第七回三国志バトルロワイヤル・2

このエントリーをはてなブックマークに追加
1無名武将@お腹せっぷく

━━━━━説明━━━━━
こちらは三国志世界でバトルロワイアルが開催されたら?というテーマで、
sage進行で進められている、全員参加型リレー小説スレッドです。

参加する三国志武将がお互いに殺しあっていき、生存者一名となったときにゲーム終了となります。
前スレ
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1152106548/l50

   感想&質問など、何かあったら雑談スレへ ↓
三国志バトルロワイアル観戦雑談スレ
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1153892204/l50

説明は>>2-10のどこかにあります。
たぶん>>2 「アイテムの説明」「首輪の説明」「フィールドの説明」
たぶん>>3 「お願い」
2無名武将@お腹せっぷく:2006/07/29(土) 21:01:22
━━━━━アイテムの説明━━━━━

※参加者は、【フィールド略地図】【全参加者名簿】【鉛筆】【水とパン2日分】【懐中電灯】
 【腕時計】を基本アイテムとして支給されています。
  基本アイテムのレス末表示は特に必要ありません。
※参加者は不確定要素として、通常は単に【アイテム】と呼ばれる武器アイテムを、
  各自1つづつ支給されています。支給された武器アイテムの制限はありません。
※参加者は、スタート時には普段着以外の、全ての装備を没収されています。

━━━━━【首輪】の説明━━━━━

※参加者は全員、耐ショック・完全防水の、銀色の【首輪】を付けられています。
※【首輪】には主催者用の、生存判定用高性能心電図・位置確認用発信機・爆殺用高性能爆薬が、
   標準装備されています。
※【首輪】は、不正に外ずそうとしたり、禁止エリアに侵入すると爆発し、参加者を死に導きます。
   最後の死亡者放送から100レス超過以内に死亡者が無い場合、全員の首輪が爆発します。
 
 (以上の首輪に関しての情報は、参加者にも公開されています。)

━━━━━フィールドの説明━━━━━

※ フィールドは、下記地図を縦30キロ・横20キロ程度の範囲とする、後漢〜晋の支配地域を領域
   としたミニミニ中国大陸です。
    参考資料 → http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/3952/tizu.html
※ フィールド内の禁止エリアは、およそ300レス毎に1州づつ追加されていきます。
※ フィールド内に参加者以外の人間や、アイテム以外の強力な武器装備は存在しません。
※ 参加者には、『死亡者放送』『禁止エリア放送』のみ公開されます。
3無名武将@お腹せっぷく:2006/07/29(土) 21:02:14
━━━━━お願い━━━━━

※ 一旦【死亡確認】表示のなされた死者の復活は認めません。
※ 参加者の死亡があればレス末に、必ず【死亡確認】の表示を行ってください。
※ 又、武器等の所持アイテム、編成変更の表示も、レス末に下記フォーマット、
   もしくはリストの形式に従って行ってください。
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    @武将名[健康状態に被害があったときにはその状態]【アイテム】
    ※(状況変更)
   
   例:  @司馬懿[左腕怪我・腹痛]【戟、弁当箱、女物の服】
        ※ 女物の服着用中
       ≪好敵手/2名≫
        張飛【M16サブマシンガン】&馬超【鉄槍】
        ※ 長安に向かいます
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※ 新規参加武将は100人に到達後、次の死亡者リスト表示まで登場した者までとします。
※ 複数にわたる話(名前欄に「○/○」記載)は、3時間以内に最後まで連続で書き込んでください。
※ 本スレは800レスまたは480KB になると書き込みを中止して引っ越します。

        ※ 最低限のマナーは守るようお願いします。※

   ★出されたご飯は残さず食べる。
     (新しいお話を書く方は前からのお話を読んで無理のない設定にして下さい)
   ★転んでも泣かない。
     (お気に入りのキャラが思わぬ展開になっても気持を切替えて次に進みましょう)
   ★おいらのギャグには大爆笑する。
     (いろんなネタが出てきても、なるべくおおらかな気持で見てあげましょう)
4忘却の空1/11:2006/07/30(日) 02:45:13
(誰の仕業か知らないが・・・ずいぶんと惜しい事をする)
歴史に残るであろう華美な宮殿。
質素だが美しい木々が飾る街道。
人々が生の活気を見せた市場。
・・・既にそれらは灰になっているのだろう。
遠目にもわかる、ひどく雄々しげな炎を巻き上げている許都。
それを遠くの平地から眺めながら、張コウは懐かしさと喪失感、そして軽い怒りを覚えた。
が・・・。
(・・・まあ、いいか。オレのものじゃないし・・・)
怒りを覚えたところで火をつけた者の正体がわかるわけでは無し。
万が一わかったところで、己の身を危険に晒してまで報復するほどでもない。
それよりは『今後どうするか』と考えた方が己のためになる。
そう考えた彼は衣服から地図を取り出し、軽く眼を向けた。
夜陰だが、月光に照らせば読めないことはない。
(・・・まあ、曹操殿はまずここにいないと考えていいだろう。だがあそこに誰か・・・)
そこまで考えた途端、背筋に寒いものが走る。
「・・・!?」
そう、たしか戦場でも幾度となくこの感覚は自分を襲った。
だからわかる。これは『殺気』『殺意』と呼ばれる類のものだ。
燃える許都から届いたのか、乾いた風が己に吹く。頬を撫でた手に冷や汗が伝った。
(これは・・・かなりヤバイな・・・)
即座に地図をしまい、周囲を見回す。
少し離れたところに木々が茂った小さな林ならあるが、どうも殺気はそこからは感じられない。
(なら・・・こっちか?)
感覚に任せた方向に視線を向ける。
そこには、自分と同じように乾いた風をその身に受ける『見覚えのある男』がこちらに向かって歩いてきていた。
5忘却の空2/11:2006/07/30(日) 02:45:56
「・・・徐庶・・・か?」
誰に向けるともなく・・・いや自分に向けるように、張コウはそう呟いた。
そうだ・・・見覚えのある男。記憶にある風貌とやや違うが、あの男は徐庶に違いない。
だが、今の自分に同じ魏将との再会を喜ぶ余裕はない。
もともと徐庶と自分は親しい間柄でもないが、そんな事は要素とならない。
徐庶の衣服は返り血に染まっているし、手には抜き身の剣が握られている。
何より、明らかに徐庶は殺意を自分に向けてきている。
(志を理解してもらう・・・それどころじゃないな・・・)
『おそらく戦闘になるだろう』という予感が張コウの胸を過ぎった。

「・・・よし、そこまでだ。徐庶・・・そこで止まれ」
徐庶が近づき両者の距離が五歩ほどになった時、ふと張コウが掌を徐庶に向け制止の構えを取る。
張コウ自身が止まるとはあまり思っていない。期待せずに発した言葉だった。
が、その予想に反して
「・・・」
無言のまま、五歩の距離で徐庶は足を止めた。
とはいえこちらを攻撃する意志はしっかりしているようで、ゆっくりと剣を構えだす。
その姿は空から照らされる月光に映え、異様な神々しさを兼ね備えたように見えた。
(なんだろう・・・何か・・・異常だ・・・異常な感覚だ)
光に照らされた徐庶の顔。
後悔も苦悩も憎悪も、そして悦楽も含んだ形容しがたい顔。
何度も殺されたような、自分の意志ではない何かによって動かされているような顔。
すぐに異常だと感じ取れるほど、徐庶の表情は人間離れしている。
(・・・一つ二つ質問してみるか)
「徐庶・・・それは一体何の真似だ?」
6忘却の空3/11:2006/07/30(日) 02:46:32
意を決して、張コウが口を開く。
もっともこの問いの答えなど、張コウもわかりきっているのだが。
そして、徐庶は・・・。
「曹操・・・か?・・・」
とギリギリ聞こえるぐらいの小声で返し、構えたまま張コウへ突進した。
(ヤバイ!)
思った瞬間、張コウも右へ飛ぶ。数瞬後、滑らかな斬撃音が響く。
(オレが斬られた!?いや違う!)
一瞬の安堵の後地面に着地し、張コウは先ほどまで自分がいた場所に眼を向けた。
「な・・・!?」
まさか・・・と驚愕する。
徐庶が持っていた剣は、地面に深々と突き刺さって・・・。
いや、堅い石もろとも綺麗に地面を『真っ二つに切り裂いて』いた。
(なんだ!?あれは・・・)
石を斬ったとしても、鈍い残撃音など一切聞こえなかった。
いやそもそも、剣とはあそこまで石を綺麗に斬れるものなのか。
(徐庶の力・・・?いや、あの剣の力か・・・!?)
危機感を感じ、次の攻撃を避けるために身を立て直し距離を取る。
そんな張コウを目に捉えながら刀を構え、徐庶はただ静かに呟いた。
「曹操じゃあない・・・が、まあいい。名は思い出す気もないが、お前も魏将だったな・・・」
『殺す』・・・徐庶の目は確かにそう言っていた。

一足飛びで張コウの前へ行き、斬鉄剣を振り下ろす。
全力で地面を蹴って徐庶の振り下ろしを飛び避ける。
7忘却の空4/11:2006/07/30(日) 02:47:06
追いかけて薙ぐ。
伏せて薙ぎを空かす。
伏せた体勢へ突き下ろし。
横転し身を立て直し。
突けば飛ぶ。飛べば払う。払えば退く。
初太刀から、『攻撃する徐庶、避ける張コウ』の図式は変わらない。
だが、幾度振り回しても斬鉄剣の斬撃はことごとく空を切り、斬撃の手ごたえを感じることはない。
(くっ・・・さすがに今の状態では易々と殺すことはできないか・・・)
息を荒げながら、徐庶は自身の体を顧みる。
燃え上がる許都から脱出する際、肩を少々火傷し、体を打った。
それは大した事はないのだが、斬鉄剣を軽々と扱うには少々体が疲れすぎている。
それに、相対している敵もなかなか反応が早い。身のこなしも見事だ。
反撃をしてこないのは、手に持つ玩具の様な剣ではいかんともしがたいからだろう。
とにかく、仮に撃剣の使い手である自分がもし万全の状態であったとしても
不意を突かねば一太刀で仕留めるのは難しい相手だ。
(では、そうするか・・・)
その『不意をつく』手段を思いつき、徐庶は笑みを浮かべる。
そのまま張コウへの攻撃を止め、彼は少し後ずさりを始めた。
「・・・なんだ?打ち止めか?」
片膝は地面につけたままの張コウが軽口を叩く。
瞬発しやすいようにか、武器を持たない手と片膝は地面につけている。
「そう・・・思うか?」
徐庶は笑みを浮かべたまま、一足飛びでギリギリ届く場所まで後ずさりする。
そして足を止めた後、懐に手を入れ・・・。
「そいつは残念だったなッ!」
懐中電灯を取り出し、張コウの顔面に向けて照射した。
8忘却の空5/11:2006/07/30(日) 02:47:41
「ぐ・・・あッ!?」
闇に慣れた目に突然の大量光射を受け、うめき声とともに張コウは武器を持った手で目を抑えた。
「(動きが)止まった!今だッ!」
叫び懐中電灯を放り投げ、一足飛びの体勢を取る。が・・・。
「同じ事考えてたのかよッ!」
その張コウの叫びと共に、大量の冷たい何かの粉末が徐庶の顔にぶつかる。
「うッ!?」
一足飛びの動作が一瞬遅れる。
だがすぐに『張コウがいるはずの場所』に向かい飛び、全力を込めて斬鉄剣を振り下ろした。
(斬った・・・が!?)
ひどく乾いた小さな斬撃音とともに、軽い手ごたえが伝わる。
(いや浅い!全身ではない!手か足か・・・末端の部分!)
「ぬおおおおおおおおォォォォォッ!!」
目をつぶったまま斬鉄剣を幾度も振り回す。
右から左へ、前から後ろへ、上から下へ。
だが、どれだけ振り回そうとも飛び掛った初太刀以外に斬り応えが手に伝う事はなかった。
(ちっ、逃げたか!)
すぐさま眼をこすり、先ほど顔に飛び散った粉末を払う。
「土か・・・奴め、土をぶつけたのか・・・」
払った手についた土の感触で、先ほどの粉末の正体を推測する。
そしてようやく開いた眼でそのまま周囲を見渡すと、近くにあった小さな林が目に付いた。
周囲に張コウの姿は見えない。おそらく、そこに逃げ込んだのだろう。
「大した瞬発力だ・・・だが、林とは・・・ふん、己で己の首を絞めたな」
自身の頭に次なる戦略を浮かべ、徐庶は林に向かい歩き出す。
(孔明、士元、待っていろ。すぐに終わらせて、お前たちの元へ行こう。
 お前達と私の絆を引き裂いた愚物・・・それに従う腐った犬を、すぐにバラバラにしてやるかな)
友を心に浮かばせながら。
9忘却の空6/11:2006/07/30(日) 02:48:45
「・・・僥倖・・・って、言ってもいいのかもな・・・」
林の中心にある一番大きな木に背中をあずけながら、張コウはそう呟いた。
斬鉄剣の斬撃で綺麗な鋭角に先端を吹き飛ばされ、少し束がばらけた竹刀を眺める。
先ほど徐庶が感じた手ごたえは竹刀のもので
張コウ自身は斬鉄剣による攻撃での手負いはない。
(さっきのは、この光か・・・)
懐から懐中電灯を取り出し、先ほどの光の正体に勘付く。
少し気にしてはいたが、光による痛みも体の不具合も見受けられないところから察するに
これはただ光を発するだけのものなのだろう。
それにしても。
(・・・確か徐庶は撃剣の使い手だとは聞いていたが・・・脅威なのは剣の方だな・・・)
切れ味を思い出すだけで冷や汗が頬を伝い、背筋に寒気が走る。
だが、その感覚をどこか心地良いと感じ、笑う自分がいる。
―笑う?―
命を削る凌ぎ合いに、やはりどこか自分も惹かれているのだろうか?
・・・いや、違う。そこから勝った時の・・・なんというのだろうか、充実感、達成感・・・。
生を勝ち取った満足のようなものを、自分は欲しているのだ。たぶん。
(とは言っても、勝てなきゃ話にならないわけだ)
さて、これからどうするか。張コウはしばし思案に耽る。
竹刀であの剣閃を受け流す事はできない。そんなことをすれば竹刀ごと自分は真っ二つだ。
かと言って受けずにかわし続けてもいずれは追いつかれ斬り伏せられる。
憔悴しきっていた顔から、徐庶に疲労が溜まっているのは推測できたが
だからといってマトモにぶつかり合い勝機が見えるかというと、決してそれはない。
(傷を負ったわけでなし、あっちもまだ諦めないだろう。光を照らしてオレを探しに来るか・・・)
そこまで考えた時。
地面を揺るがす雷のような大激音が耳に入った。
10忘却の空7/11:2006/07/30(日) 02:49:17
「な・・・!?」
木の陰から音のした方向を覗き込む。
さほど遠くない場所で、先ほどまでは天に向かっていたはずの木が倒れている。
「まさか、あいつ・・・」
嫌な予感がして、木の陰から出る。
直後、大きくも心地良い斬撃音とともに倒れた木の近くの木が傾き始めた。
(まさか・・・木を斬ってるのか!?なんでもありかよ・・・あの剣・・・!)
傾いた木がゆっくりと倒れ始める。
そして先ほどと同じ雷のような激音とともに、木は完全に地に伏した。
「二本目で驚き登場か・・・意外と早く出てきたな。まあ、その方が手間が少なくていいんだが」
その木の奥に徐庶は居た。
夜陰の中でも、月光を受け光り輝く刀を手に持ちながら。

「オレが出てこなければ、木を全部切り倒すつもりだったのか?」
「さあな。仮定の話をするつもりはない」
「全部切り倒せる体力なんて、もう残ってないだろ?顔を見ればわかる」
「体力がなくてもやりきれるさ。曹操の犬を殺すためなら、どうってことはない」
「・・・林で剣を振るつもりか。木が邪魔になるだろうぜ?」
「私が木を切り倒したのを見た上でまだそう言えるのなら、お前はただの阿呆だ」
「・・・刃こぼれは・・・」
「いい加減黙れ」
少々の会話の後言葉を打ち切り、張コウに向かい歩き出す。
木を切り倒すのは確かに少々骨が折れたが、今の自分にはどうということはない。
いや、林に逃げ込んで逆に苦境に詰まったのはこの曹操の犬だろう。
ここは平地ではない。木々が動きの邪魔をして、先ほどまでの様に俊敏にかわす事はできない。
動きが鈍った剣閃でも、おそらく攻撃を当てる事はそうそう難しい事ではない。
仮に今度は反撃をしてきたとしても、急所に当たらなければ玩具のような剣など痛くも痒くもない。
「終わりだ」
負ける要素はない―徐庶は勝利を確信し、五歩の距離で剣を上段に構えた。
11忘却の空8/11:2006/07/30(日) 03:00:50
そしていざ跳躍しようとした瞬間
「今度はお前だッ!」
という張コウの雄叫びとともに、懐中電灯の光が瞳に飛び込んでくる。
(やはりただの阿呆だ!この徐元直様に既知の戦術を使うとは!)
近づいた時見えたが、懐中電灯を手にしていた事からこれが来るのではないかと予想していた。
来るとわかっていれば怯むことはない。視界は眩めこうとも距離も掴んでいる。
(飛び込み振り下ろしで一刀両断!)
なんの怯みもなく跳躍する。そして曹操の犬がいるはずの場所に向かって全力で刀を振り下ろす!
確かな手ごたえあり!

―――の、はずだった。

―――地には着地した。だが、なぜか足に力が入らない。
(おかしい)
―――体躯を斬った感覚はない。それどころか、軽い手ごたえも感じられなかった。
(・・・おかしい)
―――右肩に激痛が走る。何か刃物のようなものを突き刺されたような鋭い、痺れるような痛みが。
(・・・・・・おかしい)
眩めいた眼で徐庶は痛む場所を見る。
玩具の剣が深々と突き刺さり、己の血を外へ押し出している右肩。
そしてその玩具の剣をしっかりと握り締める、真っ二つにしたはずの曹操の犬。
徐庶の眼には、彼にとってある事がおかしいはずのものが二つ、確かに映っている。
「おか・・・しい・・・」
「そう思うか?」
そのまま蹴り飛ばされ、徐庶は勢い良く地面に叩きつけられる。
はずみで視界に入った玩具の剣の先端は、赤く染まりながらも確かに鋭く尖っていた。
12忘却の空8/11:2006/07/30(日) 03:01:16
そしていざ跳躍しようとした瞬間
「今度はお前だッ!」
という張コウの雄叫びとともに、懐中電灯の光が瞳に飛び込んでくる。
(やはりただの阿呆だ!この徐元直様に既知の戦術を使うとは!)
近づいた時見えたが、懐中電灯を手にしていた事からこれが来るのではないかと予想していた。
来るとわかっていれば怯むことはない。視界は眩めこうとも距離も掴んでいる。
(飛び込み振り下ろしで一刀両断!)
なんの怯みもなく跳躍する。そして曹操の犬がいるはずの場所に向かって全力で刀を振り下ろす!
確かな手ごたえあり!

―――の、はずだった。

―――地には着地した。だが、なぜか足に力が入らない。
(おかしい)
―――体躯を斬った感覚はない。それどころか、軽い手ごたえも感じられなかった。
(・・・おかしい)
―――右肩に激痛が走る。何か刃物のようなものを突き刺されたような鋭い、痺れるような痛みが。
(・・・・・・おかしい)
眩めいた眼で徐庶は痛む場所を見る。
玩具の剣が深々と突き刺さり、己の血を外へ押し出している右肩。
そしてその玩具の剣をしっかりと握り締める、真っ二つにしたはずの曹操の犬。
徐庶の眼には、彼にとってある事がおかしいはずのものが二つ、確かに映っている。
「おか・・・しい・・・」
「そう思うか?」
そのまま蹴り飛ばされ、徐庶は勢い良く地面に叩きつけられる。
はずみで視界に入った玩具の剣の先端は、赤く染まりながらも確かに鋭く尖っていた。
13忘却の空9/11:2006/07/30(日) 03:01:47
「不思議に思うか?だが、こうしてくれたのはお前だ。オレにも予想外の嬉しい偶然だったよ」
・・・自分が?どういうことだ?
虚ろな頭で記憶を反芻する。確か・・・そう、確か思い当たる事と言えば・・・。
「・・・あ・・・」
そして気づいた。
懐中電灯を照らして斬りかかった時、確かにひどく軽い手ごたえを感じた。
指でも切り落としたのかと思ったが、そういえば目の前のこの男は傷一つ負っていない。
(あの時か・・・)
まさか敵に利してしまうとは・・・そんな悔しさと、まさかという驚きが胸中を深く占めた。
「なぜ気づかなんだ・・・そんな簡単な事に・・・」
「疲労と油断・・・だろうな。木を切り倒してオレを見つけた時、勝ちを確信したんだろ?
 剣を上段に構えたのも、跳躍と剣の重さに助けられる振り下ろしが一番楽だから・・・違うか?
 稀代の軍略家、徐元直らしくない失敗だったな」
確かにそうだ。
玩具の剣を持った男を見た時、当たろうとも痛くも痒くもないと確かに慢心していた。
懐中電灯の光を己に向けた時、同じ策を二度使う阿呆と侮っていた。
曹操の犬だと侮り、目の前の男の力など度外視していた。
油断はいつ何時、いかなる時も決してしてはいけないと教わっていたのに。教わっていたのに!
「・・・がっ・・・」
動かない右肩に見切りをつけ、左手に剣を持ち返る。
「だが・・・まだ右腕を奪われただけだ・・・!」
「左腕一本で今までの様には振り回せないだろう。それを狙ったんだ。
 一瞬視界を奪っても、さすがに振り下ろしに真っ向から行けば真っ二つだからな」
わずかに嬉しさと侮蔑を含蓄させるように呟くと、張コウはまた尖った竹刀を構えた。
「だが、次は殺す・・・決して逃がさない。来るなら来い。来ないならこちらから刺す」
その言葉を受け徐庶は立ち上がり、剣を構える。
14忘却の空10/11:2006/07/30(日) 03:02:26
(・・・孔明・・・士元・・・)
懐かしい記憶が頭を過ぎる。過去、大切な友人達と語り合った、かけがえのない過去を。
「孔明・・・!士元・・・!・・・お前たちと会うまで・・・ッ!」
「三度目の正直ってなぁッ!」
叫び、張コウは足元の土を蹴り上げた。眼に入り照準が狂い、徐庶の斬鉄剣は地を斬る。
張コウはすぐ接近し、その地を斬った斬鉄剣の棟を足で押さえつけ
「俺は死なっ・・・」
「死ね」
勢い良く竹刀をノドに突き刺した。
「さよならだ、徐元直」
喉からの返り血を浴びながらそう言い放った張コウの顔には、どこか歪んだ笑みが浮かんでいた。

(さすがに・・・疲れたな)
倒れ伏した徐庶を一瞥し、動かない事を確認すると、途端に緊張の糸が切れた。
そのままどっと疲れが押し寄せ、冷や汗が流れてくる。
もし徐庶の疲労がたまっていなかったら?
もし徐庶が油断せず、軽々に飛び込んでこなかったら?
もし竹刀が皮膚に刺さるほど鋭角に削ぎ取られなかったら?
偶然に偶然、もう一つ偶然が重なった上での勝利だ。もう、奇跡といっていい。
(もう、こんな勝ち方は絶対できないだろうな)
運命に感謝すると、張コウは徐庶が持っていた斬鉄剣を手に取る。
多少血脂が付着し、腰が伸びているのが気に入らないが
先ほどの戦闘で束が完全にばらけ、もう刺さらないだろう竹刀よりははるかにマシだ。
(これじゃもう拷問ぐらいにしか使えそうもないよな、この武器)
軽く竹刀で地面を叩きそれを確認すると、少し離れたところにある徐庶のバッグを手に取る。
(やっぱり備品はこの中に入れたほうがいいな・・・持ち運ぶか)
そう思いながらバッグを手に取り、張コウは徐庶の死体を一瞥し声をかけた。
15忘却の空11/11:2006/07/30(日) 03:05:06
「もらっていくぞ・・・ああ、そう言えば孔明と士元だったか?」
ふと、徐庶が最後に漏らした人名を思い出す。
孔明とは蜀漢の功労者諸葛亮。士元とはこれまた劉備についた名軍師ホウ統の事だろう。
「まあ・・・心配するな。そいつらともすぐにそっちで会えるだろうからな」
(徐庶は降将だが、魏将ですら特定の人間以外はほとんど信用は置けないことが再確認できた。
 他国の人間など、当然信用できないな)
そう心で吐き捨てたが、顔には先ほどの様に歪んだ笑みが浮かんでいた。

ふと空を仰ぐと、闇を打ち消す陽光が見え始めた。そろそろ朝が来るのだろう。
どれだけ長い間戦っていたのか。いや、戦闘後の休息を多く取りすぎたのか。
空には雲ひとつ見えない。きっと太陽は綺麗に大地を照らすのだろう。
張コウには、なぜだかそれが異常に腹立たしかった。

【徐庶 死亡確認】

@張コウ【竹刀(束バラバラ)、斬鉄剣(腰伸び)、首輪解体新書?】
※燃えている許都に近寄ります。現在地はそこから少しだけ離れている許都西方面。
※魏将や袁紹とは手を組むか考えますが、他国の人間は攻撃。けっこう邪悪になってきました。
※首輪解体新書?は難解すぎて張コウには読めませんでした。
16血に濡れた道1/11:2006/07/30(日) 03:07:15
かつて、三国のうち最も強大であった魏帝国の、あの賑々しかった都は、今はただ閑散としていた。
人の気配がまったくしない。
月の明かりだけが、あの頃とまったく変わっていない……。
だがその月も、もうすぐ朝の日の光で消えてしまうのだ。

民家から当分の水と保存食を含めた食料をかき集めた司馬孚は、貂蝉を待たせている民家へと急いだ。

3度目の放送が終わった直後に、彼らは潜伏していた司馬邸を出、このギョウへと向かった。
夜通しの強行軍であったが、彼らはそれ以前に十分な休息をとっていたため、朝を迎える前に目的地へとたどり着いた。
だが、目的としていることは果たせなかった。
ギョウに行けば、曹丕か曹植、あるいはかつて魏に仕えた誰かがいるのではないかと期待していた。
しかし都には人っ子一人おらず、まさに閑古鳥の鳴いている有様だったのだ。

(それは、確かにそうだ。もう少し考えるべきだったかもしれない。
 魏に仕えたものといっても、このゲームに参加している者たちの大半は曹操に仕えていたものたちだ。
 彼らにとっての本拠地といえば、ここよりもむしろ許昌だろう)
白くなり出した空を見上げながら、司馬孚はぼんやりとそんなことを考えていた。
当の許昌が灰に帰したことなど、司馬孚には思いも寄らぬことである。

潜伏先の民家に戻ってきたとき、司馬孚は異変に気づいた。
出かける前、司馬孚は扉に木の葉をはさみ、扉が開いたならそれが分かるように仕掛けをしていた。
また貂蝉には決して外に出るな、扉にはつっかえ棒をして、自分が戻ってきたときには合言葉を言うので、
その言葉を聞くまでは絶対に扉を開けるなと、言って聞かせていた。
なのに、木の葉はそこにない。
何かがあって扉は開かれ、落ちた木の葉は風にでもさらわれたのだろうか。
だが、いまは木の葉の行方などどうでもいい。
司馬孚はそっと扉に手をかける。
扉は、何の抵抗もなく開いてしまった。
17血に濡れた道2/11:2006/07/30(日) 03:08:05
恐る恐る、息を殺して、司馬孚は家の中に入った。
すぐ目に付いたのは、吹き矢だけを抜き取って置いていた自分の鞄である。
荒らされた形跡はなく、自分がそこに置いたときのままであった。
次の部屋には貂蝉がいるはずである。無事ならば。
そっと、覗き込む。

そして司馬孚が目にしたのは、見知らぬ、少し太めの、男の姿であった。


それは数刻前の出来事。


司馬孚を送り出した貂蝉は、言われた通り扉につっかえ棒をすると、成すこともなく時間をもてあましていた。
自然、窓から見える月に目が行く。
月を見つめながら貂蝉は、だんだん自分の中の熱が冷めていっていることに気づいた。
(あれほど人を憎いと思ったことはなかったのに)
前に父が董卓の残党に殺されたときでさえ、あれほどの憎しみに駆られることはなかった。
やはり帝に、あれほどまでに忠誠を尽くした帝に殺されたということが、憎しみの原因だったのだ。
なのに今は、そこまでして帝を殺したいとは思わない。
与えられた武器がこのオルゴールと知ってがっかりしたことが嘘のように。
帝を憎いと思う気持ちは変わっていない。
この不条理な世界と戦う決意も揺るいでいない。
(でも今は、そんなことよりも、もっとずっと大切な)
貂蝉はオルゴールの蓋を開けた。旋律が流れる。
(この音に誘われて、あの人はやってきた。
 怪我をしていた。お父様が支給されるはずだった救急箱で手当てをして差し上げた。
 ずっとこのまま、一緒にいたいと言ってくれた。
 私は、私は……)
18血に濡れた道3/11:2006/07/30(日) 03:09:02
旋律が少しゆっくりになってきた。
貂蝉は一度蓋を閉め、ぜんまいをまわすと、もう一度蓋を開けた。
(あの人は、私を心配してくれた。
 私の舞を素晴らしいと言ってくれた。
 私は、あの人を死なせたくない)
それが、一番の望みだと。
仇討ちよりも、もっとずっと大切なことだと、貂蝉はそう思った。


「流れ 流れていつか 消え行くとしても
 永遠に変わらない 時の河は 続いて」

どこからか、歌声が聞こえる。
男の人の声である。司馬孚が帰って来たのか、だが声色は、少し違う。
貂蝉は窓から外に見えぬよう身を隠す。
しかし慌てて、オルゴールを落としてしまった。
暗がりで、どこにあるかは分からない。
ぜんまいは先ほど巻いたばかり。旋律は止まない。
この音が聞こえませんようにと、貂蝉は儚い祈りをささげた。

「流れ 流れていつか また生まれ変わる
 誰にも止められない 時の河は 続いてゆく」

こちらへ来るなと祈りながら、貂蝉は男の声に耳を澄ませる。
声はだんだん近くなりそしてついに、壁一枚向こうに、男の気配を感じてしまった。
オルゴールはようやく奏で終わるのか、旋律が次第にゆっくりとなっていく。
そして男の歌声も、それに合わせるように遅くなり、やがてオルゴールの音と共に消えていった。
貂蝉はようやく、男が歌っていた歌がオルゴールの曲と同じであったことこに気づいた。
19血に濡れた道4/11:2006/07/30(日) 03:10:04
何と馬鹿なことだろう。
不用意にオルゴールなど鳴らしたために、知らない人を招き寄せてしまった。
はじめからこの男はオルゴールの音色が聞こえていたのだ。
ここに到着したときのあまりの人のいなさ加減に、自分は油断しきっていた。
司馬孚は自分のことを心配してあんなにも戸締りに念を入れていたのに。
もし今司馬孚が戻ってきたら、家の前に不信な人がいたら、あの人はどうするだろうか。
逃げてくれるだろうか。
この男が司馬孚を見つける前に、どこか遠くに逃げてくれるだろうか。
(私のせいであの人を死なせるようなことは、絶対に嫌なのに……)
貂蝉は、己を呪った。

「もう、演奏は終わりですか?」
男が始めて歌以外のものを言った。
「それは賢明ですよ。ここは人気が少ないけれど、いつ怖い人が来るか分かりませんからね。
 ああでも、先ほどの曲はよかった。いったい何という曲です? 実は私、どこかで聞いたことがあるんですよね。
 どこだったかな。昔母上が歌ってくれていたような、でも、それとは違う。
 前に、やっぱりその歌を思い出して同じように思ったことがあるんです。あれは母上の歌だったかなと。
 でも、それはいつだったかどこでだったか、すっかり忘れてしまいました。
 そういうことってよくありませんか? 既視感っていうらしいですね」
話し出したと思ったら、男はとどまることなく言葉を続けた。
その言葉の穏やかさに、貂蝉は何度か返答しかけ、ぐっとそれを飲み込んだ。
自分がここにいることはばれているかもしれないが、わざわざそれを確定させてやることはない。
「あの、そこに誰かいますよね。いたら返事してもらえませんか? じゃないと私、かなり馬鹿ですよ」
やはり確信を求めている。
返事をしてはいけない。もしかしてこのまま息を潜めれば、この男はどこかに行ってしまうかもしれないのだ。
「あ〜あ。いないのですか。せっかく、やっと人に会えると思えたのに。……ハックチュ!!」
酷く、声が沈んでいる。
くしゃみの後は、鼻をすする音がした。
20血に濡れた道5/11:2006/07/30(日) 03:10:37
考えてみれば、司馬孚もまた音に誘われてきたのだ。
家の壁一枚しかない距離で、こじ開けようと思えば扉も窓も開くだろうに、男は決して入ってこようとはしなかった。
本当にただ、人を求めて、この殺し合いの世界で信頼できる人を求めようとしただけなら、何も怖いことなどない。
自分たち可愛さに誰かを見捨てるようなことがあれば、それは殺人となんら変わりがない。
帝の意に十分沿った行いになるのだ。

「そ、そのようにくしゃみをなされて、夜の風はそれほど冷たいのですか?」
意を決して、貂蝉は言葉を発した。
返事はすぐには来なかった。
今まで黙っていたものが突然話し、驚いているのだろうか。
ややあって、男は答えた。
「ええ、とても。それに私は近くの川で足を滑らせて、着物が完全に乾いていないのです」
それは暗に、中へ入れてもらえないかと尋ねられたのと同じことであった。
貂蝉はなんと無遠慮なのかと少しあきれたが、それは司馬孚があの白々しいセリフを言ったときに感じたあきれと、同質のものであった。
だから貂蝉は、司馬孚に決して開けるなと言われた扉を開けてしまった。
「どうぞ。何もないところですけど、雨風はしのげると思います」
「ありがとう。綺麗な人」
その男は少し太めの、決して武官ではなさそうな、だが文官とも違う、そんな印象与えた。
「私は劉禅。生まれは荊州新野。しかし人生の大半を益州の成都で過ごした者です」


そして、それから数刻。


貂蝉がいるべきはずの部屋に劉禅の姿を認めた司馬孚は、ほとんど何も考えられずに大声を発した。
「何者だ、貴様はッ!!!」
劉禅はゆっくり振り向いた。
口元には、なんとも意地悪そうな笑みを浮かべていた。
21血に濡れた道6/11:2006/07/30(日) 03:11:31
「そんな大声を出さないでもらいたいですね。
 それにそんな顔をして、まるで奥方に間男された亭主のようではないですか」
「なっなっ、なんだとッッッ!!!!」
司馬孚は顔を真っ赤にして劉禅の胸倉を掴んだ。
こいつだけは殺してやらないと気がすまない。殴り殺すんだ。
たとえ自分にそんな力がなくても、相手がどんなに剛の者でも、たとえ自分の両腕が、以降使い物にならなくなっても!!!!
「まあまあ旦那さん。落ち着いて落ち着いて」
茶化す言葉が癇に障る。
まず一発目をお見舞いしてやろうとしたそのとき、笑い声が聞こえた。
劉禅のものではなく、少し高い、女性の。
「ああ奥さん。旦那さんを少し静めてもらえませんか。これでは話にもならない」
貂蝉が笑っている。
「大丈夫ですよ旦那さん。奥さんは無事です。傷一つ付いちゃいない」
劉禅の茶々は相変わらず癇に障ったが、司馬孚は安堵のあまり腰を抜かしていた。

「まったく、どういうつもりなんですか。勝手に扉を開けてはいけないと、あれほど言ったのに。
 それに入れたら入れたで、どうして戸締りしておかなかったんです。
 扉が開いたとき、私がどれほど心配したことか……」
「まあまあ、私が中に入るにいたっては、かなりごり押しした私のほうに責任がありますよ。
 それに戸締りのことも、私がやめさせたんです。貂蝉さんは悪くない」
「だからどうして!!!」
ようやく勢いを取り戻した司馬孚はともかくここに至った経緯を聞いた。
それは貂蝉が不用意にオルゴールを鳴らしたところから始まって、聞きながら司馬孚は胃の痛くなる思いをしなければならなかった。
貂蝉が、劉禅を家の中に入れたことはまあいいだろう。
もともと貂蝉は優しい人で、その優しさに自分も救われた口である。
だが戸締りをしなかったことは、どうあっても納得しがたい。
まるで自分をからかうためにわざとそうしておいたかのようにも感じてしまう。
(これはなにも、自分がからかわれて腹を立てているわけではなく、無用心さを攻めているのであって……)
22血に濡れた道7/11:2006/07/30(日) 03:12:21
何かをぶつぶつ言う司馬孚に劉禅は肩をすくめて、バナナを一本差し出した。
「それは私の支給品です。
 それを食べて、少し落ち着いてください。説明しますから。
 いいですか? たとえばここに、殺し合いに乗った怖い人が来たとします。
 その人がもしこの家の扉に手をかけ、扉が開かなかったら、その人はまずこの家に人が居るということを理解してしまいます。
 そうしたら、そんな怖い人のことです。
 おびえて震えているだけの獲物を逃がすでしょうか?
 扉を蹴破って、或いは壁に穴を開けて、入ってくるのが関の山です。
 もっと悪ければ帝の兵たちが持っていたような武器の、もっと威力の強いもので蜂の巣にされるだけでしょう?
 逆に扉が簡単に開いて、家の中に人の居る痕跡がなかったら、ここに人が居るとは気づきません。
 少なくとも最初は気づきません。
 あとはその人がすぐ出てゆけばよし。
 より詳しく調べようとすればその隙を突いて逃げ出すことだって出来ます。
 どうですか? こっちのほうがより安全で、より生き延びる可能性が高いとは思いませんか?」
司馬孚はバナナを半分ほど口に入れ、この説明に聞き入ってしまった。
襲撃者が複数であることを考えていなかったり、多少運に任せたところがあるなど、この論にはいくつかの問題もあったが、
少なくとも、まったく考えなしにやったのではないのだということに、司馬孚は感心した。

「取り乱して、大変失礼いたしました。
 貴方の言ったことは、今後参考にいたしましょう。
 ところで、まだお名前を伺っていませんでしたが」
「ああ。こちらは益州の劉禅さんとおっしゃいますの」
貂蝉がとりなして紹介する。
その名を聞いたとき司馬孚は少なからず驚き、残った半分のバナナが少なからず変形した。
「蜀漢、皇帝……?」
劉禅は口の端を吊り上げて笑た。
その笑い方を、司馬孚はどこかで見た気がしたが、すぐには思い出せなかった。
「その通りですよ。晋皇帝の大叔父殿」
23血に濡れた道8/11:2006/07/30(日) 03:12:58
そういう風に呼ばないでほしいと、司馬孚は言う。
自分はあくまで魏の臣であると。
劉禅は口の端を吊り上げて笑っている。

何故だろう。
貂蝉はその会話を、とても遠くで聞いているような気がした。
鳥肌が立っているのがわかる。
何時からだろう。
それは多分、「皇帝」という言葉を聞いたときから。
それは、呪いの言葉。
今言われている「皇帝」は、あの「皇帝」とは違うのに、震えが止まらない。
「皇帝」と「皇帝の大叔父」が駆け寄ってくる。
(嫌!!)
貂蝉の、良く整えられた舞姫の爪が、司馬孚の頬を裂いた。
細い血の線が出来る。
「私、私なんてことを……。ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫。大丈夫ですよ。ちょっと混乱しただけですから、さあ、落ち着いて」
「私、私本当に醜い。
 ついさっき、仇討ちより大切なこと、見つけたはずだったのに。
 憎しみに駆られて司馬孚さんを傷つけるなんて、私、私……」
貂蝉の声は、最期のほうは消え入りそうに弱くなり、すすり泣く音に取って代わった。
司馬孚は貂蝉の背中に手をやり深呼吸を促す。
「大丈夫ですよ。貴方は綺麗です。私が出会ったすべての女性の中で、貴方が一番綺麗です。多分、世界中で一番綺麗です。
 だから、そんな風に、醜いだなんて思わないでください。
 大切な人を殺されて、憎まない人なんていないんです」
司馬孚は必死に囁いた。
そして少しずつ、貂蝉の震えが収まってきた。
24血に濡れた道9/11:2006/07/30(日) 03:16:30
「彼女、どうかなさったんですか?」
「最初の洛陽城で、献帝に殺された文官がいたでしょう?
 彼女は彼の娘なんです。
 我々が「皇帝」と「皇帝の親戚」と知って、少し混乱したんだと思います」
「ああそれは、残念だな」
それは、小さな違和感だった。
果たしてこの場で「残念」という言葉は適切なのだろうか。
決しておかしいわけではないのだけれど、「気の毒」のほうがずっと適切である。
つい気になって、貂蝉へ向けていた視線を劉禅へと流す。
彼は自分の鞄から、モーニングスターを取り出していた。
それは、薄明かりの中でも明らかに、血に汚れていることが分かった。
「あな、貴方の支給品はバナナだといった」
「ええ。その通りですよ」
自分でもばかばかしくなるような問いが口に出る。
劉禅はそれに馬鹿正直に答え、そしてモーニングスターを振るった。
全然、大したことのない音がして、とたんに貂蝉の体が何倍にも重くなった。
恐る恐る視線を戻すと、貂蝉の後頭部がつぶれ、中の生暖かいものがはみ出していた。
首はがっくりと垂れ、下を向いた彼女の顔は、以前となんら変わりがなく美しいままだった。
ただ、大きく見開かれた眼は、安っぽい、玉の偽物になっていた。
自分は何も出来なかった。

「あ、ああ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

「少し、静かにしてもらえませんか? 近くに人がいたらことですよ」
その一言で、声が枯れた。体が固まった。
まるで魔法にでもかかっているように、言葉は音にならなくなり、体は石になった。
自分は叫び続けているのに。
涙すら、出てはくれない。
25血に濡れた道10/11:2006/07/30(日) 03:17:16
「本当に残念です。やっと信頼できる仲間に出会ったと思ったのに。
 でも、「皇帝」という言葉だけであんなに取り乱す人と、一緒にいられるわけはないですよね。
 私は、皇帝ですから」
それはただの言い訳だと、司馬孚は思った。
いったいどうして言い訳などするのかは、司馬孚にはまったく分からなかったし、分かりたくもなかったが、それは確かにいい訳だった。
劉禅はまた、口の端を吊り上げて笑った。

「そうだ。思い出した」
ようやく言葉が出た。
「それは、その笑い方は洛陽城で見たんだ。
 献帝が、あの男が笑っていた。あんたと同じように」
体が少しずつ動き出す。
立ち上がると、貂蝉の体が床に落ちた。
「それで、貴方はどうするんです?」
劉禅が問いかける。どうするのかなど、決まっているのに、どうしてわざわざ聞くのだろうか?
(ああ)
司馬孚はようやく、全てに合点がいった。
(あの言い訳は、私に向けたものだったのか)
まったくどうしようもなく腹立たしい。
この自分勝手な理論を、まかり通すつもりなのか。
このままここで殺してやりたい。殴り殺してやりたい。
けれど自分にその力はないと、自分の冷静な部分が待ったをかける。
自分にまだ冷静な部分が残っていることが驚きだが、確かに武器の不利は否めない。
吹き矢はこの場では使えない。相手の武器は、使い慣れていないようだが振り回されるだけで脅威になる。
体力の差は、ない。ならば……。
「分かりました。臣はこれより、陛下に仕えましょう」
「ああ、よかった。ようやく仲間一人ですよ。正直、断られたらどうしようかと思っていました。
 もう自分の手で殺すなんて真っ平です。気持ち悪いんですよ。やるなら銃のほうがいいのに」
26血に濡れた道11/11:2006/07/30(日) 03:19:40
司馬孚にとってのチャンスは、すぐには巡ってこなかった。
劉禅はモーニングスターを放さなかったし、吹き矢も没収された。
完全に信用されてないのだろう。時間をかけなければならない。

劉禅は貂蝉の荷物のうち、オルゴールだけをやけに気に入り、それ以外は司馬孚に持たせた。
蓋を開け、音色に聞き入る。
「どこかで聴いた曲なんだけどな。どこだったかな。
 もう少し、そうか北のほうで聴いたんだ。あれ、でも北になんか行ったことはないし」
「準備は整いましたが」
「そうですね。じゃあ、ちょっと北のほうまで行きましょうか?」
「北というと、幽州ですか?」
「違ったら引き返しましょう。時間はたっぷりあるんですから」

二人は北へむけて進む。
貂蝉の遺体をそのままにしておいたことだけが、司馬孚の心残りだった。
もうすぐ夜が明ける。貂蝉の名を呼ぶために、放送が流れる。

<<皇帝と忠臣(偽造)/2名>>『現在地 冀州・ギョウ都』
劉禅【バナナ1本、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢10本)】
司馬孚[左腕負傷、手当済]【救急箱(応急処置の手引き付)】
※『時の河』を聞いた場所を探して北へ向かいます。(劉禅@第4回の記憶)
※司馬孚は隙あらば劉禅を殺すつもりです。

【貂蝉 死亡確認】
27新しい朝希望の朝? 1/6:2006/07/30(日) 09:29:11
荊州南部。
関興はひとり、諦めの境地にいた。
はじめこそ信頼できそうな仲間を探そうなどとも考えていたが、荊州に来て以来誰とも遭遇せずにもう3日目に入ろうとしている。
だんだんと増えていく死者の数。
開始直後に見たではないか。乱世といえどもそれなりの秩序をもって生きていたはずの将たちが、
義も仁もなく殺しあうのを。
結局はみんな敵なんだ。
それぞれ自分に有利を得るため、打算で組むものもいるだろう。
しかし自分に与えられたのはただの煙草と小さな火付け道具だけ。何の役にも立ちゃしない。
仰向けに寝転んで徐々に白んでいく空を眺め、関興はふっと溜め息をついた。
もう何でもいい。誰でもいい。とっとと一息に僕を殺してくれ。
こんな世界に居たくない。
28新しい朝希望の朝? 2/6:2006/07/30(日) 09:30:14
「なあ、あれ、生きていると思うか?」
「生きてるんじゃないか? 探知機は死んだら表示が消えるっぽいし」
「よし、確かめてやる」
馬謖は足元に落ちていた石を拾い、地面に転がっている青年目掛けて思いっきり投げた。
「……下手だな、お前。というかなんで石投げるんだ?」
「なんか誰でもいいから頭に石ぶつけたい」
「お前な、仕返しなら魏延本人にしろよ」
「あと下手ではないぞ! 水面に投げたら5回は跳ねるんだからな!」
「はいはい」
相棒が馬鹿を言い出すのはいつものこと、と凌統は生温かい笑いを浮かべて受け流した。
「見てろ、今度は絶対当てて(すかっ)今のは手元が狂っただけだ(すかっ)今度こそ(すかっ)なんだこの石は!」
「……お前、本当に狙いつけるの下手だな……」
「これは距離があるせいだ! 見ていろ今度こそ」
何を思ったか馬謖は腕をまくり上げ、凌統が目を剥くのを気にも留めず転がっている青年のほうに駆け寄っていく。

「あのっ! 殺すならもうちょっと真面目にやってくれませんかね!!」
「うおっ!?」

アホな会話と当たりそうで当たらない石に堪忍袋の緒が切れた青年―――関興が突然身を起こして喚いた。
びくっと仰け反る馬謖。凌統はさすがに抜け目なく、支給された武器である銃剣で関興に狙いをつけている。
29新しい朝希望の朝? 3/6:2006/07/30(日) 09:31:08
「あとこんな小さい石じゃどう頑張っても死ねないでしょうが! せめてもう二周りは大きい……って、あれ、馬謖殿?」
大声で怒鳴っていた関興の口調が突然トーンダウンし、間の抜けた表情になる。
「……知り合いか、馬謖?」
「いいや、知らない。全然見たこともない」
すっぱりと言い切る馬謖に関興は肩を落とした。そのままぺたりとうつ伏せに転がってほろほろと涙を垂れ流す。
「あんまりだあんまりだいくら存在感薄いからってあんまりだ……」
「えーと、すまない……そういえば見覚えがないこともないこともないような……名前なんだっけ?」
「関興です、関興安国」
「あー、うー、あー……っと、あ、関羽将軍の養子の!」
「それは兄の関平です! 僕は実子で次男の!」
「ああそう言われてみればそのような!」
「わざと言ってるんですね? そうでしょうわざとでしょう!?」
「………………」
「あぁ本気だ! 馬謖殿本気で僕のこと忘れてたんだー!!」
うわああぁんと大人気無く泣き始めてしまった関興を前に、凌統は思った。
あ、俺、今また変なの拾っちゃった気がする……と。
30新しい朝希望の朝? 4/6:2006/07/30(日) 09:33:10
関興を泣き止ませた後、なし崩しに仲間になった三人は白む空にまぎれていく月の下で情報を交換した。
凌統の銃剣にもいいなーいいなーと反応した関興だったが、馬謖の持つ探知機にはことさら惹かれた様子を見せる。
「まあ煙草よりはましだが、そんなにいいものか?」
「そりゃいいじゃないですか! これがあれば最後まで逃げ続けられますよ!」
後ろ向きな言葉をうきうきと言い放った関興に向かう馬謖の目が、すっと細められた。
「逃げるのか? 戦わない?」
「仁の無い殺し合いは僕好きじゃないんですよ、不要なら回避しなきゃ」
「……そうか。帝の御意志に逆らう愚か者……あれ?……殺さなければ……そうだ、殺さないと」
ゆらり、と立ち上がった馬謖の纏う雰囲気が一変していた。暗い目に虚ろな笑み。
らしくもない素早い動きで脇においてあった凌統の銃剣を拾い、関興に飛び掛る勢いで振り下ろす。
「馬謖!?」
如何に不意打ちでもさすがに武将、転がるようにして関興は斬撃を回避する。
次に銃剣が振り下ろされるより早く、飛びつくようにして凌統が馬謖を組み伏せる。
「放せ凌統! お前も帝に逆らう愚民か!?」
「なに言ってるんだお前、どうした!」
いかに暴れても所詮は文官の悲しさで、凌統の戒めを揺るがすことはもちろんできない。
「そいつを殺せ! 世を汚す害悪を殺せ!」
「くっそ何言ってんだこいつ……」
様子がおかしい馬謖に埒があかないと判断して、軽く腹に一撃入れて馬謖の意識を落とす。
「……凌統殿、今のは」
「分からない。今まではこんなこと言って無かったぞ?」
「様子、明らかにおかしかったですよね……?」
首を傾げた二人は、とりあえず衣服の裾を裂いた紐で馬謖の後ろ手に縛って目が覚めるのを待つことにした。
31新しい朝希望の朝? 5/6:2006/07/30(日) 09:35:19
馬謖が目を覚ましたのは、それからほどなくして朝日が地平線から顔を覗かせた頃だった。
「……おはよう、凌統、関興殿。なんで私縛られてんの? お前らそういう趣味でもあるのか?」
いつも通り焦点のずれたことを口走る馬謖に、とりあえず正気は戻っていると判断して戒めを解く。
「とりあえず普通みたいだな。まともではないけど」
「ですね」
「何の話だ? あぁ、それにしても嫌な夢を見た」
悪夢見たのはこっちだ! と突っ込みたいのを我慢してお愛想笑いを浮かべ、どんな夢かと関興が訊ねる。
馬謖は言いたいことを言わせないといつまででも騒ぎ続ける、とこの2日間で学んでいるので、凌統も特に止めはしない。
「なんか暗いところでいっぱい寝てるんだ。ほとんど文官で、私もその中に居た。
 それでなんか帝が来て」
帝、というキーワードに凌統と関興が反応する。
「私の隣に寝てた姜維にいろいろ話し掛けてるんだ。何言ってたっけ……」
「とりあえず姜維って誰だ?」
「私の弟弟子。それでその後、私の前に来てだな、帝のアホが『こいつは要らないよね』などと口走って爽やかに通り過ぎおった!
 なんか分からんけどムカつく! 夢だけど腹立たしい!
 あぁどいつもこいつも姜維ばっかり贔屓しやがってそんなやつら全員頭に石ぶつけられてしまえばかあああ」
なんだか無駄にヒートアップして朝日に吼え始めた馬謖の背を眺め、凌統と関興は目を見合わせた。
その夢とやらに何か意味はあるのか。馬謖の様子がおかしくなったのは何だったのか。
彼らにはまったく分からないまま、3日目の旅は始まる。
32新しい朝希望の朝? 6/6:2006/07/30(日) 09:36:59
<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター】
※現在荊州南部。とりあえずの目的地建業にむけてのんびり進みます
※近くに人間が居ればこっそり観察しつつ、呂蒙、周瑜、陸遜、諸葛亮との合流を目指します
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能
※馬謖が中途半端に献帝の洗脳?の影響を受けています
※関興の軽傷は自然治癒済み
※「ひ弱い文官呼ばわりされたがな、某大戦で私とお前の武力差はたった1なんだぞ」「あれえええぇえ!?」「コモンとは違うのだよコモンとは!」「僕カードにすらなってない……」
33呂蒙の一日1/6:2006/07/30(日) 15:34:25
コケッコー!
どこかで鶏が鳴く声を聞きながら起床。
横では陸機が大口開けてよだれ垂らしながら爆睡中だ。
その無邪気な寝姿に苦笑しながら顔を上げれば、
側では曹操が真剣な顔で果物を取り分けている。
「おはよう呂蒙」
「お、おはよう……です」

彼のことを何と呼べばいのかわからない。
陸機は敬愛込めたきらきらした目で「曹操殿!」と叫ぶ。
あいつは本気で曹操に傾倒しているらしく、
彼に対する態度はあからさまに呂蒙に対するそれとは違う。
孫尚香は親戚の叔父さんに話しかけるような気さくさで「曹操さん」と呼ぶ。
黙っていると小柄な文官にしか見えぬ曹操とさばさばした性格の孫尚香は
意外にウマが合うらしく、
一度ふたりでどの果物が甘くて美味いかを真剣に議論していた。
孫尚香が持っていた謎の液体が身体を洗うものだと教えたのも曹操で
(西域から来た商人に貰っていた”石けん”とやらにそっくりらしい)
近くの湖に行き、交替で身体を洗ったのは昨晩のこと。
数日分の汚れと逡巡をぬぐいさるように、呂蒙はやけくそになって身体を擦ったのだ。
34呂蒙の一日2/6:2006/07/30(日) 15:35:06
朝食に果物を食べる。
温州蜜柑、山葡萄、茘枝が主な収穫物だったが、
なぜか曹操の皿(大きな葉で代用している)だけ蜜柑が多い。
「蜜柑が大好物なのだ」
照れたようにその理由を話し出す彼に、いい歳した男が何言ってんだ!と呂蒙は唖然としたが、
「それならば僕の蜜柑と曹操殿の山葡萄を交換ですよ!」
と言い出した陸機にはもっと驚愕した。
「おい、陸機。俺は茘枝が好物だ」
「意外ですね」
試しにそんなことをほざいてみたがその一言で終わる。なにこの違い。
「ねえねえ子明、私の茘枝と貴方の山葡萄交換しない?」
孫尚香に至ってはそんなことを言ってくる。
おまえら俺の話聞いてないだろ?
35呂蒙の一日3/6:2006/07/30(日) 15:36:04
食後は車座になって陸機の「歴史講座」を拝聴する。
この中では最も後世代に生きた陸機による、滅亡と再生の物語である。
いや、物語ではなくそれは歴とした真実なのであるが。
呉の滅亡のくだりでは涙が止まらなくなった。
なんてことだ。俺が死んだ後、国はそこまで乱れてしまったのか。
陸遜が死んだ辺りなど噴飯ものである。
破竹の勢いで杜預が進軍して来た時など失禁しそうになった。
波にもまれるように消滅してしまった呉を思うと、慟哭が喉をつく。
しかし、その呂蒙の猛りが激しく場違いと化してしまったかのように、
臣下の司馬氏に国を奪われた魏の実質上の創設者と言えば、
ふんふんと頷いてまるで他人事のようなのだ。

「そうか、陸機も苦労したんだのう」
「そうなんですよ! 最後なんて八王の乱っていう
くだらない皇族同士の権力争いに巻き込まれてあぼーんですよ」
「そ、そ、曹操……殿、あんたは自分の作った国が無くなったと聞いて、悔しくないのか」
耐えきれずに呂蒙がそう問うと、曹操は一瞬きょとんとした顔をし、次には笑みを見せた。
「それは仕方ないことだろう」
36呂蒙の一日4/6:2006/07/30(日) 15:37:35
仕方ない?
仕方ないで終わらせていいものか?
確かにこの状況で何をどう藻掻いても何がどうなるものでもない。
出自など関係ないと陸機は言う。
曹操には少し頭が固いと言われた。
確かにそれが自分の欠点だろう。それでも、どうしても感情を捨て去ることは出来なかった。
此の期に及んでも己は関羽を嫌い抜いており、
間接的に陸遜を憤死させたらしい孫権に対する忠信と不信がまぜこぜになり、
司馬一族を始めとする”晋”の連中に出会ったら殺してやりたいと思う……

「子明、なんか浸ってるとこ悪いんだけど」
我に返ると孫尚香が悪戯っぽい目つきで下から顔を覗き込んでいる。
「あなたすごく不器用だったのねえ」
午後一番で武器を作ることになり、四人はそれぞれ棒きれを手にしていた。
手頃な太さの棒を拾ってくると、今度はその先を尖らせるべく細工をする。
剣や戟と言った便利なものが無いので、
仕方なく木片をうまく剣のように使い、削り取るように加工していたのだ。
ふと見れば呂蒙の手にする棒きれの先は割れてめちゃくちゃになっている。
「か、考え事をしていたからな」
「考え事って? なに?」
「いや、別に言うほどのことではないが」
孫尚香は理知的な瞳をゆっくり瞬かせた。
少し離れた箇所で仲睦まじく話を交わしている陸機と曹操をそっと見やり、
声を潜めるようにして彼女は囁く。
「なんだか子明、今朝からおかしいわよ」
「いや、至って普通のつもりだが」
「何か葛藤してるみたい。あれなの? 曹操さんといるのが辛いの?」
37呂蒙の一日5/6:2006/07/30(日) 15:38:25
自分は曹操が嫌なのだろうか?
陸機のように懐くことは出来ず、
かといって孫尚香のように天真爛漫に接することも出来ず、
混沌たる世界に落とされてまで、
以前の記憶……前に立ちはだかっていた強大なる敵としての姿……が忘れられず、
それで気持ちが定まらぬのであろうか。

彼は悪い人間ではなかった。
たかが一日二日共に行動しただけだが、
さすがに才能豊かな人間を集めて一代で国を興した人間だけあると感心させられることが多い。
彼は年長であるからと言って場を支配しようとすることもなく、
見下した態度を取ることもない。
陸機の質問には父親のように答えてやり、孫尚香の不安を一言で取り除く。

……過去にこだわっている己が、ひどく矮小な人間に思えてくるのだ。
38呂蒙の一日6/6:2006/07/30(日) 15:39:30
午後三時。
曹操が袋を持って立ち上がる。
三人がそれを待ち望んでいたかのように手の平を上にして差し出すと、
順にころんとした小さな四角形が載せられた。
午後三時のおやつタイム。
もちろん食べるはちろるちょこ。

*・゜゚・*:.。..。.:*・゜この芳醇な香りヽ(´▽`)ノ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

呂蒙はゆっくりと手の中に収まったものを見た。
おお! 大好きなきなこもちだ!
陸機はシナモンオレ、孫尚香はいちごプリン、きなこは俺だけだ!
思わず曹操を見ると、彼は微かな笑みを浮かべて親指を突き出している。

(操・∀・)b

……そうか!! 曹操の奴、俺がきなこ味を好きだからって、わざわざ…!!
「そ、曹操殿、ありがとう」
「礼には及ばぬ。これは皆のものだ」

ちろるちょこが入った袋を掲げる曹操を、三人はきらきらした瞳で見上げていた。
39外伝:孫権の一日1/3:2006/07/30(日) 15:40:45
そんな様子を遠くから眺める男がいた。
孫仲謀。碧眼紫髭の江東の風雲児である。
孫権は片目を擦った。慣れたつもりではいるのだが、
どうにもこの隻眼ってのはひどく眼に負担がかかる。
いままで両の目で見ていたものをひとつで済まそうとするのだからそれも当たり前だろうが、
その事実にぶち当たる度に無力感に囚われるのだ。

二心同体であるという董衡&董超から武器を奪い、しばらくは行動を共にした。
奴等は虞翻を、自分は他の呉将を待とうと考えていたのだが、
暇ゆえに様々な感情が胸に過ぎるうち、ある種の不安に苛まされるようになった。

果たして、ここで呉将が来るのを待ち受けていいのだろうか。
孫権は生前を思い出した。
豪族の集合体であった呉をうまくまとめたとの自負はある。しかし、それは晩年に少し乱れた。
……あの頃のことはあまりよく覚えていない。
ただ、こうしたら良かれと思ってやったことが悉く裏目にてしまったのだ。
己を恨んでいる人間がいないとも限らないではないか……
40外伝:孫権の一日2/3:2006/07/30(日) 15:42:17
武器を奪ったまま彼らと別れ、しばらく辺りをうろついた。
仮眠を取り、南に向かおうと漠然と足を運んでいたところ、人影を見た。
最初に目が入ったのは尚香だった。
我が妹よ! 飛び出しそうになって慌てて堪えた。
他にも人がいる。呂蒙、そしてなぜか曹操。もう一人若い男。彼は、彼は誰だ?

「祖父はそれで憤死したそうです」
「なんだって、そんな、殿がそんなご判断を」
「老人特有のボケじゃないですか?」

若い男は孫権にとって耳の痛い二宮の乱について説明していた。

 ……祖父はそれで憤死したそうです……

祖父? 祖父とはなんだ?
藪に隠れたまま男の顔を見ようと片目をこらす。
距離はあるのだが、日の光があるために輪郭は掴める。

……孫権は思わず口を押さえた。
陸遜だ。
あいつは陸遜だ!
41外伝:孫権の一日3/3:2006/07/30(日) 15:43:01
妹がいる。大事な家臣がいる。
それでも、前には出て行けなかった。

どうしようもない思いを抱えたまま、孫権は藪に潜み続けた。
奴等が早く移動することを祈りつつ。





<<ふたりの詩人とひとりのアモーと弓腰姫/4名>>
曹操[治りかけの打撲]【チロルチョコ(残り80個)】、陸機【液体ムヒ】
呂蒙[鼻にかすり傷]【捻りはちまき】、孫尚香【シャンプー(残り30回分)】
※棒を加工して武器を作りました。
※さらに南下して落ち着ける拠点を作ろうと考えています。

@孫権[右目負傷・失明]【防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】
※上記パーティ移動まで藪の中に潜んでいるつもりです。
42栄華の墓所 1/2:2006/07/30(日) 23:41:23
―――ようやく魏郡に入った。
人の多そうなエン州を避け、河南から河内を通り、朝歌を突っ切って、
曹丕は、ただひたすらにギョウを目指していた。
此処まで来れば、あとはもう急く事もない。
ギョウは目と鼻の先である。
小さくか弱い手を引いて、前へ前へと、少しばかり速度を落としながら、進む。
「とうさま!」
傍らの小さな影が、嬉しそうな声を上げた。
街が、見えてきたのだ。
小高い丘の上から見下ろすその広大な姿は、その雄雄しさも、美しさも、
何もかもがきらきらと眼前に輝いていて。
思わず涙が零れそうになる程に、強く曹丕の胸を打った。
――ああこの街は、この空は。
風は、大地は、水の流れや、鳥の囁きは。
「わたしの、国だ・・・。」


それは、司馬孚らが北へ向かった、ほんの数刻後の事であった。
43栄華の墓所 2/2:2006/07/30(日) 23:43:48
都内は、閑散としていた。
かつては、喧しいほど民衆の声が賑やかだった道々は、
ただ小鳥たちが突き抉るのみであり、文武百官が凱旋した中央道には、
冷ややかな風が吹きすさぶだけである。
曹丕は、自らの邸宅や宮廷には決して向かわず、中心部よりやや離れた
民家に居を構えた。
――自分が恨まれていることなど、十重に承知している。
「とうさま、みぎかたはだいじょうぶですか?」
静かに扉を閉め、床に腰を下ろすと、傍らのぬくもりが、小さくか細い声で、
そう問いかけてきた。
右肩の弾痕は、未だ完治していない。それどころか、悪化してきている。
肩より上に、右手が上がらなかった。
それでも、末の弟に心配をかけたくない一心で、大丈夫だよと嘘をついた。
「お前こそ、疲れてはいないか?必死で駆けて来たからな。
 ほんの少ししか、眠れていないだろう。」
「これくらい、へいきです。」
そう胸を張る曹幹の姿が、逞しくもあり、微笑ましくもあり。
このぬくもりがあれば、自分は決して自分を失うことはないであろう、という事を、
再び確認した。
あたたかい感情が、胸に広がる。
かつて、この国の主として、この都を闊歩していたときには感じることの出来なかった充足感が、
このような異常時になって漸く感じられるとは、なんとも皮肉なことである。
曹丕は笑いながら、弟の頭を優しく撫でた。
「少し、眠ろうか。ずっと歩いてきた。眠らないと、体が持たないからな。」
太陽が昇りきてから眠りに着くとは、なんとも可笑しな話だが。


―――――空は、雲ひとつない蒼天であった。
44栄華の墓所 結果:2006/07/30(日) 23:44:26
<<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>> 『現在地 冀州・魏郡・ギョウ内民家』
曹丕[右肩負傷・手当て不完全、疲労]【スコーピオン(残弾19発)】曹幹【白い鳩】
※しばらくは民家内で休息。
※曹丕の傷はだんだん悪化してきています。
45楊儀くん1/3:2006/07/30(日) 23:45:55
荊州魏興の小集落。そこで楊儀は三回目の放送を聞いていた。
「だんだんと人の死ぬペースが上がってきているな…」
次々と呼ばれる死亡者の名を付け終わった後、自分を初め、魏延に狙われそうな人物の名、特に諸葛亮の名が出ていない事に安堵する。
「やはり丞相達を探すべきなのだろうか」
楊儀はこれまで、幾度となくそう思った。だがその後には浮かぶのは、決まって魏延の凄惨な笑顔。
迂闊に動けば殺される。その恐怖が楊儀を支配する。
「どうしたものか…」
これからの事を考えあぐねている楊儀の腕が、自然とMDウォークマンに伸びる。
「ふぅ、曲でも聴くか。何かいい考えが浮かぶかもしれん」
一曲目と二曲目の曲は自分に勇気と活力を与えてくれた。きっと次の曲もそういった物を与えてくれるに違いない。
そう信じて、楊儀はウォークマンのスイッチを押した。
三曲目の曲が流れてくる。他の曲とは随分と曲調違うようだ。
46楊儀くん2/3:2006/07/30(日) 23:46:51
エロイムエッサイム エロイムエッサイム さあ!バランガバランガ 呪文を唱えよう

エロイムエッサイム エロイムエッサイム ほら!バランガバランガ 僕等の悪魔くん

地獄のナイフが 君を狙っている
勇気を出すんだ 戦いはこれから
平和の楽園 夢見てやって来た
不思議な仲間が 君の命令を待ってる
笛が歌えば Hiyu-Hiyu(ヒューヒュー)
嵐を呼ぶぜ Go-Go(ゴーゴー)
手強い敵は うじゃうじゃいるぞ!
ここにも そこにも あそこにも!!

エロイムエッサイム エロイムエッサイム さあ!バランガバランガ 涙も風になる

エロイムエッサイム エロイムエッサイム ほら!熱い夢が 僕等の魔法だぜ!
47楊儀くん3/3:2006/07/30(日) 23:47:52
「こ、この曲は…!」
その曲を聴いて、ぷるぷると震える楊儀。
「まさに、今の私と、これから私がとるべき行動を示しているのではないか!?」
物凄い勘違いを起こしているものの、楊儀の目はこれまでと違い、妙に活き活きしている。
「地獄のナイフとは、まさに魏延の事。私は今まで奴から逃げ、怯える事しかしていなかった。だが、どうだ?私が勇気を出し、仲間と共に魏延を倒せば全て丸く収まる!
しかも私が命令する立場になれば私は安全!素晴らしい!なんて素晴らしい話だ!」
楊儀は、二、三本、頭のネジが抜けたような笑顔を浮かべている。
「ふむ、まずは仲間を集める事を考えよう。仲間…不思議な仲間…」
不思議な仲間がいないか考えている楊儀に、何人かの姿が浮かんだ。
「南蛮の一味!うむ、奴等なら不思議な仲間に相違ない。どうせ奴等の事だ。南蛮に向かったに違いない。
そして交州が禁止区域となった今。奴等は益州周辺に向かうはず!こうしてはいられぬ!漢中にいるであろう魏延に殺されてしまう前に、奴等と接触せねば!」
楊儀は動こうとするが、回復しれていない疲労がそれを許さない。
「ぐっ!ええい!思い通りに動かぬ体め…仕方あるまい。ここは一時休息し、明日の朝出向くとしよう」
それだけを呟くと楊儀は目を閉じた。平和な楽園を夢見て

@楊儀「睡眠中」【MDウォークマン】
※明日の朝あたりには体を動かせそうです。目覚め次第、益州に向かい、阿会喃・孟獲・祝融を探し仲間に引き込む気です。現在地荊州魏興
48無名武将@お腹せっぷく:2006/07/31(月) 12:48:21
10万の精鋭を擁しながら、曹操に降った・・・
昔は、青と黒の軍勢だけで天下を統一できるとも言われていたが、
今となっては、懐かしいだけの話だ。
「張角と一緒に、また夢を見るか?それとも曹操と盟を結び、北の雑魚を俺が殲滅するか?」
先の事を考えながらも、その手は休む事無く動いている。
黒山賊の──いや、俺のか。──本拠地は、全く変わっていない。
敵の侵攻を阻む要害、自給自足の為の牧地(自給自足は結局、できなかったな・・・)、
そして、毒を作る基となる植物を栽培する地。
全てが残っている。不自然なほどに・・・
「完成したか。十本のうち、一本でも当たれば、3日苦しんだ後に死ぬだろうな。」
このまま、篭城を決め込めば絶対に負けない。
だが、禁止区域になり易い地でもある。
「袁氏に手を貸すのもおもしろい。最初に会った奴に賭けてみるか。」

@張燕【諸葛弩(猛毒付き)】
※晋陽付近で物資を調達したら、張角・曹操・袁紹の探索を開始します。
<<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>>
曹丕[右肩負傷・手当て不完全、疲労]【スコーピオン(残弾19発)】曹幹【白い鳩】

<<親子の面影+α/3名>>
蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5】劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】

<<不品行と品行方正/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×2】陳羣【閃光弾×2】

<<荀イク孟徳捜索隊/4名>>
袁紹【妖刀村正】曹彰【双剣の片方(やや刃こぼれ)ごむ風船】曹仁【双剣の片方(やや刃こぼれ)かみそり】曹洪【斧】

<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター】

《孤篤と廖淳/2人》
馬忠【グロック17】&廖化[両頬に腫れ、鼻血]【鎖鎌】

<<皇帝と忠臣(偽造)/2名>>
劉禅【バナナ1本、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢10本)】
司馬孚[左腕負傷、手当済]【救急箱(応急処置の手引き付)】

<<子義マンセー/2名>>
太史慈【ジョジョの奇妙な冒険全巻】李典【SPAS12】
<<決意胸に秘め/2名>>
典韋【煙幕弾×4】荀攸【デリンジャー】

<<阿会喃動物園/3名>>
阿会喃【DEATH NOTE(あと9ページ)】曹熊[鬱病]【エクスカリパー】張虎[軽い熱射病]【大般老長光】

<<ふたりの詩人とひとりのアモーと弓腰姫/4名>>
曹操[軽い打撲]【チロルチョコ(残り84個)】陸機[頭部より少量の出血]【液体ムヒ】
呂蒙[鼻を負傷]【捻りはちまき】孫尚香[かすり傷]【シャンプー】

<<めるへんクインテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷]【なし】姜維[頭部損傷、流血]【なし】
馬岱[軽症]【シャムシール・ロープ】司馬懿[軽傷、泡噴いて気絶中]【赤外線ゴーグル、付け髭】

<<後追う南蛮夫婦/2名>>
孟獲[気絶]【サーマルゴーグル】祝融【ブーメラン】

<<フライングディスクシステム搭載/2名>>
曹植【PSP(何か特殊な効果がある?)】張遼【歯翼月牙刀】

<<ナースと下僕と外交才能零/3名>>
趙雲【ナース服、化粧品】裴元紹【なし】魯粛【圧切長谷部】

<<現在工事中/2名>>
禰衡[脇腹負傷]【農業用スコップ】孔融[こめかみかすり傷]【農業用ショベル、刺身包丁】

<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
呂布[背中の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】諸葛瑾[ひっつき虫化]【なし】
@于禁【AK47カラシニコフ、山刀】
@魏延[右腕・顔面右側に火傷(痛み止め済)]【ハルバード(少し融けています)、M37ショットガン】
@董衡&董超[二心同体(朝昼夕方は董衡、夜は董超が活動)]【なし】
@沮授[鬱]【手榴弾×3】
@孫権[右目負傷・失明]【防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針】
@諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
@荀イク[洗脳されている?]【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
@張コウ【竹刀(束バラバラ)、斬鉄剣(腰伸び)、首輪解体新書?】
@張角【DEATH NOTE】
@周瑜【テルミン】
@高順【狼牙棍】
@陳到【ガン鬼の銃(陰陽弾×50)】
@朱桓[顔面ぼこぼこ]【鋼鉄の剣、スタン・グレネード×4、携帯型地雷×5】
@関羽【方天画戟】
@張飛【鉈】
@楊儀[睡眠中]【MDウォークマン】
@夏侯淵【ベレッタM92F、弓と矢、トンプソンM1A1、発煙手榴弾、AK-47(弾倉あと5)】
@袁術【日本号】
@潘璋【備前長船】
@張燕【諸葛弩(猛毒付き)】
@賈ク【光学迷彩スーツ】
@夏侯楙[両腕擦り傷]【越乃寒梅】
@馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー】
@虞翻[右肩被弾、頬軽傷]【遊戯王カード(2枚)】
@許チョ【大斧、スナイパーライフル】
@華雄[全身切り傷]【吹毛剣】
@黄忠[軽傷、疲労]【サバイバルナイフ】
@夏侯惇[腕にかすり傷]【金属バット】

パーティーの部18組44名、ピンユニット30名を生存確認。計74名を生存確認。
52▼死亡者放送(参加者公開)▼:2006/07/31(月) 20:48:41
≪あ行≫6名(+1)
王平、袁煕、☆閻行、袁尚、袁譚、王累
≪か行≫14名(+0)
郭シ巳、楽進、郭図、夏侯威、夏侯和、夏侯恵、夏侯覇、韓玄、韓遂、顔良、許攸、刑道栄
侯選、胡車児
≪さ行≫9名(+2)
周泰、朱然、淳于瓊、徐晃、☆徐庶、辛評、成宜、☆孫堅、孫策
≪た行≫9名(+4)
張横、張任、☆張繍、☆貂蝉、☆陳宮、程銀、程普、田疇、☆董卓
≪は行≫2名(+1)
☆馬玩、文醜
≪ま行≫2名(+0)
満寵、孟達
≪ら行≫6名(+2)
李堪、李儒、劉璋、☆劉ェ、☆梁興、呂範
≪や行≫2名(+0)
楊秋、楊阜
   
計50人が死亡。

■既出登場武将数:124名  残り74名


「これより死亡者の名前を放送致します」
献帝の部下が、無感情な声で淡々と死者の名を告げていく。
「以上です。まだまだ人数が残っているのでもっと殺し合いに励むように、と陛下は仰られておりました」
小さく咳払いをして、さらに放送は続く。
「つきましては、禁止区域の追加を行います。涼州を禁止区域に設定するので、該当地域にいる者は直ちに移動するように」
以上ですと告げて、放送は途絶える。
南から雲が移動しつつあった。

>>152より涼州が禁止区域となります。
53記憶1/3:2006/08/01(火) 00:10:45
馬超は司隷の国境近くで、雍州に行くか荊州に行くか迷っていた。
知っていたより、随分と距離が短い。小さくなっている土地。
…本当に、どういう世界なんだろう。
ふと、思う。
自分達はやっぱり死んでいて、ここは地獄ではないのだろうか。
それならばこの残酷な試みも納得がいく。生前に犯した罪を思えば当然だ。
…そうだとしても、何が変わるわけでもないのだが。
空を見上げる。空は、生前と変わらぬ美しさを見せていた。
煌く星。穏やかに光を放つ月。
東から夜が明け始め、かすかに闇を暁に染めている。
地獄でも、こんな美しい物があるのだろうか…。
「…ん?」
どん、という鈍い音が聞こえた。爆音…?誰か戦っているのか。
雍州の方角だった。
それにしてもこうも音が響くとは、随分と大掛かりな武器もあった物だ。
…まあ、人のことが言えた義理ではないが。
誰か死んだだろうな、と思った。
「……」
急に不安になる。もしあの方角に、馬岱がいたら。
「…まさか、な」
だけど、もしも、もしも。気にし始めたら止まらない。
もし、あの方角に、馬岱の死体でもあったら。
54記憶2/3:2006/08/01(火) 00:12:14
「…………」
確かめに行こう。行って見ればわかることだ。
そこで見知らぬ死体を見て、安心できればそれで良い。
進みながら思う。放送が聞こえて来る時間も近い。
…死体が無くとも、そこで馬岱が呼ばれたら、自分はどうすればいいのだろう。
もし、馬岱が死者に数えられたら。
「死体を、探すんだろうな」
守りたいと思う半面、死んでいたらそれまでとも思う自分が居る。
奇妙な感覚だ。どこか冷めた気持ちがずっと続いている。
馬岱を守ろうと思った時は、生きていた頃の熱を感じたのだが…。
そもそも生きていた頃、などと考えること自体がおかしい。
だが、以前は己の武を持ってすれば優勝など難しくはないと

「…?」
以前?今、俺は何を考えた?
55記憶3/3:2006/08/01(火) 00:13:15
以前…いや、こんなことが何度もあってたまるか。
そうだ、もう仲間を殺されるのは―――

「…………俺は、何を考えているんだ?」

霞がかった記憶のむこう。
仲間を殺されるのは、嫌だ。その感情が強く蘇ってくるのを感じる。
誰に殺された?曹操?いや、違う…あの時、あいつを殺したのは…

と、風に乗って硝煙と血の臭いが漂ってくる。
…五丈原。爆音の元はここだったのか。
遠目にいくつか人影が見える。死体もあるようだが…生きている者がいる。
馬超は思考を振り切り、血の海で蠢く人影に向かって歩き始めた。

@馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー】
※五丈原に着きました。
※記憶混乱気味?第3回の記憶が残っている様子。
56無名武将@お腹せっぷく:2006/08/01(火) 00:43:35
寿春は後世の何者かが再建したのだろうか?
皇帝の住まう地ではなく、軍事拠点の様なものになっていた。
なぜかこの地に、もう皇帝ではないのだぞ?と言われている気がした。
そして一陣の風が駆け抜ける。何かを取り払うように・・・
「私は何に抗っていたのだ?妾の子か?名門という鎖か?漢か?」
自問自答の末、答えは出た。
「・・・運命に従う己だ!」
私は、私の運命に抗っていたのだけだった。
名門の家に生まれ、漢の高官となり、三公となる。そして死ぬ。
そんな運命を受け入れる気であった。
妾の子の事も、先に自分が三公まで上り詰めればよいと考えていた。
だが、私の考えを改めさせた者がいた。董卓だ。
奴を討たねば、この気の昂りは治まらぬだろう。
そして、真に討つべきは・・・その董卓を惑わした劉協!

@袁術【日本号】
※目標:董卓、劉協を討ち、己のあるべき未来を取り返します。
57洛陽にて・・・1/3:2006/08/01(火) 03:05:42
「偽帝風情が調子に乗りやがったな!」
洛陽の一室にて怒声が響き渡る。
「自分の帝位僭称を人のせいにするとは何事だ!俺が天誅を下してやる!」
「おい、俺たちは74人分の会話を調べてんだ、騒ぐと殺すぞ」
「あぁ?皇族である私とやると言うのか?死んでも知らないぞ?」
二人は怒声を発し、睨み合う。一触即発の状況である。
唯でさえ、ストレスの溜まる仕事だ。
多少のいざこざが起こっても不思議ではなかった。
「劉虞どの、袁術の事で怒っているのですか?ならば、気にする事はないですよ」
突然、声を掛けられた劉虞は驚いた。
劉協は温厚な劉虞が怒声を発したと聞き、重大事だと思い駆けつけたそうだ。
ちなみに、喧嘩相手の公孫瓚は既に仕事に戻っている。
「余程の重大事なら私に知らせてください。ですが、袁術が何を言おうが、
 皇族であるあなたが気に留める必要はありません。
 いずれ、私が彼に天誅を下しましょう。不届きな賊徒どもにね。」

58洛陽にて・・・2/2:2006/08/01(火) 03:10:35
@劉協(非参加者)
※主催者。袁術の豹変ぶりに関係があるようです。

@劉虞(非参加者)
※盗聴器管理室室長。ストレスが溜まっています。

@公孫瓚(非参加者)
※盗聴器管理室副長。ストレスが溜まっています。
59呪都 1/13:2006/08/02(水) 01:14:54
ゆるやかな笛の音は左手から発せられ、都をかき抱くように空間を渦巻く。
空は音に呼応するかの如く嘆き泣き、立ち上る炎に抱かれては、消えた。
おそらくは、全て雨が悪いのだ。
全ては。
60呪都 2/13:2006/08/02(水) 01:15:30
何処となく、質素な邸宅であった。
主の性格を現しているかの如く隅々まで手入れの行き届いたその場所は、
轟々と燃え続ける炎の被害をまるで受けずに、ただ其処に在った。
内部から、悲しげな旋律が流れてくる。
所々途切れたその曲は、まるで泣いているかのように聞こえた。
「于将軍の家、ですね。」
荀攸の言葉に、典韋が頷いた。
于禁、字は文則。曹操の最も有能な五大将の一人として、盛名を馳せた男である。
謹厳実直が服を着て歩いているような人間で、兵や民衆には決して好かれているとは
言いがたかったが、曹操の信頼は厚かった。
「将軍が仲間になってくだされば心強いな。
 まさかあの人が、この遊戯に乗っているとも思えぬし。」
「あいや、中に居られるのが文則殿とも限りません。慎重に参りましょうぞ。」


―――彼らは、彼らの死後のことは何も知らない。
于禁の受けた屈辱など、知る由もない。
61呪都 3/13:2006/08/02(水) 01:16:03
「恐れ多くも益寿亭侯の屋敷にて、無断で笛を奏でるはどなたで御座ろう」
もし銃弾が飛び出てきても当たらぬように、一定の距離を保ちながら、
内部の何者かに声をかけた。
左手には煙幕弾。この雨の中では上手く作用するか分からなかったが、
その時は背後の荀攸がデリンジャーで動きを止める手はずである。
笛の音がぴたりと止む。
暫しの静寂の後、聞き知った低い声が響いた。
「―――于、文則だ。その声は典韋か。」
荀攸はあからさまに安堵した。独特の威厳に満ちたこの声。
于禁以外の何者でもない。
「開けて構わんぞ。鍵は掛かってない。」
典韋は不思議な感覚に襲われた。この、体温より低い声色。
于禁以外の何者でもない。
なのに。
ゆっくりと、近づく。
軽く引くと、あっさり扉は開いた。
何故か、煙幕弾を構えた左手が震えている。
「ところで典韋。ひとつ、聞きたいことがあるのだ。」
世界が回る。
何が、これほど恐ろしいのだ。
冷たい。雨脚が強くなってきた。
「なあ。」
郭嘉殿は平気だろうか。
・・・郭嘉?違う、隣に居るのは。



「 曹 丕 は 何 処 に 居 る ? 」


全身を包む熱とともに、破裂した男の幻影が甦った。
62呪都 4/13:2006/08/02(水) 01:16:34
「っっ典韋殿!!」
荀攸の悲壮な声が聞こえる。
一足、遅かったようだ。すでに銃弾は典韋の右肩、右胸、左脇腹を貫通している。
撃ち抜かれた箇所が、酷く熱い。
「典韋殿、典韋、」
甘かった。隙があった。
この隙を逃す男ではない。せめて、荀攸殿だけでも。
叫ぶ荀攸を突き飛ばす。同時に、煙幕弾を投げようとするが、それよりも先に
左手を撃ち抜かれた。
濡れた大地に倒れる、自らの体躯。
獣が塒から這い出てくる。口元に浮かぶ邪悪な、笑み。これは。
「に、げら、れ、よッ」
最後の気力を振り絞って、叫ぶ。
振り下ろされる刀。雨。轟音と、光。
ああ、覚えている。
あの時も、この男はまんまと逃げ延びたのだ。
そして自分は呂布に――――――。
この男にかかわってはいけなかったのだ。この男はすでに、崩壊している。
逃げられよ。荀攸殿。最後まで御護り出来ずに申し訳ない。
振り向くな。黒筒を取り出して、一直線に逃げよ。此処は、この街は。


「呪われているな。」
足元に転がる小さな丸を拾いながら、于禁は呟いた。
63呪都 5/13:2006/08/02(水) 01:17:23
雨の音。
これほど憎いものは無い。
およそ4sあるカラシニコフを片手で玩びながら、逃げ去った者の方へ脚を向ける。
声からして、典韋が庇った男は、荀公達殿だろう。別にどのような恨みも無い。
追わなくても、構わん筈だ。
しかし足は止まらず、于禁は頭を捻った。
はて。
(そういや俺・・・何で典韋殺したんだ?)
典韋にも、別に恨みは無いはずだった。それどころか、尊敬すらしている。
宛城で曹公の盾となり死んだと聞いたときは、忠臣の鏡よとさえ思ったほどだ。
危なかったからか?と思えば、さて、彼らに敵意は感じられなかったものだし。
(何でだ?)
曹丕の居場所を聞いたときまでは、普通だった。一握りの殺意も無かった。
けれど、扉が開いて。
典韋と、その背後に降りしきる雨を見たときには。
何もかもがぶっ飛んでいた。
64呪都 6/13:2006/08/02(水) 01:19:09
(・・・何でだろう。)
しかし足は歩み続ける。
的確に、荀攸の逃げた痕跡を探し出し、辿っている。
まるで、脳髄とは別に身体が血を求めているようで、ほんの少しだが戦慄した。
何処からか優しげな声が聞こえる。

『良いですか于禁殿。私も、貴方も、』

何処だ。何処で聞いた?
この声は知っている。優しげな声。柔らかな、華のような声色。
先程聞いた荀攸と、よく似た声質だ。
暗闇の中で、この言葉を聞いた。
いや、それ以前から知っている声。曹公の傍に何時も、居た、この。

『同じ復讐者。』

両目が、荀攸ともう一人の姿を、捉えた。
65呪都 7/13:2006/08/02(水) 01:19:50
(あれは誰だ。)
張コウは戦慄した。
南門から出てくる影。悪意を殺意で包み込んだような、巨大な負を纏う、かつての戦友。
「于、将軍・・・。」
荀攸殿が怯えたように黒筒を構えている。
本当か。
本当にあれは于禁なのか。


許都内まで、後一歩というところだった。
内部から凄まじい負の気と、銃声が同時に発される。
中には誰も居ないと思い込んでいたものだから、それはもう驚愕した。
斬鉄剣を抜き、竹刀を左手に構える。中で、何が起こっているというのだ。
一歩、踏み出した途端、黒い影が突進してきた。
思い切り剣を振り下ろそうとして、途中で止める。
この顔は、よく知っていた。
「ちょ、張将・・・」
張コウの存在を認めた荀攸は、恐怖とも安堵ともつかぬ息を吐いた。
が、すぐに距離をとって、張コウの方に黒筒を向けてくる。
(おやおや、まさかやるつもりなのかね?)
何処と無く似合わぬなと思いながらも斬鉄剣を構えると、荀攸は首を振った。
「違う、将軍。私じゃない。逆だ。後ろだ!」
「何。」
振り向く前に、圧倒的な悪意がその場を包み込んだのが分かった。
66呪都 8/13:2006/08/02(水) 01:20:23
握った斬鉄剣が震える。
斬れ。あの男の肉を断て。首を刎ね、心を突け。
于禁から発される悪意に呼応するかのように、斬鉄剣は暗い衝動を伝える。
(落ち着け。)
かたかたと震える右手を、左手で制す。
直接脳内に響いてくる甘い誘惑を、張コウはすんでの所で抑えていた。
この誘惑に負けてはいけない。そんな気がする。
(落ち着け!)
一歩一歩近づいてくる悪意とともに、斬鉄剣の誘惑も強くなる。
近付く度に震えが激しくなる。
一歩。
一歩。
虚ろな瞳が、張コウを捕らえた。


「儁乂じゃないか?」
67呪都 9/13:2006/08/02(水) 01:21:06
(え?)
右腕の震えが止まった。
それまで辺りに渦巻いていた悪意、殺意が、一気に四散したように感じられた。
思わず背後の荀攸を振り向くと、彼もまた違和感に戸惑うような表情をしている。
一歩引いた。
「―――文則殿。」
「生きてたのだな。良かった。」
于禁は、心底安堵したように息を吐いた。
生前にすら余り見られなかったような微笑を浮かべている。
それが、とてつもなく恐ろしい。
「お前や文遠ならば大丈夫だろうとも思っていたのだがな。
 公明や文謙の事もあったし、心配していたのだ。」
于禁が一歩、前へ踏み出す。
瞳には何の異常も見出せない。ただ、右手の山刀に真新しい血が付着している。
轟々と燃え盛る炎。降りしきる雨を持ってしても、その勢いは止まる事無く。
「文則殿、何をなさっておられた。」
「この場所でそれを問うのか?」
「て、典韋殿はどうなされたのだ!」
「それは貴殿も見ておられたはずだ。軍師――。」
荀攸を庇う様に、また一歩、引いた。
敵意は感じられぬくせに、この恐怖。違和感!
68呪都 10/13:2006/08/02(水) 01:22:41
「何故、典韋殿を・・・」
「それがな・・・分からんのだ軍師。何故俺は典韋を殺したのかな・・・。」
「わ、分からない、だと?」
于禁の瞳は嘘をついているようには見えなかった。
自分でも混乱しているように見える。ゆらゆらと、焦点が定まっていない。
「・・・貴方は、何も無くて戦友を殺すような男だったか?」
「戦友?・・・ああ、そうか戦友だな。いや、典韋は嫌いじゃなかったし、
 何で殺したんだろう。何で殺し、ころ、そうだ、殺さなきゃ。復讐するんだ。
 復讐、儁乂、儁乂曹丕は何処に居るんだ?」
「文帝陛下・・・?陛下を探しておられるのか。」
「俺も『同じ』復讐者で、殺さなきゃいけないんだ。
 曹丕とか、俺を殺した奴ら、この世界、盛り上げて、儁乂、」
ぶつぶつと、意味の分からぬ言葉をつむぐ唇。
闇色に瞬く瞳。
許都の炎の逆光で、全てが克明に示される。
「なあ、お前も邪魔するのか。」
「何を、」

斬鉄剣が、呻いた。
69呪都 11/13:2006/08/02(水) 01:23:14
痺れるほど重く、素早い剣戟がその刀身を襲った。
弾き返し、体勢を整える。その瞬間にはもう二撃目が襲ってきている。
左手の竹刀は、盾にもならなかった。
「ぐっ!」
この斬鉄剣で無くば、すでに折れていたかもしれない。
「ね、らいはっ・・・復讐かッ!文則っ」
于禁は曹丕に殺された。直接手を下したわけではないが、彼の性格を考慮した
悪魔の罠は、確かに彼を死に追いやった。
張コウも、あの時は確かに憤りを感じた。自分も、用が無くなればあのように無様に
貶められるのかと。
しかし、だからといって。
「オ、レをっ襲う理由にはッ!なってないぞ貴様!!」
斬鉄剣を思い切り振るう。
鈍い音がして、山刀の持ち手下部と、于禁の小指が宙を舞った。
流血が蒼天に、赤い紐のように棚引く。それでも攻撃は止まなかった。
于禁の攻撃には隙が無い。
大体からして、二人の技量は同程度であり、懐に入られれば武器の優劣もさほど関係無く。
後手に回った張コウは防戦一方にならざるを得なかった。
(この刀なら、あの短刀の刃を裂くことも出来ようが、
 如何せん隙が無さ過ぎる。流石は于禁といったところか!)
全てが攻撃が的確に、張コウの体力をすり減らす。
こちらも仕掛けてはいるものの、どうも太刀筋が読まれているようでやり辛い。
細かい傷は負わせているが、どれも致命傷には至らなかった。
(もう少し間合いを取るか?・・・いや駄目だ。あの筒の威力が分からん。)
于禁はその長筒――AK−47カラシニコフを巧みに操り、斬鉄剣の攻撃を受け流す。
力で押し返すのではなく、剣の流れをそのまま使って受け流されたのでは、
流石の斬鉄剣もその凄まじい切れ味を発揮することは出来なかった。
「がっ・・・!」
少しだけ開いた腹部を、思い切り蹴り飛ばされる。
息が詰まった。
(しまっ――――――・・・・・・!)
銃身が、頭部に固定された。
70呪都 12/15 ※増えます:2006/08/02(水) 01:25:16
銃声が聞こえた。
の、割には頭部に熱も衝撃もきていない。
(・・・?)
恐る恐る目を開くと、銃身は既にこちらを向いておらず、目の前の于禁が
左耳を押さえて唸っている。
ながらも山刀を握ったままであり、筒を落としていないところが彼らしい。
「う、于禁、殿。」
音の出所は、荀攸だった。
震えながら銃を構え、それでも瞳は凛としている。
「ちょ、張将軍から離れられよ。わ、私は撃つぞ。本気だ。」
暫しの逡巡の後、于禁は後退した。
その後ずさり方が余りにも于禁らしく、隙の無いものだったので、張コウは少しだけ微笑む。
(さて、このように狂いながらも、人の本質はそう変わらぬと。そういう事か。)
その狂い方が尋常では無いのだが。
「武器を捨てられよ。さすれば危害は加えません。」
荀攸が言い、張コウが起き上がり、静寂の後に、于禁が銃を置こうとした、その瞬間。

『・・・――これより死亡者の名前を放送致します』

背筋の冷たくなるような軽快な音とともに、その放送は流れた。
一名を除いて、その場に居る全て人間の意識が、そちらに向かう。
その一瞬を、于禁は見逃さなかった。
71呪都 13/15:2006/08/02(水) 01:25:53
爆煙と共に、視界が奪われる。
悲鳴が上がった。荀攸のものだ。
(やられたか!?)
周囲に気を張りながら、悲鳴の上がった方向へ近寄る。
殺気は、既に無かった。
「軍師!荀軍師!」
細い身体を抱き上げる。右腕が、肩口から消失していた。
煙が風に吹き飛ばされていく。
左手に荀攸を支え、右手で斬鉄剣を構えて辺りを見渡すが、于禁の姿は無かった。
どうやら逃げてくれたらしい。
「張将軍・・・ご無事で・・・?」
「ああ。貴方のほうが重症だ。右手を持っていかれてるぞ。」
呆れたように笑いかけると、荀攸も微かに微笑んだ。
まったく、この人は強いのか弱いのかまるで分からない。
曹操の言葉を思い出した。表面はひ弱であって、内実は剛毅な男だ―――。
「首が飛ばなくて良かったよ。済まなかったな将軍。あなたを巻き込んでしまった・・・。」
「元より許内に入ろうと思っていたところです。お気になさるな。」
顔色が悪い。
当然だ。血を出しすぎている。
服を裂いて包帯を作った。これ以上血が漏れないよう、きつく肩口を縛る。
荀攸が呻いた。
「全く・・・私はとんだ道化だ。甘い考えにもほどがあったよ。
 おかげで・・・典韋殿、は・・・・・・。」
声が漏れぬよう唇を噛んでいるが、その代わりに瞳から憤りが溢れ出していた。
確かに、甘い。この人は。
だがそれでありながら、冷徹な頭脳を持っている。
この男がなかったら、遠い記憶。官渡では袁紹軍が勝利していただろう。
「・・・頭のいい人だ。貴方は。ただ今はこの世界に混乱しているのでしょう。」
「それで許されることではないよ。しかし・・・・・・。」
ふらふらと立ち上がる。視線は、遠く空の彼方を射抜いていた。
「私は、叔父上を止めたいと思っている。」
「叔父上?」
荀イク殿が何かあったのか。
(止めたい・・・ということは、もしや・・・先程の于禁のように・・・・・・?)
狂ってしまわれたのかもしれない。
思い出せるのは、かの花の様な微笑みだけだが。
この世界、繊細な人々には耐え切れぬのだろうか。
(別に狂ったところで、可笑しいとは思わないが。)
「何があったかは分かり申せぬが、かつては貴方に救われたこの命だ。
 お好きになされよ。出来うる限りは助力致す。」
その代わり、貴方が危なくなったら、私は惑い無く眼前の者を斬るが。
荀攸は微笑んだ。
73呪都 15/16:2006/08/02(水) 01:28:10
「典韋殿を殺してしまった私に着いて来てくれると仰るのか。
 優しいな、将軍。」
「私は優しいのではなく、ただ方向が見付からぬゆえ
 貴方に着いて行こうと思っているだけです。思い違いはなさられるな。
 貴方が死んだら私は貴方を其処に放置して行くでしょう。」
きっと。
第一、恩が有ると言いながらも、先程銃を向けられた時には、
一戦交える気であった。
利と報恩、それだけで組む同盟だ。それ以外には、何も無い。
「それでも嬉しいよ。でも今は取りあえず、典韋殿の所へ――。」
燃え盛る炎は、ようやくその勢いを落としていく。
雨雲が、軍を率いて太陽を包み込んでいった。
許昌は、雨である。
74呪都 16/16:2006/08/02(水) 01:28:46
頭の中がぐちゃぐちゃとこんがらがったまま、取りあえず走った。
(復讐、しなきゃ。)
それだけが明確に、脳髄を支配している。
思わず持ってきてしまった荀攸の右腕を見る。
運が良ければ黒筒もくっついてるかもと思っていたが、残念ながら何も無い。
持っていても特に利点が無いため、その場に放り捨てた。
(そうひは、どこ、だ。)
許昌には居なかった。曹操の素晴らしき都は、ただ轟々と燃えていただけだった。
ならば。
(ギョウ、か。)
魏の国の、もう一つの都。
そうだ。そちらの方がより曹丕らしいではないか。
斬られた髷をざんばらに。失くした小指から血を滴らせつつ、
于禁は北へと足を向けた。


【典韋 死亡確認】

75呪都 結果:2006/08/02(水) 01:29:38
<<決意を新たに/2名>> 『現在地 豫州・許昌内部・南門付近』
@張コウ[全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、首輪解体新書?】
&荀攸[つま先負傷(手当て済み。走れます)、右腕喪失]【デリンジャー】
※荀イクの捜索、説得が目的です。
※張コウは魏将以外には先制攻撃も厭いません。
@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳?]
【AK47カラシニコフ、山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3】
『現在地 豫州・潁川北』
※混乱しながらもギョウに向かいました。
※洗脳を施した人物は一応不明です。キーワードは雨?
※曹丕、虞翻を中心に、恨みのある将を狙います。
※曹操、張遼、張コウ相手には友好的です。 が・・・。

※許都は雨。火災は雨に消されました。
※典韋の記憶は第五回のものです。
76軍師と才女1/3:2006/08/02(水) 01:57:50
劉封達は荊州を抜け、司隷の半ばあたりで朝の放送を聞いた。
劉備の名が呼ばれなかったことに、一同は安堵の息をつく。
「ホウ統様、劉封様」
「ん?」
「なんですか?」
「私がこの戦いでお役に立てることが、何かあるでしょうか」
幽州を目指す道すがら、蔡文姫は2人に問いかけた。
「大丈夫ですよ、貴女は僕が守ります」
劉封が笑顔を向ける。
「…お気持ちはうれしいのですが…それに甘えてばかりもいられません。…何か、ありませんかホウ統様?」
すがるように蔡文姫は尋ねた。
「そうさなあ」
ホウ統は無精髭を撫でつつ答えた。
「戦力って言う点では、アンタに期待するものは何も無いよ」
「ホウ統殿!」
「いえ、いいのですよ劉封殿。本当のことですもの」
蔡文姫は力なく笑った。
「なに、力じゃ私だってそう大したもんじゃない。…だがな、私達にはこれがある。」
ホウ統はとん、と、指先で自分の頭をつつく。
「貴女は名高い学者、蔡ヨウ殿のご息女で、優れた詩人だ。
ここはそこらの軍師・文官にもひけはとらん」
「…そんな…」
蔡文姫は俯く。
77軍師と才女2/3:2006/08/02(水) 01:59:52
「…そうであっても、そんなことが何の役に立ちましょう」
「立つかどうかじゃあない。立たせるんだ。」
ホウ統は蔡文姫をまっすぐに見つめた。
「何も相手を仕留めるばかりが戦いってもんじゃない。
相手から隠れる方法、逃げる方法…相手と交渉して有利にことを進めたり、騙したりするのだって立派な戦術だ。」
優しく彼女の肩に手を置く。
「どんな武人も考えなしじゃ戦に勝てん。考えることを諦めなければ、そこに活路を見出せる…」
蔡文姫はゆっくりと顔を上げた。ホウ統の諭すような、穏やかな瞳が目に入った。
「折角の上等な脳みそだ。使わない手はないだろう?」
その瞳に師であり、父親であった蔡ヨウを思い出す。
勉学に躓いた時…父はいつも穏やかに諭してくれた。
無理をしてはいけない、焦ってはいけない。ゆっくりと考えなさい。
最善の結果は、最良を尽した時に得られるのだよ。
…ああ、私はあの頃から何も変わっていないのだ。
情けなくて、懐かしくて、優しい言葉が嬉しくて。
押し寄せてきた様々な感情に胸が一杯になって、蔡文姫は涙ぐむ。
「え、あ?!す、すまん…強く言いすぎたか??」
「ホウ統殿ッ!!」
涙を浮かべた蔡文姫にホウ統は取り乱した。劉封もホウ統を責める。
「す、すみません…父を思い出してしまって」
それを聞いて、ホウ統はほっとした表情を浮かべた。
78軍師と才女3/3:2006/08/02(水) 02:01:51
「そりゃ光栄だが、親父さんに悪いだろ。こんな妖怪ジジイに似てるってんじゃ」
「いえ、そんなことはありませんわ」
蔡文姫は柔らかく微笑む。
「鳳雛殿のご助言、有難くお受けいたします」
「ああ…いや」
いかんせん、女性にこういった笑顔を向けられることに慣れていないので、妙に落ち着かない。
「…あの、よろしければ、何か…兵法の話をお聞かせ願えませんか?
聞いておけば、お役に立てることもあるかもしれません」
おずおずと蔡文姫が尋ねてくる。
「そりゃ…構わんが」
「光栄です!」
花のような笑顔を直視できず、ホウ統は柄にもなく照れて視線を逸らした。
盛り上がる2人に、すっかり蚊帳の外となってしまった劉封は、
「義父上、大変です…僕、まったく活躍してません…」
いつかと同じ台詞を呟くのだった。

<<親子の面影+α/三名>>
@蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5】
@劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
@ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
※司隷を抜け、幽州に向かいます。
※蔡文姫はホウ統の戦術講義を受けることになりました。
79張角さんのDEATH予定NOTE 1/2:2006/08/02(水) 14:22:12
「しっかし、使い方がわかんないねぇ」
張角は自らの持つDEATH NOTEを眺めて、首を傾げた。
おそらく使用法であろうという注意書きは付いているのだが、見たこともない異国の字によって記されているため
学のある張角といえども解読は不可能だった。
ためしに1ページ切り取って、紙飛行機を折ってみる。
投げてみる。
普通に飛んで、すぐに落ちた。もちろん、何も起きはしない。
「駄目かぁ」
この手帳から異様な気配は感じるのだが、それがどうやったら発揮されるのかがさっぱり見当も付かない。
そうなると張角が気持ちを切り替えるのは速かった。
「……日記にでもするかぁ?」
手帳はものを書くために使うものだ。発している奇妙な気配はこの際無視してしまうことにした。
もしこの先自分が斃れても、この日記を読んだ誰かが志を継いでくれることを祈って、張角は文字を綴った。

3日目(くもりのち雨)
もし誰かがこれを拾うことあれば、私の志を継いでいただけることを願い、歩む道をここに綴る。
私は打倒献帝を旨とし、行動する。
参加者百余名を殺し献帝のみに媚びるか、たった一人の献帝を弑することで数多の命を救うか。
どちらが正しき道かは、少し考えてみれば自ずと理解できるものと考える。
現時点でこの愚かな遊戯に乗っていない者、もしくは弱い武器しか持たぬ者を説得し、
打倒献帝の旗を揚げるために私は行動する事を記しておく。
私は何故だか判らぬが、自身の死後しばらくの世の動きを記憶している。
生きた時期や場所こそ違えど、清き世を望む心は同じものと信じ、
まずは荀ケ、荀攸、司馬懿、陳羣らなど後世の清流派の者を求めこれより移動する。
80張角さんのDEATH予定NOTE 2/2:2006/08/02(水) 14:27:30
「よし、っと。真面目な文を書くのは疲れるねぇ」
手帳をたたみザックに入れ、立ち上がろうとしたところで、暗い声が耳に届く。
―――殺せ。
声が聞こえたあたりを見回すが、人気はない。
―――殺せ。殺せ。殺せ。
それはどこから聞こえるものでもなく、頭の中で響いていることに気付く。
―――殺せ! 殺せ! 殺せ!
なんだこれは、これはなんだ!?
―――荀ケを殺せ! 荀攸を殺せ! 司馬懿を殺せ! 陳羣を殺せ!
何故だ、彼らに何の罪がある?
―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
やめろ、痛い、頭が痛い、痛い痛いたいいたいたい
―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!

声が途切れ、張角が崩れ落ちる。
脂汗がどっと流れ、震える手でザックの中の手帳を握り締める。
「そうだ、殺せ……殺すンだ、ははっははハハははハッ」
壊れた笑いを放つ今の張角の頭にあるのは、仲間として求めるはずだった清流人士を殺すこと、ただそれだけだった。


@張角【DEATH NOTE】
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われます
※仲間として探すはずだった荀ケ、荀攸、司馬懿、陳羣を殺すことしか考えていません
※許昌方面へ移動開始
※紙飛行機にされたDEATH NOTEのページ1枚はその場に放置されました
81友の死をこえて 1/2:2006/08/03(木) 00:44:32
諸葛亮は襄陽のホウ統の屋敷を訪ねていた。

ずいぶんと簡略化された大陸だがしっかり存在してた自宅で三回目の放送を聞いた諸葛亮。
徐庶が死んだ。
支給された書の解読に夢中になっていたせいか、それまで幸いにも他の参加者たちと遭遇する事も無かったせいか、己にこのゲームの実感がなかったことを思い知る。
もう一度、荷物の中に入っていた名簿を取り出し、知っている名前を探す。
とりあえずは諸葛瑾とホウ統。
先ほどまで読みふけっていた書物の中では彼の主であったり部下であったりした名前もあるが、ここにいる諸葛亮にはまったくの他人だ。
第一、あの書物がどれほど信用出来る物なのか。
読めない部分は、ある法則があるらしい事はわかるのだが、結局、意味まではわからずじまいだった。
「妻や弟がいないのは幸い、ですか。兄上や士元は無事でしょうか」
二人の無事を願いながらふと思いつく、
「この読めない部分。士元は読めませんかね?
兄上も孫権に仕えてるし、あちらの方は交易の盛んなトコだし。この(多分異国の)言葉が読める人もいるかもしれない」
読めないものは気になるモノだ。
「いや、二人が心配なだけですよ、こちらの解読はそのついでです」
誰とも無く言い訳しながら、ホウ統の屋敷を探した。
自分の家があるのだからホウ統の家もあるだろう。
もしかしたらホウ統も帰ってきているかもしれない。てか、そこしか心当たり無いし。
82無名武将@お腹せっぷく:2006/08/03(木) 00:46:18
「その武器いいな。俺にくれよ。」
文官風の男から鞄と手榴弾を捥ぎ取り、御礼に矢を渡す。
山賊とはいえ、人から物を貰ったら、御礼ぐらいするのだ。
断末魔の叫びが聞こえるが気にしない。
間違えて、肩に矢を深く突き刺したような気もするが気にしない。
「殺せ・・・殺してくれ・・・」と不気味な声が聞こえるが気にしない。
なぜなら、用があるのは、袁紹の軍師ではなく、袁紹本人だからだ。
「さて、まずは・・・南皮にでも行ってみるか。」

@張燕【諸葛弩(猛毒付き)、手榴弾×3】
※まずは南皮へ向かいます。矢の節約を心がけています。

@沮授[鬱病・左肩重傷・猛毒に侵されています]【なし】
※最低でも3日後には死にます。常山付近にて放置プレイ。
83友の死をこえて 2/2:2006/08/03(木) 00:46:32
そして、やはりホウ統の屋敷は存在した。

「もぬけのから、か。そううまくは行かないですね」
ホウ統が他に行きそうな場所はさっぱり思いつかない。
「とすると、兄上は………とりあえず、とりあえず、江(かわ)渡ってみますか」
琅邪ということは無いだろう。真面目な人だから。
「…けして三国志演義とやらで、私がありえない大活躍をした赤壁とか見に行きたい訳じゃないですからね」

かさばる書物は読んでしまった部分は切り取り置いて行く事にした。内容はもう頭に入っている。
もしかして、誰かがこれを見つけた時(それがホウ統であれば良いと諸葛亮は思う)何か役に立ててくれれば良い。そう願って。


@諸葛亮【諸葛亮集/異国語わかりません編(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない。)】

※諸葛瑾、ホウ統を探します。とりあえず赤壁へ向かうようです。
※諸葛亮集に書かれてあった事については半信半疑。読めない部分が気になっています。
※諸葛亮集の中国語で書かれた部分はホウ統宅に置いて行きます。内容はほぼ記憶しています。
84無名武将@お腹せっぷく:2006/08/03(木) 19:34:56
>>82-83は書き手の承諾もありスルーとなりました。
851/7:2006/08/03(木) 23:43:50
漢水沿いを歩いていた甘寧は支流の側で一人の農夫と出会った。
農夫は服の裾を捲ろうとしていたようだったが、甘寧に気付き呼び止めた。
「ああ、お前さん丁度いいや。
 川に沈めてある仕掛けを取ってくれないか」
ほぼ全裸に近い格好の甘寧にとっては大した手間ではない。
ざぶざぶ川に入り、沈めてあった籠を引き上げる。中には魚が結構入っていた。
「おー、大漁じゃねえか」
甘寧に言われて農夫も籠を覗き込む。
「ほう、随分穫れたな。お前さんも食ってくかい?」
早く強敵と出会い存分に戦いたい。
そう思っていた甘寧も飯の誘惑にはちょっとぐらつく。
「大根飯でも炊くか。今朝穫った山菜も煮浸しにして」
支給されたパンや穫った木の実やらをかじりはしたが
ここのところまともな飯は食っていない。
甘寧はごくりと唾を飲み込む。
そんなタイミングを見計らったように農夫はにやりと笑った。
「ま、飯代替わりにちょっとばかし働いてはもらうが」


「…あーちきしょう!割に合わねえ!」
日差しの中、甘寧は農作業に精を出していた。
水汲み、薪割り、乾物の下拵え。
もう嫌だ先を急ごうと思う度に惣菜の具体名をちらつかされ、
体よくこき使われている甘寧である。
862/7:2006/08/03(木) 23:45:24
もう我慢の限界だ。俺は行く!
甘寧がそう思ったのを見透かしているようなタイミングで
草庵から顔を出した農夫が笑って甘寧を手招きした。
「お疲れさん。飯にしようや」


先に食事を終えた農夫は依然衰えぬ甘寧の食べっぷりを笑って見ていた。
水瓶から水を汲んで出してやると一息で飲み干した。
それを見て農夫はまた笑った。
「ははは、鮮やかなもんだ。喉に詰まらせるなよ」

貪るように飯を食らった甘寧もようやく落ち着き、
冷たい水を飲みながら農夫に礼を言った。
「ごちそうさん。うまかったぜ」
何日ぶりのまともな食事だっただろうか。
暖かな食事は甘寧の気力も体力もすっかり癒していた。
偶然農夫と出会い運良く食事にありつけた…農夫?!
いや、こんなところに…この『フィールド』に、ただの農夫がいる筈がない。
この農夫があまりにも自然に溶け込みすぎていて気付かなかった。
彼の首にも間違いなく、鈍く光る首輪が填められている。
「俺は甘興覇。あんた…名は?」
見たところ武人とは思えない。殺気もない。
だが周囲の空気に自然に馴染んでいるその様は只者ではないように思えた。
甘寧の眼光は僅かに鋭くなる。
対する農夫は事も無げに名を告げた。
873/7:2006/08/03(木) 23:47:24
「諸葛亮。字は孔明」
「諸葛亮?!」
呉にも何度か使者として訪れたことがある。
だが諸葛亮はもっと慇懃な口調で、道服に身を包み羽扇を持ち…
インパクトのある服装や爽やかな弁舌は思い出せても容貌は意外と思い出せない。
間近で顔を突き合わせた訳でもなし、そんなものかもしれない。
昔からの知り合いでもなければパッと見ただけではわからないだろう。この農夫姿では。

甘寧と諸葛亮は互いの現状をざっと話し合った。
甘寧は諸葛亮がまだ劉備を知らないことにも驚いたが、
この世界そのものに対してあまり関心がなさそうな態度も少々不思議に思った。
「あんた、この世界そのものが変だとは思わねぇのか?」
甘寧は『諸葛亮伝』をパラパラと繰りながら諸葛亮に尋ねた。
「別に思わんね。
 日々殺し合いが繰り広げられて誰かが死んでいく。日常と全く変わらんだろ。
 知人が死んだって知らせが来る分親切なくらいかもな」
目を閉じた諸葛亮は逝った友の事を少し思い出していたようだった。
「この首輪は?」
「その本の『俺』もそうだろ?」
『諸葛亮伝』を指さしながら諸葛亮は言う。
「『俺』は、どうにかして寿命を延ばそうとじたばたしてる。
 けど、どんなにじたばたしようと大抵五丈原でくたばってるだろ?」
自らの首輪を指さす。
884/7:2006/08/03(木) 23:50:32
「天命ってのが目に見えるんなら、多分こんな形をしてるんだろうよ」

甘寧には解るような気もしたし、解らないような気もした。
自分だってこの世界自体には大して興味がない。
ただ最高の戦いが出来ればそれで満足なのだ。
「お前さんの知り合いに異国の言葉に詳しい奴はいないか?
 いたら俺がここにいてこの本を解読したがっていると伝えてくれないか。
 翻訳の役に立ちそうな書物や道具を持ってる奴でもいい」
「こんな世界で嘘か本当かも解らない本にこだわるなんてマトモじゃねぇな」
別に皮肉ではなく、甘寧は心底呆れたように言った。
甘寧が見たところ、この本は読み物としては面白いかもしれないが
内容は生き延びるための役に立つとはとても思えない。
諸葛亮はにやりと笑った。
「お前さんこそ、こんな世界でわざわざ自分から強敵を捜して歩くなんざ、
 正気の沙汰とは思えんね」
甘寧もにやりと笑った。そしてようやく解った気がした。
武と智、求める道は違えども、多分こいつは自分と同じ種類のバカなのだと。


諸葛亮に服を譲って貰ったのは有り難いがどうにも落ち着かない。
甘寧が着せられたのは例の道服なのだ。
ご丁寧に巾まで(後の世で“諸葛巾”と呼ばれたものだ)乗せられた。
895/7:2006/08/03(木) 23:52:17
「くれるんだったらそっちの野良着寄越せよ」
「ばーか、野良着のほうが枚数いるに決まってるだろうが」
諸葛亮は甘寧の見事な文官ぶりを容赦なく笑い飛ばした。
甘寧はぶつくさ文句を言いながらも動きやすいように着崩す。
服を着て、夜の冷えから逃れられるのはやはり有り難いからだ。

道服を纏った甘寧がさっき読んだ本の諸葛亮の台詞をなぞったりして
しばらくふざけた馬鹿騒ぎに興じた二人だったが、
甘寧は何となく疑問に思っていたことを聞いてみた。
「なあ。あんた元々世の中に興味がなかったんなら、何で劉備についてったんだ?」
「さあ。俺にも解らん」
まるで他人事のように…『この』諸葛亮にはまさに他人事なのだろうが…言う。
「その本。
 その本に書かれたことが嘘か本当かは俺にも解らんよ。
 でも解ることが二つある」
諸葛亮は急に話題を変えたようにも聞こえる。
「その内容を本にして誰かに伝えたいと思った奴がいる、って事だ。
 それともう一つ」
この本に書かれている大半は資料と言うよりは物語に近い。
数多の物語の中、多様な姿で描かれる諸葛亮。それの意味するところは。
906/7:2006/08/03(木) 23:54:21
「それだけ色々な姿の『俺』が、色々な形で望まれてるってことだ。
 伝えられることが誰にも望まれていない物語は風化するからな。
 多分、俺は劉備に求められ、望まれたんだろう。
 そして俺もそれに応えたいと思ったんだろうよ」

正直、家に三回来られた程度で担ぎ出されるほど自分はおめでたくはないと思う。
実際に顔を合わせたのも一度だけだったようだ。
だがその一度の出会いで、自分は見たのだろう。劉備という男の中に。
伏したる自分が飛びたいと思う空を。

甘寧は気持ちのいい男だと思う。だが甘寧は自分を求めてはいない。
甘寧はすでに自分の空を持ち、自由に飛んでいるのだ。だからそれでいい。
「ま、誰か馬の合う奴が来たらふらっとどっかに行くかもな。
 だがそれまではここで畑でも耕しているさ」
清々しく笑っていた諸葛亮は急に険しい顔になる。
「…あ、でも、くれぐれも兄貴には俺の居場所は教えないでくれよ」

兄貴にまとわりつかれてる奴がいたら、悲惨な目にあってるだろな。
諸葛亮は、それが自分ではないという幸運に深く感謝していた。
917/7:2006/08/03(木) 23:56:01
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
※現在地は襄陽・隆中の臥竜岡。目的地は合肥。
※十分な食事と休息をとり気力体力充実。
※戦いの相手を求めるついで程度に諸葛亮伝を読み解ける人物や手段を探します。
※遠くや背後から見ると諸葛亮と勘違いされるかもしれません。


@諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
※現在地は襄陽・隆中の臥竜岡。
※基本的に自分から動く気はないようですが協力を求められれば動くこともありそうです。
※敵意がない相手には友好的。
921/2:2006/08/04(金) 00:36:44
「い・い・か・げ・ん・離れんかぁー!」
背に付いた諸葛瑾と歩くこと数十分、我慢の限界を迎えた呂布が、諸葛瑾に吼える。
「やだい!やだい!おじちゃんの後ろにくっついているんだい!」
「いい年したおっさんに、おじちゃんとか言われたかねぇ!」
首を激しく横に振りながら、頑として呂ふに引っ付く諸葛瑾に、青筋をぴくぴくさせていた呂布の怒りは、頂点に達した。
「なら力づくで引き剥がして、貴様の骸を野にさらしてやる!」
そう怒鳴り、諸葛瑾に腕を伸ばしたその時、死亡者の放送が始まった。次々と呼ばれる死亡者の名前。その中には、自分がよく知っている名前も呼ばれていた。
「陳宮…貂蝉…」
最後まで、自分に付いてきてくれた信頼できる頭脳。
一目ぼれし、董卓を斬る理由を作った、心の底から愛した女。
その二人の死亡が知らされた呂布は、自分の胸に、ぽっかりと穴が開いたような気がした。ふと気づくと自分の頬を熱いものが流れていた。
諸葛瑾はそれをただ見つめていた。先程までの威勢が、嘘のようになりを潜め、空を見上げ泣いている眼前の男を、かける言葉もなく、只々見つめていた。
「おい、驢馬」
未だ空を見上げ、顔を諸葛瑾とは反対の方向に向けたまま、呂布は諸葛瑾を呼んだ。
「お前は文官のようだが、頭はいいのか?」
「え、ええ。これでも呉を支えてきましたから…」
呂布の問いにおずおずと答える諸葛瑾に、呂布は続ける。
「お前には二つの選択肢がある。一つは俺に従い、その知恵で俺の武を補うか、それとも、この場で死ぬかだ。」
数分の沈黙の後、諸葛瑾は一つの選択を取った。
「どこへ向かえば強敵に会える?」
いつ、どこでやったのか思い出せないが、どこかで陳宮に対してやったように、諸葛瑾を肩に乗せ、呂布は問いかける。
「そうですな。呂布殿が闘いたがっている関羽殿や張飛殿ならば益州より、幽州の桜桑村へ向かっていると思います。曹操の配下の将であるならば許昌か許都にいる確率が高いかと。
そして…ここ楊州ならば我等、孫呉の将が…」
いくら襲われたからといって、仲間を売るのはやはりつらいのか、諸葛瑾は苦い顔を浮かべる。
「安心しろ。ここを探す気はない。」
その言葉に諸葛瑾は驚きの表情を浮かべる。
932/2:2006/08/04(金) 00:38:54
「ふん、かつての仲間が、お前と手を組んだ俺に殺されるのは夢見が悪いだろう?それに、幽州辺りに奴がいる確率が高いなら、こんな所で油を売る気はない。
もっとも、運悪く俺に会ったなら話は別だがな」
それだけを告げると呂布は北へと向けて歩きだす。
(何故、こいつと手を組む気になったのか)
呂布は自問自答する。
陳宮らと共に、荊州で快勝を重ねたあの時のように、この男に、陳宮のような智謀を求めているのだろうか?
顔がすこしばかり愛馬に似ていたからだろうか?
この男を死んだ二人の代わりにしようと思ったのだろうか?
様々な考えが浮かぶがそれを全てかき消す。そんなことはどうでもいい。
(そうだ。そんなことはどうでもいい。ぐだぐだ悩むのは性に合わん。考えるのは奴にまかせ、俺は唯、眼前の敵を屠るだけだ)
そして呂布は、また空を見上げる。
(…だが、せめてもの手向けだ。お前達の仇は俺が討とう)
そう、今は亡き二人に誓う。心なしか、二人が微笑んだような気がした。
(何故、私はこの男の条件を飲んだのであろうか?)
諸葛瑾もまた自問自答している。
死にたくないからか?
(いや、違うな)
瞼に浮かぶのは空を見上げ涙を流していた呂布。
泣いているあの男が、まるで子供のように見えた。その時、諸葛瑾はこの男は極めて純粋な人間なんだな、と感じた。
(何故かな。あれを見てから、私はこの男を死なせたくない。そう思っている)
そして諸葛瑾もまた空を見上げる。
(願わくば、孔明の奴やあいつのご学友に出会わなければよいがな)
空を覆っていた雲が一時途切れ、悲しいほどに青い空が二人の前に広がっていた。

<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
@呂布[肩の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】
@諸葛瑾【なし】
※関羽達と戦う為、楊州を北上。幽州・桜桑村を目指します。現在地は盧江。
また、呂布は貂蝉と陳宮を殺した人間が判明した場合、優先的に狙います。
94不幸の始まり1/2:2006/08/04(金) 01:17:14
―――殺せ。
曹熊と張虎か?気味が悪いから止めてくれよ。
―――殺せ。殺せ。殺せ。
誰!?誰だ!やめろ・・・やめてくれ・・・
―――殺せ! 殺せ! 殺せ!
駄目だ、頭がおかしくなりそうだ・・・
―――荀ケを殺せ! 荀攸を殺せ! 司馬懿を殺せ! 陳羣を殺せ!
誰だ?そんな奴らの事なんか知らない!
―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
やめろ、痛い、頭が痛い、痛い痛いたいいたいたい
―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!
うわぁぁぁぁぁ!!!!・・・・・・
95不幸の始まり2/2:2006/08/04(金) 01:18:01
DEATH NOTEに徐々に浮かび上がる4人の名前。
最も濃く浮かび上がる文字は・・・「司馬懿」。
阿会喃は、頭を締め付けるようなこの苦しみから解放される唯一の方法を知っていた。
何者かが告げる4人の男を殺す。それだけである。

@阿会喃【DEATH NOTE(残り9ページ)・エクスカリパー・大般老長光】
※曹熊と張虎の武器を奪い、北へ向かいました。
※張角のDEATH NOTEと何かしらの繋がりがあるようです

チーム名変更
<<貧弱な子供たち/2名>>
@曹熊[放心状態]【なし】 @張虎[放心状態]【なし】
※状況を理解できません。
魏延文長。
一兵卒からの叩き上げの軍人であり、その勇猛果敢さと統率力から蜀軍の中核にまで登りつめた人物である。
五虎将にこそ選ばれていないがその実力は決して彼らに劣るものではなく、劉備にその才を愛された。

夏侯淵妙才。
曹操軍の誇る名将であり、急襲戦に於いては並ぶものがないと称えられた。
魏軍最古参のひとりにして曹操の親族でもあり、弓術の名手である。

彼らは共に優秀な武人であり、平素であれば決してお互いそこまでの接近を気付かずに許しはしなかっただろう。
バトルロワイアル三日目。
魏延は右腕と顔面に負った傷が癒えておらず、
さらに戦闘の起こっている北へ向かおうとするも慣れぬ道と森で道に迷ってしまったことによる疲労。
また夏侯淵は遊戯に乗っているといっても、
自らの息子達をその手で討つという非情な行動に、やはり心のどこかが疲弊していたのかもしれない。
肉体精神両面での単純な疲れもある。何時襲われるか分からない状態がもう三日目に入っているのだから。

そんなわけで、清らかな小川に向けてちょろちょろと用を足していた夏侯淵と、
川に水が流れる音を聞きつけて水を汲むためにやってきた魏延は、小川を挟んで鉢合わせしてしまったのだった。
「「…………」」
なんとも気まずい空気が漂う。
魏延は支給された水筒を、夏侯淵は自らのブツを手にしばし固まった。
夏侯淵の立てる小さい水音だけが響き、やがて消える。
夏侯淵が発した第一声は、
「み、見たなアあぁ!!」
着替えを覗かれた乙女のようなそんな言葉だった。裏返った上に野太い声だったが。
「見てない! 見てない見たくない! 失礼した!」
「見られたからには生かしておけん! 武器持ってくるからそこから動くなアァ!!」
らしくもなく動揺して、自分が武器をいま手にしていないことを暴露してしまう夏侯淵。
「誰だか知らんが落ち着け!
 仮性包茎くらい気にする事無かろうが! 案外人数多いと聞くぞ!」
そしてつられて動揺して、焦点のおかしい事を口走る魏延。
しかし夏侯淵の周りの空気は、すっと温度を下げた。
瑕無き珠の如き勇将、夏侯淵の秘密にして最大のコンプレックス。
―――それを魏延はピンポイントでどついてしまったのであった。
「……死ねぇ! もはや武器など要らん、その首この手でねじ切ってやる!」
「うおっ」
小川を恐るべき跳躍力で飛び越え、鬼気迫る表情で魏延に飛び掛る夏侯淵。
さすがに勇将だけあって魏延はそれを回避するが、間髪おかずに猛攻を繰り出す夏侯淵と
足場の悪さに負けて、木の根に足を取られて尻餅をつくかたちで転倒してしまう。
しかし頭に血が上っている夏侯淵も同時に別の根に足を取られ、こちらは前のめりに転倒する。
結果、尻餅をついている魏延の片足を地に伏せた夏侯淵ががしっと握って双方動きを止めた。
得体の知れない恐怖を覚え、引きつった顔でにじにじと逃れようとする魏延。
逃すまじ、と魏延の足をしっかり握り、血走った目でふふふふふと不気味な笑いを漏らす夏侯淵。
嫌な感じに凍る空気。

「ははははは捩じ切ってやる! 俺をコケにした罰だァ!!」
「コケになどしていない! していないってうわちょっと貴様何を……ッ」
着物を引っ剥がそうとする夏侯淵に、『捩じ切』ろうとしている対象がいつのまにか
首ではなく別のモノになっていることに気付き、魏延は本気で泣きそうになった。
「やめてくれ! 俺は宦官にはなりたくない!!」
狂気じみた笑いを漏らしながら魏延の着物をむしろうとする夏侯淵と、
脂汗を浮かべて逃れようともがく魏延。

まさしく、地獄絵図だった。
―――それから数時間後。
夏侯淵と魏延は木陰で雨宿りをしながら、並んで昼食を摂っていた。
しばらく殴りあった結果双方とも疲れて、一時休戦となったためである。
ちなみに、魏延もまだ捩じ切られていない。
微妙な沈黙に、先に口火を切ったのは魏延だった。
「……いい医者を知っているから、なんなら紹介するぞ。口も堅い」
「…………気持ちだけ受け取っておく」
そしてまた、しばらく沈黙。今度は夏侯淵が口を開く。
「お前、強いな。俺は夏侯淵、字は妙才だ。お前の名は」
「貴殿が夏侯妙才殿か。お噂はかねがね伺っている。俺は魏延、文長だ」
「魏文長か。なるほど強いはずだ。……この遊戯には乗っているのか」
「恨みのある奴を探している。諸葛亮、馬岱、姜維、そして楊儀だ。どこかで見なかったか」
「いや……。もしかしたら見たかもしれないが、顔が分からんからな」
軽く首を傾げて夏侯淵が答える。馬岱と姜維には出会っているのだが、一方的に遠隔攻撃を加えたのみで
名を聞くような機会は無かった。
「そうか。貴殿は?」
「乗っている。息子も殺した」
「そうか。では俺も殺すか」
「そのつもりだ。しかし今は殺さん。その力を借りられるならばな」
「……何?」
「この場を一人で生き抜くのは不利だ。背中を任せられる相棒が欲しい。
 組んでいる間は決して危害を加えぬこと、お前の目的に協力することを名と誇りにかけて誓おう」
先ほどまでのテンパりっぷりが嘘のような真面目な目と落ち着いた口調で夏侯淵が言う。
「受けてくれるか?」
しばらく逡巡し、一人で生き抜くのは不利、と夏侯淵と同じ結論に行き着いた魏延は頷いた。
「判った。受けさせていただこう。そして俺も貴殿と同じことを誓おう」

酒は無いが、水筒の水で乾杯を交わす。
ここに夏侯淵と魏延、ふたりの猛将による同盟が締結された。
「どこへ向かう、魏文長。目的地はあるのか」
「いや……、漢中周辺に馬岱と姜維が居ると思うのだが、もう移動しているかもしれんな」
「そうか。俺はできれば北には行きたくない」
「何故だ?」
「奇っ怪な連中が居た。変な歌を歌いながらおそらく女物の服を来て、踊り狂うように戦っていた。
 あと全裸の獣っぽい男の尻が月光にてらてら照り輝いていた」
良くわからない夏侯淵の言葉から、良くわからないなりに想像する。
凄く嫌な図が魏延の脳裏に広がった。
「それは……気色悪いな」
「あぁ、心底おぞましかった。虫唾が走って背筋が寒くなった。
 一応離れた場所から攻撃を加えてきたが、生きているかもしれん。なにしろ人間離れして不気味だったからな」
「……北は止めて置こう。では東はどうだ?」
「そちらには特に何も問題は無いな」
「では、そちらへ向かうとするか」



<<猛将同盟/2名>>
魏延[右腕・顔面右側に火傷(痛み止め済)、軽い打撲傷]【ハルバード(少し融けています)、M37ショットガン】
夏侯淵[軽い打撲傷]【ベレッタM92F、弓と矢、トンプソンM1A1、発煙手榴弾、AK-47(弾倉あと5)】
※地図の魏延の位置から東へ向かいます。好戦的。
※「言い忘れたが、俺の秘密を誰かに漏らした場合は三秒で殺すからな」「……了解した」
それはまさに
出会い頭の事故…

陽平関を抜け、長安方面へ向かおうと思っていた劉備だったのだが、
突然の雨で非常に足場が悪くなっていたこともあり、
上庸方面に一度出て、そこから長安に抜けるルートへと変更することにした。

雨の中、ぬかるむ地面を踏みしめるように歩く。
深い森の中ゆえ前がよく見えず、やけくそのように舌打ちした。

なんでこんな目に合わないといけないんだよ!

いい加減苛々してきたころ、それは起こった。
突然木々の間から飛び出してきた男とおもいっきりぶつかったのだ。

「いってぇな! ボケナス! 前見て歩けよ!」
泥だらけの道に転ばされ、激高した劉備は謎の男にくってかかった。
「それはこっちの台詞だ! ぼーっと歩くな! しっかり前見とけバカが」
同じく泥にまみれた男は飛び上がると激しい口調で詰問してきた。
「はあああ?? あのな、よく聞けよアホ。この道、どう考えたってこっちが優先だろ?」
「こんな森の中で優先もクソもあるか。寝惚けてるんじゃないのか」
喧々囂々と不毛な争いを続けているうちに、劉備は現実を思い出した。
ちょっとまて、俺はいまやばい世界に身を置いているんじゃなかったか?
つい普段のノリで喧嘩腰になってしまったが、武器を持って互いに殺し合う
血も涙もない謎の世界にいることをすっかり忘れていた。

やばい。
もし相手の得物が飛び道具か何かだったら。
これ以上挑発して戦闘になったら一大事だ。

ふとだまりこくった劉備は相手をじっと観察した。
手には物騒な金属の棒。
なかなかの偉丈夫、ぬれそぼった髪が額に張り付いている姿はまさにウホッ! イイ男!
すっきりとした目元が誰かを彷彿とさせ…

あれ? この男?

「盲夏侯じゃねーか!」
「おま!! 今の俺は両目がある!」
濡れた髪をかきあげるようにして主張してくる。
「わるいわるい、じゃ両目夏侯!」
「気色悪い言い方すんなよ…そういうお前は劉備か?」
「あははw よくわかったな」
「そのクソ長い腕と耳でわからなかったらそれこそ盲夏侯だ」
気勢をそがれたふたりはそのまま雨宿りをすることにし、巨木の幹に並んで腰掛けた。
雨足はだいぶ弱まり、今は音もなく霧雨となって地面を濡らしている。
微かに顔を覗かせた陽光が、葉の間からその淡い光を落とし始めていた。

「風情ってもんに疎くてな」
夏侯惇がぽつりと呟くように話し始める。
「こういう光景を見ると、孟徳なら、たぶん詩のひとつでも思いつくんだろうが、
 俺はそうもいかん。そういうのはあいつ担当で、俺は違うんだ」
「…曹さんに会えたのかい?」
「探してる途中だ。そういうお前は義弟らに会ったのか?」
「まだだ」
「安心しろ。あいつらがそう簡単にくたばるとは思えない。
 どこぞで元気に生き抜いているだろうよ」
存外に優しい台詞に劉備の気持ちが明るくなる。

「曹さんにだってすぐ会えるさ、元気だせよ!」
「…しかしいい加減な言葉を吐く男だな」
「ん? そうか? マジで言ってるんだって、信じてくれよ」
バンバンと濡れた肩を思い切り叩いてやると、
元隻眼の…今は両目…猛将は実に男らしいイイ笑顔を見せた。
「さ、完全に雨があがったな。じゃ一戦交えるか」
立ち上がって金属バッドを振り回す夏侯惇に劉備はびびる。
「おい、ちょっと待ってくれよ! マジかよ!」
「冗談だ」


片手を上げてダンディに去っていく両目夏侯であった。
6゚∀゚)<まったくお騒がせ野郎だぜ!



※現在三日目でふたりは上庸にいます。
@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】※長安に向けて北上
@夏侯惇【金属バット】※豫州に向けて東進
105子供1/2:2006/08/06(日) 15:23:58
信義を守り、老人・子供・女だけは殺さない、逆に守る
逝ってしまった戦友の信条を、華雄は守りたいと思った。
だから、
「あなたは、おいしゃさまですか!?」
雨のギョウで、そう自分に尋ねてきたずぶぬれの子供を無下にすることも出来なかったのだ。

とうさまが、とうさまが、とそればかり繰り返す子供に連れられてきた民家には、傷ついた男が寝込んでいた。
傷から来る発熱であろう、意識は無くただ荒い呼吸を繰り返していた。
「とうさま、おいしゃさまをおつれしました。とうさま…」
子供はそういうが、自分は医者ではない。そもそも微塵もそんなみてくれをしていない。
(切り傷の手当てのため、薬草臭かったのがいけなかったのだろうか)
子供の想像力とでもいうか…思い込む力には理解し難いものがある。
それとも藁にも縋りたい気持ちゆえか。
ひとまず男の肩に巻かれていた申し訳程度の布切れを外し、傷口を洗う。
自分の使った薬草のあまりを塗り、他の民家で見つけた敷布を包帯代わりにしっかりと巻いてやる。
男は動かすたびにくぐもった悲鳴をあげたが、やはり意識は朦朧としているようで、抵抗は無かった。
それから体の汗を拭き、額に絞った手ぬぐいを乗せてやった。
他にできる治療方法など思いつかず、自分に出来ることはこれくらいしかなかった。
男の症状が変わった様子は無かったが、なにもしないよりはましだろう。
「ありがとうございます」
子供がほほえんで、礼を言ってくる。こんなことは初めてで、どう返せばいいのかよくわからなかった。
106子供2/2:2006/08/06(日) 15:26:25
「お前達は、どこへ向かっているのだ?」
華雄は尋ねた。
「とうさまは、みやこにくればだれかにあえるとおっしゃってました」
子供が心配そうに父親を見た。
「だけど、だれもいなくて…つかれたからもうねようって。でも、くるしそうなこえがして、めがさめたんです。
そうしたら、とうさまが…」
悲しそうに目を伏せ、だからお医者様を探していたんです、と子供は続けた。
…この子供は、今行われている危険な遊戯を理解していないのだ。
こんな幼い子供が一人で出歩いていれば、すぐに誰かに殺されるだろう。
それも理解できぬまま、父親の為に居るはずもない医者を探しに出るなど…。
なんといじらしい子供だろう。
華雄は今まで、君主の命ずるまま、戦に出て殺戮を繰り返していた。
だが、今になって孫堅の気持ちがわかった気がする。

老人・子供・女だけは殺さない、逆に守る。

せめて父親の意識が戻るまでは、この痛ましい子供の傍にいてやろうと、華雄は思うのだった。

<<パパじゃないよお兄ちゃんだよ+お医者じゃないよ華雄だよ/3名>>
曹丕[右肩負傷・手当て済み・発熱中]【スコーピオン(残弾19発)】
曹幹【白い鳩】
華雄[全身切り傷・手当ては孫堅埋葬後に自分でしました]【吹毛剣】
※現在地は宛の民家。明かりは点けていません。曹幹と曹丕を休ませ、華雄が番をしています。
※華雄は2人が誰だかわかっていません。
107嘘1/3:2006/08/06(日) 22:02:02
夜が明けた。
郭嘉の熱は随分と落ち着いたが、まだ起き上がれる状態ではなった。
当たり前だ、熱が下がっても傷がふさがるわけがない。
それでも、静かに寝息を立てる郭嘉を見て陳羣は胸を撫で下ろした。
「…おや?」
たん、たたん、たんと小屋の屋根が音を立てる。雨だ。
本降りになる前に、なにか食べ物を探して来た方がいいだろうか。
桃園があるくらいだ、他に何かが実っていてもおかしくはない。
陳羣は腰を上げた。と、同時に
「あちっ!!!」
という悲鳴が外から聞こえてきた。
「だ、誰だ!!」
閃光弾を掴み、慌てて外に出る。そこには…
「…お、お久しぶりです陳羣殿」
ぱちぱちと火花を立てる、奇怪な着物を脱いでいる賈クがいた。

「いや、便利な着物だったのだが…これではもう使えないかな」
火花が落ち着いた着物から、水を拭いながら賈クは言った。
「水に弱い物だとは思わなかった」
「乾かしてからもう一度着てみてはいかがです?まだ使えるかもしれません」
「そうだな」
どちらにせよ気軽に火を起こすことが出来ない今、体を温める着物は多いに越したことは無い。
108嘘2/3:2006/08/06(日) 22:04:31
「して、賈ク殿はどうしてこちらに?」
陳羣は椀に水を注ぎながら尋ねた。
「私の支給品は見ての通りでしてな。隠れるには最適とはいえ、襲われればひとたまりも無い」
勧められた椀を受け取り、水を一口すする。
「北の方角であれば危険も少ないと思い、参った次第です」
「なるほど」
まさか張飛を殺す機会を伺っていたとは言えず、それらしい理由を述べ立てていく。
「まさかこのような場所で陳羣殿と郭嘉殿にお会いするとは思いませんでしたが」
だが、当の郭嘉はまだ眠っている。
「でも、賈ク殿にお会いできて本当に良かった。信頼できる人間は多いに越したことは無い」
「ははは」
陳羣は安堵の笑みを浮かべて言ったが、賈クの頭の中はどうやって2人を殺すかでいっぱいだった。
聞けばこの2人も武器らしい武器は持っていない。しかも郭嘉は病人の上に怪我人だ。
戦力は期待出来ない。陳羣をくびり殺し、郭嘉に止めを刺すことも簡単だろう。
だが、自分の支給品も使えるかどうかわからない今は、この2人の信頼を得、利用できる状況にしておいたほうが得策だろう。
保険は多いに越したことは無い。賈クはすばやく思考を巡らせ、今後の方針を決めた。
決まったとあれば、あとは行動に起こすのみ。
109嘘3/3:2006/08/06(日) 22:05:22
「夜通し郭嘉殿を看ていたとあれば、陳羣殿もさぞお疲れのことでしょう。休まれた方が良い。」
柔和な笑みを浮かべ、賈クは言った。
「見張りもしておきますし、郭嘉殿は私が看ておきましょう。」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして…」
陳羣は部屋の隅で横になった。よほど疲れていたのだろう、程なくして静かな寝息が聞こえてきた。
「さて」
気付かれたのが戦慣れしていない、警戒心の薄い陳羣で助かった。
郭嘉であれば何故小屋の前に居たのか、何故北を選んだのか、不自然な点を根掘り葉掘り聞かれたことだろう。
その郭嘉もしばらくまともに動けそうも無い。警戒されたとて、いくらでもごまかしは効く。
迷彩スーツが壊れた時はどうしたものかと思ったが、まだ天は自分を見放していないらしい。
ともかく生き延びるには、武器だ。
張飛と義兄弟が揃った時にどのように行動を起こせばよいか考えを巡らせながら、賈クは窓から見える暗い空を見上げた。

<<不品行と品行方正と詐欺師/3名>>
郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×2】陳羣【閃光弾×2】
賈ク【光学迷彩スーツ… 雨にあたってショート?乾いたら使えるかもしれませんが、危険です。】
※郭嘉の体調が回復するまで、楼桑村付近に留まります。
しとしとと雨が降る。
それぞれ雨宿りできるような大木の陰で、凌統、馬謖、関興の三名は食べられそうな植物を探すのに精を出していた。
雨の中を移動するのは得策では無いと判断した、というと聞こえは良いが、
その実、雨に濡れるのが嫌だと馬謖がだだをこねただけである。
犬の母子はしばらく姿を消したかと思うと、その鋭い牙で野ウサギを2匹捕らえてきた。
なんだか前にもこんなことがあった気がするなぁ、と思いながらそのうちの1匹を受け取る。
礼を言い頭を撫でてやると、満足気にしっぽを振り、人間たちより一足先に食事にとりかかった。
そろそろこちらも準備にかかるか、と凌統は馬謖と関興を呼び戻し、

……馬謖が得意げに抱えてきた毒丸出しの草やキノコに目を剥いた。

毒々しい桃色の斑が入ったキノコをつまみ上げ、凌統は引きつった笑いをなんとか浮かべた。
「わざとだな? そうだろう、ネタだろこれは!?」
「……何がだ?」
「あぁ本気だ! こいつ本気でこれ食えると思ってるー!!」
「桃色で可愛いだろう? きっと甘いぞ」
「アホだー! こいつアホだー!!」
「あ、アホとは失敬な! これでも諸葛亮先生の一番弟子だぞ!?」
不毛などつきあいを始めた凌統と馬謖の横で、関興がこれもあからさまな毒キノコを手にポツリと呟く。
「この紫と黄の縞々のキノコ、持って帰って僕の家庭菜園に加えたいなぁ……」
思わず膝が砕けてその場にへたりこんだ凌統の顔を、いつの間にか寄ってきていた仔犬が慰めるようにぺろぺろと舐めた。
「さっきの桃色の、やっぱり食べられるのではないだろうか」
「やかましい! 毒だ毒!」
馬謖が両腕に抱えてきた植物全てが毒持ちという恐るべき結果にあきれ返りながら、
凌統は自分が集めた山菜と、関興が集めた食べられなくもない草で夕食の製作に取り組んでいた。
大木の下の辛うじて乾燥した場所で火を起こし、ウサギ肉に香草をまぶして焼く。塩や胡椒も欲しい所だ。
馬謖が視界の隅で色とりどりの毒草をうっとり眺めているが、無視する。
「しかし凌統殿は野草に詳しいんですね。どなたかに教わったんですか?」
純粋な尊敬の目で見つめてくる関興に、ちょっぴりいい気分になる。
「まぁね。昔、呂蒙殿に教え―――」
「呂蒙!?」
急に険しい顔になった関興に驚き、危うくひっくり返そうとした肉を取り落としかける。
「呂蒙、父上と兄上の仇……! きっと僕が首を取ってみせる! 見ていてください父上兄上、九泉の下から!」
何それ初耳。あと放送によれば関羽まだ生きてる。心の中でツッコミを入れながら、馬謖をつついて小声で聞く。
「(呂蒙殿が関興殿の父兄の仇って本当か?)」
「(本当だが? それでキレた劉備が呉に攻め込んで陸遜にほぼ全軍焼き尽くされたりもしたな)」
凌統は長い溜息をついた。
「……関興殿、初めに呂蒙殿を探しに行くって行ったの覚えてるか?」
「はい、それはもちろん。呂蒙を殺しに行くんですよね?」
駄目だ! これは駄目だ!
頭を抱えた凌統の顔を、今度は母犬が舐めていった。
親の仇というのは、たとえ協力し合うべき状況になったとしても、そう簡単に受け入れることは出来ない。
かつて同じ呉臣の甘寧を父の仇として深く憎んだ経験のある凌統には、とてもよく分かる。
こりゃ呂蒙殿を頼るのは難しそうだ……。目的地の変更が必要かな。
「関興殿、陸遜殿についてどう思う?」
「宿敵です。必殺です」
凌統が思わず遠い目をしたとしても、誰にも責める事は出来ないだろう。
「(……えぇと、凌統、目的地変更するか?)」
「(なんで関興殿が呂蒙殿と陸遜殿に恨みがあるって教えてくれなかったんだお前)」
「(劉備とか関羽とか全く興味ないから忘れてた……)」
ひそひそと小声でやりとりする凌統と馬謖を他所に、関興はうふふふふと怪しい笑いを漏らす。
「待っていろ呂蒙、陸遜、この煙草で根性焼きして焙り殺してやる」
「煙草で根性焼きって殺すまでにどんだけ時間かかるんだよ……」
「馬謖殿も! 陸遜は貴方の兄上の仇ではありませんか! 何故討とうとしないのですかっ」
えっそうなの? こいつも? とぎょっとして凌統が見た馬謖は、珍しく真面目な顔をしていた。
「夷陵の戦いでは、陸遜は軍師として当然の選択をしただけだ。あんな間抜けな布陣を敷いたこちらが悪い。
 兄上は諌めたが、劉備が聞き入れなかった。……だから私が恨むのは陸遜でなく劉備だ」
布陣の間抜けさについてはお前が言うなと各所からツッコミが入りかねないが、
馬謖の真剣さと言葉に滲んだ怒りは本物だった。思わず関興は気圧される。
雨の空と相まって重くなりはじめた空気を無理やり持ち上げるように、凌統は明るい声を作って言った。
「まあ、ほら、とりあえず飯にしよう! 俺特製の香草焼き、ちゃんと味わって食えよ!」
「あ、美味しい」
「そうだろ? 実は料理にはちょっと自信あるんだぞ俺」
「うん、見直したぞ凌統。馬鹿なだけじゃなかったんだな」
「そうだろ……っておい、誰が馬鹿だ誰が」
呂蒙直伝ということは秘密のウサギ肉香草焼きに舌鼓を打つと、重かった空気も徐々に軽くなっていく。
人間腹が減ると怒りっぽくなるというのはどうやら本当のようで、ぴりぴりしていた関興も今は普段通りの緩んだ笑いを浮かべていた。
毒と指摘されても懲りずに桃色キノコをかじろうとする馬謖の後頭部を凌統がどつき倒す。
「全身痺れて3日は苦しむハメになるぞ、それ食うと」
「……でも甘そうだし」
「甘くねぇよ! 毒は普通辛いか苦い!」
「……すごく残念だ」
「これでも食っとけ」
山菜探しのときに見つけていた甘い果実を口に捻じ込んでやると、馬謖が途端におとなしくなる。
凌統は同じものを関興にも投げてやり、自分もその赤い果実を齧った。
しゃくしゃくとした歯触りと爽やかな風味を楽しんでいると、馬謖が唐突に驚きの声を上げた。
「何だ、どうした? 甘くなかったか?」
「いや甘くて美味い良くやった。ではなく、結構ここに接近してる奴が居る」
「何?」
探知機を指差す馬謖。覗き込んでみると、なるほど比較的近くに二つの光点がある。
すぐに遭遇するというほどの距離ではないが、無視するのも危険だろう。
「あ、僕見に行ってきましょうか?」
軽く手を上げて言う関興に、頼むと頷いて探知機を渡す。
「シロ、関興殿に付いて行ってやれ」
了解したというようにくぅんと喉を鳴らした母犬を連れ、関興は森の奥に消えて行った。
「なんか露出の多い日に焼けた女性と、真っ黒ででかい男でした。一言で言うと南蛮丸出し」
関興の報告を受けて、馬謖が祝融と孟獲だろうなと断定した。
「乳丸出しでした。南蛮は下品な土地ですね」
サラリと放たれた関興の台詞に凌統は飲んでいた水をぶほっと吹く。
「凌統殿、汚いですよ」
「って、ちょ、お前いきなりち……乳房とか言うなよ!」
「え、だって現実の女性には僕、興味ないですし。どうでもいいって言うか」
これまたサラリと吐かれた台詞に、凌統と馬謖は目を見合わせた。
現実じゃない女性って何?
突っ込むと危険な気がして、慌てて話題をそらす。
「そ、それで、どんな様子だったんだ」
「だから乳が」
「そうじゃなくて、移動してるかとかそういう」
「あぁ、どうやらその位置で夜を明かすつもりのようでした」
なるほど探知機の示す二人の位置はずっと動いていない。
ふむ、と馬謖が頷いた。
「かつて私は諸葛亮先生に七縱七禽、彼らを七度捕らえ七度放つ策を提案した。
 心を攻めるのを上策とし、城を攻めるを下策とする場面だったからな。
 しかし今度はそれは必要ない。心も身も一発で叩きのめしてやろう」
得意げに胸を張り、人差し指を立てる。

「迎え撃とう。私に策が有る」


<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター】
※荊州南部。≪後追う南蛮夫婦≫を迎え撃つ準備を始めました
※呂蒙、周瑜、陸遜、諸葛亮との合流を目指していましたが、再考中
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能
※「なんでお前こんな毒ばっかりピンポイントで採って来る?」「姜維よりはましだぞ私のほうが」「どんなふうに?」「あいつの採ってくるのは常に不味い。食えるけど」「お前、それは姜維さんのほうが絶対ましだから」
115野望と希望の喪失 1/5:2006/08/07(月) 05:30:19
虞翻は戦闘に通じていた。
彼は将軍ではないから、兵を統率する才能も知識もない。
しかし個人での戦いにおいては自慢の矛術と素早い身のこなしで、雑兵十人前後なら互角以上に渡り合えることができる。
幾度となく戦に従軍したこともあり、数々の死線を乗り越えてきたのだ。
だからなのか、それとも元からの神経質な性格のためか、とにかく彼は自分を尾行している人物の存在に気付いていた。
相手は相当用心深く、物陰に潜み、気配を消しながら慎重に虞翻を襲う機会を窺っているようだ。
飛び道具はおそらく持っていない。しかしなにか、光沢のあるものを持っている。
時折わずかな光が、虞翻の背後をちらつくことからそれはわかる。金属製の武器だろうか。
虞翻は懐に入れていたカードを一枚取り出す。取り出したカードには一本の荒々しい、この世のどんな物でも打ち砕けそうな雷が描かれている。
これを使えば全てのモンスター(敵のことか?)を破壊できる、と説明書きにはある。
もちろんそれが嘘八百なのはすでに経験してわかっているが、脅しに使えるなら―――
虞翻は体を反転させ、追尾者がいるであろう、岩が立ち並んでいる方向を見つめると、カードを持つ片手を天へ掲げ、高らかに叫んだ。
「私をつける獰猛な戦士よ、身を潜めて隙を狙う狼よ、まずは空を見上げよ!」
116野望と希望の喪失 2/5:2006/08/07(月) 05:31:18
高順は岩の裏に身を潜めながら、男に言われた通りに天を見上げた。
雲が空の大半を占めていた。所々が黒ずんでおり、暗雲のため太陽はほとんど隠れていた。
いつの間にか、雨がしとしとと降り始めていた。高順の髪はもういくらか濡れている。
四方を見通せば、北の彼方からは重圧感ある緑色の雲が、大量にこちらへ押し寄せている。黄色い光が定期的に、雲の中を駆け回っているのが遠くからもわかる。
「どうだ! 見えるだろう! すでに陽は暗き雲に支配されつつあり、北の豫州では雷雲が成長し続けている。
あれはやがて、北風に吹かれながらこの廬江の地へたどり着くだろう。その爆音を鳴り響かせながら、雨を殴るように降らせ、稲妻は大地を打ち砕く!
大地と砕いた稲妻は、なお四散し周囲の生命へまとわりつくだろう。足から背を伝い首から上まで、全身を針で刺されたかのような刺激が駆けめぐるだろう。
足で二度と地面に立てず、手で物を掴むこともかなわなくなる。
目は二度と景色を移さず、耳は二度と音を拾わない。
心蔵は二度と動かなくなり、脳は何も考えることができなくなる。
さらに衝撃は、その霊魂まで襲うだろう。霊魂は破裂し、復活の望みすらもなくなる。
ただ残るのは、雨に打たれる肉体と、断末魔の残響のみ」
そこで男は一息吐くと、今度はうってかわって低くくぐもった声で話し始めた。
「私の片手にあるこのお札は、妖術を引き起こすことができる。
私がこのお札を持ちつつ、天に向かって『サンダーボルト』と唱え上げれば、あの雲の移動速度を何十倍にも速めることができる。
天は雷雲に満たされ、地上は雨と稲妻と雷鳴に満たされる。天と地上を照らす光は、稲妻から発されるのみであろう。その時こそ、貴様と貴様の霊魂の最後だ。
雨はいよいよ激しくなり、雷鳴はいよいよ大きくなる。稲妻が周囲の岩と木と家を破壊しつくし、ここは荒れ果てた地となる。
そして私が片手を天に掲げれば、貴様は真っ白な光景を最後に、打ち砕かれることになろう。肉体も霊魂も、なにもかもだ。
たとえ直撃は避けれても、貴様の死は避けられまい。理由はすでに聞いてるな?」
実の所、高順は途中から聞くのをやめていた。
117野望と希望の喪失 3/5:2006/08/07(月) 05:34:02
虞翻はしゃべり続けた。なるべく一気にまくしたてて、相手に隙を与えないことが大事なはずだった。
「命が惜しくば、貴様がこの世界で少しでも生き延びようと思うなら、今すぐここを立ち退くがいい。
私は戦いは嫌いだ。出来うるば最後まで、誰も殺さずに生き延びたい。しかし貴様がここを去らなければ、私の淡い希望は破られることとなろう。
貴様は死人となり、私は殺人者となる。いいことなど、何もない。
だから、そうだな、今から百を数えよう。私が百を数えている間に、貴様はここから駆け足で走り去るのだ。
それで問題は、なにも起こらない」
そうして虞翻は数を数えていった。しかし十を数えたところで、追尾者が居たはずの場所に、なんら気配がないことに気が付いた。
もはや、私が喋るのを終わらない内に、去っていったのか?
いや―――虞翻は急速に、背筋が寒くなっていくのを感じた。
そうだ、あんなチャチな脅しで、このゲームに参加するような名のある武将がおとなしく去ってくれるのか?
そんなわけがあるまい。狼のように機会を窺っていた追尾者が、脅しにへこたれて去るわけがない。
ああなんてことだ。こんなカードなど、あの時に捨てておけば―――
背後に殺気を感じた時には、何もかもが手遅れだった。
虞翻の頭と、優勝への野望と、とある二人の希望は、追尾者の振った武器に打ち砕かれることになった。
118野望と希望の喪失 4/5:2006/08/07(月) 05:35:26
高順は岩陰を伝い、男を狼牙棍、またの名を狼牙槊、またの名を狼牙棒という武器で、背後から思いっきり殴りつけた。
劉禅の持つモーニングスターによく似た、金属製の棘を持つ打撃武器は、まず男の背中にめり込んだ。
本当は頭を狙ったのだが、気付かれてしまい、前に飛び逃げられたのだ。いい反応だったが、それでも男は避けきれず、背中に多くの穴を開けた。
続いての一撃は、正確に男の側頭部にぶつかった。頭蓋骨が破壊される音が響き、それで男は絶命した。
「しかしもっと、強力な武器を手に入れなければ、呂布様には到底勝てんだろうな」
高順は男の持っていた二枚のカードを数秒眺めると、ばらばらにちぎり、地面にまいた。
「銃だな。銃を持っている奴を襲って、奪い、それで殺してやる。そしていつか呂布様をも―――」
彼はぶつぶつ呟きながら、血と脳漿に汚れた武器を拭くこともせずに、その場を立ち去った。
119野望と希望の喪失 5/5:2006/08/07(月) 05:39:50
俺の名は董衡。太陽の下でしか生きる事ができない男
(そして俺の名は董超。月の下でしか生きる事ができない男)
えっ〜っと、なんか北から雨雲来そうじゃね?
(それってやばくないか?)
箱の中にあった説明書には、月の出ない夜になると死ぬってあったような……
(ちくしょう! そもそもなんで説明書が中にあんだ! 外にあれば開けなかったのに!
開けた後にこの箱は危険なので開けないでねってなんだそりゃ!)
落ち着け董超! 今はとりあえず避難しよう! 西の方はなんか雲少なげだぞ!
(そ……そうだな。そうだ、今にも命が消えそうなのに悠長に医者を待ってられないな。
よし、走るぞ! 夜になる前に、雲のない所まで!)
走るの俺だけだけどね!


@高順【狼牙棍】
※現在地は揚州廬江。日没直前。付近を探し、銃を手に入れ、呂布を殺すことが希望です。
※嵐が来る模様?

@董衡&董超[二心同体(朝昼夕方は董衡、夜は董超が活動)]【なし】
※現在地は揚州南部。西へ、夜になる前に晴れている所を探します。

【虞翻 死亡確認】
120第七回は変な人が多い:2006/08/07(月) 11:02:48
豫州に入り何故か禰衡は樹に登っていた。
禰衡が奇行を行うのを知っている上に慣れている孔融は、とくに気にも留めなかった。
空は赤みが掛かって晴れるのかと思いきや雨。
明日は晴れるとか言ってた禰衡はそれが相当悔しいらしかった。
怪我人の癖にと思いつつ孔融は上を仰いで声を掛ける。
「お前だってたまには間違えるさ。分かったから降りて来〜い、風邪引くぞ〜」
それに対し足をぶらぶらさせながら禰衡が吼える。
「いやもう天気なんかどうでもいい!これから往く道を高所から偵察する!」
それらしいことを言っているが絶対天気を気にしてる。
もはや天を怨んでる目つきだ。
「気が済むまで登ってればいい。」
孔融は既に呆れてやる事も無く包丁にこびり付いた血を眺めている。
「正平、これ拭かなきゃ錆びるよな」

「ころす、殺す!!殺す!殺す!!はぁっ、ははは!は!はは!!は!ははは!!」
やたら楽しそうに張角が走り去っていくのが見えた。が、
清流派だが運良く名前を挙げられなかった孔融は知ってか知らずかそれを見送った。

<<現在工事中/2名>>
禰衡[脇腹負傷]【農業用スコップ】 孔融[こめかみかすり傷]【農業用ショベル、刺身包丁】
※荊州を目指しています。現在地は豫州。

@張角【DEATH NOTE】
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われます
※仲間として探すはずだった荀ケ、荀攸、司馬懿、陳羣を殺すことしか考えていません
※許昌方面へ走っています
※紙飛行機にされたDEATH NOTEのページ1枚は放置されたままです
121午睡と空腹と暴発と 1/5:2006/08/08(火) 00:28:11
陳到は未だ陳留を彷徨っていた。
一時は、劉備を求めて蜀の地へ向かおうとも思ったのだが、
潁川に入ってすぐ、その考えを改めた。
あのお方ならば、天命の地である蜀よりも、義兄弟たちと杯を交わした
楼桑村に向かうかもしれない。そう思って、引き返した。
現在地は、陳留北部。あと少し北に向かえば、朝歌に入る。
(大地が狭まっているとはいえ・・・やはりタク県までは遠いな・・・)
湿った土の上を、そろりそろりと、ほんの少しの音も出さぬよう、
気配を殺して歩く。
さく。さく。小さく、土が鳴る。
ぐう。
「・・・」
そんな彼の努力を嘲笑うかのように、胃袋が不満の声を上げた。
そう言えば、朝から何も口にしていない。
(腹減ったなー・・・)
支給された食物は、昨日の内に食べきってしまった。
水はまだ残ってはいるが、十分とは言いがたい。
無くなったのならそれはそれで、兎でも狩ればいいと思っていたのだが、
それが中々見当たらなく。
考えの甘かった自分を悔いた。
(いざとなったら・・・草でも食うか。仕方ない)
ふと、上を見上げる。西南の方角に、黒雲が渦巻いていた。
嫌な空だ。
(ひと雨来そうだな。・・・なら水だけは平気そうだ)
残り半分をきった水筒を軽く振る。
中で、水の暴れる音がした。
122午睡と空腹と暴発と 2/5:2006/08/08(火) 00:28:58
ふと、一歩を踏み出したときだ。
ほんの少し先の空間。其処に、異質な気配を感じた。
動いては居ない。驚くほど静かだ。
しかし、それは確実に其処に居た。
ガン鬼の銃とやらを構え、気配を消しながら、ゆっくりと。
その気配のほうに近寄る。
心臓がどくどくと、喚いていた。
(煩い。落ち着け・・・)
ゆっくりと。
ゆっくりと、近づく。
巨木の近く、陰と光が交錯する場所。
静かに息衝く人影を見つけた。
(誰だ)
もう少し。ほんの少し、近づく。
男だ。ガタイの良い男が、巨木に寄りかかり座っている。
髪が短い。よく見ると、片方の耳と、小指が破損していた。
男は、くうくうと静かに寝息を立てている。
薄汚れた鼠が、その周りを徘徊していた。
息が、詰まる。
(う、于禁・・・!?)
見覚えがあった。
曹魏の誉れ高き五大将が一人。于禁文則が其処に居た。
123午睡と空腹と暴発と 3/5:2006/08/08(火) 00:29:39
(どうしたらいいんだ)
進むべきか。引くべきか。
無駄な戦いはしたくない。できるだけ、安全に。確実に。
しかし、今眼前の男は眠っていた。
小指の破損した右手に、小さな刀を握ってはいるものの、
まるで危機感も無く、静かに寝息を立てている。
一歩、近づいた。
―――目覚めそうに無い。
また一歩。銃を構えたまま、気配を殺して。
一歩。
手を伸ばせば触れられる距離まで来た。
まだ、瞳は開かない。
銃身を固定したまま、湿った地面に眼を落とした。
自分の銃よりも長く、巨大な銃が無造作に放られている。
彼の武器だろうか。少し、銃身が曲がっているようにも見えた。
大木に凭れかかる身体を見る。
左腕に絡まった袋から、支給された食物が零れ出ていた。
ごくん。喉が鳴る。腹も、ぐるぐると呻いた。
右手に銃を構えたまま、左手が、大地へと下がっていった。
長筒に触れる。ひんやりと、冷たい。
(使い方は同じか?)
持ち上げた。
自分の銃を仕舞い、その長筒――AK47カラシニコフを構えて、三歩ほど下がる。
どくん。
どくん。
心臓が鳴る。
煩い。周りの音が、かき消された。
引き金に手をかける。手が、少しだけ震えた。
124午睡と空腹と暴発と 4/5:2006/08/08(火) 00:30:15
(大丈夫だ)
もう一歩、下がる。
どくん。
どくん。
―――どくん。
(やれる。全然殺れる。大丈夫だ。大丈夫―――)
于禁は目覚めない。
静かに息づく。生きて、いる。
劉備様を散々に苦しめた魏将の一人だ。罪悪感など感じない。
それでも、曹魏の名高い武将をこの手で、という興奮が陳到の手を震えさせた。
心臓が騒ぐ。戦場の空気とは、また違う匂いだ。
一度だけ、大きく息を吸った。
長筒を構えなおした。これは、試し撃ちだ。
動かない的なら、外す筈も無い。この長筒の威力を知るには、うってつけだ。
至近距離に居る。眠っている。
(大丈夫だ)
殺せる。
周囲の温度が下がった。代わりに、自分の熱は上昇する。
長筒がぬめる。血が、付着しているのだろう。
汗が出てきた。嫌な汗だ。
気にしない。ただ、眼前の静かな空間だけを見据えて。


引き金を、引いた。
125午睡と空腹と暴発と 5/5:2006/08/08(火) 00:31:11
「!?」
突然、至近距離で響き渡った爆発音に、于禁は驚愕して跳ね起きた。
泡沫の夢を拭い取られた不快感も余所に、山刀を構える。
と、同時に、傍らに置いたはずのカラシニコフが消えていることに気づいた。
(くそっ!やられたか!?)
周囲に気を張る。・・・が、どのような気配もしない。
ただ、ほんの少し前方で、黒い煙が湧き出ていた。
(・・・何なんだ)
恐る恐る、かつ大胆にそれの方へと向かう。
(うわっ・・・)
その死体は、首から上と、両腕が損失していた。
血は出ていない。傷口は焼き焦げたようで、いっそ綺麗なまでに醜かった。
首輪が爆発したようだ。
これではこの男が誰だったのかすら、分からなかった。
辺りを見渡す。
なにやら黒い金属の破片と、男のものであろう肉片が周囲一面に、
爆発の際に吹っ飛んだのだろう袋が、右手に見えた。
手にとってみる。半分以上焼き焦げていた。
振ってみると、新式の筆と黒筒がぽろりと零れ落ちた。
・・・それ以外は燃え尽きるか、崩れてしまっている。
焦げた水筒が悪臭を放っていた。
近くに、自らの支給品であった銃は落ちていない。
犯人は、盗るだけ盗ってもう逃げたのかもしれない。ため息が出た。
短くなってしまった髪をかき上げながら、死体のほうを見る。
(・・・ま、足し引き零・・・か?取りあえずこの黒筒は貰ってくがよ・・・)
心の中でぶつくさ言いながら、足はしっかりとこの場を離れようと動く。北へ、都へと。
(誰なのか知らねーが・・・自殺なら人の居ない所でしろよな!)
二日続けて熟睡中を叩き起こされた于禁は、果てしなく不機嫌だった。


恐るるべきは、無知。
もしくは、運。
126午睡と空腹と暴発と 結果:2006/08/08(火) 00:32:32
【陳到 死亡確認】


@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳?]
【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×50)】
『現在地 エン州・陳留・朝歌との境目付近』
※まっすぐギョウに向かっています。
※曹丕を中心に恨みのある将を狙います。
※曹操、張遼、張コウ相手には友好的です。 が・・・。
127大地に恵みを。人に死を。:2006/08/08(火) 02:12:21
何か不自然な大きな音が聞こえた。
───黄河氾濫
この言葉が頭を掠めた時には、手遅れだった。
一瞬にして南皮城は水没し、周辺の木々は薙ぎ倒されていた。
他はどうか知らないが、この周辺は特に降水量が多いようだ。
これも、ミニ中華大陸の為せる技であろう。
「諸葛弩と手榴弾は・・・瓦礫と板切れで何とかすれば濡れないな。
 でも俺は隠れる場所がないな・・・さて、どうするかな?」
事態は思ったより深刻だ。
絶え間なく降り続く雨の中にいれば、無事では済まない。
確実に、数日間は寝込むだろう。

@張燕[軽い風邪]【猛毒付き諸葛弩・手榴弾×3】
※南皮城は水没しました。孤立無援状態です。城壁上のみ移動可能。
雑談スレが落ちたので、したらばへの誘導をお願いします。
128無名武将@お腹せっぷく:2006/08/08(火) 02:18:21
             ■業務連絡■
        観戦スレはこちらに移転しました。

三国志バトルロワイアル観戦雑談スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/29695/1154600612/
129周瑜の夢 1/11:2006/08/09(水) 11:54:38
幻想的な音響と、宝玉のようにキラキラと輝き動く絵、そして頭脳を使って絵の中の四角形を組み消す作業は、曹植を熱中させた。
最初はこの札は何の役に立つのかと思ったが、張遼が読んでいなかった説明書によれば、どうやらこれは遊具であるらしい。
しかしPSPはただの遊具ではなかった。説明書通り、右に付いていた金具を持ち上ると、それまで黒かった部分がいきなり光りだした。
その後の、めまぐるしい光る絵の動きに曹植は圧倒されたが、それは数秒で止まり、淡泊な一絵で止まった。
「え、えっと?」
説明書によれば、ソフトと呼ばれる、盤上のものを札の中へ入れなければならないらしい。張遼のバックを見ると、確かにそれらしきものが多くあった。
「ルミネス モンスターハンター ぼくのなつやすみ ウイニングイレブン9 メタルギアアシッド2 鉄拳ダークリザレクション 脳力トレーナー 三國志Z……」
三國志、という言葉が少し気になったが、とりあえず真っ先に手に取っていたルミネスを差し込んで、そして今に至る。
曹植がPSPの動く絵のように目を輝かせながらあまりに熱中しているので、傍らにいる張遼が心配して声をかけるのだが、
「子建殿、そろそろやめられた方が……」
「ああ、ちょっと待ってよ、もうすこしで新しいスキンが……」
この調子なので、もう張遼は諦めることにした。
ちなみに曹植の腕の傷はさほどのものではなかったらしく、今ではPSPを12時間ぶっつづけにプレイしていられるほどに回復している。
長く持ってたら乗っ取られるんじゃないのかな、と曹植は言っていたが、なるほど確かにそうだな、と張遼は思った。
現在地は荊州江陵の林中。あたりに人がいる気配はなく、木々は風でゆれて葉音を立てる。
130周瑜の夢 2/11:2006/08/09(水) 11:55:40
まあ昨日会ったばかりの、弱々しい様子よりかはましではあろう。
それにこの方がこうしていられるのも、自分を頼ってくれている証拠であるのだから、それがしがしっかりしなければな。
と思いつつ横を向くと、曹植はPSPの電池を取り替えていた。
とはいえ、すでに魏の五将軍のうちからでも文謙・公明、呉の猛将からは程普・周泰、袁紹の二枚看板の顔良・文醜が死んでいる。それに孫堅・孫策もだ。
一時たりとも油断はできない。武帝の御子息、自分を素晴らしき詩で謳ってくれたこの方は、なんとしてでも。
と決心をしつつ横を向くと、「やった! 一週できた!」と曹植は喜んでいた。
子供のようにはしゃぐ曹植に、口元が少しほころぶ張遼。
張遼の記憶のかぎりでは、曹植はせわしく国替えをされていた皇族のうちでも、特にひどかった。
武帝生存時の曹丕最大の政敵であったからには当然の措置とも言えるが、おそらく、曹植は自由という言葉からは程遠い身であっただろう。
その時に伝わってきた詩作もまた、悲壮に満ちたものばかりだった。
それが今では、こうも楽しそうにしている。
もちろん、この状況下で心の底から楽しむことはできようはずはない。一種の逃避に近い行為だとは思う。
だが、強いて楽しみを奪う真似はよすことにしよう。
「……調べが、聞こえる」
突然、それまで楽しそうに遊んでいた曹植がそう言った。
「なんだか不思議な、ふわふわした音だけど、優しくて暖かく、繊細だ。でも同時に、内に激しい何かがある……」
「調べ? それがしには聞こえませんが」
「聞いたこともない不思議な音……でも引き込まれる……何の楽器だろう」
曹植はPSPをしまい込み、立ち上がっていた。
「張遼、会いにいかない?」
突然問いかけられたので、張遼は最初、何を言われているのかわからなかった。
131周瑜の夢 3/11:2006/08/09(水) 11:56:59
「その演奏者に、会いに行こうと? 子建殿、素性もわからない相手に会おうというのは、この状況下、危険極まりないと思いますが」
「こんな優しく奏でられる人は、危険人物ではないと思うよ。それに……」
「それに?」
「父上の演奏に、どことなく似ている」
そうだ、と曹植は思い起こす。父・曹操は戦と狩りに明け暮れる一面を持ちながら、詩に精通し、また音楽を愛した。
政務も戦も狩りも誰かと話すこともない珍しい時には、父は書を読むか何かを考えるか、そうでなければ弦を弾くか笛を吹くかだった。
父の調べは普段からはあまり想像できないほど優しく、繊細で情に富んでいた。
弦や笛の音質とはだいぶ違うし、曲もまったく聞き慣れない異質で斬新なものだった。だけどこれは、父の調べと似ている。
曹植は音のする方角へ歩いた。おそらく林の外からの音だ。江陵は揚・荊・益の三州を結ぶ重大な地域なのだから、下手に出て行っては危ないだろう。
それでも、この調べの主には会わなければならない。
林の木々を縫って、外の光景が見えてくる。調べがよりはっきりし、張遼に耳にも聞こえてくるほどになる。曹植はさらに歩く。いや、走っている。
林を抜け、辺りを見回した。しばらく前は雨雲に覆われていたが、今はくっきりと晴れて、地上をまぶしく照らしている。
その光が特に当たっているかのように見える、何もない、小高い丘の上で、男は音を奏でていた。
その様子は、まるで妖術師のようだった。腕を空間に動かし、揺らめかし、その動きに対応して音色が奏でられる。
張遼は目を疑うように眺めていたが、曹植は側にある立脚に立てられた茶褐色の三角の箱と、箱から突き出ている棒が関係あるのだろうと察した。
男を見る。目をつむり、演奏に集中している、その美しい顔は、それでいて憂愁と苦肉が漂っていた。
そうか、この曲の込められているのは、悲しみだ。
132周瑜の夢 4/11:2006/08/09(水) 11:58:20
初めて自分を正当に評価してくれたのは、あの人だと思う。
今は不幸にも、またもや自分に先んじて死んでしまった友と、友が死んでから自分が死ぬまで忠節を尽くしたその弟の、二人の父親だ。
周瑜は名家中の名家の生まれであったから、幼いころからちやほやされた。周瑜が何かをするたびに、周りの大人は絶賛を送ってきた。
ただあの人達は、自分を本当に知っていたといえるのか?
何かをするたびに絶賛するというのは、しかし、行き過ぎたものではなかった。
周瑜には全てにおいて才能に恵まれていた。
彼は言葉を覚えるのも早かった。五、六歳のころには、そこらの知識家ぶっている若者よりかはずっと字を書けたと自負している。
古語も十歳になるまでは理解し、あらゆる書を読み尽くした。文章も弁舌も並の名士以上だった。
人付き合いもよくできた。どうすれば友達を多く作れるのかも、大人に愛されるのかも、女の子にもてるのかも、彼は知っていた。
絵や音楽などの芸術にも長じていた。特に音楽にはこだわりを持ち、自分なりに曲を使ったりもした。それを聞く者は、たとえ音楽的才能がなくとも、感嘆し、聞き入った。
このような調子なので、周りがこの上ない絶賛を送るのも無理はない話だった。周瑜にとっては、やや鬱陶しかったが。
孫堅が周家に来客してきたのは、いつだったか。
「ほう、あなた様が、舒の名高き周朗か。なるほど端正、女の子には人気であろうな」
と、孫堅は周瑜に会って、からかっていった。周瑜はむくれたりせず、万人が気に入るであろう社交的で完璧な返事をこなし、孫堅に言った。
「あなたのお子は、高貴な相を持ち、君主の風があるとか。次に来るときは、ぜひお連れになって会わせてください」
おそらくこの時、自分は自惚れていたと周瑜は思っている。自分ほどの人間は、他にはいないと。表面には決して出さなくとも、心底ではそう思っていた節がある。
孫堅の息子のことも、俺を差し置いて生意気だ、などと思っていたのだろう。
だから孫堅が本当に息子の孫策を連れて来たときに、周瑜は考えを改めざるをえなくなった。
133周瑜の夢 5/11:2006/08/09(水) 12:00:34
周瑜と孫策が瞬く間に仲良くなったのを見て孫堅は、周家を訪れるときには必ず孫策を伴うようになった。
孫策と周瑜がまるで兄弟のようになると、孫堅もまた周瑜を息子みたくに扱い(訪問先の御曹司だったのだから、今思えば無礼だ)、よくこう言った。
「伯符には臆病さが、公瑾には果敢さが足りないから、伯符は司令官になってひたすら進み、公瑾は軍師になって伯符を止めるんだな」
孫堅は反董卓のため中原へ赴くとき、自分の一族をもう独立していた周瑜に預け、孫策とともに進軍していった。
その帰還時の劉表との戦いで、突出したところを襲われ、孫策が父の遺骸を持って帰ってきた。自分が付いていけば、彼を止められたのに、と何度も悔やんだ。

生き返ったかと思えば、殺し合いに放り出され、わけがわからないまま孫策と孫堅は再び死んだのだ。
なんと不条理で、身勝手なのであろう。
周瑜は孫堅と孫策を送るために、悼むために、ひたすら奏でていた。
その曲は、周瑜が知ってもいないはずの曲だ。中華のものとは違う、異世界の音楽。
先に奏でた二曲もそうだった。知るはずのない曲。
それでも周瑜の頭の中を、自然と楽譜が駆けめぐる。今の自分の心情を現わすには、ぴったりだと思う。
これを聞いていると、まるで夢でも見るかのように、孫堅と孫策のことが思い出される。孫堅にふたりして怒られたこと、二喬をめとったこと、孫策が一人で散歩したがるのを止める自分……
思い出はかくも美しい。
やがて、ゆっくりとした調べも、終わりを向かえた。余韻にひたりながら、これから先の事を考える。
仲謀様だ。彼だけは、絶対に、絶対に死なせられない。
目標は決まった。目を見開く。
まぶしい光とともに、二人の男の姿が目に入った。
一瞬、孫堅と孫策に見えたが、錯覚だった。
134周瑜の夢 6/11:2006/08/09(水) 12:01:54
「揚州の人ですか?」
文人風の優男が、第一声で言い当ててしまったので、周瑜は驚いた。
「なぜそれを?」
「音色が、南東の方に近いかな、と」
ほお、と周瑜は感心する。見たところ、自分と同じく育ちがよさそうな出で立ちである。
しかし右腕の袖が一部破け、血に染まっているのが気になった。もう血は止まっているようで、あまり問題はなさそうだが、袖の血は争いがあったという事実を示していた。
一方もう一人は、まさに武骨と現わすのに相応しく筋骨隆々であり、顔も角張っている。片手に持っている武器はいかにもその容姿にふさわしいものだった。
「私は周瑜。周瑜公瑾。孫家に仕えていた身です」
武人風の方は顔に警戒色を強めたが、文人風の方には顔に喜色が浮かべ、
「江東の美周朗! 呉の初代大都督! そんな人に出会えるなんて、感激です! ぜひあなたで詩を……
あ、演奏、とても見事でした。まったく斬新で、なんだか幻想的で、優しくて、感動しました。曲名は、なんていうのですか?」
と大げさと思えるはしゃぎっぷりを見せつけた。
「そうだな、『夢』 とでも」
適当なことを返す。
「それで、あなた方の、御名前は?」
「あ……すみません! こちらから名乗るべきでしたね」
と文人風の男は心から失態を恥ずかしがるように頬を紅くする。
「僕は曹植。曹植子建。あっと、その、曹丞相の三男に当たります。で、こちらが」
「張遼でござる」
ぶっきらぼうに武人風の男は答えた。俺はお前なんか信用してないぞ、と言わんばかりだ。
135周瑜の夢 7/11:2006/08/09(水) 12:04:26
しかし、曹植に張遼か。曹植は本人の言うとおり曹操の三男で、噂では後継者として期待されていたという。
張遼は呂布から曹操へ降った猛将だ。赤壁の時に孫権の合肥進軍を退けたのは確かこの男だった。
その後、少しの間3人で話し込んだ。
このゲームにはなるべく触れずに、趣味がどうとか、土地の風習だとか、あるいはこのテルミンについてだとか、他愛もない話だけだった。
曹植が嬉しそうに話す様子からは何かをたくらんでいる、ということは絶対にあり得ないように見えたし、
張遼は不信感はあるものの、曹植を深く慕っているようだから、曹植の意に逆らって自分に危害を加えるということはないだろう。
周瑜は決断した。
「あなた方、もしよろしければ、わたしと共に揚州へ行きませんか?」
曹植はますます喜色を浮かべ、張遼はますます警戒色を強めた。と思えば、その警戒色が一瞬にして解け、代わりに訝しむように、丘の下の林を見やった。
「………誰かいる」
と言われ周瑜は林のほうを見たが、特に誰かがいる気配は感じられなかった。
「どうしたのさ。誰もいないけど」
「あなたが音に敏感なように、それがしは気配に敏感なのです。特に、殺気の類は……」
殺気、といわれて周瑜は全身の毛が逆立った。たぶん曹植も同じだろう。
その後すぐ、大殿は伯符を殺したのは、そいつではないのか? と思い浮かんだ。
「とりあえず、林の逆へ丘を降りましょう。相手は飛び道具を持ってるかもしれません。
ここらは林のほかは平原だけですが……とにかく逃げるのが得策でしょう」
いや、ちょっと待て。周瑜は心の中で反論する。あいつが二人を殺したのかもしれないのに?
あるいは、程普や呂範や周泰や朱然もそうかもしれない。
もっと言えば、殺されたすべての参加者も、あいつのせいではないのか?
体が熱くなってくる。全身から汗がにじみ出てくる。
136周瑜の夢 8/11:2006/08/09(水) 12:05:58
いやそんなはずない。一人であの数を殺すなんて、不可能だ。乗っている人間は、もっといるはずだ。悲しいことだが。
突っ立っている周瑜に対し、曹植が「早く!」と急かす。鬼気迫った表情は、実際に被害を受けたことから来ているのかもしれない。
地面に置いていたテルミンとその付属機器を両腕で抱える。大きさのわりには大して重くはない。
抱えたまま丘を降ろうとすると林の方から、かすかに破裂音らしきものが聞こえた。途端に、右肩に熱い痛みが走った。
危うく、テルミンを落としかけるが、痛みに耐えて、右腕に力を入れた。しかしあまり力が入らない。
肩から血があふれ出るのが、視界に入った。そういえば元の世界では、この江陵で左肩に矢が刺さったものだ、と唐突に思い出す。
曹植は顔を青くさせ、「そんなものはいいから、早く!」と叫んだ。そんなものとはなんだ。さっきは感動してたくせに。音楽は、生きるためには大変重要だ。
周瑜の気持ちを察したのか、張遼が向かっきて、テルミンを取り上げ、代わりに持った。
「走るぞ!」
三人は走り出した。もう一度、破裂音が聞こえた気がしたが、何も起こらなかった。
いつかきっと、あの男は殺してやる。そう周瑜は思う。それは献帝の思う壺のような気がするが、とにかく殺してやらなければ気が済まない。
しかし今は仲謀様に会うことが何よりも先決だ。会って、何としてでも死なせないようにしなければならない。
丘を駆け下り、平原を走り行く。途中、破裂音が何度も聞こえた気がしたが、かまわず走った。今度は左肩に当たった気がするが、とにかく走った。
待っててください。私は大殿と伯符は、守ることができませんでした。死に行こうとするのを、私はまたもや止めることができませんでした。
しかし、仲謀様、あなたは、私が……
破裂音がまた聞こえた。腹部に猛烈な痛みが生じた気がするが、走らなければならなかった。
しつこく破裂音が聞こえ続ける。胸や、腕や、脚にも当たった気がしたが、走り続けた。
137周瑜の夢 9/11:2006/08/09(水) 12:08:23
何度目の破裂音か。いや、これは曹植の声か。男のわりには高い声だな。「周瑜さん、死なないで!」
死なないで? 何を言っている。私は仲謀様を守るためにいるのだから、まず死ぬはずがないのに。
なんだか視界が見えていない気がしてきた。走っている感覚がなくなっている気がしてきた。まあ、走っていることには違いないが。
「子建殿! もうだめです! 我らだけで、行きましょう!」
これは曹植の声? さっき高いな、と思ってたのにいきなり低くなっているな。
もうだめって何がなのだ? 私は残念ながら、走っていることに手一杯で曹植達を確認することができない。
まあ彼等は彼等でなんとかするだろう。私は生きて仲謀様の元へ行かなければならず、もはや彼等にかまっている余裕はないのだ。
破裂音だ。体のどこかを、何か通り抜ける感じがした気がする。そういえば痛みがさっぱり消えている。ああでも、視界は戻ってきた。
おや、伯符がいる。死んだのではなかったのか? 大殿も……程普も、呂範も、周泰も、朱然も。
なんだ。死んではいなかったのか。私はたちの悪い勘違いをしていたようだ。
おお、仲謀様もここにおられたのですか。それに子敬、子明、あと陸遜。陸遜、その子供は誰だ? 孫?
おお、お前そっくりだな。これは将来大物になるだろう。
他には、太史慈に、諸葛瑾、虞翻、甘寧、凌統、潘璋、朱桓、弓腰姫様。
む? 張昭殿もいる。あなたは参加されてはなかったのでは……参加? なんだかよくわからんな。
さて、今は何をしていたのでしょうか。そう、そうでした、益州侵攻の軍議ですね。
大殿、劉璋は惰弱であり、悪政をしき、多くの優秀な家臣をないがしろにしてるとはいえ、その軍と天険の防御は侮りがたく、
はい、そう、おお、さすが仲謀様。伯符もほんのちょっとでも、仲謀様の深謀遠慮を見習えたらいいのだがな。
ああ、軍議の途中にこのようなことを言うべきではありませんでした。失礼、張昭殿。
では、具体的な策を述べますと……
138周瑜の夢 10/11:2006/08/09(水) 12:09:53
曹植は半分連れ去られるかのように、張遼に走らされた。
周瑜は腹を撃たれて脚がもつれ、胸を撃たれて倒れ込んだ。
その後も何発も弾丸が周瑜を襲い、着々と周瑜は死体へ近づいていった。
もう少しでも生きていられる状態ではなかったのは明らかだったが、それでも曹植は立ち止まって、呼びかけられずにはいられなかった。
「周瑜さん、死なないで!」
周瑜とはたいした時間、たいした話もしなかったが、その話の内容には、彼の機知と、人を引きつける魅力を感じ取れた。
そんな人がこうもあっけなく死ぬとは、戦をほとんど知らない曹植には信じられなかった。
「子建殿! もうだめです! 我らだけで、行きましょう!」
張遼に言われても、すぐにはそうしなかった。ほとんど泣き声で周瑜に呼びかけたが、もはや彼には声すら届いていなさそうだった。
張遼に腕をとられ、仕方がなく曹植は走りだした。
小さな破裂音が、再び耳に聞こえた。曹植は振り向きたかったが、しかし恐怖で振り向けなくて、そのまま走り続けることしかできなかった。
長い長い時間が過ぎ、曹植たちは見つけた小城の中に身を潜めた。弾は当たることはなかった。
張遼がテルミンを地面に置く。それで、曹植はまだテルミンがあったことに気が付いた。
テルミンの棒に手を伸ばす。周瑜の調べで聞いた、不思議な音がなった。
そのまま周瑜のように、何かを奏でたいと思う。しかし張遼に止められた。今音を立てることは、しないほうがいいです、と。
曹植は思った。敵は、周瑜の調べを聞いて、あの場所に来たのかもしれない。自分がそうして来たように。
周瑜ほどの人物が、それを予期していなかったことはないだろう。
それでも彼は、奏でずにいられなかったのだ。
周瑜は最後まで、テルミンを持って逃げようとした。
きっと、テルミンを奏でることで、彼はこの狂ったゲームに対して、不満や、怒り、そして悲しみを発散させ、自分を保とうとしてたのだ。
もしテルミンがなければ、周瑜はあの敵のように、殺人鬼と化していたかもしれない。激情を解消しきれなかった人物がそうなっても、不自然ではないように思える。
139周瑜の夢 11/11:2006/08/09(水) 12:12:36
そこで、父親にまで考えが及んだ。
父は激情の人と言われてきた。あの人が、激情を解消しきれずにいたら、そうなってしまうのだろうか?
曹植は体をブルリと震わせた。
そんなわけがない。そんなわけがないのだ。
父は激情であると同時に自分なりの秩序に生きた人だった。だから、そんなわけがないのだ。
張遼に賛同を求めたくて、張遼を見た。彼は厳めしい顔つきで、誰か来るものはいないかと、周囲に睨んでいる。
それで曹植は、少し安心ができた。
この人がそばにいるかぎり、何もかもが大丈夫な気がする。
根拠はとくにないが、曹植はそう信じずにはいられなかったのかもしれない。
とにかく、張遼が見張ってくれているおかげで、曹植はその晩を安心して眠れた。

<<フライングディスクシステム搭載/2名>>
曹植【PSP テルミン】張遼【歯翼月牙刀】
※方針は未定。現在地は麦城。

@許褚【スナイパーライフル、大斧】
益州を抜けて荊州に出たようです。現在地は江陵。

【周瑜 死亡確認】
演目はシューマン『トロイメライ』

周瑜のテルミンe-winds参考
http://www13.ocn.ne.jp/~tak/e-winds/tokutyou.html
140合肥新城は雨のち爆煙1/4:2006/08/11(金) 00:04:35
荊州へと歩を進める呂布一行は道中、合肥新城を通りがかった。
城門の近くに来た時、呂布は足を止め、辺りをうかがいはじめた。
「どうなされました?」
「微弱ながら、城門越しに殺気を感じる」
諸葛瑾の問いに、一言答え城門へと向かうと、その主は、呂布の気に戦慄したのかどんどん遠ざかっていくのが感じられた。殺気の主を一目見ておこうと、呂布が扉を開けると、一人の、丸腰の男が逃げているところだった。
「あれは…朱桓!」
走り去る男を見て叫ぶ諸葛瑾に呂布は問いかける。
「知り合いか?」
呂布の問いに諸葛瑾は、あの男が呉の武将である事。そしてこの殺し合いで自分を騙し討ちした事を呂布に伝えた。
「そうか」
それだけを言い、呂布は、朱桓が逃げた方向を見て。続けた。
「ならば殺しても構わんな。」
断っても俺はやらせてもらう。と、言わんばかりに呂布はずかずかと進んでいく。
「お待ちくだされ!」
諸葛瑾の叫びに、呂布は諸葛瑾の方向を向いた。
一方、こちらは合肥新城の通路の朱桓。
朱桓は何故か動きを止めている。そしてこちらに向かってくる呂布の気配を感じると、走り出す。それは、まるで呂布をどこかへ誘うような動きだった。
141合肥新城は雨のち爆煙2/4:2006/08/11(金) 00:05:33
太史慈の無駄無駄ラッシュをくらった後、朱桓は、複雑に入り組んだ合肥新城へと辿り着いた。
そして朱桓はここに迷い込んできた者を狩るために、合肥新城内のいくつかのポイントに、地雷を仕掛け、自らを餌として、合肥新城の城門前で待ち受けていたのだった。
(しかし、あないな大物が掛かるとはなぁ…)
予想外の獲物が現れた事、そしてその獲物の尋常ではない覇気にあてられ、朱桓は内心戦慄していた。
「逃げるな腰抜けぇ!」
後ろから聞こえる怒号にしっかりとついてきている事を確認しつつ、朱桓は地雷の一つが仕掛けてあるポイントへとたどり着いた。
(よし、後は地雷の部分を飛び越えれば…)
地雷がある部分を飛び越えようとしたその時、軽い破裂音が響き朱桓はバランスを崩した。
「へ?」
自分に起こった事が理解できないまま、朱桓は地雷が設置されていた場所に倒れ、爆炎につつまれた。
「ふむ、貴様の策、成功したようだな」
ぶすぶすと煙の上がる爆心地を尻目に、少し離れた場所から、呂布がドラグノフを構えた諸葛瑾を見やった。
142合肥新城は雨のち爆煙3/4:2006/08/11(金) 00:06:10
時間は諸葛瑾が呂布を呼び止めた時間に遡る
「なんだ?」
「これは罠の危険性があります」
殺気を放っていたにも拘らず、荷物も持たずにすぐ逃げ出した朱桓に、諸葛瑾は罠の気配を感じていた。諸葛瑾は続ける。
「荷物も持たない男が殺気を放つとは、あの男らしからぬ行為です。そして、あの男は私の支給品であった、地雷という、設置式の爆弾を所持しております。
恐らくこれは、追ってきた者を労せず殺す為の罠かと。」
諸葛瑾の進言に呂布は鼻を鳴らして答える
「ふん、そのような罠なぞ蹴散らしてくれる」
「呂布殿、あまり、自分の力を過信めされるな」
諸葛瑾の言葉に呂布の目が鋭くなり、諸葛瑾の喉元に、青龍偃月刀の切っ先が触れる。
「今、何と言った?」
怒気と殺気をはらんだ瞳に臆する事なく、諸葛瑾は答える。
「あの地雷というもの。私の弟も作成した事があります。故にその破壊力は私もよく知っております。あれを踏めば、最低でも片足を失います。
呂布殿。呂布殿はこの殺し合いでお亡くなりになられたお仲間の仇を討つ、という志を持っております。その志を、ここで潰えさせてしまうおつもりか?
どのような策も蹴散らす。それが呂布殿の戦い方であろうと、むざむざ火に飛び込もうとする者を、この諸葛瑾、放っておく訳にはいきませぬ」
逆に、睨み返す諸葛瑾。沈黙が辺りを包む。
「…策を言え。驢馬」
沈黙をその一言が破る。
143合肥新城は雨のち爆煙4/4:2006/08/11(金) 00:07:14
作戦は至って単純だった。朱桓の罠に掛かった振りをし、呂布が朱桓を追い、朱桓が呂布に地雷を踏ませる為に地雷を避けるような動きをした時に、諸葛瑾が狙撃する。ただそれだけだった。
「しかし、確かになかなかの威力だ」
地雷の跡を見ながら呂布が呟く。
「長居は無用ですぞ呂布殿。どこに地雷があるかわかりませぬ。ここは元来た道を辿り、直ちに合肥新城を抜けましょう」
「そうだな」
それだけを言うと呂布は諸葛瑾を担ぎ上げ、呂布は合肥新城を出た。
「驢馬」
道中、そっぽを向きながら呂布は諸葛瑾の呼んだ。
「…礼をいう」
それを聞いた諸葛瑾は笑って答える。
「いえいえ、武官を補佐するのが文官の務めですから」
諸葛瑾の答えに笑みを浮かべ、呂布は北へと歩を進める。
「ただ、感謝しているのであれば、驢馬は止めて欲しいですな。私には諸葛瑾という名が…」
「貴様は驢馬で充分だ」
「とほほ…」
苦笑を浮かべ、諸葛瑾は雨雲の広がる空を仰いだ。

【朱桓:死亡確認】
<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
@呂布[肩の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】
@諸葛瑾【なし】
※関羽達と戦う為、楊州を北上。幽州・桜桑村を目指します。現在地は合肥。
また、呂布は貂蝉と陳宮を殺した人間が判明した場合、優先的に狙います
※合肥新城は地雷が埋まっています。残り四個
※朱桓の残りの支給品は合肥新城のどこかにあります
144長者の風とか多分嘘 1/3:2006/08/11(金) 03:21:30
「と、言う訳で道に迷ったわけなのだが。」
「何が『と、言う訳』なのかまるでさっぱり分からないのですが。
 ・・・ここ、何処ですか?何処なんですか?ねえ太史慈殿!!?」


太史慈。字は子義。
李典。字は曼成。
曹魏、そして孫呉が誇る名将中の名将二名は今、何故か益州に居た。
145長者の風とか多分嘘 2/3:2006/08/11(金) 03:22:12
益州は成都。
かつては、劉備玄徳という男がその徳と力を持って蜀漢を立ち上げた天命の地である。
道々には活気に満ちた町人の声が響き渡り、貧しくも、その正当性を信じた義士たちが集う街。
その都も今では、静かに鳥の声が囁くのみである。・・・はずだったのだが。
「言いましたよね私言いましたよねちょっと前に言ったばっかですよね私!?
 取りあえず呉郡周辺で貴公のお知り合いを探しましょうって!」
・・・・・・成都には李典の悲壮な声が響き渡っていた。
そう。それは二日目の夜の事だ。
現在地は楊州。ならば、しばらくはこの辺で探索し、太史慈の知る信頼できる将を探して
主催者に対抗する為の仲間になってくれるよう説得する。
それが、二人が立てた作戦であった。
なのに。なのに、気づいたら。
「何処なんだろうなぁ此処。」
「落ち着いてる場合かァこの張遼ォオ!!とっとと現在地を確認して作戦を立て直しますぞ!」
「あ、ああ・・・分かった。その辺回ってくる・・・(って、なぜ張遼・・・?)」
張遼、字は文遠。魏の名将であり、誉れ高き五大将の筆頭格である。
それは即ち、外性武官筆頭ということでも有り、その勇名は他国にも響き渡っていた。
合肥においては呉軍をメタくそに打ち破り、お陰で孫権は張遼恐怖症になり。
兎角、呉の鬼門とも言うべき男である。
しかし何故今その名を口にされたのか。太史慈には、さっぱり理解できなかったわけで。
「おい、あっちに『おいでませ!成都』って書いてあったぞ。
 ・・・・・・なぁ。ところでお前さっきは何で張りょ、」
「え?生ゴミが何か?」
地図から眼を上げた彼の顔は、驚くほど輝かしかった。
「な、なま・・・?」
「あ、申し訳御座らん・・・あんなのと一緒にされちゃあ生ゴミが可哀想ですな。
 汚物!汚物でいいですあれは。ああでもそれでは汚物に失礼か・・・。」
(・・・取りあえず、『張遼』という単語が彼にとって最高の悪口なのだという事は把握した。)
呉将にも、色々居たのだ。魏将もまた色々。こんな奴も居ておかしくは無い。
それにこう言いながらも、張遼が放送にのればまた、この男は嘆くのだろう。
未だ『張遼を何に例えるか脳内会議』の結論が出ぬらしい李典の横顔を見て、太史慈は微笑んだ。
まったく、やれやれだぜ。
146長者の風とか多分嘘 3/3:2006/08/11(金) 03:23:01
張遼・楽進・李典。
俗に『合肥守将トリオ』と呼ばれる三将は、互いに凄まじく仲が悪かった。
魏志には堂々と、そう記されている。




<<子義マンセー/2名>> 『現在地 益州・成都』
太史慈[スタンド使い]【ジョジョの奇妙な冒険全巻】李典【SPAS12】
※太史慈は全ての言語を理解できるスタンド能力(名称募集中)を得ています。
 ですが理解した内容を翻訳して他者に伝えるのは困難なようです。
※成都の民家内で今後どうするのかを相談中。
※協力できる仲間を探しています。
147MERCY and HAPPINESS 1/6:2006/08/11(金) 03:34:13
【Disfragmentation】
あまりにも突然な、あっという間の出来事で、状況を把握するだけでも苦心した爆風の跡。
突如飛来した弾頭に陳宮がその命を奪われ、他の者も傷を追った。

油断があった故の事だが、完全に不意を突かれた。陳宮はほぼ即死、それを庇おうとした姜維も重傷を負う。
結局二進も三進も行かず佇んでいた。平たく言うと、彼らはとても混乱していて、疲れていた。
落ち着くまで誰とも遭遇しなかったのは不幸中の幸いと言えよう。

ややあって全員が落ち着いてくると、見るも無残な陳宮の姿と、方々に散らばった道具の類に改めて気付く。
四人は先ず、陳宮を茂みの奥に移動させ、木の葉や草で覆い隠した。辺りの土は乾いて固く、それを掘る道具もなかったからだ。
(董卓を放置したのは単に気が回らなかったようで、他意はない)
そして、気休め程度に傷の手当てをする。勿論道具などない。文字通り気休めでしかないが、しないよりは遥かにマシだった。
それが終わると、周囲のアイテム諸々を片付け始めた。失われたものもあれば、残されたものもあり、それは各々が拾った。
昨日殆ど手を付けられなかった為に食料もまだ残っていたが、とても食指が動く気分ではなかった。

陸遜は少し離れたところでその姿を保っていた紅い花を見つける。それはかつて陳宮が腰に着けていたものの一部である。
(本来頭に着ける物のような気がしたが敢えて突っ込まなかった。)僅かに焦げていたが、まるで咲き誇るように残っていたのは
奇跡とも思えた。何かの守り神でも宿っているような気がして、陸遜はそれを拾った。

武器を分配する段において、姜維は最初頑なに武器を持つ事を拒んでいたが、ふとミョルニルに目を留める。
誰が試しても静電気すら起きなかったミョルニルをおもむろに手に取り、暫し眺めた後、何か思うところがあったらしく、
私が持っていても宜しいですか? と皆に同意を求めた。無論、反対する者はなかった。
148MERCY and HAPPINESS 2/6:2006/08/11(金) 03:35:56
【香水のひ・み・つ】
司馬懿がとある物に気付く。運良く燃え残った陳宮の鞄だ。
中を探ってみると、上部に突起の付いた小さな瓶が入っていた。試しに押してみると、霧のようなものが噴出した。
清々しい香りが漂う。しばしば陳宮の周りに漂っていた匂いであった。
それを嗅いだら、何だかとっても幸せな気分になって来た。今までの苦労など何処かに吹き飛んでしまいそうな程に。
「むう、この中に入っている水を嗅ぐと、どうやらとても気持ちが落ち着くようだな。ははははは、もうどうでも良いわ」
それは落ち着くのとはちょっと違うんじゃ、と突っ込もうとした馬岱の鼻先に、司馬懿が小瓶の霧を吹き付けた。
「ふはははは、貴様もその辛気臭い顔をどうにかせぬか、ほれ」
霧を手で払ったが若干吸い込んでしまった馬岱は、何故か一層不機嫌な顔になった。しかしその直後、顔と手の甲を掻き始めた。
「何か痒いんだけど……」
見れば鼻と腕に湿疹のようなものが出来ている。
その様子を見ていた司馬懿は少し考え、そして結論に至る。
「ふむ、どうやら貴様はこの水が体質に合わぬようだな」
「合わぬようだ、ってそれで済まさないでくれよ、痒くてしょうがないだろ!?」
「ふはははは、少々強く吹きすぎたようだな」
司馬懿は豪快に笑うが、馬岱の方は今にも泣きそう且つキレそうだ。妙にイライラして、次の瞬間、右の拳が――

ばきっ。
「馬鹿者、何をする!」
「何をって、アンタが悪いんじゃないかよ! どうにかしてくれよ、このぽつぽつとかぁ!」
「……ううむ、貴様が何かとキレ易いのはこの水が原因だったか……」
左頬を押さえながら司馬懿はぶつぶつとひとりごちた。
149MERCY and HAPPINESS 3/6:2006/08/11(金) 03:37:13
【手を伸ばせば届きそうなところに】
「……はっ、もしかすると、この香る霧を浴び続けていたら我々も陳宮どのの様に『魔女っ子』になれるかも知れんな!」
「なれる訳ねぇだろ! て言うか、 な り た い のかよ!?」
こればかりは声に出して馬岱は突っ込んだ。
「何を言うか凡愚め、魔女っ子になればミョルニルが使えるようになるかも知れないではないか!」
「それは大いに判るが、もしなれるとしてもさすがにアンタは止めとけよ」
「な、なんだと、それはどういう意味」
「はい、はい、そこまで、どうどう」
傍観していた陸遜が間に割って入った。彼は司馬懿の手から香水瓶をもぎ取り、
「それにしても、これは使いようによっては下手な武器より強力かも知れませんよ。大体、誰もが予測し得ないですからね、
 ただの霧吹きと思いきや、このような効果がある……なんてね。なるほど、そういうことでしたか」
「何がだ」
「どう見ても武器じゃない道具を支給されていた件について、ですよ。最初に気にされていたのは馬岱さんですよ、お忘れですか?」
「いや……覚えてたけど」
香水瓶を見つめて大袈裟に納得する陸遜に指摘されるまで、馬岱は自分が指摘したことについては忘れかけていた。
「普通じゃない――武器としての用を為さない諸々の存在は、使い方に工夫が要る、つまり力だけでは生き残れない、
 ということを言われているのではないか、と僕は思いますね。
 単純な膂力や生命力だけではなく、知識や判断力なども問われている、と考えるのが妥当です」
得意気に語る陸遜を見て、こいつもハッピーミスト食らってんのかな、と馬岱は思ったが、言われてみれば彼の推測は
ほぼ理に適っているものに感じられた。

単純な殺し合いではなく、機転を利かせられる者が求められている。目的は見当が付いた。あとはそれが示す『動機』に、
もう少しで届きそうな気がするのに。手を伸ばせばそこに真実があるような気がするのに――それは、まだ見えない。
150MERCY and HAPPINESS 4/6:2006/08/11(金) 03:38:37
【Encountering】
「……ん? 誰かこっちに来る」
馬岱がこちらにゆっくりと近づきつつある人影に気付く。どうやらここでの戦闘の跡を探して来たようだ。ずっと気にして見ていたが、
その顔が判別できる距離まで近くなると――それは馬超である訳だが、
「アレは……アニキじゃないか! ちょっと様子を見てくる」
言うが早いが、馬岱はひとりで走って行ってしまった。思わず司馬懿と陸遜は顔を見合わせるが、やがて完全に遭遇状態と
なったふたりがとても親しげだったので、半ば安心したのだった。馬超を連れて戻って来た馬岱は、疑問に先回りして、
こちらは兄上――本当は従兄ですが――と説明した。

「岱が無事そうで何よりだ」
「兄上こそ」
言葉は少なくとも、その内に込められたものは互いに感じ取る事が出来た。馬超は馬岱の消息が気になっていたから、
素直に嬉しかったのだ。馬岱としても、最後に見たときと比べて馬超があまり乗り気ではなくなっているように見受けられ、
こっそりと安堵した。あとは状況を確認さえ出来てしまえば、脳裏に浮かんだ不安など霧散してしまう。
そう、状況を確認さえ出来れば。
それを問われて、馬岱は手短に昨晩の事と現状を説明する。俄かに馬超の顔が曇る。自分の事は棚に上げて、述懐する。

 やはりここは戦場なのか。限りなく面妖な世界でありながら、常に死と隣り合わせなのだ。ならば尚の事、
 私は岱の傍にいるべきだろうか。

その旨を皆に伝えると、勿論馬岱は快諾したが、奇妙な事に陸遜と司馬懿も即答で承諾した。不思議に思って馬超が問うと、
多くの人間、とりわけ様々な陣営の人間が寄り集まるという事は、確かに敵を増やすことにもなるが、味方も増えるものなのだと。
ましてや、我々の目的は「ただ生き残る事」ではなく、「真相を突き止める」ことだから、頭数は多い方が有り難いのです、
と陸遜は答えた。さらに、この状況下では少しでも信頼に足る方が良い、例えば誰かひとりととても親しいとか……と付け加えた。
(それに、今あなたを敵に回すのはリスクが大きすぎます、と、これは頭の中だけで呟いた)
151MERCY and HAPPINESS 5/6:2006/08/11(金) 03:40:27
【Innocent Wish】
そうと決まれば、もともと行き先は決まっていたようなものだったし、これ以上ここにいても意味も無い。
どうせ同じく危険を伴うなら、早速準備をして移動した方が良さそうだ、という結論に至る。
「とりあえず、そこの馬鹿者を叩き起こせ」
と言って、司馬懿はミョルニルを抱えたまま眠っている姜維の肩をぺたぺたと叩く。頭を叩かないのは一応良心か。
あの、姜維さんは寝てるんじゃなくて気絶――陸遜が突っ込もうとしたのは当然無視した。
ここのところの悪夢に苛まれる様子は微塵も見せずに緩やかに目を開けた姜維の脇で、立て膝で視線を落とした司馬懿は、
「ようやく起きたか馬鹿めが。……今日はうなされてなかったようだな」
と。言い回しは辛辣だが、後に振り返って陸遜が言うことには、声色はこの上なく心配そうだったという。

優しい夢を見ました、と姜維は言った。言葉尻に疑問を投げかける皆の視線を受けて、更にこう繋いだ。
「誰かが――誰かは判らないんですが、“もう自分の為に無闇に人を殺してくれるな”と、私に語りかけるのです。
 その声を聞いていたら、今まで渦巻いていた厭な気持ちがすっと消えて行くようでした」
本当に表情は穏やかそうだったが、容態そのものはどう見ても宜しくなさそうだ。
それについて率直に司馬懿が聞くと、僅かに首を左右に振り、ぼそっと言った。
私は魏延どのにどうしても問いたいことがあるのです。それまでは――。それだけを言って、再び彼の意識は落ちてしまった。
今度は呼び掛けても強く刺激を与えても目覚める様子がない。穏やかな呼吸がその命の在り処を示してはいるが、思わしくは無い。

仕方が無いですね、と言うや否や、陸遜と馬岱と馬超は無理矢理司馬懿の背に姜維の身体を背負わせて、
「……ってちょっと待て、何故私なのかッ!? 私は力仕事など向かん! ちょ、待……重ーっ!」
「判って無いですね、馬岱さんと馬超さんは敵に遭遇した時に武器が持てないと困るでしょ?」
「それは判るが、それをいうならお前もじゃないのか陸遜ッ!? おのれ、待て……」


明けぬ夜はない。今朝も例に漏れず、既に夜は明けていた。
152MERCY and HAPPINESS 6/6:2006/08/11(金) 03:41:41
「そういえば、我々の外見年齢から察するに、世代考証が滅茶苦茶ですね……不自然ですよねぇ」
そんな疑問が陸遜の脳裏を掠ったが、とにかく何もかもが可笑しな世界にあって、それはさして重要な事ではないな、と思った。


<<めるへんカルテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷、若干幸せ?]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×4)】
姜維[昏睡、頭部損傷]【魔法のステッキミョルニル】※容態は芳しくないです。
馬岱[軽症、香水アレルギー(顔及び手に発疹)]【シャムシール・ロープ・投げナイフ×20】
司馬懿[軽傷、かなり幸せ]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水】※陳宮の鞄を所持しています。
※「もう5人で歌えない」ということでユニット名が変更になりました。
 「そもそも既にめるへんな人がいないんじゃないのか」とか「まだ4人で歌う気か」とかは禁句。
※ジャベリンは馬超が持っています。
※ミョルニルは、魔法のステッキと化した時点で魔女っ子しか使えない(=現時点で誰も使えない)ので、
 現在はただのファンシーなステッキです。殴ったらそれなりに痛いかも知れません。
※香水(ゴスロリセットの一部)は、嗅ぐとハッピーな気分になれる成分が含まれています。但し、稀に体質に合わない場合があり、
 その場合は発疹が出たり、怒りっぽくなったりします。ちなみに浴び続けていると魔女っ子になれ……る訳が無い。司馬懿は試す気満々です。

@馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー、ジャベリン】
※カルテット(というか馬岱)に同行します。現時点では好意的です。


※いよいよ益州へ。誰かがいるかも知れないと信じて、漢中を経由して南下の予定です。本日中には着けるかな?
 移動速度は極めて遅いです。今好戦的な誰かに遭遇すると大変ピンチです。
153幼い想い 1/8:2006/08/11(金) 05:07:27
今は夜。しかし夜のいつだろう。
曹幹につれられこの民家に入ってから、もうずいぶんの時が経っているかのように感じる。
三日目なのか四日目なのかも釈然としてない。
曹幹の支給品であるらしい白い鳩は、もう眠りに落ちていた。
だが華雄と曹幹、そして曹丕には眠ることはとうていできそうにない。
外に降り続ける豪雨の音はうるさかったし、敵が来るかもしれない、という不安もある。
だがそれらよりもずっと、曹丕の容態が第一だった。
肩の傷から病原が入ってきたのであろう。
体は紅潮し、肌はさわり続けていれば火傷するのではないのかと熱く、意識は朦朧で、目は虚空を見つめている。
華雄の存在をわかっているかもどうかすら定かではない。
ときおり全身から絞り出される、かすかな、しかし十分に苦しさを感じ取れるうめき声を聞くたびに、
曹幹はただ純粋に、彼を想った言葉で呼びかける。
とおさま、とおさま、しっかりして、くるしまないで、とおさま――
曹丕はわかっているのか、いないのか、曹幹の声を聞くと、少し落ち着きはじめる。
ただ、時が経つにつれて、曹丕が苦しむ頻度――いや、つねに苦しんでいるのだろうが――は多くなっていった。
そんな状態では、まったく寝ることはできない。
華雄には、汗を拭くことと、手ぬぐいを替えることと、見守ることしかできない。悪くなっていく曹丕の容態に、不安は徐々に大きくなっていく。
「水だ………」
曹丕が、弱々しく呟いたのは、その不安が破裂しそうになった時だった。
それはうめき声ともわからず、豪雨の音にかき消されかけていたが、次にいった言葉は、確かに文字をなしていた。
「水が来る……早く……弟を………」
「とおさま!」
曹丕は、自分の存在を認識しているようだった。
弟と、とおさまという掛け合いは矛盾しているように思えたが、今は曹丕の言葉を理解するのが先だ。
154幼い想い 2/8:2006/08/11(金) 05:08:35
「水とはなんだ? 水が来る、とは」
しかし曹丕は、もうしゃべれないようで、またもとの様子へ戻った。
曹幹が勢いよく立ち上がった。
「おいしゃさま! とおさまをつれてって! みずがくる!」
だから水とはなんなのだ、と思いつつも曹幹の語気には鬼気迫ったものが感じとれ、華雄は曹丕の体を持ち上げ、背負った。
もしや、水とは……まさに文字通りだが……
背負われた曹丕が、呟いた。
「わ…わたしの……ことは………」
そこで途切れたが、華雄は曹丕が言わんとしていることはわかった。なんという親子愛だろうか。いや、兄弟愛?
まあこれを聞き入れれば、曹幹に殺されかねないのでしないが。
民家の戸を開け、外に出る。豪雨が容赦なく華雄と曹丕を打ち付けた。家の中を見れば、曹幹が鳩を抱えて走って来る所だった。
水が迫り来る音は、もう華雄にも聞こえていた。

まったく不運だ。
まず、AK47カラシニコフを失ったのが第一の不運だ。
あの長い銃は、よく于禁の腕になじんでくれた。
さわり心地は悪くなかったし、見た目も落ち着きがあって于禁は好きだった。当てようと思えば、よく当たってくれた。
あれがないと、なにかそわそわした気になる。
代わりに、カラシニコフと比べるとかなり短い銃(なのか?)を二丁拾ったが、なんだかこれは、持ってると馬鹿になってくる気がする。
銃に走っている赤い線も気持ち悪いし、手にもなじまない。
試し打ちもしたが、「うおっまぶしっ」となんら脈絡もないことをなぜか口走ってしまった。性能は問題なさそうだったが。
第二の不運は、鄴城に入った途端、いきなり洪水が襲ってきたことだった。
155幼い想い 3/8:2006/08/11(金) 05:09:37
曹幹が放った鳩は、この豪雨の中で信じられない力強さで空を飛び上がり、悠然と城の上空を飛び去っていった。
鳩がもし地上の風景を見下ろせば、それが見えただろう。
囂々と、迫り来る水の大群。城壁が水を受け止め、跳ね返す。しかし開け放たれていた城門からは、水が次々突入していった。
華雄たちがいるのは中心部に近い民家の集まりで、城壁に登ろうにも、距離があった。
華雄は今まで中にいた民家の屋根を見上げた。高さは大人二人分ほどか。これならいける。
「意地でもしがみつけ!」
といって、華雄は曹幹を屋根にぶん投げた。放射線を描いて屋根の上に落下し、転げ落ちずにしがみついたのを見届けると、華雄は家の中から急いで食事台を持ってきた。
台の上に乗って、飛ぶ。腕が屋根の上に届き、掴み、自分と曹丕の体を持ち上げきった。
屋根の上から、水が城に流れて来るのが見える。力強い流れだったが、ゆっくりと眺めている暇はない。
曹幹を持ち上げ、そばの別の屋根に投げる。今乗っている民家の半分ほど高かった。華雄も続いて跳躍する。
しかしそれ以上は、逃げ場がなかった。
水が、来る。
水の勢いはさほど激しくなく、民家を壊すほどではなかった。だが、屋根の端を越えるまで水位はあった。
水は入り続けているから、もっと水位は上がるだろう。
雨が水を打つ音と水流音に混じって、曹幹のツバを飲む音が聞こえてきた。この期になっても泣こうとしないとは、えらい子だ。
ふと、水とともに、遠くから太い流木が流れてくるのが目についた。
根本から抜けたようで、荒々しく伸びた太い根は存在感があった。
その木が流れにのって近づいてくる。表面の木の皮がとげとげしく、痛そうだな、と思ったが、何をどう考えても、すがるべきものはそれしかなかった。
曹幹もわかっているようで、こちらと流木を交互に見つめている。
流木は近づいてくる。水位は上がってくる。
水が屋根のほとんどを飲み込んだ時、流木はもう目と鼻と先だった。
「飛べ!」
華雄は流れゆく流木へ跳躍した。左腕で曹丕を押さえながら、右腕で幹にかじりついた。下半身が水に落ち沈み、その流れに危うく曹丕を離しそうになる。
直後、曹幹がいないことに気が付いた。流されたか? いや………
156幼い想い 4/8:2006/08/11(金) 05:12:36
急いで曹丕の体を幹に乗せ上げ、吹毛剣を引き抜く。曹丕の右肩の傷跡に、剣を突き立てた。曹丕の肩とともに、下の幹をも貫く。
曹丕は呻きもしなかった。意識はあるはずだが、呻くだけの体力がないのか、感覚に鈍くなっているのか。
曹丕を一時でも押さえないでいい分、左腕が余った。左腕で、水中で必死に自分の脚にしがみついていた曹幹を引き上げる。
曹幹は曹丕の隣に乗せ、そのまま左腕で曹丕と曹幹を幹に押さえつける。剣は曹丕の右肩に突き刺さったままだが、曹丕の体を流さないためには必要だ。
曹幹は剣に気が付いて、華雄を責めるような目でみる。そうしなければ、自分か曹丕かが助からなかったことに気が付かないのか。
それとも、『とおさま』をこれ以上苦しめるより、自分が死んだ方がよかったというのか。

三人は長い時間、流木とともに城内を流れていた。
雨は徐々に止んでいった。しかし水の勢いは変わっていない。
さすがの華雄も、水流にかなりの体力を奪われた。曹幹は憔悴して虚ろになりかけ、曹丕は顔が真っ青になっていた。一応、死んでいない。
まだ水没しきっていない建物も少なくなく、中でも、巨大な銅雀像を備え付けた台は、堂々とそびえ立っているように見える。
そう運良くたどり着けはしないはしないだろうが。
いつ水流に呑まれるかもわからない状況、華雄は苦い実を噛み潰すかのような心境だった。
そんな心境にそぐわぬ、間の抜けた陽気な鳴き声が、突然聞こえてきた。
ぽーぽー ぽっぽー ぽーぽー ぽー
それまでぐったりしきっていた曹幹が、がばっと顔を上げた。鳴き声は上空から聞こえてきたので、華雄は空を見上げる。
ぽーぽー ぽーぽっぽー ぽーぽーぽー
黒い空を背景に、白い体を輝かす鳥は、曹幹が放した白鳩だった。いや、出て行ったのだから違うのかもしれないが、少なくとも曹幹はそう信じたことだろう。
ぽーぽーぽー ぽーぽっぽー ぽー
「とおさま。もうすぐだからね。もうすぐ………」
鳩に勇気付けられたのか、曹幹は曹丕に声をかけていた。しかし、その声はすぐに遮られた。何かが軽く爆発したかのような音だった。
華雄にとっては、以前に、よく耳にしていた懐かしい音だ。
そういえば、今回はまだ機関銃の音しか聞いていない。などと思っていたら、鳩が落ちてきた。
純白だったはずの体に、赤い染みが広がっていた。
157幼い想い 5/8:2006/08/11(金) 05:13:22
まったく、うるさい鳥だ。
しかし一発で撃ち落とせるとは、この銃の精度も、俺の腕も悪くはない。
于禁は忌み嫌っていた銃を、少しだけ気に入ることにし、城壁の上に座りこんだ。
城壁の上から見た光景は、一種の爽快感があった。許都には自分の家があったが、鄴都はよく偉そうに曹丕が居座っていた所だった。
その都が、水に呑まれて沈んでいく。
威光を輝かした魏の宮殿も、その大半は沈み落ちている。水面の上にあるところも、何かがぶつかったのか、所々破壊されていた。
いきなり洪水が来たときには、完全に巻き込まれて危うく死ぬ所だったが、城壁の階段に打ち上げられて今に至れば、この不運に少しは感謝することもできる。
とはいえ、不運は不運だ。
この水は当分は引かないだろうから、その間はまったく何もできない。殺すべき敵を探すこともできずに、ただじっと待っているしかないのだ。
第一、この都に曹丕がいたとすれば、もう死んでいる可能性が高い。助かることができるのは、城壁の上か、まだ水没していない建物の上部だ。
前者はもう確認した。確実にいない。後者にしても、可能性は低いと思われる。洪水はほとんど突然来たし、わざわざ入り口から遠ざかった高い場所にいる意味はない。
勝手に自然災害で死なれても、味気がない。この手で、俺が受けた苦しみも何倍にも返してやらなければ意味がないのだ。
鳩を落とした後、こちらへ向かってきている流木が目についた。この洪水で引っこ抜かれたのだろうが、立派な木だった。
流木はこちらに向かってきた後、水流によって方向転換した。その時に、見えた。
あいつだ。

華雄は城壁の上に、その男を見つけていた。
男は殺気をまきちらしながら、口を醜くゆがめ、二つの拳銃を手に取っていた。
この殺気は間違いなく、孫堅と黄忠とともに項羽と戦っていたときのものだった。
華雄は孫堅の顔を思い浮かべた。実に楽しそうな、あの死顔だ。
そういえば、俺が先に死んだときは、あいつはどうなったのだろう。優勝してもおかしくはないし、のたれ死んでもおかしくないな、と思う。
そんなことを思うのは、まあ、俺がもうすぐ死ぬからだろう、と思う。
158幼い想い 6/8:2006/08/11(金) 05:14:48
「いいか、なにがなんでも、木にしがみつけ! 医者からの最後の忠告だ!」
華雄は左腕を曹幹達から離した。曹丕が剣の固定だけで大丈夫かと心配だったが、もう余裕はない。
両腕を使って、流木に身を乗り上げ、すぐさま二人に覆い被さった。
程なく銃声が聞こえてきた。背中に、切れ味の悪い熱した刃物を、無理矢理刺されたかのような感覚が響く。
それが何回も、何回も続く。銃声と水流音に混じって、「おいしゃさま!」という声が聞こえてくる。その声のあとも、銃声は続く。
永遠に続くかとも思ったが、そのうち、銃声と新たな痛みが対応しなくなってきた。
やがて、銃声は止んだ。
「おいしゃさま!」
もう一度曹幹の声が聞こえた。とても、悲しみが籠もった声だった。
傷は、いくつあるだろうか? 十以上はある。二十以上あるだろうか。三十以上あって、四十以上もあるかもしれない。わからない。
「しなないで!」
また曹幹の声が聞こえた。泣いている声だった。それで、この子供は、この子供なりに、自分の状況を理解しているのだろうとわかった。
自分が今、何のためにここにいるのか、それをきっと理解している。理解した上で、何をすべきかを考え、最善を尽くしている。
危険を承知で、医者を捜し、危機にあっても、純粋に『とおさま』を想う。
お前は、俺よりもずっと立派だ。そう言おうとしたが、声にならなかった。
何かにぶつかる衝撃があって、自分の体が、宙に浮くのが感じられた。
「おいしゃさま!」
それが最後に聞こえた曹幹の声。華雄は水面に叩きつけられるのと同時に、孫堅の跡を追った。
159幼い想い 7/8:2006/08/11(金) 05:15:22
殺せたか、殺せなかったか。あるいは死んでいたか。
流木の上に現れた時、曹丕はひどい状態だった。
なぜか剣が肩に刺さってたし、顔はほぼ死人だった。
もう長くはない。というより、死んでるかもしれない。どっちみち、あの流木にしがみついてるだけでは、水に呑まれるに決まっている。
それでも殺してやりたかった。死んでも殺してやりたかった。だから撃ちまくった。
曹丕を殺せたかは、大男に庇われたため、判断がつかない。
このまま、死亡者放送に曹丕の名前があったとしても、胸には釈然としないものが残るにちがいない。その場合は、怒りをどこに向ければいいのか。
まず、曹丕の死体を探し出して、弾を使い切るまで撃ってやろう。山刀で、何度も何度も切り裂こう。
だが、怒りは残る。
虞翻は探し出して、殺す。関羽も探し出して、殺す。だがそれで、怒りが消えるとも思えない。
俺はどうなる?
典韋を殺したように、あらゆる人間を殺しそうな気がする。
劉備も、孫権も、曹操も、殺しそうな気がする。荀攸も、張コウも殺しそうな気がする。
参加者リストの端から端まで、殺しそうな気がする。優勝したら、献帝だって殺しそうだ。
それは、少し、恐ろしいことのような気がする。
流木が去っていった方向を見つめる。何かが、一瞬、光った。

曹幹はするべきことを知っていた。
まず、曹丕を流木に刺し留めていた剣を抜くことにする。
剣はたいして重くもなく、曹幹の手にもするりと抜けた。不思議なことに、血はついていなかった。
剣を脇に置くと、肩に巻かれていた血まみれの湿布を外す。傷から血が流れ続けているのがわかる。
流れる水をすくい上げ、傷口を洗う。
華雄から貰っていた薬草を服の中から取り出すと、木の破片を使って磨り潰し、傷に塗る。
次に上半身の服を脱ぎ、服の一番綺麗な場所を選んで、剣で切り取る。それを、傷口の上に巻く。
曹丕の濡れた体を、手で拭う。延々とその作業を続ける。
曹丕の体は高熱を発さなくなったかわりに、ひどく冷たくなっていた。だから曹幹は拭い終えると、まだ暖かい自分の体を、曹丕にくっつけた。
「とおさま、しなないで。とおさま、幹はここにいるよ。とおさま、だから、しなないで………」
曹丕はもう呻かなかったし、意識もなかった。ヒュウ、ヒュウ、と口から風が出入りするだけだった。
160幼い想い 8/8:2006/08/11(金) 05:16:04
<<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>>
曹丕[右肩負傷・ひどい衰弱]【なし】曹幹【吹毛剣】
※流木は銅雀台に乗り上がったようです。曹丕の回復を待ちます。
※他の荷物はすべて流されたようです。

@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳?]【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×25)】
※鄴城壁上にいます。水が引いたら、曹丕を探すようです。

【華雄 死亡確認】
161炎の女神と傀儡の軍師 1/8:2006/08/11(金) 13:48:55
「アンタ、ぼやぼやしてないで暇なら兎か猪でも捕まえて来とくれよ」
「いや、だがなぁ、その間にお前に何かあったらと思うと」
「アタシを誰だと思ってんだい? この祝融様がそんじょそこらの男どもに負けるはずがないよ。
 女に飯食わせるのが男の甲斐性ってモンだろ」
一日目に兎を捕まえたおかげで節約できたパンという食料も、もう底をつこうとしていた。
南の物であれば食用の植物も少しは分かるのだが、漢の植物は見たこともないものばかりで、
さすがに口に入れようという気にはなれない。
動物の肉はどこのものでも普通食えるだろう、と考えた祝融に尻をはたかれ、
孟獲は素手はきついなあとぼやきながらもサーマルゴーグルを手に立ち上がった。
―――その瞬間、孟獲は急に真剣な目付きになり、祝融を庇うように手を広げた。
「そこに居るのは誰だ! こそこそしてないで出て来い!」
夫が叫ぶ一瞬前まで木の陰に何者かが居る気配に気付けなかった祝融は、自分の不甲斐なさに憤慨すると同時に
やっぱりうちの人は頼りになるねぇ、と改めて夫に惚れ直す。
この人に出会うまではどの男も自分より弱っちくて、そんな弱者にいつかは嫁がなくてはならない女に生まれた事を心底嘆いたものだ。
がさがさ、と音がして、孟獲がにらむ方から2人の青年が姿を現した。
前に居る方は良く言えば賢そう、悪く言えば小生意気そうな文官。
その後ろに付き従うように付いてくるのはおそらく武官だろう。
雑魚というほど弱そうではないけど、こんな小僧ではうちの人に敵いっこないね、と祝融は思う。
ふたりとも敵意はないと表すように両手を軽く上げている。
しかし武官が腰から下げている長い棒、あれはおそらく銃だ。
油断は禁物、そして出来ればあれを奪いたい。
162炎の女神と傀儡の軍師 2/8:2006/08/11(金) 13:51:11
「孟獲殿と祝融夫人とお見受けしました。私は諸葛亮先生の弟子で馬謖と申します」
文官の方が拱手して笑顔を浮かべながら言う。
「お二方の御武勇は先生からよく伺っています。お目にかかることができ、光栄に存じます」
「諸葛の先生のお弟子さんかァ! 道理で頭良さそうな顔してると思ったぜ」
孟獲ががっはっは、と豪快な笑い声を上げながらぐりぐりと馬謖の頭を撫ぜた。
アンタ何いきなりそんな信用しちゃってるんだい? しっかりおしよ。
祝融は心の中で溜息をついた。旦那は腕っ節が強い代わりに頭はあまり回らない。
まあいい。夫の足りぬ部分を補う事こそ妻の務めだ。
「これは私の部下で凌統と申します。ここまで2人で旅をして参りましたが、
 見ての通りお2人のように武に通じているとはいいがたく」
凌統と言うらしい武官が若干不服そうな顔をしたが、孟獲との体格差は自覚しているのか無言で拱手した。
「もし宜しければ、お2人のお力をお借りしたいと思いまかりこしました。
 凌統とて全く使えぬというわけではありませんし、私の知識はお2人の武勇があれば生かせる場面もあると存じます」
「ふ〜む? つまり、智恵を貸すから俺たちに守って欲しいって事かい?」
「はい、そういうことでございます。弱き者が強き者に縋るは自然の理。
 もちろん我々が足手纏いになったときは、遠慮なく切り捨てていただいて構いません」
漢人ではあるが、自分達を南蛮の蛮人と馬鹿にする態度がないのは物が分かっている証拠であろう。
あの諸葛亮の弟子というのが本当であれば頭も良いはずだ。
「かぁちゃん、どうするよ?」
祝融が抱いていた警戒心は、彼らが下手に出てきたことでほとんど霧散してしまっていた。
そう、一旦仲間になったフリをして、こいつらが寝ている間に武器を奪って逃げてしまうのもいい。
さすがに殺すのは少し可哀相だろうか。まぁ、やりようはいくらでもある。
「そうだねぇ。まぁ、いいんじゃないのかい?」
下手に出てくる者は自分より弱い者。裏切られてもすぐ殺せる。
そんな考えが通ってしまう素朴な場所に生まれ育った南国の夫婦は、そう簡単に判断してしまった。
163炎の女神と傀儡の軍師 3/8:2006/08/11(金) 13:53:45
「ふう、食った食った」
「アンタ、行儀が悪いよ。ほら、口の周りちゃんと拭いて!」
「ふふ、さすがの孟獲殿も奥方には勝てないご様子ですね」
「それを言われると辛いなァ」
凌統の手によるという焼き兎を振る舞われて、孟獲と祝融は久しぶりに人間らしい食事だと舌鼓を打った。
香り高い草をまぶしたり中に詰めて焼いたらしいそれは南にはない味で、ついついそれぞれが丸々一羽平らげてしまう。
馬謖と凌統はもう自分たちは食べたから要らないと言ったが、兎はそう簡単に捕まってくれる獣でもない。
おそらく自分達の食い扶持を削って差し出してくれたのだろう。
武器は貰って行くにしろ、殺すのだけは勘弁してやろうと祝融はこっそり思った。
食事の後は自然と歓談の時間になった。といっても、凌統は寡黙な性格らしく、
ほとんど口を開かずに少し離れて回りの様子を警戒している。
馬謖は諸葛亮が南に攻め込んできた際は留守を任されていたらしく、南の風土や文化について聞きたがった。
南にしかいない象の話や、さまざまな効能を持つ泉。色鮮やかな果物や陽気で熱い民族性。
子供のように目を輝かせて話の続きをせがむ馬謖に、ついつい調子に乗って話し続けてしまう。
凌統もやはり気になっているらしく、無言のままではあるがちらちらと視線を送ってきては
慌てて空を見上げて聞いていない振りをする。
こっちに来て聞けばいいのにねぇ。
この場にはいない息子の一人が、少しひねくれた性格ゆえに素直に話の輪に入れずに
今の凌統のような態度を取っていたのを思い出して、祝融はちょっと可笑しくなる。
「こっちへおいでよ、武官さん。アンタも一緒に話そう」
祝融の呼びかけに、凌統は一瞬顔を赤くして、「……いえ」と一言だけ発するとさらに離れた場所に行ってしまった。
あらあら、ますますあの子に似てるねぇ……。
母性本能を刺激されて祝融はくすりと笑った。
164炎の女神と傀儡の軍師 4/8:2006/08/11(金) 13:55:22
「今日はアタシ達が見張りをしてあげるよ。アンタ達はぐっすり寝な」
「いいえ、でも、祝融殿―――」
「いいっていいって。子供は寝て育つモンなんだからね」
外見上祝融はふたりよりほんの僅か年上か、という程度なのだが、母性本能を刺激されてしまった祝融にとっては
馬謖も凌統も幼い子供と同じ扱いである。
「アンタも、いいよね?」
「あぁ、かあちゃんがいいなら構わないぜ」

そんなやりとりがあったしばらく後、並んで眠る馬謖と凌統の隣、祝融は空を見上げて郷愁に浸っていた。
この遊戯とやらには参加していない子供達。一体今頃何をしているんだろうねぇ……
そんな祝融を現実に引き戻す言葉が、低く小さく孟獲から放たれた。
「かあちゃん。行くぞ」
「えっ、行く……って?」
きょとんとする祝融に、厳しい表情で孟獲が告げる。
「生き残れるのはひとりだけだ。そして俺の目的はお前を生かすことだ。
 これ以上一緒にいれば、こいつらにも情が移っちまう。……その前に去ろう」
そう。生き残れるのはひとりだけ。
そんな事は初めから判っていたはずなのに、改めて告げられて祝融は胸が重くなった。
「銃だけはもらっていこう。殺すのは嫌だから、気付かれねぇように……」
凌統が抱くようにして眠っている銃剣を抜き取ろうと、そっと手を伸ばす。
いい子だから起きないどくれよ。アンタらを殺したくはないよ……
夫婦の全神経が凌統に集中する。

―――その刹那だった。
165炎の女神と傀儡の軍師 5/8:2006/08/11(金) 13:58:08
反応できたのは孟獲だけだった。
太い棍棒のような枝が振り下ろされる。
孟獲の後頭部を狙ったそれを、太い腕でぎりぎり受け止める。
嫌な音がした。骨にひびがいったかもしれない。
振り下ろしたのは凌統でも馬謖でもない青年。
いつの間に!!
「アンタっ」
ブーメランを少し離れた場所に置いたことを悔やみつつ、徒手空拳ながら夫を援護しようとした祝融の喉元に、
光る刃が突きつけられる。
刃の先には、眠っていたはずの凌統。少し悲しそうな目。
飛び退って離れようとするが、何故か足が動かない。ふらつく、いや……これは……
足が絡み仰向けにどうっと倒れる祝融。棍棒を持つ青年に殴りかかった孟獲も、ほどなくして同じように倒れる。

「……おい起きろ馬謖。本気で寝るな馬鹿軍師」
「うーん、むにゃむにゃ、もう食べれ……いや、起きてるって」
仰向けに倒れ伏した夫婦を、起き上がった馬謖が悲しげな目で見下ろした。
「残念だ、孟獲殿、祝融夫人。武器を奪おうとさえしなければ、そのまま行かせてさしあげたかった」
「アンタたち……毒を盛ったのかい」
「あぁ。でもあんた達が明日の朝まで動かなければ、間違えて食事に毒草を混ぜてしまったと謝った上で
 解毒になる薬草を探す予定だった」
「油断したね……」
そうだ。馬謖は諸葛亮の弟子だと名乗ったではないか。
あの隙も何もない軍師に教えを請うものが、何の策もなしに近寄ってくるはずが無かったのだ。
「にしてもホント効果出るのぎりぎりでしたね〜。もうちょっと遅かったら間に合わなかったんじゃないですか?
 あ、孟獲殿、祝融殿、僕は関興、字は安国って言います、よろしく。
 ずっと木の上に居たんで、そりゃまあ隠れてたんだけど気付いてもらえなくて寂しかったです」
三人目の青年が、場違いにヘラヘラ笑いながら軽く手を上げた。
166炎の女神と傀儡の軍師 6/8:2006/08/11(金) 14:00:38
「……んで、どうするんだ馬謖。この後」
「へっ? あー、いや……考えてなかった」
「お前って絶妙に考えが浅いよな」
毒が回って動けない夫婦の頭上で3人の青年が若干間の抜けた会議を始めた。
「粗大ゴミの日に出すのはどうでしょう?」
「いや、生きてるから生ゴミだろ。じゃなくて人をゴミ言うな関興」
「そういえば燃えないゴミって生意気だと思わないか?
 燃える気が無いから燃えないんだろう。頑張ればあれ絶対燃えるぞ」
「いや中には溶けるもんも……いや馬謖真面目に考えろって」
「あっそうだ、ゴミ捨て場ってよく猫居ますよね。仔猫見せて萌え死なせるのはどうでしょう」
「猫……燃え……? よく分かんねーけど猫居ないぞ」
「じゃあチビちゃんで。仔犬でもなんとか」
どんどん脱線する馬謖と関興を定期的にどつきつつ、凌統が結論を出した。
「……殺しちゃう? すっぱりと」
途端に無言になって夫婦を見下ろした三人に、孟獲は焦った。
「いや、降参降参! おめーらには負けた! だからこのまま見逃しちゃくんねーかな」
「馬謖殿、あんな事言ってますけど」
「うーん……でもいつか牙を剥かんとも限らんし、私ら以外、特に問題は丞相や周瑜殿にも危害を加えるやも」
「いやいやいや、本当に降参だ! 南に引っ込んで誰とも戦わないことにする!
 これでいいだろ!?」
「それ、本当ですか?」
「あぁ、もう俺らは誰とも戦わねえって南の王の名にかけて誓う」
「アタシも、火の神の名に懸けて誓うよ」
全面降参を誓った夫婦に、じゃあこのまま置いてくか、と凌統と関興が思ったそのときだった。

凌統も関興も、孟獲も祝融も。四人とも優れた武人だった。
だからこそ、気付けなかった。
殺気も闘気も全く無く。顔にかかった髪を払うように、ただ無造作に。

馬謖が握った銃剣が、孟獲の首に振り下ろされた。
167炎の女神と傀儡の軍師 7/8:2006/08/11(金) 14:03:01
空気が凍る。
噴き出す赤。鉄の匂いが弾ける。
「アンタああぁぁあああああああああァ!!!!!」
酷く高い祝融の絶叫。
馬謖が孟獲の首に刺さった刃を横に払う。
飛び散る血飛沫。
返り血を浴びて、焦点の定まらない目で馬謖が笑う。
全ての動きが遅くなる。
凌統が馬謖に手を伸ばし、銃剣を奪い取る。抵抗は無い。
孟獲の口が開く。漏れる空気に音が乗る。
「…しゅく……逃げ…………」
それっきり南蛮の王は動かなくなる。
自由の利かぬ身体を意志の力だけで動かし、血の涙を流して祝融が吼える。
「貴様ぁああああアア!!!」
飛び掛る祝融。無表情で馬謖が一歩引く。
祝融の視界が白く染まる。
硬い靴の先で思いっきり顎を蹴り上げられたことを理解しないまま、
口の端から血を垂らして食い下がる。
ようやく動いた関興が、祝融をねじ伏せる。
「殺す! 殺す! 絶対に殺してやる!!
 返せ、アタシの夫を返せぇぇえええええ!!!」
馬謖が暗い目で微笑む。
「戦うか? 戦うならお前にまだ意味はある。
 私でも誰でもいい。殺せ。殺し尽くせ」
くふふふふ、と笑みを漏らしながら持ち物を拾い、馬謖は身を翻す。
そのまま暗い森へ消えていく。
彼の仲間だった2人は、戸惑いを顕にした表情で、それでも彼を追った。

後に残された祝融は血と涙を垂れ流しながら、もう動かない夫に復讐を誓った。
殺してやる。絶対に。アタシの炎で、必ず焼き尽くしてやる。
―――地の果てまで逃げ惑え。一番残酷な方法で殺してやる。馬謖!!
168炎の女神と傀儡の軍師 8/8:2006/08/11(金) 14:07:03
しばらく進んだ後、凌統と関興の目の前で突然馬謖は倒れた。
警戒しながら近寄り、呼吸を確かめる。穏やかだ。
ただ平和な、少し間抜けな顔で、馬謖は眠っているだけに見えた。
しかし孟獲の返り血が付着した服が、あくまで現実を突きつける。

「……関興」
「……はい」
「こいつ、おかしいよ。狂ってる。殺す、か?」
「本人の……本人の釈明を待ちましょう。それまでは」

重い沈黙の中、仲間のはずの馬謖を縛り上げる。
酷く暗い気分に襲われ、凌統は顔を自分の膝に埋めた。犬の母子がそっと寄り添う。
関興は祈るように手を組み、空を見上げている。
明日がとても遠く思えた。


【孟獲 死亡確認】
※ユニット<<後追う南蛮夫婦>>消滅。祝融はピンユニット化。


@祝融[毒]【なし】
※馬謖を殺す事が目的となりました
※毒の効果で二日はろくに動けません
※孟獲と祝融のアイテムは関興が持っていきました
※凌統が山菜類を祝融のすぐそばに置いていったため、餓死の心配はありません

<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】
※荊州南部と楊州南部の堺。
※暗澹とした気分で馬謖の目覚めを待ちます。
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能
169忠臣 1/2:2006/08/12(土) 02:37:44
春には、見渡す限りの美しい桃を咲かせる、豫州は[言焦]県。
此処には、三国志の最たる英雄といえる曹孟徳の、生家があった。
朱や銀で彩られた雅やかな佇まい。麗しい女人の肌を思い出させるような、白い庭園。
今でこそ、がらんどうの内部にただ一人が腰を下ろすのみだが、
その優美な面影はまるで失われては居なかった。
「―――いらっしゃいませんでした、ね・・・」
優麗な面持ちに、夕日が落ちた。気づけばもう、三日目も空が赤い。
荀イクは、緩やかに寝台から立ち上がると、左手の窓を閉めた。

そう。もう、三日目も半ばを過ぎたのだ。

私は漢室最後の忠臣、荀文若。
皇帝陛下の御望みを叶え、その無聊を慰めるために、戦う者。
なのに。
なのに、未だ三人しか殺せていないのだ。
なんと不甲斐無い。自分の余りの情けなさに、自殺したくなった。
それではいけない。何とか殺さねばと思い、真っ先に曹操を求めた
天に心を遊ばせ、期待を胸に[言焦]へとやってきたものの、しかしこの有様である。
荀イクの落胆のどれほどであった事か。
(残念です・・・)
ガリルARを愛しげに撫でる。
美しい流線型。艶の有る銃身。陛下は、私にとてもいい武器を下さった。
その期待に、応えたいと思う。応えなくては、いけない。
「曹操様だけに拘ったのがいけなかったのかもしれませんね・・・」
逆賊は、まだまだ生き残っているではないか。
劉性を頂きながら、不遜にも皇帝を名乗った蜀の逆賊、劉備。
たかが田舎の一豪族の癖に、冠を被るという大逆を犯した、呉の逆賊、孫権。
まだまだ。そう、まだまだ殺すべき者は沢山居る。
それを思うと、不思議と元気が湧いてきた。
さあ、私が頑張らなくては!
170忠臣 2/2:2006/08/12(土) 02:38:18
降り続ける雨は北を蹂躙し尽くし、段々南へと去っていく。
溢れ出した河が大地に染み込んでいくのを見て、思い出した。
悲しみの復讐者は、その本懐を遂げたのであろうか。
彼もまた、荀イクと同じ復讐者なのだ。
まったく、曹家というのは親子そろって性質が悪い。
荀イクは微笑みながら、桃仙院から抜け出した。
美しい夕焼けが目の前に広がる。血の様に、赤い夕焼けが。
ああなんて美しいのだろう。
この空のように、大地を赤く染め上げたいと思った。
そうしたら、陛下はきっと喜んでくださるから。
まずは、呉だ。
それから、蜀。そして、曹操様。
愚かしくも陛下から帝位を奪い取った彼の息子は、任せておいてもいいだろう。
自分が出張るならば、彼が失敗した後だ。
(じゃないと、可哀想ですからねっ!)
荀イクは、その影を緩やかに、赤い空へと消えた。
誰もが見惚れ、慈しんだ微笑を其処に残して。


私は漢室最後の忠臣、荀文若。
逆賊どもには等しく死の裁きを。


@荀イク[洗脳されている?]『現在地 豫州・[言焦]県・曹操の生家』
【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
※劉備、曹操、孫権を中心に、無差別に殺戮を望んでいます。
※また、ゲームに乗らない者を狙います。
 積極的にゲームに参加している者は殺しません。
 殺意はありますが冷静です。
※取りあえずは呉に向かうようです。
171趙雲1/2 1/2:2006/08/14(月) 22:50:49
雨が降り出したのは、趙雲達が幽州に入って、しばらくしてからだった。
「雨か…まいったな」
いまだ山道である。
雨になれば視界も遮られるし、足もぬかるみに取られてしまう。
この状況での戦闘は避けたいところだ。
「どこかで雨宿りしましょうか?」
魯粛が提案する。
「そうだな…」
と、話す間にも雨足は強まる。
ほどなくしてバケツをひっくり返したような大雨へと変わった。
「うわっ!」
「こりゃひでえ!姐さん、さっき見かけた崖に洞穴、が…」
裴元紹の声が止まる。
目を見開いたその表情は、何か恐ろしい物を見たかのように凍っていた。
「どうした!?敵か!」
背後に何かが現れたのかと趙雲がとっさに振り向く。
「…ぅああ?!」
今度は魯粛が素っ頓狂な声を上げる。
「?!な、なんだなんだ?!」
ひとり何が起こったかわからぬまま辺りを見回す趙雲。
「あ、あ、あねさんッ、姐さんが…俺の姐さんが―――ッッ!!」
裴元紹が雨音に負けぬ悲鳴を上げる。
172趙雲1/2 2/2:2006/08/14(月) 22:53:42
「ん?私が何だと……………おや?」
趙雲の体には、濡れたナース服がぴったりと密着していた。
そう、だから服が多少窮屈になるのも当然だろうと、気付かなかったのだ。
ぴったりと濡れた服は、がっしりとした体にまとわり付き、しっかりとした男らしい胸板の線を写していた。
胸だけでなく、腕も腰も尻さえも、服はその筋肉にひっぱられ、今にもはちきれそうで…。
そう。
そこには美女でなく、線の太い、どこぞの野球漫画の主人公のような男が、ナース服を着て…。
「ギャ――――――ッッ!!」
裴元紹は叫び、走り出した。
「お、おいどこに行く!!」
魯粛の声にも止まらない。
俺の姐さんが、姐さんが、姐さんがァァァァァ!!!!
裴元紹ブロークンハート。グッバイマイラブ。グッバイマイナース!
彼は雨をものともせず、叫びながらもと来た道を駆けて行った。
青春である。
「あ…戻った?」
当の趙雲は自分の腕や腰に手をあて、体の線を確かめると、ほっとした表情を浮かべた。
「なんだかよくわからんがとにかく良かった」
「…いや、あんまりよくない」
特に視覚的に。魯粛は目の前のあまりにも危険な趙雲の姿に、眩暈を感じていた。
こうして彼らは、ある意味新しい武器を手に入れたのであった。

<<ナースと外交才能零/2名>>
趙雲【ナース服、化粧品】魯粛【圧切長谷部】
※趙雲は男性体に戻りましたがナース服。(水を被ると男になるようです)
※幽州に入ったあたりで雨宿りをします。
裴元紹【なし】ピンユニット化
※并州の方へ駆けて行きました。
173やわらかな手 1/4:2006/08/15(火) 00:31:58
張燕から矢を受けた沮授は、その場に崩れ落ちた。
殺してくれという懇願を聞き入れず、張燕は去った。
肩の傷口から焼けるような痛みと熱さが、そのまま体に回っていった。
毒だ。
ろくに体を動かすことも出来ない。ただ唸り声を上げ、土を掻き毟るだけ。
(ああ…これがご子息を見捨てた罰なのだ)
沮授はもはや死を待つのみであった。
何も出来ぬまま、じりじりと時間だけが過ぎていく。
無限に続くかのような苦しみ。

苦しい、熱い、殿、申し訳ありません、申し訳ありません、
死にたい、死ななければ、殿、殿、殺してくれ、…誰か!!!

朦朧としていく意識の中で最後に見たのは、空から落ちる大粒の雫であった。
174やわらかな手 2/4:2006/08/15(火) 00:34:55
ふと、暖かな感触に意識が浮上した。
なんだろう…額に、髪に、頭に感じる優しくて、柔らかな…。
重い瞼を懸命に開く。
「…気がつかれましたか?」
目の前に広がる、優しい微笑み。
見たことの無い女性だ。まさか…天女?自分は死んだのか?
いや…目を凝らせば、赤く照らされた土の天井が見える。
洞窟で火を焚いている…のだろうか?
「…あなた…は…」
「蔡文姫と申します。あちらはホウ統様、劉封様」
女性は小首をかしげ、視線を横に動かす。
その方向になんとか首を動かすと、焚き火ごしに2人の男がぼんやり見えた。
「あなた…たち、が…たすけてくだ、さったの、か」
「…助けてなどないよ…雨の中から、洞窟に移しただけだからね」
それでも、あのまま道端で死体になるよりよほどいい。
女性は自分の頭を膝に乗せ、優しく頭を撫でてくれていた。
母親が子供にするように。
「お前さん、毒をくらったね。悪いが…私達に出来ることはもう何も無い」
「…でしょう、な…」
冷酷な現実を突きつけられる。だが下手に慰められるより、よほど良いと思った。
「その…せめて、何か…言い残したいことは…?」
若い男が自分のほうに膝を寄せてきた。
175やわらかな手 3/4:2006/08/15(火) 00:35:51
「……」
ゆっくりと、頭を撫で続ける手が気持ち良い。死を待つだけの自分には過ぎた対応だ。
不思議なことに、苦しみはだいぶ和らいでいた。毒が抜けたわけでもないのに。
きっと頭を撫でる手が、優しいからだ。
それはもう良いのだと、罪を赦すと言ってくれている様で。
沮授は目を瞑り、ひとつ息を吐いた。
「…私は沮授と申します」
しっかりと声に出せたので、安心して続ける。
「袁紹様に仕えておりました…ですが、私は殿のご子息を守ることをせず、自身の保身に勤めてしまった」
思い出す。あの時、身を挺してご子息を守っていれば。
…少なくともこんな後悔をすることはなかっただろうに。
「私の死は当然の物です。これは、罰なのです」
「違う、あなたは悪くない!悪いのは献帝だ!」
若者が声を荒げる。ありがとう…でも、もう良いのだ。
「ただ、殿に申し訳ございませんと。…殿のご無事をお祈りしておりますと…お伝え下さい」
「わかりました、必ず」
若者の力強い返答に安心する。

ああ、良かった。
本当に、良かった。
176やわらかな手 4/4:2006/08/15(火) 00:37:30
安心したら、なんだか気が抜けた。
「申し訳ない…このまま、少し休ませていただいてもよろしいでしょうか」
やわらかな手が、あまりにも気持ちが良くて。
「ええ…おやすみなさい」
蔡文姫が微笑んだので、ほっとして目を閉じる。
「ありがとう…おやすみ」



<<親子の面影+α/三名>>
@蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5】
@劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
@ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
※常山の洞窟で雨宿り中。


【沮授 死亡確認】
177骨肉 1/18:2006/08/16(水) 21:27:50
「西で、誰かが戦っている」
黙々と雨の中夜の道を歩いていた最中、曹彰は呟いた。
「銃の音だ。洛陽の宮中で聞いた、あの銃と同じような轟音と、それとは違う音も聞こえる。撃ち合ってるんじゃない。誰かと誰かが、同じ相手を撃っているんだ」
一方、袁紹は銃声なんてまったく聞こえていなかったので、曹彰を訝しんだ。
「妖槍に操られたあとだから、幻聴が聞こえんのも無理はないだろうが……」
曹彰は露骨に不愉快な表情を浮かべたため、曹仁が慌てて補足した。
「孟徳と孟徳の子供たちは、みんな耳が良いんだよ」
「ふぅむ、初耳だな」
なお袁紹は信じなかったが、気が付けば曹彰はどこかへと勝手に進んでいた。
「おい、曹彰! どこへ行く!」
曹彰は袁紹の呼びかけに制止し、振り向く。その顔は決意に満ちていた。
「決まってる。止めにいくんだ」
それだけ言うと、曹彰は再び進み始める。曹仁と曹洪がすぐに続き、袁紹も結局、ついていくことにした。
178骨肉 2/18:2006/08/16(水) 21:28:50
運がない。最高に運がない。
当初は阿会喃を追うことにしたのだが、途中からは阿会喃がどこにいったかわからず、ただ闇雲に歩くだけだった。
そして着いた集落で、突然襲われた。
敵は二人。しかも片方は宮廷で威力を見せつけられた『機関銃』とおぼしきものであるし、もう片方も銃を持っている。
こっちの持っていた武器は突然様子のおかしくなった阿会喃に奪われたし、あったとしても近距離用の剣だった。銃には到底敵わない。
逃げるしかない。
家や木など、不幸中の幸い障害物は多かった。その障害物を盾に張虎と曹熊は逃げ続けていた。
何度聞いても聞き慣れない、機関銃の銃声が鳴り響く。張虎は恐怖に顔を張り詰めたまま、銃声の方向へと振り向いた。闇に浮かぶ、奇っ怪な武器を持った二人。
その二人をある人が見れば、地獄からやってきた鬼に見えるかもしれない。ある人が見れば、死と破壊の神に見えるかもしれない。
張虎には、心臓を締め付けるほどの恐怖の具現化だった。
バァウゥン と爆発音ともとれる大きな音が聞こえ、瞬間的に腹部から衝撃と焼ける痛みが広がった。
「ちょ、ちょ、張虎!」
曹熊の声は上ずっており、歯はガチガチと震えていたが、倒れゆく張虎を見捨てず――反射的にかもしれないが――受け止めることはできた。
張虎を引きずって、曹熊はそばの家影に入る。機関銃の連続音が聞こえ、家の壁が飛び散っていった。
張虎は激しい痛みを感じながら、自分の腹部を見下ろしていた。銃声からすると単発だったように思えるのだが、腹部全体が朱にまみれてグチャグチャになっていた。
「ど、どどど、どう、す、すれば……」
曹熊の震える声を聞く。機関銃の音を聞く。何も考えられない。意識が薄れていく。
179骨肉 3/18:2006/08/16(水) 21:29:54
魏延の散弾銃が、一人を仕留めた。
ならば残る一人は俺が、と夏侯淵は散弾銃の引き金を引く。
片方――確か曹操の正室の末子で、熊といったか。影の薄い、病弱な――が
もう助からないであろう片方――なんだか既視感を感じる――を担いで家影へ隠れ、散弾銃は当たらなかった。
この状況下、仲間を見捨てない人情は評価しよう。だが、もう終わりだ。
小気味のよい連続音とともに、家の壁が散っていく。家との距離は、あと二十歩もない。夏侯淵は機関銃を撃ち続けながら、走る。
曹熊らが隠れていった家の影に回り込んだ。その姿は見えなかったが、戸があるのを発見した。血痕が戸へと続いている。
「いいか、こいつは俺だ。お前は手を出すなよ」
背後の魏延に語りかける。魏延は、言われなくてもわかってますよ、という風に散弾銃を下ろした。
機関銃を袋へ入れ、突撃銃を取り出す。機関銃はもう弾丸の無駄だ。そうして戸に向かって構えながら、勢いよく戸を開けた。
いきなり死体が倒れていた。腹部が潰れたざくろの実のようになっていた。
もしかしたら生きていたかもしれないが、即座に頭を撃ち抜いたので後からはわからない。
狭い家の中を一応探してみるも、予想通りもう片方は見つからなかった。
「人情の評価は取り下げるが、悪知恵は、評価してやる」
180骨肉 4/18:2006/08/16(水) 21:31:51
音が止んだ。
曹彰が向かっていったのは、野外の集落だった。
三方を田圃に囲まれ、残る一方は雑草が高く生い茂っており、その雑草をかき分けて曹彰たちは進んでいた。
「この集落におるのか?」
袁紹が問いかけてくる。曹彰は、たぶんそうだが、音は止んだと伝えた。
集落に出た。
あちこちに、銃撃の跡が残っている。地面に薬莢が転がっていたり、弾丸が刺さっていたり、あるいは家が破壊されていたりした。
それらの跡をたどると、やがて地に滲んだ血痕が見つかった。血痕は近くの家に続き、開けっ放しの戸から倒れている男が見えた。
頭を一発、腹部を何発も撃たれたようだ。明らかに死んでいたが、曹洪は念のため脈を取った。
「こいつは張遼のせがれだ」
曹洪は悲しそうに言った。
「蜀の北進を防いだ司馬懿指揮下の将だった。父には到底及ばないが、命令を忠実にこなす将だった」
今にも泣きそうな曹洪をよそに、袁紹は死体のそばにしゃがんでいろいろと探っていた。表情から察するに、不可解なことがあるらしい。
「何をしてる?」
「いや……」
袁紹は持ち上げた死体の頭部を元に戻す。
「この死体、状況からするに、家の外で腹部を撃たれたあとに家の中で頭部を撃たれたらしい」
「そりゃあ、頭を撃たれた後に動けねえからな」
「腹部も相当な致命傷だ。これを受けた後で、動けるとも思えん」
袁紹は立ち上がり、説明を続ける。
「こいつは腹部を撃たれたあと誰かに家の中まで動かされたわけだ。もちろん攻撃者の方じゃないだろう。動かす理由がない」
つまり、どういうことか。曹彰は気付いた。
「一緒に逃げていた奴が家の中まで動かして、血痕を餌に逃げたと?」
「そうだ。血痕を追った攻撃者は、とりあえずこいつにとどめを刺したわけだ。逃げた方を追ったかはわからん」
胸糞悪い話だ。一方は二人を執拗に追って殺そうとし、一方は相棒を囮に残る一人が逃げたのだ。義も情もなにもない。
四人は家を出た。破壊の跡を探したが、新しいものは見当たらなかった。
181骨肉 5/18:2006/08/16(水) 21:32:25
魏延と夏侯淵は集落のうち一件に身を休めることにした。
ゲーム開始からまったく寝ていない。疲労は積もり続けている。寝ないことは第一線の将である彼等には慣れているが、やはり寝れるうちに寝るべきであろう。
まず夏侯淵が寝ることにし、魏延は見張り番となった。
背を壁に任せるや寝てしまった夏侯淵を見て、殺してやろうかとも思ったが、こいつを殺すのは、もっと先のことだと思い直す。
その後は散弾銃の調整をしたり、諸葛亮はどう殺してやろうかと想像したりしながら時を過ごす。
やがて夜も本格的に深くなって、雨は止んでいった。
夏侯淵はまだ寝ている。壁を背に、機関銃を両手に、武器の入った袋を肩にかけている。
用心深いが、魏延が散弾銃の引き金を引けばいとも簡単に殺せるはずだった。
殺してやりたい。
再びその思いがよぎる。より強烈に、鮮明に。
頭はやめよう。天下に名高きこの猛将が、苦しみ悶えながら死ぬ様子が見てみたい。
あるいは絶望や恐怖に血の気の引いた表情を、あるいは驚愕と憤怒に真っ赤になった表情を、見てみたい。
散弾銃を構える。慎重に、標準を定める。いや、ハルバードを使うか? まず肩を斬り落として―――
182骨肉 6/18:2006/08/16(水) 21:33:51
「子廉、もうやめよう。大分時間が過ぎた。もう集落を出ているに決まっている」
開けられた窓から、突然声が聞こえてきて魏延は我に返った。そういえば、見張るのをやめてしまっていた。
「まだだ、子考。絶対に許せん。根掘り葉掘り探して、とっちめてやる」
興奮した声が続く。おそらく死体を見つけたのだろう。魏延は夏侯淵を起こすことにした。
会話は続く。もう二人いるようだ。自分たちを捜していることがわかる。窓からそっと見ると、そう遠くない位置で、止まって話している。
「曹洪、曹仁、曹彰に、おそらくは袁紹」
夏侯淵は潜み声で話す。
「曹彰は音に敏感だ。下手に音を立てるな。銃は持っていたか?」
「いや、接近戦用の刃物だけだった」
「そうか。殺すぞ」
殺す。一点の迷いもない言葉。自分の親族でも、子供でも、夏侯淵は容赦なく殺せるのか。
必要がなくなれば、魏延も殺すだろうことは明白だ。その前に、殺さなければ。
「なんだ? あの家の窓は開いているようだが」
チッ、と夏侯淵が舌打ちするのが聞こえる。すでに機関銃を構え、戦闘態勢に入っていた。
「まさか!」
「待て曹洪。近づくのは危ない。もし敵がいるのなら、銃を持っているはずだ」
夏侯淵が右手の指を三本立てていた。
「だからって、こっちから逃げるのは……」
二本。
「ああ、逃げても気付いているのなら追われるだけだ。なら」
一本
こちらに走ってくる足音が聞こえた。
手が握られた。魏延は戸を蹴破った。
183骨肉 7/18:2006/08/16(水) 21:34:54
「なら、」
と、曹彰は全速力で走り出した。
曹仁と袁紹は慌てて制止させようとしたが、曹洪はよしきたとすぐに準じた。
「待てい! お前等!」
という袁紹の声と同時に、例の家の戸が勢いよく倒れ込んだ。
咄嗟に、曹洪は横に飛ぶ。
宮廷で聞いた、あの連続的な轟音聞こえてきた。曹洪は敵のいた家の、ひとつ手前の家の影に身を隠す。
轟音は止んだ。顔を少し除かせ、前方を見る。
男が、二人。闇夜で顔はよくわからないが、一人は見覚えのある風貌だった。
まさか、いやまさかな。
曹彰は曹洪とは反対側に避けたようだ。大樹の裏に隠れているのが見える。袁紹と曹仁の姿は、見当たらなかった。おそらく回り込んだのだ。
しかしこれからどうするか。
剣を握る。もともと双剣用だった剣で、短く軽い。自分には不釣り合いだ、と曹洪は思った。
二人の男は、前へと進んでいった。片方が曹彰へ、もう片方は曹洪へ向かう。
こちらに近づくたびに、男の顔は鮮明へとなっていった。
馬鹿な。そんな、そんなことがあるものか。
轟音。
曹洪はたまらず逃げ出した。銃撃と、その事実から。
あいつは、あいつは―――
184骨肉 8/18:2006/08/16(水) 21:35:36
曹彰は大樹から身を躍り出した。
右手に持つは、やや刃こぼれした、双剣の片割れ。
こちらへ向かってきた男――漢中で矛を交えた、蜀の魏延――は即座に発砲する。しかし全速力で走る曹彰には、さすがの散弾も当たらない。
一気に魏延との距離を詰める。十歩はあった魏延との距離も、一瞬で半分になっていた。
猛獣と戦うには、猛獣に負けない身のこなしが必要だ。そして目の前の男は、猛獣の眼をしている。
魏延はもう一度発砲した。その時には、曹彰は空を飛んでいた。周りの時間だけが止まったかのような、長く、高い跳躍だった。
散弾が下を通り過ぎる。曹彰は剣を振り上げ、眼下の魏延に思いっきり叩きつけた。
魏延は銃を横にして、正面から空中からの攻撃を受け止めた。金属がぶつかり合う、耳をつんざくような音が響く。
曹彰はなお飛んでいる。右脚を振り動かし、銃の下から蹴りをいれる。魏延も対応できなかったようで、曹彰の脚が魏延の胸に叩き込まれた。
曹彰が着地したときには、魏延はわずかに歪んだ銃を取り落とし、地面へ衝突していた。つかさず、剣を突き落とす。
しかし魏延は眼を鋭く光らせると、素早く両足を起きあがらせて曹彰の剣持つ腕に攻撃を加えた。そのまま後転し、立ち上がる。
『やるじゃねーか』
曹彰と魏延が、同時に発する。曹彰は剣を構え直し、魏延は背負っていたハルバードを引き抜いた。
185骨肉 9/18:2006/08/16(水) 21:36:06
袁紹は曹彰の応援のため、そして曹仁は曹洪の応援のため、回り込みながら走っていた。
曹仁の耳に、再び轟音が聞こえてくる。とても近い。
曹洪が目の前の家影から飛び出してきた。
「子廉!」
「嘘だ! 嘘だ! 絶対に嘘だ! あり得ない! 嘘だ!」
曹洪はひどく錯乱して、顔には恐怖に満ちていた。まるで、見てはいけない物を見てしまったかのように。
「何があったんだ!? お前らしくもない!」
「ちくしょう、嘘だ! あんな奴が、あんな奴が、妙才なわけがない!」
「……なんだって?」
聞き間違いか? いや、そんなわけがない。孟徳、元壌、子考、子廉、そして妙才。
弓に長け、奇襲を得意とし、猛勇を誇っていた。五人のうちでは、一番剛胆な性格。
典軍校尉夏侯淵、三日で五百、六日で一千………
「呼んだか?」
夏侯淵が、ぬっと現れ出た。曹洪を追い、銃を手に持って。
近く、とても近くで、轟音が鳴った。
186骨肉 10/18:2006/08/16(水) 21:37:06
「袁紹、邪魔をするな!」
袁紹が村正をもって曹彰と魏延の戦いに参入したところ、味方のはずの曹彰に怒鳴られた。
「これは一対一の勝負だ! お前みたいな軟弱物は、すっこんでろ!」
燃え立つ曹彰。剣で男のハルバードを受け止め、脚で男を蹴り上げようとするが、後ろに跳ね避けられてしまう。
そこを、袁紹の村正が襲う。男は身をしゃがませ避け、立ち上がりながらハルバードで斬り上げてくる。
「どけ! この足手まとい!」
やはり曹彰が怒鳴る。
『旦那、ひどい言われようですねぇ』
「恩人だということを完全に忘れておるな」
曹彰は剣術と体術のかぎりを尽くして男を攻め立てれば、男はハルバードを巧みに動かして対応する。袁紹も見てるだけにはいかないので攻撃し、曹彰に怒鳴られる。
決着は、容易につきそうにない。
187骨肉 11/18:2006/08/16(水) 21:38:09
「弾切れ……か」
トンプソンM1A1機関銃は、十数発を撃って静まっていた。もう予備の弾丸はない。使いすぎたな、と後悔する。
ベレッタM92Fを取り出し、撃とうとする。しかし倒れいく曹洪の後ろから、斧を持った曹仁が向かってきた。
背後へ跳ねながら、撃つ。胸に当たるはずだったが、ぶれて脇腹に命中した。
曹仁の斧を、拳銃で受け止める。曹仁の力は思った以上で、拳銃を弾き飛ばされた。
背負っている袋からAK-47を引き抜く。横へ走りながら、構える。撃つ。
連射したが、曹仁の腹部に数発命中しただけに終わり、これも斧で強く弾かれた。
仕方がない。夏侯淵は曹仁の斬撃をかわし続けながら――怪我のためだろう、ずいぶん鈍くなっていた――発煙手榴弾M15を投げる。
小さな缶が破裂し、黙々と煙が出続け、周囲を白く巻いた。夏侯淵は煙に紛れ、弓矢を取り出した。
矢筒から抜いた矢をつがえながら、煙の外まで出る。
矢先を煙の中へ合わせる。時を待つ。
煙が晴れてきた。曹仁はいなかった。
188骨肉 12/18:2006/08/16(水) 21:38:48
銃を二丁拾った。
長いものと短いもの。
長い方は、曹仁が強く打ち付けた部分が歪んでいて使い物になるかはわからなかったが、短いほう十分使えそうだった。
腹が痛い。あの、張虎という張遼の息子も、同じようにこの痛みを味わったのだろう。いや、自分よりもっとひどいか。
銃で夏侯淵を撃つこともできた。ただ、それはしたくはない。曹洪を背負って、その場を駆け足で離れた。
そう、あれは夏侯淵だ。妙才だ。揺るぎない事実だった。認めたくなかったが、認めざるをえなかった。
「し、子考、すま、す、す、すま………」
「喋るな。怪我に触る」
曹洪は首の右端から腰の左端まで、一直線に撃たれていた。もう、長くはない。それも認めたくはないが、やはり、事実だ。
ひゅんっ、と風を切る音が聞こえた。
背負っていた曹洪が、大きく揺れた。走ったまま振り向くと、曹洪の後頭部に、銀色の矢が伸びていた。
「子廉……な、そんな……」
もう一度、音がした。
189骨肉 13/18:2006/08/16(水) 21:39:49
曹彰にハルバートで斬ろうとするも、剣で防がれ、もう一人の、袁紹と呼ばれていた男が剣を振るってくる。
それを長い柄で受けるが、腕に重圧がかかり、痛みが走る。袁紹は見たところ、怪力には見えない。ならば、その剣が?
飛び退く。形勢不利だ。
魏延は二人に背を見せ、逃げ始めた。格好悪いが、仕方がない。
曹彰は制止を呼びかけてきたが、追ってくる気配はない。もう片方が心配なのだろう。
夏侯淵はちゃんとやっただろうか? 機関銃の轟音はもう聞こえてこない。やられたか、やったか。
どちらにせよ、夏侯淵とはここでお別れだ。一緒にいるのも楽しくないわけじゃあないが、夏侯淵といたら何をしでかすかわからない。自分も、夏侯淵もだ。
しかし、銃がないのは困る。早く誰かから、銃を奪わなければ。
190骨肉 14/18:2006/08/16(水) 21:41:31
夏侯淵との距離が遠かったせいか、運がよかったせいか、曹洪はなお生きていた。
意識が一層と遠のく。ただ、あの音、あの風切り音は、妙才の矢だな、とわかった。
自分の次は、子考だろう。妙才の矢は正確無比だ。怪我を負って、自分を背負っている子考が避けれるとは思えない。
風切り音が聞こえた。
自分の体は、まだ動くか? 子考を、子考を助けなくてはいけない。
191骨肉 15/18:2006/08/16(水) 21:43:20
足をすくわれた。何かの力で、右脚が上がったのだ。走っていた曹仁は、バランスを崩して倒れる。
倒れる最中に、矢が頭上すぐを通った。そうか、子廉が矢に気付いて、足を引っかけたのだろう。
ぬかるんだ地面と曹仁の体が合わさる。衝撃で、腹がより激しく痛んだ。
曹洪が背中にいないことに気が付く。倒れた時に、放してしまったのだ。
腹の痛みに耐えつつも、なるべく速く、立ち上がる。
うつ伏せに倒れている曹洪を、見る。遠くで矢を引き絞っている夏侯淵を、見る。
銃を夏侯淵に向ける。もう迷いはない。引き金を引く。
銃声と風切り音。
192骨肉 16/18:2006/08/16(水) 21:44:04
曹熊は家の中で、銃声を聞き続けていた。
夏侯淵たちが休んでいた家のすぐ隣、曹洪が最初の銃撃のときに隠れた家の壁の、その家。
曹熊は集落から脱出することより、集落に残って息を殺し潜むことを選んだ。
なにせ病弱な身なので、足は自身がない。あの猛将二人にすぐに追いつかれてしまうと思ったから、家の中に入ったのだ。
少しだけ開けた、裏手の方の窓から外の様子を見る。
夏侯淵の姿が見えた。矢を引いている。
かつて叔父上と呼んだその男は、ただ冷淡に、興奮を顔に浮かべることもなく、狙いをつけていた。
狙いの先は、曹洪か曹仁だろう。彼等の姿も、先程確認することができた。曹洪は夏侯淵に撃たれ、曹仁は斧をふるって夏侯淵に対抗していた。
矢を放した。風切り音が、曹熊の耳にはよく聞こえる。まるで巨大な岩が、頭上から恐ろしい速さで降ってくる音に聞こえた。
直後に、銃声。これと同じ銃声は、一度聞いていた。夏侯淵の体が、静かに、後ろへ倒れ始めた。
193骨肉 17/18:2006/08/16(水) 21:44:39
自分が全身が震えているのがわかる。歯がガチガチ鳴っているのがわかる。
阿会喃といた頃のほのぼのとした時間が、まったくの嘘のようだ。張虎は殺され、今まさにここで、血みどろの争いが起こっていたのだ。
曹熊は少しの間、恐怖に震えながらも子考を巡らせた。夏侯淵は、倒れたまま動かない。曹洪も夏侯淵に全身を撃たれたのだから無理だ。
では曹仁は? 夏侯淵の矢の標的は、おそらく曹仁。曹仁も夏侯淵に撃たれていた。そんな状態で、夏侯淵の矢を避けれるとは思えない。
曹熊は窓を完全に開け、身を乗り出した。曹仁と曹洪が、矢を立てて倒れているのを確認する。
窓に体を通し、地面に降り立つ。まず夏侯淵の方に寄る。鼻の横に、赤い点がぽつりと刻まれていた。
右肩にかけていた袋を夏侯淵からひっぺがし、今度は曹仁と曹洪の方向へ駆け寄る。
曹洪はうつ伏せになって矢を後頭部に生やし、体を斜めに撃たれていた。曹仁は仰向けに倒れ、胸の左寄りに矢が刺さり、腹部をいくつか撃たれていた。
曹仁の右手に、銃が握られていた。曹熊はそれをもぎ取る。そばに長い銃もあったが、どうやら歪んでしまっている。
これでいい。速く、速くここから去ろう。
急に、足首にヒヤリと冷たい感触がふれた。
見ると、死んでいたはずの曹仁の右手が、銃を奪われた右手が、曹熊の足首を掴んでいた。
「う、うわぁあああああ!!!」
曹熊は初めて銃を撃った。曹仁の額に、ぽっかりと赤い穴が空く。
「熊!」
不意に、自分の名前を呼ばれた。見上げると、夏侯淵の死体の向こうに、兄の曹彰ともう一人の男が立っていた。
194骨肉 18/18:2006/08/16(水) 21:45:13
目の前のこの状況を、いったいどうすれば理解できるというのか?
夏侯淵が、顔に銃弾を受けて死んでいた。
そこから離れた所に、曹洪が矢を後頭部に生やし、曹仁は曹熊に撃たれていた。
なんで? これは? 熊が機関銃を持っていたほうの男だったのか? いや、背格好からすると、妙才叔父上が?
なんで三人そろって、死ん、死んで、いる? 死んでいる? 嘘だ……
熊はどうして? どうして子考叔父上を? 二人に刺さっている矢はなんなのだ?
「こ、こ、こ、殺す、つもりなんか」
遠くで曹熊が、弁解していた。
「熊! どうしたんだ! 説明してくれ!」
「いきなり、捕まれたから、死んでたと、思ってたのに、驚いて、咄嗟に……」
それ以上はもう何も言わず、曹熊は走り去っていった。
曹彰と袁紹は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

<<荀イク孟徳捜索隊/2名>>
袁紹【妖刀村正】曹彰[強いショック]【双剣の片方(やや刃こぼれ)ごむ風船】
※現在地は豫州潁川西部。残った武器をどうするかは決めていません。

@魏延[右腕・顔面右側に火傷(痛み止め済)]【ハルバード(少し融けています)】
※とりあえず南に向かうことにします。

@曹熊[ひどい錯乱]【ベレッタM92F】
※どこかへ走り去っていきました。

【張虎 曹洪 夏侯淵 曹仁 死亡確認】
195遭遇 1/3:2006/08/17(木) 19:30:41
開始当初から、幽州を目指していた関羽だったが、彼はまだ并州にいた。
人が避けそうな、深い山岳地帯を選んで進んだのが間違いだった。
二日目の昼のこと、并州北部の険しい山の中を歩いていたら、突如として、歩いていた崖沿いの道が崩れ落ちた。
関羽は抵抗する暇もなく、崖下へ転がり落ちていった。
途中、崖の急斜面に細々と生えていた木の幹にしがみつき、九死に一生を得たが、
上を見上げても歩いていた道はすでに高く、下を見下げても深い崖底の一面に荒い巨石が転がっている。
周りを見回してもこの木のようなとっかかりになるものは特になく、そのまま時を過ごさなければならなかった。
寒い夜を堪え忍ぶと、明るい日が斜面に降り注いできた。しかしすぐに雨雲がやってきて、陽を覆い被し雨を降らせてきた。
激しい、まるで殴っているかのような大粒の雨。関羽は雨の音に混じって、崖が震動する音を聞いた。
夕方になり、関羽の掴む木が根を張っていた地盤が、ずるり、と崖から滑っていった。木も関羽もともに落下していく。
落下しながらも崖を見上げると、次々と、岩や土が音を立てて落ちていくのが確認できた。まるで、滝のようだ。
関羽は木の幹を背に、地面と衝突した。体全体に激しい痛みが走った。上空からは、土の滝が落ちてくる。
196遭遇 2/3:2006/08/17(木) 19:31:57
気が付けば、闇の中にいた。全身がズキズキと痛いが、生きていることはわかった。
体は動かない。大きい重量感が、足の先から頭までのし掛かっている。
これは死ななかった事を感謝すべきなのか、生き埋めになったことを怨むべきなのか。
両腕に思いっきり力を入れてみる。痛みとともに筋肉が膨張し、腕が締め付けられる感覚が訪れる。
そのまま上へ持ち上げようとする。成果は、カラ、コロリ、とわずかな音が聞こえただった。
やれやれ、こんなあっけなく、自分は終わってしまうのか。ここでも三人のうちで、真っ先に。
カラ、ゴロリ
ん? もう力は加えていないが。
ジャリ、ゴロ、ガラガラガラ………
空気の流れが、わずかな光が、身に触れたのを感じ、関羽は目を開けた。
「関羽の旦那ぁ!」
闇の中に、男がいた。
197遭遇 3/3:2006/08/17(木) 19:35:37
どこかで見たような、見ていないような顔で、どこかで聞いたような、聞いていないような名前。
それが裴元紹だった。
「とりあえず、礼を言おう」
「いや、いいっすよ。しかしビビりましたよ。だっていきなり、関羽の旦那が崖下へひゅーって落ちていってたんすから」
旦那、旦那、とこっちにやたらと擦り寄ってくるが、こんな下品な男と親しくなった覚えは特になかった。
まあ、武器は持っていなかったし、危害を加える気はなさそうだ。なにより自分を助けてくれたのだから、無下には扱えない。
「それで、旦那はどこに行こうとしてたんですかい?」
「幽州だ」
一瞬にして裴元紹の顔が萎縮し、苦悩に顔をゆがめ、両手で頭を抱えたが、それでもパッと顔を上げると。
「あんま行きたくないけど……でも旦那のためなら行くっすYO! 行けっていわれたれら、たとえ火の中水の中あの子のスカートの中ですYO!」
「いや、迷惑がかかるなら行かなくとも……」
「心配しないでいいっすYO! この裴元紹、嫁さんを失った以上、旦那に一生ついていく所存です!!」
正直言って、ついてきてほしくなかった。限りなく足手まといになりそうだし、っていうか嫁さんとはなんなのか。ともあれ、命の恩人の願いを断るわけにもいかない。
関羽は立ち上がった。足が、痛む。特に大きな傷はなかったとはいえ、痛みはいつまでもまとわりついていた。
「これから幽州のある所まで、一時も休まずにいかなければならん。義兄と義弟が、すでに待っているはずだ」
「へえ、玄徳様に、翼徳様ですね」
「ついてこれるなら、ついてくるといいだろう」
関羽は大股で、北へ歩き始めた。裴元紹は急いで関羽を追いかけていった。

<<三界伏魔大帝神威遠震天尊関聖帝君と下僕/二名>>
関羽[全身打撲]【方天画戟】 裴元紹【なし】
※夜、并州のどこかのようです。雨は止みました。楼桑村へ向かいます。
198空の雫 1/6:2006/08/18(金) 03:20:22
許都。
簡易に埋葬した典韋の墓の前で、追悼を表する荀攸。
その後ろから、何の感慨もなくその姿を眺める張コウ。
もうそろそろ、日が沈む頃だろうか。
(いつまで、ここにいるつもりなのか・・・)
心の中で荀攸に毒づきながらため息をつき、張コウは空を見上げた。
天に快晴の予感を感じさせる陽光の面影はすでになく、逆に豪雨をこの身に突き刺してくる。
雨は体力を奪い、時に病をもたらす。
手当てすることすら不完全なこの地で、雨中に長くいるのは決していい判断とはいえない。
特に、重傷を負っている荀攸なら当然の事だ。
(そんな事がわからない旬軍師ではないはずだが・・・。
 それとも、悪来典韋とはそれほどまでに人間的な魅力的のある男だったのか?)
自分が曹操に下った時、すでに典韋はこの世の人間ではなかったが
話を聞いた限りでは、なるほど、確かに魅力的だ、とも思える。
だが、その追悼に付き合って自分や武器まで雨にぬらしたくはない。
手に持つバッグが雨に濡れるのを一瞥し、張コウは何度目かのため息をついた。
(?・・・この袋(バッグ)・・・そういえば)
「旬軍師。一つ、聞きたいことがある」
「何、か・・・?」
呼びかけに答え、荀攸が振り返る。その顔は血の気を失い、真っ青になっていた。
(これは・・・少し雨に打たれすぎたか・・・)
「ああ、いや・・・オレの支給品・・・まあオレのではないが・・・まあ、とにかく支給品の事だが」
荀攸の顔色を見て少し狼狽するが、張コウはまた落ち着いたように言葉を返す。
「オレが今持っている道具の中に書物がある。読もうとしたんだが、オレの学では無理だった。
 そこで、だ。あるいは旬軍師なら、と思ってな」
199空の雫 2/6:2006/08/18(金) 03:21:10
「それは・・・重要な物なのですか・・・?」
「読めないオレには判断できない。が、気になる絵柄を見つけてな。
 ・・・まあ、続く話は場所を変えてしよう。雨の中で書を出すわけにもいかない。
 いい具合に火事も収まった。どこぞの家でも借りるとしよう」
張コウは歩きながら、荀攸に向かい『ついて来い』というように指を出す。
その張コウについていく前に、もう一度荀攸は典韋の墓へ左手を出し、追悼した。

「ひゃっ、ひゃはっひゃはははっ!1人見つけたぞ!ヒャーハッハッハァッ!」
許都の外から発せられた、その狂った笑い声は、豪雨の音にかき消された。

「先ほどの書物と言ったのはこれの事だ」
近くの焼失していない民家へ移動し火で服を乾かした後
張コウはバッグから首輪解体新書?を取り出す。
そしてそのまま少しページをめくり、彼が言った『気になる絵柄』の部分を荀攸に突きつけた。
「どうだ?この絵柄・・・見覚えはないか?」
「・・・これは・・・」
その絵柄を見た時、ふと無意識に荀攸は首に手をやる。
その仕草を見て、張コウはニヤリと笑いながらこう言った。
「そうだ。この絵は、オレ達に付いているこの忌々しい首輪そのものだ」

「何か、つかめそうか?」
「・・・」
左手で器用に首輪解体新書?のページをめくる荀攸にそう言葉をかけるが
その張コウに返事は返ってこない。
(やれやれ・・・まあ、書の中身がわかってくれればありがたい事だが)
200空の雫 3/6:2006/08/18(金) 03:22:04
絵で模している以上、少なくともこの書は首輪に関する事が書かれているのだろう。
外し方がわかればベストだが、弱点、あるいは爆破方法がわかるだけでも十分だ。
そしてわかるかどうかは、目の前の荀攸にかかっている。
(・・・よく考えれば、大した人だ)
荀攸を眺めながら、張コウはそう考える。
右腕を飛ばされたというものの、書を読むことができる。
当然痛みは筆舌に尽くしがたいものがあるだろうが、それでも歯を食いしばっている。
常人には考えられない精神力・・・と言ったところだろうか。
失血し豪雨に打たれろくな治療もなく、おそらく命の火はもう永くはないのだろうが。
(最大限命が持ったとしてあと二日・・・か?)
自分は医者ではないが、だいたいその程度だと目星は付く。
もっとも、人間とは丈夫な様でもろく、もろい様で丈夫だ。
頭を軽くぶつけただけで死ぬ時もあれば、刃物で十回刺されても生き延びる事もある。
目星は付いたものの、荀攸の精神力ならば死を撥ね退けることができるかもしれない。
それと同時に、二日を待たず逝ってしまうかもしれない。
それは自分とて同じ事で、次の瞬間いきなり銃で頭を打ち抜かれるかも・・・。
と、そう考えた時だった。
「・・・はっ・・・・・・ひゃっ・・・は・・・」
(・・・ん?)
ふと、張コウは壁に眼を向ける。
(笑い声か?)
雨の音に隠れていたが、確かに笑い声のような物が聞こえた。
それも、かなり禍々しい種類の物が。
「はは・・・ひゃははっ・・・・1人・・・」
危険を感じ耳を澄ますと、今度ははっきりと聞こえる。
201空の雫 4/6:2006/08/18(金) 03:23:17
しかも、会った事のある男の聞き覚えのある笑い声が。
張コウは舌打ちしながら立ち上がり、荀攸に向かい先ほどと同じ言葉をかける。
「何か、つかめそうか?」
「・・・」
「聞いているんだが。返事くらいはしてもらいたいもんだな、旬軍師!」
少し声を荒げる。その数秒後に、真っ青な顔の荀攸からか細い声で返事が聞こえた。
「・・・難解です。私でも、全て読む事はできない・・・ですが」
「・・・ですが?」
「・・・ある程度の事はつかめます。もう少し読めれば・・・」
「そうか。邪魔して悪かった。引き続き、お願いする」
そう言いながら、張コウは斬鉄剣片手に家のドアに手をかえ、外に出た。

平時と同じほど俊敏には動けないが、雨は己の姿を隠してくれる。
(銃で狙う事はできない・・・オレの怪我も大した事はない。
 相手が打撃用の武器ならば、こちらに分がある)
斬鉄剣を構え、先ほどより良く聞こえる笑い声の方へ向かう。
荀攸を助ける気などない。圧倒的に有利な立場だから、自分から出向いただけだ。
殺せず逃がしてしまうにせよ、時間かせぎになれば荀攸の解読もより進む。
打算的な考えを浮かべながら、張コウは笑い声を発する男から距離を置いたところに立つ。
「1人か・・・同じ黄巾賊の仲間を見つけろ、と言ったはずだが?・・・張角」
「ひゃはッ!」
今は玩具の刀ではない。腰は伸びているが、本当の刀だ。
そして、張角の武器が銃だとしても、今の状況では使えない。いや使わないだろう。
恐ろしいのは妖術だけ。それも本当にあるとすればの話だ。
だが、油断は微塵もない。油断して死んだ男をその目でしっかり見ているのだから。
202空の雫 5/6:2006/08/18(金) 03:25:59
反面教師であったが、そう考えると徐庶はいい教訓を残してくれたと感じる。
(それにしても・・・)
今の張角の姿。かつて感じた王の威風などカケラも感じられない。
徐庶や于禁は狂っても仕方ないと思っていたが、まさか張角までとは。
王の威風を感じさせた張角が、絶望や憤怒でこうなるとは考えにくい。
荀攸から聞いた話でも、荀イクも狂ってしまったという。
徐庶、于禁、荀イク、そして張角。
これほどの人間が異常であっては、裏に何かあるのか?と勘ぐってしまう。
「どいつも、こいつも・・・」
ツバを吐きながら、張コウはそう毒づいた。

なくした右腕の痛みにこらえながら、荀攸は首輪解体新書?についてわかった事をまとめる。
首輪の解体は確かに可能。
だがそれには何人かに支給された武器、道具などを利用しなければならない。
そのうちの一つは『小さくて黒い、甘い物』。
わかったのはこれだけだ。
しかも、その事柄すら間違っている可能性もある。
これ以上は、他に読める人間に頼るしかない。
出来れば今すぐにでも張コウにも伝えたいのだが、今この場に彼はいない。
おそらく、痛いほど心地悪い笑い声を発した敵の撃退に向かったのだろう。
(不思議だ・・・)
今の自分の感覚は妙に鋭敏だ。
雨の中だというのに、笑い声の音一つ一つが感じ取れた。
もっともそのぶん言葉は自由に出なくなってきている。
張コウに尋ねられたときも、思うように喋る事ができなかった。
203空の雫 6/6:2006/08/18(金) 03:26:34
否応なく迫る『死』が、自分をそうさせているのかもしれない。
(・・・だが、私はまだ・・・死ねない・・・叔父上を止めるまで・・・!)
達成するまで、あるいは死を凌駕するのかもしれない決意が、荀攸の胸にあった。


<<決意を新たに/2名>> 『現在地 豫州・許都内部・南側の民家』
@張コウ[全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)】
&荀攸[つま先負傷(手当て済み。走れます)、右腕喪失、失血]【デリンジャー、首輪解体新書?】
※荀イクの捜索、説得が目的です。
※荀攸は民家の中、張コウはそこから少し離れた広場へ。

@張角【DEATH NOTE】 『現在地 豫州・許都内部・南側の広場』
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われます 。
※仲間として探すはずだった荀ケ、荀攸、司馬懿、陳羣を殺すことしか考えていません 。
※荀攸がいる民家から少し離れた広場で張コウと対峙。最優先目的は荀攸の殺害。
※紙飛行機にされたDEATH NOTEのページ1枚は放置されたままです 。
「も、もう無理…だ……」
姜維を背負って歩いていた司馬懿が、蚊の鳴くような声で呟いてべちゃりとつぶれた。
「あ、やっぱり駄目か……」
「根性の無い人ですね。羽扇より重いものは持てないとでも言うつもりですか役立たずが」
「り、陸遜殿?」
さりげなく言うことが酷い陸遜が、ふと何かに気付いたように空を見上げる。
「雨……ですね。どこかに洞窟でもあればいいんですが」
辺りが暗くなり、遠くに雷鳴も聞こえ始める。
ぱらつき始めた雨はやがて豪雨に変わるだろう。
「困ったな。僕は濡れるの嫌いなのに」
口には出さなかったが、それ以上に問題なのが姜維だ。
雨で体力を奪われればうっかり衰弱死しかねない。
そもそも自分含めて一行のほとんどが怪我人なのだ。
困ったな、ともう一度陸遜が呟いた時、先行していた馬超が戻ってきた。
「……あちらに洞窟があった。移動するか」
来た来た来たァ! これぞ僕の日頃の行いと強運の賜物!
「そうしましょう! 司馬懿殿、もうひと頑張りですよ!」
満面の笑みで言い放った陸遜に司馬懿の返事は無く、ただ姜維の下から覗いている手が
ぴくりと動いたのみだった。
「うっわぁ司馬懿殿忘れてた! 司馬懿殿ー!?」
慌てて駆け寄った馬岱に発掘されて、息もたえだえの司馬懿が呟いた。
「雨が降ったら急に重くなったぞ。こいつは増えるワカメか?」
そしてその増えるワカメの隣で仲良く意識を失った。
馬超がべったりと転がっている2人の間に立った。
何をする気だ? と首をかしげる陸遜と馬岱の前で、2人の腰帯を掴んでそのまま持ち上げる。
「姜維のほうが重いな」
「あ、やっぱり……」
誰もが薄々気付きつつ目を逸らしていた事実をばっちり指摘され、眺める2人は微妙な苦笑いを浮かべた。
そのまま「よっ」と両手の荷物を軽々と肩に担ぎ上げる。
西涼の錦馬超、その腕力は呂布にも比肩するという風聞を証明する瞬間だった。


広くは無いが5人が雨風をしのぐには十分な洞窟の中で、一時の休息を取る事にした。
馬超は入り口近くで壁に背を預けて座り、目を閉じて一見眠っているように見える。
しかしわずかの異常でも飛び起きて一瞬で戦闘態勢に入るのを、馬岱は良く知っていた。
う……、とかすかな呻き声が聞こえ、そちらへ注意を移す。
姜維が弱々しく目を開けて、何かを訴えようとしていた。
「おい、大丈夫か? 無理すんな、寝てろ」
「私は……私は、ここに…置いていって下さい……」
小さな声なのに不思議とよく通り、それが何だか不吉さを馬岱に覚えさせる。
「足手纏いになってしまう……戦場では、弱った者は……切り捨てて……」
何かを諦めかけている姜維の言葉に、馬岱と陸遜は顔をしかめた。
ちなみに司馬懿は絶賛睡眠中である。
「おっまえ、なぁ、」
激昂しかけた馬岱を脇から蹴飛ばし、陸遜が姜維の枕元に立って冷たい目で見下ろした。
「もう一度。よく聞こえませんでした姜維殿」
「え…私を置いて、皆さんは…先に進んでくださ」
「ふざけるな! 大声だせ! タマ落としたか!」
「は、はい…っ?」
突然大声を張り上げた陸遜に、姜維が戸惑いを蒼白い面に浮かべる。
「貴様は人間ではない! 両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」
「え、えぇっ?」
「戦いを諦めた戦士はウジ虫だ! 地球上で最下等の生命体だ!」
「え、あ、ご、ごめんなさい?」
「この僕と出会った以上、貴様に勝手にリタイアする権利は無い! 分かったかウジ虫!」
「は、はぁ、しかし」
「口でクソたれる前に『サー』と言え!」
「さ、さー……?」
「声が小さい! じじいのファックの方がまだ気合いが入ってる!
 さあ答えろ、貴様はまだ醜い勘違い自己犠牲精神を振りかざして僕らを馬鹿にするのか!」
腹の上に足を軽く置いてイっちゃった気味の笑いを浮かべる陸遜に、
踏み殺されそうな恐怖を覚えて姜維はぶんぶんと首を横に振った。
馬岱は横で唖然とし、大声に目を覚ました司馬懿は必死で寝たフリをしている。
「……良し。次に莫迦な事を言ったら容赦しませんよ、姜維殿」
にっこりと優しげな笑顔を浮かべた陸遜に、姜維は自分を置いて先に行け計画は断念せざるを得ないことを悟る。
狸寝入りをしていた司馬懿も、ぼそりと呟いた。
「捨てていく気があるなら、そもそも背負ったりせんわ、馬鹿めが」
散々罵られたにもかかわらず、何故だか少し爽やかだった。
目の端に滲んだ涙をさりげなく拭う。
仲間たちの様子を見て、西涼馬氏の2人が顔を見合わせ、軽く微笑んだ。

雲の向こうで陽が沈み、星も月も無い夜が来る。
雨音はまだ止まないが、不思議と心は温かかった。
<<めるへんカルテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×4)】
姜維[頭部損傷]【魔法のステッキミョルニル】
馬岱[軽症、香水アレルギー(顔及び手に発疹)]【シャムシール・ロープ・投げナイフ×20】
司馬懿[軽傷]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、陳宮の鞄】
※益州、漢中より少し南。南下の予定ですが雨宿り中
※ミョルニルは、魔法のステッキと化した時点で魔女っ子しか使えない(=現時点で誰も使えない)ので、
 現在はただのファンシーなステッキです。殴ったらそれなりに痛いかも知れません。
※香水(ゴスロリセットの一部)は、嗅ぐとハッピーな気分になれる成分が含まれています。但し、稀に体質に合わない場合があり、
 その場合は発疹が出たり、怒りっぽくなったりします。ちなみに浴び続けていると魔女っ子になれ……る訳が無い。司馬懿は試す気満々です。


@馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー、ジャベリン】
※カルテット(というか馬岱)に同行します。現時点では好意的です。
208抵抗と諦め 1/3:2006/08/18(金) 13:19:17
ようやく長安に着いた。
すでに日は暮れかけ、どこかで烏が穏やかに鳴いている。
劉備は近くの木陰で一時を休むことにし、座り込んだ。
この分では、楼桑村まであと二日はかかりそうだ。
すでに参加者の半分近くが死んでいる最中、その時間はとてつもなく長いものに見えた。
まあ、雲長も、翼徳も、そう簡単には死なねえだろう。
幸いなことに、劉備の配下だったものではまだ王平しか死んでいない。
別れた三人に、趙雲・黄忠・馬超、それに劉禅も諸葛亮も、少なくとも今日の朝までは生きていることがわかっている。
だが、今も参加者の誰かが死んでいることは明白だ。蜀将も、いつだれが死ぬかは見当もつかない。
特に、漢升の爺さんはやべぇな。あの人ほとんど向こう見ずに突っ込むから……
劉備は立ち上がった。
これからは雍州を抜け司州・并州を通る。休んでいる暇は、もうない。
歩こう。まずは西へ。
と、歩き始めようとして持ち上がった劉備の右脚は、そのまま空中へ固定されてしまった。
右頬のすぐ横を、かすかな音と共に鋭い物が通り抜けていった。直後にドスッ、と鈍い音がし、横目を向くと、背後の木に短剣が深々と刺さっていた。
「玄徳様、ようやくお会いできましたな」
老人がいつの間にか、劉備の前に現れていた。柔和な顔つきで、一見なんの変哲もない老人に見えたが、瞳はぎらぎらと輝いていた。
「こんな人目の着く所で、休めんでいてはいかんですぞ」
「………冗談じゃねぇぞ、おい」
209抵抗と諦め 2/3:2006/08/18(金) 13:24:55
「わしはちょうど、荊州の魏興におったんですが、玄徳様の姿を見つけましてね」
とりあえず劉備と黄忠老人は、近くの林の中に移動し、話し合うことにした。
「なら、そんときに声をかけてくれたっていいじゃねえか。なんでわざわざ付けてきて、あんなことを……」
「いやぁ、驚かそうと思いましてな。機会を窺っていたんですよ。いい教訓にも、なりましたでしょう?」
だからって、主君に刃物を投げつけるな。
という言葉を飲み込み、代わりに黄忠に自分の今まで置かれた状況を話すことにした。
劉封たちのこと、甘寧や夏侯惇のこと、関羽と張飛と合流したいことなどをあらかた話し、黄忠の意見を聞く。
つまり、付いてきてくれ、ということなのだが。
「わしは付いていていきませんぞ」
ときっぱり言われた。
「なんでぇ? 漢升も、この状況に置かれたままで、いいと思わねえだろ? ほら、五虎将みんなで集まって、ドーンと献帝を」
「無理ですな」
黄忠の表情は、もう柔和ではなかった。眼光がより激しさを増している。
「たしかにこの殺し合いは、狂っています。残忍で、凶悪で、許すまじき悪行でしょう」
より苛烈になっていく眼とは裏腹に、口調は淡々としていた。
「ですが、我々が対抗できる術など、どこにありますか? 命運をねじ曲げ死者を復活させ、凝縮した中華の地を創り出し、未知の道具を備え付けている。
そして我々の命は、この首輪によってあやつらに握られているのです。神をもごとき所行に、いったいどう対抗すればいいと?」
そこまで言い終えると、急にもとの穏やかな顔つきにもどり、
「生き延びようと思うなら、時を無駄にしないことですぞ」
鋭い眼光が、劉備を刺していた。劉備は言葉に詰まり、咄嗟に反論できずにいた。
「では、わしは荊州に戻るとします」
黄忠は背を向けて、南へ歩き始めた。その背には、有無を言わせぬ決意が漂っていた。
劉備は叫んだ。
「漢升!」
黄忠は立ち止まり、やや間を空けてから「なんですか?」と振り向いた。
「俺は、受け入れねえぞ! 絶対に諦めないからな! 神だろうが不可能だろうが、絶対に抜け出してやる!」
黄忠の顔が、少しだけほころんだように見えたが、すぐに向き直り、再び歩き去っていった。
210抵抗と諦め 3/3:2006/08/18(金) 13:26:38
黄忠の様子は、すいぶん変わってしまったかのように見える。
今までがむしゃらに突き進んでいたはずが、今は老人らしく達観、いや諦観してしまっている。
人は、変わる。
あるいは子龍も、孟起も、すでにゲームに乗って誰かを殺しているのかもしれない。この狂った状況下なのだ。何もおかしくない。
では雲長は? 翼徳は? ………あいつらに限っては、それは、ないか。
周りを見渡して、闇が覆い初めていることに気が付く。
そうだ、速く行かなければ。あいつらと、絶対にここから脱出してやる。


魏興に戻ると、暗闇の中、人が黄忠の視界を通り過ぎていった。
体が黒いので、一瞬服と荷物が浮いているのと思ったが、どうやら南蛮人のようだ。
手に、鋭そうな剣を持って、なにやら呟きながら走っていく。走って移動だなんて、元気なことだ。
サバイバルナイフだけでは心細いので、追いかけて武器を奪おうかとも思ったが、やめることにした。
今は、なるべく戦いたくない。
劉備の叫びがいつまでも、頭の中で反芻されていた。


@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
※現在地は長安。楼桑村へ向かいます。

@黄忠【サバイバルナイフ】
※ゲームに乗りますが、殺し合いには消極的。現在地は魏興。

@阿会喃【DEATH NOTE(残り9ページ)・エクスカリパー・大般老長光】
※司馬懿のおおまかな位置がわかるようです。益州へ。
211共鳴 1/11:2006/08/21(月) 03:20:35
司馬孚達は黙々と、夜の北の地を歩いていた。出発したばかりの時は劉禅が気楽なことを話しかけていたが、
司馬孚がそっけない返答しかしなかったため、劉禅はそのうち飽きたようだ。
途中、休憩をした。劉禅にははっきりした目的地でもあるのか、時計のいう二時間ほど休んだら再び歩くつもりらしい。
劉禅はその間、食料探しに出かけた。司馬孚が黎明の時に集めた食料がすでにあったが、劉禅はそれでは不満らしい。
司馬孚はすでに十分疲れていたので参加しなかったが、外見いかにも鈍そうな劉禅がまだ疲れを見せないとは、どういうことだろう。
司馬孚はひとり残された。逃げることが頭によぎったが、すぐに振り払った。仇は、この手で取らなければ意味がない。
休憩場所は、涼しげな林の中だった。司馬孚は木に寄りかかって、身を休めることに集中した。今は、考えても仕方がない。
木々の間を通り抜けるそよ風が心地よく、危うくそのまま寝てしまいそうになる。慌てて頭を振る。
寝ている場合じゃない。マヌケにも寝てしまっているうちに、ゲームに乗ってる人間でも来たら、一貫の終わりだ。仇も何もなくなる。
仇を、あの美しき女性の仇を取るまで、自分は死んではいけないのだ。
決意を胸に秘め、顔を上げた。すぐ目の前に人が立っているのに気がついた。
「うわっ!?」
自分でもみっともなく思える、驚きの声を上げる。立っていた人はすぐに司馬孚の口を手で覆い、「静かに」と囁いた。
212共鳴 2/11:2006/08/21(月) 03:22:51
賈詡だった。
「賈詡殿、どうしてここに?」
驚きと、わずかばかりの恐怖が入り交じった質問を投げかける。
今の自分は武器を持っていない。可能性は少ないと思うが、賈詡が乗る気だったら、まさに格好の標的だ。
「私は、私と仲間のための食料集めをしていたんですよ。偶然、通りかかっただけです。しかしここまで近づいて気付かないなんて、不用心すぎますな」
賈詡がにこりと笑ったので、司馬孚は意外に思った。賈詡は、あまり感情を表へ発露しない性格だったはずだ。
いや、緊張をほぐすためにあえて笑みを見せたのかもしれない。賈詡の心遣いに、司馬孚は少し安堵した。
「お一人、ですか?」
賈詡はあたりを見回しながら言った。
「いえ………もう一人いますが、今はあなたと同じ目的でいません」
賈詡はじっと、司馬孚の顔を見つめていた。その細い眼で、心の内が見透かされている気がした。
「お名前は?」
「………劉禅殿と」
賈詡の反応は、司馬孚の予想と違っていた。驚き、困惑するだろうと思っていたが、ゆっくりとうなずき、感嘆するように顔を広げた。
「なるほど、そういうこともあるでしょうな。今は、勢力だとか、身分だとかは、あまり関係ないのかもしれません。ただ……」
今度は腕を組み、眉をひそめ、細い目をますます細くし、
「あなたは、劉禅殿に、恨みがあるように思えますな」
心臓が飛び跳ねた。物事の核心を、いきなり言い当てられたのだ。なんで? 馬鹿な。
「そ、そのようなことは、ありません!」
「嘘ですな」
賈詡は断言した。
「一人かを聞いたとき、名前を聞いたときのあなたの声で、わかりましたよ。あなたはいかにも、忌まわしいものを吐き捨てるように言いました。
それに、図星でなければ慌てて否定もすることはないはず」
正にこの人は、壺の中の水を見るかのように自分の心を見れたのだ。司馬孚はがっくりと項垂れた。
「できれば、なぜ恨んでいるのかも知りたいものですが………」
この人には、隠し事はすべて無駄だ。そう悟り、司馬孚は堰を切ったかのように今までのことを話し始めた。
213共鳴 3/11:2006/08/21(月) 03:24:22
賈詡は、司馬孚に自分の仲間の情報と仲間が待っているという民家の場所を教え、帰っていった。
賈詡の仲間の一人は郭嘉。面識はなかったが、天才軍師と謳われ、不品行であったが忠節は厚かったという人物だ。
彼は今、熱を発して臥しているらしい。賈詡はその状態の郭嘉と、郭嘉と一緒にいた陳羣に出会って仲間になったという。
陳羣は司馬孚もよく知る人物だ。彼の九品官人定法が示すように、政治力に長けていたが、この状況下でその知恵を生かせるかはわからない。
賈詡は自分も郭嘉も陳羣も、ゲームに乗る気はないと言った。ぜひ、来てほしいとも。
しかし、司馬孚は、彼等と合流することはしたくなかった。善良な彼等と、劉禅は会わせてはいけない。
劉禅を置いて自分だけ合流するというのも、もちろんやってはならない。
劉禅が帰ってきた。野生の果物を中心に採ってきたようだ。帰ってから、山葡萄を一房平らげた。
「案外食料は不足しなさそうです。やはり、食べられるだけ食べませんとね」
残りの時間を休んで過ごし、二人は再び歩き始めた。劉禅は完全に先導する形で、しっかりとした足取りで歩いていた。
司馬孚はある悪い予感に襲われ、何とか劉禅に方向転換をさせようと試みたが、すべて失敗に終わった。
集落が、見えてきた。
214共鳴 4/11:2006/08/21(月) 03:26:35
陳羣は悪夢に襲われていた。それは同じ場所で、多くの人間が殺し合う夢だ。知っている人間も多くいる。
夏侯惇の持つ銃が、誰か二人に当たり、動けなくした。動けなくなった二人を楽進と満寵が襲いかかる。
王朗が、協力していたはずの味方に蹴られ、倒れた。夏侯淵が、郭淮が、王朗に狙いをつける。
王朗が血染めになる中、突如爆発が起こった。それは多くの人間を巻き込む爆発。郭淮の頭部が、吹き飛んだ。
そこへ現れた男が、持っていた銃を乱射した。夏侯淵や華歆、それに賈詡も、他の男達も、呻いて、あるいは断末魔を上げて倒れる。
銃声、硬い物で殴る音、刃が骨に当たる音、怒り狂う声、恐怖に叫ぶ声―――
目が覚めると、賈詡が目を丸くしてこちらを見ていた。どうやら、自分は叫びながら起きたようだ。
「悪夢でも?」
「ええ………だけど、もうあやふやで………世界の終わりのような夢だったと思いますが………」
賈詡は目線を下げて、独り言のように呟いた。
「なるほど、世界の終わり、か」
賈詡の目線の先に、寝ている郭嘉がいることに気が付いた。女性達といちゃついている夢でも見ているのだろうか、幸福そうな表情だった。
「まだ起きていませんが、熱は微弱になってます。順調に、回復してますよ」
安心したのか、陳羣の腹が、音を立てた。あまりに大きく、恥ずかしさで顔が火照っていった。
「食料は?」
「桃を二つ、張飛殿からもらったんですが、もう一つは食べたので………」
「ふうむ、そろそろ、取りにいかないといけませんね」
賈詡は陳羣から閃光弾を二つもらい、ザックを背負って出かけていった。残された陳羣は、もう雨が止んでいることに気が付いた。
彼はしばらくの間(支給された時計によれば、二時間というらしい)、外を歩き周り
帰ってきた時には彼のザックは多くの山菜・薬草で溢れていた。
そこで残った桃を、二人で分けて食べた。
桃を食べ終わった後、彼は民家から糸を探し出し、糸を小屋の中から小屋の外一帯までに張り巡らした。
誰かが来て糸に引っかかれば、小屋の中で繋いでいた石が落ちて音を立てる、という仕掛けをであるらしい。
仕掛け終えた後、賈詡はぽつぽつと話し始めた。
215共鳴 5/11:2006/08/21(月) 03:28:42
「圧倒的な力の前に、今の我々にできることは何もないでしょうが………
ですが献帝も、所詮は天子を名乗った人に過ぎないのです。必ず、穴はあります」
と話し、
「今はとにかく、信頼すべき仲間を捜すべきです。あなたが出会った張飛とも、ぜひ会って話し合いましょう」
と微笑んだ。
それらの言葉は、気休めではなく、陳羣を安堵させた。
それから賈詡は、食料集めのさいに出会った人物のことを話した。それは司馬孚のことだった。
彼は最初、ある女性と同行していた。美しく、優しい女性で、司馬孚は好意を抱いたようだ。
しかし女性は、なんと、蜀の皇帝であった劉禅に殺されてしまう。
司馬孚は仕方なく劉禅に従うことにし、つねに仇を取る機会を窺っている、という。
「私は、司馬孚殿にこの場所を教えたので、二人がここに来る確率は高いと思われます。
劉禅も、司馬孚殿の言う通りなら、いきなり襲うことはしないはず。利用価値がない、もしくは利用できないと判断したときに牙を剥くのです」
やや、間が空いた。賈詡はこれから言い出すことを、本当に言っていいか躊躇っているようだった。陳羣はある予想を立てた。
「ところで陳羣殿、あなたは、人を殺す覚悟はありますか?」
予想は当たった。陳羣は、ある映像が頭をよぎった。それは光だった。真っ白な、視界一面の光。一瞬で過ぎ去ったが。
「劉禅殿を?」
「あくまで、ここに来た場合です。司馬孚殿の協力はぜひ仰ぎたい。しかし劉禅には、無理でしょう」
それはそうだった。しかし、殺す、だと?
「劉禅はモーニングスターという、トゲのついた棍を持っているようです。ですが、私達二人で、不意をついて抑えかかれば、無力化できます。
司馬孚殿は劉禅を仇敵と見なしているわけですから、絶好の機会と見て、モーニングスターを奪って振るうでしょう………それだけのことです」
それだけのこと。そう、それだけのことなのだ。だけど、それは、何か、違わないか?
「合図は、私が床を二回、指で叩いたら、ということにしましょう。あくまで、来たらですが」
カツン
誰かが来たことを示す、ごく軽いその音が、家の中に緊張を走らせた。
「あの二人かもしれません。とりあえず、様子を見てきましょう」
賈詡は戸を開けて、外へ出て行った。
216共鳴 6/11:2006/08/21(月) 03:30:03
劉禅は荷物の中から、モーニングスターを取り出していた。貂蝉の血の跡は、もう洗い流されている。
「へ、陛下」
なぜこんな男を、陛下と呼ばなければいけないのだ、と内心で毒づく。
「武器はしまわれた方が………誰かと出会ったら、警戒されます」
「そうですね」
賛同しつつも、劉禅はモーニングスターをしまわない。
やがて、集落に入った
「今夜は、ここらの家で夜を過ごしましょう。どこが、いいですか?」
司馬孚は周りにある家のうち適当に選んで答えたが、劉禅は首を振った。まるで、最初から否定するために問いかけてきたようだった。
「どうせ家なら、誰にも入られない、誰にも気にも留められない家がいい。こんな、入り口付近ではなく」
劉禅はさらに奥へ歩いていった。奥へ進むたび、空気が粘着質になっていく気がした。
「そうですね、あの家がいい。入り口からの道も複雑だし、よく暗闇にまぎれている」
司馬孚は賈詡が教えてくれた情報を思い出す。彼は丁寧に、自分達のいる民家への道筋を、教えてくれたのだ。
「どうしたんですか、司馬孚さん。行かないのですか?」
「もっと、よい家はないのでしょうか? ほら、あの家は」
「あれは大きすぎます」
「では、そこは」
「小さすぎて逆に目立つでしょう………速く行きましょうよ」
劉禅はスタスタと、自分の決めた家へ歩いていった。司馬孚も仕方なく、その後を付いていく。
突然、戸が開いた。
賈詡だった。
217共鳴 7/11:2006/08/21(月) 03:31:50
「私は、劉禅、字を公嗣。荊州に生まれ、益州で過ごした者です」
賈詡が家にあがらした劉禅が、うやうやしく自己紹介をする。右手には、モーニングスターを握ったままだったが。
入り口の間には、陳羣、賈詡、司馬孚、そして劉禅が、四人向かい合う形で座っていた。郭嘉は、ひとつ奥の間でまだ寝ている。
「仲間が増えるのは、何よりも頼もしいことです。とりあえず、この果物を………」
と劉禅は残り一本のバナナを半分に割り、賈詡と陳羣に渡した。
陳羣は毒の存在を疑い、先程桃を食べたばかりなので、と押し返した。ただ、隣で賈詡が平然と食べていたが。
「うむ、とても甘くておいしいですな。しかし見たことも聞いたこともない。これは、支給品ですかな?」
「はい、私にはこれ三本しかなかったので、当初はとても困りましたね………そうそう」
劉禅は荷物の中から、何やら小箱を取り出した。慎重な手つきで、床に置いた。
「これ私、どこかで聞いたはずの音なんですよ………確か北の地域で聞いたはずの………
だけど、過去に私は中原すら滅多に来たことはないはずなんですよ。だから、不思議に思っているのです。
みなさんは、聞いたことはありませんか?」
劉禅の手が、蓋を、ゆっくりと開けていく。
旋律が流れた。それはなぜだか懐かしさを感じる、優しい曲だった。
ほんの一時、陳羣は聞き惚れてしまう。しかし、やるべきことを思い出し、劉禅の顔を見た。
陳羣は、衝撃を受けた。
それはとても、とても穏やかな顔だった。寝ている赤子を腕の中に揺らす母親の表情のような――慈しみが満ちあふれた表情。
こん、こん
旋律に混じって、微弱で硬質な音が聞き取れた。賈詡が出した、合図の音―――
陳羣はもはや考えることをやめて、劉禅に右腕に飛びついた。
箱の音楽に夢中だったのか、陳羣がしっかりと掴み取るまで、反応はなかった。
片手で劉禅の右腕を掴み、片手でモーニングスターを劉禅の手から弾き飛ばす。モーニングスターは司馬孚の方へ転がっていった。
劉禅の左腕が、転がる自分の武器を取り戻そうと動いたが、腕を誰かが掴んだ。司馬孚だった。
218共鳴 8/11:2006/08/21(月) 03:34:11
ここで陳羣は、ようやくおかしなことに気が付いた。賈詡は? 賈詡はどうしたのだ。
転がるモーニングスターを、誰かの手が拾い上げた。
司馬孚かと思ったのだが、司馬孚の片手は劉禅の左腕を押さえる一方、片方はモーニングスターの拾い上げられた場所まで伸び、そこで硬直していた。
流星のように、トゲを持つ金属の球が振り動いた。金属の球からは木製の棒が伸びており、木製の棒は、賈詡が手に握っていた。
司馬孚の顔と、トゲを持つ金属の球が、隣り合わせになった。

司馬孚は最後に、何を認識しただろうか? 彼はなぜ死ぬか、わかったのだろうか? そもそも、死ぬことを理解できていただろうか?
司馬孚は、側頭部を砕かれ、床に倒れた。砕かれた側面が、天上へ向いた。
賈詡は無言で、次の一撃を振った。相手は陳羣だった。
陳羣は突然のことに混乱状態になっていながら、モーニングスターの軌道は冷静に見ることができた。
体を横に傾け避けたあとは、急いで立ち上がった。劉禅は、災難を被らないように隅へ避難していく。
陳羣は入り口にではなく、奥の郭嘉のいる部屋まで走った。戸は走った勢いを利用した体当たりでぶち破った。
「起きてっ! 郭嘉殿!」
郭嘉は目をこすりながら、布団から半身を起こしていた。
「うるせえよさっきから………」
寝言のように呟きながら、しかし事態をすでに承知しているらしい。郭嘉は即座に立ち上がると、懐に手を突っ込んでいた。
「伏せろ!」
陳羣は言われるまでも、その場に伏せていた。さっきまで自分の上半身があった空間に、金属球が曲線を描いていた。
鼓膜を叩く、大きな破裂音とともに家の中が白い閃光に包まれる。陳羣はしゃがんだ体勢から飛び上がり、閃光の中の人影に思いっきり体をぶつけた。
人が倒れる音が聞こえる前に、陳羣は駆けだしていた。入り口の戸もやはりぶち破り、外へ駆けていく。
後ろを振り向くと、顔を青くした郭嘉が必死に後に続いていた。やはりまだ、体調は完全に戻ってはいないのだ。
陳羣は郭嘉の側まで駆け戻り、肩を担いで一緒に走り去っていった。
219共鳴 9/11:2006/08/21(月) 03:36:56
賈詡は二人を追うことはしなかった。民家の外に立ち、走り去る二人の姿を見送った。
「劉禅殿」
二人の姿が見えなくなったあと、家の中へ振り向いた。
閃光の影響で、赤くチカチカするシミのようなものが視界に散らばっていたが、そこには、少し太った小男が立っていた。
「これで、晴れてあなたと二人になりましたな」
劉禅は、口の端を吊り上げて笑っていた。嘲笑う、という表現がちょうど当てはまる笑い方だ。
賈詡は、司馬孚と会う一時間前、すでに劉禅と会っていた。
賈詡は劉禅の眼を一目見て、自分と同じだとわかった。冷ややかな視点で他人を見て、利用する。そういう人物の眼だと。
劉禅は凡庸な人物だと聞いていた。人徳もなく、明知もなく、兵法もなく、武勇もなく、度量もなく、威風もなく。
だが劉禅は、そう偽って生きていただけなのかもしれない。
有能すぎる後継者は、臣下から危険視されるものである。劉禅はそう偽って、危険を避けてきたのかもしれない。
あるいは、ただ面倒くさかっただけかもしれない。
この状況下、もはや有能であることは危険でなく、面倒くさがっても危険なだけだ。
劉禅は袁尚殺害、貂蝉殺害の経緯を事細かに話してくれた。相手を利用し、利用できなくなったら殺す。
最も賢いやり方だ。
賈詡は自分のことを一通り話し、組むことを持ちかけた。こういう人物を、自分は待っていたのだ。劉禅はあっさりと承諾し、司馬孚の居場所を教えてくれた。
「あなたと組む以上、司馬孚はもう用済みです。できれば、あなたのお連れさんも………」
賈詡は一度に三人を葬り去る策を練り、劉禅は満足げに頷いた。
今二人は逃したが、一人は殺した。これで、劉禅と組み続けることができるはずだった。
220共鳴 10/11:2006/08/21(月) 03:38:47
「いえ、これでお別れです」
劉禅は冷酷に言い放った。
「私は確かに、組むことは承諾しました。だけど、一回限りですよ。もう組むことはできません」
これでお別れ。組むことはできません。
機械的にその声が、賈詡の頭脳へ入り込んできた。
「何を………言っている?」
「賈詡さん、あなた、張飛のことを話しましたよね。張飛を追跡したこと、張飛と陳羣の接触のこと」
自分は、そんなことまでも劉禅へ語っていたのだな、と知る。林で劉禅と話していたとき、自分はほぼ興奮状態だった。
「張飛は私の義理の叔父にあたるので、私は彼に保護してもらおうと思います」
「馬鹿な!」
頭の奥が、ちりちりと熱い。怒りが賈詡の頭中を支配し始めていた。
「張飛なんて筋肉馬鹿より、私の方がこの状況では有利なはずだ! なぜ、張飛と!?」
「あなた、私とどことなく似ているんですね」
劉禅は冷ややかな視線を、賈詡に投げつけていた。
「だから、いつ裏をかかれるか、わからないのです。私自身、私がわからないですし。そんな危ない人と、仲良くやるつもりは、ないですね」
相変わらず、劉禅の眼は、永遠に続く冬のように冷え切っていた。賈詡が今まで、他人に向けてきた眼だった。
賈詡は、劉禅に突進していた。モーニングスターを上へ構え、劉禅を叩き潰そうとしていた。
劉禅は眼は一向に変わらない。彼は、どこからか銀色の棒を取り出した。それが、賈詡に真っ直ぐ向けられた。
棒ではなく、筒だった。筒の黒い穴から、何かが、つつかれた鼠のように飛び出してきた。
賈詡は額に、違和感を感じた。その時には体はもう動かなくなっており、地面へ前のめりに倒れ込んだ。
顔が地面と衝突するさい、額に刺さっていたものが地面に押されて、さらに頭中へ沈んでいった。
221共鳴 11/11:2006/08/21(月) 03:39:57
「おい陳羣、俺はお前のせいで、本当に生き残れるか心配になってきたよ」
「すみません」
「お前は、ちったぁ疑うことを知れ。賈詡だろうが、荀ケだろうが夏侯惇だろうが」
「………曹操様であろうとも?」
「………そうだ。まずは疑え。疑うことは何も悪くはない。本当に生き残りたいんなら、疑い抜け。親も子も主も神も」
「郭嘉殿」
「なんだ?」
「私は、あなただけは、疑えません」
「………お前少なくとも、俺より長く生きるなんて、無理だぞ」
「そうかもしれませんね」
「開き直ってんじゃねぇ!」
郭嘉と陳羣、二人の北への旅は、終わりに近づいていた。


<<不品行と品行方正/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】
※現在地は楼桑村付近。遼西へ向かってますが、郭嘉の体調不良のため途中どこかで休みます。

劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】
※楼桑村に行きます。

【司馬孚 賈詡 死亡確認】
222無名武将@お腹せっぷく:2006/08/21(月) 13:03:06
223無名武将@お腹せっぷく:2006/08/21(月) 21:09:43
妄想厨が蔓延るキモいスレだな(笑)
224狂戦士 1/7:2006/08/22(火) 17:23:26
目の前の男は、張郃の質問には答えず、ただ笑っていた。
「ひゃぁ〜はっ! ははっ!」
込められた意味などないであろう、狂気の笑い声。
初めて会った時は、狂人とも馬鹿とも、あるいは、もしかしたらと思わせるだけの人物に見えた。
今はどこからどう見ても、狂気の塊だ。
話しかけるのは無駄とわかった。張郃は斬鉄剣の柄に手をかけ、距離を縮めていく。ゆっくりと、少しずつ。
張角は笑い続けるばかりで、その場を動かない。瞳はゆらゆらと、不気味に揺れ動いていた。
一定の距離まで詰めると、張郃は大きく一歩を踏み出した。同時に柄にかけた手を、前へ振り出す。刀身は滑車を付けられたかのように、鞘を滑り出て行った。
一閃。張角のいる空間を、横薙ぎに斬る。
「ひゃはっ!」
頭上から、声が聞こえた。張郃が声に反応するよりも速く、斜めに伸びる黒く太い鞭のようなものが視界の中央を占めていた。
脚だ―――わかった時には、顔面を蹴られていた。踏ん張ることもできず、体が倒れていく。衝撃からやや遅れて、鼻を中心に痛みが広がっていった。
まるで鋼の棍棒を、強力の猛者に叩きつけられたかのようだった。頭の中を、かき混ぜられるかのような感覚が続く。視界が真っ黒になり、意識が朦朧とする。
あり得ない。刀を振り出すまで、確かに張角は静止していたはずだ。その後の一瞬で、頭上まで跳躍するなど、あり得ない。
「ひゃっ! はは、ハはははハははハハは、ヒャーハァアアアアア!」
視界が瞬時に戻った。薄暗い空から、大きな水滴が絶え間なく落ち続けていた。
張角は?
「ひゃぁあああぁぁああああぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!」
もはや笑え声とは言えない、張角の声。張郃からは、どんどんと遠ざかっているようだった。おそらく、駄馬の走りなら追いつけそうな速さで。
張郃は、揺れる頭を押さえながら立ち上がった。足になかなか力を保てず、立つだけでもかなり手間取った。
張角の姿は、もう見えない。ただ狂気の声だけは、途切れ途切れに聞き取ることができた。
張角の過ぎ去っていった場所、それは荀攸のいる家に違いなかった。
225狂戦士 2/7:2006/08/22(火) 17:25:30
荀攸がこの書の内容がでたらめであることを考える。
首輪の解体は、理論上、可能であるとこの書は述べている。だが理論とは、この書によって導き出された理論だ。
荀攸には理論が正しいかどうかなんてわからない。荀攸が読めたのはほんの一部であるし、すべてを読み込んだところで、首輪が未知の道具であることには変わりはない。
この書はもともと、献帝が用意した支給品だ。これを我らに渡すというのは、自分を殺してくれと言っているようなものではないのか?
普通に考えれば、首輪を解体できるはずがない。藁をもすがる思いでこの書にありつく我らを見て、献帝がほくそ笑むためのものではないのか?
わからない。だが、これ以外には―――
「荀攸!!!」
226狂戦士 3/7:2006/08/22(火) 17:26:39
突然名前を叫ばれ、荀攸の思考は中断された。張郃の声ではない。近づいてくる狂気の声だった。
「ハ! ひゃははははああああああああ!! じゅん、ひゃはぁあぁ、ゆう、はハハアハは、ころ、ああハは、コロ、はああハハはハハハッ、コロス!
ひゃぁああああ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
書の横に置いていたデリンジャーを左手に取り、立ち上がりながら扉へ銃口を向ける。
張郃は無事なのだろうか? 彼にはわかった事を伝えなければならない。
声は近づいてくる。人間の速さではないように思えるのだが、聞こえてくる足音は人間のものだった。
咆哮は続く。鼓膜が破れそうだ。声が大きすぎて、豪雨の音はほとんど聞こえなくなった。
扉が、吹き飛んだ。
「――っ!?」
思わず驚きの声を上げようとしたが、声になっていかった。自分はもう、ほとんどしゃべれないのだと実感する。
扉は木っ端をまき散らしながら、大きく前へ、大人の身長を軽く越えるくらい飛び、倒れた。風が巻き起こり、木っ端は空中を舞った。
扉がはまっていた枠に、黄色の服を着た男が立っていた。
眼は荀攸に睨み殺すように向けられていたが、口は大きく曲がっていた。
勲功を稼ごうとする猛者が、戦場で敵大将を見つけたときのような表情がこれに近いだろうか。狂喜と殺意に満ちあふれている。
恐怖と、ここで死んではいけないと思う使命感に、荀攸は撃った。男の胸に、穴が上下に二つ連なった。
それでも男は、表情を変えることもなく、自分の撃たれた胸を見ることもなく、ただ少し、体が衝撃に揺れただけだった。
男は大きく裂けんばかりに口を開けた。よく見ると、口の端が赤くなっていた。すでに裂けていたらしい。
何かを叫ぼうとしたようだが、声帯が機能していないのか、声は出なかった。
デリンジャーの装弾数は2発で、すでに撃ってしまった。荀攸は急いで装填しようとする。
しかし片手だけの荀攸に、装填は当然手間取る。銃身を回転させることもままならない。
ようやく一発を詰め終えた時には、男の右腕が荀攸の右頬を殴りつけていた。
227狂戦士 4/7:2006/08/22(火) 17:27:45
荀攸はろくに殴られたことはなかったが、それでも、この力は人間離れしているとわかった。
そもそも、いったい何時の間に近づいたというのか?
いや、男は荀攸がまさに銃口に弾を込めようとしていたときにはすでに動いていた。それで、込め終えた時には、もう殴れる距離にあった。三秒もない。
荀攸と扉までの距離はそう遠くはない。しかし、あり得ない。
倒れようとしていた荀攸の腹に、鋭い衝撃が走った。膝蹴りだろうか。荀攸は、自分が地面から離れるのがわかった。
血が喉を逆流していく。それを吐く前に男は荀攸の服を掴かみ、床に投げ落としていた。
背中が床に叩きつけられると同時に、血が口から溢れて噴き出る。
自分の右頬に穴が空いており、そこからも血が流れ出ているのもわかった。歯が頬を貫いていたのだろう。
全身を、痛みが波打っていた。体を動かす力はほとんどなかったが、左腕だけわずかに持ち上げることができた。
男は、始め荀攸をじっと見下ろしていた。顔はあの表情に固まったままだ。ただ、荀攸と同じように、口から血が溢れていた。
やがて右足を上げると、荀攸を踏みつけた。狂った笑いを浮かべたまま、何度も、なんども。
左膝を踏みつけた。右肩を踏みつけた。胸を踏みつけた。腹を踏みつけた。顔を踏もうと腹から足を持ち上げた。
―――荀攸の顔は、踏みつけられることはなかった。
その代わり、男の首から血が飛び出し、びしゃびしゃと、雨のように荀攸に降り注いだ。
狂気の顔は、いつのまにか消えていた。
男の体は傾いていった。男の右足も、傾いていった。
「荀攸殿」
男が倒れた音と、誰かの声を同時に聞く。意識も視界もすでに消えかかっていたか、誰がいるかは、判別がつく。
伝えなければならなかったが、声は出すのは不可能だった。荀攸はもう、呼吸をしていない。
左手が濡れている。自分の血か、男の血かはわからない。
伝えなければならない。
228狂戦士 5/7:2006/08/22(火) 17:28:52
張角は荀攸を踏みつけるのに夢中で、張郃がすぐ側に近づいていたことに気付かなかったらしい。あるいは、どうでもよかったのかもしれない。
斬鉄剣を振り払う。張角の首が飛んだ。かつて四十万の信徒を従えた張角の、あっけない最後だった。
張郃は張角の首からほとばしる血の噴水を、少しの間、目を細めて眺めていた。
「荀攸殿」
荀攸の顔を見る。口から血が吹きこぼれつづけている状態で、頬にはいくつかの穴が空いていた。床の血だまりに、白い歯が混ざっていた。
体の各所が、奇妙にへこんでいる。まるで砂場に鉄球を落とした跡のようだ。
返事はない。この様子じゃ、呼吸すらしていない。ただ死んでいないことは、眼球がかすかに動いていることからわかる。
残った左手が、床に血文字を書いていた。
『小』『黒』『甘』
指はずいぶん震えていて、一見字ともわからない字であったが、おそらくそう書いていた。
書き終えると、左手はもう動かなくなった。
「小さく、黒く、甘い?」
顔を見ると、荀攸は肯定するかのように目を閉じた。表情は苦々しくも、どことなく穏やかだった。
229狂戦士 6/7:2006/08/22(火) 17:30:14
「この書は………この文字はなんだ?」
書は墨染めでもしたかのような、真っ黒な表紙で、その表紙に白い見知らぬ文字列が書かれていた。
中をぱらぱらとめくると、やはり読めない文字が出てきたが、それは数枚で終わり、やがて張郃にも見知った文字が現れる。文章だった。
「張角が書いたのか?」
本人は日記のつもりで書いたようだったが、今日の分だけで終わってしまっている。
「もし誰かがこれを拾うことあれば、私の志を継いでいただけることを願い、歩む道をここに綴る」
張郃は一字一字を、丁寧に音読していった。そう読んでいくと、威厳すら感じさせた張角の姿が思い浮かぶ。
序文にはかつて張郃に言った論と同じような文章が綴られてあった。
「私は何故だか判らぬが、自身の死後しばらくの世の動きを記憶している」
それは奇妙なことだ。もっとも、自分達がここにいることそのものが奇妙なのだが。
「まずは荀ケ、荀攸、司馬懿、陳羣らなど後世の清流派の者を求めこれより移動する………」
―――荀攸。荀攸の名前がここにある。
張角は自分に蹴り一発を入れただけで、さっさと家の方へ向かってしまった。荀攸がいることを、わかっていたに違いない。
ではなぜ、仲間として求めるはずだった荀攸を殺害したのか?
他に何も書かれていないことを確認すると、書を閉じ、再び表紙を見た。文字列を中心に、表紙から禍々しい気配が放たれているように感じられた。
あの脅威の身体能力も疑問だ。足の速さや力の強さはもちろん、胸を撃たれてまったく影響なく動けるとは、どこをどう考えてもおかしい。
とりあえず二つの書とデリンジャーを自分の荷物に加え、張郃は家から出て行った。誰かに張角の叫び声を聞かれている可能性がある。
「小さく、黒く、甘い」
雨はもう豪雨とは言えず、ぱらぱらと降る程度になっていた。空はより暗さを増し、夜に
なりかかっていることがわかる。
「全員殺すか、帝を殺すか」
荀攸の話した、荀ケのことを思い出す。荀ケの狂気は、張角の狂気とは違う。ごく冷静で、それでいて狂っているのだ。
なぜ冷静でいられるのか? 荀ケは、何かを知っているのか?
おそらく彼は、豫州にはもういないだろう。三日も同じ地域を探し続けるとは考えにくい。
まずは、豫州を抜けなければ―――
230狂戦士 7/7:2006/08/22(火) 17:31:11
@張コウ[顔面負傷、全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、デリンジャー、首輪解体新書?、DEATH NOTE】
※豫州以外のどこかの州へ向かいます
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われ、身体能力は大幅に増加します。
※DEATH NOTEの持ち主でなくなったあとも影響は継続します。
※一度誰かが書いたあとに、他の誰かが拾っても影響はありません。
※ただ新たに名前を書き込むか、もう一つのノートに名前を書き込まれれば、持ち主に同上の影響が出ます。

【張角 荀ケ 死亡確認】
@張コウ[顔面負傷、全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、デリンジャー、首輪解体新書?、DEATH NOTE】
※豫州以外のどこかの州へ向かいます
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われ、身体能力は大幅に増加します。
※DEATH NOTEの持ち主でなくなったあとも影響は継続します。
※一度誰かが書いたあとに、他の誰かが拾っても影響はありません。
※ただ新たに名前を書き込むか、もう一つのノートに名前を書き込まれれば、持ち主に同上の影響が出ます。

【張角 荀攸 死亡確認】
<<パパじゃないよお兄ちゃんだよ/2名>>
曹丕[右肩負傷・ひどい衰弱]【なし】曹幹【吹毛剣】

<<親子の面影+α/3名>>
蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5】劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】

<<不品行と品行方正/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】

<<荀イク孟徳捜索隊/2名>>
袁紹【妖刀村正】曹彰[強いショック]【双剣の片方(やや刃こぼれ)ごむ風船】

<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】

<<孤篤と廖淳/2人>>
馬忠【グロック17】&廖化[両頬に腫れ、鼻血]【鎖鎌】

<<子義マンセー/2名>>
太史慈【ジョジョの奇妙な冒険全巻】李典【SPAS12】

<<ふたりの詩人とひとりのアモーと弓腰姫/4名>>
曹操[軽い打撲]【チロルチョコ(残り84個)】陸機[頭部より少量の出血]【液体ムヒ】
呂蒙[鼻を負傷]【捻りはちまき】孫尚香[かすり傷]【シャンプー】
<<めるへんカルテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×4)】
姜維[頭部損傷]【魔法のステッキミョルニル】
馬岱[軽症、香水アレルギー(顔及び手に発疹)]【シャムシール・ロープ・投げナイフ×20】
司馬懿[軽傷]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、陳宮の鞄】

<<フライングディスクシステム搭載/2名>>
曹植【PSP テルミン】張遼【歯翼月牙刀】

<<ナースと外交才能零/2名>>
趙雲【ナース服、化粧品】魯粛【圧切長谷部】

<<現在工事中/2名>>
禰衡[脇腹負傷]【農業用スコップ】 孔融[こめかみかすり傷]【農業用ショベル、刺身包丁】

<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
呂布[肩の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】 諸葛瑾【なし】

<<三界伏魔大帝神威遠震天尊関聖帝君と下僕/2名>>
関羽[全身打撲]【方天画戟】 裴元紹【なし】
@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳?]【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×25)】
@魏延[右腕・顔面右側に火傷(痛み止め済)]【ハルバード(少し融けています)】
@董衡&董超[二心同体(朝昼夕方は董衡、夜は董超が活動)]【なし】
@孫権[右目負傷・失明]【防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
@諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
@荀イク[洗脳されている?]【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
@高順【狼牙棍】
@張飛【鉈】
@楊儀[睡眠中]【MDウォークマン】
@袁術【日本号】
@潘璋【備前長船】
@張燕[軽い風邪]【猛毒付き諸葛弩・手榴弾×3】
@夏侯楙[両腕擦り傷]【越乃寒梅】
@馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー、ジャベリン】
@許チョ【スナイパーライフル、大斧】
@黄忠[軽傷、疲労]【サバイバルナイフ】
@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
@夏侯惇【金属バット】
@劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】
@曹熊[ひどい錯乱]【ベレッタM92F】
@祝融[毒]【なし】
@阿会喃【DEATH NOTE(残り9ページ)・エクスカリパー・大般老長光】
@張コウ[顔面負傷、全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、デリンジャー、首輪解体新書?、DEATH NOTE】

パーティの部14組34名、ピンユニットの部24名 計58名 生存確認
235▼死亡者放送(参加者公開)▼:2006/08/24(木) 02:29:13
≪あ行≫6名
王平、袁煕、閻行、袁尚、袁譚、王累
≪か行≫18名(+4)
☆賈ク、郭シ巳、楽進、郭図、☆夏侯淵、夏侯威、夏侯和、夏侯恵、夏侯覇、☆華雄、韓玄、韓遂
顔良、許攸、☆虞翻、刑道栄、侯選、胡車児   
≪さ行≫17名(+7)
☆司馬孚、周泰、☆周瑜、☆朱桓、朱然、朱霊、淳于瓊、☆荀攸、徐晃、徐庶、辛評、成宜、☆沮授、☆曹洪、☆曹仁、孫堅、孫策      
≪た行≫13名(+4)
張横、☆張角、☆張虎、張任、張繍、貂蝉、陳宮、☆陳到、程銀、程普、☆典韋、田疇、董卓
≪は行≫2名
馬玩、文醜
≪ま行≫3名(+1)
満寵、☆孟獲、孟達
≪や行≫2名
楊秋、楊阜
≪ら行≫6名
李堪、李儒、劉璋、劉ェ、梁興、呂範

計67名 死亡確認


■既出登場武将数:125名 残り58名
236▼死亡者放送(参加者公開)▼:2006/08/24(木) 02:30:51
その忌々しい放送が入った頃、既に夜が明けかけていた。

「これより、死亡者の名前を放送致します」
献帝の部下が、淡々とした声で新たな死亡者を順に読み上げる。
生き残りは遂に当初の半数を割った。

「諸君、まだ雨は残っているが爽やかな朝だな。
 なかなか順調に殺しあっているようだな。しかしそろそろ互いに出会うのが難しい人数になってきただろう、
 そこでさらなる活性化の為に、禁止エリアを一気に追加するぞ。
 次の禁止エリアは徐州・雍州・幽州だ。くれぐれも逃げ遅れなどということがないように。以上だ。」

4日目、朝。
各々の新しい一日が始まろうとしている――


※100レス後(>>332)に徐州・雍州・幽州が禁止エリアとなります。
237▼訂正▼:2006/08/24(木) 02:33:00
※100レス後(>>337)に徐州・雍州・幽州が禁止エリアとなります。



申し訳ありませんでしたorz
238【Subliminal】 1/2:2006/08/24(木) 05:02:22


虞翻が死んだらしい。


夜が明け始めるにつれ段々と小降りになってきた雨を、城壁の上に備えられた
見張り小屋の中から眺めていた。
「ぱん」とかいう食べ物を齧りながら、滴る雨を眼で追う。
虞翻が、死んだらしい。
もう一度、口の中だけでその台詞を繰り返した。
(死んだのか。)
余り実感がわかなかった。
当然だ。自らの手で殺したわけではないのだから。
(誰が盗りやがったんだ。)
いらいらした。
同時に、(もうふくしゅうできない。)と思うと悲しくなった。
雨が、しとしと降っている。濡れた靴を絞った。
復讐が、したいのだ。
それはあたかも天啓の如くこの脳裏に刻みついて、消えない。
復讐が。したい。
したい?
動くことも眠ることも出来なかった夜の間に、ずっとこびり付く疑問があった。
だが、それを明確に思おうとすると、脳みそが内部から犯されたようにぐちゃぐちゃと
絡まって、次の瞬間には絶頂した直後のように頭が真っ白になる。
それはとても気持ちの悪い感触で、故にそれ以上考えることを脳が拒否した。
復讐が、したい。それでいい。
239【Subliminal】 2/4:2006/08/24(木) 05:03:50
曹丕を殺す。
関羽とか、色々殺す。
自分を嘲った奴とか、嫌いな奴とかを。
殺す。

自我と自我との間に、細切れになったそれらの言葉が行きかう。
言葉はだんだんと自我と交じり合い、いつか完全な自我となる。
しかしだからといって、それを排除する気は無いのだ。
かんがえるときもちわるくなる。
だが「殺す」のだと反芻している間は、至極心地よいから。
240【Subliminal】 3/4:2006/08/24(木) 05:04:36
先程微かに見えた光の事を唐突に思い出した
あれは何だったのだろう。
身に覚えの有る光だった。と、言うことは金物の光か。それとも。
小屋の中から、少しだけ身を乗り出してみる。
光の移動していった方向を眺めた。
(あ。)
朝の薄暗く、雨も滴る中に、その朱は余りにも美しかった。
司空府・銅雀台。
許都に比べ気に食わないギョウの中で、于禁が唯一好きな建物が、其処にあった。
思い出が、色を纏って甦る。

(ああ。)
(あの道は、確か文謙と一緒によく歩いた。)
(公明はあの店の飯が好きだって笑ってたな。)
(あの調練場で文遠と一騎打ちしたっけ。あんまり勝てなかったけど。)
(儁乂は何時も神出鬼没だったな。探して見付かるってのがあんまり無かった。)
(あの場所には曼成が良く居た。あっちは、令明。ああ、大将軍殿の邸宅だ。)

この街でも、幸せな時間は確かにあったのだ。
確かに、存在していたのだ。
241【Subliminal】 4/4:2006/08/24(木) 05:05:27
(―――曹公。)
銅雀台。
再び、眼を移した。
数多の将・文官が勢い込んで昇った階段。
自分も何度か、登ったことがある。
そのたびに、曹公の偉大さに触れ、戦慄したものだ。
あの銅雀台は、曹公そのものだった。
華麗で、雄大で、それでいて繊細で、――――恐ろしくて。
なのに帰ってみたら彼の人は其処に居なかった。
(行ってみるか。)
曹丕が居るかもしれない。光は、確かにあの方向へ流れていった。
雨が止んだら。水がもう少し引いたら。行ってみよう。
居なかったとしても、少し時間を食うだけだ。構うまい。
先程見たあの様相では、動けるようでも無かったのだし。
自分が殺す前に死なれても困るけれど、それでも。
もう一度あの場所に立ちたかった。
曹公の、その栄華の墓所に。


@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳?]『現在地 冀州・魏郡・ギョウ城壁上見張り小屋内部』
【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×25)】
※何だかぼーっとしています。水が引いたら銅雀台へ。
※曹丕など恨みのある将を狙います。
※曹操、張遼、張コウ相手には友好的です。 が・・・。
4日目、朝。
様子がおかしくなった後にぱたりと倒れた馬謖を縛り上げた後、彼の目覚めを待つことにした凌統と関興だったが、
「起きないな」
「起きませんね……」
一夜が明けても馬謖は未だ爆睡中であった。
しかも大変幸せそうな寝顔。ヨダレ垂らして緩んだ笑み、むにゃむにゃとよくわからない寝言。
凌統と関興の額に青筋が立っていても、責めるのは酷というものだ。
「凌統殿、馬謖殿亀甲縛りにしていいですか?」
「よし、やれ」
すぐに森の中に入っていった関興はほどなくして帰還した。
なんだかムチムチした蔓を両手に抱えて、コレ縛るのにいいんですよ、と得意げに言う。
そして凌統が目を見張るほどの速度で、宣言したとおりに馬謖を亀甲縛りにした。
倒錯的というか馬鹿丸出しというか微妙な姿勢にされ、馬謖がうなされ始める。
「出来ました凌統殿。自信作です」
「……へー……」
明らかに玄人の手による亀甲縛りであることにツッコむべきかやめとくべきか。
あんまりその世界には関わりたくないので考えるのを放棄して、凌統はつま先で馬謖をつっついてみる。
「おい、いいかげん起きろ」
「うぅ…先生蝋燭だけは………………あ、朝?」
変な寝言と共に馬謖起床。関興が彼の頭上にかがみこんでにっこり笑う。
「ごきげんよう、お兄様」
「……朝一なのに関興が私にツッコミを要求する、しかも亀甲縛り。凌統助けて」
「縄が曲がっていてよ、お兄様」
「いやいやいや、綺麗な亀甲縛りにしてとか言ってないから。というかやっぱりお前らこういうの趣味だな!?
 私って実は狼の群れに放り込まれた美味しそうな子羊なんだな!?」
縛られたままずりずりと後ずさる馬謖が、ふと何かに気付いたようにきょろきょろと辺りを見回した。
「……あれ? 孟獲殿と祝融殿は?」
わざととぼけているようには見えない彼の様子に、凌統と関興は目を見合わせた。
どっちが言うんです? お前行け。いや凌統殿どうぞ。
目と目の会話の末、重い溜め息をついて凌統が馬謖の前に立った。
おもむろに銃剣を突きつける。
「うわっ? 何だいきなり、危ないだろう」
「……お前の、その服についてる血。誰のか本当に分からないのか」
「血? げっ、何だこれ。あぁ分かった! お前らの鼻血だな!?
 縛られた私を見て吹いたんだろう! 嗚呼、同性すら惑わせてしまうこの美貌、まさしく罪だな!」
冷えた刃がぴたりと馬謖の首に当てられる。頚動脈の真上。
ほんの少し凌統が手を動かすだけで、またひとつ簡単に骸ができる。
「……なんだ凌統、そんな怖い顔をして……本気で怒っ」
「孟獲殿の血だ。お前が殺した」
理解できない、と言いたげに馬謖が目を瞬かせた。
「毒で動けない上に降伏を宣言した孟獲殿の首をお前が掻っ切った血だ」
「……はは、まさか。お前冗談が下手だな」
「馬謖殿。残念ながら冗談じゃありません。覚えていないのですか?」
責める色はないけれど、悲痛な関興の視線。そして温度を感じさせない凌統の視線。
「……私、が?」
「もう一度聞く。本当に覚えていないのか?」
小さく口を開きかけて、馬謖は視線を落とした。
凌統の銃剣を握る手に力がこもる。その手はほんの僅かに震えていた。
「…………現実味が無かった」
蚊の鳴くようなほそい声で馬謖が呟いた。
「書に記された出来事のように、現実味が無かった。
 目が覚めたから、あぁやっぱり夢だったと思ったんだ。環境のせいで見た変な悪夢だと」
「その前は? 関興殿に斬りかかったのは覚えてるのか」
「……覚えている。目が覚めたとき縛られてるから変とは思ったが、夢だと思いたかった」
「お前さ、この遊戯に乗ったとか、殺したくて殺した訳じゃないってことか?」
「当然だ。私はそこまで愚かじゃない」
若干愚かな自覚はあると?と口をはさもうとする関興の鼻に無言で裏拳を食らわせて、
凌統はおもむろに刃を下げると、馬謖の戒めをぶちぶちと切った。
亀甲縛りが解けて関興が残念そうな顔をしたのは、とりあえず無視した。
座り込んだ姿勢のまま疑問符を顔に浮かべる馬謖の前に屈みこむ。
「原因に心当たりはあるか?」
「……関係があるかはどうか分からないが、変な夢を良く見る。さっきも見た」
「そういえばうなされてましたね馬謖殿」
鼻血を垂らしながらも平然と復帰して話に混ざってくる関興。
うなされてたのは亀甲縛りのせいじゃないのかと指摘したいのを我慢して、凌統は話の続きを促す。
「誰かが――誰かは判らないのだが、自分の為に沢山人を殺してくれって、私に語りかけるんだ。
 その声を聞いてたら、なんだか嫌な物が頭の中を渦巻いて、自分が自分じゃなくなるみたいだった」
「う〜ん。なんか憑いてませんか馬謖殿」
「やっぱりそう思うか!? お祓いしてもらったほうがいいかな私!」
「最近の道士はぼったくりとか詐欺が多いから気をつけたほうがいいですよ〜、
 呂蒙もそれで父上祓えずに死んじゃったみたいですから。個人的にはざまあみろですけど」
「それで! どんな夢だって!?」
こんな所で呂蒙殿の運の悪さが発覚するとは、と内心頭を抱えつつ、
横道に逸れていきそうな話を凌統が強引に軌道修正する。
「あとは……。この前もちょっと話したけど、暗い部屋で文官がいっぱい寝てたって話」
「あぁ、この前言ってましたね馬謖殿」
「そこでな、何だか知らないが目が覚めたんだ。夢の中でだから本当には覚めてない訳だけど。
 なんでこんなところで寝かされてるんだろうって思った……んだと思う。歩き回ってるんだ」
「ふんふん、で?」
あんまり関係なさそうだなぁと思いながらも凌統は一応続きを促す。
「そしたら壁に……あぁ、そうだ、この探知機の大きいのみたいなのが掛かってて、
 そのすぐ下に何かこう、釦のようなものが沢山きれいに並んでるのを見つけたんだ、確か」
「でかい探知機?」
「地図じゃなくて表みたいなのや私の知らない言語の文字らしきものが浮かんでいたな。
 試しに釦を適当にいろいろ押してみたんだが」
「いくら夢でもだな、そんなよく分からんモン普通触るか?」
「私はお前と違って知的好奇心が豊富だからな!
 そしたら何かびーっ、びーっ、って音が鳴ってだな」
「……馬謖殿、それ何かやばいことしちゃった感じなんじゃ」
「私の夢で私が何をしようと勝手だろう?
 その探知機もどきの画面に四角いのがいっぱい浮かんできて……中には読めるものもあったな。
 記憶制御とか、第何回とか、なんだか意味が良く分からなかったが。確かこの記号が沢山あった」
そう言って馬謖は地面にその『記号』を書いた。
“error”
「お前ら意味分かる?」
「俺は知らないけど」
「僕も見たことないです」
「まぁ当然そうだろうな。このきらめく才知溢れる私ですら分からないのにお前らに分かったら奇怪だ」
お前の夢ン中の妄想記号なんて誰がわかるか。馬謖をどつきたい衝動をこらえ、凌統はさらに続きを促した。
「その音に釣られてかは知らんが、人が沢山ばたばた駆けつけてくるのが聞こえて、
 もともと寝てた場所に滑り込んで寝たフリした。そこで夢は終わりだけど、同じのを何度も見る」
「何度も?」
「あぁ。もう3回以上同じの見てるから、覚えてしまった」
「う〜ん……何か意味があるんでしょうかねぇ」
一同は腕を組んで考え込み、すぐに「ただの変な夢じゃないか?」「まぁそれもそうだな」「ですね」という結論に達した。
諦めが早すぎるだろうと突っ込みを入れる人材は残念ながらここには居らず、
とっとと朝食食おうという方向に話が進む。
「林檎と山葡萄を見つけたんですけど、どっちがいいですか」
「俺は葡萄。つか何で全然旬が違う実が同時に生ってるんだろうな」
「私は林檎がいい。あ、そうだ、凌統、私が手に負えないほどおかしくなったら殺してくれ」
「……へっ?」
朝食の献立のついでにさらりとおかしな事を言い出した馬謖に、関興が危うく果物を取り落としかける。
「その時は出来るだけ楽に死ねるように頼む。首刎ねるのは勘弁してくれ。
 あれって斬られた後数秒間意識あるんだぞ。凄い辛いぞ知らんだろ」
ふふん、と自慢げに良く分からない知識を披露され、
「ちょ、馬謖殿、突然そんなグロい話やめてくださいよしかも食事前!」
半泣きで関興がぼやく。
ふぅ、と凌統は溜息をついて、馬謖の後頭部を銃剣でゴンとどついた。
「……いたいぞ」
「言われずとも殺してやるよ、そんときは。ついでに弔ってやるから安心しろ」
「うん、ありがとう。それを聞いて安心した……が、なんだか腹立たしいな」
「どうして欲しいんだお前は……」
「あの馬謖殿、僕には頼んでくれないんですか」
「お前は無駄にいたぶってくれそうだから嫌」
朝食モードに入った3人は、それぞれ好みの果物をぱくつきながら今後の方向について話し合った。
「お前が寝てる間に放送があったんだが……周瑜様が亡くなられた。
 これで幸か不幸か行き先は諸葛亮殿に絞られちゃった訳だ」
仔犬の背を撫でながら凌統が言った。平然と話しているように見えるが、
内心の動揺を押し隠しきれてはいない。仔犬が主人の顔を覗き込み、慰めるようにくぅんと喉を鳴らした。
「あれ、呂蒙や陸遜に天誅案はどうしたんですか」
凹み気味の凌統に代わって、馬謖が関興の脳天に木製ブーメランを振り下ろした。
「お前にとっては仇でも凌統にとっては戦友や上司だろう。少しは頭と気を使え」
「……うう、まさか馬謖殿にそんなもっともらしい説教される日が来るとは思いませんでした、僕」
割と失礼な感想を漏らしつつもちょっぴりは反省しているらしい関興を横目に、凌統が口を開いた。
「あと馬謖、お前『戦いたくない』って言う相手に斬りかかる習性があるような気がするが、自分ではどう思ってる?」
「習性って私は動物扱いか? ……言われてみればそんな気もするな」
「あ、そういえばそうですね! 僕も無駄な戦いはしたくむぐっ?」
凌統に横から勢いよく口を塞がれ、もごもごと関興がもがいた。
「(馬鹿かお前! その言葉が起爆剤になるかもと分かってて口にするな!)」
「(あっ。すいません)」
肝心の馬謖は突然じゃれついてきた母犬に翻弄されて笑い転げていた。関興の言葉は耳に入らなかったようだ。
凌統の命令によるものだが、母犬のファインプレーである。
「ひゃ、ひゃははは、舐めるな! 舐めるなってあははっ」
仔犬も加わってじゃれあいはじめた大変平和な図を眺め、凌統と関興は目を見合わせた。
「……とりあえず馬謖殿の前で厭戦的なことは言わない、誰かに会ったときも言わせない、でいいですかね?」
「そうだな。で諸葛亮殿を探す、と」
「そして諸葛亮先生を亀甲縛りにする、と」
「うん、俺もうそろそろ疲れてきたんだけど。馬謖よりむしろお前斬っていい?」
「泣いて斬るのは馬謖殿がお勧めですが」
「いや、泣かないから」
<<既視感を追う旅/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】馬謖【探知機】関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】
※荊州南部と楊州南部の堺。目的が諸葛亮の捜索に絞られたため、進路を西に変更。
 荊州と益州の境辺りまで行ってから北上します。祝融は避けて通ります。速度はまったり
※近くに人間が居れば凌統か関興がこっそり偵察しつつ、諸葛亮との合流を目指します
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能
※「むむむ、そういえば何で私ら孔明先生探してるんだっけ?」「何がむむむだ! 言い出したのお前だろ!? 献帝に対抗するって!」

「あ、忘れてた……」「はわわ、既視感も最近本当に追ってないですね凌統殿」「何がはわわだ!! やかましい!」「ももも、それにし

ても孔明先生どこにいるんだろう」「何がもも……もももって何だよ本当に」
荊州の朝。
夏侯楙は逃げていた。わけのわからない未知の生物から、全身全霊をもって逃げていた
もともとは、夏侯楙が朝から酔っぱらって我を忘れ、通りがかりの男に突っかかったのが原因なのだが
「ふむ、お前は乗る気の人間なのか?」
と男は真顔で言って目をつむり、
「あん? なにわけわかんねーことを……」
「この状況をいいことに悪を成す者は
元 三 国 一 の 猫 耳 萌 え キ ャ ラ 代 表としてこの潘璋が斬ってくれる!」
刮目された男の目には、ただならぬ気配が生じていた。
なにこいつ、ちょっとやばいんじゃねーの? と少し我に返って、後ずさりする夏侯楙。一歩退けば男は一歩進み、大股で退けば男は大股で進む。
「さっきはちょっとふざけたけだよ! ジョーダンジョーダ……」
夏侯楙は男の変化に気付き、ハッとした。
男の顔の縁が、うっすらと、茶色がかっている。よく見れば、それは細かく軟らかい糸のようだった。
なんだ? ついさっきまでなかったはずだ。これはまさか、毛? 毛が生えてきたというのか?
それに、こいつ目が、瞳が、縦に細くなっていないか? さっきまでは人間らしくまん丸だったはずなのに……
ネ コ ミ ミ!
その奇声が、男の口から発されたものだと理解するのに数秒時間を要した。男の口も、なんだが奇妙な形となっていた。
まず周りに生えていた髭が、ほんのりと茶味がかかり、柔らかげになっていた。
唇はかなり小さくなっていて、口の線は、なんだか見覚えのある波状になっていた。
突然、男が夏侯楙の頬をはたくように手を振った。
夏侯楙は父から武術を習っていたので、一応戦闘の心得はわかっている。顔を反らして、振られる手の軌道から紙一重で出ていった――
はずだったのだが、顔の表面を、鋭い何かが直線に走った。
「いっでぇ!!」
見れば、男の中指の爪に、赤いものが付着している。自分の皮膚だとわかりぞっとしたが、問題はその爪の形状だ。
長く、鋭く尖った、かぎ爪だった。















ネ コ ミ ミ モ ー ド♪















そんなわけで夏侯楙は逃げ出した。酔いはもう完全に冷めていた。
足の速さだけは自信があったので、逃げ切ることはできると思っていた。が、甘かった。先程から連発されている男の奇声のように甘かった。
わたしのしもべー♪
男は、奇声を発しながらとんでもないスピードで走っていた。しかも、四本で。なるほど、四本じゃ敵わないわな。こっちはたかが二本だ――
男は夏侯楙との距離を瞬く間に詰め、そのうち追い抜いて回り込んだ。慌てて夏侯楙は停止し、逆方向へ逃げようとした。
しかし、体を反転させる前に男は大きく跳躍していた。
その時には顔全体にも腕全体にも毛が生えていたし、鼻は低く黒くなっていたし、鼻の横からピンといくつかの髭が飛び出ていたし、
体は服が今にも千切れそうなくらい大きくなっていたし、かぎ爪もますます大きく凶悪な形になっていた。
空中で男の腕、というより前足が逃げようとする夏侯楙を捉え、夏侯楙は男に押されるがままに、地面に倒れた。
男の口が大きく開けられた。人の口より遙かに大きかった。中の犬歯は、人の皮膚くらい軽く刺し通せるに違いなかった。
ネ コ ミ ミ モ ー ドでーす♪
暗い口内から、相変わらず甘ったるい声が響いてくる。ただ奇妙にも、舌――やけにザラザラで、紙ヤスリのようだ――はまったく動いていなかった。
キス……したくなっちゃった……
「や、やめろ! まさか、そんな! なんてことを! 俺はしたいキスは、奥歯も凍るようなキスだ! 背筋が凍るようなキスじゃ……」
男の口が、夏侯楙の首にかぶりついた。その瞬間に、夏侯楙は決定的な物を見た。
男の登頂に、もはや髪の毛ではなく完全な獣毛が生え茂っているその頭頂の左右に、なにやら可愛らしいものが形を成していた。


……ネコミミだ。ネコミミだ! ネコミミだああああああ……
気が付けば、自分に突っかかっていたはずの男が死んでいた。首に、大きな穴が四つ空いている。
これはどうしたものだろう? 記憶は、男を斬ろうと宣言した所で途切れている。
自分の刀の刺し傷ではなさそうだった。
周囲にはぱらぱらと、茶色の毛が落ちていた。もしや獣が来て、こいつをかみ殺したのか? いや、そんなことはあるまい。
まあ、どうせ乗っている奴だったんだし、別にいいか。天罰だな。
潘璋は過去の自分を棚に上げ、納得することにした。
さて、これからどうするか? 荊州には特に有益な情報は得られなかったな。強いて言えば、周瑜の死体が転がってたことくらいだ。
「これ以上田疇や周瑜のような犠牲者を出さないためにも
元 三 国 一 の 猫 耳 萌 え キ ャ ラ 代 表として速く情報を集めなければ!」
次は揚州だ、となんとなく決めて、潘璋は揚州に向かって突っ走っていった。

@潘璋【備前長船】
※現在地は荊州中部あたり。主催者の手がかりを探し、揚州へ向かいます。
※なんかいろいろとおかしいようです。

【夏侯楙 死亡確認】

参考
(・∀・)ネコミミモード♪のガイドライン 8モード
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/gline/1104975149/
「えーい!くそ!南蛮王ともあろう者があっさり死んでしまうとは!」
不思議な仲間=南蛮軍と勝手に解釈をし、益州を捜索していた楊儀の元に届いた放送。
それは捜索している人物の一人。南蛮王・孟獲の死亡を報じていた。
「困るんだよなー!勝手に死んでもらっちゃぁ!魏延を倒す頭数が減っちゃうじゃないか!これだから蛮族はー!」
身勝手な事を言いながら、怒りを募らせる楊儀の頭に、ふと、一つの考えがよぎる。
「…もしかして、孟穫は不思議な仲間じゃなかったんじゃないか?」
こんな所で死ぬ=自分の命令を待ってない=孟獲は不思議な仲間じゃない。
という方程式が浮かんだ、楊儀の顔は先程とはうって変わって笑顔が浮かんでいた。
「なぁんだ!そうか、そうだったのか!つまり孟獲は不思議な仲間じゃなかったのかぁ!つい早とちりをしてしまったなぁ。私てばぁ、どんまい☆」
ネジが何本か抜けたような笑み+言動で、「いやぁ、参った参った」などとほざいていた楊儀の耳に変な笑い声が聞こえてきた。
「ん?何だ?何か声g「ヒャハハハハハハハハハハハハ!」
楊儀の近くを奇声を上げながら、阿会喃が常人とは思えない速度で駆けていった。
「………」
突然の出来事に唖然としていた楊儀が我に返った瞬間。新たな方程式が浮かび上がった。
南蛮人+奇声を上げて走り去る=普通じゃない=不思議=不思議な仲間…
「見  つ  け  た  !」
某銃×剣の主人公が結婚相手の仇を見つけた時のような笑みを浮かべる楊儀。
「はっ!こうしてはいられん!早く奴を追わねば!!」
こうしてはいられない、と。疲労も完全に回復した足で阿会喃を追いかける楊儀であった。
一方こちらはめるへん+馬超のいる洞窟。放送を聴いた後、南下して人を探す為の荷造りをしていた。
「待て」
馬超の一言に全員が動きを止める。どうしたのか馬岱が訪ねようとしたその時、馬岱は強烈な殺気を感じた。
「俺が行こう。岱、お前はここを守っていろ。」
それだけを言うと、馬超は馬岱が呼び止める声を無視して、外へと飛び出していった。
外にでて少しして、馬超は不気味な笑みを浮かべた男。阿会喃に遭遇した。
「ヒヒ…フヒヒハハハ…」
「貴様、何が狙いだ…?」
「フヒヒ…司馬懿…」
虚ろな目で司馬懿の名前を挙げる阿会喃を見て、馬超はこの男が正常ではない事を悟る。
「そうか…司馬懿か」
それだけを言うと、馬超はジャベリンを構えた。
「あいつは従弟の仲間だ。貴様に殺させる訳にはいかん」
その言葉が言い終らない内に、阿会喃は奇声と共に、刀を片手に飛掛かっていった。
(速い…!)
予想以上の速さで繰り出された斬撃をぎりぎりで交わしながらジャベリンを振るう。刃先が阿会喃の脇腹を抉る。
(次で終わらせる!)
返しの刃で首を撥ねようとした馬超の鳩尾に衝撃が走り、馬超が吹き飛ぶ。
阿会喃は、馬超に脇腹を抉られた直後、超人的な反応で馬超の鳩尾に蹴りを入れたのだ。
(馬鹿な!脇腹を抉られてあんな反応が出来るわけが…!!)
「ヒャハハハハハハハハァ!」
馬超の疑問は耳障りな高笑いと、洞窟に向けて走ろうとしている阿会喃により中断される。
「待て…!あそこには…」
阻止をしようとしても体が動かない。このままでは…、馬超の脳裏に洞窟にいる全員の無残な姿が浮かんだその時、
「ヒャアアアアアア!?」
阿会喃が悲鳴を上げている。何が起こったのか、目を凝らすと、後方に阿会喃が吹き飛んでいる。そしてそこから少し離れた所に人影が二つ見える。
「ここから先は行き止まりだ、通す事はできねーぜ」
声の主がそう呟く。阿会喃がよろよろと立ち上がる
「さっきの戦いを見る限り“正攻法は危険”みたいだからな。ちと卑怯だが“スタンド”を使わせてもらう。まぁ、お前もありえない動きをするんだ。これで“五分五分”だろ?」
その言葉が言い終わると同時に阿会喃はその男に飛び掛った。本能が危険を察知したのか、阿会喃のスピードは馬超を相手にした時より速く感じられた。
「ヒィィィィヤァァァァァ!」
「やれやれ、完全に狂ってやがる」
それだけを呟き微動だにしない男目掛け、突っ込んでいく阿会喃の顔面が勢いよく、横に弾かれた。
「???」
理解できないといった表情を浮かべる阿会喃に、続いて腹、顎、肩、足と様々な場所に衝撃が走る。そしてその衝撃は段々と速度を増していく。
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!」
さながら拳のラッシュを一方的に受けているかのように阿会喃の全身がぼこぼこと歪んでゆき、吹き飛ばされた。
「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)」
吹き飛ばされた阿会喃に奇妙なポーズをとりながら、その男は一言告げた
「いやぁ、これが“スタンド”と言う物ですか」
傍にいたもう一人の男が感心の声を上げる。
「まさか俺も目覚めるとは思わなかったがな。しかし、成都から出て、すぐこのような場面に出くわすとは…」
そんな会話をしながら二人は馬超へと近づいてくる。
「大丈夫か?何、俺達はこの殺し合いには乗っていない。安心しろ」
「お前達は?」
よろよろと立ち上がりながら馬超が訪ねる。
「俺は太史慈、こちらは李典だ」
阿会喃を叩きのめしたであろう男は笑みを浮かべながら答えた。
<めるへんカルテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×4)】
姜維[頭部損傷]【魔法のステッキミョルニル】
馬岱[軽症、香水アレルギー(顔及び手に発疹)]【シャムシール・ロープ・投げナイフ×20】
司馬懿[軽傷]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、陳宮の鞄】
※益州、漢中より少し南。南下の予定です
※ミョルニルは、魔法のステッキと化した時点で魔女っ子しか使えない(=現時点で誰も使えない)ので、
 現在はただのファンシーなステッキです。殴ったらそれなりに痛いかも知れません。
※香水(ゴスロリセットの一部)は、嗅ぐとハッピーな気分になれる成分が含まれています。但し、稀に体質に合わない場合があり、
 その場合は発疹が出たり、怒りっぽくなったりします。ちなみに浴び続けていると魔女っ子になれ……る訳が無い。司馬懿は試す気満々です。
@馬超[腹部殴打]【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー、ジャベリン】
※カルテット(というか馬岱)に同行します。現時点では好意的です。
<<子義マンセー/2名>>
太史慈[スタンド使い]【ジョジョの奇妙な冒険全巻】李典【SPAS12】
※太史慈は全ての言語を理解できるスタンド能力(名称募集中)を得ています。
 ですが理解した内容を翻訳して他者に伝えるのは困難なようです。
※協力できる仲間を探しています。
@阿会喃[全身複雑骨折及び打撲、意識不明、]【DEATH NOTE(残り9ページ)・エクスカリパー・大般老長光】

(何だ…?あいつの力は…?)
阿会喃を追跡していた楊儀は先程の戦いを見ていた。異常な強さを見せた阿会喃を倒した、太史慈の能力…あれこそ正に…
(不思議な仲間!!)
異常な強さの阿会喃を倒した変な力=不思議な力=不思議な仲間
という方程式ができあがった楊儀の考えは一つだった。
(あいつこそ不思議な仲間に違いない!)
やっと魏延を倒してくれる仲間が見つかり浮かれる楊儀であった

@楊儀【MDウォークマン】
※太史慈を不思議な仲間と認定しました、現在地は↑の三人の近くの茂みです
257さようなら、文挙殿 1/4:2006/08/26(土) 22:35:40
「文挙殿、お久しぶりです。この世界でお会いするのは初めてですね」
孔融は無言で頷いた。この男は…荀文若。
名門荀家の俊才として華々しい栄華に包まれていた男。
朝廷で、私的な場で、幾度か顔を合わせて会話を交わし、表面上は友好的な態度を取っていた。
しかし、孔融は彼を嫌っていた。
漢室に忠誠を誓うように見せて、その実逆臣曹操を補佐し簒奪に導く偽善者と見ていたからだ。

しかしそれも今では昔のこと。
己の感情なぞこの珍奇な世界では何の役にも立たぬであろう。




「……これは文若殿、久しいですな」
258さようなら、文挙殿 2/4:2006/08/26(土) 22:36:14
禰衡は相変わらず奇天烈な行動を取りたがった。
木から下りてきたと思ったら、続けて川へと飛び込んだのだ。
派手な水しぶきを上げて、変人は水中へと潜り込む。

「腹が減ったではないか!」

奴は明るくそう叫んだ。

「私は魚を捕るぞ!」
「それは楽しみだ。ついでに私の分も取ってくれ」
「無論だとも。火を起こす準備をしておけよ」
「しかしお前、脇腹の傷は大丈夫なのか?」

返事は無い。……相変わらず無茶をする奴だ。
小枝を集め、摩擦を起こして火を起こそうと試みた。
悪戦苦闘するうちになんとか小さな炎を出現させることに成功する。
細い煙が雨上がりの空を棚引く様をぼんやりと眺めていると、
背後から声をかけられたのだ。

そう、荀文若に。
259さようなら、文挙殿 3/4:2006/08/26(土) 22:36:51
「何をしておられるのですか?」
うっすらと笑い、彼は問う。
「見ての通り火を起こしている」
「何のために? 貴殿はおひとりですか?」

涼やかな表情を崩さぬ男だった。
彼の主が喜怒哀楽の激しい性質だったのとは対照的に、
どのような事が起こっても常に冷静さを保つのが彼だった。
今も変わらぬその穏やかな表情……しかしどこか違和感を覚える。
狂気めいた何かが、その奥に潜んでいるようにも思え、孔融は思わず肩を震わせた。

「ひとりだ」

胸騒ぎがした。頭ががんがんと痛む。
無意識に嘘をついたが、彼は気にする様子もなく微笑んだ。

「曹操様の居場所をご存じですか?」
「は? 知るわけないだろう」

「……そうですか」
260さようなら、文挙殿 4/4:2006/08/26(土) 22:38:33
撃たれたと気がついた時、己の視線は空に向かっていた。
雨上がりの澄んだ空に細く棚引く煙。

「うふふ、仲尼殿の末孫の最期がこれとは哀れですね。
 ……貴殿には真剣さが足りません。
 いつだって、世を茶化すことしか考えていなかった。
 貴殿の独りよがりの傲岸さ、私は嫌いです」
「何を、言っているのだ」
「おや、未だ言葉を発せられるとは貴殿もなかなかしぶといですね。
 うふふ……血が……綺麗です。
 外側がどんなに唾棄すべき汚れにまみれていたとしても、
 体内を流れるものは、実に鮮やかですね」
 
禰衡、来るな。
こちらには来るな。
物音に気が付いて戻ってきたが最期、お前まで殺されてしまう。

彼は、彼は狂人だ。
間違いなく狂っている。

「さようなら、文挙殿」


銃声がもう一度響いた。


【孔融 死亡確認】

261無名武将@お腹せっぷく:2006/08/26(土) 22:39:13
@荀イク[洗脳されている?] 現在地 豫州
【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)、刺身包丁】
※劉備、曹操、孫権を中心に、無差別に殺戮を望んでいます。
※また、ゲームに乗らない者を狙います。
 積極的にゲームに参加している者は殺しません。
 殺意はありますが冷静です。
※取りあえずは呉に向かうようです。
※農業用ショベルはその場に放置しました。

現在工事中解散
@禰衡[脇腹負傷]【農業用スコップ】
※現在禰衡は素っ裸で水中で魚を捕っています。
262臥竜と鳳雛 1/4:2006/08/26(土) 23:05:13
夜明け前に、劉封たちは洞窟を発った。
放送が流れたのは、まさに幽州に入ろうとしている時であった。
放送で劉備の名が呼ばれなかったのに一同は胸を撫で下ろしたが、
行く先の変更を余儀なくされ、足止めを喰らうこととなる。
「さて、参ったな」
大して困った様子もなく、ホウ統が顎の無精髭を撫でながら言った。
「幽州に行けないとなると、どこへ行ったものやら」
「父上はもう益州からは出ていますよね…」
「ここで待ってみるという手もあるが、幽州から出てくる人間と鉢合わせるかもしれんからなあ」
それが探している関羽だとか張飛であれば良いが、このゲームに乗った人間である可能性も高い。
「やはり益州に戻ってみるか…」
「仕方がありませんね…」
「并州と、エン州、どちらを通って行きましょうか?」
蔡文姫が尋ねる。
「嵐の後だからなあ。川沿いは避けた方がいいかもしれん」
「すると并州を通っていった方が良いでしょうね」
「そうだな…ま、なにはともあれ」
ホウ統が未だ雨水に濡れた無花果の木を指した。
「とりあえず、朝飯にするか」
263臥竜と鳳雛 2/4:2006/08/26(土) 23:07:00
「ではこう…山と街道があり…こう、敵が進路をとっていたとする」
ホウ統は無花果を片手に、地面に枝でがりがりと図面を描いていく。
約束どおり、ホウ統は時間が出来ればこうして蔡文姫に戦術講義を行っていた。
それは食事の合間であったり、道中の会話であったりした。
(そしてそれは劉封にとっては非常に居づらい時間であった)
講義を始めてから1日しか経っては居ないが、2人は随分と色々な話をしていた。
「これを迎え撃つ陣形はどのようにするかね」
図面を書き終わり、枝を蔡文姫のほうへ向ける。
蔡文姫は枝を受け取ると、描かれた図面にかりかりと線を引いてゆく。
「このように、街道へ陣を敷くのがよろしいかと」
「山頂への布陣はどうかね?」
「ご冗談を」
蔡文姫は袖で口元を隠し、優雅な笑顔を見せた。
「ふむ」
曹操が匈奴より金子で蔡氏の息女を取り戻したという噂は蜀にも伝わっていた。
正直、いくら蔡ヨウの娘であろうと、わざわざ女を取り立てるなど酔狂なことだと思っていた。
だが件の才女を目の前にして納得した。
確かに金子を積んででも得たい才覚の持ち主である。
ことに記憶力。彼女は一度言った事を一字一句違わず覚えている。
また、変わり映えの無い、今まで通ってきた山道の様子もすべて覚えているという。
男性であったらさぞ名高い文官となったことであろう。恐ろしい敵の1人として。
しかし今は志を共にする仲間だ。このような場ではあるが、それは幸運と言えた。
…それにしても。
264臥竜と鳳雛 3/4:2006/08/26(土) 23:08:11
「物わかりが良すぎるってのも面白味が無いね」
無花果を一口齧り、ホウ統はこぼす。
「も、申し訳ありません…」
「いや謝ることでは無い」
「そうですよ、優秀なのは良いことではないですか」
と、劉封。どうもこの青年は蔡文姫の肩を持ちすぎであった。
「教えるというより…」
まるで友と議論を重ねているような。
………友、か。
既に同門の元直が逝っている。残るは、孔明。
彼は今頃どうしているのだろう。
このゲームに乗っているとも思えないが…怪我などしてはいないだろうか。
昨日の嵐で体を壊したりはしていないだろうか。
せめて、誰か信頼の置ける人物と共に居ると良いのだが。
「…いかがなさいました、ホウ統様?」
「ん…」
蔡文姫が心配そうに見つめて来る。
「いや、なんでもないよ」
「なんでもない方は、眉間に皺など寄せたりしませんわ」
苦笑。
参った、本当に聡い女性だ。
265臥竜と鳳雛 4/4:2006/08/26(土) 23:09:07
「なに、孔明のことを思うと、ちょっとね」
「孔明殿ですか…」
劉封も表情を曇らせる。
「放送では名前を呼ばれませんでしたし、きっと上手くやっておられますよ」
「だといいんだがね」
嘆息し、ホウ統は地図を広げる。
これからの道のりを指で辿っていく。并州を通って、司隷を抜けて…
「あ」
そうして、行きには気にもしなかったことに気付いた。
「ホウ統様?」
「いや、益州に向かう途中で寄りたいところを見つけてね」



<<親子の面影+α/3名>>
蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5 無花果×6】劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
※并州から襄陽・隆中の臥竜岡に寄って、益州を目指します
2661/7:2006/08/27(日) 03:25:16
闇の中に郭嘉は漂っていた。
大勢の人の気配を感じる。だが独りきりのようにも思える。
そして郭嘉は涼しげで物憂げな、よく知る声と対話していた。
互いに、勝手に独り言を言い合っているようでもあったが。

「私は、曹操様への恨みを晴らします。
 どうですか、奉考。あなたは、この遊戯に乗ってみる気はありませんか」
…下らない。
「どうしてです?
 この世界でなら、道徳や良識などに縛られずに思う存分、知略を競うことができますよ」
…あのさ。俺がもともと、道徳やらなんやらに縛られてたと思う?
「ふふ、それもそうですね」

…っていうかさ。何なんだよ本当。
…俺はさ。一度きりの人生だと思ってたから、あの時命張ったんだぜ。
…俺は、俺として本気で生きていたかったから北へ行ったのに…!
…こんなにもあっさりと甦って、ずっと殺し合いを続けなければならないのなら…
…走り続けなければならない、そういう風に生まれついたんなら、
…俺が、あの時賭けた命の意味は!

「曹操様と戦ってみたくはありませんか?」
…下らない。所詮遊戯だ。本気じゃないなら、つまんないよ。
「後世の名軍師たち」
…くどいって。
「もしくは、私と」
…何?
…ついさっき、曹操様に恨みがあるから、それを晴らしたいって言ってただろ?
2672/7:2006/08/27(日) 03:27:30
…あんた、本当の目的は、何なんだ?
…献帝の誘いに乗ったんじゃないのか…?
「ふふ…。興味がない、と言う割には熱心ですね」
…何かもう癖というか、性かもな。

…あーもう解ったよ。乗ればいいんだろ、乗れば。
…どうでもいいよ、もう。
…どうせ、これからもずっとこの命を弄ばれるなら。
「洛陽でいきなり大規模な殺戮合戦が起こっても困りますからね。
 そうですね…。北へ行ってもらいましょうか。
 あなたが実際に行くことはなかった、遼西でも見てきてはどうです?
 遼西に着いたら、協力してもらいますよ。
 遼西に着いて貴方が目覚める頃には幽州が禁止エリアになるでしょうから、
 そこから南下して行けばうまく状況をかき回せるでしょう」
…はいはい。解ったよ。
…でさ。
…何、考えてるんだよ…文若?


「…目が覚めましたか?」
ゆらゆら、ゆらゆら、微かな目眩の中から郭嘉は覚醒した。
気がつけば郭嘉は陳羣に背負われていて、もと来た道を逆戻りしていた。
何か夢を見た気もする。だが思い出せない。
「…何で戻ってるんだよ?」
「先程、放送があったのですよ」
陳羣はさっきの放送内容を郭嘉に伝えた。
幽州が禁止エリアになった。
郭嘉もまだ本調子ではなく雨で足場も悪い今、
険しい山々を越えた先の遼西にたどり着き、さらに戻ってくるのは不可能だ。
2683/7:2006/08/27(日) 03:28:22
とりあえず郭嘉は礼を言って陳羣の背から降りた。
「構いません、慣れていますから。
 辛ければまだ乗っていてもいいですよ」
「いいよ、男とひっついてても楽しくないから」
「あのですね郭嘉殿、そういう問題では…」
怒る陳羣。郭嘉は億劫そうに説明する。
幽州が禁止エリアになり、自分たちのようにここから立ち去ろうとする人間に出くわす可能性は非常に高い。
だから身軽に動けるようにしておいた方が良い、と言うとようやく陳羣は納得した。

陳羣は細かいことによく気が付く。
元々几帳面な性格だし、徐州を彷徨いながら
長いこと父の看病をしていた経験があるからなのだろう。
郭嘉の世話をよく焼いてくれるし、薬草などの知識にも明るい。
擦り潰した薬草の汁の苦みに閉口しながら、郭嘉は独り言のように陳羣に言った。
「俺と陳羣殿って、別に親しくはなかったですよね。むしろ仲悪いくらいで」
「まあ、そうですね」
「何で、俺の面倒なんか見てるんです?」
陳羣は虚を突かれたように数回瞬きをした。
「責任を感じてるんですか?」
郭嘉が負傷した責任の一端は陳羣にあると言っても良かったが、
郭嘉は全く気にしていなかった。
2694/7:2006/08/27(日) 03:29:15
「もちろん、それもあります。本当に…申し訳ないと思っています」
「なら、もういいって」
あの時点ではまさか満寵がああいう行動に出るとは郭嘉にも予想できなかったし、
郭嘉が負傷し陳羣が無傷だったのはまあ、運だ。
そもそも殺るか殺られるかの世界に、責任も何もあったものではないと郭嘉は思う。
「あなたに何度言われても行いを正さず、罰せられもしなかった俺ですよ。
 むしろ怨んでるくらいなんじゃないんですか?」
「本気で怒りますよ、郭嘉殿」
そう言った陳羣の怒りは、いつもの怒りとは違う冷たく鋭いものだった。
「それでは完全に逆恨みではありませんか。
 私が上奏文に記したことは全部本当ので、なおかつ罰せられるべき事でしょう。
 私怨で書いた訳ではありません。
 それに、罰とは罪を犯した者が悔い改めるためのものです。
 個人の憂さを晴らすためのものではありません」
「…すいません。失言でした」
郭嘉は珍しく素直に陳羣に非礼を詫びた。
陳羣は本心から言っているのが郭嘉にも解った。
多分、世間では“綺麗事”と言われる言葉を。
「私が郭嘉殿の看病をする理由、でしたね。
 そうですね、何と言えばいいのか…」
2705/7:2006/08/27(日) 03:30:32
陳羣は思案していた。自分では解っていることなのだが、
どう説明すれば郭嘉に伝わるのか、言葉を探している。
自分の気持ちに一番近い言葉は、これだろうか。
「それが、当然のことだからです」
梁上の君子に絹を与えた祖父を始め、陳羣は愛情深い家族に囲まれて育った。
傷ついた人が居れば手当をし、具合が悪そうならば看病する。
自分が相手に出来ることに全力を尽くす。それは陳羣にとって当たり前のことだった。
だから逆に、郭嘉の何故自分の面倒を見るのか、なんて質問自体が不思議で、少々戸惑ったのだ。
「…あのさ。別にあなたを侮辱するわけじゃないけど」
陳羣の真っ直ぐな瞳が何故か辛くて、郭嘉は視線を逸らしながら言った。
「自分で自分の言ってる事、虚しいとか、陳腐だって思った事、ありませんか」
怒るかと思った。だが予想に反して陳羣は怒らなかった。
視線を戻すと、陳羣はどこか悲しみと苦みを含んだ微笑を浮かべていて
それでも瞳は真っ直ぐなままだった。
「それでも私にとって、これが真実ですから」


柔らかな、不快ではない沈黙が続いていた。
「今後のことなんですけれども」
切り出したのは陳羣だった。
2716/7:2006/08/27(日) 03:31:32
「陳留へ向かいたいのです」
「…まあ、満寵殿は亡くなったみたいだけども…」
「ええ…満寵殿を弔いたい、というのももちろんあるのですが」
郭嘉の発言を陳羣は違う意味に捉えたようだが、敢えて訂正はしなかった。
「私は、あの光景に見覚えがある気がするのです。
 …確かめなければいけないと思っています」
それは恐怖を伴う記憶。既視感。
そう、郭嘉の発言で思い出した、弔いという行為にもそれは感じる。
「郭嘉殿には目的があるように私は感じていました。
 北へ行くのはもう間に合いそうもありませんが、
 他に目的地があるのなら無理強いはいたしません。
 郭嘉殿の体調が元に戻るまでは、ご一緒させていただきます」
郭嘉は、陳羣の恐怖に凍り付いた横顔を思い出す。
「…あんまり楽しい記憶じゃなさそうな予感はしてるんでしょ。なんで、わざわざ」
「郭嘉殿は本当に、答えるのが難しい質問ばかりなさいますね」
陳羣は苦笑し、しばし考える。
「…解らないままにしておくのは、卑怯というか、誠実でないと思うからです。
 何に、誰に対してなのかは正直解りませんが」
やはり陳羣は真っ直ぐな瞳で答えた。郭嘉は苦笑する。
2727/7:2006/08/27(日) 03:33:12
「本当、陳羣殿って融通ききませんよね」
こんな世界でも、陳羣は陳羣のままで全く変わらない。
「でも俺陳羣殿のそういうところ、悪くないと思いますよ」
郭嘉は、不思議と北への執着が薄れていくのを感じていた。



<<不品行と品行方正/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】陳羣【なし】
※現在地は冀州北部。陳留を目指します。
※荀イクには何か目的がある?
273もう歌しか聞こえない 1/4:2006/08/27(日) 21:27:16

もう涙すら流れない。

乾ききった祝融の眼に映る世界は、酷く空虚だった。
麻痺した身体はまだ動かない。だが瞳は容赦なく、脳裏に周囲の映像を送る。
愛する夫、アタシを強く抱きしめてくれた―――その肉は早くも腐りかけ、微かな臭気を放つ。
愛しい人、アンタに這い回る生白い虫の群れ。
やめてといくら願っても、……あぁ、ひとのからだというものはこんなにも脆いものだったのか。
こんなにもただの肉だったのか。
あんなに、あんなに強かったうちの人が。

瞼を閉じるただそれだけのことが、酷く労力を必要とする。
毒のせいなのか、この心がひび割れたせいなのか。
うふふ、と祝融は微笑んだ。でもかまやしない、視界を塞げばあの人は生きてる。
ほら、あの人が教えてくれた歌があったね。どんなのだっけ?

「き、ら きら ひかる……お そ らの、ほし よ」

真っ昼間なのにおかしいね。いやいやごめん、続きを聞かせてよ。

「ま、ばたき して、は、みんな を みて、る……」

そうだね、きっと今日の星もきれいだよ。
見ててね、火の神の名に懸けて、アンタの仇をきっと討つからね。
ところで今日の昼ごはんはどうしようか?
アンタの好きな果実をとってこようか。漢人はこんな美味しいもの知らないなんてかわいそうだよ。
……漢人(殺す)。何をしてでも(絶対に)、アタシの全てを懸けて(殺す、殺す殺す殺す!!!)
274もう歌しか聞こえない 2/4:2006/08/27(日) 21:28:19
俺の名は董衡。太陽の下でしか生きる事ができない男
(そして俺の名は董超。月の下でしか生きる事ができない男)
今日はいい天気になりそうだな。本当に良かった。
(それにしてもこの夜は本当に死ぬかと思ったよ)
まったくだ。今日は晴れてくれるといいな……ところでさ、何か聞こえねぇ?
(ん? そういえば……女の声か?)
間違いない。この声は巨乳の声だ。しかも俺好みの美人!
(なんだよそりゃ。おい、行くのか!? 罠だったらどうするんだよ!)
貧乳だったらどうするかって? それはそれで悪くないな。
(いや、そういう罠じゃなくてだな、オイ!)

きらきらひかる おそらのほしよ―――♪

275もう歌しか聞こえない 3/4:2006/08/27(日) 21:31:39
董衡はごくりと唾を飲み込んだ。
すっげぇ。やっべぇ。超重量級。あれはIカップ超えだ、間違いない。
(カップってなんだよカップって)
南蛮人と思しき美人が、しどけなく肌も露に横たわっている。
波打って広がる美しい髪。
すぐ近くに孟獲の死体があるのだが、そんなことも気付かないほどに董衡は興奮していた。
これだ。俺が求めていたのはこれなんだ! 俺の理想の女がここに居る!
(ちょ、おま、興奮しすぎだぞ、つかそこに死体が)
これが興奮せずに居られるか!

「お兄さん……アタシといいことしないかい」

祝融が浮かべた妖艶な笑みに、もはや抗う事など選択肢に無かった。
はだける胸元から、たわわな果実が転がりぼよんと弾む。溢れ出る女の匂い。
(お前、董衡! 罠だ、絶対罠だ! 逃げろ、今すぐ!!)
再び唾を飲み込み、頭の中で騒ぐ相棒を黙殺する。こんないい女が罠なんて仕掛けるはずないだろう?
(そんなわけあるか! 絶対ヤバイ、今すぐに……っ)
やかましい、人間の本能が危機時には子供を作るべしと言っているんだ兄弟!
南蛮一の美貌と、数多の男を欲情させたその肢体。
董衡もまたその虜となり、誘われるままに祝融に覆いかぶさった。
真昼の森に、甘い嬌声が響く。
276もう歌しか聞こえない 4/4:2006/08/27(日) 21:36:07
しばらくして。
男の体の下から、祝融は汗ばんだ体をずるりと引き出した。ぺっと唾を吐き捨てる。
「……ふん。情けない持ち物だね、うちの人の半分もありゃしない」
男として最悪の悪口を投げかけられた董衡は、しかし一言も発さなかった。
当然だ。死んでいるのだから。
「女の細腕にへし折られるような情けない体じゃ仕方ないかね」
気をやる瞬間に女がしがみつくのは至極自然なこと、そうだろう?
ただアタシが普通の女じゃなかっただけさね。
祝融が持っているのは南蛮の女たちの中で一番の美貌、一番の肢体、そして一番の膂力。
董衡の首の骨をへし折った祝融は、高らかな笑いを森に響かせた。
漢人は敵だ殺す。みんな殺す。馬謖は一番殺す。
大の字に寝転がって、熟れた裸体を晒して祝融は笑い続ける。
あーはっはっハっはは、あははははハハハハ!!!


【董衡&董超 死亡確認】


@祝融[毒]【なし】
※気が狂い掛けています
※馬謖のみならず、漢人の男は全て殺す気のようです
※毒の効果でまだ動けません(5日目夕方頃から移動可能?)
※移動できるようになったら東(<<既視感を追う旅>>が去っていった方向)に向かいます
277短くてゴメン:2006/08/28(月) 21:37:35
桜桑村。
縮尺は多少小さくなってはいたが、そこは昔と変わらぬのどかな農村であった。
未だ誰も訪れないそこで、張飛はのんびりと時を過ごしていた。
ただごろごろとしていても腹は減る。
何かないかと家々を巡ったところ、あるものを見つけた。
それは、過去に張飛の命運をわけた物。

酒である。

大きな酒壷を見つけ―――
彼はもちろん、大喜びですべて平らげた。


明けて翌日。
流れる放送に気づかぬまま、彼は高鼾をかいている。

こうして彼は再び、酒によって運命を狂わされつつあるのであった。

@張飛【鉈】
※爆睡してます。しばらく起きそうにありません。
278Fellows and Followers 1/6:2006/08/31(木) 23:05:22
洞窟の中に9人、流石に多少窮屈だ。うち1人はロープでぐるぐる巻きになっている。お世辞にもエレガントな縛り方ではない。
雨は徐々に弱まり、昼にはすっかり晴れ上がっていた。そろそろ移動出来るだろうが、気がかりな点が多々あり、
こうして顔突き合わせて問答している。参加しているのは7人。

まず、先程完膚なきまでに叩きのめされた筈の阿会喃が突如何事もなかったかのように起き上がり襲い掛かってきたことだ。
これが腹を抉られ体中の骨を折られた者の動きなのか!? この執念は一体どこから来ているのだろう?
人知を超えた力がそこに働いているのだろうか。半ば強引に気絶させて縛り付けておくのが精一杯だった。
彼の荷物を漁っていた司馬懿が怪しげな黒い本を見つけ、更にその中に自分を含む何名かの名前を発見したので、
おそらくこの本が何らかの関連を持っていると推測した。が、最初に襲い掛かってきた理由としては兎も角、
この異様なまでの動きの解釈材料にはなり辛い。
とりあえず、余りに怪しいので阿会喃にこのまま持たせておくのは危険と判断し、没収する。

また、突如現れた(多分誰かをつけていたのだろうけど)楊儀が、「お前、『不思議な仲間』だな! そうに違いあるまい!」
と言って太史慈から離れようとしない。本人は迷惑だろうが危害を加える訳でも無いので、この件は後回しにしたいところだったが、
意気揚々と放つ「お前がいれば魏延も真っ二つよ!」という台詞に、洞窟の奥の方で反応する気配。
意識が朧で、安静を余儀なくされていた姜維である。

その姜維の容態は正直思わしくない。今後長距離の移動は避けた方が良さそうだが、かといってこのまま全員がこの場に
滞留している訳にもいかないだろう。ならば彼らが取り得る最善の策は――いっそ一纏めで行動する事を止める、と言う結論だった。
確かにある程度の人数がいた方が何かと便利だろう。だが、それも度を超えての多人数ではただの的である。怪我人を抱えているなら尚更だ。
279Fellows and Followers 2/6:2006/08/31(木) 23:06:35
「では、目的に合わせて3つに組を分けるべきだな」
全員が、いや、7人が頷く。
「……とは言え、どんな組合せにしても何らかの不満は残るな」
司馬懿は言う。例えば3組に分けるとして、目的に合わせて分ければ戦力の心許無い組が出来る。バランスを重視して分ければ
目的の定まらぬ組が出来てしまう。いっそのこと2組にするべきかとさえ思ったが、未だ諸葛亮の所在は知れず、3組に分割するのは
「手分けして捜す」という意図も若干含まれていた。それに正直、魏延には現在超乗り気な楊儀に接触して貰いたい、出来ることなら。
となると、想定出来る分け方は、

1)馬岱、馬超(当初の目的通り、世界の謎に迫るべく諸葛亮を探索、結果を2に報告)
2)陸遜、司馬懿、姜維(↑に同じくだが、移動を制限される為、当面1が探索を追え調査報告を寄越すまで、待機)
3)太史慈、李典、楊儀(諸葛亮他を捜しつつ魏延を倒す(つもりで接触))

になるのだが――これは目的の面でも理に適ってそうだが、致命的弱点を抱えている。2班の現時点の戦闘能力である。
そのことを、先ず陸遜だけに耳打ちした。
陸遜はまず己の手持ちの武器を見た。献帝の部下達が持っていたのと似たタイプの飛び道具。先手さえ取れれば不利ではないと考える。
司馬懿の持ち物はどうだろう。重火器と、馬岱の初期支給物である暗視鏡。
そして洞窟。下手に動かなければそうそう見つからないだろう。あとは常に警戒を払えば、少なくとも先手は取れる筈。
――行ける。
「司馬懿さん、それで行きましょう」
陸遜が覚悟半分、自信半分に言うので、司馬懿も大きく頷き、そのことを紙に書く為に鞄から参加者リストと鉛筆を出したのだが……

白紙だと思った参加者リストの裏には、びっしりと文字が書かれていた。どうやら間違って陳宮の鞄を開けたようなのだ。
「こ、これは……」
思わず目を通した司馬懿と横から覗き込んだ陸遜が、感嘆の声を漏らす。果たしてそこに書かれていたのは、始まってから
その命を散らすまでの間の出来事――といっても2日間だが――が仔細に綴られているようだ。平たく言えば、日記である。
き、気になる……中身が非常に気になるが、とりあえず後回しにすることにした。
280Fellows and Followers 3/6:2006/08/31(木) 23:08:16

鉛筆の跡が走った参加者リストの裏紙を見つめる十四の瞳。

「……ちょっと待ち。この3って何ですか、3って。我々は関係ないむぐ……!」
李典の口を楊儀が押さえ付けた。何が何でもこの2人を不思議な仲間として連れて行くつもりらしい。
「すみませんねぇ。一度遭遇してコテンパンにのされてくれば落ち着くんじゃないかなーと思うので」
割と無責任に言う陸遜に、何故アンタが言う、と馬岱は思った。……敢えて「つもりで」と注釈したのはそういう意味か。
(もっとも、本当は単に厄介払いしたいだけじゃないのかと思ったのは激しく内緒である)
大体、突然出てきて「不思議な仲間と一緒なら魏延を倒せるに違いない!」って、楊儀はどっかで頭が温かくなってるんじゃ
ないのか、と、そもそもその点に突っ込みたい。激しく突っ込みたい。
(しかし直後にこのように隊を分けた事に対してあらゆる意味で後悔するが、この時点では未だ知る由も無い――)


最初に楊儀達が意気揚々と――といっても多分李典は余り乗り気じゃない――洞窟を後にする。
もっともこの3人は特に当てがある訳でもなく(居残り組が最後に魏延と遭遇してからかなりの時間が経っており、
涼州も雍州も禁止エリアになったことから考えて、少なくとも魏延はもうこの付近にはいないと判断はしたようだ)、
結局当初太史慈達が目指していた呉郡を再度目標とすることにした。

そして馬超と馬岱――思い当たる節があるのかと問うた際、「主戦場にもいない、蜀にもいないとなれば、もしかしたら
出身地にいるかも知れない」という答えがこのふたりから帰ってきた。……冷静に考えると、良く今まで失念していたものだ。

この場を離れる組に、もし何かが判れば早急に、何も手掛かりがなくても3日以内に必ずここに戻る、という条件を課していた。
それはほぼ全員の目的が「情報収集とそれによるこの世界の謎の解明、そして事態の終結」で一致した為だ。通信機器など無い訳で、
まめに再会して情報交換を怠らないように努めたい。
281Fellows and Followers 4/6:2006/08/31(木) 23:10:22
洞窟には3人、いや4人が残されていた。
ロープでぐるぐる巻きになっている阿会喃。今は気を失っているようだが(重々註するが、何故斯様に酷い重傷を負いながらも
まだ普通に動けるものなのか、やはりあの怪しい本の所為なのか?)、もし今意識が戻られたら、かなり危険だ。
……今のうちにどっかに棄ててきませんか? と陸遜は提案するが、司馬懿はこう懸念する。名指しで私を追って来た以上、
生半可な処置の仕方ではまた必ず負ってくるだろう。ならば、いっそのこと――

司馬懿と陸遜が生唾を飲んで鞄の止め具に手を掛けたその時だ。

突如、バネのように阿会喃の身体が跳ね、身の自由を奪っていたロープを一瞬に引き千切る。
そして己の持ち物であった刀を手に、何の迷いも無く、司馬懿に襲い掛かろうとする。
呆気に取られる間など無く、ふたりは身構えた。陸遜は何一つ躊躇わずに機関銃を乱射したが、その標的は易々とかわしてくれる。
大体もとより、彼にとっては陸遜は眼中に無いのだ。
手にした刃が鋭い光を放つ。空を切る音を陸遜の銃が追うが、追いつかない。一体どういうことなのだ、この身体能力は!
「くっ……!」
避けている最中に、司馬懿は転倒した。直接吹き込まなくても充分に湿った土に足を取られたのだ。
その隙を見逃さず、狂気に包まれた阿会喃が飛び掛る。もはや陸遜の銃弾に腕や足を多少突付かれても気にも留めていない。

馬鹿だ、私は馬鹿だ。敵は最も身近に在ったというのに――司馬懿は現状と判断の浅はかさを呪った。

目の前を鋭い一閃が走ったその刹那、司馬懿と凶刃の間を遮るものがあった。
小さな槌。それは今まさに司馬懿の身を抉ろうとした刃を真正面から受け止め、鈍い音を発した。
槌を持つ手の先を辿れば、もはや立ち上がるのがやっとの意識で辛うじて立つ男。――ミョルニルを持った姜維である。
282Fellows and Followers 5/6:2006/08/31(木) 23:11:31
まさか瀕死の男が真っ向から向かってくるとは思っていなかったから、さしもの阿会喃も僅かにたじろぐ。

 このミョルニル――陳宮どのの不思議な力(今となってはそれが何であるか確認する術も無く)に呼応してその姿を変えました。
 私には何の力もないですが、想いだけは――真実を求めたい。そして――誰かを、護りたかった。
 私はかつて、陳宮どのを護れなかったのです。

脳裏に、あの夜の事が過る。あの時、僅かでも躊躇した己を恥じたものだった。

 お願いします。もしこの世界に、想いを受け取る器と言うものがあるならば。
 今、彼らを護る術を、私に、下さい……!

白銀の槌が通った軌跡の延長線上、青白い稲妻が空間を走り抜け、狂人の身を貫く。

その場にいた全員が、一瞬でも己が目を疑った。果たして、阿会喃はその場に崩れ落ちる。黒い煤がその身を覆っていた。
姜維は突如右腕に重みを感じた。そこにあったのは、ミョルニルの元ある姿。
それを確認したかどうかの辺りで、彼もまた膝を折る。端整な唇の端に緋色の線が伝う。それは彼の身を流れる命の源。
司馬懿と陸遜が走ってくるのが見えた。きっと何かを伝えたい筈なのに、声が出ない。視界が薄ぼやけてくる。
ミョルニルを杖にして立ち上がろうと試みるが、それは叶わない。真横に倒れるが、彼自身は気付いて無い。再び昏倒状態に陥ったのだ。
そのミョルニルには――ひびが入っていた。まるで己を振るった男の命を削った代償であるかのように。
283Fellows and Followers 6/6:2006/08/31(木) 23:13:40
「そ、そんな……」
陸遜が半ば泣きそうな顔になる。こんなときに何も出来ない自分がもどかしい。ただ見守る事しか出来ないのか?
おそらく司馬懿も同じ想いのようだったが、沈痛な、しかし陸遜よりは幾許か冷静に、彼は小声で言う。
「……何か我々に出来る事がある筈だ。考えるんだ――」
その頭脳こそが、彼らの最大の武器であるはずなのだ。


<<楊儀くんと子義マンセー/3名>>
太史慈[スタンド使い]【ジョジョの奇妙な冒険全巻】 李典【SPAS12】 楊儀【MDウォークマン】
※(極めて漠然と)魏延捜索中。ついでに諸葛亮も捜索中。楊州へ。3日以内に戻ってくる予定。

<<馬家の従兄弟/2名>>
馬超【高威力手榴弾×7個、MP5、ダガー、ジャベリン】馬岱[香水アレルギー]【シャムシール・ロープ・投げナイフ×20】
※諸葛亮捜索中。陸中へ。傷などはほぼ回復しているようです。3日以内に戻って来ます。

<<めるへんトリオ/3名>>
陸遜[左腕裂傷]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)】
姜維[危篤]【ミョルニル(ひび入り)】※大変危険な状態です。何らかの対策が講じられなければ……
司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】※何故か鞄コレクターになった模様。
※漢中より少し南の洞窟に滞在中。
※ミョルニルは元のサイズに戻りましたがひびが入っています。使うのは危険かも知れません。
※香水には嗅ぐとハッピーになる効果。但し体質に合わない人がたまにいます。※陳宮日記の内容は今のところ内緒。

【阿会喃 死亡確認】
284悪木盗泉 1/6:2006/09/01(金) 00:59:52
夢を見た。
つまらぬ夢だ。
自分は洛陽にいた。西晋の都洛陽に。
呉が滅んで北に来てからこの方、中書令、後将軍、大都督と順調に出世した。
上に立つ人間が次々に変わる。醜悪な内輪もめを見せつけられ、
しかし己はあの混沌に入るわけがないと頭から思い込んでいた。
ひどく達観していた。
今から考えると実に愚かだが、あの時は呆れるほど無防備だった。

宮廷内の埃だらけの書庫で偶然見つけたひとつの竹簡。


 ……薫香は夫人たちに分け与えるように
 ……手に職のない妾たちは、飾り紐や履の作り方を覚えて生活の足しにせよ
 
 
敬愛していた魏武帝の遺令だった。
それを見て深い失望を覚えた。
くよくよと細かい家事を気にかけるなんて。
広大な製品を飾り紐で悩ませ、爽やかな理性を余った香の処理にわずらわせたなんて。
不名誉だ。彼に取って、これは大変不名誉なことだ。
破格の才を持つ彼でさえ、つまらぬ惑いを振り切ることが出来なかったのか。
285悪木盗泉 2/6:2006/09/01(金) 01:00:31
己の立場が脆かったことに、
成都王司馬潁に処刑を申し渡された時に初めて気付いたのだから呆れてしまう。
自分は、八王の乱と言う醜悪極まりない内乱に巻き込まれ、首を斬られた哀れな男だ。

刑場に立った瞬間、頭が真っ白になった。
湧き出んばかりの言葉の洪水も無く、怒りも、哀しみも、感情すら忘れてきたかのように無我に至った。
願ったのは、ただひとつだけ。

いっそこの世に居た事実が無くなればよいと。
286悪木盗泉 3/6:2006/09/01(金) 01:01:06
「後悔はされますか」
「しょっちゅうだ」
「まさか、貴方ほどの方がそんな」
「後悔だらけの人生だったぞ。董卓に追われた時は逃げたことを悔やみ、
 徐栄に敗れると無茶な挙兵を恥じ、宛城では自分が死ぬべきだったと思い、
 赤壁なんぞ悔しくて誰かに罵倒されたくてたまらなかった。後悔だらけだ。
 ……後悔して、後悔して、後悔しつくした後に道が見えてきた。
 俺は呆れるほどに諦めが悪いんだ。
 これで終わりなものかとつい前を見てしまう。
 いくら目をこらしても何も見えぬのだが、
 五里霧中を進むことを止められなかったんだな。
 ……お陰で、周囲にはひどく苦労をかけたが」
287悪木盗泉 4/6:2006/09/01(金) 01:01:39
涙を流していたらしく、曹操殿が目を丸くして覗き込んでくる。
どうした? どこか痛くなったか? 具合でも悪いのか?
矢継ぎ早の質問に笑顔を作る。
何でもありません、なんだか、泣けてきただけです。

死ぬ直前ですら、涙のひとつも出なかったのに。

さあ、元気を出せ。一番若いお主がしんみりしていると寂しいではないか。
手の上に次々と四角いものが置かれていく。
どんどんカラフルになっていく手の平を見ていると、余計に泣けてきた。



後悔することを拒否していただけだ。
そうしないと、自分が哀れで気が狂いそうだったから。
288悪木盗泉 5/6:2006/09/01(金) 01:02:12
何の因果か今生まれ変わっている。
奇妙な世界だけど、確かに自分の首を繋がっている。


 渇すれども盗泉の水を飲まず
 熱けれども悪木の陰に息わず
 悪木 豈に枝無からんや
 志士 苦心多し
 駕を整えて 時命を粛み
 策を杖ついて 将に遠く尋ねんとす
 
 
後悔はしたくない。
でも、無にもなりたくはない。
自分は生きている。こうしてまた、生を得て、思考している。
二度目の生は、流されることなく、思うがままに。

そう生きたいと心から願った。
289悪木盗泉 6/6:2006/09/01(金) 01:02:59
「ちょwwww なんで陸機だけそんなにいっぱい貰ってんだよ!」
「ははは、呂蒙よ、面白い格好だのう」
「ねえねえ子明〜! これって食べられると思う?」
「今は山菜取ってる場合じゃないよ!」
「仕方ないなあ、じゃ阿蒙さんのために、きなこ味あげます」
「(*´∀`)」
「士衛は優しいのう」
「曹操殿だって優しいですよ!」
「ねえねえ私も優しいわよねえ」
「尚香殿も最高に優しいです!」
「俺は?」
「阿蒙さんは最高に阿蒙さんです!」
「(´・ω・`)」


<<ふたりの詩人とひとりのアモーと弓腰姫/4名>>
曹操[治りかけの打撲]【チロルチョコ(残り70個)】、陸機【液体ムヒ】
呂蒙[鼻にかすり傷]【捻りはちまき】、孫尚香【シャンプー(残り26回分)】
※現在揚州南部にいます。山腹で食料を集めつつ身体を休めてます。
※士衛は陸機の字です。
290腹が減っては戦はできぬ:2006/09/01(金) 02:14:28
「誰もいねェ、だと!?」
主の無い合肥城で、甘寧は一人愚痴る。
江に沿って南下し、足の踏み入れたことの無い(といっても縮小されていた城だが)合肥に入ったものの、張遼どころか生き残っているはずの李典すらいない。
「ったくやってらんねーぜ。何の為にここまで来たっつーんだよ、あ?」
ぶつくさいいながら城中を探索する。貰った諸葛亮の服は、動きやすいように幾分カットしていた。
「お、酒発見」
食料庫跡か。他にも野菜果物やら干物なども僅かに置いてある。

「……やっぱ、どっかこっかで食料を手に入れられるようになってんな」
当然だろう。戦いが数日に及ぶことを考えれば、どこかで食料を補給せねばならないのは自明の理だ。
甘寧は他者の食料を奪っているが、彼が大食漢であることを差引いてもぼちぼち多くの参加者が食料切れに近付くはずだ。当然対策は講じねばならない。
もっとも、野草や果物に魚、丁度よく収穫寸前になりかけていた畑なんかも見た。鳥獣の類も少なからずいるだろう。
「ま、そう考えりゃ別にどうってことねえか。何か食えれば動けはするからな」

合肥城に蓄えられたものをあらかた胃の中に納めると、城壁の上に登って周囲を見渡す。
視力には自信があったが、見た感じ人の姿も気配もない。
ならば土地勘のないここにいるよりも、少しばかり南下した方がいいはずだ。
多かれ少なかれ仲がよかったとは言い切れない呉将達にはあまり会いたくなかったが、馴染みの薄い土地で魏将と戦るよりはまだマシだ。
少し考えた後で、南に行った所にある皖城に向かうこととした。
魏呉の勢力が鬩ぎ合うためによく所属が変わる城で、かつて甘寧も鉄球を振り回して魏将朱光を討ち取り、一番槍も兼ねた軍功第二に挙げられたこともある城だ。

思った通り、皖城は吹けば飛ぶような小城になっていた。だが小さいからこそ城内全てを把握し、何かあればすぐに迎撃できる。
東西南北の門をチェックして、閂をかけずに開けたままにしておく。
先ほど手に入れた温州蜜柑の皮をむきながら、甘寧は北を見据えていた。

@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
※皖城に滞在中。後でまた合肥に向かう予定。
291沈没1/5:2006/09/01(金) 12:54:24

いつからが基準で「ようやく」と思うのかはわからなかったが
ようやく感情が目を覚ましたような気分になっていた。

放置しておいた服に腕を通して、血溜まりの中の孔融に目を落とす。
ショベルは放置されている。が、彼が袖で磨いていた包丁はそこに無かった。
身体には穴が二つ。そこから血が大量に流れ出していた。
「随分綺麗に死ねたものだ」
死体に呟いてみたがどこか自嘲のようにも感じられて、禰衡は脱力した。
…浮かれてた。
急に脇腹が痛み出してくる。
悲しいのに涙は出ない。
感情はまたどこかへ沈んでいくのだろう。

彼の死体を埋葬するのが目的だった頃を思い出した。

「悔しくないのですか?」
荀イクがふっと、禰衡の背後に現れた。
292沈没2/5:2006/09/01(金) 12:55:12
「別に」
素っ気無い返事を聞いて、荀イクの中で苛立ちが沸く
が、それを押し殺して微笑を浮かべる。
「この遊戯に乗らない狂った人間は直ぐに死んでしまうのです。」
「私は自分が死んでも何とも思わないし、こんな遊戯に洗脳されるほど薄弱では無い。」
洗脳と聞いた荀イクはうふふと嬉しそうに笑った。
笑っている。微笑んでいる。なのに、どこか違和感がある表情で。
「貴方には素質があります。」
何の素質だ、と不満そうな顔がこちらを見据える。
「文挙殿を殺したのは曹操様です。…正平殿」
曹操という名前を聞けば乗るかもしれないと思ったが反応は無い。
しかし、禰衡は血溜まりから距離を置いて
スコップに手を伸ばしていた。
293沈没3/5:2006/09/01(金) 12:56:36

乗りましたか。
「うふふ、そんな鉄の塊でも貴方なら上手く使えそうですしね。
こんな狂った世界はもっと掻き回した方が面白そうでしょう。」
ガコン!!
荀イクの冠の紐が切れて、後ろへ吹っ飛ぶ。
突然頭を殴られた荀イクはよろけてその場に倒れこんだ。
額から血が一筋流れ落ちる。
「狂ってるのは貴様の方だ。どうせ殺したのも貴様だろう?」

…ああ、貴方は役に立ちそうだったのに。
荀イクはにこりと微笑み直して銃口を向けた。


銃声を聞きつけた張コウがそこへ踏み入れると
死体二つが転がる中に―血溜まりの中に荀イクが居た。

もうここには留まっていないと思っていたのに。
294沈没4/5:2006/09/01(金) 12:57:23
「おや、張将軍」
振り向いた顔が相変わらず涼しげで、どこか憂いを帯びていた。が、
「感情というのは難しいものです。
いっその事彼のように無くした方が楽かもしれませんね。」
やはり荀イクは 冷静に 狂っている。
「文若殿がやったのか…?
…まあいい、文若殿。知っていることを教えてくれ。」
荀イクの顔から憂いが消え、微笑が浮かぶ。

「張将軍が私に協力してくれるのならば」

【禰衡 死亡確認】
295沈没5/5:2006/09/01(金) 12:58:49
@荀イク[洗脳されている?、額に切り傷] 現在地 豫州
【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)、刺身包丁】
※劉備、曹操、孫権を中心に、無差別に殺戮を望んでいます。
※また、ゲームに乗らない者を狙います。
 積極的にゲームに参加している者は殺しません。
 殺意はありますが冷静です。
※取りあえずは呉に向かうようです。
※農業用ショベル、スコップはその場に放置しました。

@張コウ[顔面負傷、全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、デリンジャー、首輪解体新書?、DEATH NOTE】
※荀イクに洗脳されそう?
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われ、身体能力は大幅に増加します。
※DEATH NOTEの持ち主でなくなったあとも影響は継続します。
※一度誰かが書いたあとに、他の誰かが拾っても影響はありません。
※ただ新たに名前を書き込むか、もう一つのノートに名前を書き込まれれば、持ち主に同上の影響が出ます。
296桃園を後に 1/3:2006/09/01(金) 19:54:01
劉禅が桃園に着いたとき、張飛は寝ていた。
時はまだ朝を向かえていない。もう数十分もすれば十分早朝といえるようになるだろうが、今はまだほんのりと明るくなっている程度だ。
「叔父上」
張飛は返事をしない。実をならせた桃の木々の中、雷のようないびきを立て、目を怒らせたように開けたまま、寝ている。
そばに大きな壺が転がっており、中には酒の臭いが充満していた。
やれやれ、こんな無防備な……本当にこの人を当てにするべきなのか?
この状態の張飛を起こすのは、不可能だと劉禅は分かっていた。まだ幼いころ、無理矢理起こそうとして、蹴り殺されかけたことを劉禅は思い出した。
だがなんにせよ、睡眠を取るのは重要だ。
劉禅は側の民家まで、張飛を引きずっていった。父・劉備の家のはずだ。
張飛を運び終えて、劉禅は家の中を見渡した。筵を売って生計を立てていたというだけあって、あまり広くはないし、奢侈な部分はまったくない。
なるほど、父の逞しさは、ここで育っていったのだな……
物思いに耽っている劉禅に、突然大きな声が聞こえてきた。どこに音源が隠してあるのか、耳につんざく大音量だ。
その粘っこい声質は、昨日から死亡していった者の名前を淡々と告げていった。
夏侯淵、曹仁、典韋といった名だたる猛将が死んでいた。それに周瑜や荀攸、沮授といった知恵の優れた者も死んでいた。
蜀の人物では、陳到がその身を散らしていた。彼もまた、趙雲に次ぐと言われた優秀な人物だった。
放送の大音量にもかかわらず、張飛が起きる気配はない。相変わらずのうるさいいびきに、劉禅は少しうんざりする。
297桃園を後に 2/3:2006/09/01(金) 19:55:28
鬼のごとき武勇を持っていても、神のような頭脳を持っていても、その最後があっけなかった人物は歴史上腐るほどいる。まず、目の前の張飛がそうだ。
張飛が持っていた武器は、単なる鉈だった。どんなに眺めても、何ら変哲もないものだった。いくら張飛でも、こんなもので銃に対抗するのは難しいだろう。
鉈を手に持って眺めているうちに、これを張飛の腹に突き刺したい衝動にわき上がってきた。元の世界で、張達と范彊がやったように。
朝はもう訪れていた。家の中に、明るい光が差してくる。光が鉈に辺り、まぶしく反射した。
張飛を殺すこと、そのことに劉禅は迷いはしなかった。
いかほどの豪傑であっても、この様子では、いつ足を引っ張ってくれるかもわからない。
ましてや豪傑が次々と死んでいくこの状況、腕力はさほど頼りになるとは思えない。
今のうちに殺してしまおう。こんな奴など、さっさと殺してしまえばいい。
劉禅は寝転がる張飛へと、静かに歩み寄っていた。手に持つ鉈を、胸の前に構えながら。
やがて、つまさきに張飛の体が当たるくらいの距離につく。張飛は相変わらず、いびきをかいて、目を開けたまま眠っていた。
「劉禅様?」
背後の戸口の方から、聞き覚えのある声が聞こえたとき、劉禅は鉈を突き下ろす直前だった。
「劉禅様ですか?」
劉禅はまず、胸の前に構えている鉈は背後からは見えてないだろうと考えた。しゃがみ込み、元のように鉈を巨体のそばに置くと、劉禅は振り返った。
「子龍、叔父上を起こすのを手伝ってくれないか? 私一人では、骨が折れる」
298桃園を後に 3/3:2006/09/01(金) 19:56:36
張飛はなかなか起きようとしなかった。起こそうとすると、何かをわめきながら手足を暴れさせるのだ。
趙雲、劉禅、それに魯粛の三人がかりで押さえつけ、張飛はようやく起きあがった。ただし、魯粛の顔には赤い跡がついてしまったが。
「こちらは呉の魯粛殿です。こころよい人物ですよ」
劉禅がなぜ張飛がこの三人に起こされたかを説明し、それから趙雲が魯粛と出会った経緯や、どれほど信用に値する人物かを熱弁を振るって話してくれた。
張飛にとって、呉の人物は十分に警戒し、恨むべき相手だ。しかし魯粛は、関羽より前に死んでいるし、親蜀派に属する人物だった。
それに魯粛のことより、趙雲の方がよっぽど気になっていた。なんだ、その格好は―――
「ああ、これはある男に着せられたものでしてね。その男はどこかに失せましたが」
趙雲の隣の魯粛が、なんだか複雑な顔をしている。その時の張飛に、趙雲が女になっていたことは聞かされていない。
魯粛が提案した。
「とりあえず、もう少しだけここにいましょう。劉備殿も関羽殿も、まだ来る可能性はあります。
いよいよという時になって、冀州へ行きましょう。ここから冀州は、遠くはありませんから」
待てるだけ待つ、というのは張飛の意向にも添うものだったので、賛同することにした。
それから張飛以外の三人は、なにやらいろいろと話し込み始めた。張飛は参加する気にはなれず、外に出て義兄達の来訪を待ち続けた。
やがて、限界の時を迎えた。二人は来なかった。
「長兄………雲長兄ぃ………」
張飛は桃園の桃を三つ取り、荷物へ加えた。三人集ったときは、これを一つずつ分けて食おう、と。
一同は冀州へ歩き始めた。太陽が高くなっていた。


<<皇帝と鬼武者とナースと外交才能零/4名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】
張飛【鉈、桃三個】趙雲【ナース服、化粧品】魯粛【圧切長谷部】
※冀州へ。冀州へ着いたあとどうするかは決めていません。
299武人の魂 1/5:2006/09/02(土) 02:06:17
関羽と裴元紹は、幽州の桜桑村に辿り着いていた。重要な地だからだろう、桃園も縮小されながらもしっかりと残っている。
暫く探索を続けてみたが、禁止エリアになる寸前のこの地域にはもはや人っ子一人いない。
「やはり誰もいませんね、旦那」
裴元紹は桃を齧りながら、静まり返った村内を見渡す。
「……今はな。だが見ろ」
関羽は指し示す。桃園にはまだいくつも桃が実っていたが、関羽らが獲った枝以外にもいくつか痕が見える。
「それに、この家もだ」
歩を進めた狭い民家には、ばかでかい酒壷が転がっていた。無論、中身は完全に空である。
「すげえ、これを空けるだなんてちょっとやそっとじゃ出来ないっすよ」
「だが、一人でこの酒壷は空けられているようだ」
そう言う関羽の目に、どこか懐かしむような色が浮かんでいることを裴元紹は気付かない。
「漢広しと言えども、これだけの大酒を食らえる奴はそうそういまい」
「と、言うと」
「うむ、翼徳に違いない。しかも、おそらくつい先程出発したという感じだ」
武神と称えられる者ともなれば、気配の残り具合でその程度は平気でわかる。
「で、張飛殿はどこに行かれたと思います?」
その問いに、関羽はしばし黙り込む。
なにせ関羽と兄弟達は中華を所狭しと駆け回ったのだ。縁の地などいくらでもある。
「ここからだと……平原か。あるいはさらに下って予州」
「徐州はどうです?」
「馬鹿者、先程の放送を聞いていなかったのか」
実は、関羽の危惧はそこにある。
青州に続いて徐州が禁止エリアになったことで、幽州からの脱出路はともかく、南下のルートはほぼ限られてしまう。
弓矢や拳銃程度のものならまだしも、射程の長い銃をもって待ち伏せされては関羽と言えど厳しい。
西進して并州に入る手もあるにはあるが、地盤が緩んでいる険路に入るのはもっと危険なのだ。
300武人の魂 2/5:2006/09/02(土) 02:10:49
「……と、言うわけだ。脱出を狙って攻撃してくる連中がおそらくいるだろう。この戦いでは最早戦術の基本だからな」
「なるほど。呂布辺りが南皮で待っていると厳しいですね」
「その時はその時だ。全力で刃を交えるのみ」
関羽の心配はそこだけではない。長兄の劉備は機を見るに敏な人だから、こちらに向かっていたとすると汝南か新野まで戻るはずだ。
だが翼徳は。単独行動であろうと多人数行動であろうと、腕は立つが騙され易いあいつの身が心配である。
槍や矛や剣をもっての一騎打ちなら、翼徳を破れる者など二人といまい。だが敵だけでなく身内の謀略に遭った時……。
「旦那、そろそろ時間が」
そんな関羽の思考は、裴元紹の声に遮られた。
「……うむ。念のためそろそろ出ておくとするか。まずは平原に行くぞ」
「はい。先導は任せておくんなせえ」
意気揚々と裴元紹が家屋を出る。それに続いて関羽が出て──

「いかん!」

向けられた壮絶な殺気に気付くのとほぼ同時、複数の矢が一斉に関羽を襲う。
手傷のせいではなく完全に不意を突かれていたからだろう。反応が鈍い。まさかとは思ったが……。
──州境ではなく禁止エリア内に『狩人』がいるとは!
「ちいっ!」
撃ったのは三十歩離れた林の中だ。方天画戟で全て撃ち落せるか──否、無理だ。
刹那の間に計算を終えるが、かといって全弾回避も不可能。散弾状に拡がった矢の雨は、一矢二矢と身体を傷つけるだろう。
(毒であってくれるな……!)
戟を回旋させて出来る限り弾き飛ばし、次弾装填の隙に討つ。
そう決めて一歩前に踏み出そうとした時、視界を関羽に劣らぬ巨体が遮った。
「っ!?」
直後、ほぼ同時に十度の鈍い音が鳴った。
301武人の魂 3/5:2006/09/02(土) 02:13:26
「裴元紹!!」
彼は身を挺して関羽を守っていた。目論見通り全弾自らの身体に吸い込み、そして倒れる。
「どうです、俺だってやりゃあでき……ゲフッ」
臓腑に届いたのか、小さく血を吐く裴元紹。
「しばし待て……すぐに手当てをしてやるぞ!」
言って、関羽は敵へと駆ける。その疾さは、嵐の中を天へと駆ける青龍のそれに似ていた。

「ちっ……」
次弾装填を終えながら、『狩人』の張燕は舌打ちをした。
必勝を期して放った矢は、目標を貫くことはなかった。
討てばこの上なく先の展開が楽になると踏んでかかったのだが……ぬかったか? ……いや。
まだまだ形勢は圧倒的に有利だ。いくら関羽と言えど、この毒矢を受ければすぐに動けなくなる。
そう、一矢でも命中すればあとはどうにでもなるのだ。手榴弾は弾き返されないとも限らないが、この矢なら当たれば最後だ。
距離は二十五歩。よく狙え。まだ早い。もう少し引き付けろ。そう、あと一瞬。
いつの間にか早鐘のようになる心の臓を抑えつけ、照準を半寸でも正確にすべしと狙いを定める。
「死ねっ!」
真っ向から向かってくる関羽に向けて、張燕は十本の矢を一斉に放った。

必中の矢は、確実に関羽の胸目掛けて飛んでいく。
張燕は確実に目標を捉え、そして放った。
──だが、彼は直後に信じられないものを見る。
302武人の魂 4/5:2006/09/02(土) 02:17:02
矢が放たれてそれが飛来し、直撃する瞬間。
「!?」
視界から関羽の姿が消えた。
「……なっ……横か!?」
消えてはいなかった。関羽は矢を捉えた瞬間、速度を保つどころか急加速しながら鋭角に曲がったのだ。
それがどれほど脚に負担がかかるのか、いやそもそも消えたと錯覚するほどの動きを実行できる将が一体何人いるというのか。
張燕は戦慄しながらも、次弾装填をしつつ関羽の動きを捉えようとして……また見失う。
「な……!?」
距離はもう十歩を切った。
左右にもいない。直進でもない。となると……。
「上かッ!」
言って、見ることなく咄嗟に後ろへ飛ぶ。その鼻先を急降下した刃が突き抜けていった。

「ぐっ……」
潜んでいた大木は、両断されていた。純粋な斬撃武器とは言いがたい戟で、だ。
「……なんという豪力だ」
風など吹いていないのに、じりじりと圧される。張燕とて一流の武人だ。それが圧倒的に気圧されている。
「ッ!」
距離は五歩。僅かな生存の可能性に賭けて、張燕は踵を返す。
五歩の圏なら良くて相討ち。だが追いかけっこなら自身がある。そのうち隙を見て矢を撃ち込んでやる。林を抜け、村の建物の陰に走りこもうとして。
張燕の身体は、その瞬間二十歩の距離を零にしていた。
「……」
声も出ない。
戟を投擲され、そのまま貫かれ、飛ばされて縫い付けられた。
かなわない。まさかここまでとは。兵一万に匹敵する膂力とは、これほどのものなのか。
華雄、顔良、文醜、ホウ徳など、かつて関羽に敗れた猛将達が考えたであろうことを思って、張燕は意識を手放した。

恐るべきは関羽の武。五虎のうち、膂力は張飛、技は趙雲、弓は黄忠、馬術なら馬超と言われた。
だが総合力で見れば関羽に及ぶ者はなかっただろう。計り知れないという言葉が、まさに似合う男である。
303武人の魂 5/6:2006/09/02(土) 02:20:19
「裴元紹、大丈夫か……!?」
戦いを終えて戻ると、関羽の顔色が変わった。どうやら、矢には毒が塗られていたようだ。目に見えて裴元紹の容態が悪くなっている。
「……見てましたよ、旦那。やっぱ強いや」
目の色が濁り、呼吸は尋常ではない。相当強い毒が塗られていたに違いない。
「待っていろ。今傷口を開いて毒を吸い出す」
血に塗れた刃を拭き取り、呉子の如く毒血を抜かんとする関羽。だが。
「いけません。こんな下郎のためにそこまでしてくださらなくとも」
「だが、このままでは毒が回って死んでしまうぞ」
「……いいんです」
「裴元紹!」
思わず声を荒げる関羽に、裴元紹は震える腕を突き出して止める。
「もう……時間がないんです。旦那には一刻も早く幽州を出てもらわにゃいかんのですよ」
死に瀕した声。だが不思議と涼やかで意思のこもった強い声だった。

「それに……あの最強の男関羽様を守って死ねたなんて、らしくねえくらいでっけえ手柄です」
「……」
「最初はなんで周倉の野郎がいねえで俺がって思いましたけど、今は本当に満足っすよ」
「……裴元紹」
「もし永らえたとしたって、足手まといになるのも時間切れを誘発するのも俺の武人の誓いに反することです、だから」
見えているのかはわからないが、しっかりと関羽のいる方を見据えて裴元紹は言う。
「だから、ここで俺を殺してってくだせえ」
わかってはいたのだろう。だがその言葉は関羽の心を震わせた。
「死ぬのはいいんです。あんな英傑だらけの中で生き残れるとも思ってなかったっすから。でも旦那に迷惑をかけるのは御免です。どうせなんとか助けられないかとか考えてるでしょう」
「む……」
図星だった。
「……正直言うと、毒で死ぬのも爆死するのも、待ち続けるのは怖いんす。だから、殺してくれってのは俺からの願いです」
「そうか」
「天下の関羽様を守り、そしてその手にかかれるなら生き残るより価値はでかいです。さ、時間もないですし、苦しむ戦病者を楽にすると思って」
304武人の魂 6/6:2006/09/02(土) 02:22:40
「裴元紹、何か言い残すことは」
得物を上段に振りかぶったのがわかったのだろう。苦しいはずだというのに、裴元紹はつとめて笑顔を維持する。
「じゃ、一つだけ」
「聞こう」
何もなく、荒涼とした空気すら漂うその場所で。
「……貴方だけは、己の道を貫いてくだせえ」
生き残れ、ではなく『道を貫け』と裴元紹は言った。
「しかと聞き届けた。裴元紹よ……ありがとう、そしてさらばだ」
方天画戟が振り下ろされる瞬間、裴元紹は満面の笑みを浮かべたように見えた。

張燕の武器を回収した後、懐かしき地を一瞥して背を向け、関羽は平原へと向かう。
だがその足取りは、決して重くはなかった。

【張燕、裴元紹 死亡確認】

関羽[全身打撲(治癒中)]【方天画戟、猛毒付き諸葛弩(残り矢20本)・手榴弾×3】
※平原へ。劉備と張飛を探しつつ、ひとまず予州まで南下。
305生存願望 1/5:2006/09/02(土) 17:30:46
沛国譙([言焦])県
曹操を初めとする多くの曹・夏侯一族の故郷に、曹熊はいた。
曹熊もまた例外ならぬ譙の人である。とはいえ、譙にいたのは幼い頃の一時期だけであり、以降は鄴([業β])の地で育っていった。
だから曹熊にはわからない。今自分がいる豪勢な生家が、父・曹操が生まれ育った桃仙院だとは。
昨日の惨劇を、曹熊は頭の中で繰り返していた。
張虎、夏侯淵、銃、銃声、血、死、曹仁、曹洪、銃、銃声、夏侯淵、曹仁、斧、弓、矢、銃声、死、死、銃、手、死、死、死、死―――
両手に持つ拳銃が、小刻みに震えていた。
拳銃は曹熊が今まで見たこともない形状のものだったが、それは見れば見るほど優美であり、握り心地も悪くはなかった。
ベレッタM92F、夏侯淵の袋にあった説明書には、そう書かれていた。曹熊にはよくわからない説明が続いたが、様には、離れた敵を殺すためのものだということだった。
夏侯淵も曹仁も、この銃から発射された弾丸に死んだ。片方は曹仁が撃ち、片方は自分が撃った。
震えがますます大きくなる。拳銃を持つ手も、震えているのがはっきりとわかる。恐怖が頭の中を支配している。
息が荒くなる。円状の赤い穴を思い出し、吐き気がこみ上げてくる。張虎の最後も思い出す。自分は彼を、置き去りにして逃げた。
曹彰の顔を思い出す。もしあの時兄が自分に近づいてきたならば、自分はおそらく二発目を撃っていただろう。
あの時逃げ出さず、説明をすれば、きっと兄は理解してくれたはずだ。だがあの時の自分に、そんな余裕はなかった。すべてのものが、恐怖の対象だった。
戻ろうか? いや、もう無理だ。潁川にまだいるとは考えにくいし、今さら会ったところで、兄は自分を許してはくれないだろう。
下手すれば、逆に殺されてしまうのではないか?
306生存願望 2/5:2006/09/02(土) 17:32:17
震えは未だに収まらない。
阿会喃はどうしているのだろうか? 阿会喃の黒い笑顔を思い出す。阿会喃といた時間は、とても楽しかった。もう戻ることはないであろう時間だ。
いったい誰が信頼できるというのか?
阿会喃は狂って去ってしまった。夏侯淵は平気で親族を襲った。自分ですら、張虎を見捨てて逃げ、曹仁のとどめを刺したのだ。
もはや信頼すべきは、他の誰かではない。この漆黒の銃だけだ。
生き残るには、この銃だけが頼りなのだ。
震えを止めようと、銃を強く握る。握りしめれば握りしめるほど、銃は存在感を示した。
震えは幾分かは止まった。曹熊の心には、かすかながら強い意志が生じていた。大丈夫だ。この銃があるかぎり、自分はやれる。やれる―――
顔を見上げた。もう何時までも、うじうじしてはいられなかった。
が、見上げた先の光景に、曹熊の意志はいとも簡単に砕かれた。
恐怖が走り、急いで銃を構え上げようとしたが、その前に首に尖った先端が突きつけられた。それは槍だった。
「取引だ」
何者かが目の前に立っていた。言葉は静かだったが、眼には狂気の色が浮かんでいた。
307生存願望 3/5:2006/09/02(土) 17:33:04
「と、と、取引?」
恐怖のため、声はろくに出せなかったし、やっとのことで出てきたものは震えていた。
「そうだ。その武器をよこせば、命は助けてやろう」
槍の先端が、首に触れた。心臓が張り裂けそうだった。
「な、なんのために……?」
意味のない質問が、口から飛び出た。聞かずともわかる。これは殺人道具だ。何を言っているのか、自分は。
だが男からの返答は、予想外のものだった。
「貴様も元の世界に戻りたいだろう? そのためだ」
元の世界と聞いて、阿会喃と張虎の顔を思い浮かべてしまったが、そちらではなく、
病に悩まされ続け、そのために父の葬儀に行けなかったのを、兄に咎められ自殺したあの世界だ。
あまりいい思い出はない。それでも、この世界よりかは遙かにましだ。
「も、戻れるのか?」
「ああ戻れるさ。劉協を倒せばいい」
劉協、つまりは献帝だ。曹熊は失望が身を包んでいくのを感じた。
何を言ってるのか。できっこない。元の世界で、自分が曹丕に対抗するようなものだ。
「だがその前に、董卓を殺さなければならん。あいつもまた元凶のひとりだからなぁ」
男の眼の狂気の色は、ますます濃厚になっていた。
曹熊の記憶では、すでに董卓の名前は死亡者放送に挙がっている。死んだ人間を、どう殺すというのか。
それに、董卓が元凶とはなんだ? 董卓は参加者だ。
「一応名を聞いておこうか。私が三公となった暁には、貴様を虎賁中郎将にしてやろう」
「そ、そ、曹、熊」
「曹熊か。忌まわしい奴と姓が同じなのが気にくわんが、まあいいだろう。それをよこせ」
拳銃は相変わらず曹熊の手に握られている。ただ、銃口が下を向いてしまっていた。
嫌だ―――この銃だけは、この拳銃だけは、嫌だ、嫌だ―――
「あ、あなたの名は?」
少しでも時間を稼ごうと、曹熊は適当な問いを発す。
「聞いて何になる?」
首に痛みが生じ、生暖かいものが首筋を流れていくのを感じた。槍の切っ先が皮膚に刺さっているのだろう。
「だが名乗ろうか。私は袁術。過去の皇帝、未来の三公だ」
袁術、群雄の一人。皇帝を名乗り、呂布や父に手酷くやられた奴だと曹熊は記憶している。
三公になるというのは、皇帝になるのを懲りたからだろうか?
308生存願望 4/5:2006/09/02(土) 17:34:15
「え、え、え、袁術、殿」
曹熊の声はひどく上ずっていた。
「私も、協力、させていた、だきません、か? りゅ、劉協を、倒すのを」
たったそれだけのことを言うのに、劉協はひどく疲れた。恐怖と緊張が、絶え間なく曹熊を責め続ける。
「ほう、いいだろう。貴様は後将軍に格上げだ。だが、董卓を倒すのも手伝ってもらうぞ」
かすかに顎を下げて、承諾の意を表す。
「そうか、なら、そうだ。劉協や董卓だけじゃない。曹操を倒すのも手伝ってもらおう」
いきなり父の名が出てきたので、曹熊は驚いた。
「そ、曹操、ですか?」
「そうだ」
袁術は満足そうに頷いた。
「あやつもまた私の運命を狂わせたものだ。あと孫策も許せなんな。あの糞餓鬼は、恩を忘れて裏切りおった。
ああ、妾の子の袁紹も忘れられん。それに、呂布、劉備、劉表、楊奉に韓暹、雷薄に陳蘭、董卓が入朝した原因の宦官共も………」
孫策はとっくに死んでいる。劉表以降は参加すらしていない。だが袁術は本気のようだった。眼は狂気に染まっている。本気で狂っている。
「すべて手伝ってくれるな!? 曹熊!」
いきなり袁術は叫んだ。曹熊は、頷くことだけしかできない。
「よろしい。ならばまずそれを渡したまえ」
ああ、曹熊は思った。もう、もう終わりだ。
「何をしている。ぐずぐずするな!」
目を落とせば、槍のするどい刃と、その下で震えている両手と拳銃が見えた。
もう終わりだ。むなしい反抗をしても、この槍に刺されるだけだ。曹丕に咎められたときのように、諦めてしまおう。
左手を拳銃から放すと、右手で拳銃を袁術のほうへ投げ落とす動作を行った。それで拳銃は、袁術の足下に転がるはずだった―――銃は右手に残っていた。
そして左手は、槍の刃を掴んでいた。鋭い痛みが手に走った。袁術は、信じられないように目を見開いている。曹熊自身でも、信じられなかった
「―――何を!!」
袁術は一瞬たじろいだが、すぐに槍を突こうとしたようだ。だが曹熊に捕まれた槍は、すぐには動かない。その時にはもう、銃口は袁術に向いていた。
引き金を引くと、渇いた音が鳴った。槍から力が抜けるのを曹熊は感じ、左手を放した。赤い手の平が見えた。
もう一度撃った。それから、急いで走り始めた。
309生存願望 5/5:2006/09/02(土) 17:36:07
豫州譙県。曹操の出身地。
曹操配下の猛将は、ここにいる可能性が高いと踏んで呂布と諸葛瑾はこの地を踏んだ。
各地を探しているうちに、ある家門から、男が飛び出して走り出ていくのを目撃した。男は呂布達には気付かず、すぐに去っていった。
見かけ貧弱そうな人物だったので、呂布は放っておいたが、とりあえずその家には入ることにした。
譙のうちではおそらく一番豪勢で、広い家だった。中を進むと、奢侈で優美な室内に、男が横たわっていた。体の下に、血だまりを作っている。
男の体から、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「劉協、董卓、劉協、曹操、袁紹、孫策、劉協、劉備、呂布、劉表、董卓、袁紹、劉協」
近寄ると、男は腰を二発撃たれており、顔は青ざめていた。眼はうつろに中空を見据え、口だけはぱくぱくと動き続けていた。
「韓暹、劉協、楊奉、雷薄、劉備、曹操、袁紹、劉協、董卓、陳蘭、張譲、劉協、呂布」
呂布の名前を最後に発し、男の口は動かなくなった。呂布の手から男の胸まで、偃月刀が伸びている。
偃月刀を引き抜き、呂布は振り返った。諸葛瑾の長い顔が、じっと呂布を見つめている。
「なんだ、驢馬」
「いえ………」
再び死んだ男の顔を見る。袁術だと思われたが、どうでもいいことだった。
「もう譙には誰もいなさそうだな」
「とりあえず冀州に向かいましょう。幽州が禁止区域になったのですから、関羽殿達がいるかもしれません」
そうだな、と呂布は賛同した。
呂布は諸葛瑾を肩に担ぎ上げると、そのまま譙を出ていった。

@曹熊[錯乱]【ベレッタM92F】
※どこかへ走り去っていきました。

<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
呂布[肩の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、日本号、ドラグノフ・スナイパーライフル】諸葛瑾【なし】
※関羽達と戦う為、冀州を目指します。現在地は豫州譙県付近。
※また、呂布は貂蝉と陳宮を殺した人間が判明した場合、優先的に狙います。

【袁術 死亡確認】
燃えるように赤い空。
有無を言わさずに参加させられたこの奇怪な遊戯も、まもなく4度目の夜を迎えようとしている。
洞窟の前での見張りを買って出た陸遜は、沈み行く太陽に手を差し伸べて辛そうに目を細めた。
重傷を負った姜維はおそらく早晩死ぬだろう。今夜かもしれない。
所詮は殺し合いのための世界なのだ。いまさら1人死人が増えた所で何ほどのことでも無い。
……しかし洞窟の中に居ると、気が沈んで仕方ない。
陸遜が溜息をつこうとした時、少し離れた茂みががさがさっと音を立てた。
即座に銃を構え、いつでも撃てる状態で「誰ですか! 出てきなさい!」と声を張り上げる。
きゅうぅん、と愛らしい鳴き声がした。……鳴き声?
がさっ、と茂みから顔を覗かせたのは、白い仔犬だった。
くぅんと喉を鳴らし、尻尾を振りながら陸遜に近づく。
……爆薬を巻き付けられていたりはしない。回りに他の気配はない。
そこまで確認して、ふぅ、と安堵の吐息をもらし、陸遜は仔犬を抱き上げた。
「驚かせないでくださいね。まったく」
腕の中の暖かい鼓動に、ささくれ立った心が癒されるような気がした。
知らず知らず笑みがこぼれる。
「陸遜、後ろだ!」

せっぱ詰まった司馬懿の絶叫。一気に現実に引き戻される。
とっさに振り向き、目の前まで迫っていた何かをすれすれで回避する。
それが飛んできた方向に銃を上げ発砲する―――寸前。背に大きな圧力。押し倒されP90を取り落とす。
「っあ……!」
人間ではありえない熱い息が耳にかかる。視界の隅に鋭い牙。
本能が感じる恐怖。喰われる!
「ど……きなさい!」
渾身の力で圧し掛かる獣を振り落とす……だがそこまでだった。
身を起こす間もなく、目の前すれすれにザクッと光る刃が振り落ろされる。
すぐ傍で司馬懿が何者かに羽交い絞めにされているのが見えた。

……いけると思った自分が甘かった。
陸遜は自分達の敗北を悟る。いくら良い武器があっても、使う間を与えられなければ勝てない。
警戒しているつもりでも、暗視鏡があっても、気配を消し隠れた武官を見つけることはできない。
先手は取れる筈だなんて、机上の空論以外の何者でもなかった。
油断した、僕の負けだと……自分への憎しみすら覚えながら、陸遜は思った。
せめて自分を殺す者の顔だけでも見ようと、視線を上に動かそうとした時。

目の前に振り下ろされた刃の主が、自分の眼前にしゃがみこんで笑った。
「久しぶりです、陸遜殿」
赤い逆光に照らされようとも、見まごう術も無いほどに見慣れたその顔。
「……凌統?」
「まず始めに聞かせてください、陸遜殿」
そう言うと凌統は続けざまに質問を投げかけてきた。
この遊戯に乗っているのか、仲間は何人か、それは誰か、目的は何か。
嘘をついてもなんら良い事は無いので、全て正直に答える。
最後に自分達と組む気はあるか、と聞かれる。
もしそうできるなら戦闘力の足りない自分達一行には願っても無い機会だ。迷わず頷く。
全ての質問が終わると、凌統はいつでも振り抜けるよう、さりげなく構えていた銃剣から手を離した。
安心しました、と破顔して差し伸べてきたその手を握り締める。
「関興ー、そちら放してやれ。交渉成功だ」
「え、そうなんですか?」
心持ち残念そうな声を発した、関興と呼ばれた若武者の前には。
「馬鹿めが! 馬鹿めが! 放さんか、ううっ……」
何故か亀甲縛りで転がされた司馬懿。これだけの短時間でよくもこんな見事に……ではない。
何で亀甲縛りなんだ。突っ込むべきかやめとくべきか、陸遜は頭を抱えて見なかった事にした。


まず、お願いがあります。戦わない、殺さないという言葉を口にしないようにしてください。
必要があるなら次の戦いのための休息、他の誰かを殺すために捕虜にする、というように言い換えてほしい。
―――組むに当たっての頼みとして、凌統はそんな奇妙な事を言ってきた。
何でも仲間の1人がおかしな暗示をかけられているらしく、それらを耳にすると一時的に狂うのだそうだ。
やや厄介ではあるが、拒むほどのことではない。司馬懿ともども頷く。
その後連れて来られた文官らしいその青年と凌統、関興を洞窟の中に招き入れた。
ちなみにはじめに見た仔犬と、圧し掛かってきた獣―――大きな白い犬は凌統に懐いているらしく、
彼の命で洞窟の前におとなしく丸まって文字通りの番犬となっている。
そういえば凌統はやたらと動物に懐かれやすかったなと、微笑と共に陸遜は思い出した。
「姜維!」
凌統一行の文官らしい青年が、洞窟に入るなり驚きの声をあげ横たわる姜維に駆け寄った。
「姜維……?」
青ざめた顔のままぴくりともしない姜維に、彼は不安げに顔を上げた。
姜維殿の知り合いなのだろうか。どちらにせよ、もう話すことも出来ないだろう。
悲痛な顔で首を左右に振る陸遜に、彼は泣きそうに顔を歪めた。
「感動の再会か何か……では無いか。とにかく、自己紹介くらいしてもらいたいものだな!」
そこに後から入ってきた司馬懿が、亀甲縛りのせいか若干不機嫌そうかつ高圧的に言う。
口調と態度にむっとしたらしい文官が言い返した。
「そういうときは自分からするのが筋だろう! えっらそうに、悪役顔が」
「あ、悪や……やかましいわ、この間抜け面!」
「間抜け? 神童、秀才と称えられたこの私が間抜けだとっ!?」
「ふん、間抜け面に間抜け面といって何が悪い、花でも咲いていそうな頭だな!」
「あぁ英知の花が咲き誇っているとも! 貴様の脳味噌は干からびていそうだな、二番煎じ悪役面!」
やーいやーいお前の母ちゃんでべそ、の世界に行ってしまった2人の頭に、それぞれ陸遜と凌統の拳が振り下ろされた。
「じゃあ僕から自己紹介しますね。僕はりく……」
陸遜がそこまで言った所で、はっとしたように凌統が関興の顎にアッパーカットを入れた。
吹き飛ぶ関興。あっけにとられて見守る一同。
「った、いったいなぁ……なにするんですか凌統どの〜」
涙目で文句を言う関興を他所に、凌統が陸遜に素早く何かを囁く。げ、と陸遜が顔を顰めた。
そして凌統はごめんごめん、と愛想笑いを浮かべながら、関興の両腕を後ろから拘束した。
「なんなんですか凌統殿! 放してくださいよー」
「いやいや。まあね。自己紹介続けてください」
「……えーと。僕は陸遜、字は伯言です」
そこまで言ったところで、関興がここまで浮かべ続けていたすっとぼけた笑みが消し飛び、
代わりに強烈な殺気が膨れ上がった。笑みはもう欠片もなく、冷たい瞳に殺すという意思が一瞬で満ち溢れる。
「凌統殿……放してください! 主君の仇を、今ここで……ッ!」
「落ち着け! 落ち着け馬鹿っ、関興!」
暴れる関興を凌統がなんとか封じ込めて居るうちに、陸遜は凌統の銃剣を拾い、刃を自分に向けて関興に差し出した。
「貴方が劉備殿に忠誠を誓ったように、僕は自らの主君、孫権様を守る為に残虐な鬼ともなりました。
 しかしそれは貴方の主を傷つけたことに対して、何の免罪符にもならない。
 僕は逃げも隠れもいたしません。所詮ひ弱い文人です。貴方の武の前には抵抗すら出来ません」
銃剣を握った関興の目を見つめ、どこからでも斬るがいいと両手を広げる。
くっ、と関興が腕をぶるぶる震わせて歯噛みした。
外野と化している司馬懿と文官の青年が、生温い笑みを浮かべる。
ここで関興が陸遜を斬れば、見事に弱いもの虐めの構図になる。
関興は陸遜を斬れないだろう。単純だが悪くない策だ。
彼らの予想通り、関興は銃剣を地面に叩きつけてむすくれた顔で地面に座り込んだ。
ほっとした空気が流れる。
「じゃあ次は俺。凌統、字は公績です。陸遜殿にはいろいろ良くして頂きました」
拱手して人好きのする笑みを浮かべる。
「……僕は関興。字は安国です」
まだ不穏なジト目で陸遜を見やりながらも、関興も拱手する。
「む、次は私か? 私は司馬懿、字は仲達―――」
「うわああああああ!!」
凌統一行の最後の青年が、急に絶叫してカサカサと後ずさった。
「な、なんだ、どうした?」
「か、かさぶたがー! 心のかさぶたが抉られるー!!」
「かさぶた?」
「うわーん! 丞相ー! 兄様ー!!」
凌統に首根っこを引っつかまれて吊り上げられながらもじたばた暴れる彼を見て、関興が呟いた。
「あ。そういや馬謖殿……」
「……馬謖? ふ、ふはははははは! そうか! あの馬鹿丸出しの山頂布陣かー!」
「う、うわああぁぁん!!」
「いやぁ実に面白い布陣だったな! 諸葛亮も洒落が分かる人材起用をするものだ!」
「い、言うなー、言わないでー!!」
「水不足。山頂。張コウ将軍。泣いて馬謖を斬る」
「わーーーーーーーーーっ!!!」
哀れになって陸遜が止める頃には、ご機嫌顔で司馬懿が鼻歌を歌う横で、馬謖が頭を抱えて白く燃え尽きていた。
「えーと、あいつは馬謖で……字は幼常だっけ?」
洞窟のすみっこでじめじめしている馬謖の代わりに一応凌統が紹介しておく。
「寝てる彼は姜維さんという方です……が、その……」
口篭もる陸遜に言わなくていい、と凌統が頷く。
紹介してもらった所でもうどうしようもないだろう。明らかに死相が浮かんでいる。
「はじめはここまで酷くはなかったんですが……司馬懿さんと僕を守る為に、危険な武器を使って」
憂鬱そうに俯き、馬謖から借りた探知機をつつく。
「危険な武器?」
「はい、強力ですが、どうやら使った者の命を削るらしく……」
あれです、と指差した先に、……さっきまですみっこに居たはずの馬謖が居た。
「……馬謖?」
「いや、彼の持ってるあの……えっ?」
「凌統ー、この棒ちょっと面白いぞ〜♪ なんか光ってる」
挫けやすいが立ち直りも早いらしい馬謖が、ぶんぶんとミョルニルを振って目をきらきらさせている。
面白いおもちゃを見つけた子供のように馬謖が弄くりまわしたミョルニルが、一同の前で光を発しながら縮んでいった。
そう。

魔法のステッキ、再臨!

「な、なんだと……? 私より山頂布陣のほうが魔女っ子向きだというのか……ッ!?」
大ショックの表情でふらりと壁にもたれかかる司馬懿。
「なんだこれ。縮んだぞ?」
怪訝な顔でミョルニルを空中にかざして馬謖が首を傾げた。
それを見ながら、陸遜は以前との差異に気付く。
今はせっぱ詰まった危機があるわけではないのに、ミョルニルが反応した。
そして陳宮殿が持っていたときは、あんなふうにぼんやりした光は出ていなかった。
あの時は雷を撃つ一瞬だけ、激しい光を放出したはずだ。
この違いはなんだ……?

周りの奇妙な雰囲気を気に留めもせず、馬謖はミョルニルを持ったまま横たわる姜維の横にぺたりと座り込んだ。
「起きろよ、姜維……私ひとりではしゃいでてバカみたいじゃないか」
頬をつついてみても、冷たい感触が返るだけ。生と死の狭間を落ちていこうとしている弟弟子を見つめ、
馬謖はぐすりと洟をすすった。
日も沈み、薄暗さを増していく洞窟。
彼にとってはただの光る棒であるミョルニルを明かり代わりにするために、馬謖は姜維の顔上にそれをかざした。

まさにその時。ミョルニルの光が広がり、姜維の全身を包み込む。

伝説に曰く。ミョルニルの正当なる持ち主、雷の神トールは、食料とした黒山羊を何度も再生させるために
ミョルニルを用いたという―――

蒼を通り越し白かった姜維の膚に、僅かに赤みが差す。

馬謖がミョルニルを取り落とし、胸を押さえた。
口を覆い、激しく咳き込む。指の隙間から紅いものが零れた。
「血……?」
呆然と呟き、走って来る凌統と関興を待たず、そのまま倒れ伏す。
その横で、このまま死ぬだろうと思われていた姜維が静かに瞼を開く。
彼の脳裏に響く声。朦朧とした意識のまま、天へと手を伸ばす。


遠くから私を呼ぶ声が―――聞こえる。


<<めるへんトリオ featuring 既視感を追う旅/6名>>
陸遜[左腕裂傷(もうすぐ癒えます)]【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)、探知機】
姜維[重症(なんとか短時間立って歩ける程度)]【なし】
司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】
凌統【銃剣、犬の母子】
馬謖 [気絶、軽症]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)】
関興【ラッキーストライク(煙草)、ジッポライター、ブーメラン、サーマルゴーグル】

※漢中より少し南の洞窟に滞在中。
※馬謖はヒーラー属性? ミョルニルは彼の祈りに応えて少しだけ誰かを賦活しますが、
  割に合わない勢いで命を削られます
※香水には嗅ぐとハッピーになる効果。但し体質に合わない人がたまにいます。
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。
319今は亡き者達へ1/4:2006/09/08(金) 00:40:51
「沮授、お前も逝ったのか…」
山間から上る日を見ながら、周囲の見回りに出ていた袁紹は、放送で名を呼ばれた臣下の顔を思い浮かべた。
「とうとう我が軍勢で残ったのは張コウと私のみ、か」
自分を慕っていた三人の息子、自慢の武で自身を支えてくれた顔良と文醜。智謀により勝利へと導いてくれた軍師や、顔良達には及ばずとも、自軍の勝利を担ってきた将兵達。
この戦いで散っていた配下の顔が浮かんでは消えていった。
「今はまだ泣きはせぬ」
朝日を見据えながら、袁紹は呟く。
「私の涙は劉協めを倒し、その首をお前達の墓前に捧げた時初めて流れる」
その目には、太陽の光が、さながら意志の炎が燃えているかのように映っている。
「それまで、天で見ているがいい」
そう言うと、袁紹は悲しげに笑った。
『旦那…』
「うおっまぶし!い、いかん!長い間太陽を見ていたせいで目が、目がぁ〜」
そう言うと太陽から目を反らし袁紹は悶え始めた。
『ちょ、旦那!かっこいいシーン台無しじゃん!』
「ええい五月蝿い!ああ〜目が〜」
『本当、いまいち決まんねぇ…』
目を押さえながら悶える袁紹に聞こえないように、村正はぼやくのだった。
320今は亡き者達へ2/4:2006/09/08(金) 00:41:52
所は変わり、豫州潁川、曹仁らと夏侯淵が戦った場所から、そう遠くはない家。
例の一戦での精神的なショックで動けなかった曹彰の為に袁紹はこの家を一時的な拠点にしたのだった。
「……」
親族の三人が突然死に、しかもその内の一人は自分の弟が殺し、そのまま逃げたという事実。それは曹彰にとって、重すぎる出来事だった。
「入るぞ」
袁紹が見張りから帰ってきた。
「………」
「………」
沈黙が場を支配する。先の惨劇からこの調子である。
「これから、お前はどうするのだ?」
袁紹が沈黙を破る。
「………」
「ここでじっとしていも始まらぬだろう」
「あいつは…」
沈黙を続けていた曹彰が口を開いた。
「熊の奴は人を殺すような奴じゃないんだ。あいつは病弱で臆病で泣き虫で、何かあるとすぐに俺や植や丕兄に泣き付いてきたんだ」
曹彰の声に段々と嗚咽が混ざていく。
「そんなあいつが…あいつが、進んで人を殺すなんて信じられないんだ。しかもよりにもよって親類を…」
「信じられないなら、お前はどうする?」
321今は亡き者達へ3/4:2006/09/08(金) 00:42:35
曹彰の言葉を黙って聴いていた袁紹は、それだけを述べる。
「…あいつを捕まえて、理由を問いただす」
泣きはらした目を真っ赤にしながら、曹彰は答える。
「…そうか」
「…ああ、そういう訳で、袁紹殿。ここからは別行動をとらせてもらう。…迷惑をかけてすまなかったな」
そう言って曹彰が立ち上がったその時、袁紹が曹彰を引き止める。
「別行動?何の事だ?私も共に行くに決まっているじゃないか」
そしらぬ顔で、さらりと同行すると言った袁紹を曹彰が信じられないといった顔を向ける。
「いや、これは家族の問題だ。これ以上あんたに迷惑はかけられん」
「お前という戦力が勝手にどこか行く方が迷惑だ」
「なっ…!熊の奴に襲われるかもしれないぞ!?」
「もしかしたら単独行動中に呂布みたいな豪傑に襲われるかもしれん。それに比べれば数百倍マシだ」
「ぬっ…!しかしこれはあんたには関係ない問題だ」
「同行している人間に関係ないも糞もあるか」
「しかし…!」
「しかしも案山子もあるか」
「むむむ」
「何がむむむだ」
322今は亡き者達へ4/4:2006/09/08(金) 00:43:54
一歩も退かない袁紹に、苛々を募らせていた曹彰がついに爆発した。
「俺はもう仲間を死なせたくないんだよ!」
「それは私も同じだ!」
曹彰の怒声を袁紹が怒声で返し、場が一瞬、沈黙に支配される。
「この殺し合い、わが配下、そして息子達は既に脱落してしまった…」
悲痛な顔で袁紹は続ける。
「そして曹仁殿に曹洪殿、もう仲間が死ぬのは御免だ」
そうい言って、袁紹は曹彰を見る。
「だから、貴様が何と言おうと、私はお前と同行する」
そして、また沈黙が場を支配する。しばしの間、睨み合った後、曹彰が折れた。
「…わかったよ。来るな、と言ってもどうせ来るんだろ?」
「無論だ」
悪びれずにそう告げる袁紹を見て曹彰の顔に苦笑が浮かぶ。
「やれやれ、とんだおっさんに憑かれたもんだ」
そう言うと二人は笑いあった。その後、二人は、曹仁と曹洪の持っていた武器を担ぎ、簡易に作った、夏侯淵、曹仁、曹洪の墓前にいた。
「叔父上、行ってきます。どうか、俺達をお守りください」
曹彰がそう言った後、二人は黙祷をし、その場を後にした。
―子文を頼む―
どこからか、曹仁と曹洪の声が袁紹に聞こえた気がした。
(安心しろ。私の目が黒い内は我が仲間はやらせん)
配下と同じ場所に行ったであろう二人に心の中で誓い、袁紹も曹彰を追った。

曹熊が逃げた方向と見当違いの方向へ

<<荀イク孟徳捜索隊/2名>>
袁紹【妖刀村正】曹彰【双剣(やや刃こぼれ)、斧、ごむ風船】
※曹熊>曹操=荀イクの優先順位で捜索中。ただし曹熊が逃げた方向とは見当違いの方向に向かってます。現在地は豫州潁川
323老虎 1/4:2006/09/08(金) 17:08:50
鎖鎌―――鎌の柄尻に分銅鎖を取り付けた武器であるが、黄忠は目にするのは初めてだった。
六丈はあろう分銅鎖は、男の右手によって楕円丈に回され、今にも黄忠に飛びかからんとしている。事実、放り投げれば黄忠の立ち位置には届くだろう。
鎌の方はというと、男の左手にしっかりと握られたまま動かない。しかし、黄忠が近づけば牙を剥くのは明白だ。
この武器からは様々な攻撃方法があるだろう。間合いを取って分銅を投げ、外れて踏み込まれても鎌で対応することはできる。
近距離なら、鎖と鎌を相互対応するように振れば、隙を見せずに攻撃し続けることができる。
鎖で武器を叩き落としたり、四肢を絡めとることもできる。その場合は、無防備になった相手を鎌で攻撃するのだろう。
鎖の不利は鎌が補い、鎌の不利は鎖が補う。バランスのよく取れた武器だ。銃には劣るだろうが、これもまた魅力的なものだ。
今度は男の顔を見る。廖化という名前の男だ。
「なんでだ」
廖化の顔は、かすかに震えていた。理由は恐れか、怒りか、どっちかといえば後者だろう。目がたぎっていた。
「なんで馬忠が」
黄忠はちらと、脇を目線を向けた。
今にも分銅が投げられてきそうなので、長くよそ見はできない。それでも、胸から血を流して横たわっている男の姿を確認することができた。
廖化とは違って、黄忠は馬忠と面識はなかったが、噂は聞いたことがある。馬忠、旧名を孤篤、漢昌の県長で、威厳と恩徳を有していたということだ。
先程三人で交わして会話から、彼は黄忠の死後ずいぶん出世していたことがわかった。廖化の方は、なんと九十超まで前線で戦い続けていたという。
そのわりには、見た目は前世で黄忠が最後に見た時とさして変わっていない。自分は爺さんのままなのに、不公平だ、と黄忠は思った。
ともあれ、馬忠は黄忠に殺され、黄忠と廖化は対峙している。
324老虎 2/4:2006/09/08(金) 17:09:56
「なんで馬忠が」
廖化の顔は、怒りから悲しみの表情へと変化していた。たぎっていた目には涙が浮かんでおり、語尾に湿気が感じられた。
「そんなこと、わかりきっておるだろう」
最後の一人になるまで殺し合う。それがこのゲーム最大のルールだった。
「ワシとしちゃあ、銃だけ貰えればよかったんだけどねぇ。そういうわけにも、いかんじゃろ?」
黄忠の目的は、銃だけだった。できれば黄忠も同じ蜀将を殺したくない。
二時間前、定軍山の麓で、銃を持つ馬忠を見つけた時、黄忠が考えたのは殺さずしてどう銃を奪うかということだった。
二人はお互い仲良く、面白いとは言えないボケとツッコミを繰り返しながら歩いていた。大声で笑い、時折奇声を発したりする。羨ましいとさえ黄忠は思った。
黄忠は二人に近づき、挨拶をし、仲間になろうともちかけた。廖化は新しい相方が出来たと大喜びをし、馬忠に対して何かを求めるかのような目線を送った。
ここは一つ、新しい仲間に俺達の笑いを見せてやろうぜ、ということだったのかもしれない。
しかし、馬忠の口から出たものは、廖化が期待していたような笑いを取る言葉ではなく、何の変哲もない歓迎の挨拶だった。
その言葉には、若干、敵意が籠もっていた。
黄忠が視線を落とせば、馬忠の右手に、強く銃が握られているのが見えた。
こいつは一筋縄にはいかないな―――危害を加えずに銃だけを取るというのは、諦めた方がいいかもしれん。そう黄忠は思った。
二時間後の正午。黄忠は隠し持っていたナイフを、馬忠の胸へ突き刺した。心臓を狙ったのだが、馬忠が直前に気付き、微妙にずれてしまった。
直後の馬忠の行動は、刺された人間とは思えないほどに迅速だった。だから黄忠も、その行為を止めることはできなかった。
馬忠は持っていた拳銃を、残った力全てを使って遠方へ投げ飛ばしたのだ。
その時、用を足すと言ってその場を離れていた廖化が戻ってきた。
彼の目には、倒れゆく馬忠が見えていたはずだ。その口が、に・げ・ろ、と声もなく動くさまも。
325老虎 3/4:2006/09/08(金) 17:11:04
「いや、いかなかったというべきか。馬忠殿は、少なくとも君よりかはこのゲームを理解していたよ。彼はワシに対して、銃を取らせる隙を見せなかった」
二時間の間、黄忠は馬忠と廖化とともに行動したが、その間に馬忠は絶えず黄忠に警戒を送っていた。彼の直感が、黄忠を危険な存在だと認識していたのだろう。
黄忠は彼の警戒を解こうと、他愛のない冗談を言ったり、漫才に参加してみたりしたが、すべて無駄だった。
一方廖化は、かなり気が抜けていた。黄忠のことは、頼りがいのある仲間、あるいは面白い爺さん、とくらいにしか思っていなかったようだった。
「うるせぇ! ゲームが何だ! 馬忠が何をしたってんだ!」
清々しいほどに愚かだな。そう思うと同時に、黄忠はそのことを口に出していた。
その瞬間に、分銅が黄忠の頭部を目掛けて飛んできた。恐ろしいほどの速さだった。とっさに首を左へ反らすと、分銅はさらに後方へと飛んでいった。
「殺してやる!」
廖化の目には赤いものが走り、睨み殺すように黄忠を見、それでいて涙を流していた。
かすれた怒号が、再び響く。
「殺してやるぞ! 黄忠!」
だが黄忠には廖化の叫びに耳を傾けることよりも、自分の右腕を注視することに気を使わなければならなかった。
分銅が、腕の肩の肘までを、ぐるぐると回っていた。分銅が回るたびに、鎖は音を立てて腕に巻き付いていく。
鎖に強く締め付けられ、腕に痛みが走る。分銅が回転を終えた時には、腕には何重にも鎖が覆っていた。
「殺す!」
326老虎 4/4:2006/09/08(金) 17:12:17
廖化が目の前に踏み込んできた。黄忠のナイフは、鎖に縛られた右腕にある。普通に反撃しようと思えば、右手から左手へとナイフを持ち替えなければいけない。
だが廖化は、すぐに鎌の範囲内へと距離を詰めた。持ち替え、反撃の体勢を作る暇はない。黄忠は、右腕から鎌へと伸びる鎖を左手で掴んだ。
力の限り、思い切り引っ張る。
老いてなお二石の強弓を射ってのけた膂力。廖化と力比べをすれば、完全に勝っているだろう。しかも廖化は、引っ張られることなど念頭にも置かず前進している。
従って廖化は、前のめりに体勢を崩すことになった。しかし、鎌から手を放すことはしなかった。
鎖鎌がなければ、自分の力では決して敵わないことをわかっていたのだろう。ただし、放さなければ、死ぬことはわからなかったようだ。
鎖がゆるみ、右腕は束縛を解かれる。黄忠は右手のナイフを、引っ張られるがままに向かってくる廖化の首へと突き立てた。
「さよならじゃ」
ナイフを抜くと、廖化は黄忠の横へと仰向けに倒れていった。首からほとばしる鮮血を、黄忠の体へ浴びせかけながら。
こうして黄忠の周囲には、二つの死体が転がることとなった。黄忠は彼等の姿を目下に収めながら、寂しげに呟いた。
「これでもう、玄徳様の元へ戻ることはできんじゃろうな………」
血まみれの老人は、少しだけ空を見つめると、腕の鎖を解く作業を始めていった。

@黄忠【サバイバルナイフ、グロック17、鎖鎌】
※現在地は益州北部。目的地はまだ決めていません。

【馬忠 廖化 死亡確認】
327星 1/3:2006/09/12(火) 19:51:07
瞼にうっすらと感じる日の光に、曹丕は目を覚ました。
胸にある暖かな感触。
曹幹が自分にしがみつくように眠っている。
体が、頭が重い。
何も動かせないが、意識だけが妙にはっきりしている。
「…、…か…、…」
胸にある、暖かな感触。
戦いの中で、自分を正気に繋ぎ留めて来た唯一のもの。
大切な。
「…そ…」
口が、喉が上手く動かない。だが動かさなければならないのだ。
「曹幹…」
やっと、声が出せた。
それを聞いて、曹幹が弾かれたように飛び起きる。
「とうさま…!」
泣いているのか、笑っているのかわからない表情。
曹幹はほとんど半裸の状態だった。
恐らく、服は自分の傷をふさぐのに使ってしまったのだろう。
本人の体は、泥でぐしゃぐしゃだ。
幼い弟にここまでさせてしまった自分を情けないと思った。
…そして、その思いに報いることが出来ないことも。
「とうさま、だいじょうぶですか…だいじょうぶですか」
心配そうに曹丕を覗き込んでくる、あどけない瞳。
自分は笑顔でそれに応えられただろうか。
328星 2/3:2006/09/12(火) 19:52:00
医者と言っていた男はどうしたのだろう。昨夜の記憶は酷く曖昧だ。
水に煽られた冷たさ。
肩を貫かれた熱さ。
…あと覚えている物は、雨と、風と、銃声の音。
ここはどこなのだろう。曹幹の顔しか見えない。
傷は痛まない。ただ、酷く眠い。
だが、眠る前にしなければならないことは、よくわかっていた。
「…曹幹」
ゆっくりと、曹丕は声を出す。
「よく、聞きなさい。」
「とうさま」
「曹操を探しなさい。私達の父だ」
「…とうさま?とうさまは、もうひとりおられるのですか?」
「父を、探しなさい。必ず、お前を守って、くれる」
曹幹が何か言っているが、よく聞こえない。
胸にある、暖かな感触。
それだけが曹幹の存在を示している。
「私は…星になる。空からお前を守る」
「ほしに」
いつか話した。
星になりたいと、曹幹は笑って言った。
だが、駄目だ。お前は駄目なのだ。
「お前は生きなさい。お前の側にいてくれる人と共に」
「…とうさま?」
「お前は、生きなさい」
そうだ、この想いは
「生きなさい」
この子供を守りたいという想いは
「とうさま…とうさま?」

この身が滅びても、星のように美しく煌くことだろう。
329星 3/3:2006/09/12(火) 19:53:08
やがて曹丕は何も答えなくなった。
体は見るも無残であったが、その表情は眠るように安らかだった。
『遠い輝きよりも、こうして触れあえる距離の方が得難いものなのだよ』
いつか言われた言葉を思い出しながら、曹幹は空を仰いだ。
夜になれば、星が出る。

――とうさまは、そこにおられる。
とうさまのたましいは。

こぼれた涙をぬぐい、曹幹は立ち上がった。

『曹操を探しなさい』

とうさまの、最期の言葉を守るために。





@曹幹【吹毛剣】
※現在地は銅雀台。
水が引いてきたので、曹操を探しに移動を始めます。
(あてはないのでとりあえず北に向かいます)


【曹丕 死亡確認】
330無名武将@お腹せっぷく:2006/09/17(日) 23:41:04
age
331月光 1/4:2006/09/18(月) 01:08:38
もう駄目かも知れないと郭嘉は言った。
いつもの彼らしく、どこか斜に構えたような口調で、
まるで世間話でもするかのように気楽に言った。
「熱が、まるで下がらねえ。身体がふわふわ浮いてるような気がするんだ。
 これさ、俺、一度味わったことがある。死ぬよ、俺」

陳留に行こうと南下を続けるふたりだったが、
郭嘉の病状が思わしくなく進みはひどく遅かった。
亀の歩みの如くゆっくりとした速度で歩き続けてきたのだが、
とうとうそれもままならなくなり、小屋を見つけて休んでいるところだ。
何か食べるものをと外へ行こうとした陳羣を呼び止めるようにして、
赤い顔をして奥に伏せっていた郭嘉は振り絞るような声で言った。

俺を置いていけと。

「そ、そ、そ、そんなこと出来るわけないでしょう!」
「俺は足手まといだしもうすぐ死ぬぞ」
「死ぬわけないでしょう、そんな偉そうな口聞いてる貴方が」
「死ぬよ。わかるんだ。前と同じだから。身体があっちに行こうとしてる。
 まるで半身がいなくなったかのように、ふわふわする」
そう言う郭嘉の顔色が透き通ったように真っ白で、
陳羣は言葉も発することが出来ずにただ絶句した。
332月光 2/4:2006/09/18(月) 01:09:09
何故だ。何故天は二度も同じ運命を彼に与えるのだ。
主を覇権に導くべく様々な献策をした彼を連れ去った魔が、
今再びやってきているというのか。
彼が何をした。ただ生きているだけではないか。
理不尽な世界に突き落とされた現実にも抗わず、
己とふたりで必死に生き続けているだけではないか。


逃げない。決して、逃げるものか。
陳羣は決意した。決して負けるものか。
彼を連れてこの世界で生き抜くのだ。
彼を連れ行こうとする魔に勝つのだ。勝ってみせるのだ。
333月光 3/4:2006/09/18(月) 01:11:22
扉を開けた瞬間に人影を見た。
入り口付近に立ち尽くしていた男が、驚いたようにこちらを見やる。
劉禅は躊躇わずに右手に持っていたモーニングスターを振り下ろした。
ぐしゃと鈍い音と共に男が崩れ落ちる。
止めをさすべく数度ちまみれの頭に打ち付けると、弱々しい反応を見せていた身体は、やがて動きを止めた。

開いたままのうつろな目。
彼が誰かは知らぬし興味もない。
小屋の中を見やるが、片隅に汚らしい筵の山があるくらいでめぼしいものは何もない。
つまらぬと呟くと、劉禅は何事もなかったかのように外に出た。

「劉禅様、何かあられましたか?」
「何もなかったよ。残念ながら」
趙雲の言葉に劉禅は微かな笑みを見せる。
「ちぇっ! 食物でもあればよかったのになあ。ったく、腹が減って仕方ねえよ…」
張飛はそう愚痴ると腕を振り回す。
それならば持ち歩いている桃でも食べればよかろうと告げると、
兄者たちと喰うのだからそれだけは駄目だと頑なに拒否するのだから、
叔父も大概おつむが弱いと劉禅は呆れた。
この状況でつまらぬ情を優先してどうしようと言うのだろう。
だから彼は部下に寝首をかかれたのだ。非情にならねばならぬ時になれぬ男など利用価値は全く無い。
「しかし、冀州に来たもののこれからどうしましょうね」
「ここにいても仕方ない。更に南下するのが良いのではないか」
「では揚州にでも行ってみますか」
魯粛の言に従うと決めたわけではないが、とりあえずは更に南下することに決めた一行は
何事も無かったかのように再び歩き出した。
334月光 4/4:2006/09/18(月) 01:11:53
「陳羣、陳羣、どうした? 何があったんだ?」
熱に浮かされてウトウトしていたらしい。
気が付くと屋内は暗闇で小さな明かり取り用の窓からは月の光が差し込んでいる。
折り重ねられた筵に挟まれるようにして眠っていた郭嘉は、だるい身体を叱咤して起こした。
「陳羣、いるのか? それとも出て行ったのか」
割れるように痛む頭を押さえながら、這うように入り口へと向かう。
途端に、ひどい血の匂いが鼻をついた。
続いて、戦場に忘れられた無数の死骸から立ち上る胸をつくあの臭い。
「お、お前、お前、なんで」
手を差しのばした。ぬるりと、赤黒い液体が床を覆っている。
月明かりに浮かぶ、物言わぬ肉体。

「あ……あっ、あっ」

どうして。どうしてだ。どうして俺じゃない。どうして彼なんだ。どうして……

郭嘉は喉を掻きむしるように慟哭した。



【陳羣 死亡確認】

不品行と品行方正解散
@郭嘉[左脇腹負傷、失血、発熱]【閃光弾×1】
※冀州南部の小屋にいます。

<<皇帝と鬼武者とナースと外交才能零/4名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、光学迷彩スーツ(故障中)、救急箱、閃光弾×2】
張飛【鉈、桃三個】趙雲【ナース服、化粧品】魯粛【圧切長谷部】
※現在冀州。さらに南下予定。
335無名武将@お腹せっぷく:2006/09/18(月) 18:59:59
>>331-334 は書き手の判断によりスルーとなりました。
詳しくは議論スレをご覧ください。
336幻を求めて 1/4:2006/09/18(月) 22:01:38
目が覚めた。
やはり夢ではなかった。この狂った世界も、周瑜の死も、全て。
彼の遺品となったテルミンだけが変わらず、静かに佇んでいる。
張遼と交代で身体を休め、果実で空腹を誤魔化しながら
曹植は半ば無意識にテルミンに手を伸ばした。が、張遼に静かに止められた。
「曹植様、今は…」
「あ、うん…そう、だったね」
手を引っ込める曹植。その寂しげな仕草に張遼は罪悪感を抱かずにはいられない。
曹植を危険に晒すわけにはいかない。
放送で息子の死を知った張遼は深い悲しみの中、曹植を守るという誓いを新たにしていた。
だが風流を愛し生まれついての詩人である曹植にとって、
楽を奏でるなと彼に言うのは息をするなと言うのに等しいに違いない。
「…そうだ。ねえ、父上や丕兄たちと会えたら、一緒に弾いてもいいよね?」
張遼の葛藤に気付いたのだろう。曹植は少しわざとらしいくらいに明るい声で言った。
「…そうですな…」
確かに、味方と合流できた後でなら少しくらいは構わないだろう。
曹植はそれは嬉しそうに笑ってはしゃぐ。
「やった!ふふっ、きっと喜ぶだろうな父上も丕兄も!二人とも珍しいものが大好きだからさ。
 熊は怖がるかな。彰兄に貸したら壊しちゃいそうだなあ」
337幻を求めて 2/4:2006/09/18(月) 22:03:19
曹丕と曹植は不仲だとよく言われている。

曹操の跡継ぎ問題で、魏の臣は曹丕派と曹植派に大きく割れ、こじれた。
中央の文官たちと違い、前線を担う武官であり、またいわゆる外様の身であることも幸いして
張遼はどろどろとした派閥争いに巻き込まれずに済んだ。
自分のことを少々面映ゆいくらいに素晴らしい詩にしてくれた曹植。
その曹植を悲惨な境遇に追いやったのは間違いなく曹丕だ。
曹植派だった者たちは曹丕を非道だ、実の弟に対して冷酷すぎると詰った。
確かに、眉を顰めるような振る舞いもあるにはあった。
だが張遼は、どうしても曹丕を彼らが言うような非情な人間だとは思えない。

張遼が病床にあったとき、曹丕は張遼に細やかな心配りをしてくれた。
直接衣を賜ったことも有り難く畏れ多いことだったが、
何よりも嬉しかったのは言葉だ。
病の床にあって何より辛かったのは、病そのものよりも無力感や孤独感だった。
多分曹丕はそれを分かっていたのだろう。
そしてそれがどれほど気持ちを蝕むものかを知っていたのだろう。
見舞いに来た曹丕は(そう、もう皇帝の身であったのにわざわざ見舞って下さった、)
自分には、魏には張遼が必要なのだと言った。
338幻を求めて 3/4:2006/09/18(月) 22:05:47
その言葉がどれほど支えになったことか。
張遼のもとには毎日贅を尽くした食事が届けられた。
それは曹丕が毎日口にしている献立と同じものであったという。
その食卓は、曹丕が張遼のことを決して忘れていないという証のようでもあった。
曹丕は常に自分を必要としてくれている。張遼はそのことに深く感謝し、涙したものだ。
本当に非情な人間ならば、あのように繊細な心配りは出来ないだろうと張遼は思う。

ふと気がつけば、楽しげに話していた曹植の瞳から大粒の涙がこぼれていて、張遼は慌てた。
「いかがなさいました?!」
「…うん…」
涙を袖で拭いながら、曹植は言った。
「僕にとって、丕兄はやっぱり丕兄なんだね」
泣き笑いのまま、曹植は言葉を続ける。
「僕、あれからずっと丕兄を“陛下”って呼んでたはずなのにね。
 今なんだかずっと普通に、“丕兄”って呼んでるよ」

張遼の胸が軋んで痛む。
本当は、二人は仲睦まじい兄弟だったのかもしれない。
勝手な思惑で騒ぎ立て、兄弟を引き裂いたのが我ら魏の臣だとしたら?

「張遼、ギョウへ行こう。あの美しい都を見に行こうよ。
 そこで父上や丕兄と、また楽を奏で詩を吟じるんだ」
339幻を求めて 4/4:2006/09/18(月) 22:07:05
曹植の瞳は希望と涙の跡できらきら輝いている。
この世界は、もといた世界とは全く違う。
でもだからこそ、彼らもまたただの兄弟に戻れるのかもしれない。
それだけで、曹植にはこの世界がとても素晴らしいものに思えた。
そう、あの美しい景色をもう一度。
あの日曹丕がせめて百年の間でも、と詠い
自分は千年たってもなお続く、と返した黄金時代。
「…わかり申した。それでは参りましょう」
曹植の澄んだ瞳の中に、張遼もまた輝く都を見ていた。


彼らはまだ、知らないけれど。
輝く都など、血と水に呑み込まれてもうどこにもない。

そして曹丕の魂もまた。


<<フライングディスクシステム搭載/2名>>
曹植【PSP テルミン】張遼【歯翼月牙刀】
※麦城からギョウへ。
340三者三様1/6:2006/09/19(火) 00:19:23
「まったく、同盟を組んですぐこれとはな…」
豫州の森の一角に魏延は座り込み、小休止をとっていた。
「おまけに銃まで失っちまったが…あっちの被害も大きそうだ。追ってくる事は無いだろ。」
朝の放送であの場で対峙していた、曹仁と曹洪。そして夏侯淵の名が上げられていた。
「ま、参加者二人と危険人物が死に、かつ生還できたんだ。それにまだこいつがある」
そう言って、魏延は傍らのハルバードを持ち上げた。
「銃の一つくらい安いもんかな?」
誰かに語りかけるように呟きながら、魏延は一つの茂みを見やった。
「そこにいるのはわかってるぞ?もっとも、馬鹿みたいに殺気を出してるんだ。奇襲する気は無いんだろう?それとも唯の馬鹿か?」
その言葉を合図に、茂みから、狼牙棒を持った男、高順が現れた。
「ふむ、逃げずに、そちらから来てくれるとは。どうやら俺の見込みどおりのようだな」
高順の顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「前者みたいだな。その言い分、その顔から察するに、乗ったはいいが、今まで相手に恵まれなかったのか?」
「そういうわけじゃぁないが、闘いたい相手がいてな。その方と会う前に肩ならしをしておきたいのさ」
そう言いながら高順は狼牙棍を構える。
「同盟。とかは考えないか?」
目の前の男と本気で対峙すれば無事では済まない事を魏延の本能が訴える。
「何、永久的な同盟じゃない。俺はどうしても殺したい奴が4人いる。その内、特に殺したい奴が2人。最低でもその2人を殺すまで付き添ってくれればその後は全力で相手をしてやる。もしかしたら俺をよりも強い相手が見つかるかもしれん。どうだ?悪い話じゃないと思うぞ?」
341三者三様2/6:2006/09/19(火) 00:20:33
諸葛亮・楊儀・姜維・馬なんとかは殺す。それが魏延にとっての最終、そして最優先目標なのである。その為にも、こんなところで怪我を負うリスクは防がねばならない。それが、目の男と対峙した時に導き出された魏延の考えである。
「ふむ、つまりその二人を殺せばどうなってもいいという事か」
「そういう事だ。無論、俺が殺せず、放送で呼ばれた場合もその約束は有効だ」
「ふむ、悪い話ではないな…だが」
そういうと高順の殺気のこもった眼差しが、鋭く魏延を射抜く。
「残念だが呑めんな」
「チッ、そいつは残念だよ」
高順の眼差しに臆することなく、魏延は舌打ちをしながらハルバードを構えた。
「私が知っている猛者も既に亡くなっている者が何人もいる。そんな状況で、獲物をむざむざ見逃せる人間では無いのでな」
「ったく、これだから戦闘狂は…」
会話をしながらも、一歩、また一歩と二人は間合いを縮めていく。
「まあ、運が無かったと…諦めろ!」
その声と共に高順が飛び出し狼牙棍を振り下ろす。魏延はそれをハルバードの腹で受け止める。ギャリ、と耳障りな金属音が鳴る。
「まったくだ、ついてねぇよ!」
狼牙棍を払い、ハルバードの先端で突くものの、高順はそれを難なく躱す。
「ふん、破壊力が高かろうと、そのような大斧、当たらなければどうという事は無いぞ!」
反撃の隙を見せぬよう高順は狼牙棍で連撃を仕掛ける。対する魏延のハルバードは、その威力と多彩な攻撃方法を誇る反面、その重量から来る攻撃時の隙の大きさ故、おいそれと攻撃できず防戦に回っていた。
「どうした?防戦一方じゃないか」
「そう思うなら、少しは攻撃の手を緩めたらどうだ!」
「笑止!戦いにおいて俺が手を抜くはずがあるまい!」
「ああそうかよ!」
342三者三様3/6:2006/09/19(火) 00:21:11
憎まれ口を叩きながらも、魏延は焦っていた。息つく暇もない連撃。アドバンテージは已然として高順にある。今はしのぎ切れているがこちらの不利は明白。このままではいずれこちらがやられてしまう。
僅かにできた隙を突いて魏延がハルバードの先端で突く、だが高順はそれを飛び退りながら躱す。その時、先ほどまで高順がいた場所を銃弾が掠めた。
「「!!」」
二人は考えるより早く、体を近くにあった木の後ろへと隠した。第三者は一方的に攻撃を繰り出している高順を危険と判断したのか高順へと殺気が向かっているのに魏延は気づいた。
(やれやれ、どうやら悪運は強いみたいだな)
そうひとりごちながら魏延は茂みや木を利用しながら遠ざかろうとしていた。
「貴様!逃げるか!!」
この場から退散しようとした魏延を見つけ、追いかけようとして、木から姿を見せた高順は、今、自分が置かれている状況を思い出し、慌てて身を潜める。木の横を銃弾が掠める。そして先程まで魏延がいた所を見やると、既に魏延はいなくなっていた。
「クソ!」
やっと見つけた相手との戦いを妨害され、高順は怒りの表情を顕にする。
「どこの誰かは知らぬが、この代償、貴様の命で払ってもらうぞ!」
343三者三様4/6:2006/09/19(火) 00:22:09
(一人逃しちまったみてぇだな)
魏延と高順が戦っていた地点からそう遠くない高台で許チョはスナイパーライフルを構えていた。
(おいらが殺したのはまだ二人。もっともっと殺さねぇと曹操様が優勝できねぇ…)
曹操を命に代えてもでも守る。それだけが、ここでの許チョの存在理由であり。許チョにはそれだけで十分だった。
(悪来や荀攸殿、それに曹仁殿や曹洪殿だって逝っちまっただ)
だからこそ、優先的に殺し合いに乗った者を削除しなくてはならない。特に今自分が狙っているような実力者は。
(おめぇには恨みはねぇが、曹操様のためだ。おめぇには死んでもらうだ。それまではずっと動かねぇだよ)
許チョが持久戦を覚悟したその時、高順が飛び出してきた。
「!」
許チョが引き金を引く、しかし高順はすぐに近くの木に隠れ、銃弾は木に穴を開けるだけに終わる。
「そういう戦法でくるだか…」
銃撃をやり過ごした高順はすぐにまた近くにある木に向かい、低姿勢で走り抜ける。それを繰り返し、自分の邪魔をした相手に近づこうというのだ。
「上等だ、ここに来る前に撃ち殺してやるだ!」
そう言って許チョは銃を撃つ。だが使い慣れていないということもあり、高順には当たらない。そのまま許チョは弾を消費していき、そしてついに、全弾を撃ちつくしてしまった。
「しまっただ!弾が…!」
「どうした終わりか?」
許チョが顔を上げると高順がこちらに向かい歩いてきている。
「勝負の邪魔をした報い、受けて貰うぞ!」
高順が狼牙棍を振り上げ飛び掛る。狼牙棍が振り下ろされるその時、許チョの体は考えるより先に動いていた。
高順の腕を掴み、そのまま馬鹿力にまかせ、勢いよく振り回し放り投げた。
「な、おわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
投げ飛ばされた高順はそのまま坂を転がり落ちていった。
344三者三様5/6:2006/09/19(火) 00:22:46
「なんとか助かっただ…」
ふぅ、と汗をぬぐい、許チョは傍らの大斧を持ち、次の獲物を探すため、豫州を北上する
「ハァ…ハァ…大丈夫だぞ曹操様、おいらが絶対守るからな」
空を見上げ、許チョは同じ空の下にいるであろう主君に思いを馳せた。
「曹操様が死ぬまでおいら絶対死なねぇ。おいらは曹操様を守る為にここにいるんだからな」
決意を新たに、虎は歩き出す。守るべき主君の為。
「ふぅ、何とか逃げおおせたか」
楊州と豫州の境目付近で魏延は一息ついていた。
「諸葛亮、楊儀、姜維、えーと、馬…なんとか、お前等は生かしておかねぇ」
空を見上げ、魏延は同じ空の下にいるであろう仇に思いを馳せた。
「お前等が死ぬまで俺は絶対に死なねぇぞ。俺はお前等を殺す為にここにいるんだからな」
決意を新たに、復讐者は歩き出す。屠るべき怨敵の為。
「う・うん……」
先程の戦いから数刻たった坂の下で高順は目を覚ます。
「不覚をとったか。だがあのような使い手がいるとは。まったく退屈せんな」
空を見上げ、高順は同じ空の下にいるであろういずれ戦いたい男に思いを馳せた。
「呂布様と戦うまで俺は死ねん。俺は呂布様と戦う為にここにいるんだからな」
決意を新たに、戦闘狂は歩き出す。最強の武との死闘の為。
345三者三様6/6:2006/09/19(火) 00:23:18
@許チョ【大斧】
※豫州から冀州一帯を捜索。見者即殺です(曹操以外)
@魏延【ハルバード(少々溶解)】
※楊州と豫州の境目、どこに向かうか思案中
@高順【狼牙棒】
※呂布、及び銃を持った参加者を探しうろうろしています。現在豫州南部
346三者三様修正1:2006/09/19(火) 00:39:18
諸葛亮・楊儀・姜維・馬岱・馬なんとかは殺す。それが魏延にとっての最終、そして最優先目標なのである。その為にも、こんなところで怪我を負うリスクは防がねばならない。それが、目の男と対峙した時に導き出された魏延の考えである。
「ふむ、つまりその二人を殺せばどうなってもいいという事か」
「そういう事だ。無論、俺が殺せず、放送で呼ばれた場合もその約束は有効だ」
「ふむ、悪い話ではないな…だが」
そういうと高順の殺気のこもった眼差しが、鋭く魏延を射抜く。
「残念だが呑めんな」
「チッ、そいつは残念だよ」
高順の眼差しに臆することなく、魏延は舌打ちをしながらハルバードを構えた。
「私が知っている猛者も既に亡くなっている者が何人もいる。そんな状況で、獲物をむざむざ見逃せる人間では無いのでな」
「ったく、これだから戦闘狂は…」
会話をしながらも、一歩、また一歩と二人は間合いを縮めていく。
「まあ、運が無かったと…諦めろ!」
その声と共に高順が飛び出し狼牙棍を振り下ろす。魏延はそれをハルバードの腹で受け止める。ギャリ、と耳障りな金属音が鳴る。
「まったくだ、ついてねぇよ!」
狼牙棍を払い、ハルバードの先端で突くものの、高順はそれを難なく躱す。
「ふん、破壊力が高かろうと、そのような大斧、当たらなければどうという事は無いぞ!」
反撃の隙を見せぬよう高順は狼牙棍で連撃を仕掛ける。対する魏延のハルバードは、その威力と多彩な攻撃方法を誇る反面、その重量から来る攻撃時の隙の大きさ故、おいそれと攻撃できず防戦に回っていた。
「どうした?防戦一方じゃないか」
「そう思うなら、少しは攻撃の手を緩めたらどうだ!」
「笑止!戦いにおいて俺が手を抜くはずがあるまい!」
「ああそうかよ!」
347三者三様修正1:2006/09/19(火) 00:40:31
「なんとか助かっただ…」
ふぅ、と汗をぬぐい、許チョは傍らの大斧を持ち、次の獲物を探すため、豫州を北上する
「ハァ…ハァ…大丈夫だぞ曹操様、おいらが絶対守るからな」
空を見上げ、許チョは同じ空の下にいるであろう主君に思いを馳せた。
「曹操様が死ぬまでおいら絶対死なねぇ。おいらは曹操様を守る為にここにいるんだからな」
決意を新たに、虎は歩き出す。守るべき主君の為。

「ふぅ、何とか逃げおおせたか」
楊州と豫州の境目付近で魏延は一息ついていた。
「諸葛亮、楊儀、姜維、馬岱、えーと、馬…なんとか、お前等は生かしておかねぇ」
空を見上げ、魏延は同じ空の下にいるであろう仇に思いを馳せた。
「お前等が死ぬまで俺は絶対に死なねぇぞ。俺はお前等を殺す為にここにいるんだからな」
決意を新たに、復讐者は歩き出す。屠るべき怨敵の為。

「う・うん……」
先程の戦いから数刻たった坂の下で高順は目を覚ます。
「不覚をとったか。だがあのような使い手がいるとは。まったく退屈せんな」
空を見上げ、高順は同じ空の下にいるであろういずれ戦いたい男に思いを馳せた。
「呂布様と戦うまで俺は死ねん。俺は呂布様と戦う為にここにいるんだからな」
決意を新たに、戦闘狂は歩き出す。最強の武との死闘の為。

以上です。馬岱忘れるなよ自分…orz
348三者三様修正3:2006/09/19(火) 01:05:52
ま、参加者二人と危険人物が死に、かつ生還できたんだ。それにまだこいつがある」
そう言って、魏延は傍らのハルバードを持ち上げた。
「銃の一つくらい安いもんかな?」
誰かに語りかけるように呟きながら、魏延は一つの茂みを見やった。
「そこにいるのはわかってるぞ?もっとも、馬鹿みたいに殺気を出してるんだ。奇襲する気は無いんだろう?それとも唯の馬鹿か?」
その言葉を合図に、茂みから、狼牙棒を持った男、高順が現れた。
「ふむ、逃げずに、そちらから来てくれるとは。どうやら俺の見込みどおりのようだな」
高順の顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「前者みたいだな。その言い分、その顔から察するに、乗ったはいいが、今まで相手に恵まれなかったのか?」
「そういうわけじゃぁないが、闘いたい相手がいてな。その方と会う前に肩ならしをしておきたいのさ」
そう言いながら高順は狼牙棍を構える。
「同盟。とかは考えないか?」
目の前の男と本気で対峙すれば無事では済まない事を魏延の本能が訴える。
「何、永久的な同盟じゃない。俺はどうしても殺したい奴が5人いる。その内、特に殺したい奴が3人。最低でもその3人を殺すまで付き添ってくれればその後は全力で相手をしてやる。もしかしたら俺をよりも強い相手が見つかるかもしれん。どうだ?悪い話じゃないと思うぞ?」

もうひとつ忘れてたorz迷惑かけてすみません
349プッチ神父 ◆boczq1J3PY :2006/09/19(火) 14:28:38
俺に書いて欲しいキャラがあったら遠慮無く言ってくれよな
350喪失 1/3:2006/09/20(水) 15:13:46
妙才
子考
子廉
かつて夏侯惇が親しんできたその三人は、死んでいた。
「嘘だろ」
夏侯惇の呟きは、献帝のいかにも楽しげな声にかき消された。
死を楽しみ、生を嘲笑う声。
「爽やかな朝だ……? ふざけるな!!」
思わず空に向かって叫ぶ。献帝の忌々しき声は、どういうことが空から響いてくる。
天子の分際で、自分が天になったとでも思っているのか。
だが空は見えない。青い竹の葉が、空を遮っていた。夏侯惇は、気分が暗くなっていくのを感じた。
夏侯惇への返答は、当然ない。献帝の禁止エリアの説明が続くだけである。
やがてその声も止んだ。荊州襄陽の竹林は、またもとの静寂に包まれた。
「なんでだよ、おい……」
気分は暗く淀んでいても、悲しみはすぐには湧かなかった。
「死んだ」と、ただそれだけ言われても、実感が湧かない。元の世界で、夏侯淵の戦死を知った時もそうだった。
「妙才、子考、子廉……」
死んだ友の名を言ってみる。かつて、彼等に呼びかけた時のように。
すると、徐々に三人に関する記憶が浮かんできた。幼いときの頃から、曹操の重鎮として名を馳せていた頃まで、ぽつぽつと。
やがて堰を切ったかのように、記憶が走馬燈のように思考を駆け巡った。ありとあらゆる、懐かしき思い出が、頭中に広がっていく。
同時に、抑えきれない感情も湧き上がってくる。
「なんでだよ……なんで……」
目の奥が熱い。胸が苦しい。体から血が引いていく。目の前が薄暗くなる。
悲しい。
夏侯惇は普段、くよくよ悩み悲しむことはない。それでも、彼等の死はあまりにも悲しすぎた。
351喪失 2/3:2006/09/20(水) 15:23:18
「そんなにおかしいか?」
唐突に、背後から声が聞こえた。聞き覚えのない声だ。
「人が死ぬことが」
夏侯惇は振り向かない。
だんだんと近づいてくる人物がいたことは、放送の途中からわかっている。
声から推測して、もう数歩の所にいるのもわかっている。見知らぬ誰か、危険人物の可能性はあるだろう。
それでも、振り向かない。
ただ立ち尽くしている。
「あんたは誰が死んだ? 親か子か、主君か部下か、兄弟か親友か」
歴戦の武人の背中は、そうとは思えないほど気力を感じさせないものだった。精も気もなく、.立ち尽くすさまは、端から見れば幽霊のように見えるかもしれない。
しばらくの間ののち、夏侯惇は口を開いた。
「兄弟のような、親友のような、いや……もっと……」
男への返答というより、自分自身に聞かせるような声だった。
それきりまた、竹林に沈黙が訪れる。竹の葉の囁きもなく、時間が止まったかのようになる。
「なぁ、そうだろう? 俺達は」
上を見る。相変わらず、空は見えない。それでも先程とは違って、葉と葉の隙間から洩れる光が、ちりばめられた宝玉のように見えた。
「俺達はずっとそうだった。悪ガキだった頃から、死ぬまで、ずっとそうだったんだ」
夏侯惇は歩き出した。最初はおぼつかない足取りだったが、だんだんと、確かなものへとなっていく。
「だから……」
林を抜け出ると、強い光が全身を打った。
両目を細め、前を見る。
空は雲一つなく、地は輝きに溢れていた。
「孟徳、必ずお前は―――」
352喪失 3/3:2006/09/20(水) 15:27:26
諸葛亮は袋がタケノコで満杯になると、採集をやめ臥竜岡へ帰ることにした。
歩きながら、先程会った男について考える。
死を、悲しんでいた男だ。
もちろん諸葛亮も死は悲しい。徐庶の死は、彼の心に影をさした。
違うのは、割り切ってしまうかそうでないかだ。
死は悲しい。だが、仕方のないことだ、と諸葛亮は思っている。
人は日々死んでいく。元の世界でもこの世界でも。違うのは、戦争や飢餓、病により死ぬのか、意味のない殺し合いで死ぬのかだ。
―――どうも今の自分と、あの書の中の自分は相違があるようだな
史記・漢書に似た『魏書』『蜀書』『呉書』
歴史の大筋や自分に関係ある出来事以外は削られているようだが、おそらく、後世の歴史書だ。
その中の諸葛亮伝に書かれている自分の姿。
最初に読んだ時から思っていたが、やはり違う。
三回訪問されて劉備に付いていくこともそうだが、
皆に大いに慕われた、というほど自分はそんな徳のある人間とは思えないし、
晩年、執拗とまでいえるほど北伐を行っているが、これには首を傾げるばかりだ。
元来『割り切る』性格の自分がすることではない、と諸葛亮は思う。
同時に、人は変わる、という考えも浮かんでくる。
劉備という人間の器に触れて、自分は変わっていったのでないか?
「劉備ねぇ」
頭を掻きながら呟き、諸葛亮は臥竜岡へ帰っていった。


@夏侯惇【金属バット】
※現在地は襄陽臥竜岡近く。豫州へ向かいます。

@諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
※現在地は臥竜岡。基本的に自分から動く気はないようですが、協力を求められれば動くこともありそうです。
353蒼色 1/5:2006/09/23(土) 14:18:16
「瑜兄…」
2人目の兄も死んだ。
4日目の放送を聴きながら、陰鬱な気持ちで孫権は歩いていた。
行き先など決めていない。ただ、足が前へと踏み出すのを止めないだけ。
思い返せば思い返すほど、自分は愚かな君主であった気がしてくる。
父と兄が遺した地。
父と兄が遺した優秀な部下。
自分は、江東の虎の威を借りた狐であっただけ。
…そもそも、継ぐべくして継いだ地位ではなかったのだ。
生きなければと思っていた。
だが、今の自分に生きる価値が、意味があるのだろうか?
守るべき呉も既に無く、部下に会わせる顔もない。
もう、疲れた。
こんな自分を守って死んだ周泰が、哀れでならない。
…死んでしまおうか。
ふと、思う。そういえば、自分はいつも遺される側だった。
たまには遺していってもいいじゃないか。そうだろう?
そう思ったとき。
「とーーーのーーーーー!!」
物凄い大声で呼ばれた。…いや、殿って自分のことでいいんだよな?
だってなんだか、物凄く聞き覚えがある声だ。…そして、懐かしい。
「こっち、こっち!!」
呼ばれるほうを見ると小さな城の城壁に、人影が見えた。
あれは…皖城だろうか?
片目ではよく見えない。だが、あんな無防備に自分を呼ぶ人間に危険はないだろう。
呼ばれるまま進んでいくと、やっと誰だかわかってきた。
「甘寧!」
「お久しぶりです!!」
凄惨な遊戯の中とは思えないほど、爽やかな笑顔で迎えられた。
354蒼色 2/5:2006/09/23(土) 14:18:57

甘寧は果物や干し肉やら残っていた食料を並べ、孫権を出迎えた。
ただし、酒は出さない。
「殿、なんかやつれてますね。ちゃんと食ってます?」
干し肉をかじりながら甘寧が言う。
「お前はこんな時でも変わらないんだなあ」
「こんな時だからこそ、ですぜ」
苦笑する孫権に甘寧はにやりと返す。
「損得抜きで思う存分ケンカ出来るんすから」
「そうか…そういう考え方もあるか」
「俺にはそれしかないっていうのもあるんですけどね」
それにしても。
「良いツラになっちまいましたねえ…」
隻眼となった孫権を見て、甘寧は眉を歪める。
甘寧は孫権の蒼い瞳が好きだった。いや、呉の忠臣達は皆そうであっただろう。
この世にふたつだけの宝玉を持つ主を、皆誇りに思っていたのだ。
「て、殿。だからちゃんと食べてくださいってば」
物思いから返ってみれば孫権の皿は勧めた時から何も変わっていない。
「いや…私はいいんだ。これは残しておいて、お前が食べれば良い。
戦うのならば、食料は多い方が良いだろう?」
そういって力なく笑う。
355蒼色 3/5:2006/09/23(土) 14:20:32
「そりゃ、ありがたいですけど…そこまでして貰っちゃ申し訳ないです」
「いいんだ。…ただ、頼みがある」
「なんです?」
「私を殺してくれないか」
ぴくり、と甘寧の口の端が引きつる。
「…悪い冗談は止しましょうぜ」
「なんだ、冗談ではないぞ。死にたいんだ」
「そんな気軽に、物凄いこと言わないでくださいよ」
甘寧は酷く不機嫌そうに顔を歪めた。孫権は、静かに続ける。
「私は一人で生き延びるには非力すぎる。でも、自分で死ぬ勇気もない。
それに生きていてもなんの役にも立たない」
「何言ってんですか、生き残ってるやつらもきっと殿を心配して」
「いや…多分、それはない」
「なんで」
「お前は私より先に死んだから、知らないんだ」
ドクン。
その言葉に、心臓が大きく音を立てた。
「…何が、あったんですか」
「秘密だ」
そう言って、孫権は寂しげに笑った。
見たことも無いほど、悲しい目だった。
356蒼色 4/5:2006/09/23(土) 14:22:52
「…殺せませんよ」
憮然とした顔で、甘寧がいった。
「どうしてだ」
「どうしてもです」
孫権はため息をつく。
「…お前ほどの武将ならば、私を見限って斬ってくれると思ったんだが」
「俺ってそんな風に見られてたんすか」
「うん」
「ひでーなあ」
確かにこの遊戯が始まってから、知り合いが死んでもなんとも思わなかった。
寂しい、悲しいと思わなかったわけではない。
あーあ、ヘマやっちまって、バーカ。
そんな程度だった。そして孫権の名が呼ばれないことに安堵していた。
やっぱりだ、さすが殿だ。そんな思いが心のどこかにあった。

初めて自分を認めてくれた主君。
自分の出自の卑しさを罵ったことなど一度もない。
進言も、いつだって真剣に聞いてくれた。
酒癖の悪さも、自分みたいな人間には逆に親しみを感じる短所だった。
『魏に張遼あれば呉に甘寧あり』
自分をそう讃えて、呵呵と笑った。

やっと、仕えるべき人間に会えたと…この人の為に武を振るおうと、決めていた。
そうだ…その思いは、まだこの胸にある。
357蒼色 5/5:2006/09/23(土) 14:25:25
「大体、殿を殺したとあっちゃ、九泉で幼平に合わす顔がありません」
「ん…それもそうか」
孫権が、またため息をついた。
「死にたいと思ってもなかなか死ねないものなのだな」
父が死んだ時、兄が死んだ時、母が死んだ時。
何度も死にたいと思った。自分には荷が重い生だった。
そんな自分を支えてくれたのは、臣下達だった。
そして、今もまた。
「殿は、俺の武勲をふんぞり返って誉めてくれればそれで良いんです」
「それで良いのか」
「良いんです。それが、殿です」
甘寧が豪快に笑った。
その笑顔がやっぱり妙に懐かしくて、孫権の一つだけの瞳から、一粒だけ涙が零れた。

<<呉にある2人/2名>>
甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
孫権[右目負傷・失明]【防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】
※ユニット化。
※甘寧は戦いの相手を求めるついで程度に諸葛亮伝を読み解ける人物や手段を探しつつ孫権を守ります。
※孫権は甘寧の戦いには基本的に手を出しません(奇襲などがあれば戦います)
※皖城に滞在中。後でまた合肥に向かう予定。

「まあ、見ててくださいよ。これから呂布やら張遼やらと一戦やらかすんで。すげえ戦をお見せできますぜ」
「うん、それは楽しみだな。で、呂布や張遼はどこにいるんだ?」
「…探してるんすけどね」
「…いないのか」
「…いないんですよ…」
3581/2:2006/09/24(日) 14:24:11
予州東部、汝南城近くの高地。。
劉備玄徳は、Uターンをくらった挙句にこんな所まで南下させられていた。
「だって仕方ねえだろうがよぉ」
それに士元なら、幽州が禁止区域になってもどこか自分に縁のある地で待っていてくれるだろう。関・張の義兄弟達もしかり。
「……そういや子竜の奴は何やってんだかなあ」
今は天を仰ぎ、頼れる仲間を想うしかない、それくらい恐怖の体験を劉備はした。

冀州に入り、平原で合流を図ろうとした頃。
劉備は見てしまった。あの男が『我々』を狩りにきていることを。

呂布。

平原の城の城壁にて外を見ていた時、視力には自信のある眼がその姿を捉えた。
その陰に隠れた驢馬男の姿までは視認できなかったが、天下無敵のあの男が、闘気全開で足を向けていた。そう、城に。

コ、コッチヘムカッテイル。

劉備が仲間との合流を諦めてまで反対側の門から逃げ出すのに、理由は十分だった。
「だってあいつ、完璧に隠れてる人間でもちょっとした空気の流れだかで見つけちまうんだぜ? すにーきんぐみっしょんどころじゃねえよ」
せめて銃があればまだ良かったのだが、生憎手元にはまだ慣れていない仕掛け棍と調味料だけ。
義兄弟達の誰かと二対一でようやく五分の相手に、自分独りで敵うとも思えなかった。
3592/2:2006/09/24(日) 14:28:56
士元達なら、まあ遭遇戦以外なら策で何とかしてくれると思いたい。
義兄弟達なら、二人揃っていれば何とか五分以上で戦えるはずだ。

そう思わなければ、やっていられない。別働隊も機を読んで、激戦区の冀州を脱してくれると信じたかった。
「しかし、ほとんどたらればばっかりじゃねえか」
何だか悔しいので、李典棍の練習でもすることにした。

小一時間も武器と向き合えば、大体のことはわかる。
理解能力は高祖からの遺伝だ。
そして、自分ではこの武器を最大限に活用できないことも理解する。
武芸は平均よりは上だろうが、せいぜい最大を100としたら75がいっぱいいっぱいだ。得物の雌雄一対の剣さえあればまだマシだが。
「闘うなら使い方次第、か。やっぱ俺はあの銃ってのを欲しいよ」
あれなら、さほど武や技の差はでまい。
だが黄忠や甘寧みたいな達人だと、やはり上手く撃てるんだろうが。

「つー。しっかしよぉ」
見晴らしのいい高地に胡坐をかいて座り、劉備はごちる。
「なんて理不尽だい。ちっくしょー、見てろよ洛陽め」
再興しようとした漢が、なぜああなったのかは皆目検討もつかない。
だがこの男はこの男なりに、生以外のことにも闘志を燃やしているようだった。


「……そのためにも、まずは皆と合流しないとな」

@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
※予州汝南・中牟付近。場合によっては新野に向かいます。
※「親子の面影+α」との合流を最優先。勘は絶好調?
360窓 1/7:2006/09/28(木) 22:57:22


あなたが誰を憎もうと憎まんと、私には関係ありません。
あなたがその書を信用しようとしまいと、私には関係ありません。
あなたが首枷を外さんとしようとしまいと、私には関係ありません。

私があなたに差し上げられる言葉は唯、その鍵の名前だけです。
小さくて、黒くて、甘い。その鍵の。


ですから。




殺せ。

361窓 2/7:2006/09/28(木) 22:57:55
探求者は去った。
どの程度言葉を交わしていただろう。もう日輪が天高く昇っている。
荀ケは目元まで流れてきた赤い水を拭った。
ゆっくりと身体を下ろし、座り込む。
体中に、理解できぬ感情が迸った。

「・・・!」

既に絶命しているはずの禰衡の身体が跳ねた。


自律した将は、厄介だ。流石韓信に例えられるだけはあるという事か――どうやら危なかった。
禰衡の身体に深々と刺さった刺身包丁を抜き取り、また叩きつける。
死体から目玉が飛び落ちた。
昂っている。―――ああ。自分らしくも無く。
こんなに昂ったのは久しぶりだ。エン州で呂布の猛攻を防いだ時以来だろうか。
―――いや。
ほんの少し前にあったはずだ。
そう。ほんの、四日ほど前くらいに。
362窓 3/7:2006/09/28(木) 22:58:32
全身が浮遊しているような気がした。
暗闇が空間を包み込んでいる。窓から差し込む光が、何だか青白い。
身体は、水に浮かんでいるときのように弛緩し、指の先すら動かなかった。
起抜けの脳髄もぼんやりと。ただ、瞳だけが暗闇を遊泳していた。
(―――ここ、は・・・・・・。)
自宅ではなかった。かといって、魏の司空府でもなければ、宮廷でもないようだ。
少なくとも、荀ケの訪れたことの無い場所であるらしい。
隔てや柱の意匠が、とても珍しかった。
荀ケの瞳は、隔てや柱から天井へ、そして光の差し込む窓へと移動する。
が、青白い光を放つその窓は、窓のようであって窓ではないようだった。
ちかちかと点滅する四角は、外の景色を写しては居ない。
その代わりに、荀ケの見たことの無い文字だか記号だかが窓の下から上に、
絶え間なく流れていっていた。
目まぐるしく流れていく文字の激流。理解は出来ないが、何故か好奇心を煽られ、
そのまましばらくの間、画数の極端に少ないそれの羅列と戯れた。
(・・・―――!)
突然、耳障りな音が辺りに響いた。
窓に大きく―― 一つの単語だろうか ――五つの文字が表示された。
それは点滅を繰り返し、その意味は理解できずとも、
何か予期せぬ事態が起こったのだろうことは理解できた。
部屋の外から、慌しい足音と怒声が聞こえる。
扉が不可思議な音を立てて開いた。
外から、高価な仕立てを着た文官らしき男達が雪崩込んで来る。
彼らは、荀ケらには眼もくれず、赤い文字の表示されている一番大きな窓際で
何らかの作業を始めたようだった。
いらついた声が各所から聞こえる。何が起こっているのか、まったく理解できなかった。
363窓 4/7:2006/09/28(木) 22:59:03
いらついた声の波が、その一瞬静寂に包まれた。
何があったのだろう。各所から発される視線を辿る。
その先の扉が、ゆっくりと開いた。
(――――――!!!!!)
光が大きく内部へと差し込み、眩さの中に人影を作る。
人影はやがて光を殺し、その人自体が光を放った。その人そのものが!
そう、その人は光り輝いていたのだ。その血が、輝きを創るのかもしれない。
荀ケの脳髄が、全身が、驚愕と興奮に包まれた。
ああ、あの方は、あの方は!!
動かぬ手足が臣下の礼をとろうともがく。
その人は、ゆったりとした足取りで大窓の方へと近づくと、畏まる文官らに
何やら指示を与えた。
そのそれだけの行動のどれほど高貴なことか!眼が、喉が興奮に乾いた。
(皇帝陛下!)
荀ケの心が大声で叫ぶ。
それはもう、声が出たならば脳の血管が切れるかの如く大きな声で。
何で陛下が此処に居るのか。何故自分が、周りに眠る将たちが此処に居るのか。
此処はいったい何処なのか、あの窓は、文字もしくは記号は何なのか。
―――何故自分は生きているのか!
全ての疑問が今は意味を持たず、ただ礼をとりたい、一瞥を頂きたいという願望が
荀ケの全てを支配した。
364窓 5/7:2006/09/28(木) 23:00:11
―――願いは、叶った。
皇帝――劉協の目線が、地に伏せる荀ケのものと重なる。
その一瞬が、とても緩慢に、ゆっくりに思えた。
劉協の優しげな瞳が、荀ケの見開いた瞳を凝視する。
昂揚で全身の血液が沸騰するかのように感じた。
(陛下、陛下)
すぐさま足下に馳せ参じ、伏せ、非礼を侘びたいと思った。
何故、身体が動かぬのか!ああ煩わしい。
しかしかの人はその非礼を問おうともせず、逆に柔和な御顔を微笑ませ。


―――期待している。


荀令君。
唇の動きだけで紡がれた言葉は、荀ケの脳を白く爆発させるには、十分すぎた。
365窓 6/7:2006/09/28(木) 23:00:53
室内は再び暗闇に包まれた。
先程よりもより暗い。大窓一つ残して、小さな窓たちはその光を消した。
荀ケは立ち尽くしていた。
先程まで指一本動かなかったのが嘘であるかのように、身体が軽かった。
脳髄もやたらとすっきりしており、今ならどのような難題を持ちかけられても、
即座に解決できそうだ。
大窓から眼を外した。暗闇の中、地に伏せる将たちを見渡す。
何人か―― 本当に少数だが ――目覚めているような気配がした。
その眼には動揺、もしくは混乱――荀ケは人と人の合間を縫い、彼らの元へと向かう。
(郭嘉。その智謀と、貪欲に過ぎる好奇心。)
(于禁殿。その武勇、忠節。底無き絶望。)
(張繍殿。その野望。愚直さ。)
(徐庶殿。その後悔・・・・・・。・・・・・・。・・・、・・・・・・。
一人一人、慈しむかのように説いた。
あるいはその貪欲な好奇心を刺激してやり、あるいはその絶望を宥め賺し
造り替えてやり、あるいは燻る野心を優しく撫で上げてやり、あるいは・・・・・・。
荀ケの脳には、荀ケの知らないはずの事まで浮かび上がっていた。
禁止エリア?この遊戯?何のことか、理解できない。
だが、唇は皇帝陛下への上奏を述べるが如く滑らかに動き、途切れることを知らない。
そして、曹操様。言葉は其処へ行き着いた。
曹操様。そう、あの方への復讐。なんと甘美な言葉だろうか。
安っぽいほど劇的な目的だ。皇帝陛下は、きっと喜んでくれるだろう。きっと。
嗚呼、陛下。嗚呼、嗚呼。あああ!
――陛下!!



眼を開くと、とうとう肉片になった禰衡が辺りに散らばっていた。
包丁は欠け、血糊は取れそうに無く、荀ケはうっそりと優美な溜息を吐いた。
366窓 7/7:2006/09/28(木) 23:01:28
走る。走る。木々の間を抜け、血溜りを踏み越え、走る。
芙蓉の微笑みは、今は既に狂気の所有であった。
所作に変化は無いものの、見ていただけで方寸がざわつき、自らさえ
おぞましい悦楽に身を投じようとしてしまうが如く。
息が上がる。
森の奥深に、小さな洞穴を見つけ、隠れた。
今は心を抑えろ。さもなくば隙が出来る。危ない。
すう、はあ。すう。息を整える。
穴の最奥にたどり着くと、足が崩れた。
「―――――!!」
出そうになる悲鳴を、唇を血が出るほどかみ締めてようやく堪えた。
怖かった。恐ろしかった!
かつては癒されすらした微笑がこれほど恐怖を煽るとは。
心臓がドクドクと鼓動を速め、暫しの間腰がたたなかった。
(公達殿、すまん!)
自分には、かの人を正すことも殺すことも出来そうに無い。
せいぜい、荀ケの明かした『小さく、黒く、甘い』の正体らしき言葉を
記憶することしか出来なかった。
震える手で、書を取り出す。その最後の頁に、その言葉を書いた。
当て字で。
『ちろるちょこ』
と。

この先自分の理性が欲に勝てるのかを考えると、予期せず恐怖に身が震えた。

367窓 結果:2006/09/28(木) 23:02:29
@荀イク[洗脳されている?、額に切り傷] 『現在地 豫州』
【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)、刺身包丁】
※劉備、曹操、孫権を中心に、無差別に殺戮を望んでいます。
※また、ゲームに乗らない者を狙います。
 積極的にゲームに参加している者は殺しません。
 殺意はありますが冷静です。
※取りあえずは呉に向かうようです。


@張コウ[顔面負傷、全身軽傷]【斬鉄剣(腰伸び)、デリンジャー、首輪解体新書?、DEATH NOTE】
『現在地 司隷・東』
※きっかけがあればマーダー化も?
※DEATH NOTEに参加者の名前を綴った場合、
その人物を殺さなければならないという激しい強迫観念に囚われ、
身体能力は大幅に増加します。
※DEATH NOTEの持ち主でなくなったあとも影響は継続します。
※一度誰かが書いたあとに、他の誰かが拾っても影響はありません。
※ただ新たに名前を書き込むか、もう一つのノートに名前を書き込まれれば、持ち主に同上の影響が出ます。
368水 1/5:2006/09/30(土) 10:17:18
于禁は城壁を降りた。
まだ引き切っていない水は、于禁の腰まである。場所によっては、人一人くらいすっぽり収める水深にもなるだろう。
水は冷たかった。
水の中で、足を進める。歴戦の将の、屈強な足をどんなに速く動かそうとしても、普通に歩くほどの速さも出ない。
泳いだ方が、速いのだろう。別に泳ぐのは苦手ではない。ただ、逃れがたい思い出がある。
あの時ほど、水を恐れたことはなかった。
降り注ぐ雨の音が、あの時ほど憎く感じたことはなかった。
急流にさらわれていく兵の顔は、今も脳裏にこびり付いている。
「そう、ひ………」
奴は銅雀台にいるだろうか。
俺を絶望に陥れた、あの男は。
必ず見つけ出さなくてはいけない。見つけて、この手で殺さなければ、俺は………
やがて、銅雀台が目の前に迫った。
高く高く、鄴にある何よりも高く作られたその台。
台の左右に閣道が伸び、曹操が銅雀台と共に建てた金鳳台と冰井台と連結している。三台がそびえ立つ様は、力強くも美しく、曹家の繁栄をよく示していた。
水を振り切り、階段を何段か上る。体が水から解放されると、清々しい気分になった。
銅雀台が完成し、その式に呼ばれた時のことを思い出す。
張遼、楽進、張郃、徐晃と共にこの階段を登り、台頂に着いて振り返った時。
あの景色の、なんと素晴らしかったことか。
その栄華を、誇りに持ち、五人は改めて曹操に忠誠を誓ったのだ。
もう一度、あの場所に。
369水 2/5:2006/09/30(土) 10:19:02
「あれ?」
露に濡れて光り輝く銅雀と、その銅雀を取り付けた豪壮な舎と、それを背景に横たわる男。
それはどこか、神秘的な光景だった。
「うそだ………」
あまりのことに目眩を覚えながら、于禁は男へ近づく。もはや水に縛られることのない足。なのに、水中を進んでいたときよりも、はるかに遅い足取り。
その事を、予想をしなかったわけではない。むしろ可能性は高いと思っていた。それでも、それは、認めがたい事実だ。
恐怖。
于禁は目の前の事実に、ひたすら恐怖する。
もはや怒りと恨みはどこにもない。
ゆっくり、本当にゆっくりと、于禁は進む。進み、男に近づくたびに、最も恐れていた予想が、確固たる事実へと変わってくる。
まったく上下しない胸。表情を固めたまま、微動だにしない青ざめた顔。やけに渇いた、紫がかった唇。赤い布が巻かれた右肩の下には、血溜まりができていた。
「うわ………あ………あ………」
目眩が顕著になる。足取りがおぼつかない。手の平が汗で濡れてくる。心臓の鼓動が激しくなっていく。
違う。絶対に違う。
死んでいるはずがない。死んでいたとしても、他人のそら似だ。
あの男が死んでいいわけがないのだ。
まるで初めて歩く幼児のように、于禁は進んだ。
こんなのじゃない、俺が銅雀台に望んでいた光景は。違う。逃げたい。こんな所からは逃げ出したい。
多大な恐怖を抱えながら、それでも、確かめずに去ることはできない、という思いが于禁を強く拘束していた。
ただその思いは、男の表情に気付いた途端、崩壊した。
記憶にある、悪意に満ちた捻れた顔と、目の前の安らかな顔が、重なり合う。
違う―――こんなの奴じゃない―――こんな、こんな慈愛に満ちた顔を、奴は、絶対に―――
その時、于禁の心の中で、急速に脹らみつつあった何かが、音を立てて弾けた。
于禁は銃を抜き出し、男の顔を目掛け、即座に撃ち込んだ。
撃ったと同時に踵を返し、確かな歩調で銅雀台を降りていく。
途中、何かに気付いたかのように、はたと足を止めた。そして目の前に広がる光景を見渡した。
それは光に溢れた世界。
家も、木も、洪水で廃墟と化したものも、浮かぶ流木も瓦礫も、地表を隠す水面も、すべてものが光り輝やき、幻想的な美しさを創り出していた。
ああ。
水がこれほど美しいものだとは、知らなかった。
370水 3/5:2006/09/30(土) 10:20:32
曹丕に対する憎しみは、もはや消え去っていた。
水はもう恐れるものではなく、雨の音はすでに憎むものではなかった。
371水 4/5:2006/09/30(土) 10:22:26
俺はどうしたらいい?
曹丕は死んだ。恨みは消えた。この世界も、元の世界も、曹公も、もうどうでもいいんだ。
誰か教えてくれよ。俺はどうしたらいい?
―――殺しなさい。
殺す? 何で?
―――理由なんて、今のあなたにいるのですか?
―――典韋殿を殺したように、皆を殺せばいいのですよ。
あー、確かにいらないかもな。死んでも別にいいし。で、誰から殺せばいい?
―――誰からでも、どうぞご自由に。
―――ただし、曹操様を見つけたら、優先的に殺してくださいね。
曹公? 何で?
ああ、理由なんていらないんだったな。
いいさいいさ。引き受けてやるよ。みんな殺せばいいんだろう? 簡単だ、きっと。
―――はい。あなたならできますよ、于禁殿。
372水 5/5:2006/09/30(土) 10:23:19
気が付けば、時刻はとうに昼を過ぎていた。
数時間、銅雀台の階段で立ち止まっていたことになる。
目の前には、数時間前からずっと見ていた光景。水は大分引いており、濡れた家や木などもほとんど乾いていたから、当初の美しさは消えていた。
こうしてみると、洪水の被害は大きかったようだ。壮観な町並みは戦火にあったかのようになり、城壁は一部崩れてしまっている。
至る所に瓦礫や倒れた木々が散乱しており、いつか見た栄華は見る影もない。
だというのに、于禁には何の感傷もなかった。また大雨が降らないかな、とは思ったが。
なんだか、気分がぼんやりとしている。だけど、悪い気分じゃない。夢心地というのだろうか。
それにしても、俺は数時間、ここに突っ立って何を思ってたんだ?
ああ、思い出せない。心に靄がかかっているみたいだ。
まあいいか。とりあえず降りよう。
それから、みんな殺すんだ。


@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳]『現在地 冀州・魏郡・ギョウ城壁上見張り小屋内部』
【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×25)】
※現在地は鄴の銅雀台。みんな殺します。曹操優先。行き先は気が向くまま。
373訂正 残弾減ってなかった:2006/09/30(土) 12:12:14
@于禁[左耳破損、右手小指喪失、全身軽傷、洗脳]『現在地 冀州・魏郡・ギョウ城壁上見張り小屋内部』
【山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3、ガン鬼の銃(陰陽弾×24)】
※現在地は鄴の銅雀台。みんな殺します。曹操優先。行き先は気が向くまま。
374それぞれの邂逅 1/5:2006/10/04(水) 01:31:00
「………」
日が暮れてきた頃、腹が減ったと張飛が騒ぎ始めた。
仕方なく劉禅達一行は、食料を探すために一次解散した。
「…………」
劉禅は火を起こすための木を集め、
「…………」
魯粛は熟れた枇杷を抱えて戻り、
「……子龍」
「……はい」
趙雲が抱えて来た物は…
「お前は獣を狩って来るといったな?」
「………はい」
「…その腕にあるのが獲物か?」
「え、えーと」
「…そんなのどこで拾ってきたんですか…」
「いや、その」
趙雲が抱えて来た物は、子供だった。
375それぞれの邂逅 2/5:2006/10/04(水) 01:33:19
「だって、だってほっとけないじゃないですか!」
趙雲は、壊れ物を扱うようそっと子供を抱えていた。
「こんな擦り傷だらけで、服もボロボロでどろどろで…。
いたいけなこの子が今までどんな過酷な目にあったのかと思うと…!」
感極まったか、糸のような目の端に涙が浮かぶ。
「ああ、もう良いもう良い。わかったわかった」
劉禅はうんざりした顔で、子供に壊れた光学迷彩スーツをかけてやる。
長坂で自分を救ったのは、父への忠誠心からだとばかり思っていたが、単なる子供好きであったのか…。
心で嘆息する。折角忠実な部下だと思っていたのに。
「しかし、大人しい子供ですな」
魯粛が抱かれたままの子供の頭を撫でる。
手を近づけた時に一瞬怯えた目を見せたが、声をあげることは無かった。
「ああ、それなんですが…どうもこの子、声が出せないようで」
「唖か?」
「この歳でそうだと、耳が聞えないのかもしれませんね」
魯粛が子供に歳を尋ねると、子供はおずおずと右手の指を4つ立てた。
「ふむ、耳は大丈夫か…。もしかして、一時的に声が出せなくなってしまったのでは」
「一時的に?」
「精神的に耐え切れないほど辛いことや悲しいことがあると、こういった異常が起こることがあります」
「ああ…そういえば…」
戦場から戻った兵士達の中に、時折こういった症状が見られた。
酷い者になると、そのまま精神を病んでしまう。
生き延びて戻った部下を喜ぶ反面、それほど耐え切れぬ思いをしたのかと哀れに思ったものだ。
大の大人ですらそのようなことがあるのだから、この危険な遊戯の中で子供が受けた仕打ちを想像すれば、なんら不思議は無い。
376それぞれの邂逅 3/5:2006/10/04(水) 01:34:31
誰に襲われたのか、誰を殺されたのか。
子供がひとり残ってしまうという状況を思うと、胸が詰まる。
「それに、唖であった武将も文官も、聞いたことがありません」
「なるほど」
魯粛が渡した枇杷を子供が齧る様子は、微笑ましくも痛ましかった。
「おや子龍、その刀はどうしたのだ?」
劉禅が声をかける。趙雲は狩りの為に魯粛から圧切長谷部を借りていた。
だが今は腰にもう1本、見知らぬ剣を差している。
「ああ、この子が持っていたんですよ」
「ほう、武器が増えるのは良いことですね」
魯粛が再び子供の頭を撫でる。
「この子にお礼を言わなければ…でも、名前もわからないんですよね」
残念そうに趙雲が言うと、子供は趙雲の腕に指を這わせ始めた。
「ん…?なんだい?」
「おや、これは」
何度も指を動かす様子を見て、何かに気付いた魯粛が驚く。
「…これは…幹、かな?君の名前かい?」
子供は、ぎこちなく微笑んで頷いた。
「この歳で字を書けるとは…よほど育ちの良い子供では…」
「うわあ…どこの子だろう…」
趙雲はそう言うと、一層大事そうに子供を抱えなおした。
377それぞれの邂逅 4/5:2006/10/04(水) 01:38:16
子供に構う2人を見ながら、劉禅は苛立ちを覚えていた。
全く、唖の子供など放っておけばよいのに。ただのお荷物ではないか!
そもそも戦力のはずの趙雲があの子供に構うようでは、何かあったときに安心できない。
なんとか"片付けて"しまわないと。どうせ声が出ないんだ、難しいことではない。
ああ、なんて面倒が増えてしまったんだ。
今度はあからさまに嘆息する。
曹幹は何かを感じたのか、そんな劉禅の様子をじっと見ていた。
「…ところで張飛殿はどこまで行かれたのでしょう」
「そういえば、遅いですね…」


「…なんでお前がそれを持ってんだ」
「さて、どうしてだろうな」
張飛は見つけた猪を追って、集合場所からかなり離れた場所まで来てしまっていた。
しかし、猪を追う途中で感じた恐ろしい殺気。
咄嗟に振り向くと、そこに居たのは呂布。そしてその手にあったのは…青龍偃月刀。
「まさか、お前…雲長兄ぃを…?」
「ふん、だったらどうする?」
青龍偃月刀が夕日に煌く。
「てめえ、許さねえ…!」
張飛が鉈を構える。
「驢馬、手を出すなよ。やっと見つけた獲物だ」
「…はい」
諸葛瑾は悲痛な表情で2人を見つめていた。
378それぞれの邂逅 5/5:2006/10/04(水) 01:38:57
<<皇帝とナース+子供と外交才能零/4名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、救急箱、閃光弾×2】
趙雲【ナース服、化粧品 吹毛剣 曹幹+光学迷彩スーツ(故障中】
魯粛【圧切長谷部】

@張飛【鉈、桃三個】

<<カミキリムシとオナモミ/2名>>
呂布【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】
諸葛瑾【なし】

※現在冀州南部。
379378修正:2006/10/05(木) 20:54:17
<<皇帝とナース+子供と外交才能零/4名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、救急箱、閃光弾×2】
趙雲【ナース服、化粧品 吹毛剣】
魯粛【圧切長谷部】
曹幹【光学迷彩スーツ(故障中)】

※378では曹幹がアイテムのように見えますが、そういった意図はありませんので修正いたします。
お騒がせ致しました。
380無名武将@お腹せっぷく
【新スレのお知らせ】

新しいスレッドが立ちました。
以降の投稿はこちらへどうぞ!

第七回三国志バトルロワイヤル 3
http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1160286832/