萌えたら走れ!夜明けまで〜慶祝スレッド第十二章

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504善行忠孝
>>501-503
 全く、突然電話をかけてきたかと思えば、難しいことを仰いますね。
 少しお待ち下さい。

(回線を秘匿回路経由に変更する)

 さて、若干ノイズが混じりますが、御許しください。これで、この会話
を知っている人間は、回線を管理している私子飼いの兵達だけとなり
ました。ええ、そうでもしなければ、まともにお答えできない内容ですよ。

 まず、結論から先に申し上げます。
 私は、文民政府より、皇統の方がこの国では重要であると確信して
おります。前に話しませんでしたか? いついかなる状況においても、
私の忠誠は祖国と皇統、そして国民に捧げられている、と。
 そうです。重要なのは祖国です。そして、国防軍も文民政府も、この
日本という国家、そしてそれを構成している、国民と皇統、主権、国土
の為だけに存在している「道具」にすぎないのですよ。そうです、あくま
で私は、皆が平和に豊かに暮らすための「道具」なのです。
 私には、フェティシズムの趣味はありません。道具は所詮道具でしか
ない以上、国防軍や文民政府という組織に忠誠など誓うつもりは毛頭
ありません。あくまで、祖国に対する義務を全うする「道具」でしかない
のですから。
505善行忠孝:2001/06/15(金) 20:21
 そういえば、論語はお読みになったことはありますか?
 ええ、それならば話は早い。あれにありますでしょう、国家がどうしよ
うもなく貧しくなって、「軍事」「食料」「信義」のどれかを棄てなければ
ならないと仮定した場合の話を。
 ええ、そういうことです。まさに今挙げた順番で棄てていくしかないの
です。結局、国家といえども人と人の繋がりで出来ている仮想物にす
ぎないのです。つまり、人間同士の信頼関係がなくなれば、それはも
はやただの人間個体の集合体にすぎず、社会でも国家でもなんでも
なくなるのです。
 そして、この日本という国家においては、人間同士の信頼関係、いや
はっきり絆と申しましょう、これは皇統によってのみ結ばれているので
す。ええ、そうです、西洋における「The GOD」それは、この国では皇統
なのですよ。

 多分、この答は、あなたにとっては不本意なことも判っております。
 ですが、結局、忠誠を捧げるということは、不可知の形而上の存在
に対して自己の精神的活動の基盤を預けるということに他ならないの
です。そして、それ故に私は、自らを成り立たせている精神の一部を、
この日本という国家、そしてそれを成り立たせている国民と皇統に預
けてしまっているのですよ。そうです、忠誠は、捧げさせてもらっている
だけで報われている、というのは、そういう意味だと私は自覚しており
ます。
506善行忠孝:2001/06/15(金) 20:38
 もなこ様、ですか。
 本当は、これこそ答える必要のない事ですね。ええ、一部で私がも
なこ様を籠絡し、権を欲しいままにする野望を持っていると噂されてい
る事も知っております。

 貴方だからお答えいたしましょう。
 ええ、これは、貴方に対する私の友情の発露だと思って頂ければ。

 私は、もなこ様に忠誠を誓いました。それは、もなこ様をこの日本と
いう国家を背負って立たれるに足る御方に御教育申し上げる事も含
めて、です。
 ええ、もなこ様が私を慕ってくださっていることも、承知しております。
ですが、時は移ろうものです。人にとって、一〇代の一〇年間がどれ
ほど長く、そして多感で多くの影響を受けるものか、貴方もご存じでしょ
う。そういうことです、私は、もなこ様が本当に自分の人生を共に歩ま
れるに相応しい伴侶を見つけられる事を確信しております。そして、多
分貴方の場合と違って、それは私ではないでしょう。

 皆は誤解しておりますが、私が生きられるのは平均的な人間の寿命
からするならば、あとせいぜい三〇年でしょう。つまり、もなこ様の人生
で最も充実しているときに、私は先に違う時へと移っていってしまうの
ですよ。
 ははは。つまりはそういうことです。私ともなこ様では、実は生きてい
る時が違うのです。そして、今この一瞬だけは、いかなる縁があったの
か、同じ時を生きることが出来た、それだけのことなのです。

 恐ろしいことを言う? 何を仰います。人は死ぬのです、いつか、必ず
死ぬのです。そして、その自覚を私は、今や片時も忘れたことはありま
せん。ええ、結局、あの北陸戦争で私の中の何かが変わってしまった
のでしょう。
 そういえば、あの新しい家庭教師のシスターは、私を嫌っているよう
です。ええ、彼女には理解できないのでしょう。そうです、私にとっては、
今や死こそが最大の目標なのですよ。ええ、いかに良く死ぬか、それ
は、いかに良く生きたかの逆接的な証明にすぎないのではないか、と。

 本当にもなこ様には、幸せになっていただきたいと、そう思っていま
すよ。これは多分、私の人間としてのなんらかの欠陥を、もなこ様の
存在で埋め合わせようとしているが故の願望なのでしょう。ええ、それ
くらいは自覚しています。

 なるほど、偽善者ですか。ええ、貴方の仰るとおりです。私は偽善者
なのでしょう。ええ、そうです、全てを自覚した上で行動しようという思
い上がった人間ですから。
507シスター・モエリア:2001/06/15(金) 20:50
>>391
(もなこの勉強を見ている。しかし、どこか上の空。)

……あのひとは……「殉教者」なのかしら? だけど……

(シスターにじっと見つめられているのに気付き、もなこが不思議そうに見つめ返す。)

「あ、いいえ、なんでもありません……ごめんなさいね……」

(もなこはその言葉に安心したように、にっこりと微笑む。
シスターも、ちょっと照れくさそうに微笑んで、もなこの頭をそっと撫でる。
しかし、その目にはやや影がある……)

……もなこ様は……こんな、小さな女の子なの……小さな女の子なのよ……

(もなこをそっと抱きしめるシスター。もなこは、意味がわからずきょとんとしている。)
508善行忠孝:2001/06/15(金) 20:52
 ああ、申しわけない、まるで大学生のような青臭い話をしてしまいま
した。ええ、そうです、聞きかじったデカルトやハイデガーを振り回して
いるような気恥ずかしさを覚えました。まったく、我ながら恥ずかしい
ところをお見せいたしました。ええ、秘匿回線という事で、貴方が相手
ということで、どうやら甘えてしまったようです。

 文民政府ですか。
 結局は、選ぶのは国民でしょう。国民がその権限を委託しているの
相手は、あくまで彼らなのですから。そして、国民がもはや皇統を必要
としなくなったら、その時改めて自らの身の振り方を考えますよ。
 そうですね、多分、最後までもなこ様に付き従うのもよろしいでしょう
ね。ええ、まるで忠臣らしくて良いではないですか。そうです、確かに
自己満足の発露の極みですからね。それくらいの我が儘は許して頂
きたいところです。

 そして、もし私がこの様などうしようもない自己中心的で我が儘な愚
か者であると知られたとき、もなこ様がどの様な反応を示されるか、
それが今の私にとっては最大の興味なのですよ。ええ、今のもなこ様
には御理解いただけないでしょう。ですから、あくまで一個の人間とし
て独立なされ、私と対等のこの天と地の間にただ一人立つ人間同士
として相対されたときに、です。
 私を、裏切り者と糾弾されるか、自らを傷ついたと悲しまれるか、そ
れとも私をそれでも受け入れてくださるのか、ええ、それを知りたいと
本心から思っておりますよ。

 ええ、そうです、結局私は、自分も含めて誰も人間を信じることが出
来ないでいるのに、それでも人間を信じたいと願っている愚者にすぎ
ないのでしょう。

 それにしても、突然何故にこの様な電話を?
 ええ、別にお答えいただかなくても構わないのですが。ただ、こうした
不安に震えた貴方という存在を、私が全く想定していなかった、という
だけなのですが(笑)