【2次】漫画SS総合スレへようこそpart34【創作】
1 :
作者の都合により名無しです:
2 :
作者の都合により名無しです:2006/01/29(日) 11:26:44 ID:zVvCaQpd0
3 :
作者の都合により名無しです:2006/01/29(日) 11:28:48 ID:zVvCaQpd0
出来るだけ避けたいし、その場面にも直面したくないと思ってみても、
避けがたいモノはある。
人が死ぬという事もその一つに数えられるだろう。
十二宮浄化の闘い。
後の聖域史ではサガの乱と呼ばれる事になるだろう一連の政争は、
前人未到の黄金十二宮踏破。
黄金聖闘士を退けてアテナ神殿へと至ったこの奇跡を持って終結した。
人は一人では生きられない。
だが、二人居ればいがみ合い、対立し、そして争い、殺しあう。
人は容易に己の主張を曲げない、
それが至強(しきょう)の黄金聖闘士ともなれば言わずもがな。
故に、十二宮を守護していた九人、いや十人の黄金聖闘士のうち、五人は散った。
サガという男は、シャカすら騙しとおした悪党なのか、それとも善と悪に揺らぎ、迷い、
苦悩した男だったのか、それは彼が死んだ今となっては、推測するより他に知る術はない。
今、確実に言える事は、聖域や、それに伴う多くの人間にとって、サガは仇でもあり、
同時に、恩人でもあるという事だ。
現在、黄金聖闘士以外のほぼすべての聖闘士は、
サガの教皇僭称(せんしょう)期間に叙勲(じょくん)された者達で、
白銀聖闘士や青銅聖闘士多くは、サガ以外の教皇を知らないものばかりだ。
故に、サガの功績すべてを抹消することは、一連の闘いの中で、
聖域とアテナの正義を信じ、
その若い小宇宙を散らした聖闘士の魂を穢(けが)す事になる為、
聖域内の意見統一が図(はか)れないでいた。
理性ではそうやって己を納得させることが出来るものの、
ムウの感情はやはり、師の仇であるという事を納得してくれない。
サガの功罪についての論議は長引くことが予見されたため、
とりあえずは戦死者葬送が討議され、
闘いに散った黄金聖闘士たちを、
歴代の黄金聖闘士が眠る共同墓地へと葬る事が決定した時、
釈然としない空気がその場に生まれた。
デスマスク、シュラ、カミュ、アフロディーテはまだしも、
教皇を僭称したサガまでも、黄金聖闘士として葬るのはいかがなものか。
ああいった公の場で、私情を露(あらわ)にする事がめったに無い、
公平無私で知られるアイオリアがそう言ったのをきっかけに、
その空気はますます濃くなった。
だが、その空気を払拭したのは、
「アイオリア、私はサガの末期の言葉を信じたいのです…」
アテナの鶴の一声だった。
聖闘士にとって、アテナの意思は絶対である。
アテナがそうまで言うのならば、
兄とその仇が同じ地に眠ることになるとしても、納得しなければならない。
それはムウとて同じ事だ。
サガは、他ならぬムウの師の仇なのだ。
十三年前のあの夜、厳しく、優しい師の小宇宙が散ったのをムウは知った。
無断でスターヒルに登頂し、
物言わぬ亡骸(なきがら)を見るまで死んだ事が信じられなかった。
ムウは泣いた。
年不相応に泰然自若としていたムウは、年相応に泣いた。
シオンの亡骸を前に、崩れ落ちるように泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、血の涙すら流して、ムウは決断した。
復讐だ、師の仇を討つと決めた。
シオンの亡骸から遺髪として一房とり、懐に収めると、
ムウはそのまま五老峰へと向かった。
濾山の大瀑布を前に、座禅を組む黄金聖闘士、天秤座・ライブラの童虎。
亡き師・シオンが、生前自分に変事があれば、
まず真っ先に童虎を頼れと言っていたのを思い出したのだ。
亡き師と肩を並べた童虎ならば、師の謀殺を覚っているはずであるし、
聖域に潜む邪悪を打ち倒す術(すべ)を、知っていてもらわなければ困るのだ。
亡き師の友を利用してやれ、という邪(よこしま)な期待は、
童虎の老樹の如き姿を見た瞬間霧散した。
これでは駄目だ、このような老人では、このような小男では、復讐の役には立たぬ。
当時のムウの、その未熟さの証明する以外のなにものでもない感情だ。
童虎はムウの未熟ゆえ、一瞬漏れた感情を見逃す程、耄碌してはいなかった。
「ムウよ、オヌシは聖域に挑む腹積(はらづも)りだろう」
シオンの変事を伝えたムウに、煽り立てるように童虎は続ける。
「この儂に指一本でも触れることが出来たのなら
シオンを討った仇の名を、教えてやろう」
その言葉に煽られるまま、ムウは童虎へと挑んだ。
ムウの拳が老人の衣服に触れるや否や、体のコントロールを失い、
風に舞う羽毛のようにひらひらと宙を舞う。
一瞬の驚愕の後、ムウは滝つぼへと叩き落される。
こんな事がある筈はない!と奮起し、挑むが、
何度挑んでも、「未熟」の一声と共に滝つぼへと叩き落されるばかりだった。
「ホッホッホッホッホッホ…
この老人を動かすことも出来ずに、如何にしてあの巨大な聖域に挑むというのかの?」
いったい何度滝つぼへ落とされたのか、もうムウには定かではない。
肩で息をし、濡れた服の重みを感じるようになったころには、
滝つぼへ落とされる為に童虎の前へ来るようなものだった。
「ようやく落ち着いて話を聞く気になったかの、ムウよ」
はい、と力なく答えると、童虎は口調を真剣なものへと変えた。
「ムウよ、先ずは何事もなかったかのように聖域へと戻れ
シオンを暗殺した者は、教皇に成りすまして行動を起こす」
事実、この数日後にはアイオロスが討伐され。
アイオリアが逆賊の弟を理由に軟禁状態になっている。
そして、この時ムウはシオンを暗殺したものがサガである事を知るのである。
「偽教皇となった者は、教皇の素顔を知るオヌシを遠ざけたいはずだ
その期をみて聖域より去り、再び儂の元へと来るのだ
その時、聖域にはびこる邪悪を祓(はら)う策を授ける」
童虎の予言は当たった。
ムウは聖衣修復技法の修練を理由に聖域から去った。
サガ打倒を胸に秘めて。
そして、十三年。
アテナの生存といったことが聖域側に漏れなかったのは、ムウと童虎による所が大きい。
秘密裏にグラード財団総帥、
アテナ・城戸沙織の為の聖闘士を育てる事を決意していた城戸光政に接触し、
聖闘士の修行地を教えたのは、童虎の手の者、
聖闘士になれなかった、もしくはならなかった者たちである。
教皇シオンが聖域の表の教皇ならば、老師童虎は聖域の裏の教皇である。
聖衣を得ることが出来なかったとしても、超常の修練を積んだ者たちである、
諜報などはお手の物だ。
彼らを指揮し、聖域に挑む、
もしくは聖域を私利私欲のために手に入れようとする勢力を相手に、
闘争を続けてきたのは、童虎であり、それは決して表舞台に出ることの無い、
影の功績なのである。
彼らは、アイオロス事件の真相をいち早く知り、
グラード財団総帥へと接触し、サガの本性を察知したのだ。
ポセイドンやハーデス、しいてはゼウスをも制し、
三世界の完全支配の為、戦力拡大を目論んでいたサガは、
グラード財団からの聖闘士候補生を渡りに船とばかりに承諾するのである。
「ムウさまー!」
貴鬼の呼び声に、ムウは現実に戻る。
目の前には傷つき、死んだ青銅聖衣の聖櫃がある。
傷つき、倒れても、魂は、小宇宙は不滅だとでも言うかのように、
青銅聖闘士四人は生きている。
この聖衣の修復のため、他の黄金聖闘士の承諾は得ている
彼ら青銅聖闘士にはまだ闘ってもらわなければならない。
海皇と冥王の復活が予見されている現在、
半減した黄金聖闘士という戦力をさらに割くわけには行かず
結局はまた、青銅聖闘士たちを最前線に送り込むことになるだろう。
ならば、せめて彼らのために聖衣を修復しておかねばなるまい。
最年長の一輝ですら十五、最年少の星矢にいたっては僅か十三、
いつ死んでもおかしくない闘いに挑むには若すぎる。
聖戦とはそういうものなのだと、分かってはいるが、感情は納得してはくれない。
ムウの苦悩は、続く。
銀杏丸さん早速のご投稿、お疲れ様です。
第七回は欠番で番外編だったので、これが真の7回目ですね。
老師も老獪さの前にはムウの天佑も激情も空回りしますね。
聖矢たちの前に、偉大な男3人が盾となって女神を守ったのか。
伝説は受け継がれていきますな。
>>1さん、スレ立てお疲れ様でした
本来の第七回をお送りいたしました
実は第七回はムウを予定していたのですが、どうにも巧く行かず
貴鬼に「番外編」という形で代役してもらっていました
「黄金時代」の名の通り、基本的に過去の物語を書くことが骨子でしたので、
未来の黄金聖闘士である貴鬼の話は、番外編だったのです
ようやく出来上がりましたので、投稿させていただきます
カミュの時もそうでしたが、どうも僕が書くとクールな奴でも熱血漢になってしまうなぁ…
では、またお会いしましょう
HNわすれてました…
あとは老師・童虎、教皇シオン、そしてカノンの話です
黄金聖闘士も遺すところ本当に僅か
皆さんのおかげで続けることが出来ました
ご期待に沿えるよう、がんばります
>>1さん乙です
>ハイデッカさん
ジャンヌの女である部分が彼女を苦しめていますね。
慶次は完全に脇に回っている感じですけど、次は武蔵とのバトルかな?
信長は最終ボスですか。火あぶりの刑から慶次はジャンヌを救えるのか?
>銀杏丸さん
>第十四回
磊落な眞明と真面目なセダイラ、ある意味シオンと童虎のに共通してますね。
やり取りを見てると友人だけど眞明が格上の感じ。微笑ましいですね。
>第七回
星矢とあった頃には優雅な微笑を浮かべていたムウにも未熟な頃はあったんですな。
ムウの無念が、先の少年たちの戦いへと続いていくというのは物語ですね。
14 :
ふら〜り:2006/01/29(日) 16:38:44 ID:cSX0yoDE0
>>1さん&テンプレ職人さん
おつ華麗さまですっ。質量共にますます充実のバキスレ、もうどこまでいくのか見当も
つかず。バレさんや、上記お二人のような方がおられる限り、いつまでも続きそうです。
……という今のこの賑わいを、ご覧になられてますか開祖っっ?
>>見てた人さん
>俺はもう、駆け引きをする気はさらさらない。
さすがはカイジ。さすがは原作準拠。この辺りのモノローグで、自分の命も危ないからっ
てのが全然なく、でも正義感というより主催者への憎しみが第一に来てるのが、彼らしい
カッコよさ。あと
>>464さん同様、私も編み棒と聞いて「凶器?」と連想してしまいました。
>>サマサさん(AIの猫といえば、PSの「THE推理」が思い出されます)
こうやってきれいに整列すると、増えたもんだと実感できますな。されば当然、影の薄い
人というのも出てくるわけで。特にしずかちゃん、ライバルは質量共に強力だぞ頑張れっ。
ほのぼの今回を、ライバルフラグ持ちのペコが締めましたね。シリアス活躍が楽しみです。
>>サンダルさん
まず惑星の移住開拓、そして発掘された謎の巨人、とどめに「いないであろうと安心して
いた」異星人の出現。普通の作品の三倍の冒頭シーンって感じです。星自体が未知なのに、
次から次へと被さる謎。これらがどう広がりどう繋がるか、壮大さを期待して待ってます!
15 :
ふら〜り:2006/01/29(日) 16:39:24 ID:cSX0yoDE0
>>ハイデッカさん
なるほど。慶次にとってはジャンヌを護って戦死することは「添い遂げる」の範疇に入る、
か。彼らしい。でも彼らしくないほど悩み、でも敵が来れば彼らしく駆けて行く。日本史で
魔王といえばこの人! の信長ですか。武蔵がああなった今、何をしでかしてくれるやら?
>>銀杏丸さん
第十四回
サ、聖域がこの一角だけフツーの高校(いや中学か?)になってるっ。現代の蟹殿に見せ
てやりたい光景です。私はセダイラの固さ、眞明の奔放さ、共に萌えさせて頂きましたが。
第七回
サガの乱は、聖域が騙されてたこと、黄金が青銅に負けたことなど巨大な汚点。そういう
問題や童虎と財団の繋がりなど、作品世界を補完し広げられた本作、興味深い内容でした。
「ドラえもん のび太の惑星大戦記」についてですが、連載を中断したいと思います。
わずか一週間にも満たない連載ですが、書いているうちに「まだ、レベルが足りなさ
すぎるんじゃないのか?」と思いまして、最低ながらこんな決断を下しました。
当分練習をして、機会があったら短編でも投下して自信をつけた後に再び一から長編
を連載しようと思います。
応援してくれた方々には深くお詫び申し上げます。
現行の職人さんのみなさま、がんばってください。それでは
>>16 がんばって。
最初から上手かった人なんていませんよ。
>銀杏丸さん
2本の投稿お疲れ様です。
セダイラと眞明の掛け合いの妙が素敵ですね。でも両方とも死ぬんですね。
眞明は、その運命を分かっててわざと明るく振舞っているような。
もう一本のほうは逆にシリアスですね。ムウの若さが星矢たちを見るようです。
>ハイデッカさん
慶次と武蔵が見られるのかな?それとも武蔵が去っていくのかな?
ジャンヌの前では呂不や武蔵も霞みますねえ。信長は流石にラスボスの香りがする。
>サンダルさん
うーん、じゃあ今までのは破棄ですか?勿体無いなあ。
でも、これから先いくらでもうまくなると思うので、短編や読みきりで練習しつつ
また頑張って下さい。待ってますよ。
短編で短く纏める事の方がよっぽど難しいぜよ
20 :
作者の都合により名無しです:2006/01/29(日) 22:39:13 ID:M+4G/Web0
1さん乙。
>ハイデッカ氏
ジャンヌの場合、エロというより悲しさが先立ちますね。
新たな敵も現れて、系次がどうジャンヌを守っていくか楽しみです。
>銀杏丸氏
2本連続掲載乙です。聖戦前ののんびりとしたコメディ調の作品と
師の死にまつわる未来へ繋がる物語、趣の違う作品2つ読めて楽しかったです。
>>19 確かにそりゃ言えるかも。
あっちのスレでも書いたけど物語の流れからオチまで
一貫して無いと読み物として成立しないからな。
短編は誤魔化しが利き辛い。長編には長編の辛さがあるけどな。
ただし、根来が悪かといえばそうではない。
彼は戦団において「奇兵」であって、再殺部隊という汚れ役にも回された。
だが、芯から悪で非情の男ならば、シークレットトレイルを得ると同時に戦団から逐電し、後
は窃盗暗殺の類で生計を立てていくだろう。
だがそれをせず、一応はヴィクターIIIこと武藤カズキとその同行者の前に立ちふさがった。
彼らから見れば根来は「敵」だろう。
けれど、彼らの立場は「人に危害を加えかねない存在と、それに従う戦士」であって、筋から
いえば、そう、根来の好きな「筋」からいえば誅滅されてしかるべき物なのだ。
倫理は根来にないかも知れない。
だが、「人に危害を加える存在は斃(たお)す」という筋はある。
このあたり、彼は複雑だ。状況によっては白にも黒にもなりえて、しかも当人はどちらであろ
うと任務を遂行し、「筋」を通せればいいと来ている。
もっとも千歳にはそれで構わない。以前にも思ったが、彼が任務を遂行すれば、救われる人
間の方が多いのだ。
第一、結果論だが電車の中でも、彼は子どもたちに害を加えてはいない。
ただ感情的なだけの人間なら、席を空けず、任務遂行の邪魔になると怒鳴り散らしていただ
ろうし、針も隠さなかった。
良くも悪くも、心底から怜悧なのだ。根来は。
その辺りが千歳には羨ましく、同時にどうあっても助けてやりたいと思った。
先ほどの戦闘を自省するなら、なるべくそれを避け、根来に任せていけばいい。
ただしその分、補佐や調査をしっかりすればいい。
そして、戦闘において根来の足手まといにならぬよう、務めるべきだ。
千歳は女性だ。戦局が煮詰まればまっさきに狙われる。人質にもなりかねない。
その場合、例え千歳自身が根来に斬られてもいいよう、覚悟しておくべきなのだ。
根来との関係はそういう形でいい筈だ、と千歳は思う。
少なくても、彼女が引き金となって任務が失敗するよりはいいのだ。
奇妙だがこれも信頼といえなくはない。
根来が必ず任務を遂行できるという前提での、覚悟だからだ。
ただし、覚悟一つで物事が万事運ぶ訳でもない。
何か具体的な方策も講じるべきだと、思考に浸る千歳は──…
ツと、根来の無愛想な顔に視線をやると、そのまままじまじと見つめた。
何か、引っかかる。
それは何なのか。
すごく簡単なコトに思えるが、分からない。
ひょっとすると、根来が立ち去らない理由についてだろうか?
彼の性格なら、尾行をしくじったのなら他にすべきコトを見つけそうなものなのに。
「クェェェ」
このとき、広場の向こうで男が力なく声をあげた。
無念そうでいて、悲しく、屈辱に満ちた声だ。
彼は森を覆う枝を底光りのする目で睨みながら、しかし涙を流している。
こんなはずでは。もし次があるならばその時こそ……
という感情がふつふつと奥底にあるが、根来たちには分からない。
ただ、彼にいためつけられた千歳の体力は、核鉄のおかげで回復しつつある。
下山し、車が来れる所まで歩くぐらいならできそうだ。
ちなみに彼女の武装錬金は移動に特化しているが、発動にはまた体力が足らないし、諸事
情により今は移動できる場所も限られている。歩いた方が早いだろう。
「……なんだ」
根来は不審そうに呟いた。
この声に千歳の頭は、思考から現実への対応に切り替わった。
「あ。いえ。ちょっと考え事を。ところで、私からも質問していいかしら」
急な状況の変化に、声は少し潤みのある引きつり方をした。
と共に、頭の中に芽生えかけた考えは、実を結ぶ前に散ってしまっている。
「なんだ」
千歳はナイフをハンカチで手早く包み込みつつ、とっさに話題を切り出した。
「なぜこの場に留まっているの?」
とは聞かない。聞くのはもっともっと日常的で、常々思っているコトだ。
場にはそぐわないが、ちょっとした心の揺れに導き出されたらしい。
されど無意識下では、気体のごとく無形の思考がくゆっている。
千歳にはそれが気になっていたが、しかし、考えが泡のように弾けてとりとめがなくなって、は
て何を考えていたのかと首を捻る現象は、千歳のような入り組んだ思考を持つ人間にはよく
訪れる。
解決する方法の一つは、後でリラックスした状態になった時、ゆっくりと記憶を紐解いて
徐々に徐々に思考の輪郭を思い出していくコトだ。
それを千歳も承知しているから、とりあえずは思っているコトから整理すべく、口にのぼらせた。
「防人君といい、あなたといい、どうして男の人は技に名前を付けたがるの?」
だがいざ聞いてしまうと、千歳はまるで以前から気にしているような表情になった。
考えてみれば、千歳ならずとも不思議な話だろう。
真・鶉隠れというが、いってしまえば刀を必死こいて飛ばしまくっているだけではないか。
重・竹箆仕置きにしろ、単に地中に隠した刀を跳ね上げるだけではないか。
しかしいちいち大仰な名称を根来はつけている。
防人も同じく。
ただのパンチに「直撃! ブラボーナックル!」。
ただのキックに「流星! ブラボー脚!」。
そういう調子で、なんと13の技を持っている。
とまぁここまで考えたとき、千歳の脳裏に電撃的な閃きが走った。
それを逃がさないよう手早くあたりを見回し、鞄を見つけると駆け寄り、ナイフをハンカチごと
仕舞いこんだ。
そして代わりに地図と赤ペンを取り出した。
例の、動物の死体の場所を描いたものである。
ただし今度は、地図ではなくその裏にペンを走らせた。
根来は前髪をうら寂しげに撫でながら、千歳の挙動を見るともなく見ていた。
すっかり前髪の層が薄くなっている。若いからすぐ生えるだろうが、何とも災難だ。
広場を涼やかな風が通り、虫の声が涼やかに響く。
縛られた男は、血の出すぎで意識が朦朧としている。
顔色はもはや青を通り越し、蝋のように白くなりつつある。
もうすっかり忘れられているのだ。千歳にも根来にも読者の皆様方にも筆者にも。
でも彼が挽回できる時も多分ある。限定解除もできたらいいね。
やがて千歳は作業を終えると、「こうだと思うけど」と根来に地図を差し出した。
そこには、暗い森の中で書いたと思えぬほど整った字が並んでいた。
内容は、こうである。
・防人君の場合。
○○! ブラボー△△△△! ← 攻撃のスタイル。多くて四文字。
↑基本的に二字熟語。
・あなたの場合。 ↓漢字二文字。技の特徴を入れる。
シークレットトレイル □□の型 ○・△△△△ ← 忍者の技術にちなんだ言葉?
↑漢字一文字。(読みは三文字?)
「……何の話だ? 貴殿は出し抜けに一体何をいっている?」
根来は眉を潜めた。本当に何の話なのか。
地図の裏に書かれた図説は、シュール極まりなく、訳が分からない。
「ネーミングの法則をまとめてみたの。多分こうだと思うけど……」
千歳はいつもと同じく無表情で淡々としているが、このおかしな図は彼女なりに真剣に考え
た結果らしい。
「相違はない。だが」
「何か?」
「貴殿は頭の使いどころを間違っている」
千歳はきょとんとした。
どこをどう間違っているのか。それが分からない。
そもそも先に頭を捻り、技に名づけているのは根来や防人なのだ。
その筋からいえば、いま千歳に間違いといった根来も、頭の使いどころを間違っている。
というような思惑が千歳を過ぎったが、しかしそれをいちいち口に上らせたりはしない。
沈思黙考。間違っていれば、修正すべく考えるのみなのだ。
(名づける必要がどこかにある筈── 例えばハンマー投げのように、叫ぶコトで威力を上げ
たり……でもそうだとしたら、さっきの重・竹箆仕置きの発動後に戦士・根来が名前をいった
コトが説明できない。もしかすると、持ち技を区別する為に名前を付けているの? 技の名前
と特徴を結びつけて把握しておけば、咄嗟の時に、どの技を出すかで混乱するのを防げる…
とすればそれは戦士・根来や防人君自身の問題で、私が考える必要がないのも納得が──)
すごく考え込む千歳の前で、根来はまた嘆息した。
今度は「嘆く」意味での嘆息だ。
どうやら千歳の思考は職業病じみている部分があり、かつ、深刻な域に達しつつあるらしい。
根来はなだめるように呟いた。
「そういうモノなのだ。私も防人戦士長も」
「何故ならカッコいいから?」
千歳は防人得意のフレーズをぼんやりと唱えてみるものの、技名にこもったロマンまでは理
解できない。
「それにしても、こたえるな」
根来は鼻をさすると、独り言のように呟いた。
彼の鼻の良さを先ほど目の当たりにした千歳は、同情するように呟いた。
「ここは空気が澱んでいるから、あなたにとっては大変かも知れないわね」
ゴミの山やミイラを見ながら答える千歳に、一瞬、何かいいたげな目線が刺さった。
根来、独り言ゆえに返答はいらぬといいたいのか、それとも他のコトをいいたいのか。
それはさておき。
早く男──鷲尾を手当てしてやれよお前ら。
とりあえずその後、千歳は根来ともども下山した。
根来は鷲尾をひょいと抱えて、終始無言で山道を歩き、千歳も同じように無言で歩いた。
そして道路に出ると、皆神警察署に電話をかけて覆面パトカーを一台手配した。
ホムンクルスを刺激しない為、また、騒ぎになって千歳たちの素顔を見られぬ為だ。
やがて来た車に千歳と鷲尾は乗り込み、根来はその場に残った。
山から尾行対象の家に向かい、しばらく監視するらしい。
千歳も特に異存は無く、そのまま警察署に行き鷲尾を預け、ナイフの鑑定を依頼した。
というコトで、捜査一日目が終わった。
…………
いや──…
夜がすっかり更けた頃、「巣」がある広場に一つの影が来訪した。
虫たちの声がピタリとやみ、夜の空白めいた静寂があたりを支配する。
その影は、懐中電灯を片手に何かを探し回っている。
やがてとある場所で、オレンジの輪がぴたりと立ち止まった。
衣擦れの音がした。どうやら影はしゃがみこんだようだ。
光に照らされたものめがけて、手が伸びる。
シークレットトレイル。
一見、無敵に思える武装錬金だが、敗北したコトもある。
千歳が聞き及んでいる限りでは、この夏、根来は中村剛太という少年に敗北を喫したらしい。
それも正面きって破れたのではなく、シークレットトレイルの特性を衝かれて。
剛太の編み出した攻略法。
それは「自分の武装錬金に、根来の血(DNA)を付着させる」コト。
つまり、他人の武器であろうと、ひいては他人であろうとも、根来のDNAを身に着けていれば
シークレットトレイルの作り出す亜空間に侵入できる。
投擲武器につければ、剛太がしたように亜空間に潜む根来を狙い撃つコトも可能だ。
それと拾い上げられたものとの関連は、影の主にしか分からない。
やがて懐中電灯の光が消え、影もかき消え、虫たちは再び鳴き始めた。
森に立ち込める暑気が冷ややかなる風に払われて、ぶきみな気配を醸し出す──…
色々とありがとうございます。
武装錬金の作品的なピークは5巻だと思いますが、再殺編の方が好きなキャラは多いです。
でも実をいうとLXE編にも、どうしても描きたいキャラが二人いるんですが……色々な問題がありまして。
※香典袋とグランダー武蔵については、いずれ。
ふら〜りさん
自分的には「クールだけど情感を内に秘めてる」ってイメージで千歳を描いてますので、これ位の
乙女心はあってもいいかなぁと。ちょっとずつ距離が狭まってく感じは、いいですねやっぱり。この
二人については恋愛感情ではなく、一種の乾いた信頼関係こそふさわしいかと。
>>428さん
ただ、足じゃなくふくらはぎとか膝裏の静脈の透け具合を描くべ……もとい、
根来の前髪は、予定ではもっと違う形となって描かれると思います。お楽しみに。それと、前回から
の状況は「千歳が汗をかいていて」「嗅覚も鋭いらしい根来が傍にいる」訳です。根来も大変ですね。
>>435さん
色気に関しては、原作の3割増しかも。しかし、彼女の佇まいの艶やかさと、膝裏の気だるさたるや。
根来に関しても、.原作の3割増しかも。しかし、彼のマフラーに隠された細い首の白さと滑らかさたるや。
……一体何を見ている! アホか俺は! という話ですね。容貌についてはイメージ検索にて。
>>439さん
その検索結果は大好きです。根来についても同じく。
>>440さん
こちらこそ気に入って頂けると、本当に嬉しいです。
根来は、やっぱ格好よいですよね。だから前々回での刺突の構えはもっと細かく描きたかった所です。
夜の森でマフラーをたなびかせつつ剣を構える根来、原作なら凄い燃え絵のはず!
>>441さん
そこからブラボー戦以降は仕方ないとしか…… ちなみに、千歳の役割は、9巻の根来プロ
フィールにあった「色々解説してくれるメガネ君」を想定してます。とにかく、根来は魅力立て
たいんですが、「非情な戦闘マシーン」よりは「おしゃべりな出歯亀」って印象なのでどうなるコトやら。
ハイデッカさん
艶っぽい展開から一転、いよいよ最強の敵と思しき方の登場ですね。
信長といえば敦盛。ジャンヌに慶次が歌ったのも敦盛。まさに表裏一体、光と闇の神子同士! こういう対
比描写は燃えです。しかし信長の戦闘力ってどれぐらいでしょう。某鬼武者じゃ、巨大化したりしてましたが……
29 :
十二話「偽りの天才」:2006/01/30(月) 02:06:00 ID:DpMluwff0
人が一人死ぬ度に、星が一つ増え、空に輝くと言う。
これは本当だろうか?
邪悪な存在の呼ぶ支配と混沌、悲劇と狂気。
それによって齎される人々の死、もしこの話が本当ならば目に見えない程遠くで星が増えている事になる。
何故なら夜空が星で埋まってしまうからだ。
だが、もし邪悪を止めている者が居たら?
大きな邪悪を止め、人々が恐怖の内に死ぬ事を良しとせず、戦い続けている者がいたら。
星は、今のまま穏やかに増え、そして人が生まれる度に消失していくのであろう。
そして、邪悪を止める鍵を握る者、それは―――「北斗」
〜パブ・地下への階段前〜
「おあったぁ!」
強烈な上段回し蹴りが空を斬る、武器でガードしても無駄な事がさっきのやり取りで分かる。
今まで戦って来た全ての経験を総動員し、この見たことも無い凶悪な体術への対策を練る。
分かった事は一つ、この男の攻撃は全て一呼吸の間に行われている。
一撃必殺の拳と言うだけあって一呼吸で複数から単体の敵まで一瞬で潰しかねない動きを見せる。
だがそこに一瞬の隙がある。
初呼吸で連続攻撃を出しステップで下がり酸素を補充、後は自分から攻めるなりカウンターを狙うなり、
自由自在の戦場に置ける拳。
この酸素を補充する時を狙うのだが拳法家特有の肺活量は半端ではない。
まして相手は「超」がつく程の達人、武術の中に呼吸法を取り入れているため1秒も使わず酸素が体に廻っている。
無敵の拳に対抗するにはこの一秒にも満たない時間を制する事だ。
もしできなかったら?
そんな考えは頭には無い、勝つ事だけを考える。
30 :
十二話「偽りの天才」:2006/01/30(月) 02:06:52 ID:DpMluwff0
男の攻撃が終わる。
ここを見逃したら潰されるのを待つのみ。
満身創痍の体に何かが駆け巡る。
「閃いたぁ!」
窮地を脱出する新・必殺技。
高速で相手に駆け寄り斧を振り上げる。だが、
「岩山両斬波!」
一瞬で呼吸を済ませるケンシロウ、全ての呼気を吐き出し放つ必殺の一撃がホークを断つ。
しかし、その拳は空を切り裂きスゥッと抜けてしまった。
唖然とする間も無く斬撃が飛び、その場に倒れ込むケンシロウ。
「見たか!新技、夜叉横断!」
残像を残しつつ3回斬りつける斧技の中でも上位に位置するトリックスタイルの技。
この場合は初発を囮に二段目、三段目を叩き込んだのだ。
攻撃の終りを感じてから攻撃しても遅い、ならばカウンターを誘い呼気を使わせ、そこを狙う。
勝利を確信し、階段を降りようとするホーク、だが、男の死体が動く。
それに気がつかないホークへと、死の星が煌いた。
顔を上げ、光無き目でホークを見つめ、咆哮を上げ襲い掛かる。
「逃さん・・・死ねぇぇぇ!」
男は確かに倒れていた、致死量の血を流して。
それがまた動き出したのだ、顔は豹変し、その目に生気は宿っていない。
生者を喰らう魑魅魍魎の目。
振り向くと共に毒牙が迫る。
その時、一筋の闘気の筋が駆け抜けた。
「言っただろう、貴様は長く生き過ぎた。」
吹き飛ぶケンシロウ。
声のした方へ目を向けると七つの鮮やかな光を放つ傷を胸に持った男が現れた。
今吹き飛ばされたケンシロウのような微かな輝きではない。
大きく、力強く、それでいて雄大で、何よりも悲しい光。
「そこにいる男は北斗神拳伝承者ケンシロウではない。」
31 :
十二話「偽りの天才」:2006/01/30(月) 02:07:41 ID:DpMluwff0
現れた傷の男は偽ケンシロウの素性を話し始めた。
「邪の力で甦った亡者、己の才に溺れ、思い上がった挙句に北斗の名を汚したこの世の汚物。」
足音を立てる事無くゆっくり近づいてくる、それは相当な修練を積んだ暗殺者の証。
「今一度、あの世へ叩き落してやる!アミバ!」
ゆっくりと立ち上がるアミバ、口元は狂気の笑みで歪んでいる。
胸に傷を持った男へ目を向け、憎悪に満ちた声で語りかける。
「見つけたぞケンシロウ・・・よくもこの天才を粉々にしてくれたなぁ?んん?」
折れ曲がった足を再生させながらケンシロウへと歩み寄るアミバ。
どうやらアミバを吹き飛ばしたこの七つ傷の男が本物のケンシロウの様だ。
アミバは更に狂気を増しながらケンシロウに怨みを募らせる。
「あの時、貴様がこの天才のパワーアップを恐れて目の不調を起こす秘孔を突いていたのだろう・・・?
砕け散るのは貴様の方だったというのに・・・許さんぞ!凡人が天才に勝てる訳ねぇんだぁ!」
キレるアミバ、笑みの消えた顔に残るのは狂気しかなかった。
怒りと憎悪に満ちた闘気を流すように動くケンシロウ、まるで清水のように穏やかに。
「お前にそんな秘孔を使うまでも無い、貴様は自ら致命の秘孔を突いたのだ。」
冷たく言い放つケンシロウ、どうやら悪党に情けをかけるタイプでは無い様だ。
一片の甘さも見せない、だが瞳に写る光は非情では無く悲哀であった。
「馬鹿な事を!俺は天才だ!そんな過ちを犯すはずが無い!今一度見せてやるぞ・・・
冥府の王の力で更に強靭となったこの肉体にアミバ流北斗神拳の新秘孔を使えばぁぁぁぁ!」
絶叫しながら自分の両脇を突くアミバ、見る見るうちに筋肉が膨れ上がる。
しかし、そこは隠れた人体急所の一つ、武術に精通した人間でないと正確に突く事はできない。
威力はアミバがホークに使った秘孔を遥かに上回り、ケンシロウレベルの達人が突けば100%即死するであろう箇所。
だがアミバもホークを追い詰める程の達人の中の達人、秘孔の最深部へ到達はしなかったが、正確に突く。
アミバの両腕が悲鳴を上げて軋んでいる。
本人も激痛で顔を歪める、だが、
「フフフ・・・これが地獄の底で手に入れた新しいアミバ流北斗神拳だぁ!」
両腕は生き残り、膨れ上がった筋肉も限界まで膨張して止まった。
32 :
十二話「偽りの天才」:2006/01/30(月) 02:08:15 ID:DpMluwff0
「冥府で貴様の戦いを極限まで研究し、アミバ流北斗神拳によって強化された俺が秘孔を突く。
この意味が分かるか?ケンシロウ。」
余裕を見せ付け笑みを取り戻すアミバ、筋肉の膨張に伴って闘気までもが膨れ上がる。
ハッキリと二人の闘気がお互いを潰そうと火花を散らしているのが見える。
互いに相手の初弾のカウンターを狙い動作を止め、オーラを体に収束させる。
間合いを徐々に詰める二人の達人。
一歩、また一歩、距離が縮まってきた。
後半歩の所で両者の動きが止まる。
互いに動かない、先手必勝とは言うがカウンター待ちの相手への先手を取るのは至難。
両者の闘気は既に万人の兵を屠る領域へと入った。
二人の時間が止まった様に動かない中、沈黙を破り話しかけるアミバ。
「この日を待っていた・・・暗い冥府で幾度と無く苦しみを味わい続けたのだ。
そしてその元凶の根源である貴様をこの手で殺す・・・至高の時だ。」
アミバの言葉に僅かな揺らぎも見せずケンシロウも話しかける。
「貴様の歪んだ拳では、俺は倒せん。」
噴出するアミバの闘気、決着をつける気になった様だ。
互いに半歩を踏み出し闘気で相手を威圧しながら殴り掛かる。
偶然にも両者の技は同じであった。
「「北斗千手壊拳!」」
二人の拳と拳がぶつかり合い、血を引いて軌跡を描く。
その軌跡は紅に染まり、拳の軌道、秘孔の位置の全てを表していた。
「おあったぁ!」
「とったぁ!」
最後の一撃で高速の踏み込みで相手の元居た位置に立つ両者。
無残に崩れ落ちたのは・・・北斗神拳正統伝承者、ケンシロウであった。
33 :
十二話「偽りの天才」:2006/01/30(月) 02:09:06 ID:DpMluwff0
お久しぶりの邪神です。
サボってる間に新人さん増えましたねぇ。
でも自分完結したのをまとめ読みするタイプなんでまだ読んでないです(0w0;)
現在進行してるSSでも読んでるのは一部だけ。
だって眠気が襲い掛かる時間にしかパソコンやらないんだもん・・・
まぁ本編。
ここに来てアミバ様登場。
え?全然意外じゃない?
これが俺の発想の限界さ(0w0)y−~~~
最終局面の感じは何と無く考えてあるんだけど
ずーーーーーっと先のお話な物で・・・
まぁちまちまやってきます。
ちなみになんでアミバが致命の秘孔を突いたのに死んでないかと言うと
〜冥府の王の力で更に強靭になった〜
とか言わせておいたんでまぁ大丈夫だったって事で一つ・・・
〜今日のロマサガ講座〜
なし ネタ切れた。つーか今回新しい土地いってないんで教える事ないです。質問あったら言ってください。
ここで答えます・・・
第四十八話「対決の時」
「―――始まったね」
ドラえもんが外を見ながら呟く。そこでは既に激しい戦いが繰り広げられていた。
異常な腕の長さが特徴的なロボット兵が、空を埋め尽くす程の数で攻め込んでくる。頭部の孔から射出されたレーザーが、
そこかしこを乱れ飛んでいる。
そして―――その向こう側に見える、巨大で分厚い雲の壁。
忘れもしない、ネオラピュタを守る<竜の巣>だ。
「こんな乱戦の中をまともには移動出来ないね。これを使おう―――<バリヤーポイント>!・・・のび太くん、リルル、
覚悟はいいね?」
「もちろん!今さら怖気づいてなんていられないよ!」
「わたしだって!みんな頑張ってるんだもの」
よし、と三人で頷きあう。そしてタケコプターと<台風の複眼>を身に着けて、アークエンジェルの外へと飛び出す。超上空
だけあって猛烈な風が襲うが、それをまるで感じない。
レーザーの嵐の中を進み、<竜の巣>へと突っ込む―――雲を抜けると、急激に視界が広がった。
「これが・・・<ネオラピュタ>か・・・!」
ネオラピュタの大地へと降り立った三人は、ぐるりと辺りを見回す。そこから見える景色は、まさに鋼鉄の要塞―――しかし、
よく見ると、元々は植物が生い茂る庭園だったようだ。あちこちに木々が生えていた痕跡がある。だがそれは、どれもこれも
無残に焼き払われてしまったようだ。黒く焼け焦げた痕や、木々の燃えカスだけが残されていた。
「恐らく・・・改造するのに邪魔だから、元からあった木を全部焼き払ったってとこだろうね」
「酷いことするなあ・・・ん?あれは―――!?」
そこには・・・一体のロボットがいた。身体に苔がびっしりと生えたそれは失われた庭園の世話役だったのか、今はもう存在
しない草花の手入れをする動作だけを延々と繰り返している。
―――彼もまた、ムスカの被害者だ。
リルルはそのロボットに近づき、手を触れた。同じロボットとして、彼をこのままにしてはおけなかったのだろうか。
その動きにロボットは反応した。花を手折るような仕草で何もない場所を探っている。花があればそれを手折って、リルルに
渡したかったのかもしれない。だがその手は、虚しく空を切るばかりだ。
リルルがそれに自分の手を重ねる。そして小さな子供に言い聞かせるように語り掛けた。
「もういいの。もういいのよ。もう・・・ゆっくりお休み」
「・・・・・・」
ロボットは、目と思しき部分をピカピカと光らせる。それは、一体何のためだったのだろう。それが最後だった。ロボットは
ゆっくりと動きを止めた。そのまま地面に倒れ付す。
「大丈夫・・・ムスカは、必ず倒すから・・・だから、お休み・・・」
ロボットであるリルルには、彼が何を思ったのか分かったのだろうか。最後にその苔だらけの身体をそっと撫でて、のび太たち
の元に戻った。
のび太は何も言わず、ただ顔を辛そうに伏せるが、今はそれにばかり気を取られている場合ではない。こうしている間にも、
外では仲間たちが激しい戦いを繰り広げているのだ。
焼かれた木々と草花と、それをいつまでも愛した哀しきロボットに心の中で手を合わせて、のび太たちはネオラピュタの奥へと
進んでいった―――!
「―――よし、のび太さんたちは無事に突入出来たみたいだな」
のび太たちが<竜の巣>へと入っていく所を確認して、ペコは一息つく。だが、すぐに気持ちを切り替えた。自分の周囲にも、
無数のロボット兵がひしめいているのだ。
アヌビスはそれを迎撃するために身構えた・・・その瞬間!
「ひゃーーーっはっはっは!どけどけどけどけどきやがれぇぇぇーーーっ!」
―――無数のロボットが全部、消し飛ばされた。文字通り、欠片も残さず消し飛んだのだ。
「・・・来たか」
<主の予感が当たったか。しかし、相変わらず無茶苦茶な力だ>
ペコもアヌビスも、それをあっさりと受け入れる。<奴>ならば、これくらい出来て当然だ。驚愕でも何でもない。
―――問題は、この恐るべき男に勝たねばならないということだ。
「ひゅーっ!久しぶりだなあ、王様よお・・・こんな雑魚と遊んでんじゃねえよ」
突如現れた闖入者が笑う。ラーメンを片手に、一見とぼけた人好きのする顔で笑う。
彼の名は―――USDマン。
「それじゃあお待ちかねの最終決戦・・・てか?もうあんまし引き伸ばすのも嫌だからよお―――いきなしこっちからはるばると
来てやったぜ。もうちょいと喜んでくれねえか?」
「悪いが、喜ぶ気なんてない。そして―――お前との戦いも、ここで終わる」
「あ、そう?やっとこ俺様に殺されてくれる気になったのかよ?」
<違うな―――全く違う。主はこう言っているのだ>
アヌビスが、その機械の瞳でUSDマンを睨み付ける。
<負けるのはお前で、勝つのは我々だ―――と、な>
「ああ、そうかい―――そりゃあ大した思い上がりだ」
USDマンは、つまらなそうに鼻を鳴らした。
「いいだろいいだろ。今回は俺も全力で行くぜ―――あっさり死んでくれるなよなぁ!」
ネオラピュタ総力戦、最初の戦い―――開幕!
投下完了、前回は前スレ486より。
>>1さん、スレ立て乙でした。
ネオラピュタ編では、どいつもこいつも大勝負。まさに総力戦になる予定です。
でもね、僕自身の筆力の問題だから、盛り上がるのは作者本人だけかも・・・。
次回は一気にペコとUSDマンの決着まで書きたいと思います。
レス番は全て前スレのもの。
>>サンダルさん
うーん、SS書くのって大変ですものね・・・だけど、是非ともまた書いて欲しいです。
頑張って下さい。
>>496 ムスカは割とネタキャラ扱いされてますからねw
>>498 USDマンとは、ここできっちり決着つきます。
>>499 既に前半は越してます、が・・・まだ中盤かな?ムスカ倒したら後半くらいです。
>>ふら〜りさん
マジで増えました、登場人物。最初はこんなに多くなる予定ではなかったんですが・・・
>邪神氏
アミバだったんだ・・・全然気づかなかった(ぉ
今回はやっぱりトキではなく、偽ケンシロウ風の格好をしていたんですか?
サマサ!サマサ!はいはい!サマサ!
scene20 玉崎真吾&夕凪理沙ペア
玉崎真吾と夕凪理沙は、各所へと散って行く他のペアを尻目に
誰もいなくなったホールで、ゆったりと淹れたての紅茶を啜っていた。
「本当によかったっすよ。理沙ちゃんがパートナーで。
いやー、あの時の安堵感と言ったらなかったっす。
流石に、女の子二人は犯人とは思えないっすからね。
大丈夫。何かあっても、お兄さんが守ってあげるっすから……」
「は、はあ……」
先ほどから、玉崎が一方的に喋っていた。夕凪はそれに時々、相槌を返すだけだ。
「あのー……」
玉崎のマシンガン・トークが一段落ついた頃、夕凪は話を切り出した。
「三号室、行きませんか? ちょっと調べたい事があるんです」
「さささ、三号室って、香坂まどかさんが殺された部屋じゃないっすか!? 多分、遺体もそのままっすよ?」
「はい」
「いや『はい』って……! 行くんすか!? 行くんすかっ!?
べ、別に現場を見るのが怖いとかそういうことじゃないっすよ?
ただ、ゲーム終了時刻までどちらかの部屋に籠って、交代で見張りをしてた方が安全じゃないんすか?」
「もしかすると、犯人の残した手掛かりが掴めるかもしれないんです。
それにもし、危険だったとしても、玉崎さんが守ってくれます……ですよね?」
言いながら、夕凪は悪戯っぽく微笑む。どうやら玉崎より、一枚上手らしかった。
そう言われてしまったからには、玉崎も断るに断れない。
「ま、まあそうっすね! 守るっすからね! 行くっすよ、うん……」
喜びと悲しみを足して二で割ったような複雑な表情をしながらも、玉崎は了承した。
中央廊下から三号室に向かい、扉を開く。
部屋の中は、ホールでカイジが説明していた通りだった。
受話器は床に落ち、香坂まどかは電話台に突っ伏したまま事切れ……
そして、内線電話の着信履歴は午前零時を記録していた。
「このままっていうのも、何だかかわいそうですよね……
せめて、ベッドに寝かせておいてあげませんか?」
身体を不自然な格好に折り曲げたままの香坂の死体を見て、夕凪はそんな事を言う。
「そうっすね……」
沈痛な面持ちで俯く夕凪をちら、と盗み見て、玉崎も頷いた。
室内の温度が低かったせいか、幸いまだ死後硬直は始まって間もなかった。
「私は頭の方を持ちますから、玉崎さんは足の方をお願いします」
二人で香坂の死体を持ち上げ、ベッドに横たえる。
その身体は、魂を失って抜け殻になってしまったように軽かった。
両手を胸元に置く。指先はもう完全に硬直してしまっていたから、腕は組めない。
夕凪は、その指先に『何か』が握られているのを見つけた。
「これは……」
「何か見つけたんっすか?」
「あ、何でもないです」
夕凪は慌てたように香坂の遺体の胸元までシーツをかけ『何か』を隠した。
そして、外した白い枕カバーを、布代わりに顔にかける。と、その時。
「アーモンド」
夕凪が、ぽつりと呟いた。
「え?」
「今、アーモンドの香りがしたような気がしたんです」
「アーモンドっすか?」
「目立った外傷が無い、というだけで、今まで決め手に欠けましたが……
もしかすると、香坂さんの死因は……青酸系の毒物かもしれません」
「ど、どういうことっすか、それは?」
「はい。人間が青酸化合物を摂取してしまうと
胃酸と反応して、シアン化水素が発生します……
そのシアン化水素はビター・アーモンド(苦扁桃)の香りがするそうです」
「な、なるほど、そういうことっすか。
それにしても、理沙ちゃん、何でそんなこと知ってるんすか……?」
「推理小説の受け売りですよ」
夕凪はそう言って、薄く笑った。
scene21 小此木秀平&只野文男ペア
「女と組めなかったのは、俺としても誠に遺憾だが……
これも運命だ。いつまでも拗ねてないで、いい加減諦めようぜ」
五号室。椅子に座り、先ほどからずっと黙って下を向いている只野に、小此木が声をかける。
「そ、そんなつもりじゃあ……私は、これからどうなるのか不安でですね……!」
「そんなつもりって、どんなつもりだ?」
小此木は、気味の悪い薄笑いを浮かべる。
「可愛い女の肩を抱いて一夜を過ごしたい……とか
そんな、単純な下心を抜きにしても、だ。
今回は男より女といた方がいいに決まってる。
これは、命に関わる問題だからな。うん」
「命……?」
「そうだ。猟奇殺人犯だとか、サイコパスだとか……
そんなのは九割九分、男だからな。
人の攻撃衝動っていうのは、男性ホルモンと密接な関わりがある。
人が人を殺す動機は数あれど……突き詰めれば、テストステロンにたどり着く。
例えば、アメリカの有名な殺人鬼、テッド・バンディなんかは――」
どんどん、話があらぬ方向に脱線していく。
そう言えば小此木は、昨日の夕食の時も
このペンション・シュプールで起きた猟奇事件を、嬉々として語っていた。
丁度……今のように、どこか恍惚とした薄笑いを浮かべながら。
そんな小此木の様子を見て、只野の表情は益々色を失ってゆく。
「話が逸れたな。まあいい。ともかく、お互い不本意ながらも
ペア――黒川曰く『運命共同体』となってしまったわけだ。
これからは、多少腹を割って話さなけりゃならない。そう思わないか?」
小此木はそう言って、只野の前にどかりと座りこみ、胡坐を組む。
「正直に答えてくれ。俺の事……犯人だと思っているか?」
突然の小此木の質問。只野は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、目をしばたたかせた。
「そんなの、わからない……わかりませんよ。ただ」
「ただ?」
「確かにあの二人――夕凪理沙さんと双葉夕実さんは
私も犯人とは思えない。思いたくもない……
でも、このゲームの主催者はきっと狡猾です。
参加者を油断させる為に、あえて少女を犯人役に抜擢したのかもしれないし……
あからさまに悪態をつく、旗元さんや、あなたのような人かもしれない。
考えれば考えるほど、犯人の掌で踊らされているようにも思えてきて……
ですから、私はですね、何もかもわからない……!」
只野は、頭を抱えて首を振る。
「ま、まあ落ち着けよ。あんたの考えはよくわかった。
俺としては、だ。少なくとも、あんたは犯人じゃないと思ってる」
「はぁ。そうですか」
只野は、力の抜けた笑みを浮かべる。
「ああ。根拠はいたって単純明快。
テーブルにガンガン頭ぶっつける、あの取り乱しよう。
あれが犯人による演技だとしたら、アカデミー賞ものだ。
人殺しなんかやってないで、俳優になることを強く勧めるね」
小此木は、思い出したようにくっくっと笑う。
「あれは……何分、こんな経験は初めてなもので」
「おいおい。こんな異常事態、普通何度も経験するもんじゃないだろ……」
ナンバー一・夕凪理沙(17)
容姿……身長が低く、子供っぽい。ポニーテール。
性格……一見積極的。努めて明るく振舞おうとしている。
ナンバー二・笠間潤(26)
容姿……灰色のベストに紺のジャケット。ズボンの腰辺りに小さなクマのぬいぐるみ。
なかなかに端整な顔立ち。夕凪曰く「かっこいいかも」
性格……皮肉屋。物事を斜に構えて見る傾向あり。
ナンバー三・香坂まどか(26)
容姿……吊り目。美人だが、きつい印象。
性格……勝気で、負けず嫌い。
ナンバー四・伊藤開司(20代前半)
容姿……原作準拠。
性格……原作準拠のつもり。
ナンバー五・小此木秀平(20)
容姿……童顔。無造作ヘアー、グレーのスーツ。
性格……劣等感が強く、粘着質。
ナンバー六・玉崎真吾(30)
容姿……身長が高く、筋肉質な大男。
性格……大雑把なお調子者。口癖は「〜っす」
ナンバー七・旗元太(34)
容姿……見た目温和そうな中年男性。
性格……誰彼構わず噛み付く。攻撃的。
ナンバー八・双葉夕実(16)
容姿……日本人形のような、整った顔立ち。ロングヘア。
性格……声が小さく、おとなしい。時折感情が読めない。
ナンバー九・只野文男(29)
容姿……良くも悪くも、一般人。
性格……いつもおどおどしている小心者。
ナンバー十・黒川時子(24)
容姿……中性的な顔立ち。長髪。
性格……沈着冷静だが、打たれ弱い。
毎度ありがとうございます。前回投稿は前スレ459です。
昨日、立ち寄った書店で矢野竜王「時限絶命マンション」を購入しました。
書評等読む限り、微妙に不評のようですが、私はこういうの大好きです……
ゲーム性に溢れる展開、とでも言いましょうか。
・解説
前スレ465-466さん、解説の補足ありがとうございます。
詰めが甘いばかりに、何度も修正する羽目になって申し訳ないっす。
明言されていなかった年齢設定を解説に加えておきました。
・まとめサイト様
二章の5ですが、scene17 伊藤開司【九】からの続きとしておいて頂けると有難いです。
兵藤視点だと意味が通じなくなってしまいますので。
お忙しい所手間をおかけします……
>見てた人氏
早速の修正、お疲れ様です。大半のメンバーが20代の中、女の子二人、若いですね・・・。
しかし本編で只野が言う様に誰もが犯人に見えてきますね。特にあまり描写の無い分、
双葉夕実は怪しくみえたり・・・あまり考えたくないけど・・・。
そして夕凪理沙の見つけた物はなんだったのか・・・?読むそばから続きが気になる・・・。
48 :
作者の都合により名無しです:2006/01/30(月) 19:56:29 ID:bOPIjm2J0
1日見なかったらいっぱい来てる。
嬉しいけど、出来れば散らしてほしいなあw
>スターダスト様
根来は千歳の越えられない壁としてそびえたってますね。
目標として、そしてパートナーとしてこれ異常ない存在かも。
でも、クールな根来も必殺技に名前付ける所は男の子ですね。
>邪神様(お久しぶりです)
おお、ケンシロウ相手に善戦しているわいと思ったら
アミバでしたか。タイトルから少し創造できましたけどw
でも、なんかケンシロウ最後に倒されちゃいましたね。
パワーアップして現れたのかな、アミバ?
>サマサ様
いきなりの頂上対決ですね。出し惜しみしませんな
USDマンは無敵にして最強のまま退場して欲しい気がします。
無様な姿は見たくないなあ。小池さん好きだし。
段々、敵の強さが増していきますなあ。
>見てた人様
最初はヒロインぽい夕凪を口説きモードでしたけど
人間の出来が違いますね。勝負に賭ける意気込みも違う。
夕凪、化学知識も深いなあ。恐ろしい。
でも、夕凪だけでなく双葉も高校生だったのか。
皆さんお疲れ様です。相変わらず日曜深夜から月曜に集中しますねw
>ネゴロ
必殺技の考察を論理的?にしてますね、千歳。
飛び抜けた観察眼をそんなところに活用しなくてもいいのに。
でも、必殺技コマンドかとパッと見思いました。
>その名はキャプテン
いや、急にケンシロウが出てきたからビックリしたんですけど
正体はアミバでしたか。本物も出てきましたけど。
北斗勢は強力過ぎて、ロマサガやテイルズ勢の影が薄くなりそう。
>超機神大戦
USDマンとの対戦は激しくなりそうですけど
あくまで主役はのび太なのでやはりムスカ戦のが俺は気になりますね。
ムスカらしく散って欲しいと思います。
>カマイタチ
やはり夕凪はカイジともう一人の主役なんでしょうか。能力高杉。
しかし、メンバーは個性溢れてますね。みんな怪しい。
作品の至る所から推理物の造詣の深さが感じられます。
>サマサさん
総力戦最初の戦いってことは、このレベルの戦いが何回もあるってことですか?
楽しみだけど、書くほうは大変そうw
まずはUSDマンとの決着を楽しみにしてます。
>見てた人さん
青酸系はアーモンドの匂いがするってのは俺も聞いたことあるな。
しかし、この人たちがどんどん消えるのか・・・。
最後は何人くらい残るんでしょう?
カマイタチをなぞらえるなら、主人公(カイジ)、ヒロイン、殺人犯の3人だけ残るのではないかと。
好きなスターダストさんと邪神さんが連続して来てて嬉しいなあ。
千歳萌え。邪神さんお帰り。
気づけば、砂浜に立っていた。
週三回、習慣となった神心会本部でのトレーニング。色々な人と出会え、もうすぐ初段
も取れる。つまるところ、彼女は充実していた。
今、神心会はニュースでも話題となっている脱獄囚らと揉めているらしいが、一般人も
同然である彼女にはあまり関係がない。ただ、知り合いがだれも傷つかないでくれと祈る
のみだ。
今日も一時間半に及ぶ稽古を終え、寄り道もせずに家路につくつもりであった。
──そう、あの男さえ現れなければ。
神心会本部ビルから自宅まで、およそ自転車で十五分。
大部分はにぎやかなところを通るが、ほんの五十メートル、まるで異次元に迷い込んだ
ように街灯も人気もない林道があった。夜ともなれば、さながらブラックで彩られた生と
死とをつなぐ抜け道のような雰囲気をかもし出す。
林道を通らなくても家に着くルートはいくらでもあるけれども、どうしても遠回りにな
ってしまう。
なのでいつも、彼女は全力疾走でここを通り抜けていた。左右にある林から生じる得体
も知れぬ視線に、自らが晒されているような錯覚と戦いながら。
むろん、今日も例外なく彼女はペダルを全速でこぐ。自転車についた薄れがちなランプ
では気休めにもならない。
半分を過ぎた。あと二十メートル強。明りが灯った向こう側へ到達すれば、もう安心だ。
比較的栄えた住宅街に出るし、近くにはコンビニもある。
あと少し、あと少し。そう思った矢先だった。
「ちょっとお待ちください。お嬢さん」
「えっ」と、彼女は反射的に自転車のブレーキをかけてしまった。
呼び止められれば、一応は立ち止まる。文化人としての常識が、かえって彼女を危険な
領域へと導いた。
こんな暗がりで人を待ち伏せているなど、すでに尋常ではない。身の危険を感じ取った
彼女は、再発進するためにペダルへ足をかける。だが、すでに声の主は行動に移っていた。
ちょうど自転車の進行方向を妨害するように、立ち塞がる一人の男。
陰部を除き、ほぼ全裸。神心会にいる黒帯たち以上の体躯。まだ目が暗さに順応してお
らず、これ以上の情報は掴み取れない。
「な、な、なんですか……」どもりながらも彼女は、気丈にふるまう。
問いには答えず、男は沈黙を守る。
仮にも天下の神心会で、女性では数少ない黒帯寸前にある身。少数ならば悪漢とて撃退
する力はあるつもりだった。だが、眼前に立ちはだかる男はまさしく別格──彼女の心は
へし折れた。
「私を、どうするつもり……?」
「君でいいかな」
「君で、いい?」
「武を志す者には己だけでなく、不当な暴力に晒された弱者を守る義務があるということ
だ」
理解不能な言葉を次々に口走る男。ずいと、巨大な掌が彼女に伸びる。
この時点で、彼女の日常世界での記憶は途絶えた。
こうして脈絡なく、彼女は砂浜に飛ばされた。
空と大海を分かつ、真一文字に果てしなく広がる水平線。陸どころか、船ひとつとして
肉眼には映らない。
砂浜よりも内陸部には、これまたどれほどの面積かも仮定すらつかぬ密林が生い茂って
いる。猛獣、毒草、毒虫、疫病──密林に対するマイナスイメージが脳裏をかすめる。
もし、ブレーキをかけずに突っ走っていれば、いや、最初から逃れることなど不可能だ
ったのでは──今さらしても無意味な考察を、延々とくり返す。
もう、助からないんだ。
「い、いやよ……いや」へなへなと座り込む女。
平穏無事な日本で、多少の波風はあれどのんきに暮らしていた彼女が、サバイバル術に
長けているはずがなく。
動物に喰われるか、飢えに耐えかね毒に溺れるか、あるいは熱病にうめき苦しむか。
想像できる末路は悲惨な「死」のみ。
「だれか助けて……」本能から、彼女は虚空に助けを乞う。
すると密林から、荒々しい歓迎が轟いた。
「だれだァ、てめぇは! 新手かッ?!」
「きゃっ」
びっくりして振り向くと、立っていたのは先ほどとはまた異なる一人の男。至るところ
に乾いた血が付着したシャツとズボン。首後ろまでかかる長髪に、野蛮な目鼻立ちを敷き
詰めた細い輪郭。
並みの女性ならば、卒倒してもおかしくない第一次接触であった。
だが、彼女は知っていた。ジャングルから現れた汗を滴らせた蛮人の正体を。
「かっ……加藤先輩ですか?」
「てっ、てめぇ、なんで俺を……。それに、“先輩”ってのはどういう意味だ」
「はい、私は神心会女子部に通っている者です」
「な、なんだと?! でも、どうやってここへ来たんだ」
「私にも分かりません。家に帰る途中、変な男と出会って……気がついたらここに……」
加藤は「変な男」とやらが、武神本人か、あるいは彼の手の者だと直感した。
「とにかく、まぁ……詳しい話はあとだ。ところで、名は?」
「はい、井上といいます」
加藤と井上。同じ団体に属しながらも面識などまるでなかった二人が、運命ともいうべ
き邂逅を遂げた。
第二部開始&十一日目開始です。
よろしくお願いします。
一月は私にとって本当に怒涛の月でした……。
バキ界最高の美少女井上さんキタァ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━!!
いや、最高の美少女はこ(ry
60 :
作者の都合により名無しです:2006/01/31(火) 14:12:58 ID:KVTgbmWu0
うわ、全然一部と趣が違う。まさかこのSSに女が出てくるとは。
しかも、登場数は数コマしかないのに
バキファンに人気最高の井上さん。
どうなるか分かりませんが、井上さんを殺さないで
井上さんは確かに数コマしか出てないのに、
バキでヒロイン扱いされてる不思議なキャラだな。下の名前って原作で出たっけ?
しかしまさか井上さんが出演するとは。これからバキSAGA化?
>>61 やめろ、あれはトラウマなんだ・・・orz
63 :
ふら〜り:2006/02/01(水) 00:14:30 ID:AN6VDz8z0
>>サンダルさん
レベル、充分足りてたと思うのですが残念。もし短編の研究にまとめサイトをご覧に
なるなら、現役職人さんのは無論、長編カテゴリの「バキの奇妙な物語」をお忘れずに。
>>スターダストさん
>根来との関係はそういう形でいい筈だ、と千歳は思う。
あのさぁ千歳ちゃん? その辺の理論はもう「旦那を立てる良妻賢母」の域に達してるぞ。
技名にコダわる男、いや漢の浪漫は解せずとも、人の技は解説するその補佐っぷり。稀に
軽いボケまでこなし、正ヒロインとして充分魅力的で。……根来が幸せ者という結論かっ。
>>邪神さん(おひさですっ!)
ふぇ? あのケンシロウが? と思ったらアミバだったので安心。と思ったら最後でまた
引っくり返されましたな。アミバは描きようによってヘタレでも極強でもそれなりに納得
できるキャラですが、今回は両方が出てましたね。次回、馬脚を現すか本領を見せるか?
>>サマサさん
ごめんリルル。USDマンの声を聞いた途端、前半部は頭から飛んだ。それぐらい待って
ましたよ、本作開幕時から引っ張られ繰り返された因縁の対決! あぁでも次回で終わっ
てしまうのか。残念だけど読みたいペコアヌの強さと活躍、そして決着。楽しみですっ!
>>見てた人さん
このゲームのルール故の特異性が、どんどん湧いて来ますねー。例えば手がかりっぽい物
を見つけて、それを隠す行為。他の探偵に渡してたまるかなのか、犯人に悟られないよう
入手せねばなのか、単に犯人自身の証拠隠滅か。モノローグでも判別し辛そうですこれ。
>>サナダムシさん
考えうる限りの、いや全く考えなど及ばなかった急展開。まさかこの作品にヒロイン登場
とは。男臭いどころではない、人間の匂い自体が希薄(一人だけ血生臭い)なこの作品に。
並の物語なら、最終的に片方が死のうとも形の上では絶対に恋仲になるシチュ……さて?
64 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 05:57:35 ID:8qCeSbx60
第九話 虎と武芸者
黒い閨の中に、男が一人立っている。
目つきは鷹のように鋭い。武士の嗜みである月代(さかやき)を綺麗に切り揃え、
鼻の下の髭は高貴さすら感じさせる。が、その高貴さの源は冷酷から香っている。
男は、己の両手を開き見入っていた。どくどくと生の鼓動を感じる。命の血流が分かる。
確かに俺は生きている。生き返ったのか? 現世に、黄泉帰ったのか?
いや、生き返っただけではない。何かが違う。自分の中に、以前とは違う力を感じる。
禍々しくも圧倒的な、溢れ出す瘴気が体中に滾(たぎ)っている。
(目覚めたか、我が傀儡、我の生み出し最高の傑作、第六天魔王よ)
男の脳裏で静かに声が響いた。だが静かだが、その声は何処までも冷たい。
何奴、とだけ男は応えた。震えも怯えも無い。その声は嬉しそうに言った。
(フム、流石に人でありながら魔王と呼ばれし男。豪胆極まるわ)
冷たい声が哭う。が、男は不快そうに吐き捨てる。
「俺を黄泉帰らせたのは貴様か。礼は言わん。だが何故、俺をこの世に呼び戻した?」
(騒乱)
「騒乱、だと? 意味が分からんな。それに貴様は何者だ」
男は退屈そうにその場にどっかりと座り込む。声が更に大きく響き渡る。
(私は魔。原始より、人の世の始まりよりこの世の闇を支配しせし者。
ある人間は私を闇と呼び、鬼と呼び、サタンと呼ぶ)
「魑魅魍魎の類か。他愛も無い。それより、ここには西洋酒(ワイン)も無いのか」
(くくく。人間の分際でこの私に同等の口を利くとは。それでこそ、織田 信長よ)
信長の眦(まなじり)がピクリ、と動く。そして急に口調が変わった。
「たわけっ。魔だか鬼だか知らんが、この信長に上から口を利くような真似をするな」
(ほう。私の人形の分際でよくぞ吼える。気に入った、お前には私の力をくれてやる。
人には過ぎた力をな。その力で騒乱を起こす。これより先、人の世に安寧は無い。
ミカエルの神子を殺し、魔の時代を人の世に造る。お前はその世の魔王となれ、信長)
65 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 05:58:29 ID:8qCeSbx60
信長の脳裏の声がしばし途切れる。サタンは懐柔するように優しく言った。
(お前は王に相応しい。私の魔力を受け入れる事により、お前は永遠の命を得た。
比叡山の焼き討ちなど、比較にならぬ程の虐殺を永久に楽しめるぞ。
永遠の王として、私とともにこの世を統べるのだ。暴虐と混沌の上からな)
信長は薄く笑った。サタンはそれを受諾と受け取ったが、信長の答は違っていた。
「何をいっとりゃーす、おみゃーさんは」
(な、何?)
「天下に信長はただ一人。俺の肉体を支配するも俺一人。貴様の出番はこれまでよ。
余を生き返らせた功、褒美を取らす。このまま安らかに消えるが良い!」
(き、貴様、たかだか人間の分際で、原始よりの闇の覇者の私をっ)
信長の肉体の瘴気が暴走し始める。サタンが信長の中で暴れ狂っているのだ。
信長の目は血走り、肉体は痙攣を起こしている。が、その顔は笑っている。
「大したもんだがや、このどえりゃあ力は。もういい、力だけ残して消えやあ!」
瘴気が信長の中に収まっていく。サタンの意識が信長の意識に食われ始めた。
(ば、馬鹿な、に、人間の分際で、こ、この私を、喰らう、だと…)
信長の肉体の暴走が収まっていく。信長の器がサタンの意識を完全に喰らい終えた。
(に、人間、い、いや、織田 信長とは、こ、これほどまでの)
絶叫のうちにサタンの意識は信長のうちへ消えていく。後は信長の意志だけが残った。
「たわけが。覇王の意志は何物にも分かてぬからこそ、覇王なのだ」
うそぶくと信長はゆっくりと始動する。サタンの知識が彼の頭脳に横溢してた。
「この時代この国の天下布武の障害。ジャンヌ・ダルク。そして前田 慶次か。
…慶次? ああ、又佐(前田 利家)の甥の傾奇者か。奇縁だな」
闇が拓かれていく。まるで最強最後の魔、織田 信長を恐れるかのように。
信長は大きく一歩を踏みしめた。
66 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 05:59:24 ID:8qCeSbx60
天下無双の豪剣の使い手、宮本 武蔵の手がぴくりとも動かない。
まるで金縛りにあったかのように、彼の剣はジャンヌの頭上数センチの上で止まっている。
(何故だ、これではまるで、案山子(かかし)ではないか)
額に汗が浮かぶ。完全に刃圏の範囲内にいる小娘を、どうしても切り伏せる事が出来ない。
「斬らないのですか」
清浄な声が響く。が、ジャンヌのその清浄さが、更に武蔵の体を縛る。
「何故、そんな目でワシを見る」
武蔵がゆっくりと剣を引く。ジャンヌの眼差しに耐え切れなくなったのだ。歴戦の武人が。
「あなたが、自分の為だけに剣を振るっているから」
「さむらいが自分の強さを極める為に刀を抜くのは当たり前だろうっ!」
思わず激する武蔵。が、それは恐れの裏返しである。
武蔵は斬られていた。ジャンヌに、自分の中にある最も弱い部分を、ばっさりと。
「強くなる為に、人を斬る為だけに、剣を振るうのですか」
「ワシだけでない。あの男も、前田 慶次も、ワシと同じく」
「違います。あの人は、あなたと違う」
小さな体の何処に、これだけの胆が詰まっているのか。武蔵はたじろぎながらも反撃する。
「ならば貴様はどうだ。今はまだ、なんとか人を殺してはいないだろう。
だがこれから先、必ず人を殺す事になる。そんな貴様の、どこが聖女だ」
今度はジャンヌが言葉に詰まった。が、視線は武蔵から外さない。やがて言った。
「そうです。私は聖女なんかじゃない。邪な欲に体を濡らして、いつか戦場で
人を殺める魔女かも知れません。だけど、そこから逃げない」
「逃げぬ?」
「ええ、全て背負って歩くつもりです。フランスが開放されるその日まで」
「くっ…」
「私は地獄に堕ちるかも知れない。だけど、私はあなたのように剣に逃げたりはしない」
「剣に、逃げるだと? どういう意味だ?」
ジャンヌは応えない。だが、朧気ながら武蔵にも答が分かって来てはいる。
だが、それを認める訳にはいかない。認めれば生きてきた全てを否定する事になる。
67 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 06:00:02 ID:8qCeSbx60
武蔵は納めた刀の柄に再度手を掛けた。
斬れ。どうあってもこの娘を斬れ。斬らねば、自分で自分を斬る事になる。
ジャンヌの視線を感じぬように、目を瞑った。ジャンヌは目の前である。
ただ盲滅法、前に刀を振り下ろせばジャンヌを斬り殺せる。
生まれて初めてだ。相手を見ずに斬ろうなんて。
決意を込め、斬撃に入ろうとする。その時背後に感じた。強烈な虎の気配を。
武蔵は反射的に後ろに飛び退いた。
だが狭い部屋である。ジャンヌとぶつかり、壁に阻まれた。素早く振り返る。
「ま…、前田 慶次!」
動揺が走る武蔵の横を走り抜け、慶次の傍らに非難するジャンヌ。
慶次はジャンヌの顔を見るとニコリ、と涼やかに微笑んだ。
「遅れました、ジャンヌ殿。護衛失格ですな、いつも私はあなたから離れて」
「いいえ。どんなに離れていても、慶次さんは必ず駆けつけてくれますから」
ジャンヌが可愛らしく応えた。慶次はもう一度微笑むと、武蔵の方へ顔を向ける。
顔付きが同一人物とは思えぬほど怒りに満ちている。武蔵は思わず唸った。
「人型をした虎とは初めて見る。噂以上だな、前田 慶次」
「女性(にょしょう)の寝込みを襲うような外道など、知らんな」
「フン。貴様はワシの事を知らなくとも、ワシは貴様の伝説を数多く聞いてきた」
慶次と武蔵の全盛期はずれている。慶次の方が20年ほど早い。
「ワシは生まれてきた時代が少し遅かった。戦国の世に生まれたかったものよ。
されば貴様のような化け物と、思う存分戦えただろうに」
ジャンヌと相対した時の迷いは消えていた。
今、武蔵は自分以上の男との戦いに燃えている。が、慶次の目は何処か醒めていた。
「哀れで滑稽で暑苦しい男だな。俺と戦いたければ、俺の所に最初から来ればいい」
武蔵の目が怒りで赤く染まる。慶次はジャンヌに戸口から離れるように言った。
慶次が朱槍を投げ捨てた。この部屋では槍は長過ぎる。
武蔵が抜刀した。鯉口から慶次まで、最短にして最速の斬撃である。
が、慶次は易々とそれを受け止めた。しかも大刀ではなく脇差で受けている。
68 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 06:00:47 ID:8qCeSbx60
ギリギリと慶次の脇差と武蔵の刀が鍔迫り合いをしている。
武蔵の顔は紅潮している。が、慶次の顔色は変わらない。慶次が言った。
「お前は、何故、この時代に現れてジャンヌ殿を狙う?」
「俺の望みはただひとつ。不老長生。老いぬ肉体で、強き者との戦いを永遠に続ける事。
あの黒尽くめの男は言った。あの小娘を葬れば、その望みを叶えてやると」
慶次が怒髪天を突いた。武蔵が一瞬にして吹き飛ばされた。力の差に驚嘆する武蔵。
「下らぬ。そんな理由で、うら若き娘を殺すだのと」
慶次が武蔵を見下ろしている。まるで小鬼を踏み殺す羅刹のような表情。戦慄する武蔵。
(勝てぬ、俺はこの男には、今は決して勝てぬ)
武蔵は屈辱と敗北感と恐怖で気が触れかけた。
二刀を抜くか? いや、この狭い部屋で、二刀流は状況が悪過ぎる。
それに、二刀を思う存分振るえる場所とて、俺ではこの男に適うまい。
そもそも自分は関が原の戦いの後、戦乱が収まった時代の武芸者である。
いくさが日常から無くなった時代で頭ひとつ抜けていた、という存在に過ぎない。
だが慶次や、呂布は違う。常に戦場の中で生きていた男たちである。
所詮、ただの武芸者と虎や龍では勝負にならん……。
斬られるのか? 無様に手も足も出ず、この暗い部屋で斬られて終わるのか?
武蔵は覚悟を固めていた。が、武蔵が何気なく言った言葉が、彼を窮地から脱せさせた。
「だったら、前田 慶次。お前は、何の理由でここにいる?」
武蔵の問い。意図があった訳でない。先程の慶次の言葉に追随しただけだ。
が、その言葉に慶次の動きが一瞬止まった。あろう事か、少年のように頬まで染めている。
「恋、かな」
この斬り合いの場で、慶次は場にそぐわない言葉を吐いた。
恥ずかしそうに、だが涼やかに。敵である武蔵ですら見惚れる微笑を浮かべて。
が、それも一瞬。武蔵はこの好機を逃さなかった。木戸で出来た窓から跳躍した。
逃走である。武蔵は斬り合いの死よりも、この場からの敗走を選択した。
69 :
聖少女風流記:2006/02/01(水) 06:39:37 ID:8qCeSbx60
武蔵は一目散に駆けていく。屈辱に涙を流しながら。
が、やがて目の前に人影を発見する。その人影は武蔵を避けようとはしなかった。
怒りで刀を抜こうとする武蔵。だが次の瞬間に体が金縛りとなった。
ジャンヌと相対したときと同じく、しかもあの時よりも強く。
「貴様が、魔とやらが俺の前に呼んだ2人の男のうちの一人か」
武蔵は驚嘆した。その姿を伝聞で聞いてはいる。が、まさか目の前に……。
「の、信長公?」
信長は扇子でパン、と武蔵のデコを叩くと、笑って言った。
「負け犬の顔だ。が、最後に勝てばいい。俺が貴様の真の力を引き出してやろう」
信長の手から、黒いモヤが噴出し、武蔵を包んでいく。武蔵の中にも魔が植え込まれた。
奇妙な沈黙が慶次とジャンヌの間に横たわっていた。
2人の思いは一致していた。すぐにでも一つになりたい、と。
が、それは出来ない。ジャンヌの肩には、男女の交愛よりも重い物が掛かっている。
「慶次さん、女のジャンヌは、もう忘れて下さい」
慶次は何も応えない。嫌だ、と大声を上げたかった。だがそうすればジャンヌは死ぬ。
「ああ、いいよ」
やっとそれだけを答えた。慶次は部屋を去ろうと、ドアに手を掛けた。
その時、頬に柔らかな唇の感触を感じた。慶次は振り返る。ジャンヌが頬を染めている。
「今は、これが精一杯です。でも、いつかきっと、全て差し上げますから」
ジャンヌはそう言うと、慌ててドアを締めた。ドア越しに慶次の優しい声が伝わってきた。
「お休み、ジャンヌ殿」
ジャンヌはドアの向こう側で泣いていた。でも出来るだけ明るい声で返した。
「お休みなさい、慶次さん。また、明日」
また、明日。
その明日から、フランスの歴史は徐々に光を放ち始める。この一人の少女によって。
70 :
ハイデッカ:2006/02/01(水) 06:52:09 ID:8qCeSbx60
こんな長くなるとは思いませんでした。
本来ならもう終わってるはずなんですけどw
ま、いざとなれば三沢さんに登場して頂いて
信長も呂布も武蔵もついでにジャンヌも
エルボーで葬ってもらえばすぐ終わりますが。
スターダストさん、感想ありがとうございます。
私は根来と千歳のようなある程度距離を置きながら、
しかもグッドなパートナー関係、というのが書けないので
こんなヌチャヌチャになってしまいました。
微妙な距離感を上手く書ける人は文章と構成上手いですからね、
これはスターダスト氏だけに限らず。難しい。
71 :
ハイデッカ:2006/02/01(水) 06:59:36 ID:8qCeSbx60
あ、書き忘れすみません
バレさん、長編移行ありがとうございます。
おかげで少しやる気が出てきました。
書いても書いても進まないんで正直、
ジャンヌの戦いはこれからだ!みたいな感じで
打ち切りっぽく終わらせようと本気で思ってました。
もしくは年表形式とか、三沢さん出現とかw
でもなんとか最後まで書くつもりです。
私用でこれから一週間ほど休みますけど、
夏までには終わらせたいな。
お疲れ様です。
信長の名古屋弁受けました。でも、花の計次でも確か名古屋弁使ってましたね。
信長はラスボス確定でいいのかな?呂不はどう動くんでしょうか?
中国人が日本人の下で働けるか!賠償しろ!とか言い出さない事を願います。
武蔵がへたれたのは少し残念でしたがw
うぉおお!信長さまが怖い!カッコイイ!
そうそう闇に屈しないから織田信長、素晴らしいです
確かに武蔵がヘタれたのは残念だった。
しかし信長覚醒で全て吹っ飛んだ(w`
('A`)………
('A`)アノヒトノサクヒンヲヨミタイナ
(;'A`)オット!オマエジャアナイゼ
ヒントハ( 'A`)('A`)ヒカリ
信長が覇王然としてていいですね。
武蔵がへたれたけどパワーアップしそうだし。
でもエロはこれで打ち止めかな?
18禁にならない程度なら大歓迎ですけどね。
慶次とジャンヌは歴史に逆らって結ばれて欲しい
>>75 誰?ヒントはヒカリって訳わからん。
77 :
481:2006/02/01(水) 19:04:04 ID:c/+lZTtt0
第四十九話「最強、果てる」
「おらあああああっ!」
USDマンが勢いよくアヌビスを蹴りつける。それをかわすことはせずに、ラムダ・ドライバで作り出した<盾>で凌ぐ。
そのままUSDマンを巨大な腕で打ち払った。だが、USDマンにダメージは全く見られない。
「くっ・・・分かってはいたが、やはりバケモノだな」
「かははははっ!そりゃあどうも。そっちも俺様ほどじゃねえけど、そこそこやるじゃねえか!楽しいねえ、ホントに楽しい
ぜえ!こうやって何も考えずに殴り合ってる時が、一番楽しいぜ!何せ俺様とそれなりに戦える奴ってのは中々いねえからな。
こういう戦闘は貴重なんだよ」
「・・・楽しい?戦いが、何故楽しい!」
「ん?何で楽しい・・・だって?ふーむ・・・」
USDマンはその言葉に、腕を組んで考え込む。そして、こう答えた。
「退屈なんだよ、俺様。ここ数百年―――退屈でしょうがねえんだ」
「す、数百年・・・!?馬鹿な・・・!」
「そうは言っても、実際そんだけ生きてんだ。しゃあねえだろ―――ちょっと昔話をしてやろうか?
<十三階段>の連中は大抵は色んな世界の色んな時代から寄せ集められた変態集団だが、俺様もそのクチだ。俺様の元々いた
世界は、まあ、この世界とそんなに変わらねえな。そして俺様も、元は普通の人間だった。だがある朝起きてみると―――
俺様はどういうわけか、こういう力を手に入れていたのさ。
何でそんなことになったは分からん。だが俺様は喜んだね。そりゃあもう喜んだ。
元々俺様は正義のヒーローになりたかったんだよ。けど普通の人間だったから、悪いことをしてる奴がいても見て見ぬ振り。
何度正義の味方みたいな力があれば―――って思ったことか。
それが現実になったんだからな、こりゃもう神様が願いを聞いてくれたんだなって思ったよ。そして、俺様は悪を徹底的に
懲らしめた。とにかく懲らしめまくったが、その内に俺様の方がよっぽど迷惑な存在になっちまったんだろうな。
世界中の軍隊が、俺様を滅ぼそうとしたよ。俺様はそれを、全部ぶっ壊してやった。それでもまだ抵抗してくる奴もいたが、
そいつらも何もかも吹っ飛ばした―――俺様は、その世界に一人きりになっちまった。それから数百年、俺様は老いもせずに
一人で生きたよ。何しろ、どうやっても死なないんだ。退屈そのものだったぜ―――いや。今もまだ、退屈だ」
USDマンはそこで言葉を切る。果たして彼は、何に思いを馳せるのか。
「俺様はこうして、何千年、何万年―――あるいは永遠に、退屈しながら生きなくちゃならねえのか・・・。そう思うと、
流石に寒気がするぜ。世界でも終わらねえ限り、俺様は生き続けなくちゃならないんじゃないか、ってな・・・」
「それが・・・<狐>に与した理由か?世界を終わらせたいから、と・・・」
「あー、そりゃあどうだろうな。正直、あの狐野郎が世界を終わらせられるとは思っちゃいねえよ。ただまあ、退屈凌ぎ
くらいにゃあなるかと思っただけだ―――実際、俺様は今、すっげえ楽しいぜえ?全力出してぶっ飛ばしあうのが、ここまで
楽しいとは正直思ってなかったぜ!こういう時だけは―――退屈を忘れられるからなあ!」
「―――そうか・・・ならぼくたちが、お前の退屈を終わらせてやる!」
ペコは宣告するように言い放つ。
「アヌビス!早速バカ王子が造ってくれたあれを使うぞ・・・できるか!?」
<―――ぶっつけ本番でいかねばならないか。一度くらい起動実験をしたかったが、そうも言ってられんな―――よかろう、
あれでなければ、奴を倒せそうにもない>
アヌビスもそれに応じる。そして、両腕を広げるような構えを取った。握り締めていた両の掌を、重々しく開く―――。
「右掌に―――攻撃エネルギーを・・・!そして・・・左掌に―――防御エネルギー・・・!」
両掌に集まる、対極のエネルギー。
「次に、二つを融合させる・・・!」
アヌビスは掌を合わせた。組み合わされた相反するエネルギーは融合し、更に強大な力と化した。
「そしてそれを、ラムダ・ドライバで増幅・・・!」
アヌビスのラムダ・ドライバを起動させ、掌に集中したエネルギーを強大化させるイメージを送り込む。その瞬間、アヌビス
の両掌から凄まじい光が迸る。
「そのまま―――目標に向けて突撃する!」
アヌビスは合わせた両掌を突き出した態勢で、USDマンに向けて突進した。溢れ出す光がアヌビスの身体を染める。それは
まるで、緑色に輝く彗星の如く―――
<これが、バカ王子の手による私の必殺技―――!>
「その名も―――<ヘル・アンド・ヘヴン>!」
それに対して、USDマンは―――
「だらああああーーーっ!エネルギーがどうたらウダウダ小賢しいんだよ!こんなもん―――真正面からぶっ潰してやらあ!」
無理。無茶。無策。無謀。ただ、単純に―――力任せに、頭からぶちかます!
「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」
「おらあああああああああああーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」
<ヘル・アンド・ヘヴン>と、USDマン渾身の体当たりが激突する。激しく拮抗しあう両者。その破壊力は、ほぼ互角―――
いや、違う。
「魚おおおおおおおりゃあああああああああっっ!」
「ぐううっ・・・!」
<ぬうううううっ・・・!>
それでもまだ―――USDマンの全力の方が勝っている。だんだんとアヌビスの身体が押し返されていく―――!
しかし、USDマンとて決して楽ではない。顔を真っ赤にして汗を吹き出し、更に<ヘル・アンド・ヘヴン>の破壊力の余波で、
その肉体が傷つけられていく。
だが、それでもなお―――
「ひゃあーーーはっはっは!凄え!凄えぞ!こんなとんでもねえパワーは初めてだ!もっとだ!もっと俺様を楽しませろよ!
もっともっと―――!」
USDマンは、笑っている。心から楽しそうに、笑っている。その姿に、ペコは戦慄し・・・同時に、哀れさをも覚えた。
ここまでしなければ、彼は充足を得られないのだ。ここまでしなければ、彼の退屈は満たされないのだ。強すぎて、一人で何でも
できる。だからこそ、彼はここまで退屈に飢え乾いているのだ。
―――何て、哀れなまでに、最強―――
「USDマン―――だからこそ、お前に負けられない・・・!何も持たないお前に、負けるわけにはいかない!」
「あああっ!?何も持ってねえだと!?はっ、俺様は何か持つ必要なんてねえんだよ!自分一人でどんなことでもできるからな!
王様よお、あんたみたいにグダグダ背負っちまって、それが何になるんだ!?」
「背負って・・・何になるか?決まっている・・・それが力になるんだ!」
ペコの脳裏に浮かぶ、多くの光景―――のび太やドラえもん、それにアヌビス・・・共に戦う仲間。
「ぼくには、一緒に戦う仲間がいる・・・!」
犬の王国―――彼の愛する故郷。
「帰る場所がある・・・!」
そして、愛する女性の姿も―――
「―――待っていてくれる人がいるんだ!みんなのためにも・・・ぼくは、負けられない!お前を―――倒す!」
ペコは叫ぶ。己の想いの全てを―――そして、その想いをラムダ・ドライバに乗せる。増幅されたエネルギーは、ついにUSDマン
をも上回った。USDマンの身体が、破壊されていく―――!
「うっ・・・ち、ちきしょう―――こんなもん・・・こんなもんっっ・・・!」
必死に抗うUSDマン。だが、既に勝敗は決していた。彼は決定的に、何も持っていなかった―――
本当に苦しい時に支えてくれるものを、何も持っていなかった。
あまりにも強すぎて―――それを必要としなかった。
最強だったからこそ―――支えを求めなかった。
だからこそ―――彼は、最後の最後で敗北する―――!
「ここだぁーーーーーーーーーっっ!!」
ペコは<ヘル・アンド・ヘヴン>の破壊力を一気に放出する。光の奔流が竜巻の如く、USDマンを飲み込んでいく―――
光が消えた。果たしてUSDマンは―――まだ、そこにいた。
だが、その身体に、もはや一片の力も残っていない。
全てを出し尽くし―――彼は、負けた。ぐらり、とUSDマンの態勢が崩れる。
「けっ・・・気に喰わねえ―――気に入らねえ―――まあ、言っても仕方ねえな・・・」
USDマンは、最後まで笑っていた。
「まあ・・・退屈は、もうしねえよ・・・まあまあ楽しかった、ぜ・・・」
「USDマン・・・」
ペコは、最後にかける言葉を探す。だがUSDマンは、それを拒絶した。
「やめとけやめとけ。勝った奴が負けた奴にかける言葉なんざ、寒すぎるんだよ・・・」
「・・・・・・」
「王様よお・・・俺様に勝っといて、他の、奴に、負けるんじゃ・・・ねえぞ・・・」
そして―――USDマンは、もはや空を飛ぶ力すら失い、そのまま落ちていく―――!
「あっ・・・・・・」
ペコはそれを受け止めようとしたが、アヌビスも殆どエネルギーを使い果たしているおかげで、全く動けなかった。ただ、
大雲海へと消えていくUSDマンを見つめるだけだ。
「・・・終わったか」
<うむ・・・さすがにこれでまだ生きていたら、本当にバケモノとしか言いようがないだろうな。恐ろしい男だった>
「ああ。そして―――潔い男だった。それだけは、間違いない」
そう―――彼は残虐ではあったが、同時にどこまでも正々堂々とした男だった。<ヘル・アンド・ヘヴン>にしても、真正面
から立ち向かわなくてもよかったのだ。
例えば、かわして背後から一撃を入れれば、それだけでよかった。
なのに、彼は真っ向から打ち破ろうとした。
逃げず、退かず、恐れず―――立ち向かった。
<奴もまた、戦士だった。あれもまた、男としての生き様だ>
「・・・そうだな」
ペコはその言葉に頷く。その瞬間、がくりとアヌビスの身体が揺らいだ。
「うわっ!?」
<ぐっ・・・すまん。エネルギーを完全に使い果たしてしまったせいで、まともに動けん。一旦アークエンジェルに戻り、
補給を受けた方がいいだろう。このままでは我々もUSDマンのように落っこちてしまうぞ>
それはたまらないとばかりに、最後の力を振り絞ってスラスターを吹かし、ペコとアヌビスはアークエンジェルへと急いだ。
―――ネオラピュタ総力戦、第一の戦い。
USDマン―――敗北。
投下完了。前回は
>>36より。
最強キャラの一角、USDマンついに敗北。
ちなみにヘル・アンド・ヘヴンは勇者王ガオガイガーというロボアニメの主人公の技です。
>>48 何とかへたれさせずに負けさせるために努力しましたが、どうでしょうか?
>>49 ムスカらしく・・・うーん、頑張りますw
>>50 次もまた大激戦です。期待してください・・・と自信満々に言えれば楽なんですけどね(汗)
>>ふら〜りさん
リルルのことも忘れないであげてください。ただでさえ他キャラに食われ気味なんだから・・・
それを言ったらもっと影の薄い人たちもいますが(汗)
全員目立たせるのは難しい・・・というか、僕の筆力では無理です。はあ・・・
まさかH&Hとは・・・つくづく予想外のとこから持ってくるなあw
ペコが「これが絶対正義の力だ!!」とか言い出すかと思ったw
サマサさん乙。
アヌビスがヘルアンドヘブンを使うとは・・・
のび太対ムスカの対決が楽しみです。
86 :
作者の都合により名無しです:2006/02/01(水) 22:44:23 ID:CoGYAJGo0
お疲れ様ですサマサさん
ある意味このSSの強さの象徴だったUSDマンが消えちまったなあ。
はっきりいってドラチームの誰より好きだった(プリムラ除く)
なんかUSDマン使って短編か番外編書いてくれません?
>ハイデッカさん
そういやー、慶次って関が原の時点で67歳なんだよな
没年は1605年説と1612年説があるが、後者だとしたら79
うーむ、想像できんw
>サマサさん
USDマンのUSD細胞は死という平穏すら彼に与えてくれなかったのか
なんともの悲しい男なんだ…
88 :
作者の都合により名無しです:2006/02/02(木) 05:48:21 ID:CZZ1jP+T0
え?
慶次って実在の人物だったの?
ジャンヌダルクが実在の人物だって事は知ってたけど・・
俺は釣られないからな!
90 :
過ぎたる光:2006/02/02(木) 13:56:26 ID:UkR9KYqA0
秋。荒涼とした草地に佇む一人の男。
しかし、その顔からは、どこか死相さえ漂わせていた。
彼の遥か頭上には、大地を照りつける光の塊のようなものが、ぽっかりと浮かんでいた。
「前にも、こんなことがあったな……」
大きな木籠を担いだ白髪の男は、いつかの出来事を思い起こしていた。
雨を降らせない雨雲が、かつてあった。それは何かに吸い寄せられるように動いていて、
他のものには目もくれないようだった。ところが、ある家族の頭上に止まった途端に、今ま
で溜め込んでいたのだろう膨大な量の雨を一気に降らせたのだ。
その時と、ある意味で状況が酷似しているように、男には思えた。
雲と太陽では正反対だが、「何かに寄せられている」という点では変わりがない。
「…しかし……」
男は、半開きの目の前に手を翳して、顔を上げた。
「…今は秋じゃないのか?」
男は枯れた声で、汗だくで、呟くようにして言った。
91 :
過ぎたる光:2006/02/02(木) 13:57:00 ID:UkR9KYqA0
「暑い……」
「暑い…………」
「暑い………………」
「あつい……………………」
暑い。
暑い。
暑い。
暑い。
男の思考はもはや正常には働かず、ただ一つの言葉が頭の中で回転していた。
過ぎたるは及ばざるが如し。
何事も、度が過ぎれば崩壊する。
今の男は、そんな状態だった。
だが、男は同時に、生きようともしていた。
生きる為に、最善の方法を、体が自動的に選択してくれていたのだ。
前屈みになりながらも、倒れそうになりながらも、男は歩いた。
そして、辿り着いた。狩房家へ――
92 :
過ぎたる光:2006/02/02(木) 13:57:36 ID:UkR9KYqA0
男は、数日眠り続けていた。
女は、その顔をじっと見ていた。
やがて、男の右瞼が少し開いた。左目は髪に隠れて見えない。
「…ここは……」
男は、女の顔を見た。
「淡幽……じゃあ、ここは狩房の家か」
「お前、知らないでここまで来たのか?」
「日光に付きまとわれて、まともにものを考えられる状態じゃなかったんだよ」
「…自然と足が向いたというわけか?」
淡幽は、ニヤニヤして言った。
「まあ……そうかな」
男は、その後こう続けた。
「ここにくれば、対処法も掴めるかと思ってよ」
男はそして、見上げた。そこには屋根しかない。
「こういうとき、家という存在は有難い」
「確かに直接は当たらずに済むが……」
淡幽はそう言って、着物をぱさぱさと動かした。
「暑い」
「悪い」
二人は、ダルそうな顔で見合った。
御無沙汰してます。
リハビリに蟲師の読み切りを書きます。短いけど、リハビリということでご容赦下さいませ。
続きます。淡幽というのは、俺のオリジナルではない、原作の人気キャラです。最近再登
場しました。漫画の方は、基本的にキャラは一話で使い捨てなので、これは珍しいことです。
まあ、アニメ放映と合わせて、人気のある淡幽を再登場させよう、という狙いは正直見えまし
たが、別にどうということはないです。アニメはDVDで見ました。素晴らしいの一言。
向こうでは、俺の小説が漫画にしてもらえたり、なかなか活発です。
それもあってか、二次創作脳(今作った言葉)があまり働かず、オリジナルばかり書いていま
す。しかしそろそろ二次創作脳も動かしたいなと思う所存です。
魔女も茄子も完結は見えているわけですから。この二本は終わらせます。
前々スレ(すいません……)
>>466 遅いんだから、質は上げないといけませんね。スピード速い時は多少ダメでも構わないと思っ
ていますが、遅い時はそれは許されないでしょうから。
>>467 いや、競馬もなかなか陽気とはいえませんよ。知ってしまうとね。
あれは闘いです。不具に関しては、まだ書くかは決めてないですけど、これから出てくる“魔女”
の能力は、ある種の不具と言えなくもないかもしれません。
>>468 例の如くオチは決めてませんw
>>479 まだありますよぉ。
前スレ
>>4 ですよね。魔女と言ったら血を連想する方も多いと思うんです。
まあ、今回の場合は、血統という意味ですけどね。
>>43 能力的に奇形、ですね。
では。今度は一ヶ月も空けないように頑張ります。
scene22 玉崎真吾&夕凪理沙ペア【二】
「調べたい事があるって言ってたっすけど……
一体、この部屋で何を調べるつもりっすか?」
「まずは、扉や窓に細工が為された可能性を検討してみようかと思います」
夕凪は、自分の髪の毛を一本引き抜いた。扉を開け、抜いた髪を扉に挟んで扉を閉める。
そして、その髪を引っ張った。髪は、扉に挟まったまま動かず、ついには切れてしまう。
窓でも、同じ事を繰り返す。やはり髪は、窓に挟まれたまま動かない。
「だめですね。扉も、窓も……一ミリの隙も無く、きっちり閉まってしまいます。
テグスや何かを使って、鍵に細工をするのは無理みたいです」
ふと。開いた窓から、カイジと黒川が口を半開きにして見ているのが見えた。
「あ、カイジさんに黒川さん。どうしたんっすか?」
玉崎が声をかけたが、反応はない。ワンテンポ遅れて
「……なんでもない」
そんな、脱力しきった声が返って来ただけだった。
二人はすぐに踵を返すと、足早に中央廊下の方へと歩いていった。
「代わりに試してくれたんですから、よしとしましょう……」
去り際、黒川の声が聞こえた。
「やっぱり……この密室を作れたのは『あの人』以外には……」
夕凪が、ぼそりと独り言のように呟く。玉崎はそれを聞き逃さなかった。
「ま、ちょっと待つっす! 犯人の見当……ついてるんすか!?」
「はい。最初は、色々考えましたけどね……カイジさんが犯人じゃないか……とか。
でも、事件が起きて、ようやくわかったんです。犯人が、誰なのか……
籤引きの時だって……『犯人』と当たらないようにって、そればっかり考えていました」
夕凪は、力無く口の端を吊り上げる。
「じゃ、じゃあ、早く告発した方がいいっすよ……!
早く、こんな殺人ゲームは終わらせて、貰うもの貰って家に帰るっす……!
これ以上、犠牲者が出てしまわない内に……!」
夕凪の肩を揺さぶって、玉崎は熱く語る。
「わわわ、揺すらないでないでくださいよっ。
証拠が……犯人を追い詰めるには、証拠が足りないんです。
何か、犯人を確実に自白に追い込める、切り札があれば――」
三号室の中を見回しながら、考えに浸ること数分。
夕凪は何かを思いついたとばかりに、ぽん、と両手を打ち合わせた。
「あった……! 絶対に言い逃れできない、決定的証拠……!」
「ええええっ!?」
夕凪の言葉を受け、玉崎は、仰け反るようにして驚く。
「みんなを、集めましょう。このゲームも、もうおしまいです」
「それじゃあ……」
「全部、わかりました……犯人も、証拠も。告発開始です!」
scene23 ?????
バラバラになった死体が、床に撒き散らされて。
みどりさんが、何度も何度も殴られて。血塗れになって動かなくなって。
俊夫さんが、拳銃をこめかみに突き付けて、震える手で引鉄を引いて。
こんな光景、見たくなかった。みんなには、いつまでも笑っていてほしかった。
弾む会話に混じって、時々笑い声がこぼれる、そんな談話室が好きだった。
美味しそうな料理が沢山並んで、湯気を立てている、食堂が好きだった。
オーナーと今日子さんの、優しい笑顔が好きだった。
どんな時でも仲がいい、俊夫さんとみどりさんが好きだった。
たまに爪で引っ掻いたりもするけど……
みんなの心を和ませてくれる、猫のジェニーが好きだった。
みんな……みんなが、大好きだった。
私は、何もできなかった。私は、悲しいほどに役立たずだった。
それこそが本来の、あるべき姿なのかもしれない。
私という存在そのものが、奇跡の賜物なのかもしれない。
だけど、こんなのってない。こんなのってないよ。
もし、神様がいるのなら――ほんの少しだけでいい。私に力をください。
繰り返される惨劇を、止める事のできるだけの力を……
私とみんなの大切な思い出を、守る事のできるだけの力を……
毎度ありがとうございます。前回投稿は
>>43です。
そろそろ話も佳境に入ってまいりました。
・口説きモード
ペア作戦は、上手く使えればおいしいシチュエーションなのですが
何故か、色気もそっけもない展開になってしまいました。
・最後に残るのは
何人くらいになるでしょう……
実はまだ、正確には決まっていません。
明言し辛いですが、今後の展開次第ですね。
・個性
キャラの多さと文章の未熟さの相乗効果で、灰汁が強くないと見分けがつかなくなる恐れが。
流し読みしても、大体把握できるといいな……と思いながら書いています。
>カマイタチ
うを!?理沙たんもう犯人割り出し!?早っ!!(゚Д゚;)
まだまだこれから長い推理が続くと思っていたのでかなり吃驚。
あまり死んで欲しくはないのでこのままうまく言って欲しいけど、
逆にそんな簡単には終わらなさそうで・・・ガクガク(((( ;゜Д゜)))ブルブル
99 :
作者の都合により名無しです:2006/02/02(木) 22:15:21 ID:FvET/QK90
>ゲロ様
あれ?少し文体変わりました?何はともあれお久しぶりです。
うん、確かにちょっとゲロさんの実力を知るものとしては
少し物足りないかな?徐々に二次創作の勘を取り戻して下さいね。
蟲師というよりなんとなく茄子っぽいですよね、雰囲気は。
あっちの方も読んでますけど、こっちの方もたまにはお願いします。
>見てた人様
夕凪能力高すぎ!通常時で覚醒カイジを超えているような気が。
恐ろしい女子高生だ。やたらと知識も広いし、深いし。
ただ、まだまだ二転三転しそうな雰囲気ではありますね。
最後のレスの犯人の独白?心理描写?が不気味ですね。
夕凪の推理は外れているに10000ペリカ
101 :
ふら〜り:2006/02/02(木) 22:30:13 ID:Yqz3luFa0
>>ハイデッカさん
武蔵無残。呂布や慶次と並ぶほどかなぁ? と思ってはいましたが、ここまで凹むと哀れ。
再戦はしそうですが、あの様子ではあまりカッコよくはなれなさそう。そんな彼に対して、
信長はさすがですね。竜馬と同じで、善人にならずとも小物には描かれない。で強さは?
>>サマサさん
問答無用な強者故の悲しさ、良かったです。多分私が書いたら、色々いらん設定をつけて
しまうところ。贅肉の無い設定とまっすぐなバトル、爽快でしたっ。でもペコって、強く
潔いライバルと有能なパートナーと健気ヒロイン、考えてみたらフル装備ヒーローですな。
>>ゲロさん
昔からそうですが、ゲロさんの文章は「環境の実感」が濃いですね。暑さ寒さ、暗さ重さ、
風や湿気などが、読んでてじわっと体に湧いて来る感じです。今回もこれだけの文字数で、
セリフも淡白、展開も僅かなのに、日射病になりそうな暑さだけはくっきり印象的でした。
>>見てた人さん
本作で笑ってしまったのは今回が始めてかも。可愛いぞカイジ。そして……約一名の死亡
フラグが立った模様。でもこのゲームだと、犯人ではなく主催者側からペナルティとして
殺されるってこともありそうな。で
>>96、Sが女の子とはまた意表。何かやる、できる?
ゲロさんが復活して嬉しい。ずっとファンだったから。
でも、ちょっとテンション低い感じで悲しい。
あちらもいいけど、こっちも頑張って下さい。
久しぶりの蟲師で嬉しいです。
淡幽の名の通り、淡々とした滋味深いお話ですね。
>蟲師(お久しぶり)
確かにいつもの深さがちょっと無いかな?淡々とした中にも深さがあるのが
ゲロさんの最大の魅力。ま、しばらくすれば完全復調されますよね。
他スレでも好調のようですね。寂しいけど、ここの上位陣の実力の高さの証明か。
>カマイタチ
最後の誰か知らない人の激情が(女性と思うけど)重苦しさを感じさせますね。
理沙の推理力・洞察力はカイジ以上かもしれないけど、今回は外しそうですね。
二重三重の罠が仕掛けられているような。「そして誰もいなくなった」?
104 :
作者の都合により名無しです:2006/02/03(金) 16:46:15 ID:hXoE2bI20
ゲロ氏、お帰り。
魔女と茄子がもうすぐ終わりみたいな書き方だけど
もうSSは卒業?ゲロ氏の短編は好きなので続けて下さい。
見てた人氏、いつもお疲れです。
カイジと夕凪の犯人だけはなさそうですね。
いや、これも探偵と読者をだます為のトリック?ムム…
今日はやさぐれ獅子と短いのを投下します。
>>56より。
まず、加藤はまじまじと井上を見回した。
決して助平な好奇心からではない。一応、彼女を神心会の後輩だとは認めたが、侵入者
にはちがいない。関所も通さずに、彼女を受け入れるわけにはいかなかった。
近づいた途端、グサッとやられることも充分にありうる。たとえ、本人にその気はなく
ともだ。敵はリアルシャドーや夢までも操るのだから、若い娘ひとりを操作するなど造作
もないだろう。親友(ドッポ)から授かった命、むやみに危険には晒せない。
とはいえ、加藤とて男子である。いつの間にか、井上を「女」として評定していた。
上はタートルネックのセーター、下はジーンズという、色気もなにもない服装。髪はシ
ョートで、薄化粧。目はぱっちりと大きく、鼻は小さく、美しいと評せられるレベルだが
垢抜けた印象は受けない。空手をたしなんでいるだけあって、全体的なフォルムは引き締
まっている。
良くも悪くも、健全なスポーツウーマン。これ以上でも、これ以下でもない。
──などと、心中で偉そうに採点を終える。
「先輩こそ、どうしてここへ……?」
「え、あァ、話すと長いんだがよ」正直な話、自分自身でもよく分かっていないので、頭
をかく加藤。どう説明していいものか、判断しかねた。
「だって、加藤先輩はたしか──」
「え、俺がどうした?」
「いっ、いえ! なんでもないです……」
なにか禁句(タブー)に触れたように、井上は固く口を閉ざした。少し訝ったが、加藤
もしつこく問いただす真似はしなかった。
「……まぁいいや、実は俺も似たようなもんだ。いきなりここへ連れてこられてよ、サバ
イバルするはめになっちまった」
「今すぐここから脱出する方法はないんでしょうか」
「分からねぇ。少なくとも、俺はあと二十日ほど過ごさなくちゃならねぇ」
「え、どういうことですか?」
「俺は今、武神とかいう奴に試練を課せられてる。一ヶ月間ここで生き抜けば、日本へ帰
してやるっていわれてな。今日でちょうど、三分の一を終えたくらいだ」
あまりに突飛な話だが、もはや信じないわけにはいかなかった。
「た、大変ですね……」
「……まぁな」
ぎこちない会話が交わされる中、井上はまったく心を許していなかった。
なにせ、加藤は凶悪さだけならば神心会ナンバーワンと悪名高い危険人物。
「デンジャラス・ライオン」「核弾頭」など、異名も武術家とは程遠い。
指導員がたまに冗談めかしく語ってくれた、いわゆる「空手を暴力として使うとどうな
るか」を示す逸話に出てくるモデルが、ほとんどは加藤だったのではないかという噂もあ
るほどだ。
心を許せば、つけこまれる。なにをされるか分からない。
もし、このまま夜でもなったら、暴虐な狼(ウルフ)にでも変貌するのではないか。
かつてファンだったラグビー選手、竹田にやられたように乳房を揉まれ──いや、あの
程度では済まないかもしれない。ここには警察もなければ、頼れる神心会もない。そもそ
も、加藤が神心会ではないか。
名選手でさえアレなのだから、おそらく彼はもっとひどい。女を人間として扱わず、抵
抗すればあっさり殺す。話してみるとわりと紳士的な部分もあるが、本性は人の皮を被っ
た鬼畜にちがいない。
社交的にふるまいながらも、井上は加藤からは心身ともに距離を保とうと誓った。
一方で加藤もまた、井上に対してある疑念を抱いていた。
今のところ、彼女以外に来客の気配はない。すなわち、井上が試練の一部だということ
は疑いようがない。
だが、今ひとつ武神の意図が読めない。たかが女と油断したが最後、背後からやられる
というのが一番ありそうなパターンではある。
いや、もしかすると、逆に自分があの娘に手を出すかどうかを試されているのではない
か。持て余した性欲を彼女にぶつけたらアウト──ありえぬ話ではない。
仮にそうだとすれば、楽勝だ。加藤は井上に対し、先に評した「健全なスポーツウーマ
ン」くらいの魅力しか感じていない。たとえ向こうから迫られても、拒否する自信はある。
だいたい、俺をだれだと思っていやがる。用心棒時代には、組から報酬としてもらった
女を湯水のように喰らっていた。一晩に数人抱いた、なんてのもざらよ。ただし、素人を
弄ぶような真似はしねぇ。俺は女に関しちゃ、わりと「純」なんだぜ。
彼女に対する推測が逸れに逸れて、華やかな夜の武勇伝にまで達していたが、いずれに
せよ加藤は井上を絶えず疑ってかかることに決めた。
恐怖と疑念。ふたつが渦巻く両者のやり取りには、半ば濁った気配がたむろしていた。
ジャブを寸止めし合うが如き、痛みこそ伴わない間接的な緊張感。
本音と建前を使い分け、あくまでも弱みは出さず、切り札も出さず。
お互いに「いつ来るか」と逃げ腰で刹那的に対応しているので、会話は耳に入っては抜
けていく。あとでどんな話をしたかを質問したら、まずまちがいなく「覚えていない」と
返ってくるだろう。
男女による、命と貞操を賭けた大一番。ずるずると長引き、日没まで食い込んでしまっ
た。
「……すっかり話し込んじゃいましたね」
「え、あぁ。もうすっかり暗いな」
井上が島に出現してから、分針が三周はしただろうか。
「ここは電気もねぇし、朝も早い。もう寝るとするか」
「えっ!」過剰に反応する井上。
「いや、変な意味じゃねぇぞ。誤解すんなって!」同じく過剰に反応する加藤。
気まずく、黙り込む二人。特に井上にとっては深刻なミスであった。今の過剰反応が、
むざむざ加藤の心に眠る狼(ウルフ)を呼び覚ましてしまったのではないか、と。
「わ、分かってますよ。ただ、いつもどうやって寝てるのかな、と思いまして……」
これで上手く取り繕えるか、と加藤を見やる井上。
「え、もうこのまま眠るんだよ。暖かいから布団もいらねぇ。さっき、話したろ?」
しまった。井上は痛感した。もし、会話した内容を覚えていないことを悟られれば、機
嫌を損ねてしまうかもしれない。すなわち、危険
しまった。加藤もしくじったような表情をする。そういえば、まだ話してなかったかも
しれない。曖昧な記憶を辿っても、答えは出てこない。なにせ、なにを喋ったかなど九割
五分は忘れてしまっている。あまり適当に相手をして、監視が届かないところへ行かれる
と厄介だ。
「あっ、思い出しました! さっき、おっしゃってましたよね。ごめんなさい!」とっさ
に、保身のため嘘をつく井上。
「え。いや気にすんな」不安を残しながらも、ほっと胸をなで下ろす加藤。
この後は(互いにぼろを出さぬために)ろくに会話も交わさず、就寝となった。どちら
とも眼を閉じながらも、限界まで睡魔と格闘していたのはいうまでもない。
十一日目終了。
SAGA化はしませんので、ご安心くださいw
では、続いて「副作用」を投下します。
110 :
副作用:2006/02/03(金) 19:00:32 ID:/O6llOtV0
閃光と轟音。
二度と味わいたくないほどの、凄まじい悪寒が我が身をよぎる。
なるほど。これが、死というものか。地球上でだれも逃れることができぬ、生命体とし
ての終幕を告げる合図。
叫び声を上げる暇すら与えてはくれなかった。
さて、死した私は魂だけの存在となり、いわゆる「あの世」と呼ばれる空間へ移転した。
私以外にも、沢山の魂たちが審判を受けるために一列に並んでいる。おそらくは彼らも
さまざまな人生を背負って、あるいは解放されて、ここへ来たのだろう。とはいえ、今
では皆、ただの青白い火の玉に過ぎない。
ついに、私にも審判の刻が訪れる。
私が生きた数十年が、根こそぎ試されるといってもよかろう。
ひたすら、まじめに生きてきた。悪行に精を出し、たやすく努力以上の成果を上げる者
たちが大半を占める中、私はたったひとりで正々堂々と戦ってきた。努力した分の成果に
さえほとんどありつけぬ有様で、知人から後ろ指をさされるのはもはや日課であった。
勉学、仕事から恋愛に至るまで、私は決して優秀な人物とはいえなかった。
そして、こんな私に下された判定は──。
「おまえは天国行きとする」
111 :
副作用:2006/02/03(金) 19:02:55 ID:/O6llOtV0
天国は最高だった。
天国なのだから当然といえば当然だが、まさしく想像以上。
仮に、地獄が生前に犯した罪と匹敵する苦痛を与える場とするなら、天国はまったくの
正反対。
私が現世で損をしてきた部分を、余りあるほど補ってくれる。
例えば恋愛がそうだ。私は純朴で不器用な性分ゆえ、悪女にだまされたり、友人にガー
ルフレンドを横取りされるなどろくなことがなかった。
だが、天国ではこんな私を無数の美女が迎え入れてくれる。地球上にいた女どもなど比
較にすらならぬ絶世の美女とも呼ぶべき天使たちが、私を接待し、和ませ、やさしく包み
込んでくれる。
快楽に次ぐ、快楽。しかも、私は死人ゆえ寿命はない。つまり、永久に天国暮らしを満
喫というわけだ。
「さぁ、今日も楽園が私を待っている。今まで損した分を、取り戻してやるぞぉっ!」
魂なので質量がなく、体がふわふわと軽い。かろやかに浮きながら、私は天国を自由奔
放に駆けていく。
112 :
副作用:2006/02/03(金) 19:05:48 ID:/O6llOtV0
ところが突然、彼の天国での生活は終わりを告げた。
魂は現世に引き戻され、肉体を備えつけられ、再び地球上での生活を強いられるはめに
なった。
これはドラゴンボールという秘宝によって成された奇跡なのだが、むろん彼が知る由も
ない。
また再び、「まじめ」という一点にのみすがってきた暗く淀んだ人生が始まろうとして
いる。わずかの間とはいえ、究極とも称しえる快楽にどっぷりと浸かっていた彼が耐えら
れるはずもない。
いやだ、いやだ。絶対いやだ。
もちろん自殺も考えたが、天国での心地よさがいつまでも未練がましく心に残留するの
と同様、かつて死ぬ寸前に感じた悪寒も決して忘れられるものではない。自殺など、恐ろ
しくてとても実行には移せない。
結局、彼には偶発的な死が再度訪れるまで、ずるずると生を先延ばしにするしか道は残
されていなかった。
生活は一変する。
まず、彼の不満は自らの肉体に及んだ。自重がわずらわしい。階段を昇降するだけで息
が切れる。常に不機嫌なため、人相が悪くなり、性格も荒んでいった。
ひとたび女と知り合えば、天国にいた美女はもっと上等だったと殴り飛ばす。
ひとたび食を求めれば、天国で食べた料理はこんなものではなかったと店で暴れる。
天国と現世を絶えず天秤にかけては、かんしゃくを起こす日々。彼が孤独となるのは時
間の問題といえた。
やがて、二度目の死が到来した時、彼は地獄行きを宣告された。
お わ り
以上です。
ありがとうございました。
>やさぐれ獅子
井上さん、美しいじゃないですかー。SAGA化無いのか、残念
サナダムシさんの描写は的確で簡潔なので井上さんの魅力が伝わり易いですね。
加藤と井上さんはお互い最悪の印象っぽいですけど、それにしては微笑ましいですね何故か。
>副作用
発想が凄いですね。オチまできれいにまとめる能力が凄いというか。
これ、主人公ヤムチャかな?でも、「友人」に寝取られた、だもんなあ
でも、タイトル見た時、さっき食った夕食を吐き出す覚悟しましたよw
そろそろあのサナダムシさんお得意の短編集も長編カテゴリかなw
115 :
作者の都合により名無しです:2006/02/04(土) 00:36:45 ID:19ltUGoY0
サナダムシさん、2本同時掲載お疲れ様です。
長編連載も短編読み切りもうんこwもこなせるサナダ氏は
本当にオールラウンダーですね。凄いです。
井上と加藤って上手くまとまるんですかね?
前半がバトルバトルだったんで後半はラブコメっぽくなるのかな?
サナダ氏お得意の2部構成で。今はまだぎこちないけどw
読み切り、天国の水に慣れてしまったら確かに後は廃人ですね。
116 :
作者の都合により名無しです:2006/02/04(土) 14:19:46 ID:K7Sj8des0
ああ、やさぐれ獅子もやはり二部構成でしたか。
井上さんのツンデレとか見られるんだろうかw
短編もすっきりまとまっていい感じだと思います。
うんこじゃないのが少し残念ですけどw
ラブコメってそういえばバキスレ少ないね。
しぇきさんの令嬢編くらいかな?
ちょっと質問いいですか?
前スレも前々スレもまだ残っているのになぜ新スレが立つのでしょうか。500までとか決まりがあるんですか?
容量
119 :
十三話「潜入」:2006/02/04(土) 21:26:32 ID:pkNUAjLH0
倒れる死の星の使者へ近づきながら勝利に酔いしれ、嘲笑うアミバ。
「フハハハハ!地べたにひれ伏す姿が似合うなぁ、ケンシロウよ!」
ドスッ、と鈍い音が響く、秘孔も何もない単純な蹴りが倒れたケンシロウへ襲い掛かる。
ピクリとも動かないケンシロウに容赦無く蹴りを浴びせ、罵倒するアミバ。
「ふん!丁度あの時もこんな状況だったな。あの時、レイが俺の正体をベラベラと喋らなければ、
貴様が調子に乗って秘孔を解除する事も出来なかったんだ!」
さらに激しくなるアミバの蹴り、流石にこれ以上の暴挙を見過ごすまいと、
二人の超達人級の動きについて行けず立ち往生していたホークが動く。
「おい!勝負はついたんだ、そこら辺にしとけ!」
ホークの言葉に反応し、不愉快そうにこちらを見つめるアミバ。
「ん?まだ居たのか。暇つぶしに少し遊んでからこいつをサルーイン様へ献上するか。」
そう言うとケンシロウへと目を向け、ニヤリと不気味に笑うアミバ。
サルーインと言う事はどうやらアミバは冥府の王、三邪神の長男デスによって蘇った亡者のようだ。
だがサルーインとの繋がりが分かった所で、意味は無いかも知れない。
こっちの動きはさっきの攻防で全てお見通し、夜叉横断のフェイントを二度も喰らうような雑魚でも無い。
窮地に立たされたホーク、だがその精神は絶望に包まれてはいなかった。
燃え上がる闘志、噴き出す気合、追い詰められるスリルを潜り抜け続けて強くなってきた。
出来る全てを試して・・・勝つ!
「せいっ!」
ホーク十八番のトマホーク、だが北斗神拳に飛び道具は通用しない。
左手の人差し指と中指だけで器用に受け止めるアミバ。
「二指真空把!と、飛び道具を受け止める事は従来の北斗神拳と変わらん。
だが、このアミバ流北斗神拳ではボウガンのような弓に限らず、飛来する物全てを受け止める事ができる。」
二本の指で止めた斧を右手に持ち替え、振りかざして自信タップリに言い放つ。
「確かに俺は武器には精通してはいない、だが俺は天才。
どんな拳法でも誰よりも速く習得できる、ご丁寧に披露してくれたお陰で、この天才には手に取るように分かるぞ!」
120 :
十三話「潜入」:2006/02/04(土) 21:27:11 ID:pkNUAjLH0
話を終えると同時に振りかざした斧をホークへ向かって投げつる。
威力、スピードにムラがあるものの、完璧なトマホーク。
ギリギリの所でかわして次の攻撃へと移るため懐へ手を伸ばす。
だがそういった動作を必要としない分、拳法家のアミバが先手を取る。
「遅い!鷹爪三角脚!」
常軌を覆す様なスピードで壁を蹴り、勢いを増して蹴りかかって来る。
秘孔への攻撃と見てしまい、そのまま懐にある剣を引き出しながら防ぐ。
だがそれは北斗神拳では無く、北斗と対を為す拳、南斗聖拳の技。
経絡秘孔へ気を送り込み破壊するのでは無く、気を集中させた己の四肢で相手の外部破壊を目的とした拳。
北斗神拳とは全く逆の発想から生まれた拳、その南斗聖拳によってガードした剣と一緒にアバラ骨まで砕かれるホーク。
だが闘志は尽きない、それどころか湧き上がってくる。
「何故?今のは確実に致命の一撃だった筈だ!」
体が動き出す、足取りが重い、ぐらぐらと体を回しながらアミバへと近づく。
「くっふふ!そんな体で何が出来る!」
満身創痍のホークから溢れる気迫、念を押して確実に秘孔を突くため狙いをつけるアミバ。
ホークが急加速する、体の回転を拳に込める。
流体拳、体術の基本中の基本の技が、アミバの胴にヒットする。
「へ・・・あ、あいて」
こんな体術初心者の技に当たった、その事実を受け入れられず反応がスローになる。
「バ・・・バカな、この冥府で強化した天才のボディがこんな死に底無いのく、くく屑の攻撃でダメージを?」
息も絶え絶えのホーク、限界が来たのか闘志も弱り始める。
風前の灯火が消えかかってるのを目の当たりにして安心するアミバ、止めを急がなくても死ぬのを確信する。
「ふ、フフフ、ウワハハハハハ!そうだ、気力で秘孔を無効に出来る事があるのは研究で分かっていたではないか!」
そう言いながらも後ずさりし、距離を取る。
目の前の小さな火を消すために、最後の攻撃を仕掛けるために。
「その気力は誉めてやろう、この天才に素人にも関わらず体術で一撃を与えた事もな。
だがこれで御仕舞いだ・・・死ねぇ!北斗剛掌波!」
アミバの両腕から闘気の波動が放たれ、闘志の灯火は消え去った。
121 :
十三話「潜入」:2006/02/04(土) 21:28:35 ID:pkNUAjLH0
「フ・・・クックック、少し手こずったがこれで終りだ。
後はサルーイン様の親衛隊を強者達の遺骨から創り出すだけ・・・。」
ケンシロウとホークの遺体を近くに置いてあったタルへ詰め込む。
「そして、その親衛隊の隊長としてサルーイン様へ仕える忠実な僕として!
この世を深い混沌へと落とし!光の神エロールを討ち取るのだぁ!うわははは!」
タルに蓋をして階段を降りるアミバ、そこでアミバを迎えたのは巨大な地底湖の空洞と、
地上の偵察用の低級モンスターの群れだった。
その中の上位に当たる少し大きめなゴブリンに話しかける。
人語を理解できるのか、大きめなゴブリンは数体のゴブリンと共にタルを運び出す。
次に向かった先は地底湖に浮かぶ船のある一室。
赤衣を身に纏う男、否、人間では無い。
途轍もなく邪悪で巨大な魔力の塊。
その魔力の塊へと膝を着き、報告を始めるアミバ。
「ミニオン・ストライフ様、御背の通りケンシロウを生かして捕らえました。」
ふてぶてしく笑うアミバの報告に、特に感情を示さず淡々と答える。
「そうか、良くやったアミバ。誉めて遣わす。」
頭を下げるアミバ、そのまま話を続ける赤衣の男。
「あの男を使い、引き続き秘孔の研究を続けよ。朽ちたの北斗の使者達への魂の情報がまだ足りぬ。」
その言葉に応じて顔を上げ、自信有り気に答えるアミバ。
「フフフ、あの男達に取っては拳は魂も同様。遺体からの再生が出来ぬのならば北斗神拳を利用し、
強化した肉体とアミバ流北斗神拳を併せ持つ最強の拳士が出来るかと。」
スケルトン等の既に亡骸と化しているモンスターは怨念によって勝手に動いているか、
何者かの魔力で動いているかのどちらかである。
後者の場合、遺体に残っている魂の状態が悪いと別の魂を引き剥がして融合させて使う事がある。
朽ち果てた北斗の戦士達は引き剥がした魂を拒否したのだ。
強い誇りと信念と拳に生きた男達は他者の介入を拒み、亡骸から薄汚い生を拾う事を拒んでいるのだ。
そこでサルーインは秘孔の研究をしていた男に再び生を与え、朽ちた戦士を蘇す方法を探させていたのだ。
その朽ちた戦士とはケンシロウの兄、トキ、そして北斗最強の男にして拳王と呼ばれた地上の覇者。
その名は世界を混沌に包み、町で一言呼ぶだけで周囲の人々は恐怖に慄いた。
最後は心の奥底の愛によって自らケンシロウによって倒された巨人、その名は・・・ラオウ。
122 :
十三話「潜入」:2006/02/04(土) 21:30:12 ID:pkNUAjLH0
〜隣の船室〜
「朽ちた北斗の戦士・・・まさかな。」
壁に耳を当て話に聞き入るケンシロウ。
その周りには先程ケンシロウの入っていたタルの残骸とそれを運んでいたゴブリン達の死体の山が築かれていた。
その船室のドアではホークが誰も来ない様に見張っている。
「ケンシロウさんよぉ、何時になったらここを出るんだ?外で仲間が待ってるんだが。」
悪態を吐くホーク、何故か傷が綺麗に塞がっている。
「あのゲッコ族の戦士の事か、安心しろ、俺の仲間に任せてある。」
壁から耳を離し、ホークと作戦を練る事にしたケンシロウ。
ホークへと目を向け打ち合わせを始める。
「その傷は俺の突いた秘孔で一時的に塞がっている。無茶をしたらすぐに出血が始まる危険がある。
そこで俺が船内の奴等の注意を引き付ける、その隙に脱出用の船を捜してくれ。乗り移る時には狼煙を上げる。」
窓は無いが、船室の広さからして大型船である事には予想はつく。
その役割を引き受けるホーク。
「分かった、だがもしも俺が一人で逃げたらどうするんだ?」
ホークの目を見て、ケンシロウは言った。
「お前の目には何も映っていない・・・怒りも、悲しみも。」
愛?悲しみ?何を言おうとしているのか分からなくなるホーク。
だがケンシロウは気にせず話を続ける。
「だがアミバと死闘を繰り広げた時のお前の目には、確かに映っていた。それを信じる。」
アミバとの死闘・・・?良く覚えていない、思い出そうとして考えるホークにケンシロウは、
「・・・名を聞いていなかったな、俺の名前は既に知っているな。お前の名は?」
「俺の名は、キャプテン・ホークだ。」
ジャングルの時の様にバレるとまずいので珍しく普通に言う。
再びドアへと目を向け敵がいないか確認し、ケンシロウに伝えようとした時、既にケンシロウの姿は消えていた。
上の甲板で叫び声が上がった、まずはアミバに奪われた武器をなんとかするため武器庫へ向かった。
123 :
十三話「潜入」:2006/02/04(土) 21:31:44 ID:pkNUAjLH0
ここ2,3日弟がパソコンで廃人してないんで自分にしては速めに出来上がりました。邪神です。(0w0)
最初の頃はもっとハイペースだったけど2,3話でストップしたというアホな経験が・・・
これからも暇な時はモンスターハンターばっかやってないでこっちにも手を出しますYO
ちなみにモンスターハンターのマイキャラの名前がアミb(ry
取り合えず聞かれた事に答えます。
〜サガ講座&質問箱〜
ミニオン・ストライフ サルーインの分身の内の一人、前にもここで示した「脳削り」
を連射すると魔法しか使わないので果てしなく弱くなり最終的にはボスキャラなのにゴブリンと変わらない弱さ。
ラストダンジョンで3体のミニオンを倒すと3体一気に襲い掛かって来る。
3体もいると流石に脳削りが間に合わないためその時だけ強い。
何故かサガ講座がゲーム攻略講座になっている節がありますがあまり気にしないでください。
38氏の質問 その通りです。原作でレイがいってた通りアミバ様は顔が一つに落ち着かないんです。
でもケンシロウに殴られて顔が元に戻ってきたとか書いてあったけどどこが変わったのかさっぱりです。
しかもケンシロウがなんでトキと見間違えたのか本気で分からないくらい似てない。
アニメ見てないから分からないけど声の問題とかもあるし、ケンシロウは人を見る目が無い奴です。
48氏の質問 拳王様とか倒した後のケンシロウなんでアミバじゃちょっと・・・
そんな訳でデス様がパワーアップさせて蘇らせてくれました。指が吹っ飛ぶ秘孔に耐えられたのはそのおかげです。
ちなみに斧の技は拳法じゃないだろって思うかもしれませんが「白爪妙剣」とかいって剣を取り出す奴もいたので
とりあえず彼らにとって戦う術は全て拳法なんです。中国拳法で青龍刀使う危ない中国人もいるでしょ?
また質問あったら受け付けます、ストーリーの矛盾は後で無理矢理修正できるかもしれないので
あったらよろしくお願いします(0w0;)
おお、邪神さん今回はいいペースの投稿ですね
アミバもサルーイン一派ですか。そのおかげでパワーアップしてるのかな?
どうやらケンシロウは何か策があって倒されたようですけど・・
ケンシロウには強いままでいて欲しいですね。一人でシェラハ位を倒せるように。
弟さんもしかしてネトゲ廃人ですか?
あれはヤバいですね。個人的にあれだけは手を出さないようにしてますw
125 :
作者の都合により名無しです:2006/02/04(土) 23:08:21 ID:QCB1P4v10
アミバ様は後ろ盾があると強いなあw
ホークの強さがイマイチ分からないんですが。
強い部類だけどケンシロウ以下でしょうね。
>サナダムシ氏
井上さんと加藤。接触はさすがに神心時代は無かったんですかね。
この2人にどう感情変化があるか、そしてどんな敵が襲ってくるのか。
井上さんは戦闘で役に立つのか?SAGA化にも少し期待してます。
>邪心氏
アミバは猿印に屈服する事により、魔闘気とか使えそうですね。
一応、あの世界では才能上位ですから強敵になるかも。
いずれケンシロウかホークのカマセになるんでしょうけど。
127 :
作者の都合により名無しです:2006/02/05(日) 06:30:24 ID:Rsb1DePA0
邪神さん乙。
ケンシロウとホークのニューコンビに期待してます。
ロマサガ講座、もうネタもないだろうに頑張るなw
しぇきさん最近どこ行ったんだろ。
128 :
作者の都合により名無しです:2006/02/05(日) 20:07:16 ID:mgcobqIa0
そういや今年に入って来たか?心配だな
今年に入って消息がつかめない人の4割がライブドアホルダーという調査結果もある
130 :
作者の都合により名無しです:2006/02/05(日) 20:58:14 ID:mgcobqIa0
ありがちだ。
しぇきさんとかともかくパオさんとかやってそう。
このタイミングでそれを紹介されたのは、私にとって大打撃
第三章「告発」
scene24 死に誘う怪談
夕凪、玉崎ペアの呼びかけによって
先ほど散開した九人は、再びホールへと集合していた。
「みなさんに集まってもらったのは他でもありません。
これより『犯人』を告発し……このゲームを終わらせる為です」
ホールに、夕凪の凛とした声が響く。
「まったく、まだペアを作って半日も経っていないのに
もうこうして、全員が勢揃いする羽目になるとはね……」
笠間が、苛立たしげに髪をかきあげながら言う。
「まあいいじゃねーか。犯人を告発する準備が整ったんだろ?
こんなクソゲーム、早く終わるに越した事はないしな」
と小此木。
「だ、誰なんですか……誰なんですか犯人は!」
只野は、手をぶるぶると震わせながら夕凪に詰め寄る。
「わかりました。論拠は、追々話すとしまして――単刀直入に言いましょう」
ホールは、水を打ったように静まり返った。
全員が固唾を飲んで、夕凪の次の言葉を待つ。
「笠間、潤さん。あなたを『犯人』として……告発します!」
強い口調。夕凪は『笠間潤』に、びしっと人差し指を突き付けた。
全員の視線が、笠間に集中する。
笠間はきょろきょろと周囲を見回し、うろたえたように後退った。
「僕……僕!? なんで僕が? 冗談じゃない!」
「理由は簡単。三号室の『密室殺人』は、あなた以外には不可能だからです」
「な、何を……!」
「あなたの立てた計画を、一からお話します。
トリックの布石、その最初の一手は、昨日の夕食時に遡ります……
あなたは確か『シュプールの怖い話』を皆に話して聞かせましたよね?
話の要点……怖さの肝とでも言うべき箇所を笠間さんの発言から引用すると、次の通りです。
『電話を取らなかったり、その声に何も答えなかったりすると
被害者――南の亡霊が現れて、魂を持っていってしまう』
この怖い話の真意は、三つありました。
一つ。三号室に残される、着信記録の不自然さを緩和する為。
二つ。怪談嫌いの香坂さんに『電話を取らなければ死ぬ』と、強迫観念を与える為。
三つ。トリックの要となる香坂さんの『癖』を確認する為」
「癖っすか……?」
「はい。あの時の、笠間さんの言葉を思い出してください。
『はは、やっぱり変わってないんだ。まどかの、怖がると指しゃぶる癖』
……これです。笠間さんは、香坂さんの、指をしゃぶる癖を確認したかったんです。
そして、夕食後。笠間さんは人目を忍んで三号室……香坂さんの部屋に向かいます。
因縁こそあれ、元恋人。喧嘩するほど仲がいい、ともいいますし――
何かしらの理由をつけて、部屋に入るのは容易かったはずです。
少なくとも、ここにいる他の人たちよりは……
三号室に入った笠間さんは、香坂さんの隙を見て、内線電話の受話器部分に毒を塗ります。
後は何食わぬ顔で部屋を出て、午前零時に、香坂さんの部屋に内線電話をかけるだけでいい。
過去、忌まわしい殺人事件があった場所。外界から隔絶された、吹雪の山荘。
そんな、雰囲気抜群の舞台設定の中『取らなければ死ぬ』と聞かされた午前零時のコール。
香坂さんと長くお付き合いのある、あなたにはわかっていたんです。
例え、悪戯の可能性が高かったとしても
怖がりな香坂さんは必ず、受話器を取ってしまうであろう事……
その後……恐怖に駆られた香坂さんがいつもの癖で、指を舐めてしまうであろう事……!」
「バカバカしい……! よくもそこまで、出鱈目を並べられるものだよ」
笠間は苦虫を噛み潰したような顔をして、肩を竦める。
「三号室が密室になったのは、至極当然の成り行きなんです。
香坂さんは、自分で部屋に鍵をかけ、掛け金を下ろし、深夜にかかってきた電話を受け……
受話器に触れ、毒のついた指先を舐めることで亡くなったんですから……!」
「妄想! 妄想もいいところだよ。
君の推理は、こうやればできたかもしれないって言うだけの
根拠のないこじつけ……当て推量に過ぎない……!
第一、証拠が一つもないじゃないか……!」
笠間が、反撃に転じる。
「証拠はあります……現場……三号室に……!」
夕凪の先導のもと、カイジたちは三号室へと向かった。
白い布をかけられて横たわる香坂の死体。笠間はそれを、しきりに気にしているようだった。
「香坂さんの前で、誓えますか……?」
静かな、けれど迫力を感じさせる声で、夕凪は笠間に問いかける。
「私の推理は全て事実無根の妄言で……笠間さんは犯人ではないと……!」
笠間の頬が、ふっと緩む。
「ああ、いいよ。いくらでも誓う。僕は断じて、犯人じゃない」
香坂の亡骸を見つめ、笠間はそう言い切った。
「言いましたね」
「それはそうだよ。揺るぎない事実なんだから……」
「それでは……」
そう言って夕凪は、電話台の方へと手をかざす。
受話器はまだ、あるべき場所に戻らぬまま、ふらふらと宙を彷徨っていた。
「この電話機は、見ての通り犯行当時のまま……誰も触れていません。
笠間さん。受話器を手に取って元の位置に戻し、その指を舐めてください。
私の推理が全て、事実無根だと言うのなら……
この受話器に、毒など塗っていないと言うのなら……!」
トリックが実行されたとするならば
毒はまだ、受話器に残っている……夕凪にはそんな確信があった。
『まどかが死んでいる? それも、僕が昨夜話した……
雑誌の受け売り……ふざけた怪談通りに? それ、何の冗談かな?』
この、笠間さんの台詞……これは、本心なんかじゃなくて……
カイジさんに……遺体の第一発見者に『ある言葉』を言わせるのが目的……!
『冗談でもなんでもないっ……!
嘘だと思うなら、三号室へ行って自分の目で見てくればいい……』
遺体発見の報を、必要以上に疑ってみせることで……
焦れた発見者から『確認してくればいい』そんな言葉を引き出す……!
そう。自分から『三号室を見てくる』と言い出してはあからさま……
自然な成り行きと見せかけ、一人で三号室へ向かえるよう仕向けたかった……
受話器に残ったままの毒を拭き取り……犯行の痕跡を完全に消す為に……!
でも……失敗した……予想以上に、一条さんの遺体が、早く発見され過ぎたから……!
それからすぐに、全員でオーナー控え室に行って……
そのまま、黒川さんの提案で『ペア作戦』が開始される……
笠間さんに……事件発生後、毒を拭き取る時間的余裕はなかった……!
「いいとも。後ろ暗い事なんか何もありはしない。言う通りにしようじゃないか――」
受話器に手を伸ばしかけて、笠間はぴたり、と動きを止めた。
「そうか……そういうことだったのか! 危うく引っかかる処だったよ!」
「……どういうことですか?」
「まったく……! 可愛い顔して、とんだ女狐だよ……!
犯人は、こうしてでっちあげの推理を並べ立てている君自身だ……!
夕凪理沙、君を真犯人として、今この場で告発する……!」
夕凪は、何が起こったのかわからない、と言った風な、きょとんとした顔で笠間を見た。
毎度ありがとうございます。前回投稿は
>>96です。
三章突入です。まだ終わりませんが、ゴール地点が見えてきたような。
都合により、ちょっと次回まで間が空くかもしれません。
・これから長い推理が
推理は、もう少し続きます。そんなに長くはないかもしれません。
・?????視点
大仕掛けとして利用しようかと思ったのですが
ふら〜りさんには早速見抜かれていますね(汗
かまいたちの夜ファンの方には消去法で予想がつくでしょうか。
138 :
作者の都合により名無しです:2006/02/06(月) 08:17:21 ID:wjyeF4Lv0
夕凪かっこいい。メンバーの中で最年少の1人なのに、一番しっかりしてる。
しかし指を舐める癖まで伏線だったんですか。凄いな。
ただ笠間も逆襲に転じましたね。IQ高い人のやり取りは見応えあるなあ。
出来るだけ早く復活してくださいね。
一番気に掛かるところで寸止めはつらいw
139 :
作者の都合により名無しです:2006/02/06(月) 18:19:49 ID:MlsbawPS0
推理合戦か。激しく笠間のは詭弁臭いけど。夕凪のロジックも完璧とは思えない。
これから一波乱も二波乱もありそうですね。どうやら折り返し地点くらいかな?
次回更新まで、夕凪ロジックの粗捜しをしながらw待ってます。
今回はいつもより感想が少ないな。
かまいたちやった事無いんだよな・・・ちょっと悔しい。
夕凪の論理って消去法だよね。確たる証拠は無いに等しい。
指をなめる癖からの拡大妄想っぽい。そんな夕凪が萌えだけどw
状況証拠ばかりだから、犯人のトリックひとつですぐに裏返せそうだ。
そのトリックがわからんけどw
ま、今回は夕凪の推理が間違ってそうな気がする。
でも、毒が本当ならまた状況は違ってくるか。潤ちゃんの反撃楽しみ。
死亡フラグたったな>夕凪
俺は潤の死亡フラグかと思ったが
なんでこんなにマンセーなんだ………ウラヤマシス。
('A`)ウツダ
>145
長編推理モノだからじゃないの?
今まで無かったし。
後、ネットなんぞで鬱にならないでくれ。こっちが鬱になる
147 :
ふら〜り:2006/02/06(月) 23:43:16 ID:A9kQX7Kn0
>>サナダムシさん
やさぐれ獅子
>親友(ドッポ)から授かった命
うんうん。もはや君一人の体ではないのだぞ。という、ほのかに抱いた腐思想を砕く夜の
武勇伝。井上嬢の不安は杞憂に終わりそうですが、試練ならこの程度ではないはず……?
副作用
納得、きれいな因果応報。でも考えてみれば天国か地獄かの二択って酷い話です。真ん中
が一番多かろうに。クモ一匹助ければ殺人鬼が極楽に行きかけたり。私だとどうなるか?
>>邪神さん
>「おい!勝負はついたんだ、そこら辺にしとけ!」
いやまぁ彼らの世界では殺すまでやるのがデフォですから。アミバの強さは予想外レベル
でしたが、やはりこういうオチか。あとケンシロウが「仲間と作戦の打ち合わせ」って
なかなか稀有なものを見せて頂きました。次は兄二人のゾンビ開発が成功するか否か?
>>見てた人さん
普通の閉鎖空間疑心暗鬼連続殺人ではない、「推理バトル」らしい展開になってきました。
前にも言いましたが明らかに浅慮な人がいないので、互いの考えのぶつけ合いが濃くて
読み応えあります。この辺の会話も、後でカイジが引用して推理披露してくれるのかな?
【昼】ランチタイム
捜査二日目。
午前中はさしたる展開もなく、千歳と根来はごく普通に仕事をした。
千歳は伝票をコピーした。コピー機に紙を補充した。あと電話にも出た。
根来はずっと黙々とパソコンにデータ(数字)を入れていた。
パソコンはノート型だ。しかしこれはデータ入力に不向きといえる。
理由については皆さまお手元のキーボードをご覧あれ。
デスクトップ型というか、PCからキーボードが独立してるのなら、右の方に数字だけが集まっ
たキーがあるだろう。これをテンキーという。
そしてノート型にはテンキーがない。
だから数字の入力は、キーボード上部の平仮名が刻まれたキーを使う。
しかしである。「ぬ」、「ふ」、ときて「あ」があるのは歯がゆくはないか?
並びは「ぬ、ふ、う」であるべきなのだ。されば双子(桜花と秋水ではない)も同時に達しよう。
無駄話はともかく、キーボード上部の数字を打っていくのは非常に骨が折れる。
なぜなら、これらの数字は横並びになっているから、全てを打つには両手を使わなくてはな
らない。
キーボードを見ずにデータを入力するコトを「タッチタイピング」というが、これは左手人差し
指を「F」に、右手人差し指を「J」に固定し、必要に応じて様々なキーに指を動かしていく。
その場合、かなり上の方にあるキーに何度も何度も両手を動かすのは疲れる。
しかし、テンキーがあれば右手だけで数字を入れられるし、何より、電卓に慣れていれば
かなり早く入力ができる。
長々と書いたこれが根来とどう関係あるかというと、彼は朝礼が終わるなり、副部長に
「外付けのテンキーはないか」
と聞いた。
果たして、あった。
あとはもう迅速である。
タタタ、タタタ、タタタタタ!
軽やかなるタッチタイピングの音が根来の手元より走る走る!
みな感嘆した。千歳も感嘆した。
他のものなら3時間かかる分厚い伝票の束を、根来は1時間も掛からぬうちに始末した。
なんという奇妙なる特技であろう。
彼は一体どこでそういうのを習得したのか。千歳が根来に抱く疑問がまた増えた。
そしてお昼になった。
「なんだこれは」
根来は机の上の物を見ながら不機嫌そうに呟いた。
そこにあるのは、藍色の包みを解かれた小さな長方形の箱。
色は銀で、それが二段重ねになっている。
根来の向かいに座っている千歳は、ノートやメモ帳をてきぱきと机に乗せている。
打ち合わせに使うらしい。
最後に、横の椅子に置かれたバッグから藍色の包みを取り出してから、思い出したように、
根来の疑問に答えた。
「お弁当」
「結構だ」
スっと折り目よく根来は突き返した。
「粗衣粗食は体に毒よ」
心配そうな顔で千歳は囁くが、しかし根来が聞きいれるとは、実は思っていない。
思っているのだが、豆腐とご飯だけしか食べないのは体に悪いし、第一、根来は尾行という
神経を使う役目を負っているのだから、しっかり食べないと体がもたないのもまた事実。
という思惑を千歳は、なるべく根来が受けいれやすいよう論理的に、かつ粛々と説いたが
「それは貴殿の主観だ。私においては差し支えない。そもそも任務遂行の過程では、貴殿の
いう毒のある環境こそが常なのだ。馴染まねば思わぬ所で隙が生じ、不覚を取る」
よって千歳の手弁当は食う必要はない。
という根来流の返答で論破された。
これはもう、強がりとか意地とかではなく、根来の中ではただ「当たり前」のコトなのだろう。
水は高いところから低いところに流れる。氷は火であぶれば溶ける。
そういう原則的な現象を見るように根来は、自身が粗衣粗食でも支障がないと断定している。
きっと数多の経験があるに違いない。もっとも彼は空腹ですら、リトマス試験紙が青やら赤に
染まるのを見るような感じで認識していたに違いない。
そういう部分は戦士としてなら好ましいが、しかし一人の人間とみなせばどうか。
根来は恐ろしく乾いた無表情だが、注意してみると少年の面影がまだうっすら残っている。
まだ彼は20歳。厳粛に自戒をすべき歳でもないのだ。
千歳の感情としてはお弁当を、そう、照星や火渡や防人にしか作ったコトない、割合でいけば
防人に一番よく作っているお弁当を食べてもらって、栄養を取ってもらいたい。
が、千歳のややこしいところはその思考力だ。
「粗衣粗食に馴染まねば、不覚を取る」といわれたら「ああ、そうかも知れない」とどこかでは
納得してしまっている。
けれど、それは千歳の頭の一部分、いうなら戦士としての性分がさせているコトであって、
女性的な部分ではやはり弁当を食べて欲しい。
とはいえ、千歳はその感情を強引に押し通せる性格でもない。
そしてブッちゃけてしまえば、弁当を食べる食べないの押し問答をする位なら、事件について
打ち合わせをする方が有益だ。
てな訳で、千歳は弁当を鞄にしまい、昨日聞いた社員の簡単なプロフィールや工場の間取り
などを根来に説明した。
「……大体は分かった」
「ところで、昨日あなたがいっていたホムンクルスだけど、今説明した人の中には」
「一応はいる」
事もなげに根来はいうが、それはかなり恐ろしげなコトでもある。
午前中仕事していた時にも、背後に立っていたりしたかも知れない。
ゆえに千歳たちの正体は絶対に知られてはならない。
下手に追い詰めれば、この会社で暴走し、多くの罪なき人が巻き添えになる。
では、いざ斃(たお)す時はどうすればいいのかというと、やはり根来に頼るほかないだろう。
シークレットトレイルならば、あっさりとできる。
亜空間の中から刀を飛ばし、章印(ホムンクルスの弱点。頭もしくは胸にあるマーク)を一撃!
それで片がつく。
「だが今はまだ斃さぬ」
「そうね。本当に麻生部長を殺したかどうか突き止めないと、誰も納得できないから」
千歳は深く長く息を吐きながら、根来に応じた。
ただ斃すだけならば、戦団の請け負った「調査」という仕事は果たされないし、工場も訳の
分からぬまま貴重な労働力を奪われて、立場上迷惑する。
それに、殺された麻生部長の遺族とて、ただ「ホムンクルスという化物が、多分麻生さんを
殺しました。でも敵は討ちました」という説明を受けるだけでは、感情に何ら決着をつけれ
ないだろう。
ホムンクルスに突如家族を奪われるという理不尽におかれた人がいるのなら、せめてその
理由と詳細だけは説明したい──…というのは千歳の個人的な感傷だが、しかしすべきコト
に背いてはいないだろう。
「……本音をいうと、ホムンクルスを斃した後でじっくりと調査した方が安全でしょうけど」
「だが自白は取れぬ」
頷く千歳に、根来はいつもの調子で長々と喋る。
「できれば録音するのが望ましい。聞けばいかなる連中も納得する。だが、喉元に刃先を当
てて導いたモノでは良くない。……例えば」
「物証を提示した上で引き出す?」
「そうだ。しかし奴がそれに付き合うかどうかも疑わしい。いっそ、安全を考えるのならば」
根来は相変わらず三白眼で、ため息をつき、
「拘束すれば良かろう。円山のバブルゲイジなら最適だ」
と、彼の同僚の「一発命中するごとに、身長を15cm吹き飛ばす」武装錬金の名を上げた。
「何発か攻撃を加えれば、あのホムンクルスは無力化する。あとは鳥カゴにでも入れてゆっ
くりと尋問して、貴殿がその間に証拠を集めていけば確実だろう。考えてもみろ。工場にホ
ムンクルスがいる状況で、私たちが悠長に謎解きや推理をする必要など、どこにある」
千歳は目を丸くした。
この男は何というコトをいっているのか。
もし千歳が肯定してしまえば、さまざまなものが放棄されてしまうではないか。
が、これほど筋の通った安全かつ確実な方法は多分ない。
やろうと思えば、千歳の武装錬金で戦団の日本支部まで移動し円山を連れてきて、根来と
もどもホムンクルスを待ち伏せてしまえば、必ずできる。
そうだ。錬金の戦士がいちいち推理とか謎解きとかする必要は本来ないのだ!
「もっとも、これは私と貴殿に下された任務だ。円山の助力を仰ぐのは好ましくない。ホムン
クルスの動きは気になるが、私が監視している以上、余計な動きは取らせん。つまる所は
その間に貴殿が証拠を集めていく他なかろう」
鋭い光を目に宿しながら、根来は淡々と呟く。
「そういうコトね」
と答えつつ、千歳はちょっと意外な思いをしていた。
根来は筋とか合理とかいうものを貫くために、もっとなりふり構わない男かと思っていた。
それこそ今の方策を照星にねじ込んで、円山をこの任務に組み込むような。
が、しない。あくまで根来と千歳二人のみで片付けようとしている。
ある種の、請け負った仕事に対する美意識があるように見受けられるが、もう少し組織とい
う物に頼ってもいいのではないかとも、千歳は思う。
ただし、この任務においては千歳自身も大きな助力を戦団には求めない。
なぜなら今の戦団は、ヴィクター討伐のあおりで慢性的な人手不足なのだ。
千歳と、根来。ただ二人でこの任務を遂行せねば、他の戦士に負担がかかる。
一人の戦士がこちらにくればその戦士のいた場所に穴が開き、そのせいで助かるはずだった
命が助からなくなる……想像力のある千歳にはありありと予想できる事柄だ。
だから千歳は持てる機略の限りを尽くして、この任務に挑まねばならない。
そう、あらゆる事象の法則をしかと理解し、かつ、戦局において有利になれるよう。
千歳は機略を尽くさねばならないし、既に一つは実行している。
「ところで、あなたは私の武装錬金について大戦士長から──」
「ああ。聞いている。名はヘルメスドライブ。特性は、対象の走査と瞬間移動。だがここに来る
のに使用しなかったというコトは、大方、貴殿の知らぬ人間や場所には効果がないのだろう」
「ええまあ。で、私の武装錬金についてなんだけど、実はあなたの……」
千歳の胸元から、けたたましい電子音が鳴ったのはその時だ。
>>48さん
原作の「冷徹で任務第一の根来」「むかし大きなミスをした千歳」から考えますと、こうなりま
すね。どうしても。なんといいますか、わずかな接点を膨らませたがる芸風なのです。
ちなみに根来はまだ20歳。意外な話ですが、年齢的にはまだ「男の子」に近いかも?
>>49さん
あの表は本来なら地の文に混じる筈だったのですが、どうしてか千歳のメモ書きに。
まるで関係ない話ですが、バイオハザードOB2に「ヨーコ」って賢いキャラがいるんですが
こいつはしつこく棒きれを渡そうとしてくるんですよ。捨てても何度も何度も。
千歳がメモ書きを差し出すところは、そのヨーコの馬鹿げた行動を思い出しましたね。
「あんた賢いのに何やってんだ」って。いや、書いてるのは自分なんですが。
>>52さん
ありがとうございます。↑でこういってますが、真面目な人のズレた言動ってのは、自分も好きです。
ふら〜りさん
良妻賢母…… まったく考えてなかったですこれは。流石に。任務のみを純粋に考えてたせ
いでこういう領域に行きついたのでしょうか…… 原作では「防人 衛」っていう人とくっつき
そうな気配があるのですが、根来相手でこうなら一体どうなるコトやら。でも、良妻賢母って言
葉、千歳にはよく似合ってますね。冷蔵庫の中で肉を腐らせたり、いらんっていったタンスを
無理やり買って部屋を狭くしたりは、絶対しないでしょう。
ハイデッカさん
闇…というか困難に対する懐の深さをとっても、信長とジャンヌは似てますね。
そして武蔵。仕官を求めていた魔界転生版と違い、純然たる戦闘の追求者ですから信長に
力を引き出された後の暴れっぷりが期待できます。
あと、一年以上前から暖めている作品がありますが、構想では3ペアぐらいヌチャヌチャします。
ヌチャヌチャを経ないと構築できない関係もあるのです。しかしヌチャヌチャを要さないのが
千歳と根来だったりしますので本作はヌチャヌチャ控えめの…ってこの繰り返しネタ、鷲尾でも
使ったじゃないか俺のバカバカ、…ええと何でしたっけ。ああそうだ、ヌチャヌチャしててもいいはずです。
154 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:06:15 ID:FwDb7iJ20
ごきげんよう、皆様。お久しぶりです。
スターダスト様、続けて失礼します。
ttp://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/31.htm からの続きです。
頭がこんがらがって、何を考えたらいいのかわからない。
車で送ってくれた沙織ちゃんが別れ際に何か言っていたような気がするけど、それすらも朧気だ。
玄関に入ると家の中は暗くて人のいる気配はない。
……そういえば、お父さんとお母さんはこの土日に山梨のおばあちゃんの家に行っているんだということを
ぼんやりと思い出す。
祐麒もまだ帰っていないのだろう。
シン、と静まりかえった家は普段なら寂しいものだけど今日ばかりはとても有り難かった。
だって……何もなかった顔なんて出来るわけない。
覚束ない足取りで階段を昇り、制服のままベットに倒れ込む。
制服が皺になってしまう普段なら絶対にしないこんな行為を気にする余裕すらもう祐巳には残っていない。
(……瞳子……)
温室で見た瞳子の涙が、鋭い刃のように祐巳の胸を突き刺す。
どうして、どうしてこんな事になったんだろう。
(…………私が)
私が、瞳子に秘密を持っていることを悟られなければ。
私が、瞳子に“紅薔薇革命”なんていう不安を与えなければ。
私が、放課後にちゃんと瞳子に会いに行っていれば。
あんな形で瞳子を傷つけることはなかったのに――――――――!!
後から後から湧き出る後悔で息が詰まり、喉から嗚咽が漏れる。
「……っうっ……く……っ……」
顔をうずめた枕が涙を吸い、染みを広げる。
(私のせいだ……私のせいだ……)
結局心のどこかで「瞳子だったらわかってくれる」と甘えていたんだ。
瞳子だって傷つくのに。瞳子を一番傷つけたくないと思っていたくせに。
……お姉様に秘密を持たれる辛さを、祐巳は誰よりも良く知っていたはずなのに。
瞳子にもしものことがあったら。
……考えられない。考えたくない。
155 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:08:12 ID:FwDb7iJ20
ピンポ――――ン…………
静かな家の中に、突然チャイムの音が響いた。
インターホンの音。それはつまり誰かが福沢家を訪ねてきたということ。
(……出なきゃ)
出ないわけにはいかない。
今、この福沢家には祐巳しかいない。居留守を使うようになんて育てられていない。
ノロノロと起きあがり、力の入らない足で階段を降りる。
インターホンの受話器を取るまでにチャイムは二度ほどなったけど、それすらも祐巳にはどうでもよかった。
「……はい」
時計を見ていないのではっきりとはわからないけれど、六時半を回った頃だろうか。
お夕飯にはちょっと早い、でも夕方と言うにはちょっと遅いこんな時間に一体誰だろう。
少しだけ動き始めた頭の片隅でそんなことを考えていると、機械越しに聞こえてきたのは。
「突然申し訳ありません。私、リリアン女子大学の」
――――――――この声は。まさか。そんなことあるはずがない。
でも……インターホン越しだろうと電話越しだろうと、自分があの方のお声を聞き間違えるはずがない。
例え似たような声の持ち主が百人いたとしても、絶対に間違わない自信がある。
だから。今玄関にいらっしゃるのは。間違いなく。
「お、お待ち下さい!すぐ参ります!」
祐巳に遮られた声が再び言葉を発していたけれど、そのことに構う余裕はもちろんなくて。
バタバタと走り、勢いよく玄関を開く。
「ごきげんよう。祐巳」
そこにいたのは予想に違わぬ人物だった。
あまりに突然の再会に、息が詰まる。
「まだ一ヶ月しか経っていないのに……随分と久しぶりに感じるわね」
そう言って優雅に微笑むのは、確実に祐巳の一部を占める大好きな人。先代の紅薔薇さまで――――つまりは祐巳のお姉様。
一ヶ月前に高等部をご卒業されて今はリリアン女子大学に通われている小笠原祥子様、その人だった。
156 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:08:59 ID:FwDb7iJ20
「お姉様……」
解放された呼吸と共に出した声は、少し掠れていた。
思いもよらなかった突然の再会にそれ以上の言葉が上手く作れない。
――――お姉様。お姉様。
あぁ……どうしてお姉様はいつも、祐巳が打ちのめされている時に奇跡の様に現れてくださるのだろう。
美しいお姿も、凛とした佇まいも、ご卒業される前と何も変わってはいなくて。
「お姉様……」
「一ヶ月振りに私に見せる顔が泣き顔なの?相変わらず仕方のない子ね」
その言葉の内容とは裏腹にお姉様の声はとても優しくて。
知らず知らず祐巳の頬を再び濡らしていた涙を、お姉様の白いハンカチがゆっくりと拭っていく。
「お姉様……」
言いたいことや聞いて欲しいことは沢山あるはずなのに、今、祐巳が形作れる言葉は「お姉様」だけだ。
全部、全部打ち明けてしまいたい。
自分は秘密を背負えるような人間ではないのだと弱音を吐いてしまいたい。
縋り付く様な祐巳の瞳に何かを察してくださったのか、お姉様は小さく微笑んで両腕を広げられた。
「――――いらっしゃい」
「お姉様っ…………!!」
迷わず飛び込んだお姉様の胸の暖かさは、一ヶ月前と何も変わってはいない。
まるで氷を溶かす太陽のように、祐巳を優しく包んでくれる。
「私……私っ……瞳子を傷つけて……」
抑えきれない嗚咽と涙が、壊れてしまった防波堤を乗り越えて止めどなく流れ落ちる。
「……瞳子に嫌われてしまったかもしれない…………!」
そう言葉にしてから思う。
――――ああ。瞳子に嫌われるのならまだマシだ。
瞳子に何かがあって……それこそ生命に関わるような何かがあるよりは、百万倍もマシだ。
そんなことになるくらいなら…………祐巳が代わりに死んだ方がマシだ――――――――!!
色々な思いが頭を駆けめぐっていて、お姉様に何をどう言ったらいいのかわからない。
久しぶりにお会いできたのに、こんな風に泣くしかできない祐巳をお姉様はどう思っていらっしゃるのだろう。
「何も言わなくていいわ。私も何も聞かないから」
祐巳の心を読んだかのようなお姉様の言葉が、静かに降りてくる。
「ただ、これだけは言わせてちょうだい」
乱れた祐巳の髪を整えるように、お姉様の手が祐巳の頭を優しく撫でる。
157 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:09:53 ID:FwDb7iJ20
「私も昨年、今のあなたと同じようなことを言ってお姉様に泣きついたことがあったわ。あの頃の私はとても
弱くて……でも、あなたがいたから救われたの。あなたが私を支えてくれたから」
思いも寄らなかったお姉様の言葉に顔を上げると、お姉様は小さく苦笑されていた。
…………お姉様が仰っているのはきっと、昨年の梅雨の季節に起きたあの出来事のことだろう。
お姉様が祐巳には説明できない秘密を持たれて。
学園の憧れの的であった祥子様の妹だという自信を持てなかった祐巳は、何かを隠されているお姉様のご様子
に誤解を重ねてしまって……お互いにすれ違ってしまったのだ。
降りしきる雨の中、祐巳を置いて去っていくお姉様の背を追いかけたあの時の胸の痛みはきっと一生忘れない。
置いて行かれた祐巳も傷ついたけれど、置いて行かざるを得なかったお姉様はもっと傷ついて。
ご自分の殻に閉じこもられて、夢と現の間が解らなくなるくらいに衰弱されて。
あの時、お姉様の下まで祐巳を連れて行ってくださったのは、お姉様のお姉様……水野蓉子様だった。
苦笑を深くされたお姉様の笑顔に、あの時の蓉子様の笑顔が重なる。
「あなたにも……あなたを支えてくれる子がいるでしょう?」
お姉様の手が祐巳の制服のタイを解く。
祐巳と共に過ごす内に癖になってしまった動作。
タイが結び直され、セーラーカラーが整えられていく何度も繰り返された行為が非道く懐かしくて、その懐か
しさが祐巳の心をゆっくりと静めていく。
「……はい」
涙はまだ止まらないけれど……自然に口元が笑えた。
祐巳にも、祐巳を支えてくれる子がいる。何もしなくても、唯そこに存在するだけで祐巳に姿勢を正す力を、
先へ進む力を、与えてくれる大切な子が。
どうにか泣き笑いの表情を作った祐巳をお姉様が目線を同じ高さにして覗き込まれる。
「なら……あなたの為すことはひとつじゃなくて?」
あぁ…………。
その通りです、お姉様。
固まっていた祐巳の心がするりと動き出す。
そう。祐巳の為すべき事は一つ。
瞳子を探し出し……瞳子を守ること――――――――――――!!
「お姉様……ありがとうございます……」
導いてくれて。救ってくれて。受け止めてくれて。包んでくれて。気付かせてくれて。
あぁ……――――自分を理解し、自分を受け止めてくれる人がいるということはなんて幸せなことなのだろう。
158 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:10:40 ID:FwDb7iJ20
祐巳にとってお姉様が唯一絶対の存在であるように、祐巳も、瞳子にとってそういう存在になりたい。
そう思ったから、だから祐巳はあの時、瞳子にロザリオを差し出したのだ。
曇っていたその思いを、お姉様が晴らしてくださりこうして道を示してくださった。
伝えきれない感謝の思いを込めて見上げると、お姉様は満足げに微笑まれている。
きっと祐巳の今の気持ちを解ってくださっているのだろう。
少し気持ちが落ち着いたところで、ようやく正常に頭が巡り始め、次々と疑問が湧いてきた。
「そういえば……お姉様はどうしてウチに?あっ、何か御用があったのですよね?!申し訳ありません、私、自分
のことばかりで突然泣いたりして……あああ!そうだ、私、お姉様のお洋服を濡らしてしまって」
「落ち着きなさい、祐巳。……本当に、あなたはどうしてそう成長しないのかしら」
最後に口から出る予定だった「申し訳ありません」を遮り、お姉様がため息をつかれる。
「申し訳ありません……」
「私の服なんかどうでもいいのよ」
どうでもいいなんて、そういうわけにはいかない。だってお姉様のお洋服はきっと祐巳のお小遣い数ヶ月分くら
いするようないいお値段のはずなのだから。
涙の染みって落ちるのだろうか。雨染みとかの仲間になるのかな。着物とかだと雨染みは落ちにくいと聞いた事
があるけど、今日はお洋服だし大丈夫かな。あ、そういえばいつか拝見した振り袖姿のお姉様、綺麗だったなぁ。
また微妙に逸れた方向へ思考を巡らせた祐巳に気付き、お姉様が再度ため息をつかれる。
「私がここに来たのはね、偶然この近くまで来たということもあるのだけど……何となく祐巳が呼んでいるよう
な気がしたからなのよ」
来て正解だったわね、と付け加え、お姉様は勝ち誇ったように微笑まれた。
「何となく祐巳が呼んでいる様な気がした」って……、それはつまり、お姉様と祐巳は離れていても繋がっている
のだということを証明してくださったようなモノで。
うわ……。どうしよう。すごく嬉しい。お姉様がご卒業されても祐巳を気にかけてくださっていたということだけ
でも嬉しいのに。これ以上の嬉しさをくださるなんて。
――――――――『見てらっしゃい。必ずあなたの姉(スール)になってみせるから』
この言葉から始まったお姉様と祐巳の絆を紡ぐ物語は、こうしてお姉様がご卒業された後でも続いているのだ。
それはなんて幸せなことなのだろう。
「お姉様、好きです。大好きです!」
再びお姉様の胸に飛び込んだ祐巳を慌てて支えながら、お姉様は「馬鹿ね」と呟かれた。
それでもお姉様はきっと微笑んでいらっしゃる事を、祐巳は確信していた。
159 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:20:07 ID:FwDb7iJ20
(沙織ちゃんにあの子の居場所を聞こう)
きっと沙織ちゃんは知っているはずだ。
そうして瞳子を返してもらおう。
お姉様がお乗りになった車が去っていくのを見送り、家の中に戻った祐巳はスカートのポケットを探る。
確か、沙織ちゃんが去り際に『何かありましたらご連絡下さい』と渡してくれたメモをここに入れたはずだ。
指先に触れた紙を取りだし、丁寧に畳まれたメモを広げる。
きっと高級なのであろう紙に綴られているのは数字の羅列。
『ご連絡』ということは、きっとこの数字は沙織ちゃんの連絡先なのだろう。
(あれ……?)
今、心に何か引っかかった。些細な事だけど、違和感を感じざるを得ない事。
(なんだろう)
その引っかかりの正体を掴めないまま、祐巳は電話の子機を取ると、メモに視線を落とす。
「……え」
感じた違和感とはまた別の事実に、手が止まる。
その紙に書かれていたのは数字だけではなかった。
その下に、はっきりとした美しい字で一文が添えられていたのだ。
『虹が何色か、ご存じですか?』
何度見返してもそこにはそう書かれている。
『虹が何色か』。それは虹には何色と何色があるか、というような意味なのだろうか。それとも虹そのものの
色を尋ねているのだろうか。
声に出して質問されればどちらか解るけど、書かれた文字からはそこまで読み取れない。
後者だとすれば七色としか答えられない。
前者だとすると……え、と……確か、赤、青、紫、黄色……緑はあったっけ。
頭の中で虹を思い描いても七色あるはずの色を全部思い出すことが出来ない。
そもそも、何故、虹についてこんな風に紙に書いてまで質問をするのだろう。
沙織ちゃんの意図を掴めず固まってしまった祐巳の手の中で、突然子機が電子音を鳴らした。
(なんか……)
嫌な感じがする。この電話に出てはいけないような気がする。でも。
160 :
虹のかなた:2006/02/07(火) 01:21:16 ID:FwDb7iJ20
「……はい。福沢ですが」
『ごきげんよう。紅薔薇さま』
ごきげんよう、紅薔薇さま。それは新学年を迎えてから毎日のように聞いているありふれた挨拶の言葉。
でもこのありふれた言葉だけで祐巳には電話の相手が誰なのかはっきりとわかった。
声だけで判別できるほど彼女と親しいわけではない。
だから勘としかいいようがないのだけれど。
「……上原、萌奈美さん……?」
今回はここまでです。
書きたかった祐巳と祥子様の再会シーンが書けて個人的には満足しています。
気温差が激しいですが、皆様風邪などひかれませんように。
それでは、ごきげんよう。
ミドリさんキタぁあああああああああああああああああああああああああああああ!
待ってましたよ!
やっぱり祥子さまと祐巳はこうで無いと
そしてついに黒幕と接触する祐巳!
気になるヒキも含めて超GJでした!
>ネゴロ
根来が超人の域に達してますな。フィールドワークだけでなくデスクワークも完璧。
回が進むごとに、千歳との差が開く感じです。千歳の方が好きなので複雑ですが。
しかし、千歳は女らしく弁当用意したと思ったらあまりにも合理的な思考ですな。
この2人では男女間の何かは生まれそうにないなw
>虹のかなた
おお、ミドリさんお久しぶりです。一ヶ月に一回で良いのでお願い致します。
ちょっと顔が赤くなる再会シーンですが、良いですな。若い頃を思い出した…
ミドリさんはこういう女の子の心理描写の細かさが本当に上手いですね。
だんだん話が暗転していく感じがありますが、この温かさは最後まで貫いて欲しい。
>虹の彼方
今気がついた。
>「……上原、萌奈美さん……?」
まさか、大耳な青い悪魔が名前の元ですか?
165 :
作者の都合により名無しです:2006/02/07(火) 16:35:26 ID:P4KCvtiW0
>スターダストさん
色気のない二人ですね。千歳は単体だと微エロなのに根来と絡むと事務的になるような。
弁当が台無しですね。このコンビは仕事では優秀そうですけど、それ以外は両方ともダメダメですね。
>ミドリさん(お久しぶりです)
祐巳の苦悶を救うように現れた洋子さまが素敵過ぎます。やはりお姉さまは偉大ですね。
祐巳はまだまだ洋子の域に達してないですけど、瞳子を思う気持ちは誰にも負けませんね。良い姉妹。
>>165 どうでもいいが祥子様の読みは「さちこ」だぜ
どういう変換すればそんな漢字が出てくるんだ
第五十話「仇敵」
「行くよ、アスラン!僕に合わせて!」
「ああ、キラ!俺たちのパワーを見せ付けてやろうじゃないか!」
キラとアスランがそれぞれの愛機を駆り、無数のロボット兵を阿吽の如き呼吸で次々に屠っていく。
「これぞ必殺!<アスキラ友情アタック>だ!」
「ネーミングがダサイよ!せめて<コンビネーション・アサルト>とか気の利いた名前つけてよ!」
突っ込みながらも連携はまるで乱れない。まさに名コンビと言うべきであろう。
「へへっ、あの二人にばっかやらせるかよ。おれたちも行くぞ、スネ夫、しずかちゃん!」
「やっぱ、ぼくらもやらなきゃダメ?気が重いなあ・・・」
「何よ、男の子でしょ?しっかりしなさいよ」
掛け合いも程々にジャイアンが先頭に立ち、三機のドムが一列に並ぶ独特のフォーメーションでロボット兵に突っ込んでいく。
「おらああああっ!ジェット、なんとか!」
「ジャイアン、<ジェットストリームアタック>だよ」
こんな調子ではあったが、各機共に順調に敵を倒していく。新しい機体を持ったことで、各自のモチベーションも高くなって
いるようだ。
「みんなやるなあ。よし、ここは俺も一つ人生の先輩らしくいい所を見せて・・・」
軽口を叩こうとしたムウは、だが、すぐに顔を引きつらせる。
「ムウさん、どうしたんです!?」
「みんな、気をつけろ!」
ムウは焦りも露に警告する。
「クルーゼだ―――!あいつが、近くに来ている!」
「え?で、でも、何でそれが・・・」
「理由はない・・・けどな、俺には分かるんだよ―――あいつが近くにいればな」
不思議なほどに確信に満ちたムウの言葉。そして、それに答えるように、四方八方からビームの雨が降り注ぐ。
「うわっ!」
「くっ・・・この攻撃は!?」
キラがモニターを睨み付ける。そこには、黒き異形のロボットが存在していた。
「フフ・・・久しぶりだな、諸君」
感情のこもらぬ、氷の如き声―――
「貴様―――クルーゼ!ここで会ったが百年目!俺たちのジャスティスパワーをぶつけるしかないじゃないか!お前は
生きてちゃいけないヒューマンなんだよ!ここからゴーホーム!」
「む・・・?君はアスラン・ザラか?何か違うようだが・・・」
「ふっ、そんなことはどうでもいい!お前には俺たちのパワーアップお披露目のためのカマセになってもらおう!」
「アスラン・・・それ、主人公側のセリフじゃないよ」
そう言いながらも、キラは戦闘態勢を取る。だが、それを押し止める者がいた。
「・・・みんな、奴は俺に任せてくれ!」
「ムウさん!?」
「何ィ!?折角の俺たちが目立つチャンスを殺す気か!?無駄に登場人物が多いこのSSで目立つのがどれだけ大変か
分かって言ってるのか!?」
「―――頼む。奴だけは・・・俺が決着をつける」
「・・・分かりました」
キラはようやく、それだけ言った。
「だけど―――生きて帰ってきてください!」
「へっ・・・心配するなよ。俺は、不可能を可能にする男だぜ?」
それだけ言い残して、ムウはフリーダムを操り、クルーゼの<プロヴィデンス>に向けて飛び立つ。
「やはりお前が来るか―――ムウ!ここは邪魔が多いな・・・場所を移すとしよう」
プロヴィデンスがスラスターを吹かして雲海の彼方に消えていく。フリーダムはそれを追っていった。
「・・・ムウさん。負けないで・・・」
キラは祈るようにその姿を見送る。アスランも神妙な顔で、消えていくフリーダムを見守っていた。
「キラ・・・俺たち、何か当て馬っぽくないか?原作じゃあウザいくらいに目立ってたのに・・・」
「それは言っちゃダメだよ、アスラン・・・」
ネオラピュタ総力戦、第二の戦い―――開幕!
<くそっ・・・みんなとはぐれちまったな>
「この乱戦じゃ、ねえ・・・数が多すぎるよ、ほんと」
亜沙も嘆息する。視界を埋め尽くさんばかりの敵を目にしては、そうもなるだろう。
<へんっ!数が多くても、質が悪けりゃどうしようもないぜ!ここはいつもの如くサイフラッシュで・・・>
マサキは唐突に言葉を切った。
「マサキ・・・何だよ、いきなり黙りこくって」
<稟・・・あっちだ!あっちへ行ってくれ!>
「はあ!?やだよ、お前方向音痴じゃないか!北極にでも出ちまったらどうする気だよ」
<稟!ふざけてるわけじゃねえんだ!>
マサキはいつになく真剣だった。それに押されて、稟はマサキの導くままにサイバスターを移動させる。
「本当にどうしたんだよ、マサキ。お前、何かおかしいぞ?ヤケにテンション高いっていうか・・・」
<・・・あいつだよ。とうとう見つけたぜ・・・>
「え?」
<感じるんだ・・・!この先に、あいつがいる・・・!>
マサキには分かっている。それがあらゆる時代と次元を越えて存在する、永遠の仇敵であることを。
サイバスターも知っている。そこに待ち受ける者が、自らと対を成す、されど絶対に交わらぬ悪鬼であることを。
そして―――それは姿を現した。
黒に限りなく近い、深い蒼色の機械の魔神。禁忌そのものの如き存在感を持って、悠然と―――ただ、存在していた。
その名は―――ネオグランゾン!
「サイバスターか・・・久しぶりですね、皆さん―――そして・・・」
ネオグランゾンのコクピットに座す男が、口元を笑いの形に歪める。
それは、何のための笑いだったのか。
「まさか再びあなたとまみえるとは思いませんでしたよ・・・マサキ!」
<―――シュウ・・・!>
マサキはシュウの姿を認めた瞬間、腹の底から搾り出すようにその名を呟いた。
しばし、言葉もなくサイバスターとネオグランゾンは向かい合う。やがて、シュウが口を開いた。
「フッ・・・それにしてもその執念だけは感心しますよ、マサキ。あの時―――魔界での最後の戦いで、完全に殺して
あげたと思ったのですがね―――」
<ああ、地獄の底から舞い戻ってきたぜ―――テメエを倒すためにな!>
「ククク・・・死してなお、あなたは私を追うのですか―――哀れな」
<何だとっ・・・!>
「全く、腐れ縁とでも言えばいいのでしょうか・・・しかし、それももう終わりです。私の前では、サイバスターなど無力。
友人たちと共に、魂まで消し去ってさし上げましょう―――このネオグランゾンでね!」
ネオラピュタ総力戦、第三の戦い―――開幕!
投下完了。前回は
>>82より。
種の扱いについては、質問は一切受け付けん!
ムウVSクルーゼについては、過程は書かずに結果だけ書くパターンになると思います。
次回はサイバスターVSネオグラで。スパロボにライバル関係は多数ありますが、
この組み合わせが一番好きです。
>>84 >>85 基本的にこのSSはごちゃ混ぜですw
>>86 USDマンが<具体的に死んだ>描写はありませんね?少年漫画を読んでる方なら、
それだけでもうお分かりでしょう。
>>87 原作でも<死ねない不安>は描かれてましたからね。それを拡大解釈してあの形に。
>>ふら〜りさん
この話だけ読んだらペコが主役なんですがね・・・ちなみに彼は作中で一、二を争うくらいセリフ数が
多いかも。数えてないから適当ですがw
またトリップ忘れてた・・・
早朝から、浜辺に拳が空を切る。
空手でもっともポピュラーな技、正拳突き。
全身を無駄なく駆動させ、一撃一撃に魂を込め、拳を解き放つ。
「せいっ」朝日を浴び、きらめく正拳。
「せりゃっ」規則正しく、往復する正拳。
「けいっ」ひたすらに、虚空を叩く正拳。
やがて、うっすらと井上がまどろみから覚める。目蓋を開くと、少し離れたところで空
手家が朝稽古を行っている。──加藤清澄だ。
寝ている間になにかされたのでは、などという心配を打ち消すほどに、美しい鍛錬だっ
た。古典(クラシック)空手としては最高峰とも謳われる、愚地父子とはまたちがう耽美
な芳香が彼を包んでいた。
手入れがなされていないナイフ──お世辞にも切れ味が良いとはいえず、刃もあちこち
がこぼれている。が、ひとたびこれで敵を切りつければ、刃こぼれはヤスリと化し、皮と
肉とをズタズタに引き裂く。生涯、跡が消えぬほどに。
これが加藤の空手に対する、井上が感じた第一印象であった。
すると、加藤も気配を察したのか、トレーニングを中断した。
「起きたか」
「オ、オス……。おはようございます、先輩」
「昨日、なにも食べてねぇだろ。あそこに果物あるから、食っていいぞ」
「えっ……」
指差された方向には、さまざまな色合いをした果実が並んでいた。
「でも」と、井上。毒は入ってないのか、と尋ねようとする。
「いや、気にすんな。俺はさっき食ったからよ」と、制する加藤。
少々噛み合わなかったが、今さら毒がどうこうと尋ねるにはやや間が悪い。せっかく用
意してくれたのだし、と覚悟を決めて口に含む。
甘味が8に、酸味が2。なかなかの美味だった。歯と歯で噛むたびに、果汁がじわっと
舌に広がる。栄養価も高そうだ。
「あ、おいしい……!」
「だろ?」
こうして、井上は空腹だったこともあり、数個あった実をきれいに平らげた。
程なくして、稽古が終了する。水滴を放出するように、大量の汗が加藤を取り巻いてい
る。
朝っぱらから行える運動量ではない。純粋に、後輩として感心する井上。
「すごいですね。こんなハードな練習を、毎日やってるんですか?」
「だいたい、な。試練のせいで、もっとハードなめに遭うこともしょっちゅうだがよ」
「も、もっとですか……?」
「イメージとも戦ったし、兵隊とも戦ったし、夢とも戦った」加藤が意味ありげに呼吸を
置く。「はっきりさせておく。俺はおめぇが次の試練なんじゃねぇか……って疑ってる」
寸鉄で突き刺すような告白だった。心に疑いを秘めたまま生活するのは、お互いにとっ
てよくない。だからこそ、加藤はこのタイミングで打ち明けた。
「えっ、で、でも私は」どもる井上。いつか加藤がなにかを仕掛けてくるとは覚悟してい
たが、まさかこんな形でとは思わなかった。
「分かってるよ。おめぇが嘘をついたなんてこれっぽっちも考えてねぇ。だが、試練って
のは想像以上に厄介なんだ。例えばなにも知らねぇ奴を人形みてぇに操って、俺と戦わせ
ようとするくらい平気でやる」
「だけど、いくら操られても、私が先輩に敵うわけがないじゃないですか!」
「普通ならな。でも、神心会に通ってるんだったよな。上手く隙を突けば、俺の金玉ぶっ
潰すくらいはできんだろ」
「できません!」
頬を紅潮させ、井上は必死に反論する。たしかに相手の理屈は分かるのだが、認めたく
ない。島へ拉致された自分こそが被害者、加藤は安全を脅かす外敵のはずだった。なのに
今、加藤から自分が加害者であるかもしれないと告げられた。
──悔しかった。理由は分からない。
向こうから自分を恐れてくれるなど、願ってもない事態だったはずなのに。
「私は操られてなんかいません! なんだったら、殴ってみますか? さぁどうぞ!」
「お、落ちつけ。別に悪気があったわけじゃ──」
「私だって、好きでこんなところに来たわけじゃないのに!」
井上はヒステリーを起こしていた。決して、加藤個人に対してではない。突然、こんな
島へ送り込まれた「運命」への不満と不安とが、一気に爆発したのである。
「落ちつけぇッ!」
稲妻が浜辺に轟く。これで、今にも泣き出さんばかりだった井上が正気に返る。
「す、すいませんっ!」
「いや、悪かったのは俺だ」ひれ伏す井上に、フォローを入れる加藤。「ただ、ひとつだ
け教えたいことがある。ちょっとついて来てくれ」
手招きし、ジャングルに入っていく加藤。慌てて、井上も追従する。
「え、危ないんじゃ」
「安心しろ。俺はここのチャンピオンを倒してる」
濃密な湿気に満ちた、ジャングル内。茂みを掻き分け、根を蹴散らし、かろやかな足取
りで先導する加藤。ついて行くだけでやっと、といった井上。
険しい悪路を、約五十メートル。
「ここだ」
若干盛り上がった土に、太い枝がぶっきらぼうに刺さっている。
「これは──なにかの目印ですか……?」
「墓だ。俺なんかをかばって、くたばっちまった親友(ダチ)が下で眠ってる」
「お、お墓……! もうひとり、いらっしゃったんですか?!」
井上は芯から冷え上がるような感覚を受けた。試練とやらの犠牲だろうか。まさか、生
き死にが関わるようなものだったなんて。
「ひとり、というか一匹だな。こいつは人じゃなくて、虎なんだ」
「虎っていうと」さすがに井上も神心会である。即座に脳内に浮上する、独歩が猛虎に手
刀を叩き込んでいるビジョン。「館長を思い出しますね」
笑う場面では到底ないのだが、無意識に微笑みを生じてしまった。はっとして、両手で
口を閉ざす井上。が、加藤は咎めなかった。むしろ、彼も笑っている。
「俺もだよ。こいつと初めて出会ったとき、なによりもまず館長の“虎殺し”を思い浮か
べた。これから殺されるかもしれないってのにな」
「殺される……?」
「ん、こいつも初めは敵だったんだ。んで、二勝一敗でどうにか屈服させたんだが、いつ
からだったか友と呼べる存在になっていた」
虎を倒すというだけで凄いのに、虎と友好を結ぶというのもまた凄い。どこから触れて
みたものかと、絶句する井上。
「だが……試練の途中で、こいつは俺を守って死んだ。しかも、俺は身勝手にもこいつを
喰らった。生き延びるために」
「………」
「分かってくれ、とはいわねぇ。ただ、心の片隅に置いといてくれ。俺は簡単にはくたば
れねぇ、くたばっちゃならねぇんだ」
強固なまでの生命への執着とは裏腹に、加藤はひどく寂しそうな表情を浮かべていた。
二人はなにも言わぬまま、素朴な墓標にそっと一礼した。
井上はおぼろげながら分かったような気がした。
空手家「加藤清澄」にとってここでの生活は、自己の存在全てを賭した壮絶な決闘。も
し死ねば、命だけにとどまらず、なにもかもを失う。命を捨てて彼を守った友が居たとい
うことも。
そりゃあ、敗けられるわけがない──。
両者ともに、断片的にではあるが心の内を吐き出した。そんな一日であった。
夜。相変わらずお互いを警戒する二人だったが、安眠に至るのは昨晩よりも遥かに早か
った。
サマサ氏、すいませんでした。
うんこを期待してた人もすいませんでした。
今回はほのぼの?でしたね>やさぐれ獅子
うんこはライトな奴がジャブのように来るくらいが好きかも。
あんまりヘビーだと一発KOされてしまう
181 :
作者の都合により名無しです:2006/02/08(水) 06:09:12 ID:h49coO0Q0
>サマサさん
なんかUSDマンとの戦いに比べて第二の戦いは変なノリだなあw
でも、こういう戦いの方がサマサさんらしいのかも。
ギャグの中にシリアスが混ざるってのが、超機神の好きなところ。
>やさぐれ獅子
井上さんと加藤確かにほのぼのしてるなあ。敵も現れないし。
井上さんがドッポの代わり?今度は加藤がどう井上さんを守っていくか、かな?
守れなかった場合は井上さんをドッポみたいに食うのかな?
182 :
オナガイン:2006/02/08(水) 16:19:40 ID:2qKDu7I80
ツナデ(うずまきナルト)VSスペック(バキ)の戦いをどなたかにキボンヌ。
オープニングは僕が書きます。
サクラは医療忍者になり損ねた。サクラの場合はそれまでの養成に費消したコスト、
そして僅少だが違約金が課せられる。問題は養成コストの方だ。利息も何もつかず、
そのコストはサクラが青春を女郎宿に捧げるのが最良、そういう桁だった。
女郎宿といっても上質の健康診断と予防、そして加療を目当てに来店する金持ちも多い
信用も内外に篤い稀有の名店だ。国営だから妥当なところだ。その女郎宿は医療忍者に
なり損なった女が人間に戻るために最も近道、恵まれた進路だった。
それを解せぬ一般庶民は花代の高価なことも相まって女郎宿を不可解で恐い、ひどいところだと
思っている。それゆえ、もう今までどおりに表を歩けないサクラ。
そんなサクラと寝て有頂天ながら、もうサクラは皆のものだと確信して諦める。
183 :
オナガイン:2006/02/08(水) 16:26:02 ID:2qKDu7I80
体が汚れるのは概念的なものだけだが、それでも一般庶民は無知だから多額債務者の
ヒエラルキーでも最上層のサクラを傷物と思う。
そんな中、スペックが来襲する。よくツナデに書類を積んでいる癒し手の女がボコられた。
更には歴代火影の崖を何の兵器も用いず中破させていて、中忍下忍が補修におおわらわだ。
そんな中、執務室で超級パワー、超アンチエイジングの男女が相対する。
「ソイツヲ盾ニスルツモリナノカ」などとスペックが煽る。惑わす。
忍者の装備まで幾分か調達したスペックが「ソウイエバつなでサン」と話しかけるようにしつつ、
初弾の蹴りを放った------
ここでオープニングは終了です。続きをおながいします。
184 :
オナガイン:2006/02/08(水) 16:30:07 ID:2qKDu7I80
>>182追加
思っている。それゆえ、もう今までどおりに表を歩けないサクラ。
ナルトはそんなサクラと寝て有頂天ながら、もうサクラは皆のものだと確信して諦める。
>サマサ氏
サイバスターとネオグランゾンの対決は「超機神」のタイトルに相応しいですね。
ごちゃませSSのいい所のノリですね。2つの対決がどう決着つくか楽しみ。
>サナダムシ氏
加藤と井上、微妙な距離感がいい感じですね。確かに加藤は怖いですけど
用心棒になったらこの上ない存在感。女ならDNAの部分で惹かれるものがあるかも。
186 :
ふら〜り:2006/02/08(水) 22:35:06 ID:occIjjIr0
>>スターダストさん
あぁ〜もうっ。ライバルなし三角関係もない至って仲が良い、なのにこんなにもどかしい。
食わない根来が根来らしく、それを少し未練はあれど納得してしまうところが千歳の魅力
だと解っちゃいるけども。事件は脇へ置いといて、仲人オバサンしたくなった今回でした。
>>ミドリさん(じっくり書かれた、いや描かれたって感じのご力作です今回はっ!)
制服の皺や居留守などで、厭味の無い「育ちの良さ」が出てますね。で物理的には玄関先
で突っ立ってるだけなのに、どうしてこんなに綺麗空間。おそらく、地の文かモノローグ
か曖昧な部分の文章を祐巳口調で綴っているのが、この空気を創っているのではないかと。
>>サマサさん
>「これぞ必殺!<アスキラ友情アタック>だ!」
すぐ下の行の突っ込みを見る前に、ちゃんと吹きました私。しかしそれを吹き飛ばす如く、
次から次へと怒涛の連続開戦。これは漫画でなく、アニメで観たいなぁ。そして、やはり、
嗚呼、なジャイアンズ。豪快に盛り上がる今の流れに、何とか乗せてあげたいとこですが。
>>サナダムシさん
手入れがされていないナイフの印象。意外にも自分を恐れていた。虎に勝ち友好を結んだ、
凄い。そして安眠……今回は書き方も展開も味わい深かったですが、これって全部井上の心
なんですよね。短い中での上がり下がり、かなり見事な恋愛感情の流れに見えるのですが?
第4話 ホンモノ
観客席は喧騒に溢れていた。これからFAW主催のプロレスの試合が始まるのだ。
組み合わせもプロレス界では有名な人間が数多くいる。
その中にはFAW社長 グレート巽、中堅レスラー梶原年雄の名前も含まれていた。
時間無制限一本勝負。勝負がつくまで闘う大会。禁止技はプロレスルールに準拠し、目を抉る事と
噛み付く事は禁止されている。服装も自由だ。ただファウルカップの装着は推奨されている。
股間を攻撃されたら誰だって動きが止まる。非常にヤバイ事が起こる可能性もある。唯熊の着ぐるみを着て
リングに上がるのは奇特な事だ。ある意味プロレス界の歴史に名を残す行為かもしれない。そしてそれを
現実に起こしたのが丹波文七という男なのだ。
「蓮さんてこういうの見るの初めて?」千鳥かなめが美樹原蓮に質問した。
「ええ・・・テレビで見た事ありますけどここまで間近には・・・。」
「私が小学生の頃はアントニオ猪木の試合見てたんだけどね。グレート巽に顔がそっくりな人。」
かなめは背中に“闘魂”と書かれたガウンを持っている。文化祭前後のMIS陣代高校美女コンテストは
その下に水着を着て出場した事もある。
「千鳥・・・こう暗くては警戒すべき事が多くある。もしドサクサに紛れて狙撃されたら・・・。」
宗介が言い終わらない内にかなめのハリセンが空気を裂いた。
「あんたって人はーッ!場を考えなさい!楽しむべき所なんだから!!」
そうこうしている間に前座の試合が始まった。FAWの下っ端、川辺とどこかのレスラーが戦い始める。
取っ組み合った後、二人とも離れて様子を見ている。作戦らしい。川辺のローキックが相手を襲う。
上手い具合に入ったのかバランスを崩した相手が膝をつく。そしてそれを川辺がジャーマンスープレックスで
投げ飛ばし相手をダウンさせる。打撃からの投げ。理想的なコンビネーション。片腕を挙げて勝利宣言をした川辺が
異変に気づいた。相手はまだ終わってはいなかったのだ。川辺の足を掴みやがて腰をロックする。振りほどこうとしても動けない
川辺が肘打ちを打つ。が相手は怯まない。今度は相手がジャーマンスープレックスを放ったのだ。頭から落ちリングに這い蹲る川辺。
トドメの為に何度も相手が川辺の頭や背中を踏む。最後の一撃の為に相手がストンピングをしようとした時、異変は起こった。
相手の蹴り足を掴んだ川辺が足払いを放ち関節技に移行したのだ。十字足固めの形になり完璧に相手の足関節は固まった。相手は
タップし試合は川辺の勝利で終わった。
「すごかったわねー!梶原さんって実はいい人だったんだ!」
「私のボディーガードをしてくれる人ですし・・やさしい人でもありますから。」
「演技だ・・・。」
「へ?」
千鳥が怪訝な顔をして宗介に質問する。何を言っているんだ。そもそも演技する必要などあるのか。
もしそうなら蓮と二人きりになった時連れ込めばいい。ただそうなるとかなり大規模な報復を受けるだろう。
蓮さんの話によるとFAWが美樹原組の依頼を受けたらしい。恩を売るとかいう目的だと思えるが。
「全くダメージが無い。可笑しい。本当の投げなら立ち上がれる筈が無い。鍛えていてもだ。」
「プロレスのリングは柔らかいし何より鍛えてるからでしょ。」
「それでもおかしい。背中に全く痣が出来ていない。見た目が派手なだけで実戦的では無い。」
「相良さん。硬い事言わないで今は楽しむべきですわ。スポーツの試合等を見ても面白いですし。」
蓮が口を挟んだ。ややこしい事はいいから今は見ようという意味なのだろう。
宗介達がプロレスの試合を見ている頃、一人のプロレスラーが道を歩いていた。小さく愚痴りながら
夜道を歩く。自分は何だったのか。グレート巽の秘蔵っ子といわれ、仲間からは一目置かれ将来花形は
約束されたようなものだった。が今となってはそれはもう彼の中では過去だった。厳密に言えば幻想の様な
物に思えた。今は自分と相手以外誰も知らない。今、過去の相手と戦ったらどうなるのだろう?
コテンパンに負けるだろうか?引き分けるだろうか?観客も立会人もいないリング、つまり場で地味な闘いを
繰り広げる。あの時負けたのはやる気がなかったから?遊びだと思っていたから?観客がいなかったから?
言い訳ならいかようにでも出来るだろう。だが彼にはわかっていた。弱いからだ。観客がいなければ自分は
船村弓彦よりも弱い。FAWの名折れだと言われ、リンチを食らい故障させられるかもしれない。それ位
シビアでダークな世界なのだ。
「おいしいわたあめはいかがー?」
少女の声が聞こえた。わたアメを売っている。子供の頃、誰でも食べた事がある駄菓子。ふわふわした
食感に甘さ。
「一つ貰おうか。」
男は声をかけた。売り子の少女は和服を着ている。年は10歳くらいだろうか。
「一個100円です。」
男は金を払うとわたあめを受け取った。そして歩き出し前方を見た。男の目に祭りの風景が入った。
祭り。皆で楽しむ行事。演舞や太鼓叩きや出店。その全てが今の彼には嫌な物に見えた。
つい最近まで自分はその中心に手が届きそうだった。まだ若い。これから発達していく技と肉体と精神。
そう思っていた。
「お嬢ちゃん。」
「はい・・・何でしょうか?」
「お兄ちゃんがこの売り場見てるからお祭りを楽しんで来なさい。」
「でも・・・・」
「大丈夫。子供の頃は楽しい事がいっぱいあるんだ。その時だからこそ見れない物があるんだ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
少女は雛祭りの広場へと歩き出した。少女は白い着物に薄い朱色の帯をしていた。鞍馬はどこか
儚げな印象と疑問を覚えた。なぜだ?子供の頃だって楽しんでいいはずだ。祭りは子供の為にあるはず。
しかも雛祭りだ。女の子の為の祭り。女の子が座っていた売り場の椅子に男は腰掛けた。
(もしプロレスをやっていなかったら・・・どうなっていただろう?普通の高校に入学し普通の人生を歩んでいただろうか?)
だがそれは中学時代良い記録を残せる程の肉体を持っていなかった場合だ。今ガールフレンドとあったら即効でフられるだろう。
引きこもるという手もある。だが自分はここ奈良まで来た。目的も無く自然と一人旅の様な感じで歩いたらここに着いた。
そうあれこれ考えているうちに雛祭りはお開きになったらしい。女の子が戻って来た。
「楽しかったかい?」
「はい・・久しぶりでした。」
「ところでお嬢ちゃん、ここらへんにいい旅館無いかい?」
「ありません。ですが・・・私の家に泊まってもいいですよ。」
「ありがてぇな。名はなんていうんだ?一応名前知っておきたい。」
「わたしの名前は“びんちょうタン”」
「・・・・は?それが君の一人称なワケか。」
小さな子供によくある事で自分を“○○ちゃん”と読んでいるのだろう。“タン”づけで呼ぶ事なんて普通は無いと思うが。
「お家は山の中にあるの。ここから15分ぐらい歩けば着く所。」
「俺の名は鞍馬彦一だ。」
こうして筋肉ムキムキの男と着物姿の少女は岐路についたのだった。
登場人物紹介
鞍馬彦一(板垣漫画版餓狼伝)グレート巽が後継者として認めた男。7年間巽の元
でトレーニングを積み実力を身につけた。
びんちょうタン(びんちょうタン)両親の顔を知らず祖母の手で育てられた女の子。
仕事を選べず生きるために仕事をしている薄幸の子。
第4話終了です。ほのぼのとした物語と漢の世界を融合させるという冒険的な試みを
して見ました。ちなみにびんちょうタンは髪が青く背丈が小さい白い着物を着た女の子です。
ちょwww餓狼とびんちょうタンのコラボってwwwwww
193 :
作者の都合により名無しです:2006/02/09(木) 06:06:24 ID:n5nys0q+0
フルメタルウルブス作者さんの疲れ様です!
びんちょうタン・・ってフルメタルウルブスのキャラですか?
やたら女好きの彦一との絡みは危険ですね。物語のキーキャラになるのかな?
しかし、この物語に出ているなら普通の少女では無いんでしょうね?
何か特殊能力あるのかな?
しかしこのSSでは猪木と巽が同時に存在するのかw
第五十一話「ポゼッション」
<うおぉぉおぉおおぉおおぉぉおおおっっ!!>
マサキの怒号と共に、サイバスターの持つ剣・ディスカッターが袈裟斬りに振り下ろされ、ネオグランゾンはそれを自身の
大剣・グランワームソードで軽々と受け止めた。それらは激しくぶつかり合い、耳障りな音を立てる。
如何にサイバスターとはいえ、パワーではネオグランゾンには圧倒的に劣る。次第に押し切られ、たまらず剣を引いて後退
する―――
「逃がしませんよ―――<ビッグバンウェーブ>!」
ネオグランゾンから衝撃波が放たれ、サイバスターを捉えた。激しく打ち据えられ、稟たちは苦鳴を漏らす。
そしてその隙を逃してくれるほどに、シュウ=シラカワという男は甘くはない。
「―――<ワームスマッシャー>!」
四方八方から襲い掛かるエネルギー弾。態勢を崩しつつもそれを何とかかいくぐっていくが、全てをかわせるはずもない。
いくつかは被弾し、装甲が剥がれ落ちる。
<――――――くそったれぇぇぇぇぇぇっっ!>
マサキは完全に激昂している。元々熱くなりやすい性格ではあるが、仇敵たるシュウと向かい合ったことで、歯止めが利かなく
なっているのだ。
「マサキ・・・!」
稟は歯噛みする。マサキの気持ちも分かるつもりだが、それでも我を忘れてどうにかなる相手ではないのだ。いつも自分たちを
導いてくれるマサキがこれでは―――!
「何をボーっとしているのです?戦いは終わっていませんよ」
シュウの嘲笑の声に意識を戻すと、ネオグランゾンが眼前で今まさにグランワームソードを振り下ろそうとしていた。それに
対しあえて後退せずに前に出て、肩からタックルをかける。それによってネオグランゾンが僅かに揺らいだところで距離を取り、
ディスカッターを掲げる。
「行くぞ!―――<アカシック・バスター>!」
ネオグランゾンに襲い掛かる、赤く燃え上がる神鳥。全てを焼き尽くす業火を、ネオグランゾンはかわそうとしなかった。
ただ、右手を前に突き出しただけだった。
ただそれだけ―――ただそれだけで、<アカシック・バスター>の炎は、まるで握り砕かれるかのように消え失せた。
「な・・・!?」
「ククク・・・ネオグランゾンをこの程度の炎で焼き尽くせるとでもお思いですか?」
<畜生・・・化物め!>
マサキは口汚く罵るが、その中には紛れもない恐れの色があった。そう、彼は恐れていた―――目の前の悪魔を。
「マサキ―――せめて私の手で、この宇宙から完全に抹消してあげましょう・・・」
<シュウ・・・くそぉっ!>
ネオグランゾンが胸の前で両手を合わせる。その掌の中で、破壊のためのエネルギーが凝縮されていく―――!
「―――<ブラックホールクラスター>!」
放たれた破壊の力が世界を蹂躙する。轟音と、閃光と、衝撃。
それが消えたとき、サイバスターはもはやボロボロだった。白銀のボディは無残に傷つき、輝きを失っている。かろうじて
動きはするが、もうまともに戦えるかどうかすら怪しい。
「フッ・・・<機神王>と称されたサイバスターも、ネオグランゾンの前には敵ではないということですよ」
<畜生・・・まだだ・・・まだ、終わってねえっ・・・!>
「ふう・・・本当にしつこい男ですね、あなたは―――」
シュウは嘆息し、そして小さな子供に言い聞かせるように問いかけた。
「マサキ―――あなたはいいでしょう。死して尚、私を何としてでも倒したい―――実に結構。だが、他の者たちはどうです?
あなたの道に引きずり込んで、それでいいと思うのですか?」
<なっ・・・!?>
シュウの言葉に、マサキは絶句する。
<てめえ!何が言いたい・・・っ!>
「あなたの私怨に、彼らまで巻き込んで、それでいいと思っているのですか?」
<ぐっ・・・!>
そしてシュウは、稟たちに語りかける。
「土見稟、プリムラ、時雨亜沙、そして精霊フー子―――何故あなたたちは戦うのです?命をかけてまで、野比のび太を
守りたいのですか?本当はただ、周りに流されただけなのでは―――」
「流されただけなら、とっくに逃げ出してるよ」
稟は自分でも不思議なくらいに穏やか声で、シュウの問いを断ち切る。そしてその言葉は、次第に力強くなる。
「正直俺は、そこまで大人物じゃないからな。命は惜しいしお前らみたいなとんでもない奴らと戦うのもはっきり言って
嫌だ。けどな―――のび太たちは、それをやってくれた。自分たちには関わりのないことなのに、友達だってだけで、
俺たちの世界のために戦ってくれたんだ。あいつらだって死にたくないだろうし、戦うのも怖かっただろうに―――
それでもあいつらは、まるで自分の事みたいに、俺たちを助けてくれたよ。
だから今度は、俺たちが助けてやるって―――そう思っただけだ。ちっぽけだって笑うなら笑え!それが―――
俺たちが戦う理由だ!マサキに引きずられたとも思っちゃいない!戦う理由は違っても―――俺たちの道は同じだ!」
「のび太も青玉も、みんな友達だから。助けてくれたから、私も助ける・・・それだけ」
プリムラも静かに相槌を打つ。
「ふふ、そうだよね・・・そうじゃなかったら、そもそもこんなところまで来てないよ」
「そーだそーだ!何も知らないくせに、勝手なことゆうな!」
亜沙とフー子も強気な笑顔で胸を張る。
―――その姿に、マサキは何を思ったのだろうか。
<・・・お前ら・・・>
「マサキ」
稟は笑ってみせる。
「あんまり巻き込んだとか何だとか気にするなって。俺たちだって勝手に首を突っ込んだ部分があるんだし。それに、
俺たちは―――友達だろ?」
<・・・友達、か・・・>
「ククク・・・」
シュウはそのやり取りを見守り、そして薄く笑う。
「―――素晴らしい。実に素晴らしい友情ですね。この私でさえ、あなたたちの繋がりには羨みさえ覚えてしまいます。
実に美しい・・・」
シュウの言葉には、不思議と毒も嫌味もなかった。その言葉ばかりは偽りのない、彼の本心だったのかもしれない。
しかし、それはただそれだけ―――彼は冷徹に告げる。
「ならば、美しいままに死に絶えなさい。あなたたちに、美しき滅びを与えて差し上げましょう。そして知りなさい。
友情など、私の前では何の役にも立たないことを」
<へっ・・・そりゃあどうかな?漫画じゃあ友情パワーで死にかけてた奴らが復活して強敵をぶっ倒すなんざ、ありがち
だろうが。使い古された展開に、お約束の大逆転、ご都合主義の固まり―――なんて文句を付けたところで、やっぱし
俺たちが勝たなきゃあ、読者は納得してくれないぜ?>
マサキは笑みを含んだ声で応じる。もしも彼に肉体があればきっと、不敵な笑みを浮かべていることだろう。
もはや彼に、恐れはない。それは稟たちも同じだった。
<シュウ!その邪悪な衣だけは、俺の・・・いや、俺たちの全てをかけて振り払ってやるぜ!>
マサキの声が響き、そしてサイバスターが残された力で剣を握りなおした時―――
「え―――!?」
誰ともなく、驚きの声をあげた。
サイバスターが、まるで太生まれたての恒星の如く光り輝きだしたのだ。
「マ、マサキ!これは、何なんだ!?」
<・・・!これは・・・サイバスターが、俺たちに共鳴してるんだ!>
「きょ、共鳴!?」
<そうだ。前に言ったろ?サイバスターには意志があるって。そして今、サイバスターと俺たちの心が一つになったんだ。
サイバスターもあいつを許せねえって・・・そう思ってくれてるのさ―――フー子!>
「え、なに!?」
いきなり名前を呼ばれて、フー子が目をパチクリさせる。
<サイバスターの声に耳を傾けるんだ。サイバスターの精霊であるお前なら、こいつの声が聞けるはずだ。そうすりゃ、
何をすべきなのか教えてくれる!>
「え、ええっと・・・耳を傾けてって、よく分かんない・・・うわっ!?」
フー子が悲鳴を上げる。ネオグランゾンが攻撃を仕掛けてきたのだ。
「残念ですが―――それだけは、させませんよ!<ポゼッション>だけは厄介ですからね―――!」
「ポゼッション・・・だって?マサキ、何をしようとしてるんだ!?」
<今はそんな説明の暇はねえ!フー子、サイバスターの声を聞くんだ!お前なら、やれる!>
「う、うん・・・じゃ、やってみる」
マサキの剣幕に押されて、フー子は目を閉じて集中する。
(サイバスター・・・教えて・・・おれは、どうしたらいいの・・・?)
(おれに何か出来るんだったら、何でもするから―――)
(みんなをいじめる、悪い奴を、やっつけて・・・!)
それはあまりに幼く、不恰好で、そして純粋な祈り―――その中で、フー子には何かが聞こえた。
そしてフー子は理解した。サイバスターに秘められた、本当の力を―――!
「・・・サイバスター!」
フー子が祈るように手を合わせる。そして、その身体が見る見るうちに透けていく―――!
「サイバスター!おれの力を全部貸してあげるから―――あいつを、やっつけて!」
その声と同時に、フー子の姿が完全に消えて―――サイバスターを中心に、全てを切り裂くかのような烈風が渦巻く。
「ぐっ・・・!?このプレッシャーは・・・しまった!」
シュウの顔から泰然とした余裕が消えた。サイバスターから放たれる強大な力が、彼をして圧倒する。そして、シュウ
の目は一瞬だけ異形の姿を捉えていた―――
(あれは・・・風の、龍―――!?)
それは幻影だったのかもしれない。だが、確かに見えたのだ。風の龍が、サイバスターの姿と重なる瞬間を―――
そして稟は、自分の中に力が漲っていく感覚を味わっていた。まるで、世界そのものを感じ取れるかのような超感覚。
彼は自分の身体が光に包まれていることに気付いた。いや、自分だけではない。プリムラと亜沙にも、同じ光が宿って
いる。彼女たちにも同じ力が働いているのだと理解できた。
<・・・フー子、よくやったぜ>
<ん・・・マサキお兄ちゃん、おれ、どうなったの?>
「なんて強い光・・・凄い力」
「こんな無茶苦茶な力・・・!信じられないよ・・・」
「マサキ・・・この力は、一体・・・」
実体をなくしたフー子と、湧き上がる凄まじい力に翻弄される稟たちが、不安そうに尋ねる。
<フー子。今のお前は、サイバスターと完全に一体化している。そして、稟。プリムラ。亜沙。お前たちにもその力が宿って
いる。こうなったサイバスターは―――今までとは違うぜ!>
マサキは自信満々で、宣言するかのように答えた。
<これがサイバスターの真の力、精霊憑依―――ポゼッションだ!>
投下完了、前回は
>>170より。
ポゼッションは原作(魔装機神)やってもいまいちよく分からなかったので、
「大体こういうことかなー」という解釈で書きました(汗)
>>181 シリアスとギャグが混じってるくらいが僕としても書きやすいですね。
>>185 決着については、次回のお楽しみで。
>>ふら〜りさん
ジャイアンたちが目立たないのは、ひとえに僕の力不足・・・
スネ夫なんて前作から通じて出番のなさが悲惨すぎます。
しずかちゃんは後半で目立つイベントも用意してます。
201 :
オナガイン:2006/02/09(木) 12:00:07 ID:ZGIs8hQ+0
202 :
オナガイン:2006/02/09(木) 12:12:25 ID:ZGIs8hQ+0
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/6133 ↑のTRPG掲示板の管理人です。
このサイト、不評で人が来ないから漫画「リバーズ・エッジ」の街を舞台にした
戦いのフィールドにしましょう。GURPSというTRPGさえ覚えたら、
その汎用ルールと、そのゲームに熟練した僕が作った掲示板のハウスルールでどんなキャラクターでも対戦や乱戦が出来ます。
これ、色んなところにもコピペして人を募ってください。岡崎京子ファンとかが居ても
趣旨は変更になった旨お伝えください。
>フルメタルウルブス
>>194さんサンクス。しかし、板垣絵と対極の画風ですね。
この子と傲慢な鞍馬がどうセッションするかは想像つかんw
ほのぼのに行きそうは無いですけど、面白いわw
>超機神
ネオグランゾン強いなあ。でも、主人公を徹底的に追い詰めるのは
バトル物で盛り上げる王道ですね。しかも友情パワーも王道。
そして最後にスーパーサイヤ人化?ギャグとシリアスのバランスがいいです。
204 :
作者の都合により名無しです:2006/02/09(木) 22:32:10 ID:n5nys0q+0
サマサさん朝早くからお疲れ様です。
超絶ロボ同士の派手な必殺技の出し合い、見応えありますね。
ネオグランゾンが圧倒的優勢ですけど、最後にサイバスターは確変しましたね。
正直、種とかロボット大戦とか知りませんが、サマサさんの各作品への
愛が感じられるから知らなくても楽しく読めます。
>サマサさんの各作品への
>愛が感じられるから知らなくても楽しく読めます。
俺もそう思う。
腕のいい職人さんは原作知らなくても楽しめるよう工夫してくれてるしね。
サマサさんのこの作品は純粋にロボットのダイナミックな戦いと
ドラえもんやプリムラたちのドラマを楽しんでいる。
流石に種は見てないけどw、スターダストさんの影響で錬金読んだり
ミドリさんの影響でマリ見て読んだりしたしね
>フルメタルウルブズ!
鞍馬が原作で姫川に負けた後の丹波みたくなってますね
どん底にまで落ちた彼が、ここから這い上がれるのでしょうか
びんちょうタンのアニメ見ました
なんていうか、ほのぼのというよりとても切ない話です
>超機神大戦
ポゼッション発動!
原作のゲームだと、これやった後は大量のプラーナを失うはずですが、果たして稟にプラーナ補給をするのは誰か?w
第五十二話「風の機神」
「ちっ・・・ここでポゼッションに成功するとは・・・!面倒になりましたね」
シュウは軽く舌打ちしつつ、顔を歪める。
<みんな、一気に決めるぞ!ポゼッションはサイバスターと操者にとんでもねえ力を与えてくれるが、代償として体力を著しく
奪っていく。恐らくもって数分・・・その間に奴を倒すんだ!>
「分かったよ、マサキ。行くぞ、サイバスター!」
サイバスターはまさに疾風と化し、ネオグランゾンへと肉薄する。雷光の如き速さで放たれた剣戟を、ネオグランゾンはかわす
ことができす、咄嗟に構えたグランワームソードで受ける。
「くっ・・・!」
その一撃は先程とは比べ物にならないほど重い。渾身の力を込めるが、膂力はほとんど互角だ。
<うおおおおおっ!>
「ちいいいいいっ!」
しばし押し合い、ほぼ同時に弾かれたように距離を取る。
<稟、普通の攻撃じゃダメだ!必殺技を叩き込むしかない!>
マサキの声に稟も頷く。だが・・・
「させませんよ!」
ネオグランゾンがワームスマッシャーを放つ。死角皆無の全方位攻撃―――だがポゼッションによって強化された知覚は、その
弾丸を全て捉えた。最小限の動きだけでかわし、避けきれないものはディスカッターで打ち払う。
しかし、いつまで経ってもワームスマッシャーによる攻撃は止まない。
「ククク・・・素晴らしい動きですが、いつまで持ちますかね?」
<くそっ・・・ポゼッションが切れるまで、このままハメ殺しにするつもりか、この陰険野郎!>
「フッ・・・如何にポゼッションが強力とはいえ、所詮は時間制限つきの自爆技。このまま時間切れまでワームスマッシャーを
撃ち続けるだけで、結局は私の勝利です」
シュウの声には既に余裕が戻っている。完全に己の勝利を確信したのだ。
「そんな・・・何とかならないの!?」
<畜生・・・せめて、奴の攻撃を中断させることができれば・・・>
その時だった。サイバスターのモニターに人影―――否、ネコ影が現れた。そう、例のAIネコ、シロとクロだった。
<ふっふっふ、あたしたちのことを忘れてもらっちゃ困るニャ>
<そうそう、ここはオイラたちの出番ニャ!>
<・・・この緊迫した状況下で、ネコに何ができんだよ>
マサキはげんなりした様子でため息と共に暴言を言い放った。
<何て失礼ニャ!今こそバカ王子作成の新武装の出番ニャよ!>
<イマイチ信用できねえ・・・つうか、信用したくねえような・・・>
「信じる」
その流れを、プリムラが断ち切った。
「シロとクロのこと、私は信じる・・・」
<お嬢ちゃん・・・うう、何ていい子ニャ!この無礼者に見習ってほしいくらいニャ!>
「ネコさんは、偉大。可愛い動物ランキング一位」
<どこのランキングだ・・・分かったよ、好きにしやがれ!どうせこのままじゃあ嬲り殺しだ!>
「もうヤケだね、マサキくん・・・」
亜沙は嘆息する。彼女もあんまり期待してないのかもしれない。
<と、いうわけで、いくニャよ、シロ!>
<OKニャ、クロ!>
二匹の掛け声と共に、サイバスターから二つの物体が高速で射出される。それはまるで意志を持つかのように自在に空を
飛び回る!
「むっ・・・これは!?」
ワームスマシャーによる攻撃を続けていたシュウがそれに気付く。だが―――気付いた時には、もう遅い。
「―――<ハイファミリア>!」
ハイファミリア―――それはシロとクロによって操作される、遠隔攻撃用ポッドだった。二機のポッドは目にも留まらぬ
速度で旋回し、ネオグランゾンに攻撃を仕掛ける。
「ちいっ!」
しかし残念ながらそれはネオグランゾンにとっては、蝿がたかったに等しい威力に過ぎない。シュウは衝撃波を発生させ、
ハイファミリアを吹き飛ばす。ダメージはほとんどない―――だが。
<へへっ・・・見直したぜ、やるじゃねえか―――>
サイバスターをワームスマッシャーによる攻撃から逃がしてしまった。反撃の機会を与えてしまった―――!
シュウの動揺は一瞬。その後にはすぐに冷静さを取り戻し、再び攻撃の構えに入る。だが―――
今のサイバスターの前には、その一瞬が命取りとなった。
「―――<アカシック・バスター>!」
この世ならざる絶対の炎。ポゼッションによって通常の数倍の破壊力を持った神鳥―――それをサイバスターはいつもの
ようにただ放つのではなく、自らの身体に纏って体当たりする。
さしものネオグランゾンも堪らず派手に吹っ飛んだ。そしてサイバスターは更に畳み掛ける。
「―――<コスモノヴァ>!」
魔力を凝縮した四つのエネルギー球がネオグランゾンに叩き込まれると同時に激しい光と共に爆発を起こす。あらゆる存在を
消し去る究極の攻撃―――それでもネオグランゾンは倒れない。
「だけど―――これで最後だ!」
サイバスターはディスカッターを構え、速度を上げながらネオグランゾンに突撃する。やがてその姿が目視できなくなった。
そしてネオグランゾンに、無数の斬撃が放たれた。
「これが、サイバスターの奥義―――!」
<秘剣!ディスカッター<乱舞の太刀>だ!>
「ぐっ・・・バカな・・・ネオグランゾンを・・・!」
もはやネオグランゾンも大破寸前だった。そして止めの一撃―――!
だがその瞬間、ネオグランゾンの姿が掻き消える。
<な――――――っ!?>
驚愕する一同。その脳裏に、シュウの笑い声が響く。
<ククク・・・実にお見事です。あと一瞬空間移動が遅ければ、間違いなく私は死んでいたでしょうね・・・>
「逃げられたのか・・・!」
<畜生っ・・・!>
歯噛みするマサキ。だがシュウの声は冷徹に告げるのみだ。
<残念ながら、今回は私の負けです。ここは大人しく引き下がるとしましょう―――そうそう、土見稟。あなたたちに謝って
おかねばばらないことがあります>
「何だと?」
<いや、大したことではありません。私は一つ、嘘をついていました>
次の瞬間、シュウはこともなげに言い放った。
<アザミ―――彼女は私に殺されてなどいません。まだ生きていますよ>
「え―――!?」
<もしかしたら、近いうちにあなたたちの前に再び現れるかもしれませんね。その時は果たして敵か味方か―――
それでは私は失礼しますよ>
そして―――シュウの気配が完全に消える。残された稟たちは、言葉を失っていた。
「アザミ・・・生きてたのか・・・」
<・・・確か、グランゾンに乗ってたって女だよな?>
「ああ。けれど俺たちは実際にそれを確認したわけじゃない。神王のおじさんがそう言ってたのと、シュウが殺したって
言ってたから、そうなんだろなって思ってただけで・・・」
「あー、もう、わけ分かんなくなっちゃった。何なのよあのシュウって奴。人を何だと思ってるのよ!」
<へん。あいつは人様の事なんか、何とも思ってねえんだろうよ>
マサキは鼻を鳴らした。その時、サイバスターを包んでいた光が消えていく。そしてフー子の姿が元に戻る。
ポゼッションが解けたのだ。
<ふう・・・何とか体力が持ってくれたみたいだな―――シュウの奴は逃がしちまったけど、みんな、本当によくやったぜ>
<マサキ、あたしたちの活躍にも何か言うことは?>
<あー、グッジョブグッジョブ>
<な、何て適当ニャ・・・!>
「はは、まあみんな無事で・・・よかった・・・」
そう言ったそばから、稟の身体がぐらりとよろめく。プリムラと亜沙も、顔色が真っ青だ。
<お、おいおい!?>
「り、稟お兄ちゃん、リムお姉ちゃん、亜沙お姉ちゃん、しっかりしてよ!」
「くっ・・・ポゼッションが解けた途端に・・・急に、身体が・・・」
「ボクも・・・だるい・・・」
「眠たい・・・寝たい・・・」
<ちっきしょう!やっぱり限界だったのかよ!せめてアークエンジェルに戻るまで持たせてくれよ。こんな所で墜落なんざ
ごめんだぜ!>
「ああ・・・努力する・・・」
ふらふらとサイバスターはアークエンジェルへと向かうのであった・・・。
ネオラピュタ総力戦、サイバスターVSネオグランゾン―――ネオグランゾン撤退により、サイバスター判定勝ち!
投下完了、前回は
>>199より。
今回はあんまり書くことないなー・・・。
>>203 ベタベタの王道インフレバトルを目指しているので、そう言ってくださるのが一番嬉しいです。
>>204 >>205 文章力はないけど作品への愛だけは有り余るほどありますw
>>206 プラーナ設定はほとんど無視しちゃってるので、単純に
<ポゼッション状態は体力の消耗が激しい>ということにしてます・・・
原作の設定に拘る方には噴飯物かもしれません(汗)
212 :
作者の都合により名無しです:2006/02/10(金) 19:22:07 ID:sqj9KC1v0
サマサさん、ここ最近の更新ペースがターボかかって来ましたね。
稟、サイバスター、マサキのシンクロと(ポセッション?)
プリムラの手なづけられたAIネコの力により、なんとか
強大なネオグランゾンを退けられましたね。
しかしアザミ。えらい懐かしい。
確かにサマサさん、去年の一番大量に書かれた時のペースに戻りつつあるね
筆が乗ってきたのは嬉しい事だ。ガンガン飛ばして下さい。
SSの方も、激闘の連続で中盤を過ぎて後半になりつつあるのがわかりますね。
グランゾンを凌いだ後に、アザミの影もちらついてきたし。
目を覚ますと、ジャングルに城が建っていた。
形状は至って単純。石レンガ造りの円柱を、下から順々にウェディングケーキのように
重ねた三段構造──つまり、三階建て。
頂点に立つ円柱には、いかにも城らしい尖った屋根と、サーベルを模した絢爛豪華なス
テンドグラスが張られている。
「なんだよ、ありゃ……」と、呆然と城を見つめる加藤。
夜中、寝ている二人に気づかれず、城を建立する芸当など今さら問うべくもない。どう
考えても、城は試練と直結した代物だろう。
「とにかく、井上も起こすか」
砂浜を見渡すが、井上がいない。
「なっ」周囲をいくら目を凝らしても、井上は見当たらない。忽然と、姿を消してしまっ
た。
「くそっ、どうなってんだ!」
ひとまず砂浜を当てもなく走り回るが、予想通り島を一周するだけだった。あとは、海
中か、ジャングルのみ。
ふと、ぞくっと悪寒がよぎる。
ちょうど島の中心辺りから、不気味にこちらをあざ笑う城。
「あいつ、まさか……城にいるんじゃ」
とにかく、城に行ってみなければ話は始まらない。さっそく密林へ足を踏み入れようと
する。──ところが。
「おっと、どこへ行くつもりかな」
濁った声とともに立ち塞がる、くすんだ銀色をした西洋式甲冑。右手に握られた両刃サ
ーベル。中には生身が入っているにちがいないが、鎧に隙間がまるでないため確認できな
い。
なるほど、今日はこいつというわけか。加藤は構えた。
念のため、加藤から尋ねる。
「ここらに井上って女がいたんだが、どこにいるか知ってるか?」
「私が城へ預かり受けた。返して欲しければ、私を倒す他ないな」
「けっ、ずいぶんと分かりやすい筋書きじゃねぇか。なら──行くぜ」
速攻で拳を打ち込もうとする加藤を、甲冑は掌で制した。
「ちょっと待った」
「あァ?」
「丸腰相手を斬る、というのは我が騎士道に反する。武器をくれてやろう。好きなものを
使うがいい」
足下に投げ捨てられる、武器の数々。
甲冑が使っているものと同型と推測できるサーベル。まともに入れば頭蓋骨をも砕くで
あろう巨大戦斧。さらには、殺傷力では刀剣一とも称される日本刀。
美学からか、あえて敵に塩を送る甲冑。
「さぁ、選べ」
「くっくっく」押し殺すように、加藤が笑う。「悪いが、俺は決めたんだ。テグスを海に
捨てた時に、用意された武器は使用しねぇってな」
「この私に徒手で挑むとは、正気か」
「正気さ。だいたい、てめぇに戦いのペースを取られるってのが気に入らねぇ。俺は俺の
やり方で、通るッ!」
改めて両拳を握り込み、武器に一瞥もせず、加藤は突っ込む。甲冑は微動だにしない。
初弾は中段正拳突き。分厚い鋼鉄と、鍛え抜かれた拳が衝突する。
さらに、全身を鞭のようにしならせ右ローを捻り込む。フィナーレは、背足を駆使して
の左ハイ。いずれもが、ミットやサンドバッグ相手でも滅多に出せぬような威力とタイミ
ングを誇っていた。
「ぐあっ! ……くくっ!」
悲鳴が上がる。攻撃を受けた甲冑ではなく、加藤が発したものだ。
鋼鉄を素手で打ち砕くなど、やはり無謀な試みでしかなかった。激痛を訴える手足。
「バカめ。大人しく武器を使っていれば、あるいは勝算もゼロではなかった。だが、おま
えは下らぬプライドで、自ら希望を絶ってしまった」
甲冑は剣をゆっくりと天にかざす。
「終わりだ。……死ね」一気に振り下ろした。
ずどん。
刃物というより、むしろ鈍器。
甲冑による一撃を受けた砂地は、まさしく真っ二つに割れていた。
「な、なんてぇ威力だ……」ごくりと、生唾を飲み込む加藤。
「破壊力だけではないぞ」
足に力を込め、甲冑が駆け出した。
──速い。
目測に誤りがなければ、百メートルを十一秒台で駆ける末堂クラスの初速であった。百
キロ近い甲冑を着込んでいてなお、このスピード。
「化物がっ」ローで動きを止めようと目論むが、そもそも打撃自体が通用しないのだから
意味がない。ただ再び、足を痛めただけだ。
唸る豪剣。竜巻のように荒々しい剣撃が、幾度も加藤を狙い撃つ。直撃すれば、骨ごと
切断される。
「戦略は逃げるだけか。もっとも、空手など私には通用せんがな。今からでも、武器を拾
ってきたらどうだ? 頼めば待ってやる」
「うるせぇ、だれがっ!」サーベルを掻い潜り、金的へ蹴りをぶつける。が、やはり鉄壁
は崩せない。
とはいえ、甲冑とて決め手には欠けていた。偽りなき一撃必殺の剣を振るう彼だが、イ
メージ力を向上させている加藤には「一撃」が入らない。兵隊との戦いを経て、瞬時に勝
敗を決する兵器に対して免疫ができたことも大きい。
そのうち、甲冑は終わりなき攻防に限界を感じ取った。
「……埒が明かんな。仕方あるまい、今は私から退くとしよう」
「なにっ!」
甲冑はジャングルにそびえ立つ城に、剣先を指した。
「私は城の最上階で待っている。娘については安心しろ、私とてレディの扱いは心得てい
る。じっくりと対策でも練ってくるがいい」
悠々と城に戻ってゆく甲冑を、加藤はいつまでも悔しそうに眺めていた。
追いたくとも、追えなかった。
前回で十二日目は終了で、十三日目開始です。
井上さんは多分食べません。
いくら加藤といえど、さすがに共食いは……。
219 :
十三話「潜入」:2006/02/11(土) 03:00:58 ID:RXvzzcpv0
ドタドタと騒音に近い足音を立てながら、見た目的に中級レベルのスケルトンが勢い良くドアを開ける。
知能は高い方なのか、普通に声を出せない様だが十分伝わるレベルだ。
「大変です!ケンシロウと捕らえられた海賊が逃走しました!」
アミバの顔が引きつる、ミニオン・ワイルと呼ばれた赤衣の男が顔色一つ変えずに言う。
「そうか。報告、御苦労。」
言葉が言い終わった瞬間、粉々に砕け散るスケルトン。
砕け散った骨から魂を吸い込み、自分の力とするミニオン・ワイル。
「サルーイン様の僕に報告するしか脳の無い兵などいらぬ。我が力となるがいい。」
力を吸い終わり、アミバへと目を向けるミニオン・ワイル。
吹き上がる憎悪の炎、この世で最も醜くと思える程の。
「クク・・・。」
初めて見せたワイルの笑み、それは誰から見ても邪悪としか写らない物であった。
〜武器庫〜
「閃光魔術!」
相手の膝を踏み台に飛び膝蹴りを顎先に放つ。
ホークが体術で使える技の最高峰である。
先手を打ちダウンを奪ったホーク、追い討ちを掛ける。
敵の真上で垂直に飛び、肘で喉を打つ!
渾身のエルボーが炸裂する。
幸い、敵兵が一人だけだったので技の練習台にしていたホーク。
見張りの敵兵を瞬殺したホークは早速、倉庫の奥へと進む、すると・・・
「ん?こりゃ・・・スタンの剣!?」
美しく輝く中心の水晶、何故だかそれは熱く、力強く見える。
嵐で吹き飛び、船の連中に拾われていたのだろうか?
とにかく、スタンが使っているような強力な術法の元はこれであると確信していたホークは早速、試してみる事にした。
「ウォーターガン!」
レンズが光り輝き力が発動する。
220 :
十三話「潜入」:2006/02/11(土) 03:02:05 ID:RXvzzcpv0
「じょろろろろろろ・・・・・」
弱くなっている。
この水晶部分によって術能力の増幅が出来ると推測したのだがうまくいかない。
スタンの様に火術法じゃないとダメなのだろうか?
これ以上時間を浪費すると船を奪う、奪わない以前にケンシロウの安否が問われるので、
剣を頂戴して先に進む事にした。
〜甲板〜
「いたぞ!」
ケンシロウに気付く敵兵たち。
円状に取り囲んでいくモンスター、中には人間もいる。
すっかり周りを埋め尽くした物の、事前にケンシロウに関する報告を聞いているため近づけない。
じりじりと距離を詰めるモンスター達。
足音とうなり声の続く中、ケンシロウが喋れそうな魔物へ声を掛ける。
「おい、貴様。」
急に話しかけられた魔物が何かされると思ったのか、大きくバックステップをする。
その反応に魔物達の緊張が膨れ上がる。
だが、そんな事は意に介さず話を続けるケンシロウ。
「北斗神拳に一対多数の戦いは無い。」
一瞬、困惑する魔物達へケンシロウは言葉を続ける。
「貴様等を全て片付けるなど造作も無い、だが貴様等のボスを倒せば同じ事だ。
ならばそちらの方が死者も出なくていいだろう。」
言葉を言い終わる前に緊張に耐え切れず弓を射る魔物。
頭部を狙った完璧な狙撃、だが、
「二指真空把!」
いつの間にか矢は持ち主の下へ帰っていた。
「これ以上・・・無駄に血を流す気か?」
221 :
十三話「潜入」:2006/02/11(土) 03:04:24 ID:RXvzzcpv0
「フフフ・・・通りでお前にしては弱すぎると思ったぞ。」
マストの上からケンシロウを見下ろすアミバ。
音も無く船上へ降り立ち、不敵な笑みを浮かべる。
「最初は態と捕まったかと思ったがそうではない・・・貴様は捕まるしかなかったのだ。」
意気揚々と話し続けるアミバ。
憎悪に満ちた目をケンシロウに向け、嘲笑う。
「お前の拳を強くしたのは強敵の屍を乗り越えてきたからだ!その強敵の魂と怒りがお前の強さの源!
冥府で見ていたぞ、この世界に来てから貴様は一人で戦ってきた・・・どうだ?人間の本質は分かったか?
拳の本質は分かったか?助ける価値も無いクズ供を貴様は命を張って守ってきたのだぁ!ウハハハハハ!」
ケンシロウはいつもの様に静かに構えを取る、だがその目には愛も、怒りも映っていない。
笑いを堪え切れないといった様子で歩み寄る。
「ケンシロウ!暴力はいいぞ!」
闘気を放つアミバ、闘気だけで吹き飛ぶケンシロウ。
「くっ・・・」
更に膨れ上がるアミバの闘気にケンシロウはなす術も無く追い込まれる。
自分の力に酔いしれ、憎悪を纏った笑みを見せるアミバ。
「安心しろ・・・冥府ならどこの世界にも繋がっている、お友達に会って再開でも祝うんだな!」
アミバの拳がケンシロウへと襲い掛かる。
酒場の時よりも重く、速い攻撃に防戦一方のケンシロウ。
実験台として使うため殺したくても殺せないのが悔しいのか、より憎しみを深く暗い物へ変えた様だ。
怒りは肉体を鋼鉄へと変える・・・皮肉にも北斗神拳の真髄をケンシロウの手によって習得したアミバ。
憎しみによって歪み、肥大化した怒りがケンシロウに猛威を振るう。
カウンターで的確に秘孔を突く、だが肉体を鋼鉄としたアミバの経絡秘孔へは届かない。
「どうしたケンシロウ!そんな古い秘孔をまだ使っているのか?戦場の拳の名が泣くぞ!」
徐々に弱っていくケンシロウへ執拗に攻撃を加えるアミバ。
生かさず、殺さず、じっくりとなぶり続ける。
222 :
十三話「潜入」:2006/02/11(土) 03:05:30 ID:RXvzzcpv0
「遊びも終りにしようか・・・貴様が見殺しにした父親を屠った秘孔でな。」
後ろへ回り込み大きく両腕を広げ、両肩をえぐる様に突く。
「激振孔だぁーっ!」
一瞬の静寂・・・ドクン、と脈打つ鼓動と共にケンシロウの胸が膨れ上がる。
激振孔、心臓の運動を急激に上昇させる・・・あまりの血液の流れに周囲の血管は全て引き裂かれる。
何よりも恐ろしいのはこの秘孔には医術用の秘孔では解除出来ない事、完全に秘孔を突く、それは確実な・・・死。
「ぐあぁぁっ・・・!」
苦しみ、悶えるケンシロウ。
心臓の鼓動が体験した事も無いスピードで上昇する。
「少し易しめに秘孔を突いた・・・直に気を失う筈だ。それまで十二分に苦しむんだなぁ。」
秘孔研究の準備を進めさせる様、周囲に居たモンスターに言付ける。
去り際のアミバの笑みは屈強な魔物達をも旋律させる物であった・・・
残ったのはピクリとも動かなくなったケンシロウ、辛うじて呼吸は出来る様だ。
医務室へと運ばれ、肉体を休めるケンシロウ、だが心は決して休む事を許されなかった。
〜ケンシロウ深層意識〜
「何故戦わない・・・」
俺が戦っていないだと?
ふざけるな、冗談じゃない。
「それでは魂無き拳でどうやって敵を倒すというのだ?」
・・・
「愛した女を失い、旅を共にした仲間を失い、一人孤独に荒野で旅を続ける。お前は何を得た?」
何も得ては居ない・・・強敵も、兄弟も、俺を支えてきた愛までも・・・
「本当にそうか?」
何?
「強敵の魂はいつもお前と供にある筈だ。」
この見果てぬ大地でもか?
答えが返ってくる事は無く目覚めた。
「さぁケンシロウ、たっぷりと楽しませてくれよ。」
223 :
十三話「潜入」:2006/02/11(土) 03:06:37 ID:RXvzzcpv0
どうも、モンスターハンター2欲しい!と日課の様に叫んでいる邪神です。
そのうちSSでも飛竜でるかも。
しかしミラボレアスとか爆弾連射してるのに死なない辺りアミバ様に勝てないようなケンシロウじゃ無理っぽい。
そんな訳で当然ホーク達が束になっても無理。
タイトルも「キャプテン黒龍」に変更か?
しかし剣での討伐が出来るなら拳もどうにか・・・っていうか龍の秘孔なんて分かるかケンシロウ?
まぁ完全復活したらどうにかなるかもしれないんで、
ケンシロウの今までの旅書いて弱体化の理由を明らかにしようかなー。
あ、北斗の世界では些細な矛盾は気にしないでください。
ユリアの兄貴や、カイオウがラオウと会った事あるのに「ラオウって俺に似てたぁ?」
とか聞いてきたり。
〜ロマサガ質問箱〜
124氏 質問じゃないけど返答、シェラハ一人で倒せたらサルーインなんて鼻くそなんで・・・。
そこら辺の諸事情はどうか見逃してくださいw
131氏 小説出てたとは、知りませんでしたよ。
楽天で見たら1000円、モンハン2のオンライン環境を整えるのでお年玉が吹き飛んだ今。
バイトもしてないニートな学生じゃ・・・
外伝用語
強敵(とも) 北斗世界においてケンシロウを苦戦させられる相手にこの称号を贈り、贈られた人はみんな死ぬ。
バットは強敵じゃなくて兄弟だからノープロブレム。
木人形(でくにんぎょう) アミバ様率いる秘孔の研究材料を集めるための精鋭部隊。
秘孔を突いて強化されている。失敗しちゃったら破壊秘孔の木人形として扱われるのだろう。
もちろん知らないキャラの説明入れて欲しい、等の要求があればどうぞ。
224 :
十四話「強敵」:2006/02/11(土) 06:05:31 ID:ZyvIo9FT0
タイトル間違えました・・・
前回と被ってるよorz
225 :
作者の都合により名無しです:2006/02/11(土) 07:08:39 ID:3ZM1e/Km0
>やさぐれ獅子
井上さん、囚われのお姫様役かあ。蛸よりもはるかに適役ですね。
相手が甲冑戦士というのも、少し第一部と雰囲気が変わってますね。
加藤がどう見ても姫を助けるナイトって感じじゃないですけどw
>キャプテン
思ったけど北斗神拳の秘孔ってモンスター軍団に利くのだろうか?
逆にケンシロウはドラゴンみたいなでっかい敵の方が相性悪いかも。
アミバ様とはあと少しで決着かな?でもケンシロウ弱えw
・サナダムシさん
加藤は決して井上の為に戦う訳ではないでしょうが結果として
何かが芽生えそうですね。なんとなくドラゴンへの道を思い出しました。
・邪神さん
うん、ケンシロウ確かに弱い。というか、アミバが原作より
強く設定してあるのかな?サルーインは一応神様だからその位の事が出来るのか?
227 :
作者の都合により名無しです:2006/02/11(土) 20:16:55 ID:Zz2gjOSf0
ケンシロウが弱いんじゃなくてアミバがサルーインパワーで強いんだろうね。
サルーインって20メートルくらいありそうなんだけど勝てるのか?
厳しい特別訓練の成果が出てきたらしく、このところ私の魔力は順調に上がっている。
それで気が緩んだせいだろうか、私は久しぶりに夢を見た。
そう、夢……これって夢だよね?
青い空に白い雲、辺りに咲き乱れる色とりどりの花たち、澄みきった湖、そして
全く汚れのない清浄な空気。どう考えてもここはヴァジュラムではない。地球だ。
そんな中で私は、いつもの戦闘用魔法装束ではなく、見たこともないような
可愛いドレスを着ている。髪もきちんと結われ、綺麗に整えられていて。こんな
かっこしてると、何だか自分が自分じゃないみたいな気がしてしまう。
そして、白い丸テーブルを挟んで向かい合う、陛下の優しい笑顔。……はぁ、と溜息。
いつ見ても本当に凛々しい、お美しい。もし女装なんかされた日には、私なんかより
ずっとずっと美人になっちゃうんだろーなーなどと、いらん不安を抱いてしまうほどに。
「? さっきからずっと黙ってるけど、どうかしたの?」
と、陛下が私の顔をのぞき込んできた。いきなり突然だったものだから私は思わず、
「い、いえっ、何でもありませんっ!」
顔面を沸騰させながら後ずさってしまった。あんまり恥ずかしすぎて、幸せすぎて。
って、あはははは、夢だ。やっぱり夢だこんなの。そもそも、あの凶暴な楽々軽々
恒星破壊娘どもが、あっさり私に敗れて地球を渡してくれるはずがないんだし。
この美しい地球がヴァジュラムのものになって、清らかな水と空気で陛下の病が
癒えて、私と二人っきりでこんなことしてるなんて。夢でないはずがない。
そう、夢……えい、それならこの際思いっきり甘えちゃえっ!
「あ、あのっ、陛下、これ、私が焼いたクッキーなんです! 食べて下さいっ」
私はどこからともなく、いつの間にか焼いていたクッキーの乗った皿を差し出した。
「ありがとう、頂くよ。……けふっ」
陛下は一口食べて、血を吐いた。
「え? な、何? 私のクッキー、もしかして思いきり有害物質!?」
「うん、おいしいよ。けふけふ」
二口三口、どんどん食べてはどんどん血を吐いて下さる陛下。
「へ、陛下! もういいですからやめて下さいっ! 陛下ってば!」
でも陛下は私のクッキーを食べ続ける。そして血を吐き続ける。
「陛下ああああああああぁぁぁぁっ!」
ぐわばっ! と体を起こした私の目の前で、寝室の壁が瓦礫と化していた。
おそらく、たった今私が放った魔法のしわざだろう。
「ぁ……やっぱり夢……か……」
脱力して我が身を省みると、全身汗まみれで肩で息して、心臓は私の
十三年の生涯で一番の大暴れをしている。
それほど、怖かった。前半だけ正夢だったらそれこそ至福なんだけど。
ともあれ。まだ真夜中みたいだけど、とても眠れたものじゃない。少し外に出て、
夜風に当たるとしよう。
神聖魔法国ヴァジュラム。異次元からやってきた、魔法を使う侵略者たちである。
その先鋒隊隊長の名は、D=アーネ。地球如き簡単に制圧する予定だったが、
思わぬジャマ者三人組のせいで悪戦苦闘、というか連戦連敗の日々を送っている。
ここはその、D=アーネ隊の秘密基地。まだ真夜中なのだが、眠れぬD=アーネは
外に出てきた。そして基地の庭(具体的に言うと町外れのボロ寺の境内。D=アーネ
と下っぱ10名が勝手に住み着いて基地と称している)を、ぶらぶらと歩く。
月光を反射する、銀色の長い髪。夜の闇にあってなお映える、滑らかなココア色の肌。
今は絶えた、ダークカラーと呼ばれる種族の証である。
月を見上げてみて、ふと気づいて、D=アーネは乱れていた寝間着の胸元を直した。
そんなことすら気づかないほど、恐怖と混乱に締め付けられていたらしい。
『でも夢だと笑ってはいられない。一刻も早く地球を手に入れないと、現実になる』
「ぁふ……どうしたんです、D=アーネ様。なんだか思いつめた顔して」
と眠そうに基地から出てきたのは、D=アーネと同じ粗末な寝間着姿の、禿頭の青年。
「あ、下っぱ6号。もしかして、さっきので起こしてしまったか?」
「そりゃ、もう少しで基地が倒壊……ってそれはともかく。何かあったんですか?」
聞かれたD=アーネは、先ほどの悪夢を説明した。
「……というわけだ。私が無力なばかりに、陛下のお命を危機に晒していると思うと」
「まあ相手が悪過ぎますからね。あんなバケモノども、そう簡単に勝てやしませんよ」
そんなことは、D=アーネだって嫌になるほど解っている。だから毎日、厳しい訓練に
励んでいるのだ。だがその成果で勝利を得るまで、陛下の身がもつかどうか?
「あぁ。私は一体、どうすればいいんだっ」
「いっそ、あいつらがどこか遠いところへ行ってしまえばなぁ、とか祈っちゃいますね」
「ふざけるな。そんな妄想……ん、待てよ。遠くに行っ…………そうか! それだ!」
突然、D=アーネは弾けたように笑顔になると、基地に駆け込んで愛用のどくろステッキ
(魔法の杖)と眼帯をつけた黒い犬、魔法犬「犬一号」を抱えて出てきた。
そしてステッキを一振り、寝間着を魔法の力でスクール水着(ゼッケンつき)に変える。
「?? こんな夜中に何を血迷ってるんです?」
「下っぱ6号、お前のおかげで陛下は救われた。感謝する。では、しばしの別れだっ!」
「いえあのですから一体何を考え、ってD=アーネ様っ!?」
下っぱ6号の言葉を背に、まだ寝こけている犬一号を抱えたD=アーネは、
いずこかへと駆けて行った。
遥かなる水平線に、清々しい朝日が昇る。早朝の海岸は人気がなく、静謐さに満ちている。
そんなところへ海坊主よろしくざばばばばぁっと出てきたのは、ワカメ昆布を銀髪に
絡みつかせた、スクール水着姿の少女。
「ふ、ふ、ふはははは〜! 思ってたほど広くはなかったぞ、太平洋っ!」
ぜ〜は〜いいながら海から上がったこの子はもちろん、D=アーネ。背中に括り付けて
いた犬一号を砂浜に投げ出して、
「ほら、いい加減に起きろ。犬掻き一つせずにずっと熟睡とは、いい身分だな」
「…………気絶してたんですよっ!」
びしょ濡れの犬一号が、跳ね起きて抗議した。
「基地で寝てたはずなのに、気がついたら見渡す限りの大海原! 泣いても叫んでも
マッハいくつの波飛沫にかき消され、しこたま海水飲まされて、ろくに呼吸もできない
あの状況下で、気絶するなってのは無理な話ですっっ!」
「む。言われてみれば、少々悪かったな。まぁ恋する乙女の盲目さゆえということで」
「太平洋を数時間で泳ぎきってしまう乙女ってどーかと……で? 一体何事なんです」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた。では説明しよう、この天才的画期的大計画を!」
D=アーネ曰く。まず日本から遠く離れた外国を一つ制圧する。できるだけ騒ぎを大きく
せず、表向きには何事もなかったように装う。そうすればあの三人に知られることなく、
地球上に領土を確保できる。後はそこに陛下を匿えば、療養ぐらいは充分可能、と。
「地球を狙う侵略者たる者、何も日本にこだわる必要はないからな。我ながら名案♪」
タブー中のタブーに触れやがるD=アーネ。稀に、ちゃんと説明つけてる例もあるが。
「念の為、とっておきの業霊無(ゴーレム)の種と、通信用にお前も連れてきたがな。
ここなら正義の味方もいないだろうし、楽勝だ。てなわけで、いでよ業霊無っ!」
虚空から取り出した小さな種を、砂浜に打ち込むD=アーネ。すると種は瞬く間に
芽を吹き伸びて変形し、全長四メートルほどの蒼い甲冑となった。自意識を
持たない装甲型の業霊無、「処轟鬼」である。
D=アーネは処轟鬼の首筋の裏側によじ登って、そこから胸部の操縦席へと乗り込んだ。
レバーもペダルもない席に着いたD=アーネが、全身から魔力を放出して目を閉じる……
と処轟鬼のモノアイが点灯し、そこからの景色がD=アーネに視覚情報として認識された。
今、D=アーネの五感が魔力によって処轟鬼と繋がったのだ。これでD=アーネは、
自身の数百倍の腕力を持つ処轟鬼を、文字通り手足のように操ることができる。
処轟鬼の巨大な手が、感触を確かめるようにゆっくりと握られて、岩のようなな拳を
つくる。それから、足元の犬一号を見下ろして、スピーカー越しの声で言った。
《よし、問題なく動くようだ。とりあえずその辺の街を軽く攻撃してくるから、
お前はここで待ってろ。日本の基地から緊急の連絡でもあったら、通信頼むぞ》
「はあ……でもD=アーネ様、少し休まれた方がいいのでは? いくら何でもお疲れ
でしょう。太平洋を横断したばかりなのに、こんな大物を扱うなんて。危険ですよ」
《言うな。我々の地球侵略には一刻の猶予もないこと、お前だって解っているだろう》
「そりゃD=アーネ様の陛下らぶらぶ♪ っぷりはよく解ってますけどね。何せ好きな人
からの手紙を読んで、感動と興奮の余り鼻血を出す女の子なんて宇宙広しといえど」
ぐしゃ、と犬一号をその巨大な足で踏み潰して。
「装甲型業霊無処轟鬼、発進!」
処轟鬼は、背中から白い大きな羽根を生やして空へと舞い上がった。
「この青い空も、白い雲も、全て手に入れてみせる。陛下の為にっっ!」
決意を込めたD=アーネを乗せて、処轟鬼は空を翔る。
……彼女は知らない。確かにここは外国だから、彼女の普段の宿敵も含めて
ほぼ全ての「正義の味方」はいない。
だがその代わりに、この国はこの国で、とんでもないのがいるのである。
各種最強議論スレを賑わせた、全漫画界屈指の実力者。(原作終盤には)Z戦士たち
さえも凌駕する超絶強豪でありながら、一途に恋する健気な少女。D=アーネは、
『魔女っ子戦隊パステリオン』の敵キャラです。なお今後の展開は、遥か以前に
ミドリさんから頂いたリクエストにお応えしております。……一応、まあ、はい。
>>ウルフズさん
まぁ宗介にプロレスは理解できないでしょな。毎度ながら無駄な言い聞かせだぞかなめ。
>こうして筋肉ムキムキの男と着物姿の少女は岐路についたのだった。
この図はいいですね。絵的にも、そこに至る二人のやりとりも好き。でも、これで本作の
方向性が読めなくなった……汗臭格闘から一気にほのぼのメルヘンって。どこへ行くっ?
>>サマサさん
>だから今度は、俺たちが助けてやるって
私、好きなんですよ〜この「善意の連鎖」。誰かの為にって気持ちを受けて救われた人が、
今度はそれを他の人に。そうして広がっていく幸せの輪……それが力となり強敵撃退っ!
プリムラの異次元ヒロインっぷりと稟の兄キャラらしさ、共に久々に魅せてくれました。
>>邪神さん
うぁ、今度は本当にケンシロウ敗北ですかっ? 何だかなす術ないって感じで負けてます
ね……頑張れ、再起希望っ。でドラゴンとか相手の場合は、「相手の筋肉・骨格などを
観察して、血流や臓器を分析し、秘孔を見つけ出す」で何とかなりそうな気もしますが。
>>サナダムシさん
なるほど。空手の達人が空手だけで戦う場合は、マシンガン装備の軍人より、鎧甲冑騎士
の方が難度の高い敵となるか。しかし、ますます濃くなってしまった井上姫の恋愛フラグ。
つーかこれで死闘の末に救出されて、加藤に好意を抱かなきゃサギですぜ旦那。どうなる?
>>それはそうと翼うさぎ
リアル私からは想像もつかない、あの可愛らしさ。見合い写真に使われたらサギだ、
ってそういう問題ではないですけど、いやしかし、だがけれど、何ともはやっ。
ともあれ。うみにんさん、美化1000%な御力作感謝です。SSも待っておりますぞ。
前スレ354から
―――次の日。
スヴェンの指が居間のテーブルをタップの様に軽快に叩く。但し、音こそ軽快だが本人の表情は憤懣やるかた無い。
そして、その足元にはソファに座らず床に寝るトレイン。しかし、何故か白目を剥いている。
「……そんなに怒んなくてもいいんじゃない? ま、起こってしまった事は仕方ないって事でさ」
リンスのささやかな助け舟にすら耳を貸さず、スヴェンの指は苛立ちのタップを止めようとはしない。
話は少し遡る。
目覚めたスヴェンは、朝一番でマリアを捜していた。
理由は簡単、「今朝発つ」と告げる為だ。
兎にも角にも一刻も早く、此処から逃げ出したかった。……だがその理由を彼女達は知らない。
…しばらく歩いていると、キッチンに続く廊下の脇に鉄扉を見咎める。
それがガレージの扉だと言うのは、来た時に知っている。此処に彼等の軽自動車を止めたのだから間違い無い。
其処にマリアが居るとは思えない――――が、何故かこの時、スヴェンの手は鉄扉を開いていた。
「……ん、あ…ああ―――、と、その…どうしたスヴェン?」
しかし居たのはトレインで、妙に言葉を詰まらせながら自動車のボンネットを閉じる。
「いや、俺はマリアを捜しに来たんだが…お前は一体何してる。朝っぱらから車に何の用だ?」
「あ、ああ…そのな、こいつ結構プラグが煤被ってたから…ちょっと点検しといた。
だからもう大丈夫だ、心配無えよ」
そう言われても、そんな引きつった笑顔を見せられて素直に賛同するスヴェンではない。心中猜疑の目をトレインに向ける。
「ふ……ん、そうか。じゃ、最終点検しとくか」
気付かぬ風を装い、運転席のドアを開ける。
「うわああぁ―――ッッ! やめろ――――ッ! コラ―――――――ッツッ!!!」
オレンジの一気食いを止める様な驚愕でトレインは叫んだ。そして、一拍置いて慌てて口を塞ぐ。
最早疑いようも無く、何か碌でも無い事を仕出かしたのは明白だった。
……少しして、声に驚いたであろうマリアがガレージに飛び込んで来た。
「ちょ…ちょっと! 何が有ったの!?」
「あ〜…マリア、この辺に車の工場無いか? 少しトラブってな」
スヴェンが億劫そうに答える。
「…2ブロック先に板金工場が在るけど……それは?」
「何でもかんでも叩けば治ると思ってる馬鹿にお仕置き中、かな」
コブラツイストを維持したまま、冷静に返した。
「……プラグのソケットが割れてたんだ。こいつが蹴った所為で。他にも弄って訳判らなくした所が幾つかな。
金は買い替えほどじゃないが、部品取り寄せに十日は掛かるかも、だとさ」
自分の頭ですら重そうにかぶりを振る。
スヴェンにすれば全く以って予期せぬ不幸だ。一刻も早く去りたい場所で手痛い足止めを喰らってしまった。
相棒の手練にはなかなか助けて貰ったが、今回ばかりはその凄まじい脚力が恨めしい。
「べ〜つに、いいじゃない。昨日も言ったけど、アタシはしばらく此処に居てもいいんだけどね」
気の無い物言いに、スヴェンの眉が攣り上がる。
「お前な…親子二人で暮らしてた家に、四人も居候増やしてどうする?
食費、光熱費、水道代、雑費……一体どれだけの負担になると思ってる」
それらしい事を並べ立てるが、彼にはそれが単なる理由付けだと言う事が判り切っていた。
「――別に心配無いわよ」
その思考を裏付ける様に、手を拭きながらマリアが入って来た。
「結構な貯えが有るから、十日やそこらなんて何の支障も無いわ。何なら本当にしばらく居てもらってもいいのよ?」
酸いも甘いも噛み分けたが故に可能な優しげな笑みは、今のスヴェンにとっては悪魔の嘲笑でしかない。
家主の許しに歓喜するリンスとは対照的に、彼は頭を抱え込む。
「それにシンディがね、友達が出来て嬉しい≠チて。すっかりイヴちゃんに懐いてるわ」
と、其処に、ぱたぱたと駆ける足音と少女の元気な笑い声。
「こら、シンディ。廊下を走っちゃいけないって言ったでしょ。それと、もうすぐ朝ご飯なんだから手を洗いなさい」
「はあーい。行こ、お姉ちゃん」
遠ざかる二人分の足音を聞きながら、スヴェンは嘆息する。これでますます出て行けなくなった。
今のイヴに忌憚無く接するシンディの存在は、非常に好都合なのだ。これで彼女は遠からず元の彼女に戻れるだろう。
そして悪い事に、その役はスヴェン達には絶対出来ない。無垢ゆえの優しさが有ってようやく成せる業だ。
「ほらほらスヴェン、ボーっとしてないで貴方も手伝ってよ」
その時、漂って来た旨そうな匂いにトレインが息を吹き返す。
「メシ!?」
先刻まで青息吐息とは思えないほど、元気溌剌に起き上がる。
「………マリア、こいつしばらくその辺にふん縛っとけ。大丈夫、死にゃしない」
スヴェンが額を押さえながら現金振りに辟易する。
「マリアさん、アタシも手伝おうか?」
「じゃあ、頼めるかしら」
そんなこんなで全員がぞろぞろとダイニングルームに向かう折、トレインがふとマリアとすれ違う。
「…奥さん、も少し洗っとけ。オイルが匂うぞ」
―――それは、彼女にのみ聞こえた言葉だった。思わず彼女の足が止まる。
「? どうした、マリア?」
スヴェンが突然止まった彼女に問い掛ける。
「え? ああ、御免なさい。何でもないわ」
とは言ったが、彼女の目はトレインの背中に集中していた。
果たして訊き返そうかとも思ったが………思慮を感じさせない無邪気な背中に、止めた。
…スヴェンに不本意のまま、五日が経過した。この頃になれば、定住していなくとも町の呼吸が判り始める。
年代物の石畳を踏み鳴らす雑踏がピークに達した頃、町のあちこちがようやく目を覚まし始めた。
歩く人々は服装、人種、共に極めて雑多だ。この町が観光地で有るが故と、それを相手に商売する輩が他所に輪を掛けて多いからだ。
広場、歩道は次々と美観を損ねぬ様種々の露店に埋め尽くされ、彼等の逞しさに負けじと構える店がめいめいに声を張り上げる。
トレインとリンスがやって来た町の中心に位置するこの町自慢の噴水広場も、その例に洩れる事無く賑やかな喧騒の只中に在った。
行き交う人々。群れる鳩。古式建築をカンバスに収めようとする俄か絵描き。それぞれの持つ楽器で自己の世界に浸る流しの面々。
―――…前述にこれだけ追加されれば、二人を気に止める者は逆に居ない。
「…何だよ、いきなり呼び出して」
精緻な細工が施された真鍮の巨大噴水の縁に腰を落ち着け、トレインはリンスに訝しんだ。
このシチュエーションが戴けないのは、実は内心判っている。彼女が呼び出すのは打ち明け話を迫っている証拠だ。
しかし具合が悪いのは、彼女が言い出すまでまるで予想が付かない事と、言い終えた頃には誤魔化しなど手遅れだと言う事だろう。
そもそもトレイン自身、生来口下手な為に俄仕立ての嘘など吐ける訳も無い。
「アンタさ、何でマリアさんを庇ったの?」
見下ろす彼女の言葉はいつものような強い口調ではない。ただ、素直な疑問を問うていた。
「……何だそれ」
「とぼけてんじゃないわよ。珍しくスヴェンは気付かなかったみたいだけど、アタシは見抜いてるわ。
スヴェンに技掛けられるのを判ってるくせに、何でわざわざ自己申告するか、ちょっと考えれば判りそうな事でしょ?」
この女こそ珍しく頭が回る様だ。心の中で肩を落とす。
「別にアンタを攻めたい訳じゃ無いわ。ただ訊きたいのよ、何でアンタが彼女の焼け棒っ杭に手助けするのか」
―――――そういう事か。
トレインがそう得心した頃には、彼女は野次馬根性で目を輝かせていた。
こと、色恋沙汰と言う物は人の関心を集める物だ。それがしっとり滴る美貌の婦人と有らば、人次第ではちょん切られる覚悟で
首を突っ込む連中さえ居るだろう。
しかも彼女の場合、その中に顔見知りが関わっているのだから、首に縄を掛けても止められるかどうか。
勿論トレインも、マリアがスヴェンに対して如何な感情を抱いているかは知っている。しかし彼は、そう言う下世話な気持ちで
彼女を庇った訳ではないのだが。
そんな事は露知らず、リンスの楽しげな言葉は熱を増す。
「アンタが二人をくっつけてどうする気か知らないけど、ま、それに関しては感謝しとくわ。
お陰でようやくイヴちゃんに正しい女としての教育を……」
「………何馬鹿な事言ってやがる」
トレインの返句は、酷くざらついて苦々しかった。
「オレはな、別にくっつける気なんか無えよ。仮にそうなったとしたら、それは単なる結果だ」
聞くやリンスも流石に認識を改める。どうやらトレインの行動は、かなり深い意味が有るらしかった。
「またアンタ、碌でも無い事考えてるんじゃないでしょうね」
かつてし合ったイヴについての対話を思い出す。よもやあの時の様に不快な話に成るのではなかろうか、少し連れ出した事を後悔する。
「そう言えばさ、アンタあのマカロニ野郎とやり合った時から変よ。何か、考え事多くなったって言うか」
ここ最近のトレインは、確かに何処かおかしかった。日常にしても戦闘にしても直感に頼る男が、妙に思案に耽る様をちらつかせる。
有り体に言うなら……らしくない。
「もしあの馬鹿に何か吹き込まれたって言うなら、話してみなさいよ。それだけでも……」
「違う」
トレインは諦観じみて話を折る。
「そうじゃない。これは、オレの独断だがな……」
妙に歯切れが悪い。まるで地雷原におっかなびっくり足を踏み出す様な奇妙な慎重さだ。
「オレはスヴェンを――――――ここに置いて行こうかと思ってる」
……全く以って、リンスの予想を越えていた。
どちらかと言うとスヴェンに頼っている男が、事も有ろうに『置いて行く』とは。
「ア……アンタのそれこそ、よっぽど……何よそれ!」
自分の声を聞いて、彼女はようやく自分の狼狽に気付く。
「アンタ、アイツが居なきゃ普通の生活も危ない無計画男の癖に……何なのよ!?」
最早平常心など保てる筈も無く、ただ言い重ねる。
信じられなかった。自分より長く付き合っている相棒を、こうも簡単に切り捨てるトレインの愚断が。
「…この町の名前、知ってるか?」
すらりと切り出したのは、現在の状況とは全く無縁の内容だった。
「は? 何よいきなり?」
「フィブリオ、って言うんだけどな……どっかで聞いた事無えか?」
問われてリンスは首を傾げる。
聞いた事も何も、この町に来た事自体初めてだと言うのに、如何に観光地とは言え彼女の記憶に有る筈も無い。
「……さあ、判らないわね」
「じゃ、もう一つ。
奥さんの家の住所は、『フィンチレイストリート三―六―十二』、これならどうだ?」
当然それも初耳だ。もしかしたらトレインが煙に巻くつもりかと思い、彼に疑いの目を送ったが―――…
「…あれ? それって……」
まだ形には成っていない。しかしそれでも記憶の糸口を確かに捕まえた。そして同時に、何故か酷く不愉快な気分が甦った。
更にトレインの続く言葉が、彼女の不快を裏付ける。
「セフィリアがスヴェンに言い負かされそうになった時、最後の手段、とかで出した奴だ。
…成る程な、確かに最後の手段だな」
後半には明らかに軽蔑が込められていた。
それもその筈。彼女がスヴェンに言ったのは、疑い様も無く人質の事だ。もし、あの形に決裂する事無くうやむやに終わっていれば、
セフィリアはマリア親子に何らかの害を及ぼしたやも知れない。
「……あのクソ女」
あの時のスヴェンの怒りをようやく悟り、リンスは憤懣を吐き捨てた。
「―――でもな、今言いたいのはその事じゃない」
トレインの眼は更に硬さと重さ、そして鋭さを増していく。それはまるで、決意の槍の穂の如く。
「あの二人はな…スヴェンの泣き所なんだよ。だったら、スヴェンをオレの戦いに付き合わす訳にはいかない」
オレの戦い=B其処がリンスには非常に強調されて聞こえた。
「当然リンス、お前もだ。
大体がオレ一人の話なんだ、それにお前等が付いて来ただけだ。」
―――更にトレインは、彼女さえをも切り捨てた。
「いいか? オレが今まで、そしてこれから殺り合う奴等はな、世界のクロノスにも実態を掴ませないメチャクチャな組織なんだぞ?
おまけに引っ張ってるのは、一番大事なネジ以外全部揃ったロクデナシだ。
…自殺志願者だって、もう少しマシな選択すると思うがな」
真っ向からの断絶、だった。
訥弁のトレインだが、今回は酷くすらすらと口から飛び出す事に自分で驚いていた。それは彼女達の身を案じるが故だろうか。
ならば都合良し、と畳み掛けるつもりで次句を継ぐ。
「いっそお前等三人、ここで暮らすのも良いんじゃねえか?
此処は何せ観光地だ、世界的に有名過ぎて星の使徒だって迂闊に手を出せない……」
言葉に―――――拳が割り込んだ。
殴られたトレインが顔を起こせば、親の仇を見る様な憤怒の形相でリンスが見下ろしていた。更に彼女は、
トレインの襟首を両手で捕まえて引き寄せる。接吻手前の零距離なのだが、其処に色気は微塵も無い。
「………馬鹿言ってんじゃないわよ、この馬鹿」
言葉の熱さは溶鉱炉の熱気を思わせる。
「オレの戦い=H オレ一人の話=H 付いて来ただけ=H 此処まで巻き込んどいて……何寝言言ってんのよこの馬鹿!!
イヴちゃんの怪我が自分の所為だとでも思ってんの? アンタ自分が其処まで偉い人間だと思ってんの?
ふざけてんじゃないわよ!!!」
自分の怒声が衆目を集めるのは判っているが、そんな物はもう知った事ではない。ただ、トレインの言葉を許す訳にはいかなかった。
「…アタシ自身、あのイカレ男にはムカッ腹なのよ。
アタシ攫って人質にしたり、アホ野郎二人も差し向けたり、アイツのお陰であのクソ女に顔と名前憶えられる羽目になったり。
それを自分の都合で読み飽きた本捨てるみたいに………仲間じゃなけりゃ今すぐその頭、加熱殺菌してやる所だわ!!」
しかし、その気迫にトレインは僅かも物怖じしない。
「……お前こそ馬鹿か!? 死ぬって言ってんだよ!!!」
「それが何? アタシが死ぬの怖くてこんな仕事やってると思ったら大間違いよ!!」
両者一歩も譲らなかった。
「……もしね、此処で何もかも投げ出したりしたら、女が廃るのよ」
「それが何だ?」
「……アタシが出来る一番簡単な自殺なのよ、それは。
これまでの人生も、これからの未来も、今まで培ってきた全てが…その瞬間死ぬのよ。
危険だってだけで逃げる様なアタシは………絶対にアタシじゃないわ。アンタの何処に、それを決める権限が有るってのよ!!!」
売り言葉に買い言葉の形で反論しようとしたトレインだったが、その唇は彼の意識の外で止まる。
怒りの余り、彼女の眼には涙すら浮かんでいた。
「これはもう、アタシの戦いよ。それが偶々アンタと共通の敵で、アンタと共闘してるだけ。それだけよ。
断じてアンタの力になりたいとか考えてる訳じゃ無いから、難癖付けてんじゃないわよ!!!」
それを最後に、リンスは手を離す。
座るトレインには、もう何も言い様が無かった。彼女の気持ちが痛いほど判るからだ。
彼女には、我道に殉ずる覚悟が有った。彼もまた、復讐に全てを賭ける決意が有った。
形や価値観は違えど、二人は紛れも無く同類なのだ。
その時、トレインの横にリンスが腰掛ける。
組んだ手に額を押し付けてうな垂れる様は、何か辛い物から眼を背ける様でも有り、ただ湛える様でも有り……
「…でもね、トレイン」
つい先刻の自分と同様、酷く重苦しい声だった。
「……アタシも、イヴちゃんとスヴェンは此処に居るべきだと思うわ」
ほぼ同刻。
その部屋は、さながら宮殿だった。
今では狩猟禁止になったシルバースノーフェレットの毛皮絨毯はまるで雲を歩く様な心地を与え、その上に乗って部屋を彩る
調度品の数々は椅子一脚ですら中流家庭の半年分の給料にも達し、其処に歴史的価値を付加すれば最早家具の域ですらない。
カーテンの布地も、最上級のシルクをエンペラーバイオレットで染め上げた特注品で、本物のクリスタルで作った巨大シャンデリアが、
華々しく且つ煌びやかな光で部屋全体を一層飾り立てる。
だがその中で、それらの豪奢にも勝るとも劣らぬ美貌が、ゆったりと椅子に腰を落ち着けて微かな寝息を立てる。
上下の装いに派手さは無くとも、素材は高級で有るらしい。故に、場の静謐と調和を乱す物は何一つ有り得なかった。
―――――まるで其処は、彼女を中心とした生きた絵の様だった。
不意に、彼女の双眸が開く。それだけで部屋は名画である事を止めた。
そしてゆるゆると起き上がり、部屋の扉に穏やかな目を据える。と、一拍遅れで鳴った力強いノックが、
部屋の静謐を一瞬にして台無しにした。更に、
「……お嬢、あっしです。報告に来やした」
「どうぞナイザー、鍵は開いていますよ」
扉の向こうから響く野太い声に、セフィリアは僅かに眉を顰めた。
恭しく入ってきたのは、スキンヘッドと髭面の男だった。態度と言い、面構えと言い、どう見ても堅気には見えない。
しかもその身を押し込める黒服から判断するに、町を歩けば十人中九人は避けて通るだろう。
「…ジェノスから、『鼠は餌を嗅ぎ付けた』だそうで。予定通りならもう間も無く来るでやしょう」
口調に到っては、どうしようもなくその筋≠フ有り様だった。
「そうですか。ご苦労でした」
報告を背中で受け止めたまま、セフィリアは慣れた手付きで紅茶を淹れる。
蜂蜜を入れ、輪切りのレモンを浮かべようとしたその手が、不意に止まった。
「………まだ、何か?」
男は立ち去っていなかった。真っ直ぐに彼女を見たまま、直立不動も巌たる貌も崩さない。
「……お嬢。あっしゃあ、根っからの半端モンです。ですが先代は、こんな腕っ節しか能の無えゴロツキを拾って下すった。
ばかりかあっしを、仲間と呼んで下すった。あの恩は、先代が七回生まれ変わっても返し切れやせん」
努めて冷静たろうとするも、言葉には僅かながら温かみが感じられる。
「あっしだけじゃねえ、ナンバーズの半分以上はあの人に連れて来られた奴等でやす。あの恩知らず二人は兎も角、
皆その恩を切に、切に、感じておりやす」
セフィリアは何も答えない。どころか振り向こうともしない。
「……ですから―――少なくともあっしは、お嬢の口は先代の口同様と思っておりやす」
男の口が苦しげに止まる。これより先は恐らく苦言なのだろう。しかし、彼はそれでも半ば無理に搾り出す。
「――――こんなやり方…先代はきっと納得致しやせん」
目を背けたいがそれは出来ない。そんな感じの苦渋だった。
「この有り様、先代はきっと草葉の陰で嘆いておられやす。今からでも遅くはねえ、連中に…!」
だが其処へ、言葉を断つ形でセフィリアの方から緩い拍手が鳴った。
「流石は流石、クロノナンバーズを束ねるNo1、ナイザー=ブラッカイマーの言ですね。
私如き小娘には想像も付かない深謀遠慮を有しておられる。お見事です」
その嫣然たる様に、ナイザーは困惑した。
彼女は事も有ろうに、彼をナンバーズの頂点と揶揄したのだ。
「え? あ…や、ちょ…っと、ま、待っておくんなせえ。No1はあっしでなくて、お嬢でやしょう?」
「―――では何故、私に逆らうのです?」
振り向いた彼女に、表情は存在しなかった。
完全にナイザーは口ごもる。されど彼女の責問は治まらない。
「今貴方の上官は誰です? 父ですか? ―――否、ですね。
私の口が父と同じと言うのなら、今貴方は何に逆らっているのか判っているのですか?」
部屋を満たす気まずい空気に、ナイザーは何一つ返す事など出来はしない。
「……話は以上です、お下がり下さい」
向けた背には頑迷なまでに拒絶の意思。最早これ以上此処に居るのが無意味なのは見えている。
彼はセフィリアの背に一礼すると、扉に向かって歩き出した。
「それと、もう一つ」
突然セフィリアが呼び止めた。
「その、『お嬢』と言うのも止めて下さい。不愉快です」
ナイザーが去り、またも一人になった部屋でセフィリアはふ、と物思いに耽る。
その中で彼女の父ジェイドは、いつもの通り豪快に笑っていた。
No1専用執務室の扉を、彼女は勢い良く開いた。
「――――お父様!」
その呼び掛けに振り向くのは、二メートルは有ろうかと言う大男だった。
クロノナンバーズの基本戦闘服である黒服には更に、足首まで伸びた同色のコートを羽織っている。
「…何だぁ? どうした、そんな必死なツラしゃあがって」
彼は弄う様に笑いながらセフィリアを見下ろした。
雄獅子のタテガミを思わせる金髪、同色の口髭、燃える様な蒼い瞳。それらを見ても、この二人が親子だと気付く人間は実は少ない。
片や豪放磊落の大男。片や清純可憐の美女。何とも相反極まる二人だった。
「あのトレイン=ハートネットを……ナンバーズに加えると言う話は、本当なんですか!?」
憤怒と焦燥を一緒くたにした声を、ジェイドに浴びせ付ける。
「おお、聞いたか。
そうよ。長老会で案を出したら万場一致で決定よ。これで野郎も大出世だ、目出てえじゃねえか」
「私は、反対です!!」
彼女は、凛と突き放す。
「あの男は―――…いえ、あの……怪物は、早急に排除するべきです!」
「そう物騒な事言うもんじゃねえぜ。それによ、あいつぁクリードの友達だそうじゃねえか。そんな事したら……」
「クリードはきっと、騙されているんです!」
緩く笑うジェイドに対し、セフィリアは何処までもトレインに対する敵意を崩さない。しかし―――
周囲を揺らさんばかりにジェイドは呵呵大笑した。
「……あいつが人騙すタマかよ。なあに、あいつを拾った俺の目に狂いは無えさ。
あいつぁきっと、クリードとは別の形でデケェ奴になる、と俺ぁ信じてる。だからセフィリア、おまえも信じてやれや」
だが、ジェイドが逝去した今となっては何と無意味な言葉か。
セフィリアは瞼の父の言葉を嘲笑った。
「……お父様、あの二人に関しては曇っていたようですね」
だが、それに含まれているのは父への嘲弄のみではない。
「……それを言ったら私もですが」
自嘲の溜息が、空しく零れ落ちた。
えー…238の住所「三―六−十二」は間違いです。39−7でした。マジすいません。
と言う訳で恥かしげも無く参上仕ったNBです。
しかし何でしょうか、遅いし長いし薄いしの三拍子を見事制覇しちゃってるよ俺。
心理描写や伏線やらをこねくり回してると、どーもこんがらがってこんがらがって。
さて、今回原作から大幅に変更した物と言うと………やっぱナイザー君でしょう。
どうにも俺にはあの面相で「オイラ」が馴染めなかったので「あっし」に実験的に変えてみたら、
「よっしゃあ、折角だからヤの付く自由業にしちめえ」と意気込んだ結果がこの様です。
何やってんだ、俺……
しかし、この話は掛かって掛かってしょうがないです。
なので、今後の参考の為………美貌のご婦人とイチャりてえ!
――――――――おっと、誰かのハッキングが有ったようですね。
やだな皆さん、俺の如き品行方正清廉潔白の塊がそんな事本気で考える訳ないじゃないですか。
いや、ホントですって!! だって赤ちゃんはコウノトリが連れてくるんでしょ!?
ま、全く、人を疑うなんていけませんよ、ええ。(襟を正しながら)
と、兎に角! 今回は……ここまで! ではまた! (この後全力疾走)
246 :
親父:2006/02/12(日) 02:21:23 ID:PBAMIvat0
階段を登る音が聞こえる・・。
勿論、この場には俺しかいないから、きっと俺の足音だ。
しかし、何故だろうか?
一歩一歩、階段を上る心の底が黒く・・、懐かしい気分になる・・。
そして・・・、六段目・・・・。
アノころは良かった・・。
人間を無機質に殺していれば良かったし、それだけで褒められた・・。
―――――――親父から・・・。
―――――――――――――――――――――――――――
今でも覚えているあの臭い。
そう、貧相で干しレンガ造りのあの家の・・。
「なあ、親父・・。俺も、銃を撃ってみたいんだけど・・・。」
俺は別に、人を殺したかった訳じゃない。
飛行機の墜落で全てを失った俺を養ってくれている、親父を助けたい一心で言った言葉だった。
親父は・・。
そんな俺の言葉に別段、異を返さなかった。
こうなる事が分かっていた?
いや、親父は占い師ではない。
俺にとっては唯の・・。唯の、親父だった・・・。
――――――――――――――――――――――――――――
247 :
親父:2006/02/12(日) 02:22:15 ID:PBAMIvat0
親父の仕事は傭兵を介したゲリラだった。
物心が着いた時には、既にゲリラのことは良く分かっていたし、
自分でも手伝うようになっていた。
だから、何も言わない。
俺が仕事を失敗しても、親父の足を引っ張っても決して何も言わなかった。
「・・・・・。」
今の子供には分からないかもしれないが、沈黙がどんな叱咤や怒声よりもこたえる。
何しろ、会話が成り立たなくなるからだ・・。
この世の全てが親父を中心に回っていると信じていたあの頃は、沈黙が何よりも・・・・。
―――――――――――――――――――――――――――
248 :
親父:2006/02/12(日) 02:22:55 ID:PBAMIvat0
だから余計に褒められた時は格別な気分だった。
中でも髪の毛をクシャクシャにされながら撫でられるのは最高だった・・。
「はっはっは!!いい照準だ。それなら、女のアソコもイチコロだな!!」
「えっ・・・。アソコって・・・?」
「んっ?そうか、お前にはまだ早いか!!まあ、いずれ分かるさ。はっはっは。」
信じられないかもしれないが、これでも18までは色は知らなかった。
もっこり?
一晩どうですか?
あの当時の俺が聞いたら、知らない言語で話しかけられているような錯覚に陥ってたろうよ。
――――――くくく・・・。まあ、若かったんだよな〜〜。
そんな親父だったから、あの時までは、”親父が世界の中心だと信じて疑わなかった。”
俺はその中心から少しずれたところを回っていて、
親父の仲間たちも、俺と同じところを一緒に回っているものだと思っていた・・。
――――――そう・・・、あの時までは・・・。
――――――――――――――――――――――――――
249 :
親父:2006/02/12(日) 02:23:28 ID:PBAMIvat0
あの日の親父は・・・、いや、そうだな・・・。
親父だけじゃないかもしれない・・・・。
みんなだ!!
ミンナ狂っていた!!
長かった・・。俺が・・・、そう、18か何かのときだ。
もしかしたら、もう少し若かったかもしれない。
そんなことは・・。関係ないか・・・・。
そうだな・・。あれだな・・・。
麻薬中毒者・・・・。
アレに近いかもしれない・・。
来る日も来る日も、敵、敵、テキ!!!
違う!!相手は同じ人間だ!!テキじゃない!!
これ以上は殺したくなかったんだ・・。
きっとそうさ・・・。みんなそう思っていたはずだ・・・。
この町に住んでみて、良く思い返す。
あの時の俺は・・・、親父は・・・、みんなは・・・。
―――――――――本当に正気だったのか?
――――――――――――――――――――――――――――――
250 :
親父:2006/02/12(日) 02:25:52 ID:PBAMIvat0
「そんなモノを使ってどうするの?」
「勿論、この戦いを終わらすためだ。それ以上も、それ以下も無い・・。」
小さなテント内で、仲間内では数少ない女性と親父が口論している。
俺以外の周りのみんなはというと・・・、呆れ顔と絶望が入り混じったといった方が適切な顔をしている。
俺はこの世に―――――絶望的な顔”―――――――をした人間は一人もいないと思っている。
大体、人間はそんなに複雑な構造をしていない。
銃弾にやられて、もう虫の息な奴を看取ったことは星の数ほどあるが、
”痛い”とか、”神経が麻痺している”とかで絶望的な顔というものをお目にかかったことは無かった。
だから・・・。
きっと、これが最初で最後・・・・。
絶望という顔が、呆れ顔に中和されながらもこの世に降臨するのは、きっとこれが最初で・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――
251 :
親父:2006/02/12(日) 02:28:23 ID:/ilCP5nO0
「なあ、お前は私のやっていることが間違っていると思うか?」
テント内での口論の後、少しの仮眠を取ろうとした俺に、親父が話しかけて来た。
「えっ・・・。俺は・・・・。」
俺は言葉に詰まる・・。
親父がこの世の中心のはずなのに、なぜか”絶対”では無い違和感を始めて感じていた・・。
今思うと、それが正解だったのかもしれない。
あれから、十年以上たっているが”明確な答え”が未だに出ない・・。
あんな目に遭わされたのに・・・。
裏切られたのに・・・・。
でも、あの時の言葉が耳について離れない・・。
だから・・・、答えが出ない・・・。
「なあ、親父!」
「なんだ?”我が息子よ”?」
――――――――――――――――――――――――――――
252 :
親父:2006/02/12(日) 02:31:45 ID:/ilCP5nO0
「親父っっっっーーー!!!!」
裏切られた直後だっただろうか?
俺は一度だけ親父を殺しにかかったことがある。
しかし、結果は目に見るより明らか・・。
唯の憎しみに身を任した俺は、親父にとって猛獣とさほど変わりが無かったようだ。
「息子よ・・・。お前では私を・・・・。」
親父は何が言いたかったのか?
今では、何が言いたかったかわかる気がする。
だが・・、それ以上は考えたくない・・・・。
俺を半殺しにした後、無表情で俺の血管の中へ冷たいものを流し込む親父のことなど・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――
嫌な事は長く感じるとよく言うが、俺の場合はそうではなかった。
何しろ、嫌な時には正気を失っていたし、気がついたときには全てが終わった後だった・・。
「追放・・・、され・・た・・?親父が・・・。そうか・・・。」
「ちょっと!!起きちゃダメよ!!!それだって、貴方の体はアレのせいで!!」
親父と口論をしていた女性が、俺を優しく抱きとめる。
「くあっ!!!」
不意に視界が真っ暗になる。
そう、抱きとめられた衝撃だけで、俺は・・・、意識を失ってしまっていた・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
253 :
親父:2006/02/12(日) 02:33:38 ID:/ilCP5nO0
「おや・・・じ・・・。」
やんわりと辺りから香ってくる独特な匂い。
恐らく消毒液だろう・・・。
普段は余り好きではないこの臭いも、久しぶりに嗅ぐといいものだ・・。
そして、この臭いのお陰で意識が覚醒した俺は、状況確認とは名ばかりに
まだ痛みが引かない首を少し動かしながら辺りを見回す。
すると久しぶりに光を受け入れた視界の先には、知っている顔が1つ。
知らない顔が1つあった。
―――――今思うと・・・。
もし、目を覚ました時に知らない顔しかなかったら、
俺はその知らない顔の奴を殺していたかもしれない。
裏切られて、女に抱きとめられたくらいで意識を失うような体にされた怒りを
これにみよがしにぶつけていたかもしれない。
まあ、それくらい心が病んでいたんだろう。
戦争と・・、親父の裏切りに・・・。
「大丈夫・・?自分の名前とか覚えてる?」
目を覚ました俺に、知っている顔――――ゲリラ仲間の女性が優しく俺に話しかけてくる。
「えっ・・・。ああ・・・。」
「そう。それならいいけど・・・。」
ゲリラ仲間の女性は、俺の様子に一気に気が抜けたのか、崩れ落ちるように椅子に腰掛ける。
「なあ・・・。あれから・・・、そうなったんだ・・・。」
俺の言葉に、気が抜けた様子だったゲリラ仲間の女の顔が一気に引き締まる。
恐らく緊張したのだろう。
そう、この顔で俺は彼女が何を言わんとしていたか分かっていた・・。
254 :
親父:2006/02/12(日) 02:35:03 ID:/ilCP5nO0
――――――――敗北・・・・。
国を壊し、俺を壊し、親父を壊した戦争・・・。
アレだけの時間と、人間を失ったあの戦争・・・。
その結果が敗北・・・?
無駄・・、無駄だったのか?
親父の言うとおりに、皆がアレを承認しなかったから?
投与された俺の働きが目に終えないほど悪かったから?
そもそも、この戦争の勝利とは・・?
ミンナが死ねば、勝利するのか?
誰が・・?誰が・・・?
―――――――――親父・・・。
敗北を聞いたあの日から、俺はもう親父を憎むだけの感情を持つことは無かった。
――――――――――――――――――――――――――――――
255 :
親父:2006/02/12(日) 02:37:12 ID:/ilCP5nO0
あの戦争の勝利者が誰なのかは未だに分からない。
自分が”あの男”を、どう思っているのかも正確には分からない。
そんなことを、ビルの屋上から見える新宿のネオン街を尻目に、ふと考えることがある。
だが、敗北の全容を知らなく、自分の心さえ分からない俺だからこそ、
分かった事が”1つだけ”ある。
そう、壊れてしまった自分を助けて欲しいと叫ぶ男の心の全てを・・。
「きさま、何をしにのこのこと・・。」
「あいさつと・・・。忠告に!!・・・・親父としてね。」
だから今、十数年ぶりに対峙している”あの男”を見ても、憎しみから来る殺意に対しては踏ん切りがつかない。
裏切られた当初はあんなに憎んでいたのに。
256 :
親父:2006/02/12(日) 02:38:49 ID:PLGdG1VF0
知ってしまったから・・。
憎しみを持つだけが、あの男への救いにはならないことを・・。
気がついてしまったから・・・。
自分が壊れたと知りながら、踊り続けるシエラザードの気持ちを・・。
それだけの年月を生き延びてしまったから・・・。
俺にも・・・・、心から守るべきものが出来たから・・・。
「親友の手にかかって死ねるなんて幸せじゃないか!!しかし・・・、失敗したがね。フフフ・・。」
「消えな!!用件は分かってる。」
”あの男”にとって、俺は守るべきものだったのか・・?
それは分からない・・・。
あの地獄のような状況で、”アレ”は俺をあえて前線から降ろすための愚作だった信じたい。
そう、俺を親友であるアイツを寄越すことにより、殺そうとした事も。
あの男にとって、憎しみと愛が同符号だと・・。
だから今、俺の目の前で壊れながら哀れに踊っている”あの男”
―――――親父に言える事はたった一つだけだった・・。
「もう一度言う。消えろ!!」
257 :
親父:2006/02/12(日) 02:55:52 ID:PLGdG1VF0
お久しぶりのしぇきです。
えっと、お久という事で今回は肩慣らしという事で拙い短編です。
シティーハンターを読み込んでないと分からないことだらけなのはスイマセン。
語っているのがリョウで親父=あの男が海原です。
エンジェルハートは未読なので、海原とリョウの関係が違ったらスイマセン。
>サマサさん
見ないうちに、ネオグランゾンを撤退させるほど強くなっているとは・・・。
これほど精霊憑依が凄いと思ったことはありません。
LOAD OF〜はともかく、外伝なんて、あって無いような精霊憑依なのに・・。
>サナダムシさん
井上が分からないですが、明らかに原作よりかは強くなっている気がする加藤。
二章、三章とJOJO越えを・・・。
後、お暇があればうんこをもっと書いてください。カレーが食べたくなる奴を。
>ふら〜りさん
次は変幻戦忍アスカでも・・・。
いえいえ・・、最強スレで上位をあらそう彼女も魔女っ子ですから
恋をしたって・・。間違っても、不倫は出来ませんねw
>NBさん
やっぱり、最終的にはナンバースの攻撃からスヴェンを庇って
マリアは死んでしまうのかなと、いやな予想をしてしまいますね。
スヴェンの元相棒もそうだけど、「俺には死神がついているのか!!」
という言葉が、このSSのスヴェンにはとってもあいそう。
では失礼・・・。
258 :
親父:2006/02/12(日) 03:01:33 ID:PLGdG1VF0
くせで失礼と終わらしてしまった・・。
>邪神さん
ケンシロウが来たら次の仲間はラオウですね。
ケ〜〜〜ンの一言で66%の彼にも、ラスボス補正が付いたアミバには適わないのか?
深層意識の次は覚醒と王道漫画のお約束なはずなので、アミバを返り打つ彼を楽しみにしています。
では今度こそ、失礼・・。
第五十三話「部長参上」
ネオラピュタの外で激しい戦いが繰り広げられていた頃、内部に突入していたのび太たちは―――
「迷路みたい・・・もっと分かりやすい道にすればいいのに」
「それじゃあ要塞の意味がないでしょ。敵が迷うように作ってるんだから」
いつものようにマイペースで進む彼らであった。
「とにかく急がないと。みんな外では頑張ってるのよ」
「分かってるよ・・・お、あっちは何だか広い部屋だね」
「うん、如何にも何かありそうな・・・」
三人は大広間へと入っていった。ちょっとした球技ができるくらいの広さだ。
「うーん、何のためにこんな部屋が・・・」
そう言いかけた時だった。
「―――よく来たな、野比のび太!」
「しまった・・・!敵か!」
三人は声の方向に振り向く。そこには一人の男が立っていた。
顔には派手な傷跡。野生の狼を思わせる雰囲気。そう、それこそは―――
「久しぶりだな・・・俺のことを覚えているか?そう、<十三階段>十段目―――ヤムチャ様だ!お前たちを倒すため、
再び帰ってきたぞ!以前の俺と同じと思うな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
―――凍りつくほど寒すぎる沈黙・・・。
―――恐ろしいほど気まずい雰囲気・・・。
―――怒りすら覚えるほどの脱力感・・・。
リルルが無言でヤムチャに歩み寄る。そしてエイジ・ダテばりのハートブレイク・ショットを放った。声も出せずに悶絶
するヤムチャに、今度は腕を外して、その中に隠した砲門を向けた。
「食らいなさい、かのモヒカン頭の人造人間が奥義―――<ヘルズフラッシュ>!」
光がヤムチャを飲み込む。そして彼はボロクズのように転がった。
<参考画像>
ttp://pick.seesaa.net/image/yamcha.jpg 「・・・さあ、行きましょう」
「うん・・・」
「行くか・・・」
快勝したにも関わらず、沈鬱な表情の三人―――だが・・・。
「やはりそいつではダメだったか・・・」
そういった声と同時に、ポーン・・・ポーン・・・と、ボールが跳ねる音が聞こえてくる。
「まだ―――誰かいるの!?」
「ヤムチャは予想通りだったが―――俺を同じようには思わないことだ」
ボールの音が止み、男が姿を現した。
やたら老けて見えるが、恐らく中学生だろう。テニスラケットとテニスボール、そして<青学>と書かれたジャージ―――。
「俺の名は手塚国光―――<十三階段>五段目だ」
「くそっ・・・!やっぱり敵がヤムチャだけなんてうまい話はないか!」
「でも、見たところ普通の人っぽいよ。意外と楽に勝てるかも・・・」
その時であった。手塚の全身から、凄まじいオーラが迸った!そしてそれは左腕に収束していく・・・!
「な・・・何か出てるぅ!?」
その左腕でラケットを持ち、ボールを軽く打った。それは壁(未来の金属製・頑丈)に当たり、そしてあっさりと突き破った。
まるで大砲の如き破壊力だ。
「ぜ、全然普通じゃない・・・!」
思わぬ強敵の出現に焦るのび太たち。手塚は落ち着いた口調で言い放った。
「さあ・・・油断せずにいこう」
「ちょ、ちょっとは油断してくれぇぇぇぇっ!」
投下完了、前回は
>>210より。
今回はちょっと短いですが、以前あっちのスレで予告した手塚部長登場。
この戦いの鍵を握るのはヤムチャです。
>>212 >>213 最近はやたら筆が乗ってます。このまま一気に突っ走ることができたらいいんですが・・・。
>>ふら〜りさん
善意の連鎖・・・最終決戦(いつになるかなw)では、それが鍵となる予定です。
>>しぇきさん
お久しぶりです。
シティハンターは実は見たことないんですが、ハードな雰囲気で楽しめました。
ポゼッションはどちらかといえばグランゾンを一撃で倒したLOAD OF〜仕様です。
こっちは攻撃力も上がりましたし、設定的にはネオグラともほぼ互角にやり合えるくらいかなーと・・・。
最近このSS書くためにLOAD OF〜を引っ張り出してやり直しましたが、MAP兵器TUEEEE!で
マサキとリューネとヤンロンしか育てなかった結果、そいつらのいないステージで死ぬほど苦労しました。
またトリップ付け忘れだよ・・・(汗)
もうちょいしっかりしないと。
>>263 ちょwwwwそれテニスじゃねーwwwwwwwwwwww
265 :
作者の都合により名無しです:2006/02/12(日) 10:11:39 ID:7/+yEe9e0
朝起きたら一杯来てた・・
ふらーりさんの新連載としぇきさんの復活は素直に嬉しい。
特にしぇきさんはお久しぶりだし心配してたし。
サマサさんもマジで絶好調だなあ。
しかし、やはり個人的にはNBさんの掲載が嬉しい。
最初から神域の描写なのに、最近また腕を上げてやがるw
俺もたまに書くけど、この人とカマイタチの後だけはうぷしたくねえw
NBさん、個人的にあなたとサナダムシさんを師と仰いでますので頑張って下さい。
>>263 ちょwwwwギャラクシー!!?
テニスで戦うと言うと宝竜黒連珠の方が真っ先に思い出されるんだけど
こりゃあいつじゃ勝てねえ(w`
>>263 テニプリはじめて見たけど、双子座の人はとうに越えているなw
ちょっと強すぎ。
>>263 恐竜が絶滅してるwwwwwwwwwwwwwwww
>>263 手塚さんの動きは徐々に
テニスですらなくなっていた・・・
271 :
作者の都合により名無しです:2006/02/12(日) 14:32:59 ID:8fjDiil90
>NBさん
NBさんはいつもみんなから戦闘描写絶賛されるんだけど、
俺は何気ないリンスを中心とした風景の描写が好きだなあ。
コメディっぽい描写から自然に少しずつシリアスになっていく
感じはなまなかの腕では書けませんよ。羨ましい。
主役のセフィリア達の登場で、今回も濃密な話になりそうですね。
単にスヴェンの過去の決着話かと思ってたらそうではなさそうだ。
>しぇきさん
まずはお久しぶりです。入院でもされてたかと心配してました。
シティハンターってありそうで無かったですね。
素材的にはギャグでもシリアスでもいける作品なので
バキスレ向きかと思うんですけど。海原とリョウとの親子話か。
二次創作らしい裏側を語る話でいい感じですな
>サナダムシ
死亡遊戯みたいな展開になってきたな。
そういえばリーと加藤は若干イメージが似ているかもしれない。
井上さんは食べないのか。じゃあ彼女のうあqswでrftgyふじこlp;:」
>ふら〜りさん
魔女っ子戦隊パステリオン……相変わらずマニアックな人だ。
最後の文章から察するに、これも何かとのコラボでしょうか。
(○○○○!とか)
>キャプテン
守るものがなければケン弱いのな。
原作のリンみたいな存在がいれば強さ覚醒するのかも。
(ホークじゃ…だめだろうな)
ところで、突っ込みをひとつー。
>知能は高い方なのか、普通に声を出せない様だが十分伝わるレベルだ。?
>「大変です!ケンシロウと捕らえられた海賊が逃走しました!」?
声だしてるジャンw
>親父
しぇきさんお久です。
シティハンターは真ん中辺りの巻しか読んだこと無いので、親父とかよく分からなかったです。
(たぶん山岡と海原雄山みたいなものだろうけど)一度マンキで読んでくるか?
>AnotherAttraction BC
セフォリアは完全に悪キャラですね。ツンデレの裏返しっぽい気もしますが。
前回から感じていましたが、マリアに死亡フラグがつきまくっているのでやや鬱です。
たぶんスヴェン庇って死ぬんだろうーな。
そうなっちゃった場合、シンディは誰が面倒みるんだろ?
>機神大戦
トv'Z -‐z__ノ!_
. ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|::: ,.、
、 ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ ミ ∧!::: .´
ゞ'-''ス. ゛=、、、、 _/ノf:::: ~
r_;. ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
_ ::\,!ィ'TV =ー-、_メ:::: r、
゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ::: ._´
;. :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.:: ,.
~ ,. ,:ュ. `ヽニj/l |/::
_ .. ,、 :l !レ'::: ,.
せっかくの再登場&退場も、手塚部長に全部取られましたね>ヤムチャ
セフィリアの再登場は素直に嬉しいな。
セフィリアが出てくると、それまでアットホームな
雰囲気だったのが一気に締まる。
NBさんの描写の力大きいが。
あと、しぇきさん復活おめ。
シティハンターは好きなんで、今の連載が終わったら
これを連載してほしいとも思います。
海原がちょっとイメージと違ったけど良かった。
ふらーりさん、相変わらず元ネタがぜんっぜんわからん。
だがそこがいい。ふらーりさんらしくていい。
D=アーネは確かに最強議論スレで聞いた気がする。
囚われの身となった井上。
椅子に太いロープで縛りつけられ、いくらもがいてもほどけない。
今、彼女は城の最上階にある一室にいた。
出口は粗末なドアがひとつ。あとは、不自然な突起物がついた机くらいしか見当たらな
い。このような殺風景な空間にあって、一つだけある巨大な窓に備えられたステンドグラ
スだけが、ひときわ異彩を放っていた。
「どうしよう……」と独りごちる。
せっかく城の主が不在であるというのに、自力での脱出はまず不可能。どう体を捻って
も、力を込めても、ロープはびくともしない。ただいたずらに体力を浪費するだけ。
こうなった以上、彼女にとって加藤だけが頼りであった。
しかし、加藤がここに来られるかどうかも怪しい。
先ほど、彼女をさらった張本人である甲冑は、「用事を済ませてくる」といって城から
出て行った。彼がいう「用事」が、加藤との対決であろうことは想像に難くない。
つまり、次に彼女の前にどちらが現れるかで、井上の運命は決まる。
加藤ならば、セーフ。
甲冑ならば、アウト。
「先輩……助けて」
井上はか弱い声で、野蛮なる空手家の勝利を祈った。
ただ待ち続ける井上に、不吉な気配が忍び寄る。
──ガチャッ、ガチャッ。
階下より迫る、規則正しい金属音。
──ガチャッ、ガチャッ。
加藤か、はたまた甲冑か──決着がつき、どちらかが城にやって来たのだろう。
どう考えても。いや最後まで信じ抜く。肉眼にどちらかが映る時まで。
──ガチャ。
ドアの前で一度止まり、ゆっくりとドアが開放される。
「戻ったぞ」
くぐもった低い声が、井上に振りかけられる。立っていたのはやはり、城の所有者であ
り、全身を鎧甲冑に包まれた禍々しい剣士であった。
「もう、用事とやらは済んだの……?」動揺を悟られまいと、気丈にふるまう井上。
「ほぼ完了、といってよかろう。おまえも、私がなにをしに行ったかくらいは察しがつい
てるんだろう?」
ストレートに加藤の安否について触れなかった井上の心を、甲冑は見透かしていた。こ
うなれば、下手な駆け引きは無用だ。
「……先輩はいったいどうなったのよっ!」
「生きてはいる」
「えっ……」
良い意味で、予想を外れた答えだった。が、どこか引っ掛かる言い回しではある。
「生きてはいるとも。ただし、あれだけ攻守ともに格(ランク)がちがうところを思い知
らされたのだ。奴の末路は見えた」
「そんなことないわ。きっと先輩は、あなたを倒すためにここへやって来る!」
「無理だな」
井上の激情をあざ笑うかのような、即答だった。甲冑の下からは、並々ならぬ自信が漂
っている。
「おそらく今ごろ、奴は独りでうなだれていることだろう。空手が通用しないという、究
極の屈辱を味わったわけだからな。もしくは、私がくれてやった猛毒を塗りたくった武器
を手に取って即死、といったところか。くっくっく……」
剣を手でリズム良く叩きながら、甲冑が笑う。
「万が一……。奴が絶望もせず、武器も拾わずに城へ着いたとしても、やはり助かる術は
ない」
「どっ、どうして!」
「聞きたいか。この城の門にはセンサーがついていてな、私以外の者が通過すると、私に
だけ分かる超音波でブザーが鳴るようになっている。あとは、あそこにあるボタンを押せ
ば、一階にある罠(トラップ)が作動する仕組みになっている」
甲冑は机の上にある突起物を指さした。あれは罠を発動させるスイッチだったらしい。
「壁からは矢が、天井からは硫酸が降り注ぐ。階段を昇る前に、奴は死体と化しているこ
とだろう」
幾重にも張り巡らされた狡猾な罠。これでは、いかに加藤でも望みは薄い。
井上は戦慄した。重厚で威厳ある甲冑姿に似合わぬ、如才ない戦略家に。
甲冑はくるりと、縛られている井上に向き直った。
「さて、次はおまえの処遇だが」
「………」井上は肩をすくめた。
「安心しろ、私はレディの扱いは心得ている。武神も奴を殺したら、自由にしてやれとお
っしゃってたしな」
ステンドグラスから差し込む日光を淡く反射しながら、甲冑が近づく。
「どう扱ったものか、私は悩んだ。いつまでも縛っておくわけにもいくまい。そこで──」
井上の喉元に、剣が突きつけられる。
「死なぬ程度に斬り刻み、悶え苦しむ姿を楽しむことに決めたッ!」
「な」心臓が、張り裂けんばかりに胸を強くノックする。
「個人差はあれど、どこを斬ればどう血が出るとか、どう苦しむとか、私はよぉく熟知し
ている。私はレディの扱いを心得ているからな……」
甲冑に潜むぎょろりとした眼球が、彼女を射抜く。これこそが、こいつの本性。
「明日にでも、日本に帰してやろう。ただし、もう二度と歩けぬ体になっているやもしれ
んがな」
「ひ……ひぃっ! いや、助け……て」
「無駄だ、私は闘争におけるサディズムを司る騎士。命乞いには興味がない」
「だ、だれか……。──先輩ッ!」
目を瞑る井上。
この悲痛な叫びに応えるよう──ステンドグラスが粉雪のように弾けた。
色とりどりの破片が散らばる。窓のふちに、仁王立ちする加藤。
「ぬぅっ!」甲冑が吠えかかる。「なぜだ、なぜそこにいるッ!」
加藤は窓に引っかかっている枝と蔓を少し引き上げ、
「ここはジャングルだ。丈夫な蔓と枝を探せば、ロープと鈎針くらいにはなる。こんくら
いの高さなら充分に登ってこれるぜ」と外へ投げ捨てた。
「なぜ空手など通用しないのに私に挑む! なぜ私が渡した武器を使わない! なぜ門か
ら入ってこない?!」甲冑が矢継ぎ早に問いただす。
「なに言ってんだ、てめぇ。まぁいいや。面倒だから、全部まとめて答えてやるよ」
加藤がかろやかに舞った。
「俺はてめぇを」飛び膝蹴りが、甲冑を強襲する。「ぶっ殺すからだッ!」
279 :
作者の都合により名無しです:2006/02/13(月) 06:38:14 ID:53CwfPAG0
いつも深夜にお疲れ様ですサナダムシさん。
いきなり、甲冑との最上階での対決になりましたなー
井上さんを助けるヒーロー(アンチヒーローですが)っぽい
登場の仕方ですけど、最上階までの敵や罠も見たかった・・
おー加藤かっけぇ。
たぶん騎士さんは最上階までに色々仕掛けしてたんだろうなw
281 :
作者の都合により名無しです:2006/02/13(月) 19:12:07 ID:BBgWk+ct0
加藤ワープ発動w
勇次郎にこの点だけは肉薄したか。
井上さんは可憐極まるキャラなので
(といっても比較対照が蛸だけどw)
加藤には頑張って頂きたいな
加藤の周りにいなかったタイプの女だろうから
マッスルタワーみたいに一階ずつ敵や試練を突破していくのかと思いきや、いきなりラスボス戦とはw
test
284 :
作者の都合により名無しです:2006/02/14(火) 05:17:57 ID:1DoJNT7s0
うーん、でもやっぱり一階ずつ敵を倒していって欲しかったな
285 :
作者の都合により名無しです:2006/02/14(火) 19:18:35 ID:orZUp9ee0
いつもと逆パターンだね
土日どっと来て月火はサナダさんしか来ない
>>231 処轟鬼のモノアイを通じて、D=アーネは眼下の光景を見た。景色は海辺から
山へと変わって……と思っていたら、山奥に突如、大規模な工事現場が現れた。
何をしているのかは判らないが、巨大な土木機械と大勢の人間が忙しく働いている。
「よ〜しっ。とりあえず処轟鬼の試運転がてら、ここを制圧するとしよう!」
蒼い人型未確認飛行物体に人々が気づき、何事かと騒ぎ出した時にはもう、
処轟鬼は着陸体勢に入っていた。
《聞け! 今この瞬間より、この国は我々の支配下に入る!》
土煙を巻き上げ、重々しい地響きと共に処轟鬼が工事現場の真ん中に降り立つ。
そして、そばにあった大型ダンプカーに片手をかけ、ひょいと持ち上げて、
《交戦・交渉は一切認めない! 歯向かう者は全て、こうなると思えっ!》
岩壁に投げつけ、爆発! 辺りが騒然となった。こんな芸当は彼らの常識を遥かに
超えて……はいない。突如現れた、この謎の侵略者に匹敵する力の持ち主を、彼らは
知っている。しかも、すぐ近くにいるのだ。
だから、驚きはするが恐怖はしない。その空気を、D=アーネは敏感に感じ取った。
《? 何だお前たち、その妙な落ち着きっぷりは。よく聞けよ、私はお前たちを……》
その時。山の向こう側からこの事態を察知し、山をひとっ飛びしてD=アーネの
頭上を取り、拳を構えて急降下してくる影があった。
人ならぬ身であるその影は、突如出現した謎の敵に対し、全く臆することなく向かって
いく。内在する全ての力を開放すべく、戦闘モードへと移行するキーワード……己の名
を叫ぶ、とその金属の体躯に眩い電流が走り、急降下する影は黄金に輝く勇者となった!
「プラズマアアアアァァァァッ! エ〜〜〜〜〜〜〜〜ックス!」
「っ!」
間一髪、処轟鬼は大きく跳び退いてその一撃をかわした。隼のように降下してきた
隕石のような拳は一直線に地面に叩き込まれ、轟音と共に巨大なクレーターを穿つ。
《な、何者だっ!?》
処轟鬼の中で、D=アーネが驚愕に目を見開く。その目に映ったのは、クレーターの
中央で立ち上がった一人の男。いや、大きさこそ普通の人間ぐらいだが、処轟鬼と
同じく人間ではない。逞しい青年を模した、機械仕掛けの人型兵器だ。
立ち上がったそいつは、処轟鬼を指差して合成音声らしい声で言った。
「ビビ! この国の平和を乱す者、エックス、許さない!」
D=アーネは知らなかった。ここが世界有数のダイヤ産出国、マリネラ王国だという
ことを。今、NASAからの依頼でスペースシャトルや人工衛星の部品として使用する
ダイヤの大口注文を受けており、その採掘を行っているのがこの鉱山だということも。
そしてその工事用労力と現場警備を兼ねて、国王パタリロの作によるスーパーロボット
が派遣されていたことも。
「おおっ! 来てくれたかプラズマX!」
「何だかわかんねーけど、そいつをやっつけてくれっ!」
工事現場の人々が、一斉に歓声を上げた。ヒーローの登場に沸く子供たちの様相だ。
そんな中でD=アーネはというと、
『どう見ても「正義の味方」だ……日本以外にもいたのか、こういう迷惑な連中が!』
困惑と激怒の渦中にいた。厄介な「正義の味方」をとりあえず避けるつもりでわざわざ
外国まで来たというのに、これではいつもと変わらないではないかっ。
……いや、違う。こいつは確かに正義の味方だろうが、パステリオンではない。
あの、悪い冗談みたいな強さを誇る凶暴三人娘ではないのだ。
ならば勝てる。いや、勝たねばならない。
《そうだ……お前が何者だろうと、関係ない! 立ちはだかるのなら潰すまでだっ!》
処轟鬼が、その巨大な拳をプラズマXめがけて振り下ろした。プラズマXはそれを
かわして踏み込み、処轟鬼の胸板に槍のようなキック! 数倍の体格差をものともせず、
プラズマXの脚力は処轟鬼を一直線に吹っ飛ばした。
そしてその衝撃は、魔力によって処轟鬼と五感を繋げているD=アーネにも叩き込まれる。
「ぐはぅっ……!」
操縦席で苦悶の呻きを上げるD=アーネ。だが苦しんでいる暇などない。顔を上げれば
そこに、人々の声援を受けてまっすぐ向かってくるプラズマXの勇姿があった。
処轟鬼は両脚を踏ん張り、腰を落として構えをとり、右手に魔力を集中させて、
《調子に乗るなっ、このブリキ人形め! 喰らえ必殺、デル・デ……》
炎の魔法を撃ち放とう、とした正にその瞬間。D=アーネの背後から、続けざまに
銃声が轟いた。四発の弾丸が、処轟鬼の両肘・両膝の間接部にそれぞれ突き刺さって
食い込み、深刻なダメージを与えると同時にその体勢を大きく崩す。
その隙を逃さず突進してきたプラズマXは、大木のような処轟鬼の右腕を取って
ねじり上げ、自分の肩越しに豪快に持ち上げて、
「ビビ! コミックで見たニッポンのマーシャルアーツ、極めて・投げて・折る!」
乾いた破砕音と共に、処轟鬼の右肘関節が壊された。と同時に右手に集中していた
魔力が制御不能となり、その場で爆発! プラズマXは根性で腕を放さず、かつ
間接部が既に破壊されていたため……処轟鬼の右腕は、爆破され完全にブッちぎれた。
もうもうと立ち込める爆煙と砂煙の中。プラズマXから離れることはできたものの、
爆炎と爆圧によって右腕から右肩、胸部に至るまで破損した処轟鬼が転がっている。
《……様! D=アーネ様! 返事して下さい、D=アーネ様っ!》
得意の通信術で処轟鬼の状態を察知した犬一号の声が、操縦席に響く。
が、今のD=アーネは返事をするどころではなかった。全身を焼くような激痛と、
処轟鬼の破損による魔力の大幅消耗とで、正気を保つことさえ困難な状態なのだ。
《ここからじゃ何があったか判りませんが、もうその機体は完全に戦闘続行不可能です!
いや、むしろD=アーネ様ご自身のお体が危険な状態です! 早く逃げて下さいっ!》
「っ!? …………に、逃げる……だと?」
苦悶に顔を歪めたD=アーネが、搾り出すような声で応える。
「冗談じゃない。私は、こんなところでこんな奴にやられるわけにはいかないんだ。
この命に代えても、必ずこの国を制圧して、陛下を……」
《ですから! 今、D=アーネ様に万一のことがあったら、それこそ陛下のお命が
危ういってこと忘れてませんか!? 本国からの援軍も途絶えている現在、我々以外に
地球を攻撃できる部隊はないんですよっっ!》
>>NBさん
チーム組んでる四人、文句なしに仲良し。けど、それぞれの思考はきっちりバラバラなん
だなぁと再確認。繰り返しますが仲はちゃんと良く、その上で一人一人の過去と人生哲学
で個性を際立たせつつ、ボケ突っ込みのバランスなども取れてて。今更ながら流石です。
>>しぇきさん(アスカは色気が好きです〜。女性は細けりゃいいってもんではない!)
痛み傷つきを知った者だけが持てる優しさ、とかよく聞きますが。リョウの場合あれほど
の体験をしていながらよくも心を壊さず、どころか強さと優しさを失わずにいられたもの
だとつくづく。単純な仇とか憎しみとかでは片付けられないものを刻まれてますよね、彼。
>>サマサさん
リルルの無言コークスクリュー……想像すると不気味かつ笑えまふ。テニぷりは未読なん
ですが、
>>263は妹と一緒に爆笑。でもタイガーショットの方がきっと強い、とか語り合い
ました。ヤムチャは予想も期待も裏切りませんでしたが、手塚氏の実力の程、とくと拝見。
>>サナダムシさん
また加藤らしい戦法を。つくづくこの試練で「試合場の格闘技」以外の強さも鍛えられて
ますよね。やはり、対死刑囚戦を想定してのことか。しかし彼らの末路を知っている身と
しては、もう充分過ぎる気も。ともあれ次回、捕らわれの姫君の前で悪漢退治だヒーロー!
>>272 大当たり〜! でしたっ。
290 :
作者の都合により名無しです:2006/02/14(火) 20:14:16 ID:orZUp9ee0
ふらーりさんはつくづくパタリロ好きですねえ
しかしパタリロはわかるからいい
D=アーネとかはまったくわからん。
めちゃくちゃ強そうではありますが
第五十四話「対峙」
「ではいくか・・・まずは俺のサーブだ!」
手塚の身体に宇宙を爆砕せんばかりのエネルギーが宿る。そしてボールを天高く投じ、更に自分も10メートルほど
ジャンプして、その勢いを叩きつけるかのようにショットを放つ!
「―――<ビッグバン>!」
―――それはまさに一大スペクタクル。
銀河の破壊と創世。
世界の終焉と開闢。
新たなる時代の到来を告げる一撃・・・。
「うわああああああっっ!」
のび太たちもその破壊力に抗えずに、車田漫画風に吹っ飛ぶ。
「どうした・・・それがお前のテニスか?」
「こ、こんなのテニスじゃない・・・!」
「む・・・ならばこれはどうだ」
手塚の姿が激しく揺れる。そして手塚が三人になった。
「・・・って、どうやったのさ!?」
「これが<菊丸印のステップ>。オリジナルは一人しか分身を作れないが、俺はその倍―――二人作れる」
「説明になってない・・・てゆーか、オリジナルより凄くなってない?」
「それが奴の能力・・・<百錬自得の極み>だ」
突然現れたやたら偉そうな男が説明を始めた。
「無我の境地の更に先にある領域―――無我の境地はただコピーするだけだが、百錬自得の極みはあらゆる技を二倍に
して再現できるのだ」
「な、なるほど・・・てゆうか、あんた誰?」
「奴はそれを小学六年生の時点で自在に操っていた・・・恐ろしい男よ」
「小学六年って・・・いや、それよりあんた誰なのさ?」
「手塚・・・まさに青学の要か」
謎の男は質問には答えない。つーか全然話を聞いちゃいなかった。
そしてそれには構わず手塚が迫る。
「さあ・・・次はお前たちの番だ。遠慮なく打ってこい」
「くそっ・・・行くぞ、のび太くん!リルル!」
おう、と掛け声を上げて、ドラえもんは空気砲、のび太はショックガン、リルルは熱線で攻撃を仕掛ける。それは正確に
手塚を狙った―――はず、なのに。
手塚の手元に吸い込まれていくように軌道が曲がり、あっさりとラケットで払われる。
「な・・・!」
「あれこそが<手塚ゾーン>・・・相手からの攻撃を自在にコントロールする、手塚だけに許された技だ」
「なんて非常識な・・・で、あんたは誰?」
「ふっ・・・野比のび太たちよ、絶望と共に散るがよい!」
やっぱり人の話を聞いてない謎の男。そしてそれを尻目に手塚が迫る―――!
「さあ、終わらせようか」
「くそっ・・・こんな奴相手に、どうすればいいんだ!」
のび太は歯噛みし、何かヒントはないかと辺りを見回すが、見えるのはボロクズのように転がるヤムチャのみ―――
「・・・ん!?」
それを見たのび太に、一つのアイデアが浮かんだ。ヒントとなったのは、謎の男による説明だ。
<百錬自得の極みはあらゆる技を二倍にして再現できる―――>
「ひょっとして・・・!ドラえもん、<変身ドリンク>ちょうだい!」
「え!?・・・何をするの、のび太くん?」
「いいから!」
のび太の剣幕に押されて、ドラえもんは変身ドリンクを渡した。それを受け取ったのび太は、手塚の前に仁王立ちする。
「野比のび太・・・覚悟を決めたか?」
「どうかな?覚悟するのは・・・お前だ!」
のび太は変身ドリンクを飲み干し、そして<あの男>の姿になるように念じた。
そう・・・ヤムチャの姿になるように!
―――そして、手塚は敗れ去った。
百錬自得の極みはあらゆる技を二倍にして再現できる―――再現してしまうのだ。
ヤムチャのヘタレキャラぶりさえも・・・。
それを二倍コピーしてしまった手塚のヘタレっぷりと足元のお留守っぷりは、もうとても活字にはできなかった。
ヤムチャの時点で国宝級のヘタレなのだ。それが二倍である。もはや具体的な表現などしようがない。
ちなみに謎の男は
「手塚め、たるんどる!」
とだけ言い残して去っていった。
「結局あの人誰だったんだ・・・」
のび太は呆れ顔でぼやく。
「まあいいじゃない、何とか倒せたんだから・・・さあ、先を急ごう」
「あ、待ってよ二人とも!」
のび太は先に進むドラえもんとリルルを追いかける。だが、一歩足を踏み出した先には、床が―――なかった。
ついさっきまでは何もなかったのに、いつのまにか落とし穴がぱっくりと開いていたのだ。
「ど・・・ど・・・ドラえもーーーーーーーんっ!」
「!?の・・・のび太くん!」
慌てて引き返すドラえもんだが、時既に遅し。
のび太は真っ逆さまに落ちていった・・・。
「あ、あいたたた・・・」
のび太はしたたかに打ち付けた尻を押さえながら、周りの様子を伺う。
だだっ広い空間に、何かの装置らしき機械だけがある。そして、そこに佇む一人の男・・・。
その男の顔を、のび太はよく覚えていた。
「やあ、野比のび太くん。一足先に君だけ来てもらおうと思ったんだが、少々手荒になってしまったね。すまなかった。
まあ、折角来てくれたんだ。ひとまずはくつろいでくれたまえ」
「・・・・・・!」
相変わらずの慇懃無礼な言動。くつろげと言われて、できるものか。
この男の前で―――そんな隙など見せられるものか。
「おや、どうしたのだね。そんな怖い顔をして・・・ひょっとして、この招待はお気に召さなかったかね?」
「・・・・・・」
「ん?もしかして、私の顔を忘れたとか、寂しいことを言うのではないだろうね?」
「・・・忘れるもんか・・・!」
のび太はゆっくり立ち上がり、男を睨み付ける。彼はそれを受けて、くいっと色付きの眼鏡を持ち上げた。
「忘れるもんか―――ムスカ!」
「覚えていてくれたかね。それはありがたい」
男―――ムスカは、どこかが狂った、どこかが終わった、どこかが歪んだ笑みを浮かべた。
投下完了、前回は
>>260より。
手塚と一緒に出てきた男は、テニプリファンなら台詞で誰か分かるはず。
次回、ムスカVSのび太。
>>手塚関連のレスへ
異様に盛り上がってびびりました。
みんなテニプリ結構好きなんだなあ・・・
>>263の画像は破壊力ありすぎですw
>>ふら〜りさん
タイガーショットも大概ですが、「まだ中学生」ということを考慮すれば、将来的には越える
かもしれません。
サマサ!サマサ!はいはい サマサ!
サマサ!サマサ!はいはい サマサ!
サマサ!ボンバイエ!サマサ!ボンバイエ!
サマサ!ボンバイエ!サマサ!ボンバイエ!
タイガーショット打ったときの日向は中学生じゃなかったか?
【着】ちゃくうた
中天高く上りつめた太陽が、オフィス街を容赦なく照りつけている。
時節は夏の、それも昼。
山吹色のとげとげしい光の帯は、昼食もしくは営業先へ向かうサラリーマンたちの神……じ
ゃなかった、髪に火のような熱をこもらせ、じわりじわりと蝕む。
ある者は脱いだ上着を抱えつつ、またある者は手際よく用意したうちわで顔を気だるそうに
仰ぎつつ、それぞれの目的地へと足を進めている。
そんな光景が展開されるオフィス街の一角に建っているのが、皆神警察署だ。
両隣は意図した訳でもなくただ偶然に駐車場と空き地になっているが、「実はどこの会社も
警察の隣を避けたんだぜ」とかいわれたら納得してしまいそうな、国家権力特有のいかめし
さが存分に漂っている。
その正面玄関に備えつけられたガラス張りの自動ドアが、静かに開いた。
身が縮こまりそうな冷気が外界へと吐き出され、ついで白く伸びやかな足が通り過ぎた。
「……少しは進展したかもね」
千歳は一人ごちると、門番の警官に軽く会釈をして歩みを進め、歩道に至ると辺りを見回した。
前述のように、皆神警察署の隣は空き地と駐車場。
そう広くない駐車場には何台か車が停まっているが、人気はほとんどない。
時間が時間だけに、車の持ち主は昼食にでもいっているのだろう。
千歳はそう判断し、駐車場に向かい車の影に身を隠すと、携帯電話を開いた。
ダイヤル先は、根来だ。
しかし彼は中々出ない。
待つ間にも、焼かれたアスファルトから熱が立ち上り、屈む千歳の膝小僧をじわりと焼いた。
のみならず、車のボディに反射する日光が、いやが応にも千歳の顔に降り注ぐ。
どちらかといえば色白の千歳だが、日焼けの心配はしていない。
なぜなら徹底的に吟味した日焼け止めクリームをしっかり塗っているからだ。
しかるべき処置さえ施せば大抵の厄介ごとは回避できるのを、聡明なる千歳は理解している。
やがて根来が出た。
「首尾はどうだった。昼食途中に呼び出すのだから相応のコトはあろう」
先ほど、食堂での会話の際に鳴った電話は皆神警察署からの物だった。
予定ではこの日の夕方に、昨日依頼したコトが判明するはずだったが、予定が少し早まり
昼食時の呼び出しになったという訳だ。
千歳は更衣室に移動すると、ヘルメスドライブにて瞬間移動した。
根来はホムンクルス監視の為に工場へ残り、今に至る。時間としては大体15分ほどだ。
「まずまずよ。確かに髪の毛がなくなっていたわ」
「そうか」
抑揚なく根来は相槌を打った。
「昨日あなたがいった通りね。警察は事件の後、侵入者の痕跡がないか事務所や廊下を隅々
まで調べて、落ちている髪もすべて押収したけれど」
「ホムンクルスの物は当然、無いだろう。奴らの場合、切り落とされた腕も足も、いずれは消
滅する。個体差もあるが、6時間も経てば大抵は。故に」
「ええ。押収した髪の毛から部外者の物を洗い出すために、警察は社員全員の髪の毛を採取
したけれど、その中に消えている物が確かにあったわ。念のために聞いてみたけれど、その
人の髪を採り忘れた可能性は絶対にないって。だからその人がホムンクルスと見て、間違い
ないわ」
千歳はすぅっと息をつき、その者の名を口にした。
「名前は、久世屋 秀。昨日私たちに仕事を教えた人。あなたの見立ても」
「ああ。相違ない」
「……ようやく気づいたけど、あの時彼がああいうコトをいったから気づいたのね」
流石に狼狽こそしてないものの、声音は切なげに震えた。
少し会話を交わした程度の間柄だが、久世屋はとかく優秀に見える男だった。
印象が人の全てでないとは分かっているが、理詰めで物を考えるからこそ、納得できない部
分もある。
一般にホムンクルスは、人間型と動植物型に区分される。
入り組んだ話になるので割愛するが、人間型なら元の人間の性格を保持できるので、人喰
いという要素を抜きにすればさほど変わらぬ生活を送れる。
動植物型ならば、元になった生物の性質次第だ。
粘着質なカエルもいれば、忠義に厚いオオワシもいる。愛に生きるバラもいる。
千歳が防人から聞いた話では、銀成学園高校では、英語教師を何食わぬ顔で務めたヘビ
型ホムンクルスもいたらしい。
久世屋が人間型か動植物型か不明だが、仕事をそつなくこなせる「優秀」な男が、何故より
にもよって、職場の人間を、職場で襲ったのか。
隠蔽する方法など、いくらでもあったはずだ。
どうにもこの疑問、工場に来たときからまるで氷解していない。
殺す場所が職場から離れれば離れるほど、久世屋に対する疑いも薄まっていくはずなのに
彼はそうしなかった。どうにも理解しがたい。
「あまり余計なコトは考えるな。貴殿は頭を回しすぎる」
「ええ。分かってるわ」
たしなめる根来に答えてみたものの、胸につかえたもやもやはどうも消えない。
「ちなみに彼にはアリバイがあるわ。供述では事件当夜は銀成市に行っていたって。
目撃証言もあるわ。もっとも、事件の起こった時間より少し前だけど、その時間から工場に
行こうとしたら、どうしても無理らしいの。調べてみたけど、電車を乗り継いでも間に合わな
いし、バスも出ていない。タクシーにそれらしい人間も乗っていないし、徒歩や自転車なら
不可能。だから彼は捜査対象から外れているわ」
「そうか」
「とりあえず、私はしばらく工場を休むわ。彼のアリバイが崩せるかどうか調べる為に。あと
もう一つ。昨日私たちが回収したナイフには、麻生部長の血と」
千歳は一拍置いて、根来が好むよう単刀直入に切り出した。
「なぜか、血の凝固を妨げる酵素がついていたの。昨日あなたがいった、『肉食動物の唾液
のような臭い』はこれが原因かもしれないわね。ただ、これがホムンクルスのモノかまでは」
「そのあたりは考えあぐねても仕方あるまい」
根来はまるで謎解きをする気がないらしい。
「要は、久世屋が犯人か否か突き止めて斃せば万事丸く収まるのだ。気がかりならば、自
白を引き出した後、拷問にでもかけて聞き出せば済むコト」
尾行をしてるのも
久世屋が人を襲った所を捕らえる → 戦団へ連行 → あとは千歳に謎解きを任せる。
というコンボを成立させるためだ。絶対。
「まず久世屋から潰せばいいのだ。犯人ならばこの事件は解決する。犯人でなくても障害は
消える。確実に一手一手を進めていけばいいのだ」
根来はとうとうと続ける。
「嵐の孤島で連続殺人事件に巻き込まれた非力な学生のように、抜き差しならぬ事情がある
ならいざ知らず、私たちが難解な物証にいちいち頭を悩まして、突飛で危うい発想を弾き出
し、回りくどい方法で犯人を追い詰める必要など一切ない」
ないが、しかし。
自白は取らなきゃいけないのが根来たちの辛いところだ。
それが彼らの請け負った任務というか、「仕事」の条件だから。
関係各位が納得するよう、色々と頭を下げたり無理をしたり、冒険王ビィトが見たいのに9時
近くまで残業したり温泉行きたいのに9時近くまで残業しなきゃならないのが、仕事なのだ。
それは根来も理解しているらしい。
千歳はそろそろ携帯電話を当ててる方の耳がちょっと汗ばんできたので、もう片方の耳へ
携帯電話を映した。汗で濡れそぼった髪の毛から、ペパーミントの涼しげな匂いが立ち上る。
朝、髪についた寝汗を落とすべくシャワーを浴びたときの残り香だ。
スカっと爽やかな香りの中で、千歳は内心、根来の発言を全肯定していた。
確実に犠牲を防げる考えなら、無条件で彼女は賛成だ。
でも仕事だから、アリバイ崩しはしなきゃならない。
証拠になりそうな物も調べなければならない。
ああこの二人、ホームズとワトソンはいうより火付盗賊改め方とか新撰組の観察方みたいで
はなかろうか。
「とにかく、余力があれば酵素の方も調べておくわ。どういう生物が出す物か分かれば、戦闘
の予備知識ぐらいにはなるはず。手の内を知るのも確実な一手でしょ?」
「そうだな。では切るぞ」
低い声音が少し笑ったように思えた瞬間、
「! 待って。話はまだ──」
通話は無常にも途切れた。
かけなおそうとした千歳だが、ツと動きを止めた。
脳裏に、警察から電話が掛かってきた時の光景がフラッシュバックしたのだ。
伝えようとした重要なコトを遮り、胸から響く電子音。
それは携帯電話にあらかじめ設定されている着信音だ。
飾り気のない千歳(でも日焼け止めクリームは塗るし、汗をかいたらシャワーも浴びる)は、
ずっとそれで通している。
根来も、飾り気がないという点では千歳と同じだろう。
だが彼は電子音が響いたときに。
(そういえばまったく無反応だった。耳がいいから音の位置が分かっていたかも知れない。でも)
位置を確かめるためにしても、一瞬ぐらいは微妙な変化が浮かぶはずだ。
しかし根来はまったく無反応だった。まるで、自分の携帯から電子音が鳴らないコトを確信
していたように。
となると。案外彼は「着メロ」なる物を設定しているのではないか?
千歳は車の影からにょろりと首を出して、あたりを手早く見回してみた。
幸い誰もいない。
(どうせ電話するんだから、ついでに──…)
彼女はまたしゃがみこむと、ポケットから核鉄を取り出し、童女のような清らかで小さな声で「武
装錬金」と呟いた。
すると一抱えもある巨大な六角形の装置が現われた。
レーダーの武装錬金、ヘルメスドライブである。
構成は至ってシンプル。
裏側に掌を通すバンドがついた六角形の筺体と、その中心にある六角形の画面のみ。
画面では無数の線が交錯し、正三角形が綺麗に敷き詰められている。
千歳はバンドに手を通し、画面にペンを当てた。こちらも武装の一部である。
そしてこのヘルメスドライブの特性は前述の通り、瞬間移動と対象への走査。
走査、という言葉は「画面に映し出す」という意味がある。
ややあって走査された根来は、画面の中で昨日と同じく豆腐を食べていた。
千歳が警察署で話を聞いた時間と根来との会話を合わせてもせいぜい20分ぐらいで、そ
れまで彼女は根来の昼食を妨げていたから、今もまだ彼が食事をしていてもあまり不思議
ではない。
何せ彼には、豆腐を解体する奇妙な癖がある。食事に時間がかかるのもむべなるかな。
千歳は待った。根来が豆腐をご飯にかけて、咀嚼に全神経を集中するその時を!
その好機は当然のごとく訪れた。見計らって、迷いなく千歳は根来に電話を掛けた。
すべては知りたいコトを知るために。
瞬間! 画面から笛の音が発せられた!
ピィー ヒョロォ〜 ヒョ〜ロ〜ロ〜ロォォ ピョロリ〜♪
根来に反応のしようはなかった。なぜならばご飯をモサモサと咀嚼するのに忙しかったから!
笛の音は、ほんの一吹きか二吹き高鳴ると、やがてリズミカルな電子音にかき消された。
ああ電子音! 平和と愛を求むる美しき若人たちの命運をかき乱し、やがて彼らを悲劇の
川においやるかのごとく、まあいいや面倒くさいし1番が終わった!
♪デーンデッデッデッデッデデデ- デーンデッデッデッデッデデデ- ピョロリピョロピョロロォ〜リ デデデ! ピキーン!
とか (殲!!)
♪もーぅ あらがえなぁーい 共に、辿る、血塗りのみぃーちぃわぁートッペンテッテッ テテテ!
とか鳴った。
千歳は納得した。何の曲かは分からないけど、声からして多分、歌謡曲だ。
根来はアニメソングを聴くような、幼稚な男ではないという先入観があるし、意外にしゃれっ気
のある所が少し微笑ましく思えた。
でも笑いはしない。笑いは千歳から消えてしまった大事な物の一つだからだ。
果たしてそれが戻る日はあるのだろうか?
根来はただ着うたを黙殺し、ペースを崩さず、例のまずそうな顔で顎を動かしている。
ハムスターもしくはベムスターのように頬を膨らませ、ただモッサモッサと咀嚼を繰り返す。
いつもの三白眼のままだからすごく不気味だ。
iいつの間にか食堂に入ってきた労働者や社員も根来に怯えている。
やがて。
あ〜なぁーた〜とー たぁーゆぅぅぅ……たう! かぁくりよぉまでぇぇぇえぇえぇ…──ッ!!
という嬌声にも似た歌が飛び出す段に至ってようやく彼は、咀嚼物を飲み干し、動いた。
↓
影抜忍者出歯亀ネゴロ ←── 着うたは甲賀忍法帖(by陰陽座)
↓
は携帯を開き、誰からかかってきたかを知ると、不機嫌そうな顔をした。
口元にご飯粒つけつつ──とは気づいていない。
「何の用だ」
「一つ聞きたいのだけど、どうしてあなたはデータ入力が得意なの?」
千歳はあくまで冷静だ。着メロを聞きたいが故に隙をついたとはいわない。
誤魔化しついでに疑問を解消しようとしているあたり、やや腹黒の様相を呈している。
「……始計術」
普段無愛想な声が、もっと無愛想だ。
千歳は内心謝った。でも、まだ用件があるのに一方的に電話を切った根来も悪い。
それに着メロを教えてといって教える男でもないからさっきのは仕方ない。会話は続く。
「始計術?」
「髪型や服装などを、潜入先の環境に合うようあつらえる術の一つだ。無論、技能とて例外
ではなく、私がパソコンに習熟しているのも」
「……こういう任務に備えてのコトなのね。ところで、お昼ご飯はもう食べた?」
「当然のコトだ。そして昼食は食べている。貴殿曰く、阻止粗食は毒なのだろう。ならば喰わ
ぬコトは猛毒だ」
若干攻撃的な根来の態度だが、千歳はさして怒りもしない。
ただ、自身の過ちに気づいた。
根来が食事中と知っていながら電話を掛けている。
千歳は一瞬考えた。この電話における『本題』を切り出すべきかどうか。
それはヘルメスドライブの特性の一つを、シークレットトレイルにも適用できるようにして、
有事の時に千歳や根来を有利にできる提案で、昨晩からずっといおうとしているコトだが──…
すれば長引く。根来も怒る。ゆえに千歳は引っ込めて、代わりに礼を述べた。
さっきは私をたしなめてくれてありがとう。あまり余計なコトは考えないようにするわ」
電話口からかすかな動揺の気配がしたのは気のせいかも知れない。
「事実を告げたまでだ」
やっぱり根来の声は不機嫌で、電話も切られた。
そして千歳はヘルメスドライブの画面越しに、根来のご飯粒に気づいた。
が、指摘すると見ていたのがバレるので、忸怩たる思いで我慢した。
我慢しつつ、根来にどうすれば弁当を食べさせられるかも考え始めた。
ちなみにナイスなアイディアを思いついたのは、その日の夕刻だ。
- - - - - - - - - - - - -(本編と後書きを分けるキリトリセン)- - - - - - - - - - - - >8- -
きっと俺の前世は熊か蛙としか思えんほど冬は眠くて眠くて仕方なくいっそ会社休んで三日
ぐらい寝てたいけどそうするとお金が貰えなくて後々貧窮するのは一月時点で身を持って
言葉ではなく心で理解したよプロシュート兄貴ィ的な周知の事実な訳ででも眠くて眠くて布団
の中でようしあと10分眠って朝飯を5分で食えば遅刻もせず規則正しい食事と十分なる睡
眠が両立できるぜと自身の健康への配慮に内心ほくそ笑んでもみるが結局消化器官が催
す危機的生理状況にのろのろと花を摘みに行かざるを得ない辺り人間は不便ですな。
ああ冬篭りてぇ! とっとと宝くじで3億当てて冬篭りてぇ!
話は変わり、バレさん、千歳のアレの所で実際にリンクを貼ってくださりありがとうございます。
やっぱ全てを読むために押せるのはいいですねw
それとタイトルに根来がいて、驚嘆です。これは戦部の体内から出てきた時のですね。
しかも核鉄のシリアルナンバー付き! 本当にありがとうございます。
>>163さん
司馬遼太郎の作品なら、案外うまくいくかも知れませんよ。この二人。
というか、「花神」という作品の、村田蔵六とイネさん(シーボルトの娘)の関係が大好きなので
少しあやかってる所もあったりしますが、まぁやっぱり、千歳と根来に恋愛は芽生えないでしょう。
根来のデスクワークぶりはもうちょい描かせて頂きます。これは自分の趣味の範疇なのです。
>>165さん
ありがとうございます。色気全くなしの錆々した関係こそ、このSSの骨子なのです。
きっとこの二人は、休日にショッピングセンターいっても目当ての物買ったらさっさと
帰ってくるタイプでしょうね。お弁当についてのフォローは次回に。重要といえば重要かも。
ふら〜りさん
>マジカル・インベーダー
元ネタのチョイスには、膝頭をばしりと叩いて「お見事!」と叫ばずにはいられぬ物が!
ただ純粋に凄いと感服した次第であります。で、D=アーネについて調べてみたのですが、
……これは確かに、「Z戦士たちさえも凌駕する超絶強豪」。UFO艦隊を5728472隻撃沈…すげぇ。
千歳は踏み込まない、根来は踏み込ませない、何だかそういうスタンスが感じられます。
信条と思考が第一にあって、感情を互いに出さない間柄。恋愛を絡めたら、かなりの破壊力
を発揮する可能性も或いは。でもこの二人の仲人は、気疲れしそうだからやめた方がw
>>205さん
ありがとうございます。漫画キャラ板の武装錬金萌えスレにて、武装錬金の総集編的な物
を投下しましたので、興味があれば是非。まだ半分もいってない試作品ですが……
306 :
裏切り者:2006/02/15(水) 02:04:56 ID:ECIs7R7n0
男は漫画が大好きだった。
毎日のように読みふけり、こづかいは全て漫画雑誌と単行本につぎ込むという有様だっ
た。小学校時代は、クラスメイトから「漫画博士」と呼ばれていたほどだ。
だが、世間では漫画が好きという特徴が決してプラスに働かないことも多い。
中学、高校になると、彼はどんどん周囲から孤立していった。かつてのあだ名「漫画博
士」も形こそ変えなかったが、意味は尊称から蔑称へと転移していった。
そのため、彼はより漫画にのめり込むようになる。
こづかいに加え、バイト代までを漫画に捧げ、彼のコレクションは飛躍的に増大した。
彼自身が嫌われたのか、漫画好きだったから嫌われたのか、今では知る術もない。
やがて、彼は大学に入学し、一人暮らしを始めた。
狭い下宿先にもかかわらず、彼のコレクションは健在である。
真新しいキャンパスを見据え、彼は期待に胸をふくらませた。
自由な時間が増える。質、量ともにコレクションを充実させることができる。
彼がおぼろげながら夢に描いた青写真──四六時中、漫画に囲まれた生活を完成に近づ
けることができる。
ところが、大学生活に入るといやでも生活が広がる。
彼もまた、取り巻く環境の膨張に徐々にではあるが翻弄されていった
高校時代までは漫画こそが、彼の中で不動の第一位であった。大学に入ってからも一位
の座には変わりはなかったが、二位以下が急速に追い上げる。
漫画に偏っていた人生が、世間一般でいう平均値に傾いていった。
彼自身もこのままではまずいと逆らおうとするものの、どうにもならなかった。
時は流れた……。
307 :
裏切り者:2006/02/15(水) 02:06:40 ID:ECIs7R7n0
男に彼女ができた。
彼の内で、漫画は王座から陥落していた。三本の指に入るかも怪しい。ただし、彼女も
また漫画好きであったことは決して偶然ではなかっただろう。
夜更け。甘いムードを味方につけ、家へ誘う。
「ねぇ、今日うちに来ない?」
「でも、もう遅いし……」
「大丈夫だって。ね、ね?」
「分かった。じゃあ、少しだけ」
少しだけ、にならないことは双方とも自覚していた。
アパートに入り、電気を点ける。
居間にある万年床を、東西南北から古い本棚が囲んでいる。どの棚にも、びっしりと単
行本や雑誌が詰まっている。
「すっごい。話には聞いてたけど」
「ハハハ。でも、もう全部売っちまうよ」
「え、もったいない。少しくらい取っておけばいいのに」
「さすがにそろそろ卒業しないとな。それに、古いのをインターネットのオークションに
出したりすると結構な高値で飛びつく奴がいるんだ」
「へぇ〜」
講釈もそこそこに、男女が同じ布団に入る。
窓から明かりが消えた。
あとはもう説明する必要もなかろう。
308 :
裏切り者:2006/02/15(水) 02:07:49 ID:ECIs7R7n0
二人の営みはことのほか激しかった。
安アパートなので、壁から外へ声がもれる可能性は高い。
だが、今さら近所への配慮などどうでもよかった。本能が理性を覆い尽くした今、彼ら
をせき止める要素などありはしない。どうせ近いうちに引っ越す予定だし、近所付き合い
もなかったに等しい。
どうにでもなれ、だ。
なんだったら、録音してくれたっていい。思春期まっさかりの少年は小銭を片手に飛び
つくんじゃないか。
ふと、男はこんなことを考えていた。漫画の処分をめぐり、モノを現金に換えるルート
を色々と探っていた影響からであろう。
吐息を熱く、揺れる二人。
沈黙を保ち、揺れる本棚。
自己流なりの整頓術で、絶妙なバランスで整っていた漫画冊子。彼らが悶えるごとに、
本棚に軋みが生じる。普段は寝相にさえ気を遣っていた男も、今日ばかりは全く気がつか
ない。
不幸はまもなく訪れた。
本棚が倒れる。ぎゅうぎゅうに詰められていた漫画たちが一斉に弾け飛ぶ。
連鎖は連鎖を生み、軽い爆発にも匹敵する轟音とともに、コレクションは総崩れとなっ
た。
近所の人々が駆けつけると、狭いアパートの一室から、漫画に埋もれた男女の死体が発
見された。後日、警察の調査によると圧迫による即死だったらしい。
なんとも間の抜けた悲劇だった。
だが、死んだ二人の形相は、こうした現場には慣れているはずの警官ですら、思わず目
を背けたくなるほどおぞましいものであった。なにか得体の知れない恐怖に直面したよう
な。
長年、主人に愛され続けた漫画たち。
もしかしたら、これは彼らの仕業ではないだろうか。
主人の心変わりに失望し、主人を誘惑した女に嫉妬して──これは考えすぎだろうか。
お わ り
続けて失礼しました。
漫画キャラでなく、漫画を絡めたSSです。
では、寝ます。
310 :
十五話「悲」:2006/02/15(水) 04:27:01 ID:6hti5W9u0
〜???〜
ドクン、と重い心臓音が鈍く響き渡る。
周囲の壁は生き物の体内の様にうねり、鼓動する様は不気味で、例えようの無い不快感を煽る物であった。
その最深部で、破壊神はミルザとの戦いの傷を癒していた。
「エロール・・・ミルザ・・・許さん・・・・ぞ・・」
神の器からは当に傷は消えていた、だがディステニィストーンの力で封じられた力は眠り続けていた。
未だ完全に解けない眠りの中、消える事の無い怨みを募らせる。
「おお、サルーイン様・・・お体に触ります故、大事の無い様、我等にお任せを・・・。」
すぐ側で、赤衣の男が破壊神へと大事を取る様に促す。
「ワイル・・・私に構っている暇があれば二つの・・・月の神殿へと行け・・・」
そう伝えると破壊神は再び眠りへとついた、目覚めの時は近い。
「御衣のままに・・・」
仮にも神である者が、策も無く護衛を外す筈は無い。
復活へのカウントダウンを歓喜する赤衣の男。
早々に消え去るワイルの向かう先、二つの月の神殿でディステニィストーンを待ち受けるだろう。
眠りについても憎悪は尽きる事無く煮え滾る・・・光の戦士を打ち砕く時まで。
思い浮かぶ屈辱の数々は、邪悪の復活を速めるであろう。
1000年前のあの日、兄弟である三邪神、デスとシェラハの力は封じられ、
忌々しいエロールの生み出したディステニィストーンの力と、英雄と称えられ、絶望を掻き消し人々に希望を与えた者。
光の戦士「ミルザ」によって封じられた。
神が人間如きと相打ち、これ以上の屈辱は無い。
光の神の生み出した玩具の様な存在に破壊を司るこのサルーインが敗北を喫したのだ。
兄デスは今ではエロールに従い冥府の門番を務めているという堕落振り。
妹シェラハはディステニィストーンの封印に縛られながら各地を転々として所在が掴めない。
創造神マルダーが作ったこの世界の真の神になるには今ある世界を破壊し、新しい世界を作るより無い。
ドクン、傷の疼きと供に周囲の全てが呼応する。
「待ってろ・・・エロール・・・・!」
311 :
十五話「悲」:2006/02/15(水) 04:28:02 ID:6hti5W9u0
〜新秘孔研究所〜
「ん!?間違えたかな・・・」
ケンシロウの首筋の血管が浮き上がり、血が吹き出る。
「うぐはっ!」
隣のベッドで寝かされた男にも同様の秘孔を突き、比較する。
呼吸器を封じられたのか、叫び声一つ漏らさずに爆死する男。
「貴様・・・!」
苦痛に耐えながらアミバを睨みつけるケンシロウ。
だがいくら力を入れても拘束具は外れない。
「ふむ・・・やはり腐っても鯛だな。貴様が生きていられるのは伝承者としての修練の賜物が体に染み付き、
秘孔を突くとその箇所の気の流れが全て途切れ、気が神経へ伝わりきらずに経絡秘孔の破壊を中断させる。
気が途切れる瞬間のお前の反応を全て研究させてもらったぞ。おかげで俺にはもう大半の秘孔は効かなくなった。」
相変わらず邪悪な笑みを口元に浮かべているアミバ。
だがそんなアミバを見ても失われた怒りが戻ってくる事は無かった。
「ふむ・・・傷口の回復は遅くなったな。今日はここまでだ、たっぷりと眠るがいい。」
医療用にも使われる秘孔、定神を押され眠りにつくケンシロウ。
薄れゆく意識の中でも、怒りは芽生えなかった。
失い続けた男の心は惨めさとやるせなさに溢れ、絶望していた。
乱世を正す為、片っ端から悪を叩き潰してきた。
だが、どんなクズでも子が居た、親が居た。
恨みの言葉を背に受けながらも旅を続け、人々を支配から開放しても、満たされる事は無かった。
「自由になろうが領主が変わろうが、戦争は終わらないし何も変わらない。」
町の人々は口々にそう言って腑抜けていった。
目を離した隙に野党に侵略され、抵抗したら死ぬ。
そんな理由で群れは膨張していった。
みんな全てを諦めきっていた。
人々はケンシロウより強い力の持ち主を知っているのだから。
それは神、それは破壊を司る者、それは絶望の象徴、その名はサルーイン。
312 :
十五話「悲」:2006/02/15(水) 04:29:20 ID:6hti5W9u0
絶望に打ちひしがれるケンシロウに、声が聞こえた。
「惨めだな、ケン。」
シン?シンなのか?こっちの世界に来てからは一度も聞こえなかったお前の声が聞こえる・・・
「ほぉ、俺の声が聞こえるからなんだ?」
何?
「怒りも悲しみ、愛すらも忘れ、あんな偽神拳に負けるとはな。」
レイ?ここはマルディアスだ、お前等の声が聞こえる筈が・・・
「本当にそう思うのか?」
分からない・・・俺には何も・・・
「ふん!やはり貴様ではそこが限界だったな。」
サウザー・・・
「思い出せ、強敵と戦い抜いた日々を。」
トキ・・・
「愛の前ではこのカイオウすらも敗北したのだ、サルーイン如きに遅れを盗る筈が無い。」
そうか・・・思い出してきたぞ、熱い血を流した男達の戦いを。
「ゆけ・・・お前はこのオレの最高の強敵だった!」
分かったよ・・・ラオウ兄さん。
吹き上がる闘気。
吹き飛ぶ拘束具。
忘れていた怒りを、悲しみを、愛を取り戻した北斗の使者。
巨大な憤怒の矛先は、巨悪の手足と成り下がった男。
「言った筈だ、貴様は・・・長く生き過ぎた。」
「ふん、やはりこうで無くてはな。」
313 :
十五話「悲」:2006/02/15(水) 04:30:19 ID:6hti5W9u0
吹き上がった闘気の正体に興味を魅かれたのか、より一層、邪悪に微笑むアミバ。
「目に覇気が戻ったな、だがそれだけでは俺には勝てんぞ。」
両手を円を描くようにして上下へシフトさせる。
「北斗神拳、秘奥義!天破の構えぇぇ!
どうだ、今の貴様にこれが敗れるかぁ?」
ケンシロウの拳が動く。
全て円状の動きで叩き落し再び構えを戻すアミバ。
「もらったぁ!天破活殺!」
両腕を前へ突き出し闘気を放つ天破の構えからの派生攻撃最大の技。
しかし、それはケンシロウに当たる事無くすり抜けてしまった。
「な・・・何故!?」
ふと、ケンシロウと目が合うアミバ、その目には数多の悲しみが宿っていた。
「き、貴様ぁ!使ったなぁ?北斗神拳最強の奥義、無想転生をぉぉ!?」
全てに絶望し、悲しみを忘れたケンシロウが何故?
考え、硬直するアミバに死の使者は告げる。
「お前はもう、死んでいる。」
大袈裟なハッタリだとタカを括り、不敵に笑う。
「何を馬鹿な!現にこうして・・・」
冥府の王の力で蘇り、破壊神の加護を受けた肉体に滅びの時が訪れる。
全ての経絡秘孔に伝わる神経に破壊を命じ、そして全ての命令が伝わった瞬間だけ自由になり、断末魔が上がる。
「うぎゃああああああああ!」
体中から血を噴出し、四肢がへし折れて行く。
しかし、
「むっ!」
死の一歩手前で生き延びたアミバ、どうやら完全に力が戻った訳ではない様だ。
既に死人も同然のアミバが吼える。
「く、くくく、見せてやる!サルーイン様から授かった俺の切り札を!」
粉々になった体で起き上がる、信じ難い生命力。
立ち上がったアミバはおもむろに壁のスイッチに向かって折れた腕を叩き付ける。
船底から鼓膜を破壊する様な雄叫びが響く、北斗の使者を喰らうため、空の帝王が解き放たれた。
314 :
十五話「悲」:2006/02/15(水) 04:31:39 ID:6hti5W9u0
モンスターハンター2発売まで後1日。
待ち遠しくて気が狂いそうです(0w0)
そして前回の外伝講座に間違い発見。
木人形(でく) アミバ様率いる秘孔の研究材料を集めるための精鋭部隊。
秘孔を突いて強化されている。失敗しちゃったら破壊秘孔の木人形として扱われるのだろう。
と、ありましたがこの説明文は 木人形狩り隊(でくがりたい) ですね。
木人形の正しい設定は
木人形(でく) アミバ様の秘孔研究のための材料、医療にも使える北斗神拳を利用して患者を誘って
木人形にしたり、木人形狩り隊を使ってさらって来て木人形にするのが一般的。
でした。
どうもすいません・・・
〜本日のサガ質問箱〜
親父氏 パチスr(ry
ふら〜り氏 普通の竜ならそんな感じで、尚且つ硬い鱗の隙間を殴る事になりますが、
登場予定の竜の一部には効かない相手も・・・
225氏 対モンスター戦はホーク達が主力でしょう。
でも人の形をしてれば骨みたいなのでも砕いて行ける!
272氏 これは自分の表現力不足でしたね・・・まぁ
ttp://www.geocities.jp/tanuki1215y/ondle/wada.html こんな感じで聞き取りづらい感じに喋ってたんです。きっと。
何故いつも来るときはダンゴで来るんだよw
>サマサさん
手塚は反則ですってw他のキャラがかすんで見えるもん、ムスカさえw
しかしテニプリキャラはこのSSに出ても遜色ないな。ある意味すげえw
そしてムスカもいよいよ動き出したか。
>スターダストさん
根来と千歳の会話って盛り上がらないでしょうな。イケメンと美少女なのに。
根来が指示を出して、千歳がサポートという形態は変わりませんね。
千歳ファンなので単独で動いて欲しいけど、美味しい所は根来が持ってくなあ。
>サナダムシさん
読み始めて3行でサナダムシさんとわかったw相変わらず短編も上手いなあ。
なんか身近なホラーですね。ホラーというより、間抜けな痴話話ですけど。
俺、これに近い経験はあるなあ。死にはしなかったけどw
>邪神さん
ミルザとかエロールとか、ゲームにいましたっけ?ミンサガやってないから
忘れてしまったwしかしようやくラスボス方面にも動きが出てきましたね。
たとえパワーアップしてもアミバ如きに無想転生は勿体無いなあw
俺は伸助47歳
年が明ければ48歳
俺はマネーにちょっとうるさい
松本マネーにめちやめちゃうるさい
ドゥンドゥドゥン♪ドゥンドゥドゥン♪
ドゥンドゥドゥン♪ドゥンドゥドゥン♪
scene25 素直になれない二人
「聞いてくれ、みんな……! 僕は、謀られたんだよ……!
彼女、夕凪理沙こそが……真犯人……!」
その場にいる全員が、半ば呆然として笠間の弁明を聞いていた。
今までの夕凪の推理は、完璧とは言えないまでも
筋の通った論理で、笠間にならば犯行が可能であることを証明して見せた。
そして、追い詰められた笠間は、舐めるどころか、受話器に触れることすらできなかった。
この鉄壁にも思える状況証拠を覆し、逆に夕凪理沙を犯人であると証明する……
それは到底、不可能な証明……正気の沙汰ではない。
「理沙ちゃんが犯人って、どういうことっすか!?
理沙ちゃんは一体全体どうやって、三号室を密室にしたって言うんすか!?」
この期に及んで世迷言を、とばかりに、玉崎が食って掛かる。
「今でっちあげた推理と、同じ手を使ったんだよ……!
予め、三号室の受話器に毒を塗って、まどかの部屋に電話をかけた……
それから、僕を挑発して受話器につけた毒を舐めさせ、覚悟の自殺を演出……
すべては僕を、ここで犯人として始末する為……!」
場の空気が、急激に冷えていく。笠間の論理は、完全に破綻していた。
夕凪が主張する、三号室の密室トリック。その、そもそもの発端は、笠間の発言にある。
笠間の発言がなければ成立しない密室トリックを逆手に取って
夕凪が犯人だと主張しても、追い詰められた犯人の悪足掻きとしかとれない。
それに、この推理が笠間を殺害する為の罠だと言うのも無茶苦茶だった。
笠間が受話器に付着した毒を舐めて、死亡するようなことがあれば
必然、笠間が賞金を獲得する権利は消滅し、ロール・カードは開封される。
その時『探偵』のカードが出てきたとなれば……真っ先に、告発を行った夕凪が疑われる。
夕凪が犯人ならば、そんな真似をするとは思えない。
「認めては、くれないんですね……」
「あたりまえだっ……!」
しかし、笠間は突然の告発に冷静さを欠き、思考力が極端に低下していた。
困惑……憤怒……慙愧……渦巻くその心中は、さながら感情の乱気流……!
「みなさん……これを、見てくれますか?」
夕凪はベッドに横たえられた香坂の死体へと、一同を誘導する。
「香坂さんの手には『あるもの』が握られていました……
おそらく、カイジさんたちが発見した時は、死角になって見えなかったのだと思います。
それこそが、笠間さんが犯人であると示す決定打……物的証拠……!」
言って、夕凪はばさりと、遺体にかけられたシーツを取り払う。
全員の視線が、香坂の手元に集中し――息を呑む。
香坂が死の間際、握り締めていたもの。それは……小さなクマのぬいぐるみ。
そう、笠間が腰から下げているものと、まったく同じ……!
「香坂さんは……どんな気持ちで、このぬいぐるみを握り締めたんでしょうか?
答えは一つ……最後の最後、犯人の正体を私たちに知らせる為です……!」
「ううああああああああ!!」
「きゃ……!」
突然の出来事だった。笠間は奇声をあげながら、弾かれたように夕凪に飛びかかった。
襟首を掴み、床に押し倒す。
「何やってるっすか……!」
玉崎の振り下ろした拳が、笠間の後頭部を一撃する。
ぐぅ、と擦れた呻き声を発して、笠間はその場にくずおれた。
「大丈夫っすか……?」
「は、はい。玉崎さん……ありがとう」
「いや、そのなに、当然っす、うわははははは」
玉崎はそっぽを向いて、照れ隠しとばかりに乾いた大笑いをする。
「クソ長い二日間だったが……終わったんだな……これで」
小此木が、感慨深げに言葉を吐き出す。
「この人……ど、どど、どうしましょう?」
只野は、昏倒した笠間をおそるおそる指差した。
「ロープか何かで縛り上げて、ゲーム終了時刻までどこかに閉じ込めておくか」
倒れている笠間に魂の抜けたような虚ろな視線を投げ、旗元が言う。
探偵たちによる協議の結果、意識を失った笠間は
両腕をきつく縛り上げられ、自室である二号室のトイレに放り込まれることとなった。
黒川の提案により、ドアにもロープが何重にも巻かれた。事実上の監禁状態である。
二号室の見張りは、男性陣は単独、夕凪、双葉が二人一組の、二時間交替で行う事となり……
みな、一様に安堵の表情を浮かべ、それぞれの部屋に戻って行った。
誰が言い出した……というわけでもないのだが
ペア作戦は夜を待たずして、自動的に消滅する運びとなった。
scene26 『犯人』
心の内から止め処なく湧きあがる笑いを噛み殺すのに、苦心した。
私の眼前で演じられるは、哀れな道化師たちの舞踏会。
夕食の時、笠間の話を聞いた私が即席で用意した
恐怖の演出兼レッドへリング(偽りの手掛かり)である
内線電話の着信記録に、思惑通り踊らされる夕凪理沙。
そして『毒など塗っていない』受話器に触れる事もできず
自身を告発した夕凪理沙を犯人だと思い込む笠間潤……
このうえなく、滑稽な見世物だった。
さて。告発を誤った探偵たちの末路は一つしかない。
ゲーム脱落者には……優先的な、死の制裁……!
毎度ありがとうございます。前回投稿は
>>136です。
犯人そっちのけで進む、探偵二人の告発合戦。
・論理展開
作者は基本的にボケナスなので
明らかに成り立たない推理など、本編中にあったらすいません。
と言うのも、成歩堂くんに指摘されそうなくらい洒落にならない矛盾が見つかり
どう修正したものか考えあぐね、続きを書くのに手間取っていました。
なんとか破綻は免れそうで、とりあえず一安心。
322 :
作者の都合により名無しです:2006/02/15(水) 21:01:15 ID:mygRrskP0
>サマサ氏
手塚の奥義連発の中に(本当にドラゴンボールキャラだな…)
きっちりと光るのび太の意思。いよいよ決戦ですね。
しかし、手塚はもう少し引っ張ると思いましたが終了ですか。
>スターダスト氏
千歳はフィールドワーカーよりオフィスワーカーの気がしますね。
現場に出てドンパチするより、根来を補佐する方が力を発揮出来るのかも。
なんだか息もあってきた気がする、このコンビ。
>サナダムシ氏
なんだか、大学生カップルの性欲に制覇された漫画たちの復讐譚ですね。
こういう小噺もうまくまとめるサナダムシさんは本当に引き出し多い。
まだうんこという最終兵器も持ってるしw
>邪神?氏
ケンシロウがようやく反撃しましたけど、またカマセにされそうなw
サルーインはラスボス確定でしょうがデスやシェラハとも戦うのかな?
どう考えても現時点では勝ち目はないけどw
>見てた人氏
理沙たんピンチかと思いきや、苦し紛れだったんですね笠間。
最後の決定的な証拠まで切り札に隠し持つのも憎い。
でも、犯人は理沙の能力の更に上を行くのか、まだまだ楽しめそうでうれしい。
昨日の夜は凄かったみたいですね。
出来ればじっくり読みたいので、一日2作位で毎日がありがたいかな?
>ネゴロ
始計術。忍者の特技のひとつですか。やたらと高いネゴロんp能力も錬金というよりも
忍者の力が大きいようですね。でも、彼になんとか着いて行く千歳の方が好きだなあ。
>裏切り者
プレイの激しさによる不可抗力というより、本に宿った精霊がお怒りになったのかな?
こういうさらっと読める短編はいいですね。前はサナダさん、良く書いてくれたし。
>キャプテン
やはりアミバにはサルーインの力が宿っていましたか。ま、そうでしょうねw
ケンシロウはラストまで関係するキャラであって欲しいな。強いし、漫画出身だしw
>カマイタチ
scene25のサブタイからすると恋愛物みたいですけど、本編は嫌な争いですねえ。
一段落したと思ったらやはり夕凪の推理は間違ってましたか。真犯人は相当切れますね。
第五十五話「真剣勝負」
「ムスカ・・・何の罪もない人まで巻き込んで・・・!お前はもう許さないぞ!」
「ふむ。都市部への攻撃が、そんなに気に障ったかね?それはすまない。君たちに危機感を持って欲しかったのでね。
それによって尊い命が失われたことは私としても非常に遺憾だ。おーいおい・・・」
わざとらしく涙を拭う真似をするムスカ。だがその口元は笑いの形に歪んでいる。
「具体的にどうやったか知りたいかね?知りたくないといっても教えてあげよう・・・こうやったんだ」
ムスカは機械に手を翳し、何か呪文のような言葉を唱える。
「ここは<王の間>。そしてこれはネオラピュタの中枢装置でね。ここから命令を下せるんだ。こんな風にね―――」
その瞬間だった。ネオラピュタの下部に光が集まり、地上へと光線が降り注ぐ―――!
「あ―――!」
「ふふふ・・・これこそはネオラピュタの主砲。古代神話では<インドラの矢>とも伝えられる兵器だよ。今のでまた、
人がゴミのように死んでいったろうなあ―――はぁーーーはっはっは!」
ムスカは心底楽しげですらあった。湧き上がる嫌悪感に、のび太は身を震わせる。
「お前は―――狂ってる!こんなことをして、何が楽しいんだ!?」
「楽しくないかね?強大な力で弱者を踏みにじるのは、実に快感だ。これを止めたいと思うなら、私を倒すしかないな。
だが―――君にできるかね?風の村で、力の差は身に染みたはずだが」
「―――それでも、勝つ!勝ってみせる!」
ムスカは眉を寄せて、何か考え込んでいるようだった。そして懐からコインを取り出す。
「そこまで言うのなら、そうだな―――銃で決着をつけようか?今からこのコインを投げる。それが床に落ちた時を合図
として、銃を抜いて撃つ。西部劇でよくやるアレさ。正々堂々の真剣勝負・・・どうだ、受けるかね?」
「・・・受けてやる!」
ムスカはにいっと笑い、片手を懐に入れる。もう一つの手でコインを握った。
のび太も腰にさしたショックガンに手をやり、後は投げられるはずのコインに意識を集中する―――!
―――だが。コインは投げられなかった。ムスカは最初から、コインなど投げるつもりなどなかった。
真剣勝負など、する気はなかったのだ。
嘲けるような笑い。ムスカは銃を抜き出し、のび太に狙いを付けた。それにのび太が気付いた時には、もう遅い。
バァンッッ・・・!
乾いた音が響いて、のび太は呆然とした表情で、ゆっくりと崩れ落ちる―――胸の真ん中・・・心臓を貫かれていた。
「くっくっくっくっく―――はっはっはっはっは―――バカなガキだよ、君は!私がそんな真っ正直に、正々堂々の勝負
など持ちかけるとでも思ったかね?実に愚かしかったよ、野比のび太!・・・おや?」
高笑いしながらも、ムスカの耳は慌ただしい足音を聞いていた。直後に、ドラえもんとリルルが姿を見せた。
「ふむ、遅かったね。ご覧の通りだよ」
「の・・・のび太くん・・・っ!」
ドラえもんは愕然と、やっとこさ声を搾り出す。リルルはもはや言葉さえ発せず、顔を青ざめさせる。
そんな二人を見て、ムスカはにやっと笑う。
「悲しむことはないさ。すぐに後を追わせてあげよう。私は優しい男なんだよ」
銃口を突きつけられて、二人は身構えつつそれを凝視するしかできない。ムスカの指が引鉄にかかり―――
その瞬間、ムスカの全身を強烈な衝撃が襲った。奇跡的に気絶だけは免れた彼は、信じがたいといった形相で振り向く。
―――確かに心臓を撃ち抜いたはずののび太が膝立ちにショックガンを構えているところだった。
「のび太くん、無事だったんだね!」
「何とかね。危ないところだったけど・・・」
喜ぶドラえもんたちに、にこっと笑ってVサインを送る。
「バ・・・バカな。何故だ!確かに、心臓を撃ったのに・・・!」
ショックガンをまともに受けたせいで、息も絶え絶えになりながらムスカはのび太を睨み付けた。
「これのおかげさ」
それに答えるようにのび太は胸元から首飾りを取り出す。風の村でテムジンから別れ際にもらったお守りの石―――
だが、それは強い衝撃を受けて砕け散っていた。
そう―――ムスカの凶弾から、のび太を守ってくれたのだ。
「お守りのおかげで助かる・・・なんて、ありきたりだけどね。テムジンに感謝しないと」
「くっ―――汚いぞ、野比のび太!」
「呆れたね・・・どの口でそんなことが言えるのさ。イカサマしたのはそっちじゃないか」
のび太はショックガンをムスカに突きつける。
「さあ、降参しろ、ムスカ!」
「くっ・・・!またか・・・また私の邪魔をするのか、ガキ共がぁっ!」
ムスカは訳の分からないことを言い募りながら、暗い瞳でのび太たちを見つめる。いや―――彼は本当にのび太たちを
見ていたのか。
むしろ、彼が見ているのは、過去の幻影のようにのび太は思った。
やがて―――ムスカはゆっくりと、手を上げる。降参の合図かと思ったが、そうではなかった。その手には、青い宝石
が握られている。
「くっくっく・・・いいだろういいだろう。私の負けだ。それは認めてやろうじゃないか。だが―――お前たちになどやられて
たまるか!」
もはや完全に狂った声で、ムスカは叫んだ―――!
「―――<バルス>!」
「な、何を・・・」
するつもりだ、と言おうとして、言えなかった。凄まじい揺れがネオラピュタを襲ったのだ。それは納まるどころか、
次第に強くなっていく。
「・・・<バルス>。滅びの言葉さ。ネオラピュタはじきに崩壊する。さあ、早く逃げた方がいいんじゃないかね?」
「くそっ・・・!」
舌打ちし、一瞬迷ったが、ムスカは放って駆け出す。
これも彼自身が招いた事態だ。それに、もはや同情なんてしてやる余地のある相手ではなかった。
「くそっ・・・普通に走ってたら間に合わない!<通り抜けフープ>!」
ドラえもんがお馴染みの道具を取り出し、直接外に繋がる道を開いた。タケコプターを付けて、そこから外に飛び出す。
のび太たちはそのまま崩壊に巻き込まれないよう、急ぎアークエンジェルへと向かった・・・。
―――ネオラピュタの崩壊と同時に、<竜の巣>も消え去っていた。
そのおかげで、無数のロボット兵との戦いを繰り広げていたキラたちにもネオラピュタの崩壊は目視できた。
「・・・終わったのかな、これで?」
「多分・・・」
その時、アークエンジェルからの通信が入った。クラフトの安堵した顔が映っている。
「みんな、今のび太くんたちが帰ってきた。ムスカはネオラピュタと共に自爆したそうだ。戦いは終わった。疲れてる
だろう、すぐに戻ってきてくれ!」
その報告を聞いた瞬間、ジャイアンが歓声を上げる。
「やりやがったぜ、のび太の奴!」
「うん、帰ったらねぎらってあげないとね」
「ああ、実に立派な戦績だ。彼らにはアスランからの熱いベーゼをあげるしかないじゃないか!」
「それはいらないと思うよ・・・」
「うふふ・・・でも、ムウさんがまだ戻ってないのが心配だわ」
「なーに、ムウさんだったら大丈夫だよ。あんな変態仮面に負けるもんか。さ、おれたちもアークエンジェルに戻って、
ひとまずゆっくりしようぜ」
一同はゆっくりと帰っていく。
こうしてネオラピュタ総力戦は幕を閉じた―――かに見えた。
「―――ムスカよ」
崩壊する<王の間>で、放心したようにへたり込んでいたムスカに、誰かが語りかけた。ムスカはゆっくり視線を上げて、
声の主を確認する。
「ああ、何だ、君か―――アンゴルモア」
そこにいたのは<十三階段>四段目―――アンゴルモア!
「いいザマではないか?ご自慢のネオラピュタも、この通りか」
「ふん―――笑いにきたのかね?恐怖の大王ともあろうお方が、お暇なことだ」
「残念ながら、そこまで暇人ではない」
アンゴルモアの身体が蠢き、闇色の触手がムスカを捕らえた。
「き、貴様っ・・・何を!」
「ふふふ・・・ムスカよ。お前の敵は取ってやろう。その代わり、お前の強大な負の心をわたしの糧とするのだ」
「何だと!?」
「お前の絶大な悪の心と、わたしの力が合わされば―――奴らなど、ものの数ではない。どうだ?悪い話ではなかろう?」
「私に―――貴様の一部に成り果てろと、言うのか・・・!」
ムスカはぎりっと歯軋りしたが、やがて、にやりと笑った。
「ふ、ふふふふふふふ・・・いいだろう、受けてやろう、その提案・・・!」
「そう来なくてはな」
闇がムスカを覆いつくす―――!
そして次の瞬間、そこにいたのは、ムスカでもアンゴルモアでもなかった。両者が融合した、全く新たな存在―――
「はぁーはっはっは!ガキ共め、思い知らせてやる!貴様らなど、所詮虫ケラなのだということをな!」
その瞳が、爛々と不気味に輝いた―――!
投下完了、前回は
>>294より。
展開がやたら駆け足ですが、とにかくネオラピュタ編もクライマックス。
次回、新ザンダクロスついに登場。
スパロボテイスト満載のロボットになります。
>>297 中学生でしたか・・・すっかり忘れてました(汗)
>>315 手塚は書いてて楽しかったです。
>>322 引っ張りすぎるネタでもないと思ったので・・・ごめんなさい。
>殺人黙示録カマイタチ
やはり理沙も真犯人の手の上で踊っていただけか。
理沙は推理力と観察力はカイジ以上ですけど、「あと一歩」の踏み込みが
カイジに比べて足りない気がする。そろそろ主役の活躍ですか。
>のび太の超機神大戦
ネオラピュタ最終決戦。ムスカがムスカらしくて卑劣でいいですね。
「胸のこれのお陰で〜」は久しぶりに見た気がするw
あれ、ムスカとアンゴルモアは一気に決着ですか。展開速いw
>殺人黙示録カマイタチ
誰も言わないけど理沙たん死なないでくれ・・・(((( ;゜Д゜)))
・・・笠間はどうでもいいのかっ、俺!?
これは「出世」と「物」、二つの【欲】の間で日々葛藤と悶絶を繰り返す、戦国武将・古田
左介の物語である。
・前回までのあらすじ
3人の「孫悟空」が割拠しせめぎあう明を落とすため南蛮の強国と同盟を結ぶことを
決意した織田信長は、直臣である古田左介をミッドランド大使に任命したのだが……
一、南蛮の左介
来てしまった。南蛮に。日の本より遥か遠く離れたこの世の果てに。
ぶっちゃけてしまえば信長様の目的は明よりも先にみっどらんどを支配下に置くことで
あって、友好関係を築こうなどという生ぬるいものではない。献上の品こそ持ってきてはあるが
俺が成せねばならない使命は
「手前ぇ、ぐりふぃす。我らが信長様の配下にならぬか?」
と、強気な姿勢で国王を口説くことにある。弱気な態度は見せられん。
だが、しかし……
南蛮国の城砦の大きさ、形の畏ろしさったらなんたるものか。この「どばごらんっ」とくる
威圧感は、なんたるものか!
民の住む家も王の住む屋敷も全て同じく石造りが基本であって、木材はそれを支えるためだけ
に申し訳程度にしか用いられておらん。それら建築物の高さはどれも空を覆い隠すほどであり、
さながら岩山がそのまま「もこもこぼこっ」と隆起して町を造った、といった奇妙な統一感が
ある。
町の中心に建つ(というより、そびえる、か)城はその中でも際立って巨大で、天界に喧嘩を
売るかのごとく極端な円錐がいくつも「すびっすびっ」と伸びている。
畏ろしい。この中に住んでる人間もあな畏ろしい。
石の中で暮らせるなど、よほど体毛が濃くて寒さに耐性があるか、さもなくば血液が冷たいに
相違いない。
「の、のま……のま……」
のまのま?
「のまれてはならんぞぃ、左介ぇ」
護衛として付き添って下さっている武芸の達人、本部以蔵殿などはすっかり怖気づいてしま
われた。しっかりして下されよ、それがしらは今から国王に喧嘩を売りに行くのですから。
「けっ、けん、け……はっ……はっ」発汗。発赤。呼吸困難。
本部殿は壊れてしまわれたようだ。無理もない。
お、おお……俺だって、こえぇぇぇぇぇえええええええええっ!! んだからっっ!!
「文化の違いに少し戸惑われていらっしゃるようですが」
「とんでもない!」
国王に謁見するまでの案内役を務める南蛮人が顔を覗きこんできたので、俺は高速で首を
横に振った。ものっ凄い勢いでぶんぶんと。
南蛮人(せるぴこ、と申したか)は微笑を浮かべて「なら良いですが」とだけ言った。
くっそぅ。絶対舐められてる。日の本舐められてる。
「島国根性丸出しですね(ぷぷっ)」とばかりに目ぇ細めやがってからに。
日の本の戦力知ったらその目ん玉飛び出すぞ。
「ならば早く国王の間へ参りましょう。もう随分と入り口で立ち尽くし――」
「存じております」咳払いし、ふんぞり返って答える。本部殿はおどおどしたままだが。
城内(も、やはり「ひゃびたん」とした石造り)に続く通路には赤い敷物がずずっと敷かれて
いるが、これは正倉院などにあるという「絨毯」なるものだろう。このような「びろうど」を
惜しげもなく地べたに用いるとは。踏んで歩くのには少し、なんというか、戸惑いが。
俺は緊張しながら、しかしそれを悟られまいと冷静を装って草鞋を脱ぐ。
「ちょ、ちょっと……ぷっ」せるぴこが噴いた。「履物は脱がなくても結構です」
「んぬぁにっ!?」
二、左介と名物繚乱
「と、まぁ。ジパングから来られた大使、古田左介様をお連れしました」
「うぅ、うああ……」
せるぴこの言葉に、ぐりふぃす王は曖昧なうめきで応じた。
様子がおかしい。病か何かであろうか。一応の礼儀として国王の前にひざまずき、許しが
あるまで面を伏せてはいるのだが。
衣服に染みこんで乾いた尿の臭いと、内にこもるようなうめき声だけでもみっどらんどの
国王が常ならぬ容態であることは察せられた。
面を上げることを許可されたならば、真っ先に、悟られぬように国王の目を注視してみよう。
町医者に聞いた話だと、頭や心に異常を来たした人間は瞳を見ればそれと分かると言う。
もしも国王が病に伏せっているならば、それこそ信長様には大いに都合がいい。
これは、この使命は、俺が戦国大名として名を上げるでっかい好機なのだ。失敗はせんぞ。
「面を」国王の側近らしき男が「あげろ」許可した。
顔をあげる。
見る。
みっどらんど国王、白き鷹ぐりふぃす
の
首にかかった
あれはぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!
南蛮名物『真紅のべへりっと』!!
「グリフィスは俺との戦いで精神をやられちまったんだが」
紅い! 赤ではなく、紅! 血液よりもなお純粋に「あか」を追求したような深さで
「今では国王をやってる。俺も最初はこいつを殺す気だった」
かつ質感は陶器とも金属ともつかぬ光沢と冷たさ、さらに生物らしさを内包するという矛盾!
「が、やはり俺はまだこいつを『親友』だって思いたかったんだろうな。ふっ」
表面には耳にしたとおりの不気味な顔の彫刻がなされているが……これは本当に彫刻か!?
「だから、長い間空席になってたミッドランド国王の座をこいつに――」
まるで今にも動き出し、けたたましく笑い出さんばかりの――
「俺の話を聞けッッ!!」
「はっ?」
側近の男の叱咤が飛んだ。そのとき初めて視界に入ったが、そやつは黒い甲冑に金属の左腕
という出で立ちの、なんとも異様な大男だった。少なくとも文官では無さそうだ。
えぇ、あぁ……そうだ。
俺はぐりふぃす王を口説き、みっどらんどを信長様の下へつかせるための交渉に来たのだ。
こちらの国力を誇示して力関係を分からせる。その上で明の3大孫悟空を討つべく兵を
出させ、みっどらんどと織田軍とで中華を挟み撃ちにする。最悪の場合は
「最悪の場合はあの方に出ていただき力ずくで交渉……あの方って?」
あ? だれぞ? 俺の心を読んでいるのは?
「ガッツさん、あの人」黒い巨漢の脇に立つ少女だった。先のへたれた紫の三角帽子に同色の
一枚布の着物と、面妖な格好をしておる。
「どうしたシールケ」
「この人、クーデター起こそうとしてます。親善目的じゃありません」
「よっしゃ斬るか」
しまっ、なんだとぅ!?
黒い男が背負った刀を抜き……なんだあれは!?
刀というにはあまりにも大きすぎでは? 大きいし、分厚いし、重そうで、造りは大雑把だ。
鉄の塊とでも言うべき出来だ。調理用の鉄板か?
とにかく「どべろん」としていて無骨すぎる。やはり刀剣の類は唐・高麗、南蛮ではなく
「左介ぇぇぇぇぇえええっっ!!」
本部殿が必死の形相で俺の肩をつかんだ。痛っ
「左介、左介、左介ぇぇぇぇええ!! あー! あー! あぁぁぁぁあああ!!」
「本部殿落ち着いて」
「逃げるぞ! 失敗! わしら任務失敗!」
「逃げ――」
黒い剣士が地面を蹴った。と思った時には既に巨剣が振り下ろされて――
刀と脇差を咄嗟に抜き十字に構えた本部殿がそれを受け止めた。止まった、ように見えるが。
ぎりぎり、がりがりと、巨大な剣は力ずくで本部殿を両断せんとのしかかる。本部殿は筋肉を
軋ませながら歯を食いしばって必死にそれを食い止めるが、
「ちょ……無理……もう」
小っさい声で無理とか言ってる。ならば!
俺は腰の刀に手を滑らせる。「それがしも武士の端くれ! 本部殿一人に戦わせは」
風が巻き起こり、刀が天井まで吹き飛ばされた。そして、不自然な下降線を描いてせるぴこの
足元へ。彼奴の手には刀剣を模した羽箒が握られていた。それはそれでまた面白き物だが、
「没収させていただきます。ついでにおとなしくしてください」俺の刀を脇に蹴っ飛ばした!
「貴様ぁぁぁあああ! 俺の『関の孫六兼元』を――」
「俺も混ぜろぉぉぉぉおおおお!!」
石の天井を突き破って男が飛び込んできた。予定にはない登場だが、非常に心強い。
織田軍最強の男。いや、地上最強の男、範馬勇次郎殿だ。
瓦礫と共に着地。したと思った瞬間には、既にせるぴこと黒い剣士が宙を舞っていた。
せるぴこは頭が割れて中身が飛び出している。が、黒い剣士の方は巨大な剣を盾にして
範馬殿の(拳打か蹴りかは分からんが)攻撃を受けたようだった。一回転して、着地。
「本部! そして古田左介よ!」勇次郎殿が叫ぶ。タイミング良く、城内で待機していた甲冑の
兵士たちがわんさかと集まってきた。部屋の出口がふさがれる。
「ここは俺が引き受ける!」勇次郎殿が石のかけらを拾い投げると、軌道上に集まった兵士が
みんな死んで脱出口が開いた。
「貴様らは急ぎ脱出し、任務の失敗を信長のヤロウに伝えろッ!」
逃げた。
三、大西洋の左介
ミッドランド港が閉鎖されたのは俺たちが発った直後だったらしい。本当にぎりぎりだった。
馬眼殿が操る船は快適そのもので、海上に在りながら本部殿と俺は失敗した今焼の様に
くたっとへたれて休む事ができた。
信長様の命は果たせなかった。甲板から身を乗り出し揺れる海面を見つめながらふと考える。
果たせなかったが……今のみっどらんどは中身ががらんどうの張りぼてに過ぎんということ
だけは分かった。果てしなく分かった。
痴呆がとりあえず即位してるって。どういう国だ。
せるぴこの話では、南蛮はつい数ヶ月前まで大きな戦乱に巻き込まれていたとのことだった。
5人の神と戦っただの、物の怪軍団が大暴れだの。
それらは単なるホラだろうが、みっどらんどが疲弊しきっているということだけは事実だ。
あの程度の国ならば信長様が介入して即座に支配することも可能なはず。
しかし、まぁ。
武にて立身を目指せど、それがしの数寄者としての面は毎度毎度それを邪魔立てするのだな。
身を立てつつ心意気を示す。嗚呼、俺にはそんな生き方はできぬのだろうか。
思わず自嘲的な笑みがこぼれた。と同時に、海から跳ね上がった「何か」が甲板に直立する。
黒フンドシ一丁の範馬勇次郎殿だった。それがしとは対照的にしかめっ面をしている。
「『ドラゴン殺し』を持たせていたとはいえ、この俺と五分に打ち合う。そんな男を」舌打ち。
「無事に生かしておいちまうたァ」
呆けた顔で見つめていると、範馬殿は何か小物を投げて寄越しなさった。
いったい、な――
うびゃぁぁあああああああ!! 『真紅のべへりっと』ぉぉぉおお!!
「数寄者の貴様が持っていればよい。俺にはそんな物の価値は分からん」
鼻で笑う声。
「国王は殺した。今のミッドランドは王位すら空白だ。今度来た時にゃ乗ッ取れるぜ」
が、そんな事さえ今の俺にはどうでも良かった。
ぐりふぃすの死よりも、世界を丸ごと巻き込む動乱(即ち立身の好機)の気配よりも、ただ。
ただ、『真紅のべへりっと』のなめらかなさわり心地だけが得も言われぬ多幸感をもたらして
くれるのだった。
左介、【大西】洋にて【大勢】を見ずして【大成】を夢見る!
『へうげもの』第一席/おわり
次号11月2日発売号につづく!!
このスレでへうげもののタイトルを見るとは思わなかったw
一瞬、荒らしかと思ったw
原作はよく分からないが、異様なパワーを感じることだけは確かだ
345 :
作者の都合により名無しです:2006/02/16(木) 21:03:16 ID:+Vy+wRPU0
>超機神大戦
うーん、ムスカ完全体ですか。アンゴルモアと合体して。
映画のムスカは案外あっさり死んだけど、このムスカは
結構粘りますね。それだけに死に様が楽しみだw
>鷹の宝に恋してる
もしかして新機軸の作品…ナのかも知れない。
妙なパワーを感じる。ベルセルクしか原作知らないけど
一気に読ます何かがあった。で、続くんですかこれ?w
346 :
ハンドパワー:2006/02/16(木) 22:47:04 ID:KzdNAS0S0
戸愚呂兄弟。
人間から妖怪に転生し、永久の若さと強さを求めた妖怪二人。
兄は伸縮自在、かつ体の部位を自在に移動できる特異な体を持つ。弱者をいたぶること
をなによりも至福としている。
弟は筋肉を操作し、鉄筋ビルを数分で廃墟と成す怪力を誇る。兄とは対照的に、常に対
等に立ち合える猛者に飢えている。
二人は今、自宅でこたつに入ってテレビを見ていた。
「うひゃひゃひゃひゃっ! ざまぁねぇぜ、くたばりやがった! なぁ弟よ!」
兄が下品な声で、手を叩きながら喜んでいる。
テレビでは戦争映画が流れていた。さまざまな理想や境遇を背負う男たちが戦場に出向
き、無情にも倒れていくという半フィクション。今また、必ず生還して娘と再会すると誓
っていた兵士が手榴弾で吹き飛んだ。
「こいつのガキ、親父がくたばったことを知って発狂するだろうぜ。くっくっくっ」
映画にはない場面を勝手に推測して、さらに高笑いがボリュームを増す。
一方、弟は黙ってテレビを凝視していた。サングラスはこんな時でも外さない。
「兄者、テレビくらい静かに見ろよ」
「おいおい、無粋なこと言うなよ。おっ、またくたばりやがった! くだらねぇこと考え
てるからだ、クズが!」
戦争が終わったら旅行をしようか、などと話していた斥候が蜂の巣になった。無念そう
に横たわる死体に、兄は胸を高鳴らせる。
「おっ、こいつもくたばるぜ、きっと」兄がブラウン管の中にいる一兵士を指す。そして、
まもなく予想が的中した。「ひゃひゃひゃ、やっぱり死にやがった!」
はしゃぐ兄を横目に、弟は気づかれぬようにため息をついた。
347 :
ハンドパワー:2006/02/16(木) 22:47:47 ID:KzdNAS0S0
映画はいよいよクライマックスに入る。死人も加速的に増えていく。
相変わらず無表情で映画と対面していた弟が、兄の様子がおかしいことに気づく。
テレビでは兵隊がばたばたと倒れている。なのに、兄は少しも笑わない。脂汗を額に光
らせて硬直している。
「……どうしたんだ」
「いっ、いやっ」歯をガチガチと鳴らし、心細い声で兄が答える。「ちょっと腹痛が」
「さっさとトイレに行けばいいだろう」
「バ、バカ! ここからが面白いんじゃねぇか。映画が終わるまであと二十分弱、我慢し
てみせるぜ」
とはいえ、アメーバ状に醜く歪んだ兄の形相は見るに耐えない。
「兄者も世話が焼けるねぇ。映画を楽しみながらトイレに行くくらい、兄者なら簡単にで
きるだろうに」
呆れながら弟が放った言葉に、兄もなにかを閃く。
「おぉっ、なるほど! さすがだな、弟よ!」
「……どうも」
兄はにゅるにゅると右手を伸ばし始めた。腕を仲介に、手相に小さな穴が追加された掌
がトイレに到達する。
こたつでくつろぐ兄が力む。
掌に生えた肛門から、茶褐色をした残骸が練り出される。
ボトボトと景気良く落下する汚物。ただし、両眼が映画鑑賞に使われているため、便器
には滅多に入らない。便器の縁、スリッパ、ドアノブとあちこちへ排泄物が付着する。
便は止まらない。
居間にいる兄から大便が絶えず伝送され、数メートル先にあるトイレへとぶちまけられ
る。
清潔を保っていた個室はわずかの間に、悪臭を発する斑点が跋扈する魔窟と化した。
あとで掃除をするのはもちろん弟だ。
348 :
ハンドパワー:2006/02/16(木) 22:48:33 ID:KzdNAS0S0
ちょうど映画がスタッフロールに入る頃、排便もエンディングを迎える。
しゅるしゅると、役目を終えた掃除機のコンセントのように掌が戻ってきた。これを見
計らって、弟が赤いネットから温州みかんを取り出す。
「兄者、みかんでも食おう」
「おぉっ、気がきくな! 弟よ!」
ちなみに映画後に始まった番組は、愚にもつかないバラエティ。兄はまったく興味がな
い。テレビなど一瞥もせず、みかんに皮ごとかぶりついた。
一方、弟は太い指に似合わぬ器用な手つきで丁寧に皮をむいていく。
彼は知っていた。
兄は今みかんを掴んでいる右手から、肛門を戻し忘れていることを。
しかし、弟はなにも知らないふりをしながら、きれいに裂けた果実を頬張った。
お わ り
>>322氏の言葉を借りるならば、最終兵器投入。
こたつでくつろぐ某兄弟。
絶対ありえないシチュエーションです……。
サナダムシさんキタァアアアアアアアアアアアア!
まってましたようんこSS!
たしかに想像もつきませんね、のんきにコタツに入るこの兄弟ってw
掃除する弟テラカワイソス
>サマサ氏
いよいよこのパートの最終決戦か。アンゴルモアとムスカの2人と一気に決着をつけるという事は
物語自体もそろそろ終盤という事でしょうね。最近展開速いし。楽しいけど少し寂しい。
>へうげもの氏
歴史&ファンタジー?歴史といっても名前が出てくるだけだけどw妙な勢いとノリが面白かった。
グリフィス、原作のイメージとかけ離れているなあwしかしマニアな漫画がネタになるw
>サナダムシ氏
来た来た、サナダムシさんの伝家の宝刀!相変わらず本編のやさぐれ獅子以上に力が入っているなw
トグロ兄の手を伸ばしてうんこに繋げるなんて、どういう発想力ですかw弟の優しさ笑うw
スカトロ大嫌いなのになんで読んでるんだろ? 吐きそう。
前回のもそうだけど、サナダムシさんの短編ってホラー小説の方法論で書かれてるよね。
あえて過剰に記述しないことで想像の余地を残してるというか。
生理的な嫌悪感でもって神経逆撫でするとことかはジャパニーズホラーそのものだと思う。
しけい壮の時点で既に十分な腕前だったけど、今じゃさらに磨きがかかってる。
だもんで、うんこもの以外だったら喜んで読むところなんだけど。
今日の自分のうんこ頭痛くなるくらい臭かったし。
2ちゃんねる来るの久しぶりすぎ。コテ消し忘れとか基本がなっちゃいなかった。
膝をまともに受け、仰向けに転倒する甲冑剣士。衝撃は鎧によって遮断されるが、圧力
までは無効化できない。
「おいっ、大丈夫か」椅子に縛られた井上を声をかける。
「は、はい……先輩」
「縄をほどくのは少し待ってろ。すぐにこいつを倒す」
剣を支えに、甲冑が起き上がる。これでもかと発散される怒気。
「私を倒すだと? ついさっき、私にまるで歯が立たなかったことを忘れたわけではある
まい」
決戦開始。
甲冑が、剣を大きく振りかぶる。すかさず、加藤はバックステップで大きく間合いを空
ける。
「ふっ、やはり逃げるか」あざける甲冑。──が、これが狙い。
数コンマ生じた油断を突き、流れるように懐へ潜入を果たす。舌打ちし、甲冑も剣を振
り下ろすが、ハイキックが入る方が先だった。
「グアッ」若干よろめく甲冑。カウンター気味だったため、以前よりも効いたらしい。
「いってぇっ!」対して、片足跳びで離れる加藤。やはり痛い。
これは相手をなめきっていた甲冑が気を引き締めるには、充分な一撃だった。
「……いざ!」
砂浜でのシーンが再現される。
一撃必殺の剣を振るう甲冑と、逃げ回るしかない加藤。
だが、状況は加藤にとって、より悪化していた。甲冑が速くなっている。
理由は簡単だ。初戦の舞台は砂浜で、元々甲冑に不利なフィールドであった。鎧の重量
で、どうしても砂に足を取られてしまう。つまり、硬い石レンガが足場となった今こそ、
彼は真価を発揮することができる。
「死ねぃっ!」凶刃が室内を入り乱れる。
加藤はかわしながら、末端に断続的にローに入れる。が、ダメージの蓄積はないに等し
い。
足場だけでなく、壁に囲まれた空間というのも、甲冑にとって有利に働いていた。
刈り取られていく陣地。甲冑は巧妙に自らの立ち位置や角度を計算し、加藤から逃げ場
を奪っていく。
「いつまでも逃げられるものではない!」
パキン。
鍛えた素足に、ガラス片が触れる。先ほど砕けたステンドグラス。
いよいよ加藤が窮地に立たされた。前方には巨大な剣が、背後には大きな窓が。文字通
り、万事休す。
「終わり、だな……。飛び降りるか、斬られるか、好きな方を選べ」甲冑が剣を握りなお
す。
だが、加藤は不敵に言い放った。
「ひとつ忠告しとく。おめぇは一個、大きなミスを犯した」
「ほう? どんなミスか、ご教授頂こうか」
「だれが教えてやるかよ。俺はそこまでお人好しじゃねぇんだ、ボケが」
甲冑が剣を握る手に、力がこもる。
「……くたばれ」
剣を突き出し、甲冑が突進する。たとえ左右にかわしても横へなぎ払われ、斬撃は免れ
ない。
「さぁ、どう逃げる! 左か、右か、外か?!」
「へっ、どれもハズレだ」
なんと加藤は突っ込んできた。そして、胴に組みつく。
「ぬぅっ!」この男はなにがしたいんだ、と当惑する甲冑。だが、鎧によって重量は二百
キロを軽く超える我が身。組み勝てるわけがない。抱きついている背中に剣を突き立てれ
ば、ことは済む。
「浅知恵だな。空手が通じぬとあらば、寝技か」
「いや、少しちがう」
「なに?」
「投げるんだよ。──てめぇをなッ!」
内股に右足をかけ、左足を軸に反転。甲冑の巨体が自在にコントロールされる。
「ぬわっ、バカな!」
「けっ、さすがに重……うおおおぉぉぉぉぉッ!」
腰を使って、加藤は甲冑を豪快に投げ飛ばす。
「落、落ち──ッ!」
窓から外へ、鉄の塊が飛び出した。
墜落を知らせる鈍い音が響く。
不幸にも、木にも茂みにも一切引っかからなかったらしい。もっとも、あの重さでは引
っかかったところでさほどブレーキにはなるまいが。
「平地だったら、俺にはてめぇを倒す手段はなかった。だが、高所なら突き落とすって手
がある。城(ここ)を戦場にしたのは失敗だったな」
地面でうずくまっている甲冑を、窓から見下ろす加藤。
だが、たかが三階から落ちたくらいで死ぬほど、試練はやわではない。ふらつきながら
も甲冑は立ち上がった。鎧で固めていた分、ダメージは大きい。
「ちっ、まだ動けるのか。さて今度はどうするか……」
窓辺で加藤が思案にくれていると、後ろから黄色い声が飛んできた。
「先輩ッ!」
「えっ」
「あれを、あれを押してください!」
井上は顎で、部屋の片隅にある机を指し示した。
一方、下に落ちた甲冑は入城に移る。今度こそ、抜かりなく加藤を殺すために。
「くそぉ、首を痛めてしまった。こうなれば、あの女を人質にしてでも殺す」
首を手で押さえ、ぶつぶつと策を練りながら、門に入る。すると、恐るべき災厄が到来
した。
天井からは、硫酸が──。
壁からは、矢が──。
一斉に射出される。
「ま、まさかっ! あの女っ!」
城中に、いや島中に、下手くそなバイオリン演奏にも似た狂声が響き渡った。
甲冑が再び最上階へ辿り着くことはなかった。
縄を解かれ、ようやく井上は自由の身となった。
「先輩……。ありがとうございます」
「いや、礼を言われる筋合いなんざねぇ。俺がもっと強ければ、浜辺で出会った時点でヤ
ロウをぶちのめせたはずだ。もう少しで危険な目にあわすところだった」
純粋な実力では勝てなかった。自らの情けなさを恥じ、うつむく加藤。とっさに井上が
フォローを加える。
「でも、すごいですよ」
「なにがだ」
「毒を塗った武器にも引っかかりませんでしたし、罠も見破ってあえて門から入りません
でしたし」
「おいおい、なんのことだ。俺は全然知らねぇぞ」
「えっ……」
井上は説明した。
甲冑が使えと促した武器には、猛毒が塗られていたこと。また、もし城に堂々と門から
入っていれば罠が作動し、まちがいなく命はなかったこと。
終始、これらを平然とした様子で聞いていた加藤だが、内心では青ざめていた。
一度は甲冑を倒すために武器を手に取ろうとしたし、門から入らなかったのも単に彼が
ひねくれていたからに過ぎない。
捻じ曲がった性分が、かえって身を救うことになろうとは……。
「世の中、分からねぇもんだな」
自然と、どこか親父臭い台詞が口から出てきた。
ただし、釈然としない点もあった。
罠を発動させる机は消えた。甲冑剣士も消えていた。彼が無数に浴びたであろう矢と硫
酸も消えていた。浜辺に戻って調べると、毒が塗られていたという武器もやはり消えてい
た。
甲冑が倒れたため、彼に関連する物品もまた運命をともにしたのだろう。
──ただひとつ、無人となった城を除いて。
これまで、倒した試練と持ち物は跡形も残ってはいない。
ならばなぜ、城は消えないのか。城は特別なのだろうか。それとも──。
「まだ終わっちゃいねぇのか……」
不吉な予感が頭をよぎった。
十三日目終了。
うんこや小噺に負けないよう、こちらも頑張ります。
>>353 分析、ありがとうございます。
アレの影響かなぁ〜と、思い当たる節があります。
鮮やかな機転を利かせた加藤、しっかり罠を使わせる井上、共に最高。
自分の仕掛けた罠で刻命館やってる甲冑に合掌(w`
そしてマッスルタワーはまだ残ってるのか・・・次は一体何が来るのか?
サナダムシさん、今日は昼に出現してる!
深夜1時過ぎに現れるとばかり思ってたw
甲冑タフ杉w 3階から何キロの装備背負って落ちたんだよw
やり方は小細工に走ってセコいけどw
しかし加藤は紳士的ですね、意外に女性に対しては…
普通の女なら惚れるでしょう。バキ世界は異常だからわからんけど
>>288 犬一号の言葉に、D=アーネの顔色が変わった。
「くっ……くううぅぅっ!」
無力さ無念さに涙を流し歯を食いしばってD=アーネは、処轟鬼は立ち上がった。
畳んでいたために破損を免れた翼を広げ、まだ立ち込めている爆煙と砂煙の中で
大きく羽ばたかせる。
「ビビッ!?」
風が渦を巻き、処轟鬼にトドメを刺そうとしていたプラズマXの視界を厚く遮る。その
隙に、処轟鬼は垂直に飛び上がった。煙幕に紛れ、プラズマXからも工事現場の人々
からも姿を隠したまま、上空に到達。そこから空を翔け、海辺へと戻っていく。
が、この時。少し離れた場所にいた為に煙幕に巻き込まれなかった男が一人、しっかり
と処轟鬼を目で追っていた。先ほど処轟鬼の両肘両膝を撃ち抜いた、射撃の達人である。
「まだ動けるのか。一体どこのテロ組織の新兵器……っと、言ってる場合じゃないな」
スーツ姿にロングヘア、凛々しい目をしたこの青年の名はアーサー。流れるような
動作で拳銃を懐に収め、傍らに停めていた車に乗り込むと、処轟鬼を追いかけた。
「宇宙局からの依頼で工事の進展を見に来てみれば、とんでもないのに出くわしたな。
どこのどいつか知らないが、何とか生かして捕らえて、背後関係を白状させないと」
アーサーはアクセルを踏み込み、処轟鬼を見失うことなく海辺へと車を走らせる。
やがて処轟鬼は、人目を憚るように砂浜を避け、岩場の方へとふらふら向かっていった。
着陸、いや墜落しそうなのを確認したアーサーは車を停めて降り、銃を手にする。直後、
爆音と共に見事な火柱が立った。人気のない岩場の隅、一際大きな岩の向こうだ。
「まずいな。今の様子じゃパイロット、死んだか? 生きてて欲しいところだが」
アーサーは銃に弾を補充してから、静かに近づいていった。
「くっそおおおおぉぉっ!」
半分がた焦げたスクール水着姿のD=アーネが、地面を殴りつけた。拳が裂けて
血が滲むが、そんなのは胸を焼き焦がしている悔しさに比べたら何でもない。
パステリオンに勝てないからと、作戦上一時的にとはいえ外国に逃げて。だがそこでも、
パステリオン同様の「正義の味方」に完敗してしまった。これが悪夢でなくて何だ?
自己嫌悪な悔し涙に濡れて悶絶しているD=アーネに、駆けつけた犬一号が話しかけた。
「あの、D=アーネ様。最初にも言いましたが、徹夜で太平洋横断した直後にあんな
大物を操縦して戦うことが、そもそも無謀だったんです。実力負けではありませんよ」
正論である。
「ですから、ね。一度帰りましょう。体勢を立て直してから、また別の国を狙えば」
「……そうやって、いつまでもいつまでも逃げ回っていろというのか!」
立ち上がり、立ちくらみを起こし、でも踏ん張って、D=アーネは手を振り上げた。
虚空からどくろステッキを取り出して、残っている僅かな魔力を振り絞る。
「轟魔力招来! 破軍天破の黒天使っっ!」
ステッキから溢れ出した黒い光がD=アーネを包み込み、瞬時にしてそれは堕天使を
思わせる漆黒の衣として実体化した。まだまだ発育途上のほっそりとした身体の線を
浮かび上がらせるそれは、D=アーネの戦闘用魔法装束である。
「よし……まだやれる。というわけで、今からこの国の首都を攻撃しに行って来る」
「って、いい加減にして下さいっ! そんな状態で何ができるっていうんです!」
D=アーネの前に犬一号が立ちはだかった。がD=アーネは完全に無視して歩いていく。
「時間がないんだ。猶予がないんだ。私には……陛下の病が……だから地球を……」
「D=アーネ様、D=アーネ様! しっかりして下さい! D=アーネ様ってば!」
体力と魔力の消耗、精神と肉体の疲労の蓄積。それらがピークに達したらしく、もう
今のD=アーネは半ば正気を失っているらしい。ぶつぶつ言いながらずかずか
歩いて……突然、魔法装束が消えてスクール水着に戻った、と思ったら
スクール水着が消えて寝間着に戻った。手にしていたどくろステッキも消えた。
D=アーネの魔力が、完全に尽き果てたのだ。
「……ぅ……」
不自然なほど力強く歩いていたD=アーネが、ぷつりと糸が切れたように、全身の力を
意識ごと失った。爪先から順に上へ、まるでドミノ倒しのように筋肉が弛緩していき、
引力に逆らうすべを失って地面へ……
「おっ、と」
倒れかけたD=アーネを、岩の向こうから現れた青年が受け止めた。白く長い髪に
白いスーツ姿で、D=アーネを抱き支えるその手には黒光りする拳銃が握られている。
犬一号が叫びかけて、口をつぐんだ。地球の犬は喋れない。喋れば怪しまれてしまう。
だが、それはもう手遅れだった。青年、アーサーは見てしまったのだ。この幼い少女が、
先ほどの人型兵器のパイロットなのか? という疑問さえも吹き飛ばす光景を。
『こ、この目で、確かに見た。この子はステッキの一振りで服を変化させた……まるで
魔法みたいに。いや、絶対に魔法だ。魔法に違いない。そうに決まってる』
アーサーは確信し、D=アーネを抱くその手に力を込めた。
『だ、だって、ステッキの一振りで少女の服が変わる、だぞ? これはもう世界中の
同好の士が究極の理想と掲げる、アレに違いない。ジャパニメーションの生んだ至宝、
美少女の中の美少女ともいえる存在、そう、あの有名な、【魔法少女】っっっっ!』
気を失ったD=アーネを見つめるアーサーの目が血走り、鼻息が荒くなっている。
犬一号はというとD=アーネの指示もなく滅多なことはできず、ただおろおろ。
『な、何なんだこの男は!? あぁもうどーすれば……D=アーネ様、早く気づいて!』
射撃も格闘も超人的な腕前を誇る、米国中央情報局CIAのトップエージェントにして、
懲りぬ・繰り返す・反省せぬの三拍子揃った重度重症泥沼ロリコン。
そんな彼の名は、アーサー。アーサー=ヒューイット。
原作で彼を血迷わせた美少……美幼女たちと比べると、D=アーネぐらいの体型だと
もうストライクゾーン外って気もしないでもないですが。属性ゆえにということで。
それはそうとブラックユーモアにギャグにヒーローもの。今、サナダムシさんが凄いっ!
>>サマサさん
手塚、期待に違わぬムチャクチャな強さでしたな。しかし数多くのSSである意味無敵な
彼が……もはや逆勇次郎。でムスカは的確に原作通りでしたね。やることのスケールは
大きいけど本人の性根はあくまで小悪党。古典的素直な逆転劇が、何だか似合ってました。
>>スターダストさん
スプラッターつきトリックバトルから軽いギャグ&ほのぼのを経て、開幕当初のミステリ
風に復帰かと思ったら弁当アイディア。魅力が広いですねぇ本作は。本人たちの心の内は
どうあれ見てて微笑ましいこの二人、恋愛は芽生えないと言われても期待してしまいます。
>>サナダムシさん(先日、熟睡中に本棚倒壊直撃しました。下半身だったので命拾い……)
裏切り者
彼女への嫉妬だけでなく、売り飛ばされようとしたことへの復讐、も含んでるのが深い
ですな。古い付き合いの親友を、女と金に魅せられて裏切った男の末路か……恐ろしひ。
ハンドパワー
いや、真面目に便利だと思いますよこの機能。こういう使い方もあったとは。でも致命的
欠陥もあったと。排泄後の気の緩みとトイレ側にも目を創らなかったのが惨劇の原因か。
やさぐれ獅子
敵の用意した舞台で地の利を活かす知略。それを実行できる実力。罠をかわす天然。敵が
井上に罠を説明していた幸運。そして救出した捕らわれの姫君。完璧すぎるぞ加藤っっ!
>>邪神さん
アミバに敗北のみならず、掴まって拷問風実験されるケンシロウとは。本当に、カケラも
想像してなかった映像が浮かびましたぞ。反面、逆襲への経緯は非常に彼らしかったです。
しかしセオリー通りにいくなら、次のアミバの切り札でまた敗れそうな気配。どうなる?
>>見てた人さん
理沙の死亡フラグは既に立っていましたから、今回は意外性ではなく、期待してた展開が
ズバリと来た心地良さです。scene26、うむうむと頷きながら読み進めましたよ。そして、
>ゲーム脱落者には……優先的な、死の制裁……!
待ってました! ただの殺人事件ではなく勝負・ゲームだからこその展開、恐怖、緊張感!
>>へうげものさん
擬音の多用はラノベでは珍しくないですが、こういう風に地の文に混じってるのはあまり
見ませんね。音が耳でなく、頭に聞こえる印象でした。いろんな意味で普通ではない南蛮人
たち相手でも、相変わらず問答無用無敵な勇次郎は流石。黒フンドシ、案外似合ってそう。
368 :
作者の都合により名無しです:2006/02/17(金) 21:35:05 ID:davgNqT50
サナダさんが昼に活動するとは確かに珍しい気がする。
俺も深夜の人だと思ってた。
加藤がマジで白馬の騎士、井上さんがお姫様みたいですな
ただ、汗臭いバキ物では絶対にラブストーリーにはならなそう。
なってもSAGAとか困るしw
ふらーりさん、SSに感想にとすごいなあ。
書いた感想だけで軽く長編カテゴリの量になるんだろうな。凄い。
SSも相変わらずマニアックで素敵だ。
ロリコンヒューイットキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
本来の彼のストライクゾーンはすーちゃんだと思うがww
370 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:27:35 ID:d84lO5ES0
〜前回までのあらすじ〜
ともかく、ギニュー達が修行しているまでに至る回想です。
注:今回は自由な文体にしてみたので、文章は常に武者小路実篤みたいのじゃないと認めない!!
という方は読むのを遠慮してください。
371 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:29:56 ID:d84lO5ES0
<ギニュー編・その4-(1)>
〜クレープ基地・ギニューの部屋〜
どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずり。
気持ちぐらい太陽にさらされた惑星フリーザに住む人々は、
今日も精一杯仕事をしているようである。
―――――この男を除いて。
「ジャ・ジャ・ジャ・ジャ〜〜〜ンプ!HIP HOP ジャ〜〜ンプ!!」
やたらと機嫌の良い声と共に、ギニューは自分の部屋の扉を開ける。
どうやら生ゴミ置き場にあった、ヤムチャの遺品であるジャンプを貰ってひどくご機嫌のようだ。
「さあ!!我がジャンプよ!!今週も俺をメルヘンの世界へいざなってくれ!!!」
ジャンプにメルヘン漫画なんてあったかどうかは知らないが、
ギニューがジャンプを死ぬほど楽しみにしていたのは間違いないだろう。
何しろ部屋の扉が閉まるよりも早くベットの中に潜り込んだ上に、
次のページの展開に胸を躍らせて、足をじたばたさせているぐらいなのだから。
―――――数分後・・・。
「うを〜〜〜!!今週もブリーフは面白いなあ〜。さすがの紐パンも、染みパンには勝てないか〜。」
満面の笑みを浮かべながら、今週の『ブリーフ』に舌鼓を打つギニュー。
一見、中二病にかかった人間の脳内で作り出した戯言に聞こえるが、
これが今やジャンプで1・2を争う人気漫画『ブリーフ』の実態である。
372 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:30:27 ID:d84lO5ES0
『注:ブリーフという漫画は、主人公がブリーフを全世界に普及するために、
全裸で世界のお偉いがたをパンツを使って撲殺していく、SFインフレ格闘ラブコメ王道漫画です。
決して、幽霊とか死神とかが、矛盾という旗の下に迷走するインフレ漫画ではありません。』
「これは名言だよな〜。『トランクスが怖くて、戦争なんかやってられるか〜!!あ〜、キッチョムキッチョム!!』
死ぬ前に一度は言ってみたいわ〜。それに卍解もカッコいいし・・・。」
ギニューはそう言うと、おもむろに立ち上がって戦闘服を脱ぎ始める。
「ん・・・。少しもらしているな・・。まあ、いいか!!」
そして、さらにギニューは戦闘服の下に”はいていた”ブリーフを脱いで本格的な全裸になると、
今度は徐にブリーフをかぶって狼の如くこう咆えた!!
「霜天に坐せ!!マイ・ブリ〜〜〜〜〜〜〜ッフ!!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
373 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:31:20 ID:d84lO5ES0
「ふう・・・。やっぱり無理だったか・・・。ふっ・・。分かっていたさ、”無駄”だって事・・。」
漫画内のことは現実で出来ないことを悟り、愕然とする”全裸”のギニュー。
しかし、世の中無駄という文字は決して無い。
無駄遣い・無駄骨・・・・etc
これらのように、無駄という単語を使った表現は幾らでもあるが、
それはあくまで主観的な意見に過ぎない。
無駄遣いだって、お金を払われた方は収入が増えるわけだし、
無駄骨だって、それまでの労力がカロリーとして消費されている。
そう!こういう風にみれば、世の中には無駄は無いのだ!!
だから、今回のギニューの迷走も・・・・。
―――――コンコン!!
ギニューの部屋の扉をノックする音。
自分のブリーフが卍解出来ない事に落ち込んでいた”全裸”のギニューは、
その音のおかげで”はっ”と我に返る。
(や、やばい・・、俺は今・・・。)
受験の当日遅刻した落第生の如く、冷や汗を垂らしながら焦り始めるギニュー。
当たり前である。なにしろ全裸なのだから。
「隊長〜〜!仰せの通り、星になったリクーム以外全員集めておきました!!入りますよ〜〜。」
「ええ〜〜っ!!ちょ、ちょっと待ってくれジースゥゥゥゥ!!俺は今・・・・。」
―――――どこからともなく声が聞こえる。
374 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:32:12 ID:UVGZ2GSB0
『さてここでクイズの時間です。』
Q:「俺は今・・・・。」の続きは一体なんでしょう〜〜〜か?
1:超決まっているタキシード姿だから入ってきていいよ。
2:いつでもイケルゼ!!戦闘服姿だから入ってきていいよ。
3:全裸だから入ってきていいよ。
『さあ?挑戦者のギニューさん。お答えの方をどうぞ!!――――答えは無いけど。』
375 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:42:00 ID:UVGZ2GSB0
「えっ、さ、三番のぜ・・・・。」
ギニューがそれ以上を言い終えようとするや否や、”空気が抜ける音”がギニューの部屋を支配する。
そう、全ては遅かったのだ・・・。
「隊長。一応、手分けして面接の後片付けをしておきました。
後、今後の方針について何かお話があるという事ですが・・・・・。」
ジースにとって、無造作に向けた視線の先に待っているのは、いつもの隊長のはずだった・・。
―――――しかし・・・。
(お、俺は夢でも見ているのか・・?あの・・、あの隊長が・・!!)
想像とあまりにかけ離れた光景に、ジースの体は本能的に固まり、視点がある一点に集約される。
否、ジースだけではない。
ジースの後ろにいるバータやグルドも同じ反応、同じ視点になっていた。
それもそのはず、なぜならギニューは・・・・、尊敬していた隊長は、
染みパンを頭にかぶった――――――唯の全裸マンになっていたのだから。
(や、やばい・・。これでは隊長としての威厳が・・。)
そして、そんな隊員たちの反応を非常にまずいと思ったギニューは、
とっさにこの場を取り繕う為の嘘――もとい言い訳を考え始める。
(どうすれば・・。ともかく、この場を乗り切る完璧な言い訳を考えなければ・・・。
紫色の脳細胞を持つ俺の名に懸けて!!)
『紫色なら腐ってるじゃん!!』とか、そういう突っ込みはさておいて、
ここでちょっと、ギニューの紫色の脳細胞が編み出した、”0.00000000001秒”単位で
発せられる”今週の言い訳コーナー”から様々な引き出しを見てみよう!!
376 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:42:38 ID:UVGZ2GSB0
(『今週の伊藤家でやってたんだよ!!普段からパンツin全裸で森林浴をすれば健康に良いって!!』
う〜む・・。説得力に欠けるな・・・。)
―――――0.00001秒後・・・。
(『あ、あれ!!腹をすかした森久美子に服を食われて、仕方が無く・・・。』
やばい!!森久美子だったら俺ごと食われてるじゃないか!!)
―――――0.0001秒後・・・。
(『いやあ・・、この前のスノーボードで腰を打ってね。』
違う!!俺はラップなんぞ歌えないし、兄もいない!!それに国民的行事でもない!!)
―――――0.001秒後・・・。
(『右手で棒を甘握り〜♪それでも力一杯スゥイング!! スポッと飛んでくその棒が 五回に一回悪を討つ〜♪
今日もまたがるアメフラシ、いたずら半分握ったら〜♪ビュファービュファー種噴霧〜♪もっこす将軍〜♪』
はっ!!余りの緊迫した状況に精神状態が!!)
―――――そして、0.1秒後・・・。
377 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:43:30 ID:UVGZ2GSB0
(い、色々変な電波が入ってきたが、こ、これなら・・・!!!いけるはずだ!!!)
脳内でかなりの紆余曲折があったようだが、どうやらギニューは、なんとか0.1秒という微小時間で、
全裸でパンツをかぶっていたのを見られても、全く尊厳を失われない言い訳を導き出せたようだ。
果たして、『紫色の脳細胞』が導き出した必殺の言い訳とは・・・?
「あ〜、これは・・・。そう!!今度出る予定のSASUKEの練習かな?」
「「「嘘つけぇぇぇ〜〜〜〜い!!!」」」
どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずり。
気持ちぐらい太陽にさらされた惑星フリーザに住む人々は、
今日も精一杯仕事をしているようである。
―――――この男”達”を除いて。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
むらかみ?
379 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:45:00 ID:UVGZ2GSB0
<ギニュー編・その4-(2)>
〜クレープ基地・ギニューの部屋〜
ギニューの言い訳が軽く流された後、特戦隊の面々は重い沈黙の中で、
小さな円形のテーブルの周りに座り始める。
先程ジースが言っていた通り、今後の方針について何か話すようだが・・・。
「え〜。ご、ゴホン!!」
遂にこの沈黙に耐えかねたのか、先程の騒ぎの張本人が重々しく口を開ける。
「あ〜、ところで君達を呼んだのは他でもない。
我々ギニュー特戦隊が、”今よりも更に目立つため”に必要なものが、
先程の面接試験の概要を聞いたおかげで閃いてな。今日から、それを実践しようと思う。」
「なんだか急展開ですね・・。まあ、これ以上引き伸ばしても仕方が無いですし・・。
で、隊長。我々ギニュー特戦隊が今よりも目立つために必要なものとは一体何なのです?」
ジースはとりあえずはこの急展開に納得すると、ギニューの言っている
『今よりも更に目立つために必要なモノ』の詳細を聞こうとする。
380 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:45:52 ID:rVmGBzNn0
「うむ。それはな・・・・。」
「「「そ、それは・・・・?」」」
ギニューの方を一斉に注目する一同。
「ふふふ・・・。それはな・・・・・、これだあああ〜〜〜!!!!」
ギニューはここぞとばかりに一気に全戦闘力を解放しながら、
テーブルの中央に”ある書物”を勢い良く叩きつける。
ドンッ!!!!
「う、うわ!危ないじゃないですか・・・って、これは・・・!!」
「ふふふふふ・・・。驚いただろう。唯、趣味で読んでいた訳ではないぞ!!」
ギニューが全戦闘力を解放してまで皆に見せたかったもの・・・、それは・・。
「「「じゃ、ジャンプ〜〜〜?」」」
そう、ギニュー特戦隊が今よりも目立つために必要なもの。
それはなんと――――――――ジャンプ(今週号)だった!!
――――――――――――――――――――――――――――
381 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:46:30 ID:rVmGBzNn0
<ギニュー編・その4-(3)>
〜クレープ基地・ギニューの部屋〜
「じゃ、ジャンプですか・・・?これが我が隊がこれ以上目立つために必要になると・・?」
「ん・・・?なんだグルド。不満そうな顔をしているな?」
あからさまに不満そうな顔をしているグルドを見て、彼以上の不満顔になるギニュー。
「だっ、だってそうですよ!!ジャンプからどこをどうしたら、これ以上目立てるための方法が書いてあると言うんですか?
それに、そもそも我々はこれ以上目立つ必要も無いんじゃないんですか?
かっこいいポーズもありますし・・・・。」
さすがは特戦隊の良心。
グルドは的確で最もな意見をギニューに対して返す。
しかし、そんな最もな意見を聞きながらもギニューは、其の意見に同意しようとはしない。
どうやら彼は、これ以上隊の面々が『”目立たないといけない理由”』を知っているみたいだ。
「そうか・・、やはりそう言うか・・・。しかし!!其の意見はこれを見てから言えるかな?」
不敵な笑顔と少しの哀愁を漂わせながら、ギニューは先程取り出したジャンプ(今週号)とは
”別のジャンプ”をテーブルの下から取り出し、”あるページ”をいまいち納得の一定無い顔をしている
グルド達に向かって、まざまざと見せ付けた!!!
「これを〜〜〜〜ぉぉ、見てみろ!!」
「「「こ、これは・・・・!!!そんな・・・・。」」」
”それ”を見た瞬間、一気にしてに頬の筋肉が引き締まる隊員達。
―――――果たして、ジャンプに興味の無い隊員達さえ緊張させた”あるページ”とは・・・・・。
382 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:50:41 ID:rVmGBzNn0
第9回ドラゴンボール人気投票
1位:孫悟空
2位:孫御飯
3位:フリーザ
4位:”ジース”
・・・・etc
未投票:イエロー大佐
他のギニュー特戦隊
スノー
383 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:51:13 ID:rVmGBzNn0
それは地球&惑星フリーザの人たちが選ぶ、ドラゴンボールの人気投票だった・・。
「お、俺の名前がどこにも無い・・・。」
余りの現実に呆然とするバータ。
「あ、あんまりだ・・・。他のギニュー特戦隊で括られている・・・。」
非道な読者の投票に半泣きのグルド。
「あ、4位だ。ラッキー!!・・・・・。はっ!!つい口が!!!」
「「「って、お前は死ねえええ〜〜〜〜い!!!!」」」
ピキーン!!グワシャラドカ〜〜〜〜〜〜ン!!!!
「う、ぅギャアアああああああああああ!!!!!」」
口は災いの元。
グルドの金縛りからパープルコメント&戦闘力12万のエネルギー波という必殺コンボの直撃を受けた
ジースはギャグ漫画のようなドップラー効果と共に、ゆっくりとこの星を離れていく。
どうやら彼はリクームと同じく、宇宙のどこかに美しく輝く一輪の星になったようだ。
「「「成敗!!!」」」
全く打ち合わせもしていないのに、とっさにいつもの決めポーズが決まる三人。
「さて・・、邪魔者は消えたところで隊長・・・。」
今朝のリクーム(バータ&リクーム編)とは違い、バータはジースには何のエールも送らずに
ギニューの方へあっさりときびつを返す。
何故か、全てが吹っ切れたような顔をしているのは見間違いだろうか?
384 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:52:25 ID:rVmGBzNn0
「うむ・・・。由々しき事態だろう・・。しかし!!安心しろ!!
先程も言ったとおり、この問題は既に解決している!!」
「おおお〜〜〜!!!!!流石は隊長!!其処に痺れる憧れる〜〜!!
して、その解決策とは!!やはり最初に見せてくれたジャンプ(今週号)に?」
ギニューの言葉にバータとグルドは、先程のジースに見せたのと180度違う態度――――
崇め奉るような視線と表情をギニューに送りながら、その内容を尋ねる。
「うむ!!最初にお前達に見せた、このジャンプの中に連載されている”とある漫画”に全てが書いてある!!」
「「はい、 その漫画とは一体?」」
ギニューは、二人の態度にとても満足しながら、先程のパンツin全裸の件は完全にうやむやになったのを確認しながら、
恐らく今世紀――――いや、この宇宙が消滅するまで最初で最後になるほどの、トンデモ理論を話し始めた!!
「俺等がこれ以上目立つため方法の全ては!!この”ブリーフ”に書いてあったんだよ!!!」
「「な、なんだって〜〜!!!」」
――――― 一瞬、バータとグルドの顔がアスキーアート化された気がした・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――
385 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:54:10 ID:HdP/Jhn60
<ギニュー編・その4-(4)>
〜クレープ基地・ギニューの部屋〜
「ほう、いいリアクションだな。それならこっちも、説明しがいがあるというものだ。」
そう言ってギニューは、先程の勢いとは打って変わって淡々と、特戦隊が今よりも更に目立つために
取らなくてはいけない方法を、ジャンプに連載しているブリーフを軸として説明し始める。
―――――数分後・・・・。
「ほ、本当にやるんですか・・?それ・・・。しかも、そのために修行するなんて・・。」
「そうですよ・・。それにそれだと、戦闘中に支障がでるような・・・。」
ギニューの説明を聞き終わるや否や、不信感丸出しになる二人。
どうやら、”今よりも更に目立つための方法”の内容が原因らしいが・・。
「隊長・・・。他の方法を考えませんか?どう考えても、戦闘中に口上を言いながら戦うなんて無理ですよ!!」
そう、ギニューが先程からしつこく言っていた、”今よりも更に目立つために取る方法”とは、
戦闘前・戦闘中・戦闘後の口上の取得――――――つまり、ポイントポイントでの”決め台詞”の取得と言うのだ。
『注:戦闘の口上とは、何かを行う前に何か決め台詞を言ったり、必殺技を撃つ時に
必殺技名以外に呪文みたいのを叫ぶ事を言う。
例:ブリーチの斬魂刀の解放時の台詞や鬼道を唱える時の呪文・スレイヤーズの呪文・戦隊者の自己紹介etc・・・。』
386 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 04:56:43 ID:HdP/Jhn60
大体コンマ一秒が命取りになる世界で、わざわざ口上を垂れて攻撃する馬鹿などいない。
せいぜい技を放つ瞬間に、その技名を叫ぶのが限界だろう。
バータやグルドが反対するのは無理も無いと言える。
しかしギニューは、『そんな問題は俺が3時間前に通過した場所だ!!』と言わんばかりの
確信めいた目で、隊員達に驚くべき台詞を言った。
「安心しろ!!俺に1つ心当たりがある!!その人のところへ行けば、
口上を言い終わるまで攻撃どころか姿すら発見されんぞ!!」
「えっ・・。本当ですか・・・?心配・・・。」
「俺を信用しろ!!大丈夫だ!!ほら!とりあえずはミルコ殿の所に外泊許可を取りに行くぞ!!
一応、修行といえど休暇になるからな。」
不安要素がありすぎて肌の色が青から赤に変わりそうなバータやグルドを尻目に、
幼稚園児が遠足にいくのを待ちきれないかのような勢いで、部屋から出て行くギニューなのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
387 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 05:09:20 ID:HdP/Jhn60
どうも深夜にしぇきです。
久しぶりか、思うように文章がかけていないは勘弁してください。
色々言葉足らずなところがありますが・・・。
口上を一言で説明するならば、
『天が叫ぶ!地が咆える!!お前を倒せと〜が咆える!!』
みたいなものです。
大体人気漫画の中にはこういったものがあったりなかったり・・。
>前回レスをくれた方々。ありがとうございます。
>サマサさん
ヤムチャが遂に役に立って・・・。ああ、やっぱりヤムチャはヤムチャですか。
ムスカもある意味へたれキャラw目が〜〜!目が〜〜!!の台詞も言って欲しかった。
>サナダムシさん
みかんが食べたくなるうんこでした。
二人が妖怪にならなかったら、こういう光景もあったかも。
>へうげものさん
グランバカンとバキしか詳しく分からないけど、
勇次郎が勇次郎らしくて良かったです。
歴史モノと勇次郎を混ぜると面白くなりそう。
おお、しぇきさんお久しぶりのフリーザ野球軍ですね。
リアルタイムで読んでました。お疲れ様です。
相変わらず地球の茶の間っぽい設定ですな。ほのぼの感が漂ってます。
ギニューはリーダらしくなくてバータたち迷惑だなあ。
仮にも宇宙1のエリート部隊の隊長なのにw
389 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/18(土) 05:28:35 ID:HdP/Jhn60
>邪神さん
ああ、北斗の拳後のケンシロウなのですね。
てっきり、これから成長していくものだと思ってたw
アミバも最後はアミバらしく・・、って、やっぱり何か奥の手があったのですね。
古き悪役の王道を地で行くアミバがいい味を出してますね。空の帝王ってなんだろう・・。
>サナダムシさん
ひねくれて正面から行かないのが、初期の加藤っぽくて好きです。
いまだと、解説役とかやられ役にしかならないから余計に・・。
ドリアン戦は別ですが・・。(やられ役には変わらないけど)
>スターダストさん
やばい・・、着歌からのアイキャッチ風の流れにやられました。
ごちそうさまでした。
ひたすら無愛想を地で行く根来に、やっぱりクールビュティーな千歳。
原作の絵にするとひたすら地味なのに、文章では圧倒的な存在感。
文章という媒体がやけに良く感じた瞬間でした。
>見てた人さん
ここからが本番なのですね。
推理で捕まるのではなく、殺人現場を押さえられてどうなるか・・?
という展開のような気がします。
どちらにしても、超高度な心理合戦が楽しめそうです。
>ふら〜りさん
ロリコンは犯罪ではありません。
唯、ちょっと母性が人より強すぎる結果がそう見えるだけだと思いますから、
アーサーにはがんばってもらわないと!!(ナニ?)
まあ、結果は火を見るより明らかですが・・。
では失礼・・。
第五十六話「超機神爆誕!」
「―――アザミが、生きてるだって・・・?」
のび太たちは目を大きく見開いた。
―――ここはアークエンジェルのブリッジ。
未だ戻ってこないムウと、ザンダクロスの改造作業を続けているバカ王子を除いて全員が合流し、健闘を称えあったあとに
それぞれ報告を行っていたのだ。
その中でアザミの名前が出ようとは、のび太たちは思ってもいなかった。しかも、生きている、とは・・・。
「俺も信じられないけどな・・・シュウの奴がそう言ってたんだ」
ポゼッションの後遺症で、未だに顔色が悪い稟がそう言った。しずかがぽつりと呟く。
「生きてるのなら・・・また、あたしたちの前に現れるのかしら・・・」
「・・・俺はその女のことを知らないからどうも言えないが、今の時点であれこれ考えても仕方ないだろう」
そう返したクラフトに、マサキも相槌を打つ。
<そうだな。とりあえず戦闘も一段落したんだし、ムウさんが帰ってきたら島に戻ろうぜ>
「そうね・・・」
その時だった。
<―――そうは問屋が卸さんぞ、ガキ共が>
「え―――!?何、この声!?」
キョロキョロと辺りを見回す一同を嘲笑うかのように、謎の声は続く。まるでノイズがかかったような不明瞭な声だった。
<ククク・・・ネオラピュタは、まだ滅びん・・・見よ!>
一同はネオラピュタに注目する。それは崩壊が止まり、まるで生物のように不気味に蠢く。
「な・・・!?」
ネオラピュタは見る見るうちに要塞の形を為さなくなる。モゾモゾと何かが突き出す。それは、巨大な両腕だった。そして
天辺からは悪魔のような意匠を象った頭部が作られた。
「ひ、人型になった・・・!?」
「一体、これはどうしたっていうんだ!?」
<はっはっは・・・驚いたかね?>
声がはっきりしたものに変わる。そしてその声は、誰あろう、ムスカの声だった。
「そんな・・・生きてたのか、ムスカ!」
<死ぬかと思ったがね。彼のおかげで何とか生き延びれたよ>
「彼?」
<ククククク・・・わたしだ。忘れたか?>
「―――!アンゴルモアか!」
<そう・・・我らは融合し、新たなる生命体となった。ムスカの絶大な邪悪さと我が超能力を合わせ持つ、融合生物―――
そうだな、アンゴルムスカとでも言おうか?>
「ア・・・アンゴルムスカ!?」
<クッククク・・・貴様らも今までの戦いで相当疲弊しているはず。果たして、我らを倒せるかな?>
「くそっ、疲れたところを狙おうってのかよ!なんて根性腐ってんだ!」
ジャイアンが激昂するが、アンゴルムスカは鼻で笑う。
<それの何が悪い?敵の隙を狙うのは戦いの基本ではないかね?さて、もう少し楽しませてやろうか―――>
ネオラピュタから一斉にロボット兵が飛び出してくる。これまでにないほどの数だ。
「ま、まだあんなに兵力を残してたのか・・・」
<さあ、始めようか?君たちの最期の刻だ。精々悔やみたまえよ。はーはっはっは!>
「ムッキーーー!なんて嫌な奴だ!こうなったら俺が奴を宇宙(そら)の塵にしてやるしかないじゃないか!それはもう
世紀末な悪党も震え上がるほど惨たらしく屠ってやる!全ては青き清浄なる世界のために!」
「しゅ、主人公側の人間の発言じゃねえ・・・」
アスランのあんまりな発言に、稟は更に顔色を悪くしてしまった。
「うおおおおおぉぉぉっ!ここで大活躍して、アスラン株を大沸騰させてやる!」
「あ、待ってよアスラン!一人じゃ無理だ!」
キラも慌てて追いかけていく。
「よし、スネ夫、しずかちゃん。おれたちも・・・」
「いや、待て」
クラフトが飛び出そうとするジャイアンを静止する。
「ドムトルーパーはSフリーダムや∞ジャスティスのように永久稼動できるエネルギーはない。既に稼動限界がきている
はずだ。そんなので出て行ったら、すぐに落ちてしまうぞ」
「何だって!?くそぉっ、こんな時に戦えないのかよ・・・!」
ジャイアンは地団駄を踏む。
「アヌビスも、USDマンとの戦いで全身にガタが来ている・・・今すぐには出られない・・・!」
ペコも絶望的な表情で唇を噛み締める。
<稟たちは、ポゼッションで疲れきってる。こんなんじゃ、サイバスターを動かすことさえできねえ・・・>
「くっ・・・結局出られるのはキラとアスランだけか。まずいな、あの二人だけでは・・・」
クラフトが緊迫感に拳を握り締めた時だった。ブリッジのドアが勢いよく開き、バカ王子が姿を見せた。
「ふふ・・・話は聞かせてもらったよ。状況は悪いようだね」
「王子!そんな余裕をこいてる場合か!?」
クラフトの怒号にも、バカ王子はにっと笑うばかり。
「余裕をこいてる場合じゃないからこそ来たんだよ。いい知らせを持ってね」
「いい知らせ?何だ、それは」
そして、彼は告げた。
「―――新型ザンダクロスさ。ついに完成したよ」
―――のび太、ドラえもん、リルルが連れて行かれたのは、巨大な空間だった。格納庫と同じくらいの大きさはあるだろうか?
そしてそこに佇む、巨大な影・・・。
バカ王子がパチンと指を鳴らすと、ライトがその全身を照らし出した。
基本的なボディラインはザンダクロスのままだが、細部は大きく異なっている。
黒や赤、金色、銀色をセンスよく組み合わせたカラーリングの装甲に、何の用途に使うのか、首には赤くてやたら長いスカーフ。
風もないのにひらひらとたなびいているのが、やけにかっこいい。
そして腹には四次元ポケット。どうやらこの辺りもザンダクロスを踏襲してくれているようだ。
腰には立派な鞘が取り付けられ、その中には<デモンベイン>が厳かに納められている。
「これが―――新型・・・!」
「かっこいい・・・」
その偉容にため息を漏らす三人。
「さて、見惚れている場合でもないぞ。早く救援に行ってやらねば、如何にあの二人でもきついだろう。性能を説明している
時間もない。今回は僕も一緒に乗り込んで、適時説明してやろう」
「あ、ありがとうございます・・・よし、行こう、のび太くん、リルル!」
「OK!」
四人が乗り込むと同時に、ハッチが開く。そこから新型ザンダクロスは、雄々しく飛び立っていく―――!
<ハーハッハハハハ!たった二機で、何が出来る!>
「くそっ・・・」
キラは呻く。恐ろしいほどの敵の物量の前に、圧倒的火力を誇るSフリーダムでも対応しきれない。
「ボーッとするな、キラ!」
アスランがキラに迫っていたロボット兵を撃ち落とした。
「あ、ありがとう・・・」
「何、礼はいらん。しかし―――とんでもない数だ。原作だったら嫁補正でこんなもんどうにでもなるのに・・・」
「よ、嫁補正って何?」
「俺たちを守ってくださるありがたい御力のことだ。だがこの世界では、その恩恵は届かない・・・」
<クックックック!たわ言をほざいている場合か?>
アンゴルムスカの高笑いと共に、ロボット兵が一斉に襲ってくる!
「ちっ・・・嫁補正が本当に懐かしい!」
「アスラン―――正直状況はよくないけど、やるしかないよ!」
Sフリーダムと∞ジャスティスが、迫り来る大軍を前に身構える。だが、その時―――
「食らえぇぇぇぇっ!」
―――突如舞い降りた、謎の影。それは無数のロボット兵を一気に蹴散らして直立不動で腕を組み、赤いスカーフを
靡かせながら、空中に仁王立ちする。
「あ・・・あれは・・・」
キラはポカンと突如現れた救世主を見つめる。
<な・・・何だと!?それは一体・・・>
アンゴルムスカも焦った声で問う。搭乗者はそれには答えず、キラたちに話しかける。
「―――待たせてごめんね、キラ、アスラン!」
「のび太!そうか、新型ザンダクロスが完成したんだね!」
「むむう・・・当て馬にされたのは悔しいが、かっこいいじゃないか!」
「ふふふ、そうだろうそうだろう、もっと言え」
「何だ、バカ王子も乗ってるのか」
アスランの冷たい態度にも、バカ王子はめげずに口上を並べ立てる。
「何だとは失礼な。まあいい―――さあ、アンゴルムスカとやら!今さらだがお前の問いに答えてやる!
これこそはパワーアップして帰ってきたザンダクロス!その名も―――」
バカ王子が不敵な笑みと共に、アンゴルムスカに宣告する!それこそは、まさに鋼より生まれし戦神の名!
「その名も―――<超機神>ダイザンダーだ!」
投下完了、前回は
>>328より。
タイトルにもなってる<超機神>がやっと登場。ここまで長かった・・・。
そしてダイザンダーという名前は、スパロボのとある機体をザンダクロスっぽくもじったものです。
まあやった人には丸分かりでしょうが・・・
ぶっちゃけダイゼ○ガーと大○凰です。
とにかく次回は、主役機体に相応しいトンデモな強さをお見せしたいです。
>>330 胸の〜は結構使い古しですからねw
>>345 原作じゃあ、ほんとに一瞬でやられましたね・・・このSSでは、もうちょっと粘る予定です。
>>352 いや、展開が速いからもう終盤と見せかけて、こっからがまた長いんですよね・・・(汗)
>>ふら〜りさん
手塚はまあ、あれくらいしか上手く勝たせる方法がありませんでしたw下手しなくても、作中最強キャラなんで・・・
ムスカはちゃんと原作っぽく動いてくれたようで一安心です。
>>しぇきさん
ギニューの奇行がもはや愛しさのレベルですw
口上を習いに行くのは、果たして誰の元か?
そしてブリーフ!
>主人公がブリーフを全世界に普及するために、 全裸で世界のお偉いがたをパンツを使って撲殺していく、
SFインフレ格闘ラブコメ王道漫画
どこがだw
今回は全編に渡ってツボを突きまくりでした。それにしてもしぇきさんももはやふら〜りさん級の感想屋ですね。
目が〜〜!目が〜〜!!は、これから言う予定です。
396 :
作者の都合により名無しです:2006/02/18(土) 19:53:49 ID:nP5zQohZ0
>しぇきさん
ギニューは確かに奇行癖凄いですね。でもそこが可愛い。
ただフリーザ除いて最強の男だから誰も何も言えないでしょうね。
>サマサさん
主役機体の最上級バージョン?まだパワーアップしそうだけど。
アンゴルムスカの安直な名前に笑った。バカ王子は美味しいなあ。
397 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:48:39 ID:IzCyYCnDO
自分達がどこから来てどこへ行くのか、そんな思考を何度も何度も
繰り返していくうちに、一つの結論に達する、なんてことはなく。
いつまでたっても、真理というのは見えてこない。
世界は何故存在するのか、僕達は何故存在するのか。
深く考えるほどずぶすぶと僕の思考は底無し沼に沈んでいく。
何もわからぬまま。
僕の胸を苦しめるもやもやは、いつになったら消え去ってくれるのだろう。
こういうことを考えるのは、わが一族のなかでも僕一人らしく、う
んうんと答えをひねり出そうとしてる僕にむかって嘲笑するように
体を震わせる。
ふん、笑うがいいさ。
どうせ最後にはみんな消えちまうんだから。
こうしてネガティブな思考に埋没した僕は、そのままポジティブな
方向に舞い戻ることはなかった。
そう、僕達は消えてしまう。
僕達が何を思い、何を為そうとするかなど、関係なく終焉はやってくる。
それが恐ろしいと感じながらも、強く待ち望んでいる自分がいる。
あたかも恋人を待つ生娘のように。
これが本能というものだとしたら、きっと僕達は決定的な破滅を避
けることはできないだろう。
398 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:51:07 ID:IzCyYCnDO
お隣の赤の一族――僕らは色でお互いを区別している――が掟にならい、ま
わりに別れを告げなければならなくなった。
掟というより体質といったほうがよかったけれど。
その体質とは、同じ種族の者が四人一組になってしまうと、消えず
にはいられないという、なんとも不思議なものだった。
ともかく、三人仲良くひっついていたところに同色の者がやってきた
ものだから、その掟に従い消え去らなければならなくなった、ということだ。
僕は赤の一族の無謀で無知なところが我慢できなかったので、この
偶然の事象に感謝した。
もちろん顔に出すことはしない。
表面では悲しむ素振りを見せて、腹の底でほくそ笑む。
そして赤の一族は消えていった。
どすんと上から音がして列順が整理され、次の誰かが僕の隣へやって来る。
僕のあずかり知らぬ所で緻密に計算された機構が、たった今起こっ
た赤の一族の消滅によって変化を強要される。
その変化の成果が僕の眼前に示されるまでの僅かな間に、この次は穏和な緑の一族が隣人になってほしいなあ、と思った。
だが基本的に赤の一族以外ならば、あまりかまいはしない、というのが事実だったりする。
いや、やっぱり、それ以上に同族が僕の隣にやってくるのは、ごめんだけど。
そんなとりとめもないことを考えている間に、余っていたスペースに滑り込んできたのは――なん
ということだ、我が麗しの同門、青の一族。
しかもカップルだぜちくしょう。
……どうやら僕にはあまり時間が残されていないようだぞ。
399 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:52:54 ID:IzCyYCnDO
終わりが迫っている。
つい先ほど確認したのだ――青の一族が、こちらへやってくることを。
監視装置に映し出されたモニターには青の一族と緑の一族のペアが、き
っかりとうつっていた。
くそ、確かに緑がいいっていったけど、相手を選べよ相手を。
まずい。
このまま何も打開策をとらねば、僕は消えてしまう。
もちろん僕だけでなく隣ののカップルも同様に消えてしまうのだ
けど――こいつらは妙に達観してて、実は自殺志願者なんじゃない
かという疑念が湧くぐらい生への渇望がない。
だから此処で消えてしまっても、かまわないのだろう。
僕は違う。
僕はいやだ、消えてしまうなんて、自我を喪失するなんて、耐えられない。
なら、どうする。
打開策をとりようにも、その策がない。
僕だってこの滅びを回避しようと必死になってあらりる手段を模索した。
だが、結局は無駄だった。僕はこの世界という機構から脱出することはできなかった。
己が何者かもわからぬまま終わるのか。
なんて滑稽なんだ。
諦めが体を支配する。
――――ああ、見えてきた。
頭上から、真っ黒な空から、僕の死が。
死は何者かに操作されているように、空中を動き回っていた。
やがて僕の死は狙いを定めたのか動きをとめると、真っすぐに僕の
方へ――慈悲なく躊躇なく――むかってきた。
400 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:54:13 ID:IzCyYCnDO
重力に逆らう事無く死は僕と激突する。
まず感じたのは浮遊感。
そして他人の意識の流入。
そこから来る名状しがたい一体感。
さらに感じるのは――唐突の理解。
頭の靄がすぅと晴れていき、やがて一つの答えに至る。
なんだ、簡単なことだった。
自分は死ぬわけじゃないし消えるわけでもない。
ただ、この世界に別れを告げるだけだ。
これはさらなる世界へと渡る儀式だった。
僕を縛るくびきを解き放ち、新しい存在へと生まれ変わらせる。
嬉しかった。
両目から涙がこぼれた。
なにを恐れる必要があったのだろう。
ああ、僕は無知だった。
無知ゆえの恐怖から逃れるために檻を作り、ただその中で妄想に耽
る愚昧な輩。
そんな者が真理に到達できるわけがない。
だが、幸運なことに僕は知ることができた。
よいことだ。
ああ、心が晴れやかだ。
すでに体は消え失せ、意識だけが天に昇っていく。
大きく口を開ける空がある。
そこを通り、僕は新生する。
ただ、今までとは違うのは、あちらでの僕の体は石よりも固い、とい
うことだろう。
新しい情報が次から次へと入ってくる。
この拡大した理解力も、真理を知ったものの特権なのだろうか。
まあ、そんなことにこだわるのは些細なことだろう。
今はただ、この歓喜の中に身を沈めよう――――
401 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:55:23 ID:IzCyYCnDO
彼が消えた後には劇的な変化が起きていた。
幾度も幾度も思考を繰り返し、丹念に練ってきた計画が今、達成さ
れるのだ。
彼が消えた穴を埋めるように、上から落ちてくる物体がある。
緑の一族だ。
しかも三人一組の。
彼らは、たった今、掟に従い消えた自分のペアを見送ったばかりの同
族とぶつかり、融合した。
四人になると消滅するというロジックに、一つの例外も許されない。
ほどなく緑の彼らも弾けて消えた。
―――まだ終わらない。
均衡がみるみるうちに崩れていく。
細心の注意を払い、築き上げてきた機構は、数々の支えの消滅によ
って、崩壊の憂き目にたっていた。
だが、それこそが目的。
この巨大で複雑な構造物は、すべてこの時この瞬間に、消え去ること
を目指して構築されたのだ。
結局、彼らは破滅のために存在していた。
だが、決して彼らという存在は無駄というわけではない。
彼らが消滅する際に発生するエネルギーは、確実にある結果をもたらす。
例えば、こんなような―――
402 :
おちるもの:2006/02/18(土) 20:57:14 ID:IzCyYCnDO
ふぁいや〜
あいすすと〜む
だいあきゅ〜と
ばよえ〜ん
じゅげむ
ばよえ〜ん
ばよえ〜ん
ばよえ〜ん
ばよえ〜ん
ばよえ〜ん
ちょ、まっ(ぐしゃっ)
(了)
403 :
487:2006/02/18(土) 20:59:18 ID:IzCyYCnDO
こっちのスレに投下するのは初めてになります。
今回も短篇です。
前回書いたSSは題材がマイナーだったので、今度は有名どころでいこうかな、と。
題材はぷよぷよです。
また次になんか思いついたらふらふら書いてきます。
それでは。
404 :
作者の都合により名無しです:2006/02/18(土) 22:11:49 ID:BENe3bik0
>しぇきさん
特選隊ならここまでデフォルメされても納得出来そうな気がする。
なんとなくイメージで。ギニューって日常生活案外こんなんかも。
バータとグルドの顔のアスキーアート、見てみてえw
>サマサさん
いよいよ超機神の光臨か、タイトル通りの主役の確変ですな。
ダイザンダー超絶のパワーアップの後にムスカの散り様が楽しみだ。
でも、バカ王子はUSDマン以上に反則キャラかも。
>487さん
まずは初投稿おめ&ありがとうございます。短編好きなのでまた是非。
消え物の悲哀と少しの歓喜が滲み出てますな。心理描写うまいですわ。
いい意味ですんなり読めました。最初、サナダさんかと思いましたよ。
ここ最近、スレの消費が早いな。
しぇきさん、久しぶりのフリーザ野球軍乙。
タイトルと違いフリーザも出てなければ野球もしてないけどw
ギニューはいいキャラですね。頭悪いがw隊員も迷惑そうだ。
サマサさん、またインフレの波がどっと押し寄せてきましたなw
ただ主役は強くあらんと。ムスカの最後はむごたらしくないとw
なんとなく今回の真機体登場、ゼノギアスを思い出しました。
新人さん、始めまして。ぷよぷよですか。新機軸ですな。
ここまでキャラの気持ちが書き込めるという事は他スレで
かなり書いてた方でしょうな。たまにでいいのでこれからもよろ。
心理の書き込みから比べて最後のレスの脱力さw
おちるもの作者氏はじめまして。うまい短編が書ける人は貴重。
ゲロさんや銀杏丸さんのような短編マイスターになってほしい。
えらく哲学的な考察の後の「ぐしゃ」に笑いました。
>こっちのスレに投下するのは初めてになります。
>今回も短篇です。
どこで書いてたの?「487」ってコテもなんか意味ありげだし。
scene27 笠間潤
僕はまどかを自転車の後ろに乗せて、長くて狭い下り坂を走る。
「ちょっと、早過ぎる……! 危ないってば……!」
甲高い声で叫ぶまどか。首を曲げて後ろを向き、その顔をちら、と盗み見る。
「大丈夫だよ……!」
それだけ言って、視線を前に戻す。ペダルをめいっぱい踏み込む。
がくん、と車体に衝撃。それは、下り坂が終わる合図だった。
目の前が開けて、夕焼けの赤と一緒に、平坦なあぜ道が視界に飛び込んでくる。
それでも、足は休めない。もっと早く、もっと早く……!
ぱちぱちと音を立てて、足元で砂利が弾け飛ぶ。
左右に広がる田園風景が、物凄い速さでスクロールしてゆく。頬に当たる風が心地良い。
遥か前方に、薄っすらと目的地が見えた。今日のお祭りの舞台――加城神社だ。
田舎の縁日だから、決して大規模とは言えない、ささやかなお祭りだったけど……
色とりどりの提灯や電飾が彩る、活気に溢れた屋台。風に乗って届く、たこ焼きや焼きそばの香り。
僕ら子供たちにとっては、それはとっても楽しみな日には違いなくて。
こうして、はやる気持ちを自転車にぶつけるように、全力でペダルを漕いでいる。
気が付けば、神社の石段はもう目前だった。急ブレーキをかけて身体を傾け、車体を斜めに滑らせる。
「ほら、一番乗りだよ」
僕は自転車から降りると、後ろに乗っていたまどかに手を差し伸べる。
「潤のバカ! もう、潤の自転車になんか絶対乗らない……危ないもん!」
その手を取りながらも、まどかは空いた手の一指し指を口に含み、僕に抗議の視線を送る。
僕は、ちょっとかわいそうだったかな、と反省する。
まどかは、決して『怖い』とは言わなかった。
泣き虫で怖がりではあるけれど……それ以上に強がりだから。
「露店で、何か欲しいものない? 僕が取ってあげる」
怖がりのまどかを無視して、自転車を飛ばし過ぎたことへの罪悪感もあったのだろう。
二人でお祭りを見て回りながら、僕は滅多にしないような提案をした。
「えっ……」
まどかは驚いたような顔をして、しばらく迷った後
「じゃあ……あれほしいな」
そう言って、あるものを指差した。それは射的の屋台に置かれた、ペアになった、小さなクマのぬいぐるみ。
見た所、重さはさほどないらしい。中心に当たってしまえば、確実に落ちる大きさだ。
狙いが定めにくい一番上の段に置かれている事を加味しても、難易度はそう高くはないだろう。
「任せといてよ!」
僕は勇んで返事をして、射的の屋台に駆けていった。
料金を払い、銃を構える。ぬいぐるみに照準を合わせ……慎重に、引鉄を絞った。
ポン、と言う小気味いい音と共に、コルクで出来た弾が勢いよく飛び出し、初弾でぬいぐるみを打ち落とす。
「取ったよ」
僕はそう言って、ぬいぐるみを渡す。
「……ありがと」
まどかは、両手で包むようにして、それを受け取り……恥ずかしそうに笑った。
――ブツッ
「……行くんだ?」
放課後の教室で。僕は、それだけ言うのがやっとだった。
まどかが転校する……その事実は、一ヶ月前から知ってはいた。
だけど僕は、その当日まで、まどかに転校の話題を振れなかった。
「うん」
それっきり、沈黙の時間が過ぎる。
僕はと言えば、無性に寂しくて、この上ない喪失感を覚えたけれど……
何を言えばいいのか、わからなかった。
どんな顔をすればいいのか、わからなかった。
「……これ」
まどかは僕の前に立つと、小さなクマのぬいぐるみを差し出した。
僕が縁日で、まどかにあげたペアのぬいぐるみの一つだ。
「片方、持っててほしい。見たら、潤を思い出すから。
そうしたら、寂しくなんかないから。だから――」
そこから先は、言葉にならなかった。
僕は黙ってそれを受け取って。何度も何度も頷いた。
――ブツッ
「う……」
意識を取り戻して最初に感じたのは、後頭部の痛みだった。
両腕の自由が利かない。ロープが、身体に食い込んでいる。
一瞬、記憶が混乱する。
僕は……激昂して……告発者……夕凪理沙に飛びかかって……
そして……誰かに殴られて意識を失い……拘束された……
夢の記憶が、まだチリチリと頭を焦がしている。夢の続きは……どうしようもない現実。
それから、僕とまどかは、大学のサークルで奇跡の再会を果たして……
付き合うことになったはいいけど、甘酸っぱい思い出も、今は昔……
つまらないことで喧嘩して、あっという間に別れて……
なんだ。あのぬいぐるみ……『捨てた』なんて言って、持ってたんじゃないか。
とことん、素直じゃないよね……僕もだけどさ……
『ドンナ キモチ デ コノ ヌイグルミヲ ニギリシメタン デショウカ……?』
僕はバカだ。どうしようもないバカだ。救いを求めたに、決まってるじゃないか。
いや……ずっと救いを求めて『いた』に、決まってるじゃないか。
それを僕は……何をした?
喧嘩別れをして。その腹いせにわざと、まどかの嫌いな怖い話をして……
挙句の果てには、そんな下らない嫌がらせが原因で、殺人容疑までかけられている……!
そもそも、犯行に夕凪の言う『密室トリック』が使われたとするならば……
僕がまどかを、間接的に殺害したも同然の状況……!
これは、罰なのかもしれない……そう、僕は思う。
皮肉屋を装って、最後の最後まで天邪鬼な僕に、神様が与えた罰……
違うだろ、笠間潤。あんたの過ちは、あんた一人の罰に留まらないんだ。
感傷に浸っている暇があるなら、立ち上がれ。寝ている場合じゃないんだよ。
濡れ衣も、今となってはどうでもいい。賞金なんて、もっとどうでもいい。
まどかの為にも、このままゲームを終わらせちゃいけない。
まだ足元がおぼつかなかったが、何とか立ち上がろうと足に力を込める。
……と。微かに、ドアの軋む音がして。急に、世界が暗くなった。
違う。暗くなったんじゃない。影だ。
誰かが……僕の前に……立っている。
――ひゅんっ。頭上で風を切る音がして、刹那、強い衝撃。
「ごふっ」
意図せず、口から間抜けな擬音が漏れ出す。
ああ、誰かに頭を殴られ――
――ひゅっ、ごんっ。間髪入れず、もう一撃。状況を把握する暇すらない。
次々と、僕の頭に鈍器が叩き付けられる。
視界が揺れる度に、意識が混濁してゆくのがわかった。
――ひゅ、がっ。
ここで、死ぬのかな。何もできないまま……
――がんっ、どすっ。
このまま死んだら、あの世でまどかに怒られるだろうな……
――ぐしゃ、ばきっ。
潤のバカ!……なんてね。あの頃みたいに……
――がすっ。ごっ。
あ……はは……それも……いい……かな……?
――めきゃっ。
振り下ろされた最後の一撃は、辛うじて残っていた意識を、頭蓋骨もろとも粉々に打ち砕いた。
毎度ありがとうございます。前回投稿は
>>320です。
ようやく第三の殺人。ここまで来るの長かったですね。
・サブタイトル
前回のサブタイトルは、どちらかと言うと今回にかかっていますね。
・主役
いよいよラストが見えてきましたので、活躍も近いです。
カイジの覚醒をどんな風に書こうか、今から考えております。
413 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 07:42:58 ID:y4sLhSKP0
<ギニュー編・その5-(1)>
〜クレープ基地・ミルコの研究室前〜
先程の特戦隊会議の結果、今よりも更に目立つ&ジャンプの人気投票で1位を取る為、
口上を取得すべく修行することになった特戦隊の一同は、フリーザ軍の頭脳ことミルコの元へ
修行の為の外出許可を貰いに来ていた。
「む・・。暗唱ロックか・・。相変わらずご用心な事だ。」
ギニューはミルコの部屋の扉がロックされていることに気が付くと、懐からカード状のモノを取り出す。
どうやら、隊長クラス専用のカードーキーのようだ。
「本当に修行をするんですか・・?」
「せめてリクームが帰ってくるのを待った方が・・・。」
不安そうな顔で未だに修行を懸念するバータとグルド。
「まだ心配しているのか?安心しろ!!この修行が終われば俺等はヒーローだ!!
・・・。よし!!確か・・、a1893・・・。」
ギニューは若干迷惑な顔をしながら、バータとグルドの言葉を”安心しろ!”の一言で一蹴すると、
暗唱ロックを外すために、カードキーを一回通してからパスワードを入れ始める。
「・・・・・・・・。よし!!開いた!!」
ギニューは何故か嬉しそうな声を上げてロックが解除されたことを表現すると、
今度は何故かドアの右側にあるインターホンを押す。
ピ〜〜ンポ〜〜〜ン〜〜〜〜!!
無機質な機械音の後に広がる、数秒ほどの静寂・・・・。
(なんで、わざわざロックを解除したのにすぐ入らないんだ?)
理解しがたいギニューの行動に、グルドは思わず疑問符を頭の上に浮かべてしまう。
しかし、そんな素朴な疑問もすぐ解決することに・・・。
414 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 07:44:49 ID:y4sLhSKP0
『ん?おお、珍しいの〜。どうした?何かようかな?』
インターホンの上についている液晶から顔を覗かせるのは、
我等がこのSSオリジナルキャラクターのミルコ。
呼ぶことすらあっても、呼ばれることは無いはずの面子の呼び出しに、
少々面食らいながらギニューへ用を尋ねる。
「はい。ちょっと、しばらく休暇が貰いたくて・・・。」
『ふむ・・・。まあ、理由は中で聞こうかの。ほれ、ロックを外したぞ!!』
「「「!!!!!」」」
ミルコのこの言葉にビックリする一同。
当然、ビックリの意味合いは、ギニューと隊員とでは全く違う。
なぜなら・・・・。
「た、隊長・・。確か、『開いた!!』とか言ってましたよね?」
「えっ・・・?そんなことありましたっけ?」
グルドの鋭い突っ込みに、ギニューは敬語を駆使してとぼけようとする。
もう、ここまで書けば、察しのいい読書の方ならお気づきだろう。
そのとおり!!さっきのギニューの「よし!!開いた!!」と言う台詞・・・。
――――全くの嘘である。
415 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 07:46:46 ID:y4sLhSKP0
恐らく、勢い良く暗証番号を入れ始めたのは良いが、”最後の方を忘れてしまった”といった具合なのだろう。
まあ、それが恥ずかしくて思わず隠しちゃう特戦隊の隊長なんて、お茶目とも言えるかもしれないが・・。
「隊長・・・。」
「まさか・・・。やっぱり・・・。」
先程の全裸の件といい、今日は全くついていないギニューに、ほんの少しだけ失望感を漂わせながら、
グルドとバータは漫画のようなジト目でギニューに視線を送る。
「は・・、はっはっは・・・。今日は厄日だ・・・・。くそう!!さあ!!!入るぞ!!」
こうして二人の視線に居たたまれなくなったギニューは、半ばやけくそ気味になりながら
重い足取りで研究室の中に入っていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――
416 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 07:48:35 ID:y4sLhSKP0
<ギニュー編・その5-(2)>
〜クレープ基地・ミルコの研究室〜
ドアが開くと同時にギニュー達の目に飛び込んできたのは、騒然たる光景だった。
一見、研究室と言えば聞こえはいいが、実際は唯の実験部屋。
研究室を埋め尽くしている大きな試験管に入った見たことの無い生物達は、
突如入って来たギニュー達へ、一斉に恨めしそうな視線を送る。
――――まるで『殺してくれ!!!』と叫んでいるように・・・。
「ふい〜〜。相変わらず気味悪いところだな〜。」
バータは誰にも聞こえないように呟きながら、試験管に居る生物と目が合わないように、
ゆっくりと研究室の奥の方へ歩を進める。
後に続いてグルド。そして・・・、真っ先に入ったはずのギニュー・・・。
とにかくゆっくりと歩を進めていく三人。
きっと遠くから見たら、この研究室は試験管の中に入っている色鮮やかな液体達が、
まるでイルミネーションのように見えるのだろう。
しかし、現実は――――――明らかにこの世にある場所とは思えなかった。
417 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 07:53:48 ID:y4sLhSKP0
「隊長・・。何か・・・、ここは寒気がしてきますね・・・。
ふう・・。それにしても、ここは広いな〜。俺等の部屋の10倍以上はありそうだ。
・・・って、隊長?一体、その試験管を見つめて何をしているんです?」
独り言のような長い台詞を言い終えたグルドは、いつの間にか自分の後ろ居た、
緑の液体が入っている試験管を見つめているギニューに話しかける。
「えっ・・・。ああ・・、ちょっとな・・・。なんでもないぞ・・。」
グルドに話しかけられて我に返ったギニューは、気まずそうな顔で試験管から視線をそらす。
「え〜っ、何か試験管を真剣に・・・、おっ!!こ、これは!!!」
グルドはギニューが見ていた試験管の中身を見て、思わず声を上げる。
それもそのはず、ギニューが見ていた試験管の中には、
―――――――この世のものとは思えないほどの美人の女性が、”悲しそうな顔”で浮かんでいるのだから。
「ん〜・・。でも、何でこんな所にこれほどの美人さんが・・・。隊長は何か知ってます?」
しばらくその姿に見惚れていたグルドは、最もな意見を言うと共に、
この美人さんについて何かを知っていそうだったギニューに意見を求めるべく、
体ごとギニューの方へ振り返る。
「・・・・・・。」
しかしギニューは、そんなグルドを無視して、バータに追いつく形でさっさと先に行ってしまう。
「うっ・・。ちょ、ちょっと隊長〜〜!!バータ〜!!こんな薄気味悪い所に置いて行かないでおくれよ〜〜!」
そう言って、この場に一人残されたグルドは、雰囲気から来る寒気に戦(おのの)きながら、
自分を置いて先に行ってしまった二人を、まるで戦闘中のようなダッシュで追いかけていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
グルドが去ったことにより、また独りぼっちになる試験管に入った美人の女性。
中に入っている緑の液体と悲しげなその表情が、彼女を更に魅力的に見せていた・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――
418 :
それゆけフリーザ野球軍:2006/02/19(日) 08:05:31 ID:dAsdbpkx0
どうも、しぇきです。
次で回想も終わりです。
今回の話は、後編の布石ですので、今回の口上取得には絡んできません。
>サマサさん
「悪を断つ剣よ!!限界を超えろ!!必殺〜〜〜!!!!」
みたいなノリになりそうな後継機の登場。
スパロボで言うと、遅れてでてきたSRX+天上天下以下略のようなものですね。
おそらく、ムスカとアンゴロモアは冥界行きでしょうが、
シュウのネオが負傷している事を考えると、狐登場でさらなる戦乱が予感される気がしないでもないです。
それとも、アザミの登場か?注目ですね。
>487さん
私は良く思います。
ぷよぷよ等の落ちゲーで消えたものは、一体どこに行ってしまうのか?
転移ならば、宇宙のどこかにあるのだろうし、完全消滅ならば灰が残るでしょう。
どちらにしても、一筋縄ではいかない話を短編で面白く書いてくださる技量は凄いと思います。
また何かお暇なら書いてください。
>見てた人さん
三人目ですか・・。
どんな推理小説も、三人目が鬼門だとどこかで聞いたことがあります。
なんでも文章で人を殺しすぎると、どっかで矛盾が生じることがあるとか。
当然、そんなことは無いでしょうが、推理と言う書く方が推理を強いられる
大変な作業!ぜひとも頑張ってください。
では失礼・・・。
>見てた人様
過去話まで盛り込んでますか。いよいよ本格的な推理小説ですね。
しかし、美しい思い出の後の無残な死。クマのぬいぐるみが悲しい。
ラスト近いんですか。寂しいな。カイジ覚醒は楽しみだけど。
最初にカイジが殺されてたら、みたいな別のストーリを想像してしまうw
>しぇきさま
復帰早々、エンジン掛かって来ましたね。休養中心配でした。
特戦隊会議、しょうもないなあ。人気投票のために精鋭たちがw
回想シーンから少しずつ話がシリアス方面に?
前回の令嬢編もそんな感じでしたね。折り返し地点を過ぎたのかな?
第五十七話「アンゴルムスカの最期」
「ダ・・・ダイザンダー?何だかダサくない?」
「何を言ってる。スーパーロボットの名前ってのは、ちょっとダサいくらいが丁度いいんだ」
「そうかしら・・・わたしにはよく分からないわ」
呑気に会話するのび太たち。だがそれにアンゴルムスカは業を煮やした。
<貴様ら、そんな隙だらけで人をバカにしているのか!?行け!ロボット兵たちよ>
号令と共に、無数のロボット兵が一斉にビームを放つ。集中砲火がダイザンダーの姿を飲み込む―――!
「み、みんな!」
<はーはっはっは!何が超機神だ!あまりにもあっけなさ過ぎないかね!?はっはっはっは・・・は?>
笑いが止まる。攻撃を受けたダイザンダーの姿を目にしたからだ。
「残念だったな―――その程度ではダイザンダーは落とせないよ」
バカ王子の余裕たっぷりの態度を表すように、ダイザンダーの損傷は微々たるものだった。そして、その僅かなダメージ
さえも、見る見るうちに修復されていく。
「ふっふっふ。お前たちはもう出番も終わりだから冥土の土産に色々と教えてやろう。ダイザンダーのボディは宇宙最高
硬度の金属・カッチン鋼をベースにした自己修復超合金装甲で覆われている。生半可な攻撃では傷一つつかんし、受けた
ダメージもたちどころに直してしまうのだ。そして、武装面だ。色々用意したが、まずは殲滅用兵器だな。
のび太、そのボタンを押したまえ」
言われた通りにボタンを押す。すると、ダイザンダーの両拳が変形し、砲門の形になった。
「これは―――!」
「―――<ダイザンダー・キャノン>だ!さあ、一気にロボットたちを蹴散らしたまえ」
のび太は頷き、狙いをつけて(とはいっても数が多すぎてその必要もなかったが)<ダイザンダー・キャノン>を撃ち出す。
エネルギーが収縮し、砲門からマシンガンの如き速度でエネルギー弾が次々に飛び出し、前方のロボット兵たちを吹き飛ばす。
「す、凄い威力・・・」
「ふふふ、一秒間に最大1千発の超高エネルギー弾を撃ち出す兵器さ。しかもエネルギー切れは絶対にない」
「これだけ撃っといて?まさか!」
「まさかじゃないさ。その秘密こそ、例のパーツだ」
「例のパーツ・・・あっ!もしかして、ゼオライマーが残した・・・」
バカ王子はご名答、とばかりににやりと笑った。
「ああ。あれは異次元から無限にエネルギー供給を受けられるというとんでもない装置なんだよ。名前は、そうだな・・・
<次元連結システム>とでもしておくかな?それをダイザンダーの動力源として組み込んだ結果、ダイザンダーの活動時間は
理論上は無限となった。しかも、強力な武装も使いたい放題でね。ふふふ、どうだ。まさに主役機体に相応しい強さだろう?」
<バ、バカな・・・!そんなもの、反則だ!>
「反則と言われてもな。残念ながら、僕は凝り性だから、ついついここまでやっちゃったんだよ。さあ、もうよかろう。
みんな、一気に行け!」
「よーし!キラ、アスラン、まずはロボットたちを蹴散そう!」
「OK,のび太!」
「よし!三人で友情合体攻撃だな!」
ダイザンダー、Sフリーダム、∞ジャスティスがそれぞれ背中を任せ合い、一斉に砲撃する!
そして三人で声を揃えて即興で叫ぶ!
「「「―――<トリプル・フルバースト>!」」」
それはまさに弾丸と閃光の洪水。それに飲み込まれ、数千、数万のロボット兵たちは一瞬のうちに消滅していった。
<ぐ、ぐううっ・・・>
「さあ、残るはお前だけだ、アンゴルムスカ!」
<舐めるな・・・小僧がぁっ!>
超巨大ロボットと化したネオラピュタが、剛腕を振り回してくる。だが、あまりにも動きが単調すぎた。
「いくら攻撃力が凄くても―――当たらなければどうってことない!」
キラは叫びつつ、Sフリーダムの全武装を開放する。虹色に見える幾条もの閃光がネオラピュタに直撃して怯ませる。
「よし!次は俺に任せろ!」
アスランが∞ジャスティスの背後のリフター(飛行補助用ユニット)をパージして、ネオラピュタに投げつける。凄まじい
勢いで放たれたリフターは、ネオラピュタの腹に風穴を開けた。
「よーし!ぼくらは一気に<デモンベイン>で・・・!」
のび太はデモンベインを抜こうとして―――抜けないのに気が付いた。
「あ、デモンベインだけど、例の口上を言わないと鞘から抜けないようにしてある」
「ちょっ・・・何でそんな隙だらけになる機能を!?」
狼狽するのび太に、バカ王子は余裕で答える。
「バカだなあ、必殺武器を使うときは仰々しくて長ったらしい口上を述べるものだろう?隙がどうとかの理屈じゃないんだ。
そういうものなんだよ。君は偉大なる先人たちを蔑ろにするつもりかい?それに口上の最中は敵も攻撃せずに見ててくれる
のがお約束だ」
「そ、そうかなあ・・・」
「そうだとも」
「・・・そうかも・・・」
「丸め込まれてる気もするけど―――まあ、いいか」
やけに自信満々なバカ王子に、ついつい頷いてしまうのび太たちだった。
「仕方ないなあ―――よし、それじゃあ行くぞ!」
ダイザンダーが鞘に納まったデモンベインを構える。そして、紡がれる言霊―――
「憎悪の空より来たりて―――」
「正しき怒りを胸に―――」
「我等は魔を断つ剣を取る!」
デモンベインが輝き、鞘から引き抜かれる。眩く輝く聖剣を、ダイザンダーは天高く掲げた。
「―――汝、無垢なる刃―――<デモンベイン>!」
そして、ダイザンダーはネオラピュタに開いた風穴から内部に突っ込む。そして、複雑に入り組んだその体内を―――
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る―――
斬る!
<あ・・・うあああああああっ!私の城が―――ネオラピュタがぁぁぁっ!>
アンゴルムスカが悲哀とも憤慨ともつかない声をあげる。そして、その眼前に現れた巨大な影―――
ダイザンダー!
<ひっ・・・!>
「終わりだ―――アンゴルムスカ!」
デモンベインが、ネオラピュタに直接突き立てられた。そして、放たれる必滅の奥義!
「光差す世界に、汝等暗黒、住まう場所なし!」
「渇かず、飢(かつ)えず、無に還れ!」
「―――<レムリアァァァァァッ・インパクトォォォォォォッッ!!>」
全てを飲み込む、無限熱量。全てを無に帰す、浄化の光。それはアンゴルムスカの目を激しく焼いた。
<あ・・・ああ・・・目が・・・目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!>
「―――昇華!」
最後の言葉と共にネオラピュタ、そしてアンゴルムスカは、一片の痕跡も残さずに、この世界から消え去った―――
「―――ふう、やっと終わったね」
「ああ。しかし、ダイザンダーか・・・はっきり言って、凄すぎるじゃないか!」
のび太たちを、キラとアスランが迎えてくれた。のび太もそれに微笑みで返す。
「本当にね。とんでもない性能だよ。それにしても、すごくいいタイミングで完成したね、バカ王子さん」
「だろう?実は三十分前には完成してたんだから当然だけどね」
「―――へ?」
「おい・・・待て・・・どういうことだそれ・・・」
アスランも怖い顔で睨む。
「普通に出撃したんじゃつまらないだろ?ピンチになってから現われたほうがドラマチックだと思ってね」
にこやかに言い放つバカ王子。のび太、ドラえもん、リルルは顔を見合わせたあと、能面のように無表情になる。そして、
バカ王子に詰め寄った。
「お・・・おい、何を・・・ちょっと待て、何でコクピットのハッチを開く?何故僕のケツを蹴飛ばして押し出そうとする?
何故僕の身体が半分外に出てるんだ?ちょ、おま、ほんと勘弁して・・・」
―――バカ王子は雲海へと消えていった。世界最高高度のノーロープ・バンジージャンプだった。
「ちょっとやりすぎじゃないの・・・」
「平気だよ。ギャグキャラなんだから、次の回には何の説明もなくひょっこり帰ってくるよ」
あっさりと言い放って、のび太たちはアークエンジェルへと帰っていくのだった・・・。
―――その一部始終を、彼は全て見ていた。
「ポゼッションに目覚めたサイバスターに・・・USDマンを倒したアヌビス・・・Sフリーダムと∞ジャスティス・・・
そしてダイザンダー、ですか・・・注意すべきは、やはりこれらか」
―――シュウ=シラカワだった。
ネオグランゾンはボロボロだった。自己修復が始まってはいるが、芳しくない。完全回復にはしばらく時間がかかるだろう。
「恥ずかしながら、サイバスター一機にこの有様。ネオグランゾンを持ってしても、これからの戦いは厳しいものになる
でしょうね・・・ククク。私も余裕ぶってないで、本格的に対策を練らなくてはならないようです―――おや?」
レーダーに近づく物体があった。識別信号を見ると、クルーゼの機体―――プロヴィデンスだ。
その姿を認めて、シュウは口元を歪める。
「フッ・・・お互い、みっともない姿ですねえ」
「それを言ってくれるな」
プロヴィデンスも無残な有様だった。ダメージはネオグランゾンといい勝負だろう。
「ふん―――ムウ・ラ・フラガめ。今回は譲ってやるさ」
「おやおや。お互い敗軍の将ということですか?締まらない話だ」
「全くだ」
クルーゼは肩を竦める。だが、その顔は本気で悔しがっているようには見えない。
「今まで少々遊びすぎた―――<狐>の意向に従うにしても、な。どうやら本腰を入れてかからねばならないらしい」
「そうですね―――私も彼らをはっきり<敵>と認識しましたよ。まあ、今は退くとしましょう」
ネオグランゾンが両腕を掲げる。ヴヴン、と不気味な音がして、超空間へと続くゲートが開いた。
二機の悪魔は、それをくぐって、何処へともなく消えていく―――
―――ネオラピュタの真下の辺り―――そこは、海のど真ん中だった。
そこから、何かが飛び出した。
「・・・・・・ぶっはあーーーっ!」
モジャモジャ頭に眼鏡、マント代わりの風呂敷に手には空になったラーメン鉢―――
アヌビスに敗れ、空へと消えていったはずの、USDマンだった。
「あーあ・・・負けちまった上に、死に損なっちまったなあ・・・」
自虐的な言葉と裏腹に、その顔には晴れやかな笑みが広がってる。いつも抱えていた、モヤモヤしたものが、今は完全に
消え去っていた。
「これからどうすっかな・・・<十三階段>にももう未練はねえし・・・」
ブツブツ呟きながら、何か思いついたのか、ポンと手を叩いた。
「おっし、今度はあいつらの方についてシュウやらクルーゼとドンパチってのも面白そうだな!けどあっさり仲間入りっ
てのも何だし、ピンチの時にカッチョよく駆けつけて助太刀する、みたいなシチュエーションで再登場してやろう!
決めた決めた、今日から俺様は正義の戦士だ―――なんつって」
USDマンはにやっと笑いながら、大空へと飛び上がっていった―――
投下完了、前回は
>>394より。
ダイザンダー大勝利、そしてUSDマン復活。
味方ばかりがインフレしてますが、敵側もインフレする予定。
でないとパワーバランスが崩壊します。
>>396 アンゴルムスカ・・・確かに安直でしたねw
>>404 以前も書きましたが、バカ王子はまさに自軍のジョーカーです。いい手札にも、
悪い手札にもなるということで。
>>405 ゼノギアスはやったことないですが、スパロボでの主役機体の後継機登場、みたいな
イメージで書きました。
>>しぇきさん
何だかシリアスな展開に?しぇきさんはギャグと見せかけてシリアスにするので油断できません。
ダイザンダーはまさに、戦闘においては全く意味のないかっこよさを追求する機体ですw
>>スーパーロボットの名前ってのは、ちょっとダサいくらいが丁度いいんだ
かのリュウセイ・ダテ氏もきっとそう言ってくれるでしょうw
アザミ登場は、もうちょい先です。
何かかませ犬になりそう……>USDマン
サマサさん、最近鬼更新ですねえ。
USDマン読者の声にこたえて復活。この姿勢が嬉しい。
個人的に一番好きなキャラだから、カマセはやめて欲しいな。
429 :
作者の都合により名無しです:2006/02/19(日) 20:20:39 ID:PYLGx1W00
>しぇき氏
サナダムシさんほどクッキリしてないけど、しぇきさんも二部構成っぽいSS多いね。
ほのぼのからシリアスへ転調する感じの。こういうの好きだから頑張ってほしい。
いつまでもアホやってほしい気もするがw この世界の美人ってどんなんかな。
>見てた人氏
第三の殺人発生。いや、3人くらいは殺されないと連続殺人事件とはいえませんw
うん、犯人っぽくない奴から死んでいくなあ。誰が犯人か分からないw
見てた人さんだからその辺の複線も引いてあるのかな?確変カイジが本当に楽しみだ。
>サマサさん
1秒間に千発とか厨っぽい設定がたまりませんなwスパロボっぽい感じで。
ダイザンダーは斬撃も長距離攻撃も出来る確かに最強のスーパーロボットですね。
ムスカも死んだしUSDマンも復活したし、まだまだ見所は付きませんね。
サマサ!風になれ!サマサ!炎に変われ!
サマサ!サマサ!サマサ!サマサ!
サマサ!サマサ!サマサ!サマサ!
サマサ!謎を解け!サマサ!歴史を変えろ!
サマサ!サマサ!サマサ!サマサ!
サマサ!サマサ!サマサ!サマサ!
431 :
作者の都合により名無しです:2006/02/19(日) 21:39:28 ID:zxO8lx+V0
・カマイタチ
伏線の張り方と回収がマジでプロ級ですな
更にそろそろ確変カイジが出てくる。凄い楽しみだ。
・フリーザ野球軍
俺はシリアスにならずに、このままアホ軍団でいてほしいな。
原作からアホだったこいつら好きだし。
・超機神
主人公機体は別格ですかやはり。でも強い敵がまた出るんだろうな。
USDマン、えらいすぐ復活したなw 好きだけど。
・
>>430 楽しいか、いつも?まあいいけどさ
すみません、ちょっと今手が離せない用事がありまして
一月ほど更新停止させていただきます
申し訳ございません
やだーっ!
>>365 十二階の窓から見えるのは、どこまでも続く美しい海辺の風景。そして
部屋の中に漂うのは、ルームサービスで頼んだカレーライスの美味しそうな匂い。
湯上りの身にホテルのバスローブを羽織ったD=アーネが、八皿目を食べ終わった
ところでスプーンを置いた。グラスの水をんぐんぐ飲んで、ふぅと一息。
「あの……」
「ん? もう一皿頼もうか?」
「そうじゃなくて、」
「君の服の洗濯なら、もうそろそろ終わる頃だから。じきに持ってきてくれるよ」
「いや、だから、何度も言ったけど私は本当に一銭も……」
テーブルを挟んでD=アーネと向かい合っているヒューイットが、にっこり微笑んで言う。
「こっちこそ、何度も言っただろ? 僕が好きでしていることなんだから、
お金なんかいらないって。君は何も気にしなくていいんだよ」
「……どうして?」
異国で出会った見知らぬ青年が、行き倒れ同然(行き倒れそのもの?)の自分に対して、
いきなり何から何まで世話をしてくれたのだ。D=アーネとしては、カレーライス八皿
を平らげておいてなんだが、怪しまざるを得ない。
だがヒューイットと名乗るこの青年は、相変わらず幸せそうに嬉しそうに微笑んだまま。
「どうして、か。言いたいとこだけど、言えばバカにするだろうから、秘密だよ」
「? それならせめて、何か恩返しをさせてほしい。ここまでしてもらって、
ハイさよならってわけにはいかない。ヴァジュラムの誇りにかけて」
「ヴァジュラム?」
「あ、えと、私の故郷というか、ほら、外国人だから、私は」
と、あわあわしながらD=アーネが言うと、
「じゃあ君のことを聞かせてほしいな。今言った君の故郷とか、家族とか友達とか」
ぎくっ、とするD=アーネ。最初の攻撃に失敗し敗走した以上、作戦は一から練り直しに
なる。ヴァジュラムのことも地球侵略のことも、当分は隠さねばならない。
とはいえ、恩人に嘘をつくのも気が引ける。ヴァジュラムの誇りにかけて。
『う〜……あ、そうだ。こういう時の、うまい言い繕い方をこの前テレビでやってたな』
D=アーネは、こほんと一つ咳払いをして、話し始めた。
「ではリクエストに応えて、私の友人のことを話させて貰おう。いいか、あくまで
友人のこと。友人から聞いた話。私自身のことじゃないからな」
……故郷は、遠い遠い異国の地。そこは水も空気も汚れきっており、そう遠くない
将来、国そのものが滅びかねない状態。そしてごく近い将来、空気中の毒素の影響で、
元々病気がちな一人の少年の命が……国中が不安に喘ぎ、軍も政府もピリピリしている
中、身分の高いその少年は、重い病と国情とに押し潰されそうな日々を送っていて……
語っている内に、D=アーネの声が段々か細くなってきた。
ヒューイットはそんなD=アーネをじっと見つめている。
「それで君は、その少年を救う為にやってきた、とか?」
「……そう。陛下をお救いする為に、私はこの命に代えても地球を征……じゃなくて、
私の友人が、その、いろいろと努力はしてるんだけど、でも失敗ばかりで、」
「ふうん。君の友人は、その少年のことが大好きなんだね?」
「そ、それはもうっっ!」
D=アーネは拳を握って立ち上がった。
「あの方のひとみは空の色……私は空の色に魅かれて飛ぶ小鳥……
あの方の笑顔は太陽……小さな私の胸をこんなにもあったかくしてくれる……」
どうやらもう訂正するどころではないらしい。足下で犬一号が頭を抱えている。
ぽわ〜となっているD=アーネの前で、ヒューイットは小さく溜息をついた。
「いいかな? 僕は思うんだけど」
「……あ、ごめん。で何?」←自分のポカに気づいてない
「その、身分の高い少年君は、君の友人のことをどう思っているのかな」
「え?」
どう、って。改めて聞かれると。とりあえず座りなおして、D=アーネは考える。
「それはその、時々手紙とかくれるし、嫌われてはいない……と思うけど……」
「いや、そういう意味じゃなくてさ。君の友人は、その少年のために、かなりの
苦労をしてると思うんだ。無理に無理を重ねてね。それをどう思っているのかなって」
ヒューイットは、諭すような口調でD=アーネに語りかけている。
「きっと君の友人の想いは、少年に届いているさ。だけど、それならなおさら、
少年は心を痛めていると思う。君の友人が、自分の為に傷ついていることをね」
「そ、そんな。そんなことであの方がお心を痛める必要は」
ぽん、とヒューイットの手がD=アーネの肩に置かれた。
大きくて暖かいその手が、立ち上がりかけたD=アーネを優しく座らせる。
「君の故郷の国民、全員ってのはさすがに無理だけど。でも、その少年と君の友人の
二人ぐらいなら、僕の家にお招きできるよ。あ、実家の方がいいか。ノースダコタ
っていうんだけど、水も空気もとってもきれいなところなんだ。なにしろ知り合いに
しょっちゅうバカにされるほどの田舎でね、例えば日本でいうところのt……」
「ま、待って」
お国自慢(?)を始めたヒューイットを止めて、D=アーネは聞いた。
「ほんとに何度も聞いたけど、どうして? どうして私みたいな得体の知れない奴に、
そんなに親切に? あ、バカにされるから秘密ってのはもうダメ。不許可」
「……不許可、か。参ったなぁ」
ほりほりと頭をかいて、ちょっと目を逸らして、それからヒューイットは答えた。
「君の友人が、身分の高い少年君のために必死になってるのと同じ。そういうことさ」
「同じ? ……え、それって、あの、でも」
さすがにこれで察せられないほどのお純ではないので、D=アーネはびっくり困惑する。
「ででででも私は、じゃない私の友人は、その少年のことがほんとに大好きだから、」
「知ってるよ。いろいろと努力してるって言ってたね」
「だから、貴方がどんなにその友人の為に尽くしてくれたとしても、えと、何て
言ったらいいか、つまり見返りは期待できないってことで」
ぽん、とヒューイットの手が置かれた。今度はD=アーネの肩ではなく、頭の上に。
「やっぱりね。君は同じ年頃の他の女の子たちと比べて、相当辛い経験をしてきたん
だろうなとは思ってたけど。予想通りだった」
「? 私は別に、自分の思い出話なんか何も」
「いいから。僕はしばらくこのホテルに滞在することになってるから、君も休んでいく
といい。見たところ、まだまだ体も本調子じゃないみたいだし」
D=アーネの顔を覗き込みながらヒューイットは提案する。がD=アーネは首を振って、
「いくらなんでも、そこまで世話になることはできない。第一、私は急がなきゃいけな」
「あっ! パステルカラーの可愛いコスチュームを来た美少女チームが窓の外に!」
「なにいいいいいいいいいぃぃぃぃっっ!(まさかパステリオンっ!?)」
Dアーネが、そして犬一号も一緒に、血相変えて窓に張り付き、外を見渡す。
が、そこには夕陽に染まった海辺の、静かで美しい景色が広がっているだけで。
「ああ、ごめん。僕の願望が見せた妄想幻覚だったようだ」
「し、心臓に悪いことを言わないでくれっ」
「まあまあ落ち着いて。ほら水でも飲んで」
青ざめたD=アーネが席に戻り、グラスを受け取って冷たい水を一口、飲む。
「ふぅ。とにかく、この恩はいずれ返すから今夜はこれで…………あ、あれっ?」
突然の目まいに襲われ、D=アーネはグラスを倒してしまう。
「こ、これ……は……ヒュー、イットさん、貴方まさか……今の水……」
「精神安定剤。こう見えてもデリケートでね、出張の時は常備してるんだ」
ヒューイットが立ち上がる。入れ違うようにD=アーネはテーブルに突っ伏した。昼間、
砂浜で魔力を使い果たした時に勝るとも劣らぬ勢いで、意識と筋力が失せていく。
「ごめんね。こうでもしなきゃダメみたいだったから」
「……ど、どうする、気……な、何を、企んで…………」
顔を上げヒューイットを睨み付けた直後、限界が来たらしい。怯え混じりの弱々しい表情
を浮かべたD=アーネの唇が「……へいか」と動いたのを、ヒューイットは確かに見た。
そしてヒーイットは、動かなくなったD=アーネを抱え上げ、お姫様だっこして、
また小さく溜息をつきながら歩いていく。隣の部屋へと。
「やれやれ。白馬の王子様ならぬ白馬の皇帝陛下には勝てないか。それなら、せめて……」
ヒューイットは、D=アーネをそっとベッドに寝かせた。バスローブ越しの
D=アーネの胸、その本当に微かな隆起が、規則正しいリズムで上下している。
「見返りは期待できない。そう言ってたね、君は」
D=アーネも初期と後期でだいぶ変わりはしましたが。初期の、首から下だけなら、
ロリキャラとは言えませんよねぇ。その反面、マミィパステリオンはどう見ても
「魔力が最も高まる十代半ば」には見えない。十歳ジャストがいいとこだと。
>>しぇきさん
チームワーク良しと思わせて実はメンバーが欠けても大して気にせず、自分たちのノリを
全く崩さない。メチャクチャなノリで暴れつつ、実は原作に忠実な特戦隊像です。試験管
というか溶液の中の美女といえばやはり綾波が思い出されますが。一体どんな子なのか?
>>サマサさん
無風でなびくマフラー、必殺武器には要口上、強化新登場はピンチ時にと。いやぁ解って
ますなぁ王子。漢だ。そしてまさかのUSDマン! 私の予想&希望としては、最終戦で
ペコを庇って致命傷、で「苦労して求めた甲斐があった。悪くねぇ死に様だ……」とか!
>>487さん
おいでませ! テトリスと違って一応ストーリーはあるものの、奴らが一体何なのかは謎
に満ちている。そこに切り込み深い心情描写を……って有名っちゃ有名ですが豪快に意表
の隅をつつかれましたね。次の思いつきふらふら、どこに行き着くか楽しみに待ってます。
>>見てた人さん
被害者の可哀想さを際立たせるのは幸せだった時の思い出と、現実の悲惨さと、その二つ
を繋げる後悔。定番ですが刺さりますねぇこれは。今、彼が遺す何かでカイジが閃き……
なら劇的ですが、この状況では苦しいか。でもまだまだ手がかりは少ないし。どうなる?
>>銀杏丸さん
生活の方が優先なのは当然のこと。落ち着いた環境で書かれてこそこそ、銀杏丸さんの
聖闘士たちも活き活きと動けることでしょうし。その時のそんな作品を、当方も焦らず
お待ちしております。
>>430 世界忍者戦なのは解りましたから。感想も書かれた方が、サマサさんは喜ばれると
思いますよ?
>カマイタチ
死に方(殺され方)の美学にこだわっておられるようですね。
思い出と悔恨の中で散りましたか。カイジと夕凪?の確変が楽しみ。
>フリーザ野球軍
ギニューに振り回される特選隊のメンバーがいとおしいです。
野球はやらないでこのまま各キャラにスポットを当てて欲しいな。
>のびたの超機神大戦
何回目のパワーアップだろう?ダイザンダーやたら強いですね。
でもラスボスは更に強いでしょうね。USDマンは強くあり続けて欲しい。
>銀杏丸氏
確か春から就職ですよね?だったら仕方ない。復活期待してます。
>マジカルインベーダー
一人残らず登場人物がわからないけど楽しんでますw
最強議論でD=アーネは最上位だった気がするけど、こんな性格のキャラなの?
440 :
作者の都合により名無しです:2006/02/20(月) 19:23:28 ID:UpCMMBLL0
ふらーりさん、色々本当に大変みたいだけど
息抜き程度に(そんなレベルでは無いようですが…)
バキスレを楽しんでね。
そんな状況でもSSを書き、感想も手を抜かない姿勢に感動しました。
441 :
テンプレ1:2006/02/20(月) 19:56:49 ID:UpCMMBLL0
442 :
テンプレ2:2006/02/20(月) 19:57:28 ID:UpCMMBLL0
443 :
テンプレ3:2006/02/20(月) 19:58:06 ID:UpCMMBLL0
444 :
天麩羅屋:2006/02/20(月) 20:08:12 ID:UpCMMBLL0
パオ氏サイトで復活されたので、テンプレに大きな変動は無いですね。
マジカル・インベーダーの下に「へうげもの」を載せようかどうか迷ったのですが
>>342に「単発ネタ」と書いてあったので今回は割愛しました。
もし連載されるおつまりならご連絡を。
勿論、私も住民の皆様もそれを望んでいると思います。
もし、へうげもの氏から連載のご連絡があった場合は、
マジカルインベーダーの下にこのテンプレを追加お願いします。
私がスレを立てれれば良いのですが。
へうげもの (へうげもの氏)
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/zz-extra/20.htm あと、バレ様。
「やさぐれ獅子」が繋がらないのですが。
前回のテンプレの流用なので、アドは間違いないと思うのですけど。
ちなみにサイトの第一話も繋がりませんでした。
ご確認宜しくお願いいたします。
最近1ヶ月以内で次スレペースですね。
嬉しいけどテンプレ作りも結構大変w
ふら〜りさん頑張れ。
精神的にも肉体的にも、下世話だけど経済的にも辛いだろうけど、
少しでもご母堂が回復されるよう祈ってます。
そんな状況でアーネみたいなキャラを書けるあなたを本当に尊敬するよ。
第五十八話「造られし命たち」
「全く、ひどいなあ。僕じゃなかったら死んでいたよ」
バカ王子は口を尖らす。ノーロープ・バンジーから奇跡の生還を果たし、何事もなかったかのようにアークエンジェルに
帰ってきていた。
「そのまま死んでいてくれればよかったんだがな」
クラフトが本気としか思えない口調で(実際本気だった)呟く。
「後はムウさんだけだね」
「―――と、言ってるそばから帰ってきたようだぞ」
レーダーにフリーダムの反応。五分ほどで、ムウがブリッジに姿を見せた。
「ムウさん!よかった、無事だったんだね!―――クルーゼは?」
「・・・もう少しだったんだけどな。逃げられちまった」
ムウはいつもは陽気な顔に、影を落としていた。
「また―――あいつを逃がしちまった」
それきり、彼は黙りこくった。しばらく沈黙がブリッジを支配する。
「あの・・・ムウさん」
おずおずとドラえもんが尋ねた。
「ムウさんは、クルーゼに対して相当こだわってるけど―――クルーゼと、一体何があったんです?単にタイムパトロール
と時間犯罪者ってだけの関係にしては、あいつに対する執着が強すぎる」
「・・・そうかな。やっぱ態度に出ちまうか。確かに―――俺とあいつには、個人的な因縁がある」
「言いたくなかったら、聞きませんけど―――もし良かったら、教えてくれませんか?何しろ、よく分からない奴だから、
ちょっとでも情報を知りたいんです」
ムウは少しだけ逡巡し、また口を開いた。
「気分のいい話じゃないぞ。それでもいいか?」
「はい」
「そうか―――じゃあ教えるよ。あいつの出生の秘密って奴を・・・」
そして彼は語り始めた。クルーゼとの因縁を―――
当然の話ではあるが、俺にも父親がいた。名前はアル・ダ・フラガ。
いわゆる大富豪って奴で、社会的には成功してたが―――はっきり言って、ろくでもない親父だった。
彼も、俺がそう思ってるってのが分かったんだろうな。俺を跡継ぎにしようとはしなかった。
<お前は私の跡継ぎには相応しくない>って、まだガキだった俺に、はっきり言いやがったよ。それでもう、決定的に
嫌いになったな。母親もそんな親父に愛想を尽かして、俺を連れて親父の元を去っていった。
それから親父は、自分の跡継ぎに相応しい存在を求めた。そして、彼は結論した。
自分の跡継ぎに相応しいのは、自分しかいない。
自分の物を受け継ぐのは、自分自身だけだ。
―――それを実現するために、彼は自分のクローンを造った。自分と遺伝子を同じくするクローンを自分の思い通りに
育て上げ、跡継ぎとする。
途中までは上手くいってたそうだ。クローンは彼の期待通りの成長を見せた。そのまま順調に行けば、まあよかったのかも
しれない。だが、クローンには一つ問題があった。
人間の寿命を決定付ける要素に、テロメアってのがあるらしい。それは成長するに従って短くなっていくそうでな―――
クローンの彼は、そこまで親父と同じに造られちまった。
クローンを造るために親父の遺伝子を採取した時、既に親父は老齢に差し掛かっていた。テロメアも相当短くなっていた
んだな。そこから造られたクローンは、生まれながらに親父のと同じだけのテロメアと寿命―――精々20年かそこら―――
しかなかったんだ。
親父はそれを知って、クローンを見捨てた。何せ、跡継ぎにしようとしてたのに、寿命が自分と一緒じゃあ意味がないからな。
だが―――クローンだって、機械じゃない。ちゃんと生きてる人間なんだ。いらなくなったからってあっさりと捨てた罰は、
すぐに降りかかったよ。
それから数ヶ月と経たないうちに、親父は誰かに殺された。裏で色々してたから、容疑者には事欠かなかったが―――
捜査の結果、一人に絞られた。
そう―――親父のクローンさ。それから彼は、ほとんど消息を掴めずに、今に至る―――
「・・・まさか・・・そのクローンって・・・!」
「思ってる通りさ―――そいつの名はラウ・ル・クルーゼ。あいつは俺の、親父なんだ。少なくとも、遺伝子的には」
―――思った以上に重い話に、一同はただ沈黙する。
「・・・クローン・・・人工の、存在・・・!」
誰かがひっそりと呟く。キラだった。その顔はペンキで塗ったように白い。そのまま床にへたり込んでしまう。
「お、おいおい。どうしたんだよ?」
「す・・・すいません。何だか、気分が悪くなって」
―――キラの中に浮かんだイメージ。
カプセルの中の胎児。人工の命。無機質な部屋。無表情の研究者。心の奥底から湧き上がった、その風景―――
―――あれは―――あの胎児は―――まさか―――僕―――!?
「キラ!しっかりしてよ!」
ガクガクと肩を揺らされて、やっと我に返る。
「・・・ごめん。ボンヤリしてた」
「ふう。とにかく一旦島に帰ろう。地上の空気を吸えば気分も良くなるさ」
「はい・・・」
うな垂れるキラ。そんな彼を、プリムラはじっと見ていた。
「―――どうしたの、プリムラ?」
のび太に声をかけられて、振り向く。その顔には、憂慮の色があった。
「キラは・・・やっぱり私に似てる。どこがどうとは言えないけど―――そう感じる」
「・・・そうかもね。ぼくもちょっと、そう思う」
とりわけ、今のキラは―――出会った頃の彼女に、とてもよく似ている気がした。
自分の存在に苦しんでいる、その姿が。
人工的に造られた命という宿業を生まれながらに背負った彼女。それと同じ痛みが、キラには感じられた。
「キラ―――とにかく、今は休もう。あの島へ戻って・・・」
「うん・・・そうだね」
―――アークエンジェルは、島へと帰ってきた。
だが―――残念ながら、休息の時間とはいかなかった。
地面に降り立ったのび太たちを、彼は待ち受けていた。
「よお・・・久しぶりだな、俺の敵」
―――狐面の男。物語のターニングポイントそのもののように、彼はまたしてものび太たちの元に現れた。
投下完了、前回は
>>425より。
今回は特に書くことなし。
>>427 >>428 まああからさまなカマセにはなりません。僕も彼は書いてるうちに気に入ったので。
>>429 厨っぽいのはまあ・・・作者自体が厨房なんでw
>>431 主人公は強くあってほしいという願いを込めました。それこそコンパクト3のヤルダバオトの如く(知ってる人いるかな?)
>>439 ラスボスの強さはそれこそラムダドライバ完全解放アヌビス+ポゼッションサイバスター+ダイザンダーでも
歯が立たないくらいにします。
>>ふら〜りさん
色々大変なようで、月並みですが、頑張ってください。
凄いですねサマサさん。最近毎日更新してらっしゃる。このバレさん泣かせw
そうですか。プリムラ始め、人造の人間ばかりだったのですね。精神的に辛いでしょうね。
ただ、のび太たちはそれを含めて暖かく迎え入れてくれる人たちだから。
プリムラもそういう所に惹かれたのでしょう。
あ、あと狐面の男。すっかり忘れてたw
途中送信しちゃった・・・
>>ふら〜りさん
色々大変なようで、月並みですが、頑張ってください。
ペコを庇って・・・月並みだけど、そういうのもいいかも。
D=アーネは知らないけど、パタリロ相手では・・・ダメっぽいかも。
>440-444様
テンプレの製作いつもご苦労様です。
言われている箇所につきましては、どうやらフォルダ整理の際に
リンクが切れてしまったようです。
申し訳ありません。
現在の「やさぐれ獅子」のアドレスは以下に変更されています。
http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm >サマサさま
やはり生きてましたかバカ王子。復活の速さが流石というべきか。
ムウの回想話。ムウにとってクルーゼは、仇であって親子でもあり、また
自分自身の投影でもあるような存在ですね。この二人の話にどう決着をつけるか。
ラストは(本当に)久々の狐登場。ようやく強敵を倒して一段落と思ったら、
また話が(パワーインフレも)エスカレートしていきそうですね。
復活キャラはインフレについていけないのが常道なので、再登場予定の
USDマンが心配です。(後書きを読むに最悪の事態はなさそうですが…)
それでは、明日は4時半起床なので眠ります。
お休みなさい・・・
>サマサさん
機体もパワーアップして、キラやムウの出生の秘密が明かされて。
最終決戦までもう少しですか?強すぎるラスボス期待してます。
>ふらーりさん
大変でしょうけど、頑張って下さい。応援しか出来ませんが。
>バレさん
いつもお疲れ様です。明日は出張ですか?お体に気をつけて下さい。
455 :
作者の都合により名無しです:2006/02/21(火) 16:05:14 ID:sg/XGEGq0
サマサさんノリノリですねえ。
このままラストまで突っ走りそうだ。
まだ先は長いのを願っていますよ。
プリムラ、久しぶりにプリムラらしい顔を見せた気がする
(基本は無表情だけど、どこか無邪気で少し寂しそう、みたいな)
456 :
作者の都合により名無しです:2006/02/21(火) 17:04:19 ID:sg/XGEGq0
【各】かくしゃかくよう
スパイシーモスチーズバーガーというものがある。
1.パン(下半分)の中心にマスタードを500円玉大に塗りたくり、
2.そこに肉を乗せチーズをかぶせ10グラムほどのマヨネーズを薄く引き、
3.「ハラペーニョ」なる青唐辛子を5〜6個まぶしてから、
4.みじん切りのオニオンをスプーン一杯分盛り付けて、
5.モス秘伝のミートソースを45グラムかけ、トマトともどもパン(上半分)を乗せる。
てな手順でできる代物だ。
パンはバンズという。一個あたりの単価は確か65円だったと思う。
そして肉はパティという。
原産地はオーストレイリァーなので狂牛病が心配な方でも安心してお召し上がりになれます。
一度噛めば、ふんわりしたバンズとしゃきしゃきしたオニオンの相反する感触が咀嚼を促し
二度噛めば、ハラペーニョとミートソースのほどよい辛さが口の中でとろけんばかりに駆け巡り
三度噛めば、それまで潜んでいた伏兵的マスタードとマヨネーズが瑞々しきトマトを味付けし、
たとえ何百何千食おうとも飽き足らぬ絶妙なハーモニーが加味された代物だ。
坂口照星はコレを皿に乗せてナイフやフォークで食べるのが好きである。
「だってスリルがあるじゃないですか」
かつて理由を聞かれた照星は、いたずらっぽく微笑したという。
余談だが彼の笑みはどことなく田村正和に似ている。もはや老境にさしかかろうというのに
肌は張りをいまだに保ち、いわゆる「オヤジ」じみた野卑や倣岸が見受けられない。
流石に紅顔というには血色は薄まっているが、笑うと美少年の輝かしさが覗くところは世の
中年女性が熱をあげるに十分な理由だろう。
余談がすぎた。このフレーズ、某燃えよ剣の作者氏は好んで使っているが、自覚あるなら省
略されては?とか筆者は折に触れ考えているが、しかしこの一文もまた蛇足であろう。
ともかく、スパイシーモスチーズバーガーを皿に乗せるというのは、危険な作業である。
なぜならばこの激うまいジャンクフード、バンズに挟まれた「具」の部分からミートソースが非
常にこぼれやすい代物だ。
この性質、バーガーの包み紙に入っている時なれば支障はない。
むしろ食べ終わった後、包みの底にとごったソースとマスタードとオニオンの混合物をずずり
と吸い上げられるあたり、災い転じて福をなす的プラス要素だ。
だが皿は良くない。純白ピカピカの皿にスパイシーモスチーズバーガーを乗せてしまうと、と
たんにオレンジ色の液体が滴り落ちて、食欲を萎えさせる汚れを作る。
されど照星はそれを恐れない。
どういうコツがあるのかソース一滴もこぼさず皿に移して、悠然とナイフで切り分けて王宮貴
族もかくやあらんという優雅さでフォークを刺して口に運んでいく。
根来が豆腐をしょう油の海に撒き散らすのとは対照的に、照星は皿にスパイシーモスチーズ
バーガーの痕跡を一切残さず食べるのだ。
食事中にソースを落とすまいと務める照星は、さしずめジェンガのようなスリルを感じているに
違いない。
またある梅雨時、照星は食事が終わると同時に「ホムンクルスの大攻勢が迫る」との急報を
聞きつけ出撃し、一週間の激闘を終えて皿の前に戻ると、そこにはカビ一つ生えていなかった。
という逸話もあるが、やや眉唾ものだ。いくらなんでも、細かいパンくずぐらいは残っていて、
そこからカビは生えるだろう。
そしてこの日も照星はスパイシーモスチーズバーガーを食べようとした。
が、喰おうとした矢先に、「ダイダガダイダガダイダガダイダガ ギャバーン!!」
とか胸元で鳴った。着うただ。電話がかかってきたのだ。出た。相手は千歳だった。
「え? 工場をお休みするんですか?」
要件を聞くと照星は困った。
工場と戦団の間には「根来と千歳を時給2万円で派遣する」てな約定がある。
で戦団はそのうち1万9千円ほどピンハネしてる。
千歳に休まれると、1時間にそれだけの損が出る。
この1時間につき1万9千円の損というのは凄まじく大きい。
1日8時間労働だとすると15万2千円、1ヶ月22日労働なら、334万4千円にもなる。
企業は機械やら何やらを導入する時に「意思決定」というのをするが、その用語の一つに
「機会原価」というのがある。これは要約すると
「ああいう選択してりゃこれだけ儲けられたのになァ〜〜!」
というものだ。
照星が千歳の欠勤を許せば、折角の時給1万円9千円は機会原価と成り果てる。
戦団にまったく入らなくなってしまう。照星は言葉につまった。任務は大事だ。
でも色々と入り用な時期だからお金は欲しい。すごく欲しい。誰かの腎臓を売ってでも欲しい。
(……腎臓?)
|
\ __ /
_ (m) _ピコーン
|ミ|
/ `´ \
('A`) そうだ戦部から摘出しましょう!
ノヽノヽ
くく ←照星
戦部は槍持ってる限り体組織が自動修復する戦士だ。彼を使えば内臓が売り放題!
奇妙な事だが……
ホムンクルスを食べ、全裸でうろつく「戦部」が、照星の心をまっすぐにしてくれたのだ。
もう、イジけた目つきはしていない…… 彼の心には、さわやかな風が吹いた……
「はい。分かりました。何かあったらまた連絡を下さいね」
と照星は物分りよく千歳にいうと、スパイシーモスチーズバーガーを輝く瞳で見つめたが
「え? 何を出し抜けに。いやまぁ。あなたのいうコトには一理あります。でも片方は根来が
受けるかどうか分かりませんし、もう一つは、あなたの命が危険に晒され──… ええ、確か
に状況が状況ならそれもやむなしとは思います。でもあなた、もう少し自分を大切に」
しばらくなだめすかしを繰り返し、やがて電話を切られると大きくため息を吐いた。
「まったく。防人といい火渡といい、照星部隊の戦士はどうしてこうも不器用なんでしょうか」
両肘を机につけて、祈るようなポーズをしながら照星は瞑目した。
彼ら、特に千歳が不器用になった背景は十分理解しているが、さりとて。
「もう一つ、戦士・根来に命じてください。非常時には私を斬り捨てても構わないと」
などと直訴されて「ハイ分かりました」などといえようはずがないない。
「どうしたものでしょうね。本当に」
メガネを落ち着きなく直したり、立ち上がって部屋の中をぐるぐる回ったりしてみる。
千歳の身の安全は大事だ。
けれどそれに拘泥して、任務が遂行されなければ元も子もない。
「大戦士長」という立場上、それは当然分かっている。
けれど7年前の惨劇から目を背けずに、ずっと頑張り続けている千歳を「命令」で傷つける
ような真似はいかんとも……(戦部は再生するので別に傷つけてもいいらしい)
照星はしばらく悩むと、意を決して根来に電話を掛けた。
思惑と理由を告げられた根来は、別に平生と変わらぬ調子で「了解した」とだけ告げた。
「これで本当にいいんでしょうか?」
大事な何かを諦めたような憔悴を浮かべ、照星は一人ごちた。
そして放置されてたスパイシーモスチーズバーガーは、カピカピになっていた。
だがこれでもレンジでチンすれば以外にイケるし、コーラとも合う。
場所は千歳の視点に移る。
ビルの外壁に埋め込まれた大型街頭ビジョンでは、先日逮捕された世界の歌姫の特集とか
連続爆破事件とか、猟奇的な箱詰め殺人事件とかが流れていた。
道行く者はことごとく、流される情報に関心を示したのかしばしそこへ立ち止まり、1分もすると
また各々の目的に向かって移動を再開する。
観光にきたとおぼしき大学生の一団も中にはいて、「ボクの国に比べたらまだ全然デスが日
本も最近物騒で怖いデース。人殺しはやっぱりいけまセーン。そうですよね露木サーン」などと
金髪を七三に分けた留学生が肩をすくめた。露木さんと呼ばれた和風美人もそうだと頷いて
ハンディカメラを右目に密着させたニット帽の青年がその横を通り過ぎた。
どこにでもあるお昼の光景。しかし世界は謎や悪意に満ちて色々大変だ。
上から見れば「X」の文字をしてる交差点を流れる人々は、隣に犯罪者が混じっている可能性
など考えずにただ歩いている。
十数時間後の真夜中に、そこをクエクエーっ!と鳴き叫ぶ男が駆け抜けて、警官たちが必死に
追跡するもついぞ見失ったりしたとかは、この時、道行くものたちは一切予測できないし、千
歳も根来も知らない。
警官たち警察の威信に関わるようなヘマをやらかしていたから、事実をひた隠しにした。
ちなみに忍者は鉄砲に勝ちようがない。だから後日、森の中で血が流れるのもむべなるかな。
千歳はただ、調査のために歩いていく。
俺はホムンクルスだ。
最近よくISOがどうとかいうけど、実はアレって監査の時に
”品質とか環境とかについて色々学習しましたよ”
てな資料を提出すれば簡単に取れるんだ。
で、うちの工場は惰性ばっかで何も考えずに動いてる連中ばっかだから、いつも忙しくて勉
強する暇がない。
暇がないから、品質とか環境についての学習記録を捏造している。
シュールだよね。してもいない勉強についてみんな一生懸命、資料を書いてるんだ。
俺? ああ、文を書くのは好きだから
「プロジェクターへの映像の映りが悪く、所々分かりにくい所もありました。なので次回からはプ
リントの配布にすれば情報もより正確に伝わると思います」
とか書いてる。こういう嘘を書くのは楽しくて仕方ない。
閑話休題。資料の捏造には大きな穴があるんだ。
副部長は全部の資料に、勉強会をした場所を「会議室」と書いている。
で、うちじゃ会議室を使った記録をつけている。主に俺が、つけている。
もちろん、してもない会議の記録なんてつけてない。だって面倒くさいから。
副部長も「資料に合わせて記録をつけろ」と指示する事なんか想定外で、ただ忙しそうにみ
んなから印鑑借りて資料に押してるだけだ。
だからね。ここだけの話、監査に来た人が会議室の使用記録と資料を照らし合わせたら、
嘘が思いっきりばれて、ISOは取れなくなっちゃうんだ。
どころか、監査なめるな、十傑集をなめるなぁって怒られてバンダイさんに工場長やら副部
長やらが凄まじく怒られちゃうかもね。
でも別に俺は悪くない。事実を正しく記録してるだけだから。悪いのは捏造している連中さ。
まぁ、どこもこんな感じだろうね。ISO取った工場の半分くらいは捏造してるんだろうね。
ああ、環境といえば工場立地法ってみんな知ってるかい?
これの準則には、緑を工場の敷地の20%ぐらいに植えないとダメってあるんだ。
でも惰性で動いてる連中にゃ、コレ知ってそうなの一人もいない。
だからこの工場の周りは荒地とアスファルトしかなく、要するに法律に反した状態でこの工場
は建っているんだ。
ISOの監査の人が見たら、「法律違反じゃないか!」と激怒するだろうね。
でも俺は誰にも言わない。忠告しない。
だってこういうのに詳しいってバレたら、色々厄介だから。
矢面に立たされて毎日残業だらけになってしまう。
そしたらおもちゃで遊ぶ時間がなくなって、色々なものが崩れてしまう。
さっきもいったけど、俺はホムンクルスだ。
でも、こうやって毎日仕事をしてるのは、こうね、内から湧き上がってくる食人衝動を散らす
為なんだ。
ただ漠然と毎日を送っていると、ムラムラがどうしても出てきて人を襲いたくなってしまう。
でもそれを我慢して、耐え続けるような真似を俺はしたくない。
感情をただ押さえ続けるだけじゃ、いつか破綻をきたし、誰かに退治される。
だから俺は働くコトにエネルギーを向けて、食人衝動を散らしている。
こーいうのを他人に話したら、「働けば余計に腹が減るんじゃないか?」とかいうだろう。
だが逆だ。人間だって仕事に熱中すれば食欲を忘れるだろ?
だから仕事してるが、世界は毎日毎日大変だ。
こっちが正しい手順をいかに踏もうと、周りの環境は容赦なく辛いコトを押し付けてくる。
正直色々辛いさ。他のホムンクルスはもっと自由に生きてるだろうなぁと羨ましくもなるさ。
だがそういう感情を癒してくれるのが、おもちゃだ。
だっておもちゃは面白いじゃないか。現実のように腐っちゃいない。
こっちの想像以上の素晴らしいギミックを持っていて、俺を「おお!」と驚かしてくれる。
そして楽しい気持ちにさせてくれる。
だから俺は踏ん張れる。人を無差別に殺さず済んでいる。
毎日毎日苦労しながら、世界に対してさんざっぱら譲歩している。
そんな俺、誰がどう見たって頑張っているはずだ。
きちんとやるべきコトをやって、辛いコトにもしっかり耐えている。偉い。偉いに決まってるよ。
だから俺がおもちゃで遊ぶのを咎めたり邪魔したりする権利は、どこの誰にもありゃしない。
……のだけど。
この清らかなる遊びの時間を、部長はただ惰性の赴くままに搾取しようとしやがった。
だからああなった。人が命より大事に思っている部分を犯すような奴は、ああなって当然だ。
…アレ? そういや千歳さんいないけど、どうしたんだ?
ちょいちょい、副部長。俺のおかげで部長になれる副部長。千歳さんどこに行きました?
はぁ。体調不良で早退ですか。いてくれたら楽なんですけどねぇ。
仮にも文章を描いてる身としましては、今月の吼えペンには目から鱗が落ちる思い。
興味がある方はサンデーGXをどうぞ。
>>315さん
ですよね。両者とも振られた話題に答えるだけのタイプのような。
千歳「えーほんとう根来くーん?」 根来「マジマジ。犬のアヌスにアイスの当たり棒が刺さってい
たから井村屋でもう一本貰ったンだぜェーッ! ヒッヒ!」 千歳「もうやだぁー」とか盛り上がりはしないでしょう。
>>322さん
自分もそう思います。ボツにしましたが、このSSでの冒頭に「昔ミスをやらかしたから普段は
事務をやっている」とかいう一文も実はありましたし。姿勢よく座って伝票やら何やらを黙々
と片付けている美人事務員。世界7大ロマンの1つですね。呼吸の方はもっともっと合わせて参ります。
>>333さん
忍者の技能というのは色々ありまして、興味深いところです。あと、「一つの物事に長じて、
かつその物事の精神機構を体現できたら色々お得!」とも思いますね。ハイ。根来はそれを
地で行ってる あと、千歳も調査能力一つで根来についていきます。本当に最期まで。
しぇきさん
>それゆけフリーザ野球軍
「ブリーフ」の飛びっぷりが大好きですw 見習わなければ。
部下を押し切れる気迫を持ちながらも、全裸については言い逃れできないギニュー隊長、
人間味があります。微笑ましくもあります。あと、ジースの投票結果……無職ばかりの板で
「おいジース1位にしようぜww」「ジースってwwwおまww乗った」という悪巧みがあったと思ってしまいますね。
アイキャッチ……時間があればもっとグゥレイトな代物を用意したい所です。
着うたは、沢庵作詞の会津七本槍+αを貶す手毬歌とか、「トーントーン唐辛子、ピリリと辛いは
山椒の実」とか候補にあったんですが、柳生はともかく、風来は知名度低いですよね。なの
で一番の有名どころを。ちなみにおすすめは忍法忠臣蔵と忍法八犬伝です。
…あ。バジリスクの歌で一つ思いついた。ラスト3話の冒頭はこれで。千歳に合いすぎてる。
ふら〜りさん
>マジカルインベーダー
誇り高き発育途上の敵役と前科持ってそうなロリコンエージェントとの邂逅から、ハブとマン
グースよろしく自衛と捕食を賭けた大激闘が巻き起こるのか、はたまたアーネが「属性」を手
練手管で利用していくのか……と思いきや、初戦のっけからヒューイット、大 迫 撃 !
しかし色々危ぶまれます。ジオンですら優勢を覆されたワケですから。
>魅力が広いですねぇ本作は。
そういって頂けるとありがたいです。いつも本当に、ありがとうございます。
聞き及んで以来、一日も早いご回復をお祈りしています。
疲労が蓄積すると、物事を悪い方向にばかり考えがちになってしまいますので、環境や
状況が許す限り、休養もなるべくお取り下さい。
467 :
作者の都合により名無しです:2006/02/23(木) 08:36:52 ID:xe+XW/6Q0
ガープスのルールなんて覚えてる余裕はないでしょうな、職人軍団には。
小説のキャラ作りのベースにしてるラノベ作家がいる、ってのは聞いたことある気がするけど。
469 :
作者の都合により名無しです:2006/02/26(日) 00:10:05 ID:fgbLW6AM0
考証するのに便利だからな。
近代科学合理主義の基本が現実で活用されてるわけだ。
でもジャンプキャラだの劣化の炎だの、ラノベキャラだのをガープス化するのは
だいぶ骨が折れるだろうな。
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