ドラえもんのび太の三国志〜第2巻〜

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第119回
 斐妹は腰をかがめ、郭嘉の顔に自分の顔を寄せ、もう一度尋ねた。
「ドラちゃんたちを殺す、と?」
 郭嘉は斐妹の顔を見た。
 美しい、しかし、表情のない斐妹の顔。
 自分が愛した、あの弾けるような笑顔は、二度と自分に向けられることはないのだろう。
 それは予想というより、確信だった。
 しかし、郭嘉は諦め切れなかった。
 まだ道はあるはずだ。何とかこの場を取り成すのだ。
 そうすれば、例え時間がかかったにしても、斐妹はきっとまた、自分の媒酌に付き合ってくれるはず。
 あの笑顔を見せてくれるはず。
「なあ、斐妹よ。聞いてく……」
 郭嘉の言葉は、途中で途切れた。
 彼の首に、冷たい何かが当てられている。
 懐剣だと気付くのに、若干時間がかかった。
 冷たいだけではない。ヌルリとした感触もある。
 血だ。
「斐妹……」
 ため息をついて、郭嘉は言った。
「その懐剣で………蔡瑁を亡き者としたか?」
 斐妹はその問いには答えなかった。
 それが答えだった。
「そして、今度はわしを亡き者とするか?」

 斐妹が懐剣を抜いたのは、おそらく無意識のものだったのだろう。
 郭嘉を殺す。自分が。
 郭嘉の言葉に初めてその可能性に気付いたのか、斐妹は動揺したように言った。
「約束してください。ドラちゃんたちは殺さないって。約束してくれれば……あっ!」
 斐妹の動揺を見逃す郭嘉ではなかった。
 素早く懐剣を払いのけると、そのまま斐妹に飛び掛かった。


 無我夢中で斐妹は―しずかは―抵抗した。

 郭嘉。
 大きな夢をしずかに聞かせてくれた男。
 その横顔を見て、まぶしい、と思った男。
 自分の仲間を殺そうとした男。
 そして、今自分に襲い掛かっている男。
 すべて同一人物。曹操軍筆頭軍師・郭嘉、字は奉孝。

 激しいもみ合いは、ほどなく終わった。
 赤黒いものが、床にじわーっと広がっていく。

 立ち上がったのは、しずか。
 右手に握られた懐剣は、郭嘉の血で鈍い光を放っている。


 斐妹≠ヘ、曹操軍陣営からその姿を消した。
第120回
 蔡瑁はまだしも、自身の片腕と見込んでいた郭嘉を殺された曹操の怒りは、尋常なものではなかった。
 徹底した下手人捜しが行われ、ほどなく郭嘉の召し使いが姿を消していることが明らかになった。
 もちろん、出木杉はその関与を疑われた。
 出木杉がその召し使いと恋文を交換していたことは、曹操の耳にも入っていた。
 しかし、ほどなく出木杉は放免となる。
 召し使いと交わされた数通の手紙には、二人が内通していることを示すものは一切なかった。
 アリバイもあった。
 郭嘉が殺されたのは、出木杉が昼間の調練に疲れてぐっすり眠っている間の出来事。
 出木杉の従兵も、出木杉は寝台で寝息を立てていた、と証言した。

 放免されたとはいえ、出木杉が受けたショックは大きかった。
 自分があんなことを言わなければ、しずかが人を殺すことなどなかったはず。
 しずかを殺人者としてしまったことに、出木杉は自責の念にかられていた。
 襄陽退却戦の折り、しずかが夏侯恩を殺したことを、出木杉は知らない。
 その後、わずかな金を得るために、もう1人の男を殺したことも。
 
 郭嘉は病死として扱われた。
 筆頭軍師が名もない女細作に殺されたとあっては、郭嘉の名誉に傷がつく。
 曹操はそう考えたらしかった。
 後に曹操は、荀ケに宛てた手紙の中で、郭嘉を失った悲哀を綴っている。

  奉孝こそがすなわち我を知るものなり
  天下にあい知るものは少なく、以ってこれを痛惜す
  如何にすべし
  如何にすべし

 その内容を伝え聞いた時、出木杉が抱いた心情は「嫉妬」だった。
 郭嘉はそれほどまでに曹操の信頼を得ていた。
 死んだ郭嘉を、出木杉は「羨ましい」と思った。
>>574
こういう次第でした
チャンチャン(w
610無名武将@お腹せっぷく:02/07/10 22:49
>>610
何勝手に殺してるの?
出木杉風情を、郭嘉がうらやむはずはねーだろ。
文才無いやつが先人侮辱するのいい加減やめろ。
文才無い云々はどうでもいいが、先人侮辱反対には同意。
>>610
ネタ?
先人侮辱に関しては…このスレのみならずゲーム及び演義を含む小説も
含まれるので何ともいえんが。
まぁ、一種のネタスレとして十分成り立つスレなので寛大な心で勘弁すべきかと。

このスレを楽しんでる人、お騒がせしました。マターリ流してください。
610、611もマターリ寛大な心で勘弁。
614君主・呂砲 ◆WFnCXgeU :02/07/10 23:21
>>610

( ´,_ゝ`)プッ
>610
おまえホント文才ないな!「出木杉風情を、郭嘉がうらやむはずはねーだろ。」だと?
どこにそんな描写があるんだよ、能無しが!
>>613
同意
>>610>>611
じゃなんでこのスレに来てんだ?
617無名武将@お腹せっぷく:02/07/10 23:51
必死さがにじみ出てるな。
ここの住人は惨めだな。
>>617
今度は文章に変な部分がなかったよ
良かったね
>>616
>>611に対してのレスとして変じゃないか?
>>618
煽るのはやめれ

てか皆さげろ。あげるから荒らされたりするんだろ。
620616:02/07/11 00:39
>>619
?
俺は>>613
>一種のネタスレとして十分成り立つスレなので寛大な心で勘弁すべきかと。
に同意し、その上で>>611に対して
>なんでこのスレに来てんだ?
とレスしたんだが・・・
621自治マニア ◆srGaGbT2 :02/07/11 11:36
論争はここまで。以後、悪意を感じる遠慮なき批判は無視して可。
622連ドラ ◆Am7DdtsA :02/07/11 14:35
「ち 貂蝉――――!!!」
ジャイアンが悲痛な声をあげた。
自分の数メートル先には貂蝉が血を流して倒れている。
計画を念入りに練った貂蝉のこと、きっと自分が死なない方法を考えていたものばかりと思っていた。
しかし、相手は董卓。腐っても董卓。暴虐の限りを尽くした董卓。一筋縄ではいかなかった。
貂蝉がジャイアンを連れてきたのは、理由がある。例え自分が殺したところで女がやったというだけで誰も信じてはくれないだろう。
だから、ジャイアンを連れてきた。ジャイアン(呂布)が董卓を殺したと言う事実を残せばよいのだ。
自分の手で董卓を殺せばそれでよし、また討ち損じても猛将呂布がいるのだから彼が討つ。
どう転んでも結果は同じになるはずだった。
…そう、自分が死ぬことを除いてしまえば…。
ジャイアンは無意識の内に剣を抜き放ち、董卓の方へ走っていった。
「このよくも貂蝉を――――!!!」
怒りの声に混じり、声が少し震えた。この世界にきて初めて自分に心を開いてくれた人を…たった数日だけど心休まる日が送ることができた人…。
そして自分が初めて愛した人を…。
許せなかった。そんな大事な人を手にかけた事が…ただ董卓が許せなかった。
「小僧!貴様もかあ―――!!」
座臥(ベット)に腰掛け、左手で目を覆い隠した董卓が吼えた。
「うおおおおーーー!」
ジャイアンは力に任せ董卓の右袈裟に斬りかかった。
「うおッ!?」
とっさに董卓は左腕でガードする。
ボドッ
女の胴ほどある腕が床に転げ落ちる。
斬られた個所から血が勢いよく吹き出る。
ジャイアンは一撃目で仕留められない事がわかると右側に体を沈め、董卓のみぞおちを狙い突きを繰り出す。
「くたばれ―――董卓―――――!!!!」
「このビチグソがあぁああぁ―――!!」
董卓は貂蝉から奪った懐剣で横薙ぎに斬ろうとした。
が、一瞬董卓の視界からジャイアンの姿が消えた。
「な…」
それ以上は声にならなかった。
ジャイアンは董卓のみぞおちに剣を突き立てると力任せに董卓ごと座臥に突き刺した。
剣で体を固定され、董卓はもがいた。もはや剣の柄の部分しか出ていない。
その無防備な董卓にジャイアンは馬乗りになった。
魔王と呼ばれ畏れうやまれた董卓もこのときばかりは恐怖の色を隠しきれなかった。
623連ドラ ◆Am7DdtsA :02/07/11 14:36
――ほんの数分後。ジャイアンは体中返り血を浴びて真っ赤になっていた。
肩で息をし、自分に言い聞かせるようになにやらブツブツ言っていた。
足元にはもはや原型を留めてない、それがついさっきまで人間だったものとは思えない―――董卓が横たわっていた。
これほどの惨事があったとは思えないほどの静寂が辺りを支配していた。
「…け…し…さま…」
消え入るような声がジャイアンの耳に届いた。
「貂蝉!?貂蝉かッ!?」
ジャイアンは急いで貂蝉の元に駆けより、そっと抱き起こした。
「よかった…たけしさま…ご無事で…」
貂蝉は蚊の鳴くような声でジャイアンに話かけた。
「ばッバカッ!しゃ 喋るんじゃねえ!」
ジャイアンは貂蝉を気遣い声をかけた。
ジャイアンは貂蝉と仲良くなったため、本名を教えていたのだ。しかし周りにばれるとマズイので本名で呼ぶのは2人きりの時だけにしていた。
そんなジャイアンの不器用な気遣いにも貂蝉は力なく首を横に振った。
「たけしさま…貂蝉は…あまり…長くないようで…ございます…」
あきらめるような貂蝉の告白にジャイアンはショックをうけた。
涙を流しながらジャイアンは少しでも希望をもてるようにいった。
「なに言ってんだよ!前にもはなしたろ?ドラえもんだよ!ドラえもん!あいつならきっとお医者さん鞄でなおしてくれるよ!」
「いいえ…たけしさま…自分の体のことは…自分が一番…わかります…かはッ!」
一気に長く喋ったのか貂蝉の口から血が噴き出た。
「貂蝉、貂蝉貂蝉―――!」
ただジャイアンはおろおろするばかり。そんなジャイアンを貂蝉は諭した。
「いいですか…たけしさま…天下人である呂布奉先…いや剛田たけしは…このようなことで動揺しては…なりません…最後まで…あきらめては…いけません…」
「わかった!わかったから!もう喋るな!」
ジャイアンの顔は涙と鼻水にまみれ、かなりだらしない顔になっていた。
「たけしさま…そんな顔をしてはなりません…わたくし…たけしさまの笑顔が…見とうございます…」
貂蝉は腕を伸ばし、着物の袖でジャイアンの顔を拭った。ジャイアンはその手をしっかりと握った。
「あ…ああ…すまないな…」
ジャイアンは右手で顔をゴシゴシこすると泣き出したい気持ちを抑え貂蝉のほうを見やった。
貂蝉の顔はとても幸せそうな顔をしていた。
しかし、彼女が動くことはもう無かった。
「貂蝉?どうしたんだよ?なんで目開けてくんないんだよ?貂蝉?一緒に天下獲るんだろ?未来に行くんだろ?貂蝉?」
ジャイアンは貂蝉の体を揺さぶるが彼女は力なく揺れるだけ。
「〜〜〜〜貂蝉――――――――――――――――!!!!!」
悲しい叫び声が深夜の都に響いた。
624連ドラ ◆Am7DdtsA :02/07/11 14:37
ジャイアンは貂蝉を手近な布で包み辺りを見回した。
ここもそろそろ危ない。早いところ退散しなければ…。
かといってこのまま貂蝉を置いていくわけにはいかない。
キョロキョロ見回すジャイアンの目に一本の剣が目に止まった。
董卓を暗殺する際に貂蝉が用いた剣である。
これは貂蝉の形見にしよう。そうジャイアンは思い肌身離さず持つことにした。

なんとか他人にみつかることなく赤兎馬の厩舎の前まできた。
深夜なので誰もいない。赤兎を連れ出すなら今の内。

「赤兎…大変かもしんないが頼むぞ…」
ジャイアンは赤兎の顔をはたくと赤兎は
『まかせろ!旦那!』
みたいな感じで軽くいなないた。
「ではいくぞ!」

呂布 董卓を暗殺し、流浪の身となる。次の朝、都が大騒ぎになったのはいうまでもない。
この後漢末期の太師暗殺するという騒動を起こした人物は。
歴史には名も残さないような少女 貂蝉16歳
1800年後から来た未来人 剛田たけし このとき19歳
彼の末路は…
625無名武将@お腹せっぷく:02/07/11 21:07
>>621
お前に指示されるいわれは無いな。
自治はあってなきものよ。
>>610-625
は全て連ドラの自作自演と言う罠w
627連ドラ ◆Am7DdtsA :02/07/12 22:14
>>622>>624までは自作自演だよ 藁
誰かに煽られる前に。

連ドラさん、それは自作自演とは言いませんぞ(w
629無名武将@お腹せっぷく:02/07/14 05:44
age
630無名武将@お腹せっぷく:02/07/15 16:08
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631無名武将@お腹せっぷく:02/07/15 21:26
age
sage
「着ているもの以外をすべて置いて、この村から出てゆけ」
老人はそう言った。 どうやらこの村の長のようだ。

「なんで?」
と出木杉は聞く。
「金がいるのじゃ」
「なんでって、聞いているんだけど・・・」
「知らんほうがよいことが世の中にはたくさんある、これはその一つじゃ」


そんなやりとりの中、管亥は席を立った、
囲んでいた男らが座るように言ってきたが睨んで黙らせると、店の奥へ行き今度はまっとうな酒を持ってきた。
店のカウンターのようなところに腰をかけながら 老人と出木杉のやりとりを肴にし。酒を飲む。


出木杉はなにもいわずただ。老人が話してくれるのを待っている。

やがて老人が根気負けをした。
「知ってもいいが、口外せぬと約束せねば・・・」
約束する、と出木杉は言った。



老人は出木杉に説明を始めた。

この村に、1年ほど前から賊が来るようになった。
その賊はこう言った。
”俺たちがお前等をほかの賊から守ってやる、そのかわり毎月金と食い物をよこせ” と。
”もし断ったり、役人に報告したり、毎月の金や食い物をよこさなかったらお前等は皆殺しにされる”とも。
もちろんこの脅迫を拒否できるわけが無い、この村はそれを泣く泣くうけいれた。

数ヵ月後、村の蓄えがなくなった。
足りない食料や金を補うべく村の若い娘などを替わりに差し出したりして、しのいでいた。

辛い生活が続く中、ひとりの村の男が賊にやめろと懇願しにいった。
そしてその男は、今も村の広場に吊られている。
そして”もしもこんなバカなことをまたいいに来たら、そいつだけじゃなくその隣の家の奴も殺す”という言葉を体に刻まれていた。
それを見たわしらは逆らう気をなくした。

話し終わった後、老人はため息をついた。
「さあ、わかったなら金を置いていけ、命はいらん」
「いやです」
物分りの悪い・・・そうつぶやきながら老人は、管亥のほうを向く。
「そこの男・・・酒を飲んでるあんたじゃ」
管亥は酒の入ったひしゃくから口を離す、そしてその中でゆらめく酒を眺めながら答えた。
「・・・なんだ」
「金を置いていけ、それ以上は望まん」

「ふむ・・・出木杉は・・・・」
管亥は首を傾け、こきり、と鳴らす。
「・・・出木杉は何と言った?」
「この少年のことか、 少年は金は出さんといった」
「じゃあ・・・出さん」
「何をいっておる、若造の言うことなどどうでもいいんじゃ、はよう金を置いて・・・」
「やかましい!」
老人そして周りを囲む村人らは全員体をビクッと揺らした。

「俺は出木杉の生き様を見届ける、もしも俺がこいつの生き様に口を挟んだら、その時点でそれは出木杉の生き様ではない」
ひしゃくの酒を飲み管亥は続ける。
「出木杉に聞け、それ以上もそれ以下もない」
それを聞く村人に声は無い。 静寂を破る老人の声。それはまた出木杉に向けられる。
「金を出せ」
「・・・・・・・」
「この村のことを聞いていただろう? 金を出すんだ」
「ことわる」
「・・・・・やむおえんな」

老人は周りのみんなに目配せをする、 囲んでいた村人がじりじりと管亥に、そして出木杉に近づいていく。
やがて二人の喉元に、何本もの木を削っただけの槍、そして切れ味の悪そうな剣を突きつける。
「さあ、金を置いていけ! 死にたくなければな!」
出木杉は目をかっと開いた、
「ことわる! 賊にやる金なんて僕はもってはいない!」
その言葉を聞いた村人の一人が叫ぶように言う。
「・・・このガキ! ぶっ殺してやる!!」

喉元の武器が二人をつらぬくと思われたそのとき、
「待つのじゃ!」
という声が皆を止めた、またもや老人である。
「賊に渡す金は無いといまいうたな」
「言ったよ」
出木杉はうなずきながら、そしてややぶっきらぼうに言う。
「確かに、この金は賊に渡す。 しかしこれは我々が生きるためのものだ、仕方の無いことだと思わんか」
「・・・・・・・・」
「我々が生きるためなのだ、金がいるのだ」
老人が悲壮な声をあげる。

しばらくの沈黙の後、出木杉は皆に聞こえるように大声で、そして凛とした声で言った。
「賊に渡す金は無い! あなた方にも渡す金は無い!」
その声を聞き、ため息をつくと老人は、 村人に”殺せ”という合図を送る、
先ほどの合図は威嚇、しかし今度は本気で殺すための合図である。
殺気の満ちたこの状況で、出木杉はただ一言、先ほどの言葉の続きを述べた。

「なぜなら、あなた方が賊だから」

「・・・!!」 
村人は、武器にこめた力を抜いた。 ざわざわとした言葉があたりを駆け巡る。
あたりを見回した老人は出木杉に、大声で問う。
「我々が賊じゃと! なにをいうか!!」
「こんな武器を僕らに突きつけといて、何をいっているのか・・・・」
「それは・・・やつらに渡す金のため、しかたなくやっているのじゃ」
「しかたなく、ねえ」
「そうしなければ我々は死んでしまうんじゃ」
「同じだよ、同じ」
「何がじゃ、いうてみよ!」

「それはここを襲う賊もそうなんじゃないの そうしなければ死んでしまう、っていうのは。
 生きるために仕方なく、聞こえはいいけどやっていることは賊と一緒だよ」



出木杉の発言後、武器が地面に落ちる音が店に響いた。
636無名武将@お腹せっぷく:02/07/16 22:40
age
漢はだまってsage保全!
638sage:02/07/18 09:14
保全マリオ
639しずか連環 ◆lysLIIeg :02/07/19 00:46
のびすぎ・二十九
「で、なんで荊州いこうとおもってたの?」
のび太は気を取り直して質問を変えた。
「前兄に聞いただろう?司馬徽先生に教えを請うためさ」
「司馬徽ってだれ?」
諸葛亮は忌々しそうに溜息をつくと。
「あのお方は水鏡とも呼ばれている、人物を澄み透った水面に映したように見通す眼力を持っていると
言われているほど人物鑑定に優れているんだ。水鏡先生は弟子の教育をなさっていてその門下も
先生の教えで一角の人物になれるという」
へえ、といまいちよく解らないながらのび太はうなずく。
「そっちこそ何で荊州に行こうとしてたんだよ」
今度は亮が質問してきた。
「だからさ、出木杉がいってたんで、僕は何故だか知らないんだよ」
「ふん、そういやあの出木杉というのはどんな人なんだ?」

顔よし、頭よし、性格よくてスポーツ万能。
のび太は出木杉の美点を思いつくまま列挙した、と言うより美点しか浮かばないのだが
それが少しだけのび太の自尊心をうずかせるが、根があっけらかんとしたのび太は左程気には
していないようだった。
しかし亮には大いに競争心をくすぐられるらしい、単福のたまに見せる才覚にも反応するぐらいだから
この少年は余程自意識が強いのだろう。
亮は早速出木杉を「好敵手」と認識したようである。
「じゃあ、彼も司馬徽先生に教えを請うつもりでいたんだろうか・…」
と一人言めいた口調でいった。
「けどさ、そんなに勉強してどうするつもりなの、テストがあるわけでもなし」
のび太の頓珍漢な質問は無視して。
「これからの時代は荒れていきこそすれ、安泰になる事は無いだろう。何らかの実力、武か智、
これがなきゃあ到底わたっていけるもんじゃない。それにまして乱世ともなれば、覇を唱えんとするもの
は才人を誰もが欲しがるだろう、いまこそ世に名を知らしめる好機さ」
いつもの冷笑的な顔つきと違い亮は目を爛々と輝かせ、白皙の顔を上気させ鼻息荒く語っていた。
のび太とそう歳の変わらないこの少年の中に、功名心が溢れ返らんばかりに燃え滾っている。
こんな熱気ある亮を見るのは初めてだ、とのび太は思った。
640しずか連環 ◆lysLIIeg :02/07/19 00:48
のびすぎ・三十
亮いわく、今のこの中原で一番覇者たり得んとするのは曹孟徳、即ち曹操であると。
「曹操!?」
のび太は声をあげた。のび太の漫画による偏ったそしてあやふやな知識のなかでは曹操とは、
三国志一の極悪人、冷酷非道の奸賊だった。対する劉備が正義の味方、そんなある意味ステロタイプな
三国志観しか持ち合わせていなかったので意外としか思えなかった。
しかし興奮した亮にはのび太の驚きも感知せず。
「たしかに曹操はまだ一介の豪者に過ぎないだろうけど、反董での采配は総大将の袁紹でさえも
色あせる程だったよ。それに連合軍が内部分裂でごたごたしている中、ただ一軍率いるのみで董卓を
追撃していった所なんかも、無謀を越えたものがあるように思うんだ」
なんとも熱烈な賛辞である。
彼に言わせれば一大派閥を擁する袁紹、袁術は単なるボンボン。江東の虎孫堅は田舎の荒くれ。
劉備に至ってはやさぐれた雇われ武将で、その他大勢は一緒くたにどうでもいいという。
ここまで来ると信者の域である。
子供は一度は何かに猛烈に打ち込むと言うが、そんな若さの成せるわざか。
「だから、ぼくは曹操の片腕となって覇を唱え、この中原の鹿を追うんだ」
そんな亮の言葉は、確かにこましゃくれてはいるが、子供のそれだとも言えよう。

「しかしすごいね、虎牢関ってとこの戦いのそんなくわしいことまで何で知ってるの」
分かれ道で、のび太は亮の熱情に気圧されながらも、じつはよくわかっていないようでそんな質問をした。
「簡単だよ、そこにいたからさ」
そう云って、亮は別れた。
子供の利点か、彼は連合軍陣中をちょこちょこ動き回っては断片的ながら情報を集め、危険区域
すれすれに数々の合戦を眺めていたのだった。
―そういえば・…
亮はある奇妙な光景を思い出した、董卓の遷都のとき、彼はあるものをみたのだ。
―敷布のような四角いもののうえに、人みたいなのが乗ってたような・…
それがのび太たちの乗っていたタイムマシンであろうとは、その時亮には知る由も無い。
sage保全
怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅
怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅ぁぁ━━━━━!!!
sage 保全
643無名武将@お腹せっぷく:02/07/21 21:57
age
荒れてるねこのスレ。職人さんの三国志面白いけど。
sage保全
645しずか連環 ◆lysLIIeg :02/07/23 00:25
のびすぎ・三十一
買い物が一段落して、のび太は生活用品やら薬草やらが詰まった荷物を抱えてヒイコラ帰ってきた。
均と水を汲んでいた華佗の奥さんが出迎えた。
奥さん(斉という)に水を薦められ、飲むと生き返った気分になった。
「ごめんなさいね、こんな大変なことお願いしちゃって。私は女だし、主人もあのとおりの歳ですから」
「いいんです、僕すんごいお世話になったから、こんなのへいちゃらです」
と言いつつものび太の足は筋肉痛でがくがくしていた。
家の中から陽気な笑い声が聞こえる、華佗と単福が酒盛りをしているのだ。
二人は何が無くても酒ばかり飲んでいた、飲んでる途中で患者を診ることすらしばしばであった。
一日に酒壺数個を飲み干してしまうと言うのに、単福は全く顔色を変えず、華佗も老人だというのに陽気には
なるがつぶれたりはしない。全くのび太たちは呆れるほかは無い。
―ほんとは力のある単福さんにもやってもらいたいんだけど・…あの人は恩人だから
それにまさか小さな均にさせる訳にもいかず、こうなると何もせずぷらぷらしている亮が恨めしくなってくる。
結局は自分がやる羽目になるのだが、不思議といつものような不平不満がのび太の口からは出てこなかった。

「出木杉」
「やあ、買い物いってきたのかい?」
のび太が声をかけると、横になっていた出木杉は上体を起した。
大分やつれてはいるが、通常の会話をするに支障がない状態にまでになっていた。
彼が目覚めて後、のび太は今までのいきさつを話した。
単福が賊を退治した事、諸葛瑾兄弟と出会った事、華佗に怪我を治してもらった事。
出木杉はすぐに単福は徐庶の仮名であることに気付いた、だが、徐庶がある犯罪に関わる事情のため
名を変えている事を知っていたので何も言わなかった。諸葛兄弟についても彼らが歴史の表舞台に立つ
のはもっと後の事であるため、また何も言う事は無かった。
ただ、華佗についてだけは「あなたが噂に聞く名医の華佗先生ですか」というに留めた。

「いやーつかれた、あんな重いい荷物とは思わなかったよ」
「頑張ってるね、僕も元気になれば手伝えるんだけど・…」
「何言ってんの、出木杉の治療代としてやってるんだから出木杉が回復したら終わりだよ。それにそんな
ことを考えないで元気になるよう休まなきゃ」
とのび太は胸を張っていった。
成長したな、と出木杉は思う。あれからのび太は目に見えて逞しくなっていた。弱音を吐いてばかりで
べそをかいていたあの時とは殆ど違う。出木杉を助けるためにここまで頑張ったことに出木杉は心底
感謝したかった。
そうして二人はしばらく談笑した。
646しずか連環 ◆lysLIIeg :02/07/23 00:28
のびすぎ・三十二
均が外へ駆け出していった、亮が帰ってきたという。
のび太は、掃除があるので出木杉のもとを離れた。
すると均一人がはいってきた、亮ではなかったのか妙な表情をしている。
「なんか、おっかないおじちゃん達がきた」
と言った直後、外から。
「お頼み申す!お頼み申す!」
と鼓膜が破れんばかりの大音声が響き渡った。
斉が慌てて出て行く、のび太もその後についていった。

それを見たときのび太はアッと声を上げずにはいられなかった。
そこには三人の男がいた、一人を両側の二人が抱え込むようにして立っている。
三人とも筋骨隆々とした威風堂々たる大丈夫であった、が驚いたのはその為では無かった。
右側にはぎょろりとした目玉に顔中刺のような髭がびっしりと生えた男。
左側には赤ら顔に切れ長の目、そして胸の辺りまで伸びた髭を持つ男。
―関羽と張飛だ!
見間違う筈はない、漫画で読んで網膜に焼きついた特徴を兼ね備えたものが目の前にいるのだ。
と言う事は中央で青い顔をしている少し耳の大きい男は劉備その人であろう。
劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳。
彼らの義侠と大儀、そしてその雄姿にのび太は憧れ、この時代へ来る発端となった。
のび太は感激で震えが来た、だが。

彼らの様子は尋常ではなかった。先ず劉備が傍目にも具合が悪そうで今にも其の場に崩れ落ちそうだった。
それを支える両者も切羽詰った表情をしている。
「こちらに医者の華佗老師がおられると聞いたが」
関羽がただならぬ調子の声で言う。
「はい、そうでございますが」
「ではお頼み申す、わが大哥がこのとおり病にかかっておられる故、診て頂きたい。御免」
と言ってのしのしと中に入ろうとする。斉は慌てて。
「申し訳ございません、唯今主人は立てこんでおりまして・…」
確かにほろ酔い気分になっている状態で応対すれば、気の立っている彼らに機嫌を悪くさせる事にもなりかねない。
「何ぃ!こっちは火急の用件なんだぞ!!ふざけた事抜かしてねえで出しやがれ!」
張飛が大口から唾を飛ばしながら獣のような声で怒鳴りつける、その声はのび太一同震え上がらせるに十分だった。

「止めぬか翼徳」
関羽が張飛を抑える、しかし彼自身も眼光鋭く斉を睨みつけると。
「無理はお察し申せども、此方とてそう悠長な事を言ってはおれぬのです。何卒先生をお願いいたす」
言葉は丁重だが、最早一刻も猶予ならぬという気概がひしひしと込められていて、斉はたじたじとなった。
のび太もさっきまでの感動は引っ込んで、彼らの剣幕の凄さにちびりそうになっていた。
均も怯えてのび太の後ろに隠れて様子を窺っている。
「何とか言えッてんだよ!」
斉が黙っているのに痺れを切らして張飛がまた吠える。
そうしてその場の緊張が頂点に達したとき。
「ぐえーっふ、何じゃ騒がしい。家がみしみし音立てとるぞ」
げっぷの音と共に当の華佗が単福をつれて現れた。
翌日、出木杉と管亥、そして数人の村人は、賊の住むねぐらへ向かうべく歩いている。
村人は全部で十名、みんなそれぞれ車を引いており、その車には酒の入ったかめが乗せられていた。
十の車に十のかめ。 そして出木杉と管亥は徒歩であった。

賊の住処と村の間には広大な森があり、それをつなぐ一本の小道(と、言っても幅10メートルはあるのだが)があり、彼等はそこを進んでいるのだ。

数時間歩く、村人に出木杉は聞いた。
「目的地へはあとどのくらいですか?」
「へぇ、あとしばらく行けばやつらの見張り小屋があります、そこからまたちょっといったところです」 
それを聞き、出木杉は自分のあごをさすりながらいう。
「見張り小屋へはもうすぐか・・・じゃあ、そろそろいいかな」
そういうと、出木杉は村人の一人が押す車の車輪をおもいきり蹴りつけた、
がつっという音がした。車輪はへこみ、かろうじて動くことができるような物体になる。
「あ、なにするんですか!」
「まぁまぁ、心配しないでいいから、予定どおりだよ」
「動きませんぜ、こりゃあ」
「そこの見張り小屋まででいいから、運んで欲しいんだ」
「はぁ・・・わかりました」

壊れた車輪のせいで進むペースは落ちている、 
時間をかけ、やがて見張り小屋のそばまでたどり着いた。見張り小屋というよりも検問のような雰囲気である。
「なんじゃお前等は?」
いかにもあたまの悪そうな男が小屋から出てくる。 村人、そして出木杉、管亥をいぶかしげに見た。
「えー、話せば長くなりますが、私、出木杉とこちらの管亥をあなたがたの仲間に入れて欲しいと思いここまで来ました」
「はぁー仲間かい、そいつはここの何儀の親分に会って話せばいい。 ところで・・・」
「なんです?」
「そこのかめに入っているのはなんだ?」
「ああ、これは酒です。 ここの頭領にわたす手土産です」
夏が近いせいか喉が乾いているのだろう、酒と聞き、ほかにも小屋の中からぞろぞろと賊の男どもが出てくる。

すると唐突に管亥がかめのなかの酒を飲みだした。
「こら、なにをしている!」
出木杉は烈火のごとく管亥を怒った。 それに対して管亥はいう。
「しかし・・・、このかめを運んでる車の車輪がもうダメになってる、これじゃ運ぶことは無理でしょうだから飲んで・・・」
「バカ! 自分でご進物を飲むやつがあるか! まったく・・・」
出木杉は照れ笑いしながら賊のほうを向き直る
「すいませんが、このかめをしばらく置かせてくれませんか、またあとで村人頼み、頭領へ持って行かせますので」
「むぅ、それはかまわんが・・・」
と、いいながらよだれをたらす賊の男ども。 心の底から飲みたいと思っているのだろう。

管亥が軽いノリで口を挟む
「いやぁ、どうせならここに置いたままにしましょうや」
「何を言うか、何(何儀)頭領に渡す大切な酒だぞ!」
「酒があったら飲んでしまう、それが男心でしょう、
 ここの一かめを彼らに渡してあげませんか」
「いいや、だめだ!」
「村人が行って戻ってくる間に、酒なんてきっとなくなってますよきっと」
「むぅ・・・」
「村人もこう、何度も往復させるのは大変でしょうしな」
「ふむ・・・おまえのいうことにも一理あるかも知れん」

そんなこんなで酒の入ったかめを一つ見張り小屋に渡し、出木杉一行は賊の頭領、何儀に会うべくさらに歩むのであった。
649無名武将@お腹せっぷく:02/07/23 04:44
                      
650無名武将@お腹せっぷく:02/07/24 02:05
呉蘭を御覧
651無名武将@お腹せっぷく:02/07/24 02:09
杜預ってどーよ
hosyu
容量からいってそろそろ次スレを立てた方が宜しいかと。
>>608
第121回
 ジャイアンは左手に槍、右手に握り飯を握って、街道を東へ進んでいる。
 握り飯は曹操軍の雑兵から奪い取ったもの。
 長板橋の戦い以降、ジャイアンは大部隊の曹操軍を見つけたら隠れ、少数の部隊を見つけたら食料目当てに襲う、ということを繰り返している。
 握り飯を食べ終わったジャイアンは、汚れた手を甲冑で拭く。
 そして無意識に、すっかり伸びた自分の髪の毛を結んでいる紐状のもの―的盧のたてがみ―に触れた。

 的盧を失ったことは、今でも心が痛む。
 劉備から授かってわずか1日の短い付き合いだったが、その間、ジャイアンと的盧は間違いなく相棒≠セった。
 のび太たちが曲がりなりにも曹操軍の追撃から逃れることができたのも、そしてその後ジャイアンが敵中を突破できたのも、すべては的盧の俊足のおかげだった。
 「乗り手に災いをもたらす凶相の馬」
 そう評されたこともある白い駿馬は、そんな風評を嘲笑うかのように戦場を駆け、傷つき、ジャイアンの懐剣によってその生涯を終えた。

 どれだけ悔やんでも、今の状況を改善する力にはならない。
 それに、後悔することは性に合わない。
 だが、的盧のことは一生忘れない。
 彼の髪の毛を結ぶ白いたてがみは、そんな自分への誓いだ。
 的盧は凶馬ではなかった。素晴らしい軍馬≠セった。
―いつか劉備将軍に伝えよう
 ジャイアンはそう思っている。
第122回
 ジャイアンが目指す地は紫桑。
 ここには、呉の大都督・周瑜を総大将とする大船団が舳先を並べている。
 もっとも周瑜に用があるわけではない。
 この地には、のび太、スネ夫、そしてドラえもんがいる(食料を奪った曹操軍の将校から聞き出した)。
 早いうちに連中と合流しよう。
 とりあえず、自身の命の心配をするような状況ではないものの、今後自分がどのような行動を取るべきなのか、まったくわからない。
 とはいえ、曹操軍大部隊を見かけては隠れ、さらには馬のない徒歩行とあって、その移動速度は遅い。
―早くしないと、赤壁の戦いが始まっちまうかも
 出木杉の巧みな話術で心踊らせた世紀の戦いは、目前に迫っている。
 なんとしてもこの目で見てみたい。
 いや、参加したい。
―そして、俺が曹操を倒すんだ
 ジャイアンが出木杉から聞いた「三国志」の話は、赤壁の戦いまで。
 さらに付け加えると、曹操がその戦いに生き延びたことをジャイアンは知らない。

 蹄の音を耳にし、隠れる場所を探しかけ、やめた。
 音から察するに、馬は1頭だけ。
 付き従う歩兵の数もたかがしれているようだ。
 ならば、明日以降の食料を提供してもらうのみ。
 ただし、正面から現れたそのいでたちを見て、ジャイアンは若干の侮蔑の感情を込めて「野盗か」とつぶやいた。
 平服のまま、槍を携えている騎馬1人と徒歩1人。
 明らかに曹操軍の者ではない。
 一方、ジャイアンの姿を認めた野盗は、ドスの効いた声を投げかけてきた。
「劉備軍の落ち武者か?」
 甲冑姿のジャイアンを見て、そう判断したようだ。
 まあ当らずといえども遠からず。
 質問には答えず、ジャイアンは不遜な笑みを野盗に向けた。
「俺に何か用か?」
 ジャイアンの態度が気に障ったようだが、それでも野盗は手順を遵守した。
「なかなか良さそうな甲冑だ。置いていけ。そうすれば命は取らん」
「この甲冑が欲しいのか?」
「そうだ」
「やってやらないこともない」
「なかなか聞き分けがいい」
「おまえの馬と交換でな」
「前言撤回」
「そう簡単に撤回するなよ」
「フン?」
「1対2で戦ってやるから」
「このやろ……」
 野盗は槍を振り上げて、馬の脇腹を蹴った。
 子分と2人がかりでかかってこない辺りは、それなりに腕に自信、心にプライドがあるということだろう。
 もちろん、見境がつかないだけ、という見方もできるのだが。
第123回
 野盗の突き出した槍を顔色も変えずにかわす。
 馬上でつんのめった野盗の脇腹に、槍の把を横殴りに叩き込む。
 それで終わり。
 野盗とその子分は、主従の関係よろしく同時に悲鳴を上げた。
 野盗は馬から転がり落ち、そして子分は逃げていく、という違いはあったが。
 ジャイアンは、興奮して後ろ足で立ち上がっている馬の手綱を握り、なだめた。
「どうどうどぅ………いい子だ、落ち着きな」
 ジャイアンに鼻面をなでられた鹿毛の馬は、すぐにおとなしくなる。
 ジャイアンの馬の扱いも、相当手慣れたものとなってきた。
 野盗は地面に横たわったまま、苦痛のうめき声を上げている。
「意外といい馬だ。的盧と比べたらかわいそうだが」
 ジャイアンが野盗に言葉を投げかける。
「こいつの名は?」
「………馬に名を付ける趣味はない」
「無粋なヤツだな」
 苦し気に答える野盗に、ジャイアンは鼻を鳴らした。
「よし、俺が名を付けてやる。おまえの名は………『シンガー』にしよう」
「しんがあ?……なんだそりゃ?」
「歌手という意味だ」
「カシュ?」
「とにかくこの馬はもらっていくぞ。ついでに食料も」
「ひでえ……やむなく野盗となり、あまつさえ子分にまで逃げられた男から食い物まで奪うのか」
「俺のモノは俺のモノ。おまえのモノは俺のモノ」
「ホントひでえ」
「命はとらん。それだけでも儲けものだと思え」
 そう言って「シンガー」にまたがるジャイアン。
 なかなか頑丈そうな馬だ。
 これならそう簡単に潰れることもあるまい。
「ちょっと待て!」
 ようやく立ち上がった野盗は、立ち去ろうとするジャイアンを呼び止めた。
「名前だけでも教えろ!」
「聞いてどうする?」
「いつか殺す」
 自分より10歳以上年上であろう男のセリフに、ジャイアンは苦笑し、答えた。
「銅鑼軍が将・ジャイアン」
 その瞬間、フラフラしながらも何とか立っていた野盗は、すぐに両手を地面についた。
「げぇっ、貴方様があのジャイアン様!」
「なんだ、俺のこと知ってるのか?」
「それはもう……新野での奮戦、こたびの戦さでの敵中突破……その武名はわしのようなチンピラの間でも轟いてございます!」
「へえ」
 もともと自己顕示欲は旺盛なだけに、そう言われて悪い気分はしない。
 だから、野盗が「自分を子分にしてくれ」と言ってきた時も、簡単にそれに応じた。
「おまえの名は?」
「へい、王典と申します!」
「赤壁がどこか知っているか?」
「へい、知っております」
「俺は今、赤壁に向かっているところだ。案内しろ」
「へい!」
 鹿毛の馬「シンガー」にまたがったジャイアンと小走りにそれを追う王典の2人は、一路赤壁へと向かう。