JUMP BATTLE ROYALE 2nd 感想議論スレPart2

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763名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/14(水) 22:03:08 ID:cHvDjtk7
意味ねーw
764名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/14(水) 22:13:12 ID:ByIFfF77
いや、半分冗談で言ったんですが、
矛盾点をなくす事ができるというメリットがあります。
765名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/14(水) 22:39:51 ID:SRkJLaTi
荒れなくて済むのは1.じゃないかな?
議論せず、書き手に任せるというのがスレ的には平和で好ましい(投下後に荒れる場合はあるが)
2.は少し厳しいし、3.はSSに反する以外に議論の段階で大荒れが予想される
766名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/15(木) 00:48:31 ID:mgB5GX3T
たった数レスでも意見が割れてるwwww
767 ◆SzP3LHozsw :2007/02/15(木) 02:07:47 ID:kQkxaBv5
空気読まずに新作投下しますね。
768罪と罰:2007/02/15(木) 02:08:39 ID:kQkxaBv5
殿を捜し歩いていた俺が行き着いたのは、周囲に異様さを誇る建物だった。
そこは道路沿いにひっそりと佇んでいるといったような、暗い印象を受ける施設だ。
天に聳えるように高く突き立った煙突が、上空から俺を見下ろしている。
一体ここは何なんだろう?
普段ならきっとこんな薄気味悪いとこに近づきたいとも思わないんだろうけど、今の俺は殿を捜している。
もしかしたらこの中に殿がいるかもしれないと思うと、気味が悪いからという単純な理由だけで避けて通ることもできず、
俺は殿以外の誰かが潜んでいないことを願いつつ覚悟を決めて入り口に立つと、扉を押す手に力を籠めた。


「うわぁ、気持ち悪ぃ……」

中に入って最初に思ったのはやはりそれだった。
なんだか空気は湿っぽいし、妙にまとわりついてくるような気がする。おまけに真っ暗で、足元すら覚束ない。
殿を捜すためじゃなかったらこんなところに来ることもなかっただろうと、俺は改めて思うのだった。

『殿』ってのは俺の2コ上の先輩のことだ。
名前は前田太尊。
帝拳高校の3年で、東京じゃ『四天王』って呼ばれてる、ものすげぇ強いお人だ。
同じく先輩の勝嗣さん曰く、殿とは「関西出身のバカでバカでバカでど〜しよ〜〜〜もなく理不尽な寺の息子」らしい。
まあそれはそれで当たってなくもないんだろうけど、俺は殿がただのバカだとは思ってない。
もちろん頭はもの凄〜〜〜く悪いんだけど(本人が聞いてたら大変だな)、強くて優しくて頼りになって、殿はまさしく俺の英雄なのだ。
だからこそ俺は真っ先に殿に逢わなきゃならないと思った。こんなときに頼りになるのって、やっぱ殿しかいないからな。
殿はまた嫌がるかもしれないけど、俺はあの人に付いてくって決めてるんだから、何て言われようとそこは譲れねえ。
殿に逢って、殿と助け合い、そんでこんなところからとっととおさらばしてやるんだ。

俺はそんなことを考えながら暗い通路を歩いて行く。
カツ、カツ、と、俺の靴音だけが通路の先まで響いていて、ちょっとだけビビッた。

「殿ォ……居ますかぁ……」

俺は堪らず内心の恐怖を打ち消すように、わざと場違いなほど明るい声音をあげて奥に続く闇に向かって声を掛けた。
でも喉から出た声はビックリするぐらい震えていて、情けないやら可笑しいやら、我ながら悲しくなってしまう。
…………。
…………。
……少し待ってみるが、もちろん返事なんて戻って来やしない。
思ったよりも大きく反響したから誰かが聞いていたらヤバイと思ったが、どうやらそんなこともなさそうだった。
安心して先を急ぐ。
だがそこから何十歩と歩かないうちに、今度は広い部屋へと出た。
どれくらい広いかって言うと、暗くて正確にはわからないが、たぶん学校の教室ぐらいはあるのかもしれない。
もしかしたらもっと広いのかもしれないけど、やっぱりそれ以上正確なことはわからなかった。
人のいる気配は全然なかったが、それでも念には念を入れ、俺は手探りでその部屋をぐるりと回って行くことに決めると、
ゆっくり、足元に気を配りながら慎重に進んだ。
途中、電灯のスイッチらしきものに触れ、試しにONO,FFを繰り返してみたが、案の定灯りは点かず、辺りは真っ暗なままだった。
壊れてるとかじゃなく、もしかしたら電気自体が通ってないのかもしれない。外の街灯が一つも点いてなかったことを俺は思い出した。
けど徐々に眼が慣れてくると、暗いのはそれほど苦にならなかった。
769罪と罰:2007/02/15(木) 02:09:49 ID:kQkxaBv5
半分ほど来ただろうか。
そんな俺の手に、何か硬くひやりとしたものが触れた。驚いて慌てて手を引っ込める。
……別に異常はない。
恐る恐るもう一度手を伸ばし、同じ箇所を触れてみる。
――――これは……扉だろうか?
ぶ厚い鉄の扉がそこにはあった。
ああ、なるほど、そういうことか。俺はふとあることに気付く。
この扉はただの扉ではないということだ。それどころか、この建物自体がただの建物じゃなかったってわけだ。
たぶん、ここは、地図でいうH-07の焼場なんだろう。いわゆる火葬場ってやつだな。
外で煙突を見たときからなんとなくおかしいなとは思ってたんだけど、火葬場ってことなら納得だ。
つまりこの扉は火葬炉の鉄扉ってとこだと思う。どうりでドアノブなんてものがないわけだ。
俺はつい、この中で、何十、何百の死体が焼かれてきたんだろうとつまらない想像をしてしまい、なんだか気分が悪くなるようだった。
不気味なところだっていう先入観がそんな想像をさせてしまうんだろうけど、実際、俺の肌は粟立っていた。
この島から無事に脱出できない限り、俺もこの中に放り込まれて白い骨になる運命なのかもしれない……。
そう考えるだけでゾッとした。
まだこの部屋の探索を半分ほど残していたが、とても続ける気にはなれず、俺は暗い気持ちになって早々とそこを出た。



告別室、収骨室、霊安室などと順に回ってみたが、特に人の居た形跡は見当たらず、意気消沈しながら親族待合室ってとこまで来ていた。
ここは建物の2階部分に当たる。
階段上がってすぐ脇に給湯室のようなものがあり、待合室はその並びに三部屋設けられていた。その内二部屋は畳を敷いた和室になっている。
誰に遠慮することもないのだけれど、なんとなく畳に土足で上がり込むのが悪いような気がして、
俺は少し迷った挙句、和室ではないもう一つの部屋に入ることにした。
こっちの部屋は他の和室と比べて倍ほども広く、ちゃんと大人数を収容できるようになっているみたいだ。
畳ではなく通路と同じリノリウムが床に貼ってあるため、それで若干寒さは感じたけれど、土足でいることに気を遣わなくていい分気楽でいい。
俺は隅の方に積まれていた簡易テーブルとパイプ椅子を引き摺り出し、腰を落ち着けた。
たかだか3,40分程度の探索だったが、緊張しっぱなしで多少気疲れしていた。
殿が居なかったということがその疲れに拍車を掛けているのだろうが、元々そんな簡単に見つかるとは考えていない。
俺はすぐに気を取り直すと、少しの間ゆっくり休める場所を確保したのだと、良い方向へ考えることにした。
デイパックから水と食料のパンを1食分取り出し、詰め込むようにして瞬く間に腹の中に収めてしまう。
はっきり言って味も素っ気もない不味いパンだった。カレーパンと7UPがこれほど懐かしいと思ったことはない。
それでも食えるだけマシだった。
不味かろうと何だろうと、この先どんなことが待ち受けているか知れないのだから、体力だけは落とすわけにいかなかった。
食えるときに食って、休めるときに休む。そう心掛けていなきゃ身体の方が保たないだろう。
俺はもう一口水を含んでからボトルをバッグに仕舞い込むと、さあこれからどうしたもんだと足をテーブルに投げ出した。
考えるべきことは山ほどある。
殿のこと。千秋さんのこと。小平次さんに中島さんのこと――。
名簿に載っていた名前が顔と一緒に浮かんでは消えてゆく。この人たちと殺し合うなんて絶対にできるわけねーじゃん……。
770罪と罰:2007/02/15(木) 02:10:30 ID:kQkxaBv5

「そういや、川島のヤロウも居るんだよな」

嫌な奴のことを思い出してしまった。
川島清志郎――。
大阪で極東とモメたときには、勝嗣さんや用高さんが一方的にやられたのにも拘らず、俺は怖くて何もできなかったんだっけか。
それどころか、煙草を咥えて『火ィある?』と言ってきた川島に、ライターを差し出しちまった……。
屈辱だった。これ以上ないほど悔しかった。一発ブン殴ってやろうと思った。
でも、俺は動けなかった。動かなかったんじゃない、動けなかったんだ。それほど川島清志郎という男が恐ろしかった。
その川島が、名簿によれば俺達と同じこの島に居るという。
俺は借りを返す絶好のチャンスに打ち震えた。
俺なんかじゃ川島に勝てるとは到底思えないけど、それでもやっぱりやられっぱなしだなんて絶対納得いかねえ。
もうあのときのように、何もできなかった自分に後悔したくなかった。
殿は用高さんのために敢えて手を出さなかったみたいっスけど、俺自身の問題ってことなら構わないっスよね? 殿。

それから――――マサさんのこと……。
あのマサさんがなんでこんなことをしたんだろう? それがどうしても納得できなかった。
俺の知っているマサさんは、理解の深い、話のわかるオッサンだった。とてもこんなことを俺達にさせるような人じゃなかったはずだ。
なのにどうしてこんなことをさせるんだろう?

「借金でもあったのかな……。返済できなくなって、それで已むに已まれず、こんなアブネーことの片棒担がされてるとか」

あんまり考えられる話ではなかった。
だが、そうでも思わなきゃやってられなかった。マサさんは誰かにあんなことを脅かされてやっていると、そう信じたかった。

「浅野先生と結婚したばかりで、きっと色々と物入りだったんだろうな」

無理矢理そう結論付けてみる。
浅野先生の手前、あれもこれもと必要以上に家具やらなんやらを新調し、挙句借金苦に陥ってしまったマサさん――。
案外想像できないこともないかもしれない……。
じゃなかったら見栄を張って高い結婚指輪を買ってしまい、そのローンに苦しんでいたとかでもいい。こっちの方が少しは現実味があるだろうか?
とにかく俺はそうやって妄想の羽を広げることで必死にマサさんを庇い、無理にでもあの人殺し達と関連付けないように努力した。
そうすることで俺はマサさんは悪い人じゃないんだと、自分を納得させたかったのかもしれない。
……でも、結局そんな努力も無駄だった。
いくらそんなことを考えたところで所詮は想像に過ぎず、それを打ち消すように、実際に眼にしたマサさんのあの姿が頭に浮かんできてしまう。
マサさんを信じてやりたいと思う一方で、どうしてもそれを否定してしまう俺がいるのもまた事実だった。

「……やっぱり殿に逢わなくちゃ駄目だ。俺一人で考えてたって、何にもわかんねえよ……」

殿だってたぶん俺と同じように何もわからないだろう。けど、一人で考え込むよりかは二人で考えた方が良いに決まってる。
二人でわかんなきゃ、千秋さんや小平次さんも交えて三人、四人で考えればいい。
そうすりゃ何かしらわかるかもしれなかった。

「こうしちゃいられねェ!」

休憩など切り上げて、早く捜しに出ようと思った。殿や千秋さんたちのことが、ひどく懐かしく思えた。
だがその直後だ――――。
771罪と罰:2007/02/15(木) 02:11:08 ID:kQkxaBv5
俺は誰かの視線を感じたような気がして、突如後ろを振り返った。
すると部屋の入り口前で一人の男が立ち尽くし、少し驚いたような表情で俺のことを見つめていた。
俺は『そいつ』と眼が合った。


「だ、誰だテメーは……と、おわ!?」

足をテーブルに投げ出すという酷く不安定な体勢のまま振り返った俺は、バランスを崩して椅子から滑り落ちてしまった。
背中を床にしたたかに強打する。

「ッてえ……」

打ちつけた背中を擦りつつも、俺は入り口に立ち尽くすそいつから眼を逸らさないように睨みつけ、素早く身を起こした。
いつからこいつはここに居たんだ? どうして俺を見ていたんだ? 何でここへ来たんだ? どうする? 逃げるのか、それとも――。
頭の中にたくさんの疑問符が回りだす。どうしていいのかまったくわからず、俺は身動きが取れなかった。
筋肉は硬く緊張し、全身に冷や汗が吹き上がった。心臓が痛いくらい暴走している。

――俺はここで殺される!?

その恐怖だけが俺の意思に反してどんどん膨れ上がり、完全に思考を塞ぎ止めてしまっていた。

「大丈夫か……?」

しかし、意外にもそいつは心配そうな顔をして、俺を労わるようなことを言いやがった。
いきなり襲われるんじゃないかと身構えていた俺は、なんだか肩透かしを食らったようで拍子抜けする。
殺されなくて済むのかもしれないと、一瞬気が緩くなった。
でもだからといって油断はならない。俺は頭を振って気を引き締めると、眼の前の男の次の行動を待った。

「悪い、脅かすつもりはなかったんだが、つい声を掛けそびれちゃってよ」

こんなときに黙って後ろに突っ立って居て、脅かす気はないなんてよく言えたもんだ。
俺はまだ暴れている心臓を宥めるために胸に手を置きたかったけど、カッコ悪いのでそれはやめた。
その代わりできる限り平静を装いながら、上から下まで眼の前の男を睨めるように観察して、警戒を怠らなかった。

「怪我は……ないよな?」
「…………」

返事はしない。俺は黙ってそいつの眼を見続ける。油断して殺されるなんてマヌケな真似だけはしたくない。
するとさすがに気分を悪くしたのか、男は弁解するように口を開いた。

「相手がどんな奴か知れないのに、迂闊に話し掛けられないだろ?」
「……まあ、そうだな」

確かに一理ある。
実際、たった今の俺にしたって、こいつを見た途端どうしていいかわからず、ただただ無様に混乱するしかなかった。
それが話し掛けるとなったら、余程気を遣わなければならないだろう。だからその意味でこいつの言っていることは正しいと思う。
しかし、しかしだ。それとこれとは話が別である。
そもそも俺に話し掛けてどうするというのか?
自分で言ったように、どんな奴かもわからない、得体の知れない俺に話し掛けた意味は何だというんだ?
俺はこいつの意図が全然読めなかった。猜疑の念は一層深くなる。
772罪と罰:2007/02/15(木) 02:11:45 ID:kQkxaBv5

「で、俺になんか用でもあるのか? 悪ぃけど、俺は忙しいんだ。話し相手が欲しいんなら他を捜せよ」

できるだけ突っ慳貪に切って捨ててやる。もちろん言葉の裏には威嚇の意味をしっかりと籠めて。
これで何事もなく立ち去ってくれたら万々歳だった。
だがこいつは立ち去る様子もなく、暫く考える風をしていると、あろうことか室内に足を踏み入れ、俺と対話をしようとする素振りさえ見せた。
たぶん俺を『安全な奴』とでも判断したんだろう。
鬱陶しいことこの上ないが、何を考えているのかわからないうちは下手に追い払うこともできず、結局はさせるがままにさせるしかなかった。

「いや、用ってほどでもないんだけどな、ちょっと友達を捜してて、たまたまこの建物に立ち寄ってみたってわけよ。
 そしたら急に人が居たもんで、ちょっと驚いちまったのサ。別に何もする気はない。そう構えるなって」
「……それを信用しろってのか? 無理があるだろ。……もしかしたら俺を殺そうとしてたのかもしれねえ」

睨みつけながら言った。
幸い、パイプ椅子が足元に倒れている。返事次第じゃ殴り掛かることも厭わなかった。

「人聞きの悪いこと言うな。そんなこと誰がするかっての。俺は殺し合う気なんてこれっぽっちもねえよ。
 もしお前を殺そうと思ってたんなら、気付かれる前にやってる。そうだろ?」
「どうだかな、怪しいもんだ。大方やろうと思ったところを俺に気付かれたんじゃねーのか? 言い逃れするんならもっと上手くやれ」
「だからそんなんじゃねえって!」

男はちょっとムッとしたようだった。

「まあいいや、とにかく他へ行ってくれ。ここにはお前の友達なんていねーんだから」

俺は早く消えて欲しいと心から思った。
見た目は大したことなさそうだし、害もなさそうだったが、だからといって気は許せない。
無用ないざこざを生まないためには、なるべく知らない人との接触は避けるべきなのだ。

「……なあ、ちょっと聞くけどサ、お前、殺し合いなんてする気あるのか?」

しかし何を思ったか、こいつは俺の不安も余所に、出し抜けに切り出した。

「あるわけねーだろ、そんなモン」

さも面倒臭いといった風に答えてやる。
一体何を考えてるっていうんだか……俺にはさっぱりわからない。

「さっきも言ったけど、それはおれも同じだ」
「だから何だってんだよ。それが俺とどう関係あるんだ? やり合う気がないんなら、とっとと消えろ」
「いやな、だったらやる気のない奴はやる気のない奴同士、組むのがベストだとは思わないか?」
「……何言ってんだ?」

俺は自分の耳を疑った。「組むのがベスト」だと? とんでもない!
そりゃ気持ちはわからないでもないけど、そんなの無理に決まってる。
なんで見ず知らずの奴と組まなきゃなんないんだ。そんで寝首でも掻かれてぶっ殺されたら笑い話にもなんねーだろうが。
773罪と罰:2007/02/15(木) 02:12:33 ID:kQkxaBv5

「だからよ、俺と一緒に行かないかってことだよ」
「ハァ? お前バカじゃねーの? 知りもしない奴と一緒に動けってのかよ? 勘弁しろよ」

これ以上話はないと言外に仄めかしながら、俺はさっきよりもずっと冷たい口調になって言い切った。
何の目的があってのことかは知らないが、いつまでもこんな奴に付き合ってる暇はない。
俺は荷物を抱え上げると、関わり合いを避けるように部屋を出ようとした。

「待て待て、話しは最後まで聞けって。俺はここに来る前、この近くで花火みたいな音がするのを聞いたんだ。あれはたぶん銃声だぜ。
 ってことはもう、誰かが殺し合ってるんだよ。考えてみろよ、今一人で外に出れば、そいつらに撃ち殺されるかもしれねえぞ」
「…………」

ちょっと信じられなかった。銃声ってのを俺は聞いてなかったからだ。
たぶん、俺は心のどこかで、実は殺し合いってのが嘘なんじゃないかって思ってたんだろうな。
だからあんな死体を見せられても、あんなマサさんの姿を見ても、いまいちそれが信じられずにいた。
今までのことは全てドッキリかなんかで、本当は殺し合いなんて行われてるわけがなく、そのうち何事もなく終わるんじゃないかと願ってたんだ。
でも果たしてそれでいいんだろうか? 俺の心に暗雲が垂れこめはじめる。
例えばこいつの言うように、もう殺し合ってる奴らが居るんだとしたら、そんな生半可な考えでいる俺は確実に殺されちまうだろう。
そりゃそうだ、『殺されるわけがないと高を括ってる奴』と『殺さなきゃならないと思い込んでる奴』。
どっちが生き残るかなんて、言わなくったって明らかだ。
……けどだとしたら、さすがに考えを改める必要があるんじゃないだろうか?
殺すか殺されるかだってことを改めてしっかり頭に叩き込んでおく必要が、本当にあるんじゃないだろうか?
俺は背筋に冷たいものを感じながら、懸命にそのことを考えた。

「やる気、ないんだろ?」

また同じことを訊かれた。俺はそれに黙って頷く。

「なら一緒に居ようぜ。男二人ってのは少し寂しい気もするけどよ」



こいつは名前を寺谷靖雅と名乗った。鼻のデカイ、眼鏡を掛けた一見冴えない男だった。
歳は俺より二つ上。つまり殿とタメってことになる。
瀬戸一貴って人を捜してる最中らしく、ここに来たのもその捜索のためらしい。
他にも葦月伊織って人と、磯崎泉って人も捜し出したいと言っていた。殿達を捜している俺と、置かれている状況は大して違わないようだ。
どこまでが本当かは知らないが、話してみる限り、少なくとも悪い奴じゃなかった。
俺の方の事情も簡単に話し、何処かで心当たりある人を見なかったかと訊ねてみたが、寺谷の答えは残念ながら俺を喜ばせるものではなかった。
殿、一体何処に居られるんスか? 絶対無事でいてくださいね。
俺はそう願わずにはいられなかった。
774罪と罰:2007/02/15(木) 02:13:06 ID:kQkxaBv5


「――それで、これからどうする? ここで暫く大人しくしてるってのもありっちゃありだが……」
「そんなわけいくか。俺には捜さなきゃなんない人がいる。お前だってそうなんだろ」
「ああ。イチタカや葦月、それに泉ちゃんを放ってはおくことはできん」
「だったら決まりだ。捜しに行くしかない」
「でも、外にはさっきの銃声の奴が居るってことを忘れるなよ。不用意に歩き回れば、いきなりズガンだ」

そう言って、寺谷は手で鉄砲の形を作り、俺の胸目掛けて「ズガーン」と弾いて見せた。

「そんなことは言われなくたってわかってんだよ。けど、だからってどうしようもねーだろ。
 ここで待ってたって殿達が来るとも限らねーんだし、多少危なくったって外に出て捜し回るしか手はねーよ」
「まあ、そうだな」

歯切れの悪い返事。
危険とは知りつつも、それ以外方策がないことをこいつも痛感しているようだった。

「おい、武器は持ってんのかよ?」

俺はおもむろに訊ねてみた。

「武器?」
「ああ、襲われたときの用心ってやつだ。こっちにも武器があれば、条件は他の奴と変わらない」
「でもお前、さっきはやる気はないって……」
「言ったよ。俺からやり合うつもりは一切ない。それは誓ってもいい。でも仕掛けられたら話は別だ。
 さっきお前から銃声のことを聞いて、俺は感じたよ、生半可な気持ちでいたらこっちが殺されちまうってな。
 だからもし必要ならば、そんときは戦うしかねえ。自分の身を守るために」

いきなりそんなことを訊かれて面喰らっていた寺谷も、俺の説明を聞くと表情を改めた。
もしかしたらこいつも恐怖を抱いてる一方で事態を楽観視していた一人なのかもしれない。
それで俺の言葉を聞いて、はじめて本当に『殺し合い』ってのを意識したようだった。真剣な眼差しをして考え込んでいる。

「お前の言う通りだな……。確かにそうだ、身を守るために戦わなきゃなんねーこともあるかもしれない。
 けど、生憎と俺は武器となりそうなもんは持ってないんだわ。何か支給すると言っておきながら、俺のデイパックには何も入ってなかったよ」

寺谷はあっけらかんとした口調で言う。

「そうか……。実はこっちも似たようなもんだ。一応入っちゃいたんだが、とても使い物になりそうもなかった」

俺はバッグを開け、薄っぺらいオレンジ色のプラスチックの板を取り出す。支給されたものはこれだと寺谷に見せてやった。
『Y字ブーメラン』
あのおもちゃ屋や駄菓子屋で売られている、投げると円を描いて戻ってくるあれだ。
おもちゃであるそれは当然殺傷能力なぞ持つわけもなく、こんなものじゃ眼くらましに使うことだってできやしなかった。
一体どういうつもりでこんな物を支給したのか、まったく理解に苦しむ。そのせいで俺は一つハンデを背負うことになるってのに……。
775罪と罰:2007/02/15(木) 02:13:59 ID:kQkxaBv5


「外に出るんなら、どっかで角材かなんか拾ってかないと駄目だな」

俺がそう一人ごちると、言い終わるのを待ってたかのように寺谷が口を開いた。

「なあヒロト、捜しに行くアテなんかはあるのか?」
「……ない。テキトーに歩き回る」
「それじゃ効率悪いだろ。だったらまず、この氷川村ってのを目指してみないか」

寺谷は窓から射し込む月明かりを頼りに、自分の地図を広げ、氷川村を示した。

「今居るのがたぶんこれだと思う。となると、このすぐ隣のエリアが氷川村になるわけだ」
「氷川村か――」

焼場を出て、目の前の道路を跨げばすぐそこに民家が見えてくる。そこはもう氷川村村内になるのだろう。
そのことはここに入り込む前に確認してあった。
確かに無闇やたらに動き回るよりも、村のような建物の密集しているところを捜すのは悪い案ではないように思える。

「歩いて数分ってところだぞ。どうよ?」
「……じゃあ、そうするか」

俺は寺谷の申し出を受けることにした。それは二重の意味で申し出を受け入れたことになる。
こいつの提案に従うということは、こいつと行動することを承諾したことになるからだ。
まだ寺谷を完全に信用していなかったが、それでも正直なところ一人で居るのが怖くもあり、仕方なしにというのがその理由だった。

「それじゃ行くか」

寺谷が地図をポケットに仕舞うのを待ち、俺はそう促して部屋を出た。
だが、そこで寺谷が何かに躓いて派手に転んでしまった。
どうやら俺がさっき倒してしまったパイプ椅子に足を取られたようだった。暗くて足元がはっきりしないせいだろう。
まあそこまではよかった。けど倒れた拍子に寺谷の懐から転げ出たものが不味かった。
俺がそれを拾おうとすると、それより先に寺谷がブレザーの下に素早く隠してしまう。

「……何だ、今のは」
「……別に、大したもんじゃない」
「嘘つけよ」
「嘘じゃない」
「銃のように見えた」
「……まさか」

明らかに寺谷は動揺していた。
不味いものを見られたとでもいうように、俺から顔をそむけている。
俺は一瞬たじろぎ、寺谷を信用すべきかどうか迷ったが、そんなこともしてられず、弾かれたように寺谷に覆い被さった。
776罪と罰:2007/02/15(木) 02:14:35 ID:kQkxaBv5

「見せろ」
「嫌だ」
「見せろつってんだろ!」

俺は頭にきて寺谷を羽交い絞めにし、力ずくでブレザーに隠された物を引きずり出そうとした。

「や、ヤメロ!」

寺谷が激しい抵抗を見せる。
しかし俺は容赦することなく、ブレザーの下からそれを取り上げると、寺谷を大きく突き飛ばした。
寺谷は俺が並べていた簡易テーブルに頭から突っ込んだ。俺はそんなことを気にも掛けず、寺谷から奪った物を暗闇に透かして改めた。

「……これは……」

それはやっぱり銃だった。
変わった形をしていたが、紛れもない銃だった。
こんなものを隠し持っていたなんて……。
一体どういうつもりだったんだろうか? まさかこれで俺を……。
迂闊だった。気を許すべきではなかったのだ。

「どういうことだよ。詳しく説明してもらおうか」
「…………」

寺谷は硬く口を閉ざしている。だがそんなことで許されるわけがなかった。
こいつは俺に「組もう」と言ったんだ。しかも武器は持っていないとも。
なのに言いだしっぺのこいつがあろうことか武器を隠してたなんて、絶対に許されるわけがない。
武器を持っていることを告げ、その上で協力を申し出るならまだしも、俺を騙してたってのが信じられない。
俺はじっと押し黙ったままの寺谷に、静かに銃口を向けた。

「言えよ、やっぱり俺を撃ち殺そうと思ってたんだろ? さっきはそのチャンスを窺ってたんだろ?
 え、どうなんだよテメー……! なんとか言ってみろコラァ!」
「ちげえよ……そうじゃないんだ……」

この期に及んで何が違うってんだ? 調子のいいことばっかり言ってんじゃねえ。
俺はだんだんむかっ腹が立ってきた。

「ふざけんな! 何が違うってんだ! テメーはちゃっかりこんなモン隠してたじゃねーか!」

銃口をぐっと突き出す。
引鉄を引いてしまいたくなる衝動に駆られながら、それでも俺はまだ理性がはっきりしていて、
そんなことをしてしまっては取り返しが付かなくなると、冷静に考えることができた。でも、それがいつまで保つのかは怪しいものだった。
寺谷が少しでもおかしな挙動を見せれば、俺の人差し指はたちまち引鉄を弾くことになるはずだ。

「言えよ、俺を殺そうとしてたって……。早く言えよ!」

それを聞いてどうするというのか。
これは正当防衛なんだと、寺谷を撃ち殺す口実が欲しかったんだろうか。……自分でもよくわからない。
777罪と罰:2007/02/15(木) 02:15:14 ID:kQkxaBv5

「だから違うんだって……」
「テメー!」

見苦しくも言い訳を続ける寺谷の鳩尾目掛け、俺は銃を構えたまま思い切り蹴り上げる。
寺谷はまたもテーブルの上に突っ伏し、苦しそうに顔を歪めた。

「こっちは殺されそうだったんだぞ! つまんねー言い訳なんかしてんじゃねえ!」
「話を……聞いてくれって……」
「いや聞く必要はない。お前は俺を殺そうとした。それだけで充分だ」

熱くなり過ぎていた。でも仕方がなかった。
殺されていたかもしれないと思うと、それだけで寺谷が憎くなった。

――それならいっそ殺しちまおうか?

そんな考えが頭に浮かぶ。
俺はどうするとも決心のつかぬまま、銃口を寺谷の後頭部に押し当てた。
あと数センチ指を動かすだけで人一人の命を奪いさらえる――。喉がひりつくように渇くのを感じた。
寺谷が動いたのはそのときだった。
俺の迷いの間隙を衝き、全身をバネにして飛び掛ってきたのだ。
俺は迷っていた分、数瞬反応が遅れ、寺谷の決死のタックルをもろに受けてしまった。

「ぐぅ……」

その勢いのまま後ろに押され、背中が窓ガラスを突き破っていた。
バリバリと音を立てて崩れていく破片の上を二人で転がりながら、俺達はお互いに優位な位置を取ろうと揉み合った。

「だから話を聞けって言ってんだろ!」
「誰が人殺しの話なんて聞くか!」

俺達以外に誰も居ない、無人の焼場に二人の怒声が響き渡る。
殴り、押し、引っ掻き、引っ張り、そして噛み付くといったなりふり構わない格闘の末、寺谷が上を取った。
俺は必死にもがき、馬乗りになった寺谷の下から這い出ようとしたが、どうあがこうと上手くいかない。
握っていた銃は既に掌から零れ落ち、何処へ消えたのかわからなくなっていた。
打つ手なし――。
恨みがましい憎しみの篭った眼で寺谷を見上げるのが、俺にできる精一杯だった。
殿だったらこんなとき、どうやって打開するんだろうか? 考えても急には思い浮かばない。

「話を……聞けって……」
「――――ッ!」

激しい格闘で息が切れた寺谷が、途切れ途切れ言った。
俺は「聴きたくない!」って叫ぼうとしたけど、俺の方も息が切れていて、何を言ったのかよくわからない発音になっていた。

「銃を隠していたことは……謝る。でも悪気が……あったんじゃないんだ……。お前をまだ……信用できなかったから……」
「……俺を信用できなかったからだと……?」

頭にきた。自分の方から誘っておいて、そんな言い草はあんまりだと思った。
俺は渾身の力を籠めて暴れ、もがき、寺谷に思い知らせてやろうと頑張ってみたが、結局押さえつけられてしまい、無駄だった。
778罪と罰:2007/02/15(木) 02:15:52 ID:kQkxaBv5

「スマン、謝る。確かに誘った俺がお前を信用してなかったのは申し訳ないと思う。だがこれも身を守るためだ……。わかってくれ……」

寺谷は辛そうに、心底すまないといった風に頭を下げた。
正直ムカついていた。頭を下げてもらったくらいじゃ気がおさまらない。
……でも気持ちはわからないでもなかった。
こういう状況に置かれ、誰かに縋りたいと思う気持ち。でも反面、その誰かを信用できない暗い気持ち。
俺自身が全く同じだった。
俺もそういう複雑に絡み合った心境で寺谷に接していた。だから何も言い返せなくなってしまった。
俺は暴れていた身体の力を故意に抜いた。
決して許したわけではない。寺谷のしたことを許せるか許せないかで言えば、絶対に許せない行為だった。
もし途中、俺が寺谷に少しでも敵意を見せたならば、こいつは俺を撃ち殺していたかもしれない……。そう思うと我慢ならなかった。
けど――――……。
それでも俺は寺谷を責めることができなかった。
たぶん、きっと、俺が寺谷でも同じようなことをしていたと思うから。

「……早く降りろよ」
「わかってくれたのか……?」
「納得はしてねーよ! お前は許せねえ! でも……理解はしてやる……」
「そっか……」

そう呟いて、寺谷は静かに俺の上から降りた。
もうお互いやり合うつもりはなかった。
はぁ、と大きな溜息を吐き、俺も身を起こした。先に立っていた寺谷がそれを手伝ってくれる。

「酷いな」

寺谷の眼が部屋を一巡して戻ってくる。言うとおり、部屋の中は酷い有様だった。
割れて飛散した窓ガラス、足の曲がったパイプ椅子、寺谷が突っ込んだ拍子に半ばで折れた簡易テーブル……。
まるで嵐の去ったあとみたいだった。
そんな光景を二人で見ていると、なんだか凄く滑稽なことをしていたように思えてくる。

「……あーあ、なんか馬鹿くせぇ」
「だな」

俺は割れたガラス片を踏みしめながら自分の荷物を探した。
もうここに留まる理由はない。

「おいヒロト」
「言ったろ、俺はお前を許したわけじゃない。だから一緒には行かない」
「そっか……だよな……」

寺谷は残念そうだった。

「ま、俺のせいだし、仕方ないか」

そう言って、寺谷も嵐の去った部屋の中に、自分の荷物を探し求めた。
779罪と罰:2007/02/15(木) 02:16:27 ID:kQkxaBv5

「一つ訊いていいか?」

俺はそんな寺谷の背中に訊ねる。

「ああ、いいよ」
「……あの銃、どうする気だった?」
「…………」
「もし俺がちょっとでもおかしなことをしてたら、お前、撃ってたか?」
「…………」

寺谷は黙っていた。というより、考えているのかもしれない。
程なくして、小さな聞き取りにくい声で「……必要なら」という乾いた返事が返ってきた。
俺はその返事に何も応えなかった。応えられなかった。
ちょうどそこで俺の荷物が見つかったのを幸いに、話はそこで打ち切られた形になる。
格闘していた弾みでか、荷物は部屋の端にまで飛ばされていた。俺はそれを拾い上げ、肩に負った。
そのとき何気なく寺谷の方に眼を転じると、その足元近くに例の銃が落ちているのが見えた。
寺谷も気付いたようで、腰を屈め、手を伸ばすところだった。

「やめろ、触るな!」

俺は声に出して叫んでいた。

「……心配すんな、撃ったりしねえよ」

そうかもしれない。
元々寺谷はその銃を使うつもりはなかったのだ。いざというときの用心ために、嘘をついてまで身に隠していただけだったのだろう。
だからその嘘が偶然にもバレ、俺と行動しないとなった今、寺谷が俺にその銃を使う危険性はほとんどなくなったと言っていい。
俺が奴に危害を加えない限り、奴も俺に手は出さない。それは確実だった。
しかしそれは冷静に、理性的に考えた場合の話だ。
感情論でいえば、寺谷が俺の前で銃を再び手にすることなど、絶対に見過ごせるわけがない。
少なくとも俺がここを出るまでは、あれを寺谷の手に渡してはならなかった。
俺は声を大にして怒鳴った。

「それでも駄目だ、触るな。俺がこの建物から出るまで、絶対にそいつに触れるんじゃねえ!」

また嫌な空気が張り詰める。
4,5メートルほどの距離を置いて、俺たちは再度睨み合った。お互い、相手の一挙手一投足に穴の開くほど注視し合う。
一瞬、寺谷が動いた。――いや、動いたように見えた。
それは銃を取ることを諦めた風にも見えたし、逆に銃を取ろうと動いたようにも見えた。
しかし俺はそんなことを確かめる間もなく、肩に掛けていたバッグを寺谷に投げつけると、大きく横に跳んで床を転がっていた。
そして一転して床に散らばったガラス片を拾い上げると、寺谷に向かって真っ直ぐ走った。
その頃には寺谷も体勢を立て直していて、俺の行動を見るやいなや、落ちている銃を拾い上げた。
考えている暇など微塵もない、刹那の勝負だった。
俺が早いか、寺谷が早いか――――。
780罪と罰:2007/02/15(木) 02:17:02 ID:kQkxaBv5
勝負を決めたのは得物の差だった。やっぱりどうしても飛び道具には適わない。
俺の手にしたガラスの刃が寺谷の身体を襲うまさに直前、まるで呪文でも唱えたかのような白く眩しい火の玉が寺谷の手元に起こり、
次いで俺は強烈な力によって弾かれていた。
銃で撃たれたと認識するまでに数秒を要した。
左肩に燃えるような痛みを覚え、俺はだらしない奇声を上げていた。

「あああああああぁぁぁぁぁ…………!!!!」

血を吹く肩を抑える。
さっきの格闘で身体の節々を打っていたが、今度の痛みはそんなものの比ではなかった。
しかし俺は倒れはしなかった。痛みで萎えそうになる足腰を叱咤して踏ん張ると、
実銃で人を撃った衝撃に半ば呆然となっている寺谷に向け、まだ握っていたガラスの刃を薙ぎ払った。
しっかりと肉を切り裂く感触が手に伝わり、そのあとバケツでお湯を掛けられたような返り血が降ってきた。
俺のガラス片は、見事な切り口を見せ、寺谷の喉を掻き切っていた。

「――――――――――――――――――――――――――――――――…………………………………………ッッッッッ!!!!」

声にならない叫びを上げながら、寺谷はどうと音を立てて仰向けに崩れ落ちた。
俺は肩の痛みに歯を食いしばって耐え、すかさず寺谷の上に乗ると、ガラス片を振りかざした。
ガラスを一回一回振り下ろすたび、血しぶきが舞った。
跳ね上がった飛沫や肉片が、俺の顔や学ランを赤く汚していく。
いつしか俺は夢中になって寺谷の身体を傷つけていた。頭の中は真っ白だった。
ただ、ここでこいつを痛めつけておかなければ逆にやられてしまうという危険信号が、繰り返し繰り返し俺の中で慌しく明滅しており、
俺は振り下ろし続ける手を休めることができなかった。





どれくらいそうしていただろうか。
さすがに息が上がりはじめ、俺はようやく寺谷の上から降りた。
耳が痛いほどの静寂の中に、俺の荒い息遣いだけが聞こえている。

「はぁ、はぁ……。クソッタレが……これでわかったろ。俺を殺そうとするなんて……10年早ぇーんだよ……」

大の字になって伸びている寺谷に向かって、俺は勝ち誇ったように吐き捨てた。
これでも中学時代は名を売ってたくらいだから、こんな鼻デカ眼鏡の一人や二人、その気になればどうってことねーんだ。

「少しは思い知ったか、バカタレが」

座り込んだまま、まだ伸びてる寺谷に蹴りをくれてやる。
撃たれた肩がじりじりと痛んだ。
その頃になって、俺も冷静さを取り戻しつつあった。
手にしたままのヌルヌルしたガラス片に気付き、汚物でも放るようにそれを投げ捨てた。
781罪と罰:2007/02/15(木) 02:17:38 ID:kQkxaBv5
「何だよ……これ……」

頭がクリアになっていくのがわかる。落ち着き、冷静さを取り戻していってる。
だがそれにつれ、だんだんと俺は自分の仕出かしたことの重大さを理解していく。
俺はさっきまでとは違った意味で心臓が大きく拍動するのを感じながら、仰臥する寺谷の顔を恐る恐る覗き込んだ。

「う、うわぁぁぁあああああ!!!」

覗き込んで見た寺谷の顔は、さっきまでと様相を一変させていた。
血走り、カッと見開かれた眼。苦しそうに歪められた口許。鼻口から噴出したどす黒い血。
そしてなにより、真一文字に切り開かれ、骨まで覗き見ることのできる首の傷。無数の刺し傷――。
一体何が起きたんだろう? 咄嗟には何がなんだか判断がつかなかった。
思考が停止してしまって、俺は変わり果てた寺谷の顔をじっと眺めることしかできなかった。
次第に脳がぶんぶんと唸りをあげて回転し始める。すると今までの経緯が脳内で映画を見ているように再生され、全てを悟った。
掌が痛い。
眼の高さにまで掲げてみる。広げると無数の切り傷が掌にも指にも、かなりの深さでついていた。
こんなになるまでガラスを握り、人を突き続けるなんて……。俺は俺が恐ろしくなった。
自分で言ってれば世話はないが、俺は普段からやり過ぎる性質ではあった。しかしこれは、やり過ぎとかいう度を遥かに越えていた。
俺はパニックになって駆け出していた。とにかくここから逃げなくちゃ……。
例え10mでも、1mでも、少しでもいい、遠くへ逃げたかった。
こんな場所には1秒と居たくなかった。この場の空気など少しも吸っていたくもなかった。
荷物なんて全部残したまま、俺は暗い廊下を走った。肩の痛みなんて忘れている。
階段を飛び降りた。もうすぐだ。すぐそこに出口がある。
あそこまで行けば、ひとまず外に出ることができる。外の空気を吸うことができる。
あと少し。あと少し――――。
俺は入り口まで来ると、勢いよく戸を押し開けた。








ザクッ…………


外に飛び出たはずの俺は、何か強烈な力によって押し戻されていた。
三、四歩後退して、それからその場に崩れ落ちてしまう。
782罪と罰:2007/02/15(木) 02:18:16 ID:kQkxaBv5

「あれ?」

足腰に力が入らない。
素っ頓狂な声を上げながら自分の腹を見ると、そこには一本の斧が突き立っていた。
まったく意味がわからない。何で腹から斧が生えてるんだ……?


「私は神の意思を遂行する者……」

そう言って、俺が押し開けたドアから入ってきたのは、パリッとしたスーツを着た知的な感じがする男だった。

「私は悪を裁かなくてはならない」

男は冷たい氷のような視線で俺を見下ろした。

「お前の名を聞かせて欲しい」

なんだか役人みたいな雰囲気を持っていて、それがひどく癇に障った。
「誰だテメーわ。いきなり出てきて神だとか頭おかしいんじゃねーの」って怒鳴ろうとしたけど、
喉からはヒューヒューと細く荒い息が漏れるだけで、俺がいくら怒鳴ろうとしてもそれが言葉になることはなかった。
……腹が痛い。
斧がそれ自身の重みで傷口を広げているようで、真一文字に切り裂かれた腹からは血が止め処なく溢れていた。
男はそんな俺の姿を見ても眉一つ動かさず、じっと答えを待っている。

「私は神に裁いた悪人の名を告げねばならない。もう一度問う、お前の名は?」

答えられるはずがなかった。俺はもう喋ることができないのだから。
大きく口を開いてしまった腹からの出血は、俺の残された体力を着実に奪い取っていった。
さっき食べたパンがこぼれてしまうような気がして、俺は必死に腹を押さえた。もう俺にはそれくらいしかできない。
そのうち俺は座っていることもできなくなって、仰向けに倒れた。
意識が急速に遠のいていく。
無性に殿に逢いたくなった。
川島のことも、マサさんのことも、それから俺が殺してしまった寺谷のことも一切を忘れて、いつものように殿に逢いたかった。
……クソ、こんなはずじゃなかったのに。一体何処で間違えたんだろう?
何も答えが見つからないまま、俺の意識は糸を切ったようにそこで途切れた――――……。
783罪と罰:2007/02/15(木) 02:18:56 ID:kQkxaBv5



     * * *



「死んでしまったか……。名を訊きそびれたな」

照は死んだヒロトを見やると、少しだけ眉をしかめた。
しかしその程度のことであって、さほど残念そうな表情はしなかった。
名を聞きだすことはできなかったが、そこにはキラの法を正確に実行したのだという自負があった。

「次からはきちんと訊いてからでなければ、神のご意思に沿うことができなくなる」

そう一人小さく反省をしながら、ヒロトの胸に足を乗せると、腹に埋まった斧を一息に引き抜いた。
はみ出た臓腑から濃厚な血の臭いと、腸の内容物の臭いが交じり合い、酷い臭いとなって周囲に立ち昇った。
照はそれにも表情を変えようとはせず、斧を一振りして、刃にこびり付いた血や肉片を振り落とした。
もう頭は次の『悪』のことに切り替えられている。
照はその場で乱れたスーツを正すと、斧を提げ、それから何事もなかったように踵を返した。

「削除」

そう言い残し、照は外の闇に姿を溶かした。
784罪と罰:2007/02/15(木) 02:21:12 ID:kQkxaBv5
【H-07/焼場/1日目・午前3時ごろ】

【男子35番 魅上照@DEATH NOTE】
状態:軽い興奮状態
装備:斧
道具:支給品一式
思考:1.キラを崇拝
   2.全参加者への裁き(殺害)
   3.主催者への裁き(殺害)

【男子07番 大場浩人@ろくでなしBLUES 死亡確認】
【男子23番 寺谷靖雅@I''s (アイズ) 死亡確認】
【残り53人】

※ヒロト・寺谷の荷物はその場に放置。
※寺谷の武器は『H&K MP5KA4(弾数37発/予備弾120発)』サプレッサー、レーザーサイト装備とする。
785 ◆SzP3LHozsw :2007/02/15(木) 02:22:16 ID:kQkxaBv5
以上で投下を終わります。
786名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/15(木) 09:47:15 ID:MV8PE3Li
大作だな
三上美味しいとこ取りw
GJ!
787名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/15(木) 12:25:26 ID:mZkm95Ar
魅上怖いよ魅上
788名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/15(木) 14:09:27 ID:j/aFlTFT
いいな、こういうのこそロワって感じがする
すげー面白かった
789名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 01:07:29 ID:HikfxAib
五人しかいないのか……
790名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 10:53:30 ID:LNDCTdN8
ヒロトと寺谷のパニクった一般人っぷり、
それと対照的な魅上の非情さがイイ!
GJでした。面白い物を読ませてもらった。
791名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 13:08:15 ID:NG1skMlO
もうwikiにうpされてるけどいいの?
問題は無いと思うが修正要請とかあるかも知んないし一週間くらい置けばいいのに
792名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 15:08:57 ID:HikfxAib
修正の要請に応えるくらいwikiでやれるから良いんじゃね?
793名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 15:54:14 ID:Do2/Ihsg
2/3【アイシールド21】●小早川瀬那 /◎蛭魔妖一 /◎滝鈴音
4/4【I''s (アイズ)】◎瀬戸一貴 /○葦月伊織 /◎磯崎泉 /●寺谷靖雅
4/4【いちご100%】◎真中淳平 /◎西野つかさ /○外村美鈴 /◎南戸唯
3/3【こちら葛飾区亀有公園前派出所】◎両津勘吉 /◎本田速人 /◎ボルボ西郷
4/4【CITY HUNTER】◎冴羽リョウ /◎槇村香 /◎伊集院隼人 /◎野上冴子
7/7【SLAM DUNK】◎桜木花道 /◎流川楓 /◎三井寿 /◎宮城リョータ /◎赤木晴子 /◎田岡茂一 /◎魚住純
3/3【DEATH NOTE】◎夜神月 /◎L /◎魅上照
4/4【テニスの王子様】◎越前リョーマ /◎竜崎桜乃 /◎手塚国光 /◎菊丸英二
2/3【ヒカルの碁】●進藤ヒカル /◎塔矢アキラ /◎藤崎あかり
4/4【ピューと吹く!ジャガー】◎ジャガージュン市 /◎酒留清彦 /◎浜渡浩満 /◎白川高菜
5/5【BOY】○日々野晴矢 /◎一条誠 /◎伊部麗子 /◎神崎狂 /◎山ノ上春香
3/4【Mr.FULLSWING】◎猿野天国 /◎虎鉄大河 /●清熊もみじ /○御柳芭唐
4/5【ルーキーズ】●安仁屋恵壹 /◎御子柴徹 /◎新庄慶 /◎平塚平 /◎八木塔子
6/6【ろくでなしBLUES】◎前田太尊 /◎七瀬千秋 /◎中田小平次 /◎中島淳一 /●大場浩人 /◎川島清志郎
55/59 (○生存/●死亡/◎登場済み)
死亡6 未登場4
794名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 15:58:19 ID:Do2/Ihsg
一条&菊丸&唯:F-07/林/1日目・午前0時すぎ
晴子:E-05/神塚山山中/一日目・午前0時30分ごろ
越前:C-06/崖周辺/一日目・午前0時半頃
中島:J-07/浜辺/一日目・午前1時ごろ
冴子&一貴:E-02/菅原神社/一日目・午前1時ごろ
魅上:G-06/鷹野神社/1日目・午前1時頃
塔矢&平塚:H-03/平瀬村に向かう途中の車道/1日目・午前1時ごろ
御子柴:F-06/神塚山頂上付近/1日目・午前1時頃
あかり:C-06/崖下の砂浜/午前1時頃
小平次:D-7/海岸線の道路/1日目・午前1時00分
猿野:D-02/川のほとり/1日目・午前1時半ごろ
手塚:G-03/平瀬村分校跡/1日目・午前1時半ごろ
神崎:E-04/ホテル跡屋上/1日目・午前1時30分ごろ
三井:A-2/崖周辺/一日目・午前2時前後
イブ:H-06/源五郎池/1日目・午前2時ごろ
蛭魔 両津:H-04/車道/1日目・午前2時00分頃
ピヨ彦&鈴音:D-06/学校近く/1日目・午前2時ごろ
海坊主&桜乃:E-08/車道(東崎トンネルの手前)/1日目・午前2時ごろ
前田:C-03/鎌石村役場前/1日目・午前2時ごろ
リョウ&春香:H-7 平野/一日目・午前2時ごろ
リョータ:H-06/源五郎池/1日目・午前2時半ごろ
L:I-06/民家/1日目・午前2時30分ごろ
川島:D-04 高原池湖畔/1日目・午前2時半ごろ
新庄&塔子:F-07/森/1日目・午前2時半ごろ
桜木:D-1/海岸線の道路/1日目・午前2時30分
香&西野&虎鉄:D-05/森/1日目・午前2時半ごろ
ジャガー 魚住:C-03/鎌石村道路/1日目・午前2時半ごろ
月&本田:I-10/琴ヶ崎灯台/1日目・午前2時半ごろ
流川&泉:F-08/無学寺本堂内/1日目・午前3時ごろ
田岡:F-02/平瀬村の民家前/1日目・午前3時ごろ
ボルボ&真中:E-01/海岸線の道路/1日目・午前3時ごろ
高菜&ハマー:G-06/鷹野神社付近/1日目・午前4時ごろ
795名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 16:00:28 ID:Do2/Ihsg
葦月伊織 外村美鈴 日々野晴矢 御柳芭唐
の四人がいまだ未登場
こいつらが出れば全員出揃うんだけど
796名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 19:31:03 ID:M3YVlJk4
晴矢って難しいのかな
登場はしたけど没ること2回…
797名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 20:02:03 ID:dYo8GbIY
まじめな話、一般人キャラじゃないしな……
798名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 20:19:55 ID:R1yLG+s1
またそれを持ち出すのか
799名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/16(金) 23:05:39 ID:Dm+/bwMp
伊織と美鈴はまだ良いとして、後者二人は書きにくいだろうな
800名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 01:50:16 ID:5l5pLEXn
なあ罪と罰の

「――――――――――――――――――――――――――――――――…………………………………………ッッッッッ!!!!」

もう少し短くなんない?長すぎて後編が変なことになってる。
801名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 06:54:29 ID:ANL+wJaG
直ってるよ
802名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 14:39:55 ID:W0tVpctu
wikiも充実してきたし、大作来たし、後に繋がれば言う事無しなのだが・・・・
803名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:21:54 ID:5l5pLEXn
>>801
直ってねえ
もう少し……ッ!!
804名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:28:05 ID:SUSep1u1
何をもって直したというのか……
別に今のでも問題が無いと思ってる俺にとっては直しようが無い。

>>803
自分で直せ
805名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:33:48 ID:ANL+wJaG
>>803
要するにwikiで読むと改行されてて見苦しいって意味なんだろ?
うちのでは昨日のと比べて短く直されてるけどなあ
まあ問題があるなら自分で直せってことだ
806名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:40:12 ID:5l5pLEXn
直した。
つーか勝手に第三者が直していいのかあれ?
807名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:44:30 ID:ANL+wJaG
本編に大きく関わることじゃなきゃいいでしょ
それこそ読みやすくするために――や……を減らすくらい、いちいち本人に確認取るほどのことじゃないかと

当たり前だが、第三者が内容をいじったりするのはやっちゃいけないことだけど
808名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 15:50:31 ID:5l5pLEXn
でもそんな細かいところにも書き手側のこだわりとかがある可能性があるわけでさ。
だから修正要望があった場合あくまでそれを書いた本人にやらせるべきだと思うんだが。
ってまあ勝手にやっちまった自分が言えたもんじゃないけど。
809名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 23:17:16 ID:OZA9lvDR
やっぱ索引欲しいな
全選手入場とか貼ってあったはずだがトップからもメニューからも飛べねえや
810名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/17(土) 23:19:41 ID:mtDzAD+h
さすがに作者意外の人間が勝手に弄っちゃ不味いだろ……
基準なんて人それぞれなんだから、絶対に問題が出てくるぞ
せめて、コメントなりを使って修正点を書くくらいしないと駄目だろう……
811 ◆SzP3LHozsw :2007/02/18(日) 00:25:21 ID:laBIZ0Df
演出のためにやったことですけど、特に強いこだわりがあったわけでもないんで、
今回の修正については何も問題ないです。はい。
むしろ見易くしてくれて助かりました。
812名無しさん@お腹いっぱい。
んじゃこれからは修正はあくまで本人の手で、
かつ修正した点はここで報告ってことで。