「焼きカレー」の発祥地とされる北九州市門司区の門司港にはもう一品、ご当地グルメがある。その名は
「チャンラー」。見た目はラーメンっぽいが、麺(めん)はチャンポンでスープはうどんに近い。長年親しまれて
きたが、今では口にできる店は少なくなった。その懐かしい味をアレンジして残そうとしている人たちを訪ねた。
門司区東門司1丁目の居酒屋「里ごころ」がメニューにチャンラーを加えたのは3年ほど前。店を切り盛りする
前田文子さん(60)に、常連客が「出してみたら」と提案したのがきっかけだった。由来は定かではないが、
戦後の食糧難の時代に、満腹感を得やすいようチャンポンでボリュームを出したのが始まりと言われる。
チャンポンとラーメンを掛け合わせてその名が付いたのだろう。昆布やカツオ節がベースの和風スープでいただく。
具材はモヤシとネギのみだ。かつてはこの一帯の食堂で当たり前に提供され、前田さんもよく食べた。ただ、
インスタントラーメンが普及し始めたころから見かけることが少なくなり、ここ数年、チャンラーを出していた
老舗(しにせ)食堂が相次ぎ閉店した。質素な料理なだけに「売れるのかなあ」と半信半疑ながら、出してみることに。
モヤシとネギだけでは物足りないだろうと、チャーシューも載せ、ごま油で香りを付けた。これが当たった。
酒の後の締めの一品としてチャンラー目当ての客が増えた。「地元の人が懐かしがってくれる。残したい一品ですね」と
顔をほころばせる。
かつては門司区役所の食堂でも食べられたが、運営者が代わった5年ほど前にメニューから消えたという。市門司港
レトロ課によると、区内で食べられる店は「里ごころ」以外に3店舗だけだ。そのうちの1店、「ちゃんらー亭」を
レトロ地区の一角で開いているのが本木泰男さん(55)。「地元の人だけでなく、観光客も味わって欲しい」と2年前
に開いた。こちらもゴマ油で香りをつけている。
母校の県立門司学園高校の学生食堂も3年前から運営しており、チャンラーを出している。高校生たちと話してみると、
ほとんどの人が知らなかった。「門司港にしかない味を地元の子が知らないなんて」という愛郷精神、愛校精神を発揮した。
今では1日に20〜30杯の注文が入る定番メニューになったという。「ちゃんらー亭」で食事をしていると、こんな
歌詞の曲が耳に入ってきた。
うどんを食べてる気もするが、いったい何だろう……門司港生まれの懐かしい味……うまいぞチャンラー
作詞作曲して自ら歌うのは、門司区柳町1丁目で果物屋を経営する山形公規さん(55)。「歌う果物屋」として、
地元の商店街や市場など身近な風景を題材に歌を作ってきた。「チャンラーの歌」はミニコンサートや週1回出演する
ラジオの番組で披露してきた。同じ門司でも大里地区出身で、門司港ゆかりのこの一品は知らなかった。友人に「里ごころ」
に連れて行ってもらい、「こんなおいしいのに知られていないのは、もったいない」と思い立った。「チャンラーは隠れた名物。
門司港に来て、ちょっと小腹がすいたときにでも食べてみて欲しい」とPRに余念がない。
ソース:
http://www.asahi.com/national/update/0601/SEB201006010003_01.html 画像:常連客の提案でチャンラーをメニューに加えた前田さん。「今は看板商品です」
http://www.asahicom.jp/national/update/0603/images/SEB201006030011.jpg