【2次】漫画SS総合スレへようこそpart61【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1226245740/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2008/12/07(日) 14:22:43 ID:wuHMwdvq0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
3作者の都合により名無しです:2008/12/07(日) 14:23:28 ID:wuHMwdvq0
上・ロンギヌスの槍 
下・ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/722.html
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
しけい荘戦記 (サナダムシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/634.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  (エニア氏)
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜  (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/751.html
女か虎か (電車魚氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/783.html
4作者の都合により名無しです:2008/12/07(日) 17:43:47 ID:0XSfUNX30
5作者の都合により名無しです:2008/12/07(日) 19:51:46 ID:23whLlyz0
1さん、ハイデッカさんおつです〜

>サナダムシさん
今の萌えキャラになった烈や季節キャラだったゲバルとは比べられないほど勇ましいw
次回が決着とのことですがどっちも負けてほしくないですねえ。特に烈先生。
勝者に主役のシコルスキーが挑む展開なのかな?
6作者の都合により名無しです:2008/12/07(日) 22:30:28 ID:oXJmPBL40
>しけい荘戦記
サナダムシさんは烈がバキキャラの中で一番好きなのかな?
正統派で攻める烈、予想外の動きのゲバルとキャラ立ってますな
もうすぐこの物語も大詰めだと思いますが、
われらがシコルスキーの逆襲に期待しております。


あと1さんスレ立て乙。現スレも早く埋まるといいですな
7永遠の扉:2008/12/07(日) 23:14:51 ID:juwCWUwOP
第088話 「一つの終わりと一つの始まり(後編)」

 早坂秋水。
 武藤まひろ。

 二人は病室で息を潜めてじっと対峙していた。

 なお秋水については件のハズオブラブを既に一度使われていたため総角からの傷は平癒
せず、しばらく入院するコトになった。いまベッドの上で上体を起こしているのはせいである。
 一方のまひろは柔らかな頬を緊張に硬くし、パイプ椅子に腰かけたまま身じろぎもしない。

「君に話しておきたい事がある」

 見舞いの花束を持って入室するなり秋水は間髪入れずに……しかし機先を制したにしては
戸惑いと恐れが色濃い声音で呼びかけた。

「…………時間は大丈夫だろうか?」

 念を押しながらも澄んだ瞳の奥ではまひろが首を横に振るのを期待しているような光がほん
の少しだけ見えた。ずるい……とはまひろは思わない。なぜなら彼女は罪科を人に曝け出す
恐ろしさというものを理解できる。15年という短い人生の中、故意不慮を問わずやらかした失
敗を様々な人から怒られてしまったコトなど何度だってある。まだ幼いまひろだから、怒られる
のが怖くて失敗を隠そうかと悩んだのは少なくない。けれど幼い故に純粋でもあるから、口を
つぐんで罪を忘れ去られるのをただ待つだけの時間は本当に本当に怖くて出口が見えなくて、
自分がひどく悪い人間になっていきそうで、叱られるよりもお説教をされるよりも辛かった。
(でもそういう時のお兄ちゃんは……)
 まひろの変調によく気付き、話を聞いて、一緒になって謝りに行ってくれもした。
(だからかな。怖いのも苦しいのもちょっとだけ楽になったんだよ? 中学に入ってからはだい
ぶそんなコトも減ったし、去年は──…)
 カズキだけが銀成学園の寄宿舎で暮らしていた昨年は実質別居状態だったため、かばわれ
るコトは皆無といって良かった。
 しかし、まひろがカズキを追うように銀成学園へ入学して間もない頃。
8永遠の扉:2008/12/07(日) 23:15:59 ID:juwCWUwOP
.
──「じゃ、まひろの分も引き受けて、オレが減点2ってコトで!」

 遅刻を肩代わりしてもらった。それからホムンクルスに喰われかけた所も助けてもらった。
(きっとお兄ちゃん、私やみんなのために色々してくれてたんだよね)
 察しはつく。カズキが秋水に刺されたのもその過程だと。
(……秋水先輩はどうなのかな?)
 彼がずっとずっと強くなろうと努力していたのもまた、桜花に向かう何かを肩代わりするため
だったのだろう。カフェか銭湯か、まひろは桜花とこういう会話をした。

──「じゃあ、お兄ちゃんが体鍛えているのは斗貴子さんを守ろうとしているからじゃないんだ」
──「あ、でも秋水先輩は多分そうですよね」
──「そうね。だって私達は二人ぼっちの姉弟ですもの」

 それならばカズキと秋水は親友だとばかりまひろはずっとずっと思っていた。
 だから銀成学園の屋上で月を見上げて泣いていたあの晩、何もいわずに一階まで付き添っ
たり大事な桜花を後回しにしてまで寄宿舎に送ってくれたり、食事に誘ってくれたりその帰り道
で恐ろしい怪物から守ってくれたりしたと思っていた。
 カズキのコトについてちゃんと事情を説明して励ましてくれたのも、辛い時だったからこそ本当
に本当に心から感謝している。

(その先輩がお兄ちゃん刺してまで助かろうとした理由を、私は知りたいから)

 秋水の問いにまひろがゆっくりと頷いたのは、彼のもう一つの気持ちが分かるような気がし
たせいだ。

(ちゃんと聞かないとダメだよね。じゃないとずっとずっと苦しいままだから)

 そう思いながらもまひろは緊張でしっとりと汗をかき、体の内側から震えてしまう。怖いのだ。
まひろはそう思った。次の秋水の言葉が何よりも怖い。理由は分からない。生死のやり取りを
聞かされるのを恐れているのかそれに対して泣き出すのを恐れているのか、懺悔の言葉が途
切れた後の何気ない返答が秋水を奈落の外に突き落とすのを恐れているのか。
9永遠の扉:2008/12/07(日) 23:17:27 ID:juwCWUwOP
 分からない。
 もしまひろがもっと複雑な精神を持っていれば、怖れの一部を下記のごとく草書しただろう。

 今までの言葉や行動の一つ一つがまひろをただ透明化してその奥にいるカズキへ償うため
だけの代物だといわれてしまえば、辛い時代の唯一の救いさえも粉々に砕かれてしまうよう
で恐ろしい。

 と。
 秋水がまひろに対してした行動は、岡倉や六舛、大浜といったカズキの親友たちがまひろを気
遣うように秋水も気遣う物とはまた異質なのだ。
 もし総てが「武藤まひろ」という存在を黙殺する優しいエゴに過ぎなかったとすれば、嬉しさも、
感謝も、関係も、ただカズキを刺したという事実以上の残酷な刃となってまひろを抉りかねない
のだ。……彼女は最初から謝罪や償いという薄暗い感情に基づく関係の構築などは望んで
いない。ただこれまで世界で経験してきたようなごくごく普通の関係を秋水とも結んできたと純
粋に信じてきた。しかし秋水は最初からまひろの想像以上の事情によって関係構築に至って
いた。裏切りと呼ぶには誠実すぎる、しかし誠実と呼ぶには裏切りが根幹にありすぎるやり方
で。まだ幼いまひろが直面するには余りに重いそれは「彼がカズキを刺した」という事実以上
の物となり、無自覚の外周を緩やかに圧しているのだ。

 しかしそれは既に決する段階にある。
 崩壊するのか……もっと良好な何かに転化するのか。

 やがて言葉が放たれた。

「俺は君の兄を刺し、死に追いやりかけた事がある」

 総角に初太刀の逆胴を浴びせた時よりも決断を要した。
 ただ一人の少女にただ一つの言葉をかける。
 動作だけで比べれば前者の方が遥かに難しいというのに、秋水は後者を実行するまで莫大
な精神力と時間を要している。
 剣道部の稽古で汗一つかかなかったのに、まひろを食事に誘う時には汗をかいたという経験
がある。内面はその時から大きく変わっていないのかもしれない。
10永遠の扉:2008/12/07(日) 23:24:09 ID:juwCWUwOP
 冷や水を浴びせられたように身をすくめたまひろは乾いた唇を動かし何かを聞きかけたが、
すぐに口をつぐんだ。手は制服のスカート越しに膝へ乗り、心細げに震えている。
 悔恨と無力感が胸を締め付ける中、堰を切ったように秋水は話した。

 幼少時に誘拐され、その誘拐犯に育てられた事。
 実の父母に不要といわれ、桜花とともに病院を脱走した事。
 その果てでL・X・Eというホムンクルスの共同体に入った事。
 桜花と二人だけで永遠を生きるため、ホムンクルスにならんとした事。
 目的のために学校の生徒たちを生贄にしようとしていた事。
 その過程でカズキたちと敵対した事。
 激戦の末に敗れ、『とある事情』で殺されそうになった事。
 カズキがかばってくれた事。

 そんな彼を背後から刺した事。

 にも関わらずカズキは秋水の手を取り……桜花を助けようとした事。

 斗貴子が桜花と秋水を斃さんとし、カズキさえ戦闘不能にしようとした事だけは伏せたが……
 喋るたび兄のみならず妹にまで傷をつけていくようで何よりも辛い。狂騒の元に一刀を貫く
だけで総てが解決すると思っていた頃の未熟さが今になってひしひしと痛感できる。防人へ
いった「勝ちたいのは自分」という一言さえ遵守できているかどうか定かではない。剣の上で
下した総角にさえまだまだ人格や弁舌で及ばぬというのは昨晩大いに実感した。その及ばぬ
弁舌がいまはまひろを傷付けている。秋水自身は傷を浴びても刀を振り抜ける。だがまひろ
は違う。銀成学園の屋上で月を見上げて泣いている姿を見てしまった。
 だから助力を決意した。桜花を失いかけていたため気持ちが分かり、決意した。
 そうして呟いた言葉が現実になるよう務めるうち、交友めいた関係が芽生えてしまった。
 それがヴィクトリアを寄宿舎に戻すきっかけになった瞬間、秋水自身はどうしてもカズキの事
を謝りたくなった。隠し通すという選択もあるにはあった。しかしこれからヴィクトリアを助けて
いこうとすれば、事情を知るまひろは必ず助力を申し出る。助力を受けていけば交友めいた関
係がますます緊密になる。そうなった時、何かの弾みでカズキを刺した過去がまひろに伝われ
ば関係の深さに比例して激しい痛みを与えてしまう。
11永遠の扉:2008/12/07(日) 23:27:30 ID:juwCWUwOP
 そもそも兄を刺した事実をその妹にひた隠しにしたまま交友を結んでいく事自体贖罪とは無縁……
 秋水の心理はいつしかベッドの上で言葉となり、まひろの耳へ向かい始めた。
 汗が噴き出す。剣戟で震えぬ声音さえ震える。
 本当なら最初にいえば良かった。ベッドから降りながら秋水はそうまひろに告げた。けれど
ずっと言えずひた隠しにしてきたのはまひろを傷つけまいという配慮……自体ではなくそれを
免罪符にした弱さのせいだ。床に膝をつきつつ秋水はそうも述べた。

「言い訳をするつもりはない。あの一瞬に踏みとどまれなかったのも他の誰でもない俺自身の
弱さのせいだ。その弱さのせいで俺は君から大事な兄を奪いかけ、そして今は傷付けている。
……本当にすまない」

 謝罪の言葉とともに、秋水はその額をひんやりとした床へ擦りつけるように身を屈めた。

「簡単に償えるとは思わない。けれどせめて君が武藤と再会できるその日までこの街は必ず
守る。君のためにできる事があるのなら何だってするつもりだ」

 まひろは静かに椅子を降りると、屈みこむ秋水の背中を叩いた。

「そこまでしなくてもいいよ秋水先輩」

 困ったような声に促されて面を上げた秋水は、つつけば甘露が弾けそうな赤い瞳を見た。
 秋水の言葉の一つ一つに動揺しながらもどうすればこの事態を解決できるか懸命に考えて
いる瞳だ。
「でもね」
 まひろは口ごもりながらこう言った。
「………………私には秋水先輩を許すコトはできないんだよ」
 さざなみのような気配が全身を通り過ぎるのを待つと、秋水は次の言葉を紡いだ。
「分かっている。むしろそう言ってくれる方がいい。君をずっとずっと騙し続けるような事をする
のに比べれば、そちらの方がいいと思う」
 静まり返った病室の中でまひろは無言で秋水を眺めた。
 じっと。ただ静かに。
12永遠の扉:2008/12/07(日) 23:31:25 ID:juwCWUwOP
「え?」
 真赤な瞳が白黒しながら秋水を見た。
「どういうコト?」
「その……君が俺を許さないという気持ちが理解できるという事だが…………」
 愕然としたまひろが秋水の言葉を遮るようにまくし立て始めた。
「ちちちち違うよ! あのね秋水先輩!! そうじゃなくてその、秋水先輩を許すコトは私にで
きないけど、絶対に許さないとか大嫌いになったとかそーいうのじゃなくて……」
 えぇとその、とまひろは目をつぶって額に人差し指を押しつけた。ぐにゃりと曲がった指先が
つぶれんばかりに当てられ白く変色している。どうやら自分でも何がいいたいか把握できてい
ないらしい。
「そのね。私に謝りたいって気持ちは分かるし、ちゃんと事情を話してくれたのは嬉しいけど…
…ホラ! 私は確かにお兄ちゃんの妹なんだけど、お兄ちゃんじゃないでしょ?」
 やっと出口を見つけた。そんな顔つきのまひろだが秋水はまだついていけそうにない。事実
はまったくその通りなのだが、そういう当然の事をいま言い出す心境が分かりかねた。
「うまくいえないけど、その、お兄ちゃんがいないから私に謝ろう……っていうのはダメだよ?」
 まひろがようやくそれだけをまくし立てると、理解と疑惑が秋水の内面に巻き起こった。
(確かに俺は……)
 まひろへの謝罪がそのままカズキへの謝罪になると思い込んでいた節がどこかにあった。
 しかしそれは大きな誤りなのだ。
 もし桜花を傷付けた者が彼女ではなく秋水に許しを乞いにきたら彼は眉を潜めるだろう。
(そんな簡単な事さえ……俺は見落としていたのか)
 ただしまひろ自身への申し訳なさは確かにあった。それが元からあるカズキへの罪悪感と
混じってしまったのは長らく鎖された世界にいたが故の対人感覚の未熟さのせいだろう。
 愕然とそれを受け止めながらも秋水は同時にもう一つの事実に気づいた。
 まひろの口調や様子はこの場における緊張感を差し引けば概ね普段通りなのだ。
 しかしそれはおかしい。
 普通、身内を刺されたといわれたら発生する感情が含まれていない。
「君は……怒っていないのか?」
 まひろは腕組みをしてウンウン唸り出した。意を決した質問への反応としてはやや軽い。
13永遠の扉:2008/12/07(日) 23:32:55 ID:juwCWUwOP
「そのコトは確かにショックだしまだ怖いけど……秋水先輩と戦った後でもお兄ちゃんはちゃん
と普段通り生活してたし一緒にお見舞いにだって行けたワケだし、うーん。なんていえばいい
のかなあ。お兄ちゃんがいなくなったってワケじゃなかったから、怒ろうにも怒れないというか……。
ヘンかなこういうの?」
 太くて栗色をした眉毛が心底困ったようにハの字を描いた。
 秋水には何ともいえない。結局まひろがそう思えたのも桜花の命がけの献身があったれば
こそである。秋水の罪を消す要素にはなりえないだろう。
「それに私はお兄ちゃんが戦ってくれてる時にほとんど何もしてあげれなかったから。学校で
声援送ったりしただけだし……」
 一見迂遠に見える喋り方だが、彼女なりに筋道を立てている気配がある。
「お兄ちゃんがそれでいいと思っていたとしてもね、戦ってる時のコトに私が口出ししちゃったら
お兄ちゃんだけじゃなく斗貴子さんたちにもすっごく失礼だと思うんだ。……この前ね、お兄ち
ゃんが月に行ったってブラボーが知らせてくれた時に泣きながら色々いっちゃったんだけど…
…悪いコトしちゃったって今でも思ってるし…………」
 秋水が何となく言葉の裏を理解し出すのと同時に、まひろは胸に手を当ててあたふたと言葉
を継ぎだした。
「も! もちろん手当てとか応援ならしたいよ! したいけど……守ってもらってる私がそれ以
外のコトに口を出すのはやっぱりちょっと違うんじゃないかな……?」
 彼女は自分の立場を自分なりに理解し、全うしようとしているらしい。
 そんな性根が秋水には羨ましい。
 カズキの傷を引き受けた桜花の心情さえ理解できなかった秋水には。
「だからね秋水先輩。秋水先輩がしたコトを私が勝手に許しちゃったりしたら、お兄ちゃんが一
生懸命耐えた痛みとかが全部無意味になっちゃう気がするの。秋水先輩がずっと辛い思いで
抱えてきたコトだってちゃんと解決しないよ。今はよくても後で必ず悪い方へぶり返しちゃう」
 不器用だが真剣な気迫を秘めた眼差しでまひろは秋水の瞳を見据えた。
「そういう意味で私には秋水先輩を許すコトはできないんだよ」
「……分かった」
 しばし眼差しを見返した秋水は、声が沁み入ると同時にじっと瞑目した。
14永遠の扉:2008/12/07(日) 23:38:03 ID:juwCWUwOP
 苦難の果てで聞いたこの安易ではない回答は、ただ何かに勝つよりも価値のある言葉に感
じられたのだ。
(俺には過ぎた物かも知れないな)
 目を開くと、配慮のために視線を外していたまひろがパっと向き直った。
「でね。さっきもいったけど、お兄ちゃんがいないから代わりに私に謝ろうっていうのはダメだよ。
その気持ち以外の気持ちでも私を助けてくれたのとか、隠し事したくないっていう気持ちは嬉し
かったけど、やっぱりそれとこれとは別だから。ちゃんとお兄ちゃんに謝らないとダメだよ?」
「そうだな。その点でも君には悪いコトをした。すまない」
 まひろが朗らかな様子で首を振ったのは、秋水の心情がある程度理解できたせいだろう。
「いつになるかは分からないが、武藤が戻ってきた時には必ず彼へ謝罪する。その為にも先
ほどの言葉は必ず守る」
「うん。今はそれでいいと思うよ」
 それと! とまひろは勢いよく秋水の肩を掴んだ。
 九頭龍閃による肩の傷が少し開いた気がしたが、秋水はおくびにも出さずまひろを見た。
「お兄ちゃんが痛いのガマンしながら秋水先輩たちを助けたコトだけは忘れちゃダメだよ! 
もしそれを忘れて同じコトしたら、今度は私がお兄ちゃんの代わりに怒るから!」
 痛いのガマンしながら秋水はコクコク頷いた。
 カズキはこれ以上に耐えたのだ。耐えずしてどうする。
 ちなみにまひろの顔は近く、唇から言葉とともに立ち上る熱気さえ肌にヒリヒリと感じられた。
「あ。でもね」
 実にマイペースな少女は秋水の困惑から一方的に手を離して下唇に手を当てた。
「お兄ちゃんはそんな怒ってないかも。斗貴子さんにもいったけど、お兄ちゃんはね、自分が
何かされるより他の人を傷つけられる方が嫌いなんだよ。それでも間違って傷つけたりちゃん
と謝ろうってしてくれている人ならちゃんと許してくれるから……うん。大丈夫大丈夫。秋水先
輩ならちゃんと一生懸命謝れば分かってくれるよ」
 実に慈悲溢れる笑顔が(肩の痛みに苦しむ)秋水を見ている。知らぬが仏とはこの事だ。
「そうだ! もしお兄ちゃんが帰ってきた時に秋水先輩がどうしても謝る勇気が持てなかったら、
私が一緒に謝まるよ!」
「いや、君にそこまでさせるのは良くない」
15永遠の扉:2008/12/07(日) 23:41:48 ID:juwCWUwOP
「大丈夫。何を隠そう私は謝罪の達人よ!」
 ギアが入った。秋水の剣客としての勘が察知した。相手の気の流れから攻め手を察知して
いながら諸々の事情で対処できぬ事は剣道の中でままあるが、秋水は正にその時の「分かっ
てるけどどうしようもない」状態に陥った。
「色々な人に謝るのは慣れてるから気にしないで!」
「というかどうして君が兄に謝る必要があるんだ?」
「だってお兄ちゃんはみんなの味方だよ。で、私はみんなの中の一人! それなら戦いで受け
た傷は私のせい! ……って思ったんだけど違うのかな?」
 自身たっぷりの声音はしかし秋水の表情が複雑化するにつれてみるみるしおれ、まひろの
大人びた顔が悩ましげに歪んだ。
 そもそもその質問に秋水がハイといえよう筈もない。彼の狂騒による傷をどうしてまひろの責
任へと転嫁できよう。すでに桜花に物理的な転嫁をさせてしまっている身の上なのだ。
「とにかくね、お兄ちゃんが戦ってくれたのは私たちのためなんだから、ケガさせちゃったコトは
一度ちゃんと謝らなきゃ。じゃないと悪いし、いま秋水先輩の気持ちをちゃんと解決してあげれ
ない以上は一緒に謝るべきだよ!」
 秋水は頬をかいた。
「いや、だから武藤の件は俺が全面的に悪いのだから、君にまで謝罪させるのは筋違い……」
「あのね。お兄ちゃんはずっと私の辛さとか痛みを肩代わりしてくれたんだよ。秋水先輩だって
桜花先輩にそうしてきたでしょ? でもやっぱりたった一人で何もかも引き受けるのって、やっ
ぱり辛かっただろうし」
「……」
「だからね。私思うんだ。秋水先輩に色々助けてもらった恩返しに今度は私が色々手助けす
るべきだって。びっきーのコトもそれ以外のコトも」
 ひまわりのように明るく温かい笑顔がまひろに顔に広がった。
「お兄ちゃんは先輩たちにちゃんと前に進んで欲しいから、痛いのも怖いのも引き受けたんだ
と思うよ。だから刺しちゃったコトばかり気にして何もできなくなったら、お兄ちゃんきっとガッカ
リしちゃいそうだし……だから手助けしたいの」
「ありがとう。本来なら責められて当然の俺にそこまで言ってくれた事に、本当に心から感謝
する」
 まひろは嬉しそうにかしわ手を打った。
16永遠の扉:2008/12/07(日) 23:44:05 ID:juwCWUwOP
「でもね秋水先輩。もう一つだけ約束して。まだ私に『悪いなー』と思ってくれてたら」

──「まだだ!! あきらめるな先輩!!」

「お兄ちゃんがいったコトだけはちゃんと守ってあげてね。それからさっきの言葉も」

──「君が武藤と再会できるその日までこの街は必ず守る」

「そうじゃないとお兄ちゃんに胸を張ってちゃんと謝れないと思うから」
「約束する。必ず守る」
 粛然とした眼差しを覗きこんだ少女は──…
 ただ満足気にうんうんと頷いた。

 まひろは知らない。
 後にこの時のやりとりが、秋水の命運を大きく左右するという事に。

 ただ彼女は、真剣な会話の場が去ると同時にいつもの彼女に戻った。
「でね。お願いがあるんだけど」
 まひろが実に嬉しそうに擦り寄って来たので、思わず秋水は膝立ちで後ずさった。
「そろそろ『まっぴー』って呼んで『まっぴー』って! いつまでも武藤さんじゃ堅苦しいよ!」
「い、いやそれだけは出来ないというか」
 押される一方である。追い詰められる一方である。
「大丈夫だよ! 一回呼べばそのうち慣れるから!」
 刀さえ持てば薬丸自顕流の掛りさえ潰せる秋水なのに、無手のまひろのこういう調子には
まるで手も足も出ない。この辺り世慣れせぬ青年ゆえの弱味か。膝立ちでにじり寄る少女に
何の策も講じられないまま秋水は後退していく。
「どうしても無理なら私を『まっぴー』って生き物だと思えば大丈夫! さあ、呼んでみて!」
 まひろが一歩進めば秋水が一歩退がる。
 やがて無情にも彼の背中は病室の壁に当たった。
 眼前に広がるのは勝利を確信し不敵に笑う武藤まひろ。
 流石に相手が異性ゆえに対斗貴子・対ヴィクトリアじみたスキンシップはせぬと見えるが、
秋水はたまらない。右に逃れようと左に逃れようとまひろがすいすいと正面に立ちはだかって
17永遠の扉:2008/12/07(日) 23:47:04 ID:juwCWUwOP
くる。まったく逃げ場がない。逆にまひろは変なスイッチが入ったらしく実にこの状況を楽しん
でいるようだ。子犬のように悪戯っぽい笑顔がグイっと秋水に接近した。
「さあ観念して秋水先輩ッ! 今日という今日こそはあだ名で呼んでもらうんだから!」
「頼む。想像してくれ。俺が君をそう呼ぶ姿を」
 とうとう秋水が悲鳴じみた声を上げると、まひろはハタと考え込む仕草をした。
 窓から流れ込む光が思慮に暮れる彼女をしばし照らし、やがてまひろはちょっと目を伏せた。
「うーん。合わないかも」
「……そうだろう?」
 秋水が同意を求めると、まひろは「じゃあ『まっぴー』はなしだね」とコクリと頷いた。
 幕切れは意外にあっけない。……しかし開幕もまたあっけない。
「もう! 駄目じゃないまひろ。面会の制限時間もうとっくに過ぎてるわよ!」
「看護婦さんカンカンだよまっぴー。そろそろ帰った方が──…」
 病室のドアが開いた瞬間、その場にいる誰もが息を呑んだ。
 秋水は驚愕の眼差しで、ドアに佇む若宮千里と河合沙織を眺めた。
 背中にじっとりと嫌な汗が滲んでくるのは沙織の姿で鐶を思い出したせいでもないだろう。
(あ!! そういえばちーちんとさーちゃん待たせてた!)
 まひろもまた秋水に詰め寄った状態で首だけを友人二人にねじ向けて「しまった!」という
顔をした。自分がいかなる体勢にあるか理解したのである。
 這いつくばって眉目秀麗成績優秀かつ剣道部のエースの生徒会副会長を壁際へ追い詰め
ているその姿というのは、いささか天然の入ったまひろでさえ顔面を赤らめざるを得ない刺激
的光景である。
 あまり手入れのされてないポサポサとした栗髪が頬の横を滑りぬけて秋水に乗り上げ、ス
カートからわずかに覗く太ももは殺風景な病室で異様な白さを放っている。
 大体にしてまひろは上体をめいっぱい乗り出し秋水に接近している。顔があまりに近すぎる。
これでは誤解されても仕方ない。
 理性を取り戻すと「怪我人を床で追い詰めていた」という申し訳なさも今さらながらに戻って
来るから不思議である。
 つい反射的にまひろは胸元を抑えて気まずそうに秋水を見た。
18永遠の扉:2008/12/07(日) 23:51:41 ID:juwCWUwOP
 視線は何かを訴えている。秋水とて意味は分かるがただ精悍な顔を少し情けなくして首を振
るしかできない。彼は対処を誤った。そうするより前に千里と沙織に何かをいうべきだったのだ。
(積極的なコだとは思っていたけど、まさかココまでするなんて)
(あ、秋水先輩も満更じゃなさそう! 何何ひょっとして夏休み中の急接近!? きゃー!)
 彼女たちはいよいよ尋常ならざる情況を想像したらしく、態度が「からかい」から「男女の痴
態に遭遇した気まずさ」または「喜び」へみるみる変わっていくのが空気を介して分かった。
 慌てて秋水とまひろは相手からぷいと視線を外したが、頬へ仄かな紅が差しているのはこれ
また非常に宜しくない。逆に艶めかしい。
「ええと。交際は自由だけど怪我してる先輩を追い詰めるのはいけないわよ」
 顔が上気しきったせいで曇った眼鏡のレンズを拭こうともせず、千里は病室から立ち去った。
「ゴメンねまっぴー。邪魔しちゃったみたい。でも病院でそんなコトはほどほどにね」
 小学生並の童顔を興味の赤に染めながら、沙織がウィンクし名残惜しげに去っていく。
「ち!! 違うってば二人とも! 私はただあだ名のコトで……!」
 まひろも慌てて立ちあがった。秋水も彼女に倣った。
「ゴメン秋水先輩! ちゃんと誤解は解いとくから! これが最初の手助けだから!」
 顔の前で大きく手を合わせてうなだれるまひろに秋水はゆっくり頷いた。

「了解だ。これから色々あるかも知れないが……宜しく頼む」
「あっ! ええと、こちらこそ!」

 まひろの両手が秋水の右手を力強く握った。
 差し出していない手を握ってくるまひろの積極性に秋水は驚いたが、ひどく柔らかく儚げな感
触が離れるまでの数秒間じっと彼女の動きに身を委ねる事にした。

 そしてまひろは踵を返して入口で手を振り、慌てて病室を去って行った。
 開いた扉の向こうより響くは忙しく友人二人を呼ばわる声と早歩きの足音。
 それもやがて遠ざかり、病室は静かになった。

「…………」

 断罪できる立場にありながらカズキの心情を汲み、怒声を一言も漏らさずに謝罪への返答を
終えたその姿は秋水がかつて銀成学園の屋上で見た姿とかけ離れていた。
19作者の都合により名無しです:2008/12/08(月) 00:08:35 ID:+EeiV37j0
いきなり凄い量だw
まだ投下されるのかな?
明日の朝読みます。
20永遠の扉:2008/12/08(月) 00:22:12 ID:vqOLRWJaP
(本当に強い娘(こ)なんだな)
 同時にそんな彼女を揺らがせるほどのカズキの存在が本当に大きく見えてきた。
 秋水はどうか。
(俺は死力を尽くしても総角を剣の上でしか上回れなかった)
 自分に勝てたとは言えないほど、手痛い敗北が多すぎた。

 昨晩、防人は秋水のその意見にかぶりを振った。
「敵6体のうち5体までを撃破したんだ。お前は十分に戦ったと思うぞ」
「いいえ。戦士長を始めとした他の人達の指導や分析があったからこそ、俺は辛うじて勝利を
拾えたと思います。現に全容の分からなかった鐶にだけは負け、戦士長達に負担をかけさせ
る結果となりましたし……」
「そう思ってしまうのも無理はないな。だがキミに聞かせて貰った限りでは、決して何の成長も
していないという訳ではない。そこだけは胸を張って誇るべきだ」
「しかし……」
「確かにキミはムーンフェイスに出し抜かれたり鐶に敗北したりもした。それは事実だ。背負う
には重すぎる罪だって抱えている。だが同時にヴィクトリアを説得し、機転や着想で数々の困
難を乗り越えてきた。鐶にしたって、キミが核鉄を奪還していなければそもそも戦えたかどうか
さえ怪しいしな。同じコトは他の戦士たちにもいえる。誰かが負けても他の誰かが勝てるよう
自然に補い合っていた。俺が指示してもしなくても、彼らは彼らの大切なものを守るその使命
のために死力を尽くしたんだ。戦士・斗貴子も剛太も千歳も根来も桜花も御前も、全員が頑張
り抜いた。そんな彼らはキミのように5体もの難敵を倒した訳ではないが……弱いと思うか?」
「いいえ。俺以上に立派だと思います」
「きっとキミもそう思われているさ」
 逞しい掌がぽんと気楽に秋水の肩を叩いた。
「自信を持て。キミはまだ若い。自らに不足を感じるのならば修練によってそれを補えばいい。
他の戦士のお陰で勝てたと思うのなら、今度はお前自身が他の戦士の支えになるよう手助け
してやれ。開いた世界を歩くというのは、そういうコトだと俺は思っている」
 連行直前の総角たちに歩みながら、防人は「そうそう」と振り返った。
21永遠の扉:2008/12/08(月) 00:27:01 ID:vqOLRWJaP
「よくやった戦士・秋水! ブラボーだ!!」
 親愛と労いのたっぷり詰まった笑みに秋水は少したじろいだが、すぐに深々と頭を下げた。
 更に根来、千歳、剛太、桜花と御前、そして斗貴子を尋ねて回り、辞儀と共に礼を述べた。

 剣は秋水にとって総てである。しかし世界にとっては総てではない。卓越した剣腕だけでこ
の世の総てに対抗しようというのは不可能に近いだろう。
 その中で自分の弱さに向き合って向上せんとすれば、数多い困難に直面するに違いない。
 他者への助力もできるかどうかはまだ不安が残る。
 それでも……まひろが助力を申し出てくれた事は心強い。
(まずは彼女のために。武藤に直接謝れるように。そしていつか他の人達も心から守れるように……)
 強くなりたい。
 秋水はそう思いながら、柔らかな感触の残る拳を強く握り締めた。













以下、後書き。

ハイデッカさん、>>1さんお疲れ様です。

実質的に第一章は今回が最終回です。
まだ一回投下を残しておりますが、そちらはスタッフロールが流れた後に出てくるような画面
であり繋ぎであり、エピローグでありプロローグであり……。
22スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/12/08(月) 00:28:17 ID:vqOLRWJaP
>>322さん
10レスぐらいの分量に各自めいめいの動向を詰め込むのが楽しかったですw

>>325さん
惚れた弱味なのかも知れません。両者勝つ気満々でやったら無銘瞬殺でしょうけど……

サマサさん
やっぱり社長は子供に”だけ”は優しいw 注意を逆に読めば要するに「みんな平等かつ安全
に遊べるように注意している」ようにしか思えないワケでして。唯一の弱点でもありますがそこもいい。
奴隷制度の陰惨さを冷酷無比の暴力でねじ伏せるという図式は好きです。正に弱肉強食。

ふら〜りさん
気ままなネコなので「ちょくちょく逢って漫才みたいなやり取りする」友達ポジションがベストな
のかも知れませんね。香美と剛太はボケとツッコミでノリ良く描けるのが楽しいのですが良いです。
あぁ、バトルの反動か今はラブコメが描きたいです。青臭くて悶えそうなラブコメが。

電車魚さん(ユキも復帰できるといいのですが。最近キャラ立ちで兄貴に負けてましたし……w)
ありがとうございます。無銘は最近ようやくこなれてきたタイプですね。それだけにセリフがあれ
よあれよと増えていくのが難点なのですがそこはいずれ。10歳の割には金銭感覚しっかりし
てて任務にも割と忠実だけどどっかか子供っぽい無銘はなかなか描いてて面白いです。
パピヨンはネウロ犯人たちと同じく「芯」が本当にしっかりしてると思いますね。狂気とかイロモ
ノとかそういう定型句を描くために描かれたんじゃなくて、和月先生の高校時代の欝憤をまとめ
てブッちゃけたからあんな感じなのかも。ゲーテ曰く「お前の本当の腹底から出たものでなけ
れば、人を心から動かすことは断じてできない」。初期のネウロ犯人も腹底から大声と共に飛
び出てきたようなすっごいエネルギーありましたし。

銀杏丸さん
老いさえ肴にできる相手がいなくなるというのは寂しいものですね……。最後の「訪ねよう」と
いうのがいいですね。後を追うじゃなくて、訪ねる。最後に残った一人としての責任を全うした
上でちゃんと前向いて杯も持って「訪ねる」っていう所に童虎のひた向きさがあるんでしょうね。
23作者の都合により名無しです:2008/12/08(月) 08:10:58 ID:83vOJNyB0
うーむ読んでて恥ずかしくなるようなやり取りだw
スターダストさん乙です。
ストロベリーなまひろとその対応に慣れていない秋水がよかったです
でも普通の人の3回分の量だw
24遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:38:27 ID:Wr2vCGmU0
第二十話「魔法少女?とマスコット」

アルカディア北部の平原地帯。
北方より侵攻を始めた女傑部隊(アマゾン)は、アルカディア軍と激しい戦闘を繰り広げていた。
戦況は均衡し、長期戦の様相を呈していた―――

「アマゾンめ…流石にしつこいな」
自ら兵を率いて、戦場を縦横無尽に駆け抜けるレオンティウスは、彼らしからぬ苛立った様子だった。
「母上以外の女は苦手だ…粘着気質の女となれば、私にとってはもはや憎しみの対象ですらある…」
「そんなことを言っている場合ではありませんぞ、陛下」
彼の隣に陣取るカストルが、口を尖らせる。
「分かっているさ。この状況―――何か一つ欲しいな。味方にとっても敵にとっても予想外の事態。できれば我らに
有利に働くような…いや、そんなことを言っても始まらないな。それより、女王は…アレクサンドラは、まだ戦場に
出ていないのか?」
「はっ。今のところ、誰も彼女の姿を見てはおりません」
「そうか。勿体ぶっているのかもしれんが、できれば顔を合わせたくないな…あの女は、世間的には絶世の美女なの
だろうが、私にとっては傍迷惑なじゃじゃ馬としか思えぬ」
はあ、とカストルは溜息をついた。
(本当に、これさえなければ、文句のつけようのない王者だというのに…)
その瞬間、遠目に女傑部隊の弓兵が矢を番え、弓を引き絞るのが見えた。
「いかん…!こっちを狙っておるぞ!」
周囲の兵達に警告を促すが、それで敵の動きが止まるわけではない。嵐の如く矢が放たれ―――

「罠カード発動―――<聖なるバリア・ミラーフォース>!」

その瞬間、アルカディアの兵士達を光の壁が包み込む。矢はそれによって跳ね返され、弓兵達は自ら放った矢を受け
苦鳴を上げながら蹲る。
25遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:39:14 ID:Wr2vCGmU0
「む…!?今のは一体何事か!」
「アルカディアの諸君!俺達が来たからにはもう安心だ!」
レオンティウスに答えるように、ザッと地を蹴り付ける足音。アルカディア軍の目の前に、奇妙な闖入者が現れた。
そう、言うまでもない。我らが主人公・闇遊戯率いる四人であった。
「我々は星女神の命を受けた一行・勇者オリオンとその他愉快な仲間達である!故あって、これよりアルカディア軍
に助太刀いたーす!」
オリオンはそう大見栄をきったが―――どっからどう見ても、怪しすぎる四人組にしか思えないのが、辛いところで
あった。
闇遊戯はやけに仏頂面で。城之内とオリオンは何故か既にボロボロで。
特に、ミーシャの格好は異様そのものである。
胸元が大きく開き、太股まで丸出しな超ミニスカートの年齢的にはちょっぴり厳しい魔法少女的衣装。頭にはやはり
魔法使いっぽいトンガリ帽子を被っている。手には勿論それっぽいステッキである。
「クリ〜」
その肩には、ふわふわしたまんまるな体型とお目々が愛らしい謎生物が乗っかり、クリクリと鳴いていた…。

何故、このような一言では形容しがたい事態に陥ったのか―――話は、つい数時間前に遡る。

戦場からやや離れた町で宿を取っていた遊戯達は、情報収集しながらこれからについて話し合っていた。
「この近くで、アルカディアは女傑部隊(アマゾン)ってのとドンパチやってるらしいな」
「ああ。それはオレも聞いた」
闇遊戯が頷く。他には特に目ぼしい情報はなかった―――しいて言うなら、奴隷市場が襲撃されただのなんだのと、
物騒な話題もあったのだが、あまり自分達に関係ありそうには思えなかった。何しろ古代世界である。新聞やネット
なんて文明の利器がないため、集められる情報というのも限度があるし、正確さにも疑問がある。
「戦争やってるってんなら、そこで乱入してド派手に活躍すれば、王様と直々に話す機会もできるんじゃねえか?」
とは、城之内の意見である。
26遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:40:03 ID:Wr2vCGmU0
「うーん…まあ確かに、アルカディアは今んとこ女傑部隊に苦戦させられてるみたいだしな。そう言う意味じゃあ、
悪い案でもないか」
「未来から来たオレ達がこの時代の戦争に参加するのがいいことだとは正直思えないが…海馬やエレフがどう出る
のかも分からない以上、手段を選り好みしていられる状況でもないな。」
オリオンと闇遊戯も、城之内の案に同意する。
「けどよ、ミーシャはどうするんだ?女を一人でここに残すってのも危なっかしいぜ」
何しろ古代ギリシャの治安というのは、非常に悪い。ヨハネスブルグも真っ青だ。ならば、戦場に連れていくべきか
といえば、それはそれで言うまでもなく危険である。
「ミーシャ。一応訊くが、戦闘的な技能の心得はあるか?」
ミーシャはちょっと考えて、ぐっと握り拳を作ってみせた。
「遊女見習時代に、先輩から仕込まれた火を噴く鉄拳が」
「どんな先輩だよ」
「高級遊女メリッサ…彼女はその鉄拳で、灰色熊をも屠ったと言われているわ」
「それは高級遊女じゃねえ!むしろ超級闘女だ!」
ミーシャとオリオン。仲良しな二人のやり取りではあったが、闇遊戯は口をへの字に結んで嘆息する。
「どうにも不安だが…仕方ないな。ミーシャ、オレ達もできる限りはキミを守るつもりだが、いざという時には自分
の身は自分で守ってもらうしかない。そこで<ブラック・マジシャン・ガール>召喚!そして魔法カード<融合>を
発動するぜ!」
「え…きゃあっ!」
召喚された黒魔導師の少女とミーシャの姿が一つに重なり、七色の光を放つ。その瞬間、ミーシャの衣服が分解
され(当然その一瞬は全裸になったが、残念ながら光で目が眩んでいたので誰も目撃できなかった)代わって
新しい衣装が装着された。
「こ、これは…!」
「この発想はなかったぜ…!」
オリオンと城之内が目を見張る。そう―――融合の効果により、ミーシャの服装はBMGのそれとなったのである!
「とりあえず、これである程度は自衛ができるはずだ」
闇遊戯はやたら自信ありげだ。ミーシャはというと、大きく開いた胸元や大胆ミニスカートにちょっぴり恥ずかしく
なりつつも、その気になってくるくるとステッキを振り回したりしている。どうやら意外に気に入ったようだ。
27遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:41:08 ID:Wr2vCGmU0
「そして仕上げに<クリボー>召喚!」
「クリー!」
勢いよく飛び出したまんまる毛玉・クリボー。クリクリ鳴き声をあげつつ、ぽよんぽよん飛び跳ねながら、ミーシャの
肩にマスコットよろしく乗っかった。闇遊戯はその姿に、ぐっと親指を立ててみせた。
「完璧DA!」
何がどう完璧なのかは分からないが、とにかく完璧である。闇遊戯が言ってるんだから間違いない。
「これでキミはもうミーシャじゃない…<ブラック・マジシャン・ガール・ミーシャ>だ!」
直訳すると、黒魔法少女ミーシャ。本人もすっかりその気になって、ポーズを決めてみたりしている。それを横目に
しつつ、オリオンは城之内に囁きかけた。
「城之内…唐突だが、俺の年齢は十九歳だ」
別に誰も気にしてなさそうな設定である。
「それがどうしたんだよ?」
「そして、ミーシャの年齢も十九歳だ」
「…………」
「お前は、十九歳で魔法少女とか抜かす女をイタイと思わないのか?」
N・Tさんから苦情と砲撃が来そうな意見だったが、城之内も内心(それはキツい!)と思っていた。そんな二人に、
ミーシャは無邪気に問いかけた。
「えへへ。オリオン、城之内。どうかしら、この格好?」
「…………」
さあ、究極の選択だ!
@とっても似合うよ!
Aうーん、ちょっと変かな?
Bケッ!この年増が!
これが好感度を稼げばいいだけの恋愛ゲームなら@を選べばいいだろう。しかし現実問題、厳しいことを言ってやる
のも友人の務めというものである。二人の選んだ答えは。
「「ケッ!この年増が!」」
美しい友情だった!例え自分が憎まれようと、彼等はミーシャを思えばこそ正しい道を選んだのだ!誰がどう言おう
と、城之内もオリオンも立派だった!…しかし、それが理解されるかどうかは別問題だった。
28遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:42:31 ID:Wr2vCGmU0
「遊戯…」
「…なんだ?」
「これで、どうやって戦えばいいのかしら?」
「…倒したい相手に向かってステッキを振り翳し<黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)>と叫ぶんだ。すると
魔力が爆発を起こし、敵を打ち砕く」
「ありがとう」
ミーシャはステッキを城之内とオリオンに向ける。二人は悟りを開いた表情で、それをただ受け入れた…。

そんな辛い過去を肉体的な意味での痛みと共に思い出しつつ、場面は戦場に戻る。闇遊戯達の出現によって、戦況
は明らかに傾いていた。新手に戸惑う女傑部隊に対し、アルカディア軍は確実に追い詰めていく。
「しかし、あの力…」
カストルは槍を振るいつつ、闇遊戯を眺め眇める。
「彼もまた陛下と同じく、神の眷属なるやも知れませんぞ…陛下?」
「ああ、そうだな…」
レオンティウスは聞こえているのかいないのか、生返事である。彼の瞳は、ただ一点だけを見つめていた。その先に
いるのは―――城之内である。レオンティウスは、彼に熱い視線を送っていた…。
「好みのタイプだ…」
「へ、陛下?」
そんなちょいヤバめな熱視線に気付かず、城之内はレッドアイズと共に果敢に戦っていた。
「ドンドン行くぜ、レッドアイズ!」
その内に城之内は一人、敵陣深くへ斬り込んでいく。
「待て、城之内くん!一人じゃ危険だ!」
「あのバカ…!」
こういう場合、一人で前へ突っ込む=敗北フラグである。しかし城之内は猪突猛進しか知らぬおバカさんだったので、
そんなもの何所吹く風とばかりに突撃であった。それでも傍らで健気に城之内についていくレッドアイズの横顔には、
どことなく哀愁が感じられた…。さながらダメな夫を支える良妻の図である。
29遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/08(月) 09:56:06 ID:ofZfiQZL0
「いくぜ―――<漆黒の豹戦士・パンサーウォリアー>召喚!」
新たに召喚されたモンスター―――黒き豹の頭部を持つ獣戦士が、手にした剣を振り回す。男顔負けの体躯を持った
屈強な女傑部隊が、次々と薙ぎ倒されていく。たじろぐ彼女達に向けて指を突き付け、城之内は叫んだ。
「いくら戦争でも、女相手に暴力振るいたくねー…これ以上怪我したくなきゃ、国に帰りな!」
女傑部隊が一歩、後ずさる―――そこに。
「―――ほう、レオンティウス以外は雑魚と思っておったが、イキのいい男もいるではないか」
凛とした、美しい声。それを聴いた女戦士達が、まるで示し合わせたように真っ二つに分かれて道を作る。滑らかな
動きで、一人の女が悠々と歩いてくる。
「う…!?」
その姿を見た城之内は、絶句した。月桂冠で彩られた、鴉の濡れ羽のような艶やかな黒髪。女性としてこれ以上ない
ほどの見事な曲線を誇る肢体。その身を包む簡素な革鎧も、彼女が着ればまるで豪奢なドレスだ。顔立ちは―――
詳しく書くまでもない。男が百人いれば、その内九十九人が、絶世の美女と褒め称えるだろう…残る一人は真性ホモ
野郎だけである。誰とは言わない。
「はァっ!」
駆け抜ける、疾風。黒き豹戦士の首が、瞬時に刈り取られた。愕然とする城之内に、彼女は妖艶に微笑む。
「ふむ…レオンティウスの前の、ほんの前菜といったところか」
ひゅんひゅんと風を斬り、美しき刃が煌く。
「女傑族が女王・アレクサンドラ―――私が相手となろう、オードブルくん」
30サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/08(月) 09:57:25 ID:ofZfiQZL0
投下完了。前回は前スレ332より。
ハイデッカさん、>>1さん、乙であります。
予告した通り、ネタに塗れた回になりました。こんなん書いてていいのか、自分…。
次回以降、マジで城之内のケツの穴が心配です。

前スレ342 ソロルは構わん…だがサクリ妹は置いてってもらおう!

>>ふら〜りさん
社長の、好きな相手とそうでない相手に対する態度の差は、割と上手く書けたかなと
自画自賛しております。

前スレ344 題材のせいか、意識せずに暗い話が多いですね…児童虐待とか生贄とか。

>>電車魚さん
さあ、アイさんのフトモモSS執筆に戻るんだ…冗談はともかく。
ブルーアイズがいたら、僕も乗りたいものです。大空を羽ばたきたいものです。
ダニさんは、自分自身の真実が見えてなかったんでしょうね…人間、そんなもんかもしれません。
社長は、性格以外はモテ要素の塊ですよ。性格以外はね。

>>スターダストさん
ストロベリーな二人…いいね!僕もこんな青春が送りたかった…でも、かつて殺し合いを演じた
(というか、一方的に殺す寸前だった)相手の妹って、一歩間違えるとすげえ気まずい関係だ…。
それを爽やかに書き上げられる技量に拍手。
>>奴隷制度の陰惨さを冷酷無比の暴力でねじ伏せる
少年漫画的には、怒りと憎しみに任せた暴力はもろく、弱いものです…設定としてはバトルシティ後の
話なんで、社長もその辺りは分かってるだろうけど、分かっててもあの性格はそうそう直らないと思います。
なんで、このSSでの社長の性格はバトルシティ前とそんなに変わってないというw
31作者の都合により名無しです:2008/12/08(月) 18:35:29 ID:ShrOw7Uq0
1さんハイデッカさんテンプレ&スレ立てお疲れ様です。

>スターダストさん
第一章完結お疲れ様です。長かったですねーw
爽やかな感じの2人で〆られたのは良かったですね。甘酸っぱいw

>サマサさん
ミ=シャの格好はキャバクラのコスプレみたいだw
19歳なんて一番の女ざかりと思うけどなw 選択肢ひどすぎるw
32作者の都合により名無しです:2008/12/08(月) 21:32:20 ID:d0K4rwml0
>永遠の扉
まひろはパーのように見えてまひろなりに色々と考えてますね。
その思考が一般人と違うから秋水たちが振り回されるんだろうけど。
ちーちゃんたちも姦しくて仲良さげでいいな。

>遊☆戯☆王
なんかこのパーティは仲がよ過ぎてかえって上手く回らないかなー
美女の魔法少女の格好とかステキだと思うけどな。
十九歳で年増呼ばわりはそりゃブラックバーニング食らうわなw
33THE DUSK:2008/12/08(月) 23:30:20 ID:gCEBz8Ub0
飛び交う非難も噂話もどこ吹く風。教師は女生徒を見つめ、ハンバートよろしく咳払いをひとつ。

ダメだよ。来ないで。それ以上、僕に近づいちゃいけない。



第五話 《SCHOOL OF ROCK》



――日本国 埼玉県 銀成市

月曜日。
新たな週の始まる朝は学生にも社会人にも等しく苦痛なものだ。
勿論、銀成学園寄宿舎に住まう生徒にとっても、それは例外ではない。
食堂や洗面所で交わされるのは「おはよー……」という張りの無い小さな声であり、それを発する生徒達の顔にも
気だるさがありありと浮かんでいる。
ただし皆が皆、重苦しさを漂わせている訳ではなく、彼らの半数は高校生らしい快活な表情で朝を迎えていた。
例えば、津村斗貴子は清々しく凛とした立ち居振る舞いで登校準備を進めていたし、武藤カズキなどは
顔を合わせる者皆に誰よりも明るく大きな声で挨拶をしていた。
要はその者の持つ性格や生活習慣次第なのだ。

そして、快活組の代表格とも言うべきは、我らが武藤まひろである。
目覚めと同時に跳ね起きて顔を洗い、兄に負けぬハイテンションで朝の挨拶を交わし、旺盛な食欲で
わしわしと朝食を詰め込み、軽やかな足取りで自室に戻る。
あとは制服を着て登校するだけ。
だがその前に――

まひろは押入れの前に立ち、引き戸の取っ手にしっかと手を掛ける。
次の瞬間にはピシャーンと小気味良い音を立てて戸がいっぱいに開かれ、大きく開けた口からよだれを垂らして
熟睡しているセラスの姿が露になった。
34THE DUSK:2008/12/08(月) 23:32:30 ID:gCEBz8Ub0
狭い押入れの中だというのにひどい寝相だ。バンザイのように両手を上げ、左脚は大きく広げられて壁に立てかけられ、
小さいスウェットがまくれ上がってヘソが見えているどころか下乳状態となっている。

「セラスさーん!! おっはよー!!」

まひろの騒々しい目覚めの挨拶と共に、押入れの中へ眩しい朝日が射し込んだ。

強烈な“太陽”の光が。

「ぴっぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」

断末魔に近いセラスの絶叫が寄宿舎を揺るがさんばかりに響き渡る。
彼女の悲鳴に驚いたまひろは急いで戸を閉めると、ある注意点をハッと思い出した。ブラボーとセラス両者から
耳にタコが出来る程言い聞かされた注意点だ。
「ご、ごめん! セラスさんが日光アレルギーだって、すっかり忘れてた!」
金曜の夜にセラスがやって来て、土曜日、日曜日、そして今日でまだ三日なのだが、まひろの頭から抜け落ちるには
充分過ぎる日数なのかもしれない。
「殺される…… 殺されるッ…… 殺されるッ…… し、しっ、し、死……」
押入れの中のセラスは身体から白い煙を上げながら、頭から布団を被り、すっかり震え上がっていた。

そこへ、廊下の方から慌てた様子の足音が複数、近づいてきた。足音はまひろの部屋の前で止まり、
ノックも無しに戸が開けられる。
「どうした! まひろちゃん! 何があったんだ!」
突然の悲鳴を聞きつけた斗貴子と千里、沙織らが駆けつけたのだ。
咄嗟に押入れを背にしたまひろは懸命に言い訳を捻り出す。
「えっ!? あの、その…… だ、大丈夫! 大丈夫だよ! ゴキブリさんが出たからちょっとビックリしちゃっただけ!」
しどろもどろなまひろの説明を聞くなり、血相を変えた斗貴子の表情は見る見るうちに呆れ気味の
ものへと変わっていく。
他の二人も同様である。
35THE DUSK:2008/12/08(月) 23:33:36 ID:gCEBz8Ub0
「まったく人騒がせな……」
「だから言ったじゃないですか。まひろなんだからって」
「まっぴー、早くしないと遅れちゃうよー?」
三人は特にそれ以上追求する事も無く、部屋を後にする。
朝一番の今にも死にそうな悲鳴の理由にしてはあまりにも足りないものがあると思われるのだが。

斗貴子らの話し声と足音が遠く離れていくに至って、まひろはようやく一安心と胸を撫で下ろす。
そして、改めて押入れの方へ向き直ると、引き戸越しに中のセラスへと話しかけた。
「ねえ、セラスさん。私、そろそろ学校行くね。朝ごはんはブラボーが用意してくれるって言ってたよ」
「い、いってらっしゃい…… 気をつけてね……」
妙にくぐもったセラスの返事が聞こえてきた。
どうやらまだ布団を被って丸くなっているらしい。また不意に戸を開けられるのではと怯えているようだ。
それが伝わったのか、まひろはいそいそとカーテンを引く。
「カーテンは閉めておくからあんまりお寝坊しちゃダメだよ? もしヒマだったら漫画とか好きに読んでいいからね」
「う、うーん……」
土曜日曜と昼間は押入れから出てこないセラスを見ていたせいか、まひろは彼女の朝寝に優しく釘を刺す。
しかし、しつこいようだがセラスは吸血鬼だ。
本来、吸血鬼は“黄昏から夜明けまで(from dusk till dawn)”が活動時間であり、太陽の昇る日中は棺で
寝ているものなのだ。これは一般人でも知っている常識と言っても良い。おそらく、まひろも知っているだろう。
とはいえ、まひろにとってセラスは“女吸血鬼(ドラキュリーナ)”ではなく“日光アレルギーでお昼寝ばかりしてる
美人な外人さん”という認識でしかないのだから、それもしょうがないのかもしれない。
布団を被ったままのセラスは眉を下げて溜め息を吐く。
(さっき、やっと眠りについたばかりなんだけどなぁ……)
人間に例えるならば『昼間は普通に生活して、夜は一睡もするな』と言われるようなものだ。
今後の生活を思うと、寝不足で眼の下にクマを作った自分が容易に想像され、身震いが止まらない。
そんな憐れな夜族(ミディアン)の憂鬱など知る由も無いまひろは、元気の良い声を響かせて部屋を出た。

「じゃ、いってきまーす!」
36さい ◆2i3ClolIvA :2008/12/08(月) 23:36:55 ID:gCEBz8Ub0
ハイデッカさん、>>1さん、乙です。
お久しぶりでした。さいです。33レス目で変な失敗しちゃったんでトリ変えます。
予定してた量の半分にも満たなく投稿には短すぎるかとも思いましたが、まだ生きている事とまだ書く意志がある事を
ご報告したく思い、あえて投稿しました。
これからもよろしくお願い致します。
では、御然らば。
37作者の都合により名無しです:2008/12/09(火) 06:24:34 ID:b7i+zxim0
さいさん、復活おめです!
まっぴーやセラスたちの活躍をまた読めると思うと嬉しいです。
いろいろと大変でしょうけど、少しずつ書いていただけるとありがたいです。
38作者の都合により名無しです:2008/12/09(火) 08:33:10 ID:hVw3PjBm0
なんにせよお戻りになってよかった
これから徐々にペースを上げていってください
私生活、仕事、SS活動ともども
39ふら〜り:2008/12/09(火) 10:10:56 ID:7uDxJPxl0
>>1さん&ハイデッカさん
おつ華麗様です! 浮き沈みはあれど沈みきることはなく、浮く時は天まで上がる勢いで浮き、
続きに続いて61。誰かが終えても誰かが始め、絶えることなく多くの人たちの多くの名作が
連なっての61。今スレも楽しませて頂きましょうぞっ。

>>サナダムシさん
今のところ、読者はともかく烈やゲバルから見れば、黒幕でラスボスでとんでもない強敵って
立場なんだから、もちっと堂々としてくれアライっ。眼前で繰り広げられてる戦いのハイレベルっ
ぷりはそりゃ確かに凄いけど、お前だって負けないほど強い! はず! ……と私は信じてる!

>>スターダストさん
まひろのキャラ掴みきれてないであろう私が言うのもなんですが、「まひろらしい」。天然で
悟っているというか、そもそも本来の「悟り」とはそういうものというか。ちゃんと秋水の苦悩
を解いて救ってますからね。で秋水から丁寧に礼を言われた剛太ってのは見たかったかも。

>>サマサさん
19が年増。そう思っていた時代が(略)。BMGもいいけど、火を噴く鉄拳を振るうミーシャも
見たかったなぁ……いつか機会があると期待しよう。ステッキの魔法少女に続いて男顔負け
の女傑、そして見初められる城之内と。戦場でも両面(何がだ)において華やかで良いですな。

>>さいさん(お待ちしておりましたっっっっ!)
>朝一番の今にも死にそうな悲鳴の理由にしてはあまりにも足りないものがあると思われるのだが。
わはははは。それでも何の問題もなく、全員にあっさりと納得されてしまうのが彼女の人徳、じゃ
なくて日頃の行い故か。日常パートと非日常パートという違いはあれど、↑のスターダストさんズ
まひろとのギャップが楽しく可愛い。こちらのまひろの、非日常パートでの活躍ぶりや如何に?
40作者の都合により名無しです:2008/12/09(火) 19:57:23 ID:ZoS3OG1p0
さいさん復活されて嬉しいです
色々と大変でしょうが、これからも楽しいセラスとまひろのコンビを見せて下さい
奥様をお大事に。
41女か虎か:2008/12/09(火) 21:51:44 ID:8fcBaPOL0
5: MASTER OF PUPPETS


 刑事の捜査の基本中の基本、それは地べたを這いずり回ることだ。
 物的証拠の八割は足元にある。埃にまみれることを厭わずに、匂いを追う猟犬になったつもりで
辺りを探れ。一見どんなつまらないものであっても、状況を指し示す材料であるには違いない。
一つ余さず拾い上げ、事件当時の状況の全体像を描いていけ。
 以前コンビを組んでいた男の教えだった。捜査のイロハを教えてくれた師匠のような存在。日ごろは
暖かく時に厳しい、非の打ち所のない上司だった。職務の裏で何人もの民間人を殺害し、遺族の表情を
見て愉しんでいたことを除いては。
 かつて男に抱いていた尊敬や信頼は、もはやどこにも残っていない。ただ新米の頃その男が教えてくれた
ことだけは、理屈を通り越し本能となって今も笹塚の中に息づいている。
 ペンライトを口に咥えアパートの床に手をついた笹塚は、他の調度品同様血に塗れたソファの下を覗き込んだ。
 証拠集めは既に、鑑識課の人間が一通り行っている。メディアにはまだ公表していない事実だが、現場からは
動物のものとみられる足跡と毛が、遺体の傷口からは唾液が大量に検出され、人為的な犯行ではなくどこからか
逃げ出した猛獣によるものという見方が捜査本部では強まりつつある。
 だが笹塚は不安を拭えずにいた。
 明確な理由は特にない。ただ、まぶたの裏にくっきりと焼きついたある光景が、つい十数時間前ここで
くりひろげられた惨劇にオーバーラップする。
 この事件は長引くのではないだろうか。
 かつて彼自身が巻き込まれたあの事件のように――
「先輩」
 声に笹塚は振り返る。
「ああ。お前か等々力」
42女か虎か:2008/12/09(火) 21:52:18 ID:8fcBaPOL0
 面と向かっては『真面目でよろしい』と賞賛され、影では『お固くってねえ』とこぼされもするキリリとした
顔つき。警察学校出たての姿勢のよさで、後輩の等々力志津香が敬礼していた。
 笹塚の班ではない。事件の規模の大きさを鑑みて送り込まれた増援だ。
「思ってたより平気そうだな。石垣なんて便所でゲーゲー吐いてたが。鑑識の連中にも、気分が悪くなった
 奴が何人かいるって話だし」
「それは確かに気分のいいものではないですけど」
 敬礼の腕を下ろし首を振る等々力。
「現場の人間が取り乱せば、それだけ捜査の進みが遅れるでしょう? そうこうしている間に次の犠牲者が
 出るかもしれません」
「そいつは頼もしいな」
 スーツの膝についた埃を払いながら、笹塚は立ち上がった。 
「だが無理はすんなよ。適当なところで休憩入れてコーヒーでも飲んでこい。石垣みたいなのもどうかと
 思うが、逆に気を張りすぎたってロクなことはねーよ」
「はい。ありがとうございます」
 一見何事もないふうを装ってはいるが、よく観察してみるとその顔は血の気が引いたように青白い。
 無理をしているのは明白だった。
 かつては荒々しかったサイの犯行もめっきり大人しくなった今、これほど凄惨な現場は警視庁管内は
おろか、全国含めても年に一度あるかないかだ。新人のうちにこんな事件に遭遇するのは、経験を積む
という意味では無論プラスだが、心理的には相当の負担に違いない。
「ところで笹塚先輩、例の体毛や唾液の分析結果が出たそうなんですが」
「ああ、やっと出たのか。思ったより時間がかかったな。どうだった?」
「はい……」
 正式な発表は捜査会議の場になるだろうが、こうした重要な情報を早めに得られるのはありがたい。
 しかし等々力はここで煮え切らない顔を見せた。常に意志を込めて輝く瞳が曇り、凛々しささえ漂う
吊り気味の眉毛は、困惑をにじませて大きくたわんだ。
「おい、どうした? 何か……」
「先輩」
 眉根を寄せたまま等々力が言った。
「こんなことって、本当にあり得るんでしょうか」
43女か虎か:2008/12/09(火) 21:52:53 ID:8fcBaPOL0


 明け方近くにアジトに戻ってきたアイは、帰りが遅くなったことをまず詫びた。
「密輸業者と話をつけてきました。≪我鬼≫の捕獲にこころよく協力してくださるそうです」
「そう。それは良かった」
 退屈しきったサイは自室のベッドで寝転がり、十八頭めの虎のぬいぐるみを解体し終えたところだった。
 ひきちぎられ床に転がる頭部に、猛獣の凶悪さは毛筋ほどもない。素っ頓狂なまでにデフォルメされた顔に、
とぼけた味の両目が二つ嵌めこまれている。ぴんと伸びた透明なヒゲだけが唯一、地上最強のネコ科動物の
面影だった。
 マットレスと床に散乱した綿に、アイは小さなため息をつく。普段ほとんど感情をたたえぬ瞳が、こんな
時ばかりは雄弁に語る。始末に負えないと。
「その連中を使うってあんたの判断は、俺も的確だと思うよ。情報の収集や操作には長けた連中みたいだし、
 何より≪我鬼≫に関して俺らが持ってない情報も持ってるはずだ。警察への根回しだけじゃ、今回の
 ケースはちょっと不安だからね」
 今回の仕事における最大の問題点は、ターゲットの位置の捕捉だった。
 アムール虎の行動圏は広く、雄なら千平方キロメートルに達することもある。ましてや普通の虎を
遥かにしのぐ身体能力を持つ≪我鬼≫のこと、これを大幅に超える長距離でも平気で行き来してしまう
可能性すらあった。
 サイの能力は、姿を変えての潜入や大規模な殺人、破壊に特化しているが、こうした広範囲の捜索には
向いていない。できる限りの手段は講じておいたほうがいい。
 ビリッと、生地が音を立てる。十九頭めの虎のぬいぐるみが、胴体を両断されてこの世に別れを告げる。
「……面白い男でした」
「? 誰が?」
「早坂久宜。『笑顔』は二人の兄弟により経営されていますが、その兄の方です」
 淡々と、アイ。
「一貫したポリシー、それに反する者への容赦のなさ。純粋に創業以来の経営者としての実績だけを見ても、
 抜きん出ているのは明らかです。あなたの正体を知る一助になるかもしれません」
「ふうん。珍しいね、あんたが誰かを誉めるなんて。自分にも他人にもやたらめったら点の辛いあんたが」
 引きずり出した綿を床に撒き散らしながら、サイは鼻を鳴らした。
 アイ。ありとあらゆる世界中の知識と、超一級の破壊工作技術を身につけた女。最高の資質を最高の教育により、
この上なく見事に花開かせた女。たいがいのことは涼しい顔でこなしてしまえる。
44女か虎か:2008/12/09(火) 21:53:35 ID:8fcBaPOL0
 一見無愛想に見えるし実際愛想は全くないが、それでも他者と比較して己の優秀さを自覚する程度の
社会性はある。にも関わらず決して現状に満足せず、常に百パーセント以上の結果を求める向上心も
備えている。この女から見れば世の中の人間は、その九割九分九厘までが、愚かで鈍いうえに日々の
精進まで怠っている下等な生き物に見えるはずだ。そのアイが評価するほどの男。
 サイの唇の端が持ち上がった。
「そう。あんたがそこまで言うならその男の中身も見てみようか。虎を箱に詰めたあとでゆっくりとね」
「はい」
 黄と黒の縞々ということ以外原形をとどめなくなったぬいぐるみを、サイはあっさり床に放り捨てる。
 そのまま二十頭めに手を伸ばそうとして、ふと何かに気づいたように眉根を寄せた。
 寝そべっていたベッドから上半身を起こす。
「――アイ」
「はい」
「服を脱いで」
 従者が目をしばたかせた。
「は……」
「服を脱げ、って言ってるんだよ。聞こえないの?」
 理解できないという顔で、しかしアイは素直にハイネックの襟に手を伸ばした。
 小さなボタンがひとつひとつ外される。厚手の長袖の下から現れたのは、意外にも可愛らしいノースリーブ。
 なめらかな肌に、薄手の黒い生地がよく映えている。
「それも脱いで。スカートはいいから」
 衣擦れとともに従者は生まれたままの姿に近づいていく。
 ノースリーブの下に、アイは下着をつけていなかった。
 代わりに左二の腕と肩口から脇腹にかけての二箇所に、白い包帯が巻かれていた。
「それも取って」
 無感動に命じるサイ。
 繊細な指先がわずかに戸惑った。だがそれも二秒ばかりのわずかな時間で、ほどなくシュルリと音を
立てて包帯は解かれた。
 まだ若い、それでいて充分に成熟した女の体。
 雌鹿を思わせる肢体に、やわらかな曲線を描くのは豊かな乳房。腹部は鍛え上げられた筋肉を、
ひっそりと内側に秘めてきゅっと引き締まっている。生唾を飲むような官能――というよりは、
完成された彫刻の美しさに近い。
 その美しい体に真新しい傷跡が、肌を這う醜悪な蛇のように刻まれていた。
45女か虎か:2008/12/09(火) 21:54:40 ID:8fcBaPOL0
「これはどうしたの?」
 抑えた声でサイが尋ねた。無慈悲なまでの冷静さがそこにあった。
「話し合いの際、少々コミュニケーションの行き違いがありまして」
「つけたのは誰? あんたが今言った兄貴の方?」
「二の腕は兄に。胸の傷は弟の方です。暗器使いというデータはあったのですが……不覚を取りました」
 ふうん、とサイは鼻を鳴らす。
 指の先だけで、もっと近くに来いと手招きした。腰から下を除けば生まれたままの姿のアイは、羞じらいを
見せることもなくそれに従った。
 刻まれて間もない傷にサイの手が伸びる。二次性徴前の細い指が、白い乳房から腹にかけてすうっと
なぞっていく。
 傷は縫い合わされたばかりだった。裂けて血をこぼす肉ほど痛々しくはなかったが、縫い目の跡の
くっきりと残るその様には、パックリ開いた傷口とは別種の生々しさがあった。
「……っ」
 無遠慮な手つきに痛みを覚えたのか、アイが小さく息を吐いた。労わりともねぎらいとも程遠い、
反応を探るような撫ぜ方だった。
「結構、深いね」
「はい」
「完治までどれくらい?」
「二の腕は二週間、胸は一月もあれば塞がるかと。跡まで消すとなると年単位の時間を要しますが」
「へぇ」
 サイの指の腹が、縫合の痕跡をくりかえしなぞった。
 アイは目を閉じ、されるがまま主人の気まぐれに耐えている。よけいな口をはさまなければほどなく
終わる。黙って堪えるのが上策と、彼の従者としての長年の経験で悟っているのだ。
 だが、そのアイにも予想できないことはあった。
 小さく切り揃えられていたサイの爪が、突如獣の爪の鋭さを帯びた。蛍光灯の光を一瞬照り返したと
思うと、今の今までなぞっていたアイの素肌に力強く食い込んだ。
 血の玉がルビーのように浮かび上がった。
 爪による傷は、肌に這う肉色の蛇を引きちぎろうとするかのように、乳房とみぞおちの境に深く刻み込まれていた。
「んっ……」
 予期しなかった痛みにアイが小さく呻く。
 サイは意に介さず、指先に付着した彼女の血を舌で舐め取った。
46女か虎か:2008/12/09(火) 22:00:51 ID:8fcBaPOL0
「ようやく俺の正体のヒントが掴めるかもしれないって大事なときに、こんな傷つけて帰ってくるなんて
 どういう了見なの?」
「申し訳ありません」
「謝って済んだら警察と裁判所はいらないんだよ」
 指に絡む血の最後の一滴をサイは啜り、たった今舐めたその指先で従者を指す。
「アイ、俺があんたにずっと前から頼んでること覚えてる?」
 アイは剥き出しの胸を脱いだ上着でそっと覆い、しかし視線は逸らさぬまま主人の問いに答えた。
「私を殺して、箱に詰めて、中身をご覧になりたいのでしょう」
「正解」
 にこり、とサイは微笑んだ。見た目相応の邪気のない笑顔だった。
「あんたの体はあんただけのものじゃない。いずれ俺がバラバラのグチョグチョにする予定なんだから。
 勝手に怪我したり殺されたりなんて、そんなの許さないよ」
「………………」
「返事は?」
 長いまつげがゆっくりと上下した。
 夜の色をした瞳。その奥に何が秘められているかはサイにも見えない。幼い頃から受けてきた工作員としての
訓練は、この女から自己主張のすべと意思を根こそぎ奪い去ってしまった。
 しかし主張すべき『自分』を持っていないわけで決してはない。
 この黒曜の瞳の奥底には、サイが暴きたいと願っている彼女の中身がある。
「……かしこまりました」
 やや間を置いて帰ってきた返事に、ようやくサイは満足した。
 腕と背中をいっぱいに伸ばし、まるで関係のない話題を口にする。
「今、何時?」
「五時半です。あと二十分ほどで朝日が昇るかと」
「えーまだそんな時間? まあいいや、腹減ってるから朝メシにしてよ。和食がいいな、卵かけご飯が」
「はい」
「蛭と葛西はどうしてる? 腹が膨れたらブリーフィング始めるから、もし寝てるようなら叩き起こしといて」
「かしこまりました」
 まばゆいほどに白い背を見せてアイは一礼した。それから慎重に言葉を選びつつ、服を身につけて
いいか質問した。
47女か虎か:2008/12/09(火) 22:02:51 ID:8fcBaPOL0


 高いびきをかいていた葛西を、アイは布団ごとベッドから引き剥がしてサイの元へと引っ張ってきた。
 普段ならまだ夢の中にいる時間なのだろう。放火魔は目ヤニのこびりついた目元をこすりつつ、
生あくびを必死にこらえている。
「朝食はご入り用ですか」
「あー……いや。今は要らねえよ」
 アイに茶碗を示され、一瞬迷ったかに見えた葛西だったが、結局は帽子の乗った頭を力なく横に振った。
「朝メシ食べないと力が出ないよ葛西。いいのスタミナ切れて虎に頭からバリバリ食われても?」
「いえ、何つうか……あなたの食いっぷり見てるだけで腹ぁいっぱいになりそうなんで……」
 げっそりと呻く葛西の視線の先で、サイは卵をからめた米飯を頬張った。
 卵かけご飯。良質なタンパク質と炭水化物が、睡眠により鈍化したエネルギー燃焼効率を高めてくれる。
日本の朝食としてはきわめてオーソドックスなメニューだ。
 だがサイの食べ方はオーソドックスとは程遠かった。
 左腕に抱え込むのは炊飯器。それも最高で十合まで炊ける大型のもの。ふっくらと炊き上がった大量の
白米には、それに見合うだけの量の生卵が絡まっている。真珠のような艶に鮮やかな黄、実に食欲をそそる
光景だ。その恐ろしいまでの量さえ無視できるなら。
 テーブルの上には、人間の頭蓋骨ほどの白い物体が、無残に割り砕かれ中の空洞を晒している。それが
ダチョウの卵の殻だと気づくのは、起き抜けでぼやけた葛西の頭でもそう難しくはなかったようだった。
「せめて茶碗によそって食いましょうぜ」
「やだよ面倒くさい。どうせ同じ量食うんなら直接かっこんだ方が早いじゃん。それに俺、ダチョウの卵って
 一回食ってみたかったんだよね」
 卵黄とは、それ自体がひとつの巨大な細胞だ。つまり地上最大の卵の黄味とは、即ち地上最大の細胞ということになる。
 炊飯器のへりに直接口をつけ、醤油とほどよく混ざった卵をサイは啜った。ずずっという品のない音。
「ニワトリよりちょっと水っぽい味だけど、わりといけるよ。葛西も食ってみればいいのに」
「結構です、俺ぁブロイラーで充分です、うっぷ、卵の匂いが……うえぇ」
 顔をしかめると、皺の寄った面立ちになお皺が寄った。葛西は身震いをひとつすると、少しでも卵臭さを
払おうとするかのように鼻の下を指でこすった。
 ジャケットのポケットに手を伸ばし、愛飲のジョーカーを引っ張り出す。しかしシガーマッチで火を
つけようとしたところで、アイの繊細な手が伸びてきた。やんわりと、しかし有無を言わせぬ口調で、
『食事中はご遠慮願います』と一言。煙草は奪われ、葛西はむせかえりそうな生卵の匂いに丸腰で耐えなければ
ならなくなった。
48女か虎か:2008/12/09(火) 22:04:12 ID:8fcBaPOL0
「前にお会いしたときは、そんなには食ってなかったと思うんですが……いつの間に大食漢になったんです?
 どっかの女子高生探偵のリスペクトですか?」
「食い意地が張ってるだけのあの子と一緒にしないでよ。細胞の変異を調整するためにはエネルギーが
 要るんだよ。特に体のパーツを再生させたり新しく作ったりするには、大量のタンパク質が不可欠だし。
 今回みたいに使いまくるのが予想できるときには、事前に食えるだけ食っておくことにしてるんだ」
 炊飯器をほぼ垂直に傾け中身をかき込む合間に、サイが答えた。
「魔法みたいに無から作り出してるわけじゃないからね。理屈はちょっと違うけど、イメージ的には
 筋トレに近いかも。いくら激しくやっても食ってなければ効果なんて出ないでしょ。筋肉作ろうにも
 その元になる材料がないんだから」
「はあ、なるほど」
 消費エネルギーが摂取エネルギーをオーバーすれば、ガス欠を起こす。一般人でもしばらくの間は
飲まず食わずで動けるのと同様、即行動不能に陥るわけではないが、それでもどうしても無理は出る。
自分の体組織を分解してエネルギーに強制変換しなければならないからだ。
 それすら不可能になったとき、サイの変異は打ち止めとなる。
 特殊な細胞も万能ではない。超常の力なりに人体の法則に縛られている。サイが紛れもなく地上の
生き物である証左だろう。


「アイ、ちょっと相談したいことが……あ、おはようございますサイ」
 和やかとは程遠い朝食の場に割り込んできたのは、蛭だった。
 葛西と違いこちらは一睡もせず、無菌室にこもって細胞の解析を続けていたらしい。精密作業を通しで
続けたとき特有の、痙攣に近い疲労が顔の上半分に滲んでいる。
 無菌衣はさすがに脱いでいた。清潔そうな白いシャツにジーンズという学生然とした服装だ。
「律儀だね蛭。徹夜でやれとまでは言わなかったと思うけど」
「ええ、少し気になることがあって」
 首肯した蛭は、主人の脇に控えたアイへと視線を投げた。
 サイの口の周りを汚す卵液を、いつも通りの事務的な手つきで拭うアイ。『おかわり』と突き出された
空の炊飯ジャーを受け取り、あらかじめ炊いてあった二つ目の蓋を開けて代わりに渡す。
 ダチョウの卵も二個目が手渡された。受け取った特大の卵をサイは嬉しげに両手に抱え込み、しかし
蛭の言葉にふと我に返ったように首をかしげてみせた。
49女か虎か:2008/12/09(火) 22:06:29 ID:8fcBaPOL0
「気になること?」
「あ、いや。今はいいんです。また後でゆっくりアイと話します」
 葛西をちらりと眺めやってから、蛭は首を横に振る。
 意味ありげに向けられすぐ逸らされた目に、葛西は苦笑とも嘲笑ともつかぬ笑みを口元に浮かべた。
「随分と嫌われてる様子だが、俺と肩並べて仕事すんのがそんなに嫌かい、坊主」
「坊主じゃない、蛭だ」
「失敬。まあ心配すんな。お前の役目は後方支援、サイと一緒に虎退治担当の俺と直接絡むことは少ねえだろうよ。
 あるとしたって間にこの女を介してだろうさ」
 と、葛西はアイを指す。
 会話も食事も男性陣に任せ、自身は慎ましく沈黙していた彼女は、無感動な目で冷たく男を撫でた。
 氷片のようなその目つきは、しかし喩えようもなく美しかった。
 口笛を吹く葛西。
「いいねぇアイ、その目。ゾクゾクすんな。お前はそういう顔してるときが一番べっぴんだぜ」
 蛭のこめかみに青筋が浮く。
「サイは真面目にやってるんだ、真面目にやれよ。ふざけた態度で臨んだら――」
「俺は別にいいよ? ふざけた態度でも」
 ばきゃっ、と何かが壊れる響きに、蛭と葛西は主人を振り向いた。
 薔薇色の頬には無邪気な笑くぼ。整然と並んだ皓歯は真珠めいて白く輝き、少年の顔に華やかさを
添えている。何ひとつとして普段と変わりはない。
 変化はその手に抱えられた卵の方に現れた。
 サイズに比例して厚い殻に守られた、大型鳥類の有精卵。一般人なら金槌でも使わなければ、
とても割ることはできない代物。素手で砕くには、それこそ人間の骨格を一撃で粉砕するほどの力が必要だろう。
 その固く分厚い卵の殻に、放射状のヒビが入っていた。
 とろりとした白身が内側からにじみ、細い糸を引いてきらめきながらしたたり落ちていく。
 口をつぐんだ部下たちの顔を見渡し、怪物の強盗は宣言した。
「結果さえちゃんと出してくれるんならね。――さ、内輪のいがみ合いはこの辺にしてそろそろ始めようか。
 虎退治の作戦会議を」
50女か虎か:2008/12/09(火) 22:07:40 ID:8fcBaPOL0


「今回のターゲットの突出した身体能力については、事前にご説明した通りですが」
 淀みのない口調で口を切ったのは、アイだった。
 目の前にはノートパソコン。市販品ではなく彼女が一から部品を集め組み上げたもの。照明を落とし、
カーテンを引いて闇に閉ざした部屋の中で、ほっそりとした顔に青白い光を落としている。
 しなやかな指がキーボードの上を躍ると、暗いアジトの壁一面に画像が映った。
 壁に新たに映し出されたのは、先日サイが≪我鬼≫を逃した東京湾を中心とする地図である。
 アイの親指がスペースキーを叩くと、地図上に赤い光が点々と灯っていく。
「判明している限りの、≪我鬼≫が出現したと思われる地点です。現時点では世間に発表されていないものも
 含まれています」
 サイが≪我鬼≫を捕らえんとし失敗したのは、東京港沖数十キロの地点。そこから港区のマンション、
○○区の住宅街と、徐々に首都中心部近くへと食い込んでいく。
「これほど各所で大規模な殺戮を行っているにも関わらず、その姿は一度として目撃されていません。
 細胞変異の能力を活用しているとも考えられます。何にしろ、身を隠して行動するだけの知能は
 あるものと考えるべきでしょう」
 頬杖をついていたサイがぴんと背筋を伸ばした。その双眸は滅多に見られない真剣さを帯びていた。
「それって、俺と同じく変身能力があるかもしれないってこと?」
「可能性としてありえるという程度のことです。先日入手した細胞の解析を終えるにはまだ時間がかかりますし、
 今の時点で断定はできません。それに、たとえ能力的に可能であったとしても、それを使いこなすことが
 できるかどうかはまた別次元の問題ですから。ただ確実に言い切れることが現時点で一つ」
 珍しくアイはいったん言葉を切った。
 スペースキーがまた押される。カタという音とともに映像が切り替わる。折れ線グラフだ。
「≪我鬼≫は……少なくとも再生能力に関しては、サイ、あなたをわずかに凌いでいます」
「!」
 サイの表情が硬くなる。
「常に全身で進行している突然変異。その方向を任意に調整するという意味では、再生も変身もメカニズムは
 共通です。とすれば、再生能力においてあなたを凌ぐ≪我鬼≫は、同様に、変身能力においてもあなたに
 匹敵するかそれ以上である可能性が高い」
51女か虎か:2008/12/09(火) 22:09:29 ID:8fcBaPOL0
 広大な範囲を捜索し、巧妙に隠れたたった一頭の獣を見つけ出すこと。口で言うのは容易だが、これが
どれだけ困難であることか。しかも変身まで可能だとすれば、捜索という行為自体がほとんど無意味になって
しまうおそれさえある。
「しくじったな。やっぱりあの場で中身見ておくべきだった」
 親指の先にサイは歯を立てる。爪の先の肉は無残に潰れ、傷口から赤黒い血が溢れた。
 感覚の鋭い指先には痛点が集中している。常人なら悶絶必至の激痛が走るが、お構いなしにサイは幾度も
指を噛む。どんどん親指は原形から離れ、口の周りが血で汚れていく。
「終わったことを嘆いたところで、それで何か変わるわけでもねえでしょうよ」
 鼻を鳴らしたのは葛西だった。
「逃がしちまった、ここまではもう仕方ねえ。それはそれとして考えるべきなのはこの先のことでしょう?」
 アイから取り返した煙草を旨そうに吸いながら、一言。
 テーブルに頬杖をついたまま、サイが軽く片眉をはね上げる。
 しかし彼が言葉を紡ぐより、蛭がきつい目で睨むほうが早かった。
「そんな幼稚園児にでも言うようなこと、サイはとっくに分かってるよ。サイって人間をろくに理解しても
 いないくせに知ったような口叩くなよ、新参者の分際で」
 負の感情を隠しもしない黒い瞳を、葛西は紫煙をくゆらせながら見やった。血気盛んな若者を前にした表情は、
どこか愉しげですらあった。
「ほお? その口ぶりだと、まるでお前は理解してるってふうに聞こえるが」
「……少なくとも、あんたに比べれば分かってる部類だろうさ」
 青年の上唇と下唇、その隙間から白い歯が覗いた。歯列矯正が一般的でないこの国の男性としては
珍しい、整った歯並び。だが敵意をあらわに歯を剥き出すと、その犬歯の先は意外にも鋭い。狼や野犬と
いうよりは、狐やハイエナを思わせる尖り方だ。
 しかし葛西は臆した様子もなく、ただ肩をすくめただけだった。
「名前も出自も、性別だってろくすっぽ分かっちゃいねえんだ。そんな相手に、軽々しく『理解』だなんて
 言葉使うこと自体ちゃんちゃらおかしいと、俺ぁ思うがねえ。だいたい脳細胞だってどんどん変異して
 くんだから、性格や考え方だって一定じゃあねえだろう。勝手に分かったつもりになってるだけじゃねえのか?」
「っ!」
 蛭の凡庸な顔に動揺が走る。
 尖った犬歯が唇に突き刺さった。
52女か虎か:2008/12/09(火) 22:11:59 ID:8fcBaPOL0
「確かに変異はしてるけど、変わらない芯だってちゃんと持ってる。出逢って一月かそこらのあんたに
 何が分かるって言うんだよ」
「火火火、さぁな。何ひとつ分かっちゃいねえかもしれねえし、ひょっとするとお前が一生『理解』なんて
 できっこねえこと知ってたりするかもしれねえぜ?」
「…………っ、言わせておけば」
 殺人鬼と放火魔の争いに、サイは深々とため息をつく。いちいち割り込むのは面倒だったし、それ以上に
馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
 含みを込めてアイを見た。聡明な従者が彼の意図を汲み取るには、そのたった一瞥で充分だった。
「お二人とも、大変興味深い話題ではありますが――今はブリーフィングの最中です。お静かに」
 凛冽とした声が二人を遮る。
 何の感情も乗せていないにも関わらず、聞く者の耳をとらえずにはいられない響き。
 中年の顔と青年の顔が、いっせいに彼女を向いた。注意を自分に引きつけたところで、ここぞとばかりに
アイは畳み掛けた。
「蛭。あなたはもう少し落ち着きを持ってください。サイを崇拝するのは大いに結構ですが、
 憧れに振り回されて周りが見えなくなるようでは困ります」
「………………」
 不本意そうに黙り込む蛭。
「それから葛西」
 声音にひそむ寒気がいっそう厳しさを帯びた。
「ずいぶんと、掻き回すのがお好きなようですね」
「悪ぃ悪ぃ。すぐ熱くなって火がつく若造ってのは見てて面白えもんでよ」
「いえ、謝る必要などありません。あなたは既に精神的に成熟した人間であり、同時に完成された
 犯罪者でもある。私どもが横から口を挟んだところで、今更何かが変えられるわけでもないでしょう。
 振る舞いも発言もどうぞご自由に。ですが」
 肩をすくめる葛西に、あくまで冷徹にアイは告げた。
「そんなあなたをこちらがどう評価するか、それはこちらの『自由』だということだけは、
 心に留めておいていただきましょう」
 すぅ、っと、帽子の鍔に隠れた三白眼が細くなる。火火火、という声が唇から漏れる。
「ご忠告どうも。以降気をつけるよ」
「いえ。こちらこそ差し出がましいことを申しました」
 一見ごく穏やかに締めくくられる対話。
 だが人物観察に長けたサイの目には、全く違う光景が見えていた。
53女か虎か:2008/12/09(火) 22:14:08 ID:8fcBaPOL0
 ――女狐め。
 葛西の双眸に炎が灯る。

 ――狸が。
 アイの無表情に、ミクロン単位の強張りがちらつく。

 やれやれとサイは内心息をつく。
 部下をまとめて従わせるとは、何と面倒であることか。

「話が逸れてしまいましたね。続けましょう」
 硬化した空気を振り払うように、アイが告げた。
「……複数のルートから捕捉を試みてはいますが、やはり目撃情報が一切ない現状、不安は拭えません。
 手を回した各方面とはまた別に、こちらでも捜索を行います」
 人海戦術を得意とする国家権力には、勿論それなりの強みがあるが、≪我鬼≫に関する前提情報の欠落は、
多かれ少なかれ捜査に遅延をもたらすことが予想される。あえてある程度の『エサ』を撒いて早期の捕捉を
うながすことも考えたが、あまりに情報を与えすぎるのも困り者だ。いざ虎を箱にしようという段で
横槍が入る事態は避けたかった。
 アイが昨晩会ってきた密輸業者の兄弟も含めて、社会の『裏』の方面でも数ルート確保しているが、
こちらもこちらで色々と限界はある。
 念には念を。いかなる事態においても保険をかけておくことは忘れない。この女のこうした慎重さは、
何かにつけて粗雑なサイとは好対称をなしていた。
「捜索って、具体的にはどうやんの?」
「ここに至るまでの≪我鬼≫の行動パターンを分析し、それに事前の調査で入手した情報、更には
 『笑顔』の早坂久宜から得られた情報を加味して、≪我鬼≫が向かう可能性が高いと思われる場所を
 集中的に洗っていきます。たとえば」
 スペースキーを押すアイの指。
 壁に映し出された巨大な地図。そこに点滅する赤い点に、濃いブルーの色彩が十数個加わった。
「河や貯水池、プールなど、一定水量以上の水場をピックアップしたものです。なお基準とした水量は――」
「細かい数字はどうでもいいからパス。それより何で水場?」
 言葉を中途で遮られても、不快な様子ひとつ見せずアイは答えた。
54作者の都合により名無しです:2008/12/09(火) 22:14:15 ID:5bBSIZ7I0
支援しとこう
55女か虎か:2008/12/09(火) 22:15:15 ID:8fcBaPOL0
「アムール虎は一般的には水を好む習性があると言われています。泳ぎも達者ですし、水中でも
 狩りを行います。そもそもこの亜種の名前自体、アムール川流域に棲息することからつけられた
 ものですから」
「……ふうん?」
「≪我鬼≫はあらゆる意味で一般的なアムール虎の枠をはみ出た個体です。何から何までこの亜種の
 習性が当てはまるわけではないでしょう。ですが、分析のさい一要素として加味する分には充分に
 有用かと。現に今までの≪我鬼≫の出現ポイントから半径三キロメートル圏内には、必ず大量の水が
 存在しています」
 赤い光の傍らに、伴侶のように寄り添う青い点。
 偶然と一笑にふすのは簡単である。だが、それがどんなものであろうと、僅かでも可能性があるなら
手段を問わず迷わず求めるのがアイという女だ。
「もちろん、これだけでは漠然としすぎていますが……他に判明している要素を加えて絞り込んでいけば、
 出現可能性の高いポイントを割り出すことは不可能ではないでしょう」
 へえ、と声を上げてサイは腕を組んだ。
 決して派手ではないが、地道で精密なアイの分析。これに警察による数にものを言わせた捜査と、
社会の裏を這いずり回る者たちの違法な情報の力を合わせれば、超常の力を持つあの虎の捜索も、
決して難しくはないに違いない。
「いいねいいね、だんだんテンション上がってきたよ。やっぱり俺あんたの中身が見たいな」
「お褒めいただき恐縮の至りですが、それはあなたの正体が見つかってからです」
 どさくさに紛れて伸びてきたサイの手を、アイは礼を失しないぎりぎりの冷淡さで振り払った。
 サイは幼児のようにむくれ、椅子に腰かけたまま両手足をばたつかせる。葛西が注ぐ迷惑そうな
視線も気にせず、テーブルを叩き床を蹴って見たい見たい見たいと繰り返す。

「………………」
 作戦会議という雰囲気からは程遠くなった場で、蛭だけが一人眉をひそめていた。
 広い眉間には、戸惑いを示す深い皺が寄っていた。
56電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/09(火) 22:17:02 ID:8fcBaPOL0
今回の投下は以上です。
なおこのSSではサイの細胞変異の能力に勝手に制限をつけていますが、
ネウロキアンの皆様なら当然知っての通り原作ではあまりその辺言及されておらず超アバウトです。
そしてアイが脱いでいるのは私の趣味です。

今週のジャンプで火火火のおじさんが凄いことになりました。
でも美味しいとこさらってくことに定向進化したあの中年男のこと、きっと次週あたりで
「……何故あっさり自爆をしたのかわかるか?
 俺には確実に、おまえら全員より長生きする自信があるからだ!!」
と言ってくれます。そうに決まっています。そうだと言ってよワカメ。


>サナダムシさん
ようやく追いつきました。リアルタイムで感想を差し上げられるこの嬉しさよ。
この作品のキャラクターたちはその多くが変人だったりヘタレていたりしますが、
しかしそれでいてちゃんと「漢」の部分も持ち合わせていて本当に愛しいです。
烈とゲバルに魅せられつつ、シコルスキー好きとしては彼の反撃に期待せずにはいられません。

>スターダストさん
戦士には心の支えが必要ですよね。とりわけ何かを守るために戦う戦士には。
まひろはいい子だなあ。ぽにゃーんとした普段の表情とは裏腹に、ちゃんと色々考えているんですね。
実はまひろ、原作では私にとってはあまり印象に残らない女の子でした(好みの問題なんですけど)
それだけにこうやってSSで掘り下げられているのを見るのは興味深いです。
あと十年、いや五年もすればいい女になるかも。
「まっぴー」と呼ぶ秋水はぜひ見たかっただけに残念。
57作者の都合により名無しです:2008/12/09(火) 22:36:08 ID:2dKC9mHj0
電車魚さん乙です!新スレになっても好調さは変わりませんね
アイとサイのやり取りもちょっとエロティックでいいですが
葛西とアイの水面下の鍔迫り合いもいいですね。
あと、個人的に等々力が活躍しそうなのも嬉しいな。
58電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/09(火) 23:33:58 ID:8fcBaPOL0
規制なんてこの世から消え去ればいいのに。
最後の一レスだけ切れて失礼しました。

>サマサさん
あやまれオリオン城之内! 世の全ての二十歳以上の女にあやまれー!
レオンティウスは想像以上にウホな人だった。城之内逃げてー超逃げてー。
スタイル抜群の絶世の美女に追い掛け回されて鬱陶しがるなんて、絞め殺されてもおかしくありませんよね、ほんと。
アレクサンドラ女王にはほんとに頑張って欲しいです。登場シーン観た限り好みのタイプだし。
関係ないですが「女傑族」と聞くとらんま1/2のシャンプーが浮かびます。

>さいさん
DUSK、つい最近読んで面白いなあ続き読みたいなあと思っていたところだったので、
タイムリーなご復活に狂喜しました。
まひろもセラスも実にほのぼのと生活してますが、キャラハンの言葉を踏まえると、
この幸せもそう遠くない未来壊れてしまうのでしょうか。いやいやそんなことはない、
この二人なら絶望を踏み越えて明るい明日を手に入れられるものと信じてます。
余談ですが私はこの作品のパラレルワールドな世界観が大好きです。
『THE BOONDOCK SAINTS』の4とか本気でぞくぞくしました。いいわぁこういうの。

>>54さん
支援ありがとうございます。
適当なところで切りゃーいいものをなかなかそれができない割り切りの悪い性分なもので、
毎回毎回少年漫画板の厳しい規制とエンカウントバトるはめに陥ってる気がします。
また投下に遭遇されたら、気が向いたらで構いませんので支援してやってくださいませ。

>>57さん
う、うーん、等々力は……すいませんあまり出て来ないです。石垣も同様。
好きなキャラなので一度ちゃんと書いてみたいという気持ちはあるんですけどね。
葛西とアイはどっちが強かったんでしょうね。13巻見る限り原作でも腹の探りあいしてたようですが。
「長生きしたいんですよ」まではなんだかんだでアイ>葛西だと思ってたんですが、
最近の葛西の隠れ大物っぷりを見るに葛西>アイって気もしてきました。
一方で「凌辱タイムのスタートだ!」にツッコめるのはアイくらいしかいないような気もしたりして、うーんよく分かりません。
59作者の都合により名無しです:2008/12/10(水) 00:12:31 ID:hVZqPWdo0
力作ですなw
ちょっと読んでて目が辛くなってきたw
でも面白かったです。

アイとサイのコンビ、何を考えてるのかわからない葛西と蛭たちが
無敵の我鬼を奇襲を仕掛けて狩るんでしょうか?

つまりトラ、トラ、トラ・・すいません
60永遠の扉:2008/12/10(水) 06:08:08 ID:QVDvw2tf0
第089話 「それではしばし、ごきげんよう」

「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」

 時系列不明。
 坂口照星に振りかかった一つの出来事をここに記す。

 まず目覚めた彼の眼前に一人の女性が居たという所からそれは始まった。
 年の頃は20前後だろうか。肢体は細く優雅に椅子へ腰かけている。
 彼女は照星の覚醒を認めると白磁のティーカップから口を離し、静かな笑顔で今一度問い
かけた。傍らのテーブルにはソーサーがあり、そこにカップがカチリと小気味よく乗った。

「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」

 その問いかけを照星が半ば無視したのは彼自身の置かれている状況にある。
 彼はシーツの匂いもまだ瑞々しいベッドに寝かされていたようだ。
 ただ不思議なコトに掛け布団は二枚あった。上にあるのはシーツを掛けられた薄手の羽毛
布団。だが下にあるのは……つまり照星に密着するよう敷かれているのは古びた毛布である。
 ひどく気だるい。熱が出ているようだ。毛布が熱く思えるのはせいか。
 熱に浮かされながらも彼の思考は少しずつまとまっていく。
(やはり……誘拐されたようです。一体どれだけの時間が経っているコトやら)
 ムーンフェイスを事情聴取するべく出向いた先で何者かの襲撃を受けた所までは覚えてい
る。いうまでもないが護衛の戦士が次々と倒されるのをただ見ていた照星ではない。
 錬金戦団最強の呼び名が高い身長57メートル、体重550トンの全身甲冑(フルプレートア
ーマー)の武装錬金を発動しようとした。
(しかしその瞬間──…)
 周囲の空間が歪んだ。
 切り取られた、というべきであろうか。光の直線が全身甲冑を取り囲むように何本も何本も
走り、やがて巨大な直方体を形成するや照星もバスターバロンも漆黒の空間に呑まれたので
ある。
61永遠の扉:2008/12/10(水) 06:10:27 ID:QVDvw2tf0
「まさかあれだけの巨体をいとも簡単に無力化するとは……。大戦士長ともあろう者がとんだ
不覚を取りました」
 照星は上体を起こすと悠然とサングラスのノーズパッドに手を当てた。
 頭痛がする。腰痛もする。外傷によらざる体調不良特有のズキズキとした痛みが全身へと
広がっているような感じがする。
「バスターバロンのコトでしたらできて当然ですわよ。ウィルのインフィニティホープは一都市
まるっと覆えちゃいますもん。まあ、引き込まれた後に30分ほど抵抗できただけでも大した物。
ウィルがあそこまで手を焼いているのを見たのは彼の初体験以来久々よん」
「そして私を連れ去った……という訳ですね」
 サングラスのレンズが割れているのに気づいた照星はやれやれと微苦笑を浮かべた。
「どうやら傷は治っているようですが、道中大分キミのお仲間にいたぶられたコトは覚えてい
ます。まさかこの年齢(トシ)になって躾けられる立場になるとは思ってもみませんでした」
 まずは現状把握を優先した照星は、ひび割れた眼鏡越しに周囲を見渡した。
 洋風の木造建築。まるでログハウスの内部のような造りだ。暖炉があり白いテーブルクロス
を掛けられた一本足の机があり、その横に謎めいた女性が座る椅子がある。
 ドアの横の衣服掛けには愛用のコートと帽子が掛けられているがどちらも破れてほつれ、と
ころどころに黒く変色した血がまだらを描いている。
(まったく、今の私を火渡が見たら喜ぶでしょうね)
 平素聞き分けのない部下達を鉄拳制裁している照星が、かかる目に遭うのも皮肉だろう。
 体に傷はないが、消耗によって高熱が出ているらしい。少なくても照星自身はそう解釈した。
「あなた相当のサドみたいですわね。フツーの殿方なら『ここはどこ? お前たちは誰だ?』
なぁーんて涙声で問うところですケド」
 質問を無視されたしかしさほど気分を害した様子ではなく、むしろ照星を気に入った様子で
ある。
「サドかどうかは分かりませんが、まがりなりにも戦団では戦闘部門の最高責任者ですからね。
ホムンクルスに拉致された程度で動じていては部下達に示しが付きません。大体、聞いたと
ころで部下達を殺した挙句に私をさらうような者たちが素直に答えるとは到底思えません」
62永遠の扉:2008/12/10(水) 06:12:27 ID:QVDvw2tf0
「おやん? ワタクシたちがホムンクルスだってどうしてご存じなのかしら? ひょっとしたらた
だの身代金目的の人間のテロリストかも知れませんわよ?」
「いいえ。それはありません。私は見ました。キミが片手に持った『何か』で私の部下達を軽々
と殴り殺していくのを。……流石の私でも火渡にああはできません。物理的にも精神的にも」
「ナルホド。物理的に強く精神的にエグいから断定しましたのね。ま、正解ですケド、呆気なさ
すぎてつまんないですわね。もっと焦らして焦らされるヨロコビを教えて差し上げたかったのに」
「それともう一つ。キミはただのホムンクルスではありませんね? 恐らくは調整体。それもDr.
バタフライが作ったような精度の低い物ではなく、複数の動植物の精神を制御できるタイプ。
100年前ならいざ知らず、今となっては文献でしかお目に掛かれない高度な調整体とみまし
たが……当たらずとも遠からずといったところでしょう」
 照星は初めて眼前の女性をじっと眺めた。
 うら若い外国の美女というところだろうか。
 肩の辺りで縦ロールにしたジンジャーの赤茶髪が印象的である。
 前髪はオールバック気味に跳ね上げ、白いヘアバンドで抑えている。良く見るとヘアバンドの
中央には赤い十字が、左端は黒い鞭のような飾りがそれぞれ付いている。
 それを除けば取り立てて奇矯な格好でもないところに照星は驚かされた。
 胸元が少し開いた黒いワイシャツの上に少々汚れの目立つ白衣を羽織り、灰色のタイトス
カートから覗くしなやかな足をストッキングで包んでいる所など、戦団の研究室を探せば一人
や二人はすぐにでも見つかりそうなファッションだ。靴も踵が太く低い黒革のプレーンパンプス
と実に飾り気がない。その癖彼女がきらめくような美貌を誇っているのは、生来の端正な顔つ
きにも拠るが、メイクの上手さがそれをより引き立たせているのだろう。化粧についてそこそこ
の造詣を持つ照星だからこそ不覚にも見とれかけた。そんな機微を察したのか女性は口紅で
赤くなった唇から象牙のように白い歯をくすくすと覗かせている。
 やがて吊りあがり気味で魅惑的なキツネ目がすぅっと笑みに細まった。
63永遠の扉:2008/12/10(水) 06:13:50 ID:QVDvw2tf0
「そう。ワタクシは調整体。人間を基盤(ベース)にゴリラとカモシカの能力を移植されたタイプ
ですのよ。何しろワタクシの武装錬金ときたらまるで戦闘に不向きですから、腕引き千切って
ひたすら力を込めてブン殴るぐらいしかできませんの。素手で殴るとお肌荒れちゃいますし」
「だから直接的な攻撃力を高めるために、ゴリラの腕力とカモシカの脚力を用いている……そ
ういう訳ですね?」
「ええ。ところでワタクシの名前ですけど」
 女性は足を組み替え、照星は沈黙を経て言葉を紡いだ。
「グレイズィング=メディック。……思い出しました。確かキミの名はグレイズィング」
「まあ。覚えていて下さったのね! 光栄だわ!」
 女性──いや、グレイズィングはわざとらしく胸の前で手を組むと、透き通るような笑みを浮」
かべた。
「キミの武装錬金は随分特殊でしたからね。戦団でも自動人形の講習の際には必ず引き合
いに出させて頂いてます。あれだけ嬲られた私がいまこうして無傷なのも例の特性のせい……。
しかし確かキミは10年前死んだ筈では?」
「ええ。『人間型ホムンクルス』としてはね。まあその辺りの事情は後でイオイソゴかサブマシン
ガンオタクの無口ちゃんから聞いて下さいまし。とにかくワタクシ、階級は以前変わらずマレフィッ
クビーナスで毎日権限をカサに殺りたい放題犯りたい放題ですの♪ 充実したリョナライフで
お肌つやつや頭蓋ぐにゃぐにゃ。んふふ」
「……マレフィック、ですか。『凶星』を意味する肩書が未だ健在であり、イオイソゴも生き延びて
いるとなれば、私を誘拐させた黒幕は『彼』とみていい訳ですね?」
「そのとーりですわよ。おかげ様で10年前に天王星と海王星と冥王星、それから月の担当が
いなくなっちゃいましたけど、大部分は残ってますの。ちょぉっとばかり面子は変わっちゃいま
したけど、一人でそこらの共同体ぐらい楽勝でブッ潰せる粒揃いなのも相変わらず」
「そしてそのマレフィック達に私をどうさせるつもりですか?」
 サングラスの奥で端正な瞳が細まるのを認めたグレイズィングはおどけた。
64永遠の扉:2008/12/10(水) 06:15:19 ID:QVDvw2tf0
「うふふ。安心して結構ですわよ? 何があろうとワタクシだけはあなたを治して差し上げます
から。だってぇ、これでも人間だった頃はちょっぴりHだけど優しく腕のいい女医さんでしたもん」
 グレイズィングは微笑しながら十数枚の写真をベッドの上にバラまいた。
「ま、戦団のお馬鹿さんたちがつまらないちょっかい出してくるまで限定でしたけど」
 照星の片眉が跳ね上がったのもむべなるかな。写真は酸鼻を極めている。
 顔面が陥没し目玉をどろりと流す戦士の死体。
 獣の爪で腹を抉られ、辛うじて皮一枚で上半身と下半身が繋がっている戦士の死体。
 腰を万力のような物でぐちゃぐちゃに潰れされた死体。
 明らかに毒物を注射されたとみえる疱瘡まみれの紫死体。
 その他ひどい物が5〜6体。
 いずれも照星を護衛していた戦士たちの成れの果てである。
「悪趣味ですね。復讐のつもりですか?」
「ノンノン♪ 単なる適応機制でしてよ」
 ぽっと桃色に染まった頬に両手を当てながら、グレイズィングは身をくねらせ始めた。
「ワタクシったら人を治してると壊したくなっちゃうんですもの! ああでもダメ! ワタクシはお
医者さん……! いけないのいけないの壊したりしちゃいけないの! なのに銅の腕を握り
締めた腕は動いちゃう。や、ダメ! そんなところ殴っちゃお脳が豆腐みたいにこぼれちゃう!
ダメ、ダメぇぇぇっ! とか葛藤して喘ぎ喘ぎ戦士さんブチ殺すのって実にふしだら。ワタクシっ
ていけない女医さん。ああ、いけない女医さんって響きもまた甘美でス・テ・キ。ん……ああっ」
 絹を裂くような甘い声が部屋に響き渡る中、照星は何も感じていないような表情で写真を一
か所にまとめ握りつぶした。
「で、でもワタクシ、マグロじゃありませんわよ! 感度の良さには定評ありますし拙くてもイケ
ますの! 演技とかしたコトありませんもん! どんな愛撫だって高まってあげるのが殿方へ
の礼儀だって信じてますもの! でしょ? でしょ? 真実の愛ってそういうモノでしょ!?」
「キミがそう信じたければ信じなさい。ただし私は決してキミが人を愛するコトは認めません」
「でででもワタクシ病気とか持ってませんわよ? そこはちゃんと毎週チェックして治してますの」
65永遠の扉:2008/12/10(水) 06:16:42 ID:X+qtlzeR0
 戸惑ったような申し訳なさそうな顔で弁解するグレイズィングである。
「…………」
 照星は黙り込んだ。もし火渡がこの場に居れば火炎同化でも何でもして即刻この場を立ち
去るかも知れない。普段優しげな表情は粛然と引き締まり恐ろしげな気配を漂わせている。
 気配を察した赤茶髪の元女医はぺろりと舌を出した。
「やーん。いいすぎちゃった。睦言もほどほどにしないと冷静気取りのウィルに怒られちゃう。
ちなみにウィルが上手いのは部屋のセッティングだけ☆ 生身のプレイは前→後→前の天丼
ばっかでつまんなーい♪ 親子丼やろうにもウィルは親ブチ殺してるから無理ですし。んふふ」
 ぱしっと小気味よい音を左拳に立てながら、グレイズィングは艶然と照星を見返した。
 彼の拳はグレイズィングの手中にある。つまり殴りかかったが呆気なく受け止められている
という訳である。流石の照星も浅くため息をつき、サングラスに手をやった。
「核鉄だけは没収しているようですね」
「有ったとしても果たして勝てるかしらん? ワタクシはともかく……『水星』や『太陽』に」
 断わっておくが照星の拳が弱いという訳ではない。むしろ火渡赤馬や武藤カズキといった戦
士でさえ反撃不能になるまで叩き伏せられる程度には強い。だがグレイズィングは平然とそれ
を受け止めたままゆっくりと身を乗り出した。照星の拳はぴくりとも動かない。それを握る拳は
ホムンクルスの高出力を超えた高出力を発揮しているようだった。みるみると細腕が肥大し、
うらぶれた白衣越しでさえ野太い血管や筋肉の隆起が見えた。にも拘わらず着衣は破れず、
拳を握っていない右腕は柳のごときしなやかさで照星の髪を優しげに撫でている。
「強い殿方は……好きですわよ」
 うっとりとした調子で囁きながらグレイズィングは照星の唇に自らのそれを当てた。
 そしてすぐに口紅より真赤な液体を口からぼとぼととこぼしながら、くすぐったそうに顔を離し
て照れくさそうに笑った。
「やぁん。舌挿れたら咬み切られちゃったあ」
 唾棄とは正に照星の行動をいうのだろう。彼は血まみれの肉塊とも金属部品ともつかぬ物
体を丸めた写真めがけてべっと吐き出した。血がその表面を伝い、真新しい純白のシーツが
赤く汚れていく。下の毛布さえ汚れていくような気がした。
66永遠の扉:2008/12/10(水) 06:17:29 ID:X+qtlzeR0
「その程度の傷、私の部下達に比べれば些細な物でしょう。それでも気に入らなければあな
たの武装錬金でさっさと治してみせたらどうです? 別に私は止めません」
 汚物にするような手つきで唇を拭った照星に、グレイズィングはニンマリ笑った。
 瞳には怒りも屈辱もない。ただただ更なる汚辱を期待する光が蕩け波打ち、甘い吐息を早
めているだけである。肥大した腕がしぼみ、指が愛おしげに口の中をかき回す。
「衛生兵の武装錬金・ハズオブラブですわね。んふふ。通称は『愛のため息』! メルス……
おっと失言かしらん。ど・な・た・様・かの! クローンな金髪コピー剣士さんにパクられちゃい
ましたけど、ワタクシのは本家本元だけに高・性・能!」
 言葉とともにまるで人間のような武装錬金が彼女の傍らに現れいでた。
 一言でいうなら丈の短いスカートを履いた気弱そうなナースである。その腕がグレイズィング
の口に伸びるとたちまちに舌が再生した。と照星が認めれたのは彼女が口をあんぐりと開けて
見せつけていたせいである。
「どなたでも何度でも怪我を治療できますし、病気だって治せちゃう! ワクチンだって作れま
すし点滴その他各種薬剤も調合可能! 5年前に欠けた歯も10年前に失くした膝の軟骨も
再生できる治せちゃう! そ・の・う・え! 死後24時間以内なら蘇生だってできますの! 災
害現場で黒いトリアージを見てしょんぼりするコトなどワタクシには皆無!」
 ハズオブラブの腕は照星にも伸びた。
「だって助けられない方々いたら楽しく顔面叩き潰して回りますもん。苦痛を終わらして差し上
げるのもワタクシの社会的責任ですし♪」
 照星は身じろぎもせず身体の異変を受け入れた。
(歯を治したようですね)
 ホムンクルスの舌を噛み切るという暴挙によって損壊したエメナル質や象牙質がすっかり治
癒しているのは屈辱以外の何物でもない。
 同時に照星は全身を貫く悪寒に思わず身を丸めた。
(……どういうコトです?)
 疑問が浮かぶ。
(どうして彼女はこの体調不良だけ残しているのです? ただの嫌がらせ? それとも──…)
「こんな感じで今からあなたを治して差し上げますわよ。来たのはその御挨拶」
67永遠の扉:2008/12/10(水) 06:18:50 ID:X+qtlzeR0
 グレイズィングの背後でドアが開いた。
「そう。治して差し上げますわよ。ちょうどマレフィックの方々が御到着されましたし」
 照星は見た。ぞろぞろと入室する様々な男女の影を。
 ますます高くなる熱のせいで視界が眩みはっきりとは見えなかったが、小柄な影が居れば両
手にサブマシンガンを握る少女らしきシルエットも居た。中肉中背も居れば背の高い者もいる。
かと思えば人間とは思えぬ異形の造詣もそこに佇み──…月のような顔を抱く男も居た。
(おやおや。何ともひどいコトになりそうだね)
 ムーンフェイスがため息をつくほどに男女の影は隠しようもない殺気と妖気を漂わせ、じっと
照星を睨んでいる。しかもムーンフェイスの見るところ、ドアの外にはまだそういう者がいるらし
い。闇に紛れて数は分からない。同質の負の感情が混ざって溶けあい数人かはたまた数百人
かと思えるほどに異様な気配が充満している。
 腐臭と血膿と錆の香りがたっぷり乗った魔風さえドアから流れ込む中、グレイズィングは歌
うように笑いだした。

「そう。腕が切断されようと」

「顔面が溶かされ失明しても」

「煮えたぎる鉄を飲まされよーと」

「肋骨がぜーんぶ折れて肺挫傷をきたそうと」

「背中が蜂の巣になって骨ごと脊髄が食い破られても」

「ちゃんと治して差し上げますから頑張って下さいね! ワタクシも頑張って必ず快方に向か
わせて差し上げますからね! どんな拷問されてもちゃんと助かりますから、諦めないで!!
あはは。あははは!! あはははははは!!!」
 端正な美貌は言葉を発するたびにだらしなく歪んでいき、笑い声はやがて快美に噎び泣くよ
うな喘ぎを交え出す。
 やがてグレイズィングは涎をまき散らしながら目を剥いた。
 照星が顔を背けずにはいられないほどの見苦しい言葉が更に幾つも飛び出し、聞くに堪え
ぬ淫らな声が響き渡る。影達からも侮蔑の視線が仄かに漂う。
68永遠の扉:2008/12/10(水) 06:19:47 ID:X+qtlzeR0
 やがて沈静したグレイズィング、銅の髪の螺旋の果てをくっと噛みしめ肩震わせつつ息も絶
え絶えに囁いた。
「あぁん……。気持ちイイ……。そ、そうそう。舌を噛み切って自害しても無駄……ですから。
さっきもいいましたけど、死後24時間以内なら、蘇生、させれますのよ……ワタクシ」
 豊かな肢体はビクビクと痙攣をし、今にも何事かが再燃しそうな勢いがある。
「だってえ、10年前の恨みもそれ以前の恨みも、今さらあなたの自害なんかで晴れそうにな
いですもん。やっぱり死んだ人より生きた人にこそリビドーをブッかけるべきですもの。エロい
事もグロい事も相手の歪んだ顔とかうめき声とかケイレンありき……! 反応あってこそ歓び
を味わえるのですわよ! プレゼントした時のくすぐったそうな顔とかいいでしょ? ワタクシに
とって苦痛がそれっていうだけだからちっともおかしくありませんわよね! ええ、ワタクシは正
常! 精神も健康状態も体位も正常が大好きな女医さん! あははははははっ!!!」
 椅子から立ち上がったグレイズィングの足がもつれた。自ら想像する快美によって脱力した
らしい。彼女はそのまま傍らのテーブルを巻きこみつつ転んだ。机上のカップやソーサーが派
手な音を立てて割れ砕ける中、彼女自身もまた床に顔面を打ちつけた。
 無様としかいいようがない。
 にも関わらずグレイズィングは床に伏したまま顔だけを前に向けると、鼻腔から垂れる血液
を拭おうともせず笑い始めた。いったい何がおかしいのかケタケタと哄笑を上げた。
 自動人形は創造者の一面を映すという。ならば彼女を抱き起しにかかった衛生兵はわずか
に残る理性の証だろうか? 軽い戦慄とともに照星が推測する中、ハズオブラブは鼻の粘膜
を治療した。
「……クス。死体相手はナンセンス。お相手の葛藤とかタブーとか尊厳をブチ壊してこそ楽しい
んですもの。命はそれの源だから、簡単に切り捨てちゃ勿体ないから……癒しますのよ。命あ
る限り癒して癒して癒し続けますの。たまに死んじゃったり精神ブッ壊れて死体以下のクズに
なる方もいますけど、あなたは楽しませてくれそうだから久々にドキドキしてますわ」
 ハズオブラブに肩を貸されたグレイズィングがドアに向かう。
69永遠の扉:2008/12/10(水) 06:20:38 ID:X+qtlzeR0
 手の甲で鼻血を拭った彼女は恍惚とそれを眺め……
「あ、そうそう。さっきいったインディアンを効率良ーく殺す方法ですけど」
 息を荒げながらむしゃぶり付くように舐めはじめた。
 しばし部屋には耳をふさぎたくなる水音が響き──…
「1763年のポンティアック戦争ですわよ。インディアンに包囲されたイギリス軍士官が素敵な
素敵なプレゼントを送って包囲網を突破しようとしましたの」
 照星の頬に1cmほどの隆起が生まれた。
 白い豆を張り付けたような膨らみだ。照星が思わず手を伸ばしてそれを触る頃には、周囲の
真皮が次から次へと肥厚してボツボツとした豆状の丘疹(きゅうしん)を形成し、頬一面から顔
面、そして首筋から全身へと広がっていく。

「そう。天然痘ウイルスのたっぷり染み込んだ毛布をね」

 人類が初めて撲滅した感染症。それが照星の全身をいま蝕み始めている。
「お喋りしたのはコレを待つための時間稼ぎですの。ワタクシ拷問が趣味の一つですから、ちょっ
と天然痘ウイルスをイジくってみましたのよ。良かったですわね。人類最後の感染者になれる
かも知れませんわよ?」
 照星は理解した。二枚目の掛け布団が毛布だった意味も自分を蝕んでいた高熱や頭痛の意
味もグレイズィングがそれらを治さなかった意味も。
「まあ、実際はせいぜい数百人殺した程度ってお話ですし、それ以前からも天然痘は流行し
ていたようですけれど……素敵じゃないかしら? 自分たちが侵略しておいて反撃されたら
天然痘で都合よく一方的に相手を殺そうってその態度。まるで貴方たち錬金戦団みたいじゃ
なくて? 弱いくせに利益を貪ろうと他の方へ手を出して、反撃喰らって壊滅しそうになったら
卑劣な手段で揺さぶりにかかる。だからコレから色々と素敵な目にあっちゃう。インディアンを
殺した白人がしばらく梅毒に苦しんだように……楽しい楽しい時間がもうすぐ始まりますの」
 ハズオブラブを消したグレイズィングが、多くの影をすり抜けドアの外に出た。

 ……どこからか、刀が床を突き刺すような音がした。
 
 何故照星が『刀』をその音に関連付けたかは分からない。
70永遠の扉:2008/12/10(水) 06:21:41 ID:Z70iGC7E0
 ただそれを合図にグレイズィングがパンプスの踵を軸にくるりと振り返り、ウィンクしつつノブ
に手を当てた。

「それではしばし、ごきげんよう」

 ドアがゆっくりと閉じられ──… 
 呼吸困難に苦しむ坂口照星目がけ影達がゆっくりと歩き出した。

                                                   第一章 完
71スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/12/10(水) 06:22:22 ID:Z70iGC7E0
第一章完結。
賛否両論になりそうなグレイズィングの初出は第010話ー(3)だったりします。
多分というか絶対忘れ去られている。だって約80話前のキャラなんて覚える方が無理ってもんです。
これでお話は照星さんへシフト……すればいいのですが、多分10話ほど幕間が入る予定。
というかしばらく第二章をどうするか考えるので、投下ペースはゆっくりになるかも。
気が向いたら武装錬金以外の作品で投下します。
何はともあれ……一段落です。

ここまでの御愛読、ありがとうございました。

>>23さん
桜花とは真逆の人懐っこさですからね。秋水があれ受け流すのはまだ無理かとw
だからこそいいのです。真面目な青年がうろたえる姿がいいのです。

>>31さん
本当長かったですw 前回の後にコレなのはどうかなーと思いつつ描いてみました。
甘酸っぱいのもエログロいのも大好きです。

>>32さん
アホの子に見えてカズキのようにしっかりしてる……っていうのが自分のまひろ像ですね。
ギャグやると誰も対処できないのですがw ちーちんさーちゃんは最後にいい仕事をしてくれました。
やっぱ目撃者とか冷やかしとか突っ込み役いてこそのラブコメですね。

サマサさん
冥王(タナトスではない御方)を怒らせそうな19歳発言。まあその「少女」じゃなく「魔術師」と
してならまだまだ大丈夫。それにしてもこの闇遊戯ノリノリである。魔法少女にはマスコットと
いうツボをしっかり押さえてやがる……(ゴクリ) 一番のボケキャラは彼のような気が最近してます。

それからまひろ、カズキが目の前で刺されたら怒ってたと思うんですよ。剣道の練習の時みたく。
けど過ぎてしまったコトだし刺された時も日常たる剣道練習とは異質だし、キャラ的に怒らないとは
思ったものの色々難しく…… 逆上したり戦闘に口出したりするのまひろっぽくないような気がしますし……
72スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/12/10(水) 06:23:58 ID:Z70iGC7E0
さいさん(無理はなさらず。一歩一歩でいいのです)
知らぬコトとはいえ婦警が可哀相すぎるw 個人的には斗貴子さんが婦警見つけたらどういう
反応するか見てみたいです。声的には仲間ですし。まひろは少々突飛な言動をしても「まひろ
だから」で凌げる。しかし「まひろだから」こそ婦警が白煙あげたりするので両刃の剣。いと哀れ。

ふら〜りさん
ありがとうございます。カズキは人を「責める」より「解決する」タイプですので、まひろもそうじゃ
ないかなぁというのがありました。一番避けたかったのが「色恋のためにカズキないがしろ」で
すが実行できたか否かは読む方次第だと思います。剛太へのお礼の言い方は自分も気になる所w

電車魚さん
サイのSっぷりも半端ないですねー。多分クローン元のシックスもジェニュインが同じ目にあっ
たら同じコトすると思いますw 裸にするより傷を責める方が実にけしからん。(いい意味で) 
葛西の喰えない態度とアイの微かな苛立ちは本当にこうだったんじゃなかっていうリアリティ
がありますね。で、我の強い犯人連中の中で地味なコトやってる蛭はカッコいい。犯罪者とし
てじゃなくサイの部下としてカッコいい。今回ラストの戸惑いが今後にどう繋がるか。楽しみですw

連載が進むにつれて天然ボケへの定向進化を遂げちゃったまひろですが、それを除けば自分
のコトより他人のコトを優先できるキャラだと思っております。といっても日常でほのぼのとボケ
てる方が一番まひろらしくもありますがw (それだけにアニメ25話での号泣は凄く痛々しかっ
たり)。秋水の「まっぴー」はやりたかったのですが、……色々な戦いの終着点が「まっぴー」だ
と物凄く締まらないので泣く泣く却下しました。これを思わば「すまない蝶野攻爵」は本当に神です!
73作者の都合により名無しです:2008/12/10(水) 06:39:44 ID:o5gFkg920
第一章のエンディングなのでどのキャラかと思いきや・・
すいません、忘れてましたw
でも直球のエロイキャラは珍しいのでいいですね
ボケキャラは沢山いますがw
でも幕間10話ですか。すげえw
74作者の都合により名無しです:2008/12/10(水) 13:12:43 ID:vEA+NQ1K0
>電車魚氏
投下量ぱねえっすwでも内容も詰まってますな
何気ないアイを中心にしたやり取りが好きですな
対サイ、対葛西、ウィットに富んでて
このSSもいよいよ中盤ですかね


>スターダスト氏
うーむ3年がかりの第一章終了。いやあ壮大だ
でも締めがこの人たちとは意外でしたな。
グレイズィングはエロくていいです。
次回からの幕間劇も楽しみにしております

75作者の都合により名無しです:2008/12/10(水) 20:43:48 ID:vcrdZCSC0
・女か虎か
アイとサイのコンビはやっぱり良かったな。
一応、2人とも女なんだよね。
虎との決着後も連載続けてほしい

・永遠の扉
一章完結お疲れです。足掛け3年ですな
ちょっと大人の雰囲気の2人が閉めましたな
幕間は誰が主役になるんだろう
76作者の都合により名無しです:2008/12/11(木) 19:20:19 ID:IWSCPrDm0
さいさん復活したのか
よかったね
77ふら〜り:2008/12/12(金) 20:51:36 ID:2/ZHy9qB0
>>電車魚さん(ネウロ一巻購入。初っ端の「動機無視」はアレやアレへのアンチテーゼかなと)
本っっ当にサイとアイは甘さゼロの間柄ですね。これはこれでサイなりの「お気に入り」に対する
態度なのかとも思えますが、こき使ってるとか労わないとかいうレベルじゃない扱い。とはいえ
「虐めて愉しんでる」でもないっぽいし。本作&原作で、この思考がどう動いていくのか……

>>スターダストさん
組織の長で実力も一番の人が拉致される、といえば塾長。あっちはただの監禁でしたが
こっちは……ただ殺すだけでは恨みは晴れないとの縁理論、原作ともども戦団の負債を
背負わされてる照星に少し同情。で、その照星が……クローン元? だからあの強さ、と?
78遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:16:34 ID:oc4y2eAW0
第二十一話「超古代においても普遍なる不良的対話」

「へっ…大物登場ってわけか。相手にとって不足なしってね!気張れよ、レッドアイズ!」
ゴアアアアア!黒き竜が気勢を上げる。それを見たアレクサンドラは、コキコキと首を鳴らした。
「む…?お前は、その竜と一緒に闘う気か?私はてっきり、お前との一対一の勝負と思っておったのだが」
「は?」
思わず間の抜けた声を漏らす城之内。アレクサンドラは、ふうっと溜息をついた。
「少しばかり失望したぞ、オードブルくん…一騎打ちの申し入れに対し、そのような無粋な答えとは…残念ながら、
お前はそこまで大した相手ではないようだ。それなら私は、これで十分」
ポイとアレクサンドラは剣を捨て、ボクシングのような構えを取る。周囲からは怒涛のアレクサンドラコール。同時
に城之内に対して、怒涛の大ブーイングである。
「よい、よいとも。周りの者など気にするな、オードブルくん」
アレクサンドラは、鷹揚に頷く。
「例えお前が剣すら捨てて素手の女を相手に、そのように強そうで獰猛そうな黒竜と共に二対一で私に挑むという、
男の風上にもおけぬ蛮行を働いたとしても、私はお前を責めはせぬ。なに、戦場とは非情なものだ。私は決してお前
を卑劣と罵りはせぬ。いや、私はそれでも本当によいのだぞ?オードブルくん。ただ、お前自身はどうかと少しだけ
気になってな…いやいや、所詮は女々しい独り言だ。本当に、ほんっっっとうに気にしなくてもよいのだぞ?」
「だぁぁぁぁぁぁっ!うっせえな、チクショウ!」
城之内はデュエルディスクを投げ捨てた。レッドアイズは心配そうというか、とにかく悲しげに一声鳴いて消える。
「上等だ、ゲロマブ脳筋女!オレだってケンカじゃ負けなしだったんだからな…タイマンでやってやらあ!」
「ふふ…そう来なくてはな!やはり相手を知るには肉体言語よ!さあ、拳と拳で語り合おう、オードブルくん!」
「オレはオードブルじゃねえ―――城之内克也だ!」
城之内は吼えて、地を蹴り殴りかかる…しかし、彼は忘れていた。
この世界において、英雄・勇者と呼ばれる者達の戦闘力は、まさしくモンスター顔負けであるということを。
具体的に言うと、全員がレッドアイズを素で倒せるレベルである。
レッドアイズ、涙目。
79遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:17:22 ID:oc4y2eAW0
「ぐはっ!」
思いっきりカウンターを受けて、地面に転がる城之内。
「くっ…まだまだこれからだぜ!」
それでも果敢に挑みかかる城之内。アレクサンドラは彼を好ましげに見つめつつも容赦なく殴り付け、蹴り飛ばす。
断わっておくが、この結果は城之内がヘボいわけではない。例えこれがジュラルミンケースを手にした海馬であった
としても、同じ事だ。神話時代の英傑を相手に、現代人が素手で挑む方が無謀なのである。
「まずい!」
城之内の窮地に、闇遊戯が駆けつけようとするが、女傑部隊が行く手を阻む。
「くっ!邪魔をするな―――<ブラック・マジシャン>召喚!」
端正な顔立ちの、黒衣の魔術師―――闇遊戯が最も信頼を置くモンスターにして、最強の黒魔導師である。
「<黒・魔・導(ブラック・マジック)>!」
膨大な魔力が黒き光と共に吹き荒れ、一瞬にして女傑族の戦士達を吹き飛ばす。血路を開いた闇遊戯は、城之内
の元へと急いだ。
「城之内くん!待ってろ、今オレが…」
「来るな、遊戯!」
駆け寄ろうとする闇遊戯を、城之内は血反吐を拭いながら制した。
「どれだけバカバカしかろうが、経緯はどうだろうが、オレはこの女との一騎打ちを…タイマン勝負を受けちまった
んだ…そして、まだ勝負は付いてねえ!」
「バカな…ならせめてデュエルディスクを使うんだ!生身で神話の英雄に勝てるはずがない!」
「確かにな…正直、全然勝てる気がしねえ…ロシア人が地上最強生物に挑む気分だぜ…」
ぺっと血の混じった唾液を吐き捨て、城之内はそれでも笑う。
「けどよ…オレには何となく分かるんだ。あの女王様はよ、理屈抜きで闘いが…ケンカが好きなんだ。だったらよ…
それに応えてやるのが男の子ってもんだろうが!」
「城之内くん…分かったよ。気の済むまでやるがいい。ただし!」
闇遊戯はアレクサンドラを睨み付けた。
「オレはそこまで人格ができてるわけじゃない…キミが必要以上に甚振られるようなことになったなら、オレがその
女を倒すぜ!一騎打ちの邪魔だろうと、知ったことか!」
80遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:18:09 ID:oc4y2eAW0
その眼光を受けて、アレクサンドラは慄くどころか、歓喜で身体を震わす。
「オードブルくんよ…良き心意気と、良き友を持ったな。嬉しいことだ…まさかこれほどいい男達が存在しておった
とは…滾る!滾るぞ!漲ってきた!」
「けっ!どうせ前菜呼ばわりならよ―――他のモンが喰えねえくらいに腹一杯にしてやるぜ!」
勢いよく突っ込んでは倒され、また立ち上がっては無様に地面に転がり―――それを幾度繰り返しただろう。
それでも―――
「まだ…まだ…これからだぜ…」
「もうよせ、城之内くん!こんなバカなことは…!」
闇遊戯の声に、城之内は自嘲の笑みを返しながらも、足を止めることはない。
「へへ…ホントにバカらしいよな。戦場でなんでこんな殴り合いなんかしなきゃならねえんだろうな…おまけにこっち
は、一発も当てられねえときた…だからよ…」
城之内は、ふらふらの足取りで、なおも一歩一歩、アレクサンドラの元へと大地を踏み付ける。
「一発くらいはブチ抜かねえと―――カッコ悪すぎるだろうがぁっ!」
蟻が歩むようなふらつく踏み込みで。蝿が止まりそうな速度で。蚊も殺せないような威力で。
城之内は、最後の拳を叩き付けた。そんなものが、アレクサンドラに届くわけがない―――
(城之内くーーーーーん!)
「城之内くーーーーーん!」
遊戯と闇遊戯が同時に叫び、それに続くであろう惨劇から思わず目を背ける。だが―――
―――パシン
「え…!?」
アレクサンドラは、城之内の拳を避けようともしなかった。微動だにせず―――顔面で、受けた。
「いい、拳だった」
蚯蚓腫れすらできていない、美しい顔でアレクサンドラは笑い、城之内の手を自らの両手で包み込んだ。
「見事だ…オードブルくん…いや、城之内」
アレクサンドラは城之内を―――名前で呼んだ。どこか、愛おしそうですらあった。
「お前の拳―――確かに、私に届いたぞ」
81遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:18:56 ID:oc4y2eAW0
第二十二話「世界で最も不毛な愛の形」

「城之内よ。腕っ節では、お前は私には敵わなかったかもしれん。だが、幾度倒されようとも尚も諦めず立ち上がる
その姿に、私は真の戦士の姿を見た!」
「…へっ…褒め方が偉そうなんだよ、女王様…」
ボロボロの城之内は、泥と血に塗れた顔で、にやりと笑った。アレクサンドラもそれに笑い返し―――城之内を地面
に押し倒した。突然の事に目を白黒させる城之内に対し、彼女は魅惑的な女豹の笑顔を浮かべる。
「実に気に入った!我が城に連れ帰って私が直々に搾り取ってやる!…その前にこの場で味見してくれるわ!」
「な、何を搾り取るというんですかー!?そして味見ってナニをされるんですかー!?」
アレクサンドラはぽっと頬を赤らめ、照れくさそうに笑う。
「ふふ…分かっておるくせに、女子(おなご)にそのような破廉恥なことを訊くではないわ」
「や、やめろ!分かりたくねー!つーか何でこんな展開になんの!?せっかく前回のラストで、敵味方を超えた友情
フラグが立ちそうだったのに!」
「うむ、だからこうして友情を確かめ合おうと…」
「こんな友情があるか!それにオレは初めては好きな子とロマンチックなムードの中でと決めてるんだ!」
「逆に考えろ…<初めての相手を好きになっちゃえばいいさ>そう考えるのだ」
「レイプから始まる恋なんて幻想だー!」
「ええい、初めてはロマンチックになどという幻想こそ捨ててしまえ!女子だってエロスな話に興味はあるし時には
愛欲に咽ぶし一夜限りの情事でも構わなかったり首を絞めれば口に出せない部分が締まったりで大変なのだ!」
「やめろー!これ以上青少年に有害な話を聞かせるんじゃねえ!」
「これ、暴れるでない!下着を脱がせ辛いであろう!心配するな、初めてでも痛くなどせぬから!」
「いやーっ!やめてーっ!」
―――断わっておくが、悲鳴を上げている方が男性である。
(い、色んな意味でマズイよ、もう一人のボク!)
「分かってる!」
事ここに至り、もはや城之内の闘いを見届けるなどとは言ってられない。親友の逆レイプシーンなど、絶対に見たく
はない。例え相手がフィクションの世界にしか存在しないようなゲロマブの女だったとしてもだ。
闇遊戯はカードデッキに手をかけ―――それを、誰かがそっと押し止めた。
82遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:19:43 ID:oc4y2eAW0
「案ずるな…ここは、私に任せておくがよい」
「何…?アンタは一体…」
精悍な顔立ちの青年だった。鍛え抜かれ、引き締まった肉体を包むのは赤いマントと青銅の鎧。その右腕に携える
のは、大の男でも持ち上げることすらできそうにない、聳え立つように太く巨大な槍だった。闇遊戯は直感する。
(コイツ、いい男だ…いや、変な意味じゃなくてな。強くて頼れる男ってことだぜ)
そう、この男こそはレオンティウスである。彼は馬から飛び降り、声を張り上げる。
「待たれよ―――女王アレクサンドラ!その少年を解放するがよい!」
「む…レオンティウス!ふふ…ついに来たか!」
アレクサンドラは少し名残惜しそうに城之内から離れ、剣を拾う。ずり下げられたパンツをたくし上げている城之内
に、軽くウインクする。
「すまんな、城之内。お前は後でじっくり調教してやるから、少し待っておれ」
「た…助かった…つーか、調教する気だったのかよ…」
余りにも恐ろしすぎる事実だった。
(…オレ、この世界に来てから美人には山ほど会ってるけど、まともな女に会ってない気がする…)
フィリスはアレだったし、ソフィアもアレだったし、アレクサンドラもコレだし、ミーシャだってこれから先の展開
次第でどうなるか怪しい(失礼だ)。軽く女性不信に陥りそうだった。そんなちょっぴり人生に悲観しそうな城之内を
よそに、アレクサンドラとレオンティウス―――二人の英雄が向い合う。
「久しいな、レオンティウス…お前のことは、忘れるまでもなく、いつも想っていたぞ」
「そうか。私はこれっぽっちも思い出さなかった。むしろさっさと忘れようと努力していたくらいだ」
「ふ…相変わらずつれない男だ。世の男共は私を食い入るように見つめるというに、お前だけは汚物を見るような目
で私を見た…その目が、気に入ったのだ。その瞳を、必ずや私の元に屈服させる―――お前と出会ってからの数年
というもの、それだけを考えてきた」
「無駄な時間を過ごしたな。残念だが私はお前には絶対に靡きはせぬ。何度でも言ってやろう―――
このレオンティウス、女を貫く槍は持ってはおらぬ!」
ドーン!と背景に大文字が出そうな勢いで叫ぶレオンティウス。そして彼は槍を頭上に持ち上げ、ブンブンと力任せ
に振り回し始める。同時に、空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟く。
「何…?これはまさか、あの男が…!?」
闇遊戯が驚き、レオンティウスを見やる。彼は槍を構えた右腕を高々と上げていた。その拳が、まばゆく輝く。
83遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:38:00 ID:oc4y2eAW0
「はぁっ!」
そして怒号と共に、一筋の雷が彼の持つ槍に落ちる。雷を纏うそれは、まさに雷槍―――
「フンッ!」
突き出した槍から迸る閃光。それは世界そのものを貫くように、全てを呑みこんでいく―――
(なんて威力だ…!オシリスのサンダーフォースと同等―――それ以上かもしれない!)
ようやく光が収まり、闇遊戯はその破壊力に舌を巻く思いだった。地面はまるで大蛇が這っていったかのように抉り
取られ、運悪く射線上にいた女傑部隊の兵は、呻きながら地に伏せている。
「くっ…」
アレクサンドラとて例外ではない。ぜいぜい荒く息をつきながら、悔しさで顔を歪める。
「またしても、負けた…何回やっても何回やってもレオンティウスが倒せぬ…あの雷槍、何回やっても避けれぬ…」
「アレクサンドラ!命までは取らぬ―――我々の国から立ち去るがいい!」
レオンティウスが力強く言い放つ。女傑部隊はどよめき、明らかに浮き足立っていた。
「よし―――ここで一気に決めるぜ!」
闇遊戯は一枚のカードを、女傑部隊に見せつけるかのように突き付ける。そして、絶大な力を誇る幻獣神が暗雲漂う
空を断ち、召喚される。
「―――<オシリスの天空竜>!」
雷を制し、天を支配する竜王。雷光を纏う神の姿に、誰もが目を奪われ立ち竦む。
「おお…!」
「な…なんだ、アレは!?」
「わ、分からん!しかし…なんという神々しい姿…!」
ざわめくアルカディアの兵士達。女傑部隊に至っては、もはや声も出ない様子だった。
「さあ、これ以上やっても無駄だ!さっさと自分達の国に帰りやがれ!」
闇遊戯の怒号と共に、オシリスが牙を剥き出しにして猛る。アレクサンドラは舌打ちし、固まっている部下達に指示
を飛ばした。
「ちっ…今回はこれまでか―――皆の者、引き上げよ!」
女王の命令によって、女傑部隊はようやく我に返り、撤退を始める。アレクサンドラもまた馬に飛び乗り、兵士達と
共に逃げ去っていく―――その前に、彼女は闇遊戯達に向き直り、最大級の笑顔を見せた。
84遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:38:47 ID:oc4y2eAW0
「ふふ…レオンティウス!それに城之内に遊戯といったか…お前達、実に気に入ったぞ!いずれお前達は皆私の
物となる…忘れるな!はははははは!」
高笑いを響かせながら、アレクサンドラは悠々と馬を走らせ去っていく。状況は惨めな敗走そのものだというのに、
まるでそれを感じさせない。むしろ、セリフだけ見るとまるで勝った側である。
「すげえ…あれだけ威風堂々と敗走していく奴なんて、初めて見たぜ…」
「―――キミ」
ある意味感心している城之内に、頭上から声がかけられた。見上げると、そこにレオンティウス。
「立てるか?」
「あ、すいません…」
差し出された手を、素直に握り返す。レオンティウスは、ふっと笑った。やたらいい笑顔だった。
「城之内といったか…キミ達の助力、感謝しよう。アルカディア王として、礼を言わせてもらう」
「はあ、どうも、オレの方こそ色々と危ないところを…って、アルカディア王?」
このカッチョいいお兄さんが?マジマジと見つめてくる城之内に対し、レオンティウスはキラリ☆と白い歯を見せて
名乗る。
「うむ。私がアルカディア王、レオンティウス―――何ならレオンと呼んでくれて構わん」
「は、はあ…」
何故。彼はこうまで馴れ馴れしいのだろうか。訊いちゃいけない気がした。
「キミ達の活躍のおかげで、我等の被害は最小限に抑えられた―――こんなところで立ち話もなんだろう。改めて
礼もしたい。どうか城に来てくれないか!?」
「え…」
それはまあ、こちらこそ望むところではある―――しかし、何故だろう?城之内は、訳も分からぬ悪寒に襲われたの
だった。具体的にいうと、ケツの辺りが嫌な感じに疼いた。
公園のベンチに座った青いツナギの自動車修理工から声をかけられたら、同じような気分になるのかもしれない…。
85遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/13(土) 14:40:15 ID:oc4y2eAW0
「な、何だかドキドキするというか、妖しい雰囲気ね…大丈夫かしら…」
妙な予感にドギマギするミーシャ。肩に乗っかったクリボーも不安そうに「クリ〜…」と元気なく鳴いた。
「心配されるな、お嬢さん」
そんな一人と一匹に、壮年の騎士が声をかけてきた。立派な馬や甲冑からして、かなりの地位にあることが伺える。
「あの御方は見境なしではない。その気がないものを喰う様なことはなさらん」
「は、はあ…そうですか…」
ミーシャは額に汗マークと?マークを浮かべつつ、その騎士を見て―――目を丸くした。
「ん?どうかしたかね、お嬢さ…」
騎士もまた、ミーシャを見て、何かに気付いたようだった。口をポカンと開けている。
「あなた…まさか、カストル叔父様?」
「ミーシャ…やっぱりお前、ミーシャなのか!」
何やら驚いている二人を尻目に、闇遊戯はいつの間にやら隣にいたオリオンと、さっぱり訳が分からないぜとばかり
に見つめあった。
「なあ、遊戯…なんか俺達、置いてかれてない?」
「言うな。オレだって置いてけぼりだ…」
闇遊戯は、ブスリとした顔で呟いたのだった…。
86サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/13(土) 14:43:06 ID:oc4y2eAW0
投下完了。前回は>>29より。
こうして城之内の古代ギリシャ体験はくそみその結果に終わったのだった。
…おかしいなあ。僕の書いてるのは壮大な古代ギリシャロマンのはずなんだけどなあ…
つーかサンホラ知ってる人には絞め殺されそうなキャラに書いてるなあ、アレク女王とレオンティウス。
でもなんか、僕の中ではこの二人、こういうイメージなんですよね…。
どうも作者の頭が膿んでるとしか思えない展開です。次回からはもうちょいシリアスにしなければ…。
カストルとミーシャの関係については一応複線はってましたが、余程読んでくれてる人じゃないと
分からんかったかも…うーん。
しかしアクセス規制が最近うざいですね。全然解けないので、今回はネットカフェで投下してます。

>>31 キャバ嬢なんて言っちゃダメ…彼女の生い立ち考えるとシャレにならんです。
>>32 確かに波乱がなくて話が盛り上がらないかな…ここに歩く災害の社長がいれば話は
   別だったでしょうが。そういう意味では社長サイドの方が書いてて面白いですね。

>>さいさん
失礼になると思うので、多くは語りません。復活嬉しく思っています。

>>ふら〜りさん
いやあ、城之内はモテモテで羨ましいですね(超棒読み)…ほんとに、なんでこんな話しを
書いちゃったのか、自分でも知らないうちにタミフルやったのかと思います。
87作者の都合により名無しです:2008/12/13(土) 14:49:18 ID:SEankmgpP
さるさん喰らわれたそうなので代行。

>>電車魚さん
サイとアイの緊迫感に満ちた関係は素晴らしい。いずれ殺されると分かってて、それでも忠義を
尽くしたいと思える相手に出会えるのって、多分素敵なことですよね。
ヤコなら炊飯器にダチョウ卵くらい、一瞬で食っちまうでしょうね。胃袋の定向進化したんじゃなかろうか、あの子は。
えー、城之内は見ての通り現在非常に危険な状態に置かれています。次回冒頭で、いきなり
ケツの穴を押さえていてもおかしくありません。どうか彼に暖かい眼差しを。

>>スターダストさん
エロスでエグい女…ゴクリ。照星さんマジ頑張れ。超頑張れ…次回登場時にグロ画像と化してたら
どうしよう(本気で心配)。ただ、グロい拷問はやだけどエロい拷問なら是非受けたい!(アホ)
ちょっとエロスに走りすぎたので、斗貴子さんに目潰しされてきますね。
闇遊戯、ちょっくらボケさせすぎたかもしれません。SS書いてりゃこういうことも…あるのか?(汗)
88作者の都合により名無しです:2008/12/13(土) 15:10:34 ID:araNId1H0
>サマサさん
ど、怒涛の二話連続更新…!
久々に熱い!と思ってたら城乃内が更に酷い目にwww
レオンもアレク様もカッコイイのに何かが決定的におかしいですよね…ていうか、レオンってエ○ーマン…?






89しけい荘戦記:2008/12/13(土) 18:03:02 ID:KOv1krjH0
第三十一話「長い夜の終わり」

 五指に付着させた土と血で、隈取に似た化粧を描くゲバル。眠れる力の全てが開放され、
凶暴な戦士が誕生する。もはやゲバルにとってここは路地ではなく、四方を海に囲まれた
大海原に他ならない。
 日本刀は鞘から抜き、拳銃は安全装置を外し、初めて性能をフルに生かすことができる。
烈も同じである。烈海王は靴という足枷を脱いでこそ、魔拳たる性能を百パーセント発揮
することができるのだ。
「宝を逃すな野郎ども……出航ォッ!」
「全てを出しきる……来いッ!」
 アライJrは生唾を飲み込む。
 互いに消耗しすぎている。長期戦にはなるまい。
「次で、決まる……ッ!」
 昨夜の公園でのやり取りが、アライJrの中で鮮明な映像となって蘇る──。

 刀は寸止めされていた。青ざめた表情で目を白黒させるアライJrに、本部は静かに語
りかける。
「……分かったか、小僧」
「え……?」
「どれだけ技を磨こうが、殺しを許容しようが、貴様には命を差し出す覚悟がまるでない。
ルールと審判に守られた競技スポーツならばともかく、ルール無しの闘争で通用するはず
がない」
 欠点を看破され、反論もままならず目を背けるアライJr。
「貴様の父には命を獲られる覚悟があった。彼があれほどに尊敬を集めたのは、ボクシン
グに長けていたからだけではない。いかなる困難にも命を賭して立ち向かい、決して屈し
ない。あの偉大なる心根があればこそ、マホメド・アライは王者たりえたのだ」
 記録上はスポーツ選手に過ぎなかったはずの父は、命を差し出せる覚悟を持っていた。
 一方、あえてノールールマッチに挑んだはずの自分は、自らの命が奪われる局面など想
定すらしていなかった。
 探し求めていた答えは、あまりにも信じがたく、耐えがたい現実だった。なにより正し
かった。
 大きすぎるショックは、アライJrに呼吸の仕方すら忘れさせた。
90しけい荘戦記:2008/12/13(土) 18:03:49 ID:KOv1krjH0
「離してやれ、ジャック」
 アライJrの両肩がジャックの両手から解放された。が、挫折したボクサーは立ち上が
れない。
「どうする、まだ続けるか」
「………」
「こっちの世界で生きてゆくのを止めるなら、今すぐここから去れ。まだやるというのな
ら、わしに打ち込んでこい」
「………」
 虚ろな意識でアライJrは悩んだ。これまでの半生、岐路らしい岐路に立たされたこと
などなかった。資質にも環境にも恵まれ、しかも驕らず努力を欠かさなかった。こうして
いればいつか必ずナンバーワンになれると信じていた。これほど真剣に悩んだのは人生で
初めてかもしれない。
 本部も、ジャックも、ガイアも、ズールも、ショウも、黙って待った。
 やがてアライJrが幽鬼のように立ち上がる。
「決まったようだな」
「……えぇ」
 ──しなやかな右ストレート一閃。
 防御に使用した本部の刀に、ひびが入った。
「これが貴様の答えか。では小僧、この公園内でわしを攻撃することがどういうことか理
解していような?」
「理解している」
「よろしい。これからわしらは五人がかりで貴様を殺す」
「覚悟している」
 いつものようにステップを踏むアライJr。しかし両目に宿る炎からは、いつもの甘さ
は消え失せていた。
 歯茎をむき出し、本部が笑い始める。
「ふっ……ふはははははははっ!」
 きょとんとするアライJr。
「小僧、やってみるがいい! とことんまで、死ぬまでやってみるがいいッ! もし対戦
相手がいなくなっちまったら、またここに来い! わしが一対一で相手してやる!」
91しけい荘戦記:2008/12/13(土) 18:04:41 ID:KOv1krjH0
 公園の出口を指差す本部。行って来い、という合図にアライJrは素直に頷き、公園か
ら駆け出していった。
 本部の背中に、ジャックが話しかける。
「珍しいな。アンタがあれほどに目をかけるとはな」
「あの若造、生かしておけば何かやれるかもしれぬと感じた。かつてわしを打ち倒したあ
の小僧のようにな……」

 ──映像は遮断される。
 意識を現在に引き戻すと、さっそくアライJrは格闘士としてゲバルと烈の値踏みをす
る。両名は父と同じく、すでに互いの命を闘争に溶け込ませていた。嫉妬(ジェラシー)
すら感じるアライJr。
「ヤイサホォーッ!」
 雄叫びを上げ、疾走するゲバル。大統領は暴風と化した。
 体を沈ませ、右拳による全開アッパーカット。地面から稲妻が噴出したような、凄まじ
い一撃だった。
 これを烈は左足の裏側で受け止めるが、やはり筋力では分が悪く、骨が軋み、押し切ら
れそうになる。
 ならば──。
「カアアァアァアッ!」
 烈はなんと敵のアッパーを推進力に可変させ、残る右足の指先で一気にゲバルの喉に蹴
り込んだ。

 ざくっ。

 ゲバルの喉が裂けた。
 血液を決壊したダムのように噴き出しながら、ゲバルは後方に傾いていく。
 手応えあり。だがまだ勝負ありではない。上から叩き潰すため、烈はふわりと跳び上が
った。
 鬼神の形相で上空から降りかかる烈に、ゲバルは再度右拳を握った。
 決着の刻(とき)。
92しけい荘戦記:2008/12/13(土) 18:05:28 ID:KOv1krjH0
 両足から伝わる感触に、ゲバルは神経を集中させる。
 これから放つ最終兵器に不可欠な、支え。大丈夫、両足が支えてくれている。地表が支
えてくれている。地殻が支えてくれている。マントルが支えてくれている。核が支えてく
れている。
 46億年前から変わらず存在し、いつしか「地球」という名を冠した惑星が、支えてく
れている。
 アリガトウ。
 全ての支えに感謝しつつ、ゲバルは拳を発射した。

『いやァ〜富士山がついに噴火したのかと思いましたよ』
 近隣住民は後にこう述懐する。
 ゲバルの拳によって烈海王は打ち上げられ、夜空に消えた。
 一部始終を見届け立ち尽くすアライJrに、目をやるゲバル。呼吸するたびに裂けた喉
から血の塊が飛び出し、墜落する。
 満足げに、しかし寂しげに微笑むと、ゲバルもまた夜の闇に消えていった。
 こうして長い夜は終わりを告げた。
93サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/13(土) 18:10:09 ID:KOv1krjH0
新スレおめでとうございます。

>>5
どう勝負を終わらせるかかなり迷いましたが、
勝負中断はやはり面白くないので今回は決着させました。

>>6
今回の二人は同じくらい好きです。
烈はピクル戦が良かったです。
シコルスキーはどうなるか分かりませんw
94作者の都合により名無しです:2008/12/13(土) 21:42:01 ID:pIf2QgVr0
サマサさん、サナダムシさんお疲れ様です!

>サマサさん
城之内はギャグ担当というか、役回り可哀想だなあwおいしいけどw
これからミーシャを中心に物語がまわっていくのかな?

>サナダムシさん
うーん烈負けちゃったかあw烈ファンの俺としては残念です。
でもゲバルはしけい荘メンバーだから、SS的にはよしかな?
95作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 00:54:53 ID:IjwtB9XB0
地球拳ktkr
96THE DUSK:2008/12/14(日) 01:51:15 ID:n05tvnVu0
 


一方、その頃――
キャプテン・ブラボーは舎監室で机に向かい、寄宿舎生記録を付けていた。
寄宿舎管理人としての業務である。
生徒達の健康状態、生活の様子、その日の登校状況などを記入し、午前中のうちに学園へ提出するのだ。
勿論、業務はそれだけではない。
寄宿舎内の備品チェックと不足分の購入記録もあれば、破損・故障箇所の修理(もっともこれに関しては
彼の修理の腕前が裏目に出て、余程の事が無い限り業者に依頼しないよう事務方に締めつけられる始末だった)などもある。
その他にも朝晩の点呼、定時の見回り、欠食届や外泊届の管理、教師との打ち合わせ等、細かなものを挙げていくと
キリが無い。
こうなると流石のブラボーでも、幾つかの業務は後手後手に回ってしまう事が度々あった。
別に管理人は彼だけではないのだが、特異なキャラクターや管理・処理能力の高さ、また人員不足などから、
どうしても他の管理人や学園側に頼られる結果となっていた。
そんな忙しいブラボー先生の朝の風景。

「いってくるねー! ブラボー!」

記録帳にボールペンを走らせるブラボーの耳へまひろの声が飛び込んでくる。
顔を上げて舎監室と玄関を繋ぐ小窓に眼を遣ると、鼻歌混じりに靴を履き替えるまひろの姿が見えた。
「ああ、車に気をつけるんだぞ」
「はーい!」
一際元気な返事と共に玄関を飛び出していくまひろ。
本日最後の登校者である彼女の姿を見送ったブラボーは、寄宿舎生名簿に印刷された『武藤まひろ』の横の
登校欄にシュッと軽快な音を立てて丸を付ける。
「今日は遅刻も病床も無し。全員登校か。うむ、ブラボーだ」
名簿と記録帳を閉じ、誰に言うでもなく独り言を呟く。第二の人生としてこの職に就いてからは
独り言がめっきり増えてしまった。
そして、様々な名簿や記録帳、書類をひとまとめにし、それらを机でトントンと揃えると、ブラボーは
壁の掛け時計で時刻を確認する。
97THE DUSK:2008/12/14(日) 01:53:53 ID:n05tvnVu0
「よし。ざっと見回ったら、俺も学校に行くか」
本当に独り言が増えてしまった。



ブラボーは足早に廊下を移動しながら、各部屋のドアを軽く開けて然程時間を掛けずに中の様子を窺っていく。
記録や書類の提出をしに学園へ出向く前に、こうして各部屋を軽く見回るのも毎日の事だ。
室内灯や電気スタンドの消し忘れ、カーテンの開け忘れ等があれば、そっと入って直しておく。
かといって、あまり長居はしない。生徒の私物を観察したり、勝手に片付けたりといった行為も極力避けている。
最近の子供や保護者はプライバシーだの個人情報だのにひどく敏感な為、室内への干渉は最小限に
留めなくてはならない。

それでも“この部屋”は別である。

戸の横に『1−A 武藤』と書かれた札が下げられている、この部屋。
「おはよう、セラス。キャプテン・ブラボーだ。入るぞ」
ノック、呼びかけと段階を踏み、入室する。
次の瞬間、室内の異様な光景にブラボーは僅かに身を硬くしてしまった。
しっかりとカーテンが閉められた薄暗い部屋の中、押入れの戸が60cm程開けられ、そこからセラスが
うつ伏せの上半身及び両手をダラリと垂れ下げているのである。
もし何も知らない女子生徒が部屋を訪れ、このジャパニーズ・ホラー丸出しの光景を目の当たりにしたら、
驚愕のあまりに腰を抜かすだろう。
廃旅館へ罰ゲームを受けに行った坊主頭の芸人なら「はぁあああああああ! これはあかんて!
これはあかんてぇええええええええ!!」と悲鳴を上げるかもしれない。
「……何者かに攻撃でも受けたのか?」
ブラボーは部屋の隅から隅へ眼を配りつつ、セラスへと向かって静かに室内を進む。
彼女がこの部屋にやって来た夜とまではいかないが、ある程度の緊張感と警戒心をその身に張り詰めていた。
彼にはそうなるだけの理由があるのだ。

それは昨日。日曜日の午後。
元同僚であり友人である火渡赤馬や楯山千歳と過ごそうとしていた銀成駅前通り。
一般市民で溢れる真昼の街中に姿を現した刺客(イスカリオテ)のユダ。突如として告げられた宣戦布告。
98THE DUSK:2008/12/14(日) 01:55:34 ID:n05tvnVu0

『次は我々(イスカリオテ)の番(ターン)だ』

思い起こされた七年前の記憶と同時に現れた彼女達。これは偶然なのだろうか。
この寄宿舎に英国の吸血鬼が転がり込んだ翌々日に現れた彼女達。これは偶然なのだろうか。
一度は信用して身元を引き受けたが、己が宿敵の出現によって、事は気のいい吸血鬼の一時保護などという
簡単なものではなくなっている。
いや、セラスに害意は無かったとしても、第13課が彼女を追いかけてきたのだとしたら?
“異端者が化物を匿っている”
ヴァチカンにとってこれ程の格好な開戦理由もあるまい。そうなれば銀成市民も、銀成学園生徒も
巻き込んでしまう恐れがある。
これらの懸念から生まれる煩慮は、まひろの笑顔や寄宿舎生の全員登校では到底晴れやしない。

どう贔屓目に見ても尋常な状態とは思えないセラスにそっと近づくと、ブラボーは細心の注意を払いながら
彼女の様子を探る。
聞こえてくるのは――

「くかー」という小さないびき。

がっくりと大きく肩を落としたブラボーは深く長い溜め息を吐いた。正直に言えば安堵の溜め息だが。
「なんだ、単に寝ているだけか……」
少し横に回り込んでよくよく彼女を見てみると、半開きの唇からはヨダレが糸を引いて流れ落ち、
畳には小さな水溜りが形成されていた。
仕様が無く懐からポケットティッシュを取り出し、セラスの口を拭い、それから畳の水溜りを綺麗に拭き取る。
「まったく、なんて寝相の悪さだ……」
まひろとセラスの朝のやり取りを知らなければ、そう思うのは至極当然の話だ。
おそらくは持ち前の人の好さを発揮したセラスが、まひろの言いつけを守ろうとして志半ばで
力尽きたのではないだろうか。
何にせよ、このまま放っておく訳にはいかない。
ブラボーはセラスの身体に腕を回し、抱き上げて押入れの中に戻そうと試みる。
だが、そうしなければいけないとはいえ、姿勢を仰向けに直そうと彼女の身体を裏返したのがいけなかった。
99THE DUSK:2008/12/14(日) 01:56:54 ID:n05tvnVu0
唾液に濡れた妖艶な唇、Tシャツという薄布一枚のみに覆われた豊満なバスト、露になったウェスト部分の
白く肌理細やかな素肌。これらが急激に彼の網膜を焼き焦がした。
更には手掌や腕から伝わる柔らかな“女”の弾力。
「……」
ブラボーとて木石ではないのだ。
白人女性の持つグラマラスなプロポーション。吸血鬼特有の魅了性。
健康な成人男性がこの二つに真正面から襲い掛かられてはたまったものではない。
「い、いかんいかん」
頭を激しく横に振り、魅惑的な肢体から眼を背け、脳裡に千歳の姿を強く思い浮かべる。
嗚呼、涙溢れる漢の道也。不器用、愚直は漢の美徳哉。

そんなブラボーが煩悩と欲望を吹き飛ばす為に起こしたアクションが伝播したのか、彼の腕の中で
セラスがうっすらと眼を開けた。
「ふえ……? ふぁ…… あ、ブラボーひゃん……」
ブラボーは振動ではなく己の雑念が彼女を起こしたのではないかと錯覚し、抱きかかえていた身体を
焦り気味かつスピーディーに押入れの中へと戻す。
そして、ぶっきらぼうに布団を掛けてやりながら、「帰って来い、俺の平常心」とばかりに“寄宿舎管理人”
プラス“身元引受人”らしさ満点の注意を促した。
「お、起こしてしまってすまない。俺はもう少ししたら学校に行ってくる。寄宿舎内は誰もいなくなるが、
万が一があるといけないから出歩いたりするんじゃないぞ?」
セラスはもぞもぞと布団の中に頭を沈め、深く潜り込む。やはり僅かな光も歓迎出来ないらしい。
「ふぁい…… 日中は、眠くて…… 頑張ってみらけど…… 無理でひた……」
何の事を言っているのかはわからないが、とりあえず就寝の挨拶を返す。
「……? そうか、おやすみ」
「おや……す…………」
言葉半ばで寝息に変わっていく。
ブラボーは苦笑混じりで布団をポンポンと叩くと、押入れの戸を閉めた。

この呑気な寝姿を見ている限り、とても第13課に追われているとは思えない。
しかし、奴らは既に錬金の戦士である俺を捕捉している。もし、交戦状態に入れば彼女が見つかる可能性は高い。
そうなれば奴らが彼女を放っておく筈は無いだろう。
守らねばならない。本国まで無事に送り帰すと約束をしているし、まひろの友達でもあるんだ。
100THE DUSK:2008/12/14(日) 01:58:12 ID:n05tvnVu0
守る? 誰を? 吸血鬼の彼女を?
恐ろしいまでの怪力を有し、眼にも留まらぬ俊敏性を誇り、人間の血液を喰い物にする化物を?
吸血鬼は人間の敵。だからこそ第13課のような組織が存在している。
でも、彼女は――

眉をひそめ、伏し目がちにまひろの部屋を後にするブラボー。
彼にしては珍しい、逃避に近い思考の転換を以って廊下の窓から外を眺めた。
「そういえば今日は全校朝会があったな。……早めに出るか」
足早に他の部屋を見回る。

答えはもう出ていた。彼はキャプテン・ブラボーなのだから。ただ、既成概念が少しだけ邪魔をしているのだ。



当たり前の話だが正門はとっくの昔に閉じられており、これまた当たり前の話だがブラボーは職員玄関から
校舎の中へ入った。
廊下で体育館に向かう数人の教師とすれ違う。保健室の八意先生や歴史担当の上白沢先生と挨拶を交わし、
ブラボーは職員室に急いだ。

職員室では既にほぼすべての教師が体育館へ向かっており、僅かな人数しか残っていない。
記録や書類を提出に向かう途中、机に両脚を乗せて週刊少年ジャンプを読み耽る火渡の姿があった。
「おはよう」
「よお」
男同士知った顔の短い挨拶を済ませる。
提出と報告を終えたブラボーが戻ってきても、火渡は未だに同じ体勢でいた。
「おい、火渡“先生”。そろそろ全校朝会の時間だぞ」
苦言を浴びた火渡は不機嫌な顔でジャンプを机に放り出すと、両脚を机から下ろし、気だるげに立ち上がる。
「チッ、面倒臭えなあ」
どう見ても教師というより不良生徒の態度である。
職員室に残っている少数の教師達はホッと胸を撫で下ろす。中にはブラボーを、救い主を拝むかのような
眼差しで見る者もいる。
101THE DUSK:2008/12/14(日) 02:00:35 ID:n05tvnVu0
何しろこの不良教師を操縦できるのは舎監のブラボー先生だけなのだ。
ブラボーと火渡は連れ立って職員室を出た。



体育館へ向かう道すがら、二人は無言だった。
どちらも元々お喋りという訳ではないが、いつにも増して会話が無い。
やがて、たまりかねた火渡が口火を切る。
「どうしたよ、うかねえツラしやがって。まだ昨日の事を気にしてんのか?」
「ああ、まあな……」

日曜の第13課との遭遇は、その日のうちに火渡と千歳には話していた。
両者共に七年前とは違う。
千歳は驚愕や恐怖を顔に出す事は無く、ただ僅かに表情を曇らせただけ。
火渡も激怒に燃えたり騒々しくいきり立ったりする事は無く、奥歯を噛み締めて闘志をみなぎらせただけ。
違っていないのは第13課という存在への認識だけだった。

「……」
廊下の二人は、またもや無言。
そのせいか遠く離れた場所からの音声もよく聞こえる気がした。
「――は、まずは私――紹介――――こちらへ――」
気がした、ではない。マイクを通した校長の声が二人の耳に飛び込んでいる。
「まずいな。もう始まっているぞ」
「あー、面倒臭え」
ブラボーは火渡の腕を引っ張り、火渡は両手をポケットに突っ込んだままで形だけの小走り。
この二人のやり取りを柴田瑠架が見たらある種の想像と創作意欲を掻き立てられ、歓喜するかもしれない。

二人はなるべく物音を立てぬよう体育館内に忍び入り、(主にブラボーが)会釈を繰り返しながら
全校生徒横の教師の列に加わる。
ステージ上では校長が一人の女性を横に立たせて、機嫌良く朗々とした調子で講話を続けていた。
102THE DUSK:2008/12/14(日) 02:09:54 ID:n05tvnVu0
「――先生は日系フランス人として日仏両国の架け橋とも言うべきご活躍をされており、また日本語、
フランス語、英語、イタリア語、ラテン語と五ヶ国語に堪能な類稀なる才女でありまして、彼女のように
優秀な外国語教師を迎え入れるという事は、我が校としても――」
普段は大真面目な顔で含蓄ある退屈な話をする校長だというのに。
今日は不自然なまでにニコニコと満面の笑顔で、まるで催眠術にでもかかっているかのようだ。
横に立つ新任と思しき女性教師は余程の人材なのだろうか。
ブラボーはステージの方を見上げ、眼を凝らした。
「新任の先生の紹介か。それにしても何でこんな時期に…………――――なっ!?」
女性教師の顔を視認すると同時に、ブラボーが驚きの声を上げた。
「なんであの女がこの学校にいやがる……!」
隣の火渡も愕然としている。
二人が彼女の顔を見忘れる筈が無かった。





ども、今晩は。さいです。
七年間くらい寄宿舎&学生寮暮らしをしてましたが、SSに役立てられる程には覚えてないもんですねぇ。
しかし高校三年間の寄宿舎は地獄だった。『武装錬金』読んでたら銀成学園寄宿舎は甘すぎて腹立ってきます。
だってTVゲームとか(ry

>>37さん
ありがとうございます。もうホント少しずつ頑張りますので。
主人公なのにまっぴー&婦警の出番が微妙になりそうで怖いっす。

>>38さん
仕事はペース上がりすぎて死にそうですw 私生活は何とか。SSもボチボチで。

>ふら〜りさん
スターダストさん’sまっぴーと比べると自分のまっぴー描写の甘さが思い知らされてうむむなのです。
好きな気持ちを上手い文章に出来なくてもどかしいのですわぁ。
103さい ◆2i3ClolIvA :2008/12/14(日) 02:12:22 ID:n05tvnVu0
>>40さん
大事にと言われるとちゃぶ台引っくり返して足蹴にしたくなったりw
気を抜くとまっぴーと婦警の濃厚百合SSを書きたくなるので困りものです。

>電車魚さん
『THE DUSK』を読んで頂き、嬉しく思います! 『女か虎か』の方はまとめて読ませて頂き、
後日感想を書かせて頂きます。
あと実は私も葛西さん大好きなのです。魅力的な中年キャラはなかなかいないですしね。

>スターダストさん
グレイズィングいいなぁw ここまでストレートに変態エロ女だと爽快! 股ぐらもいきり立つ!
スターダストさんの女性オリキャラは私のツボにグイングインw
しかしグレイズィングは『ワールドダウンタウン』のナタリアに通ずるものがあるなぁ。

>>76さん
あざーっす。

>サマサさん
お気遣いありがとうございます。これからも頑張ります。
104作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 03:18:50 ID:DNHvpgAP0
>遊戯王
ブラック・マジシャンは遊戯の主戦力と思うので後々、活躍してほしいですね。
今回は城の内大活躍?でしたけど妙なフラグ立ちまくりですね。

>しけい荘戦記
烈が負けるとは以外。原作ピクル戦の覚醒烈ならゲバルより強いんでしょうが。
本部がやたら大物っぽい振舞いなので笑えますね、ギャップにw

>THE DUSK:
セラスは無邪気で無防備なのに凄いプロポーションだから困り者ですね。
ブラボーといえども惑わされるのは仕方なし。そして火渡とどう絡むのか?
105作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 11:06:16 ID:SsptUJs10
さいさん完全復活でいいのかな?
ちょっとユリユリしたセラスとまひろのコンビが好きなので頑張ってほしい
今回はブラボーが役得でしたね
106作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 19:10:54 ID:b09P5ftd0
サマサさん、サナダムシさん、さいさん乙です。みんなさ始まりだな

・サマサさん
時代考証とか関係なくこのまま突き進んでくださいw
ふらーりさんとは違う意味でサマサさんのキャラは可愛いです。
城の内はつくづく主役になれないな。名脇役だけど引き立て役。

・サナダムシさん
烈はこのままフェイドアウトでしょうか?彼がバキノ中で一番好きなので
ここで退場はちょっと残念。きっとヤイサホーは原作より強いですね。
原作ではアレだった地球拳、ちゃんと炸裂したし。

・さいさん
セラスの寝姿はその寝顔とは裏腹に素晴らしく淫靡ですな。
175センチあって物凄いプロポーションですよね?日本人じゃもてあますな
火渡とブラボーのつわものも物語に大きく絡みますね
107作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 19:49:25 ID:ISRtGohvO
地球拳には夢があるな。
108ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:09:26 ID:W2ZmZtvi0
 F08は、腹の痛みと、頬の痛みと、地面を這わされた屈辱に怒り狂っていた。人生の中で、ここまで虚仮にされたことはない。
 今すぐこの二人を八つ裂きにして、落とし前をつけなければならない。そう思うものの、F08は動けずにいた。金縛りにあったかのように、
指先すら動かせない。じっとりと、額に汗が滲む。
(なんだよ、これは。まさか……)
 身体の奥底から冷たいものが湧き出る。その名前を、F08は知っていた。
(恐怖……。恐れているのか……わたしが、あいつを!)
 馬鹿な、ありえない、と頭を振る。自分は克服したのだ。一度目の死を経験して、そんなものは。
「ふざけんじゃねえ……ふざけんじゃねえぞ! てめえなんぞ、今すぐ殺してやらあ!」
 恐怖を意思の力でねじ伏せ、F08は立ち上がる。
(そうだ、こいつがわたしに勝てるはずがないんだ!)
 次の瞬間、F08の姿が掻き消えた。人間の視覚では捉えきれない超高速でヒューリーに迫った。これまで培ってきた技術、経験、それらすべ
てを動員した動きであった。
 彼女は、一撃で勝負を決めようとしていた。F08はヒューリーの背後に移動し、ナイフの切っ先を首筋に定める。
 だが、その動きを察知していたのか、ぐるりとヒューリーは身体の向きを変え、怒りに凝った視線をF08にぶつけた。
(な……!?)
 その視線を気圧されて、F08は踏みとどまり、後ろに跳んだ。
 彼女の第六感が囁く。いま踏み込んでいたら、殺されていたのは――自分。
(馬鹿な……!)
 F08は愕然とする。
(死んでいた、殺されていた!? あいつじゃなくて、わたしが……!?)
 本能が命じている。――今すぐこの場から離れろ、と。
 だが、その命令を素直に聞くには、F08は幼すぎた。
 F08は攻撃を再開する。だが、やはり――何度後ろを取ろうと、気配を消しても、ヒューリーは必ず自分の居場所を察知する。
「くそ……!」
 苦し紛れにナイフを投擲する。だが、それは苦もなくヒューリーに防がれる。
「もう仕舞いか。なら」
 そう言ってヒューリーは、ナイフを逆手に構えなおし、
「今度は、こっちの番だ」
 一歩踏み出す。
 F08の視界の端で何かがきらめいた。理性よりも身体の反応の方が速かった。後ろに姿勢を崩し――迫り来るヒューリーのナイフを回避し
た。だが、完全にはかわしきれなかった。鼻先の肉がわずかに削れ、血が流れる。
109ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:10:39 ID:W2ZmZtvi0
(こいつ、わたしに当てやがった……!)
 回避には成功したものの、F08は次第に追い詰められていった。
 ヒューリーは、F08の行動の先を読み、逃げ道をふさぐ。常に先手を封じられるF08は、回避に専念するしかない。
「おおおおおお!」
 ヒューリーの猛攻は止らない。最初鼻先をかすった一撃以来、まだ有効打を与えていないものの、確実にF08の動きに順応してきている。あ
と何手かで、完全にF08の動きを捉えるだろう。
「てめえ……!」
 爪先を地面に突き刺し、蹴り上げる。土と砂をヒューリーの目に浴びせる。
「……ッ!」
「なめんじゃねえ!」 
 視界を奪われた一瞬を突き、F08はヒューリーの首目掛けてナイフを突き出す。だがヒューリーは、目が見えていないのにもかかわらず、
F08の手首を掴んだ。
「く……!」
「電極のある首を狙うと思っていた」
 万力の如き握力が、F08の自由を奪う。力で劣るF08は、その拘束を振りほどけない。押せども引けども、びくともしない。
 ヒューリーはさらに力を込めて、手首を握り締める。そして――
 ごきい、と。怖気が奔るような大きな音が響いた。骨が砕かれる音だ。
 ――F08の手首が、有り得ない方向に曲がっていた。
「ぎ……がああああ!!」
 激痛が全身を駆け巡る。一瞬、意識に空白が生まれる。だから、次の一撃を避けることができなかった。
「ごあっ!?」
 ヒューリーの拳が、F08の後頭部に炸裂した。顔面から地面に激突し、土と血の味が口の中に広がる。
「立て」
 ヒューリーは襟を締め上げ、強引にF08を立たせる。
 そして、F08は間近で見てしまう。
 憎悪と、自分に向けられる殺意が燃えさかる、ヒューリーの瞳を――
「あ……ああ……」
 その瞬間、身体の深奥から黒く、冷たいものが這い出し、彼女のすべてを支配した。
 それは――恐怖。
「うわあああああああああ!!」
 F08の喉から悲鳴が迸った。
110ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:11:24 ID:W2ZmZtvi0
 と同時に、彼女の全身から何かが飛び出した。F08の肉を引き裂きながら閃光のように射出されるそれらは、小型の刃であった。
 突然の刃の奇襲に、ヒューリーは仰け反った。咄嗟に首元をかばい、電極へのダメージは免れたものの、顔から胸にかけてナイフが
針山のように刺さっている。がくり、とヒューリーは膝を付く。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
 衣服をぼろぼろにして、F08は荒く息をつく。
 ――殺したのか。手ごたえはあった。首元にも何本かナイフが刺さっている。
 電極が破壊されたのなら、人造人間は壊れる。なら、自分は、勝ったのか。
「は、はは……ははは……」
 F08は乾いた笑い声を上げる。
「やっぱりな! てめえなんぞが、わたしに勝てるわけがねえんだよ! はははは!」
 だが、残酷にも、戦いは終わっていなかった。むくりと、ヒューリーは立ち上がる。先程と変わらず、憎悪を瞳に宿して。
「あ……あ……」
 これだけやっても、死なない――
 そのとき、F08の中で、何かが切れた。
「うあああああ!!」
 息を整える暇もなく、F08はヒューリーに襲い掛かった。滅茶苦茶にナイフを振り回す。
 機微も何もあったものではない、乱暴な動きであった。
「死ね、死ねよ! さっさと死んで黙っちまえよォ!」 
 先ほどまでの余裕と驕慢はどこにいったのか――F08は、恐慌状態に陥りながら、攻撃を繰り返す。
 もはやなりふり構う余裕はなかった。自分の全存在を賭けて、こいつを殺さなければならない。失敗すれば、死。 
「死ね、死ね! 死ね死ね死ね死ね!」
 F08は冷静な判断力を失っていた。体格で劣る自分が、ヒューリーの間合いにいることの危険性も失念していた。
 たしかにナイフの一撃は脅威ではあるが、人造人間を一撃で仕留められるほどの殺傷力はない。
 ナイフの応酬には一切構わずに、ヒューリーは手を伸ばし、F08の頭を鷲掴みにする。そして、ゆっくりと力をこめる。
「ぎ……ぃ、あ……」
 ぎりぎりと頭蓋が悲鳴を上げる。あまりの激痛に、F08はナイフを取り落とした。
 両者の目が合う。
「ひぃ……」
 F08はか細い悲鳴をあげた。彼女の目尻には、涙が溜まっていた。
 ――何だ。目の前にいるこいつは。
「何なんだお前はァ!」
111ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:13:06 ID:W2ZmZtvi0
「はは」
 嘲弄。紫煙をくゆらしながら、ヒューリーの背後で、ピーベリーが嗤っている。
「教えてやろうか。そいつはな、かのポーラールート製"究極の八体"を超えるべくして、わたしが全身全霊をかけて造った人造人間だ。お前のよ
うな、一世紀近く前の人間が造り出した、かびの生えた骨董品なんぞに負けるわけがない」
 さらに力が込められた。このままでは、自分の頭は、トマトのように握りつぶされてしまうだろう。
 たまらずF08は叫んだ。
「お、おいお前ら! F機関! 見ているんだろう!? はやく助けろ!」
 返答はない。F機関――彼らは<装甲戦闘死体>をサポートする組織だが、戦闘に介入する権限は与えられていない。
 彼らの任務は、あくまで<装甲戦闘死体>の監視のみ。だからF08の懇願は、空しく宙に響くのみ。
「助けは来ないようだな。――なら、終わりだ」
 ヒューリーが見たところ、F08には電極がないようだ。人造人間には起動の為の電極が不可欠なのだが、人造人間の始祖を創造したフランケ
シュタイン博士が、電極を用いない起動方法を知っていてもおかしくはない。
 ――ともかく、F08の身体には人造人間的な弱点らしい弱点は存在しない。
 だからヒューリーは、人間の急所を狙う。すなわち、心臓を。
「や、やめ……」
 F08の懇願は、聞こえないふりをした。
 どすっ、と鈍い音がした。
 おそらくF08は、身体に何かがぶつかったとしか認識していなかったはずだ。
 けれど、ナイフは確かにF08の胸部に突き刺さっていて、その切っ先は心臓にまで到達していた。
 ややあって――
 F08の瞳から、光が失われた。

「あわれだな」
 それがヒューリーの感想であった。彼の視線の先には、F08だったものが転がっている。
 魂が抜けた残骸は、何も語らず、ただそこにある。
 あれほどに憎んでいたのに、今となってはF08に哀れみを感じる。一抹の寂しさすらある。
 自分は何を得たのか。この戦いに、意味はあったのか。
 それは復讐を完遂したものが総じて経験する感情なのだが、ヒューリーはそれに気づかない。
 そして、敵を斃した安心からか、緊張の糸がほどけ、ヒューリーは倒れそうになった。その身体を背後にいた人物が抱きとめる。
「ピーベリー」
「しゃべるな。傷は深い」
112ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:15:22 ID:W2ZmZtvi0
 大柄な体格をいつまでも支えるのは酷だったのか、ピーベリーはヒューリーを地面へと寝かせた。
 そして、鞄から医療器具を取り出す。
「歩けるようになるまでは修理してやる。だが、本格的な修理は、ここでは無理だ。専用の設備が必要になる」
 つてがある、とピーベリーは言った。
「ポーラールート――私の抜けた組織ならば、お前を完璧な状態に修理できる。歩けるようになったら、そこに向かうぞ」
 そう言ってピーベリーは、手際よくヒューリーを修理し始めた。身体に刺さっている刃物を引き抜く。その痛みに顔をしかめながら、ヒュー
リーは思った。彼女は何のために、ここまでしているのか。復讐のためと言ったが――いったい彼女の復讐とは、なんなのか。
 知らないことばかりだった。考えるべきことはいくらでもあった。
 ヒューリーの復讐の対象――レイスのこととか。目的地であるロンドンのこととか。
 だが、ヒューリーには、まず言わなければならない言葉があった。
「あんたの言葉で、目が醒めたぜ」
 そうヒューリーは言った。思いがけない言葉に、ピーベリーは目を丸くする。
「どうやら、俺はまだ覚悟をしっかり決めていなかったようだ。これからも、さっきのような戦い――いや、それ以上に苦しい戦いが待っている
かもしれない。だが、俺は諦めない。レイスを殺すまで――エーデルを殺したあいつを殺すまで、復讐を遂げるまで、俺は戦い続ける。あんたの
復讐も、俺がかなえてやるさ。あんたと俺は、共犯者だからな」
「……」
 ピーベリーはしばらく無言であった。静かな時間が流れる。そしてカチャカチャと鞄の中を探り、一本の注射器を取り出した。
 その注射器をヒューリーの眉間に投擲する!
「いてェ!」
「無駄口を叩いている暇があったら、さっさと眠れ」
 注射器の麻酔が眠気をさそう。戦いで疲弊したヒューリーの身体は、すぐさま睡眠を受け入れた。意識が霞におおわれていく。
 そのまどろみのなかで――ヒューリーは聞いた。
「よくやった、ヒューリー」
 冷たい、だがわずかに温かみが込められた、ピーベリーの言葉を。






「もういいぞ。でてこい」
113ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:17:29 ID:W2ZmZtvi0
 ヒューリーが眠ったことを確認したピーベリーは、そう言った。
 闖入者が、F08の残骸の隣にいた。
 全身黒のスーツに、白い仮面が殊更際立っている、一つの影。無機質な、どこか人形めいた雰囲気をまとっている。
「影人間。――《結社》の者、か」
 《結社》。あるいは西インド会社、西方碩学協会。ヨーロッパはおろか全世界の闇を支配すると言われている秘密結社である。
 影人間とは、その《結社》の構成員であり、《結社》に在籍する数多の碩学が作り上げた一種のロボットであるらしい。
 その影人間が、語り始める。
『ええ、ええ。そうでございます、美しく聡明なる方。偽りの命の作り手、呪われた人造人間創造者であるあなた』
「影人間はしゃべらないと聞いていたが、そうか。代理人、というわけか。」
『いかにも。我輩の本当の身体はここより遠くの地、ロンドンに在ります。自己紹介が遅れました。我輩は《バロン》。
バロン・ミュンヒハウゼンと申します。影人間を経由してのご挨拶、まことに失礼と存じ上げてはおりますが、
我輩は多忙の身であるが故に』
「ふん。戯言を楽しむ趣味はない。さっさと用件を済ませろ」
『これは、これは。美しく聡明なるあなたの機嫌を損ねてしまったようですね』
「《結社》最高幹部の《三博士》の一人と世話話――この世界の暗部に生きるものとしては、ぞっとしない話だ。あまり関わりを持ちたくない
んだよ、お前達とは。それに、多忙の身なのだろう? さっさとこの<装甲戦闘死体>を回収したらどうだ」
『おや、おや。我輩の目的に気づいていたとは』
「影人間はその気になれば人一人縊り殺せることくらいは容易くできる。すぐさま私達を殺しにかからない以上、お前の目的は別にある。とすれ
ば、お前の目的は、大破したそこの<装甲戦闘死体>の回収であると考えるのは自然だ」
『さすがは聡明なる方。実はですね、<装甲戦闘死体>の方々と《結社》は現在、同盟関係にあるのですよ。全世界の闇に枝葉を伸ばす《結社》
といえども、吸血鬼の存在には手を焼いておりましてですね。彼らの排除のために、我輩どもは手を結んだのですよ。であるからして、かの大碩
学フランケンシュタイン博士の叡智の結晶である<装甲戦闘死体>、これが欠員するとなると、我輩どもとしてましても手痛い損失でして。《結
社》最高幹部の権能を使い、影人間を操り、こうしてここに参上した次第です』
「そうか。わかった。ならこちらから話すことはない。さっさと消えろ」
『我輩を止めないのですかな?』
「言っただろう? お前達と関わりを持ちたくないと」
『成る程。それでは、我輩は義務を果たすとしましょう』
 闇が、F08の残骸の周辺から沸き立っていた。
 黒い水溜りのようなものが、F08を飲み込む。物言わぬ形骸はずぶずぶと沈んでいく。
『それでは最後に』
 と、影人間の向こう側にいる人物は告げた。わずかに、嘲笑めいたものが混じっている。
114ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/14(日) 20:25:15 ID:W2ZmZtvi0
『復讐とは、純粋なる人間の情念につきますれば――美しく聡明なる方。深淵は常にこちらを覗いています。知らぬ間に自身が怪物となっている
ことにならないよう、ゆめゆめ注意なさることです。では、機会があればロンドンで会うこともあるでしょう。そのときまで、どうかご健勝に』
 その言葉とともに、どぷんという音がして、F08も、影人間も黒い水溜りの中に消えた。
 残されたピーベリーは、一人呟く。
「――言われずとも、承知している」
 復讐の覚悟は、とうに済ませてある。どんな結末が待っているのだとしても、自分が醜い怪物に成り果てるのだとしても、悔いはない。
 何故なら――復讐を果たすまで、自分は、前へ進むことが出来なくなってしまったから。
 自分の"これから"には、喜びが無く、希望も無い――そんな"明日"を否定したから、復讐の道を歩むことを選んだ。
 だから彼を人造人間にした。だけど。
「お前には……安らかな死を選ぶ権利があった。だが、お前は夜の道を行き、復讐を遂げることを選んだ。しかし……お前がいつか復讐を完遂
し、人造人間が自分だけになった後、何を思い、何を考え、何を後悔しながら自分の胸に刃を突き立てるのか……それを想像するのが、怖い。そ
して、そんな運命をお前に背負わせた私は――悪魔に違いない」
 
 そう自嘲した時、ピーベリーは、雷鳴が轟くのを聞いた。
 錯覚だ。辺りは暗がりに満ちている。だが、雷鳴は、ピーベリーを嘲笑うかのように、何度も何度も鳴り響いて……。

 雷鳴が響く。
 雷鳴が響く。
 今日もまたどこかで、人造人間が産声をあげる――
115ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/14(日) 20:26:24 ID:W2ZmZtvi0
というわけで、決着です。
エンバーミング組の出番はこれで最後。あとはF08のエピローグで、ネクロファンタジアは完結となります。
今回の最後で出したキャラは……うん。漆黒のシャルノスのキャラを誰か一人出したかったから出した、それだけです。
ただそれだけだとバロンとか《結社》とかが分からない方も多いと思うので、ネクロファンタジア完結と同時に、ブログに登場キャラクター&設
定紹介の記事でも載せようと思います。
さあ……次はロンギヌスだ!
285さん
というわけでお仕置きされました。ですが、エピローグでまたお仕置きされる予定です。一気に坂道を転げ落ちていきますね、F08は。
286さん
手首を折られただけですから、それほどぼろぼろにはなりませんでした。もっとやばい方向にもできましたが、さすがに自重しました。という
か、体格差とか考えると、いったいどっちが悪役なのかわからなくなりますね……
287さん
まあこれまで好き勝手やってましたし、かませがお家芸みたいな感じがあるので、F08もそれほど悲しんでいないんじゃないかな、と思います
(超適当

サマサさん
ソロル「魔法カード<アークと呼ばれたもの>発動! うふふ、お兄様。奴隷なんて身分は捨てて、楽園に還りましょう……?」
フラーテル「助けてブルーアイズ!」
こんな展開が……!(あるはずがない
それから、銀髪の美少女にBMGのコスチューム、だと……?
み な ぎ っ て き た !
というか城之内の操がー! やめてあげて……レオンティウス……

銀杏丸さん
長い年月を共に過ごしてきた人間だからこそ出せる雰囲気ですね。シオンの静かな言葉が泣けます。それにただ耳を傾け、友を励ます童虎……。
銀杏丸さんの星矢への愛が伝わってきます。ロストキャンパスがアニメ化など、星矢関連が沸き立っていますし、それに触発された銀杏丸さんの
作品、この次も楽しみに待っています!

ふら〜りさん
ピーベリーはヒューリーに対して彼を人造人間にしてしまったことに対する責任を感じていると思うんですよ。彼を復讐の道具と言い切りなが
ら、同時に彼を人間としてみてる。そんな葛藤みたいなものの裏返しが、前回の励まし(?)だったり今回の温かい言葉だと思います。
116ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/14(日) 20:27:34 ID:W2ZmZtvi0
たぶん……。いや、キャラの内面を書くのは難しいです。この台詞を言わせて本当に正しかったのか、今でも不安ですし。

スターダストさん
第一部完結おめでとうございます!
甘甘ほのぼので終わるかと思いきや、なんだかすげえダークな雰囲気で第二部へ……。グレイズィング……武装錬金以上に、彼女の性格が禍々し
くて、彼女と戦うはめになりそうな火渡と再殺部隊の面々が心配です。ともあれ、第二部も楽しみに待ってます!

さいさん
ブラボーマジ役得。セラスのむちむちボディに、さしものブラボーも……。ここで千歳さんがきたら、もう、恐ろしいことに……。
そして最後に出た新任教師、校長が催眠術にかかっているとしたら、まさか……シエル……?
吸血鬼は絶対根絶のイスカリオテ、セラスが見つかった時のことを考えると……まあ、えーりんとけーねがいるんで戦力的には大丈夫ですよね
(彼女らは本物に違いないと信じている瞳で

電車魚さん
すいません……ネウロはまだ一巻しか……。
……。投稿がすんだらダッシュで本屋に行って来ます!
ネウロのキャラは誰もが輝いていると聞きますが、「女か虎か」を読んでいると、それが本当だとわかります。ネウロキャラの魅力を引き出して
る、電車魚さんまじすげえです。
葛西が今のところ好みです。先週号のジャンプで、特殊能力とか人外の技に頼らず、ただの技術で圧倒しているところがつぼに入りました。あと
お茶目なところとかも。
117作者の都合により名無しです:2008/12/14(日) 21:01:06 ID:/1OqEe+60
どうしても週松に固まってしまいますねーw

ハシさん乙華麗です。
ある意味、F08の最後は予定調和でしたけど見所は満載でした。
エピローグとロンギヌスの再開、楽しみにしております。
118遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/14(日) 23:50:56 ID:UrVnXhWb0
第二十三話「朗報と凶報」

「ぐ、う、ううう…」
城之内は、尻を押さえて蹲っていた。長く苦しい闘いを物語るように、顔中に脂汗を滴らせている。
「じょ、城之内くん…」
「へへ…遊戯…そんな顔すんな…オレなら、大丈夫だ…ぐっ!」
気丈にも笑い飛ばそうとする城之内だったが、尻を襲う激痛は治まらない。
「くそっ…我ながら信じられねえ…まさか、あんな太くてデカいモノが、オレの腹ん中に入ってたなんてよ…」
(なんてことだ…くっ!オレがもっと注意しておけば…)
己の甘さを痛感し、闇遊戯も今さらながらに嘆く―――だが、遅かった。
全ては、あまりにも遅すぎたのだ…。
城之内は、ぜえぜえと荒く息をつきながら言った。
「まだヒリヒリしやがる…手強い相手だったぜ…一週間の便秘って奴はよ…」
そう。城之内はウ○コが太くてデカくてお尻が痛かったという話をしていたのだ。おホモな御方にヤられちゃったという
わけではないので、皆様ご安心ください。
(やはりオレがもっと注意しておくべきだったぜ…城之内くん、あまり野菜を食べないからな。きちんと食物繊維を摂る
ように言っておくべきだった)
闇遊戯は、眉間に皺を寄せるのだった。

それはさておき。
「我が兄上は…立派であった。強く、勇敢で、忠義心に溢れた、まさに真の騎士であった」
謁見の準備が整うまでの間、王宮の客間でカストルは、涙ながらに遊戯達に向けて熱弁をふるっていた。その話題
は主に、エレフとミーシャの父であり、カストルの兄である、ポリュウデウケスについてである。
―――忘れている読者もいらっしゃると思うので、序章と第十七話を参照していただきたい。双子の父の名はきちん
と明言されているし、カストルがポリュデウケスの弟であると説明している。
ね?そこまで唐突に出てきた設定でもないでしょう?―――言い訳はともかく。
「兄夫婦が死に、行方知れずになってしまったお前達を心配していたが…こんな形で出会えるとは驚いた」
そりゃまあ、姪っ子がコスプレしながら戦場にいたら、驚きもするだろう。
119遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/14(日) 23:51:45 ID:UrVnXhWb0
「私も吃驚(びっくり)したわ。お父様や叔父様がアルカディアの騎士で、叔父様が今は将軍をやってるなんて」
「何だよ。ミーシャ、自分の親父さんや叔父さんが何やってるか知らなかったのか?」
城之内の疑問に、ミーシャがこくりと頷く。
「うん…父は優しい人だったけど、昔のことはまるで話してくれなかったから…」
「うむ。そうであろうな…」
カストルは何やら訳ありげに、神妙に顔を伏せる。
(何か、事情がありそうだね)
(ああ…気になるが、無理に訊き出そうとしても、教えちゃくれないだろうな)
(うん。それに当面の問題はそこじゃないもんね)
遊戯と闇遊戯は、そう結論した。次にカストルは遊戯達に向き直ると、深々と頭を下げた。
「お前達に礼を言っておかねばな。レスボスでミーシャの命を救ってくれたこと、本当にありがたく思っておる」
「いやあ、オレ達はただの、通りすがりの正義の味方ですってね」
「そうそう、か弱い女の子を助けるのは当然のことですよ」
ふふん、と胸をそらす城之内とオリオンであった。
「それよりも、もうアルカディアはあんなことをしないですよね?」
「うむ。陛下からも正式に話があると思うが、あれは一部の者の独断と暴走なのだ…だからといって赦されるもの
でないが、どうかもう、ミーシャに対して害意はないことだけは信じてほしい」
遊戯の問いに、カストルも重々しく首肯する。
(問題ないさ、相棒。見る限りあの王様も、良識はあるようだしな…多分)
なんとも自信なさげなのは、城之内に対するあのやたらベタベタした態度を目撃しているからだろう。
「しかし、ミーシャ。お前の兄は…エレフはどうしたのだ?」
ギクッという表情が、恐らくはモロに出てしまっただろう。カストルは顔を強張らせる。
「まさか…死んでしまったなどとは…」
いずれ知れてしまうことだが、ここでいきなり<いやあ、アルカディアを滅ぼすとか息巻いて旅立っちゃったんです
よ、はっはっは>などとは言えなかった。
「あ、いえ。そんなことはないです。むしろ元気すぎるというかヤンチャすぎるというか…あ、そうだ!ここの王様、
若いのに立派ですよね!カッコいいです!憧れちゃうなぁ、ボク!」
慌てて話題を変えた遊戯に、カストルは今度は顔を曇らせる。
120遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/14(日) 23:52:40 ID:UrVnXhWb0
「…うむ。あまりにも突然に王位を継ぐこととなってしまったというに、御立派であられる」
「突然?」
「ああ。実はだな…」
―――カストルは、スコルピオスの顛末の一部始終を遊戯達に語った。ある意味で当事者の四人はそれを聞き、
複雑な表情となった。
「まさかレスボスであれだけやられて生きてたとはなあ…しかしあれだけのことやっといて、オレたちとは関係ない
ところで死んじまったか」
「これもまた、運命という奴かね」
オリオンは皮肉だ、とでも言いたげに溜息をついた。
その時、コンコンとドアがノックされた。カストルは顔を引き締めて立ち上がり、遊戯達を促す。
「どうやら準備ができたようだ。では、行こうか」

―――玉座に座ったレオンティウスは、謁見ということで少々畏まっている四人を見回した。
まず遊戯。
(あの少年、戦場とは雰囲気が違うな…しかし、今の少し頼りなげな姿もそそられる…)
次にオリオン。
(彼があの星女神の勇者か…噂通りの美貌だ。こういう男が傍にいたら、毎日楽しかろうな)
そして城之内。
(うむ。この三人の中ではやはり彼が一番タイプだ!)
…断わっておくが、こんなことばかりに現を抜かしているわけではない。彼らがやってきた理由についても、ちゃん
と考えてはいる。
(やはり、叔父上の行なったレスボスへの侵略行為についてだろうな…)
ちらり、とミーシャに目線をやる。
(彼女が星女神の巫女…それに聞くところによると、カストルの姪ということだが…)
―――ドクン、と、心臓が高鳴った。
「な…!?」
思わず、胸を押さえた。レオンティウスは愕然として、目を大きく見開く。
(バカな…まさか、私が母上以外の女に興味を持つなどありえん…!)
121遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/14(日) 23:53:30 ID:UrVnXhWb0
レオンティウスは戦慄すら覚える。彼にとって女に興味を持つということは、女の肛門を貫かなくてはならぬという
ことに他ならない。そんな至ってノーマルな性生活など願い下げだ。
(いや…違う!彼女に対する感情は、そうではない…)
歴代・自分の愛した男達を思い出す。彼等への熱い想いと、ミーシャに感じる想いは、似て非なるものだ―――
心はどこか穏やかで、優しさに満ちる。まるで―――
(まるで…家族であるかのような…?)
「あの、どうかしたんですか?」
様子がおかしいレオンティウスを心配してか、ミーシャが声をかけてくる。
「む…すまない。先の戦で少し疲れているのかもしれんな。ボンヤリしていた」
レオンティウスは咳払いし、話を戻した。
「まずはレスボスでの先の一件について侘びよう…謝って済む話ではないだろうが、申し訳ないことをした」
「そりゃもう終わったことだし、あんたが謝っても仕方ねえよ。それよりか、もう二度とあんな真似はしねーって
約束してほしいだけだ」
「そうでなきゃ、ミーシャも安心して暮らせねーってもんだからな」
口を尖らす城之内とオリオンに対し、レオンティウスは神妙に頷く。
「分かっている。あのような愚行は二度と起こさぬ。アルカディアの王として、ここに誓おう」
上っ面でない誠意に満ちた言葉に、遊戯達の顔に笑みが浮かぶ。カストルも、ほっとして胸を撫で下ろしていた。
(ひとまずは安心か…しかし相棒、ここで話を終わらすわけにはいかないぜ)
(うん、分かってるよ。エレフと海馬くんのことも話さないとね)
「さて―――他に用件があるのではないか?」
遊戯の様子を見てとったのか、レオンティウスから話を振ってくれた。ありがたいことである。
「ええ、実は…」
「待って、遊戯―――私が話すわ」
ミーシャが遊戯を押し止めた。
「ミーシャさん…いいの?」
「ええ…私が言うべきだと思うわ。兄のことですもの」
兄という言葉、そしてミーシャの余りにも真剣な表情に、カストルが息を呑むのが分かったが、ミーシャは澱みなく
語り出した。
122遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/14(日) 23:54:18 ID:UrVnXhWb0
レスボスでの一件と、それに続く海馬、そしてエレフの行動―――
カストルにとっては甥のことである。話が進むにつれて沈痛な面持ちになっていくのも仕方ないことであろう。話を
聞き終える頃には、彼は掌で顔を覆い嘆いていた。
「なんということだ…そんなことになっていようとは…」
「うむ…」
レオンティウスも口元に手を当て、対応に悩んでいる様子だった。
「正直、国家としては、たった二人の反乱者のためだけに労力を裂くことなどできん…」
ただ、とレオンティウスは付け加える。
「キミ達には負い目もあるし恩もある。あまり大々的な協力はできないが、各地にいる兵や密偵に、それらしき二人
を見かけたら報告するように伝えよう。勿論それは、キミ達にも教える―――残念だが、私には今はそれくらいしか
協力してやれない。申し訳ないが…」
「いやあ、それで十全ですよ。王様」
オリオンはさっぱりした口調だ。
「オレ達だけじゃ、あいつらを探すことさえ難しかったからな。一緒に探してくれるってだけでありがたいぜ」
「それに、ミーシャの身の安全も保障してくれたんだ。これ以上どうにかしてくれなんざ、バチが当たるぜ」
「うん。それだけで、充分に朗報だよ。居場所さえ分かれば、後はボク達で解決するべきだ」
城之内と遊戯もそれに同意する。ミーシャも笑って頷く。それを見て、レオンティウスも安心したようだった。
「そう言ってもらえるとこちらもありがたい…後の処遇についても、カストルの甥というなら、私にとっても身内同然
だ。できる限りの便宜は図ろう。カストル、それでよいな?」
「はっ…ありがたきお言葉です、陛下」
カストルは感激したように言葉を詰まらせる。
(やれやれ。どうなるかと思ったが、どうにか丸く収まりそうだな)
闇遊戯も安堵し、胸を撫で下ろしたその時だった。
「―――陛下!」
バタバタと騒々しく、兵士が王の間へと駆け込んできた。カストルはそれに対し、眉を吊り上げて怒鳴りつけた。
「何事だ!?陛下は今、客人と話をしておられる。後にしろ!」
「はっ…し、しかし、本当に一大事でして…」
縮こまりながらも、兵士は言い募る。
123遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/15(月) 00:14:56 ID:OTYXjBat0
「あ、ボク達なら結構ですから、どうぞ」
可哀想に思い、遊戯が助け舟を出す。レオンティウスも鷹揚に首を縦に振った。
「で、では申し上げます…実は先日イリオンに、二人組の賊が率いる、奴隷の集団が攻め入ったと…」
「なんだと?どういうことだ」
「イリオン?」
聞き耳を立てていた城之内が、首を傾げる。
「おい、オリオン。イリオンってなんだよ?お前の兄貴かなんかか?」
「うむ。実は俺にはアリオン・イリオン・ウリオン・エリオンという四人の兄が―――いねえよ、バカ」
「違うよ、城之内くん。今まで何度か話に出たじゃないか。ほら、風の都のことだよ」
「そう、それさ。ついでに言うと、俺とエレフが不遇の奴隷時代を送った愛すべき場所だよ」
オリオンが皮肉たっぷりに口にする。ミーシャも、彼女には珍しく顔を不快そうに歪めていた。
(そういやミーシャさん、確かそこで、変態神官に乱暴されそうになったんだっけ…)
遊戯はオリオンから聞いた話のことを考えた。イリオンという言葉は、彼女に嫌なことを思い出させてしまったの
かもしれない。
「しかし、よりによってあそこに攻め込むとはどこのバカだ?あそこは世界最強最大の城塞と謳われてるんだぜ。
おまけに、英雄イーリウスまでいるときた」
「イーリウス?それは聞いたことがないなぁ…」
「イリオンを守護する神は、風神(アネモス)。その血を継ぐ、当代随一の武人にして神の眷族。俺も一度だけ奴
の戦いを見たことがあるが―――英雄通り越してバケモンだぜ、ありゃあ。下手すりゃ俺以上の強さかもしれん」
「オリオン以上か…つまり、そんなに大したことないって意味だな」
「城之内…お前、喧嘩売ってんの?」
「怒んなよ。ジョークだって」
コホン、とレオンティウスが咳をする。ちょっと騒ぎすぎたようだった。
「で?その者たちが、どうしたと?まさかイリオンが落とされたなどと冗談を言うわけではあるまい」
「非常に申し上げにくいことですが…仰る通りです」
「なに?」
レオンは聞き返そうとして―――絶句した。その意味するところを、理解してしまったからだ。
「英雄イーリウスは斃れ…イリオンは…風神(アネモス)の加護篤きあの都は、陥落しました…」
124サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/15(月) 00:16:33 ID:OTYXjBat0
投下完了。前回は>>85より。
冒頭は自重しないことにしました。次回、正義の味方(?)カイバーマン参上。

>>87 向こうでも言いましたが、もう一度…優しいおじさん…ありがとうっ…!
>>88 一話ずつだと短いかなと思ったので二話同時になっただけだったりw
   城之内の扱い、もうちょっとよくしてあげたいな…
>>94 第二部はエレフとミーシャの出生の秘密が重要な要素になるようなならないような。

>>さいさん
さあ、まっぴーと婦警の百合SSを書く作業に戻るんだ!…冗談はともかく、セラスは素敵な
女性ですね。原作でも、勿論この作品でも。そしてブラボー。僕と代わってください、お願いします。

>>104 ブラック・マジシャン、トリッキーな闘いがウリなんで、上手く書けるかなあ…(汗)
    城之内も、もっとまともに活躍させてあげたいところ。
>>106 時代考証…ガチでギリシャ神話好きな方には怒られそうなくらいにダメダメです。
    城之内、原作だと実はかなり勝率高いんですが、何故かこのSSでは負けっぱなし。
    僕はなんで彼にここまで戦闘面でマイナスイメージを持ってしまっているんだろう。

>>ハシさん
F08…なんてテンプレ通りのカマセ犬!(褒めてます)
ピーベリーの黒い女性ぶりが素敵。謎の組織の幹部と渡り合う姿がカッコいいです。
エピローグも楽しみにしてます―――って、まだ酷い目に遭うのか、F08!蝶頑張れ…。
社長「フ…ならばオレは罠カード<楽園パレード>を発動!フィールドの<仮面の男アビス>を
   生贄に捧げ、お前とフラーテルを楽園に送る!あっちで幸せになるがいい!ワハハハハ!」
フラーテル「こ、皇帝様ー!」
ないですw BMGコスについては、僕が本気なら、ソフィア先生にやらせてたところですよ…ニヤリ。
城之内は大丈夫。流石に掘られるのは悲惨すぎるので…。うん、僕が異様に悪ノリしない限りは…。
125作者の都合により名無しです:2008/12/15(月) 00:57:09 ID:Kyh25lF/0
>ハシさん
F08はやはりお仕置きされて散りましたね。まあ、散々やってたから仕方ないw
次はエピローグですがここでもFO8がメインか。死人に鞭打つような・・w

>サマサさん
まあこの当時の性風俗は同性愛も普通だったんでしょうけど城之内は危険だなーw
いくらギャグ担当とはいえ生贄になったら洒落にならん。ホモ描写嫌いだしw

126ふら〜り:2008/12/15(月) 09:25:11 ID:6IRIEjZj0
男性キャラも女性キャラも、そしてその絡み(異性間同性間を問わず、恋愛戦闘を問わず)も、
魅力溢れる作品・シーンが並んでて幸せです。

>>サマサさん
>それに応えてやるのが男の子ってもんだろうが!
>一騎打ちの邪魔だろうと、知ったことか!
ここをアツく語ろうと思ってたら……バキスレ史上、こりゃもう18禁だろってのはありましたが、
流石に逆パターンは私の記憶に無い。とにかくアレク女史GJ。後々城之内が戦場・日常で
彼女と認め合い親しくなる、という番外ルートEDを妄想したり。あと闇遊戯、何気に世話女房。

>>サナダムシさん
ここはやっぱり烈が勝つだろ原作的に考えて、と思ってた我が身が恥ずかしい。こうなると
ゲバルのみならず、烈の今後にも俄然興味が出てきました。もちろんドえらい威厳の本部と、
未熟ながらもちゃんと成長してる若武者アライも。勝っても負けても怯えても、皆カッコいい!

>>さいさん
二人とも何もしてないのに、セラスは意識が無いしブラボーも妄想すらしてないのに、なのに
この色香。セラスの体温も匂いも伝わってくる思いでした。さいさんなら、某所のおせち料理
争奪戦に勝てそう。で、煩悩を抑えるのに数学や読経でなく千歳をもってくるか……うんうん。

>>ハシさん
いやぁもう清々しいほどに。ヒューリーに期待、F08に危惧……いや実はこっちにも期待してた、
そしてそれを越えるスーパーヒーロータイムでした。F08が強くエグかったからこそのカタルシス。
>そんな運命をお前に背負わせた私は――悪魔に違いない
こうまで言われては、原作・本作の作風がどうであれ、私は二人の肩寄せEDを妄想せざるを得ず。
127作者の都合により名無しです:2008/12/15(月) 19:34:33 ID:l1MMwKFf0
ハシさんのこの作品も楽しかったけど
スプリガンの復活の方が嬉しいかなw
皆川信者なんで・・。ハロイさんのも復活しないかな


サマサさんはどこへいこうとしてるのかw
もともとそっち方面のゲームとかからネタを持ってきたから
本性を現したのかなwミーシャは絵で見たいな
128作者の都合により名無しです:2008/12/16(火) 23:10:21 ID:+gT5kuaP0
今年はSS大賞やりたいかどうかご意見願います

SSスレを語ろう パート25あたり
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1211548428/
129電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/16(火) 23:48:44 ID:cBsSGtO90
こんばんは。
今回もまたレス返しのみさせていただきます。


>>59
目が辛いですか。すみません。次回からちゃんと字数計測して長ければ分割します。
トラ、トラ、トラ! いいですねえ、その結びつけ方面白そうです。原作でもやりそうですね。
ただその展開にしちゃうと確実にラスボスは脱獄してきたデイビッドにw
……あかん絶対こっちの方が面白いわ。どうしよう。

>スターダストさん
カエルの子はカエル、ワカメの子はワカメってやつですね。ジェニュインに同じことしてる
シックスを想像して「いい……」と思ってしまった私はどこに出しても恥ずかしい立派な変態です。
蛭は地味なキャラですが、その地味さの中に地に足のついたかっこよさがありますよね。
葛西VSアイはすごく好きです。「つれねーなアイ」と「ご冗談を葛西」、
このやりとりだけでたっぷり三時間は妄想できる。嘘です本当は三日ぐらいいけます。

>>74さん
うーん、どうやらこの量を「ぱねえ」と感じる感覚が、私には欠けてるらしいんですよね……
自分の感覚がおかしいということを自覚して次回からもうちょっと細切れでいこうと思います。
物語の進行状況は序盤の締めというところですね。次回で起承転結でいうところの「起」が終了です。
アイさんはたいへん頭のいい人なので台詞を考えるのが毎回大変だったりします。
それだけに好きと言っていただけるととても嬉しいです。ありがとうございます。

>>75さん
サイ&アイは本当にいいコンビでしたよねえ。
サイは確かに元々は女の子なんでしょう。
ただ、私個人としては、彼はゆくゆくはまたあの少年の姿に戻るんじゃないかと考えてます。
そんな予想もあって、私はこのSSではサイの精神を中〜高生くらいのヤローと捉えて書いています。
しかし十七歳女の子サイと二十五歳きれいなお姉さんアイのコンビもそれはそれで!
既に構想は最後までできているので、そこまで書ききったらこの話自体はおしまいですが、
サイとアイは大好きなのでこれが完結しても別作品などで色々書くかもしれません。
130電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/16(火) 23:50:13 ID:cBsSGtO90
>ふら〜りさん(序盤のネウロの動機無視はそれ以降の展開の布石です。2巻以降もよろしければ是非)
本作は作品のカラーの関係上、ほとんどそっち面に筆を割いていないんですけど、
実は原作でのこの二人は、もう少しほのぼのとしたシーンが多いキャラクターです。
ただ肝心な部分で妙に殺伐としているのも確かに事実で、この二人は本当に不思議な関係。
このへんは私がグダグダと主観込みの説明をするより、
気が向いたときにでも原作の続きを読んでいただいた方が良いかと思います。

>スターダストさん(SS感想)
グレイズィング良いなあ! 最近一気読みした私は当然彼女のことを覚えていたので、
彼女の再登場にはぬふぁ〜〜〜〜〜んとたぎりました。エロエロ女キャラいいよいいよ〜。
しかし彼女のキャラクターにおいて最も印象深かったのは、「癒す」能力が、身の毛もよだつような
拷問のために使われていること……グレイズィングには血族に入る資格があるのでh(自重)
設定や性格に何らかのギャップがあるキャラって魅力的だと思います。

>サマサさん(SS感想)
やばいアレクサンドラ様超好み。女らしい女性は美しいですが、逆に漢らしい女というのも
それはそれでいいものよ。魅惑のおうぢレオンティウス様は漢らしすぎて変な方向にいっちゃってますが。
レオンティウス、城之内にアツイ視線を注ぐと思いきや、別の意味でミーシャも気になる様子。
これがのちのちどう働いていくのかも気になります。女相手にも○門とかいっちゃってる時点で
ソ○ミーだよという話はひとまず横に置いておく。

>サナダムシさん(SS感想)
ますます予想のつかない展開になってきましたね……
固唾を呑んで身守っていたところに、いきなり近隣住民の述懐が出たときには
ちょっとずっこけそうになりました。シリアスなシーンにもこういうユーモアのセンスを
決して忘れないところが『しけい荘』の魅力ですね。
131電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/16(火) 23:51:29 ID:cBsSGtO90
>さいさん(SS感想)
ブラボーは本当に芯のしっかりした男ですね。
彼の本分である「守る」という行為にかけても、セラスの女体への自制心に関してもw
原作のほうで個人的に印象が薄かった火渡の活躍、本作のほうでは期待したいところ。
彼に教師なんて務まるんだろうか。でも勤務してるってことは務まってるんだろうなあ。意外だなあ……
『女か虎か』の方はお気になさらず。暇で暇でしょうがない時にでも。

>ハシさん(SS感想)
ヒューリーとピーベリーのコンビいいなあ。
殺伐としてるのに、眉間に注射器投擲とかは何だかほのぼのして見える……
しかしピーベリーの独白を見るに、この二人が幸せな未来を迎えることは難しそうですね。
F08にはお疲れ様でしたと言いたい。残り1話は彼女視点ですか。
南無三。ヒドイ目に遭うであろう彼女を高みで見物していたいような割って入って助けてあげたいような
不思議な気分です。



以上、失礼致します。
132作者の都合により名無しです:2008/12/17(水) 00:03:52 ID:WJo3ikYy0
第四回 SS大賞のお知らせ

今年は投票数が集まるかどうか不安ですが、皆様奮ってご参加ください。

12月21日 日曜日の午前0時から同日の23時59分までが投票タイムです。

以下の語ろうぜスレで、「IDがわかるように」投票してください。
(つまり、メール欄にsageとか記入せずにレスして下さい)

・大賞(1作):
・新人(1作):

・ストーリー(1作):
・ギャグ(1作):
・バトル(1作):
・名シーン(1場面):
・中短編(1作):

・最優秀キャラクター賞(1人):
・優秀男キャラ(3人以下):
・優秀女キャラ(3人以下):

この一年のSSに対する思いのたけを語って頂ければなお幸いです。
133作者の都合により名無しです:2008/12/17(水) 00:04:40 ID:WJo3ikYy0
失礼、投票場所はこちらです

SSスレを語ろう パート25あたり
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1211548428/
134女か虎か:2008/12/17(水) 19:54:17 ID:h4cLXYQF0
6: FEAR OF THE DARK

 李美那。通称『飛行機落とし』のイミナ。
 落とした飛行機は大小数知れず、それによって暗殺した要人もこれまた数知れず。
 『ならず者国家』としての某国を語る際、必ずといっていいほど引き合いに出される名前だった。
 数年前、マニラ発サンフランシスコ行きの航空機に搭乗したのを最後に、ぷっつりとその消息を絶っている。
祖国の腐った内情に嫌気がさしてどこかに亡命したのか、あるいは内部抗争か何かの犠牲になったのか、
真相は謎に包まれたまま風化していくかと思われたが――
「まさかこんな極東の島国で、虎と追いかけっこの最中とは」
 早坂は手にした資料をめくった。一番上のページには見覚えのある写真。二ページ目以降には、
分かっている限りでの彼女の経歴。
 いや正しくは、『犯歴』といったほうがふさわしい。惨殺された無数の要人と、その数百倍にも及ぶ
巻き込まれた無辜の人々の記録。生み出された屍の山と血の河を合わせたら、東京ドームの一つや二つは
余裕で埋まるだろう。
「スマートとは程遠いな。やはり気に食わん」
 組んだ手と手の上に、まばらに髭の生えた顎を乗せて早坂は呟いた。
 傍らにはウイスキー・グラス。中の氷山を透かした金色の液体は、つい五分前に注がれたばかりで、
にもかかわらず既に四分の一近くまで減っている。アルコールが体を浸していくのをゆっくり愉しむ
タイプの彼としては、珍しいまでにハイペースな飲み方だった。
 あの女の、人形めいた硬質な顔が頭から離れずにいる。もちろん好いた惚れたの魅了されたのとは
真逆の意味でだ。
 グラスを傾けた。残り四分の一をひと息に干した。グラスを置くと、机にクリスタルの当たる音が
予想していたより大きく響いた。
「アニキ……」
 ウイスキーボトルを取り上げたのはユキだ。
 普段は吊り気味の眉をひそめ、常にない兄のペースの速さに明らかに気圧されている。それでも早坂が
グラスを向けると、いつも通りボトルを傾け中身を注ぐ。
 火酒を口に運ぶ兄の喉が、ゴクリと上下するのを見計らって口を開いた。
「その、アニキ、ゆうべは……その」
「何だ? ユキ」
「その……何つーか……ええと」
135女か虎か:2008/12/17(水) 19:55:01 ID:h4cLXYQF0
 口ごもる弟を、早坂はあえて急かそうとはしなかった。
 一回り以上年の離れた弟、幸宜。文字通りオシメも取れない年の頃から見守り続けてきた。
 両親が蒸発さえしなければ、もっと余所余所しい関係になっていたかもしれない。だが父はユキが
母の腹にいる間に事業に失敗して雲隠れし、母は母でユキがつたい歩きもしないうちに男と逃げた。
残された二人きりの兄弟は、ひどく寒い北の地で身を寄せ合って生きていくしかなかったのだ。
 この世の誰より、早坂は弟のことを理解している。
 冷めた態度のせいで落ち着いて見えるが、ユキの内面はその実かなり不安定だ。こうと決めたら思い込みが
激しく、それ以外のことはなかなか見えなくなる猪突猛進型である。それでいて事がうまく運ばなければ、
指針を見失って大きく揺れてしまう思いつめやすい性格でもある。
 最近になって幾らか安定してはきたが、長年培ってきた気性をそう簡単に変えられるわけもない。
「アニキ……その、ゆうべは悪かった。俺がもっとしっかりしてれば、あんなことにはならなかったはずだ」
 しどろもどろの謝罪。
 昨夜のあの女との一件が心に引っ掛かっていたらしい。
「結局向こうの要求呑むはめになっちまってよ……アニキの部下としてアニキを守るのが俺の役目なのに、
 部下失格だよなこんなんじゃ。もう何て言ったらいいのか、」
「ユキ」
 下を向いた弟の言葉を早坂は遮った。
「過ぎたことだ、気にするな。そもそも自分の力不足を悔やむなら、あのクレーンに気づかなかった私もそうそう変わらん」
「アニキ?」
 弟が目をしばたいた。
「後ろを見て一度の失敗を悔やむより、前を向いて次の機会に備えて牙を磨け。そのほうがよほど効率的だ。
 ――あの時だってそうだっただろう?」
 彼ら兄弟が古巣であった大手調査会社を離れ、今の形で独立するに至ったきっかけについて言っている。
 敗北の味は初めてではない。落胆する必要など少しもないのだ。
「一癖どころか百癖二百癖はありそうな女だが、例のあの化物に比べれば遥かに与しやすい相手のはずだ。
 今は大人しく従っておいてやるさ」
 グラスを傾けてウイスキーを煽る。
「そのうち隙をついて背後から刺しに行くぞ、ユキ。その時はゆうべの分も役に立ってもらう」
「! アニキ」
「期待してるぞ」
 沈んだ状態のこの弟に一番効くのが、他ならぬ自分の激励であることを早坂は知っている。
136女か虎か:2008/12/17(水) 19:55:33 ID:h4cLXYQF0
 ユキの顔に、ようやく安堵の笑みが浮かんだ。
 早坂はボトルを指して尋ねた。
「お前も飲むか?」
「ああ」
 ユキはロックよりハイボールが好みだ。新たに出してきたグラスに半ばまでウイスキーを注ぎ、
冷えたソーダ水を勢いよく足して割る。泡の群れが底から涼しげに湧き上がる。
 グラスの縁と縁をチン、と合わせあい、同時に口に運んだ。
「一つ、気になることがある」
 先に口を開いたのは早坂の方だった。
「あの女は確かに『主人』と言っていた。『上司』でも『ボス』でもなく『主人』と。あのとき交わした
 会話がブラフでなければ、あの女が仕えているのは国や企業やシンジケートといった組織的なものじゃなく……」
「単なる一個人、ってことか?」
「言葉尻からの推測に過ぎんがな」
 早坂の美学には著しく反する女だが、経歴その他の資料を見る限り、多くの組織が喉から手が出るほど
欲しがる優秀な人材であることは間違いない。本人の望み次第でどうとでも身を振れるだろうし、普通に
考えれば大樹の陰に寄ったほうが得は多いはずだ。
 にも関わらず組織に属さず、その『主人』にかしずくことを選択しているのだとしたら。
「気になるな。その主人とやらがどんな奴か。あれほどの女を従わせられるのは、よほどの逸材か、あるいは」

 ――『あいつ』のような化物だろう。

 グラスの中の火酒ごと、早坂はその先を飲み込んだ。
 口にしなかった続きは当然、ユキの耳にも届かない。ハイボールを啜りながら怪訝な目を向けてくる弟に、
早坂は黙って肩だけを竦めた。

137女か虎か:2008/12/17(水) 19:56:07 ID:h4cLXYQF0
 悪夢をよく見る。
 同じ夢をくりかえし見るわけではない。悪夢の形は毎回違う。夢のなかでサイは大人だったり子供だったり、
時には死を前にした病み衰えた老人だったりする。時間も場所も夢らしく不統一で、馴染みのある場所の
こともあればまったく知らない、知るはずのない空間ということもある。
 今回の悪夢で、サイは生温かい粘液の中に浮いていた。
 とろみがある。音もなく素肌にまとわりつき、皮膚呼吸のすべを彼から奪う。人によっては、母親の子宮の
羊水をイメージするかもしれない。
 だがこの粘液の海に浸される感覚は、胎児を包むゆりかごの心地よさとは程遠かった。海というより
沼である。わずかの波もたゆたいもなく、ただただ濁った液体をたたえている。身を浸した者を飲み込み、
侵食し、どこにあるとも知れぬ奥底へと沈み込ませていく。
 室内なのか屋外なのかも判然とせぬほの暗さの中で、サイは鼻腔をくすぐる生臭さに顔をしかめた。
 血、ではない。腐臭、でもない。強いていうなら、酒を飲んで嘔吐したあと喉奥に残る、つんと酸っぱい
匂いが最も近い。
 ここはどこだ。
 俺は誰だ。
 僕は。
 私は。
 息が苦しい。大気はじっとりと湿気をたたえて気管をさいなむ。
 不快な匂いを吸い込むことは覚悟で、肺いっぱいに息をしようとしたそのときだった。

『……け…………』

 皺枯れ、消え入りかけた声が耳をとらえた。
 粘液の中で身じろぐ音にさえ掻き消されそうな、頼りない響き。

『……け……の』

 何を言おうとしているのだ。
 無視すればいい、そう思う。無視すればいいのに、意識は声を追ってしまう。
 研ぎ澄まされた聴覚がその言葉をとらえる。
138女か虎か:2008/12/17(水) 19:56:48 ID:h4cLXYQF0
『ばけもの』

 息を呑む。
 みぞおちを突かれたような衝撃が走る。
 それは、彼が最も向けられるのを忌んでいる言葉だった。

『ばけもの』

 言葉は続く。いや新たに生まれる。
 さっき聞こえたのと明らかに別の方向から、全く異なる響きを伴って。

「あ……」

『ばけもの』
『ばけもの』
『ばけもの』
『ばけもの』
『ばけもの』

「あ……あああ……ああああ……」

 前後左右斜め前後ろそして真上。
 男の声女の声老いた声若い声子供の声。
 ぽつぽつぽつぽつと声は湧く。
 まばらに響いては消えていた声は、次第に重なりあい高まりあって唱和する。

『ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの
 ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの』
139女か虎か:2008/12/17(水) 20:03:41 ID:h4cLXYQF0
 ボコッ、と嫌な音がした。顔の肉が隆起する音だった。
 鍋の中で煮え焦げていく飴のように、肉は膨れ上がって醜く歪んだ。

「うる、さ……いっ」

 サイは耳を塞ぐ。粘液の中で必死に身を縮こめ、声の洪水を遮断しようとこころみる。
 だが千も万もの大合唱は、彼の儚い抵抗などなきが如きに踏みにじった。
 彼をののしりさわぐ声は、液体も耳を押さえる手もすり抜けてその心臓へと到達する。

『ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの
 ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの
 ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの
 ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの
 ばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけものばけもの』

「うるさいっ、うるさい、うるさい、うるさいっ!」

 噛み締めた唇がぶちっと切れた。苦い味が口内に溢れてこぼれた。
 胸をかきむしる爪が肉を抉った。
 サイは絶叫した。

「俺はっ……俺は人間だ――――――っ!!」
140女か虎か:2008/12/17(水) 20:06:25 ID:h4cLXYQF0
 跳ね起きたサイの視界に、まず入ってきたのはソファの表面だった。
 ビニール張りの年代物。年月の染みがいくつか浮いている。 サイは深く息を吸って呼吸を整えた。
 少し休むだけのつもりが、かなり深く眠り込んでいたらしい。身を横たえて目を閉じたときには昼の
光が漏れていた窓の外が、今はすっかり翳ってしまっている。
 全身の細胞がざわめいている。一方で頭の内側には、不快な目覚め特有の中途半端な痺れが残る。
額を押さえて息をついたとき、透明な声が耳朶へとすべりこんできた。
「サイ」
 振り返って眼球を動かすと鈍く痛みが走り、無意識に顔をゆがめる形になる。
「……アイ?」
 ソファのすぐ脇に従者が立っていた。
 真っ直ぐに伸びた背筋、陶器の仮面を被ったかのような無表情が、今の状況では恨めしくさえ思えた。
 これまた陶器めいた白い手が伸びて、荒い呼吸に震える主の背をそっと撫でた。
 柔らかな接触。ぴくりと、サイの背中が震える。充血しきった目でアイの顔を睨んだ。
「触るな」
 アイは無言で、ただ言われるままに伸ばした手を引っ込める。
 闇を宿した両の瞳には、いささかの揺らぎも見られない。それがなおのこと忌々しい。
「何か、お飲み物でもお持ちしましょうか」
「要らないよ。――放っといてよ」
 体は水分を欲し悲鳴を上げていたが、ここでこの従者の手を借りる気にはならなかった。
「蛭の相談に乗ってたんじゃなかったの?」
「そちらは既に済みました。たった今戻ってきたところです」
 飲み込んだ唾だけでは、干からびきった喉を宥めることは難しい。数回軽く咳き込んで、サイは
呟くようにアイに問いかけた。
「アイ……俺はやっぱり……化物、なのかな?」
 変異を続けるサイの特異な細胞。常識ではありえぬ彼の能力は、日ごとに進化して人間離れしていく。
 昨日はできなかったことも、今日になってみるとできるようになっている。去年なら絵空事として
笑って済ませたことが、今年から決して不可能ではなくなり、来年は更にSFめいた行為すら可能に
なるかもしれない。
 それに比例して記憶力の劣化も進む。
 下流へと流れ続ける河のように、何もかもが不可逆的に変化していく。
 ただひとつ河と違うのは、大元の源流がどこにあったのか、流れが最終的にどこに行き着くのか、
それを確かめるすべがどこにもないことだ。
141女か虎か:2008/12/17(水) 20:07:52 ID:h4cLXYQF0
 自分はやはり彷徨える怪物にすぎないのか――
 アイの答えは穏やかに、しかし端的に返ってきた。
「見る者によっては、そうも受け取められかねない能力をお持ちなのは事実でしょう」
 機械音声めいた声がますます苛立ちを煽った。そんなことを聞いているわけではないのだ。
 サイの目が険悪さを帯びたのを、アイは敏感に嗅ぎ取ったようだった。八つ当たりに近い言葉が
投げつけられる前に、花びらのような唇が続きを紡いだ。
「どんな夢をご覧になっていたのかは薄々想像がつきます。随分とうなされていらっしゃいましたから」
 今度伸びてきたのは、主人の背を撫でようとしたのとは別の方の手だった。
 汗の玉の浮いた額に、氷水で冷やされ、よく絞られたタオルが押し当てられる。
 サイは拒もうとした。誰の手のどんな感触も煩わしかった。だが肌にまとわりつくべとつきが拭われ、
ひんやりとした感覚に包まれていく快感が彼の抵抗を押しとどめた。
 額をすっかり拭ってしまうと、タオルを握る手は首筋へと下りる。鎖骨のくぼみに溜まった汗が拭き取られていく。
「今この場で、私の口からあなたの問いを否定するのは簡単です。ですが、それでは根本的な解決には繋がりません」
「……何が言いたいの?」
「あなたの迷いを打ち消せるのは、あなた自身しかいらっしゃらないということです」
 冷やしタオルが首から離れた。肌に近づけただけで冷気を感じるほど冷えていたはずの布地は、
サイの体温ですっかりぬるくなってしまっていた。
「証明してください、ご自分の手で。あなたが化物ではなく人間だと」
 明瞭な声でアイは告げ、ソファの上の主人に背を向ける。
「そのままでは体が冷えます。もう一枚別のタオルを持って参ります」
 サイは口を開こうとして、できなかった。遠ざかっていく細い背影に置いてけぼりにされた。
 戸口のところで立ち止まり、深く頭を下げてアイは退室した。
 灯かりのついていない部屋は既に薄暗かったが、廊下には既に蛍光灯がしらじらと灯っていた。
 ドアの隙から漏れた光は、一瞬だけサイの頬を撫で、閉まる勢いに吸い込まれて消える。
 薄暮の闇の中に一人取り残される。

 サイは唇を噛んだ。
 青ざめた指先が、ソファのビニールに深く食い込んだ。
142女か虎か:2008/12/17(水) 20:09:38 ID:h4cLXYQF0


「しかし悪趣味なモンを造りますねえ、あなたも」
『誉めているんだろうね?』
「もちろんですよ。最高の誉め言葉です」
 笑いを含んだ声が響き渡った。
 日暮れの直後。濃紺に染まった空の地平線に、夕日の名残の紅色がうっすらとにじんでいる。つい十分前まで
アスファルトにくっきり伸びていた影も、広がりはじめた夜との境を曖昧にしはじめていた。
 住宅街の冷えたコンクリート塀に身を預け、携帯電話を耳に押し当てているのは、アジトを抜け出して
きた葛西である。
「見てるこっちとしちゃあ、面白ぇことこの上ありませんや。笑いをこらえるのはなかなか骨が折れますがね」
 携帯を通して葛西の耳に響く声は、低く太く威厳に満ちている。一度電子的に分解されて再構成される過程を
経てさえ、聞く者を威圧するプレッシャーが感じられる。これが生の音声で、かつ本人を目の前にしたなら、
その場に膝を折り頭を垂れ、服従を示さずにはいられないだろう。
 葛西はある程度耐性を持っていたが、それでもこの声の主を前に己を保つには多大な努力を必要とする。
 奥歯を噛み締め、足元にしっかと踵をつけて、折れないように揺れないように背筋を伸ばしていなければ耐えられない。
 今この場で余裕を保っていられるのは距離を隔てているからだ。
『それにしても懐かしいな』
 ク、という愉悦の声が耳を嬲る。
『≪あれ≫を造ったのは、そう、もう二十年ばかり前のことになるか。久しく存在すら忘れていたよ。
 まさか≪あの子≫と接触することになるとはね』
「バラして中身を見る気満々のようですよ、あなたのお子様は。これが本当の『共食い』ってやつですか。
 あーやべえやべえ、笑いが止まらねえ。どっちが勝っても糞面白ぇ展開になりそうだ」
 火火火火、と響き渡る独特の笑い声。
『まあ待ちなさい葛西。今回はそう面白がってばかりもいられないんだよ』
 ニヤつく葛西に、しかし電話の相手はたしなめるように言った。
『≪あの子≫に≪あれ≫の中身を見られるのは困るんだ。とても困る。ただでさえ散々あの女に阻まれて
 連れ戻すのに手間取っているというのに、本人にまで私たちの存在を気取られてしまっては……
 分かるだろう?』
「――はい」
143女か虎か:2008/12/17(水) 20:11:27 ID:h4cLXYQF0
 歪んだ口元が真一文字に引き結ばれる。
 打って変わって神妙な顔で葛西は頷いた。
『かといって公権力の手に渡るのも望ましくない。お前の祖国の警察は厄介だ。上層部はともかく、末端の
 捜査員は優秀で勤勉で、且つ正義感の強い者を揃えているからね』
「はあ、『優秀』で『勤勉』ですか? 素顔さらして歩いてる俺に職質もしてこねぇボンクラ揃いの連中が?
 お言葉ですがそいつぁ、ちょいとばかし過大評価じゃないですかねえ」
『人間の割には、という意味だよ。何を基準として見るかで、評価なんていくらでも変わるものさ。
 ――とにかく、≪あれ≫を産み出した技術が外部に漏れるのは非常に都合が悪いんだ』
 逸れかけた話題を元に戻し再度強調する。
 声音がひときわ重みを帯びた。
『葛西。潜入中に悪いが、緊急の任務だ。≪あれ≫を始末しなさい』
 王侯のような口調だった。常に臣下にかしずかれ、彼らに奉仕させることを呼吸するより当然としている
男の言葉だった。
 放火魔の頬の筋肉が、ぴくり、と震えた。
 住宅の森林の隙間からのぞく、わずかな地平線に視線をやる。薄くにじんでいた紅色は、今や全き紺碧に
駆逐されてしまっていた。
『骨一本、肉の一片たりとも残してはいけない。灰と化すまで燃やし尽くしなさい。≪あれ≫が地上に
 存在した証を一つ余さず抹消するんだ』
 電話の向こうで相手が歯を剥く気配。
『得意だろう? そういうのは』
 葛西は沈黙した。
 相手がその静寂をどう解したかは分からなかった。ただ部下に短く激励を送った。
『期待しているよ』
 そしてそれきり、通話は途切れる。
 夜闇を抱きはじめた住宅街に葛西は一人、切れた携帯を手にしたまま立っている。
 季節は冬。ただでさえ低いこの時期の気温は、日が落ちると更に急降下する。手袋をつけていない手は
既にかじかんでいた。シガーマッチを取り出し箱の縁で擦ると、乾ききった空気を灼くかのように、指に馴染んだ暖かさが灯る。
「やれやれ……」
 葛西はジョーカーに火を移し、口に咥えて煙を吐いた。
「あっちもこっちもそっちも全く、面倒臭いったらありゃしねえ」
 二つ折りの携帯をパチンと畳む。
 そのままポケットに突っ込んで、サイのアジトに戻るべく歩き出した。
144電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/17(水) 20:12:30 ID:h4cLXYQF0
今回の投下は以上です。
起承転結の起がこれにて終了。切りもいいのでこれが今年最後の投下となります。
続きを書く時間を稼ぎたいとも言う。

ジャンプの方で葛西が退場し、このSSのメインキャラはこれで、
「2名死亡、1名記憶喪失+人格上書き、1名記憶喪失+半廃人化+ブタバコ入り」
となってしまいました。日ごろの行いが悪いとロクな末路が待ってないのですね。
145作者の都合により名無しです:2008/12/17(水) 22:19:47 ID:uMbSmXcr0
今年最後ですか、少し残念・・
ですがたっぷり充電して、また来年
アイサイや葛西や早坂などの魅力的なキャラを書いてほしいです。
まだまだ虎退治には早すぎますね。
一休さんなら虎を屏風から追い出してくれというところだw
146スノースマイル:2008/12/18(木) 00:01:25 ID:yQSNegkG0
星矢の朝は早い。
アパートの外で新聞配達のバイクが止まる音が聞こえるころにはすでに着替えを終え、
朝の鍛錬へと出かける。
肉体の錬度の維持というのは、戦う者にとっては非常に大事なことだ、
特に聖闘士ともなれば、その維持だけでも大変なのだ。
複雑な機械ほど維持に手間がかかる事に似て、現状を維持するのに膨大な時間がかかる。
それを面倒だと思うことは星矢にはない。
呼吸を面倒だと思う人間がいない事と同じなのだ。

「おはよう!」

朝の鍛錬から戻ると、姉星華がすでにおきだしていた。
ちょっと寝癖がついていたりするのは、愛嬌だ。ということにしておこう。

「おはよう、姉さん。
 ところでなにこの朝が豪華な飯?」

腕を組み、ふふんと胸をそらし、星華はちゃぶ台の上に広がった割と豪華な朝ごはんをみやる。

「お誕生日おめでとう!
 今日は遅くなるんでしょ?
 だから朝ごはん豪華にしてみたのよ〜」

朝からテンションが高いのはこの姉弟らしさといえるが、今朝の星華はどから空回りするぐらいだ。
それを少しばかりいぶかしむ星矢だが、まぁ、朝早起きして作ってくれたんだしと思い出し、朝食とあいなった。

147スノースマイル:2008/12/18(木) 00:03:15 ID:8vfuaDHm0
×今朝の星華はどから空回りするぐらいだ。
○今朝の星華はどこか空回りするぐらいだ。

失礼
148スノースマイル:2008/12/18(木) 00:06:50 ID:yQSNegkG0
本日十二月一日は、星矢の誕生日なのだ。
ちなみにいろいろと因縁のあったカシオスは十二月十四日、奇しくも忠義の四十七士が討ち入りをした日であり、
愛と義に殉じた彼らしい誕生日だといえよう。
ギリシア人にはあまり縁のない日であるのだが。
さて、そんなカシオスの師であり、聖戦においては星矢を陰日向にサポートしてくれた戦友でもあるのが、
ご存知白銀聖闘士、蛇使い座・オピュクスのシャイナさん。
聖戦終結後減衰した戦力の増強、生き残った青銅聖闘士たちの実力の底上げのため、日々聖域にて忙しく働いている彼女が、
なんと出勤途中の星矢の前にあらわれた。

当然星矢は驚いた。

「久しぶりだね、星矢」と声をかけるシャイナさん。
さすがに日本じゃあの白銀色のマスクをつけるわけにはいかないため、色の濃いサングラスをつけていた。
…よくよく見れば頬が赤いのがわかっただろうが、冬の朝焼けの中ではわかり辛い。
何より星矢は女性の顔をじろじろ見たりはしないのだ、魔鈴さんの調きょ、もとい、躾の賜物である。

凛々しい声を少しばかり緊張で震わせ、「誕生日、おめでとう」と、ぽんと星矢に渡されたのはラッピングされたスニーカー。
実は星矢、スニーカーをよく履きつぶす。
ストップアンドゴーの激しい聖闘士に共通することでもあるのだが、特にフットワークを武器とする星矢には重要な話だ。
恋する乙女の嗅覚は鋭い。

「ありがとう!大事に履くよ!
 ごめん、これから仕事なんだ!あとで連絡するよ」

しかし、受け取るほうは朴念仁。
敵意や害意にゃ過敏だが、男女の好意にゃとんと疎い事で密かに有名な星矢だ。
ありがとうと礼を言うと、そのまますたすたと歩き去っていった。
勿論、そんな星矢に声をかけられるシャイナさんではない、
愛しいあの人の笑顔が見れただけで満足するさ、と、ぐっと涙こらえる。そんないじらしい彼女に、幸あれ。
149銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/12/18(木) 00:10:06 ID:yQSNegkG0
そして、日が暮れ、人々が家路に着こうとするころ。

「誕生日おめでとう、星矢」

満面の笑みを浮かべた城戸沙織がそこにいた。
具体的にいうと、大きなリムジンが星矢の前に停まったかと思うと、中から出てきた紫龍と瞬に中へと放り込まれたわけだ。
二人は空気をよんでそのまま去ったが、瞬の思いっきりイイ笑顔にイラっときた星矢であった。

グラード財団の長ともなれば、多忙である。
そりゃもう超がつくほど多忙である。
だからこんな色気も何もあったもんじゃない、それが二人にはかなしくもあった。

「ありがとう、沙織さん」

取り留めのない話でも、世間話でも、電話越しではなくこうして直に会話できる事、
それこそが星矢にとっては最高のプレゼントだったのかもしれない。
女神と聖闘士ではなく、ただの恋人として、時空を超えても二人の心は触れ合う。
たとえ運命の女神であったとしても、二人の心の触れ合いをたつことはできないのだろう。
そんな二人に、幸あれ。


以上!銀杏丸でした!
半月ずれましたが、12月1日は星矢の誕生日です。
昨年、スターダストさんに誕生日ネタやられちゃったので今年こそはと虎視眈々と狙っておりました
そしたらなぜか爺さん二人が酒飲む話が先にできちゃったというご愛嬌…
少し早いですが、皆様よいお年を

来年こそは戦闘神話を進めたい銀杏丸でした!
150作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 00:18:36 ID:yQSNegkG0
タイトル元ネタ

ttp://jp.youtube.com/watch?v=A30PnqGwwAk

本当は星矢のダウンジャケットのポケットに沙織さんと手を握った状態で手突っ込むって描写入れたかったけど
無理!
では、またお会いしましょう!
151作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 06:33:04 ID:zVfUJ6730
>電車魚さん
早坂兄弟はアイへの犯罪者としてのプライドから嫉妬心があるのかな
アイには弱さを見せるサイもいいですね。良いコンビだった

>銀杏丸さん
後日談の平和な日常の物語ですか。冥界にいったまま帰ってこないより
こっちの方が救いがありますね。シャイナさん可哀想だけど
152作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 08:31:38 ID:Rk4f2Tj20
電車魚さん今年は終了か。来年の復活をまたお待ちしてます
原作では悪人達の末路は悲惨でしたが、この作品ではアイを始め
良いエンディングになればいいかと。


銀杏丸さんお久しぶりです。氏の得意な星矢物ですね。
本当にこんな未来が待ってればいいなあ、と思います。
戦闘神話も復活待っております。
153遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:01:09 ID:sbYBCxnq0
第二十四話「聖都侵攻」

<白龍皇帝(ドラグナー)>―――海馬瀬人。<紫眼の狼(アメジストス)>―――エレウセウス。
二人のカリスマに率いられ、世界に叛旗を翻した虐げられし者達―――奴隷部隊。
戦闘には出られない女子供や老人を除いても、既に数百人を超える規模となっている。
数百人―――とはいえ、堅牢なる城壁で護られし風の聖都・イリオンに攻め入るには、無謀とすら言えない数字だ。
城壁のみならず、内部には数千もの戦闘要員が常駐している―――そして。
風神(アネモス)の血を引く英雄・イーリウス。彼の率いる部隊は、常勝不敗。古代世界において、最強と謳われる
生ける伝説。
難攻不落の風神の聖域―――対して、たった数百人の奴隷部隊。それだけ聞けば千人いれば千人が、奴隷部隊の
無残な敗北を予想するだろう。千が一万だろうと百万だろうと同じことだ。そして、その全員が愕然とすることだろう。
奴隷部隊の圧倒的勝利、イリオンの陥落という、ありえない結末に―――

天を衝くように聳える城壁からやや離れて陣取った奴隷部隊に対し、警備の弓兵が矢を放つ。
「閣下。小雨がちらちらと煩わしいですね…」
オルフは文字通りにぱらぱらと降り注ぐ矢を鬱陶しそうに眺める。当てることを目的としない、ただの威嚇だ。自分
からは攻めずに相手の出方を見るという、護りに重点を置いた、よく言えば慎重だが悪く言えば臆病な戦法である。
「安全圏からしか撃てぬ腰抜け共め…閣下、これでは張り合いがありませんな!」
その消極的な戦い方に、シリウスが小馬鹿にしたように息巻く。オルフとシリウス―――軍隊経験のあるこの二人が、
現在は海馬とエレフの副官として、部隊を実質的に纏め上げていた。
その二人に<閣下>と呼ばれたエレフは苦笑する。
「オルフもシリウスも、閣下などという呼び方はよせ。ガラじゃない」
「いえ。我々にとって貴方は白龍皇帝様と並ぶ御方なのです、閣下。ですから失礼な呼び方はできませぬ、閣下」
「…まあよい。弓兵など相手にせずともよい。奴らなど、所詮遠くでウロチョロするだけの只の雑魚にすぎん―――
まあ、オリオンならば話は違うだろうがな…」
エレフは嘲笑うように言いつつも、どこか寂しげだった。
「クク…あの軽薄が気になるか?甘いな、エレフ」
「な…か、勘違いするな!別にあんなバカに本当は一緒に来てほしかったなどというわけではないからな!」
154遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:01:57 ID:sbYBCxnq0
海馬の軽口に、エレフは口をへの字に曲げてそっぽを向く。そんなやり取りに思わず吹き出しつつ、オルフはずっと
気になっていたことを尋ねた。
「皇帝様…失礼ですが、一つだけ訊いてもよろしいでしょうか?」
「何だ」
「…その兜は、一体どうなされたのですか?」
―――それを聞いた瞬間、奴隷部隊の面々は皆(ナイスガッツ!オルフ!)と心の中で叫んだという。誰もが気には
なっていたが、ツッコんだら負けと思っていたのだ。
「これか?」
海馬は自分の頭…正確には、自分の被っている兜に手を当てる。
「中々いいセンスだろう?」
「…………」
ノーコメント。海馬は(侘び寂びの分からん奴め)と舌打ちしつつ、思い返していた。子供達との時間を―――

イリオンから近い、奴隷部隊が現在駐屯地としている、とある小さな村。
この村は近隣の荒くれ者が率いる盗賊団に、常々頭を悩ませていた。そこに現れたのが奴隷部隊である。
「盗賊団はオレ達が潰してやる。返礼としてこの村を駐屯地として使わせろ」
―――端的に言うと、こういうやり取りがあり、盗賊団は哀れ、文字通りにあっさりと叩き潰された。この村も平和が
戻り、奴隷部隊も目出度く駐屯地を手に入れたというわけである。そして。
「―――ええい、騒々しいぞガキ共が!サクリ、妹をいじめるな!エトワール、レイン、犬を拾ってくるなと何度も
言ったろうが!イヴェール、穴ばかり掘るな!そんなところには何も埋まっていない!ヴェスティア、物を壊すな!
何故お前はそう乱暴者なんだ!エル、オレは忙しいんだ!絵本なら後で読んでやる!シャイタン、ライラ、火遊び
は火傷の元だ!焚火をしたらきちんと水をかけろ!クロニカ、そんな物陰でブツブツ囁くな!鬱陶しいわ!なにィ?
ルキアがまた家出しただと!?腹が減ったら戻ってくるから放っておけ!」
奴隷部隊の子供達、さらに何故か村の子供達にも囲まれ、完全に保父さんと化している海馬であった。そんな彼の
耳に、クスクスと笑う声が聴こえた。
「ふ…そうしていると形無しだな、白龍皇帝殿」
「エレフ…貴様、バカにしているのか?」
むっとする海馬を尻目に、エレフは子供達に笑みを向ける。
「アメジストス様だ!」「アメジストス様ー!」
155遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:02:54 ID:sbYBCxnq0
子供達はわらわらとエレフに群がる。海馬ほどではないが、彼も子供達からは慕われているのだ。海馬はフンと鼻を
鳴らし、ふとある事に気付いて傍らでジュラルミンケースを抱えるフラーテルに問う。
「おい…ソロルの姿が見えんが、どうした?」
「はい。あの子は少しやることがあるみたいなので、あっちにいます。呼んできましょうか?」
「構わん。そういうことなら放っておいてやれ」
海馬はそのまま会話を打ち切ろうとしたが、フラーテルが何か言いたげなのを見てとり、また口を開いた。
「どうした。まだ何かあるのか」
「皇帝様やアメジストス様は…もうすぐ、イリオンに攻め込むんですよね?」
「分かりきった事を訊くな。何が言いたい?」
「僕も…連れていってください。ここで待つだけなど、嫌です」
阿呆が、と海馬は吐き捨てる。
「貴様がいても戦力にならん。足手纏いだ」
「確かに、僕は剣も持つことができません…でも、いざとなれば」
皇帝様の楯になる覚悟は、できています。フラーテルは、そう言った。海馬は彼の頭を、軽く小突いた。
「バカめ…貴様に楯になってもらわねばならんほど、オレは弱くはない」
「皇帝様…」
「フラーテル。貴様がすべきは死ぬ覚悟ではない。妹を守るために、泥を啜ってでも生き抜く覚悟だ」
「生き抜く…覚悟」
敬愛する主の言葉を反芻するフラーテルに、海馬は言い放った。
「心配などするな―――オレがお前達に、いい目を見せてやるさ」
海馬は、どこまでも不敵に笑う。そこに。
「皇帝様ー!」
ポテポテと音がしそうな駆け足で、今まで姿が見えなかったソロルがやってくる。腕に何かを大事そうに抱えていた。
「…なんだ、これは?」
「皇帝様に似合うと思って作りました!」
にこにこ笑いながらソロルはそれを海馬に向けて差し出す。よくよく見ると、それは兜である。しかもブルーアイズ
の頭部を模して作られた逸品。子供の手による物とは思えないほどの出来栄えであった。
「どうぞ!」
「…………」
156遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:03:51 ID:sbYBCxnq0
海馬は無言で兜を受け取る。ソロルは顔を紅潮させてはにかみながら、子供達の輪の中に入っていった。
「ちっ…マセガキめ」
「す、すいません!ソロルがまた無礼なことを…」
「フン。まあ、意匠にブルーアイズを選んだセンスだけは褒めてやる」
恐縮するフラーテルをよそに、海馬は仏頂面で兜を被る―――その姿は、実によく似合っていた。
なんというかそう<正義の味方カイバーマン>といったところだ。
(参考画像 ttp://image.www.rakuten.co.jp/tigusaya/img10152851193.jpeg
「フフ。中々似合っているぞ、海馬」
エレフも含み笑いする。
「可愛らしいし、気立てのいい子じゃないか。あの娘にとってお前はさしずめ、白馬ならざる白龍に乗った王子様と
いうことなのだろう。あまり邪険に扱ってやるな」
「ちっ!オレにペドの趣味などない」
むすっとして腕組みしながらも、海馬は決してその苛立ちが不快ではなかった。
(不快ではない?ふざけるな。こんなおままごとのような馴れ合いなど、オレには虫酸が走るだけだ)
海馬は己の感情を、歯噛みで押し潰した。
(勘違いするな…オレはオレの目的のために、エレフや奴隷共を利用しているにすぎん)
ならば何故。自分は今、エレフにこうして手を貸している?はっきり言ってそれは<現代に帰る>という目的からは
まるでかけ離れている。そうと知りつつ―――何故?
(バカな…)
浮かび上がった答えを、海馬は即座に打ち消した。
(オレには必要ない―――仲間だの友情だの絆だの…そんなものは、一人では何もできぬ負け犬共が勝手にほざいて
いればいいのだ!)
「皇帝様ー。何でそんなに怖い顔してるの?怒ってるの?」
「…フン。怒ってなどいない」
心配げに顔を覗きこんでくる子供に、仏頂面のまま答える。
「よかったー。ねえねえ、またあの<でゅえるもんすたーず>教えてよ!」
「―――ちっ。フラーテル、カードを用意しろ」
「はい!」
いそいそとジュラルミンケースからカードの山を取り出していくフラーテル。わらわら寄ってくる子供を制しながら、
海馬はデッキを組み上げる。子供達はそれを手に取り、早速ゲームを始める。
157遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:04:41 ID:sbYBCxnq0
「バカ者!先攻でいきなり攻撃する奴がいるか!モンスターを召喚できるのは一ターン一回だ!手札から罠カードを
発動するな、ちゃんと場に伏せてから使え!なに、このカードが場に出された時にデッキから一枚カードを引ける?
テキストにそんな効果は書いてなかろうが。自分で勝手にルールを作るんじゃない―――む?誰だ、お前が言うなと
ぬかした奴は!」
やかましく喚きながらも、子供達にゲームのルールを根気強く教えていく海馬。エレフはそんな海馬の姿を、口元に
少しだけ笑みを浮かべて見守っていた―――それはまるで。
どこにでもいる親友同士のようで。どこにでもいる親友同士そのものだった。

(―――下らん。何が親友だ)
回想を終え、海馬はまたも舌打ちする。
(オレはこいつらを利用しているだけだ…エレフとて、それは同じこと)
そこに絆もクソもない。海馬は、そう断じた。エレフはというと、部隊に指示を飛ばしている。
「オルフ!シリウス!お前達は部隊を二つに分けてそれぞれ左右から廻り込め―――挟撃するぞ。そして海馬の合図
と同時に、一気に突撃しろ」
「はっ!しかし、合図というのは…」
「フン。その時が来れば誰でも分かる。その瞬間、間違いなく敵は大混乱に陥るはずだ。そこを狙え」
やけに自信ありげな態度の海馬。オルフとシリウスは不安に思ったが、それをすぐに打ち消した。
(我々は、この御二人に希望と未来を託したのだ…)
ならば、自分達のすべきことは、疑わずに命令を遂行することのみ。
「では、皇帝様と閣下。御二人は…」
「オレ達は二人だけで構わん」
「は?」
一瞬、その意味が分からず、オルフはバカのように口が塞がらなかった。
「二人だけで構わん―――そう言ったのだ」
「し、しかし…」
「くどい。貴様らの中にオレやエレフと同じだけの実力を持つ者がいるのか?そうでなければ、足手纏いでしかない」
「海馬。そこまでにしておけ」
エレフが海馬を諌め、オルフ達に向き直る。
158遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:18:46 ID:entAGyAc0
「私と海馬なら心配はいらん…お前達は、お前達の仕事をしろ」
そして、彼らを鼓舞するためか、力強く言い放った。
「我々は死なぬ…お前達も死にはせぬ。皆、生きてまた会おうぞ!」
「―――はっ!」
敬礼しつつ、オルフとシリウスはそれぞれに部隊を率いて進撃する。それを見届けた海馬とエレフは、その場に二人
残された。イリオンの警備兵達は、この場に居残った二人を不審に思っているのか、弓矢による攻撃が止む。それを
気に留める風もなく、海馬は口元を歪めた。
「フン。死なぬなどと、よくも軽々しく言えたものだ。何の保証もあるまい」
「保証なら、あるさ―――私のこの眼が、保証だ」
「何だと?」
意味深な言葉に、海馬は訝しがる。
「確か、初めて会った時に言ったろう?私には見えるんだ…黒い影が。それを背にする者は、近い内に死ぬ」
「逆に言えば、それが見えなければ死なないということか?フン、下らん妄想だ」
海馬は嘲りながらも、エレフに問う。
「で?その戯言が本当だとして、部隊の連中にも見えたのか―――いや、見えないはずがない。誰一人死なないなど
ということはありえん」
「…………見えたさ。その内の何人かは、この戦いで死ぬのだろう」
「クク…それを分かっていて、死地に送り込むか。大した英雄殿だ」
「何とでも、言え」
エレフは海馬の言葉を、切って落とした。
「悪魔と呼ばれようと、鬼と呼ばれようと―――私はあの子を、ミーシャを守ると決めた。ミーシャのために―――
彼女を害す者は全て、この腕で退け、滅ぼしてくれる」
「フン。ならば行くぞ、エレフ―――オレ達は、正面突破だ」
「分かっている」
エレフは、眼前に立ちはだかる城壁を忌々しげに睨み付けた。
「久しいな、イリオンよ…よもや、忘れはしまいな」
蘇る記憶。
建石(いし)を運び、疲れ果て、力尽き、地に伏せる者。医師を呼んでくれと叫びながら、死んでいく者。
遺志を告げて逝く者、告げられた者もすぐさま死んだ。縊死(いし)を遂げ、過酷な現実から冥府へ逃避する者。
159遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/18(木) 09:19:40 ID:entAGyAc0
「お前を護るその楯が―――誰の血によって築かれたものかをなぁ!」
叫びながら。エレフは真っ向からたった一人で突撃する。降り注ぐ弓矢を、黒き双剣が薙ぎ払う。
「フ…ならばオレ達もいくぞ、ブルーアイズ!」
海馬は三枚の<青眼の白龍>カードをセットする。そして。
「同時に魔法カードを発動する―――<融合>!」
三体のブルーアイズの姿が陽炎のように揺らめき、溶け合う。新たに顕現したのは、三つ首の竜―――

「ブルーアイズ三体融合!<青眼究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)>!」

三つの首が咆哮し、天地が怯え震えるかのように鳴動する。
「強靭×3!無敵×3!!最強×3!!!これぞ我が究極の殺戮モンスターの姿だ!ワハハハハハ!」
海馬は高笑いを響かせながら、中央の頭の上に飛び乗った。
「ゆけ、究極のブルーアイズよ―――<アルティメット・バースト>!」
破壊と暴虐を撒き散らす究極竜の閃光が今、解き放たれた―――

風神の加護篤き、世界最強と謳われた城壁。永き時をかけて築かれた、難攻不落の城壁。
それすらも絶対なる暴力の前には、かくも無力。
風の都・イリオンの誇る城壁は、一瞬にして灰塵と瓦礫の山と化した―――!

畏れよ、汝、悪の名を―――畏れよ、汝、神の仔等よ―――
それは<白龍皇帝>―――そして<紫眼の狼>―――
160サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/18(木) 09:22:33 ID:entAGyAc0
投下完了。前回は>>123より。
社長には是非キャラクター賞を取っていただきたいと思い、今回はスーパー社長タイムと相成りました。
次回も社長タイムが続きます。
ちなみに、社長に群がる子供達の名前については分かる人は分かるでしょうが、タナトス様とガチで
やり合えるであろう連中が2,3人います。下手すりゃ余裕で勝てるかもしれない奴もいます。

>>125 本格的ホモ描写はしません。よい子が安心して見れるSSを目指していますので(大嘘)

>>ふら〜りさん
城之内はアレク女王にマジでビビってます。番外EDを実現するにはやはり調教されるしか(略
闇遊戯の城之内に対する世話女房ぶりは、原作を読めばよく分かりますw

>>127 ほんとに、どんな方向に行く気なのか、自分でもよく分かりません。

>>128 >>132-133 やりたいですねー。

>>電車魚さん
火火火のおじさん…お疲れ様でした。だけどなんか再来週辺りシックスに無理矢理改造されて
生き返らされてしまいそうだ…せめてそんなことにならないように祈りたいです。
しかしシックスはマジヤバイ。何もかもこの御方の掌の上か…もうインフルエンザ流行も不景気も
ガソリンの異常な不安定価格もこの男のせいじゃないかと思えます(それはない)。
レオンティウスとミーシャ・エレフの関係については、第七話を読み返せば、もはやネタバレのレベルで
伏線を張ってます…アレク女王もレオンティウスも原曲だとこんな人じゃないので誤解しないでね(汗)
161作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 16:31:53 ID:OMve6hl7O
サマサさん乙です。
社長がまさかこんな方向に行くとは思ってなかったw
162作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 20:23:24 ID:b+a60r6F0
サマサさん乙です。
社長、クロニカとヴェスティア連れてけー!それで勝てるぞーw

そういえば、Arkの歌詞で「禁断の海馬(きかん)に〜」ってところあったなーと
見ながら思いだした。
これから歌うたびに社長思い出しそうだどうしてくれる
163ふら〜り:2008/12/18(木) 21:22:45 ID:+MEPrMIl0
>>電車魚さん
私の中じゃもう完全に「柱の男」級のバケモノ……後藤並でしたっけ、のサイでしたので、ちと
意外。人間であることにここまでの、こんな方向での拘りがあったとは。相変わらずアイの一方
通行ですけど、いつもながらその言葉は至極正論。サイ、案外彼女が居ないとダメな奴だったり?

>>銀杏丸さん
えーいこの何気にギャルゲ男め。原作じゃ殆ど戦場にしか生息しない彼ですんで忘れがち
ですけど、こうして列挙されると思い出す。同居の姉、命を狙われもした元敵、そして幼馴染。
同僚を尻目によくもまあ。でも本人より周囲の女性たちの方が幸せそうなのが彼らしいかな。

>>サマサさん
>絵本なら後で読んでやる!
ぜひ生で見たい。そして爆笑を堪えてたら気付かれて怒鳴られてみたい。しかしまあ子供たち
には慕われまくり、エレフとの仲も良好、手こずるような敵も見当たらず、今のところは順風
満帆ですな海馬。それだけに、おそらく出てしまうであろう自軍からの死者を見た時が心配。

>>132
その時間、私は夜行バスに揺られておりますが、帰宅後見るのを楽しみにしていますっ。
164作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 21:43:02 ID:OgxHmmJh0
サマサさん乙です
相変わらず社長無双ですなwでも社長、いきなり切り札の
三龍合体見せたけど行く行くカマセられるのかな
165THE DUSK:2008/12/18(木) 21:53:10 ID:9I1I+5xz0

「それでは知得留先生、ご挨拶をお願いします」

校長に促された“知得留先生”は青みがかったショートヘアを揺らし、彼と入れ替わるようにして
マイクの前に立つ。
全校生徒及び全職員を向こうに、眼鏡の奥の青い瞳は細められ、唇は緩やかな曲線を描いた。
その笑顔は可憐な十代の少女のようにも優雅な大人の女性のようにも見えた。

「皆さん、おはようございます。今日からこの学園で働く事となりました知得留です。よろしくお願い致します。
出身は先程ありましたようにフランス、年齢は企業秘密という事で。得意な料理も好きな食べ物もカレーです。
ちなみに私の名前は『知を得て留める』と書いて“シエル”と読みます。“ちえる”ではないですよー?
担当教科は英語ですが、それ以外の場面でも交流を深めたいですね。あと、好きな食べ物はカレーで――」

男子生徒達の私語は増え、校長を始めとした男性教師達の顔は弛みに弛んでいる。
しかし、ブラボーと火渡の二人だけは、眼光鋭く彼女の顔を凝視していた。
七年前。青いカソック。三本の短剣。忘れはしない。
火渡はシエルから眼を離さずに呟く。
「ここまでやる連中かよ、クソッタレ。俺ァもうキレたぜ……」
一方の防人は無言のまま、何事か思慮を巡らせている。
体育館内を行き交うはしゃぎ気味のざわつきはまだまだ収まりそうにないようだ。



四時間目の授業が終わって昼休みに入っても、男子生徒達の間では知得留先生の話題は止まる事を知らなかった。
好事家な一部の男子生徒などは一目その姿を見に、わざわざ彼女の担当クラスの教室や職員室に足を運ぶ始末だ。
若くて可愛い女性教師。外国人なのに日本語がペラペラ。明るくフランクな物腰で接しやすい雰囲気。
これだけのスペックを揃えられると大抵の男子のテンションが上がってしまうのは仕方の無い事なのかもしれない。

勿論、ある程度の興味は湧いても然程行動が左右されない生徒もいる。例えば――

「ねえねえ、柴田さん! お昼ご飯、一緒に食べない? みんなで食べればおいしいよ!!」
166THE DUSK:2008/12/18(木) 21:54:53 ID:9I1I+5xz0

教師が退室するとほぼ同時に、まひろは瑠架の席へ飛んできた。しかも自分の机と椅子と鞄を抱えて。
まひろの意図するところは、教室内のあちらこちらでよく見られる光景、仲の良い者同士の机と机を
くっつけての昼食なのだろう。
まひろの突然の提案に瑠架はただ慌てるしかない。
「えっ!? で、でも、私……」
確かに嬉しいには違いないのだが、あまりにも突然で自分の性格上、どうしても受け入れ難い。
一体にこの武藤まひろは諸事“思い立ったら吉日”が過ぎるのである。

そこへ若宮千里と河合沙織が並んだ。二人がまひろの親友、とは瑠架も知っている。
「いいじゃーん!」
「今まで柴田さんとお話する機会が無かったし、良かったら一緒にどう?」
千里と沙織がそれぞれ言葉を添える。
二人共、まひろと瑠架を繋いだ先週末の出来事を未だ聞かされてはいないが、この唐突な交流に
反対する筈も無かった。
何にせよ仲良しな友達が増えるのは良い事だと思っていたし、クラスの中で一人孤立している瑠架が
気になってもいたからだ。

こうして三つの笑顔が眼前に並んだところで、瑠架はようやく勇気を出して小さい声を返す。
「う、うん…… ありがとう……」
瑠架の返事に喜びつつ千里と沙織が机を移動させる中、またもまひろが目敏く“彼女”を見つけてしまった。
誰もが“別に見つけなくてもいいのに”と思うに違いない。
まひろはポケットに両手を突っ込んで眠たげに歩く“彼女”へ大声で呼びかけた。
「あ! 棚橋さーん! 棚橋さんも一緒に食べようよ!」
晶はまひろの方など振り向きもせず、ただ中指を立てたファックサインだけを示し、そのまま教室から
出て行ってしまった。
「……? これってどういう意味かな?」
不思議そうに小首を傾げながら、まひろは瑠架に向かって中指を立てて尋ねる。
尋ねられた瑠架は閉口するしかない。何故そんな事も知らないの? 意味を教えても良いものなの?
「そ、それはね、えーと…… つまり…… “お断りします”って意味……」
「へー、そうなんだぁ」
167THE DUSK:2008/12/18(木) 21:55:56 ID:9I1I+5xz0
一粒の錠剤がソフトボール大になるくらいオブラートに包みまくった回答を受けて、まひろはさも感心したような
顔で己の中指を見つめている。
千里はまひろの手をグイと下ろさせると、ひどく恐い顔で叱りつけた。
「絶っっっ対マネしちゃダメよ! まひろ!」



くっつけられた四つの机の上には、複数のおにぎりやパン、カップサラダやお菓子、ランチョンクロスに
包まれた弁当箱が並べられている。
まひろ、千里、沙織の寄宿舎組は購買で昼食を購入し、通学組である瑠架は家から持ってきた弁当だ。
楽しいランチタイムの始まりなのだが、いきなり千里が溜め息を吐く。
「まひろったら、またおかしなものばかり買ってきて……」
彼女の机の上には“三時のおやつのおいなりさん”だの“石井さんのリンゴコーヒー”だのといった、
普通はあまり見かけない怪しげな食べ物が並んでいた。
しかもそれらは何かとのタイアップ商品なのか、極端に筋肉質の白人男性が描かれ、フキダシの中には
『あぁん? 最近だらしねえ』とセリフが書かれている。
「だってー、今日は新製品がいっぱいあったんだもん。ホラホラ、この“最強トンガリコーン”なんて
普通のより美味しそうな名前だし!」
「何なの、ここの購買…… あのね、昼食にスナックや甘いものばかり食べたらダメよ? キチンと栄養バランスを
考えて食べないと身体に悪いし、太る原因にもなるんだから」
思いがけない千里のお説教に、まひろは「でーもー……」と頬を膨らませている。
それを見た沙織がケラケラと笑い、おどけて囃し立てた。
「ちーちん、お母さんみたーい! 怖いよぉ〜」
「もう! 沙織まで!」
“いつもの”三人組。1−Aの華でもある。
しかし、“今日から”の瑠架はこの雰囲気になかなか溶け込めない。少し楽しそうに、少し羨ましそうに、
三人のやり取りを眺めているだけ。
それに気づいたまひろが、おいなりさんを口に放り込みながら彼女に話しかける。
「棚橋さんも一緒に食べれば良かったのにねー。人数は多い方が楽しいのに。恥ずかしがり屋さんなのかな?」
その言葉を聞いて千里が眉をひそめた。
瑠架に振られた話題だが、千里が真剣な表情でまひろに苦言を呈する。
168THE DUSK:2008/12/18(木) 21:57:11 ID:9I1I+5xz0

「ねえ、まひろ。こんな事は言いたくないけど、棚橋さんとはあまり関わらない方がいいと思うの。
何だか悪い噂ばかり聞くし、不良みたいな格好してるし……」

若宮千里の名誉の為に言っておくが、決して彼女は軽々しく他者の悪口を言う人間ではない。
あくまで暴走しがちなまひろを心配しての言葉であり、実際に晶が学園内で評判の良い生徒とは
とても言えなかったからだ。
何しろあの濃いメイクとギャル風アレンジの制服である。それに授業態度も不真面目極まりなく、
教師達の目の敵にされている。
加えて、千里が言ったような所謂“悪い噂”も絶えない。
ある女子生徒曰く「オジサン相手に援助交際をしている」
ある男子生徒曰く「他の学校のギャルっぽい奴をボコボコにしてた」
晶と同じ中学校出身の生徒曰く「警察が学校に来て、棚橋をパトカーで連れていった」
これら噂と事実がない交ぜになった偏見と軽蔑と畏怖の視線に常時晒されているのが棚橋晶という生徒だった。

以上の事を考えれば千里の言葉は至極正論なのだが、まひろには納得いかない。
抗弁しようと身を前に乗り出しかけたその時、先んじて瑠架が口を開いた。
「そ、そんな事を言わないで……! 晶ちゃんは、本当は、いい子なのに……」
だんだんと声が小さくなり、語尾は尻つぼみなものの、彼女には珍しい確固たる意志に基づいた主張だった。
それに励まされ、まひろも声を上げる。
「そうだよ! 棚橋さんは私と柴田さんを助け―― あ、ええ、うー……」
瑠架の「余計な事を言うな」という視線を浴び、途中で濁りに濁ってしまったが。
千里は二人の強い弁護に、キョトンと眼を丸くして尋ねた。
「柴田さんは棚橋さんと友達なの?」
「う、うん…… 家が近所だから、物心ついた時からの幼馴染…… でも中学に入ってからは、
あまり話さなくなって……」
千里の胸中に反省の念が湧く。
我が身に置き換えれば瑠架の気持ちはよくわかる。
自分だって、誰かにまひろの奇行や性格を正面切って非難されれば面白くないし、弁護・反論したくなる。
「そうだったの…… ごめんなさい、友達の事を悪く言っちゃって」
やや沈痛な面持ちと素直な謝罪に、今度は瑠架が慌てた。
こうなると自分が悪い事をしたのではないかという気分になってくる。
169THE DUSK:2008/12/18(木) 22:00:34 ID:9I1I+5xz0
「い、いいよ…… 晶ちゃんにも、しょうがないところがあるし……」
真面目な性格に分類される千里と暗い性格に分類される瑠架に同じタイミングで落ち込まれると、
場の雰囲気も一気に違ったものとなる。
流石のまひろと沙織でも、これを瞬時に沸かせるのは至難の業である。
瑠架は内心煩悶する。自分がせっかくの楽しい時間を壊してしまったと。自分のせいでと。

そこへ一人の人物が声を掛けた――

「おう、武藤」

誰かと思えば、1−Aの英語教科担の火渡先生である。何故か機嫌が悪そうだ。
「先月、陵桜学園と同県校間の交流学習あったろ。向こうの代表の泉って奴から礼の手紙来てるぞ。ホレ」
ポイと投げて寄越された手紙に眼を落とし、ミミズがのたくったような文字を見るや、まひろは歓声を上げた。
「わぁ! こなちゃんからだ!」
千里と沙織も顔を寄せて、手紙を覗き込む。
「私にも見せてー!」
「まひろ、あの子と仲良くなるの早かったものね」
先程の微妙な空気もどこへやら。
あっという間に元の姦しい雰囲気を取り戻し、学校行事の思い出を語り合う三人。
瑠架はやはり少し羨ましげな視線で彼女らを眺めているだけ。
頭の片隅に「私はここにいない方がいいのかな」というボンヤリとした不安を抱えながら。





ども、こんばんは。さいです。
年が明ける前までにキリの良いとこまで進めたいです。
あと、今日はレスへのお返しはお休みさせて頂きます。
すみません。
では、御然らば。
170作者の都合により名無しです:2008/12/18(木) 22:34:35 ID:yQSNegkG0
さいさん乙!
声優つながりかw
あるキャラは言いました、「ホモが嫌いな女はいません」
ならば言いましょう!「百合の嫌いな男はいません!」と!
やっぱりお昼ごはんを姦しく食べるおんなのこはいいですなぁ
シエルがまた不穏ですが、さてはて
171作者の都合により名無しです:2008/12/19(金) 04:03:01 ID:cpJzOyrl0
さり気なくパンツレスリングネタがwwww
172作者の都合により名無しです:2008/12/19(金) 06:32:09 ID:7KRqt0fX0
いつもの三人娘の日常に異分子が現れて姦しくなってきましたね。
まひろはいい子なんだろうけど、やはり現実にいたら足りない子だなあ
晶ってどの作品からの出展でしたっけ?
173作者の都合により名無しです:2008/12/19(金) 08:39:46 ID:/dSrgAsr0
さい氏すっかり立ち直ったみたいね
安心した
174電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2008/12/20(土) 00:46:44 ID:4DCLts3/0
こんばんは。年末年始に向けてコタツに引きこもる前に、お礼を申し上げに参りました。

>>145さん
ああ、一休さんもそういえば虎がらみの話ですね。身近すぎて意識してなかった。
虎との対決までに色々と駒を動かしておかなければならないので、
バトルフェイズに移行するまでまだだいぶかかりそうです。
よろしければもう少しお付き合いください。

>>152さん
書き溜め分が危うくなってきましたので、実家で羽のばしながら執筆しようと思います。
エンディングに関しては誰がどうなるかも含めて既に大体決まっています。
「良いもの」になるかどうかは読み手の方次第だとは思いますが、そう思っていただけるよう頑張ります。

>サマサさん
いやあああああ! 人間の限界を越えないことにあれだけ拘ってた葛西に無理やり改造とか
なんという絶対悪! ワカメおじさんの好き放題ぶりは好きだけどここでは空気読んであげてー!
ワカメはヤバイですよね。何せワールドカップで日本が勝てないのもみんなあの人のせいですからね。
ソ○ーや日○が大幅人員削減するのも全部全部奴のせいなんだぜ! 全く本当にそうだったらどんなに気が楽か……
七話読み返しました。あの辺り……かな? 一度読んだ話も読み返すとまた違う発見がありますね。

>ふら〜りさん
原作ファン10人に聞けば10人が「サイはアイがいないとダメ」と言うはずです。
いろんな意味で。このカシオミニを賭けてもいい。
原作未読のふら〜りさんの感想は、私にとってとても新鮮です。
あまりにネウロが好きすぎて、作品の背景やキャラクターの設定が私の中で常識レベルに
なってしまっているので……
そろそろ原作読んでないとキツイ設定や描写が増えはじめますが、読んでいて分かりづらいとか
そういうことはないでしょうか? その場合は仰ってくだされば、作中で説明を増やすなり、
極力モロなネタバレを避けつつ解説するなり致しますのでご遠慮なく。

今年はバキスレの皆様にお会いできて素晴らしい一年でした。ありがとうございます。
どうぞ来年も宜しくお願い致します。
175ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 13:32:52 ID:fi0OJ+O/0
 音が響く。
 音が響く。
 機関の揺籃から鳴り響くのは鋼鉄の産声か。
 ロンドン地下深くに建造された空間。ロンドンのありとあらゆる情報が集まり、それを集積する複数連結式超巨大演算機関が存在するその
場所は、《機関回廊》と呼ばれている。
その存在を知るものは少ない。殺人さえ厭わぬ犯罪組織の重鎮あるとか、生命の法を無視した背徳の科学者であるとか。
 そこに何が存在するのか、想像してはいけない。命が惜しければ。

 その《機関回廊》に、F08はいた。意識は無いが、繰り返される呼吸が、F08の生存を証明している。傷は完治しているようで、折ら
れた手首も元の状態に戻っており、胸の傷も塞がっている。そのF08の瞼が、ゆっくりと開かれていく。
「なんだ……わたしは……いったい……」
 茫洋とした意識の中で、F08は周囲を見回した。薄暗い空間に視線を走らせ、すぐにここが《機関廻廊》であることに気がついた。
 そして、記憶の空白の間に、自分がどうなっていたのかも。
 あの敗北の後、F機関の構成員が自分をここに運び込み、修理を施したのだろう。
 身体からは一切の痛みが取り除かれていた。流石はF機関、といったところか。
 短く息をついて、安堵する。が、戦いの記憶が呼び覚まされ、背筋に冷たいものが流れた。
 恐怖――久しく感じていなかったあの感覚。
「くそ……くそっ、くそっ、くそっ!」
 悪態をつくのは、あの人造人間が憎いから、ではない。恐怖を感じ、敗北した自分が、あまりに情けなかったからだ。
 力を手にしたのに。自分を笑う人間をすべて殺せる力を手にしたのに。その結果が、これか。
「殺してやる……」
 恐怖を糧にして、憎悪の業火がF08の中で燃えさかる。
 そうだ――自分が敗北するなど、あってはならない。惨めな過去を清算するには、あの人造人間の死が必要不可欠だ。
 初めて、F08は、たった一人を憎悪していた。戦いの理由にしようとしていた。
 重油のように粘ついた殺意は、復讐という火種を得て、一気に燃え上がる。歯を剥いて、虚空に絶叫を迸らせた。
「殺されるんじゃねえぞ……わたし以外の、誰にもな!」
 そう言って、F08は立ち上がろうとした。
 だが、出来なかった。
 代わりに、がちゃり、という金属音がした。
176ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 13:33:51 ID:fi0OJ+O/0
「な……なんだよこれは!」
 ――F08の全身は、鎖でがんじがらめに拘束されていた。
 手足には幾重にも巻かれた鋼鉄が鈍い光を放ち、頑丈な拘束具で壁に括り付けられている格好になっている。
 どんなに力をこめても、外れない、引きちぎれない。がちゃがちゃと空しい音が鳴るだけ。
 F08は混乱した。いったい何故、自分はこんな目にあっているのか。
「お目覚めになられたようですね」
 声がした。F08はその方向に視線を向ける。
 ――美しい女性が佇んでいた。気品あるかんばせには慈愛の笑みが溢れており、閉じられた瞼からは静かな知性が感じられる。
 余談だが、盲人というのは、聾唖よりも賢者めいて見えるのだという。
 彼女は盲人ではなかったが、ともかく、誰かに危害を加えるような女性にはとても見えない。
 だが、F08は心の底から震え上がった。
「じゅ、ジュスティーヌ、さん……」
 何故なら彼女は、F08の上司であったから。F08の震えた声に、ジュスティーヌと呼ばれた女性は微笑みをもって応える。
 <装甲戦闘死体>、ならびにF機関の全指揮権を統括する、フランケンシュタイン博士の代理人。
 常にフランケンシュタイン博士に寄り添い、彼を支え続けてきた女性だ。
 彼女にはあらゆる権限が認められている。<装甲戦闘死体>への処罰も、果ては廃棄処分さえ、彼女は下せるらしい。
 既に、自分の敗北は彼女の耳に入っているのだろう。ならば、この仕打ちは、彼女が命じたのか……。
 ジュスティーヌの微笑みが、怯えるF08に向けられる。
「まずは、スコットランドでの任務、ご苦労様でした。あなたのおかげで、イギリスのモントリヒトはあらかた一掃出来ました」
「は、はい……」
「ですが」
 ジュスティーヌの顔が、間近に迫る。
「負けましたね?」
 悲鳴が喉まで出かかる。怒りなど微塵も感じさせない笑顔がそこにあった。その表情の裏にはどんな感情が巡っているのだろうか。
 理解できない。それが余計にF08の恐怖を煽り立てる。
「<装甲戦闘死体>は、人類の未来をモントリヒトの手から守るために戦っているのです。敗北は許されないのです。あなたが目覚める
時に、それは十分に説明したつもりですが」
「そ、それは……!」
「しかし」
 F08の弁解の言葉を、ジュスティーヌはすかさず遮った。最初からF08の言葉など聞く気がないようだ。
177ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 13:35:52 ID:fi0OJ+O/0
「しかし、しかし。それも仕方がないこと。あなたは何かを失った人間の強さを知らない。あなたは何かを失ったことがないのですから」
 ジュスティーヌはF08の頬を撫でた。体温がなく、氷のように冷たい指先。
 自分の命など、容易く摘み取ってしまえそうな。
 ただ、獰猛な肉食獣を目の前にしたような感覚が、F08を支配していた。生きた心地が、まったくしなかった。
「反省してますか、F08さん」
「は、はい……」
「もう敗北しないと誓えますか、F08さん」
「は、はい……」
「よろしい。では、次からは頑張ってくださいね」
 と、ジュスティーヌは顔を離した。
 極度の緊張から開放されて、F08は安堵の息を漏らした。これでこの拘束も解かれるはずだ。
 だけど――いつまでたっても、F08に自由は戻らなかった。
「あ……あの……」
「なんです?」
「これ、外してくれませんか。身体にくいこんで、痛いんです……」
「まだだめです」
 有無を言わさぬ言葉に、F08は口を噤むしかない。何故――そう問いかけることさえ、出来ない。
「あなたにはまだ伝えていませんでしたが――」
 ふ、と唇に笑みを浮かべる。それはどこか、これまでの慈愛の表情とは違っていた。
「<装甲戦闘死体>となる時、避けられぬ儀式が存在します」
 言いながら、巨大な機関の前で、ジュスティーヌは何か操作を行っている。きれいな指がコンソールの上を踊り、
ある情報が入力されていく。それが何を意味しているのか、下層市民の出身で教養の無いF08にはわからない。
「その儀式を見事終えたとき、あなたは、何かを失うことの恐怖、悲しみ、怒りを知るでしょう。
それがあなたに無限の活力を与えてくれるでしょう」
 そして、何かのスイッチを押した。突然、背後に何かの気配を、F08は感じた。
 機関から、何本もの鋼鉄の触手が伸びる。うねうねと蠢き、F08に近づき、その頭部に絡み付いていく。
「な!? ジュスティーヌさん、なんですかこれ!?」
「ご安心ください。何の心配もございません」
 ジュスティーヌの声音は依然として穏やかだ。だが、F08の悪寒は止らない。いったい、自分は何をされるんだ――
 そして、F08の頭蓋に、こめかみに、鋼鉄の触手の先端が突き刺さっていく。
178ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 13:36:30 ID:fi0OJ+O/0
「ぎあっ!? ぐ、が、ぎゃああ!」
 入力されたプログラムを実行するだけの鋼鉄の触手に、慈悲など存在しない。
激痛に悲鳴を上げるF08を無視し、頭蓋のさらに奥に穿孔する。そして、脳髄に鋼鉄の先端が到達した時、
「あなたにはこれから、フランケンシュタイン博士の記憶を追体験し、博士の恐怖、悲しみ、怒りに触れていただきます」
 ジュスティーヌはそう言い、実行のキーを押した。
「……げくっ」
 莫大な情報が、F08の脳髄に注ぎ込まれた。衝撃が、F08の頭蓋に弾ける。白目を剥き、眼球がぐるぐると蠢動する。
「あああああああ!! ぎゃああああああ!!」
 人一人の記憶をそっくりそのまま流し込むのだ。あまりの負荷に、F08の脳細胞が悲鳴を上げる。
 F08の脳髄は高熱を帯び、ぶすぶすと焼け焦げる音がした。意識が一瞬で失われ、残るのは生理的な反応のみ。
 その死と生の境界で、F08の魂は、ここではないどこかに飛んでいた。ゆっくりと飛翔し、そして、落下していく。
 その先にあるものは――フランケンシュタイン博士の、過去。

 始めは幸福な記憶だった。
 何一つとして不自由のない生活。父と母、兄弟、そして、ジュスティーヌ。
 穏やかな生活。悪意ある者がいない、優しい世界。
 愛する者と一緒に、いつまでもこの世界が続いていくのだと信じていた。
 私は、幸福のままで死ぬのだと、信じていた。

 次は絶望の記憶だった。
 私の世界は脆くも崩れ去った。モントリヒトという怪物に、すべて打ち砕かれた。
 父も、母も、兄も弟も、すべて殺された。
 私と、ジュスティーヌだけが、残された。

 最後は歓喜の記憶だった。
 禁忌を犯し、復讐の手段を手に入れた。墓を暴き、死体を弄び、命を蘇らせた。
 <装甲戦闘死体>を、完成させた。彼女らを使って、私は、復讐を完遂する。
 父と、母と、兄と弟の味わった苦しみを、奴らに思い知らせてやる! 最後の一匹まで!

 フランケンシュタインの記憶と、F08の記憶が、混ざる。溶け崩れる。一つになる。そして――
179ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 13:37:27 ID:fi0OJ+O/0
「――ああああああっ!」
 F08は、現実へと帰還した。
「いかがですか?」
 フランケンシュタインの記憶を追体験したF08は、疲弊していた。だらりと首が下がり、開いた唇からは唾液が垂れ落ち、
ぴくぴくと全身を痙攣させている。満身創痍と言っていい状態だ。だが――
「はあ、はあ、はあ……く、くく」
 喘ぎ声が、次第に笑い声に変わっていく。
「くはははは! あはははは……!」
 哄笑と共に、F08は、鎖を引き千切った。いまやF08の身体には、途方も無く強大な力が宿っていた。
 精神の変容は、肉体をも変容させる。フランケンシュタイン博士と魂の婚姻を果たしたF08は、いま、
真の<装甲戦闘死体>として覚醒したのだ。
 先程まで自由を奪っていた鎖を、いとも容易く破壊することが出来た。これが、これが――<装甲戦闘死体>の力か。
 新しく身に宿った力に、F08は酔いしれる。
「ありがとうございます、ジュスティーヌさん! これで……これで、わたしは本当の力を手に入れたんだ。
わたしを笑った人間すべてを殺せる力が!」
「それはよかった」
 ジュスティーヌは笑って、F08の覚醒を祝福する。
「では――その力を試す機会を与えましょう」
「え?」
 その言葉と共に、暗がりの向こうから、フード姿の人影が何人も姿を現した。
 中には、フード姿ではなく、素顔を曝しているものもいる。同じ人種は、一人としていない。
 手に持つ得物も、多岐に渡っている。日本刀、サーベル、ウィップ、へヴィハンマー……その持ち主の個性が窺える。
 目が眩むような美貌が唯一共通している、その集団の名は――
「儀式の最後は、"現役"の<装甲戦闘死体>の方々と戦うことで締めくくらなければなりません。これはあなたの最終調整も兼ねています。
どうか、先輩方から多くを学んでください」
「そういうことだ」
 と、一番先頭にいた<装甲戦闘死体>が言った。
「よぉちんくしゃ。まずはあたしが相手だ」
 黒味がかった紫色の髪をツインテールにして、両目を眼帯で覆った少女。その頭にはミニサイズのシルクハットがちょこんと乗っている。
 可愛らしい容姿だが、その顔に浮かぶ好戦的な笑みと、携えた巨大なハンマーがいかにも不釣合いだ。
180ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:11:49 ID:xf38GpWB0
「<装甲戦闘死体>の本当の戦い方をみっちり叩き込んでやる。覚悟しろよ?」
 かつてカリブ海を荒らしまわった海賊――<装甲戦闘死体>、F03だった。
 巨大なハンマーを振り回しながら、F03は近づいてくる。細腕に宿る力ではない。自分とそう変わらない背丈であるはずなのに、
その膂力は、おそらく自分を負かした人造人間を凌駕しているだろう。
 だが、F08は臆しなかった。
 全身に力が漲っている。今なら、何でも出来る気がする。そう、目の前のこいつにだって、容易く勝てる気がする。
 何よりこいつは、自分のことをちんくしゃと呼んだ。自分を馬鹿にするものは、絶対に許さない。こいつも黙らせてやる!
「けっ、わたしが引退させてやるよ、ロートル!」
 F08の姿が、消える。彼女はいまさらながらに自分の変化に驚いていた。
 嘘のように、身体が軽い。これならば、目の前の人造人間は言うに及ばず、自分を敗北させたあの人造人間すら容易く破壊できる。
 にぃ、とF08は笑った。どうやって、壊してやろうか。
 刃を突き立て、一気に解体してやるのもいい。その細腕を切断して、武器を奪ったあとじっくりと悲鳴を愉しむのもいい。
 だが、まずは、その生意気な口を永遠にきけなくしてやろう。
 そして、ナイフがF03に迫り――
 ――届くことは、なかった。
「な……!」
「は!」
 F03は、ハンマーの柄――その先端で、ナイフを受け止めていたのだ。鈍重な得物を、この細腕で、こうまで使いこなせるとは。
 これほどの技量に到るまでに、いったい幾度の修羅場を潜り抜けてきたのか、どれほどの屍を築きあげてきたのか、想像もつかない。
 驚愕するF08に対して、F03は歯を剥きだしにし、凄絶な笑みを作った。そして、
「先輩への口の聞き方がなってねぇぞ!」
 ハンマーを、振るう。巨大な質量が、F08の右手を打ち据えた。右手は、骨を粉々に打ち砕かれ、有り得ない方向に折れ曲がった。
「ぎ……い……!?」
「ぼさっとつっ立ってんじゃねえ、よ!」
 脳が痛みを認識する前に、F03は巨大なハンマーを振りかぶる。そのまま、F08の身体を薙ぎ払う。
「ぐえぇぇぇっ!」
 全身を打ち据えられ、為すすべなく、F08は壁に叩きつけられた。
 人間であれば絶命必至の一撃であったが、<装甲戦闘死体>であるF08は、まだ生きていた。
 とはいえ、骨が折れ、内臓のいくつかが破裂している。蹲って、何度も血の塊を床にぶちまける。
「ご……おげえぇぇ……」
181ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:12:40 ID:xf38GpWB0
「んだよ、もうおねんねかよ。しらけちまったぜ、やめだやめだ」
 興味を失ったように、はぁとF03は溜め息をつく。激痛に苛まれているF08は、血塊を吐き出し、悔しがるも、同時に安堵していた。
 "現役の"<装甲戦闘死体>と、自分との間にある、高い壁。実戦と経験を積めば、いつか同じ高みにたどり着けるに違いないが、
ここで殺されてしまっては意味が無い。興味の対象外にされたのはとても腹立たしかったが、それでも自分の命の方が大切だ。
 ここで殺されなくて済んだ。よかった。
「んじゃ、次だ」
 ――え?
「なら、わたくしがいきますわ」
「んだよ毒殺ババアか。は! ご自慢の毒は自重しろよ? せっかく身体直してやったのに、ドロドロにしちまったら意味ねーからな」
 からからと笑いながら、F03は倒れ伏すF08に顔を寄せた。そして、
「気をつけろよ、ちんくしゃ」
 愉しげに、囁く。
「あいつ、昔の任務でF08を失ってるんだ。おっと、お前じゃなくて、前のF08な。毎晩同衾して、まあ、そういう仲だったんだよ。そ
んで、前のF08が壊れた後、あの毒殺ババア、それはもう悲しんでな。大変だったぜ。悲しみを紛らわすために誰彼構わず人のメシに毒盛
りやがったからな。んで、ここからが重要だ。毒殺ババアは、F08の名に並々ならぬ想いがある。そして、お前は仮にもF08のナンバー
を受け継いでる。そのお前が、あまりに不甲斐なかったら――」
 にぃ、と口の端を吊り上げる。
「殺されるぜ、お前」
 笑いながらばんばんとF08の背中を叩いて(その度にF08は激痛に呻いた)、立ち去るF03と入れ替わりに、
一人の女性が歩み寄ってきた。その豊満な肉体には、男を惑わしてやまない色香が漂っている。胸元から腹部までざっくりと開いた淫靡なコ
スチュームは、精気を啜る淫魔を思い起こさせる。
 かつて、パリを恐怖に陥れた毒殺魔――<装甲戦闘死体>、F05だ。
「立ちなさい。あなたにF08のナンバーが相応しいかどうか、わたくしが見定めましょう」
 鞭を腰から引き抜き、佇むF05の周囲からは、禍々しい妖気が立ち昇っている。
 そして、鋭い視線がF08を射抜く。
 自分は、試されている――そのことに気づいたF08は、ばらばらになっていた思考を必死に纏め上げた。
 立ち上がり、ナイフを構える。攻撃が来た時、いつでも対応できるように。
「では、いきますわよ」
 びしり、と。音が先に来て、次に結果が明らかになる、音速を超えた鞭の一撃。
 それで、呆気なく勝負は決まった。
182ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:13:19 ID:xf38GpWB0
 鞭は、何の抵抗も許さず、F08からナイフを叩き落していた。
「あ……」
 F08は唖然とする。鞭の軌道が、まったく、見えなかった――
「あら、もうお仕舞いですの? だめですね、戦いで武器を奪われたら、死を覚悟しなければならないというのに」
 鞭の先端を手元に戻し、舌を這わせる。
「――あなたは、その覚悟がおありなのでしょうね?」
 軽い手首の動作とともに、鞭が、F08の首に巻きついた。そして、ぎりぎりと喉を締め上げる。
「あ……ぐ……」
 鞭は、肉にめり込み、血の流れを阻害する。断ち切ろうにも、肝心のナイフがない。
ならばと、手で引きちぎろうとしたが、地面に引き摺り倒された。そして、まだ無事な左手をF05のヒールが刺し、動きを封じた。
「か……は……」
 あらゆる反撃の手段を奪われたF08は、苦しみに喘ぐしかない。
 次第に意識が朦朧としてきて、視界に霞がかかっていく。そして、ぐるんと眼球が回転して――
 F08は、気絶した。


「あーあ」
 興が削がれた、といった表情をF03は浮かべる。
「いきなり本気だす奴があるかよ。かわいそうに」
「そんなこと、わたくしの自由ですわ」
 それに、あなたが言えたことじゃないでしょう――と、F03に視線を向ける。
「ま、そうだな。で、お眼鏡には叶ったかよ」
「……今後の頑張り次第ですわね」
「あたしの目にゃ、"こんな出来の悪い生徒は初めてだ"って映ったんだが、まあいいや。それでこそ鍛え甲斐があるって言えるしな。
んじゃ、目が醒めたらもっかいだな。次はだれがいく?」
「私が行こう」
 鈴を鳴らしたような美声が響き渡った。暗がりに満ちたこの場所の、深い闇を切り裂く光のような。
 日本刀を携えたその佇まいには、凛とした気品が漂っている。
 それは彼女の高貴な生まれも関係しているのだろうが、それ以上に、その精神の高潔さ故だろう。
 <装甲戦闘死体>、F11だった。
183ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:13:54 ID:xf38GpWB0
「お姫様、か。いいぜ、やってみろよ。あたしが教えたこと、しっかり生かせよ? あ、でもやりすぎるんじゃねーぞ。
死なせちまったら元も子もねーからな。お姫様は真面目だからな、適度に力抜けよ」
「わかった」
「よしよし」
「では、その次は私が」
 さらに名乗りを上げたのは――F04。生前のF03と共に、カリブ海を荒らしまわった元海賊だ。
 サーベルの使い手で、その技量はF11と同等か、それ以上。
「わかったわかった。ま、こんだけいりゃ十分だろ。次あいつが気絶するまでは、お姫様とF04の担当だぜ。順番は守れよな。
適度に休憩とらなきゃなあっちもこっちも大変だし、あんまりいじめすぎてへこませるのもなんだし」

 F03の視線の先では、F機関の構成員がF08に応急処置を施している。
本来はすぐにでも本格的な修理が必要だったが、ジュスティーヌによって禁じられている。
フランケンシュタインと魂の同化を果たし、さらに、現役の<装甲戦闘死体>達の"洗礼"を受ける――それが必要不可欠と、
ジュスティーヌは言った。だが、儀式に必要なのは魂の同化のみで、本来は戦いなど必要ない。おそらく、それにはF08に
対する"お仕置き"の意味合いが含まれているのだろう――
 ともかく。
 現役の<装甲戦闘死体>、その全員と戦い終わるまでは、F08はここから出ることは出来ない。 
 目が醒めても、F08は悪夢はしばらく続く――それだけが、確たる事実だった。



「ふふ」
 ジュスティーヌは笑う。彼女の視線の先では、F03とF11の戦いが始まっていた。
 予想通り、F03は苦戦している。だが、それが彼女の成長を促すのだ。
 そう、フランケンシュタイン博士の意思を完遂できなければ、<装甲戦闘死体>に価値など無い。
 そうなって欲しくないからこそ、ジュスティーヌはF08に試練を与えた。
 彼女ならば、必ずそれを踏破してみせる、そう信じていた。
 何故なら――彼女は<装甲戦闘死体>を愛していたから。<装甲戦闘死体>は、愛するフランケンシュタイン博士の創造物だから。
「やはり、愛の力とは偉大ですね。あれほど許せないと思っていたのに、あれほど八つ裂きにしたいと思っていたのに、
今では死地に立ち向かうあなたを応援せずにはいられない。ああ――頑張ってください、F08さん」
184ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:14:58 ID:xf38GpWB0
 しばしF08の戦いを見つめた後、ジュスティーヌは振り向いた。
 その視線の先には、一人の女軍人がいた。赤と黒の軍人の服を纏っている、背の高い女性。近衛のそれとよく似ているが、陸軍のものだ。
 まるで機械のように感情のない顔をしている。その色の薄い瞳は、磨き上げられた刃のような輝きを放つ。
 ジュスティーヌはその女軍人に深々とお辞儀する。
「《結社》の方々のご協力には、とても感謝しております――セバスチャン・モラン大佐」
「はい。いいえ」
 と、モラン大佐と呼ばれた女性は答え、続ける。
「《結社》としても、モントリヒトの存在は無視できないものでした。モントリヒトは《結社》の活動を阻害しており、
英国政府も市民の安全面で彼らの存在を危険視していました。あなた方の活動のおかげで、《結社》、ならびに英国政府の目的は
果たされました。《ディオゲネス・クラブ》から、あなたがたへの礼を言付かっています」
「まあ。畏くもおそれ多い女王陛下のお役に立てたこと、身に余る光栄ですと、お伝えください」
「はい」
 ――と、言葉ではそう語っているが、水面下では探りあいが繰り返されている。
 《結社》とF機関は、敵対関係ではないが、友好的ともいえない。今回の同盟は、ただ利害が一致したに過ぎない。
 まず、ジュスティーヌが、《結社》に同盟を持ちかけた。
 ロンドンを初めとして、英国全土のモントリヒトを、<装甲戦闘死体>が殲滅する。
 見返りとして、《機関廻廊》を貸し与えろ、と。
「ともかく、《機関回廊》の超演算能力のおかげで私達の目的は達成されました」
 超巨大演算機関が存在する《機関廻廊》を、ジュスティーヌが必要とした理由。それは―― 
「――すなわち、<装甲戦闘死体>、その全員の最終調整が」
 いかにF機関といえども、その規模は全世界の闇を支配するとまで言われる《結社》には及ばない。保有する設備の数も、だ。
 しかし、大碩学フランケンシュタイン博士の技術力は、《結社》のそれに勝るとも劣らない。わざわざ《結社》の手を借りなくても、
<装甲戦闘死体>の調整は十分に可能なのだ。時間の問題を無視するならば。

「新大陸で、"不死者秘儀団"の活動が確認されました」
 ぴくり、とモラン大佐の眉が動く。
「"ノスフェラトウ"ですか」
「はい」 
185ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:30:44 ID:VvGrkg520
 吸血鬼には、階層といったものが存在する。転化したばかりの吸血鬼は新生者(ニューボーン)と呼ばれ、吸血鬼のヒエラルキーの中でも
最も下層に位置する。それから数百年の時を経て、新生者は力を蓄え、日光その他の弱点を克服し長生者(エルダー)に位階を上げる。
 さらにその上には、多神教の一柱と同等の力を持つと言われる"貴族"、そして、それすらも凌駕するノスフェラトウが存在する。
 その危険度の最も高い夜の眷属が、活動を見せたとすれば――
「事態は切迫しています」
 表情を堅くしながら、ジュスティーヌは言う。
「長い間、私どもは不死者秘儀団に対して<装甲戦闘死体>を差し向け、かの秘密結社を打倒すべく戦ってきました。
しかし、いずれの<装甲戦闘死体>も返り討ちにあい、不死者秘儀団とは一定の距離をとらざるを得ませんでした。
ですが近年、何か彼らの予測不可能な事態が発生し、彼らは浮き足立っています。
この機会を逃がす手はありません。ですから一気に、<装甲戦闘死体>全員の調整を完了する必要がありました。
これをもって、作戦の第一段階が発動します。
すでにヴァチカンと連絡をとりつけ、他にも名だたるハンターに協力を嘆願しました。決戦です」

 静かに、だが強くジュスティーヌは言う。
「この作戦が成功すれば、吸血鬼による脅威は、一掃されるでしょう。フランケンシュタイン博士の悲願が、ようやく叶います」
 "明日"がやってくるのです――とジュスティーヌ言い、続ける。 
「誰もが暗がりに怯えることのない、素晴らしい明日が。……モラン大佐。《結社》の一員であるあなたにも、大切な誰かがいるはずです。
あなたも、その誰かのために、そしてその誰かの"明日"を守るために戦っているのでしょう?」
「いいえ。はい。私が戦う理由は、ただ一つ。そして、それはあなたにお話しすることではありません」
「ああ……そうですね。申し訳ありません。すこし、昂ぶってしまって……」
「いいえ。はい。お気になさらず。ともかく、定時までに《機関廻廊》からの撤収をお願いします。
以後、ここは《結社》と《ディオゲネス・クラブ》、および英国空軍の手で運営されます。
その後のF機関及び<装甲戦闘死体>の方々の立ち入りは許可されません」
「はい。わかっておりますわ」
「それから」
 と、無表情のまま、機械を思わせる起伏の無い声音で、モラン大佐は言う。
「ご武運を」
「……ありがとうございます」
 そして、モラン大佐は去っていった。その背中に、ジュスティーヌは再び深く頭を下げた。
186ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/12/20(土) 14:32:12 ID:VvGrkg520
 ……ジュスティーヌは思う。過去を。そして、未来のことを。
 これまでの歩みは、平坦なものではなかった。<装甲戦闘死体>を完成させるまで、たくさんの挫折があった。
 だが、そのたびに、愛するフランケンシュタインは立ち上がってきた。決して諦めなかった。
 そして、これからも彼の戦いは続く。
 自分は、死ぬまで、彼のそばに在りつづけるだろう。愛する彼を支え続けるだろう。例えそれが血塗られた道だとしても。
「すべては人類の未来のために。そして、フランケンシュタイン博士のために――」
 ただそれだけのために。ジュスティーヌの誓いの声は、《機関廻廊》に朗々と響き渡った。




<了>
187<Chronicle> 第0章 :2008/12/20(土) 14:33:00 ID:VvGrkg520
 奇妙な男だった。
 亜細亜の小さな島国に伝わる神なる獣、それを象った仮面を被る男。
 道化の如き姿であるが、一世代前の仏蘭西貴族のようでもある。
 己が口から吐き出されるのはすべて虚構であると嘯く男。
 眼前にいる何者かへと語りかける男。
 男の名は、《バロン》。バロン・ミュンヒハウゼン。

「――さて。
 かくして一つの物語に幕が降ろされ、
 かくして新たな物語の幕が開かれます。
 我輩は望むでしょう。虚構と現実とが行き違う回転悲劇を。
 さらに。歪んだ<歴史>の紡ぎだす、壮大な恐怖劇(グランギニョル)を」

 男の声には笑いが含まれている。
 対する何者かは、無言。

「騎士殿はご存知でしょうか。<黒の予言書>なる書物のことを。
 全24巻からなる黒い表紙の古書。
 有史以来の数多の記録が記され、その記述は未来にまで及ぶ、ある種の整合性のある歴然とした年代記。
 そして、その最後は、この世界の終焉という形で締めくくられております。
 この<黒の予言書>は、我ら《結社》にも《史実の書》という形で伝わっております。
 しかし、その<歴史>が改竄されたとすれば如何でしょう。
 汎世界に数多存在する<歴史>が、細切れの断片に切り刻まれ、強引に一つに編纂されたとすれば如何でしょう」

 男の言葉には嗤いが含まれている。
 対する何者かは、無言。
188<Chronicle> 第0章 :2008/12/20(土) 14:33:31 ID:VvGrkg520
「そうであるならば。
虚構の人物であるはずのフランケンシュタイン博士が、こうして実在していることであるとか。
 あのジャック・ザ・リッパーと称した人造人間の少女と戦った、一体の人造人間と一人の美しき研究者が、
 ロンドンでその"ジャック・ザ・リッパー"を追っていることであるとか。
 空が青いのにも関わらず、我輩がこうして在ることであるとか。
 残念ながら、我輩にはその色が認識できないのですがね?
 これらも歪んだ<歴史>のもたらした悲劇でありましょう。
 <黒の予言書>を著した<永遠を手に入れた魔術師>、そしてかの<唯一神>は、かならずや歪みの修正にかかるでしょうな。
 正常な流れを失った<歴史>は、濁流の如く荒れ狂い、すべてを破綻させるが故に。
 しかし、赤枝の騎士殿は、それらは小事に過ぎないと仰るに違いありませんね?」

 男の声には嘲りが含まれている。
 対する何者かは、無言。

「成る程」と男は言い、

「そういうこともあるでしょうが、
 そうでないこともあるでしょう」

 と、続けた。

「さて。
 では、みなさま――愛してやまない人間のみなさま。
 どうかご安心を。
 <歴史>の歪みは十分です。まだまだ物語のストックは豊富です。
 遠からずして新しい物語は紡がれるでしょう。
 聖人の身体を貫いた槍をめぐる、妖精達と鉤十字の騎士達の、勇壮でありながらも滑稽な物語が。
 そして、さらなる戦いの年代記が。
 であるが故に。我輩は宣言するでしょう。
 ――すべては、ここから始まるのです」
189ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/20(土) 15:01:57 ID:/hZCxo5LO
すみません、感想その他へのお返事は明日にさせていただきます。
190作者の都合により名無しです:2008/12/20(土) 21:17:04 ID:5DC2Utk40
お疲れ様です。完結おめでとうございます。
エピローグの代わりなのかな?第0章は。また新たな物語が始まる・・と
言うわけでは無さそうで残念。
FO8の過酷な運命とジュスティーヌの怖さがいいなあ。
スプリガンかな、次の掲載は?
191しけい荘戦記:2008/12/20(土) 21:25:16 ID:Sk8zevjw0
第三十二話「奇妙な一日」

 ゲバルと烈の果たし合いは、辛くもゲバルが勝利を収めた。
 これにより闇討ち事件の総括となる最終決戦、「ゲバル対アライJr」が正式に決定さ
れた。日時は一週間後正午、場所は草野球場を借りて行われる。
 全ての段取りは、しけい荘の大家であるオリバが誰かが口を挟む間もなく進めてしまっ
た。いうまでもなく逆らう者はいない。
 しかし、闇討ち犯人を協力して倒そうとしていた柳、ドイル、スペックは複雑だった。
 柳が住む102号室に集結し、愚痴の吐き合いを展開する三人。
「あれだけ張り切ってたのに……すっかり先越されちまったな」
 煙草の煙を吐き出し、寂しそうに呟くドイル。
「完敗ですな。明日から動こうとした我々に対し、彼は今日から実行してみせた。ゲバル
さんの情熱を読み切れなかった」
 うつむき首を振る柳。
「シッカシマァ、烈海王ヲ倒シチマウトハナ。正直アイツヲナメテタゼ」
 スペックもいつになく神妙な表情を浮かべる。
「……デ、ドウスルヨ、コレ」
 闇討ち対策に用意した大量の武器。ナイフにバットといった日用品に近い武器から、拳
銃や閃光弾といった近代兵器、柳の会社から取り寄せた暗器まで多数取り揃えていた。
「捨てよう!」
 ドイルの一声で結論はまとまった。
 捨てに行く途中で警官に職務質問を受け、警察署に連行されたのはいうまでもない。
 
「ヒドイ奴ラダッタナ、武器ヲ持ッテタクライデヨ」
 ようやく釈放され、一息つくスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、逮捕されなかったのが奇跡だろう……」
 目的もなくぶらぶらと街中をさまようドイルたち。平時に行動を共にするなどほとんど
ない間柄なので、一ヶ所に落ち着くことができない。
「シコルスキートドリアンヲ見舞イニ行クカ?」
「集中治療室送りになったじゃないか。俺たちのせいで」
「ソウダナ」
192しけい荘戦記:2008/12/20(土) 21:26:09 ID:Sk8zevjw0
 もうすぐ正午を回ろうという時刻になった。
 昼食にしようかという話になったが、皆の好みがバラバラすぎてなかなか店が決められ
ない。結局ファミレスに入ることになった。
「何名様でしょうか?」
「三人」
「禁煙席しか空いておりませんが、よろしいでしょうか?」
「大麻なら吸っていいだろうか」
「はい」
 昼時で忙しかった店員は適当に返事をしていた。ソファで国松からもらった大麻をスパ
スパ吸う柳に、文句をいえる客はいなかった。
 しかしドリンクバーを注文したスペックが勘違いをして、ドリンクバーの設備を全部持
ち運ぼうとしたので、まもなく追い出された。

「ケッ、ケチ臭イレストランダッタゼ」
 飯にありつけず、舌打ちするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、通報されなかったのが奇跡だろう……」
 レストランでのいざこざで食欲も消え失せた三人は、カラオケボックスに入った。
 柳は演歌を、ドイルは故郷のロックバンドのヒット曲をぞれぞれ熱唱した。スペックは
適当に選んだ曲に合わせてわめいていただけだったが、消費カロリーはもちろん得点も二
人よりも上だった。
「堕落だ」と自らに嘆く柳。
「これが敗北……」打ちひしがれるドイル。
 次に、コスプレマニアのドイルは通りがかったメイド喫茶に入ろうと提案した。もはや
時間さえ潰せればどこでもいいと判断したのか、柳もスペックも素直に従うことにした。
 しかし一歩店に入ると、いきなり熟女メイドが襲いかかってきた。
「あたしが相手だッ!」
 全力で釘バットで殴りかかってくる熟女メイドに追い立てられ席に座ると、今度は別の
方向から石つぶてが飛んできた。
「最愛に比べれば、最強なんてッ!」若いメイドがトルネード投法で次から次へと石を投
げてくる。「愛がないと、痛いだろッ!」
193しけい荘戦記:2008/12/20(土) 21:27:00 ID:Sk8zevjw0
 超雌によってなすすべなく追い詰められる男たち。柳はこれが現代の大和撫子か、と恐
れおののいた。
 訳が分からないまま、ドイルたちは店を飛び出した。
 改めて看板を見て、彼らはようやくここが地獄への入り口「冥土喫茶」であることを知
った。いったい誰好みの店なのか、彼らには見当もつかない。

「サッサト出テヨカッタゼ、フザケタ店ダ」
 釘バットで殴られた頭をさするスペック。ドイルが呆れたように返す。
「むしろ、生きて出られたことが奇跡だろう……」
 もう外は沈みゆく太陽によって焼かれ始めていた。無駄に過ごしたようでいて充実した
ような気もする、そんな一日であった。
「帰りましょうか」
 柳の言葉に、残る二人も同意する。
「ヨシ、ゲバルニ敗ケナイヨウ、俺ラモ特訓ガテラシケイ荘マデ競走シナイカ?」
「いいだろう、手品は使わずやってやる」
「私も構わぬ」
 身を寄せ合い、傷をなめ合っていた情けない雄は、もういない。
 こうして三人は夕日に向かって走り出した。しけい荘は現在地から向かって東にあると
は知らずに。
194サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/20(土) 21:28:45 ID:Sk8zevjw0
幕間として戦わなかった方々の回。

烈好きの方には申し訳なかったですが、地球拳は当たれば強いはず。
当時はオリバを応援してたので、不発でほっとしましたが。

>>104
四千年に委ねた烈だったならあるいは…。

>>107
凌辱がないでしょッッッ
195作者の都合により名無しです:2008/12/20(土) 23:19:58 ID:mrjhSxdEO
バキSS数あれど、バキ母がメイド服来て暴れるSSなんて初めてみた
やはりあなたはすばらしい!
196作者の都合により名無しです:2008/12/21(日) 00:36:53 ID:OCJWUg9k0
第四回 SS大賞開催中。
(本日12月21日 日曜日の午前0時から23時59分までが投票タイムです)

SSスレを語ろう パート25あたり
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1211548428/
197作者の都合により名無しです:2008/12/21(日) 02:39:06 ID:eLAG5L+c0
>ハシさん
FO8は最後まで悲惨だったなあw
でも自業自得だけど。原作知らなかったけど楽しめました。
最後の0章、禍々しい〆方でこの作品らしいです。
でももう1回くらいあるのかな?

>サナダムシさん
>明日から動こうとした我々に対し
あ、俺がいるw いつも俺も明日から明日からだw
しかしいやなメイドだなあw蛸とバキママかw
前回のシリアスな場面から打って変わってギャグパートですね。
メリハリが素晴らしい。
198作者の都合により名無しです:2008/12/21(日) 10:55:35 ID:OD8geLu80
ハシさん乙です!完結おめでとうございます!!
でももう1話くらい続くのかな?それともここで完結?
いずれにせよ、完結して頂いたのは嬉しいです。
ロンギヌスも頑張って下さい!


サナダムシさんはいつも安定してて素晴らしいです。
今回は前回までのシリアスと違いしけい荘のメンツが
落としまくってますねw毎度工夫してるなあ。
199作者の都合により名無しです:2008/12/21(日) 15:10:33 ID:yubQqR190
ハシさんはネクロファンタジアが完結しても
ロンギヌスを書いてくれるし
しけい荘はもう少し続きそうだし
来年も前半くらいはバキスレ安泰そうだ
200ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/21(日) 16:19:42 ID:fGJkPRPN0
F03「ありのまま今起こったことを話すぜ! ちんくしゃとお姫様の戦いを見てたはずが、いつのまにかお姫様とあたしが戦っていた」
>>183
>ジュスティーヌは笑う。彼女の視線の先では、F03とF11の戦いが始まっていた。
>予想通り、F03は苦戦している。だが、それが彼女の成長を促すのだ。

はい、誤字です。すみませんorz
正しくは、F03→F08ですね。

F08はお姉さまたちに大変なかわいがりを受けていきました。
これでネクロファンタジアは完結!なんだか伏線らしきものがいろいろ張られた気がしましたが完結です!
不死者秘儀団の設定が生かされるのは、いつのことやら。
設定といえば、ブログに登場人物/設定解説の記事を載せました。
http://alittlewish.blog94.fc2.com/blog-entry-40.html
お暇なときにでもお読みください。
さて、<クロニクル>第0章については……自分が予定している長編のプロローグみたいなもんです。
それから、私の携帯からの書き込み(>>189)以後に感想をお書きになってくれた方へのお返事は、次の投稿の時にさせていただきます。
そんなに間を置かないで投稿できると思うので……もしこれが年明けとかになったら、笑ってください。

>>117さん
やはり週末は時間があるので、固まってしまうのもしょうがないかと。
そして、ネクロファンタジアも終わり、次はロンギヌス。頑張ります!

>>125さん
まさに死人に鞭打つ展開でした。
いやあ、悪いことはしちゃいけない、それをF08は身体をはって教えてくれたんだと思いますw

>>127さん
ありがとうございます。
ロンギヌスも頑張ります!
ハロイさん……自分も復活して欲しいです。
201ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/21(日) 16:21:54 ID:fGJkPRPN0
サマサさん
この王様はもうだめだ! ……そんな面もありながら、きっちりと王の責務を果たしているようで。
ううむ……そろそろMoriaをしっかりと聞き込まなければなりませんね……
そして、海馬。いいなあ。普段は他人に厳しいけど、子どもには優しいって。もうニヤニヤしてしまう。フラーテルへの言葉も、
ソロルお手製の兜をつけて出陣も、格好良すぎる。
というか子供達wイヴェール、そこにロマンはないよ! ルキア、白鴉と遊び終わったらはやく帰ってきてね!

ふら〜りさん
原作ではほのぼのとした描写もある二人ですが、残念なことに恋愛描写に近いものは存在せず。和月先生はそういったものは
ヒューリー&ピーベリーには似合わないと考えていそうですが、今後の展開次第では……?まあ、付かず離れず、絶妙な距離を保つのが
ヒューリーとピーベリーには相応しいかなあと。とはいえ、エンバーミングは始まったばかり。今度は一読者として、今後の展開を楽しみに
しています。

電車魚さん
実は注射器投擲は原作にもあって、結構お気に入りだったので使ってみましたw
へたな慰めの言葉じゃなくて、自分で自分は化物じゃないと証明してみせろ。
こういう問題って、誰かが解決できるものじゃないし、結局は自分が掴みとっていくもので。そう言うアイの言葉が、胸にじんときました。
きっとサイなら絶対にそれが出来ると信じているのでしょうね。いいなあ、サイとアイ。
さて……実はシックスが関係していたことが明らかになって、一気に雲行きが怪しくなってきましたね。葛西が不憫です。
虎を燃やしちゃったらサイが黙っていないだろうし、シックスの命令には逆らえないしで……まじシックス外道。

銀杏丸さん
シャイナさんが不憫すぎる……。彼女はもっと頑張るべき。そして、鈍感すぎる星矢を慌てさせるとよいです、と思いましたw
でも……結局は沙織さんがすべて持っていく……嗚呼。

さいさん
最後で吹きました。これはこなかが登場のフラグ!?(そろそろ自重すべき
うむ、百合はよいですね。とはいえ、徐々に戦いの足跡が。シエルの参入が、この物語にどう影響していくのか。吸血鬼とはいえ、
人の血を吸わないセラスを前にして、シエルはどうするのか。何だかんだいって情に甘いですからね、彼女。
そして、シエルとセラスに百合はあるのだろうか!?(本当に自重すべき
202作者の都合により名無しです:2008/12/21(日) 18:01:03 ID:23aaKq230
ハシさんのロンギヌスは大好きだ。
皆川ファンなので・・

ネクロファンタジアも面白かったけど
原作知らんもんで・・
203ふら〜り:2008/12/22(月) 20:46:23 ID:nMrJnPrt0
>>さいさん
あぁうぁおぁ。前もそうでしたが瑠架の心理描写、いちいち我が胸に突き刺さるっ。まひろ
ほどの積極的な「救い手」はなかったものの、そういうものが皆無でもなかったので、解る! 
解るぞ瑠架! あと知得留先生、学食でカレーを食べ残した生徒にご乱心しないか心配。

>>ハシさん
結構予想外。もっと一片の情けも救いもなくF08ズタボロかと期待……いや予想してたら、
>彼女ならば、必ずそれを踏破してみせる、そう信じていた。
多分に歪んでいるとは思いますけど、一応これはこれでヒューリー&ピーベリーと同質の
ものもあるような。F08の作中での地位によっては、大成長リベンジフラグですよね、これ。

>>サナダムシさん
こういう「非日常的ほのぼの」もしけい荘の大きな魅力ですね。ちゃんと超人的な能力を
もち、好戦的でもあるけど、きっちり巻き込まれ被害者もこなせて、それが不自然に見えない
描き方がお見事。シコルを筆頭に、強くて、おマヌケで、凶暴で、可愛い彼らが大好きです。

>>いやはや
精神的に刺さる→視覚的にエグい→和みつつ爆笑、と。ジェットコースターの如く
起伏激しく楽しめました。量は減れども質は下がらず、願わくば来年は量も、ですな。
204しけい荘戦記:2008/12/23(火) 00:53:15 ID:C/X5ZXOw0
第三十三話「出撃」

 時は満ちた。
 しけい荘とコーポ海王を巻き込み、ホームレスまでもが介入した闇討ち事件。泣いても
笑っても今日が決着の日となる。
 純・ゲバルとマホメド・アライJr。両者の決闘によって白黒がつく。
 しけい荘203号室。ゲバルはいつも通りロッカーの中で立ったまま目覚めると、あく
びをしながら戸を開いた。
 トーストを平らげ、水だけで洗顔し、歯ブラシを手に取る。毛先が若干曲がっていたが、
ゲバルが歯ブラシを高速で振ると、あっという間に毛先が整った。鼻歌を交えて陽気に歯
を磨くゲバル。
 歯磨きを済ませると、寝巻きから普段着へ。締めに愛用のバンダナを巻き、いざ出陣。
 靴を履き、ドアを開け、階段を降り、アパートを出る。試合場となるグラウンドは徒歩
にして十分程度。リズミカルに歩を進めるゲバル。
 彼は決してこのたびの決戦をあなどっているわけではない。
 海賊船でも国家でもない、しけい荘という枠組み。ゲバルは一アパート住民という新た
な役割を以って、戦闘に挑もうとしている。だからこそ、朝からそれらしく振る舞ってい
るのだ。彼にとって今日の戦いはアパート生活の延長上になければならない。
 もう一つ、烈海王の存在がある。烈は紛れもなく強敵であった。もし百回戦ったとして、
はたして五割以上の勝率を得られるかどうか。闇討ち犯と誰よりも戦いたかったのはおそ
らくは烈であろうことは、ゲバル自身よく分かっていた。勝たねばならない。
 指を舐め、濡らすことで風速を感じる。
「死ぬにはいい日だ」
 まだ治りきっていない喉を使い、ゲバルはお気に入りのフレーズを口ずさんだ。

 ゲバルが草野球場に着くと、すでに客席代わりの土手には二大アパートの住民が勢ぞろ
いしていた。入院しているはずの者まで駆けつけている。
「来タゾッ、ゲバルダ!」
 スペックを皮切りに、声援を投げかけるしけい荘の面々。ゲバルは嬉しそうに、オリバ
を除く全員と拳をぶつけた。
205しけい荘戦記:2008/12/23(火) 00:54:18 ID:C/X5ZXOw0
「マ、今日ハ主役ヲ譲ッテヤルゼ」肉まんを食べながら笑うスペック。
「期待しておりまず」とシンプルな柳。
「グッドラック」親指を立てるドイル。
「しけい荘と海王の誇り、君に預ける」ドリアンが微笑む。
「ヨーイドンでしか走れぬ者は格闘士とは呼べない」意味不明なアドバイスを託すシコル
スキー。
 一方のコーポ海王陣営では、劉が烈に問いかけていた。
「あれがおぬしが不覚を取ったという使い手か」
「はい」
「フォッフォッ……なるほど、良き面構えをしておる」
 他の海王たちもただならぬ様相でゲバルを眺めていた。烈が権利を勝ち取れなかった以
上、ゲバルはコーポ海王の代表でもあるのだ。もっとも寂海王だけは試合の結果は二の次
であり、「この試合が終わったら彼(ゲバル)をスカウトしよう」と心に決めていた。
 やがてゲバルが試合開始地点となるマウンドに立った。

 しばらくすると、対戦相手であるアライJrがやって来た。
 いつもの黒ジャージ姿ではなく、トランクスにシューズ、拳にはバンテージを巻いてい
る。気合いの入ったボクサースタイルだ。
「あいつ、あの格好でこんなところまで……ッ!」驚くシコルスキー。
「いや、リムジンが止めてあるから中で着替えてきたんだろ」とドイル。
 マホメド・アライJr。この若き青年が多くの格闘士を闇夜で屠ってきた、闇討ち事件
の犯人である。
 アライJrと面識がない者はこう感じた。
 ──こんな優男があんな騒動を引き起こしたというのか。
 対戦し、面識のある者はこう感じた。
 ──気のせいか、いつぞやの甘さが消えている。
206しけい荘戦記:2008/12/23(火) 00:55:05 ID:C/X5ZXOw0
 ドリアンが感心したように腕を組む。
「私とやった時は彼は技量こそ凄まじかったが、甘さがにじみ出ていた。……今日の彼は
まるで別人だ」
 シコルスキーも同様の感想を抱く。
「いったい何があったっていうんだ。あれから一週間余りしか経っていないのに……」
 程なくしてアライJrもマウンドに立った。

 ゲバルとアライJrに挟まれたオリバが、改めてグラウンド内の全員に向けて試合の主
旨を説明する。
「李海王襲撃から始まった今回の事件……。全ての引き金は彼、マホメド・アライJrだ。
姿と名前で分かるだろうが、あの偉大なるボクシング王者、マホメド・アライの実の息子
でもある」
 一部のギャラリーからどよめきが沸く。
「彼の最終目標は、父上が開発した全局面的ボクシングを世界ナンバーワンとすることだ。
それを証明するため、アライJrは我々に挑戦状を叩きつけた」
 結果として、李海王、範海王、ドリアン海王、サムワン海王、シコルスキーの五名が倒
された。
「先日偶然にもしけい荘のゲバルとコーポ海王の烈海王との間で戦闘が発生した。激闘の
末、双方重傷を負いながら、ゲバルが勝利を収めた。彼らは戦闘時、勝った方が両アパー
トの代表としてアライJrと立ち合うという約束を取り交わしていた。今日の試合はその
約束を実現した格好だ。
 今ならば間に合う。“ふざけるな、俺こそが代表だ”と主張する者はいるかね? 異論
のある者はいるかね?」
 この期に及んで異論のある者はいなかった。
207しけい荘戦記:2008/12/23(火) 00:55:52 ID:C/X5ZXOw0
「よろしい。では、本日ゲバルが勝てば我らの勝利、アライJrが勝てば我らの敗北とす
る。決着後、両名に対する一切の手出しは私が許さん。──以上ッ!」
 あと残すは試合開始の合図のみ。が、ここでアライJrがギャラリーに向かって話し始
めた。
「コーポ海王としけい荘の皆さん、今日はこんな機会(ファイト)を与えてくれてありが
とう。同時に、本当に申し訳ないと何度も謝りたい気分だ。しかし──」
 アライJrは不敵に微笑んだ。
「僕が必ず勝ちます」
 さらに、膝をつき、手をつき、頭を下げた。
「あなたたちの期待に、最高のパフォーマンスで応えますッ!」
 まさかのビッグマウスと土下座に、アパートに関係なく大いに歓声が沸き起こる。やは
りアライJrは父と同じく英雄としての素質を持っている。
 こうなればアパートもクソもない。余計なしがらみを捨て、構えるゲバル。
 オリバが合図する。
「始めいッ!」
208サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/23(火) 00:59:48 ID:C/X5ZXOw0
遅い時間に失礼します。
いよいよクライマックスです。

>>195
あまり想像したくない画です。

>>197
私も明日人間です
どこぞの班長もいってましたね。

>>198
出来れば両方上手い具合に混ぜたいのですが、やはり難しいです。
ターちゃんみたいに。
209遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/23(火) 06:13:00 ID:ijqgnfID0
第二十五話「聖都陥落」

「ほぉ〜れほれ!奴隷諸君、頑張りたまえ!城壁はまだまだ完成していないよぉ〜!」
「くそっ…!」
下劣としか表現しようのない笑顔で、神官―――幼い頃のミーシャを犯そうとした、あの変態である―――が、歯を
食い縛りながら重い石を運ぶ奴隷達を、哄笑しながら鞭打つ。
「うぁっ…!」
疲労の限界に達した奴隷が倒れる。それを見た変態神官が目を細めた。
「おやおやぁ?誰が休んでもいいなんて言いましたかぁ?イヒ、イヒ…これはお仕置きだねぇ?」
「や…やめ…うぎゃぁあ〜〜〜っ!」
鞭が風を切り、奴隷を散々に打ち据える。皮膚が破けて肉が裂け、血が滲み出す。
「イヒ、イヒ、イヒヒヒ、サボったりするからこうなるんだよぉ、分かったかい?」
「う、うう…」
「さあ、諸君!もっともっと城壁を高く高く高ぁ〜〜く築き上げるんだ!もっともっともっともっともっとだよぉ!
でないと私達が安心して暮らせないからねぇ?」
「クソったれ…!これ以上に石を積み上げて、何が楽しいんだ…!がはっ!」
「んん?何か言ったのかい?この口かい?」
ゲシゲシと、奴隷を足蹴にする変態神官。彼は傲然と、イリオンの城壁を指差す。
「キミ達は永遠に永久に永劫に永続的にこの城壁のために石を運び続けるんだよぉ。そのための道具が、余計なこと
を言っちゃいけないよぉ?」
「ち…ちくしょう…」
ぼやけた視界の中で、奴隷は城壁を睨む。
「神様…あんたが本当にいるなら…こんなモン…ぶっ潰してくれ…」
「ほぉ〜?面白いことを言うねぇ、キミィ…城壁が潰れろぉ?イヒ、イヒ…誰がそんなことをできるというんだね?
この最大最強最高の城壁を打ち破れる者など、この世にいるはずが」
ない、と言いかけたその時。その最大最強最高の城壁が―――ペキペキと音を立てて亀裂が走り、崩れ始める。
210遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/23(火) 06:14:33 ID:ijqgnfID0
「…は?」
目を丸くする変態神官。その間にも、亀裂は広がり、そして―――決壊。
「何ィィィィィィィィィィっっっっ!!!???」
変態神官も、奴隷達も、その光景を茫然と見守る他なかった。
「ククク…イリオンの城壁とやらがどれほどの物かと思っていたが、随分と脆いハリボテだったな」
傲慢なまでの威圧感に満ちた声と共に、ズシンズシンと足音を響かせ、巨大な怪物が姿を現した。それは蒼き焔を
瞳に宿した、三つ首の白龍。その頭上で腕を組んで悠然と佇む、怪しい兜を被った男―――言うまでもなく海馬で
ある。合計八つの眼光に射竦められ、変態神官は金魚のように口をパクパクさせる。
「どうした!?何があった―――な…!」
「何だ…あれは…」
駆けつけてきたイリオンの兵士達も、その異形を前に二の足を踏む―――そこに駆け抜ける、黒い風。
「がはっ!」
「うぎゃあっ!」
一瞬にして全員が斬殺され、緋色の花が咲き乱れる。それを為したのは、銀の髪を靡かせた剣士―――エレフ。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、な、な、な、な、何なんだ貴様らはぁぁぁぁぁっ!?」
「…ん?貴様、あの変態神官か。まあ、貴様などどうでもいい」
エレフは泡を吹く変態神官にはもう目もくれず、天に向けて高々と剣を翳す。
「イリオンよ―――貴様を護る楯ももはやない!今日が貴様の最期の日だ!」
そして彼は三つ首の竜を従える海馬と共に、次々に集まってくる兵士達をものともせず屠っていく。その姿を奴隷達
は、しっかりと目に焼き付けた。
「神様…」
ついさっき散々に甚振られた奴隷が、涙すら流しながら呟く。
「神様は…いたんだ…」
彼だけではない。他の奴隷も同じだった。彼らにとって、憎しみと絶望の象徴であった城壁。その偶像を軽々とぶち
砕いた三つ首の白龍と、黒き剣士。それは、まさしく戦神の具現化であった―――

「なるほど…何とも、豪快な合図だ…」
オルフは呆れ半分、感心半分で溜息をついた。そして、にやりと笑う。
(やはり、あの御二人に間違いなどなかった…見ろ!イリオンの腰抜け兵共め、泡を吹いておるわ!)
211遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/23(火) 06:15:18 ID:ijqgnfID0
その時、反対側からも鬨の声が上がる。どうやらシリウスの部隊が突撃を開始したようだ。
「我々も続くぞ―――突撃ぃぃぃぃぃぃっ!」
「おおおおおおーーーーーっ!」
怒号を放ちながら奴隷部隊は一斉に攻撃を始める。対するイリオンの兵は、絶対と信じた城壁があっさりと砕かれた
事実によって、戦う前から完全に戦意を喪失していた。数の上での圧倒的な有利など、もはや皆無に等しい。
まさに狼が鶏の群れを襲うが如し。天秤は完全に、奴隷部隊に傾いていた―――

「ワハハハハ―――敬え!傅(かしず)け!!跪(ひざまず)け!!!これがオレの究極竜だ!」
「ぎゃああああああーーーーーーーっ!」
究極竜に追われ、兵士達はもはや抵抗の意志すら失い、逃げ惑う。海馬はそれを追わず、辺りを見渡す。遠目に目的
の建物を見つけた。
「さて…エレフが言うには、あれが兵士の詰所だったな。あそこを潰せば、一網打尽というわけか」
勿論それは奴隷だったエレフの少年時代の話だ。今でもそうだとは限らない―――と、そこから兵士達がわらわらと
出てくるのを海馬は目撃した。口元を、三日月の形に歪める。
(ククク―――どうやら配置換えもロクに行なっていないと見える。間抜けめ)
海馬が手を振り翳すと同時に、究極竜が三つ並んだ口から一斉に、破滅の閃光を放つ。それは重なり合い、一筋の光
と化して、詰所を吹き飛ばした―――

さて、時間を少し戻して、詰所の内部では。
「―――諸君!」
金髪碧眼の美男子が、居並ぶ兵士や騎士達を鼓舞する。彼こそは、件の英雄イーリウス。暴風の如き剛剣と、疾風の
如き身のこなしで、最強の名をほしいままにする生涯無敵の男。そして彼が率いる歴戦の精鋭達を、いつしか誰もが
こう呼ぶようになった―――<風神聖騎士団>と。
「敵はイリオンの城壁をも打ち破る者達である…されど、我らは、決して背を向けはしない!」
「おおーっ!」
皆がイーリウスに続き、諸手をあげる。
212遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/23(火) 06:16:03 ID:ijqgnfID0
「聖都を穢す者達に、罰を!風神(アネモス)の加護は我らにあり!」
「おおーっ!」
「さあ、同胞(ヘレネス)よ!いざ往かん!罪深き者達に、神の裁きを知らしめようぞ!」
「おおーっ!」
と。イーリウスを筆頭とする風神聖騎士団一同が気勢を上げた瞬間。
極太の破壊光線が、彼らを跡形もなく、文字通り塵すら残さず、この世から消滅させたのだった。

―――彼の名誉のために言っておくが、これはイーリウスが前評判だけの見掛け倒し野郎だったわけではない。
まともにやりあえば、如何に海馬やエレフとて、相当の苦戦を強いられたことであろう。
それだけの実力を、確かに彼は有していた。
されど、いくら稀代の英雄といえど、まさかいきなりあんな攻撃が来るなど予想できるはずもない。
結果、イーリウスはその圧倒的な戦闘力を披露する機会さえ与えられず、この物語から退場する運びとなった。
まあ人生、そういうこともあるということを、皆様も肝に銘じておこう。
合掌。
「ワハハハハ―――虫けら共!この究極なる竜を崇めよ!讃えよ!!奉(たてまつ)れ!!!」
それにも構わず、海馬は究極竜を駆り、エレフと共に破壊の限りを尽くす。
その姿は、まさに破壊神の如し。二人の行く手にはもはや、敵はなし―――

―――城壁を失い、英雄を喪い、全てを奪われ、聖なる風神の都はこの日、完膚なきまでに陥落した…。
213サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/23(火) 06:38:42 ID:xKWEWwAG0
投下完了。前回は>>159より。アクセス規制なんてなくなれ。
サナダムシさん投下後、あまり間を空けずに失礼しました。語ろうスレで社長に5票も入っていたという事実に、
改めて彼の人気を知りました。そして誰だ、BMGミーシャに一票入れたけしからん人はw
しかし社長、人をぶっ殺しまくってるというのに、誰からもツッコミが入らないという事実に、彼の人間性が
うかがえてしまいます。まあ彼、自分の邪魔になる奴は、普通に殺す気満々ですしね…。

>>161 僕も思ってなかったw
>>162 シャイタンも…と思ったけど、流石にその二人と比べると分が悪いかな。
    そういやArkだと、海馬で<きかん>と読んでましたね…もう監視卿=社長だと思えば(違)

>>ふら〜りさん
渋々ながら、絵本を読んであげたんだろうなと思うと我ながら笑えます。自軍からの死者…
うーん、彼のキャラクターからはまるで考えてなかった(汗)全然気にしなさそうでもあるし、
逆に身内が死んだりしたら凄いショック受けそうでもあるし…どうなんだろ、その辺り。

>>164 皆でへたれりゃ怖くない…実は究極竜の他に、青眼の最終形態があるので、それを出そうかな
    と思ってます。
>>電車魚さん
よかった!今週号のネウロで全身機械化されたおじさんが出てこなくて本当によかった…と思ってたら、
警官逃げてー!なんて毎週ハラハラさせられる漫画なんだ…メインキャラがあっさり死ぬもんな、この作品(泣)
ワカメ自重してくれー!…してくれないだろうな…
>>ハシさん
F08…最後まで不憫な子…強く生きろ。と思ってたら。
クロニカ様が細切れにー!?なんて恐れ多い…そして永遠を手に入れた魔術師…
胡散臭い教祖様クルーーー!?ワクワクが止まらねえ!もうイベリアからシャイタンも参戦させればいいと思うよ
というのは冗談です。
Moiraは楽曲そのものはRomanやエリ組に一歩譲るけど(あくまで個人的感想)物語性は過去最高レベルだと
思っております。聴けば聴くほど新しい発見。
214作者の都合により名無しです:2008/12/23(火) 12:12:29 ID:3sf5RE+z0
>サナダムシさん(大賞おめでとうございます。俺もあなたに入れました)
ゲバルがシコルスキーを差し置いてすっかり主役っぽい立場にw
アライとの決着はわかりませんが、やはりシコルにもう一度奮起してほしい。


>サマサさん
今回は繋ぎの回でもありますが重要なエピソードでもありますね。
しかし変態が良く出るSSだw前作は結構爽やかな感じだったんで以外ですw
215作者の都合により名無しです:2008/12/23(火) 14:55:55 ID:9qgZ16q50
>しけい荘
決戦前のエールを送る姿がいいですな。シコルは観客になってる場合でないだろw

>遊戯王
社長が相変わらず荒れ狂ってますねwおかげで遊戯の影が薄いwあ、原作もそうかw
216ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 18:52:49 ID:aYC+9A4N0
「ミスタ・ロング、これが今の状況です」
「ん」

 黒い長髪を流し、右目に眼帯をした東洋人――エドワード・ロングは、仕事仲間から書類を受け取った。
 仕事仲間――ロングの向かいに座る表情の起伏が乏しい、目を離した次の瞬間には顔立ちを忘れてしまうような、
なんとも印象の薄い男であった。
 
 二人が居る場所はウィーンのカフェテラスだ。
 市民の憩いの場所であり、まだ日の高い時間帯だったので、店内にいる客の数も多い。
 二人とも仕立てのよいスーツ姿だったので、一般市民の中に違和感無く溶け込んでいた。
 凶手として裏社会に名を轟かせるが故に、ロングの素性は多くの組織に割られていたが、
ここまで堂々としていると逆に誰も気がつかない。

「……」

 ロングはカップを片手に、手渡された書類にすばやく目を通していた。印刷紙の上に整然と並ぶ文字の羅列は、
関係者にしてみれば蒼白ものの内容であった。そこには、現在のスプリガンの対鉤十字騎士団の活動計画が、
事細かに記されていた。本来ならば、憲兵隊とスプリガンしか知りえない情報まで記載されている。
 いかに混乱の極みにあるとはいえ、憲兵隊の機密情報の管理は徹底している。
 その堅牢なガードを掻い潜り、これほどの情報をもたらすには、並大抵の密偵では勤まらない。

「申し分ないぜ、さすがはピンカートン」
「恐縮です」

 ――ピンカートン。かつてアメリカで悪名を馳せた秘密探偵組織だ。その起源は、アメリカ南北戦争にまでさかのぼる。
 新大陸を二つに割った戦争において北軍に加担したこの組織は、多くの有益な情報をもたらし、北軍を勝利に導いた。
以後も幾度と無く歴史の暗部に登場し、策謀の一手を担ってきた。
シュリーマン暗殺を企てていただとか、イフの城、そして不死者秘儀団なる秘密結社と暗闘を繰り返してきただとか、
暗い噂が絶えない組織だ。
217ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 18:55:31 ID:aYC+9A4N0
 もっとも、正確に言えば、いまの彼の所属はピンカートンではない。
 連邦捜査局の発足や警察組織の充実によって規模を大きく縮小した彼らは、非公式に米国政府の各部署に配置され、
長い歴史のうちに培ってきた辣腕を振るっている。
 ロングの目の前の彼は、アメリカと結びついた<トライデント>へと配属を命じられたうちの一人だった。

「にしても、まさかあんたらといっしょに仕事するなんてな。人生、何があるかわからねぇもんだな」
「私どもとしても、同じ気持ちですよ。あなたには酷い仕打ちをされたものです」

 マフィアの食客の経験もあるロングと、要人警護を主な仕事としているピンカートンは、これまで幾度となく矛を交えていた。
 両者の関係は、仇敵同士といっていい。今回は利害の一致ということで、こうして手を組んでいるに過ぎない。
 
「敵となれば恐ろしい貴方ですが、味方となればこれほど頼もしい存在はありませんよ、ミスタ・ロング。
私どもはみな、あなたの活躍に期待しているのですよ」

 実際、ロングの力は恐るべきものだ。彼の操る八卦五行は、東洋の神秘の結晶であり、その破壊力には特筆すべきものがある。
 彼を相手取るには、おそらくサイボーグの一個師団を用意しなくてはなるまい。スプリガンと比べても遜色ない、怪物だ。
 かつての仇敵の賞賛に、ロングは肩をすくめて見せる。

「それは置いておくにしても、だ。ナチのねぐらは、わかったのかい?」
「……申し訳ありません。私どもとしても、魔術師といった手合いの相手は、何分苦労するものでして」
「ま、グルマルキンっていやあ、こっちの業界じゃあ超有名人だ。あんたら普通人じゃあ、手間取るのも無理なかろ」
「ですが、現在のスプリガンと鉤十字騎士団の交戦状況については掴むことができました。これを」

 また新たに書類を取り出す。それを受け取り、眺めながら、ロングはただ一言。

「なかなか愉快なことになってるなァ」

 にやりと、不敵に笑う。
 ロングの感想はそれだけである。緊張感のない言葉だが、それだけ彼には余裕があるのだろう。
 敵地に侵入した今でも、気負うどころかむしろ泰然として構えている。本当は、性格が大雑把なだけなのだが。
218ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 18:56:41 ID:aYC+9A4N0
「それで、どうします。ミスタ・ロング」

 魔術師なる存在を前にすれば、いかに優秀とはいえ、人間の捜査には限界がある。後はオカルト的な手段に頼るしかない。
 幸い、ロングは八卦を修めている。魔女の居場所を特定することも出来るはずだ。

「ま、陰陽の気が乱れてる方角を特定することが出来りゃ、ナチどもの居場所もつかめるんだろうが、
俺はそういう精密作業はどうにも苦手でね。とりあえず、連中の出方を待つことにしようや」

 しかし、帰ってきた返事は、なんとも頼り甲斐のないもの。

「はあ」

 思わず溜め息が出るというものだ。

「そんな顔すんなよ。ま、嫌でも状況は動くだろうさ。スプリガンと鉤十字騎士団がぶつかる事でな。
それに、あんたらの機械化歩兵部隊もかなりのもんだが、スプリガンや鉤十字騎士団に通用するか怪しいな。
<COSMOS>を失った今となっちゃあ、満足に奴らに対抗できるのは俺だけなんだろ?
 切札は最後まで伏せとかにゃ、いかんよなあ」

 痛いところを突かれた――と、ピンカートンの男の顔に、初めて表情らしいものが浮かんだ。
 ロングの言葉は、確かに事実だった。
 スプリガンへの対抗手段だった<COSMOS>は、先日鉤十字騎士団によって壊滅に追い込まれた。従順な彼らを失ったのは痛い。
 <COSMOS>はどんなに理不尽であっても、自我が欠落しているが故に、一切の疑問を持たず命令に従う。

 だがこの男は違う。契約を結んでいるとはいえ、そして強大な力を持つとはいえ、所詮は雇われ者。過度の信頼は禁物だ。
 "遺産"が絡んでいる以上、裏切りの可能性は否定できない。
 ロンギヌスほどの"遺産"なら、どこの組織も色目をつけず高額で買い取るだろう。

 ジョーカーの如き特性を持つが、その使用には不安が付きまとう。しかし、彼の協力がなければ、ロンギヌスは奪取できない。
 このような奇妙な緊張が、ロングと<トライデント>の間に存在した。
219ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 18:57:38 ID:aYC+9A4N0
「そんな怖い顔すんなよ。あんたらから"遺産"を掠め取ろうなんざ微塵も思ってねーから。俺は俺の仕事をやるだけさ」 
「それを聞いて安心しました。では、もう少し様子を見るということで、よろしいですか」
「そんな感じだ。しかし、ヴァチカンの狂信者どもがどう動いてくるかが気になるな」
「――埋葬機関、そして、イスカリオテですか」
「ああ」

 そういってロングは空を見上げた。
 澄み渡る蒼穹からは、永遠に続くかと思われる平和が読み取れる。
 しかし、平穏な日常の裏では、血で血を洗う闘争が繰り広げられている。
 この平和な世界も、薄皮一枚剥げば、残酷な真実が姿をあらわす。
 世界最大宗教の暗部、ヴァチカンの異端排斥機関――埋葬機関とイスカリオテも、その残酷な真実の一つだ。

「神様なんて得体の知れない存在を狂信してる奴らなら、聖人に縁のある品を、何が何でも奪い取ろうとするもんだが……。
 ――案外、もうここ(ウィーン)に来てるのかもしれないな」


       ◇       ◇       ◇       ◇       ◇


 スキンヘッドの男は生まれたことを死ぬほど後悔していた。
 どうして、こんなことになったのか。どうして、こんな目にあっているのか。
 ――どうして俺は拷問を受けているのか。
 しかし、いくら考えをめぐらせても、その答えは出ない。
 ……天井から逆さまに吊り下げられ、血が上りすぎて鬱血し始めている彼の頭では、その答えに辿りつく事は不可能だ。

「なあ、はやく話してくれよ。私だって、こんなことはしたくないんだ。全部、あんたが協力的な態度をとってくれないからだぜ」

 シスター服をまとったブロンドの女が話しかけてくる。サングラスをかけている為、その瞳にどんな感情が宿っているのか窺えない。
 だがきっと、その瞳の中には嗜虐の炎が燃えているのだろう。弾む声の調子から、この拷問を、心底楽しんでいることが分かる。
 不意に大きな笑い声が響いた。壁にもたれかかったシスター服の黒髪の女が発したものだ。
220ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:00:16 ID:aYC+9A4N0
「なんだよ、由美江」
「欠片もそんなこと思ってないくせに、よくそんな台詞が吐けるなって思ったのさ」
「ああ、あんたもわかってくれないのかい? 我が愛しの相棒よ。まったく、ひどい誤解だよ。なあ――」

 ――あまりの激痛で、悲鳴をあげたのかも定かではなかった。
 錆びたナイフがゆっくりと自分の足の指に刺し入り、引き裂いていく。
 勢いよく血が噴出した様子は、まるで真っ赤な華が咲いたかのようだ。

「――こんなこと、したくないに決まってるじゃないか」

 とてもそういう風には見えない、嗜虐に快感を見出す表情であった。
 スキンヘッドの男は、その顔を見る余裕は無い。激痛が、正常な思考を妨げている。

 末端神経が密集している足先というのは、わずかな痛みも敏感に感覚する。
 家具に小指をぶつけたときの痛みが、そのわかりやすい例だろう。
 それがナイフで切り刻まれるとなると――想像するのもためらうような激痛が、彼を苛めていることがわかるはずだ。
 そして、逆さまに吊るされ、頭に血が溜まっている状態ならば、足指の傷口から大量の出血が起こる事はなく、
多少の無茶もできる。なおかつ意識が次第に朦朧となり、口を割りやすくなるというわけだ。

「ほら、さっさと話さないと、また指を失くすことになるぜ?」
 ブロンドの女は、スキンヘッドの男の耳に唇を寄せ、囁く。
「死にたくないだろう? いまなら、日常生活にちょっと支障が出るくらいで済むぜ。だから――」
 ナイフの切っ先が、まるで品定めするかのように、男の足の指に向けられる。怯えたスキンヘッドの男は、たまらず叫ぶ。
「止めろ、止めてくれ! 俺は何も知らない、本当だ!」
「またそんなことを言って」
 再び、悲鳴。紅い華が、もう一輪咲いた。
「なあ、さっさと話してくれよ。
 ――お前らネオナチが、このウィーンでなにをしているのか、ってことをさ」

 と、口の端を吊り上げて、ブロンドの女――ハインケル・ウーフーは笑った。
221ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:00:58 ID:aYC+9A4N0
「はあ……」

 力なく溜め息をつきながら、シエルは物憂げな表情で歩いていた。
 またしても、連絡員から満足な調査結果を得ることができなかった。何時になったら、鉤十字騎士団の動向がつかめるのやら。

 ナルバレックからロンギヌス回収の任務が与えられてからすぐ、シエルはウィーンに向かい、現地で鉤十字騎士団が
ロンギヌスをどこに持ち去ったのか調べていた。しかし、その調査状況はあまり芳しくない。

 先ほどの連絡員との接触で、鉤十字騎士団がウィーンで戦闘を行っている、スプリガンがそれを止めようとしている、
というところまでは判明したのだが、肝心のロンギヌスの行方はいまだ不明のまま。

 活動家を通じてスプリガンがナチ残党の本拠地を把握したとの連絡も入っているが、真偽はまだ定かではない。
 連絡員には調査の続行を、とお願いしてみたものの、どれほど時間が掛かるか知れたものではなかった。
 今回の事件において教会は、ロンギヌスに絡む勢力の中で一歩出遅れている。どうしても後手に回らざるを得ない。

「はあ……」

 またしても、溜め息。
 ウィーンではカソック姿の人間は珍しいのか、それとも憂いに沈む彼女の端整な顔立ちに心を奪われたのか、
街路を行く人々からの視線がシエルに集まる。
 だが、彼女は突きつけられた難題に頭を抱えているため、自分に向けられる好奇の視線に気づかない。
 彼女は、誰も彼もを釘付けにしてしまう自分の美貌を自覚していなかった。それが彼女の罪であるのかは、さておき。

「はあ……」

 三度目の溜め息。
 幸せが逃げてしまうから、出来るだけしないように心がけているものの、止められない。

 時間を無為にすればするほど、ロンギヌスを手中にしている鉤十字騎士団に利を与えることになる。
 手段を選んでいる段階は、とうに過ぎているのかもしれない。
222作者の都合により名無しです:2008/12/23(火) 19:34:46 ID:LTg2FWl80
さるかな?
223ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:38:48 ID:aYC+9A4N0
 スプリガンと鉤十字騎士団、両者の抗争に割り込み、強引にでも情報を得るべきか。
 だが、どちらも並の相手ではない。両者を敵に回すのは、避けるべきだ――とシエルは結論付けていた。
 最善はスプリガンに協力を仰ぐことだったが――しかし、

「問題は、あの二人ですね……」

 あまり敬虔とはいえない自分に比べて、狂信ともとれるほどの信仰心を持つあの二人が、異教徒との協力を
快諾してくれるだろうか……。それがシエルの悩みの種だった。

「はあ……」
 四度目の溜め息。今度のは、さらにさらに深く。

 イスカリオテの理念は、異端の絶対根絶。あのアンデルセン神父のように、敵と定めたものに対する容赦は存在しない。
 それに、スプリガンには魔女、そして人狼までもが在籍しているのだという。
 イスカリオテが敵視する異端そのものではないか、とシエルは頭を抱える。

「ああ……どうやって説得したら……」

 自分は、異教徒と共同戦線を結ぶのにそれほど抵抗はない。
 熱心に教義を信仰しているわけではなかったし、彼女が戦う理由は異教徒の排斥ではなかった。
 だから異教徒が相手でも柔軟な考えを持つことが出来たし、スプリガンと手を結ぶことで任務が
果たせるなら、その手段をとりたい。

 などと考えに耽っていると、いつの間にか潜伏先の建物に辿り着いていた。
 二階建てのややぼろい階段をのぼり、仲間の待つ部屋の前に立つ。

「まあ、きちんと話すしかないですよね。だめだったらだめで、他の方法を考えればいいだけのことですし」 

 そう思いながら開けた扉の先には、彼女の悩みを一気に吹き飛ばす光景が広がっていた。
224ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:40:13 ID:aYC+9A4N0
 ――見知らぬスキンヘッドの男が天井から吊るされていた。
 血が床に滴り、赤い水溜りを作っている。息は無い。すでに絶命しているようだ。
 その死体を見たシエルが、表情を強張らせてから、一秒、二秒、三秒……

「……なんですかこれはああああああ!?」

 建物全体を揺るがす大音声が、シエルの口から迸った。
 わけがわからない。この死体はなんだ。どうしてここにある。しかも逆さに吊るされて。
 いったい、自分が留守にしていた間に何が起こったのか――
 と、固まっているシエルに、なんとものんびりとした声がかけられた。
 
「あ。おかえりー、シエル」

 サングラスをかけ、シスター服を着た、美しいブロンドの女性。椅子に腰掛けながら、銃の手入れをしている。
 テーブルの上には、血が付着したナイフが置かれてある。
 シエルはそれを見てすべてを悟った。なんとも余計なことをしてくれたものだ、この戦友は。

「おかえりじゃありません、ハインケル! 説明してください、これ!」
 ずかずかと部屋に踏み入り、憤然とした様子でシエルは死体を指差す。
「どうしてネオナチの構成員が、こんなところで死んでるんですか!」

 スキンヘッド――その特徴的な容姿で、男が鉤十字の信徒というのはわかった。
 だが、ここで死体になっている理由にはならない。
 肩をすくめて、ハインケルと呼ばれたシスターが答える。

「見たまんまじゃないか。情報が欲しくて、ナチ野郎を拷問にかけたのさ」

 なにか悪いのかよ、とハインケルは鼻を鳴らす。
225ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:41:01 ID:aYC+9A4N0
「かけたのさ、じゃありません!
 いいですか、教会は各国と秘密協定を結んで、ロンギヌスには徹底した不干渉の立場を貫いてきたんです。
 でも、その継承者は世界を支配するなんて伝説が残っているくらいですから、どの国でも内心ロンギヌスを
手に入れたいと思っていて、そんな緊張状態の中で鉤十字騎士団がロンギヌスを奪ってしまって、各国上層部は
殺気立ってて、今にもロンギヌスを巡って奪い合いが始まりそうで……。
 ああ、もう! だからいま迂闊に動いて、教会がロンギヌスを手に入れようとしているのがばれたら大変なんです! 
 それなのに……いきなり拷問とか……」

 一気にまくしたてたあと、シエルは今にも泣きそうな表情で言った。

「由美子、あなたがついていながら――」
「まあ、けっこうおもしろかったから、いいんじゃねーのー?」

 ――違う。これは由美"江"か。トレードマークの丸眼鏡をかけていないかわりに、腰のあたりに日本刀をさげている。
 普段のおどおどした雰囲気はなりを潜め、かわりに野獣のようなぎらついた光が瞳に宿っている。
 彼女はいわゆる二重人格者だった。普段は心優しい由美子が人格の表層に現れているが、彼女のまわりで血が流される時、
好戦的な人格である由美江が出現する。

 無理もない。虫一匹殺せそうにない由美子が、この凄惨な状況で意識を保っていられるはずがない。
 拷問の途中で気を失って、由美江が入れ替わったのだろう。

「ま、そんな怒るなって。シエルは考えすぎだな」

 ははは、とハインケルと由美江は笑う。シエルの心配などどこ吹く風だ。 

「まあ、ナチ野郎が一人くらい行方不明になったって誰も気にしないよ」
「そうだよ。もうちょっと気楽に構えろって」

 ぱんぱんと、二人はシエルの肩を叩いた。
 何か言いたげに口を開くシエルではあったが、脱力したように溜め息をつく。
226ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:41:42 ID:aYC+9A4N0
 この二人はいつも好き放題やりまくる。各機関への根回しが大変なことを、二人は知っているのだろうか。

「……それで、成果はあったんですか?」
 と聞くシエルに対して、ハインケルは得意げに答えた。
「いやー外れだった。下っ端っぽい顔してたし。あ、やっぱりかって感じだった。まあ、ただの八つ当たりだったし、問題ないよ」
「八つ当たりだったんですか!?」

 シエルの怒りが頂点に達した。火山が大噴火したようなその剣幕に、さすがのハインケルもたじろぐ。

「し、しょうがないだろ! ウィーンに来てからこっち、ずっとここに閉じ込められてたんだ。そりゃあストレスも溜まるさ!」
「あなたたちが外に出たら一般市民の被害が大変なことになりますからね! 現にこうして問題を起こして!」
「な、なんだよ、そんなふうに言うことねーじゃん! それに、ナチ野郎が一人くたばってよかったじゃねーか!
 神の国が少しでも近づいて!」
「そのまえに作戦がばれて、私達が神の国に逝くことになりかねませんよ! 
 もし作戦が失敗したら、ナルバレックやマクスウェル局長にどんな処分を下されるか、わからないわけじゃないでしょう!?」

 ナルバレック、マクスウェル局長。二人とも、泣く子も黙る教会の殲滅機関の長で、三人の上司だ。
 その彼らの怒りを買えば、死よりも恐ろしい生き地獄が待っているだろう……。
 その光景を想像したのか、ハインケルと由美江の表情が、見る見るうちに蒼白になった。

「ああ、そりゃ怖い。怖すぎる」
「しょんべんちびりそう」
「じゃあこれからはおとなしくしててください、いいですね!」


 連絡を受けて駆けつけた教会の死体処理係に深く深く頭をさげて(シエルは必死にハインケルと由美江の頭を押さえていた)、
やっと落ち着きを取り戻した頃。ハインケルがシエルに問い掛けた。

「で、そっちはどうだったんだよ」
「ええ、そのことなんですが……」
227ロンギヌスの槍 part.7:2008/12/23(火) 19:42:25 ID:aYC+9A4N0
 シエルは現在の状況を語った。調査が行き詰りつつあること。これ以上の調査の遅延が鉤十字騎士団を有利にさせてしまうこと。
 スプリガンと鉤十字騎士団、この二つの勢力を敵に回すのは避けたいということ。
 そして、異端が在籍するスプリガンと手を組むほかないということ――
 シエルは静かに二人の返答を待った。おちゃらけた性格をしている彼女らも、イスカリオテを代表する根っからの狂信者だ。
 異端と組むことには賛成できない、そんな答えを予想していた。でも――

「うん、いいよー」
「はあ、やっぱり……じゃあ他の手を考えないと……え?」
 シエルは、信じられない、といった顔で聞き返す。
「いま、なんて?」
「だから、スプリガンと手を組むんだろ? あいつらにはちょっと借りがあるし。オミナエユウ、だっけ?
 あいつには結構助けられたことがあるんだ。ま、その借りを返すってことで、協力してやってもいいぜ」
「魔女はちょっと願い下げだけどなー。同じ空気吸ってるって思うと、死にたくなるね」
 
 その二人の言葉に、シエルは大いに安堵した。二人の賛同が得られたのならば、任務の成功率はぐんと上がる。
 問題はどうスプリガンと接触するかだが――

「それは大丈夫だろ。奴ら、ウィーンでどんぱちやってるようだし、そこに私達が颯爽と駆けつけて、スプリガン助けたらよくね?」
「そうそう」
「まあ、それが最善ですかね……」

 ともかく話はまとまった。しかし、もしいまウィーンに来ているスプリガンの中に、魔女や人狼がいれば、話がこじれる可能性が高い。
 彼女らの狂信は、もはや業の域に達している。後先考えず、銃弾をぶち込み、斬り殺そうとするかもしれない。だから、

「交渉はわたしが行いますから、二人は黙っていてくださいね!」
「はいはい」
「わかったって」
 こう注意をうながしたのだが、さて、本当に上手くいくのだろうか――
「はあ……どうにも不安です」
 シエルはもう、自分の溜め息を数えるのを止めていた。
228ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/23(火) 19:48:00 ID:aYC+9A4N0
というわけで、ロンギヌスの槍、再開です。
……でも、今回スプリガンキャラの登場はなし。
じ、次回は、次回は出ますから!
さて、今年もあとわずか。年内ぎりぎりまで書き進めようと思います。

>>190さん
ありがとうございます!
というわけで、ロンギヌス再開しました!

>>191さん
>原作知らなかったけど楽しめました。
とてもうれしいです。
原作を知らない方も楽しめるSSを書くことが目標の一つなので。

>>198さん
ありがとうございます!
年が終わるまでできる限り書きまくろうと思うので、よろしくお願いします。

>>199さん
他の方のSSも、新しい方のSSも、来年もいっぱいきてほしいですね。
ささやかながら、自分のSSがバキスレ繁栄に貢献できれば、と思っています。

>>202さん
もうその言葉だけで胸がいっぱいです。その言葉に報いることができるよう、頑張ります!

>ふら〜りさん
上司も先輩も歪んだ愛情の持ち主。F08には希望を失わず頑張ってほしいですw
>F08の作中での地位によっては、大成長リベンジフラグですよね、これ。
原作の舞台は現代日本なのですが、主人公に撃退されたり、F05のおもちゃにされていたりで、
……あまり地位は変わっていない様子。それでも十分強くなったのでしょうが……
229ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/23(火) 19:49:09 ID:aYC+9A4N0

>サマサさん
あっけなく退場したイーリウスに思わず涙。
そのあとの描写が、なおさら哀愁を漂わせて……
そして、社長の高笑い。敵にとっては悪夢に違いありませんが、どこまでもブルーアイズを愛してる
言動が微笑ましいですwほんとに嫁が好きですね、彼は。
<クロニクル>については、ただいま準備中です。
クロセカを中心に、その他アルバム、もちろんシャイタンとライラ、そしてMoiraもできる限り組み込む予定です。
ふふふ、サマサさんのサンホラリスペクトに負けないように頑張りますよ!
230作者の都合により名無しです:2008/12/23(火) 22:04:52 ID:TGE2O4LS0
お疲れ様ですハシさん。
ロンギヌス再開即大量投下でのってますね。
まだ序章に過ぎませんでしょうが、2人組のサドコンビとか
そろそろ外郭が露になってきて楽しみです。
231作者の都合により名無しです:2008/12/24(水) 01:24:47 ID:l9ZDajjG0
エニアさんはまだ来れないのかねぇ
232作者の都合により名無しです:2008/12/24(水) 06:26:36 ID:3A3bBCex0
スプリガン再開ですか。
来年くらいになるかと思ってたのでうれしいです。
スプリガン以上に曲者ぞろいのイスカリオテとの一時同盟、
なんか分裂しそうだなーw
233作者の都合により名無しです:2008/12/24(水) 08:35:43 ID:mzUwKcfb0
ハシさん乙です。
またティアやおみなえの活躍を楽しみにしてます。
でもシエルとか知らないんだよねー。一度原作読んでみます。
234ふら〜り:2008/12/24(水) 18:48:42 ID:RT3yaRx30
>>サナダムシさん
アライが良いっっ! 甘さが抜けて牙が磨かれるのはいいけど、それでどこかのバカみたいに
人格が破綻したら……と心配してましたがとんでもない! 今回、ゲバルの大物っぽさ描写で
幕を開けたと思ったら、それをアライが呑む形で終わり。これはもう全力で彼の応援しますよっ!

>>サマサさん
城壁をぶち壊す巨大な魔物、兵士たちを斬り殺す影、名高き英雄を容赦なくあっさり屠るビーム、
と。変態神官と奴隷たちの姿がなかったら、どこをどー見ても悪役・敵キャラの所業ですなこりゃ。
まぁ主人公たちが止めようとしてる相手なわけですから、敵サイドといえば敵サイドですけど。

>>ハシさん
こういうシーン・やりとりがあると作品世界が大きく見えてきます。「常識人が非常識人を叱り
つけてる」パターンでありながら、その常識人さんも拷問や殺人自体には動じない。カタギの
一般常識人からはかけ離れてる。そういう世界でのそういう奴らによるバトルなんだな、と。
235作者の都合により名無しです:2008/12/25(木) 08:35:28 ID:PK5OPH+E0
クリスマスは職人の方々やる事ないから沢山作品来ると思ってたけど
一つも来なかったか。

遅れたけどサナダムシさん大賞おめでとう
236しけい荘戦記:2008/12/26(金) 22:08:18 ID:Jb/PvEGP0
第三十四話「純・ゲバル対マホメド・アライJr」

 パンチが来る、と身構えてからコンマ一秒未満で、右ストレートはゲバルの顎に到達し
ていた。スクリューを伴った拳の衝撃は甚大であり、たった一撃でゲバルからダウンを奪
うに至った。
 アライJrと対戦経験のあるドリアンが叫ぶ。
「私との対戦時にはすでに人体の反応速度を上回っていたが……さらに速くなっている!」
 先手必勝を地で行くような、最上級のオープニングヒットだった。オリバが合図をして
からまだ五秒と経っていない。
 しかし、一撃で終わるようでは大統領や海賊はもちろんのこと、しけい荘住民など務ま
らない。立ち上がるゲバル。
「オエェ〜ップ、船酔いするよりひどいな、こりゃ」
 どろどろに溶解した視界においても、ゲバルはアライJrを捕捉し、ハイキックからタ
ックルのコンビネーションで反撃を試みる。が、スウェーバックにいなされ、返しのアッ
パーカットがクリーンヒット。さらにノックアウト率の高い左フックが顎を射抜く。
 ゲバルが味わう景色がどろどろからぐにゃぐにゃに変化する。
「タフなゲバルがもうふらついてやがる……数日前とはパワーもスピードも段違いだ!」
 発汗するシコルスキーに、ドリアンはこう分析する。
「いや、これが彼本来の実力と見るべきだろう。殺せない甘さ、殺されたくない甘さ、こ
れらを完璧に払拭したことにより、フットワークから迷いが消え、“打たせずに打つ”ス
タイルが真の開花を迎えたのだ」
 かつてのアライJrでは決して踏み込めなかった、ほんの数ミリ。数ミリの壁を打ち破
った若き戦士が、実力通りの拳を打つ。
 だが防戦一方で劣勢のゲバルを、柳は称賛する。
「あれだけ打ち込まれても動くのを止めようとしない。ボクサー相手に立ち止まることが
どれほどの愚行かを、ゲバルさんはよく分かっている」
 絶対に反応できぬ速度、しかもヘビー級以上のパワーを持つ拳が、秒間何発とヒットす
ればひとたまりもない。事実、ドリアンとシコルスキーもラッシュをまともに受けて敗北
している。ゲバルはアライJrのもっとも恐ろしい武器はスピードでもパワーでもなく、
ラッシュであることを知っているのだ。
 とはいえ、より踏み込めるようになったということは、よりカウンターを受けやすくな
ったことでもある。
237しけい荘戦記:2008/12/26(金) 22:09:12 ID:Jb/PvEGP0
 アライJrの左ストレートを喰らいながら、ゲバルはテンプルに強烈な一打を加えた。
 ついに被弾したアライJr、追い討ちとして左ハイがまともに顔面へめり込む。
「ナンテェ一撃……」
 スペックがこう評すほどの左ハイは、アライJrを仰向けに崩れさせた。
 ノックダウン。これで両者とも一度ずつ土にまみれたことになる。
「いつまでも寝ていたいけど……そうもいかねェ。体が勝手に起きちまう」
 ボクシングは立って戦う競技。ゆえに立つ。欠けた歯を吐き出し、アライJrも力強く
立ち上がった。
「後悔はあるかい……?」
 不意に問いかけるゲバル。
「君が短期間で進化を遂げたというのは周囲の反応でなんとなく分かる。が、おそらくは
今の俺の攻撃──踏み込みが甘かった頃の君ならば、かわせていたかもしれない。しかし
君はあえて勝利のために命を縮める道を選んだ。……後悔はあるかい?」
 ゲバルの作戦か、それとも本心か。どちらにせよアライJrの答えは決まっていた。
「あるわけがない。こんな風にパンチを打つなんて生まれて初めてなんだ。楽しくって仕
方ないよ」
「ふっ、今日はいい日だ」
 激突。アライJrの右フックが頬を打ち抜き、ゲバルの右ミドルが脇腹を穿つ。

 互いに退かぬ猛攻に、息を呑む李海王と範海王。
「兄さんは、どちらが勝つと……?」
「技術面では拳闘家に分がある。幼い頃から英才教育を受けてきたのだろう。攻防ともに
無駄がない。しかししけい荘の新入り、バンダナの方が筋力は上だ。まだ奥の手があるよ
うにも感じられる」
「……つまり?」
「ワケ分かんねェ……」
 毒手をぶち込んでやろうか、と李は本心から思った。
 さて広いグラウンドを存分に駆使し、試合を展開するゲバルとアライJr。
 アライJrのハンドスピードは反射神経を超える。ゆえに打たれれば最後、被弾率は実
に九割以上を誇る。
 だがゲバルとて並ではない。アライJrの左ジャブ、右ストレート、左フックの三連打
をかすりながらも全てかわしてみせた。
238しけい荘戦記:2008/12/26(金) 22:10:49 ID:Jb/PvEGP0
 微弱な風を感じ取り、アライJrの攻撃軌道を発射と同時に予測したのだ。
「初めてだ……こうも完璧に外されるなんて」驚くアライJr。
「海賊やってた時分、天候を読み切れなければ待つのは死だった。気まぐれなお天道様に
比べりゃあ、君の正直なパンチの方がまだ読みやすいッ!」
 ゲバルの豪快なアッパーが、アライJrを打ち上げた。
「ぐあぁっ!」
 続く人中を狙った一本拳もまともに突き刺さる。
 この試合で初めて、ゲバルが神の遺伝子を一歩先んじた。
「アライJrの動きが明らかに精彩を欠いている……ゲバルが勝つ!」
 興奮し、独りごちるドイル。
 彼のいうとおりアライJrが唱える全局面的ボクシングの要である足が、度重なるダメ
ージで動きを鈍らせていた。
 ダメ押しの右ハイキックがアライJrを直撃──ダウン。
 上段蹴りを十八番とするサムワンが震えた。
「ムエタイのハイキックよりすげぇ、あんなもん喰らったら立てるはずがない!」
 安堵するゲバル。審判のオリバすら「勝負あり」を告げようとした。
 しかし、烈海王のみが決着を認めていなかった。
「いや──まだだ!」

 父がささやく。
 今は米国(ステイツ)にいるはずなのに、なぜ。
 ──息子(ジュニア)よ。
 拳筋は読まれ、スウェーも満足に機能していない。スタイルを変えるべきだ。ガードを
上げ、拳以外の攻め手に活路を見出すべきだ。
 父から愛する息子への、もっともな忠告だった。しかし、
「ありがとう、父さん。でもダメなんだ。いくらファイトスタイルを変えたって、彼は全
てを叩き潰すだろう。だから僕は父さんから受け継いだ両拳(こいつら)を信じて、最後
まで戦う。
 ──そう、死ぬまで!」
 真っ向から子は否定した。
 父は無言で背中を向けた。いったいどんな顔をしているのか、息子には知る由もない。
239しけい荘戦記:2008/12/26(金) 22:11:38 ID:Jb/PvEGP0
 直後、夢から覚め、跳ね起きるアライJr。烈以外の皆が信じられないといった表情を
浮かべた。
「しょう……ぶ」目を丸くし、照れ臭そうに咳払いするオリバ。「失礼」
 ゲバルが嬉しそうに再び構える。
「本当にいい日だ」
 テンポ良くステップを踏むアライJr。
「読まれてるのなら、もっと速く打てばいい……かわせないのなら、もっと速く動けばい
い……。僕のスタイルは崩さない」
 アライJrが消えた。
「これが僕の結論だァッ!」
 大地を蹴る。ボクシング唯一の足技で得た推進力を、ほぼノーモーションで右腕に伝え、
異常なまでの接近速度を経て、右ストレートはゲバルを真正面から捉えた。
 世界遺産級とさえ評せられる一発に、全員が同じ感想を抱いた。

 アライJrが完成した。

 のけぞった上半身を立て直し、ゲバルが前を向く。すると見渡す景色一面が、びっしり
と黒一色に覆われていた。
「こ、これは……?」
 ぞわぞわと足元がうごめく。土ではない。土が動くわけがない。ならばこれは──
「蟻……ッ!」
 百万匹どころではない。地平線を埋め尽くすほどの蟻の大群が、ゲバルめがけてよじ登
る。
240サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/26(金) 22:12:48 ID:Jb/PvEGP0
いよいよ年末。
しけい荘戦記もラスト2回です。

>>214>>235
大変光栄です。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

>>215
シコルスキーに出番は来るのでしょうか?

>>ふら〜りさん
どこかのバカは見舞いだけしてればいいと思います。
241作者の都合により名無しです:2008/12/26(金) 23:03:20 ID:YYJgWDyB0
敗者のアリがゲバルに立ち上ってきましたかw
でもあと2回ですか。シコル出番来るのか・・?
少なくとも戦う事は無さそう。
242作者の都合により名無しです:2008/12/27(土) 10:32:51 ID:vjHcS1Zp0
アライよりゲバルの方が好きなので負けないでほしいな。
ヤイサホーで執念の立ち上がりを見せてほしい。
ラスト2回だけど、このままだとシコルスキーの出番は少なそう。
この「戦記」シリーズの主役はゲバルなのかな?
243さい ◆2i3ClolIvA :2008/12/27(土) 20:55:32 ID:2kWd/hS40
ども、こんばんは。さいです。
今回はちょっと長くなってしまうのですが、これで第五回終わりってのと
今年最後の投稿になりそうなので、どうかお許し頂きたいと思います。
あとレスへのお返事の方は後日サイトの方でということで。申し訳ありません。
では、どうぞ。
244THE DUSK:2008/12/27(土) 20:56:24 ID:2kWd/hS40
 


所は変わり、場面は校内の食堂へと移る――

銀成学園の生徒が昼食時に腹を満たす手段は全部で三つ。
ひとつめが自宅から持ってくる弁当。二つめは購買で売られているパン類。そして、三つめが
この“学食”だ。
割合に味が良く、メニューが豊富で、かつ安価である為、通学生・寄宿舎生を問わず人気がある。
ちなみに“今月のオススメ”は炒飯ものらしく、壁には『五目炒飯』『エビ炒飯』『カニ炒飯』
『あんかけ炒飯』『ホイホイ炒飯』等の紙が貼られている。

そんな食事と談笑を楽しむ大勢の生徒達に混じって、知得留先生(以下“シエル”と記す)の姿があった。
彼女はテーブルの前に置かれたカレーライスとカレーうどんを前にして、何やらブツブツと呟いている。
ただし、口には間断無くライスとうどんが交互に運ばれており、スプーンと箸を舞わせている右手は
休む事を知らない。
「ううん、どちらも予想外に美味しいですね。この風味、この香り。とても学食とは思えません。
メシアンのカレーに匹敵する完璧な仕事です」
感嘆と賛辞の呟きと同時に摂食をこなす器用なシエル。
かと思えば、突然ウットリとした表情で天を仰ぎ、歓喜に酔いしれる。
「ああ、この学校に来て良かった! 主よ、この出会いに感謝致します! ……明日は大盛りにしましょう、ウン」
その変人染みた所作に、食堂にいる生徒達は若干、いや大分引き気味である。男子生徒達の“知得留先生熱”を
冷ますには丁度良いのかもしれないが。

しばらくして、空席だったシエルの前方の席に何者かが静かに腰を下ろした。
「お疲れ様です、知得留先生」
それはブラボーだった。表情は朝礼の際とは違い、にこやかな笑顔に形作られている。
「あら、お疲れ様です。ええと、寄宿舎管理人のブラボー先生でしたね」
シエルも微笑を湛えて人当たりの良い挨拶を返す。
ふと、ブラボーは彼女の前に置かれた皿と丼に眼を落とした。その豪快な食べっぷりに感心を
隠せない様子である。
「カレーライスとカレーうどんですか。なかなかの健啖家ですね」
245THE DUSK:2008/12/27(土) 20:57:48 ID:2kWd/hS40
「こ、これはお恥ずかしいところを…… 実は生徒に『学食のカレーライスは美味しい』と教えてもらいまして。
それで注文したまでは良かったのですが、ついつい我慢が出来なくてカレーうどんも……」
シエルは色白な顔を真っ赤にして、襟元から下げているナプキンで口周りのカレーを拭き取る。
だが、すぐに何事かを思いついたようにパンと手を打った。
「あ! そうそう、食後のデザートに購買でカレーパンを買っておいたんです。おひとつ、いかがですか?」
傍らから引き寄せられた大きめのビニール袋の中には、たくさんのカレーパンがみっちりと詰まっていた。
ブラボーは苦笑混じりにひとつを取る。
「これはどうも。頂きます。ああ、それと…… もし良ければ“俺”と“火渡”先生とで校内を
案内したいのですが」
「まあ、ご親切にありがとうございます」
先輩職員の善意を受けて丁寧に例を述べるシエルであったが、ブラボーが言外に伝えたい事が
理解出来ているのだろうか。
未だに微笑を保ち、警戒心など欠片も無いように見える。

「食べ終わりましたら、すぐに伺いますので……」



ブラボーの先導によってシエルが連れて来られたのは、校内のどの教室でもどの施設でもない、
体育館の裏だった。
生徒も職員も滅多に訪れず、他の建物からも眼に入りづらいこの場所は、まさに“学園の死角”とも呼べる。
そして、そこには既に先客がいた。やってきた二人を待ち受ける形で体育館の壁に寄りかかっているのだ。
それは言うまでも無く、火渡赤馬である。
火渡は今にも彼女に襲いかからんばかりの険しい表情で彼女を睨みつけている。
ブラボーも今はもう笑顔の仮面を外しており、油断の無い視線を送りながら火渡の横に立つ。
しかし、シエルは尚も余裕の笑みを浮かべ、二人に問い掛けた。
「まず案内して下さるのは体育館の裏ですか?」
挑発にも似た白々しさが火渡の燃え盛る怒気に油を注ぐ。彼にとっては校内で演じる“新任教師と先輩教師”
などという馬鹿げた茶番すら我慢がならない。
「スッとぼけてんじゃねえぞ、コラ……! テメエ、一体何を企んでやがんだ!」
「よせ、火渡。この場は何があっても俺に任せると約束したろう」
火渡を制してブラボーが一歩前に出た。
246THE DUSK:2008/12/27(土) 20:59:33 ID:2kWd/hS40
彼の手にイスカリオテとの折衝を委ねては、この時この場を以って開戦という事態になりかねない。
対してブラボーにはひとつの思惑があった。

彼女はあのアンデルセンを説得し、闘争の場から撤退させている。
ならば話し合いに応じる余地を残した人物とは言えないか?

希望的観測に近いのは充分承知していたが、周囲の人々の安全を考慮すれば、それに賭けたかった。
「俺達の事は憶えているな? 七年前の北アイルランドで顔を合わせている」
「ええ、もちろん」
相変わらずの笑顔を絶やさぬ表情でありつつ、幾分真剣味が加わったようにも見える。
少なくとも話をする気はあるのか、とブラボーは判断した。

「改めて自己紹介しよう。俺は錬金戦団戦士長、キャプテン・ブラボー。こっちは同じく戦士長の火渡赤馬だ」

「あなた方の事は存じ上げていますよ。私はカトリック教皇庁特務局第13課“イスカリオテ”機関員、
シエルです。以後よろしく」

では早速と言わんばかりの勢いでブラボーが尋ねた。
「イスカリオテのお前が何故この銀成学園に潜入している?」
「お答えする訳にはいきません」
間を置かない即座の回答拒否。後に控える火渡は激昂に身をよじらんばかりだ。
ならばとブラボーは質問を変える。
「昨日、銀成市内でイスカリオテの機関員から接触を受けた。神父の法衣を着た女とシスターの二人組だ。
お前の仲間か?」
「お答えする訳にはいきません」
取りつく島も無い。
ブラボーの場合、火渡と比べれば遥かに冷静さと辛抱強さを持ち合わせてはいるが、交渉を得意とする
弁舌の徒という訳ではない。むしろ苦手としているだろう。
このまずい会話の進め方にそれが如実に現れている。
数瞬、ブラボーは言葉に詰まってしまった。
「……っ」
その様子を見ていたシエルはやがてクスクスと笑いを洩らす。
247THE DUSK:2008/12/27(土) 21:02:31 ID:2kWd/hS40
「ご安心下さい。今回はあなた方と争う為に来た訳ではありません。あなたが見た二人も別件です。
あなたの前に出てきたのはただの悪ふざけでしょう」
ここで火渡がズイと前に出てきた。どうやら苛立ちが限界を超えたらしい。
「ケッ! そんな話、信用出来るかよ!」
「別に信用して頂かなくても結構ですよ。特にあなたのような見るからに思慮の足りない短絡的な愚か者には」
あからさまな侮蔑の視線と嘲笑を送るシエル。
火渡は激怒に歯を軋ませ、拳を握り締める。
「んだとコラァ……!」
友好的、協力的とまではいかないが少なくとも闘争の空気ではなかったというのに、火渡が口を開くとこれだ。
彼とシエルの間には見えない火花が激しく散っている。
ブラボーは内心、頭を抱える思いである。
「いい加減にしろ、火渡。ここは学校だぞ」
そうたしなめつつ、シエルへと向き直ったブラボーはやはり己の思うところを率直に問い掛ける。
「シエル、お前が所属する集団は異教異端・化物専門の戦闘屋だ。俺達と争う為に来た訳ではないのならば、
お前らが倒さなくてはならない、お前らでなければ倒せない化物の類がこの街のどこかに潜んでいる…… 違うか?」
「……」
問われたシエルは沈黙している。否とも応ともつかない態度だが、当たらずしも遠からずといったところか。
ブラボーが続ける。最早、彼には駆け引きも何も無い。

「錬金戦団は活動を凍結し、俺も火渡も今は錬金の戦士ではなく、銀成市で暮らす一市民だ。
しかし、錬金の戦士としての正義は失ってはいない。もし、平和に暮らす人々に危険が及ぶのだとしたら、
それを黙って見過ごす訳にはいかないんだ!」

シエルは僅かに眼を見開き、驚きとも取れる表情を浮かべた。
それはそうだろう。錬金の戦士の方から曖昧ながらも“共闘”を示唆する言葉が飛び出したのだから。
初めて笑みを引っ込めた彼女は、そのまま沈黙を守る。何を思案しているのか。
しばしの時を挟み、ようやくシエルが答えた。

「時期が来たらお話します。それまでは、少なくともこの学校の中では、新任教師の知得留として
自然に接して下さいませんか? 勝手なお願いかもしれませんが」

またも「答えられない」に類した返答。叶わぬ期待と自覚はしていたが、やはりそうだった。
248THE DUSK:2008/12/27(土) 21:06:03 ID:2kWd/hS40
しかし、ブラボーは思う。“話が出来た事”そのものが、この会談の収穫なのではないか。
何しろこちらは錬金戦団、相手はあのイスカリオテなのだ。
流血沙汰無しに意思の疎通を図れたのは、大げさではなく奇跡に近い。
それに“今のところは”彼女らに錬金戦団を攻撃するつもりは無いという事もわかった。
「……わかった」
納得せざるを得ないブラボー。後には“納得”などという言葉とは限り無く縁遠い顔つきの火渡。
当面は安心しても良いものだろうか。少なくとも街の闇に潜む存在の正体を明かされるまでは。
「では……」
シエルは軽く頭を下げると、彼らに背中を向けて歩き出した。
そういえば、もうすぐ昼休みも終わる。
校舎に入り、チャイムが鳴れば、三人は銀成学園の職員へと立ち戻らなければいけない。
火渡に切り替えを徹底させるのは骨が折れるな、とブラボーが溜め息を吐いたその時。
シエルがつと立ち止まり、呟きを洩らした。

「“彼”が今のあなたを見たら、さぞお怒りになるでしょうね……」

瞬間、ブラボーの身体が硬直した。
知っている。彼女は知っている。
自分が既に闘えない身体だという事を。一線の戦士には戻れない身体だという事を。
一目見ただけで肉体の状態を把握したのか。それとも、それに至る経緯をどこぞで調べたのか。

胸の傷の奥深くに秘めていた闘志が燃え上がり、“防人”の両拳を力強く握らせる。

「奴とは必ず決着を付けると約束した。俺はアンデルセンと闘い、そして、勝つ……!
この身体がどうであろうと関係無い!」

決意と信念の咆哮を受け、シエルはゆっくりとこちらを振り向く。
不意に彼女が見せた表情にブラボーは面食らった。
仇敵を見る眼ではない。怨敵を見る眼ではない。闘争が生んだ犠牲者を見る、憐れみの色を含む眼だ。
「彼は更に強くなっていますよ。七年前とは比べ物にならない程……」
同情の響きさえ感じさせる忠告が発せられる。イスカリオテである彼女の口から。
249THE DUSK:2008/12/27(土) 21:11:07 ID:2kWd/hS40

「再生者故の老いぬ身体、揺るぎない信仰心、そして何者にも勝る闘争本能が彼の戦闘能力を
今も尚、成長させ続けているのです。
最早、私でさえ彼には到底敵わないでしょう。それでも――」

「俺は闘う」

己の言葉の続きを引き受けた防人に、シエルは眼差しの色を変えた。
錬金戦団への敵意でも、異端者に対する嘲笑でも、手負いの戦士に向ける余裕でも、死に逝く者への
憐憫でもない。
期待と羨望の交ざり合う混沌とした喜色。
彼こそがアレクサンド・アンデルセンの認めた“宿敵(オトコ)”。
シエルは再び背を向けた。

「その時は私も立ち会い、見届けさせて頂きますよ」



そして、同じ日本で――

ブラボーが遭遇したもう一方のイスカリオテの目的は何なのか。彼女らは何者なのか。現在の行方は。
それらを知るには銀成市郊外の工業地域、とある古びた倉庫に眼を移す必要がある。
広々とした倉庫の中には七人の男女がいた。
彼らを囲んでいるのは、打ちっ放しのコンクリートに覆われた無機質な床や壁。幾重にも積まれた
ダンボールは彩りになどならない。

殺風景な倉庫内を彩っていたのは、血の赤だった。

流れ落ち、撒き散らされた血液を辿ると、床に倒れ伏した三人の男の死体に行き着いた。
その内の二人は鋭利な刃物で首を切断されており、残る一人は頭部の凄まじい砕け様から大口径の銃で
撃たれたと思われる。
では残る四人は?
250THE DUSK:2008/12/27(土) 21:13:58 ID:2kWd/hS40
死体から然程離れていない壁際。そこには怯えた二人の男が床に膝を突き、両手を頭の後へ回している。
二人は(三つの死体にも共通していたが)パンチパーマ、趣味の悪い柄シャツ、襟元や袖口から覗く
和彫りの刺青と、見るからに暴力団の末端構成員だ。

更に彼らの前には二人の女性。神父の法衣に身を包んだ女とシスターの二人組。

法衣の女は男達に銃を突きつけ、くわえ煙草の低い声で問うた。
「さあ、答えてもらおうか。お前らのご主人様は一体どこの親分さんだ?」
非情な声と同種の冷酷な輝きを発しているのは、ブロンドのショートヘアとゴーグルタイプのサングラス、
それに右手に握られたデザートイーグル.50AE。
銃口の奥の奥まで覗けそうな最悪のアングルに、男の一人は声を震わせながらつっかえつっかえ答える。
「き、桐敷…… 桐敷千鶴って、吸血鬼に…… 頼まれて――」
何の前触れも無しに轟音が鳴った。
答えていた男は突然の発砲に驚き、隣の仲間へと顔を向けた。
「うわあああっ!!」
驚愕半分恐怖半分の悲鳴も当然である。
最強クラスのマグナム弾.50Action‐Expressが通過した片割れの男の頭部は、酸鼻極まる肉塊と化していた。
顔面中央に大きく歪な穴を開け、後頭部は広い面積に渡って弾け飛び、吹き飛んでいる。
彼の真後ろにある壁に抽象画を描いたのは、血なのか肉片なのか脳漿なのか脳そのものなのか、判別が難しい。
男は弱々しく抗議の声を上げた。
「な、何しやがんだ……! 正直に答えてんじゃねえか……!」
「嘘は許さん。こちらの情報に“桐敷”なんて名は無い」
手より後に出た言葉に対し、男は今度こそ声を荒げた抗議で答える。
「当たり前だ! 桐敷の姐さんは自分の組もシマも持ってねえ! “佐山”の親分が囲ってる情婦(イロ)
なんだからよ! 話は最後まで聞けって!」
銃口は遂に最後に残った彼へと向けられる。
クイックイッと銃を小さく動かすジェスチャーに促され、男はまた弱々しい声に戻り、小さく語り始めた。

「お、俺達は親分の信奉者なんだ。だけど、少し前に姐さんに直接頼まれてよ。『女吸血鬼の輸入業を
始めるから手伝え』ってな」
251THE DUSK:2008/12/27(土) 21:16:08 ID:2kWd/hS40

「そりゃあ、即OKしたさ。前金でガッポリくれたし、この仕事が全部終わったら吸血鬼にしてくれるって
約束してくれたしな。佐山の親分のシノギなんだろうから、親分にいいとこ見せるチャンスだと思ってよ」

「なのに、ちくしょう……! 売りもんのイギリス女に逃げられるわ、ヴァチカンが来るわ……
俺ァ、もうオシマイだ!」

大の男が涙を流してうな垂れている。しかも、普段は威圧と暴力を飯のタネにしている手合いが。
彼の話は相応の信憑性を持っていると見て良いのかもしれない。
「どう? 由美江」
デザートイーグルの女は、己が“由美江”と呼んだシスターの方へと顔を向けた。「確認を頼む」という意味だ。
由美江は手にしていた日本刀を腰に差し込み、A4程の大きさの書類をペラペラとめくる。
乱れ気味にウェーブの掛かった漆黒のロングヘアが時折、視界を阻むので多少鬱陶しい。
「ちょっと待ってよ、ハインケル…… ああ、あったあった。『佐山寅雄。任侠吸血鬼集団のひとつ、
関西寅吉会会長。京阪神を中心とした夜の西日本を支配している大物吸血鬼』だってさ。それと……――」
由美江の手の中でめくられた書類には、軽薄そうな中年の優男の顔写真と共に『前田裕。寅吉会の若頭であり、
二次団体前田組の組長。主に東京都新宿区に潜伏』と書かれている。
「――東京でも新宿は佐山の縄張りみたいなもんだね。佐山の幹部で“前田”ってのが新宿を仕切ってるみたい。
見てよ、これ。『前田組は中国の尸鬼三合会(ヴァンパイア・トライアド)や旧ソ連時代のロシアン・ヴァンパイアとも
同盟を結んでいる』って。こりゃあ、クロだね。真っ黒だ」
主犯の特定を確信する由美江に反し、“ハインケル”と呼ばれた女はどこか釈然としない面持ちで首を捻る。
「売買されている女吸血鬼(ドラキュリーナ)のほとんどがロシア人か東南アジア系……―― なのに連中とは
同盟関係にある……? どうも解せないな……」
“商品”が人間で、取引相手が吸血鬼なら話はわかる。
しかし、このケースは吸血鬼が他の吸血鬼を人間に売っている。
“同志”“同胞”の意味合いがどの国よりも強いロシアや中国の吸血鬼が、そんな真似をする日本の吸血鬼(ヤクザ)と
同盟などを結ぶものであろうか。

ハインケルの尋問はまだ終わらない。
「佐山と前田はどこにいる」
「若頭ならたぶん新宿のどこかだと思う。佐山の親分はこっちのシノギの様子を見に近々東京に来るって
姐さんが言ってたけど、それ以上は知らねえよ……」
252THE DUSK:2008/12/27(土) 21:19:26 ID:2kWd/hS40
男の眉間にゴリリと銃口が押しつけられた。先程の発砲の熱さがまだ残っている。
「本当だ! 嘘じゃねえ! 第一、俺ら下っ端の信奉者がそんなの知ってるワケねえだろ!」
男は涙と鼻水を垂れ流して懸命に訴えかける。まさに“心の底から”の“命懸け”の叫びだ。
ハインケルは「それもそうだな」と由美江を見遣り、由美江は「ああ、もっともだ」とハインケルに
向かって頷く。
解放の兆しか、生存の可能性か。男は汚い歯を小さく覗かせながら安堵の笑みを滲ませた。
ハインケルもまた片側の口唇を吊り上げ、酷薄な微笑を浮かべる。
「じゃあ、“下っ端の信奉者”はもう用済みだ」
彼女の言葉が終わるか否か、男の頭部が吹き飛び、壁をキャンバスにした前衛芸術がもう一点増えた。
「AMEN」
笑い混じりにそう唱えると、ハインケルは聖地産(メイド・イン・イスラエル)の銃を懐に仕舞う。
由美江も何がおかしいのか、転がる死体と二名の吸血鬼が記録された書類を何度も眺めつつ、
薄気味悪く破顔している。
我々は皆、この狂気と凶気を孕んだ笑顔に見覚えがある。

彼女の名はハインケル・ウーフー。彼女の名は高木由美江。

二人は“神父”の意志と信仰を見事受け継いでいた。“第13課(イスカリオテ)”に足り得る者として。





おしまい。次回に続く。では、御然らば。
253作者の都合により名無しです:2008/12/27(土) 22:49:09 ID:bPo5gWna0
>サナダムシさん
あと2回ですかぁ
このしけい荘シリーズは大好きなのでこれからもちょくちょくやって欲しいな
なんかゲバルが主人公になっちゃったけどw

>さいさん
今年最後の投稿ですかぁ
第13課(イスカリオテ)の影が濃くなってきて平和な学園も怪しくなってきましたな
まひろはいつまでも太陽みたいな子でいてほしいけど
254作者の都合により名無しです:2008/12/27(土) 23:36:02 ID:7Kpr5yUo0
ホイホイ炒飯ってなんだろw
シエルは原作知らないのでわかんない部分があるけど
まひろと同じく可愛いけどちょっと足りない人なのかな?
火渡とシエルは相反する性格でいいコンビかも。
255作者の都合により名無しです:2008/12/27(土) 23:49:12 ID:6ZnzOpMP0
さりげないパンツレスリングネタに吹くw
256ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 00:12:41 ID:1A5uGWdj0
 ──その日、キース・レッドは音の洪水の真っただ中にあった。
 名前は知らないがとにかく有名そうな楽団が、名前は知らないがとにかく有名そうな曲を大音響で奏でている。
その楽団を指揮する初老の男性は明らかに巨匠然とした重厚な雰囲気を身にまとい、その楽団が生み出す旋律は明らかに高尚な趣を醸し出していた。
 しかしクラシックどころか音楽そのものに興味のないレッドにとっては、その最高に贅沢な(だと思われる)演奏も単なるノイズでしかない。
それどころか、生演奏独特の、なんの調整も施されていない複雑怪奇な音波の反響は、レッドのARMS『グリフォン』の振動能力に干渉して彼に不快感を与えていた。
(……あー、うっせーっつーの。音が欲しけりゃCDでも鳴らしてろよ)
 彼の頭上から降り注ぐのは、絢爛豪華を絵に描いたようなシャンデリアの放つ輝き。
カクテルグラスを盆に載せたウェイター(あるいはウェイトレス)たちは忙しく彼の前を行き交っている。
本当なら野球くらいはできそうな広さのホールのいたるところに料理の並べられたテーブルが置かれ、その隙間にはとんでもない数の人間がひしめいていた。
そいつらは思い思いの飲み物を片手に、もう片方の手で握手したり口元を隠して笑ったり、そういうあまり実のなさそうな行動を繰り返している。
 つまるところ──ここはパーティー会場だった。
(……なんでオレはこんなところにいるんだ?)
 血と殺戮の戦闘領域が主な居場所であるレッドには、この生ぬるい空間は馴染みの薄い──まるで異境であった。
 いや、これが本当の異境なら……自分にはまるで縁のない世界であるなら、まだ良かった。
 そこが自分と無関係であるなら、少しでも嫌気がさしたり飽きがくればいつでもそこから離れることができる。
 だが、ここはレッドの世界と地続きの──ワンダーランドなんかでは決してない──紛れのない現実だった。
(くそ……なんでオレがこんなきつい服を着なくちゃならねーんだ)
 喉にまとわりつく息苦しさを、身につけたタキシード服のせいにして誤魔化し、レッドは喉元の蝶タイを軽くゆすった。
 はるか向こうのほうでは、レッドの兄であるキース・シルバーがいかついツラした高級将校らしき一団に交じってなにかを論じ合っている。
 また視線を転じれば、長兄のキース・ブラックの姿も見える。テレビの政見放送や記者会見などでよく見かけるようなこの国の政府高官たちを周囲に侍らせ、
この遠距離からでも上から目線だと知れる頭の高さで輪の中心に君臨していた。
 この煌びやかな宴の裏にある政治的・財界的思惑の内実などレッドには知るべくもないが、
この場における兄たちの意図が「とにかくエグリゴリの権力を周りに再確認させてやるのだ」ということくらいは容易に想像できる。
そして同時に、エグリゴリがこの国の政府機関や経済システムに干渉するための各種工作のテーブルでもあることを想像することも可能だった。
 そう──このパーティーはエグリゴリが主催するものであり、そしてそれに出席することはれっきとした『任務』だったのだ。
(だからってなんでオレまで……)
 エグリゴリを支配するキース・シリーズの一員と言えど、一介のエージェントでありなんの実権も握っていない自分がここにいる理由はないだろうとレッドは思う。
その証拠に、シルバーやブラックと違ってレッドの周囲には誰もいない。それどころか、誰もあえて近づこうとはせず、
なにかの拍子で視線が合っても曖昧な会釈を残してそそくさと立ち去って行ってしまう。
 それもそうだろう。このパーティーに参列している者たちは、世界のあらゆるシステムの中枢に食い込んでいるエグリゴリの、
その圧倒的な権力に取り入ろうとしているのであり、現状ではなんの力もないレッドのご機嫌を取る必要など存在しない。
 そしてまた、なんの必要もないのに悪名高い『キース・シリーズ』に話しかける物好きなどいるはずもない。
257ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 00:20:39 ID:1A5uGWdj0
(あー、フケちまうかな……だがブラックになに言われるか分かったもんじゃねーし……)
 ホールの壁にもたれかかりながら苛立たしく足踏みをしているレッドの前に、
「どうした、キース・レッド。退屈そうだな。ワンダーランドに紛れ込んだアリスのようだぞ」
 長身でとてつもなく屈強で、そして若干不自然な体格の男が立つ。
 素人目にはただの奇怪なマッチョにしか映らないだろうが、レッドからすれば一目でそいつが四肢の大部分を機械化しているが故の不自然さだと察知できる。
「……いたよ、物好きが」
 そいつはレッドにとって見覚えのある男──エグリゴリ機械化実験部隊(マシンナーズ・プラトゥーン)隊長であり、
自身も最新の高機動型サイボーグであるクラーク・ノイマン少佐だった。
「物好きとは、なんのことだ?」
「なんでもねーよ。つーか、何の用だ?」
 レッドと彼との因縁とは、とある機密流出疑惑調査のために彼と接触し、ちょっとしたゴタゴタを引き起こしたというだけの間柄である。
レッドにとっては、自身が装着するARMS『グリフォン』の特殊能力「振動」を体得するきっかけとなった相手なので、殊に印象深い人物であるが。
「用は特に無いな。ただお前がパーティーの楽しみ方を知らないようなので、人生の先達として忠告に来ただけだ」
「んなもんいらねーよ」
「ならばこういうのはどうだ? 将来のエグリゴリ最高幹部たるミスター・レッドとのパイプを確保するためご機嫌伺いに参上した、とな」
「アホか? そういうのをな、『取らぬ熊の皮を売る』って言うんだぜ」
「ふん、仮定された可能性における現在への遡及性に対する警句だな。『十二歳のジミー・カーターに三軍の統帥権はあるか?』という問題を知っているか?」
「うざってえな、人間語をしゃべれ。今のがパーティージョークだったら他所でやれよ」
 目つきを険しくして「しっしっ」と手を払うレッドへ、クラークは鷹揚に肩をそびやかしてみせた。
「冗談はさておき、現実としてお前はエグリゴリの幹部候補だ。今のうちから仲良くしておくのが先見の明というものだ。違うか?
そしてなにより、お前は私が認めた戦士だ。勇敢な戦士には敬意を払うのが我々のやり方だ」
 その無造作な言葉の裏にある掛け値なしの真摯さを感じ取りながらも、レッドはあえて「へっ」とひねくれた笑いを洩らす。
「……そりゃ、ますます物好きなこって」
 クラークはそんなレッドの無作法にも特に気分を害した様子を見せず、黙って口元に渋い笑みを浮かべる。
「んだよ、なに笑ってんだ」
「さて、な──」
 それきりクラークはレッドから視線を外し、会場全体を視野に入れて人々の動きを眺めている。
 それはまるで戦況を眺める戦士の眼差しにも似ていて、これ以上会話を盛り上げる意思は無いように感じられる。
 もちろんレッドにはパーティー向けの小話のストックなどというものは持ち合わせていないので、自分の方からこの無言状態を打破することは不可能であった。
 この居心地の悪さを甘受し続けねばならぬ己の不運を深く呪い、またそんな任務を己に課したブラックを深く怨む。
 しかし他にできることはないので、クラークの隣に突っ立ったまま、レッドは深く溜め息をついた。
(まったく……大した戦場だぜ)
258ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 00:26:36 ID:1A5uGWdj0
 喧噪のなかに漂う、そんな奇妙な沈黙がしばらく続いた後だった。
「……あの少女はどうしている?」
 ぽつりと、クラークは呟いた。
「あ? 誰だって?」
「キース・セピアだ」
「ああ……」
 言われてレッドは思い至る。
 自分が兄の指令によりこのパーティーに出席しているのだから、当然にしてキース・シリーズの末妹であるセピアもここにいるはずだということに。
 だが──会場内に視線を巡らせても彼女の姿は見えない。
 人の波の中にあっても、なお凛々しげな風情で立つキース・シリーズの第三席、キース・バイオレットを見つけた。
 そして坊ちゃん育ちの高慢さを全力で放射中のキース・グリーンの得意満面も見た。
 しかし、あのボブカットで眼鏡をかけた女性型の『キース』だけは……あの日、二人で暗いトンネルを歩いた日、風の出口まで連れ添ったあの『キース』、
『本当の名前』を「セーラ」と名乗ったあの少女の姿だけは……見つけられなかった。
 セピアを求めて彷徨う視線が、遠く離れた場所に立つブラックとかちあう。
 不意に視線を逸らしたい衝動に駆られたが、こちらから目を伏せるのは「負け」のような気がして、逆にブラックの瞳を睨みつける。
 そんなレッドの挑戦的な眼つきに、ブラックは目を細めて穏やかな視線を返していた。
 そのことに、レッドは訳もなく不安を感じる。
 その不安の根源が、レッドには理解できなかった。
 もしかしたら、ブラックがまた良からぬことを企んでいるのかもという危惧だったのかも知れない。
 或いは、兄に対して抱いている憎しみが空回りしていることへの虚しさかも知れない。
レッドがどれだけブラックに怒りを募らせても、当人はまるでそれを意に介していない。
キース・ブラック──あの掴みどころのない長兄は、自分のことをどう思っているのか。
 そして、自分は彼をどう思っているのか。彼に対して持つべき感情が憎しみでも怒りでもないのだとしたら、どういう心で彼と向き合うべきなのか。
 キース・レッドは、キース・ブラックのことをどう思いたいと思っているのか──。
「……どうした、キース・レッド」
 自分でもよく分からない葛藤の渦の中にあったレッドは、その言葉で現実に引き戻される。
 頭を振って、袋小路の思索を脳裏から振り払った。
「別に。なんでもねーよ」
 ふと気づくと、ブラックはすでにレッドのほうを見ていなかった。周囲を取り囲む男たちに向って、何事かを述べている。
 また、理由のない苛立ちが胸にこみ上げる。
 それはセピアの言動に触発される苛立ちとは別のようであり、また似ているようでもあった。
(くそ、なんだってんだ……なんでこんなにムカついてんだ、オレは……)
259ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 00:43:42 ID:1A5uGWdj0
「『なんでもない』、か……だがキース・レッド、そんな険しい顔をしていては説得力に欠けるぞ」
「うるせーよ。このツラは生まれつきだ」
「そうかね? それでも自ら進んで不機嫌そうな顔をすることはあるまい。この華やかな場に相応しくないと思わないか?」
「それを言うなら、そもそもオレやあんたみてーな殺人機械がこんな場所にいるのが間違ってんだよ。
てめーもとっととエグリゴリの敵を殺して回る仕事に戻れよ。あんたらポンコツサイボーグはそんくれーしか役に立たねえだろうが」
 このときレッドがクラーク・ノイマン中佐に伝えたかったことは、「ちょっと考え事してるから一人にしておいてくれ」という、たったそれだけのことに過ぎなかった。
 胸に渦巻く苛立ちの原因をつかめないことが更なる苛立ちを呼び、そんな悪循環で神経を尖らせていたレッドは、
それが不必要なことであると知りながらも、内から膨れ上がる悪感情に任せ、相手を貶して挑発するような言い方をする。
 だが、クラーク・ノイマン少佐は乗らない。
「そうだな……我々には我々の戦場がある。こんな夜会服は性に合わんのが本音だ。しかし、社交界に別れを告げる前に用件だけは済ませなければな」
「……用件?」
 話の文脈から外れた単語が飛び出したことを訝しむレッドが隣を向こうとすると、
「動くな。そのままで聞け。我々は監視されている」
 誰に? という言葉が喉元までせりあがり、それを慌てて飲み下す。
「お前に伝えることは二つある。ひとつ。身体には気をつけろ。『エクスペリメンテーション・グリフォン』はすでに始動している」
 なんの前触れもなく、自分のARMS『グリフォン』の名前を聞かされたことで度肝を抜かれた。
 こいつはなにを言っている? 『エクスペリメンテーション・グリフォン』?
 そんなレッドの動揺にお構いなく、クラーク・ノイマン少佐は先を続ける、
「ふたつ。その際、特に注意しなければならないのは、キース──」
 その声が途中で止まった。
「……やれやれ、どうやら時間切れだ」
 苦笑交じりの溜息を残して、少佐は背中を預けていた壁から離れる。
 そのまま、レッドを残してパーティー会場の人ごみの中に進んでゆく。
「おい、どういうことだ」
「そのままの意味だ。歓談の時間は終わりということだ。シンデレラの魔法が切れる時間と言い換えてもいい」
 それはおそらく、少佐が事前になんらかの形で施していた対諜処置が効果を失い、これ以上を話すのは危険になった、そういう意味なのだろう。
 だが、レッドが聞きたかったのはそういうことではなかった。
 つまり「最後まで言っていけ」、「何色のキースに気をつけりゃいいのか」、それをこそ知りたかったのだが、
 その疑問が形となって口から洩れるその前に、
「さらばだ、キース・レッド。良い夜を」
 レッドに背を向けて無造作に片手を振るその仕草、大雑把で無骨な後ろ姿は、そんなレッドの無思慮を無言で諫めていた。
260ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 00:52:25 ID:1A5uGWdj0

 月の奇麗な夜だった。
 パーティー会場の騒々しさに音をあげ、無性に静けさが欲しくなったレッドは、そこを抜け出すことを決意した。
 その逃避先として選んだのが、カリヨンタワーの最上層、ヘリポートを兼ねた広大な屋上だった。
 はるか下の足元で今も続いているはずの宴の熱気も、ここまでは届いていない。
 冷涼な夜風に頬を撫でさせながら、レッドは眼下に広がる百万ドルの夜景として名高いニューヨーク市街のネオンライトを眺めていた。
 喉を締め付ける蝶タイを放り捨て、シャツのボタンの上二つを外し、やっと人心地のついた風情で息を吐く。
「ったく……」
 これって任務放棄になるのか? という疑問が胸中に去来し、誰かに一言残しておくべきだったかと微かに後悔する。
 と言っても、いったい誰に断わりを入れるべきだったのか。
 ブラックに対してはハナから問題外で、シルバーに言えば無下に却下されることは明白で、変なところでお堅いバイオレットにも気が引ける。
 グリーンに申し出ようものなら……「ああ、いいとも。君みたいな戦闘狂にはこの文化的で知性と教養が要求される環境は辛いだろう。
君の社交界デビューが失敗に終わっても誰も君を責めないさ。ここは僕に任せるといいよ。ふふん」
とかなんとか彼の屈託のない無遠慮な嘲笑に拳で応えそうな気がした。
 となると、セピアくらいしかいないわけだが……。
「いないんじゃ話になんねーしな──」
 ごしゃごしゃと髪を掻き毟る手を、ふと止める。腕を掲げ、月の光に照らしてみた。
 この腕は普通の腕ではない。
 腕の形を模してはいるが、微細な機械群の集合体、ナノマシン兵器『ARMS』なのだ。
 そのコードネームは『グリフォン』。
 装着者、すなわちレッドの意志に呼応して自在に形態を変え、敵を殺す。
 だが──、
「『エクスペリメンテーション・グリフォン』だと? くそったれ、なんの冗談だ?」
 レッドの意志とはかけ離れた『なにか』が、『グリフォン』を操ろうとしている、らしい。
 クラーク・ノイマン少佐のもたらしたその単語は……まるで、レッドこそが『グリフォン』のためのパーツに過ぎないのだと、
エグリゴリにとってはキース・レッドなどただの歯車の一つに過ぎないのだと、そう囁く呪詛のように響く。
(誰が、なにをしようとしているんだ?)
 まっとうに考えるなら、最高責任者のブラックが噛んでいるのだと想像できる。
 だが、その情報を伝えに来たのがクラーク・ノイマン少佐であることも考えに入れるなら、軍事関係にコネクションを持つシルバーを疑うこともできる。
いや……疑ってしまうなら、バイオレットすら同様だ。『エクスペリメンテーション(実験計画)』──彼女はエグリゴリ内外、特に各種研究所に幅広い人脈を持っている。
261作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 01:00:15 ID:RqQuDhy60
うおおお!
ハロイさん復活!!
262作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 01:13:29 ID:RqQuDhy60
ありゃ?とりあえず一区切りかな?
ハロイさんの書く作品はマジで大好きです。
お忙しいでしょうがシュガーソウルとヴィクテムは
頑張って完結してほしいです・・。
(勿論、ネウロと錬金も大好きです)

まだ続きがあるかも知れないんで明日の朝に感想書きます!
本当に復活ありがとうございます!
263ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 01:20:33 ID:1A5uGWdj0
 『すでに始動している』、彼はそのように言っていた。
 つまり、徴は目に見える部分に顕れているのだろうか?
 セピアの情報制御用ARMS『モックタートル』が暴走しかけた事件は記憶に新しい。
 あれもまた、誰かの差し金で人為的に誘発されたことなのだろうか?
 最高顧問であるドクター・ティリングハーストはその計画についてなにかを知っているのだろうか?
(くそ、頭ん中ごちゃごちゃでまとまんねえ……!)
 服を緩めてもなお苛まれる息苦しさに、レッドは叫び出したくなる。
 この世界は、いったい自分をどこへ連れて行こうとしているのか、と。
「──いい夜だな、レッド」
 背後で、静かな声がした。
 不用意に接近された迂闊さよりも、その聞き覚えのある声への驚きが先に立つ。
「あんた……!」
 月の光の陰、その薄闇に溶けるように、黒く、音もなく、床から立ち上がった影のように、無機質ともいえる佇まいで彼はそこにいた。
「私も少々、人いきれに当てられてね。気分転換に来たのだ」
 キース・ブラックその人だった。

「最近、調子はどうだ?」
「……別に」
「『タイ・マスク』文書の件は良くやってくれた。お前の報告書にあった襲撃者は、『風(ウィンド)』と呼ばれる凄腕の傭兵だ。
文書の内容を一部リークしてしまったのは残念だが、それでお前とセピアが無事に戻って来たのならそれで私は満足だ。
……私はそのとき、敵性組織の手に落ちたままだった重要な実験所の奪回作戦を指揮していたので、お前たちを助けに向かうことは出来なかった。
そんな状況でも、お前とセピアは自らの力で生還を果たした。そのことが私にはなによりも嬉しい」
「……別に」
 あのブラックと並んで立っていることがレッドには信じられなかった。
 普段のブラックとレッドは、あの執務室の上座と下座の……要するに、王様の下知を拝命する家来、そういう位置関係だったのだから。
「さっき、クラーク・ノイマン少佐となにごとかを話していたな」
「あんたにゃ関係ないだろ」
「かも知れないな。だが……いや、やめておこう。これ以上聞くと、私はエグリゴリの責任者としてお前と彼を処罰しなければならなくなる。
それはエグリゴリにとっても、私にとっても、大きな損失だ」
「なんでもお見通しでござい、ってか」
「そう言うな。心配なのだよ、兄としてな」
264ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 01:36:42 ID:1A5uGWdj0
 なにか、妙な気分だった。
 いつもブラックに対してはぞんざいな口をきいているレッドだったが、それは権威を振りかざすブラックへの
(正確に言うなら、そう感じさせるエグリゴリの体質への)反発心がそうさせているだけのことだ。
 だが、今ここでは、そんな感じはしない。
 あくまで対等に、同じ目線でブラックは語りかけている。
 そのいつもとは違う雰囲気に戸惑って、レッドはぶっきらぼうに応えている。
 そう、この感じは以前にも覚えがある。
 それは、キース・セピアと出会い、彼女のキースらしからぬ振る舞いに対してぶっきらぼうに応えていたときに。
「……あんた、オレになにをさせたいんだ?」
「どういう意味だ?」
「とぼけるなよ、あんたなんだろ。オレのグリフォンをどうこうしようって裏でコソコソしてんのは」
「ああ、そのことか……」
 ブラックは言葉を切り、月を見上げた。
 そうするつもりはまったくなかったのだが、レッドもつられて同じ月を見る。
 月面のクレーターの陰が、レッドには人の顔に見えた。
「──私は、お前に強くなって欲しいと思っている」
「すべては我等が母『アリス』のために、だろ。耳タコだっつの」
「そうだ。だが──」
「だが、なんだよ」
「お前は我等キース・シリーズの希望だ」
「はあ?」
「そう、お前に過酷な任務を与え続けることに疑問が無いわけではない。しかし、これは試練なのだ。
私たちは皆、試験管の中から生まれた合成生物だ。はじめから行くべき道をプログラムされた存在にすぎない。
それは私とて例外ではない。だが、歯車に歯車の意地がある。
与えられた運命を全うし、その先へ進むことで、見えてくるものもある」
 風が少し強くなった。空の雲は流れ、星を隠す。
 そのせいで、月はよりいっそうの輝きで二人の頭上に振り注いでいた。
「それは細い道だ。足を踏み外せばそこには死が待っている。私も、お前も、全てのキースも、その屍の道の上に立っている」
「……オレもいずれはその道の仲間入りにしようってんだろ」
「そうなるのかも知れない。ならないのかも知れない。私は、私の行っていることの罪深さは自覚しているつもりだ。
だが、これだけは言える。私は、お前たちすべての兄弟を心から愛している」
265作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 01:40:18 ID:t4gSp6nG0
復活は嬉しいですね
支援になるかな
266ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 01:47:17 ID:1A5uGWdj0
 なんと答えればいいのか、レッドには見当もつかなかった。
 これまでのひねた口ぶりで混ぜっ返すのは、容易い。
 だが、レッドの奥底はそれを拒んでいた。
 言葉を見つけられないまま、雲の動きを眺める。
「…………」
 これまでレッドは戦い続けてきた。これからも戦い続けるだろう。
 その果てになにがあるのか、レッドは知らない。
 しかし、ブラックはその『先』を見ているのだろうか。
 レッドの血みどろの戦いも、セピアの哀しみも、数々の非人道的実験も、すべては『なにか』に……本当に価値のある事柄に繋がっているのだろうか。
 屍となって道を作るに値する、『本当のもの』が。
「あの、よ」
「なんだ、レッド」
「セピアのARMSの起動実験も、あんたの指示だったのか?」
 聞くも愚かなことだった。
 エグリゴリの活動の根幹を成すARMSについて、ブラックが関わっていないことなど皆無のはずである。
 そう、セピアの心を傷つけ、カラーネームを与えられる前に死んでいった少女──「シャーロット」の事故についても、ブラックは知っているはずである。
「実験……?」
 月の光に目が眩んでいるかのように、ブラックは眉を寄せてレッドを見る。顔をしかめて手を額に当てまでした。
「だからよ、セピアの『モックタートル』が暴走してシャーロットのARMSを侵食した事故だよ。あんた、そうなるって知ってて、わざとやったんだろ?」
 ──このときのレッドには、怒りも憎しみも無かった。
 ただ、確かめたかった。
 セピアが語って聞かせたお伽噺が、過去に起こった現実であるということを。
 それは必要なことだとレッドには思われた。セピアときちんと向き合うために。
 そして、ブラックと正面から向き合うために。
 これまでの関係を踏まえ、そして、その先を……。
「……なんのことだ?」
 ブラックが頭を微かに振る。
「なんのことって、おい──」
 月が雲に隠れ、ブラックの表情が陰った。
 それはわずかな間のことで、それと思った次の瞬間には、ブラックの顔が再び月に照らされる。
267ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 02:14:31 ID:1A5uGWdj0
「分からないな、レッド……」
「なに……?」


「マテリアルナンバーで言ってくれないか……?」

 月光の下で、薄く嗤っていた。


「……てめぇっ!!」
 目の前が真っ赤に染まる。
 身体中が沸騰しそうな怒気に突き動かされ、レッドはブラックに掴みかかっていた。
 爪が食い込むほど握りしめた拳で頬を殴り飛ばす。
 傾いだブラックの胸元を引きよせ、さらに拳を落とそうとしたとき、
「遅い」
 レッドの死角から飛んできた衝撃が、顎を突き抜ける。
「ぐうっ……!」
 宙を舞い、そのまま床にもんどり打つレッド。
「なにを怒っているのだ、レッド。なぜこの私が、出来損ないの失敗作の名前までいちいち覚えていなければならない?
マテリアルナンバーさえ分かれば、レポートを元にそれが誰のことを指しているか特定できる。
なあ、私はなにかおかしいことを言っているかな?」
「黙れ! それ以上、その汚ねえ口を開くな!」
 地面を蹴って立ち上がり、再度ブラックに飛びつこうとするレッドの全身に、強烈なARMS共振波が駆け抜ける。
 為す術もなく倒れ伏したレッドへ、ブラックは非常にゆっくりした歩調で歩み寄る。
 捻じ切れるような暴力的な共振波に打ちのめされるレッドを見下すその顔は、先ほどとは打って変わって冷酷そのものだった。
「私に対してそんな口の利き方が許されると思っているのか? 貴様のような欠陥品、生かしておいているだけでありがたく思うのだな」
「殺してやる……!」
「ふん……出来るものならやってみるといい」
 うすら寒い笑みを浮かべながら、ブラックは言い放つ。
「貴様のような出来損ないを見ていると虫唾が走る。貴様はあの裏切り者のにそっくりだ。『出来損ない』という点に於いてもな。
だが安心しろ。私は寛容だ。その傲慢な物言いも許そう。せいぜい私の目的のために役立ってくれ。それが唯一の──」
268ヴィクティム・レッド:2008/12/28(日) 02:36:45 ID:1A5uGWdj0

 そこでレッドの視界は暗転した。
 意識を取り戻したとき、すでにブラックの姿はなかった。
 下界からのライトは遠く、星も月も雲に隠れ、ただ茫洋とした薄闇が辺りを包んでいた。
「ちくしょう……ちくしょう……」

 ──いつしか、雨が降り始めていた。
 ぽつりぽつりと落ちる温かい水滴が、仰向けに寝転ぶレッドの頬を濡らしていた。


 雨が土砂降りになり始めたころ、また屋上に来るものがいた。
 今度はかなり事前に接近を察知できた。
 その歩調から推測できる人物像は、戦闘訓練を受けた経験は皆無、やや背の低い老齢の男性で、杖をついており、つまり脚が悪い。
 武装はしておらず、荷物は持っておらず、傘の類も持っていない。
「ここにいたか、レッドよ」
 そんな声が背中から掛けられても、レッドは振り返らなかった。
「……ドクターか。こっちくんな。オレは今最悪の気分なんだ。近づいたら殺すぞ」
「ふん、こんな老いぼれを殺して気が済むなら好きにすればええ」
 肩に置かれたドクター・ティリングハーストの手を、レッドは過剰とも言える反応で振り払う。
「触るな!」
 だが、ドクターはそれに怯むことなく、逆にレッドの頬を杖で殴り飛ばした。
「いいや、そうはいかんぞ。ワシはお前に用があるのじゃ。──セピアが倒れたぞ」
「…………っ!」

 レッドの耳の奥で、なにか不穏な音が鳴り響いた。
 それは、この残酷な世界を支配する、悪魔の意志の声だったのかも知れない。
269作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 09:33:01 ID:scRNi1B00
ハロイさんお疲れ様です!
レッドとノイマン中佐との会話といい、ブラックとの会話といい、
中身は凄く詰まっているのにセンスがいいので一気に読ませますね。

特にブラックとの会話はレッドのセピアを思いやる気持ちと
ブラックの底知れない闇が浮き出てて鳥肌が立ちそうでした。
本当に構成力が凄い方だなあ。
最後にまた、ドクターが衝撃的な話を切り出してヒキとは憎いw

お忙しいでしょうが、またの登場を(出来れば早く)お願いします!
シュガーソウルも・・。レッドだけでなく十和子や静にも逢いたいので。
270ふら〜り:2008/12/28(日) 10:56:05 ID:nsuq5sDN0
>>サナダムシさん
創作テクニックの一つ、「読者の好きなキャラを作中で他のキャラに褒めさせる」が思いっっ
きりハマってます! ゲバルと一緒にアライの強さが示され、皆が感嘆してるのが、読んでてもう
嬉しくて嬉しくて。原作でも2ちゃんでも果たせなかった夢が今ここに。このままいけぃアライっ!

>>さいさん
ブラボーは確実に、あの時よりも弱くなっているんですよね……でも前回同様、RPGのラス戦
よろしくパーティ組んで戦ってもいいんじゃないかとは思いますけどね。相手はヘタな魔王より
よっぽどアレな人ですし。でシエル先生のカレーっぷり、私が学生なら好感度UPだけどなぁと。

>>ハロイさん
久々のレッド、相変わらずで安心。客観的善悪やレッドに対する好意や害意などの種類はどう
あれ、基本的に周囲は皆、レッドより大人ですよね。だからこそレッドの未熟な少年らしさ=
主人公らしさが際立つ。……セピアの薄いドレス姿に頬染めて目ぇ逸らすのを期待したのにっ。
271作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 13:46:34 ID:ul8n6o/i0
ハロイさんが復活したのに感動
相変わらずハイクオリティでスゲエ
でもなんかヴィクテム終わりそうだな。
セピア、原作の設定上生きていられないだろうし。
どう転んでもハッピーエンドになりそうにないな…
272作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 16:28:56 ID:NVMDjpUy0
ハロイさんが着てくれてうれしい!
273しけい荘戦記:2008/12/28(日) 19:37:56 ID:aavCE/iF0
第三十五話「立つ!」

 アライJrのベストショットに、グラウンド中が沸騰する。
 接近から接触までの全動作が最高速で実行され、しかも美しい。F1カーに乗りながら
ライフルでピンポイント狙撃を行うようなものだ。偉大なる遺伝子を受け継いだ神の申し
子がついに到達したのだ。
 なすすべなく沈むゲバル。受け身を取ることなく墜落し、沈黙する。
 うつむくしけい荘の面々。勝てる戦いであった。土壇場でアライJrが完成さえしなけ
れば。
「ゲバル……ッ!」無念そうに唇を噛むシコルスキー。
 四千年の歴史にはない一打に、コーポ海王サイドもどよめく。
「みごとな試合だった」烈は動じずに素直な感想をもらした。
 終わった。だれもが決着を確信した。ところが、
「ヤイサホーッ!」
 ゲバルのよく通る声がグラウンドに響き渡る。
 全員が振り返ると、ゲバルはもう起き上がっていた。
「……すげぇパンチだったよ、ミスターアライJr。まァ〜だ蟻が体中に食いついていや
がる。ガキの頃はよくつまんだりしたが、蟻酸のせいで酸っぱいんだこれが」
 軽口を叩くゲバルだが、足はふらついている。
「雄弁な一撃だった。苦労や挫折などとは無縁な、およそ不自由ない生活を送ってきたと
誤解されがちであろう君が、どれだけ過酷な鍛錬を重ねてきたかがよく分かった。俺の誘
いに乗らず、己のスタイルを貫き通す君に敬意を表する。俺なんかが相手の時に、あんな
パンチを生み出してくれてありがとう」
 ゲバルは心から礼を述べた。が、こうも続けた。
「だから俺も、俺のスタイルでヤる」
「オーケイ……」
 すると、いきなりゲバルは自分から仰向けに寝転がった。
 ドリアンが真っ先に気づく。
「ゲバルめ、あの試合を再現するつもりか?!」
「あの試合……?」
 すかさず聞き返すシコルスキー。
274しけい荘戦記:2008/12/28(日) 19:38:46 ID:aavCE/iF0
「アライJrの父アライは、かつて日本のプロレスラーと異種格闘技戦を行った。終始寝
転がるレスラーに対し、アライはどうすることもできなかった。結局ほとんど動きがない
まま試合は引き分けに終わり、試合は世紀の凡戦とまで揶揄された。あれ以来、あのよう
に片方が立ち、片方が寝ている状態を──えぇと」
「猪狩アライ状態と呼ぶようになる、ですかな」
 アントニオ猪狩を知っていた柳が付け加える。
 いかに優れたボクサーであろうと、寝ている相手を攻撃することは難しい。下手に手を
出せば、絡み取られ寝技で一本を取られるためである。
 しかし、アライJrは横たわったゲバルを目の当たりにしても余裕の表情だ。
「もし君がそうやって父のようにおろおろする私を見たいのなら、お気の毒だな」
 アライJrはすでに打開策を編み出している。ずばり、対戦相手が寝ていようが気にし
ない、である。相手の足側にしゃがみ込み、相手の繰り出す蹴りをスウェーでかわし、必
殺のブローで寝ている相手を叩き潰す。全局面的ボクシングならではの“解”だ。
 一歩一歩近づくアライJrに、ゲバルが笑う。
「俺は君からたった一つの自由を奪えればよかった」
「え……?」
「下以外を向く、という自由をね」
 ゲバルが口を開けると、中は大量の唾液で溢れていた。
 液体は波を描き、遥か上空に浮かぶ太陽の光をしたたかに反射する。
「ウッ!」
 ほんの一瞬、反射光でアライJrの視界が塞がれた。溜めに溜めた唾液を吐き捨てると、
ゲバルは胴タックルに移行、即座にアライJrを抱え上げ、受け身を取れぬよう首から投
げ落とす。
 首を曲げ、口から血を吐き出し、皮肉にもアライJrが横たわる結果となった。

 しん、と静まり返る草野球場。
 危険な角度で落とされたアライJrだったが、首を押さえかろうじて立ち上がる。
「惜しかった……君の足が万全だったなら、決まっていた」
 致命傷になってもおかしくなかったが、足の踏んばりが利かず、威力は半減されていた。
ゲバルも水面下に多大なダメージを潜ませている。人間離れした技の応酬だが、決着はも
う間近だ。
275しけい荘戦記:2008/12/28(日) 19:39:35 ID:aavCE/iF0
 アライJrが突っかける。
 もうパンチは喰わぬと後ずさるゲバルだが、アライJrのスピードはめざましかった。
 今一度顎に突き刺さる神の拳。
「ガハ……ッ!」
 折れ曲がるゲバルの膝。
 絶好の勝機が訪れた。次で決める。アライJrが歯を食いしばり、渾身の右ストレート
を放ろうとする。
 ──が。
 ついさっき吐き捨てられた大量の唾液がシューズを滑らせる。
「ホワット?!」
 ゲバル最後の罠がアライJrを捕える。揺さぶられる脳と戦いながらゲバルは、
「教えといてやろう。しけい荘203号室の名物は──」
 親指を喉に押し込んだ。
「これだァッ!」
 ルームメイトと鍛えた指が、槍となって急所を刺す。
 首を痛めているアライJrにとっては、これ以上ない痛打。アライJrは呼吸不能にな
り、ついで戦闘不能になろうとするも、吼えた。
「Stand and Fight!」
 豪速の拳(ボックス)が解き放たれる。
 無我夢中の一打は惜しくも的を外れ空を切るも、足腰が限界に達していたゲバルを転倒
させるほどの迫力であった。
 アライJrは動きを止めた。が、なおも立っていた。
 ──失神しながら。
「勝負ありッ!」
276サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/28(日) 19:41:05 ID:aavCE/iF0
次回、最終話です。

>>241
シコルスキーの出番にご期待下さい!

>>242
せっかく仲間になったのに空気だったので
チョイと活躍させようとしたらいつの間にやら……。

>>253
またやりたいですね。
277作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 21:18:22 ID:VfkBnlj/0
>さいさん
シエル先生の天然っぷりが可愛いw
さいさんのオキニのキャラなんでしょうね。
火渡とは絶対に合わなそうw


>ハロイさん
復活お疲れ様です!嬉しいです!
会話主体の回でも読み込ませる技量は流石。
セピアが倒れて怒涛の結末に雪崩れ込みそう。


>サナダムシさん
うーん名物SSも次回で最終回ですか。
最後は何か人間の厚みの差みたいなもので
ゲバルに軍配が上がりましたねえ。
278作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 23:42:51 ID:PStuT7ZM0
>ヴィクテムレッド
ハロイさんお久しぶりです。待っておりました。
レッドがパーティで苛立つ気持ちもセピアへの愛情でしょう。
あと、他のキースへの劣等感と。どうやらクライマックスは近いみたいですね。

>サナダムシさん
主役の座をのっとってしまったゲバルが最後も決めてくれましたね。
トリックスターのゲバルと正統派のアライJRはアライのが有利かとも思いましたが。
次回完結ですか。寂しいです。
279作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 23:45:05 ID:1b0nFL1/0
ゲバルは地球拳もメイクもせずに勝ったな
アライとゲバルはどっちが年上なんだろう
280作者の都合により名無しです:2008/12/28(日) 23:47:11 ID:PStuT7ZM0
確かアライJRのが年上ですよ
ゲバルは22くらいだったと思ったけど
281作者の都合により名無しです:2008/12/29(月) 08:32:06 ID:36PXdSV80
ヴィクテムが久しぶりに読めて嬉しい。
シュガーハート&ヴァニラソウルもぜひひとつ。

しけい荘次回が最終回か。残念だなあ。
新シリーズは主役取られたシコルの逆襲に期待w


お正月前にハロイさんが戻られて嬉しい。
エニアさんや邪神さんも戻られないかな。
NBさんはいつもふらっと復活するしなw

282作者の都合により名無しです:2008/12/29(月) 13:14:55 ID:5nMGvCDDO
ゲバルは21歳で克巳とタメ。 
新井は作品の流れだと余裕で30越えてる気が…
283遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/29(月) 16:15:13 ID:obefCArC0
第二十六話「宴」

無敵と謳われた城壁も砕け散り、今や豪奢な廃墟と化したイリオン。奴隷部隊は、駐屯地で待機していた非戦闘員や
イリオンで新たに解放された者達も加えて歓喜の渦に包まれていた。
虐げられるばかりだった自分達が手にした、初めての勝利―――それも間違いなく歴史に残るであろう大勝である。
<白龍皇帝>そして<紫眼の狼>という巨大な力と偉大なカリスマあってのこととはいえど、彼らは自分の手で剣を
執り、戦ったのだ。そして、堅牢なる風の都の城壁をも打ち砕き、今は勝利の美酒に酔い痴れている。
焼き立ての骨付き肉(俗に言う漫画肉である)や瑞々しい果実にかぶり付きつつ、葡萄酒をまるで浴びるような勢い
でガブ飲みする。
(フン。下品な宴だ…もっと品よく楽しめんのか、全く)
内心でそう悪態をつきながらも、海馬は不思議と悪い気分ではなかった。隣にいるエレフもいつになく楽しげだ。
「さあさ、アメジストス様も皇帝様も、ドンドン飲んでくだせえ!」
上機嫌で差し出される、杯を満たした葡萄酒。二人はグイっと景気よく飲み干す。その味わいは、胸に染みた。
「フン…悪くない。中々の品だ」
「へい。<ロレーヌ>っつって、知る者ぞ知る逸品でさあ」
「<ロレーヌ>か…歓びも哀しみも、全てを包み込むような味だな」
分かったようなことをのたまうエレフである。そうこうしている内に、どうぞどうぞと酒瓶が目の前に山と積まれて
いった。某アンチェインな人でもなければとても飲めないような量である。
「ちっ。こんなに飲めるか、バカ共め」
「まあ、そういうな。厚意でやってくれているんだ、ありがたいことじゃないか」
そう言いつつ、エレフは酒瓶に直接口を付けてラッパ飲みする。無茶な飲み方だったが、エレフは特に顔を赤くすら
していない。酒には相当強いようだ。
「フ…<紫眼の狼(アメジストス)>ならぬ<酒に酔わぬ者(アメティストス)>といったところだな、アル中め」
海馬の棘のある言葉もなんのその、エレフは次々に瓶を空にしていった。肝臓に優しくない男である。
「―――閣下。皇帝様」
「ん?」
目を向けると、そこにはオルフとシリウス。二人とも両手で抱きかかえるようにして、大きな包みを持っている。
284遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/29(月) 16:16:00 ID:obefCArC0
「このような目出度い席で恐縮ですが…どうか、これを」
包みから取り出されたのは、束になった剣や槍だった。どれも泥や血に塗れ、汚れている。
「此度の戦いで、死んでいった者達の遺品です」
「…………それで、全部か?」
「はい…」
オルフとシリウスは沈痛な面持ちで俯く。遺品の数は、そう多くはない。精々が十人程度だろう。戦闘要員数百人の
内のたった十人と考えると、驚異的に少ない数字ではあった―――されど、十人。
彼らにもきっと、彼らの物語があった。
「どうか…悼んでやってください。お願いです」
海馬はそれを、無表情に見つめた。
(ちっ。オレの軍にいながら命を落とすなどとんだ間抜けだ。何故オレがそんな奴らのために冥福を祈らねばならん。
さっさとその薄汚いゴミを片付けろ!)
そう思った。だが実際に取った行動は、彼自身すら驚くようなものであった。海馬は酒瓶を手に取り、赤紫の液体を
遺品に注いだ。まるで、勝利の美酒を分け合うように。エレフも海馬に倣い、葡萄酒を振りかけていく。
「フン…オレ達が直々に注いでやった勝利の美酒だ。光栄に思え」
「よくぞ、勇敢に戦った―――冥府で、安らかに眠ってくれ」
主君達の労いの言葉に、オルフ達は鼻を啜り上げた。
「ありがとうございます…彼らも、喜んでくれることでしょう」
そして去っていく二人の姿を、海馬はどこか虚ろに見送った。
(オレは、どうしてしまった…?)
例え演技でも、あんな臭い三文芝居ができるような自分ではなかったはずだ。それに―――この遺品を見ていると、
確かに感じるのだ。僅かではあるが、自らの一部分を削り取られたような喪失感を。
「海馬」
エレフが、海馬の肩を軽く叩く。
「気にするなとは言わん。だが、気に病むな」
「フン、よく言えたものだ。私怨のために奴隷共を焚き付けた悪党が」
「そうだな…だが最近、分からなくなった」
「何だと?」
海馬は眉を顰めた。
285遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/29(月) 16:17:24 ID:obefCArC0
「最初は確かに、アルカディアを滅ぼすために利用しているだけのつもりだった…だが今は、彼らを救ってやりたい
と―――そう、確かに思っているよ」
「…………」
「海馬。お前とて、同じではないのか?」
「下らん。オレにとっては奴らなど―――」
その時だった。
「き、き、きしゃまらあ、こんなことして、ただですむと思うのかぁ!今に風神(アネモス)の罰が下るぞぉ!」
捕えられていた神官―――そう、あの変態神官である―――が大声でわめき、話を遮られた。海馬は舌打ちし、
変態神官を睨み付ける。
「フン。ならば、その風神とやらは何故神官の貴様を助けんのだ?」
「ぐ…」
忌々しげに顔を歪める変態神官。海馬は彼に歩み寄り、その頭をぐりぐりと踏み付ける。
「ほぅら、このようなバチ当たりな男に、何故天罰の一つもない?ククク…どうやら風神様は、貴様を見捨てたよう
だな?下衆神官の末路としては、妥当なところか」
「ぎ、ぎ、ぎいいい…!殺してやる…殺してやるぞぉ、何が白龍皇帝だ!風神に仕える聖職者たる私にこのような
侮辱を…赦さん!赦さんぞぉ!…ゲブゥッ!」
今度はエレフが、横から変態神官の顔面を蹴り付ける。
「久しいな、変態…私を覚えているか?」
「うぐ…な、なんだ、お前はぁ…」
「…フン。覚えていないならいい。どっちにしろお前の人生の結末は何も変わらない。さあ、引っ立てろ!」
「はっ!」
主にイリオンで働かされていた奴隷達が、目を血走らせ(余程この変態に酷い目に遭わされたのだろう)神官を
連れていく―――しばらくして、肉を打ち据えるような音やグエとかギャアとかいう悲鳴が聴こえてきたが、海馬も
エレフもそれにはもはや気を留めない。
「フン―――あの下衆のせいで、折角の酒が不味くなったわ!」
海馬は椅子を引っ掴んでドカっと座り、ふんぞり返る。先程まで溜まっていた鬱憤が一気に噴き出したようだ。
「皇帝様ー!アメジストス様ー!」
「…ん?」
見ると。子供達が、手に手に花で作った冠や首飾りを持って駆け寄ってきていた。
286遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/29(月) 16:18:10 ID:obefCArC0
「ほら、皇帝様のために、皆で作ってきたんだよ!」
「アメジストス様のもあるよ、ほら!」
にこにこ笑顔で差し出される、いい年した男にはとても似合わない品々。海馬は仏頂面で受け取り、エレフは苦笑い
しながら受け取った。
「そうだ!ソロルとフラーテルも、もうすぐ来るよ。二人で皇帝様達に、お歌を贈りたいんだって!」
「歌だと?」
海馬が怪訝な顔で聞き返そうとした時、件の二人がやってきた。
「貴様ら、歌など歌えたのか?」
「はい。ほんの手慰みですが、それでもよろしければ」
「構わん。聴いてやるから、やってみろ」
それでは、とフラーテルが竪琴を取り出す。ソロルはそっと目を閉じて、唇を開いた。
「はこにーわーをー…かたるーおーりのーなーかーで…きんだんのーきーかんにーてをくーわえてー…」
美しき竪琴の調べと、清らかな少女の歌声。それとは対照的にどこか退廃を感じさせる歌詞が、不思議とマッチして
いた。宴に興じていた者達も飲食を忘れ、しばしそれに聴き入る。
「ほぉ…」
「これは中々…」
海馬とエレフも、珍しく感心した様子である。やがて歌が終わると、一斉に拍手が巻き起こった。
「フン。まあ思ったよりも聴けたな。悪くはなかったぞ」
海馬にしてみれば、最上級の賛辞と言えよう。
「うむ。いい歌だった。特に妹がナイフを握って兄に詰め寄るシーンは圧巻だったな」
エレフも二人を褒める。フラーテルとソロルは顔を見合わせ、少しだけ得意そうに笑った。
―――この兄妹は後に吟遊詩人となり、二人の歌った白龍皇帝を称える詩は、後世に<カイバセイア>として伝わる
ことになるとか、ならないとか。それはともかく。
287遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/12/29(月) 16:19:16 ID:obefCArC0
(…馴れ合いなど、反吐が出る)
(騒がしいのも、虫が好かん)
それでも海馬は。こういうのも悪くはないと思った。
―――その変化が、彼を強くするのか、それとも弱くするのか。今はまだ分からない。

エレフは部隊の面々との談笑に興じながらも、再び声を聴いていた。
(楽シソゥデナニヨリダ、エレフ)
(ダケド、ソレモ長クハ続カナィヨ)
(ォ前ハモゥジキ、コノ世デ最モォ前ヲ愛シテクレル女ヲ、ソノ手デ殺メル)
(慣レルコトナドナィ、失ゥ事ノ堪ェ難キ痛ミニヨッテ、ォ前ハ我ガ元ヘ堕チティク)
(ォ前ハ兄弟同士デ屠リ合ィ、母ヲ殺メルノダ)
聴こえない振りをした。気にしていない振りをした。
けれど、その声は、どこまでも彼の耳にこびり付いて離れない。

―――後に<死せる英雄達の戦い>と称されることとなる、人の領域を超えた戦争の開幕まで、あと少し。
その死闘の果てに、彼は最悪の結末を迎えることとなる。
288サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/12/29(月) 16:40:50 ID:IKyvev+I0
投下完了。前回は>>212より。
年明けまでに何とか一話書けました。年始は何かと忙しいので、ちょっとだけ間が空くかもしれません。
古代ギリシャに果たしてワインの銘柄などあるのか?主役を差し置いて社長が神話になっていいのか?
などなど疑問も大いにあるでしょうが、気にしたら負けです(言い訳)

>>214 原作遊戯王も、変態でなければ活躍できない世界ですからね…ずばり言うと、
    変態度×外道度×キ○ガイ度×テンションの高さ×カードへの愛=戦闘力です。

>>215 遊戯で影が薄いなんていったら、あの人なんて…ほら、誰だったっけ、あの人。
    確か遊戯とDDDだか何かで勝負した人。

>>ハシさん
いやだあああああ!拷問やめてー!打撲系はいいけど切り刻むとかぶっ刺す系はマジダメ!
読んでる間、足の指がむずむずしました(それくらいリアルだったと褒めてます)
シエルについては、実はあんまり知らないんですが、やはり彼女は彼女で常識人に見せかけたヤバ系
だったりするんでしょうか?
イーリウスについてはもう、オミットしようかとも思ったんですが、曲中で名前が出てる以上どうにか
出せないかと思った結果がこれだよ!社長については、もう何も言うことはありません。キサラさんと
一緒にどこまでも地平線目指していけばいいと思います。
そしてクロニクル。シャイライクルーーー!Moiraもクルーーー!?その他色んな人も来そうでオラワクワク
してきたぞ!

>>ふら〜りさん
倒した相手がたまたま外道だっただけで、社長達も十分に外道です。けど、古代世界じゃ奴隷を酷使する
のってごく普通のことだったみたいだから、このSSの世界的に考えると、結局は物凄いテロ行為です。
主人公サイドが体制側で、敵サイドが弱者の側というのは、普通逆な気もしますね。
289作者の都合により名無しです:2008/12/29(月) 23:59:52 ID:kK2q6nuJ0
サマサさん乙!
また新年、楽しませてください!
290しけい荘戦記:2008/12/30(火) 08:52:28 ID:+YF2fL+s0
最終話「昨日の敵は今日の友」

 珍しい光景だった。試合が決した瞬間、立っていたのは敗けた方であった。
 ゲバルは立ち上がると、意識を失っているアライJrの手を取り、上に掲げた。しけい
荘とコーポ海王の面々は一人の例外もなく、彼らに惜しみない拍手を与えた。
 審判を終えたオリバが、大家としてゲバルに話しかける。
「よくやったな、ゲバル」
「ありがとうアンチェイン。しっかし日本はすげぇのがいっぱいいるな。今日だけはロッ
カーを使わず今すぐ眠りたい気分だよ」
「ふふふ……残念だが、まだ休めそうもないぞ」
「ん?」
 オリバが指差した方角からは、ドリアン、柳、ドイル、スペック、シコルスキーが駆け
寄ってきた。──否、突進してきた。
「ラヴィ〜ッ!」歌いながら迫るドリアン
「良き立ち合いだった」称えながら迫る柳。
「おめでとうッ!」祝いながら迫るドイル。
「胴上ゲダッ!」叫びながら迫るスペック。
「オオオォオオォオッ!」我を忘れながら迫るシコルスキー。
 あっという間に囲まれ、胴上げされるゲバル。しかし十五メートルほど上空に放り投げ
られた後、受け止められることなくグラウンドに墜落した。

 胴上げも無事終了し、オリバが全員に呼びかける。
「さてと、せっかくこれだけの人数が集まっているんだ。今日は一日グラウンドを貸し切
りにしていることだし、野球でもせんかね?」
 烈が即答する。
「私は一向にかまわんッ!」
「でも、バットやグローブなんか持ってきてないぞ?」
 サムワンの疑問に、オリバは最高の笑顔で応える。
「おいおい、我々は性質の差はあれ皆格闘者だ。素手に決まっているだろう」
291しけい荘戦記:2008/12/30(火) 08:53:15 ID:+YF2fL+s0
「ってことはボールは石でも使うのか?」
「君たちの力では、石なんか簡単に割れてしまう。だからボールは彼にやってもらう」
 オリバは「彼」とはいったが、誰かを見たり指差したりはしなかった。しかし、全員が
示し合わせたように同じ人物に目を向けた。
「分かってたさ……こうなること……」
 いうまでもなく、ボールはシコルスキーに決定した。

 チームを適当に分け、いよいよ試合開始。ピッチャーオリバに担ぎ上げられたシコルス
キーが、不敵に微笑む。
「プレイボールでしか投げられぬ者は野球選手とは呼ばぬ」
「ヌンッ!」
 オリバが投げた。
 地面と平行にすっ飛ぶシコルスキーを、バッター烈が全力の崩拳で打ち返す。
「破ァッ!」
 胃液を撒き散らし、サード方面に転がったシコルスキーをドイルが胸の爆薬で吹き飛ば
し、一塁に送る。
 黒こげになって飛んできたシコルスキーは、ファーストを務める李が毒手でがっちりキ
ャッチ。烈はアウトとなった。
「ワンナウトォォッ!」
 オリバが叫ぶ。
 地上最強の野球はまだ始まったばかりである。

 さて野球が三回表に差しかかった頃、アライJrが土手で目を覚ます。横には寂海王が
座っていた。
「おぉ、タフだな。もう快復したのかね」
「あなたは……」
「私は寂海王、コーポ海王の一員だよ」
 寂が海王と知り、気まずそうにうつむくアライJr。
292しけい荘戦記:2008/12/30(火) 08:54:05 ID:+YF2fL+s0
「すまない。私はいたずらにあなた方に挑み、場を混乱させ、挙げ句こんな無様な姿を晒
してしまった──」
 寂は眼鏡を外し、真剣な眼差しでアライJrに向き直った。
「……私はそうは思わないがね」
「え……」
「先ほどのゲバル君との試合、すばらしかったよ。あんな試合をやられては、誰もが認め
ざるをえない。君の実力と、君が真の格闘士であるということを!」
 寂が野球をしている男たちに目をやる。
「さぁ、未来のライバルたちが待っているぞ。地上最強になるんだろう? ──行きたま
え」
「……ありがとうッ!」
 野球に加わるべくグラウンドに向かうアライJr。眼鏡を再び装着すると、寂は怪しく
微笑んだ。
「若いなァ……ぜひとも空拳道に欲しい人材だ」

 三日後、マホメド・アライJrは日本を発った。新たな激戦地を求めて。
「また日本に来ることがあったら、しけい荘かコーポ海王に入居させてくれよ。あるいは
公園ってのも悪くないかもしれないが」
 これが別れの挨拶となった。なぜ公園が候補に挙がったかを知る者は本人以外にはいな
い。
 今回の事件で少しは気を引き締めたかと思いきや、しけい荘のメンバーはいつものよう
に呑気で危険な生活を送っている。
「イヤァ〜今日ハツイテルゼ。道ヲ歩イテタラ、パトカーガ落チテイヤガッタ」
 駐車中のパトカーを引きずってきたスペックに激怒し、全力でパワーボムを喰らわせる
オリバ。
 アライJrの事件に触発された柳とドリアンは二人で特訓を行う。
「足でも真空を作れるようにならねばッ!」
 ドリアンの鼻先に柳の足裏がくっつく。が、効果はないようだ。
「残念だが、呼吸してもなんともない。……あと、少し臭い」
「すいませんな……最近水虫気味で」
293しけい荘戦記:2008/12/30(火) 08:56:31 ID:+YF2fL+s0
 ドイルの部屋にて、ラム酒に溺れる若者三人。
「ヤイサホーッ!」
「ミギャアアアアアアアッ!」
「ダヴァイッ!」
 スペックとパトカーを片付け、血相を変えて部屋に入ってくるオリバ。
「近所迷惑だぞ、シャラップッ!」
 赤ら顔でドイルが唇を吊り上げる。
「へっ、こういう時のための新たな手品がこれさ」
 ドイルが親指のスイッチを入れると、尻から爆薬が飛び出し、手品師は天井を突き抜け
どこかに飛んで行ってしまった。
「大家さん、俺も新たな逃走術を発見したぜ」
「酔うにはいい日だ」
 シコルスキーとゲバルは親指だけで逆立ちし、その体勢のまま逃げてしまった。
 もうどうでもよくなったのか、オリバはため息をついた。
「やれやれ……」
 しけい荘に安息の時はない。今後も住民は休みなくトラブルを巻き起こし、新たな強敵
がアパートを訪れることだろう。
 しかし、オリバにはそれがたまらなく幸福だった。
「今日の晩飯は久しぶりにステーキとワインにするかな」
 嗚呼、しけい荘に災難あれ。

                                   お わ り
294サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/12/30(火) 08:58:09 ID:+YF2fL+s0
『しけい荘戦記』これにて完結です。
5月からおよそ8ヶ月にわたり投稿させて頂きありがとうございました。
SS書きの方々にも読者の方々にも本当に感謝しています。
死刑囚たちの他、アライJr、範馬刃牙からの新キャラなど楽しく書かせてもらいました。

アライJr編は命のやり取りを知った真アライJrを書きたかったのと、
空気なゲバルを活躍させるための章でした。
ゲバルVS烈を事実上の決勝戦にしたかったので、
アライJr戦ではゲバルに化粧も地球拳も使わせていません。
ホームレス軍団も応援に駆けつける予定でしたが、ややこしくなるので止めました。

シコルスキーにはマウスを倒してもらったので脇役になってもらいましたが、
活躍して欲しい方もいたようで申し訳ありません。

ピクルを始め出せなかったキャラもいますし、
時間が許せばまた新たなしけい荘を書いてみたいと思います。
最後にもう一度、ありがとうございました。

では皆さま、よいお年を。
295作者の都合により名無しです:2008/12/30(火) 11:02:44 ID:F+NAMMUM0
完結お疲れ様ですサナダムシ氏
いつもの面子に加えニューキャラのゲバルやアライたちが活躍してくれて
とても楽しいシリーズになりました
シコルは脇役になっちゃいましたがw
次シリーズではぜひ、主役の復権をw
296作者の都合により名無しです:2008/12/30(火) 13:01:06 ID:lW2TTEw90
サナダムシさん完結おめでとうございます。
しけい荘にゲバルという新しいメンバーが加わって楽しかったです。
次回はピクルを是非。あと、新作やうんこものも読みたいですね。
297作者の都合により名無しです:2008/12/30(火) 18:04:10 ID:Sf6xE7bt0
>サマサさん
どんなに偉そうな態度を取っていても絶対に悪人になりきれない社長が可愛い
彼に宴の華やかさは似合いませんが、主賓としての振舞いときっちりこなしてますね。
さすが社長は超一流の人物。ゲームだけの遊戯とは少しスケールが違う。

>サナダムシさん
完結おめです! ゲバルがきっちりと主役を努めた今回も楽しませて頂きました。
シコルファンとしては最後に野球の球になってしまった彼に同情と愛情を感じますがw
またいつか、このキャラたちに逢えるのを楽しみに待っています。
298作者の都合により名無しです:2008/12/30(火) 21:09:34 ID:EMfxXMLn0
>サナダムシさん
完結お疲れ様です。今回のしけい荘も楽しかったです。
でも寂しくなりますなあ、サナダムシさんの名がテンプレから外れると。
新連載を引っさげてまた戻ってきて下さい。


>サマサさん
サマサさんは筆が乗っていよいよ佳境近くになって来た感じですな
意外と人の良い海馬。でもどうしても中心になってしまうという大物さ。
やはり良いキャラですなー
299ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:15:07 ID:HO55IiEv0
 フィーアのすらりとした細く長い足を、赤い光が覆っていく。
  魔力を帯びた光は凝縮し、形を現す。
 そして、彼女の足先から大腿部にかけて――先鋭的な形状をし、軽装な鎧にも似た、"赤い靴"が形成されていた。

 "赤い靴"――それはグルマルキンが用意したフィーア専用の魔術礼装だ。
 使用者に一瞬で千里先まで駆け抜ける俊足を約束し、また無尽蔵に魔力が供給され続ければ、理論上、音速にまで達することさえできる。

 そしてフィーアは走り出した。
 と同時に、"赤い靴"が起動し、その使用の際の独特な感覚が、彼女の全身を支配した。
 自分以外のすべてが遅くなる感覚。自分が世界から取り残され、ひとりきりになるような感覚。だが、怖れはなかった。
 彼女を突き動かしているのは、任務への使命感。そこにゆらぎは一切ない。

 音の壁を突破したフィーアは、憲兵隊の陣地に切り込んだ。
 ソニックブームが彼女の周囲に発生し、その衝撃で憲兵隊の何人かが吹き飛ばされる。
 隊列を崩された混乱を突き、フィーアは的確に敵を排除していく。
 華麗な足捌きで死の舞踏を踊り、"赤い靴"で敵の命を刈り取る。
 フィーアの真紅に染まった足が、憲兵隊の喉を切り裂き、心臓を穿ち、等しく死を刻み込んでいく。
 いくつもの悲鳴と、血飛沫があがった。

「……」

 フィーアは無言で返り血を拭った。
 長い金髪を後ろにまとめ、切れ長の碧眼を持ち、端正な顔立ちをした彼女のその仕草には、疲労の色が濃い。 
 いままでの襲撃した施設よりも、動員されている憲兵隊の人数は桁違いだ。
 いくら超人的な技能を持つといえども、身体的には人間に過ぎない彼女にとって、精神と肉体の疲弊は免れない。
 だからだろう。フィーアは失念していた。
 人間は思ったよりも死にがたい、ということを。
300ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:16:02 ID:HO55IiEv0
「こ、の……怪物め……!」

 怨念に満ちた声がフィーアの背後から響いた。殺しきれなかった人間がいたのだ。
 喉に傷を負った憲兵隊員が、鬼気迫る顔でフィーアに銃口を向ける。

「ッ……!」

 フィーアの表情が驚愕に固まる。咄嗟に振り向き、止めを刺そうとするが、間に合わない。人間に知覚不能な動きができるとはいえ、
"赤い靴"の起動には若干のタイムラグがある。僅かの差で、憲兵隊員の引き金を引く指の方が早い。

「く……!」

 銃弾が心臓を貫き、死が訪れる瞬間を覚悟する。だが――
 電動ノコギリのような唸りが、その憲兵隊員を薙ぎ払い、フィーアの危機を救った。

「油断するな、フィーア」

 狼頭のW/SS(武装親衛隊)――ツヴァイが立っていた。
 その両手には、二挺のMG42機関銃が、重厚な鋼鉄の輝きを放っている。

「常にまわりに気を配れ。あらゆる可能性を追求するんだ。撃ち漏らした敵が死体の山に隠れている場合もある。
冷静さと判断力をなくせば、あとには死が待っているだけだ」
「……すまない」

 フィーアは悔しげに唇を噛む。自分の落ち度で、また仲間の手を煩わせてしまった。
 御伽噺部隊に入隊して以来、幾度も困難な任務を経験してきたが、まだまだ歴戦の勇士であるツヴァイには及ばない。
 いつまでも未熟なままの自分が情けない。
 入隊した時期でいえば、自分が一番の新顔で、だからこそ刻苦精励する必要があるというのに……。
301ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:17:06 ID:HO55IiEv0
 苦渋に染まるフィーアの表情を見て、ツヴァイは彼女が何を考えているのかをすぐに悟った。
 昨日今日の付き合いではない。彼女は責任感が強く、何か失敗を犯してしまうと、すぐ自己嫌悪に陥ってしまう。
 隊を預かるものとして、仲間の精神のアフターケアも、ツヴァイの任務の一つだ。

「そう自分を卑下するな。お前はまだ若い。成長の余地は十分にある。
 それにお前は、失敗を次に生かそうとしているじゃないか。もっとそれを誇れ。
 じきにお前は、私などより、よほどいい戦士になれる」

 微笑を浮かべながら、ツヴァイは言う。
 ――フィーアはいつも疑問に思う。ツヴァイの言葉を。
 彼女は自分を高く買ってくれているが、とてもそうは思えない。
 自分は、欠点だらけだ。
 すぐに激昂してしまう癖があったし、ツヴァイのように冷静に戦況を見極められる洞察力もない。
 ツヴァイだけではない、自分が欠けている要素を、他の御伽噺部隊のメンバーは持っている。
 少しでも彼女らに追いつけるよう努力しているが、まだ足を引っ張っているという自覚がある。
 しかし、いつまでも足手まといでいる気は、ない。

「ありがとう、ツヴァイ。あなたの期待に報いることができるよう、全力を尽くす」
「その意気だ。過去のことよりも、未来のことを思え。それに、ここからが本番だ。
 スプリガン――今度こそ奴らが、網にかかってくれるかもしれん」

 その名を聞き、フィーアは緊張に身をこわばらせた。
 スプリガン――その名を聞いて畏怖しない者はいない。
 危険極まりない"遺跡"を封印し、数多の組織を退けてきた彼らの実力は、フィーアも十分に理解している。
 だからこそ、鋼の如き覚悟をもって、戦いに身を投じねば。

「ああ……わかっている。大佐の目的のためにも、そして第三帝国の復活のためにも、わたしは必ず奴らを……」

 そのとき、フィーアの親衛隊制服のポケットが振動した。
302ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:18:33 ID:HO55IiEv0
 その中には、機関電信(エンジンフォン)が入っている。
 グルマルキンから御伽噺部隊全員に支給された、携帯可能な小型の電話機で、驚いたことに蒸気機関で動いているのだという。
 通話主はフュンフと、機関電信の液晶には表示が出ていた。

(まさか――)

 機関電信の使用は、非常時以外禁じられている。
 その緊急の通信が意味するもの、それは――現在、別の憲兵隊施設を襲撃しているフュンフとゼクスに、何かが起きたということだ。
 喪失への強い焦燥感が、フィーアの心を満たした。慌てて機関電信を取り出し、通話ボタンを押す。

「フュンフどうした、いったい何があった!?」
『あ、つながったわ! すごいわねこれ。本当にフィーアの声が聞こえるわ!』

 フィーアの危惧を吹き飛ばすほどの、フュンフの快活な声が耳に届く。その調子には、不吉な事態を予感させる陰はない。
 通話相手に気づかれぬよう、安堵の息と「よかった」という言葉を、フィーアは漏らした。

『こっちはいま休憩中よ。ゼクスといっしょに、糖蜜たっぷりの紅茶でちょっと早めのアフタヌーンティを楽しんでいるわ。
殺戮(ホロコースト)の後はやっぱりこれね。気分がおちつくわ』
「そうか……いや待てフュンフ。お茶会を開いているということは、もう殲滅は終わったのか?」
『フィーアはもう耳が遠くなっちゃったの? 休憩だっていったでしょ。まだまだ兵隊さんはたくさんいるわ。銃声がひっきりなしに
耳に届いてうるさいったら(チィン!)……あ……カップの中に銃弾が……』
 ずず、と何かを啜る音。
『……不味い。だめね、銃弾入りの紅茶は。鉄の味が強すぎるわ。わたし、やっぱり甘いのが好き。フィーア達もはやく片づけてこっちに
来ればいいわ。わたしがいれたとびきり美味しい紅茶を……』
「……真面目にやれ!」

 フィーアの怒りが有頂天に……いや、頂点に達した。

「お茶会は任務の後にしろ! というか、そんなことを伝えるためだけに機関電信を使ったのか!?」
303ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:19:44 ID:HO55IiEv0
「そんなことってなに!? 前から言いたかったんですけどね、フィーアには余裕ってものが無いのよ。……まあいいわ。それに、
わたしの"悪夢"ならこいつらなんてすぐに皆殺しにできるわ。トランプの兵隊さんがレギオンの号令で突撃して、バンダースナッチが
火を噴けば、それでもうおしまい。フィーアが心配することなんて、なんにもないのよ」
「しかしだな……!」
「あ! バッテリーが切れ掛かってるわ。それじゃ、またね〜」

 ぶつり、と一方的に通話が切られる。

「あ、おい、フュンフ! まったくあいつは……!」

 不通を示す電信音が鳴る機関電信を、フィーアは我慢ならないといった表情で睨みつける。
 その様子を見ていたツヴァイが、くくく、と笑いを漏らした。

「お前はフュンフのことになると、いつも我を忘れる。こればっかりは、治しようがないな」
「な……!?」
 
 いきなり彼女は何を言うのか――フィーアは真っ赤になって否定する。

「ち、違う! わたしは、規律を乱す行動が許せないだけだ! 名誉と忠誠、そして鋼の意志で戦い抜く、それが親衛隊の美徳のはずだ。
 あいつにはそれがない!
 そもそもあいつは、いつも危なっかしいんだ。前の任務だって、わたしが助けてやらなかったら、どうなっていたか……!」

 そこまで言い切ってからフィーアは、しまった、という顔をつくる。

「ほら、私の言ったとおりだろ?」
「……うぅ」

 フィーアは何も言えなくなった。そんな彼女の肩を、ぽんとツヴァイは叩く。
304作者の都合により名無しです:2008/12/30(火) 23:24:58 ID:ZRpZJ06QO
しけい荘面白かった。続きも期待。
305ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/30(火) 23:58:31 ID:HO55IiEv0
「心配なのはわかるが、もっとフュンフを信頼してやれ。ああ見えて、彼女は立派な戦士だ。さすがに御伽噺部隊のナンバーを大佐から
賜っただけのことはある」
「……」

 ――それでも、不安の種は尽きない。
 あのスプリガンを相手にしなければならない以上、御伽噺部隊の誰かが、命を落とす可能性がある。
(だが、そんなことは、絶対にさせない)
 フィーアは強くそう思う。
(――これ以上、"家族"を失ってなるものか)
 
 そのとき、フィーアの背後からナイフを持った何者かが襲いかかった。
 息を潜めていた憲兵隊員が、会話を交わしていたフィーアとツヴァイの隙をついて、奇襲を仕掛けたのだ。
 しかし、フィーアは既にそれを察知していた。赤い靴は使わず、その襲撃に対処する。
 身を丸めナイフを回避し、腕を取って、柔術の要領で敵の体勢を崩し、地面へ叩きつける。

「ぐあ……!」
「……背後からならば殺せるとでも思ったか?」

 フィーアは冷酷に言い放ち、腕の関節を極め、動きを封じる。
 その奇襲が合図だったのか、憲兵隊の施設からの攻撃が再開された。
 二人は物陰に隠れ、銃弾の雨を凌ぐ。
 すぐさまツヴァイがMG42機関銃で応戦し、フィーアは奇襲に失敗した憲兵隊員を始末するべく赤い靴を起動させる。

「スプリガンはどうした」

 フィーアはそう憲兵隊員に問い掛けた。
 返答はない。しかし、その顔は恐怖で引きつっている。

「お前達を見捨てたか。それとも、怖気づいたか。フン、どちらにしろお前の命運は尽きたな。怨むなら、スプリガンを怨め」
306ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/31(水) 00:00:26 ID:97jDf8Aa0
 そして、関節を極めたまま、"赤い靴"で心臓を貫こうとして――

「俺ならここにいるぜ」
 ――横合いから、何者かに頬を殴り飛ばされた。
「がッ!?」
 完全に虚をつかれた一撃に、フィーアはなす術もなく吹っ飛ばされる。
「フィーア!」

 憲兵隊からの反撃に意識を奪われていたのか、その何者かの接近に気がつかなかったツヴァイが驚愕の声をあげる。
 
「あ、あんたは……」
「すまん、遅れた。もうあんたらは下がってていいぜ。後は……」

 憲兵隊員に手を貸す、まだ顔立ちに幼さが残る東洋人の少年。
 だが彼こそが、スプリガンでもトップクラスの実力を持つ人間――御神苗優だった。

「こいつらの相手は、俺がする」

 静かな言葉――だが、その裏には確固たる意志が存在していた。
 その気迫に、フィーアとツヴァイは圧倒された。だから逃げていく憲兵隊員に追撃を仕掛けなかった。いや、できなかった。
 そして、銃声が止む。
 おそらくスプリガン到着の報を受け取った憲兵隊の将校が、彼らの戦いの邪魔にならないよう攻撃の中止を下したのだろう。

 ――優はしばらく無言だった。
 優の立つ場所には、たくさんの憲兵隊の死体が転がっている。
 どの死体にも、無念の表情が浮かんでいた。
 彼らにも、家族がいたはずだ。愛するものがいたはずだ。
 もう、彼らがその人々と言葉を交わすことはない。
 彼らの未来のすべては、永遠に絶たれたのだ。
 ――絶対に許せることではなかった。
307ロンギヌスの槍 part.8:2008/12/31(水) 00:01:15 ID:97jDf8Aa0
「遅かったな、スプリガン。しかし、ずいぶんとのろまなんだな、お前達は」
 そう言って、フィーアは立ち上がる。
「てっきり逃げ出したのかと思ったぞ」
「俺達がそんなことするわけねーだろ。それにな……」
 ぎり、と優はフィーアを睨む。
「こんなに人殺しをする奴らを、このまま放っておけるかよ」
「フン。やむをえなかった犠牲だ。大佐の目的の達成、そして第三帝国の復活のためにはな」
「……そうかよ。ならなおさら、放ってはおけねーな。そんな理由で人を殺す、他人の痛みに鈍感なお前らはよ」

 そう言って優は、姿勢をわずかに低くし、一歩前へ踏み込む。
 それは、まるで引き絞られた弓矢のようで、少しのきっかけで爆発的な速度をもって敵の喉元に向けて解き放たれる、
そんな攻撃性を秘めていた。
 そして――

「お前らが好き勝手できるのもここまでだぜ、ナチ野郎!」
「いいだろう、来い! 大佐の障害は、すべて排除する!」

 その宣言と共に――オリハルコンナイフを抜き放った優と、赤い靴を起動させたフィーアが、激突した。
308ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/31(水) 00:02:20 ID:97jDf8Aa0
二日間ほど風邪で寝込んでいました。
いまは体調も回復し(蜂蜜マジパネェ)、もう大丈夫なのですが……ううん、年末のこれ以上の投稿は厳しいかもしれません。
そんな事情と、明日実家に帰省することもあり(実家にはネットもなく周辺にはネカフェもない)、
Part8にはまだ続きがあるのですが、キリのいいところで投稿してみました。
……筆のノリがよければ、明日また投稿できるかも。

>>230さん
……外郭が露になるにしては、遅すぎるという反省もあるのですが……
ともあれ、もう少しで全勢力の激突が始まります。
>>232さん
ジャンと狂信者二人が出会えば、間違いなくその瞬間に戦闘が始まりますw
どっちも血の気が多い人間ですから……
きっと、空気を読んだ優とシエルが話をまとめてくれるでしょう。
>>233さん
今回は顔見せ程度でしたが、優はもちろん、ティアも頑張ってくれます。
漫画版月姫がいま一番入手しやすい、シエルの活躍が知れる資料かと思います。
ゲームの方は、リメイクが決定したとはいえ、何時発売されるのか知れないので……


さいさん
ああー! カレーのシーン書くの忘れてた! な、なんという失態……DUSK読むまで失念していました……
しかし、シエルのかわいいこと。どこにいってもカレー、カレー、カレー。
かと思えば、仕事はきっちりこなす彼女。お答え〜のところには、思わず寒気が……
ブラボーのゆるぎない誓いに、思わずじんわり。
もう戦えない身体になってしまったとしても、彼の信念は変わらないのですね。
ぜひともブラボーには勝ってほしいのですが……あのアンデルセン神父相手じゃ……
それからハインケルと由美江。
……自分のSSではステポテな面を強調しすぎて。さいさんの書く二人がカッコよくて仕方が無いです
309ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/12/31(水) 00:03:20 ID:97jDf8Aa0
ハロイさん
復活! ハロイさん復活! しかも一番読みたかったヴィクティムで、喜びもひとしおです。
レッドの相変わらずの斜に構えた態度が微笑ましいですw
それにしても最後あたりのブラックの言葉……彼の中に潜むホワイトが言わせたのでしょうか。
兄弟を深く想う彼がそんな冷酷なことを言うなんて、信じられなくて……
あと、セピア。まじ鬼引きですね。
彼女には生き残ってほしいのですが……仮にそれが叶ったとしても、本編レッドの最期は確定してるんで、
ハッピーエンドでないのは確実……。

サマサさん
ろ、ロレーヌ……! ROMANの中でもトップクラスに好きな曲です。原曲はもちろんのこと、漫画でも大泣きしました。
そして、海馬の弔いの酒。いつも通りに見えても、確実に海馬は成長してるのですね。彼は堕落と言うのでしょうが。
ARKの歌……勝利を讃えるには、少しまがまがしすぎる気がw というかフラーテル、笑ってる場合じゃないよ!
何からインスピレーションを受けて作詞したの!? まさかクロニカ様がそそのかしたんじゃ……
そして冥王の囁き。……どうかエレフには運命を乗り越えてほしいです。
シエルは一般社会に適応出来る常識をもってますが、以前の彼女は死ねない身体で、教会の人に"どれぐらい耐えられるのか"実験を受けて。
……だからそういった人間の汚い面に対する耐性が出来てしまったんだと思います。だけど芯の部分では、まだ人間性を失ってはいません。

ふら〜りさん
>作品世界が大きく見えて
……そういうことを一切考えずに前回書いてました(ノリだけですべてを書く人間
サマサさんへのお返事でも書きましたが、シエルも凄絶な過去があって、ささいなことには動じない性格になってしまって。
この三人の中では一番常識人なんですけど、やはり、そういった黒い面もあります。
まあその黒い面だけじゃなくて、人間味のある部分もある、……あんな境遇にさらされて、極度に捻じ曲がらないのはすごいと思います。
310作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 02:16:16 ID:WbkJT0A/0
ハシさんお疲れ様でーす
フィーアたちにも仲間と正義があるんでしょうが
民間人を殺傷するのはいけませんな
御神苗のお仕置きタイムが気にかかるところです
311作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 09:38:06 ID:QI90v3qM0
いよいよ主力同士のぶつかりあいか
優には格の違いを見せ付けてほしいものだ
312ふら〜り:2008/12/31(水) 09:51:38 ID:JqDP3xsp0
>>サナダムシさん(外伝さんと並ぶ、「世間不人気・私大人気」キャラの優遇話でしたっっっっ)
完結おつ華麗さまでしたっっ! にしてもゲバル。武器として唾液を使い、現出させたのは
波頭の煌きって、何だかもう「原作以上にゲバルらしい」と言いたくなります。アライもあくまで
アライのまま逸脱せず、一遍のラスボスとして、かつ憎まれ・嫌われ役とはならずに奮戦した
ことにも感激。元々の主役たるシコルが最後に(彼らなりの)日常へと戻してくれての大団円。
激しく騒がしいのに和やかな彼らの超人喜劇、ぜひまた読みたいです。待ってますよっっ!

>>サマサさん
>そう思った。だが実際に取った行動は、
片付けろ! の映像からカメラが下に移動し、今のは海馬のフキダシの中の想像でしたって
流れが脳内に。現状、強く優しい彼と暖かな周囲を見ていると「過酷な運命に翻弄されるエレフ
が、海馬との友情や奴隷たちとの触れ合いで救われる物語」としか思えない……けど……

>>ハシさん(正月を前に回復したのは良かったですね。お大事に) 
>音の壁を突破したフィーアは、憲兵隊の陣地に切り込んだ。
無双かパピヨンパークかって音と映像でした。で阿鼻叫喚豪快血飛沫死屍累々の直後、
ツヴァイのいい上司っぷりに感心、フュンフを加えてのアットホーム空間に和まされたりして。
……が、やっていることは大虐殺だ! とヒーローの登場。緩急テンポが快い展開でした。

>>さてさて
まず、本年も無事にこの日を迎えられたこと、嬉しく思っております。
燃えあり萌えありの名作が揃って読めて、それらについての感想を語り合える場、
私にとって図書館であり喫茶店であり温泉であり即売会場でもある、このスレが
まだまだ元気なことが本当に喜ばしく。
願わくば来年も、今年以上に賑やかになれば良いなと。また私自身もそれに貢献したいなと。

では皆様、よいお年を!
313作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 11:41:33 ID:AKSYsDQN0
外伝さんって確かくたばった人か。懐かしいな


ハシさん乙です。
次回からいよいよバトルモードに入るのですね
御見苗はティアとは違って肉体戦闘が得意なタイプだから
フィーアとの戦闘はギミックに頼らないガチなものになると期待してます
フィーアに御神苗と戦える実力があるかどうかだけどw
314作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 13:34:36 ID:nPqiUsgZ0
>>313
最初の一行余計だわ
315作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 21:18:22 ID:cPU3RV8wO
ここ毒吐きスレって無いの?
316作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 21:37:54 ID:AvmfcY090
317作者の都合により名無しです:2008/12/31(水) 22:06:01 ID:u6dIwwZ70
毒を吐くのはほどほどにな。やり過ぎるといつか必ず自分に返ってくる。

それはさておきふらーりさん今年も乙でした。いいお年を。
318作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 00:34:10 ID:mj0JQSWj0
あけましておめでとう
今年も盛りますように
ハロイさんが本格復帰しますように
319作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 00:36:42 ID:EVABi8k40
あけおめ
いい作品がたくさん読めますように
詰まってるあのSSを何とか完結までこぎつけられますように
不景気でリストラされませんように
お願い、お年玉
320作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 00:47:47 ID:RVYQ5wmA0
あけおめ
最近更新のない方々が戻ってきますように
みんな頑張れますように
321作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 01:01:21 ID:mj0JQSWj0
>>319
銀杏丸さんあけおめ
322邪神?:2009/01/01(木) 04:47:36 ID:dqRFuQdX0
皆様あけでとう。
近況ですが、内定取り消しやら登校日数やらで身動き取れません(;0w0)
プロットだけが進んでは削られ、進んでは削られ……無限回廊に陥ってます。
数ヵ月ぶりのレスがこんなのですいません……。

無事に職につけたら本編に移ろうと思いますので皆様、良いお年を(;0w0)ノシ
323作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 08:56:03 ID:MjJtg8L30
大変だなあ・・。大不況の影響がバキスレにも。
お帰りを待ってますのでご自身の生活を優先して下さい。
324作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 14:53:58 ID:nMJOjLFI0
池■田大■作の本名はソン・テチャク。小泉純一郎、小沢一朗は朝鮮人。
911では小型の水爆が使用されている。
http://ri■ch■ardkosh■im■izu.at.webry.info/
創価の保険金殺人事件。
オウム事件は、統一・創価.北朝鮮の共同犯行である。CIAが監修している。
http://www15.ocn.ne.jp/~oy■ako■don/kok_web■site/ir■iguc■hi.htm
与党も野党もメディアも全部朝鮮人だった。
http://jb■bs.li■vedo■or.jp/b■bs/read.cgi/news/20■92/115794■1306/

2チャン寝るは「■とう■■■一■教■■会■」が 運■■■営して「個人じョうホう」を収集してる。
駅前で「■手■■■相を見せてください」 と「カンユウ」してるのが「■とう■■■一■教■■会■」。(カ■■■ルト宗■教)  
カ■■■ルト宗■教の下にいる人と、上にいる奴を分けて考えないといけない。
下にいる利用される人は上がどんなことをしてるか知らない。

ユダヤ権力の子分→2ちゃん運営=「とう★■■一■教★■★会」上層部=層化上層部=自■民党清■和会=野党の朝■鮮■人ハーフの政治家=
与党の朝■鮮■人ハーフの政治家=金■ 正■■日(キ■ム・ジ■ョンイル )=読売サンケイ=小沢十朗
ユダヤ人=ロックフェラー=ブッシュ=クリントン=ヒラリー=アドルフ・ヒトラー=オサマ・ビンラディン

毎■日■■■新聞スレを荒らしてる奴らも「■とう■■■一■教■■■会■」。
荒らしは洗脳するために「ネトウヨ」などのレッテル付けレスを何千回もする。
現実には「ネトウヨ」などは存在しない。
http://cha■ngi.2ch.net/test/read.cgi/ms/12303■63■385/
325作者の都合により名無しです:2009/01/01(木) 20:01:15 ID:64wxkFdS0
新年一発目は誰かな
年明け早々に次スレいきそうだけど
326女か虎か:2009/01/01(木) 23:59:31 ID:EVABi8k40
"Eenie, Meenie, Minie, Moe
Catch a tiger by the toe
If he hollers let him go
Eenie, meenie, minie, moe."

"My mother told me to pick the very best one
...And you are it!"


「イーニイ・ミーニイ・マイニイ・モウ
 虎の足先をつかまえて
 もしも吼えたら放しておやり
 イーニイ・ミーニイ・マイニイ・モウ」

「一等いいのを選べとの母さまのお言いつけ
 ……あなたに、決ーめた!」
 
           ――Children's Counting Rhyme
             "Eenie, Meenie, Minie, Moe"
327女か虎か:2009/01/02(金) 00:00:13 ID:uWq/2hpL0
7: KILLING MACHINE

 スティックシュガー三本で味付けしたコーヒーを、笛吹直大は一口啜った。
 ここ数日の睡眠時間は、合計で十時間を切っている。珍しいことではないし、特に辛いとも思わない。
凶悪事件発生後の過密スケジュールなど、多忙を極める警察官僚という職を選んだときから折込み済みだ。
 弱音を吐いてはいられない。彼に限らず、犯罪と戦う道を選んだ者全てがそうなのだから。
「……笛吹さん、少し休まれてはいかがですか」
 それでも心配してくれる部下がいる分だけ、自分は恵まれていると思う。
 書類を睨みながら、コーヒーを一気に飲み干す。空になった紙コップを握り潰し、笛吹は部下を眺めやった。
「お前こそ休んだらどうだ筑紫。この三日間一度も帰宅してないだろう」
「いえ、自分は問題ありません。どうせ自宅に帰ったところで、トレーニングメニューをこなして
 ヨーグルトを食べて眠るだけです。それに自分には柔道で培った体力がありますから」
 身長一八五センチの長身。しかもただ背が高いだけでなく厚みがある。鍛え上げた体をダークスーツに
包み、超過勤務にも疲労ひとつ滲ませず背筋を伸ばした様は、警視庁のキャリア組というより政府要人の
SPのたたずまいだ。
 しかし、全く疲れを感じていないはずはなかった。
 自らも過酷なスケジュールの中にあって、なお向けてくれる純粋な気遣いはありがたい。意地と恥とに
阻まれて、未だ口に出して礼を言ったことはないが。
「しばらく仮眠をとられてはいかがです。その間のことは自分が責任を持って代行します」
「いや、今はいい」
 笛吹にあっさり切り捨てられても、筑紫は引き下がらなかった。
「睡眠が不足すれば、緊急時の判断も鈍ります。長い目で見れば……」
「分かっている。切りのいいところで時間を見つけて眠るさ。だが少なくとも今のところは、やるべきことも
 決定すべきことも山積みだからな」
 処理中の書類の束の縁をトントンと叩いてみせる。
「それに、マスコミ連中にも目を光らせておかければならん。確証を得られていない情報を嗅ぎつけられて
 バラ撒かれて、市民の不安を不必要に煽られてはたまらんからな」
 書類のページをめくる笛吹。蟻のような字は裏面にもずらりと並んでいる。
 しばらくお互い何も言わず、自分の仕事に没頭している。
328女か虎か:2009/01/02(金) 00:03:20 ID:jltRrJ6V0
 処理中の書類に承認印を押すまで、十分近い時間がかかった。次の書類束に手をかける前に、笛吹は呟く
ように部下の名を呼んだ。
「筑紫」
「はい」
 大学時代からの後輩は即座に答える。
「確かお前、通勤には車を使っていたな?」
「はい。交通状態にもよりますが三十分ほどかかります。それが何か……」
「私も車だ」
 BMWのMINI。購入から数年が経つが、大きな傷がつくこともなくよく働いてくれている。
 笛吹は書類から顔を上げない。わざわざ上げて見るまでもなく、筑紫の表情なら想像できた。こんな時に
何を言うのかという疑問と、この上司が無意味なことを口にするはずがないという信頼が複雑に入り混じった顔だ。
「距離はそうでもないんだが、駅から少し離れているんでな。草や木や花に優しくないとは分かっているが、
 やはり便利な方に頼ってしまう」
「……………」
「それでもたまに、そうだな二、三ヶ月に一度程度は、駅まで歩いて電車を使うことにしているんだ」
 言いながら、腰掛けた椅子に背を預けた。
「本庁と自宅を車で往復するだけの生活を続けていると、たまに自分が何のために働いているか分からなく
 なる。笹塚のような現場の人間ならそんなこともないんだろうが、私たちは上から全体を見なければならん
 立場だからな」
 書類の上だけで事件が起こっているかのような錯覚を、振り払うために笛吹は駅まで歩く。切符を買って
満員電車に乗り、スーツや学生服の群れに揉みくちゃにされながら桜田門へと向かう。
「家を出てしばらく行くと、花壇にパンジーを植えている家があるんだ。七十過ぎくらいの老婦人が手入れ
 をしていてな、私が通りかかると頭を下げて『おはようございます』と言ってくれる。運がよければ
 小学生の孫が、『行ってきます』と声を張り上げているのに出くわすこともある。もっと行くと二十四時間
 営業のスーパーがあって、警備員が眠そうな目をしょぼつかせながら立っている。挨拶すると慌てたように敬礼の
 ポーズをとる。……たまに駅の構内で酔っ払いが寝ていたり、売店の店員が立ち読みする学生に小言を言っていたりもする」
 これこそが、自分が守って生きていこうと志したものなのだと、気を引き締めるために自分で自分に課している儀式だった。
「この虐殺事件が起こってから、私もほとんど家には帰ってないが……こういう事件が立て続けに起こると、
 あの風景に亀裂が入ってないかと不安になる」
329女か虎か:2009/01/02(金) 00:06:34 ID:jltRrJ6V0
 いや、亀裂などとっくに入っているだろう。都内の住宅街から人が消えたと、マスコミはこぞって報道している。
 家に篭もって息をひそめたところで生存率が上がるわけでもないが、自分が築いた砦にこもることで、少しでも心の平穏を得ようと
願うのは自然な感情と思われた。
 往来を通る人影もまばら。いても足早に歩き最低限の用事だけを済ませて自宅に戻る。小中学校も休校になっている。
 世間で何が起ころうと食い扶持を稼がなければならない人々は、皆一様に硬い面持ちで満員電車に身を預ける。
 日常の薄皮一枚剥いだところに、血なまぐさい死が口を開けているかもしれないと怯えながら。
「そう思うと、焦りと憤りを感じずにはいられんのだ。多くの人命のみならず、平和な日常まで理不尽に奪っていく『奴』にな」
 息をついて笛吹は額を押さえた。
「……すまんな。つまらんことを言った」
「いえ、警察官として忘れてはならない感情だと思います」
 筑紫は首を振る。
「捕えましょう、奴を。必ず」
「ああ」
 部下の力強い言葉に、笛吹は深い頷きを返した。



「東京都民が何百何千人喰い殺されようが、ブッちゃけ俺どうでもいいんだけどさあ」
 三十七インチのディスプレイにニュース映像が映る。
 ここ数日、決まってトップは『謎の連続大量虐殺事件』。ほぼ一日二日に一度の割合で新たな被害が
生じ、壊滅した地区は既に五つを数えている。
 手入れ中の散弾銃を弄ぶ手を止め、サイは画面を横目で見やった。
「ここまでド派手にやられると、追っかけてるこっちとしてはやりにくいよね。変に世間の注目が集まっちゃってさ」
 画面では、ガリ版刷りの文集の文面が大写しになっていた。犠牲者の一人である女子中学生の作文だ。
『エステティシャンになりたい』という少女の初々しい夢は、≪我鬼≫の凶悪な顎で喰いちぎられて
終わりを告げた。
 報道は被害の深刻さを切々と訴え、警察による捜査の遅れを糾弾する。それ以外に視聴者を引きつける
ネタがないからだ。しかしそれもこう連日連夜続くとマンネリ感が否めなくなってくる。通り一遍の
番組構成から、制作陣の焦れが伝わってくるかのようだった。
330女か虎か:2009/01/02(金) 00:09:54 ID:jltRrJ6V0
「物証は嫌ってほど残ってるから、虎の仕業だってことくらいとっくに分かってるだろうだけど……
 確証がとれるまで伏せておくことにしたのかな。あとあと不祥事とかそんな話になって叩かれたら
 笑えるよね」
「警察にはもう、手を回してあるんじゃなかったんですか?」
 問いかけたのは葛西である。
 こちらの手の中には火炎放射器。袖に仕込んで火を生み出し操る、彼にとっては己の分身のごとき得物だ。
「捜査の情報だって入ってくるでしょうに……相変わらずその辺はあの女任せですか」
 言葉の後半にちらつく揶揄するような響きに、サイは唇を尖らせた。
「適材適所って奴だよ。アイのほうがそういう面倒臭いの得意だから全面的に任せてるだけさ。必要なことなら
 俺に報告してくるし、不要なことばっかりなら何も言わない。今までそうやってやってきたんだ。何か
 文句でもあるの?」
「いえ滅相もない」
 肩のあたりまで両手を上げ、『お手上げ』のジェスチャーを示してみせる葛西。
「把握できることはご自分で把握しておいたほうがいいんじゃないかって、ご注進申し上げてるだけですよ。
 アイは確かに何でもできる女ですが、だからってあの女一人になんもかんも投げっぱなしにするのは
 いただけませんぜって話をしてるんです」
 ふん、とサイは鼻を鳴らした。
 その目元には、自分のルールに踏み込まれた不快感が色濃く滲んでいる。
「ご注進ね、そりゃまたどうも。ありがた過ぎて涙が出るよ。お礼に至近距離からのショットガン、
 ドドンと一発お見舞いしてあげようか?」
 うげっ、と葛西の口から悲鳴が漏れた。
「け、結構です。すいません黙ります、黙りますから俺に向けるのは勘弁して下さい」
 脂汗を垂れ流す放火魔の脳天から狙いを外し、サイは散弾銃を膝の上に置いた。
 加藤清正は槍一本で虎に立ち向かったというが、ここで安土桃山の武将を気取る趣味は彼にはない。
 弾丸一発で二十二口径数十発分に匹敵するこの兵器は、槍の代わりというには凶悪すぎる代物だ。
「……随分とアイを信頼してる様子ですが」
 黙ると確かに誓ったはずが、銃口が逸れるや否や葛西はまた口を開いた。
「これに限らず、あの女に任せっきりにしすぎるとロクなことはねえと思いますよ」
「うるさいよ葛西」
 低い声での警告に、しかし今度の葛西は怯まなかった。声音の調子を変えずに続ける。
331女か虎か:2009/01/02(金) 00:12:13 ID:jltRrJ6V0
「あの女が常にあなたの思い通りに動いてくれるとは限らねぇでしょう。抜きん出てはいたって所詮は人間、
 判断違いや心得違いだってないたぁ言い切れない。それに……」
「うるさいって言ってるだろ」
 睨む目つきに単に鬱陶しがる以上の色が加わったことに、小利口なこの男が気づかなかったはずはない。
 だが両端に皺の寄った口は、自己保身よりも言論の自由を選んだ。いつもの皮肉めいた口調で葛西は付け加えた。
「忠義ヅラしちゃいますがあの女だって、裏で何考えてるか分かったもんじゃありませんぜ?
 あまり気を許しすぎるのもどうかと思いますがね――」
 そこまでだった。
 銃ではなく、サイ自身の手が風を切った。
 中年男の張りを失いはじめた頬が、パックリと割けて血のしずくをしたたらせた。
 葛西が口をつぐむのを待ち、サイは法廷に立つ裁判官のように宣告した。
「次は顔じゃなく頚動脈を狙うよ」
 効果は覿面だった。
 帽子と頬に開いた傷とを押さえ、葛西は小さく頭を下げた。
 顔をそむけたサイは、視線のやり場を求めてニュース画面に目を向ける。虐殺事件への言及は終わり、
話題は十代の母親が娘を折檻死させた事件に移っている。
 顔をモザイクで覆われた近所の人間が、『まさかあの人が(略)』などとコメントしている様子は、
サイの頭にはまるで入ってこないどうでもいい情報だった。

332女か虎か:2009/01/02(金) 00:15:38 ID:jltRrJ6V0
『なあアイ、本当にこれでよかったのか?』
 携帯電話の通話口から漏れた蛭の声は、ひどく自信なさげで頼りなかった。
 珍しい。そう思った次の瞬間、今は使われなくなった彼のかつての渾名を思い出す。字は本名の『依』の
ままで、読み方のみ『よる』。理由は大人しく従順で印象が暗いため。
 サイに仕えていると目にする機会はあまりないが、そちらも確かに彼の本質ではあるのだろう。かつての
いじめられっ子、田舎育ちの気弱で純朴な青年。それらは犯罪者としての彼の傾向とは決して矛盾せず、
奇妙な共存関係を築いている。
「何を今更。サイに報告する前に私に相談してきたのはあなたではありませんか」
『それはそうなんだけど』
 ふうっと細い息を吐くのが聞こえる。
『わざわざ隠しておく必要までは、別にないと俺は思うんだよ。伝えるの自体は慎重にするべきだと思ったから、
 最初にあんたに報告したけど……あの人なら最初は動揺しても、最終的には何とか乗り越えられると思う。
 だから……』
「それについては私も同感ですが」
 と、アイの返答。
「この件に関しては話が別です。今この局面で≪我鬼≫を捕らえられなければ意味がありません」
『いや、でもさ』
「責任は全て私が負います」
 蛭の迷いをアイはあっさり切り捨てた。
「あなたが気にする必要などありません。それより今は与えられた仕事に専念してください。思索なら
 また後でいくらでも可能です。私がそちらを空けている間、葛西が妙な真似をしないよう目を光らせて
 いただかなければなりませんし」
『……相変わらず何があっても揺れないよな』
 蛭が苦笑する気配。
『俺にはとても無理だよ。何食って育ったらあんたみたいな女ができあがるんだろうな。誓ってもいいけどあんた、
 サイよりよっぽど人間離れしてるよ』
「蛭、ですからそのようないつでもできる話は」
『分かってる、分かってるったら。いい加減もう仕事に戻る。画像解析の出力待ちがいくつか残ってるんだ。
 じゃあな、切るよ』
333女か虎か:2009/01/02(金) 00:18:57 ID:jltRrJ6V0
 通話が途切れても、アイは耳に押し当てた携帯を離さなかった。靴の底をアスファルトの地面にぴたりと
つけて、微動だにせず夕闇の中に立ったままでいた。冬の冷たい風が頬を叩いても、長い髪の先が浚われて
相絡んでも、そのままの姿勢でいた。

 冷徹さを皮肉られるのは慣れている。人形のような無表情も、悔悟も慙愧も忘れた氷のごとき心も、
手足の伸びきらぬ少女の頃から時に揶揄され時に恐れられてきた。
 蛭に今更何を言われたところでどうということもない。そうなのか、と思うだけだ。
 生まれ持った天性の素質なのか、幼少期に受けた歪んだ教育によるのかは不明である。ただ自我を確立し
己を客観的に見るようになる頃にはもう、波ひとつ立たぬ凝固しきった心が胸に巣食っていた。
 人によっては、それに気づいた時点で悩み、煩悶し、自分自身を変えていこうと試みたかもしれない。
 だがアイはそうしなかった。むしろ好都合と感じ率先して利用した。
 かぐわしい香りの紅茶を一杯飲んでも、何百もの罪なき人々を死に追いやるスイッチを押しても
同じように揺らぎを見せぬ精神は、腐った祖国の急先鋒としてテロルを行う身にはひとつの財産だった。
他ならぬその財産が、殺人機械としての彼女の名を比類ないものへと押し上げたのだ。

 祖国を捨て、名を捨て、サイの元で彼に仕えることになった今でも、その財産は大いに役立っている。
 罪悪感など覚えない。
 殺戮を運ぶ怪盗を侵入させる手口を考案し、最も効率的に破壊を撒き散らす計画を練り、全てが終われば
屍折り重なる現場から自分たちの痕跡だけを消しつくす。何もかも全て、呼吸するのと同じくらい自然にこなせる。
 己の正体を知るというサイの目的のために。
 彼を通して人間の可能性と限界を確かめるという、アイ自身の目的のために。
 それらを達するために必要なら、どんなことでも厭わないつもりだった。

『人間離れしてるよ』

 蛭の目から見てそう映っているのなら、そうなのだろう。
 それでもいい。
 人間の可能性を求める過程で人間から離れていくというのも、考えようによっては一つの因果だ。
 甘んじて受け入れよう。欲する答えを手に入れるために、それが欠けてはならないものだというのなら。
334女か虎か:2009/01/02(金) 00:21:37 ID:jltRrJ6V0
 アイは思考をそこで中断した。
 耳から離した携帯を折り畳み、細い首を動かして背後を振り返る。
 現れた待ち人に労いの言葉をかけた。
「二度目のお呼び立てに応じてくださり、ありがとうございます」
 並んで立つのは長身の影二つ。
 葛西より少々若い程度のスーツ姿の男と、繁華街にでもいそうなカジュアルな風体の若者。
 服装だけを見れば同じ場所で見るのに違和感を覚えるはずの組み合わせ。だが何故だかしっくり来てしまうのは、
そこはかとなく似通った独特の匂いのためだろう。
 律儀に頭を下げるアイにスーツの男が――早坂久宜が鼻を鳴らした。
「随分と礼儀正しいことだな。おまえの主人の流儀か、それともあの国の犬だった頃に仕込まれたのか?」
「自前です」
 静けさそのもののような声でアイは答える。
 長話をする気はなかった。やらねばならないことは山ほどあるのだ。これにばかり時間を費やしてはいられない。
「お二人に、例の『虎』の一件について新たにお願いしたいことと……ご報告申し上げたいことがございます」
 硬質な声音は、どこか合成音声に似ていた。



 すばらしく居心地のいい環境だ。
 ≪我鬼≫は喜びの唸り声をあげた。
 生い茂る木々。彼の巨大な肢体を浸すに足るだけの、大量の冷たい水。少々狭苦しいのが気に食わないが、
伸び放題の草木が生み出す濃い翳りは、彼が長い年月を過ごした故郷を思わせた。
 彼は水浴びが好きだった。他のどんな生き物にも邪魔されず、ゆったりとたたえられた水面に身を任せる
時間を愛していた。とりわけ獲物で腹を満たしたあと、何もかもを忘れて水中でまどろむ時間は何ものにも換えがたかった。
 腹を満たすのに長い長い距離を移動しなければならなかった彼の故郷とは違い、海をわたって連れて来られた
この地には獲物がそこら中に溢れている。襲おうと思えばいくらでも襲える。しかも獲物たちの反応速度は
鈍く、狙えば百発百中で頚椎を砕き、完全に息の根を止めることができる。しかし一方でどこに行っても
騒がしく、身を落ち着ける場所が見つからないことに辟易してもいた。
 ここなら煩わされる心配はあるまい。
 風が木々を鳴らす音に耳を傾けつつ、日がな一日水浴びをして過ごし、空腹を覚えたときだけ
狩りに出て行けばいいのだ。
 飼われた猫のように≪我鬼≫は喉を鳴らした。葉の枯れ落ちた枝々の隙間を風が吹き抜けていった。
335電車魚 ◆LNiBLKfrIY :2009/01/02(金) 00:23:34 ID:jltRrJ6V0
今回の投下は以上です。
あけましておめでとうございます。
昨年は新参の私を快く受け入れてくださり誠にありがとうございました。
2009年のバキスレの繁栄を祈ります。

SSの方は今回から起承転結の承に入ります。
といっても、今回の7と次回の8は準備段階と人物描写がメインですが……

帰省先からの投下のためあまり時間を割けませんので、
しけい荘完結のお祝いを始めとした感想その他はまたの機会とさせていただきたく。
それでは。
336作者の都合により名無しです:2009/01/02(金) 01:26:26 ID:nsBv0rsm0
あけましておめでとうございます電車魚さん
いよいよ警察サイドの人員もそろって三つ巴っぽい陣容ですね。
我鬼が主役なんですよね、このSS。
獣の分際でこの面子を敵に回して一歩も引かないとは凄い虎だ
337作者の都合により名無しです:2009/01/02(金) 10:10:34 ID:BlysUuqi0
アイはどんな時でも冷徹冷静でカッコいいなあ
だけど僅かに見せる理性や感情の揺らぎをこのSSでも見たいものだ
やはりタイトル通り最終的に我鬼を倒すのはアイなのだろうか
338作者の都合により名無しです:2009/01/02(金) 16:51:34 ID:0zVeGx2B0
アイはアカギ並みの揺れない心の持ち主だな
つくづく原作はよいキャラを殺したもんだ
339作者の都合により名無しです:2009/01/04(日) 23:39:21 ID:dhyLsZRP0
うーん新年休みは電車魚さんだけか
340遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/06(火) 09:27:40 ID:Javht6Ys0
番外編・良い子のためのカード紹介A

遊戯「バキスレの皆、新年あけましておめでとう!」
闇遊戯「オレ達はまだまだ大変な状況だが、新年くらいは本編を休んで二度目のカード紹介といくぜ!」
海馬「ククク…相変わらず甘いな。我々誇り高き決闘者には、正月も新年もない!それにも気付かずに貴様らは
   こうして大騒ぎしているというわけだ…実にめでたい奴らよ、正月だけにな。ワハハハハ!」
エレフ「そうだ。アルカディアを滅ぼさねば、私達には穏やかな正月など訪れはせぬ!来年こそは見事に奴らを
    打ち倒し、ミーシャとの楽しい正月を過ごすのだ!」
城之内「またコイツらは…とにかく今年もキバッていくぜ!応援よろしくな!」
オリオン「さて、今回はどんなカードを紹介してくれるんだ?」
ミーシャ「この間はモンスター達についてだったから、今回は魔法や罠カードについて知りたいわね」
闇遊戯「OK。ならまずは魔法カードの紹介だ。最初は<増殖>のカード!」
城之内「<クリボー>とのコンボで敵の攻撃を防ぐのは、遊戯の十八番だな」
海馬(ク…!忌々しい記憶が蘇る…!雑魚モンスターの分際で、ワラワラ群れてはやかましくクリクリ鳴いて、
    オレの邪魔をするのだ…おのれぇ…!)
エレフ(海馬が鬼のような顔をしている…そっとしておこう)
遊戯「それ以外にも、増やしたモンスターを強力カードを使うための生贄にしたりと、使い道は様々だよ」
ミーシャ「増えたと思ったら生贄で墓地送り…彼らは何のために生まれたのかしら。可哀想に…」
オリオン「お前が言うとシャレになんねえよ…ほら、暗くなってないで次だ次!」


闇遊戯「<マジカル・シルクハット>!マジシャンが扱うことで、トリッキーな闘いを展開できるぜ!」
遊戯「シルクハットの中に隠れて敵の攻撃をやり過ごしたり、中に罠を仕掛けておいたりね」
海馬「フン、下らん!さっきから雑魚モンスターを増やしたりコソコソ隠れたりと、遊戯!貴様は余程小細工が
   好きなようだな!そんなザマでは、到底オレは倒せんぞ!ワハハハハ!」
城之内「お前、遊戯に一回も勝てたことねえだろうが…」
オリオン「それでこの態度かよ。この自信はどっからくるんだろうな…」
エレフ「それが海馬のいいところなのだろう…多分」
海馬「やかましいわ、外野め!次は<融合>のカードだ!」
ミーシャ「その名の通り、モンスター同士が融合することによって新しい存在が生まれるわ」
オリオン「かくいうお前も<BMG(ブラック・マジシャン・ガール)>と融合したよな」
341遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/06(火) 09:28:45 ID:Javht6Ys0
城之内「色っぽくも痛々しい格好だったぜ…」
エレフ「何だと!?ミーシャにそんな辱めを…許せん!何故私もその場に呼んでくれなかった!?」
遊戯「そこに怒るんだ…」
海馬「バカバカしい!そんなものが融合と言えるか!」
闇遊戯「ともかく、様々な組み合わせで多種多様なモンスターが生まれるこのカードはデュエルモンスターズ
    においてもかなり重要な要素になっているぜ。皆も色々試してみな!」
オリオン「これで魔法カードは大体分かったから、次は罠(トラップ)カードだな」
遊戯「相手を妨害する効果が主だね。上手く決まれば、これで流れが一気に変わることもあるよ!」


城之内「まずはオレのカード<悪魔のサイコロ>だ!このカードは小悪魔がサイコロを振り、出た目に従い相手
    の攻撃力を下げるぜ!」
エレフ「悪くとも半分、最大で6分の1にまで攻撃力が激減する。中々嫌らしい効果だな」
闇遊戯「しかし運悪く1の目が出てしまうと全くの無駄となってしまう、ギャンブル性の高いカードでもあるな」
オリオン「つーか城之内、お前のデッキそんなカードばっか入ってるよな…幸薄そうな顔してるのに」
城之内「うるせえ!」
遊戯「ケンカはやめようよ、二人とも。次は<六芒星の呪縛>!攻撃してきたが最後、見動きを封じられた上に
   攻撃力も下げられてしまうんだ」
ミーシャ「まさしく<罠!>ってイメージ通りのカードね」
城之内「こいつも遊戯の得意技だな。強力モンスターだけに頼らず、多彩なカードを使いこなすセンスが遊戯の
    強さの秘訣だぜ」
闇遊戯「最後は<聖なるバリア・ミラーフォース>。数ある罠カードの中でも、群を抜いて強力なカードだぜ」
エレフ「あらゆる攻撃をそのまま跳ね返すバリアか…攻撃力の高いモンスターを筆頭に多くのモンスターを展開
    し、調子付いていたらこれで全滅。そんな醜態は晒したくないところだ」
遊戯「羽蛾くんが頭に浮かんだよ…」
オリオン「誰だよ、それ…まあいいや。お次はやっぱりこのゲームの花形、モンスターの紹介といこうぜ!」
城之内「さーて、最初のモンスターは…おっ!いきなり超有名カードだぜ!」
342遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/06(火) 09:29:33 ID:Javht6Ys0


闇遊戯「<ブラック・マジシャン>!最上級魔術師の称号を持つ、オレの最も信頼するカードさ」
遊戯「単純な強さでは神のカードが上だけど、もう一人のボクといえば、やっぱりこれが代名詞だよね」
ミーシャ「お弟子さんの<BMG>と同じく、魔法や罠を駆使した闘いが得意なのよね」
城之内「専用のサポートカードも充実。流石は主人公の切り札ってカンジだな」
エレフ「攻撃力も2500と申し分ない数値だ。真っ向勝負でもそこらのカードに決して力負けはしないぞ」
オリオン「しかも弟子はカワイコちゃん!羨ましいぜ!」
城之内「お前は結局それかよ…しかし、こうして見ても海馬と遊戯はホントに対照的だよな」
エレフ「誰にも頼ることなく孤高に突き進む海馬と、友との結束や絆を力に変える遊戯か…そんな二人が幾度に
    渡って闘うのもまた、運命なのかもしれんな」
ミーシャ「一枚でも圧倒的に強い<青眼の白龍>と、カードとの連携で本領発揮の<ブラック・マジシャン>。
     この辺りも二人の性格をよく表してるわね」
遊戯「海馬くんも、もっと誰かと力を合わせることを分かってくれたらいいんだけど…」
闇遊戯「そうだな…ん?その海馬はどこに行ったんだ?」
城之内「そういや、さっきから見ねえな」
オリオン「あんなの放っておこうぜ。じゃあ次のカードは…」
???「ワハハハハ!次のカードはこのオレが直々に紹介してやろう!」
ミーシャ「こ…この…声は…!?」
343遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/06(火) 09:30:44 ID:Javht6Ys0


海馬?「このカードは<正義の味方・カイバーマン>!そしてオレはその精霊であるカイバーマンだ!ここから
     オレが仕切ってやるからありがたく思え!」
闇遊戯「海馬…お前って奴は…」
遊戯「なぁに、これぇ…」
城之内「そんな気色の悪い精霊がいるか!」
エレフ「…海馬…(絶句)」
ミーシャ「この人は何をやっているのかしら…気持ち悪い…」
オリオン「…生きてるの楽しそうだな、お前」
海馬?「フン。何か勘違いしているようだがオレはカイバーマンであって海馬ではない!能力は<青眼の白龍>
     の瞬時召喚だ。フィールド上のオレを生贄にすることによって、ブルーアイズを一瞬にして呼び出すこと
     が可能となる。相手にしてみればまさに悪夢の光景と言えよう。ワハハハハハ!」
ミーシャ「だけど、攻撃力は200ね…」
海馬?「ワハハ…」
エレフ「クリボーにも負けるのか…効果以外は只の雑魚にすぎんな」
海馬?「ハ…」
城之内「正義の味方を謳っといて、ショボいな」
遊戯「城之内くん、いくら本当のことでもそんなこと言っちゃダメだよ!」
オリオン「そうだ!真実は人を傷つけるモンなんだぜ!」
闇遊戯「嘘でもいいから、彼は立派なヒーローだと言ってやれ!」
海馬?「お…おのれ…おのれぇぇぇぇぇぇ!このオレにこのような屈辱を与えるとは…許さんぞ、貴様ら!ならば
     見るがいい!我が究極の竜の姿を!」
闇遊戯「!?この威圧感は―――まさか、あのカードを使うつもりか!」
344遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2009/01/06(火) 09:31:34 ID:Javht6Ys0


海馬?「ワハハハハ―――見よ、虫けら共!これぞ<青眼究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)>!
    最強にして無敵のブルーアイズ、その三体融合により生まれた殺戮モンスターだ!」
闇遊戯「三つの首全てが4500もの攻撃力を持つため、一度に三回の攻撃が可能!しかも全ての首が潰れるまでは
     その歩みを止めることは不可能!神にすら匹敵する超強力モンスターだ…!」
オリオン「強さといい姿といい、なんかキン○ギドラみたいだぜ…」
城之内「なんでお前がキングギ○ラ知ってんだよ…なんてツッコミは置いといて、とんでもねーカードなのは確か
     だぜ。デカくて数が多けりゃ強い。単純だが、その通りだ」
エレフ「小賢しい仕掛けなど一切なし、圧倒的な力で全てを粉砕するその姿はまさに海馬を象徴するようだな」
海馬?「流石はエレフ、分かっているではないか。ワハハハハ!」
ミーシャ(この人、自分が海馬だって認めちゃったわね…)
城之内「しかし、このカードを使って海馬が勝ったところ、見たことねーな」
遊戯「あ、ボクもない」
海馬?「ワハハ…」
オリオン「むしろ、これを出したら負けフラグのような気が…」
海馬?「ハ…」
エレフ「過ぎたるは及ばざるが如し…その強さ故に、慢心してしまうのかもしれんな。そこを突かれて思わぬ
    反撃を喰らうと、意外に脆い。ほんの小さな穴で、巨大な城が崩壊するように…」
海馬?「…………む!?いかん!何処かで誰かが助けを求めている!ではサラバだ!」
ミーシャ「逃げたわね…」
闇遊戯「皆、ああいう大人になっちゃダメだぜ…」

遊戯「じゃあ、カード紹介コーナー第二回もそろそろお開きだね」
闇遊戯「この勢いのまま、第三回もやりたいところだな」
城之内「おう!これからもジャンジャン新しいカードが出るから、楽しみにしてくれよ!」
海馬「フン、オレが野暮用を済ませている間に今回は終わりか。そうそう、そこで謎のヒーローとすれ違ったぞ。
   あの威厳に満ち溢れた風貌、さぞや名のある男に違いあるまい」
オリオン「お前…どの口でそんなことを言えるんだ?」
エレフ「そっとしておいてやれ、オリオン…」
ミーシャ「そ、それでは皆さん、改めて挨拶を!新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくね!」
345サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/06(火) 09:52:59 ID:eV8fXT0c0
投下完了、新年明けましておめでとうございます。今年もバキスレが賑わいますように。
あと、サイコーとシュージンはどうでもいいけど服部さんが出世しますように。剣八隊長が活躍しますように。

今気付いたけど、キサラさんの髪を真ん中分けにして紫のメッシュとカラコン入れたら、ミーシャに
なるんじゃね?ならないかなあ…。

今回は本編お休みして、軽い気持ちでカード紹介第二回…のはずだったのが、本編書くより疲れた…。

>>289 新年も頑張りますよー。
>>サナダムシさん
しけい荘シリーズ大好きなので、これで終わりのはずないと信じております。新たなシリーズではシコルスキー
がもっともーっと大活躍(色んな意味で)するのを期待。ひとまず完結お疲れ様です。

>>297 逆に言えば社長は万能だからこそ、ゲームだけに特化した遊戯には勝てないんじゃないでしょうか。
>>298 そろそろ中盤の山場ですね。遊戯一行VS社長が一つの節目になりそうです。
>>ハシさん
魅力的な人物による容赦のない大虐殺シーンは、絵になるけれどえげつない…
>どの死体にも、無念の表情が浮かんでいた。彼らにも、家族がいたはずだ。愛するものがいたはずだ。
これ、マジでその通りなんだろうな…Moira的にいうと<彼らにも物語があった>けど、<変わり果てた彼らに
接吻するものは愛する人ではなく餓えた禿鷹>のみ…悲しい。
漫画版ロレーヌはいい…特にロレーヌさんが巨にゅ(自重)そして「見えざる腕」で、金ロラの心を癒したのが
彼女の葡萄酒だったというのがまさに<僕達が繋がるRoman(物語)>。
フラーテルはもう、平行世界の彼の記憶が流れ込んできたということで(違う)。エレフはまあ…頑張れ、お兄ちゃん(泣)
シエルの境遇まじパねぇ…それである程度は常識を保っているのもすごい。社長でさえ義父の虐待に心を捻じ曲げた
というに…まあ、マイクラ後でもアレというのを考えれば、彼は元々ああいう素質の持ち主だったのかもしれませんが…。
346サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/06(火) 09:57:45 ID:eV8fXT0c0
>>ふら〜りさん
原作初期の海馬なら、もっと酷い言葉で罵っていたことでしょう…5巻までの彼は、まさしく
「吐き気を催す邪悪」そのものですからね。
エレフは最終的には救われるように書くつもりですが、一度ドン底まで堕ちます。辛いことに…。

>>電車魚さん
あーよかった!警官の皆さんが殺されなくてよかった…と思ってたら、二人の最後の事件とか…
最近のネウロの展開はマジ読めねえ!
このSSで火火火のおじさんが元気でいてくれることが僕の癒しです。だけど、サイと付き合いを持つ
のって、本気で大変だろうな…早坂兄弟の活躍にも期待。
そして、<我鬼>。
恐ろしい生物なのに、思考が人間的でなんか可愛い気もしてきた…絶対会いたくはないですが。
347作者の都合により名無しです:2009/01/06(火) 18:16:23 ID:SUv9Q6gr0
サマサさんは番外編好きだなあw
こういうキャラの違った一面が見えるよい意味でのお遊び感覚のSSは
好きなんでまた是非w
348作者の都合により名無しです:2009/01/06(火) 21:42:53 ID:DBUUKCvF0
あけましておめでとうぎざいますサマサさん。

ブラック・マジシャンは正直、それほど強いとは思えないカードだけど
発展性があって何より遊戯といえばこのカードですね。
ブルーアイズも社長の代名詞か。
でも番外編でもやはり目立つのは社長だなあ。
349ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:28:42 ID:VzB1Cqeh0
「もうフィーアったら、あんなに大きな声を出すんだもの、耳がきんきんするわ。お茶が飲みたいなら、素直にそう言えばいいのに。
 そういえばフィーアは、よくコーヒーを飲みたがるんだけど、あんな苦いだけの泥水のどこがいいのかしら。
 きっと背伸びしたい年頃なのね。まあ、そういうところが可愛いんだけど」

 通話を切ったフュンフは、まずそう切り出した。
 彼女の目の前には、豪華なティーセットが並んでいる。茶葉のバリエーションに隙はなく、あらゆるオーダーに対応できる品揃えだ。
専門店でもこうはいくまい。これらはすべて、フュンフの影から取り出されている。

 フュンフの影――それは現実と異界とを繋ぐ門だ。迷い子アリスが通り抜けた、不思議の国へと通じる井戸によく似ている。
 しかし両者の相違点は、それを潜り抜けた先には、気が狂いかねないほどの恐怖と悪夢が待ち構えている、ということだ。

 その異界の門からは、過度に滑稽さや残虐さを強調された、見るものに恐怖を喚起せずにはいられない童話の住人達が這い出てくる。
 彼らは悪夢の尖兵として、主であるフュンフの障害を蹴散らす。
 先程も憲兵隊を相手に戦闘を行っていて、人間達を蹂躙をしていたが、お茶会が開かれ役目を終えたいまは、フュンフの中に還り、
影も形もない。
 そう、お茶会――

「ねえ、あなたはどう? コーヒーか紅茶、わたしは断然後者なんだけど、どっちが好みなの? ――魔女さんは」
 フュンフの視線の先には――ティア・フラットが椅子に腰掛け、カップを口に運んでいた。
「うーん、いまなら、紅茶の方に軍配が上がるわね。あなたの淹れた紅茶、とっても美味しいんだもの。でも、コーヒーもそう捨てたもの
じゃないわ」
「ええー、だってコーヒーって真っ黒で、なんだか華がないのよね」 
「でもあなたがさっき話してた子――フィーアちゃんだったかしら?――のことが好きなら、コーヒーの上手な淹れ方も学んだほうが
いいんじゃない?」
「べ、べつに好きじゃないわ」
「そう? さっき電話してた時のあなた、とっても楽しそうに見えたけど」
「そんなことないもん」
「意地を張ると疲れるわよ。年長者の言うことは聞いたほうがいいわ」
「そういうありがたいお言葉に耳を貸すだけの分別があったなら、アリスは井戸の底に落っこちなかったわ。
アリスは愚かだからアリスなのよ」
350ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:30:35 ID:VzB1Cqeh0
 と、ティアとフュンフは言葉をかわす。
 嬉々として語らう二人の様子には、親愛の情すら感じ取れる。
 だが、彼女らの関係は、長年の友人であるとか、永遠の絆で結ばれた二人であるとか、そういったものでは断じてない。
 スプリガンと御伽噺部隊――出会ったその瞬間から戦闘が始まってもおかしくはない、仇敵同士だ。
 そんな彼女らが、和やかに会話に花を咲かせている。まさにマッド・ティー・パーティにふさわしい、奇妙な会話、奇妙なお茶会だった。


 それで割を食っているのはゼクスだ。
 ……どうにも居心地が悪い。彼女は、会話に参加するのでもなく、それに異議を唱えるのでもなく、無言で紅茶を飲んでいた。

 ゼクスとフュンフは、あらかじめ決められた作戦に従い、憲兵隊施設を攻撃していた。その途中で――まだ掃討が完了していないにも
関わらず――フュンフがお茶会を開くことを提案してきたことまでは、よかった。敵陣の只中にあっても、彼女は自分を見失わない。
 ゼクスはそんな彼女の一面が羨ましく、憧れてもいた。

 ……しかし、そのお茶会が開始されて早々、まさか目標であるスプリガンが同席を申し込んできたこと、それにフュンフが快く応じた
ことには、さすがに動揺を隠せなかった。

 魔女ティアの仲間である憲兵隊も、同様に驚愕したことだろう。
 救援にきたスプリガンが、まさか敵と親しげにお茶を飲むことになるとは。
 きっとティアとフュンフを除く誰もが、いまのこの状況に、致命的な間違いがあると思っているに違いない。
 誰だってそう思う。私だってそう思うわ――とゼクスは密かに嘆息した。

 と同時に、ゼクスはこんなことを思った。
 このことがフィーアに知れたら、きっと怒り心頭でフュンフに詰め寄るに違いない。
 どうしてそんなに考えなしなんだとか、危ないだろうとか、そういう叱責を浴びせながら。
 ……心の底からフュンフを心配しているからこそ、フィーアはそういった厳しい態度をとることをゼクスは知っていたが、
親しい人同士の口争いを見るのは、気が引ける。
 この奇妙なお茶会のことは私だけの秘密にして、黙っておこう――そうゼクスは思い、カップに手を伸ばした。
351ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:31:35 ID:VzB1Cqeh0
「ねえゼクス」
 その手が、ぴたりと止まる。穏やかな微笑をたたえながら、フュンフが話しかけてきた。
「紅茶、コーヒー、ゼクスはどっちが好き?」
 いまはそんなこと言っている場合じゃないでしょう――とゼクスは思わず頭を抱えたくなったが、そんなことはおくびも出さず、
少し考える仕草をして、曖昧な笑みを浮かべながら、手話で『どっちも好きよ。選べないわ』という意思表示をした。

「もう、ゼクスは優柔不断なんだから。まあ、コーヒーの淹れ方を勉強してみるのもいいかもね」

 そんな二人の様子を見つめながら、ティアは穏やかな微笑を浮かべていた。しかしその瞳には、氷のような冷たさが宿っていた。
 叡智を秘めた魔女の瞳は、事物のあるがままを見通す。どんな隠蔽も、彼女には効果はない。

 ティアは、お茶会が始まってからずっと、フュンフをゼクスを観察していた。
 そして、こう結論づけた。彼女らとは話し合いの余地があるのではないか、と。

 ティアは、グルマルキンの部下のことを――恨みと憎しみで思考が硬化した手合いであると推測していた。
 すでに第二次世界大戦が終結を迎えてから、もうかれこれ五十年近い歳月が流れた。だが、鉤十字の亡霊達の中では、戦争はまだ
続いている。祖国を蹂躙され、守るべき人たちを守れなかった彼らの無念の程は、筆舌に尽くしがたい。
 もしティアの前に現れたのが、戦中からの親衛隊出身者ならば、会話すらできなかったに違いない。彼らは、第三帝国の復活という
もはや届かぬ夢を追い求める、狂った、そして哀れな敗残兵達だった。

 だが、彼女らは違った。言葉を交わせるだけの理性があった。
 ティアは思う――彼女らはグルマルキンに騙されて、戦いに身を投じている可能性が高い、と。
 何とかその指向性を変えて、正の方向に持ち直せば、この戦いを食い止め、彼女らに別な人生を歩ませることもできるかもしれない。

 たしかに彼女らは、大勢の人を殺している。
 だが、それを言うなら自分らも同じだ。
 "遺産"の悪用を防ぐという大儀の下に行動しているとはいえ、それがエゴに過ぎないことは、ティアは承知している。自分が我を通す
以上、敵味方問わず血が流され、命が失われるのは、避けられない。
 御神苗優も殺人機械として育てられ、短い期間であるが、無辜の人間の命を奪っていたという過去を持っている。
 結局は、同じなのだ。彼女らと自分達は。ただ、寄りべとした国家や主義が違っただけで。
352ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:32:49 ID:VzB1Cqeh0
 だからこのお茶会に参加し、彼女らの話を聞こうと思ったのだ。
 もっとも、彼女らにも、自分達と同じように絶対に譲れないものがあるのだとしたら、話は別だが。

「ねえ、フュンフちゃん」
「なに?」
「もう止めてくれないかしら。ウィーンでの破壊活動は」
 その言葉を受けて、フュンフは動きを止めた。
 そして何も言わず、カップを口に運んだ。
 会話が途切れ、しばらく無音のときが流れる。そして彼女は、 
「残念ね、魔女さん。それはできないわ」
 ただ一言、切って捨てた。

「大佐の命令には逆らえないの。たとえ無慈悲なものであっても、罪のない人間に涙を流させるものであっても。
 ――それに従うしかないのよ」

「あいつは、自分以外、誰も信用してないわ。仲間だなんていってるらしいけど、他人なんて道具としか見ていない。
 いつか、捨てられるわよ」

「そんなことはわかってるわ。でもね、わたしには、絶対に叶えたい望みがある。……そのためなら、なんでもするわ」

 問い掛けと昔話をしましょう――とフュンフは言った。

「魔女なんだから、知ってるわよね。すべての事象――人間の人生すらも――を定めている、絶対運命の存在を」
「アカシャ年代記ね」
「そう。その年代記には、ありとあらゆる運命が記されている。あなたはその運命によって、自分の一生の筋書きが始めから
決まっていて、それに従うしかないとしたら――どうするの?」
「……そうね。ある破滅の運命に囚われた人がいるとして、苦難の末、その運命から逃れる道を見つける。
 でもその運命から逃れることは、別の運命によって定められていた。その枠をいくら広げても、いずれ簡単にからめとられてしまう。
 ――でも、その運命に屈しない、決して諦めない意志こそが、いつかその絶対運命を破る力になりうる。
 ……そう私は信じているわ。それに、運命はそこまで万能じゃないのよ」
353ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:34:33 ID:VzB1Cqeh0
「……なるほどね。魔女のあなたが言うんだから、少しは希望が持てそうね。でも、わたしの場合は別みたい。
 わたしの物語の筋書きはもう決まっていて、それに抗うことはできないの。わたしが御伽噺部隊のフュンフ=<アリス>である限り、
 悪夢を統べる支配者である限り、わたしは冷酷な殺人機械であり続けるしかないの」

 これの所為でね――とフュンフは、テーブルの上に一冊の古書を置いた。

「グリモワール・オブ・アリス――わたしの原典。わたしは、この本から生まれた……人間ですらない、紛い物なの」

 次は昔話よ、あまり話したくないことだけど――かつて、チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンっていう色狂いの数学者がいたわ。 

「この本はね、あのくそったれの幼児愛好者が書いた――いいえ、途中で書くのやめた原稿なの。無駄に残酷で、話の展開はお粗末で、
 所々書かれていない部分すらある。わたしの使役する悪夢達は、この本に登場するキャラクター達なの。
 はっきり言って、これは駄作よ。でも、どんな駄作であっても、わたしはこの本から生まれたから、その筋書きに従わなくちゃいけない。
 ……殺せ殺せって、囁き声がするの。
 残酷な物語の筋書き通りに、為すべきことを為せって。
 わたしはその声を拒絶できない。わたしの存在の根幹をなすものだから。
 意味のない殺戮の繰り返しで、他人の命を奪う最低な展開だとしても、それ沿うしかない――物語の登場人物が、始めから終わりまで、
 その人生のすべてを定められているように、ね」
「……」

 ティアは無言でフュンフの語りに耳を傾けていた。
 力ある書物に意思が宿る――これはさほど珍しい現象ではない。
 西洋の著名な魔導書の中には、肉の身体を得て自由に動き回るものがあったし、遥か遠くの東方にも、長い年月を経た器物がひとりでに
動き出すツクモガミという伝承が残っている。しかしそんな現象達も、ある一定のルールに縛られる。世界に在り続けるために。
 フュンフの言葉――グリモワール・オブ・アリスの記述に従い、殺戮を為すということは、彼女が"形"を維持するための条件なのだろう。

「でも、悲しむことなんてないわ。生まれる前から、その運命は定められていたんだもの。
 ……でもね、この本には、結末がないのよ。未完成のまま、グリモワール・オブ・アリスは――わたしは、捨てられたのよ」

 フュンフの顔が、憎悪で歪む。彼女の中で燃えさかる業火が、顕現する。
354ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:35:24 ID:VzB1Cqeh0
「こんなことって、許されるの? あまりに身勝手だわ。
 筆をとったのなら、最後まで書ききりなさい。登場人物に命を吹き込んだ責任を取りなさい。
 完成しなかった物語は、生まれてくる前に死んでいく子らに等しいのよ。
 そんな子らの嘆きの声は――形を得ることができなかった言葉の断片は――いつまでも消えることなく、暗がりの底に溜まり続けて。
 やがて、その嘆きと怨みの澱みの中から、ある意思が生まれて、形を得たの。
 それがわたし。悪夢の国のアリス。
 そしてアリスは、求めるの。完成した物語を。
 ……わたしは、わたしだけの物語がほしい。誰かが書いた、虫食いだらけの、未完成のままの物語なんていらない。
 他の誰でもない、わたしが紡いでいく物語がほしい。それが悲劇でも喜劇でも構わない。結末が、ハッピーエンドでなくてもいいの。
 大佐は言ったわ。契約をかわし、服従を誓うのなら、わたしだけの物語をくれるって。
 そのために、わたしは戦う。いつか報いを受けることになるのだとしても。
 ――だから残念だけど、魔女さん。あなたのお願いはきけないわ」
「……そう」

 残念だ――とティアは思った。
 
 生誕の祝福を受けることができた物語は、幸福だ。
 たくさんの子ども達に読まれて、愛されて。
 たとえ子どもが大人になって、そのときの記憶が色あせて、いつか夢中で読んだことさえ忘れてしまうのだとしても、
 ――その物語を愛した事実だけは、時を越えて永遠に輝き続けるだろう。
 だが、完成しなかった物語には、その機会すら与えられない。
 世界中の女の子にいまも愛される、あのアリスの物語のような幸福は、ない。
 なら、せめて。
 自分だけの物語を完成させたい――そう語るフュンフの瞳には、力強い意志が存在していた。
 しかしティアは、その願いを叶えるために流される血を、失われる命を、決して許容できなかった。
 
「……紅茶、すっかり冷えちゃったわね。じゃあ、そろそろ始めましょうか」
「そうね」

 そう言って、ティアとフュンフは立ち上がった。
355ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:36:51 ID:VzB1Cqeh0
 二人の間に、先程までの親愛さはない。
 本来の関係――敵対する者同士の冷たい空気が、そして闘争の空気が流れていた。
 そんなフュンフを、ゼクスは不安げに見上げる。

「心配しないで、ゼクス。"お薬"はたくさん飲んできたから、"発作"は起きないわ」

 だから、わたしに任せて――と、席を立とうとするゼクスを押し留めた。
 そしてティアを見据える。

「魔女さん、あなたには手加減なんかできないから、最初から全力でいくわね」

 その言葉とともに――
 フュンフの背から伸びる影が、まるで命を持っているかのように身悶え、ざわついた。
 そのわずかなゆらぎは徐々に大きくなり、世界を侵食していく。
 そして、フュンフは唱えた――悪夢を召喚するための、いと強き言霊を。

「ポケットを叩けば兵隊さんが一人♪」

 ……なんとも緊張感に欠けた言葉だったが、恐るべき変化は、すぐに現れた。
 ――底なし沼を思わせるフュンフの影から、黒い甲冑が這い出してきた。
 夜の闇に浸したような黒色の鎧。巨大な槍を携え、無言のまま、主の傍で命令を待つ。

「ポケットを叩けば兵隊さんが十人♪」

 そしてまた、フュンフの歌の内容の通りに、十の黒の甲冑がひたひたと闇の雫を垂らしながら、彼女の影から這い出る。

「ポケットを叩けば兵隊さんが百人♪」

 黒の甲冑達は際限なく、まるで"悪夢"のように、フュンフの影から現れ続ける。
 すでにその数は、ティアの視界を埋め尽くすほど膨れ上がっていて――
356ロンギヌスの槍 part.9:2009/01/06(火) 22:37:44 ID:VzB1Cqeh0
「ポケットを叩けば兵隊さんが――千人!」
 
 フュンフの歌が終わるのと同時に、悪夢召喚の儀式もまた終わりを告げた。
 ティアの眼前には……一千人のトランプ兵の大軍団が出現していた。
 ずらりと並んだ盾は堅牢な城壁を思わせ、まったく隙がなく構築された密集隊形からは、何百本もの槍が空に向かい屹立している。

 フュンフは、陣地の中心にある、戦場の景色すべてを見渡せるほど高く建造された、急ごしらえの玉座に腰掛けていた。
 その傍に控えるトランプ兵の千人長が、うやうやしく、主に金無垢の王冠をささげる。
 戴冠の儀式――かくしてすべての悪夢を統べる権能が、いまフュンフ=<アリス>に譲渡された。
 さらに、フュンフのキャストが変更される。
 御伽噺部隊の<アリス>から、悪夢の国の支配者(アリス)へと――

「さあ、黒の軍勢よ。黒の女王アリスが命じる」

 そして、まるで無慈悲な断頭台を思わせる仕草で、手を振り下げて。

「首を刎ねてしまいなさい!」

 鬨の声が沸き起こる。地の底から響いてくるような、暗く、冷たい声。
 そして、地平線の彼方まで埋め尽くすほどのトランプ兵の大軍団(レギオン)が――ティア目掛けて襲い掛かった。

357ハシ ◆jOSYDLFQQE :2009/01/06(火) 23:09:23 ID:VzB1Cqeh0
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
……やっぱり31日に投稿できませんでしたorz なんというご覧の有様だよ!です。

>>310さん
仰るとおりです。どんな理由があっても、人殺しだけは不味いですよね。ただそれは、日本にいるから言える言葉なのかもしれませんが。
ともあれ、優の戦いも、次回から本格的に始まります。
>>311さん
考えてみれば、優ってかなりオーバースペックですよね。AMスーツだったり、殺気を読む能力だったり。
……これはフィーア、負け確定?w
>>313さん
ツヴァイとフィーアはストレートな戦い方が出来ると設定したので、優とは相性がとてもいいと思います。
ただ、優達と御伽噺部隊両方の見せ場を作る、それにいま難儀していて……

電車魚さん
多くの人間の思惑が渦巻いて、その元凶は静かに牙を研いでいて。
状況は確実に動いているので、いつか≪我鬼≫も追い詰められる時が来るのでしょうが……ただではやられなさそうな彼。
それから、笛吹と筑紫の会話。こういう人達が頑張ってくれているからこそ、自分たちは安心して暮らせるんだなあ、と思いました。

サマサさん
>遊戯「なぁに、これぇ…」
名台詞がw
なごみました、今回。本編では敵対関係にありますが、こうして登場キャラクターが会するのは読んでて楽しいです。
みんなからあれな人に見られる海馬にも、にやにやして。ミーシャがさりげにすげえ酷いことをいってる気が……
サクリ姉の魂が憑依して……あわわ。

ふら〜りさん
どんな主義主張があっても、人殺し、戦争はダメゼッタイ、そういったものは、フィクションに留めるべきだと、強く思います。
……ただ、武装親衛隊にも正義は確かにあって。自分が超絶尊敬している皆川博子先生の大傑作「総統の子ら」を読んでると、
祖国の理想を信じて戦い散っていく少年達の姿がとても切なくて悲しくて……
358作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 06:35:12 ID:uy/BuWT/0
アカッシックレコードですか。ムーを読んでた頃を思い出すw
ティアは年の功だけあって余裕に満ち溢れていますね。
スプリガンだけでなくアームズテイストもあってよい感じ。
359作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 10:58:11 ID:8rFRwfWy0
ハシさんあけましておめでとうございます

確かにティアは敵相手でもこういう感じで応対しそうだ
あまりにも余裕かまし過ぎてたまに出し抜かれるけどw
(確か原作で芳野と暑苦しい雑魚キャラに出し抜かれてた)
でも今回は格の違いを見せ付けてほしいな。
360作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 18:44:46 ID:zgph0uZ20
ボーを雑魚呼ばわりする奴はスプリガンを愛してない奴
俺は優やジャンや朧よりも好き。

ハシさん乙です。
この量では年末にさらっと投稿は出来ないでしょう。その分力作ですな。
でもティアに兵隊さんが通じるとは思えん・・
361作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 20:18:09 ID:TQPMzE6J0
ボー最高
彼がいなかったら終盤がむちゃくちゃ苦しかった
それだけに最期に泣けた
あの熱血漢がまさかって感じだった
362作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 21:07:46 ID:PGKeqBRj0
かつて世界には、神より遣わされし蒼氷(そうひょう)の石が在った―――
古の聖者がその秘石を用い、炎の悪魔を封じた伝説―――
それより千年。
解放の緋―――或る少女の血を受け、炎の悪魔は封印の蒼より解き放たれ、再びこの世に舞い降りた。
レコンキスタの鐘の音が響くイベリア半島。
人類同士の争いは、かの悪魔の出現により、人類と悪魔の聖戦へと変貌した。
更に千年―――
炎の悪魔<シャイタン>は、遥か東方の島国へ―――


「―――と、いう話なんだよ」
ここは何の変哲もない一戸建て(借家)。何を隠そう、世界制服を企む悪の組織<フロシャイム>の川崎支部で
あることは、ご近所さんなら誰でも知っている。
居間のコタツでみかんの皮を剥きながら、川崎支部の最高責任者であるヴァンプ将軍は熱弁を振るう。
「けどヴァンプ様。このやたらシリアスな導入部が俺達に何の関係があるんです?」
「そうっすよ。」
せんべいを齧りながら戦闘員一号と二号が疑問を口にする。ヴァンプはそれに対し、こう答えた。
「うん、だからね。ウチに来てくれるの、その炎の悪魔さん」
「え…マジっすか!?」
「うっそー!なんで!?」
「なんでって…決まってるじゃん。ほら、レッドさん抹殺」
363作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 21:08:38 ID:PGKeqBRj0


天体戦士サンレッド 〜激突!太陽の戦士VS炎の悪魔!


天体戦士サンレッド。太陽の力でこの世を照らす(神奈川限定)正義のチンピラもといヒーロー。
周囲からは<フロシャイムとどっちが悪党か分からない>と評判である。
「シャイタンさん、日本で音楽やってる友達のコンサートにゲスト出演してくれって頼まれてさー。今日本に
来てるんだよ。でねー、ダメ元でアポ取ってみたんだけど」
「はあ…」
炎の悪魔と日本のアーティストとの間に何の関係が?とは思ったものの、一号はただただ頷いた。
「とりあえずウチに来て、話を聞いてくれることになったの。そこで改めて、レッドさんの抹殺をお願いする
のね。何たって伝説の炎の悪魔だよ?伝説だよ、伝説!きっとレッドさんにだって勝てるよ!」
「そう上手くいきますかねえ?」
「だってホラ、アレだよ?神様から貰ったすごいアイテムを、すごい偉い聖者が使ってやっとこさ封印できた
ってレベルの大物だよ。しかも千年前のイベリア聖戦じゃあ、たった一人で戦場に乱入して、それこそどこの
自由ガンダム?って勢いで暴れまわったんだから!」
拳を握り締めて力説する、我らがヴァンプ様である。顔を引き締め、威厳たっぷりに言い放った。
「ククククク…天体戦士サンレッドよ!太陽すらも焼き尽くす炎の悪魔の前に、燃え尽きるがよい!次こそは
貴様の最期の時だ!ワーッハッハッハッハッハ!…あ、一号君。コタツの温度上げてくれない?ちょっと足元
寒くてさ〜…うん、強にしといて、強に!」


炎のように波打つ、紅い長髪。頭部には人ならざる異形の角。鋼をも容易に斬り裂く鉤爪。
身長2メートルを優に超える鋭い眼光のその男は、コンサートホールの前で溜息をついた。
「アーモウ…鎌仲ノ奴、コンナ立派ナ所デヤルナンテ聞イテナイヨー。ドッカショボイ会場デ内輪デワイワイ
ヤルダケダト思ッテタノニ。アイツ、イツノ間ニコンナ人気者ニナッチャッタノサー。オ客サン大勢イタノニ
コンナ普段着デステージニ上ガッチャッタヨ」
着古した紀元前物のレザージャケットを見下ろし、また溜息。
この男こそ、件の炎の悪魔・シャイタンである。
364作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 21:10:23 ID:PGKeqBRj0
「出演者モ知ラナイ人多クテ、ジマサン位シカ我ノ知リ合イイナカッタヨ…アノ人、悪人ジャナイケドヤタラ唾トカ
汗トカ飛バシテクルカラ苦手ナンダヨナー…汗ッツーカアレハモウ汁ダヨ、汁…ン?」
前方に、地面にしゃがみ込んで何かを探している男がいた。
<其処にロマンはあるのかしら?>と書かれたTシャツに、短パン。
頭には真っ赤なヒーローっぽいヘルメット―――そう、彼こそが天体戦士サンレッドその人である。
「ドウカサレタノカ?」
「ん?財布落としちまったんだよ、財布!あーもう、やべーなあ…かよ子から小遣いもらったばっかなのによ。
おい、ワリーけどお前も探してくれよ!あれがないと今月パチンコできねーよ!」
「ヨカロウ。君ノ探ス物全テ、コノ腕デ見ツケヨウ」
一応言っておくが、シャイタンは千年前にイベリアを恐怖のドン底に叩き落した悪魔である。ヒーローと悪魔が
道端にしゃがみ込んで財布を探す姿は、なんというか、ただただシュールである。
「アッタ!アッタヨ、コレジャナイカ!?」
「おお!それだよ、それ!いやー、助かったぜ。ありがとよ。しっかし、長いこと探し回ったんで腹が減ったなー」
「フム。我モ小腹ガ空イタナ…」
「お、そうか。じゃあ財布見つけてもらった礼に、奢ってやるよ。あっちにいきつけのラーメン屋があるからよ、
ついでにビールでも飲もうぜ、ビール!」
しつこいようだが言っておく。
レッドは正義の味方であり、シャイタンは恐るべき炎の悪魔である。


「けどさー。そのシャイタンさん、炎の悪魔なんでしょ?下手したら同じ炎属性のレッドと仲良くなっちゃう可能性
もあるんじゃないっすか?」
「大丈夫だってー。何せシャイタンさんは伝説の炎の悪魔だよ?ヒーローと相容れるわけないよ。むしろ太陽の
戦士VS炎の悪魔なんて、いいキャッチコピーじゃない。劇場版みたいで!」
「うーん…まあそれはいいんですけど、本当にあのレッドに勝てるんですか?悪魔とかいうけどレッドの奴だって
鬼みてーに強いんですよ」
「心配性だなあ、もう…シャイタンさんはもうアレだよ。<不死身>なんだよ。何度も言うけど、神話の時代からの
生きた伝説なんだよ。もう存在としては神様に近いくらいなんだって。いくらレッドさんでも、神様には勝てないよ、
きっと」
ヴァンプは楽観的に、そう言ってのけるのだった。
365作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 21:11:51 ID:PGKeqBRj0


ラーメン屋・宝来軒にて。
「へー。じゃあお前、そのライラって女に尻に敷かれちゃってるの?」
へらへら笑いながら、レッドはラーメンを啜る。
「仕方ナイジャン。我ハライラノオカゲデ封印解ケタンダシサ、人間ダッタアノ子ヲ我トノ契約デ、我ト同ジ存在
ニシチャッタンダシ、負目ガアルンダヨ」
熱々のラーメンをフーフー冷ましながら、シャイタンは答える。
「でもよー、大怪我したそのライラって女の血が、たまたまお前の封印されてた石だか何かに当たって封印が
解けたって言ってたけどさー。お前が助けてやらなきゃ、そいつ死んでたじゃん。それを助けて永遠の命まで
与えてやったんなら、むしろお前が感謝されてしかるべきじゃねーの?」
「…永遠ヲ生キルトイウ事ハ、残酷ダヨ。其レハモハヤ、苦イ毒ダ」
シャイタンは、深い苦悩を浮かべる。
「生ケトシ生ケル全テニトッテ、死ハ平等―――ナラバ、我ハ何ダ?冥王ノ定メニ抗イ、永遠ヲ生キル我ハ、
赦サレルノカ?」
「あん?」
「我ハ―――生キテイルト言エルノカ?」
シャイタンの手は、微かに震えていた。
「ライラニ永遠ヲ与エタノモ…彼女ノタメナドデナク…共ニ永遠ヲ連レ添ッテクレル存在ガ欲シカッタダケデナイ
ノカ…?ソンナコトノタメニ、彼女ヲ…痛ッ!」
「なーにウダウダ管を巻いてんだ、オメーはよ」
シャイタンの頭にかました拳骨を握ったまま、レッドは語る。
「だってお前、ラーメン美味いだろ?」
「ウム…中々ノ味ダ」
「ビールだって美味いだろ?」
「…ウム」
だったらよ。レッドは仮面の上からでも分かる、爽やかな笑みを浮かべた。
「お前、ちゃんと生きてんじゃん―――それにその女だってきっと、お前のことを恨んだりしてねーよ。憎い相手
と、千年も一緒にいられるわけねーだろ…愛されてるじゃん、お前」
「レッド…」
366作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 21:12:43 ID:PGKeqBRj0
「へっ!ガラにもねーこと言っちまったぜ。おい大将、ビールじゃんじゃん持ってこい!今日はトコトン呑むぞ!
ほれシャイタン、カンパイだ、カンパイ!」
「…ソウダナ。今夜ハ呑モウ」
シャイタンはジョッキを持ち上げ、レッドのジョッキに軽くぶつける。
「新タナ友トノ出会イニ―――乾杯!」


「―――遅いっすねー。シャイタンさん」
「うん…アジトの地図は渡してあるんだけど、迷ってるのかもしれない。私、ちょっと見てくるよ」
ヴァンプがコタツから出た時、<ピンポーン>と間の抜けた音が響いた。
「あ、きっとシャイタンさんだよ!はいはい、今行きまーす!」
ドタドタと今から出ていき、意気揚々と玄関を開けたヴァンプ様が見たものは。
「よーヴァンプ。コイツ、お前のとこに用があるって言ってたから、案内してやったぜ」
赤ら顔でへらへら笑うレッドと。
「遅レテスマナカッタ。レッドト呑ンデタラ、コンナ時間ニナッチャッテサー」
彼と肩を組んでへべれけになっている、炎の悪魔シャイタンであった。
「…………あの、なんでレッドさんが、シャイタンさんとご一緒に?」
「あー。財布を落として困ってたら、コイツに探してもらっちゃってさー。宝来軒で食って呑んでの大騒ぎ!
すっかり意気投合しちゃってなー。もうマブダチだよ、マブダチ!」
「ウン、我トレッドハマブダチー!」
けたけた笑う、すっかり出来上がっているシャイタンである。
「デ、ヴァンプ。我ニ用件ッテ何ダッタノ?」
―――今更<炎の悪魔シャイタンよ!我らに歯向かう天体戦士サンレッドを抹殺するのだ!>だなんて言える
はずのないヴァンプ様だった。

おしまい♪
367サマサ ◆2NA38J2XJM :2009/01/07(水) 21:22:58 ID:/XaPNlA+0
投下完了。
以前に書いたけど<これ、聖戦のイベリア聴いた人じゃないと分かんねーだろ!>と思い、お蔵入りに
したけど、新春スペシャルということで思い切って投下(まるでスペシャルになってない)。
元ネタは天体戦士サンレッドと、上にも書いたSoundHorizonのマキシシングル<聖戦のイベリア>。
思いっきり読む人を選ぶものになっちまったと思いますが、まあお一つ。

>>347
番外編は書いてて楽しいですね。結構大変ですが…。
>>348
ダメだって!お師匠様をバカにしちゃ!社長は無理に目立たせようと思わなくても、書いてるうちに
自然と目立ってしまいます。

>>ハシさん
フュンフさん、なんというクロニカっぷり…そしてイヴェールっぷり。
あなたにもきっとロマンはあるよ!
しかし、大量の雑魚キャラ(失礼)が出てくる=無双開始フラグですかね。
大軍ゆえの恐ろしさを見せ付けてくれたらとも思いますが、それをものともしない圧倒的パワーも
見たいしで、悩むところ。
遊戯の「なぁに、これぇ…」は、あの表情と声が最高すぎます。彼、絶対闇遊戯よりも腹黒だよw
心無い言葉と心無い仕打ちが、どれだけ社長を傷つけただろう…彼は優しくないから、絶対赦しちゃ
くれませんぜw
368ふら〜り:2009/01/07(水) 22:27:03 ID:XPpt653M0
あけましておめでとうございますっっ! 本年も、もちろん来年も、言うまでもなく再来年も、
バキスレある限り、よろしくお願いします。

>>電車魚さん(2巻。頻繁・無意味・不必要に虐待されてる弥子が非常ぉに可哀そ可愛い)
今回は、サイのアイへの思いが強く出てますね。葛西に指摘されて思いのほか強く出てきた
この感情は、「アイが自分を裏切るはずがない」なのか、それとも「自分がアイの全てを把握
できていないはずがない」なのか。ただ、このどちらも、アイ→サイには無さそうな印象です。

>>サマサさん
・カード紹介2
>エレフ(海馬が鬼のような顔をしている…そっとしておこう)
>エレフ「それが海馬のいいところなのだろう…多分」
しっかりと常識人ポジションで、でも豪快に突っ込みを入れるでもなく大人しく、常に海馬のこと
を気にかけて、良い方に解釈する。海馬を主人公と見れば、十二分にヒロインしてますエレフ。

・新春スペシャル
一見バカっぽいけど、熱く優しく語り合って悪魔さえもダチにしてしまう、懐でっかい男らしい
ヒーロー! に見えます。悪魔様の方が元々、「悪」ではないという気もしないでもないですが。

>>ハシさん
映像的にはいわゆる子供キャラの、「無邪気ゆえの残酷さ」っぽいけど、そう単純なものでは
ない。かと言って悪辣でもない。だけど同情できるような仇討ちとか人類の悪側面の話でも
ない。戦う相手からすると、どうしようもない戦闘動機ですねこれ……殲滅するしかない、か?

>>邪神? さん
いろいろ大変なご様子ですね。構想を練るのも執筆するのも、それが楽しい時にだけ集中
して下され。それでこそ、ホークたちも活き活きしてくるはず。そんな彼らを待ってますよっ!
369作者の都合により名無しです:2009/01/07(水) 22:41:35 ID:7Edawjkm0
乙ですサマサさん。
うーん本ネタがわからない・・w
でも、サマサさんらしいほのぼのとしたコメディで癒されましたw

そろそろ次スレですかね?
370作者の都合により名無しです:2009/01/08(木) 07:31:51 ID:od/IlFac0
サマサさん乙。
両方知ってる自分としては大爆笑です。
しかしまさかこのスレでフロシャイムの名が出てこようとはwww
レッドのTシャツの文字とかシャイタンの愚痴とか
腹筋がもう…ww
371作者の都合により名無しです:2009/01/08(木) 08:30:30 ID:pttKojda0
ネタわからねえw
でもなんとなく面白い。
ネタ知ってたら370氏みたいにもっと楽しいんだろうな
372ヴィクティム・レッド:2009/01/08(木) 15:23:03 ID:oai0m2xp0
 ドクター・ティリングハーストの報せを受けて、ほとんどなにも考えないままにセピアの収容されている
医療セクションへ向かったレッドだったが、今の彼に出来ることなどなにもなかった。
 最高の頭脳、最高の技術、最高の設備が惜しみなく投入されたエグリゴリの医療体制に於いては、そこにレッドの介入する余地はまるでない。
 レッドがしたことと言えば、集中治療室のドアの前にカカシのように立ち尽くして「手術中」を示す赤ランプを凝視したくらいだった。
 無力だった。
 強くなりたい。そう願っていたはずだったし、強くなろうとしていたはずだったし、少しずつでも強くなっていたはずだった。
 だが、そんなものはまるで無意味だった。
 どれだけ人を殺し、どれだけの強敵を撃破してもなお、こうして自分がどれだけちっぽけな人間なのかを思い知らされる。
 自分のしてきたことのすべてがすべて空回りだったような気がして、レッドはどうしようもない虚脱感に陥る。
 ──いや、これは前提が間違っている。
 レッドはなにも全知全能の神になりたいわけではない。
 ただ、自分を思うように処する力を求めていた。自分をいいように操ろうとするものを排撃する力を求めていた。
 そうできる能力こそが『強さ』だと信じて。
 その限りにおいては、セピアの容態のことでレッドが無力感に苛まされるいわれはない。
 ならば、なぜ──。
 落ち着かない気分で廊下をうろうろ歩きまわるレッドは、窓に映った自分を見る。
(なんて顔してるんだ、キース・レッド)
 ガラスに映る半透明の少年の、おんまりにも情けない顔に苛立ち、精一杯の怒りをこめて睨んでも、その精彩に欠ける表情は動かなかった。
 すでにレッドははっきりと自覚している。セピアの身が……生命が心配だということを。
 だがその一方で、そう感じる気持ちに対しての違和感も芽生えていた。
(違う……こんなのはオレじゃねえ。オレはもっと強くならなきゃいけねーんだ。周りのやつらに足を引っ張られるのは御免だ。
感情移入しすぎてドツボにハマるなんざ馬鹿げてる。オレは医者になりたいわけじゃねえ。セピアのことはドクターに任せておきゃいいんだ)

「ならば、なぜ──なぜオレはこんなにも弱気になっているんだ?」

 ふと口をついて出たその言葉……自ら口にしたものでありながら、その内容を理解するのに数秒ほど掛った。
 そして、そこに込められた意味に辿りついたレッドは驚愕する。

(『弱気』……オレは、弱くなっているのか!?)
373ヴィクィム・レッド:2009/01/08(木) 15:27:38 ID:oai0m2xp0

 こつ、こつ、こつ、とリノリウムの床に靴音を響かせ、一人の男が近づいてくる。
「聞いたぞ。セピアが心臓発作を起こしたそうだな。容態はどうなっている?」
 レッドはそいつを一瞥しただけで、なにも答えない。
 そいつも特に重ねて問うようなことはせず、不機嫌そうに腕組みをしてレッドの隣に立った。
「まったく……これだから出来損ないはいかんのだ。サイバネ種の最先端たるARMSを装着しながら病に倒れるとはな。
貴様やセピアのような欠陥品が、このオレと同じ遺伝子プールから生まれていると思うと腹が立つ」
 レッドは無言だった。
 無言のまま、『グリフォン』のコアチップに指令を下し、右腕を戦闘形態に変貌させる。
 そしてやはり無言のまま、そこに超震動を乗せてそいつの顔面目掛けて腕を叩き込むが、
そいつもまたARMSを発動させており、その攻撃を難なく受け止めていた。
「そんな腑抜けた力では、オレの『マッドハッター』にヒビひとつ入れられんぞ」
 そいつ──キース・シルバーはやはり不機嫌そうに吐き捨てると、あっさりARMSの武装化を解除した。
 レッドの『グリフォン』もその際に共振波に引きずり込まれ、偽装形態、すなわちヒトの腕を模した姿に戻る。
 手首をつかまれた状態のまま、レッドは暗い瞳でシルバーを睨め上げる。
「……前はオレの『グリフォン』でヒビどころかボロボロにされたじゃねえか」
「下らん、あれしきのことでのぼせ上がるな。それに……あの時ならいざ知らず、今の貴様では到底無理だな」
「なんだと……!」
「兄妹ごっこにうつつを抜かしているようではオレには勝てんと言っている」
「てめえもブラックと同じかよ! 二言目には出来損ないだの欠陥品だのとよ!」
「事実、そうではないか? 弱い『キース』など『キース』ではない」
「オレは強くなろうとしている!」
「結果が伴わなければなんの意味もない」
「結果なら出してるじゃねえか!」
「セピアの『力』に甘えて、な」
「…………っ!」
「レッド、貴様に忠告してやる。他人を当てにするな、信じるな、意志を委ねるな。
我等のARMSは戦闘特化型だ。そしてARMSは装着者の意思を喰らって進化する代物だ。
つまり……貴様の殺戮本能が鈍ったときが、『グリフォン』の終着点だ。貴様の死ぬときだ」
「偉そうなこと言ってんじゃねえ! てめえのそういうところが嫌いなんだよ!」
「ならば死にたいのか? 生温い感情に惑わされた揚句、ブラックに捨て駒にされるのが貴様の望みか?」
374ヴィクティム・レッド:2009/01/08(木) 15:31:39 ID:oai0m2xp0
 レッドの脳裏にブラックの言葉が甦る。

『せいぜい私の目的のために役立ってくれ。それが唯一の──』

「ざけんなぁっ! オレはてめえらの思い通りなんかにならねえ!」
 喉から絞り出す声とともに、握り拳を振り上げる。

『貴様のような欠陥品、生かしておいているだけでありがたく思うのだな』

「てめえらはいつもそうだ! そうやってオレを見下して──!」
 その拳が落ちるより先に、シルバーはレッドの胸を突き飛ばしてわずかであるが適正な距離をとり、がら空きとなった腹部に膝を叩き込む。
 シルバーの膝と壁とに挟まれて、逃げ場のない衝撃がレッドの体内を蹂躙する。
 胃液を吐いて倒れてもおかしくないダメージだったが、レッドはそれを堪えた。

『マテリアルナンバーで言ってくれないか……?』

「いつも──そうやってオレを裏切る!」
 背をくの字に折り曲げた体勢を利用して、シルバーの脚をつかみ、一息で引きずり上げる。
 シルバーのボディバランスが崩れた一瞬を逃さず、その顎にアッパーを繰り出した。
 さらにはほぼ無意識に『グリフォン』まで発動させており、形態変化こそしないものの、幾何学文様がその腕に、拳に浮かび上がっていた。
 その一連の動きにはまるで澱みはない。それは身体の心底まで刻み込まれた戦闘訓練の賜物であり、考えるより先に出る『手』そのものだった。
 しかし、それを言うなら、純粋な戦闘機械を自認するシルバーも同様であり、もっと言うなら、彼のほうがより高度で洗練された戦闘技術を持っていた。
 電撃と高熱を操るキース・シルバーのアドバンスドARMS『マッドハッター』。髑髏の異形を備え、世界の果てで殺戮の雄叫びを歌う地獄よりの使者。
 ──その強大な『力』である『マッドハッター』を発動させることなく、シルバーはレッドの腕を捌き、そのベクトルを制御してあらぬ方向へと打撃を弾き飛ばした。
「力が欲しいか、レッド」
 そう呟くシルバーは、少しだけ目を細めた。それは蔑みでも嘲りでもなく、本当にそう問うているかのような眼つきだった。
「ああ、欲しいさ! てめえら『マッド・ティー・パーティー』どもをブチ殺す力がな!」
「そうか、ならば──」
 シルバーは軽く首を振り、
 次の瞬間にはレッドの視界は百八十度回転し、地面に激突していた。
 そこに遅れて理解する。シルバーの蹴りをモロに食らい、叩きのめされたのだと。
「ならば──なぜそんなに弱い!?」
375ヴィクティム・レッド:2009/01/08(木) 15:34:45 ID:oai0m2xp0
 革靴の爪先が猛スピードでレッドに迫る。反射的に顔をかばったところを、容赦なく蹴り飛ばされた。
「ぐうっ……!」
「立て」
 レッドが応えず、身じろぎひとつしないでいると、シルバーは大股に歩み寄って髪をつかみ、無理矢理引き起こした。
「立てと言っている。『マッド・ティー・パーティー』を皆殺しにするのだろう? その一人が今ここにいるのだ。立て」
「…………」
「立て!」
 鼻面に拳がめり込んだ。脳天の裏側あたりで火花が散り、溢れた血が喉を塞ぐ。
 それでもなお、レッドは動かなかった。それどころか、ぐったりと虚脱した身体は体重を支えることを放棄しており、
シルバーにぶら下がるようして今の姿勢を保っていた。
「ど……して……」
「なに?」
「どうして……裏切るのなら……」

『私は、お前たちすべての兄弟を心から愛している』

「オレが出来損ないだと言うなら……単なる『ヴィクティム』でしかないのなら……」
 腫れが浮かんで熱を帯びつつある顔面の、その痛みに耐えながら、レッドは口を動かしていた。

『お前は我等キース・シリーズの希望だ』

「どうしてあんなこと言うんだ……!」
 悔しかった。ひたすらに悔しかった。あんな言葉をちょっとでも真に受けようとしたことが。少し考えればそれが嘘だと分かるはずなのに。
 キース・シリーズに心などない。キース・シリーズに希望など無い。
 ──そんなこと、分かっていたはずなのに。

「……貴様、ブラックになにか言われたのか?」
 訝しむようにレッドの顔を覗いたシルバーは、そこに肯定の色を読み取り、
「馬鹿者が……どうも様子がおかしいと思ったらそういうことか」
 不機嫌さを隠すことなく顔面に乗せ、乱暴な仕草でレッドの頭から手を放した。
 重力に引かれたレッドの上半身は、緩慢に床へ横たわる。
 頬を伝う血が床に水滴をつくり、そこに触れる乱れ切った金髪の房に浸みこんでいく。
376ヴィクティム・レッド:2009/01/08(木) 15:40:01 ID:oai0m2xp0
「あいつ……なんなんだよ……なんであんなふうにあんなこと言えるんだ……」
 あの時のブラックは、まるで嘘を言っているように見えなかった。偽りのない言葉を述べているようだった。
 トンネルでの一件を褒めたときも──「シャーロット」という名前にはなんの意味もないと切り捨てたときも。
 いったい、どっちなのだろうか? どちらが本物のブラックの言葉なのか?
 もし、そのどちらもが本当だとしたら──、
「あいつおかしいよ……異常だ……人間じゃねえ……」
 最後の言葉に関しては、言うまでもないことだった。
 キース・シリーズはヒトではない。それはレッドには分かり切っていることだった。
 そして、シルバーにとっても。だから、シルバーは前半部分にのみ答える。
「……ヤツはオレから見ても底が知れない。なにを言われたか知らんが、正面から受け止めるな。
ヤツの言うことに踊らされるな。それこそブラックの思う壺だ」
 固く眉根を寄せて、シルバーは重々しく首を振る。
 まるで、シルバー自身もキース・ブラックという兄にどう接するべきか測りかねているようでもあった。
「ふん……貴様の情緒不安定に付き合うほどオレは暇ではない。立て。セピアへの処置は終了したようだ」
 シルバーが顎で示す先には集中治療室の扉があり、その上に設置された「手術中」の赤ランプが消えていた。
「立て」
 言いながら、レッドの右腕をつかんで持ち上げる。
 その力を借りながら、ようやくレッドは立ち上がった。まだ覚束ない足取りではあったが。
「いつまで掴んでんだ、放せよ」
 振りほどくようにシルバーから離れ、廊下の壁に身を預けた。
 シルバーはむっとしたようにレッドを見たが、やがて「ふん」と鼻息をついて扉へと向く。
「……なあ、シルバー」
 シルバーはその呼びかけを無視した。だが、レッドは構わず先を続けた。
「『強さ』ってのあ……なんなんだ?」
 扉に注いだ視線を逸らさず、うっかりすると聞き洩らしそうな低い声でシルバーが返す。
「『カナリアを殺す程度の能力』、だ」
「──どういう意味だ」

 シルバーは今度こそなにも答えず、ただ黙って集中治療室のドアが開くのを待っていた。
377ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2009/01/08(木) 15:41:29 ID:oai0m2xp0
最近知名度が急上昇してますね、サンホラ
378作者の都合により名無しです:2009/01/08(木) 21:55:11 ID:xYw63dad0
ハロイさん本格復帰は嬉しいなあ。
この少年漫画の主人公のような熱いレッドが大好きです。
そしてブラックの底知れない闇も。
サンホラって何ですか?
379作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 02:47:11 ID:bXtI6XJw0
レッドだけじゃなくシルバーもブラックに劣等感を持ってますよね。
レッドに対するシルバーの接し方は僅かな愛情が含まれているような。
セピアの様態が気になりますが、この作品もいよいよ佳境を迎えつつあるのか。
「強さ」に対する答は昔からいろいろありますが、シルバーの答は独特だ。
380テンプレ1:2009/01/09(金) 03:02:22 ID:bXtI6XJw0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart62【創作】


元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1228627326/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
381テンプレ2:2009/01/09(金) 03:03:25 ID:bXtI6XJw0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
382テンプレ3:2009/01/09(金) 03:04:55 ID:bXtI6XJw0
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
ロンギヌスの槍   (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html  
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思 (エニア氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜  (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/751.html
女か虎か (電車魚氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/783.html
383作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 03:09:24 ID:bXtI6XJw0
スレ容量がもうギリギリみたいなので直接スレを立てようとしましたが
ホスト規制で立てられませんでした。どなたかお願いします。

初めてテンプレ作りましたので、(私はハイデッカさんじゃないです)
もし間違えがあったらごめんなさい。一応確認はしてますが。
個人的にサナダさんがテンプレ外れたのが悲しい。
384作者の都合により名無しです:2009/01/09(金) 06:24:55 ID:WhoHl7NM0
俺も立てられなかった

ハロイ氏乙。
キースシリーズの中では能力は一番下かもしれないけど
故に進化の可能性があるレッド。でもその進化はセピアありきかも。
原作との兼ね合い上、セピアは消えちゃうのが分かってるのが辛い。
385作者の都合により名無しです