第七回! 三国志バトルロワイヤル

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4061/3:2006/07/28(金) 00:13:32
三人対一人の戦いは終結を迎えようとしていた。
孫堅は右腰と左腕が血まみれになっていたし、華雄は服がズタズタになり、全身切り傷だらけで朱に染まった姿になっていた。
黄忠は辛うじて致命傷を避けてはいたが、疲労は極地に達していた。もう一撃受ければ両断されかねない。
そして項羽は、つい先ほど華雄の決死の攻撃に左肘から先を切り落とされていた。
「……見事だ。借り物の身体とはいえこの項羽をここまで痛めつけるとは」
言って、片手で剣を構え、踏み出す。
「最期は一騎打ちにて決したい。渾身の一撃同士での決着を望む」
「よし……いいだろう、俺が受ける」
出ようとした華雄を止めて、孫堅が七星の剣を構える。

五歩の間を取り、対峙する。
「名を聞こう」
「孫堅文台、孫武の子孫なり」
「なるほど。我が相手に相応しい。身体の方も喜んでいるようだ。この項羽、全身全霊の一撃を放つことを約束しよう!」
気迫と気迫がぶつかり合う。遠くにいた野鳥の群れさえ、恐れをなして逃げて行った。

じりじりと接近する二人。おそらく対決は一瞬で終わるだろう。
華雄と黄忠は構えを崩さない。もし孫堅が斃れれば、次は自分達が戦うのだ。
孫堅と項羽、両雄わずかに笑みを浮かべた後──


魂をかけた渾身の剣閃が二つ、煌いた。
4072/3:2006/07/28(金) 00:15:19
「が……ふっ」
「ぐおっ……見事だ」
孫堅の七星剣は、流星となって確かに相手の身体に降り注いでいた。肩口から腹までばっさりと切り裂いている。
だが項羽の剣も、深々と孫堅の腹を貫き、臓腑を完膚なきまでに破壊していた。
両者がゆっくりと崩れ落ち……ない。項羽はそのまま剣を横に薙ぐと、臓腑を撒き散らしながら黄忠へと突撃する。
黄忠は巧みに斬撃を受け流していたが、身体ごとの突進にそのまま十数歩押され、切り立った崖のような場所から共に堕ちていった。

「文台!!!」
慌てて華雄が孫堅の下に駆け寄る。
「……よぉ。済まんな、例の約束は果たせそうに無い。無敵の将相手に……不覚にも、戦いを、楽しんじまった」
「大丈夫だ、奴は黄忠が討ち取った! すぐに手当てすれば……」
華雄が必死に呼びかけるも、既に孫堅の命はほとんど流れ出してしまっていた。
「へっ、本当に嘘の下手な馬鹿野郎だ……。それに、俺の……傷は腸を切り裂いて……腎まで、届いてる。助からん」
「しっかりしろ、文台!」
孫堅はまた、この男らしい涼やかな笑みを浮かべる。
「……なあ。また会ったらよ」
「文台……?」
「後の事なんか……考えないで……素直に……殺り合うのも……良……」

常に共にあった七星の剣が、連れ添うように砕けた。見れば、相手の剣も尖端が砕けて破片が転がっていた。
「馬鹿野郎……また裏切りやがって……」
だが何故だろう。これが別れにも思えない。
華雄は男泣きをし、自分の無力さに打ち震えた。
せめてもの救いは、孫堅が実に楽しそうに逝ったことだろう。
4083/3:2006/07/28(金) 00:16:58
空中で剣を交える二人。
「おおおお!!!!」
「ちいっ!」
あるいは閻行に戻ったのか、先程の項羽とは剣閃が違う。
「じゃが……強いとはいえ、所詮手負いの剣よ!!」
身体を潜らせて横薙ぎを回避すると、身体を引き寄せて左胸に刃を当てる。
そのまま馬乗りになって地面に激突した。

「……あたた。腰が痛いわい」
崖の上を見て、黄忠は呟く。相手の剣はとうに折れていた。
「そろそろ、いいかの」
義理は果たした。
これを契機に黄忠は独りの道を選ぼう。そう決めて老将は荊州に向けて歩いて行った。



ちなみに、黄忠達から離れた場所で。
「すげえあの爺さん……落ちながら戦ってる……!」
いまだうろうろしている陳到の姿もあったりした。

【孫堅 項羽(閻行) 死亡確認】

@華雄[全身切り傷]【吹毛剣】
※孫堅を手厚く埋葬中。

@黄忠[軽傷、疲労]【サバイバルナイフ】
※単独行動を選択。荊州へ。

@陳到【ガン鬼の銃(陰陽弾×50)】
※黄忠の近くにいます。
4091/8:2006/07/28(金) 00:19:42
「へへへ、いい獲物を見つけたぜ・・・」
偵察に赴き、茂みに隠れていた裴元紹は、その任務に明らかに似合わない言葉を呟いた。
彼から少し離れた小川のほとりには、1人の男が水汲みをしている。
優男に見えるが、そんなことはどうでもいい。
裴元紹の気を惹いたのはその男が帯刀している物だ。
(ありゃあ、見たこともない剣だ。叩き売ってもいくらになるか・・・見当もつかねえぜ!?)
山賊上がりのせいか、金を基準に考えるのが彼のクセである。
が、それよりも裴元紹が思考のメインに置いたのは
彼ともう1人の『姐さん』の行動に関してのことだ。
今の自分達には武器がない。
素手ならともかく、強力な武器を持った奴が目の前に現れたら
姐さんを守る事どころか、逃げるのすら困難だ。
だが、あの優男がぶら下げている腰の剣を手に入れたら・・・?
『強大な敵が現れた!』→『姐さんが危険だ!』→『だが凛々しい俺様が起死回生の斬撃!』
→『敵は醜く苦しんでおります!』→『姐さん「見直したぞ!」』
→『ゴール!ゴール!ゴオオオオォォォォォォールッ!』
(うおおおおおっ・・・!)
心の中で大陸全土に聞こえんばかりの歓声を張り上げる。
相手は文官風の優男。飛び掛って倒せない相手ではない。
そうだ。彼が描く理想の未来への道標は近い。
(行くぜ!お前も大変だが、俺様の未来のために死んでくれ!)
心躍らせながら、彼は水を汲み終わった優男の前に飛び出した。
4102/8:2006/07/28(金) 00:20:43
「へへへ・・・よう兄ちゃん、いいモンぶらさげてくれちゃってるんじゃない?」
かつて山を通りがかった旅人によく使った言葉をアレンジして近寄る裴元紹。
まずこう言えば、たいていの旅人はビビッて路銀を置いていくか
強がり武器を構えるものの、腰が引けているものだ。
今回は文官。剣を置いて逃げるんじゃないか。そう裴元紹は考えていたが・・・。
「・・・山賊?驚いたな・・・こんな場にもいるとは・・・」
だが、目の前の優男はどこか違う。ビビリなど見られない。
強がりにしても、略奪した旅人がよくした震え、怯えなど微塵もない。
「山賊なんざぁ、どこにでもいるもんよ!
 その腰のモン、お前より俺様が上手く扱ってやっからよ、安心して置いてきな!」
が、そんなこと裴元紹には関係ない。彼の頭にはハッピーエンドしかない。
「私が持っているこの剣を渡せ、と?」
「おーよ!置いてきゃあ乱暴な事はしねえ!いい話だろ!?」
「なるほど。無意味な戦いは避けられるというわけか」
優男はどこか小馬鹿にしたような表情で、裴元紹との会話を続ける。
が・・・。
「・・・」
しばらく沈黙した後、優男は真剣な顔になり
「だが断る」
ときっぱり断言した。
「何ッ!?」
「この魯子敬の最も好きなことの一つは
 お前のような弱者を与しやすしと思う悪人を叩きのめす事だ」
優男が偉そうに言った一言を聞いて裴元紹はいきり立つ。
弱者だと?腰に剣をぶら下げているだけまだマシだ。
俺様なんかどうなる。妙な服だぞ!?相棒の姐さんは化粧品なんだぞ!?
バッグを開けた時の、この身まで消えてしまいそうな喪失感を思い出す。
4113/8:2006/07/28(金) 00:22:34
「なら・・・ならぁ〜〜〜・・・・」
そしてその喪失感は徐々に怒りに変わっていった。
「ならば死ねェェェェェェッ!」
怒りに任せて優男に飛びかかる。
「違うね・・・」
一言呟き、優男は身をかわしながら宙の裴元紹の伸ばした手を掴み
「死ぬのは・・・」
引っ張り勢いを加速させ、裴元紹の体を反転させ地面に叩きつけた。
「げぇッ!」
背中を強打し意図せず呻き声を出す。
ふと剥いた眼の先に、闇でも光る尖ったものが一直線に見える。
その先端は勢いをつけ、裴元紹の眼前に近づいた。
(おい・・・おい!)
「があッ!」
とっさに身を転がす。転がる途中、地面に突き刺さる刀が見えた。
転がりながら距離をとった後すぐ身を立て直し、刀を持つ優男を直視する。
「私の正史(ほんとう)の力を見る・・・お前のほうだな」
優男が言葉の続きを発する。
それが言葉の続きであることと
死ぬのは自分のほうだと裴元紹が理解するまで、少し時間が掛かった。
(やめりゃあよかった!こんな男に喧嘩吹っかけるなんてよォ!)
そうは後悔しながらも、ふと自分を待っている(はず)の姐さんの顔が思い浮かぶ。
偵察から帰らなければ、姐さんは心配するだろう。(やはり)
あるいは自分を追ってきてしまうかもしれない。(きっと)
そうすれば、この見かけで騙すクソ野郎にあの可愛らしい服ごと切り刻まれてしまうかもしれない。
いや、あんな美しい人だ。こいつじゃなくても野獣と化した男が放っておくわけがない。
4124/8:2006/07/28(金) 00:24:08
―俺があの人を守らなければ!―
(い、いや・・・俺様は死ねねぇ・・・こんな所で死ぬわけにはいかねえッ・・・)
「うう・・・関羽の旦那・・・!周倉・・・!俺に、俺に最後の力を・・・!」
ふと、口から言った言葉だった。
関羽は自分をほとんど知らないだろうし、周倉はこの場にはいない。
だが、言葉に反応したのか、目の前の男は驚きの表情を浮かべている。
「関羽・・・もしかして、貴方は蜀漢の人間?」
「あぁ・・・?お、おーよ!俺のダチは関羽将軍の右腕だし!俺の仲間だって関羽将軍の仲間だぜ!」
とりあえず、そんなことを言ってみる。
あるいは情況が好転するかもしれない、そんな気持ちだった。
が、そんな裴元紹の予想を大幅に通り越し、急に優男は刀を納め
「蜀漢の方か・・・知らない事とは言え、失礼しました。私は魯粛、字は子敬と申します」
と詫びの言葉を出し、頭を下げた。
「・・・え?あ、ああ・・・ケッ!わ、わかりゃあ・・・」
なんとなく強がりを吐いてみようかと思ったが、先ほどの攻撃を思い出し裴元紹は言葉尻を濁らせ

た。

「それで、貴方の名前は?」
「・・・え?・・・あ、ああ、は、裴元紹っつーもんよ、うん」
「むむむ・・・聞かない名ですね・・・」
「何がむむむだ」
「はぁ?」
同行を申し出た魯粛と共に『姐さん』の元へ向かいながら、裴元紹は自己紹介する。
本当は同行を断りたかったのだが、やはり先ほどの魯粛の攻撃を思い出し拒否できなかった。
それに略奪まがいの事をした自分に対し、魯粛はまだ疑いを捨てきれないようで
「はて・・・貴方は本当に蜀の人間ですか?」
と、時折疑いの言葉を向けてくる。
4135/8:2006/07/28(金) 00:26:02
『戦闘=今度こそ死』
の図式が出来上がっている裴元紹は、その言葉を言われるたびもう気が気でない。
関羽の名を聞いて刀を納めたところ、この人間も関羽の仲間なのだろう。
早く姐さんのところへ連れて行かねば。
そして、自分の釈明をしてもらわねば。
そう考えるだけで精一杯だった。
(ああ・・・姐さんとの2人っきり幸せ生活が・・・1人の男に邪魔されていくのか・・・)
「・・・元紹殿。裴元紹殿」
「・・・はっ!お、おーよ!なんだい!?」
ふと我に帰る。
「その、裴元紹殿と同行している方・・・そういえば、まだ名前を聞いておりませんね」
「え?ああ、それは・・・あ」
魯粛の問いに答えようとして、ふと考え込む。
そういえば、まだ自分も姐さんの名前を聞いていない。
「・・・俺も名前は聞いていねえ・・・だが」
「だが?」
「・・・立派な人だ。その高貴さと威圧感、美しさは・・・。
 ありゃあ、男ならひとかどの人物になっただろうな」
「そうですか・・・女性の方か・・・」
そう呟くと、魯粛は少しだけ空を見上げ・・・。
「やはり、貴方は蜀漢の人間ではありませんでしたね」
と呟いた。
「げえっ!」
そういわれて驚くのは裴元紹だ。おなじみの驚声をあげてしまった。
4146/8:2006/07/28(金) 00:27:11
「ななななんでえ!急に!」
「初めから疑ってはいましたが・・・貴方の同行者が関羽将軍の仲間、というのなら
 蜀漢の人間は名前を知っているのではないかと思いましてね」
「そそそそうとは言えねえだろうが!」
「確かに断言はできない。が、今の貴方の驚きようを見れば確実だ」
そういい、魯粛は裴元紹の方を向き帰る。そしてこう言った。
「だが、貴方は立派だ。すでに40人ほどは死んでいるこの狂気の場において
 女性を守ろうとしているなど、なかなか出来ることではない」
「え」
「先ほどの貴方の言葉から、独断ながら私はそう感じ取った。
 おそらく私の武器を奪おうとしたのも、そういった理由からでしょう?
 もう、私は貴方と事を構える気はない。剣は渡しませんがね」
この場において、少しは信用できる人間に出会えた。
裴元紹にはなんとなく、魯粛がそう言っているように思えた。

「戻ったか、裴元紹・・・む?そちらは?」
「え?姐さんも知らないんで?」
「はじめまして、魯粛と申します。それにしても奇抜かつ珍妙な衣装ですね」
「魯粛!?裴元紹、なぜ魯粛殿と?」
「これこれこういうわけで」
「あれ、私のことご存知なんですか?申し訳ありませんが、私は貴方を知りません」
辿り着いた瞬間に飛び交う会話。
魯粛に尋ねられた趙雲が己の名前を告げるまで、少々時間が掛かった。
「私か。私は趙子竜・・・」
4157/8:2006/07/28(金) 00:29:39
「げえっ!」
「げえっ!」
だが自分の名前を途端、裴元紹と魯粛の馴染みある驚声。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
そして、しばらく沈黙が流れた。
「あ・・・同姓同名の方ですか?中華に趙子竜さんが2人いらっしゃるとは知りませんでした」
と、魯粛が沈黙を破る。
「いや、私が本物の趙子竜だ。なぜかこんな外見だがな」
「はぁ・・・」
釈然としない態度の魯粛を尻目に、趙雲が裴元紹の方を向き帰る。
「で、なんでお前は驚いたんだ?」
「い、いや・・・その名前はなぜか・・・」
そうとはしらないが、自分を殺した男の名前だ。
少し悩んでしまう。
「ところで魯粛殿はなぜこちらに?」
悩んでいる裴元紹を横目に、趙雲は魯粛に問いかける。
「それは私も聞きたい。なぜ蜀漢の将である貴方が呉方面に?」
「・・・?ここは幽州だが・・・?」
「は?」
少し慌てながら、魯粛は己のバッグから地図を取り出した。
「違う・・・ここをまがったはずだが・・・あれ、こっち?いやちょっとまて・・・ここがこうで・・・」
としばらく呟いたあと、ふと魯粛は地図を手から離した。
「・・・間違った」
そう呟いた魯粛の顔は、触れば凍ってしまうのではないかと思うほど青ざめていた。
4168/8:2006/07/28(金) 00:31:11
「正反対ではないか・・・そんな事では、他の事はよくできても外交官としての才能は零だな」
「・・・う・・・うう・・・嘘だ・・・そんなはずはないんだ・・・それは私の正史(ほんとう)の力では・・・」
と呟きながら、すこしふらふらと歩き出す魯粛。
そのまま、地面に倒れ伏し、やる気なさそうにぼそぼそとこう呟いていた。
「うう・・・都督・・・そんな事言わないでくださいよ・・・だったらあんたが行けよ・・・」

「う〜む・・・」
とにかく悩む裴元紹。
(趙子竜・・・いやな響きだ・・・たぶんそいつには痛い目に合わされたはず・・・)
まだ悩む。
(そんな奴と同じ名前だなんて、災難だな姐さん!)
閃いた。
「姐さん!この裴元紹、どこまでもついていきますぜ!」
「なんだ急にやる気を出して。まあいいけど・・・。
 それより、道を間違った魯粛殿もおそらく同行するであろうが、いいか?」
「がってんだ!」
決意新たな裴元紹。
目の前の姐さんと趙子竜は同姓同名の別人だ、と本気で思っている裴元紹。
まあまあ、救われたとも言えるのではないだろうか。

<<ナースと下僕と外交才能零/3名>>
趙雲【ナース服、化粧品】裴元紹【なし】魯粛【圧切長谷部】
※もうそろそろ幽州に到着。
※裴元紹は趙雲を完全に別人だと思っています。魯粛はあまり信じていません。
417九春 1/2:2006/07/28(金) 00:56:52
こほん。
こほっ、こほん。

(煙たいですねぇ。)
許都から立ち上る煙は、荀イクの腰を下ろしている丘まで漂ってきていた。
小高い丘だ。風が心地良い。
周りには誰も居ないし、眼前で燃え上がる許都を肴に、
一杯やりたいような気すらしてくる。
(そう言えば、)
荀イクの標的――曹操は、酒の製造法にまで精通していた。
(確か――春、が何とかとか・・・。)
かつての思い出に浸りながら、荀イクは微笑んだ。

こほっ、こほん。

もう一度、咽る。風が調度、こちらに向かって吹いてきているのだ。
右手をぱたぱたと眼前でひらめかせて、煙を払う。
払った先に、数秒前には存在し得なかった影を見つけた。
418九春 2/2:2006/07/28(金) 00:58:25
(ああ、あれは于将軍。)
遠目でも分かるほどの、独特の威厳と雰囲気を持った男が、今まさに南門から
許の市内へと歩いていった。
その足取りは、ふらふらと危なっかしい。
それから、また数分。今度はより見覚えのある文官と、将の二人組みが
南門へとたどり着く。
あれは?
(・・・ああ、典韋殿だったか。)
荀イクは洛陽近辺での事を思い出していた。
ガリルARの引き金を引く、その直前、突然周囲に煙の壁が現れた。
(あの時は残念でした。)
甥の荀攸と、曹操の忠実なる親衛隊――典韋の姿が、南門へと、消えた。

こほん、こほっ。

(しかし。)
どうやら公達は心を入れ替えたようですね。まさか于将軍なんて大物を
狙うとは思いませんでしたが。
(良いことです。)
叔父と甥がわざわざ争うことなどありませんからね。
最後の一人までお互い頑張りましょうね――――――・・・。

こほん、こほん。

今一度、棚引く煙に噎せながら、荀イクは許都から背を向けた。
曹操の行く先を求めて。


@荀イク[洗脳されている?]【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
『現在地 豫州・許昌・近くの丘』
419無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 00:58:50
威力が強すぎる。おかしい
M16A1アサルトライフルは暴発していたのだ。
夏侯淵はバックファイアで死んだ。


【夏侯淵 死亡確認】
※アイテムは全てそのまま
420許昌葬送曲 1/2:2006/07/28(金) 03:05:44
散々に暴れまわる炎の中を、一筋の笛の音が響いた。
悲しみと、怒りと、羞恥と、狂気と哀願と。そのどれともつかぬ
音色が、許昌中を駆け巡った。
ゆるりゆるりと。
泣くように。


「公達殿。」
落とし穴に落ちて怪我を負った荀攸のつま先に、自らの衣を破いて作った
包帯を巻きつけながら、典韋は何も言わない軍師の横顔を見上げた。
その顔は、何の感情も映してはいない。
「公た「典韋殿。」
典韋の呼びかけを遮って声を発した荀攸の瞳から、
溢れんばかりに涙が浮かんでは、流れ落ちた。
悲しい、曲だ。
かつて、許昌でよく響いていた曲と、旋律はまるで同じものだが、演奏者の感情を
そのまま叩きつけたようなその音色は、強く心を揺さぶるものだった。
「いやだな。」
この演奏者は、きっと此処で辛い思いをしたのだろう。
何故、何故・・・こんな遊戯が許されるのだろう。このような暴挙が許されるのだろう。
「辛いな、典韋殿。」
典韋は口を噤んだまま、何も言わなかった。・・・言えなかった。
悲しみの笛の泣く音に呼応するかのごとく、ぽつぽつと天も嘆き始めた。
それでも、炎は涙を受け止めながら、その力を落とそうとはしなかった。
421許昌葬送曲 2/2:2006/07/28(金) 03:06:23
「行ってみようか、典韋殿。」
「公達殿、それは・・・」
「この曲は、許でいつか流行った曲だ。きっと魏の誰かだよ。
 もしかしたら、協力できるかもしれない。」
――危険ではないか。
典韋は思った。この人は少々、優しすぎる。
確かに、演技で出せる音色ではないが、万が一ということもありえなくはないのだ。
生は一度だけ。一度だけ、のはず。
それでも。
「行ってみよう。」
澄んだ瞳で言われれば、頷く事しか出来なかった。


獣の音色が都に響く。
それは、恨みと痛みを伴いながら、天をも泣かせ、獲物を呼び寄せた。
ゆるりゆるりと。泣く様に。
どこまでも、響き渡る―――――



<<決意胸に秘め/2名>> 『現在地 豫州・許昌内部・中央部』
@典韋【煙幕弾×4】&荀攸[つま先負傷(手当て済み。走れます)]【デリンジャー】
※于禁の吹く笛の方向に向かいます。
@于禁【AK47カラシニコフ、山刀】 『現在地 豫州・許昌内部・西側于禁宅』
※自宅で泣きながら笛を吹いています。(笛は自宅内にあったものを使用。)
※気配には敏感なようです。先制攻撃も厭いません。
※曹丕、虞翻を中心に、恨みのある将を狙います。
※曹操、張遼、張コウ相手には友好的です。
422無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 03:17:07
司馬懿はありえない光景に泡を吹いて倒れた
打ち所が悪かったらしい
死んでいた

【司馬懿 死亡確認】
※それ以外の状況はそのまま
423無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 03:18:56
本スレ>>422はいいのか…?
424業務連絡:2006/07/28(金) 03:52:30
>>419 >>422など夏侯淵・メルヘン絡みの話は現在凍結しているので無効とします。
詳細は観戦スレまで。
425ファイトだ諸葛瑾! 1/3:2006/07/28(金) 12:29:53
諸葛瑾は絶望していた。
ああ、なんだってこんな目に。


この遊戯が始まってからというもの、本当に踏んだり蹴ったりである。
同じ呉将の、朱桓と朱然に武器を巻き上げられ。
なんだか目つきの悪い男に絡まれて。
何処からか銃弾がかすり。
どっかの呂蒙だか阿蒙だかとクロス衝突して。
そして今。この状況は、どうだ。
全泣きで全力疾走して、大混乱のままぶつかったその壁は、言った。
「俺は呂布。字は奉こら待て逃げるな貴様オイ」

・・・襟首掴まれて引き戻された。
426ファイトだ諸葛瑾! 2/3:2006/07/28(金) 12:30:28
「なんにも持っておらんのか貴様。ふん、使えんやつだ」
呂布は、諸葛瑾が何の武器も所持していないのを見て取ると、そう吐き捨てた。
使えん奴だとか言われても自分のせいではないしというかまず私の人生これで終結?
などと思考を廻らせる諸葛瑾。恐怖ゲージは、満タンを通り越して破裂気味である。
端的に言えば、怖すぎて放心状態にあった。
―――失禁していなかった事だけが唯一の救いか。
「しかし、袋ごと奪われてよく二日も飢え死にせずにすんだな・・・」
確かに、ザックごと朱桓に奪われていたけれど。
それはね、驢馬ですから。食べられる草とか根とか食ってましたよ。ええ。主君のお墨付きです。
いや、そんな事はいいから殺すんなら早く殺してくれ。できれば痛くないほうがいいなー。うふふ。
巡る巡る思考。諸葛瑾は現在、悟りの境地にあった。
427ファイトだ諸葛瑾! 3/3:2006/07/28(金) 12:31:05
諸葛瑾を散々に調べつくした呂布は、おもむろに立ち上がると、
彼には想像もつかなかった言葉を紡ぎだした。
「行っていいぞ」
「え?」
「行っていいと言ったんだ。俺は殺したいのではなく戦いたいだけだ。
 武器を持ってないのなら貴様などどうでもいい。とっとと消えろ」
そう言って呂布は諸葛瑾から背を向け、さらに東方へと歩を進める。
驚いたのは諸葛瑾の方である。
いや消えろと言われてもこれまで生きてこれた事がすでに奇跡なわけで。
諸葛瑾はすぐさま呂布の背を追いかけて、縋り付いた。
「ままま待ってくれ本当に何にも持って無いんだ!私文官だしっ!弱いし!!
 情けをかけるのならちゃんと最後までかけてくれ!」
「どぁっ!」
タックルよろしく縋り付かれた呂布は、バランスを失ってそのまま前方へ倒れる――が、
そこはやはり天下無双の豪傑である。すんでのところで青竜刀を地に突き刺して
踏みとどまった。
憤怒の表情で、背後のひっつき虫を振り返り、怒鳴る。
「何しやがるこの驢馬面ァ!寄るな触るな着いてくるな!!
 お、俺は関羽だの、張飛だの、張遼だの高順だのとた、た、か、い、にいぃいィ!」
「やだもんやだもん一人は怖いもん!!つか正直もう脚が限界!」
必殺だだっこ攻撃で、呂布の背に張り付いたまま引きずられる諸葛瑾。
諸葛瑾を背中に付着させたまま、無理矢理前へと進む天下無双の男、呂布。
利点も面識もへったくれも無い、実に一方通行な同盟が、今締結した。


<<カミキリムシとオナモミ/2名>> 『現在地 楊州・盧江』
@呂布[背中の物体により速度低下]【関羽の青龍偃月刀、ドラグノフ・スナイパーライフル】
@諸葛瑾[ひっつき虫化]【なし】
※強者を求めてさまよっています。
428無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 12:48:20
徐庶は[業β]に向かっていた
途中で同じく[業β]に向かっていた司馬孚と貂蝉に出会って切り殺した
斬鉄剣に操られていた、大した武器も持たない弱い二人にはどうしようもなかった。吹き矢とかも一緒に切れた
曹丕と会った、曹丕は疲れていて徐庶に気づかなかった曹丕は斬られた。
でもすぐには死ななかった。徐庶は曹幹も殺した、子供だからどうにもできなかった
曹丕は銃をフルオートにして徐庶を蜂の巣にした、徐庶も死んで相打ちだった!本も読めなくなった
【司馬孚 貂蝉 曹丕 曹幹 徐庶死亡確認】
※斬鉄剣以外のアイテムは全部壊れました
429無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 15:37:07
議論の結果>>428はスルーとなりました
4301/2:2006/07/28(金) 17:01:34
曹熊は最初にそれを拾った時からその手帳の異様な雰囲気に気づいていた。また気になっていた。
阿会喃に支給品の交換を申し入れてみた。武器をほしがっていた阿会喃はあっさりOKした。曹操の子として勉強もちゃんとしていた曹熊は正しくデスノートの効果と使い方を理解した。
黒い力に魅入られる。鬱なんかすぐに吹き飛んだ。病弱なために歯牙にもかけられない存在だった曹熊。
興奮しながら鉛筆を動かして、父や兄弟や一族の名前を書き込む。自分がこんなに強い影響力を持ったことなんかなかった。
自分がとても偉く、強くなった気がした。重鎮の名前も書き込む。典韋など早くに死んだものは知らなかったが郭嘉は最初に献帝に呼ばれていたからわかった。
曹熊はその効果を確かめてみたくなった。名簿を見て阿会喃と張虎の名前を書き込んだ。二人は急に固まり、胸を押さえて動かなくなった。
一通り書き終えてしまうと高揚感はもうなかった。結局何も残りはせずむなしさだけが残った。
この手帳を使う前よりももっと深い鬱のなかに曹熊は包み込まれた。なにもかもが嫌になった。
病気で苦しんだり誰かにいたぶられて死ぬよりずっといい。曹熊は首輪をつかんだ。曹熊の頭と右手が吹っ飛んだ。
4312/2:2006/07/28(金) 17:02:18
【曹操 曹丕 曹植 曹彰 曹幹 曹仁 曹洪 夏侯惇 夏侯淵 夏侯楙
郭嘉 陳羣 李典 荀イク 荀攸 張遼 于禁 司馬懿 司馬孚 賈ク
董衡 董超 徐庶 阿会喃 張虎 曹熊 死亡確認】
※DEATH NOTEはあと4ページ残っています。エクスカリパーと大般老長光とともに永昌に放置
※すべての死亡者のアイテム(スコーピオン(残弾19発)、白い鳩、閃光弾×2、閃光弾×2、かみそり、双剣(やや刃こぼれ)、ゴム風船、斧、金属バット、吹き矢(矢10本)、SPAS12、
デリンジャー、チロルチョコ(残り84個)、PSP、歯翼月牙刀、ベレッタM92F、弓と矢、トンプソンM1A1、発煙手榴弾、AK-47(弾倉あと5)、赤外線ゴーグル、付け髭、
光学迷彩スーツ、斬鉄剣、首輪解体新書、越乃寒梅、AK47カラニシコフ、山刀、ガリルAR)はすべて所持者の所在地にそのまま
※賈クは光学迷彩スーツを着たまま死んだので通常の手段では死体を確認できません。曹熊の死因は爆死、それ以外は全員心臓麻痺。
432無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 18:26:50
議論の結果、>>430->>431はスルーとなりました
詳細は議論スレで
4331/4:2006/07/28(金) 18:28:46
「顔良…!それに顕甫まで…。つーか、なんで我が軍勢だけこんなに死んどんのじゃー!!!」
兗州の小屋の中怒声が木霊する。小屋の中には意識が戻らない曹彰、そして、今しがた放送を聞き、打ちひしがれている袁紹。
これで彼の陣営は、沮授と、自分を見限り、曹操についた張コウだけとなってしまった。
「えーい!劉備のとこだの孫家のとこだのはどーした!私のとこだけ集中打か!」
ここまで仲間が大量に死んだとあって、袁紹はやけ起こし回りに当り散らしている。
『だ、旦那ー!落ち着いてくれよ!誰かに見つかるだろ!!』
「これが落ち着いてられるかばっきゃろー!」
村正の制止も聞かず、大声で怒鳴り散らす袁紹。と、その時。
「誰だ?こんなとこで騒いでる阿呆は?」
バタン、と、扉が開く音と共に、曹洪と曹仁が現れた。
曹操の家に行っても曹操はおろか、誰も来る気配が無かったので、うろうろしていた所、袁紹の怒声が聞こえ、声の方向に、向かったのだった。
「お、袁紹」
「あ、曹彰!」
曹仁が袁紹を見つけ、声をかけるのとほぼ同時に、曹洪が気絶している曹彰を見つけ驚きの声をあげる。
(曹彰?孟徳の子倅か?しかし、何か嫌な予感…)
4342/4:2006/07/28(金) 18:29:49
曹彰にかけよった二人を見て、物凄い嫌な予感に襲われている袁紹を、二人が睨む。
「貴様、曹彰に何をした!?」
(やっぱり誤解されてるー!!)
嫌な予感、見事に的中。
「ま、待て、これは正当防衛であって…」
「言い訳など無用!」
(こいつら私の話聞く気、まったくねー!!)
にじりにじりと詰め寄る二人に、袁紹は追い詰められていく。その時
「待ってくれ、叔父上。その人が俺に危害を加えた訳じゃない」
その声に、曹洪と曹仁が振りむくと、曹彰が上半身を起こし、こちらを見ていた。
「曹彰!」
「お前をやったのは袁紹じゃないのか?」
曹仁の問いに首を縦に振り、曹彰は袁紹の方を向いた。
「まず、礼を言わせてくれ。あんたが槍をぶっ壊してくれなかったら、俺は家族や仲間に手を出していたかもしれない。ありがとう」
「ふん、くるしゅうない。というか、お前、操られてる時に意識あったのか」
その問いに曹彰は自嘲しながら答える。
「ああ、からうじてだがな。意識の大半と体は、あの得体の知れない槍に乗っ取られちまっていたが。まったく情けないぜ」
そんな二人の会話を聞いても要領を得ない曹仁と曹洪は、首をかしげるばかりである。
4353/4:2006/07/28(金) 18:30:34
「袁紹殿、それに叔父上も聞いてくれ。一つ、大変な事が起きてるみたいだ」
自嘲を浮かべていた顔を引き締め、自分の身の上に起こった事。
荀イクに襲われた事、妖槍に乗っ取られた事。袁紹と妖刀に助けられた事。そしてもしかしたら荀イクが自分のような人間を増やしているかもしれない事を語った。
「馬鹿な…文若がそんな事を…」
あの温厚な荀イクが、殺し合いに乗り、暗躍している。荀イクの事を知っている三人は、曹彰の話をにわかには信じられなかった。
「俺だって今でも信じられねぇ。でも、これは事実だ」
曹彰の言葉に一同は沈黙する。
「どうやら…奴を止めねばならぬようだな」
袁紹が沈黙を破る
「このままでは、奴のせいでこの殺し合いに抗おうとする者が、次々と殺されてしまう。それは何としても阻止せねばなるまい」
袁紹の言葉に三人は面を上げる。考えは同じのようだ。
「だがそなたらが孟徳を探したい気持ちもわかる。そこで我らの第一目標は孟徳の捜索、及び荀イクの捜索、及び目的の阻止、これで行こうと思うがどうだろうか」
誰も異論を出す者はいなかった。
「よし、では出発と参ろうか!」
4364/4:2006/07/28(金) 18:31:06
威厳に満ちた袁紹を見て曹仁は、ふと考える
(何か袁紹らしくないなぁ)
「ちょっと待て、行き先はどうするんだ?」
曹洪の問いに袁紹は動きを止め、どこに行こうか考え始める
「いや、行き先考えてから動くもんだろ普通」
曹洪の突っ込みに目を泳がせながら、おたおたし始める袁紹。先ほどの威厳もどこかへ消えていったようだ。
(よかった。いつもの袁紹だ)
『これがあるから旦那はいまいち決まらねぇんだよなぁ』
曹仁の安堵と村正のぼやきを他所に、行き先をしっかりと決め、武器の分配をし、一同は小屋を出た。

<<荀イク孟徳捜索隊/4名>>
@袁紹【妖刀村正】@曹彰【双剣の片方(やや刃こぼれ)ごむ風船】@曹仁【双剣の片方(やや刃こぼれ)かみそり@曹洪【斧】
※とりあえず兗州、豫州を順に捜索して行くつもりです。曹操他、仲間を探すと共に、荀イクを止める為、荀イクも探します。現在兗州
※村正の声は所有者(ここでは袁紹)にしか聞こえません

耳の中に響く献帝の声。
「お前ももう一度朕の為に尽くしてもらえるかな」
五月蝿い程に響いているというのに、どこか心地よかった。
しかし――確か、拒否した。
あの心地よさに取り込まれてしまいそうな気になったからである。
微笑みながら返された「そうか」という言葉はもう響いていなかった気がする。

潘璋が何かを叫びながら荊州へ向かって突っ走っていたあと、孔融たちも
汝南に差し掛かり、無難なところで自分達も荊州に行こうかという話になっていた。
肩を貸しながらゆっくりと歩いていく。
明日はきっと晴れるぞ等と呟いて禰衡は項垂れていたが
項垂れた首を見た途端、孔融は妙な感覚に陥った。
―この首、絞めたらさぞ苦しんで――
ハッと眼を見開いて立ち止まる。
「どうした?」
混乱した様子の孔融が頭を振りながら禰衡に言う。
「私にはそんなことは出来ない。」
孔融は只ならぬ様子だった満寵のことを思い出し、考えをまとめる。
「主催者はきっと何人かに洗脳を施したんだ。
私はそれを拒否したから正気でいられるのだが、何のために…?」
禰衡は黙ってそれを聞いていたが、すぐに口を挟む。
「殺し合いを円滑に進める為だろ」
奇人扱いされていたとはいえそれなりの頭はある。答えは容易に浮かんだ。
孔融がその場に頭を抱えてしゃがみこむ。
「もう嫌だ。あれはもう帝なんかじゃない…
…只の主催者だ。狂っている!こんな状況を楽しんでいるなんて!」

それを聞いて禰衡は口を歪めて笑う。
「正しいぞ、君は。
だからこそこんな世界で死んで欲しくない。わしはそう思ってる」
孔融の襟を掴んで立ち上がらせようとする。
「行けば何か変わるかもしれんじゃろ、ほら、晴れる予定だから大丈夫だ。」

狂いきった世界の中で何がどう変わるかはわからない。
だが、友は厭くまでも正常なのだと知り禰衡はこの世界に少し希望を見出した。

@潘璋【備前長船】
※荊州へ向かって爆走中

<<現在工事中/2名>>
禰衡[脇腹負傷]【農業用スコップ】 孔融[こめかみかすり傷]【農業用ショベル、刺身包丁】
※現在陳留から南下中。荊州へ向かっています
439無名武将@お腹せっぷく:2006/07/28(金) 23:40:53
以下は>>405の修正です。
これに関する議論は
まとめサイト ttp://3594br7th.web.fc2.com/
のチャットでお願いします。


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人形が木っ端微塵になったのを確認すると、
夏侯淵はできかけの袋に武器を突っ込んで立ち上がった。





【陳宮 死亡確認】

<<めるへんクインテット/4名>>
陸遜[左腕裂傷]【なし】
姜維[頭部損傷、流血]【なし】
馬岱[軽症]【シャムシール・ロープ】
司馬懿[軽傷、泡噴いて気絶中]【赤外線ゴーグル、付け髭】
※現在地は五丈原。
※魔法のステッキミョルニルは衝撃で近くに飛ばされました。
※レオ様は破壊されました。
※董卓の所持品(ミョルニルを含めP-90(弾倉あと4)、RPG-7(あと4発)、ジャベリン、投げナイフ20本)は少し離れた場所に残っています。
※司馬懿は殺戮を見たショックで気絶しました。夏侯淵には気付かれてません。

@夏侯淵【ベレッタM92F、弓と矢、トンプソンM1A1、発煙手榴弾、AK-47(弾倉あと5)】
※夏侯淵は場所を移動して袋作りを続けます。アサルトライフルは弾が無くなったので放置しました。
440無名武将@お腹せっぷく:2006/07/29(土) 00:09:55
夏侯楙「っぁあ〜っと、良い目覚めだぜ。
    ・・・誰も俺を起こしちゃくれなかったんだな。
    まぁいい、とにかくどこぞに行くとするかぁ。
    それか、あの燃え上がる許昌の中に戻るか・・・

    なんつってな、ひとまずは南だ。
    赤壁、もしかしたら、先帝があそこで悔しがってるかもしれねぇ。
    其の苦は、我が苦か誰が苦か 誰かの為に生きられるなら!
    其は、我が夢か誰が夢か 何も怖くはない!
    いざ強く! 一人では解けない愛のパズルを抱いて!
    野性持て! この町で優しさに甘えていたくはない!
    さぁ、時よ! 君だけが守れるものが何処かにあるさ!
    運よ、有れ! 一人でも傷ついた夢を取り戻すよ!」
怒号混じりの歌うたい、夏侯楙は赤壁へと向かう。


一方、宛付近の野原では、悲しい調べが続いていた。
別れ行く君を送る、その為に捧ぐ一つの曲・・・
周瑜は、魔王を奏でた後、ショパンの別れの曲の調べに入っていた。
この音を聞きうるものはどれだけいるのだろうか。
友よ、仲間よ、この曲を聴くがいい、愚かすぎる主催者よ、芸術の偉大さを知れ。
いざ奏でるは深き曲、川をも裂こうぞ我が調べ。

さて、仲間がいる、といえば呉かな。
荊州伝いに東へ転進、呉へと向かうとしよう。
曲を奏でながらの行進は非常に危険だが・・・それもまた一興。

@夏侯楙[両腕擦り傷]【越乃寒梅】
※目を覚ましました。 目的地、赤壁。
@周瑜【テルミン】
※ひとまず南へと行きます。その後呉へ向かい、仲間との邂逅を狙います。演目はショパン『別れの曲』
441ふぞろいの林檎たち1/5:2006/07/29(土) 00:57:06
それは、ほんの些細なことがきっかけだった。
蜀を目指して上庸のあたりを歩いている頃だったか。
三人は疲弊しきっており、ろくな食料も手に入らぬせいで空腹でもあり、気が立っていた。
馬忠は少し遅れて足を引きずりながら無言で歩き、
夏侯惇と廖化は肩を並べていたものの、言葉を交わす元気も無かった。
辺りは静まりかえり、時折聞こえるは鳥の鳴き声とお互いの荒い息づかいだけ。

「玄徳様がいればなあ」

廖化が、漏れる吐息に忍び込ませるようにそっと呟いたのだ。

「玄徳様がいれば、こんな目に会わずに済むのに」

下を向いて黙々と歩いていた彼は途端に顔を上げ、
妙にキラキラとした目で夏侯惇を見やってきた。

「聞けよ、元譲。俺ってばさ、すげー玄徳様に心酔してたんだ。
 もちろん今でもしてる。慕ってるよ。あの人すげーんだ。素晴らしい人だ。
 だから、俺は呉に捕まっても意地で逃げ延びてやった」
442ふぞろいの林檎たち2/5:2006/07/29(土) 00:58:04
廖化は生前……この言い方もおかしいが、適切なものが見つからない……
あの憎き関羽の主簿を勤めていたらしい。
関羽が呂蒙に破れたことにより一度は呉に投降したらしいのだが、
劉備の元に戻りたいが為に自らを死者に模し、
そのまま呉を脱出して蜀まで舞い戻ってきたらしい。
やっと玄徳様に会えた時の嬉しさと言ったらと、そのまま思い出し泣きをしている。

おめでたい奴だ。
疲れているから余計に過去が美化されて思い出されるのだろうか。
半ば呆れながら苦笑していた夏侯惇の耳に、しかし次の言葉が飛び込んできた。

「元譲もさ、あんなチビじゃなくて玄徳様に仕えてたら、
 きっと片目を失うこともなかったぜ」

たかが戯言だ。
それは、たかが疲弊しきった心から無意識に漏れ出てくる感情の発露だ。
真面目に受け取るのも馬鹿馬鹿しい。
頭ではそうわかっていた。しかし、身体が承知しなかった。
443ふぞろいの林檎たち3/5:2006/07/29(土) 00:59:22
右の拳が宙に突き出された。廖化はそのまま吹っ飛んで草むらに落ちた。
疲れているにもかかわらず凄い威力だと我ながらおかしくなる。
離れたところを歩いていた馬忠が、驚き慌てて駆けよってきた。

「元譲、そのツッコミはひどすぎるよ!」

だれがツッコミだ。
吹っ飛ばされた廖化が頬を押さえて立ち上がる。

「ぶったな! オヤジにもぶたれたこと無いのに!」
「アムロかよ!」

すかさず馬忠が身体いっぱい使って突っ込んでいる。
いつのまにかボケとツッコミが逆転しているが、そんなことはどうでもよかった。

孟徳を侮辱されたのが許せなかったのだ。

……14の夏。暑い盛りだった。
敬愛する師匠をひどい言葉で罵った男を無意識にたたきのめした。
初めて切り裂いた人の肉体。飛び散る鮮血を浴びながら呆然と立ち尽くしたあの日。

ときどき、押さえきれない怒りを覚えることがある。
そういう時は心が追いつかぬまま身体だけが動いてしまう。
己は胸中に何か恐ろしいものを抱えているのではないかと不安になったこともあった。
しかし、従兄の曹操はそんな夏侯惇の悩みを一笑に付した。

「元譲、おまえはただ感情過多なだけだ。それはまったく悪いことではないぞ」
444ふぞろいの林檎たち4/5:2006/07/29(土) 01:00:16
「うんこ野郎、よく聞け、俺は百編生まれ変わっても大耳野郎の下にはつかんぞ!」
「なななななんだとぉ! 俺は千回生まれ変わっても玄徳様の元に行く!」
「そしてその千回ともに、お前の大事な主人は散々逃げ回って
 地の果てでちんけな国をおっ立てるんだろうな」
「このやろう!」

「私のために喧嘩は止めて!」

馬忠が泣きながら叫んでいる。
お前は関係NEEEEE!!!とツッコミたくなったが廖化を殴るのが先なので止めておいた。
その廖化はと言うと、やけくそのように暴れている。文官のくせになかなか骨のある男だ。

「クソったれ! 盲夏侯!」
「残念だが今の俺には両目がある!」
「前世は盲夏侯だろバーヤバーヤ!!」
「やかましいわ! たかが関羽の犬ふぜいが偉そうに!」
「お、お、お、お前こそ曹操の犬だろうが糞がぁぁぁぁ!」
445ふぞろいの林檎たち5/5:2006/07/29(土) 01:01:21
俺はいったい何をやってるんだ……。

玄徳様ぁぁぁと泣き出した廖化を見た瞬間色々なものが冷めた。
しばし呆れ、そして腕の先にあるくしゃくしゃになった中年男の泣き顔に触れた。
「お前も俺も度し難いアホだな」
俺はアホじゃないと馬忠が訴えているが無視した。

「気が変わった。お前らは蜀に向かえ。俺は戻る」

この漫才二人組と一緒に蜀に行ってどうするんだ。
どう足掻いてもこの世界から抜け出せそうもないなら、
それなら、最後に一目でもあいつの顔を見たい。


「あばよ!」


「今どき柳沢慎吾かよ!」

馬忠のツッコミが辺りに響き渡った。


@夏侯惇[腕にかすり傷]【金属バット】
※ピンユニット化。曹操を捜して豫州に向かいました(カンを頼りに動いています)

《孤篤と廖淳/2人》
馬忠【グロック17】&廖化[両頬に腫れ、鼻血]【鎖鎌】
※現在荊州にいます。蜀に向かっています。
446忘却の空 1/10:2006/07/29(土) 20:28:43
(誰の仕業か知らないが・・・ずいぶんと惜しい事をする)
歴史に残るであろう華美な宮殿。
質素だが美しい木々が飾る街道。
人々が生の活気を見せた市場。
・・・既にそれらは灰になっているのだろう。
遠目にもわかる、ひどく雄々しげな炎を巻き上げている許都。
それを遠くの平地から眺めながら、張コウは懐かしさと喪失感、そして軽い怒りを覚えた。
が・・・。
(・・・まあ、いいか。オレのものじゃないし・・・)
怒りを覚えたところで火をつけた者の正体がわかるわけでは無し。
万が一わかったところで、己の身を危険に晒してまで報復するほどでもない。
それよりは『今後どうするか』と考えた方が己のためになる。
そう考えた彼は衣服から地図を取り出し、軽く眼を向けた。
夜陰だが、月光に照らせば読めないことはない。
(・・・まあ、曹操殿はまずここにいないと考えていいだろう。だがあそこに誰か・・・)
そこまで考えた途端、背筋に寒いものが走る。
「・・・!?」
そう、たしか戦場でも幾度となくこの感覚は自分を襲った。
だからわかる。これは『殺気』『殺意』と呼ばれる類のものだ。
燃える許都から届いたのか、乾いた風が己に吹く。頬を撫でた手に冷や汗が伝った。
(これは・・・かなりヤバイな・・・)
即座に地図をしまい、周囲を見回す。
少し離れたところに木々が茂った小さな林ならあるが、どうも殺気はそこからは感じられない。
(なら・・・こっちか?)
感覚に任せた方向に視線を向ける。
そこには、自分と同じように乾いた風をその身に受ける『見覚えのある男』がこちらに向かって歩いてきていた。
447忘却の空 2/10:2006/07/29(土) 20:29:57
「・・・徐庶・・・か?」
誰に向けるともなく・・・いや自分に向けるように、張コウはそう呟いた。
そうだ・・・見覚えのある男。記憶にある風貌とやや違うが、あの男は徐庶に違いない。
だが、今の自分に同じ魏将との再会を喜ぶ余裕はない。
もともと徐庶と自分は親しい間柄でもないが、そんな事は要素とならない。
徐庶の衣服は返り血に染まっているし、手には抜き身の剣が握られている。
何より、明らかに徐庶は殺意を自分に向けてきている。
(志を理解してもらう・・・それどころじゃないな・・・)
『おそらく戦闘になるだろう』という予感が張コウの胸を過ぎった。

「・・・よし、そこまでだ。徐庶・・・そこで止まれ」
徐庶が近づき両者の距離が五歩ほどになった時、ふと張コウが掌を徐庶に向け制止の構えを取る。
張コウ自身が止まるとはあまり思っていない。期待せずに発した言葉だった。
が、その予想に反して
「・・・」
無言のまま、五歩の距離で徐庶は足を止めた。
とはいえこちらを攻撃する意志はしっかりしているようで、ゆっくりと剣を構えだす。
その姿は空から照らされる月光に映え、異様な神々しさを兼ね備えたように見えた。
(なんだろう・・・何か・・・異常だ・・・異常な感覚だ)
光に照らされた徐庶の顔。
後悔も苦悩も憎悪も、そして悦楽も含んだ形容しがたい顔。
何度も殺されたような、自分の意志ではない何かによって動かされているような顔。
すぐに異常だと感じ取れるほど、徐庶の表情は人間離れしている。
(・・・一つ二つ質問してみるか)
「徐庶・・・それは一体何の真似だ?」
448忘却の空 3/10:2006/07/29(土) 20:31:08
意を決して、張コウが口を開く。
もっともこの問いの答えなど、張コウもわかりきっているのだが。
そして、徐庶は・・・。
「曹操・・・か?・・・」
とギリギリ聞こえるぐらいの小声で返し、構えたまま張コウへ突進した。
(ヤバイ!)
思った瞬間、張コウも右へ飛ぶ。数瞬後、滑らかな斬撃音が響く。
(オレが斬られた!?いや違う!)
一瞬の安堵の後地面に着地し、張コウは先ほどまで自分がいた場所に眼を向けた。
「な・・・!?」
まさか・・・と驚愕する。
徐庶が持っていた剣は、地面に深々と突き刺さって・・・。
いや、堅い石もろとも綺麗に地面を『真っ二つに切り裂いて』いた。
(なんだ!?あれは・・・)
石を斬ったとしても、鈍い残撃音など一切聞こえなかった。
いやそもそも、剣とはあそこまで石を綺麗に斬れるものなのか。
(徐庶の力・・・?いや、あの剣の力か・・・!?)
危機感を感じ、次の攻撃を避けるために身を立て直し距離を取る。
そんな張コウを目に捉えながら刀を構え、徐庶はただ静かに呟いた。
「曹操じゃあない・・・が、まあいい。名は思い出す気もないが、お前も魏将だったな・・・」
『殺す』・・・徐庶の目は確かにそう言っていた。

一足飛びで張コウの前へ行き、斬鉄剣を振り下ろす。
全力で地面を蹴って徐庶の振り下ろしを飛び避ける。
449忘却の空 4/10:2006/07/29(土) 20:33:02
追いかけて薙ぐ。
伏せて薙ぎを空かす。
伏せた体勢へ突き下ろし。
横転し身を立て直し。
突けば飛ぶ。飛べば払う。払えば退く。
初太刀から、『攻撃する徐庶、避ける張コウ』の図式は変わらない。
だが、幾度振り回しても斬鉄剣の斬撃はことごとく空を切り、斬撃の手ごたえを感じることはない。
(くっ・・・さすがに今の状態では易々と殺すことはできないか・・・)
息を荒げながら、徐庶は自身の体を顧みる。
燃え上がる許都から脱出する際、肩を少々火傷し、体を打った。
それは大した事はないのだが、斬鉄剣を軽々と扱うには少々体が疲れすぎている。
それに、相対している敵もなかなか反応が早い。身のこなしも見事だ。
反撃をしてこないのは、手に持つ玩具の様な剣ではいかんともしがたいからだろう。
とにかく、仮に撃剣の使い手である自分がもし万全の状態であったとしても
不意を突かねば一太刀で仕留めるのは難しい相手だ。
(では、そうするか・・・)
その『不意をつく』手段を思いつき、徐庶は笑みを浮かべる。
そのまま張コウへの攻撃を止め、彼は少し後ずさりを始めた。
「・・・なんだ?打ち止めか?」
片膝は地面につけたままの張コウが軽口を叩く。
瞬発しやすいようにか、武器を持たない手と片膝は地面につけている。
「そう・・・思うか?」
徐庶は笑みを浮かべたまま、一足飛びでギリギリ届く場所まで後ずさりする。
そして足を止めた後、懐に手を入れ・・・。
「そいつは残念だったなッ!」
懐中電灯を取り出し、張コウの顔面に向けて照射した。
450忘却の空 5/10:2006/07/29(土) 20:35:01
「ぐ・・・あッ!?」
闇に慣れた目に突然の大量光射を受け、うめき声とともに張コウは武器を持った手で目を抑えた。
「(動きが)止まった!今だッ!」
叫び懐中電灯を放り投げ、一足飛びの体勢を取る。が・・・。
「同じ事考えてたのかよッ!」
その張コウの叫びと共に、大量の冷たい何かの粉末が徐庶の顔にぶつかる。
「うッ!?」
一足飛びの動作が一瞬遅れる。
だがすぐに『張コウがいるはずの場所』に向かい飛び、全力を込めて斬鉄剣を振り下ろした。
(斬った・・・が!?)
ひどく乾いた小さな斬撃音とともに、軽い手ごたえが伝わる。
(いや浅い!全身ではない!手か足か・・・末端の部分!)
「ぬおおおおおおおおォォォォォッ!!」
目をつぶったまま斬鉄剣を幾度も振り回す。
右から左へ、前から後ろへ、上から下へ。
だが、どれだけ振り回そうとも飛び掛った初太刀以外に斬り応えが手に伝う事はなかった。
(ちっ、逃げたか!)
すぐさま眼をこすり、先ほど顔に飛び散った粉末を払う。
「土か・・・奴め、土をぶつけたのか・・・」
払った手についた土の感触で、先ほどの粉末の正体を推測する。
そしてようやく開いた眼でそのまま周囲を見渡すと、近くにあった小さな林が目に付いた。
周囲に張コウの姿は見えない。おそらく、そこに逃げ込んだのだろう。
「大した瞬発力だ・・・だが、林とは・・・ふん、己で己の首を絞めたな」
自身の頭に次なる戦略を浮かべ、徐庶は林に向かい歩き出す。
(孔明、士元、待っていろ。すぐに終わらせて、お前たちの元へ行こう。
 お前達と私の絆を引き裂いた愚物・・・それに従う腐った犬を、すぐにバラバラにしてやるかな)
友を心に浮かばせながら。
451忘却の空 6/10:2006/07/29(土) 20:36:44
「・・・僥倖・・・って、言ってもいいのかもな・・・」
林の中心にある一番大きな木に背中をあずけながら、張コウはそう呟いた。
斬鉄剣の斬撃で綺麗な鋭角に先端を吹き飛ばされ、少し束がばらけた竹刀を眺める。
先ほど徐庶が感じた手ごたえは竹刀のもので
張コウ自身は斬鉄剣による攻撃での手負いはない。
(さっきのは、この光か・・・)
懐から懐中電灯を取り出し、先ほどの光の正体に勘付く。
少し気にしてはいたが、光による痛みも体の不具合も見受けられないところから察するに
これはただ光を発するだけのものなのだろう。
それにしても。
(・・・確か徐庶は撃剣の使い手だとは聞いていたが・・・脅威なのは剣の方だな・・・)
切れ味を思い出すだけで冷や汗が頬を伝い、背筋に寒気が走る。
だが、その感覚をどこか心地良いと感じ、笑う自分がいる。
―笑う?―
命を削る凌ぎ合いに、やはりどこか自分も惹かれているのだろうか?
・・・いや、違う。そこから勝った時の・・・なんというのだろうか、充実感、達成感・・・。
生を勝ち取った満足のようなものを、自分は欲しているのだ。たぶん。
(とは言っても、勝てなきゃ話にならないわけだ)
さて、これからどうするか。張コウはしばし思案に耽る。
竹刀であの剣閃を受け流す事はできない。そんなことをすれば竹刀ごと自分は真っ二つだ。
かと言って受けずにかわし続けてもいずれは追いつかれ斬り伏せられる。
憔悴しきっていた顔から、徐庶に疲労が溜まっているのは推測できたが
だからといってマトモにぶつかり合い勝機が見えるかというと、決してそれはない。
(傷を負ったわけでなし、あっちもまだ諦めないだろう。光を照らしてオレを探しに来るか・・・)
そこまで考えた時。
地面を揺るがす雷のような大激音が耳に入った。
452忘却の空 7/10:2006/07/29(土) 20:38:18
「な・・・!?」
木の陰から音のした方向を覗き込む。
さほど遠くない場所で、先ほどまでは天に向かっていたはずの木が倒れている。
「まさか、あいつ・・・」
嫌な予感がして、木の陰から出る。
直後、大きくも心地良い斬撃音とともに倒れた木の近くの木が傾き始めた。
(まさか・・・木を斬ってるのか!?なんでもありかよ・・・あの剣・・・!)
傾いた木がゆっくりと倒れ始める。
そして先ほどと同じ雷のような激音とともに、木は完全に地に伏した。
「二本目で驚き登場か・・・意外と早く出てきたな。まあ、その方が手間が少なくていいんだが」
その木の奥に徐庶は居た。
夜陰の中でも、月光を受け光り輝く刀を手に持ちながら。

「オレが出てこなければ、木を全部切り倒すつもりだったのか?」
「さあな。仮定の話をするつもりはない」
「全部切り倒せる体力なんて、もう残ってないだろ?顔を見ればわかる」
「体力がなくてもやりきれるさ。曹操の犬を殺すためなら、どうってことはない」
「・・・林で剣を振るつもりか。木が邪魔になるだろうぜ?」
「私が木を切り倒したのを見た上でまだそう言えるのなら、お前はただの阿呆だ」
「・・・刃こぼれは・・・」
「いい加減黙れ」
少々の会話の後言葉を打ち切り、張コウに向かい歩き出す。
木を切り倒すのは確かに少々骨が折れたが、今の自分にはどうということはない。
いや、林に逃げ込んで逆に苦境に詰まったのはこの曹操の犬だろう。
ここは平地ではない。木々が動きの邪魔をして、先ほどまでの様に俊敏にかわす事はできない。
動きが鈍った剣閃でも、おそらく攻撃を当てる事はそうそう難しい事ではない。
仮に今度は反撃をしてきたとしても、急所に当たらなければ玩具のような剣など痛くも痒くもない。
「終わりだ」
負ける要素はない―徐庶は勝利を確信し、五歩の距離で剣を上段に構えた。
453忘却の空 8/10:2006/07/29(土) 20:39:37
そしていざ跳躍しようとした瞬間
「今度はお前だッ!」
という張コウの雄叫びとともに、懐中電灯の光が瞳に飛び込んでくる。
(やはりただの阿呆だ!この徐元直様に既知の戦術を使うとは!)
近づいた時見えたが、懐中電灯を手にしていた事からこれが来るのではないかと予想していた。
来るとわかっていれば怯むことはない。視界は眩めこうとも距離も掴んでいる。
(飛び込み振り下ろしで一刀両断!)
なんの怯みもなく跳躍する。そして曹操の犬がいるはずの場所に向かって全力で刀を振り下ろす!
確かな手ごたえあり!

―――の、はずだった。

―――地には着地した。だが、なぜか足に力が入らない。
(おかしい)
―――体躯を斬った感覚はない。それどころか、軽い手ごたえも感じられなかった。
(・・・おかしい)
―――右肩に激痛が走る。何か刃物のようなものを突き刺されたような鋭い、痺れるような痛みが。
(・・・・・・おかしい)
眩めいた眼で徐庶は痛む場所を見る。
玩具の剣が深々と突き刺さり、己の血を外へ押し出している右肩。
そしてその玩具の剣をしっかりと握り締める、真っ二つにしたはずの曹操の犬。
徐庶の眼には、彼にとってある事がおかしいはずのものが二つ、確かに映っている。
「おか・・・しい・・・」
「そう思うか?」
そのまま蹴り飛ばされ、徐庶は勢い良く地面に叩きつけられる。
はずみで視界に入った玩具の剣の先端は、赤く染まりながらも確かに鋭く尖っていた。
454忘却の空 9/10:2006/07/29(土) 20:41:08
「不思議に思うか?だが、こうしてくれたのはお前だ。オレにも予想外の嬉しい偶然だったよ」
・・・自分が?どういうことだ?
虚ろな頭で記憶を反芻する。確か・・・そう、確か思い当たる事と言えば・・・。
「・・・あ・・・」
そして気づいた。
懐中電灯を照らして斬りかかった時、確かにひどく軽い手ごたえを感じた。
指でも切り落としたのかと思ったが、そういえば目の前のこの男は傷一つ負っていない。
(あの時か・・・)
まさか敵に利してしまうとは・・・そんな悔しさと、まさかという驚きが胸中を深く占めた。
「なぜ気づかなんだ・・・そんな簡単な事に・・・」
「疲労と油断・・・だろうな。木を切り倒してオレを見つけた時、勝ちを確信したんだろ?
 剣を上段に構えたのも、跳躍と剣の重さに助けられる振り下ろしが一番楽だから・・・違うか?
 稀代の軍略家、徐元直らしくない失敗だったな」
確かにそうだ。
玩具の剣を持った男を見た時、当たろうとも痛くも痒くもないと確かに慢心していた。
懐中電灯の光を己に向けた時、同じ策を二度使う阿呆と侮っていた。
曹操の犬だと侮り、目の前の男の力など度外視していた。
油断はいつ何時、いかなる時も決してしてはいけないと教わっていたのに。教わっていたのに!
「・・・がっ・・・」
動かない右肩に見切りをつけ、左手に剣を持ち返る。
「だが・・・まだ右腕を奪われただけだ・・・!」
「左腕一本で今までの様には振り回せないだろう。それを狙ったんだ。
 一瞬視界を奪っても、さすがに振り下ろしに真っ向から行けば真っ二つだからな」
わずかに嬉しさと侮蔑を含蓄させるように呟くと、張コウはまた尖った竹刀を構えた。
「だが、次は殺す・・・決して逃がさない。来るなら来い。来ないならこちらから刺す」
その言葉を受け徐庶は立ち上がり、剣を構える。
455忘却の空 10/11
(・・・孔明・・・士元・・・)
懐かしい記憶が頭を過ぎる。過去、大切な友人達と語り合った、かけがえのない過去を。
「孔明・・・!士元・・・!・・・お前たちと会うまで・・・ッ!」
「三度目の正直ってなぁッ!」
叫び、張コウは足元の土を蹴り上げた。眼に入り照準が狂い、徐庶の斬鉄剣は地を斬る。
張コウはすぐ接近し、その地を斬った斬鉄剣の棟を足で押さえつけ
「俺は死なっ・・・」
「死ね」
勢い良く竹刀をノドに突き刺した。
「さよならだ、徐元直」
喉からの返り血を浴びながらそう言い放った張コウの顔には、どこか歪んだ笑みが浮かんでいた。

(さすがに・・・疲れたな)
倒れ伏した徐庶を一瞥し、動かない事を確認すると、途端に緊張の糸が切れた。
そのままどっと疲れが押し寄せ、冷や汗が流れてくる。
もし徐庶の疲労がたまっていなかったら?
もし徐庶が油断せず、軽々に飛び込んでこなかったら?
もし竹刀が皮膚に刺さるほど鋭角に削ぎ取られなかったら?
偶然に偶然、もう一つ偶然が重なった上での勝利だ。もう、奇跡といっていい。
(もう、こんな勝ち方は絶対できないだろうな)
運命に感謝すると、張コウは徐庶が持っていた斬鉄剣を手に取る。
多少血脂が付着し、腰が伸びているのが気に入らないが
先ほどの戦闘で束が完全にばらけ、もう刺さらないだろう竹刀よりははるかにマシだ。
(これじゃもう拷問ぐらいにしか使えそうもないよな、この武器)
軽く竹刀で地面を叩きそれを確認すると、少し離れたところにある徐庶のバッグを手に取る。
(やっぱり備品はこの中に入れたほうがいいな・・・持ち運ぶか)
そう思いながらバッグを手に取り、張コウは徐庶の死体を一瞥し声をかけた。