〔横浜スタジアム〜中華街編〕
〜歓声が聞こえる。
しかし、その歓声も俺にはただの雑音にしか聞こえない・・・
野球に全く興味が無いのに、最低月に2回はここにいるんだ。
横浜スタジアムの外野自由席、レフト寄りの最後尾列。ここで今日も真里を待ってる。
そう、ここは俺たちのデートの待ち合わせ場所なんだ。いや、デートの場所そのものといった方が正確だな。
だっていつも、ここで会ってここで別れるんだから。
真里が『モーニング娘。』に入ってからというもの、俺たちが会うのは決まってこの横浜スタジアム。
あいつの話によると、写真誌などのマスコミに見つからないようにするには、人気(ひとけ)の無いところよりもこれくらい
ヒトがたくさんいる方が安全なんだそうだ。観客の視線は試合に注がれているし、確かに一度もバレた事ない。
「小枝は森に隠せ」ってか。昔の人は巧い事を言ったものだ。
「待ったあー?」
元気な声だ。時計は7時15分。茶色の帽子にサングラス、精一杯?変装して真里が現われた。
「いや、いつもどおりだよ。」
もう待たされるのは慣れてる。いちいち突っ込んでもしょうがない。
「あのね。あのね。今日はさぁ、ごっつあんがさぁ・・・」
俺の隣にちょこんと座り、俺の上着の袖を握って今日の出来事を話しはじめる。これがいつものスタイル。
そう、俺はいつも聞き役なんだ。
ひとしきり真里が話を続けた。そしてそのちょっとした隙を突いて俺はこう切り返した。
「あのさ。今時野球場でデートなんて珍しくないか?野球興味ない
のにさ。それでここでサヨナラだろ?なんかつまんなく無いか?」
「ううん。わたしは楽しいよぉ。こうやってたくさんの人の中に混ざってると普通の子と同じだなあって・・・。それで、こうやって話ができるん
だもん。もうこれで充分なんだよ」と真里。
「ふ〜ん。そんなもんなのか。でもこの後にさ、中華街とか行ったりできないのか?焼肉でもいいぞ」
「だめだよ。今日はこれからラジオの録音があるんだもん。とばしちゃったらクビになっちゃうよぉ」
そう言うと真里は携帯を取り出し、メールチェックを始めた。
これもお決まりのパターンだ。仕事のメールもひっきりなしに入ってくる。
真里はアイドルだから仕方無い。わかってはいるんだけどね。
夜風はまだ冷たくて、たまに強風が二人を襲う。心まで冷めていく感じがした。
8時30分。着メロの音。真里は俺の顔を見上げてちょっと困ったように眉を下げて携帯に出る。
「はい、もしもし、矢口です。お疲れ様です・・・」
これも定型パターンだ。マネージャは決まってこの時間にかけてくるんだ。
俺たちの貴重な時間の終幕のベル。電話を切った真里は苦笑いでこう言った。
「今日は9時30分入りだって。もういかなきゃ。・・・ごめんね。」
「ああ。わかった。早く行けよ。」俺は素っ気無く答えた。
「ホントにごめんね。いつもは10時入りなんだけどね・・・」
「うん。わかったから。遅刻するぞ!」
「ごめんね。じゃいくね。いぇい」
真里は右手でピースを作って目の横に持っていくミニモニポーズでおどけてみせた。
そして足早にスタジアムの通路へと消えてった。
真里が握っていた上着の袖が変な形になっていてそれが妬けに悲しかった。
-2週間後
俺はまたこの場所にいる。思えば関内も詳しくなったものだ。暇つぶしを兼ねて街をブラブラするんだ。
駅から馬車道をかすめて山下公園へ、外人墓地を横目に見ながら元町公園。その後、中華街を抜けて横浜スタジアム。
そこらじゅうカップルばっかりじゃんか!ここを真里と二人で歩けたらどんなに楽しいだろう。
そんな叶わぬ夢は捨ててしまおう。あーだんだん凹んでくる。そして、いつものポジション、いつもの時間。
売店で買ったチクワをかじりながらゲームを観る。嫌、正しくはゲームをやってる方向をただ見てる。
どっちが勝とうが全然関係無いからさ・・・
「お。ま。た。せー」
元気な声だ。時計は7時10分。俺の後ろで立ったまま携帯チェックを済ませ、携帯をポーチの中にしまうと隣に座る。慌ただしい奴だな。
「きょうはさ。CM撮影でね。大変だったんだよお・・・」
独り喋りがはじまった。俺は聞き役に徹する。
いつもの時間が流れていった。
8時35分。
いつもならこの辺で悪魔の携帯電話が鳴るはずなのだが今日はまだ鳴らない。
「あれ。今日は鳴らないな。歓声で音聞こえなかったかな?」
俺がそう言うと真里はポーチから携帯を取り出して着信チェック。
横から覗き込んだが、ナイターの照明が反射してよく見えない。
「エッチ。」
「なんでやねん。」
「今日は入ってないみたい。そういえば次のラジオの録音はスペシャルだから、別のヒトが喋るらしいし・・・」
「そっか。じゃ今日はフリーなんだな!」
「うん!そう!」
「スペシャルか!こんな日もあるんだな。よし早速中華街へ!」
ふいに立ち上がった俺にちょっと驚いた様子だったがすぐに笑顔になった。右手は俺の袖をつかんだままで不自然に右手が上がってる。
そんな真里がおかしくてちょっと吹き出した。
「あのさ。袖掴む癖、何とかならない?伸びちゃって変になってるだろ。」
「うん。ならない。」
頑固だからね。多分これからもずっと俺の右の袖は変な形なんだろうな。
横浜スタジアムを出て中華街を北門から入る。短い距離だけど二人で歩くのは本当に久しぶりだ。
「ねー。歩くの速いって!もう」
いっしょに歩くの久しぶり過ぎて勘が鈍っていた。
俺はなるべく人が少なく、客席のボックスに衝立が立っている店を選んだ。
「ここが落ち着きそうだな」
「でもマズいかもー」
ちょっと真里を睨んでみた。
「マズくてもいいよ・・・あはは」
その店でオススメコースを注文した。俺たちは他愛も無い話で盛り上がった。
普通の恋人同士が普通にやってる事なんだけどね。なんでこんなに楽しいんだろうね。
ふと時計を見ると日付が変わろうとしていた。
「電車無くなるな。そろそろ出ないと・・・」
俺はそう切り出すと、真里はトイレへ行くと言って立ち上がった。立った拍子にテーブルに置いてあったポーチが床に落ちて・・・
***ガシャーン***
中のものが床に散らばった。化粧道具やらメモ帳やら財布やら。俺の足元に携帯電話が転がってきた。
携帯を拾い上げて、ヒビが入ってないか確認したら、電源が切れてる。なんで?
「なあ。これ電源切れてるぞ」
「え?あ。その・・・えへへ」
「なんだよ。今日電話鳴らないと思ったら・・・」
「う、うん。いいの。」
「ヤバイだろ?もしかしてラジオも飛ばしちゃったんじゃ無いのか?」
「あはは。バレた?」
「いいのか?」
「うん。今日はスペシャルだから・・・ 二人の・・・。あ、そうそう。ねぇこれから山下公園いこーよ。ね、いいでしょ?」
「もーどうにでもなれ!」
言葉は自棄になってるが、気持ちは充実していた。
関内に吹く風は暖かかった。南向きの風・・・春だね。
真里は店の外で俺に向かっておどけてミニモニポーズ。
「いぇい」
THE END
17 :
名無し募集中。。。:2001/04/23(月) 06:51
あげ
18 :
5:2001/04/23(月) 18:51
保全失敗。。。やっぱりエロは書くなということか。
19 :
黄板:2001/04/24(火) 00:02
>>11-12
ユウキコロヌっていうかコピペすんなや。
>>16 そこで終わるなっつーの!ヤレっつーの!
ここって固定スレに再利用されたのか?
ごめん。やっぱいいや
22 :
5:2001/04/24(火) 01:11
そういえば今日ヤンマガではじめて、9人の
モーニング娘。を見た。
やっぱりちょっと寂しい。
>>21 ダパンプ小説書くの?
24 :
黄板:2001/04/24(火) 01:33
>>23 書いてくれ。
是非とも書いてくれー。
ここは「だれか小説書いてくれ!」スレだ。
変わっちゃいない。
>>24 なに書こうとしたか忘れたし、やっぱいいよ
26 :
黄板:2001/04/24(火) 02:05
>>25 そーっすかぁ…。
ハァ、ショックだ。
気が向いたらいつでもどうぞ。
27 :
黄板:2001/04/24(火) 02:21
つーわけでこのスレは自由に(得ろ)小説書いてくれていいよ。
保全は私達が責任を持ってやらせて頂きます。
だれか(得ろ)小説書いてくれ!
加護とデート(大阪編)
「マジですか!?ちょっと待ってくださいよ」
俺はプロデューサーに縋(すが)りついた。
「しょうがないだろ。業界にはいろいろツキアイってもんがあるんだよ。ツベコベ言ってないでとっとと支度しろ!」
「あ、はい・・・」
ここはとあるラジオ局の会議室。今はミニモニのラジオ収録の最中。
俺は今、ADのバイトとしてここにいるわけだが、それもこれも真里と少しでも長く同じ場所に居たかったからだ。
学校、親、親戚、あらゆるコネを使って、なんとかここにこうして潜り込んだ。でもね、入ってみたら雑用ばっか。お茶くみ、コピー、CDライブラリーへのパシリなどなど。
勤務時間は無制限、夜昼無く働かされて体はボロボロだ。
どうやらこの業界の人たちは『ロードーキジュンホー』というものを知らんらしい。
そういえば最近、真里との横浜デートもしてないな。
---俺、いったい何やってるんだろう?---
この収録が終われば俺も開放される手筈になっていた。
真里の方も今日はこれで仕事上がりだと言ってたし、久しぶりにデートでも・・と思っていた矢先の出来事だった。
「加護亜依の里帰りになんで僕がついていくんすか?」
「だ・か・ら!人手不足で一緒に行ける奴がいないんだってさ。事務所からもお願いされちゃったんだから仕方ねーんだよ」
「でも、新幹線で新大阪まで行ってそれから大阪駅までならひとりでも・・・」
Pは俺が言い終わらないうちに被せてきた。
「天下のモーニングだぞ。それも中学生に一人旅させられるか?ボケ。大阪で家族の方と待ち合わせだからな。」
こうして俺は東京発の「のぞみ」で「あい」を送り届けることになった。
副調整室からスタジオの4人を見る。真里も俺の午後の事の成り行きを知っ ているらしく、それとなく目で合図を送ってきた。悪戯っぽく小首を傾げて・・・。
(いい気なもんだな。まあゆっくりOFFを楽しめよ。)
俺も苦り顔で片目をつぶって見せた。
二人の関係はスタッフもメンバーも、マネージャさえも知らない。
こういう公共の場での二人だけの合図をちょっとしたスリルに感じて楽しんでいるんだ。俺も真里も・・。
収録終了。
「おつかれさまでした〜」 4人がスタジオから出てくる。
俺は出てくるなり加護の手を掴んでこう言った。
「亜依ちゃん。今日は僕が大阪まで一緒に行くことになったから。実はもう時間が無いんだ。急ぐよ」
加護もマネージャから話を聞いていたらしく、さほど驚きもせず小さく頷いた。
「よろしくおねがいします。エーディーさん」
小さな声でそう言うと身支度のため廊下に歩いていく。
「加護ぉー。あんまメーワクかけんなよー」
真里が加護の背中に向かってそう声をかけた。俺にも一言欲しいところだが、それは状況が許さない。
(俺も「あんまって何だよ?」って真里に突っ込んでやりたかった。)
「はいやぐちさん。しずかにしてますー」
廊下から声だけが返ってきた。
タクシーの中。
俺はマネージャから受け取った二人分の「のぞみ」のチケットと握り締めてタクシーの車中にいる。
加護と一緒に。加護が座るとタクシーのシートがやたらと広くみえるな。
思わず吹き出した。加護は俺が吹き出した理由がわからずに、不思議そうな顔でこっちを見てた。
マネージャが用意したのぞみのチケットはグリーン車だった。座席はちょうど車両の真中あたり、窓側に加護、通路側に俺が座る。
この時間のグリーン車をそう混んではいない。いや、ガラガラに近いかな。
この車両に客は俺たちを含めて10人程度。少しはゆっくりできそうだ。俺は久しぶりのグリーン車の乗り心地を堪能した。
『ピロポロパロピロロロ〜ン』 俺の携帯メールの着信音が鳴る。
「うふふ。」その音がおかしかったらしく加護は隣で笑ってる。
〜メールは真里からだ。
「加護のボデーガードしっかり頼んだよ。あなたのMARIより」
なんだこりゃ。突込みどころ満載だな。思わず苦笑した。
「あ、あのー」 加護が隣で声をかけてきた。
「何?」
「着信音、おもしろいですね。」
「やってみる?」
「はい!」
俺は着信音の再生方法を教えて携帯を加護に渡した。
『ピロポロパロピロロロ〜ン』
「うふふふ。」
『ピロポロパロピロロロ〜ン』
「アハ。変なの」
どうやら俺の携帯の着信音は13歳の少女のハートをガッチリ捕らえたらしい。
そのうち着信音にも飽きた加護はボタンに割り当てられた音階でメロディーを作り始めた。♪ピーポーパーポーピー
「ダメだよ亜依ちゃん。ホントに電話かかっちゃうからさ」
液晶画面には適当に打たれた文字列が並んでる。
「えへへ。ベーだ。」
俺の手元に携帯が戻ってきたのはそれから1時間後だった。でもこうやって俺と加護は少しずつ打ち解けていった。
新大阪に着いたのはPM7時前。俺と加護はレストラン街で軽く食事を済ませ、中央口からタクシーに乗り込む。
下手に環状線乗ってバレたらパニックだからな。
大阪駅に着いた頃にはすっかり日が落ちて、帰宅ラッシュの波が駅周辺に押し寄せていた。
「待ち合わせ何時だっけ?」
「うんと8時半。」
「そっか。まだ時間あるね。・・・あの観覧車にのろうか!」
俺はファッションビルの屋上の真っ赤な観覧車を指差した。
「うん。」
観覧車に乗り込むと加護がすぐに聞いてきた。
「エーディーさんはカノジョいるんですかあ?」
俺は突然のことで少し驚いたが、まあ13歳といえば興味無いはずないしね。少し間を置いてこう答えた。
「ううん。いないよ」
(本当は矢口さんだよ。って言いたかったけどね。)
「ふ〜ん。そーですかあ・・・じゃ加護がカノジョになってあげる」
満面の笑みを浮かべて加護がそう言った。ちょっとドキリとした。でも気を取り直して・・・
「えぇ。あ。あー。いいね。で、でもね。ADって大変なんだよ。デートする時間も全然無いんだよ。きっと俺のカノジョになってもつまんないぞー!」
「そーですか・・・」
加護は寂しそうに下を向いてしまった。
(なんかまずい雰囲気になってきた!暗いぞ。)
「あ、あのさ!ま、真里、矢口真里ってどんな人?」
俺はこの雰囲気を断ち切るためにこう振った。
「あ、ヤグチサンですかあ?よく怒られてますう。
でもそれは加護たちがいたずらばっかしてるからで、ホントはいいヒトですよー。」
「ふーん」
「ハッピーなヒト。ヤグチさんは幸せモノですう」
ハマッタ。その通りだよ。流石加護ちゃん。
「鋭い!そーだよね、1年中ハッピーって感じだよねー。あ、いい意味でね。あははは」
「うふふ」
俺たちは真里を肴にして盛り上がった。観覧車から見える梅田のネオンが俺たちをハイテンションにしていた。
待ち合わせ場所である大阪駅中央口の歩道橋の上に着いたのは15分前だった。アマチュアバンド演奏の音が聞こえる。
帰宅を急ぐ人やこれから街へ繰り出す人の雑踏の中で、手すりに持たれかかり道路を眺めてる変な二人づれ。それが俺たちだ。
二人でモノマネバトルをしながら時間が過ぎるのを待った。俺の少ないレパートリーの中でもルパンと田中邦衛は大受けした。
時間が近づく。
「そろそろ、迎えにくるな。」
「うん。」 加護は頷いただけで黙ってしまう。
「どうしたのさ?元気無いじゃん。」
「まだ一緒にいたい・・・」
「何言ってんだよ。また東京で会えるじゃん。毎週、いや2本録りだから隔週か。」
(妙に現実的なこと言ってるな俺。動揺してるぞ)
「うん。でも・・・」 加護はまた黙り込む。俺も返す言葉が見つからなくて・・・。
「亜依、亜依。」 ふいに背中から女性の声がした。 加護の母親だった。
加護はすぐに母の腕にしがみついて、母を見上げて微笑んだ。
「時間どーりやね。もっと遅くても良かったんやけどなあ」
ちょっとすねたような表情を浮かべたが、その顔は安心しきった子供の顔。
俺は加護の母親と大人同士の挨拶を済ませて、加護の前で中腰になり目線を合わせた。
「じゃーな。」
「うん。ばいばい。」
母親は深々と頭を下げてる。俺も軽く頭を下げて、そして踵を返す。10歩ほど歩いたところで声がした。
「ありがとう」 関西のイントネーション。
振り返ると加護がすぐ後ろに立ってる。加護は照れくさそうに右手を差し出してる。
「握手、しよ。」
「ああ。」 俺は加護の右手を握った。普通の握手。
すると加護はその手を握ったまま俺の手の甲が真上に向くように手をねじる。
そして、そっとその手の甲に顔を近づけて・・・。
俺の手の甲に加護の柔らかい唇の感触が伝わる・・・。
3秒後には二人の手は離れて、加護は母の方に駆け出した。そして振り返って、「メッセージ・・・」
一言そういい残すとまた駆け出していった。俺は暫くその場を動けずにいた。
ただ呆然と小さくなっていく加護の姿を追いかけていた。見えなくなるまで・・・
帰りの「ひかり」の中。
俺は加護の「メッセージ・・・」という言葉を思い出した。メッセージなんてもらったっけ?
ポケットの中やメモ帳を見返してもそれらしいものは何も見当たらない。なんのことだろ?
あ、そーだ。携帯だ! そういえば「行きの電車」の中でなんか文字打ってたっけ。
俺は携帯を取り出してそこに映ってる液晶画面の文字を読んでみた。
「8973107949」
なんだこれ。どっかの電話番号かな。しかし桁があわん。
あの年代の子が考えることはよくわからん。なんかの暗号か?
8は「や」か?。9は「く」かな?
「・・・や、く、しち、さん、と、な、く、よ、く??」
「・・・やぐちさんとなかよく」か!なるほどー。
え?。・・・って事は・・・加護は最初から知ってたんだ!ちょっと目まいがした。
(ヤグチさんは幸せモノですう)
俺の頭の中で加護の声がリフレインしている。
電波状態が良くなったところで、さっそく真里に電話をかけてみた。
「もしもし、あの、俺だけど・・・」
「ん。あ、おつかれさーん。今どこどこ?」
相変らずのハイテンションだ。
「まーいいから。あのさ、加護ちゃんさ、俺たちのこと知ってるみたいだぞ」
「え、うん。だってわたし言っちゃったよ」
またちょっとクラっときた。
「・・・マジかよー。なんでさ?」
「え、だってー。加護に捕られたら困るもん」
「バカ!」
思わずそう言った。
「もー。そのバカを好きになったのはだれなのよ」
俺はその問いに返答できなかった。
「ひかり」は少し減速して新横浜の街の灯の中に包まれていった。
THE END