オリジナルSSを発表するスレ

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614女の初陣 戦士の初陣 1/30
 彼女の視線の先で、黄色いヘビーガンがビームライフルを放っている。その
黄色いヘビーガンがビームライフルの引き金を引く度に、かつてジェガンと呼
ばれた鉄屑が、元の形を失って行った。ヘビーガンはもはや旧式と言えるモビ
ルスーツだが、その放たれるビームの出力は、鉄屑を破壊するには充分だ。
 射撃を終えた黄色いヘビーガンが向きを変え、こちらへ向かって来る。しゃ
がみ込んだ後コクピットのハッチが開き、パイロットスーツ姿の女性が、そこ
から出てきた。
 その女性パイロットを見つめる、椅子に座った五組の長身の女性達の瞳があ
る。その内の一組に、命令が下された。
「よし、次。四番、ジュンコ・ジェンコ。」
「ハイ!」
 ジュンコ・ジェンコと呼ばれたパイロットスーツ姿の長身の女性は、試験官
の呼び掛けに、はっきりとした返事を返す。椅子から立ち上がった後、青い瞳
と深い紫色をした髪をヘルメットで包んで、パイロットのいなくなった黄色い
モビルスーツに向かう。
 そんな彼女の耳に「頑張って、ジュンコ姉さん」と、この次に試験を受ける
ペギーの声が聞こえた。
615女の初陣 戦士の初陣 2/30:03/09/16 00:10 ID:???

 ジュンコ・ジェンコ。母子家庭で育った彼女は中学卒業後、昼間働きながら
夜は定時制高校に通う生活を選んだ。体の弱い母親を、助ける為に。
 連邦宇宙軍のパイロットだった彼女の父は、彼女が小さな時、木星動乱で死
んだ。地球を滅ぼそうそする七つの(正確には八つの)巨大な悪意を止める為、
その悪意と戦い、死んだのだ。
 その父の残した恩給と、母が弱い体に鞭打って稼いだ金で、残された母と娘
は生計を立てていた。だがジュンコが中学を卒業する年に、母が倒れる。それ
を見たジュンコは、働きながら高校に通う事を決めたのだ。
 そんな生活を四年間続けた後、ジュンコは父と同じ道を歩むべく、地球連邦
軍のパイロット養成学校へ進学する。そこならば、同年代より多い給料を貰い
つつ、四年間の寮暮らしが出来るからだ。体が回復した母への負担を減らす為、
病の傷痕を残す母に可能な限りの医療を受けて貰う為、そう決めた。
 娘が戦死した父と同じ道を歩む事に母は反対したのだが、ジュンコはそれを
押し切る。そして父と同じ道を歩む為、サイド2のコロニー・ネオアテネにあ
る女子パイロット養成学校へと入学した。
616女の初陣 戦士の初陣 2/30 :03/09/16 00:11 ID:???
やっぱ。やめ。また今度ね。
617女の初陣 戦士の初陣 3/30:03/09/16 00:11 ID:???
 学校の寮の二人部屋で同室となった女性が、ペギー・リー。金色の髪と青色
の眼を持つ一歳年下の彼女は、ジュンコの事を「姉さん」と呼んだ。
「ジュンコ姉さんの方が一つ年上なんだから、当たり前でしょ。」
 同級生から姉さんと呼ばれる事に恥ずかしながら戸惑うジュンコが、ペギー
を注意する度に、そんな答えが返って来た。だが、ペギーがそう呼び掛ける時
の笑顔を見ている内に、いつしか恥ずかしさも戸惑いも消えてしまう。
 ペギーの父は、彼女の故郷であるサイド2のエスタニアコロニーにある、モ
ビルスーツ工場の技術者だ。
 母を事故で早くに亡くしたペギーは、妹と一緒に祖母の住むコロニーへと預
けられ、父と離れ離れになった。父はエスタニアに残って、工場で働くという。
そんな父が休暇中に工場から帰って来る日を、指折り数えて待つという少女時
代を過ごしたと、ペギーは語ってくれた。
 彼女も自分と同じく経済的に家庭を助ける為、三年間の高校生活の後すぐに、
この女子パイロット養成学校へ進んだのだと、ジュンコは聞かされた。
「妹は、大学に行かせてやりたいしね。」
 そうペギーは言う。自分と違って頭が良く、女らしくて可愛いと妹の事を話
すペギーの顔は、とても嬉しそうだ。
「それに、父さんの作ったモビルスーツに、乗ってみたいから。」
 父の顔を思い出しながら優しくそう語るペギーの顔を、女らしくて可愛いと、
ジュンコは思った。
618女の初陣 戦士の初陣 4/30:03/09/16 00:11 ID:???

 ペギーの声を聞きながら、ジュンコは黄色く塗られた訓練用ヘビーガンへと
向かう。今行なわれている重力下での実ビーム射撃試験に合格すれば、正式に
パイロットになれる。パイロットへの、最後の試験だ。
 廃棄されたモビルスーツを的にした、射撃試験。それが行われるペギーの故
郷、サイド2のコロニー・エスタニア。ここにある連邦宇宙軍第四パイロット
試験基地はサイド2で唯一、コロニー内での実ビーム発射が可能な施設を持つ
基地だ。
 エスタニアの人工の大地を、ジュンコは一歩一歩踏み締めた。力強く。
 四年間の養成学校生活の集大成だ、一発で合格する、絶対に。そう決意する
彼女は、先程自分の前に試験を終えたヘレン・ジャクソンという名の同級生が
行なった射撃を、思い出していた。
(アイツより上手く仕留めてやる、必ず。)
 そんな事を頭に浮かべつつ、訓練用の黄色く塗られたヘビーガンに乗り込む。
モビルスーツのハッチを閉じようとしたその時、どこか遠くから生じた爆発音
が、ジュンコの耳に入った。
619女の初陣 戦士の初陣 5/30:03/09/16 00:12 ID:???
「嫌ぁぁー!!」
 ペギーが叫んだ。そしてすぐ、再び叫ぶ。
「父さん、父さぁーん!」
 エスタニアの太陽側にある工業ブロックで上がった爆発を見て、ペギーは叫
び続けた。
 何が起こったのか知る為に、ジュンコはヘビーガンの無線チャンネルをALL
に合わせる。コクピットのスピーカーから、慌てふためく男の声が発せられた。
『ガチ党のモビルスーツ部隊が、太陽側の港から進入しました! 機数九機!』
 二年前にザンスカール帝国を名乗ったアメリアコロニーからのモビルスーツ
部隊は、三機づつ三部隊に別れる。一つは工業ブロック、一つはエスタニア政
庁、残りの一つはこの試験基地を制圧する気なのだ。
 ジュンコは本能的に、黄色いヘビーガンのエンジンを吹かせる。そして最大
出力を出して、爆発の起こった太陽側にある工業ブロックへと、自分の乗るモ
ビルスーツを飛ばせた。
620女の初陣 戦士の初陣 4/30:03/09/16 00:13 ID:???
あっけなく事故に巻きこまれてアボーン。
621女の初陣 戦士の初陣 6/30:03/09/16 00:13 ID:???

 火の海だ、もはや手遅れでしかない。ザンスカール軍の攻撃を受けた工業ブ
ロックのモビルスーツ工場を見て、ジュンコはそう思うしかなかった。だがそ
の火の海に満足する気は、三機の赤いモビルスーツには無いらしい。両肩が大
きな嘴状をした赤いモビルスーツ・ゾロアットは、工業ブロックを攻撃をする
手を緩めようとはしなかった。
 ALLのままの無線が、ゾロアットのパイロットの声を拾う。
『見つけ出せ! リガ・ミリティアの秘密工場が、このブロックのどこかにあ
る筈だ!』
 その無線の声が消えた後、赤いモビルスーツが地面の工場に向けて、ライフ
ルからビームを放つ。出力を下げているビームとは言え、火の海の勢いを増す
には充分なビームだ。
 何度目かの爆発が起きた。その爆発が、幾つかの命を散らす。今散った命の
中にペギーの父もいるのだが、ジュンコにそれを知る術は無い。
「アンタらぁ、よくも、よくもペギーを泣かせてくれたね!!」
 ジュンコは叫びながら、先程ビームを放った赤いモビルスーツに突撃を掛け
る。視線の先の大きな人型の機械の色は、地獄の炎によって焼かれた人々の血
の色に、ジュンコには見えた。
「ウオァァァー!!!」
 女の、いや人の口から発せられたと思えない雄叫びを、ジュンコが上げる。
叫び声に気付いた血の色の巨人の肩にある大きな嘴が開き、幾筋かの光がジュ
ンコに向けて放たれた。
622女の初陣 戦士の初陣 8/30:03/09/16 00:13 ID:???
「嫌ぁぁー!!」
 ペギーが叫んだ。そしてすぐ、再び叫ぶ。
「父さん、父さぁーん!」
 エスタニアの太陽側にある工業ブロックで上がった爆発を見て、ペギーは叫
び続けた。
 何が起こったのか知る為に、ジュンコはヘビーガンの無線チャンネルをALL
に合わせる。コクピットのスピーカーから、慌てふためく男の声が発せられた。
『ガチ党のモビルスーツ部隊が、太陽側の港から進入しました! 機数九機!』
 二年前にザンスカール帝国を名乗ったアメリアコロニーからのモビルスーツ
部隊は、三機づつ三部隊に別れる。一つは工業ブロック、一つはエスタニア政
庁、残りの一つはこの試験基地を制圧する気なのだ。
 ジュンコは本能的に、黄色いヘビーガンのエンジンを吹かせる。そして最大
出力を出して、爆発の起こった太陽側にある工業ブロックへと、自分の乗るモ
ビルスーツを飛ばせた。
623女の初陣 戦士の初陣 7/30:03/09/16 00:13 ID:???
 内コロニー戦で使用する様開発された対モビルツーツ兵器、ビームストリン
グスの破壊の光が伸びた。それをかわしながら、初めて見る攻撃にジュンコは
戸惑う。
(何、今の!?)
 ジュンコが戸惑う間、それぞれの光の中心を貫くワイヤーが、光が放たれた
右肩の嘴へと帰って行く。
(当たらなければ、どうという事はないさ!)
 右肩の嘴から放たれる破壊の光の筋を避ける為、ジュンコは距離を取って、
黄色いヘビーガンにビームライフルの引き金を引かせた。何度も、何度も。だ
が血の色をした巨人は、ジュンコの憎しみの光線を巧みにかわし続ける。
 速い。ジュンコのヘビーガンより、初動、加速、旋回、停止の全ての動作が
速い。三十年前のコスモ・バビロニア戦争時代に連邦軍の主力だったヘビーガ
ンとは、あらゆる速さが違い過ぎる。
(なら、近付いてッ!)
 ゾロアットが回避運動で横を向いた時、ジュンコは距離を詰めに掛かった。
接近戦ならば、スピードでかわされる事は無い。そう判断したからだ。
 ライフルを持っていないヘビーガンの左手が、ビームサーベルを握る。血の
色の巨人との距離が近付くと、ヘビーガンの黄色い左腕を振り上げ、ビームの
刃を左手に発生させた。
「もらったよ!」
 ジュンコは確信した、これで目の前のモビルスーツを撃墜出来ると。だが、
想像もしなかった速さでゾロアットはその場で旋回し、左肩の嘴をジュンコの
ヘビーガンへと向ける。そして嘴の先から、矢尻形をした大きなビームシール
ドが発生した。
 バッ! ヘビーガンのビームサーベルとゾロアットの矢尻形のビームシール
ドが、ぶつかり合う。ビームの火花が散る。スピーカーにノイズを生む。
 ジュンコには、信じられなかった。自分の想像もしなかった速度でゾロアッ
トが旋回した事が。旋回したゾロアットの左肩の嘴の先から生じた、矢尻形を
したビームシールドの大きさが。
 そんなジュンコの一瞬の隙を突いて、血の色の巨人は、ジュンコのヘビーガ
ンの腹を蹴り上げた。吹っ飛ばされる。
 機体の制御が効かない! やられる! ビームライフルから光が飛んで来て、
自分の体を貫く!
 だが、ジュンコの予想は外れた。コロニー内でモビルスーツのエンジンを爆
破するわけにはいかない、折角ビームの出力を最小にしてライフルを放ってい
る意味が無くなると、パイロットが判断したゾロアットの右肩の嘴から、再び
ビームストリングスの幾筋もの軌跡が放たれた。
 黄色いヘビーガンの体に、何本ものビームストリングスが絡み付く。電撃が
走った。黄色い体に、ビームストリングスの電撃が走る。
「アアァァァッ!」
 このままでは、ヘビーガンの体中の回路が全てショートしてしまう。いや、
その前に自分の体が電撃で千切れてしまう。そんなジュンコの前を、白い影が
よぎる。その直後、ビームストリングスの電撃が消えた。
625女の初陣 戦士の初陣 10/30:03/09/16 00:15 ID:???
ジュンコ・ジェンコ。母子家庭で育った彼女は中学卒業後、昼間働きながら
夜は定時制高校に通う生活を選んだ。体の弱い母親を、助ける為に。
 連邦宇宙軍のパイロットだった彼女の父は、彼女が小さな時、木星動乱で死
んだ。地球を滅ぼそうそする七つの(正確には八つの)巨大な悪意を止める為、
その悪意と戦い、死んだのだ。
 その父の残した恩給と、母が弱い体に鞭打って稼いだ金で、残された母と娘
は生計を立てていた。だがジュンコが中学を卒業する年に、母が倒れる。それ
を見たジュンコは、働きながら高校に通う事を決めたのだ。
 そんな生活を四年間続けた後、ジュンコは父と同じ道を歩むべく、地球連邦
軍のパイロット養成学校へ進学する。そこならば、同年代より多い給料を貰い
つつ、四年間の寮暮らしが出来るからだ。体が回復した母への負担を減らす為、
病の傷痕を残す母に可能な限りの医療を受けて貰う為、そう決めた。
 娘が戦死した父と同じ道を歩む事に母は反対したのだが、ジュンコはそれを
押し切る。そして父と同じ道を歩む為、サイド2のコロニー・ネオアテネにあ
る女子パイロット養成学校へと入学した。
「ガンダム!」
 目の前にいる白いモビルスーツを見て、ジュンコは思わずそう叫んだ。戦史
教本のモビルスーツ史の項にあった、ファーストガンダムと呼ばれる機体の写
真と同じ姿をした白い巨人が、自分の目の前に立っている。
 ジュンコの目の前にいる白いモビルスーツ・ヴィクトリーガンダムが、黄色
いヘビーガンに絡み付いたビームストリングスを、光の刃で切り落としたのだ。
「無事ですか、ヘビーガンのパイロット。」
 ALLのままのスピーカーから、女の声が聞こえた。通信用の小型モニターに
灯を入れる。点灯した小型モニターに、濃い褐色の肌をした女の顔が映った。
「アンタは?」
「生きているのね。無茶はしないで、お下がりなさい。」
 濃い褐色の肌をした女が、モニター越しにジュンコに命令する。その顔には、
まるっきり化粧っ気が無い。
(女かよ、それでもッ!)
 そう思うジュンコのヘビーガンのそばに、二機の別の白いガンダムが着陸す
る。その内の一機が、ジュンコに向かって呼び掛けた。
荒らすのやめろよ。
「大丈夫か、パイロット?」
「イノエ教官!」
 ジュンコは驚く。訓練学校の最初の二年間に指導を受けたオリファー・イノ
エの声が、聞こえたからだ。
 腕は確かだが、政治的活動に深入りしている為にパイロット養成学校に回さ
れたと噂された男、オリファー・イノエ。厳しいが、愛情のある言葉で訓練生
達を叱った男の乗るモビルスーツが、目の前にいる。それにジュンコは驚いた。
 ガチ党がザンスカール帝国を名乗った二年前に姿を暗ました男の乗るモビル
スーツが、なぜ自分の危機を救ってくれなかったのだと、ジュンコは残念がっ
た。自分の危機を救ったのが、よりによって化粧っ気の無いこんな女だとは。
「ジュンコか!」
「オリファー、知ってるの!?」
 その化粧っ気の無い女が、自分達を、いや自分を指導してくれた男の名を、
呼んだ。姓ではなく、名を。それが許せない、ジュンコには。
「ああマーベット、昔の俺の生徒だ。」
 やはり知り合い以上の関係なのだ、この二人は。
 オリファーは、他の二機のガンダムに指示を出す。
「ジャックは政庁に行って、コロニー軍の支援に向かえ。マーベットはヘビー
ガンを連れて、訓練基地へ。俺はここの三機をやる!」
 自分だけ名前が呼ばれなかった事が、ジュンコには寂しかった。

 太陽側からコロニーの中央へと向かう、二機のモビルスーツ。片方は余裕の
ある飛び方をしていたが、もう片方の黄色いヘビーガンは、出力を全開にして
飛んでいた。
 あの女に負けている。自分がヴィクトリーガンダムと機体の性能が違い過ぎ
る事に、ジュンコは腹を立てていた。
「何者さ、アンタ。」
 ジュンコは、化粧っ気の無い褐色の女に向かって尋ねる。
「リガ・ミリティアのパイロット、マーベット・フィンガーハットよ。」
 リガ・ミリティア。ギリシャ語で神聖なる軍事同盟の意味を持つその組織は、
元々はスペースノイドの自治権拡大運動をする組織達の、集合体の名前であっ
た。しかし近年、その旗頭的役割を果たしていたサイド2・アメリアに本拠を
置くガチ党の暴走に伴い、その存在意義を変えて行く。
 アメリアのガチ党は、母なる力による地球及び全コロニーの統一を叫び、他
のコロニーを支配下に置き始めたのだ。それは時に、武力を伴う。
 特に、対立する組織の人間をギロチンという旧世紀時代の中世の殺人機械で、
見世物の様に群集の前で殺すという行為。その残虐かつ興味を引かれる行為を
始めた事で、ガチ党と残ったリガ・ミリティアの組織は、完全に袂を分かった。
偽者消えろ。
 ニ年前、ガチ党はザンスカール帝国を名乗り、支配下に置いたサイド2のコ
ロニー群を領土として、首都と定めたアメリアコロニーで独立宣言を行なった。
ここニ年程は、ザンスカールの支配下に入っていないサイド2の各コロニー政
府との政治的抗争や小競り合いで勢力を拡大していたが、今日、ついに本格的
に武力を動かした。
 その標的がここ、反ガチ党の急先鋒とも言えるエスタニアだった。
 エスタニア政府は、独立宣言をしたコロニー国家をザンスカール帝国とは決
して呼ばず、一貫してガチ党と呼び続け、その組織の行なう行為を批判し続け
た。曰く「他のコロニーの都合など考えていない」、曰く「武力の発動に積極
的過ぎる」、曰く「政敵をギロチンで殺すなど鬼畜にも劣る行為」等々。
 ザンスカールの政治的、経済的、軍事的な脅しに、エスタニア政府は屈しは
しない。それどころか、ブッホ・エアロダイナミクス社が出資する工業ブロッ
クの一部を貸す程、反ガチ党、反ザンスカールの組織へと生まれ変わった新生
リガ・ミリティアに、肩入れしたのだ。
 それが、今日の襲撃を招いた。
632通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:18 ID:???
>>612
自分のサイト作ってヤレ。
 親ザンスカール的(と言うよりザンスカール帝国に怯えている)コロニーの
大型貨物船を、太陽側の港に入港させる。その大型貨物船のコンテナの中に、
サナリィ製の最新型モビルスーツ九機を忍ばせ、奇襲攻撃で一気にエスタニア
を支配下に置こうというのだ。
 第一部隊は、新生リガ・ミリティアがモビルスーツを作っていると噂される
工業ブロックの破壊。第二部隊は、エスタニア政庁の制圧。そして、第二部隊
が反太陽側にあるコロニー軍基地の部隊と挟み撃ちにされない様にする為に、
エスタニア政庁からやや太陽側にある連邦の試験基地を制圧するのが、第三部
隊の目的だ。
 基地には、原色に塗られた六機の試験用の旧式モビルスーツがあるという。
このコロニー内には、反太陽側の港にあるのエスタニア軍基地以外は、連邦の
試験基地にしか動くモビルスーツは無い筈だ。いくらどちらも旧式揃いとは言
え、数で押されたら勝ち目は無い。
 奇襲攻撃の初期段階は、成功した。アメリアコロニーのある反太陽側の守り
ばかりに気を取られていたエスタニアのコロニー軍は、大混乱に陥る。その結
果が、工業ブロックの火の海だ。
634通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:18 ID:???
>>613
勝手に許可出してんじゃねぇ。氏ねよ。
「で、そのフィンガーハットさんは、イノエ教官とどんな関係なんだい?」
 余裕を持ってコロニーの中を飛ぶヴィクトリーガンダムに向けて、エンジン
を全開にしたジュンコは、質問を浴びせた。その言い方には、やや棘がある。
「何って、上司と部下よ。それが、何?」
「ヘッ、アタシにゃそうは見えないけどね。」
 再び、濃い褐色の肌を持つ女パイロットに、棘のある言葉を浴びせる。
「だからどうしたのよ。あなたには関係ないでしょ。」
「あると言ったら、どうする気さ。」
 もうすぐ連邦宇宙軍の試験基地だというのに、二人はこの戦いに関係ないか
に見える会話を続ける。
 ビームが飛んできた。だが、ミノフスキー粒子が第一戦闘濃度になっている
この空域では、遠くから狙いを付けても、命中する物ではない。
「お喋りはここ迄よ。私が三機ともやるから、牽制に回って。」
 マーベットはジュンコに命令を出す。知るかよ、そんな事……。
「うるさいね、アタシはアンタの部下じゃないんだ。好きにやらせてもらうよ!」
 そう言い放ったジュンコの黄色いヘビーガンは、白いモビルスーツと作る二
筋の軌跡から、外れた。
(負けるか、あんな女に!)
 そう気持ちを昂らせながら、ジュンコはパイロットスーツの胸元を、大きく
開ける。ポケットから、縦長の小さな箱を取り出した。中身を出す。
 試験に合格したら父に会いに行くと言っていたペギーに、合格と再会のお祝
いにと用意していた、紅い口紅。ヘルメットのバイザーを上げ、それを自分の
唇に塗った。赤い唇が、さらに紅く染まる。
 口紅をしまって、蓋をする。それをポケットに入れた。大きく開いた胸元の
ファスナーを上げる。紅い唇を、軽く舌で撫でた。
(負けるか、あんな女に!)
 再度ジュンコは心の中で、そう叫んだ。
637通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:19 ID:???
>>634
SSを発表するスレだからいいじゃん

(くっ、あの女、好き勝手言って!)
 そう思いながら、三機のゾロアットを攻撃していた緑色のGキャノンの横に
ヴィクトリーを着陸させ、支援する。緑色のGキャノンのパイロットに向けて、
言った。
「私がやります。訓練機は、三機の動きを分断して下さい。」
 パイロットの男の声が、それに従う。あの女とは大違いだ。
「分かった。手ごわいぞ、既にニ機もやられている。」
「だから、支援頼みます!」
 再び、白いヴィクトリーガンダムが空を飛ぶ。目的は、橙色のヘビーガンを
攻撃している血の色をしたゾロアットだ。気を取られていたヘビーガンとは違
う方向からの攻撃に、血の色をした巨人は狼狽し、離れた。
「訓練機、大丈夫ですか?」
「奴等は速い、レッドもピンクも落とされた。」
 幾筋もの電撃が飛んで来た。その飛んできたビームストリングスを、ヴィク
トリーの左肘のビームシールドを展開し、跳ね返す。そのビームシールドの大
きさに、橙色のヘビーガンは驚いた。
「やれるのか?」
「やってみせます!」
 そう叫び、マーベットは電撃の軌跡を放ったゾロアットへ向かった。
639通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:20 ID:???
なんだ?

 駄目だ、速い。違い過ぎる。ジュンコはそう思った。
 勢い良く、地上の青色のGキャノンを襲う血の色に向かったが、サーベル攻
撃を矢尻形のビームシールドで防がれ、ゾロアットの拳を食らって吹っ飛ぶ。
やはり勝てないのか、アタシじゃ……。
 絶望する黄色いヘビーガンに、血の色が向かう。死ぬ!
 だが、ジュンコへの殺意をみなぎらせたゾロアットに、青いモビルスーツの
肩キャノンが襲う。ゾロアットは、上空へかわした。
「ジュンコ姉さん!」
 聞き覚えのある声だ。
「ペギーかい、青いのは!?」
 そんな会話をする暇を与える事すら許さない敵の攻撃が、ゾロアットの右肩
の嘴から放たれる。両機はすかざす反撃。ジュンコとペギーに届く前に、電撃
の軌跡は短くなった。
「奴はアタシが落とす。ペギーは支援して!」
「分かった、姉さん!」
 ジュンコは、マーベットよりも遅いスピードで飛び上がり、上空にいるゾロ
アットへ向かった。

 爆発。橙色が落とされた。三機目だ。
(これ以上は!)
 出力を最小に絞ったビームライフルで牽制しつつ、橙色を消した直後の血の
色へ向かうヴィクトリー。距離を詰める、一気に。
「落ちなさい!」
 そう叫び、マーベットはビームサーベルを持つ左腕を振り被った。だが次は、
ゾロアットの左肩から伸びるビームシールドに防がれる。その肩には、ピエロ
の顔のマークがあった。
(そうか、ピピニーデン・サーカス!)
 エスタニア制圧に来たザンスカールのエリートパイロット部隊の名を、心の
中で叫ぶマーベット。でも、負けるわけには行かない!
 仕切り直す為、距離を開ける。そこに再度、電撃の軌跡が飛んで来た。
「そう何度も何度も!」
 ストリングスをビームシールドで防ぎ、再び血の色に突っ込む。ゾロアット
はかわそうとしたが、その先に緑色のGキャノンが攻撃を仕掛ける。
 逃げ場を失ったゾロアットに、ライフルを持った右腕の肘の赤いパーツを起
こして、それを突き出しながら突っ込むマーベット。赤い肘が、ゾロアットの
顔面を突き刺した。
642通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:21 ID:???
>>634
よく1を読め。
「行くわよ!」
 ゾロアットの顔に右肘を入れたまま、メインバーニアを全開。目の前の白い
管制塔と白いヴィクトリーで、血の色の頭を挟み込んだ。
 右肘の赤いパーツから、ビームシールドが展開する。ゾロアットの頭を潰し
た、完全に。

 リニアシートに、強い衝撃が走った。それと共に、周りの全天周囲モニター
が、全て消える。メインカメラがやられたのだ。
 だが、焦らない。すぐに映像の荒いサブカメラに切り替わる事を、ゾロアッ
トのパイロットは知っている。
 一秒にも満たない暗闇が、消えた。だが、全天周囲モニターの写す映像は、
コンピュータ補正されたピンク色のビームの光だけだった。

(やれた!)
 ビームサーベルで、ゾロアットのコクピットだけを貫けた。エンジンは爆発
しない。狙いが当たった。
 だが戦場は、マーベットにそう喜ぶ時間を与えてはくれない。マーベットの
足元から、衝撃が走る。今迄緑色のGキャノンの牽制で近付けなかったもう一
機のゾロアットの放つビームが、ヴィクトリーの左足を直撃したのだ。
 向こうも出力を絞っているおかげで、爆発はしない。だが左足のバーニアが、
全て死んだ。その為、振り向く事が出来ない。
 ゾロアットが、ビームサーベルを持った左腕を構えた。仲間と同じ死に方を、
マーベットに送るつもりだ。血の色が、近付く。背後から。
645通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:22 ID:???
荒らしてんじゃねぇよ。

(やってやるよ、アタシも!)
 血の色をした巨人を一人倒したマーベットを見て、ジュンコはさらに気を昂
らせた。アタシだって、エンジンを爆発させずに仕留める!
 だが、ペギーの青いGキャノンが牽制、その隙にジュンコの黄色いヘビーガ
ンが横から攻めるという攻撃は、二度共通用しなかったのだ、血の色の奴には。
奴の左から攻めた時はビームシールドで防がれ、右からの時はストリングスが
伸びて来て、近付く事すら出来なかった。
 大きく回って、後ろから攻めようとも思う。だが血の色のモビルスーツの機
動性の前には、通用しそうに無い。こちらが背中に辿り付く頃、奴はとっくに
迎撃の準備を終えているというのが、どうせ落ちだ。どうする!
 そこに、何度目かの電撃の軌跡が飛んで来た。
「バカの一つ覚えかい!」
 幾筋ものビームストリングスをかわす。これだ!
「ペギー、あの管制塔に向かう様、奴を追い詰めとくれ!」
647通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:23 ID:???
>>左足のバーニアが、 全て死んだ。その為、振り向く事が出来ない。
足なんてなくたって振り向けるだろ!
(やってやるよ、アタシも!)
 血の色をした巨人を一人倒したマーベットを見て、ジュンコはさらに気を昂
らせた。アタシだって、エンジンを爆発させずに仕留める!
 だが、ペギーの青いGキャノンが牽制、その隙にジュンコの黄色いヘビーガ
ンが横から攻めるという攻撃は、二度共通用しなかったのだ、血の色の奴には。
奴の左から攻めた時はビームシールドで防がれ、右からの時はストリングスが
伸びて来て、近付く事すら出来なかった。
 大きく回って、後ろから攻めようとも思う。だが血の色のモビルスーツの機
動性の前には、通用しそうに無い。こちらが背中に辿り付く頃、奴はとっくに
迎撃の準備を終えているというのが、どうせ落ちだ。どうする!
 そこに、何度目かの電撃の軌跡が飛んで来た。
「バカの一つ覚えかい!」
 幾筋ものビームストリングスをかわす。これだ!
「ペギー、あの管制塔に向かう様、奴を追い詰めとくれ!」
 そう青いGキャノンに支持を出し、白い管制塔へ向かう。全力で。
649通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:24 ID:???
振り向くなアムロ
 ジュンコの黄色を方を向く、血の色の巨人。それに向けて、青いペギーの肩
キャノンが放たれる。当たりはしなかったが、ゾロアットはジュンコの注文通
りに、白い管制塔へと向かう。マーベットが戦っている方とは、反対側だ。
(サァ、来な!)
 管制塔へと向かう、黄色いヘビーガン。白い壁は、目の前だ。勢い良く放た
れたビームストリングスの先端が、ジュンコを背後から襲う。掛かった!
 それを読んでいたジュンコは、上に向いているバーニアを全て、最大噴射。
黄色い機体が、猛スピードで下に落ちる。軌跡の先端はジュンコの黄色がいた
場所を通り過ぎ、管制塔の白い壁へと突き刺さった。
 突き刺さったビームストリングスの先端を壁から抜こうと、血の色の巨人が
何度ももがく。そこにジュンコは、突撃。着地したばかりの地面から、一気に
ジャンプした。
「オアァァァー!!」
 雄叫びを上げ、左手に持ったビームサーベルを突き出す。狙いはストリング
スを発射した右の嘴の内側だ。そこにビームの刃が、突き刺さる。ゾロアット
の右腕が、小さく爆発した。

 手応えがある筈の所には、人の気配がしない味方の赤い機体しかない。白い
奴の上半身が、消えているのだ。
 上を向くゾロアット。視線の先には、狙っていた物が飛んでいた。白い奴の
上半身は変形し、戦闘機に変わった。白が、近付く。上空から。
 下へ素早く落ちて来た。だが落ちて来たのは白だけではない。戦闘機の左側
から延びた腕に握られたビームサーベルのピンクも、一緒に落ちて来たのだ。

(二機目!)
 エンジンに達しないギリギリの長さで、敵のコクピットを二つに割るビーム
サーベル。それを操ったのだ、マーベットは。
 白い管制塔の反対側の戦いに気付く。コアファイターとハンガーだけの戦闘
機では、モビルスーツの様な小さな旋回は出来ない。大きく回って、あの嫌な
女を助けに向かう。
 ヘルメットから覗いた、青い瞳と深い紫色の髪。自分は黒一つしか持ってい
ないのに、あの女は二つも色を持っている。マーベットはその事に、嫉妬した。

 右の嘴に左腕を突っ込んだ、黄色いヘビーガン。右腕をやられた血の色の巨
人は、残った腕で黄色を抱いた。
「クッ、放せェ!」
 そんなジュンコの頼みなど、聞く気は無い。背中のキャノンを、肩へ起こす。
威力が大きい為に使用を控えていたビームキャノンで、ジュンコの黄色を消す
気なのだ。
「姉さん!」
 ペギーが叫ぶ。だが援護など、出来ない。近過ぎる、血の色と黄色は。
 ゾロアットの左腕は、黄色いヘビーガンを放り出した。起こしたビームキャ
ノンの照準を、放り出した黄色に合わせる。発射!
 その瞬間、青いペギーの肩キャノンが攻撃。ジュンコを抱いていた左腕を、
破壊した。揺れる、血の色が。ゾロアットの肩からそれぞれ違う方向に放たれ
る、二本のビーム。その一つはジュンコからは外れたが、緑色のGキャノンの
足元を掠めた。

 ダッ! 直撃! ジュンコから外れた二本の悪意の残りの一つが、マーベッ
トの戦闘機に当たったのだ。出力が落ちる。スピードが落ちる。
「あの、馬鹿女!」
 そう罵りながら、ハンガーを外す。ビームライフルを砕かれたのだ、悔いは
無い。躊躇も無い。
 小さなコアファイターだけになったマーベットは、両腕をやられたゾロアッ
トの鼻先を掠めた。顔をそちらに向け、両目の瞼を開く血の色の巨人。獲物を
変えたのだ。
「来るっ!」
 背後から、先程のゾロアットが近付いて来た。距離が縮まる。その肩から、
二本の殺意が生まれた。
「きゃあっ!」
 二本のビームの一本が、コアファイターの小さな翼を掠めたのだ。バランス
を崩す。回転を始めた、マーベットの視界が。体が落ちる。
 錐揉みをしながら斜めに落ちる、コアファイター。普段なら元の姿勢に戻す
自信のある距離だ、地面とは。だが、斜めへ落ちるスピードを下げては、背後
の殺意に追い付かれる。
 人工の大地という前門の虎と、敵のモビルスーツという後門の狼に挟まれた
マーベット・フィンガーハット。生き延びる確立の高い方を、すかさず彼女は
選んだ。
654通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:26 ID:???
読みにくんだけど、どうにかして。
 スピードを落とさず、姿勢を制御するコアファイター。地面が迫った。そこ
へ近付く、血の色の巨人ゾロアット。
 残った左肩の嘴から、矢尻形のビームシールドが開く。それで切り殺すつも
りなのだ、マーベットを。
「やるっ!」
 錐揉みのやみ掛けたコアファイターから、ヴィクトリーの頭を出す。後ろを
向いた。額から、バルカンを放つ。ひるんだ、血の色が。
「今っ!」
 錐揉みがやんだ。機体が地面と平行になった。だが、後ろの殺意が近付いて
来る。死ぬの、私!
 その時、叫び声がした。
「おおおおぉぉぉ! よくもっ、よくも俺の女をーーっっ!!」
 オリファーの叫び声が消えた時、マーベットの背後の殺意は、消えていた。
656通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:27 ID:???
痛い奴もいるもんだ。

 訓練基地に戻った、マーベットのコアファイター。そこから降りて来た彼女
に、深い紫色の髪を持つ女が近付いて来た。
「はいよ、ご苦労さん。大口叩いた割には、大した事なかったねぇ。」
 ジュンコ・ジェンコは、棘のある言葉を浴びせた。
「何よ、私は二機撃墜したわ。あなたはどうなのよ。」
「三機ともやるっていったのは、アンタだろ。」
「あなたがちゃんと牽制に回っていたら出来たわよ、そんな事。」
「機体ぶっ壊して、よくそんな口が利けるねアンタ!」
「何ですって! あなたこそ、一機も落とさず何言ってるのよ!」
 自分を棚に上げて罵りあう二人の女に、パイロットスーツ姿の青年が近付い
て来た。マーベットと大人気ない言い争いをするジュンコの頬に、青年の手が
伸びる。ジュンコの顔を、自分に向けさせた。
「!」
 いきなり青年に唇を奪われる、ジュンコ。それが終わると、唇のあった顔を
思いっきり引っぱたいた。
「何すんのさ、いきなり!」
 白人の青年が、軽く笑う。ジュンコのせいで赤くなった左頬に自分の掌を当
てながら、青年はジュンコの顔を見ていた。
「……美人だな、あんた。」
 思わぬ答えが返って来た事に、戸惑うジュンコ。そんな戸惑いなど気にする
事も無く、青年は続けた。
「美人が減るのを喜ぶ男は、この世にいないんでね。命は大切にしな。」
 そう言う青年が、ジュンコには無性に腹立たしい。もう一度引っぱたこうと
右手を上げたその時、オリファーの声が止めた。
「やめろジュンコ、ジャックの言う通りだ!」
 イノエ教官の声に、ジュンコは従うしかない。オリファーが続ける。
「マーベットも! 初めての重力下での実戦なのに、なぜ無茶をした! もし
地面にぶつかっていたら、どうする気だ!」
「だってオリファー……。」
 背の高い彼女の言葉を遮る様に、背の低いオリファーの右手がマーベットの
左肩にそえられる。
「もういい、済んだ事だ。君が僕にとってどういう存在なのか、もっと理解し
てくれ、マーベット。」
 それを聞いてマーベットは、とたんにしおらしくなる。いや、女らしくなっ
たと言った方が、正しいか。
「……ごめんなさい、オリファー。助けてもらって。」
「いいんだよ、もう。先月伝えた僕の気持ちを、君も忘れないでいてくれ。戦
場でも。」
 そんな二人のやり取りを、ジュンコは青く冷たい目で見ていた。
659通常の名無しさんの3倍:03/09/16 00:28 ID:???
>>654
なにが、どう、読みにくいの?
 オリファーが指示を出す。
「俺はエスタニア政庁に行って、今回の事件の事後処理をする。マーベットは
基地で、ジャックは工業ブロックで、やるべき事をやってくれ。」
「了解、オリファー隊長。」
 青年は先程とは全く違う硬い声で返事をした後、オリファーに敬礼し、自分
の機体へ向かった。小走りでヴィクトリーガンダムニ号機に向かう白人の青年
を、オリファーが再び呼ぶ。
「頼んだぞ、ジャック・ブルーム。」
「頑張って来ますよ、隊長。」
 ジャック・ブルームと呼ばれた青年は、ガンダムのコクピットを閉じる前に、
硬さが消えた声で、そうオリファーに返事を返した。
「後は任せたぞ、マーベット。」
 ヴィクトリーガンダム一号機に乗り込んだオリファーは、マーベットにそう
言い放ち、白い機体を人工の空へと飛ばせる。マーベットは、それを二つの黒
い瞳で見詰めていた。
 オリファーの白い機体が見えなくなり、視線をそこから外す。青い二つの瞳
と、視線が絡み合った。
「フン!」
「ふんだ!」
 ジュンコとマーベットは同時に声を出し、同時に顔を背け、同時に視線を外
した。

 オリファーは、試験を受けにエスタニアへ来ていた六人のかつての教え子達
を集めて、リガ・ミリティアにモビルスーツ隊を作る事にした。自分が二年前
迄教鞭を取っていた彼女達の母校、シュラク女子パイロット養成学校の名前を
取って、隊の名前を「シュラク隊」と決めた。

−完−