【2次】漫画SS総合スレへようこそpart58【創作】
1 :
作者の都合により名無しです :
2008/08/17(日) 12:30:35 ID:BfPurKuq0
2 :
作者の都合により名無しです :2008/08/17(日) 12:31:42 ID:BfPurKuq0
3 :
作者の都合により名無しです :2008/08/17(日) 12:35:24 ID:BfPurKuq0
4 :
作者の都合により名無しです :2008/08/17(日) 12:37:45 ID:BfPurKuq0
ハイデッカさんいつもテンプレお疲れさんです。 ハシさん、ティア姉さんがかっこいいですなー 次の作品の構想もあるみたいで嬉しいです。 スプリガンはやっぱりいいなー
1さんハイデッカさん乙。 ハシさん、ロンギヌスいつも楽しみにしております。 優とティアのコンビは強力だけど、どちらもケアレスミスが多いので そこを敵に突かれないかと心配だ。
1さんハイデッカさん乙です。 それとハイデッカさん、殺さないでくださいw またいずれ舞い戻りますよ、仕事の果てより… 職人の皆さん、感想書けずにすみません。 これからも陰ながら応援しています。
7 :
作者の都合により名無しです :2008/08/17(日) 19:56:02 ID:QS6n79X+0
1さんハイデッカ氏乙。
ところで
>>6 さんは誰?
ハシさんが朧を書いてくれるそうで嬉しい
ティア>朧とかいってる奴はスプリガン深く読んでないな
どう考えても最強は朧
8 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:44:08 ID:44cREFwGP
第070話 「滅びを招くその刃 其の捌」 太陽がいよいよ中天に上り詰める頃、銀成学園からはぼつぼつと人影が吐き出されつつ あった。 「急に日曜日になったからいつものように部活へきたけど」 「なんか調子が狂う」 「練習にならない」 口々にぼやくジャージ姿の生徒達は、どうやら運動部の練習にやってきたらしい。 ここ銀成市は、鐶の年齢操作にて突如土曜日から日曜日へと日付が進んでいる。 運動部の生徒達はこの異常な変化に戸惑いながらも一応いつもの予定通り登校し、『日曜 日の』部活動にいそしんでいたワケだが、下校途中の彼らがいうようにどうも勝手が違う。 そもそも時間の流れが正常ならば既に土曜日の夕食をたいらげている頃なのだ。 どうも人々の体は鐶の年齢操作とは無縁で、上記の機微のもと営々と生命活動をこなして いる。だから、変わった」という理性的な認識とは無関係にそろそろ日中活動の疲れが出てき ているのだ にもかかわらず学校にわざわざきたのは、「時間が進んでいる」という奇異を肌で以て味わっ てみたい、経験して市外の人間に自慢したい、という一種の興奮が疲労を忘れさせていたせ いだが、しかし慣れてくると存外つまらない。いかに先取りできようと所詮はただの日曜日。ジャ ンプが祝日の関係で土曜日に発売されて「ラッキー」と喜んでも、次の月曜日までの十日間を 想像してやがてげんなりするように、朝三暮四じみた感覚……日曜先取りも一種心躍る土曜 日の夜を犠牲にしているのではないかという推測が疲労を突きつけている。 うら若い生徒でさえそうなのだから、夕食時にビールと枝豆で一杯やってた運動部顧問の歴々 の落胆は輪をかけてひどい。 柄の間の休息もないのか、そうは思うが仕事は仕事。 仕方ないと重い足を引きずって銀成学園へやってくる心持ち、さながら雪の日の出勤の如く だ。子供なら雪は喜ぶ。物珍しげに踏みしめて、意気揚揚と登校するだろう。だが二十代の半 ばを過ぎてしまうと雪などは通勤の邪魔でしかない。 ……現在銀成市に巻き起こっている時間の奇妙な進行も然り。 平穏無事に仕事が済んで月一回の給料日まで安心して暮らしたいと願っている者にとり、お かしな変化など願い下げ。
9 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:47:37 ID:44cREFwGP
「変化」そのものの珍しさに一瞬目を輝かせたとしても、社会人として培った思考力は「変化」 が自分にもたらすマイナス要素をいくつもいくつもあげつらう。 で、生徒の飽きと教師の嫌気の利害が合致した結果、銀成学園からは教師を含む人影が ぼつぼつと吐き出されつつある。とまあ、そういうワケだ。 「だいたい今日は日曜日かどうか怪しいし」 日付時代は厳然として変わっているのだが、まあそういう学術的な事実よりも楽な方向へ 逃げるのが人間であり、彼らを責められる者も特にいない。だいたい部活動だから授業カリキュ ラムに影響もない。弱小ならやる気もない。雨が降ったらお休みで風が吹いたら遅刻して。 といってもまだ残っている生徒も運動場にはちらほらと散見できたが。 一人でサッカーボールをドリブルする者、手慣れた様子で投球練習をするバッテリー、トンボ を持って地ならすマネージャー。きっと彼らは部活に青春を賭けているのだろう。 体育館の方では剣道部の面々が、昨日からさっぱり姿の見えぬ秋水に首を傾げながらも「ま あたまには休息も必要か」と勝手に納得し、或いは生真面目な副会長が、そういう機微にさえ 目を向けたのが少し嬉しくなったりもした。もっとも性格をいうなら連絡もなしに二日も部活を休 むも奇妙さこそ考えるべきだが、いやいやしかしまあまあしかし、青年ならたまにはそういう野 暮ったい機微を忘れて遊ぶのもまた良しと、剣道部一面は秋水不在を責めたりしない。 その横ではバスケのドリブルの音がだむだむ響き、バトミントンのシャトルもネットの上をきび きびと往復したりと、ごくごくいつもの情景だ。 そして運動部に比べると流石に比率は低いが、文化部の生徒も校舎のあちこちにいた。 中でも一番活力があるのはまひろ属する演劇部である。 まだ日付が「土曜日」の頃、まひろが「明日練習がある」といった通り、日曜日たるいまは練 習の対象なのだ。 借りた教室にはまひろとヴィクトリア、千里に沙織を始めとする何人かの生徒。 彼女らがサボらずやってきた理由の一つには、千里のマジメな牽引力あったらばこそだろう。 だが。 ヴィクトリアは悩んでいた。 (アイツ、いつになったら帰ってくるのよ)
10 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:49:14 ID:44cREFwGP
探しに行きたいが秋水から「寄宿舎に帰れ」といわれてもいる。そんないいつけなど別に破っ てもいいのだが、後でいちいち生真面目な謝罪とか説教とかをされるのも癪に障る。だいたい、 秋水相手にそこまで必死な態度を見せるのも苛立たしい。かといって放置するのも胸がもや もやして気分が悪い。 (というか何であの後すぐにママの細胞を培養しなかったのよ私。馬鹿みたい……) もともと細いが更にへこんだ腹部をさすると、やるせないため息を吐いて机に顎を乗せた。 沙織の件が一段落した後、密かに蝶野邸宅へ行って散乱した器具を整えて、アレキサンド リアのクローンを培養し始めたのだが、まだできるまでには時間がかかる。 お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた 無数の言葉が脳髄の歯車を回していろいろ連動した結果、膝から下がばたばたと動いた。 振り子のような風を脛に浴びつつヴィクトリアは自分の不手際を呪った。 沙織捜索に駆り出したまひろの空気の読めなさはもっともっと呪った。 その呪われた少女は教壇の上で何やら異常者のように感情を爆発させたが、別に発狂した のではなく台本に沿って声を上げたにすぎない。 ヴィクトリアはそれが残念でならない。 どうせ常に発狂しているようなもんだからもう一度発狂すれば却ってまともになるんじゃないの。 と毒舌交じりに卵のように丸っこい頭を眺めると、ますます空腹感が募ってくる。 いっそ本当に死なない程度にだがかじってやりたくなる。 (柔らかさだけならたぶんマトモな筈……) 口の中に唾液が満ちる。柔らかい肉を咀嚼する感覚を想像するとたまらない。 ただ、その後のまひろのやかましさを想像するとどうにも面倒くさそうだ。 「だ、大丈夫びっきー? ちゃんとお腹いっぱいになった? もし足りなかったらもっと食べて いいよ! そうだ! お尻のお肉とかなら余ってるから大丈夫!」 (そういうに決まってるじゃない) はあ、と瞳を細め机に額を乗せると、演劇部の台本のタイトルが瞳いっぱいに広がった。 (ああ本当に鬱陶しい。化物とか責められる方がまだマシよ)
11 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:50:45 ID:44cREFwGP
きっとまひろはアンパンマンになったつもりで自分の肉を差し出すに違いない。トモダチを助 けるのは当然とかなんとかで。 そういうのがバカバカしいので、ヴィクトリアは目下のところ空腹を騙しだまし耐えている。 耐えられるのは精神の余裕のせいだろう。 といってもあまり放置すればどうなるか、保証の限りではないが。 まひろもまた悩んでいた。 (秋水先輩、大丈夫かなあ……) とは敗戦を知らぬ彼女ゆえの思考だ。ヴィクトリアも防人もこの件については口を閉ざしてい るで分からない。 (ううん。きっと大丈夫。秋水先輩は強いからきっと大丈夫! 帰ってくるって約束したもん! だから今は演劇に集中ッ!) ぶんぶんとかぶりを振ると、珍しく暗記したセリフを朗々と大きく述べた。 すると右手に握った台本が必要以上に握りつぶされ、千里がたしなめてきた。 内容は耳に入らない。視線も意識も机にだるそうに突っ伏すヴィクトリアに吸い寄せられた。 (ガス欠!?) 困った。頭ぐらいならやってもいいが、千里や沙織の目があるから出来ない。まひろはいつ かちゃんと空気を読める人間になりたいので、人目を忍びたいのだ。 沙織も悩んでいた。 (夏休みの宿題はなぜかちゃんと片付いてたけど) まひろがただならぬ要素で眺める少女の正体がよく分からない。 (誰なのあのコ? なんで外人さんがうちの学校に?) 鐶になり変わられ、しばらく地下で眠っていたせいで、ヴィクトリアをよく知らない沙織だ。 幼い顔を引き攣った笑みにくしゃくしゃにして、ただまひろ⇔ヴィクトリア間を眺めるばかりで ある。 「……なんだか私だけ蚊帳の外のような」 困惑の千里はため息まじりに少女たちを見るほかない。 彼女は知らない。 そんな銀成学園から二キロメートルと離れていない路上で、いつ終わるとも分からぬ戦いが 繰り広げられているのを。
12 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:52:13 ID:44cREFwGP
鐶がツバメに身を変え桜花に突撃すれば電柱から出た根来の腕が翼をばさりと切断し、た んと地を蹴り鐶が短剣を振りかざせば紅い弧円を斗貴子は跳躍で回避。 そして後ろに控えていた剛太が短剣の主へと飛び蹴り。 「体重が軽すぎるんだよ」 踵で唸る戦輪に顔を斜めに斬られた鐶は、衝撃で軽く後退。その腹に間髪入れず四本の処 刑鎌が直撃。しかし斗貴子の表情は芳しくない。 (攻撃そのものは当たっている。ダメージだって与えている。なのに!) 臓物をブチ撒けた処刑鎌を引くより早く鐶の傷はふさがった。 「また回復! 一体何度目だ!!」 「まぁまぁ。ダメージを与えていればいつかは倒せるわよ」 歯ぎしりする斗貴子の横を桜花の矢が通り過ぎ、鐶に着弾。そこへ防人が打撃を加えて人 気のないオバケ工場へと誘導。それが目下の作戦概要だ。 いつしか舞台はビルが立ち並ぶ市街地から閑静な住宅街へと移り、今はさほど広くない道 路で肩をぶつけるように戦士がひしめき合っている。 (あれ? オバケ工場への誘導なら私があのホムンクルスを掴んじゃえばいいんじゃ?) 千歳はふと気付いた。だいたい彼女はあまり活躍していない。ならばココでヘルメスドライブ の特性──瞬間移動──で鐶をオバケ工場に誘導しちゃえば大手柄。みんな褒めてくれるに 違いない。根来さえ目を輝かせて「さすがは戦士・千歳!」と喜ぶに違いない。 (オバケ工場ならさっき調査に行ったし。よし) 意気揚揚とタッチペンを持つとレーダーに映る鐶を鼻歌交じりにクリックした。 (私だって頑張ればできるんだから!) スッと姿を消した千歳は鐶の背後へ回り込み──… 「何か……用、でしょうか」 頭の上を通り過ぎる針金のような三本爪に頭頂部の髪をうっすら斬られた。 (ひええええ〜! 気付かれてる!) しかも虚ろな瞳のまま短剣を振りかざしてくる。次に当たればそれこそ千歳は赤ちゃんにな る。彼女は慌ててもう一度瞬間移動して難を逃れた。 「やれるのか?」 「やれない。怖い。絶対ムリ!」 言葉少なげに鐶を指さす根来に、千歳は全力で首を振った。勢い余って三つ編みが肩と水 平に飛ぶほどに。
13 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:53:35 ID:44cREFwGP
鐶は異様に鋭い爪を振り回し、周囲の塀をサイコロ状に切り刻みながら防人、斗貴子、剛太 を一人で相手にしている。周囲を飛ぶカラスもその気迫に気押され、つかず離れずの場所を飛 ぶのが精いっぱい。それでも時々羽毛の先端が薄く斬り飛ばされるらしく、驚いたカラスのし わがれた叫びが怨嗟のように木霊している。 光景たるやあたかも修羅の地獄だ。 千歳は悟った。自分などが介在できる次元ではないと。 瞬間移動で接近するのはできるが、オバケ工場までの跳躍まで無事でいられる相手ではな い。さっき桜花を助けた時でも瞬間移動の前後に攻撃が(桜花に)当たったのだ。どうも鐶は そういう感知能力があるらしい。それを抜きにしても全くの子供と異常な戦闘力のホムンクルス だ。防人が鐶の誘導にヘルメスドライブの直接的な移動を組み込まなかった理由も自ずと分かる。 「なんか、私だけ役に立ってなくてゴメン」 しゅんと頭を下げる千歳に根来は元来険しい目つきをいよいよ鋭くした。 「消沈などは任務に於いて最も無意味な感情の一つ。戦う意思を失くしたというのならば我ら に今すぐ核鉄を渡し、離脱すれば済む事」 「だ、だよね。ゴメン……」 「然るに貴殿は未だに戦闘放棄を選んでいない」 「迷惑ってコト?」 震える声を漏らして千歳は根来を見た。しかし彼は答えない。たぶん、くの字に曲がった手 裏剣を鐶へ投げるのに忙しいせいだ。解答までの一分近くの時間を、千歳はそう解釈した。 「貴殿には年齢を吸収される以前の記憶はあるか。私にはある」 「あるよ。えーとね、お化け工場の地下で沙織ちゃん見つけたりとか、寮母さんやったりとか……」 「ならばそれを追体験すれば済む話」 「?」 「貴殿が如何なる理由で性質を変えるに到ったか。私にとってはどうでもいい事。だが既に貴 殿は一度変質を遂げているのだ。ならば年齢が戻らずとも、記憶を辿れば元の性質を取り戻 すのは存外容易いだろう」 根来は亜空間に手を突っ込むと、布に包まれた何かを取り出した。布には根来の髪でも組 み込まれているのだろう。それを彼ははらりと除けた。 「貴殿はそれまでこれを持ち、機会に備えておけ。貴殿の能力にはまだ利用価値がある」
14 :
永遠の扉 :2008/08/18(月) 00:55:16 ID:44cREFwGP
無造作に放り投げられた物をキャッチすると、千歳は目を丸くした。 「ふぇ? 夏みかん? なんで? どこで取ってきたの?」 オレンジ色につやつやとした塊を渡す意図がどうにも分からない。 眺めてみる。普通だ。作り物ではなさそうだ。 嗅いでみる。普通だ。新鮮な甘い匂いが鼻腔をくすぐった。 触ってみる。普通だ。分厚い皮の向こうで角ばった感触がした。 (ん?) 千歳は何か違和感を感じた。上手くはいえないが、普通で片付けてはならない要素がある。 考えた。そして、気付いた。 (……! ちょっと待って。コレって。まさか……) 根来が頷いたような気がした。 (え、でもなんで? どう考えても『アレ』の感触だけど、今、私に渡す必要なんて) ──年齢が戻らずとも、記憶を辿れば元の性質を取り戻すのは存外容易い すっかり幼くなった千歳の喉首を、息の塊がゆっくりと降下した。 (もしかして、この前の任務みたいなコトを……また?) かぐわしい夏みかん。それを眼前に千歳の表情は動揺と混乱に彩られたが、やがて決然と 頷き、夏みかんをバッグにしまった。 余談だが彼女はあまりに年齢が退行しすぎたため服のサイズが合わなくなり、仕方ないので 最寄りの店で服と大きめのバッグ(再殺部隊の制服を入れるため)を買ったのだ。だいたい、 入店から購入まで一分ぐらいで。 「くしっ」 やや熱を帯びたくしゃみの音は、戦いの喧騒にかき消された。
「根来が仲間に言葉をかける」
ただそれだけなのに難しい。彼の仲間への距離感というのは難しい。
ハイデッカさん、
>>1 さん
お疲れ様です。そしていつもありがとうございます。
前スレ
>>406 さん
色々と調べた甲斐あり、若干ながら鳥の世界というのを知るコトができた感じです。
とりあえず千歳はココからちょっとだけ盛り返すかもです。
前スレ
>>407 さん
剛太はたぶん斗貴子さんさえ居ればあの調子でしょうね。問題は桜花。昔は純粋だったんですが……
とにもかくにも幼稚園の保父さん状態のブラボーは捨てがたいと思うのです。
前スレ
>>408 さん
ありがとうございます。思えば結構長くお邪魔させて頂いてますね。多謝。
ハシさん
いやはや、ボス前の関門ってコトで「強敵」をイメージした結果、いろいろ反則じみたキャラに
なりつつありますねw なんだかよく考えると最後の総角、インパクトにおいて鐶に負けてしま
いそうな感じさえあります。それは後の課題として、おっとりのんびりした部分は描いてて面白いです。
>ロンギヌスの槍
>誰とでも打ち解ける人となりの優は、まだ出会って間もない憲兵隊とも友好を深めていた。
前回、やられ役にすぎなかった兵たちが、この一文で一気に人間的な色彩を帯びました。
だからこそ彼らの死を悼む優の怒りとか苦悩に感情移入できるので、ただお見事。
仇討ちも少年漫画らしく、爽快な感じになりそうで期待大!
ふら〜りさん
二つ名については意識しておりますw >アンデルセン神父 あとはビグザムやらデンドロビ
ウムやらの設計思想(拠点防衛〜とか)にターミネーターの何喰らっても突き進むような感じ
を混ぜたらすっかりこんなコトに。予定より遙かにオーバースペック。でも実は、まだ……
やはりスターダスト氏が一番手か。いつも乙です。 年齢操作って能力的に強いな。
17 :
作者の都合により名無しです :2008/08/18(月) 11:39:28 ID:8I99W1wL0
まひろは良い子だけどいろいろとズレてて周りの人は大変そうだ。 まひろが演劇部って公式設定ですか? ヴィクトリアや桜花も演劇部に入ったら芸能界並のレベルの部活だな、 ルックスに関してはw
まひろの肉なら食べたい人間は沢山いるだろうな、性的な意味で 千歳と根来のやり取りが好きだ
本来の江田島は実力者なので、調子に乗せるとけっこう怖い。アカギとドラえも んは言わずもがな。四人の中では、のび太が一番分が悪い。 「ドラミちゃーん! ボクにトップをとらせてよー!」 のび太はドラミに助けを求めた。四人の他にも、ノースウエストにはのび太の仲 間が何人か来ていた。ドラミは奥のベッドでのび太に背を向けて寝ていた。 「オーケー! あたし、のび太さんのためなら括約筋全開で頑張っちゃう!」 ドラミの返事は百点満点だった。しかしベッドから出てくる気配はない。のび太 の方を見もしない。 「だったらこっちに来て一緒に打ってよー!」 「アドバイスしてあげるから、どんな手牌でどんなツモか全部教えてー!」 「そんな事したらボクの手がバレちゃうだろ! そこまでバカじゃないやい!」 のび太は引っかからなかった。ドラミは小さく舌打ちをした。 「さっすがのび太さん! それじゃあ、全部じゃなくていらない牌だけ教えて!」 三四(22578)1389南北 「えーとねー、北と南がいらないんだけど、どうしたらいーい?」 「えいって叫んでどっちも切っちゃえ!」 「はーい! えいっ!」 のび太の第一打、北と南。のび太の手牌は12牌になった。 「ドラミちゃーん! なんか手牌が短くなっちゃったんだけど、ボク大丈夫ー?」 「どっかから適当になんか持ってくれば全然大丈夫なのだー!」 「ホントだ普通の長さになった! なのだなのだー!」 「なのだー!」 ドラミとのび太は無邪気にはしゃいでいる。ただしドラミはずっと壁の方を向い ているので、どんな表情をしているのかは分からない。
ちょっと短くしました。17分ちょい。 目標。120分以内で麻雀終了。
× 三四(22578)1389南北 ○ 三四(223578)1389南北
第一打は1切が正解です。 2が入っても嬉しくないし 123の三色は遠いので 北と南は受けに取っておく。 ドラミに括約筋あるのかw
前スレ171から 「………仕方ありません、当初の予定通り帰投します。航空隊に通達を…」「お嬢!!」 同時に激しい金属音。 ナイザーの言葉より速く、鍔元を握った鞘込めの剣があわや断頭の位置でトレインの銃剣を受け止めていた。 「……」 受ける力を拮抗させながら、トレインに言葉は無い。ただ俯く背中に溢れる怒気を炎の様に立ち上らせて、銃剣を渾身の力で 押し込んでいる。 「…お止しなさい、ハートネット。これ以上戦うのは無意味です」 「無意味……だと? このぶっ壊れまくった街が、殺されたカタギ共が、誰かの都合に巻き込まれた奴等が……無意味だと? ―――てめえ頭どうなってやがる!!!」 至近から激昂を叩きつけるが、セフィリアには鉄壁の様な黙秘があくまで湛えられる。 彼の怒りは、この虐殺の犠牲者達の代弁と言っても良かった。 「正気じゃねえ…てめえ間違い無く正気じゃねえ!! 地獄に落ちろ、人食い女が!!!」 最早その命以外の何で許せるだろう。スヴェンも銃を抜き、リンスも懐中時計を手に取り、イヴもまた負傷を押して髪を伸ばす。 これ以上の事が起こったら即座にそれぞれが対応を見せる構えだ。 「確かにそうかもしれませんね。自らの手を汚すだけ、かつての貴方の方が上等かもしれません」 「…ッ!! …昔の話だ、今は違う!」 「いいえ、違いません。星の使徒の手勢を倒した時の貴方は、私を一目で竦ませていた時となんら変わりません」 怒り狂った頭で冷徹を貫く口に敵う手立ては無い。悔しいがあの時、確かに心は瞑想さながらに凪いでいた。 それは、敵を殺す安心感から来るものだった。 「ざけんじゃないわよ、このクソ女!!!」 しかし別方向から、援軍の様にリンスの悪罵。跳びかからないだけまだ冷静なのだろうが、紅蓮がその眼に燃えている。 「何をどう言ったってアンタがカスだって事に何の違いが有るってのよ!!! クソ女………ああ、このクソ女!! そんなにあのイカレ野郎を殺したいなら、核弾頭に自分縛り付けて叩っ込みなさいよ! 閻魔もサタンも、アンタの罪状読み切るだけでうんざりすんじゃないの!?」 「……それが? 言って置きますがこの事は、長老会も了承済みです。ご安心を、この後の復興支援にはクロノスが最優先で 取り組む事になっているので何の心配も…」
「それでも……人間なの?」 聞き慣れぬ声に皆の視線が集中すれば、其処にはシンディを抱いたマリアが立っていた。 「貴女は知っているの? この街がどれだけの文化的価値が有るか。歴史的価値もどれだけのものか。 貴女は世界の平和なんて容易にたゆたう物の為に、それを破壊させたのよ。国連が何故やっとの思いで三つの国の国境に有るこの街を 非戦闘地域にしたか判っているの? そしてその三国も、なぜ認定証に調印したのか…知っているの?」 その貌は蒼褪め、強張っていた。 「此処は………この街は、平和の象徴なのよ。それを貴女は、世界平和とやらの為に戦場にした!」 圧倒的な矛盾だった。今成すべき平和の為に恒久たる平和の象徴を汚したのだ。もしこの真相が明るみに出れば、世界を巻き込む 大問題となるだろう。 「何て人…! 何が世界の平和よ、世界認定の非戦闘地域で戦争を仕掛けさせるなんて! 貴女の倫理は………異常よ!!」 其処に住まうからこそ放たれる、最上級の痛みの矢。アウトラウンドからナイザーまで、まともに顔を上げる事も出来ない 衝撃の中の衝撃。誰も望んでいなかった。言われるまでも無く知っていたからだ。だがそれを改めて突きつけられるのは 耐え難い威力だった。 それでも―――、セフィリアの弁舌は凍っていた。 「……仕方有りません、それが我々の使命です。 そう…平和などたゆたう物………然るに此処とて、いつ大国の倫理によって戦場になるか判りませんから。 それが早まっただけの事です」 「…セフィリア! てめえ、このアマ……!!!」 『動くな! 黒猫(ブラックキャット)!!!』
今度は声調無視のボリューム優先音声が、爆音と共に彼らの耳朶を打った。 『非炸裂式対人ミサイルがボディフレーム照準を合わせているぞ!!! 動けば全弾撃つと思え!!』 上空から現れたのは、四機もの汎用カーゴヘリ。どれも武装を搭載しており、照準用カメラアイが全てトレインを凝視している。 向けている兵装は通称『ヘッジホッグ』と呼ばれる対人制圧兵装。無数の小さな矢が、例え人質を取った状態でも迂回してその肉体に 直に突き刺さる。殲滅から各個撃破までこなせるまさに「針鼠」の名に相応しい兵器だ。 それがボディフレームを記憶して射出されれば、例えセフィリアと密着しようが死ぬのは彼一人だ。 如何に彼とて、ロックオンされたハイテク兵器を前にしては成す術なく、怒りと銃を収めるよりほか無い。 「………オレが切れる前に、此処から消えろ。もうてめえらのツラは見飽きた」 本当なら命を度外視してでも暴れたいのを堪えに堪え、トレインはやむなく愛銃を収めた。だがセフィリアから離れると次は スキンヘッドの男に赫怒の狙いを定める。それにつれて兵器のレーザー照準が彼の体を這い回るのは、状況の愛嬌だ。 「…その前にナイザー、てめえに言っておく事が有る」 沸騰した言葉は、受け止めるだけで息苦しい。 「この女を生かしておく意味が有るか? お前が未だに誇りに思ってるあのおっさんの娘だっつったって、これが許せるか? 可愛いお転婆で済ませるか? お前が昔からオレを嫌ってる奴らの一人だってのはとっくに知ってるが…だからってこの有様が 間違ってないって言えるか!? オレの目を見て答えろ、ナイザー!!!」 通常でも睨み返せないトレインの視線に、この現実が重なっては眼を背けるのでさえ精一杯だ。 そもそも彼は、事が始まる直前まで一人反対を進言していた。 「……お止しなさい、彼は最後まで反対を…」「てめえは黙ってろ!!!」 トレイン自身も八つ当たりなのは判っているが、それでも口を止められなかった。 だがなおも燃え滾る怒りをぎりぎり押さえ込めたのは、ナイザーの蒼白な貌だ。これ以上責めれば彼は此処で折れてしまうだろう、 彼もまた義理と現実の狭間で苦しんでいるのだ。
「そうそう、忘れる所でした」 彼らの剣呑を意に介さないのか、セフィリアの平然たる指示でアウトラウンドの一人がおっかなびっくりトレインの前に 大きなトランクを置いて去る。 「…何だ?」 「今回の報酬です。カードにしても良かったのですが、現状を考えれば現金の方が良いかと思いまして…」 ―――怒りの炎が膨れ上がり、忍耐が気化する。今に於いては、悪意に満ちた挑発でしかない。 「セ……!!!」 其処に―――、一発の銃声が響いた。 但し撃たれたのはトランク、そして撃ったのは今まで沈黙を守っていたスヴェンだ。良く見ればその手に握る拳銃の銃杷には、 円盤状の弾倉が装填されている。俗にスネイル(カタツムリ)マガジン≠ニ呼ばれる、多弾装マガジンだ。 そして銃撃もそれで終わりではない。彼の持つ拳銃は全体的に小ぢんまりとして、しかもプラスチック樹脂を多用したオモチャ さながらの外見だが、別名を殲滅銃(ジェノサイドガン)≠ニ呼称される軍から横流しされたマシンピストルだ。 その別名を証明する様に、近くにトレインが居るのも忘れてフルオート銃撃がトランクに吠えた。 「お…おい、ちょっ……!!」 横っ飛びで銃撃の余波から逃げながら、先刻の有様も忘れスヴェンをたしなめたが彼は聞いていない。 セフィリアの鉄面皮にも劣らぬ無表情でトランクケースを撃ち続けている。 当然防弾仕様でもないそれは、部品と木っ端と散った紙幣を散らして見る見る単なるガラクタと化して行く。 更に銃撃を止めないままケースに歩み寄り、強烈なフルオートの反動を抑え込みながら一向に止まらない。 誰もが蒼褪めながら、彼の誰より雄弁で苛烈な怒りの表現を注視していた。
―――…銃弾が尽きた頃、トランクも紙幣も全てゴミと化していた。ヘリの爆音がうるさい筈だが、今はそれさえ沈黙に思える。 トレイン達の怒りは逆に冷めた。誰かの感情の嵩があまりに大きいと、回りのそれなど爆発消火の様に消えるものだ。 「……姐さん」 事に到っただけに、呼ばれなかった者達まで一斉に肩を竦めたが……当の本人は無表情を貫き通した。 「………アンタからは何一つ受け取らん。部下を連れてさっさと消えてくれ……でないと…俺は間違ってしまいそうだ」 みしり、と軋む銃杷があらゆる限界を訴えていた。 「どうせ俺とあいつの話も聞いてたんだろ? 人工衛星があるなら。 アレをもし現実にされたくないなら、二度と俺達に係わるな」 「出来ると思うのですか? あんな絵空事」 「出来ないと思うか? 勘違いの雲上人を出し抜く事くらい」 トレインやリンスの怒りが炎なら彼は正に氷だ、怒りは実に冷たく突き刺さる。 「…良いでしょう。では我々も此処までにしておきましょう。 総員帰投準備に入りなさい。回収班は………」 言葉少なに指示を出す。それだけで、クロノスの人員は寧ろ待ちかねた様にきびきびとヘリに乗り込んでいった。
「………くしょう…」 残された一行が憎々しげに離陸するヘリ群を見上げる中、トレインの悔恨に満ちた声が零れる。 「ちくしょう……畜生、畜生オオォッッ!!!」 叫びも、石畳を殴る音も、意外なほどに大きかった。 「オレは……オレは………何て無力なんだッ!!」 確かに彼は、この街を襲撃したテロリスト達を次々と破竹の快進撃で倒した。 しかし、それ以降はどうだ? 怪物の計略に堕ち、今や名前を思い出すだけで怒り心頭の女に何も出来ず悠然と立ち去らせた。 かつて黒猫と呼ばれ、今なお恐れられる己自身は、報いるべきに一矢報いる事さえ出来ない哀しいほどの矮小だった。 その背は、あらゆる感情で震えていた。吐き出したかった筈のそれは、全てその内で燻ぶり、膨らみ、そして何処にも吐き出せない 例えようも無い苦味――――…敗北の味だ。セフィリアの反論に言い返し切れなかった事も、彼の古傷を痛く広げた。 「クソ……クソ…………オレは…オレは………」 声が弱々しい段では、もう誰も掛ける言葉が見付からない……筈の彼の肩に、優しい手が置かれる。 「トレインさん……私は、何故貴方が其処まで悔しがるのか判らないわ」 でも、と続けて、マリアは見上げた彼に優しく微笑みかける。 「貴方も、リンスさんも、スヴェンも、イヴちゃんまで……貴方達はこの街を大切だと思って戦ってくれたわ。 だからどうか、その事実までは否定しないで頂戴、命の恩人さん」 彼の貌は、まるで転んだ子供の様だった。だからこそ、意地で堪えた涙が音も無くほろほろと零れ落ちる。 そして肩の手を握り、トレインは静かに泣く。その頭を、今度はシンディが優しく抱き締めた。 「アイツが泣く所なんて…初めて見たわ、アタシ」 スヴェンの横に来たリンスが、何かを噛み締める様に呟いた。 「いや……俺とコンビを組んだ頃は、夜中に悲鳴で眼を覚ます事も有ったぜ。 あんな強い奴が…って昔は思ってたが、最近何と無く判って来た気がする」 スヴェンの言葉を聞きながら、イヴもまた泣き崩れる彼を見ていた。 とても先刻温かい言葉を掛け、そしてクロノス達やリオンまで射竦めた男とは思えなかった。 彼の其処に何が有るのか判らない。だが、彼はやっとでは有るがそれに潰される事無く二本の足で立っている。 スヴェンは好きだ。リンスは大切だ。しかし……トレインには人間として得るべき何かを感じ始めていた。 ―――長く戦火に満ちた夜は、もう白み始めていた。
―――…暁光は、ヘリの中にも差し込んでいた。 しかし、それを喜ぶ空気は何処にも無い。未だ夜が続いている様に、中は沈みこんでいる。 決定的ではなくとも間違い無く黒猫の恨みを買った事は、彼らのこれからにますますの暗雲を予期させる。 意外にもナイザーは一人眠っている。精神的・肉体的疲労の極致が、彼の肉体に悩ませる事さえ許さなかったからだ。 だが、その寝顔に安らぎは無い。首を絞められ続けている様な呻きを、寝入ってからずっと零している。見る夢が悪夢なのだろう。 皆が気の毒の視線を彼に向けた後は、決まって最前の席に座るセフィリアの背中に到っている。 しかし、声一つ発する事も出来ず結局機内は重苦しく静まるだけだった。 其処へ、携帯電話の振動音。慌てて全員が誰のものか無言で捜すが、セフィリアが着信ボタンを押した事で沈黙は再来した。 『もしもし! セフィ姐、オレです、大変です!!』 アウトラウンド達にも聞こえる様な、酷く慌てた声だった。 「…四角六面、その数三つ。数は何ぞ」 『……え? いや、そんな事言ってる場合じゃ…!!!』 「四角六面、その数三つ。数は何ぞ」 『いや、だから!! 大変って…!!!』 「四角六面、その数三つ。数は何ぞ」 どう有っても符丁を言わなければ取り合う気も無い口調に、電話向こうの男は嘆息と共に折れた。 『……各面貫き合わせて、三組同様。小との別れはあと二つ』 「我の数は何ぞ?」 『ただ赤一つ。親の総取り蛇の眼三つ』 「我と汝とを合わせて何ぞ?」 『足して八、引いて六、乗余はただ我を示す七』 「…結構。No7・不可視の毒蛇(インヴィジブルヴァイパー)、ジェノス=ハザード。発言を許可します」 『……光栄ですよセフィ姐』 電話口からは、すっかり勢いを抜かれた男の声が疲れた様に返した。 だが―――、その内容は彼女をも驚愕させるものだった。
ソロモンよ、私は(以下略、で挨拶)。 どうも皆さん、NBですこんにちは。 いつもながらスレ立ての皆さん、読んで下さる皆さんにはただ感謝の一言です。 ………ところで、セフィリアちょっと俺の手を離れて必要以上に悪くなってます。 どうすんのこれ? ヤッベヤッベ、マジヤッベ! 和解とか絶対無ええよ! 前田光世式に、出会った時が決着の時になっちゃいそうだよ!! もうアレ、「バジリスク」みたいに最後は誰も居なくなっちゃいそうな殺伐だよ! ………いや、それも有りかな……? いかんいかん、病んで来てる。 ともあれ、どうか付いて来て下されば俺としてはこれ幸い。 悲しい話はあんまり好きでは無いので、ベクトルがまともな方向へ向くよう 調整しますが…………中には居るんだろうな…「それが良い」って方々も。 俺も時々そっちが快感だったりするし……… ともあれ、天気暗雲にして波高し、されど風は帆に強し。 となれば宝島だろうが鬼が島だろうが行くしかないのが、進み行く者の行動倫理な訳で。 何は無くとも沈没だけは避けるつもりなので、どうかしばしお付き合いあれ。 と、言う事で今回は此処まで、ではまた。
大儀の前では全てを些事と断ずる 黒セフィリアカッコいい
32 :
作者の都合により名無しです :2008/08/19(火) 19:29:54 ID:C584q35Z0
>VSさん 麻雀教室、ではあと5、6回で完結ですか。 どんな完結の仕方になるのか思いもよりませんが 最後の最後は1時間位かけて書いて下さい。じっくりとw >NBさん セフィリア怖いですな。最も有効な戦略を取っているんでしょけど。 なまじ、見た目が麗しいから余計怖い。 冷徹な無表情の下に哀しみもありそうですが。
33 :
しけい荘戦記 :2008/08/19(火) 23:06:29 ID:YozZaqgZ0
第九話「お茶の間デビュー」 ドイルたちの出番は番組内の『町のソムリエ』という1コーナーだ。役割自体は至って 単純で、番組側が用意した最高級のロマネコンティを試飲して一言感想を述べるだけ。知 識も経験も要求されず、はっきりいって玄人である必要はない。おそらくプロデューサー は元々五人にソムリエとしての力量はさほど期待しておらず、人間離れした肉体を誇る男 五人がワインについて熱く語るという珍奇な絵が欲しかっただけなのだろう。 無難にこなせば大過なく終わらすことができる仕事ではある。が、彼らの辞書に『無難』 の二文字はない。 大成功か、大惨事か、二つに一つ。 そうこうするうちに本番が始まった。 「皆様お待ちかね、『町のソムリエ』のコーナーです。今日は生放送ということで、新宿 区に在住のしけい荘の方々にお越し頂きました。それではどうぞっ!」 拍手と喝采が飛び交う中、五人並んでスタジオに入るドイルたち。軍隊のような一糸乱 れぬ行進ながら、右手と右足、左手と左足が同時に出ている。 「今日はお招きできませんでしたが、しけい荘の大家さんはなんと、資格を取得している れっきとしたソムリエなのです。そしてこの方々は普段から大家さんよりワインの講義を 受けており、本日はロマネコンティの批評を行って頂きます!」 五つのグラスに一口ずつロマネコンティが注がれる。おそらくこの一口でも単純計算す れば数千円の価値がある。 ドイル、シコルスキー、ドリアン、スペック、柳。五者五様に表情が歪む。目蓋が痙攣 し、口元がひきつり、歯は小刻みに震える。 だがもう逃げるわけにはいかない。 司会者に呼ばれ、まず柳がグラスを手に取った。 ためらいなく世界最高峰の葡萄酒を口の中に放り込む柳。あとは『ソムリエらしく』批 評をするだけ、なのだが。 味が──緊張が舌を殺した──分からない。 噴き出す汗。いくら舌とワインを戯れさせても、舌は「無味」といいはる。圧倒的な絶 望が柳を押し潰しにかかる。
34 :
しけい荘戦記 :2008/08/19(火) 23:12:18 ID:YozZaqgZ0
「さぁ、どうでしょうか、柳さん?」 「いや、えぇ、そうですなぁ」 「やはり普通のワインとは違うものでしょうか?」 普通のワインですらこの一週間で初めて飲んだのだから、味が感じられないのに違いな ど分かるわけがない。絶体絶命。追い詰められた柳の思考が、サツマイモ色に変貌する。 「これは……猛毒ですな」 場が凍った。 「少し吸い込んだだけで肺胞が腐り落ちそうになる不快な刺激臭……まるで強酸をプール に満たしたような凶悪さ。味もまた凄い。舌に触れた瞬間、強烈な苦味に襲われ、生きる 気力を根こそぎ奪います。さらに飲み込んだはいいが、これがまた私の喉と食道と胃をど す黒く焦がし、もはや私の命は風前の灯。この酒をお造りになった方は紛れもない殺人経 験者……それも一人や二人ではない。おそらくは百を超える人間を殺傷し、屍の山に屍の 山を築き、夥しい殺戮の果てに完成したのがこのロマネコンティです」 鬼気迫る柳の表情に会場はおろか、仲間たちですら声一つ出せない。 一秒、二秒、三秒。 「あ、ありがとうございました! つまりそれだけ美味しかったということですね?」 「いえ、実は全く味はしませんでした」 「ありがとうございましたっ!」 『猛毒』の異名は伊達ではない。柳の毒舌によってあれだけ盛り上がっていたスタジオ のムードが一瞬にして崩壊してしまった。 これを立て直すべく、次はシコルスキーが最高級ロマネコンティに挑む。 「ふ……ふしゅ」 独特の息づかいでワインを一息に飲み込むシコルスキー。 「ふしゅる、ふしゅ……ふしゅしゅ……ふ、ふしゅる……」 緊張の度合いが柳の比ではない。眼球の白い部分が赤を通り越して黒になっている。 「シコルスキー、落ち着け! それはウォッカだ、ワインじゃない!」 機転を利かせたドイルの呼びかけに、シコルスキーが正気を取り戻す。 「ふしゅる! そうか……これはウォッカだったのか」 「あぁ、だからいつも通りにしていればいいんだ!」 「………」
35 :
しけい荘戦記 :2008/08/19(火) 23:15:29 ID:YozZaqgZ0
シコルスキーにとってのウォッカとは──水道水。 シコルスキーにとってのウォッカとは──塩素、カルキ。 シコルスキーにとってのウォッカとは──錆びた水道管がもたらす酸化鉄の風味。 よって、 「これはウォッカじゃないッ!」 激怒したシコルスキーがグラスを床に叩きつけた。破片が飛び散る。 すかさず柳が空掌で口を塞ぎ、ドリアンが顎を蹴り上げ、ドイルが肘の刃で頸動脈を切 り裂いた。これにて一件落着。 「……あれ、そういえばスペックがいないな」 スペックはどさくさに紛れてスタジオから消えていた。ロマネコンティのボトルと共に。 「ミギャアアアアアッ!」 どうやらスペックはロマネコンティ以外の高級ワインもほとんど持ち去ったらしい。会 場は騒然。もはや番組は成り立つはずもなく、手品や売名どころではない。 糸が切れたように、がくんと膝をつくドイル。 「せっかく掴んだチャンスだったのに……もう終わりだ……」 「いや、まだ手は残されている」 「なんだと?」 「催眠術だ」
36 :
しけい荘戦記 :2008/08/19(火) 23:17:17 ID:YozZaqgZ0
怪しげな演武を始めるドリアン。しかし、この混乱を収めるには、出演者、観客、スタ ッフを含む大多数を術にかけねばならない。 「……アンタの実力は認めるが、この人数に催眠術をかけるのは不可能だ!」 「いや、かけるのは三人で十分だ」 「三人?」 「君と柳、そして私だ」 ドリアンが両手を叩いた。 ──さらば、現実。 この瞬間から、番組におけるドイルの記憶ははっきりしない。 ドリアンと柳と腕を組んで、楽しく踊ったような気がする。スペックに持ち去られなか ったワインをたくさん飲んだような気がする。青ざめた観客が悲鳴を上げていたような気 がする。警備員がスタジオに突入してきたが、全員返り討ちにしたような気がする。シコ ルスキーが一人寂しく救急車で運ばれていったような気がする。 催眠術に酔いが加わり、精神は更なる制御不能に陥る。 途中、怒りに満ちたオリバがどこからともなくスタジオに乱入してきたような気がする。 巨大な鉄拳が飛んできたような気がする。 以降は不明。
とうとう58を数える新スレ、おめでとうございます。 ソムリエ編終了。 成功させてやろうとも思いましたが、死刑囚はやはり不幸が似合う。 次回十話は新キャラを登場させる予定です。
なんかVSさん、NBさん、サナダムシさんとバキスレを昔から 支えてくれた人たちが立て続けに来てくれて嬉しい。 >VSさん 麻雀教室最終章ですか。もっとじっくり書いて欲しい気もしますが VSさんのスタイルだから仕方ないw塾長の爆発を期待してます。 >NBさん セフィリアはクールなところも魅力的ですね。トレインが熱血してます。 原作には無い冷酷な部分も掘り下げてくれて嬉しいですね。 >サナダムシさん 死刑囚たちに高尚な趣味は無いでしょうな。ドリアンだけは戦力に なりそうだったのですがwシコルのふしゅるはある意味期待通りw
ドイルも気苦労が耐えないなw 新キャラはピクルだろうか。カツミンがいいな
40 :
作者の都合により名無しです :2008/08/20(水) 13:35:49 ID:zDVr9DiI0
ヤイサホーだと思う。ピクルは使い辛そう。 シコル虐めそうだし。ま、それはいつもの事か
41 :
ふら〜り :2008/08/20(水) 18:24:34 ID:JgO6kLfr0
>>1さん&ハイデッカさん おつ華麗さまです! また盛り返してきましたバキスレ、これからも楽しませて頂きますぞ。 >>スターダストさん いつもながら根来の「言葉」がいい。叱責でも叱咤でもなく激励や忠告というほど親切なもの でもなく。相手が把握できてない現状(胸中まで含めて)を的確に説明し、次の一歩を提案。 だが指示はしない。だが相手を深く信頼というわけでもなく……千歳だけ少し特別、だと嬉しい。 >>VSさん 今回のドラミみたいな、ボケてるのび太に対して突っ込みを入れず、どころかノセてボケを成長 させていく、誤用確信犯的な役の存在ってのがVSさん流漫才の妙味ですよね。んで崖っぷち まで来たのび太が助けを求めても無視、見下し笑いすらしない。笑ってるのはいつも読者だけ。 >>NBさん 重苦しい危機が去って、良かっためでたし……となるはずなのに、むしろより一層重くなって しまって。とりあえずマリアもああ言ってますし、次回ぐらいは一同、少し休めると良いですが。 にしても、やっとトレインのターンかと思いきや、やはりスヴェンもキメてて。流石、実質主役。 >>サナダムシさん 作者から公式に「不幸が似合う」と言われてしまった彼ら。しかしどんなに巨大な失敗をしよう とも、オリバにボコボコにされようとも、それでもなんだか不幸には見えないのも彼ら。どうせ 数日もすればケロっとして、また同じ失敗やボコボコを繰り返すのであろう彼らが好きです。
「じ、じこ?」 安藤が呆けた声を出した。 「事故だと?―――じゃあ火事は俺達関係ねえじゃねえか!主人は?女将は?中村は!」 安藤は弥子に向って声を荒げ足もとに転がっている三人を指さした。 三人とも赤い喉肉をさらしながら微動だにせず横たわっている。 どうしても見続けることができずヤコは目をそらしてしまう。 「ヤコに言うのは止めてください」 叶絵がヤコの服を掴みながら安藤を睨む。 「だっておかしいじゃねえか、火事の原因は子供たちの火遊びなんだろ?」 安藤は煙草を取り出しくわえるとポケットを探る。ライターを探しているらしい。 少しでも落ち着こうとしているのだろうが、僅かに震える手が安藤の動揺を表している。 「つまりは俺達はモノノケの逆恨みに巻き込まれ―――ひッ?」 安藤は取り出したそれで煙草に火を点けようとして直ぐに放り投げた。
それは黒焦げになったライターだった。 まるで、―――火事の現場に有ったかのような。 「これはまさか……?」 「ほう」 ヤコと叶絵に探るような眼を向けられ、安藤はたじろいだ。 おどおどと助けを求め薬売りに目をやるが、薬売りは静かに安藤を見据えている。 「待てって姉ちゃん達……これじゃ俺が火ィ点けたみたいじゃねえかよ」 「違うんですか」 「違うよ!俺はそんなことはしてないって、俺はただ」 「『俺はただ』?」 「俺はただ―――、あの餓鬼にこれをやっただけだよ!」 叫んで安藤は頭を抱えた。それを見た薬売りが目を細める。 叶絵は呆けたような顔をする。ヤコは必死に脳内の整頓を試みた。 「あの幼い子供たちにライターをあげたんですか?」 叶絵の咎めるような声に安藤は呻くような声を出す。 「俺だっていつもならあげないよ……あの餓鬼に言われたんだ」 安藤はため息をついて座り込んだ。胡坐をかいて叶絵の、ヤコの、そして薬売りの顔を順に見上げる。 「あの日俺は公園でパン食ってたんだ」
「取材の帰りでさ。三つ入ってるパン、あるだろコンビニで。 ベンチで食いながらたばこ吸ってたらさ、細っこいガキがこっち見てるんだよ。 何気なく一つやったら半分残しやがってさ。弟たちにやるんだ、てさ。 あんなガキがそんなこというもんだから居たたまれなくてな。 別に高いもんでもないし、残りの一個もやるからその半分食えって言ったんだ」 焦げたライターを見ながら安藤はつづける。 「そしたら今度は母ちゃんもやりたいからやっぱり食えねえってぇじゃねえか。 いまどき一杯のかけそばでもあるまいし、もう俺は堪らなくてな。 そんなんいくらでも買ってやるからとにかく食えって言ったんだ。 ……けどな、いらないからライターくれってさ。 ストーブが壊れて外から火をつけないと作動しない、家のマッチは全て無くなった、 母親が風邪で動けないから部屋を暖めないといけないのにこんな子供じゃマッチもライターも売ってくれないんだと」 一気に語りつくすと安藤は笑った。 「俺はやったよ。大人のいないとこでは使うなって言ってさ。 それが悪いってのか?ライターやるんじゃなくてストーブ買ってやりゃ良かったって? それはあの餓鬼たちを踏みにじる行為になるんじゃないのかよ?どっちがいいのか分からなかったよ俺にはさ」
叶絵は目を伏せていた。ヤコも何を言えばいいのか分からない。 薬売りは―――、退魔の剣に目を落としていた。 「たしかにライター渡したのは俺だよ。けど火事を起こしたのはあいつ等だろう! それで俺が恨まれてんのか?俺のせいで死んだって?これが『理』とやらか薬売りさんよ? ……早くモノノケとやらを斬ってくれよ!」 一気にまくしたてることで何かのタガが外れたらしい安藤は、いまや薬売りに掴みかからんばかりだ。 「……出来ませんな」 「なんだとう!?」 目を剥く安藤の目の前に薬売りは退魔の剣を突き出す。 退魔の剣の狛犬は先ほどと違いかたりとも動いていなかった。 つまり。 「まだ退魔の剣は『理』を得ていないってことですか」 ヤコが呟くように言うと薬売りは少しだけ笑った。 理。コトワリとは心の有り様なのだという。 ならばカマイタチの理は一体どこにあるのだろう。 ヤコは再び考えを巡らせる。退魔の剣に理を示すには安藤の話ではまだ足りないらしい。 それとも、もう条件は揃っているのだろうか。 いつもヤコを事件に巻き込む魔人に心を読み解くのはヤコの領域だと言われたことがある。 たしかに魔人の言葉通り色々な事件と出会い色々な人と出会って、ヤコは様々な心に触れてきた。 それは彼らの『理』だったのだとは言えないだろうか。 だからヤコには分かるはずだ。カマイタチの―――、子供たちの心の有り様が。
「そもそも、なぜ安藤さんはあの記事を書いたのでしょう?」 ヤコは首をかしげて安藤を見た。先ほどからずっと気になっていたことだ。 なぜ本当は事故であった火事を安藤は心中と断定したのか。 「確か安藤さんの記事が最初にすっぱ抜いたんですよね? それで生活保護などの行政問題までうまく展開してありました。 結構話題になったので私も知っています。―――けど、」 「ななんだよ何が言いたい姉ちゃん」 安藤はよろりと立ち上がり後ずさる。 「さっきの話だと安藤さんが子供にライターを渡したんですよね? 他の記者ならともかく、何故安藤さんは子供の火遊びや事故を疑わなかったんですか?」 じっと見つめるヤコの目に気おされてか、あるいは冷たい叶絵の目や静かすぎる薬売りの目にひるんだか、 安藤は後ずさりながらふすまに手をかける。 「なんでってそりゃあ」 へらりと。 ヤコの目を見て安藤は笑った。 「可哀想だろ、そっちの方がさ」 かた、と退魔の剣が小さく動いた。
連投規制よけ
「―――え?」 「貧乏な親子が死んだってことにゃ変わりがないんだ。 だったら理由は可哀想な方がいいだろ?どうせ真相なんて誰にも分からねえんだ。 母親が子供たちに覆いかぶさってたってのは間違いないし、なら心中かもしれないじゃないか。 本当は誰のせいで火事が起きたのかとかはどうでもいいんだよ。皆わからないんだから」 「あ、あなたは何を言って」 「だからちょっとくらい俺の役に立ってもらってもいいじゃないか。 現にあの記事を俺が書いたおかげで行政批判が高まって母子家庭への保護が厚くなりそうじゃないか。 評価されて俺も喜ぶ、カワイソウな記事が読めて読者も喜ぶ、 これで貧乏家庭への生活保護がましになりゃああの母子も喜ぶだろうよ。 ―――皆万々歳じゃないかなにが悪い!」 叫ぶと同時にふすまを開けた安藤はそのまま崩れ落ちた。
再び手をひと振りしてふすまを閉じた薬売りは、今度は印を解かずにふすまを睨みつけている。 カマイタチの力は先ほどより増しているのかもしれない。 たいしてこちらの退魔の剣はいまだに解放されていない。 ふすまに向かってじっと印を結んでいる薬売りをヤコは見る。 心持ち顔が青い気がするのは力が入っているのかそれとも押されているのか。 いずれにしても残りはヤコ達三人だった。このままでは三人とも斬られて死ぬだけだ。 怖くないといえば嘘になるが薬売りがこうして闘っている以上、 ヤコもできることをしなくてはならない。 ヤコは事件を反芻する。安藤の新聞記事くらいでしか知らないけれど、そこに何かがあるはずだ。 わずかに退魔の剣が動いているところをみると、先ほどの安藤の発言はモノノケの理の一端に触れている。 風邪で寝込んでいたという母親。 母親のためにライターを手に入れた子供たち。 きっと火遊びではないのだろう。火付きの悪いストーブに火をつけようとしてしくじったのか。 母親は動けないはずだから、子供たち―――きっと長男だ。 火事になり逃げようとしたものの煙に巻かれて母子は命を落とした。 母親は今際の際にせめて子供たちを救おうと覆いかぶさっていたという。 そして、子供たちは火をつけてしまった後悔からモノノケになった―――なんだかしっくりいかない。
50 :
ぽん :2008/08/20(水) 19:57:00 ID:U5sqJyfuO
こんばんはぽんです。 超久しぶりなので今回完結させるべくようやく書き上げ、 一気に投下してたら雷凄いわアク禁食らうわでもう自分涙目です。 もう少ししたらもう一回チャレンジしますね・・・ 中途半端ですみませんです
母親は動かない体を無理に動かして子供たちを庇ったという。火事場の何とかというやつだろう。 しかし己を含め子供たちは命を落とした。母親の思いも相当残っていてもおかしくなさそうだ。 なのにモノノケになったのは母親ではなく子供たち。いったい何故なのだろう。 体を引きずってまで子供たちを庇ったという母親の思いはどこに行った?子供たちの思いはなぜこんなにも強い? これでは反対だ。 そうだ。 「―――反対なんだ」 ヤコの呟きに退魔の剣は震えを増す。……間違っていないようだ。 「お母さんが子供たちを庇ったんじゃない、子供たちがお母さんを背負おうとしていたんだ」 あと少しで退魔の剣に『理』を示せると思ったその時、ふすまが開いた。 風が部屋に渦巻き、薬売りは印を変えヤコと叶絵の前に立つ。 ヤコと叶絵は互いを庇ったがしかし、それはすべてを切り裂く刃ではなく様々な記憶に満ちた風だった。
彼は母がとても好きだった。 たとえ貧しくても母は必死に働いて彼と弟妹を養ってくれた。 明るく優しく賢い母が、彼は本当に好きだった。 だからあの日、母が高熱で寝込んだあの日、彼はとても己をふがいなく思った。 寝ていれば治るわよ、と咳きこみながら笑う母はがたがたと震えていて、 自分たちは服を着込めば暖房がなくても我慢できたけど、 母だけは、真っ蒼な顔をして震えている母にだけは暖かい部屋が必要だった。 暖かい部屋さえあれば母も治癒してまた皆幸せに暮らせるはずだった。 しかし。 彼はあまりに幼すぎた。 彼がライターを扱うのが生まれてはじめてだったとか。 弟が母を暖めるために引っ張り出してきた子供用の布団や毛布がストーブの傍に置いてあったとか。 妹が自分も何か役に立ちたくておぼつかない足で彼に近寄り、転んだ拍子に彼のライターを叩き落としたとか。 そんなことは些細な問題で、彼がもう少し大きければ容易に解決できるはずだった。 火が床を舐めた時も彼はうろたえてしまった。 泣き出す弟と妹を、そして煙に咳きこむ母を見て彼のとった行動は「逃げる」だった。 隣近所に助けを求めてもすぐに助けてくれるか分からなかったし、自分で消火できると思えなかった。 だから、弟妹を先に逃がして彼は母を背負って逃げることにした。 ―――もう少し彼が大きければそれで正解だったにちがいない。 けれど。 彼は幼かったのだ。 例え小柄な母といえど、大人の肉体は彼には重すぎた。 意識のない人間がより重く感じるというのもあるかもしれない。 先に逃がしたはずの弟妹が泣きながら母の手足を担ぎ出した時も、彼は再び先に行けとは言えなかった。 母を助けたいのは彼だけではないと思ったからだ。 こうして、彼は過ちをもう一つ犯した。
彼の記憶が、思いがヤコの脳内に流れ込んでくる。 叶絵を見ると涙を流していた。叶絵も彼の記憶を見ているらしい。 部屋に渦巻く轟々たる風が彼の記憶を見せているのだろう。 「ヤコ、この子たちどうにかならないのかなあ」 泣きながら叶絵が言った。 「薬売りさん、この子たちを本当に斬らないといけないんですか? こんな目に逢って、こんな思いして、その上斬られないといけないんですか?」 「モノノケは、斬らねばならぬ」 縋るような叶絵に、静かに薬売りが言う。 「そんな……ヤコ!ねえ!」 叶絵は優しいのだ、とヤコは思った。 色々な事件と遭遇してきたヤコは叶絵の言葉に頷くことはできなかった。 どんなに辛くても苦しくても悲しくても酷くても、 その道を選ぶしかない場合があることをヤコは知っている。 あの歌姫や電人、その他多くの人たちのように。 「いい、あたしが助ける」 ヤコが答えないのを見て叶絵は立ち上がった。 「叶絵!薬売りさんから離れちゃだめだよ!」 「大丈夫。きっとわかってくれる」 「叶絵さん。モノノケは分かってくれませんよ」 印を結んだまま振り返らずに薬売りが言う。 きっと薬売りが結界を張っているおかげでヤコも叶絵も無事なのだ。その結界から出れば結果は明白だ。 「叶絵、座ろうよ」 「……ヤコ、イケメンに名前覚えてもらったわ、やったあ」 叶絵はふわりと笑うと周囲を渦巻いている風に目を向け一歩踏み出した。 「ねえ!あなたたちもうこんな―――」 ヤコが叶絵の腕を引き戻すより早く。 白い喉を一文字に斬り裂かれ、叶絵の体は崩れ落ちた。
目からこぼれおちる涙が、何故出ているのかヤコにはよくわからなかった。 カマイタチの記憶を見たからか。 叶絵が斬られるのを助けられなかったからか。 モノノケへの恐怖からか。 叶絵の体を抱きしめて、ヤコは変わらず前を睨みながら印を結んでいる薬売りを見る。 「薬売りさん。カマイタチはただ後悔からモノノケになったんじゃないと思います。 きっと……、自分たちが悪いのに心中しただなんてお母さんが悪く言われるのが悲しかったんだ」 かちん。 退魔の剣の狛犬もどきが三回目の歯を鳴らした。その瞬間、剣はひかりを帯びて震えだす。 「斬ってください、モノノケを」 「―――承知」 振り返らずに少し笑った後、薬売りは退魔の剣を突き出した。 「モノノケの『形』と『真』と『理』をもって―――解き、放つ!」 退魔の剣は抜いた瞬間にはるかに大きな光の剣になる。 そしてヤコの前に有った薬売りの背が沈み、服をのこして姿が消えた。 「く、薬売りさん?」 事態を把握できないヤコが振り返るとそこには見知らぬ青年立っていた。 褐色の肌。金の隈取り金の和装。 たなびく灰の髪と顔立ちだけが薬売りの面影を伝えている。 その青年は渦巻く風に剣を突き立てそのまま部屋を一周した。 斬られた風は端から消滅し、遂にはすべて消滅する。 最後の瞬間、確かにヤコは子供たちの声を聞いた。 ―――おかあさん。
「結局イケメンと仲良くなれなかったわ」 目を覚ました叶絵たちは何も覚えていなかった。 誰も喉を切られていなかったし薬売りも金色のスーパー薬売りではなく元の通りなので、 カマイタチの存在を思い出させるものは何もない。 宿を離れる間際、叶絵はヤコに愚痴をこぼす。 「せめてアドレスくらいは聞きたいわよね―――あ、薬売りさん」 淡々と帰り支度を進めていた薬売りを目ざとく叶絵が呼び止める。 「私たちもう一度薬売りさんに会いたいねーなんて話してたんですけど」 何故かヤコの腕を掴んで叶絵が言う。 「モノノケが――――出るならば」 薬売りはふわりと笑うとそのまま立ち去った。 「や、ヤコ……相変わらず言ってることはよく解らないけれど笑った! 薬売りさんが笑ったわ脈ありよねこれ!?」 叶絵が何故かヤコの首絞めて揺さぶる。 意識が飛ぶ寸前にしかしヤコは薬売りの言葉を理解した。 物の怪の『形』を為すのは、人の因果と縁。 そして物の怪は斬らねばならぬ。 ならば、人の因果と縁が満ちるところに薬売りは現れるのだ。 妙な因果と縁にやたらと恵まれていることにかけては、ヤコにはちょっと自信があった。 ≪了≫
56 :
ぽん :2008/08/20(水) 20:58:00 ID:RBeIc8NF0
前回までは>3よりです ああーーびっくりした。 こんばんはぽんです。 お久しぶりです。時間開きすぎましたがようやく完結しました。 ぼんやりしている間にアキバ事件が起きて自分が書いたことと重なってしまいへこんだり ぼんやりしている間にホスト規制食らったり 色々ありました。 が、アキバ事件と自分のSSを重ねるのはあまりにおこがましいのでへこむのはやめました。 アニメのモノノ怪とネウロが好きなので無理やりミックスしてみました。 己の文章力にがっかりすることは一度や二度ではないのですが 書いててとても楽しかったです。 そして超飛び飛びにもかかわらず存在を忘れず励ましてくれた皆様。 なんとか最後までこぎつけました。ありがとうございます。 実はテンプレからはずされていないかドキドキでしたがよかったです・・・」 これからもこのスレが栄えますように。
わーい、ぽんさんだー!完結おめでとう。 ヤコが好きなんですっごく楽しみにしてたんだ。これからもう一回頭から読んでくるよー!
58 :
作者の都合により名無しです :2008/08/20(水) 23:58:34 ID:37dXt6a+0
ポンサン完結おめ!! すきなSSだったんで寂しいけどね・・
ぽんさん復活乙&完結おめでとうございます。 良く読むと暗い話の部分が多いのですが、 ヤコの存在とヤコと叶絵たちのとのやり取りで よい意味で救われてましたね。 完結ということですが、また新作で登場してくれるのを 願っております。
二人で暗い道を歩いた。 切れ切れに瞬く電灯に頼りなく照らされて、風の吹くほうへ。 レッドもセピアも互いに言葉を交わさず、ただ前を目指して。 歩幅の広いレッドがときおりセピアより先に行ってしまうこともあったが、そういうときは足を止めて彼女を待った。 急かすような素振りは少しもなく、セピアが追い付くまでその場で静かに佇んでいた。 そして、また歩きだす。 それはまったくのんびりした歩調で、もしかしたら遠足かなにかに赴いてるようにも見える。 遠足――。 或いは本当に、それそのものなのかも知れない。 ニューヨークの地下トンネルの無人の道の、施設された線路の上を歩く。 日々の喧騒から遠く、世界から切り離された、孤独な、ゆえに自由な空間がそこにあった。 地上のいかなる悩みも、苦しみも、苛立ちも、今の二人の間には微塵も存在していない。 前に進むという行為それ自体と、そこに付随する景色の変化だけが、今の彼等にとって価値のある事柄だった。 壁面にのたくるケーブルの描く不可思議模様、冷却パイプから滴る結露が刻むリズム、近くに遠くにこだまする足音、 普段ならまるで気にもとめないノイズみたいなものたちが、この地の底では瑞々しい意味を伴って目の前に顕れていた。 それは日常という薄皮一枚隔てた裏側に潜む、世界の脈動だった。 この道に渦巻く神秘と秘密を、レッドとセピアは共有していた。 光も音も微かなるために、互いの息遣いや姿はいっそう確かに浮かび上がっている。 それだけで十分だった。 会話も目配せもないままに、二人は相手を認識し交感しあっている。 言葉による行き違いもなく、触れ合うことによる衝突もなく、想いによる裏切りもなく。 沈黙と暗澹の名の元に、二人の存在は静かに寄り添っていた。
――だがそれすらも、決して永遠のものではない。 この道が、この歩みが『遠足』だというなら、これは終わりに向かう道であり、歩みであった。 『不思議の国のアリス』をこの世に誕生せしめた、リデル家三姉妹の『テムズ川の遠足』にすらも『終わり』があったのだから。 二人は前に進んでいる――地中深くの不思議の国(ワンダーランド)から、夢などどこにもない無慈悲な現実へ向かって。 これは『家に帰るまでが遠足』の、その帰る道に他ならなかった。 この先になにが待ち受けているのか、二人は知っている。 それでも、歩みが滞ることはなかった。 遠足の終わるときを引き延ばすような卑屈さもなく、先を急ぐような焦りもなく、粛々と足を進める。 この二人きりの道の先――現実へと続く道――いつか必ず死に至る道へと向かって。 風の吹くほうへ。 ――そして、闇に慣れきった二人の視界に、鮮烈な光点が飛び込む。 この道の突き当たりに、丸く切り取られた直射光が壁となって立ち塞がっている。 それは外界の――地表から降り注ぐ太陽の光だった。 トンネルの出口に辿り着いたのだ。 そこで二人の足が、はたと止まる。 視線の先には『そいつ』がいた。 この遠足の終着にして、回帰すべき現実の具象、二人に死をもたらすだろう黒づくめの男の影。 その姿は――まるで現代版ニンジャ。 「やあ、待っていたよ。だが……思っていたよりは早かったな。キース・レッドくん」
「どういうことだい、バイオレット姉さん!? 『タイ・マスク文書』をセピアとレッドだけで運ばせるなんて無謀すぎるよ!」 「落ち着きなさい、グリーン」 「落ち着いていられるわけないだろ! そりゃ僕だって文書の内容についてまでは知らない――だけど、あれを執拗に狙っているのが、 かの悪名高い『静かなる狼(サイレント・ウルフ)』だってこと、姉さんだって知っているはずだろう!?」 「……これは、ブラック兄さん直々の指令よ。わたしたちが彼のオーダーに容喙する権限はないの」 「だからって、そんな――現に、二人は消息を絶ったままじゃないか!」 「信じなさい、と言うしかないわね。あなたの兄弟たちを、彼等に宿るARMSを」 「……ブラック兄さんはどこにいるんだい? 兄さんに掛け合って僕が支援に向かう許可を取り付けなきゃ。 レッドだけじゃセピアを守り抜けるはずがないんだ。そこのところは兄さんだって分かってくれるはずだよ。 姉さんもそう思うだろう?」 「……グリーン坊や。残念だけど、ブラック兄さんの居場所については教えられないわ。 兄さんは今、エグリゴリが実施する極めて重要な秘密作戦の指揮を取っている」 「……作戦? 作戦だって? よりにもよって今? ――まさか、セピアとレッドは『陽動』なのかい? その『作戦』とやらの戦場から、『静かなる狼』を遠ざけるための?」 「そうかも知れない、違うかも知れない。ただ――これだけははっきりしているわ。 ブラック兄さんの『作戦』は『プログラム・ジャバウォック』の成否を左右する重要な局面であり、 他方、レッドの『任務』も『エクスペリメンテーション・グリフォン』を進捗させる上では不可避のものだということ。 そしてそのどちらも、エグリゴリの中心命題『ARMS計画(プロジェクト・アームズ)』に深く根差している――」 「…………」 「レッドは今、紛れも無い死地にいるでしょう。或いは、そこで死ぬのが彼にとっての幸せなのかも知れない。 だけど……おそらくそうはならない。 ある種の事柄は死ぬことより恐ろしい――彼がキース・レッドである以上、 『エクスペリメンテーション・グリフォン』によって選ばれた実験体(ヴィクティム)である以上、 彼を定義する運命(プログラム)は彼に死ぬことを許さない。 ――今は、まだ」
レッドと男は、一触即発の空気を孕んで対峙していた。 先に口を開いたのはレッドのほうだった。 「……よく、あの落盤から脱出できたな」 「なに……忍術を少々、ね」 事もなげに肩を竦める仕草に、レッドは「へっ」と頬を歪ませて応える。 「どうだろう、今からでも遅くはない――もう一度だけ考え直してみないか? ……『タイ・マスク文書』を私に引き渡してくれないかな?」 「考えることなんかなにもねーよ」 それは即答だった。 「クソったれだ馬鹿野郎。誰が渡すか」 「…………」 男は黙ったまま首を振り、そしていつの間にか手にしていたクナイを投げ付ける。 反射的に頭部をガードしたレッドの左腕にクナイが突き刺さる。 そのクナイには極細のワイヤーが結び付けられていて、その片方はトンネルのの壁面へと続いていた。 薄暗いためにそれがどこまで伸びているかは分からないが――、 「これでもかね?」 同じくいつの間にか男が手にしていたスイッチが押し込まれると同時に、想像を絶する高圧電流がレッドの身体に注がれた。 バチッという乾いた音に弾かれるように、レッドの身体が弓なりにのけ反る。 その衝撃は一瞬だったが、効果は決定的だった。 肉を焦がすような嫌な臭いがして、皮膚からは煙と蒸気の混合気体が立ち昇る。 「ぐうっ……!」 がくんと膝が落ちる。左腕のクナイを引き抜こうにも、右手に力が入らない。 「レ、レッド!?」 セピアが慌てて屈み、レッドの肩をかき抱いた。 「ちょっと近くのケーブルから配電を拝借した即席の装置だが――なかなかに効くだろう? ARMSの長所にして短所……それは機械の集合体であることだ。しばらく、君のARMSは満足な制御ができないだろう」 ――確かに、その通りだった。 高圧電流によってレッドのARMS『グリフォン』は機能不全に陥り、形態変化さえ不可能になっていた。
ナノマシン群体であるARMSは、コアチップによって統制され、 運用目的に応じて個々のナノマシンを変質・集積・構築しなければ機能を発揮できない。 たとえコアチップが無事でも、ナノマシン間の個体レベルでのネットワークが阻害されれば、相互干渉による形態の最適化に齟齬をきたす。 結果、ナノマシンがばらばらに動いて暴走する危険を回避するため、 コアチップは安全装置(フェイルセイフ)機構を発動して強制的な休止モードへと移行する。 つまり、ナノマシンがオーバーフロー状態から回復するまでは、『グリフォン』の最大の武装である振動兵器が形成できないのだ。 「己の限界を知ることだ、キース・レッドくん。今の君では――私には決して勝てない」 その通りだろうとレッドも思う。 敵は只者ではない。人外じみた戦闘力を持ち、ARMSの特性も知悉している。 第一形態すら発現できない状況下では、どうあがいても勝てっこないことは明らかだった。 だが――、 「黙れ」 だが、レッドは立ち上がる。 ふらつく身体を懸命に支え、両の足で地面を踏み締める。 「てめえがオレの限界を決めるなよ。何様のつもりだ。 ふざけんなクソったれが。くたばれニンジャ野郎。トノサマのケツでも舐めてろ」 痺れの残る舌を動かしてそう吐き捨て、唾を吐く。 そんなレッドの暴言に接しても、男は鷹揚さを失わなかった。 「しかし、実際、君にどれほどの選択肢が残されている?」 むしろ優しげとも言える口ぶりで、聞き分けのない子供を諭すように。 「私の見るところ、残る手はキース・セピアくんの先程の『力』を利用するくらいしかないようだが――」 軽く首を振り、 「だが、それは最も愚かな選択だ。あのような惨劇を再び引き起こすことに、なんの意味がある? 破滅と引き換えの勝利など、それはもはや勝利ではない。違うかな?」 男の手には、またもやいつの間にか、そして今度は日本刀が握られていた。 ずらり鞘を払い、淡く蒼く輝く刀身が露わになる。 「これが最後通牒だ……『タイ・マスク文書』を引き渡してくれ」 「――やめて」 そう答えたのはセピアだった。
「あなたの欲しいものは渡せません。だってレッドにはきっと大事なものだから。 だから――」 男がセピアの言葉を遮り、後を引き取る。 「だから、どんな犠牲を払っても構わないと?」 「違うわ。だから――」 セピアは一歩前に進み、レッドの先に立った。 それはこの任務が始まってから初めての――そしておそらく、 レッドとセピアが最初に出会ったときの、二人で敵基地を脱出して以来のことだった。 「だから――わたしで我慢して」 「ほう……?」 男の目が興味深そうに細められた。 「わたし、あなたについていきます。『ブルーメン』っていう人たちのところまで。 代わりにレッドを見逃してください」 「おい、待てよセピア――」 「待たないわ。これがきっと、わたしに出来る最善のこと。 わたしじゃあなたの力になれない。足を引っ張ってばかりだったけど、それもこれでおしまい」 セピアは振り返りもせず、冷たさすら感じさせる口調で言う。その表情は伺えない。 「勝手なことを吹いてんじゃねえ……!」 セピアの肩に手をかけようとした瞬間、とてつもない共振波がレッドを襲った。 セピアのARMS『モックタートル』が、電撃で弱体化している『グリフォン』を捩伏せたのだった。 あまりの激痛に気が遠くなりかける。 「ニンジャさんの言うとおりだよ? わたしとあなたじゃ……この人に勝てない」 そう――まったくその通りだと、レッドも思う。 だけど、なぜだろう……。 歪む視界の中で、レッドはそれとは別の思いに満たされていた。 その思いに促されるまま、言い放つ。 「『タイ・マスク文書』……それは日本人カツミ・アカギの成長記録と育成スケジュール表だ」 セピアの後ろ姿が、ぎょっとしたように大きく震えた。
「これで満足か、ニンジャ野郎!」 これまで冷静沈着を固持していたさしもの男も、わずかに驚いたようにレッドを注視していた。 「満足かと聞いている!」 「……ああ、それで十分だ。私の推測は裏付けられた」 「そうかよ、なら――オレと勝負しろ!」 「な――」 弾かれたようにセピアが振り返り、 ぱぁん。 思い切りいい音を立ててレッドの頬を張り飛ばした。 「ば……馬鹿じゃないの! なんで言っちゃうのよ!? しかもなによ、なにが『勝負しろ』よ! 頭おかしいんじゃないの!?」 涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を隠すことも忘れ、セピアは怒鳴っていた。 「わた、わたしがどんな気持ちで……!」 「うるせー馬鹿!」 「ばっ……」 「どうだっていいんだよ、ブラックの陰険じみた任務なんざ! オレの……オレの望みは……!」 セピアと睨み合っていた視線を外し、その背後へ――、 「あのニンジャ野郎をぶちのめす、それだけだ!」 「え、な……」 一歩前に進み、言うべきを知らず口をぱくぱくさせるセピアを肩で押しのけ、男に相対する。 「……それが君の意志か。 兄の身を案じる妹の心を踏みにじってまでの選択がそれとは――最悪だな」 男の態度から鷹揚さが無くなっていた。 憤りを湛えた殺気でレッドを見据えている。 「彼女は君の無力感を贖うための犠牲(ヴィクティム)ではない。 君の飽くなき闘争心は驚嘆に値するが、同時に極めて危険だと言わざるを得ない。 ここで君を殪す。君のその傲慢を――断たせてもらう」 男は引く腰を落とし、刀を上段に構える。一切の表情が失せ、研ぎ澄まされた攻撃意欲が取って代わる。 それは己を刃たらしめる、透徹した集中力の顕れだった。必殺、という概念の体現だった。
「レッド……!」 涙の後が残る横顔をレッドに向け、セピアは彼の無謀じみた行動を引き止めようとするが、その身体はびくともしない。 「最後に聞くが……正気かね? 君のARMSは使い物にならない、『使う』という意味ではキース・セピアくんのも同様だ。 それでも私と戦うと? そんなにも、あの無秩序な破壊を望んでいるのか? ARMSの……『アリス』の絶望に身を委ねることが、君の本望なのか?」 「くどい! てめーの説教にはうんざりだ! そうさ……オレは力が欲しいんだよ!」 「愚かな――」 呟き、男は瞑目した。 まるで力に溺れて死を招くレッドの最後を、今この目で見て悼んでいるかのように。 修羅の如き烈火の気性を、果てなき力への渇望を悲しむように。 そして、その初動を背中の皮膚で察知したセピアが反応を見せるよりもさらに疾く――神速の踏み込みとともに男の刀が一閃した。 『グリフォン』が機能不全に陥っているため、腕をブレードに変形させて防御することすら不可能ななか、 レッドは弧を描いて寸分違わず己の首筋へ進む光の軌跡を見ていた。 そしてまた、セピアが身代わりを申し出たときの――自分に背を向けてこっそり泣いていたときの、 自分の内に沸き起こった思いを甦らせていた。 (なぜだろう――) なぜ、そんなことを言うセピアの細い肩を、小さな背中を見ていたら――こんな堪らない気持ちになるのだろう、と。 「――愚かでも構わない」 「なに――」 男の声が、ほんの僅か、僅かだけ、「信じられない」というふうに揺れた。 男の呼吸を直に感じる距離で、セピアもまた驚愕に目を見開いていた。 使い手の腕と状況次第では鉄をも裁つ日本刀の――その直刃を、レッドは花でも摘むような無造作さで掴んでいた。 ――メタモルフォーゼすらしていない、素手のままで。
「……てめえも、ウチの兄貴と同じだ。 自分の『強さ』だけが正しいと思っていやがる」 かちかちとなにかが小刻みに震えていた。 それは男の手にした刀だった。レッドが掴む刃だった。 その振幅は徐々に高まり、やがて生物が生み出すことの不可能な――機械でなければ生じさせることができない激しさに至る。 「君のARMSは電撃から回復していないはずだ……。振動兵器を構築できるはずがない」 そう――そのはずだった。 ナノマシンが配列を変換させて目的に応じた機構を形成できなければ、いかなる特殊能力も発現できない。 剣の機能を欲するなら剣の形に、大砲の機能を欲するなら大砲の形に。 それがナノマシン兵器『ARMS』の各種機能の前提だった。 もし例外があるとするなら――、 「『震動子(トランジューサー)』……。 ナノマシンそれ自体を振動兵器に……この土壇場で……?」 そんな男の感嘆混じりの囁きも、今のレッドには聞こえていない。 「ふざけんな、どいつもこいつも……! てめえらになにが分かる……『使えない』と思われるってことが……それがどういうことか分かるのかよ!」 自分は無力だった。 だから『力』を求めた。 だが……『力』があることもまた無力だということを知った。 『力』の持ち主をして「本当のものなんかなにもいらない」と言わしめるものが、『強さ』であるわけがなかった。 ならば、本当の『強さ』、『力』はどこにあるのだろう? 強くなりたい――。 『本当のもの』をあいつに教えてやるために。 欠陥品ばかりが容赦なく淘汰されていくこの世界で生きていくために。 “『力』が欲しいか――?” (ああ……『力』が欲しい――!) “『力』が欲しいのなら――くれてやる!”
「なんと――」 刀を粉微塵に握り潰したレッドを目の当たりにし、男は咄嗟に柄を顔面の位置まで引き上げる。 まさにその箇所、男の人間業ではない反応速度でなければモロに顔面直撃のコースに、レッドの拳が飛ぶ。 柄は脆くもばらばらに砕け、男の指の骨も数本が鈍い音がしてありえない歪みを生じさせた。 「…………!」 ここにきて、遂に男が純粋な後退行動を取る。 飛びのくようにその場をのき、レッドの腕の届かない距離へと移動する。 「勝手なこと抜かすな……敵に説教されるほど落ちぶれちゃいねえ! セピアのARMSをどう扱うかはてめーにゃ関係ないんだよ! オレは負けねえ! てめーにも、ブラックの野郎にも――ARMSにも!」 レッドのやけくそみたいな咆哮に、男が虚をつかれたように動きを止めた。 今初めてレッドに出会ったかのような、驚きに満ちた表情だった。 だがそれもすぐに消え、戦士として洗練された姿――隙というものがまるでない構えでレッドの正面に立つ。 はっきり言って勝てるイメージは沸かない。 さっきは怒りに任せてぶん殴ったら当たったが、次は当たらないだろう。 経験も、センスも、技能も、全て相手が遥かに上回っている。それは確実だった。 だが、引く気はない。まったくない。 殺すとか倒すとかいう考えは消え失せて、今あるのは 「どうやったらこいつに思い知らせてやれるか」という、ただそれだけのことだった。 なんかごちゃごちゃしててよく分からないが、目の前のニンジャ野郎を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしてやらねば気が済まないのは確実だった。 そして、そのために必要なものは――、 レッドの背中になにかが触れる。 それはおそらく少女くらいの背丈のなにかの両手のような代物だと思われるものだと、温かな感触が伝えていた。 だから、そちらを見ずに言う。 「セピア」 「え?」 「オレのそばから離れるな」 「――はい」 おそらく少女くらいの背丈のなにかの額のような代物だと思われる温かいものが、そっとレッドの背中に押し付けられた。
――予想に反して、男はなかなか動きを見せなかった。 時間が経てば経つほど、『グリフォン』が電撃のダメージから回復して、男のアドバンテージが減少するにもかかわらず。 さすがにレッドも訝しく思う。 「どーした、ニンジャ野郎。怖じけづいたのか?」 だが男はそれには答えず、 「……まさか、キース・ブラックは試しているのか……? しかし、いったいなんの目的で……」 などと意味不明の呟きが返ってくる。 だがその半面、男の視線は満遍なくレッドに注がれている。 それはレッドを警戒してるというよりは、レッドとセピアを――、 いや、二人の行く末を心から案じているような、そんな不思議な視線だった。 「おい――」 そんな視線にむずむずしたのと、奇妙な緊張感に苛立ったことでレッドが声を荒くしたその時、男の懐から低い振動音がした。 「む――失礼。商用の電話だ」 「…………」 怒りを通り越して呆れるしかないレッドへ、男は今や敵意の欠片もない気安さでウィンクする。 「単身赴任のサラリーマンは多忙なのさ」 だが、 「――なんだと、鐙沢村が!?」 男の顔が瞬時に険しくなった。 通話の内容はレッドには聞こえないが、なにやら相手口が切羽詰まってる雰囲気だけは伝わってくる。 「修一郎と連絡は取れないのか? ――分かった。隼人くんを最優先で保護してくれ。私もすぐに向かう。 ……ああ、おそらく崖だろう。すまない――私の責任だ」 ぼそぼそと、だが急き込んだ様子で会話を終了させた男が、通信機の仕舞いしなにこちらを振り向く。 その眼差しにレッドはちょっと驚いた。 とんでもなく不屈で、普通人でありながらARMS適応者を手玉に取り、静かな威厳を湛えていたこの男が――、 まるで想像できなかった、少し疲れたような陰を浮かべていた。 「残念だが……ここでお別れだ。私は撤退させてもらう」 「あ? なにを自己中な――」 「君の意志の強さは見事だ」 陰を振り払うようなきっぱりとした宣言に、レッドは呑まれて抗議の言葉を切らす。
「特に……『人間はARMSに負けない』、そう言い切る君の志の高さには敬服したよ。 願わくば、その意志がいつまでも続き、『ARMS計画(プロジェクト・アームズ)』――その悪魔の意志を撃ち破る日が来ることを」 そう言って、男は僅かに横に身をずらす。 すると、男の背後に隠れていた夕日が――いつの間にか夕暮れになっていて、 強烈な西日がトンネル出口に差し込まれており――レッドの瞳に突き刺さった。 「く……」 目のくらんだレッドは手で顔を覆い、光に適応するころには――、 男の姿はもはや陰も形もなく、ただ静かな風が吹いていた。 セピアと並んでトンネルの外に出る。 茜色の太陽が西の空を赤く染めていた。 「……あー、くそ、散々な遠足だったぜ」 線路に腰掛けて呻くレッドの隣にセピアがゆっくり腰掛ける。 「わたしも、疲れた、かな」 横殴りの風に流されてバランスを崩したのか、小さな頭がレッドの肩にもたれ掛かった。 そのままセピアは動こうとしない。 引きはがそうとしたが――その顔色が紙のように蒼白なのに気付く。 トンネルのなかではそんな顔色までは読み取れなかった。 「おい――」 「うん、大丈夫……ちょっと疲れただけ……」 紫の唇で言われてもまるで説得力がなかった。 「あ、頭、重いよね」 首を持ち上げようとするセピアを、掌の小鳥を逃がさない要領で肩を沈めて反動を殺し、そのままにさせた。 「…………」 セピアはちょっと目をぱちぱちさせたが、すぐに目を細めて体重をレッドに預けた。
そして、しばらく二人は黙って夕日を眺めていたが、まったく唐突にぽつりとセピアが掠れ声で囁く。 「――Sの前はRなの」 「……なんだと?」 「名前の話」 アルファベットの並び順と、レッドとセピアのことだろうか。 だからなんだと言いたかったが、なんとなく黙ってることにした。 セピアがなんかもぞもぞやってるのでそちらを見ると、ポケットから金色の指輪を取り出して夕日にかざしている。 それはあの指輪だった。 命と等しい価値を持ったもの――最後まで捨て切れなかったもの――かつてセピアの姉妹だった少女の忘れ形見。 本物の金無垢だった。 この世界を照らすヴァーミリオンの光を受けて、それは輝いていた。 鳩の血(ピジョン・ブラッド)のように、蠍の心臓(アンタレス)のように、神々の黄昏(ラグナロク)のように。 「セーラ」 再び掠れた声で、今度は少し面映ゆそうに。 「それがシャーロットが付けてくれた名前。 マテリアルナンバーでもなくてカラーネームでもない、わたしの本当の名前」 レッドは黙っていた。セピアも、特に感想を求めることはしなかった。 その代わりに、 「Sの前はRなの。名前の話」 さっきと同じことを繰り返す。 『セーラ』の頭文字がSであることは、レッドにも分かりきっていることだった。 そして、少し血の気が戻った桜色の唇で、セピアは大切な呪文(スペル)を唱えるように、ある短い綴り(スペル)を口にした。 「――――」 ごう、とやや強い風が吹き、あたりに枯れ葉が舞う。 「……なんだと?」 とレッドが聞き返しても、もうセピアは答えない。 安心しきった穏やかな顔をレッドの肩に載せたまま、悪夢など及びもつかない柔らかい寝息をすうすうと立てていた。 第十一話 『風』 了
物価高の煽りを受けて家計が火炎大車輪、まだニューパソ買えてません。 そんで不手腐れてKH2クリティカルLV1攻略とかやってました。 そんなわけで夏までの復活無理でした。 これは復活つーかなんつーか、未練たらしく墓場から書いてるようなもんです。 ロンギヌスの槍頑張って下さい。 ミナガーファンてして、またビリー龍ファンとして全力で応援してます。 オリキャラがまたツボ押さえてて憎たらしい。
74 :
作者の都合により名無しです :2008/08/21(木) 10:14:18 ID:fqLxEFn00
復活ブームか? VSさん、ぽんさん、ハロイさんと。 ぽんさん完結お疲れ様です。また新作お願いします! ハロイさん、またクオリティの高い物語をお願いします!
ハロイさんお久しぶりです。 物語の核というか、筋道が一本通った回でしたな。 ブラック、レッド、セピア、巌、そしてカツミ。 少しずつクライマックスに近づくにつれて セピアの存在のが切なく感じますな。 キースシリーズにも恐れられる静かなる狼かっこいい。
ハロイ氏って2ヶ月ぶりくらい? レッドが原作のはすに構えた感じと違い、 熱血しているのがいいですね。 セピアはけなげなんだけど悲劇が見え隠れするし。 しかし相変わらず作りこんでいるな、話。
レッドとセピアのコンビはいいな 十和子と静のコンビもお願いします
78 :
作者の都合により名無しです :2008/08/22(金) 14:56:52 ID:aOi/DXuY0
ハロイさん復活おめ シュガーソウルなどの作品も復活待ってます
江田島はのび太の対面だった。上家はアカギ、下家はドラえもんで、麻雀の強い 二人に挟まれているのでとても居心地が悪い。正面ののび太がたまらなくバカなの も余計にイライラする。でも配牌がよかったので全部許しちゃう。 「これがワシの実力じゃー!」 4巡目江田島、三筒ツモ。 二二二六七(23456789)中 「これがワシの捨て牌じゃー!」 江田島、打中。ドラは二萬なので、リーチをかけてイッツーがつけばハネ満まで いく。ドラえもんが八索を切って、のび太のツモ番が回ってきた。 「おりゃ!」 4巡目のび太、二萬ツモ。 二三四(12378)134ニンジン トウモロコシ グリーンピース 三色になりそうでならない。一索を残しているあたりが優柔不断ののび太らしい。 右端の3牌はのび太の好物のミックスベジタブルだ。 「ドラミちゃーん! どれ切ったらいーのー!」 「のび太さん、三色とミックスベジタブル、どっちが好き?」 「もちろんミックスベジタブルさ!」 「それじゃあ三色の牌はいらないから切っちゃいまショー!」 「はーい! これとこれ!」 のび太、打二萬と三萬。また1牌足りなくなったがトウモロコシを1個足して元に 戻った。 「ククク……」 5巡目アカギ、南ツモ切り。そして次の江田島、一筒ツモ。
二二二六七(123456789) 「おどれら全員死にさらせー!」 のび太が二萬を切っていて、アカギは南をツモ切った。江田島、打二萬でリーチ。 「ロン」 三四五五(234)223344 「タンピン三色イーペードラ1。18,000点」 アカギ、江田島の二萬をロン。つまりのび太の二萬を見逃して江田島を狙い撃ち したのだが、それは江田島にとって予想の範囲内であった。 「クルクルチェーンジ!」 江田島は床を蹴って飛び上がった。のび太もつられて飛び上がって、空中でクル クルと回りながら交差した。部屋の隅でエロ雑誌を読んでいた烈海王がそれを見て、 目をキラキラさせて立ち上がった。烈海王は中国武術の達人で、中国の武術大会で のび太と知り合った。のび太がなぜ中国にいたかというと、どこでもドアで密入国 したからだ。 「あれれー! ボクの点棒が少なくなっちゃったー! 江田島はのび太の席、のび太は江田島の席に着地した。のび太は何が起こったの かまったく分かっておらず、メガネを前後に激しく動かしながら点箱を見ている。 江田島がクルクルチェンジと叫んでジャンプすると、指名された相手も自分の意志 とは関係なくジャンプして、江田島と位置が入れ替わってしまうという恐ろしい必 殺技である。満員電車で席に座りたい時によく使う。 「わははははー! ワシの点棒はほれこのとーり!」 江田島は豪快に笑いながら点箱を開けた。点箱の中身は山盛りのミックスベジタ ブルだった。江田島は静かに点箱を閉めた。
「トリプルクルクルチェーンジ!」 そしてもう一度ジャンプした。今度はのび太とドラえもんと烈海王がジャンプし て、四人が十字に交差した。 「破ー!」 はじめに烈が卓の上に着地した。鍛え抜かれた烈の立ち姿を電灯の光が照らし、 それは古代のブロンズ像のように美しかった。 「貴様は全然関係ないんじゃー!」 「どぱるでゅー!」 江田島のローリングソバットで烈海王は銀河まで吹っ飛んだ。江田島はドラえも んの席、ドラえもんはのび太の席、のび太は江田島の席に着地した。今の席順はア カギ、のび太、江田島、ドラえもんということになる。江田島にとってはアカギか ら離れて点棒も復活して、文句なしのチェンジだった。 「どうじゃ貴様ら! ワシのクルクルチェンジに不可能はないんじゃ!」 江田島は大得意の顔でアカギをビッと指さして叫んだ。隣で烈も同じような顔で アカギをビッと指さしている。いつの間にか戻ってきていた。 「いくらワシが振り込んでも、クルクルチェンジでぜーんぶチャラじゃ! 貴様ら の勝ち目は万に一つもないんじゃ!」 「どうしてアカギさんとはクルクルチェンジしないのさ」 「こいつはノリが悪いからイヤじゃ」 「ククク……」 「じゃあアカギさん以外が全員とんだらどーすんの?」 「別の卓から新しい点棒を持ってくるわい」 「ふーん。点棒ってそんなにいっぱいあるんだねー」 無敵のクルクルチェンジ、ノリの悪いアカギ、そしていやに静かなドラえもん。 江田島店長、大フィーバーの予感!
もうタイトルとか全然意味ないです。つづく。
アカギ強いがわがままではやはり塾長か VSさんと麻雀打ってみたい
84 :
作者の都合により名無しです :2008/08/23(土) 23:15:48 ID:Uj4xDBIt0
名作ドラえもんマージャンももうすぐ終わりか・・ でも、1から読み直そうと思っても消されているよVSさんのサイトでもw クルクルチェンジでなんとか復活させてよVSさん。 小○館と一戦交える覚悟で。 VSさんことを星野監督のようにすごい人と思うから。
>名作ドラえもんマージャンももうすぐ終わりか・・ 江田島編が終わりってだけで全然完結じゃないです。 >でも、1から読み直そうと思っても消されているよVSさんのサイトでもw 入り口の画像を消しただけで中身は残ってます。画像もふつーの画像にして いまアップしました。 >VSさんことを星野監督のようにすごい人と思うから。 ひでー。
想像したらものすごい絵面だ、のび太、塾長、アカギ、ドラえもんが 集う卓ってw この勢いでヤクバレも復活させてほしいな。
87 :
しけい荘戦記 :2008/08/24(日) 03:06:45 ID:7qt2mZz+0
第十話「七人目」 古びたロッカーがぽつんと置かれていた。 突如として、しけい荘に出現したスチール製の直方体。正体や背景は一切不明。目撃者 もいない。分かることはただひとつ「何も分からない」ということだけ。 未知なる侵略者に対し、オリバを除く五人はとりあえず包囲することにした。しかし、 取り囲むだけでは謎は解けない。緊張が汗を増し、水分と体力が奪われる。 「マドロッコシイゼ、俺ガ拳(フィスト)デブッ壊シテヤル!」 「むやみに刺激を与えるのは止めた方がいい。爆発物が入っていればアパートごとドカン、 ですよ」 はやるスペックに、冷静に忠告する柳。たしかに中身が分からない以上、粗暴な接触は 得策ではない。これを瞬時に理解したのか、舌打ちしてスペックも引き下がる。 「では私が仕掛けてみよう」 ドリアンが髭を撃ち込む。が、ロッカーから反応はない。 「ふむ、やはりこの程度ではダメか」 「タネを見破るんなら、やっぱり中を確認するのが一番良いな」 こういいながらドイルはシコルスキーに視線を移した。それにつれて皆がシコルスキー を見やった。 「え、もしかして俺!?」 返事はない。殺気だけが返ってくる。無言の脅迫。 「ふふ……まさに予想通りだ……」 ロッカーに歩み寄るシコルスキーの表情は、覚悟を決めているようにも諦めているよう にも見えた。 シコルスキーとロッカーが向き合う。ふと後ろを振り向くと、他の四人は全員地面に伏 せている。開けた瞬間にロッカーが爆発することを危惧しているためだ。 「くそ……みんなひどすぎる……」 取っ手に触れるや否や、不安がピークに達し、これまでの彼の人生が猛スピードで頭の 中を駆けめぐった。
88 :
しけい荘戦記 :2008/08/24(日) 03:09:06 ID:7qt2mZz+0
殴られる、蹴られる、焼かれる、失神する、はもはや日常茶飯事。日本刀で斬られたこ ともあったし、上空からアパートに墜落したこともあった。そういえば毒で死にかけたり もした。最近では、音速でずっこけた。 よく今まで生きてこれたな、と自分で自分が恐ろしくなるシコルスキーであった。 すると突然、 「ヤイサホーッ!」 勢いよくロッカーの扉が開かれた。 まともに激突し鼻血まみれでシコルスキーがダウンすると同時に、正体不明のロッカー からこれまた正体不明の男が飛び出した。 浅黒い肌に不精髭ながら凛々しい顔立ち。頭には真夏の海を連想させる青(ブルー)の バンダナを巻きつけている。野性味あふれる外見は、小汚いロッカーとはあまりにも不釣 り合いだ。 「おぉ、すまない。大丈夫か」 男はシコルスキーに手を差し伸べるが、シコルスキーはその手を借りずに自力で起き上 がった。 「おまえは誰だ」 「私か? 私は純・ゲバル、今日からこのアパートに暮らすことになった者だ。よろしく な、ブラザー」 突然の入居宣言。ゲバルと名乗った男は、今度は握手を求めてきた。 「さぁ、友好の証だ」 「ふん、どうせ手を握った瞬間に関節技を極める気だろう。お前の喧嘩は遅れてるな」 「おいおい、そんな卑劣な人間がいるわけないだろう」 いるんだなこれが、とドリアン、柳、ドイル、スペックは即座に寂海王を思い浮かべた。
89 :
しけい荘戦記 :2008/08/24(日) 03:11:38 ID:7qt2mZz+0
「とにかくだ。しけい荘の部屋は全部埋まってる。増築するなんて予定も聞いてない。今 のところ、ゲバル……だったか。ゲバル、お前が入居できる部屋なんてないんだよ」 冷たくあしらうシコルスキーに対し、ゲバルはきょとんとした表情を浮かべるだけ。落 胆した様子はない。 「どうやら私はあまり歓迎されていないようだな」 「当たり前だろ。いきなりロッカーから出てきた挙げ句、今日からここに暮らすだなんて 冗談にも程がある。大家さんが来たらすぐに追い出されるぞ」 「大家さん、か」 ゲバルの口もとがわずかに緩んだ。 「知ってるのか」 「知っているも何も、しけい荘の大家こと、“アンチェイン”ミスターオリバは私の友人 だ」 「う、嘘をつけ!」 「嘘がどうかはすぐに分かるさ」 まもなくゲバルが正しいことが証明された。まもなく帰宅したオリバは、実に嬉しそう にゲバルを迎え入れたのである。 「おォ〜ゲバルじゃないか! もう日本(こっち)に着いていたのか!」 「君が手紙で教えてくれた面白いアパートってのを体験しに来たよ」 蚊帳の外になっている五人に、オリバが説明する。 「彼は私がアメリカにいた頃に出会った海賊でね。今日からしばらくこのアパートに滞在 することになった」 すかさずシコルスキーが噛みつく。 「大家さん! いくらアンタの友人でも、海賊なんかをしけい荘に、いやこの日本に住ま わせるなんて間違っている!」 「もっとも今は海賊を辞めて、一国の大統領になったそうだ」 すぐさまシコルスキーは土下寝した。 異常なまでの変わり身の早さに、驚きを隠せないゲバルであった。 「わ、分かりやすい男だな……」
>>40 さんご名答、ゲバルです。
個人的にはかなり好きなキャラなので、上手く使えればいいなと思ってます。
ピクルもどこかで出す予定です。
あと克巳に勝ってほしい。
91 :
作者の都合により名無しです :2008/08/24(日) 14:40:41 ID:JNkduk/r0
ゲバルは知性ある男だけどピクルはしゃべれないからどうなるんだろ? でもどのみちシコルはひどい目にあいそうだ。 バトル編のラスボスかな、ピクル?
サナダムシさんはヤイサホー好きそうなので 予想通りといえばそうなんだけど ルームメイトになりましたか。敵になるかと思ってましたが。
ヤイサホー大好きです。もう原作では出てこないだろうけど。 サナダさんがピクル出す前に克己が勝ってるといいなw
94 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:26:55 ID:lssqd7uI0
お化け工場まで残り約1.5km。 「チクショー! 何回やっても何回やっても回復する! まるで不死鳥じゃねーかあのヤロウ!」 御前はM字に縛った口に手を当て、ちょっと考える仕草をした。 「……ん? 不死鳥? なあ桜花。アイツまさか」 「『不死鳥の能力を使っている』。そういいたいのでしょうけど答えはノーよ」 一方首を振る桜花であるが、御前と意識を共有しているのを考えると一種の自問自答といえ なくもない。 「聞いた話じゃ鳥の能力はあくまで『細胞を組み替えて』、使っているにすぎないのよ。でも、何 されても不死鳥みたいに蘇る鳥はいないでしょ」 「いない」 迸る矢の残影がやつれた美しい顔を行き過ぎた。 「なら、彼女を回復させているのは」 (恐らく武装錬金!) 鐶に処刑鎌の嵐のような連撃が加わり、一歩一歩確実にオバケ工場に追い詰めていく。 (これまでの戦いで分かったコトがいくつかある) 斗貴子は鐶の右腕を切断するつもりで薙いだ。しかしわずかに刃先がめり込むばかりで損傷 らしい損傷は与えるコトができない。 (やはりな。先ほどの空中戦と同じ。武装錬金を握る手だけが非常に堅くなっている。他の部 分は剛太でさえダメージを与えられるというのに) 攻撃力最弱のモータギアでさえ、例えば顔に切り傷をつけられるほど鐶はやわらかい。然る に斗貴子の見るところ右腕だけは堅牢である。肩も一の腕も二の腕も手首も非常な硬度を誇 り、何度斬りかかってもダメージが与えられない。 (武装錬金を手放すと不都合が生じるのは明らか。でなくば右腕の防御を固める理由がない!) (そして) 薄暗い亜空間の中、根来の手から金色の閃光が迸った。 (奴の回復は戦部の激戦に似ているがやや違う) 激戦とは十文字槍の武装錬金である。 特性は「高速自動修復」。槍本体並びに創造主へのダメージを即座に回復する。
95 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:27:59 ID:lssqd7uI0
(だがその激戦と違い、コイツの体は傷を受けるたびに修復しない。一定のダメージを負って 初めて回復する。そしてその判定を行うのは武装錬金) 先ほど鐶は自身のケガが「命に関わる」か否かを戦士に問いかけた。もし自身の意思で回 復できるのであれば問いかけるより先に回復をしているだろう。 斗貴子が「その判定を行うのは武装錬金」と断ずる論拠は上記にある。 「激戦が高速自動修復なら、クロムクレイドルトゥグレイヴはさしずめ『瀕死時限定の自動修復』! ならば付け入る隙もある!」 前述の戦部とて、「自動」で回復するがゆえの不都合……『何があろうとすぐにその場に回 復する』を逆手に取られて敗北したのだ。 (年齢操作と回復がどう関係しているかは気になるところだが) 鐶の足元から真・鶉隠れの剣風乱刃が勃興するより早く斗貴子は跳躍。 (相手は予想以上に手練れた化物。長引けば押し切られるのは私たちの方) 舞いを踊るような鮮やかさで防人の隣へ移動。 (ここは作戦を変更し、一気に勝負をつけますか?) 鋭い上目づかいの問いかけに、銀の覆面はゆっくりと首肯した。 (できれば人気のない場所に誘導したかった……) 防人は防護服に視線を滑らせ青いグローブを握りしめた。 (だが、お前たちのおかげでようやく隙が見えた) 壮烈なる爪を浴びた剣が舞い飛び、衝撃の風が銀の肌をびりびりと舐めた。 呼び起こされる疼痛と灼熱に顔を歪める間もなく、鐶が防人の懐に飛び込んできた。 その姿は傘に似ていた。前のめりに倒した上体を頭ごと両翼ですっぽりと覆い、ナイフのよ うに鋭い羽根は地面に切っ先を向けながら丸く曲り、あたかも蛇腹かカーテンかという風だ。 うすら寒い鼓動を奏でながら拳を乱打する防人は、攻撃対象が「クロサギ」という鳥の習性 を借りているコトまでは知らない。クロサギは水面で傘のように翼を広げ、影に入ってきた魚 を取るのだ。然るに鐶は次にクロサギにありえぬ動きを取った。あろうコトか全身を駒のように スピンさせたのだ。無数の拳を削り取らんばかりの勢いだ。いまや一個の円錐と化した少女の 翼に流されそうになりながらも防人は何とか思考をまとめた。
96 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:28:52 ID:lssqd7uI0
(このホムンクルスは回復に転ずる瞬間、わずかだが硬直する。その瞬間を狙う!) シルバースキンリバース! シルバースキンは通常、「外部から」の攻撃を全てシャットアウトする防護服である。 だがひとたび裏返し対象に装着すれば「外部への」攻撃を全てシャットアウトする無敵の拘 束服へと特性が裏返る。 ダブル武装錬金による二重拘束(ダブルストレイト)であればその拘束力は地上最強といっ て差し支えない。 周囲から生命エネルギーを無尽蔵に吸収し、ホムンクルスをも遥かに凌ぐ高出力を得たヴィ クターIII(武藤カズキ)でさえ、一度は二重拘束の前に成す術なく敗れ去った。 (これならば奴を殺さず捕らえ、アジトの場所を吐かせるコトができる。……総角主税と戦士・ 秋水の居場所が分からない今、俺達にはそうする他に選択肢がない) 数で勝る戦士たちが章印を狙えずにいる理由でもある。 (問題は回復のわずかな瞬間に当てられるどうか。今の俺の状態では攻撃から間髪入れずに リバースを射出するのは難しい──…) ばつと両翼を広げ人間形態に戻った鐶は、機関銃のように重苦しい拳雨を浴びながら短剣 を繰り出した。これにより彼女の右頬骨と前頭骨は中破。左側頭部は蝶形骨や眼窩上孔と共 に吹き飛び左目へ視力検査のランドルト環のような風穴が空いた。虚ろながら愛らしい顔立ち やしなやかな四肢を蹂躙に食い破られながら鐶は冷然と短剣を防人の眼へ差し伸べる。 まったく執拗という他ない。絶対防御に開いた唯一の穴から彼女は年齢吸収を目論んでい る。防人は、猛然とクローズアップされる鋭利な切っ先に本能的な嫌悪と忌避を覚えながら身を 捩り回避。頬の辺りを金斬り音が通り過ぎ、一拍遅れて熱ぼったい火の粒が視界を染めた。 だが同時に防人の拳は、短剣を繰り出しガラ空きになった鐶のみぞおちに直撃してもいる。 ホムンクルスでありながら少女然とした柔らかさだ。手首の辺りまで易々と没した青いグロー ブに思わず罪悪感さえ覚えるほど、柔らかい。 そうして鐶を吹き飛ばすと、心痛とは別ベクトルの苦い痛みと痺れが防人を突き抜けた。 (間違いない。攻撃を繰り出すたび、反動に耐えられなくなってきている)
97 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:30:18 ID:lssqd7uI0
元より火渡の五千百度の炎に身を晒し、「以前のように戦えるかどうか」と判断された防人 である。立って歩けるだけでも僥倖とすべしだが状況はそれを許さず戦いを強いた。結果、損 壊した体は徐々に悲鳴を上げつつある。 (俺はリバース射出に専念するしかなさそうだ。何故なら……) (シルバースキンリバースには弱点がある。当たりさえすれば脱出できねェけど) 吹き飛ぶ鐶へ追撃とばかりに剛太は飛び込み、戦輪付きのアッパーカットを見舞った。 もっともそれは反撃とばかりに繰り出されたペンギンの鋭いフリッパー(羽根。ボートのオー ルのような形で硬い)に受け止められ、鐶の胸の前でギガギガと火花を散らすに留まった。 その背後から躍りかかった斗貴子と根来の斬撃……四本の処刑鎌と一本の忍者刀へ、鐶 はくるりと首を反転させて短剣一本で影も見せずに捌ききるから恐ろしい。 しかも体にブレが一切ないのだ。腰にかけたポシェットがまったく揺れないのも剛太は見た。 (普通にやってちゃこんな相手にはまず当たらねェ) シルバースキンリバースは、射出してから標的へ届くまで若干のタイムラグがある。 事実剛太は、カズキに射出されたシルバースキンへモーターギアの機動力で割り入って封じ たコトがある。 (回復する時にコイツが硬直するったって、それは本当に一瞬なんだ。そこで外したら次からは 警戒され、二度と当てられなくなる。相手は鳥。スピードは文句なしにモーターギアより上!) 気合一閃。剛太は奥歯を噛みしめフリッパーを切断した。抵抗の消滅は心地よい浮遊感を 経て雷光のような勢いで鐶の胸に吸い込まれた。 果たして彼女は光を帯び、あらゆる損壊を回復した。 (もうそろそろ回復のタイミングが見えてきたでしょ戦士長) 体をどけてその様子を見せると、防人は無言で頷いた。 (ええと、私は赤銅島での失敗を反省して、それから、それから……) 指折って十八歳からの向こう七年の出来事を反復するのは「二十六歳」の精神を取り戻す ための努力であろう。千歳は根来の言葉に従い、いちおう努力しているのだ。 しかしそんな彼女は戦士たちに満ち始めた名状しがたい緊張感にはうはうと目を見開いた。 (何? どうしたのみんな?)
98 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:36:03 ID:lssqd7uI0
斗貴子は防人を見た。彼は頷き、千歳以外の戦士も粛然と表情を引き締めた。 (あ、ひょっとしてみんな) 千歳の瞳には往年の知性の光がやや戻りつつある。 目的は一つ! シルバースキンリバース必中! (その為には戦士長には射出だけに専念してもらう) 斗貴子は青白い光を放ちながら一歩踏み出した。 (だからなるべく俺たちだけでアイツを押さえつけなきゃならねェ) 剛太の指先で戦輪が回転し (だて攻撃の後にすぐ射出するのは難しそうだから) 桜花は巨大な弓を震える手でしっかと構えた。 (すまない。だが必ずリバースは当ててみせる!) 防人は全身の疼痛を誤魔化すように、帽子のつばを直した。 (なんでだろう。まだあのホムンクルスが切り札を持っているような気がする) 千歳は一人、張り詰める緊張感の中で思った。 繰り返すがヴィクター化したカズキでさえ成す術なく拘束されたリバースだ。 いかに特異体質を有していようと鐶はただのホムンクルス。 リバースにはそれこそ網にかかった鳥の如く捕らえられるだろう。 なのに微かな引っかかりが千歳の胸にある。これまで鐶が使った戦法の中で、リバースを破 る最適な手段があったような気がしてならない。精神が二十六歳当時ならすぐに気づけたよう な、ごくごく簡単な見落としがあるような気がしてならない。 (この不安は一体……) 九月初旬の生ぬるい風が亜麻色の三つ編みを揺らめかし、幼い千歳に影を落とした。 怖気が湧き、気だるい熱が耳を染める。口内もひび割れんばかりにからからに乾いている。 「不安ならば打開策を練れ。既に余地は与えている。貴殿の素養ならば不可能でもなかろう」 いつの間にか千歳の横に来た根来が、それだけを言い捨てると一歩踏み出した。 「このまま同じ攻め手を繰り返した所で戦局の好転は見込めない。方針を変えるぞ」 剛太は呆気に取られ、戦輪を危うく落としかけた。 なぜならかつて「一人で十分戦える」と述べた根来がこういったのだ。 「最も無傷に近く最も能力を失っていない私が奴を撹乱する。貴殿らは後に続け」
99 :
永遠の扉 :2008/08/25(月) 00:37:36 ID:xLOLVdrA0
忍者刀の鍔を打ち鳴らすと、彼は猛然と鐶に斬りかかった。 練習が一段落すると衣裳の話になった。 銀成学園演劇部のコトである。 話題に上るのはやはり学園祭用のドレスである。どうも歴史をひも解くと何かと不思議な話 が多い。これを着るのを目当てに入部した女子も十指に余るほど魅力的なのだ。 しかしまひろはそんな服よりももっと身近なコトに興味があるらしく。 「ねーねー、びっきーってずっとその制服なの?」 「え、えーと。しばらくはこうじゃないかな」 あははと空笑いを浮かべながら内心ではじっとりとまひろをねめつけるヴィクトリアである。 (別にいいじゃないこの制服でも) 斗貴子も来ているニュートンアップル女学院の制服は、今となってはやや古風なセーラー服 である。銀成学園の制服が良くいえば前衛的、悪くいえばフザけすぎたゴシック系なのを考え ると、その群塊に放り込まれたセーラー服は浮いて見える。だからかまひろの関心を引いたの だろう。 「でもさでもさ、銀成学園の制服もきっと似合うよびっきー。一度着てみない?」 曰くお人形さんみたいに可愛いから、らしい。 「っていわれても」 いいよどむヴィクトリアが思わぬ災難に見舞われたのはその数秒後である。
>>13 での根来の沈黙、一ファンとしては千歳への好意と信念の葛藤だったりしたらいいなあと。
長々と葛藤して心理描写が入ったりするのは忍法帖じゃよくありますし、冷徹非情な命令遂行
マシーンに人間らしい感情が芽生えるのもお話としては正しい。
ただ、それを根来でやるとアレなので、それこそ前作のネゴロ連載当時から彼の心情はなる
べく明確に決めず描いております。よって
>>13 の沈黙、或いは千歳の想像通りかも知れず或
いはもっと別な理解しがたい薄暗くて外道な思考によるものかも知れず。
描いてる自分にさえ根来は分かりませんが、たまにはそんな想像の余地を残したキャラがいて
もいいのではないでしょうか。
>>16 さん
色々伸びしろがありますからねー。>年齢操作
それだけに原作で見たかった……
>>17 さん
演劇部についてはドラマCD1が元ネタです。たぶん公式設定?
桜花たちが加入したらそれはもう華やかでしょうねw 裏でギスギスしそうですがw
>>18 さん
男女の関係は様々。別に恋愛に発展しない関係があってもいいと思うのです。
距離感を保ちつつも相手の意思を汲めるのは理想の一つです。
ふら〜りさん
根来の千歳への感情というのは自分も「こうだ」と決めず、ある程度どうとても取れる描写を心
がけております。一ファン一読者としての自分は「特別に思ってたらいいなあ」とは思ってます
が、あまりデレると根来じゃなくなるので…… まぁ、色々な解釈ができるのがSSの醍醐味ではないでしょうか。
激闘ですな。 中盤の山場のバトルといったところでしょうか。
102 :
作者の都合により名無しです :2008/08/25(月) 18:39:25 ID:erCKgEuX0
スターダストさん力作乙です。 根来が斬り込んでいく姿は彼らしい「役どころ」を 自ら承知しているみたいですね。剛太に渋さを学んでほしい。 一方、ヴィクトリアはまひろのおもちゃと化してますなw
103 :
ふら〜り :2008/08/25(月) 21:26:25 ID:jHZLfj540
>>ぽんさん
>>48 での安藤の言い分に全く異論が浮かばなくて(いい人だし)、これに楯突くならただの
ワガママだぞ、と最初は思いましたが……なるほど。普通のミステリーなら謎解き終了後の、
冗長になりがちな動機告白シーンですが、ここでこんな「謎解き」ができるとは。新鮮でしたっ。
>>ハロイさん
タネも仕掛けもある、けどその威力は魔法の如し。これぞ忍術、渋くカッコいい。が、今回は
レッドが凄い! ものすっっごく古典的な、熱血ヒーロー像! 理屈も合理も関係なく、ただ
闘志燃やして立ち向かい、でもちゃんと筋道立てて強敵に勝利、でヒロインと……理想です!
>>VSさん
自然に左から右へ読み進めていくと突然ベジタブル。普通、文章媒体では誰もやらない・
できない視覚的ギャグですな。改めて映像で想像すると更にシュールです。動じないアカギは
大物なのか同類なのか。何にせよしけい荘のシコル並に勝ちがみえない江田島の末路は?
>>サナダムシさん
なんかもう自分の扱われ方を悟りきってますねシコル。あり得るパターンとしては日頃のボコ
られっぷりが我知らず修行になってて、いつの間にかオリバ並に強くなったり……はしないか、
彼に限って。今のところ比較的大人しそうなゲバルにも、土下寝虚しくボコられるのかな。
>>スターダストさん
つくづく栴檀ズ・無銘・小札とは格が違いますね鐶。ほんと凄い。でも設定上、いわば底無し
の総角と違って底はある彼女。じわりと解明されつつあるようですが……コナンか金田一を
呼びたくなる「じわり」っぷり。読者としてどこを見落としたか、どこに作者の仕掛けがあったか?
104 :
作者の都合により名無しです :2008/08/25(月) 23:32:51 ID:Gp/NukUx0
高速自動修復か。悪魔将軍並みのチート能力だw シリアスな局面(バトル)には意図的にほんわかした場面を入れているみたいですな。
久しぶりにふらーりさんの感想が長いな スターダストさん並にバンバン書いてくれる人が減っちゃったな ただ、VSさんやハロイさんが復活してくれたから光が見えてきたな
106 :
ご挨拶 :2008/08/27(水) 23:20:13 ID:U1ucmyoLO
>>81 東1局2本場。クルクルチェンジが通用することが分かったので、江田島はすっか
り元気を取り戻した。元気になると手牌もよくなる。
「ケツでツモじゃー!」
3巡目江田島、ケツで三索ツモ。
六六六(444888)337東西
「のび太のチンコで捨て牌じゃー!」
のび太のチンコで打東。わずか3巡で四暗刻イーシャンテンだ。しかし自分の手が
いい時は、他の三人もみんないい、という事がよくある。
「ククク……」
4巡目アカギ、六索切りでリーチ。
「なにをさらすんじゃーい!」
江田島とのび太が同時に叫んだ。のび太は心を入れ替えて、この局はとても真面
目に打っていたのだ。
「ボクだって勝負手なのにー! でもアカギさんには負けないぞ! でや!」
のび太4巡目、発ツモ。
一二三四白白白発発発中中中7
なんと本当に勝負手だった。いつもののび太なら発のアンコ落としでアカギの国
士にドカーンなどの結末だが、先にバラすと普通に七索を強打した。
「これが通ればボクの勝ちだー!」
のび太、打七索。アカギ動かず。通った!
「バンザーイ!」
のび太は小躍りしてベッドのドラミちゃんに抱きついた。これも先にバラすが、
のび太はこの局あがれないしドラミに半殺しの目に合う。
「そうか、七索は通しか」
江田島はとても静かに言った。4巡目のび太、ドラミに半殺し。同4巡目江田島、
西ツモ。
六六六(444888)337西西 「リーチ」 江田島、七索切りで静かにリーチ。直前ののび太が七索を切っているので、江田 島の七索では誰もあがれない。あがれないったらあがれない。 「ロン」 「バッカじゃねーのー!」 アカギが手牌を倒す前に、江田島は背後の烈に日本刀を振り下ろした。烈は片手 で余裕で受け止めて、もう片方の手で鼻くそをほじってアカギに投げた。アカギは 鼻くそを間一髪でかわして命拾いした。まだ牌は倒していない。 「のび太の七索を見逃してワシの七索で当たったら、言い訳無用の大チョンボじゃ! クルクルチェンジの必要もないわ! ククク以外の言語で何か言ってみい!」 「のび太の七索は当たりじゃない。お前の七索は当たりだ」 アカギは当然のように言い切って牌を伏せた。そして江田島とのび太の七索をそ れぞれの手牌に戻した。 「まず、のび太が七索を切った時のオレの手牌だ」 一一二三五七(18)246南南 「ほう。バラバラじゃの」 江田島は落ち着いた声で言った。しかしハゲ頭からかすかに湯気が立っている。 目をつぶってゆっくりと席を立った。 「そして、江田島が七索を切った時のオレの手牌はこれだ」 「そんな訳があるかー!」 七七八八九九(789)1189 アカギが手牌を倒すより早く、江田島は厨房に駆け込んでいた。さんざんアカギ にコケにされたおかげで、アカギのやり口は完璧に予測できる江田島であった。
「ぎゃおー!」 厨房から深海魚のセックスみたいな雄叫びが聞こえて、江田島が戻ってきた。頭 にセワシがかじりついている。 「やられっぱなしのセワシ様じゃねーぞー!」 孤高のカレー職人の、精一杯の抵抗であった。江田島はセワシをものすごい勢い でひっぺがして、そのセワシでチーンと鼻をかんで厨房に投げ捨てた。セワシをい じめたので、さぞかしスッキリしたことだろう。ドラえもんは江田島に聞いた。 「落ち着いた?」 「落ち着くかー!」 江田島は阿修羅の形相で雀卓をぶっ叩いた。雀卓は床を突き抜けて下の階に落ち て、しばらくして天井から落ちてきた。そしてまた穴に落ちて天井から落ちてきて、 の無限ループに突入した。 「アカギの牌がまるっきり入れ替わっとるやんけ! 貴様のけったいな道具のせい に決まっとるじゃろがー!」 江田島はドラえもんの首根っこを締め上げて怒鳴りつけた。ドラえもんは別に苦 しむ様子もなく、とぼけた顔をしている。 「いやだなあ。ボクそんなことしてないよー」 言いながら独裁スイッチを押した。江田島はどこかへ消えて、しかしすぐに異空 間をねじ曲げて戻ってきた。 「違う。その道具じゃない」 「だからボク、なんにもしてないよー」 タイムふろしきを江田島にかけた。江田島は赤ん坊に戻った。さらにふろしきを かけると巨大なバナナになって、皮をむいたら元の江田島が出てきた。
「その道具でもない。次やってみい」 「しつこいなー。ボクは無実だって言ってるのに」 タンマウォッチで時間を止めた。どこでもドアで江田島をアラスカに置いてきて、 時間を動かした。赤みを帯びてきた空の彼方で小さな点が光って、窓ガラスを突き 破って江田島が帰ってきた。 「そいつじゃー!」 体中から生えたツララを振り飛ばしながら叫んで、突然ドラえもんに土下座した。 「タンマウォッチで時間を止めて、その間にアカギの手牌をいじったんじゃろ! 頼むからそうだと言ってくれ!」 「じゃあそうでーす」 「やっとれるかー!」 江田島はハゲ頭から紅の蒸気を吹き上げて怒り狂った。咆吼で全部の窓ガラスが 割れて砂になった。 「一から百までぜーんぶイカサマイカサマイカサマ! もう貴様らのようなイカサ マ軍団とは麻雀なんか打ってられませーん!」 「それはダメであります塾長!」 どこからか声がしたと思ったら、枠だけになった窓から黒い塊が飛び込んできた。 汚い学ランを着てダッサい丸眼鏡をかけたブサイクな男だった。
つづく。次回で麻雀編はおしまいです。
俺も昔、大三元張ったら初心者が目の前の山を豪快に崩して 流れてしまった事があったな・・。5順目テンパイなのに。 しかし麻雀編お仕舞か。麻雀好きな俺には残念。 麻雀知らない人には厳しいかも知れないけど俺は大好きだった。
113 :
作者の都合により名無しです :2008/08/29(金) 10:49:55 ID:bpfMoerK0
次回でドラえもんの麻雀教室がおしまいってこと? それとも麻雀編だけが終わるってこと? なんにせよVSさんの書く時間が延びてきて良いことだw 江田島バナナ笑ったw
麻雀知らないからイマイチわからないけどVSさんが本復帰したのは嬉しい どうか週間少年漫画板でもヤクバレをひとつ
「なんじゃ貴様はー!」 ブサイク男の闖入は、江田島の怒りにいっそう火をつけた。ちゃんと入り口があ るのにわざわざ窓から入ってくるなど、普通の客はまずやらない。 「貴様は客かー!」 絶対に違うと思うが、江田島は一応聞いてみた。 「押忍! 自分の名前は田沢であります!」 ぜんぜん質問の答えになっていない。江田島は田沢を客ではないと決めた。 「客じゃないのでさよーならー!」 「ゴバルスキー!」 田沢は江田島の張り手で、入り口のドアから外へぶっ飛んでいった。その田沢と 入れ違いに、別の男が入ってきた。 「塾長ー! 松尾でありますー!」 やはり汚い学ランを着て、クリームパンを3つ頭にくっつけたような髪型をして いる。とてもカッコ悪い。しかしこいつはちゃんと入り口から入ってきた。客かも しれない。 「貴様は客かー!」 「押忍! 自分は男塾の塾生であります!」 「いちばん奥の席にどーぞー!」 江田島は松尾の襟首をつかんでぶん投げた。松尾は店の奥まで飛んでいって、そ のまた奥の窓から外に落ちた。男塾という塾など、江田島は聞いたこともない。し かもそこの塾生だからなんだと言うのか。江田島にはさっぱり訳が分からない。 「塾長ー! ここが男塾ですかー!」 また別の学ランが出現した。江田島のイライラは募るばかりだ。 「うがー! 男塾ってなんじゃー!」 「塾長ー!」 「塾長ー!」 「塾長ー!」 「塾長ー! ズゴゴゴゴー!」 入り口から、窓から、天井から、次々と学ラン姿の男が沸いて出た。最後のズゴ ゴゴゴーは店の床を突き破って生えてきたのだが、あまりに頭が大きすぎて顔の上 半分しか見えない。田沢と松尾も戻ってきた。
「ふーん。これで全員?」 江田島はソファに横になって、コップ酒を呑みながら聞いた。意味不明の度が過 ぎて、かえって落ち着いてしまった。 「押忍! 全員であります!」 田沢が答えた。どうやら田沢がこの集団の代表らしい。 「あっそ。ところでワシ店長なんだけど、なんで塾長って言うの? あと男塾って なに?」 「押忍! あちょー!」 いっぺんに2つの質問をしたので、田沢の脳みその限界を超えた。替わりに床の デカい男が答えた。 「真の男を養成する男塾というのを作って、アンタがそこの塾長になる。オレ達は 塾生としてアンタについていく。そういう誓いを交わしたハズだが覚えてないか」 「あーん?」 まったく全然覚えていない。江田島はイカの燻製をかみちぎりながら、これまで の記憶をたどってみた。宇宙。地球。恐竜。北京原人。人間。江田島オギャア。ガ ハハハ。初恋。筋トレ。東大。戦争。野グソ。ノースウエスト。野グソ。。アカギ。 セワシカレーおいちいおいちい。 「塾長! そこであります!」 田沢は江田島のおでこを指さした。「。。」という文字が浮かんでいる。そうい えば野グソとアカギの間に「。」が2つあった。 「ほほー。ここか」 江田島はおでこをさすりながら、対局を見物していたギャラリーの一人を呼んだ。 「そこのお前、こっちゃこい」 「ボクすかー」 胸に7粒のトウモロコシをつけた男が歩いてきた。ケンシロウといって、普段は 居酒屋の店員をやっている。諸般の事情でゾンビになった。 「写せ」 「ほわたー!」 ケンシロウは右手の人差し指と中指を、江田島のおでこの「。」と「。」の間に 突っ込んだ。そして壁の方を向いて、両目のプロジェクターで江田島の記憶を再生 した。ゾンビなのでこういう事ができる。
「ガハハハハー!」 江田島が日本酒の瓶を持って笑っている。どこかのキャバレーらしい。江田島の 記憶なのに江田島が写っているのは、自分が大好きだからだ。 「お前ら全員ワシの家来じゃー!」 「江田島先生、バンザーイ!」 田沢や松尾ら、学ラン軍団もいる。江田島と一緒になって、浴びるように酒を呑 んで大騒ぎしている。頭のデカい大男も、やっぱり顔の上半分だけだして鼻から酒 を呑んでいる。 「ワシ、塾つくる! お前らみたいなバカをいっぱい集めて、戦争ゴッコとか殺し 合いとかして男の中の男にしてやる! 名づけて男塾じゃ!」 「男塾バンザーイ!」 「江田島塾長バンザーイ!」 みんなで輪になってバンザイをしているところに店長がやってきて、江田島に伝 票を渡した。江田島は伝票を見て、黙ってテーブルの上に置いた。 「まずはこのクソ店を血祭りじゃー!」 「イエス塾長ー!」
そこで映像は終わった。江田島はすべてを思い出した。 「おー。あの時の貴様らか」 「そうであります塾長!」 田沢は嬉しそうに言った。そしてアカギをギロリと睨みながら続けた。 「だからそこのクソガキがどんなに汚い麻雀を打とうと、塾長には負けてほしくな いんであります! 塾長が負けたら、自分は死ぬまで童貞を貫く覚悟であります!」 「そこなんだが、一つ確認したいことがある」 田沢の童貞は顔を見れば分かる。そうではなくて、さっきの映像の事だった。 「巻き戻せ」 「はいっすー」 ケンシロウは江田島のおでこに刺した指をグリグリした。江田島たちがバンザイ をしたところまで巻き戻った。 「アップにせい」 画面の端っこに写っていた男を真ん中に持ってきて拡大した。アカギだった。江 田島の後ろの席に座っている。 「再生せい」 「せいせいせいっす」 江田島がバンザイをした時に、江田島のゲンコツがアカギの後頭部に当たった。 弾みでアカギのビールがこぼれてズボンが濡れた。アカギは無表情で江田島を見て いる。ずっとずっと見ている。江田島はここで映像を止めた。 「アカギくん。聞きたいことがある」 「ククク……」 聞いた江田島は落ち着き払っている。聞かれたアカギも笑っている。 「アカギくんがワシを目の仇にするのは、この時の恨みか?」 「ククク……」 「はいならククク、いいえならチンピョロスポーンと答えなさい」 「ククク……」 「器が小さーい!」 江田島の怒りに再び火がついた。ソファから飛び上がって、一人クルクルチェン ジで雀卓に舞い戻った。
「あの場でワシに文句を言えばすむことを、その時はなーんも言えずに今になって みじめったらしく仕返しか! 貴様のようなヤツは男塾には絶対入れてやらん!」 「誘われたって入らん」 「開き直るなー!」 「あの場で文句を言ったら、お前は素直に謝ったか」 「言い訳するなー!」 アカギの戯言など、煮えたぎる江田島の耳には一切入らない。江田島はアカギの 顔よりも大きく口をひらいて叫んだ。 「貴様の腐った性根を叩き直してやるわい! そう!」 後ろの学ラン軍団を一度見て、またアカギに向き直った。 「男塾全員の力で!」 自分一人では闘わないらしい。東一局三本場、親はアカギ。7巡目、江田島ツモ。 「ツモ切りじゃー!」 「ロン」 八八八(11888)456888 アカギのロンだった。 「クルクルチェーンジ!」 江田島と田沢と松尾が飛んだ。つられて飛んだのはのび太とドラえもんとギャラ リーのKだった。 「うへー!」 Kとはキアヌ・リーブスの略である。ノースウエストにはのび太の知り合いが全 員集まっているので、当然キアヌもそこにいた。Kは松尾と入れ替わって、学ラン の群れの中に着地した。 「グッバイ!」 Kは学ランにバットで打たれて星くずになった。東一局四本場、親はまだアカギ。
「ロン」 四五六七八九22 (9999)←暗カン 東東東東←暗カン アカギ、江田島からロン。ドラは東と九筒だった。 「クルクルチェーンジ!」 江田島と田沢と松尾、そして変なマジシャンみたいな男が飛んだ。のび太とドラ えもんとのび太のパパとママが飛んだ。アカギがピクリと体を震わせた。 「三人で仲良く暮らそうー!」 パパとママも学ランに放り出されて空に消えた。パパは古びたダッチワイフを抱 えていた。このダッチワイフも三人の中に入っているらしい。 「ワシは負けんぞー!」 江田島はアカギに振り込み続けた。しかしそのたびにクルクルチェンジで危機を 脱した。点棒は他の卓から持ってきたので全然減っていない。アカギの額から一筋 の汗がしたたり落ちた。 東一局十五本場、親はずっとアカギ。ギャラリーは誰も残っておらず、卓の四人 と学ラン軍団だけになっていた。 「ロン……」 アカギ、江田島からロン。 一一 九九九九←暗カン (9999)←暗カン 1111←暗カン 9999←暗カン 「貴様ら、根性入れろー!」 「うおー!」 「スーパークルクルチェーンジ!」
江田島と学ラン軍団全員が飛んだ。のび太もドラえもんも、アカギも飛んだ! 「クククー!」 こらえにこらえていたクルクルチェンジだが、ついにつられた。アカギは着地し て、倒れそうになるのをかろうじてふんばって言った。 「順位を……教えろ……」 「そんなもんは死ぬほどどうでもいいわー!」 江田島は店の雀卓すべてを窓から投げ捨てて、すぐ後に大量の手榴弾を落とした。 こちらを振り向いた江田島の背後ですさまじい量の爆音と光があふれて、江田島の 姿は光に溶け込んで見えなくなった。勝負の女神が、江田島を選んだ瞬間だった。 「ククク……」 アカギはゆっくりと倒れた。のび太とドラえもんはなんかもうバカらしくなって 家に帰った。 「勝ったー!」 「塾長が勝ったー!」 学ラン軍団の勝利の凱歌と共に夜が明けた。江田島は紋付の羽織を脱いでアカギ にかけてやって、そして学ラン軍団に言った。 「ノースウエストは店じまいじゃ。今日からワシは、男塾の塾長になる!」 「おー!」 「ワシが男塾塾長、江田島平八であーる!」 「江田島塾長、バンザーイ!」 「いくぞ貴様ら! 邪鬼もいいか!」 「押忍」 ここまでクルクルチェンジに参加しなかった、頭のデカい大男が答えた。 「ファイナルクルクルチェーンジ!」 江田島塾長と男塾塾生は一斉に大空へ飛び立った。邪鬼もクルクルチェンジに参 加したので、ノースウエストのビルは床も壁もすべてが砕けて崩壊した。江田島た ちの行く手には空がある。太陽がある。果てなき大地がある。そして、汲めども尽 きぬ男たちの夢とロマンがある。
麻雀編おしまい。そして○○分で書く!シリーズも次回で最終回です。 会社のホームページでブログを始めました。読んでね。
124 :
作者の都合により名無しです :2008/08/30(土) 22:35:41 ID:9XZzv75i0
なんか無理やり爽やかな男のエンディングにした感じだw しかし麻雀も終わりか。違うものもなんか書いてほしいなあ、 たまにでも読みきりでもいいから。 会社のホームページってどこですかw
125 :
しけい荘戦記 :2008/08/30(土) 22:44:11 ID:D6bcjowM0
第十一話「戦士として」 ロッカーの中から、しけい荘に新たなメンバーがやって来た。オリバ曰く、この若者は 一国を統べる大統領だという。 困ったような笑顔で謙遜するゲバル。 「ハハ、国とはいってもまだまだ未熟な国だがね。元々はアメリカの領海内にあった小さ な島さ」 柳がたずねる。 「しかし、大統領が国を離れてしまって大丈夫なんですか?」 「ノープロブレム。外政も内政も信頼のおける者に任せてある。それに詳しくは話せない が、日本には仕事で来ていてね」 「なるほど」 柳は本心から納得したわけではなかった。 ゲバルの若さから考え、立国がさほど昔でないことは間違いない。しかし、毎日新聞に 目を通している自分でさえ、ゲバルの名を一度も目にしたことがなかった。 ──若者がリーダーに立ち、超大国(アメリカ)からの独立を果たす。 これほどマスコミ映えしそうなニュースが新聞に欠片も載らないというのは、いったい どういうことか。ゲバル本人、もといゲバルの独立には何か闇の部分があるのでは。柳は こう推測した。 「あっ、そうだそうだ」 柳の思考をさえぎるように、ゲバルが大声を出した。 ズボンのポケットからくしゃくしゃの紙幣を取り出す。日本円でなければドルでもない。 肖像としてゲバルが描かれている。 ドイルが感づく。 「これはまさか……」 「日本でもアメリカでも使えない。地球上で使える場所はとあるちっぽけな島だけ──私 の国の金だ。 もし君らが来ることがあったら、是非これを使ってくれ。島を挙げて歓迎するよ」 一枚ずつ紙幣を手渡すゲバル。万年金欠病のしけい荘一行はたとえ使えなくても金には 弱い。必要以上に目を輝かせながら紙幣を受け取った。
126 :
しけい荘戦記 :2008/08/30(土) 22:45:00 ID:D6bcjowM0
「サッソクコレデ焼キ肉デモ食イニ行クカ」大笑いするスペック。 「君はもう少し人の話を聞くべきだな」呆れるドリアン。 「いつか私もこれくらい有名に……」ドイルはむしろ肖像画の方が羨ましいらしい。 「スパスィーバッ! 泳いででも使いに行くッ!」素直に喜ぶシコルスキー。 「ありがたく頂戴しますよ」 ゲバルを疑っていた柳もまた、素直に礼を述べた。子供のような無邪気さで自らの故郷 を語るゲバルが、どうしても悪い人間には思えなかったからだ。 「ところでこれ、単位は?」 シコルスキーの質問に、ゲバルは嬉しそうに答える。 「単位は“セカン”だ。次代の地球を担う国を目指すという志を込めた。今君たちに渡し た千セカンで、島ではジュースが一本飲める」 しけい荘のメンバーは『千セカン=百円』くらいであると理解した。 「ちなみに一万セカンで家が建ち、十万セカンで豚や牛が飼える。衣類は平均して一千万 セカン程度だな」 「え?」 「満月の夜は全てのセカンの価値が倍に跳ね上がる。荒波の日は価値が逆転して、数が小 さい貨幣ほど高い価値を持つ」 「大貧民!?」 ゲバルの国家の経済体系は想像以上に複雑なようだ。 「さてゲバルのホームステイ先についてだが……」 いいかけたオリバに、挙手をする男が一人。 「俺のところなんかいいんじゃないか?」 「シコルスキーか」 「しけい荘でゲバルと年齢が近いのはドイルか俺だけど、ドイルは手品グッズやコスプレ 衣装が一杯で人を泊めるスペースなんてないだろ。その点俺の部屋はガラガラだからな」 「ふむ……なるほどな。ゲバルはどうだ?」 水を向けられたゲバルが頷く。 「ありがたい話だ。シコルスキー、よろしく頼むよ」 今度こそ固く握手を交わすシコルスキーとゲバル。 シコルスキーは内心で打算に満ちた笑顔を浮かべていた。
127 :
しけい荘戦記 :2008/08/30(土) 22:46:08 ID:D6bcjowM0
ゲバルをルームメイトとするメリットは大きい。小国とはいえ「大統領」という地上最 強クラスのコネクション。家賃を払ってくれるかもしれない。さらには大統領とはいえ新 入りは新入り、ゲバルがいればしけい荘最下層の地位から脱することができる。 「じゃあ、さっそく部屋に行かせてもらうかな」 ロッカーを抱えるゲバル。 「ちょ、ちょっと待て。まさかロッカーを持ち込む気か?」 「当然だ。これが私の寝床だからね」 さわやかな笑みで応えるゲバルに、シコルスキーはこれからの共同生活にいささかの不 安を覚えた。 203号室に夜が訪れる。やはりゲバルはロッカーの中で立ったまま眠るらしい。 訓練や苦行といった領域を明らかに逸脱した奇行に、シコルスキーが心配そうに声をか ける。 「なぁ、やはりロッカーで眠るのは止めた方がいいんじゃないか?」 「ほう、どうしてだ?」 「どうしてって……いや、まぁ、そう聞かれると困るんだが……」 言葉に詰まるシコルスキーを見かね、ゲバルは真剣な面持ちでいった。 「死ぬにはいい日だ」 「え」 「死ねばいくらでも横になることができる。ならば生きている限り、私が戦士(ウォリア ー)である以上、私は立っていたい」 非常識極まる理屈ではあったが、若い迫力に圧倒され押し黙るシコルスキー。ロッカー はゲバルが戦士たる生き方を貫くための手段であった。 これほどの生き様を目の当たりにし、単純なシコルスキーが影響を受けるのは至極当然 の展開である。 「ゲバル、俺も立って眠ることにするよ」 今度はゲバルが驚く番だった。
128 :
しけい荘戦記 :2008/08/30(土) 22:47:10 ID:D6bcjowM0
「いやシコルスキー、誤解しないで欲しいがあくまでこれは私個人の習慣であって、別に 横になって眠ることを否定するわけではないんだが……」 「そうじゃない。俺はアンタの戦士としての生き方に感動した。形から真似ることになる が、しばらく付き合わせてくれ」 「……分かったよ。おやすみブラザー」 翌朝、ロッカーを出たゲバルは足元に転がって爆睡するシコルスキーを認めた。その後 シコルスキーは「戦士として寝技の訓練をしていた」などとのたまったという。
十一話終了です。 ティラノ音速拳が効いていることを祈ります。 致命打にはならないでしょうが。
130 :
作者の都合により名無しです :2008/08/30(土) 23:09:46 ID:9XZzv75i0
柳が意外と思慮深いですな、年の功ってところかw しこるスキーは自ら地雷を踏みますなあ、小賢しい考えのためにw かつみんには・・あまり期待しないほうがいいかも・・
>VSさん 好きだったので終わるのは残念です。これで麻雀は覚えられませんがw VSさんの一線を超えたギャグは大好きなのでまた復活してほしいです。 最後まで塾長が出張りましたね。アカギとか影薄かったw >サナダムシさん 権力にも暴力にも弱い羊のようなシコルスキーですが 野望だけはあるようでwゲバルにどんなひどい目にあわせられるか 少し楽しみです。ま、バトル編ではカッコいいでしょう。
>いっぱい分で書く! アカギ、チンロースーカンツ四アンコ単騎ですか。最後にふさわしい。 しかし江田島のわがままにはかなわなかったか。わがまま貫き通してるな。 最後はどんなエンディングになるのか楽しみ。最後は麻雀と違うネタ? >しけい荘戦記 強きに弱く、弱きにも弱くのシコルが可愛い。柳とかドリアンとかも キャラクター立ってるな。原作ではキャラ立てだけしてお払い箱だったけど この作品では克己は出てこないのかな?
133 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:09:04 ID:3hNILyeQ0
鐶光というホムンクルスが瀕死時限定の超回復を持っているのは既に明白。 戦士が狙うはそのわずかな硬直。 瀕死から平常へと回復する一瞬の隙にシルバースキンリバースを射出し、拘束。 数で勝りながら年齢・体力の消耗ならびに力量差によって苦戦を強いられている戦士たちが 逆転する手段はこれしかないだろう。 根来はそれをより確実にするため一考をひねり出していた。 鐶の硬直時間はわずか一瞬。普通に撃てば仕損ずる。だが、彼女の体勢を崩せば? 例え ば極端な話、潰れたカエルのように地面へうつ伏せ叩きつけてから例の自動回復をさせれば、 回復の硬直 + 普通に立ち上がるまでの時間 と、ごくわずかだが隙を稼ぎ、リバースの命中率を向上させられる。 回復は「瀕死」をキーに自動発動する。 自動といえば聞こえはいいが、自分の意志や判断の介在を一切許さぬ不利もあるのだ。不 慮の事態が起こったとき、自らの意思で回復を止められない欠陥を秘めている。現に戦部は それで敗北した。 だから回復は敢えて許す。ただしそのタイミングと体勢については戦士が決める。そも、彼ら の攻撃の蓄積によって回復が発動するのだ。乱暴にいえば鐶の回復の議決権は戦士に握ら れている。使わぬ手はない。攻撃側というものは本来、ありとあらゆる雑駁(ざっぱく)とした事 情さえ除けばその攻撃の強弱やタイミング、手段を自由に選択できるものなのだ。 話を一旦まとめよう。 作戦の骨子はシルバースキンリバース必中。 そのためには 『鐶の体勢を崩した上で』 『瀕死に追いやる』 のが理想といえる。どちらかだけでは不十分。崩れても瀕死でなければ意味がなく、瀕死でも 直立不動ならば作戦成功の確率は低くなる。 では、上記の二条項を満たすにはどうすればいいか? 根来は無数の可能性の中からもっとも分かりやすく達成可能な案を選択した。 『瀕死寸前の状態で反撃不能の一斉攻撃を叩き込む』
134 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:10:06 ID:3hNILyeQ0
そのために戦力を温存し、「ここぞ!」というところで攻勢に転じるべきだろう。 一斉攻撃といえど、先ほどのように漠然とぶつけるだけでは埒が明かないのは証明済み。 考えてもみよ。相手は変形能力に加え状況次第では一撃必殺の短剣を持っている。 攻撃手段に乏しく、傷を負った戦士はそれだけで不利だ。そしてそれらを避けたとしても、勝 負をかけるべき瞬間に諸々の事態・状況によって足並みが揃わぬコトもままありうる──… ならば『反撃不能の一斉攻撃を叩き込む』その瞬間のみ戦力を一極集中させるべきではな いか? つまり勝負をかける瞬間まで、敢えて根来以外の戦士を戦闘から除外し…… 『瀕死にやや近いダメージを負わせたところ』で投入する。 「最も無傷に近く最も能力を失っていない私が奴を撹乱する。貴殿らは後に続け」 戦士たちは「あ」と息を呑んだ。 根来は撹乱といった。この状況で行う撹乱といえばリバース必中のための物しかない。 しかし彼はともに「撹乱」を行えとはいっていない。後に続け……? 後とは? 方向性こそ違えど確たる思考力を秘めた戦士たちは瞬時に根来の方針を悟った。 リバース必中のための隙は斗貴子・剛太・桜花・千歳が作る。その準備は根来が整える。 「んー、だいたいはわかったケド」 御前の頭にあるハート型アンテナがピピッと受信したのは桜花からの精神伝達(テレパシー) である。彼女はあまりの内容に肉まん顔のあらゆるパーツを深刻に歪めた。 「アイツ、亜空間に潜めるだけだぞ。それだけであの化物と渡り合うのって、正直すごく辛くね?」 「大方、力量差は忍法とやらで埋めるのだろう」 斗貴子の口から盛大な溜息と「というか子供の頃から忍法習得してるのか? なら何で戦団 なんかに入ったんだ」という露骨な愚痴が漏れたので、御前は「苦労してんだなあツムリン」と 哀愁帯びる細い背中を優しく叩いた。 一方、残る千歳は大きなくしゃみをして鼻をすすった。 (なんでさっきからくしゃみが出るんだろう。口の中もちょっとしびれているし……) 彼女の視界の中では根来が鐶に斬りかかり、ひらりひらりと攻撃をかわしている。
135 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:10:52 ID:3hNILyeQ0
それと比べると自分がどうも役立たずに思え、千歳は鼻をびぃびぃかみつつ少し泣いた。 (だめだめ。ちゃんと戦えるように考えないと。……あれ? そういえば今の私の症状、昔、テ レビで見たような……) ティッシュを丸めてポケットに仕舞いながら千歳はぼーっと考え、やがて軽く目を剥いた。 (えと、見たのは何かの鳥の番組だったような。『くしゃみを出させて口をしびれさせる』、そん な鳥がいたような──…) 幼さゆえに千歳のその思考は以下の景色に吹き飛ばされた。 根来の鼻先すれすれに短剣が掠った。彼は表情一つ変えず即座に踏み込んだ。 その姿がカッコ良くて、さすが根来くんだと感心し「がんばれー!」と応援したくもなった。 (じゃない! えと、確かにいたんだって。『くしゃみを出させて口をしびれさせる』鳥。なんだっ け。どんな能力だったっけ。思い出さなきゃ。思い出さなきゃ。だってひょっとしたら私……) 千歳は鼻のむずつく幼い顔を恐怖に強張らせた。 (何か怖い攻撃を受けてるかも知れない! でも違うかも!? ああ、どうすれば!) 頭を抱えて目をナルトの渦のように旋回させる千歳はさておき。 更に根来は数合撃ち合うと軽やかに宙を回転しながら着地して、塀に左手を当てながら水 すましのようにツツーっと鐶に向って疾走している。 根来の左手が這った跡にはまるで刷毛でぬまりと撫でつけたような銀の塗膜が染みついて あたかも鏡のごとく光っている。しかも彼は攻撃の片手間に電柱や道路にも同じ行為を施して いき──……、やがて側溝の蓋やマンホールにさえ大小さまざまの銀の水たまりができた。 道路へニュッと突き出す木の枝などはスプレーを噴霧したかのごとく辺りを映している。 「忍法忍びの水月。……」 これはかつて無銘が用いた物だがどうやら根来も使えるらしい。(海鳴り忍法帖で根来法師 が使っていたので習得対象になったのだろう) 果たしていかなる修行苦行の果てにかような魔技を体得できるかは不明だが、とにかく彼は 忍びの水月により迫真の立体像を帯び、辺りを乱舞しはじめた。
136 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:11:41 ID:3hNILyeQ0
これには無銘を知る鐶さえも困惑したらしい。しかしとにかく襲いかかる根来を攻撃すれば 良いとばかりに爪や翼、短剣を振りかざすがことごとく手応えなき幻を切る。ならばと幻影を無 視して戦士たちに迎えば、それもまた鏡に映った虚像だから始末に負えない。 辺り一帯に満ちた鏡はどうやら風景を出鱈目に反射して、戦士の所在を隠しているらしい。 鐶はしばし勘案すると翼を広げ空へ飛んだ。中空ならば鏡はない、だいいち鳥たる彼女にとっ てはそちらこそが有利なのだ。一気に他の戦士を狙い撃つコトもできる──… 「と思ったのだろうが」 虚ろな瞳がぼんやりとそこにいる男の姿を捉えた。 「空中に逃れるというその行動が既に、我が根来忍法の術中に嵌っているのだ」 傘。唐傘。真赤な丹塗りで成人男性ほどの長さはあろうかという傘が広がり空を飛んでいる。 しかも刀を下向けた根来が今や遅しと傘の上で待ち構えている。 「忍法かくれ傘。……」 それが轟然たる鐶の特攻を受け竹や和紙の破片もばらばらに吹き飛んだのと、根来の一撃 が鐶の背を割り斬ったのはまったく同時の出来事である。 ああしかしそこは人間の限界、根来は相対的に身長と同じ長さになったマフラーをなびかせ 地上へと落ちていく。 見逃す鐶ではない。例の血に似た液体を背中から旗のようになびかせながら身をひらりと 翻し、再び巨大なハヤブサに変形した。 鳥類最速は急降下時のハヤブサである。 一説では急降下角度が30度なら時速270km。45度ならば実に時速350km…… 先ほどその衝突を受けた防人がほぼ無事であったのは絶対防御を誇るシルバースキンあら ばこそ。では、生身の根来がその、500系新幹線の最高時速さえ超える体当たりを浴びれば 果たしてどうなるか。カラスほどの大きさのハヤブサでさえ、後趾でアオバトの片翼を悠然と吹 き飛ばすのだ。人間は新幹線に当たるとスイカのように粉砕するのだ。結果は想像に難くない。 果たして鐶は翼をすぼめると、根来へ向って猛然と急降下した。 「まずい!」 「やられる!」 「瞬間移動で助け──…」 「……!!?」
137 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:12:29 ID:3hNILyeQ0
戦士が口ぐちに叫ぶ中、息を呑んだのは鐶の方である。命中すると思われたその瞬間、根 来がうっすらと残影を見せながらかき消えたのだ。 「忍法枯葉がえし。……」 落下途中の彼はあろうコトか「跳躍」した。頭を地上に差し向けたまま、足場も何もない空中 から更なる天空……先ほどの足場たる傘のあった場所に向って「跳躍」し、鐶の爪を逃れた。 「無茶苦茶だアイツ」 御前が呆れるのも無理はない。まるで紐の見えぬバンジージャンプを平然と根来は行った。 実際に紐などなく、ましてそれを括りつけるべき場所もない。鐶がこの回避をまるで予想だに しなかったのも、全く以て物理の法則を無視した跳躍であるからこそ。 「言った筈だ。既に貴様は我が根来忍法の術中に嵌っていると」 しかし根来はまだ空にいる。制空権なら私にも……と加速を殺し身を返し、根来へ向かって 羽ばたく鐶だが、突如として左半身から揚力が消えうせ、しかも左へ傾き落下を始めているの に気づいた。 (……上へ飛ぶついでに…………攻撃したよう……です) 左翼の半ばがおよそ三分の二ほど──鳥でいうならば次列風切(じれつかざきり)から中雨 覆(ちゅうあまおおい)まで──がざっくりと斬られている。 根来は回避と同時に忍者刀を跳ね上げたようだ。 (斬られた部分のほとんどは鳥でいう「羽毛」の部分……損傷は軽微。人間でいうなら二の腕 を軽く斬られたぐらい……ですね。ただ、しばらくは飛行は不可能…………) 内部部品の断面も露に火花を散らす翼は航空力学上どうしても飛行継続が困難であるらし く、不時着を余儀なくされた。 そんな鐶を地上では虚像の根来たちが車座にぐるりと取り囲んでいる。 「忍法百夜(ももよ)ぐるま。……」 「シークレットトレイル必勝の型。真・鶉隠れ」 彼らが異口異音に呟くやいなや、鐶のしなやかな肢体は弓なりにびーんと仰け反った。 金色の刃そのものは背中より一メートルほど後ろを過ぎるに留まった。三つに編まれた後ろ 髪の毛の一筋さえ斬り飛ばさない。それほど離れた距離を行き過ぎただけなのだ。
138 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:13:35 ID:kJ+sIZLD0
にも関わらず鐶が背中を海老反らせたのは、背中から腹部までを刺し貫かれたような痛覚 を覚えたからだ。果たして腹部を見る鐶だが、しかし意外なコトにそこにはなんら傷がない。確 かに肋骨の下を冷たい刃が駆け抜けて、みぞおちが爆ぜる感覚がしたにもかかわらず。 忍法百夜ぐるま。これは影を斬り実体にその感覚を与える魔技である。 いま、剣風乱刃は燦然たる金の帯を引きながら鐶の周囲をうねり始めた。 そのほとんどは鐶の背後に伸びる影から現れ或いは没し、亜空間の出入りとともに激しくも あやふやな痛みを鐶に与えていく。と同時に確かに鐶に当たる刃もある。肩に掠る物、脇腹を 薙ぐ物……手足を削る刀傷のところどころからは、思いだしたように偽血がとろとろと流れドス 黒いアスファルトへ滴り落ちていく。 痛みは虚実さまざまであり、鐶は自らの正確なダメージが把握できなくなってきた。 (……二つ、分かりました) 根来の用いる忍法は、ホムンクルスに対して直接的な攻撃力がない。それもそのはず、元来 ホムンクルスは錬金術の力でしか破壊できないのだ。いかに人智を超越した根来忍法といえ ど、あくまで補助的な役割にすぎない。それが証拠に空中戦やいまこの時に根来が鐶に与え たダメージというのは武装錬金たるシークレットトレイルのみに依っている。 (つまり…………忍法は……武装錬金を当てるための囮。うかつに怖がって下手に動けば…… あの人の思うツボ。私は……ちょっと抜けている部分が……あるので……しっかり考えないと) そして根来の「思うツボ」、というのは……。 (ある程度まで私を傷めつけ……回復する直前、他の戦士さんたちとともに…………一斉攻 撃を仕掛け……態勢を崩し……回復時間と体勢なおしのタイムラグを利用して……何らかの 切り札をブツける……つもり、でしょうか……? 他の戦士さんたちを敢えて後ろに下げて…… 私を辿りつけなくしているのはたぶんそのため……。でも、切り札って……なんでしょうか) 嵐のような剣のうねりと虚実入り混じる激痛と、目の前をゆらゆらと乱舞する無数の根来を 青く虚ろな瞳でぼうっと眺めながら鐶は思考を進めた。
139 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:14:30 ID:kJ+sIZLD0
(切り札は……なんでしょうか。私の回復を止めるのか……それとも回復しても戦闘不能にで きる圧倒的な攻撃……? 私の回復の秘密……『補充』の仕組みが見抜かれた気配はいま のところないので……仕掛けてくるとしたら、力押しで、強引で、理不尽な攻撃の筈) 思考に没入する鐶は気付かない。体の傷がますます増えているのを。いやむしろ、回復が あるからこそ多少の傷など気にせず思考に没入しているのかも知れない。 (もし、この忍者さんが……大火力で私を殲滅するなら……他の戦士さんたちを退避させた意 味も分かりますが…………それならわざわざ私を忍法で牽制する必要はありません……。あ の刀で亜空間に隠れ潜み…………不意打ちで大技を仕掛ければいい、だけですから……。 そして亜空間に潜めるだけの刀に…………私の回復を妨げるようなものはない、です。となる とこの忍者さんはあくまで牽制役……。他に私の回復を無効化できそうな戦士さんは…………) 斗貴子・剛太・桜花は除外される。 戦った感触ではそれほどの攻撃力はないし、第一彼らと交戦した無銘・貴信・香美・小札か ら伝え聞く限りでも、回復を妨げるような「隠し手」は見当たらない。 千歳の瞬間移動そのものは脅威だ。もっとも彼女自身は既に年齢退行しているため、敵で はない。現にすでに何度か瞬間移動の瞬間を狙って攻撃を仕掛けている。それを目の当たり にしてなお戦士が千歳を切り札にする道理はない。 (消去法でいくと…………切り札を持っているのは…………) 防人。 これまで、他の戦士と違いブレミュとの交戦がないため、全容はまだ明らかになっていない。 (実際……私と撃ち合えるのはあの人ぐらい……です。もしさっき、ハヤブサ形態の私の攻撃 を正面から迎え撃った技(一撃必殺・ブラボー正拳)は結構強かったので……あれより強い必 殺技があるなら……回復の隙にクロムクレイドルトゥグレイブを破壊し……『補充』を阻止する コトができるでしょう…………もっとも、私の武装錬金は硬い、です。破壊されたコトはありま せん。……リーダーの切り札を浴びても……壊れません。だから……武器破壊に狙いを定め てくれると……嬉しい、です。あ……。というか)
140 :
永遠の扉 :2008/08/31(日) 13:16:42 ID:kJ+sIZLD0
薄ぼんやりと鶉隠れの中でズタズタにされていた鐶は気付いた。 (あの忍者さんを倒してしまえば…………戦士さんたちの目論見は達成できないのでは?) 根来を倒す、ごく当たり前の発想だが、いま鐶の目の前には無数の鏡に映る無数の根来が 所狭しと動き回っている。一体何体いるのか分からない。むかし戦ったムーンフェイスは同時 に二十九体(残り一体は下水道処理施設にいた)しか出てこなかったが、心もちそれを五倍し たぐらいの根来がいるように思われた。 「日本野鳥の会」 鐶は短剣を持ち替え、ゴングに似た柄頭をカウンターに見立てて親指で叩き始めた。 「お姉ちゃんと昔……紅白で見て以来……日本野鳥の会は好き、です」 ちなみに日本の野鳥の会といえば紅白で観客がどっちに投票したか数える姿が印象的だが 実際に彼らがそうしたのは1981〜1985年と1992年の6回であり、1993〜2002年の10 回は麻布大学野鳥研究部が数えたという。(ウィキペディア「日本野鳥の会」の項より) 「かちかち。かちかちかちかち……えーと、百十二人、です」 ざっとそれだけいるのですか、と鐶は呟いた。同時に左肩が刀にごっそり削り取られて破片 が目に当たったが、彼女は瞬き一つせずただただぼーっと無数の根来を見た。 「簡単には……忍者さんを見つけられませんね……。亜空間にいる可能性も……ありますか ら…………。あ、でも、忍びの水月は確か無銘くんが……」 鐶は見ていた。秋水と無銘の戦いを。もちろん、その戦闘の途中で秋水が忍びの水月を破っ たのも見ている。 (えーと、確か……『鏡に映った虚像は、本体と左右が逆』なので……殺気を頼りに大まかな 位置を絞り込んで……他と左右逆な物を攻撃すればいい……でしたね。でも左右逆な部分は ……えーと」 鐶は根来を見た。そういえば先ほど彼が千歳をかばった時に肩を刺した記憶があるが、は て、右だったか左だったか。人混みに紛れて斬りつけもしたが、移動集団に紛れる悲しさ、流 石にどこを斬りつけたかまでは定かではない。ただ。 (前髪) 根来の顔半分を暗く覆い尽くす直角三角形の前髪。
鏡に映る根来らはことごとくそれで『顔の左半分』を覆っている。
(というコトは……本物は、…………『顔の右半分』に前髪が?)
鐶は金の刃をくぐり抜け、ゆっくりと歩き出した。
以下、あとがき。
PCの調子がやや悪い。
専ブラで書き込もうとするとビープ音が鳴る。怖いので設定いじって鳴らなくするものの、「今、
ビープ音がなるようなコトをしているのではないか。それで故障に近づいているのではないか」
とヒヤヒヤする、そんな日曜日。ビープ音やエラーメッセージやブルースクリーンは怖いものです。
>>101 さん
ボス前なのでw 鐶が「脅威」として映っていれば幸いです。
>>102 さん
あれこれの忍法を取っ払っても、根来は「役どころ」を理解し考え全うすると思うんですよ。
奇兵っちゃ奇兵なんですが、戦団から逐電したりせずホムンクルスと戦ってますし。で、剛太。
ピリオドでいい男への道が開けたから、斗貴子さん以外からもいい影響を受けて成長して欲しいですね。
ふら〜りさん
本来はもっとこう、緩慢で、総角の指示に思考を丸投げしてる感じにする予定だったのですが
どうも群衆に紛れて以来あれこれ考える子になってしまいました。>鐶 おかげでモノローグが
多くなり、前回の伏線回収が次回以降に……うーむ。三点リーダが多いと、それだけで文章喰いますしね……
>>104 さん
原作で戦部の高速自動修復が出てきた時は、「反則だ!」と手を叩いて笑ったものです。
キン肉マンといえば同人ゲームで「ビッグボディが3つの伝説技(ただし全部間違った解釈!)
使う」ってのあるじゃないですか。これとか忍法満載でややチートな根来とかできるのが二次創作の面白さじゃないでしょうか。。
142 :
ふら〜り :2008/08/31(日) 22:17:13 ID:uhr6Qh6J0
>>VSさん ・150分! そういや昔、烈がフンハで独裁スイッチを破ってたような。その上を行くあたり流石の江田島。 何があろうと相っっ変わらず一人動じず、のみならずきっちり勝ってるあたり流石過ぎるアカギ。 ・いっぱい分! さすがラス前、懐かしい面々が! そして↑で言ったばかりのアカギが遂に陥落。主人公(です よね)が勝った(かなぁ?)ところで麻雀編も幕。次回感動のフィナーレ……感動……なるか? >>サナダムシさん 本当に無邪気で可愛い、見てて微笑ましいシコル。同じバキSSとしては、パオさんの本部や Z戦士さんのバキを思い出します。ゲバルも、これほどまっすぐに喜ばれたり感動されたりしたら (内心では)おもはゆかったりするのでは。にしても珍しく平和な光景、さぁいつまでもつか? >>スターダストさん >『瀕死寸前の状態で反撃不能の一斉攻撃を叩き込む』 あぁKOF95のチンだ懐かしい。ここんとこ鐶の強さに感嘆してばかりですけど、今回は根来 の思考を見事に見抜いてますね。根来のことですからもう一枚、鐶に及ばせない策があると 信じてますが。でも鐶は鐶で、千歳が感じてる「何か」がまだある。一進一退、まだ終わらない。
「空を見て! スターマンだよ! きっと僕らに会いたがってるんだね!」 彼は地上に降り立ちたかったが、同時に怖がってもいた。自分が子供達の心を狂わせてしまうのではと。 第三話 『INTERVIEW WITH THE VAMPIRE』 「寄宿舎に着いたのはいいけど……う〜ん、どうしよう……」 住み慣れし我が家、それは銀成学園寄宿舎。 その正面玄関前でまひろは仰々しく腕を組んで頭を捻っていた。 眠気を誘う50分の授業を六度耐え切って一日を終え、あとは門をくぐれば、迎えるは週末の夜。 何がそんなに彼女を悩ませるのか。 答えは三つ。 ひとつは―― オドオドとした様子で横のまひろと目の前の寄宿舎を交互に見ている長身の外国人女性。 己が吸血鬼であるという事実をひた隠しにしたままのセラス・ヴィクトリアだ。 もうひとつは―― 寄宿舎の広さである。 相当な築年数と思われる年季の入った木造建築で、二階建てと高さこそ無いものの、敷地面積は そこいらのマンションにも負けてはいない。 学校までの距離の問題や家庭の都合等、実家からの通学が難しい生徒達の暮らしを一手に引き受けて いるのだから当然と言えるのかもしれないが。 つまり、セラスをまひろの部屋に連れて行くという事、イコール、異邦人であるセラスがこの広大な 寄宿舎内を歩き回らなければならないのだ。
そして、最後のひとつ―― 寄宿舎内に住まう多数の生徒達の“眼”。 誰の眼にも触れられずにまひろの部屋までセラスを連れて行けるのかと考えれば、甚だ心もとない。 幸いにも夕食時間の真っ最中である為、大半の生徒は食堂に移動しているのだろうが、それでも誰かに 遭遇する確立の方が高いだろう。 ただでさえ人目を惹く金髪碧眼白皙の外国人なのだ。 通学生の友人を連れて歩くのとは訳が違う。 「どうしたらいいかなぁ〜。変装……? 窓から入る……? セラスさんを箱に入れる……? う〜〜〜ん」 頭だけではなく遂には身体まで捻りながら唸り続けるまひろ。 そんな彼女にセラスが遠慮がちに話しかけた。 「あ、あの、まひろちゃん。ちょっといい事を思いついたの。たぶん上手くいくとおもうんだけど……」 「えっ? なになに? どうするの?」 ウェーブのかかった茶髪から見え隠れする耳が内緒話を聞くようにセラスの口元に寄せられる。 「あのね、出来るだけいつも通り部屋に戻ってくれないかな。まひろちゃん一人で」 おかしな話だ。どうやったら彼女を見られないように部屋に連れて行けるかと悩んでいるというのに。 予想外の不可解な提案に、まひろは至極当然の疑問を返す。 「でも……セラスさんは?」 「私なら大丈夫。ね?」 セラスはまひろの肩をポンポンと叩きながら、仲良く雨に打たれて乱れてしまった彼女の前髪を 優しく整える。 斗貴子とはまた違う雰囲気の“お姉ちゃん”を肌で感じ、じんわりと喜びが湧き出てくるが、 今はそんな場合ではない。 「う、うん……」 セラスのやけに自信たっぷりな様子を見て思わず頷いてしまったが、その意図はわからないし、 入口の前に置いていくのも心配だ。 まひろは気が進まぬままに正面入口から玄関へと足を運ぶ。 何度も何度も立ち止まって、セラスの方を振り返りながら。
「あ、おかえりー。遅かったねー」 「おう、武藤。下げられちまうから早く食堂行った方がいいぞ」 やはり予想通りである。 自室へと向かう道のり、数は少ないが早めに食事を終えた生徒やこれから食堂へ向かう生徒がすれ違い、 声を掛けてきた。 その度にまひろは「え? あっ、あー。う、うん。アハハ」などとひどく挙動不審な返答でビクリと 反応してしまう。 更には何度と無く不安げに後ろを振り返る。 もしかしたらと思ったが、まひろの後を付いてくる様子は無い。 そんな怪しさ満点の動作を頻繁に繰り返しているうちに、たどり着いたのは自室の前。 セラスに何のアクションも見られないまま、まひろ一人が自分の部屋に着いてしまった。 (もう一度、玄関に戻ってみようかな。でも「いつも通りに戻って」って言ってたし……) 入口の前にセラスを置いてきてしまっているのだ。 まひろはそれでも尚、しばらく戸の前で自分が歩いてきた廊下の先を未練たっぷりに眺めている。 「セラスさん、どうするつもりなんだろう。大丈夫かなぁ……」 しかし、いつまでも部屋の前に立っていても事態が好転する訳ではない。 ためらいながらも、まひろは自室の戸を開けて中に入った。 そして、真っ先に眼に飛び込んできたものは―― 「ハハ、ども……」 ――申し訳無さそうに笑うセラスの顔。しかも、どアップで。 「うわっ! びっくりしたぁ!」 本来そこにいる筈の無い、セラスの突然の出現。 流石のまひろも驚愕のあまり後ろに飛び退き、背を戸に打ちつけた。
「ご、ごめんね、驚かせちゃって」 慌てて謝るセラスに向かって、まひろは大きく丸い眼をいっぱいに開いて矢継ぎ早に尋ねる。 「どうやってここまで来たの!? いつの間に!? 何で部屋の中にいるの!?」 「んっ、うぅ……」 セラスは言葉に詰まった。 まさか“外からまひろの足音を聞き分けて部屋の位置を割り出し、彼女が戸を開けた瞬間に眼にも 留まらぬ速さで寄宿舎内を走り抜け、部屋の中に飛び込んだ”とは言えない。 自分はただの外国人。吸血鬼? 何それ、食べれるの? この親切で人の好い正直そうな女の子ならあるいは、とは思う。 だが、やはり秘密にしておいた方が何かと丸く収まるだろう。それはまひろの為でもあるのだ。 「ええっと、そのぅ、つまり……。ま、窓! 何とな〜くまひろちゃんっぽい窓があったの! そ、それで忍び込んでみたら、ちょうどまひろちゃんが入ってきたとこでね。アハ、アハハ……」 脳髄をフル回転させた割には、何とも苦しく稚拙極まる嘘しか出てこない。 まひろは最初、キョトンとした顔でセラスの怪しい説明を聞いていたが、やがて感心混じりの 笑顔で彼女に近づいた。 「そうなんだぁ! しばらく住んでたら窓にも私っぽさが出るんだね。でも、良かった。誰にも 見られなくて――」 まるでそうしたくてウズウズしていたと言わんばかりに、まひろはセラスに飛びつき、その豊満な身体を ギュッと抱き締める。 「――もう安心だよ! ゆっくりしていってね!」 ども、こんばんは。さいです。 申し訳ありませんが今回はレスへのお返しは出来ませんでした。 間が空いた上に文章量も少なくてホントすみません。 なるべく早く多く書いていきたいです。 では、御然らば。
147 :
作者の都合により名無しです :2008/08/31(日) 23:10:58 ID:irWP/tfl0
スターダストさん、さいさんお疲れ様です >永遠の扉 根来と鐶の作戦の立て方が対照的ですね。 根来は忍者だけあって客観的に物事を冷徹に判断しますが 鐶はいろいろと迷いが多い。どっちかというと鐶のが好きだな。 >さいさん スターマンというとマザーをなんとなく思い出すw まひろを前にするとセラスもお姉さんっぽくなりますな。 ヘルシングでは周りと相対的にお子様みたいだけど。
鐶戦、というかこの章ムチャクチャ長い気がする・・ スターダストさんの思い入れが深いんでしょうけど さいさんお体は大丈夫でしょうか 可愛いセラスとまひろのコンビ期待してます
149 :
作者の都合により名無しです :2008/09/01(月) 10:31:26 ID:m4y+ojwQ0
鐶はボス前なのである程度のボリュームは必要と思う 根来が大活躍なので俺はうれしい。原作では不遇のキャラなので さいさんの作品、セラス出てきて楽しみだけど なかなかお話が動かないなー。お仕事忙しいから仕方ないでしょうけど
さいさんにしろスターダストさんにしろ ブログまめだな、はじめて見に行ったけどびっくりした
151 :
しけい荘戦記 :2008/09/01(月) 22:57:23 ID:sADEklT70
第十二話「開けるな」 退屈な午後だった。予定もなければ気力もない。中途半端な暑さだけが大気中を漂って いる。時計の針までもが気だるく動いているような錯覚を受ける。 シコルスキーは部屋で寝転がりながら小説に目をやっていた。読んでいるわけではない。 単に目で追っているだけ。字を読む活力すら失われている。 一方、同居人であるゲバルは小さな瓶に耳を当てていた。身体を一切動かさないという 点ではシコルスキーと同様だが、こちらは真剣な表情で耳を澄ませている。 退屈に耐えかねたシコルスキーが尋ねる。 「ゲバル、さっきから何をやっているんだ?」 ゲバルが瓶から耳を離し、答えた。 「故郷の音を聴いていたんだ」 「故郷の音?」 「雨と風と波と雷が、この中には詰まっている」 再び耳を瓶にくっつけるゲバル。 「もし、蓋を開けたらどうなるんだ?」 「決して開けるな。しけい荘を水没させたいなら別だが」 忠告するゲバルの目は本気(リアル)だった。 結局これ以上瓶について知ることはできず、日は暮れ、退屈な午後は終わりを告げた。 禁止されると実行したくなる。並外れた自制心がなければ抑えられぬ、人間心理の一種。 シコルスキーは瓶の中身が気になって仕方なかった。 普段、小瓶はロッカーの中に無造作に置かれている。厳重に保管されているわけではな いので、開けるだけなら簡単にできるはず。 「……やってやる」 シコルスキーの決意はセメントのようにいとも簡単に固まった。 夕食後、ゲバルは必ず夜道を十五分ほど散歩する。決行はその時だ。 この日の献立は食パンと梅干し。和と洋が絶妙にブレンドされた一品である。あっとい う間に平らげると、 「ちょっと散歩してくるよ」 ゲバルは出かけて行った。
152 :
しけい荘戦記 :2008/09/01(月) 22:58:55 ID:sADEklT70
シコルスキーの胸が高鳴る。十五分あれば「蓋を開けて中身を確かめて蓋を閉じる」一 連の行動を済ますことはたやすい。 「よし……開けるぞ」 なぜか忍び足でロッカーに近づくシコルスキー。 直後、いきなり部屋のドアが開いた。喉から心臓が飛び出しそうになりながら、あわて てシコルスキーは元の位置に戻る。 入ってきたのは、ついさっき散歩に出かけたゲバルだった。 「全然月が見えなくてさァ……雨も降りそうだったし、散歩は止めたよ。あれ、なんで体 育座りしてるんだ」 「え?! いや、あ、好きなんだよ、体育座り」 「ふぅん……」 掴みかけたチャンスが一瞬にして水泡と化した。掴めるのはいつもナットやスプリンク ラーばかり。シコルスキーは己の運命(さだめ)を呪った。 今夜はもう無理だと判断し、布団を敷くシコルスキー。こういう日は早く諦めて寝るに 限る。 するとまたもドアが開かれた。今度はドイルだった。 「二人とも、起きてるか? 上等なアードベッグが手に入ってたんだ。私の部屋で一杯や らないか?」 嬉しそうに立ち上がるゲバル。 「いいねぇ、是非」 「シコルスキーは?」 「インフルエンザなんで遠慮するよ」 「そうか。じゃあゲバル、201号室に来てくれ」 まもなく二人ともドアの外に消えていった。再度興奮状態に陥るシコルスキー。 「ふ……ふしゅる……ふしゅ……。きっとスプリンクラーの神が味方してくれたに違いな いッ!」 彼くらいしか信仰者がいそうもない神に感謝しつつ、シコルスキーは再びロッカーの前 に立った。 ──迷いはない。 ロッカーを開く。小瓶を取り出す。蓋を開ける。神速の三動作であった。 「こ、これは……ッ!」
153 :
しけい荘戦記 :2008/09/01(月) 22:59:44 ID:sADEklT70
世界が変わった。 猛烈な嵐が飛び出した。この世に災厄をもたらしたパンドラの箱のような、絶望的な勢 い。雷雨がシコルスキーを穿ち、津波がシコルスキーを呑み込む。 とはいえシコルスキーも歴戦の勇者、冷静に対処しようとする。 「そ、そうだ……死んだふりだ」 全く冷静ではなかった。 しかし嵐は程なくして収まり、ずぶ濡れになったはずの体も乾いていた。 「──あれ?」 瓶は空っぽ。散らかったはずの部屋も何事もなかったかのように落ち着いている。シコ ルスキーは一つの結論に至った。 「い、今のは……イメージだったのか……?」 あとは瓶を元通りにしまっておけば、もうゲバルに発覚することはない。だが無断で瓶 を開けてしまった罪悪感が、シコルスキーを内側から責め立てる。 シコルスキーはあることを閃いた。 「お詫びに代わりのものを詰めておこう」 ゲバルは次の日も小瓶に向かって耳を澄ませていた。ところが違和感があるのか、時折 首を傾げている。内心でビクビクしながら同じ部屋で本を読むシコルスキー。むろん、内 容を楽しむどころではない。 「……おかしいな」 「どうしたんだ?」 「音がまるで聴こえないんだ。シコルスキー、もしかして蓋を開けたか?」 「いや、知らないな」 平然といってのけた。もう少しで心臓を吐きかけるところだったが。とにかくこうして しらばっくれていれば、絶対にバレることはない。なにせ証拠がないのだから。
154 :
しけい荘戦記 :2008/09/01(月) 23:00:15 ID:sADEklT70
「仕方ない、開けてみるか」 瓶に起きた事態を確かめるべく、ゲバルは自ら封印を解いた。 ──すると。 もわっとした臭気を伴い、瓶から巨大なシコルスキーが召喚された。 唖然とするゲバル。 巨大シコルスキーはゲバルに巨大な尻を向けると、思い切り屁をこいた後、満足したよ うに消滅した。 全てを察したゲバルが目を向けると、シコルスキーはすでに逃げ出す準備をしていた。 「ヤイサホォォォォッ!」 「ダヴァイィィィィッ!」 時刻は正午、命がけの鬼ごっこが開始された。
第十二話終了です。 家についたら福田総理が辞めてて驚きました。
シコルスキーも歴戦の勇者だったな、そういえば・・ バトル編のシコルはかっこいいけど。 ダヴァイ!(来い!)といいながら逃げるシコルが可愛いw
157 :
作者の都合により名無しです :2008/09/02(火) 10:23:29 ID:NcTh5N0P0
結構いいコンビだなヤイサホーとダヴァイは でもこのままいくとバトル編の面子が足りないけどどうするんだろ バトル編無しは勘弁してね
懐かしいなダヴァイ… もう出てこないだろうな原作にはシコルスキー。 ヤイサホーやドイルやオリバは可能性あるだろうけど…
やあ (´・ω・`) ようこそ、タルタロスへ。 このシャドウはサービスだから、まず落ち着いて奇襲されて欲しい。 うん、「出戻り」なんだ。済まない。 仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。 じゃあ、短いけど投下させてもらいます。
4月23日 午後7時20分 巌戸台分寮 玄関ロビーに承太郎を除く、S.E.E.S.のメンバー全員が集まっていた。 誰がつけたのか、テレビが取るに足らない情報をノイズと共に垂れ流している。 それを順平がノロノロとソファから立ち、電源を落すと、再びソファにドスンと腰を下ろす。 順平はメンバーの顔を順番に見てから、ポツリと声を漏らした。 「圧倒的だったっスね。 いや、事前に聞いてたから分かってたはず…なんスけど」 順平の言葉に続くように、ゆかりも昨晩目の前で起こった事を思い出しながら口を開く。 「よく、『聞くと見るとじゃ大違い』って言うけど…。昨日ほど実感した事はないよ」 阿虎も、その言葉に同意するようにこっくりと頷く。 そんなS.E.E.S.一年メンバーを横目に、真田は美鶴にそっと問いかける。 「おい、美鶴。お前は様子を見てたんだろ? 俺だけ見ていなくて、状況がつかめん。俺にも教えてくれないか?」 真田は、自分だけ見ていないと言う疎外感からか、若干不満げだ。 美鶴は軽く息を吐くと、1年メンバーに向かって、話しかけた。 「お前達、昨日の空条先生の活躍を、明彦が知りたいそうだ。 私から伝えてもいいのだが、実際に目の前で見た者の方がより鮮明に伝えられるだろう? では、天道、岳羽、順平の順番で説明してやってくれ」 言い終わってから、美鶴は視線で阿虎に話を促した。
話を振られた阿虎は、昨日の出来事を少しの間思い返して、真田に伝える。 「空条先生のスタンド、『スター・プラチナ』の上から打ち下ろしたパンチがシャドウを貫通、 そのまま床に炸裂して、周囲数メートルがクレーターになってました」 「そーそー。あの時は下の階と繋がるかと思ったッスよ。本気で」 阿虎の言葉に、順平が一言付け足す。 続いてゆかり。 「順平、アンタ何の話でも首突っ込んでくるのやめなさいよ。 えーと、私が印象に残っているのは…、シャドウが完璧に怯え切ってたことですね。 もう逃げ場が無くなって、追い詰められて、飛び掛って来て…、その結果は彼の言ったとおりです。 私、シャドウとはいえ、ちょっと同情…しました」 締めに順平。 「生身でも半端ないっス。向かってくるシャドウはスタンド使わずにほとんど自分で相手してたし。 天道が言ってたのだって、ゆかりッチが矢を番えようとした隙を狙ったシャドウに対してなんスから。 あと、状況判断がバツグンッつーんスか?戦ってても周りが良く見えてんスよね、冷静だし」 そこまで聞いて、真田は呆れたような顔で口を開く。 「タルタロスの一部が破壊されても、通常の学校には特に影響は無いんだな・・・。 それはともかく、正に『聞きしに勝る』と言うわけか。 戦力的には大幅にアップだが、しかしな…」 真田は、少しばかり難しい表情を浮かべている。見れば美鶴も似たような様子だ。
「何でッスか?新戦力は超強力。戦力増強、これで安心タルタロス。 いい事尽くめじゃないっスか」 3年生の表情に、順平は疑問の声を上げる。 「戦力的なバランス、と言うものがある。 確かにこのまま、空条先生に引っ張っていってもらえば、攻略は楽だろう。 しかし、それでは我々が成長できない。 未熟なまま上を目指しても、それでは意味が無いんだ。分かるな?」 諭すような口調で美鶴は一年全員に向かって言った。 「そっか…。考えたくないけど、空条先生が戦えない場合だってあるかもしれない。 その時に、私達だけじゃ何もできない。そんな事じゃ確かに困りますもんね」 呟くように言ったゆかりの言葉に一同は同意するように頷いた。 「しかし、実際どうする?」 真田が、当然の言葉を口にする。 いる以上、どこか頼りにしてしまうのは仕方が無い事だ。 そこからなし崩しに、頼る部分が多くなってしまう可能性もある。 「そうだな…」 PiPiPiPiPiPiPiPi! 考えようとした矢先に、携帯電話の着信音がロビーに響く。
「すまない、私だ」 断りを入れて、美鶴は携帯を取り出す。 「はい、桐条ですが…。これは、空条先生。 はい。はい、…分かりました。皆に伝えておきます」 短い会話の後、パチリと携帯電話を閉じる。 「先生から?何の用事でした?」 伺うような声で、阿虎が尋ねる。 「話があるから、今夜タルタロスに集合して欲しいそうだ。 帰りが遅くなりそうなので、空条先生は現地集合と言う事らしい」 美鶴は先ほどの通話の内容を纏めて、皆に教える。 「話・・・ッスか。うわ、昨日の駄目出しとかだったらどうしよ!?」 順平が自分で言った言葉に身震いする。 今の順平の頭には、タルタロスのエントランスで自分を含む1年のメンバーが、 全員正座で説教されている光景が浮かんでいる。 「うっわ。それマジ洒落にならないんですけど。 自分達は頑張っているつもりでも、空条先生から見たらまだまだなトコ沢山あるだろうし。 …ホントにお説教覚悟したほうがいいかな…?」 少しばかり不安そうな顔でゆかりは阿虎を見る。 流石の阿虎といえども『どうでもいい』と返す事はできなかった。
恥ずかしながら戻ってまいりました。 エニアです。あれから・・・いろいろあったもんだ。 野郎3人で沖縄に行って見たり、海ではしゃいで見たり、 ・・・ハシャギすぎて溺れてICUに直行してみたり・・・(・ω・`;) ま、懲りずに今年も行くんですけどね。 仕事にも慣れ、落ち着いた時間も取れるようになったので ペースは遅いとは思いますが、またボチボチ書いていこうと思ってます。
エニアさんって・・ 承太郎とペルソナ3のコラボ書いてた人か! すっごい楽しみにしてたのにいなくなってがっかりした思いがある。 まさかペルソナ4が発売されてから帰ってくるとはw お帰りなさい。またお願いします
166 :
作者の都合により名無しです :2008/09/03(水) 10:42:56 ID:GvJD028t0
えらい懐かしい人が帰ってきてくれたな。 投げ出しだと思ってたんで嬉しいよ 世界最強の教師・承る太郎の活躍を楽しみにしてます
ジョジョの奇妙な冒険 第三部外伝未来への意思
http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/195.html ↑
俺も読み直したので内容ちょっと忘れちゃった方はどうぞ。
この作品は俺の「期待してたのに投げ出されちゃった作品」
ランキングの中でも上位3作品のうちの1つなので復活は嬉しい。
(ちなみに他の2つはうみにんさんとミドリさんの作品)
どうか完結まで時間掛かってもいいので頑張ってくれますように。
その昔、半年1年ごとに復活宣言してそのたびに投げ出して
やっぱり最後も投げ出して消えた職人を思い出した。ザクという男。
一緒にしてはエニア氏に失礼かw
いたなザクw とにかくエニア氏お帰り。 マジ楽しみにしてるので消えないでね。
おおおお!エニア氏復活すっげうれしい! ぼちぼちでいいんでテンプレから外れない程度に書いてってくれると嬉しい。 楽しみにしてるから。 今回は話しのつなぎっぽいので次の展開に期待。
170 :
ふら〜り :2008/09/04(木) 21:53:25 ID:TGdVmuZk0
何ヶ月ぶり、いや何年ぶりにでも、描きたくなったらいつでも描ける。 ここはそんな場所ですよね。だからこそ、こうして続いてる。 >さいさん ありのままを話すと、超スピードなんてチャチなものじゃねえ、もっと恐ろしい超々スピードを 見ました。「タネも仕掛けもない」って言葉がこれほどハマる技があろうとは。技と言えば、 さいさんやスターダストさんだったら「まひろらしい窓」を見分けられるかもと思ったりして。 >サナダムシさん シコルの可愛さが、具体的に「子供らしさ」だと確認しました今回。好奇心とか罪悪感とか、 体育座りとか神様とか。お詫びをしてしまったが為に悪事を隠蔽できなかったってのがまた、 悪いことできない子だなぁと頭を撫でたくなったり……ってまあ本来は死刑囚なんですけど。 >エニアさん まぁ戦いの年季が違いますぜわはは、と我がことのように誇らしい気分です。原作中の戦歴 でもリアル時間の流れでもベテラン、スタンドのみならず、本人の頭脳も肉体も強力。ジョジョ 4部で魅せた頼もしさを期待しつつ、ペルソナチームにも呑まれぬよう頑張って欲しいところ。
しかしこれで一番強かったのはペルソナメンバーと同年代の頃だったのだから恐ろしい>承太郎
ふら〜りさん1行目、ザクさんに強烈な皮肉ですな
173 :
しけい荘戦記 :2008/09/05(金) 00:20:21 ID:/9vc5yUd0
第十三話「戦争」 鮎川ルミナは成長した。 シコルスキーとの決闘で芽生えた男としての覚悟が、彼を変えたのである。 「鮎川君、変わったよね」 「うん。おどおどしなくなったっていうか、堂々としてるっていうか」 「もうあいつを弱虫だなんていえないや」 本人が一皮むければ周囲の評価も当然変わる。あの日を境に、ルミナの人生は明らかに 好転した。 しかし、これが面白くないのは今までルミナをいじめていた級友たちだ。いじめはある 意味「世論」によって成り立つ。世論に弾かれた者だからこそ、堂々といじめという名の 制裁を加えることが可能になるのだ。クラスの大多数の支持を得ようとしているルミナを いじめることはもうできない。彼らは楽しみを失ってしまったのだ。 特にルミナをしけい荘に向かわせた三人組は先陣を切っていじめていたので、クラスで の立場も微妙なものとなっていた。 放課後、昇降口でルミナといじめっ子トリオが遭遇する。 「おい鮎川、てめぇ、調子に乗ってんじゃねえぞ!」 「調子になんか乗ってないよ」 「なんだと! おい、俺のケータイに撮った恥ずかしい写真、まだ残ってんだぞ、ばら撒 いちまうぞ。いいのかよっ!」 「別にいいよ、好きにすれば。もう僕は逃げないって決めたんだ」 「ぐっ……」 かつて脅迫の材料にするためにむりやり撮影し、大量に保存した恥ずかしい写真の数々。 昔はこれでルミナを操り人形にできたのだが、今のルミナには通用しない。クラスにばら 撒けば、たしかに恥辱を味わわせることはできるだろう。しかし、最終的なダメージは間 違いなく自分たちの方が大きい。担任や両親に怒られるといった程度の処罰(ペナルティ) では済まされないだろう。
174 :
しけい荘戦記 :2008/09/05(金) 00:21:40 ID:/9vc5yUd0
「じゃあ僕、急いでるから」 「あっ、おい、待てよ!」 ルミナは振り返ることなく下校していった。残された三人は恨めしそうにに唇を噛みし める。 「くそぉ……ふざけやがって……!」 いじめっ子を軽々とやり過ごしたルミナはというと、まっすぐしけい荘に立ち寄ってい た。あの日以来、少年はシコルスキーと奇妙な親交を結んでいた。 「こんにちは、シコルスキーさん」 「久しぶりだな、ルミナ。もういじめられてないだろうな」 「うん。もうあんな奴ら怖くないです」 決闘後、ルミナはなぜしけい荘に侵入したのかをオリバに白状し、それは敗北したシコ ルスキーにも伝えられた。むろんルミナは実力で勝ったとは思っていない。むしろ、超人 的な肉体と身体能力を誇るシコルスキーを尊敬すらしている。 「シコルスキーさんは相変わらず生傷だらけですね」 「こないだはルームメイトを怒らせちまって、青森まで全力疾走で逃げた挙句、アッパー で津軽海峡に殴り飛ばされたよ」 「……よく死ななかったですね」 「よくあることさ」 笑い合う二人。しばしの雑談の後、ルミナが頭を下げた。 「じゃあ今日は帰ります」 「またいじめられたら相談しろよ。加勢してやるから」 「もう平気ですよ。それじゃまた!」 去っていくルミナの背中を眺めながら、シコルスキーはぽつりと寂しそうにもらした。 「サムワン……。また一人、俺たちの仲間がいなくなったぞ」
175 :
しけい荘戦記 :2008/09/05(金) 00:22:54 ID:/9vc5yUd0
ルミナが通う小学校近くにあるファーストフード店。先程ルミナにあしらわれた三人組 がたむろしていた。 まだ苛立ちが収まらないのか、ハンバーガーやポテトをつまむ手つきまで荒れている。 「くそっ、鮎川の奴! ふざけやがってっ!」 「でも写真が効かないんじゃ、どうしようもないぜ。今まで“こっち側”だった奴らもだ んだんあいつの味方するようになったし」 「表沙汰になったら、俺たちのがダメージでかいしなぁ」 「表沙汰……?」 ふと、リーダー格の少年の目が危険な光を帯びた。 「おい、もう嫌がらせや脅迫なんてまどろっこしいのは止めだ。実力行使といこうぜ」 「え?」 「どういうことだよ」 「三丁目に廃ビルがあったろ? あそこにあいつを呼び出して徹底的にフクロにすんだよ。 生きてんのがイヤになるくらいに」 「はぁ? ……おまえ、なに考えてんだよ」 「そうだよ、ヤケになるなよ」 「バッカ、ヤケになんかなってねぇよ。狙うのは首から下、ボディだけだ、顔さえやらな きゃバレやしねぇよ」 「で、でもあいつがチクったら……」 「それも心配ねぇよ。あいつ妙に意地っ張りなとこあるから、ボコボコにされましたなん てまずチクれないさ。絶対表沙汰にはならない」 有無をいわさない邪悪な迫力に、取り巻きの二人は黙り込む。彼らもこの選択が一線を 超えるか超えないかの瀬戸際であることを理解している。 「どうした? おまえらだってムカついてるんだろ。ここらで鮎川を一発シメて、俺らが 上だって思い知らせとかないと、絶対後悔するぜ」 小学生らしからぬ非道ぶりに、まだ良心を保っていた取り巻きたちはあっさりと呑まれ た。いやむしろこの常軌を逸した残酷さは、少年時代の特権なのかもしれない。 「……うん、やるよ」 「……俺も。うんと泣かしてやる!」 「決まりだな」 まだ幼いが凶悪な牙が三つ、密かにルミナを標的に定めた。近い将来起こる悲劇を、ル ミナはまだ知る由もない──。
バトル編はありますが、なるべく公平に活躍させたいところですがなかなか難しいです。 小競り合いみたいなものと大戦争を考えてます。 また、次回は新キャラが登場します。 克巳、お前はよくやった。
ルミナは成長したなあ シコルでは小学生3人にも負けそうだから バキみたいにたしなめれんな あとかつみんまだ負けてないです…
178 :
作者の都合により名無しです :2008/09/05(金) 10:28:37 ID:a/Wj/4ls0
今回は次回への繋ぎの回ですね。 ルミナの成長度がシコルより遥かに上w やっぱりバトル編は大決戦がいいかな。 でも、敵メンツが微妙に足りないかな?
意外と最終決戦はシコルVS成長したルミナだったりして
180 :
作者の都合により名無しです :2008/09/05(金) 23:50:16 ID:dxuQI5+q0
久しぶりにうんこも読みたい
ハンターハンターの世界には「念」というものがある。生命エネルギーを使って 色々なことができる能力だ。念で作ったギョウザはいくら食べてもなくならない。 「これなら死ぬまでギョウザが食べられるよ! モラウさんの念ってすごーい!」 ゴンはモラウの作ったギョウザをうまそうに食べている。口に入れる直前にモラ ウが素早くぶん取って皿に戻しているので、ギョウザは一個も減っていない。 「ギョウザ、うまいか?」 「うん! 味が全然しなくておいしいよ! あと全然お腹いっぱいにならないよ!」 「そーかそーか。ワハハハ」 モラウは嬉しそうに笑ってキセルを吸った。すぐ横ではキメラアントの王とネテ ロが闘っている。 「それなのにコリャ!」 ネテロはモラウの後頭部を思い切りぶん殴った。自慢の心Tシャツはズタボロに 破れて、全身傷だらけの見るも無惨な姿だった。 「会長のワシがピンチなんだから、下っ端のお前も闘えー!」 ネテロは地べたを転がりながら絶叫した。モラウは面倒くさそうに立ち上がった。 「キエー!」 王は王らしくない声を出してモラウに襲いかかった。王の念能力は闘った相手の オーラを食ってパワーアップする能力だった。実に恐ろしい。 「アホか」 モラウは王をつまみ上げて吐き捨てた。モラウは念をまったく信じていなかった。 「ガキじゃないんだから念とかかめはめ波とか言うな。あと王なのにキエーも禁止」 「キエー!」 王は尻尾で何度もモラウを刺そうとするが、ちっとも刺さらない。 「ギョウザがなーい!」 後ろからゴンの叫び声が聞こえた。そういえばゴンの相手をすっかり忘れていた。 ゴンは本当にギョウザを食べて、皿のギョウザは全部なくなっていた。 「はいはい、ギョウザギョウザ」 モラウは料理本のギョウザページを開いて皿の上に載せた。ゴンは大喜びでギョ ウザページを箸でつついた。 「またギョウザが増えたよ! モラウさんの念ってすごーい!」 「そーかそーか。ワハハハ」 モラウの念。それは人を思いやる心。
28分50秒くらい。最後なのでルール通りに書きました。 あと超大好きで超得意のハンターハンターのネタにしました。 みなさんお元気そうで何よりでした。
183 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:24:13 ID:irw2g/7f0
第071話 「滅びを招くその刃 其の玖」 御前は次から次から出来(しゅったい)する異様な光景に呆れかえっていた。 「無茶苦茶だアイツ。何でもアリじゃねーか」 「……なんで俺との戦いで忍法使わなかったんだ?」 それはともかく、と桜花は瞳を薄桃の光にさらっと輝かせた。 「これで勝負の瞬間までこちらが攻撃されるコトはなさそうね」 「で、でも、どうするの?」 千歳は半泣きで路上を指さした。 見れば辺りに満ちた鏡のせいで、鐶の姿が十も二十も蠢いている。 「これじゃどこに向かえばいいか分からないよ!」 「いや、お前のヘルメスドライブならば本体のところへ俺達を運べるだろう」 「あ」 「後は彼が瀕死直前に追い込むのを待つだけだ」 斗貴子の期待を読んだかの如く、根来はいま一つの核鉄を突き出した。 それはシリアルナンバーLXXXIII(83)。元は貴信の物である。 「ダブル武装錬金。……」 (飛刀を増やし……私を追い込むつもりでしょうか) 短剣をびっと一振りし警戒する鐶をよそに核鉄は旧態依然、まるで変化を見せぬ。しかし根 来のするコトだ。作動不可に乗じて飛び込んだ所に無音無動作の抜き打ちのような刃を浴び せるコトも十分にありうる……。 そんな逡巡も一瞬だけ鐶をよぎったが、彼女は構わず駆けた。単純で放胆すぎる行為といえ るが根来に流れを作らせないという点では合理的であろう。 (攻めてみれば……分かるコト) 対する無数の虚像のいずこからくぐもった舌打ちが響いた。 「使用不可のようだ」 そのまま彼はぱっと核鉄から手を放しポケットに滑り込ませた。 (ダメージを受けているから……恐らくそのせい) 貴信戦でハイテンションワイヤーが負った傷は現在でも完治していないとみえ、貴信の核鉄 はまだまだヒビが残っている。使用不可もむべなるかな。そういえば、と鐶は思い返した。根 来の突き出した核鉄は、心持ち色艶や輝きさえくすんでいた。それこそ核鉄が使えぬという
184 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:25:25 ID:irw2g/7f0
根来にとっては重大な、鐶にとっては幸運な、何よりの証拠ではないか? 転瞬、鐶は胸を細い息にすうっと膨らませた。 (刀が一本だけなら真・鶉隠れを突っ切るコトが……可能。だから今から忍者さんの所在を突 き止めます。……狙うは『顔の右半分に前髪がある』忍者さん) ビデオの一時停止を解除したかのごとく再び乱舞し始めた無数の根来と無数の金の忍者刀 を鐶は縫っていく。虚像をすり抜け刃を物ともせず駆ける少女は、足取りこそしなしなと軽やか であるが一種の魔人めいたおぞましささえ漂っている。 やがて鐶は首を一回転させ、虚ろな瞳にわずかな光を灯した。。 果たして目指す根来は右斜め後方六メートルの電柱の影にいた。 『顔の右半分に前髪がある』根来。それが忍びの水月を生み出したただ一つの本体。 鐶は返す踵を地にねじこむようにしながら怪鳥のように飛びあがり、根来を唐竹割りに斬り 下げた。 「……恐らく、ここまではあの人も予想済みの……展開」 柔らかな物を斬った感触がふわりと鐶の手首を行き過ぎると、両断された根来が白い布地も 一瞬露に、あろうコトか二体に分裂した。 忍法陽炎乱し。ヴェールのように薄く剥がした衣服の一部が術者の姿となり、相手を幻惑す る恐るべきわざである。 遠巻きの戦士たちにまでその術功は届かぬと見え、彼らはただただ地に足つけてそよぐ根 来のマフラーと、それに斬りかかった鐶に首を傾げるばかりである。 そして「……恐らく、ここまではあの人も予想済みの……展開」と鐶が呟くころにはすでに本 物の根来が背後から稲光とともに現われ、高々とシークレットトレイルを掲げていた。 (忍びの水月が破られるのも予想済み。かつて病院の地下で私にこの術を見せた鳩尾無銘 が早坂秋水に敗れた以上、貴様たちも破り方を心得ているだろう。かの変幻自在の地下壕に 潜みながら観戦しない道理はない) 「だから、『顔の右半分に前髪がある』分身を……配置して…………誘い込んだ。……ですね」 中空で根来の顔がやにわに歪みそのままびったりと静止したのは、振り返った鐶が根来の 喉首を当然という顔で掴んでいたためである。
185 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:26:56 ID:irw2g/7f0
「考え抜いた不意打ち……お見事です。けれど、あなたが忍びの水月を破られるのを……予測 していたのは予測済み…………。きっと囮を使い…………亜空間から不意打ちを仕掛けてくる と……思っていました……」 口調の静かさとは裏腹に、鉤に曲がった五指はめりめりと万力のような力で根来の喉首に 喰い込んでいく。 憎悪によってそうしているのではなく、たとえば猛禽類が暴れる獲物にトドメを刺すような必 要最低限の事務作業であるコトが限りない無表情から見てとれた。 ただでさえ根来の生白い顔がさらに血色を失い、失った分の血色を現すように口からあぶく まみれの血が滲み出る。金に輝く忍者刀も手から転がり落ちた。 「クジャクの足には……地震などを感知するヘルブスト体という器官があります。……それを あなたたちに見えぬよう…………皮膚の下に生やし…………大気や地面の微妙な振動を察 知すれば……亜空間から飛び出すあなたを感じるのは……難しいコトでは……ありません」 やがてぐなりと力の抜けた根来に向って短剣が向かい──… 「それも予想済みだ」 会心の笑みに歪む根来の口から咳とともに吐き出される物があった。 それは赤い塊であった。赤くはあるが血ではない。紙を何枚も貼り合わせて丸めたような小 さな塊である。 根来はやや下方を見ていたにも関わらず、塊だけは顔と水平に飛びだし鐶のすぐ頭上でふ わりと静止した。 そして同じ塊──今度は一回り小さな──が、根来の視線を追うように斜め下へ。 ああしかし、既にクロムクレイドルトゥグレイヴは根来の腹に深々と突き刺さり、彼の体をみ るみると縮小させている! 刺さったのはただの短剣ではない。 『斬りつけた深さに比例し年齢を吸収する』おぞましき魔剣。 かくて根来は少年の姿から幼児を経て……すり抜けた再殺部隊の制服の上に落ちる頃に はまごうコトなき胎児と化していた。 年齢とはそもそも出産日より起算する。母体から産声上げて生まれた日から一年経てば一 歳、二年経てば二歳と増加する。 そんな年齢を奪うのが、他ならぬクロムクレイドルトゥグレイヴなのである。
186 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:28:05 ID:irw2g/7f0
人間から全ての年齢を奪った場合、「零歳」、つまり母体からの出産直後の姿たる胎児にす るらしい。厳密にいえば胎児ではなく乳児かも知れない。 根来はこの点、判別できぬほど異様な姿になっている。 産声は立てていないのに微かに自発の呼吸は行っている。ヘソの尾は切られているのに全 身粘液に濡れそぼって青白く、丸々と太った赤子特有の腹をしわくちゃにしながら外気に震わ せている。ぐずりもせず動きもせず、あたかも産室だけを除かれた胎児のように存在する根来 なのに、そのくせ髪だけはうっすら伸び、逆立ち、顔半分だけは三角形の直垂に覆われている からおぞましい。これは胎児なのか乳児なのか。錬金術、いや年齢吸収を生業とする天外の 短剣などまったく考慮できぬまま発達した医療の定義に於いていやはや何とも判断し辛い。 筆者などは便宜上、その短剣に年齢を吸いつくされた形態を「胎児」と呼ぶが、むろん読者の 皆様に置かれてはお好きなように呼んで頂いて構わない。 その胎児の彼方上空で、赤い塊が確かに花開いた。 「忍法紙杖環。(しじょうかん)……」 誰がいったか分からないが、鐶も戦士一同も低くつぶれた声を確かに聞いた。 根来の口から離れた粘塊は鐶に至るまでにバラバラと分解し、伸び広がり、大小様々の環 (わ)になった。しかも意志あるがごとくそれらは飛び、あたかも鐶が輪投げの景品であるよう 細い肢体へ被さり、落ち、つま先から太ももの半ばまでをぎりぎりと締め付けた。かくて少女の 弾力に満ちた瑞々しい筋肉は、環(わ)の喰い込む傍で艶めかしく隆起し血色を失った。その 青白さはこの世の物ならざる幽玄な美しさだ。そしてびっちりと柔肉を擦り合わせ強引に閉じた 両足を環(わ)は互いに向って緩やかに動く。すると盛り上がった生白い絹のような肉がむろ むろと真赤な環(わ)の周囲で悩ましく転がり、水を打ったような無表情にわずかな赤みと薄く 甘味かかった呻きをもたらした。そうしてやがて環(わ)は寝袋のようにびっしりと密着し足の 肌を覆いつくした。 根来を捉え、そして短剣を差し向けた手にも環(わ)は絡みついた。
187 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:29:20 ID:irw2g/7f0
彼の年齢退行に伴う体積減少によって手と短剣を逃れずり落ちたその瞬間に、赤い環(わ) がいくつも不自然な軌道で跳ね上がった。しかもそれらは元の直径の五倍とも十倍とも見える 大きさにまで一瞬拡大し、内側に鐶の両手をくぐらすやいなや、びちぃっ、と濡れた鞭を打ちつ けるような速度を響かせながら一気に縮んだ。 ……かくて少女の弾力に満ちた瑞々しい筋肉は──… で、筆者が先ほど「鐶」と区別をつけるべくしつこくしつこく「環(わ)」と表記している忍法紙杖 環はただ重なっているだけではない。振りほどこうとした鐶は気付いた。環(わ)同士がびった りと癒合し、なかなか容易に斬れそうにないのだ。しかも先ほどの忍法月水面同様、皮膚に 粘っこく吸いついているから脱出をいよいよ困難な物にしている。 それに戸惑う間に脇腹を掠めた金色の刃があり、さしもの鐶もやや慄然とした。 真・鶉隠れ。 脇腹を斬られた! そう思う頃には忍者刀が最後のあがきとばかりに周囲を荒れ狂い無数 の傷を鐶に与えているから、いやはや根来の執念恐るべしといえよう。 剛太は茫呼として根来を見た。 (俺に負けた時と逆の戦法をとりやがった) 彼と戦った根来は勝利を確信したところに思わぬ反撃を受け敗退した。 今度は逆だ。勝利を確信した鐶に、根来が思わぬ反撃を浴びせたのだ。 だがそれによる個人的勝利がないのは、胎児と化した根来を見れば明白。 むしろ彼は後に控える戦士の勝利のために敗退を選んだ。それが剛太にはやはり不可解……。 金の刃はまったく紙杖環を妨げぬよう荒れ狂い、環(わ)なき腹部や胸部、二の腕やスカート 間際の太ももなどとを切り刻む。カットフレアーのスカートを模した青い羽毛もティンダル現象 の中に影をさらさらと落としながら辺りに散った。それを追うように忍者刀も核鉄になり地面に 転がり落ちた。さしもの根来も胎児と化しては武装錬金を継続できぬと見える。 (本当の狙いは私の……拘束…………? あ、でも傷は十分負っているから……) 鐶の両脇腹を二枚の戦輪が轟然と薙いだ。 刀傷も真新しい腹部と胸部に無数の矢が針山地獄のように突き立った。 うっすらと霞みだした視界の中、鐶は見た。 核鉄を突き出し、何かに備える防人を。
188 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:30:46 ID:UkNSb2sB0
投擲を終えた姿勢で厳然と彼女をねめつける剛太を。 その後ろで最後の力を使い果たしたとばかりに息せく桜花を。 同時にヘルブスト体は中空に充満する巨大な殺気を感知し、鐶の視界を空へと吊り上げた。 「本体はこの真下。根来くんの分までお願いね!」 上空に瞬間移動した千歳が、切り札を投下した。 鐶の背中で一瞬何かが煌いたかと思うと、四本の羽根が対空迎撃とばかりに飛んだ。 「貴様は何も知らない人たちに調整体をけしかけ、あまつさえ人混みの中で将棋倒しにした」 身じろぎもせずそれらが四肢の遥か外をすり抜けるのを認めると、斗貴子は静かに言葉を 継いだ。 「まかり間違えば死人が出ていたかも知れない真似を、貴様は自分たちの都合だけで」 よく観察すると鐶の三つ編みが微かに揺れている。羽根は髪から変化して飛んだのだろう。 「……拘束され、苦し紛れの反撃しかできない相手を斬り刻むのはいささか趣味に合わないが」 山吹色の光を鈍く反射する四本の処刑鎌がいったん後ろに引き、バネで弾かれたように轟 然と振り下ろされた瞬間、鐶は足の拘束も忘れよろりと体を捩らせ…… そんな鐶が耳を覆いたくなるほどの感情が、斗貴子の口から迸った。 「いま斃せない以上、相応の報いは受けてもらうぞ!」 バンダナごと鐶の頭部が×字に刺し貫かれた。 首の根元は鉈で水平に殴られたように右から三分の二ほど叩き割られ、下顎から後頭部ま で斜めに飛びだすバルキリースカートもある。 着地と同時に素早くそれらを引き抜いた斗貴子は、鐶を防人たちめがけて弾いた。 しばらく飛んだ鐶は肩から墜落し、アスファルトを痛々しく削りながら防人たちに向う。 その距離はおよそ五メートルばかりか。緊縛にもめげず立ち上がろうとした鐶だがその上体 はもはや力尽きたようにがくりと地面に落ちた。それでも彼女はなお逃れようと地面を這う。ま るでイモ虫のように。または翼を猟銃で貫かれ地面に堕ちたオオワシのように。 やがて防人たちに足を向けたまま、鐶は動かなくなった。 「さあ、今です戦士長!」 絹を裂くような斗貴子の叫びに応答して、防人はシリアルナンバーXIII(13)の核鉄を展開。 シルバースキン・アナザータイプ。
189 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:31:45 ID:UkNSb2sB0
大航海時代の海軍の制服を模した防護服が無数の細かなヘキサゴンパネルに分解し、鐶 へと向かっていく。 (すまないな戦士・根来。だがお前のおかげで勝機が見えた) 瀕死状態の鐶が回復に転ずるその隙にリバースを当てる。 回復自体は一瞬だから、それを終えてもすぐに攻勢ないしは回避に転ずるコトができぬよう、 鐶の姿勢を崩した上で「瀕死」に追い詰める。 その条項がすでに満たされているのは、防人ならずともすでに明白。 (必ず奴を捕らえて──…) 誰が見ても鐶は「瀕死」だ。根来が「瀕死の一歩手前」まで追い詰め、そこに斗貴子が攻撃 を加えたのだから、「瀕死」に決まっている。 第一、攻撃した斗貴子自身が「今です戦士長」といっている。 だから自分の判断は正しい。正しい筈。 そう思いながら、防人は違和感を払拭できない。 しかし既に賽は投げられている。リバースは鐶に向っている。 違和感があろうとなかろうと、当たりさえすれば全てが決まるのだ。 (……?) いつの間にか鐶が防人に頭を向け、地面に寝そべったまま静かにリバースを見ている。 瞳はひたすら虚ろだ。名前に「光」を頂いているのに何ら感情が見えない。 一瞬それを見逃しかけた防人だが、決定的なおかしさに気づいた。 (いつの間にこちらを向いた!?) 必然性がない。先ほどは足を向けていた。今は目を向けている。何のため? いやそもそも 地を這うだけで精いっぱいだけだった鐶がどうして体を百八十度反転できる? 例の回復をも たらす瀕死直前の鐶が、なぜ? そもそも……彼女は回復の気配がない。「瀕死」の筈なのに。 そんな鐶は左手から何かを引き抜いた。右手はひらりとひらめいた。 短剣は赤い光で弧を描くように迸る。 根来に拘束されていた筈の両手が動いている! 防人の違和感は答えを紡ぐと同時に唇をつんざいた。 「まさか」 「違う!! 今のは私の声じゃない!! 奴の……奴の声です!」 甲高い斗貴子の叫びとともに、鐶とリバースの間で巨大な影が膨れ上がった。 宙を飛んでいたヘキサゴンパネルは、その影が爪を振り下ろすと同時に一気に纏わりつき、 ひどく歪で大きな形にみるみると膨れあがっていく。
190 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:32:35 ID:UkNSb2sB0
「喰わせろォ〜」 着崩れたシルバースキンアナザータイプが、まるで知性のない声とともに揺らめくのを見るや 戦士一同の満面に切迫がありありと浮かんだ。 「な…………!?」 ヒビ割れた三角頭の大男。形容するなら正にそれが覿面(てきめん)の怪物が、防護服を纏 いながらもがいている。 「また調整体!?」 斗貴子が目を見開く遥か対角線上で桜花と御前が口々に叫んだ。 「それを強引に割り込ませたっていうの……!?」 「確かにこの前ゴーチンが割りこんで破ったけど!」 シルバースキンリバースは細かい遠隔操作までは不可能である。例えば、射出時に割り込 む者がいればそちらを優先的に拘束する。つまり、「防人の決めた相手を必ず拘束」するので はなく、「射出した先にいる物体を必ず拘束」するだけなのである。 「っていうか、調整体なんかどこからどうやって!? さっきまで気配は微塵も──…」 「とにかく拘束は失敗だ! 今は動け!」 唖然とする戦士の中、斗貴子だけが弾かれたように鐶へ走った。 それに誘発されるように防人も拘束を解くべく逞しい右腕を突き出した。 「……なるほど」 いつしか片膝をついた鐶の背中を鋭い五本の爪がどうっと薙いだ。 「回復……完了」 虚ろな表情を保ったまま少女の肢体が前のめりに倒れた。 桜花は見た。鐶の背後に突然現れた調整体が勝ち誇ったような咆哮を上げるのを。 そして倒れた体が回復の光を帯び、彼女が飛びあがるのを。 「待──…」 待て、そういい放たとうとした斗貴子の背後で何かが落ちる音がした。 振り返るとそこには目を見開いたまま気絶する千歳がいた。 一目でそうと分かるほど呼吸は荒い。頬に熱が昇り、ぴくぴくと痙攣する肢体はあまりに常 軌を逸している。しかも手につけたヘルメスドライブはスパークを上げながら核鉄に戻った。 「根来に続いて……あなたまで?」 いったい何が彼女の身に起こったのか。首を傾げる斗貴子の背後から二体の調整体(拘束 を解かれたのと鐶を攻撃したのとで計二体)が躍りかかったが、その程度の相手にやられる 斗貴子であろう筈もなく。振り返りもしない彼女の背後で無造作に斬り刻まれた。
191 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:34:55 ID:UkNSb2sB0
そして、風が吹いた。面頬を向ければ息がつまりそうな圧倒的な強風が。 周囲の民家のガラスががたがたと打ち震え、電線が縄跳びのように揺らめき、いつしか解除 された忍びの水月の乾いた粘液を電柱や塀や樹木の枝葉からびゅらびゅらとさらっていく。 風は斗貴子をも吹き飛ばした。 気絶した千歳と胎児の根来をも枯草のように転がした。 剛太と桜花と御前は防人にうながされるまま彼にしがみついた。 ただ一人岩のように吹き飛ばぬ防人は斗貴子を掴み、千歳と根来を拾い上げながら風の出 所に鐶を求めた。なぜなら風は恐らく鐶の羽ばたき……。 「擬傷……。子を持つ鳥が巣に近づいた外敵を遠ざけるため、傷ついたフリをして……誘導す る行為をいいます。行動学によれば……これは愛情ではなく……子を守ろうとする理性と、外 敵から逃げたいという……本能との葛藤がもたらす行為……です。主にヒバリやチドリが…… コレをします。ヒバリやチドリができるなら、当然、私も……。これで『瀕死』が近いのを偽り、 あなたたちが切り札を出すタイミングを、私の回復より……早く……しました」 淡々とした声に続いて何か金属的な物が斬られる音がした。 「声は、いうまでもなくオウムの能力。真似てみました。……切り札は銀の人ですから……促 せば反射的に…………切り札を出すと思ったので……。そう、擬傷によって『瀕死の手前』に 見せかけた私を目の前にすれば……声真似にかかりやすいかもと……賭けました」 八つの視線と二つのライトが同時に同じ一点を見た。 「調整体は……ポシェットから出した幼体に年齢を与え、元の形にしました。……身代わりに する為に。あなたたちの切り札を…………私の代わりに受けさせるために。ちなみに忍者さん の拘束は自力で強引に……破りました。皮膚も羽毛もたくさん剥がれ……痛かったです」 鐶は電柱の上に寂然と佇んでいる。 ただ佇んでいるのではない。左手には切断した電線を握り、青白い火花のもたらす衝撃に 軽く打ちふるえている。 「もう……切り札は把握しました。だから次は私の攻撃……」 呟く鐶はそれまでの姿から一回り小さくなっていた。いや、幼く、というべきか。 およそ四歳ほどの姿になった彼女は口を開けた。
192 :
永遠の扉 :2008/09/06(土) 22:36:15 ID:UkNSb2sB0
「皆さんの力を使い、勝ちます。すでに無銘くんのように囮を使いました。だから次は貴信さん たちの特異体質を真似し、小札さんのように……強烈な攻撃をして……勝ちます」 鐶の口は、まさに開いたのだ。 まるで裂けたように、後頭部にちょうつがいがついていると思えるほどに、あんぐりと。 彼女の上顎は常人の及ぶ可動範囲の二倍ほどに傾斜し、扁桃腺も赤く炎のようにうねる舌 も白日に晒された。 そんな彼女の口の中に、人間とは異なる器官が覗いていた。 いつの間にか歯が消失した代わりに四つの青い珠が鮮やかな粘膜の中で光っている。 それが上唇の両端に二つ。同じく下唇の両端にも二つ。 ……南太平洋諸島に生息するセイコウチョウのヒナの口に同様の物が存在する。 一説には親鳥の給餌衝動をかき立てる器官らしい。 同様の物はセイタカシギやワシなどのヒナにも見受けられ、こちらは口中に蛇の目のような 不思議な模様が浮き出ている。(そして成長とともに消える) 俗に未熟な物を評して「嘴が黄色い」というが、ヒナの嘴の黄色さも鳥にとっては給餌を促す 特殊な要素があるという。しかし…… (私は……別の用途にコレを使います) 貴信のように穴が開いた左手──本来、動物型ホムンクルスの鐶の人間型のような掌の穴 があるのはおかしいが、これは特使体質によって貴信と香美のエネルギー操作能力もろとも 真似たらしい──から体に流れ込む電流が青い珠に収束。 本来は給餌に必要な器官もホムンクルスなら兵器の一部と化すらしい。 「時は満ちた。熱いデュエルのゴングが響く……運命のカードが光る……」 青い四つの珠が電子音を奏でながら光の粒子を吸いこんで、密集する防人たちめがけて青 白い光線を当たり前のように吐き出した。 最初は四本だった光線はすぐに交わり一つの直線的な光芒──ただし威容はかつて小札 が秋水に用いた「ライドオンザバック・シルバードラゴン」をも遥かに凌ぐ──に化した。 すなわち、直径八メートルはあろうかという大口径の疑似荷電粒子砲が戦士一同を薙ぎ払 ったのである。
熱で飴のようにとろけた電柱が中ほどから折れ、ブロック塀が舞い飛び家宅は光熱に焙られた。 道路のアスファルトはおよそ三メートルほどの深さまで抉られ下の地面はおろか埋め込み式 の電線や電話線を切断し、チーズのようにとろけた銅をただ地下に向って垂れ流した。円周の 四分の一ほどが欠けた下水道の配管からは臭気の強い蒸気がもうもうと立ち上り、不幸にも 切断されたガス管は倒れ込む電柱との、いや、それから伸びる火花付きの電線との接触で大 爆発を起こした。 それらの様を瞬き一つせず淡々と眺める電柱上の鐶である。 「リーダーからの伝達事項その五。残る戦士六名をただちに無力化し、最後の割符を奪還せよ」 どこかで再び爆発がした。その爆風にあぶられ赤く長い三つ編みが揺れた。 「私の回答は……了承」 あちこちを燃やす灼熱の炎に頬を赤く焙らつつも、鐶はあくまで表情を崩さず……。 以下、あとがき。 まず、長くてすみません。今周はいろいろ時間が取れそうにないというか、下手したら体調崩 して寝込みかねないので……。 ちなみに口からビームってのはやややり過ぎのような気もしております。 でも原作じゃ海洋生物の死骸で組み上げた筈の巨大ヴィクターがなぜか口からブッ放したり してますし、貴信の特異体質を再現して電線から電気吸収したらば(設定的には)無茶臭さが 自分の中から消えたのでやった次第。まぁ、強力には強力なんですが、制約もあるしハッタリ 効いてるのでコレはコレで。 ただ、コレをやると貴信のアイデンティティーがなくなるんですけどね。唯一の特技さえ鐶に使 われちゃまったく立つ瀬がない。ああ、可哀相な貴信。 ふら〜りさん 最初は「鐶が特異体質で根来のDNAをコピーして亜空間に手ェ突っ込んで引きずり出す」とか 考えてたんですが、両者の性質を考えるとこういう決着かなーと。攻撃と回復で勝る鐶をアレコ レ惑わして有利を勝ち取るのが忍者というか。けれどそれを利用するのもまた強敵の条件。
さいさん(ラストのセリフは「アレ」でしょうか?w)
まひろが戸を開けてセラスのドアップなのは実にヒラコー漫画らしい! きっとページめくった
ところでセラスのギャグ顔の大ゴマがあるでしょうね。で、野郎が相手なら「なんで先に着いて
んだテメー!」って指さされたコマの次に「いやー実は走ってきまして」「エイトマンかテメーは……」
と白け顔を突き合わせる二人のコマがあって、二人の間に「もしくは009」「どっちにしろ古い」てな太い描き文字があったりw
>>147 さん
ありがとうございます。鐶は千歳さんの没案だった「任務を遂行する一つのマシーンと化する
コトで心の平衡を保っている」要素もあります。それプラス「体と戦闘スタイルは化物だけど根
底は普通の女のコ」で、何するか決めたら強い、けれど決めるまでが弱いという感じですね。
>>148 さん
んー、鳥とか調べたので無意識に思い入れが混じっているのかも。基本的には必要事項だけ
描いてるつもりなんですがやっぱまだまだですね。はははw 確かに話はスムーズに次、次と
いった方がいいですよね。うんうん。でもココからはテンポよく行けそうです。早ければ後三回の投下ぐらいで……
>>149 さん
根来も、時代が時代なら剛太との敗北をきっかけにパワーアップしてカズキたちの味方になっ
て明石先輩とか影慶とか男爵ディーノみたいな活躍ができた筈なんですよ。数少ない美形キャ
ラ(顔のパーツが丹精でなおかつ非情)だし。再殺編はいいキャラの宝庫なのに、尽く使われ
ずじまいなのが惜しいですね。犬飼の劣等感とか火渡・毒島の関係とか、本当惜しい。
>>150 さん
日記書いてると「アレやったのはいつだっけ」というのが見返せて便利ですw ちなみに横山光
輝の「元禄畳奉行の日記」はタイトルそのままの内容なんですが、当時の風俗が学術書よりも
鮮明に描かれておりまして、やはり人の主観、人の文章というのはいつの時代の物でも面白い。
195 :
作者の都合により名無しです :2008/09/06(土) 23:09:36 ID:1iSIvl580
>VSさん ハンター好きだったとは意外。いや、バキやドラえもんのイメージが強すぎて。 30分シリーズ終わっちゃったけど、VSサンの復帰が何より嬉しかったです。 またちょくちょく顔を出してください! >スターダストさん 根来以上に冷静な鐶ですけど、やはり根来は仕事のできる男ですね。 冷静さの下の執念というか。鐶も強い。小札たちとは一味違いますね。 どんなピンチでも客観的なのは怖いなあ。
ヤクバレさんがまた消えてしまうのか、残念 モラウさんの念すげえw半分は優しさで出来てるのか また遊びに来てください ダストさん、お仕事忙しいのか投稿頻度は減ったけど その代わりすごいボリュームですな バトル編もいいですが学園編もよみたいところです
197 :
しけい荘戦記 :2008/09/07(日) 02:41:55 ID:GuRE9pxX0
第十四話「走れルミナ」 放課後を知らせるチャイムが作戦決行の狼煙。学生の本分を終えた級友たちが次々と帰 宅する中、いじめっ子たちは昇降口でルミナを待ち伏せていた。 にこやかに近づいてくる三人組に、警戒するように身構えるルミナ。 「お、おい、そう怖い顔すんなって!」 「実は俺たち、今までのことを謝ろうと思って待ってたんだ」 「その証拠にほら……」 リーダー格の少年は自らの携帯電話を取り出すと、保存されていた『恥ずかしい写真』 を丸ごと消去してみせた。これで脅迫の材料は失われた。 「ごめんな、鮎川」 「許してもらえないかもしれないけど……」 「これからはおまえと友人(ダチ)としてやっていきたいんだ」 昨日までとは打って変わって和解の提案をする彼らに面食らいながらも、ルミナは頷い た。 「別に、いいよ」 許せるレベルのいじめではなかった。彼らの言葉を額面通りに信用したわけでもなかっ た。しかしルミナは水に流すことで一刻も早く「いじめられっ子のルミナ」から卒業した かった。 晴れて和解が成立し、大げさなリアクションで喜び合う三人組。 「じゃあさっそく遊びに行こうぜ」 「え、でも……」 「こないだ新しい遊び場を見つけたんだ。三丁目にある廃ビルなんだけど、広いし、あそ こでかくれんぼとかやると最高に楽しいぞ」 はにかむように、ルミナは快く頷いた。 ほがらかに笑いながら、遊び場へと向かう少年たち。 何をやっても上手くことが運ぶ──人には生涯のうちに何度か人生の絶頂を感じる瞬間 がある。この時のルミナもまた、これに近い感覚を味わっていた。そして、できる限り長 く味わっていたいと祈った。
198 :
しけい荘戦記 :2008/09/07(日) 02:43:09 ID:GuRE9pxX0
しかし、廃ビルに足を踏み入れた瞬間、 「さぁて、お楽しみの始まりだ」 脇腹にめり込んだボディブローの痛みで、ルミナは祈りが通じなかったことを悟った。 三十分にも及ぶ私刑(リンチ)。巧妙に腹部や背中のみを殴られ蹴られ。ルミナは体を 丸め、声を殺して泣いていた。 「ダセェな、メソメソ泣いてんじゃねぇよ」 「これで懲りたろ。またやられたくなきゃ、明日から弱虫に戻るこったな」 「あばよ、鮎川」 遠くなっていく笑い声を聞きながら、ルミナは己の運命をひたすら呪った。 一方のいじめっ子たちは、作戦成功の興奮と達成感に酔いしれながらビルを出ようとし ていた。 すると、ビルの入り口部分で彼らは同じく三人組と遭遇した。ただし相手は大人、しか も警官──なにより三人とも顔がそっくりであった。 「おやおや」 「最近ここでたむろしている輩がいると聞いて来てみれば」 「廃ビルとはいえ他人の土地、立派な不法侵入罪だ」 予期せぬ展開に怯える少年たち。 「な、なんだよぉ……どけよ!」 「反省の色がないな。なァ、歯(トゥース)、舌(タング)」 「そうだな、唇(リップ)」と歯と呼ばれた男がいった。 「しつけがなっていない。これからの日本が危ぶまれる」と舌と呼ばれた男がいった。
199 :
しけい荘戦記 :2008/09/07(日) 02:46:12 ID:GuRE9pxX0
三つ並んだそっくりな唇が規則正しく開かれる。 「い」と唇。 「ず」と歯。 「れ」と舌。 「に」と唇。 「し」と歯。 「ろ」と舌。 「緊」と唇。 「急」と歯。 「事」と舌。 「態」と唇。 「だ」と歯。 いずれにしろ緊急事態だ──三人はそれぞれが一言ずつ喋ることにより、一つの台詞を 成立させた。思考とタイミングが同調(シンクロ)していなければ不可能な妙技である。 「君らは我々の交番で再教育を施すことにしよう」 必死で泣きわめく少年たちだったが腕ずくであっさり取り押さえられ、警官トリオに抱 えられて消えた。 物陰からルミナは一部始終を目撃していた。 いじめっ子に受けた傷は平気か、警官たちはいったい何者なのか、いじめっ子たちはど こに連れ去られたのか。その他考えるべき事柄を一切放棄し、ルミナは全力で走った。 ──強き親友が暮らすあのアパートへ。 「シコルスキーさんっ!」 ちょうどシコルスキーはダヴァイ体操がやかましいという理由で、オリバに締め上げら れている最中であった。 「ル、ルミナッ! ……助けてくれェッ!」 「ほう、君はあの時シコルスキーに勝利した少年じゃないか」
200 :
しけい荘戦記 :2008/09/07(日) 02:48:23 ID:GuRE9pxX0
ルミナは二人に、同級生が不気味な警官に拉致されたことを打ち明けた。オリバにはル ミナのいう警官に心当たりがあった。 「……おそらくそいつらは“マウス”だろうな」 「マウス? ……え、と鼠ですか? それともパソコンの……」 「どちらも違う。まるで食事をする時の唇、歯、舌のように絶妙なコンビネーションを発 揮することから、彼ら三人をまとめて“口(マウス)”と呼ぶ。れっきとした警察官(ポ リスマン)だが、あまり良い噂は聞かんな」 「噂?」 首を傾げるシコルスキーとルミナに、オリバが頷く。 「犯人を取り押さえる時過剰な暴力を加える、パトロール中に発見した悪童を“交番”と 称するアジトに連れ込み制裁する、などと様々だ。もっとも証拠もないし噂の域を出ない がね。とはいえ、まさか小学生にまで手を出すとは、噂以上の悪徳警官のようだな」 「お願いしますっ! 僕、あいつらを助けてあげないと……」 「ふむ、しかし君の肉体に刻まれた傷とアザは大人によるものではないな。おそらく君は 拉致された同級生たちに暴行を受けていた……違うかね?」 「えっ?! そうなのか、ルミナ!」 オリバほどの知能と経験があれば、傷痕から犯人像を割り出すなどたやすいことである。 「はっきりいおう。助けたとしても、彼らは恩など感じずにまた君をいじめるだろう」 冷徹に真実を告げるオリバ。しばしルミナは言葉を失う。だが、やがて震えながら泣き そうな声を紡ぎ出した。 「……分かってます。オリバさんのいうとおりです。……でもずっといじめられてきた僕 には分かる。捕まったあいつらが今どんなに不安かってことが……だから、もしまたいじ められるとしても……構いません。た、助けてあげなきゃ……!」 「決まりだな」 ルミナの肩に手を置くシコルスキー。 「シコルスキーさん……」 「ルミナ、俺と二人で助けに行くぞ。大家さん、マウスのアジトの場所を教えてくれッ!」
真夜中にすいません。
バトルの先駆けとして、アリゾナ刑務所の掃除人登場。
>>177 いや失礼しました。
個人的には五体がぶっ壊れる寸前に、ピクルKOってのが理想ですね。
>>180 あまり汚くないようなのを、書く予定です(未定)。
202 :
作者の都合により名無しです :2008/09/07(日) 13:49:24 ID:c7APMUi/0
サナダムシさん、スターダストさんおつです。 ・永遠の扉 口からビームだとなんか違うマンガの素材見たですが錬金だとそれほど違和感ないですね。 瀕死から回復、総攻撃すら耐えうる鐶ですがそろそろ決着は近いのかも。鐶勝ちもいいかも ・しけい壮戦記 ガキが縄張りに進入したくらいで緊急事態かよ!マウス、スケールちっちゃいなw シコルヒーローっぽいけど、オリバヤゲバルがいく方が話がすぐ済むのに。返り討ちされそうだw (うんこ期待してます)
203 :
ふら〜り :2008/09/07(日) 21:53:45 ID:3zna5In10
>>サナダムシさん いやもうとことん真面目に、二人ともカッコいい! 決闘を通じて結ばれた友情、立派に 成長した少年と見守るお兄さん。で密かに寂しがってるお兄さんが、いつも通りで愛しい。 そんな二人が、掛け値なしに正義のヒーローへと走り始めて。大っっ好きです、こういうの! >>VSさん 非常識人ばかり、ボケばかりの怒涛ギャグというのはたまに見かけますが、ちゃんと常識的な 突っ込みは入ってるのに実はそいつが最非常識人、といういつものパターンがテンポよく 読めて楽しいです。これが30分未満というのが相変わらず流石……また次作、待ってますぞっ。 >>スターダストさん 絡み合う読みあい探りあい、二人の戦いは根来の勝利。だけど最終的な勝利は鐶に(か?)。 >リーダーからの伝達事項その五。残る戦士六名をただちに無力化 鐶になら、これができるから任せた。そしてやってのけた(かな?)と。武装錬金も己の身体 能力も頭脳もフル活用して、獅子奮迅を魅せた鐶。正直応援したくなっておりますが……
204 :
作者の都合により名無しです :2008/09/07(日) 22:58:59 ID:SOz4Z0rm0
ライトうんこもの楽しみだなあ。 でもどっちかというとハードなうんこもののほうがいいです 何か熱いものがこみ上げてくるようなw シコル、今回くらいはルミナの役に立ってほしいな
サナダムシさんはピクルあまり好きじゃないのか ま、俺も好きじゃないけど シコルスキーはもう原作では出てきそうにないな。
206 :
作者の都合により名無しです :2008/09/08(月) 15:58:46 ID:aF+Izs5u0
永遠の扉を1から読み直そうと思ったけど1日じゃとても無理だw サイトがある人は便利でいいねえ VSさんのサイト見て、今年一回だけヤクバレがあった事に驚いた
日本人の平均をはるかに上回るバストはまひろの顎の辺りで力強く圧迫され、柔軟にその形を変える。 「ま、まひろちゃん! 落ち着いて落ち着いて!」 「わー! セラスさん、フワフワー!」 なだめながら引き離そうとするも、まひろはなかなか腕の力を緩めようとしない。 親愛の情を示してくれるのは嬉しいが、事ある毎に抱きつかれるのも考えものだ。 胸だって強く押されれば割と痛い。 個々人のパーソナリティという面まで頭が回らないセラスは早合点気味に思い知った。テレビや本から得た 日本人の国民性に関する知識を改めねば、と。 一方のまひろはこの憐れな英国人女性の内心にはやや無頓着である。 彼女流に表現するところの“フワフワ”を好きなだけ楽しんだかと思うと、まひろは不意に セラスから身体を離した。 「あ、まずは着替えなきゃね。風邪ひいちゃうよ?」 まひろはハッピーな気分が伝わってくるかのようなステップでタンスに近づくと、しゃがみ込んでおもむろに 中の衣服をゴソゴソと引っかき回し始める。 おそらくセラスに着せる服を吟味しているのだろう。 手持無沙汰のセラスは、まひろがあれこれと悩んでいる背中を見つめているのにも飽きたのか、 何の気無しに部屋の中を眺めていた。 広さは六、七畳。高校生一人が暮らすには充分過ぎる程の広さだ。野暮ったくあまりお洒落に見えない カーテンやベッド、学習机は寄宿舎の備え付けだろう。 (噂には聞いてたけど、本当に狭いんだ……) 少々余計な御世話だが、悪気があっての感想ではないのだろう。 やはり母国イギリスの住環境に慣れていれば、六畳や七畳の広さでも一人用の個室としては 狭苦しく感じてしまうのも無理は無いのかもしれない。 視線はさほど大きくない本棚へと移る。 収納されているのは漫画単行本ばかり。それも大半がジャンプやマガジンに連載されているような少年漫画だ。 もっとも、セラスには作品名や作者や出版社などわかる筈もなく、ただ好奇心をくすぐられるだけである。 (あっ、アレは“MANGA”かな? 日本のコミックって大人でも楽しく読めるっていうけど、 どうなんだろう。ちょっと読んでみたいな……) 当面の居場所を確保出来た安心感からか、そんなつまらない事にも興味が湧いてくる。
その時、読めない文字が書き連ねられた背表紙を眺めるセラスにまひろが声を掛けた。 「はい、コレ! 少し小さいかもしれないけど。あとタオルね」 右手には白のブラウスと紺色のロングスカート、左手にはピンクのバスタオルが乗せられている。 どちらも少し雑なたたみ方なのは持ち主の性格上、致し方無い。 セラスはしばらくの間、受け取った着替えとご機嫌なまひろの全身を見比べ、自分の身体を見下ろした。 身長は175cmに達しようかという自分。目の前の少女はおそらく160cm前後。 加えて、手足の長さ。バスト、ウェスト、ヒップ。 それでも、にへらっと曖昧な笑顔で礼を言う事しか出来ない。 「あ、ありがとね(たぶん、少しどころじゃないと思う……)」 お人好しで気弱な彼女の方が、どちらかと言えば日本人的なのではないだろうか。 確実にサイズの合わない、コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらい確実にサイズの合わない ブラウスとスカートを着るべく、セラスは雨に濡れたHELLSING機関の制服を脱ぎ始める。 それは見ているまひろがドギマギするくらいの堂々とした脱ぎっぷりだ。 特に恥ずかしがったり、隠したりする様子も無い。 元婦人警官としての習慣、女性同士、国民性の違い。まずはこの辺だろう。まひろが驚くのも当然か。 テキパキと制服の上下とインナーを脱ぎ、ブラジャーを外す。 あっという間にパンティ一枚の半裸となったセラス。同性だというのにまひろは彼女の肉体から眼が離せない。 人間を魅了する吸血鬼としての無意識の性質もあるが、セクシーさと健康的な雰囲気を兼ね備えた スタイルの良さもまた一因になっているからであろう。 確かにウェストや二の腕、太腿等はまひろよりもだいぶ太い。しかし、それはあくまで部分部分に限った 数字の上の話だ。 何せ身長や四肢、体幹の規格が違う。 総体的にその裸体を眺めれば、肥満とは縁遠い均整の取れた美しいスタイルなのだ。 インターナショナルクラスのサイズを誇るバスト。乳房そのものの張りと鍛えた大胸筋によって、 重量と重力に負ける事無く、桜色の先端がやや上を向いた理想的な形状を保っている。 その下に続くウェストは滑らかな曲線を以ってくびれており、腹筋はごくうっすらと六つに 割れているのが見て取れた。 長い手足も筋肉質ではあるが、僅かな脂肪を伴った女性らしい豊かさを失ってはいない。
「すごーい……」 まひろは顔を真っ赤にしながらも、かなりの近距離で身を乗り出して食い入るようにセミヌードの セラスを見つめていた。 何故か両の拳は胸の前で力強く握られている。 「え!? な、何……?」 流石に砂被り席状態で凝視されては、ある程度開けっ広げなセラスも怯まずにはいられない。 ビクリとまひろから身体を離し、反射的に両腕で胸を覆い隠した。 だが、まひろはそんなものはお構い無しで観賞を続けている。 終いには右手の親指と人差し指で丸を形作り、そこからセラスの胸を覗き込むという珍妙な真似を始めた。 「むむむ! 97、98、99、100、101……――け、計測不能!」 計測不能だか何だか知らないが、セラスの方は理解不能だ。 この少々変わった日本人少女は何がしたいのか。 「すごいね! “まひろアイ”でも測れないなんて初めてだよ!?」 「はぁ……あ、ありがとう……」 たぶん褒められている。そういう事にしておこう。 (まひろちゃんってもしかして同性愛者なのかな。でも、それとはちょっと違う感じもするし……) ようやく着替えが終わったのは、セラスがそう悩み始めた頃だった。 そして、案の定と言うべきか、まひろの私服はセラスにとってただの拘束具にしかなっていない。 長袖のブラウスは七分袖となり、肩周りの違和感と動きにくさが尋常ではない。 前のボタンもその半分近くが留められず、不本意ながら胸元をVの字に大きく開けざるを得ない。 やっとの思いで留めたボタンとボタンの間ははち切れんばかりに開き、白い素肌が顔を覗かせている。 スカートに至ってはホックを留めるどころか、ジッパーすらも途中までしか上げられない。 ロングスカートなのに脛まで丸見え、などとは書くまでも無いか。 「うぅ、まだ苦しい……。ボタンもう一個外そ……」 セラスは泣く泣く、深い谷間を露にさせる憎きVの切れ込みをもう一段階深くする。 その様子を見ているまひろの顔は、何とも残念そうな表情でいっぱいだ。
「あやや、やっぱり小さすぎたのかなぁ」
普通は着せる前に気づくのだが。
「ん〜、じゃあねぇ……――」
まひろは再びタンスに向かうと、もう一組の衣服を手にしてセラスに尋ねた。
「――こっちのおっきいTシャツとスェットのズボンにする?」
それを眼にし、耳にしたセラスの胸元でボタンがひとつ、プチリと弾け飛ぶ。
「そっちを先に出してよぉおおおおおおおおおお!!!!」
ども、さいです。夏目ナナが好きです。でも洋ピンのほうがもっと好きです。
なんで外人さんって「アォフッ」「オゥシッ」とか勇ましい声を出すんでしょーかねー。
そういえば最近、バチェラー見ないなー。昔はよく買ってたのに。
>>147 さん
『HELLSING』での婦警は周りが偉い人とガイキチばかりですからねー。ベルナドット隊長にも
嬢ちゃん扱いされてたし。しかし、なんといってもまっぴーはただの女子高生ですからw
まあ、エンディングまで泣くんじゃないってことで。
>>148 さん
体調はあまり良くないですが、日々どうにかやってます。酒が飲みたくてたまりません。
このコンビ、いじり甲斐があって大好きですw
>>149 さん
ホントすみません。丁寧に書きたい、色々書きたい、ってやってたら話が進まなくなっちゃいまして。
今回もどうでもいい文章にリキ入りまくって、また話が進んでないですし。
何とか頑張ります。
211 :
sai :2008/09/08(月) 23:00:16 ID:jixeRf6w0
>>150 さん
遊びに来て頂き、ありがとうございます。
私は全然マメじゃないですよ。気分とか体調でよく休みますし。スターダストさんの方がずっとマメ。
>ふら〜りさん
たぶん窓くらい朝飯前です。つか、一人掛けソファの中身を繰り抜いて人間椅子と化し、まっぴーの
部屋に忍び込んでなんかこう温もり的な感触的なものおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
ええ、常に“自分が銀成学園1年A組の生徒だったら、どうやってまっぴーに連日セクハラするか”とか
考えてます。カズキにブン殴られても斗貴子さんにブチ撒けられても諦めない自信があります。ええ。
>スターダストさん(見える! 見えるよ! 憎ったらしい顔した生首のまっぴーと婦警が!w)
今作では不得手だけれど自分なりにギャグみたいなコメディみたいなものも書いてみたいな〜、
なんて思ったり思わなかったり。それにしてもスターダストさんはわかってらっしゃるw
『HELLSING』も初期というか途中まではそういったギャグも多かったんですよねー。
今でも巻末の馬鹿兄弟がありますがw
>永遠の扉
あああんだよぉおおお! 根来がせっかくぅううううう!! という悔しまぎれな雄叫びが出るくらい
感情移入してました、今回。鐶は可愛いけど、こうなると何回やっても倒せないエアーマンばりに
「あー! もう!」とコントローラーを叩きつけたくなる強さというかw
根来ー。ちくしょー。
えー、ちなみに婦警が175cmくらい説の根拠は、GONZO版DVD収録の特典映像にあった
身長比較絵コンテみたいなのからです。2m超級の旦那や神父と絵で比較したら大体175cmくらいかな、
という結論に至りました。異論は認めます。
では、御然らば。
コテとトリ間違えましたorz
セラス175センチでバスト100センチ超か。 ウエストはまひろが60センチだから65センチくらい? うーん、全然萌えないな 完璧なプロポーションかもしれないけどサイボーグみたいだ
214 :
作者の都合により名無しです :2008/09/09(火) 01:47:26 ID:IKbIrqUw0
百合の香りがしますなあw イギリス人ってそんなにでかい民族だったっけ? 原作でセラスそんなに大きく見えないが周りがでかいからか
キャラSSなのかな 確かにまひろは可愛いしセラスはセクシーだ でも、話があんまり進んでないw
216 :
作者の都合により名無しです :2008/09/09(火) 23:44:37 ID:t8mTRxkX0
まひろはやはり「良い子だけどちょっと足りない」というキャラなのだろうか さいさんもスターダストさんも他のスレの書き手さんも大抵そう捉えている
217 :
作者の都合により名無しです :2008/09/11(木) 00:36:06 ID:z4I0elZb0
ハロイさんはまだパソコン買ってないのか シュガーソウル読みたいんだけど ヴィクテムやレッドも好きだけどこれが一番好み
218 :
くそったれ :2008/09/12(金) 00:00:34 ID:MXjUR2WB0
ある蒸し暑い真夏日の午後、ベジータは西の都の裏通りで犬のフンを踏んだ。 新品のシューズにこびりついた茶褐色の汚物。 みるみるうちに彼の広い額に手打ちうどんのようにたくましい青筋が浮かび上がる。 怒りの矛先は、こんなところにフンをした犬に、そしてその飼い主に、さらにはベジー タが踏むまでフンを放置していた市民たちに、無意味に暑い夏の気候に、果ては今回の件 に全く関係ないカカロットにまで向けられた。 昔の残虐非道なサイヤ人だった頃の彼ならば、少なくとも周囲百メートルを爆発波で吹 き飛ばすくらいのことはしただろう。ついでにラディッツを一、二発殴っていたに違いな い。 しかし、今では彼も自己中心的な性格と最強を志す信念こそ不動だが、妻子を持ち、一 市民として暮らす身。そんな騒動を起こすわけにはいかない。 とはいえ第一線で戦っていた頃のルール──邪魔者は即座に殺す、障害物があれば破壊 する──は未だに彼の中に根付いている。これを完全に消すこともまた難しい。 ──ならば。 幸い周囲には誰もいない。つまり目撃者は出ない。 ベジータは犬のフンに向けて気合砲を放った。凄まじい推進力を得たフンが、亜音速で 西の都から飛び立っていく。すかさずそれを超スピードで追うベジータ。むろん、常人に 過ぎぬ西の都の住人たちが気づけるはずもなかった。
219 :
くそったれ :2008/09/12(金) 00:01:23 ID:MXjUR2WB0
都からさらに西に三十キロ地点。ベジータと犬のフンが対峙していた。 「ふっ、我ながら素晴らしい力加減とコントロールだ……!」 ベジータはいうまでもなく強い。この世とあの世を合わせてもおそらくは宇宙でベスト 5には入る(もっともこんな褒めらめ方をしてもベジータは喜ばないだろうが)。そんな 男の気合砲で吹き飛ばされたにもかかわらず、フンはまるで形を崩していない。もはや芸 術(アート)と呼べるほど器用な芸当である。 ベジータは瞬時に気を高めると、拳をアッパーのようにぐいんと振り上げた。それによ って生じた突風でフンは上空へと投げ出される。 続いてベジータはかつてサイバイマンやキュイを葬った指による爆破で、フンを華々し く空中分解させる。 「へっ、きたねぇ花火だ」 まだ終わらない。ベジータは四散したフンの一群に両掌を向ける。 「ファイナルフラァーッシュッ!」 超新星の誕生を予感させるような鮮やかな閃光とともに、ベジータから巨大なエネルギ ー波が発射された。フンをあっという間に呑み込んだ光線は、瞬く間に地球外に脱出し、 宇宙の闇に消えた。 「ざまあみやがれ!」 惑星をも軽々と消し去る力を五体に潜ませるベジータ。家族の目を気にしてベランダで 喫煙するお父さんのように、彼もまた色々と気を遣っているのである。 お わ り
ライト級うんこSSです。
意外と心優しいべジータ このくらいのうんこ濃度がちょうどいいかな?w
ラディッツってしけい壮でいう シコルスキーみたいな役回りだったんだろうね、サイヤ人の中で ベジータは扱いやすそうなキャラだなあ
223 :
しけい荘戦記 :2008/09/12(金) 20:43:15 ID:J6QWJvRY0
十五話「敵地へ」 三つ子の警察官“マウス”に連れ去られたいじめっ子たちを救うべく、シコルスキーと ルミナはひた走る。 シコルスキーはオリバがよこした忠告を思い返していた。 「二人ともよく聞いておけ。マウスのコンビネーションは一種の“化学反応”に例えられ るほどに強力らしい。へヴィ級ボクサーの上位ランカーをたやすく仕留めたという逸話も あるほどだ」 どうやらマウスは想像以上の強敵のようだ。生唾を飲み込むシコルスキー。 「や、やっぱり相手が三人じゃあ、いくら俺でも不利かもな。なぁ大家さんも一緒に来て くれないか……?」 オリバは満面の笑みを浮かべた。ただし前腕と上腕が膨張し、拳は異常な硬度を以って 固められている。失禁寸前に陥るシコルスキー。これ以上弱音を吐けば、マウスと戦う前 に火葬場に送られてしまう。 「嘘、嘘だよ、大家さん! ロシアンジョークに決まってるだろう!」 「ならいいがな。アジトの場所をいうぞ。彼らのアジトである“交番”の場所は──」 「う、嘘だろ……ッ!」 マウスのアジトの場所を聞き、絶句するシコルスキー。 「シコルスキーさんっ! あそこですっ!」 ルミナが自分を呼ぶ声が、シコルスキーを過去から引き戻す。 ルミナの指差した方角には建物が立っていた。 当初シコルスキーはマウスのアジトである“交番”は、倉庫のようなところだと勝手に 想像していた。ところがそうではなかった。 彼らは本当に、本物の交番をアジトにしていたのだ。
224 :
しけい荘戦記 :2008/09/12(金) 20:44:10 ID:J6QWJvRY0
「行きましょう、シコルスキーさん!」 「よ、よし……!」 堂々と歩くルミナに対し、腰を引きながら歩くシコルスキー。彼は交番が昔から苦手で あった。やましい過去があるわけではないが、正義を掲げる国家権力の最前線基地である 交番は、常に敗北の人生を過ごすシコルスキーにはあまりにも眩しすぎた。 しかし、今はむしろ正義はこちら側にある。勇気を振り絞って、シコルスキーとルミナ は交番に足を踏み入れた。 狭い交番の中には、事務机に腰をかけた警官が一人いるだけだ。マウスではない。 「ん、なにか?」 ここを訪れた経緯をいったいどう説明したものかと、シコルスキーはしどろもどろにな ってしまう。 「あ、いや……えぇと……」 「おまわりさん! ここにマウスっていう三人組がいるはずなんだ! 同級生がそいつら にさらわれたんです!」 単刀直入に用件を切り込むルミナ。ルミナと一緒に来て良かったと、心底からほっとす るシコルスキー。同時につくづく己が情けなくなった。 しかし、警官の回答は冷たかった。 「マウス? ……知らんねぇ。坊や、なにか勘違いしてるんじゃないか?」 「いえ、絶対にこの交番にいるはずなんですっ!」 大人顔負けの気迫。今のルミナをいじめられっ子だといっても誰一人信用しないだろう。 だが警官とて、職業柄こうしたアクシデントには慣れている。 驚くことにルミナの鼻先に警棒を突きつけ、鋭く恫喝してきた。 「もう一度だけいおう。坊や、君は勘違いをしている。生えたばかりの永久歯を差し歯に したくはないだろう?」 青ざめ、後ずさりするルミナ。マウスのような存在を知ったばかりとはいえ、正義の味 方だと信じていた“おまわりさん”にこのような仕打ちを受けるとは完全に予想外だった。 今の警告にルミナ以上にびびったシコルスキーはあわててルミナを連れて帰ろうとする。 「ルミナ、怪我しないうちに帰ろう。もうこんなところにいても仕方ない」 ところがこれを耳にした警官は、なぜか態度を豹変させる。 「毛がない、だと……! 毛根がない、だとォ……ッ!」 「え?」
225 :
しけい荘戦記 :2008/09/12(金) 20:47:03 ID:J6QWJvRY0
警官は己の帽子を床に叩きつけ、髪が一本もないスキンヘッドを晒しながら、 「君はいきなり初対面である私の身体的欠点に触れてしまった……。どうしたものだろう。 穏便に君らを追い返そうとした私に対してこの侮辱……とても許せるものではない。どう したものだろうッ!」 怒りにまかせて警棒を構えた。あわてるシコルスキー。 「空耳にも程があるだろォォォ!」 「簡単に倒されてくれるなよ。私が警官になったのはこういうシチュエーションに出会い たかったからだ」 警棒を鉛筆でも回すように高速回転させ、威嚇するスキンヘッド警官。 「制裁ッ!」 いきなり目を突いてきた。かろうじてかわすシコルスキー。 すかさず警官は追撃に移る。警棒を大きく振りかぶり、脳天めがけて勢いよく振り下ろ した。 ──だが。 ヒットしたはずの警棒は消え失せ、一瞬にしてシコルスキーの手に渡っていた。 「ふぅ……警棒の使い手が柳だったら、こうはいかなかったろうな」 「貴様ァ……! 公務執行妨害、名誉毀損、さらには窃盗ッ! ──重罪だッ!」 「ならばついでに器物破損も追加しておいてくれ」 シコルスキーが親指に力を込めると、まるでスプーン曲げのように警棒が折れ曲がった。 むろん超能力などではなく、純粋な指の力による力技。もっとも「人間が持ちうる能力を 超えている」という点では一種の超能力といえるかもしれない。 「バカな、指だけで、特殊合金製の警棒を……ッ!」 警棒を『U』の字にへし折った右手が、今度は警官の喉を掴んだ。 「オイ、もし俺がこのまま力を入れたらどうなるか、分かるな?」
226 :
しけい荘戦記 :2008/09/12(金) 20:48:00 ID:J6QWJvRY0
「よせ、参った……私の敗けだ、やめてくれッ!」 「マウスの居場所を吐いてもらおうか」 「ち、地下だ……。部屋の隅に布が敷かれているだろう。あれを引っぺがしてみろ……地 下へのドアが現れる……。マ、マウスはいつもあそこで“再教育”をする……」 ルミナがいうとおりに布をどかすと、部屋の隅にはマンホールの蓋のような地下への入 り口が隠されていた。 シコルスキーたちがマウスのアジトを突き止めたのと同時刻、しけい荘では焼き肉パー ティーが行われていた。 スペックは肉どころか鉄板まで食べようとしたのでオリバに沈められ、ドリアンはキャ ンディを焼いたら溶けてしまい号泣している。柳は持参したマムシやヤドクガエルを焼い て食べ食中毒を起こし、ゲバルは「海賊だったから魚の方が好き」という理由でサンマを 焼く始末。 六者六様に楽しんでいたが、ふとドイルが缶ビール片手にオリバに尋ねた。 「ところで大家さん、シコルスキーはどうしたんだ? あいつ楽しみにしてたのに」 「彼は今、口を掃除に行っているよ」 「口を? うがい薬でも買いに行ったのか」 「ン〜……まぁそういうことにしておこう」 オリバはあえて本当のことは話さず、独りごちた。 「シコルスキーよ、君は今試されている。乗り越えられるかは己次第だ。しかしマウスを 退けたとしても真の黒幕は……」 ぐいっと一息に缶ビールを飲み干すオリバであった。
うんこSSへの感想ありがとうございます。 こちらは次回シコルVSマウスです。 それはともかく、腕や足をぶっ壊すほどの攻撃がダウンを奪うに過ぎないという無常。 まさに戦いとは不都合なもの、です。
228 :
作者の都合により名無しです :2008/09/13(土) 17:10:10 ID:YgrymLOt0
いよいよバトル編突入か? 少しずつシコルが凛々しくなってきましたな 生暖かく見守ってるオリバもいい感じ
最近サナダムシさん好調ですね。 ファンとして嬉しいです。 シコルスキーの男気が次回も爆発するといいな。
シコルスキー可愛いなあ 今回は凛々しいけどどっか可愛い サナダムシさんはドラゴンボールと バキが心底好きなんだな、とわかります
とにもかくにもセラスはようやく落ち着く事が出来た。 再度着替えたTシャツとスウェットパンツはそれでもきつめではあったが、若干の伸縮性のおかげで 着ていられなくもない。 セラスはフウとひとつ溜め息を吐きながら傍らのベッドに腰掛けた。 それに対し、まひろは実に慌しく私服に着替えている。 生まれて初めての珍客来室に、うっかり寄宿舎における重要な事実を忘れていたからだ。 「私、ご飯食べてくるね。あんまり遅いと怒られちゃうし。すぐ戻ってくるから」 既に夕食時間を大幅に過ぎている。ほとんどの生徒が食事を済ませて自由時間を満喫しているだろう。 このままでは本当に下げられてしまい、夕食抜きとなってしまう。 寄宿舎のメニュー表を暗記し、三度の食事にも間食にも至上の幸せを感じるまひろにとって、 夕食が食べられないのは相当の痛恨事だ。 あるナチス親衛隊が第二次世界大戦下のワルシャワで「デブは一食抜くと死ぬ」という名言を残したが、 まさにそれに近い。 そんな、まだまだ花より団子の子供っぽい彼女の様子に、セラスは苦笑を浮かべる。 「急がなくてもいいよ。ゆっくり食べてきて」 「はーい!」 セラスの声を背に、少しの時間も惜しいとばかりにパーカーの袖を通しながら自室の戸を開けるまひろ。 しかし、彼女の前進は、顔や胸への軽い衝撃の中で阻まれた。 戸を開けたすぐ先に何者かが立っており、その身体にぶつかったのだ。 目の前の人物は今まさにノックをせんとばかりに軽く握った拳を胸の高さまで上げていた。 日曜大工にピッタリな薄汚れたグレイのツナギ。短髪のボサボサ頭に無精髭。 銀成学園寄宿舎管理人のキャプテン・ブラボーである。 「あっ! ブラボー!!」 「何だ、まだ――」 言葉が途切れる。 まひろにも容易にわかった。ブラボーの表情が滅多に見られない、険しいものになっているのが。 まひろが冷汗三斗の思いで後を振り返ると、そこにセラスの姿は無かった。
この時にセラスが見せた身のこなしは見事なものだった。 ベッドに腰掛けて完全に気を抜いた状態から、まひろの上げた「あっ!」という一声に反応し、 入室の際と同じ超スピードで瞬時に押入れへと飛び込んだのだ。 それはとても常人の眼に映るものではない。せいぜい眼の錯覚くらいにしか思わないだろう。 だが、キャプテン・ブラボーは違う。 今でこそ呑気な管理人だが、元は錬金の戦士であり、戦士長だった男だ。 更に、防御専門の己が武装錬金の為に鍛え上げたのは、筋力や俊敏性だけではない。 敵の攻撃や能力、戦局を見抜く“眼力”もそれに含まれる。 そして、ブラボーの眼は捉えていた。まひろの背後、人間離れした素早さで押入れに飛び込む人影を。 ブラボーは視線を押入れに向けたまま、まひろの肩に手を置き、諭すように言う。 「さあ、早く夕飯を食べに行きなさい。」 一方のまひろは見ていてかわいそうになるほどの慌てぶりだ。 ブラボーの言葉は頭に入らず、いつの間にか消えてしまったセラスを探してキョロキョロしながら―― 「あ、あのね! 誰も隠れてないし、誰もいないよ! ホントだよ!」 ――などと不自然極まりない言い訳を繰り返している。 これ以上部屋に入るなとばかりに鬱陶しくまとわりつくまひろを、ブラボーはキッと見つめた。 寄宿舎内に人外の化物が潜んでいるという非常事態。しかも、察するにこの部屋の主の方から 招き入れた節があるのだからタチが悪い。 彼女を傷つけないように、怯えさせないように細心の注意を払いながら、ブラボーは言い渡す。厳しく、簡潔に。 「いいから、行くんだ」 その言葉が耳に入った瞬間、まひろの動きはピタリと止まってしまった。 普段あまり怒らない人間が怒ったらどんなに怖いかという良い見本になったのだろう。 「……はい」 まひろは泣きべその一歩手前の声で素直に返事をすると、うなだれて部屋から出ていった。 名残惜しそうに幾度も自分の部屋の中を振り返りながら。 部屋に一人残ったブラボーは緊張と警戒心を全身にみなぎらせ、押入れの前に仁王立ちとなっている。
“まひろに招き入れられた”や“まひろを傷つけていない”等の事実は安心していい理由にならない。 笑顔で人間を欺いた後に邪悪の本性を現す化物など掃いて捨てる程いる。 「一度しか言わない」 彼の経験上、というよりも職務上、中に潜んでいるのはホムンクルスと当たりをつけていた。 遥か昔から数え切れない程の戦いを錬金戦団と繰り広げ、この銀成市でも“蝶野攻爵”の作り出した ホムンクルスや共同体“L・X・E”が跳梁していたのだ。 すべてのホムンクルスが月に渡ったと言われても、そうにわかに信用出来るものではない。 現にどう考えても人間とは思えない化物が、眼前で息を潜めているではないか。 「俺は錬金の戦士、キャプテン・ブラボーだ。敵意が無いのなら大人しく出てこい。そちらから 攻撃してこない限り、こちらも手を出さない事は約束しよう」 実はこの時、彼に勝算と呼べるものは何一つ無かった。 たとえ鍛え上げた肉体と研鑽を重ねた格闘技術のみを武器に戦ってきたとはいえ、武装錬金の無い 生身ではホムンクルスにダメージを与える事は一切出来ない。 加えて、半年前に再起不能に近い重傷から生還するもその後遺症の為に、強大だった戦闘力は 全盛期から遠くかけ離れたものとなっていた。 それでも尚、勝機無き戦いに挑む理由は、彼が生徒達の平和な暮らしを預かる寄宿舎管理人であり、 キャプテン・ブラボーだからだ。 生徒達を、子供達を、化物共の毒牙に掛ける訳には絶対にいかない。 力及ばぬまでも命を捨てて、皆が逃げ出す時間だけでも稼ぐつもりだった。 「五秒だけ待つ。それ以上の沈黙は敵意があるものと見なすぞ」 両の拳を満身の力で握り締める。 ――それは意外な程に早かった。 五秒のカウントを始める前に押入れの戸が静かに開いたのだ。 中から出てきたのは妙にサイズの合っていない服を着た外国人女性。 対象のすべてを見極める“心眼ブラボーアイ(掛け声・ポーズ無しの簡易バージョン)”を以ってしても 動物型ホムンクルスが人間形体をとっているようには見えないし、ましてや人間型ホムンクルスにも見えない。 しかし、人間とも違う。 聴覚を最大限まで研ぎ澄ませても、呼吸音や心臓の鼓動は聞こえてこない。 ブラボーは軽く困惑していた。 「お前は何者だ? 人間じゃないのは確かなようだが」
俯き気味に視線を下げた彼女は先程のまひろのリプレイの如く、泣きべその一歩手前の声で オドオドと答える。 「あ、あの、名前はセラス・ヴィクトリアです。えっと、その、信じてもらえないかもしれないけれど…… 私、吸血鬼なんです……」 「吸血鬼……?」 予想外の返答だった。 今まで錬金の戦士として幾度と無く人造生命体ホムンクルスと遭遇し、戦いを重ねてきたブラボーも、 吸血鬼などというものは初めてお目に掛かる。 とはいえ、化物そのものの素早さや生体反応の無い身体を目の当たりにしているのだから、 嫌でも信じざるを得ない。 「……いや、信じよう。セラス、君はどこから来たんだ? 何故、こんなところにいる?」 ブラボーの口調が幾分か柔らかくなっている。 決して油断している訳ではない。ではないが、こうまでビクつきながら素直に応対されると どうにも調子が狂ってしまう。 セラスはセラスで、目の前の男が実力においてもバックボーンにおいても只者ではないであろう事を 漠然と理解していた。 自分達と同じ“裏”の存在、“闇”の存在。 ならば、ある程度は正直に話した方が良いのではないか。そう思っている。 「それが、その……。私はイギリスの“王立国教騎士団”という機関に所属しているんですが、 ある日、眼が覚めて棺から出てみたらどういう訳か日本にいて……。私にも何がどうなってるのか、 よくわからないんです」 “イギリス” セラスの言葉を聞いた途端、ブラボーの胸に若き日の闘いの場面が去来する。 あれは七年前―― 『ようこそ、錬金戦団大英帝国支部に!』 『この私の武装錬金こそが最新鋭! 最強の破壊力を誇るのだ!』 『見て下さい! 見て下さいブラボーサン! 僕、こんなに強くなりましたよ!』
『私に殺されるまで、誰にも殺されるなよ?』 ――ほんの僅かの間、ブラボーの意識は銀成学園寄宿舎から離れ、“防人衛”として記憶の回廊を彷徨っていた。 そして、それらの記憶が甦ると同時に、改めて納得する。 “吸血鬼を殺す為の組織が存在するのならば、吸血鬼の存在もまた至極当然なのだ”と。 短い記憶の旅路から戻ったブラボーは話を続ける。 「その先は“困っているところをあの子に拾われて、この寄宿舎に来た”といったところか」 「そうです……」 相変わらず俯いたままのセラス。 ブラボーは口元に手をやり、指先で無精髭を細かく擦る。 「ふうむ……――」 嘘は言ってないのだろうし、少なくとも自分やまひろ、他の寄宿舎生に害意は持っていないのかもしれない。 それでも“この事”は聞いておかなければならない。彼女が吸血鬼である以上、“この事”だけは。 「――……君には“食事”が必要だろう。日本に来てからどれだけの人間を襲った?」 その質問を聞くや否や、セラスは顔を上げ、潤んだ瞳をいっぱいに開いてブラボーを見つめ返した。 「私、誰も襲ってません! 確かに血は飲みたくなるけど、でも絶対に飲みません! 今までも一度だって 飲んだ事は無いんです!」 否定、というよりも抗議の色合いが強いセラスの訴え。 彼女が何故、血を飲まないのか。吸血鬼が血を飲まなければどうなるのか。 どちらもブラボーにはわからないが、そこにセラスの明確な“意志”がある事はわかった。 「そうか……。失礼な事を言ってすまなかった」 謝罪には答えず、セラスは再び顔を伏せる。 「私……出ていきます……。まひろちゃんには『優しくしてくれてありがとう。嬉しかった』 って伝えておいてください……」 ひどく暗い声だ。最早、泣き声ですらない。 部屋の隅に置いてあるリュックサック、銃器とその弾倉(マガジン)が山程入った物騒なリュックサックを 急いで手に取ると、セラスは部屋を去ろうと足早にブラボーの横を通り過ぎる。 早く出ていかなければ、という思いが強いのか、自分が身にまとっているのはHELLSING機関の 制服ではなくまひろの私服だという事にも気づいていない。 そんなセラスにブラボーがわざとらしい咳払いと共に声を掛けた。
「ンンッ! あー、それで君の今後だが」 「……?」 不意の言葉にセラスは立ち止まって振り返り、キョトンと不思議そうに彼の顔を眺めた。 腕を組んだブラボーは彼女に初めて笑顔を見せながら、あえて回りくどく伝える。 「俺の組織はイギリスの方にも支部がある。君の帰国に協力してもらえるように、上に掛け合ってみよう。 その間、この部屋の押入れで大人しくしていてもらうが、それでもいいかな?」 セラスはこの言葉の真意を汲み取るのに少しの時間を要した。 やがて、ブラボーが何を伝えたいかを理解すると、すぐにこれ以上無いくらいの満面の笑みを浮かべた。 「ありがとうございます!」 彼女の頭の中は喜びでいっぱいだ。 “ゆっくり身体を落ち着けられる場所が出来た”のも嬉しいのだろうし、“イギリスへ返る見込みがついた”のも 安心なのだろう。 しかし、最も大きな割合を占めていたのは“まひろちゃんと友達になれる。あの少しおかしな、 でも優しくて楽しい女の子と”という思いだ。 一頻り喜びを噛み締めたセラスではあったが、実はあともうひとつだけ心配な事が残っていた。 まひろとの共同生活を送る上で一番大切な事だ。 「あ、でも……」 「わかっている。君が吸血鬼だという事は、まひろには秘密にしておこう。そうだな、“日光アレルギー” とでも言っておくか」 それに銀アレルギーとニンニクアレルギーも追加して彼女に説明しなければ、と考えながら、 笑顔のセラスは一際弾んだ声をブラボーに返した。 「はいっ!」
ども、こんばんは。さいです。
ハナシススメマス(トラックがバックする時の声で)。
ちなみにこの第三話と次回第四話の間に、『WHEN〜』のエピローグ2が挟まるという時間設定です。
>>213 さん
70cmぐらいでしょう、たぶん。かみさんやかみさんのお姉さんにも意見聞いたんで少し自信あったりw
あとそんな素敵サイボーグがいたら是非ラブドーr(ry
>>214 さん
そんなにでかい人種じゃないですw イギリスの若い女性の平均身長は162.5cmですしw
詳しくこれで→
http://plaza.rakuten.co.jp/saisaimappy/diary/200809090001/ まあ、婦警は平均より長身な女性なのでしょう。
>>215 さん
ハナシススメマス(トラックがバックすr(ry
>>216 さん
「良い子だけどかなりすげえ足りない」と捉えてます。まあ、それだけじゃないですがw
では、御然らば。
238 :
作者の都合により名無しです :2008/09/14(日) 23:39:12 ID:kKXsolUS0
前回が顔見世の可愛らしい邂逅って感じでしたけど 今回はしっかりと情報量も多く書き込まれていますね ブラボーはキャラが立ってるからどのssでも使いやすいのかな リーダーとして年長者としてちゃんとストーリーを引っ張りますね
お疲れ様です。 前回の百合っぽい感じから、話がバトルモードに徐々に展開ですか。 まひろと婦警のほのぼのとした風景も良いですけど前作並みのアクションも期待してます。
240 :
ふら〜り :2008/09/15(月) 21:22:37 ID:bHGVHzcj0
>>さいさん(イギリスで同性愛なら「セント・マシューズ」! いやBLにも感動的名作は以下略) セラス本人のプロポーション描写と、まひろのリアクションとの掛け合いで、スムーズに映像が 浮かびます。いつの間にか互いの認識まで含めてテンポよく読め、らしいオチへ着地。で戦士と して大人として立派なブラボー、優しさ厳しさを魅せつつ前作と繋がり……盛りだくさんでした! >>サナダムシさん ・くそったれ てっきり、フンごと道路に穴ぐらい開けるかと思ったのに。どこにも被害を出さず目撃すら されないとは。分別つけるようになったなぁ戦闘民族の王子様。妻子を持つと男は変わるか。 ・しけい荘(パレットをストーブの上に置いて乾燥させようとしたら溶かしてしまった幼き日の私) シコルが本当にまともにカッコ良く活躍してるッッ! これならルミナの中での、「強くて頼れる お兄さん」像も確固たるものに! 今の彼ならマウスも黒幕も一蹴……はムリ、いや、いける?
241 :
作者の都合により名無しです :2008/09/15(月) 23:09:59 ID:EqZV4DkT0
WHEN〜と続いているんだよな、そういえば 完全に雰囲気が違うので独立してる風に思っていたけど セラスもまひろと同じく基本的には良い子ちゃんなので 桜花みたいな悪女キャラと絡んでくるとよいかも
週末来てたのサナダムシさんとさいさんだけか また日照りになるのかな
まず訂正をば。
>>193 ラストをこう変更した上でお読みください。
切断されたガス管は倒れ込む電柱との、いや、それから伸びる火花付きの電線との接触で大
爆発を起こした。
「リーダーからの伝達事項その五。残る戦士六名をただちに無力化し、最後の割符を奪還せよ」
どこかで再び爆発がした。その爆風にあぶられ赤く長い三つ編みが揺れた。
「私の回答は……了承」
あちこちを燃やす灼熱の炎に頬を赤く焙らつつ、あくまで表情を崩さぬ鐶が防人めがけ疾駆
した。
こうしないと今回との整合性がとれないので……。申し訳ありません。
やっぱ思いつきで付け足すもんじゃないですね。ははは。
それでは続き。
244 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 03:29:55 ID:Lcb39hjMP
第072話 「滅びを招くその刃 其の拾」 焦点、という言葉がある。 光学においては平行光線が収束する点を指し、日常的な言葉の意味ではもっぱら人々の 関心や注意が集まるところを示してやまない。 これよりしばし時系列は物語上の描写要求により巻き戻さざるを得ないが、その中において、 『焦点』は先に挙げた二種の意味で一人の戦士へと向き、或いは彼自身を焦点に変ずるコト となる。 (ここは住宅街。戦士・カズキの突撃槍のようにブラボチョップで捌くコトはできない!) 防人衛は放たれた光線に鋭い眼光を吸いつけながら、肩の広さまで広げた両足を重々しく アスファルトに預け、右拳だけを腰の辺りで軽く起こした。 「全員、俺の背後に隠れろ」 仁王に似ている。斗貴子は無言の気迫に頼もしさと一抹の畏敬を覚えつつ、防人と背中合 わせで素早く膝立ちにしゃがみ込み、混濁中の千歳を正面切って抱き抱えた。 その面持ちが見える場所(つまり防人からは斗貴子一人分を挟んだ後ろ)で、剛太は身動き できない桜花の手を引き無理やりしゃがみこませ、御前はほぼ同サイズに縮んだ根来をあた ふたと抱きかかえながら剛太の足元に何とかたどり着いた。 転瞬、防人の銀の防護服に光線が命中した。 もっとも通常の打撃や斬撃ならば傷一つ受けないシルバースキンである。よしんば破壊され たとしても瞬時に修復する。 (……おかしい) 部下は鐶の攻撃意図を測りかねた。 果たして高圧電流を鳥の特異体質によって転化した疑似荷電粒子砲は、防護服に命中する やいなや表面を流れ滑り落ち、防人とその背後の戦士一同の脇を通り過ぎるにとどまってい る。それは戦士たちにとって僥倖だが、鐶にとってはこれほど大技を無為に防がれるのは不 利としかいいようがない。 とはいえ光量と熱量は流石にすさまじい。戦士たちの面頬の照度は一気に跳ね上がって白 みに白み、アスファルトを焼き砕きながら後方彼方へと流れゆく奔流には汗がだくだくと吹きあ がって蒸発し、熱ぼったい霧が呼吸と同時に気管支の粘膜を火傷させるのではないかとさえ 思わせた。 (千歳を封じたのは納得がいく。瞬間移動での回避を防ぐためだ)
245 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 03:31:24 ID:Lcb39hjMP
それを思わば防人は鐶というホムンクルスの周到さに舌を巻きつつ戦慄せざるを得ない。 彼女は根来が捨て身で拘束を行ったその瞬間にはもう次の段取りを整えていたのだ。紙杖 環を破りリバースも破り、光線という切り札を命中さすべく、千歳に狙いを移していた。 斗貴子を鐶の頭上へ運んだ直後だから瞬間移動には若干ながら遅れが生ずる。その瞬間 めがけ鐶は髪から羽根を飛ばし、見事に封じたのだ。 (だがそこまでするなら、俺以外の戦士を一ヶ所にまとめるのが最善の筈) 数多くの戦いをくぐり抜けた者だけが持つ直感が防人に疑問をなげかける。 現にシルバースキンは光線を防ぎ、他の戦士への一切の手だしを許していないと。 しかも先ほど射出したアナザータイプのシルバースキンはようやく防人の意思に従い彼の左 へとヘ舞い戻り、ヘキサゴンパネルから元の防護服へと戻りつつある。 防人は光線の中へ右拳を突き出した。それに呼応するように大航海時代の海軍の軍服が、 彼の傍らで甲高い音を打ち鳴らしながら細かいヘキサゴンパネルへと分解し、それが帯と連 なり流れてゆく。 (もしコレを戦士・斗貴子たちのうち何人かに着せれば光線への防御は成せる。だが) 勘案すると鐶の光線射出は派手で脅威であるが、非常に穴も多い。 (だが、あの根来の捨て身さえ看破しリバース射出を読み切り、俺達をまんまと出し抜いたよ うなホムンクルスが今さらそんな防ぎやすく拙い攻撃を仕掛けるだろうか? 勝負を急がねば ならない何らかの理由があるのか。それとも──…) 光線は弱まりつつある。恐らく電線から洩れる電流は鐶の限りない収奪によって尽き果て始 めているのだろう。 (もしこの攻撃の目的が、俺達の全滅でないとすれば?) アスファルトが焼き削られ、切断されたガス管に火花散らす電線が鞭のように当たるやいな や、轟音が耳をつんざき紅蓮の嵐が吹き荒れた。 (考えろ。奴は強い。俺以外の戦士なら普通に攻めればいずれは必ず斃せる。つまりこの光線 そのものは、各個撃破を狙った物ではない。それは俺達をわざわざ集結させた所からも明白。 かといってそこに俺を含める以上、全滅を狙った物でもない)
246 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 03:32:59 ID:Lcb39hjMP
炎の匂い染みついてむせる中、防人は見抜いた。 (ならば奴の真の狙いは!) 「リーダーからの伝達事項その五。残る戦士六名をただちに無力化し、最後の割符を奪還せよ」 爆風が銀色の帽子をさらい上げ、防人の素顔を明らかにした。 「私の回答は……了承」 (狙いは、俺だ!) 光線の停止とまったく同時に鐶が防人の顔面めがけて短剣を打ち下ろした。 電柱を蹴って加速をつけたのだろう。光を追って滑空した鐶はすでに防人の斜め上空五十 センチメートルほどにいる。 飛沫のように散る光の中、防人は鐶を見据えながら軽く身を引いた。同時に赤い円弧がびゅ っという風切り音を奏でながら黒い前髪をバラバラとひじきのように斬り飛ばしたが直撃には 至らない。 そも光線射出に伴い年齢退行している鐶だ。見た目およそ四歳ほどになっているのは、セイ コウチョウのヒナたるべく敢えて幼くなったせいだろう。よってリーチは短く、密着状態といえど まだ回避の余地はある。 (やはりな。本当の目的はあの光線によって爆発を引き起こし、俺の素顔を明らかにするコト! 先ほどまではシルバースキンによって通じなかったが、素肌さえ覗けば奴の年齢吸収は俺に も有効……ならば現状ただ一人、奴を捕縛できる俺を無効化しにかかるのは当然) おぞましくも「髪を斬られた」その程度の取るに足らない攻撃でさえ「斬りつけた深さに応じて 対象から年齢を吸収する」短剣の特性の範疇らしく、防人は二・三歳ほど身の縮むのを感じた。 感じつつも何千何万と戦闘反復を繰り返した体は、身を引きながらも握り固めた岩のような 拳を鐶のみぞおちにたたき込んでいる。四歳というまさに幼児の姿の鐶にそうするのは、やは り忍びなくもあるが、防人はそれに耐え、あらゆる衝撃と障害を打ち破るように拳を振り抜いた。 (攻撃さえ読めばこの程度は──…) 足場にしていた電柱めがけて逆戻りに吹き飛ぶ鐶は、しかし中空で何かに背中を撃ちつけ、 驚くほど柔軟な振幅を見せた。かすかだが無表情に驚きが浮かび、そのせいか飛翔も忘れ 彼女はただ落ちていく。 「これは……?」
247 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 03:34:12 ID:Lcb39hjMP
鐶は見た。帯状に連なるヘキサゴンパネルが周囲三百六十度総てを取り巻いているのを。 それは公園にある球状のジャングルジムに似ていた。もしくはワイヤーだけで構成された球、 またはハリボテ状態の大玉。スイカの黒縞のごとく縦にのびゆく数本の円弧へ、水平のリング (正確にはヘキサゴンパネルが連なったリング)が絡みつき、それはそれは見事な球体を構成 していた。鐶が弾き飛ばされた方角では人二人が通れそうな長方形の穴が開いていたが、そ れも彼女の侵入と同時にちりちりとヘキサゴンパネルが塞いだ。恐らく鐶を入れるために敢え て開けていた穴なのだろう。 「シルバースキン・ストレイトネット」 とは、白銀の防護服を分解・射出し網状に再構成する技である。 「先ほど解除したアナザータイプを仕掛けておいた。最初は戦士・斗貴子たちを守るために展 開しようと思ったが、お前の狙いを考えればこちらの方が確実。これ以上守勢に回れば火力 に劣る俺達は確実に負けるからな」 防人の手つきに合わせ、ストレイトネットの球はみるみると縮小を始め、網目も子供一人通 れるかどうか怪しいほどに小さくなっていく。 正に鳥を捕縛する網のように。もしくは鳥籠のように。 無表情のまま寂然と佇む「長身の女性」がその中で両手さえ広げられないほど、ストレイト ネットは狭く小さく絞られていく。 そうして電柱の周囲には住宅街とまるでそぐわぬ奇妙な球体のケージが浮遊した。 「……」 鐶は無言無表情のまま足の爪を鋭くして蹴りあげた。しかしそれを浴びたヘキサゴンパネル の帯は、本来の硬質が嘘のように伸びすさり、やがて強烈なスプリングのごとく足を弾いて元 の形へと戻った。 「斬れ……ません」 「無駄だ。ストレイトネットはシルバースキンリバース同様、内部からの攻撃を全て遮断する。 ヘキサゴンパネルが『周囲から自動で絡みつく』『網のように伸びて戻る』という違いこそある が、いずれもひとたび敵を捕らえさえすればまず脱出は不可能。……俺が解除しない限りは」 ストレイトネットはかつて三十体からなるムーンフェイスの群れさえ見事に捕縛し、無限増殖 という悪魔的な手段すらも封じたのだ。
248 :
作者の都合により名無しです :2008/09/19(金) 10:50:28 ID:AibMZmIJ0
なんか後書きが前だと区切りがついた気がしないなあ スターダストさんお疲れ様です 整合性にまで気を配る氏の職人魂に頭が下がります
249 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 12:16:20 ID:Lcb39hjMP
「お前が光線に乗じて仕掛けてくるのは読めていたからな。俺も光線に紛れてストレイトネット を展開しておいた。リバースに比べれば発動までに少々時間がかかるのが難点だが、俺だけ に焦点を絞り、年齢吸収に勝負を賭けていたお前なら見落とすと思っていた」 ”攻撃はあらかた見ている” ”喰らっても回復ができる” ”なら年齢吸収の際に多少のダメージを負っても問題はない” ”仮にリバースを正面切って放たれても、既に見ているから避けられる” 「お前はそう考えていた筈だ」 「……はい」 「だが戦士・根来が教えてくれた。お前は勝負に出る時、『自分が相手の手の内を総て読み切 った』と確信する癖がある。判断力も攻撃力も申し分ないが、それを信じ切りやすい脆さも秘 めている。だからあの拘束(忍法紙杖環)のような虚を突く攻撃をされると……至極お前はか かりやすい。強いていうならそれが唯一の弱点」 防人の右拳が握られるのと同時に、あたかもスイカや魚を入れる網のごとくストレイトネット が鐶の体に密着した。 「そして……切り札を残しているのはお前だけではないというコトだ」 「やった! 捕らえた!」 歓喜の声をあげる御前を眼下に置きながら、剛太はふうと息吐き尻もちをついた。 「たく。手間かけさせやがって。けど何とかコレで終わりか。流石キャプテンブラボー」 「……いや」 斗貴子は息を呑んだ。 「『切り札を残している』? 『残していた』じゃなくて? まさか……戦士長」 彼はただ背中だけを部下に向けているから表情は伺えない。 しかし桜花の濡れそぼる瞳には鏡のように映った。 薄くくすぶりながらもなお鮮やかに白く輝く服と、ぼさぼさと乱れた黒髪が徐々に縮むのを。 「すまないな。できれば俺もストレイトネットで勝負をつけたかった」 振り返った防人のその姿を見た瞬間、誰からともなく沈痛な呻きが漏れた。
250 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 12:17:41 ID:Lcb39hjMP
右こめかみから唇の左端にかけて一本の巨大な斬り傷が開き、血がいつ尽き果てるとも知 らずだくだくと流れている。そこにうっすら覗く白い物体はただの脂肪か、それとも骨か。いずれ にせよ非常に深い傷であるコトは想像に難くない。 「ウソだろ……? あのキャプテンブラボーがやられるなんて」 剛太は悪寒をきたしたように瞳孔をめいっぱい拡充させ戦慄き 「認めたくないけど事実よ」 桜花はきゅっと下唇を噛みしめた。 (ケガさえなければ、私たちをかばっていなければ、もっと違う結果になっていたでしょうに……) 「逝くな、逝くなブラ坊ぉ〜!」 御前に至ってはライト型の目の輪郭が歪んで見えるほど涙を流している。 「コラコラ、そんなに泣くな御前。俺なら大丈夫だ。死にはしない。ちょっとばかり乳児になるだ けだ」 からからとした調子の中で防人は敢えて明るい言葉を選んでいるらしく、その語調には所々 空転がみられた。しかしそれが古びた弦楽器のような心地いい軋みを帯びているのは、彼の 人柄によるせいだと斗貴子は思った。 (この前といい、どうして私はそういうコトをいなくなりそうになってから気付くんだ) 平生の気楽で飄々とした調子で斗貴子を悩ます上司なのに、有事にはそこにいるだけで安 心して戦える不思議な存在感を防人は秘めている。 斗貴子は兄という存在を持ったコトはないが、或いはこの七年間の防人はそうだったのかも 知れない。時に厳しく時に優しく、上司という枠を超え、親身になって斗貴子に接していた。 (あの時、五千百度の炎から身を呈してかばってくれもした。今だって光線から守ってくれた。 なのに私は──…戦士長に何もしてあげられない。重傷を負わせてしまったのは私にも責任 があるというのに) 「そう気に止むコトはない。全ては俺が勝手にやったコト。キミやキミたちさえ無事なら俺はそ れで十分満足だ。たまに笑顔の一つでも見せてくれればそれでいい」 沈み込む斗貴子に防人は微笑交じりにウィンクした。泣くな、といいたいのだろう。 「とりあえず何があったかだけは説明しておく。あの時──…」 防人の拳を浴びた鐶は、身を丸め、うっすらとえづきながらも左腕をしならせた。
251 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 12:20:25 ID:Lcb39hjMP
そこにはもう一本の短剣が握られていた。 右腕にあったのは、どこかシークレットトレイルの面影を残す、今一つの短剣。 ダブル武装錬金。根来の落とした核鉄をいつの間にか回収・発動した鐶は、右腕にそれを 握り、左腕には自前のクロムクレイドルトゥグレイヴを握っていた。 と気づいた防人は回避に身をよじろうとしたが…… 以前に負った満身創痍。度重なる打撃による疲弊。攻撃の反動。 体内に鬱積した薄暗い淀みがわずかに彼の動きを鈍らせた。 それでも防人は死力を振り絞り剣先を紙一重で避けた。 避けたつもりだった。 しかしそこでやにわに鐶の腕が伸びた。 同時に彼女の姿は、五歳から七歳のそれへと変じていた。 年齢吸収。 「奴は俺の髪を斬って吸収した年齢を、自分の体に反映した。そしてリーチを稼いだ」 成長を遂げた腕が防人の紙一重をやすやすと突き破り、彼の顔を斬り裂いた。 「すまない。俺が奴の攻撃さえ避けていれば決着はついていたのだが、力及ばずこの有様だ。 傷は言い訳にもならない。戦士が常に最善の状態で戦えるとは限らないからな」 防人の体が、縮んでいく。 「だがせめて、奴の回復の秘密を暴く時間ぐらいは稼いでみせる」 グローブが中身が抜けたようにやや膨らみを失し、同様に腕や体、足からも防人の頑健な 肉体の影が消えていく。 「それが戦士・根来へのケジメだ。声に騙され、リバース射出のタイミングを見誤った俺の」 肉体の縮小とは裏腹に、ストレイトネットは強い軋みをあげ鐶をいっそう拘束していく。 「だからこそ胎児になろうと最低三分は拘束を継続してみせる。お前たちはその間に奴の回 復の秘密を暴け!」 「た、たった三分で? 無理ですよキャプテンブラボー! ここまでの戦いで見抜けなかったコ トが三分ぽっちでできる筈が」 「……やるんだ剛太」 狼狽を強く嗜める斗貴子に剛太は沈黙し、バツが悪そうに唇を曲げた。 (くそ。今の俺カッコ悪ィ。新人(ルーキー)丸出しじゃねェか)
252 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 12:21:24 ID:Lcb39hjMP
「なぁに。ブラボーなお前たちならきっと暴けると信じている。落ち着いて考えさえすれば、案外 簡単に見抜けるかも知れないぞ。だから俺は……やれるコトをやっておく」 少年を経て幼児を経て乳児にさえ退行する防人は、斗貴子に視線を吸いつけた。 (後は任せたぞ戦士・斗貴子。キミなら戦士・剛太や桜花を見事に指揮できると信じている……) 斗貴子は防護服の襟からこぼれ落ちる胎児へと必死に手を伸ばし、つまずきそうになりなが ら何とか抱きしめた。 (先ほどいった通り……あと一太刀か二太刀斬りつけられればアウト……気をつけろ) 眼光はそれだけを告げると、皺まみれのまぶたをそっと降ろした。 「……はい」 生白くも柔らかい防人を、斗貴子は沈痛な表情で抱きしめた。 「気持ちは分かるけど、今は彼女の秘密を暴くのが先よ」 その肩に弱々しく手を当てた桜花は、すぅっと鐶を見据えた。 「拘束は大丈夫そうね。私たちは回復のカラクリを暴きましょう。御前様はブラボーさんと千歳 さん、それから根来さんの介抱をお願い」 てきぱきと指示を始めた桜花に剛太の怪訝そうな視線が刺さり、斗貴子は防人を御前に渡 してすくりと立ち上がった。 「そうだな。戦士長の犠牲を無駄にする訳にはいかない。……いかないんだ」 たおやかな紺に染まるスカートの傍で小さな拳が握りしめられているのを見た御前の表情が 綻んだ。 「そうそうその意気。んじゃ俺はブラ坊を。よいしょと」 防人を抱えて飛ぶ御前をよそに、剛太は急に驚愕の表情で鐶を指さした。 「アイツ、歳を取ってる……?」 つられて鐶を見た斗貴子も眼を丸くした。 登場した時の彼女はおよそ十代前半。電柱の頂上にいた時は四歳ほど。 それが…… 「三十代!?」
253 :
永遠の扉 :2008/09/19(金) 12:22:48 ID:Lcb39hjMP
千歳を凌ぐほどすっかり熟れた美しい顔が、ストレイトネットの中から戦士たちを見下ろして いた。身長も桜花ほどはある。肉体のすみずみまで豊穣に溢れ、むせかえるほど濃密な色香 を帯びている。 「……戻るときに吸収しすぎました。これもクロムクレイドルトゥグレイヴの一機能、です。斬り つけた物からダイレクトに私の体に年齢を反映……できます。さっきは……光線のためにヒナ へなる必要があったので、四歳になっていたので……あの人から年齢を吸収して……戦いや すい年齢へと変化しました」 剛太はノド声で怒鳴った。 「んな馬鹿な! ホムンクルスは不老不死の筈! 歳をとるなんてありえねェ!」 斗貴子だけが息を呑んだ。 「老化もある意味ではダメージ。武装錬金の特性ならば或いは」 「いいえ。歳をとってしまうコト自体は……特異体質の副作用」 のびやかな肢体を立ち上がらせた鐶は、目を細めてキドニーダガーを握り締めた。 「私は……あらゆる人と鳥に変形できるのと引き換えに…………五倍の速度で歳を取ってい きます」 「な……?」 一瞬、鐶の体に輝きが満ちたかと思うとシルエットが見る間に縮み、十代前半特有のなよな よとした体つきに戻った。 「変形に特化した細胞は……それだけ変質しやすいというコトです……。私はホムンクルスで すが他の人とは違って…………老いていきます。一年に五歳……。去年、リーダーたちと敵対 して仲間になった時は七歳……。けれどそれから一年後の私は十二歳……。来年はきっと十 七歳…………。私だけがきっと……一人だけ歳を取っていくコトでしょう…………たった一人、 ブレミュの中で…………私だけがいつかお婆さんに。だからいつか私は……私をホムンクル スに改造したお姉ちゃんを探し出し……特異体質を直したい……です。だからリーダーたちと 旅を……」 「何か悲しい身の上話を始めてるようだけど、回復の秘密とは無関係っぽいから無視しましょう」 桜花はにこりともせず呟いた。 以下、あとがき。 たぶんココで連投規制。昼休みに抜け出してきたので一旦ココまで。 頂いたご感想へのお返事は後ほどブログにてー!!
スターダストさんお疲れ様です。 前回も規制でしたか? 鐶との総力戦もひと段落しましたがやはり防人のリーダー振りが光ってましたね。 桜花ひでえw
255 :
作者の都合により名無しです :2008/09/19(金) 23:02:48 ID:iXOTTVi40
凄いなスターダストさん連続投稿か 5倍の速度で年を取るって事はあっという間におばあさんだな 鐶の戦闘能力にもリスクがあったのか
ジャンプ漫画なら鐶は仲間になりそうな感じ ただSSでそれをやるとオリキャラだけに難しいかも ただでさえ登場キャラ多いのにw
257 :
作者の都合により名無しです :2008/09/20(土) 22:39:45 ID:vXMZrFvt0
またスターダストさんが孤軍奮闘して他の方が来ないパターンになるのか
鐶を強く設定しすぎて次からの敵が難しいですな。 チームプレイでやっと倒せたって感じだし。 戦闘描写が今回は長かったから余計そう感じる
| \ |Д`) ダレモイナイ・・トウカスルナラ イマノウチ |⊂ |
4月23日 影時間 タルタロス エントランス 承太郎の前に、S.E.E.S.メンバーが整列している。 「さて、聞いているとは思うが、お前達に話がある」 承太郎の言葉に、そろそろと下の方から手を上げ、恐る恐る順平が質問をする。 「あ、あの〜。やっぱりお説教なのでございますでしょうか?」 滅茶苦茶だが、順平なりに最大に気を使った発言だった。 そんな順平の様子と、程度の差はあれど、表情を硬くしている一同を見て、 承太郎は、尊敬する年下の友人に『承太郎さんは無言のプレッシャーがあってコワイんですよ』 と言われた事を思い出し、ほんの少し、口の端を持ち上げた。 「いや、違う」 その言葉に、今まで固まっていた空気がすっと緩み、メンバーの表情も心持ち明るくなる。 「それじゃ、話って何なんですか?」 小首を傾げながら、ゆかりは承太郎に尋ねる。 その言葉に承太郎は一度ゆっくりと頷いてから話を始めた。 「昨日の戦いで皆も分かったと思うが、現時点ではお前達とは力に差が有りすぎる。 これではお前達の為にならんと思ってな。・・・そこでだ。 俺は外れる事にする」
承太郎の言葉に、2年生達は驚きの、三年生二人は納得の表情を浮かべた。 一番ショックが大きかったのか、順平が、慌てた様子で承太郎に詰め寄る。 「ちょっと待ったァ!外れるも何も、まだこの前一緒になったばっかじゃないっスか! なんスかそれ!特別課外活動部辞めちゃうってことっスか!?」 「落ち着かないか、伊織!空条先生の話はまだ途中だ。 君は早合点と早とちりが多くて困るな…。先生、続きをどうぞ」 承太郎と順平の間に割って入った美鶴が、順平を制し、承太郎に話の続きを求める。 「やれやれ、では続きだ。外れると言っても直接的な戦闘から一時的に外れるだけだ。 探索については、今までと同様に行う。 しかし、俺が行動を共にしちまうと、シャドウどもが尻尾を巻いて逃げちしまうだろう。 だから、お前たち3人の後方から付いていく形をとらせてもらうぜ」 話を聞き終えたゆかりは、眉を寄せて承太郎に質問をする。 「え…本当に着いて来るだけ…なんですか?」 ゆかりの不安と落胆の混じりあった表情を見て、承太郎は心の中で苦笑いを浮かべる。 「いや、流石にそれでは無責任が過ぎるだろうと思ってな。 それに今は教鞭をとる立場だ。生徒を危険に晒しっぱなしと言うのも情けないだろう。 いくつか、手助けをしようと思っている」 承太郎は、それから少し考えて、いくつかの案件を挙げた。
まず、戦闘についてのアドバイスを送ること。 幸いにしてと言うべきか、不幸にもと言うべきか、 承太郎は戦闘に対する経験が豊富だ、出来ない事は無いだろう。 次に戦闘からの逃走の補助。 これもスタープラチナなら、そう難しい事ではない。 「最後に。そうだな、一回の戦闘に一度だけ、戦闘での手助けをする。 以上の事は、リーダーの天道が、桐条を通じて俺に指示してくれ。 ただし、あくまで『手助け』だと言う事を忘れるんじゃねーぜ。 あまりに頼りすぎるようだと、突っぱねるからな」 承太郎は手助け、と言う事を強調した。 今の彼らはあまりに弱い。 ペルソナが成長するもの、だが彼らのペルソナは、まだ歩みを始めたばかりだ。 タルタロスは上に向かうほど強力なシャドウが出る、ならば、自分達の力で強くなって行って貰わねば困る。 とは言え、実際は呼ばれなくとも、真に危険が迫った時は助けに行くつもりなのだが。 「と言う事にしたいんだがな、桐条、天道。 特に桐条には負担をかける事になってすまねーと思う」 承太郎はすまなそうな顔をして、美鶴に向かっていった。 40歳手前の男が、半分にも満たない少女を頼りにしなければならない事を、なんとも情けなく感じていた。 「いえ…。気になさらなくとも結構です。仲介して伝えるだけですから、さほど負担にはなりません。 それに空条先生の提案は、私達には十分すぎると思います」 美鶴の言葉に同意するように、天道もこっくりと首を上下させた。
「美鶴が敵の分析を、空条先生が戦術的な助言を、天道がそれを踏まえて指示を出すと言う事になるのか。 なかなかどうして、バランスが取れたじゃないか。これは面白くなりそうだ」 「うーん、一緒に戦ってもらえないのはやっぱり残念だけど…。 でも見守っててもらえるなら、何とか平気かな」 復帰後の楽しみが増えたと言わんばかりの顔で笑みを浮かべる真田。 残念そうな響きを含んだ声だが、納得した様子のゆかり。 そして、必然的に先ほどテンパッた姿を見せてから、一度も発言していない伊織順平に視線が集まる。 「わーった!分りましたよ!俺も賛成ッスよ! っつーか、ここで駄々こねたら空気詠み人知らずにも程があるっしょ!?」 「なによ、空気詠み人知らずって。馬鹿じゃないの?…てか馬鹿じゃないの?」 「バカって言うなーっ!っつか2回も言うな!」 ゆかりと順平の即席ながら見事な掛け合い漫才。 先程までの空気とのあまりの落差に、誰とも無しに笑いがこぼれ、波紋の様に広がっていった。 ひとしきり笑った後で、美鶴が、空気を切り替えるようにパチンと手を打った。
支援
お疲れ様ですエニアさん。 今回は投稿間隔が狭いんで安心しましたw 承太郎がパーティから抜けると戦闘能力が半分以下になりますな。 RPGでいうところの高レベルのNPCみたいなもんか・・ 後書きがないですけど、投稿規制に引っかかりました?
「さて!そろそろ探索に移るぞ!今日のアタックも任せたぞ、リーダー?」 そう言って天道に問いかけるような視線を向ける。 「…任せてください」 天道は言葉は少ないながらも、力強く返した。 「さっすが、リーダー。頼りになるぅ!」 「茶化すなっての!」 いつも通りの順平とそれを諌めるゆかり。 承太郎は横目で見てから、エントランスの中央から伸びる階段に向き直る。 「さて、それじゃ行くぜ」 こうして今宵も、S.E.E.S.のメンバーはタルタロスという名のシャドウの巣窟に足を踏み入れた。
連投規制に引っかかったんで、最後の投下が遅れました、エニアです。 これから用事があるので、詳しい後書きは後ほど。
おお、エニアさん乙 教え子たちの底力を信じて後ろから見守る 承る太郎は中々良い先生かも 強さも地上最強だしなー
269 :
しけい荘戦記 :2008/09/21(日) 17:48:05 ID:8a/4+AKV0
第十六話「シコルスキー対マウス」 梯子を下ると殺風景な十メートル四方ほどの地下室が広がっていた。 すでに地上での異常は察知していたのか、マウスは並んで二人を待ち受けている。部屋 の隅にはロープで縛られたいじめっ子たち。眠られているが、まだ暴力を振るわれた様子 はない。 「あいつらがマウスです、シコルスキーさん!」 「どうやら間に合ったようだな」 突然の乱入者にも動じず、マウスを代表して唇(リップ)が尋ねる。 「君たちがこうして入ってきたということは、上の彼は屈伏したようだな。……名前を聞 こうか」 「しけい荘203号室在住、シコルスキーだ。子供たちを返してもらう」 「返すわけにはいかない。彼らにはこれから再教育を施さねばならないのでね」 「どうする気だ?」 「我々の手で適切な体罰を加え、曲がった心を矯正する。彼らは日本の将来を担うに相応 しい、国家権力の先兵となるのだ」 悪びれず淡々と語る唇に、シコルスキーはため息をつく。 「だったら力ずくで奪い返すしかないな」 「こちらとて君たちをここから帰すつもりはない。後ろにいる小学生ともどもたっぷりと 教育してやろう。歯(トゥース)、舌(タング)」 歯と舌が唇から離れ、左右に散る。心配そうにルミナが呟く。 「……シコルスキーさん」 「下がってろ、ルミナ。今からこの部屋は闘争領域(ファイティングエリア)になるッ!」 シコルスキー側から、左に歯、中央に唇、右に舌。 どいつから来る──とシコルスキーが身構えた瞬間、まるでタイミングを計ったように 三人は同時に駆け出した。 正面からまっすぐ攻めてくる唇、跳び上がる歯、スライディングのように滑り込む下か ら舌。 上段、中段、下段からの同時攻撃を完璧に防御することは極めて難しい。 唇の中段突きはブロックし、舌のスライディングはかろうじてかわした。が、歯の跳び 蹴りだけはクリーンヒットを許してしまう。
270 :
しけい荘戦記 :2008/09/21(日) 17:49:18 ID:8a/4+AKV0
「……グッ!」 マウスは離脱も素早かった。右フックを返すが惜しくも届かない。 シコルスキーが蹴られた箇所を拭うと、正面に立つ唇が、これまで保っていた無表情を 崩して笑みをこぼしていた。 「これで勝敗は決した」 三角形フォーメーション。唇、歯、舌をそれぞれ頂点とする、シコルスキー包囲網が完 成した。 「ま……まずい……ッ!」ルミナにもこのフォーメーションがいかに危険か理解できた。 ヘヴィ級ボクサーをも手玉に取るマウスの絶技が、いよいよ本領を発揮する。 「さ」と唇。 「て」と歯。 「始」と舌。 「め」と唇。 「よ」と歯。 「う」と舌。 「か」と唇。 右後方に立つ舌が指を鳴らす。音に反応してとっさに振り向くシコルスキー。 しかしこれは罠である。他の二方向から同時に拳が叩き込まれた。威力はさほどでない とはいえ、死角からの打撃。ぐらりと体が揺れる。 どうにか踏みとどまるが、舌が絶妙なタイミングで膝に蹴りを入れる。さらに全身が傾 けるシコルスキーに対し唇は、 「もう君は我々に触れることすらできない」 両目を狙った平手打ち。オートメーション化された工場のように整然と効率的に作業が こなされる。
271 :
しけい荘戦記 :2008/09/21(日) 17:50:18 ID:8a/4+AKV0
視力を失い立ち往生する獲物に、三人は一斉に襲いかかった。 滅多打ち。全方位から容赦なく拳が打ち込まれる。いかにしけい荘で鍛えられ、無類の タフネスを誇るシコルスキーといえど、ダメージの蓄積は免れない。 早くも劣勢に立ったシコルスキーは、奥の手の発動を決意する。 「寂、先生……使わせてもらう……」 シコルスキーはいきなり膝をつき、両手を首の後ろに回し、背中を丸めた。 「なんだ、これは……?」 「空拳道に伝わる奥義だ……。これで俺の戦力は七倍になったッ!」 「──ふざけるなッ! 歯、舌、徹底的に叩きのめすぞッ!」 五分間、マウスは丸まった背中を全力で踏みつけた。なのにビクともしない。むろん効 いてないわけではないが、疲労は彼らの方が大きい。 コンビネーションを得意とするだけあって、マウスの身体能力はほぼ近似値である。ス タミナとて例外ではない。つまり今三人は、同時に息を切らしている。そしてこれこそが、 シコルスキーの待ちわびた瞬間であった。 ずっと丸まっていたシコルスキーが、突如動き出す。起き上がり、驚異的な脚力によっ て刹那でマウスの背後を取った。 「し、しまった!」 疲れ切っていたマウスは反応が遅れる。 「息が上がってるぜ」 「まずいッ! 早くフォーメーションを──!」 シコルスキーが速かった。二秒にも満たぬ間に、それぞれに一撃ずつ拳を叩き込み、鮮 やかにノックダウンを奪った。 かろうじてだが、三人とも意識は残されている。
272 :
しけい荘戦記 :2008/09/21(日) 17:51:14 ID:8a/4+AKV0
「一応警官だからな、加減はしておいた。子供たちはもらっていくがな」 辛くも勝利し、いじめっ子が縛られている方向に向き直るシコルスキー。 ──ところが。 「シコルスキーさんッ! 逃げてェェッ!」絶叫するルミナ。 銃声が一発、地下室を駆け巡った。だがシコルスキーの右膝には同時に三発もの銃弾が 命中していた。 片足という支えを失い、崩れ落ちるシコルスキー。 「ク、ククク、効いたよ……だが我々が国家権力であることを忘れてもらっては困る。こ ういうのもアリなんだよ」 三つの銃口から硝煙が立ち上る。ニューナンブを片手に嘲り笑うマウス。シコルスキー の右膝からの出血は収まりそうにない。
第十六話終了。 皆様お疲れ様です。 ピクルの短編を今度投稿する予定です。
ただいま戻りました。ついでにトリップ発掘完了。 前回投下した時はもっと『誰この人』なリアクションが 帰ってくるものとばかり思っていたので、皆様の言葉に感激しきりです。 今回の投下でやっと導入部が終了と言ったところでしょうか。 次回からやっと戦闘描写を入れていけると思います。
>エニア氏 導入部終了ですか。一応、キャラは一そろいしたってことかな? ペルソナは知りませんが第五部あたりの大人の承太郎が好きなので この作品での若者を導く姿が楽しみです。 >サナダムシ氏 シコルスキーが急にカッコよくなって物語も華僑って感じですね。 寂のアレって奥義だったのかwうたれづよさも強さのうちだけどw ピクルの短編、楽しみにしてます。
いよいよ激闘編に突入か シコルが凛々しいのは素敵だけど もうすぐこの作品が終わってしまいそうで悲しい ピクルのは楽しみだ 短編って3階くらい続くのかな
277 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:04:58 ID:g8cuFpbP0
第073話 「滅びを招くその刃 其の拾壱」 「え、いや、その……あの…………!? こういう時は……何か会話したり……するのでは……」 「というか津村さんも剛太クンも目先に囚われすぎよ。しっかりして」 鐶の声が裏返る中、斗貴子は鋭い目つきで首肯した。 「そうだな。ホムンクルスの過去話など聞いたところで何の足しにもならない。今は戦士長の ために一秒だって無駄にはできない時だ。自分だけが不幸と思うなら勝手に思っていろ」 「みえみえなんだよ。自分の話で気を引いてこっちの作戦会議の時間を割こうなんて」 「ちち、違います……。そこまで悪気は……そこまで悪気は……、ただ私はお約束をやってみ たかっただけで…………。あ、ああ。無視されてます…………。というか脱出しないと回復の 秘密が……」 鐶はストレイトネットの縦の帯(スイカの縞みたいに伸びる部分)を掴んで揺すったが、しかし やはり開く気配はない。 「ところで」 桜花は青白い顔を斗貴子に向けた。余談だが桜花の弟たる秋水もかつて「何か悲しい身の 上話」をしたコトがある。 「さっきあのホムンクルスが調整体を使った時、『また調整体』っていってたわよね?」 「? あ、ああ。実は──…」 斗貴子は先ほどの大交差点における調整体出現の顛末を説明した。 「なるほど。群衆を混乱させるために……」 「どうやって出現させたか謎だったが、リバース破りと突き合わせてようやく分かった。奴はポ シェットに忍ばせた調整体の幼体を、大交差点でも使ったんだ」 「一度だけじゃなく二度も。というコトはもしかして……?」 桜花は下あごに白蝋のような指を当てるとうつむき、考え込み始めた。 「どうした? 時間はないぞ。回復の秘密につながらないコトなら後に回してくれ」 軽く首を振ると、桜花はしっとりと濡れた瞳を斗貴子に差し向けた。 「もしかすると……だけど、糸口がつかめるかも知れないの」 ポケットから繊手が滑り出てパールピンクの携帯電話を鮮やかに開いた。 「この画像よ。前々から気になってたけど、ひょっとしたらコレが回復の仕組みを考える材料に なるかも。少なくてもあのコの武装錬金と関係はあると思うんだけど……」 「コレは……」
278 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:06:36 ID:g8cuFpbP0
斗貴子に続いてその画像を覗き込んだ剛太の表情が、驚きと戸惑いに染まる中──… 「ココは……?」 彼らの背後で千歳が目を覚ました。 「よぉ気づいたかコスプレねーちゃん。お前、急に気絶して地面に叩きつけられたんだぜ」 どこから持ってきたのか。湿ったタオルを絞りつつ御前が喜色を浮かべた。 「……防人君まで」 しかし千歳の頬にさざなみのような動揺がパっと広がったのは、横目で防人の姿を認めた ためである。彼は頑健な肉体を失くし、青白くぶよぶよとした体を時おり軽く痙攣させている。 「防人の姿を認めた」というが、年齢退行を遂げた胎児が剛太でなく防人衛その人だとすぐに 分かったのは、髪型のせいである。こちらだけは根来同様、元の姿のまま。つまりボサボサと した黒い髪だ。シルエットのみなら実は剛太とそれほど違いはないが、剛太は鶯色ともコロニ アルイエローともとれる色素の薄い髪だから、防人との違いは歴然である。 しかし、はてな。元々の千歳は後ろ髪に跳ねのついたショートカットだ。今は十八歳以前の 三つ編みだ。然るに防人と根来はそういう年齢退行に伴う髪の変遷を見せていない。奇妙と いえば奇妙なこの話に解を求めるとするなれば、生涯ただ一つの髪型を貫いているせいとす べしか、それとも鐶の武装錬金のもたらす胎児とも乳児ともとれぬ混沌状態ゆえの現象なの か。この辺り、千歳には判じ難い。 それはともかくとして、防人は千歳の横で背中をアスファルトに預けて弱々しく息をつきなが らも、右手だけは力強く握りしめている。御前からその理由と顛末(ストレイトネットにより鐶を 拘束し、自動回復の原因究明の時間を稼ぐ)を聞くと、千歳はいっそう影を強めた。 「防人君はこんな状態になってもまだ戦ってるのに……私は……」 「気にすんな。クヨクヨしたって何も始まら」 「ああー!! 核鉄まで取られてる」 励ましをかき消す叫びに、御前はダメだコイツと肩を落とした。 「ん? お前の核鉄もかよ」 「え? 他にも取られちゃったの?」 「ああ。出歯亀ニンジャのが取られて、そのせいでブラ坊がやられちまったんだぜ。くそ。この
279 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:07:57 ID:g8cuFpbP0
分だとブレミュから奪った核鉄(LXXXIII(83))も奪い返されてるんだろうなあコンチクショー! まあアッチは傷だらけで発動しなかったから別になくてもいいけど! 悔しくなんかねーぜバー カバーカ!!」 中空のカゴの鳥たる鐶を見上げ、御前はけたたましく吠えた。 「ふぇ? LXXXIII(83)の核鉄も? そんな筈……」 千歳の視線の先では、御前がますます罵声を強めて宙をバタバタし始めた。そんな様子を 不思議そうに一瞥すると、千歳は視線をなぜか鞄に移した。 「……なんでそっち見るんだ? それ、服とか入れるために買って肩にかけてるだけの奴だろ? 落ちたショックでヘンになるのは勝手だけど、見るならあっちだって! 出歯亀ニンジャが赤ン 坊になって落ちた方! ああ畜生! やっぱりなくなってる。取られてる!!」 幼い顔がハっと御前に向き直り、慌ただしく手を振った。 「ううん! 何でもない! そうだね、根来くんの持ってたLXXXIII(83)は取られてるようだね。 絶対に発動できないのがせめてもの救いだけど。え、えと。傷のせいでね。ウン」 「……元々使えねー状態だってのに発熱と落ちたショックですっかりダメになってやがる」 ぬったりとした不明瞭な呟きに御前は呆れはて、縛った口を波打たせ目つきを鋭くした。 「ってゆうか、何でお前急に落ちたんだよ?」 「鳥の毒」 「は?」 「斗貴子ちゃんを運んだ瞬間、あのホムンクルスは毒の染みた羽根を飛ばしてきたの」 「で、それに当たって気絶したのかよ。マヌケだなお前」 「……うん。ゴメン」 「ん? 待て待て待て! 毒持った鳥とかいんのかよ!? ヘビとかトカゲとか虫とか魚なら 分かるけど、オレ、そんな鳥の話聞いた記憶ねーっての!」 「ズグロモリモズ」 よいしょ、と上体だけ起こした千歳を御前は瞬きしながら不思議そうに見た。 「ふへ? ジゴロ?」 「ズグロモリモズ。別名は毒鳥ピトフーイ。現地ではくず鳥って呼ばれてるけど、頭は黒くてお 腹はキレイなオレンジ色だから結構かわいいよ。で、この前テレビで見て気になったので調べ たの」 「またテレビかよ。テレビ好きだなお前」
280 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:08:50 ID:g8cuFpbP0
「だって独身だから休みの時の楽しみはこれ位しかなくて。防人君は構ってくれないし、かといっ て防人君以外にいい人はいないし……」 「侘しくね? 女としてそーいうの。ちょい美人だから余計に」 「……少し。でも桜花ちゃんもしっかりいい人作らないと八年ぐらい後にこうなっちゃうわよ」 「……気をつける」 一人と一体は同時にため息をついた。 「でね、でね、ほら、ホムンクルスって既存の動植物の能力を使うでしょ。だから何かの参考に なればって調べたの」 指を立ててあせあせと語る千歳はきっと独身女性の侘しさを必死に誤魔化しているに違い ない。不自然に泳ぐ目を見ながら御前はそう思い、ついでにカレシ探しも頑張らねばと思った。 「……つか、調べた割にはいいように翻弄されてたような」 「ふぇーん! それはいわないでってばあ! 最初にちっちゃくならなかったら、もっと色々で きた筈なんだよ!!」 千歳は泣きべそをかきかけたが、すぐに涙の痕が残る頬を引き締め語り始めた。 「ズグロモリモズの話に戻るね。この鳥は一九九〇年にニューギニアで発見されたんだよ」 (なーんかNHK教育テレビみたいなコト始めやがったコイツ。そんな場合じゃないんだけど) 千歳の説明の背後では、斗貴子たちがああでもこうでもないと呻いている。御前もそれに 加わりたいが、桜花の意識の分身が入っても仕方ない。かといって千歳を混ぜるとなんだか 話がこんがらがりそうなので、囮を務める意味で御前はじっと話を聞いている。 「現在確認されている鳥類の中では、これとカワリモリモズとサビイロモリモズの合計三種類 のみが毒を持っているんだって」 「でもその鳥は毒をどう使うんだ? 爪に毒が含まれてて、引っかいた動物を殺すとか? そ れともヘビみたく噛みついて相手を仕留めるとか? あ、毒液飛ばしたり吐いたりとか!」 「ううん。どれも違うよ。毒はあくまで寄生虫から体を守るための物。主に皮膚や羽毛、筋肉に 含まれているから、他の生物を攻撃するのには使わないみたいだね。ただ、羽毛を口に入れ たりすると、ピリピリとした痛みやくしゃみが出てしまうらしいけど」 「へえ。じゃあ別に喰っても大丈夫なんだ」
281 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:10:55 ID:VH27oMeM0
「うん。人間なら体重一キログムあたり三ナノグラムが致死量らしいから平気」 「三ナノ……? って! 一ナノグラムは一ミリグラムの千分の一だからそれ十分猛毒!」 付記すると一ナノグラムは百万分の一グラムである。単純にいえば一円玉の百万分の三の 質量が人間の体重一キログラムあたりの致死量というから恐ろしい。 「そうかなあ。ズグロモリモズ一匹当たりの毒量は、六十五グラムの個体でだいたい十五〜 二十ナノグラムらしいから、体重六十キロの人は八匹までなら食べても大丈夫! フグよりは 怖くないよ。それに毒のほとんどは羽毛や皮膚に含まれてて、筋肉の方は少ないっていうし」 「いや、数値上はそーかもしれないけど、太鼓判押すのがお前だと危なっかしくて食えねえっ ての。だいたい、その数値が合ってるかどうかも怪しいし、というか食えないし……あ、だから 現地じゃくず鳥っていわれてるのか毒鳥ピトフーイ……」 御前はため息を一つつくと、結論を出した。 「とにかくアイツはそんな毒の入った羽根を飛ばしてお前を撃墜した、そういうワケなんだな」 千歳は一瞬目をぱちくりさせると、少し迷い、しかし最後にはコクリと頷いた。 「じゃあ解毒剤さえ打てば戦列に復帰できる筈! ここは桜花あたりから核鉄を借りて、瞬間 移動でババーって病院行けば全部解決! あそこならきっと血清とか解毒剤とかあるぜ」 千歳はううんと首を振った。 「ズグロモリモズの毒には、コレといった治療法は……ないの」 御前の頬を冷たい風が撫でた。 (どうやら…………『攻撃』以外の行動には無反応のよう、です) 根来と千歳の核鉄をポシェットに入れた鐶は、きょろきょろとストレイトネットを観察し始めた。 (……切り札を食べれば…………簡単に脱出できそう……です) ポシェットに入った手が半分ほど外に出ると、黒く丸みを帯びた細い物体がわずかだが顔を 覗かせた。 (しかしコレは……パワーアップと引き換えに反動で……私を弱体化させてしまう代物………… いま使うべきかどうか……。できれば戦士さんが……残り一人になってから……使うべき…… この網さえ自然に解除されれば……問題はないんですが……)
282 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:13:00 ID:VH27oMeM0
防人の意志の力によってなお顕在するその網は、しかし胎児状態の希薄な意思に浸食を始 められたせいか徐々に徐々にほどけつつある。隣り合うヘキサゴンパネルは時おりわずかな 隙間を見せながらも何とか戻りかろうじて結合を保っているが、その回復までの間隔は徐々に 長くなりつつあり、数分も経てばばらばらになるのが予見できた。 (……念のため、待ちましょう。仮に回復の秘密を暴かれても、策はまだ……あります) 中空に浮かぶ網からは、民間人が何人か物影に隠れているのが一望できた。恐らく先ほど からの戦いの物音を聞きつけやってきたはいいが巻き添えを恐れて影に隠れて、密かな野次 馬を決め込んでいるに違いない。遠くからはサイレンの音も聞こえてくる。そして更には雑多な 住宅街に遮蔽されぬ広々とした爽快な景色が広がっている。空の青さはもとより遠景さえも鐶 にはのびのびと映っている。 (…………暴かれたら次は『あそこ』へ。この一帯で一番人が多いので……補充には事欠き ません……) 「コレは……」 剛太は携帯電話に表示される光景に息を呑んだ。 そこには人間の胎児を金属質に塗り替えたサッカーボール大の生物が、サビの浮いた鉄床 に何匹も固まっている様子が映し出されていた。 「ホムンクルスの幼体? けど」 剛太は戸惑った。何故ならばそれは彼の知っている物より非常に大きかったからである。 通常の幼体は約三センチメートル。 一方、携帯電話に映し出されているそれはおよそサッカーボールほどの大きさだ。 「ちょっと前、秋水クンとL・X・E残党を斃している時に見つけたんだけど」 ──「そうね。ちょっと気になるコトもあったし、寄宿舎で詳しく話しておいた方がいいかも」 ──「気になるコト?」 ──「ここに調整体がいたコトもだけど、ちょっと見て」 ──桜花は携帯電話を取り出していくつか操作をすると、画面を見せた。 「その後、割符探しをしている時に何度か同じ物を見たけど……もしかすると、コレって」 「そうか! これは奴の武装錬金でやられたせいだ! 戦士長や根来が総ての年齢を吸収さ れてああなったように」
283 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:14:23 ID:VH27oMeM0
斗貴子の叫びに剛太も戛然と目を開き、今一度画像を上から下へと見直した。 「ホムンクルスはこうなるってコトか……?」 「そしてコレは大きさから見て調整体。けど!」 美しい声音がやや昂揚を交え震え出すのと同時に、剛太は脳裏で歯車(ギア)が絡まり合い 出すのを感じた。 「どうして彼女は、使いもしない調整体をわざわざ幼体にしたの……?」 斗貴子の表情にみるみると納得が浮かび始めた。 「確かに。先ほどの交差点の一件やリバース破りのような使い方をするためならこうするのも 納得はいく。携帯に便利だからな。もっとも、あのポシェットに入るサイズでないのが少々気に かかるが、それでも元の状態のまま運ぶよりは楽だろう。しかし」 「この調整体は置き去りにされている……ってコトですよね。先輩」 画面を指さす剛太に斗貴子は頷きすら浮かべず二の句をついた。頷く時間も惜しいらしい。 「ただ斃すだけならアイツはあの馬鹿げた特異体質とやらで叩きつぶせば済む話。認めたくは ないが、あれほど手練れた化物なら調整体など一撃で葬れる筈だ」 ついでにその背後では御前と千歳が何やら話しているようだが、参加も制止も興味もない。 「でも、それをせず、武装錬金の方でわざわざ年齢を吸収して放置した。謎はそこよ」 「ただの攻撃補助のためって線は。ほら、調整体のように他の物体にも年齢を与えれば、間接 的に俺達へ攻撃できるでしょ? それを狙って年齢を蓄積していたんじゃ」 「それはない。確かに年齢操作は汎用性がある。交差点では種に年齢を与え、巨木を私たち に降らした。だが、調整体への使用を除けば攻撃補助はそれ位だ。本来、アイツは直接攻撃 だけでも充分強く、またそれをアイツ自身が理解しているフシもあるしな」 「あ、じゃあ街の時間を進めるために」 「銀成市の面積と進んだ時間を勘案すれば、恐らく年齢は十年と使っていない筈だ」 「え? あ、ああ。流石にあの武装錬金でも一つの市を年単位で操作できないってコトですか。 対象範囲が巨大すぎるから、例えば年齢を一年分与えても銀成市の面積で割った分だけしか 時間が進まない……ですよね先輩?」 「ああ」
284 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:16:56 ID:VH27oMeM0
故に銀成市の時は、『年齢』操作の能力が作用したのに『時間』単位でしか変動していない。 逆に考えれば鐶はまず、進めたいだけの『時間』を計算し、それに銀成市の面積を掛け合 わせた『年齢』をこの街に与えたのだろう、そう斗貴子は説明がてら断定した。 「だいたいアイツが私たち六人を相手に回さざるを得なくなったのは、根来が不意打ちで核鉄を 奪還したせい──…つまり予想外の事態。なら以前から街の時間を進めるために年齢を蓄積 していたとは考えにくい。だいたい、時間を進めるだけなら、今いったように十年程度の年齢、 ホムンクルスなら一〜二体の年齢で済むからな。あちこちで調整体を幼体に戻す必要はない」 「……あらあら。津村さんって結構冷静なのね。ブラボーさんをやられて怒り狂ってるかと思っ たけど」 「茶化すな」と斗貴子の目が鋭くなった。 「今は時間がない。それに戦士長に後を任された以上、冷静にならなくてどうする。私たちは これから、六人がかりでも勝てなかった相手にたった三人で挑むんだぞ。フザけるのは今の で最後にしろ」 「ハイハイごめんなさい」 部活の副部長のようにぴしゃりと指差し叱る斗貴子に、桜花は悪戯っぽい笑みで謝った。 「参考までにズグロモリモズに含まれる毒を説明するとね、ステロイド系でアルカロイド塩基構 造なホモバトラコトキシンっていう毒なんだよ。これはヤドクガエルに含まれるバトラコトキシン に似た強力な神経毒で、神経膜にあるナトリウムチャンネルの閉鎖を妨害するコトで筋肉の 機能停止や呼吸困難、ひどい時は心機能低下を引き起こすんだよ。で、今のところ有効な治 療法は見つかってないの。だってズグロモリモズは、まだ見つかってから十五年ぐらいしか経っ てないから、仕方ないよ」 得意気に語る千歳に御前は思った。 (毒に侵されてる奴がその毒について楽しそうに語るなよ……) 「とにかく……どうしてアイツは年齢を集めたかだな」 「ええ。引っかかりますね。アイツは武装錬金を手放さない。その武装錬金も頑丈で壊れない」 「しかも攻撃にも補助にもほとんど使わない年齢を蓄積している」 分かりそうで分からない問題だ。一方、残り時間は一分を切っている。
285 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:18:52 ID:VH27oMeM0
もどかしさと焦燥感で思わず剛太は頭を掻き毟った。 (いったいどういうコトなんだ! 蓄積した年齢と回復! 絶対何か関係がある筈なのに、答 えが出ねェ! くそ、せめてもう一つヒントがあれば分かるかも知れねェってのに!) 「残りは三十秒もないぞ……」 火花を散らし、ほどけかかるストレイトネットを見上げる斗貴子から、乾いた声が漏れた。 (どうやら……自動回復の秘密は…………暴かれずに済みそうですね) 少しずつ少しずつ拘束を緩めだしたストレイトネットの中で、鐶は静かに嘆息した。 (切り札も使うのはまだ……先) ポシェットの淵では微かに覗いた黒く丸い物体が密かに没した。 「ズグロモリモズはね、フグやヘビと違って自分で毒を作れないんだよ。例えばヤドクガエルな んかはエサのアリとかダニとかジョウカイモドキっていう甲虫から毒を作るの。だからね、飼育 下で毒のない虫を貰ってる個体は無毒になっちゃう」 沈黙した斗貴子たちの耳に、千歳の朗々とした毒鳥解説が入った。 「ズグロモリモズもそれと同じらしいけど細かいコトはまだ分かってないんだって。でもあのコ もきっとそうじゃないかな。毒を作れないから、ズグロモリモズやヤドクガエルと一緒のエサを 食べて、そうして毒を蓄えたのかも」 転瞬、歯車のかみ合う音が一人の少年の脳裏で鳴り響いた。 「毒……? ちょっと待って下さい」 剛太は轟然と振り返ると、嵐のような速度で千歳に詰め寄り小さな肩を掴んだ。 「な、な、な、何!? 急に怖いカオして! ひょっとして話し合いと関係ないコト話してたから 怒ったの……?」 「違う! 今の話をもう一度! 大至急!」 怯えてきょどきょどと目を泳がせながら、千歳は舌ッ足らずな早口でまくしたてた。 「あのコは毒を自分で作れないから、ズグロモリモズと一緒のエサを食べて毒を蓄積……」 「それだ! それですよ先輩!」 急に興奮しだした剛太に斗貴子と桜花は眉をひそめた。 「落ち着け。もう少し順序立てて話してくれ」 「毒虫を食べるコトと回復が関係あるの?」 「違……! あ、えーと、違います。その……」 こほんと咳払いを一つ打つと、剛太は柄にもなく粛然と顔を引き締めた。
286 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:23:41 ID:eoyryRg70
「『自分では作り出せない』。それが鍵じゃないでしょうか?」 「まだ話が見えない。何を作り出せないっていうんだ」 「だからですね。アイツの武装錬金の特性はあくまで『年齢のやり取り』。決して自分じゃ作り 出せないじゃないですか。……まるでズグロモリモズの毒みたく」 「それ自体は分かる。年齢を貯めたおかげでアイツは自分自身の年齢を減らさずに、調整体 や樹木へ年齢を与えるコトができたからな」 「『与える』。そう、与えるコトができるんですよねアイツは。色々な物に年齢を」 ストレイトネットの拘束がいよいよ緩み、随所からヘキサゴンパネルが剥落を始めた。 「当然、自分にも。さっきキャプテンブラボーから吸い取ったように」 「ああ」 「じゃあもし、アイツにとっての年齢が、ズグロモリモズにとっての『毒』……外敵から身を守る ための手段なら? 例えば瀕死状態の時に、自分の年齢分の年齢を短剣から体へ与え、身 代わりにしていたとしたら? 享年は死んだ時の『年齢』。それを蓄積した年齢へと自動(オート) で肩代わりさせ、創造主を死から守る機能があの短剣についているとしたら、ここまでの自動 回復や推測は辻褄が……ああー! やっぱ違うかも知れねェ! 何か無茶すぎ」 顔を掌でツルリと覆い隠して剛太はしゃがみ込んだ。斗貴子は微苦笑した。 「また随分と突飛な発想をするなキミは」 「ですよね。俺もそう思います……」と、剛太は肩落としつつゆっくり立ち上がった。 「だが一理はある」 一しずくの汗を頬に垂らしながら、斗貴子は中空を見上げた。 そこでは ついに鐶が文字通りの瓦解を迎えた包囲網から緩やかに飛び降りている。 カラスもつられて舞い降りて、不吉な鳴き声を奏で出す。 「そうよ。どっち道、あの短剣に蓄積した年齢が回復に関係しているのは間違いない。そうで しょ鐶ちゃん。あ、そうだ。合ってるか合ってないかだけでも教えてくれたら、あなたの特異体質 を治すお手伝いをしてあげる」 桜花は力なき手でハンカチを取り出すと、瞳を潤ませた。 「実はね……私にも大事な弟がいるの。だからあなたが苦しんでいるのは、秋水クンが…… あ、弟の名前なんだけど、秋水クンが苦しんでるようでとても他人事とは思えないの。だから
287 :
永遠の扉 :2008/09/22(月) 03:25:26 ID:eoyryRg70
教えてくれたら特異体質を治す手伝いをするわ。それにほら、やっぱり姉妹は一緒にいた方 が何かと幸せでしょ? ホムンクルスにされたっていうけど、さっきお姉ちゃんのコトを語って いたあなたには、恨みとか見えなかったもの」 しっとりとした声を漏らしつつ、桜花は珠のようにぽろぽろこぼれる涙をハンカチで拭い始めた。 (よくいう。だいたいその涙は嘘泣きだろう) (さっき身の上話を無視しようっていったのはどこのどいつだ。これだから元・信奉者は) 「え、えーと……」 鐶は少し悩んだ。 (その弟さんを…………私は不意打ちで倒してしまったワケで……、しかし武装錬金の特性を バラしてしまうと……不利になるのは私で……。というか……こんな強力なお姉ちゃんオーラ を向けてくる人なんて初めてで……どうすればいいか……ちょっと分かりません…………) 「それにお年頃だから好きな男のコの一人や二人いるでしょ?」 「……無銘くん」 「そうなんだ。鐶ちゃんは鳩尾無銘くんが好きなのねー。確かに重厚な口調とかニンジャっぽ いところはカッコいいわよね」 鐶は一瞬呆気に取られたが、すぐにコクコクと頷いた。斗貴子と剛太は愕然とした。 (あのホムンクルスを) (手玉に取ってやがる) 「あらあら。耳まで真赤にして。本当に好きなのね無銘くんのコトが。なら」 桜花はいかにも人当たりのいい笑みを──その実、相手がどうなろうと籠絡さえできればい いという利己的で乾いた無関心の笑みを──を浮かべた。(ここからのBGM:「遠き日々」) 「もし特異体質が治ったら、無銘くんと普通に恋愛ができるのよ? 若いうちに恋愛ができな いっていうのはね、すごくさびしいコトなのよ。学生の頃はいいけど、大人になるとお休みの日 に一人侘しく家でテレビを見るしかなくなったり、年甲斐もなくセーラー服を着たりする羽目に なるのよ。それは嫌でしょ?) 千歳が非常に何かいいたげに御前を見た。御前はそっぽを向いて口笛を吹いた。 「私は……テレビよりインターネットが……好きです」 「ますますダメよそういうのは。私の知り合いにね、あ、友達なんかじゃ断じて違うわよ。あくま
で顔と名前を知ってるだけで、なるべく格好は思い出したくもない忌々しい存在だけど、些細な
コトで蛙……Kって人と口論になっちゃってね、最後は嫌がらせメールを送りつけられたとか
どうとかいうつまらない理由でそのKって人をホムンクルスにしちゃったのよ」
「それは……ひどい、です」
「でしょ?」
桜花は慈母のような暖かな笑みを浮かべた。
「だからね。そういうおかしな方面じゃなくて、ちゃんとした恋を無銘くんとするためにも、私たち
の推論が合ってるかどうか教えてくれない? それはね、アジトの場所を白状しちゃったら無
銘くんには迷惑だけど、あなたの能力ぐらいなら別にいっちゃっても大丈夫よ」
(大丈夫じゃねェっての。能力をバラすのは死につながるし)
(相変わらず腹黒いな。というかこんな拙い誘惑に引っ掛かるワケが──…)
「……はい。合ってます」
見事に引っ掛かったブレミュの副長を、剛太と斗貴子はただただ呆然と眺める他なかった。
以下、あとがき。
眠い眠い眠い眠い眠い眠い。ククク。明日の仕事は地獄を見るやも知れぬ。
>>248 さん
いえいえ。こうでもしておかないと、後につながらないので……
にしてもSSの前に何か描くと、なぜか収まりが悪いですね。不思議。
>>254 さん
たぶん前回もw というか五レス超えるといつも規制がきちゃいます。
防人は負けたとしても、その字(あざな)の如くブラボーであって欲しく、前回の形となりました。
後進を守りそして託すのも彼ならでは……? 桜花はまあ、オチ要員というコトでw
>>255 さん
リスクあっての能力ですよ。ちなみに鐶の場合は、肉体よりむしろ精神に対するリスクを重視してます。
本当は十倍の速度にしたかったのですが、ちょっと辻褄が合わないのでキリよく五倍で。
>>256 さん
第二章になると……実は、その。七人以上新キャラが。匙加減は考えております。
重要なのは「原作キャラをいかに際立たせるか」。オリキャラはあくまで添え物でないと。
いえね、ここまでブレミュ勢が目立ってしまったので、第二章は反省しないと……
>>257 さん
大丈夫。エニアさんもサナダムシさんも来てくれましたから!
さいさんも火曜日に来られる予定ですし。
>>258 さん
白状すると、次の総角戦をどうするかが悩ましいですw 無数の武装錬金を使えるのに、鐶と
比べると何だか物足りないというか。ううむ。三国志とかならボスがナンバー2より弱いのも
納得なのですが、SSでそれやるとインパクトに欠けちゃいますし、どうしたものか。
……いろいろ長くてすみません。
・サナダムシさん シコルがいつものヘタレなイメージでなく徐々にロシアの狼っぽくなってきた ヤムチャの仮面を脱ぎ捨ててピッコロあたりになりましたね。ピクル編楽しみ ・スターダストさん 防人がリーダーシップをとれない場合、やはり斗貴子がパーティを引っ張るのかな 剛太と2人ならいいけど、あくの強いメンバーだからどうにもw千歳は可愛いな。
291 :
作者の都合により名無しです :2008/09/22(月) 15:19:23 ID:5o01S3vc0
スターダストさん力作ですな 女性主体のSSですけど、桜花の存在はいい意味でも悪い意味でも 際立ってますな。敵に回したくない感じ それにしても生物についての薀蓄がすごいですな
スターダストさん乙です。 桜花の天使のようなどす黒い笑みは謀略にぴったりですね 戦闘力は格段に鐶の方が上でも、適わなそうだ
293 :
ふら〜り :2008/09/22(月) 23:07:23 ID:drGtzGFx0
>>スターダストさん >ブレミュの中で…………私だけがいつかお婆さんに。 悲鳴を飲み込んで喉が詰まるぐらい怖かったです。不死の病で毎日寿命カウントダウンとか よりも怖い。仲間たちは不老だし、余計に恐怖でしょうね鐶……を相手に、やってますな桜花。 敵を知り己を知り、敵の弱点に自分の特技を突き刺す。斗貴子以上に戦士思考の持ち主かも。 >>エニアさん 承太郎、先生らしくやってますねぇ。着いて来てはくれるけど一回につき一度だけしか使え ない切り札、っていかにもゲームっぽい。多分、どの程度の危機でどんな風にその切り札を 使用するか? という判断なんかも条太郎は評価と言うか審査して、褒めたり叱ったりしそう。 >>サナダムシさん >しけい荘203号室在住、シコルスキーだ。 開戦前の名乗りがそれか。案外誇りにしてるのかも、あそこの住人だってこと。にしてもギャグ 短編とシリアス長編が絡んでるってのは実に実に良い。アレが奥義だと今でも素直に信じてて、 それを本当に有効活用とは。これで救出対象が女の子なら、強固なフラグも立つでしょうに。
千切れて はぐれて行く雲が 鏡の水面を 横切る 自ら を疑わず 羽ばたく旅鳥は 最果ての地へ… 「何言ってんだ?」 「キャプテン…彼は詞を作るために同行しているのです」 「あぁ、そういやそうだったな」 よく周囲を見れば詩人の歌う通りの状況に置かれている。 雲の動きは見てなかったので判らないが、巨大な鏡のように空を映すクリスタルレイク。 一目散に湖を通過していく鳥の群れは、何所へともなく飛び去って往く。 「ハハハ、あなた達といると良い詩が浮かぶのでつい調子に…」 楽器を置き、申し訳なさそうに俯きながらもどこか楽しそうにしている。 今ホーク達は、同じ馬車に居合わせた詩人とクリスタルシティへの道を共にしていた。 「…ホーク」 「あん?」 声を掛けたのはシンだった、見知らぬ土地で緊張しているのかと一瞬思ったがそんなタイプでは無いだろう。 眺めていた野鳥が消え入りそうになるほど遠くなった辺りで目を離し、顔をシンの方へと向ける。 「術法…だったか、この世界は魔術が存在している」 「ああ、使ってみたいとでもいう気か?」 「そんな物に頼らずとも南斗聖拳は無敵、だが対策もなく戦う愚行は避けるべきだろう」
確かに言われてみるとこのメンバー、まるで魔術対策ができていない。 前衛は鉄壁の守備を誇るベア、剣よりも鋭い一撃を拳に秘めたシン、現在メルビルで医療中の身であるケンシロウ。 そして中衛、槍による長いリーチと一部の火術で戦いの流れを作るゲラ=ハと司令塔であるキャプテン・ホーク。 肉弾戦であれば100体の魔物を同時に相手にしても負ける気がしない。 だが、魔法に対する知識を持っているのはゲラ=ハと自分だけ。 しかも防御術などという高度な術はない、補佐や軽い傷の治療ぐらいしかできない。 「うーむ、あんまり大所帯になると身動きが取りづらい。 新しい仲間を入れるって案は避けるとして…術への抵抗は精神を鍛えて対処しよう」 「…俺は対策が必要だと言ったのだ、精神だの根性で耐えろだなどという返答は…」 シンの言葉に耳を貸すこともせず、荷袋からトランプを取り出し手際よくシャッフルする。 その音に居眠りしていたベアと、詩人から旅の話を聞いていたゲラ=ハもホークへと目を向ける。 「魔術の炎だとか氷だとかは本物の炎や氷じゃあない。 だが偽物じゃない、魔力で形成された本物に近い炎って訳だ。 だから物質を燃やせるし、炎と同じ特性があるから水に弱い。 布や紙でも魔力に抵抗があれば燃えない。 幻術の炎は偽物の炎だが、術で精神に干渉してるから肉体へのダメージにはなる」 興味深げに話を聞くベア、意外と几帳面なのかメモまで取っている。 シンがさっさと本題を話せとばかりに睨みつけているので、ベアには悪いが簡潔に済ませる。 「要するに、対策ってのは燃えにくい装備をしたり寒さに強い装備をすること。 幻術だって精神に作用してるんだから『この防具は熱に強い』と理解してれば多少防げる。 魔法盾は高度な呪文だから無理だな、もう一つの対策が『精神力』だ。 魔力だなんだってのは精神で操ってるもんだからな…強い精神は抵抗力になる」
「なるほど…そこら辺の山に籠ればすぐにでも精神修行できるな」 「そいつは簡便してくれ…精神力だけならこのトランプがあれば十分だぜ」 そう言ってニヤリと笑うホーク、その笑みを見たゲラ=ハは一瞬でホークの考えに気づいた。 「なるほど…ゲームはなんですか?」 「おいおい、気が速ぇーぜ。メルビルでやり飽きた奴が居なけりゃポーカーだな」 「フン…くだらん…やはり山に籠っていた方がよさそうだ」 馬車から身を乗り出し、修行地を探すべく周囲の岩山を観察するシン。 ホークは、シンのまるでポーカーに関心を見せていない背中をジッと見いった。 しばらくすると彼は微笑みをうかべた、悪魔の微笑みだった!なにかを考えついたのだ! 微笑みをうかべるだけの何かを…! 「おいおい、負けるのが怖いのかシン?」 「安い挑発には乗らんぞホーク、金なんぞ賭けたところで俺には何の…」 「いやちょっとまて!今アイディアがうかんだんだが、金に加えて面白い賭けを重ねないか?」 その場の誰もが意外そうにホークを振り返った! 金だけでは無い、シンの気を引くため賭ける何か。 金よりも大事な何かを賭けるというのだろうか。 「面白い賭け…?」 「そう!おたがい賭ける金に加えて更にワクワクする賭けをのせようってのさ! といっても借金やら痛みを伴う物じゃあないんだ…そこが面白いんだがね、どうだいやるかい?」 賭けの対象については全く話さないホーク。 興味と苛立ちをついてくる挑発にシンは無言のままホークを見ていた。 「なぁに!つまらないものさ…しかしお前等が賭ける気になるかどうかということだけが問題なんだ!」
「言わんとしていることは分かった。だが賭けの対象が分らんのでは…」 「あ…そうそう!賭けが嫌なら嫌と言ってくれ!俺は気にしないから……」 うすら笑いをうかべながら、シンを気遣うような素振りを見せつつもシンの言葉は無視する。 このホークの態度に冷静さを欠いたシンはついに言ってしまった。 「いいだろう!何を賭けると言うんだ!」 ホークの眼が罠にかかった獲物を見る眼に変わった。 うすら笑いをそのままに、鋭い眼光のまま口を開いた。 「…今晩の晩飯さ!」 「…くだらな……」 「言い忘れてたが街を救った報酬があってな、今日はクリスタルシティのスイートルームだ。 粗末なメルビルの民宿で食ったような飯と一緒に考えていいのかな?」 「「「な…なんだってェ――――!?」」」 声を合わせて3人が驚愕の咆哮を上げる。 貧相なスープとパンから抜け出し、豪勢な食事にありつける。 娯楽の少ない荒んだ世界、彼等の楽しみは働いた後の食事やギャンブルくらいなもの。 シンもサザンクロスでは贅沢な暮しをしていた為、やや食事に不満気であった。 それに危険を冒す必要があるだろうか…ゲラ=ハとベアが反抗的な目でホークを見る。 「おや、まだお前らにも賭けろとは言ってないのに話が速いな。 精神を鍛えるためと思えばどうってことないだろ?」 ハッ、と我に帰るゲラ=ハとベアだったが既に遅かった。 ホークは二人がこの賭けに『乗った』と捉えていた。 「正気か!自分が何を言ってるのか分かってるのか!」 「俺は正気だよ…面白いじゃないか!目の前のご馳走を相手から盗れるってェわけさ!」 「バカげてる!俺等の所持金で届くような飯じゃあないぞ!」
呆れたように肩をすくめて溜息をつくホーク。 「俺には分からないねェ、金は賭けてもいいのに飯はダメなのかい? ゲラ=ハなんて自信満々にゲーム方法も聞いてきたってのに…まぁいい! これはなかったことにしてやろうか?それがいいんだろ?」 まだ始まってすらいない勝負に一人勝ち誇るホーク。 まるで精神的地位で上を行っていることを誇示するように。 3人は、それが気に入らなかった! 冷静沈着なシン、陽気で豪胆なベア、温厚なゲラ=ハ。 性格のまったく異なる3人、だがこの時彼らに共通する一つの意思が芽生えた! 『ホークの態度、なんとしてでも後悔させてやる!』 「かまわん…!」 「OK…乗ったぜ!」 「わかりましたっ!晩餐を賭けましょう!」 「よしっ!」 3人の了承を得たホークがカードをカットし配ろうとした瞬間、馬車が停止した。 目的地、クリスタルシティへと到着したのだ。 「ん…着いちまったか、酒場にでも寄って済ませるとしようぜ」 カードをまとめて荷袋へとしまうと、馬車の運転士に駄賃を払う。 そしてクリスタルシティの入口にある橋に立ち、その光景に足を止める。 町全体が宝石のような輝きに包まれていた、橋や家屋や噴水が眩しい程に煌めいていた。 「噂に聞いてたが足を踏み入れたのは初めてだぜ…」 「これがローザリアの首都ですか…武具も一流と聞いてます、楽しみですね」
周囲を見渡すとすぐに酒場の看板が目についた。 町にある武器や防具も見てみたかったが、ホテルで夕飯が用意されるまでに決着をつけなければならない。 早々に酒場へと足を運び、扉を開く。 「…満席ですね」 広い店ではないが、大きさに見合うぐらいには繁盛しているようだ。 見渡した限り席は埋まっていた、しかし柱に隠れて奥の一角が死角となっている。 席が空いてないかと奥へ歩を進める。 「やはり満席の様だな」 忌々しそうにつぶやくシン、奥の席には男が一人座っていた。 テーブルの上には先ほどまで賭けをしていたのか、真っ白なチップとカードやサイコロが散らばっていた。 男は余り見ない奇妙な服装をしており、砂漠特有の細かい砂が服に付着していた。 ドライランドから来たのだろうか? 「仕方ない…ホテルでやるぞ、こんだけ町中ピカピカだとテーブルも鏡みてーになってやしねーかと思ったが… 酒場の中までってことはねぇし、ホテルの中も大丈夫だろ…」 「いや、やめときな…スイートじゃなく隅にあるチンケな宿に泊まるなら悪くないがね」 男の声と同時にカードがめくれる音が聞こえた。 何時の間にかテーブルに散らばっていたカードを集め、手際よくシャッフルしている。 「見た所…席を探してるみたいだな、どうだい俺と賭けをしないか? 特に用もないし、負けたらここをどいてやるよ。」 賭け、悪くない提案だった。 時間さえかけなければ晩餐にありつける。 男が何を賭けるかを取り決めれば問題はない。
「面白そうだが晩飯まで時間がないんだ、金をやるからどいてくれないか?」 ベアがそういって幾らか金を取り出す。 だが男はカードを置くと同じ量の金を出して答えた。 「欲しいのは金じゃない、賭けに生じる下らないスリルさ…。 お互いの魂と代価を競って知力を巡らせる瞬間が堪らないんだ…」 シャッフルしたカードをカットし終え、テーブルの上にゲームの準備が整った。 「おい、貴様…」 「いいってシン。賭けなんてなんだってできるし時間は潰させないさ。 しかし魂とはキザな奴だぜ。」 ベアが向かいの席に腰掛けると、男はニヤリと不敵な笑みを見せカードへ手を伸ばした。 「ちょっと待った、ポーカーは止めないか?後が使えてるんで手を見せたくねぇのよ」 これを『イカサマの疑惑』と捉えたのか、男は少し複雑な顔を見せた。 「いや、ポーカーで一発勝負ってのも運に頼りっぱなしで味気ないだろ? アンタが今言ったように知力を巡らせないとな…サイコロを偶数、4個か6個あればいいかな」 男は言われた通りに6面体のサイコロを6個出してよこした。 「よーしコレコレ…『ブラフ』ってゲーム知ってるかい?」 男は興味深そうに首を横に振った。 その瞬間、気のせいか背後が一瞬、陽炎のように揺らいだ。 退屈を打ち消し、スリルをもたらす『ギャンブル』 それが同時に破滅をも持ち込む事を忘れ、思惑通り席についた自分達を内心嘲笑う悪魔。 その存在に気づかぬまま、ゲームが始まろうとしていた。
301 :
邪神? :2008/09/23(火) 15:21:32 ID:09mc4tXR0
お久しぶりです…間が空いてしまって申し訳ない(;0w0) PCの問題とモチベの問題といっぺんに来たのは辛かった…。 実家に帰ったのが功をなしました、クリスタルシティでの展開が実家のPCの中にありました(*0w0) それ以降は考え直しのまとめ直しですがね…。 あとサイバーブルーを実家から持ってきたのでこれがモチベ上昇に繋がる!…筈。 4ヶ月?だったような…それ以上間を空けてしまったのにテンプレに残っていたのには恐縮の至り。 ハイデッカさんありがとうございましたorz 〜講座〜 クリスタルシティ プリンス・ナイトハルトの治めるローザリア帝国の城下街。 武具も一級品が揃い、ミルザを崇拝する神殿もある。 クリスタルレイク クリスタルシティの近くにある巨大な湖、伝説では運命石、アクアマリンが眠っている。 プリンス・ナイトハルトがアクアマリンを国に祭るべく封鎖・捜索しているので警備は厳重。 ブラフ ルールは次回説明、漫画SSだし何かしらのギャンブルを漫画から取ろうと思ったのだが、 パッと終わりそうなのが中々見当たらなかったのでwikiで探したらピンと来たので採用。
俺のラクダの為にお祈りしておくれ。それにまたがり、砂漠を越えて行く時に。 噂が吹き飛ぶようお祈りしておくれ。――戦争の噂が。 第四話 『THE BOONDOCK SAINTS』 時は、西の良き吸血鬼と日出ずる国の少女が出会う、その二ヶ月前に遡る。 ――アメリカ合衆国 メイン州 ジェルーサレムズ・ロット ジェルーサレムズ・ロットはどこにでもある、ごく普通の小さな田舎町だった。 農夫は畑仕事をして、主婦は日曜の午後にミートパイを焼き、子供達は廃材を使って森の中に 秘密の隠れ家を作り、誰かが死ねば町中の人間が葬式に集まる。 いや、もしかしたらこんな町の方がむしろ、もうあまり見られないのかもしれない。 例えば、町中の家庭の食卓を一手に担うマーケットの店主グレッグはサワークリームや冷凍ピザなどという 洒落た物を仕入れた事は無かったし、熱心なカトリック教徒のライアースン先生は「聖書の教えに反する」と ダーウィンの進化論を否定して、授業のカリキュラムから外していた。 また、頑固者のアダムスじいさんのミュージックショップはCDなど見当たらず、未だにアナログ盤、 それも“カーター・ファミリー”や“ハンク・ウィリアムス”といった化石物のカントリー・ミュージックしか 置いていない。 まれに噂を聞きつけた都会のコレクターがレコードを抱えて歓喜の表情でレジに立っても、 アダムスは老眼鏡越しの三白眼で、「そのレコードより若いお前さんなんかに価値がわかるものかね」と 憎まれ口を叩く事を忘れなかった。 要するに、この大層な名前の町はどこかで時間が止まっていたのだ。
そして、ザ・ロット(ほとんど皆が町の名を縮めてこう呼んでいた)に一軒しかないアイリッシュ・パブは 毎日毎晩、決まりきった光景の連続だった。 店内には牧歌的なケルティック・ミュージックが響き渡り、いつも同じ顔ぶれのアイルランド系 アメリカ人が酔っ払い、音楽と笑い声の洪水が巻き起こっていた。 ギネス、キルケニー、レッドブレスト、ブッシュミルズ。パイントグラスやウィスキーグラスが行き交い、 手に握られ、それを満たす液体は大きな話し声の合間に口中へ流し込まれる。 たとえママの葬式があった日でも、この移民の子達は音楽とガブ飲みと大笑いを絶やさなかった。 ここで不機嫌な顔をしている者といえば、白髪と斜視が特徴の店主エディくらいなものだ。 彼はいつも、聖パトリックの祭日ですら、眉間に皺を寄せた仏頂面で酒を注ぎ、グラスを拭いている。 そのエディがドアの開く音に気づき、入り口の方を見遣った。 カウンターやテーブルにいる耳の良い酔漢達も同様に首をねじって振り返る。 一人の背の高い男がドアを押し開け、右脚を若干引きずりながら店の中に入ってくるところだ。 男は酒場に相応しくない黒の法衣に身を包み、これまた酒場に相応しくない十字架を首にかけている。 彼の名はドナルド・キャラハン。 ジェルーサレムズ・ロット教区の司祭を務める、聖アンドルー・カトリック教会の神父である。 キャラハン神父の齢は堂々たる五十二歳を数える。 顔貌もまた年齢や職業に恥じぬ堂々たる初老男性のそれだった。 白いものが混じり始めた髪は銀色、眼は人の心を見通すような澄み切ったブルーで、アイリッシュ特有の 笑い皺に囲まれた口は力強く、かすかに割れた顎は更に力強い。 キャラハンは摺り足気味の歩調でカウンターに近づき、中でグラスを拭くエディより少し離れた椅子に腰掛けた。 よし、“今日は”調子がいい。これなら“たくさん”飲める。 己の足取りに内心、上機嫌でほくそ笑むキャラハンへ、エディが例の仏頂面でボソリと挨拶をした。 「らっしゃい」 「いつものだ。ストレートでね。チェイサーはいらないよ」 彼はジム・ビーム専門だ。更に飲む際も“割らない、食べない、休まない”をモットーにしている。 いつも通りの決まりきった注文を受け、エディは眉根を寄せて呆れたように首を横に振りながら、 グラスに“いつもの”バーボンであるところのジム・ビームを注ぐ。
あの透き通った琥珀色の液体に満たされたグラスが目の前に置かれるのを、キャラハンは掌を擦りながら 今か今かと心待ちにしていた。 そんなキャラハンの後で何やら喚き散らす声が聞こえてきた。声はテーブルの方からキャラハンに 向けられているようだ。 「よう! 神父さん、よう!」 声を掛けたのは小さな大豆農場を営むニックだった。彼は酔って話す自慢話が“今までに撃ち殺した鹿と ベトコンの数”という独り者の六十代だ。 キャラハンはグイと身体を捻り、ニックとその飲み仲間の四、五人の方へ手を振った。 「やあ、みんな。やってるね」 仲間がいるのは心強い。皆、仲間だ。誰も彼も飲んだ後は帰り道がダンテの“地獄の門”に見える事だろう。 酔っ払って帰る場所があるのは辛いものだ。 まだまだニックの喚き声は止まらない。 「神父さん! ひとつ、例のお祈りを頼むよ! アレが無えとどうも酒が進まねえ!」 「オーケー。いいとも」 自分の前に置かれたグラスを手に取り、眼の高さまで掲げると、キャラハンは滑稽なくらい厳かな顔つきと 重々しい声で次のような冒涜的な祈りを唱えた。 「主よ、改め得ないものをあるがままに受け入れる“心の平安”と、改め得るものを改める“不屈の意志”と、 毎度糞垂れな失敗(fuck up)を繰り返さぬ“幸運”を我に与えたまえ。アーメン」 「アーメン!!」 ニックのテーブルだけでなく店中の客を巻き込んだ復唱の後は、大きな大きな笑い声と意味の無い 歓声奇声が飛び交った。 その様子を見ていたエディはまたもや眉根を寄せて呆れたように首を横に振り、丁寧に皿を磨く。 これらすべてがこの店で繰り返される毎日毎晩の決まりきった光景なのだ。 そして、この光景が示す通り、ドナルド・キャラハン神父はザ・ロットの住人と概ね良好な関係を築けていた。 良識あるご婦人方や「我こそは熱心党」とばかりに胸を張る一部のカトリック教徒等の連中は キャラハンを悪し様に非難していたが、それ以外の者には比較的根強い人気があったと言える。 それ以外の者とはつまり“働く男”や“子供達”、それに何事にも寛容な人種である“老人”である。 また、キャラハンが所謂“良い司祭”と好かれているのには理由があった。
それは葬式である。彼の葬式は静かで、心が休まり、いつも短時間で終わった。 普段、彼の飲酒癖について陰口を触れて回っていたペトリー夫人も、キャラハンの祈りの下に 執り行われた実母の葬式が終わった後には、「神父様のお酒を非難出来る資格のある人がどれだけ いるというの?」と多分に弁護じみた口ぶりに変わっていた。 鼻と頬の毛細血管が破れた赤ら顔の飲んだくれも、本来の仕事となればそれなり以上の“らしさ”を 見せられるのだろう。 とはいえ、ザ・ロットにいる他のキリスト教関係者(町の人間は彼らを“まじない師”と呼んでいた)と 比べての話だから、もしかしたらキャラハンの人気も大して当てにならないのかもしれない。 キャラハン以外のまじない師と言えば、メソジスト派のグロッギング牧師はいかにも偽善的な 老いぼれだったし、モルモン教会のパタースンは正真正銘のキチガイだった。 彼らと比べればこの半病人の酔いどれ神父の方が幾分マシ、という事も充分考えられる。 寒風吹きすさぶパブの帰り道。聖アンドルー教会までの道のりは約二十分といったところ。 勿論それは“素面”で“健康”な人間の足で、だ。 さあ、地獄の門が待っている。 キャラハンは凄まじい酩酊の嵐が吹き荒れる己の身体を持て余しながら、必死に足を運んでいた。 北風が彼を撫でていき、あまりの寒さに身が縮む。 アメリカ最東北端に位置するメイン州は十二月に入り、寒さも本格化してきている。そろそろ雪が降っても おかしくない時期である。 時折、電柱にぶつかり、さして広くもない道路の真ん中を蛇行するようにヨロヨロと歩く。 酔いと寒さで右脚は鉛のように重い。股関節や膝関節が粘つく。靴底がおかしな具合に減るから、 あまり足は引きずりたくないのに。 とうの昔に日付が変わった深夜。この無様な姿を見ているのは街路灯と月だけ。 それはキャラハンも自覚している。 彼の頭蓋の中では取り留めも無い思考と記憶がごちゃ混ぜに渦を巻き、呂律の回らない言葉となって 幼児のよだれの如く口から漏れ出ていった。 ――後の祟りが、審判の日に、神様は私を罰してしまうのだろうか。その時、いくら祈ったとしても。 「キャラハン神父、君には失望したよ。君への処分は追って沙汰する」
主よ、お赦し下さい。私は罪を犯しました。 “教皇庁”を捨てたから? “武器”を捨て、己の“職務”を捨てたから? “能力(チカラ)”のせいか? 欲しくなんかなかった、生まれながらの、神を主を否定する“能力”故に? 殺人者だから? 化物でもない、異教異端でもない、人の子を殺したから? ごらんなさい、お巡りさん。私はこの通り白線にそって真っ直ぐ歩けますよ。ね? そんなに飲んでないんです。 ああ、ちくしょう。右脚が動かない。右手もだ。医者はこう言いやがった。 「ミスター・キャラハン、あなたはラッキーでした。発症から三時間ですべての手術を終えられたのですから」 そうかい、ありがとうよ。どうせならケタミンでもどっさり注射して永遠に眠らせてくれりゃよかったんだ。 主よ、お赦し下さい。私は罪を犯しました。また酒を飲んだのです。私は飲んだくれの堕落した司祭です。 告解なんてもうたくさんだ。主よ、ジェルーサレムズ・ロットの住人はロクデナシばかりです。 (私は麻薬をやりました。私は女房を殴りました。私は万引きをしました。私は恋人を中絶させました。 私は嘘を吐きました。私は、私は、私は、私は私は私は私はわたしはわたしはわたしはわたしはわたしは――) もうやめてくれ。もうたくさんだ。 「貴様の信仰が潰える時、それが貴様の命が潰える時だ。忘れるな、キャラハン」 こんちくしょう、足が上がらないぞ―― 瞬間、世界が反転した。 キャラハンは受身を取る事無く、五体をしたたかに道路へ打ちつけた。 痛みは無かった。酒は不自由な右手足を鈍麻させるだけではなく、痛覚までも取り去っていたのだ。 そして、キャラハンに身を起こすという選択は考えられなかった。 只々、酔いと眠気と寒さと厭世観が「このまま就寝といこう」などという馬鹿げた思考を生み出す。 そう、どうでもよかった。何もかもどうでも。 意識は思ったよりも急速に遠のいていく。いい感じだ。
「――……ラハン神父。キャラハン神父」 呼ぶ声がする。 誰だろう、こんな夜遅くに。非常識な奴だ。 ああ、そうか。遂に私にも御使いが遣わされたのか。 あのヤブ医者め、ざまあみろだ。こういうのを本当の“ラッキー”と言うんだ。 御使いが遣わされたんだ。私を主の御国へ導いてくれるのさ。 「起きて下さい、キャラハン神父!」 声はますます大きくなっていく。 それは女性の声。物腰柔らかな中にもどこか強い意志を感じさせる声。 やや怒りと呆れが含まれている気もするが。 「キャラハン神父! ……まったくもう、しっかりして下さい」 呼び声のあまりのしつこさに、うっすら眼を開けるとそこには女性の顔があった。 青みがかったショートヘア。銀縁の眼鏡の奥にはキャラハンに負けない、澄んだ青い瞳が輝いている。 「……ん? 君は……?」 最初、キャラハンは己の網膜に映し出された映像と過去の記憶を結びつける事が出来なかった。 げっぷと共に低く唸りながら、目の前の女性の顔をジッと見つめる。 そのうちに顔だけではなく、身に着けている衣服等も見る余裕が出来てきた。 ユラユラと定まらない視線で彼女の顔の下に続く深い青のカソックを観察するに至り、 ようやく器質的に一部壊れた脳が“昔の同僚”の記憶を引っ張り出してきた。 ああ、何だ。あの“かわいそうな子”じゃないか。懐かしいな。 「シエル……? シエルじゃないか。やあ、何年ぶりだろう……」 「七年ぶりといったところですね。それよりも、こんなとこで寝ていては凍えてしまいますよ。 さあ、立って。行きましょう」 シエルは挨拶もそこそこにキャラハンの手を取り、引っ張り上げて強制的に立ち上がらせる。 腕を自分の肩に回させ、シエルはこのどうしようもない酔っ払いの身体をしっかりと支えた。 最大重量120kgの兵器を振り回す殲滅集団の機関員なのだから、脱力した人間一人を抱える事など朝飯前だ。
シエルに肩を借り、支えられるがままのキャラハンは、愚痴にも似た響きのうわ言をブツブツ呟いている。
「空の鳥にねぐら、狐に穴あり、されど人の子に枕するところなし。フフッ、なのに私には神の家が
与えられてしまった……」
「はいはい。ホラ、行きますよ」
未だ酔眼朦朧醒めやらぬキャラハンの横顔に、シエルは「本当に仕様が無い」と苦笑、いや、微笑みを洩らす。
そして、キャラハンの枕する聖アンドルー教会への道のりを歩き始めた。
足音はひとつ。あとは何かを引きずる音。
ども、さいです。不運にも近所のスーパーでキルケニーを見つけてしまいました。飲みてえ。
場面は変わり、小説『呪われた町』からドナルド・キャラハン神父、『月姫』からシエルの登場です。
ちなみにキャラハンの声は石田太郎氏で脳内再生すると幸せになれるかもしれません。
>>238 さん
一言で言うと“ブラボーは便利”ですね。性格・言動・存在感のすべてにおいて。
前作の主役だったから使いやすいってのもありますが、彼がいると物語が引き締まってピリッとします。
>>239 さん
アクション! アクションね! さっさと書きたいんですけどねw 少々お待ち下さいw
まだ色々書かなきゃいけない事も多いものでorz
ふら〜りさん(『セント・マシューズ』をググってみました。絵がちょっと良さげ。いずれ買いたいっすw)
まっぴーと婦警で少し好きなように遊びすぎたと反省しているところであります、ハイw
あそこら辺は今作で是非書きたかった描写なのでー。
そして“前作との繋がり”でいけば、今回からの第四話も色々色々と。
>>241 さん
続いてるんですよ、実はw 『WHEN〜』で謎にしたまんまのもんが幾つかありましてね。
この『THE DUSK』や第三部で書いていく予定です。
桜花と絡ませる発想は無かったワー。なかなか面白いかもw 桜花の腹黒弁舌に翻弄される婦警w
スターダストさん(いつもお世話になっております)
鐶にはそんな隠された部分があったんですかー。私だったら間違い無く攻撃の手が鈍るw
だってかわいそうじゃないですか。孤独ですよ、孤独。
それにしても桜花姉さん輝いてるw すっげえ輝いてるw 桜花を使ってこういう描写っていうのがいいですね。
これはなかなか私では出来ない事です。羨ますぃ。
あと個人的に一番ツボだったのは千歳w 十八歳当時のノリで二十六歳現在の事を話してるから笑えるw
まー、何となく想像出来ますよねー。休日の千歳。侘しい……。
では、御然らば。
310 :
作者の都合により名無しです :2008/09/23(火) 23:28:38 ID:KYxx/5HT0
お久しぶりです邪神さん、お疲れさんですさいさん >邪神さん 80話過ぎてゲームスタートの副題とか魔術対策とかw ま、しばらく空いてしまったのでリスタートと思って見守ります また以前の好調な更新をお願いします >さいさん ああ、前回までのほのぼのとした展開とは打って変わり 前作ちっくな文体になりましたな。個人的にはこちらが好きです シエルってのがわからんけど、オリキャラとし読みますわ
大海原を支配する、とある首長竜の群れ。彼らの中でわずかな期間ではあったが場をに ぎわせた、信じがたい生命体の噂話があった。 遥か彼方の大地。原生林で無防備に堂々と寝そべり、威嚇をすればブラキオサウルスを も怯ませ、ひとたび戦えばティラノサウルスと互角に渡り合い、捕食するという。しかも これらの芸当をこなしているのは、体長二メートル程度の二足歩行の小動物であるという のだ。 人の噂も七十五日。ましてや知能が低い首長竜ならばなおさらのこと。あっという間に この噂は群れから忘れ去られていった。──ただ一頭を除いて。 その若い首長竜は「二足歩行」と「小動物」というキーワードから、かつての仲間を思 い出していた。もう二度と会うことはないであろう、父であり兄であり親友であった少年。 もちろん恐竜を捕食しているという人物が、その少年と関連があるはずがない。しかしそ れでもなお── ──会いたい。 欲求が抑えられなくなった。 次に訪れた新月の夜、人知れず若い首長竜は群れから脱出を果たした。 それからの旅路は困難を極めた。常に餓死の危険と戦い、険しい地形に行く手を阻まれ、 食われそうになった局面は数え切れない。そもそも噂の人物がどこにいるかすら定かでは ないのだから。 だが並外れた本能と執念は、少しずつ、少しずつ、主人を目的地へと近づけていく。 そして、ついに両者は邂逅を果たす。 のび太の恐竜ピー助と史上最強の生物ピクル──二つの魂が出会った。 境遇こそ違えど、ともに傷だらけであった。分かち合うのにそれほど時間はかからなか った。 かつての親友(とも)の面影を追い求め苦難の旅を選択したピー助。 不自由ない強さを持ちながら「弱肉強食」を捨て強者のみを糧とするピクル。 共通の言語は持たないが、不器用な生き方しかできない者同士、不思議と意識が通じ合 った。ほんやくコンニャクなど必要なかった。
──ボクガ生マレタノハコノ時代トハチガウ世界。直線バカリノ世界ダッタ。 ──直線ノ世界? ──ソコニカケガエノナイ親友ガイタ。君ト同ジヨウナ姿形ノ親友。 ──俺ト同ジヨウナ戦士ダッタノカ。 ──戦士デハナイケド、強クテ優シカッタ。デモ二度ト会ウコトハナイダロウ。 ──何故ダ? マタソノ世界ニ行ケバイイジャナイカ。 ──多分ボクハモウ死ヌマデアソコニハ行ケナイ。何トナク分カル。 ──ソウカ……。 ──君ニ会エテヨカッタ。モシ君ガ『直線ノ世界』ニ行クコトガデキタナラ、親友ニ伝 エテクレナイカ。ボクハ元気デイルッテ。 ──約束シヨウ。 数年後、ピクルはティラノサウルスと交戦中に大寒波に呑み込まれた。岩塩と超低温に 閉じ込められた戦士は、およそ二億年もの永い眠りにつくことになる。 現代に蘇った原人ピクル。しばらくはピー助との約束を忘れていたが、烈海王を倒し市 街に脱出を果たした際、現代(ここ)こそが彼が話していた『直線の世界』であると理解 した。 今こそ約束を果たさねばならない。悠久の時を経て、ピー助に誓った使命感がピクルの 中で燃え上がる。 ピー助とのわずかな対話と己の直感だけを手がかりに、ピクルは奔走した。 大した戦力ではないあの首長竜は、姿形が似ているという理由だけで、危険を冒して自 分に会いに来た。あの勇気を無駄にすることは、死ぬよりも辛い。
全力疾走しながら東京一千万の人間を一人一人鑑定する。砂漠で一粒の塩を見つけるよ うな途方もない作業であった。 空腹と度重なる疲労で、さすがのピクルもついに足を止めた。 しかし時として真実は立ち止まった瞬間にこそあらわれる。弱肉強食という神が作りし 摂理に逆らい続けたピクルに、神は罰ではなく──奇跡を与えた。 目の前でうろたえる眼鏡をかけた少年。 「わ、わ、原人だ……。テ、テレビでやってた……」 少年はピクルを知っていた。やはり奪った衣服を身につけているとはいえ、有名人だ。 好敵手と出会った時に似た高揚感が、ピクルの体内を駆け巡った。本能が激しく告げて いる。ピー助の親友はこいつだ、と。 少年の名は野比のび太。ようやく二億年前の約束を果たすチャンスが訪れた。 この少年にあの首長竜の近況を伝えれば、全てが終わる。ところが、いうまでもなくピ クルにはこの『直線の世界』での意思疎通の手段がない。同時代を生きたピー助とはかろ うじて心が通じ合ったが、さすがに都合よくはいくまい。 どうすればいい。ピクルはとりあえず身振り手振りや唸り声でコミュニケーションを図 るが、のび太はますます怯えるばかり。 意思疎通は不可能。ならば、とピクルは突然吠えかかった。 「グオオオォォォォッ!」 「ひえぇっ! こ、殺されるっ!」 のび太はピクルから背を向け、全力で逃げだした。まちがいなく五十メートル走で自己 ベストを出せる速度であった。ピクルも追いつかぬ程度に追いかける。 「ドラえもぉ〜ん!」 逃げ込んだのはやはり我が家。これもピクルの予測通り。 のび太が閉めたドアを蹴破り、部屋までたどり着く。途中、ピクルを見た玉子が失神し たことはいうまでもない。 「ど、ど、どうしよう、ドラえもん……」 「ぼ、ぼ、ぼくにいわれても……」 ドラえもんと抱き合って怯えるのび太。 かまわずピクルは部屋中を荒らした。机を破壊し、襖を突き破り、次々に物を引っぱり 出す。 ──やがてピクルは一枚の写真を発見する。
「ガアァッ!」 ピクルは必死にその写真をのび太の顔面に押しつけ、吠えるが、当ののび太は泣きわめ いていて対話にならない。ドラえもんに至っては恐怖のあまり自ら尻尾を引っぱって現実 逃避してしまった。 まもなく周囲が騒がしくなる。けたたましく鳴り響くサイレン。通報されたのだろう。 もはやこれまで──寂しそうにのび太に一瞥をくれてから、ピクルは窓を突き破っての び太の家から脱出した。 いきなり追いかけられ、部屋をメチャクチャに散らかされ、散々な目に遭わされたのび 太。涙を拭いて愚痴をこぼす。 「んもう最悪だよ……。なんでぼくがこんな目に……ん?」 ピクルがしつこく押しつけてきた写真。しわくちゃになっている。 風景は白亜紀。のび太たちとピー助が、楽しそうに並んで写っている。 ピクルは、のび太がピー助と真に親友であるならば、自分の巣にピー助の痕跡を保存し ていると考えたのである。 「あの人、もしかしたらピー助のことを伝えに来たんじゃ……」 これ以後、のび太とピクルの人生が交わることは生涯なかったという。 お わ り
ドラえもん+ピクルSSです。 現代・古代ともに、時代が狂っております。
>邪神?さん(お久しぶりです) シンがホークやゲラハと打ち解けてるな。原作とは雰囲気が違いますね。 魔法対策をしないとこれからの邪神郡には到底太刀打ちできませんか。 >さいさん ああ、少しずつ前作の黒さに近づいてきましたね。「キャラ物」と感想が あったのを気にされたのかな?バトルが近付く予感がして良いですね。 >サナダムシさん ピクル物とかいってたのでしけい荘と思ってたけどまさかドラえもんとはw 相変わらず読み切りもお上手ですね。でも、数回の短編が良かったな。
ピクルとぴーすけって発想がすごいわw しかも何気にいい話になってるw
邪神さんも復活したか パソ不具合とかいってましたもんね サナダムシさん、さいさん、スターダストさんも好調で また調子が上がってきたな
319 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:22:11 ID:anV6ETngP
第074話 「滅びを招くその刃 其の拾弐」 桜花はここぞとばかり桃のような甘い声をあげた。 「正確には『換羽』の年齢版じゃないかしら? 瀕死をきっかけに、すり切れた年齢へと新しい 年齢を上書きして、元の状態に戻しているとか」 『換羽』とは鳥における重要な生理現象の一種である。 元来、羽根(羽毛)は摩擦や寒風などの様々な刺激から身を守っているが、その役割上、絶 えず摩耗を強いられてしまい、およそ一年もあればボロボロになってしまう。 『換羽』とはそんな古い羽根を定期的に抜き落とし、新たな羽根へと換える鳥の一大行事だ。 鐶は頷いた。 「これは偶然の産物……です。種子さえ巨木にし……街の時間さえも進められるクロムクレイ ドルトゥグレイヴと……あらゆる人や鳥に変形できる特異体質……そしてその副作用による 五倍速の加齢に……鳥に備わる換羽の機能と、人としての生存本能。それらが合わさった結 果……私は……瀕死時に自動回復……してしまいます……」 「なるほど。ようやく分かったわ。説明ありがとう」 (……あっさり聞きだしたぞアイツ) (ま、まあ、コレも戦士長の稼いでくれた時間で推測をある程度までまとめれたからだ。もした だ聞くだけならアイツも答えなかっただろう) 剛太と斗貴子は肩を並べて複雑な表情をした。ようやく糸口をつかんだ喜びよりも、結果とし て自ら秘密を暴露した敵の迂闊さに呆れるばかりだ。 「あ」 鐶は棒立ちになったまま、軽く口に手を当てた。 変わらぬ無表情だが、バンダナには一瞬だけ汗まみれのニワトリが浮かび、口さえもパク パクさせつつやがて半透明になって消えた。いったいコレはどういう仕組みなのか不明だが 少なくても鐶自身の狼狽だけは見て取れた。 「う、うそです。今のは……かく乱するための……うそです……」 「あらあら。うろたえちゃって。どうやら戦ってないと普通の女のコみたいね。でも」 飛び出そうとする斗貴子を手で制し、桜花はため息をついた。 「撹乱を目的にするような人は、自分の行動目的がそうとはいわないものよ。どうせさっきはそ の特異体質で群衆に紛れこんだでしょうけど、その人たちに『戦士を撹乱して下さい』と呼びか
320 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:25:17 ID:anV6ETngP
けたかしら? 呼びかけてないわよね。もっと別の、他の人が興味を持つ話題で操った筈よ」 (鋭い) 斗貴子の脳裏に去来したのは、岸辺露伴うんぬんで駆けずり回る群衆である。 「そんなコトをしたあなたが、今さら素直に撹乱目的ですって白状する訳ないじゃない」 桜花は目を細め、恐ろしく冷たい口調でぽつりと呟いた。 「さ、裏は取ったわ。やりましょう」 (怖ぇよこの女!!) ゾっと恐怖を浮かべる剛太の手に、桜花のしなやかな繊手が巻きついた。汗にぬめるそれ はひどく艶めかしい。剛太が肩を震わせたのは、けして恐怖のためだけではないだろう。 「あらあら。そんなにおびえて。ふふ。大丈夫よ。剛太クンには比較的本心を向けているから、 とりあえず安心して頂戴」 「だあもう放せっての! 大体さっきの言動からすりゃ、そういわれても安心できるわきゃねェ」 「あら? それはどうして?」 小首を傾げながら桜花は上目遣いで剛太を見た。ちなみに長身に見える彼女だが、実は百 六十七センチメートルと、剛太より八センチメートルも低い。 「人騙す時には本心を隠すんだろ。だったら今のもウソにしか聞こえないって」 桜花はちょっと考えると、茶目っ気たっぷりに柳眉をしかめて微苦笑した。 「あぁ、成程。それもそうね。じゃあ剛太クンなんて嫌いっていおうかしら。男の人ってそういう のが好きなんでしょ? まあ、秋水クンは素直にすり寄ってくる子犬のようなコが好みらしいけど」 「知るか! ていうか手を放せ」 「ダメよ。放したら私が行動できなくなるじゃない」 ぐうの音も出なくなった剛太に追撃が降り注いだ。 「こんな時にイチャつくのはやめろ。来るぞ!」 「ちょ、先輩!? 違います。イチャつくならこんな元・信奉者なんかより先輩の方が……」 慌てて想い人に手を伸ばす剛太だが、残る片手に柔らかい感触が巻き付き更に拘束した。 見れば桜花が両手で剛太の左手をしっかと抱きしめている。彼の二の腕には何やら手と違 うまろやかな感触さえ当たっている。 「ダメよ。津村さんとイチャつこうとしちゃ。今は私を移動させるのが任務なのに」 からかってる。楽しげながらにうっとりとも笑う桜花に剛太は顔面が赤らむのを感じた。
321 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:26:38 ID:anV6ETngP
「……『キジも鳴かずば撃たれまい』…………です。鳥だけに」 バンダナに両目が浮かぶとその周囲に赤い肉腫が称えられ、見事なキジの顔を現した。 (失策です……。やはり私は……女のコとしては…………ダメでしょうか。そもそも……) ──「さて、別に小札が一番手でもいいが、お前たちはどうする?」 ──「だあもう! あやちゃんはちっちゃくてか弱いんだからそんなんしちゃダメでしょーが!」 ──『その通り! 筋からいけば最も弱い僕たちが出向くべきだろう!!』 ──「……小物などブツけるだけ無駄な事。我が初手を務め必ず母上を守ってみせる」 虚ろな瞳に波紋がわずかに揺れた。 (私は……零にだけはなれないから……せめて勝てるよう……どんな手段も尽くします) 鐶は弾かれるように走り出した。 「だあもう、色々納得できないけどやるしかねェ!」 剛太の視線の先で、白と紺の影がびゅうびゅうと流れやがて消えた。 斗貴子が女豹のような速度で壁を蹴り電柱を登り手近な住宅へと身を隠したのだ。 「取るべき手段はただ一つ!」 剛太は片手一本でやり辛そうに握った二枚のモーターギアを射出した。 それは道路を跳ね塀から突き出す樹木を切り裂きながら鐶に迫り──… 「え……?」 その脇をすり抜け、更にあちこちをギュラギュラと飛び交いだした。 音たるや凄まじい。側溝の蓋を乱暴に削りあげ塀のてっぺんを斬り飛ばし、爆炎から赤と黒 の粒を舞い上げたかと思うと、電柱に無数の斬り傷をこしらえる。 無軌道に思える戦輪である。構わず鐶は無手になった剛太に突っ込んだ。 しかし戦輪は絶えず鐶の周囲を乱舞している。彼女が走っているにも関わらず。 「まさか……この技は…………」 (ああ。癪に障るけど、あの出歯亀ニンジャのだ! けどお前には当てねェ!) (本当の狙いは……そこだッ!!) ぎゃりぎゃりと奏でられる不協和音に紛れて、ばしぃ! と乾いた音が微かに響いた瞬間、蒼 く光る処刑鎌が鐶の額と胸を貫いていた。 「戦力が半減した今、私たちは奇襲で攻めるしかない」
322 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:27:44 ID:anV6ETngP
桜花は見た。斗貴子が処刑鎌で電柱を叩き、一気呵成に鐶へ突っ込んでいたのを。 (それを普通にやろうとしちゃ、どうせフクロウの耳がどうとかで先輩の位置がバレるに決まっ てる。だからモーターギアで雑音を立てて所在を誤魔化した) 舞い戻ってきた二枚の戦輪を指先で回転させながら、剛太は斗貴子を見た。 「剛太や桜花の仮説が正しければ、貴様は章印を貫いたとしても死なない筈だ」 彼女は会心の攻撃にも関わらず、ひどく気だるい半眼で嘆息している。 「ったく。最初からこうできればもっと早くに決着したというのに」 そも数で勝れば章印を貫くのは容易い。だがそうすると鐶から総角のアジトの所在を聞き出 せなくなる。殺してから捜索するという手もあるが、そうするとまだ生存している(斗貴子の見る ところ、秋水は恐らく相手を仕留めない。そして現にそれは当たっている)小札、無銘、貴信、 香美といった連中に回復を許し、鐶死亡以外はほぼ振り出しに戻ってしまう。 そう思ったからこそ章印を捨て置き、あくまで拘束だけを目的に戦ってきたのだが…… 「だあ゛もう!! 今さら章印貫いて平気とかねーよ!」 御前が叫ぶ中、鐶は例の回復を引き起こし、同時にバックステップで処刑鎌を引き抜いた。 「まったくだ。私たちに生け捕りの必要性を感じさせ、章印への攻撃を防ぐとはな。つくづく戦士 を舐めた化物だ。もっとも、試しもしなかった私たちも迂闊だったが」 斗貴子は鐶が短剣を構えるより早く踏み込み、もう一撃を章印にたたき込んだ。 「まあとにかく、こうやって攻めていけば、いずれは年齢が尽きて回復できなくなるだろう」 「確かお前の年齢は自称十二歳。だったら一回の回復でそれだけ消費させられる筈だ」 「そうして頃合いを見て普通の攻撃に切り替えれば、私たちにもまだ勝ち目はある」 「……そう、でしょうね」 ずるりと処刑鎌を引き抜きがてら後方に跳躍した鐶は、虚ろな瞳を戦士一同に向けた。 「私は……今までの戦いで……多くの年齢を…………消費しました……。あなたたちから奪っ た年齢も、三体の調整体や私自身を戻すのに消費済み。残りは決して……多くありません」 斗貴子が攻め込むべきかどうか迷ったのは、防人の忠告あらばこそだ。 「だから、回復は……残り七回……」
323 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:32:22 ID:anV6ETngP
「また自分でバラしやがった……?」 「気をつけて! さっき津村さんが『奇襲しかない』ってバカ正直にいった感じとは全く違うわ!」 さりげなく皮肉をいう桜花を斗貴子はギロリと睨みつけた。 「信じる信じないは自由、です。しかし」 鐶は左腕を巨木のように太くし、鋭い爪を伸ばし、斗貴子ににじり寄った。 「私は……そのセーラー服美少女戦士なお姉さんを……倒しさえすれば……いいのです。そ うすれば残りは手負いの人が二人と、毒の羽根で弱った人が一人……。確実に勝てます」 (マズいわね。年齢消費だけを引き合いにして、あのコが不利って思いこませたかったんだけど) 桜花の頬を一筋の汗が流れた。 (アイツのいう通り、この中で一番強いのは先輩だ。俺のモーターギアの破壊力は最弱。仮に 遠隔操作で章印を狙っても、アイツならその間に俺を狙ってくる。元・信奉者の武装錬金も攻撃 力がない上に本体が碌に身動き取れねェ。千歳さんは毒で実質戦闘不能。核鉄もない) (だから津村さんがやられたら、私たちが自力で勝てる可能性は……ゼロ) そして、と斗貴子は内心を隠すべく努めて表情を維持した。 (私はあの短剣と迂闊に接触できない。下手をすれば次の一撃で戦闘不能だ) 防人はいった。 ──「キミが始めて武装錬金を発動し、戦う意思を得たのは10歳の頃」 ──「──つまり、年齢が9歳以下になれば千歳同様精神が退行し」 ──「キミは戦士として最も重要な、『戦う意思』を失くすかも知れない」 (戦う意思を失くせば武装錬金は発動しない。そうなれば私の、いや、私たちの負けだ……!) (以下は本来の年齢 → 現在の年齢) 斗貴子 18 → 15 (斬られても身を引きさえすれば、少しは持たせられる。だがアイツがそれを許すかどうか) 先ほどまでなら根来がいた。防人がいた。千歳が武装錬金を持っていた。 彼らの補佐を信頼したからこそ斗貴子は無茶を承知で鐶に踏み込めた。 今しがたの攻撃にしても、奇襲という変則的な形の上に剛太のサポートあらばこそ。 だが、根来と防人が胎児となり千歳が武装錬金を失った今、鐶が攻勢に転じれば斗貴子の 年齢などはあっという間に吸収されるだろう。
324 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:37:02 ID:anV6ETngP
(こうなったら一か八か。奴の攻撃に総攻撃でカウンターを当て、所定通り倒しにかかる!) 桜花と剛太を振り向くと、彼らは全てを察したらしく無言で頷いた。 (勝ち目は薄いけど、秋水クンのためにも死力を尽くさせて貰うわ) (要は先輩さえ残りゃいいんだ。その為なら俺は盾だって砲台だって努めてやる!) 鐶はスっと息を吸うと、虚ろな瞳に斗貴子を映した。 「……行きます」 爆炎がゆらめく路地に怪鳥のような羽ばたきが鳴り響き、灰神楽を瓦礫から攫い上げた。 「あー、腰痛い。若返れたら楽なんだけどなあ」 高岸先生は銀成学園に努めている。容姿はずんぐりむっくりとした白髪頭の中年男性だ。 勤続年数は長い。しかしコレといって自慢できるモノもない人生を歩んできた。 せいぜい四ヶ月ほど前、銀成学園が霧に覆われた時、先生方の期待を一身に受けて脱出 口を探したぐらいがめぼしい記憶である。その時だって迷いに迷いようやく校舎についた程度。 そんな高岸先生は銀成学園運動場の正門前で、爆発現場へ野次馬しにいく生徒を手で制し、 腰痛に顔をしかめながらも元の場所へ戻るよう促している。 生徒が野次馬しにいって二次被害に巻き込まれたら大変だ。 だから生徒を制している。若返れたら腰痛も治るのになあと内心愚痴りつつ。 「ちょ、待て!」 剛太が天を見上げて叫ぶと、鐶は白い裸足を電柱の上で綺麗に揃えた。 「……攻撃に総攻撃のカウンターを合わせられれば、私もどうなるか分かりません」 いつの間にか両腕を翼と化している鐶を、斗貴子と桜花はただただ悄然と眺めた。 「空中からの特攻? いや、違う!」 「まさか……逃げるの?」 「……舞台を移します。この辺りでもっとも人が多く、あなたたちが奇襲ができず……視認でき るので……方向音痴の私でも……すぐに到着できる『あそこ』へ。年齢補充も兼ねて……」 言い捨てるとと同時に羽ばたきの音が響き、鐶の姿が消えた。 「どういうコト?」 御前が首を傾げるのと同時に、張り裂けんばかりの声が轟いた。 「しまった!! オバケ工場に誘導しようとしたのが却って仇になった……!」 「ど、どうしたんですか先輩。血相を変えて」
支援ッッ
326 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:38:51 ID:anV6ETngP
血の気の引いた唇を戦慄かす斗貴子に、剛太は悪寒を覚えた。 澄みわたる秋の青空を眺めていた高岸先生は、おやと首を傾げた。 いやに大きな鳥が道路の向かい側の建物の影に消えたような気がしたのだ。 「錯覚か。……ん?」 「事情は桜花から聞け! 私は一足先に駆けつける!!」 いうが早いか斗貴子は飛翔し、住宅の屋根伝いにバッタの如く飛び跳ね飛び跳ね遠ざかる。 高岸先生のいる銀成学園正門へ、道路の向こう側から歩いてくる人影がある。 横断歩道の上を一直線に、迷いなく歩いてくる。なぜかカラスを周囲にまとって。 そして高岸先生は気付いた。人影の足には……あるべきモノがない。 「この辺りで一番人が多くて、視認できるほど近い場所は一つしかないのよ剛太クン。そこは」 「銀成学園!! ここからだと恐らく一キロメートルもない!」 切歯する斗貴子の正面では、給水塔を屋上に仰ぐ見慣れた建物が大きくなっていく。 逆に飛翔する鐶の姿は豆粒よりも小さくなり、先ほど緩やかに地上へ降下した。 (頼む。日付だけなら今日は休日だ。生徒は一人も登校していないでいてくれ。……頼む) 部活動に勤しむ生徒達の賑やかな声を背景に、高岸先生は来訪者に手を伸ばした。 「オイ、靴を履いてないじゃないか。目も虚ろだし……何か事件にでも巻き込まれたのか?」 「いいえ」 カラスの羽ばたきの中で、少女──鐶はかぶりを振った。 「これから……巻き込みます。…………すみません」 「何でブラボー達は、通り道に学校があるような場所へアレを誘導しようって考えたんだ!」 「どうやら、大交差点のある中央通りから一番近い人気のない場所がオバケ工場だったからみ たいね。確かに中央通りからだと蝶野屋敷も遠いし」 「とにかく急いで先輩と合流!」 「そうね。もちろん御前様もついてきて」 「ラジャー!」
327 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:40:14 ID:anV6ETngP
モーターギアを踵につけてうねりを上げる剛太だが、間延びした声にその挙措を妨げられた。 「あ、あの。私はどうすれば?」 見れば千歳が困ったように剛太を見ている。 「どうって」 「あなたは毒の羽根が直撃したから、満足に動けないでしょ。聖サンジェルマン病院に連絡して、 ブラボーさんと根来さんを保護して貰って。もちろんあなたも入院よ。死にたくないでしょ?」 千歳は少し何かをいいかけたが、すぐに不承不承頷いた。 「やった。腰痛が治ったァ!」 少年の姿になった高岸先生は歓喜の声を上げた。 確か呼びかけた人影がポシェットから掴んだ何かを抜き撃ってきたような気もするが…… よく分からない。分からないまま高岸先生は落ちていき、眠るように気絶した。 「た、高岸先生が赤ちゃんに……!?」 「てかアイツ、刃物持ってるぞ刃物!」 サッカー、野球、ハンドボール。思い思いの部活に勤しんでいた生徒達の動きがぴたりと止 まり、やがてまったく同じ一つの行動を選択した。 「校舎に逃げ込め!」 「カギさえかければ大丈夫だ!」 「……逃がしません」 正門から一足飛びに校庭中央へ躍り出た鐶が、殺到する生徒を手当たり次第に斬った。 同時に天空からいくつもの巨岩が降り注ぎ、難を逃れた生徒の退路を断つ。 絶望に硬直する生徒たちには分からない。投げた小石を年齢操作によって巨岩にしたとは。 「リーダーからの伝達事項その六。勝ちたくばあらゆる手段を行使せよ。私の回答は……了承」 鐶の手元から赤い光が迸るたび、阿鼻叫喚の生徒が一人また一人と胎児と化していく。 「さあ、行きましょう剛太クン」 剛太に呼びかけた桜花は、彼が視線を一点に釘付けたまま黙っているのに気づいた。 「……ゴーチン?」 御前が剛太の視線を追うと、そこには…… 胎児と化したまま薄く息をつく根来がいた。その横には防人も。 (クソ。こんな急いでいる時に。けど、見ちまったもんは仕方ねェ) アロハシャツが剛太の上体をすり抜け根来と防人に覆いかぶさった。
328 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:42:58 ID:anV6ETngP
(たく。キャプテンブラボーと違ってお前だけ無駄死にじゃねェか。って死んじゃいねェけど) 「あ、そういうコト。でも意外な反応」 薄緑のランニングシャツ一丁になった剛太の後ろで桜花が驚いたような仕草をした。 (けど、ブラボーが時間稼ぎをしてくれたのは、てめェが自分を犠牲にしてまで戦ったおかげか もな。……その気ならずっと亜空間に逃げて一人だけ無事で居られたってのに) 剛太は不満気に目を垂らしながら「ケッ」と呻きを漏らした。 (むかし先輩を狙いやがったのは今でも許す気ねェけど、寝冷えで死なれても目覚めが悪ぃか らな。服一枚ぐらいは掛けてやる。感謝しろってんだ。それからブラボーに掛けるのは当然!) 「ありゃ。この前は核鉄そのままで放置しただけなのに。ひょっとしてカズキンに感化されたか?」 「るせェ似非キューピー! あんな激甘アタマなんかの影響なんて願い下げだっての!」 「でも今の剛太クン、ちょっとカッコ良かったわよ」 「……先輩ならともかく元・信奉者にいわれてもなぁ」 くすくす笑う桜花の手を引きながら。剛太はバツ悪げに銀成学園への針路を取った。 「不審者め! 早く武器を捨てて降伏しろ!」 「みんな赤ちゃんになってやがる。いったいどうやったんだ……?」 生徒をひとしきり斬った鐶は、自分を車座に取り囲む剣道部の面々を無表情に見た。 みな同じように胴と小手と面をつけ、思い思いの構えで竹刀を突きつけている。 「騒ぎを聞いて……駆けつけてきた。という所ですね……」 「あっ」と剣道部部長が面の奥で息を呑んだのは、車座の中央から鐶が消えたからである。 そして次の瞬間には車座の外側に平然と出た鐶がいて、しかもその背後で三名の部員が 胎児と化してもいる。彼らは剣道道具をガラガラと落としながら地面に落ちた。 「特異体質を使うまでもありません」 それも一瞬の出来事で、彼女は振り向きがてら更に三人を斬り飛ばした。間髪入れずに影 が稲妻のように部員に次々と襲来し、声も立てさせず胎児にした。 残った剣道部部長はその肩書き相応の剣腕で辛うじて数合斬り結んだが、竹刀は短剣とか み合うたびに斬り落され、みるみると縮んでいく。意を決して踏み込み脳天を叩いたが、石を
329 :
永遠の扉 :2008/09/24(水) 22:44:21 ID:anV6ETngP
叩く様な手応えの中で竹刀がばっくりと裂けた。常軌を逸した相手。思わず部長は呻いた。 「俺じゃ歯が立たん! せめてこの場に秋水がいたら!」 「…………不意打ちですが、既に私はその人も倒しています」 「な!?」 「隙あり、です」 肩口に刺さった短剣が、紺色の胴着にみるみると赤い染みを作り、部長を胎児に逆行させた。 「びっきー、おトイレから戻ってこないね。……はっ、まさか減ったお腹が壊れたとか!?」 「落ち込んでるのよ。あなたにあんなコトされたら、誰だって泣きたくなるに決まってるじゃない」 「えー、でも私は楽しかったよちーちん。びっきーもちょっと嬉しそうだったし。ねー」 まひろと一緒にくすくす笑う沙織に、千里はこめかみを押さえため息をついた。 「防人くんたちは戦闘不能。そして」 千歳は見た。消防車に遅れて到着した救急車が、防人と根来を慌ただしく回収するのを。 「私は──…」 「私は──…」 何でこんな目に遭うのよ、とヴィクトリアはトイレの鏡の前で嘆息していた。 「……? なんだかさっきから外が騒がしいような……?」 しかしまひろみたいな生物のいる学校だ。つまらないコトでそうしてる。そう結論づけた。 「さて、どうしようかしら。こんな真似をしたあのコの顔なんてしばらく見たくないし」 トイレから出ると、まひろたちのいる教室とは別方向へ歩きづらそうに歩きだした。 「補充完了」 息せき切って正門をくぐり抜けた斗貴子は、校庭のド真中でただ立ちつくした。 校舎の前を埋め尽くしているのは、累々たる胎児と無数の銀成学園制服、そして面や胴。 その中で見慣れた忌わしい後姿が、右手の短剣から赤い粒を滴らせ寂然と佇んでいる。 「遅かった……ですね」 ぎゅっと握った拳の中では爪が食い込み、漏れた雫が乾いた運動場に吸い込まれた。 (落ち着け。ここで激発すれば奴の思う壺。剛太たちと合流するまで耐えろ。耐えるんだ) 嵐孕む砂塵がセーラー服と紅の三つ編みをたなびかせ、ザラザラと校舎を掻いた。
なるべく早く鐶戦を終わらせたいので、しばし文量増大&加速、お許しを。
ヒマなうちにわーっと行かねばどうしても先に進めぬ自分……
それから
>>325 さん、支援多謝ッッ!
>>290 さん
戦闘経験から行くとやっぱり斗貴子さんしか! 桜花は戦闘に不向きで、剛太は新人ですし。
それに懐かしの原作一巻二巻ではカズキをぐいぐい引っ張ってましたしw でも再殺部隊ぐらい
アクの強い部下を持ったら何度も流血沙汰になりそうな血の気の多さもありますね。そこがいいのですが。
>>291 さん
桜花は腹黒ですのでw 系統的にはスレイヤーズのゼロスとか金剛番長の卑怯番長に近いかも?
つくづく思うのですが、原作がもっと続いて、桜花が日常パートにいたら斗貴子さんを弄ぶ姿が見れた筈。
あと「換羽」にも色々あるそうです。詳細はブログにて。生き物はもっと知りたい覚えたい!
>>292 さん
天使のような悪魔の笑顔……って感じですねw えーと、銀狼怪奇ファイルの歌なのですが、ご存じでしょうか?
鐶は考える癖こそあれあまり世間慣れしてない感じなので、桜花にはいいようにされるでしょうねw
ふら〜りさん
時とか年齢とかいったファクターは、鐶を考える上で非常に参考になりました。武装錬金と符号しつつ強さ
の代償であり欠如であり……今後はそれに基づいた「とある感情」を描いてまいります。自分でもそれを
考えるとチクチクと胸が痛いのですが、桜花はそういう弱みさえ笑顔で突いちゃうキャラなので、何ともかんともw
さいさん
>THE DUSK
自分はまだ不勉強にも海外の小説(探偵小説除く)を読んだコトがないのですが、もし読むコトがあれば
今回のTHE DUSKのような文章風景が広がっているのでは? と思えるほどお見事でした。街に住む様々
な人間の様々な容貌や生活様式が綿密に描かれ、果ては生活音さえ活き活きと鳴り響いてきそうな。
キャラハン神父は特に血の通った感じですね。ここでやってきたシエルがどう出るか。彼を救いの道へ導
くのか、絶望的な戦いの渦へ巻き込むのか
331 :
ふら〜り :2008/09/24(水) 23:35:18 ID:TJo1Imak0
惜しい。ニレスには後二人(三人かな?)でしたが、今日を逃すとしばし休日もありません
ので……
>>邪神? さん
お帰りなさいませっ! 丸くなってるというか、仲間たちと和んでるシンってのもなかなか
楽しいですね。原作じゃ敵か部下か片思い相手しかいなかった彼が、仲間たちと意地張り
合って晩メシ賭けるか……早くケンにも復帰してもらって、この中に加わってほしいところ。
>>さいさん
旅行なんて生涯経験しないのが当然の時代、人々にとって小説の異国描写が代用だった
そうですが。今回は景色、雑音、匂い(臭い)などなど、非日常というか非日本をどっぷり
感じさせてもらいました。漫才やバトル以外にも、書き込むべきものはあるなぁと痛感です。
>>サナダムシさん
死刑囚に続いて、ピクルでまでこんな物語を描かれるとは……改めて感服です。拳を通じて
殴り合って解り合ったのではなく、心と心で触れ合ってピー助の想いを受け取り、二億年の時を
越えてそれを伝える(で、その後地下闘技場に戻る)か。彼にとって多分唯一、強敵でない友。
>>スターダストさん
>私は……零にだけはなれないから……せめて勝てるよう……どんな手段も尽くします
鐶には非常〜に失礼ながら、鎌足を彷彿と。そして年齢操作を応用しての戦術はクレイジーD
を思わせる見事な応用っぷり。儚げだったり、クレバーだったり、乙女だったり、実に多彩な
顔を魅せてくれてます鐶。応援したくもあり、そんな彼女が敗れる時の表情が楽しみでもあり。
>>325 私からも感謝ッッ。
>スターダストさん 正直まだ鐶戦続くのかと思いましたが、読んでてなるほどと思いました いろいろな意味で決着をつけなければいけませんからね。 鐶も一般人を巻き込むのはつらいでしょうね。
333 :
作者の都合により名無しです :2008/09/25(木) 00:48:04 ID:Vi6r8IBW0
なんか連載が重なるたびにゴールが遠くなっていく気がするんだがw でもそれだけ制作意欲があるのは良き事ですな。 女同士のバトルで決着かなあ?
桜花を書いてるときのスターダストさんが一番楽しそうだ トキコとの対峙でこのパートも決着つくのかな
(注・「」→ブラボーの発言 【】→披露宴参加者の合いの手) ──それでは、新郎の母校の舎監であり、新郎の師匠でもありました防人衛様より、ご挨拶を頂きます。 「どうも」 【キャプテン・ブラボー!】【ブラボー!】 「どもっ、」 【ブラボー戦士長!!】【ブラボー!】 「どうもどうも」 【ブラボー!!】【ッボー!】 「ご紹介に」 【ブラボー!】 「あっどうも、えー、ただいまご紹介にあずかりました、キャプテン・ブラボーこと防人まも」 【ブラボー!】【ブラボー!】【ぶらぼぉ】 「んんっ……あ、どうも」 【ぶ、ぶらぼー?】 「どうも、防人衛でございます」 【ブラボー!】【ブラボー!!】【ブラボー……おお、ブラボー!】【ぶ、ぶら、ぶらぼー?】 「あっ、しゃべってもいいですか?」 【ブラボー!】【ブラボー!!】 「んっ……えー、さてー、新郎新婦とは二人の通っていた高校の寄宿舎の管理人であり、」 【ブラボー!】【ブラッボオオオオ!】【ぶ、ぶらぼー?】 「え、また二人の戦闘指導者として一緒に死線を潜り抜けた間柄でございまして」 【間柄!】 「ん……」 【ブラボー!】【ブラボー!】【ブラボオオオオ!】 「えー、」 【ぶらぼー?】 「んんっ、新婦とは彼女が錬金戦団に保護されてからの同胞で」 【同胞!】
「……はい」 【ぶらぼー?】 「はい、新婦が戦士として活動されている頃に新郎と出会いましてね、 彼女、持前の強引さで私より先に新郎を戦士として仮任命しましてね、 しかも核鉄を心臓の代替にする荒技までね、もう戦士長である私よりブラボーなアプローチでね」 【ブラボーwww】【ブラボーwwwwww】【おお、ブラボーww】【ブラボーwwww】【wwwブラボーwwwwwwww】 「……あのねー、あのね、今日はね、戦意高揚演説じゃないので、合いの手は結構ですから」 【ブラボー……♯】【ブラボー♯】【……ブラボー♯】【ブラボー♯】 「まあね、そんな経緯で私の部下になったのが新郎の」 【ヤン坊!】【あっ違うマー坊!】【マー坊!】【うまい棒!!】【太公望!!】 「カズキ」 【太公望太公望!】 「武藤カズキ君ということでね」 【あ……】 「カズキ君」 【カズキか……】【カズキ……】 「初対面時に落ち込んでる彼を叱咤しましてねー、場所が確か──」 【炭鉱!】【炭鉱!】 「炭鉱じゃないですよー、銀成市のほうの……」 【東海道!!】【市議会堂!】【コンサートホール!】 「廃工場です」 【廃工場!】 「……(笑)……廃工場です、廃工場。あん時の少年がまさかこんな立派な青年になってね、新婦の」 【桜花!】【ちーちん!】【毒島!】【桜花!!】【秋水!】【トリッシュ!!】【トリッシュ!】【エンヤ婆!】 「……斗貴子さん。」 【斗貴子ぉぉ……】【そっちかー】 「私はその場にはいなかったんですが、カズキ君と斗貴子さんの絆が深まったのが、えー、LXEアジトじゃなくて──」 【聖ジェルマン病院!】【ロッてりや!!】【ニュートンアップル女学院!】 「銀成高校の屋上です」 【あー、ブラボー】【ブラボー……】【ブラボー……】 「そのあとお二人の間には、お二人の絆を試す多大な試練がありましてね、特に強烈なのがカズキくんのヴィク」 【ビーダマン!】【ベターマン!】【オーバーマン!】
「……ヴィクター化ですから。……私もね、カズキくんを再殺してしまうことになりましてね、 月の奇麗な晩に彼と相対したんですよ。海豚海岸で私、彼にこう言ったんです──」 【フフ……感覚の目でよーく見てみろ!】【ホモには優しいきしめええええええええええええん】【なぜ殺たし】 「うん、違う違う」 【ネコミミモードでーす】 「うん、違うんだ、」 【海賊王に、俺はなる!】【絶望した!】 「違う、そりゃ別の漫画だ」 【オラ、びっくりしたぞ】 「違うなー、トランプマンでもないんだ。」 【絶対に働きたくないでござる!】 「誰が逆刃刀ニートだ!違うつってんだろ!……あ失礼。 まとにかく、私、カズキくんと対決することになりまして、私のシルバースキンと、彼の武装錬金の……」 【ザ・ワールド!】 「いやいや、それはスタンドだ」 【シルバーチャリオッツ!】 「だからそれはスタンドだって」 【オアシス!】【ヨーヨーマッ!】 「スタンドから離れなさい」 【ゴブリンバット、アッー!】 「違うなー、」 【フタエノキワミ、アッー!】 「言い換えただけだろうが」 【ペヤアアアアング!】【ホモ☆レモン】 「CCOじゃないよ武装錬金だよ空耳やめろ」 【紅丸コレダー!】 「紅丸コレダーってなんだそれ、」 【AIBOはどこだあああああ!?】 「知るか!」 【お姉さま、あれを使うわ】【ええ、よくってよ】 「会話すんなお前ら!」 【あ、ありのまま起こったことを話すぜ!】
「誰だ、さっきからポルナレフネタばっか言ってるやつ!」 【戯言だけどね】【山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!】 「──お、おお!?おおーキタ!キタ!今のは惜しいよ!山吹色惜しい!」 【黄の節制(イエロー・テンバランス)!】 「遠ざかってるわアホ!スタンドから離れろ!」 【秘剣・流れ星!】【格闘ディナー!】【若者文化成功ランド!】 「どこのマジックキングダムだ!そんなんでモテるか!」 【ぱんつーまるみえ】 「ポルポルやめろ!」 【マスかきやめ!パンツ上げ!】 「ハートマン軍曹は帰れ!」 【コッペパンを要求する!】【らららコッペパンー】【WAWAWA忘れ物ー】 「あー、うるせー!」 【うるさいうるさいうるさい!】【大事なことなので二回言いました】 「いや三回言っただろ」 【最終河童宣告!】【板野サーカス!!】 「馬鹿だなーお前ら……武装錬金だよ!?」 【だめだこいつ早くなんとかしないと……】 「こっちのセリフだいい加減にしろ!」 【僕の玉は二つある!】 「俺にだってあるわ!」 【即死とは即座に死ぬことを言う】【そんなこたあ言われんでもわかっとる!】 「会話すんな!」 【速さが足りない!】【風子参っ上!】【友情インプット完了!】【覚悟完了!】【無敵・最強・大喝采!】 「ずっと誰のターンだ、違うよ」 【奈良尽くし!】【かなーーしみーーーーのーーーむーーこうへーーーー】 「……頭を使えよこの野郎ー!」 【…………】【…………】【…………】【…………】 「──おい、もうないんか?んん?」 【……や】 「ん?」 【や、槍】
「お、お、お、おお!?なんの、なんの槍よ!?」 【ラ、ランス!】【戦国ランス!】【ランス!】【ランス!】 「そう、そうそうそうランス!ランスの武装錬金!じゃ、まとめて言うとハイ!」 【【【槍(ランス)のー!】】】 「ハイ!」 【【【武装錬金のー!】】】 「ハァイ!」 【【【サンライトハート改(プラス)ーーーー!!!!!】】】 「ハイ正解ー!!」 【【【キャプテン・ブラボー!】】】 「ってクイズじゃないんだよぉー!クイズじゃないんですよぉぉぉっ!!」 【ぶらぼー?】 「スピーチなんですよ!いちいち合いの手入れられるとね、調子狂っちゃうんですよ!」 【ぶ、ぶらぼー?】 「もお頼むからもうやめて……」 【おまえはそこでかわいてゆけ】【安西先生、バスケがしたいです……】 「いい加減黙れお前ら……」 【ウイごもっとも】 「おいそこのポルナレフつまみ出せこの野郎!……えー、結婚とは、人生を賭けた真赤な誓いであります」 【弾幕!】【固有結界!】 「あー、うるさーい!うるさい!だーまーれー!!」 【知識万歳(ビバ・ノウレッジ)!】 「ビバはイタリア語でノウレッジは英語だ!」 【見て!あの木の上にいるのが射命丸です!】 「……カズキ君、斗貴子さん、その手を離すことは許されません」 【ダブルアーツ!】 「どうか末長くお幸せに」 【ぶらぼー?】【ぶーらぶらー!】 「それからご来席のみなさん、祝福したい気持ちはよくわかりますよ。 ただね、二次会、三次会とあまり連れまわすと可哀想でございます」 【ぶらぼー?】 「なぜなら、今宵は大事な大事な──」
【【【精液をブチ撒けろ!!!!!】】】 「ハイ正解いいいいぃぃぃぃぃっっ!!! 【【【キャプテン・ブラボー!!!!】】】 (終) 元ネタ :塊グループ(中村屋祝辞ver.) :石鹸屋(幻想郷コール&レスポンス) 以上 スレ汚し失礼
こりゃわろたw 確かに、結婚披露宴なんて「今から交尾します」って 宣言してるようなもんだ
342 :
作者の都合により名無しです :2008/09/25(木) 23:42:10 ID:Vi6r8IBW0
元ねたの塊グループとかがわからん。 でも、ある意味新機軸?のSSだなw SSというより一発ネタな感じだがw
このスレの常連さんの作品かな? それとも新人さんかな?新人さんなら余計うれしいけど。 お疲れ様です。安西先生とか、小ネタが多くちりばめられてますね。 参加者はどんなメンツなんだろう。
344 :
しけい荘戦記 :2008/09/26(金) 00:40:37 ID:Yw7UzJ6Y0
第十七話「絶体絶命」 弾丸を同じ場所に三連続でヒットするのではなく、一度に三発の弾丸を被弾させる。ど れほど射撃の腕を磨こうと不可能な技術であるが、三位一体ならば可能となる。シコルス キーの右膝は完全に粉砕された。 「フフフ……すばらしかったよ、シコルスキー。君の戦力は我々の予測以上だった。しか しいかに強かろうが所詮は個人、我々“マウス”に勝てる道理はない」 得意げに勝ち誇る唇(リップ)。西部劇のような仕草で拳銃を回している。 脂汗まみれで、シコルスキーはなおも立ち上がろうしていた。右足がダメなら、左足だ けで戦ってみせる。 「フン……拳銃がなけりゃ、怖くて逮捕もできない臆病な警官には、ちょうどいい……ハ ンディだ……」 「減」と唇。 「ら」と歯。 「ず」と舌。 「口」と唇。 「を」と歯。 唇がさっと手を上げると、歯(トゥース)と舌(タング)が拳銃を構えた。 銃声。 今度は左膝を、三発の銃弾が撃ち抜いた。七分ほど起き上がっていたシコルスキーの体 がまた崩れ落ちる。両足を失ってはもはや立って戦うことはかなわない。 「うぐゥ……ッ!」 「勝負ありだな。まァ安心したまえ、殺しはしない。もっともこれから二度とファイトが できない体にさせてもらうがね……」 うすら笑いを浮かべ、足並みを揃えて無情に間合いを詰めるマウス。 「シコルスキーさん……ッ!」 もうシコルスキーに勝ちはない。足手まといにすらなれないだろうが、救出に向かおう とするルミナ。しかし、足が持ち上がらない。いかに勇敢とはいえ、まだルミナは小学生 である。マウスと拳銃への絶対的恐怖が、敵に立ち向かうことを許可しない。 金縛りにあったまま、ルミナはむせび泣くことしかできなかった。 「存分に泣いて後悔するがいいぞ、少年。我々に歯向かったことを……なッ!」
345 :
しけい荘戦記 :2008/09/26(金) 00:41:38 ID:Yw7UzJ6Y0
うつ伏せではいずり回るシコルスキーの傷ついた右膝を、唇は思い切り踏みつけた。さ らに舌が左膝を踏みつける。血溜まりが面積を広げた。苦痛に顔を歪めるシコルスキー。 「痛そうだねぇ……ついでに両腕も撃ち抜いておかないか、唇」歯が拳銃を取り出す。 「用心深いな。まァいいだろう、撃て」 唇の許可が下り、歯は嬉しそうに銃口をシコルスキーの右肘に向ける。 悔しそうに両の拳を握り締めるシコルスキー。が、その口元はわずかに笑っていた。 歯が引き金に指をかける。あと数ミリ指に力を込めれば、弾丸がシコルスキーの右腕に 寸分たがわず炸裂する。 「先に腕をやっとくべきだったな……」 突如シコルスキーはうつ伏せ状態で拳を振り上げた。するとどういう手品か、大量の砂 粒が舞い上がり、マウスをも巻き込んだ。 「オワッ!」驚いた歯は銃口を標的から逸らせてしまう。 「ちくしょう、目にッ!」砂を目に浴び、とっさに目蓋を閉じる舌。 「こいつ、手に砂を隠し持っていたか!」舌打ちし、目をカバーする唇。 ──否、そうではない。 シコルスキーが手を置いていた床の一部分が抉れている。まるで指で削り取られたかの ように。 「まさか……ッ! こいつ、コンクリの床を指で砕いて砂にしたというのかッ?!」 唇の推測は正しかった。ゆえに致命的な空白を敵に与えてしまったと気づく。即、三位 一体の銃口が床に向けられる。 ところが一歩も動けないはずのシコルスキーが、忽然と姿を消していた。 「ど、どこへッ!」慌てふためく唇。 ふと、歯が頭上に気配を感じた。 「ん──?」 一コンマ遅かった。天井から落下した拳が、歯の脳天を打ち砕いた。手加減は一切ない。 目と鼻と口から鮮血を噴き出しながら、失神する歯。 続いては舌である。銃を構え直そうとするも追いつかず、斬撃が鼻先を一閃した。 「ヒイィィィィイィッ!」 斬撃の正体は一本拳。顔面を一文字に削り取られ、舌もまた血まみれで沈んだ。 シコルスキーは砂粒で隙を作り、腕力だけで全身を跳ね上げ、指で天井に張りついてい たのだ。起死回生の立体殺法で、一気に形勢は逆転した。
346 :
しけい荘戦記 :2008/09/26(金) 00:42:32 ID:Yw7UzJ6Y0
ついに一対一、残るはリーダー唇のみ。 すでに両膝は破壊されているのに、シコルスキーは立つ。 「うっ……ぐっ! な、なぜ立っていられる、貴様ッ!」 「ヘッ……俺のルームメイトが、横になるのは死んでからで十分だって教えてくれたから な……」 チームワークがなければ、唇とてせいぜい素人に毛が生えた程度の使い手に過ぎない。 「ま、待ってくれっ! 子供は返すから、もう止めにしないか……?」 シコルスキーは興を失ったようにため息をついた。 「……仲間の仇を討つ気はさらさらないんだな」 「ふふふ……我々はあくまで連携が頼みだからな。こうなった以上は君に屈服する他ない のさ」 「連携が頼りならば──最後まで仲間につき合うべきだなッ!」 逃げ出そうとする唇の背中に、シコルスキーは怒りを含んだドロップキック。唇は水平 に吹き飛び壁に激突し、動かなくなった。 歯を砕き、舌を切り裂き、唇も叩き潰した。口(マウス)は崩壊した。 すなわち、シコルスキーの勝利である。 いじめっ子に使用されていたロープで三人を拘束し、マウス退治は完了した。 しかし、シコルスキーの両膝からの出血は尋常ではない。 「シコルスキーさん、今救急車を呼びますっ!」 ポケットから携帯電話を取り出すルミナを、シコルスキーは手で制した。 「いや……大丈夫だ。ここからなら知り合いの病院に歩いていく方が早い。無料で治療し てくれるかわりに、人体実験をさせられるけどな」 無邪気に笑い合う二人に、背後からか細い声が投げかけられた。 「あ、鮎川……」 眠りから覚めたいじめっ子のリーダーだった。薬品で昏倒させられていたらしく、まだ 若干無意識であるようだが会話はできるようだ。
347 :
しけい荘戦記 :2008/09/26(金) 00:43:16 ID:Yw7UzJ6Y0
「な、んで、俺たちを……助けたんだ……」 口ごもるルミナ。するとシコルスキーが代わりに答えた。 「ルミナは別におまえらに恩を売りたくて助けたわけじゃない。だから今日のことを忘れ て、またおまえらがルミナをいじめようとそれは自由だ。だけどな……」 「だ、だけど……?」 「ルミナはもう二度と、決しておまえらには屈しない。これだけははっきり分かる」 いじめっ子がルミナを見やる。するとルミナの眼も、シコルスキーと全く同じことをい っていた。もう絶対に負けない、と。 意識半ばでいじめっ子は悟った。今後いかなる手段、たとえ暴力を用いても、彼を屈服 させることは不可能であることを。自分たちは未来永劫にわたって完敗を喫したのだ。 「……行きましょう。シコルスキーさん」 力強く己の手を引くルミナを見据えながら、シコルスキーは友に独白した。 「サムワン……どうやら本当に俺たちの仲間がまた一人減ったようだ。……もっとも寂し くはないけどな」
第十八話終了。マウス戦決着です。 ピクルSSは我ながらイマイチでした。すいません。 克巳……お前がナンバー1だッッッ
349 :
作者の都合により名無しです :2008/09/26(金) 14:05:20 ID:cATTJ/nT0
シコルかっこいいなあ 背中に男の哀愁を漂わせるレベルだ
ピクルSS好きだったけどね。意外なコラボだったし ただ、何回か続くと思ったのでそれは残念 シコルスキーはオリバとかヤイサホーとか あの面子の中だからヘタレなだけで 外に出たら最強レベルなんだよな、きっと
まあルミナに完敗だけどねw
いや、前回のピクル良かったですよ。謙遜なさらず。 少しずつシコルが確変してますね。 一度日常編に戻ってバトル編なのか、このままエスカレートしていくのか。 オリバが含みのある事言ってたからまだ何か出てくるのかな?
353 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 17:53:04 ID:l0lo6/3RP
第075話 「滅びを招くその刃 其の拾参」 「ダブル武装錬……」 「させません」 鐶の口から伸びたキツツキの舌が核鉄に張り付き、凄まじい速度で手元へと回収した。 (この舌……! そうか、根来や千歳さんの核鉄を奪ったのはコレか。恐らく戦士長のもう一つ の核鉄はストレイトネット解除時に素手で奪っているだろうが) 鐶は核鉄をポシェットにしまった。斗貴子は核鉄の奪還も考えたがかぶりを振った。 (欲目をかくな。今は章印への攻撃を集中するのが先決) 「……そういえば、割符……あの人が持っているかと思いましたが」 「ああ。貴様らが狙う割符は私たちのうち誰かが持っている。だが易々とは奪わせない!」 銀成学園玄関前で雷光のごとき斬撃がぶつかり合った。 現在の状況 ・津村斗貴子 … 銀成学園にて鐶光と交戦中 ・中村剛太&早坂桜花&エンゼル御前 … 銀成学園へ移動中。 ・防人衛 … 戦闘不能(年齢吸収により26歳から0歳に退行) ・根来忍 … 戦闘不能(年齢吸収により20歳から0歳に退行) ・楯山千歳 … 「斗貴子ちゃんたちにはいわなかったけど、実は毒の羽根は掠っただけなんだよ」 救急車の中で医師の問診に対して千歳はそう答えた。、 防人と根来、そして千歳を収容した救急車は、サイレンを鳴り響かせながら街をゆく。 「あのコが羽根を投げる前にね、何とか気づけたの。あ、さっきまでの口の痺れとくしゃみはズ グロモリモズの毒だって。きっと、群衆を操っている時に羽根の細かな粒子が飛んで、私の口 に入ったんだね。他の人が気付かなかったのは、私ほど小さくなってなかったからかな?」 戦闘組織らしく、救急車に直接乗って駆け付けた医師は目を丸くしていた。 「そして毒があるなら、瞬間移動のせいでいつも遠くにいる私に羽根を投げて攻撃するのは読 んだから咄嗟に回避! でもそれに夢中で落ちて気絶しちゃったの……ダメだね私」 発熱と麻痺はけして軽くない千歳が、息も絶え絶えながら明瞭な分析を見せている。 「というコトで治療は点滴だけにして欲しいの。ちょっと回復さえすればまた戦える筈だから」
354 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 17:55:16 ID:l0lo6/3RP
「そうはいうが、君は核鉄を失くしているじゃないか。元々直接戦闘には不向きな上に、体も小 さくなり、毒だって浴びている。落下による打撲だって軽くない。医師として再び君を戦場に送 るのは許可できない。行った所で無駄にやられるだけだ」 「それでもまだやれるコトはあるの。お願い」 千歳は鞄から夏みかんを取り出し、手を当てた。 「これを使えば一回だけ斗貴子ちゃんたちを助けれる筈なの。幸い、敵はもう私が戦闘不能だ って思ってるから、うまくやれば必ず虚をついて逆転できる」 夏みかんの皮と繊維が一気に割り開かれた。 「これをくれた戦士・根来の為にも、こんな私を褒めてくれた防人君の為にも……お願い」 甘酸っぱい匂いの中で見た意外な光景に、医師は言葉を失くした。 ・楯山千歳 … 戦闘継続可能 (私は……ブレミュの副長……。けど) 初戦を紙一重で制したのは、斗貴子。 うねる処刑鎌を浴びた鐶が運動場を吹き飛び、植え込みを散らしながら窓ガラスに衝突した。 (いつも中心にいるのは……小札さん) 破片をじゃりじゃりと踏みながら立ち上がろうとした所に斗貴子が肉薄し、章印が何度目かの 貫通を浴びた。場所はどうやら普通の教室らしい。机が規則正しく並び、後ろには半紙の群れ。 (…………さっきだって、戦う順番を決める時……みんなの……無銘くんの口に上るのは…… 三番手の小札さんばかり。次の私には……何も。リーダー曰くそれは実力への信頼……。でも) 「くるっぽーっ!!」 鐶は顔を真白なハトに変形させた。そしてひどく機械的な無表情の嘴から白く濁った液体を ドバドバと垂らした。斗貴子は非常に複雑なニュアンスで顔を引きつらせつつ後退した。する と、彼女の足が乗っていた辺りで床板が白煙を上げて溶けた。ハトの育雛は少々変わってお り、そ嚢に蓄えたタンパク質と脂肪満載の「ピジョンミルク」という物質を与えるのだ。(材料は カタツムリやミミズなど。本来ハトは草食性だが育雛期においては肉食を嗜むのだ)
355 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 17:56:14 ID:l0lo6/3RP
だがそういう離乳食じみたミルクも、ホムンクルスにかかれば強酸性の溶解液になるらしい。 (この体はたったそれだけの機能しか……ないのです) 「げっげっげ!」 ジャワガマグチヨタカの顔になった鐶は凄まじい声で喚きながら外へ出ようとあがいた。その 時、突如として全校放送のチャイムが鳴ったが、邪魔する斗貴子の周囲を飛び跳ねながら机 やイスをむさぼり食うのに忙しいので気にする余裕もない。 (強さと引き換えに五倍速で老いゆくだけで……決して私を救ってくれる体では……ないので す。クロムクレイドルトゥグレイヴは……ボロックナイフだけに……抗がん剤。特異体質の副作 用を抑えるために芽生えた武装錬金。私を蝕む年齢をせき止めるただ一つの手段……けど) 「ぐるげっ?」 爬虫類じみた顔が木片をむしゃりながら斗貴子を見ていると、裂帛の気合いがかかった。 (それは結局…………ただの誤魔化し。例えば私が……特異体質で小札さんに変身したとし ても、小札さんそのものにはなれないように……一人だけ歳をとるのに変わりはありません……) 「けーっ! けーっ! けーっ!」 耳を貫かれた異形の鳥が天井を仰いでもがいた。」 (年齢と姿形を無限に変えられても……私は零にだけはなれないのです。始まりからやり直し て普通に歳を重ねるコトも……無銘くんの一番好きな人になるコトも……できないのです。ま だ人間だった頃でさえ……どんなに頑張ってもお姉ちゃんに拒絶されていたように……私は ……こんな性格だから、小札さんのように……好かれるコトはないでしょう) 「はなせ、はなせ」 片言で喚く鐶の体がふわりと浮いて、処刑鎌に思い切り投げられた。 だがその途中で、がっちりと固定されていた頭から胴体がすっぽ抜けて、壁をブチ壊しつつ 廊下に出て行った。反動で鐶の生首は処刑鎌の刺さった部分から前後二枚にスライスされた。
356 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 17:57:44 ID:l0lo6/3RP
(認められるのは……きっとこの体質と武装錬金の強さだけ……。それさえ私が老衰を迎え るその時……そう遠くない未来で……終わります) 「ぎょぼぎょぼぉ!」 自動回復が発動した。あまりの光景にさしもの斗貴子も立ちつくした。廊下の方からブリッジ した首なし胴体が四足獣のごとく走ってくる。しかも首の切断面からびゅっびゅと白濁したピジョ ンミルクを吐いてくる。斗貴子がそれを避けた隙にスライスされた鳥の頭から長い舌が伸びて 胴体に張り付き、再び回復の光が満ちた。分割されていた鳥の頭は、プラモデルの頭部パー ツのように固い音を立てて接合した。 「ガマグチさんちのツトムくん、この頃少し、変よー♪」 「ヤマグチだ!」 「それは……ウソ、です」 「ボケ倒すのもいい加減にしとけ! だいたい変なのはお前だ!」 またも首を百八十度逆にしながら呟く鐶に、斗貴子はツッコミがてら痛烈な一撃を見舞った。 「しまった思わず。クソ。章印を貫けば良かった」 廊下側の壁に叩きつけられた鐶は、瓦礫ごと教室の外へ輸出された。 (本当は……ホムンクルスになった時……ニワトリさんに私の自我を食べられていた方が… …楽、でした。でも、今は……まだ頼って貰えてる今だけは……戦わないと。……あれ?) 壁を突き破りながら廊下に出た鐶は、凄まじい破壊痕に首を傾げた。 「……いつの間にこんな所に? あ、フクロウさんで首を回転しないと。……ほうほう」 「つくづく化物だな貴様。しかも章印狙い以外は効果が薄い。痛みを感じた様子もない」 「痛みなら……感じてます。……化物でもありません」 「ウソも大概にしろ。まあいい。貴様がトチ狂っている間に生徒達は避難させた。これ以上、生 徒から年齢を吸収できないぞ!」 「……避難? どうやって」 「御前様だけを放送室に先行させたの、で、御前さまの頭についてるアンテナってマイクにも なるから、そこ経由で私の声を全校生徒へ伝えておいたわ」 桜花の横で不服そうに顔を背けた剛太が不満げにボソボソと呟いた。 「この学校どうなってんだ。元・信奉者が現役時代から生徒会長で、しかも信用されてるとか」 「普段の努力の賜物よ。優等生演じるのは大変だけど、いろいろ便利だから」
357 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 17:59:31 ID:l0lo6/3RP
鐶の背後数メートルの位置に桜花と剛太が現れた。 「そしてわざわざ校内にお前を入れたのは、飛翔を防ぐためだ。私たちの奇襲を防ぐつもりだっ たのだろうが、室内戦となればお前も条件は同じ。……勝負だ」 「なるほど。ちなみに……私は頭部を鳥にした時だけちょっとおかしくなります。これも副作用……」 (ちょっとじゃないだろアレは!) (何が「ちなみに」なんだ?) 一同はツッコミたい衝動を抑えながら攻撃を開始した。 (……「不審者が乱入したから避難して下さい」? 確かあの声は) 誰もいない教室を見繕って手持無沙汰に過ごしていたヴィクトリアは思わず立ち上がった。 (あの声は早坂桜花。というコトはどうやら普通の人間相手じゃなさそうね) 窓際に寄って見下ろした校庭には、無数の胎児が蠢いている。 (ま、錬金の戦士に手を貸す義理なんて私にはないし、せいぜい頑張るコトね。辛い時に誰 からも手を差し伸べられないのは苦しいでしょうけど、それもせいぜい数時間。百年味わうの に比べたらまだまだアナタたちは幸せよ) 悪魔的微笑をたっぷり浮かべて不幸な戦士を嘲りつつ、携帯電話を取り出し千里にメール を送った。文面は簡潔。生徒会長の言葉通りすぐ避難する。外で待ってて。それだけだ。 (私はこのコさえ守れればそれでいいもの。誰が好き好んで錬金戦団に加担なんか) パチリと閉じる携帯電話の小気味よさとは裏腹に、薄く細めた眼にはひどい不快が浮かんで いる。そんな自分にもやもやとした胸のつかえを覚えながらも、ヴィクトリアは避難すべく歩き 出した。 (そうよ。パパやママや私をあんな目に合わせた戦団なんかに協力なんてしたくないわ。だい たい、アイツだっていってたじゃない) ──「元々これは俺達戦士の戦い──…君が手出しする必要はない」 ──「寄宿舎に帰るんだ。皆、君の帰りを待っている。俺も帰還を望んでいる。だから戻れ」 (そう、アイツだって──…) 階下から轟音が響き、校舎が軽く揺れた。 「…………」 ヴィクトリアはしばらく黙った。黙る間にも様々な破壊音が耳に鳴り響き、縛った髪がさざな みのように揺れ動いた。
358 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:07:09 ID:l0lo6/3RP
しばらくするとヴィクトリアは、皮肉混じりの笑みで瞑目した。 「全く、アナタは本当にいつもいつも嫌なコトばかり炙り出してくれるわね。だから嫌い。錬金 の戦士の中でも信奉者の中でも特別に嫌い」 負けたとはいえ、きちんと戦いを選び何人かの敵を倒したであろう秋水だ。 それに比べてどうか。 (百年ずっと恨むばかりで何もしなかった『誰かさん』は。……みっともないわね) その誰かさんは秋水が戦っている間、陽の光をたっぷり浴びて「日常」とやらを甘受していた。 今も怨嗟に浸りかけ、直面する事態を無視しようとしていた。 「コレじゃただ地下から出ただけで、昔と同じじゃない。本当、嫌なコトに気づかせてくれるわ」 炙り出された軽い嫌気が、尖った瞳をすうっと細めた。 「……そうね。戦士は気に入らないけど、ホムンクルスを放置してあのコ(千里)を危険に晒す のはもっと気に入らないし、第一、私がつまらない疑いをかけられて苦しむ羽目になったのも きっといま暴れてる化物のせい。なら戦士を利用して意趣返しをしてやるべきじゃない」 あくまで協力ではなく利用。ヴィクトリアは冷たい目を極北の夜明けのように光らせた。 「それに、河合沙織とかいうコの件じゃ随分つまらないコトも口走ったし」 ──「そのね、沙織がいなくなってしまったから探して欲しいんだけど……頼んでもいいかな?」 ──「か、代わりに一つだけなんでもするから」 「色々不愉快だけど、鬱陶しい利子を戦団につけられる前に」 もう一度携帯電話を取り出すと、千里にメールを打った。 『ゴメン。ちょっと色々な人に借りてた物があるから、逃げる前に返してくるね』 「だあもう! 生徒は全部避難したんじゃねえのかよ!」 剛太は狼狽した。 廊下の彼方に飛んだ鐶を追撃していたら、ちょうど丁路になった部分から女生徒が走って きたのだ。折悪しくそこへ鐶が羽根を射出した。女生徒はその射線上に出ていた。 上記の剛太の叫びは、女生徒が羽根に怯え竦んだその瞬間に発せられたものであり、かつ、 彼が女生徒を体当たりで救うための掛け声でもあった。 「……あ、ありがとうございます」
359 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:08:30 ID:l0lo6/3RP
一瞬だけ剛太に押し倒される形になった女生徒は、少し頬を赤くしながらおずおずと頭を下 げた。もっともその頃には剛太は立ち上がって背を向けていたので、二人とも相手の顔を碌に 見るコトはなかったが。 「礼なんていいからさっさと避難して! つか何でまだこんな所にいるんだ!」 「あ、あの! 人を探してたんです。金髪を両側で縛った制服姿の童顔の女のコを。名前は……」 「ハイハイ。見つけたらちゃんというから」 桜花の手を取ると剛太は取りつくしまもなく廊下の向こうへ駆けた。 「さっきのって、桜花先輩だよね? 廊下の向こうには津村先輩もいたし。どういうコトなの?」 女生徒─千里は、背後から響く轟音に時おりビクっと震えながら出口に向かい始めた。 「よく分からないけど津村先輩たちに任せた方がいいわね。私の出る幕じゃとてもとても」 世にも情けない顔で溜息をつく千里は、ふと別な話題を想起した。 「あのランニングシャツの男の子……一体誰なんだろう」 生まれて初めて密着した異性の体の感触を思い出すと、どぎまぎせざるを得ない。 見た感じ千里より年下に見えた。でも服はぶかぶかで、まるでお兄さんの服を無理して着て いるような感じだった。そこから見える肩や胸は鍛えてあるらしく、意外に逞しい。 それを思い出すと心なし上気した顔は、やがて眼鏡をうっすら曇らせるほどに火照りだした。 なお、この物語よりおよそ四ヶ月近く後、千里は剛太と再会を果たし、少し特別な感情を抱く コトになるが、この時のわずかな邂逅がどれほどの影響をもたらしたかは定かではない。 ドアはレールの上でひしゃげて傾き、教室と廊下を隔てる窓も無事な物の方が少ない。 「……本気で攻めているのに…………勝てません」 気息奄々と佇む戦士たちに鐶はやや戸惑いを浮かべた。 (以下は本来の年齢 → 現在の年齢) 斗貴子 18 → 13 桜花 18 → 12 剛太 17 → 12 (あと一回……深く斬りつければ確実に胎児にできるのに……。第一) 斗貴子は無銘に負けた。剛太は貴信に、桜花は小札に。 (私は……昔リーダーたちと敵対した時……無銘くんも貴信さんも小札さんも……圧倒しました)
360 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:09:58 ID:l0lo6/3RP
(単純な実力の差で片付けられない何かが……あります。そもそも……校庭で) 生徒たちの年齢を吸収して胎児にしたのは、斗貴子を逆上させて倒しやすくするためでもある。 (なのに主導権を握れませんでした。話通りの性格なら……確実に逆上する筈なのに、どうして?) 「『なぜ翻弄できない?』 そんな顔をしているな」 翼の防御が貫かれ、章印に鋭い切っ先がめり込みかけた。 「それは戦士長が身を呈して糸口を掴ませてくれたからだ! おかげで私達は迷いなく攻められる!」 咄嗟に鐶はバルキリースカートを掴んで手近な壁へ斗貴子を叩きつける。が。 「これでも津村さんは冷静さを取り戻してるのよ。だから支援する私達も動きやすい」 腕の動きに合わせて二ダースほどの矢が鐶の全身に突き刺さった。むろん、章印にも。 「先輩舐めんな! 第一ここで負けたらあの出歯亀ニンジャに何いわれるか!」 だが入れ替わりに剛太の飛び蹴りが逆袈裟に顔を断ち割り、章印を破壊した。 (意志の力と連携が、実力以上の実力を? なんだか、ベタ……です。年齢もつでしょうか) 即座に回復した鐶は短剣を握る拳に力を込めた。 (……年齢の残量は……柄の部分に浮かんだデジタル数字で……分かります。数字が微妙 な凹凸を描くので…………握ってるだけで把握できます……) 斗貴子が壁を弾いて舞い戻ってきた。 そこから放たれる鋭く青い稜線を捌きながら、鐶は生唾をごくりと飲み込んだ。 (年齢の残量は……残り186年……!? うち62年は小札さん達から回収した分で、32年 は調整体さんから貰った分だから……さっき生徒さんたちから補充した年齢はもう……100 年未満……? そんな……。十代半ばの生徒さんをあれだけ斬りつけたのに……残りはたっ たの5〜7人分ぐらいしか……!?) 鐶の肩とみぞおちに矢が刺さり、腹部に戦輪がめり込んだ。 その隙に斗貴子は叫びを上げながら、何度目かの章印貫通をした。 (これで残り年齢は174年。回復はまだ10回以上……けど、今のままではマズイ、です) 鐶の周囲にまたカラスが寄ってきた。それは根来の忍法による効果だ。鐶は少し勘案すると カラスに斬りつけ年齢を吸収し、そっと受け止めたヒナたちを廊下の隅に置いた。
361 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:14:06 ID:l0lo6/3RP
「……踏みつぶさないで下さい。このコたちはただ寄ってきただけ……です」 ここは室内。他のカラスが寄ってくるまでしばし時間があるだろう。だがその「しばし」の間に 他の者へ化けたとしても、桜花が生徒を避難させた校舎では意味がない。 (考えさえすれば……変身能力にもまだ使い道があるかも知れませんが……それは『今まで』 と変わらない戦法……ココからはもう一段階上の力こそ……必要) まず最初に異変を感じたのは桜花である。 後方支援ゆえ遠巻きに戦いを見ていた桜花は、鐶が脇腹に手を当てるのを見た。 最初は痛みをかばっているのだろうと気にも留めなかったが、どうも様子が違う。 「引いて二人とも! もしかしたら新しい攻撃が来るかも!」 叫びと同時に無数の剣が斗貴子たちに降り注いだ。正確にいえば一メートルはあろうかという鋭い羽根。 剣の束を投げ捨てればこうなるのではないかと思えるほど、床をざんざんと貫いた。 咄嗟の回避に尻もちをついた剛太の足の間にも、銀と輝く羽根が唖然と厳然と突き立っている。 (さ、さっきまでいた場所に、何で突然こんなモノが。アイツがいわなきゃやられてたぞ……!) 「私が……唯一名前をつけた必殺技。カウンターシェイド。……早坂秋水さんを倒した技です」 呟く鐶であるが、ただ短剣を体の前で振っているだけである。 「ただの素振りじゃねェか。それにどんな効果が」 「ボサっとするな剛太!! 死にたいのか!」 叫びとともに斗貴子は剛太の首が掴んで後方へ引いた。 (すげェ。63キロある俺を片手で。さすが先輩。見た目にそぐわず力があるのがステキ) 剛太がホヤホヤと顔を緩める間にも、銀の刃は襲い来る。しかし斗貴子は理不尽に勃発す る地雷原の爆風のようなそれらを出現直前に察知し、間隙をすいすいとすり抜けていく。 剛太ならずとも「さすが」といわざるを得ない回避能力である。 鐶が短剣を振るうたび、先ほどの一メートル超の羽根がざくざくと空間に現れ出でる。 ただ降るのではない。真横に切っ先を向ける物もあれば斜め右下から斜め左上を衝くのも ある。その逆も然り。大きさこそ均等だが向きはバラバラだ。しかも羽根は密集する。不揃い
362 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:14:55 ID:l0lo6/3RP
な指向性の元に。剛太と斗貴子を追って現れる羽根の塊は、歪な花か花火のようである。 落ちた羽根がちょうど行く手にあった消火器を竹か大根のように斬り落とした。 真赤に尖る容器から垂れる白い消火溶剤を見た瞬間、剛太は斗貴子をほどいて着地した。 (俺なんか連れてちゃ先輩がやられる! どこまでも運んでほしかったけど!) だが羽根はまだまだ咲き乱れ、斗貴子と剛太はたたらを踏むように避けるので精一杯である。 (おそらくコレも年齢操作! まだ短い羽根かその元になる羽芽を毟り) 鐶がそれを投げた軌道上で剣を振るっているのを斗貴子は見た。 (あれは目標へ斬り飛ばすのもあるが、年齢を与えて羽根を巨大化させるのも兼ねている!) (だから遠距離攻撃は無理そうね。遠くに届く前に羽根が成長しちゃうから。でも、近づけない) 桜花は時おり数メートル先で開花する羽根の群れを矢で迎撃しながら切歯した。 (タネはもう……見抜かれているでしょう。しかしコレは囮に……すぎません) 鐶は身を捩るとポシェットのフタを開けた。 「できれば……コレは…………コレだけは……最後の一人に使いたかった……です」 「なんだなんだなんだ!? アイツのポシェットに入ってるのは」 「私の……基盤(ベース)は……あくまでニワトリ。ニワトリ型のホムンクルスです」 白いポシェットに黒く長い物体がだらりと垂れた。 「そしてニワトリは……鳳凰に進化できます」 「何をいってるんだアイツ。生物学的にありえねェだろそれ!」 剛太の叫びの中で、御前は気付いた。 「ポシェットに入ってるのってまさかソーセージ? にしちゃちょっと黒すぎるような」 「……これこそが『切り札』…………進化の鍵……です」 李隆編「まじない」にいう。 「黒魚(オオサンショウウオ)の腸に硫黄の粉末を詰め、秋なら鉄器に密封するコト五日間、冬 なら鉄器に密封するコト七日間。そうしてできた物体を、二〜三日絶食させたニワトリに与え れば、鳳凰に進化する……そう、です。だから私は絶食……してました」 ──「ビ、……ビーフジャーキー、食べます? 私は……絶食中なので無理、ですが…………」
363 :
永遠の扉 :2008/09/27(土) 18:31:03 ID:l0lo6/3RP
──「沙織(※ 鐶変身中の方)のコトだけど、最近体調悪そうだったから心配で」 ──「あ、そういえば昨日の夜は食欲なかったというか何も食べてなかったよね……アレ? 朝か ──らだったかな? うーん。おとといもご飯やお菓子食べてなかったような気も。どうだろ?」 「……一気に説明したので……息、切れました。そして……」 鐶が腰を捻ると同時に、30センチメートル間隔で規則正しく捻られた長大なソーセージが宙 を舞い飛んだ。その間にも鐶の手は動き、飛びかかりかけた斗貴子や剛太を銀羽で制止した。 「鳳凰に進化すれば……今よりも遥かに……強くなります」 やがて黒魚の腸を器用に口でキャッチした鐶は、それを体内へと勢いよく吸い込んだ。 (……私は負けるワケにはいきません。それが無銘くんに認めて貰えるただ一つの手段だから) 「…………『振り向くな。涙を見せるな』…………です」 金色の火柱が鐶の体を覆い尽くし、光芒は戦士たちを眩く照らした。 以下、あとがき。 中国の伝説上には「鴆(ちん)」という毒を持つ鳥がいます。長らく空想上の生き物として扱わ れていましたが、近年のズグロモリモズの発見によって、「これこそ鴆ではないか?」と取りざ たされているとか。同様に、鳳凰についても実在の鳥がモデルとする説があるそうで。実際ど うかは分かりませんが、ニワトリに黒魚の腸を使うと進化するという発想は、非科学的ながらも ポケモンみたいで面白いなあと。そういうのがゴロゴロしているから、博物学は楽しい。 ふら〜りさん 人間関係絡みでは非常にそうですねw >鎌足 で、やっぱりジョジョでもいわれてるのです がシンプルなやつほど強いというのは真理ですね。描いててひしひし痛感します。そんな戦い の中で自分でも思いもよらぬ色々な側面を見せた鐶ですが、まだまだ描けてない部分も実は多々……(過去話とか)
>>332 さん
いやはや本当に申し訳ないです! 学校ではもう巻いて巻いて巻きまくりますよ! 早く決着
をつけねば(SSでもそれ以降の予定でも)次には進めませんから……。鐶は恐らく平気では
ないと思うんですが、やっぱり何も知らない人からすれば悪であり脅威なワケで、色々難しいです。
>>333 さん
大丈夫です。ゴールへの距離自体は縮んでいます。もっとも、そこまで持ってったり処理すべ
き事項が増えまくってるのもまた事実。結果、ゴールに行くまでの時間が長くなっておりますw
でも鐶の過去編とかHPで描きたい……。で、たぶん決着は次々回だったらなあーと。
>>334 さん
桜花のスペックは非常に高いと思います。ヴィクトリアと似てもいるんですが、積極的に場の
雰囲気を乱したり腹黒で狡猾だったりとかで、ある意味生一本の斗貴子さんや剛太を引き立
ててくれる非常にありがたい御方です。でも猫をかぶってない生の部分は割と弱そうで、そこもまた良い。
うーん鐶戦長いなあ。短編SS一本分以上だw ラストバトルはとんでもなく長くなりそうw 何はともあれスターダストさんお疲れ様です。 切り札の鳳凰進化をみせていよいよこのバトルも 最終局面・・でいいんですよね? トキコの足を引っ張りがちなゴウタだけど、 最後に意地を見せてほしいなあ
366 :
作者の都合により名無しです :2008/09/28(日) 14:23:23 ID:BpcFUQAv0
お疲れさまですスターダストさん 確かに長いですけど、それだけこの戦いへの思い入れが分かります。 総力戦でしたけど最後は斗貴子と剛太のコンビで撃破となるんですかね。
下記の文章には和月伸広著 エンバーミング一巻の重大なネタバレが含まれています。 未読の方はそれを踏まえたうえで以下の文章をお読みください。
ハイドランド地方。大英帝国の北方にある、雪深い土地。 かつてそこで痛ましい惨劇があった。 走行中だった馬車を、正体不明の謎の巨人が襲い、中にいた人間を殺戮した。 生き残りはわずかであり、二人の少年と一人の少女のみが助け出された。 少年の名は、ヒューリー=フラットライナー、レイス=アレン。 少女の名は、エーデル。 彼らはすべてを失った。家族を、記憶を、そして未来さえも―― 徳深い人物と知られるワイス卿に、二人の少年は使用人として、一人の少女は養女として引き取られた。 少年ヒューリーとレイスは、そのとき密かに決意した。 自分達からすべてを奪った謎の巨人を、この手で斃す。 ヒューリーは、家族の仇をとるため。 レイスは、その正体を解き明かすため。 その目的を遂げないまでは、自分達は未来へ進めない。 まだ幼い二人は、必ず復讐を果たすと、かたく誓い合ったのだった。 それからの日々は、緩やかに過ぎていった。 孤児同然だった自分らを引き取ってくれたワイス卿のもとで過ごす日々。 親代わりに自分らを育ててくれるシェイドは、厳しい人間であったが、彼に鍛えられる日々は充実した楽しいものであった。 同性のレイスとは互いに猟場番としての技量を高めるために競い合い、深い友情を結ぶまでになった。 そしてエーデル。 あの惨劇を生き抜き、ワイス卿の養女となり、貴族となった少女。 彼女は身分にこだわることなく、自分に笑いかけてくれた。彼女と過ごす時は、復讐を忘れ、穏やかな気持ちになれた。 幸せだった。まるであの惨劇が嘘のように思えた。 だが、少年の中で復讐の炎が消えることは無かった。 二人は静かに牙を研ぎ澄ましていた。 そして月日が流れ、二人の少年は立派な青年に成長していた。 充分に対抗できる力を得た確信した二人は、寒風吹きすさぶ嵐の中、謎の巨人と対峙した――
だがその死闘の最中、レイスは謎の巨人の凶刃にかかり落命し、ヒューリーもまた深手をおった。 そこでヒューリーを救ったのが、Drピーベリーという女性だった。 彼女からヒューリーは、人造人間という存在を知る。 人造人間。 狂える天才フランケンシュタイン博士によって生み出された、生ける死体。 死体を基盤に作られたその怪物は、フランケンシュタイン博士の失踪以後、彼の残した人造人間の製造法が 書かれた二冊の禁書を元に、多くの研究者によって製造され、夜の世界を生きている。 あの謎の巨人も、死体から造られた人造人間であった。 人造人間――すべての歪みはそこから始まっていた。 そしてヒューリーは知る。夜の帳に隠されていた残酷な真実を。 謎の巨人――ヒューリーからすべてを奪い去った人造人間を造っていたのは、恩人であるワイス卿だった。 自分を育ててくれた親同然のシェイドも、人造人間と化していた。 レイスもまた死して後に、人造人間としてワイス卿に改造されていた。 自分の周りが狂気に満ちていたことを知ってもなお、ヒューリーは戦いを止めなかった。 彼の大切な人――エーデルが安心して夜を眠れるよう、惨劇の元凶を払うべく、 彼はレイスとピーベリーとともに家族同然の使用人達と、親代わりだったシェイドと敵対し、殺した。 手駒を失ったワイス卿は、禁書を奪われ、人造人間を造る術を失った。 それですべて終わったはずだった。 だが。 それですべて終わったわけではなかった。 Drピーベリーの言葉。 人造人間の法は、人を蘇らせる技術ではない。 本人の死体をすべて使っても、その精神は、決して元通りにはならない。 人格の豹変、記憶の崩壊――中にはその両方を併発する「狂った」としか言えない個体すら存在する。
つまりは。 ヒューリーの親友であり、人造人間となったレイス=アレンは。 狂ってしまった。 彼の心に隠されていたドス黒い感情が、人造人間化によって理性の手綱が緩んだ所為で、一気に噴出した。 レイス=アレンは、エーデルを撃ち殺した。 彼にとって、彼女は邪魔な存在でしかなかった。 彼にはヒューリーさえいればよかった。それだけで満たされていたのだ。 レイスの世界はヒューリーと自分だけで完結していた。 そんなレイスを、ヒューリーは許しはしなかった。 殺そうとした。だができなかった。 激昂で生じた過剰なガルバーニ電流によって、ヒューリーの身体に備え付けられていた人造人間用の 電極が機能不全に陥ったからだ。 ――そう、ヒューリーもまた人造人間となっていたのだ。 彼はすでに死んでいた。謎の巨人との戦いにおいて。 ピーベリーは彼を治療したのではなく、人造人間として死から蘇らせたのだ。 九死に一生を得たレイスは、なおも追いすがるヒューリーの前から立ち去る。 倫敦で待っている、という言葉を残して。 かくして人間ヒューリー=フラットライナーは死に。 復讐という理念と、怒りという感情に狂った人造人間を殺すための人造人間、ヒューリー=フラットライナーが誕生した。 ずんという身体の芯を震わせるような凄まじい音が森中に轟いた。 年輪を刻んだ大木が最後の断末魔のあげるかのように、みしみしと音を立てながらへし折れた。 驚いた鳥達が一斉に飛び立ち、あたりに騒々しい鳥の鳴き声が響き渡った。
一人の青年が立っていた。四方に逆立った黒髪、険しい顔つき、暗い色をたたえた鋭い目つき。 彼は自分の拳を確認するように何度も握り返していた。 まだ自分のやったことが信じられない、といった表情で。 今彼は、拳一つで巨木をへし折ったのだ。 「……すごいな、人造人間って奴は」 青年は、感嘆と哀切が入り混じった複雑な表情を浮かべる。 名を、ヒューリー・フラットライナー。 つい最近人造人間になったばかりの"生まれたて"である。 彼はすべての人造人間を殺すために旅をしていた。 当面の目的地は、今最も盛んに人造人間の研究が行われている地、倫敦。 その旅の途中で、ヒューリーは自分の身体の変容を確かめるべく、試しに木を殴ってみたのだ。 結果は、予想を遥かに上回るものだった。 大の大人さえ道具を使って叩き折る巨木を、一撃で、しかも拳のみで叩き折った。 本当に、自分は怪物になってしまったのだなと――ヒューリーは寂しく笑った。 「ふん。そのくらいのことは、普通の人造人間でもできる」 ヒューリーの背後から声がした。 女性が一人、切り株に腰をおろし、煙草をふかしている。 まるで研ぎ澄まされた刃物のような美貌の持ち主だった。 切れ長の瞳には鋭敏な知性が垣間見られ、細くしなやかな肢体には豊潤な色香が漂っている。 人造人間ヒューリーの創造主にして、旅の仲間であるDrピーベリーだ。 「感傷にひたっていたのか。珍しいな」 「別に、そういうわけじゃない。そういった感情は、エーデルの墓に置いて来た。 これからの戦いに、必要ないからな」 「わかっているのなら、それでいい。お前と私は、同じ目的を持っている。いわば共犯者だ。 お前が不調ならば、こっちが困る」
「心配はいらない。――人造人間はすべて殺す。それは、俺の中で揺るがない」 人造人間への復讐―― これまで自分は、人造人間に人生を狂わされてきた。 すべてのものを人造人間に奪われた。 今度は――こっちが奪う番だ。 だが―― 近頃、感情の制御が出来ないことを、ヒューリーは自覚していた。 これも人造人間になったことの弊害だろうか? "復讐"という感情に、自分の人間性が飲み込まれていくような―― ピーベリーがいっていたように、人造人間は生前の性格のまま生まれ来ることは絶対になく、どこかしらに欠陥を抱えている。 ヒューリーは生前の性格をほとんど宿したまま蘇った稀有な人造人間であるが――やはり、欠陥が存在していた。 彼は復讐に囚われていた。すべての行動の中心に復讐の二文字があった。 まるで自分が人造人間への復讐のためだけに動く機械になったかのようだった。 ……しかし、それがなんだというのだろう。 人造人間になった今、未来への道は閉ざされた。 後は、この激しい感情を奴らにぶつけるしかないではないか。 今さら平穏な人生を送る気はない。 最期は、人造人間を殺しつくし、自らに刃を突き刺して朽ち果てる――それが、自分に残された未来だ。 「そうか」 相変わらずの冷たい表情で、ピーベリーはそっけなく言った。 ――ヒューリーは、この知り合って間もない旅の仲間について、よく知らない。 知っているのは―― 彼女の目的――おそらくは人造人間への復讐のために、自分を人造人間として蘇らせたこと。 自分を使って復讐を遂げようとしていること。 それだけだ。 聞き出そうとしたこともあったが、まだ明かす時期ではないと、突っぱねられた。 だがおそらく、彼女も過去に凄絶な体験をしたに違いない。
怜悧な知性を感じさせる瞳の奥底には、暗澹とした感情が隠されていると、ヒューリーは確信していた。 人造人間との戦いで、それが明らかになるかもしれない。もしかしたら、明かされないまま自分は滅びるかもしれない。 どちらでもよかった。利害が一致し、人造人間を殺すため協力し合うことさえ出来れば、彼女の過去がどんなものだろうと 構わなかった。 ピーベリーは煙草を踏み消し、立ち上がった。ザックを背負い込みながら、言う。 「お前は自分の人造人間の機能を知らない。だが安心しろ。創造主である私がみっちり教え込んでやる。 ありがたいことに、私は追われる身。人造人間の刺客に嫌というほど狙われるだろう。 その戦いの中で、まずは、人造人間の身体というものを理解しろ。 お前に備わっている機能について説明するのは、それからだ」 倫敦に辿り着くまで、まだまだかかる。 人造人間をすべて殺す道のりは、果てなく遠い。 ヒューリーは、親友であり仇となった青年を思い返す。 「レイス……」 人生をともに歩んできた、かけがえの無い親友。 ……だが、ヒューリーの信頼は無惨にも裏切られた。 レイスは、ヒューリーから大事な人を奪い去っていった。 ……エーデル。 まだ歳若い娘だった。彼女の前には輝かしい未来が広がっていた。 だが、レイス――人造人間の為にすべてが奪われた。命さえも! その瞬間、ヒューリーの形相が、まるで憤怒が形になったような凄まじいものに変化する。 まるで悪魔だな――と、ピーベリーは思った。 「必ず、殺す。レイス――倫敦でお前を、必ず殺す。決して穏やかな眠りを与えはしない!」 ヒューリーの絶叫に応えるように――暗雲が煌いた。 雷鳴が響く。 雷光が閃く。 今日もまたどこかで、人造人間が産声をあげる――
まただいぶ間を空けてしまいました。 何をやっていたのかというと、実は一ヶ月の間教育実習しに小学校に行ってました。 指導案とか授業とか、とても大変でしたけど、いや、得がたい体験でした。 子どもたちはかわいいし。最後の送別会はもう涙目。彼らには幸せな人生を送ってもらいたいものです。 あと、先生方がすごかった。一部の心無い人たちの行動が目立っていますが、私の行った小学校の先生は、 教育にかける情熱がはんぱなかったです。ただただ、先生方に圧倒された一ヶ月でした。 子どものために生活を犠牲にして、他人の為に人生をかけるって、まあそれでお金をもらってるから我慢しろよって いわれればそれまでですが、やっぱり並大抵のことじゃないです。 実習中、先生方の姿を見てるだけで、ウルウルしてました。世の中には、こんなすごい人たちもいるんだなあ……。 世の中にはいろいろな職業がありますが、先生というのはすばらしい職業の一つだと思います。 いやまあ……自分は教員志望ではないのですが……。 それでも、子ども達や、先生方の姿を見て、自分も頑張ろうと思いました。 自分のやりたいことから逃げないで、きっちりそれと向き合う。 そのためにも、SSを書かないと。実習中はパソコンに向かうことすら難しかったので。 今回はリハビリがてら、戦闘メインのSSを書くことにしました。 原作はジャンプSQで好評連載中のエンバーミングともう一つ人造人間を題材にした漫画です。 前に書いた魔弾のような、ストーリーよりも戦闘に重点を置いたものになる予定です。勢い重視。 ロンギヌスは、このSSが終わってから再開しようと思います。 はやく勘を取り戻さないと。 スターダストさん 鐶戦も大詰めですね。三人にまで減った戦士側ですが、斃された者の意思を受け継いで、獅子奮迅の 戦いで鐶を追い詰めていますね。鐶も最後の切札をきって、まさに最終決戦といった様相。 一体死闘の末にどちらが斃れるのか……。
さいさん の、呪われた町……! 確か屍鬼に影響を与えた作品ですよね? シエルも登場して、二人のエクソシストが死都になるだろう銀成市に殴りこむ、といった感じでしょうか。 屍鬼と呪われた町のクロスオーバー……期待しております! 銀肌コール&レスポンス作者さん まさかバキスレで石鹸屋の名を見ることになるとは……。 ネタもふんだんに散りばめられていて、楽しく読むことが出来ました。 でも……ダブルアーツorz しかし、バキスレにもコアな東方ファンがいたんですね。 これで心置きなく東方SSを投下することができます! 俺……このSSが終わったら蓮子とメリーの百合百合な秘封倶楽部SSを投下するんだ……(よくわからないフラグが立った
376 :
作者の都合により名無しです :2008/09/28(日) 23:51:13 ID:BpcFUQAv0
おおハシさん新作お疲れ様です エバーミングそれほど詳しくはないですが 原作のダークな雰囲気が伝わって参りました どうやら読み切りみたいですが、続きを読みたい気もします 実生活でも得がたい経験をされたようで、うらやましい
エンバーミングなんか今までの和月作品と雰囲気違うんで読んでなかったけど 一度読んでみようかな。スターダストさんのサイトでもレビューしてるし。 ハシさんはリア充みたいでうらやましい。 ネクロファンタジアも楽しみですが、スプリガンも是非お願いします。
やはり書き手さんは 2本くらい一度に連載した方が楽しいのだろうか ハシさんお疲れさんです。 今までの和月作品とは違うおどろおどろしい雰囲気のこの作品の 雰囲気がよく出てるかと。ただ、まだ原作に沿った感じで これからですね。ハシさんの個性が出るのは。
サイコロをテーブルへ転がし、説明を始める。 「サイコロを一人5つ使って行うゲームで何人でも出来る。 今回はさっさと決めたいんでサイコロは一人3つで行う。 全員が自分のカップにサイコロを振り、自分の分の出目を確認する。 そして順番に出目を予想するんだ、この場合サイコロ6つで考え「全部で6が5つ」と予想を宣言する。 次のプレイヤーはその予想を釣り上げるか、『ブラフ』を宣言することが出来る。 予想を上げるときは自分の手を振りなおすことも出来る、だが釣り上げた予想は変えられない。 『ブラフ』は宣言した時点で全員の出目を表示する。 宣言の個数以上だったらブラフ失敗となり、宣言の個数未満でブラフ成功になる。 そして敗者はサイコロを宣言と実際の個数の差分、ゲームから除外する。 さっきの「6が5つ」宣言に対してブラフを宣言し、実際の出目で『6が3つ』だったらブラフ成功。 2つサイコロを失い残りは全てのサイコロを失ったら負け、最後まで残ったやつの勝利」 ベアの説明を聞き終えた男は満面の笑みでサイコロを取った。 「ほぉ…面白そうじゃあないか、早速始めよう!」 「フフ…先攻は譲るぜ、先にピッタリ予想をキメられれば後攻はブラフもできないし釣り上げも失敗になる」 「お、経験者の余裕って奴かい?甘えさせてもらうぜ」 男は意気揚々と、無邪気な子供のようにハシャいでサイコロをカップへと放り込んだ。 ベアは対照的に静かな笑みを浮かべたままそれを見つめていた。 「チッ、勝負の世界で相手に情けを掛けるとは…」 「へっ…ベアがそんな奴な訳ねぇ、考えがある筈だぜ」 カップを見つめるベア、出目は1,5,6となっていた。 (さぁて…騙すようで悪いが手を晒してもらおうか)
ベアは敢えて先攻を渡した訳はこうだ。 相手はこの『ブラフ』の初心者である。 このゲーム、人数が多いうちは運が強く場を左右する。 しかし少人数となれば心理戦である。 カップの中のダイスを出目を公開する際にカップに触れずに操作されでもしない限り、イカサマも問題ない。 どれだけ自分の手を操作できてもそれは予想にでてくる。 彼はまず、ゲームを掴むため自分の手に合わせた『確実』な出目を予想する筈だ。 そうなると彼が宣言する出目はかならず彼の場に1つ以上あるという事になる。 それがわかれば読み合いで有利になるのはこちらの方だ。 相手の手が一種類わかっているのだから。 「俺の予想は…場に1は1つだ」 「予想を釣り上げるぜ、場に1は2つ。2人しかいないんでな、ここでオープンだ。」 お互いカップには触れず、席を立って出目を確認する。 「俺の勝ちだね」 男の出目は、2,3,6…1は存在していなかった。 「…なるほど、甘く見すぎたみたいだな」 男の眼は獲物を狙う野獣の様に輝いていた。 先程の無邪気にサイコロを振っていた時の表情はもう見えない。 「ベアの裏をかくとは…汚いナリしちゃいるが、やり手みてぇだな」 初めてのゲームにも臆せず強気に賭け、相手の考えを読み取り自分の手ではなく相手の手で勝負を挑んだ。 ルールは単純、誰でも理解出来るが『戦術』はそうはいかない。 それが染みついてるということが、男は根っからのギャンブラーであることを証明していた。
「まぁ気にしてても仕方ねぇ!次いくぜぇ!」 サイコロを握りながら肩をほぐす様に右腕をグルグルと回す。 ガタンッ!男がテーブルに蹴りでも入れたのか大きめの衝撃音が広がる。 「おおっと!悪いね、飲み物を頼もうとしただけなんだ。」 男はそう言って立ち上がるとウェイトレスを呼び寄せ何やら注文している。 「…キャプテン」 「あぁ、今のを見抜きやがった…」 ベアはサイコロを2つ持った右手を振りまわし注意を逸らし、 左手でゲームから除外された筈のもう一つのサイコロを見えないようそっと投げいれていた。 横に回転させ遠心力で体制を安定させたサイコロは出目を変えること無くカップに入る筈だった。 男の蹴りの衝撃さえなければ。 苦虫を噛み潰したような表情で右手からサイコロを一つカップへと滑らせる。 男は機嫌よさそうにグラスに残ったわずかな液体を飲み干しながらサイコロを投げ入れた。 「さぁ、2回戦といこうか…4が2つ!」 「ブラフ!」 ベアの手は2,5…男は強気な勝負師だ、次もこちらの手を含めて読んでくる筈。 酔ってはいない様だが、酒で勘が鈍ってればここを外すということもある。 グラスの口は透き通っておらず、飲み物の着色料らしき物が乾いた跡が幾つか見える。 結構な量を飲んでいる筈だ。 「おっ、また俺の勝ちだね」 男の手は4,4,5、残るサイコロは1個。 こちらの手を含めて読んでくる、その予想は当たっていただろう。 男の顔には『2つで良かった』という安著感は無く、『当てて当然』という自信が見て取れた。
ウェイトレスが甘い香りのするグラスを持ってくる。 (このヤロォ…酒じゃなくてミルクセーキかよ……酒臭いのは先客でも居たからか? 残るサイコロは4つ…最初の一発目を俺が当てて精神的アドバンテージを取りたかったんだが…。 だが数が少ないってのはいいかな、相手がこっちの目を当てる確率は6分の1。 俺の目を読みづらくなった筈、うまく上乗せすれば勝機はある…だが当てられたら終わりだろうな…。) 残ったサイコロを見つめながら、ベアを思考を巡らせていた。 多少の焦りを振りきるべく飲み物を注文しようと席を立ったその時。 「また勝たせてもらうよ」 普段のベアなら余裕ぶって言い返すなり茶化すなりしただろう。 だが今のベアは多少……頭に来ていたのだろう。 朝からホークに見下され、2連続でギャンブルに不覚を取った。 眼輪筋をピクリと動かし引き攣った笑顔を取り繕い、何も頼まず席に着いた。 椅子に腰かけたベアの顔からは、先程のような不自然な笑いは消え去っていた。 「何も頼まな…」 カーン…乾いた音が周囲に響く、何時の間にかベアのカップに4の目を上にしたサイコロが佇んでいた。 目を操作したかしないかはこの場合問題ではない、男の目に見えぬよう投げ入れる。 それが重要だった、男の心には僅かばかりの動揺が走っただろう。 (…挑発が裏目に出たな、キレて冷静になる奴だったか) 男が警戒心を顕わにする、グラスに注がれたミルクセーキを一口飲むと「2が1つ」と宣言した。 「ブラフ」 ベアの宣言と同時にお互いにカップを確認する、男の手は1,1,5…『2』は存在しなかった。 「やはりな…5で勝負しなかったのは俺が連続で5を出してたから警戒した上での事。 『1を2つ』と宣言すれば自分は1を2つ出したのを知らせるような物…この状況で1が3つ出るのは考えづらいが… それでも自分の手が割れることを恐れたアンタは当てずっぽうで答えたって訳だ。」 「まぐれ当たりでえらく饒舌になったな…そんな深く考えちゃいないさ」
キリが悪い気もしたんですが今回はここで終了。
最近ブレイドを全話見直したり、ゼノギアスをやり直したりと充実した日々を送ってます。邪神です(0w0)
ギャレンは一部のアクションがとんでもなくカッコいいですね、ピーコックの羽撃ち落とすシーンとか。
レンゲルと共にキングフォームが見れないのが惜しい( 0w0)
〜講座&感謝〜
>>ふら〜り氏 ツン→デレへの路線変更…とはまるで違うのですが、ラオウ級に強敵≪とも≫が少ない。
それに従って絡みも少ないのでそういう映写を取ってあげたくなったりしたのです( 0w0)
まぁ出番があれだけしかないんだから強敵が少ないのは仕方ないんですがね…。
>>310 氏
>>80 話過ぎてゲームスタートの副題とか魔術対策とかw
み、耳が痛いっ!(;0w0)
複数パーティを描く難しさをひしひしと痛感。
ホークにカイルに死刑囚にスタンに…。
まぁパーティが変わる度に内容をゴロリと変えられてやってる方は楽しいんですがね( 0w0)
>>316 氏 >>シンがホークやゲラハと打ち解けてるな。原作とは雰囲気が違いますね。
原作だと孤独でしたからね…でもケンシロウと同じく、闘いを通じれば友にして強敵。
ってことで一つ…(;0w0)
ミルクセーキ ギャンブラーはこれをダブルで頼んで勝負に挑む。
男の正体を教えてるようなものだが読み切りだしきっと分らないという事でよしとする。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エタノールを含まないノンアルコールカクテルの1つとして作られる。
ミルク・シェーク(Milk Shake)がなまって、
日本ではミルクセーキと呼ばれるようになったので、バーでもミルクセーキと呼ばれる。
元々はバーテンダーなどがシェーカーでシェークして作っていたためShakeと付くものの、
現在ではミキサーで作るようになった。
384 :
作者の都合により名無しです :2008/09/30(火) 11:23:21 ID:Dpyjw+FN0
サイコロゲームの回ですか 長い冒険の息抜きにはぴったりですな これは元ねたあるのかな ゼノギアスは最高ですね 1枚目のディスクは・・w
お疲れ様です邪神さん。 このギャンブルは後に伏線になってくるのかな?
386 :
ふら〜り :2008/09/30(火) 21:55:03 ID:FZbk3pzP0
一時の静けさがウソのように、賑やかになってまいりました。……という感想も、 一体何度目でしょうかね。バキスレは滅びぬ! 何度でも蘇るさ♪ >>銀肌コールさん(次作の折には御名前をば何卒!) この賑やかしいノリの中、想像してしまうのがブラボーの正装姿。カズトキの結婚式姿は 原作でやってましたが、防人は当然ながらそういうのなかったですし。……我が脳内では あまり似合ってませんが、意外とマジメにスピーチしてる姿が面白い。またお待ちしてます! >>サナダムシさん 公園ホームレス戦の時もそうでしたが、セリフや戦術を原作からかき集めて再構築、「しけい荘」 に似合う形で物語に組み込むのが本っっ当に巧みですね。萌える可愛さと燃えるカッコ良さ をしっかり両立してるシコル、今回は弟分というオプションまでついて更に更に魅力的でした! >>スターダストさん とんでもない強敵だし、確かに一般人にすれば、問答無用に純然たる迷惑な悪者で恐ろしい バケモノ、ですが……どんどん儚げヒロインオーラを放ってきてます鐶。こういう人物関係で、 小札に対して毒・トゲをもたない女の子ってのは凄く! 偉い。……でも一般人には以下略。 >>ハシさん エンバは読みきり分しか読んでませんが、やはり重いですねぇ。深い恨みのある仇敵を追う、 ってだけでも充分なのに、その恨みが重なって絡まって。大抵の作品で私は同意してない、 「復讐は何も生まない、やめとけ」がこの作品になら言えてしまいそう。一体どんな結末が…… >>邪神さん(弱くはないけど頼りにならず、敵でも味方でも恐ろしい。橘さんはそんな人) 力も術も関係ないギャンブル勝負。確かにこれは心理戦、麻雀よりはポーカーに近そうな。 早速、軽がると「技」を破られてしまってますが、使う道具の数が少ない上に、そもそも投げ てからは触れることすら不可。この限定状況下で他にも技があるか、 心理攻撃かそれとも?
邪心さんの作品も終わりが見えないな あまり長いとかえって不安になるんだが
388 :
作者の都合により名無しです :2008/10/01(水) 17:23:05 ID:jK+Z/bS50
ふらーりさんもそろそろ書いてよ
389 :
しけい荘戦記 :2008/10/01(水) 20:57:36 ID:zGRPshFQ0
第十八話「集結!」 すでにシコルスキーたちは包囲されていた。 交番を出ると、ざっと数えても五十人は下らない警官が緊張の面持ちで拳銃や警棒を構 えていた。 「ご苦労様、といったところかな」 包囲網の中心で笑う、サングラスをかけた中年の西洋人。 予想だにしなかった状況に、シコルスキーとルミナの顔が強張る。 「私は新宿署の署長、マイケル・ホールズだ。君たちの活躍は“交番”に備えられた監視 カメラでじっくり拝見させてもらったよ」 シコルスキーの地肌で脂汗と冷や汗が混ざる。なぜ日本の警察署なのに署長が外国人な のか、などという指摘をする余裕はなかった。 「俺たちの勝利を祝福してくれる……ってムードではないな」 「いやいやとんでもない。君の勝利を祝して、すばらしいシナリオをプレゼントしようと 思っていたんだよ」 「シナリオ?」 「例えば……君はそこにいる少年とまだ中にいる少年たち、計四名を誘拐しようとした誘 拐犯だとしよう。しかし怪しんだ警官たちによって、君は交番に連れて行かれる。尋問の 最中、追い詰められた君はあろうことか逆上し、警官相手に大暴れ。一人を恐喝し、三人 に重傷を負わせる。手がつけられない凶悪犯となった君を、我々はようやく包囲すること に成功した。……こんなシナリオはいかがかね?」 今にも折れそうな膝をこらえつつ、シコルスキーはいった。 「なるほど、マウスがやってた“再教育”は上にも容認されていたってことか」 「彼らは国にとって必要悪だった。優しいおまわりさん、頼もしいおまわりさん、だけで は国民は守り切れない。残念だが、君は踏み込みすぎたのだよ」
390 :
しけい荘戦記 :2008/10/01(水) 21:00:05 ID:zGRPshFQ0
悪徳警官マウスの噂が噂に過ぎなかった理由。種明かしをすれば真相は至って単純だっ た。マウスよりも立場が上の人間が、全てをもみ消していただけの話だったのだ。 そして今やシコルスキーは、国家権力への反逆者とされてしまった。 「悪いが、俺も黙ってハントされるつもりはない」 「仕方あるまい。我々は凶悪犯を説得しようと試みたが、やむを得ず射殺、という締めく くりにするとしよう」 一対五十。満身創痍と拳銃装備。絶望的な戦争が開始されようとしていた。 右肩に一撃、脇腹に一撃、左肘に一撃。国家を脅かす反逆者に対し、発砲は容赦なく実 行された。歯を食いしばり、なおも耐えるシコルスキー。 兵力、射程、スタミナ、コンディション──シコルスキーが有利な要素がまるでない。 煙草に火をつけ、署長はしみじみと語る。 「こうして君のような無法者を圧倒的戦力を以って無力化する瞬間──私は快感を抱かず にはいられない。つくづくこの職業に就いて良かったと実感するよ」煙草をくわえ、煙を 吐き出す。「これだからやめられんッ!」 「せめてアンタをこの手で切り裂いてから、くたばってやる……ッ!」 最後の力を振り絞り、猛然と駆け出すシコルスキー。一瞬どよめきが警官たちの間で起 こる。 ところが壊れている膝に集中砲火を受け、あえなくダウンを喫してしまう。 「ちくしょ、う……」 「まだ力が残っていたとはな。あのマウスを倒してのけただけのことはある」 助けを呼ぼうと、大声を上げるルミナ。 「──誰か、誰か助けてぇっ!」 「いくら叫ぼうが無駄だよ。凶悪犯が潜んでいるということで、周辺住民の避難は完了し ている。仮に助けが来たとしても、どうしようもないがね」 すると、署長の肩に後ろから巨大な手が置かれた。 「いやいや、それはどうかな」 あわてて振り返る署長。次の瞬間、彼の眼は飛び出さんばかりに見開かれた。 「なぜあなたがここに……ッ!」
391 :
しけい荘戦記 :2008/10/01(水) 21:01:03 ID:zGRPshFQ0
「どうしようもないかどうか、試してみるかね」 「ミスターアンチェインッ!」 立っていたのはオリバ、柳、ドリアン、ドイル、スペック、ゲバル。役者は揃った。 勝利目前にして訪れた強大な敵援軍を目の当たりにし、署長は次に紡ぐべき言葉を失っ てしまう。 「ミスターオリバ……。ど、どうしてここへ……?」 「今君らにいじめられている彼なんだが、実は私の経営するアパートの住民でね。気にな って様子を伺いに来たのさ」 署長の狼狽がますますひどくなる。 「──えっ!? いえ、あ、実はあの男、子供を誘拐した挙句、私の部下に暴行を働きま して……」 「ほう……。私には子供を助けにきたロシア人が、理不尽に処刑されているようにしか見 えんがね」 地上最自由の称号が真実を知らぬはずがなかった。さらにうろたえ、泡を吐かんばかり に弁解を試みる署長だが、どんどん舌がもつれていく。 「とにかくだ、マイケル。君及び君の部下が無事に済むかどうか、決めるのは君だ」 オリバの後ろに控える五人もまた、国家を脅かすレベルの戦力を備えている。 「新しい暗器をちょうど試したいところでしてな」不敵に笑う柳。 「やれやれ、つまらぬ勝利をもたらせてくれそうだな」ドリアンはライターを取り出す。 「しけい荘を敵に回すとどうなるか、たっぷり学習させてやる」ドイルも構える。 「サッサトシコルスキー連レ帰ッテ、焼キ肉ノ続キヲシヨウヤ」缶ビールを飲むスペック。 「風は吹いていないが、今日はいいパンチが打てそうだ」拳を固めるゲバル。 こんな連中を相手にしてしまっては、警視庁全戦力を投入しても──否、自衛隊を出動 させたとしても鎮圧できまい。 署長の決断は光よりも速かった。 「て、ててて、撤収ゥ〜ッ!」 まさかのしけい荘住民集合によって、戦いは終わりを告げた。 ルミナといじめっ子たちは自宅に送り届けられ、シコルスキーはすぐに入院することに なった。 その後しばらく病院では、見舞いのたびにシコルスキーの悲鳴が耐えなかったという。
完全決着。
次回より
>>352 氏の読み通り、日常編に戻ります。
シコルスキーの活躍もとりあえず終了。
いずれこちらにもピクルも登場させる予定です。
倫敦は霧の街。 この世ならざる<怪異>が跋扈する魔界都市。 蒸気機関から絶え間なく吐き出される排煙の霧に紛れて、 複雑怪奇な事件が、今日もまた。 追われている。 追われている。 何に? わからない。 自分を追う者が何かわからないまま逃げていく。 どこまでも。 どこまでも。 入り組んだ街路を駆け、霧の中を分け入るように進んでいく。 だが、どれだけ走っても、気配と声はどこまでも追ってくる。 そう、声―― 「あははは! あははは!」 幼子の嬌声。理性の欠けたような狂った嬌声。 建物に反響し、鼓膜を刺激する。 姿は見えず、ただ声と気配だけが忍び寄ってくる。 焦燥が胸にこみ上げてくる。 あの声に追いつかれてしまえば、命は無い。それがわかる。 「あははは! あははは!」 声は次々に反響し、複数の人間が自分を追いかけているのではないか、と錯覚してしまう。 人間――しかも年端もいかない幼子の声であるのに。 もしかしたら声の主は――人間の形をした別の何かではないか? そんな妄想をしてしまうほど、声は、不気味で、恐ろしかった。
そもそも今日は、何か悪いことが起きるという予感があった。 そういった厄介ごとに自分は勘が強かった。 貧民層の自分は、一日仕事を休むだけで生活がおぼつかなくなる。 だから今日も街角で春をひさいでいた。 たしかに娼婦という職業は誉められたものじゃない。 だけど。 どうして。 ――わたしが、何をしたっていうの。 別に、誰かを騙したり、陥れたりするなんて真似、これまでしたことなんてない。 "血を啜る"のを我慢して、懸命に人間社会に溶け込もうとしていたのに……。 わたしはただ、生きようとしただけ。 それが間違っているとでもいうの? 「あははは! あははは!」 ――笑い声が、彼女のすべてを否定する。 お前は間違っている。存在そのものが呪われている。生きていてはいけない存在なのだ。 そういわれている気がする。 だけど、だからって。 ここで殺されるわけにはいかない。まだ自分は生きていたい。 たとえ呪われた不死者であるとしても。 ――だが運命は残酷だ。 懸命に生きようとする者の意志など無関係に、無慈悲な結末を突きつけてくる。 逃げ回る彼女の目の前に。 巨大な壁が出現していた。 「……うそ」 呆然と壁を見つめながら立ち尽くす。越えられる高さではない。 もと来た道は、戻れない。追跡者がいる。 気配が、すぐ傍まで来ている。近づいてくる。 くすくすという笑い声が聞こえる。 嘲笑している。 愚かな自分を嗤っている。
ごくりとつばを飲んで、彼女は、正体不明の追跡者の姿を、一目見ようとふり返った。 その姿は。 少女、だった。 カールした美しい金髪。透き通るような紅い瞳。良家のお嬢様が着るような純白のドレスに、赤いリボン。 可憐な姿に、一瞬、彼女は見入っていた。 だが、両手に構える禍々しいナイフが可愛らしい少女の印象を裏切る。 一切の装飾を排した、無骨な刃物。 殺傷のみに特化した塊がそこにあった。 「鬼ごっこは、もうおしまい」 花のような笑みを浮かべて、少女はいう。 それは死刑宣告だった。ここでお前は殺されるという。 逃げられない。 背後には壁。目の前には追跡者。 彼女は覚悟を決めて、一歩踏み出し。 ――その<怪異>を、殴り飛ばした。 少女の形をした何かは、女性の拳を受けて、派手に吹っ飛んだ。 街路をバウンドし、何度も頭を強打した。 ごろごろ転がり、全身を埃まみれにして、建物の壁にぶつかる事でようやく止った。 少女を一撃で殴り飛ばした力。それは人間の女性の細腕に宿るものではなかった。 女性は、人間ではなかった。 紅い瞳を爛々と輝かせながら、少女を睨みつける。 そして、その背中に、黒い翼が出現する。 ――月の一族(モントリヒト) 夜を統べる、人間の血を啜る怪物。 伝承に出現する死を超越した不死者の名。 人間社会を闇から支配する種族。 それが、モントリヒト。
彼女もまた、同族と同じく人間にはあらざる超常の力を備えていた。 今見せた怪力もその一つだ。普段は隠しているが、命の危機にさらされたときは、その能力を駆使して 窮地から逃れてきた。 だが彼女はいつもそれを最小限度しか使わず、決して欲望の為に濫用することはなかった。 生命を維持するための吸血行為さえ、本当に危険な時にしか行わなかった。 女性は安堵と罪悪感がない交ぜになったような表情を浮かべた。 正体不明の怪人とはいえ、少女の形をしたものを殴るのは、良心が痛む。 だが、もう少しでこっちが殺されていた。 少女の形をした何かは、死んでいるのか、それとも気を失っているだけなのか。 どちらにしろこの隙に立ち去るべきだ、そう思ったとき。 「いったーい!」 少女の形をした何かが、何のダメージも負っていないように、跳ね起きた。 普通の人間なら、死んでしまうほどの致命傷だったはずだ。 自分の怪力で殴られた人間は、例外なく死ぬ。 驚愕を隠せない。目の前のことが信じられない。 「そんな……何なの……あなたは……」 「わたし?」 にぃ、と口の端を吊り上げ、それはくるりと回ってみせる。 「愚かなモントリヒトに教えてあげましょう。聞いて驚け、わたしの名。 かつては気の狂った連続殺人犯(シリアルキラー)。 いまはつぎはぎだらけの動く死体。 ジャック・ザ・リッパーと人は言う。 F08(エフ・アハト)と怪物は言う。 死して蘇り、生命の法を無視した背徳者、フランケンシュタイン博士の走狗。 あなたたち月の一族(モントリヒト)を狩るもの――<装甲戦闘死体>よ」
<装甲戦闘死体(Die Panzerkampfleiche)> それは、月の一族にとって忌まわしい存在であった。 人造人間。死体を基盤に創造されし、人の形をした人でなし。 彼らは150年前に、フランケンシュタイン博士が失踪した後も、その人造人間製造の秘術が記された二冊の禁書 を元に、生命を操る法に心を奪われた人間によって、何体も生み出されていた。 その有象無象の人造人間の中に、ただ一つの目的のために造られた者たちがいた。 それが<装甲戦闘死体>――月の一族を滅ぼすためだけに生み出された、動く死体達だ。 今でも彼女らは、欧州全土で月の一族を狩り続けているという。 噂程度には聞いたことがある。まさか自分が狙われるとは思ってもいなかった。 だが、こうなってしまった以上、身にかかる火の粉は自分で払わなければならない。 「!」 モントリヒトに宿る力を、女性はすべて解放した。人間の目にも留まらない速度で動いた。手刀が一直線に少女の喉下に迫る。 だが、少女はこともなげにそれを捌いた。そして、女性の指がバラバラに解体された。 「あ――あああああ!!」 勢いよく噴き出る血。激痛に手を押さえてうずくまる。 「面白みのない悲鳴ね。もっといい声で啼いてよね」 そういって、ナイフを女性の右の眼球に突き刺した。 「ああああああ!!!!」 女性は無残に切り裂かれ続けた。 右腕を失い、腹部を引き裂かれ、顔をずたずたに切り刻まれた。 それでも女性は死ななかった。 虫の息であったが、まだ生きていた。 「どう、して……わたしは、血も、啜らない。人間を……襲いもしないのよ……どうして……」 「うっぜえんだよ害虫が」 少女の口調が、一変した。表情も、醜く歪んでいる。 少女の蹴りが顎に炸裂した。もんどりうって倒れ伏す。 「娼婦で月の一族? 生きてる価値なんかねぇだろその時点で。 ほら、地面に頭擦り付けて神様とわたしに懺悔するんだよ!」
ナイフを額に刺し、水平に頭を切り裂いた。 絶叫は続く。 髪を鷲掴みにし、力任せに引っ張った。ぶちぶちと嫌な音をたてて、切り裂かれた部分から頭の上半分が引き抜かれ、脳が露呈する。 絶叫は続く。 頭を踏みつけ、地面に顔面を押し付けた。その拍子に中身が街路にぶちまけられた。 絶叫は続く。 ぶよぶよした白い物体を踏みつけ、すりつぶし、真っ黒の汚らしい物体に変えた。 それでも女性は死ななかった。 モントリヒト――とどのつまり吸血鬼は、脳を破壊されただけでは死なない。 その核たる心臓が残ってれば、脳髄さえ再生することが可能だ。 無いはずの脳髄が激痛にあえいでいるのは、魂に激痛が刻まれているからだ。 「うーん、やっぱりモントリヒト狩りは最高ね。これだけしてもまだ死なないなんて。 普通の人間は二三回切り刻むだけで死ぬっていうのに。これだからやめられないのよね!」 少女は、懐からナイフを取り出し、次々と女性の身体に突き刺した。 激痛に苦悶するモントリヒトをうっとりとした表情で見下ろしながら、急所である心臓を巧みに避けながら、 殺戮の喜悦に酔いしれていた。 「夜はまだまだ続くわ。楽しませてちょうだい」 ――翌朝、一人の娼婦が姿を消していたが、誰もそれに気づくことは無かった。 道行く人も、仲間の娼婦も、だれも気に留めなかった。 霧の街倫敦の朝は、とても穏やかに流れていった。
***最近のこと***
・ソリッドファイター完全版!?
・でも東方一気に買いすぎてお金が……
・うふふ蓮子×メリーうふふ。
・おやすみ、ルルーシュ……
・wwwwwww字wwwwwww楽wwwwwww
・やばいやばいやばい漆黒のシャルノスやばいこれは買わざるを得ない。
うん、いつも通り。
さて「モントリヒト 月の翼」から幼女人造人間F08(エフ・アハト)の登場です。
彼女とヒューリーが死闘を繰り広げる予定です。
>>376 さん
エンバーミングは和月先生の黒い部分が凝縮されたような作品なので、とても期待しています。
前回はさわり程度しか書いていないので、あの黒い世界観を上手く書ければいいな、と思っています。
>>377 ヒューリー編は暗い雰囲気ですが、エルム編は結構コミカルですよ。元気で純真なエルムがかわいいです。
それと私リア充じゃないですよ! むしろ指くわえて「嫉ましい嫉ましい」ってやってる人です。
>>378 前回はエンバーミングをトレースした感じだったので、これから頑張りたいと思います。
きっとF08が頑張ってくれるでしょう。
>ふら〜りさん
エンバーミング一巻の展開は、すばらしいの一言でした。
ヒューリーの絶望にいたる過程がしっかり描かれていて。
なおかつ産業革命下のイギリスが舞台というのもいいです。
ああ、倫敦はいったいどうなっているんだろう……
あとエンバーミングは主役によって空気が変わるようで、上でも書いて
いますがもう一人の主人公エルム編はけっこう明るい雰囲気になっています。
興味を持たれましたら是非。
400 :
作者の都合により名無しです :2008/10/02(木) 00:50:22 ID:r+VMvPJt0
>サナダムシさん シコルの活躍終了か。でも、また最後の方で大活躍してくれるはず。 オリバの大物っぷりがいいですな。暖かく見守ってる感じで。 >ハシさん 原作詳しくないのであれですが、和月作品になかったタイプの作品らしいですね 剣心や錬金の中の黒い部分を、SSとして抽出した感じかな?
好きな作品が2つ続いて満足。出来ればハシさんにはスプリガンを優先してほしいけどw お疲れ様です、ぉ2人さん。 >サナダさん いざとなったときのしけいそうの結束の強さが見られていいですね シコルは可愛い末っ子って感じだ。オリバがお父さんでみんな家族 >ハシさん 救いのない感じのSSですなあ。原作もそんな感じですけど 和月さんは人間の本性は悪と思ってるのかも。SSもその雰囲気でてる
402 :
作者の都合により名無しです :2008/10/02(木) 16:49:19 ID:DALi5LvC0
サナダムシさん、克巳はどうやら終わったようです あのくそつまらないキャラのピクルをしけい荘では上手く書いてやってください ハシさん、この作品はジャックザリパーが絡んでくるんですか 原作わかんないけど一度読んでみるか。スプリガン早く再開してほしいなあw
理想郷あたりのSS掲示板でやってもいい作品があるなあ
しかし錬金物多いなあw
錬金物じゃなくて和月物の間違い 無駄レスすまん
最大トーナメント終了後。鎬流空手の継承者たる鎬ミ昇は、結構落ち込んでいた。 「今の俺は……マイク・クインにだって負けるッッ……かも……」 鎬流に更なる磨きをかけた。刃牙への雪辱を果たしてトーナメントも優勝して、更なる 高みへと上がるつもりだった。 それが、実力できちんと勝ったとは(自分としては)言い難い、兄・紅葉との一回戦直後、 二回戦であっさりと敗退してしまった。 そりゃあ相手が悪かったともいえる。ミ昇自身、渋川の強さは身をもって味わったし、 あの後の渋川の試合ももちろん見た。あのじーさんが相手じゃ負けてもしょうがない、 そんなに恥じることはないだろ、とか思ってくれる人もいるだろう。 が、それでもやっぱりじーさんだ。じーさんに負けての二回戦敗退なのである。 悔しさに身を焦がしたミ昇は、ある決意をした。 「そういえば、あの刃牙さえも言っていたな。古流柔術対策に真剣に取り組まねば、と。 実際に戦って負けた俺が、それをやらないでどうする? ……うん、やらねばならんッッ!」 「と、お前が拳を握りしめてアツくなってたのは知ってるが」 ある晴れた昼下がり、駅前へ続く道。ミ昇はズルズル紅葉を引きずっていた。 もちろん、可愛い紅葉を市場へ売りに行くつもりではない。 「古流柔術対策の話から何がどうなって私がこうなったのか、説明を求めたいんだが」 後ろ襟首を掴まれ、半ばミ昇に背負われるようにして引きずられている紅葉が、首を捻って ミ昇に問いかけた。 ミ昇は、ぴたと足を止めて手を放す。 「……え……あ、ああ……まだ、言ってなかったっけか……ごめん兄さん」 「? 何だその、意外なまでのテンションの低さは」 「いや、中身は高いんだけどさ。高いからこそ声は大きくならず顔は俯き視線は逸れるというか」 「??」 俯いて小さい声で視線を逸らして喋るミ昇。紅葉としてもこんな弟を見るのは初めてだ。 「一週間ほど前、ご老公に頼んで柔術家を紹介してもらおうとしたんだ。どうせなら 渋川流でも本部流でもない、しかしそれらに劣らぬ柔術の継承者と試合をしたい、って」 「ふむふむ。で?」 「そしたら……」
(ほほう、それは丁度良い。正にうってつけじゃ) (と言いますと?) (わしの知り合いに、地下闘技場には参加も観戦も一切しとらんが、なかなかの柔術の達人 がおる。近々正式に弟子を取る予定なのじゃが、人に教えるのは初めてのことだからと、 少々不安がっておってな。弟子に会う前に、確かな技量の人と真剣勝負をして、今一度 自分の技を確かめてみたいと) (……ご老公。今の俺の立場で言うのも何ですが、俺がその人を負かしてしまって自信を 喪失させてしまうかも、という危惧はないのですか?) (なあに、そうそう容易く落ち込んでしまうような人柄ではないから、心配はいらん。ちなみに ミ昇よ、わしがその達人の敗北を全く予想しておらぬ、と言ったらどうする?) (俺への侮辱と受け取ります) (お前さんがその人を打ち倒すのはメチャクチャ困難なこと、いや多分無理、と言ったら?) (ご老公がこの場で失明するかもしれません) (ほっほっほっほっ。いやいやいやいや。お前さんとて、この……あったあった。達人殿の 資料を見れば考えも変わろう。「こんな人と試合なんかできませんごめんなさい勘弁して下さい」 とか言い出したり) (したらご老公の目の前で切腹してみせますッ! さっさと見せて下さいッッ!) 「実は言い出しかけたんだけど。でも切腹するわけにもいかないからOKした。ご老公は即座 に連絡とって、今日会う約束になったんだ。これからその、待ち合わせの場所に行くところ」 ミ昇は俯いて小さい声で視線を逸らして喋り続けている。 「ご老公の言う通り、俺がその達人を打ち倒すのはメチャクチャ困難なんだけど、でも それはそれとして……だから、その……待ち合わせ、もうすぐ、その人と、」 「わかったストップもういい言うな」 ぽん、とミ昇の肩に紅葉の手が置かれた。 「流石にここまであからさま過ぎると、兄さんでなくても察しはつくぞ。要するにその達人 とやらが女性で、お前はその時見た資料の写真で一目惚れしてしまったわけだな?」 「っ! な、なんでわかったんだ兄さんっっ?」 一瞬にしてトマトな顔になったミ昇が、弾かれたように後ずさる。 紅葉はというと、我が弟ながら全くこの武道バカは……と苦笑するしかなくて。
「だから、あからさま過ぎるって言ってるだろ。それで、一人じゃ不安だからって私を 引きずってきたのか」 「……………………」 ミ昇は無言で頷く。 「あのなあ。ご老公はその人に試合を申し込んで、先方も承諾したわけだろ? お前、そんな 様子で本当にその人と試合なんかできるのか?」 「そ、それは、そりゃあ、俺だって、武道家なんだから。はじめ! の声がかかりさえすれば」 「ほ・ん・と・う・に・か?」 じろり、と紅葉の視線がミ昇の瞳に突き刺さる。視神経がやられてしまいそうだ。 「ぁぅ……た、多分。おそらく、きっと」 「おいおい。今からそんなことじゃ」 その時。 「そおおおおぉぉぉぉいうことならっ!」 やたらと元気な少女の声が響いた。というか轟いた。 二人がそちらを見ると、いつからそこで聞いていたのか何やら嬉しそうな顔の女子高生がいて。 「ミ昇さんの恋が成就するよう、女性としての立場から微力ながらこのわたし、ご助言の 一つ二つ三つなどさせて頂きましょうっ!」 「こ、梢江ちゃん、そんな面白がるような言い方……あ、紅葉さんミ昇さんお久しぶり」 少女の隣にいるのは、ミ昇にとって馴染み深い少年だ。 「ば、刃牙。と、その子は確かトーナメントの時にいた」 「名乗るのは初めてですね。松本梢江と申します。が、わたしのことなんてどーでもいいんです」 ずずいとミ昇に詰め寄って、背伸びして顔を近づけて梢江は言う。 「先ほどからの、お二人の話は全て聞かせて頂きました。しかとこの耳で立ち聞きの盗み聞き」 「そう胸を張って堂々と言われても困るんだが」 「わたしのことなんてどーでもいいと言ったはずですよ。そんなことより、約束の時間に遅れたら 大変です。ほら出発! で、待ち合わせはあの駅ですか? それとも電車に乗るつもりで?」 ミ昇の手を取って歩き出す梢江。思わず引きずられるミ昇が、戸惑いながら問いかけた。 「ま、待て、ちょっと、何で君がそんな、何というか、熱血してるんだ?」 「……ふっ」 仕方なさそうに着いて来てる刃牙と紅葉を一瞬振り返り、歩みは止めずに梢江は言った。
「自分で言うのも何ですけどね。わたしみたいな年頃の女の子が、筋肉だらけの強いんだ 星人ワールドの中、毎日毎日過ごしてるんですよ。わたしがどれだけ、今のミ昇さんみたいな 話題・状況に飢えてると思います?」 梢江はどうしうよもない問題提起をしてきた。だがミ昇は大人なので真面目に答える。 「飢えるも何も、君には刃牙がいるだろう」 「それはそれ。ミ昇さんの件は別腹です」 「甘いものかっ?」 「ええ甘いものですとも。甘いものは別腹。今、ミ昇さんの胸の中にあるものが甘くないとでも?」 う、とミ昇の言葉が詰まる。 「写真のみで一目惚れしてしまった、これはもう思いっきりスイーツな事態です。刃牙君の 格闘仲間なんて肩書きのあるミ昇さんのこと、どうせそんなの初めてなんでしょ? でしたら、 現役女子高生かつ現役恋愛中のわたしの意見を聞いておくのは損ではないかと」 「そう言われると……むぅ……確かに」 「ご理解頂けて嬉しいです。では、まず相手の女性について……」 結局、ミ昇は梢江に引きずられるまま、言いくるめられて尋問されている。 そしてその後ろを紅葉と刃牙が、ぽてぽて歩いて着いて行く。 「なあ刃牙君。我々の日常って、ああまで言われるほどのものなんだろうか」 「……ま、梢江ちゃんにはそう見えるってことにしといて下さい」
キャラの口調や性格がこんな風なのはもう、何年も前からの私の仕様ですということで。
とにもかくにも、次回登場の『彼女』を描いてみたくて考えたお話。
短いものですが、お付き合い頂ければ幸いです。
>>サナダムシさん
頼もしき仲間たちが助っ人に駆けつけ、主人公を危機から救う! そして病院に響き渡る
主人公の悲鳴! ……燃えて感動して最後に笑わせてくれました。どんなにカッコ良くても
シコルはシコル、しけい荘はしけい荘。なんだかんだでオリバたちにも愛されてますよねシコル。
>>ハシさん
うぉぉエグい。だがこういうのも好きだっ。可愛いのも好きだけどグロも好き。スプラッタな体
の映像だけでなく、加虐者側のドス黒い欲望が言葉責め(というか……)の中によくよく出てて
更にエグさを増す。ハード面ソフト面両方で、今後もエグさに期待できますな。楽しみ楽しみ。
>>388 よし、何とか形になった。推敲して、次回あたり投下……と考えていたところに、見事過ぎる
ズバリ命中。
>>388 さんは一体何者っ? 私の行動パターンか何かを読まれているのかっっ?
倫敦へ到る旅を続けて数日、ヒューリーたちは自らの足で歩き続けていた。 世界の中心たる大英帝国は1900年頃にはほとんどの国土に鉄道を敷いていたが、ハイランド地方のあるスコットランド には、地図上から見ると蜘蛛の巣のようにレールが張り巡らされてるイングランドに比べて、必要最小限の数のレールしかなかった。 倫敦を目指すには鉄道の轢かれている大都市へ赴かねばならない。 当面の目的地は、倫敦にまで鉄道が轢かれている大都市――ハイランドの首都と呼ばれている、インヴァネス。 精強な青年であるヒューリーならば一日歩き詰めの強行軍ですぐに辿り着けることもできたが、女性であるピーベリーのことも考え、 ペースを落としながらの旅になった。 だがハイランド地方まで長旅をしてきたピーベリーは思ったよりも体力があるらしく、ヒューリーのスピードに遅れることなく 着いてきている。予定よりもはるかに速くインヴァネスにつけそうだ。 ヒューリーは研究資材が詰め込まれたザックを背負いながら、春のハイランドを歩いていた。緯度からいえば北に位置する 英国であるが、大西洋から流れてくる西風のおかげでそれほど寒くは無い。 西風がもたらす暖かさと恵みの雨が、新しい生命の誕生を祝福する。穏やかな日差しが新緑に降り注ぎ、遠くでは羊の放牧が 行われていた。 良くも悪くも田舎の景色だった。 蒸気機関などの文明の利器に頼れないのが不便であるが、都市の空気にくらべて素朴、そして温かな人間味がある。 だが自分はこのような陽の世界にいてはいけないのだ。 息をしているとはいえこの身体は死体、自然の法則から外れた忌まわしい存在なのだ。 自分は一生穏やかな日常を送ることはできない――夜の世界で生き続けるしかないのだ。 そして夜がやってくる。日が山の向こうに沈んでいく。夕闇が迫ってきていた。 「急ぐぞ、ピーベリー」 野宿は出来るだけ避けたかった。人造人間の襲撃があるかもしれないからだ。 日が出ている間でも活動できるとはいえ、基盤を死体にしているからか、人造人間は夜の方がその機能を十全に発揮できた。 その問題を置くにしても、地面の上で寝ることは存外に体力を使う。ヒューリー自身は生前から体力に自信があり、なおかつ人造人間 であったため疲れ知らずだが、ピーベリーはそうはいくまい。彼女はただの人間で、なおかつ女性だ。 長旅の疲れもあるだろう。いざ人造人間と戦闘を行う時、十分な状態で臨むことができないのは、非常に困る。
ヒューリーに余裕が無い時は、ピーベリーが自分で戦闘を行わなければならないのだが、疲労が思わぬ足かせとなり、不覚を とる危険があった。だから、とにかく屋根のある場所で休みたかったのだ。 ピーベリーもその問題を承知していた。地図を広げ、近くに泊まることができる場所を探している。目当ての場所が見つかった のか、彼女は頭をあげた。 「もう少し行ったところに小さな村がある。今日は、この村で宿をとるぞ」 まるで時代の流れから取り残されたような寂びた村であった。春の陽気に満ちているのに、どこか陰気な空気が流れていた。 おそらく若い働き手を、都市部の大工場に奪われたからだろう。 大英帝国から端を発した産業革命は、人々に多大な恩恵をもたらした反面、田舎に大きな打撃を与えた。蒸気機関を動かすには 良質の石炭と鉄鉱石がなくてはならないのだが、それらを掘り出すためには多くの人手が必要になる。賃金が高い仕事を求める若者が 都市部に流れ、田舎は労働力を奪われる一方だった。この村が寂れているのも、同様の理由からだろう。 「人っ子一人いないな」 そういって、ピーベリーは荷物を降ろした。懐から煙草を取り出し、マッチを擦って火をつける。 「わたしはここにいる。お前が宿を探して来い」 「わかった」 表情には出していないが、長旅の疲れは相当溜まっているだろう。 ヒューリーは素直に従うことにした。 彼はピーベリーの身を純粋に案じていた。怒りと復讐に狂う人造人間になった今でも、そういった他人をいたわる感情は捨てては いない。たとえ自分達の関係が、人造人間の抹殺という利害の一致によるものだとしても、仲間に違いないはずだ。 そうヒューリーは思うのだった。 宿は思いのほかはやく見つけることができた。扉を開け、ベルを鳴らす。 宿屋の中は、すべての窓にカーテンがしかれていて、暗黒に満ちていた。 もしや空き家ではとヒューリーは疑ったが、すぐに奥の方から女主人が出てきた。 老婆であった。宿の暗い雰囲気にふさわしい、しわくちゃの不気味な老婆であった。 「二人。明日の朝には出る」 「いいですよ」
自分達以外の客はいないらしい。こんな寂びた村に人が訪れること事態、珍しいのだろう。あてがわれた部屋に入ったヒューリーは、 カーテンをあけた。太陽の光が入り、薄暗い部屋の中を照らす。そして村の景色を見渡した。 外に人間の姿は無い。声も聞こえない。物音もしない。人間の気配が、まるでしない。 ……おかしい。いくら寂びているとはいえ、今は春。遊びまわる子どもも、仕事に精をだす大人もいない。 人家もまた、この宿と同じように、扉は堅く閉ざされ、窓にはカーテンがしかれている。 まるで村全体が太陽の光を忌み嫌い、息をひそめて隠れているような気がした。 村の雰囲気に気味悪さを覚えながらも、たった一日滞在するだけだと、無理矢理自分を納得させた。 そして部屋に荷物を置き、ヒューリーは村の入り口に待たせてあるピーベリーを迎えにいった。彼女は煙草をふかしながら、 険しい目つきで周囲を見ていた。 「なにかあったのか?」 「いや」 普段のはっきり物事を言う口調と違い、ピーベリーは曖昧な返事を返した。 何かを感じているようだが、はっきりとしたことはわからない、そんな表情をしていた。 しばし間を置き、彼女はヒューリーに問うた。 「感じないのか」 「なにがだ?」 「この陰気さ、寒々しさ……まるで墓所のようだ。人造人間が近くにいるのかもしれん」 「なんだと」 ヒューリーの顔もまた険しいものになる。憎悪が結晶化したような貌。 「それは本当か」 「まだわからん。いるかもしれないし、いないかもしれない」 「そうか。一応、警戒しておいたほうがいいな」 「ああ。もう日が落ちようとしている。人造人間が動くにはちょうどいい時間帯だ。それはともかく、宿はとったのだろう? いまは休むことにしよう」 荒地を馬車が走っていた。その速度は並みの馬車が出せるものではなかった。蒸気機関車に迫るほどの速さだった。 それもそのはず、その馬車を引くのは、ただの馬ではなかった。 つぎはぎだらけの身体。異様に充血した目。 それは、人造人間の技術を利用して造られた死体馬であった。
死体馬は休憩を必要としない。元より死んでいるので、生物の限界を超えて活動することが出来る。 宵闇の迫る世界を、馬車は猛スピードで駆けていた。 その中に少女がいた。馬車の内部には瀟洒な装飾が施され、豪華な食べ物や飲み物も用意されていた。 だが、彼女はそのどれもがお気に召さないらしい。 ばたばたと手足を動かして、全身で不満を表現していた。 「あーんもうやだー! どうしてスコットランドなんて田舎に行かなきゃいけないのー! わたしまだまだ倫敦にいたかったのにー!」 <装甲戦闘死体>、F08である。 彼女は今、ある指令を受け、スコットランドへ向かっている最中だ。 その指令は、モントリヒトの集落を襲撃し、彼らを皆殺しにせよ、というものだった。情報によれば、その集落は<装甲戦闘死体>の 襲撃を怖れた者たちが、互いに寄り集まって作ったものらしい。彼らはそこで俗世とのつながりを絶ち、ほそぼそとした生活を送っている という。最近になって発見された集落で、モントリヒトの数もそれほど多くはないとのことだった。危険度は低いが、いつ人間に牙を剥く かわからない存在を、放置しておくわけにはいかない。ということで、人造人間になってから日が浅く、まだまだ実戦データが不足している F08に白羽の矢が立った。 「仕方がありませんよ。あなたは生まれたての子猫(キティ)に過ぎません。まだまだ経験や調整が必要なのですよ」 F08の向かいに座る研究者風の男が、そう言った。彼は<装甲戦闘死体>を影から援助する秘密結社、F機関の一員であった。 F機関は、戦闘で消耗した<装甲戦闘死体>を修理や、製造されて間もない彼女らの調整などを任務としていた。 フランケンシュタイン博士の禁じられた技術の結晶である彼女らは、精密な機械のようなものだ。完全に性能が発揮されるには、 何度も調整やテストを繰り返さなければならない。F08の身体はほとんど完成形に近いのだが、実戦に投入するためには、いま少しの 微調整と戦闘データを必要とした。 「なあにそれ説教?」 無邪気な態度から一変、F08の瞳に剣呑な色が宿る。 いつのまに取り出したのか、彼女の小さな手にはナイフが収まっていた。 男の表情が一気に凍りつく。
「あ……いえ、そういうわけでは……」 <装甲戦闘死体>には、あらゆる権限が許されている。たとえば、気に入らないF機関の人間の生殺与奪権。 つまり、自分の生死は、目の前の少女の機嫌次第なのだ。 男は必死に弁解した。その姿に興が削がれたのか、F08は舌打ちし、ナイフを懐に戻した。 「言葉には気をつけろ。次つまんねぇこといったら殺すぞ」 「は……申し訳ありません……」 ふん、と鼻を鳴らし、F08は苛立たしげに窓の景色を見た。 まだまだ経験や調整が必要――理屈では理解できた。 F08も、まだ人造人間の身体を完璧に使いこなせていない、と自覚していた。自身の死体をベースに製造されたため、蘇ってから 正常に機能するまでそれほど時間は掛からなかったが、やはり勝手の違う身体を生前のように使いこなすには、まだまだ時間と経験が 必要だった。 だが。 理屈ではわかっているが、やはり納得がいかない。 F08はどうしても倫敦から離れたくなかった。 まだ殺したい奴らが、生前に殺し損ねた奴らが、いまだのうのうと倫敦で生きている。 そいつらが、今も空気を吸って馬鹿面をさらしていることを考えると、虫唾が走る。 自分を虫けら扱いした人間。 貧乏人の娘だからといって迫害した人間。 そして、薄汚い娼婦ども。 ぎりり、とF08の歯が軋む。 死してからも、それらへの憎悪は薄まることがなく、むしろ人造人間化してから拍車がかかった気がする。 感情に歯止めが利かなくなっている。まるで人間性が憎悪に飲み込まれていくよう。 だが、F08はそれを別に気にしていなかった。 元より、自分は狂っていた。狂ったまま何人もの人間を殺め続けた。
いまさらさらに狂おうと、何の問題があるだろう。 生前と同じく、人間もモントリヒトも関係なく、殺すだけだ。 そう考えると――次第に気分が昂揚してきた。 「さっさと皆殺しにして、早く倫敦に帰らなくちゃ。ふふふ」 ちろりと舌を出して、酷薄な笑みを浮かべる。 F08の目の前には、沈み行く太陽があった。 あともう少しで、夜がやってくる―― きっと素敵な夜になるだろう。 血塗れの惨劇が幕を開けるだろう。 F08は、それが楽しみでしょうがなかった。
はやく書く!
はやく書く!
ロンギヌスも控えていますしね。
>>400 さん
剣心も初期のころは、何気に黒っぽい話もありましたし、当時からそんな話も書きたかったのでは、
と思っています。だからエンバには期待しています。
>>401 さん
雰囲気がうまく出ているようで、よかったです。和月先生がどう思っているかわかりませんが、
作品ごとにまったく違う雰囲気を出せるのはすごいと思います。
>>402 さん
モントリヒトはエロス溢れる漫画で、しかも私の好きな人が原作をやっているので、おすすめです。
あの人が書いた小説版仮面ライダーはすばらしいの一言でした。
スプリガンもなるべくはやく再開しますので、いましばらくお待ちを。
>>405 さん
確かに多いですよね。自分も剣心にはまりましたし。武装錬金の打ち切りが決まった当時は、
啼きました。
>ふら〜りさん
梢江が可愛い! イメージは脳内保管することにします。
それにしても、美人柔術家……とある格ゲーキャラしか思い浮かびません。
昴昇の心を奪ったのは、いったい誰なのか……。
ジャック・ザ・リッパーは娼婦への怨恨で殺戮を繰り返していた、という説があったので、
それを利用してあんな言動や所業になりました。
原作では出番が少なくそこらへんが語られていなかったので、自分なりの解釈ではありますが。
ナランチャ(以下ナ)「オーーーゥッ(Oh.)」 ジョルノ(以下ジ)「ヘイ、ナランチャ(Hey,Narancia.)」 ナ「オー、ジョルノ(Oh,Giorno.)」 ジ「今日の調子はどうだい?(What`s up?)」 ナ「めちゃめちゃよろしいで(Can`t be better.)」 ジ「すごいね今日も(You`re awesome.)」 ナ「もうここも二酸化炭素探知レーダー今日もこれ最高やろ今日、オーーーーゥッ(Look at my carbon dioxide detection radar.nice,huh?)」 ジ「なんだーいその機銃は! どこまで……(Wow! Your machine gun! You are...)どこまで僕を……(You are soooo...)」 ジ&ナ「魅了するんだーーーーーーい?(atractive.)」 ジ「でも、カッコばっか気にしてても、スタンドって意外に育たないんだぜ(But only caring your appearances won`t build your stand.)」 ナ「エ?(Huh?)」 ジ「だからー、スタンドってのは中身ばっかり鍛えてても駄目なんだよ(Mental trainings only won`t built your stand.)」 ナ「エ?(Huh?)」 ジ「スタンド……(Stand...)」 ナ「エ?(Huh?)」 ジ「ナランチャ(Narancia.)」 ナ「ハ? エ?(Huh? ah?)」 ジ「ナランチャ。(Narancia.)中身ばっかり鍛えてても駄目なんだって(You should care more about physical training.)」 ナ「オーゥ、見てこのボラーレ・ヴィーア見てこれ(Look at my "Volare via")」 ジ「ワーオ! すげえ! すげえよ!(Whoo!)弾幕がすげえ!(Your curtain fire!) 君のエアロスミスはいったいどうなっちゃってるだよ?(What`s with your "Aerosmith"?)」 ナ「そおやろ? ……で、なんやったっけ?(So,where were we?)」 ジ「だからあ……(Yeah...)」 ナ「アァ(Oh.)」 ジ「君のスタンドはそれじゃ駄目だーって僕は言ってるんだよ(you have to to something with your stand.)」 ナ「エ?(Huh?)」 ジ「ナランチャ(Narancia.)」 ナ「エ?(Huh?)」 ジ「ナランチャ(Narancia.)」 ナ「これなんでコロネ乗せてんの?(Why are you putting cornes?)」
ジ「ノーノーッ、これコロネじゃなくて髪型だよ(This is a hair style.) まあそれはいいさ、ナランチャ、だから君のスタンド中身ばっかり鍛えてて僕それマズイと思うんだよ (Anyways,I don`t think it`s a good idea about you doing only mental trainings.)」 ナ「あ自分なにそれコロネ乗せてんの?(So,why are you putting cornes?)」 ジ「コロネじゃなくて髪型だーって言ってんじゃないかよー(I told you it`s a hair style.)」 ナ「あ、そうなんや(Realy?)」 ジ「そうだよ(Yeah.)」 ナ「……で、なんやったっけ?(So,where were we?)」 ジ「あ、そうそう。君チョコ持ってない? 僕マイチョコ切らしちゃったんだ(Oh,do you have chocolate? I`ve run out of my own.)」 ナ「いや俺も今日ちょぉ持ってないで(I don`t have it with me today.)」 ジ「えー、持ってないのかい。オーケイ(You don`t! Well.OK!)」 ナ「アバッキオに聞いてみたらええんちゃう?(Why don`t you ask Abbachio?)」 ジ「あー(Oh.)」 ナ「チョコラータやなくてチョコレートやろ?(Not Chocolata,it`s chocolate,right?)」 ジ「あ、そうか、ちょっと行ってくるよ(Yeah,I am going.)」 ナ「あ……そうや俺も、俺も持ってないから……あ、そうや俺も欲しいわ(Actually I want same,too.)」 ナ「あー、アバッキオ……あのー俺らのブチャラティチームのチョコってもうなくなったん?(Do you know there`s any chocolate left at our team?)」 アバッキオ(以下ア)「なに?(Huh?)」 ナ「俺らのチョ……(Our cho...)」 ア「なんだよっ(What?)」 ナ「俺らの……(Our...)」 ア「なーんだよっ(What`s?)」 ジ「チョコなくなっちゃたんでアバッキオの分のチョコもらえますか?(We`ve run out of our own chocolate so could you share some of yours?)」 ア「んっ? 俺のチョコもねーよっ(I don`t have any either.)」 ジ「え? アバッキオもチョコなーいんですか? どーすればいいですかー?(Realy? What should we do?)」 ナ「ないんだよー(No chocolate!)」 ア「ないんだ? じゃあ暗殺チームんとこ行ってチョコもらってこいよ (Why don`t you guys go to hideout of the assassination team and ask them for some?)」
ジ「あーでも暗殺チームに友達いませんよー(But, I only know few peaple in assassination team.)」 ナ「知り合いいないのよ(Me too.)」 ア「お前暗殺チームに友達いなくてもお前暗殺チームのアジトからお前チョコもらってくればいいんだよ! (Who cares! Just go there and bring back some chocolate.) お前ブチャラティチームをお前舐めてんのかお前この野郎!(Don`t make light of our team!)」 ジ「……暗殺チームのアジトからチョコもらってきまーす(We`ll go there and bring back chocolate.)」 ア「おう。(Okey-donkey!)俺の分も頼むよ。(Bring mine,too.) ところでお前なんでコロネ乗っけてんだよっ(So,why are you putting a corne?)」 ジ「これコロネじゃなくてこーゆー髪型ですよ(This is a hair style.)」 ア「早く行ってこいよ!(Just go.)」 ジ「アジトってどこだっけ?(Where`s the hideout?)」 ナ「これ……このあの先……あ、あそこ左や……曲がれば(Oh...there... You turn left there.) ……そんなカッコして周りの目は気にならへんの?(Dont`t you care how people look at your style?)」 ジ「カッコ悪くてもギャング・スターになれればそれでいいんだよ(As long as I can grow up to "gang star".)」 ナ「それ胸に……胸につけてる……つけてる……胸につけてるのはなにそれ?(What is that on your chest?)」 ジ「テントウムシのブローチさ(Ladybug brooch.)」 ナ「腕に巻いてる……マイケルやつは?(What is around your wrists?)」 ジ「マイケル?(Michael?)」 ナ「腕にマイケルのはなにそれ?(What`s around your wrists?)」 ジ「これジッパー(A zipper from Buccellati`s stand.)」 ナ「これは?(And these?)」 ジ「ゴールド・エクスペリエンス("Gold experience".)」 ナ「これは?(These?)」 ジ「ブローチ(Brooch.)」 ナ「これは?(These?)」 ジ「ゴールド・エクスペリエンス("Gold experience".)」 ナ「これコロネ?(And a corne?)」 ジ「コロネじゃなーい。髪型だよ(Not a corne! A my hair style.)」 ナ「あ。暗殺、ここや(Here we are.)暗殺チームのアジト(Hideout of the assassination team.)」
ジ「はいりまーす(We`re coming in.)」 ナ「誰もおらへんで(There are none.)」 ジ「みんな暗殺中なんだな(They must be assassinating now.)」 ナ「今のあいだにチョコ探さな(It`s a chance to look for chocolate.)」 ジ「オーケイ、チョコ探そうよ(OK,let`s look for it.)」 ナ「チョコどこやろ?(Where`s is it?)」 ジ「オゥフッ、フゥッ……チョコどこなんだろうなー(Where`s chocolate?)」 ナ「探してるときくらいジョジョ立ちやめろーって(Do you have to pose now?)」 ジ「ジョジョ立ちをやめる暇なんてないよぉ(I can`t waste any second.)」 ナ「コロネ乗っけながらポーズ取ってんの?(And you`re putting a corne?)」 ジ「ふぅ……これはコロネじゃなくてこーゆー髪型だよ(This is a hair style.)」 ナ「あ、ジョルノー。ここにチョコあったでー(Hey,I found chocolate!)」 ジ「ホントかーい?(Realy?)」 ナ「おめ、ちょっとここ見、俺カンに移すからちょっと見ててや、見張ってて(Would you look out while I put this in to a can?)」 ジ「オーケー、早くこのチョコ持っていかなきゃ(Ok.We need this.)」 ナ「移すわ。それなんでコロネ乗せてんの?(Here we go.So why are you putting a corne?)」 ジ「コロネじゃないよ髪型だよ(A hair style.)」 ナ「ちょっと見張ってて(Look out.)」 ジ「あ、オーケー……(OK...)」 ナ「ちょっと見張りながら……それなんでコロネ乗せてんの?(And,why are you putting a corne?)」 ジ「髪型だよっ!(A hair style!)」 ナ「声大きーしたらバレるーからちょっと静かにしてて(Would you tone down? Someone might here us.)」 ジ「あ、ごめんごめん(Oh,sorry.)」 ナ「それなんでコロネ乗せてんの?(Why are you putting a corne?)」 ジ「……コロネじゃないっ!(It`s not a corne!!)」 ナ「ちょっ、静かに(Quiet please.)」 ジ「コロネじゃないっ!(Not a corne!)」 ナ「わかったって(OK,OK.)」 ジ「こーゆーかーみーがーたーなんだよっ!(A hair style!!)」 ナ「それわかったて(Okay.)」 ジ「コロネじゃなぁいんだよっ!(It`s not a corne!)髪型なんだよ!(A hair style!!)」 ナ「バレるーって(Calm down.)」
ジ「コロネじゃないんだよおおおおぉぉぉっっ!(It`s not a corne!)髪型なんだよおおおおおおおおおおおおおおおっっ!(A hair style!)」 ナ「ひ、人来ちゃう!(Someone`s gonna hear you!)」 ジ「コロネじゃないんだよおおおおおおおおおおおおおおムーンレイスなんですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!! (It`s not a corne! It`s not a corne! It`s not a corne! It`s not a corne! I`m a moon race!!)」 ナ「人来ちゃうから!(Someone`s gonna hear you!)」 ジ「コロネじゃないんだよう……(It`s not a corne.)」 ナ「お、腕震え……大丈夫?(Are you all right?)」 ジ「……大丈夫(All right.)」 ナ「今チョコはよ持って帰ってすぐ食わしてやるからな(Let`s get back and you eat chocolate.)」 ジ「あうう……チョコ持って帰ろうよお……(Let`s get back with chocolate.)」 ナ「それなんでコロネ乗っけてんの?(Why are you putting a corne?)」 ジ「コロネじゃないよおおおおおおっ!(It`s not a corne!)髪型なんだよおおおっ!(It is a hair style!)」 ナ「シャラップ!(Shut up!)」 ジ「コロネじゃないっ!(It`s not a corne!)」 ナ「コロネでしょー!?(It is a corne!)」 ジ「コロネじゃないよおっ!(It`s not a corne!)」 ナ「コーローネーでーしょーーー!?(It is a c-o-r-n-e!)」 ジ「コロネじゃないよ髪型だよーーーーッ!(It`s not a corne! It is a hair style!!)」 ナ「絶対コロネでしょそれーっ!?(Definitely a corne.)」 ジ「髪型なんだよおおおっ!(It is a hair style!)ラフメイカー冗談じゃなあああああああああああああい!(Laugh maker.It`s not joke!) ゴールデン中華三昧いいいいいいいいいいいいいい!(Golden Chinese absorption.)」 ナ「しーずーかーにー! 静かに!(Be quiet.Shut up!)SHUT!(Shut!)UP!(Up!)」 ジ「……ナランチャごめん(I`m sorry.)」 ナ「でしょー?(You are.)」 ジ「ナランチャごめん(I`m sorry.)」 ナ「でしょー?(You are.)」 ジ「ナランチャごめん(I`m sorry.)」 ナ「じゃジョルノ、早くこれ……持って帰ろ(So,let`s take this and go.)」 ジ「アバッキオ喜ぶぞー(He`ll like this.)」 ナ「そやねー、あ、ジョルノ。コロネ潰してるで(So.Hey you crush your corne.)」
ジ「コロネじゃないよ! じゃないよ!(It`s not a corne! It is a hair style!)」 ナ「しーすーかーに!(Be quiet!)」 ジ「髪型なんだよ髪型なんだよ!!(It is a hair style!)」 ナ「シャラップ!(Shut up!)」 ジ「コロネじゃないよ!(Not a corne!)」 ナ「し、しず(Shhhhh.)」 ジ「コロネじゃないよっ!(Not a corne!)」 ナ「しずかにー!!(Shut up!)コロネでしょー!?(It is a corne!)」 ジ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄! (WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!)」 ナ「パン工場でしょー!?(Only love and courage are your friends,right!?)」 ジ「おい鈴仙なに突っ立ってんだよ早く輪に入って来いっつってんだろバーロー『Just Do It』! (Oh it ray send nine knee two tough tender YO! How Yakut wow need high tech coy two tender road "Ver load" Just Do It!!)」 ナ「関係ないでしょー?(It is unrelated.)」 ジ「くぁwせdrftgyふじこlp;」 ナ「…………(w」 (終) 元ネタ :「The World of GOLDEN EGGS」 :石鹸屋(続・咲夜バースト) 以上 スレ汚し失礼。 追記:前回の元ネタ記述の訂正── 塊グループ(中村屋祝辞ver.)←× グループ魂(大江戸コール&レスポンス)←◎
志村ー 最後鈴仙のままだぞー
425 :
作者の都合により名無しです :2008/10/04(土) 10:11:52 ID:CiwczbUZ0
>ふらーりさん 新連載お疲れ様です。バキ物ということで期待しております 多分、かわいい物になると思いますが、ふらーりさんワールド楽しみです >ハシさん 寒々しい雰囲気の作品ですな。原作テイストを突き詰めるとこんな感じですか。 FO8の曲がった情念が怖いですな。スプリがんも期待しております >名無しさん おお、この前の人ですかw今回もノリのいいナンセンスギャグですなw しかし何故英語教室みたいになってるんだwアバッキオたち楽しそうだw もう容量ありませんな
427 :
テンプレ1 :2008/10/04(土) 12:23:04 ID:vsrb/jO00
428 :
テンプレ2 :2008/10/04(土) 12:34:58 ID:vsrb/jO00
429 :
テンプレ3 :2008/10/04(土) 12:36:16 ID:vsrb/jO00
430 :
ハイデッカ :2008/10/04(土) 12:40:03 ID:vsrb/jO00
1週間ほど忙しくてスレ見れなかったのですが、ナイスタイミングだったみたいで。
とりあえず現スレは完結のVSさん以外は消える人が居ないんでよかった。
しかしテンプレ2、HPの頭出しがズレてるな。調整したのに何故だろう。
あと、
>>426 さんありがとうございました。
次スレもここなのかな?
板移動はするにしてもまだだよね。別にしなくてもいいと思うし
431 :
ハイデッカ :2008/10/04(土) 12:45:06 ID:vsrb/jO00
立てられませんでした。 誰かお願いします。 テンプレ2の修正(HPの頭揃え)お願いします
433 :
作者の都合により名無しです :2008/10/12(日) 15:39:25 ID:Ao3NBImh0
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