【宇宙】世界初挑戦中で、7年ぶり地球帰還目前の小惑星探査機「はやぶさ」…カプセル回収チームが、ついに出発

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29名前をあたえないでください
(前編)
小惑星探査機「はやぶさ」 50億キロの旅から帰還へ【オカエリナサト】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/poverty/1275265150/
(中編)
http://sankei.jp.msn.com/science/science/100601/scn1006010802000-n1.htm

交信途絶

 「あれっ、切れた…」

 平成17年12月8日、小惑星探査機「はやぶさ」の管制業務を行っていた大島武は思わず声を上げた。

 電波の受信レベルが急に低下し、10秒ほどで途絶えてしまったのだ。

 大手電機メーカー「NEC」のエキスパートエンジニアで、機体の開発にも携わった大島には、すぐに原因が推測できた。
「姿勢が変わってアンテナがずれたな」。11月26日に小惑星「イトカワ」へ2回目の着陸をした後、姿勢制御用の化学エンジンから燃料が漏れ、姿勢が乱れていた。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)のはやぶさチームは、プロジェクトマネージャの川口淳一郎を中心に対策を検討。
宇宙空間で迷子になったはやぶさに向け、信号を送り続けることにした。信号が届いたとしても、姿勢を失ったはやぶさと交信できる時間は限られる。断片的な信号でも、はやぶさが理解できるように、複雑なプログラムを組みあげた。

 運用管制チームをまとめるJAXA准教授、西山和孝は「ここまでひどい状況になってもミッションを継続した例は世界でもあまりない。本当にこの続きはあるのかと思った」と当時の心境を明かす。
30名前をあたえないでください:2010/06/02(水) 15:58:46 ID:I4isFBtr
非常手段

 事態が動いたのは、年を越した18年1月23日。管制室で西山が見つめる画面に、電波の受信を示す波形が現れた。

 「はやぶさに違いない」 管制室は明るさを取り戻した。次にするべきことは、7週間にわたる通信途絶の原因となった姿勢の乱れを立て直すことだ。

 そのために、イオンエンジンで航行するはやぶさの燃料に相当するキセノンガスを噴射した。
自動車に例えると、ガソリンを捨てて車体の傾きを修正するようなものだ。非常手段は功を奏したが、19年夏に予定していた帰還は、大幅に延期しなければならなかった。

満身創痍

 予備を含めて4台あったイオンエンジンのうち、1台は打ち上げ直後に故障。姿勢制御用のリアクション・ホイール(はずみ車)も3台中2台が往路で壊れ、交信復旧後の19年4月にも、新たなトラブルでイオンエンジン1台がダウンした。

 21年11月、残されたイオンエンジン2台のうち1台が異常停止した。残り1台では推進力が足りず、地球への帰還は絶望的だ。
31名前をあたえないでください:2010/06/02(水) 15:59:32 ID:I4isFBtr
 「ついに来たか。何とかして復活させないと」

 イオンエンジンの開発を担当したJAXA教授、国中均が思いついたのは、故障したエンジン2台の生き残った部分を組み合わせ、1台のエンジンとして活用する方法だった。

 この方法は、設計段階で想定済みだった。イオンエンジンを製造したNECのマネージャー、堀内康男は「限られた重量でトラブルをしのぐために可能性を模索した」と話す。

 つなぎ合わせたエンジンの起動は、ぶっつけ本番。東大で堀内の先輩だった国中は「想定通りに動いたときは、これで正月が送れると思った」と笑う。

 絶望的な状況をその都度乗り越えて、はやぶさは不死鳥のように飛び続けた。「運用継続をあきらめたことは一度もない」と、チームを率いる川口は力を込めた。
=敬称略(小野晋史)



【用語解説】イオンエンジン

 電気推進エンジンの一種。燃料のアルゴン、キセノンなどをイオン化して加速、後方に噴出して進む。化学燃料のエンジンに比べて燃費が良く、長時間の運転が可能。
推進力は小さいが、宇宙空間では徐々に蓄積されて大きな速度が出せるため、惑星探査での利用が期待される。はやぶさは推進剤(燃料)としてキセノンを使用、運転継続時間の世界記録を更新した。

32名前をあたえないでください:2010/06/02(水) 16:03:19 ID:I4isFBtr
>>29-31
(後編)
重力の50倍

 小惑星探査機「はやぶさ」は、今年3月にイオンエンジンの連続運転を終え、現在は慣性飛行で地球に向かっている。体操競技の鉄棒に例えると、バーから手を離し、空中で姿勢を微調整して着地に備えている段階だ。

 地球まで約4万キロに近づく6月13日夜、カプセルを分離し大気圏に再突入。はやぶさの本体は大気圏で燃え尽きるが、オーストラリアの砂漠にカプセルを落下させ、無事に回収できれば“着地成功”だ。

 カプセルは直径約40センチで、外見は「ふた付きの中華鍋」。米スペースシャトルの1・5倍に相当する秒速12キロで大気圏に飛び込む。

 このとき、3千度の高温にさらされ、急激な減速によって受ける力は重力の50倍に達する。製造した宇宙機器メーカー「IHIエアロスペース」の担当部長、松田聖路は「要求される性能が高く、何度も試験を繰り返した」と語る。

 高度1万メートル付近でパラシュートを開き、軟着陸させる計画だが、米国ではこの段階で失敗したケースもある。

 開発にかかわった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の准教授、山田哲哉は「搭載機器の収納性やパラシュートの開き方なども考慮した。満身創痍(そうい)のはやぶさが狙った場所にカプセルを落とせるか、これからが本番」と話す。

33名前をあたえないでください:2010/06/02(水) 16:05:45 ID:I4isFBtr
試料回収

 帰還を目前にしたはやぶさは、すでに数々の成果を挙げている。新技術のイオンエンジンで、地球の重力を利用した加速(スイングバイ)に世界で初めて成功。自律航行の技術を実証し、運転継続時間も大幅に記録を更新した。

 小惑星「イトカワ」への着陸前には、2カ月以上も上空から地形や鉱物組成、元素分布などを観測。その成果をまとめた7本の論文は米科学誌「サイエンス」の特集号に掲載された。

 惑星科学の研究者は、カプセルの中身に大きな期待を寄せる。カプセル回収後に初期分析を担当するJAXA教授の藤村彰夫は「小惑星から試料が直接手に入れば、どんな微量でも、研究レベルは大きく向上する」と話す。

 カプセルは厳重に管理され、相模原市のJAXA宇宙科学研究所へ運ばれる。大きさが0・2ミリを超える物質が入っていれば、直後のX線検査で見つかるという。

 収集容器の開封は内部が真空に保たれた専用設備で実施。藤村は「50年後の科学者に『当時としては頑張った』といわれるようにしたい」と、“イトカワの石”との対面を心待ちにしている。
34名前をあたえないでください:2010/06/02(水) 16:08:39 ID:I4isFBtr
次代へ継承

 JAXAは、後継機「はやぶさ2(仮称)」の開発を計画している。別の小惑星から有機物を含む岩石試料を持ち帰り、生命の起源に迫るという。まとめ役のJAXA准教授、吉川真は「はやぶさで、さまざまなトラブルを乗り越えた経験が生きる」と話す。

 岩石試料回収の成否はまだわからないが、はやぶさは遠く離れた天体への往復と試料回収に必要なすべての技術に挑み、そのほとんどを達成した。長年、チームを率いてきたJAXAプロジェクトマネージャ、川口淳一郎は感慨を込めて帰還を待つ。

 「私たちとともに難関を越えてきた。もはや、はやぶさを機械だとは思えない。本当によく頑張った」=敬称略
35.:2010/06/02(水) 16:09:40 ID:I4isFBtr
【用語解説】イトカワ

 平成10年に米国チームが発見した小惑星で、名称は日本の宇宙開発の父、故糸川英夫博士に由来。全長約540メートルでかりんとうに似た形状。
表面は主に細かい砂粒で覆われた部分と岩石が露出した部分に分かれる。天体同士の衝突でできた破片が集まり、数千万年前までに生まれたとされる。重力は地球の10万分の1以下。軌道は地球や火星の近くを通過し、公転周期は約1年半。