiUerXe0
>>408
ttp://www.youtube.com/watch?v=tacwwSkM9bM&feature=related
元々はシューティングゲームだよ。
ウィキにも詳しく載ってるからそっちも見たらいい

ハロイさんさすがにうめーな
好きな東方のSS楽しめてWBCの悔しさが少し癒された…
417作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 21:04:28 ID:rX9q6T0i0
追記
えー、このあとは、ダラダラせずにアリス視点の魔理沙絡み、
霊夢視点の紫絡みの交互でゴールまで一直線で行きたいと思います。

あと、途中のキャラ名・能力の羅列は東方知らない人へのアピールの意味も含めてます。
こういう厨っぽい設定やら単語やらが好きな人、少なからずいると思うので。俺もそうだし。

ついでにアリス視点の登場人物のキャラ紹介しときます
こっちはSS中で紹介する機会なさそうなので


「普通の魔法使い」──霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)・人間──『魔法を使う程度の能力』

「七色の人形遣い」──アリス・マーガトロイド・魔法使い──『人形を操る程度の能力』

チョイ役(の予定)
「熱かい悩む神の火」──霊烏路空(れいうじ うつほ)・地獄鴉with八咫烏──『核融合を操る程度の能力』
「超妖怪弾頭」──河城にとり(かわしろ にとり)・河童──『水を操る程度の能力』
「H」──チルノ・妖精──『冷気を操る程度の能力』
418作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 21:19:34 ID:OTu6PWK60
追記の追記
タイトル思いついた
次からは「星盗人」でいきます
419作者の都合により名無しです:2009/03/18(水) 23:59:10 ID:gJhF+Yxq0
ハロイさん鬼更新乙です。
なんかSSや解説見るとすさまじくキャラが立ちまくってる原作みたいですね。
元がシューティングゲームとはびっくり。ギャルゲ(エロゲ)ならわかるけどw
(でも気になって画像調べてみたらなんだあの弾数wあんなのクリア出切るのか?)
おっとりのくだりとイグザクトリィのくだりはなんとなく微笑んじゃうなあw
確かに厨っぽい設定ですが、意外とつわもの揃いだなあ。。
420作者の都合により名無しです:2009/03/19(木) 00:17:31 ID:EijVcG8x0
あと2作くらい着たら次スレだな
ハロイさんも復活したし
次スレは盛りそうだ
421作者の都合により名無しです:2009/03/19(木) 06:46:45 ID:En0OV8m70
幽々子と妖夢のやりとりが可愛いな。
足りないもの同士って感じで。
>>411みたいな解説は非常にありがたいです。
ホワイトデーSSにどう着地するのか楽しみ。
この勢いで一気にラストまで行きそうですね。
422作者の都合により名無しです:2009/03/19(木) 20:58:56 ID:1vce5KIA0
東方好きでハロイさんのSS好きの俺としてはうれしいな
423作者の都合により名無しです:2009/03/20(金) 02:25:04 ID:Dn/GHJp10
登場人物が女ばっかりだから萌えるな
424星盗人:2009/03/20(金) 15:46:38 ID:YL4gg44B0
 そこはもはや、スキマ妖怪こと八雲紫の支配する領域だった。
 右に式の藍、左にそのまた式である橙を従え、紫は自らの開いたスキマに腰掛けた。
「さて、有象無象の皆さま方……今宵もいい晩になりそうですわ」
 いきなりアクセル全開の挨拶に、まず守矢の二柱が噛みつく。
「ちょっとぉ! 神様をつかまえて有象無象ってどーゆーことよぉ!」
「そうだそうだ! 古参カエレ!」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてくださいよお二方とも!」
 早苗の制止など聞く耳持っちゃいない神々の野次に、紫は莞爾と微笑んだ。
 その笑顔には恫喝や嫌味など少しも込められていない、心からの笑顔に見えて、
逆に気勢を削がれた二柱はもごもごと野次を引っ込めてしまう。
「それは見解の違いというもの……この幻想郷に於いては、あらゆるいっさいが幻想なのです。
故に、あらゆるいっさいは平等に──下らない、子供騙しの──紙切れ一片ほどの価値も持たない有象無象である。
貴女も、私も……つまりそういうことです」
 そこでふと言葉を切り、地平線が微かに紅く染まる程度の夕闇空を眺め上げる。
「そう言えば……ついさっき星屑を見たわ。流星の洪水。砂糖菓子のようなキラキラ星」
 「え、そんなのあったっけ?」と紫に倣って空を見た者が三割ほど、
 「なにが『そう言えば』なんだ?」と顔をしかめる者が二割ほど、
 残りの五割は特に反応せず、言葉の続きを待っていた。
「そう、キラキラ星……」

 ──それから日が沈みきり、辺りが闇に包まれる程度の時間の経過のあと。

「……ってオイ! そんだけかよ!」
 酒が抜けたことで属性がボケからツッコミに傾いた萃香が、スパーンと裏拳の平手を振った。
「終わりならそう言えよ! じっと沈黙十五分とか、こんな気まずいノリツッコミ初めてだわ!」
「はい? なにかしら、萃香」
「お星さまキラキラがなんだっちゅーの!」
「綺麗ね。蝶々みたい」
「それがなにさ!」
 噛み合わない会話に悶える萃香と、あっけらかんを通り越して乾ききった態度の紫の、
その両者間を往復する世にも恐ろしい言葉のドッジボールをなんとはなしに眺めながら、霊夢は心の中で肩をすくめる。
(紫の会話のテンポがおかしいのは相変わらずだけど、『ついさっき流星を見た』ってのはなんなのかしら……?)
425星盗人:2009/03/20(金) 15:53:04 ID:YL4gg44B0
「ああ、ごめんなさいな霊夢。すっかり失念していたわ。貴女の尺度で考えないといけないわね」
 急にこちらを振り向き、ずばりとそんなことを言う。
(──人の心を読んで先回りする悪癖も相変わらずね)
 こういうやつだと分かっていたが、前振りもなくやられると気持ちが悪い。
心の奥底まで見透かされているのだと、実感させられるから。
「ごめんなさいな。……あらあら、これもいけないのね。いいわ、待ちましょう。ではどうぞ」
「どうぞって……もう読んだんでしょう? なにを今さら」
「そういうことではないと思うのよ、霊夢。他者の心の中身まで犯したいなどと、私は微塵も思っていないのだから。
ついうっかり目先の利便に走ってしまうけれど、動く口があるのならそれを聞きましょう。……貴女の声も聴きたいし、ね」
「……それでも私の心を読んでるんでしょ?」
「そうだと言えばいいのかしら? ごめんなさいな、私、どう答えれば貴女が喜ぶのか、良く分からなくって」
 その言い方、その声音、その眼差し、すべてが人間とは遠くかけ離れた、異質なもの。
「さ、言って頂戴、霊夢。貴女が言いたいことを、私に聴かせて?」
(なんでそういうことを言うのよ……)
 胸の内に沸き起こる疑心と不快感が拭えない。
 境界を操るスキマ妖怪──その力は精神や夢などの概念的なものにも及ぶ。
 自分がなにを言いたいかなんて、最初から分かっているくせに。
 そう、分からない……こちらだけが、一方的に分からない。
 しかし、それはどうしようもないことだ。霊夢はそう腹を括り(それがどういう類の腹かは自分でも分からなかったが)、先ほどの思いを口にした。
「──ついさっきどころか、今日は流星なんてなかったわ。よしんばあったとしても、見えるわけがない。
なぜなら、それこそついさっき夜になったばかりだから」
「ああ、ごめんなさいな霊夢。すっかり失念していたわ。貴女の尺度で考えないといけないわね」
「……それはさっき聞いたわよ」
「そうね。ごめんなさいな」
 なんの悪びれもなく、しゃあしゃあと言ってのけた。
 ──そう、こいつはこういうやつなのだ。
「ついさっき、というのは失言だったわ。あれは、そう……いつだったかしら、藍?」
「秒数に換算して──」
「いけないわ、藍。もっと曖昧な指標を使いなさい」
「およそ一ヶ月前です」
「そう、ちょうどそのくらいが心地良いわね。私は星屑を視た。あれはなんだったのかしら」
426星盗人:2009/03/20(金) 15:57:13 ID:YL4gg44B0
 幻想郷一の情報通を自認する文が、それに答える。
「あれは魔法の森に住む人間、霧雨魔理沙による大規模魔法の痕跡です」
「その目的は?」
「あやややや、それはちょっと調査不足でございますが、どうやらヴァン・アレン帯と関係のある模様で」
 傍らで聞いていた天子が、ちょいちょいと衣玖の袖を引く。
「ねえ、ヴァレンタインって、なに?」
 完璧なまでに鉄面皮の無表情少女からの回答。
「貴女さまは実に質問するしか能のないつるぺたジャム野郎にあらせられますね天子さま。
しかもヴァン・アレン帯をどう聞き間違えたらヴァレンタインになるのですかお耳くそをおほじりあそばせますよう衣玖はご忠告いたします」
「ひどっ」
「なあ衣玖、ばれんたいんってなんだ?」
「ヴァレンタインではなくヴァン・アレン帯だと衣玖は思います萃香さま。
ちなみにヴァン・アレン帯とは大地の力に封印された光の帯であると衣玖は存じ上げております」
「ひどぉっ」
 そんな天子の小さな悲鳴など、空気の読める妖怪である衣玖が取り合うはずもない。
「さあ紫さまその先を拝聴したいと衣玖は思います」
 だがしかし、八雲紫は空気を読まない。
 境界を操ることで世界を改変できる彼女に、そうした普遍的な迎合志向などあるはずがない。
 ために、衣玖はその先を拝聴することは叶わなかった。
「『奇跡の条件』とは、なんだと思う?」
 今までの話の筋をあっさり無視して、いきなりそんな質問を投げかけてきた。
「あの、それは……生命の神秘とかそういうもののことでしょうか、紫さま」
 妖夢の答えに、紫は心底悲しそうに首を振った。
「嘘は良くないわ。貴女がそんな嘘を吐く子に育ったなんて知ったら、貴女のお爺さまである妖忌(ようき)どのはさぞ悲しむでしょう」
「いえ、別にを嘘を吐いているわけでは」
「本当にそうなのかしら?」
 今見せたばかりの悲しさなどもはや一欠片も残っていない空っぽの瞳で、静かに妖夢を見つめる。
「え、いや、あのその……」
 疚しいことはなにもないはずが、その空虚な視線に当てられたことで不安の膨れ上がった妖夢が、そわそわと幽々子へ助けを求める。
 幽々子は大仰に肩をすくめ、こんなふうなことを語って聞かせた。
427星盗人:2009/03/20(金) 16:02:23 ID:YL4gg44B0
「妖夢、紫はね、『生命は奇跡だ』とかいうミーハーな態度を責めているのよ。
生命のあるものなら誰もが本当は知っている──生命などこの世に腐るほど満ち溢れたもので、
奇跡でもなんでもない、せいぜいが『ようなもの』に過ぎないと。
生命賛歌などという戯言は、人間が種の保存のために編み出した欺瞞なのよ。
いやしくも白玉楼に仕え、幽霊の管理に携わる者が、そういう薄っぺらいまやかしに汚染されるのは好ましくない、とね」
 背筋をしゃんと伸ばして得々とした幽々子の講釈に聞き惚れ、主の垣間見せる知的な面に妖夢はほうっと溜息をつく。うっとり。
「──そうでしょ、ゆかりん?」
「違うわ、ゆうゆう」
 だが紫はあっさりそれを斬って捨てた。
「あら?」
 こけっ、と首を傾げる幽々子に、妖夢の涙声。
「ちょっと、幽々子さま……感心してた私の心の持っていき場はどうなるんですか……」
「あら、あれれ?」
「私が嘘だというのはね……西行寺幽々子という真の奇跡の傍にありながら、別の事柄を挙げてみせたことよ。
貴女の主人が『そう』でないというなれば、いったいあの世の真実はどこにあるの?」
「はい! なんか良く分かんないけど敬服しそうなお言葉です、紫さま! 幽々子さまったら奇跡ののんびり屋ですよね!」
 そんな妖夢の返答に、幽々子が半眼でぼそり。
「……貴女もあれね、相当に無責任な子よね」
 しばらく躊躇ってから、早苗がおずおずと手を挙げる。
「話の腰を折って恐縮ですけど、『奇跡の条件』について──」
「素敵な答えだわ。さすがは……ああ、まだなにも言っていないのね。
こんなことだから霊夢に怒られるのでしょうね、私。ごめんなさいな、霊夢」
「私に謝ったってしょうがないでしょ」
「どうして? 他の誰に謝ればいいのかしら」
「……いいからもう。早苗、なにを言おうとしたのよ」
「はい、お姉さま」
 にっこり笑うと、早苗は指を一つずつ折りながら三つの事柄を挙げた。
「ひとつ、外的要因によること。ふたつ、類型のないこと、みっつ、反復不可能であること」
 そう言い終わるのを待って、紫は口を開いた。
「素敵な答だわ。さすがは守矢の奇跡の体現者ね」
428星盗人:2009/03/20(金) 16:07:41 ID:YL4gg44B0
「はい、畏れ入ります、八雲さま」
 ぺこりとお辞儀するその陰で、霊夢へVサインでアピールする早苗。
 しかしそれに応ずる気にはなんとなくなれず、見なかったことに。
「神奈子ちゃん、早苗が褒められてるよぉ」
「そうだね諏訪子。賢い巫女を持って私たちも鼻が高いな。今夜はハンバーグだ」
 お前らは授業参観で子供の晴れ舞台に舞い上がった親か。
「そんで、私らを呼び集めた理由はなによ、紫」
 なかなか進展しない話にいい加減で業を煮やした霊夢がそう切り込むと、
「──ええっ!?」
 紫はのけぞるくらいに驚いて霊夢を凝視した。
「なによ、そのリアクション」
「だって、だって……ええ、ちょっと待ってもらえるかしら、霊夢。今考えをまとめているから」
 困ったように額に手を当て、ぽつり呟く。
「……どうして伝わらないのかしら?」
 なんだそりゃ、と霊夢のほうこそ頭痛がしてくる。
(ホント、こいつは言うこと為すこと支離滅裂だわ……)
 こういうときに、自分と彼女とに存在する、巨大な壁の存在を実感する。
 「妖怪」と「人間」という種族の壁などではない。
 同じ妖怪でも文や萃香とは普通に会話が成立しており、こんなコミュニケーションが破綻した関係を強要されるのは紫との間だけである。
 スキマ妖怪なんてものを千年以上もやっていると、こういう訳の分からん生き物になってしまうのだろうか。多分そうなのだろう。
 向こうからこちらに歩み寄る気がないのなら、それはそれでいい。
 ならば、なぜ自分の視界に入ってくるのか、そして事あるごとに干渉してくるのか、霊夢にはそれがさっぱり理解できなかった。
(鳥と魚はきちんと棲み分けてんのに、どうしてあんたはスキマの中から這い出てくんのかしらね──)
 しかし、ここでそれを言っても始まらない。
 こいつはそういうやつ実に傍迷惑なやつであり、そしてタチの悪いことに、その傍迷惑を極限まで押し通すことのできる強大な能力を持っているのだ。
「……分かったわよ」
「あら、分かってくれたのね!?」
 顔をぱぁっと輝かせる紫へ、霊夢は慌てて手を振る。
「あ、いや、分かったってのはそういう意味じゃないから。つまり、あれよ、なにをさせたいのかはともかく、あんたはなにがしたいのか、それを教えてよ」
429星盗人:2009/03/20(金) 16:15:13 ID:YL4gg44B0
 そう言うと、
「あ──」
 紫はぴたと硬直した。しかも、マイコンがシステムエラーでフリーズするときのように、微妙に動いては止まり、を断続的に繰り返している。
 つくづく常識離れしたやつだと霊夢が呆れるのへ、
「あ、ああ──ああ、そういうこと」
 再起動した。
「ああ、うん、そういうことね……非常に良く理解したわ。そうね、まず私の希望を明らかにしなかったから、なにも伝わらなかったのね」
 実際問題としてはそういうことでは全然ないのだが、そこは言わないでおく。
 とりあえずなんでもいいから状況を前進させたかった。
「つまるところ、私は仕返しがしたいのよ」
「……誰に?」
「それはもちろん、あの星屑を降らせた人物……おそらくは、あの流星なんかよりも『大変なもの』を盗んでいった少女……霧雨魔理沙によ。
こういう場合は意趣返しと言ったほうがいいのかしら?」
 霊夢は頭の中で整理する。
 紫の意図が読めないのなら、現出した事柄だけでそれを再構築しなければならない。
 今までの会話に出てきた要素を一直線上に並べ、無理やり繋げる。
 だが……それらが一つの絵として浮かび上がるには、まだ足りない。
(なにか、あともう一つ……)
「──あ、そういうことですね!」
 ぽんと手を打って底抜けに明るい声を出したのは早苗だった。
「ほら、洩矢さま、八坂さま、『アレ』ですよ『アレ』」
「んん? なんのことだい早苗──って、ああ、『アレ』か!」
「そっかー、なるほどねぇ! なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろぉ!」
 お互いに顔を見合せてきゃっきゃっと騒ぐ守矢の神たち。
 なにが分かったのかと、霊夢が胸倉つかんで問い詰めようとしたそのとき、
「──え」
 霊夢の脳裏にも閃いた。『外の世界』の元住人が真っ先に気付いたという事実が、最後のピースになった。
「まさか、『アレ』なの?」
「そうですよお姉さま! きっとそうです!」
430星盗人:2009/03/20(金) 16:19:02 ID:YL4gg44B0
「なになに? どったの?」
「隠してないで教えて下さいよ風の神さま!」
 まだ分からない畑の連中に向って、早苗が種明かしをする。
「お返しですよ! 外の世界にはそういう風習があるんです!
紫さまは魔理沙さんの起こした魔法を、私たちの能力を総動員して再現なさろうとしているんです!」
 やっと事の全体像が見えたことで、その場の空気がわっと盛り上がった。
「うそー! なにそれ面白そう!」
「なるほど、それは凄い! これはいい特ダネになりますよ! 存分に協力しますので、ぜひ密着取材の許可を!」
「でも、そんなことが可能なのでしょうか、幽々子さま。魔法などというよく分からない技術を再現するなんて」
「それこそやってみないと良く分からないんじゃない? ……でもまあ、その場合には私や貴女の能力は必要ないけどね、妖夢」
「じゃあ、なんのために呼ばれたのですか?」
「あら、私は夕食にお呼ばれするつもりできたのよ? 参加したいなら口出しだけでもしてみたら?」
 もともとこういうお祭りじみた騒ぎが大好きな連中ばかりなので、そうと決まれば話はとんとん拍子に進んでゆく。
 そうした賑々しい空気の中で、霊夢一人だけ、どこか釈然としない面持ちをしていた。
 ちらりと紫を盗み見る。
 幻想郷の永遠の観察者たる少女は、ひたすらに呆けたような、あるいは思索を張り巡しているような、
どちらとも取れない不気味な表情で一同の相談を眺めている。
 そのことが、霊夢にはどうにも不気味で、薄気味悪く、そして腹立たしかった。
(あんた、いったいなにを考えているの……?)
 自分と紫との間に隔たる、たかだか三歩の距離が、どれだけ手を伸ばしても届かない遠いものに感じて仕方がない。
 それは、悪名高きスキマ妖怪がこんな乙女チックなイベントを発案したことへに対する違和感かも知れない。
 或いは、その意図をとうとう自力で解き明かすことのできなかった悔しさかも知れない。
(つーか、そのためだけにこんな魑魅魍魎のトップランカーたちを大集合させたっていうの?
傍迷惑で無駄遣いな『仕返し』もあったものね──ねえ紫)
 すると紫はこちらに視線を合わせ、微笑んだ。にたぁっと口の裂けるように。
 本当に、どこまでも気味の悪い行動しか取らない。
 しかし──仕方のないことだ。
 こいつはそういうやつなのだから。
 そのように結論付けると、霊夢は気を取り直して相談の輪の中へ入っていった。
431作者の都合により名無しです:2009/03/20(金) 16:32:29 ID:YL4gg44B0

駄目だ。一週間中は間に合わない。よし、三月中で。

うしとらのオマモリサマをはじめて見たとき、ものっそい薄気味の悪さを絵柄から感じつつも、
そこ同居する可愛らしさから目が離せず、相反する感覚の板挟みで心持が定まらなかった記憶がありまして、
そういう気持ちを思い出しながらゆかりん書いてます。そんだけ。

あー、あとあれですね。藤子F不二雄の短編「いけにえ」とか、
上遠野公平の「殺竜事件」とか、
最近ではディズニーの「ファイアボール」なんかの、そういう噛み合わなさも。マジそんだけ。
432作者の都合により名無しです:2009/03/20(金) 19:40:20 ID:RuQr/Vn70
乙ですー
どんどん長期化するのは大歓迎です。
全く会話がかみ合ってないのに会話が進行してますねw
ホワイトデーがこの人外の方々には大プロジェクトになりそうで怖い。


ところでヴァレンタインをヴァン・アレン帯と間違えてボケるのって
ずっと昔誰かの漫画で読んだような?
433作者の都合により名無しです:2009/03/20(金) 19:53:11 ID:9cvLpoqy0
バレンタイン=バンアレン帯はぬ〜べ〜
434作者の都合により名無しです:2009/03/21(土) 02:08:21 ID:fXtF6Bad0
次のスレではハロイさんの作品にもうひとつ加わるんだな
全部がハイレベルですげー
435作者の都合により名無しです:2009/03/21(土) 03:12:42 ID:te80T5uh0
結構、素敵な幕引きになりそうだね、この作品。
各キャラがそれぞれどんな容姿なのか気になるな。


あと一回くらい作品着たら次スレでいいのか?
ま、なんなら俺が次スレ立てるけど
星盗人はハロイ氏の作品群に入れればいいのかね?
436作者の都合により名無しです:2009/03/21(土) 11:46:48 ID:PVDZ18AI0
妖夢は俺の嫁
437星盗人:2009/03/22(日) 12:25:34 ID:H+awQuOa0
 そして、夜が来た。
 暗い森の中をひとりとぼとぼと歩く少女、アリスは、もう何度目になるか分からない溜息をついた。
「はあ……」
 さらに何度目になるか分からない挙動を繰り返す。
 懐にしまっておいた紙包みを取り出して、それをぼんやりと眺める。
「結局、渡せなかった……魔理沙がいけないのよ。ホワイトデーを知らないのじゃ、渡せるはずがないわ」
 それもまた、何度目になるか分からない言い訳。
 でも、そうじゃない──そんなんじゃない。
 知らないのなら、教えてやれば良かった。ただそれだけのこと。
 そんな簡単なことが出来なかったのは、同じように簡単な理由から。
 その理由とは──、
「やーれやれ、いったい全体、なににそんなにビビッてんだろうねえ、アリス・マーガトロイドくん?」
 闇の中から、やたらに明るい声が飛んできた。
「────!?」
 アリスは咄嗟に周囲を警戒するが、目に見えるような声の主の姿形はない。
「あたしにゃあ地霊殿の総領さまみたいな『心を読む程度の能力』や、八雲の紫御前みたいななんでも見透かす桁外れの脳味噌なんざぁ
これっぽちも持ち合わせちゃいねーが、それでも丸分かりだわさ──なんでお前さんが、想い人とすれ違ってしまうのか」
 なおも声は朗らかに、闇のあちらこちらから響き渡っている。
 どこかで聞き覚えのあるような声だったが、その声に妙に金属的なエフェクトが掛っていて正体を掴みづらい。
「誰? ルーミアなの?」
「思い込み(イデー・フィクス)だよアリスくん。そいつがお前さんを諦めムードにさせている。
どうせ上手くいくはずがない、また失敗するってな。そんな及び腰でいったいなにが出来るっていうんかね?」
「ルーミアじゃなくて井出さん?」
「違ぇよバカ。誰が井出さんだ。井出さんって誰だ」
「じゃ、じゃあ誰よ、姿を見せなさいっ」
「ふふん、見せろと言われて見せるバカがいるもんかね。声すれど姿そこにあらず──これぞ忍法『こだまかげろうの術』でござい」
 からから反響する笑い声が、次第に近づいてくる。
 そして、カーテンを開くように、あるいは雲の切れ目から光が差すように、ほんの瞬く間でアリスの目の前に一人の少女が登場した。
「なんちゃってー! 忍法じゃなくて光学迷彩(オプティカルカモフラージュ)でしたーっ!」
「あんたは……」
 頭にちょこんと乗せたハンチング帽に襟を立てたハイコート、そして背中には大きなザック、その出で立ちには可愛らしさも色気もない。
438星盗人:2009/03/22(日) 12:34:15 ID:H+awQuOa0
「河童の科学技術は幻想郷いちィィィッ! イエス! みんなが知ってる『超妖怪弾頭』河城にとりちゃんでーす!」
 気狂いじみたハイテンション、『見せろと言われて見せるバカ』──それが、河童の少女、にとりだった。
「……あんただったの、にとり」
「にとりなんですよー! ごめんねぇ、愛しの魔理沙ちゃんじゃなくて」
 にとりは「ごめん↓ねぇ↑」という人を舐めたアクセントでアリスの神経を逆撫でする。
「私、あなたに構ってるほど暇じゃないのだけど。それじゃね」
 まともに相手をするのも馬鹿馬鹿しく、ぞんざいに手を振ってその場から立ち去りかけようとして──、
「……ちょっと待ってよ。あなた、魔理沙と一緒じゃなかったの?」
 ぴたりと足を止める。
 確か、魔理沙はにとりからの連絡を受けてどことやらへすっ飛んでいったはずだが……?
「その通り。あたしはさっきまで魔理沙と一緒にいたさ。……ああ、心配すんな、チルノも一緒だったから」
「な、なにを心配しろっていうのよ」
「いんや、別にい。心配の種がないってんなら重畳さね」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「そりゃこっちのセリフでしょうよ、アリスくん」
 けたけた笑うにとりに、アニスはムカッときた。
 魔理沙に対する自分の態度が煮え切らないのは自覚している。
 そしてそれが、当の魔理沙には伝わらずとも他には周知のこととなっていることも、知っている。
 だが──なにが悲しくて、こんな河童ごときにからかわれなければならいのか。
「そんな意地悪を言いに、わざわざ来たの?」
「いんや、あたしは意地悪じゃないさ。にとりの『に』は人情の『に』、ってね。
だから、お前さんが魔法の森の辺りにいると魔理沙に聞いたので、内密の話をしにきたんだわ。置きビームの使い手同士ののよしみでね」
「…………?」
「魔理沙のやつ……最近、なんかヤバいことに首突っ込んでた形跡はないかい?」
「どういう……意味?」
「今日の昼、風の便りで良くない話を聞いたんだわさ。八雲の紫御前が、魔理沙に対してなにかを仕掛けようとしているらしい」
 深刻な面持ちで、にとりは告げた。
 だが、同じく深刻な面持ちでにとりの言葉を待ち受けていたアリスは──、
「……それが、なによ」
 はっきり言って拍子抜けだった。
「なにってお前さん、魔理沙が心配じゃないのかい? 薄情だな、だから友達いないんだよ」
「余計なお世話。というより、余計な心配よ。にとり、今日がなんの日か知らないの? というか今、さらっと何気に酷いこと言わなかった?」
439星盗人:2009/03/22(日) 12:39:16 ID:H+awQuOa0
「なにが余計な心配なんなのさ。今日は何の日? 別に酷いことは言ってないさ、事実だもんね」
「ええい、ややこしいから三ラインの話題を同時に走らせないでよ」
「三つも起点を作ったのはお前さんじゃねえか」
「絞りなさいよ」
「なにが余計な心配なんなのさ」
 おそらく紫が企図しているであろうこと──ホワイトデーのことをにとりに説明しようとして、はたと言葉に詰まる。
 どこから説明したものか。『外の世界』にそういう風習があることから?
それともざっくり端折って、一ヶ月前のあの日、魔理沙が魔符「スターダストレヴァリエ」を用いて幻想郷にチョコをばらまいたことから?
 そもそも、にとりは魔理沙からのチョコを受け取っているのだろうか。
 ちょっと面倒になったアリスは、さしあたっての結論だけを口にするに留めた。
「……えーと、まあとにかく、心配することじゃないわよ。紫はいい人よ?」
 だってバレンタインデーの件で、チョコの材料を調達してくれたしね、と心の中で付け加える。
 しかし、そんな答えではにとりは納得していないようだった。
「いい人? あの御前が? おいおい、頼むよアリスくん。お前さん、どうかしちまったのかい?
こともあろうに……あのスキマ妖怪がいい妖怪ってのはあり得ないわ。絶対にない」
「いやにはっきり言うのね」
「そりゃ、お前さん友達いないから、こういう微妙な問題はピンと来ないかもしれんけどさ」
「大きなお世話だってば」
「いやさ、例えばの話、あたしら河童ってさ、御前から睨まれてんのよ」
「どうして?」
「河童が科学技術を使うからだよ」
 それは初耳だった。
 「幻想郷は全てを受け入れる」と公言して憚らないあの八雲紫が、なぜ河童が科学を使うことを厭うのだろうか。
「なんでかちうと、『外の世界』から見て微妙にリアルだからだよ、河童の科学が。
光学迷彩(オプティカルカモフラージュ)だってそうさ。こいつは今の外の世界じゃまずお目にかかれない逸品だけどさ、
外の世界の科学ってやつは常に進歩してんだ。この程度の技術は、もはや遠い日の花火なんかじゃないのよさ。
──もしそれが『現実』となったら、あたしたちの科学は幻想郷のルールに抵触することになる。
『よそはよそ、うちはうち』っていう、唯一にして絶対の指針(ドクトリン)……、
幻想と現実のバランスが逆転することで、この幻想郷を包む二重の結界に歪みが生じること可能性を、御前は決して許しはしないのさ。
だから、あたしたちは外の世界に負けないように日々技術を発展させている。
『極度に発達した科学は魔法と見分けがつかない』って箴言に従い、河童の科学を『幻想』であり続けさせるためにね」
440星盗人:2009/03/22(日) 12:45:31 ID:H+awQuOa0
「そんな七面倒ことするくらいなら科学を捨てよう、とかは思わないの?」
「そうするくらいならいっそ幻想郷から出ていく方を選ぶね」
「……なんか、馬鹿みたいね」
「凡人凡妖怪風情には伝わるまいが、これこそが河童の美学さ」
 などと、にとりはやたらシニカルな仕草で片頬を歪めた。
「ってあたしのことは別にいいんだった。問題は魔理沙だわいな魔理沙。とにかく御前はヤバいんだよ、頭も性格も能力も。
万が一にあの御方が仕組もうとしているのが、御前なりの100%の善意の賜物でも、あたしだったら全力で事に備えておくね。
あのスキマ妖怪はそういう傍迷惑が服着て歩いてるような妖怪なんだよ。あの御方のサプライズってのはサドンデスと同義なんだ」
 にとりの話だけを聞くとなんか酷い言われようだが、確かにあの境界オバケにはそういう掴みどころのなさがあるのは、
アリスも素直に認めるかしかない。
「分かったわ。だったら、霊夢に探りを入れてみる。あの子なら紫の腹も探れるでしょう」
「そうじゃねーよ、バカ」
「だ、誰がバカよ!」
「もちろんお前さんだよ。もっと客観的に自分を見つめなせえ。お前さんそんなんだから友達いないんだわよ」
「三度目!」
「へん、だったら仏でも連れてこいっつーの。なんで『魔理沙が心配だ』って話してんのに霊夢のところに行くんだってば。
河童の忠告くらい真面目に受け取れって。そういうバカなこと言ってるバカだからバカって言ったんよ。
さて今何回バカって言ったでしょうか」
「三回と見せかけて、最後の含めて四回でしょ? 引っかかるもんですか」
「残念、五回です」
「なんでよ」
「そんくらい自分で考えるんだね。じゃ、帰るわ」
「え、ちょっと!」
 引き留めようと、にとりの肩をつかんだ瞬間、彼女の身体が水の流れとなって地面に崩れ落ちた。
 アリスの手には、濡れた冷たい感触だけが残される。
「ひゃっ!?」
「ははは、驚いたか? ごめんな、今までお前さんと話してたのは、本物のあたしじゃないんだ」
 さっきまでにとりだった水溜まりから、乾いた笑い声が響いてきた。
「これぞ忍法『水分身の術』……じゃなくて、光学迷彩(オプティカルカモフラージュ)の先をゆく河童の新技術、
明鏡止水迷彩(ハイドロカモフラージュ)さ。どうかな、これなら立派な幻想的科学技術だと思わないかい?」
441星盗人:2009/03/22(日) 13:05:28 ID:H+awQuOa0
「ということは、あんたまだ魔理沙の近くにいるの?」
「いないねえ。あいつなら、あたしとチルノを置いてどっかへすっ飛んでいっちまったよ。
まったく……ホントあの人間は落ち着きってもんがない。頭の中身は鴉と一緒さ。キラキラ光るものに目がないんだ。
ちょっとでも面白そうなものを見つけると、他の事を忘れてすぐに飛びついて行く。困ったやつだよ、実際。
ま……あたしはそういう魔理沙が好きなんだけどね」
「……いやにはっきり言うのね」
「羨ましいならお前さんもそうすればいいさ」
「私……あんたみたいな真っ直ぐな妖怪じゃないから……」
「悲しい人形遣いのサガかねえ、そういうの。器用貧乏、遠回し、自分の糸でこんがらがって訳分かんなくなる。
お前さんはもっとバカになるべだと思うわマジで」
「そんな簡単じゃないわよ」
「そうでもないさ。お前さんならきっと一流のバカになれる。魔理沙に惹かれるやつってのは、みんなその素養があるわさ」
 なんの根拠もなくせに、そうきっぱりと言い放たれた。
「そいじゃ、今度こそサヨナラだ。魔理沙のこと、よろしく頼んだ」
「待って!」
「なんだよ。あたしはあたしでけっこう忙しいんだよ」
 言おうかどうしようか、一瞬迷う。
 こんなことを訊いていいのかどうか。これを言ってしまうことで、なにかいらぬ藪蛇を突き出すことにはならないか。
 だけど──やはり、聞かずにはいられなかった。
「魔理沙が心配なら、あんたが傍にいてあげればいいじゃない。なんで私なの?
私が……私だけが、魔理沙と仲良くしていて、あんたは悔しくならないの?」
「なんだ、そんなことかい。キミは実にバカだな。そんなんだから友達いないんだよ」
「はぐらかさないでよ! 本気で聞いてるんだから!」
「いや、簡単な話だわ。ここんとこ、魔理沙はずっとあたしらとつるみっぱなしだったからね。
温泉探して地底探検とか、あと今日の宝探しとか。だから、今夜は譲ってあげるってことさ。
抜け駆けはしない、してしまったなら償いをする、それが仁義ってもんだわいな」
「それが河童の美学ってやつ?」
 アリスがそう問うと、にとりの声をした水溜りは、かかか、と面白そうに笑った。
「河童にそんな美学があるわけないだろ。バカだねぇ。
『抜け駆け禁止』がどこの世界の仁義か分からないとか、そんなんだから、お前さん他に友達いないんだよ」
 なおもからから笑う声は、徐々に小さくなってゆき──、
 そして水溜りは沈黙した。
442星盗人:2009/03/22(日) 13:15:02 ID:H+awQuOa0

 騒々しい河童(の迷彩)がいなくなったことで、魔法の森は再び静寂に包まれた。
 いやにくっきりとした線の月が浮かぶ夜空を見上げ、アリスはこれからのことについて考える。
 どうするかは決まっている。
 だが、そこへ至る道は二つあった。
 一つは、霊夢の元を訪れ、八雲紫の企画を探り出すこと。
 そして、もう一つは──。
「無理よ……だって、見つけられる訳ないもの。この暗さじゃ」
 そう──もう夜が来ている。
 この暗い空から、今も縦横無尽に飛びまわっているであろう、あの全身黒ずくめ魔法使いの少女を探し当てるなど、不可能に近い。
 そう、それこそ、この空から星をひとつ盗み取るくらいに不可能な──、
「ほ、し……」
 アリスの目が大きく見開かれる。
 昼までの雨がまるで嘘のような、晴れ渡った夜だった。
 アリスの瞳に映るのは、いやにくっきりとした線の月、そして──、
 それだけだった。
「ほ、星が……無い!?」
 暗い水底にぽっかり空いた穴のように、丸い月がただそこにあるだけだった。
 いつもは無数に煌く星々が、ひとつ残らず消えていた。
 度を失ったアリスが呆然として月を眺めているのへ、
「アリス!」
 叫ぶ声より先に、空から闇が降ってきた。
 その闇はアリスに直進し、眼前で急停止しようとした勢いを殺せぬままアリスの身体にもろにぶつかる。
「うわっ……!」
 訳が分からぬまま、もんどりうって地面を転がるアリス。
 急に月から目を離したことで、光に慣れてしまったままの視界が闇に染まる。
「…………?」
 アリスの身体になにか重くて柔らかいものがのしかかっており、それはちょうどアリスの正面で抱える感じになっていた。
 その眼の前にあるものを知ろうと、ぺたぺたと触ってみる。
 ふさふさした毛、ほんのり熱い触感、そして荒い呼吸音。
(野生の……動物?)
443星盗人:2009/03/22(日) 13:33:47 ID:H+awQuOa0
 そう思ってよく触ると、確かに生き物っぽい感触だった。確かに骨格っぽい形に、肉っぽい柔らかさの手応えがある。
 むにゅ。
「おい、どこ触ってんだ」
「はい?」
 やっと闇に慣れつつあるアリスの視界にゆっくりと浮かび上がるのは──、
「ま……」
 闇に溶けるような黒い魔法装束、その下に着込んだ白いブラウス。黒い山高帽。めくれた黒いスカートからのぞく白いドロワース。
「おい、いつまで触ってんだ」
「魔理沙!?」
 頬を真っ赤に紅潮させ、胸を鷲掴みにされている魔理沙がいた。
「そんな大きな声を出すなよ。耳に痛いだろ。言われなくたって、自分が誰かなんて知ってるさ」
「あ、ああ、あの、ごめんなさい」
 魔理沙の赤い顔に気づき、慌てて手を離す。
 しかし、彼女は別に羞恥のために頬を染めている訳ではなさそうで、
「あー、暑い暑い」
 手でぱたぱた風を送る喉には汗の滴が幾筋も垂れている。
 と思いきや、いきなりアリスの手を掴んで自分の喉元──というか、開いたブラウスのほとんど胸元と言っていい位置──に持ってきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと魔理沙!」
「あー、アリスの手冷やっこいー」
 ぶるっと気持ちそさそうに震えるする魔理沙の唇に一瞬見とれ、だがすぐ我に返り、
「そ、そりゃさっき冷水触ったから……って違う!」
「そう、違う!」
 ツッコミを被せられて思考が停止したアリスに、魔理沙がずいと詰め寄る。
「違うんだ、アリス! それどころじゃない! お前視たか!? 違うな視てないか!? ──星が盗まれたんだ!」
 そう意気込んで星の消失した空を示す。
 アリスはぼうっと空を見て、次に魔理沙を見る。
 彼女の瞳には夜空が映っている。星のない空を。光の褪せた、昏い空。
(なのに……どうしてそんなにキラキラしているの?)
「くそう、誰だか知らんが、この私から星を盗み取るとはいい度胸だぜ!」
「別に貴女のものじゃないでしょうに」
 星が消えるというセンセーショナルな事件に大興奮の魔理沙に、そんな常識的な発言が届く道理もなかった。
444星盗人:2009/03/22(日) 14:00:02 ID:H+awQuOa0
「分かっただろ、アリス! これは久々の『異変』だ! さあ行くぞ!」
 はしゃぎの気が脳天を突き抜けて完全に浮かれている魔理沙は、アリスの手を引っ張って立ち上がらせようとする。
「行くって……どこへ?」
「知るかよ! とにかく空を飛びまわってりゃ星を盗んだ犯人に出くわすって寸法だぜ!」
 明らかに無理のある寸法だったが、魔理沙はそのことには疑問を抱いていない様子だった。
「犯人見つけて、どうするのよ」
「決まってるだろ。盗まれものは……盗み返す!」
「……すっかり盗賊稼業が板に付いてきたわね」
「いやいや、勘違いしてもらっちゃ困るな。私は正義の魔法使いだ。星が無くなると大変だぜ。
星見酒が飲めなくなるし星明かりの宝探しも出来なくなる。
ついでに星占いも出来なくなって乙女の恋心の大ピンチだ。そんな危機に義憤の念を禁じえないのがこの私さ」
 言いながらもぐいぐいアリス手の引いて立たせようとする。
「ほら早く立てよ。お前の腕だけ持っていってもしょうがないんだ。
これ以上疲れさせないでくれよ。こっちは今の今までお前を探して幻想郷中を飛びまわっていたんだから」
「……そうなの?」
「あー? こんな嘘吐いて誰が得するんだよ。見ろよこの汗。もうだっらだら。
というか早く立てって。どうした。尻でも穴にすっぽりハマったか? その地面の下には蜂蜜がたっぷり埋まってるのか?」
 遊びの時間が待ち遠しい子供のようにそわそわ落ち着きのない態度で、
「空(うつほ)! 来い!」
 わざわざ名前で呼んでから指笛を吹くという無駄な手順を踏んで、鴉を肩に止まらせる。
 つくづく『遊び』が大好きなやつだな、とちょっと呆れるアリスへ、
「なんだよもう焦れったいな。行くのか? 行かないのか?」
 その真っ直ぐな瞳に見つめられ、
「──仕方ないわね。行くわ」
 引かれる手に任せて立ち上がる。
「よっしゃ、『禁呪の詠唱チーム』の再結成だな」
「またそんな大口叩いて。禁呪なんて古の魔法の知識、貴女みたいなお馬鹿さんが持ってるわけないじゃない。ほとんどが創作魔法でしょう」
「いいんだよ、こういうのはノリなんだから」

 ──かくして、人間と妖怪が星のない空に舞い上がる。
 人間は空に消えた星を探すため。
 妖怪は恋する瞳に秘められた星の秘密を探すため。
445作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 14:09:26 ID:H+awQuOa0

ちょっと気を抜くと無駄に話が長く重くなる。困ったものです。
あとアリスが勝手にツンデレに走る。
ハシさんのアリスはもうちょっと乙女乙女してるいわゆる乙女で、できればそれに準拠したい。
そうしたからってどうなるわけでもないだろうけど。まあ俺の自己満足の範囲内の話。
446作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 19:21:34 ID:fyg2cq5w0
河童少女までいるのかw
アリスはツンデレキャラですか。
元がシューティングゲームとは思えないキャラたちですなあ。
447作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 19:42:34 ID:fyg2cq5w0
新スレ立てておきました
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1237718302/


サナダムシさんとハロイさんの新作はまだ保管されてないようなので
このスレの番号で保管しておきました。
まだバキスレのスレ立ては2回目なので不手際があったらすみません。
ハイデッカさん、もし見てたら次のスレはお願いします。

ところでここ最近、ふらーりさん来ないですね。どうしたんだろ?
448作者の都合により名無しです:2009/03/22(日) 19:43:19 ID:fyg2cq5w0
念のためにあげておきます
449作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:00:28 ID:rjRNqSCt0
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450作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:01:49 ID:rjRNqSCt0
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451作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:02:55 ID:rjRNqSCt0
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452作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:04:30 ID:rjRNqSCt0
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453作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:11:37 ID:rjRNqSCt0
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454作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:12:36 ID:rjRNqSCt0
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455作者の都合により名無しです:2009/06/08(月) 23:14:21 ID:rjRNqSCt0
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456作者の都合により名無しです
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