垂直軸風力タービン、普及への課題
ヨットの帆のように白く優美なブレードが風を受けて回転する垂直軸風力タービン(VAWT)。2007年、アメリカ、
カリフォルニア州サンディエゴを拠点とするヘリックス・ウインド(Helix Wind)社が発表すると、ブロガーや技術系
メディアが盛んに取り上げた。同社は、芸術と自立をテーマにした年1度の祭典「バーニング・マン(Burning Man)」
でも、タービン2基を提供している。ネバダ州の砂漠に設置されたタービンは、植物油で走るアートカーや再生
素材を利用した彫刻の上で勢いよく回った。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/bigphotos/images/energy-helix-wind-turbines_58467_big.jpg 2007年のバーニング・マン・フェスティバルに設置されたヘリックス・ウインドの垂直軸風力タービン。魅力的な
デザインだが、実用化するには欠点が多すぎるとの批判もある。Photograph by Robert Kaye
しかし、2012年5月11日、ヘリックス・ウインドは経営に行き詰まり、全資産を競売にかけざるを得なくなる。カリ
フォルニア州ニューベリーパーク(Newbury Park)に本社を置く同業のザウアー・エナジー(Sauer Energy)がすべてを
買い取り、「ヘリックス・ウインド」ブランドを新部門として運営する計画を発表した。
また、ヘリックス・ウインドの創業者ケネス・モーガン氏が経営する風力タービン企業「ベンジャー・ウインド(Venger
Wind)」は、タービン設置契約の一部を引き継いでいる。
◆性能への疑問
小規模風力発電のコンサルタント、ポール・ガイプ(Paul Gipe)氏をはじめとする否定派は、VAWTは市場の
主流である水平型タービンより本質的に効率が悪いと主張する。“屋根に乗る”小ささを売りにしているが、
ただでさえ低い性能をさらに損ねる原因だという。屋根に設置すると、建物によって風の流れが妨げられるからだ。
小型風力タービンの製造に携わるイアン・ウーフェンデン(Ian Woofenden)氏は、「なぜ同じ失敗を繰り返すの
だろう?」と問い掛ける。「VAWTメーカーが市場で生き残った例はない。長期的に成功しているメーカーは水平
軸を採用している。より効率が高いからだ」。
ヘリックス・ウインドのVAWTやザウアー・エナジーが独自開発しているウインドチャージャー(WindCharger)は、
「サボニウス型」に分類される。フィンランドの技師シグルド・J・サボニウス(Sigurd J. Savonius)が1922年に発明
した形式だ。垂直の軸を中心にスコップのようにくぼんだ翼が配置され、風を受けて回転する。
最新型の風力タービンブレードと異なり、サボニウス型の翼は揚力を生み出さないため、風と同じ速度でしか
回れない。発電量はブレードの回転スピードに比例するため、これは大きなデメリットだ。サボニウス型は大半の
水平軸風力タービン(HAWT)よりはるかに効率が低いと言われている。
◆改善の余地
ヘリックス・ウインドでは、消滅のはるか前からドラマが始まっていた。創業者のモーガン氏が社内対立を巡って
訴訟を起こしていたのである。2010年3月、和解が成立し、同氏はタイで株式非公開のベンチャー企業として
ベンジャー・ウインドを立ち上げた。ヘリックス・ウインドの技師を多数再雇用、サボニウス型VAWTを新たに開発
しているという。
モーガン氏は、「抵抗係数を大幅に改善した。サボニウス型の能力を最大限まで引き出すことが可能になる
だろう」と説明する。しかし、大部分のHAWTの性能には追いついていないのが現状だ。
モーガン氏はヘリックス・ウインド時代の同僚について、「顧客に意見や助言を言わず、見境なくタービンを売って
いた」と批判する。“グリーンウォッシング”が目的の購入者もいたという。例えば、ある顧客は目立つからという
理由で、ビルの正面にタービンを設置したいと主張した。卓越風の影響で、裏の方が性能を発揮できるにも
かかわらずだ。また、VAWTを購入する企業は過度に期待し、即決する傾向があったという。「ところが、ロマンスの
時期が終わると、経理担当者やCFO(最高財務責任者)が決まって尋ねる。“投資の見返りは?”と」。
>>2あたりに続く
Brian Clark Howard/National Geographic News August 23, 2012
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120823001&expand#title