【仕事しろ】ここはパイロット養成所No.5【断る】
>610
「………そうか。
しかしアレかな、こっち(火星)の訓練生は随分と差があるんだなぁ。
それとも、お前さんが何か金のかかる趣味とか持ってるのかね?
例えばそのサンバイザーとか。」
>611
「お前には失望した。
…なんてな、ノリが悪いのは何時もの事だしな。」
(何か物凄い不当な言い様を受けているぞ、リュート君。)
>612
まあ……それは……
(自分の口に人差し指を当て)
秘密ということで。
(……どうでもいいが、そのポーズを男がやると気色が悪い。
そしてもうひとつ。
下から見上げても何故か目が見えなかった……物理的に不可解である。)
まあ帽子は言うなれば趣味でしてね?気分によって――
(ごそごそ)
こんなのだったりします
(ベレー帽とシルクハットを鞄から取り出す……のはいいのだが。
かさばり具合からしてサンバイザーまで入らないように見受けられる……)
>>612 「匙を投げられるのも定め…
とはいえ確かにこれは手厳しい。」
>>613 そんな彼の様子を見て
「種類が豊富のようで」
と言う青年だ
>613
「……一つ気になるんだけどさ、聞いて良いかな。
お前さん、モビルスーツに乗る時とかどうしてんのさ?」
(ぱくりぱくりとスシを口へと放り込みながら。
あ、黒ビール飲み始めました。
相棒を差し置いて酒を飲んでいますこの男。)
「それにだ、秘密とあらば暴くぞ、何時か。」
(そして目がマジだ!?)
>614
「ん、気に障ったなら謝るぜ。
しかし本当、旦那は淡白に過ぎると思う。
もっと酒でも飲んで騒げば良いんだ、全く。」
(終いには絡み始める。
駄目な大人の見本の様な気がして来るが、
それでもリュート君にムリヤリ酒を飲ませようとするのは問題だと思う。
ちなみに飲ませようとしてるのは地球さんの黒ビール、濃いぜ。)
>614
ええ、確か家にある分を数えれば100に届いたかと
(平然と答えるが異常である。)
>615
それは普通にノーマルスーツにヘルメットですよ、ええ。
(少々心外そうな『口元』。
目が隠れていてはっきりとした表情が読み取れない……)
ふふ、さてできますかね……?
(事実上の挑戦状と受け取って差し支えないほど不敵な笑みと台詞を返す青年。
気がつけばトレイの上の魚は骨だけになっていた)
>>616 「産廃なのは事実ですから、お気になさらず
騒ぎですか、そういうのはいいですねぇ
(まあ、祭りが発生してドサクサに美味しいとこ…を)ペンギンゲットしたいものです」
最後の何だ
中央公安局が調べなくても
ロクに動かなくなる確率が他生徒に比べ高いのも事実なのである
>>617 「それはそれは興味深い話です」
―不意に携帯が何かを伝える
「おっと、残念。どうやら時間のようです。お先に失礼します。ごゆっくりどうぞ」
会計を済ませどこかへ消えるように去ってゆく青年
>618
「そこまでは言ってないっての。
って飲まずに逃げるかオイ!?」
>617
「……ちっ。」
(今確かに舌打ちしました、この人。)
「ん、最初は冗談だったが仕方無ぇ。
その反応をされた以上、俺としては乗らざるを得ない。
何故なら俺は、投げられた手袋は必ず受け取る主義だからな!
――必ず、必ず暴いて見せるぜこの野郎。」
(投げられた手袋は必ず受け取る主義、即ち売られた喧嘩は必ず買うぜ。
何か変なスイッチ入っちゃった様子です、酒の所為で。)
>618
はい、また縁がありましたらー
(笑う口元、大振りの手。
どんな時でも目だけが見えなかった)
>619
ふふふ……絶望にうちひしがれる姿を見るのが楽しみいえ冗談ですよ?
(間髪入れずフォローはしたがますます怪しく見えてくる)
さて…今日はこれからどうしましょうか…
(ブツブツブツと呟き始める)
>620
「あぁ、何と言ったか―――そう。
おはようからおやすみまで暮らしを見つめる覚悟で頑張ろうと思う。
いや冗談だけど。」
(怪しさ爆発な二人の会話である。)
「…さて、それじゃ俺も行くかね。
これ以上酔うとリディアに締め出されちまうからな。
んじゃお先に、帽子を脱ぐ時には暗がりに注意だ。」
(そうして最後まで本気なんだかよくわからない台詞を吐いて、
清算を済ませると彼もまた帰って行った。)
>621
ええ、十二分に気をつけさせていただきましょう……アデュー。
(手をひらひらと振り、ジンジャーエールに口をつける。
まだ夜はこれからであるが、どう過ごすのかは未定のままのようであった。)
623 :
赤髪の男:2008/03/22(土) 21:37:03 ID:???
火星養成所のあるクレイドル。
そのメインストリートはクレイドルで最も賑やかな場所だと言って差し支えない。
そこは多くの商店が軒先を連ね、生活必需品や嗜好品を求める人々のうねりのお陰で、
その街路の喧騒が絶える事など無いかのような錯覚すら覚えてしまう。
しかしそれは結局の所錯覚だ。
人並みが皆無とは言わないまでも、喧騒が途絶えて比較的穏やかな空間が生まれる時もある。
そしてこの時、人通りもまばらになったメインストリートの中央。
「……しまったな。
やはりこれだから、子供の扱いには困るのだ…。」
逞しい長身に大きな荷物を抱えた紅い髪の男性が、
生真面目な仏頂面の中にも何処か困惑した様な面持ちで立ち尽くしていた。
夕暮れ間近の大通り、人影もまばらな商店街の真ん中を足早に歩く少女が一人。
結い上げた金髪は歩調に合わせて静かに揺れ、
身に纏った濃紺のブレザーとの鮮やかなコントラストを描いている。
「……」
何か急ぎの用事でもあるのだろうか。
時折腕時計をちらと見ては、小走りに人と人との間を縫って進んでいく。
だがそんな動作を数度繰り返した後、彼女は小さく首を振ると足の運びの速度を落とした。
途端――
>>623 「!」
ドンッ
華奢な体が目の前の背中にぶつかり、思わぬ衝撃にカナデは驚いて顔を上げた。
目線を上げれば飛び込んでくるのは紅い髪。
一瞬、かの教官見習いの姿が思い浮かぶが、目の前にいるのはどう見ても男だ。
「……失礼」
二歩ほど下がり、無機質な響きの言葉でカナデはその背中に謝罪した。
625 :
赤髪の男:2008/03/22(土) 22:05:23 ID:???
>>624 「お……っと…!」
(荷物から落ちた林檎、転がる林檎が二つ。
落ちたそれに視線を落としつつ、ゆっくりと振り返る男。)
「…いや、こちらこそ道の中ほどで失礼した。
お急ぎだったかな?」
(返された言葉はごくごく普通、物腰はぶっきらぼうだが紳士的な物だった。
だがカナデは気付いたかも知れない。
男が振り返るその刹那だけ、その瞳に確かに宿っていた身も凍る様な冷徹さ。
その冷徹さは―――またの名を殺意という感情。)
>>625 「あ……」
瞳の奥に垣間見えた冷たいソレに中てられたかのように、アイスブルーの双眸が小さく揺らいだ。
掛け値なしの情動、戦場に立った経験の在る者だけが身に着けられる筈のソレ。
まさかそんなものが、目の前の温和そうな青年から――
「いえ、どうやらもう間に合わないようですから」
かぶりを振って答えるカナデ。
よく考えればココは火星、其処に住まう人々の過去に何が在ろうと不思議ではない。
こうして振り返った男にかつて戦場を駆けた経験があっても、つまり不思議ではないのだ。
そうやって、感じ取った違和感に自分なりの結論を導くと、
彼女は再度小さく一礼をしてから男の横を通り過ぎようとした。
627 :
赤髪の男:2008/03/22(土) 22:23:34 ID:???
>626
(しかし今、男の目にそういった感情は無い。
そう、確かに物腰温和その物。
"絵に描いた様な温和さ"が、そこには全面に押し出されている。)
「そうか。
…あぁ、そんな時に済まないが一つ良いかな。
君が来た方向で人を見なかったかい、日傘を差した黒い髪の女の子なんだが。」
(そして物腰に従って、人の良さそうな声色。
先を急ぐと言っていた人間に尋ねるにしては突飛な内容とは不釣合いなその声色が、
酷く違和感を伴う物に感じられる。
違和感といえばカナデは気付いているだろうか。
目の前の男は、自らの荷物から落ちた林檎を拾う事すらしていない。)
>>627 かけられた声に振り返る。
元来他人という存在に殆ど係わり合いを持たないのがカナデだ。
まして往来ですれ違っただけの相手ならば。
だから、今回も必要最低限の応酬だけで済ませたつもりだったのに――
「女の子、ですか?」
――だというのに、呼び止める声に振り返ってしまったのは何故か。
他人など路傍の石だ。
だが、その石が余りに奇異であったならば、通り過ぎる前に立ち止まってしまうかもしれない。
或いは……触れてはならないモノのように、避けて通ろうとするかもしれない。
「……いえ、そういった容姿の女の子は見ていませんが。
お役に立てず、すみません」
あくまで冷めた他者への口調、そこにいつもの彼女と何ら変わりは無く。
「……落ちましたよ」
無造作に、優美さを纏った指先が地面に転がった果実を指し示す。
何ら変わらない口調のまま、言葉だけが「彼」の態度を訝しむように唇から零れ出た。
629 :
赤髪の男:2008/03/22(土) 22:51:08 ID:???
>>628 「そうか――」
(何故だろうか、男の目は何処か見透かしている様な物を感じる。
有体に言えば嫌な視線だ、無遠慮に他人を見定めている。
容姿や嗜好とかそういう物を品評するのではない、もっと深い目線だった。
が、それも時間にして一秒にも満たない事だ。)
「――うん、分かった。ありがとうお嬢さん。
親戚から預かっている大事な女の子なんだがね、何時の間にやら逸れてしまった。
…何となく見ていそうだと思ったから聞いたのだけど、唐突な質問で済まなかったね。」
(そして男は、指し示された果実を拾おうとする事でその視線を外す。
広い上げる、一つ、二つ。
それで話は終わりとばかりに、拾い上げる。
それでも尚、顔に付いた二つの目とは異なる視線で診られている様な感覚。
それこそ相手が何であれ、戦場に立った経験の在る者だけが知っている感覚は残ったが。)
>>629 「いえ、謝られるほどの事ではありません――」
奔り続ける冷たい感覚。
ループタイのカメオを無意識に掴みかけ、気付いたようにその手を再び下ろす。
ほんの僅かな違和感を覚えながら、カナデはそう答えた。
彼女は戦場を知らない。
実戦の経験はあるのだが、その戦場は「彼」の経験したものから比べれば余りに生易しい。
言葉を変えよう。
カナデ・ノースウィンドは「戦争」を知らないのだ。
そして、「彼」はソレを知っている――違和感が、ただの違和感以上へ昇華されないのはその差ゆえ。
だが一方で。
「私には関係の無いことですから……まあ、早く見付かることを祈っておきます」
違和感が違和感として消えずに留まり続けるのは、彼女の持つ何がしかに拠るものかもしれない。
631 :
赤髪の男:2008/03/22(土) 23:21:11 ID:???
>630
「あぁ、ありがとう。
僕もこれから探してみるつもりだけどね。」
(落ちた果実を腕に抱える紙袋へと放り込み顔を上げる。
礼を述べつつ向けられた笑顔は人並みには爽やかな物。
カナデの知る所で言えばクレハ・ナラノハやリヒャルト・ユルゲンスの微笑みに違いかも知れない。
だがしかし、彼らの笑みに比べて男の其れは"いささか完璧過ぎた"。
まるで心にも無い虚構のような――いや、それは虚構に間違い無い。
それも何か、自らの危険を感じるタイプ、其れはそういう類の危険な物だ。)
「…それじゃ。
祈って貰える内に行くとするよ、ありがとうね。」
(そして、その笑みのままに歩を進めて遠ざかる。
終始、張り付いた仮面の様なそれが崩れる事は無かったが。
言い様の無い不安や危険、それらを彼女一人だけに残した様に、その赤い髪の男は去って行った。)
>>631 道すがら反芻される記憶。
一筋の罅も無い、あの男の笑みはまるで――
「道化師のメイクみたいね」
塗りたくったどうらんの下、本当の素顔までも笑っているとは限らない。
そんな道化師の化粧についての話を、この時カナデは思い出していた。
幼い頃に見た、西暦時代のアーカイブ。
修道院の見習いシスターが、こっそり見せてくれた古い映像。
それはB級と評価されるようなホラー映画で、ピエロの姿をした人外の存在に少年が追い詰められていくという筋書きだった。
趣味が悪い、と酷評したカナデの言葉に、取り繕うように彼女はピエロの化粧についてもっともらしい話をした。
今思えばそれは、そのシスターの密かな趣味だったに違いない。
古く貴重な娯楽の映像を、手の届く範囲で集めて鑑賞する――そんな趣味。決して珍しい趣味ではない。
その収集品の中の一つ、ピエロメイクの怪人の話――
「……っ」
冷たいものが背筋を伝っていった。
何か、得体の知れないものに触れてしまったような気味の悪さを覚えたカナデは、足早にその通りを後にした。
633 :
格納庫:2008/03/23(日) 22:09:22 ID:???
カタカタカタと、キーボードを叩く機械的な音が格納庫に響く。
音の発生源があるのは整備中の一機のモビルスーツの足元だ。
エスクード・ドゥテナス。
火星仕様に改修された陸戦用ジムをベースとする砲撃戦用の改造機だ。
「〜〜〜♪」
そしてそのキーボードを鼻歌交じりに叩いている張本人。
この砲撃戦用の機体には似つかわしくない容姿を持ったそのパイロットの名は、
エレナ・イグレシアという。
傍らでは整備班の華こと、クリスティネ・クラウスが楽しそうにそのモニターを覗き込んでいた。
>633 お姉ちゃん&クリス女史
「……お姉ちゃん。
【テナス】の調子は――って、鼻歌聞こえてるし。問題なさそう。」
そんな二人の背後から掛けられた、ややぶっきら棒な幼い声。
整備班に借りたツナギを着用し、頬に調整オイルと煤をべったり付けながら、手にした大きなスパナを肩に当て、
当人はこれと言って不機嫌なワケでもないのだがどう見ても不機嫌そうな顔を浮かべた少女、
ニムルート・G・ラスフォルテが、振り向けばそこに立っていた。
「クリス。言われた通りに【ストライカー】弄ったけど、細かい所は任せるから。
はぁ……めんど。」
そう伝え終えると、溜息と共に彼女の“口癖”が思わず漏れる。
普段ならば整備班に投げっぱなしの愛機の調整作業も、
周期的にやってくるパーソナルデータの更新時にはこうして否応無く立ち会わねばならない。
今日はそのついでに(姉と慕うエレナと一緒だと言う事もあり)ニムルートは自ら愛機の点検を行うという殊勝な行動に出ていた。
>634
「うん、良い感じよ。
テナス(堅固)なんて名前だけど、この子は中々に素直だから。」
答える"姉"ことエレナは成る程、上機嫌だ。
純白の長髪は制帽の中にしまい込まれている分、その嬉しそうな表情がよく分かる。
彼女を知らない者からは奇異な視線を向けられる事も時折あるが、
実の所、彼女は自らの乗るモビルスーツの整備にはこうして精力的に顔を出しているのだ。
「って…ニム、クリスさんに呼び捨てなんて失礼でしょう。」
『ははは、良いんですよエレナさん。
呼び易い様に呼んでくれた方が親しみが沸きますし、私も嬉しいですから。
それとはいはい、細かい所は任されましたよー。』
一方、その傍らのクリスは格納庫に居る時は常に嬉しそうと言っても過言ではない。
自ら公言して憚らないが彼女は生粋の機械好き、見るのも触るのも大好きとあらば、
機動兵器の整備などそれこそ三度の飯より好きという事になる。
『けど本当の所、信頼して頂けるのは嬉しいんですが面倒くさがっちゃ駄目ですよー。
ましてや貴方の機体は格闘タイプ、整備ミスで動けないなんてシャレにならないですからー。』
…まぁ尤も、それ故に言うべき事は言いたいらしい。
しかしそれすらも何処と無く楽しそうでは、ある。
響き渡る轟音。音速で迫る何かが格納庫の真上を通り過ぎた。
鳴り響く警報音。何事かと慌てふためく少数の生徒と、対照的に呆れたような顔をして開かれたハッチの方を眺める整備員たち。
残響が高音へと移ろってから十数秒後、四角く切り取られた空に小さな鉄のシルエットが現れた。
『やっぱりアイツか……』
溜息をつくベテラン整備員。
未だ事態を把握していない新米整備員の問いかけるような視線に、彼は黙ってそのシルエットを指差した。
* * * * *
「あー、マジで疲れた」
コックピットから降り立ち開口一番こう吐き出したのは、ブラウンの髪を後ろで三つ編みにした少年だ。
名前をファビオ・ビアンキ。
MA科の訓練生にして、十指に入る問題児である。
物言いたげな顔で駆け寄ってくる整備兵を適当にあしらいながら、彼は飛行訓練後の水分補給に勤しみ始めた。
>>636 『…あら、また盛大にやってくれてますねぇ。
先輩方の顔が目に浮かぶ様だわ。』
「あの機体は…あぁ、ファビオさんですね。
ファビオさーん!」
(苦笑しながらその機体を見つめたクリスに相槌を打ちつつ、
エレナは水分補給に入る少年へ大きく手を振ってみた。
彼我の距離は20メートル程、はたして彼にその姿と声は届くだろうか。)
>635 お姉ちゃん&クリス女史
「むー、でも…本人が良いって言ってるしー。」
オイル除去剤の染みたタオルで頬を拭い、
少し蒸れて来ていたツナギを上半身だけ縫いで腰で留めながら姉の忠告に反抗気味の妹。
姉のいう事に盲目に従うだけの姉妹関係ではなく、姉の通したい道理が自身の道理が一致した時には素直に従い、
こういった素行関連では度々反抗もする、エレナにとってはやはりいろんな意味で手の焼ける妹がニムルートだった。
「それは……そうだけど。
でも前の“オーバーヒート”は改善されてるし、磨耗だって意識して少なくしてるし。
クリスだって憶えてるでしょ?ニムがいつかヘタに弄っちゃって、【カナール】が動作不良起こしたコト。
あの時みたいに長々シェルの説教を聞くくらいなら、はじめから全部任せた方が効率的だと思うけど?」
などとしれっと言って、ベンチに腰を下ろすとスポーツドリンクを一口含み、くっと身体で伸びをする。
>636 ファビー
と、伸びきった瞬間轟音と警報に目を丸くするニムルート。
「――な、なに!?」
キョロキョロと辺りを見回し、新米整備員同様の反応だ。
やがて状況が飲み込めたのか、
着地したMAから出てくる見覚えのある顔と、それに対して手を振っている姉の姿を認識して少しイラっとする。
「……ファビオ、うるさい。」
今度は本当にむすっとした表情になるニムルートだ。
>638
「ぅー…まぁ、クリスさんが良いというのならこの場合は良いけれど…。」
(一方でエレナにしてみれば、躾は自分自身に課せられた大切な責任である。
勿論自分だけが如何こうできる問題では無いと分かってはいるが、
自分がこれを言わなくなってしまったら、それこそ駄目だ。
故にエレナにとって手の焼ける妹には変わりないが、それでも注意はしなければならない。)
『まぁそうなんですけどねー。
けどね、言い方が悪いけれど私達だって全ての事に責任を負える訳じゃ無いから。
それに実際に整備に立ち会ってくれると、
エレナさんみたいにデータの調整やらが手早く済むのよね。』
(やや苦笑混じり。
実の所、クリスとしては自分の様に、パイロットであるニムにも機体に愛情を注いで欲しいのだ。
今の発言もそれを裏返しにしただけの物に過ぎない。
勿論ニムが機体を特にぞんざいに扱っている訳でない事はクリスとてよく分かっているから、
それ以上を強く言う事もしないのだ。)
『……お、何だか妙な空気に?』
「――楽しまないで下さいよ、クリスさん…」
(そしてファビオのニムに対する態度に何処か期待の眼差しクリスさんだ。)
>>637 「分かった分かった、次からは気ぃ付けるさ――」
ボトルに差したストローを咥えながら器用に喋るファビオの耳に、飛び込んできたのは
「――ええエレナさんッ!?」
目下絶賛片思い中、麗しき白磁の美女の声。
振り返り、視界の真ん中にその姿を認めると、不機嫌そうな顔が途端に明るくなる。
突然の態度の豹変振りに呆気に取られる整備員に、飲みかけのボトルをぐいと押し付けると、小走りで彼女のほうへと駆けていった。
実技訓練を終えたばかりだというのに、全く疲れを感じさせない足取り。
恋とは麻薬のようなものなのだろうか……。
「こんなところで遇えるとは思いも……」
>>638 と、そこまで言いかけて傍に目が行く。
「……あ、お前もいたのか」
抱き合わせ販売で微妙な付録を押し付けられたかのような反応。
そっかー、エレナさんがいるならコイツがいるのも不思議じゃないんだよなー、などと考えつつ、
仏頂面で自分を睨んでくる少女の様子を窺っていた。
「何つーか、結構久し振りだな。あん時以来だっけか?」
>640
『トバしてますねー、ブースターの音が良い感じですー。』
「フフフ、確かにこちら(格納庫)でお会いするのは珍しいですね。
随分と頑張ったみたいですけど、機体の調子はどうですか?」
(機体の方に視線を移すクリスを他所に優しく微笑みかける、無論意識せずの事だ。
そして今しがたまでキーボードを叩いていた端末の横に置いていたバスケットの中から、
塩分補給用のサプリメント――塩分を科学的に加工した塩キャンディを手渡した。)
「…というより、私自信もお久しぶりな気がしますね。
ファビオさんもお元気そうで何よりです。」
("妹"と彼の間の微妙な空気にやや緊張しながら。)
>639 お姉ちゃんとクリス女史
「大丈夫だよお姉ちゃん。
そういうのがキライって人にはちゃんと丁寧語で話してるし。ね?」
そう言って一先ずの安心をして貰い、もう一口ドリンクを含んで立ち上がる。
「……クリスがそうしろって言うなら合間合間にそうするけど。」
これからは。と小さく呟いて少し遠くのメンテナンスベッドに横たわる【ジム・ストライカー】の機体を眺める。
自分が多くの希望者の中から勝ち得た新型機。それの有り難味を理解出来ないわけがなかった。
コクピットに入る時や、戦い終わった後、傷つけてしまった時にも思わず声を掛けてしまう程度にはニムルートも愛機を大切に思っていた。
>640 ファビー
ふん、と鼻を一つ鳴らして睨むのを止めると姉の傍らにやって来る。
「そうかも。でも何回かはファビオが意図的に無視してたと思うんだけど。」
あれからこれまでにも、彼が姉を口説いているシーンも何回か目撃していたし、
本人を見かける事はあまり見かけなかったが、彼のおじさんの店にはアレ以来姉と何度か訪れていた。
「それで、これからまたお姉ちゃんを口説くつもり?懲りないやつ。」
姉が拒否しているわけではないので懲りない奴というセリフには語弊があるかもしれない。
とりあえず今はあからさまに自分を毛嫌いしているであろうファビオの、姉を見つめる熱っぽい視界に自分をそれとなく入れることで微妙な気持ちにしてやろうとか考えているニムルートだった。
>>641 「調子? 調子っすか、そりゃもう絶好調っすよ。
欲を言えばもうちょい推力上げたいってトコだけど、そうすっと今度は機体の強度に不安が出るってんで」
ま、欲張らなけりゃ充分満足できてますよ、と。
ともすれば緩みきってしまいそうな顔を、それでも適度に引き締まったままでキープできるのは、
>>642 「……別に俺は避けてたワケじゃ無いぜ。
つーかお前こそ俺を避けてたんじゃねーのか――」
その傍らに毛を逆立てた猫の如き少女が侍っていたからである。
「――ってオイ!」
思いもかけない言葉に、咄嗟にニムルートの腕を掴んで引き寄せる。
「べ、別に俺は口説いてたとかそんなんじゃねーぞ。
そんな、人を邪まなナンパ野郎みたいに言うんじゃねえよ、つーかエレナさんの前で言うなよ」
想い人に聞こえないよう、ニムルートの耳元で小声でそう言う。
相当に焦った顔だ。
秘めた(当人はそのつもりである)想いが相手にばれてしまわないかと、そんな焦りの生んだ表情である。
>642
『そうしてやって下さい。
Ich hatt' einen Kameraden,私には一人の戦友がいた。って訳じゃ無いですけど。
其れくらいの愛情を注いでやれば、応えてくれるのは本当だと思いますから。
伊達に人型をしてる訳じゃ無いですからね、モビルスーツ。
…まぁ勿論、今のところ貴方の其れは合格点ですけどね?』
(そうして悪戯っぽく笑ってみせる。
生憎現在ジム・ストライカーの整備担当は彼女ではないが、それでも思い入れの良し悪しは分かるのだろう。)
>643
「そう、それは良かった。
…それにしても、ファビオさんの機体は私のテナスとは正反対の機体ですけど――
――って…ニムったら。私は別にそんな事はされていないわよ、ねぇ…?」
(そしてニムの言葉はエレナにしてみれば、語弊はある。
何故なら彼女自身、口説かれたという意識は無いのだから。
熱っぽい視線には勿論気付いているが、それ自身を余り意識していない。
ある意味では非常に残酷な事に。)
>643 ファビー
「イタっ…ちょっと、なに!?」
不意の出来事に呆然としながら引き寄せられ、耳打ちされた内容に眉を顰めた直後。
蟲惑な表情を浮かべてファビオに笑う。
弱みを握った事で自身の優位を確信した、そんな顔だった。
いつかの恩を仇で返す気マンマンなご様子で。
「ふーん…ニム的にはクレハみたいなナンパやろーとなんら変わらないと思うけど、
……そこまで情けない顔で必死に頼まれたら、
“ナポリピッツァの二〜三枚でカンベンしないといけない”って思う。ニムも。」
そう小声で言った後に今度は自分からファビオの耳元で囁く。
「どーせまたプレゼント作戦するつもりなんでしょ?その時にでも。
ん、あくまでついでで良いよ?ニムは。」
お姉ちゃんと待ってるから。と付け加えてにっこりと笑うニムルートだ。
>644 クリス女史
「やっぱりクリスには敵わないかも…」
うなだれるように。パイロットとしての心持にこれほどの正論を通されてはひねくれ続ける事は困難だった。
つくづく目の前の女性にとってはメカニックという仕事は天職なのだな、と感心してしまう。
>644 おねーちゃん
「うん、そんなコトされてないよねー。」
ちらりとファビオの方を見やって白々しく。
「まぁもし誰かにそうされたとしたら、それはニムの屍を超えて貰わないと実現しないけど。」
そう言って少しだけ姉に寄り添いながら、その顔を仰ぎ見る。
>>645 「うっ」
しまった、と表情に出てしまう辺りが彼の未熟さか。
晒してはいけないカードを見られてしまったとの思いに、耳元で囁かれた悪魔の言葉にもただ頷くしかない。
渋々と。あくまで渋々といった体ではあるが。
「わーったよ。
ついでだからな。あくまでお前はエレナさんのついで、オマケだからな」
やたら強調するのは負け惜しみというか、そんな感じの心理ゆえ。
ニムルートの為じゃなく、あくまでエレナの為にしかピッツァは焼かないと言外に含ませつつ、ささやかな反撃を試みたのだろう。
「あと俺をあんなナンパ男と一緒にすんじゃねえ。
……ってか、アイツさ。
この前スゴイ相手とデートしてたんだってな……ま、どうせただの噂だろうけど」
>>644>>645 「……」
「え?」とばかりに振り向くファビオ。
「……そ、そうッスよ、ねえ。
俺みたいな野郎が、エレナさんを口説こうなんざ100年早いってもんですよ、ねえ」
口説く口説かないは別にしても、出来る範囲でのアピールはしてきたつもりだったのだが。
今の口調からすると全くの脈なしか、そもそも気付いて貰えていないようだと悟る。
とほほー。
とりあえずニムルートにささやかなガンを飛ばしておきつつ。
内心の落胆振りをどうにか隠しながら、薄っぺらな愛想笑いでその場を誤魔化した。
>>645 『ふふふ、そう言って貰えると偉そうな事を言った甲斐がありますねー。』
(そうして、胸を張りつつ屈託の無い笑み。
実年齢には不釣合いながら、溢れ出る自信は外見には大よそ不釣合い。
何せクリスの身体は、ニムのそれと傍目にはそう変わった物には見えないのだから。)
>646
「いえいえ、本当だったらとても嬉しいですよ?
けど、百年経ったら私はもう御婆ちゃんになっちゃってますしねー…。
その時には残念ですけど、きっと他に素敵な人を探してくださいね。」
(実の所、一連の会話に決して嫌な感情は抱いていないエレナだ。
しかし何だろうか、百年経ったらとの言葉に何処と無く寂しそうな表情を見せたのは。)
>646 ファビー
「はいはい、それでも構わないから。本当に好きだねファビオも。」
やれやれと肩を竦めながら大したビッチっぷりを発揮するニムルートだ。
その言動からは彼の気持ちを認めているのか全力で潰すつもりなのかはっきりとはわからない。
ただ、慌てるファビオを見て遊んでいるらしいのは確かだった。
「……あ、それ知ってる。
カナデ先輩とっていうアレ。
この前、有頂天な本人に聞いたし。」
ポンと手を叩き、それだ!と言わんばかりに指をさして。
「それは妄想だって一蹴したけど。」
はん、と嘲笑めいたものを浮かべながら言うニムルートだった。
>647 クリス女史
「……。」
そんなクリスの様子を見詰めながら、ふと自分の身体を見てみる。
……漏れる溜息。
よくてもスレンダーか、などとこの歳で諦観を抱き始めていた。
>647
「……えっと、お姉ちゃん…えっと…ね?」
うわー、とか、あちゃー、とか、そんな表情を浮かべてエレナとファビオの顔を交互する。
お姉ちゃんはたまに凄く残酷なことを邪気無く言うんだよなぁ…とか思いながらファビオに少し同情する。
「(……あれ?)」
でも、その後で見せた寂寞とした表情。
あれは一体なんだったのだろう。ただの喩え……そのはずなのに。
>>647 「ハハッ、エレナさんより素敵な人なんざ見付かりますかねぇ」
軽い口調で応じるファビオ。勿論内心は凹みまくりだ。
けれど、打ちのめされそうになる一歩手前で踏みとどまる。
男女の機微に鈍い彼であっても、その時のエレナに生じた仄かな翳りの色を見逃すことは無かったからだ。
だが何も言えない。
決して踏み込んではいけない領域だと、感じ取ったがゆえに、何も。
同時に思い知る。
自らの内に秘めた想いは未だ届かず、そして彼女が内に抱いた翳りの理由もまた、彼には詳らかにしてもらえないのだと。
>>648 「人間、ああなったらおしまいだよな。
幾ら惚れてるからって幻覚見ちゃあなぁ……」
無論彼も信じちゃいない。
氷の薔薇とまで称される才女が、傍らに誰かを連れ立って歩く姿など想像もつかなかった。
ましてや、その相手があのナンパで有名な青年だと誰が信じようか。
まことしやかに囁く者も、確かに見たんだと言う者も、いるにはいるのだが――
「ありえねえ」
その結論を覆すには至らない。
>648-649
「ありがとう。
けど本当、私より素敵な人はきっと宇宙には溢れていますよ。」
(最後はやや冗談めかして、それでも確かに嬉しそうに。
先程までの一瞬の翳りは最早無い、まるで陽炎の様に消えてしまった。)
「ははは、それにしても二人とも…
そんなに言ってはクレハさんがかわいそう、確かに易々とは想像出来ないけれど…
……彼の見る幻覚だったら、もっと凄まじい事になってるでしょうし。」
(そしてこれも冗談めかして。少々キツイ表現ではあったが。
因みにクリスは一行の傍らで必死に笑いを堪えていた。
彼女は、見たのだ。)
>649 ファビー
「まったくだし。」
珍しく意見が合う。
深く頷きながら脳裏に浮かんだハッピージャンキーの顔を払い除け、何とはなしに溜息をついた。
「でもそれはファビオも気をつけないと。」
肘で少年のわき腹を小突きながら、口元に手を合えてて小さく笑う。
…ものの、平静を保とうとしている彼の瞳の中に何かを感じた少女は、
「……。
張り合いが無いから、簡単に引かれても困るし……」
そっぽを向きながら、ばつが悪そうに。
そう、ぼそりと呟く。
>650 お姉ちゃん
陽炎のように消えた一瞬の表情も気にはなったが、
この時の少女はそれ以上何をするコトも出来ず……。
「あは…うん、ニムもそう思う。」
やっぱり我が姉はナチュラルボーンハートブレイカーだと思う。でもそこが好き。
それからふと流した視線の先でついにクスクスという堪え切れない分の笑いを零すクリスに気が付き、どうしたの?と尋ねる。
>>650 「宇宙の星を追うよりも、ひっそりと咲く花一輪を愛でたいッスよ、俺は」
ファビオは呟く。
こんな台詞を、こんな風にしか言えない不器用さ。
凡そイタリア人の気風からは掛け離れた、その有様。
>>651 「退かねえよ……サンキュ、良い奴だな、お前」
親指の腹で鼻の頭を弾くように擦り、少年はニッと笑って見せた。
>>650 と、そこでクリスが忍び笑いを漏らしているのに気付く。
大方自分たちと同じ理由でクレハを笑っているのだろうと思ったが……。
「……どうしたんスか?」
ちょっとだけ気になったので聞いてみた。
>651
(そうよねぇ…。等とごく自然に頷いているエレナ。
ニムも分かっている通り悪意など一ミクロンも存在していないのだからタチが悪い、
まぁ尤も彼女自身、言って良い事と悪い事の区別はこれでも付いているのだが。)
>652
「…そう、だとしたら貴方は優しい人。
星の輝きは過去の物だけどそう簡単には消えはしない、花の命は短いわ。
……何だかこう言うと、どちらも物悲しく思えてしまうけどね。」
「ありがとう。」
(さらりと、控えめに。
やや淡々とした語り口、最大限に自制された何かが其処にあった。)
>652
:クリス:
『い、いや……アハハ…エレナさんは凄いなぁ…って…。
私もその幻覚の話は見ましたけど…アハハ。
何だか今の聞いたら、クレハさんに幻覚でも見せられたんじゃ無いかって思っちゃって…
あぁ駄目、ツボに入った…!』
(そしてエレナとは全然様子の違うクリス。
ニムとファビオに対し、笑いを堪えきれない様子ながら説明を試みる。
早い話が"エレナの凄ェ一言"でユーモア精神を刺激された訳だが……
ツボに入ったとはいえ少々、笑い過ぎである。ましてやこの場で一番の年長者とあらば。)
>652 ファビー
そんな彼の笑顔にまた別方向にそっぽ向いて。
「別に。ただファビオがらしくないと思っただけだし。
ナンパしないクレハとかがなんか気持ち悪いのと一緒。」
気紛れな子猫のように、一瞬にしてしおらしさを消し去ってそう応える少女だった。
>653 クリス女史
「え…聞いたじゃなくて、…見たの?クリスも?」
愕然とする。
クレハが集団催眠とか幻覚の能力者なんてのは初耳だし、
ウソを言うにしても一番似つかわしくない人間がそう言っているのだ。
つまるところ…
「……えっと、
ニム……本当だったらクレハの頬にキスしないといけないんだけど…」
蒼褪める少女の顔。
どうやら当時、ウソだと確信したニムルートはとんでもない約束を軽い気持ちで受けてしまったらしい。
>>654 「プッ……」
その様子が余りに愉快で、ファビオは漏れ出そうな笑いをかみ殺すのに必死だった。
唐突に思う。
可愛いな、と。
慌てて首を振り、自身ですら誤解しかねないその感想を振り払うと改めて結論づけた。
即ち、
『案外可愛いところもあるんだな』
である。
>>653クリス
「……は?」
今、この人は何と言った?
見た。確かにそう言ったような。
いやいやまさか。
けど、ここまで証人がいるとなると――ファビオの思考は巡る。
「つまり……マジだったって事か?」
その結論は、想像を超えていた。
>654-655
『いやいや、信じたくなければ信じなくて良いと思いますよ?
何か私も今の話聞いてたら幻覚か何か見せられたんじゃないかって思えて来ましたし。
ただまぁ、仮に私の目と記憶を信じるなら――』
(と、そこで何とか笑いを堪えて真面目な顔に。
本来こういう話はしない方が良いんでしょうけどね、と前置きしてから)
『私なんかが言うのはアレだと思うんですけど。
程度はともかく割と事実に近い、って事かと………。』
>655 ファビー
「…なに?」
吹き出しそうになっているファビオを見て、
彼の内心など知る由も無い故に不満メーターが跳ね上がるニムだ。
しかし今はそれ以上に。
「はぁ……どうしよう……」
頭を抱えて思い悩むに足る大問題がニムルートの前に立ちはだかっていた。
>656 クリス女史
「で、でもまだデートだったとは限らないし!
たまたま道で一緒になったのを理由に尾け回して、既成事実を作ろうとしたのかも…!」
加速する理論がクレハ・ナラノハの人間性をどんどん瓦解させてゆく。
しかし少女にはそうするしかなかった。
何故ならば。
「やだ、ニムが……あんな奴にき、キ…sうう、、…なんて…」
絶望にも似た表情で姉、エレナの腕を掴む。
細い指は、その全身は、震え切っていた……。
659 :
幕間:2008/03/24(月) 02:24:39 ID:???
一方その頃、クレイドル外周。
今まさに搬出ゲートから出発しようと体勢を整える一機の大型トランスポーターがある。
サムソン・トレーラーを大型化して指揮塔を取り付けたようなその操舵室の中へ、
今まさに歩みを進めた赤い髪の男が居た。
『お待ちしていました、隊長。エメとは合流出来ましたか?』
「問題無い。
やはり演技という物は疲れるが…とんだ敵情視察になった、しかし収穫はあったぞ。
…クルト、こちらの状況はどうか?」
『こちらも問題ありません、クレイドルからは全員帰還していますし、
物資の確認も完了しています、今のところマークされている様子も無い。
そちらに収穫があったのなら御の字でしょう、外に居る奴らの状況も問題ありません。』
「…分かった。
ではクレイドルの出入管理局に連絡、許可が取れ次第出発しろ。
次の仕事場は遠いぞ、マリネリスだ。」
『了解。深い深い闇の底へ、という所ですかな。』
(そして数十分後。
養成所のあるクレイドルの正面ゲートから民間籍の大型輸送トレーラー
"イルルヤンカシュー"が発進する、特に怪しい点も無い極普通の個人所有輸送車両。
そしてその更に数日後。
火星養成所から遠く離れたマリネリス渓谷にある資源採掘基地を、
正体不明の武装勢力が襲撃するという事件が起こるが、それを知る者はそう多くは無い。)
「なるほど、の。
情報から見ても、どうやら奴らに間違い無さそうじゃな。」
そしてその数日後の事。
パイロット養成所はまず第一に教育機関である。
モビルスーツが労働力としての需要が高いという事実もあるし、
訓練生に施されている教育内容も一般の学校のそれと決して見劣りはしない。
実際、養成所を卒業した生徒の中には作業用モビルスーツの搭乗員として、
宇宙空間のスペースコロニーや火星地表のクレイドルの補修作業に従事する者も多い。
だが一方、火星の養成所が一種の傭兵派遣機構の様な役割を持つ事は否定出来ない。
訓練生が実習と称して実戦に出る事は決して珍しい事ではないし、
事実として"実習を兼ねたアルバイト"として、
輸送車両クロウラー等の護衛が斡旋されているのはそれを証明するには十分に過ぎる。
そういった事情から、養成所にはこうした情報が比較的寄せられ易い。
そして教官などの養成所職員にはこういった事件の情報は可能な限り伝えられる。
尤も其れは、訓練に使用するフィールドを決定したりする際の判断材料になるというのが、
表向き且つ最大の理由ではあるのだが……
そしてある意味では当然の事ながら、一部の噂好きな訓練生の間にもこうした話は噂として流される。
それらの大半は一般に報道されるような情報を好き勝手に脚色した物ばかりだが、
中には自然と事件の核心を付いていたり、或いはそれ自体が都市伝説のように一人歩きを始めてしまう物もある。
例えば今回の事件の首謀者はかつて滅んだ大国の亡霊だとか、
それは養成所にも縁の人物だとか。
素手でモビルスーツを破砕できる達人であるだとか、そういう噂である。
(―火星への移住が加速してから10年は経ち、初期のような大規模な混線こそ無くなっていた。
しかしそれでも、個人単位で混線してくる例は未だにある。―)
「くあ〜〜……たりぃ。」
(―この火星養成所傭兵教育科『臨時』教官こと俺様、アスもその一人だった。
火星への移住がブーム的になり始めた頃に混線し、賊として火星に渡った…まではいいのだが。
何をどう間違えたか教職について早4年。いい加減板についてきて怖え。
ああ、昔の気楽な生活はどーこ行っちまったかねえ……―)