【2次】漫画SS総合スレへようこそpart59【創作】

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1作者の都合により名無しです
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1218943835/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
2作者の都合により名無しです:2008/10/04(土) 13:23:11 ID:Qx0VUi7e0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
のび太の新説桃太郎伝 (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html
3作者の都合により名無しです:2008/10/04(土) 13:23:50 ID:Qx0VUi7e0
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
上・ロンギヌスの槍 
下・ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/722.html
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
しけい荘戦記 (サナダムシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/634.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  (エニア氏)
強くなるのは、なれるのは (ふら〜り氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/732.html
4作者の都合により名無しです:2008/10/04(土) 13:50:43 ID:Qx0VUi7e0
ハイデッカ氏、いつもテンプレお疲れ様です

ふら〜りさん新連載ですね。短期連載との事ですが
出来れば長く続けてほしいと思います。
でもふら〜りさんは6、7回のものを数多く書くタイプだからなw


ハシさん、最近連載好調で嬉しいですね
物語の暗さと娘の恨みつらみの深さが作品世界とマッチしていると思います
ロンギヌスの方も楽しみにしておりますよ

The World of GOLD 作者さん、きっと前回と同じ方ですね
この連中の仲のよさとほのぼのしたギャグが心地よいです。またお願いします
でも元ネタ全然分からん。ジョジョは分かるけどw
5作者の都合により名無しです:2008/10/04(土) 17:55:00 ID:46Ke5sU60
お疲れさんですハイデカ氏、1さん

ふら〜りさんの新作とハシさんの新作、期待しております
6天敵:2008/10/05(日) 00:16:26 ID:NOt0/yAC0
 大海賊時代、来たる。
 私もまた人並みに財宝と冒険に魅せられ、海賊となった男であった。
 もっとも海賊に試験や資格は存在しない。自ら海賊を名乗ればその時点から海賊となれ
る。要は海賊となってからいかに名を上げるか、だ。
 私は故郷では右に出る者なしの剣(サーベル)の使い手であり、強さには自信があった。
すぐにでも部下を集め、一般人や同業者のみならず海軍にすら恐れられる海賊団を組織す
るつもりであった。
 しかし、海は広かった。
 海賊となってから一ヶ月後、とある島の森林には死にかけている私の姿があった。惨敗
だった。持ち前の体力で命こそ助かったものの、プライドはズタズタに引き裂かれた。
「ちくしょう、海にはあんな奴らがごろごろといるってのかよ……」
 私は悔し涙を流し、当てもなく森の中を放浪した。出鼻をくじかれ、早くも海賊として
生きることにくじけかけてしまった。神か、あるいは悪魔の力でも借りなければ、とても
立ち直れない。
 そんな私にチャンスを与えてくれたのは、神ではなく悪魔の方だった。
 森の最果てに到着した私の足元に落ちていた果実は、紛れもなく『悪魔の実』だった。
「なんでこんなところに……」
 幼い頃、探検家だった父から聞いたことがあった。
「悪魔の実を食べた人間は、例外なく超人的な能力を身につけることができる。しかし絶
対に食べてはならんぞ」
「どーして?」
「海に嫌われるからさ」
 海に嫌われる。すなわち泳げなくなることを意味する。船の上での生活が主となる海賊
にとっては、あまりにも大きすぎるリスク。料理人が味音痴になるようなものだ。私はま
だ海賊を完全に諦めたわけではない。
7天敵:2008/10/05(日) 00:17:28 ID:NOt0/yAC0
 おぞましいほどのジレンマで、私は高熱が出るほどに悩んだ。
 三日ほど経った夜、半ばノイローゼに陥ってた私は悪魔の実を丸ごと平らげた。
「これでもう……俺は一生カナヅチだ」
 一夜にして、私は泳げる体を捨て超人となった。後に図鑑で調べたところ、私が食べた
のは『ブリブリの実』と呼ばれる実であることが判明する。

 排泄物を司る超人、平たくいえば『ウンコ人間』が誕生した。
 初めのうち、私は己の不幸を呪った。泳げなくなった上にウンコ人間では、救いようが
ないではないか。しかもできることといえば体から悪臭を出すことと、体を茶色く変色さ
せることくらい。これでは他人に嫌われることはできても戦うなど到底不可能である。
 しかしいかに嘆いても、二度とカナヅチではない肉体は戻ってこない。私は開き直って
徹底的に鍛錬を積み重ねた。実の特性と真剣に向き合い、できることを増やしていった。
 三年後、森から出てきた私は、以前とは比較にならないほどの強さを身に宿していた。
 私の快進撃はここから始まる。
「うげっ、なんだこのニオイはっ!?」
「鼻が腐る……!」
「た、戦うどころじゃない!」
 自在に発散できる体臭はより凶悪となった。最大で半径百メートルまでばら撒くことが
可能で、至近距離だと特に強力となる。一度、手強い動物(ゾオン)系能力者と立ち合っ
た際、ヤケクソでフルパワーにて悪臭を放ったところ即死させてしまった。よほど鼻が利
く動物だったにちがいない。
「なんて硬さだッ!」
「剣で斬れない……」
「こいつ、銃が通用しないぞ!」
 私は体を自在にあらゆる種類のうんこに変化させることができる。例えば、長期にわた
る便秘で凝縮され密度を増した大便。射出時に肛門を大いに傷つけるあの凄まじい硬度を
私が発揮させたなら、いかなる武器も通じない鋼鉄の肉体を持つに至る。
8天敵:2008/10/05(日) 00:18:16 ID:NOt0/yAC0
「と、溶けやがった……」
「うわぁ! 一ミリにも満たない隙間から入ってくる!」
「まるで液体だ!」
 硬さだけでなく柔らかさにも私の能力は対応している。消化不良の下痢便に変化した私
の侵略を止められる者など存在しない。むろんこうして鋼鉄や液状に変化させたうんこは
飛び道具として使うこともできる。
「ひぃっ! 虫だぁ!」
「どんどん体に入ってくる! 頼む、やめてくれぇ! ぐげあぁぁっ!」
「ありがとう、船長のおかげでダイエットに成功したよ!」
 体内で養殖した回虫やサナダムシは私の意のままに操ることができる。敵を襲わせたり、
あるいは味方に寄生させて過剰な栄養分を吸い取るといった使い方ができる。こいつらの
おかげで私の部下にはメタボリック症候群は一人もいない。
 他にも体臭を消し、体色だけ茶褐色にすることで擬態(カモフラージュ)も可能だ。こ
の戦法で私は幾度も奇襲や急襲を成功させてきた。
 この能力はもしかして無敵ではなかろうか──私はふと思った。
 
 あの絶頂の日々から転がり落ちたのはいったい何年前になるのか。もう忘れてしまった。
 私は『偉大なる航路(グランドライン)』にある島にいる。目まぐるしく切り替わる景
色にも、最初は酔ったがさすがに慣れてしまった。
 無敵だと信じていた私の能力に、まさかこんな天敵がいるとは思いもしなかった。
 海賊団を率いて降り立ったこの島で、つい調子に乗って単独行動をしたのが最大の過ち
だった。私はこの天敵に出会った瞬間、なぜか金縛りにあったように動けなくなってしま
ったのだ。大人しく転がされるしかないと、本能が私に命じたのだ。
 巨大フンコロガシの群れに捕まった私は、島の奥深くまで転がされ、部下の必死の捜索
にもついに引っかかることはできなかった。これから私は死ぬまで島の中を転がされ続け
るのだろう。
 いやおそらく、私が死んでも死体は転がされ続けるのだろう──。

                                   お わ り
9サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/10/05(日) 00:19:37 ID:NOt0/yAC0
ハイデッカさん、1氏乙です。
新スレおめでとうございます。
今回は世界観だけ拝借したタイプの短編です。

このスレも、次はついに60ですね。
若干気が早いですが。

前スレ>>402
とりあえず眠った理由待ちですね。
ピクルにとって「ねむっちまいそうなのろい突き」に過ぎなかったとしたら泣ける。
10作者の都合により名無しです:2008/10/05(日) 00:31:41 ID:NPltLE260
サナダムシさん、新スレ記念うんこ物お疲れ様ですw
サダナムシさんのワンピ物って始めてのような気がする。
守備範囲広いなー
フンコロガシに捕まらなければ海賊王になれそうな実力だw
11作者の都合により名無しです:2008/10/05(日) 13:13:19 ID:xVp5DOVR0
ハイデッカさん、1さんいつも乙です

サナダムシさん新スレ一番乗り乙。
今回は少しヘビーなうんこものですなw
相変わらず匂ってきそうなくらいに美味いなw
でもこれよく見たら、設定だけで
漫画キャラは出てきてないんだよね。本当にうんこものの名手だw
12作者の都合により名無しです:2008/10/05(日) 22:38:21 ID:eI4LEthz0
サナダムシさん今回はミドル級くらいだろうかw
しかしうんこ一つで10以上ss書いてないかw
凄いやwよくここまでバリエーション持たせられるなw

あ、遅れましたが新スレ立てた1さんとハイデッカさん乙です。
13作者の都合により名無しです:2008/10/06(月) 12:07:05 ID:jOMs7cL+0
スタートダッシュはイマイチだな
サイト見たらさいさんが来るかと思ったら来なかったな

サナダムシさんの読みきりは相変わらず正に職人芸だけど
7色のうんこSS使いだ
14THE DUSK:2008/10/06(月) 22:48:29 ID:tpwYw0aW0
シエルがジェルーサレムズ・ロットを訪れたのはこれが初めてだった。
にも関わらず教会への道案内はまったく必要が無かった。
そもそも肩に担いだキャラハンが案内役として何の役にも立たないのだが、どういう訳か彼に聞かずとも
“どの方角に向かえばよいのか”が自然にわかるからだ。
しばしの間、何かに導かれるように歩みを進めるシエル。
静寂と眠りに包まれた民家を何軒か通り過ぎ、幾つかの角を曲がり、ようやく教会らしき建物が
眼に入ったその時、シエルは理解した。
「すごい……」
教会そのものが眩ささえ錯覚させる神々しい力を発していたのだ。それもサン・ピエトロ大聖堂や
システィーナ礼拝堂に匹敵する、とてつもなく巨大な力だ。
町の住人には何の変哲も無いただの教会に見えるだろうが、聖職者や強い霊能力を持つ者ならば少し眼を凝らすだけで、
屋根に据えられた大十字架から大扉の蝶番に至るまで、建物全体を覆う青白い光が見て取れる筈である。
これならば化物や悪霊の類は教会どころか、町そのものに近づけないだろう。
教会に備わる元々の神聖な力に、更に上乗せして聖地レベルにまで引き上げてしまう。このような離れ業は
キャラハンの持つ桁外れの法力と信仰心の成せるものだ。
シエルは思わず顔を綻ばせる。
(うん、流石はキャラハン神父。まだまだ腕は落ちていないようですね)
“現役時代”と比べて少しも衰えを見せていないキャラハンの力が、まるで我事のように嬉しいらしい。
「ううん、着いたのかい?」
感心するシエルの横で突然、キャラハンが頭を振りながら彼女に預けていた身体を離した。
「ちょっと待っててくれ。今、鍵を開けるよ。鍵、鍵はと……」
右へ左へと揺れる頼りない歩調で正面の大扉に向かい、刑事コロンボを連想させる仕草で懐やポケットを
ゴソゴソ探る。
そして、扉を目前にしても足は止まらず、その様子を見ていたシエルの予想通り、前進の勢いそのままに
額の辺りを扉へ強くぶつけてしまった。
どうやら眼を開けていなかったらしい。
「痛たたた……」
その場に尻餅を突き、頭を押さえて顔をしかめるキャラハン。
シエルは溜息を吐いて、先程の彼に向けた感心を後悔したい気分に陥った。
(人としては堕ちるとこまで堕ちているようですが……)
15THE DUSK:2008/10/06(月) 22:49:58 ID:tpwYw0aW0



千鳥足のキャラハンに先導され、さして広くないが小ぎれいな礼拝堂を通り過ぎ、シエルは居住スペースである
リビングとダイニングとキッチンがひとつになったような手狭な部屋に足を踏み入れた。
その途端、シエルは室内の見るも無残な光景に唖然としてしまった。
床にはジム・ビームの空き瓶が無数に転がり、向かい合わせるように置いてある二つのソファや
粗末なテーブルの上にはあらゆる書籍が山と積まれている。
それは礼拝堂からは想像もつかない汚れ具合、散らかり具合だ。おそらく礼拝堂の方は有志の信徒達が
掃除してくれているのだろう。そうでなければ説明がつかない。
「さあさあ、入ってくれ。今、コーヒーでも――」
「キャ、キャラハン神父は座っていて下さい!」
空き瓶を蹴散らし蹴散らしキッチンに向かおうとするキャラハンを、シエルは慌てて押し止めた。
こんな調子で火を扱われてはせっかくの素晴らしい教会を全焼させてしまう。よしんば何とか成功したとしても、
コーヒーであってコーヒーでない怪しげな液体が出てきそうだ。
「失礼かもしれませんが、キッチンをお借りしますね。私がコーヒーをお淹れしますから」
無理矢理ソファに座らされたものの、キャラハンは悪くない気分だ。
立場上は生涯独身を貫かねばならず、それでなくても女性に見向きもされないであろう大酒飲みの彼にとって、
“実年齢はどうあれ”若く美しい女性にキッチンを任せる機会などなかなか無いのだから。
キャラハンはいつもより幾分ゆったりとソファに掛け、キッチンに向かうシエルの背中を見つめる。

しかし、彼女は彼女でキッチンを前に途方に暮れていた。
何しろコーヒーカップはおろか、見渡す限りの食器が洗いもせず放置されている。
まずは洗い物から始めなくては。
シエルは心を無にすると、ひとまず一番の大物である既に虫の湧いている食べ残しのミートソース・スパゲティが
乗せられた皿を片付け始めた。
残飯を袋詰めしてゴミ箱に放り込み、ありったけの洗剤で食器を擦りながら、背でキャラハンに話しかける。
「でも、安心しましたよ。全然お変わり無いのですもの。ホント、あ・い・か・わ・ら・ず」
“相変わらず”が何を指しているかは言うに及ばない。飲酒という彼の悪癖は昨日や今日に
始まった訳ではないのだ。
あくまで背を向けたまま、悪戯っぽく笑うシエル。
16THE DUSK:2008/10/06(月) 22:51:41 ID:tpwYw0aW0
キャラハンはお返しとばかりに、ひどく真面目くさった声色で彼女に囁きかけた。
「君も変わらず美しいよ。いや、少し変わったかな? 雰囲気が明るくなったようだね。前にも増して魅力的だ」
「そ、そうですか……?」
途端にシエルの声は小さくなり、背中は丸くなってしまった。ツヤのあるショートヘアから覗く耳を見れば、
今の彼女の顔色は容易に想像が出来る。
この時、キャラハンは「六十歳を過ぎたら聖職を投げうってハリウッドに行き、端役のひとつにでもありつこうか」
などという馬鹿げた事を少しばかり本気で考えていた。



テーブルの上にはコーヒーの入ったカップが二つ。
シエルはもののついでとばかりに乱雑に積まれた書籍類を整理しており、ソファのキャラハンは
カップに“右手”を伸ばす。
取っ手部分に指を入れようとするも、関節が強張ってなかなか入らない。
ようやく持てたかと思えば握る力が足りないのか、カップは簡単に傾き、中身はテーブルにこぼれ落ちる。
いつもこうだ。忌々しい古き利き手め。いちいち逆らうな。
「クソッ!」
いい歳をして不良少年のような悪態を吐くキャラハンを、シエルは分厚い神学書を抱えながら
まじまじと見直す。

そういえば、さっきから行動のひとつひとつが不自然だ。
足は酔いとは無関係な動きで引きずっていたし、ただのコーヒーカップを持つのにも手間取っている。
いや、手間取るというよりも“まったく持てていない”。

シエルは本を床に置き、ソファに掛けてキャラハンと向かい合った。
「あの、どこか具合でも……?」
キャラハンは苛立ちのあまり左手でカップを掴み、コーヒーを啜っていた。
「去年のちょうど今頃かな? 脳梗塞をやってしまってね。片麻痺というヤツさ」
自嘲的な色合いの濃い笑いが、口周りの皺を深くする。
「最初は手足がまったく動かなかったし、言葉も思うように喋られなかったな。何ヶ月もリハビリを重ねて、
ようやくこの様だ。フフフ……」
「まあ……」
17THE DUSK:2008/10/06(月) 22:53:55 ID:tpwYw0aW0
それ以上言葉の続かないシエルは何を語りかけていいのかわからないまま、キャラハンの顔を見つめていた。
奇妙に歪めた口元(シエルにはどうしても笑っているようには見えなかった)の少し上に光る二つの眼。
透明感のあるブルーの虹彩とは対照的に、白目は黄色い濁りが生じている。
シエルは専門的な医療知識を有している訳ではないが、それでもその黄疸症状は肝臓に重大な異常を
きたしている兆候だという事くらいはわかった。
脳梗塞、重度のアルコール依存症、それにおそらく肝硬変か何か。
ヴァチカンでもトップクラスの実力者が、こんな辺境の田舎町に追いやられ、鬱々とした余生を過ごし、
酒に殺されようとしている。それがシエルには口惜しくて堪らない。
無意味とは知りつつも、彼女はお決まりの言葉を口にする。

「もう、お酒はお止しになられた方が――」

「そうだ、アレックスは? 彼は元気でやってるか? もう十年近く会ってないが」

善意と好意の忠告はキャラハンのわざとらしい話題の転換で遮られた。
若かりし頃に読んだ日本文学の翻訳版の一節が、彼の脳裏を渦巻いている。
“知っていながらその告白を強いる。何という陰険な刑罰であろう”
そして、シエルもこの健康談議を続ける気を既に失っていた。
腹を立ててはいないと言えば嘘になるが、この方がお互い気は楽なのかもしれない。
こちらの想いが相手の重荷になるのなら、放っておくのもひとつの想いだ。
(別にいいですよ。触れられたくないのだったら触れません。私だってあなたの健康診断に来た訳では
ないのですから……)
努めてそう思う事にして、コーヒーに口をつけた。

ちなみにキャラハンの言う“アレックス(Alex)”とは、言わずと知れた“アレクサンド・アンデルセン神父
(Father Alexander Anderson)”その人だ。
だが、彼を愛称で呼ぶなど他の誰にも出来やしない。
同格と言われているシエルにも、上司であるエンリコ・マクスウェル機関長にも。
そう呼ぶのはキャラハンくらいのものだ。

それはさておき。
内心はどうあれ、シエルはにこやかにアンデルセンの近況を伝える。
18THE DUSK:2008/10/06(月) 22:56:16 ID:tpwYw0aW0
「アンデルセン神父ならあなたと同じで相変わらずです。元気で殺ってますよ。
今は“ユダの福音書”を追って、スイスのジュネーヴに飛んでいます。1978年にエジプトで発見され、
ジュネーヴ大学で極秘裏に復元・分析されていた文書がつい先頃、本物と断定されました」
「ほほう。千八百年前から存在が噂され、流布されている内容も口伝の形だったが……」
僻地の司祭には初耳の情報だ。ABCやディスカバリーチャンネルを観ていても、そんなセンセーショナルで
ホットな最新ニュースは流れていない。
どうせ情報管理局第2課“ヨハネ”の仕事(スパイ)なのだろう。そうだとすればキャラハンには
今後のヴァチカンの方針が手に取るようにわかる。
まだ酔いの残る頭で“暗殺”“焚書”の光景を漫然と空想するキャラハンに構わず、シエルは話を続ける。
「その内容が問題です。それは過去に発見された死海文書やナグ・ハマディ文書の比ではありません」
表情が真剣味を帯びていく。やはり彼女も“第13課(イスカリオテ)”なのだ。
「主イエスを売り渡した裏切りの重罪人がその実、主に最も忠実な弟子であり、なおかつ主が奥義を授けられた
唯一の人間だった……――それが示された文書が公の眼に触れ、世に広まれば、反教会派やグノーシス主義者達を
勢いづかせる格好の餌になるでしょう」
「なるほどね。それを見た者は誰もいない。いや、そんな物は初めから存在していなかった、か……。
アレックスにピッタリの任務だな」
多少、嫌味な言い方だが本質を突いている。
アンデルセンの投入を必要とする任務で、最も優先されるべき事項は“殺す”だ。
それはシエルも心得ているらしく、キャラハンの発した皮肉めいた言葉には苦笑いを返すしかない。
更には苦笑いを続けたまま、彼の下を訪れた本来の目的へと少しずつ話題をスライドさせていく。

「それと……私も近く日本へ派遣されると思います。吸血鬼討伐の為に」

キャラハンはさして驚く事も無く、肩をすくめて口を芝居がかったへの字に曲げた。
最早、“日本で兇悪な吸血鬼で暴れまわっている”など“イギリスのプレミアリーグでフーリガンが
暴れまわっている”くらいの価値でしかない。つまり日常茶飯事と同義だ。
「やれやれ。ネロ・カオス、アカシャの蛇、ワラキアの夜。日本はよほど吸血鬼に縁があるようだ。
大して信心深くもない人間ばかりだというのに。いや、だからこそか……。
それで? プランは立てているのかい? “ジャックの血統(J-bleed)”が一筋縄ではいかないのは
経験済みだとは思うが」
己の標的とする吸血鬼の二つ名がキャラハンの口から飛び出した瞬間、シエルの顔色がサッと変わった。
テーブルを挟んで向かい合う両者の表情は実に対照的だ。
19THE DUSK:2008/10/06(月) 22:59:06 ID:tpwYw0aW0
知る者と知らざる者。否、“知り得る者”と“知り得ない者”と言った方が適切だろう。
何故、左遷半分逐電半分の隠遁神父が第13課の機密命令を知り得るのか。
その理由はひとつしかない。それならばシエルも知っている。

「“視た”のですね……? あなたの能力で……」

その言葉に、キャラハンはひどくバツの悪そうな顔で横を向き、ボソボソと答える。
「ああ、テッド・“ジェイブリード”・ダーマーが日本に出現する“展開(ルート)”は幾つも視たよ。
かなりの高確率だ。残念ながらそれに至る経緯まではわからないけれどね」
まるで母親に叱られる子供のようにふくれっ面で話す彼と、彼の話の内容に、シエルは心の昂ぶりを覚える。
しかし、それは怒りを感じているのではない。それに先程の言葉も決して責め立てる意味で言った訳ではなかった。
むしろ喜ばしいのだ。
彼の能力があの吸血鬼を捉えているのなら話は早い、と。
これで目的の核心を切り出すのが簡単になった、と。
その反面、罪悪感もまた同じくらいに湧き出してくる。
(私は自分の任務を成功させる為に彼を巻き込もうとしている。人の好い彼を。イスカリオテとの
関わり合いを望んでいない彼を。病人の彼を……)
複雑な内心はおくびにも出さず、シエルはキャラハンが言うところの“それに至る経緯”を話した。
「七年前、シチリア島で私とアンデルセン神父があと一歩のところまで奴を追い詰めたのですが……。
私の不注意で取り逃がしてしまいました」
奥歯を噛み締め、拳を握るシエル。
この抑えられない悔しさは演技ではない。その時の無念は七年経った今でも鮮明に甦るくらいである。
「それからは、おそらく我々の手が及びづらい中東やアフリカに身を潜めていたかと。
ですが、今年になってアメリカと、直後に日本でそれぞれ姿が確認されているのです。最近はアメリカにも
日本の吸血鬼組織が進出していますから、帰国したジェイブリードと何らかの形で手を結んだのでしょう」
「“闇のヤクザ”か。まあ、彼らも食っていく為なのだろうがね」
随分と呑気な、どちらかと言えば吸血鬼を擁護するかのようにも聞こえる物言いだが、今のキャラハンでは
仕様が無い。
シエルも立場上、同意はしかねるが、その辺りの事情が何となくは理解出来る。
多少古い例えになるが人間世界に当てはめれば、日本の暴力団がアメリカを拠点とするイタリアンマフィアの
シノギの為に“スバル”の密輸入をしてやるようなものだ。
だが、キャラハンもシエルも決して認識は誤らない。
20THE DUSK:2008/10/06(月) 23:02:28 ID:tpwYw0aW0
キャラハンは短く溜息を吐くと、表情を幾分真面目なものに戻す。
「とは言っても、ジェイブリードの方は厄介だな。実力は“死徒二十七祖”の足元にも及ばないが、
人間社会に及ぼす危険度はある意味、奴ら以上だ。バラバラに斬り刻まれて臓物を引きずり出された
無数の屍体に、爆発的に広がる異常な暴動……。ペスト以来の大病原菌だよ、アレは」
“死徒”とは一種の分類であり、吸血される事によって人間から吸血鬼となったものを指す。
その中でも特に強大な力を持ったものを“死徒二十七祖”と呼ぶ。
先程のキャラハンの話にあった吸血鬼達もそれぞれ死徒二十七祖であり、ネロ・カオスは第十位、
“ワラキアの夜”タタリは第十三位、“アカシャの蛇”ミハイル・ロア・バルダムヨォンは番外位となっている。
その彼ら以上の危険性をジェイブリードが有しているのは、一度戦ったシエルも承知している。
シエルは頷き、話を続けた。
「現在、同じ第13課機関員のハインケル・ウーフーと高木由美江が調査中の“吸血鬼の人身売買”とも
何か関係があるのかもしれません。ロシアや東南アジア、それに欧州の一部の女吸血鬼(ドラキュリーナ)が捕獲され、
各国の金持ちの人間に売り渡されるという事例が頻発しているのです。それも仕切っているのは
日本の吸血鬼のようですし……――」
「シエル」
キャラハンが突如、遮った。
あの人の心を見通すような瞳がシエルを見据えている。思いの外、柔和な表情で。

「もうそろそろ、お芝居は止めにしたまえ。年長者を不誠実に欺いてはいけないね。君が私を訪ねてきたのは
近況報告の為ではないのだろう?」

「……」

シエルは“彼から眼を逸らしたい衝動”と“心の底から何もかも白状して謝りたい衝動”に駆られていた。
あの眼。世界を“視る”あの眼。
知っているのではないか。いや、おそらく知っている筈だ。彼は私がこうして訪ねて来る事すらも
既に“視ていた”のだ。そうに違いない。
彼の能力“世界視”は私の心を見通せなくとも、私が何をするかは見通せる。
話さなきゃ。キャラハン神父に話さなきゃ。

キャラハンは待っている。良い子のシエルがすべてを正直に話してくれるのを。
21さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/06(月) 23:03:51 ID:tpwYw0aW0
ども、こんばんは。ノーパンに直接パジャマのズボンをはくスタイル“直接ズボン”が大好きなさいです。
すみません、「早く寝ろ」ってうるさいのでレスへのお返事や用語解説は明日します。
では、御然らば。
22作者の都合により名無しです:2008/10/06(月) 23:47:10 ID:jOMs7cL+0
おつかれさんです!
シェルが艶っぽくて良いですな
物語りもいよいよ動き出したみたいで楽しみ
危険な連中も蠢きだしたし
23作者の都合により名無しです:2008/10/07(火) 00:37:09 ID:JCNwQv4T0
最近はスターダスト氏の影響でこの量でも全然多いと感じなくなったなw

お疲れ様ですさいさん。
ヘルシングは知らないのですがキャラハン神父というのは
シエルのマスターみたいな存在なのかな?
アンデルセン神父が会話の中で出てきましたが今後絡んでくるんでしょうか。
原作読んでないんでアンデルセンはさいさんのSSのイメージしかないんですが
登場したらまた一段と混沌としてきそうですね。
24作者の都合により名無しです:2008/10/07(火) 10:59:36 ID:upnWwkiP0
ヘルシングって確か終わったんだよな
シエルの優等生ぶりはこのSSでも健在だな
25作者の都合により名無しです:2008/10/07(火) 16:45:25 ID:1+8EHajf0
ヘルシング終わったからこの作品で婦警の活躍を楽しむよ
26強くなるのは、なれるのは:2008/10/07(火) 21:50:59 ID:x07Zf+Oe0
>>前スレ409
揺れる電車の中、ミ昇、梢江、刃牙、紅葉の四人は横一列に着席している。
十数分ほどしたら目的の駅に着く。そこから歩いてすぐの公園が、ミ昇の待ち合わせの
場所だ。
そこに着くまでに、梢江はミ昇からいろいろ聞いて、いろいろアドバイスしたかった。のだが。
「な、何もわからない? 徳川さんから資料を見せてもらったんでしょう?」
「そうなんだが、つまり、だな。一番上にあった写真を見た時点で、意識が飛んでしまった
ようなものというかそのすなわち何も覚えてなくて……」
面目なさげなミ昇に、梢江は呆れ果てる。
「それじゃどうしようもないじゃないですかっ」
「すまん」
あ〜もうっ、と頭を掻く梢江を刃牙が宥めた。
「まあまあ。ほら、ピンク色道着のへっぽこ格闘家も言ってるし。『会って! 戦って初めて
相手がわかる! それがストリートファイターってもんだぜ!』」
「そんなこと言っても、そういうわかり方って今のミ昇さんは望んでないでしょ?」
と言われて、ミ昇は胸に手を当てて考えてみる。
「いや……そうでもない。確かに、写真だけで惚れてしまったのは事実だが、それだって
彼女が柔術の達人であるという意識が先にあってのこと。つまり、あんな外見でありながら、
ご老公が目をつけるほど強いらしいというギャップ。そこが欠かすことのできない要素で」
「で? ギャップ萌えが何なんです?」
「ぅ、そういう言われ方をするとどうしようもないんだが。少なくとも俺は、やりにくいのは
間違いないにしろ、彼女と戦ってみたいという思いはある。ただベタ惚れして、会って話を
してお付き合いしたいってだけではない」
「……ん〜……」
その辺の気持ちは、どうにも梢江には理解しにくい。
「あ、そうだ忘れてた。ご老公が彼女に連絡を取った時、俺のことを伝えようとしたらしいんだ。
が、彼女は『相手の情報が無い状態で戦いたい』と言って拒否し、俺の名前だけを聞いた
んだそうだ」
27強くなるのは、なれるのは:2008/10/07(火) 21:52:31 ID:x07Zf+Oe0
「へえ、そりゃなかなか見上げた心意気だね」
刃牙が少し感心した。その反応に、ミ昇は嬉しそうな顔をする。
「だろ? そういうところも含めて、俺は彼女のことを気に入ってしまったわけでだな。彼女の
柔術に関する資料も貰ったんだが、俺も彼女を見習おうと思って全部ご老公に返したんだ。
今、彼女のことがわからないのもそのせいで」
「なあミ昇」
今まで黙って聞いていた紅葉が口を挟んだ。
「お前さっきから彼女彼女と言ってるが、まさか名前まで覚えてないなんて言わないよな?」
ミ昇の嬉しそうな顔が、嬉しそうなまま固まった。
紅葉と刃牙と梢江の視線が浴びせかけられる。
やがて、ミ昇は言った。
「……兄さん。今日の晩飯は何かな?」
梢江は頭を沸騰させて、刃牙の襟首を掴んだ。
「刃牙君っ! あなたのお友達って、まさかみんなこういう人なのっっ!?」
「そ、そう言われても、加藤さんや烈さんとこんな会話したことな……したらどうなるんだろ」
「つまり俺は、彼女の武道に対する真摯な姿勢に尊敬すら感じていて、」
「ミ昇。私は兄として、お前の将来が不安になってきたんだが」
などと言ってる間に、電車は目的の駅に到着した。

駅から歩いて数分、ミ昇たち四人は待ち合わせ場所の公園にやってきた。
遊具があり広場があり、隣には虫取りとかできそうな雑木林もある。なかなか立派な公園だ。
もちろん、ミ昇にはそんなことどうでも良くて、だんだん迫ってきた出会いの瞬間のことを
思い、ただただ緊張している。
紅葉はそんなミ昇を落ち着かせようといろいろ話しかけているが、効果はないようだ。
やがて……
「き、来たっッっッ!」
裏返ったミ昇の声に、他三人がそちらを見た。
28強くなるのは、なれるのは:2008/10/07(火) 21:54:16 ID:x07Zf+Oe0
短めの髪に白いフリルつきカチューシャを飾ったその女性、年齢は20歳ぐらいだろうか。
刃牙たち以外には子供しかいないのを確認すると、迷い無くこちらに向かって歩いてきた。
澄みきった空のような青いメイド服にエプロンドレス。短いスカートから伸びるスラリとした長い脚を、
真っ白なニーソックスが包んで、太ももやふくらはぎのしなやかなラインを引き立てている。
衣服全体での露出度は低いし、薄くて体に密着しているというわけでもない。だが背すじを
ピシッと伸ばして歩くその姿は、どんなモデルよりも様になっている。それが標準を大きく
上回るサイズのバストと、下回るサイズのウエストなどを強調していて、目に眩しいぐらいだ。
そして、それやこれやを纏めている整った顔立ち。表情は柔らかでいながら、その瞳には
確かな鋭さを備えており、強弱両面で見る者の闘志を削いでしまうものがある。
『こ、これはまた、何とも。ミ昇が一目惚れしてしまったのも頷けるな』
紅葉は驚きながら納得し、
『綺麗なひと……あ、いや、ま、まあ、ちったあキレーかもしれないわね、ふっ』
つい見惚れてしまった梢江は隣に刃牙がいるのを思い出して気を引き締め、
『貌といいプロポーションといい、洋画の女優さんみたいというか、何だかちょっと日本人離れ
してるような……ハーフとかかな。そういやハーフって美男美女が多いとか聞くし。あの
大きな胸や腰のくびれはそういういででででででででっ』
刃牙だって年頃の男の子なんだから、そんぐらい勘弁したらんかいという年寄りの意見とは
無縁な、年頃の女の子たる梢江は彼氏の頬を思い切りつねっていた。
そんな風に三人がそれぞれいろいろ思っている中、肝心のミ昇は頭の中がグチャグチャに
なって何も考えられなかったりして。
やがて、当の美人メイドさんが一行の前までやってきた。
「初めまして。鎬ミ昇様ですね?」
メイドさんは礼儀正しく姿勢良く、ぺこりとお辞儀する。気を抜けば絡んでもつれて
しまいそうになる舌を何とか動かして、ミ昇が答えた。
「い、いかにも、その通り。で、こっちの三人は、」
ほら自己紹介っ、とミ昇がつつく。三人も揃って少し緊張しながら咳払いなんかして、
「兄の紅葉です」
「友人の範馬刃牙です」
「その彼女の松本梢江です」
並んでぺこりと一礼する。
29強くなるのは、なれるのは:2008/10/07(火) 21:55:08 ID:x07Zf+Oe0
「これはこれはご丁寧に。わたくしは……徳川様からの資料はご覧になられました?」
「あ、ああ。でも、あんたが俺の情報を聞くことを断ったと聞いて、俺もあまり詳しくは
見てない」
そのミ昇の返答を聞き、メイドさんはにこりと微笑んだ(ミ昇の心臓がでんぐり返った)。
「そういうことでしたら、わたくしからはあまり語らない方が宜しいですね」
「そ、そうだな、うん」
「何はともあれ、ここでは人目もありますから。こちらへいらして下さい」
メイドさんはミ昇たちを促し、先に立って歩き出した。
ミ昇たちは大人しく着いていく。にしても後ろから見てても、後姿だけでも、やはり綺麗だ。
ミ昇と紅葉が溜息をつき、刃牙もそれに続き、梢江にドツかれる。
だがこの時、梢江以外の三人、特に刃牙とミ昇なら気付いたはずだ。彼女の美しさに
気を取られず、冷静であったならば。
なぜ彼女の歩く姿が、こんなにも美しく見えるのか。歩いている間中、全く正中線がブレず、
重心がズレず、腕にも脚にも指の先にも、余分な力が一切入っていないからだ。
歩くという行為にとって最も隙の無い、最も武道的なその動きと姿勢。それは彼女の
戦闘能力の高さを如実に示している。低く見積もってもミ昇並、いや、あるいは……という
分析は、残念ながら刃牙にも紅葉にももちろんミ昇にもできず、ただ黙ってついていく。
メイドさんはミ昇たちが押し黙っているのを見て、雰囲気を和らげようと思ったのか、
試合とは関係のない話題をいろいろと振ってきた。
「ミ昇様は、世界中を武者修行して廻られたそうですね。特に印象に残っている国は
ありますか? 修行以外のこと、例えば料理や景色などで」
「ん……いや、これといって特には」
「左様でございますか。わたくし、出身はロシアなのです。冬の寒さは厳しいですが、春の訪れ
が告げられる時期の、河の美しさといったらもう……どうされましたミ昇様。変なお顔を
なされて。範馬様、紅葉様……松本様まで? その哀れむような眼差しは一体? わたくし、
何か妙なことを申しました? それとも皆様のお里では、ロシアの人に何か偏見でもっ?」
四人は何も言えなかった。
30強くなるのは、なれるのは:2008/10/07(火) 21:56:22 ID:x07Zf+Oe0
まあいろいろあったが。
とりあえず、メイドさんに連れられて一行がやってきたのは雑木林の奥。ほんの少しだけ
木々が途切れている場所だ。
とはいっても「広場」と言えるほどのものではない。傾斜あり、でこぼこあり、あちこちに木の根
が出てて、いつ躓いて転ぶかわからない。少なくとも地下闘技場とは比較にならない足場の
悪さだ。
とはいえ、戦うとなれば電車の中だろうがジェットコースターの上だろうが関係なく戦わねば
ならないのが武道家。それはミ昇も、刃牙や紅葉も理解しているから何も言わない。
「この辺りでよろしいでしょうか」
メイドさんが足を止めた。刃牙と紅葉と梢江が離れた。
ミ昇は、メイドさんと距離をとって深呼吸をする。
とうとうこの時が来たのだ。今はただ、全力で戦うのみ。告白するにしても電話番号を聞く
にしてもデートの申し込みをするにしても、全てはその後のこと。
「いいだろう。兄さん、合図を頼む」
まだ心の準備は完了していないが、流石にここまで来て、そんなことでオタオタしていられない。
だからミ昇はムリヤリにでも気合を入れる。そこへ、
「始めぃっ!」
紅葉の声が響いた。ミ昇は両手でパァン! と自分の頬を叩いてから構えを取って、
「鎬流空手、鎬ミ昇……参るッ!」
メイドさんも表情を引き締め、流れるように両掌を上げて構えた。
「明道流柔術、ドラエ=タチバナ=ドリャーエフ……一手ご指南願います!」
31ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/10/07(火) 21:58:14 ID:x07Zf+Oe0
「上は脱いだのに、どうしてスカートは脱がなかったんだ……スカートまで脱ぐのは恥ずかし
かったから? いや! あの人に限ってそれはない(断言)! スカートを脱がなかった
のは……『その必要があった』からだ!」
ってな風に、主人公から絶大な信頼(武術的な意味で)を寄せられているドラエさんは、
『ツマヌダ格闘街』のヒロインです。他の女性陣も私にはかなりツボってます。オススメ。

>>1さん&ハイデッカさん
毎度、おつ華麗さまです! いやぁやはりテンプレに置いて頂けるのは光栄で嬉しくて。
「この面々と並んでの、連載陣の一角」とか思うと。……長編も考えちゃおりますが、
なかなかまとまらず。面目ない。太平記の次に好きな時代、なんとか描きたいんですけどね。

>>ハシさん(私の知る切り裂きジャックは、JOJOとパタリロとWH2……ぐらいかな)
おぉ。エグいグロいと言いましたが、ここに来て主人公が主人公らしく、敵キャラは敵キャラ
らしくというか。ちゃんと、ヒューリーの「陽」の部分が描かれてますね。いくら暗さ重さが売り
の作品でも、むしろだからこそ、こういう一点が眩しい。さぁF08との遭遇でどうなるか?

>>初流乃レクイエムさん
コロネじゃない、コロネじゃない、本当のこーとーさー! とならなかったのが少々無念では
ありますが。体育や美術まで含めても英語が成績最低だった私としては笑う前に感心しま
した。特に「無駄」の訳に。はたしてこの形式のままどこまでいけるのか、独特に楽しみです。

>>サナダムシさん
まず能力の説明、弱さの提示、それを自覚しての主人公の必死の努力、見事それが実った!
と思ったら最期がフンコロガシ。不定形生物の攻略法は冷凍とかあるでしょうに、フンコロガシ。
スジは通ってるというか、納得せざるを得ない。この面白心地いい短編の締め、毎度お見事!

>>さいさん
シエルがかっこいいというか、いい女というか。過度に甘くなく、さり気なく相手を気遣い、
任務のことを常に考えつつも、女性らしさがしっかりとある。まひろとは対照的そうでいて、
どこか近いとも思えたりして……そうか、あの時のカレー女はこんな人だったのかと感慨深く。
32作者の都合により名無しです:2008/10/07(火) 23:31:32 ID:JCNwQv4T0
ふらーりさんまた一般人から遠い世界からヒロインもって来ましたなw

お疲れ様ですふらーりさん。
ストリートファイターと書いてあったから春麗かな?と思ったんですが
やはりそんな甘い方でなかったですな。なんて素人に厳しい人なんだ・・w
でもそんなふらーりさん独特のワールドが楽しみです。
33作者の都合により名無しです:2008/10/08(水) 00:11:07 ID:i0F1mrl30
凄いわふら〜りさん
俺の想像の斜め上を行く。
その漫画知ってる俺もヤバい
34作者の都合により名無しです:2008/10/08(水) 00:47:43 ID:+Wiz66LyO
二十歳という年齢が出るまでは白鳳院綾乃エリザベスとか思ってたけど、それじゃあコウショウがロリコンになっちゃうもんな。
で、何のマンガっすかw
35作者の都合により名無しです:2008/10/08(水) 10:15:28 ID:/qYVWw9p0
ミ昇もメイドと戦うまでに堕ちたかw
しかしドラエ=タチバナ=ドリャーエフってどんな名前だw
マジで狙ってるとしか思えないところからもってくるなw
36作者の都合により名無しです:2008/10/08(水) 10:27:30 ID:zlHWPl4g0
まあメイド=卓越した戦闘力の持ち主ってのは最早漫画やアニメの様式美みたいなもんだからな…
37エニア ◆dQavwiTBjo :2008/10/08(水) 20:13:20 ID:v/TH0giS0
メモカが逝った♪データが逝った♪
その他全部、壊れて消えた♪(シャボン玉飛んだ調)

続き、遅くなります…。
俺の完クリP4データがぁああああ。
38ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 22:45:40 ID:ZO26odY+0
 外には月が煌々と輝き、夜の世界を照らしている。あてがわれた部屋で、ヒューリーとピーベリーはすでに床についていた。
 部屋の中には物音一つ無い。二人ともよく眠っているようだ。それを見計らって……一つの影が、部屋の中に入り込んだ。
 暗闇が全身を覆っているため、何者かは判別できない。
 その忍び寄る影は、足音を立てないよう慎重にベットに近づき、ピーベリーの顔を覗き込んだ。
 よく眠っている。若く、しなやかな身体つきだ。
 とても美味そうだ。
 そして影は、ピーベリーの首筋に顔を近づけ、口を開き、鋭く尖った牙を突き立てようと……
「ぎゃっ」
 牙が皮膚に触れる寸前、影はそんな悲鳴を上げながら、身をよじらせた。見れば、影のこめかみに無骨なナイフが
突き刺さっていた。苦痛に身もだえ、影は床を転がりまわる。必死の思いでナイフを引き抜いた影は、自分を見据える
視線に気がついた。
「ピーベリーの言ったとおりだな」
 影の前には、眠っているはずのもう一人の客――ヒューリーが、凄まじい形相で睨みつけていた。
「襲われる可能性があるなら、俺達が寝静まった後。だから俺達は、交代で見張っていたのさ。
 お前はまんまと罠に嵌ったってことだ」
 そういいながらヒューリーは、もう一本ナイフを取り出し、口にくわえる。それが、彼の戦闘における基本スタイル。
 窓辺から差し込む月の光が、影を隠していた闇のベールを剥ぎ取る。
 影の正体は、宿の主人である老婆だった。眼球を真っ赤に充血させ、しわだらけの顔には、騙されたことと痛みによる怒りで
鬼気迫る表情が浮かんでいた。
「よくも、騙してくれたなッ!」
 気が狂うほどの怒りを放ちながら、老婆は吼えた。
 変異が始まった。
 老婆の背から翼が生え出し、爪が針のように鋭く伸び、肉が膨れ上がり体格が一回りほど大きくなる。
 ずしん、と巨大な足で床を踏みしめた。
 小柄な老婆は、怪物への変身を果たしていた。
「ガアアアアアアアアアッ!!!」
 野獣のような叫びが、宿全体を揺さぶった。怪物と化した老婆はヒューリーに飛び掛った。
 鋭く伸ばした爪で、心臓を一突きにするつもりだ。
 ヒューリーは動じなかった。老婆の動きをとらえ、爪の一撃をかわす。
 派手な音を立てて、老婆の一撃を受けたベットが、粉々に吹き飛んだ。
39ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 22:46:20 ID:ZO26odY+0
 恐るべき怪力だ。しかし大振りであったので、冷静に見切れば、それほど脅威ではない。
 ヒューリーは振るわれる爪を回避しながら老婆の懐に入り込み、その厚い胸板にナイフを突き立てた。
 人造人間の膂力で、根元まで強引に押し込む。切っ先は心臓に達していた。
 老婆はもがき苦しみ、爛々と紅く光る瞳をヒューリーに向けた。
 そしてよろめきながら窓に近づき、月に手を延ばしながら――その全身を灰に変えた。

 戦いを制したヒューリーは、ナイフをおさめた。すでにピーベリーも眠りから醒めており、煙草をふかしながら
老婆の成れの果て――床に積もった灰の山を調べていた。
 ピーベリーは人造人間の研究者だ。珍しいタイプの人造人間に遭遇したことで、好奇心を刺激されているのかもしれない。
「まさかこんな寂びた村に、人造人間がいるなんてな」
「いや、こいつは人造人間ではない」
 灰を摘みながら、ピーベリーが言った。
「電極がない。限界を迎えた人造細胞が灰に還る現象もあるが、電極が見当たらないとなると。おそらくこいつは吸血鬼だろう」
「吸血鬼だと?」
「闇に生きる生物は、人造人間だけではない。いい機会だから覚えておけ。奴らは人間から血を吸って仲間を増やす。
 そこが人造人間よりも厄介なところだ。一度吸血鬼に転化した者があらわれれば、疫病のように蔓延する。
 身体能力は人造人間と同じ、あるいは凌駕するのだから、鬱陶しいことこの上ない。だが、強大な力に比して、弱点が多い。
 日の光、銀、流水、白木の杭……など様々だ。もっともこれは血統ごとに異なるらしく、太陽の下で生活できるものもいれば、銀などの
 武器が効かないものもいるらしい。唯一共通している、そして絶対のルールは、心臓を破壊すれば吸血鬼は灰に還る、ということだ」
「なるほどな。まったく、厄介な怪物は人造人間だけにしてほし――」
 その時、ヒューリーは、気づいた。自分達に向けられている殺気の存在に。
 窓の外を見る。
 宿の向かいの家の屋根に、誰かいる。そいつは、こちらに笑いかけていた。
 不意に、そいつの姿が掻き消えたように――普通の人間の目には見えただろう。
 だが人造人間であるヒューリーの目には、そいつが強く屋根を蹴り、飛び上がった光景が見えていた。
 助走なしの飛翔。だがそいつは弾丸の如く、真っ直ぐにこちらに向かってくる!
「ッ! ピーベリー!」
 派手な音を立てて、窓が割れた。先ほどまで窓の外からこちらを見ていた人間が、突然部屋の中に飛び込んできたのだ。
 侵入者はにぃと嗤い、ピーベリーに向かい爪を振るった。
40ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 22:46:58 ID:ZO26odY+0
 驚きで咄嗟に動けない彼女の手を、強引にヒューリーは引っ張った。侵入者の凶刃は空しく空を切った。
 奇襲に失敗した侵入者は、舌打ちしつつ二人から距離をとる。
 瞳を紅く輝かせている――こいつも吸血鬼か。
 吸血鬼の容赦ない連撃がヒューリーを襲った。目にも留まらない速度で打ち出される、鋭く尖った爪の一撃。
「チッ!」
 ピーベリーを後ろにかばいながら、吸血鬼を迎え撃つ。爪とナイフが、激しく火花を散らす。
 だが勝負は呆気なく決まった。五合ほど打ち合った後、隙をついたヒューリーの刃が、吸血鬼の胸を貫いた。
 短い悲鳴を上げ、吸血鬼は、灰となって滅びた。
「……まだ仲間がいたのか」
「吸血鬼は際限なく増えるからな。人造人間がいないとなると、この村に来て最初に感じたあの墓所のような気配は、おそらく……」
 ヒューリーは、墓穴から響くような、陰気で、不気味な唸り声を聞いた。 
 死んだような雰囲気を纏っていた村が、いま覚醒しつつあった。
 昼間は人っ子一人いなかった道に、たくさんの人影がいた。そいつらは、皆一様に瞳を紅く光らせ、不気味な唸り声を上げていた。
 幽鬼のように、あるいは死体のように、人間のかたちをしたなにかが、宿の周辺に集まりだしていた。
「どうやら私たちは、奴らの巣に入り込んでしまったようだな」
 ピーベリーの口からその言葉が発せられると同時に、突然ドアが破られた。
 その向こうには二人の吸血鬼が立っていた。歓喜の唸り声を上げて、襲い掛かる。
 だがヒューリーの敵ではなかった。一人がナイフを心臓に突き刺され灰になり、もう一人は頭を握りつぶされ、
身動きできなくなった後に止めを刺された。
 ヒューリーは苦々しく表情を歪めた。すでに宿のまわりは囲まれている。まだまだ増える可能性が高い。
 敵はそれほど強くはないとはいえ、数が多い。まともにぶつかるのは危険だ。
 これ以上数が増える前に、敵の包囲網を突破し、逃げるのが最善の策だろう。
「俺が切り込んで、奴らの隙を作る。その隙をついて一気に突破するぞ。ついてこれるか」
「当然だ」
 すでにピーベリーは武装を完了していた。
 彼女は巨大な注射器のような武器を持っていた。ワイス卿との戦いでも使っていたものだ。
 その武器は槍のように敵の身体に突き刺し、先端から薬物を注入し、人造人間の体組織を破壊せしめるものだった。
 人造人間には絶大な効果を発揮したが、吸血鬼にどれほど有効かわからない。が、ないよりはましだろう。
「よし、いくぞ!」
41ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 22:47:34 ID:ZO26odY+0
 ヒューリーとピーベリーが吸血鬼の群れ相手に死闘を開始してから、しばらくたった頃。
「てこずっているようじゃな」
「もうしわけありません。ですが、時間の問題でしょう。少々腕が立つようですが、所詮は人間。
我らモントリヒトの敵ではありません」
 村の外れにある教会。そこは、吸血鬼の本拠地であった。普通の吸血鬼ならば神性にあてられ滅びる
はずだったのだが、モントリヒトの血統には信仰による弱点は存在しない。十字架も、聖餅も、効果はない。
 だから吸血鬼でありながら教会に居座るという、涜神的な行為もできたのである。
 その闇の教会の中で、モントリヒト達が会議をしていた。
 牧師の立つ壇上には、この村のすべてのモントリヒトを纏める長が立ち、その脇を上位のモントリヒトが固めていた。
 久しぶりに餌があらわれたこと、その餌が抵抗していること、などを長に報告していた。
 その報告に、長は悠然とした態度を以って答えた。長は数百年の時を生きた長生者(エルダー)であった。
 この程度の混乱など、問題にもしていないのであろう。
「まあいい。今は夜、しかも月もでている。お前達のいうように、すぐに片がつくじゃろう。
 食餌は皆で分けることを徹底させるのじゃぞ」
「は」
 長の言葉に、平伏するモントリヒト達。彼らはかつて、倫敦で猛威を振るっていたが、<装甲戦闘死体>の出現により、
この辺境にまで逃げることを余儀なくされた一族であった。
 手ごろな村を見つけた彼らは、元々の住人だった人間をすべて吸血鬼に転化させ、自分らの隠れ蓑に仕立て上げた。
 そして<装甲戦闘死体>の脅威から逃れるために世俗との交流を一切絶ち、ほそぼそと生き繋いでいた。
 だが、それはモントリヒトとしての生き方を否定するものだった。
 これまでモントリヒトは、夜の世界で支配者として君臨していた。
 人間は家畜に過ぎなかったし、好きなだけ殺し、好きなだけ糧にしてきた。
 だが、<装甲戦闘死体>の出現で、自分らは支配者の座から引き摺り下ろされた。
 長は密かに嘆息した。いまの自分らのありように、疑問を抱いていた。
 天敵の襲撃に怯え、身を隠すしかない生き方。
 食餌すら満足に出来ず、常に飢餓に苛まれる。
 迷い込んだ旅人を襲うときには、ああいう風に、獣と変わりない行動を取るまでに、自分らは堕した。
 ……昔はこうではなかった。
 ……モントリヒトの誇りは失われてしまったのか。
 在りし日の栄光を思いを馳せ今を嘆いていたその時、教会の外から騒々しい音が聞こえてきた。
42ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 22:48:04 ID:ZO26odY+0
 馬車の音だ。相当な速度で走っているらしく、その音はどんどん近づいてくる。
 そして、轟音とともに、馬車が教会の壁を突き破って、モントリヒト達の前に出現した。
「な、なんだ!?」
 教会の机や椅子を派手に吹き飛ばしながら、馬車は止った。そして、馬車の中から、小さな人影が姿を現した。カールした美しい金髪。
透き通るような紅い瞳。良家のお嬢様が着るような純白のドレスに、赤いリボン。
「こんばんわ。死ぬにはいい夜ね、モントリヒトども」
 <装甲戦闘死体>、F08であった。
「まさか……!」
「そうよ。あなた達を滅ぼす刃、<装甲戦闘死体>が一人、F08よ。あ、名前は覚えなくていいわよ。
 どうせあなたたち、すぐ死ぬもの。あなた達の積める善行は速やかに死ぬこと。だからちゃっちゃと死ねよカス」
 その言葉が発せられると同時に、長の傍に控えていた上位のモントリヒト達が、F08に向かって躍りかかった。ハルバード、メイス、
ツーハンドソードなど、それぞれが得意とする武器を手にし、一瞬にして彼女を取り囲んだ。彼らはかつて、一対多ではあるが<装甲戦闘
死体>の一人を屠った経験もある精鋭だ。いかに<装甲戦闘死体>とはいえ、数で勝るこちらが有利、と長は信じていた。 ……しかし。
「が」
「ぎゃ」
 精鋭達は短い悲鳴をあげて、あっけなく灰になり、消滅した。ぽかんと口をあけたまま、長はその光景を見ていた。
「ば、ばかな。こやつらは<装甲戦闘死体>を破壊したこともあるのだぞ。それがこんなにも容易く敗れるなど!」
「ばっかじゃないの。無駄に歳食って脳みそに蛆湧いてんじゃない? 私たちは常に進歩してるの。最新型の<装甲戦闘死体>はね、第一世
代の奴とは遥かに技術的な開きがあるのよ。そして、わたしはその最新型。旧世代を嬲って調子乗ってる馬鹿にやられるはずがねーんだよ」
「ぐ……」
「さて、と。不死者に死を――ってね」
「ひ、ひぃ……」
 笑みを浮かべながら近づいてくるF08に恐れをなした長は、逃げようとして足を滑らせ、無様に壇上から転げ落ちた。月の光で、その全
身が露になる。 
 長――数百年の時を経てきた支配者の容姿は、ほんの十歳ほどの子どもであった。
「あらかわいい」
 恐怖に震える少年の顔を、F08は優しく撫でた。そして、
「でも死ね」
 ずぶり、とナイフで心臓を貫いた。
 悠久の歳月を生きた怪物が、呆気なく灰に還る――
43ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/10/08(水) 23:18:20 ID:ZO26odY+0
「あははは。弱っちーの。まるでお話にならなかったわ」
 F08は、灰だらけとなった教会の中でころころと笑った。
 この村を支配するモントリヒトは斃した。これで自分の任務は、半ば達成されたも同然だ。
 まだ生き残っているモントリヒトは大勢いるが、所詮は烏合の衆、敵ではないだろう。
「さあ、後はしらみつぶしに殺せば、この退屈な任務から解放されるのね。倫敦にも帰れる!」
 だからF08は上機嫌であった。くるくるとナイフを器用にまわし、鼻歌を歌いながら、教会を後にした。
 さらなる殺戮を行うために。モントリヒトを滅ぼすために。
 だがF08は知らなかった。
 この村にいるのは、モントリヒトだけではないことを。
 ヒューリー・フラットライナー。
 彼の背景を考えれば、両者の死闘は避けることは出来ないだろう。
 折りしも両者は、いかなる運命の悪戯か、炎に誘われる蝶のように、互いに近づきつつあった。
 二人が接触を果たすまで、あともう少し―― 
44ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/10/08(水) 23:25:56 ID:ZO26odY+0
マガジンZが廃刊――
仮面ライダーSPIRITSは他誌での連載が決定してるらしいですが。
嗚呼、ジャバウォッキーはどうなるんだ……

前スレ>>425さん
F08は性根が曲がった子で、原作でのかませっぷりがたまらない愛らしいキャラです。序盤で早々に退場してしまった彼女ですが、
ぜひとも再登場してほしいですね。
>>4さん
勢いに乗って出来るだけはやく、というのが今回の課題の一つだったりします。F08は原作でも主人公サイドに心が歪んでるから
嫌われてたんだ! とかいわれてるかわいそうな子です。だからこそ愛らしいのですがw
>>5さん
ありがとうございます。今回は投稿のペースをあげて頑張ります。
さいさん
まさにクロスオーバーの醍醐味ですね。アンデルセンや死徒二十七祖などの単語が出てくるたび、ぞくぞくしっぱなしです。
二人が日本へ来るきっかけは、ジェイブリード絡みのようですね。吸血鬼の売買なんて恐ろしいことをしている奴が登場するとなると、
まひろやセラスのいる銀成市も危険なことになるのかも……
ふら〜りさん
柔術家+メイド+ロシア美人とは、なんと隙のない……! コミカルな描写もお見事ですが、自分としてはつかみところのない柔術を
ふら〜りさんがどう料理されていくのかが気になります。今後のためにも参考にさせていただきます!
45作者の都合により名無しです:2008/10/08(水) 23:45:58 ID:bA6UweK10
エニア氏もデータ消えたか。最近皆さんよく亡くすなあ

ハシさんお疲れ様です。
世界も登場キャラも歪んでて狂ってていいですな


しかし今年のノーベルラッシュはすごいぜ
46作者の都合により名無しです:2008/10/09(木) 00:52:32 ID:tfi+kmKE0
F08ってオリキャラだと思ったら原作に登場してたのか
立ち読みでしか読んでいないからなあ、あの雑誌
でもこのSSだと存在感あるし、暗くて面白いキャラだね
47作者の都合により名無しです:2008/10/09(木) 23:43:22 ID:ov7XzY9O0
最終的にはヒューリーのかませになるんでしょうが
そこまでの過程が楽しみですな
こういう、まったく本編で陽のあたらなかったキャラが活躍するの好きだから
48作者の都合により名無しです:2008/10/10(金) 05:16:19 ID:8ax7JcL+0
F08みたいなキチガイキャラが圧倒的な力の差に直面して恐怖に打ち震え絶望するを見るのが好きな俺ガイル
49作者の都合により名無しです:2008/10/10(金) 11:28:52 ID:P2Ncm6uY0
あれ、ハシさんも単行本でしか読んでないの?

F08、連載だとちょっと前から復活してるよ。
50作者の都合により名無しです:2008/10/10(金) 20:03:22 ID:8RqMllzx0
エニア氏データロストか。掲載が遅れるのは残念。
でも誰でも一度は通る道なのかね
51永遠の扉:2008/10/10(金) 22:08:34 ID:iwdghOJv0
第076話 「滅びを招くその刃 其の拾肆」

 鳳凰とはそもそも何か。
 起源はインドとも中国ともいわれている。いずれにせよ中国では長らく霊性高く神鳥中の神
鳥とされ、薬物博物の一大著作たる本草綱目(ほんぞうこうもく)においても、「羽蟲(鳥類。説
によっては羽根の生えた生物とも)360種の長」というきらびやかな記述を見るコトができる。
 麒麟や霊亀、応竜と並ぶ四霊でもあり、一般には「鳥王」とするむきが多い。
 中国神話時代の黄帝(三皇五帝の一人)の息子・少昊(しょうこう)が東方の海外に鳥の王
国を作れば総理を務めた……というのは少し寓話の匂いが強くなくもないが、しかし劉邦以降
の皇帝のシンボルが龍だったのに対し皇后の象徴が鳳凰とされたのを考えると、時代時代の
権力者にとっていかに重んじられていたかが伺える。
 日本における鳳凰の伝説は少ないが、金閣寺の屋根にいる鳳凰などは「貴族や武士、そし
てそれらを支配する仏教をも支配して天へ飛び立たんとする」足利義満その人を現していると
する説もある。
 そんな鳳凰だが、実は姿についてこれといった定形がない。
 例えば法隆寺の金堂の天蓋に飾られている鳳凰はキジの姿にやや似ているが、平等院鳳
凰堂の屋根にある金銅一対の鳳凰像はあたかもニワトリのごとくである。
 中国に到っては「龍に九似あり」を唱えたこの国らしく、実にさまざまな生物の合成を以て鳳
凰を想像しており、書簡によって背中をカメとしたり後半分を麒麟のメスにしたりと実に取りと
めがない。
 またこの鳥はしばしば火性の鳥として見られるが、意外にも本来は風を司る鳥であり、伝説
では水の元素から生まれたとも伝えられている。
 それ故か文献にみられる気性も驚くほど静かである。
 曰く、殺生を嫌い竹の実しか食べず、飲む物はもっともうまい泉(醴泉・れいせん)か寒露で
あり、ひとたび飛べば風はピタリと止んでチリさえ飛ばず、ただただはためく五色の翼が蕭(しょ
う)のごとくにと鳴り響いて鳥の群れが後に続く──…

 廊下に神韻縹渺(しんいんひょうびょう)たる一音のみがきらきらと響いた。
 金の光が斗貴子の傍を静かに通り過ぎ、かっさらった剛太を遥か彼方の桜花へ投げつけた。
52永遠の扉:2008/10/10(金) 22:10:12 ID:iwdghOJv0
 言葉にすればそれだけだが、桜花は斗貴子たちから十数メートルは離れている。剛太の体
重は長身にしては軽いものの実に63キログラムはある。いかに高出力のホムンクルスといえ
どそうは成せない芸当……とは数瞬後に事態を把握した斗貴子の第一感想だ。
 更にもとより絶縁破壊で麻痺して碌に身動き取れぬ桜花である。
 頭も四時へと逆(さかしま)に飛んでくる剛太とあえなく衝突した。同時に光の上部から絢爛
たる赤青緑白金の五色が静かに噴出した。桜花の美しい顔は衝突の苦悶に歪み、柳のよう
な背筋が海老のごとくに丸まった。そんな彼女が薄目を開けて息を呑んだのは、加速を帯び
た圧倒的質量が迫っているのを認めたからである。金色の光。それは桜花と剛太が共倒れを
きすより早く、既に彼らの眼前に迫っていた。
 そして虹の旗をひらめかしたようなスペクトルの帯……これは恐らく肩から噴き出した五色
が飛行機雲よろしく残した軌跡だろう……それを背後に掲げる光の足元から金色の靄がにわ
かに持ち上がり、剛太のみぞおちへ撃鉄のごとく殺到。
 衝突はその背後にいる桜花さえも巻き込み、結果。
 二人は蹴られ、校舎は揺れた。
 彼らはおよそ15度の射出角のもたらすGの束縛でぴたりと吸いついたまま後方の天井に激
突したのである。
 めり込む、というのはこの場合彼らにとって最も軽傷な結果であっただろう。然るに彼らは天
井を突き破った。そして瓦礫の雨の中で一階の天井から二階の床へと貫通し、更に二階の天
井にさえ衝突した。
 速度たるや凄まじい。剛太が蹴りの衝撃に吐いた血反吐さえ一瞬後には眼下の血煙へな
り果てていた。
 止まらない。すぐに止める術もない。
 彼らは斜め上に吹き飛びながら、二階、三階、四階と天井を次々と破り、やがて屋上に出た。
 だがそこの真新しい床さえ吹き飛ばしてもなお止まらず、たまたま行く手にあった鉄柵に桜
花がしこたま背中を打ちつけるコトでようやく止まった。
 それでもそこそこの衝撃はあったらしい。鉄柵は屋上の外側へ歪む程度では済まずあちこち
が折れ、軋み、いわば開放性骨折よろしく一部を短い梯子のように階下へ向かってぶらつかせた。
53永遠の扉:2008/10/10(金) 22:11:52 ID:iwdghOJv0
 半透明した金の波濤にゆらゆら焙られる後ろ姿がいた。
 点々たる瓦礫の先にいた。
 網膜がホワイトアウトしそうなハレーションの中、斗貴子はようやくその像を結んだ。
 肩より高く持ち上がった脚は膝からつま先まで白い装甲に覆われ、細く白く丸いフォルムで
ある。膝には脛の半分ほどのポッド。膝裏には台形のモールドが幾つかと黒いラインが一本。
 腰からは尾羽が二枚、地面に向かって生えている。上部三分の一ほどは丸く隆起しており、
前後にはめ込まれた黒い飾り珠の中心に灯るのは不気味な赤色光。
 両肩は角丸を帯びた立方体に変じ、後半分から生えた翼は勾配緩やかな山を描いていた。
 翼の上部は戦闘機の機首を中央から折り曲げたような形状だ。
 先端の上側にはコクピットを思わせる半透明のハッチ、下側には細い一本の羽根。
 ハッチは薄く光り、羽根は銃剣先のように機首の腹から更なる先端へと突き抜けていた。
 翼自体は横潰れの細長い台形の羽根が密集して作られているようだ。
 一枚一枚の羽根の中央部には、それを5分の1ほどに縮小して逆向きにつけたようなパーツ
があったが、特筆すべきはそれらの色が角度によって変わるというコトである。五色(赤青緑白
金)の輝きが金の光にとろけて麗しいイルミネーションを放つさまはこの世の物ならぬ美しさ。
 鳳凰を模したのはいうまでもない。そして色が変ずる理由を付記すれば、ハチドリやカワセ
ミの羽毛にみられる「薄層構造に基づく干渉色」を挙げるコトができる。ホムンクルスでありな
がら角質層と空気層とメラニン層に似た構造を再現し、立ち上る金の光への反射と干渉の結
果、翼を絢爛たる鳳凰の五色に輝かせているのだ。
 羽毛からできている服装も同じらしく、色こそ変わらないが時おり輝いたり深みのある色に
なったりしている。腕はそのまま。髪は赤から金色へ。無地のバンダナは金色にけぶっている。
「これが鳳凰」
 斗貴子は文字通り目も眩む思いで息を呑んだ。
 幾何学的でどこか航空機やスペースシャトルを思わせる姿である。
 全身から吹きあがる金の光はバンダナや衣服や三つ編みを揺らめかし、どこか神々しい。
「……分断完了」
54永遠の扉:2008/10/10(金) 22:13:44 ID:iwdghOJv0
 鉛を落としたような音で斗貴子の観察は一時中断された。
 脚は廊下にめり込んで、アミダクジができそうな亀裂の羅列を走らせている。
「短剣で……狙うのも考えましたが……分断した方が確実、です。…………お姉さんを初撃
で狙った場合……防がれそうだったので……あの二人から……追放」
(ひとまず私に狙いを定め、倒してから残る二人を潰していこうという魂胆か)
 光が晴れ、鐶が緩やかに振り返った。
(先ほどまで私たちが対抗できていたといっても、それは三人がかりでようやくだ。だからその
連携を力づくで断った……。化け物の分際で頭だけはよく回る)
 斗貴子の視界には、馬とみまごうほど野太い足の甲を起点に反転する鐶が映ったが、これ
はただ目に入っただけで観察の域には至らない。
 しかしそんな軽微な注視によっても正体が分かるほど、足の甲は特徴的である。
「指が二本……なるほど、ダチョウの脚か。それなら確かに先ほどの破壊力は頷ける」
 本来のダチョウの脚力は人を骨折させられるほどである。
 そして足も速い。およそ時速50〜60キロメートルで走るという。換算すると100メートル走破
がおよそ6秒から7.2秒。人間のおよそ倍の速度だ。
「だが」
 歩みを進める斗貴子の足元では、床に刺さったカウンターシェイドの羽根たちが緩やかに消
滅を始めている。怖ろしいコトに彼女が最後の羽根を捌き、鐶が変身してから剛太たちが吹き
飛ぶまでおよそ五秒と経っていない。
「速度はダチョウより早かった。あくまで脚の変形はスピードを生かした攻撃のため。爆発的な
速度を生んだのは、脚ではなく肩の辺りから噴き出した五色の光。そしてそれこそが『鳳凰』と
やらの能力の一端。違うか?」
「正解、です。そしてこれからは……一対一」
 五色の光を撒き散らし肉薄する鐶に斗貴子はあらん限りの咆哮を撒き散らし、ヒビの入った
処刑鎌を轟然と振り上げた。
(あの二人は無事かどうかも分からない。もしかすると今の攻撃でやられているかも知れない。
 顔の傷をなぞるように通り過ぎた短剣を辛くも避けて、床を弾き後方に一回転。着地。
(いずれにせよ確認しに行くコトはできない。初撃がああだからな。合流を許すつもりはないようだ)
55永遠の扉:2008/10/10(金) 22:16:19 ID:iwdghOJv0
 弾丸のような速度で肉薄する鐶の瞳は先ほどまでと一変している。
 鬱にけぶった暗さが消えて、蒼いスターサファイアのような輝きがある。瞳孔もあればハイラ
イトもある。ごくごく普通の瞳だ。毅然な形を引き換えにしたらしく、所在なげで無邪気な半眼と
化しており、ぼーっとした印象こそあまり変わらないが、根幹には追撃を許さぬ執拗さが宿り
機械のような無機質さで斗貴子を追い、打ち、斬りすがる。
 斗貴子の眼前には鉄風と石火が吹き荒れた。激しいそれではあるがもはや防御どころか撤
退の牽制にしか過ぎない。格段に速さを増した短剣がぶんぶんと身体を掠め、鉄槌のごとく
重い爪が処刑鎌をみしみしと揺らし基部たる大腿部を苦痛に重しめる。
(落ちつけ。怯むな。剛太と桜花のコトは後回しだ。私一人で太刀打ちできるかどうかは分か
らないが……やるしかない)
 有利な点はある。
(戦士長のおかげで糸口は見つかったんだ。奴の武装錬金に蓄積された年齢さえ空にすれば、
アイツは回復が不可能になる。元々攻撃自体は当てられる相手だから、回復不能にすれば
バルキリースカートでも勝てる! 短剣に気をつけ章印を狙っていけば、まだ勝ち目は──…)
 振り下ろされた爪をバルキリースカートで防ぎ、残りの鎌で章印を狙った時、それは起こった。
 すぼまった爪がXの形にかみ合う処刑鎌を縫うように斗貴子の腹を突き刺した。
「な……!?」
 防いだ爪はまだ処刑鎌と押し合っている。腹を刺した爪とは別の物だ。しかし鐶の右腕は相
変わらず人間のそれである。
 血を吐きつつも執念で章印を一刺しした斗貴子は即座に飛びのいた。
 そして見た。
 鐶の腹部から爪が伸びているのを。
「鳳凰形態限定の能力、です。今の私は…………混群を統べる鳥の王」
 爪はすぐさま埋没した。だが入れ替わりに──…
 ツバメ、タンチョウ、バハマハチドリ、ハヤブサ、コマドリ、オウサマペンギン、オオルリ。
 それらの顔が胴体に生えた。鈴なりの果実のように。
 いずれも影のように黒く、金の光に焙られどなお暗い。
「腹から爪を胸から顔を……全身くまなくあらゆる鳥のあらゆる場所に変形させられます」
56永遠の扉:2008/10/10(金) 22:17:39 ID:iwdghOJv0
 二の腕から伸びた鞭(アゴヒゲスズドリの喉についている肉のヒダ)が廊下の両側を撃ちす
え、木片やガラスを滅茶苦茶に吹き飛ばしながら斗貴子に殺到した。

「じょっ! 冗談じゃねェ! さっきまでいたの一階だぞ!」
「なのに屋上まで飛ばされるなんて。……相当な攻撃力ね」
 抜けるような青空の下で冷汗と動揺に彩られながら、剛太は何とか立ち上がった。
 もっともすぐに腹部の激痛に屈みこみ、情けない顔で息せく羽目になったが。
(直撃だったら多分死んでたかも。くそ、さっきから俺全然いい所がねェ)
「やいやいやい。オレ様に感謝しろよゴーチン! 何てったって命の恩人だからな!」
 ちょこちょこと地面を歩く御前に、剛太は垂れ目気味の目を疎ましげに垂らしながら「ハイハ
イ」と手を振った。
(よりにもよってコイツに助けられるなんてなあ。あの時──…)
 鐶の蹴りが剛太のみぞおちに向かった瞬間。
 御前が咄嗟に割って入り、蹴りの衝撃をほとんど引き受けた。
(それでも痛ェ。アバラ折れてるかも。さっき血ィ吐いたし)
「見ろよおかげでオレ様はボロボロ!
 御前の胸のハートのパーツは大破して内部機械すら半分以上吹き飛んでいる。のみならず
そこからの亀裂は手足にまで広がり、翼は砕け、首の座りも若干悪くなったらしく、御前は喋
るたびに頭部を左右へグラつかせている。
「分かってんのかゴーチン。オレ様がこんなんなったのはお前のせい! 桜花に何かおごれ!」
「しつけえ! あの後お前の創造主の背中にモーターギアを飛ばしたんだからおあいこだろ!」
「ああ。道理で思ったより衝撃が小さかったのね」
 喧々囂々な御前がウソのような静かさで、桜花はモーターギアを拾い上げた。
「はいどうぞ。本当応用利くわねこの武装錬金。おかげで助かったわ。ありがとう」
 苦痛に引きつりながらにっこりと笑う桜花から武装錬金を受け取ると、剛太は不機嫌そうに
呟いた。
「……マリンダイバーモードじゃスクリューのように推進力を作れるんだ。だからその要領で、
吹き飛ぶ方と逆の推進力をあんたの後ろに作れば、何とか助かるかもと思ったけど」
 屋上に開いた大穴を眺めた剛太は盛大な溜息をついた。
「何の気休めにもなってないときたもんだ」
57永遠の扉:2008/10/10(金) 22:20:47 ID:iwdghOJv0
「あら、そうでもないわよ。剛太クンがモーターギアを展開してくれたおかげで私へのダメージ
は減ったもの。天井への直撃は避けられたし。第一、モーターギアで加速を殺してなかったら」
 桜花は楽しそうに壊れた鉄柵を指さした。
「今ごろ私たちアレ突き破って下にまっさかさま」
「怖いコトを笑顔でいうな!」
 戦慄を浮かべる剛太に桜花は「うふふ」とほほ笑んだ。
「とにかく俺は行く! これ以上あんな奴相手に先輩を一人きりにさせてたまるか!」
 一気に立ち上がった彼は迷うコトなくモーターギアを踵へと走らせた。
「あら。でもその戦輪も御前様といっしょでだいぶ壊れてるみたいだけど。大丈夫?」
 剛太は軽く舌打ちした。落とした視線の先では歪にひしゃげてヒビの入った戦輪がガタガタと
床に擦れている。走ったところで先ほどまでの機動力は見込めないだろう。
「そりゃ天井や鉄柵にアレだけ衝突すりゃこーなるのは当然。んなコトいわれなくても分かって
んだ。ったく。これだから元・信奉者は──…」
 言葉を遮るように剛太の肩に鏑矢が突き刺さった。
「え?」
 パールピンクの眩い光が剛太の周囲に満ち満ちたかと思うと、気だるい傷の感覚がみるみ
る内に消えていく。
(待て。防人戦士長の説明じゃコレって!)
 剛太は慌てて矢を引き抜いた。
「あら。せっかく傷も疲労も全部引き受けようと思ったのに」
 桜花の顔はもはや土気色に近づきつつある。それでもなお涼しい顔をしているのは彼女な
りの誇りや矜持を示すためだろう。そんな彼女に剛太が思わず駆けよってしまったのは、彼
自身どういう理由かよく分からない。
「引き受けるたって限界があるだろ! 元々重傷のあんたが俺のケガを全部引き受けたら死
ぬだろ!」
「そうかも知れないわね。でも」
 黒く湿った瞳が剛太を見上げた。
「こんな状況で自分だけ助かろうとしても仕方ないでしょ。津村さんが負けたら次はあなた。そ
れから私がやられるだけ。だったら少しでも動ける人のダメージを取り除くのが確実じゃなくて?」
 正論ではある。桜花一人ここで潰れたとしても剛太にとって損はない。
58永遠の扉:2008/10/10(金) 22:22:07 ID:iwdghOJv0
(確かにコイツは戦士でもないただの元・信奉者。なら傷なんて全部押し付けて、さっさと先輩
助けにいけば良かったんだ。どうせ連れてったって援護射撃しかできそうにねェし。それは分かっ
てんのに何で途中で止めたんだ俺は! ……だぁもう! さっさといかなきゃならねェって時に)
 先ほど根来や防人に上着を掛けた時とはまた違った感情が剛太の足を止めている。
 繰り返すが桜花は元・信奉者であり、いけ好かない性質の持ち主なのだ。
「でも私を気遣ってくれるならそれでいいわ。さぁ、早く行って」
「行ってって……あんたはココに残るつもりなのか?」
「ええ。だって今の状態でついていっても足手まといになるだけじゃない。そう、残念だけど……」
 へたり込んだままの桜花の手が力なく下がった。弓腹が凄まじい音を立てて地面に衝突した。
「傷を引き受けたのはもうコレ以上戦えないって分かったから。身動き取れない状態で何とか
頑張っては見たけど…………それもさっきの一撃でもうダメね。腕にちっとも力が入らない」
 自嘲と諦観に満ちた笑みを桜花は浮かべた。
 モーターギアで加速を相殺したとはいえ、天井を何枚も突き破って鉄柵に衝突した時の衝撃
は、彼女自身の肉体をひどく蝕んだようだ。
(私はつくづく損な役回りね。こういうコトしかできないみたい)
 チクチクとした胸の痛みは、上記のダメージや御前からのフィードバックだけではないだろう。
 最近の桜花は開けた世界の中で痛みを抱えるばかりである。
 それは声に出せないがこの上なく辛く、悲しく、いつか一人で乗り越えるべきだと思っていても
今は凍えるばかりに寂しい。
 しかし次の言葉は心情とはまったく裏腹である。
「さあ、早く行って。ボヤボヤしてたら津村さんが危ないわよ。私とあの人じゃどっちが大事か
明白でしょ?」
 剛太は思った。
 全くその通りだ。すぐに斗貴子の元へ馳せ参じるべきなのだ。
 にも関わらず彼の迷いは晴れず、ひどい懊悩をもたらした。
(クソ。どうしてこんな簡単な選択で迷うんだ。元・信奉者なんてさっさと見捨てて先輩の元へ
行きゃいいんだ。それが戦略的には最良だし第一先輩のためでもある)
 にも関わらず迷っている。
59永遠の扉:2008/10/10(金) 22:23:51 ID:iwdghOJv0
(だいたいコイツなんて、見舞いに来てしょっちゅうからかってきただけの相手じゃねェか)
 だがその「からかってきただけの相手」は弟(秋水)を語る時ひどく神妙だった。
(確かアイツの妹と仲良くなってたんだっけ)
 生真面目な美形剣士と一度か二度見たぐらいの天然少女を想起した後、やにわに防人か
ら聞いた桜花と秋水の前歴が蘇ってきた。
(姉弟二人きり、か)
 桜花が時おり演技ではない寂しさを垣間見せていたのも、何だか分かるような気がした。
 心の支えにしていた者が自分以外の存在に近づいていく。
 それは支えだった人にとっての一番の幸せだから、介入はしたくてもできない。
 ただただ幸福や笑顔を願って遠くから見ている。それが今の桜花なのだろう。

──「ねえ、剛太クンにとって津村さんは大事な存在でしょ」
──「そうっスけど」
──「できるコトがあれば何でもしたい、そうよね」
──「当然!」
──「じゃあ私と同じね」

(………………)
 思い出す桜花とのやり取りは何かを決定づけているようで、それでも剛太はどうしても認め
たくない部分もある。
(同じにすんなっての。俺は諦めて身を引いて、先輩とアイツがイチャつく姿をただ眺めるつも
りなんかこれっぽっちもねェってんだ。そりゃ笑顔が戻るなら何だってするつもりだけど、元・信
奉者と同じなんかじゃ……)
 剛太は自らの感情に既視感を覚えた。かつて根来との戦いでそれは起こり、今また訪れた。

──「守りたいモノが同じなら、きっと必ず戦友になれる!」

(……嫌な言葉、思いださせやがって)
 剛太は軽く舌打ちを漏らした。
(けど)
 剛太の目つきが急変したのに桜花は気付かなかった。
60永遠の扉:2008/10/10(金) 22:24:56 ID:iwdghOJv0
「大丈夫。核鉄はあなたに渡すか──…きゃっ」
 ただ彼女は目を丸くした。見れば剛太に手を取られ、強引に立たされている。
「元・信奉者なんか信じられっか」
 目を背けて唇を尖らせていた剛太がぐるりと踵を返すと、桜花の全身に前のめりな加速が
走った。見れば彼は桜花を連れて大穴に飛び込む真っ最中だ。
「え?」
 着地の衝撃にぶわりと逆立った黒髪が戻る頃、桜花はようやく事態を把握した。
 剛太が自分を連れて四階の廊下を走っている。
 その後ろから羽根を失くした御前が必死に走って走って何とか追いついて、桜花のスカート
を息せき切ってよじ登ると、肩の辺りからちょこりと顔を出しつつほうとため息をついた。
「……えーと。どういう風の吹き回しなんだゴーチン? 元・信奉者なんて見捨てるんじゃ」
 意外な行動に面くらっているせいか、横柄な口調もひどく遠慮がちだ。戸惑いさえ見え隠れ
している。
「どうせお前らみたいな連中は屋上に残したらサボるに決まってんだ」
「そ!! そんなコトしないわよ! ただケガのせいで……」
「……弟のために何かしたいんだろ?」
 言葉と同時に剛太が大きく飛び、一行は四階の大穴から三階へと派手にダイブした
「だったら勝手に諦めんな! そんな奴から類友呼ばわりされんのは腹が立つし迷惑だ! 
だから俺たちの後ろから矢を撃って撃って撃ちまくって、撹乱役の一つでも務めてから気絶し
ろ! そーいうのが先輩のためだから俺はする! だからお前にもさせる!」
 表情を見せぬ剛太がやけっぱちにまくし立てる間にも廊下は後ろへ流れていく。
 三階の大穴へ到達するまでしばし歪んだ戦輪から掠れた音が鳴り響いた。
 彼はどうやら自分の言葉に苛立っているらしく、それはひどく乱暴で頼りない疾走からも見て
取れた。未熟な運搬に揺られながら桜花はしばし戸惑い気味にささくれた後ろ髪を見つめた。
 やがて二階に彼らは降りた。
 降下の衝撃は軽くないが、桜花はそれも忘れて静かに目を瞑り微笑した。
「あらあら。ずいぶん無茶苦茶な言い分ね。それじゃ要するに津村さんのために私を利用する
ってコトじゃない。何の励ましにもなってないわよ」
「……そーでもしなきゃ勝てないだろ。イチイチ文句いうな」
61スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/10(金) 22:27:57 ID:JEQr00OU0
 イラっとした様子の剛太に桜花はクスクスと笑って見せた。
「確かにいう通りね。じゃあ秋水クンのためにせいぜい『利用されて』あげるわ」
「ったく。口の減らねェ」
 少しだけ剛太の口調が柔らかさを帯びた。口元もわずかながらに綻んだようだ。
 ちなみに彼は気付かない。桜花の視線が彼女の手を握りしめる手に移ったのを。
(知らないでしょうけど、秋水クン以外でこうして先導してくれたのはあなたが初めてよ)
 透き通るような笑みを桜花は満面に浮かべた。胸を占めていた痛みも和らぎつつある。

──「新しい世界が開けるかもしれないんだ」

(色々あるけど、辛いコトばかりじゃなさそうね。……頑張らなきゃ)
 やがて一階に通じる穴を見つけた瞬間、彼らは粛然と顔を引き締めた。

以下、あとがき。(>>1さんならびにハイデッカさん、お疲れ様です)
鳳凰形態のモチーフはガンダム試作三号機ことステイメン。細かい意匠についてはブログにて。
あと、誘惑に勝てずネロカオス状態にしてしまいました。すみません。
それからラブコメなら剛太と桜花はひっつきやすいポジだと思います。押忍。

前スレ>>365さん
次回で決着! を謳いながらもしかするとそれは次々回になるやも……。でも最終局面ですっ!
剛太については今回描いたような感じですね。斗貴子さんラブだけどカズキの影響でその他の
人間にも目を向けて、弱いながらも頑張る。もちろんその源泉は斗貴子さん。だからやっぱり最後は彼女のために!

前スレ>>366さん
戦士たちを噛ませ犬にしたくなかったのでどうしても長く……。この点ジョジョは上手いですね。
五部のソフトマシーンとか。焦点を当てるキャラ以外を速攻で倒してるのに「かませにした」っ
て感じがない。見習うべきはコレなのかも。で、この長い戦いの締めくくりもようやく見えてきました。

ハシさん
ニコ動にある「自作の改造ポケモンを友人にプレイさせる Part14」みたいに、倒れて倒れても
次の人にバトンを渡してくって感じですねこの戦い。実力差を団結で埋めるという図式にした
62スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/10(金) 22:28:54 ID:JEQr00OU0
かったんですが、今となってはそれも上手くいったかどうか。とにかく鐶戦はあと数回。良ければお付き合いを。

>ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL
時代の気配や雰囲気が随所に現れ、一種の紀行文のような気配があります。こう、冷たい空
気を一気にぬるませる春の風が目から吹き抜けていくような。しかしそれを黒く染めてくのが
人造人間たち。ヒューリー同様憎悪に真黒じゃないですかF08。こういう悪(?)なキャラが暴
れてるのは見ててカタルシスがありますね。口悪くてまるで可愛気がないのが素晴らしい!

ふら〜りさん(保管の方、ありがとうございます)
段々段々儚くなってます彼女。でもしかし基本的には前向きで、色々あるけどやるべきコトは
やる、みたいな。でも肉体がああなので前向くとみんなが迷惑。そして心理描写だけですと辛
気臭いので景気よくバケモノやらしてみました。和月先生のいう異形の魅力たる「醜の中の美
、美の中の醜」も意識してます。

>強くなるのは、なれるのは(またしても通好みな元ネタをw)
>それとも皆様のお里では、ロシアの人に何か偏見でもっ?
ユリー、タクタロフ、ガーレン、シコルスキー……w 刃牙世界では何かと不遇なロシア勢です
が、ふら〜りさんの世界ならば大活躍してくれると願いたい。で、この面子の中では紅葉は割
と常識人なんですね。文中にもありますが加藤や烈がこのテの話題に転んだ場合、たぶんア
レな感じになる公算が高いのですが、そういう場合の良心たりうるのかも。紅葉。

さいさん(ネロ! ネロ! 鹿! 旦那! 赤コート!)
>欧州の一部の女吸血鬼(ドラキュリーナ)が捕獲され
これってセラス誘拐と繋がりあるんでしょうか。様々な作品が融和している感じはスパロボ好
きにとって良いです。懐かしいです。あと、シエルの年齢問題はああ処理したか! とw キャ
ラハン神父は呑んだくれで部屋も汚いけど専門に関してはエキスパートと、女性ならまず間違
いなく萌えキャラじゃないですか! 肝硬変や脳梗塞によるうらぶれた感じは中年男性でしか
出せないんですが、スペックとしては。主人公に据えれば冬の枯れ枯れとした雰囲気を持つ
ニューロティック映画作れそうなキャラかも。
63作者の都合により名無しです:2008/10/11(土) 12:40:22 ID:sXI8OkWe0
そういえばブログで鳳凰のこと言及されてましたな。
最終形態は伝説からの出展なのでトキコたちもピンチか。
割合にチームワークはよさげだけど。
64作者の都合により名無しです:2008/10/11(土) 20:33:06 ID:oeTkfIc20
スターダストさんおつです。
ここにきて剛太はじめとする脇役たちが結束してきましたね。
相変わらず桜花に転がされてますがw
最終の法皇形態ということで、流石に次回かその次で決着でよね?w
65強くなるのは、なれるのは:2008/10/11(土) 22:58:39 ID:xBAQ0f4y0
>>30
ミ昇は思い知り、恐怖し、そして安心した。
これまでのミ昇の経験、戦いの中で磨かれた勘が伝えている。今、目の前にいるのは
とんでもない強敵だと。
公園で会話していた時は気付かなかったが、こうして構えて対峙してみると判る。ドラエの
強さ、というより恐ろしさ。彼女は今、全感覚を駆使してミ昇を頭から爪先まで探りに探って、
自らが襲い掛かるのに最適な隙を見つけ出そうとしている。
まるで得体の知れない怪物が無数の触手を伸ばして、全身に巻きつけてくるかのような
感覚。ミ昇に体勢の崩れや無駄な力み、精神的な弛緩などが僅かにでも生じれば、そこに
容赦なく、ドラエの必殺の一撃が打ち込まれるだろう。……外見は天使のように可愛く美しく、
女神のように柔らかな優しげな、清楚可憐そのもののメイドさんなのに、だ。
ミ昇は冷や汗を浮かべながら安心した。
『は、はっ、良かったぜ。惚れた女だ、どうしたって手加減してしまうだろうと思ってたが、
杞憂だったな。こんなバケモノを相手に手加減なんて、頼まれたってできるものか』
とにかく、ごちゃごちゃ考えていたら気力を消耗する。まずは一撃! とミ昇は先制の
右ローを放った。とりあえず小手調べ、ガードされても回避されても体勢を崩さず次の
攻撃に入れるように力を加減し、渋川のように踏み込んでくることにも警戒しつつ放った、
いわばジャブ的なキックだ。
とはいえ地下闘技場で名を轟かせるミ昇のこと。この一撃だけで並の空手家やキックボクサー
なら、ガードも回避もできずに脚を折られるところだが……
「ッ!?」
ドラエはガードも回避も、渋川のように踏み込んでくることもしなかった。ミ昇の右ローに対し、
左膝を少し上げて膝から下だけを外側に振り、自らミ昇のローにぶつけた、と思ったら
そのままその足を後方に引いたのだ。ドラエの左足の踵がミ昇の右足の踵に、フックのように
引っかかる。ミ昇のローの軌道が曲げられて足が、それにつられて体が、引っ張られた。
ガードされても回避されても体勢を崩さないはずの一撃だったが、これは予想外。片足立ちの
ミ昇が前方につんのめるとそこに、文字通り「ひと足早く」足を下ろして体勢を整えた
ドラエがいて、
「甘いっ!」
66強くなるのは、なれるのは:2008/10/11(土) 22:59:33 ID:xBAQ0f4y0
泳ぐミ昇の手を取って間接を極め、投げた。一瞬にしてミ昇の天地が逆転し、頭から地面に
叩きつけられる、ところだったがミ昇は自ら足を強く振り下ろして遠心力で回転を加速、
地面に激突する箇所を背中へとズラした。
もちろん、加速したせいで投げの勢いそのものは増加してしまったわけで、しかも硬い地面、
しかも平らではない。受け身はとったものの背中を強く打ったミ昇は、息が詰まって目も眩む。
強い光で焼き付いたような視界の中でドラエの、ナイフのような手刀が降って来る。ミ昇は
地面を芋虫のように転がって距離を取り、乱れた呼吸を整えながら立ち上がって構え直した。
眼前に立つドラエも構えている。だがこちらは呼吸など乱さず、汗の一滴も浮かべていない。
……試合開始直後のたった一発のローから、三秒足らずの間に、これだ。

「強い」
刃牙が唸った。隣では紅葉も戦慄している。
あのご老公が目をつけた柔術の達人だ、かなりの腕前だろうと思ってはいた。が、
ドラエの技量は刃牙のそんな予想を遥かに上回っていたのだ。
ミ昇の攻撃がまるで通じない。クリーンヒットを全く許さない。ミ昇の渾身の突きも蹴りも、
投げ返されるか、回避されるか。何発かに一度、ガードさせるのが精一杯だ。
体重差が大きいので、ガードの上から叩くだけでもダメージは通っている。事実、ドラエの
呼吸は少しずつ乱れてきているし、腕にも痺れがあるのだろう、徐々にミ昇の攻撃に対する
捌きが鈍りつつある。
が、ミ昇が受けているダメージの方がずっと大きい。何度も何度も地に叩き付けられ、
当身を喰らい、意識を失いそうになりながら気力を振り絞って構える……その繰り返しだ。
このまま続ければ、遠からずミ昇は敗れるだろう。そのことはミ昇自身が一番深く理解
しているはずだ。
『ここから逆転するとなると……あれしかないな。どうする、ミ昇さん?』
67強くなるのは、なれるのは:2008/10/11(土) 23:00:32 ID:xBAQ0f4y0
傾斜も凸凹もある悪路ならぬ悪地を、まるで氷の上を滑るような動きでドラエが奔ってくる。
ミ昇は迎撃の手刀を繰り出した。が、これまたバナナの皮で転びでもしたのかという速さで
ドラエの進路が急変、ミ昇の手刀をかわしながら自らの拳を、ミ昇の腕の下を潜って打ち込む。
人間に備わる二本の腕と二本の脚は、人間に備わる急所の数々を防御するのに充分、かつ
最低限のものである。どれか一つでも欠けては、致命的な隙(防御不可能な箇所)が生じる。
故に、相手が突きなり蹴りなりを出したその瞬間に打ち込めば、確実に大ダメージを与え
られる。これが「カウンター」や「交差法」と呼ばれるもの(無論これが全てではないが)だ。
もちろん、そんなものが簡単にできれば誰も苦労はしない。実際、なかなかできない。
だからこそ、できた時はどうなるかというと、
「明道流柔術『丁(ひのと)』……」
自らの攻撃を掻い潜られ、ミ昇は脇腹に痛烈な一撃を受けた。咄嗟に胴体を捻って
ダメージを和らげたが、体重の軽さを精密な重心操作で補うドラエの拳は、軽くはない。
何度目かの胃液を吐き散らしながら、ミ昇は後退した。
ドラエはというと追撃には移らず、構えたままミ昇をじっと見つめて。それから、言った。
「……ミ昇様。このドラエ=タチバナ=ドリャーエフを相手に、いつまでレディーファーストを
貫かれるおつもりですか?」
「!」
「貴方の、鎬流空手の力はこんなものではないでしょう。この局面からでも逆転を可能とする
何かを、貴方が隠し持っておられること。わたくしには判ります」
その通りだ。そしてこの展開はあの、思い出したくもない渋川戦と同じもの。
そう、渋川戦。今にして思えば、あの眼底砕きは変だった。打撃技の専門家たるミ昇の
攻撃を、組み技の専門家たる渋川は余裕たっぷりで捌いていたのだ。なのに最後のあれに
限って、やすやすとミ昇に「つかまえた♪」を許した。
あれはおそらく、いや絶対に、わざとだろう。義眼だからミ昇にやらせたのだ。ミ昇の甘さを
戒める為、あるいは……単にイジワルで。多分、両方だ。あのじーさんならやりかねん。
しかしドラエにそれはない。ここまでの攻防で見せた技量から考えても、ミ昇がドラエの
頭部に触れた次の瞬間には投げ倒されることは明らかだ。
となれば、やはりあれしかない。鎬流斬撃拳の真髄、奥義。ミ昇が絶対の自信を持ち、
だが破れ、そして鍛え直し磨き上げた必殺技。
『……新・紐切り』
68ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/10/11(土) 23:03:25 ID:xBAQ0f4y0
『ツマヌダ』においては主人公たるミツルの師にして作中最強、比古であり勇次郎でもある
ドラエさんですが(英才は立ち位置的に、賢蔵と大差ないと推測)、刃牙勢と比べたらどうか。
「自惚れもいいところだ」なんか見てると、ミ昇や紅葉ぐらいなら勝てそうかなと思ってます。

>>ハシさん
人間を襲う吸血鬼なのに、なんだか可哀想にすら思えるモントリヒトたち。ヒューリーにもF08
にも、まともに相手にされちゃいない……そしてその二人もモントリヒト同様に人外のバケモノで、
少なくともF08はそもそも「人間の味方」である存在、が内面真っ黒。あっちもこっちもっっ。

>>スターダストさん
鐶……なんかもう究極カーズの域に入ってますよこの子は。靴屋で足を洗ってくれた店員
さんが見たらどう思うことか。で、ちーちんと桜花なら重なる部分もありましょうが、パピと
剛太じゃそうはいかない。なのにこのハマリよう。非原作カプはスターダストさんの得意技っ。

>>エニアさん
私にも経験あるのでお察しします……再起、お待ちしておりますぞっ。
69作者の都合により名無しです:2008/10/11(土) 23:12:40 ID:/BfU/1KF0
ふら〜りさんもスターダストさんも
ある部分一般人置いてけぼりで趣味に走ってるなあw

いやお2人とも楽しく読ませていただいておりますが。
70しけい荘戦記:2008/10/12(日) 11:11:37 ID:5C1Yw+210
第十九話「老人会」

「みな集まったようじゃな。変わらず元気そうでなによりじゃ」
 会長である郭海皇がメンバーを見渡し、嬉しそうにいった。
 不定期(会長の気まぐれ)で開催される老人会。本日はしけい荘近くにあ市民会館の一
室に召集がなされていた。
「近頃は物騒だからな。この間私の近所の交番では、凶悪犯が立てこもったとかでえらい
騒ぎになっておった」
 元米軍将校の老人がウイスキーを一気に飲み干す。この老人会においても現役時代と同
じく『Sir(サー)』と呼ばれている。
 緑茶をすすり、小柄な老人がSirに目を向ける。名は渋川剛気。自ら道場を経営する
合気柔術の達人である。
「カッカッカ、護身を極めりゃ危険に遭遇することはない。Sirさん、アンタもわしの
道場に来たらどうかね。授業料は勉強しますぞ」
「残念ながら、戦場で育った我が身は安全を望んでいなくてな。あとSirさんってのは
止めてくれんか」
 二人のやり取りを聞いていた細身の老人が独りごちる。
「この世で一番危険な存在でございますか。マフィア、核兵器……色々ございますなァ。
ただ、たった一つだけというのならやはり……中国拳法でございます」
 この中国拳法が大好きな老人の本名を、メンバーは誰も知らない。郭でさえ。
「マァデモヨ、Sirノイウコトモ分カルゼ。チョット危険ナクライガ人生ッテノハ面白
ェカラナ」
 しけい荘在住、スペックが豪快に笑った。皆もつられて笑った。
 足腰は鋼鉄よりも丈夫だが、シルバーシートには絶対座る。彼ら五人はそのような男た
ちである。

「さっそくじゃが、今日の催しに必要なものは忘れずに持ってきたじゃろうな?」
 郭がサングラスの奥に隠された眼を鋭く光らせる。他の四人はバカにするなというよう
な表情を浮かべる。
71しけい荘戦記:2008/10/12(日) 11:12:57 ID:5C1Yw+210
「当然だ。攻めの消力(シャオリー)を喰らいたくないからな」
「あれは効きますからなァ……むろんわしも忘れてはおらんよ」
「この世で一番やってはならないことでございますか。詐欺、殺人……色々ございますな
ァ。ただ、たった一つだけというのならやはり……忘れ物でございます」
「心配スンナッテ、ジジィ。チャント持ッテキテヤッタゼ」
 満足そうに頷く郭。だが皆がテーブルの上に『必要なもの』を置いた瞬間、顔が凍りつ
いた。
 Sirは盆栽、渋川はゲートボールのスティック、忘れ物が嫌いな老人は青龍刀、スペ
ックはバスケットボール。見事なまでにバラバラだった。
「調子こいてんじゃねぇッ!」
 激怒する郭海皇。しかし皆が「会長からメールがあったから」と弁解するので、しぶし
ぶ自分の携帯電話を確認する。
 すると、まもなく郭の連絡ミスが発覚した。Sirには「盆栽批評会」、渋川には「ゲ
ートボール」、中国拳法好きの老人には「中国武術演武会」、スペックには「バスケット
ボール」を行うから準備をしておけと発信していた。
 四人の冷たい視線が郭にまとめて注がれる。わずかだが殺気も混ざっている。
「連絡ミスはわしの罪、それを許さないのはおぬしらの罪」
 こうささやいてから、郭は死んでしまった。正確には死んだふりをしてしまった。彼は
都合が悪くなると、こうして仮死状態に陥ってしまうのだ。
「マタカ、コノジジィッ! コノママ海底ニ沈メテヤロウカッ!」
 顔を真っ赤にして憤るスペックを、渋川がなだめる。
「止めといた方がええ。どういう仕組みか知らんが、危害を加えようとすると起きるよう
になっとる」

「こうなったら開き直って、皆が持ってきたものでどうにかするしかないのう」
 蘇生した郭がいった。
 誰のせいだ、と心の中で歯噛みしながら頷く四人。それにいつまでも郭を責めていても
始まらない。
72しけい荘戦記:2008/10/12(日) 11:13:53 ID:5C1Yw+210
 Sirが提案する。
「バスケットボールを青龍刀で二つに斬って、それをスティックで打って、どちらが先に
ボールを盆栽に当てられるかというゲームはどうだろう。ゴルフと同じで打数が少ない方
が勝ちだ」
「ヤヤコシイナ……モット単純(シンプル)ナ方ガイイゼ」
「ゴールが盆栽である必要性も感じられんしなァ」
 激論が交わされる。
 しかしこれといった利用法が出てこず、議論は早くも息詰まりの様相を見せる。そして
メンバー集合から一時間半が経過しようという頃であった。
 突然どこかから悲鳴が聞こえた。
「この世で一番驚くことでございますか。ドッキリ、お化け屋敷……色々ございますなァ。
ただ、たった一つだけというのならやはり……他人の悲鳴でございます」
 周囲がにわかに騒がしくなる。よくよく耳を傾けてみると、どうやらこの市民会館に猟
銃を持った強盗が逃げ込んできたらしい。
 五人の老人は全くといっていいほど同時に、あることを閃いた。
 大笑いする郭海皇。
「ヒャッヒャッヒャッ! そういえば、あのことを忘れておったわ! あれならば、盆栽
もスティックも青龍刀もバスケットボールも、問題なく使えるわい!」
「この世で一番許せないことでございますか。放火、偽装工作……色々ございますなァ。
ただ、たった一つだけというのならやはり……強盗でございます」
 強盗が嫌いなのはこの老人だけではない。それ以上に好きなのだ、闘争が。
 ──闘争ならば何を使っても問題はない。
「攻撃開始(アタック)ッ!」
 現役時代を彷彿とさせるSirの勇ましい号令で、老人会が始動する。

 五分後、頭から盆栽を被り、肛門にスティックと青龍刀を刺され、顔面にバスケットボ
ールがめり込んだ気の毒な強盗犯が逮捕された。
73サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/10/12(日) 11:15:02 ID:5C1Yw+210
私も達人が眼底砕きを喰らったのはわざと派、です。
あと愚地克巳さん本当にお疲れ様でした。

>>10
ワンピースは章によっては結構好きです。

>>11-12
次はヘビー級をご期待下さいッッッ

>>13
かっこいい渾名ありがとうございます。
74作者の都合により名無しです:2008/10/12(日) 11:18:50 ID:LuMZ9ryv0
サナダさん乙!
新展開ですな。
殺しても死ななそうなジジイ連盟か、こいつは手ごわそうだw

Sirって誰だったっけ
ガイアにやられた傭兵爺さんだったっけ?
75作者の都合により名無しです:2008/10/12(日) 18:58:14 ID:yCFUFJyZ0
団体戦できそうなメンツが揃ってきたかな
スペックが郭側に裏切ってしけい荘軍団と戦うのかな
76作者の都合により名無しです:2008/10/12(日) 22:53:46 ID:NPWhBCOc0
>ふらーりさん
このメイド強いですな。勿論原作は知りませんが。
新・紐切りは通用するのか。メイドは達人レベルなのか。

>サナダムシさん(へヴィ級期待してます)
スーパー老人軍団ですな。しかし色んなところから引っ張るw
郭を筆頭に曲者揃いだけど、シコル遊ばれるんだろうなw
77作者の都合により名無しです:2008/10/13(月) 00:10:58 ID:mPldU7240
郭って始めて出るっけ?
あと大物はピクルと勇次郎とバキか
78作者の都合により名無しです:2008/10/13(月) 02:33:36 ID:DWHN0x6c0
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1223115837/l50
ちょっくら宣伝

二次創作のリレー小説スレです。
ご興味ありましたら、御覧下さい
79作者の都合により名無しです:2008/10/13(月) 09:53:56 ID:GE0dK6rb0
昔、ジャンプロワに散々荒らされたんだが。
関係ないスレに宣伝とかするなよ

>サナダムシさん
達人が眼底砕き食らったのはわざと、という発想はなかった
5人揃ったけどスペックと中国解説じいさんは数に入れていいのかなw
ゲバルがこっちに回れば対抗戦が出来るか。
80永遠の扉:2008/10/13(月) 22:14:37 ID:GPYyNSpe0
第077話 「滅びを招くその刃 其の拾伍」

「核鉄……奪い返してきます。取られたのは私の責任です……」

 九月三日午後三時ごろ──根来による核鉄奪還後の地下世界。

「フ。お前の一人のせいでもないさ」
 翼を広げまさに飛び立たんとする鐶の背後で総角は薄く笑った。
「俺達の戦いを外敵から隔絶ために避難豪を敷きながら、秋水打倒にわずかながら気を抜き
接近を許した俺にも責はある」
「…………。地下深くに避難豪を展開した段階で……外敵からの隔絶は図られています。た
だ、亜空間を渡って来れる人がいた場合……感知は……難しい、です。そもそも避難豪自体
に侵入者を感知する機能があるかどうかも分かりませんし……位置を特定されるコト自体が
予想外。そもそもリーダーがこの武装錬金を使い始めて……まだ数日、です」
「優しいフォローいたみいる」
 くすくすと胸襟を揺らめかしながら総角は微苦笑した。
「しかしやはり人様の武装錬金を数日で完璧に使いこなそうなどというのは奢りだな。踏ん張っ
てみたが内装と広さを操るのが精いっぱいだ。やはり物事というのは謙虚に観察し敬意を以
て習得に当たらねば、ああいう手痛いしっぺ返しを喰らうようだな。生兵法、まさに怪我の元」
 鐶はかまいたちの当たった手をツルリと撫でた。
「とにかくだ。今から核鉄を持ち逃げしたあの忍者を追撃しなくてはな。ヘルメスドライブで位置
さえ補足すれば後はどうとでもできるしな。さすれば戦士たちの戦力の回復を妨げられる」
 鐶は首を振った。
「やっぱり……核鉄を奪われた直接的な責任は……私にありますから。奪還は私に任せてリー
ダーは『本来の目的』に移って下さい。ここを突き止められた以上、すぐにあの場所へ移動さ
れた方が……安全。忍者さんにかまけてあの寮母さんの……武装錬金に捕捉されたら総て
は水泡に帰します……だから、どうぞ」
 鐶は倒れ伏す秋水を片手で掴み上げ、総角に差し出した。差し出された方はやれやれと肩
をすくめた。自身より一回り大きい青年を無造作に掴み高々と掲げる少女はなかなか恐ろしい。
「お前は軽くいうが、核鉄が戻れば敵は一気に六人になるぞ。その辺りは理解しているんだな?」
「はい」
81永遠の扉:2008/10/13(月) 22:15:36 ID:GPYyNSpe0
「……フ。まずはその『はい』に混じった私情から吐き出してみろ。納得がいけばお前に任す」
「…………私は……ブレミュの中では一番新参……加入して一年ほど……です。なのに副長
を……務めているのは、この体に宿る特異体質と武装錬金の特性が……たまたま他の人た
ちより強かっただけ……です。そんな私が……無銘くんたちが必死に傷を負わせた人(秋水)
を不意打ちだけであっけなく倒したのは」
「いいとこ取りのようで納得できない。という訳だな。まぁ、分からんでもないが」
「……はい。そしてその後の私の失敗のフォローをリーダーにさせたくもありません。私の不始
末は私自身が……処理します」
「成程。無銘たちと同じように能力を尽くして戦い抜き、同じように傷を負いたいという訳だな」
「はい」
 虚ろな瞳に精一杯力強い光を灯して頷く鐶をしばし眺めると、総角は瞑目した。
「……フ。いいだろう。特異体質を仕込んだのはお前の姉だが、それを変幻自在の域まで高め
たのはこの俺だ。調査と試しと修練の末、上手くいくかは不安だったが何とか功を奏し、この一
年でお前は格段に強くなった」
 秋水を肩に抱えた総角が手を振り下ろすと、光る長方形が床に伸びた。部屋の隅から隅を
繋ぐその線分はどうやら上から降っているらしい。見上げた鐶は天井が徐々に開いていくの
を見た。
「戦士六人。いずれも決して弱くない連中だが、お前なら十分に渡り合える。という訳で……
今回の伝達事項その五。残る戦士六名をただちに無力化し、最後の割符を奪還せよ」
「……感謝します」
 小学校のプールが入るほど広がった穴から地上へ向けて、鐶は飛び立った。

「そしてそれから何時間経ったか……フ。予想通りとはいえ鐶が銀成市の時間を進めたから
考えるに余りある。しかしアイツは気にしていたが、別に不意打ちで秋水倒そうと核鉄奪い返
すフォローを俺がしようと、他の連中は気にしないと思うんだがなぁ。アイツらは単純だからこう
感心するさ。『鐶らしい』……とな。全く、素直に見えて少々悲観的で思いつめやすいのがアイ
ツの欠点。しかしそれをいおうが納得しないだろうし、俺としてもアイツに戦って貰った方が何
かとやりやすいのもまた事実。まぁ、仮に負けても大局に影響はない──…」
82永遠の扉:2008/10/13(月) 22:16:30 ID:GPYyNSpe0
 一人ごちる総角をよそに秋水はまだ目覚めない。

 九月四日正午ごろ──鐶変身後の銀成学園。

「っの!!!」
 オウギワシの巨大な爪をかろうじて処刑鎌で捌く斗貴子だがそのわずかな硬直を狙ってカン
ムリクマタカの爪が袈裟掛けに振り下ろされた。しかし左翼に展開したバルキリースカートは
これを迎撃。頭上を覆う三つの爪を垂直に斬り飛ばした。その頃すでにオウギワシの爪もくる
くると巻ききられ何本か地上に落着。まさに高速機動。星座に違わぬ獅子奮迅の戦いを一人
繰り広げている斗貴子である。
 しかしややダブついたセーラー服はあちこちが裂かれ、白い生地にはぞっとするほど鮮やか
な赤い滲みが点在している。
 対する鐶。こちらはいよいよ異形めいた姿である。
 オウギとカンムリの猛禽二種の脚は鐶の脇腹の辺りから不揃いに生えていた。双方形状は
微妙に違うが根本から爪の先まで鐶の倍ほどと長さは同じ。人間の足とは逆に曲ったジグザ
グの伸び様はクレーン車のアームに似た武骨さだ。
 果たしてそれらの脚は鐶を起点に90度ほど後方に移動すると、大地を揺るがすほどの音立
てて床にめり込んだ。位置でいえば鐶の左右斜め後方。50センチメートルと離れておらず、特
徴的な尾羽とは目と鼻の先で床にヒビ入れ沈んでいる。
 真っ当な戦士なら関門の突破を確信しいざ本陣と踏みこむところであるが、斗貴子は咄嗟に
飛びのき、そう広くない廊下の中央で瞳も鋭く凝々と鐶を睨み据えた。
(来る!)
 短剣を横ぐわえにした鐶は無造作に組んだ両手を斗貴子に突き出した。すると両の拳は癒
着したままペリカンの顔へと変じ、間髪入れずにその特徴的な嘴を開けた。
「ぶぁぁあああっ!」
 その中の闇に灯った一滴の光は瞬く間に大口径の奔流と化した。
 光線射出の音と反動の軋みと猛禽二種の腕が姿勢制御のために床を削る泣き声が入り混じっ
た。それらの衝撃に耐えるべく鐶が噛み据えた短剣の柄からしばらく歯型が消えなかった。
「ペリカンだけに……日通のペリカンビーム。元は生体エネルギー……です」
(ペリカン便だ! いちいち下らないコトをいうな化物!)
 短剣をくわえたまま器用に喋る鐶をよそに、斗貴子は飛んだ。
83永遠の扉:2008/10/13(月) 22:17:29 ID:GPYyNSpe0
 残影は淡雪のごとく光にかき消され、天井にざくりと処刑鎌を刺した斗貴子が横目を這わす
と50メートルほど先の突き当たりが貫かれるのも見えた。
(ようやく校舎の隅まで来たようだな。突き当たりにあるのは倉庫。中の物は無事だろうか……?)
 沈黙のまま斗貴子はすぐ鐶に向って跳躍した。。
 片や見慣れた処刑鎌で短剣を流麗に捌きつつ章印を狙い、片や前面に回した尾羽をハサ
ミオヨタカのそれよろしくバツリと交差。一拍置いて断裂を広げたセーラー服の腹部から錆び
た匂いのする液体が床へと降り注ぐ。章印を貫き後退させねば胴斬りだっただろう。
 着地した両者は遥かな背中合わせで一呼吸ついた。
「……先ほどから短剣だけは回避し、胎児になるのを避けているようですが…………ダメージ
からみる限り……そう長くは……。でも」
 振り返った斗貴子は処刑鎌に首をもたげさせたまま寂然と佇んだ。
 いつしか鐶は視界から消えている。にもかかわらず斗貴子はそれが当然という表情でヒビの
入った処刑鎌をしばし見つめ──…鎌の一つを背後へ旋回させた。
 一見何もない空間だったそこで、何故か黒ずんだ羽根が何枚も弾かれ、そして消えた。
「……例の煩雑な光学迷彩で姿を消し、ズグロモリモズとやらの毒羽根で私を狙ったのだろう
がそれも無駄だ。仕掛けさえ分かれば私のバルキリースカートに映ったわずかな色調の歪み
や、気配を頼りに所在を暴くコトなど容易い」
 処刑鎌が何もない空間に突き刺さった。
「そろそろ毒羽根は打ち止めか、良くても残り僅か。戦士・千歳いわくその毒は生物濃縮由来。
大量に作れる物ではない。でなければ最初から使っているだろう。そして……今ので確信した」
 章印を貫かれた鐶が現れ、斗貴子は彼女をそのまま前方へ向かって振り抜いた。
「鳳凰に進化したといいつつ頼るのは他の鳥の能力ばかり。先ほどの飛行速度や全身本当
の意味で自由自在に変形させられる能力自体は確かに切り札といえなくもないが……鳳凰
そのものの能力がそんな物とはまったく聞いたコトがない」
 ますます校舎の端に近づいているらしい。先ほど突きあたりにぼっかり空いた灰色の穴を近
景に鐶はしゃなりと着地した。自動回復をしながら鎌を引き抜いたのはいうまでもない。
84永遠の扉:2008/10/13(月) 22:19:27 ID:GPYyNSpe0
「にも関わらずお前が鳳凰への進化を切り札にした理由。それは恐らく……『自己暗示』!」
 広がりかかった五色の翼の少し止まったのはいかなる感情のせいか。
「私の知る戦士も先ほどのお前と似たようなコトをしていた。武装錬金の高速自動修復に必要
なエネルギーをホムンクルスを喰うコトによって賄う──…奴にとってそれは栄養の摂取とい
うより自らの闘争本能を高め、エネルギーを得るための儀式(セレモニー)にすぎなかったが」
 戦部厳至という戦士がいる。
 彼は「食べた者の命や強さを取り込む」という古代の戦士の信仰を固く信じ、本来人を喰う
ホムンクルスという強者を喰らうコトによって闘争本能を昂ぶらせ、高速自動修復に要する莫
大なエネルギーをまさしく字面の通りに”賄って”いた。
「お前もそれと同じだ。更なる強さを得るため『ニワトリが鳳凰に進化できる』という伝承を信じ、
加工した黒魚(オオサンショウウオ)の腸を取り込んだ。そうして鳳凰になったと暗示をかけ、
限界以上の出力を引き出し、通常なら不可能な変形を可能にしている!」
 水を打ったような廊下に斗貴子の声だけが響く。
「そもそも鳳凰のような空想上の生物に変形できる道理はない。その姿も見せかけ。鳥の中で
最も鳳凰に近い物に化けたのか、それとも複数の意匠を混ぜて鳳凰に見せかけているのか。
いずれにせよ姿も自己暗示の一つなのは間違いない。更に」

──「できれば……コレは…………コレだけは……最後の一人に使いたかった……です」

「お前が今の姿になるのをためらった理由や、最初から鳳凰の能力で私たちに挑まなかった
理由を考えると、弱点は自ずと見えてくる」
 言葉を遮るようにハチクマとツバメの嘴が鐶の胴体から出現し、斗貴子に襲いかかった。
 それを避けつつ章印を狙おうとした斗貴子だが、額のあたりで扇状に広がった羽(クルマサ
カオウムの物)がにわかに射出されるやいなや全身へモロに浴び、二つの嘴も腹部に突き刺
さった。しかし斗貴子は呻きを噛み殺すように頬を震わせ次の言葉を続けた。
85永遠の扉:2008/10/13(月) 22:21:28 ID:rcgIN7kB0
「一つは稼働時間の短さだ。自己暗示で無理に能力を引き出している以上、そう長くは持たな
いに決まっている。違うか? 剛太と桜花を速攻で吹き飛ばしたのも、私たちの連携に手間
取り、変身が解けるのを恐れたため。そしてもう一つの弱点は!!」
 肘から生えたレンカクの鋭い爪が斗貴子の脇腹を貫通した。のみならず爪はベニフウチョウ
の長い尾と化し。傷口を起点に細い脇腹を締め上げた。
 そして迫るはクロムクレイドルトゥグレイヴ……。
「もう一つの弱点は、変身解除後に訪れる何らかのリスク!」
 白い装甲に覆われた鐶の脛を四本の処刑鎌で激しく打ちすえ、斗貴子は飛びのいた。つい
でに斬り裂いた長い尾は、結び目が衝撃でほころび地面に落ちた。
「特異体質とやらで速く老いていく以上、鳳凰への変身にも相応のリスクがあるだろう。ここま
で出し惜しんだのも、切り札を使った上で私たちを倒し損ねる事態を恐れたためだ。変身が終
わった後に戦士が一人でも残っていれば負けかねない。そういうリスクをお前のいう進化は必
ず孕んでいる。……違うか!?」
 斗貴子はベニフウチョウの尾を踏み砕き、獅子のように叫んだ。
「だから実力差があろうと直撃と短剣さえ避けていけばいい! そうして章印を狙っていけば、
変身のリスクによる弱体化か、年齢切れによって必ず勝てる!」
「否定はしません。……けど」
 鳳凰の姿に戻った鐶は正面切って左肘を曲げた。あたかもガッツポーズのように。
「そうなる前にあなたを倒し、残る二人も時間内に倒し、……割符と核鉄を奪取すれば私の任
務は果たされます。でも誰が割符を持っているかは分からないのですが……残る二人も倒せ
ばそれで……いいのです」
(……割符を持っているのは私だ。だが割符はあってもなくても同じコト。私が倒されれば残る
二人も末路は同じ。……せめて彼らが戻ってくれば話は違うが……難しいな)
 唇を噛む暇もあらばこそ。鐶の肘は中心から分割し、正面側へとカバーのように倒れた。
人間ならば本来骨や筋肉があるべき部分は、代わりに黒いアームが詰めていた。そしてそれ
は駆動音を立てながら伸びた。折りたたみハシゴのように一定の長さごとに丸い関節がつい
ており、それで曲がって鐶の腕に収まっていたようだ。
86永遠の扉:2008/10/13(月) 22:23:15 ID:rcgIN7kB0
「……適応放散、行きます」
 伸びたアームの先には小鳥らしき頭がついていた。しかもそれは増えた。一気に十四セット
にまで増殖し、五メートルほどの距離をけたたましく飛び抜け斗貴子を襲った。
「舐めるな! 今さらこんな小粒な鳥で!」
 あたかも伝説上のヤマタノオロチのごとき群塊であるが、悲しいコトにいずれも成人男性の
握りこぶしほどの大きさしかなく、いずれの鳥も猛禽類のような獰猛さがまるでない。
 実はこれらをフィンチといい、ホオジロ科の鳥である。現在では合計14種類が確認されてい
る。特にこのうち13種類のフィンチに関しては特に「ダーウィンフィンチ」と呼ばれ、ダーウィン
の進化論に影響を与えたコトで知られている。(残り1種はココスフィンチといい、ガラパゴス諸
島より北東約1000キロメートルのココス島に生息している)
「元を正せば同じ鳥……。けれどガラパゴス諸島の様々な食糧事情に適応していくうち、同じ
種類でありながら……異なる形へと進化していきました。それが……適応放散」
 斗貴子の周囲を飛び交う鳥のクチバシは微妙ながら違っていた。丸く尖っている物、鋭く尖っ
ているもの、細いのもあれば大きいのものあり、いかにも頑丈そうに丸くそびえているのもある。
 その中で比較的おとなしそうな小さいクチバシの鳥は斗貴子の首筋に傷をつけるやいなや
血を吸い始めた。これはハシボソガラパゴスフィンチである。吸血フィンチともいい、本来はカ
ツオドリの尾羽の付け根を傷つけて血を吸うのである。
 それを処刑鎌で叩き落とした斗貴子だが、鳥の群れは次から次へと襲い来る。打っても打っ
てもゴムのように伸びるばかりである。だから襲撃がやまない。しかも鐶に向おうとすればよ
り執拗に打撃を繰り出してくるからまるで埒が明かない。
(埒が開かない?)
 斗貴子は首を傾げた。弱点を指摘された後にしては鐶の攻撃は緩慢すぎる。もっと大きな
技を放ってくると思いきや、フィンチという数以外さほど取り柄のない鳥を差し向けている。
(時間をおけば剛太たちが合流するかも知れないのに……これはおかしい。真意は──…)
 彼女の周囲に浮遊したフィンチ十四種類の口が火を噴いたのはその瞬間である。
87永遠の扉:2008/10/13(月) 22:24:29 ID:rcgIN7kB0
 火炎を吐く、などという生易しいものではない。がっくりと開いた嘴の奥から覗いた黒光りの
筒が銃火を噴いた。ミサイルポッドを吐くのもいた。ミサイルそれ自体を射出するのもいた。かぁっ
と疑似荷電粒子砲を吐いたのはマングローブフィンチという黄色い個体である。基本的に黒い
フィンチだが例外的に黄色いのも三種類いる。この時生体エネルギーを光り輝く刃と留め振り
下ろしたムシクイフィンチもその一つだ。
(ここまで来てやられるワケにはいかない!あと少し、あと少しなのに……!)
 身をかがめフィンチの包囲網をかいくぐった斗貴子の足元へ、三つに分裂したミサイルが着
弾して破裂した。爆風そのものと弾け飛んだ破片が靴下に刺さり、斗貴子はよろけた。そんな
彼女の頭上にヘキサゴンパネルを刻み込んだ三角柱が飛んだ。むろん小ぶりな鳥の頭から
射出されたため、500ミリリットルのペットボトルほどしかない。だが側面のヘキサゴンパネル
は上から順に硝煙あげつつミサイルとなって飛び立った。チョーク大した無数のそれらは斗貴
子の周囲で爆散し、無数の花火を廊下に煌かせた。そこから飛び出たいま一つの三角柱はち
ょうどYの字に展開し、裏側についたマイクロミサイルをダメ押しとばかりに花火へ撃ち込んだ。
 その最中にフィンチの口から覗いた銃口は三種類あった。内一つはひどく細く、次第にせきこ
むように電子音を鳴り響かせると細い閃光を撃ち始めた。残る二つはラッパのように先が広がっ
ており、間断なく実弾を吐き散らかしている。
「……もちろん、フィンチさんたちはこんなコトをしません。けど……その、私は……ロボットが好
きなのでこうしてます。無銘くんは好きな忍法を……真似てるから……私もその真似を……。
こういう状態じゃないと……なかなかできないので…………」
 ラジオアンテナのキャップらしき物を嘴にたたえたフィンチがなぜかそれをズルズルと吐きな
がら場所を移動した。やがてその動きの軌跡に沿って流れた黒い線は慌ただしく火線を走ら
せながら爆発した。いわゆる爆導索のようだ。
 もはや破壊が破壊に入り混じる混沌へと疑似荷電粒子砲が撃ち込まれ、わっと硝煙を散ら
したがそれも束の間。再び三角柱が撃ち込まれ無数の花火の煙に巻かれた。時折その中で
88永遠の扉:2008/10/13(月) 22:28:07 ID:rcgIN7kB0
ブン、ブンと蜂がはためくような音がするのは、フィンチの口から生えた光刃が斗貴子を探して
手当たり次第に暴れているせいである。その数は二本あり、時々瓦礫が無残に飛び散る音
が響いた。
 そしてまたミサイルが三つに分かれて着弾。
 もはや鳥やホムンクルスの常識を逸脱した異常な様子である。鐶の自己暗示の極まるとこ
ろついに彼女の特異体質は様々の限界制約の類を乗り越え、自らの肉体を重火器に変ずる
ところまで及んだのだ。これも平素より変形に慣れ親しみ時には別人にさえ成り変る鐶なれば
こそ勃発した独特の異常現象であろう。
 やがて煙幕の向こうに微かな影が映ると、二種のフィンチが大口開けて噛みついた。
「流石に精密動作は不可能で、煙幕でまだ確認もできませんが……これだけやれば恐らく私の──…」
「ああ勝ちだよ! ただしてめェは先輩には勝ってねェ!! この俺が勝たしちゃいねェ!」
「な……」
 鐶は目を丸くした。
 薄まった煙幕からはっきりと見えたのは斗貴子とは似ても似つかぬ少年である。
「良かった。どうやら間に合ったようですね先輩」
「剛太」
 抱きすくめられるような姿勢で斗貴子は剛太を見上げた。
 彼があらゆる攻撃を浴びたのは想像に難くない。全身真赤に濡れている。ランニングシャツ
から覗く肩は被弾し腹部を裂かれズボンには無数の破片が刺さり、左頬も光線が掠ったらし
く火傷と創傷を負っている。もはや無傷の部分を探す方が難しい。
「私を……かばってくれたのか。すまない。礼をいう」
「いいですよお礼なんて。だっていったでしょ」
 彼は傷の痛みなどないように人懐っこい笑みを浮かべ、親指さえ立てた。
「先輩はしっかり守るって」
 言葉と同時に剛太の体が跳ねた。
「キツツキフィンチは道具を……使えます。仕留められなかった時の……保険でした」
 一瞬目を見開いた彼はすぐに攻撃の正体に気づいたらしく、フっと瞑目した。
「気にしないで下さい。俺、結構満足してますから。どの道、今の攻撃で戦闘不能でしたし」
 剛太が縮み倒れていく過程で、斗貴子は見た。
89永遠の扉:2008/10/13(月) 22:44:29 ID:rcgIN7kB0
 頭を垂れて倒れゆく剛太の背中から血がぶわりとたなびくのを。
 恐らく光の刃に斬られていたのだろう。出血量から見る限りけして軽い傷でもない。
 そんな血の薄膜の向こうには、短剣を突き出すようにくわえた黄色い鳥が浮いている。
 斗貴子は激高の赴くままその鳥を一打した。薄膜から赤いしぶきが飛んだ。
(どうして年齢吸収のために背中を斬りつけた! 剛太はそこに深手を負っているんだぞ!!)
 同時に鐶は章印にモーターギアを浴びて仰け反った。更に自動回復をしたところへいま一つ
の戦輪が追撃。更に年齢を削り取った。回復のためかそれとも斗貴子の一打のせいか、鐶の
腕が俄かに縮み短剣ごと彼女の体へ戻った。
「俺から吸収した年齢ぐらいは削っときます」
 胎児と化しつつそう言い残した剛太を、斗貴子は胸にそっと抱きしめた。
「そして回復の時間稼ぎも」
 肩へ突き刺さった鋭い感覚は斗貴子を振りかえらせるに十分だった。
 視線の先には淡いピンクの蛍光に包まれる桜花がいた。しかもちょうど彼女の脇腹や腹部
から制服越しに血が噴出し、黒いストッキングに包まれた脛にもじわじわと赤い模様が浮きあ
がりつつあった。いずれも斗貴子の負った傷とほぼ同じ部位である。
「鏑矢……? ちょっと待て!」
 斗貴子は慌てて剛太を床へ横たえ、肩に刺さったハート型の鏑矢を引き抜いた。
「まったく。皆どうしていつも途中でそうするのかしらね。」
 微苦笑はもはや死美人のように半透明である。
「自分の状態をよく考えろ! いま私の怪我を全部引き受けたら確実に死ぬぞ!」
「想像通りの反応ね。やっぱり津村さん意外に優しい」
「そそ。絶対に途中で矢を抜いてくれるから死にゃしないって信じてたぜ。さて、オレ様も気合
い入れなきゃな!」
 斗貴子の頭上を飛び越えた御前が、回復したての鐶の章印を射ぬいた。
「で、どう? 怪我の具合は?」
「……完治ではないが動けるぐらいには治っている」
「そう。あ、お礼をいうなら剛太クンにいってあげなさい。彼、あなたのために私を無理やり連れ
てきたんだから。本当に一生懸命、『斗貴子先輩のために』って。彼がいなかったら私はここ
にいなかったし、ただ強引に引っ張って来られただけなら傷を引き受けたりしなかったわよ」
90永遠の扉:2008/10/13(月) 22:49:33 ID:McgLzTUu0
 弓を下げた桜花が一瞬くらりと身を揺るがせたが、すぐ粛然と踏みとどまった。
「穴から降りてきて何とかここに辿りついた時もそう。あなたをただ守りたい一心で、何も迷わ
ずあんな攻撃に飛び込んだんだから。……本当、無茶しすぎね」
「そうか……。キミも頑張ったんだな。ありがとう。おかげで勝機が見えてきた」
 戦場に似つかわしくない優しい眼差しの中で、剛太にそっと服が掛けられた。
「好かれる訳ね」
 ぽつりとした呟きに斗貴子が桜花を見ると、何事もなかったような笑顔が咲いていた。
「私のコトなら気にしないで。ほとんどは秋水クンのためだもの。ここで負けたら顔合わせられ
ないし。ずっと辛い思いをさせちゃったから、たまには……私も痛い目見なきゃ」
 御前の胸に鐶の羽根が刺さったのと時を同じくして、桜花は気死したごとく頭をふらつかせた。
「ひょっとしたら……前にいったかも知れないけど。秋水クンだけを…………恨まないであげ
てね。ああなっちゃたのは……私にも責……任あるから」
 消え入りそうな言葉を紡ぎながら桜花は傾斜していく。
「考えなしに傷を引き受けるからだ! しっかりしろ!」
 呼びつつ駆け寄ろうとした斗貴子に御前の叱責が刺さった。
「だぁ! 何してんだよツムリン! 後ろからアイツが行くから気をつけろ! あと……!」
 その言葉を最後に御前が爪で斬り裂かれ、ジジっと電子音を立て──…
「絶対勝てよ! みんなみんなツムリンに賭けたんだ!」
 最後まで憎まれ口を叩きながら消滅し、桜花も床へと倒れ伏した。
 だが鐶は止まらない。御前を斬った爪を斗貴子の背後に浴びせた。しかし間一髪御前の叱
責で我に返った彼女は避けた。されど事態は連綿と続く。
 ものいわぬ桜花の傍から鐶は素早く核鉄を拾い上げ、既に掌中にあった剛太の核鉄ともど
もポシェットにしまった。
「二人の核鉄まで!」
 激高の様相で躍りかかった斗貴子は爪としばらく格闘したが、やがて押し負け吹き飛ばさ
れた。そして無残にも廊下をもんどり打ちながら滑り抜け、突き当たりにある部屋へと雪崩れ
込んだ。何かが崩れ何かがぶつかる凄まじい音が廊下全体に鳴り響く。
「これで一対一。そして終わり……です」
91永遠の扉:2008/10/13(月) 22:50:47 ID:McgLzTUu0
「……私はここに転校してまだ日が浅い」
 廊下の奥から斗貴子の声が響いた。
「それでもまひろちゃん達がいろいろ案内してくれたから、施設の所在は一通り知っている」
 焼け焦げたドアが溶けた床に倒れるその部屋はひどく暗い。
「だから知っている。ここは倉庫だ。不要になった物や普段使わない物をしまっている」
 鐶はわずかだが足を止めた。斗貴子の様子からただならぬ気配を感じたのだ。
「私はただここまで追い詰められたワケじゃない。逆だ。お前を弾き飛ばしながらここを目指し
ていた! もっとも辿りつけたのは……剛太たちのおかげだ。私一人では来れなかった!」
(まさか……最後に弾き飛ばされたのは……わざと……?)
「そして!」
 弾丸のような速度で倉庫から飛び出した斗貴子を、鐶はただただ愕然と見つめる他なかった。
「ダブル武装錬金!!」
 彼女のしっかと握りしめられた核鉄が瞬く間に展開し、新たなる四本の処刑鎌が鎌首をもた
げる様を、鐶は狼狽と混乱の中でただ見つめるしかなかった。
「そんな……! あ、ありえないです……! どうしてそんな場所に核鉄が…………!?」
「ドレスの言い伝えを知らないようだな。仮にも演劇部員の一人に化けていたのに」
「え?」
「銀成学園演劇部に古くから伝わるドレスのコトだ。これには言い伝えがある。年に一度、文
化祭での演劇発表の場で奇跡を起こすと。もっともコレはまひろちゃんからの又聞きだが」

──「でね、演劇部に昔から伝わるドレスはスゴいんだよ。何年かに一度、学園祭で発表する劇で
──突然”ぴかーっ!”って光って短剣とか斧とか、えぇとなんだっけ……その、忘れちゃったけど、
──とにかくカッコいい武器が出てくるんだって」

「まさか、その奇跡というのは…………核鉄のせい……?」
「ああ。胸の部分に縫い付けてあった。そして年に一度しか使わないドレスは普段倉庫にある!」
 風のように向かい来る処刑鎌に対し、鐶は右腕から黒いアームを展開した。
「……適応放散」
「行くぞ! 最後の勝負だ!」
 再び解放された適応放散のフィンチ14種類と8本の処刑鎌が獣のように向かい合った。
92スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/13(月) 23:03:44 ID:McgLzTUu0
適応放散の時のビームやらバズーカやらマイクロミサイルの元ネタは……お察し下さい。
そして次回で鐶戦は終わります。ああ、長かった。でもまだ総角がいるのかァ。
なお、「演劇部のドレスに縫い付けられた核鉄」はドラマCD1からです。
勢い優先でその辺りの説明を意図的にスッ飛ばしたので、ドラマCD1知らない方には何が何やらかも。
そっちの補足も次回にて。

>>63さん
描いてみると鳳凰は力を引き出すための崇拝対象になっちゃったような。なにぶん「本来争い
を好まない鳥」のため、SSに描けそうな攻撃能力がないので……斗貴子さんたち三人は安定
感ある女子二人に混じって爆発力のある男子一人なのでいい感じ。剛太はやる時にはやるのです。

>>64さん
武装錬金のキャラはみんな大好きなので、経過はともあれ最終的には大活躍して欲しいのですw
剛太は桜花に弄ばれるタイプじゃないでしょうか。口喧嘩ではたぶん勝てない。そして本当に
本当に長らくお付き合いさせてしまい申し訳ありません。次回こそ本当に決着です!

ふら〜りさん(イジワルのが多いと思います。何せ「柳、お湯……」「ちべたいちべたい」な御方ですからw)
今号始めて読んだツマヌダからはアバン先生っぽい印象を受けましたが、「強くなるのは、な
れるのは」では全く以て強い! 鐶に字数を費やさざるを得なかった自分にとって、ここまで綺
麗な圧倒は美しい。これならば「序盤優勢な方が負けやすい」という刃牙世界の法則も或いは?
しかし以前から思ってますが格闘非格闘問わず動きの描写がお上手ですなあ……

鐶は……正直、番外編で足洗ってもらってる時はここまで行くとはw 何なんだろうこのキャラは。
前回の剛太と桜花の会話は自分なりに「こうかなあ」と模索してみた結果なので、その、武装
錬金という作品を楽しむための一提案としてお楽しみして頂ければ幸いです。

>>69さん
いやはや最初は設定に何とか裏付けをつけれないかと思った鳥ですが、今や趣味の一端と
化しているような気も何にしもあらずですね。でもむしろ今回こそ趣味全開のような。
93作者の都合により名無しです:2008/10/14(火) 07:38:41 ID:b/q0Ltrt0
お疲れ様です。
次回でいよいよ決着ですか。鐶強かったですね。
一人じゃ勝てなかったもんなあ。
94『アギトの会』:2008/10/14(火) 16:09:16 ID:JXz3WI290
『AGITΩ』――『アギトの会』総本山にして最強のアギト、津上 翔一の運営するレストラン。

闇の力が恐れたアギトは、今や立派に実社会に馴染んでいた。
全人口の4分の1がアギトの力に目覚め、『アギトの会』は全世界に広がっていた。
アンノウンの居ない今、その力は人類の脅威になるかと思われたがそこまで人間は愚かではなかった。

世界を救ったアギトでありながらレストランを経営する津上を頼る者は後を絶たず、
会員は増え続け最低でも県に一ヶ所は配備されている。
田舎では通会に不便なので市に一ヶ所にしろという要望も多く、配備される日は近い。
会員でないアギトの方が珍しい位だ。

一億坪の広大な土地を耕すアギト達、スタミナといい腕力といい常人とは桁外れである彼等が集まれば、
荒れ果てた荒野も瞬く間に肥えた大地として蘇る、時に掘りすぎて原油や温泉が出るトラブルもある位だ。
ここで作られた作物の一部はレストランで使われ、残りは主に飢餓に苦しむ子どもたちの為に配送される。

ジェット機は未だ存在こそすれ、利用者は着々と減っていた。
自転車、自動二輪、トラック、果ては三輪車までアギトの力で空を飛び時速は350kを超える。
飛行機の類は残された一般人の為、小型高速化が進み大きい物は殆ど見なくなった。
公園の飛行機型の遊具もアギトの力で小型ジェットになる為に廃止された。

最初はアギトの力を恐れる者も多かったが時間がそれを忘れさせた。
時として犯罪者にアギトの力が目覚める事もあったが、
一般のアギトが束になれば瞬時に拘束可能なので無意味だった。

世界中の地雷を排除するアギト達、もちろんマインローラーもアギトの力で強化されている。
そういった物の操縦免許を持たない者は変身して歩く事で地雷を踏みつぶしていく。
一発二発なら余裕で耐えきれるので踏んだら交替という訳である。
危険な仕事の為に参加はボランティアなのだが、心優しきアギトの参加者は後を絶たない
95『アギトの会』:2008/10/14(火) 16:10:40 ID:JXz3WI290
『アギトの会』の会員となって必ずすべき事は料理の勉強だ。
芽キャベツ入りのショートケーキは避けて通れない道である。
おいしい料理を食べれば誰もが幸せになれる、この美しい精神が世間のアギトへの偏見を覆したのだ。
世界各地の貧困外には必ずと言っていいほどアギトが居る。
そして子供たちにおいしい料理を食べさせ、貧富の差に関係なく笑顔をもたらすのだ。

アギト達の作る余りにも美味な食べ物、アギトの異性を娶る人が多い理由はここにもあるのだろう。
性のスタイルでも男のロマンは『裸エプロン』から『アギトエプロン』になりつつある。
マニアックな域に入ると『ギルスエプロン』なる物も存在する。
どちらも変身した状態でエプロンをつけるだけとお手軽に出来るのでカップルに大人気。
女性の好みとしてはチョイ悪っぽいのでギルスという声も上がっている。

また、深刻とされるエネルギー問題もアギト達の活躍で解決した。
バーニングフォーム変身免許を持つ者は熱エネルギーによる発電等を可能とする。
ただしこのフォームは暴走の危険性がある為、免許取得は困難である。

こうして原子力は地中深くに封印されこの世から姿を消し、核の危険は消滅した。
更にアギトの力による放射性物質の分解等、研究は進んでおりいずれ掘り起こされ処分されるだろう。

貧困を救い、緑を守り、核の根絶へ向けて活動するアギト達。
その頂点に君臨する津上 翔一、感謝こそされど誰からも恨まれるような存在ではなかった。

ある日、そんな彼が殺害されるという歴史上に残る大事件が発生した。
アギト最強形体、シャイニングフォームに唯一変身可能である事から普段は護衛をつけていないのだ。
96『アギトの会』:2008/10/14(火) 16:13:44 ID:JXz3WI290
犯人はすぐに捕まった、自首したのだ。
加害者の名は『氷川 誠』、かつてG3と呼ばれる強化外骨格を身に纏ってアギトと共に世界を救った英雄。
勇敢な警官として警視庁に名を残し、G-3ユニットの後継ぎであるG-5では教習の教科書にも載っている。

取り調べ室で涙ながらに語られる津上と共に戦った日々、誰が聞いても彼と津上の間に確かな絆を感じただろう。
そんな深い繋がりを持った彼が何故、津上 翔一を殺害したのだろうか。

理由は、たった一つだった。
一本のビデオテープ、家庭用の物で撮影された物だ。
投影機に繋がれると、ゆっくりと当時の映像を映し出した。

『津上さん、何時になったら私は『アギトの会』の正メンバーになれるんです? あの時入れてくれるって!』
『いや、ゴッメン! やっぱアレ、なしって事で!』
『何故です! いつまで私は補欠なんですか! アギトとして世界をよりよい方向へ導こうと警察も止めたのに!』
『だって……氷川さんアギトじゃな……』

銃声が響き、画面が血に染まって映像は途絶えた―― 完
97邪神?:2008/10/14(火) 16:16:13 ID:JXz3WI290
なんか変なオチ(;0w0)
別板に投稿するためのライダー小説書いてたら思いついた作品。
製作時間約30分という手抜きっぷり。
貧困外→貧困街 という誤字までやらかす始末。

P.S 『あの時』は最終話直前だった気がする。

〜感謝〜

ふら〜り氏 ゾイドの作者の漫画なんですな……ウィキペで調べるまで分からんかった(;0w0)
        シャイなミ昇を見てどこかで見かけた猪狩ネタの『シャイな子に向かってシャイ!シャイ!』
        を思い出した俺は病気。

前スレ>>384氏 2枚目はサウンドノベルですからな……リコは頑張れば出来る子。

前スレ>>385氏 今やってるライダー小説終わったら戻りますんで……(;0w0)

前スレ>>387氏 自分でも不安、プロットもなく書き出すとこうなるという例。
          出来る限り頑張ってみます(;0w0)
98作者の都合により名無しです:2008/10/14(火) 23:37:01 ID:LATS2Lo70
>スターダストさん
長かったこの戦いもいよいよ大詰め。斗貴子の切り札の前に強敵も散りそうですね。
いやー、しかし本当に長かったw それだけこの鐶がお気に入りなんでしょうね。

>邪神さん
邪神さんの短編って珍しいような。ふらーりさんが喜びそうなネタですな。
俺はアギトはしりませんが、こういういい意味で力の抜いた作品をまた是非。
99作者の都合により名無しです:2008/10/15(水) 00:25:53 ID:UmrU043d0
うーむアギトを知らないとイマイチわからんオチだ
100作者の都合により名無しです:2008/10/15(水) 18:24:05 ID:aFeav2kx0
スターダストさん鐶戦力作乙だけど
オリキャラがずっと出続けるのは賛否両論かもね
どうしてもビジュアル的に想像しづらい部分がある
俺はSSの醍醐味みたいな感じで好きだけどさ

あと邪神さんってジョジョどうしたの?
101強くなるのは、なれるのは:2008/10/15(水) 20:57:17 ID:HTVCJz1a0
>>67
ミ昇は構えたまま、静かに大きく息を吸って腹に溜め、一瞬止めてからゆっくりと吐いた。
その一呼吸だけで、眉間に寄っていた皺がなくなり、不必要に上がっていた肩が下がり、
知らず知らず浮いていた腰が落ち、全身から余分な力が抜けて構えが安定する。
動作は省いているが、流派を越えて空手に伝わる心身の整法、『息吹』である。
そんなミ昇を見たドラエは、
「ミ昇様の……気が、澄んで参りましたね。ようやく本当の貴方を見せて頂けそうです」
ふっと微笑して、自らも構えを整えた。
ミ昇からも、小さく笑みを返す。
「ああ、見せてやる。だが誤解しないでくれ、今までだって俺は全力だった。手加減なんか
しちゃいない。そんな俺の攻撃を、あんたは見事に弾き返し続けたんだ。失礼かもしれんが、
とてもとても強そうには見えない、そんな体でな。その技術には敬意を表する」
「恐れ入ります」
「が、」
一転、表情を引き締めたミ昇が言葉を続ける。
「ここまでだ。お望み通りに本当の俺を、本当の鎬流空手を見せてやる。そして、俺は勝つ」
「はい。本当の鎬流空手、それこそわたくしの望むところです」
「……ぃいくぞおおおおぉぉぉぉっ!」
ミ昇が、風と化した。踏み込みも、突きも蹴りも、それまでとは鋭さが違う。
これまでは「全力」だったが、ここからは「本気」。ドラエを倒すのではなく、殺すつもりで
ミ昇は容赦のない攻撃を仕掛けていった。
ドラエの顔に焦りが生まれる。嵐のような連続攻撃を打ち払い、いなし、回避してはいるが、
先ほどまでのように捕まえて投げることはできなくなっている。
ドラエの頭のカチューシャが弾け飛び、ドラエの肩のフリルが切り裂かれ、ドラエの腰の
エプロンが破り取られる。ミ昇の、獣の爪のような刀の刃のような手足によって。
102強くなるのは、なれるのは:2008/10/15(水) 20:58:18 ID:HTVCJz1a0
いつまでも防ぎきれはしない、とドラエもミ昇も思ったその時、
「ぅぐっ……!」
均衡が破られた。それまでのドラエはガードするにしても自ら身を引きつつ、つまりミ昇の
打撃の重さを和らげながらのことだったが、それができなくなったのだ。
ミ昇の攻撃を捌ききれず、大きく右へ動いたところに、ミ昇の狙い済ました左膝蹴りが
命中。ドラエはガードこそ間に合ったものの、体重移動したその正面からの打撃だった
為、蹴りの重さを殺すことができず、細い腕を貫通した重い衝撃が、鋭く深く腹に来た。
息を詰まらせて動きを止めるドラエ。すかさずミ昇が、
「もらったああああぁぁっ!」
まるで弓を射るかのように右の貫手を大きく引き、手首を捻って掌を上に向けた。
その捻りを一気に開放することで360度の回転を指に与える必殺の一撃。
首筋へと触れた瞬間に相手の視神経を寸断する、ミ昇の最終奥義。新・紐切りだ。
『考えてみれば、すぐそばに兄さんがいるんだ。両目の視力を完全に奪われたにも関わらず、
薬も道具も使わずに、自分で自分の神経修復を易々とやってのけた、奇跡の天才医師が。
だったら今、俺が何をやったって問題ない。決着後、即、完治が保証されてる。……この技、
一切の遠慮も容赦も無用ッッ!』
全力本気の新・紐切りが放たれた。動けないドラエの、その細く白い首筋に向かって、
日本刀よりも鋭く鉈よりも重く銃弾よりも速い貫手が、裂帛の気合いと共に襲い掛かる。
観戦している刃牙も、紅葉も、そしてミ昇自身も、勝利を確信した。が、
「……ッ!?」
ミ昇の動きが止まった。いや、止められた。
突き出されたミ昇の貫手、その指に、ドラエの指が絡みつき、止めている。
ミ昇にとってはこの上ない悪夢である、あの渋川戦と同じように。
『ば、ば、馬鹿な! 新・紐切りどころか、紐切り自体が初見のはず! なのに……』
103強くなるのは、なれるのは:2008/10/15(水) 20:59:25 ID:HTVCJz1a0
「はああああぁぁっ!」
ドラエの鋭い気合いが迸り、ミ昇の指先から全身へと電撃が駆け抜けた。絡み取られた
指が捻られ、梃子の要領で手首から肘、肩へと連鎖的に関節を極められ、反射的に
腰が浮いたところで強く腕を引き下ろされ……見事に投げ飛ばされた。
困惑の最中のことだったので受け身もとれず、ミ昇はまともに頭から落下、地面に激突する。
その衝撃に痺れる、麻痺する全身にムチ打って、ミ昇はムリヤリ立ち上がるが、波打つ視界
の中にドラエはもういない。気配に気付いて左を向いた時にはもう遅く、ドラエの
矢のような拳がミ昇の顎先の急所、三日月を打ち抜いた。
この拳、『紗貫き(うすぎぬぬき)』は明道流の基本であり、ここまでの打ち合いでもほぼ
常時、ドラエが使用していたものだ。が、今は条件が違う。ミ昇が判断も行動もできない
完全な無防備状態となったところで、絶好の距離から絶好の角度で打ったのだ。
刃牙がかつて斗羽を沈め、紅葉にはKO寸前まで追い詰められた、脳震盪を起こさせるに
最適の打撃。ミ昇とて例外ではなく、
「……ぐ……ぁ……っ……」
力なく両膝をついた。続いて両手をつく、ことはできずにそのまま上半身全体がついた。
「し、勝負ありっ!」
紅葉の声が聞えたのと同時に、ミ昇の意識は霧散していく。
その耳に最後に微かに、刃牙の呟きが届いた。
「今のドラエさんの動き……ミ昇さんの拳筋を見切ったわけでも、殺気を読んだってわけでも
ないな。ってことは……」
104ふら〜り:2008/10/15(水) 21:05:36 ID:HTVCJz1a0
次回完結。しかしまぁ思い返してみれば……黒沢さんに野明、太田さんに7号、ヒューイットに
D=アーネ、本部に響子ちゃん、山崎に斗貴子、刃牙に留美、そしてミ昇にドラエさん。
私ゃ「お見合い取り持ちオバさん」かと。←ってのよく聞きますが、リアルで会ったことは皆無です。

>>サナダムシさん(寂そっくりさん門下の黒帯たる身としては、三崎師匠の不在がちと残念)
当たり前のように死んで当然のように蘇生する郭、流石過ぎて笑えました。まぁスペックをこちら
に入れ、郭と渋川がいることを考慮しても、やはりしけい荘には及びませんかなこの老人会。
とはいえ強盗犯には合掌。銃なんか持ってたら、この惨状でも過剰防衛は言えないでしょうし。

>>スターダストさん
「こいつは俺が食い止める!」で主人公だけ先に行かせて、中ボス相手に順次相討ちしていく
仲間たち。そんな感じでしたね。♪傷ついた僕を友よ乗り越えろ……戦え、最後まで! 男なら♪
ま、女の子ですけど。仲間たちの闘志を背負い、たった一人残った斗貴子。実にヒーローしてます。

>>邪神? さん(無念。アギトと龍騎は観ておらぬのです。知識のみ少しは仕入れましたが)
常人とアギト、どっちかがどっちかに迫害される話になるのが普通でしょうに(劇場版555とか)、
きちんと共存して良い方向にばかり走っていく展開。どう落ちるのかと思ったら……なるほど。
アギトじゃないからこそのG3ユニットであり、それがあるからこその氷川。避けられぬ悲劇でした。
105永遠の扉:2008/10/16(木) 01:56:11 ID:PYhy4cy/0
第078話 「滅びを招くその刃 其の拾陸」

 話は斗貴子がダブル武装錬金を発動する前に遡る。

 倉庫のあちこちで紅蓮の炎がくすぶり、焦げたダンボールがいくつも中身をブチ撒けている。
 それらを一瞥した斗貴子は壁際の三列四段のロッカーの群れへと足を進め、バルキリースカー
トで総ての扉を吹き飛ばした。するとひしゃげた扉が36枚、壮烈な音を立てて床に転がった。
 ロッカーを素早く見まわすと、果たしてこういう張り紙をされた衣装ケースを発見。
『所有者:演劇部。品目:ドレス。用途:文化祭の演劇用!』
 開ける。取り出す。出てきたのはピンクと赤を基調としたドレスだ。全体的にひらひらとし、翼
のような形をした半袖にある銀糸の刺繍は瀟洒な光をキラキラ放っている。
 ドレスの胸元に花開いたヒマワリの飾りへ手を当て、捩る。
(これはあくまで推測だが、その昔、舞台の上でよほどの熱演をした者がいて、その演技に反
応したのかも知れないな。高揚した精神は、闘争本能に似ていなくもない)
 糸が切れる心地よい手応えといっしょに金属片が覗いた。
 それはやはり斗貴子がまひろの話から推測した通りの……核鉄。
(武装錬金を発動しながら騒ぎにならなかったのは演劇という非日常世界のため。気楽な生
徒達は学校の七不思議ぐらいに思ったのだろう。何にせよ、結果的には保管場所として最適。
しかしどういう経緯で縫いつけたのだろう。カズキなら『キレイだから誰かが拾って縫いつけた』
とかいいそうだな。? ……この核鉄のシリアルナンバー)
 しばらく目を見開いた斗貴子の頬に、フっと寂しそうに笑みが浮かんだ。
「LXXIV(74)か」
 斗貴子の核鉄はXLIV(44)。カズキの核鉄はLXX(70)だった時期もある。
 だからLXXIV(74)はまるで二人を合わせたような数字に思えてしまう。
 一心同体を誓い、それが破られた記憶を呼び起こすには十分な数字でもある。
 斗貴子はぎゅっと目を瞑り、核鉄を握りしめた。
(……感傷に浸るのはコレが最後だ。今は戦う時)

「今は戦う時だ!」
 鐶にとって悪夢のような光景が展開していた。
 フィンチに数で劣るダブル武装錬金が。
106永遠の扉:2008/10/16(木) 01:56:59 ID:PYhy4cy/0
 砲弾を両断した。無数のマイクロミサイルを弾ききり、三つに収束したミサイルを輪切りにした。
既に辺りには点々と鳥の生首さえ落ちている。いずれも光線や光の刃といった実体のない「弾
きづらい」攻撃を吐く砲台どもだ。斗貴子は斬り結びが始まるやいなやそれらを見つけ速攻で片
付けたのである。
「……伸縮に富ませ、まず切断はできないよう作ったのに」
 噛みつきにいった二種類の鳥がそれぞれ斗貴子の両側でブツリと音立て刎頸された。
「ゴムのように伸びるというなら、伸びきったところを刃に巻き込みねじ斬るまで」
 同様の手口で適応放散のフィンチたちは花のごとく首を落とした。落している。
「敢えて一種類だけ残してやった。貴様曰く道具を使える鳥をな」
 無残なささくれを帯びた鐶の腕の向こうで、黄色い鳥──キツツキフィンチだけが残っていた。
「やってみろ」
 瞳を鋭角に尖らせた斗貴子が一歩踏み出した。
「貴様の武装錬金を使わせてみろ」
 鐶は思わず一歩後ずさった。
「剛太の背中を斬りつけた時のように、鳥に短剣を今一度くわえさせてみろ!」
 従う馬鹿はいない。
(フィンチさんのアームが切断される以上、短剣を……くわえさせたら私は回復の手段を失い
ます。回復用の年齢が……詰まっているのはコレだけ)
 もちろん鐶は根来、千歳、防人、剛太、桜花の5人から核鉄を回収し、ポシェットに収納して
いる。だがみすみす失うと分かりながら発動し、フィンチに渡すつもりには到底なれない。
(……た、ただダブル武装錬金を使っただけなのに……この気迫は一体……!?
 そのダブル武装錬金だが、増えた処刑鎌については大腿部から直接生えておらず、何やら
左右非対称な六角形のパーツから生えているようである。
 それが動いた。鐶の左腕を14本の黒いアームごと根元から切断した。
(数が増えた以上、今ならやれる!)
 フィンチ云々の問いに懊悩していた鐶だから初動が遅れた。
 想像を絶する速度の処刑鎌は顔面にブスブツと突き刺さった。眼窩を貫くのはもはや規定
事項のようである。耳も鼻も貫かれ口から後頭部へと突き抜ける鎌もあった。
(……しまった。あちこちに……鎌が刺さっているので動けません)
107永遠の扉:2008/10/16(木) 01:58:14 ID:PYhy4cy/0
 首にくいくいと力を込めても動かないので、鐶は困り果てた。
(動きは封じた。あとは残る一本で年齢が尽きるまで章印を貫き続けてやる)
 目を細めた冷酷な顔つきの横で、上向きの鎌がすぅっと立ち上った。
「安心しろ。殺しはしない。貴様たちのアジトを聞かなければならないからな」
「これは報いだ」
「自分は素知らぬ顔で群衆で紛れこみ、いいように他人を操り危害まで加えた交差点での」
「そして何の罪もない生徒たちを自分のためだけに傷つけ胎児にした校庭での……」
「報いだ!」
 静かな怒りの中、鐶の章印が四度(よんたび)刺し貫かれた。
「…………報いを受けるほどのコトをしたのは……分かってます」
 鐶の腹部から伸びた対趾足(たいしそく)の爪が斗貴子を吹き飛ばした。
「チッ」
 宙返りののち片膝立ちで着地した斗貴子は、口からあふれる血を忌々しげに拭った。
「……私が戦える期間は残り十年ほど。……予感があります。……肉体年齢ではない……
実年齢……生後十八年ごろから急激な老衰が……始まると。普通の人でも……普通のホムン
クルスでも…………まだまだ先がある時期に……私だけが…………暗い暗い淵に……」
「同情はしない。例えそういう不幸を背負っていようと、他人を巻き込んでいい道理はない!」
 怒鳴ったのは斗貴子の胸を薄暗い風が吹き抜けたせいだろう。
「私も……一人の高校生を戦いに巻き込んでしまった。そのせいで彼は日常の世界とかけ離
れた痛みや苦しさを味わい、挙句、私の軽挙が原因で人ならざる存在へと変質を始め、最後
は妹や友人や……拾えそうな全ての命を守るためにこの地球(ほし)から消えたんだ」
「……」
「そして今でも残された人間は苦しんでいる。一番深い傷を負ったのは恐らく彼の妹だ。なの
に私は、励ましてやるコトもできずただ感情任せに迂闊な一言を発し、彼女を更に傷つけた。
知らなくていい薄暗い事情に……『巻き込んだ』」
「…………」
「ホムンクルスの貴様にいっても無駄だろうが、巻き込むとはそういうコトだ。だからは私はこ
れ以上誰かが戦いの世界に巻き込まれるのを止めたい。一人でも早く日常に帰したい」
「………………」
「貴様を倒せば武装錬金が解除され、生徒達は元の姿に戻れる」
108永遠の扉:2008/10/16(木) 01:59:12 ID:PYhy4cy/0
(気迫の正体が……分かりました。それは私への怒りと……確固たる戦う意思…………)
「だから貴様はここで倒す! アジトも聞き出す! そして貴様たちを束ねる長も倒し、この街
に住む人たちが二度と戦いに巻き込まれないようにしてみせる!」
 斗貴子はいつものごとく処刑鎌を両翼に展開したまま、寂然と佇んだ。
「……気持ちだけなら分かります。それでも私は勝利のために……あらゆる手段を尽します
それが私が無銘くんたちにしてあげられる……たった一つのコト……だから」
 鐶は破れた翼を静かに畳み、短剣を握りしめた。

(…………短剣に残っている年齢は……残り64年。回復は残り5回)

 両者は沈黙し、身じろぎもせず相手と向き合った。

(……負けてしまった無銘くんたちに斬りつけ胎児にしたのは……短剣に年齢を蓄えるため)

──「リーダーからの伝達事項その四。敗北者には刃を」

──「もちろん!!」
──『んー、ぎゃーするようで嫌だけど……約束だししゃーないじゃん』
──「さ、さっさとやれ。無様な姿を貴様に晒すぐらいなら、潔く失せてやる」
──「かく敗戦に至りました以上は取り決め通りお願いする所存!」

(貴信さん、香美さん、無銘くん。……小札さん。リーダーからの命令とはいえ……こんな私に
……みんな嫌な顔一つせずに……年齢をくれました)
 17、17、10、18。各人の年齢を総計すれば62年。短剣に宿るは64年。
(……ちょうどではありませんが、まだみんなの年齢は……クロムクレイドルトゥグレイヴに宿っ
ています。だから、大事な大事な年齢を与えてくれたみんなの為にも、負けられません)
 
 五色の光の中で一歩踏み出す鐶を認めると、斗貴子の面頬が粛然と引き締まった。

(敵はまだコイツ以外にも残っている。だが通過点として見くびりはしない!)
109永遠の扉:2008/10/16(木) 02:00:07 ID:PYhy4cy/0
──「最も無傷に近く最も能力を失っていない私が奴を撹乱する。貴殿らは後に続け」
──「本体はこの真下。根来くんの分までお願いね!」
──「後は任せたぞ戦士・斗貴子」
──「だっていったでしょ。先輩はしっかり守るって」
──「私のコトなら気にしないで。ほとんどは秋水クンのためだもの」
──「絶対勝てよ! みんなみんなツムリンに賭けたんだ!」」

(根来、戦士・千歳、戦士長、剛太、桜花、それから御前。主義も主張もまったく違うが、皆アイ
ツを倒すために団結し、力の限りを尽した。結果、彼らは敗北したがそれは決して無駄じゃない)
 鐶の回復の秘密を暴くコトに成功し、その源泉たる年齢を着実に現象させている。
(幾度となく章印に攻撃を当て強制回復をさせた。その上、奴自身も鳳凰に変身する時間を稼
ぐために無数の羽根へ年齢を与えていた。だから回復できる回数は多くて5〜6回。必ず勝てる!)

 8本の処刑鎌を小気味よく擦り合わせながら、斗貴子は一歩踏み出した。

──「とにかく……いまは待ちながらやれるコトをやってこうよ。私と一緒に。ね! ね!」

(薄暗い感情に巻き込んだ私を責めず、いま一度前へと踏み出す気力を呼び起こしてくれた
まひろちゃんのためにも、犠牲と引き換えに私へ様々な物を与えてくれた皆のためにも)
 欠如はまだ補われない。それは斗貴子自身が一番よく分かっている。だが。
(今は戦う! 戦ってアイツに勝つ! 今の私にやれるコトはそれだけだ!)

「勝負だ!」
「……行きます」

 まず両者は正面切って超高速でぶつかり合った。
 体のあらゆる場所から伸びる爪や翼と8本の処刑鎌が正面切って舞い狂い、衝突するたび
巨大な火花を散らした。爆ぜる気迫と咆哮は窓、扉、床、瓦礫、廊下に存在するありとあらゆ
る物をビリビリと揺るがした。
 その締めくくりは岩ほどの掌から伸びる巨爪と処刑鎌の束の衝突である。全勢力を込めて一
進一退を演じていた鐶と斗貴子はやがて限界まで膨れ上がった双方の力で後ろへと吹き飛ば
された。だが彼女らは怯むコトなくまったく同時に着地し、壁に向って飛翔した。
110永遠の扉:2008/10/16(木) 02:02:07 ID:IQYsQajp0
 高速機動こそ両者の十八番である。
 青みを帯びた銀影と麗しい五色がともに尾を引きながら廊下を縦横無尽に飛び交い、時お
り衝突し、まばゆい光を爆発させる。
 その都度校舎は轟音に揺れ、校庭の遥か外に佇む衆人をこわごわとさせた。
 何度目かの衝突で転機が訪れたので詳細を記す。
 斗貴子が短剣を捌くべく処刑鎌を駆動させると、鐶の姿がさざ波のようにかき消えた。
(こういう場合は……後ろ!!)
 背後で金属の鳴る音がした。扇風機のように旋回した処刑鎌が短剣に噛みあったのだ。
 だが鐶はそのまま斗貴子の頭を掴み、天井に押しつけた。
 むろん飛行は止まらない。板が砕け蛍光灯さえ時おり弾けぶ。
「この状態での適応放散と特異体質なら……!」
 14種類のフィンチに展開した鐶の右腕が、またも限りない爆炎と銃撃を見舞った。
 のみならず彼女は全身のあらゆる場所から爪や翼やクチバシを出し斗貴子の体を切り刻む。
 天井に爆発と抉れと破壊と血煙を残しながら両者は果てしなく飛んでいく。
「舐め……るなァ!!」
 斗貴子は短剣の抑え以外の五本の鎌を全く同時に上方へとつき立てた。
 ただ刺したのではなく翼をも巻き込めたのはバルキリースカートならではだろう。
 鎌の刺さった天井板からは火花が散った。黒々とした創傷が飛行機雲のように伸びていく。
二人は乱気流に巻き込まれた飛行機のごとく揺さぶられ、三半器官の酩酊による吐気さえ薄
く催した。
 とみに鐶はたまらない。
 上下逆さに飛んでいる時に、出力と姿勢制御の要たる翼を縫いとめられている。
 しかも斗貴子は鐶の後頭部を貫いた。だが章印にまで突き出した刃先は斗貴子の後頭部に
も突き刺さり、見事な黒髪から鮮血を滴らせている。
(……自分ごと……私の章印を……!?」
 思わぬ攻撃と回復の硬直に鐶が忘我した瞬間。
 斗貴子は右拳を左拳で包むと、鐶の顔面に痛烈な肘打ちを叩き込んだ。
 ここにきての徒手空拳は流石に虚を突いた。しかも天井に近い分斗貴子に重力の有利があ
る。果たして鐶は叩き落とされ床板にめり込んだ。
 同時に四本の処刑鎌が耳障りな音を響かせながら砕け散り、破片を辺りに降らせた。
111永遠の扉:2008/10/16(木) 02:03:19 ID:IQYsQajp0
 斗貴子は知らない。彼女の核鉄がしばらく無銘の自動人形として行使されていたのを。
 その自動人形は秋水の逆胴を受け破壊された。むろん核鉄になってもそのダメージは継承
され、斗貴子の手に戻ってからも回復しなかった。そのため撃ち合うたび通常より早く破壊へ
近づき、鐶の飛行を強引に停止したところでとうとう限界を迎えたらしい。
(むしろよくもってくれた方だ。これだけの戦いの中で。……ありがとう)
 ひしゃげ傾く床板から立ち上る敵影がある。全身傷と血にまみれつつ用心深く間合いを取る。
 敵を睨み据える視野はついでに鐶が開けた穴を発見した。剛太と桜花が貫通した穴だ。
(校舎の端から十秒ほどで戻ってきたのか。……やられた。2歳ほど縮んでいる)
 背中をさするとナイフで斬られた跡があった。落ち際にやられたらしい。

 (以下は本来の年齢 → 現在の年齢)
 斗貴子 18 → 11

(恐らく次に短剣を喰らえば私は負ける。だが先ほどの攻防で章印も貫いた。数は……5回)
(失ったのは……60年分……。みんな……ごめんなさい。残りは……たったの6年。しかも)
 翼を開こうとした鐶の体から金色の光が薄れていく。
(今の衝突が……最後の力のようです)
 足や肩の装甲も五色の翼も肩のアーマーも特徴的な尾羽も、スパークを散らし消滅した。
「時間切れのようだな! 自己暗示も鳳凰ももう終わりだ!」
 すかさず斗貴子はトドメを指すべく走りより、残る総ての処刑鎌を突き出した。
 果たして章印は貫かれた。
 処刑鎌は腹や胸にも突き立ち、左腕などは肩の付け根から見事に切断された。
 だが同時に……鐶の姿は消えた。少なくても注視していた視界の中からは消えた。
 代わりに足元からおぞましい風が唸り、伸びきった四本の処刑鎌をガラスでも割るようなあっ
けなさで全て打ち砕いた。
 斗貴子は「あっ」と目を見開いた。
 異様に長く金色に似た腕が、その尖端に伸びた爪をごうごうとくゆらせながら地面に叩きつ
けられた。そしてそれを生やしている物を求めるうち、黒く小さな影が佇んでいるのに気づいた。
「回復とは……元の状態に戻るコトを指します。だからこれは……回復じゃありません」
112永遠の扉:2008/10/16(木) 02:05:04 ID:IQYsQajp0
 鐶である。影と見間違えたのも視界から一瞬喪失したのも、総てはその身長の低さのせい
だろう。元々小柄な彼女は更に一回り小さくなり、斗貴子の胸に頭が届くかどうかという位に
縮んでいる。なのに左腕だけは異常に長い。片腕だけというのに身長の1.5倍はある。
 右足の甲や左足のひざ周辺は六角形の鱗まみれだ。羽毛から作られた筈の服は所々が破
れ、フレアスカートも右の辺りに切れ込みが入り、大腿部を微かに覗かせている。
「成程。どうやら短剣に蓄えた年齢が尽きたようだな。そしてその姿は、最後に残った端数分の
年齢によるもの。本来の年齢に満たなかったため、回復が途中で止まったようだな」」
「それもあります。けれど……鳳凰形態の反動のせいでも……あります」
 右足でびっこを引き左腕をおぞましくくゆらせながら鐶は一歩踏み出した。
 白く尖った羽毛の塊がこびりついた左肩は、長大な腕を持て余しているらしくギシギシ鳴った。
 その音の上にかぶさる三つ編みは、すっかり色素が抜けて銀色になっている。
「鳳凰形態のリスクは……変身解除から起算して二十四時間の特異体質使用不可。その間
……私は原型のニワトリか……人間の姿にしかなれません。そこに……中途半端な回復が
……重なり……変調をきたし……ヒヨコとニワトリの中間の姿のように……不完全……です」
「つまり……オーバーロードと不完全な回復の複合か。自業自得だな」
「でも……処刑鎌を砕くぐらいの力は……あります。あなたは素手。私にもまだ……勝ち目は」
「いや」
 斗貴子は慄然たる面持ちでしゃがみ込んだ。
 拾い上げたのは、砕けつつも比較的原型をとどめた処刑鎌の破片である。
 握り、そして構えたバルキリースカートは、ちょっとした短刀ぐらいの長さがある。
 もちろんそういう使い方は想定していないため、握った部分からは血がとめどなく流れていく。
「武装錬金さえあればホムンクルスは倒せる。一か八か。私はこの一太刀に賭ける」
「……私は、一か八かには賭けません。確実に勝てる手段をとります」
 キーポイントは鐶の移動速度の遅さにある。
 びっこを引く彼女に先ほどの高速機動は不可能。しかもニワトリは自由に空を飛べない。
113永遠の扉:2008/10/16(木) 02:05:45 ID:IQYsQajp0
(とはいえ私も満身創痍。奴の爪をくぐり抜け、一太刀で仕留められるかどうか)
 天井に押しつけられた時に浴びた爆撃は、相当の重傷をもたらしている。
(……桜花に感謝だな。傷を引き受けてもらってなければ先ほどの攻撃で負けていた)
 斗貴子は駆けた。
(突っ立っていれば戦闘不能になるだけ! 一か八かだ!)
 鐶の左肩から羽根が射出された。刺さった。突進の威力を如実に削いだ。しかもたたらを踏
んだ斗貴子めがけて巨大な爪が振り下ろされた。かろうじて身をひねり避けた斗貴子だが、
鐶は床にめりこんだ腕を起点にカエルのごとく飛びかかってきた。振りかざす右手には短剣が
光っている。
(この期に及んで!)
 年齢吸収による確実な勝利を鐶は目指している!
 そうと分かった斗貴子だが、爪を避けた反動のせいか足が動かない。
「しかし考えようによっては好都合! お前の短剣と私の処刑鎌、どちらが速いか勝負だ!」
 ありったけの力を込めて構える斗貴子に鐶の顔はやや不安に曇った。
 曇らせながらも彼女は斗貴子に肉薄し……。
「助けてあげる」
 両者は混乱した。
 鐶は短剣を振り下ろした瞬間に、斗貴子は鐶に応対すべく切っ先を上げた瞬間に。
 二人の間に少女がいた。
 銀成学園の制服姿で背は小さく、金色の髪を両側で縛っている。
 位置的に考えると、どうやら頭上の大穴から飛び降りてきたらしい。
 斗貴子からは後姿しか見えず顔は分からないが、雪のように白い首すじがひどく印象的だ。
(このコはちーちん? ……いや、もう一人の? にしては何かが──…)
 鐶は確信した。その少女の大きく丸い瞳と幼い顔立ちに。
(確か……私が姿を借りていた……河合沙織さん。校舎に残っていたよう……です。なら)
 迷うコトなくその少女に斬りつけた。
 既に一度、姿を借りるため地下に軟禁した少女なのだ。利用は迷うべくもない。
 鐶は避けた。勝敗定かならぬ斗貴子との真っ向勝負を避けた。
 その代わりこの不意の乱入者を利して回復不全を克服し、通常の機動力を得た上で斗貴子
を倒そうと目論んだのだ。目指すはヒヨコとニワトリの中間からの脱却。完全なるニワトリへの道。
114永遠の扉:2008/10/16(木) 02:06:39 ID:IQYsQajp0
(一か八かには……賭けません。勝つために……一番有利な方法を選ぶのが……私……です。
だからこのコの年齢は『総て』体に直接吸収します……!)
 6歳の鐶は概算した。沙織の年齢は15歳。それを吸収すれば21歳になると。
(これで……私の勝ちです!)
 小さな鐶はみるみると成長する。幼女から少女になり、やがて二十代の肢体になり……。
(?)
 成長は止まらない。どころか老いていく。シワが顔に現れ歯が抜けて、八十代九十代になっ
ても老いていく。慌てて過剰な年齢を短剣に戻し始めた鐶は見た。
 斬りつけた少女が異常な胎児になって床に転がっているのを。
(……ホムンクルス幼体? え? あのコは……河合沙織さんは人間の筈では……?)
 驚きながらも、開けた空間に見える斗貴子へ羽根を撃ち放つ。
「動かないで下さい! ここで……年齢さえ短剣に戻し切れば私の勝ちです!」
 惑乱さえ孕んだしわがれ声の中、斗貴子は気付いた。
 飛んでくる羽根がボロボロになっている。
(ならば腕も老化している筈! それなら短剣ごと斬り落とせる!)
 さすれば短剣は回復の効能を失う。同じような「激戦」という十文字槍はそうだった。
 もはや羽根の攻撃力は弱い。
 相討ち覚悟で斬りかかろうとしたその瞬間、しかしガラ空きになった腹部に巨大な爪が深々
と突き刺さった。老いたとはいえまだ鋭い。
「ぐ……!」
(牽制……です。でも年齢が戻らない……! ようやく80代……!? もう40歳分ぐらいは
短剣に戻したというのに…………!? 早く、早くしないと……負け……ます!)
 左腕に総ての力を込めているせいか、短剣を握る手にも力が入らない。
「くそ! もう一太刀! あと一太刀で短剣をアイツから放せる。勝てるのに……!」
「え、ええと!」
 声と同時に六角の楯が空間を渡った。
「何が起こったのかは分からないけど、要するに若返るのを防げばいいんだね!?」
 そしてそれは大きく振りあげられ、老いさらばえた鐶の手の甲をいやというほど叩いた。
「な……? え……!?」
 短剣が……滑り落ちていく。
 破壊もできず腕の切断もできず、ずっとずっと引き剥がせなかった短剣がすべり落ちていく。
115永遠の扉:2008/10/16(木) 02:09:09 ID:PejO3bY10
 老化により腕が握力や強度を失ったせいで……遂にキドニーダガーが床に落ちた。
「戦士・千歳!? どうしてココに!?」
 鐶が必死の形相で下に手を伸ばすのもむなしく、
「説明は後! 早くトドメを!」
 叫ぶ千歳が短剣を廊下のはるか向こうへ蹴り飛ばした。
「老いた体を狙うのは気が引けるが……しかしお前はまた無関係の者を巻き込んだ」
 爪から逃れた斗貴子が、鐶の眼前で最上段に振りかぶり──…
「これも報いだ! 臓物をブチ撒けろ!!」
 鐶の左肩に蒼い閃光が迸った。
 それはポシェットの肩ひもを千切りながら右脇腹へと彗星のように尾を引いた。
 残影はやがて絹糸のように白みながら少女の肢体に吸い込まれ、巨大で深い傷を開けた。
 電子部品のような体内構造がスパークを上げ、支えをなくしたポシェットが体を地面へ落ちる。
 それを千歳が横から素早くひったくったのは、新たに武装錬金を使わせないためである。
 次の瞬間、ぐらりと前傾した鐶が勢いよく床に叩きつけられた。
 うつぶせになった彼女はしかしそれでもなおもがき、遥か彼方に転がる短剣へ手を差し伸べ
た。だが彼女の求める短剣は無情にも千歳に拾い上げられ、虚ろな瞳はまさに闇に堕ちた。
 動きもダメージと老化の相乗のせいか、みるみると動きに精彩を欠いていき──…
 やがて手は震えながら床に落ち、顔も力なく突っ伏した。
 最下段まで振り抜いたまま硬直する斗貴子は、しばらく激しい息をつきながら、バンダナから
伸びる銀色の三つ編みを半ば茫然と見つめた。
「本当に終わったのか……?」
「ええ。これだけのダメージを与え、皆の核鉄も取り返し、そして彼女の武装錬金も押収した。
厳密にいえば防人君に拘束してもらうまで断言はできないけど、まず終わったと考えていいわ」
 やや成人時じみた千歳の断言に、思わず斗貴子は掌中の鎌を取り落とした。
 すると血と脂にぬめりながら床に跳ねる闘争本能の象徴が、きんきんと音を鳴り響かした。
 澄んだ音はあたかも戦闘終了の鐘のごとく、福音のごとく、ささくれ立った感覚を癒していく。
「そうか。勝てたんだな。コイツに、私たちが……」
 体から力が抜けている。膝をがくりとついた斗貴子はまずそんな当たり前のコトを認識した。
116永遠の扉:2008/10/16(木) 02:10:14 ID:PejO3bY10
「ようやく……勝てたんだな」
 へたりこんだ床の上で亡霊のように復唱すると、ただただ激しい息をついた。
 即ち。

 鐶 光。

 敗北。
(ヴィクターには遠く及ばないが、まったく畏ろしい化物だった)
 とにかく何とか倒せた……と、表情にようやく明るい安堵が満ち始めた。
 しかし。
「勝ったのはいいものの不可解な点が多すぎる」
 沙織と思しき少女を斬りつけた鐶が老化した理由。
 斬りつけられた少女がホムンクルス幼体になった理由。
 そして核鉄を奪われた筈の千歳がヘルメスドライブを使って瞬間移動してきた理由。
 どれも分からない。
 鐶のポシェットから自分の核鉄を取り出した千歳はそういう機微を察したらしい。
「事後処理が済んだら説明するから、ちょっと待ってね」
 彼女は鐶に近づくとヘルメスドライブを発動し、その場から消えた。
 もちろん、斗貴子の止血用にいくつかの核鉄を残して。
 千歳は恐らく聖サンジェルマン病院にいる防人に拘束を依頼するのだろう。
 核鉄を傷に当てながら、斗貴子は深い深いため息を天井の大穴に向って吐いた。

 ……説明を聞いた彼女がいろいろ怒鳴ったり絶句したりするのはもう少し先のコトである。
117スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/16(木) 02:12:18 ID:PejO3bY10
やたら長引いた戦いですが何とか今回で終わり。
とりあえず不明瞭な部分については次回にて。(流石に今回描くのはムリ)
それを投下したらまたネット断ちして調べ物をば。
しかし四月下旬より使える時間が少ないのでどれだけやれるやら……
(なんか疲れが出てきたのでお返事は短めで。すみません)

>>93さん
予想以上に強くなりすぎました……本当……。

>>98さん
キャラの作り方に関しては本当得る物多かったです。>鐶
ただ、長くなったのは情報量に振り回されたせいなのもあります……

>>99さん
自分でもオリキャラ中心で16話ってのはどうかとw この稿はいろいろ怖かったです……
たまにはクロスオーバー書きたいです。オリキャラが添え物程度のクロスオーバー。

ふら〜りさん
>強くなるのは、なれるのは
この、「気が澄んだ」ってフレーズが好きです。武術って集中力が命なので、精神の有り様か
らまず整えた上で「本気」に至るというのがカッコいい。で、ドラエの勝ち方が実に鮮やか。相
手の切り札を受け止めたところから無駄なくトドメ。これは美しい。あと、いわゆる「ぐにゃ〜」
を「波打つ視界」って表現されるのは勉強になりました。視覚効果一つとっても果てしなくバリ
エーションがあるんですね。

闘志という点ではまさに不屈のヒーローですね。どこまでそれを描けたかは分からないですが、
後ろ暗さだけは払拭できていたらなぁと思います。やっぱり前向いてて欲しいのです……
しかし本当、色々なキャラが倒れた話でした。
118作者の都合により名無しです:2008/10/16(木) 11:04:02 ID:MLffiO+z0
斗貴子にはやはり戦士としての戦闘経験と気迫があるから
その点鐶には及ばないところでしょうね。
鐶は冷静すぎる割に、優し過ぎるから
119作者の都合により名無しです:2008/10/16(木) 17:41:16 ID:KrxY2f0i0
おおダストさんお疲れ様です。
この戦いではダストさんのいい所も
(細かい人物設定や練り込まれた戦闘手段など)
ちょっと悪い癖も(言うに及ばず、凝りすぎてしまうところ)
出たと思います。でも鐶はここで消えるには惜しいですな
小札のぼんやりした感じと反対のようで一緒のような所が気に入ってました
120作者の都合により名無しです:2008/10/16(木) 23:38:42 ID:lln493rw0
ふらーりさんの作品、次で完結か。
今回のは長編には入らないんじゃないか?
でも完結作品はふらーりさんが一番多いだろうね
読み切り入れるとサナダムシさんだろうけど。

その点、スターダストさんは永遠の扉に
全てのネタを集中させてますね。
膨大なテキスト量と深いキャラ設定だけに
読む人を選ぶ作品かもしれないけど
俺は最後まで読むつもりなんで頑張って下さい。
鐶は能力的に恐ろしい敵でしたな。
121作者の都合により名無しです:2008/10/17(金) 00:58:32 ID:CvOG+B+P0
いや、スターダストさんは下手に短くまとめたりせず
このまま細かく書き込んでほしい
俺が錬金好きってのもあるけど、それが氏の個性だろうし。
122遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:24:02 ID:bJh9c90/0
もはやその存在は失われた古代の王国・アルカディア。
その山奥で、よく似た顔の兄妹が、お互いを追い掛け回して遊んでいた。十歳を少し過ぎた頃だろうか。
二人は、双子だった。泣き虫な兄は妹が大好きだった。お転婆な妹も兄が大好きだった。
「ミーシャ。ぼくたち、ずっと一緒にいようね!」
兄は、妹に笑いかける。
「うん!わたし、ずっとエレフと一緒にいるね!」
妹も、兄に笑いかけた。
夕暮れの中、二人は手を繋いで、家路を競った。家のドアを開ければ、母さんが夕飯を用意して待っててくれる。
そして父さんは、優しく笑って、色んなお話をしてくれるのだ。
「「ただいま!」」
笑顔で、異口同音に、二人は家のドアを開けた―――けれど、そこに待っていたのは。
「…え?」
なんで、お家の中が、こんなに赤いんだろう?どうして母さんは、お腹から血を流して倒れてるの?
お父さんは―――なんでこんなに怖い顔をして、知らないおじさんと怒鳴りあってるの?
「ん…?なんだ、このガキは?」
その男は、長く伸ばした赤い髪を後ろで縛っていた。それはまるで、蠍の尻尾のように上向きに反り返っている。
「いかん―――逃げろ、二人とも!」
エレフもミーシャも、動けない。父は、また怒鳴った。
「逃げるんだ―――!エレフ!ミーシャ!」
その声で、ようやく呪縛が解けたように、二人は駆け出した。何が起こったのか、まるで分からない。
けど、たった一つ。今は―――逃げなければならない。逃げなければ―――!
「…ふん。アルカディア一の勇者と呼ばれた貴様が、こんな山奥で隠遁生活を送っているとはな…ええ?どういう
風の吹き回しかな?勇者ポリュデウケス!貴様ほどの男が何故、剣を捨てた!?」
「…野心家のあなたには分からんでしょうな。アルカディア王デメトリウスが弟君、スコルピオス殿下よ!」
「ふん…所詮は王になれぬ身の上とでも言いたそうだな?それならそれでも構わんさ。別の方法を取るまで―――
それには力があるに越したことはない。どうだ?私に仕えんか?貴様ならば大歓迎だ」
「我が妻を殺しておいて…よくそんなことが言えたな!」
「そうか。ならば―――冥府の王にでも仕えるのだな!」
しばし、剣戟の音だけが響き―――ドアを開けて、姿を現したのは、返り血を浴び、真っ赤に染まった蠍―――
123遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:25:02 ID:bJh9c90/0
―――森に隠れた二人は、震えながら抱き合っていた。
「エレフ…」
「じっとしてるんだ、ミーシャ…きっと、すぐに父様が迎えにきてくれるよ」
エレフは、自分でもまるで信じていないことを言った。
何故か、確信してしまっていた―――父もまた、殺されているであろうことを。
その時だった。
(フフフ…)
何者かの声が、エレフには確かに聴こえた。
(マダダヨ、マダマダ…本当ニ辛ク悲シィ運命ハ、マダコレカラダ…本当ノ絶望ハ、マダ始マッテスラィナイ…)
その声の、何と薄気味悪いことか。地獄の底から響くような、暗く澱んだ声。
(誰…?あなたは、誰なの…?なんで、ぼくを呼んでいるの…?)
(私カィ?私ハ…………ダヨ。エレフ)
(え?今、なんて…)
ざっ!足音が響き、びくっと身を震わせた。目の前にいたのは、あの、蠍の男―――
「ガキか…殺してしまってもいいが…ふん。奴隷市場にでも売ってやるとするか」
「奴隷…市場…?い、いやだ、そんなの…うわぁっ!」
襟首を掴まれ、妹共々宙吊りにされる。エレフは泣き叫びながら男を蹴り飛ばすが、ビクともしない。
「ククク…憎むならば、運命を憎め。万物の創造主、全ての命の母。この世界を統べる、無慈悲にして残酷なる
運命の女神―――<Moira(ミラ)>をな…」
「ミ…ラ…」
女神様。何故?何故、ぼくたちにこんな酷いことをするの?ぼくたちが、何をしたの?ねえ―――
(ソゥ―――無慈悲デ、残酷デ、不条理ダロゥ?其レコソガ女神ノ本質ダ―――)
エレフの脳裏にはまた、あの声が響く。
(モットモット憎ミタマェ、コノ世界ヲ―――)
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」
少年の絶叫。無慈悲な運命(かみ)は、そんな切なる叫びにすら、耳を貸してはくれない。
―――それから、遥か数千年の時を越えた地で、物語は廻り出す―――
124遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:26:05 ID:bJh9c90/0
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜 序章

ごく普通の高校、童実野(どみの)高校は、ごく普通に、修学旅行の真っ最中。
「ほら、城之内くん!見てよ、ギリシャの街だよ!」
大人しそうな顔の割に、やたら奇抜な髪型と、胸元のピラミッド型のアクセサリ―――千年パズルと呼ばれる、
不思議なアイテム―――が特徴的な少年―――武藤遊戯(むとうゆうぎ)が、はしゃぎ声を上げながら隣の席の
親友に話しかけた。
「おっ、ついに到着か!どれどれ、ちょっと席変わってくれ!」
見た目は少々不良っぽいが、正義漢にして熱血漢、誰よりも義理人情に篤い少年―――
城之内克也(じょうのうちかつや)が遊戯と交代で、窓際の席に移る。
「ひゃ〜…これがギリシャか。やっぱ日本とは違うカンジがすんなー」
飛行機の窓から見えるギリシャの街並みに、城之内は感嘆の声をあげた。
「しかし意外とほら、古代の神殿とかそういうのは見あたらねーなー」
そんなことをのたまう城之内に対して、前の席からクックック、と小馬鹿にした笑い声がかけられた。
「ふぅん、そんなものがそこかしこにあるはずがなかろう。流石は凡骨、モノを知らんな」
バカにしきった態度で嘲る、やたら尊大なこの男の名は海馬瀬人(かいばせと)という。高校生にして大会社の
社長であり、あらゆる面で優秀ではあるが、性格には多少―――否、多大な問題がある。
よく言えば個性的、悪く言えば人格破綻者である。
「うるせえ海馬!なんでテメー普通にこんな学校行事に参加してやがんだよ!?会社はどうした、会社は!?
つーかバトルシティ終わった後でアメリカ行ったはずだろうが!」
「フン、貴様如きに心配される海馬コーポレーションではないわ。たまには骨休めに、貴様らと遊んでやるのも
悪くないと思ったまでだ…むしろオレがこのような低俗な旅行に同行してやったことをありがたく思うのだな!」
「うわ…相変わらず、強烈な言動だぜ…」
「本当にね。城之内の言い草じゃないけど、よくこの人が学校行事に参加しようなんて思ったわね…」
「はは…けど、意外と楽しそうだよ、みんな」
遊戯たちの友人である本田・杏子・獏良も、苦笑いしながら彼らのほのぼのとした(?)やり取りを見守った。
125遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:27:25 ID:bJh9c90/0
「―――おっしゃ!到着〜!…は、いいけどよ。教師共の話なんて、つまんねーよなー」
空港前。異国の街並を前にしてお預けを喰らった気分で、城之内がそんなことをぼやいた。
「しょうがないことだけど、確かに退屈かもね…」
「だろ?早く終わんねーかなー」
そんな願いが届いたのか、教師の話が終わり、次の集合時間まで自由行動の時間となった。
「おっしゃあ、探検だ探検!遊戯、みんな、行くぞ!」
「うん!」
城之内と共に元気よく走り出そうとする遊戯だったが、ふと振り向いて、海馬にも声をかけた。
「海馬くんも、一緒にいかない?」
しかし、返答はつれない。
「フン、貴様らと一緒に物見遊山など願い下げだ。オレはデッキの調整でもしておくさ」
言って、海馬は持っていたジュラルミンケースを地面に降ろし、中にぎっしり詰まっていたカードを弄くり出した。
―――デュエルモンスターズ。世界中で大人気のカードゲーム。勿論遊戯と城之内も愛好している。
デッキとはゲームに使うカードの束のことで、どんなカードを組み込むか、その構築方法は無限と言える。
何しろ数千・数万とも言われる膨大な種類のカードがあるのだ。同じデッキを使っている者などまずいない。
勝負は既に、このデッキ構築の時点で始まっているのだ。海馬は自分のデッキから、彼の代名詞とも言うべき
カード―――<青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)>を抜き出し、うっとりした顔で見つめる。
世界で三枚しか存在せず、三枚とも全て彼が独占している、超強力なカードだ。冷徹で無愛想な海馬ではあるが、
そんな彼が愛情を向けるのは、実の弟であるモクバ以外ではこのカードだけだろう。
「美しい…」
「おい、遊戯。もうこんな奴ほっといていこうぜ」
「うーん…じゃあ、また後でね、海馬くん」
遊戯たちは街の雑踏へと消えていった。海馬はそれを横目にしながら、デッキ調整を続ける。
「ちっ…数分で終わってしまった」
基本的に彼のデッキ構成は<相手を圧倒的パワーで捻じ伏せつつ、如何にブルーアイズを活躍させるか>―――
これに尽きる。デッキ調整とはいっても、余りいじる部分もなく終了し、手持ち無沙汰となってしまった。
デュエルディスク(腕に取り付けるデュエルモンスターズをプレイするための道具。カードの絵柄を立体映像として
顕現させる、何気にすごい発明品である)で、ブルーアイズを意味もなく映し出す。見惚れる。さらに数分。
「…フン。勘違いするな。凡骨どもをからかってやるのも面白いと思っただけだ…」
誰にともなく言い訳しながら、海馬は渋々、遊戯たちが向かった方へと歩き出した…。
126遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:28:28 ID:bJh9c90/0
「―――なあ、遊戯。あれ、何やってんだろ?工事でもしてんのか?」
「それにしては、なんだか様子がおかしいね」
ガヤガヤと野次馬が集まっている、街の外れ。興味をそそられた遊戯たちは、野次馬を?き分けて覗き見る。
「ぬう…何故オレがこのような騒がしい場所を見物せねばならん。全く…」
勝手に付いてきたくせに勝手なことをのたまう我儘な海馬であった。城之内は海馬に構わず人混みの中を進む。
「お、おわっ…!」
そして、バランスを崩して、人だかりの中心に向けてすっ転んでしまった。いたた、と尻を押さえる城之内に、
大きく分厚い手が差し出された。
「おー、坊や!大丈夫ですか?」
「あ、はい。だいじょぶっす…」
―――外国人だが、ギリシャ人というわけでもでもないようだった。サンタクロースみたいな白髪に口髭を蓄えた、
赤ら顔のがっちりした体格の男。傍らには大きなスコップが置かれている。
「城之内くん、怪我してない?派手に転んだけど…」
「おう、遊戯も来たか。あのさ、おっさん。オレたち日本の高校生で、修学旅行で来たんすけど、ここで何をしてる
んですかね?」
「ほほう、気になりますか?」
「なりますなります」
城之内が調子よくモミ手する。
「んっふっふっふ…そうですかそうですか。それではまずは自己紹介。わたくしロシアから来た謎の大富豪、名を
アレクセイ・ロマーノヴィチ・ズヴォリンスキーと申します。今はここで、古代遺跡の発掘をしてるのですよ」
「古代遺跡?へえー、こんなところにそんなのがあるんすか!」
「うーん…あるのやら、ないのやら、正直分かりませんねー…」
「え?あるから発掘してるんじゃないんですか?」
遊戯が不思議な顔をして訊ねる。ズヴォリンスキーは何とも言えない顔で笑った。
「わたくしの調べでは、この辺りにあると睨んでいるのですが、どうでしょうね…何しろ、手がかりがこれしか」
彼が取り出したのは、一冊の古びた本だった。相当読み込んだのだろう、所々手垢と擦り切れだらけだ。
「<エレフセイア>―――これは古代ギリシャを舞台とした叙事詩です―――わたくし、母の形見であるこの本が
大好きでして。子供の頃からずっと、この本は実話を元にして書かれたんだ、いつかお金持ちになってその遺跡を
発掘してやると、そう思っていました」
127遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:44:57 ID:U2WV7KCo0
「へえー…なんかアレみたいだな、ほら、キューリマン!」
「シュリーマンだ、凡骨め」
「…で、それって、どんな話なんすか?」
海馬の冷たいツッコミは聞こえなかったフリをし、城之内はズヴォリンスキーに訊ねた。
「ふむ。かいつまんで言うと、こんな悲しいお話ですよ、坊や」
そう前置きしてズヴォリンスキーが語ったのは、古代ギリシャを舞台にした一大悲劇。
伝説の中にのみ存在する国・アルカディア。その山奥に優しい両親と共に住む双子。
兄・エレウセウス―――愛称エレフ。妹・アルテミシア―――愛称ミーシャ。
幸せに暮らしていた二人。だがある日、謎の男に襲われ、両親は惨殺、二人は奴隷市場に売られてしまう。
エレフは風の都と呼ばれるイリオンで城壁を築く労働力として。ミーシャは遊女見習いとして。
厳しい奴隷暮らしに耐えかねたエレフは奴隷仲間のオリオンと共に脱出を企てる。その時、偶然にもイリオンに
来ていたミーシャを発見し、三人で共に逃げるも、忍び込んだ船は嵐に遭って難破し、三人は散り散りに。
ミーシャは星女神の聖域であるレスボス島に流れ着き、その加護を受けて巫女となる。
オリオンは数々の武勇を残し、星女神の寵愛を受けた勇者となる。
エレフはといえば、妹を探し旅を続けたが、ついに彼女を見つけた時には、もはや遅し。
野心に囚われ、神の力を求めるアルカディア王弟・スコルピオスによって、ミーシャは神への生贄に捧げられた。
冷たくなった彼女を抱きしめ、エレフは涙に暮れる―――
オリオンは彼女の復讐に乗り出したが、彼もまた、スコルピオスによって斃された―――
そんな―――悲しい話だった。
「う…う…うおおおおおお!」
城之内は、号泣した。そりゃもう。滝のように。
「そんな話があるかよ!兄貴と妹が離れ離れになって、しかも妹が死んじまうなんて…チクショウ!出てきやがれ、
スコなんとか!オレがテメエをぶっ潰してやる!」
「お、落ち着きなよ、城之内くん…」
ぐしっと袖で涙を拭う城之内。離れ離れで暮らす妹がいる彼としては、物語の中の話といえども、他人事ではない
のかもしれない。
「おおーう…!そこまで感激してくれるなんて、わたくしもお話したかいがあったというものです、スパシーバ、
スパシーバ!その通り、実に悲しい、涙もチョチョギレンスキーな物語なのです、これは!しかもまだまだ終わり
じゃありません!本当に悲しくなるのはここからでござい…」
「フン、くだらんな…所詮そんなものは原始人が妄想した作り話にすぎん。非ィ現実的だ」
128遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:46:03 ID:U2WV7KCo0
海馬は鼻で笑って会話を打ち切ろうとしたが、ズヴォリンスキーはノンノン、と指を振った。
「実はこの叙事詩の中の王国・アルカディアは、この辺りに実在したという説があるのですよ〜、坊や!わたくし
はそれを信じ、私財を投げ打ち、こうして穴を掘っているのです!そう…学者たちには確かにバカにされています。
成金野郎の妄想だ、道楽だとね…けれど、わたくしは眩く輝く黄金や、世界中に轟く名声が欲しいのではない…
ただ、夢が見たいのです!燃えるような…熱い夢が!」
ズヴォリンスキーはそう言って、突然声を張り上げて唄い始めた。
『運命は残酷だ されど彼女を恐れるな 女神(ミラ)が戦わぬ者に微笑むことなど 決してないのだから―――』
目を丸くする遊戯たちに向けて、彼は太い笑みを見せた。
「これは、そのアルカディアの王子・雷の獅子と呼ばれた英雄レオンティウスの言葉です。わたくし、この一節が、
だいだいだいだいだーーーい好きでして、この言葉を胸に苦難に立ち向かっておるわけです、ハイ!」
城之内はそれを聴いてワナワナと身を震わせていた。どうやら何かが彼の心の琴線に触れたらしい。
「うおおおお!すっげえぜオッサン!オレも燃えてきた!よし、スコップ貸してくれ!オレも掘ってやるぜ!そして
見つけてやる!古代のロマンってヤツをなァ!」
城之内はバカでかく掘られた穴に飛び込み、勢いよくスコップを突き立てた。ガスガスと掘る。掘りまくった。
「うんうん、元気がいいのはよいことです、坊や。穴があったらぁ…掘りたい!それがロマン!んっふっふ…けれど
ねえ、発掘というのは、そう簡単なことではありませんよ。わたくしも、もう何年も掘ってますが、未だに…」
そう言おうとした時だった。ガッキーン!と、城之内のスコップが音を立てて―――
地面が、ガラガラと崩れた。足場を失い、遊戯たちは暗い穴の底へ、真っ逆様に落ちていった。
「わァァァァっ!?」
「ぬぅぅぅっ!?」
転がり、尻餅を突き、穴の底へと落ちていった遊戯・城之内・海馬・ズヴォリンスキーの四人。幸いにも大した高さ
ではなかったおかげか、みな怪我はない。
「おーい、みんな!大丈夫かよ!?」
上からは、離れた位置にいたおかげで難を逃れた本田たちが心配そうに覗き込んでいる。
「おう、この通りだ。ピンピンしてるぜ」
しかし問題は、そこではない―――ここはなんなのか?
「ううーん…どうやら私の掘った穴のもう少し下に、この空洞があったようですねぇ…それをこの坊やがスコップで
叩いてしまった、と…」
ズヴォリンスキーは言葉を切った。目の前に広がる光景に気付いたのだった。
129遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:46:56 ID:U2WV7KCo0
「わあ…」
「すげえ…」
「ほー…」
海馬ですらも、それには感嘆の溜息を漏らしていた。その光景は、まさに古代のロマン。
元々は、何かの神殿だったのだろうか。装飾が施された柱が並ぶ、古代ギリシャと聞いて誰もがイメージする通りの
荘厳な建物。その周囲にも、同じような様式の建築物が立ち並んでいる。
古ぼけて表面があらかた剥がれ落ちた今でも―――否、だからこそ神々しい輝きを放っているかのようだった。
「ひゃ〜…まるきりアレじゃねえか。ほら、聖闘士星矢!城之内流星け〜〜んってか?」
城之内が鼻息を荒くしてまくし立てる。
「は、は、は…ハラショー…ハラショー…ハァァァァラショォォォ〜〜〜〜〜ッ!!!」
ズヴォリンスキーも興奮のあまり叫ぶ。今にも血管がぶち切れそうな勢いだった。そのテンションのままに彼は
神殿へと突入していく。
「おい、オッサン!待ってくれよ…遊戯、オレたちも行こうぜ!」
「うん!」
遊戯と城之内も並んで走り出す。海馬は呆れたように三人を見送っていたが、やがて鼻を鳴らしつつも彼らの後を
追っていった。

―――遊戯たちはズヴォリンスキーを探しつつ、感極まった様子(約一名除く)で神殿内部を探索する。
「うっひゃー!すっげえな、こりゃ。まさに古代ギリシャの世界ってカンジだぜ!」
「フン。オレにとってはただの過去の遺物だ。下らん」
「海馬…お前、もう帰れよ…」
もはや苛立ちを通り越して、ゲンナリした表情で城之内はぼやいた。そんな二人の間に挟まれた遊戯は、可哀想な
くらい気まずそうだった。
(はは…苦労してるな、相棒)
そんな彼の苦労を、気楽な口調で笑い飛ばす声が、心の中で響く。
(酷いなあ、もう。笑わないでよ)
その声に対し、遊戯も千年パズルを撫でながら、口を尖らせる。
130遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:47:58 ID:U2WV7KCo0
―――彼の中には、もう一人の自分ともいうべき存在がいる。表と、裏。光と、闇。まるで性格の違う両者だが、
互いになくてはならない、大切な相棒だと認識している。
このことは城之内にも周知の事実だ―――普通なら不気味な存在として恐れられるやもしれないもう一人の自分
を―――遊戯自身すら恐れていたそれを、城之内は驚きながらも、恐れることなく受け止めた。
(だからボクも、もう一人のボクを…キミのことを、受け入れることができたんだ)
(ん?どうした、相棒。急にあらたまって)
(いや…城之内くんと友達で、よかったなって)
(ははは、当たり前のことを言うなよ)
二人は(心の中で)顔を見合わせて、笑いあう。と―――海馬が、意味深な顔で、こちらを見ていた。
「フン…もう一人の遊戯、か」
「か、海馬くん、そんな怖い顔しないでよ…」
海馬は<もう一人の遊戯>に対して、並々ならぬ敵愾心を抱いている。その粘着ぶりははっきり言って、下手な
ストーカーなどよりよほど恐ろしいものがある。遊戯は慌てて話題をすり替えた。
「ほ、ほら!あっちの方に、なんだか広くて立派な部屋があるよ!」
「お、ホントだ。お宝でもあったりしてな。入ってみようぜ!」
城之内に急かされ、三人は大部屋に足を踏み入れた。そこにはお宝はなかった―――否。ある意味では、凄まじい
宝と言えるかもしれない。
それは、精妙に造られた、三体の石像だった。見た限りでは大した損傷もなく、完全な形を残しているようだ。
「ねえ…大昔の石像が、こんなにはっきりした形で残ってるなんて、もしかして凄い発見なんじゃ!?」
「おいおい、もしかして新聞にオレたちの名前が載っちまうか!?」
「フン。新聞どころか、歴史書に名が残っても不思議ではないな」
海馬は何でもなさそうに言ったが、それを聞いた二人はひゃ〜っと飛び上がった。海馬はそれを冷ややかに見つめ、
鼻を鳴らした。が―――そんな冷静な彼だからこそ、気付いた。
「…バカな。どういうことだ、これは」
「え?どうしたの、海馬くん」
「見てみろ、こいつらの顔を…!」
「あん?こいつらの顔がどうしたって…」
遊戯と城之内は、マジマジと石像の顔を見つめ―――そして驚きのあまり、目を大きく見開いた。
131遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/17(金) 17:48:52 ID:U2WV7KCo0
「こ、これって…ボクたち三人に、そっくりじゃないか!」
「ほ、ホントだ…おい海馬、どういうこった!?」
「オレに聞いてどうする。ちっ…なんだ、これは…また下らんオカルト話でも始めるつもりか?」
(…やっと、来てくれたね。待ってたんだよ)
「え…?」
突如聴こえてきた、穏やかな男の声に、遊戯たちは驚愕する。
(また会えて嬉しいわ、遊戯。城之内。それに海馬も…)
先程の男と、どこか似た雰囲気を持つ女性の声。
「!?だ、誰!?城之内くん、海馬くん、何か言った?」
「え?ゆ、遊戯じゃねえのか、今の声!ま、まさか、ユーレイか!?よせ、オレはそーゆーのは嫌いなんだ!」
「下らん!亡霊の声などと、非ィ科学的なことを言うな!」
そんなことを言っている間にも、声はまだ響いている。
(よう、お前ら。ひっさしぶりだなあ。まさか俺たちのこと、忘れちゃったりしてねーよな?)
今度はどこか飄々とした、陽気な声だった。城之内はすっかりビビッてしまっている。
「な、なんだよ、お前!オレはユーレイに知り合いなんていねーぞ!?」
「!?じょ…城之内くん!何か、おかしいよ。身体が、動かない…?」
まるで金縛りに遭ったかのように、遊戯たちの身体は動かなくなっていた。そして彼らの身体を、目も眩むような
光が包み込んだ。
「…………」
城之内は、口から泡を吹いて失神していた。相次ぐ心霊体験に、精神が耐えきれなくなったようだ。
「じょ、城之内くん!しっかりしてよー!」
「く…なんだ、この光は…!ええい、鬱陶しいわ!」
光はますます輝きを増し―――不意に、消えた。
その中に遊戯たちを宿したまま、何もなかったかのように。
その場にはただ、物言わぬ彫像が、静かに佇むのみ―――

―――舞台は移る。失われた神話の時代。
その世界に、三つの流星が降り注いだ。
132サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/17(金) 17:59:58 ID:U2WV7KCo0
投下完了。お久しぶりです。
事実上投げ出しをしてしまって皆様に合わす顔がないというのもあったし、リアル生活も色々ありで、
実を言うと、もう断筆してしまおうと思っていましたが、生活の方がやや落ち着き、もう一度何か書きたい
という気持ちもあったので、新作長編に挑戦してみることにしました。

題材は一つは遊☆戯☆王。漫画本編よりカードの方が恐らく有名ですが、原作漫画は熱いバトルと友情を描いた、
少年漫画の王道を行く名作です。
このSSではカードは、まんま兵器のごとく扱いになってしまう予定…(汗)。
カードは人を傷つける道具ではないんですがね。
海馬社長がちょっとキャラ違ったかな…?もう少しハジケさせてあげたいところです。一番好きなキャラなんで。

もう一つはSoundHorizonの新アルバム<Moira(ミラ)>。古代ギリシャ神話を舞台にした物語を音楽仕立て
にした、かなり特殊な形式の楽曲です。
ギリシャ神話に通じる単語や人名、神様の名前などがたくさん出てきますが、あんまり元ネタに忠実という
わけでもないので、参考程度に。
ただ一言。このアルバム、聴き込めば聴き込むほど、ハマる。そして泣ける。オススメです。
(全く受け付けないという人も多いでしょうが)。
数年前までコミケで手作業で売ってた人が、六万枚売り上げるってのもスゴイ話。
声優陣もやたら豪華です。冒頭の蠍の人なんて、若本さんだし、今回は名前だけ出たレオンティウスはTMNの
宇都宮隆さん…。

しかし舞台が古代ギリシャ(風の世界。そのものじゃありません)で、タイトルがこれ…。
このスレの住人だったら、間違いなくあの人の作品を連想しちまいますよね。
銀杏丸さんから苦情が来たら、タイトルだけでもどうにかします。ごめんなさい。
けど僕の貧弱な脳味噌じゃ他に面白そうなタイトル思いつかなかった…。
133わがよき友よ:2008/10/17(金) 20:08:20 ID:vnfWROCw0
「やぁ、おそろいで」

そう彼が言うなり、「あんたが最後だよ」、「遅かったじゃないか」といったほろ酔い加減の声がくる。
彼を含めて四人。
老いが忍び寄る体を窮屈そうに椅子にのっけて、みな楽しそうにやっていた。

「しかし、まぁ今日は珍しいじゃないか、あんたが主催なんて」

遅れてきちゃ意味無いが、とからかい混じりに殊更大柄な男が言う。
その顔に刻まれた皺は、年齢相応に深かった。

「いや、ね、今日はホラ」男はそう言いながらファイティングポーズらしきものをとる。
すると、みな揃って納得したように笑った。
その笑いにも、悲喜こもごも。
色々な感情が滲んだ、歳月の生んだ笑みだ。

「あっという間だねぇ・・・。あれからもう三十年もたつんだねぇ」
しわがれた声で痩せた男がつぶやく。

「あんたにもらったあの一撃!堪えたなぁ」と、大柄な男が遅れてきた男の背をばしばしと叩く。
大仰にむせて見せるが、往年の力など見るべくもない事に、男は淋しさを覚えもした。

「連戦連勝!破竹の快進撃!そうして迎えた最後の一戦!
 いやぁ、手に汗握ったねぇ」色黒の男は面白おかしく過去を語る。
彼の語り口調に、男は恥ずかしげに笑いながら、酒をあおった。
134わがよき友よ:2008/10/17(金) 20:10:23 ID:vnfWROCw0
「三十年前、俺も若かったからねぇ。
 …青かったんだよ」

苦いものを混じらせた男の声音だったが、皆それに気がつかないフリをしてくれた。
あの一戦はいまでも思い出す。
もっとも思いで深いのは、最後の一撃だ。
痛かった。
今まで食らったことがない程に痛く、堪えた一撃だった。
私利私欲に沈んでいた自分を、目覚めさせてくれた一撃だった。
この人には敵わないな、そう素直に自覚できた一撃だった。
だいぶ出来上がっているここにいる皆、それを深く理解している。
あの一撃、あの組技、すべてが懐かしい痛みだった。

「それじゃ、おそくなっちまったが」
そう、前置きして遅れてきた男が音頭をとる。

「われらがスグル大王とそのご子息万太郎さまに、乾杯!」

男の名は、フェニックス。
かつてキン肉星王位継承戦にてキン肉スグルと壮絶な戦いを繰り広げた男だった。
この場にいる者すべてがそうだ。
大柄な男はビッグボディとして、色黒の男はマリポーサとして、痩せた男はゼブラとして、
偉大な男と戦い、敗れた男たちだった。
飲み屋のテレビには、満面の笑みで歓声に応える万太郎とスグルが映っていた。
135銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2008/10/17(金) 20:14:42 ID:vnfWROCw0
はい皆さんお久しぶりです、銀杏丸です
八月以来ですね、すみません、実生活が色々と立て込んでおりまして…
ええ、もう、まぁ、色々とw
今回のはキン肉マン二世時代に生きる邪悪の王子たち。肉萬読んでいたらふと書きたくなって書いてみました
九月中盤に書き出したのに…、こんな有様orz
タイトルは吉田拓郎の曲から、しんみりとした名曲です

>>サマサさん
かつてある偉大なキャラクターは言いました
「歩道が空いているではないか、行け」と
ガンガンやっちまってください!復帰おめでとうございます!

なるべく早めに再開したいのですが、下手こいたら今年最後の投稿になりそうで怖いっす
では、またお会いしましょう
136作者の都合により名無しです:2008/10/18(土) 11:03:02 ID:E6FDPwJM0
おや?懐かしい人が2人も
とくにサマサさんはもう来ないかもと思ってたので嬉しい。
遊戯王はあまり知らないけど、新作長編ということで期待しております。

銀杏丸さんもお久しぶりです。
キン肉マン物は昔肉スレの住人だったものとして嬉しいです。
フェニックスも最後には改心したんだよなあ。
137しけい荘戦記:2008/10/18(土) 15:05:20 ID:VbzJKylV0
第二十話「犯罪者ハンターオリバ」

 しけい荘住民は鍛錬を欠かさない。アパートの敷地でシコルスキーとゲバルが親指だけ
で逆立ちしていると、101号室からオリバが出てきた。なんとタキシード姿だ。
 逆立ちを中断し、ゲバルがオリバに話しかける。
「珍しい出で立ちだな、アンチェイン。もしや、これから狩り(ハンティング)か?」
「察しがいいな。たった今、片平君から連絡があってね。とても警察の手には負えない事
件なんだそうだ」
「君の手でも、かい?」
「愚問だな。私の手で解決できない事件は存在しない。ただし……今回はなかなか手強そ
うだ。もしかすると今日は帰れないかもしれない」
 自信に満ちた笑みとともに、オリバはすでに呼んでいたタクシーに乗り込んだ。猛スピ
ードで出発するタクシーを見送る二人。
「おいゲバル、今いっていた狩りってのはなんだ?」
「君は知らなかったのか。ミスターオリバは時折ああやって警察からの依頼を受けて犯罪
者を狩るんだ。始めはアルバイトのような感覚でやっていたが、今や功績を認められ皆か
ら“犯罪者ハンター”と呼ばれている」
「し、知らなかった……」
 オリバの知られざる副業を知り、軽いショックを受けるシコルスキー。たしかにしけい
荘の安い家賃収入だけで生活できるわけがないが、まさか日々犯罪者と戦っているとは思
いもしなかった。先のマウス事件でオリバとマイケル署長が顔見知りであることが判明し
たが、大方彼が犯罪者をハントする中で知り合ったのだろう。
「それにしても、あの大家さんが手強そうだっていうくらいだから、犯人も相当な実力者
なんだろうな」
「おそらくな。もっとも彼が呼び出された時点で、すでに警察の実力を超えた犯人という
ことなんだが」
 シコルスキーは急に己が恥ずかしくなった。いつも自分たちが平和に暮らしている頃、
大家であるオリバは警察がさじを投げた犯罪に立ち向かっているのだ。
138しけい荘戦記:2008/10/18(土) 15:06:14 ID:VbzJKylV0
 やがて決意したようにシコルスキーがいった。
「ゲバル、俺たちも手伝いに行かないか?」
「手伝いって……なにを」
 首を傾げるゲバルに、興奮したシコルスキーがまくし立てる。
「犯罪者ハントの手伝いに決まっているだろう。君はもちろん、俺だってマウスを倒した
んだ。必ずや戦力になれるッ!」
 当然話に乗ると思われたゲバルだったが、意外な反応を示す。
「……いや、今回は止めといた方が──」
「何故だ! 君は大家さんの古い友人だろう、それを見捨てるというのかッ!」
「決してそういうわけじゃないんだが……」
「……いや、すまなかった。君は大勢の国民を預かる大統領。むざむざ命を危険に晒す真
似はできないはずだったな」
 しおらしく謝ると、シコルスキーはゲバルが止める間もなくアパートを飛び出した。
「行っちまった……」

 残るしけい荘メンバーで居場所が分かるのはサラリーマン柳と手品師ドイルのみ。今な
ら柳は会社に、ドイルは近くのイベント会場にいるはず。さっそくシコルスキーは二人の
職場に飛び込んだ。
 仕事中に乱入してきたシコルスキーに、柳とドイルは迷惑顔をあからさまに浮かべたが、
事情を説明すると快く協力してくれた。やはり両者ともオリバの副業のことは知らなかっ
た。
「いやはや驚きましたな。大家さんが狩人だったとは……」
「まったくだ。大家さんのためなら、喜んで協力するぜ」
「スパスィーバ(ありがとう)、二人とも」
 心強い仲間を得た。次にすべきことは、彼ら自身の戦力強化である。せっかく助っ人に
出向いても、足手まといでは話にならない。何しろオリバが「手強い」と評すほどの相手
なのだ。
「武器と暗器ならばご安心を。会社からくすねてきましたよ」
「さすが猛毒柳だ。あとは手強い事件とやらがどこで起きてるかだが──」
「私に任せてくれ」
 シコルスキーと柳が振り返ると、後ろにはいつの間にか婦警にコスプレしたドイルが立
っていた。げんなりする二人。
139しけい荘戦記:2008/10/18(土) 15:07:11 ID:VbzJKylV0
「すぐに終わる」
 そういってドイルは警察署に入っていき、一分後パトカーに乗って戻ってきた。
「分かったぞ、場所は郊外にある屋敷だ。ついでにパトカーも借りてきた」
 あっという間に武器も情報も、さらには移動手段まで手に入った。シコルスキー一人で
はとてもこうはいかなかったろう。
「よし出発だ!」
 一時間ほどで、彼らが乗ったパトカーは目的地にたどり着いた。莫大な土地の中に、城
とでも形容したくなるほどの巨大な洋館がそびえ立っている。果たしてしけい荘をいくつ
積み上げたらこの館と同じ体積になるのか、見当もつかない。
 柳は口を半開きにしてぽつりと感想をもらした。
「……すごいですな」
「この中で大家さんと犯人が死闘を演じるってわけか」
 ドイルも洋館の規模に圧倒されている。
 しかしためらっている時間はない。彼らは旅行に来たわけではない。戦いに来たのだか
ら。
「ヨーイドンだぜ」
 勇気を振り絞り、第一歩を踏み出すシコルスキー。引き返すことはもうできない。

 一方、洋館内では事件がクライマックスを迎えていた。
「──以上の理由から、朱沢鋭一さんを殺害した犯人はたった一人に絞られる。……マイ
ク・クイン!」
 大勢の客人の中から、オリバの眼光は犯人だけを射抜く。全ての策略を打ち破られたク
インは、糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
「ギバァ〜ップッ! ゆ、許せなかったんだ……この俺をピエロだと侮辱したあのヤロウ
をどうしても許せなかったんだ! だからこの手で……ッ!」
 こうして犯人は逮捕され、朱沢家殺人事件は異例のスピード解決を遂げた。
140しけい荘戦記:2008/10/18(土) 15:07:57 ID:VbzJKylV0
 事件を担当していた片平恒夫刑事がオリバに駆け寄る。
「あの巧妙な密室トリックをあっさり暴いてしまうとは、さすがはミスターオリバ。また
助けられましたよ」
「簡単にいうな。なかなか手強いトリックだった。愛はないがな」
「本当にありがとうございました。報酬は明日にでも振り込ませて頂きます」
「うむ、事件があったらまた呼んでくれたまえ」
 すると、外で待機していた片平の後輩が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「──どうした!」
「大変です! 外に武装した怪しい三人組が現れ、口々にミスターオリバに会わせろと叫
んでいます!」
「ミスターオリバ、心当たりは……?」
「ふむ……おそらくは復讐者(リベンジャー)だろうな」
 オリバは実に楽しそうな笑みを浮かべた。犯罪者を狩るという職業柄、彼に恨みを持つ
者は少なくない。今回もその類の人間だろうと踏んだのだ。
「面白い、久々に美味いワインが飲めそうだ。……で、特徴は?」
「日本刀片手にロシア語を叫んでいる外人と、婦警のコスプレで手に爪をつけた外人。あ
と一人はスーツ姿で鎌を振り回しています! ──ご存じですか?」
 オリバは凄まじい勢いで首を左右に振った。
141サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/10/18(土) 15:10:21 ID:VbzJKylV0
次回から新展開ですが、
二十一話は少し間を置いてから再開します。

老人会は単なる日常編ゲストとして出しましたが、
しけい荘との対決を期待されてる方がいて驚きました。
郭VSオリバ、渋川VSゲバルなど面白いかもしれません。
シコルはございます爺さんとやって負けます。

>>74
正解です。勇次郎とガイア以外になら勝てる漢です。

>>77
名前だけは出してましたが、本当に出るのは初めてです。
だんだんと出せるキャラが減ってきました……。
142作者の都合により名無しです:2008/10/18(土) 16:09:44 ID:H8zw3Ffp0
サマサさんとサナダさんが掲載されると嬉しいなー
バキスレが一番盛ってた時代を思い出す

サマサさん、新連載頑張ってください。マイペースの掲載でいいから。
銀杏丸さん、今年最後は寂しいですね。また寄ってください。
サナダムシさん、マイククインまで出した所が苦労してますなw
143作者の都合により名無しです:2008/10/18(土) 23:26:54 ID:J67E+z6H0
サナダムシさんお疲れ様です。
今回はオリバの活躍と苦労話ですね。
しかし登場キャラには苦労してそうですね。
まさか餓狼キャラ持ってくる訳にもいかないしw
144作者の都合により名無しです:2008/10/19(日) 00:33:56 ID:hRB98DOF0
>サマサ氏(お久しぶりです)
遊戯王ですか。また思いも掛けないところから新連載ですね。
カードバトルは普通のバトルより難しいでしょうが頑張って下さい。

>銀杏丸氏
結婚でもされるのかな?なにはともあれお元気そうで何より。
今回は短編の王位戦の後日談みたいな感じでしたが、是非次は連載の続きを。

>サナダムシさん
どういう名推理でオリバがマイク・クインを犯人と見抜いたか興味あるなw
登場人物の制限が厳しくなってきましたねえw
145永遠の扉:2008/10/19(日) 15:11:04 ID:H7zGDaMH0
第079話 「滅びを招くその刃 其の拾漆」

 ひとまず戦いは終わり、事後処理に移る。

「何なのよ一体」
 千歳が消えた廊下に不服そうな声が響いた。
 彼女は銀成学園の制服を着ているが、憤怒に赤く染まる頬からは年齢退行から戻った瞬間に
それなりの混乱を味わったコトが見て取れる。
 何しろ短剣を浴びて胎児になったのだ。必然的に衣服は脱げる。その後の顛末については
読者皆さまの鍛え抜いた想像力に一任する。
「よく考えれば声で気付くべきだったな」
 へたり込んだまま斗貴子が見上げる少女は、完全に元の姿に戻っている。
 もしかすると既にクロムクレイドルトゥグレイヴは解除されているのかも知れない。
 だが外はまだ九月四日の昼のまま。九月三日の夜に戻る気配はない。
 そも市街まるまる一つの時間を強制的に進めていたクロムクレイドルトゥグレイヴだ。
 もしかすると対象範囲の広さゆえに、解除されても総てが元に戻るまでにしばしの時間を要
するのかも知れない。
 斗貴子自身も少し年齢が戻ってきたような気がするが、18歳当時の姿にはまだ遠い。
「しかし、なぜ銀成学園の制服を着て、髪型も変えてるんだ?」
「悪ふざけに巻き込まれたのよ」
 少女──ヴィクトリア=パワードはまるで河合沙織その人のようないでたちで鼻を鳴らした。

 聞けば演劇部の練習途中の些細な出来事がこの原因らしい。

「ねーねー、びっきーってずっとその制服なの?」
「え、えーと。しばらくはこうじゃないかな」
「でもさでもさ、銀成学園の制服もきっと似合うよびっきー。一度着てみない?」
 ヴィクトリアに人懐っこく迫ったまひろは、沙織に手招きした。
「びっきーと制服取り換えっこしない? ほら、さーちゃんとびっきー、体型も身長もソックリだし!」
「あ! それいいかも! やるやる!」
 沙織はノった。まひろより幼い分、食い付きがよいらしい。
「いや、私は……」
146永遠の扉:2008/10/19(日) 15:15:49 ID:H7zGDaMH0
後ずさるヴィクトリアをまひろが羽交い絞めにした。唯一の常識人たる千里にSOSの視線を
差し向けたが彼女は額に手を当て首を振った。諦めなさい、光の加減で真白になった眼鏡の
レンズは確かにそう物語っている。
 やがてバタバタあがる土煙からブラウスやスカート、それから少女の楽しそうな歓声と絹を
裂くような悲鳴がしばらく飛び跳ねた。ホムンクルスの膂力も何だかまひろや沙織に気圧され
て思うように振るえない。まるで水を嫌がるネコをバケツに入れて洗っているような状態だ。
「せっかくだから髪型もとりかえっこしようよ!」
「賛成!」
「だから……ちょ! やめ……」

 そして。
 何でこんな目に遭うのよとトイレの鏡の前で嘆息したり、戦士一同へ協力を決意したりした。
 で、千里へ「校舎に残る」という旨のメールを送ったので……。

──「あ、あの! 人を探してたんです。金髪を両側で縛った制服姿の童顔の女のコを。名前は……」

 千里が校舎に舞い戻り、上記のような文言を剛太に告げる羽目になった。

「まったく。あちこち動いてたようだから、校舎中を走りまわる羽目になったわよ」
 一時は屋上までいったらしい。そしてそこにある大穴を見つけ、下を覗き込んでみると剛太の
モーターギアのつけた轍を見つけた。追った。すると。
「ちょうど穴の下であなたがあのホムンクルスに斬りかかられていたから」

──「助けてあげる」

「咄嗟に飛び降りてかばってくれたという訳か」
「ええ。地下壕は一階にしか開けないから。本当はアイツの攻撃の後に武装錬金を発動して
地下に落してやろうと思ったけど」
 短剣の特性上やむなく胎児となり、目論見は水泡と帰した。
「だがどうしてキミがそんなコトを?」
 ヴィクトリアはそっぽを向いた。
147永遠の扉:2008/10/19(日) 15:16:31 ID:H7zGDaMH0
「一つはアイツのせいで誰かさんに濡れ衣を着せられた意趣返し。もちろん、アナタたちに借り
を作らないためでもあるけど。後であのレーダーの戦士に伝えておくコトね。『代わりに一つだ
けなんでもするから』って言葉はちゃんと果たしたって」
「分かった。……しかしそういうコトだったのか」
 ヴィクトリアを斬りつけた鐶が老化した理由。それが斗貴子に分かり始めてきた。
(見た目こそ少女だが、ヴィクトリアはすでに100年以上生きている。仮に13歳の時にホムン
クルスになったすれば……113歳以上。それだけの『年齢』を持っている)
 鐶はそうとは知らず、よりにもよって沙織に扮したヴィクトリアから『総ての年齢』を吸収し、
自らの体へ直接反映した。
 結果。
(不死だが不老ではない体質ゆえに一気に老化した。すぐ短剣に年齢を戻せなかったのは…
…動揺のせいもあっただろうが、最大の理由は恐らく急激な老化によってあらゆる反射神経
と身体能力が衰えた為)
 そもそも6歳の幼児がヴィクトリアの「推定113歳以上」を吸収すれば、

「推定119歳以上」

になる。人間ならば長寿の世界記録に迫る勢いだ。
 幼児から一気にそんな状態になったせいで、反射神経や肉体年齢は感覚と乖離し、クロム
クレイドルトゥグレイヴへいつものように年齢をもどせなかったのだろう。
 例えばお年寄りが草むしりをしている時に、「これ位なら大丈夫だろう」と庭石をしゃがんだま
まどけようとして膝を痛めるように、「感覚」というものは必ずしも肉体の実情に沿わぬものな
のである。丼一つちょっと高いところ取ろうとして腰を痛めて入院したりもするのだ。これは肉体
面での話だが、武装錬金も肉体で扱う以上老化によって操作を誤るコトは必ずある。
 そこに反射神経の衰えや動揺が重なり、若い時なら一気に吸収できた年齢を簡単には戻せ
なかった。量も多い。約120歳という高齢から老化を脱するにどれほど多くの年齢を短剣にや
らねばならぬか想像に難くない。鐶が防人から年齢を吸収して幼児の姿から戻った時とはあら
ゆる事情が違うのだ。
(加えて、変形能力が便利すぎたという点もある。あの時奴は私を足止めするために羽根や爪
を使ったが、もしそちらに頼らず、老化や相討ち覚悟で短剣を私に向けていれば)
 或いは千歳が出現するより早く斗貴子を胎児にできたかも知れない。
148永遠の扉:2008/10/19(日) 15:20:39 ID:H7zGDaMH0
(何にせよ勝ったのは私たち。それに変わりはないが……何とも皮肉な話だ)
 あらゆる鳥類や人に変形できる特異体質。
 そして年齢のやり取りを行えるクロムクレイドルトゥグレイヴ。
(私たちを追い詰めた能力が、奴自身をも敗北に導くとはな──…)
 滅びを招くその刃は他者のみならず鐶さえ巻き込み、彼女が一番恐れる姿で敗北させた。
 月並みだが、強大な力はひとたび制御を誤れば誰彼の区別もなく滅ぼすという好例だろう。
 逆に斗貴子は『制御』という点では群を抜いている。
 武装錬金の特性は「精密高速機動」。これだけなら戦団の中でもあまり強い部類には入ら
ないが、斗貴子はそれを修練によって昇華し、数多くの戦いに勝利してきた。
 ダブル武装錬金を使いこなせたのも経験と戦歴あればこそだ。生体電流という漠然抽象と
した操作で同時に8本の処刑鎌を自在に操るのは並の戦士にはまず不可能。
 いわば彼女の勝因は上記のような熟練度であり、年齢退行によって体が幼くなってもそ
の影響を受けぬバルキリースカートの特性であり、鐶と違って少しずつ少しずつ年齢を奪われ
たがために肉体の変質へ感覚を馴染ます余裕があったためであり……とバルキリースカート
一つを頼りに戦い抜いてきていなければ成立しない要件が多々ある。
 付記すれば、沙織の姿を借りて秋水の虚をつき勝利した鐶が、沙織の姿を借りたヴィクトリ
アに斬りつけたせいで敗北したのだから、なかなか因果じみてもいよう。
 終わった戦いだからこそどうとでもいえるが、もし鐶が斗貴子の言葉を受けてヴィクトリアを
巻き込まないようにしていれば、勝負はもっと違った決着を迎えていたのかも知れない。

「とにかく借りは返したわよ」
 踵を返しかけたヴィクトリアに斗貴子はきまずそうな表情を浮かべた。
「その」
「何よ」
「私がキミにいうのもヘンな話なんだが……感謝する。それから以前疑ってすまない」
 呼びかけると嘲るように鼻が鳴った。
「さっきホムンクルスを倒したのに、私には礼と謝罪? それを分ける基準はどこにあるのか
しらね。それともあなたたちには気分次第で生殺与奪を選べる権利があるの?」
149永遠の扉:2008/10/19(日) 15:21:54 ID:H7zGDaMH0
 ヴィクトリアは100年前、父の咎を錬金戦団から負わされる形でホムンクルスにされた。
 鐶は口ぶりからすると、どうやら「姉」に望まずして改造されたらしい。
 似たような少女二人、線を引くのはいかなる基準か……などと悩む斗貴子ではない。
「いかな理由を背負っていようと、人に危害を加える存在(モノ)は必ず斃す。あのホムンクル
スはあくまで任務上生け捕りにする必要があったから斃さなかった。……それだけだ。用済み
になれば始末する」
「なら私も生徒に危害を加えれば始末するというワケね」
 対峙する斗貴子とヴィクトリアの間に冷たい風が吹き込んだ。世界は秒針をさかしまに誕生
をさかしまに廻っているらしく、寒々とした外気が二人を包んだ。
 凍える気配が斗貴子に一つの予感を呼び起こした。
 いつしかヴィクトリアと敵対する立場になるのではないかという、確信めいた予感。
 それは後に彼女が斗貴子にとって忘れ難い仇敵と手を結ぶコトによって実現するが──…
 張りつめた空気の中、ヴィクトリアは半ば楽しそうに冷笑を浮かべた。
「まぁ、別に人間に恨みはないから危害を加えたりしないわよ。いまの生活は色々鬱陶しいけ
ど悪くはないから、『やりたいコト』の準備が整うまではしばらく続けるつもりだし」
 ホムンクルスの少女は微笑したままゆったりと瞑目した。
 ひどく落ち着いた態度に斗貴子はあらゆる感情を呑まれそうな錯覚をこの時初めて覚えた。
 斗貴子が戦闘経験によって鐶から勝ちを得たように、ヴィクトリアは見た目にそぐわぬ老成
によって斗貴子からイニシアチブを獲得しているらしい。
「兎に角、さっきアナタがいった謝礼と謝罪は覚えておいてあげる。でも、礼一つ謝罪一つで
馴れ合おうとは努々(ゆめゆめ)思わないコトね」
踵を返して歩き始めた。
「あなたがホムンクルスを憎むように、私も錬金術の産物は大嫌い。特に戦士や戦団はね。
だからもう手は貸さないわよ」
 首だけ振り向かせたヴィクトリアの目で冷たい光が輝いた。
「後はせいぜい自分たちだけで頑張るコトね」
 ヴィクトリアの姿は廊下の彼方に遠ざかり、やがて見えなくなった。
(『やりたいコト』? 一体何を?)
150永遠の扉:2008/10/19(日) 15:39:43 ID:vrRC/dx30
 斗貴子の心にわずかな引っかかりを残して。

(……ま、コレでいいわよ)
 秋水は寄宿舎に戻れといった。それを違えて救出に赴けば何をいわれるか分かったもので
はない。ヴィクトリアはそう思いながら校舎の外に出て──しばらく色々な出来事や予想にた
め息をついた後、まひろたちと合流し、お説教やじゃれつきの平和めいた喧騒に溶け込んだ。
 その横で胎児になっていた生徒がぽんぽんと元の姿に戻り、着衣ないがゆえにちょっとした
騒ぎを巻き起こすのはもうしばらく先の話である。
 そして蛇足ながらに一つの事実を記す。
 秋水とまひろの説得がなければ、ヴィクトリアが学校に来ていなかったのは確かである。

 先ほどまでは昼の光が差し込んでいた窓はすっかり暗くなっている。
 夜だ。夜になっている。そしてこれは時間が進んだのではなく、戻ったのだ。
 すなわち、九月四日の昼から……九月三日の夜へと。

「なのにどうして戻らないんだろ私? 剛太くんもまだ胎児のままだったし」
 その剛太や桜花も病院に搬送したという千歳は首をひねった。
 やはり対象範囲の広さゆえか、何もかも一気に年齢操作を解かれるというコトがないらしい。
 ヴィクトリアが既に戻っていたのを考えると、「最後に年齢を吸収したモノから」戻っていくの
だろうか? にしては外の景色の時間が緩やかに戻って行くのが不思議だが。
 ひょっとしたら先ほど千歳が26歳当時の口調で喋っていたのは年齢が戻る予兆だろうか?
「それはともかく、どうしてさっき瞬間移動できたんですか? 核鉄は奪われた筈だし、予備も
この街にはなかったし、戦団に依頼をかけてもあんなに早く来る訳が……」
 血が止まったせいか、斗貴子の語調には普段の毅然としたハリが戻りつつある。
「えーと。結論からいうよ。実は一つだけ取られてない核鉄があったの。だからそれを発動して
瞬間移動したという訳。ただ、それができるぐらい回復したのは、ちょうどヴィクトリアちゃんが
乱入した頃でかなり際どかったけど」
 千歳が差し出したのはヒビだらけの核鉄だ。シリアルナンバーはLXXXIII(83)
151永遠の扉:2008/10/19(日) 15:41:46 ID:vrRC/dx30
 それを覗き込んだ斗貴子の顔色がみるみると変わったのも無理はない。
「私が戦士・根来に渡した核鉄? 待て、これも取られたんじゃ!? 御前もいってたでしょ?」

──「この分だとブレミュから奪った核鉄(LXXXIII(83))も奪い返されてるんだろうなあコンチクショー!」
──「ああ畜生! やっぱりなくなってる。取られてる!!」

 千歳は鼻息の荒い斗貴子にビビりながら、「怒られるかなー」とこわごわ笑顔を浮かべた。
「え、ええとね。……そっちは、取られたのは、に、偽物」
「はぁ!?」
「ほほほほほら! 根来くんがダブル武装錬金を発動しようとしたコトあったでしょ?」

── 対する無数の虚像のいずこからくぐもった舌打ちが響いた。
──「使用不可のようだ」

「不発に終わったアレか。……ん? そうか! てっきりダメージのせいで不発に終わったと
ばかり思っていたが、すでにあの時点で!」
「そう。偽者にすり変わってたんだよ。つまりあれは根来くんのお芝居だね」
「じゃあ本物はどこに?」
「夏みかんの中」
「……はぁ?」
「正確にはその状態で私の鞄の中に。根来くんが渡してくれた時すぐには気づかなったけど」

──「貴殿はそれまでこれを持ち、機会に備えておけ。貴殿の能力にはまだ利用価値がある」
── 無造作に放り投げられた物をキャッチすると、千歳は目を丸くした。
──「ふぇ? 夏みかん? なんで? どこで取ってきたの?」

 斗貴子の頭は眩んできた。話はどうも想像を超えている。傷だらけの身で考えるには厄介だ。
「要するに私の渡した核鉄は、根来経由であなたに回っていたというコトだな。そして彼は素知
らぬ顔で偽の核鉄を見せびらかし、敵に敢えて回収させ安心させた……そこまでは分かったが、
いったい何でまたそういう周りくどいコトを?」
「たぶん、私に予想外の行動をさせて相手の虚を突きたかったんじゃないかな」
 斗貴子は首を傾げた。
152永遠の扉:2008/10/19(日) 15:43:48 ID:vrRC/dx30
「『じゃないかな』? じゃあ具体的に何をやるかは決めてなかったのか?」
「うん。でも……ちょっと前にそんな感じで上手くやれたコトもあったし」
「?」
 斗貴子は知らない。千歳と根来がかつてどんな任務に従事し、どんな勝ち方をしたか。
「とにかく、相手があんなに強いから、普通に攻めるだけじゃ限界があったと思うし」
 事実、最後の最後に千歳が瞬間移動で割って入らなければ──
 老化し、その総てを短剣に戻しきれなかったとはいえ、鐶はヴィクトリアから貯蔵した幾ばくか
の年齢を以て再び自動回復をしていた。そうなれば勝っていたのは鐶かも知れない。
 そんなコトを考えると、斗貴子の頬が少し綻び、ため息が漏れた。
「色々無茶なような気もするが、彼とあなたにはそれなりの信頼関係があるんだな」
「うーん。どうかな。根来くんはそっけないし。頑張りたくなったのは防人くんが一度褒めてくれた
おかげでもあるし……。も、もちろん根来くんは助けたいと思ってるけど! あ、それから」
 千歳はちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「本当は斗貴子ちゃんに渡した方が良かったかもね。渡しそびれちゃったけど」
「いや、あの核鉄は発動したところでそう長くは使えなかっただろう。実際、無傷で発動した処
刑鎌でさえそう長くはもたなかった」
 そこまでいうと斗貴子は少し眉をひそめた。
「ところで……さっき当たり前のように『夏みかんに核鉄を入れた』といってたが、どうやったん
だ? 武装錬金の特性とは少し違う気がするんだが」
「きっと忍法だよ」
 詳しくはかげろう忍法帖収録の「忍者本多佐渡守」をご覧ください。
「……あまり聞きたくはないが、偽者の核鉄を作ったのも」
「それも忍法だよ」
 詳しくは忍法双頭の鷲(原題・妖しの忍法帖)をご覧ください。
「名前はね、忍法泥象嵌(どろぞうがん)っていうんだよ! テレビに飽きた時に根来くんから借
りた小説に出てたもん! これは泥に人の象を嵌めて型をとってね、自分がそこに入ってじーっ
とするとその人に変身できるんだよ」
 斗貴子はうなだれた。
「……やり方は想像できたが、人と金属じゃ勝手が違うような。だいたいいつの間に作ったんだ……?」
153永遠の扉:2008/10/19(日) 15:44:52 ID:vrRC/dx30
「作ったのは戦闘中にこっそりじゃないかな。シークレットトレイルの特性のせいでいたりいな
かったりだし。でね。作った方法だけどたぶん手頃な金属を忍ぽ」
「ああもう! 忍法の話はもういい! もう聞きたくもない!」
 寒気にうなるような声を上げて斗貴子が千歳の言葉を防いだその時!
 俄かに斗貴子の背が伸びた。見れば千歳も同じように成長を遂げている。
「年齢が……戻ってきたのか?」
「そうみたいね」
 白雪のような肩を破れた子供用の服から覗かせながら、千歳はいつもの凛然とした顔つきで
斗貴子を見た。斗貴子も彼女を見返した。しばし両者は無言で見つめあった。
「…………」
「…………」

── 防人の指摘に千歳は「がーん!」と肩を上げひし形を作るように頭を抱えた。
──「ち、違うもん!! コスプレは大好きだけど今は違うもん!!」
──「え! そんな! ひどいよ根来くん。私頑張るから、そんなコトいわないで……!」

「えーと……」
 非常に気まずい。人の恥部を見てしまった後特有の「何ていったらいいか分からない」もや
もやした感じが斗貴子を包んだ。
「誰しも人に知られたくない過去はあるものよ」
 千歳はにこりともしない。破れた服を押さえつつ瞬間移動した。
「ちょっと待てェ!! 移動するなら私も運べ!! 逃げるのは勝手だが無責任すぎるぞ!」
「ごめんなさい」
 一番の重傷かも知れない斗貴子の背後に千歳が現れた。びっくりした斗貴子はまるで背中
にこんにゃくを入れられたように弓なりに体を反らし、「ひあっ!」と素っ頓狂な声さえ上げた。
「防人君が待っているわ。一緒に行きましょう」
 彼女の服はすでにいつもの再殺部隊の制服である。
(切り替えだけでなく着替えも早い!)
 特技が早着替えの斗貴子さえ目を剥く中、千歳は聖サンジェルマン病院へと空間跳躍した。

「とにかく。拘束完了だ。これもお前たちが死力を尽くしてくれたおかげだな。心から感謝する」
154永遠の扉:2008/10/19(日) 15:45:34 ID:vrRC/dx30
 しばらく後、宵闇にけぶる病院の屋上には防人と彼に拘束された鐶が並んでいた。
 武装解除に伴い12歳当時の姿に戻った彼女はシルバースキンリバースで二重に拘束されて
いる。かつてヴィクターIIIと化したカズキでさえ無力化した二重拘束(ダブルストレイト)だから、
さしもの鐶とて脱出は不可能だ。彼女はただぼうっとした瞳で注視を浴びている。
 居並ぶのは剛太、桜花、根来、千歳、そして斗貴子と錚々たる面子だ。
 手すりを背後にする彼らの視線は実に様々。畏怖、同情、警戒、観察、そして殺意。
「戦士長」
「なんだ。戦士・斗貴子」
「さっさとコイツにアジトの場所を吐かせてブチ殺しましょう。生かしておくと厄介なコトになります」
(立ち直ったのはいいが、こういう部分がますますひどくなっているような……)
 銀肌の奥で防人が汗をかくのが分かった。呆れと恐れの混じった感情である。
155スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/19(日) 15:46:32 ID:818OPNhA0
やた。原作キャラの会話ばっかの回きた。(鐶は出てるだけ)
しかし本当最後まで「説明」というものに振り回された戦いですね。
おかげでまた長くなって予定をオーバー。次の投下で本当にこの稿は終了。
そして調べ物。次の戦いに必要なネタを固めておくのです。

>>118さん
チャーチルの格言に「重要なポイントを突くときは、如才なくやろうとか巧妙にやろうとか思って
はいけない。ポイントを一突きせよ」というのがあります。鐶はあれこれ考える分、「如才なく〜」
で、斗貴子さんは性格や経験から「ポイントを一突き」で、それが明暗を分けた一因なのかも知れません。

>>119さん
ありがとうございます。そうですねー、「凝り」というのをテンポを崩さぬよう挟めるようになれば、
また一つ長所が増えると思いますので、ベストとはいかないまでもベターな描き方を心がけて
参ります。鐶については次回でちょろっと「戦ってない時の」彼女をば。その後については展開次第……

>>120さん
簿記などの勉強は一冊の問題集をしつこく使いまわす方が上達しやすいとか。永遠の扉もそ
んな感じですね。おかげですっかり色々膨大になってしまいましたが、自分も最後まで描きた
いので良ければお付き合いのほどを。しかし……鐶の次が武装錬金使いまくれる総角ってのが何ともw

>>121さん
そうですね……細かく描き込みつつ展開はダイナミックでテンポ良く! っていうのが理想なん
ですが、理想は理想としてやれるコトをやっていこうかなーと。それこそ、「今は分からないコト
ばかりだけど(ジャーンジャーン)信じるこの道を進むだけさ」ですよ。うん。

銀杏丸さん
若い頃、熱い感情の赴くまま総てをささげた物があったとしても、それが実を結ばぬコトもあり
まして。飲み屋の椅子に体を窮屈そうに乗せて寄り合う四人、何もかもが満たされている生活
とはいいがたいでしょう。しかし自分が身を投じた戦いの勝者を妬まず祝福する。これもまた友情ですね。
156作者の都合により名無しです:2008/10/19(日) 16:18:51 ID:SpeJXz/U0
お疲れ様です
気まずさも日常の微笑ましい一こまのひとつ 
またすぐに戦闘に入らなければいけない戦士たちの休息の場面は好きです。
157遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/19(日) 22:30:15 ID:ivpl8GlP0
第一話「聖なる詩人の島」

窓から差し込む、太陽の光。城之内はそれを浴びながら、重たい目を擦った。どうやら自分はベッドに寝かされて
いるようだ。どうしてなんだ?記憶がはっきりしない。
「あら、気が付いたかしら。気分はいかが?」
上品な女性の声。顔を横に向けると、声のイメージ通りの、清楚な妙齢の女性が微笑んでいた。
驚くほど美しいわけではないが、品よく整った顔立ち。深い知性を感じさせる物静かな笑みが、成熟した女性の
魅力を余すとこなく発揮している。丁寧に纏められた長い髪を、紅い薔薇の髪飾りが彩っている。
(はて、オレはこんな素敵なお姉様と一夜を過ごすほど甲斐性のある男だったのだろうか?)
―――そんなわきゃねー、と自分で納得し、なんか溜息とちょっとだけ涙が出てしまった。
「あの、オレ、なんでこんなところに?つーかあんた誰?そもそもここどこ?」
不躾にも程がある疑問文の連発にも、女性はただただにこやかに答えた。
「あなた、私の家のすぐ近くに倒れてたそうよ。それでここに運び込まれたの。全然目を覚まさないから心配した
けれど、その元気ならもう大丈夫ね」
「はあ、どういたしまして。で、あんたは…あ、オレは城之内っていいます。ヨロシク」
「私はソフィア―――<詩を詠む聖女>なんて呼んでくれる人もいるけど、そんな大層なものじゃないわ。ただの
しがない詩人よ」
「ははあ、詩人っすか。そりゃまたイメージぴったりっつーかなんつーか…」
城之内はうんうんと頷いた。確かにこの女性―――ソフィアには、詩人とか作家とか、そういう雰囲気がある。
「こちらこそよろしく。そしてようこそ、ここはレスボス。星女神の神域にして、海原と太陽の女神の加護篤き、
聖なる島…何もないところだけれど、光と水、そして愛は満ち足りてよ…」
女性―――ソフィアは、優雅に微笑んだ。なんというか、そう、マリアさまに見守られてそうな雰囲気の女だった。
これが漫画なら、背景には紅い薔薇が咲き乱れているところだろう。
「つかぬことをお聞きしますが、あんた、どっかの女学院でロサなんたらとか呼ばれてたり、癖っ毛タヌキ顔の妹
がいたりしませんか?」
「はい?」
「あ、いや、何でもないです。何でも」
潤滑な意思疎通に失敗してしまったらしい。城之内は肩をすくめた。そして、ふと思った。
(あれ?この人、今、レスボス島とか言ってた?オレ、そんな島なんかにいたっけ?)
158遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/19(日) 22:31:13 ID:ivpl8GlP0
しかし、よく言えば大らか、悪く言うと大雑把な彼は、特に気にしないことにした。ある意味大物だった。
「ま、よく分かんねーっすけど、助けてくれてありがとうございます」
「あら、私は何もしてないわ。部屋を貸しただけ。倒れていたあなたを見つけてくれたのは、ミーシャよ」
「ミーシャ…?」
どっかで聞いた名前だな、と思ったが、はっきりしない。その時コンコン、と控え目にドアがノックされた。
「お入りなさい」
「失礼します…」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、若い女性だった。城之内よりは年上だろうが、恐らく二十歳はまだ越えて
いないだろう。紫のメッシュが入った長い銀髪と、物悲しげな紫色の瞳が印象的だった。
(キレーな人だけど…なんか、寂しそうだな)
城之内は、そう思った。
「城之内くん。彼女がミーシャよ」
「あ、そうですか。どうも、助けていただいたようで、ありがとうござ…」
と―――そこで、思い至った。確か、あの胡散臭いオッサンから聞いた話。
「ミーシャ…アルテミシア?」
「あら?私、ミーシャの本名を教えたかしら」
ソフィアは、小首を傾げた。城之内は、慌てて誤魔化す。
「いやいや、テキトーに言ってみただけっすよ。ハハハ…」
わざとらしく笑いながら、城之内は心中穏やかではない。
(…まさか…いや、いくらなんでも、偶然だよな。ありゃ古代ギリシャの話なんだし…)
そう思いつつ、城之内は少し混乱していた。
(しかしどういうこった?さっきからなんか、おかしいことだらけだぜ…チクショー、海馬…はいらんけど、遊戯
がいてくれたらな…あ、そうだ!遊戯はどうなったんだ!?)
「あの…どうかしたの?」
ミーシャが、心配そうに尋ねた。
「えっと、ミーシャ…で、いいかな?オレの他に、誰かいなかったか?」
城之内は思わず身を乗り出し、質問を質問で返した。これがテストなら0点だ。しかし、返答は芳しくない。
「私が見たのは、キミだけだったけれど…誰かと一緒だったの?」
159遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/19(日) 22:31:58 ID:ivpl8GlP0
「ああ。オレの他に、二人―――ゲンミツに言うと三人だけどな。まあ、詳しく説明しづらいけどよ―――その内
一人はどうでもいいけど、もう一人は友達…いや、親友だ。なんてこった。あいつ、何処行っちまったんだ…」
城之内は頭を抱える。ミーシャとソフィアは居た堪れない表情で、顔を見合わせた。
「ん…?」
ふと、城之内は気付いた。自分の腕に、何かが嵌められていた。
「なんだ、デュエルディスクじゃねえか。確かに持ち歩いてはいたけど―――いつの間に嵌めたんだ?」
「あ、それ?倒れてた時にはもう腕に嵌めていたわよ。外し方も分からないから、そのままにしてたけれど…それ、
何に使う道具なの?見たこともないものだけれど」
不思議そうにデュエルディスクを眺めるミーシャに、城之内が解説する。
「デュエルモンスターズって知ってるか?それに使う道具だよ」
「デュエ…?ごめんなさい、よく分からないわ」
「そこからか…話すと長ぇな…」
日本やアメリカでは大人気だが、ギリシャの辺りじゃそうでもないのか?
「実際やってみた方が早いか。おっしゃ!じゃあちょっと外で見せてやるぜ!」

―――外の空気は、清々しかった。
ソフィアの家のすぐ近くには海を見下ろせる丘があり、そこに立った三人の頬を、少し塩気を含んだ風が心地よく
撫でていく。
「ん〜…日本のゴミゴミした空気とは大違いだぜ。ギリシャっていいなあ…」
城之内は鼻の穴を大きく膨らませて、胸一杯に吸い込んだ。そして、デュエルディスクに目をやる。
「デッキもちゃんとあるな…おし!」
デッキからカードを一枚引き抜き、ディスクにセットする。
「<真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)>を召喚!」
直後―――
「きゃ…!」
「まあ…!」
160遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/19(日) 22:33:28 ID:ivpl8GlP0
猛々しく巨体を震わせ、雄叫びを上げながら、その名の通りに真紅の眼を持つ黒竜が大地に降り立った。
真紅眼の黒竜―――通称レッドアイズ。実に数十万円もの値で取引されるほどの幻の超レアカードである。城之内
にとってかけがえのないカードにして相棒であり、なおかつ家宝にして全財産といっても過言でない。
「へへ、驚いた?」
「ええ。初めて見たわ、こんなの…」
「…この仔、暴れたりしない?触っても大丈夫?」
ソフィアとミーシャは恐る恐る、しかし興味津々でレッドアイズを見つめている。
「ん?まあ暴れやしねえけど」
立体映像だから触れないぜ、と言おうとして―――城之内は目を瞠った。
「あら、怖い顔してるけど、意外と大人しいわね」
「…可愛い」
女性二人はごく普通にレッドアイズの頭を撫でたり、顎をゴロゴロしてみたり。レッドアイズも暴れたりすること
もなく、紅い眼を細めて気持ちよさそうに小さな唸り声をあげている。
(あれ…最近のデュエルディスクは、質量を持った映像を映し出せるようになったのか?)
ガ○ダムじゃあるまいに、この装置はどこまでハイテクになっていくのか。城之内は腕組みしながら??マークを
頭上にいっぱい並べた。そして、出した結論は。
(もしかして…質量を持ったなんとやらじゃなくて、実体化してるのか!?そうだってんなら…)
城之内は、確かめてみることにした。
「ちょっと、二人とも離れててくれ!レッドアイズ、黒炎弾だ!」
グォォォォ!と咆哮しながら、レッドアイズがその顎を大きく開き、巨大な火球を吐き出す。それは眼前に広がる
大海原に向けて放たれ、海面に当たると同時に大爆発を起こす。その衝撃で巨大な水柱が吹き上がり、海水が雨の
ように、三人の身体に降り注ぐ。
「うお…!」
城之内は降り注ぐ海水から腕で顔を庇いながら、呻いた。やっとこそれが収まった時には、三人とも濡鼠になって
しまっていた。
161遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/19(日) 22:34:14 ID:ivpl8GlP0
「び…<吃驚し怖れ慄いた(ビビった)>わ…!」
「すごい…!」
流石のソフィアも腰を抜かしていた。ミーシャもぽかんと口を開けて呆けるばかりだ。
「や、やっぱりだ…実体化してる…!」
城之内は、汗をだらだら流していた。
(おかしい…よくよく考えてみれば、さっきから、おかしいぜ…!)
ことここに至り、城之内はついに一連の出来事に疑問を抱いた(遅すぎる)。
キョロキョロと周りを見てみる。とりあえず目に入ったのは、ミーシャとソフィア。その服装は、どう見ても現代の
ものではない。なんというか、古代風なのである。
建物にしても、現代であればギリシャといえど、あんな石造りだったりなんだったりばかりじゃないはず―――
つまり―――この世界は、自分がいた世界ではなく―――
「な、なんてこった…!」
城之内は、頭を抱えて叫んだ。
「ここは…ここは…古代ギリシャ神話の世界だってのかよ〜〜〜っ!?」
碧い海と空、白い雲。その中を城之内の絶叫が、レスボス島全域に響き渡るのだった…。
162サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/19(日) 22:48:06 ID:ivpl8GlP0
投下完了。前回は>>131から。
城之内、ガチレズの島・レスボスへ…なんて言ったら、レスボス島の人に怒られます。
同性愛者という意味でのレズビアンって、偏見による蔑称だそうですからね…。
そしてヒロイン・ミーシャ登場…ですが、空気になってしまわないよう、気を付けたいと
思います。異様な存在感を持つ社長とかに比べると、どう考えてもキャラ弱いしなあ…。

あと、「古代ギリシャで、なんで普通に会話できてんだよ!」というツッコミは禁止。遊戯王世界じゃ、
日本語が全世界全時代の共通語ですぜ…(言いすぎ)。

しかしながら、久々に創作の楽しみというものを思い出した気がします。テンションが、
自分的に全盛期だった超機神の中盤〜後半のそれに近い。書いてて自分で面白い。
(読者の皆様にも面白いと思っていただけたら最高なんですが…)

>>銀杏丸さん
OK。上院議員になったつもりで行きましょう。キン肉マン、なんかいいなあ…昔なじみの宴会って。

>>136
元ネタ知らずとも楽しめるものを…とは思いますが、これなかりは精進あるのみです。

>>142
今はかなり調子もよく、ストックもかなりあるので、しばらくはそれなりのペースで続けられると思います。
規制にならなきゃね…はあ。

>>144
フタを開けてみれば普通のバトル物になってしまう悪寒…(汗)頭脳戦は期待せんでください。
163作者の都合により名無しです:2008/10/19(日) 23:02:45 ID:hRB98DOF0
>スターダスト氏
日常の風景の方が戦闘より好きです。千歳姉さん結構コミカルですね。
原作キャラが今回は多いですが、そろそろ小札も見たいですね。


>サマサ氏(復活即連投嬉しいです)
城の内得意の真紅眼の黒竜を早速出ましたね。ペットみたいで可愛い。
ミーシャの顔はどんなのかな?銀髪の女性は想像つかないw
164作者の都合により名無しです:2008/10/20(月) 00:26:31 ID:7+xQGCxd0
サマサ氏やる気満々で嬉しいねえ
正直、遊戯王はあまり好きではないんだけど
原作を超えるカードバトルを期待しております
165作者の都合により名無しです:2008/10/20(月) 12:00:45 ID:wiknaV/I0
桃伝は終了か
あの作品が一番サマサさんらしい感じがしてたから残念だ
俺遊戯王あんまり知らないんだよなw
でも期待してます
166強くなるのは、なれるのは:2008/10/20(月) 21:15:50 ID:8SMFPh4h0
>>103
ミ昇が意識を取り戻した時、真正面にドラエがいた。
「お気づきですか?」
脚を大きく広げ、後ろに手をついて座り込んでいるミ昇の目の前で、ドラエは
片膝立ちになってミ昇の両肩を掴んで、倒れないよう支えている。
「膝枕でもして差し上げたかったのですが、脳震盪からの回復には頭部を正しい位置に
置くことが大切ですので……ご気分はいかがです? 頭痛や吐き気などは?」
「……大丈夫、なんともない……が」
まだはっきりしない意識の中で、ミ昇は実感した。俺は負けたのか、と。
じーさんに続いて、今度は女性相手の敗北。ミ昇はその相手たるドラエを正視できず、
がっくりと俯いてしまう。
するとドラエは、左手をミ昇の肩から放した。そしてミ昇の右手の甲に重ねる。
ミ昇の、鍛えに鍛えた岩のような手の上に、ドラエの絹のように柔らかな、雪のように白い
手が重ねられる。その感触にミ昇は……驚いた。ドラエの手が、小さく震えていることに。
しかもその手は、温かさはあるのだがそれ以上に、冷たい汗で湿っている。
「ミ昇様は脳震盪から回復しつつあるようですが、わたくしはこの通り、まだまだです。
まだまだ、恐怖から回復しておりません。ミ昇様の、あの一撃で」
そう語るその声すら、どこか弱々しい。
「にも関わらず、それほど恐怖した一撃だったのに、わたくしがどうして対処でき、反撃
までできたのか。おわかりですか?」
「……いや」
徳川曰く、ドラエは闘技場については一切無関係。参加はもちろん観戦すらしたことがない
とのことだった。ミ昇と出会うのも、戦う姿を見るのも、今日が初めてのはずだ。
あの渋川さえ、断定は出来ないが「一回戦でミ昇が紅葉に使った新・紐切りを見ていた
からこそ」ああも易々と返せたのかもしれないのだ。
それなのに、ドラエは……
「もしやミ昇様、わたくしが初見の『紐切り』を返したとお思いではありませんか? でしたら
それは、少し誤解です」
167強くなるのは、なれるのは:2008/10/20(月) 21:18:32 ID:8SMFPh4h0
え? と顔を上げたミ昇に、ドラエが微笑みかける。
「鎬流空手家・鎬ミ昇の武名、わたくしはかねてより聞き及んでおりました。その斬撃拳の
比類なき強さを、その奥義である紐切りの恐ろしさを、敵の首筋の視神経を素手で切るという
神技の存在を。あの日、徳川様からは御名前しかお聞きしませんでしたが、わたくしは既に
ずっと前から、ミ昇様のことを存じ上げていたのです」

ミ昇様は、世界中を武者修行して廻られたそうですね。特に印象に残っている国は……

「武道家としての習性と申しましょうか、わたくしは自分の中で何度も何度も、ミ昇様と試合
を重ねて参りました。いわば、わたくしにとっては、今日はミ昇様との初試合ではないのです」
「……」
「いつかお手合わせする日がくれば、と思ってはおりました。徳川様から『試合の話がきたぞ』と
いうご連絡でミ昇様の御名前が出た時の驚き、とても言葉では言い表せません」
話している間に落ち着いてきたのか、ミ昇の手に重ねたドラエの手の震えが止まっている。
そのことにミ昇が気付く前に、ドラエは右手もそこに添えた。両手でミ昇の右手を包み込み、
そっと持ち上げる。
「ミ昇様が、ミ昇様の師より受け継ぎしこの技、この手。それをミ昇様が何よりも誇りとし、
更なる高みを目指し続けておられること、しかとこの身に教えて頂きました。わたくしも同様、
祖父より授かりし明道流柔術を更に磨いて次代へと渡さねばなりません。その為の修行として、
今日のような試合も重ねております」

間を置かず、戦いなさい……

ミ昇の胸に、あの夜のことが思い出される。師より告げられた免許皆伝、あの時の師の
言葉、顔。そして文字通り「授かった」もの。鎬流正統の拳を振るうのは、この地上に
自分ひとりしかいないのだ。
いつか次代へ譲る日の為に、ミ昇はそれを磨き続け、戦い続けている。師の教えに従って。
ドラエもまた、同じように。
168強くなるのは、なれるのは:2008/10/20(月) 21:20:52 ID:8SMFPh4h0
「わたくしなどに、勿体無くもミ昇様の本気の技を、鎬流の奥義をご披露して下さり、
本当に良い修行をさせて頂きました」
ドラエは正座し、ミ昇に三つ指着いて深々と一礼する。それから立ち上がり、膝やスカートに
ついた泥を払ってから、観戦していた刃牙たちにも頭を下げて……
「ま、待ってくれ!」
ミ昇は慌てて立ち上がり、去りかけたドラエを呼び止めた。
「なんだかその、ちょっと褒めてくれたような気もするんだが、なんだかんだ言って俺は、
あんたに負けたんだ。全力で、本気で、負けた。言い訳のしようもない。だからこそ、悔しい。
悔しいから、その、」
振り向いたドラエから注がれる視線が熱い。熱く感じられてしまってどうしようもない。
だが、意を決して昂昇は、その視線に自分の目をしっかりと向けた。
「また俺と会って……試合、してくれるか?」
二人の目が合う。ドラエは間を空けずに答えた。
「はい、喜んで。その時までに、わたくしももっと腕を上げておきます」
今は完全に鋭さの消えた、心の底からの柔らかな暖かな微笑み。
そんなとびっきりの笑顔をミ昇の胸に残して、明道流柔術継承者・ドラエ=タチバナ=ドリャーエフ
は去っていった。
ミ昇たちはしばし、言葉もなくドラエのいなくなった空間を眺め続けていて。
やがて、最初に口を開いたのは紅葉だった。
「ははっ、なんだなんだ。我々四人、随分いろいろ大騒ぎしてしまったが、終わってしまえば
どうだ。文句のつけようのないハッピーエンドじゃないか。良かったなミ昇」
ぽん、とミ昇の肩に紅葉の手が置かれた。
そのミ昇の肩が、震えている。小さくではなく、結構大きく。
「ミ昇?」
「……俺のことを、ずっと以前から知ってた……知っててくれた……鎬流の名を、俺の名を、
俺の斬撃拳を……何度も試合を重ねてて……そして、また会って試合……また、会って……」
「お、おいミ昇?」
169強くなるのは、なれるのは:2008/10/20(月) 21:22:06 ID:8SMFPh4h0
「こうなったら……こおおおおぉぉしちゃいられんっ! すぐに帰って特訓だ、次こそは勝つぞ! 
俺はもっと強くなる、なれる、ならねばならんっ! というわけで手伝ってくれ兄さんっっ!」
ミ昇はまたしても紅葉の後ろ襟を引っつかんで、半ば背負うようにして、
「わ、ちょ、おい、待て、落ち着けミ昇おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
どひゅううぅぅんと駆けて行った。砂煙の中に、紅葉の叫びだけが響いて残っている。
呆気に取られつつ、今度は梢江が首を傾げて言った。
「うぅ〜ん。試合の内容とか、ドラエさんが言ってたこととかはよくわかんないけど。でも、
よーするにミ昇さんは、トーナメントで負けて落ち込んで、今日も負けて落ち込んで、
でも綺麗なおねーさんに励ましてもらって元気になった、ってことでしょ?」
刃牙の横顔に問いかける梢江。刃牙はミ昇の走り去った先を、じっと見ている。
「ああ。梢江ちゃんの言う通りだよ」
「やっぱり。つくづく、オトコって単純よねほんと。……刃牙君も、ああなの? その、
綺麗なおねーさんに励まされたら即元気というか」
梢江が、少し心配そうな声になる。刃牙は笑って、
「もちろんさ。俺だったらミ昇さん以上だよ。例えば、そうだなぁ」
梢江の方を向いて、ちょっと考えてから刃牙は言った。
「俺が未知の毒物に侵されて半死半生、どんな名医も匙を投げてしまったとする。でも、
梢江ちゃんの涙を一滴飲めば、それだけで毒は全部吹っ飛ぶだろうな。俺なら」
「……え」
じっと見つめられてそんなことを言われてしまった梢江は、
「ちょ、ちょ……ちょっと、それ変! 絶対に変!」
「え、そうかな」
赤面していいんだか悪いんだがわからず、とりあえずまくし立てた。
「そうよっ! 普通はもうちょっとこう、なんか、あるでしょ! 涙を飲むって変過ぎるにも
程があるわよ! そういう場合だったらほら、刃牙君が苦しそうに眠ってる時、その寝顔
を見たわたしが……とか、ってああもうっ、わかんないの?」
「え、えーと。ああそうだ、俺も友人としてミ昇さんの為に、特訓を手伝わなきゃ。んじゃ」
「あ、こら待ちなさいっ! まだ話は終わってないっっ!」
170強くなるのは、なれるのは:2008/10/20(月) 21:26:32 ID:8SMFPh4h0
『ミ昇様の本気の技を見せて頂いた……とは申し上げたものの』
帰路、ドラエはミ昇との試合を反芻していた。
『ミ昇様、ご自分ではお気づきになられなかったようですね。あの紐切り、最後の最後で
拳速が鈍り、狙いも僅かに逸れてしまっていたことを』
首筋に手を当てて、改めてぞっとするドラエ。もし、技にも力にも不足のない本物の
新・紐切りであったならば、今頃自分はどうなっていたか。考えるだに恐ろしい。
結局ミ昇は、ドラエ相手に全力本気の拳を向けられずじまいだったのだ。あれほど
何度も、自分自身に全力だ本気だと言い聞かせていたのにも関わらず。
そのせいで、ドラエに敗れた。
『武道家としては、褒められたことではないのでしょうけれど……』
試合中の、ミ昇の真剣な瞳。新・紐切りを放った時の、決意を込めた気合い。そして
再戦を申し込む時の、不安と緊張に包まれた顔。ドラエが受けた時の、嬉しそうな頬。
「……まだ見ぬ『あの方』も、ミ昇様のようにお優しい殿方だと………………いいな」
もうすぐ出会う、自らの弟子となる、次代の明道流継承者に思いを馳せて、ドラエは
少し幸せそうに呟いた。

ちょっとしたことで落ち込んで、いじいじと悩んだり。
そのくせ、ひょんなことでいきなり元気になったり。
キレると乱暴無比かと思いきや、その奥には捨てきれない優しさが強く残っていたり。
複雑なんだか単純なんだか、どうにもよくわからないけれど。
男ってのはそういう生き物なのかな、と。
刃牙をドタバタ追いかける梢江も、ミ昇と『あの方』を思うドラエも、
この時同じことを考えていた。


「だからちょっと待て、おい、ミ昇っ」
「今の俺は……今の俺は、烈海王にだって勝てるッッ!」
171ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2008/10/20(月) 21:29:14 ID:8SMFPh4h0
以上です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございましたっ!
私は、ヒロインが一番輝くのは、ヒーローに強く想われてその力の源になる時だと思ってます。
例えば剣心の「(回想)東京に帰ろうね……」とか、ラピュタの「すれ違いざま掻っ攫え!」とか、
やる夫遊び人の「やる夫の夢は、世界中の子供たちを笑わせることだお!」とか。
ヒロインの笑顔や涙や言葉が起爆剤となって立ち上がり、困難な状況や絶望的な強敵に
立ち向かっていくヒーロー。これこそ、いわば燃えと萌えとの相乗効果。男性と女性それぞれの
魅力による、トマトとチーズってなもんです。
2巻ラストを見るに、いつかドラエさんもそんなヒロインになる日が来るのかな……と楽しみ。

>>スターダストさん
総力一斉攻撃で満身創痍、幸運まで絡めて皮一枚残して何とか辛勝、と。小札までの面々が
(一斉攻撃ではないにしろ)秋水一人にやられてることを思えば、鐶はやはり凄かった。にしても、
こ・こ・で、根来と千歳を持ってきてくれますか! 原作よりこっちが先の私は、非常〜に嬉しい。

>>サマサさん
お帰りなさいませっ! 例によって原作未読ながら、例によって問題なく引き込まれました。
冒頭の凄惨さと直後の日常シーンとの対比、そしてその二つが重なっていき……開幕へ。この
少量でこの展開・情報量は流石です。サマサさん得意の異世界冒険活劇、期待してます!

>>銀杏丸さん(吉田拓郎といえば♪ええ加減な奴じゃけん ほっといてくれんさい……♪)
あぁなるほど。解ってから二度三度と読み返してみると、なんだかじんわりと。年輪を重ねた
彼らの姿……考えてみればリアルでも二十年ぐらい(もっと?)経ってますね。私も銀杏丸さん
も歳を取っ……いやいや、SSの題材からしてそんなに離れていないはず。と思う。思いたい。

>>サナダムシさん
また一段と素直で優しくて勇ましくて。可愛カッコいいシコルはどこまで魅せてくれるのか。
外に出ると常識人なオリバ、そういや頭もいいんですよねこのヒトは。昔、地下闘技場で
頭脳もステイツ1だとか言ってましたっけ。柳もドイルも結局付き合う辺り、やはり仲良し。
172作者の都合により名無しです:2008/10/21(火) 09:48:37 ID:57wKR2Zk0
ふらーりさん完結おめ。
原作と違いかっこいい公証や可愛い梢江が素敵でした。
またぜひ。
173作者の都合により名無しです:2008/10/21(火) 18:15:18 ID:BjQgosih0
ふら〜りさんお疲れ様でした。
割とメジャーなバキと得体の知れない漫画を絡ませてくるのが
ふら〜りさんらしくて宜しかったです。
今回はちょっと短かったですが、また連載を楽しみにしております。

PS 宅建受かるといいですね。
174永遠の扉:2008/10/21(火) 20:31:57 ID:3G4W0gOW0
「落ち付け、戦士・斗貴子。キミがこのホムンクルスを警戒する気持ちも分からなくはないが、
さっき聞いた話ではどうやら」
「……奴の武装錬金を使わねば辿りつけないところにアジトがあるらしい」
 根来が無表情で呟いた。」
「つまり年齢操作をしないと作動しない何かがあるってワケですか?」
 剛太の問いに防人は頷いた。
「なら拷問でも何でもしてそれを解かせてアジトに到着しだい殺しましょう。私に引導を渡させ
たくないならシルバースキンでそのまま圧殺してしまえば済む話です」
 防人から薄くため息が漏れたのは話が噛みあわないせいだけではない。
(確かに正論なんだが……どうも、な)
 年少者への優しさや寛容さといった防人の長所はしばしば戦士としての枷となるが、この時
も彼はそれ故わずかに懊悩していた。
 それを知ってか知らずか傍らの鐶は黒い拘束具に抵抗するコトなく、ただむぐむぐとドーナツ
を食べている。牧歌的な風景であるが、あれほど暴れ狂ったホムンクルスにしては異様だろう。
「……どうしてドーナツを食べてるの?」
「腹を空かしているようだったからな。まあ、回復した方がスムーズに白状するだろう」
 千歳はやっと気づいた。防人が三角屋根の小箱を抱えているのを。そして時おりそこに手を
突っ込み、鐶にドーナツを与えているのを。
 親切なコトに防人は鐶の口周りに食べカスや砂糖がつくたび丹念に拭いてやっている。
 千歳も興味を示したらしい。防人の真似をした。果たして鐶は食べた。ただし瞳は虚ろでどこ
を見ているか分からない。ヤモリにハエをやっているような岩石にエサをやっているようなシュー
ルさがある。
「ちなみにドーナツは自前だそうだ」
 防人はポケットからポシェットを取り出すと、やや斜め下に向けて軽く振った。すると子猫が
入りそうな箱が二つ三つ落ちた。
「いや、なんで入ってるんですか?」
「俺にも分からない。ただこのポシェット、見た目に反して非常に重い。持って見るか?」
 ええと頷く剛太に防人はしつこいほど「気を抜くな」「『自分の足の裏をまっすぐ持ち上げる感
覚』で踏ん張れ」「いいか、必ず両手でしっかり持て」と念を押した。
 しかし根は軽い剛太だ。親切な忠告を鼻で薄く笑った。(人それを死亡フラグという)
175永遠の扉:2008/10/21(火) 20:32:55 ID:3G4W0gOW0
「大袈裟ですってキャプテンブラボー。俺、こう見えて結構力あるんスよ。こんなポシェットぐら……
うおおお!?」
 笑顔で受取るやいなや剛太の両手が一気に下がった。彼が思わず前へとつんのめる中、手
から零れ落ちたポシェットが重い音立て床にめりこんだ。
「な、なんだコレ!? そんな大きくないのになんでこんな重量が!? 触ったトコただの布の
ポシェットで、鉄板とかも仕込まれてなさそうだったのに」
「重いのはただ単純にそれだけの物を入れているせいだ。見ろ」
 亀裂の中心でふたをはだけたポシェットからは、何かのCDが十数枚と何かのロボットのプラ
モが数体、携帯電話、それからデスクトップ型パソコン一式が出ている。
「これでやっと三分の一といったところだ。先ほど覗いた様子ではまだまだ中に入っている」
「あ、じゃあサッカーボールほどある調整体の幼体を携帯できたのもこのせいね」
 納得したという様子の桜花に、鐶はこくりと頷いた。
「……ドラえもんのポケットかよ」
 ドラえもんのような声で御前が呆れた。
「てか持ち歩くならノートパソコンだろ。なんでデスクトップ……」
 剛太は文句をいいながら中身を戻し始めた。
「ポシェットはふだん……30キログラムぐらい……あります」
「オイオイ。じゃあポシェット取ったらスピード上がるのか? 少年漫画みたく」
「…………ホムンクルスなので……あまり変わらないと思います」
 ドーナツを呑んだ鐶のつぶやきに千歳は頬をかいた。
(よくあの時、年齢退行中の私が持てたわね。我を忘れていたせいかしら……?)
 防人は鐶にドーナツを差しだした。
「ところでドーナツどうだ。アジトの場所を吐いたらもっとやるぞ」
「これを食べたら……吐きます。……あ、情報をです。ドーナツは……消化します。情報を吐く
のは潜入前からリーダーにいわれている……取り決め……です。むぐむぐ」
「相変わらず子供には優しいのね」
「むぐむぐ」
「すまん。だがこうしているとあんなに暴れていたホムンクルスとは思えず、つい……」
「むぐっ! けほ……けほ」
「たまにはいいと思うけど」
「むぐむぐ」
「私もドーナツあげていいでしょうか?」
176永遠の扉:2008/10/21(火) 20:34:33 ID:3G4W0gOW0
 桜花が手を挙げた瞬間、斗貴子の怒声が炸裂した。
「和むな!! そいつは私たちをさんざん苦しめた敵なんだぞ!?」
 すると長い黒髪がふわりと揺れて血まみれセーラー服の横に移動した。
 やがて斗貴子でさえ嗅ぎ惚れそうなかぐわしい匂いの中、桜花が耳打ちした。
「馬鹿ね。ドーナツ程度で懐柔できるなら安いものよ。だいたい拷問なんて口を割らせるのは
不向きだもの。ほら、陣内だってL・X・Eの本拠地とか構成員を吐かなかったでしょ?」
「……まぁいい。どうせ首領さえ倒せばコイツは仲間ともども処分されるんだ。いまま後回しにし
ても差し支えない。拷問はやめてやる。その代わりとっととアジトの所在を吐かせろ。いいな?」
「了解」
 桜花はにっこりと笑うと鐶に駆け寄ってドーナツをすいっと差し出した。実に楽しそうである。
「というワケで鐶ちゃん。アジトの場所を教えてくれないかしら」
「くー、くー」
 鐶は健やかな寝息を立てている。
「立ったまま寝るとか器用だなオイ」
「満腹になったから眠たくなったみたいね」
「じゃなくてそもそも寝るな!! くそォ、私たちを舐めているようだな! やっぱり殺す! いま
すぐ殺す! 地獄の痛みの中で今度こそアジトの場所を吐かしてやる!」
「先輩落ち着いて! さっきバルスカ全部壊れたんでしょ!? 素手じゃ無理だって!」
「う、うるさい! 私ならたぶん素手でも殺せる! 仕掛けだって壊す! 壊してみせる!」
「無理です! だいたいあれだけ苦労して生け捕りにしたのに、いま殺したら身も蓋もないって!」
「黙れ剛太! 離せ! 離せェ!」
 怒り心頭に達した斗貴子を剛太が必死に羽交い絞めにする中、鐶は目覚めた。
「しもうた。戦士さんたちにアジトの説明せないかん」
 そしてのろのろと周囲を見渡した。しかし口調は滞りなく滑らかである。
「よーけ食うて腹ふとうなったがあがいに寝てはおれん。怖いお姉ちゃんにぎょうさんかちまわ
されるぞなもし。……ん?」
 鐶は根来と千歳を除く戦士たちが物凄い表情をしているのに気づいた。暴れていた斗貴子で
さえピタリと止まって鐶を凝視しているではないか。
「どげしたん?」
「えぇとコレは……伊予弁ね。ってコトはもしかしてあなたは愛媛出身?」
177永遠の扉:2008/10/21(火) 20:36:13 ID:3G4W0gOW0
 桜花の問いに鐶は頷いた。
「ほうよ。うん。そうほやけど、みんな血相変えてどげしたん?」
「さあ。意外だったんじゃない? 口調が」
 何か鐶は気付いたらしい。慌てて顔を俯かせ、ぷるぷると震えた。
「い、いまのは……なし……です。忘れて……ください。忘れて……」
「あらあら。きっと起きぬけに混線して地が出ちゃったようね」
「……はい」
 前髪に隠れて表情はよく見えないが、闇夜に浮かぶ白い肌がさぁっと赤くけぶっている。
 頬のみならず頸すじもかつかつと熱が登り、柔らかな耳たぶさえも朱に染まっている。
「ひょっとして普段途切れ途切れに喋っているのは、標準語に変換するのに手間取っている
せいかしら?」
「……はい。その……お姉ちゃんが、お姉ちゃんが…………あの喋り方……すると、怒って…
…鬱陶しい……鬱陶しい……って何度もいって……物とか……投げてきて……サブマシンガ
ンの武装錬金で撃ったり……私は、お姉ちゃん好きだったのに……だから、だから……」
 鐶は俯いたまま喉奥に詰まるような湿った声を途切れ途切れに漏らし始めた。
「だから、標準語で喋るようにしたのね」
「はい」
 ぐすんと鼻をすする鐶を、桜花はひしと抱きとめた。
「辛かったわね。でももういいのよ。気にしないで。心ない人はいっぱいいるけど、助けてくれる
人だっているもの」
 さりげなく視線を向けられた剛太はバツが悪そうに顔を背けた。
「大丈夫。少しぐらい方言があってもいいじゃないの。私は可愛いと思うわよ」
「そう……でしょうか」
 虚ろな瞳をうっすら赤くしながら、鐶は恐る恐る上目遣いで聞いた。
「私がいうんだから間違いないわよ」
 鐶は見た。女神のように微笑む桜花を。彼女は美しい。美しい人のいう言葉なら信じられる
かも知れない……とまあ根は単純な鐶なので実に呆気なく信じた。
「……ありがとうございます」
 ぎこちないお礼に桜花は艶然と微笑んだ。
「駄目よ、そこは本当の口調じゃないと。ね? さぁ、もう一度。自信を持って」
 促されるまま鐶はどぎまぎと言葉を吐いた。
「だんだん」
178永遠の扉:2008/10/21(火) 20:38:10 ID:CsYYlZqT0
「もっと笑って」
「だ、だんだん」
 鐶は虚ろな瞳のまま「えへへ」とぎこちなく笑った。口角鈍くつっぱり面頬はやや赤い。見る
人間によっては「はしたない」とするむきもあるだろう。
 ちなみにだんだん、とは伊予弁で「ありがとう」を意味する。
 出雲弁でも同じでありNHK朝のテレビ小説のタイトルもそれに由来する。
「可愛い!」
 嬌声とともにしなやかな肢体が方言無表情の少女に抱きついた。
 鐶が戸惑ったような声を上げる中、桜花が彼女の頭の横でニヤリと笑うのを見た者は位置的
に皆無である。
(これで落とせたわね。後は意のままとまではいかなくても、私のために多少の便宜は図って
くれる筈。こんな強いコだもの、津村さんなんかの意見で殺させちゃ勿体ない。もっと上手く利
用していくべきなのよ。だからまずは処分を軽くしないとね)
 戦団への助命嘆願や泣き落としなどを考えつつ、桜花の沈黙は更に続く。
(でも、可愛いと思ったのは事実よ。このまま一緒に暮らしても差し支えないぐらい。そもそも
総角クンのところにはまだ二人ぐらい女のコがいるんだから、一人ぐらいさらっちゃっても別に
いいわよね。だって可愛いんだから)
 桜花は幼少のころ秋水ともども誘拐され親元から引き離された。
 だが誘拐した早坂真由美という女性に育てられたため、桜花たちは今でも彼女を母と慕って
いる。そして桜花は母の気持ちが分かるような気がしたのでちょっと監禁方法を考えたりした。
(なんか)
(黒いオーラが漂っている)
(何か良からぬコトを考えているな)
 鐶を抱いたままくすくす笑う桜花を、剛太と防人と斗貴子は唖然とした面持ちで眺めるばかりだ。
(……ああ。何だかお姉ちゃんに……抱っこされているような安心が……)
 知らぬは鐶ばかりなり。その数メートルばかり前に御前がぴょんと出てきた。
「そだ。コイツにあだ名つけてやろうぜ!」
「え……? あだ名? ……いいです、そんなの。恥ずかしい……です」
「遠慮すんなって! オレ様がいーのをつけてやるから! えーと」
 御前は自分なりの命名則を頭の中にもやもやと描いた。
漫画ならば以下の命名則は上向いた御前の上の吹き出しに列挙されているであろう。
179永遠の扉:2008/10/21(火) 20:38:53 ID:CsYYlZqT0
武藤カズキ  → カズキン
津村斗貴子 → ツムリン
中村剛太   → ゴーチン
パピヨン    → パッピー
ブラボー    → ブラ坊

「ってコトは鐶だから……」
 演算を終えた御前が口を開きかけた時、誰もがその次の言葉と光景を予測した!
「タマキ」「さあ! 早くアジトについて聞きましょう!!」
 物凄い勢いで桜花が御前を突き飛ばし、激しく息をつきながらまくし立てた。
 一体いつの間に鐶から離れたのか。防人の鍛え抜いた眼力でさえ捉えられぬほどの早業だ。
「えと、下の名前は? そう、光(ひかる)っていうのね。香美さんはひかり副長って呼ぶけど、
ひかるって読むのが正しいのね。じゃあひかるちゃんでいいわねみんな! ねっ! ね!!」
 平素の落ち着きがウソのごとく取り乱す桜花である。次声は1オクターブほど高い。
「ととととところでどうしてあなたは副長なの!? 総角クンはリーダーなのに」
「それは……そっちの方がカッコいいから……です。強そうですし……無銘くんの案ですし……」
「そ、そうよね! みんなもそう思うわよね!」
 美しい顔を真赤にする彼女に対し、戦士一同は沈黙で答えた。御前が桜花と人格を共有し
ている事実からこの瞬間ばかりは目を背けたのである。斗貴子でさえ何もいわず黙殺した。
 余談だが鐶の振るうキドニーダガーの別名はボロックナイフである。ボロックの意味を考える
と御前の命名は的を射ているのかも知れない。つまりその……やめとこう。
 とにかく重要なのはアジトの位置だ。鐶はゆっくりと遥か彼方の山を指さした。
「アジトは……西にあります」
「あちらは北だ」
 根来の冷たい呟きも何のその、鐶は迷いなく南を指さした。
「行きましょう……西へ……!」
 あまりに間の抜けた挙動である。戦士の誰もが呆れ、溜息をつくのも無理はない。
 だが。
 次の瞬間彼らはため息も忘れ、ただただ鐶の言葉に凄まじい衝撃を覚えた。

「予定通りなら……リーダーと早坂秋水さんは……もう戦い始めています」
180スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/10/21(火) 20:39:59 ID:CsYYlZqT0
明日ブログ更新したら一週間ほどネットを断つ予定。……どこまでやれるコトやら。
次回からは秋水と総角がメインです。戦士たちと鐶はしばらくサブなポジションへ。
で、その鐶の偽キャラクターファイル。数値上なら小札にいろいろ勝っています。
http://grandcrossdan.hp.infoseek.co.jp/long/tobira/tamaki.jpg
何はともあれ鳥は調べれば調べるほど面白かったので、またちょくちょくネタ仕入れます。
やっぱ一番興味あるのはフクロウ。本当にですね、この鳥の完成度たるや素晴らしい!

>>156さん
自分も原作の日常パート好きですw それにあまり頭使わなくていいですしw
斗貴子さんと千歳さんの「…………」は描きたかった場面の一つでもあります。

>>157さん
何しろ彼女は設定変更のあおりで「26歳にしてセーラー服着る人」になったので、根はコミカル
じゃないでしょうか。8年前でさえ小学生として潜入できるとか思ってましたし。
そういえば小札はご無沙汰。……マズい。描き方忘れているかも。

ふら〜りさん(向かおうとする意志さえあれば、いつかは辿りつけますよ〜)
描き終えてみるとやはり予想以上に他の面々より強くなってしまった感がアリアリと……
で、やはり根来と千歳が一緒の戦場にいる以上は何らかの協力をして欲しかったので、あん
な風に。忍者なら人の先入観につけ込んで騙したり遠大な一手を打ったりする方が「らしい」ですしw

>強くなるのは、なれるのは
原作を読んだ後だと改めてドラエさんの雄姿が浮かびます。そして彼女を震えさせたミ昇の凄さ
も。惨敗を喫さないだけでも充分強い。自信を持っていいんだぞーといってあげたいですね。時
系列的にドイルへの負けフラグを立てまくってるだけにw あと、鎬兄弟がセットで可愛かったですw
最初はツマヌダも「何の作品なんだ!?」とビックリしましたが、読むと結構面白かったし結構二次
創作に向いてる気もしたので、良ければまたツマヌダで何か一つ! あと、「じーさん」って言い方ひどいw
181THE DUSK:2008/10/21(火) 23:44:58 ID:tWxKaB0n0

対するシエルは、彼から決して眼を逸らせないままに身を硬くしている。
双方共に沈黙を守り通す。古い柱時計の秒針だけが音を立て、時を刻んでいた。
数十秒か、数分か。長く短い時間が過ぎ、ようやくシエルは確固たる決心の下に口を開いた。
「七年前、私を北アイルランドに向かわせた事を憶えていますか? アンデルセン神父と錬金の戦士の闘いを
私に止めさせる為にです」
「もちろん、憶えているよ」
あの時、キャラハンは思ったものだ。“第13課(イスカリオテ)にシエルがいてくれて本当に良かった”と。
人間と僅かな時間に恵まれた事を心の底から神に感謝した。
ならば、協力に応じたシエルはどうか? その答えが彼女の口から語られ始めた。

「すべてはあなたの言った通りでした――
今から半年程前に錬金戦団の暗部が生んだ魔人“ヴィクター”が復活し、それにある少年が立ち向かいました。
少年の命懸けの行動に心打たれたヴィクターは矛を収め、すべてのホムンクルスと共に月へと旅立った……。
結果として、錬金術によって作り出された化物共は世界から一掃されたのです。
その少年“武藤カズキ”こそが七年前にアンデルセン神父と相対した“キャプテン・ブラボー”の弟子。
そして、彼が戦士となるきっかけを作ったのはキャプテン・ブラボーの部下である“津村斗貴子”。
――あなたはこれらを視ていたが故にあの時、三人の戦士達を殺させまいとした。私もそう思っていました」

何をいまさらと言わんばかりに首を振りながら、キャラハンはコーヒーカップに左手を伸ばす。
「ああ、その通りだ。しかし今更――」
「ですが私にはどうしても腑に落ちない点があります」
シエルの強い口調が彼の言葉を打ち消した。
キャラハンは伸ばす手を止め、虚空に漂わせたまま、再度シエルを見据える。
その視線をしっかと受け止めつつ(今度ばかりは眼を逸らしたい衝動を遮二無二抑えつけ)、
青い眼を爛と光らせたシエルは長年にわたって形成させた疑問を投げかけた。

「それは、何故あなたがこの一件に、錬金戦団にこだわらなければならなかったのか。
確かにヴィクターは悪意の存在です。しかし、彼が滅ぼそうとしていたのはこの人間世界ではありません。
錬金術の産物とそれに関わるすべての者達。つまり“錬金戦団”と“ホムンクルス”です。
仮に、武藤カズキという戦士が存在せず、錬金戦団が敗北したとしても、ヴィクターはホムンクルスを
絶滅させた後に自ら命を絶っていたのではないでしょうか」
182THE DUSK:2008/10/21(火) 23:46:47 ID:tWxKaB0n0

北アイルランドでのアンデルセン神父の制止、そしてシチリアでのジェイブリードとの戦い。
それ以降、シエルの興味は錬金戦団に向けられた。
外法“錬金術”を操り、偽りの生命と邪悪な武器を作り出す、神をも畏れぬ禍々しき異端の群れ。
そんな連中を何故、キャラハンは生かしておこうとしたのか。それによって何が起こるのか。
それらの疑問がシエルを駆り立てた。錬金戦団の歴史、分布、構成、任務内容。
あらゆる事柄をひとつひとつ丹念に調べ上げ、今日に至ったのだ。
だが、調べれば調べる程、疑問は増していった。

「そうならなかったとしても、あの程度の化物を殺しきれる者は錬金の戦士以外にもいます。
所詮はアンデルセン神父の敵ではありません。彼に錬金術の力が通用しないのは三人の戦士達との
闘いで証明されていますし、エネルギードレインも再生者(リジェネレーター)である彼の前では無力です。
それに、同じ“化物”でも自分の領地を荒らされるとなれば黙ってはいない筈です。ヴィクターが
アーカードやアルクェイドに勝てるとでも?」

キャラハンはフッと息を漏らすように笑う。愚問に対する苦笑、失笑の類だ。
「まあ、無理だろうね。あとは…… そうだな、“ミス・ブルー”が出てきたら面白くなったかもしれないね」
錬金戦団に並ぶ古よりの仇敵“魔法使い”の名を持ち出しておどける彼だったが、シエルはそのような
諧謔など意に介さない。
失礼無礼は承知の上で、無視を以って強引に話を進める。

「以上の点から、ヴィクターの対処においてキャプテン・ブラボーも武藤カズキも然程重要なファクターでは
ありません。そもそもヴィクターそのものが脅威とは呼べないのですから。少なくとも我々(カトリック)にとっては。
では、あなたは何故キャプテン・ブラボーを生かさねばならなかったのか、何故武藤カズキを
戦士にしなければならなかったのか……」

錬金戦団に関する多くの知識や情報を仕入れ、自分なりの(偏った)持論を立てて、その上で導き出された
最初にして最後、かつ最大の疑問。
それがシエルの口から紡ぎだされた後、言葉が途切れた。
両者、またも沈黙。
彼女が“正直に”話し始めてからキャラハンは不謹慎なジョーク以外、沈黙を守っている。
シエルはこの沈黙を何よりも恐れた。
183THE DUSK:2008/10/21(火) 23:47:59 ID:tWxKaB0n0
どうして彼は何も言ってくれないのか? 彼は何を考えているのか? 彼は何かを隠しているか?
私はどうすればいいのか? 私は何に突き動かされているのか? 私を待ち受けているものは何なのか?
恐れは言葉を続けさせる。無理矢理にでも。

「アンデルセン神父、キャプテン・ブラボー、ジェイブリード、日本の吸血鬼、武藤カズキ。
そして、私とあなた…… すべては七年前、既に始まっていたのか。すべては現在の日本に
集約されていくのではないか……――

――私にはもう、今回の任務がただの吸血鬼退治には思えなくなりました」

身を乗り出し、テーブルに手をかける。
霧中の焦りと恐れ。それがシエルの表情にありありと浮かんでいる。
キャラハンはすべてを知り、自分は何ひとつ知らない。

「教えて下さい……! あなたの“世界視”は一体、何を見たというのです! 未来には何が待っているのですか!」

シエルは勢い感情的にならざるを得ない。
七年の間、ひたすら練り続けてきた不可解を、真相を握る者の前で一気に吐き出してしまったのだ。
やや冷静さを欠くのは無理も無いのだろう。
滅多に見られないシエルの様子に、キャラハンは幾らか驚かされた。
「まあ、落ち着きなさい」
まずは左手を上げてシエルを穏やかに制する。
何を話すにしても相手が理性的でいなければまともな話は出来ないし、それ以上に“自分の能力について
認識を誤られていては”どのような説明をしても決して理解はしてもらえない。
「君は私の能力を少し勘違いしているよ。世界視は“未来予知”や“予言”とはまったく別種のものだ。
ううん、どこから説明するべきかな……」
顎に人差し指を当てて中空を睨む形で何やら考え込むキャラハン。
やがて、彼は左手だけを使ったボディランゲージを交えながら緩々と説明を始めた。

「世界というものは我々が住むこの世界がただひとつという訳ではない。まったく同じように見えても、
似ているように見えても、どこかが違う。そんな他の世界が次元を越えて無数に存在する。
多次元並行世界、所謂“パラレルワールド”というヤツだ」
184THE DUSK:2008/10/21(火) 23:51:23 ID:tWxKaB0n0

「例えば別の世界では、ここジェルーサレムズ・ロットは“セイラムズ・ロット”と呼ばれていた。
素朴かつ閉鎖的な田舎者ばかりの住む町だったが、どこからかやってきた吸血鬼バーロウによって、
いとも簡単に滅ぼされてしまった。その世界の私も奴の“逆聖体拝領”を受けて、吸血鬼に変えられていたな」

「また別の世界では、HELLSING機関と吸血鬼となって甦ったナチス、それにヴァチカンの
第九次十字軍が三つ巴となってロンドンをこの世の地獄に変えていた。アレックスは“エレナの聖釘”を使い、
茨の化物となってまであのアーカードと戦ったが、心臓を抉られて殺されたよ。幸せそうではあったがね……」

「更に別の世界では、シエル、君は“知恵留美子”という日本人の教師だ。“雛見沢村”という
小さな山村で教鞭を振るっていたよ。生徒達に人気のある、とてもチャーミングな先生だった」

教科書を片手に教壇に上がる自分。可愛い子供達に囲まれた自分。決してある筈の無い己の姿なのに、
それを思い浮かべると何故か表情が和らいでしまう。
「私が教師だなんて。でも、楽しそう……」
硬かった表情から僅かに微笑みを見せたシエルに、キャラハンは得たりと説明を続ける。
「世界視は他の多次元並行世界を“覗き視る”事なんだ。そこには多かれ少なかれ、共通・重複する
展開(ルート)がある。すべての世界が何もかも違う訳ではないからね。
だから予知や予言のように必ず成就するものではない。他の世界で共通する展開が数多くあれば、
それだけこの世界も同様の展開を辿りやすくなるだけの話だ。つまりは確率の問題さ。
ケネディ暗殺は全体の78%の確率で発生していたが、アレックスの死はたったの2%だった。
どうだろう、おわかりかな?」
キャラハンの説明を一言で表すならば、“統計調査”とでも言うべきだろう。
多次元並行世界というものが一体どれ程の数になるのかはわからないが、それらひとつひとつを覗き視て
同様の展開を探すとなると、とてつもなく膨大な作業になるのではないか。
しかも、得られた結果は“こうなるかもしれない”程度の信頼度でしかない。
確かに予知や予言などより遥かに手間がかかり、遥かに不確実な能力である。お世辞にも便利とは言い難い。
キャラハンの秘密めいた能力を完全に把握したシエルだったが、心境はというと驚嘆とも憐憫ともつかない
複雑微妙なものだ。
「わ、わかりました。あなたの能力について私が誤認していた事はお詫びします――」
シエルは軽く頭を下げるも、すぐに頭を上げてキャラハンを見据えた。
185THE DUSK:2008/10/21(火) 23:56:30 ID:tWxKaB0n0

「――でも、まだ私の質問には答えて頂いておりません。キャラハン神父、あなたは“何を視た”のですか?」

再度の質問にもキャラハンは柔和な表情を崩さない。
「答え、か……」
そう呟くと彼は不意にソファから立ち上がり、相変わらずの摺り足で食器棚の方へと向かった。
そして、棚の前でややしばらくの間、カチャリカチャリとガラスが軽くぶつかり合う音を響かせる。
やがて振り向いた彼の右手にはウィスキーグラスを握られ、腋には飲みかけのジム・ビームの
ボトルが挟まれていた。
呆れるシエルだったが、キャラハンはどこ吹く風だ。
「飲むかね?」
「飲みません」
ぶっきらぼうに言い放つシエルの顔を眺めながら、この懲りない飲んだくれはただ笑っている。
キャラハンはソファに戻って来て座ると、氷も入れず無造作にバーボンをグラスに注ぐ。
波打つ琥珀色の水面。それを見つめ続けるキャラハン。
シエルが何気無くそれに倣うと、彼は視線を返る事無くこう言った。
「そうだね、話す前にひとつ言っておこう。君は答えを聞きにここへ来たのではない。
もうとっくに答えを知っている。君がここへ来たのは、何故答えが何なのか“理解”する為なんだよ」
「……?」
狐につままれたようなシエルを尻目に、キャラハンはグラスの中程まで注がれたバーボンを一気に呷った。
フーッと大きく深い溜息が静かな室内に染み入る中、空のグラスはテーブルに置かれる。
キャラハンはグラスの縁に眼を遣りつつ、酒に焼けた喉から発せられる低い声で語り出した。

「すべては、二人の少女から始まったんだ……」
186さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/21(火) 23:59:08 ID:tWxKaB0n0
ども、こんばんは。さいです。
ところで女子高生のルーズソックスってブルーザー・ブロディのレッグウォーマーみたいで素敵ですよね。
でもやっぱり一番萌えるのはディック・マードックです。

前スレ310さん
私自身も前作ちっくな文体の方が好きです。ちなみにシエルはPCゲーム『月姫』の登場人物です。
“女アンデルセン”とでも思っていただければ。銃剣と黒鍵、再生能力と無限蘇生など似た部分が多いです。

前スレ316さん
ええ、「キャラ物」って感想を思いっきり気にしてましたw 布団の中で泣くくらいw
なので今作では黒さを前作以上にして、もっと難解な話にしようかとw

>スターダストさん
鐶戦、決着しましたねー。しかし戦っても戦っても倒せない、しかも奥の手がまたえらいことになってるし、
こりゃどうなるんかいなと思いながら読んでましたが、意外な決め手に電車の中で思わず「ほぉー」と頷いてしまいまったw
こういう感じの決着の仕方は私も一度やってみたい! あと笑いどころは二つ。まずは千歳と斗貴子さんですなw
「…………」がw それにわざわざ真後ろに瞬間移動するとこなんてもう千歳がギャグ要員に思えてきたw
あと「これを食べたら……吐きます。……あ、情報をです。ドーナツは……消化します」
ジワジワ来る裏声笑いがしばらく止まらんかったw つか今回の鐶が可愛すぎ! 教育的指導をスターダストさんに与えます!

>ハシさん
実はSQの方の『エンバーミング』はもう全然読んでない状態でして、ハイ。
もしかしたら私は一番最初の『DEAD BODY AND BRIDE』に熱狂しすぎて燃え尽きちゃったのかも。
しかし、ハシさんの作品の方は読ませて頂いております。F08のワルイコちゃんっぷりと狂いっぷりが
イイ感じです。どーもこういうキャラに弱いw またググってコミックス買ってーw
187さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/22(水) 00:00:04 ID:tWxKaB0n0
>>22さん
シエル先輩は良いですよー。まっぴー、婦警、シエル先輩の三人だったら、一番お嫁さんにしたいのは
彼女ですねw 物語はホントまだ動き出したとこです。言葉通り。

>>23さん
キャラハン神父は小説『呪われた町』の登場人物です。『HELLSING』とも『月姫』とも一切関係無いのです。
なので私の作品に登場する主な第13課は全員が他作品同士という支離滅裂w あと神父は出ません。スイス行ってるんで。

>>24さん
『HELLSING』終わっちゃいましたねーorz これから何を楽しみにすれば……orz
とりあえずOVAと、コミックス10巻と、続きそうもない外伝と、ホントにちゃんと始まるかどうか
信用出来ないヒラコー先生の新連載を楽しみにします。

>>25さん
その言葉が私にとっては一番の褒め言葉です! すっごく嬉しい! まさに光栄の極み! 励まされました!

>ふら〜りさん
完結おめでとうございます&お疲れ様です! いやぁ『バキ』と『ツマヌダ』は合いますね、結構。
私的には渋川先生やガーレンなど組技系の人達と闘ってほしいな、とか思ったり。そしてドラエさんが
原作並みにドラエさんしてるなぁと。ミ昇コノヤロウw
それと、ステキな作品に出合わせてくれたふら〜りさんに、ありがとうございます!

では、御然らば。
188さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/22(水) 00:09:53 ID:Wdlk4bjh0
ちょっと間違いを発見。すみません。

間違い
>シエルが何気無くそれに倣うと、彼は視線を返る事無くこう言った。

訂正
>シエルが何気無くそれに倣うと、彼は視線を変える事無くこう言った。


間違い
>「そうだね、話す前にひとつ言っておこう。君は答えを聞きにここへ来たのではない。
>もうとっくに答えを知っている。君がここへ来たのは、何故答えが何なのか“理解”する為なんだよ」

訂正
>「そうだね、話す前にひとつ言っておこう。君は答えを聞きにここへ来たのではない。
>もうとっくに答えを知っている。君がここへ来たのは、その答えが何なのか“理解”する為なんだよ」


無駄レスしてしまい、本当に申し訳ありません。
189作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 02:29:18 ID:s8iArJ0P0
シエルは本編じゃなくてひぐらしを引き合いに出すんだ
反則でしょうw

けれどそうするということは、今回は結構本編で関わってくるのかな
190遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/22(水) 09:01:49 ID:hhLxAUfe0
第二話「美しき射手」

―――遊戯は、腕に嵌ったデュエルディスクを気にしつつ、キョロキョロと町を歩いていた。あまりにも見慣れない
街並みである。<挙動不審になる(キョドる)>のも無理はない。
「ねえ…ここ、どこだと思う?やっぱり、現代じゃないよね…」
(ああ。恐らくは、古代ギリシャの世界なんだろうな―――何故かは分からないが、とにかくオレたちは、この世界
に飛ばされちまったようだぜ…)
もう一人の自分も、相槌を返す。傍から見れば独り言なので、すれ違う人々は訝しげに彼を眺めているが、遊戯には
特に気にならないようだ。
(こうなると、城之内くんや海馬も心配だぜ。早いとこ探し出さないとな…)
「うん。ひとまず、町を見て回ろうか」
ドン!と、余所見をしていたせいか、人にぶつかってしまった。
「あ、すいませ…」
「すいませっじゃねっぞ、ダラァっ!」
「うわっ…!」
遊戯は思わず後ずさる。いかにも<ヤバンなこと大好きデース>と全身で主張しているような男だった。
「っざけっなよ!ナメっのか!オラァ!」
何を言ってるのかまるで分からないが、不思議なことに何を言わんとしているのかはよく分かる。あたふたしている
うちに、周囲に同じようにガラの悪い男たちが集まってきた。
「おめ、なーにさっしとんね!」
「へんちくりんなあったましおってから!」
「どないしってくれると、らぁ!」
「え、え、あ、あの…」
通行人たちは関わり合いになりたくないとばかりに目を背けて足早に去っていく。その間に、遊戯はすっかり男たち
に囲まれてしまった。
(―――相棒!ここはオレに交代しろ!とりあえず片っ端から闇のゲームでマインドクラッシュをかまして…)
もう一人の自分がそう言いかけた時だった。ヒュン―――と風を切る音と共に、男たちの足元に、何かが突き立つ。
それは、一本の弓矢だった。
191遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/22(水) 09:02:31 ID:hhLxAUfe0
「え…」
「はいはい、そこまでそこまで。弱い者いじめしちゃダメだってママに習いませんでしたか、ん〜?」
飄々とした、軽い口調。遊戯はそちらを見て、あまりの驚きに口をあんぐり開けて絶句した。
(あの男の人…!な…なんてキレイな人なんだろう…!)
そう―――そこに立っていたのは冗談のような美青年だった。神がデザインしたかのような、完璧に整った顔立ち。
穢れなき海を宿したかのような碧眼に、あらゆる女性が頬を染めるのを通り越して嫉妬に狂うだろう、さらさらと
風に靡く金髪。腰まで長く伸ばしたそれを、紐で無造作にくくっているだけなのだが、憎たらしいほどよく似合う。
肌は透き通るように白く、その身体はしなやかに細く引き締まっている。
とかく、この世の者ならぬ美しさを持つ青年だった。粗暴な悪漢たちですら、その美貌に一瞬言葉を失う。そんな
遊戯たちを尻目に、美青年は弓矢を構えたまま、静かに微笑んでいる。
「あ、ごめんね。キミたち、人間じゃなくてお猿さんだったか、見た目的に。いやぁメンゴメンゴ。ついうっかり
人間の言葉で話しかけちまった。お詫びにバナナでも食うかい?ウッキーと言ったら一本くれてやるぜ」
―――類稀なる美青年は、類稀なる口の悪さをお持ちであった。
「て…テンメェッ!ぶっころしたらぁっ!」
その中でも体格のいい、いかにも喧嘩慣れしていそうな大男が、腕を振り上げながら美青年に突進する。強烈な拳
が、すかした生意気な青年の歯をへし折る―――少なくとも、男の脳内ではそうなるはずだった。
だが、現実はまるで違う。
青年は、襲い掛かる丸太のように太い腕を、その華奢にも見える細腕で、あっさり受け止めていた。愕然とする男に
彼はニヤリと笑いかける。
「どうしたゴリラちゃん。そんなに俺様が好みのタイプ?悪いけど、俺はケツ穿られる趣味はないもんで―――ね!」
掴んだ腕を軽く捻った―――少なくとも、遊戯にはそのようにしか見えなかった。ただそれだけの動きで、体重では
青年の二倍はありそうな大男が軽々と宙を舞った。豚のような悲鳴を上げながら、彼は頭からゴミ溜めに突っ込み、
ピクピクと痙攣する肉塊と化した。
「う…」
男たちは、冷や汗をかきながら後ずさる。と、その中の一人が口から泡を飛ばしながら青年を指差した。
「お、おい。こいつ、まさか…あの、オリオンじゃ…!?」
「オ、オリオンだと!?」
その名前が何を意味するのか、遊戯には分からない―――だが、男たちは顔面を蒼白にする。青年はそれを見て余裕
たっぷりといった風情で微笑む。
192遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/22(水) 09:03:14 ID:hhLxAUfe0
「そう。そのオリオンだよ。サインやろうか?今なら握手もしてやるぜ」
軽口を叩く青年に対し、もはや捨て台詞すら吐くこともできず、悪漢たちは慌てふためき逃げ出した。遊戯はそんな
一部始終を、ただボンヤリと見ていることしか出来なかった。
(すごいな、この男…さっきの動きといい、只者じゃないぜ)
もう一人の自分も、素直に青年の手腕に感服していた。遊戯としても、危ないところを助けてもらったのだ。お礼は
きちんとしておくべきだろう。
「あの…助けてくれて、ありがとう」
「ふっふっふ、いいってことよ。何しろ俺は、オリオン様だからな」
青年―――オリオンは、鼻高々といった風情で胸を張った。
「あの…それなんだけど、あなた、誰?」
「…………へ?いや、だから、オリオンだよ、オリオン」
「ええ…それは、さっきあの連中が言ってたから分かってるけど…そんなにすごいの?有名なの?」
青年―――オリオンは信じられないものを見た、とでも言いたげに顔を強張らせていた。そして。
「な…なんてこった…まさか、この世界で、俺を知らないオロカモノが存在していやがったとは…」
「お、オロカモノ…」
酷い言われようだったが、このオリオンの様子では抗議するのも憚られた。
「本当に?本当に俺のこと、知らない?マジで!?MA・JI・DE!?」
「えーと…」
(相棒、思い出せよ。ほら、この世界に来る前に…)
「あ、そうか、確か…」
あの胡散臭いオジサンの好きだという叙事詩の中に、確か、オリオンという名前が出ていた気がする。
「星女神に寵愛された勇者だとか、なんとか…」
「そう、その通り!星女神様に寵愛されて超愛されてるのだ!他には?」
「えーと…ごめん。やっぱイマイチ分かんない」
「ぎゃふん!」
193遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/22(水) 09:04:08 ID:hhLxAUfe0
オリオンは、大げさに仰け反った。
「バカ野郎!俺様の武勇伝はそんなもんじゃ語り尽くせねえ!アナトリア武術大会でブッチギリ優勝から始まり、
その後も本が十冊は出来上がりそうなくらいの大活躍、女の子にも当然モテモテ、実はどこぞの国の王子様だと
いう噂まである、ギリシャ一の弓の名手、このオリオン様を何だと思ってやがる!?」
「ん〜と…正直に言ってもいい?」
「おう、怒らねえから正直に、見たままを言ってみな、おチビちゃん」
「不審人物」
「がはっ!」
とうとうオリオンは地面に突っ伏してしまった。助けてもらっておいて、流石に悪いことをしたと思った遊戯は、
フォローを入れることにした。
「い、いやあ、でもさっきのオリオンすごく格好よかったよ!もしよかったらオリオンの話、たくさん聞きたいなあ!
ボク、すっごく興味があるよ!」
がばっと、オリオンが光の速さで飛び起きた。その顔には、輝くような笑みが浮かんでいる。
「ふふふふふ。そうだろそうだろ!全く素直じゃないんだからなあ、このおチビちゃんめ!おっしゃ分かった!
向こうでメシでも食いながら俺様がいかに素晴らしい大人物であるか、じっくりゆっくりたっぷりばっちり余す
とこなく教えてやる!ほれ、遠慮すんな!さあ腕を組んで足の筋を伸ばす運動!」
「…………なんで、コサックダンス?」
(なんというか、こいつ…ヘンな奴だな)
悪人ではないのだろうが、イタイ人間と関わってしまった―――
それがオリオンに対する、遊戯たちの第一印象だった。
194サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/22(水) 09:20:57 ID:hhLxAUfe0
投下完了。前回は>>161より。
本家ギリシャ神話でも割かしメジャー(と思う)なオリオン。Moira原曲では、神話設定はあんまり
引き継いでないですが、とりあえず美青年というところはそこから引っ張りました。
アルバムのジャケットだと後姿で顔分からないしね…。

ちなみに原作ではカードゲームの名前はデュエルモンスターズではなく、
マジック&ウィザーズですが、もはやデュエルモンスターズの方が有名すぎるので、
こっちの標記にしてます。

次回、社長も重要人物と出会います。

>>163 ttp://moepic.dip.jp/gazo/test/files/test808.jpg
手前の銀髪(白髪?)メッシュ、こちらから見て左が兄のエレフ、右が妹のミーシャです。
ちなみにオリオンは弓を撃とうとしてる金髪、その後ろの蠍頭さんが冒頭に出てたスコルピオスさんです。
ソフィア先生は薔薇を摘もうとしてる女性。
ただし、公式では明らかになっておらず、あくまで曲中の描写から考えてこうなんじゃないかなー、という
ものなので、参考程度に。それこそ、ヒゲの爺さんが双子兄だと言い張っても構わんのです(笑)

>>164 なんとか頑張ります。

>>165 知らんくても楽しめ…たらいいなあ(激汗)

>>ふら〜りさん
褒めると僕は調子に乗るので、あまり褒めんでください。
バトルメイドさんは何故に、こんなに皆から受け入れられる設定になってしまったのか…。
あの服か?それともカチューシャか?
>>ヒロインが一番輝くのは、ヒーローに強く想われてその力の源になる時
同意です。このSSでもそういうシーンを書けたら…いいなあ。うーん、どうなるだろ…。
195作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 12:39:34 ID:nAdZbyVC0
一気に着てるw

>スターダストさん(ネット断ちですか。何やら事情がある様子)
アジト潜入と言うことは中盤の山場ですか。
先行潜入した秋水たちが気掛かりですが徐々に
チームワークもよくなって来て着てますから大丈夫ですね。

>さいさん
前作との関係が少しずつ露になってきましたね。
物語りも少しずつ核心に近づいている様子。
2人の少女、まひろとシエルとは別の人材でしょうが、関係は?

>サマサさん
オリオンって原作キャラと思いきや違うんですね。
主役の(もしかしたらこのSSでは城ノ内かもしれないけど)遊戯も
本格的に動き出してキャラも揃い出してきましたね。
196作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 12:43:25 ID:nAdZbyVC0
書き忘れてた。
さいさん、奥様のご懐妊おめでとうございます。
197作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 16:35:09 ID:ZkjViTqZ0
>>さいさん
スティーブン・キングの原作でもキャラハン神父は同じ能力を持ってるんですか?
198作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 17:18:56 ID:KJhG5sPHO
サマサ氏の新作に期待
遊戯王が懐かしくなって読み返してきました
199ふら〜り:2008/10/22(水) 21:13:53 ID:GwU31QMq0
>>スターダストさん(防人は徒手格闘の修練の一環として、明道流を学んだようですな?)
餌付けされてる鐶も可愛いけど、とてつもなく希少なことに斗貴子が女の「子」らしく可愛い。
剛太が羽交い絞めしてちょいと胸をそらせば、斗貴子は足を浮かせてジタバタですもんね。
想像すると和む和む。御前命名のあだ名、言われてたら鐶はどんな反応……気付かず喜ぶ?

>>さいさん
来ましたねぇ前作との合流。そして他作品キャラが冷静に客観的に他作品世界のことを語って
るって面白い。ヴィクターへの認識は私も結構同意。あれって戦団内部の不始末内輪もめと
言ってしまえばそれまでですしね。で、なぜにそれを重要視? これは作品全体のキモになりそう。

>>サマサさん
オリオン……ベクトル的にというかジャンル的にというか、アスランに近いんでしょうかね?
あ、もちろん私は、アスランというキャラはサマサさん経由でしか知らない身なわけですが。
>あらゆる女性が頬を染めるのを通り越して嫉妬に狂うだろう
「女と見紛うような」とか「男にしておくのが勿体無い」を超越した美形か。中身はどうあれ。
200作者の都合により名無しです:2008/10/22(水) 23:23:41 ID:H+byIDpS0
さいさん奥さんご懐妊、VSさんご結婚、サマサさん復活とめでたい事尽くめだな
スターダストさんのネット断ちと銀杏丸さんの休載宣言が気になるが

感想書くの下手なんで書かないけど、いつも楽しみにしてるんで頑張って下さい
201作者の都合により名無しです:2008/10/23(木) 00:19:49 ID:Zn/CuJVC0
・スターダスト氏
大戦闘の後は日常風景。シリアスの後に和むのはいいですね。
いよいよ決戦ですね。お早いお帰りを待ってます。

・さい氏
前作との絡みが出て参りましたが神父は参戦するのでしょうか?
強烈なキャラですから却って難しいかも。

・サマサ氏
遊戯と城内とのコンビで強敵を撃破していく展開ですかね。
オベリスクのあの人にも活躍して欲しいな。
202遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/23(木) 09:02:26 ID:QEc2C4Ma0
第三話「青眼の白龍・紫眼の狼」

―――夜も更けた、深い山奥。その中をひた走る男は、野盗だった。道行く人を襲い、身包み剥いだ挙句に殺す。
そんな最低な商売に愉悦すら感じる、最低の人種―――しかし。
「はっ…はっ…はぁっ…ひィィっ…!」
男は今、心底怯えていた。彼は、狩りを愉しむ側から、完全に逆の立場へと叩き落されてしまったのだ。
「なんだ…なんなんだ、あいつは!」
いつも通りの仕事のはずだった。仲間たちで周りを囲み、怯える獲物をゆっくりといたぶる―――はずだった。
誤算は、ただ一つ。あの男は―――紫の瞳を持つ、あの男は、とてつもない怪物だった。
まるで草刈でもするかのように、奴は、仲間たちの首を次々に狩っていった。助けようなんて思わなかった。
とにかく今は、逃げなくては…逃げなくては!それだけで頭がパンクしそうだった。
しかし、どうする?どうやって逃げる?このままでは、確実に追いつかれる…!
「ん…!」
と―――行く手に、一人の男が見えた。先回りされたか、と一瞬肝を冷やしたが、そうではない。あの怪物では
なかった。
(大方、迷い込んだ旅人ってとこか…!よし、いちかばちかだ!)
あの男を人質に取り、その隙に逃げよう…野盗はそう考えた。そりゃあ、見ず知らずの他人なんて、人質の役に
立たないかもしれないが、一瞬くらい怯ませることはできるかもしれない、そうすればどうにか逃げ出せるかも
しれない…。
かもしれない、かもしれない。仮定に仮定を重ねた穴だらけの思考だったが、彼にはそれ以外の道は残されては
いなかった。素早くその男に駆け寄り、背後から羽交い絞めにして、首筋に右手に持った短刀を押し当てる。
「オラ、命が惜しけりゃ、大人しくしてろ!」
凄みをきかせて威圧する。これで相手は怯え、言うなりになる―――そのはずだった。
「く…くっくっく…ワハハハハハハハ!」
だが、返ってきたのは高らかな笑い声。恐怖のあまりの苦し紛れの笑いなどではなく、心の底から愉快で仕方が
ない―――そんな風情だった。
203遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/23(木) 09:03:08 ID:QEc2C4Ma0
「なっ…何がおかしい、テメエ!」
「貴様がおかしいに決まっているだろう、ゲテモノめ。そのような薄汚い刃物などで、このオレを脅そうとは…
よほど自殺願望が旺盛のようだな」
「―――っ!単なる脅しだと思ってんのか!?上等だ!そのオキレイな顔を傷物にしてやるぜ!」
あまりといえばあまりな言い草に、かっと頭に血が昇った。身なりや仕草からして、どうせお高くとまった貴族
のお坊ちゃんというところだろう。鼻の一つでも削ぎ落としてやれば、泣いて赦しを乞うに決まっている。
野盗は短刀を振り上げて―――凄まじい痛みが脳天を貫き、その右腕を振り下ろすことができなかった。
「ぐっ…え…?」
思考が停止した。何が起こったのか。今自分の腕がどうなっているのか―――
分かっていた。分かってはいたが、認めたくなかった。あまりにも、恐ろしい事実だったから。
右腕の肘から先が、なくなっていた。何か、物凄い力で、乱暴に引き千切られた…そんな有様だった。
「あ、あ、あ、あ、お、お、お、おでの、うで、うで、腕が腕がウデウデうでがァァアァァアアッ!」
みっともなく泣き叫び、地面を転げ回る。そして涙でぐしゃぐしゃになった視界。
―――そいつは、いた。
「りゅ…龍…?青い眼の…白龍…」
そこにいたのは眩い程に神々しい、白き龍の姿だった。神秘的な青い瞳に魅入られ、野盗は失った右腕のことも
忘れて、呆然としていた。股間を、生暖かい液体が濡らしていくのも気にならない。
だって、そうだろう?その白龍は、口をモゴモゴさせて何かを咀嚼していたのだ。何を、なんて―――
考えたくもない。
「ハァ〜ハッハッハッハッハ!光栄に思うがいい!貴様の如きゲテモノが、この至高にして究極の偉大なる白龍
―――ブルーアイズ・ホワイトドラゴンの晩餐になれることをな!」
「ぎゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
野盗は獣のような声を上げて、必死に地を這いずる。ここから逃げるために。どこでもいい。どこでもいいんだ。
ここじゃないどこかなら、地獄だって大歓迎だ。だから―――助けて―――
「…あ…」
ピタリ、と野盗は動きを止めた。見上げればそこに、いた。
204遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/23(木) 09:04:47 ID:QEc2C4Ma0
―――くすんだ色の銀髪に、紫のメッシュ。印象的な紫の瞳。その眼光は鋭く、見据える者を震わせる。顔立ち
は端正で彫りの深い美丈夫だが、どこか荒んだ雰囲気を漂わせている。
そして、両の手に持つ、黒い刀身の双剣。それはまるで死神の鎌を思わせる、不気味な輝きを放っていた。
「影が見えるな、お前には―――死神の影だ。それに憑かれた者は皆…近い内に死んでいく」
「な、何、言って…」
「…見えるんだよ、私には。黒い影が…」
不可思議なことを口にする紫眼の男。野盗は口を開きかけたが―――
「…どけ。邪魔だ」
男が短く告げると共に、黒き双剣が一瞬煌いた―――けれど、何も起こらない。なんともない―――
「な、なんだ…」
ほっとして、自分が無事なことを確かめようと、残された左手を持ち上げた野盗は―――その瞬間、全身隈なく
サイコロの如く細切れになり、血や体液、臓物と汚物の混じった肉塊と化して地面にばら撒かれた。
男の剣は、恐るべき速さで野盗を斬り殺していた。あまりにも速すぎて…斬った後もしばらく、断面がくっついた
ままだったのだ。
かくしてこの場に残されたのは、白龍の主と黒き剣士。
白龍を従えた男―――海馬は細切れにされた野盗になどは一瞥も向けない。彼の目は、黒い剣を持つ男の瞳を
見ていた。それはまるで、死を宿したかのように暗い、紫(し)の瞳。
(クク…いい目をしている。まるで、牙を剥く狼だ)
男は、静かな口調で海馬に問う。
「白き龍を従える者…か。貴様、何者だ」
「フ…人にモノを尋ねるならば、先に名乗るのが礼儀というものだろう?それとも獣は人間の礼儀を知らんのか?
なあ、黒き剣を携えし狼よ」
嘲るような海馬の言葉。男がそれに対し何を思うのか、表情からは窺い知れない。しばしの沈黙。そして。
205遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/23(木) 09:05:40 ID:QEc2C4Ma0
「エレウセウス…」
「なに?」
海馬は、ぴくりと眉を持ち上げた。
「私の名だ。大概はエレフと呼ばれていたが…今はもう、そう呼んでくれる者もいない」
男―――エレフの言葉に、表にこそ出さないものの、海馬は内心動揺する。
「…エレウセウス…エレフ…エレフセイア…あの胡散臭いジジイの言っていたアレか…?クク…なるほどなあ…
そういうことか。実に面白くない。オレの大嫌いな非ィ現実的な事態というわけか」
「貴様…何をわけの分からぬことを言っている?」
「フン。つまらんことを気にするな…時にエレフ―――貴様、まさかミーシャとかいう名の妹を探しているなどと
言わんだろうな?」
その瞬間だった。それまで泰然としていたエレフが一瞬にして形相を変える。目を血走らせ、海馬に掴みかかった。
「お前―――何故妹のことを、ミーシャのことを!?何か知っているのか!?言え!隠すとためにならんぞ!」
「グッ…!お、落ち着け、話はしてやるから、まず手を離せ」
その豹変に、流石の海馬も冷や汗をかきながら男を必死に宥める。男は海馬から手を離しながらも、その瞳からは
未だ妄念じみた光が消えていない。海馬は襟を正しながら、心の中で毒づく。
(ちっ…とんだシスコンだ。たった一人の肉親とはいえ、そんなに大事か?全く、こうはなりたくないものだな)
―――自分のことは、完全に棚に上げているようだった。
彼は彼で、ブラコンである。

こうして、海馬とエレフ―――心に獣を宿す二人が、出会った。
206サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/23(木) 09:14:32 ID:QEc2C4Ma0
投下完了。前回は>>193から。
今回は社長サイド。ブラコンとシスコンが出会ったという、それだけの話です。
とりあえず、主軸となる人物は大体出ました。

>>195 一応、主役は遊戯ですが、出番自体は城之内の方が多いかもしれません。
     単純一途な熱血漢で、書きやすいキャラですから。

>>198 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとことん喜ばせてやるからな
    (SSを頑張って書く的な意味で)

>>ふら〜りさん
オリオンはおちゃらけつつも、決める時は決める男に書けたらな…僕の中では、
「ちょっとハジけたクルツ」といった感じですね。美形だけど女好きで軽い性格・射撃(弓)の名手で。

>>200 さいさん・VSさんと並べてしまったら申し訳ないですwお二方、おめでとうございます。

>>201 設定的にはバトルシティ後なんで、三幻神は全部遊戯が持ってるんですよね…
     オベリスク、社長が使ってこそ映えると思うんですが。
207作者の都合により名無しです:2008/10/23(木) 10:55:45 ID:UsaXyTrm0
お疲れ様です。サマサさんえらくペース速いですな
嬉しいことですがまた途中で半年くらい止まるのは勘弁してほしいなあ

今回は待望の社長の登場ですな
異常なハイテンションが海馬らしくていいです
ブルーアイズとか原作後半は雑魚になってしまったけどねw

208作者の都合により名無しです:2008/10/23(木) 14:05:59 ID:oVb4IlHpO
サマサさんお疲れさまです。

いよいよ海馬とブルーアイズの登場ですね。
城之内のレッドアイズも出てきたことですし、遊戯のBMや三幻神も楽しみです。
209作者の都合により名無しです:2008/10/23(木) 19:58:53 ID:Zn/CuJVC0
社長相変わらずハイテンションで良いんだが
「ワハハハハこれが俺のオベリスクだーー」の名セリフは聞けんのか、残念w
210作者の都合により名無しです:2008/10/24(金) 00:36:07 ID:q+TauRb60
遊戯、社長、城ノ内とオリキャラが中心となってお話が進むのですか。
それぞれが切り札を持ってるのですが、三幻神を全部遊戯が持ってるのは
著しくパワーバランスが偏るなw
やっぱりオベリスクは社長が持ってて映える。

三幻神って対等じゃなくてヒエラルキーあったよね?
ラー→オベリスク→オシリスの順だったっけ?強さというか偉さというか
211作者の都合により名無しです:2008/10/24(金) 16:11:16 ID:wn6MyvWi0
またNBさんやハロイさんやエニアさんが来なくなったか
誰かが復活すると誰かが来なくなるなw
212遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:36:45 ID:NTHjYMfW0
第四話「凡骨の決意」

レスボス島の中心に位置する、星女神の神殿。
「城之内さ〜ん!これ、あっちに運んでくださーい!」
「おう、任せとけ!」
「すいませ〜ん、ここの掃除もお願いできますか?」
「おう、これ運んだらやっとくぜ!」
―――城之内はここで、雑用をして働いていた。当面、遊戯と合流するのが第一の目的(海馬はいらねえ!)だが、
手がかりもなく探し回るにしてはギリシャは広いし、先立つモノもない。
「それじゃあ、こうしたらどうかしら?」
そんな迷子の城之内くんに、助け舟を出してくれたのが犬のお巡りさん…でなくて、ソフィアだった。
「星女神の神殿には各地から巡礼者がやってくるわ。その中に、あなたの友人を見たという人がいるかもしれない
でしょう?或いは、本人が訪ねてくるかもしれない。だから、しばらくここで働いたらどうかしら」
というわけで、ソフィアの紹介により、城之内は星女神の神殿の雑用係として住み込みで働くこととなった。男手
が少なく、城之内はこう見えて働き者なので重宝がられ、今ではすっかり神殿の皆と打ち解けていた。
「あら、城之内。精が出るわね」
柱の汚れを落とすために奮闘する城之内に声をかけてきたのは、ミーシャだった。彼女もこの神殿の巫女として、
星女神に仕える身である。
「お、ミーシャか。なーに、半端な仕事したら、紹介してくれたソフィア先生にあわす顔がねーからな」
城之内はへへ、と笑った。あらそう、とミーシャも笑い、手にした籠をドン、と地面に置く。
「それじゃあ、お掃除が終わったら、お洗濯もお願いね」
「…………おーけー」
「ありがとう。それじゃ、また後でね!」
ミーシャはパタパタと去っていった。
213遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:37:31 ID:NTHjYMfW0
「あの女、侮れねえ…しかしオレ、実は奴隷扱いされてんじゃねえの?」
城之内は嘆息したのだった。

―――そして。一通りの仕事を終えて、城之内は神殿の中庭に出た。
清らかな水で満たされた、大きな泉。木々が風に揺れて、さわさわと心地よくざわめく。
「うむ…穢れた人間界にもまだ、これほど豊かな自然が遺されていたのだな…」
何となく全てを超越したというか中学二年生のようなセリフをほざいてみたが、ちょっぴり恥ずかしくなったので
咳払いする。誰も聞いてませんように。気を取り直してデュエルディスクにカードをセットする。
「来い!レッドアイズ!」
ゴォォォォ!と唸りをあげて、真紅の眼を持つ黒竜が舞い降りた。ペタペタとその硬質の身体を撫でて、うんうん
と頷いてみせる。
「ん〜〜〜…最初はびっくらこいたけど、なんか感激だぜ!」
グォー、とレッドアイズも相槌を打つかのように鳴いた。
「ははは、そうかそうか!お前も嬉しいか、レッドアイズ!」
「―――楽しそうね、城之内くん」
涼しげな声と、くすくすと朗らかな笑い。目をやると、そこにいたのは穏やかな雰囲気の、金髪の美女だった。
「あ、フィリスさん!こんちわっす!」
「ふふ、こんにちは」
この神殿の中でも年長の巫女―――フィリスは柔らかな笑みで応える。城之内はそれを見ながら、思った。
(…どうでもいいけど、この島には美人しかいねーのか?)
もしそうなら、この世の楽園とはここ、レスボス島じゃないのだろうか。それはともかく。
「もしかして、さっきからここに?」
「ええ。<穢れた人間界>の辺りからバッチリ」
「…そうすか」
しっかり聞かれていた。城之内は頭をかきながら泉のほとりに座り込む。フィリスもそれに倣い、隣に座る。
「ご一緒していい?」
「ええ、モチロン…あ、そうだ。ちょっと訊きたいことがあったんです」
「何かしら?」
「ええ。ミーシャのことなんすけど」
「あらあら、ミーシャが気になるの?おませさんね」
「なっ…!ち、違いますよ!助けてもらったけど、オレ、あの人のこと、よく知らねーなって思っただけで…」
214遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:38:19 ID:NTHjYMfW0
城之内は手を振って否定する。なんだって女はすぐさま、こういう話にしたがるのか。
一応断わっておくが、城之内がミーシャを女性として意識しているというわけではない。ただ彼は、どうしても
引っかかっていたのだ。エレフセイア―――あの神話が。
「それに厳密にはミーシャのことっつーか、星女神の巫女のことっすよ。どういうその、アレなんです?具体的
に、何をどうするってのが、イマイチ分かんねーというか…」
それを聞いて、フィリスは眉を顰めた。やがて、ゆっくり口を開く。
「…あの子は、特別よ」
「特別…?」
「あなたは巫女と聞くと、どんなイメージ?」
「うーん…神様にお祈りしたり、神様と交信したりつーか、そんな感じっすかね…」
「そう…それよ」
城之内の答えに、フィリスは頷いた。
「御祈りはともかく交信になると、巫女といっても本当にそんなことができるのはほんの一握り―――ミーシャ
はね…その、一握りなの」
「はあ…?」
「あの子には、星女神様の声を聴き伝えることができる力があるのよ」
「女神の声って…そんなことが、本当にできるんすか!?」
城之内は驚き、訊き返した。どちらかというと苦手な分野の話だが、興味の方が勝った。
「勿論、いつでもできるわけじゃないわ。何というか、そう、星女神様の気分が乗った時だけね」
「気分が乗ったって…そんなもんすか」
割といい加減な女神様だ。ギリシャの神様って、それで務まるんだろうか。
「けど、フィリスさん。オレはそんなもん関係ねーって思いますけどね」
城之内は、言った。
「あの人、どこにでもいそうな、普通の人っすよ。いや、貶してるんじゃなくて、いい意味でね」
「…そうね。その通りだわ」
フィリスは城之内の答えに、どこか満足げに笑った。
「あなたの言う通りよ。ミーシャは特別な力を持ってる―――でも、彼女自身はそうじゃないわ。ごく平凡な、
どこにでもいる、傷つきもすれば泣きもする、普通の女性なの」
215遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:39:07 ID:NTHjYMfW0
フィリスは、城之内の目を見つめる。もしもやましい気持ちがあれば、すぐにでも目を逸らしてしまいそうな、
強い色をした瞳だった。
「だから、ミーシャを傷つけたりするようなことは、しないでね」
「分かってますよ、そんなん」
城之内は臆することなく、まっすぐにフィリスの目を見返した。
「オレは、友達を傷つけも裏切りもしねえ―――ミーシャのことだって、友達だと思ってる」
「…そう」
フィリスは、笑った。いい笑顔だな、と城之内は思った。
「仲良くしてあげてね、ミーシャと…あら」
噂をすれば、というべきか。神殿の方から、ミーシャが手を振りながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「じゃあ、私はこれで。城之内くん、あとはゆっくりしていってね」
「はあ。お疲れ様っす」
フィリスはすれ違いざまにミーシャと軽く挨拶しながら神殿に消えていく。
「ふふ、こんにちは、レッドアイズ。今日もカッコいいわね」
ギャオ、と一声、レッドアイズも挨拶を返す。そしてフィリスと入れ替わるようにして、ミーシャが城之内の隣に
座り込んだ。
「さっきはごめんね、洗濯押しつけちゃって」
「なーに、いいってことよ。あ…そうだ、ミーシャ。一つ、訊いていいか?」
「何かしら?スリーサイズは教えないわよ」
冗談っぽく、ミーシャは笑う。
(…最初は寂しそうな感じだなって思ったけど、意外に強かだぜ、この女…)
そんなんじゃねーよ、と城之内は首を振った。
「あのさ…訊きにくいことかもしんねーけど…あんたもしかして、生き別れの兄貴とかいるんじゃないか?」
その瞬間、ミーシャの顔色が変わった。目を見開き、思わずたじろぐような視線で城之内を凝視してくる。
「…なんで、それを?誰かから聞いたの?」
「あ、いやあ…なんつーか寂しそうっつーか、そんな感じだったから、もしかしたらそうなんじゃないかなー、っと
思っただけで、なはは…」
流石に<いやあ、実はオレは未来から来まして。そこであなた方の話が神話になってるんですよ、はっはっは>
などと言えず、ごまかし笑いをする城之内を尻目に、ミーシャは言った。
「…いるわ。エレフ…双子の兄が。もう何年も会ってないけれど」
216遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:39:52 ID:NTHjYMfW0
それを聞いた時、城之内は自分の心臓がドクン、と跳ね上がるのを感じた。
(エレフ…!間違いねえ…やっぱりこの人が、あの神話のミーシャなのか…)
城之内は内心の動揺を隠しつつ、会話を続ける。
「すまねえ…悪いこと、訊いちまったな」
「…気にしないで」
ミーシャはそう言ったが、二人の間には何ともいえない空気が漂ってしまった。それを嫌うように、ミーシャが
ゆっくりと口を開いた。
「エレフはね…すっごい泣き虫だったわ。私の方は逆にお転婆でね。けど―――私は、エレフが大好きだった」
「…そっか。会いたい…よな、やっぱり」
「ええ…でも、どこにいるのかしらね。オリオンも兄を見つけたら、すぐに連れてくるとは言ってくれるけど、未だ
に兄の噂さえ聞かないわ」
「…オリオン?なんか、どっかで聞いたような名前だけど…誰だっけ?」
「あ、ごめんなさい。まだ話してなかったわね―――星女神・アストラ様の加護と寵愛を受けた勇者、弓の名手
オリオン…なんて持ち上げられてるけど、実体はただのおバカさんよ」
いい人なんだけどね、とミーシャは笑った。言い方は酷いが、嫌っているわけでもないようだ。むしろ、親しさ
故の軽口という印象を受けた。
「ふーん。オレも会ってみたいな、そいつ」
「やめた方がいいわよ。余計にバカになっちゃうわ」
「ははは、そりゃ酷い…つーかテメエ、オレのことバカだと思ってたのか!?」
「うん」
「あっさり頷いたー!?」
と、こんな感じで実に友好的な会話がしばし続き、ネタも尽きた頃。
「…オレにもさ、妹がいるんだ。今は訳あって、離れて暮らしてるけどよ」
やがて城之内は、ポツリと言った。
「だから、かな。失礼かもしれねえけど、あんた見てると静香のこと―――妹の名前な、これ―――考えちまう
んだ。あんたと、その、生き別れになったエレフって奴が…まるで、自分たちのことみてーに思っちまう」
217遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/25(土) 13:55:33 ID:E2/3q5Mq0
ミーシャは何も言わない。ただ静かに、城之内の話を聞いていた。
「もしも、オレが同じ立場なら―――妹を探すよ。どんなに苦労をしてでも、どんなに遠い道のりでも―――
妹を、探す。きっとあんたの兄貴も同じさ」
城之内は、力強く語り続ける。
「また、会えるよ。絶対に、あんたと、あんたの兄貴はまた会える」
「…優しいのね、キミ」
ミーシャは、かすかに微笑んだ。城之内も、快活に笑う。
「だからあんま暗くなんなよ。それにあんた、そんだけキレーなんだ。好きな男だって一人や二人はいるんじゃ
ないのか?」
「え…そ、そんなのいないわよ」
顔を赤くしてそっぽを向くミーシャ。何となく思い当たる節があったので、試しに訊いてみた。
「もしかして―――その、オリオンって奴のことか?」
ぶーっと、ミーシャは思いっきり吹き出した。
「そそ、そうじゃないわよ!あ、あ、あんな女の子とみれば声かけまくってる人なんて、ぜ、全然そんなんじゃ
ないわ!口は悪いし性格軽すぎるし下品だし、それに…」
ブンブン腕を振りながら必死に否定するが、やればやるほどドツボにはまっている。
(…図星か)
城之内は心の中で大爆笑した。余りにも予想を越える、いい反応だった。込み上がる笑いが抑えきれない。
「ぷ、く、ははは…あーはっはっはっは!分かった、分かったって。別に誰にも言いふらしたりしねーから安心
しなよ。オレはこう見えて口はかてーからな!だはははは!」
「な、なに勘違いしてるの!?だから、私はその、そんなんじゃないって、何度も言ってるじゃない!」
ついには城之内の頭を本気でどつきまわし始めた。城之内は慌ててそれをガードしながら、思った。
(悲しんで笑って怒って、兄貴の心配して、人並みに恋もして―――星女神の巫女だなんて言ったって、どこに
だっていそうな、普通の女の人じゃねえかよ…)
城之内の脳裏に蘇るのは、あの神話。星女神の巫女・ミーシャは神への生贄となった―――
(そんなこと、させねえ…この人を、死なせたりしねえ)
城之内は、拳を握り締めて、強く誓った。
(この人を―――生贄になんざ、させるかよ…!)
218サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/25(土) 13:56:57 ID:E2/3q5Mq0
投下完了。前回は>>205から。
城之内、女の園で割と楽しくやっております。彼、同級生の女子にはメッチャ嫌われてますが、
年上や年下とは割と上手くやってけるんじゃないでしょうか。
ちなみに「オレ、奴隷扱いされてね?」などとのたまっていますが、本当の奴隷はシャレにならない
ほど悲惨です。次回はそういうものを扱うので、ちょっと重い話かもしれません。
しかしレッドアイズさんのマスコット的な意味での魅力が上がっていく…コイツ、数あるカードの中でも
忠誠心かなり高そうだからなあ(遊☆戯☆王世界ではカードに意思があるのは常識です)。

>>207 古代編だとむしろ、青眼≧三幻神な扱いだったので、恐らく創始者のペガサスさんが青眼の
     強さを過小評価しすぎ、三幻神を過大評価しすぎたんだと思われます。

>>208 社長のあのキ○ガイ一歩手前の名ゼリフの数々、見てるだけで幸せな気分になります。
     三幻神も活躍させるつもりです。師匠は…弟子の方が出番が早い(汗)

>>209 どうにか理由を付けてオベリスクを持たせることができないかとは思うんですが…
     しかし、青眼三体さえあれば、それで彼は無敵にして最強のはず。

>>210 オリキャラじゃねえよ!SoundHorizonのアルバム<Moira>の登場人物だよ!…まだまだマイナー
     だもんなあ(涙) 古代編見るに、青眼は三幻神より上だと思うんですがねえ…それよりは最強が
     レッドアイズの城之内くんの方が問題。ギルフォードは強いけど、後付感がすごくて好きじゃない
     んですよね…。三幻神の序列はラーが最高でオベリスク・オシリスが同列二位だったはず。
219しけい荘戦記:2008/10/25(土) 16:14:26 ID:UuCsxvrh0
第二十一話「新たな強敵」

 中国ナンバーワンの毒手使い李海王が、何者かによって倒された。
 この報せがコーポ海王の面子に与えた動揺は大きかった。しけい荘と並び立つほどの武
力を持つ彼らにとって、武術における敗北は絶対に許されないからだ。
 コーポ海王を束ねる立場にある劉海王は、すぐさま李を除く全メンバーを集めた。
「すでに知っておる者もおろうが、昨夜李海王が路上で発生した立ち合いにて不覚を取っ
た。中国最高峰の拳法家であるべき“海王”が野試合とはいえ敗北したのだ。──否、野
試合にもかかわらず、というべきか」
 ゆっくりと絞り出すように劉海王が告げた。表情にこそ出ていないが言葉の節々に悔し
さがにじみ出ている。
 凶報に驚きと焦りを禁じえない海王たち。兄である範海王は特に不機嫌な面持ちをして
いる。
 気まずい沈黙を断ち切るように、烈海王がいった。
「ところで範海王よ、李氏の容態はどうなのだ」
「幸い脳震盪を起こしているだけだ。じきに目を覚ますだろう」
 突然、陳海王が笑い始めた。
「ふん、たしかに幸いだったな。ずいぶんお優しい相手だったようだ。相手が相手なら、
今頃アンタの弟は墓の下にいただろうな」
 これを聞いた範は陳を鋭く睨み返した。が、あながち間違いでもないので反論すること
はない。
「しかし……彼の毒手は触れさえすれば有効打になるはずね」
「うむ、薬硬拳の威力は絶大だ。私の肉体といえど、毒の侵食は避けられん」
 毛海王と楊海王が立て続けに疑問の声を上げる。李と立ち合えば、相手もただで済むは
ずがないと。
「毒手に命中した形跡はなかった。つまり李は一撃も与えられずに倒されたということに
なる」
 李は決して毒手だけの拳法家ではない。体術にも秀でている。そんな彼が触れられもせ
ずに敗れるという場面はいささか想像がしにくい。
「──ならば不意の一打での決着、が考えられるな」
 このように孫海王は推測した。現在与えられている情報では、これがもっとも妥当な分
析だといえる。
220しけい荘戦記:2008/10/25(土) 16:15:11 ID:UuCsxvrh0
 結局議論はまとまらず、集会は劉によって幕を下ろす。
「……とにかくじゃ。我ら海王は闘争では必ず勝利せねばならん。たとえ敵が近代兵器を
装備した軍隊であろうとな」
 すると真っ先に範は部屋を出て行った。
「不意打ちとは、海王も嘗められたものだ。不甲斐ない弟の不始末は俺がつける」

 午後九時を回った頃、範は一人で住宅街を歩いていた。むろん、弟を仕留めた敵と決着
をつけるためだ。
 打撃主体の流派「拳王道」を極めた範海王は、中国でもトップクラスの打撃のスペシャ
リストである。実力は弟である李海王をまるで寄せつけないほどだ。彼の拳足は鋭利な刃
物のように研ぎ澄まされている。
 まるで待っていたかのように仇は眼前に現れた。
「出たな。李を不意打ちで倒してのけたらしいが、俺には通用しないと正面から挑みに来
たか」
「不意打ち? とんでもない、昨日のあれは正々堂々とした決闘だった」
「ほう、ならば貴様は海王の名に実力で打ち勝ったといいたいわけか」
 怒りをにじませる範。
「今から証明すればいいのかな? 昨日の彼や君より、私の方が上だと──」
「貴様ッ!」 
 挑発に乗せられる形で範が構えた。戦いが始まる。
221しけい荘戦記:2008/10/25(土) 16:16:01 ID:UuCsxvrh0
 その頃、コーポ海王でようやく李海王が目覚めた。まだ敗北の記憶が残っているのか、
ひどく息を切らしている。
「私の毒手が……かすりもしなかった……。触れることさえできなかった……」
 李は兄が仇に挑んでいることを知らない。が、肉親としての第六感が兄の危険を知らせ
ていた。
「兄さんは、勝てない……ッ!」
 予感は当たった。範は一撃たりとも当てられず、暗い道路に頭から沈んでいた。
「ワケ分かんねェ……」

 李海王と範海王。謎のチャレンジャーによって、わずか二日間で海王が二人も潰された。
 この事実はしけい荘にも伝えられた。かつて「中国拳法体験ツアー」にて海王の恐ろし
さを嫌というほど味わった彼らも、それぞれが大きなショックを受けた。
「得体が知れん相手だ。夜出歩く時はくれぐれも気をつけるように」
 わざわざオリバが皆にこう告げたことが、新たな敵が一筋縄ではいかない相手だという
ことを証明していた。
 しかし、ただ一人闘志を燃やすドリアン。
 しけい荘にいながらにして海王の名を継ぐ彼にとっても、海王の敗北は見過ごせる事件
ではない。海王の恥は海王が雪がねばならない。
 海王の誇りを守るべく──ドリアンは自らを囮とする。
 範海王が倒されてから三日後の夜道にて機は訪れた。電柱の陰からドリアンに投げかけ
られる若い声。
「あなたと対決したい」
222サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/10/25(土) 16:17:54 ID:UuCsxvrh0
第二十一話終了です。
次回へ続く。
223作者の都合により名無しです:2008/10/25(土) 22:43:18 ID:PkPNGEO70
>サマサさん
城之内なんか幸せそうですけど、巫女を守るナイトみたいな感じになってきましたね。
レッドアイズドラゴンをペットみたいに出来るなんていいなあ。


>サナダムシさん
なんかシリアスな展開になってきましたな。闇討ちとかバキというより餓狼伝ぽい。
でも海王って烈を除いて全員だらしないイメージあるんだけどw

224作者の都合により名無しです:2008/10/25(土) 23:14:21 ID:y7FoQ0rb0
シリアスになるとしけい荘は終わりが近いんだよね
少し寂しくもある。30話位で終わりそう。
なんか登場キャラの原作ストックも底を突きかけてるみたいだし
このシリーズが最後ってのは嫌だな。
225作者の都合により名無しです:2008/10/26(日) 00:05:11 ID:gF9dWsuG0
お二人ともお疲れさんです。
確かサマサさんとサナダムシさんとNBさんは登場時期が一緒だったんだよね
違ったかな?

・サマサさん
RPGの王道みたいな展開になってきましたね。
城の内カッコいいけど、遊戯の力を借りるんだろうなw

・サナダムシさん
範はやはりこの役回りかw彼らしくていい。
ドリアンなんか負けそうな気もする。シコル確変も近そうだし。
226作者の都合により名無しです:2008/10/26(日) 17:30:45 ID:M4oGg1390
サマサさんもサナダムシさんも好調だなー
ベテランが(なんか表現が変?)頑張ってくれてると安心感がある
でも確かにしけい荘、もうすぐ終わりそうなんだよなー
遊戯王はまだまだ始まったばかりで1年は大丈夫と思うけど
227作者の都合により名無しです:2008/10/26(日) 22:33:53 ID:Sae2Q4fC0
まだ本格的な戦闘になってないからわからんけど
サマアさんの新作は期待持てるな
遊戯王懐かしいw
228作者の都合により名無しです:2008/10/27(月) 17:42:46 ID:DgH85g/60
エニア氏データ消えたショックで断筆とか大丈夫か
俺も他スレで書いてたのが消えてもう書かなくなった事とかある
229遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/27(月) 23:57:21 ID:a7TP6+/80
第五話「死と嘆きと風の都」

風の都と呼ばれる街・イリオン。だが、紫の瞳の少年は思う。ここはそんな大層なもんじゃない―――
ただの地獄だ。
ここは奴隷たちの部屋―――いや、部屋なんてご立派なものじゃない。何もない、だだっ広いだけの空間。
虚ろな目をした奴隷たちが、我が身を嘆きながら横たわっている。その中に、その紫の瞳の少年はいた。
彼の名は、エレフ。元は幸せな家庭で育ちながら、一転して奴隷に堕とされた少年。
鞭で打たれて、散々殴られて、痣だらけの惨めな顔。だがその目には、強い光があった。誰もが生きる希望を失い、
運命に屈する中で―――彼は、そうしなかった。
(俺は…こいつらみたいにならない。なってたまるか!)
自分たちを扱き使う連中と同じくらいに、彼は無気力な奴隷たちを軽蔑していた。牙を抜かれた、惨めな負け犬。
(生きてるくせに、死んでやがる…その腕はなんのためにあるんだよ。剣を握る気もねえのかよ!)
いっそ死んだ方が楽だ。誰もがそう口にする。だが、エレフはそうは思わない。
(奴隷は犬同然だって?それならそれでいいさ。例え犬でも―――!)
―――例え奴隷が犬であれ―――剥くべき牙は忘れない―――!
そんな反骨精神のおかげで彼は奴隷たちを使役する神官たちに目を付けられ、余計に酷い扱いを受けてしまって
いるのだが。
「くそォ、痛え…!」
歯を食い縛ったせいで、顔面に無数に付けられた痣がヒリヒリ疼いた。エレフは自分を散々嬲ってくれやがった
あの胡散臭い変態野郎の顔を思い浮かべ、顔を歪めながら憎々しげに呟く。
「あの変態神官…いつか殺してやる…!」
そう呟いた時、クスクスと、含み笑いが聞こえた。いつの間にやら目の前に、見慣れた顔があった。
「よう、ブサイクちゃん。ひでえツラだなあ」
「ふん、人のこと言えたツラかよ…」
そう返された彼はちげえねえ、と快活に笑う。とても奴隷のイメージではない。
彼の名はオリオン―――顔の痣の数から分かる通り、神官からの受けの悪さは、エレフといい勝負だ。
エレフが彼に抱いている印象は、ズバリ<慣れ慣れしいバカ>ただし<ある意味尊敬すべきバカ>である。
彼はそこらの木片で作った手製の弓と矢(バカのくせに器用だとエレフは思った)をもてあそびながら、エレフ
の隣に座った。
230遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/27(月) 23:58:25 ID:a7TP6+/80
しばし二人は他愛もない話に興じる。それ以外に娯楽などないからだ。オリオンはそんな与太話の中で、何でも
ないかのようにエレフに問うた。
「しかしよ、エレフ。いつか殺してやる、つーけどさ。いつかって…いつよ?」
「え?いつかって…」
答えに詰まる。いつか殺してやる。そう、自分は口癖のように何度も言った。だけど。
(けど、俺は…未だに、その<いつか>を決めちゃいない)
そして、エレフは、結局答えられない。オリオンは頭を掻きながら「悪かった」と呟く。
「あの野郎、胡散臭くて変態のくせに神官だからな。そうそう簡単に殺れねえのは分かってるよ」
「…ふん。どうせお前も口だけだって、そう言いてえんだろ?」
「うんにゃ。そうは言わねえよ。お前は本当にやらなきゃいけない時はやれる奴だ。だからよ」
オリオンは胸を張って言った。
「いつかお前がやる時にゃ、俺が助けてやるさ」
「…ふん。ま、期待しないでおくよ」
「つれないねえ…で、変態神官ぶっ殺して、その後は、妹を探すんだろ?」
「ああ…そうだよ。ミーシャ…きっとあいつも生きてる」
エレフは空を仰ぎ、今はどことも知れぬ妹を想う。離れ離れになって随分経ったが―――忘れたことなどない。
思い出すまでもなく―――いつも、想っている。
(きっと見つけ出して…俺が、守ってやる)
そんな気恥ずかしい誓い。けれど、それが今の彼にとって、最も大きな生きる理由だ。
「じゃあその時には、俺もどうせやることないし、妹探しを手伝ってやらねえこともないぜ?」
「ふん。そんなこと言って、俺の可愛い妹に言い寄ろうってのか?誰がテメエに妹を寄越すかボケ」
「けっ。お前さんの妹じゃあ、カワイコちゃんなんて期待しねーよ…血筋ってのは残酷だぜ?」
「ふっ、言ってろ。この俺の妹だ、とびきりの美少女だよ」
「ぷ、く、くくく…」
「あっはっはっは!」
231遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/27(月) 23:59:08 ID:a7TP6+/80
二人はどちらともなく笑いあった。
どこか妙な組み合わせながら、凸と凹のようにぴったりはまる。それが、エレフとオリオンだった。

―――数日後の夜。エレフは部屋を抜け出し、アテもなく歩く。
勿論見つかれば、こっ酷く殴られるだろう。けれど―――何故か、今日。今日に限って。
そうしなければならない―――そう、思った。そして…彼は聴いた。その声を。
(ヤァ、エレフ。綺麗ナ満月ダネ?ィィ夜ニナリソゥダ)
もはやその声は、彼にとって馴染み深いものだった。初めは不気味がっていたものだったが、今ではこの声は、
自分の一部だとすら思えるようになった。彼は天を仰ぎ見る。
夜空は少し雲がかかっているが、確かに綺麗な満月だった。
(狼は奔る前に月に吼える―――)
どこかで聞いた、そんな言葉を思い出していた―――俺は、狼のように、強くあれるだろうか?
「…あ…嫌ぁ…!」
漏れ聞こえてきた悲鳴に、思考が中断する。どこから聞こえた―――辺りを見回す。
(あの部屋か…?一体何が…)
中にいる人間に気付かれないよう、ドアに耳を当てて中の様子を探る。
「逃がさないよぉ、仔猫ちゃん…高い金を出して買ったんだからねぇ…イヒ、イヒ、イッヒッヒッヒ…」
(…っ!)
吐き気を催すような、胡散臭い変態神官の猫撫で声。気色が悪い。クソッタレ。
「嫌…来ないでぇ…!」
次に、少女のか細い声。これだけで、エレフは状況を飲み込んだ。要するに―――あの野郎は―――
(何が…神に仕える者だ!畜生!)
頭が沸騰するほどの怒り。爪が食い込むほどに、拳を握り締めた。
「私の渇きを潤してくれぇぇぇぇぇ…!」
「嫌ぁぁぁぁぁっ!」
少女の悲鳴が、エレフの中の何かを弾けさせた。彼は咄嗟に足元の石を拾い、ドアを蹴り飛ばす。
そこにあった光景は予想通り、あの変態神官が年端もいかぬ少女を組み敷いている、醜悪な姿だった。
232遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/27(月) 23:59:51 ID:a7TP6+/80
「な…なんだね、キミィ!折角いいところだったのに…!」
「何がいいところ、だ!クソ野郎!」
(オリオン…お前、言ったよな?いつやるんだって…)
エレフは腕を振りかぶり、握り締めた石を、変態神官の頭目掛けて投げ付けた。その一連の動作は、奇妙な
までにゆっくりと感じられた。
(いつかって…今さ!)
まるで、奔る前の狼のように、彼は月夜に吼える。
「ヤァァァァッ!」
「ギャァァァッ!」
見事―――石は変態神官の脳天に吸い込まれるように命中。変態神官は頭を押さえてのた打ち回った。そんな
見苦しい変態には構わず、エレフは少女に駆け寄る。
「大丈夫かい、君?」
「は、はい…ありが…」
二人はそこで、互いの顔を見合った。ドクン。心臓が飛び跳ねた。
「嘘…だろ?なんで…」
暗くて完全には顔は分からない。それでも―――分かった。その少女は。間違いなく。
お互いにただ一言、口を開く。
「エレフ…!?」
「ミーシャ…!?お前、なんでこんな所に…!?」
―――離れ離れになった兄妹の再会。それがこんな場所で叶おうとは女神の慈悲か、あるいはそれすら女神の
残酷さなのか。少なくとも、再会を喜ぶだけの余裕すら、彼らにはない。
「う、うう…誰ぞ…誰ぞおらぬかぁぁぁぁっ!」
変態神官(まだ生きてたのかよ、クソッ!)が叫ぶ。静かな月夜に、その声は響き渡る。すぐさま夜勤の衛兵が
駆けつけてくるだろう。酒でも呑んでサボっててくれないかと期待したいが、いくらなんでも希望的観測がすぎる
だろう。
「追っ手が来る前に逃げよう…ミーシャ!」
「…うん!」
233遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:00:33 ID:J5RP2tIv0
二人は手を取り合って駆け出す。もはや変態神官なんぞに構っちゃいられない。今は逃げなければ―――
だが運命の女神は、とことん無慈悲なのだろうか。
気が付けば二人は追い詰められ、周囲全てを衛兵に取り囲まれていた。
「このガキ共が…八つ裂きにしてくれるわ!」
一斉に槍を構える衛兵たち。エレフとミーシャは思わず目を瞑った。
(終わりかよ、これで…ごめんな、ミーシャ。俺、お前を助けてやれなかった)
エレフは唇を噛み締めながら、最期の時を待った。待った。
―――いくら待っても、その時は来ない。そのかわりに、何故か衛兵たちの悲鳴が響く。
「ギャア!」「うわあ!」「な、何だ…ヒイッ!」
二人は恐る恐る目を開く。眼前に広がる光景は、そこかしこに蹲る衛兵たち。
そしてその中央で偉そうに胸を張る、弓を構えた少年―――
「ふふん。女の子を助けて脱走なんて、男の子じゃねーですか。ヒーローじゃねーですか。さては惚れたな?
彼女こそお前のエリスなんですか?」
「バカ!こいつは俺の妹だ!じゃなくて…オリオン!お前、なんで…」
「はあ?何でお前の妹がここに…つーか可愛いじゃねえか!血筋はどうなってるんだ血筋は!?なんつってる
場合じゃねーか。しかし、なんではねーだろ?ブサイクちゃん。言った通りさ。お前がやる時にゃ―――
俺が助けてやるってね」
ニヤリ、とオリオンは笑った。エレフは不覚にも、涙が溢れた。
「つまり…<今助けてやる>ってことさ!」
言うが早いか、オリオンの構える弓から、閃光のように矢が奔る。それは正確に残りの衛兵たちの足やら腕やら
口にはできない所とかにも命中する。
(どこに当たったかは、思わず顔を顰めたエレフと、思わず頬を染めたミーシャの表情から察してください)
「おら、とっとと逃げようぜ!捕まるんじゃねえぞ、エレフ!妹ちゃん!」
「へっ…お前こそな、オリオン!」
そしてエレフは、ミーシャの手を強く握り締める。それはどんな宝石よりも、かけがえの無いものに思えた。
「エレフ…!」
返事はしない。ただ強く頷き、エレフは駆け出した。
234遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:12:40 ID:AagOvy9J0
「待てえ!この奴隷め!」
「ええい、喰らえ必殺!<弓が撓り弾けた焔・夜空を凍らせて>撃ち!」
なんかかっこいいポーズを取りつつ、オリオンは矢を放つ!
「ぐはあ!」
「ふはははは、お次は<歪む世界螺旋の焔・輪廻を貫いて>撃ち!」
実に芸術的なポーズを取りつつ、オリオンは更に射る!
「ぎゃあ!」
「さーて、お次はお待ちかねの最終奥義…」
「誰も待ってねえし技名長えよ、バカ!」
「黙らっしゃい!これぞ、オリオン流弓術の真髄!今なら入会金無料・キミも習ってみないか!?」
「わぁお得って、誰が習うか、アホッ!」
必死に走りながらも、ツッコミを入れるのを忘れないエレフ。息の合ったコンビである。
「ぷっ…クスクス…」
そんな二人を見て、ミーシャは呆気に取られていたようだが、やがて肩を震わせて笑い出した。
つられて、エレフとオリオンも笑い出す。
「へへ…ハハハハッ!」
「アハハハハ…!」
「「「ハハハハハ!」」」
三人は、心の底から笑った。この時。彼らは全てから。
無慈悲な女神の紡ぐ運命の糸からすらも、自由だったのかも知れない。

「―――と、まあ、俺たちはそんなこんなでイリオン大脱出なわけですよ。いやあ、あの頃は毎日毎日ボクらは
城壁を築くために石を運ばされて嫌になっちゃってたよ、お分かりかね?」
「うん…よく分かったよ。それで、どうなったの?」
―――街の大衆酒場。遊戯はテーブルから身を乗り出し、オリオンに続きを促した。
オリオンと出会ってしばらく経つが、遊戯は意外に彼との旅を楽しんでいた。少々軽すぎる性格だが、一緒に
いて苦にならないタイプではあるし、色々飽きない話をしてくれる男である。
(どっかの島のお姫様をナンパしたらその父親である国王に目を潰されそうになったエピソードなんて、本当
に手に汗握る展開で面白かったなあ…)
そんな物騒な話を面白いと思う遊戯も、案外いい性格をしている。それはそうと、オリオンは話を続けた。
235遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:14:00 ID:AagOvy9J0
「しかしながら、船に忍び込んで遠くに行こうとしたものの、嵐に遭って船は難破、俺たちは哀れ、離れ離れ」
「あっちゃー…それじゃあ二人には、もうずっと会ってないの?」
オリオンはうんにゃ、と首を横に振った。
「ミーシャの方は見つかったよ。今はあいつ、レスボス島で巫女さんなんかやってる」
「レスボス島で…巫女さん」
「ああ。漂流して流れ着いたとこを助けられたそうでな。運がよかったよ。で、俺は俺で色々やらかしてる内に、
星女神の勇者だのなんだのになっちまって。それでレスボス島の星女神の神殿に行ってみたら、あーらビックリ、
巫女になってたミーシャと感動の再会ってわけなのさ」
「…色々やらかしたって部分が気になる所なんだけど」
「それを詳しく語ると、明日の朝までかかるぜ?それで構わないなら話してやっても…」
「ごめん、脳内で色々妄想しとくよ」
そんな会話を交わしつつ。遊戯の中で、何かが引っ掛かっていた。
「しかしエレフはさっぱりだ。どこを探してもまるで見当たらない。ミーシャの奴が可哀想だぜ、全く…」
オリオンはぐいっと酒を飲みながら、何やら考え込んでいた。
「レスボス…久しぶりに戻ってみるかなぁ…あそこ美人ばっかだから実に楽しいんだよな、ムフフ…あ、遊戯。
何だったらお前も一緒に来ないか?お前の探してる友達も、もしかしたら手がかりくらい掴めるかもしれないぜ。
案内ぐらいならしてやるよ」
「ん〜…どうしようかな。あ、そうだ、オリオン。それはそうと」
「どうした?」
「もしかしてオリオン、そのミーシャって人のこと、好きなの?」
軽くカマをかけただけのつもりだったのだが、オリオンは飲んでた酒を盛大に吹き出した。顔を真っ赤にしつつ、
大げさに手をフリフリする。
「ババババババカ野郎!おお、お前なあ、俺はあんな辛気臭い女は苦手…いや、むしろ嫌いといってもいいね!
知り合いじゃなきゃ道端ですれ違っても目も合わせねえよ!いや、マジで、な、なんだよ、そんな目で見るな!
まるで俺が好きな子相手に意地張ってそっぽ向いちゃうウブな少年のようじゃないか!」
オリオンはとうとう両手で顔を覆い、地面に突っ伏してゴロゴロ転がり始めた。
「…………」
なんて分かりやすい男なんだろうか。遊戯は呆れつつも、頬が緩むのを感じた。もう一人の自分も、クスクスと
笑っているのが伝わってくる―――しかし彼は急にその笑いを止め、真剣な口調で話しかけてきた。
236遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:14:42 ID:AagOvy9J0
(―――相棒。一度レスボスへ行ってみた方がいいかもしれないぜ)
「え?どういうこと?」
「ん?遊戯、お前、何ブツブツ言ってんだ?」
転げまわりながらもオリオンが訝しげな顔で訊いてくる。
「あ、ごめん。何でもないよ」
オリオンにはまだ自分の詳しい素性、ひいてはもう一人の自分のことは話していない。遊戯は心の中だけで会話
を続けた。
(あの神話、覚えてるか?あの中で、星女神の巫女は、どうなった?)
(どうなったって―――あ!)
(そう…生贄になったんだ。オレはそれがどうも気になる。もしかしたら、その時が近いんじゃないかとな)
(…そうなったりしたら…嫌だよ!だって、オリオンは…!)
遊戯の脳裏に、件の神話の一節が蘇る。オリオンはミーシャのために復讐に身を投じ―――ミーシャと同じく、
<蠍>の手にかかり、死んだ…。
「…う!?」
遊戯は奇妙な灼熱感を覚えて、胸元を押さえる。
(千年パズル―――!?すごく熱い…一体、何が…意識が…遠く…)

―――そこにいたのは、果たして本当にオリオンだったのだろうか。
怒りと憎しみ、そしてそれ以上の悲しみによって塗り潰された瞳で、彼は目の前で倒れ伏す男を凝視していた。
「ははは…あははははははは!」
能天気にさえ思える、あの陽気で快活な笑いではなく―――泣いているようにしか見えない、悲痛な笑い声。
「やっと…やっと、お前の仇を討てた…見ててくれたか、ミーシャ…俺は、やっと…」
「―――すんだようだな、オリオン」
オリオンの背後に現れたのは、蠍の尻尾のような奇抜な髪型の男だった。オリオンは振り向きもせず答える。
「ああ。終わったよ…何もかも、終わったんだ」
「そうか。それで、これからどうするつもりだ?」
「どうもこうもねえ…俺にはもう、何もねえ…何も残されちゃいねえんだ…愛する人を失った世界には―――
どんな色の花も、咲きはしない…なんて、な」」
「ふん…なるほどな」
237遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:15:27 ID:AagOvy9J0
蠍は深く頷き―――
「なら、死ね」
何でもない動作で剣を抜き、背後からオリオンを貫いた。背中から腹部を突き破られ、オリオンは口から真っ赤な
血を吐きだす。よろよろと振り返り、蠍に向き直った。蠍は、酷薄に笑っていた。
「な、何を…」
「何を、だと?知れたこと。アルカディア王を殺した大罪人を、処罰するまで」
「―――!」
「全く、何ということをしてくれた?我らが王デメトリウスが、貴様に何をしたというのだ」
オリオンは信じられない、といった様子で蠍を睨み付けた。
「てめえ…てめえが言ったんだろうが…ミーシャを殺すよう命じたのは、こいつ…アルカディアの王だって…」
「ああ。それは嘘だ」
蠍は、平然と答えた。
「教えてやろう。本当はな…あの娘を殺したのは、私だ」
「な―――ん、だと…」
「おや、本当に気付いていなかったのか?もしや分かった上で私に利用されていると見せかけているのかもしれん
と警戒していたのだが、そこまで愚かだったとはな。はっはっはっは!」
「き…貴様ぁぁぁぁっ!」
掴みかかろうとしたオリオンの右腕を、蠍は目にも止まらぬ速度で斬り落とした。オリオンは力尽き果て、地へと
倒れ伏す。それを見下ろし、蠍は傲然と言い放つ。
「さて、最後に何か言い残すことはないか?」
「…………」
「ん〜?聴こえんな。何と言った?」
238遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/28(火) 00:16:25 ID:AagOvy9J0
「ミー…シャ…」
それは、かつて愛し―――今なお愛する女性の名。
「…ミーシャ…ごめん…俺…は…」
「くく…最期の言葉が、女の名前か。勇者オリオンともあろう者が、女々しいものだ。よかろう。彼女に会わせて
やるともさ。冥府でなぁ!」
蠍の振り下ろした剣が、僅かに残ったオリオンの命の灯を、完全に消し去った―――

(―――はっ!?い、今のは…?)
我に返った遊戯は、汗でびっしょりになっていた。あの光景は…ただの幻覚では、決してなかった。
(相棒…お前も、同じものを見たか)
(うん。あれは…)
千年パズルには、色々と不思議な力が宿っている。それが未来のビジョンを、遊戯に見せたのだとしたら。
(嫌だ…嫌だ、あんなの!あんなのが―――オリオンの運命だなんて!)
遊戯はぎりっと歯を食い縛った。
(それに、エレフって人だって…!)
(分かってるさ。だから相棒、オリオンと一緒にレスボスへ行ってみないか?これはオレの直感だが―――
そこで、何かが始まるような、そんな気がするんだ)
(うん、分かった。キミの直感を信じるよ。行こう、レスボスへ!)
遊戯は頷き、未だに転げまわっているオリオンに力強く声をかけた。
「オリオン!」
「うわっ!?い、いきなり大声出すなよ、ビックリするだろうが!」
「行こう、レスボスへ!さあ、グズグズしてないで早く!青春は待ってくれないよ!」
「…ああ。そりゃいいけどよ…何で急に、そんなやる気なんだよ?つーか青春って、お前なあ…」
やっとこ立ち上がったオリオンは、やたらテンションの高い遊戯に目を丸くするのだった…。
239サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/28(火) 00:18:05 ID:AagOvy9J0
投下完了。前回は>>217より。
古代ギリシャで・少年奴隷が・変態神官に・嬲られた
どう考えてもヤバいものを連想させてしまいますね…Moira原曲では、変態神官役のじまんぐ氏が
あまりにもハマりすぎのすごすぎる演技を魅せてくれております(ちなみにこの人、序章で出てきた
ズヴォリンスキー役でもあります。その他SoundHorizon作品で数々の胡散臭い役をやってるお方)。

ちなみにオリオンの技名<弓が撓り弾けた焔・夜空を凍らせて>撃ちはSoundHorizonの<恋人を射ち堕とした日>
という曲の歌詞であり、マジでこう言っております。製作者・Revo陛下の遊び心が感じられます。
…分かってくれないだろうな、ここでこんな話振っても(泣)

あと、千年パズルの<未来のビジョンを見せる能力>は、これ、書いてて気付いたけど、千年タウクの能力じゃ
ねーか…!いや、千年パズルにだって、こんくらいの力は多分ある!…あるはず…あるといいなあ…。

>>223 男の子たるもの、やはりか弱き女性を守るべしです。

>>225 NBさんは同期生・サナダムシさんは大先輩です。遊戯の力…借りまくり(笑)

>>226 流石に最後までこのペースでの投下は無理だと思うので…完結まで、順当に行けば
     半年くらいかなあ(大体50話前後で終わると思うので)

>>227 戦闘については超機神並に大雑把になる予定なので、期待せんでくだされ…。
     遊戯王、今読み返すと、本当に愚直なくらい友情の大切さを謳った作品だと思います。
240作者の都合により名無しです:2008/10/28(火) 00:36:18 ID:FdM4JMeEO
サマサさんお疲れさまです。
予備知識のためにサンホラのアルバムを購入してしまいました。
レスボス島に向かった遊戯達と城之内が行き違い……なんてことになりませんようにw
241作者の都合により名無しです:2008/10/28(火) 06:30:51 ID:4vJ68dpp0
242作者の都合により名無しです:2008/10/28(火) 10:44:45 ID:KQEIVLYM0
サマサさんお疲れ様です。
なんか急にお話が騒がしくなってきましたな。
オリオンとかキャラいいですな。

オリキャラじゃなかったのかw
243AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:43:02 ID:YW5LJT/60
もう随分前の前回から
―――四日後。
復興の槌音も馴染んだ街に、一行の愛車が出発を唸る。
必要な部品は全交換を終え、予備も多めに持った。これならば山奥で立ち往生しても何とかなるだろう。
その傍で、二人の少女が涙で別れの抱擁を交し合う。
「……お姉ちゃん……あたし………あたし、お姉ちゃんのこと、絶対…忘れないから…」
「うん…私も、きっとまた此処に来る。だって…」 
…短いながらも友達だった。仲間だった………そして、かけがえの無い戦友だった。
別れはそのどれにも等しく訪れる。しかし、繋がった絆は望む限り消えはしない。
寂しくは有る、だがさよならでは無い。いずれの再会を互いの胸に、今はしばし別れを惜しむ。
「あ―――……あのよ、イヴ…」
そんな二人の間に、トレインがぎこちなく言葉を割り込ませる。
「あの……もしな、もしだぜ? もしスヴェンがよ、また―――、その、なんだ…なんか酷い事言って来たら、
 言えよ? そん時はオレも協力するから、な?」
「勿論イヴちゃん、アタシもね」
…事情を良く知らない二人の立場から、また発せられる優しさの言葉。特にトレインは、言い馴れないらしく相当にたどたどしい。
「トレインは、すぐ丸め込まれるからいらない」
「オレだけ戦力外通知ッ!?」
彼がスヴェンの相棒、と言う嫉妬に似た感情から来る相性の悪さだが……今回は少し違う。

「でも………ありがと」
244AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:44:30 ID:YW5LJT/60
彼の優しさに対する返礼の様に、やはりたどたどしい感謝の言葉。今までなら絶対に出ない言葉だった。
寧ろ毒気を抜かれたトレインが、今度は呆然と彼女を見返す。
「……あれ? 背ぇ伸びたか?」
見た目には特に変わった風には見えないが、何故かそう問い掛けてしまった。
「そう、かもね」
涙を一転、これまた今までなら見せない笑顔が、ますます彼の思考を煙に巻く。
「私も、いつまでも子供じゃないから」
そして弄うように投じる意味深な微笑が、周囲を何処までも優しい混迷に巻き込んで行くが……トレインは敢えて考えるのを止めた。
彼女の中に構成されつつある揺るぎ無い自分、それが見て取れるなら構う事は無い。
個を決定するのは生まれではない。今に到るまで何が有り、そして今何を欲し何を成すかが個我なるものを定めるのだ。
そしてそれは…………別に彼女に限った話ではない。


「…マリア、お前の憎しみは充分判ってるつもりだ」
居間にて、スヴェンとマリアは真実の過去と共に向かい合う。
「だが……仇を討つのはもう少し待ってくれ。
 俺にはまだやらなくちゃ成らん事が有る」
その弁明を聞いているのかいないのか、マリアは彼を真っ直ぐ見たまま無言の態だ。
「自己満足なのは判ってる、だがこれはようやく見つけた俺の贖罪なんだ。
 全て終えたら此処に戻ってくる、だからそれまで…」
245AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:46:10 ID:YW5LJT/60
「―――貴方は何も判ってないわ」

跳ね付ける様に、鋭く硬いマリアの反論が突き刺さる。
「私が憎んでるのを充分判ってるですって? まず其処から何も理解出来てない」
軽く溜息をつくと、改めて強めた視線で彼を射抜く。
「私の憎しみはね、昨日今日の話じゃないわ。ずうっと前から…今日に到るまで貴方を憎み続けていたわ」
…彼女にスヴェンの策略を見抜けた節は無い、然らば何か………と考えれば、スヴェンの聡明はすぐにそれらしいものを導き出す。
「成る程な、捏造とは言え浮気現場見せられては」「ぜんぜん違うわ」
呆れた、とばかりに零す失笑の吐息。
「貴方…女の機微にはまるで駄目なのねぇ………それで策士気取るなんて自惚れが過ぎるわよ。
 あのくらいで憎むようなら、シンディの誕生祝いに来た時に一番高いケーキを買ってぶつけてやるわ」
「じゃあ、何を…」
「決まってるでしょ、貴方が廃工場から奇跡の生還して来た時よ」
246AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:46:59 ID:YW5LJT/60
それを聞いてようやく得心した。
確かに、彼の危機に夫が向かい、その挙句ロイドが死んだとなっては殺しても足るまい。
だがそれに行き着くと、或る疑問が引っ掛かる。
「………それなら、生命維持装置を切るなり点滴に空気入れるなり、何故しなかった?
 お前なら証拠を残さず出来た筈だぞ?」
―――彼にとっては至極真っ当な返事をした筈だった。しかし、それを受けたマリアは顔を背けて忍び笑いに肩を揺らす。
「久々に会うと次々面白いものを見せてくれるわね。
 こうまでテンパッてると、逆に気の毒にする作戦かと疑っちゃうわ」
実際その通りなのだろう、思考が上手く働く気がしない。表面的な事は判るのだが、どうしても彼女の裏をかくことが出来なかった。
「それもまあ、考えていたわ。それに、実はこうして会うまでやっぱり憎んでた。
 貴方が居なければ、此処にあの人が居たのに…って、ずうっとね。金を振り込まれたくらいじゃ、私の怒りは収まらなかった。
 そしてあの時も、今も、目の前にして私の憎しみは殺してやりたいくらいになっているわ」
紛れも無くそれは憎悪の吐露なのだが、彼女の貌には一抹もそれを伺えない。
「だって………無事な貴方を見るたびに、結婚前みたく未だにときめいたりするんだもの。
 何が有ったって許しては置けないわ」
憎んでいる、誰よりも。しかし嫌いが好きの類義語であるように、強く思うからこそそうも朗らかに笑える。
「判った? 私もその程度の女なのよ。
 自分だけが悲劇の主人公だったり、悪党と責めたり、なんて間違ってるのよ」
些事と言わんばかりに、肩を竦めて見せる。
「正直ね、貴方がクズでほっとしてるのよ。
 だって、憎むくせして頼ってたり好きだったり、振り込まれた金を返せば良い物を返さなかったり、都合良過ぎるでしょう? 
 そんな自分の八方美人が許せなかったんだけど……でも、貴方も私と同じだと判って、ようやく肩の荷が下りた気分だわ」
彼の独白を聴いた時立ち竦んでいたのは、確かに衝撃を受けたからだ。
しかし、それはスヴェンが考えるものとは全く別物。彼女の中で相当に高かったスヴェンの地位が地に堕ちる――つまり、自分と同じ
位置に来る事――で、やっと彼女は冷静な眼で彼を見れる様になったのだ。
247AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:48:16 ID:YW5LJT/60
「だからね、スヴェン」
苦笑に慈悲を潤ませて、マリアは真っ直ぐに彼を見る。
……そう言えば、彼女もロイドと同様、いつもこの眼で彼を見る。
スヴェン自身、今日まで全く自分に価値を見い出せないと言うのに、何故こうも全てを曝け出すのかその訳が判らない。
「ロイドは貴方を憎んでない、そして私は恨んでない……だからどうか…自分を許してあげて。
 私もあの人も、貴方がいつ折れるか判らなくて、放っておけないのよ」
「―――それは出来ない」
彼自身、驚くほど素早い返答だった。
「俺は、あいつの価値も判らず軽んじてた。自分の中でどれほど大きいのか、まるで考えてなかった。
 居なくなってようやく気付いて、結局あいつに助けてもらった惰性と色々でやっとやっと生きてるだけだ」
左のブラウンの瞳に哀悼を湛え、告解と自責は続く。
「世の中は不条理だ。
 いつだって俺の様な自分勝手のクズがのさばって、本当に必要な筈の奴がそんな連中に踏み躙られる。
 だから、俺は俺を許しちゃいけない。そうでないと、ロイドが報われなさ過ぎる」
「貴方は誰の気持ちも考えず、勝手に拘ってるだけよ。
 それは或る意味では正しいかもしれないけど、今のこれは子供じみた我が侭でしかないわ。
 そうやって気持ちをもやもやさせて、一体何をやれるつもりなの?」
「え? いや、それは……」
「『それは……』…何? 何を言うつもり? ただ納得したくないだけで否定するのは止めなさい。
 それらしい事を言っただけで向き合わないなんて、それこそ許しがたいわ」
「………」
言い返すべき上手い言葉が見付からず、大量破壊兵器級の道士をまんまと罠に嵌めた策士が口ごもる。
如何なる狡猾や凶暴をも手玉に取った彼だが、真摯な優しさに酷く弱い。
実は単に悪意前提で世界に向き合うゆえだが、その黒さが魂にまで染み付いてその考えに到れないのだ。
捨てられたがゆえ母の愛情なるものは判らないが、まるでそうである様に叱られ反論さえもままならない。
…マリアが一人の女ならこうはならなかったかもしれないが、今の彼女は母親なのだ。余計事にぶれる事無く
聞き分けなさを叱ってのけられる……と言うより、このくらいでないとシンディは叱れない。
248AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:56:14 ID:YW5LJT/60
「…仕方ないわね」
聞き分けの無い子供にそうする様に、諦めに近い溜息をつく。
「なら私が、スッキリさせてあげるわ」
「…は?」
突然の申し出に困惑するスヴェンに取り合わず、マリアは篭絡する様な女の微笑で彼の襟元に手を伸ばす。
そして呆然の右手を優しく取ると…

「―――うお!
 な……何だぁ? 今の音!?」
表まで響いた大きな衝撃音に、トレインが驚く。
「え…何で……?」
音質で何が起こったかを見抜いたイヴが、首を傾げる。
「ああ〜、そっかぁ…そう来たか」
何を得心したか、リンスがうんうんと細かく頷く。
「ふん、だ。いい気味」
何か溜飲が下がったか、シンディが悪態交じりに鼻を鳴らした。

……口を金魚の様に開閉させて仰臥するスヴェンを、胸倉と手首を捕まえたままマリアが慈母の笑みで見下ろす。
「どう? スッキリした?」
何も答えられなかった。受身を取る間もない一本背負いが、明日の朝まで寝ていたい威力で彼の肺から酸素を吐き出させていた。
「何か甘い事考えちゃった? …つけ上がるのも大概になさい、このクズ野郎。
 それと、今まで振り込んだ金は慰謝料代わりに貰っておくから、二度と私たち家族にその汚い面を見せないでね」
乱暴で、そして優しい決別だった。これで全て貸し借り無し、と笑顔が満面で言っている。
「気分はどう? もう一度投げられたい?」
「……いや…もう、充分だ」
確かに痛く、苦しかったが、やっと彼女の許しを感じる事が出来てスヴェンもまた笑顔だった。
それは、彼が背負った罪科の重みが減った事でもある。
それを完全に消したいからこそ、彼は新たな相棒に命を賭けて手を貸すのだ。
249AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 19:57:00 ID:YW5LJT/60
彼の貌で一通り確認したマリアが、卓上に置いてあったA4封筒を彼の胸に落とす。
「ついでに、これは手切れ金代わりよ」
寝たまま開けて見ると………其処に有ったのは数枚の書類。
「昔のコネを使って私なりに星の使徒を調べてみたわ。
 …さすがクロノスを相手するだけあって、これで限界だったけど」
「………そう言う危ない事は、止めて欲しいんだがな」
ぼやきながら一枚、二枚、と捲っていくと………軽快に動いていたその手が、強張って止まる。
「おい…これ……!」
その眼も、驚愕に見開かれていた。
それを補完するつもりで、マリアが唇を開く。
「…今から二週間後の午前十時二十分、この街の東、オストロル公国の北に位置する古城群の一つ、ハルドヴェルク城で
 世界中の反クロノス組織による秘密頂上会議が開催されるわ」
記してあるそれに、スヴェンも手の震えが隠せない。改めて彼女の情報収集分析能力がその辺の情報屋をはるかに越える域にある事
を実感する。

「………その末席に、星の使徒の代表が招かれたそうよ」
250AnotherAttraction BC:2008/10/28(火) 20:28:22 ID:us656mFP0
……以上を以って、第十三話「決着」、終了ッ!
と言う訳で次回、第十四話「凶宴」を乞う、ご期待!


…まあ、そのすいません、マジすいません。かなり遅れました。NBです。
いささか勉強不足と修行不足があり、その上で色々やっていた結果この様です。
誰か俺に加速装置か、ドーパミン生成装置でも付けてくんないかな。
駄目なら脳増設でもいいから。
…いや、判ったよ、「精神と時の部屋」で妥協してやるよ!(してねえ)

………もう立派に病んでますね、ええ。
兎に角最近、時間が足りません。俺だけ一日が三十時間あれば良いのにとか割りと本気で考えます。
俺個人としてはもう、日がな一日パソにしがみ付いていたいのですが、まずそれが叶わない。
他の皆さんがどう言った時間配分で書いているのかは知りませんが、こんなペースで書ければな、
とつくづく思います。
しかしお天道様に貰った色々を無駄遣いしないためにも、やりくりしないと駄目ですね。

…何か愚痴ばっかりで申し訳有りませんが、次回をどうかお楽しみに。
と言う訳で、今回はここまで、ではまた。
251ふら〜り:2008/10/28(火) 21:08:07 ID:lJ7anMOY0
サマサさん大活躍中に久々のNBさんが、その二人の間に長年の柱石サナダムシさんも。
いつも誰かが支えてくれる、そうやって続いてきましたよね。そして、これからもきっと。

>>サマサさん
三人がそれぞれに神話世界の住人と接触して動き出す。やはり、ヒロインを確保してフラグ
立ててる城之内が一歩抜けてるか。とはいえその神話の内容が内容なだけに、今の城之内
や遊戯の周辺が明るいほど心配というもの。が、それに立ち向かうのがヒーローというもの。

>>サナダムシさん
規模は小さいながら、かつてない事件というか脅威。ドリアンに声をかけたということは、
しけい荘ではなく「海王」だけが狙いかもしれない謎の敵。一人なのか仲間が居るのか、
居るとしたら誰と組んでるのか。次回どこまで判明するのか、その前にドリアンの勝敗は?

>>NBさん
血みどろの戦闘が終わり、縺れに縺れた思いの糸も解かれて、やっと笑い合える時が来た。
全体からすれば1イベントのはずなのに、なんかもうこのままハッピーエンドのスタッフロール
って思えるぐらい、今は充実感というか「めでたしめでたし、良かったなぁ」を感じてます。
252作者の都合により名無しです:2008/10/28(火) 23:28:04 ID:/yJ+wreb0
NBさんお帰りなさいです。
しばらくいらしてなくて心配してましたが
元気に復活してくれて嬉しいです。
今回は大人の雰囲気ですね。
今度はもう少し早く更新してくれると嬉しいな。
253作者の都合により名無しです:2008/10/29(水) 00:20:56 ID:+kWLFit00
今、この作品は何合目なのだろうか。
もうクライマックスが近い気もするし
まだまだ半分くらいといった気もする。

原作よりトレインやスヴェンの雰囲気が好きなので
できるだけ長く続いてほしいけどな。

今回はほのぼのしてますね。
激闘の後の一区切り、嵐の前の静けさって感じ。
スヴェンとマリアは大人同士のはずなのに初々しい。
254作者の都合により名無しです:2008/10/29(水) 10:32:23 ID:NgsQlDi40
原作ではスルーされてた人間間の絆が書かれてますな
お疲れさんですNBさん。
月イチくらいでいいんで、のんびり書き上げてね。
255作者の都合により名無しです:2008/10/29(水) 20:46:32 ID:JLy4ttAd0
NBサンも帰ってこられたか。よかったよかった。
原作知らないけどNBさんの文体が好きです。
空いてもいいから完結だけはしてほしい。
256『THE DUSK』:2008/10/30(木) 00:58:10 ID:Ua09ctxx0
 
部屋の照明を落とした訳でもないのに部屋の中がひどく陰鬱な影に包まれていく。
それはキャラハンにまで及び、彼の顔に刻まれた皺の陰影をより濃いものにした。
酒に蝕まれた自身の健康状態を語る時にも、他の多次元並行世界の様子を語る時にも、
決してこんな表情は見せなかったのに。

「名は“柴田瑠架”と“武藤まひろ”。二人は友人同士で、大の仲良しだった」

シエルはすぐさま“武藤”という姓に引っかかるものを覚えた。
先程まで散々口にした、自分を大いに悩ませる疑問の中心人物と同じ姓。
だが、キャラハンは彼女に口を差し挟む余地を与えず、話を続ける。

「発端はほんの些細な出来事に過ぎなかった。誰の青春時代にもありがちな友情ごっこの果ての、
ほんの些細な出来事さ。しかし、それをきっかけに彼女らは吸血鬼(ヴァンパイア)に“変えられて”しまったんだ」

「一人は嬉々として喰らった。喰らい尽くした。親も、友も、誰も、彼も。彼女は己の心の穴を、
それを開けた連中の血で塞ごうとした。終いの果てには人間だろうと吸血鬼だろうと見境無しに
牙を向ける始末だった」

「もう一人は孤独と絶望に苛まれ、闇に潜んだ。やがて彼女は寂しさ故にささやかな繋がりを求めた。
たった一人でもいい。友を、仲間を、家族を、同族を。だが結果は同じだ。死者は際限無く死者を
生むだけだった」

「後に残ったのは、燎原の炎の如く日本全土に広がった“生ける死者(リビングデッド)”と“不死者(アンデッド)”の
群れだけ……」

そこまで言うとキャラハンは再びバーボンをグラスに注ぎ、まるで追い立てられるようにグビリと呷った。
一方のシエルは“最悪中の最悪”な展開(ルート)に驚愕のあまり目を見開き、言葉を失ったままでいる。
しばしの沈黙を経て、キャラハンはこの忌まわしき展開に相応しい結末を以って、物語を締め括った。
257『THE DUSK』:2008/10/30(木) 01:01:49 ID:Ua09ctxx0
 
「そして、無尽蔵に増えていく化物共の中でも、比較的“強靭”で“狡猾”な連中は国外へと
脱出しようとする人間の船や飛行機に潜んだ。奴らは流水を渡る苦痛に耐え抜き、乗客や乗組員を
吸血鬼や喰屍鬼(グール)に変えながら、次々とあらゆる国へ“輸出”されていった。アジア、ヨーロッパ、
アメリカと…… あとは言わなくてもわかるだろう? “死”が緩やかに世界を侵蝕し始めたのさ」

「そ、そんな…… ありえません……!」

否定したくもなる。
いくらヴァチカンの介入が極端に少ない日本だからとはいえ、たった二人の吸血鬼のせいで一国が滅び、
世界中にまで被害が拡大するなんて。
つい先程キャラハンが挙げた死徒二十七祖でさえ、そこまでの猛威を振るわなかったし、振るえなかった。
シエルは彼が視た展開を信用出来なかった。彼の世界視に懐疑的にならざるを得なかった。
否、もっと正しく言うのであれば“懐疑的になりたかった”。嘘であって欲しかったのだ。
それに対し、キャラハンは出来の悪い生徒を前にした教師さながらに彼女を教え諭す。
「ありえない? 視点がずれていないかね、シエル。二人の少女を吸血鬼に変え、日本を死都(ミディアン)と化す
後押しをした連中が何者か、私達ならばすぐにわかる筈だよ?」
眉根を固く寄せて、きつく眼を瞑るシエル。
キャラハンの言葉は、彼が言ったもうひとつの言葉を思い起こさせる。

『君は答えを聞きにここへ来たのではない。もうとっくに答えを知っている。君がここへ来たのは、
その答えが何なのか“理解”する為なんだよ』

今なら理解出来そうな気がする。その言葉の意味も、“答え”の意味も。
始まりは二人の少女。そう、あくまで“始まり”に過ぎない。
ゼロにどんなに大きな数を掛けたとしても、それはゼロでしかない。
逆に、元の数がどんなに巨大だろうとゼロを掛けてしまえばゼロに還ってしまう。
二人の少女という数に、どんな数が掛けられた? 何が掛けられた? “誰”が掛けられた?
頭には一人の憎き吸血鬼の姿が強烈に浮かび、続けて“感染爆発(パンデミック)”という単語が浮かぶ。
“自国を知り尽くした者達”と手を組んだ“大病原菌”。
眼を閉じて俯いたまま、シエルは微かな声で呟く。
「ジェイブリードと日本の吸血鬼……」
258『THE DUSK』:2008/10/30(木) 01:05:12 ID:Ua09ctxx0
「ご名答(ビンゴ)。加えて言うならば、武藤まひろは武藤カズキの“妹”だ」
キャラハンはそれっきり口を閉じると、またもやジム・ビームの瓶を傾け、グラスを片手にソファの
背もたれに大きく寄りかかった。
まるで自分が話すべき事はすべて話したとでもいいたげだ。その悠然たる所作が物語っている。
呼応するように、シエルはかつ然と眼を開けた。

“すべてが繋がった”

キャラハンの言う通りだった。自分はやはり答えを知っていた。それどころか、シエルそのものが答えを
体現していたと言っても良い。
今この瞬間にも現在進行形で進んでいる我々の世界の展開がまさに答えなのだ。
ジェイブリード再討伐の任務を受け取った事。疑問と苦悩のままにキャラハンを訪ねた事。
シエルの行動はどれもこれも展開の一部であると同時に、それを覆す為のマスタープランの一部だった。

何故、キャプテン・ブラボーは生かされたのか。何故、武藤カズキは戦士にならなければならなかったのか。
自分は何をすればいいのか。キャラハンは何をしたのか。“この世界”に何が起こっているのか。
もう考える必要も悩む必要も無い。自分の成すべき任務を成せばそれでいい。
最悪の展開を回避する為のお膳立てならキャラハンが七年前に済ませてくれているのだから。
異国の吸血鬼同士が手を組んだように、今度ばかりはあの錬金戦団と手を組まなければならないのかもしれない。
シエルは弾かれたように立ち上がると、一転の曇りも無い瞳でキャラハンを見つめながら言い放った。

「日本へ征きます。今すぐに」

ようやく、すべてを“理解”したシエルを前にして、キャラハンは満足げに相好を崩している。
彼は笑顔のまま懐をゴソゴソと探ると、一冊の古く分厚い手帳を取り出し、テーブルに置いた。
「ああ、すぐに発った方がいい。詳しい事はこの手帳に書いてある。登場頻度の高い人物(キャラクター)も
発生確率の高い出来事(イベント)も、思い出せる限りのすべてをね」
「ありがとうございます……!」
シエルは手帳を受け取ると、嬉しそうに両腕で胸に抱いた。彼女にしては珍しい子供っぽさだ。
しかし、すぐに背すじは伸び、表情は真剣なものとなる。眼には哀願の色が見え隠れしていたが。
「あ、あの、キャラハン神父…… あなたも……――」
「すまないがそれだけはお断りさせてもらうよ。こんな病人がパートナーでは君の仕事が増えるだけだ」
259『THE DUSK』:2008/10/30(木) 01:09:48 ID:Ua09ctxx0
取りつく島もない。予想していたとはいえ、シエルは落胆せずにはいられなかった。
そんな彼女を尻目に、キャラハンはまたもやジム・ビームのボトルを手に取る。しかも随分と乱暴な動作で。
「それに…… 私は第13課(イスカリオテ)を捨て、教皇庁(ヴァチカン)を捨てた身だ。出来るならば、このつまらない
田舎町で何事も無く一生を終えたいんだよ。なるべく早く……」
またも酔いを発しているのか、正常な筈の左手がカタカタと震え、安酒はグラスの周りに撒き散らされていく。
その様子を見ていたシエルは静かにソファから立ち上がると、キャラハンに近づき、傍らで跪いた。
そして、ボトルを握る手をそっと優しく押さえる。
ボトルはそのままテーブルに置かれ、キャラハンの左手はシエルの温かい両の掌に包まれていた。
シエルは顔を伏せて己の両手に包まれた彼の左手を見つめながら言った。

「でも、“信仰”は捨ててない。そうでしょう?」

キャラハンは打たれたようにハッと顔をシエルの方に向け、彼女の前髪辺りに眼を遣る。
顔は見えない。それでいい。今、この子の顔を見たら――
彼の心の叫びが届いているのか、顔は伏せられたままで声だけが続く。
「この素晴らしい教会を見ればわかります。いつでも神への祈りを絶やさず、死者の魂に安らぎを与え、
町を化物共の手から守っている……――きっと、町の皆さんもあなたを信頼しているのでしょうね」
手は握り締めたまま、シエルが顔を上げた。

「あなたはご自身ではヴァチカンを捨てたとお思いでしょうが、神はあなたをお見捨てになられてはいません。
今もあなたは神と共にあるのです」

ああ、我慢だ。我慢しろ、ここが堪えどころだ。クソッ、よせやい。
天晴れ、心優しき乙女と傷ついた醜い年寄りか。
鼻腔の奥がツンと熱くなり、込み上げるものを何とも抑えきれないキャラハンは、耐えかねたように
顔を背けてしまった。
話題を変えなきゃ。みっともないったらありゃしないよ。
少しの間を置き、若干震え気味の低い声が発せられる。
「なあ、シエル。二人の少女は出来るだけ――」
「大丈夫、わかっていますよ。『出来るだけ“殺す”以外の方法を』でしょう?」
「……ああ、二人が“人間”のうちはね」
キャラハンの左手をゆっくりと彼の膝の上に戻すと、シエルは立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
260『THE DUSK』:2008/10/30(木) 01:12:10 ID:Ua09ctxx0
西欧人らしくないこの振る舞いは、身体に流れる東洋人の血のせいか、日本に長く居過ぎたせいか。
「突然お邪魔して、しかも自分勝手な事ばかり言って本当に申し訳ありませんでした」
丁寧な謝罪を受けて、キャラハンの口をつくのは本音半分、からかい半分の言葉である。
「突然? 何を言ってるんだい、シエル。私は君がここへ来るのをずっと待っていたんだよ。七年も前からね」
年に似合わぬ負けん気で真赤な眼を擦り、得意げに顎を上げるキャラハン。やられっ放しは性に
合わないといったところだろう。
(やっぱりそうでしたか…… フフッ、それにしても素直じゃありませんね)
可愛らしくもあり、小憎らしくもある。内心、“つくづく第13課には合わない人だ”と思わなくもない。
シエルは彼に合わせるように少しくだけた調子で再び頭を下げた。「たくさんお待たせしちゃいましたね。ごめんなさい」
浮かべる微笑みはやはり“本当に仕様が無い”だ。
キャラハンもまたクスクスと笑っている。
何故だか急に自分の葬式を視てみたい気分に陥っていたのだ。決して視る事の出来ない“この世界”で
執り行われる自分の葬式を。
シエルはシエルで自分のユーモアのセンスも捨てたものじゃないと、根拠の無い自信を付ける。
笑顔のうちに、二人はどちらからともなく掌を差し出し、握手を交わした。

「何か困った事があったらいつでも連絡しなさい」

「はい。では、失礼します」



独り者の静寂を取り戻した室内。
何をするでもなく呆けたようにソファに座ったままのキャラハンは、やがて僅かに残りの入ったグラスを掴み、
口元に近づけた。
それから、思い直したようにグラスを眼の高さまで掲げると、誰にも聞こえないように口の中で祈りを呟いた。

「主よ、改め得ないものをあるがままに受け入れる“心の平安”と、改め得るものを改める“不屈の意志”と、
毎度糞垂れな失敗(fuck up)を繰り返さぬ“幸運”を彼女に与えたまえ……」
261さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/30(木) 01:17:34 ID:Ua09ctxx0
ども、こんばんは。さいです。
カタログを取り寄せたのはもう四年も前の話です。当時は本気で買おうとしてましたが、
周りに止められて断念しました。
眠いのでレスへのお返事は次回という事で。申し訳ありません。
では、御然らば。
262作者の都合により名無しです:2008/10/30(木) 10:28:07 ID:EqO7hf4p0
真夜中にお疲れ様ですさいさん

ん?これからまひろとシエルが敵対していくのかな。
ちょっと唐突な気もしたけど、これからの展開が楽しみになりました。
シェルとまひろは良いコンビだと思うので仲良くしてほしいなあ。
263遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:19:30 ID:9hLKxgy50
第六話「兄として」

不気味な鳥の鳴き声だけが響く、深夜の山中。海馬とエレフは焚火を囲んで向き合っていた。
「海馬―――本当に、ミーシャはレスボスにいるんだろうな?」
「フン。オレも実際に見たわけではない。そう聞いただけだ」
海馬はブルーアイズの背にもたれかかりながら、ぞんざいに言い放つ。
「とはいえ、どうせ手がかりもないのだろう?ならば行ってみても損はあるまい。オレも当面は色々と調べ物を
せねばならんからな。ひとまず貴様と行動を共にするのも悪くはないさ」
「ちっ。いい加減なことだ…まあいい。レスボスにもいずれは行くつもりだったからな。それよりも海馬、貴様
は一緒にいたという連中は探さなくてもいいのか?確か、遊戯と…」
「凡骨馬之骨之介負犬左衛門(ぼんこつ・うまのほねのすけ・まけいぬざえもん)だ。まあ奴のことだ、城之内
とかいうもっともらしい偽名を名乗っていることだろうがな…」
「そうか。しかし、世の中とんでもない名前の持ち主もいるものだな」
堂々と大嘘をぶっこく海馬だった。それにまるで疑いを持たないエレフも大物だった。
「まあ、オレは奴らなどいなくても別に構わん。それよりもエレフ…貴様は、そんなに妹が大事か」
「―――ミーシャは、私の全てだ」
エレフは静かな、しかし確かな口調で言った。
「彼女を守るためなら私は…それ以外の全てを、命さえ失っても、悔いはない」
「フン…ならば、何故貴様はこんなところで一人くすぶっている?」
海馬の言葉には、隠す気もない棘があった。
「口では何とでも言えるさ―――だが貴様は、結局妹を守れなかったのだろう」
「何だと…!」
エレフは海馬に詰め寄ったが、海馬は怯む様子もなく続けた。
「何よりも大切な存在ならば、何故その手を離した?貴様の想いが本物なら―――例え腕が千切れようとも、
妹の手を離しはしなかったはずだ」
海馬はなお、容赦なく畳みかける。
264遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:20:16 ID:9hLKxgy50
「オレなら、そうした」
「…………」
「オレが貴様ならば、掴んだその手を離すことなどなかった―――何があろうともだ!」
「私とて…離したくはなかった。だが―――あの頃の私は、あまりにも無力だった」
「それでどうする?貴様はただただ悲しい時代と、諦め顔で、無力に嘆くのか?」
海馬はエレフに指を突きつけた。
「貴様に今、敢えて問おう―――エレフ。貴様は何を守りたい?」
「…妹を」
エレフは、きっぱりと答えた。
「私は…妹を、守る。次こそは、その手を離さない。例え何が襲おうとも、例え何が相手でも、例えこの身が
朽ち果てようと、私は妹を守る」
「そうか…なら、そうしろ」
海馬は素気なく、しかし、少しだけ語気を和らげていた。
「貴様が、守ってやればいい。相手が運命(かみ)だろうが、何だろうがな」
「―――言われるまでもない」
エレフは天を仰ぎ、呟いた。
「ミーシャを傷つけるものは全てこの腕で退け、滅ぼしてみせる―――例えそれが運命(かみ)であっても、
世界そのものであろうとも」
―――二人はもはや言葉を交わすこともなく、ただ月と焚火の焔(ひかり)だけが、彼らを照らしていた。
(フフフ…エレフ。久シ振リダネ、元気ダッタカィ?)
エレフの心に、あの声が囁き掛ける。
(彼ハィィ。何処カォ前に似ティル―――彼ニモィルノカモシレナィネ、ォ前ノヨゥニ守ルベキ兄弟ガ―――
彼トハ仲良クスルトィィ。キット、ォ前ノ力ニナッテクレルヨ―――)
声は、闇へと消えた。

―――エレフは夢を見た。
子供の頃の自分とミーシャが、一緒に遊んでいた。大人の自分は少し離れて、それを見つめている。
ミーシャは、水面に映る月を掴もうと、一生懸命手を伸ばしていた。
265遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:21:03 ID:9hLKxgy50
「無理だよ、ミーシャ」
子供の自分は困った顔で、ミーシャに呼びかける。
「それは水に映ってるだけだよ。触れないよ」
ミーシャはぶすっと頬を膨らませて、言い返してくる。
「そんなの、やってみないと分からないでしょ」
「えー…」
やってみなくたって、分かることもある。子供の自分はそう言ったが、ミーシャは首をブンブン振った。
「無理だって思ってたら、何でも無理になっちゃうでしょ。だからまず、やってみないと」
「そうかなあ」
「そうだよ」
ミーシャは、満面の笑みを浮かべた。素敵な笑顔だと思った。
「諦めたら、そこで何もかも終わりだよ、エレフ」

―――そうだね、ミーシャ。私は、諦めないよ。
私は必ず、お前を見つけ出す。そして、二度と、その手を離さない。
約束しよう―――お前を守る。
必ず―――
266遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:22:14 ID:9hLKxgy50
第七話「雷神域の英雄―――そして暗躍の蠍」

この時代において、ギリシャ随一の大国にして雷神の加護を受けし雷神域・アルカディア。
その城下町で、戦場から帰還したアルカディア軍の凱旋が行われていた。その先頭、逞しい軍馬に跨った青年が
民衆に手を振る。
「おお…レオンティウス様だ!」
「レオンティウス様…!」
「ありがたや、ありがたや…」
―――金のメッシュの入った、緩やかなウェーブの茶色い髪を風が靡かせる。精悍な顔立ちの若獅子を思わせる
その青年の名はレオンティウス。
アルカディアの第一王子にして次期王位継承者。青銅の甲冑に身を包み、赤いマントを翻らせる姿は、まさしく
威風堂々。生まれながらの王者―――彼を見れば、誰もがそう思うだろう。
「―――雷を制す者…世界を統べる王となる…まさにあの御方のための神託じゃ…」
「何でも、レオンティウス様の雷槍(らいそう)の一撃で、千の軍勢が一瞬にして消し飛んだとか…」
「アルカディア王家が雷神ブロンディス様の血を引く神の眷属だという噂は、やっぱり本当だったんだな…」
「おお、気高き雷の獅子―――レオンティウス!」
レオンティウス!レオンティウス!レオンティウス―――!誰かの叫びが伝染し、盛大な歓声となる。
偉大なる王子を、誰もが祝福していた―――その陰で。
「ふん…いい気なものだ、レオンティウスめ…」
残忍に唇を歪め、蠍の尻尾のような奇抜な髪型をした壮年の男が、射抜くような目でレオンティウスを睨む。
強く勇敢な、誰からも敬われ慕われる、理想的な王子。
「それに引き換え、私は現王の弟とはいえ、所詮は妾腹の仔か…くくく、蔑むならば蔑むがよい…」
<蠍>と呼ばれし男―――スコルピオスは、全てを呪うような暗い瞳で嘯いた。
「精々粋がっていろ…いずれ、貴様も消してくれる…そして、世界の王になるのは、この私だ…!」

―――アルカディア宮殿。スコルピオスは兄王・デメトリウスに対して進言を行っていた。
「兄上。あなたも知っての通り、我が国は戦乱の渦中にあります…東方や北方からの異民族、そして同胞ですら
互いに殺し合う、まさに混沌の時代と言えましょう」
「うむ、分かっておる」
267遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:23:01 ID:9hLKxgy50
本当に分かっているものやら、デメトリウスはどこか虚ろな目で答えた。
(これがかつては無双の武勇を誇ったアルカディアの王・デメトリウスか…くくく、今では耄碌(もうろく)
しきった、哀れな傀儡だがな…)
内心の嘲笑をおくびにも出さず、スコルピオスは真面目くさった口調で続けた。
「我らには、更なる力が必要です。雷神様の加護のみならず、外の国の神にも目を向けては如何でしょう?」
「ふむ。というと?」
「はっ。具体的に言いますと…」
スコルピオスは続けようとしたが、デメトリウスは「よい」と遮った。
「アルカディアのため尽力してくれたお前の言うことだ、間違いはあるまい―――ワシはお前を信頼しておる。
我が国のためというなら、全て任せよう」
「御意―――」
スコルピオスは込み上げる笑いを必死に堪えつつ、玉座の間を後にした。

「叔父上!」
廊下に出ると同時に、厳しく引き締められた声が飛んだ。そこにいたのは、勇猛なる若獅子―――
「ふん、レオンティウスか。どうしたのかね、怖い顔をして。私は忙しいし、お前も戦場から戻ったばかりで
疲れているだろう。後にしてくれぬかな?」
「そんなことよりも…あの噂は本当なのですか!?」
「噂?はて、なんのことかな?」
「とぼけないでください!」
レオンティウスは、思わず怒鳴り声を上げた。
「水神ヒュドラの力を得るために、星女神の神域へ押し入り、巫女を生贄に捧げようとしている―――まさか、
それが本当ならば、赦されることではありません!星女神の加護篤き神域を穢そうなど…そんなことをすれば、
神罰が我が国に下りましょうぞ!」
「おやおや…これは酷いな。よくもまあそんな出鱈目が流れるものだ。はっはっは」
スコルピオスは、悪びれることなく言ってみせた。
268遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:37:20 ID:9hLKxgy50
「叔父上…!」
「うるさいんだよ―――男漁りだけが楽しみの、肛門愛好家が」
「なっ―――!」
叔父とはいえ、余りにも無礼な言い草に、レオンティウスは顔を真っ赤に染める。
「わ…私が男色だという事実と、叔父上の企みは、まるで関係ないでしょう!」
「ふん。証拠でもあるのか?私がそんな物騒なことをしでかそうという証拠は?」
「う…!」
それに、とスコルピオスは口の端を歪めて、嫌な笑いを浮かべる。
「気付いていないとでも思ったのか?貴様が私の尻を物欲しそうに眺め回していることを」
「―――っ!」
「なあ、愛する男のやることだ…黙っていては、くれんかね?最も、王は私に全権を委ねてくださったが故、
例えお前でも私を止めることはできんがね…では、失礼する。先も言ったが私は忙しいのでな」
そして―――レオンティウスは、去っていくスコルピオスを止められなかった。
「くそっ…!」
血が吹き出す程の勢いで、壁を殴りつける。噛み締めた唇からも、血が滴る。
「叔父上…何故だ…昔はもっと、優しい男だった…そんなあなたを、お慕いしていたというのに…」
「―――レオン?どうしたのですか」
背後から声をかけられ、思わずびくりとして振り向く。そこに、齢四十前後の女性が立っていた。年齢による
容貌の衰えは流石に隠せないが、それでもその顔立ちや仕草は、今なお美しく、上品と言えた。
「母上…いえ、大丈夫です。何事もありません」
母―――王妃イサドラに向けて、レオンティウスは努めて何でもない風を装った。だが、そこは母親である。
いくら立派な大人になったとはいえ、自分の子供の嘘など軽く見抜ける。
「辛いことがあったのね…さあ、おいで。私の可愛いレオン…」
慈しみの表情を浮かべ、イサドラは両手を広げる。レオンティウスも慣れた動作でしゃがみ込み、母の胸元
に頭を寄せる。イサドラはそれをそっと両手で包み込んだ。
269遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/30(木) 17:38:07 ID:9hLKxgy50
「本当に、私は心配ですよ…お前は強く見えても、本当は甘えん坊だから」
「―――母上。どうか心配なさらないでください」
レオンティウスは、母親を安心させるため殊更に優しく微笑んだ。
「私は、強く生き抜く―――そう決めたのです。死んでしまった、我が弟妹のためにも…」
びくっと、イサドラが身を震わせた。レオンティウスは失言だったか、と自分を責める。
―――彼にもかつて、兄弟がいた。男女の双子だった。レオンティウスは当時物心つくかつかないかという幼さ
だったが、兄になった嬉しさと誇らしさは、不思議と覚えている。けれど。
あの子たちが生まれたのは―――<太陽蝕まれし日>。そして、下された神託。
―――太陽…闇…蝕まれし日…生まれ墜つる者…破滅を紡ぐ―――
それに従い、双子は忌み子として捨てられた。もう―――生きてはいないだろう。
(嗚呼、我が弟妹よ…私は、お前たちが誇れる立派な男になれるだろうか…)
レオンティウスは自分を抱きしめる母にも聴こえない程に小さく呟く。答えは、誰も教えてはくれない。

スコルピオスは兵を集め、アルカディアを既に出立していた。
集まった兵士は全て、自分の息のかかった者達ばかり―――何も問題はない。
後は余計な邪魔が入らぬことを、神に祈るばかりだ。
「くっくっく…神域を侵そうというものが、神頼みとは、笑えぬ喜劇だ…」
自嘲の笑みを浮かべつつ、スコルピオスは遥か地平線の彼方を目指す。邪悪なる野望に向けて―――
「さあ、行くぞ。星女神の神域・レスボス島へ―――」
270サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/30(木) 17:39:03 ID:9hLKxgy50
投下完了。前回は>>238より。
短い話が続いたので、二話まとめてお送りしました。
エレフと海馬、意外にもいいコンビかもしれない…絶対会話は弾まないけど(笑)
敵も味方もレスボスへ。次回、修羅場開始。
…さて、アルカディア王子レオンティウス。ガチホモにしてマザコンという、とんでもない設定になって
しまいました。二次設定に毒されすぎかもしれません。
サンホラ系の絵を描いてる方とか見ると、大概そういうキャラにされてしまっているので…。
ただ、ホモはともかく、マザコンなのはガチだと思います。
それ以外の部分ではかっこいいキャラに書きたいなと思っています。

>>240 Moira以外も名盤揃いなので、是非手にとってみてください。遊戯達はちゃんとレスボスで
     再会します。

>>241 テンション上がってきました。やっぱいいな…。

>>242 だからオリキャラじゃないと(略 キャラがいいのは、製作したRevo陛下のおかげ。

>>ふら〜りさん
見返してみると、やっぱ城之内主役っぽいですね…真主役の遊戯も近々大活躍させます。
やはりヒーローは弱き者を守り、困難な運命に立ち向かってこそだと思います。
271作者の都合により名無しです:2008/10/30(木) 18:54:51 ID:GPMFB8NM0
>さいさん
まひろたち2人は吸血鬼伝説で言う「真祖」ってやつかな。
吸血鬼の最初の人の。あの明るいまひろがなんだか不吉ですね。
「殺す」以外の方法を考えてなんとか良い結末にして欲しいですね。


>サマサさん
ま、知らない人にとってはオリキャラ同然でしょうw私も知りませんが。
どこにいても偉そうな海馬と真摯なエレフの2人はいいですね。
第七話目はなんかギリシャ神話みたいだ。レスボスに兵が集結しますね。

272作者の都合により名無しです:2008/10/30(木) 22:16:17 ID:/u7Na35A0
おお、さいさんにサマサさんお疲れ様です。

さいさん、今回はキャラハンとシエルの会話で緊迫感が増してますね。
まひろたちに襲い掛かる苦難とそれを乗り越えるシエルとの絆に期待したいものです。

サマサさん、2話掲載お疲れ様です。あんまり好調だと途切れそうで怖いけどw
レスボスに乗り込む社長たちと待ち構える不気味な敵たち、燃えますな。
273作者の都合により名無しです:2008/10/31(金) 09:43:43 ID:ey6/XL25O
>サマサさん
城之内の本名に不覚にもw

エレフと海馬は面白いコンビになりそうですね。
共通点はブラコン(シスコン)であること、
ちょっとおかしくなってしまった部分があることでしょうか。
274作者の都合により名無しです:2008/10/31(金) 11:27:32 ID:HNx28aeY0
さいさんご家庭が一番大変な時期なのにSSとか大丈夫ですかw
ちょっと百合っぽい雰囲気が好きなのでその方向を期待しております。
が、今回はなんか暗転ですなあ
275ふら〜り:2008/10/31(金) 20:43:06 ID:8XBaF/hd0
>>さいさん
原作では「囚われのお姫様」にも「共に戦う仲間」にもならず、色恋にも物語の流れにも
絡まず、副ヒロインとしてはちと寂しかったまひろ。それがまた随分と凄い形で中心人物に
なりましたね。この災厄を阻むのが本筋でしょうが、災厄成就版も読んでみたかったりして。

>>サマサさん
海馬、なかなか良い感じです。決して優しい善人ではないけれど、スジが通ってるというか
根性入ってる。で、同性愛やら近親相姦やらは、神話は元よりこういう世界観の作品では
デフォというもの。むしろそれを活かしてというか、それがあるからこそのカッコ良さも期待。
276遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/31(金) 21:29:57 ID:yI/Uf8Xv0
第八話「星女神の巫女」

いつも通りの、平和なレスボス島の夜―――そのはずだった。
異変は、兵装の闖入者達。神域を穢す、罪深き者達―――
「大変だわ…大変だわ大変だわ大変だわ!」
「お、落ち着きなさいよ!私だって怖いんだから…!」
「フィ、フィリス様、大丈夫かしら」
「ここは、お任せするしかないわよ…」
巫女達は物陰に隠れ、怯えて息を潜めていた。そして。
「―――あなた方、夜分遅くにいかなる御用です」
星女神の神殿・入り口前にて、フィリスは立ち並ぶ兵装の男たちに向けて毅然と言い放った。
「ここを星女神・アストラ様の神域と知っての狼藉ですか!無礼は赦しませぬ!」
「ほお…勇ましいことだ」
兵士達の中から、一人の男が歩み出る。猛毒を宿す蠍を思わせる、奇抜な髪型の男―――スコルピオス。
「まあそう怖い顔をしなさるな。美人が台無しですぞ?我々は何も、貴女達を取って喰おうというわけではない
―――まあ、返答次第でどうなるかは、分かりかねますが」
「一体…何をしようというのですか」
くくく、とスコルピオスは、嫌な笑いを浮かべた。
「簡単なことです―――星女神の巫女を、水神への生贄として、差し出していただきたい」
「なっ…!バカなことを!そんなことを星女神様が御赦しになるはずが…」
「それがどうした」
慇懃無礼な態度をかなぐり捨て、スコルピオスは鼻を鳴らした。
「痛い思いはしたくあるまい?つべこべ言わずに、さっさと巫女をよこせばいいのだ」
「…私も巫女の一人です。ならば…私が生贄となりましょう。それで、他の者達には…」
「ダメだな」
その言葉をスコルピオスは、冷徹に切り捨てる。
「巫女であれば、誰でもいいわけではない―――女神の声を聴くことができる、真の巫女だ。それとも、貴様が
そうだと言うのか?」
「…っそれは…」
277遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/31(金) 21:30:48 ID:yI/Uf8Xv0
フィリスが口ごもった瞬間、スコルピオスが剣を引き抜く。迫る切っ先に対し、身じろぎもできずにフィリスは
二の腕を切り裂かれ、低く呻いた。傷口を押さえるが、傷は思った以上に深く、掌が紅く濡れていく。
「次は、脚だ…どうする?」
「くっ…」
フィリスは気丈にスコルピオスを睨み付けるが、彼はそれを意に介さず、何でもないかのように、剣を振るう。
足の甲に剣先が突き立てられ、フィリスはたまらず地に倒れ付す。
「次はどこかな?また腕か?或いは顔がいいか?―――どちらも嫌なら、大人しく巫女を差し出すのだ」
「…あなたは…それでも、血が通った人間ですか…!?」
「くく…当たり前だ。人間だからこそだよ。人間だからこそ、このような非道を行えるというもの―――
さあ、巫女を出さぬのならば、この島の人間を手当たり次第に殺めるまで!手始めに―――貴様からだ!」
スコルピオスが三度、剣を振り下ろそうと構えた時。一人の女性が、物陰から飛び出してきた。
「やめて!」
「!?ミ、ミーシャ!何故…隠れていなさいと、言ったのに…」
フィリスが顔を悲痛に歪める。ミーシャもまた、辛そうに顔を伏せた。
「ごめんなさい、フィリス様…けれど、この人達の目的は私なのでしょう?」
「…………」
「私一人犠牲になれば、それで島の人達には手を出さない―――そうですね?」
「ふむ…貴様が、そうなのか。よかろう。貴様さえ手に入れば、島の連中など一々手にかける理由もない」
スコルピオスは、にやりと笑う。
「確かこの神殿は、中庭に大きな泉があったな?水神の生贄の儀式に誂えたようではないか…さあ、ついてこい、
星女神の巫女よ」
「…………」
ミーシャは抵抗しない。まるで、既に死んだような重い足取りで、スコルピオス達と共に神殿へと入っていった。
「ああ…ミーシャ!」
フィリスの慟哭が、レスボスの夜空に響き渡った―――

その頃城之内は、ソフィアと二人、星女神の神殿に向けて夜道を歩いていた。
278遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/31(金) 21:32:55 ID:yI/Uf8Xv0
「ごめんなさいね、城之内くん。折角の休日に、私の用事に付き合わせてしまって」
「いやあ、オレなら構いませんよ。どうせ暇なんで」
城之内はそう言って笑った。暇なのは事実だし、時間を持て余してダラダラするくらいなら素敵なお姉様であられる
ソフィアにお付き合いする方が楽しそうだったし、事実、楽しかった。
詩人というだけあって、雑学・教養に長けた彼女は、知的レベルが著しく違う相手(誰とは言わない)とでも、実に
自然に会話を展開してのけるので、話していて退屈などしないのだ。
「しっかし、ソフィア先生ってやっぱスゴイ人なんすねー。道行く人という人みんなやたら丁寧に挨拶してくるわ、
買い物すればおまけをやけにたくさんくれるわ、子供達は寄ってくるわ。人徳つーか、人望ってやつっすかね」
「まあ、そんなことないわ。私がどうこうじゃなくて、皆が親切なだけよ」
ソフィアはそう言って、にこやかに笑った。
(うーむ。ゲームとかでよくある<ニコニコしてるけど、やたら権力ありそーな謎多き美人>ってのは、こういう人の
ことをいうのか…初めて会ったぜ)
秋子さんとか、そんな感じの。そんなことを考えながら、神殿はもうすぐそこだった。
「しかし…こんな遅くに、神殿になんの御用なんすか?」
「ふふ。城之内くん。女には訊いてはいけないことがあるのよ?」
くすくすと、ソフィアは軽くかわしてきた。そして、うっとりした顔で呟く。目が爛々と輝いていた。
「うふふ…待っててね、私を慕う、可愛い可愛い仔猫ちゃん達…今日も楽しい夜にしてあげますからね…」
―――城之内はポリポリと頭をかいた。
(…深入りはよそう。オトナの女には色々あるんだ、きっと。あ、そうだ。きっと神殿の皆に詩でも詠んであげるんだ。
そうだ、そうに違いねえ。そういうことにしとこう…)
「―――あら?何かしら…神殿の様子がおかしいわ」
「え…?」
城之内は目をみはった。神殿の入り口に、何やら巫女達が集まっていたのだ。二人は顔を見合わせると、足早に神殿
へと駆けていく。
279遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/10/31(金) 21:33:41 ID:yI/Uf8Xv0
「おい、みんな!一体何が…」
入り口に辿り着いた城之内は、血だらけで倒れているフィリスと、その周りに集まって必死に介抱している巫女達
を見て、愕然とした。
「フィ、フィリスさん!その怪我は!?どうしたってんですか、この騒ぎは…」
「…分から、ない…怪しい、男達が、やってきて…ミーシャを…生贄に…」
「―――!」
「私が、痛めつけられているのを見て…ミーシャは、自分から…ううっ…!」
ソフィアは血相を変え、城之内は呆然とした。まさか―――そんなことが―――
(今が…その時だってのかよ、チクショウ!)
城之内は歯を喰いしばる。フィリスの介抱をしている巫女に、怒鳴りつけるような勢いで訊ねる。
「おい、教えてくれ!ミーシャはどこに連れていかれたんだ!?」
「う…ヒック…ミーシャ、さんは…ヒック…神殿の、中庭、に…」
それを聞いた城之内は、すぐさまディスクにカードをセットする。そして顕現する、紅き瞳の黒き竜。
「―――城之内くん」
ソフィアが、厳しい表情で城之内を見つめる。城之内は振り向くことなく答えた。
「オレ、行きます。止めないでください」
強い決意を秘めたその横顔に対し、ソフィアはただ、一言だけ。
「あの子を、助けてあげて」
城之内は力強く親指を立てて、レッドアイズの背に飛び乗る。
「レッドアイズ!頼むぜ!」
黒竜は雄叫びをあげながら翼を広げ、夜空へと舞い上がっていった―――
長き夜が、今、始まる。
280サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/10/31(金) 21:41:57 ID:+eK4u6Ot0
投下完了。前回は>>269より。
…戦闘力のまるでない、一般人そのものの女の人が甚振られるシーンって、書いてて痛いな、やっぱ。
斗貴子さんみたいなバトルヒロインならむしろ血に塗れて闘うのが映えるんだけど。
次回から頑張れ、城之内!遊戯が助けに来てくれるその時まで持ち堪えるんだ!

>>271 やっとこバトルに入ります。ここまで結構長かった…

>>272 まあ、なんとかペースを崩さず頑張りたいです…王道の燃える展開に、なるかなあ?

>>273 ブラコン(シスコン)、基本的に邪気眼でキチ、みたいなコンビです。言い方が酷い(汗)

>>ふら〜りさん
社長はむしろ悪人と言い切ってもいいです(笑)根性は有り余るほど溢れてるんですがね…
同性愛は、神話じゃよくあることなんで気にするな…気にしますかね、やっぱ。
281作者の都合により名無しです:2008/10/31(金) 22:49:51 ID:ySZ/Zf1B0
城の内はやはり時間稼ぎ担当かw
いや、わかってましたけどw
良いところ見せてくれw
282さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/31(金) 23:19:33 ID:ozpbkyui0
すみません、次の投下まで少し間が空くかもしれませんので、レスへのお返事だけさせて下さい。


>>189さん
超反則www だって知恵先生、好きなんですもんw まさにシエル先輩のパラレルワールドの姿w
本編で? 関わってきますね。主人公のまっぴーや婦警ほど出番は無くても“私的三人娘”ですし。

>>195さん
二人の少女のうちの一人はまっぴーですた。核心かー、どーでしょーかねー。
あと祝福のお言葉、ありがとうございます。今もう大変。

>>197さん
いえ、持っていません。原作『呪われた町』のキャラハンは信仰に疑問を持ち続ける酒びたりの神父です。物語の都合上、能力持ちの
元第13課機関員になってもらいました。原作ファンに怒られそう。ただ、『THE DUSK』のキャラハンの能力“世界視”のアイディアには
一応、元ネタがあります。同じくキングの大長編で、これまでのキング作品の登場人物や世界が大挙して再登場する、『ダーク・タワー』という
作品があるのですが、そこから彼の能力を考えつきました。詳しくはググる事をお勧めします。
ちなみに『ダーク・タワー』には
『呪われた町』の事件以後、神父を辞めてヴァンパイアハンターとなり、方々をさすらい続けていたキャラハンも再登場します。
能力名はRAINBOWというヘヴィメタルバンドの『Eyes Of The World』という曲から。

>ふら〜りさん
たぶん、感覚的には私達がアニメや漫画や二次創作作品について語り合うのと同じようなものなのではないでしょうか。無数に存在する
それらフィクション作品の事をまるで違う世界における現実みたいに話す時もありますし。だから、そういった意味では私達にも
世界視が備わっているのかもしれませんねw あと、まっぴーは原作ではイマイチな扱いでしたが、その分アニメ版では嬉しい演出が
多かったですねぇ。『THE DUSK』では主役なんでドンドン押していきますよ。まっぴー押し。ちなみに“災厄成就版”ならば
私が書かなくても、新旧どちらか(もしくはどちらも)の『DAWN OF THE DEAD』を観ればおk。

>>200さん
読んで頂ければそれで満足です! あと、自分の方は最近忙しすぎて、めでたいとか言ってらんなくなってきましたw

>>201さん
神父、どうしましょうかねぇ。何とな〜く考え中です。脇で出すには旦那と同じくらい扱いが難しいw
283さい ◆Tt.7EwEi.. :2008/10/31(金) 23:21:17 ID:ozpbkyui0
>サマサさん
ありがとうございます。そして、サマサさんの方も復活おめでとうございます。
これからもバキスレを支えて下さい。私では力不足なのでw

>>262さん
おかげで眠いですw まっぴーやシエル先輩の絡みは今後のお楽しみという事で。
ただ、シエル先輩の目的はあくまでも“最悪の展開(ルート)を覆しに日本へ征く”です。

>>271さん
ちなみに古代からの吸血鬼にまつわる伝承・伝説では“死者が甦った姿”や“実体の無い悪魔”
だそうなのです。所謂“真祖”という概念は
『D』や『月姫』からですし、旧約聖書に登場するカインが“吸血鬼の祖”という説もありますが明らかなこじつけにすぎませんし。
うーむ、フィクションならではの面白さって大切ですね。那須きのこは大嫌いですけどw

>>272さん
そうそう、絆って大事なんです。家族、友人、仲間と関係性によって色々な種類がありますが、それが物語を面白くするんですよ。
キャラハンが最悪の展開を覆す為にカズキが必要と考えたのもそこだったり。錬金戦団と第13課には絆なんて生まれないでしょうけど。

>>274さん
仕事もちゃんとするし、家事もちゃんとするし、かみさんの面倒もちゃんと見るし、SSもちゃんと書きます。期間限定タフガイでいきますわw
百合方向は…… うーん、まあ、ほどほどに出していきます。また「キャラ物」とか言われちゃうんでw


何だか改行がおかしいけど、御然らば。
284しけい荘戦記:2008/11/01(土) 01:30:39 ID:F52LnMiC0
第二十二話「継承者」

 ドリアンは我が目を疑った。対決を申し込んできたのは、かつて祖国アメリカで英雄と
謳われた人物であった。
「君はまさか、あのマホメド・アライなのか?」
 元プロボクシング世界ヘヴィ級王者、マホメド・アライ。一切ガードをせず、打たせず
に打つを体現したファイトスタイルは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と全世界に畏
怖された。
 リングを降りても彼は戦士であり続けた。ベトナム戦争の徴兵を拒否しタイトルを剥奪
され、根深かった黒人差別とも懸命に戦った。いかなる相手にも屈しない彼のハートを称
え、いつしか人々はマホメド・アライを史上もっとも偉大(グレーテスト)なチャンピオ
ンと呼んだ。
 アメリカで暮らしていた頃、ドリアンも彼の活躍に熱狂していた一人であった。自分が
使い古したシューズをアライが練習で使用したシューズと偽って、ファンに十万ドルで売
りさばいた時の興奮は未だに忘れられない。
 しかし、すでにマホメド・アライは還暦を過ぎているはず──目の前に立つ彼は、肌の
つやといい、筋肉の張りといい、いくらなんでも若すぎる。
「マホメド・アライは私の父です」
 若者は自ら正体を明かした。
「息子(ジュニア)か。道理で瓜二つなわけだ。かなり鍛え込んでいるようだが、プロボ
クサーを目指さなかったのかね?」
「私は父とちがい、光を求めてはいない。私はただ、地球上でナンバーワンの男になりた
いだけです」
「なるほど……海王を狙ったのもそのためか」
「はい。世界各地でストリートファイトを重ねるうち、東京には猛者が集っていると聞き
及びました」
「若いのに感心なことだ」
 ドリアンは両足でアスファルトを踏み鳴らし、構えを取った。
「君との対決──受けよう。来たまえ」
「サンクス」
285しけい荘戦記:2008/11/01(土) 01:31:29 ID:F52LnMiC0
 保たれた間合い。縮まらぬ間合い。
 殺気を全身にまとわせ微動だにせぬドリアン。
 アライJrは父と同じくガードを上げず、小刻みにステップを踏みながら、ドリアンを
眺めている。
 均衡は突如破られた。
 初速からマックス。真っ向から飛び込むアライJrに、ドリアンは冷静に防御を固める。
が、ハンドスピードはさらに速い。
 芸術的なしなやかさで、拳は顎を打ち抜いていた。
 たった一発で、巨体とタフネスを兼ね備えたドリアンが膝と手を地面につけた。開始早
々の出来事であった。
「父に似て優秀な戦士(ウォーリア)のようだな」揺れた脳にかまわず、ドリアンは反撃
に出る。「──噴ッ!」
 右崩拳はバックスウェーにかわされ、研いだ爪を利用した左貫き手も空を切る。ローで
機動力を封じようと目論むが、素早いフットワークには届かない。
 回復しきってなかった顎へのダメージがドリアンの足をもつれさせる。
「……くっ!」
 アライJrの時間である。左ジャブを鼻にぶつけられ、続く右フックが耳を打ち、強烈
な左ストレートが顔面に炸裂した。鼻血が舞い、前歯が散る。受け身を取ることなくドリ
アンはノックダウンを喫した。
「これでまた一つ、私はナンバーワンに近づいた」
 立ち去ろうとするアライJrに、先ほどまでとは異質な殺気が叩き込まれる。
 振り返ると、ワン、ツー、スリー、をまともに受けたドリアンが立っていた。
「まだ私は敗北を認めてはいないぞ……神の子よ」

 信じられないといった風に首をすくめるアライJr。
「まさか立ち上がれるとは、まるで怪物だ……」
「この私が怪物だと? うぅっ、ひどい、人を化け物扱いするなんてぇっ!」
 目から涙を迸らせ、ドリアンは大きな体を丸めて泣き始めた。理解しがたい現象に、ア
ライJrの精神は瞬く間に困惑の極みに達した。
 ──直後、心臓に押し寄せる重厚な圧力。
286しけい荘戦記:2008/11/01(土) 01:32:24 ID:F52LnMiC0
 アライJrの胸部には、掌底がめり込んでいた。ペテンと中国拳法の融合が、最高の一
打を生み出した。
「フェイク、か……ッ!」
「破ァッ!」
 正中拳への三連打。狙いは正確だったが、アライJrは反射的に急所を外しており、決
定打には至らない。
「ずいぶん、クレバーな、戦い方をするん、だな……。勉強になった……」
 乱れた呼吸を整えもせず、再びステップを刻むアライJr。
「それでもなお、敗ける気がしない……!」
 両者が互いの射程(エリア)に入る。
 ドリアンが振り落とす手刀を紙一重で見切り、アライJrのジャブが顎にヒット。
 ダメージをごまかすように、傾きかけた己の体をあえて猛攻に使うドリアン。海王とし
ての技量と速度を存分に備えた拳足が幾度もアライJrに襲いかかる。なのに、全く当た
らない。アライJrのパンチは全てドリアンを捉えているというのに。
 打たせずに打つ──ドリアンはかつてブラウン管の中にいた英雄を思い返していた。
「君ならあるいは……父を超えるヒーローになれるかもしれん……」
 執拗な顎へのラッシュで、意識を削り取られるドリアン。
「──しかしッ! 私に勝つには若すぎる!」
 渾身の勢いを込めたタックル。ボクサーに対応できるはずがない、完璧なタイミングで
あった。
 ところがアライJrは、なんとドリアンのタックルと同速度で後ろに下がると、スペー
スシャトルのようなアッパーカットで顎を打ち上げてみせた。
 ドリアンから急激に力が抜けていき、代わりに足元から這い上がる黒い塊。
 百万匹の蟻の群れ──。
287サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/11/01(土) 01:40:03 ID:F52LnMiC0
11月一発目です。
次回へ続く。

>>223
白林寺軍団と人間力255の寂さん以外は最大トーナメント1〜2回戦レベルでしょうね。

>>224
無理に新キャラ出さずとも話は作れるので、キャラに関してはあまり気にしてないです。

>>225
範に似た人は気高く開花したというのに……。
288作者の都合により名無しです:2008/11/01(土) 02:56:37 ID:z01EJkxK0
ドリアンまさかこれで終わるって事はないよね
アリが這い上がってきたらまずいかなw

あと、克己は惜しかったですねえ
289作者の都合により名無しです:2008/11/01(土) 10:30:20 ID:HTZDEi9Z0
サナダさんとサマサさんが並んでいるとなんか嬉しい俺がいる

>サマサさん
城の内は原作から女に囲まれた羨ましい役回りだけど結局遊戯に頼るんだよなあ
出来れば勝てぬまでも奮戦してほしいところだ。

>サナダムシさん
ジュニアは原作当初の全盛期ジュニアですな。さすがに強い。
原作で海王として戦わなかったドリアンだけど、まさかもぅ負けるのか
290作者の都合により名無しです:2008/11/02(日) 02:10:18 ID:DJ0HvjfD0
確かにバキのキャラはいいキャラが多いよなあ
板垣はキャラを捨てすぎ
291作者の都合により名無しです:2008/11/02(日) 16:20:23 ID:7lbUQJCp0
サマサ氏の遊戯王はこれから盛り上がっていきそうで嬉しいが
サナダムシ氏のしけい荘が終わりそうで残念
でも次のシリーズもありそうな感じで嬉しい
292遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/02(日) 18:20:41 ID:bKMTwEFb0
第九話「凡骨の咆哮」

「ふう…予定より、随分到着が遅れちまったな」
船から降りたオリオンがぼやく。既に深夜といっていい時間だ。
「ほんとなら、昼頃には着くはずだったのにね」
「ああ。おまけに何だか、嫌な予感がするぜ…くそっ。思い過ごしならいいんだが」
オリオンはいつになく苛立っている様子だった。遊戯も頷く。どこか…何かが、歪んでいる。そんな嫌な雰囲気を
二人は感じ取っていた。
(ねえ、キミはどう思う?)
(オレも同じ意見だ―――どこか、キナ臭い気配を感じるぜ)
もう一人の自分も、緊張を滲ませている。
(相棒!ここはオレに任せてくれ。何か、大変なことが起こっている。そんな気がするんだ)
(うん…頼んだよ!)
その瞬間、千年パズルが輝き<武藤遊戯>は姿を消した。代わりに現れたのは―――
「あれ…?遊戯。お前、なんか顔が変わってない?…なんで?」
「小せえことにこだわるんじゃねえ―――行くぞ、オリオン!星女神の神殿へ案内してくれ」
「お、おお…遊戯、なんか今のお前、怖いぞ…」
オリオンは目を丸くしつつも、遊戯と共に走り出した―――。

―――レスボスからやや離れた海上。波間を漂う船の上で、紫眼の男―――エレフがイライラした様子でレスボス
の方角を睨み付けていた。
「フン。そんな顔をしても船は進まんぞ、エレフ」
「一々うるさいぞ、海馬。そんなことは分かっている」
エレフは完全に心ここにあらずといった有様だ。海馬はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「仕方のない奴だ…勘違いするなよ。鬱陶しくてかなわんから、さっさとレスボスに向かいたいだけだ」
そう前置きして、海馬はディスクに二枚のカードをセットする。
「ブルーアイズ…同時召喚!」
雄叫びをあげながら、美しき白龍―――ブルーアイズが二体、出現する。海馬は身軽にその背に飛び乗り、エレフ
に手招きする。
293遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/02(日) 18:21:35 ID:bKMTwEFb0
「特別だ…エレフ。貴様に、この白龍の背を貸してやる」
「海馬…感謝する」
「フン、うるさいわ。さっさと乗れ」
エレフも海馬に倣い、ブルーアイズの背に乗る。そして二つの翼は、夜空を舞い踊るように空を駆け抜ける―――

神殿の中庭。泉に映る月を、ミーシャはぼんやりと見つめていた。心中は、意外なほどに静かだった。
(我ながらに、ついてない人生だったと思うわ…)
残酷な女神が統べる、不条理に満ちたこの世界。けれど、思い返せば、嫌なことばかりではなかった。
(ソフィア様…フィリス…それに神殿の皆も、本当に親切だったな)
風の都から逃げ出した先、嵐に遭って流れ着いたこのレスボス島で、彼女達に出会えたことはきっと幸運だった。
浜辺で倒れていたのをフィリスに助けられて、ソフィアから教えを受け、星女神の巫女として生きた。辛いことも
あったけれど、楽しいこともたくさんあった。
(オリオン…私きっと、あなたのことが好きだった―――か、勘違いしないでよね!変な意味じゃなくて、友達と
して好きだっていうことだからね!)
どうしようもなくバカで、どうしようもなく口が悪くて、どうしようもなく女の子が好きという、困った人。
その上―――どうしようもないくらいに本当はお人好しで、勇敢で、誰よりも優しい心の持ち主だった。
最期だし、認めてしまおう―――勘違いなんかじゃない。自分の、初恋だった。
(城之内。あなたはちゃんと、お友達と再会して、自分の帰るべき場所へ帰れるといいわね…)
つい先日出会ったばかりの、ヤンチャだけど暖かい心を持った、芯の強い男の子。
<また、会えるよ。絶対に、あんたと、あんたの兄貴はまた会える>そう言って、自分を励ましてくれた。
それは、本当に―――嬉しかった。
(…エレフ。ごめんね…私は、あなたに会えないまま…運命に従い、散っていくわ)
これ以上ないほどに血を分け合った、双子の兄妹。幼い時からずっと一緒だった。そして―――
幼い時から、ずっと離れ離れだった。最期に―――もう一度だけ会ってさよならを言いたかった。
(もう一人の私…エレフ。あなたは、幸せになってね)
「さて、星女神の巫女アルテミシア。覚悟はいいかな?」
返事はしない。ただ黙って、瞳を閉じた。スコルピオスが、ゆっくりと剣を振り上げる。
294遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/02(日) 18:22:21 ID:bKMTwEFb0
「ヒュドラよ―――受け取りたまえ!」
そしてそれを、振り翳そうとした刹那―――
「…………ぉ」
「む…!?何だ、空耳か…?」
思わずスコルピオスは動きを止め、ミーシャから距離を取る。ミーシャは思わず目を見開いた。
「今の…声は…!」
「……ぉぉぉおお…!」
声は次第に大きくなる。そして―――
「うおおおおおおおおおおっ!待ちやがれぇ、悪党共ォォォッ!」
旋風を巻き起こしながら、ミーシャの眼前に、巨大な影が降り立った。その異形の姿に、スコルピオス達は思わず
息を呑んだ。
「な、にィ…竜、だと…!?」
「ギャオオォォーーーーーッ!!!」
それは、紅き瞳の黒竜―――彼は兵士達を威嚇するかのように、凶暴な唸り声をあげている。その背中から、一人
の少年が地面に飛び降りた。
「へへ、間一髪ってとこだな…ミーシャ!」
「じょ…城之内!どうして、ここに…」
どうしてじゃねーだろ、と城之内は口を尖らせた。
「あんたを助けに来たんだよ。決まってるだろ?」
「―――!」
ミーシャの心に、様々な感情が渦巻く。感謝、嬉しさ、希望―――そして。
相反するような悲しみと、絶望だった。
「よっしゃ!それじゃあ早速―――」
「…頼んで、ないわ」
「え?」
城之内は、思わず鼻白む。ミーシャの声は、驚くほどに冷たかった。
295遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/02(日) 18:23:08 ID:bKMTwEFb0
「…頼んで、ないわよ。助けてなんて…」
「おい、ミーシャ…」
「何で―――そっとしておいてくれなかったの…?私はもう、ここで、静かに死ぬつもりだった!なのに!」
城之内が来てくれて―――嬉しかった。心に確かに、希望が灯った。そして。
覚悟を決めていたはずなのに―――死ぬことが、怖くなった。
城之内がここから逃がしてくれたとしても、そうなればこの男達は見せしめとして、島の者達を手にかけるだろう。
それを考えれば、やはり自分は、逃げるわけにはいかないのだ。
希望がちらついたからこそ―――その絶望は、耐え難かった。
「どうして、来るのよ!?あなたが来なければ…希望なんて、持たずにすんだのに!」
細い身体のどこから絞り出したものか、ミーシャは凄まじいほどの声で怒鳴った。
「私が、死ねば…それでもういいのよ!それでもう…誰も傷つかないのに!」
「―――おい。待てよ。今、なんて言った…!?」
「え…?」
「何が、もう誰も傷つかない、だ…ふざけんじゃねえ!」
城之内は怒りを顕わにして、ミーシャに怒鳴り返した。
「あんたは、本気でそんなことを言ってやがるのか!?あんたは…まだ、兄貴にだって会ってないだろう!好きな男
だっているんだろうが!今あんたが死んだらそいつらがどんだけ悲しむと思ってんだよ!?そいつらの心が―――
どれだけ傷つくと思ってるんだ!」
「…………!」
ミーシャは思わず顔を強張らせる。城之内はそれにもかまわず、叫び続ける。
「生きろよ!地面に這いつくばってでも、泥被ってでも、どれだけ汚れちまったとしても―――それでもだ!お願い
だから―――生きてくれ!生きることを…諦めんな!奇麗に死ぬより…カッコ悪くても、生きることを考えろよ!」
「城之内…」
「あんたが大事に想う奴らを…あんたを大事に想ってくれる奴らを置いて…勝手に死ぬんじゃねえよ、バカ野郎!」
最後は涙すら浮かべ。肩で息をしながら。城之内は、喉が裂けるほどに吼えた。
296遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/02(日) 18:23:55 ID:bKMTwEFb0
「どうなんだよ…ミーシャ…」
「…………」
「あんた…ほんとに、いいのかよ…?このまま、死んじまっても!」
「いいわけ…ないわよ…」
ミーシャは―――泣いていた。大粒の涙が、止めどなく溢れる。
「ミーシャ…!」
「私だって―――本当は死にたくなんてない!ソフィア様にも、フィリスにも、神殿の皆にも、城之内にも―――
オリオンや、エレフにだって、さよならも言わずに、死にたくなんてない!生きて…皆と、また会いたいよ!でも、
それでも…じゃあ、どうすればいいの!?」
ミーシャは泣きながら言い募る。
「私が逃げていれば…この人たちは手当たり次第にみんなを殺していたかもしれないわ!そんな事になるくらいなら
―――私は―――他の誰かを犠牲にしてまで、生きることはできない!」
「…!そうか…そういうことかよ!汚え奴らだ…」
城之内は、怒りを込めてスコルピオス達を睨み付けた。両手を強く握りしめ、仁王立ちする。
「それならなおさら、何も問題ねーな。ミーシャは逃げる必要はねーし、誰も犠牲になんざ、ならなくてもいい」
「え…?」
訳が分からないといった様子のミーシャを尻目に、宣言する。
「オレがこいつら全員、ブチのめす。それで全部解決だ!」
城之内は声を張り上げ、咆哮する―――!
「蠍頭!テメエは、オレがぶっ潰してやる!デュエルモンスターズ大会において決闘者の王国では準優勝に輝き、
バトルシティベスト4に残った決闘者(デュエリスト)にして、星女神の神殿雑用係―――
漢・城之内克也がな!」
297サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/11/02(日) 18:35:36 ID:kA7NV3Kq0
投下完了。前回は>>279より。
城之内克也―――灼熱の時(不吉すぎる)。
現代を生きる高校生である彼が、ガチで殺し合いを仕掛ける相手にどう闘うかですが、そこは大丈夫。
決闘者にとって、タマの取り合いは日常茶飯事です。

次回予告。
「お前達は…!」
遊戯番長!弓道番長!白龍番長!シスコン番長!
「我ら四番長…凡骨番長の助太刀に参った!」

まあ嘘なんですが、かなりこれに近い展開になります。作者としても、城之内には
勝てないまでもどうにか頑張ってほしいところ。

>>281 力及ばないなりに、死力を振り絞る彼を書けたらいいな…

>>さいさん 僕はもうすでにロートル…(汗)若い人の時代ですよ。シエル先輩は知らないけど、
        知恵先生は知ってる僕はダメかもしれない。あ、僕はカレーよりスパゲティー派です。
       …先生に叱られに職員室に行ってきます。

>>289 むしろ「もう頑張んなくていいよ!じっとしてて!」というくらいに奮闘させるかな。

>>291 よき作品が終わるのは寂しい。しかしシコルは皆に愛されすぎです。
298ふら〜り:2008/11/02(日) 20:51:03 ID:mCxF/K+C0
♪萌えより燃えを〜 セルより実写〜♪ってのは特撮板の歌ですが、やはり少年漫画たるもの、
燃えこそ命と思うわけでして。今回はそれぞれ違った方向で、非常〜に燃えましたっ。

>>サナダムシさん
おおぉぉ! 世間的には(強さ議論スレとか……)なかなか理解の得られぬアライ好きとしては、
これはかーなーり嬉しい! ここでドリアンが負けてもまだまだ他のメンツでリベンジは充分
可能(なんならドリアン本人でもいい)んですし、ここは一つ、全力でアライを応援したい!

>>サマサさん(古の昔には、液晶画面ゲームで人命や国や地球を救った英雄もおりましてな)
>うおおおおおおおおおおっ!待ちやがれぇ、悪党共ォォォッ!
>オレがこいつら全員、ブチのめす。それで全部解決だ!
これですよこれっっっっ! 漫画にアニメに小説にゲームに特撮、いろんな物語にいろんな
シチュがありますけど、これこそ至高で究極で最高! 特にバトルありの少年漫画ならば、
これを描かずしてどーする! と言いたくなるぐらい興奮してます今。さぁ、いったれ城之内っ!
299作者の都合により名無しです:2008/11/02(日) 20:53:40 ID:1vMnrvg70
お疲れさんですサマサさん
ブルーアイズにまたがる社長かっこよす
熱血ヒーローっぽい城之内もかっこよす
300作者の都合により名無しです:2008/11/03(月) 10:20:00 ID:WbtIVMh60
ああ、サマサさん番長好きだもんね
前に番長SS書いてたし。

このSSにもちょっと前の熱いジャンプ魂が垣間見えますな
城の内にはぜひ男を見せてほしいところ。
301しけい荘戦記:2008/11/03(月) 14:26:46 ID:KTAZuTte0
第二十三話「夜は動く」

 スーパーで購入した焼き鳥の盛り合わせを挟み、缶ビールで乾杯するシコルスキーとゲ
バル。
 シコルスキーが指だけで飲み終えた缶をパチンコ玉の大きさに丸めてみせると、ゲバル
は指の力で缶を紙のように平らにしてみせた。ピンチ(指でつまむ)力に自信がある者同
士、どうでもいい局面でも張り合うことを忘れない。
 シェイクした缶ビールを手渡しながら、話を振るゲバル。
「アンチェインもいっていた闇討ちの話だが、狙われてる海王ってのはそれほどに強いの
か?」
 気づかずに開けてしまい、ビールをもろに浴びるシコルスキー。
「あいつらは中国拳法のエリート集団だからな。強くないはずがない。特にずば抜けてい
るのが、烈海王と寂先生だ」
 お返しにと缶ビールをシェイクし、そっとゲバルの近くに置くシコルスキー。
「寂海王はたしかアンタの師匠だったな。烈海王は初耳だが……」
 罠を察知し、素早くシコルスキーの膝元にある缶とすり替えるゲバル。
「烈海王はまちがいなくコーポ海王で最強の使い手だ。ゲバル、いくらアンタでも楽に勝
てる相手じゃないぞ」
 またも気づかずにビールの噴射を両目に受けるシコルスキー。
「中国拳法か、一度手合わせしたいものだ」
 指で目をこするシコルスキーに、青いバンダナをパスするゲバル。
「そういえばすっかり忘れていたが、ドリアンも海王の一人だったんだ。ペテン師になる
ために海王たちと縁を切ったらしいが」
 バンダナで目を拭き、ついでに鼻をかむシコルスキー。
「へぇ、海王というのは中国人でなくともなれるのか」
 鼻水まみれになった愛用のバンダナを、悲しげな瞳で見つめるゲバル。
「寂先生は日本人だし、親友のサムワンもタイ人だ。要は、公式(オフィシャル)な試験
に合格すれば誰でもなれるらしい」
 酔いが回ったのか、缶をシェイクしてそれを自分で開けてしまうシコルスキー。
「ならば、俺がゲバル海王になったり、シコルスキー海王が誕生することも不可能ではな
いってことか。……いや待て、ドリアンが海王というのなら、今回ターゲットにされる危
険があるんじゃないか?」
302しけい荘戦記:2008/11/03(月) 14:28:38 ID:KTAZuTte0
 畳にこぼれたビールをおちょぼ口でじゅるじゅる吸い取るシコルスキー。ショックのあ
まりバンダナをビールで洗い始めるゲバル。
「大丈夫だろう。今のドリアンはしけい荘住人であって、海王ではないからな」
 蒸気と化したビールが、部屋中を麦の香りで満たす。しかし、空気の入れ替えは不意に
行われた。
 スプリングパンチでドアを粉砕し、ドイルが血相を変えて飛び込んできたのだ。
「──大変だッ!」
 驚いて振り返る二人にかまわず、ドイルはいった。
「ついさっきドリアンがやられた。……今、大家さんとスペックが二人で病院に運び込ん
で……重傷らしい」

 夜の公園で、アライJrは打ちひしがれたようにベンチに腰かけていた。電灯がほのか
に、激闘を終えたばかりの戦士を映し出す。同じく戦士だった父が勝利のたびに浴びてい
たスポットライトが、彼に向けられることはない。
 アライJrは固形化した血がこびりついた両の拳を一瞥し、深いため息をついた。
「……今まででもっとも手強い相手だった。あれくらいしなければ、まちがいなくやられ
ていた」
 一時間ほど前、彼はドリアンと死闘を演じていた。
 タックルをアッパーで切り返した瞬間、アライJrは右拳にたしかな手応えを感じてい
た。恐竜であろうと轟沈できただろう感触であった。
 ところがドリアンは、亡者のような足取りでなおも抵抗を続けてきた。溺れた子供のよ
うにふわふわと手足を空中に突き出すだけだが、アライJrはこれまでの格闘人生であれ
ほどに恐怖した場面はなかった。
 しかも、少しずつではあるが攻撃はアライJrを捉え始めていた。あれだけ打ち込まれ
ながら、さすがの回復力である。
 ──これ以上時間を与えれば、逆転される。
 今までアライJrはノールールのストリートマッチでありながら、必要以上に相手を傷
つけなかった。たとえ倒した相手に意識が残っていても、追撃するような真似はしない。
あくまでも自分は戦士であり、人殺しにはなりたくなかったからだ。
 もう手を出したくない。戸惑うアライJrを、ドリアンはあざける。
「神の子よ……。この期に及んで、腰が引けているぞ……? 君では父親のようにはなれ
ぬ……君は単なるチキンだ……!」
303しけい荘戦記:2008/11/03(月) 14:30:52 ID:KTAZuTte0
「わ、私はチキンではない!」
 パンチを打つための拳に、生まれて初めて殺意が宿った。
 この老人が明日からどのような不自由を強いられようと関係ない。否、この老人に明日
が来なくとも関係ない。
「チキンなんて呼ばせないッ!」
 らしくないテレフォン気味の右ストレート。ドリアンの顎が砕けた。
 あとは平時の調子を取り戻し、華麗なフットワークから変幻自在の高速コンビネーショ
ンでドリアンを滅多打ちにした。
 三分は繰り返しただろうか──我に返ると、血に染まった拳と、道路と一体化するよう
に打ち伏せられた無残な巨躯が、視界に入った。
 アライJrは逃げ出した。敵からも、己からも。
「血の臭いがするぞ、小僧……。殺人でもやらかして、ここに逃げ込んできたのか?」
 煙草の煙としわがれた声が、アライJrを現在へと回帰させた。
 ベンチの前には小柄な中年が立っていた。一般成人男性の平均値にも満たない体格なが
ら、猛獣を連想させるほどの絶大な殺気を帯びている。
「殺人などしていない! 私は正々堂々と決闘を──」
「どうでもよい。貴様の弁解なんぞ聞いておらん。しかしなるほど──巷で話題になって
いる闇討ち拳法家とは貴様か」
「あなたは何者だ……?」
「先に名乗れ、バカ」
「……私はマホメド・アライJrだ」
 太平洋を横断し、日本にも伝わる偉大なるチャンプ、マホメド・アライの武名。むろん
男も知っていた。
「わしは本部以蔵だ。この公園で暮らすホームレスたちの元締めをしておる」
304サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/11/03(月) 14:39:59 ID:KTAZuTte0
第二十三話終了。
補足:本部は前シリーズのボスです。

>>288
「百万匹の蟻」は個人的にかなり好きな表現です。

>>289
最近サマサさんと交互に投下するような形になっており、
奇縁を感じます。

>>290
ユリー、三崎、アライ、ゲバル、劉海王……。
305作者の都合により名無しです:2008/11/03(月) 20:07:03 ID:ozJipCzr0
ドリアン今回で退場かな?
ま、ぎりぎりまでアライを追い詰めたみたいだから仕方ない
ホームレス中年生本部がまた現れたかw
306作者の都合により名無しです:2008/11/04(火) 00:32:50 ID:zl+R/9oF0
本部がなんかかっこいいな。
いよいよ最終決戦間近ですか。
それにしてもゲバルはしけい壮側で参加するのかな
307作者の都合により名無しです:2008/11/04(火) 08:16:20 ID:4m+WSRNt0
うーん30話で終わりそう
アライ対シコルは確定っぽいですな
308遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:02:37 ID:UsVifOA80
第十話「凡骨の意地」

「―――小僧。いい度胸だ」
スコルピオスが剣を構え、城之内と向き合う。
「我ら全員で貴様を殺すのは簡単だが、ここは一つ、私と一騎打ちといこうではないか」
「へえ…意外と立派なことを言うじゃねえか。どういう風の吹き回しだ?」
「さあ、何故かな…強いて言えば、敬意を払いたくなったというところかな。貴様のその、身を挺して巫女を守ろう
という心意気にな…」
「…………」
「貴様が勝ったなら、我らは大人しく引き揚げ、二度とこの島には足を踏み入れまい―――それでよいな?」
「ああ、それで文句はねえよ。いくぜ、決闘(デュエル)!」
城之内は大地を強く踏み締め、力強く叫ぶ。
(相手は一人だ…ならいけるぜ!まずはこいつで様子見だ!)
ディスクに新たなモンスターカードをセットする。召喚されたのは、黒き鎧を纏う騎士。
「鋼鉄の騎士―――ギア・フリード!」
「ぬ…!貴様、あの札のような物から怪物を呼び出せるというのか!?」
「札のような物じゃねえ、デュエルモンスターズだ!いけ、ギア・フリード―――攻撃だ!」
手にした刃で、鋼鉄の騎士が斬りかかる。だが。
「ぶるぁぁぁぁぁぁっ!」
気合いと共に繰り出された剣撃が一閃する。ギア・フリードは、頭から股下まで真っ二つにされ、消滅した。
「なっ…ぐうっ!」
城之内は全身に走る痛みに、顔を歪める。
(ギア・フリードがやられたからか…?召喚したカードがやられたら、こっちもダメージを喰らっちまうのか!
しかしなんてヤローだ。鋼鉄の鎧を軽くぶった斬りやがった!この世界にゃこんな人間がいるってのかよ!?)
「くく…どうした?あの程度で倒せるなどと、まさか本気で思っていたんじゃあないだろうな?」
「ちっ!バカ言え。こっからが本番だぜ!頼むぜ、レッドアイズ!」
レッドアイズが地を蹴り、スコルピオスに飛びかかった。
309遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:03:30 ID:UsVifOA80
「ぬうっ!」
振り下ろされたレッドアイズのカギ爪を剣で受け流す。と同時に、滑らかな動きでレッドアイズの懐に入り込み、
腹部を横薙ぎにする。
レッドアイズは苦鳴を洩らしつつ飛び退く。斬り裂かれた腹部からは、ダラダラと赤い血が流れ出していた。
「くっ…!」
「どうした、小僧!貴様ご自慢らしい黒竜も大したことはないな!」
嘲るように叫び、レッドアイズの首に向けて追撃―――
「なら、ここは罠(トラップ)カード―――<悪魔のサイコロ>だ!このカードは、出た目に従って敵の攻撃力を
数分の一に下げるぜ!」
新たにセットされたカードが、即座にその効力を発揮する。子供のような姿をした悪魔が、スコルピオスの頭上で
サイコロを振る。出目は、4。
「蠍頭!テメエの攻撃力は四分の一に落ちるぜ!」
「ぬうぅっ!?」
急激に腕の力が抜けていく感覚に、スコルピオスは狼狽する。本来のおよそ四分の一にまで威力が落ちた斬撃は、
レッドアイズが鞭のように振り回した尻尾によってあっさり防がれ、その衝撃でスコルピオスは剣を取り落とす。
「よっしゃあ!レッドアイズ、止めだ!」
黒竜の顎が大きく開かれ、そこから灼熱の火球が放たれる―――はずだった。しかし城之内は見た。スコルピオス
の口元に、歪んだ笑みが浮かぶのを。
「者共…矢を放て!」
「な…!?」
兵士達が手にした弓が一斉に撓り、雨のように矢が射られた。それはレッドアイズ、そして城之内にも命中する。
「がはっ…!」
運よく急所には当たらなかったものの、肩や腕に容赦なく矢が食い込み、激痛に気が遠くなる。そして、歪む視界
の中で、レッドアイズが無数の矢に貫かれるのを見てしまった。
「グァァァアアーーーッ!」
断末魔の絶叫と共に―――レッドアイズが消え失せた。城之内はそれを悲痛な思いで見届けると、スコルピオスを
睨み付けた。
310遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:04:18 ID:UsVifOA80
「て…テメエ…汚ぇぞ…!一騎打ちのはずだろうが…!」
だが、彼は剣を拾いつつ、そんな城之内を鼻で笑う。
「フン!くだらんなぁ〜〜〜〜〜〜〜一騎打ちの決闘だなんてなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!このスコルピオスの目的は
あくまでも星女神の巫女を生贄に捧げること!あくまでも神の力を得ること!!貴様のような決闘者になるつもり
もなければロマンチストでもない…どんな手を使おうが…最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァっ!!」
そしてサッカーボールでも扱うかのように、城之内の顔面を思い切り蹴飛ばす。城之内は血反吐を吐きながら地面
を転がり、苦痛に呻く。スコルピオスはそれを見下ろし、ゆっくりと剣を振りかぶる―――
「もう…やめて!」
ミーシャがたまらずに、スコルピオスに向けて叫んだ。
「私なら、もういい…生贄にでも、何でもなるから…だから、もう…」
ミーシャの目から、涙が零れ落ちた。
「もう…誰も、傷つけないで…お願いだから…」
「ふん―――いいともさ。元々この小僧などどうでもいい。我らの目的は、何度も言った通りだ」
スコルピオスの剣が、月の光を受けて鈍く輝く。
「この小僧も可哀想にな?貴様が大人しく死んでいれば、こんな痛い目に遭うこともなかったろうに。その上で、
全てが徒労に終わったのだからな―――はっはっは!哀れなことだ!はーっはっはっはっは!」
「…………」
ミーシャは顔を伏せる。全ての感情が凍りついたかのように、表情に精気がなかった。
「神に祈れ…残酷な、運命(めがみ)にな…」
そしてスコルピオスが足を踏み出したその時―――
「ま…待て…」
城之内は歯を食い縛って激痛を堪え、ふらつきながらも立ち上がった。
「誰が、ミーシャに近づいていいなんて、言ったよ…ええ…クソ野郎…!」
「城之内…!やめて!もう…立たないで!」
「ミーシャ…黙ってろ…まだ、オレの闘いは、終わって、ねえ…」
「もう…やめて、城之内…私のためなら、もう、いいから…」
「うるせえって言ってるんだ!」
311遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:05:05 ID:UsVifOA80
城之内は一喝し、ミーシャの言葉を遮る。
「あんたのためだけじゃねえ。オレ自身のためだ!オレは必ずあんたを守ると誓った。誰に誓ったわけじゃねえ
…オレ自身の魂と、誇りに誓ったんだ!」
「…城之内…本当に、もう、いいのよ…これもまた、運命なのよ…運命(かみ)はきっと、私にここで死ねと、
そう定められたのよ。だから―――」
「ざけんじゃねえ!運命運命って、お前らみんなバカか!?そんなモンに寄りかかって諦めて従って―――
んなもんが運命だっつーんなら…運命なんざ、クソっ喰らえだ!」
もはや身体はまともに動くこともままならないというのに、城之内はその苦痛すら忘れたかのように吼える。
それは、叫びだった。魂の奥底から搾り出すような、城之内の全てを込めた咆哮だった。
「だから…邪魔すんじゃねえ…!これは、オレの闘いだ。運命が決めた闘いなんかじゃねえ。オレ自身が選び、
そして挑んだ闘いだ!これだけは、他の誰にも、運命の女神様とやらにも邪魔させねえ―――
運命(かみさま)の意志なんざよりも―――オレは、オレの意地に従う!だから…そこで、見てろ。あんたを、
絶対に死なせやしねえ」
城之内のその姿に、もはやミーシャは何も言えない。そして城之内は再び、スコルピオスに向き直る。
「城之内…とかいったな?」
スコルピオスは、ゆっくりと口を開いた。
「最後に一応訊いておこう―――私の部下になる気はないか?それほどの力と気概があれば、すぐにでも英雄と
称えられようぞ。なあ?私はこれでもお前を評価しているのだよ?こんな辺鄙な島の田舎娘を庇っての犬死と、
英雄としての栄光、どちらを選ぶかなど、考えるまでもあるまい。地位も名誉も金も女も思いのままだ―――」
「ああ…そうだな…」
城之内はそれに対し、言われた通りに、考えるまでもなく答えた。
「寝言もいい加減にしやがれ―――毒蟲野郎」
「そうか。なら、死ね」
スコルピオスが兵士達に合図を送る。同時に放たれた無数の矢が一斉に城之内に襲い掛かる―――城之内には、
その一つ一つの軌跡まで、正確に見えた。
312遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:05:51 ID:UsVifOA80
(ああ…こりゃあれか?死ぬ前には時間がゆっくり流れるとか…そうか。オレ…ここで終わっちまうのか…
ごめんな、ミーシャ…守るっていったのに…遊戯…すまねえ…オレは…ここまでだ…)
その刹那―――

「―――<クリボー>を召喚!そして魔法カード<増殖>を発動!」

城之内とミーシャの周囲に突如、無数の丸い物体が出現した。放たれた矢はそれに阻まれ、同時に機雷に当たった
かのように弾け飛んだ。
「え…?」
「これは…なに…?」
城之内とミーシャは呆然としながら、自分たちの危機を救ってくれたそれを見やる。それは、まるで風船のように
ふわふわ宙を漂う、毛むくじゃらのヘンテコな動物だった。
「クリ〜?」
どこからか山盛りに現れたその生き物は、愛敬たっぷりのまんまるい目で、二人を不思議そうに見ていた。そして。
カツ、カツ、カツ、カツ…
足音が響き渡り、<彼>が姿を現した。
大人しそうだったその顔が、ガラリと印象を変えていた。威厳すら感じさせる鋭い眼光が、居並ぶ兵士たちを威圧
する。フニャフニャしていた髪型が、刺々しく天を衝くように逆立っていた。
「へっ…おいしいとこ、持っていきやがって…」
城之内は、にやりと笑った。<彼>もまた、笑い返す。
「城之内くん…キミは、立派に闘った。だから、後は―――」
笑いを消して、<彼>は、その瞳に闘志の炎を滾らせる。
313遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/04(火) 09:18:23 ID:+mSx86VM0
「―――オレに、全て任せてくれ!」
「…ああ。頼んだ…ぜ…」
城之内は安心しきったかのように頷いて―――地面に崩れ落ちた。ミーシャが慌てて駆け寄り、その身体を支える。
「城之内!しっかりして…!」
「へへ…心配、すんな…」
城之内は息苦しそうに、しかし、しっかりした声色で答えた。
「これから遊戯が…あの毒蟲野郎をぶっ飛ばす、愉快痛快な場面なんだからな…見逃してなるものかよ…」
そして―――<彼>と<蠍>が向かい合う。
「くく…今度は貴様のようなチビが相手か?全く私も舐められたものだ…しかしなんだ、あの男をボロ雑巾にして
やったのが、そんなにお気に召さなかったかね?もう少し念入りにいたぶってやるべきだったか―――しかしまあ、
無様なものだ。あれだけ大口を叩いておいて女一人守れんのだからな…はぁーっはっはっはっはっは!」
「全くですなぁ。弱いくせに粋がるからああなるということですかねぇ?」
「負け犬とは、まさにああいうザマを言うのでしょうなぁ、はっはっは…」
スコルピオスに追従するように、兵士達からも嘲笑が沸き起こる。<彼>は怒りを漲らせ、ただ一言。
「黙れ。クソ野郎共…!」
短い、だが恐ろしいほど冷たい言葉に、その場の全員が凍りついた。
「御託はいい…死にたい奴から、かかってきな!」
―――そう、<彼>こそはもう一人の遊戯にして、千年パズルに宿る、古の王(ファラオ)。
闇の知恵と力を持ちて、闇のゲームの審判者として君臨する存在。
即ち―――闇遊戯!
その怒りが、今まさに、天地を震わせていた―――!
314サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/11/04(火) 09:20:28 ID:+mSx86VM0
投下完了。前回は>>296より。
闇遊戯登場早々、ついにブチ切れ。次回、怒りのバーサーカーソウル…
じゃなくて天空神、光臨。これまでのフラストレーションをかっ飛ばす逆襲劇の始まりです。
読者の皆様の誰もが予想できた展開だと思うので、なるべく闇遊戯の登場がかっこよくなるように
頑張って書いたつもりです。

>>ふら〜りさん ヒーローたる者、弱き者のために闘うべし。そして、力及ばず倒れた友のため闘うべしです。
          …液晶画面で世界を救った英雄が誰なのか分からねえw

>>299 これで勝てたら最高にかっこよかったんですが、最後は遊戯に譲るということで。

>>300 城之内は赤木しげる言うところの<熱い三流>だと思います。本物の一流にはどう足掻いても
     勝てないし、二流レベルにも実力的には負けてる。それでも諦めず、へこたれず生きる。
     そういう泥臭いところが好きです。一番好きなのは社長ですが。

>>サナダムシさん 確かに…これも一種のシンクロニシティ!一緒に地下闘技場へ行きませんか?
            シコルさんになら多分僕らでも勝てるッ!
315作者の都合により名無しです:2008/11/04(火) 19:25:29 ID:vLCfMs6Q0
城の内がブリーチの主人公っぽいセリフをw
少年漫画らしい熱血ですな
最後は遊戯に美味しいところをもってかれましたがw
316作者の都合により名無しです:2008/11/05(水) 01:07:03 ID:7XuRHTiZO
闇遊戯の登場がかっこいいですね
さすが主人公の貫禄。
現代人の城之内が本物の矢で貫かれるシーンがちょっと衝撃でした。
ガチバトルだから当たり前なんですけどね。
317作者の都合により名無しです:2008/11/05(水) 06:32:59 ID:9e1WaAf50
城之内はいろんな意味で自分の役割を果たしたなあw
原作詳しくないけど最終的な強さは闇遊戯の方が普通の遊戯より強いのかな?
318ふら〜り:2008/11/06(木) 20:03:27 ID:9tUHc/AC0
むう、また少し勢いが……しかし考えようによっては、そういう時にサマサさんのご帰還と
しけい荘新章が重なったのはタイミング良! ということで。

>>サナダムシさん
満足です! アライの強さも弱さもしっかり魅せて頂きました。ヘタれることなく、けど人間味
というか常人らしさに溢れ、だけどちゃんと強いアライ。いやほんと、こんなアライが見られる
なんて凄く嬉しい。でもこの展開だと、本部に出会ってなにかしら変化しそう……期待と不安。

>>サマサさん
城之内は男を魅せつつ、スコルピオスのゲス度を引き立て、主人公にバトンタッチ。美しい!
ラオウの良さは認めますけど、むしろジャギやアミバやモヒカンたちあっての「北斗」だと常々
思ってる私は、スコルピオスにもある意味、拍手してます。次回は彼と遊戯の見せ場だな、と。
319遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:24:23 ID:8YyGcyJ00
第十一話「断罪の時」

「遊戯…こいつらは…」
「分かってる。神殿の入り口で、巫女達やソフィアって人からあらかた聞いた」
闇遊戯の怒りに満ちた視線が、スコルピオス達を射抜く。
「神への生贄だの何だの…そんなことのために、城之内くんを、そしてたくさんの人を傷つけやがったのか…」
「そんなこと?くく…神の力を得るというのはそれほどの一大事なのだよ、小僧。何人かが血を流した所で、まあ
仕方がないことだと赦してはくれんかね」
「黙れと言ったはずだぜ、クソ野郎」
「―――ふん。そういう態度を取るか。おい!」
「はっ!」
スコルピオスが手で合図すると同時に、兵士達が矢を構える。城之内がそれを見て、顔を青くする。
「遊戯…!」
「くくく…如何に貴様が奇妙な術を使うとはいえ、この人数相手にたった一人では、どうにもなるまい!」
「ああ、そうだな」
闇遊戯はしかし、笑みすら浮かべていた。
「確かに、オレ一人ではキツイな…だが、いつオレが、一人だと言った?」
「なに?」
その瞬間、一人の青年が疾風の如き速さで物陰から飛び出す。彼は天高く跳躍し、月光を背にして弓を構えた。
「オリオン流弓術―――必殺!<弓が撓り弾けた焔・夜空を凍らせて>撃ち!」
ちょっぴりアレな技名を叫びながら、異様に長い滞空時間の中でくるくる回転しつつ、集中豪雨のような勢い
で無数の矢を放つ。それは流星のように宵闇を斬り裂き、突き進んでいく。
「ぐあぁぁっ!」
「ひぃっ!?」
狙いなど、付ける必要もなかった。何せ数を揃えただけあって、兵士達は密集状態である。そのど真ん中に雨霰と
矢を放てば、結果は言うまでもない。
「フッ…またつまらぬものを射ち堕としてしまった…」
お前は本当に古代ギリシャ人かと問い詰めたくなるようなセリフをかましたその男はやけにゆっくり落ちながら、
華麗に城之内とミーシャの眼前に着地した。
320遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:25:21 ID:8YyGcyJ00
(すげえ、この男…落ちながら闘った上に、まるで無駄がねえ動きだ…!)
感心する城之内。そして男の顔を見たミーシャが、はっとしたように口を開く。
「あ、あなた…オリオン!?」
「よう、ミーシャ。久し振り。しかしなんだね、この連中は。お前のファンって、こんなにいたの?」
「…全くもう。間違いなくオリオン以外の何者でもないわね…」
「オリオン?つーと、こいつが例の…」
城之内はマジマジとその顔を見て、思わず感心してしまう。
(ひょえ〜…信じられねえ。こんな美人な男がいていいのかよ…)
美人度でいけば、レスボスの美女達にすらも勝るとも劣らない―――などと言ったら、あらぬ疑いをかけられそう
なので思うだけにした。城之内はノーマルである。どこぞの王子様とは違うのだ。
「そんで、そこの少年。お前が城之内…で、いいんだよな?」
「ああ―――遊戯の奴、あんたと一緒にいたのか?」
「まあね。色々とあったのさ、こっちも。ま、そっちほどじゃあないけどな…」
「おい、お前ら!我々を無視するな!」
完全に兵士など無視して話を続ける城之内達に、業を煮やした兵士が詰め寄ってくる。
「ヘラヘラと笑いおって、それでも男か―――ぐふ!」
オリオンが矢を放ち、強引に兵士を黙らせる。
「ヘラヘラ笑ってる?お前ら、俺が笑ってるように見えるのか…?俺はなあ、ブチ切れてるんだよ、ボケがっ!」
美しい顔に似合わぬ凄まじい怒号に、兵士達が一様に浮き足立ち、ざわめく。
「き、貴様…何者だ!?」
「何者…だと?」
そして、声を張り上げて見栄を切る!
「残念だったな、クソ野郎諸君!このオリオン、貴様ら外道に名乗る名など持ってはおらぬ!」
星女神の寵愛を受けし勇者・オリオン。お約束は忘れない男だった。しかしながら、その口上を耳にした兵士達は
途端にざわめき始める。
「オリオンだと?まさか…!」「星女神の勇者…!」「数々の武術大会で敵無しと謳われた、当代屈指の英雄…!」
「技名がやたら長い…!」「女好きで有名な…!」「しかし性格のせいで顔の割にはあまりモテない…!」
「な…待て!前半はともかく後半は何!?誰だ、そんな噂流したのは!?」
自業自得であった。それはともかく、兵士達は一様に顔を引き攣らせた。
321遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:26:12 ID:8YyGcyJ00
「バカな!奴は今レスボスを離れていたはず…」
「確かにな…あるブサイクな男を探すために本土に出てたんだが、新しい友人のためにレスボスを案内してやろう
と戻ってきたとこだよ。そのおかげでこのバカ騒ぎに間に合った―――存分に大暴れできそうだぜ、ありがとよ、
クソッタレ共!」
ビリビリと大気を震わすような闘志が迸り、兵士達は顔色をなくす。数の上では圧倒的に優位でありながら、彼ら
は捕食される側の気分を嫌になるほど味わわされていた。
「へへ…全く。盛り上がってきたじゃねえか」
熱気にあてられたかのように、城之内は思いの外しっかりした足取りで立ち上がる。そして、腕や肩に刺さった矢
を強引に引き抜いた。
「じょ、城之内…!」
「おいおい、無茶すんなよ!」
「ぐっ…心配、すんな。いい気付けだぜ…」
苦痛に呻きながらも、城之内は不敵に笑う。
「遊戯には後は頼むと言ったけどよ…これだけ騒がしいのに、呑気にオネンネなんてしてられねえぜ!」
そして、ディスクに新たなカードをセットする。
「見やがれ、オレの強敵(とも)から譲り受けたカード―――<要塞クジラ>だ!」
空中に出現したのは、一本角を持つ巨大なクジラだった。その背中には<要塞>の名に恥じぬ、無数の砲門が
鎮座している。兵士達は唖然としてそれを見上げた。
「要塞クジラ―――そのままそいつら、潰してやれ!」
そして、巨大クジラは勢いよく落下する!
「ひいいいぃぃっ!?」
「うわあああぁっ!」
逃げ遅れた兵士数人が哀れ、その下敷きとなった。続けて、城之内が叫ぶ。
「砲撃!ホエール・ボンバード!」
単純明快・故に強大無比―――背中の砲門が一斉に火を噴く。その直撃を受けた兵士は、まるでボウリングの
ピンのように景気よく吹っ飛んでいった。
322遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:27:20 ID:8YyGcyJ00
「ひゅー…やるねえ、城之内」
「へっ!まだまだこれからだぜ、オリオン!」
そしてオリオンに顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「ミーシャも見てるぜ?しっかりやれよ」
「な…何言ってやがるんだ、バカ!」
オリオンは怒鳴るが、その顔は真っ赤だ。
「ひひ、やっぱりな。心配すんなよ、オレはあんたらの恋路を応援してるぜ」
「お、お前なあ…」
「オリオン?どうしたのよ、そんなに顔赤くして」
ミーシャはきょとんとした顔で、不思議そうにオリオンを見つめる。オリオンはさらに顔を湯でダコのようにした。
「な、なんでもねえよ!ほら、キミはポンポンでも持って踊りながら俺達の応援でもしていなさい!」
城之内はそれを見て、こんな修羅場だというのに笑いが込み上げるのを感じた。
(素直になれない二人…ってとこか。ひひ、後で思いっきりからかってやる。そのためにはよ…)
「―――テメエら全員、地獄の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!」
城之内は叫び、続けて闇遊戯に向き直る。
「遊戯!雑魚はオレ達に任せろ!お前はその毒蟲野郎をブチのめしてやれ!」
「ああ―――そっちは頼んだぜ、城之内くん、オリオン!」
そして闇遊戯は、スコルピオスと対峙する。
「ふん…どいつもこいつも、そんなにあんな女が大事か。確かにそこそこ見れたツラだが、命をかけて助ける
ほどの価値も理由もなかろうが」
「理由なら、あるさ」
嘲るように吐き捨てるスコルピオスを睨みつけ、闇遊戯は迷いなく言い放つ。
「城之内くんは命をかけて彼女を助けようとした―――オレにとって、それ以外の理由などいらない」
「ククク…青臭くも美しい友情というべきだなぁ?ならば、それに殉ずるがいい!」
「死ぬのは貴様だ、毒蟲野郎―――行くぜ!決闘(デュエル)!」
宣言と同時に、スコルピオスが剣を構える。闇遊戯もそれに対し、カードをディスクにセットした。
323遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:28:16 ID:8YyGcyJ00
「来たれ、黒魔導の少女―――<BMG(ブラック・マジシャン・ガール)>を召喚!」
くるくるとステッキを回しながら、魔導師の衣装に身を包んだ、可愛らしい少女が出現した。スコルピオスを挑発
するかのように、パチンとウインクする。
「む…そのような小娘で、何をしようというのだ?」
「フフ…確かにこのカードは、そこまで強大な力は持たない―――だが!オレはこの魔法カードを発動するぜ!」
瞬時に、闇遊戯の周囲に大きな四つのシルクハットが出現し、闇遊戯自身もその中に吸い込まれるように消える。
「魔術師との連携で効果を発揮する魔法…<マジカル・シルクハット>だ。さあ、見事オレを貫いてみせな!」
「ちっ…下らん真似をしおって!」
スコルピオスは舌打ちしながらも、四つ並んだシルクハットを注意深く睨む。そして。
「ぶるあぁぁぁ!」
気合一閃、横薙ぎに剣を振るった―――
「…残念だったな。それはハズレだぜ!」
闇遊戯の声が響き、同時にスコルピオスは身体の自由を完全に奪われていた。見れば、不可思議な魔方陣が己の
身に巻きつくようにして、スコルピオスを縛り付けていた。それを確認した闇遊戯は、シルクハットから飛び出す。
「な…なんだ、これは!」
「罠(トラップ)カード…<六芒星の呪縛>!お前の動きは封じたぜ!」
「くっ…!」
「更に、この魔法カードを発動する―――<死者蘇生>!」
古代エジプトの聖なるシンボルである<アンク>が描かれたカード。それには闘い、散っていったモンスターの魂
をも蘇らせる力が秘められているのだ。
「蘇生させるのは、勿論コイツだ―――<真紅眼の黒竜>!」
「グオオオオオオォォ!」
翼を大きく羽ばたかせて、レッドアイズが再び戦場へと舞い戻った。
324遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:42:39 ID:zydAmxG50
「レッドアイズ!―――遊戯の野郎、粋なことしてくれるぜ!」
城之内がレッドアイズの復活を喜色満面で迎える。蘇ったレッドアイズも城之内に向けて、力強く吼えてみせた。
そして黒き竜を背に、闇遊戯の眼光がスコルピオスを射抜いた。
「貴様に見えるか…この真紅の瞳に宿る、城之内くんの怒りが。そして、魂が!」
「ぐ…魂だと…そんなもの…!」
「そうか、その腐った目では見えないか…なら精々、その身に刻みつけろ!」
闇遊戯の怒号。同時にレッドアイズが大きく口を開き、灼熱の火球が生み出される。
「吼えろ、レッドアイズ―――黒炎弾!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
地獄の炎が放たれ、スコルピオスの肉体を容赦なく蹂躙する。ぶすぶすと肉が焼けていく灼熱感と凄まじい激痛
に、喉が張り裂けるような叫びを迸らせる。
「ぐ、う、う…まだ…まだぁ…!」
それでも―――スコルピオスは持ち堪えた。震える腕で剣を握り締め、闇遊戯に向けて歩を進める。
「これしきで…諦めるような…この私ではないわぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
「…スコルピオス。貴様は、それほどまでに神の力なんかが欲しいのか?」
「ああ、欲しいともさ!神の力―――それさえあれば我が野望は更に前進する!神の力!それこそは選ばれし者
だけが手にできる禁断の領域!神の力!それは…」
「もういい。そんな寝言は、もう聞きたくもない」
闇遊戯は、ぞんざいに言い捨て―――
「ならば、お前に見せよう。これがお望みの…」
デッキから、一枚のカードを引き抜き、天高く翳す。
「―――神の力だ!」
325遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:43:25 ID:zydAmxG50
天空に暗雲が立ち込め、雷光が闇に轟く。
「光臨せよ、天翔る竜王―――!」
そして夜空を切り裂き、天を震わせ、大地を揺るがしながら、それは地上へと舞い降りた。
「―――<オシリスの天空竜>!」
「ゴァァァァーーーー!」
耳を劈くような唸り声と共に<神>は、人間達の前にその姿を見せつけた。
「な…!」
スコルピオスは大きく目を見開き、その光景を網膜にまで焼き付けられることとなった。それはとぐろを巻いた
蛇に似ているが、凶悪さは比する気も起きない。赤い、紅い、緋い―――血のような体色。全長は数十メートル
にも及び、なおかつ巨木のように太く、重厚。上下に二つ並んだ異形の大口には、ズラリと鋭い牙が覗く。
その威厳に満ちた瞳が、絶対的な力を誇示するかのように周囲を睥睨する。
「ひ…!」
「うう…!」
その眼光に射すくめられた者達は、それだけで震え上がる。
食物連鎖など、それにとっては人間が勝手に決めた矮小な枠にすぎない。そんなちっぽけな檻を軽々と破壊し、
粉砕し、駆逐し、そしてあらゆる存在を凌駕する。
それはまさに、不条理を更なる不条理で捻じ伏せる、大不条理。
人は畏れを以って、それをただ一言、こう呼ぶのだ。即ち―――<神>と。
「な…なんだよ、アレ…反則だろ、いくらなんでも…」
オリオンが弓を射るのも忘れ、紅き神の姿に見入る。戦場ではあるまじき隙だらけの姿だったが、敵からの反撃
は一切ない。それも当然だ。
兵士達とて、一様に目を奪われていたのだ。天空より降り立った、大地を震わす神の姿に。
「あ…ああ…あれは…神…さま…?」
ミーシャは畏敬を露わにし、祈るように両の手を合わせる。
「おうよ―――あれが遊戯の持つ三幻神が一柱!天空の神…オシリスの天空竜だ!」
城之内が傷の痛みも忘れ、誇らしげに叫ぶ。
326遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/06(木) 21:44:21 ID:zydAmxG50
「て、て、天空の神…オシ、オシ、オシリス、だと…バカな…知らぬ!そのような神など―――私は知らぬぞ!」
スコルピオスが口から泡を飛ばしながら喚き散らす。だが、いくら頭で否定しようと、根源的な恐怖がさらにそれ
を塗り潰す。何故ならば、眼前に現れたそれは、まさに自らが追い求めた存在そのもの―――
「知る必要もない―――ただ一つだけ、覚えておけ」
闇遊戯は、冷たく言い放つ。
「お前はオレを怒らせた…それが、貴様の敗因だ」
同時にオシリスが猛り、吼える。その超存在を前に、誰もが身動き一つ取れなかった。彼らは、聴いたのだ。
神罰を告げる、竜王の咆哮を―――!
「覚悟しろよ…この毒蟲野郎!」
闇遊戯の怒りに呼応するかのように、オシリスが牙を剥く。
「遊戯!もうごちゃごちゃ細かいことは言わねえ…ブチかませぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!!」
城之内が力の限り叫ぶ。そして放たれる、神の鉄鎚!
「オシリスの攻撃―――!超電導波・サンダーフォース!」
大きく開かれたオシリスの口から、雷を纏う閃光が迸る。スコルピオスは身動き一つ取れずに、その輝きの中に
呑み込まれた。
「ぎゃ…!!!」
断末魔の叫びさえ、荒れ狂う光に掻き消される。眼を焼くような閃光が収まった時、スコルピオスはプスプスと
全身から煙を上げながら、声もなく崩れ落ちた。
「思い知ったかよ、毒蟲野郎…」
闇遊戯はスコルピオスを一瞥し、言い放つ。
「これが―――仲間を、親友を傷つけられた、オレの怒りだ」
327サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/11/06(木) 21:47:04 ID:zydAmxG50
投下完了。前回は>>313より。
「なんでオシリスさっさと召喚せんの?」と思った人。
あなた、ウルトラマンに「なんでさっさとスペシウム光線撃たんの?」と訊けますか?
それはともかく、古代ギリシャを震撼させたオリオン流弓術―――これこそ後に日本最強の
武術と呼ばれたGUN道の起源であったという…(民明書房刊・ORION―KYUU術―より)

言うまでもなく嘘です。しかし僕は一生MUSASHIから離れられないかもしれません。

あと、不条理を更なる〜〜の下りは、火渡戦士長の名セリフから拝借。
あれを見た時、僕の中で彼は「単なるチンピラ」から「信念あるチンピラ」になりました。
(結局チンピラ扱い)
和月先生の作品は、色んな人が色んな信念や正義感を持ってていいですよね。

>>315 ブリーチは好きなので、いわれてみると似てしまいました。最後はやはり闇遊戯が
    決めましたね。

>>316 矢で撃たれるのはやりすぎかとも思いましたが、自分の好きに書けるのがSSという
    ことで、やりすぎでいくことにしました。

>>317 ラストバトルの闇遊戯VS遊戯では、闇遊戯の戦略を読み切って遊戯が勝ったので、
    腕自体は遊戯の方がやや上だと思います。

>>ふら〜りさん
蠍さんは「どうせ悪役として書くなら徹底的に」と思って、僕が書けるギリギリまでゲスにしました。
ただ、これで退場ではないので、ゲスにはゲスなりの思いや理由があるというのも書けたらな…。
北斗の拳の裏主役は、確かにあの外道な連中ですよね。彼らがいなければ、あの名作はなかった。
328作者の都合により名無しです:2008/11/06(木) 22:34:07 ID:h4YTuJzW0
城之内はやはり脇役と実況役で光るキャラだな
オシリスが意外と早い段階で出ましたな
のちのちカマセになりそうだ
329作者の都合により名無しです:2008/11/06(木) 23:49:30 ID:i76iSyUTO
城之内はいい意味で最高の引き立て役ですね。
オシリスの登場に痺れました。原作やアニメと違って最後まで活躍してほしいところです
330作者の都合により名無しです:2008/11/07(金) 06:59:24 ID:uqvwEGHF0
城の内は敵の1人くらいは獲ってくれると思う
社長の暴れ方しだいだけど・・
まあ、オシリスが早く出てくる時はオシリスが負けるときでしょうね。
ジャンプ漫画の法則でw



サナダムシさんの好調とサマサさんの復活後連投が無ければ
また暗黒期でしたな。ふらーりさんもまたひとつ
331遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/07(金) 22:14:49 ID:BzmVeu5A0
キャラ説明・設定など

カードゲーム・デュエルモンスターズ
遊戯達の世界で大人気のカードゲーム。原作漫画ではマジック&ウィザーズという名称だが、もはやこっちの方が
メジャーになってしまった。
実際に商品化されており、人気も高い。原作漫画と現実では、カードの効果に違いがあることも多いので注意。
このSSでは、以下の通りに設定。作中で触れている部分もあるが、裏設定になっているものもあるのでSSを
読む際の参考になれば。疑問があれば、答えられる範囲で答えます。
作者のイメージとしては、原作終盤の王の記憶編に近い。興味があれば是非読んでみることをお勧め。
@カードをデュエルディスクにセットすると、モンスターカードなら実体化し、実際に攻撃もできる。ちなみに
 強力なモンスターを召喚するには、本来は生贄として別のモンスターを使わなければならないが、このSSでは
 原作初期に倣い、生贄は必要ないものとしている。
A魔法カードや罠カードといったものもあり、現実に効果を発揮できる。ただし、SSで描写するには厳しい
 ものも多数あるので、そういったものは取り扱わないかもしれない。
B基本的にこのSSでやらかすのはリアルファイトなので、デッキに入れてあるカードは好きな時に引き抜いて
 好きな時に使えるものとする。
Cただし、モンスターがやられれば自分にダメージがくるし、倒れたモンスターは同じ戦闘ではもう呼び出せない。
 魔法・罠カードも、基本的に同じ戦闘では二度と使えないものとする。デッキに二枚以上入れてあれば別だが。
 (例としては、海馬は青眼の白龍を三枚デッキに入れているので、一回の戦闘につき三体まで召喚可能)
Dカードの効果などはどちらかといえば原作漫画を参考にしつつ、作者自身の解釈で設定しているので、実際に
 商品化されているカードを見て「全然違う効果じゃないか!」と苦情を言われても困ります。
Eカードを使った戦闘ができるのは遊戯・城之内・海馬だけ。例えばオリオンやミーシャが使ったとしてもただの
 カードでしかない。普通に遊ぶだけなら問題はないが、どうしても戦闘に使いたいというなら手裏剣の如く相手に
 投げつけるくらいしかなかろう。あの海馬社長もこれで敵を倒したことがあるので大丈夫…多分。
F時には明らかに無茶苦茶な効果を相手に押しつけることもありますが、遊☆戯☆王ではよくあることです。
 広い心で暖かく見守ってください。
Gカードゲーム<デュエルモンスターズ>は友達と楽しく遊ぶためのものです。このSSでは兵器扱いしてます
 が、人を傷つける道具ではありません。ルールとマナーを守って楽しくデュエルしてください。なお、余りにも
 (作者が)切羽詰まったら、上記の設定を無視してしまうかもしれませんが、その様な事はなるべくしないよう
 頑張ります。
332遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/07(金) 22:15:50 ID:BzmVeu5A0
キャラクター説明…注意・かなり私的な解釈や偏見・ネタが混じっているので、鵜呑みにしないでください。
遊☆戯☆王の登場人物。

武藤遊戯(闇遊戯)
主人公。不思議なアイテム<千年パズル>を組み立てた時に、もう一人の自分である闇遊戯が目覚めた。
威圧的な雰囲気を持つ闇遊戯と対照的に、遊戯は気弱で臆病だと思われがちだが、実は精神的にはかなりタフ
であり、むしろ闇遊戯の方が追い詰められるとメンタル的に弱い部分がある。
デュエルモンスターズ大会<決闘者の王国>での賞金二十万ドルを全く躊躇せず城之内に全額渡した(後述)。
名実共に最強の決闘者(デュエリスト。デュエルモンスターズのプレイヤー)であり、決闘王の称号を持つ。
その強運はもはやチートである。彼曰く、カードを信じる心があれば、デッキはそれに応え、困難な状況を打ち破る
切り札を引かせてくれるらしい…実際にそれで数多の局面を打破するから困る。

城之内克也
遊戯の親友。友のためなら死ねる漢であり、実際に死んだこともある(生き返ったけど)。実力はそれなりにある
はずだが、どうにも過小評価されがちである。飲んだくれの親父の借金を返しながら学費も自分で稼いで払っている
苦学生。母親に連れられて出ていった妹は眼病を患っており、その治療費として遊戯に二十万ドルの借金がある。
(遊戯にしてみれば親友のためなら当然のことであり、請求する気など欠片もないのが救いである)
基本的に不良でケンカっぱやく、単純だが一途な熱血漢。幽霊やオカルトが大の苦手だが、親友の片割れである闇遊戯
はまさに幽霊でありオカルト…。ギャンブル好きなのか、運が効果を左右するカードを多用する傾向にあり、しかも
大概成功しているので、博徒に向いているのかもしれない。

海馬瀬人
遊戯の宿命のライバル。偉大なるキ○ガイ。高校生にして大企業・海馬コーポレーションの社長。
カードがぎっしり詰まったジュラルミンケースを常に持ち歩いているが、基本的にこれは人を殴るための凶器である。
かつては遊戯への嫌がらせのためだけに百億円使ってマジで命がけのテーマパークを造ったり、最愛の弟であるはずの
モクバを平然と殺そうとしたりと、外道一直線の男だった。しかし闇遊戯に敗北し、その力によって精神崩壊、半年
ほど植物人間になったのと引き換えに、多少性格は丸くなった…丸くなってアレかよなんて言ってはいけない。
遊☆戯☆王において最も多くの名言&迷言を残した男であり、その強烈なキャラクターにはある種のカリスマを感じる
が、その思考もまた常人には到底理解できないので、良い子はマネしないように(マネできたら逆に凄いが)。
切り札である<青眼の白龍>に並々ならぬ愛着を持っており、自社玄関前に銅像までおっ立てているほどである。
333遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/07(金) 22:16:41 ID:BzmVeu5A0
SoundHorizonの第六アルバム<Moira(ミラ)>の登場人物。

エレフ(エレウセウス)
シスコ…妹想いの兄。幼い頃に生き別れになった双子の妹のミーシャを探し、旅をしている。
子供の頃は家族で幸せに暮らしていたが、両親が殺されたり自分は奴隷にされたりとにかく色々と波乱万丈。
自分に囁きかける不思議な声が聴こえたり、死期が近い人間の背後に黒い影が見えるという奇妙な力がある。
戦闘能力も非常に高い。海馬と出会い、行動を共にしている。

ミーシャ(アルテミシア)
エレフの双子の妹。レスボス島の星女神の神殿で巫女をしながら、生き別れになった兄と再会できる日を待って
いる。名前の元ネタは恐らくギリシャ神話の月の女神アルテミス。この辺り、オリオンとの関係性を窺わせる。
子供の頃に遊女見習にされて変態神官に犯されそうになったり、そこからエレフ・オリオンと一緒に逃げだしたと
思ったら離れ離れになったりと境遇はやはり悲惨。倒れていた城之内を助けた。

オリオン
少年時代、エレフと共に奴隷として過ごした親友。陽気で愛すべきおバカさん。技名が長い。ちなみにこの技名は
SoundHorizonの<恋人を射ち堕とした日>という曲の歌詞であり、製作者であるRevo氏の遊び心が感じられる。
Moiraの中では、実はほとんど出番がない。どういう経緯で星女神の勇者となったかも不明である。
悪漢に絡まれていた遊戯を助け、そのまま成り行きで一緒に旅をしている。
334遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/07(金) 22:18:17 ID:BzmVeu5A0
レオンティウス
アルカディア第一王子。ガチホモにしてマザコンというとんでもない設定にしてしまったが、少なくとも母親想いで
あることは作中で示唆されているので間違いではないと思う。なお<このレオンティウス、女を貫く槍は持っておらぬ>
という原作中のセリフのせいで、ネタとしてではあるがガチホモキャラ扱いされているので、このSSでも採用した。
正直な所やりすぎた。それ以外はまっすぐな性格の、正統派美形王子様キャラ…のはず。

スコルピオス
若本則夫さんの声が渋い、ありえないほど重力に逆らった髪形の男。アルカディア王の弟で、レオンティウスの叔父。
ただし、レオンティウスの腹違いの兄という説もある。この辺りはファンの間でも意見がかなり分かれている。
色々画策し、非道な行いも辞さない男だが、彼なりの信念や運命に屈することなく立ち向かおうとする気概も感じられる。
単純な小悪党というわけでもないキャラ。

ソフィア
レスボス島の影の支配者。レスボスにおいて、彼女に逆らえる者は存在しない。自分好みの女の子を侍らすガチレズ。
というのは言い過ぎだが、Moiraを聴いた人は少なからず彼女にそういう印象を受けた(と思う)。実際には島民達に
慕われる、心優しい女性詩人と思われる。モデルは多分、実在したレスボス出身の詩人サッフォー。
右も左も分からぬ城之内の世話を色々焼いてくれた素晴しいお姉様である。

エレフに囁きかける存在
その正体は不明。果たして彼は何者なのか?
…Moiraを聴いた人には丸分かりである。
335サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/11/07(金) 22:23:19 ID:BzmVeu5A0
話もそれなりに進んできたので、適当にキャラの設定など書き散らしました。
あまり参考にならないかもしれませんが、どうぞ。

>>328 三幻神でも勝てない相手は後々出てきます。

>>329 一部ではドジリスなんて揶揄されるほどヘタレな戦績ですからね…
    デザインは三幻神の中でも一番好きなんですが。

>>330 城之内…一度は勝てるだろうか(汗)このSS自体、超機神のようにアホほど
    バトルする予定ではないからなあ…社長には絶対勝てないだろうし。
336作者の都合により名無しです:2008/11/07(金) 22:50:32 ID:q9efAg5w0
おお、こういう設定は我々が読んでても楽しいですが
書いてるサマサ氏も楽しいでしょうな。
遊戯王うろ覚えの俺にはありがたいです。
337作者の都合により名無しです:2008/11/07(金) 22:51:59 ID:8zahjyVh0
>>335
そう言えばこの頃のエジプトについては何か出てくるんですか?
338作者の都合により名無しです:2008/11/08(土) 02:49:34 ID:tGcKlnIFO
ミーシャが助かった(運命が変わった)事で、ラスボスはあの方かなという見当がなんとなーくついてきたような。
レオンに例のセリフを言わせしめたアレク女王の登場はあるんでしょうか?
339ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/11/08(土) 03:59:48 ID:UKkeTfIQ0
 瞳を爛々と輝かせた吸血鬼の群れが、村中を徘徊していた。時は既に深夜で周囲は暗がりに満ちていたが、夜の闇は彼らを盲にすることは
ない。むしろ月が輝く今は、彼らの感覚が最も冴え渡る時間だ。視覚や聴覚が強化され、普段は使わない第六感――闇の感覚さえも動員し
て、彼らは周囲を探査する。この村に入り込んだ人間――ヒューリーとピーベリーの二人を。
「どうだ、奴らがどこにいるかわかったか?」
「いや、まだだ。だが、近いぞ」
吸血鬼達はにんまりと嗤った。久しぶりに食餌にありつけると、全員が歓喜を露にしていた。食餌――吸血行為は、彼らにとって、人間が
食事をとること以上に特別な意味を持つ。限りなく死体に近い吸血鬼は、身体と精神の維持に他者の血液を必要とする。逆に言えば、血液の
摂取が長期間途絶えれば、その身体と精神の両方に異常をきたしてしまう。現に、彼らの凋落は目を覆わんばかりだ。身体はゆるやかに崩壊
し続け、闇に由縁を持つ超常の力も、今では僅かしか発揮できない。貴族と称されるほど高潔な魂は風化し、あさましい畜生の如き精神へと
堕している。天敵たる<装甲戦闘死体>の目から逃れるために仕方がないとはいえ、彼らが自らに課した戒律は、ゆるやかな滅亡を強いてい
た。すでに大勢の吸血鬼がヒューリーとピーベリーにやられている。彼らが本来の力を保持していたなら、宿屋で取り囲んだところですべて
は終わっていたはずなのだ。
 だが、彼らが昔と比べて弱体化したことを差し引いても、あの二人の実力は相当なものだった。いくら凋落したとはいえ、数に勝るこちら
が有利なはずだったのだ。そんな圧倒的に不利な状況下においても生きている奴らは、もしや人間ではないのでは――と、群れの中の一匹、
とりわけ意気地のない一匹が、不安そうに呟いた。
「まさか、あいつら、長達の言っていた<装甲戦闘死体>じゃあ……」
 その言葉に、他の吸血鬼が表情を失くした。
「馬鹿なこと言うんじゃねえ!」その一匹が怒鳴ったのと同時に、次々と非難の声があがった。
「そうよ。なんのために、食餌を我慢してると思ってるのよ。奴らから身を隠すためでしょ」
「長達が言ってたじゃねえか。ここは絶対に見つかりっこないって」
「その通りだぜ。それに、村の外は常に仲間が見張ってるんだ。何かあったら俺たちにも連絡がいくはずだ。なあおい、そうだろ……?」
 返事は帰ってこなかった。そこには、誰もいなかった。たった今まですぐ傍にいたはずの仲間が、突然姿を消していた。
「え……?」
 呆気にとられ、一人残された吸血鬼はあたりを見回す。たった今までいた仲間は、一体どこに行ったのだ? そして、彼は気付く。辺りに
舞い散る灰と、己の胸元に生えている白銀にきらめく塊を。
「あ……」
 吸血鬼は滅びる際に、灰以外に何の痕跡も残さずこの世界から消滅する。そして、彼もまた、心臓に突きたてられたナイフによって、二度
目の死を迎えた。
340ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/11/08(土) 04:03:27 ID:UKkeTfIQ0
「あははは!! あははは!! おっもしろーい! あいつら、何が起きたかわからないまま死んでった! あははは!!」
 それは、楽しげに、夜の影と、死の影と戯れていた。心底楽しそうに、彼女――F08は嗤いながら夜を駆けていた。吸血鬼の感覚さえあ
ざむき、殺戮した<装甲戦闘死体>の実力。まさに吸血鬼の天敵にふさわしい、圧倒的な力だった。
 彼女が次に向かうのは、モントリヒトの気配が集まる場所。理由はわからないが、この村のモントリヒトすべてが、そこに集中しているら
しい。<装甲戦闘死体>に宿る超感覚が、F08を戦場へといざなう。彼女はまったく気負いせず、むしろ楽しみで仕方がないといった表情
を浮かべながら、モントリヒトの集まる場所へと走った。

 迫りくる吸血鬼達に足止めをされ、ヒューリーとピーベリーは、まだ村を脱出できないでいた。二人は、吸血鬼の群れに囲まれていた。ど
こを向いても、敵ばかりだ。墓土のすえた匂いと、吐き気を催すほど強い腐乱臭が、ヒューリーの鼻腔を刺激した。吸血鬼から漂ってくる匂
いだ。日中はこれほど強烈に感じることはなかったのに、夜となった今、はっきりと感じることができる。
吸血鬼達は獲物を前にして、下卑な声をだして笑った。その表情には、理性など欠片もなかった。既に何人かの吸血鬼がヒューリーの手に
よって滅びていたが、それでもなお彼らは怯みもせずに襲い掛かってくる。その自らを省みない姿に、薄ら寒いものを覚える。いくら不死身
に近い怪物であっても、肉体が傷つくことを厭うはずなのに。そんなに、血が欲しいというのか。欲望を充たしたいのか。化物め。
 内心でヒューリーは舌打ちをする。吸血鬼の実力は一体一体はそれほどでもないが、群れで襲い掛かれれば十分に脅威となる。ましてや、
今はピーベリーがそばにいる。彼女は武器を持ち人造人間に立ち向かえるほど豪胆ではあるが、本職は研究者であり、かつ女性だ。いつまで
も戦い続けられるほど、体力があるわけではない。戦いが長引けば長引くほど、消耗は避けられないものになる。かといって、この包囲網を
破ることも、そう簡単にはいきそうにない。どうすればいい――そんなヒューリーの苦悩などお構いなしに、吸血鬼は襲い来る。瞳を紅く輝
かせ、肥大した犬歯から涎を垂らしながら。
 ヒューリーは群れの先頭の吸血鬼に狙いを定めた。その心臓に目掛けてナイフを投擲する。狙い過たず、白銀の閃光は心臓を貫いた。すか
さず距離を詰め、堅く握った拳で別の吸血鬼の頭を粉砕する。左腕に噛み付こうとしていた吸血鬼の腕をねじり上げ、ナイフを叩き込んだ。
その奥にいた吸血鬼の脇腹に蹴りを。右腕を切り裂かれ地を這い蹲っている吸血鬼の頭蓋をブーツの踵で踏み砕いた。
 その程度の損傷では吸血鬼を滅ぼすことはできないが、今はそれでいい。まともに相手をする必要はない。いかにして敵だらけのこの村か
ら脱出するか。ヒューリーに科せられた使命はそれだけだった。だが、やはり数による戦力差は否めない。ヒューリーが吸血鬼を斃せば斃す
たび、どこからともなく吸血鬼達が群れ集まってくる。 
「くそ……」
 敵の数が多すぎた。白銀に光る刃金が振るわれ、吸血鬼が幾体か灰に還ったが、いっこうに減る気配はない。二人は、確実に追い詰められ
ていた。

 そのとき――
341ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/11/08(土) 04:04:23 ID:UKkeTfIQ0
 突然、吸血鬼が動きを止めた。身体を小刻みに震わせている。今までの吸血への愉悦が嘘のように消え、"何か"を怖れている。そして、
「ふふふ、モントリヒトがこんなにたくさん集まってるなんて、わたし、感激しちゃう!」
 その"何か"が、姿を見せた。はじめ、それはただの少女のように見えた。毛先がカールした美しいブロンド、良家のお嬢様が着るような、
そして動きやすさを重視して作られたドレス、純白の手袋。その何の変哲もなさそうな少女に、吸血鬼は――怯えていた。
 ヒューリーには知るよしもなかったが、彼らの血に刻み込まれた<装甲戦闘死体>への恐怖が吸血鬼からあらゆる自由を奪っていたのだ。
「雑魚がうじゃうじゃして始末するのが大変だと思ってたけど、こんな風に一ヶ所に集まってて助かったわ。さあ、一網打尽にしてやる!」
 そう言って、F08が手を掲げた。
 それと同時に。
 吸血鬼達に、刃が降り注いだ。
 その刃金の豪雨は、さまざまな近接戦闘武器だった。無数のナイフが、剣が、槍が、吸血鬼を串刺しにしていた。中には心臓を貫かれ、灰
となって滅びるものさえいた。当然、その刃の雨はヒューリーとピーベリーにも襲い掛かって――
「ぐうっ!」
 ヒューリーはピーベリーをかばうために、彼女を胸に掻き抱いた。鈍痛がヒューリーの全身を駆け巡る。彼の背中には、ナイフが数本突き
刺さっていた。
「くそっ……なんだ、あいつは……。ピーベリー、あいつも吸血鬼なのか?」
 答えは無かった。刃の雨から守ったことに何の礼もないことは半ば予想したとおりだったが、それでも、彼女が返答に遅れるというのは、
異常だった。
「馬鹿な……」
 ピーベリーは、目を見開いて、うめいていた。普段の冷静な彼女には似つかない、驚愕に囚われている表情だ。
「お前は、まさか……」 
「あら? 今のを凌いだやつがいるのね。素敵! まだまだ楽しいダンスが踊れそうね!」
 ひゅっ、という小さな音がヒューリーの耳に届いた。そしてヒューリーは喉元に投擲されたF08のナイフを、己のナイフで叩き落とした。
(こいつ……! 電極を狙ったのか? いや、こいつは俺を人造人間だと知らないはずだ。なら、手っ取り早く急所を狙っただけか。それに
しても、なんて速さだ。もう少し反応が遅れていれば、確実にやられていた。いったい、こいつはなんなんだ……?)
 ヒューリーの思考は、荒々しい蹄の音でさえぎられた。突然、馬車が姿をあらわし、こちらに突進してくるではないか。真っ直ぐに超特急
の速さでヒューリーに迫る。体当たりを仕掛けるつもりだ。いや、それだけではない。馬車の両側から、クロスボウによく似た機械が出現し
た。おそらく、刃の雨を降らせたのは、この機械なのだろう。矢の代わりに台座に乗せられたスティレット(刺突短剣)が、ヒューリーに標準
342ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL:2008/11/08(土) 04:05:17 ID:UKkeTfIQ0
を定める。だが、所詮は点の攻撃ゆえ、軌道を読むのは容易い。ヒューリーは馬車の脇に身を滑らせ突撃をかわし、さらに加速が加えられた
スティレットも回避した。と、その眼前に――
「いただきッ!」
 飛び掛ってくるF08の姿があった。馬車の突撃とスティレットは囮であり、F08の本命は馬車の影に隠れ、回避の隙をつくナイフの一
撃だったのだ。白銀が振るわれる。狙いはヒューリーの首だ。そこには、起動用の電極がある。それを破壊されれば、ヒューリーは機能を停
止する。
「くっ!」
 火花が散り、二つのナイフが噛みあう。寸でのところで、ヒューリーはF08の一撃を凌いだ。しかし、次の一手には対応しきれなかっ
た。F08はくるりと身を翻し、ヒューリーの腕を足蹴にして、後方に飛び退った。そして、ヒューリーの右手に鈍痛が奔った。腕が真一文
字に切り裂かれている。いつの間に。
「ふふふ、トロいわね。もしかしなくても、あなた、造(う)まれたてでしょ?」 
「なに?」
「わかるのよ、そのぎこちない動きで。あなたが、わたしと同じ人造人間だってことがね」
 瞬間、ヒューリーの意識に空白が生まれた。
 この女は今、なんと言った? 自分は人造人間と、そう言ったのではないか――?
 そして、理性のかわりに、荒々しい激怒が、彼の裡から湧いて出て――その黒い激情に突き動かされるまま、ヒューリーはF08にナイフ
を振るった。
「きゃっ!」
 突然の豹変に、さすがのF08も驚愕したらしい。幼い姿相応のかわいらしい悲鳴をあげて、ヒューリーのナイフを回避する。しかし、反
応が遅れかわしきれなかったのか、彼女の腕から血が噴き出た。F08の表情が一変する。
「て……テメェェェェェ!! よくもわたしの身体に傷をつけやがったなッ!」
「黙れ!」
「!?」
 F08の激昂をさえぎって、ヒューリーは怒号を発した。その瞳には、ドス黒い憎悪の輝きが宿っていた。
「お前が何者なのか、どんな人生を送ってきたのか、そんなことはどうでもいい。人造人間であること、ただそれだけが、お前が殺される理
由だ。お前達は、呪われている。存在そのものが、許されないんだ。死体は、死体に過ぎない。死んだ人間は、死んでいなければならないん
だ。だから――」
 その貌はまるで東洋に伝わる阿修羅のようで――
「人造人間は殺す! すべて殺す!」
「へ……上等だよ。寸刻みになますにしてやらァ!」
343ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/11/08(土) 04:31:17 ID:xUaCIuv8O
てす
344ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/11/08(土) 04:36:29 ID:xUaCIuv8O
???
PCで書き込みが完了しましたって表示されるのに、内容が反映されない……携帯では書き込めるのに
すいません、一度出なおしてきます。感想やレスは、また戻ったときに。
345作者の都合により名無しです:2008/11/08(土) 10:25:03 ID:jGoZSMJP0
おや?何かトラブルがあったのですかな。
とにもかくにもお久しぶり(ってほどでもないか)ですハシさん
F08のサイコっぷりがいいですな。
これからのお仕置きタイムが楽しみだw
346ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/11/08(土) 13:23:15 ID:iRhx4mCK0
皆さん、お久しぶりです。また、一ヶ月開けてしまいました。
やらなきゃならないことはたくさんあるのですが、それは他の人にも言えること。
ただ、それと並行して執筆ができるようになりたい……
あ、それとブログ始めてみました。お暇でしたらお立ち寄りください。
http://alittlewish.blog94.fc2.com/
いままでバキスレで書いた二次創作や、他所で書いたオリジナルも載せています。
最初の記事はバキスレとまったく関係のないものですが、下のほうに行けばこれまでの小説へのリンクがあるので、読む際はそこからいけば
読みやすいと思います。というか、私のSSを読むよりも、最初の記事にはってあるバナーから公式ホームページに行って、漆黒のシャルノ
スのデモムービーを見た方がいいが絶対いい!(18歳未満の方はご遠慮くださいね)。
もう、すばらしいの一言。ケルティックな音楽最高、19世紀のロンドン最高、スチームパンク最高、メインライター桜井女史の文章最高、
あと、メアリ可愛いよメアリ。
ぜひ一度、デモムービー、ご覧ください。漆黒のシャルノスサポーターサイトに参加したいがためにブログ立ち上げたなんてことはありませ
ん。きっと。……なんだか、嘘屋信者乙、な感じですね。

>>45
歪んでいる奴は書きやすいですし、楽しいですね。
>>46
私の勘違いなら申し訳ないのですが、念のため、F08の原典は「モントリヒト 月の翼」です。
モントリヒトが連載されているコミックラッシュはほとんどの書店でカバーがかけられているはずなので……
>>47
もう大変なかませにする予定です。原作からしてそんな存在なのでw
>>48
わたしとしてはキチガイキャラよりも、清純で気高く優しい戦う正義のヒロインがそんなシチュでぼろぼろになってくのが大好きです。例え
るなら、初期のデルザー軍団とストロンガーの戦いのような。変身するならなおよし。
>>49
公式サイトの先月号の煽りからかませ臭満々のF08でしたが、いや、予想を遥かに上回る醜態さらしてましたw
まさか電撃をくらって〇禁するなんて……彼女にはもっと頑張ってほしいものです(二重の意味で

スターダストさん
あれだけ戦士達を苦しめた鐶が、桜花に手玉に取られてる……
347ハシ ◆jOSYDLFQQE :2008/11/08(土) 13:26:52 ID:iRhx4mCK0
こういう話術で桜花に勝てるものはそうそういませんねw
戦闘力では圧倒的な差があるのに、鐶にはもう勝ち目はありませんね。
しかし、御前、なんて卑猥なあだ名を……

ふら〜りさん
自分としても、少し吸血鬼を弱く書きすぎたかな、と思います。
この反省をヒューリーとF08の戦いに生かしていければ、いいなあ……
どちらも近接戦闘タイプなので、楽しめそうではありますが。
>強くなるのは、なれるのは
二人の武道家の激闘、そしてさわやかな終わり方。とても楽しめました!
原作もいいですが、ふら〜りさんの書くバキキャラは全員かわいくて仕方がないですw
特に最後のミ昇は、もう全力で応援したい!でも、どうやら失恋フラグが屹立しているようで……

サマサさん
<Moria(ミラ)>キタ――――!
まさかバキスレでサンホラキャラを見れる日が来るなんて!
自分ズヴォリンスキーがさっそく登場していて歓喜。最後の双子が身篭っているとわかるところは、もう涙なしには。
でも、死人戦争云々のくだりから、『結局彼らは、運命の手から逃れられませんでした。めでたし、めでたし』な未来が待っている
のでしょうか……。まだミラは深く聞き込んでいないため、いまいち細部まで理解が及んでいないので……

銀杏丸さん
キン肉マンは未読なのですが、かつての戦士が昔を思い出して語り合っているのは、胸にくるものがありますね。しんみりとした雰囲気が伝
わってきます。それから、実生活の方も、がんばってください。SSは、余裕のあるときにやったほうが楽しいですし。私も、最近それを身に
しみて……

さいさん
とても遅れてしまいましたが、奥様のご懐妊、おめでとうございます! 赤ちゃん……自分はまだまだ若造なので、想像するのも難しいです
が、家族が出来るのって、とても大変な分、とても幸せなことだと思います。ブログなどで苦労している姿を拝見していますが、「あの時は
大変だったけど、今となってはいい思い出」と思える日が、きっと来ると思います。SSといっしょに、応援しております!
348ふら〜り:2008/11/08(土) 20:08:18 ID:s4redOn10
>>サマサさん
いやもう流石に、いろいろ解っておられますなぁ。王道救世主パターンもさることながら、
>城之内くんは命をかけて彼女を助けようとした―――オレにとって、それ以外の理由などいらない
遊戯の戦う理由が、単に「襲われている女性の救出」ではないというのが良い! ここに城之内
がいなくても行動は同じでしょうが、いるから光るこのセリフ、そしてきっと遊戯のパワーもUP!

>>ハシさん(事実上、ドラエさんは婚約者と同居してるようなものですからね。罪なヒトです)
傷つけられて仮面が剥がれて言葉遣いが乱暴に、ってのはかーなーり濃厚な敗北フラグ・
小者化の兆候だよなぁと思った直後、作者自らによる「大変な」をつけたかませ予定宣言。
F08、ここまでは圧倒的な強さ怖さ残虐さを見せてきたんだから、次回ぐらいは頑張れっ。
349作者の都合により名無しです:2008/11/08(土) 23:16:36 ID:hwTgQ8+J0
ハシさんもサイト作ったんですか!
SSともどもブログも楽しみに読みます。
1ヶ月空いたのは寂しかったですけど
ネクロファンタジア&ロンギヌス、
余裕があったらどんどん更新して下さい。
350作者の都合により名無しです:2008/11/09(日) 00:48:53 ID:wOoXNFdo0
ネクロファンタジアは短編なのかな?
あと2、3回くらいで終わりそうな感じだけど。
FO8が倒れた後も続くのかな?
そろそろスプリガンも読みたいな
351しけい荘戦記:2008/11/09(日) 14:49:45 ID:mTF0ktZ20
第二十四話「露泰同盟」

 本部以蔵率いるホームレス軍団は、かつてしけい荘に決戦を挑んだ。五対五の団体戦と
なったスペシャルマッチは大将戦までもつれ込み、本部はシコルスキーによって打ち倒さ
れた。結果、スペシャルマッチはしけい荘の勝利にて幕を閉じる。
 あの日以来、本部はより過酷な鍛錬を自らに課した。技を磨き、仲間との組み手にも力
を入れ、徹底的に己を鍛え直した。敗北が、本部をさらなる高みへと押し上げたのだ。
 むろん、これらの経緯を知る由もないアライJrだが、本部が生半可な半生を歩んでい
ないことは全身から感じ取っていた。
「鳥肌が立つようなオーラだ。日本の武術家(マーシャルアーティスト)とはみんなこう
なのかい。とてもホームレスだとは信じられない」
 アライJrの賛辞に、本部はくすりともせずに告げた。
「わしも信じられん。貴様のようなボンクラが、あのマホメド・アライの息子とはな。血
が上手く受け継がれなかったようだ」
「なんだと? まるで私が父よりも低い、といっているように聞こえたが……」
「耳だけはあながちボンクラでもないようだな。その通りだ、貴様は父の遥か下にいる」
「──バカなッ! 私はすでに父をノックアウトしている! 父がついに実現できなかっ
た全局面的ボクシングを私は完成させ、その上で父が正しかったことを証明しようと、世
界中を旅しているのだ! この私が父より下などということはありえないッ!」
 ベンチから立ち上がると、アライJrは激情に駆られるままに吐露した。誰よりも父を
尊敬しているが、父以下だとは断じて認めない。後継者としての複雑な心情が、爆発した
瞬間だった。
「ほう……だが先ほどの貴様はどうだ。血がこびりついた両の拳に震え、今にも涙しそう
だったではないか」
「……たしかに、昨日までの私は拳で人を打つという行為と、殺人とを切り離して考えて
いた。しかし、ドリアン海王との決闘を経て、ようやく私の拳に殺意が芽生えた。私は恐
怖に震えていたのではなく、克服した喜びに打ち震えていたんだッ!」
 改めて拳を強く握り締めるアライJr。固まった血痕が弾け、同時に身体中から針のよ
うな殺気が発散される。
352しけい荘戦記:2008/11/09(日) 14:50:33 ID:mTF0ktZ20
 ところがこれでも、本部は彼を認めようとはしなかった。
「……足りぬ」
「え?」
「貴様には決定的に不足しているものがある。もし今度の闇討ちで、自分に足りぬものが
あると感じたなら──またここに来るがよい」
 何かをいいかけたアライJrを残し、暗闇に消える本部。冷たい夜風が音も立てずに吹
き抜ける。

 翌朝午前八時、コーポ海王の一室で前代未聞の組み手が決行されようとしていた。
 部屋の中心で構える烈海王と、これを囲む五人の海王。孫海王、陳海王、除海王、楊海
王、毛海王。
「手加減無用。もう始まっている」
 暖房の役割を果たしかねぬほどの闘気を放つ烈とは対照的に、仲間たちの表情はいたっ
て冷ややかだ。
 陳が烈をなだめるために話しかける。
「おい烈、この短期間に海王が三人ものされちまって、苛立つ気持ちは分かる。だがよォ、
こんなことをしたって一銭の得にもならんぜ。おまえが怪我するだけだ」
 裏拳が陳の鼻先に軽く触れた。流れ出る鼻血こそが、烈からの返答であった。
「もう始まっているといったはずだッ! 愚か者がッ!」
「ふざけやがって……三合拳をぶち込んでやる!」
 猛る烈に、激高する陳。
 決着は一瞬だった。床を踏みしめ、勢いを乗せた拳を繰り出す陳だったが、カウンター
の横蹴りをまともに喰らい壁まで吹き飛んだ。もちろん起き上がれるわけがない。
「独走はよくないぞ、烈。私の肉体で止めるしかあるまい。存分に叩き尽くしたまえッ!」
 金剛拳の使い手、楊海王が突っかける。砲弾をも受け止める鋼の肉体の持ち主だが、顎
をかすめるような烈のハイキックにはひとたまりもなかった。あっさり崩れ落ちる。
 すぐさま除が背後を取り、長身から鉄拳を振り下ろす。これを両腕でしっかり受け止め
ると、烈は振り向きざまに拳を連続で叩き込む。かえって不意を突かれた形となった除は、
大の字で床に沈んだ。
「おのれ、烈ッ!」
「二人がかりでやるしかないね」
353しけい荘戦記:2008/11/09(日) 14:51:36 ID:mTF0ktZ20
 孫と毛は、烈を挟むように陣形を取る。が、すかさず烈は身を屈め、二人の足元に回転
足払いをヒットさせる。たまらず転げた孫の喉を右足で踏みつけ、起き上がろうとした毛
も渾身の直突きで昏倒させた。
 三分とかからずに、同格であるはずの五人を撃破してみせた烈。しかし彼の胸に去来し
たのは歓喜ではなく──あり余る失望だった。
「海王のレベルも堕ちたものだ……。コーポ海王は本日より門限を午後六時とし、一切の
夜間外出を禁ずる。この私が海王を狙っている輩を討つまではな。これ以上、海王の名が
恥を晒すことは許されぬ」

 組み手と時をほぼ同じくして、シコルスキーを訪れる客があった。
 サムワン海王。高い身体能力に、中国拳法とムエタイを融合させた武術を駆使する、数
少ない中国人以外の海王である。
 実力者であることは誰もが認めているのだが、サムワンは生まれながらにして理由もな
くいじめられるという才能を持っていた。コーポ海王におけるシコルスキーのような存在、
というのがもっとも分かりやすい紹介の仕方となるだろう。
 彼がしけい荘にやって来た目的は、いうまでもなく闇討ちの一件についてだった。
「シコルスキー、昨夜ドリアン海王がやられたことは知っているだろう。彼は袂を分かっ
たとはいえ海王の一人、我がコーポ海王は騒然としている。今日も朝から烈がアパート中
に召集をかけてきたが、どうせ説教だろうから仮病を使って応じなかった」
「もちろん知っている。李海王や範海王と異なり、ズタボロにされていた……。手口がエ
スカレートしている、と大家さんもいっていた」
「率直にいおう、私は被害を何としてもこの手で食い止めたい。そして君に協力を仰ぎた
い」
「協力を仰ぎたい……とは?」
「コーポ海王としけい荘──つまり私と君、二人で仇を討つのだッ!」
 サムワンの目には有無をいわさず迫力が宿っていた。
「海王でありながら、こんな無様な頼みを君に話したと知れたら、私は仲間の手で粛清さ
れるだろう。しかし、君だからこそ話した。私はいかなる手を使ってでも、闇討ちを終結
させるつもりだ」
354しけい荘戦記:2008/11/09(日) 14:52:23 ID:mTF0ktZ20
 目蓋を閉じるシコルスキー。病院で眠っているドリアンの姿が、彼のために奔走した仲
間の姿が、鮮明に映し出された。
 ──ロシアとタイの合作も悪くない。
 目を開けると、シコルスキーは自らが下した結論を告げた。
「サムワン、やってやろう。我々二人で範海王、李海王、そしてドリアンの無念を晴らし
てやろう」
「……コープクン(ありがとう)」
 露泰同盟、発足。
 シコルスキーとサムワンはしっかりと握手を交わした。共通の敵を互いの手で滅ぼすべ
く。
 薄いドア一枚を挟み、外で二人のやり取りを聞いていたルームメイト、ゲバル。
「ここで中に入って三国同盟にしないかってぇのは野暮だよなァ……やっぱり。勝ったら
ラム酒だ、シコルスキー」
 ゲバルは密かに武運を祈り、203号室から離れていった。
 各勢力が牙を研ぎ、これより闇討ち事件は急加速する。
355サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/11/09(日) 14:55:42 ID:mTF0ktZ20
第二十四話です。

>>305
本部にはぜひピクルに挑んでもらいたいところです。

>>306
この話の本部はグラップラー1〜2巻時を基準にしてますので。
ゲバルはまだ秘密です。

>>307
話数どれくらいで締めるかは未定ですが、最後までお付き合い下さい。

>>サマサ氏
まちがいなく勝てます。
マガジンの福本漫画で東京ドームのクイズが出されてて、
あれにもシンクロニシティを感じました(こじつけ)。
356遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 17:52:30 ID:g1d+V+uX0
第十二話「運命の双子 見守るは水月」

―――天空神・オシリス。闇夜を斬り裂き、雄々しく翔けるその姿を、ソフィア達も目撃していた。
「あれは…一体、何だというの…?」
常に泰然としているソフィアですら、それには唖然とする他なかった。完全に己の理解を越えた世界だった。
「神…」
小さく呟く声。それは、フィリスが漏らしたものだった。彼女は大怪我しているにも関わらずに身を起こし、畏敬
に震えていた。
「ああ…神よ…天空より来たれり偉大なる龍神よ…矮小なる我が身にひしひしと感じます、貴柱(あなた)の悪を
憎む御心と、正しき怒りを…か弱き我らのために、そして悪を断つために来てくださったのですね…」
なんか目がちょっとイっちゃってる感じだった。ソフィアはちょっぴり彼女から距離を取る。その時だ。

「フン…オシリスを召喚せねばならんほどの敵がいるとは思えんがな。遊戯の奴め、余程腹に据えかねることでも
あったか…」

怜悧な響きの声に振り向くと、そこには二人の男が立っていた―――

―――眼前で行われた、圧倒的なまでの断罪劇。それは残された兵士達から、戦意を根こそぎ奪っていた。
「あの力…まさに神という他ない…」
へなへなと地面に座り込んだ兵士が、絶望を通り越して笑いさえ浮かべて呟く。地面にはほかほかと湯気を立てて
異臭を放つ水溜りが広がり始めていた。
「な、ならば…それを従える、あの小僧は一体…」
「…神だ…そうに違いない…」
兵士の一人が遊戯を指差し、呟いた。
「あの御方は…神域を侵した我らを罰するために光臨なされた、神の化身に違いない…!」
「やはり、神域を穢してはならなかったのだ…」
「星女神様が、御怒りになっておられるのだ…」
「お、御赦し下さい…どうか、罪深き我らを、御赦しに…」
357遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 17:53:15 ID:g1d+V+uX0
兵士達はもはや怯えながら地に頭を擦り付け、ただひたすらに赦しを乞うのみだ。
「失せろ!」
闇遊戯の怒号が響く。それだけで兵士たちは、雷に撃たれたかのように縮こまった。
「オレは<神>なんかじゃない…大切な友を傷つけられ、悲しみ、怒る、一人の<人間>だ…」
そして、咆哮するオシリスを背に、宣告する。
「オレの視界から、一分以内に消え失せやがれ!それを過ぎて一人でもここにまだ居座るなら、もう容赦しねえ!
貴様らまとめて冥府に叩き落としてやる!」
「ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
「ま、待ってくれぇっ!」
まさに蜘蛛の子を散らすがごとく、兵士達は一目散に逃げていく。かくて闇遊戯の宣告の通り、一分以内に全員が
逃げ去っていた。
「へっ!ざまー見やがれ、バカ野郎共!二度とこの島に来るんじゃねーぞ!」
「悪は滅びよ、このオリオン様がいる限り、正義は常に勝つ!ふはははは!」
城之内とオリオンは中指を突き立てながら、大笑いする。
「…みんな」
「お、ミーシャ!お互いヤバかったけど、もう安心だぜ。遊戯に感謝しねーとな」
「おいおい、城之内よ。俺にも感謝しろよ?」
オリオンが口を尖らせる。城之内もにかっと笑った。
「分かってるさ。助かったぜ、オリオン」
「うむ。素直でよろしい」
オリオンと城之内は、顔を見合わせ笑いあった。そこに闇遊戯もやってくる。
「城之内くん!無事…とは言い難いが、とにかくまた会えたな。相棒も喜んでるぜ」
「おう。また後でじっくり話をしねえとな。色々あったからなあ、オレも…」
城之内は感慨深げに頷く。そこに、ミーシャが遠慮がちに声をかけた。
「…みんな。ごめんなさい」
「ん?どうしたよ、謝ったりして」
「だって…私のせいで、みんなに迷惑をかけてしまって…」
「アホか、お前」
オリオンがぞんざいな口調で、ミーシャを遮った。
358遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 17:54:06 ID:g1d+V+uX0
「俺達全員、自分で勝手にやりたいようにやっただけだ。ごめんなさいなんて言葉、聞きたくねーよ」
「でも…それなら、どう言えばいいの?」
「決まってんだろ。ありがとう、って、それだけ言えばいいんだよ」
「それで…いいの?」
「いいに決まってるだろ」
城之内がそう続けた。
「オレらは、友達だろうが―――助けてくれた友達には、ありがとうって、それだけでいいんだよ」
その言葉に、オリオンと闇遊戯も頷いた。ミーシャもそれでようやく、少しだけ笑った。
「…ありがとう。城之内、オリオン。それに…」
「武藤遊戯だ。遊戯でいいぜ」
「ありがとう―――遊戯」
そこにレッドアイズもやってくる。ミーシャに鼻先を寄せ、甘えたように鼻を鳴らしている。さらにふわふわと
漂っていたクリボー達もクリクリ鳴きながら闇遊戯の周囲に集まってくる。
「ボクらも褒めて」といったところか?ミーシャは笑って、レッドアイズの頭を撫でた。闇遊戯もクリボー達に
労いの笑みを向ける。
「分かってるわよ。ありがとう、レッドアイズ」
「クリボー。お前達のおかげで城之内くん達を守れたよ」
その言葉を聴いて、彼らは満足げに一声鳴いて消えていった。同時にオシリス達も消えていく―――
闘いは、終わったのだ。
「ありゃ…あのカワイコちゃんも消えちゃったの?もったいない…」
オリオンが残念そうに指を鳴らす。城之内は小声で遊戯に耳打ちする。
「おい、遊戯。こいつに頼まれてもBMGを召喚するなよ。間違いが起きるぜ」
「ああ、分かってる」
闇遊戯も真面目くさった顔で答える。ミーシャは呆れたようにそっぽを向いてしまった。その時。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「―――!?」
地獄から響いてくるような怒号に思わず振り返れば―――黒焦げになったはずのスコルピオスが、全身に大火傷
を負いながらも、立ち上がるところだった。
359遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 17:54:53 ID:g1d+V+uX0
「まさか…オシリスの攻撃を受けて、生きているだと…!?」
「く、く、くくく…確かに…凄まじい力だった…だが私とて、雷神の加護を受ける…アルカディアの武人―――
あの攻撃もまた、雷の力…ならばこそ、耐えられようというもの…」
「くっ!やはりオベリスクで挽き肉にするか、ラーで消し炭にするべきだったぜ…!」
選択を誤ったことを知り、闇遊戯は舌打ちする。スコルピオスは笑みすら浮かべ、ゆっくり近づいてくる。
「神…あれが…神か…素晴らしい…あれが…神の力…ふふふ…くはははは…」
その場の全員が戦慄した。目の前のこの男は、確かにどうしようもない悪党で、外道だ。
しかし悪党が信念を持たぬわけではない。外道が意地を見せぬわけではない。それがオシリスの力を受けてなお
彼を突き動かしているのだ。善悪を越えた―――揺るぎない意志。それを、この場の誰もが感じていた。
「力…神の、力…星女神の巫女を、殺せば…私にも、神の力が…」
「バカか、てめえ!そんな身体で、しかも手下も全員逃げ出した。こっちにはオレとオリオン、遊戯だっている。
これでまだ、ミーシャを生贄にするなんてほざくつもりかよ!?」
「それが…どうした…私には…神の力が必要…そのために命を捨てる覚悟など…とうに済ませておるわぁぁっ!」

「―――哀れだな、いじましい虫けらめ」

天空より突如響いたその声は静謐にして、圧倒的な威厳が秘められていた。
「蠍如きが神を語るなど、笑止千万。神を知るのは―――神に選ばれた者のみだ」
傲然と言い放ったのは、遊戯や闇遊戯、それに城之内もよく知る、あの男だった。
「そして見るがいい…神すら凌駕する地上最強の決闘者と、そのしもべたる史上最強の白龍の姿を!」
旋風を巻き起こしながら、それは大地に立つ。男はその背から飛び降り、スコルピオスを射竦めるように睨む。
そして、彼を乗せていた存在は、まさしく忠実なしもべとして彼に付き従う。それは―――青き眼の、白龍。
スコルピオスはそれを、愕然と見つめる他なかった。
「強大…至高…究極…華麗…強靭…無敵…最強…鉄血…壮烈…優雅…精強…覇大…剛毅…熾烈…無双…剛力…
如何なる言葉を以ってしても足りぬ…クク…ククク…ハァ〜ハッハッハッハッハ!」
そう、その男こそは、海馬瀬人。そして彼は、大地に、天に、全てに向けてその力を誇示する。
「圧倒的ィ!絶対的ィ!!超無敵ィィィ!!!これがオレのブルーアイズだ!ワハハハハハ!」
強大なる白龍を従え、海馬は世界中に響き渡るかのように哄笑する。
360遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 17:55:43 ID:g1d+V+uX0
「貴様…何奴…何故だ…何故…」
スコルピオスは、まるでうわ言のようにブツブツと繰り返す。
「何故…何故…私でなく、貴様らに…これほどの力が…何故…」
「何故、だと?フン―――そんなことは決まっている」
海馬は冷たく言い放った。
「所詮貴様は、地べたをコソコソと這い回る虫けらに過ぎなかった。それだけだ」
そして海馬は天高く腕を振り上げ―――スコルピオスは剣を構え直し、最後の抵抗を試みるが―――
如何に蠍が毒針を振り翳そうと、龍はそれを、軽々と踏み砕く―――!
「ブルーアイズよ!このクズをせめて美しい花火にしてやれ!」
海馬の腕が振り下ろされた。同時にブルーアイズが咆哮し、全てを破壊する一撃を叩きこむ。
「粉砕!玉砕!!大喝采!!!滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)!」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!」
天を貫くかの如き、光の奔流。スコルピオスは人間とは思えない叫びを上げながら、遥か彼方へ吹き飛ばされて
いく。その様は、先の海馬の言い草ではないが、まさに花火のようだった。
「ワハハハハハハハ―――スゴイぞー!カッコいいぞー!流石はオレのブルーアイズだ!」
それを見送りながら高笑いする海馬。そんな彼を、オリオンはゲンナリした顔で見つめていた。
「なんなの、あいつ…すげえな、色んな意味で…」
「言うな。あいつと知り合いだってだけで恥ずかしいぜ…」
城之内は本当に恥ずかしそうだった。闇遊戯も、なんとも複雑な顔をしていた。
「け、けど、私たちを助けてくれたじゃない。悪く言うのは失礼よ」
「いーや、ありゃオレたちを助けたんじゃなくて、ただ単にブルーアイズを見せびらかしたかっただけだね」
どうにかフォローしようとするミーシャに、城之内の返答は実に身も蓋もない。
「フン、分かっているではないか。凡骨」
しかも肯定した。海馬瀬人、恐ろしい男である。
「海馬…お前もここに来たか」
闇遊戯が顔を厳しく引き締めて、海馬を見据える。はっきり言ってこの男だけは油断ならない。何を考えている
のか、理解できないところがあるのだ。
361遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 18:11:56 ID:7b/3FYik0
「別にオレはこんな辺鄙な島に用などない。奴の付き添いだ」
「奴?」
海馬は後ろを振り向き、くいっと顎先で示す。そこに、一人の男が立っていた。彼はその紫の瞳で、他の全てが
消え失せたかのように、ミーシャだけを見つめていた。その姿に、オリオンとミーシャは口元を押さえ絶句する。
「そんな…まさか、あいつは…!」
「嘘…」
城之内はその様子を見て、どういうことかと訝しがる。
「?二人とも、あいつのこと、知ってんのかよ?」
「城之内くん…あの男の姿をよく見てみろ。もしかしたら…」
闇遊戯に耳打ちされ、城之内は男をよく観察してみた。そして、あることに思い至る。
「あいつ…あの髪…それにあの瞳…ミーシャに似てる…?じゃあ、あいつが!?」
「そうだ…間違いねえ…あいつ、エレフだ!」
答えたのはオリオンだった。彼は視線をせわしなく二人の間で泳がせている。ミーシャはといえば、ただ呆然と、
目の前に現れた男―――エレフを見ていた。城之内はそんな彼女に対して叫んだ。
「ミーシャ…何やってんだよ!」
「え…?」
「ずっと兄貴と離れ離れだったんだろ!?ずっと兄貴を待ってたんだろ!?だったら―――どうしてそんな顔で
ボケっとしてやがるんだ!」
「だけど…どうすればいいのか、分からないよ…」
「どうにでもすりゃ、いいだろうが」
オリオンがその先を引き継ぐ。
「笑おうが泣こうが、どうしたっていい。お前のやりたいようにすりゃいいだけだろ」
「おうよ!とにかく、行って来い!ウダウダ考えるんじゃねえ!」
二人の言葉に背中を押されるようにして、ミーシャはゆっくりと駆け出す。エレフは両手を広げて、そんな彼女
を待ち受けた。
362遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜:2008/11/09(日) 18:12:53 ID:7b/3FYik0
「エレフ…エレフ!」
「ミーシャ…ミーシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」
お互いの名を呼び合い。そして、二人は、強く、強く、抱きしめあった。
「エレフ…私…私…」
「いいんだ…何も言わなくてもいい…」
泣きじゃくるミーシャの頭を、エレフはそっと抱え込んだ。
「お前がこうして、生きていてくれた…また、会えた…それだけで…もういいんだ…」
「エレフ…」
そんな二人を、皆はそれぞれの想いと共に見つめていた。
「へっ…全く。泣かせてくれるぜ、あいつら…」
オリオンは涙をぐいっと拭い、ふと城之内を見て、ぎょっとした。
「う、う、ううう…よがっだなあ…よがっだなあ、あいづら…」
「お、おま…泣きすぎだろ、おい!どういう涙腺してたらそんな泣き方できるんだよ、なあ!?おかげでこっち
の涙が引っ込んじまっただろうが!俺の感動を返せ、感動を!」
「う…うるぜえ!泣いでねえよ!心の汗だ、ヂグジョウ!」
闇遊戯、そして遊戯は抱き合う二人を静かに、対照的にやかましくわめく二人を苦笑しながら見ていた。
(皆…嬉しそうだね。よかったね…グスッ…)
(はは…お前まで泣くなよ、相棒。とにかく、これでもう何も問題はない―――そのはずだ)
「フン。全く、騒々しい連中だ…」
海馬は相変わらずの態度だったが―――それでもきっと、彼なりに、兄妹の再会を喜んでいるのだろう。彼には
珍しく、口の端に皮肉でも嘲りでもない、穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな周囲の喧騒を余所に、エレフとミーシャは、ただいつまでも互いを抱きしめあっていた。

―――泉に浮かぶ水月は、二人を、静かに見守っているようだった…。
363サマサ ◆2NA38J2XJM :2008/11/09(日) 18:13:47 ID:7b/3FYik0
投下完了。前回は>>326より。
感動の兄妹再会…なんですが、社長が全て持っていったような気がしないでもない(笑)
次回からは遊戯達が元の世界に帰る方法を探すため。六人で大冒険へ…みたいな展開には残念ながらなりません。
ミーシャは助かったけれど、更に苛酷な運命が待っています。それと、社長は今回ちょっといい人そうに見せかけてます
が、彼の本質は外道であるということはお忘れなく…。

>>336 あまり参考にならない解説ですが、楽しんでいただけたなら幸い。いずれ使用したカードの
    解説も雑誌のおまけコーナーみたいなノリでやりたい。
>>337 古代同士で絡ませられたらとは思うんですが、多分出てこない…作者にそれだけの
    力量がないせいです(汗)
>>338 はい、ラスボスは冥○タ○○ス様です。すでに堂々と喋っておりますね。
    アレクサンドラ様も出ます。チョイ役かもしれませんが…。

>>ハシさん
F08の、あまりのカマセ臭に涙が…エンバーミングは、主人公の幼馴染ヒロインがいきなり殺されたのが
衝撃でした…和月先生、本気で黒い部分を出してる気がします。
漆黒のシャルノス。なんとなくデモベっぽい雰囲気が好み。これは買うかも…。
そして貴方も楽園パレードの友でしたか…!クロニカ様的には、確かに運命は打ち破れるけど、それを
打ち破ることすら別の運命によって定められており、更にそれから逃れても…という無限ループです
からね。だけど二次創作でくらいは、100万回運命に絡め取られても、100万1回打ち破るぜ!みたいな
勢いでハッピーエンドを目指したいところです。

>>ふら〜りさん
友情パワーは少年漫画にのみ許された最強の力だと思います。あらゆる奇跡を可能とするこの力、
現実にはないからこそ、憧れますね。

>>サナダムシさん
よし、なら次はピクルにあっさりぶっ壊されたマシーン(名前忘れた)を倒しましょう。
マガジンの福本漫画…あれの決勝戦にカイジが出てきて、無理矢理カイジも終わらす気じゃねーかと
不安です。それはないと思いますが。
364作者の都合により名無しです:2008/11/09(日) 20:27:13 ID:+eCgZcuH0
>サナダムシさん
なんか本部やらサムワンやらが異常に凛々しいなw
しけい壮は脇役ヘタレ役が存分に活躍してくれるから好きだ

>サマサさん
城之内は本当にいいやつだなあ(原作初期はそうでもなかったけど)
社長が純粋な悪党だから余計にナイスガイさが目立つw
365テンプレ1:2008/11/09(日) 21:34:43 ID:iz8Kt4/K0
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart60【創作】


元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://changi.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1223094116/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss
366テンプレ2:2008/11/09(日) 21:38:05 ID:iz8Kt4/K0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/49.html (現サイト連載中分)       
1段目2段目・戦闘神話  3段目・VP (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/16.html (現サイト連載中分)       
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉  (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/552.html (現サイト連載中分)
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
遊☆戯☆王  〜超古代決闘神話〜  (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/751.html
367テンプレ3:2008/11/09(日) 21:39:02 ID:iz8Kt4/K0
1段目2段目・その名はキャプテン・・・ 
3段目・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― (邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm (前サイト保管分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/259.html (現サイト連載中分)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
上・ロンギヌスの槍 
下・ネクロファンタジア REVENGER and DEAD GIRL (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/722.html
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
しけい荘戦記 (サナダムシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/634.html
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html  (エニア氏)
368ハイデッカ:2008/11/09(日) 21:42:45 ID:iz8Kt4/K0
日本シリーズを観戦しながら急いで作ったんで間違ってるかもw
ふら〜りさんの連載終了とサマサさんの桃太郎と遊戯王を入れ替えたくらいかな、今回は?
現スレはサナダムシさんとサマサさん大活躍でしたなー


とにもかくにも西武おめでとう。
中日ファンだけど、去年の日本シリーズの10倍面白かった。
369作者の都合により名無しです:2008/11/09(日) 23:27:39 ID:ceTcsCaM0
ハイデッカさんのテンプレで合ってますか
合ってるようなら自分立ててきますが
370作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 00:12:41 ID:UeNFDp370
>>369
合ってる。ただ連載順でいくなら超古代決闘神話が一番最後の方がいいと思う。
371369:2008/11/10(月) 00:27:10 ID:7p4tTkdc0
すいません立てられなかった……orz
誰か他の方たのんます
372作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 00:32:01 ID:c8jOHsNb0
ハイデッカさんいつもテンプレ乙です。

>サナダムシさん
烈と本部が妙にかっこいいですね。オーラが漂っている感じ。
シコルスキーとサムワンか・・。0×0=0って感じだけどw
激闘編のシコルは強いからな。ゲバルも加わるし一大勢力か。


>サマサさん
海馬社長無駄に熱いですねw社長らしいですけど。
社長のブルーアイズは三幻神並に強い設定みたいですな。
エグゾティアとか出ないのかな?あれは反則みたいなもんかw
373作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 00:52:52 ID:c8jOHsNb0
374作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:34:38 ID:x2VHunrL0
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375作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:46:12 ID:FrJw3dqx0
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376作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:47:55 ID:FrJw3dqx0
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377作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:48:40 ID:FrJw3dqx0
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378作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:49:35 ID:FrJw3dqx0
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379作者の都合により名無しです:2008/11/10(月) 22:50:38 ID:FrJw3dqx0
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380作者の都合により名無しです:2008/11/21(金) 21:44:52 ID:cmcRvhno0
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381作者の都合により名無しです:2008/11/21(金) 21:47:08 ID:cmcRvhno0
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382作者の都合により名無しです:2008/11/21(金) 21:48:08 ID:cmcRvhno0
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383作者の都合により名無しです:2008/11/21(金) 21:48:44 ID:cmcRvhno0
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384作者の都合により名無しです:2008/11/21(金) 21:49:49 ID:cmcRvhno0
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385作者の都合により名無しです:2008/11/24(月) 23:50:22 ID:HyuTa0XUP
 
386作者の都合により名無しです:2008/11/24(月) 23:52:37 ID:HyuTa0XUP
 
387作者の都合により名無しです:2008/11/24(月) 23:53:46 ID:HyuTa0XUP
 
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