【6月18日 行軍中】
赤谷城も迫ってきたこの日、上杉軍、正確には景勝と兼続に衝撃の知らせが入る。
上野の碓氷郡、利根郡を中心とした領主が上杉家を頼ってきている、というのだ。
上野は滝川一益の制圧下にあったのだが、先の北条との戦で敗れ伊勢に戻ることとなったらしい。
その折に領主に渡されたものは、『毘』の一文字であった、と領主の使いが訴えた。
景勝「どうする?」
兼続「どうするも、彼の者達は上杉の義を頼っているのです。
見捨てることなど出来ますまい」
景勝「しかし、上野は…」
兼続「事態を後から見ても仕方ありません。これよりどうするか、です。
某に考えがありますゆえ、お任せ頂きたく存じます」
景勝「聞かせよ」
兼続「されば……と言った次第」
景勝「…成功するのか?」
兼続「見立てでは成功すると存じます。我らは救いの手」
景勝「分かった。頼む」
兼続「は」
兼続「元忠!」
春日「はい」
兼続「至急北条家まで行って貰いたい」
春日「用向きは」
兼続「……ということだ。出来るな?」
春日「出来るか、とは何を仰せですか。仕てこい、の間違いでしょう」
兼続「ふふ、そなたならば安心だ。頼んだぞ」
春日「御意」
【春日元忠、小田原城へ向かいます】
(氏直さま、会見しましょう)
>>196 訂正。
小田原に氏直さまはいませんな。どこにいるんだろう?
ともかく、武蔵、川越方面へ向かう、でお願いします。
【天正十年六月二十二日 越後国赤谷城】
母衣武者 「申し上げます! 上杉景勝の軍勢八千、こちらに向かっております」
小田切 「なんと! 新発田殿との約定が違うではないか! どうした事じゃ」
母衣武者 「敵方は、既に葦名様の事を存じて居ったのでございましょう」
小田切 「…何処から漏れ居ったか、是非も無し」
母衣武者 「殿、如何致しましょうや」
小田切 「たわけ! 事ここに至ってはどうにもならぬわ! 景勝に揚北の意地を見せて散るまでよ」
母衣武者 「…御意」
【二十二日午の刻、上杉景勝軍の総攻撃開始】
【赤谷城、虚を衝かれ動転。 新築間も無い城は一日で落城。 城主、小田切三河守自害】
【上杉軍:8000→7000 赤谷城300→0(落城)】
【天正十年六月十日 筑前国秋月城】
書を嗜む種実は、この日も上質の紙に筆で無心に書いていく。
かつて流浪を味わい、浪人の頃に出会った人間がこの栄華を見れば、驚くに違いない。
筑前・豊前・筑後に三十六万石、毛利の力を借りたとは言え、当代きっての器量人であった。
梅雨の湿った空気を掻き分けるように、種実の弟、種冬が転がり込んで来た。
種冬 「兄じゃ! 聞き申したか? 竜造寺家が兵を募り当家に攻め入るとの専らの噂でござりまする」
種実 「ふふっ 戯言を申すな。 我と隆信殿は共に大友に当たる盟友ぞ? 大方、大友の調略であろう」
種冬 「某も左様に思っておりましたが、博多の商人の話では、佐嘉の諸式(物価)が騰がっておる様子」
種実 「…うむぅ 警戒するに越したことは無いか…」
そこへ、早馬からの知らせが舞い込む。 竜造寺隆信、秋月の領内に闖入。
種実 「おのれ、隆信め!! 後背を衝くとは!」
種冬 「兄じゃ、如何致しますか? 大友とは交戦中、兵を裂く余裕はござりませぬ」
種実 「道雪殿に連絡せよ。 我、竜造寺と不倶戴天に成りにけり、昨日の敵は今日の友、
共に竜造寺に当たるべしとな」
種冬 「御意!」
【秋月家、立花道雪に和睦の使者を立てます】六月十一日到着
【秋月家、領内に動員令を敷きます。 常備軍六千 残りは筑前・筑後方面に割り振ります】
【筑前の城方に兵糧・弾薬の補充を開始、宗像・原口等の組下大名に動員勧告】
【6月22日 赤谷城】
景勝「素直に従ってくれれば、みすみす大勢を死なせることもなかったであろうに」
兼続「…」
景勝「小田切始め、討ち死にした者を一緒に葬ってやれ。味方もな。
敵といえども越後の民。戦いぶりは立派であった」
兼続「はい」
景勝「これよりはどこへ向かうか」
兼続「五十公野城、でしょう。しかし積極的に攻め懸けてはなりません。
芦名の輜重、これを手に入れることが肝要」
景勝「では押さえを残すか」
兼続「某が残ります」
景勝「それほど重要か」
兼続「重要です」
景勝「…分かった。頼むぞ」
兼続「すぐに追いつきますゆえ、ゆるりと城を見ていて下さい」
【攻防戦にて戦死した兵を丁重に弔い、墓を立てました】
【翌日、直江1500を除く5500の上杉軍が五十公野城へ向かいます】
【方針としては積極的に交戦しません】
【直江隊は芦名の輜重を待っています】
【天正十年六月十八日 常陸国太田城】
義重は岡本禅哲の帰りを首を長くして待っていた。
禅哲 「ただいま戻りましてございます」
義重 「待っておったぞ、して首尾は」
種冬 「同盟につては快く受けていただけました、しかし里見家はなにやら家中がごたごたしているようで、
しばらくは兵が出せぬとのことでした。」
種実 「そうか、まあ良いこちらも結城殿と宇都宮殿が合力を申し出てくれた。
外から攻められる心配がないだけでもよしとしよう。」
「皆に兵を集めるようにつたえてくれ。まず国を平らげよう。」
種実 「殿、いよいよですな!」
種冬 「うむ、関八州は、関東武士のものだからな、北条に負けるわけにはいかん」
【佐竹家、領内に動員令を敷きます。 8000人】
【臣従大名である、多賀谷政経に動員令を出します1800人】
【六月二十日 厩橋城】
南上野が北条に帰して間もないこの日、予想外の人物が氏直に会見を求めてきた。
氏直「春日殿…と申されたな。景勝殿が一体私に何の御用ですかな?」
春日「は。その前に此度の一戦の勝利、祝着でございまする。」
氏直「そう言って頂けるのは嬉しいが、今の貴家と北条家の間柄、知らぬわけではありますまい。
春日「…。」
氏直「用件を申されよ。」
【上杉殿、続きをどうぞ】