フィギュアスケーターズの華麗ないちにち 6日目

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491スポーツ好きさん:2011/09/23(金) 21:48:46.89 ID:U+4QDH9K
「・・・雪彦、もういい。ここから先は俺一人でやる」
「崇じぃ?」
「記録には『長』の勇気が必要だとあった・・・俺の勘が正しいなら、これはちょっと危険な作業になる」
「崇じぃ、それなら僕が」
「お前は・・・少なくとも今の『長』じゃないだろ」
「でも、」
「それより・・・お前には別の作業をしてもらわなくっちゃ」
「何?」
「タイミングを見計らって、信夫先生の『ICE』の封印を解け。最後の仕上げにそれが必要になるハズだから」
「うん」


五輪を終えて、オフの間にいろいろな経験をした。
まだまだ自分は伸びるし、伸びなくてはいけない。
あと4年しかない。
まだ4年もある。
その間に、どこまでもどこまでも伸びていきたい。

「タカ、今よっ!」
未来の声がした。

(4回転からの・・・!!!)
492スポーツ好きさん:2011/09/25(日) 23:49:16.56 ID:+ALmOIFl
予期した通りに、重力がふっと弱まる。そして飛ぼうとした瞬間、
「そんな! 何でよぉ!」
突然ブルマの悲鳴が響き、崇彦は踏み切りのタイミングを外した。
着氷にも失敗して転倒する。低重力のおかげでダメージが少なかったのが、せめてもの幸いだ。

「何があった!」
起き上がった崇彦は、演技を中断し、ブルマの方に滑り寄った。
「副所長さん……正直、落とし前つけずに帰らせるのはシャクだった。
でもね、私たち、こんなこと望んじゃいなかったのに!」
青ざめた彼女たちの周囲で、大量の発光体が嘆きの念と共に渦巻いている。
『兄様、兄様、どうしてですか?』『一緒には帰れない、だなんて!』
総督が、低くため息をついて言った。
「自分のやってきたことが、結局すべて無駄だったのに、耐えられなかったんだろうな。
幼生体の最後の一塊は、この人形を抜け出し、自ら氷の上に落ちた……もう、生命反応はない」

(あーもう何それ、後味悪すぎね?)
半ば呆然と思う崇彦に、宇宙船からみどりの声が降ってきた。
「小塚くん! まだ『過去の彼』を救うことはできる! 歴史の歪みの源も、そこにあるのよ!」
493スポーツ好きさん:2011/09/30(金) 00:25:31.58 ID://iUNEtY
『大丈夫です。長よ。私達が力を貸します。
子ども達、そんなに嘆かないで。あなた方の兄様も、
長と《美》の力で救えるのですから…
さあ、長よ、続けてください。
あなたが信じるままに』

ついに、精神生命体の本星からのメッセージが
地球上のスケーター達にも直接響いた。

494スポーツ好きさん:2011/10/01(土) 23:58:25.26 ID:8TPArgV0
「過去の彼というと、22世紀から持ってきたあれね!」
みどりの言葉に、クリスティナとヤンはうなずき合うと、急ぎ時空警察ビルへ飛ぶ。
例の保存容器はまだ、ビルに吸い込まれた宇宙船にあるはずだった。

彼らが容器を持ち帰ると、いくぶん幼い感じのテレパシーが一同に届いた。
『それです、兄様が言ってました。この中に過去の自分たちがいる、
処分されてしまえば、地球で増殖した皆は「最初からいなかったこと」になると』
そう聞いて、スケーターたちはあることに気づく。
言うに言えない者が大部分の中、それをぱっと口に出したのはプルだ。
「いいの、それ成体にしちゃって? そしたら君たち消えちゃうんじゃないの?」

それに答えたのは、本星の方からと思われるテレパシー。
『今のこの子たちなら、大丈夫。心と想いは、一族の集合意識に溶け込んで残ります。
その想いを受け取らないまま「無かったこと」にしてはいけなかった。
スケーターの皆さんも同じでしょう? これまで頑張ってきたのは、子孫たちの想いを
無かったことにするためではないでしょう?』
495スポーツ好きさん:2011/10/02(日) 21:12:30.23 ID:j6wEYfDJ
「…やるしかないみたいだな」
崇彦は体制を立て直す。
と、
「タカ、ストップ」「崇彦、待ちなさい」
佐藤父娘の声が重なった。
「何?」
「これ、マリナが届けて欲しいって」
「…これ…ピアノコンチェルトの衣装?」
「それから、ほら、背筋を伸ばして」
「あ、はい」
くるくる、ぽん。
「ありがとう先生、有香さん!俺、やってみせます。一スケーターとして!」
クリプトンの長だから、ではなくて。
自分に課せられた使命だからじゃなくて。
スケートを愛するものとして、スケートを愛する同士を守りたいから。
ただ、それが100年後の子孫達だというだけのこと。
「一緒にスケートを守ろう!」


(ピアノ…コンチェルト…!?)
聞こえてきた言葉に雪彦は思わず振り返った。
そして、目にしたのは、
信夫が崇彦の背中をくるくるとさすり、最後に優しくぽん、と押すところ。
(うっわぁぁぁぁぁぁ!!!!あれが本家だぁぁぁ!!)
100年の時間が過ぎていった中で、スケート一家小塚家の掟として、
「リストのピアノコンチェルト」は、課題曲に、
「くるくる、ぽん」は、コーチ(という名の親)が弟子(と言う名の子)に必ず行う儀式に、
それぞれ暗黙の了解のうちに定まっていたのだった…。
496スポーツ好きさん:2011/10/06(木) 17:27:45.96 ID:v2ck/o8x
宇宙船の方では、容器に眠る最後の幼生体を巡り、また一騒動起きていた。
「こ、これ、どうすれば目を覚ますの??」『温めて下さい』「温める? アルコールランプない?」
「「僕様そんなもの積んでない」」「こういう時は人肌でアハン」「お湯をわかすといいよ!」

結局カセットコンロが持ち出され、容器が火にかけられた。少しすると、
『ん……あれ? ここ、どこ?』
かすかに思念が漏れてくる。それに、年長の成体たちの念が応えた。
『無事に目覚めましたね、もう大丈夫。怖かったでしょう?』
『うん……ずっと、こわいゆめ、みてた……しらないほしの、こわいゆめ……
わるいこと、たくさんしなくちゃいけなくて、くるしかった』
「数百年後の彼」である副所長の意識が、流れ込んでいたのだろうか。
『でもね、さいごに、すごくきれいなひとたちをみたの。
あれだけは、ゆめじゃなかったらよかったのにね』

夢なんかじゃないよ、見てごらん。
スケーターたちのその思いと共に、窓の外では崇彦が滑り出していた。
497スポーツ好きさん:2011/10/09(日) 22:24:56.84 ID:k3rvSWMZ
4Tから始まって、一つ一つのエレメンツを、的確にこなしていく。
でも、何かが違う。
(100年後も200年後もスケートが発展しますように)
(フィギュアスケートを愛する心が多くの人に伝わりますように)
静かに、だけど、強く湧き上がってくる願いが、演技に直結した。
最後のスピンに至るまで、それは変わる事がなかった。

そして、崇彦と未来が同時にフィニッシュを迎えた。

「あっ!」
雪彦の手の中で、信夫の『ICE』に異変が起きた。
巻きついていた鎖が音を立てて壊れ、勢いよく何かが天空を突き刺す。
『さぁ、こちらへ・・・』
本星のほうからのテレパシーが、その向こうから聞こえてくる。
『帰っておいで・・・』
498スポーツ好きさん:2011/10/15(土) 19:44:54.49 ID:SQEhDO5P
容器の中身は、嬉しげにきらきらと光り出していた。
『すごーい! きれい! ぼくたち、「にんげん」にであえてよかった!』
崇彦たちの演技フィニッシュと共に、その光は容器をすり抜けて舞い上がる。
『ありがとう! もうちょっと見てたいけど、みんなが呼んでるから行かなくちゃ』

「これ、本当にこうやってあの精霊になるんだぁ……」
パトリシアが、大きな眼をさらにまん丸にして呟いた時、何冊かのICEが一斉に光を放った。
『クリスタルからのメッセージ:阻害因子ノ浄化ヲ確認。エネルギー解放ヲ実行スル』
一様に、その一文がページに浮かんでいる。地下では、巨大なエネルギーの気配が膨れ上がる。

そのまま、何も起こる様子がない。ざわつく皆に、信夫が言った。
「そうそう、言い忘れてました。クリスタルによる環境改造には、
早くても十年以上はかかるそうです。変化が一気に起こるわけではなさそうですね」
一同、ずっこける。
「あーもう! 本当にうまくいったか、十年以上経たないと分か……」
「崇じい、百年後には結果が出てるんじゃない?」
499スポーツ好きさん:2011/10/19(水) 22:28:18.44 ID:cR9t3HmS
しかし彼らの考えをよそに、「変化」は既に起こっていた。
初めに気付いたのは、宇宙船で静かに成り行きを見守っていたナターシャだった。

「…歴史は変えられたのね。しかも、大きく」
「すごい! どうして分かったの、ナターシャ?」
彼女の傍で、幼いロシア人の少女が尋ねた。
「あなたは知らなくていいのよ。…『ヴァーニャチカ』」
「えー! ナターシャのいじわるー!」
頬を膨らませた少女、ヴァーニャチカことイヴァナ・ルタヤの頭を、宥めるように撫でるナターシャ。
そこに、彼女の片腕ワーニャ・ルタイの存在は既になかった。

勿論、「変化」はこれだけに止まらない。
500スポーツ好きさん:2011/10/19(水) 23:58:57.62 ID:6BOldguV
アレクセイが、宇宙船の通信機を操作する。
「ヤン、君の兄さんに連絡を取ってくれ。財団のユーロ支部長の立場なら、情報も集まってるはずだ」

「もしもし、ルカシュ兄さん? 僕だけど、そっちの様子はどう?」
『ああ、お前か。こっちはさっきまで大変だったんだぞ。時空警察の捜査が入っててさ』
そうだ、時空警察と財団は派手にやり合ってる最中だ……と思いきや。
『仏スケ連のお偉いさんが何人か、株の違法タイムスリップ取引やってて、こっちまで疑われてさ。
何のための財団だよ、贅沢しない限り金には困らないってのに』
「え……? そ、そうか、お疲れさん」
『おまけに南米支部は火事で半焼するし、サンクト本部じゃ玄関先に小型宇宙船が墜落するし、
どうしてこう災難が続くかなぁ。ま、どっちも死傷者なしで済んで良かった』
この点でも、歴史の書き換えが起きている? ならば、気候はどうなっているのか。

皆が固唾を呑んで見守る中、ヤンは慎重に言葉を選ぶ。
「あ、あのさ。ちょっと変なこと聞くけど、北極の氷って、今どうなってたっけ?」
『え、氷? えーと……ここ数年、急に気温が上がってちょっとヤバかったけど、
シミュレーションでは今度の冬から、反動で気温が下がるから大丈夫だってさ。
ついこの前、国連の研究チームから発表されたばかりじゃないか。専門バカも程々にな』
100年後、少なくとも「北極の氷の消滅」は起きなくなったらしいが。
501スポーツ好きさん:2011/10/21(金) 22:00:57.59 ID:Mps5YYjC
ピピピ…
「私だ」
『総監、歴史の修正があちこちで確認されています。まず、心配されていた北極と南極に氷の塊を確認。
 財団及びスケーターと時空警察とのアレコレも、大きなトラブルは無かったことになっています』
「マナ君、ご苦労」
『ワーニャ・ルタイ氏は「正しい歴史」のとおり、財団幹部の一人として財団本部にいます。
 そちらには…「妹」のイヴァナさんがいることになっているかと』
「…あぁ、いたよ」
『それから、スケート力が21世紀レベルにまで回復しました』
「それらを逐一、まとめておいてくれ。私たちの記憶も時期に修正されてしまうだろうが、
 忘れてはいけない、様々な変化が起きているんだから」
『はい』

「総監、どういうことですか?『修正』?」
「マオ君か…すべては、私たちが自分の時代で犯した…小さな小さな判断ミスがきっかけだった…」
「…あのビンの中の生命体を、火にかけて処分したこと…」
「…そのとおりです、ミス・ミドリイトウ。彼らは…クリプトンの血を引いた、
 スケーター出身の研究者によって、燃やされた…」
「その生命体の生き残り…あの『副所長』は25世紀になって力を取り戻した」
「そして、スケーター殲滅を始めたんですね…」
「いきなり、根源である22世紀を襲撃しようとしたが、誤ると自分まで攻撃してしまう。
 そこで、それよりも100年昔の21世紀をターゲットにした、が…」
「羽生結弦さんが『無意識のうちに』それを阻止した」
「結果…彼らは100年かけて、スケ力を消滅させる方法をとった…。
 氷の消滅、スケ力の減少、ブルマ君の身長異常、イヴァナ・ルタヤの消滅。
 すべて、最初はほんの小さな小さな判断ミスが招いた…悲劇ということさ」
502スポーツ好きさん:2011/10/22(土) 18:18:43.49 ID:iHayErG6
『ヴァーニャチカ! 兄ちゃん心配したんだぞ!
ナターシャ達が行かなかったらどうなってたことか!』
「ごめんなさい。もう家出なんてしないから、おこらないで」
鼻をすすりながら、イヴァナが通信機越しに頭を下げている。
『戻ったら父ちゃんにも母ちゃんにもきちんと謝れよ。まったく本当に…お前って奴は…』
厳しい口調とは裏腹に、ホログラムのワーニャの顔も涙でぐしゃぐしゃである。
そんな様子に、ルタイは首を傾げるばかりだった。
「一体どうなっちまってんだ、これ」
「財団幹部の妹が家出をした拍子に、どこかのタイムマシンに忍び込んで過去へ行ってしまったらしい。
時空警察の捜索によって、彼女…ヴァーニャチカが2010年にいることが判明した。
彼女を保護するために、ちょうど別件でその年へ行く用事があったアリョーシャのタイムマシンに、
時空警察のアロエリーナ、ヴァーニャチカのリンクメイトのユッカ、そして私が同乗させてもらった」
小さな端末の画面を見ながら、ナターシャがすらすらと答えた。
「……そういうことになったようですね」
「なったよう、ってどういう意味だよ」
「今まさに、我々の歴史も書き換えられつつあるのです。
今の私にはこの『日記』を書いた覚えはありませんが、そのうち…これが記憶となり、真実となるのでしょうね」
503スポーツ好きさん:2011/10/22(土) 19:10:51.39 ID:aBNbwR54
総監「過去の事例から言えば、我々の22世紀の者の記憶は、
当事者でも1週間が限度だろう。
我々の活動もひとまずここまで。
ただ、問題は21世紀に残っているが…」
ジョニ子「あら、やっとDIVAの出番かしら☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」
504スポーツ好きさん:2011/10/23(日) 16:07:27.66 ID:9AGaHnCK
「何です?問題って…」
崇彦がジョニ子をスルーして総監に尋ねた。
「21世紀現在、まだ処分されていないはずの、精神生命体カプセルです」
「確かに、彼らが現在どこにあるのか…誰もわかってない」
一同、顔を見合わせる。
「真央、みどりさんの『ICE』に出てこないか?」
「うーん…何もでてこないよ」
「他の『ICE』は?」
タラソワ、カート、オーサー、キャロル、それぞれの『ICE』も無反応のようだ。
信夫の『ICE』に至っては、壊れたはずの鎖が元通りに巻きついていて、開くこともできない。

「見つからないんじゃしょうがないね」

プルがあっさりと言った。
「22世紀組の記憶は変わっちゃうのかもしれないけど、僕たちが覚えてればいいだけじゃない?」
「お前無責任だな…」
「そうだよ!崇じぃが一言残してくれればいいんだ!」
雪彦の思いつきによって、ブリザードは阻止された。
「なんで俺だよ」
崇彦のボヤキに反応するのは…チームジャパンの面々。
「え、だってそういうの崇ちゃんの役目でしょ?」
「そうだよ、いっつもそういうことはタカに任せればいいし」
「それに崇ちゃんなら漢字ミスも計算ミスもしないわよね」
「忘れ物はするけどなー」
「あーもうっ!!うるさい!!」
505スポーツ好きさん:2011/10/23(日) 20:53:23.55 ID:TUVBAw7C
総監「21世紀のカプセルは、今のところ差し迫った問題というわけではないが、
機会があれば、あなた方の手で見つけていただきたい。
もう一つ。これは時空警視総監としてではなく、 一アスリートとしての願いだ。
あなた方が常に高みを目指すこと…それを続けていって欲しい」
506スポーツ好きさん:2011/10/24(月) 13:48:37.36 ID:oUIJxytW
"あんなこといいなっ♪できたらいいなっ♪〜"
「あれ、オラこんな着メロ使ってねえぞ。もしもし…」
『もしもし、ノビちゃん!』
「マ、ママ!?」
『まーたしずかちゃんと一緒に過去に遊びに行っていたのね。
これ以上練習をサボるのなら、四次元タイムマシンは没収よ!』
「ママ、それだけは勘弁して!ご先祖様たちの演技がとっても勉強になるんだよ。
ひいおじいちゃんに会っちゃったのは謝るからぁ〜」
『な、何ですってぇ〜!』
「もしもしおばさま、しずかです。時空警察から迷子探しを依頼されて仕方なく…」

「ママン、ブルマの本名って"しずか"だったっけ?」
「何を今更アハン、イナバウアーのシズカ・アラカワからもらった名前だって
彼女が散々自慢話を…アハン?」「にしてもあんなにおしとやかだったかなママン?」
「ノビタもあんなヘタレだったかな…アハン」
507スポーツ好きさん:2011/10/24(月) 14:06:56.89 ID:E955+q/N
『総監』
「ん?室伏君か」
『時空警察ビルの時空移動装置が無事に全快しましたよ』
「おぉ、ご苦労」
『付きぬ話はあるでしょうけれど、2110年での後始末も待っています。
 そろそろ、ご先祖方へのお別れをしてください』
「そうだな…みんな、聞いたとおりだ。我々は引き上げなくてはいけない。
 各自、2010年にお礼とお別れをしてきてくれ。
 ちなみに、残りは42kbだからそのつもりで」
508スポーツ好きさん:2011/10/24(月) 19:05:52.92 ID:oUIJxytW
「何ですって、後42KBしかないの?
まだ曾祖叔父様とアタシのスペシャルオンステージが始まってないのに!
ノビタ何してんの!早くステージの準備をするのよっ!」
「ええーっジョニー、21世紀に来てまで歌うつもりなのーっ?」
「何よ、ノビタのくせにDIVA様の命令が聞けないの?シズカだってアタシの歌を聞きたいでしょ」
「まあまあ、のび太さんだってひいおじいさんとの名残を惜しみたいでしょうし。
私もひいおばあさまにご挨拶してきてもいいかしら?」
「そうだよ、コーチのおじいちゃんとだって話をしたいし…僕、行ってくる!」
「ちょっとぉ…んもぅ、ノビタの奴、覚えてらっしゃい!」

「ところでサイヤ人はどこに行っちまったんだ…◇」
「え、信太は最初からあんなだったやろ?」
「あーもぅ…まああの方がナルくんの曾孫らしいか」
509スポーツ好きさん:2011/10/28(金) 19:29:10.48 ID:uWD6BGAo
ジャイアン馬場長官「ところで、私の処分は…?」
ライサ警視総監「それも安心したまえ。
《正しい》歴史では、時空のはざま解明のためのチームが組まれたことになっている。君もその一員だよ。
と言うのも、そこの時空警察本部ビルがテロにあった挙句、時空のはざまに飛ばされてしまってね…
ヴァーチャニカ一人のための捜索にしては物々しい規模になったのも、
ここに研究者が集合しているのも、正体不明のテロ組織の関与を疑ってのもの。
だから馬場君、長官は辞任せざるを得ないが、それは君から言い出したことになるよ。
君はこれからは顧問という名誉職付になるが、研究は続けられる」
マオ「と言うことは…」
ライサ警視総監「正直、記憶操作の必要性すらないのだよ。
我々がご先祖のスケートフェスティバルをたまたま目撃した、
という程度の記憶が残るくらいさ。というわけで…」
ジョニ子&ジョニーG「「さあ、ショーの開幕よ!!」」
510スポーツ好きさん:2011/10/28(金) 23:55:04.74 ID:dhH9QWIR
その時、物影にひっそりと小型タイムマシンが着地したが、
マオはなぜか誰にも何も言わずにこっそりと近付いていった。

「アニョハセヨ、マオ!」
「ヨンヒ!トマシュ選手とミドリさんを送ってきてくれたの、ありがとう」
「二人ともまだ薬が効いて寝ているニダ、目が覚めたらみんな忘れてるセヨ」
「そうね。そしてその頃には多分、他の皆も…歴史は修正され、真実は忘却の彼方か」
「でも、ウリたちは忘れない。忘れることは許されない」
「それが私達『特殊捜査官』の宿命だものね…」
歴史変動にまつわる真実を密かに記録、管理する指命を帯びた一握りの者たち。
それが『特殊捜査官』。歴史変動前にはそんなものが存在すらしなかったことも忘れて、
二人の『特殊捜査官』マオとヨンヒはため息をついた…
511スポーツ好きさん:2011/10/29(土) 15:17:50.12 ID:19VZqLdV
「そこのお二方、スケートの準備はよろしくて?でなければお仕置きですわよ」

マオとヨンヒ、頭に何か載せられる。
振り向くとそこにはアレクシア。なぜか頭に薔薇冠が乗っている。

「驚かさないでくれる!?」
「アレクシア、いつも気配を消すのはウリたちの前では止めてほしいニダ。
優秀な助手だってのは認めるから」
「総監からのご命令ですから、私の行動パターンは仕方ございませんことよ。
今回はお二人も特別に過去の人物に関与して構わない、とのご伝言。
ちなみに薔薇冠はジョニー・ウィアー様からのご好意ですわ」

マオ・ヨンヒ苦笑。その二人の頭にも薔薇冠。
512スポーツ好きさん:2011/10/29(土) 17:14:53.82 ID:ueP+ZlLR
「崇じぃ♪」
「ん?」

ぷに

「引っかかった〜!」
「あーもう!!古典的ないたずらやめろ!」
「えへへ」
無邪気に崇彦にしがみつく雪彦。
「なんなんだよ、お前…」
「タカもいっつも俺らに同じことやっとる癖に」
「ホンマや…」
それぞれ、呆れ顔の2010年日本3BK。
「崇じぃ?」
「はい?」

「…ありがとう、だいすき」

「…は?」
「じゃぁねっ!」
崇彦が止める間もなく、涙を拭いながら、雪彦は時空警察ビルに入っていった。
「辛いんだと思う」
「信太?」
「ユキ、じっちゃんが死んじゃったとき、一週間ぐらい塞ぎこんでたから…」
「もっと頑張るとこ見て欲しかったのに、もっともっと一緒にいたかったのに、って…」
「ユウスケも…」
信太とユウスケも、寂しそうにうつむいている。
「そんな顔すんなって!もっと笑えよ〜!(^◇^*)」
「そうそう、君ら、世界救ったスケーターやもん。さっすが僕らの曾孫」
大輔と信成は、それぞれの子孫の頭を撫でてやった。
「雪彦に伝えといて。『まだまだだ』って」
崇彦はニヤリと笑って、二人の背中を押した。
513スポーツ好きさん:2011/10/29(土) 18:41:48.78 ID:nNEvuWdO
その頃、ヌルメンカリは一人で手紙を読んでいた。
手紙と言っても、誰かから貰ったのであろう、破いたメモ帳に走り書きされたものであったが。

「ぼくがどうして100年まえに来たか わすれないうちに伝えようとおもいます
じぶんの手で文字を書くことにはなれていないので よみにくかったらごめんなさい

ぼくのおじいちゃんは オリンピックで金メダルをとり 財団をつくるためにたくさん努力をした人です
ぼくも おじいちゃんみたいな立派なスポーツマンになりたいです
でも 歴史が変わってしまったら おじいちゃんの残したことも変わってしまうかもしれない
そんな気がして とてもこわかったのです
けれど みんなが一生けんめいがんばっているのを見て ぼくはこわくなくなりました
もしも歴史が変わってしまっても おじいちゃん そして21世紀のみんなの強さや心は
22世紀にもちゃんと受けつがれていると 信じられるようになりました

おじいちゃんはぼくが生まれたころには もう天国へ行ってしまっていました
だから ぼくはおじいちゃんがどんな人かを 映像とお話でしか知りません
おじいちゃんに会うことはできなくても おじいちゃんがだれよりも尊敬していた人に 会うことができて本当にうれしかったです
ひいおじいちゃん ありがとう

ユッカ・ヌルメンカリ」

ヌルメンカリは手紙を小さく畳んで、ポケットにしまった。
そして素早く目を拭い、皆の元へ戻って行った。

514スポーツ好きさん:2011/10/30(日) 00:35:37.68 ID:OtSelCHS
『さあ、時空警察の敏腕刑事にして22世紀のスーパーDIVAたるこのアタシ、
ジョニー・G・ウィアーのスーパーリサイタルの始まり…ピー、ガー…
ちょっとノビタ!マイクの調子悪いわよ、何とかしなさいよ』
「今調整してるってば〜全く人使い荒いんだから」
『バックダンサーのアレックスとアレクシアたちも準備オッケー?』
「オーケーですわ!…それではご両人も後からおいでなさいませ、では!」
ステージに駆け付けるアレクシア。後の言葉はマオとヨンヒに向けたものだ。

「アレクシアってばノリノリね、そういえばプログラムのバグはもう大丈夫かしら」
「それは心配ない、でもあの勇姿も見納めニダね」
「どうして?」
「22世紀にはもう、アレックスもアレクシアもいないニダ…
みんなドラえもんとドラミちゃんに変わっているセヨ」
マオはブタメンを噴いたwww
515スポーツ好きさん:2011/10/30(日) 09:35:22.59 ID:G+An1AIA
「なにそれなにそれ〜!」
それを聞きつけた真央が食いついてくる。
「ドラえもんもドラミちゃんも実現してるの?わーすっごーい!!ねぇねぇ、その二人もスケートとかするのかなぁ」
「するんじゃないの?」
「キャーッ!観たい観たい!真央観たい!」
美姫の適当な一言に大喜びしている。
「…本当にこの人マオの曾お祖母ちゃんニカ?」
「そうだけど?」
思えば、見た目はそっくりでも性格は結構違っていた真央とマオである。
「曾お祖母さま」
「なーに?」
「この度のご協力、本当に感謝いたします」
「ううん、いいのいいの。真央楽しかったし」
握手を交わす二人。
(この人が・・・あの人がこだわり続けたライバル・・・。そうは見えないけど、スケートは確かにすごかったニダ!)
「え?なぁにヨンヒさん」
「・・・何でもないニダよ。会えてよかった。カムサハムニダ」

「曾お祖母さま、真央さんに適当な返事しちゃダメじゃないですか」
「いいの、真央のことだからこういう重要じゃない話題は3分後には忘れてるから」
こちらも、曾祖母と曾孫のやりとり。
「ブルマちゃん・・・でいい?お疲れ様」
「こちらこそ、いろいろありがとうございました」
「モロゾフはいっろいろ五月蝿いだろうけど、あれで生徒の事ちゃんと一番に考えてるもんね」
「ええ。私も引き続き、彼に指導してもらうつもりです」
「がんばってよね」
「曾お祖母さまも、お疲れの出ませんように」
516スポーツ好きさん:2011/11/20(日) 18:02:26.23 ID:wrfWbBy/
「Ladies and Gentlemen, Boys and Girls!!
Welcome to Johnnys' Ice Shooooow!!!」
マイクを手にしたふたりのジョニーが氷上で呼びかけると、周りからは盛大な……
とは言いがたい拍手が、ぱらぱら巻き起こった。
「ちょっとぉ、アンタ達ノリ悪いわよ!! もっと盛り上がりなさい!!」
「まぁまぁ、姐さん」
フォローのために控えていたリッポンがジョニーを宥める。
「ショーが始まればきっと皆ノッてくれますよ、多分。だからお二人はそれまで…」
「一理あるわね。主役は最後に登場してこそかも知れないわ」
ジョニーGが不機嫌顔の曾祖伯父に笑いかけると、ジョニーの表情もいささか和らいだ。
「なら、後は頼んだわよ巻き毛ちゃん」
「はい!」ホッとした様子で、リッポンはマイクを受け取った。
「えー……それでは皆さん、まずはオープニング・アクトをご覧いただきましょう。
エヴァン&ギャヴァン・ライサチェックズ with キャロル・ ファミリーです! どうぞ!」
リッポンが促すと同時にリンクに現れたのは、ミライとテン君、ライサ、
そして…チャッキーリングの力を借りて分裂したギャヴァンの群れであった。
517スポーツ好きさん:2011/11/21(月) 11:13:36.16 ID:KUgkUGJW
「・・・うぅーん・・・」
「ジェレミー!」
有香とジェイソン、キャロがアボットに駆け寄る。
「・・・あ、れ・・・?ここ・・・」
「阿蘇よ」
有香はぎゅっ、と弟子を抱きしめた。
「・・・あの生命体たちは?さっきから何にも聞こえないんだけど・・・」
「もう大丈夫だ。大手柄だったよ」
「ジェレミーこそ大丈夫なの?」
「・・・うん、もういいみたい」
よっこいしょ、とアボットはストレッチャーから身体を起こした。
有香が微笑む。

「そう・・・じゃぁ今すぐ帰国して練習再開ね^^これだけ寝込んだんだから相当落ちてるはずよ。
 シーズン開幕までにしっっっっっっっっかり調整しなくっちゃね^^」
「・・・・・・・・え゛」
518スポーツ好きさん:2011/11/26(土) 18:56:17.98 ID:XpGRyO1U
「まあまあ、このショーぐらい見ていったっていいじゃない」
バトルが助け船を出す。
「ジェレミーはまだ、22世紀の彼らの滑りを見てないんだし」
「そっそうだよユカさん、お願いだからもう少しっ」
「仕方ないわね、終わったらすぐ戻ってリハビリ開始よ」
「やったぁありがと〜 :)」

「僕もじきに出るんで、行ってくるね」
とバトルがステージの方へ去る。そちらで展開されている光景はさながら、
黒長集団の森をさまようヘンゼルとグレーテル。カオスだ。
519スポーツ好きさん:2011/12/17(土) 23:55:55.78 ID:b37NEf4e
(ヘンゼルとグレーテル、というと……それから出てくるのは……)
(お菓子の家!)(そうそう、お菓子の家ね)(((お菓子の家か!)))
誰からともなく漏れる囁きの通り、黒長集団がパッと左右に分かれた後ろから
やけにサイケデリックな、お菓子の家の書き割り(電飾つき)が現れる。

あの童話がモチーフだとすると……家のドアからばーんと登場したジョニーズの姿に、皆の反応はもちろん
(魔女)(魔女)(魔女だ)(((魔女だね)))(((((そうか魔女か)))))
520スポーツ好きさん:2011/12/28(水) 00:46:47.20 ID:kzn3qdm1
ジョニーズ「「さあ、みんなに魔法をかけてあ・げ・る(^з^)-☆」」
ここぞとばかりに薔薇がニョキニョキ。

(薔薇?)((薔薇と言えば…))(((今度は『いばら姫』かよっっ)))
521スポーツ好きさん:2011/12/30(金) 13:40:45.73 ID:5bDP9+tV
あっという間にリンクは薔薇園に。
咲き乱れる薔薇の中に、ひときわ大きな薔薇がふたつ。
(何だろう)((妙にでかいぞ))
ジョニーズが投げキッスをしながら後ろに下がると、花びらがフワッと開いた。
白い薔薇の中には、佳菜子。赤い薔薇の中には、パトリシア。
花と同じ色のドレスを着た二人のいばら姫が、目を閉じ横たわっている。
(きれい…)((パトリシアも目つぶってれば可愛いな))(((おい、後で本人に言いつけるぞw)))
522スポーツ好きさん:2012/01/08(日) 22:20:40.18 ID:1COYprwo
(でも、誰が『王子』かな?)((二人必要だね))(((今から立候補ってあり?ww)))
523スポーツ好きさん:2012/01/08(日) 23:57:14.47 ID:Yhp+W8LY
少し時間を遡る。ショー開幕の直前、子孫組数人の前でストイコが慌てていた。
「おいおいっ、お前ら何してんだ、早くあいつらを止めろよっ」
プルが曾孫に「ちょっと歌ってみない?」と誘われ、ステージの方へ去っていたのだ。
アンナが苦笑しながら答える。
「何とかなりますよ。22世紀の音声加工技術なら、どんな音痴の歌だって
リアルタイムで真っ当な音程に補正できるんだから」
「あ、ああ、そういうことか。ずいぶん進歩してるんだな?」
「音声加工って、22世紀のスケーターには意外と縁があるテクノロジーなのよ。
ボーカロイドの……歌声合成ソフトの歌をエキシに使う選手もいるしね。
クリスティナなんて自分で入力して作ってるし、ミカエラ・ストイコも有名な、」
ぽろっと出た名に、ストイコは思いっきり反応する。
「いっ今何て?! 俺の子孫なのかっ」
「そうよ。貴方の曾孫で、メキシコ初のフィギュア世界女王」
アンナはタブレットを取り出し、画像を映し出す。メキシコで待つ愛妻によく似た姿に、
ストイコは思わず目頭を押さえた。ツインテールの髪が目立つ出で立ちは、
微妙にアニメか何かのコスプレっぽいが、彼にはよく分からない、というか知るよしもない。
524スポーツ好きさん:2012/01/15(日) 23:37:28.45 ID:5IDEYQcd
音痴補正ソフトの話を小耳に挟んだランビが、曾孫に向かって言った。
「凄いテクノロジーだねアハン。ジョニーたち、やけに自信満々だと思ったよ」
「何なら後で歌ってみる? みんなでコーラスとか楽しいよアハン」

この会話をさらに、その手のソフトに詳しいクリスティナが聞きつける。
(でもあのソフト、処理が追いつかないとフリーズするのよね。
宇宙船のコンピュータだと、何人ぐらいの同時補正が出来るかな? 保ってくれればいいけど)

ここで、いばら姫×2の場面に戻る。王子役が歌うとは限らないが、さて?
525スポーツ好きさん:2012/01/30(月) 00:29:32.15 ID:bfLlev0b
ジョニーとジョニーGは、うなずき合ってからそれぞれ、薔薇を一輪ずつ手に取った。
「それじゃ、この薔薇を受け取ったコが……」「王子様よ!」
スケーター達の中にふわりと投げられた薔薇。それをキャッチしたのは、
「取ったぜママン!」「取っちゃったアハン」
(舞台裏スレ508のルーレット結果により)バンビとステアハンである。
526スポーツ好きさん:2012/02/14(火) 14:57:15.96 ID:rv4b2qXv
バンビ「ところで、どっちがどっちとペア?」
ステアハン「…どうやら、僕は白薔薇だから、佳菜子かな」
バンビ「え、パトリシアとなのかい?」(と言いながら、紅の薔薇を口にくわえてみる)
ジョニーズ「「つべこべ言わずにさっさと行きなさーい!!」」

527スポーツ好きさん:2012/02/21(火) 23:03:25.89 ID:ThgvgJc/
(どうしよう、ノリでこの役引き受けちゃったけど、『いばら姫』って)
紅薔薇の中のパトリシアは、内心ちょっとドキドキしている。
(目を覚ます時にはアレよね、『王子様のキス』が……
え? ちょ、バンビなの? あの朴念仁が一体どんな風に?!)

などと思っている彼女を、バンビがいきなり「キス抜きで」抱え上げ、氷の上に立たせる。
「じゃ、踊るよーママン」「な、何か忘れてない?」
内心何だか複雑なパトリシア、だが流石スケーティングは完璧だ。
528スポーツ好きさん:2012/02/23(木) 23:51:50.48 ID:dj4Pzr6w
ステアハン(おにゃのこ、おにゃのこ・・・)

ステアハン、乗り気で佳菜子に顔を寄せる。
だがしかし。

佳菜子、即座に花売り娘に変身!

佳菜子「さ、花の嵐も1.5倍(当社比)で(^-^)/ ステアハンさんもよろしくね」

花籠を持たされるステアハン。
529スポーツ好きさん:2012/02/24(金) 22:54:46.05 ID:RCUPJNgY
花売り娘・赤色バージョンで周囲のスケーターに薔薇とスマイルを振りまく佳菜子。
ステアハンは佳菜子のペースに振り回されてアタフタしている。

「あのステアハンが女の子に振り回されるなんて・・・・・・・・いつもの光景よね〜~~旦_(。-_-。)」

一服しながらジョニーG以下、ミライスケーターたちは和む。

「あら、そういえばここも残り30kb切ったようね。
 事件は解決したようだけど、もう少しだけ私達のお話に付き合ってくれるかしら?」

ジョニ子はウィンクをしてスケーターたちの輪に戻っていった。
530スポーツ好きさん:2012/03/19(月) 23:59:28.67 ID:qWTAZ6PJ
スケーターたちの間をうろちょろしていたヴァーニャチカが、ふとロロに目を留めた。
「あ、ルイ君のお人形そっくり」
「ん? ルイ君の人形、って?」
「あの子のお人形ね、そこの透明なおじさんと同じ格好なの」
彼女は、ロロの隣の「一見何もない空間」に視線を向ける。
「青地に十字のマーク、それって銃士隊の制服でしょ?」
「あー、お嬢ちゃん、うちの相棒が見えとんのね。って、だからルイって誰?」
ロロに尋ねられて、ヴァーニャチカは携帯の画面に、一枚の画像を映し出した。
話通りの小さな人形を抱え、スケートリンクに立つ幼い少年。
「この子だよっ。ルイ・キャンデロロ君、4歳」
「おおぉっ可愛いっマジ天使! 子供の頃の僕そっくり!」

さてその頃、舞台裏では。
531スポーツ好きさん:2012/04/14(土) 18:40:38.30 ID:sHFQ08s1
「え、君たちが歌うの、ショーの締めの曲?」
舞台裏の機材の傍で、バトルが少し狼狽している。その前にいるのはもちろんプルたちだ。
22世紀の驚異の音声補正技術wについてざっと説明を受け、曲についても聞く。

アリョーシャが挙げたのは、ご存じの某ヒット曲。
「2110年の僕らは結構、100年前の流行り歌を知ってるんだよ。
100周年記念でリバイバルヒットした歌はいくつもあるからね。
さて、大団円までもう一頑張りだ」
532スポーツ好きさん:2012/04/15(日) 22:35:15.74 ID:DbBX9113
スケーターたちの宴を遠く時空警察ビルから眺める雪彦はため息をつく。

「もうすぐお別れだって言うのに・・・・もう、二度と会えないのにみんな悲しくないのかな?」
「そう思うなら、ちゃんとお別れを言えばいいのに・・・」

いつの間にか後ろにいたマオに声をかけられて雪彦は首を横に振る。

「・・・・この世界のスケーターたちは、僕達がここを去ると同時に僕達といた記憶が一切消える。
 これは、後の歴史に悪影響を残さないための当然の措置。」
「でも、ユキちゃんはいいの?自分の気持ちを伝えなくても?」

しばらく黙って考え込む雪彦。そして

「マオ、出発まであとどれくらいかかる?」
「早ければあと10分後には可能よ。ただ、あの宴会の盛り上がりから行ったら、あと1時間は無理ね。
それでもリミットのことを考えるとギリギリだけど。」
「わかった・・・・」

雪彦は目を閉じて強く念じる。

(崇じぃ・・・・僕の最後のメッセージ・・・・受け取って)
533スポーツ好きさん:2012/04/28(土) 21:05:24.86 ID:91F+PVB+
(・・・ねぇ、崇じぃ)

「!?」
「崇彦?」
「あ、いえ・・・」
コーチ陣に今回のことで御礼をしていた崇彦だったが、失礼を承知で一人にさせてもらった。

「雪彦?」
(崇じぃ、あのね・・・)


今回、崇じぃに会えて、本当に良かった。
本当は、最初すっごく不安だったんだ。
未来の話を信じてもらえるのかな、力になってもらえるのかな、って。
でも、崇じぃは、僕の思い出の中の「崇じぃ」がそのまんま若くなっただけで、
僕のこと信じてくれて、一緒に道を探してくれて、助けてくれて、
本当に、僕、嬉しくって、
だから、だから、
僕は、
僕は・・・、


「雪彦」
スケパシー越しでもわかる、曾孫の、涙でぐしゃぐしゃの顔。
「お前、すごいよ。スケート守るために時代超える勇気があるもん」
その勇気があれば、どんな辛いことも大丈夫。
上手く行かないときも、上手にできないときも、必ず乗り越えられる。
(崇じぃ、あの、ね!)
「うん?」

崇じぃに会えて、崇じぃが僕の曾お祖父ちゃんで、本当によかった!!
本当に本当に、ありがとう!
いつまでもいつまでも、大好きだからね!!

「・・・雪彦、そっちこそ、ありがと。」
(うんっ!)
スケパシーが、途切れた。

(長生き、しなくっちゃな)
サヨウナラは言わない。その日まで、またね。
534スポーツ好きさん:2012/05/17(木) 23:57:53.52 ID:Yr8JrakI
「フィナーレのこれは、前にチャリティショーで好評だったグループナンバーなんだ」
アリョーシャは、手の中の歌詞カードをバトルに示す。
「へえ、『We Are The World』? こんなのも流行ってたの?」
「こっちじゃ去年が、マイケル・ジャクソンの没後100周年だからね。
関連の曲が片っ端からヒットしてたんだよ」
確かに盛り上がる名曲だ、うまく歌えさえすれば……頑張れ、音痴補正システム。
なおバトルの役目は、そのチャリティショーに出ていた曾孫の代わりに、
イントロで思いっきりイーグルすることだ。

一方ジョニーGは、2010年のスケーターたちを見回しながら思っていた。
(アタシたちが帰っていって、貴方たちが今度のことを忘れてしまっても、
どうか忘れないで。世界とフィギュアの明日のため、皆で手を取り合った想いを。
あれはそういう歌。みんな同じ世界の子供、心を一つに、より良い世界を作っていこう、って)
535スポーツ好きさん:2012/06/09(土) 23:54:12.95 ID:ghDcBlov
雄大な『We Are The World』のイントロに乗せて、バトルがイーグルで滑ってゆく。
氷の上に描かれていく大きな輪は、もちろんこの地球のイメージ。

「♪There comes a time when we heed a certain call」
登場して歌い出したのはプルたち、ではなく信太だ。2010年版のジャスティン・ビーバーの物真似っぽい。
彼が滑り出すと、次の一節はユッカとヴァーニャチカがハモる。
「♪When the world must come together as one」

「出演者皆でワンフレーズずつ歌ってから、リンクに出て行く演出なの。私たちも行くわね」
アンナが言い、そしてサーシャが歌詞カードの束を周囲に配る。
「で、後半はお客さんも一緒になっての大合唱。ってわけで、これ皆に回しといて」

なお、今度の事件であちこち宇宙船移動中、誰かが暇つぶしのネットサーフィンで
たまたま『We Are The World』動画を見つけてヘビロテしていた、という後付け設定のため
スケーター一同は、この曲が大体頭に入っていた。
536スポーツ好きさん:2012/07/02(月) 23:12:37.70 ID:JS3H8psW
本部ビル転送の支度をしながらも、総監は壁面モニタでショーの様子を見ていた。
「盛り上がってるな、チャリティショーで披露した時以上だ」
次々に登場する22世紀のスケーターたち。5回転・6回転のジャンプが惜しみなく披露されるたび、
21世紀組の賛嘆の声が挙がる。今の所、歌声補正プログラムも順調だ。
アリョーシャが(無謀にもw)担当したMJパートが、何とか真っ当に変換されて流れた。

さきほどまでビルにいた、雪彦たち数人も滑り出そうとしている。
総監はこう言って、彼らを送り出したのだ。
『行っておいで。記憶が消えても、感動だけは御先祖様たちへ残していけるよ。
記憶操作の技術は、PTSDの治療法から派生していて、ネガティブな記憶から先に消す性質がある。
そして、「感動」は最後まで残るんだ。たとえ記憶そのものが消えてもね』
537スポーツ好きさん:2012/08/02(木) 00:11:24.79 ID:TPgh2Sa4
あげ。
538スポーツ好きさん:2012/08/02(木) 01:13:02.63 ID:lbx0YaZA
気がついた時、21世紀組のスケーターたちはそれぞれ、いつもの帰り道を歩いていた。
(あれ? えーと……そうだ、これから帰って……)(さ、ご飯ご飯。何だかお腹空いちゃった)
(妙に疲れてるなぁ、練習張り切りすぎたかな)(新シーズン、頑張らなきゃね)
世界のあちこちで、何事もなかったように日常へ帰っていく彼ら。

「……ショーのラスト、盛り上がったねぇ」「自分で言うのもアレだけど、会心の演技だったよ」
「本当、素敵なフィナーレだったね」「でも……御先祖様たち、みんな忘れちゃったんだよね」
22世紀へ帰還する途中の、本部ビルの中では、子孫スケーターたちがしみじみと呟き合っている。

時空警察の記憶操作は、ショーの後それぞれの帰路で発動し、今度の事件をいつもの日々に書き換えた。
最後の素晴らしい群舞も、別れを惜しみながら旅立った子孫たちのことも、もう覚えてはいないのだ。

ただ、不思議と勇気をくれる、微かなイメージだけが残っていた。
(凄いジャンプを見たような気がする。素晴らしいプロを見たような気がする。
気のせいかな? いつか、あんな演技ができる時代が来るといいなぁ)
539スポーツ好きさん:2012/08/03(金) 00:59:22.03 ID:q6Y51UK6
やがて本部ビルは、振動と共に、元の22世紀へたどり着く。
「これで、良かったんだと思う?」
そう言ったのは子孫たちの誰だったか。
「僕らはやれるだけのことをやった。終わり良ければ全て良し、さ」
「でも、ご先祖様たちに変な影響出たりしてないか、やっぱりちょっと心配」
そんなことを言い合いながら、じきに誰かが、小さなメモリーディスクを取り出した。

「それじゃ、見てみようか。あの後のご先祖様たちのこと、
『フィギュアスケーターズの華麗ないちにち 7日目』を」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/sposaloon/1324094766/l50
540スポーツ好きさん
ディスクをしげしげと見ながら、ジョニーGが言う。
「向こうが大騒動なのはいつものことだし、ま、心配ないんじゃないの?」

そこへ、ライサチェック総監が声をかけた。
「君、それより先に報告書の作成だ。それに、始末書なしというわけにもいかんぞ」
「ええ、まずはこれを。記録映像のダイジェストよ」

ジョニーGの笑顔に、ちょっと悪い予感を覚えながらも、総監はそれを再生してみる。
BGMは『ポーカーフェイス』だ。リズミカルに切り替わる画面が無駄にスタイリッシュだ。
(何だこのPVは……)
総監は苦笑いしながら眺める。事件の始まり、北京の氷上結婚式ショーへの潜入光景を。