【もしも】種・種死の世界に○○が来たら13【統合】
2 :
通常の名無しさんの3倍:2013/12/25(水) 12:12:44.68 ID:O6l3N1G6
「コリントス7番から10番まで発射!
目標、敵モビルスーツ!レーザー誘導!
いいな、間違えてもシャフトや地表に当てるなよ!」
「…えぇぇ…!?」
「てぇ!」
ナタルがCIC電子戦担当のロメロ・パル軍曹に難しい命令を下すと
アークエンジェルの艦尾からミサイルが発射されると、
《シグー》目掛けてミサイルが迫って行く。
「チィッ!」
《シグー》に乗るクルーゼは、ミサイルの雨を迎撃しながら躱すと、
コロニーに次々とミサイルが直撃して行く。
「隊長!!」
オロールはそう叫ぶとフットペダルを一気に踏み、
アークエンジェルの間近まで迫り、
両手に持った大型ミサイルと小型ミサイルを一斉射する。
するとそのミサイルがアークエンジェルの左舷側に命中して行く。
「第4兵装バンクに被弾!隔壁閉鎖!」
チャンドラが被害状況を知らせると、
ナタルはすかさずオロール機への迎撃を指示する。
「主砲発射準備!目標、前方の敵モビルスーツ!」
「了解!てぇ!!」
右舷カタパルト上層部にある砲塔からメガ粒子が放たれ《ジン》を襲う。
うあぁーーーーー!
オロールの機体は上下真っ二つに両断されると
その場で爆散して行く。
「オ、オロォーール!!」
ミゲルはオロール機が落とされ、一瞬の隙を作ってしまう。
その僅かな隙を見逃さなかったのはアポリーだった。
「くらえっ!!」
それまで背中にマウントしたままだった
クレイバズーカを右手に持ち撃ち放つと
砲弾は機体の目の前で散弾して《ジン》に直撃する。
「なっ!?ぐあぁぁ!!」
ミゲルは突然の衝撃に何が起きたか理解出来なかった。
ミゲルの《ジン》はコックピットをガードした左腕と右腕は激しく損傷し、
メインカメラは潰れ完全に戦闘能力を失う。
「く…そぉ!!腕とメインカメラをやられたか!」
「ミゲルーー!!」
「待って!アスラン!!」
アスランが大破したミゲルを見て、
そちらへ向かおうとするとキラが彼を呼び止める。
アスランは《イージス》の動きを再び止めて《ストライク》を見る。
と、その時だった。
コックピットにアラート音が鳴ると、
母艦であるヴェサリウスから通信が入ってくる。
「こちらヴェサリウス!こちらヴェサリウス!
ヘリオポリスより出現した戦艦より奇襲を受けている!
奪取したモビルスーツを乗せたガモフは中破!
直掩機2機が撃沈!!本艦はこれと交戦中!!
ただちに撤退されたし、ただちに撤退されたし!」
《アーガマ》のブリッジ内ではクルー達の声が響き渡る。
「ローラシア級に直撃弾!直掩機共に沈黙しました!」
シーサーの報告を聞いたレコアは思わず、ブライトの顔を見た。
ブライトは無言で頷くとレコアは確信した。
行けるーーー!レコアとブライトだけでなく、
ブリッジにいた全員がそう感じていた。
「見事に奴らの横っ面を叩く事が出来たな。」
「はい。
ミサイル発射管次弾装填準備!!
主砲照準合わせ!目標はナスカ級よ!!」
「了解!!」
《アーガマ》のザフト艦への強襲作戦は成功した。
そしてクルーゼとアスランはこの通信を聞いて驚愕していた。
「まさか単艦相手でこちらに被害を出るとは…。」
エゥーゴの戦艦がヘリオポリスにいる事は予想できた。
その為の直掩機も付けていたが、突破されるとは予想しておらず
完全にクルーゼの読みが外れた形となった。
「隊長!!」
「アスラン、撤退だ。
ミゲルを急いで回収しろ。」
アスランは「了解!」というと、ミゲルをすぐに回収して、
戦場の大地を去って行く。
(キラ……なんでお前が…!)
アスランの心の中はキラの事で頭が混乱していた。
「待て!逃がすか!」
そう叫びカミーユは撤退する{シグー》を追おうとするが
「よせ、深追いはするな!」とロベルトに留められる。
やがてコロニー表層部に開いた穴からクルーゼ達は撤退して行き、
キラのもとを離れて行く《イージス》の背中を見るキラは、
ひたすらアスランの名を叫び続けていた。
終わりです。
前スレ書き込みできなくなっちゃいました…
なので頭から読むには前スレ
>>572からになります
お手数おかけ致しますorz
乙です!
安定のアポリーさん。
>>7 どうもです〜。
アポリー中尉は好きなキャラなんすよ。
ロベルト中尉も好きだし…
この先どう扱うか…ですが物語に花を添える
キャラとしては重要なキャラという
位置付けにしてます。
どんな世界にも現れそうな桂木桂
...あっ、今のレスは忘れてくれ
劇場版Zまで長らく苗字が不明だったアポリーさん。
>>9 オーガスの特異点の男ってやつですねw
>>10 ファを庇って死ぬなんて漢の中の漢です!
なのに不遇な時代を過ごしてきたモンです…
923です。
ちょっと忙しいですが
ひっそりと投下を致します。
サイド7(グリーンオアシス)宙域
ルナツーを出発して
退屈なティターンズの先遣隊として哨戒任務を始めてから4日間ーーー。
彼女はようやく働けると心躍らせていた。
しかし、ひとたびブリッジ上がるなり、
キャプテンシートに座る禿げ散らかした頭のちょび髭の男
艦長チャン・ヤー少佐の言葉によって、
彼女の心躍る気持ちに歯止めがかかる。
「なぜわからないのです?」
「いや、ミノフスキー粒子が濃くなっていてな。」
サラミス改級軽巡洋艦《ボスニア》
ルナツー艦隊所属の正規軍艦艇だが、
ティターンズと共生関係にあるルナツー艦隊は
《ガンダムMk-U》を強奪したエゥーゴの捜索をしていた。
そして3時間前に艦隊規模でのエゥーゴとザフトの戦闘の光を
僅かながら光学カメラが捉えていた。
また、彼らは戦闘を行っていたのが
エゥーゴやザフトだという事に気づいていた。
ルナツーを管理棟とするサイド7は本サイドの宙域に進入したならば、
ティターンズやルナツーの仕掛けたカメラで分かるようになっていた。
その為、サイド7から出ていないエゥーゴを確認したティターンズは
血眼になってエゥーゴを探し続けていた。
「だが間違いなく《アレキサンドリア》の追っていた部隊なんだろう?」
モビルスーツ隊隊長のライラ・ミラ・ライラ大尉がモニターを見ながら憮然(ぶぜん)とした態度で
「そうなんだがな。
いかんせんヘリオポリスというのが気がかりだ。」
と、ライラの問いに歯切れが悪く、典型的な職業軍人的なつまらぬ受け答えが返ってくる。
そんな艦長に呆れ顔のライラは腕を組んで
「あれこれと考える暇があったらとにかく行って、
確かめてみるのが良いんじゃないのかい?」
と、言って苛々(いらいら)としたした表情でチャン・ヤー少佐を一瞥(いちべつ)する。
「分かっている!ライラ・ミラ・ライラ…!その言葉遣いなんとかならんのか?」
彼女のチャン・ヤー少佐に対する物言いや態度は今になって始まった話ではないが、
ライラはチャン・ヤーのような慎重過ぎる姿勢が気に食わない所があるようで、
チャン・ヤー自身も時折ライラに対して皮肉っぽく指摘をするような事があり、
あまり良好な上官と部下という関係ではない事はブリッジにいる人間の誰しもが分かっていた。
「…ふん…じゃあ、向こうに行ってみれば私の欲求不満が解消されるってのかい?」
ライラは悪びれる様子もなくそう言うと、チャン・ヤーは諦め顔で
「おそらくな。一応ティターンズにも報告はしたが
あそこには間違いなくエゥーゴかザフトがいるはずだ。」
とライラに言うと、彼女は「楽しみにしてるよ。」と言ってブリッジを後にした。
《ボスニア》より2時間ほど離れた距離の宙域を突き進む4隻の艦隊。
ティターンズの旗艦アレキサンドリア級重巡洋艦、
《アレキサンドリア》の司令室に座るティターンズ艦隊司令バスク・オム大佐に
哨戒任務にあたっていた《ボスニア》の掴んだ情報が入った。
「ヘリオポリスだと?」
「は。エゥーゴとザフトはサイド7を離脱した形跡がありません。
となれば戦闘行為も奴らで間違いないそうです。」
バスク・オム大佐の腹心であり
アレキサンドリア艦長兼作戦参謀という肩書きを持つ
ジャマイカン・ダニンカン少佐がバスクのもとに直接報告に来ていた。
「エゥーゴならば《ガンダムMk-U》ををなんとしてでも奪い返せ。」
「閣下、それについては私のほうから良い秘策があります。」
ジャマイカンは何か企みのある表情で言うと、バスクはその策を聞いたーーー。
《アレキサンドリア》艦内の一室には
カミーユの母親であるヒルダ・ビダンと
同僚の男性が不安な表情を浮かべて話をしていた。
「カミーユが《ガンダムMk-U》を盗んでエゥーゴに逃げ込んだなんて…」
「ヒルダさん。顔を上げて下さい。」
「でも…なぜ私なんかをここに乗せたのかしら…」
「分かりません…でもこれは普通じゃありませんよ。」
ドッキングベイからコロニー内部へと誘導されて来た《アーガマ》と
《アークエンジェル》がようやく合流した。
《アーガマ》から降りたブライト・ノア大佐は
ブレックスやクワトロらに手厚く迎えられていた。
特に、彼を見た周りの反応は凄まじい者があった。
もっとも一番目を輝かせていたのは
ナタル・バジルール中尉だったようだがーーー。
コロニーの外では合流した僚艦、
サラミス改級モンブランが警戒任務にあたっていた。
《アーガマ》のブリーフィングルームに集められたブライト・ノア大佐、
ムゥ・ラ・フラガ大尉、マリュー・ラミアス大尉、
ナタル・バジルール中尉はブレックス以下、
クワトロ、ヘンケンらと、今後について話し合いを行っていた。
一通りに挨拶済ませ、軽くを進めると
ブレックスはブライトへエゥーゴへの参加を打診した。
彼自身も既にそのつもりだったようだ。
「私は構いません。しかし私で本当によろしいのですか?」
とブライトが言うと、すかさずヘンケンが彼に返す。
「大佐が《アーガマ》を指揮してくれれば、
私は落ち着いてブレックス准将の側にいられます。」
ヘンケンがそう言うとブライトと固い握手を交わした。
その横でクワトロがブライトに対して
「ブライト艦長の存在は我々エゥーゴにとって大きな存在になります。」と言った。
クワトロの言うようにブライト・ノアという存在は
プロパガンダ的な存在にもなり得るような人だ。
彼を盲信的に尊敬するものは多く存在する。
それでも連邦軍内では『ニュータイプ部隊の指揮官』
と危険視され窓際に追いやられた格好ではあった。
しかし彼自身の人気が失われる事はなかった。
クワトロの言葉にブライトはクワトロの顔を真っ直ぐに見て
「買いかぶり過ぎですよ。クワトロ大佐。」
と言うと、クワトロが「大尉だ。ブライトキャプテン…」
とひと言だけ返すとラミアス達が少し不思議そうな顔をしていた。
ブレックスはその後、
ニューホンコンにいるというブライトの家族の身の安全の保証などを約束すると
ブライトも少し喜んだようだった。
そしてエゥーゴへの参加を承諾したムゥとも話を進めブレックスは
「フラガ大尉、君の家族は大丈夫なのか?」と聞くと、
ムゥは少しぎこちない笑顔で応えた。
「自分の家族は、みな火事で死にました。
人質に取るような者は一人もおりません。ご安心下さい。」
彼はさらりと衝撃的な事を言っていた。
おそらく彼の態度からするにその事実は受け止めていて、
それを引きずるような素ぶりも無かったように見えた。
彼の言葉で周りの空気が固まるとブレックスは
「…そうか……すまん。余計な事を聞いてしまった。」
と、言って頭を下げる。
するとムゥは少し慌てて
「いや、お顔をお上げください閣下。」と言って、その場をやり過ごした。
その後、物資についてや今後の作戦行動について話を進めていった。
その中でブレックスが特に気にかけたのは
《アークエンジェル》の人員の少なさだった。
ブリッジに関しては新機軸の管制システムを用いており、
最小限度の人数でも操艦や戦闘には支障はないらしいが、
問題はブリッジ以外に必要とする深刻な人員不足だった。
《モンブラン》や《アーガマ》の人員を回せば
なんとかなるという状態でもない深刻な状況だった。
もう一つは機動部隊。
民間人のキラ・ヤマトを戦闘に参加させるには早急に過ぎると判断すると、
新しい隊の編成が必要だった。
「なんとか隊の編成をせねばならんな…。
艦隊の指揮官はブライト大佐で良いとして…」
ブレックスがそう言うとクワトロは即座に応える。
「私の提案とすればフラガ大尉とロベルト中尉には
《アークエンジェル》へ配属が良いかと思いますが?」
「…良いのか?クワトロ大尉。」
ブレックスはクワトロは確認するように言うと、大きく頷いて続ける
「向こうはパイロットも機体もありません。
合流した《モンブラン》を護衛艦として《アークエンジェル》と
同時運用させればジムUは両方の直掩として使えます。
《アークエンジェル》も《アーガマ》同様、
単艦運用型の癖の強い艦ですが仕方ありません。」
と説明すると、ブレックスはそうだな。と言ってクワトロの意見を呑んだ。
「後は艦長を誰が務めるか…ですな。」
ヘンケンがそう言うと、ナタルが手をあげて立ち上がる。
「僭越ではありますが、自分はラミアス大尉がその任にあると思われます。」
「なぜそう思うのかね?バジルール中尉。」
ナタルの意見に対してブレックスはその理由を求める。
するとナタルは理路整然とした口調でブレックス達に説明する。
「ラミアス大尉は、技術仕官としてこの艦をよくご存知ですし
階級もアークエンジェル隊の生き残りで一番上です。」
なるほど…合理的な意見だ。
と、ナタルの意見を聞いたブレックスはそう感じていた。
ラミアス本人は当惑していたが、むしろ承諾してもらねば困る。
現状のエゥーゴから《アークエンジェル》に回せる人員はいない。
となれば現状は志願した工員と生き残ったメンバーを中心に
今後の艦運用をしてもらう他ないと思った。
「では艦長はラミアス大尉に任せ、
副長はバジルール中尉にしよう。
フラガ大尉は機動部隊の隊長として働いてもらう。」
「…はっ。」
ナタルとムゥは大きな返事を返したが
ラミアス本人は緊張しているようにも見えた。
そんな彼女にブレックスが最初の仕事を任せようと声をかける。
「ではラミアス艦長。さっそくで悪いが、アークエンジェルへ避難民を受け入れてもらえんか?」
「…避難民…でありますか?」
「アーガマは居住ブロックに空きが足りなくてな…アークエンジェルならば空きに余裕はあるだろう?」
最初の仕事とは、ブライトが《テンプテーション》で移送してきた
グリーンノアの住民と、
先の戦闘で家を失った者達の受け入れだった。ヘリオポリスに残すのも手ではあったが
以前の状態にまで復興するにはあと半年を要するという事だった。
彼らは月のグラナダや地球のオーブを移住先として望んでいた。
ブレックスの頼みを断るわけにもいかず、
ラミアスはブレックスの頼みに応じた。
「では出発は今から4時間後、
《アークエンジェル》の搬入作業は概ね終了しているはずだ。
シェルターに避難している民間人に余計な混乱と詮索はさせん為にも、
《アーガマ》の避難民の《アークエンジェル》への移動は
1時間半ほどで終わらせてくれ。リストはその後でも構わん。」
ブレックスは《リック・ディアス》と必要な部品や資材の搬入は
出発前に無重力ブロックのドッキングベイで行うように指示した。
《アーガマ》がヘリオポリスの民間人の目に触れぬようにする為でもあり、
一刻も早くシェルターの避難民を外に解放させる為でもあった。
ティターンズやルナツーのパトロール隊は
おそらく騒ぎを嗅ぎつけてこちらに向かっている筈と判断し、
それらと会敵するのには1時間ほどの誤差はあるだろうと計算していた。
それまでに全ての作業を急ぎで終わらせるように指示をして、
ブレックスがチラと左手首に巻かれた腕時計を見てブリーフィングが終了となった。
《アーガマ》から《アークエンジェル》への避難民受け入れ作業が行われていた。
カミーユはグリーンノアからの避難民もいるという話を聞いてその場に来ていた。
「カミーユ!!」
唐突に避難民の人集りの中から
見知った顔の少女が飛び出して来ると
カミーユは心臓がズキンと脈動した気分になって驚く。
「ファ?ファ・ユイリィじゃないか…!どうしてここに?」
「お父さんもお母さんもティターンズに捕まっちゃったの…!」
カミーユがファに聞くと、彼女の口からはとんでもない言葉が発せられた。
捕まった…?ティターンズにか?
カミーユの頭の中に色々な考えが錯綜するが
何も分かるはずがなかった。
カミーユは少し焦り気味の表情で何故?
とファに疑問をぶつけるとすぐに彼女は涙を流しながら
「あなたのお隣だからよ…
私も捕まるんじゃないかって時に、ブライトキャプテンに助けてもらって…」
そう言うと体を震わせカミーユの胸に体を預けて
大粒の涙を流し泣きじゃくっていた。
「そんな……僕を知っているってだけで…。」
カミーユはそう言って強く彼女を抱きしめていた。
他にも感動の対面を果たしたのはカミーユやファだけではなかった。
ブライトの助けたフレイ・アルスターもその一人だった。
「フレイ!?…フレイじゃないか!」
「…サイ…?サイ!?良かった!」
サイの呼び掛けに気付いたフレイは
サイのもとへ一目散に駆け寄っていくとサイへ体を預けた。
その光景を見ていたキラは心臓が妙にズキンとした感覚を覚えた。
「フレイ、どうしてこんな所に?」
「友達とはぐれたの!そしたら小さな女の子をブライトさんと助けて…!
…それでシャトルに行ったらダメでここに…」
フレイは少し興奮気味にサイへ言っていたが、
話の内容がよく分からないと感じたサイは
「そっか…とにかく無事で良かったよ…後でゆっくり話そう。」
と言って、その場をなんとか落ち着けていた。
《アーガマ》の艦長室にはブレックス、ヘンケンやブライト、
クワトロがコーヒーを飲みながら資料を手に話をしていると
「失礼します。」と、ドアの向こうからカミーユの声がした。
ブレックスが入れと言うと、ドアがプシュっと音を立てて横に開くと
カミーユが部屋に入ってくる。
「カミーユ君、どうした?」
クワトロがそう聞くと、カミーユはブライトの方へ顔を見て
「ブライト艦長。ファ・ユイリィの事、
あの子を助けて頂いてありがとうございます。」
と、律儀に礼を言って来た。
「礼には及ばないさ。カミーユ・ビダン君だな?
あの時の事は私もよく覚えている。」
ブライトがカミーユににこやかな表情でそう言うと、
カミーユは彼に覚えていてもらって少し嬉しそうな表情を見せる。
「だが君はまだ正式なエゥーゴの一員ではないそうだな?」
「はい。やっぱり民間人からっていうのは難しいみたいですね。」
「だが君が戦うと決めたならば、その意志を曲げるような事はするなよ?」
「はい、ありがとうございます。
ブライト艦長。」
いくつかのやり取りをすると、カミーユは艦長室を後にした。
彼らはカミーユが出て行ったのを見やると、ブライトが口を開く。
「カミーユ・ビダンか…何故だか危うさを感じるのは私だけですかね?」
ブライトは足を組んで、コーヒーを啜るブレックスに問いかける。
ブレックスは手に持ったコーヒーカップを下皿に置くと、
空調の音だけが静かに聞こえる部屋の中にカチャリと陶器のぶつかる音が小さく響く。
ブレックスは腕を組んで「ホワイトベースにいた時にも同じ気持ちだったかな?」
と言って、背もたれに背中を預けるとブライトに質問を返す。
ブライトは「…そうかも知れません。」とだけ言うと、
ブレックスはブライトやクワトロ達の顔を真剣な眼差しで見ながら
ブレックスが呟くように言った。
「その為には我々がカミーユ・ビダンという
大きな可能性を導かなくてはいけない。」
その言葉にブライトは「こんな悲しい時代でなければ…」
と言って大きく溜息をついた。
少しの沈黙ののちにその沈黙を破ったのはヘンケンだった。
手にしていた資料に再び目を送りながら
「しかし…オーガスタ基地ですか…まさかこんな所にいたとは。」
と言って難しそうな顔をする。
「彼にはその素養があると?」
ブライトの口から唐突に出たその言葉にブレックスらは、クワトロに視線を送る。
クワトロは右手でサングラスを外し、テーブルにそれを置くと
「経歴を見るまでは確証はありませんでしたが…
あの未完成品の絵に書いたような兵器は、
少なくとも相応の適正がなければ動かす事は出来ません。」
と言って、鋭い視線でブレックス達の顔を見やる。
その言葉にブレックスが納得したような顔で
「なるほどな。だから『それ』に理解のある者をそばにつけて、
且つ若者達の近くに置こうと思ったわけか。」
「はい。『彼』と上手く引き合わせる事が出来れば、
みなが宇宙へ上がろうと感じられるのではないかと思います。」
何か嬉しそうに話すクワトロを見るのはブレックスやヘンケンも
初めてな気がしていたがヘンケンが顎の髭をさすりながら
「しかし大尉。初めて会った人間に対して随分と甘い評価じゃないのか?」
というと、テーブルに置いていた資料を手に取って
「出自を見れば天性のカリスマ性を持っていると考えます。
私の過大評価が間違いなければ天才ですよ彼は。」
クワトロはヘンケンにそう言って応える。
「確かに…オーガスタ基地にいた事を考えれば
一年戦争時に名を上げていなかった理由も頷けるな…」
ブライトも顎に指をやって軽く資料に目を通しながら言った。
「連邦はつくづく利権や保身の為に才能の芽を潰す連中だという事だな。」
ブレックスが呆れた顔でそう言うとその場にいたブライト達はフッと笑っていた。
《アークエンジェル》の居住区用の談話室ではキラを含めた
カトーゼミの面々やフレイ達が話をしていた。
彼らの話題は感動の再開を果たしたカミーユ・ビダンと
ファ・ユイリィの話で持ちきりだった。
彼らにとって何よりの驚きだったのは、
カミーユがキラと同じ民間人で、いきなりモビルスーツに乗り
戦ってみせた事だったらしい。
トールはカミーユをコーディネイターか何かだと思っていたが、
キラがニュータイプらしいと言ったらサイ達は
アングラ物の資料を目にし過ぎだと笑っていた。
キラ自身、戦闘が終わった後にコーディネイターだと
いう事が少し騒ぎになったが今は気にもしていないようだった。
だが、カミーユはコーディネイターでない事は事実で
彼らも不思議がっていた。
そこへ《アークエンジェル》に配属の決まったロベルトが
彼らのもとへやってきた。
「おう、坊主達!ここにいたか。」
「あ、ロベルト中尉。」
「あの…ヘンケン艦長の怪我の具合どうですか?」
ロベルトが全員の顔を見やると、ミリアリアがヘンケンの怪我を気にしており
「…まだ戦闘は無理だな。」とロベルトがすぐに返すと
ミリアリアは少し俯いた。
ロベルトはそれを見て「だが心配いらん!」と大きな声を張ると、
「その代わりにブライト・ノア大佐が
《アーガマ》の艦長に着任したからな。
まさに鬼に金棒というヤツだ。」
と笑って言ってみせると、
トールはこの人はミリアリアを不安にさせないようにしてる…と気付き。
わざと、茶化してみせる。
「そうだよ!凄ぇよなぁ!
あのブライト・ノアがエゥーゴにいるんだぜ?
俺もエゥーゴに参加しようかなぁ〜♪」
と言うと周りはトールの調子の良さに笑う。
そんなトールの後ろにいるロベルトの鋭い視線が背中に突き刺ると、
殺気を感じたトールが後ろを振り返った。
「そんな理由でエゥーゴに入ろうとするなこのアホたれが!」
ロベルトはトールの耳をつまんで大きな声を上げると
トールは肩を竦めながら
「冗談ですよぉ〜冗談!!」
と叫ぶと、周りのキラやサイ達は
トールの情けない姿を見て更に笑っていた。
予定の出発時刻があと10分ほどとなっていた。
ヘリオポリスは避難勧告は2時間前に解除されていた。
出港の為《アーガマ》《アークエンジェル》は
ドッキングベイにてその時を待っていた。
《アークエンジェル》のブリッジではクルーが少ない為、
戦闘時以外はムゥはブリッジの手伝いをする事になっていた。
ロベルトもその例外に漏れず、ムゥと持ち回りで手伝う事になった。
ブリッジのモニターには航路図が映し出されている。
事前のブリーフィングでブレックスから知らされた作戦行動に移る事になっていた。
地球への周回軌道まで乗り、
小型ジェット式のカプセルを降下させるというもので、
降下ポイントはティターンズの司令部があるとされているジャブローだった。
ジャブローへ潜入をして内偵をするという危険な任務を、
レコア・ロンド中尉が行うことになっている。
このレコア中尉の単独での任務にラミアスやナタルは少々、
不安気な顔をしている。
それに気付いたムゥが二人に声をかけた。
「なんだ?艦長さんと副長さんともあろう者が神妙な顔しちゃって。」
その言葉に、え?という顔をするラミアスとナタルにムゥは
二人が何が心配なのかを言い当てて見せる。
「同じ女だからってんでレコア中尉の事が心配か?」
それを聞いたラミアスとナタルは図星だったと言わんばかりの顔をするが、
それに対して先に応えたのはナタルだった。
「い、いえ…女性だからという訳ではありませんが、
ジャブロー基地への侵入を一人でやるというのはどうかと…」
理路整然と答える事の多いナタルは影をひそめて、
歯切れの悪い言葉だった。
「あの中尉さんは諜報活動も担当なんだろう?
ティターンズから《ガンダムMk-U》を奪うって任務も、
事前に潜入していたレコア中尉の働きがあったからこそらしいしな。
心配する事無いと思うぜ?」
「しかし…彼女はまだ23歳という歳頃の女性です。
もし失敗でもして身柄を拘束されでもすれば何をされるか……」
ラミアスは彼の言葉が少し楽観的すぎやしないかと思い、
言いかけた言葉はつい本音を漏らしていた。
しかし軍人である以上は性別関係無く、
与えられた任務をこなすというのが基本であり、
ラミアスは自分の軽率な発言を少し情けないと感じた。
「まぁ、実は俺も同じ気持ちなんだがね。」
と、ムゥはそう答えると
爽やかな表情を少し固くして続けて言う。
「俺は一年戦争の時、北米の基地に配属したての新米兵士だった。
だがそこで見たのは悲惨なんて言葉で片付けられるモンじゃなかった。
もちろん俺は関与しちゃいないが上官達や研究者が
えげつない事をしてるってのはもっぱらの噂だった。
捕虜になったジオンの女士官は
検査、研究、尋問、拷問と称して……
味わった苦痛と屈辱は相当なもんだったろうな…。」
その言葉にラミアスやナタルだけでなく、
ノイマンらも固唾を呑んで聞いていた。
「でもな、自分が軍人になったってんなら
そういう事も覚悟しなくちゃなんねえ。
認めたくはないが戦争にはつきもんだろ?
そういうのってさ。
だからレコア中尉の任務成功を俺達が信じてやらんとな。」
皆は一様にして下を向いていたが、ラミアスがムゥに問いかける。
「フラガ大尉…?もしかして大尉のいたその基地というのは……」
ムゥはその問いに息を軽く一つ吐くと
「まぁ、俺の経歴でも調べれば簡単に分かる事さ。
この話はもう終わりにしようぜ?」
と言ってその場の重い空気を断ち切った。
全ての作業を終え《アーガマ》を先頭に《アークエンジェル》《モンブラン》がヘリオポリスを発つ。
白き『大天使』は『伝承』の舟らと共に
混沌のの海へと旅立つのであった。
そして無限に広がる星の宇宙で
若き命達は多くの刻の涙を流す事になるーーー
タイトル忘れてましたね。
第9話_「混沌の海へ」
これにて終了でございます。
オーガスタ基地、ニタ研がありますね。
詳しい方は分かると思いますが、伏線です。
つまらん作品で駄文ですが
序盤のクライマックスに回収しますんでお楽しみに。
投下乙でありまーす
さて……色々候補はいるが、誰だろう?
種とΖだけじゃないって明言されたから当てはまりそうなのはかなりいるぞ
GJ!
カミーユは初っ端から危うさ全開だったからなw
確かコーウェン大佐のGP計画も動いていたな、スパロボの様にデラーズの蜂起もあると言う事
カオスだ
成る程、スパロボ的な宇宙世紀ものか
923
少しでも読んで頂けるのは頑張ろうと励みになります。
明日あたり投下致しますのでどうか宜しくお願いします。
ちなみ画像をSS倉庫に添付するのは
どうしたら良いでしょうか?
連邦軍服版ラミアスとかちょいちょい
イラスト描いてますがやり方がいまいち分かりません…
乙です。いよいよGジェネ的な動きが出てきました。キャリー・ベースやモノアイガンダムズみたいなシナリオが出ても面白そう。
SEED世界の発展水準考えるとプロヴィデンスと向き合う頃にはSガンダムが出ても不思議ではなさそうと思ったんですけど、ガンダム開発計画が遅れているのでアナハイムの技術水準が気になる……。
>>38 先に言うと
GPシリーズは第2世代のモビルスーツとして
計画しております。
という事で投下しま〜す。
第10話_「揺れる思い」
ザフト軍の《ヴェサリウス》と《ガモフ》は
ヘリオポリスからほど近い暗礁地帯に
ダミー隕石を展開して身を隠していた。
「まさかこのような事態になろうとは…。
いかがされます?
中立国のコロニーで戦闘行為をしたとなれば評議会も…」
《ヴェサリウス》のブリッジで渋い表情をしながらアデスは悩んでいた。
中立国のコロニーでの破壊工作。
そしてエゥーゴとの戦闘行為による接触。
全てが無承認による作戦行動…
考えれば考えるほど、
胃袋が針金のような物できつく締め付けられる感覚だった。
「ですが…蓋を開けて見れば、奴らはエゥーゴでした…
これについても評議会の承認無しでは…」
アデスは典型的な型にはめたような軍人気質の男だった。
元々は連邦軍部隊の副官を務めていた男だっただけに、
クルーゼの目に余る行動には少なからず疑問を抱いていた。
少しはこのように自分の意見を言う事はあるにしても
元連邦軍兵でも無いこの男の優秀な頭脳と実力。
何よりも底知れぬ力を肌で感じていたのも事実であり、
上官の命令は絶対だと言うのも分かっていた。
そんな自分の性格も合間って更に自分を悩ませていた。
「スパイの情報ではハルバートン艦隊の新型兵器だった筈だ。
それが間違いだったとは思えん。
ならば直前にエゥーゴへの参加が決まっていたと考えられる。」
「…しかし……」
クルーゼが腕を組んで色々と推測をしてみるが、
アデスにとっては結果が思わしくない事が問題だった。
そんな心配するアデスを黙らせる一言を言い放つ。
「住民のほとんどは避難シェルターに逃げ込んでいる。
さして問題はないさ。
『血のバレンタイン』の悲劇に比べれば。」
「…うっ…」
アデスの反応を見て、フッと笑うとクルーゼは次の指示を出す。
「合流したとサラミス級と移動している奴らを追う。
予測進路は分かっているか?」
「解析予測コースは…地球周回軌道上と思われます。」
オペレーターからの報告を聞いたクルーゼは組んだ腕をほどくと
顎に指を当てて考える。
「ふむ…何かやろうと言うのかな?エゥーゴ共は。」
「やはり、追われますか?」
考え込むクルーゼにアデスがそう聞くと
「当然だ…今度の戦いはまたとなたいチャンスになる。
必ず良い結果が出ると確信しているさ。
本国も我々を認めざるを得ないほどにな。」
と、答えクルーゼはニヤリと笑ってみせた。
支援する!
「《ストライク》の調整はまだ出来ない?何故だ?」
《アーガマ》のブリッジにいるブレックスが
やや不満そうな表情でモニターに映る
ラミアスからの報告を聞いていた。
どうやら問題はキラ・ヤマトが書き換えてしまった。
という根本的な問題であって今の《ストライク》は
コーディネイターの彼にしか動かせないという
全くの別物の機体になってしまったらしい。
コーディネイターという存在が明らかになって
当時の連邦軍人のコーディネイターらが操縦していた
モビルスーツだけではなく
ボールやセイバーフィッシュなども同様だった。
そのような記録があったのをその場でブレックスは思い出していた。
モニター越しに映るラミアスは気まずそうな表情で
「現状、他のパイロットが操縦してバーニアを噴射しようものならば、
通常の倍以上のGが肉体にのしかかって
場合によっては死亡する可能性もあると…
そのように技術スタッフから報告がありました。」
と言うと、ブリッジにいたブライト達も驚いていた。
すると、ヘンケンがラミアスに一つの疑問を投げかける
「では先の戦闘で見せた《ストライク》の性能は
キラ・ヤマトにしか引き出せない…という事か?」
すると、ブライトが何か感心したように
「しかし…今の話を聞く限りでは
《ストライク》は実用段階に無かったという事ですね。」
「ああ、それをあんな少年がモビルスーツを撃退する事までやってのけたのだ。
コーディネイターというのは底が知れんよ。」
とブレックスと言葉を交わすとブリッジにいた全員が改めて、
コーディネイターの凄さというモノを感じたのだった。
ーーーーー
ヘリオポリスを出発してから4日が経過していた。
懸念されたティターンズや
ルナツーのパトロール艦とは
まだ遭遇する事もなく
今のところは順調な航海となっていた。
キラ達がいる《アークエンジェル》の
居住ブロックの部屋からは賑やかな声が聞こえていた。
同級生であるフレイもその中におり、
さながら学校の旅行にでも行くかのような賑やかさだった。
その中にはフレイと共に《アーガマ》へ逃げ込んだエルと
その母アンリも一緒にいた。
エルはフレイの膝の上に座り、
フレイと一緒に歌を歌っていた。
ヘリオポリスの一件以来、
エルはかなりフレイに懐いていた。
フレイは兄妹もおらず母も早くに亡くしている。
父親は連邦軍の事務次官という要職に着いているため、
唯一の家族である父親とも中々会えずにいた。
その為、彼女は常に誰かといないと不安になる性格なのか、
常に親友だったジェシカやミーシャと一緒にいた。
しかし、ヘリオポリスの騒乱によって彼女らとは離れ離れとなってしまった。
そんな彼女にとってエルはサイやミリアリアと共に
寂しさを埋めてくれる存在になりつつあった。
フレイもお姉さんになったようなつもりでエルと触れ合っている。
終始賑やかな声が響く居住ブロックの彼らの部屋に
そこへロベルトが部屋に入ってくる。
先にロベルトへ話しかけたのはサイだった。
「あ、ロベルト中尉。どうしたんですか?」
賑やかな部屋でそう言ったサイの声は半分消されていたが
ロベルトは辛うじてサイの言葉を聞き取る事が出来た。
すると、ロベルトはフレイの隣に座るアンリに声をかける。
「奥さん、すみませんが
この子達と話がありますので、
少しの間だけ外してもらっても良いですか?」
と、言うと歌っていたフレイやエル、ミリアリアも歌をやめ
部屋の中が唐突に静まりかえる。
アンリは少し戸惑っていたようだが「あ…すみません…。
エルちゃん、この人がお姉ちゃん達とお話しするから
ママとお部屋に戻りましょうね。」
そう言って何かを感じ取ったように
フレイの膝の上に座るエルを抱えて
ロベルトに頭を下げ部屋から出て行った。
部屋の沈黙は破られる事なく、
キラ達は不思議そうな表情でロベルトを見ていた。
向かいの部屋にエルやアンリが
入ったのを確認すると
ロベルトは黙ってドアの横に備え付けられたボタンを押す。
すると開放されていたドアが閉まった。
「ロベルトさん、僕たちに話があるって…何ですか?」
部屋に漂う沈黙の空気を破ったのはキラだった。
ロベルトの表情から少し不穏なものを感じたキラが恐る恐る聞いていた。
するとロベルトの表情は少し柔らかくなり、
ようやくキラ達へ話を始める。
「お前達、みんなと一緒にいて楽しいか?」
キラ達は彼の言葉が威圧的なものではなく
どこか穏和な空気を感じ取れた。
ロベルトの問いかけにサイが答える
「はい。楽しいって言うより、みんなが側にいるから
不安な事も忘れられるかなって思います。」
とロベルトの目を真っ直ぐに見てそう答えた。
その言葉にロベルトは決して柔らかい表情を崩す事もなく
「そうだな…だが、他の人達はどうだろう?」
と言ってキラ達の顔を順番に見やる。
するとその言葉の意味を理解したトールやミリアリアの表情が固まる。
それと同時にロベルトの表情が少し固くなると
「…実はな…避難民の一部からラミアス艦長へ
お前達に関して苦情が来ていてな…。」
ロベルトがそう言うとフレイやサイ達の表情も固まり
部屋の中の空気を押し潰す。
「お前達が悪いという訳ではないがな。
やはり不安なのかもしれんし
もしかしたら笑顔でいられるお前達が疎ましいのかもしれんぞ?」
ロベルトは少年達にそう言うとサイが
「もしかして…その人達は僕達がうるさく感じてるって事ですか?」
と言って、ロベルトへ質問を返す。
それを聞いたロベルトの口元の濃い髭の片方が上に釣り上がると
「うるさいってのとは違う。」
とロベルトは答え
「ここの避難民はヘリオポリスだけじゃなく、
グリーンノアの民間人もいるのは知っているだろう?」
全員にそう聞くと、皆が頷く。
それに応えるようにロベルトも頷くと、
グリーンノアの人々は自分達が住むコロニーの基地化を
ティターンズに反対して命の危険に晒され、
安住の地としてヘリオポリスへ逃げ込んだ事を話した。
しかしヘリオポリスもあのような状態となり、
自分達にとっては安住の地など何処にもないのではないか?
そういう不安定な精神状態で追い詰められた
人々がいる事をロベルトは彼らに伝える。
その話を聞いた少年達は少し落ち込んでいた。
するとカズイが俯きながら
「すいませんでした…
他の人達の気持ちを知らないで自分達だけ呑気に…」
と言うと、キラ達は顔を上げてロベルトの顔を見る。
「お前達の笑顔を守るのが俺たち大人の仕事だがな。
中にはこういう状態で子供にあたってしまう人もいる。
だからお前達のその元気を少しでも不安に
なっている人達に元気を分けてあげるとかな。
まあ何か出来る事があるんじゃないか?って事だ。」
ロベルトの表情は既に先ほどの柔らかい表情に戻っていた。
そんなロベルトの問いにキラが
「僕たちに…出来る事……?」
と聞くと、大きく頷くロベルト。
「そうだ。何も戦争に参加しろってんじゃない。
まだ若いんだ。自分達なりにそれをしっかり考えるんだな。」
そう言うと、ロベルトはドアを開けて部屋を後にした。
ロベルトが部屋から出ると、
ムウが壁に寄り掛かって立っていた。
ラミアスが避難民とキラ達の間にあった問題は
航海を始めて2日目に起きた事で、
ストレスの多い艦内生活に慣れていない民間人にとって
素早く対処しなければならない問題だった。
ラミアスは当初、自分が彼らと話をしようとしていたが
ロベルトは艦長の手を煩(わずら)わせないと言って
自身が名乗り出た格好だった。
二人は無言のまま居住ブロックを抜けて、
無重力ブロックに入ると
リフトグリップに手をやって移動をしながら話を始めた。
「盗み聞きするつもりはなかっあんだが…
ちょいとばかり坊主達が気になってな。
すまなかった。
クワトロ大尉の部下である中尉にこんな事させちまって。」
ムウはそう言うと、ロベルトは少し気が楽になったような表情で
「いえ、戦争を知らないでいる事はこの時代では危険です。
それに自分があいつらにしてやれる事は
戦い以外ではこのくらい事だけです。」
と言ったロベルトに
「充分すぎると思うがね。
クワトロ大尉が羨ましいぜ。
ロベルト中尉みたいな部下に恵まれてな。」
「褒め言葉として受け止めておきますよ。フラガ大尉。」
と言って二人はフッと笑ったのだった。
51 :
通常の名無しさんの3倍:2013/12/31(火) 13:39:57.93 ID:kx75yWZe
支援だ
ーーーーー
ブリッジに座るブレックスが安堵の表情を浮かべていた。
「そうか、避難民の問題は解決したか。」
そう言ってブレックスが大きく息を吐いて肩を撫で下ろす。
グリーンノアの避難民がたらい回しの状態では
ささいな問題に気を配らねばならい状況だった。
「ロベルト中尉が話をつけたみたいだな?」
ブライトがクワトロに目を送って聞くと、
「私の方からロベルトに対処するように言っておきました。
結果的に避難民を
あちらに押し付けるような形になりましたから
せめてもの償いとしてです。」
とクワトロはその理由をはっきりと示した。
クワトロは冷静にそう言っていたが
ロベルトを信頼しての事で戦争を知っている人間の
言葉を直接少年達に聞かせてやりたかったのが本音だった。
「なんにせよ戦闘になる恐れがあるからな。
不安要素を今の内に取り除いておくのは良い事だ。」
ヘンケンがそう言うと、ブレックスらはコクリと頷いた。
すると索敵センサーの音がブリッジ内に木霊する。
「来たか!?」
ブライトが身を乗り出してセンサー長のシーサーに確認する。
「3時の方向!サラミス級、数は1です!接触は約15分後!!」
シーサーがそう叫ぶとブライトは艦長席の手元にある、
スイッチを押すと艦内にアラートが鳴り響く。
横にいたヘンケンが指をポキポキとならしながら
「よっしゃ!」と言って意気揚々とCIC席に腰を下ろす。
ーーーーー
《ボスニア》はようやく
レーダーでエゥーゴの艦隊を捕捉する事が出来ていた。
ブリッジではチャン・ヤー少佐が、
カタパルトデッキで待機をするライラに指示を出す。
「ライラ、いいな?艦隊を止めて臨検をするんだ。
沈めるのが目的ではないからな。」
と、ライラに何か念を押すような口ぶりでいた。
「わかっています。そんな戦争好きに見えますか?」
ろくな仕事も出来んくせにどの口がそんな事言ってる?
意地の悪い上官にライラは内心そう思っていたが、
冷静に尚且つ、いつもの調子で皮肉っぽく返す。
そんなライラに対して言った言葉に
悪びれる様子もないようだ。
ライラの皮肉っぽい物言いに
「ふん、見えるな。」
と、応えるとモニター越しに映るライラが少し笑いながら
「ふ…ではいつかご期待に応えましょう。」
と返すと、ブリッジオペレーターから発進の合図が出る。
「リニアカタパルト射出準備OK、ライラ隊発進せよ!」
ブリッジオペレーターの声と共に、
カタパルトにいた誘導員が、緑色に光る発光スティックを大きく振ると、
それが発進の合図となる。
「よし、ライラ・ミラ・ライラ。
《ガルバルディβ》出る!!」
合図を確認すると、やや顎を引き前方を見据えて
操縦桿を強く握り両方のフットペダルをぐっと踏み込む。
すると《ガルバルディβ》バックパックスラスターの
青い炎が噴射すると機体の乗るリニアカタパルトが
前方へ勢いよく滑走する。
体にGがかかると目が少し痛くなるような感覚が襲う。
カタパルトデッキの先端部までカタパルトが
到達して《ガルバルディβ》の足とカタパルトが
離れてその勢いのままスラスターの推進力が合わさり
振り返れば母艦の《ボスニア》が小さくなっていた。
続く3機の《ガルバルディβ》も一気に発進をすると
ライラと編隊を組んで、前方に見える《アーガマ》を目指した。
ーーーーー
《アークエンジェル》のブリッジは
《アーガマ》からの情報によって騒然としていた。
レーダーにはサラミス級が確かに表示されており
かつての友軍との戦いを目前に全員が緊張していた。
《アークエンジェル》のモビルスーツデッキに
ムウが飛び出してくると、《リック・ディアス》に
乗り込もうとしているロベルトに状況を聞いていた。
「ロベルト中尉、捕捉されたって!?」
「はい、サラミス級が1隻だけですがおそらく哨戒艦です。」
「チッ…て事は後続にティターンズがいる可能性もありか!」
ムウはそう言って舌打ちをしながら、
《メビウス・ゼロ》に乗り込んだ。
艦内にはアラートが鳴り響き居住ブロックにいる
避難民が不安と恐怖の表情を浮かべていた。
その中で、高齢の老人が「もうダメだ!みんな死ぬんだぁ!!」
と言うと、周りの避難民も声を上げて叫び出していた。
その光景はまさに阿鼻叫喚と呼んで良いものだった。
「お姉ちゃん…!みんな死んじゃうの…?」
エルはアンリの腕に抱かれていた。
しかし周りが騒ぎ出した事によって、
エルも恐怖を感じ取り体を震わせてフレイに聞いた。
「え……?…」
フレイも感じていた。
ヘリオポリスでの体験とは比べものにならない程の恐怖を。
彼女を襲う恐れはエルの言葉に励ます事も出来なかった。
しえんするよ!
横でその様子を見たキラは意を決したように立ち上がると
避難民の人々の前に出ると大きな声で叫ぶ。
「皆さん落ち着いて下さい!!
絶対助かりますから…!
だから落ち着いて下さい!」
キラはそう叫ぶと避難民達は大人しくなる。
しかしそんなキラに一人の男性が
「何が大丈夫なんだ!?
噂じゃこの戦艦は下っ端の軍人しか
乗ってないっていうじゃないか!」
その言葉にキラは反論出来ずに歯軋りをする。
男の言葉は更に避難民の恐怖を増長させてしまい、
また周りが騒然となる。
そこへトールとサイが一緒に立ち上がると反論する。
「小さな子供が怖がってるんだ!
大人が子供を怖がらせるような事を言わないで下さい!」
「そ、そうですよ!
絶対大丈夫だって信じればきっと助かりますから!」
そう言うと、避難民達が再び静かになる。
そこへ避難民の一人の男が立ち上がると避難民達に言う。
「皆さん、この子達も怖いんです。しかし我々のような
大人がそんなんでどうするんです。信じましょう。」
男はそう言うと、しばらくの沈黙ののち避難民達は
キラ達に「すまない。」
と、言ってその恐怖が去るのを待つ事にした。
それを見ていたミリアリアが隣に座るフレイに
「サイ…カッコいいじゃん。」
と言うと、フレイもミリアリアの顔を見て
「うん…トールも。」
と言って、彼女達も少し気が楽になったようだった。
そんな中、キラはただ一人立ち尽くして拳を強く握り締めていた。
ーーーーー
「よし、見つけた。
《ボスニア》へ信号弾で知らせろ。」
ライラはそう指示すると、
僚機の《ガルバルディβ》の頭部から信号弾が発射された。」
ライラ隊の放った信号弾が爆ぜると辺り一帯を白い閃光が包み込む。
その閃光は《アーガマ》や
《アークエンジェル》のブリッジにも届く。
《アーガマ》通信長のトーレスはその閃光を確認した。
「見つかりました!信号弾の光です!」
「位置を母艦に知らせたか!」
トーレスの言葉にブライトが反応した。
「見つけたよ、エゥーゴのコソ泥め!数はやはり3隻か。」
レーダーに映る熱源のサイズは艦艇クラスと見て
間違いないが報告にあった2隻ではなく、
3隻に増えている事が発進前からの疑問だっ。
HUD(ヘッドアップディスプヘイ)に表示されている
艦艇を徐々に拡大して行くと、2隻の白い艦艇に気付く。
「何だあの戦艦は?
ペガサス級が2隻…?違う…あんな戦艦は連邦軍にはない。」
《アーガマ》と《アークエンジェル》をモニターで
確認したライラはもしかして
エゥーゴでは無いのかもしれないと感じていた。
どういうことだ…
臨検する必要はあるな…だが受け入れるか?
そう考えながら《アーガマ》に近付いて行く。
ブリッジにはブライトの声が響く。
「モビルスーツ、発進用意!」
それに続いてCIC席に座るヘンケンが砲雷科に指示を出す。
「対空戦闘用意!」
そう声を上げた瞬間、ブライトが迫り来る機影から
光が点滅しているのを確認すると、手を横にスッと伸ばすと
「待て!発光信号だ!」
そう言うと、全員が戦闘体制に入っていたが手を止める。
センサー長のシーサーか発光信号を解読すると、その内容が分かる。
「停戦信号?」
ブライトが驚き気味に言うと、
ブレックスも怪訝な表情を見せて声を上げる。
「停戦しろだと!?」
ヘンケンがふと不思議な顔をして
「我々が脅威ではないのか?」
と疑問を抱いて呟くと
「グリプスのバスクの隊でないからな。
こちらを詳しくは知らんのだ。
モビルスーツが来るぞ?」
ブレックスがそう言うと、警戒を促す。
するとシーサーがセンサーに映った機種と数を確認する
「機種判明、ルナツー所属の《ガルバルディβ》4機です。」
「《ガルバルディβ》が4機もか!?」
その報告にブレックスは驚く。
《ガルバルディβ》自体数は少なく、
性能は抜群に高いという訳ではないが
ザフトの《ジン》やティターンズの《ハイザック》よりは
数段上の性能を持つバランスの良い機体だった。
「クワトロ大尉は待機。
アポリー中尉とカミーユは
ティターンズ本隊との戦闘に備えて出撃はするな!
《アークエンジェル》《モンブラン》にも
許可があるまで待機するように通達しろ!
指示があったらいつでも出られるようにしておいてくれ。
サエグサ、減速はするなよ。」
ブライトは各所にテキパキと指示を出すと、
ブリッジの真上をライラの《ガルバルディβ》が
猛スピードで通過する。
「速いな!?」
通り過ぎた《ガルバルディβ》を見たクワトロは
思った以上のスピードを出してくる機体に舌を打つ。
「速度は落とさないな…怪しいな、
戦艦がモビルスーツに勝てると思うなよ。」
ライラは反転をすると、再び《アーガマ》に近付いて行く。
「また来ます!」
トーレスがそう言うと、ブライトは落ち着いた口調で
「指令があるまでは撃つなよ。」
と、言っていたがクワトロからブリッジに通信が入る。
「キャプテン、出るぞ。」
「もう少し待ってくれ。
なるべくこちらから扇動はしたくない。」
クワトロの言葉に、ブライトはどっしりと構えながら言うと
ライラがオープン回線を寄越して来た。
「聞こえるか、貴艦の所属を明らかにしろ。
当方の命令にこれ以上従わない場合は撃沈をする。」
「我が方はエゥーゴだ。命令は聞けない。」
ライラの要求に対して、ブライトはきっぱりと拒否をする。
「了解した。では貴艦を撃沈をする。」
ライラはその返答に対してそう言うと
右手に持つビームライフルをブリッジに向けると
「好き勝手な事を言う!」
と言って、クワトロが《ガルバルディβ》に向けて
2発、3発とビームピストルを放つ。
「…!!こいつ!?」
ライラはフットペダルを踏み込むと
スラスターを噴射させて火線をスレスレで躱す。
支援
支援
猿さんでした…
撃ち終わりを狙ったライラが反撃とばかりに
ビームライフルを撃ち返す。
「やる…!」
クワトロの言葉通りに、ライラの戦闘能力は高かった。
あとコンマ一秒でも遅ければ
間違いなくコックピットをやられていた。
「そこだ!」
ライラがそう叫ぶと、
左手のシールドから2連装ミサイルを放つ。
「何だと!?」
クワトロが操縦桿を操作して、グリップのボタンを押すと
武器をクレイバズーカに持ち替えて構える。
「えぇい!」
クレイバズーカから放たれた砲弾がミサイルに向かって行くき
やがてぶつかり合うと大きな火球が起きる。
「よし!後続の《アークエンジェル》と《モンブラン》に
モビルスーツを出させるように打電!!」
ブライトがそう言うと
トーレスが「了解!」と言って通信電文を送る。
展開した《ガルバルディβ》が
先頭を行く《アーガマ》との交戦に入る。
「来るぞ!対空放火!蜂の巣にしてやれ!!
《アークエンジェル》には避難民が乗っているんだ!
被弾させないようにこっちが盾になるつもりでいろ!」
ブライトがブリッジのクルー達へそう檄を飛ばしていると
下から突き上げられる衝撃が襲う!
「くっ!!いきなり当てられたか!弾幕張り続けろ!」
「機関部に被弾!!メインエンジンにトラブル発生!」
トーレスがブライトにそう報告すると、
ブライトは焦りと共にじわりと汗が滲み出てくる。
それに機関を真っ先に狙う辺りは戦いを熟知しているようだ。
そう感じたブライトの拳はギュッと締まる。
「ラミアス艦長!《アーガマ》より
モビルスーツ発進の許可が出ました!」
オペレーター席に座るチャンドラがラミアスへそう言うと
「分かったわ!!《アーガマ》に張り付いた
モビルスーツの掃討が優先!
バジルール中尉!」
ラミアスはそう指示を送るとCIC席のナタルへ目を配らせる。
ナタルが大きく頷いてカタパルトデッキにいる、
フラガとロベルトへ回線を回す。
「了解です!
フラガ大尉、ロベルト中尉、
聞こえましたね?発進して下さい!」
「了解!ロベルト機、《リック・ディアス》出る!」
「……ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」
カタパルトデッキに『LANCH』の文字が青く表示されると、
両舷から《メビウス・ゼロ》と
《リック・ディアス》が一気に発進する。
《モンブラン》からもジムUが2機発進して直掩機として、
《モンブラン》と《アークエンジェル》を防衛する。
「迂闊な…!」
ライラは赤い《リック・ディアス》に向け
ビームライフルを2発、4発と撃つがクワトロも
ライラの戦い方に慣れたのか、余裕を持って躱す。
「チッ…あの赤いモビルスーツ…!
……もしやあの赤い彗星?」
《リック・ディアス》の機体の色と相手の
実力を肌で感じ、無意識に出た言葉だった。
クワトロは《アーガマ》に張り付く
《ガルバルディβ》を狙い撃つ。
機体はビームピストルでコックピットごと撃ち抜かれると
核融合路に誘爆して、大きな火球となって消えた。
「えぇい…実戦慣れした部隊だ…!ようやく1機か。」
クワトロは先ほどの《ガルバルディβ》といい
他の機体も戦い方が直線的ではなく、
効率の良い動きで的を絞らせない戦い方をしていた。
「ラミアス艦長!《アーガマ》より
モビルスーツ発進の許可が出ました!」
オペレーター席に座るチャンドラがラミアスへそう言うと
「分かったわ!!《アーガマ》に張り付いた
モビルスーツの掃討が優先!
バジルール中尉!」
ラミアスはそう指示を送るとCIC席のナタルへ目を配らせる。
ナタルが大きく頷いてカタパルトデッキにいる、
フラガとロベルトへ回線を回す。
「了解です!
フラガ大尉、ロベルト中尉、
聞こえましたね?発進して下さい!」
「了解!ロベルト機、《リック・ディアス》出る!」
「……ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」
カタパルトデッキに『LANCH』の文字が青く表示されると、
両舷から《メビウス・ゼロ》と
《リック・ディアス》が一気に発進する。
《モンブラン》からもジムUが2機発進して直掩機として、
《モンブラン》と《アークエンジェル》を防衛する。
「迂闊な…!」
ライラは赤い《リック・ディアス》に向け
ビームライフルを2発、4発と撃つがクワトロも
ライラの戦い方に慣れたのか、余裕を持って躱す。
「チッ…あの赤いモビルスーツ…!
……もしやあの赤い彗星?」
《リック・ディアス》の機体の色と相手の
実力を肌で感じ、無意識に出た言葉だった。
クワトロは《アーガマ》に張り付く
《ガルバルディβ》を狙い撃つ。
機体はビームピストルでコックピットごと撃ち抜かれると
核融合路に誘爆して、大きな火球となって消えた。
「えぇい…実戦慣れした部隊だ…!ようやく1機か。」
クワトロは先ほどの《ガルバルディβ》といい
他の機体も戦い方が直線的ではなく、
効率の良い動きで的を絞らせない戦い方をしていた。
その時、背後からライラが
クワトロの《リック・ディアス》をロックオンする。
「赤いの…撃たせてもらう!!」
ライラがそう言うと彼女の機体のコックピットに
アラートが鳴り響く。
「ロックオンされている…!?」
「クワトロ大尉!援護する!!」
《リック・ディアス》のコックピットのHUDにムウの顔が映ると
背後から
《メビウス・ゼロ》が《ガルバルディβ》へ
リニアガンを1発、2発と発射する。
「っ!敵の援護か!?」
ライラは咄嗟にシールドを構えて、防御態勢に入る。
その時コックピットに強い衝撃が走る。
「ぐ…!?」
《メビウス・ゼロ》のリニアガンがシールドを撃ち抜き
内臓していたミサイルが爆発を起こす。
「ち!迂闊だった……!」
レーダーに映った方へ目をやりモニターを確認すると
ライラの心臓が強く跳ね上がる感覚に陥る。
「あ、あれは…《メビウス・ゼロ》!?そんな馬鹿な…!!」
ライラの頭の中は混乱し始めていた。
《メビウス・ゼロ》を見て、心臓の鼓動が
異常なほど早くっている事はライラは分かっていた。
その時、戦闘宙域を赤く照らす光が広がる。
「ボスニアからの撤退命令!?…チッ…私が動揺するなんて!」
撤退信号に気付いたライラは慌てて、撤退をすると
2機の《ガルバルディβ》もそれに追従して来ていた。
「隊長、お怪我は?」
「問題ない。シールドをやられただけだ…」
『赤い彗星』と『エンデュミオンの鷹』が相手だったと思いたい…
でなければ立場がない。
しかしあれが本当に『エンデュミオンの鷹』なら……なぜだ?
コックピットの中でライラは独り呟いていた。
そんな事を考え込む彼女の心臓の鼓動は
まだ高鳴っていたのだったーーー。
終わりです!
次回はゆっくりで行きます。
今年も残り数時間ですね。
皆さん良いお年を(`・ω・´)ゞ
投下おつですー( ´∀`)ノ
ライラはムウに因縁あるんかのう+(0゚・∀・) + ワクテカ +
そして良い御年をー(・∀・)ノ
来年もSSの投下がたくさんありますように
GJ!!
ムウの何がなぜだなのか?何かおかしいとこがあったのだろうか。
新年あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
新しい書き手も投下を始めて下さり、賑やかになって良かったと思います。
UC世界も好物なので楽しみにしてます。では、のびのびの続きを。
10/32
伝統的に「相手側に手を出させること」を
戦争の開始要件としている本国の体制を考えると、
理事の言う先制攻撃はなかなかの綱渡りぶりである。
「……理事はその段階に来ていると見ているわけですか」
「さぁ、そこまでは何とも。我々は我々の意思に基づいているだけで、
結果はそれに付随するものです。飽くまで私達は私達です。彼らではない。
立ち位置を踏み違えてはいけませんよ」
「お言葉ですが、その様な勝手な論理で攻撃を正当化しては、
この国の外交がもたないのではと危惧します。確かに私は軍人ですから、
命令とあらば行動するのが原則的立場ですが、私も一人の国民です。
我が国の伝統的な立場を考えても、我々が先制攻撃を仕掛けるというのは、
……世論をどう納得させるのかと」
「……私はあなたのそういう冷静さを買っています。
我が国の組織の中でそうした冷静さを持つ頭脳がいることを心強く思います。
危惧については……私も考えなしに命令を出しているわけではありませんよ。
これでも、……この国を導いてきたという自負がある。
何より私も、愛・国・的、アメリカ国民ですから」
にっこりと微笑んで話すアズラエルの表情に毒気はなかった。
その呆気ないほどの穏やかな反応に、ダーレスは逆に不安を感じるのだった。
センサーがロックオンアラートを鳴らす。
唐突な事態だが、咄嗟に回避行動をとるイザーク。
閃光が目前のストライクを縫う様に走り去るのが見えた。
「なに!?」
11/32
閃光の出所は、前方右上空から急速に迫る機影。
スピードはこれまでの連合機の常識を超える。しかも、センサー表示距離からしても
随分と距離があるにもかかわらず、あの精確な射撃だ。
慌てて後方へ距離を置き、キラービーに持ち変えると照準を絞る。
目視領域に現れたその機影は、漆黒で塗られた全く見たことのない形状をしたものだ。
長い砲身を先端に持つ戦闘機……にしては随分と大きい。MAと呼ぶべきだろうか。
引き金を引くイザーク。
「早い!?!」
彼が予想した速度より敵機の方が勝っていた。
キラービーを予想速度より「早め」の予測で連射し当てるつもりでいた彼だが、
敵の機体はさらに速度を上げて、フェアトラウェンの目前を飛び去ったのである。
「…ったく(ひやひやさせてくれるねぇ。あの銃、連射は無しっしょ。)キラ、大丈夫か?」
『ムゥさん!?有難うございます。助かりました』
「いやいや、そんなことは良いさ。それより、あいつを何とかしなくっちゃな」
『はい!』
フラガは訓練していたとはいえ初飛行での実戦という状況に、内心ドキドキとしていた。
さすがの彼も予想の上を行ったフォールディングの飛行性能に心躍る。
イザークはストライクの他に現れた新型の登場に、状況の変化を悟る。
このまま戦えばいくら高性能な機体でも対抗は難しい。
彼はコンソールのとあるスイッチを押した。すると、機体から勢いよく何かが飛び出した。
それは夕焼けに染まる空を青白く弾けて輝き散る。
信号弾が打ち上げられたことで、それを見た周囲も戦闘に変化が訪れることを予感させた。
12/32
「ここがお前の荷物の場所か」
アスランはフレイを後ろ手にロープで縛り歩かせ、
彼女の荷物のある場所へと案内させた。
そこには彼女の機体の姿もあった。
「これを君が乗っていたわけか」
「触らないでよ。あんたがその気なら、こっちも考えるわよ」
「触らない触らない。見るだけで十分だ。
それより、さっきの夕立でずぶ濡れだろう。
着替えは……無いだろうけど、干した方が良い」
彼はそう話すと、唐突に彼女のロープを解いた。
「え!?」
何が始まるのかと思って構えていた彼女からすれば、
意味も分からず解放されて困惑した。
何より彼は自分に着替えろと促した辺り、
これはストリップショーを要求しているのかと、内心ドキドキとしていた。
「……どうした、好きに荷物の整理をしたらいい。
あ、でも、武器を持って構えたなら、僕は君を撃たなきゃいけなくなる。
そんなことはしたくないんだ。協力してくれるよな」
「……そう言って、あんた、生着替えショー……だとか要求しているんでしょう!」
赤面しながら言い放った彼女に、彼は一瞬目が点になった。
「はぁ!?………っはははははははは、いやぁ、それは考えてもみなかった。
そうだな。そういうのもあるかもな。まったく……君には驚かされる」
「ちょ、え!?」
アスランの素で笑っている姿に頭を抱えて恥じる彼女。
彼の方は、あまりの話に殺伐とした緊張感が無さ過ぎて笑うほかなかった。
13/32
その後、フレイは彼に促されるままに荷物の整理をする。
毛布があったので、それで隠しながらタンクトップとパンツ一枚になった。
彼女に危機意識がなかったわけではない。
だが、状況的にそれを心配してもどうしようもなかった。
何より体の自由は認められたわけだから、何かがあったとしても抵抗はできる。
身の心配より生き残ることに彼女は集中する方向を変えたのだ。
そんな彼女の緊張感をよそに、アスランの方はマイペースに荷物を開くと、
近場から枝を拾い集めて石を組み、手早く焚火を始めた。
フレイは彼の手早い作業に内心感心しつつ、洞穴の壁面にもたれかかって見ていた。
どんなに緊張感が無かろうが、相手との距離は取りたいという意識が強かった。
「そんなに警戒しなくてもいい。助けが来なければ二人だけの無人島だ。
長居はしたくないけど、助けが来るまではお互い様だと思わないか」
「……そうね」
彼女の表情は険しいままだ。
彼はその反応に溜息を吐くと続ける
「君はどうして連合軍に。……事情はあるんだろうけど」
「……父の仇(かたき)よ」
「……仇。それはいつ」
「……ヘリオポリスを出て、暗証宙域に来ていた先遣艦隊に、パパの船が来ていたのよ」
「……そうか。君の父さんは軍人なのか」
「違うわ」
「じゃあ、なんで軍艦に」
「……父は外交官よ。たぶん、交渉に来ていたんだと思う。
そうじゃなきゃ、船になんて乗らないもの」
「……そう。で、何を話に来るつもりだったんだ」
支援
14/32
「そんなの知らないわ。でも、今ならわかるの。先遣艦隊は記録上攻撃を仕掛けていない。
それどころか、僚艦の記録ではZAFT艦と通信をしていた形跡がある。たぶん、
本当に外交目的で接触を試みていたのよ。にも関わらずZAFTは唐突に攻撃を仕掛けてきた」
「……君の話の通りなら、その部隊を率いていたのは俺だ。俺が命令したんだ」
「!?……それって、本当の話?」
「あぁ。俺が部隊長をしている。全ての命令は俺が出した」
「……そん…な」
フレイは目前の少年が自分の父を殺した張本人だと知って、強い衝撃を受けた。
先程まで気さくに接してくれた温和な少年が、まさか自分の仇だとは思いもしなかった。
彼女の話を聞いて、アスランもまた悩んでいた。
それは自分が彼女の仇だという事実ではなく、彼女の言う「外交交渉」が気にかかったのだ。
……少なくとも自分には上層部からその様な話はなかった。しかし、彼女の言う通りだとすれば、
あの時の艦隊が確かに無防備に通信チャネルを開いてきたのはわかる。
一体誰がそのような話を進めたのだろうか。
イザークの進行弾を確認したモラシムは、作戦を次の段階へ進めた。
クストーから出撃した彼は、手筈通りに全部隊が行動していることを確認し、
足早に自身の機体へ走った。
「網は張った。あとは追い込むだけだ」
彼は自身の中に沸き上がる熱いものを感じていた。
かつてこれほどの期待を掛けられたことは無い。
コーディネイターとしてはエリートとは言えない自分の立場を、
現在の部隊長までに仕上げたのは実力だと胸を張れることだが、
その実力もこんな末端の戦場の最前線に送り出される程度なのだから、
その評価も知れたものと皮肉も言いたくもなったものだ。
それが、どうしたことだろう。
本国のエリートとチームを組み、作戦の采配も自由に計画出来、
最先端の武器を配備されているのだ。これが熱くならないでいられるだろうか。
フェアトラウェンは信号弾を打ち上げた隙にストライクへ迫る。
気を取られていたキラは咄嗟に対応しようと動くが、反応が追いついてくれない。
「動けーー!!!」
それは唐突に起こった。
目前まで迫っていたはずの敵機が、何故か視界から消えたのだ。
「……いやぁ、俺ってやっぱMA乗りなのねぇ」
15/32
彼は主武装であるブリッツ・シュトラールの照準を絞り狙撃したのだ。
フェアトラウェンにはPS装甲があるが、ブリッツ・シュトラールはそれを貫通する。
マルチフェイズビームコーティングを施した弾丸を音速で叩き出すそれは、
衝突すれば強烈な衝撃波を伴って物体を破壊する。
炸薬等は使用していないが、速度がそれを補う仕組みだ。
どんなに強力な装甲といえども、PS装甲が無効化された状態でこれを受ければ無事とはいかない。
フェアトラウェンは真横からの強い衝撃と共に右腕をもぎ取られ、
そのまま機体ごと横殴りに突き飛ばされた。
「ったく、空を突っ切る重力が気持ち良いんだからなぁ」
フォールディングがキラの真上を飛んでいく。
「ありがとうございます!」
『早く立て直せ、腕は吹っ飛ばしたが、まだ行けるだろう。
それにもう一体同じのが来ている。……しかも、こいつは前の白いやつだ』
「…え、なんでわかるんですか」
『そんなのわからないけど、俺の感って、当たるんだよね』
(……しかし、こいつはとんだ化け物だ。
MAとしての性能が突き抜けてる。こう感じるのって、
俺が時代についていけてないってことなのかね。……冗談じゃない)
フラガは感じていた。
心の中をざわつかせる存在を。
フェアトラウェンのイザークは憤っていた。
ストライクより確実に強いはずの自分が新手の連合機にやられたのだ。しかもMAにだ。
旧世代の遺物とでも言うべきMAごときに腕を持って行かれた。
……それが、腸が煮えくり返るほど認めがたいことだった。
支援
16/32
「……黒いやつめ、俺の腕を持っていったこと、後悔させてやる」
イザークはキラービーを構えて連射する。
それはフォールディングを狙い撃ちしていた。
「ぐぅ!?」
フラガは懸命に避けるが、3連射のキラービーのビームを確実に避けることは難しい。
並みのパイロットの射撃ならば躱せるだろうが、
相手はコーディネイターの特別機を任されるエリートだ。
そう易々と温い射撃はしてくれない。3発中1発は確実に当ててきている。
しかも、同じ場所に集中させてのおまけ付きだ。
いかにカーボンドが反射特性を持つ耐熱防弾装甲だとしても、
そう何度も受ければ耐えることはできない。
キラがフォールディングへの攻撃を逸らそうと敵機への攻撃を仕掛けるが、
その時通信が入る。
『アークエンジェルから各機へ、本艦は攻撃を受けています。
現在、ジーニーに出撃準備をさせているけど、
トール一人では無理だと思うの。応援をお願いします」
ミリアリアの声からは、彼女のとても不安な気持ちが伝わってきた。
恋人が死ぬかもしれない恐怖。
そこには藁をもつかむような願いがこもっていたのだろう。
実際、ジーニーだけでアークエンジェルを守り抜くのは無理だろう。
デュエルはオーバーホール中で出られないし、他の機体も使えない。
使えるのはジーニーのみなのだ。
「ムウさん!」
17/32
「キラ、お前は向こうへ行け!ここは俺一人で行ける!」
「すみません!ムウさん!」
ストライクが戻る。
そこにすかさずイザークがストライクを狙い撃ちするが、
フォールディングの牽制射撃を避けて後退する。
キラはそれを見てそのままアークエンジェルへと向かった。
「さーて、そうは言ったものの、MA対MSじゃキルレシオが違いすぎるんだよねぇ。
誘導弾も無しに戦う戦闘機は玩具同前だ……って自分で言ってりゃ世話無いか。
(目視は相手も同じとはいえ、あっちはMSの姿で高機動ときている。
接近戦を仕掛けられたら一溜りもない。
MS初心者の俺がどこまでベテランくんに太刀打ちできるか。
まったく良い冒険だぜ)」
フラガは迷っていた。
ジェインウェイの命令は「MA」での出撃だ。
確かにその方がずっと生還できるだろう。ただし「逃げ続けていれば」の話だが。
彼女の話は、まるで自分にエンデュミオンをまた演じろとでも言わんばかりの話だが、
実際その程度の芸当が精一杯だという現実も理解していた。
しかし、少年達の必死の努力を見ていながら、片や自分は安全策を選ぶという滑稽さ。
これで本当に彼らの上官として、先輩として振る舞えると言えるだろうか。
戦場は舞台ではないが、上の者としての沽券に係わるというべきか、
彼にもプライドはあるのだ。
「まったく、戦場は死ぬために行く場所じゃないよな。
……生き抜くために戦う場所だ」
彼の視線はフェアトラウェンへ向けられていた。
システムコンソールにアクセスし、プログラムを変更する。
フォールディングは敵機へ向けて直進した。
18/32
アークエンジェル艦橋では新たな事態を迎えていた。
「CICより報告、敵ボスゴロフ級を確認。
光学センサー、4時の方向より急速接近する機影探知。
グーン3機と新型です!」
アーガイルの報告を聞き、ジェインウェイは敵側の行動を把握した。
相手側は空の陽動を利用して海から挟撃する気だ。
しかも、この攻撃にはもう一手用意されている。
3次元方向からの挟撃を狙う相手に対して、
通常であればこの状況で単艦対応は危険だ。
しかし、ここはあくまで「コズミック・イラ」だ。
「我々」の常識に囚われていては戦えない。
使える駒はストライクとフォールディングにジーニー。
3機中2機は空の攻撃に対応している。
残りの一機で海の敵に対応するしかないが。
「ラミアスさん、私に考えがあるのだけど、聞いてくれるかしら」
「閣下?どうぞ」
「有難う」
ジェインウェイは彼女に作戦を告げた。
ラミアスはその内容に思わず顔色を変えたが、
確かにその方法が一番現状ではやり易い話でもあった。
被害も少なく、相手側も無理を押してくるとは思えない。だが、
一歩間違えればこちらも相応に損失を被る可能性もある。
綱渡りには変わりないのだ。しかし、その綱渡りぶりも慣れとは怖いもので、
ラミアスは半ば当然の様に受け入れていた。
そんなに綱渡りが怖いならば、この先旅など続けられない。
そう思う程度には彼女も強くなった。
19/32
イザークは突然逃げ回っていたはずの敵機が、
こちら側へ直進してきたのを見て、気でも触れたかと思っていた。
向かって来るならば攻撃を集中させるだけだが、
相手の装甲はこちらのビームを弾いている。
パルスビーム化によって省電力性能は上がったが、
威力は良くて通常ビームの半分程度の威力しかない。
相手の装甲が反射するとすれば、実際の被弾面に生じる損傷は遥かに小さいだろう。
であるとすれば、こちら側の攻撃は通常の3倍以上の量で対応しない限り、
相手の装甲を破壊することはできない。
それでもキラービーの三連射を全弾命中させていれば、
通常ビーム程度の負荷はかけられる。しかし、
その程度でしかないと織り込んでいるからこそ、相手も仕掛けてくるのだろうが。
イザークはキラービーをやめてラケルタを構える。
「突進するなら貫く!!!」
そう構えた瞬間、相手はみるみる内に変形し、なんと人型に変わってしまった。
しかも、その人型は変形しざまにビームソードを手に持ち襲いかかってきたのだ。
咄嗟に構えなおしてソードを受け止めたが、瞬間的に発生したビームの反発力に加えて
相手側のスピードがプラスされ、強く押しつけられる格好となった。
フェアトラウェンはそのまま海面に叩き付けられるように落下する。
フォールディングに乗るフラガは胸を押さえていた。
強烈なGがかかる高速飛行に加えて、
変形させてすぐの相手との衝突に体が追い付いていなかった。
締め付けられるような胸の痛みに、嫌な鈍痛が全身から感じられた。
「(……こりゃ何本かいったかな)
初心者をその気にさせないでほしいねぇ。ったく」
フェアトラウェンは海中から勢いよく飛び出した。
そしてラケルタを構えると、お返しとばかりに突進してきた。
支援
バケラッター
……いやなんとなく
フェアトラウェンで唇噛みかけたw
0===。El
(・∀・ )
>┘>┘
0===。El
(・∀・ ) 支援てー
>┘>┘
むう、モンキィ……
サルカイジョマダァ? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
すみません。お猿規制入ってました。
お待たせしましたが、とりあえず20分割目です。
20/32
「頼むから、まだ始まったばかりとか言わないでくれよ」
『そこのパイロット!お前は許さねぇからなぁ!!!』
「っちぃ。弱音は吐かぬが男の子ってねぇ!」
互いのビームが幾度も交差する。
上空を二機の機体が激しい衝突音を響かせて死闘を繰り広げる。
その頃キラはアークエンジェルへ応援に向かっていた。
「アークエンジェルは……下からの攻撃!?前の潜水艦」
遠方からのミサイル攻撃をアークエンジェルは懸命に迎撃していた。
幾らハンセンによって迎撃ミサイルの追尾性能も上がっているとはいえ、
量で来られてはどうしようもない。相手側のおびただしい量のミサイル攻撃は、
完全にこちら側の対応能力を読んで用意してきている。
どうやら相手の指揮官は先日の戦闘から多くを学ぶ、冷静で優秀な指揮官のようだった。
それに対してジーニーの姿は無い。……と、その時、海中が大きく波立った。
「へへ、なんとか一機やってやったぜ!今畜生!」
トールはマリンストライカーモジュールを初装備したジーニーに搭乗していた。
新開発されたマリンストライカーにはトンファーと魚雷が装着され、水中を高速移動できる。
これまでの簡易対応の海中装備と比較すれば、かなり自由に動けるようになった。
彼は最初は身動きが上手く取れないように装い、相手側の接近を誘い、
油断した相手をトンファーに仕込まれているレーザーで焼き切った。
先程の爆発は彼の初戦果でもあった。
「やはり脚付きは対応してきたか。
奴らの母艦内に高度な開発能力があることは間違いないわけだ」
※あと3つくらい投下して調整したら、明日以降に残り10行けるかな。
21/32
モラシムはゾノの中で敵側の動きを冷静に分析していた。
思っていたよりもずっと高度な対応能力と言うべきか。
相手側は先日の戦闘後に現在の性能を引き出すほどの開発を行っていたのだ。
こんな非常識な開発力は見たことも聞いたこともない。
一体あの艦の中はどうなっているのか。
散会させたグーンの行動はハンスに任せて、
彼は相手の出方を冷静に探りながら指揮をしていた。
ハンスは先行した不慣れな新米の死に苦笑しつつ、
他の二機には機動性を武器に相手を翻弄するよう指示を与えた。
こちらと向こうの絶対的な差は行動時間の差だ。
如何に相手側が高度な装備を持っていたとしても、使えるエネルギーには限界がある。
敵のジンもどきの性能は連合の新型と同等程度の性能を誇っているが、
その連合の新型の電力は既にこちらにデータがある。
彼らのOSの省電力性能を加味したとしても、
そう長い時間を海中で戦い抜く様には出来ていないはずだ。
対してこちらのグーンは海中戦闘をメインに最適化した専用機だ。
今回は増設バッテリーも搭載しているので通常の倍の行動時間がある。
相手の機体にも相応の増設はされていたとしても、持久力は競り勝てる計算だ。
「くそ、ねばっこい攻撃ばっかりで気持ち悪いぞ。
近づいてみたり、遠のいてみたり、やる気ないのかと思えば仕掛けてくるし」
トールは相手がこちら側の武装に対して警戒していると考えていた。
先ほどの攻撃は相手が油断したから上手くいったのだろうが、
他の機体はそうもいかないのは相手の動きでわかるというもの。
ただ、だからと彼らの挑発に乗るわけにもいかない。
手の内を見せて良いことは無いし、彼にとっての切り札もまた、
伏せたものがあるという状況にあるのだ。
「ジーニー、ドライブコントロール、回避プログラムβ2起動。
コンバットモードをシューティングに変更」
『ドライブコントロール、β2起動。シューティングモード、への、変更を承認。
オートドライブ、に、入ります。パイロットは、任意に、マニュアルモード、へ、復帰できます」
22/32
トールは操縦をシステムに任せ、自分は攻撃に集中することにした。
2発の魚雷を有効に使うためにも、
相手側の行動のタイミングを掴みたかったのだ。
しかもシステムの方が現状ではずっと上手く操縦出来ている。
下手に自分が動かすより都合がいいのだ。
この先海戦が幾度続くのかわからないため、
慣れておくことに越したことは無いだろうが、
初戦のラッキーが続くとは限らない。
生存率が高い方を選ぶのが上策だと思った。
(なんでもこなしちゃうキラと同じには……悔しいけどできねーからな。
俺はナチュラルに選ぶんだ)
トールは鼻を片手でこすりながら笑みを浮かべた。
システムの軌道プログラムを読みつつ、相手との間合いを計算する。
海上では、キラがアークエンジェルへ帰還し、
トールのために装備を換装しようと考えていた。
だが、それはかなわない。
遠方からの射撃がストライクの進路を塞ぐ。
驚いて回避行動をとるが、彼が反応するより先に相手の攻撃が入る。
「……頼まれて、嫌だと言わないのが私の主義でね。
困っている同胞を助けるのは美談じゃないか」
白銀の機体が迫る。
後方に二機のゲイツの姿もあった。
フライトモジュールを搭載したゲイツは、
散開するとアークエンジェルへの攻撃を開始する。
それを阻止せんとストライクが向かう動きを見せるが、
白銀の機体はそれを阻み、長い刀の様なものを構えて対峙した。
歯を噛みしめて対峙する機体を睨む。
キラは機体情報を見て新型であることは分かっていたが、
それに乗るパイロットについては察しがついていた。
23/32
「(この感覚……分かる気がする、低軌道の時の)
ぐぅぅ、こんなところで」
シュベルトゲベールを構え切りかかるストライク。
白銀の機体……アンファングを駆るクルーゼは、この機体の特徴的武装である、
細長い刀身の日本刀の様な形状をしたソード「マサムネ」を持ち、
その長いリーチでストライクの打ち込みを受け止める。
ビームコートされたマサムネは、
シュベルトゲベールと比較すればずっと華奢な刀身であるにも関わらず、
ストライクの一撃に折れることなく、逆に切り返しで払いのけるのに耐えた。
それは実際に耐えたといって全く差しさわりない程度には「意外な」固さに見えたのだ。
しかも、その耐えた刀を振るう側は、力の上でもストライクを上回っている。
アンファングの核動力は単純計算でストライクの5倍のエネルギー供給能力を持ち、
パワーとスピードを兼ね備えている。
それに加えて試作機の機体を元に強化されたこの機体だけ、
Gシリーズのフェイスをしていないため、
これまでより強くZAFTの雰囲気を受け継いでいる様に感じられた。
「……私が来たからには、
相応の戦果をとらせてもらおうか。キラ・ヤマト君」
「!?なんで僕の名前を」
キラは唐突に入った相手側からの通信に動揺した。
彼は自分の名前を知っていた。
彼の声には全く聞き覚えがないのにも関わらずだ。
考えられるのは、アスランを経由してZAFTに伝わったと考えるべきだが。
「あなたは一体!?」
24/32
アンファングのホバースラスターは小刻みに動いてストライクのミスを誘う。
キラは冷静に相手との力の差を考えて、プログラムを手打ちで対応させ始めた。
しかし、相手はその対応をさせじと踏み込み、ストライクの胴を狙うが、
キラは咄嗟にクルーゼの上方に飛ぶように吹かして上昇し躱す。
だが、返し刀で左足の先を切り離された。
「知れば誰もが君を欲するだろう。いや、君の様になりたいと……ね」
「なんなんですか。僕は僕だ」
「そう、君は君だ。だが、君の存在のために、どれほどの命が犠牲にされたのだろう。
私は君の持つ業を、いわば癒しに来た救世主とでも言わせて貰おうか」
「犠牲!?」
「……知らないか。ならば、その生まれを呪うが良い。
君は、いずれ人類の敵になる」
「冗談じゃない!!」
キラは覚醒する。
急激に弾けるように視界がクリアになった彼は、
相手側の機体の動きが緩慢に見えた。
先程までは絶対的な差として映っていた動きが、
嘘のようにその俊敏さを失っていたのだ。それだけではない。
彼はこの機体がもつ行動の複数の可能性を瞬時に映像として把握していた。
アンファングはストライクの5倍の出力性能を持っているが、
機動力や戦闘力などの基本的性能はそう大きく変わるものではない。
もともとゲイツを元にしているこの機体は、
ゲイツの構造性能を大きく超えるものではない。
実際の力の差は倍程度だろうと考えられた。
ゲイツと考えればキラも知らない機体ではない。倍速で動くゲイツならば、
攻撃モーションスピードを逆算して相手との衝突点を計算できた。
「なに!?」
……という辺りで、本日は投下終了にしておきます。次で何とか最後まで行けそうですね。
新スレ立て有り難うございます。沢山の支援も有り難うございました。
支援
\ |同|/ ___
/ヽ>▽<ヽ /:《 :\ ひとやすみ
〔ヨ| ´∀`|〕 (=○===)
( づ◎と) (づ◎と ) ひとやすみ
と_)_)┳━┳ (_(_丿
乙
またも続きが気になる展開
0===。El
(・∀・ ) 支援よーい
>┘>┘
0===。El
(・∀・ ) ……
>┘>┘
0===。El
(・∀・;) ひょっとして今のさるって前より長引いたりするの?
>┘>┘
お待たせしました。
25/32
ストライクのシュベルトゲベールがマサムネの一振りを弾く。
繰り出された剣の一閃をキラは受け流すように逸らすと、
滑り込むようにアンファングへ肉薄した。
唐突な状況の変化にクルーゼはギリリと歯ぎしりすると、
スラスターを逆噴射してピクウスを撃ちながら距離をとる。
アンファングのマサムネは、キラのシュベルトゲベールに初めて力負けした。
ただ、力負けしたというには語弊がある。
実際はいなされたというべきものなのだが、
これまで防戦一方だったストライクが、
初めてこちらに攻撃的な一撃を繰り出したのだ。
「何かが違う」ということには気が付いたが、それが何なのか掴めない。
しかし、この変化は危険な兆候と考えた彼は、ストライクのカメラを狙い一閃するも、
それすらも何故か分かっていたかのように躱されてしまった。
「ちぃ!」
クルーゼは攻撃の中止を2機のゲイツに命じると、急速に後退する。
アンファングの後退をみて、ストライクは冷静に彼らの動きを注視していたが、
アンファングは後退したまま戻ることなく、ゲイツ二機を伴って空域を離脱していった。
「こちらストライク、敵部隊の一部撤退を確認。
このまま艦へ帰投し水中仕様へ換装し、ジーニーを支援したい。対応をお願いします」
「こちらアークエンジェル、ヤマト中尉の帰投を受理。帰投してください」
ストライクが帰投した。
「アークエンジェル、進路転身」
「進路転身、面舵20、北北東方向」
艦橋ではジェインウェイの作戦通りに進路が変更され、
アークエンジェルは徐々に空域を移動し始める。
その頃、海中ではトールが必死に逃げ回っていた。
26/32
「くそぉ、やっぱこうなるよなぁ。あー、マジ勘弁してほしい」
スピードこそ相手と互角程度に泳げるようになったものの、3対1では歯が立たない。
最初の一機は、やはりまぐれに等しい結果だったようだ。
「……な!?クルーゼめ。やはり頼りにはならんか。
ものの数にはしていなかったが、こうまで脆いとは」
モラシムはご丁寧にクストーへ送られた暗号通信の転送を見て怒り心頭だった。
クルーゼは自身の作戦計画に影響を与えるため、これ以上の戦闘の継続は不可能と判断し、
断腸の思いで空域を去らざるを得ない。貴殿の健闘を祈ると伝えて来たのだ。
確かに援軍要請は彼らのオペレーション・スピットブレイク参加を考えればギリギリのラインだ。
そこの無理を押してこちらへ駆けつけたことは評価せざるを得ない。
実際モラシムも期待していなかったことなのだが、この状況で苦っている暇は無い。
ゾノに搭乗しているモラシムは、相手機を追い込むために指揮をとるが、
相手の機体もなかなかにしぶとく逃げ回る。
それはこちらとスピードが同じであったこともあるが、
こちらの攻撃を「誘う」のが上手いことだ。
グーンに積まれている魚雷はあらかた撃ち尽くしていた。
脚付き用に残しておくべき分を考えても、撃てる弾がもう限界だった。
これほどにたかだか一機に手こずらされるとは考えてなかった彼からすれば、計算ミスが痛かった。
そこに上方から水音がした。
センサーが機影を探知。勿論、それは友軍ではない。
「ぬぅ、ストライクが来たか。ん、しかし、着水ポイントが動いた?
……脚付きが大きく転身したのか!?このコースは……やりよる」
ゾノは照明弾を撃った。
それを合図とするように一斉に攻撃が止む。
「え!?なんだ」
『トール大丈夫』
「あ、キラ!俺は大丈夫だ。つか、相手が変だぞ!」
『うん』
27/32
モラシムはもう一発魚雷を撃ち込んだ。それは水上に向けられていた。
海面で弾けて輝く。
それは上空で戦う二機にも確認できた。
フェアトラウェンはフォールディングから急速に後退すると、
全速力で空域を離脱していく。
フォールディングはところどころ傷を負いつつも、なんとか初戦を突破した。
「敵機が後退していきます」
アーガイルが報告する。
センサーからも敵機が引いていくのが見える。
「艦長、赤道連合のコーストガードから通信が入りました」
ミリアリア・ハウの報告の後、ラミアスが再生を許可した。
彼女はそれに従い、通信が再生された。
『こちら、赤道連合海上警備隊。
貴艦隊は現在わが方の領海に侵入しつつある。
直ちに進路を転進し、現空域から離れる様に警告する。
従わなければ、我が国の法に則り、貴艦隊への攻撃を開始する』
この通信内容に全員の目がジェインウェイに集まった。
ラミアスが訪ねる。
28/32
「閣下、どういたしましょうか」
ジェインウェイは悪戯っぽく微笑んで答えた。
「歓迎式典のセレモニーに参加するというのも捨てがたいけど、
ここは救助を優先しましょう。ラミアスさん、
進路を彼らのテリトリーのぎりぎり外へ。
アルスターの捜索隊を結成して捜索させましょう。
彼らへは『風に流された』とでも伝えて頂戴」
「了解しました」
アークエンジェルは再び進路を戻すとアルスターの捜索準備に入った。
闇が辺りを支配し、雨がようやく降りやもうとしていた。
パチパチと音を鳴らしながら火が燃えていた。
二人はあれから一言も話すこともなく、ただその場に座っていた。
アスランは火を絶やさないように薪をひたすらくべている。
そんな彼の姿に構わず彼女は火を見つめていた。
「……食べないのか」
アスランが用意した非常食を彼女は食べようとしない。
彼は構わず自分の食事をとっていたが、気になり放っておけなかった。
「……」
「敵の物には毒が入ってるとでも思ってるなら、
そんな面倒なことはしないと言っておくよ。
……仇と食事なんてしたくないという君の気持ちはわかるが、
戦えばいつか君も俺と同じ立場になる。
それでも戦うというんだ。俺と何が違うんだい」
「……違うわよ。あなたとは。あなたは、
あなた達は優れたコーディネイター様なんでしょう。
なら、こんな下等なナチュラルからの挑戦を受けない道だってあったじゃない。
なのに受けてしまった。戦えば……戦うしかないじゃない」
29/32
「それは!?……だったら、黙って核を打ち込まれたまま、
へらへら笑って居ろとでも、君は言うのか」
「……そんなことは……」
2人の間を暫く沈黙が支配する。
視線を合わせるでもなく、パチパチと音を立てて揺れる炎を見つめる2人。
「……俺の母は、ユニウス7に居た」
「……え?」
「君と同じだよ。俺も母は居ないんだよ。……君達の攻撃でね」
「あ……」
「……だからと、君を殺せば母を戻せるのかと言われたら、そんなことは無いだろう。
そりゃ、最初はそんな気持ちも有ったよ。でも、そう志を共にして育ったはずの仲間は、戦場で散った。
正直、俺は何をやっているんだと思った。だけど、やらなきゃやられるだろう。
……とはいえ、それでニュートロンジャマーなんてものを作ってしまった俺達は、
確かに君達のことを言えない。所詮、オリジナルを逸脱することは出来なかったということだろう」
フレイは彼の置かれた立場に、未来の自分の姿を重ねていた。
仇を打つという思いの一心で進んできたフレイにとって、
彼は同じ境遇を分かち合える存在に思えた。
そう気が付いたとき、彼女の中でコーディネイターに対するわだかまりは消えていた。
「……あの、でも、それじゃなぜ戦い続けるの。
貴方にとって戦場は居なければならない場所?私、分からないの。
貴方のようにわかっている人が、どうしてここに居るのか」
彼女の問いかけに、彼は苦笑を禁じ得なかった。
彼の脳裏には父の顔があった。
「……もう、俺一人だけが去れる状況じゃなくなってしまったんだ。
俺は、たぶん、戦わないっていう選択肢を選べない。あー、でも、一つだけは選べる」
「どんな道?」
「ここで本当に死んでしまったら良いんだ」
30/32
そう言うと彼は腰に備えた銃を手に取り、セーフティを解除した。
そして立ち上がると、彼女のもとへ近づいてしゃがむ。
彼女は唐突な彼の行動に身構えたが、
これまた予想外の彼の行動に目が点になった。
「……どう……しろと?」
「……受け取ってくれ」
彼女は素直に銃を受け取った。
彼はそれを見てにっこりほほ笑むと、彼女の向かい側に静かに戻った。
「さぁ、これで君は仇を打てて晴れて自由になれるし、
俺はこんな憂鬱な状況から解放される。
一石二鳥ってことだよ。どうだい、やってくれるかな」
彼女は手を伸ばして銃を構える。
その腕に震えは無い。
俯き加減の姿勢だが、その眼は彼を凝視している。
「……あなた、本当にそれでいいと思ってるの。
そんな自分を犠牲にしたところで、
貴方の思っている結果なんて何も得られないかもしれない。
それでも命を捨てたいの。私は良いわ。やってあげるわよ。
命の一つや二つ消えたところで、このご時世、何が変わるでもない。
そうよ。戦ってしまったら、最後まで戦うしかないのよ。
そんな覚悟もなくて戦うだなんて、ちゃんちゃらおかしいわ。
そういう女々しい男は……、この世から消えた方が良いのよ!」
「……君は」
ダン!
銃声が木霊する。
多くの鳥が飛び立つ羽音がざわめき、
小さな島が音の衝撃に揺れる様に感じられた。
31/32
「……なぜ」
彼女は手を上に掲げて撃ち放っていた。
それは本当に一瞬の出来事だった。
彼女の顔はといえば、すがすがしいほどの笑顔を浮かべていた。
まるで憑き物が落ちた様に。
「お互い、位置についたのよ。スタートラインへ。
そして今、よーいドンって、走り始めたの。
これからは誰かに縛られるのをやめて自分の道を探すのよ。
あ、でも、戦うのはやめないわ。まだ、私には守るべきものがあるもの。
みんなが平和に暮らせる日が来るまでは戦う。
でも、あなた達を滅ぼそうだとか、そんなことはもう考えない」
彼女はそう言って振り上げていた手を下した。
そして、銃を彼の方へそっと置いた。
アスランは彼女の置いた銃を拾い、自分の腰のホルダーに戻した。
「(これまでは滅ぼそうと思っていたのかよ)……そうか。
君は激情的なのか冷静なのか、本当にわからないな」
苦笑する彼の反応に、彼女は微笑みを浮かべて答える。
「あら、女心と秋の空とか言うでしょ。
変わり続けるのが女ってものよ。
生きていると何かに縛られがちだけど、
それをそのまま受け入れないから長生きするのよ。
男って、その辺ずっとナイーブで女々しいじゃない。
だから男らしくってことなんでしょ」
「……参ったな。
立場は逆のはずだが、君に負けっぱなしだ」
「今は勝負は関係無いんじゃなかったの。優秀なコーディネイターさん」
とても健康的に朗らかに笑顔を浮かべた彼女の表情に、
彼は思わず赤面した。咄嗟に顔をそらして俯き加減に口を開く。
「アスランだ。俺の名前は、アスラン・ザラ」
32/32
彼は唐突に名乗った。
彼女は彼の反応に微笑み、笑顔で答えた。
「フレイよ。フレイ・アルスター」
「……フレイ、良い名前だ。君らしい」
「あら、そう?……本当はそう思っていないんでしょう?」
疑惑の眼差しを向ける彼女に、アスランは慌てて彼女の言葉を否定する。
「そんなことはない!
……君とは、こういう場所じゃない所で、会いたかった」
「……そうね。本当に、何やってんだろ。私達。フフ」
二人は互いのわだかまりが解けると、プライベートなことも含めて談笑を始めた。
深まりゆく夜の闇の中、炎の揺らめきが二人を照らした。
ミゲルは独房の様な個室を出され、新しい部屋に移された。
てっきり元居た医療室へ戻されるものと思ったが、新しい個室があてがわれたのに驚いていた。
同室には勿論ラスティの荷物も有るが、彼はゲームをしに遊びに出ていて部屋には居ない。
部屋のドアは開かず、必要な時に転送ビームによって勝手に運ばれる。
一つある窓には見慣れた宇宙空間が広がっているが、一つ違う点を挙げるとすれば、
比較的多くの岩石が浮遊していることだろうか。ここは小惑星帯の中なのだろう。
どこの小惑星帯かは分からないが、推測するにアステロイド辺りと考えるべきだろうか。
しかし、アステロイドで無傷で宇宙船が留まり続けるというのは危険な話だ。
どのようにして衝突を回避しているのだろうか。見たところ、動いている様子は無い。
ここは不思議な場所だ。
連合でもZAFTでもない。だけど、そのどちらよりもずっと優れた技術が備わっている。
宇宙人というものがいるとすれば説明し易い話だが、彼らに応対した人々は皆人間だ。
何の変哲も無いただの人間だが、コーディネイターの自分よりも力を持っていたり、
戦闘センスが良かったり、知識も豊富に理解している。彼らは一体何者なのだろうか。
『ドクターからミゲル』
「…なんですか」
『君と会いたい人物がいる。良いかね?』
「良いも何も、俺はいつでも暇ですよ」
『そうか。分かった。コンピューター、一名転送』
ーピーピーポー
ミゲルの体は青白い光に包まれ粒子となって消えた。
第39話終わり。40話へ続く。ご支援有り難うございました。
次回はまた一ヶ月後くらいかな。年度末で忙しくなるのですみません。
乙
おお、アスランとフレイの交流とはまたこれから期待できる
二人の立場や失ったもの、守らなければならないものを考えたらとても無理のない展開
何で本編でこういうのやってくれな…
それはともかくミゲルもどうなっちゃうんだろ
投下おつおつ
ミゲルもラスティもアスラン達にとっては過去の人にされちゃってるんだよな〜仕方ないけど
この二人がどういう役目を果たすのか+(0゚・∀・) + ワクテカ +
923です
新年あけましておめでとうございます。
新年初投下いたします〜
923です
新年あけましておめでとうございます。
新年初投下いたします〜
第11話_「命の価値は」
「良いな?ジェリドの命令書は後続のカプセルが視界に入ったら開くのだ」
アレキサンドリアのブリーフィングルームでは
艦長のジャマイカン少佐が大きなモニターを背に
雛壇で両腕を後ろに回して、目の前に座る
ティターンズカラーと呼ばれている紺色の
ノーマルスーツを着た兵士達に作戦の説明をしていた。
その中にエゥーゴによって専用機となるはずだった
《ガンダムMk-U》3号機のパイロット、
ジェリド・メサ中尉は作戦指示が与えられ「はっ!」
と言うと、雛壇の横にいた士官から
命令書を手渡される。
思わず、それを反射的に開こうとしたが
ジャマイカンの言葉を思い出してその手を止めた。
命令書がジェリド中尉に渡ったのを確認すると
ジャマイカン少佐は左隣の席に座っている
《Mk-U》1号機のパイロット、エマ・シーン中尉に目をやる。
「エマ・シーン中尉の交渉は15分間が限度だ。いいな?」
その座った目付きで彼女を見ながらジャマイカンが確認する
「は!そのカプセルというのは強力な爆弾でしょうか?」
エマ・シーン中尉が軽く右手を挙げて返事を返し、
『カプセル』というワードが気になり疑問をぶつけた。
「そんなところだ」
と彼女へ素っ気ない物言いで答えた。
それを聞いたエマ中尉がスッと立ち上がり
後ろを振り返り兵士達の顔を見て
「では、初めて《ジム・クウェル》に登場する者もいると思うが高度の訓練と思え。
今回の作戦はあくまで《Mk-U》を取り戻す為の交渉である」
と、はっきりとした口調で
彼女と作戦を共にする部下達へ伝えた。
透き通るような声にいかにもな優等生の彼女。
軍人一家の名家のお嬢様だと言う事だった。
そういう出自もあってか、周りからは
疎まれる事が多いが彼女はなるべく
そういった雑音を気にしないようにしている。
そんな地球出身のエリートを集めたティターンズにとって
彼女はまさにうってつけの人材だと言えた。
だからこそ、冷静沈着且つ聡明な彼女に
エゥーゴとの交渉という大役を任せたのだったのだが。
「よし、それでは明日は
別の者に小隊長をやってもらうからそのつもりで」
ジャマイカンはそう言いうと
ブリーフィングルームを後にした。
ライラ隊の攻撃により、
機関部にダメージを負った
《アーガマ》は足止めを受けていた。
ブリッジ内にはティターンズによる第2波に備え
緊張が走っていたがそれと同時に焦りの色も見えていた。
ブレックスはいつ現れるとも知れない
ティターンズが気になるようでモニターから目を離さずに
ブライトへ尋ねる
「全速は出せんのか?このままでは敵の第2波が来る…」
「メインエンジンがやられてますので…」
ブライトからは歯切れの悪い応えが返って来た。
先の《ガルバルディ》との戦闘で受けた
機関部への損傷で艦隊の足止めを見事に受けていた。
ブレックスはモビルスーツを出し惜しみした結果では?
と考えたが、相手の第2波を考えれば
仕方のない事だろうと感じていた。
先ほどの戦闘でカミーユやアポリーを出して
どちらかがダメージを受ければ、確実に次の戦闘に
影響を及ぼし兼ねない事も分かっていた。
幸いクワトロは被弾なく済んだ事はまだ救いだとも思っていた。
CIC席に座るヘンケンはこのブリッジにいる中で
唯一ノーマルスーツを着ていなかった。
敵にやられるわけがないと言い切る彼の気合いが伺える。
そんな彼が振り向いてブライトの方へ視線を送る。
「ブライト艦長、次は待機させていたアポリー中尉や
カミーユにも出撃してもらいましょう」
ヘンケンの言葉にブライトが
ノーマルスーツのヘルメットを外して大きく息を吐くと
「無論そのつもりだ、ヘンケン中佐。
彼らはその為に温存したようなものだしな…」
ブライトがそう言うと、ヘンケンは大きく頷いた。
そんな二人を尻目に考え込むような雰囲気で
腕を組んでいたブレックスが口を開く
「しかし…あまりに鮮やかな退き際だった。
どう思う?ブライト艦長」
「本気で落とすつもりはなかったように見えました。
我々がエゥーゴと分かったからこそ
足を止めたのだと思います。」
ブレックスの問いにはっきりと答える
ブライトの言葉にブリッジにいる者達は納得していた。
濃紺の機体色である《ガンダムMk-U》1号機の
パイロット、エマ・シーンは
小隊長を務めモビルスーツ小隊の先頭を突き進んでいた。
後続に続くのは濃紺と濃紫の機体色の
《ジム・クウェル》3機が追従する。
ティターンズの新たな量産モビルスーツで
連邦宇宙軍再建の為に開発された《ジム・カスタム》に
ティターンズが手を加えたモビルスーツだった。
ルナツー工廠で生産開発されたこの機体は
地球至上主義を掲げるティターンズにとって
連邦とジオニック系技術の融合となった《ハイザック》とは
双璧を成す連邦軍だけの技術で造られたモビルスーツとなり
とあるテストチームで完成したモビルスーツの
データを取り入れられていた。
エマは目標地点を目指し前を見据えていると
コックピットのHUDに《ハイザック》のパイロット
ジェリド・メサの顔が映し出される
「エマ中尉、隙があれば《Mk-U》を奪い返して
《アーガマ》を沈めても構わないんじゃないのか?」
今回の作戦でジャマイカンの特命を受けている
ジェリドもエマ小隊に続いていた。
「何を言っているの?ジェリド中尉。
作戦行動以外の行為は認められないわ。」
エマは相変わらず短絡的な思考しか持ち得ない
彼に半ば呆れ返っていると
「相変わらず硬いね、小隊長さんは。」
とジェリドは重ねる。
この男の言動にエマ中尉は努めて冷静を装うが
「あなたはあなたはの作戦をしっかりやる事をお考えになったら?」
と挑発するように言い放つと
ジェリドは幼稚さを隠そうともせずに言葉を返す。
「ふ…!中尉こそ油断して《Mk-U》を奪われるなよ?」
「あなたのようなヘマはしないわ。
それより見えて来たわよ?」
ジェリドの言葉に意を介さず、前方を見ていた
エマの言葉の通り、モニターに白い船体が映る。
「あいつか…!よし、俺は作戦の通りここで待機する!」
そう言うとジェリドの《ハイザック》は
《アーガマ》からやや距離を置いたポイントへ
機体を待機させた。
「レーダーに感あり!
敵モビルスーツらしき熱源をキャッチ、数は5です」
そう声を上げたシーサーの言葉に
ブリッジ内は再び緊張に包まれる。
「来たか…大尉の《リック・ディアス》の補給はどうだ?」
「既に完了しているそうです」
ブライトの言葉にレコアがそう返すと頷いて、
モニターに目をやるとシーサーが更に続ける。
「さっきと侵入方位が違います!
機種不明機が3、
それに《ハイザック》と《ガンダムMk-U》です!」
機種不明?新型のモビルスーツがまた投入されたのか?
そう考えてながら侵入してきた方を確認すると
赤く点滅する光が4つほど確認できた。
「発光信号確認!…停戦の合図です!!」
「なんだと !?」
「本気か!?」
トーレスの報告にブレックスとヘンケンが
またかといった言い方で叫ぶ。
0===。El
(・∀・ )
>┘>┘
0===。El
(・∀・ ) 支援よーい!
>┘>┘
0===。El
(・∀・ ) てー!
>┘>┘
モビルスーツデッキでは休戦の合図があった事を聞いた
メカニッククルー達が騒いでいた。
それが耳に入ったクワトロがアストナージに確認をする。
「また休戦だと?」
「はい、今度は白旗を確認したそうです。」
きっばりとと返すアストナージの言葉に
カミーユが間に入って口を開ける。
「モビルスーツが白旗を?」
カミーユの問いかけに
アストナージの隣にいたトラジャ・トラジャ軍曹が
頷いて「そうらしい。」
と言うと、クワトロがカタパルトデッキに出て
左手に白旗を持っている《ガンダムMk-U》を確認する。
ブリッジでは白旗を手に接近する《Mk-U》の
様子を見ていたブレックスが「どう思う?」と
ブライトやヘンケンに意見を求める。
「分かりません…
ですが我々は時間を稼ぐ必要があります。」
「応じるしか選択肢はなさそうですね。」
ブライトに続いてヘンケンが致し方なしといった
表情でブレックスに返す。
「メインエンジンを直すまでの時間か…」ーーー。
モビルスーツデッキでは休戦の合図があった事を聞いた
メカニッククルー達が騒いでいた。
それが耳に入ったクワトロがアストナージに確認をする。
「また休戦だと?」
「はい、今度は白旗を確認したそうです。」
きっばりとと返すアストナージの言葉に
カミーユが間に入って口を開ける。
「モビルスーツが白旗を?」
カミーユの問いかけに
アストナージの隣にいたトラジャ・トラジャ軍曹が
頷いて「そうらしい。」
と言うと、クワトロがカタパルトデッキに出て
左手に白旗を持っている《ガンダムMk-U》を確認する。
ブリッジでは白旗を手に接近する《Mk-U》の
様子を見ていたブレックスが「どう思う?」と
ブライトやヘンケンに意見を求める。
「分かりません…
ですが我々は時間を稼ぐ必要があります。」
「応じるしか選択肢はなさそうですね。」
ブライトに続いてヘンケンが致し方なしといった
表情でブレックスに返す。
「メインエンジンを直すまでの時間か…」ーーー。
すいません重複しました…
《アークエンジェル》は先程まで鳴っていた
艦内のアラートが止んでおり
居住ブロックの食堂にある大型モニターには
外の様子が映し出されていた。
「おい!あっちのモニターで外の様子が見れるぞ!」」
部屋から出ていたトールがキラ達にそう叫ぶと
皆は顔を見合わせて頷くと
トールのいる食堂の方へと駆けて行く。
食堂には既に避難民の多くが
モニターを食い入るように見ていた。
食堂にいた人々はざわついている。
何人かの避難民の会話で白旗を持っているのは
ティターンズのだと分かった。
「ティターンズが…白旗?」
キラ達もモニターから見えるその光景を見て
何か様子がおかしいと感じていたーーー。
《アーガマ》の右舷カタパルトに《Mk-U》1号機が
着地するとコックピットハッチが開く。
《アーガマ》にはビームライフルを構えた
《ジム・クウェル》が周りを取り囲んでいた。
それを出迎えるような形となったクワトロとアポリーが
《Mk-U》の開いたハッチを見る。
「一人だ…勇敢だな」
身を乗り出すように見下ろすノーマルスーツを来た
ティターンズの兵士が見えると
クワトロがそう呟いた。
コックピットから降りて来たティターンズ兵の
顔はバイザーによって確認する事は難しかった。
クワトロの前に降りてきたエマ・シーン中尉が
左手に持つ小型マイクをヘルメット当てる。
「バスク大佐の親書を持って参りました」
「……?」
(女がたった一人でか…)
マイクから聞こえた透き通るような女性の声に
声でクワトロは少し驚いていた。
「このモビルスーツに近付く者がいれば
あのジムが狙撃します」
そんなクワトロを尻目にエマが淡々と忠告すると
クワトロは再度周りを取り囲んでいる
ライフルを構えた《ジム・クウェル》に目を配らせる。
「…了解した…指揮官に会わせよう。着いてこい。」
クワトロは少しの間を置いてから言うと艦内へと通すーーー。
エアロックが解除されていた区画を抜けると
クワトロとエマはヘルメットを外して通路を進む。
「一人だ…勇敢だな」
身を乗り出すように見下ろすノーマルスーツを来た
ティターンズの兵士が見えると
クワトロがそう呟いた。
コックピットから降りて来たティターンズ兵の
顔はバイザーによって確認する事は難しかった。
クワトロの前に降りてきたエマ・シーン中尉が
左手に持つ小型マイクをヘルメット当てる。
「バスク大佐の親書を持って参りました」
「……?」
(女がたった一人でか…)
マイクから聞こえた透き通るような女性の声に
声でクワトロは少し驚いていた。
「このモビルスーツに近付く者がいれば
あのジムが狙撃します」
そんなクワトロを尻目にエマが淡々と忠告すると
クワトロは再度周りを取り囲んでいる
ライフルを構えた《ジム・クウェル》に目を配らせる。
「…了解した…指揮官に会わせよう。着いてこい。」
クワトロは少しの間を置いてから言うと艦内へと通すーーー。
エアロックが解除されていた区画を抜けると
クワトロとエマはヘルメットを外して通路を進む。
129 :
通常の名無しさんの3倍:2014/01/08(水) 18:37:51.39 ID:jasWftPG
また重複しました。
すいません…
「一人で乗り込んで来たらしい…」
「モビルスーツでか?」
「ガンダムだよ…《Mk-U》の1号機だ。」
「いい女じゃないか…」
「だがティターンズだからな…バリバリの」
「主義者だってのか?」
クワトロに引き連れられて通路を進むエマに
《アーガマ》のクルー達は彼女の顔を見ながら
ぶつぶつと喋り出しており、彼女もその会話は
聞こえていたがあえて聞こえないふりをしていた。
「エマ・シーン中尉って言ってた人だ…」
その中にいたカミーユは
グリーノアの騒動で出会ったエマの顔を見るとそう呟いていた。
エマはクワトロの案内により応接室へと通された。
そこで彼女を迎えていたのは
ブレックスとブライト、ヘンケンの三人だった。
ブレックスと顔を合わせたエマは手に持った
一つの紙を差し出す。
「バスク・オム大佐からの親書のお返事は、
即答でお願いいたします。」
「厳しいな…」
どこか事務的な言い方にブレックスはぼやきながら
渡された親書の文章に目を通す。
まもなくして、親書を手にしたブレックスの手が
震え出すと同時に鬼のような形相をした
彼の表情をブライト達が目にする。
「……っなんと破廉恥な!中尉はこの手紙の内容を知っているのかね!?」
ブレックスは声を荒げ、彼女にそう聞くと、
眉一つ動かさぬエマは「いいえ」と一言だけ答える。
ブライトやヘンケン、そしてクワトロも
親書を手にしてその内容を確認する。
それを目にしたヘンケンとブライトも目付きが
鋭くなり腹が煮えたぎるような思いになる。
「…だからそんな涼しい顔をしていられる」
ヘンケンは親書から目を離して
エマの顔を見ながらそう言うと、
ブレックスは再度親書を手にして、
エマ・シーン本人に親書を手渡して、中を確認させる。
「え……!?カミーユ・ビダンとともに…
《ガンダムMk-U》を返さない場合は…」ーーー。
親書の内容を見たエマの表情は
まるで信じられないといった様子だった。
「カミーユの両親を殺すということだ」
クワトロが一言そう言うと
「これがティターンズのやり方だよ。
まるでギャングやヤクザだ。
一軍の指揮官が思いつくことではない…!」
と憤怒の表情を見せるブレックスが重ねた。
「ま、まさか…!バスク大佐がそのようなことを…
これは軍隊のやることではありません!」
自分が信じていたはずの軍が
このような事をするはずがない…
願いにも似た彼女の気持ちは
既に苦し紛れにも聞こえるような言葉しか返せずにいた。
「だがこれはバスクの直筆だ。
エマ中尉、君も読んだ通りだよ」
とヘンケンが鋭い言葉で彼女の言葉を論する。
「そうだ、ティターンズは軍隊ではない。
私兵だよ。わたくしの軍隊なのだ。」
とブレックスがヘンケンに続くと少しばかり
取り乱していたエマの態度が大人しくなる。
「しかし…地球連邦軍であることには変わりがありません。
あたしは…いえ、自分はバスクの私兵になった覚えはないのです。」
落ち着きを取り戻した彼女の言葉には
悲愴感が漂っていた。
軍人一家の名家の出である
彼女の軍を信じたい気持ちが尚もそうさせている。
「バスクのではないよ、中尉。
もっと大きなもの…
地球の引力に魂を引かれた人々の私兵なのだよ」
ブレックスがそう言い放つと
彼女には返す言葉が既に見つからなくなっていた。
「しかし…こんな事は
ジオンだって思いつかんような手口だ…!」
ブライトがそう言ってその精悍な顔を曇らせていた。
「ですが単なる脅しかもしれません」
ブライトの言葉に腰へ手を当てて聞いていたクワトロが言う。
そこへブレックスが二人の会話に割って入るように
「いや、バスクならやるよ大尉。
ヤツの事はこの私が一番良く知っている」
と言うと何かを思い出すかのような表情を覗かせていた。
扉の向こうで聞き耳を立て
一連の話を聞いていたトーレスが「全く…!」
と言いうと、一緒になって聞いていたシーサーが
反対側の壁に備え付けられた連絡用の受話器を取り
モビルスーツデッキに繋ぐと
「ティターンズの奴ら人質を取ってるらしいぞ!」
と言うと、モビルスーツデッキにシーサーの言葉が響く。
「よくやるじゃないか…バスクめ!聞いたか!?」
それを聞いていたアストナージが苦虫を噛み潰すような
様子で隣のデッキクルーに言うと
「なんで人質が成立するんだ?」
と言ってアストナージに問いかける。
「カミーユ・ビダンの母親だからさ!」
と答えると、
その話は瞬く間に《アーガマ》全体へ広がって行く。
「人質…?」
モビルスーツデッキに一足遅れて入ってきたカミーユは
騒がしくなっているクルー達の言葉に耳を傾けると、
自分の母親であるヒルダ・ビダンが
人質となっている事を知る。
「今の話、本当なんですか!?
僕の母が人質だって…!」
忙しなく動くデッキクルーの肩を掴んで
カミーユが詰め寄ったーーー。
ーーーーー
「カミーユ・ビダンの母親が人質に!?」
「ああ、《ガンダムMk-U》及びカミーユ・ビダンの
引き渡し要求に応じなければ彼の母親を殺すと言っている。」
ラミアスがそう確認すると
《アークエンジェル》のブリッジの空気が途端に重くなり
事態の深刻さを感じ取る事が容易に出来た。
「なんて事を……」
ノイマンがそう呟くとナタルが一歩前へ出て
モニター越しのブライトへ問いかける。
「ノア大佐。奴らの要求を呑まれるのですか?」
「ブラフの可能性もあるが
あまりゆっくりと考えている事も難しそうだ。」
変わらぬ重い表情でブライトが言うと、
ラミアスやナタルは顔を見合わせると《アーガマ》と
《アークエンジェル》のブリッジには少しの沈黙が流れる。
「…こうなったら周辺のモビルスーツを撃破して
奴らへの回答にすべきだな…。」
沈黙を破ったブレックスは苦渋の色を浮かべて口を開けると
ブライトやレコア達ブリッジクルーは
驚いた表情でブレックスの方へ顔を向ける。
「准将、それは軽率です!」
クワトロが珍しくブレックスへ噛み付くような素振りで言うと
ブリッジに戻っていたトーレスから通信が入る。
「正体不明のカプセルをキャッチ!」
「カプセル?…なんだ?映像を回せ。」
トーレスへブライトがそう指示をすると
ブリッジからの映像が応接室のモニターへ映った。
ーーーーー
《アーガマ》の前方にゆっくりと流れて来たカプセルに
ジェリドが気付くとジャマイカンから
渡された命令書を開いて目を通す。
「カプセルというのはあれか…
カプセルを敵が奪う気配を見せたら、カプセルを撃破しろ?
…戦艦を沈めるほどの爆弾なのか…?」
ジェリドが一人コックピットで言うと
「了解だジャマイカンさん」
とさらに言って操縦桿を動かし
マシンガンを手にして準備をする。
ーーーーー
ブライトはブリッジの扉開けて入るなり
「カメラを射出しろ!」
と指示すると、《アーガマ》のブリッジ横から
カメラが勢い良く射出すると
カメラに繋がれたワイヤーが延び、
カプセルに向かって直進して行くと
そのカメラの映像が鮮明に映し出された。
ブレックス達もブリッジに到着すると同時に
モニターに大きく映った映像を目にする。
「…!?カプセルの中に!?」
ブリッジに通されたエマが
カプセルの中に見える何かを確認すると
ブライトが「人間…!?…まさか!!」と言って
中に見えるものが人間に見えたのが
エマ自身だけではない事を理解した。
「わかったろう、エマ中尉?
あれがティターンズという組織なのだよ」
「…嘘です!ホロスコープです!
あれはただの映像です!!」
ブレックスがそら見ろ。と言わんばかりの口振りで
エマへ言うと、いよいよあり得ない状況に
頭が混乱して反論するが
往生際の悪いエマにとどめの一言をブレックスは言う。
「バスクはそんな面倒をしない男だ。」
それを聞いたエマはグッと息を飲み込み俯いてしまった。
ブリッジの人間達はカプセルの中身がおそらくは
カミーユの母親だろうと思っていた。
「あれの中身を確認したいが罠の可能性もある…」
カミーユ本人に確認させる手もあるとも思ったが
それをやっては彼がどうなるか?
奴らの思う壺なのでないか?
などと様々な思考がブライトの脳を駆け巡る。
「ええ…何かおかしい気がします。」
クワトロもブライトの言葉に同調するように考え込んだ。
《アークエンジェル》もカプセルを確認していた。
ブリッジにいる者たちは
ぞくりと寒気を感じると同時に汗が滲み出ていた。
「中に人がいます…!
あれがカミーユ・ビダンの母上でしょうか?」
ナタルが身を乗り出してラミアスの方へ顔をやる。
「な、何なの…あれは…チャンドラ曹長あの画像を解析して!」
人質をあのような事をしているティターンズに
怒りを感じ始めていたラミアスは語気を強めつつ
リアルな映像ではない事を願い
チャンドラへ指示を送る「は!」と言って
チャンドラがコンソールを操作し始める。
《アークエンジェル》のモビルスーツデッキでは
ブリッジから映し出される映像がそのまま流れており
全員が固唾を飲んで見ていた。
「まさかあれがカミーユ・ビダンの母親ってんじゃないだろうな!?」
モビルスーツデッキで待機をしていたムウが
ロベルトに確認すると
「おそらくそうでしょう…人のやる事ではない…!」
大きく頷きながら、怒りにも似た表情で吐き捨てた。
食堂のモニターから外の様子を見ていた
キラ達や避難達はその映像を見て静まり返っていた。
「な…なんだよ…あれ…」
「あれ…人よね?」
トールとミリアリアが声を震わせて小さく言うと
やはりあれは人なのだとその場にいる全員が認識していた。
「女の人…だよな?」
「なんであんな所に…」
サイやキラもこの光景に妙な感覚を覚えていた。
なんの為にこんな所に人がいるのか理解出来ない彼らは
ただただその行く末を見届ける他なかったーーー。
ーーーーー
カミーユはデッキクルーの目を逃れ
《Mk-U》に乗り込むとコックピットハッチを閉じ
全天周囲モニターが作動して360度の映像が映った。
「《ガンダムMk-U》3号機出します!
邪魔はしないでくれ!オレはお袋を助けに行くんだ!」
カミーユがそう言うと、
《Mk-U》の右側にある壁に備え付けられたウェポンラックから
ビームライフルを右の手に取る。
周りにいたクルー達は慌てて
《Mk-U》から離れて行くのを
カミーユはモニターから確認していた。
モビルスーツデッキからの連絡を受けた
ブリッジオペレーターのキースロン少尉が叫ぶ。
「《Mk-II》3号機が動いた!?
カミーユがやってんの!?なんでだ!!」
それを聞いていたブライト達が慌てた様子で叫ぶ。
「なんだと!?」
声を荒げているブライトの横で
エマは「あの子が…?」とぼつりと言うと
誰に言うようでも無く
「…カプセルに入ってる人の事…
分かっているんだわ…」と一人呟く。
それを聞いていたヘンケンが
CIC席のマイクを手に取って「誰かやめさせろ!」
と焦る気持ちを抑えずに大きな声を上げているが
エゥーゴ仕様とも言える白く塗り直された
《ガンダムMk-U》はカタパルトを使わずに
スラスターを噴かせながら既に発進していた。
「なんであんなところにお袋がいるんだ…!」
全速力で突き進む《Mk-U》は目の前で鉢合わせた
《ハイザック》を気にする様子もなくカプセルに
向かって猛進して行ったーーー。
ーーーーー
《アレキサンドリア》と合流した《ボスニア》の
チャン・ヤーはまた面倒を被ると内心苛立っていた。
「出撃命令だと?」
コックピットで待機するライラ大尉の言葉は予想通りの反応だ。
と思っていたチャン・ヤー少佐は、口元の髭を摩りながら
「ああ、ジャマイカン少佐からの命令だ。」
と苛立ちを隠すように目を閉じてライラの質問に答えた。
だがこう答えただけでこの女が納得する筈が無い。
「人質を使ってまでの作戦に参加しろというのか?」
「……命令は命令だ。私も気に食わんが仕方なかろう。」
また予想通りの反応だな。
だが、これ以上の説明が出来んのだから
後は黙って出撃して貰わんと困ると考え。
「とにかく、ライラ大尉は出撃だ。」
と言葉を重ねて通信を切った。
ティターンズは自ら交渉を反故にするつもりか?
ならばエマ・シーンとかいうのはどうなる…
相手を油断させる為だけのエサに使われたのか?
ジャマイカンの作戦…気に入らないな。
だが…奴かどうかを確かめるチャンスでもあるか…
そう考えていたライラの体は妙に熱を帯びていた。
「来た…!カプセルを奪おうってんだな!?」
ジェリドは目の前を通り過ぎた《Mk-U》に
武器の照準をロックオンするとマシンガンを放つ。
これを《Mk-U》が躱すとジェリドは軽く舌打ちを
しながら再び照準を合わせようとする。
カプセルの目の前まで到着したカミーユ。
既にカプセルの中がモニターから肉眼できる状態だった。
彼が目にしたもの
それは紛れもなく彼の母親だった。
ヒルダは怯えた様子で
何かを伝えようと体を何度も大きく動かしていた。
なぜ?なんでここに?カミーユの頭の中は真っ白だった。
パイロットスーツの下に着ているインナーシャツや
下着が汗でぐっしょりとなっている気持ちの悪い
不快感を感じながら混乱する頭を整理出来ずにいた。
「いつもそうだ…いつもそうだ…いつもそうやって…!
あなたは何やってんです!そんなところで!」
カミーユはそう叫び
操縦桿を軽く動かしてカプセルを覆うように
両手のマニュピレーターが
カプセルに触れようとしていたその刹那。
「爆弾もろとも消えて無くなれよ《Mk-U》!」
ジェリドはグリップのボタンを親指でグッと押すと
両手で構えたままのマシンガンが火を吹くように
カプセル目掛けて銃弾の雨が飛んで行くーーー。
銃弾の雨はマニュピレーターとカプセルに
ぶつかり火花が広がったその瞬間、
カプセルが割れて中にいたヒルダの体は
マシンガンの銃弾によりただの肉片と化す。
《Mk-U》の右手マニュピレーターには大量の血が
打ち付けられるようにこびり付き、
その瞬間を目の当たりにした《アーガマ》や
《アークエンジェル》のクルー達、
そしてキラ達や避難民達もその恐ろしい光景を見ていた。
ヒルダの無残な血肉が無重力空間に
放り出された時には彼らは思わず目を伏せた。
酷い…
こんな簡単に人の命が奪われていいものなのか…
あんな死に方は人の死に方じゃない…
こんな時代は早く終わらせるべきなんだ…
キラは唇を血が流れてきそうなほどに
強く噛み歯を食い込ませていた。
ーーーーー
ザフトの《ヴェサリウス》と《ガモフ》は
隕石に隠れながら
エゥーゴとティターンズのその一連の様子を見ていた。
「た、隊長…!あれは…」
アデス艦長は状況を飲み込めずといった感じだったが
クルーゼは何もかも分かっているかのような様子で
「諸君、あれがティターンズというものさ…」
そう言い放つクルーゼの体内を流れる赤い血は
滾(たぎ)るほどの高揚感に満ち足りていた。
面白い…実に面白いものを見せてくれる…
これこそが私の望むものだ…
憎悪の念が広がる宇宙は
クルーゼの心を満たしていたーーー。
これにて終了いたします。
途中で名無しに変わってますが気にしないで下さい。
>>109 GJ!アスランとフレイとは新しいな。
>>141 GJ!
このイベントが来てしまったか……カミーユはつらいよなあ。
てか、バスクってティターンズにとって余計なことしかしてないな。
そらエリアルドさんも真実知ったら茫然だわ。
923です。
>>142 >>143 コメありがとうございます。
では投下致しますが、
猿さん食らったら日をまたぐ可能性ありますので
ご勘弁を……。
#1
第12話_「交錯する戦場」
「はぁ?まだ出撃するなだって?」
《ガモフ》のノーマルスーツルームでディアッカが
声を裏返して聞くとイザークが
「隊長からの御達しだ。
命令あるまで待機…それが今の任務だ。」
と本人もディアッカの心中を察したかのような
不満たらたらな口ぶりで言う。
更にディアッカは思い出したかのように、
「なぁ、さっきの見たかよ…?」と言ってニコルの顔を見る。
「あんな事…!許される事じゃありませんよ。」
普段は温和なニコルはやや興奮気味に語気を強めていた。
彼らもまたヒルダ・ビダンが散って行くのを
その目で見ていたのだった。
状況から判断すればあれがティターンズの用意した
人質だという事は想像に難しくなかった。
その光景を見た若きザフトの兵士達は
『血のバレンタイン』によって抱いた怒りの炎を燃やし
倒すべきはティターンズだという事を再認識していた。
隊長であるクルーゼはそれを逆手に取って
標的を先ずはティターンズのみに絞り込んでいた。
#2
何度見てもモニターのウインドウに映し出されている
白い《Mk-U》に異常があるようには見えなかった。
何だ…?何でもなかったのか?
《Mk-U》の装甲は何でもない。
爆弾では無かったのか?
だが…この不愉快さはなんなんだ?
ジェリドは様々な思考が脳内を駆け巡ると共に
言いようもない不快感に見舞われていた。
「うっうっうっ…うあぁぁぁ!」
リニアシートに座るカミーユは
頭を左右に振り乱し、涙を流し絶叫していた。
目の前で起きた事全てが鮮明に脳の中でリピートする。
それを受け止められない彼の心から
ふつふつと心の奥底から何かが湧き上がると
視線の先に見える一つ目の巨人にその感情が向けられる。
カミーユは叫びながら、操縦桿を前に押し出し
フットペダルを全開まで踏み込むと
爆発的な加速度を加えて《ハイザック》に向かって行く。
「何でもないぞ!?
どうなっているんだジャマイカン!!」
漆黒の闇を切り裂く白い躯体が青い炎を煌めかせ
自分に向かってくるのを確認したジェリドは
一人そう叫びながら操縦桿を握り構えた。
#3
「こいつだ…!…こいつが!
こいつがやったんだぁ!!」
カミーユは仇敵を目の前にした鬼と化していた。
躊躇など微塵も感じられない動きで
ビームライフルを構えると《ハイザック》に向けて撃ち放った。
《アーガマ》の艦内は再びアラートが鳴っていた。
「前方よりティターンズ艦隊捕捉!
アレキサンドリアとサラミス級が4です!!」
トーレスがそう叫ぶとシーサーが続いて
「モビルスーツの出撃を確認しました!
本艦に向かってます!数は11!」
と言うと、ブリッジがざわりとする。
「やはり罠に過ぎなかったか!」
眉間に皺を寄せてブレックスが吐き捨てる。
味方がここにいるというのに攻撃をするつもりなのか?
ブライトはそう考えると、
モニターを青ざめた顔で見ていたエマに言葉をかける。
「エマ中尉、君を解放する。
早くこの艦を降りてアレキサンドリアへ帰るんだ。」
その言葉にエマは驚き目を見開いてブライトを見る。
「…よろしいのですかブライト大佐?」
「君をここで殺せばティターンズと何も変わらんからな。」
そう言うとブレックスやヘンケンはブライトの目を見て
コクリと頷いたのをエマが確認する。
#4
「…わ、分かりました…!ありがとうございます。」
エマはブライト達に頭を下げるとヘルメットを被り
バイザーを下ろしてからブリッジを後にする。
「よし!《アークエンジェル》と《モンブラン》に打電!
モビルスーツ隊全機発進させろ!」
ブライトがトーレスへ指示を送ると
即座に左舷カタパルトへ
クワトロの赤い《リック・ディアス》が
リニアカタパルト射出装置へ足を接続し発進して行く。
「中尉、取り囲んでいるジムを落とすぞ!!」
ムウがそう言うとモニターから
ロベルトの顔が映り
「了解です!」と言ってムウが頷くと、
《アークエンジェル》右舷リニアカタパルトから
《メビウス・ゼロ》が勢いよく発進すると続いて
ロベルトの《リック・ディアス》が飛び出して行く。
《アーガマ》からも
アポリーの《リック・ディアス》が発進すると
《ジム・クウェル》に向かって照準を合わせた。
「くそ…!なぜ当たらん!」
《ハイザック》は《ガンダムMk-U》のビームライフルを
躱しながらマシンガンを撃ち放つも攻撃を当てられずにいると
ジェリドはとうとう《Mk-U》の接近を許してしまった。
#5
全周囲を映し出すモニターに
《Mk-U》の顔がでかでかと映し出されると
《ハイザック》のコックピット全体が大きく揺れる。
「貴様か!母さんを殺したのは!?」
コックピットが揺れると同時にカミーユの声と
荒い息遣いが接触回線を通してジェリドの耳に入る。
「母さん…?」
何を言ってるんだ?こいつは…?
ジェリドは
《Mk-U》から聞こえてくる声に一人怪訝な顔をしながら
操縦桿を前へ押し出しフットペダルを踏むと
《Mk-U》との相対距離を開け両手で
マシンガンを構えると、《Mk-U》に向け放ち続ける。
《Mk-U》はマシンガンを物ともせず、
シールドで受け止めると右手に持った
ビームライフルを放つと、
《ハイザック》のマシンガンに命中して
収束されたメガ粒子の火線はマシンガンのマガジンに誘爆して
爆発を起こす。
揺れるコックピットでジェリドはその衝撃で
苦悶の表情を浮かべ歯を噛み締める。
ジェリドは衝撃に耐えると《ハイザック》が
時間にして一秒二秒という一瞬だが動きが止まる。
それを見逃さなかったカミーユは
《ハイザック》の後ろに回り込み背後を取ると
バックパックのウイングノズルを左手で掴み
右手のビームライフルの柄(え)で
《ハイザック》の後頭部を何度も殴りつける。
#6
「殺すことは…なかったんだ!殺すことはなかったんだ!」
カミーユはそう叫びながら、
尚も《ハイザック》を殴り続けると、
再びカミーユの声が《ハイザック》のコックピットに響く。
この声…なんだ?
何処かで聞いた事のある声だ…
衝撃で体が前後左右に降られ、
コックピットのモニターが乱れる中でジェリドは
初めてではない聞き覚えのある声の正体に気付くーーー。
「確か…カミーユとかって女みたいな名前の…
……あんな子供に!」
子供相手に好きなようにやられている事に
気付いて妙な焦りに襲われると、
ジェリドは右手の操縦桿を前後に動かして、
フットペダルをさらに強く踏むと、
バックパックノズルから青い炎が噴き荒れ、
《Mk-U》を一気に振り払おうとする。
カミーユもそれに気付いたのか
操縦桿のグリップボタンを押し
バルカン砲を撃ち散らすと
ジェリドがそれは織り込み済みといった感じで
距離を開けながら《ハイザック》を反転させ、
左手に備え付けられた細長い濃緑のシールドでそれを防ぎきる。
#7
そこへ濃紺色の《ガンダムMk-U》が
カミーユとジェリドの間に割って入る。
「カミーユ、ジェリド!離れなさい!!
ジェリド中尉、これに乗ってるのは子供なのよ!?」
エマはジェリドに通信で止めに入る。
エマの荒々しい声を聞いたジェリドは少し驚いた表情で
操縦桿を強く握る手は力を緩めた。
「落ち着けカミーユ君!
復讐心に支配されれば精神が壊れるぞ!!」
クワトロの《リック・ディアス》は後ろから
肩を触れて接触回線でクワトロがカミーユを諌める。
「邪魔するな!」
カミーユがそれを拒絶すると、
《リック・ディアス》を振り払って、
左手でバックパックのビームサーベルを引き抜く。
「カミーユ!!」
「殺してやる…殺してやる!」
クワトロは尚もカミーユを止めるが彼の感情は
この程度の制止で止まる事など難しかった。
エマの制止によってほぼ無防備となっていた
《ハイザック》へ《Mk-U》が再び襲いかかると、
サーベルで《ハイザック》のシールドごと左腕を溶断した。
#8
「くそ…!エマ、こいつをなんとかしろ!!」
《ハイザック》の失った左腕を見て表情が歪むジェリドは
語気を強めエマに援護を求める。
「もうおやめなさい!カミーユ!」
エマは機体を操作して、
カミーユの乗る《Mk-U》の両肩を掴むと
接触回線を通してクワトロに続き、
カミーユを落ち着かせようとする。
その行動を見ていたジェリドは即座に通信を開いて
「……エマ!?貴様なぜそいつを撃たないんだ!?」
と言って《Mk-U》を攻撃しない
エマへ声を荒げ問いかける。
しかし、そんなジェリドの言葉にモニターに映るエマは
ジェリドに向かって鋭い目付きで訴えかける。
「こんな汚いやり方で事を片付けようなんて
軍のやり方じゃないからよ!」
「汚い…?何を言っているんだエマ!!」
「カプセルの中にはカミーユ・ビダンのお母様がいたのよ…!」
「な…なんだと!?」
エマの口から出た言葉は
ジェリドを動揺させるに充分だった。
あの小僧の母親だと…?
じゃあ殺したのは俺だってのか?
なぜそんな事をしたのだ…?
ジャマイカン…どういう事だ…
…いや……これは命令だ…
悪いのは俺じゃない…ジャマイカンだ…!
これは命令だったんだ!!
俺は悪くないぞ!
支援
支援砲撃よーい
0===。El
(・∀・ ) ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
>┘>┘
#9
卑劣な作戦の犠牲者の内の一人とも言って良い彼は、
気付けば自分を庇うような考えに行き着くようになっていた。
「あなたはそれを知って心が痛まないの!?」
「俺は…俺はそんな事は知らない!!
…作戦は作戦だ…!軍人なら仕方ないだろう!?」
ジェリドはエマの訴えに臆する事なく
今の自らの気持ちを吐き出す。
軍人ならば一つ一つの感情に流されず
軍務に準ずるのが当然の事なのだから。
「それなら…!あの子を撃つなら私はあなたを撃つわ!!」
「な…に!?…狂ったか!?俺たちを裏切るつもりか!!」
エマの言葉を聞いたジェリドは驚きを隠さなかった。
そんな理由で鞍替えするというのかこの女は?
軍人一家の名家のお嬢様がこんな真似をして
全てを失ってまでこんな事が出来るのか…?
そう感じたジェリドの心は、
何かもやもやとした気持ちになっていた。
「自分の気持ちを裏切るわけにはいかない!
ジェリド中尉、今は《アレキサンドリア》へお引きなさい!
あなたの機体は戦える状態ではないわ!」
エマはジェリドにそう言って警告して撤退を促すと
ジェリドは妙に落ち着いてその言葉に納得していた。
#10
その時、クワトロの乗る《リック・ディアス》に向けて
頭上から黄色く光る火線が2発3発と降り注ぐ。
「…?あれは交渉に出ていた《Mk-U》と
奪われたというもう1機の《Mk-U》か…。」
では交渉は成功したのか?
だがそれに関する合図が何もない…どうなっている?
そう考えながらも《リック・ディアス》に向けて
ビームライフルを放ったのはライラの《ガルバルディβ》だった。
「邪魔をしてくれる…!」
クワトロはビームライフルを躱すと
すかさずバックパックにマウントされた
クレイバズーカを手に撃ち抜き反撃を試みる。
ライラは煙の尾を引く砲弾の弾道を見極めて躱す。
「おかしい…なぜ奴らは動かない…?」
《リック・ディアス》と交戦しながら、
挙動のおかしい2機の《Mk-U》に気付き
ジェリドの《ハイザック》へ通信を送る。
「そこのザク、ボスニアの《ガルバルディ》隊だ。
ガンダムは何故動かないんだ?」
「黒い《ガンダムMk-U》のパイロットが裏切った!!」
彼女の問いにジェリドが吐き捨てるように言うと、
ライラが驚いて視線の先にいる2機の《Mk-U》に視線を向ける。
0===。El
(・∀・ ) 『さるウゼェ』と心の中で思ったならッ!その時スデに支援は終わっているんだッ!
>┘>┘
#11
「俺はこの状態では戦えん!引かせてもらうぞ!!」と、
ジェリドは重ねて
アレキサンドリアに向かって反転し、
バーニアを噴かし引いていった。
「待て!!」
カミーユはヒルダを殺した《ハイザック》が引くのを見ると、
それを追おうとするがコックピットに、
熱源が接近する警告音が鳴る。
「ん…!?」
これ以上無いという程のタイミングで
カミーユの乗る《Mk-U》へ、ビームライフルを見舞ったが
無意識に操縦桿とフットペダルを動かして
鼻先を掠めるように《ガルバルディβ》の
ライフルから放たれた火線をカミーユは躱した。
「なに…!?今のを躱すのか!」
「お前も邪魔をするのか!」
カミーユはそう叫んで《ガルバルディβ》に向けて
ビームライフルを構えグリップのボタンを押すと、
銃口から放たれた黄色い光軸がライラ機を襲うと、
光軸の先に『自分』に覆い被さるような
“意思”とも“気”とも言えない“何か”を感じ、
ライラは慌ててフットペダルを踏み込んで躱すと、
距離を大きく開けて動きを止める。
「今のは…あの子はニュータイプとでもいうのか…?」
ライラは操縦桿を強く握ながら一人呟くが、
先ほどの“何か”を感じた彼女は自分の呟いた
言葉に違和感を覚える。
0===。El
(・∀・ ) バァ―――z___ン
>┘>┘
おい支援w
支援
支援ファイヤー
支援
#12
「…あの子?あの子と言ったのか私は…?」
そう考えていた彼女のノーマルスーツの中に着ている
シャツや下着は既にびっしょりと濡れていた。
動きを止めた《ガルバルディβ》に再びライフルを向けると
コックピットにまた警告音が鳴る。
カミーユがコンソールに目をやると、
10数もの熱源がこちら側に向かっているのが確認出来た。
コンソールから目を離し顔を上げると眼前から
何本ものビームの光軸がこちらに伸びてくる。
「く…!?」
「カミーユ、冷静になれ!!
数では不利だ。各個撃破で行くぞ!」
《アレキサンドリア》の僚艦の1隻、
サラミス改級《マダガスカル》から発進した
4機の《ジム・クウェル》は、
カミーユとクワトロのもとへと向かって行く。
エマの乗る《Mk-U》が
クワトロ機の肩に掴むと接触回線を通す。
「クワトロ大尉!私はもうティターンズには戻りません!」
クワトロの目付きが鋭くなり、眉を軽く細める。
「本気か?エマ・シーン中尉。」
「はい。それを示す為にも今はエゥーゴと共に戦います!」
エマはそう言うと
《Mk-U》の右手に持ったビームライフルの銃口は
ライラの《ガルバルディβ》へ向けられると
その銃口からビームが放たれる。
#13
ビームを躱したライラは
宇宙空間に馴染む濃紺の《Mk-U》を見据え、
「く…!本気で裏切ったというのか!」
と、ジェリドの言葉が本当の事だと理解して吐き捨てる。
するとコックピットから通信を知らせる音が耳に入る。
「隊長!こちらが押され気味です!!援護を頼みます!!」
それを聞いたライラは軽く舌打ちして、
「…奴らは《マダガスカル》の
《クウェル》隊に任せるか…!」と言って、
モニターに拡大表示されるクワトロの《リック・ディアス》や、
カミーユとエマの《Mk-U》を一瞥して部下の下へと急いだ。
《アークエンジェル》の豊富な武装と、
前線に出ている《アーガマ》や、
直掩機の頑張りでなんとか艦にダメージを受けずに済んでいた。
しかし数の上での劣勢は覆らず、向こうの直掩機も合わせれば、
ティターンズの戦力は軽く20機はいると見てよい状況に、
《アークエンジェル》のブリッジは焦りの色が出始めていた。
そこへ、モビルスーツデッキにいるチーフメカニックの
マードックから通信が入る。
0===。El
( ○ ) 全力で支援しろ!
>┘>┘
支援てー
#14
「艦長!あのキラ・ヤマトって坊主が《ストライク》に!」
「…何ですって!?」
モニターに映る彼は慌てた様子で声をあげると、
ラミアスも目を見開いて立ち上がり、
「《ストライク》へ繋げ!」
と、CIC席に座るナタルはオペレーターの
ロメロ・バル軍曹へ指示を送ると、
通信モニターにノーマルスーツを着ていないキラが映る。
「キラ・ヤマト君、あなた何をしているの!?」
ラミアスが鋭い目付きでモニター越しのキラを見て
語気を強めて詰め寄る。
「勝手な真似をしてすいません。
僕も戦います!」
ラミアスの問いに答えたキラの表情からは
既に気の弱そうな印象が消えていた。
それを見たラミアスは、ヘリオポリスの
あの時の出来事を思い出していた。
「馬鹿な事はやめろキラ・ヤマト!!」
「早くハッチを開けて下さい!!
敵が多いんでしょう!?
避難民も守らなくちゃいけないなら戦える僕も出ます!」
ナタルがキラを諌めていると、被せるようにキラが反論をする。
#15
横目でそのやり取りを聞いていたラミアスは
腰に手を当て頭を抱えるような仕草で口を開く。
「……分かりました…
でもノーマルスーツだけでも着てくれないかしら?」
と、言うとブリッジがざわめく。
片手で額(ひたい)に手を当てているラミアスの表情からは、
観念したという様子が伺えた。
「……宜しいのですか艦長!?」
一つ息を飲んだナタルはラミアスの方へ体を向け
顔を見上げながらラミアスへ問うと、
「責任は私が取ります。
でも彼にいくら反対しても多分、
梃子でもコックピットから降りないわ。」
と言って、呆れ気味の顔をして問いに答える。
「…ありがとうございます。
ラミアス艦長…。」
「礼なんていいから早く着替えて来なさい。」
「はい!」
モニター越しに映るキラとそうやり取りをすると、
メカニックマンのブライアンに連れられて、
コックピットを降りノーマルスーツルームに向かって行った。
「マードック曹長、彼が戻るまでに
“エールストライカーパック”を準備して。」
「わっかりました!!急いで準備
しますぜ!」
ラミアスはそう指示するとマードックが、
気合のこもった声で意気揚々と答えると準備に取り掛かった。
#16
ムウはライラ隊の《ガルバルディβ》と交戦していた。
ムウはおそらくこの敵の隊の中で、
空間戦闘における練度が高く、
一番厄介な相手達だと警戒していた。
「やっぱり黒いジムより動きが良いな!」
ムウが《ガルバルディβ》の2連ミサイルランチャーを躱すと
「だがこれは躱せるか!?」
と、叫ぶとガンバレルを展開する。
展開したガンバレルをモビルスーツの死角へと誘導すると
ガンバレルから連続してマシンガンが放たれる。
《ガルバルディβ》の頭部、シールド、脚部、右腕部を
的確に打ち据えると、
チタン合金・セラミック複合材製の装甲が、
次第に貫かれ始め、やがて爆発を起こす。
「よっしゃあ!!」
と言って軽く口笛を吹くと、
トドメの一撃としてリニアガンをコックピットに撃ち放つと、
大きな火球となって周囲の闇を照らした。
一歩遅く駆け付けたライラが到着するも状況は悪くなっていた。
「ち…!やはりあいつがいたか!!」
ライラは《メビウス・ゼロ》をその視界に入れると
操縦桿を握るその手が力み、
体が少し宙に浮くような感覚に陥る。
#17
「ん…!?…この感覚は…」
ムウが反射的にそう呟くと、
“何か”を感じた方へ顔を向け、フットペダルを強く踏み、
ライラの《ガルバルディβ》へ向け加速して行く。
「近付いてくる…!この“感じ”…奴か…!?」
ライラの予感が確信に変わると、心臓の鼓動は途端に早くなる。
それと同時に何故か向かってくる存在が、
ハッキリと分かってしまう自分を不思議に思っていた。
「おい!そこのモビルスーツ!!
応答しろ!!」
ムウはオープン回線を使って、
《ガルバルディβ》にコンタクトを取る。
ミノフスキー粒子が戦闘濃度まで上がりきった、
この戦闘宙域は長距離通信機器が使用できない状況だが、
ムウは回線が通じる距離まで近付いていた。
「この声…やはり…!?」
ムウの独特の声を聞いたライラは完全に動きを止めた。
「おい!答えろ!!
俺はムウ・ラ・フラガ大尉だ!」
動きの止まった《ガルバルディβ》を見たムウも
呼び掛けをしながら《メビウス・ゼロ》の動きを止める。
「…久しぶりだな…ムウ・ラ・フラガ。」
ライラはムウの呼び掛けにようやく応じて、
「私はライラ・ミラ・ライラだ。
えているだろう?」と言って、
落ち着いた口調で名乗った。
( ・∀・)つ【憶】
しえーん
#18
「そんな気はしていたが…やはりライラか……!」
彼女の名前を聞いたムウの中で、眠っていた記憶が
走馬灯のように脳の中を駆け巡る。
多くの若き男女の仲間と共に訓練に明け暮れた日々に、
死線をくぐり抜けた信頼する友…
彼女と過ごした多くの日々や肌の温もり。
時代の荒波によって信じていた仲間達との決別の刻ーーー。
「エゥーゴにいたなんてな!」
「いずれはこうなる運命だったんだろうな。」
怒りにも似た声でムウに話をするライラに
いつもの落ち着いた様子でムウが返す。
「連邦軍を裏切るというのか?」
「俺は裏切ったつもりはない。
だが腐敗しきった連邦政府は
既にティターンズに迎合している…
そんな世界はフェアじゃない。」
彼女の問いを躊躇なく返すムウの言葉を聞くと
ムウ・ラ・フラガという男は、
こういう達観的な男だったと思い出していた。
だからこそ可能性や夢を彼に見ていた。
しかしコーディネイターという存在の出現や
ティターンズの誕生という歴史が彼らを引き裂いたーーー。
彼との記憶を思い出しながらも、
もう何も言うまいと
覚悟を決めたような様子で
「ならば私はあなたを撃たせてもらう!」
と言って操縦桿のグリップボタンを押すと、
ビームライフルを撃ち放つと《メビウス・ゼロ》目掛けて
メガ粒子の光軸が襲いかかる。
0===。El
(´ω` )
>┘>┘
0===。El
(*‘ω‘ *)
>┘>┘
支援ー
#19
「くっ…!!待て、俺はお前とは戦いたくはない!」
すんでの所で《ガルバルディβ》のライフルから放たれた
ビームを躱して背後に回り込んで、ライラを諌める。
「甘いよ…!!アンタはみんなを引っ張れる男だった!
それを知っていながら私を…仲間を裏切ったんだ!」
激情にかられたライラは機体を反転させて、
堰を切ったようにビームライフルを乱射する。
「チ…!!連邦軍の腐敗はもう充分見たはずだ!!
なぜそれを分からないんだライラ!」
手当たり次第に撃ち放つライラの攻撃は
ムウの腕前からすれば容易に躱す事が出来た。
一方アポリーはロベルトや
《モンブラン》の《ジムU》隊と協力して、
包囲していた3機の《ジム・クウェル》を相手にしていた。
《アークエンジェル》と《モンブラン》の防衛をしている、
4機の《ジムU》は《ジム・クウェル》を迎撃していたが、
既に2機の《ジムU》が堕とされていた。
#20
「ち…!あれじゃ力が足りんか…!?」
アポリーが汗を滲ませながら吐き捨てると、
《ジム・クウェル》に向けて、
クレイバズーカを撃ち放ち相手のシールドを破壊すると、
追い打ち様に左手に構えたビームピストルを2発、3発と浴びせ
《ジム・クウェル》の頭部とコックピット部分に直撃する。
熱核反応炉への誘爆はせず、
《ジム・クウェル》は両の手足をだらんとさせると、
宇宙空間に漂うデブリの一部となっていった。
ーーーーー
「隊長、始まりました。」
「よし、モビルスーツ隊全機発進とガモフに通達。
こちらも残りの戦力を全て出すぞ。」
身を隠してエゥーゴとティターンズの戦いを
司令席に座って見ていたクルーゼは、
オペレーターからの報告にピクリと眉を動かすと、
相変わらずの淡々とした口調で指示を出した。
「よし、モビルスーツ隊発進を急がせろ!」
クルーゼの鶴の一言を待っていたアデス艦長が指示を出す。
今回の作戦は両軍が交戦し入り乱れた所を
奇襲してティターンズを叩くという単純なものだった。
支援
#21
「ティターンズに地獄を見せてやれ。
エゥーゴは気にする必要はない。各自の健闘を祈る。」
戦闘開始前で騒がしい《ヴェサリウス》と、
《ガモフ》の艦内、そして出撃前の
モビルスーツのコックピット内にクルーゼの声が響いていた。
《ヴェサリウス》のモビルスーツデッキでは
アスランが《イージス》のコックピットに乗り込んで、
一人考え事をしているとミゲルがコックピットに
体半分を突っ込みアスランの双眸(そうぼう)を覗き込んで話す。
「俺もまた出撃だ。
アスラン、ヘリオポリスの時のような
腑抜けた戦い方はだけは勘弁してくれよ。」
そう言うと、大破した専用機の《ジン》ではなく、
クルーゼより譲り受けた《シグー》に向かって、
その体を泳がせていった。
腑抜けてなどいない……。が、
外から見ればそのように見えるんだろうな…。
と、反論しかけた自分を押し殺して己を
半ば自虐的に分析していた。
支援ー
支援てー
#22
《イージス》のコックピットハッチを閉じ、
オールビューモニターを作動させると、
内壁のディスプレイがデッキ内部を360度映し出す。
ハンガーから《イージス》が離れ、
カタパルトの発進位置に立つ。
「キラ…お前はそこにいるのか…?」
そう呟いて、カタパルトデッキの先に広がる
漆黒の宇宙に向けて薄紅色のガンダムが発進して行く。
「アスラン達が発進した!俺達も出るぞ!!」
《ガモフ》で発進態勢にあった、
イザークが回線を通じて指示を出すと、
「了〜解!」と軽いディアッカの返事が返ってくる。
「よし、イザーク・ジュール、《デュエル》出るぞ!!」
イザークがそう言うと、《デュエル》の躯体が浮き上がり
前方へ発進しようとすると、
《デュエル》のバックパックにジョイントされた、
エネルギー供給用のケーブルが引っ張られ、
機体を前進させケーブルをパージすると
《デュエル》が勢いよくカタパルトから発進して行く。
支援自重w
#23
《アレキサンドリア》のブリッジには
戦況を見ていたジャマイカンが呟く、
「ふん、エゥーゴの《アーガマ》もこれで終わりだな。」
勝利を確信したかのような物言いのジャマイカンに対して、
「エゥーゴなど所詮は烏合の衆です。
我々ティターンズのように統制された組織にしてみれば
このくらいは赤子の手を捻るくらい簡単な事です。」
と、副官のガディ・キンゼーが、
したり顔で言うと口元を釣り上がらせた。
その時、ブリッジオペレーターが悲鳴にも似た声を上げる。
その耳障りな声に副官のガディが
「落ち着かんか!!何事か!?」
と、一喝するように言うと、
「9時の方向!ザフトのモビルスーツ2機と機種不明機が3!
ナスカ級とローラシア級です!!」
その言葉に司令席に座っていたガティとジャマイカンが
驚いた表情を丸出しにして立ち上がる。
「迎撃!迎撃だ!!」
「展開しているモビルスーツを何機かこちらに戻せ!!」
上擦り語気を強めた声で、
ガティとジャマイカンが慌てた様子で指示を出す。
アスランがやらかしそうな……
#24
みなさんどんどん支援お願いします!!
「エ…エゥーゴと交戦中の部隊が戻るまで10分はかかります!!」
「それまでなんとかもたせんか愚か者!!」
情けない声で指示に答えるオペレーターに
ガティが怒号を浴びせると
隣の司令席に座るジャマイカンが
「バスク閣下に繋げ!!」
と言って、今回の作戦終了後にグリプスへ戻る予定だった、
《ブルネイ》に乗り移っていたバスクへと通信を繋げる。
「まんまと横っ面を叩かれたようだなジャマイカン。」
モニターに映るバスクが軽く皮肉を、
ジャマイカンに浴びせると、
「は……」と少し歯切れの悪い返事を押し被せるように
「閣下、ここは一度グリプスへお戻り下さい。」
と言ってバスクの顔色を伺う。
「うむ、分かった。
作戦が上手くいかなかったのならば、
私がここにいる必要もあるまい。
以後の追撃任務は君に任せる。」
以外にもジャマイカンの策が、
上手く行かなかった事に対して、
追及しなかった事をジャマイカン本人は内心驚いたが、
あえて平静を装いつつ、「……は…。お任せ下さい。」
とだけ答え通信を終わらせた。
ベイビー・サブミッションな?
0===。El
(・ω・`)
>┘>┘
#25
カミーユ機、エマ機の《ガンダムMk-U》と、
クワトロの駆る《リック・ディアス》は
4機の《ジム・クウェル》を撃破し、
《サチワヌ》隊の《ハイザック》部隊4機を相手にしていた。
「チ…キリがないな…エマ中尉、大丈夫か?」
物量で押してくる相手に対して、
クワトロが舌打ちしつつも、
こちら側に寝返ったエマ中尉を気遣う。
彼女からはティターンズに関する情報を聞き出す為にも
ここで死なれては困るからと考えての事だった。
宇宙での戦いに慣れているエゥーゴにとって
厄介なのはルナツーの部隊などの正規の宇宙軍兵達だが、
彼女のパイロットとしての腕は確かであり、
とても地球出身とは思えない空間戦闘能力を発揮していた。
「大丈夫です。《Mk-U》は良い性能を発揮してくれています。」
と、クワトロの問いにエマは凛とした声で返す。
《Mk-U》の性能を引き出せている彼女を、
クワトロは改めて感心している様子で、
『素質』がありそうだ…と、感じていた。
そうやり取りしている間に、
《ハイザック》が近付き、クワトロとエマは再び、
迎撃態勢を取ると、《ハイザック》隊は散開して
その内の2機がカミーユ機の方へと向かって行く。
支援ファイアー
支援撃てーい
0===。El
(・∀・ ) ドォ―――z___ン
>┘>┘
#26
ビームライフルを装備した《ハイザック》隊はどうやら、
各個撃破へとシフトし、2機の《ハイザック》が
カミーユの乗る《Mk-U》へ集中砲火を浴びせるーーー。
その《ハイザック》の撃ち放つ一筋の光軸が《Mk-U》を襲い、
その火線と共に乗って迫り来る殺気にカミーユは反応し、
咄嗟に左腕に装備されたシールドを構えると
メガ粒子の光軸はシールドにぶつかり放射線状に爆ぜる。
《Mk-U》はビームコーティングの施されたシールドで、
《ハイザック》の攻撃を防ぐと、
ビームライフルを左手に持ち替え、
腰にマウントされたバズーカを構える。
「ぞろぞろと出て来て…!!」
そう言って、グリップのボタンを押すと、
《Mk-U》の右手マニュピレーターが、
バズーカのトリガーを引くと砲口から
発射された弾頭が起爆し、数百個にも及ぶ鉄球が
2機の《ハイザック》目掛けて降り注ぎ、
小さな鉄球は《ハイザック》が撃ち放ったビームとぶつかると、
眼前に火球が幾つも発生し、やがて爆煙のみが広がる。
視界を奪われた1機の《ハイザック》が動きを止めると
爆煙の中から《Mk-U》が目の前に現れるーーー。
ファイヤ!
#27
「みんな消し去ってやる!!」
《Mk-U》は右手に持ったビームを発生させていないグリップを、
《ハイザック》のコックピットの間近へ突き出すと、
ナイフのような形に高収束されたビーム刃が形成され、
《ハイザック》のコックピットをひと突きする。
機体は爆発を起こさずにパイロットは、
家族や恋人の事を考える間も無く一瞬にして蒸発していった。
一方、前方のティターンズ艦隊の異変に気付いたトーレスが、
その様子をブライトへ報告する。
「ブライト艦長!前方で光を確認、艦砲の光です!」
それに反応したブライトは、「どういう事だ?」
と、聞くとシーサーがブライトの言葉に被せるように叫ぶ。
「これは…ザフトです!
ヘリオポリスを襲って来た奴らです!」
シーサーがそう言うと、ブリッジにいた全員が
シーサーの方へ顔を向ける。
0===。El
(゚д゚ )
>┘>┘
支援てぇーい
#28
「ザフトの指揮官はキレ者というべきか、
手段を選ばない冷酷な男というべきなのか…」
そう呟くヘンケンの目付きは、
獲物を捉える獣のように鋭くなっていた。
ザフトのヘリオポリス襲撃によって
怪我は未だに完治せず、
少しは楽になったとはいえ腕の包帯とギブスは、
普段の生活を不便な目に合っているのだから無理も無かった。
「ん!?…ブライト艦長!!
《アークエンジェル》からモビルスーツが発進しました!」
「何…?」
《アーガマ》のライトオペレーター、サマーン軍曹が
ブライトの方へ振り返り大きく声を上げると、
周辺の宙域を映し出すモニターには、
《アークエンジェル》の前方を突き進む、
GAT-X105の照合番号が確認出来た。
あれは《ストライク》だーーー。
ブライトはすぐさま、《アークエンジェル》へ繋ぐように、
トーレスへ指示を送った。
「ラミアス艦長、《ストライク》の発進を確認したが…、
そちらで何かあったのか?」
ブライト以外の者達も《ストライク》に乗っているのは
誰なのかおおよそ見当はついていた。
ヘイ、ファイア!
カモン、ファイア!
支援内容少し自重せえw
0===。El
<`∀´ >
>┘>┘
#29
「勝手をお許し下さい。
彼がそう望み、私の一存で許可致しました。」
ラミアスは席から腰を離して立ち上がると、
モニターへ映るブライトに頭を下げる。
「…仕方あるまい。我々と行動を共にすれば、
何れはそうなるのではないかと思っていた。」
その様子を見ていたブレックスは、
ラミアスを責める事はなかった。
その言葉の通り、彼が戦場に立つのは必然だと
言わんばかりの口調だった。
「申し訳ありません…
とにかく、フラガ大尉をフォローに回します。
戦場に出した以上は彼を死なせるような事はしません。」
ラミアスがそう言うと、ブライトとブレックスは大きく頷いた。
「ン?…小僧をフォローしろだあ!?こんな時に!!」
ライラの《ガルバルディβ》と交戦中のムウに、
《アークエンジェル》からの電文を受け、
コンソールに表示された文章を目にして、口中に吐き捨てる。
>>205 0===。El
(`ハ´#) ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
>┘>┘
支援遊びすぎだww
支援ー
>>205 0===。El
( ゚ω゚ )
>┘>┘
支援何やってんだw
支援
#30
「反撃しろムウ・ラ・フラガ…!
今は敵同士なんだぞ!?」
一方的に《メビウス・ゼロ》に対して、
ビームライフルの雨を浴びせるが、
ライラの攻撃は掠める事も無く一向に当たらなかったーーー。
むしろ彼女本人もムウと戦いたくないという、
潜在的意識が手元を狂わせているのだが、
それに気付かないライラは焦燥に駆られていた。
その時、一人残ったライラの部下が近付き、
通信回線を寄越して来る。
「た、隊長!艦隊がザフト軍の奇襲を受けているそうです!!
ここからお引き下さい!」
「なんだと…!?」
その言葉を聞いたライラは艦隊のある方へ、
慌ててモニターを拡大させると、
確かに戦闘の光が確認出来た。
「くそ…!ここは引くぞ!!
《ボスニア》が落とされては恥だ!!」
「はっ!!」
ライラは《メビウス・ゼロ》を睨みつけると、
母艦の《ボスニア》へ向けて撤退して行った。
「ライラ……。」
去って行く《ガルバルディβ》の背を見ながら
ムウは物思いにふけるように呟いていた。
と、その時だったーーー。
0===。El
(・∀・;) なんかエライ事になってもうとる……
>┘>┘
支援ネタw
#31
「フラガ大尉!!」
キラの声が《メビウス・ゼロ》のコックピットに響くと、
いつの間に接近していた《ジム・クウェル》が爆散した。
《アーガマ》を攻撃していた《ジム・クウェル》が、
撤退をしつつ《メビウス・ゼロ》に、
ビームライフルを構えていた所を、
駆け付けた《エールストライク》が
ビームライフルで《ジム・クウェル》の
コックピットを撃ち抜いていた。
「…ん!?坊主か…大丈夫か?」
呼び掛けに気付いたムウは、
死ぬかもしれなかったと考える様子も無く、
心ここに在らずといった様子でキラへ語りかける。
「大丈夫も何も…
敵はもう引いていますよ?」
キラが怪訝そうにムウの質問に答える。
「ん…?…あ、ああそうだな。」
キラの返答を聞くと辺りを見回し、
レーダーを確認するとキラの言葉通り
周辺のモビルスーツは味方機だけだと気付いた。
「……?フラガ大尉こそ大丈夫ですか?」
付き合いは僅か数日とはいえ、
為人を分かっているつもりのキラは、
ムウの調子がいつもと違う事に気付き様子を伺う。
キラの言葉にムウは目を点にして、
数秒ほど二人の間に沈黙が訪れるが、
それを破ったのはムウだった。
なんだこのカオスな支援わw
支援撃てー
支援てーっ
#32
「……お前に心配されるなんざ、俺もヤキが回ったか?」
「い…いや、そういうつもりじゃ…!」
突然いつもの調子に戻ったムウに驚くキラは
後退りするような思いで受け答えると、「冗談だ冗談。」
と鼻で少し笑って見せてから言った。
ムウの調子が元通りになり、キラが少し安心していると
「大尉、ご無事で?」
と通信を通して声をかけて来たのは、
アポリーと直掩部隊の援護に回っていたロベルトだった。
ムウは彼に「この通り大丈夫だ。」と答える。
どうやらロベルトは撃ち漏らした、
《ジム・クウェル》を追って来ていたようだ。
「ところでお前、何で出てきた?」
ムウが突発的と言って良いくらいのタイミングで
キラへ問うと、一瞬言葉を詰まらせたようだが
静かに口を開ける。
「…守りたい人があの船には沢山いるんです。」
モニターに映るキラの目には決意のそれが伺えた。
#33
しかしその言葉に対して、
「だが、今回の戦いで《アークエンジェル》の被弾はない。
坊主に頼らんでも大丈夫だと思うんだがな?」
と、妙に意地が悪そうにムウが言葉を返した。
するとキラは一瞬下を向いたが、すぐに顔を上げて
「で、でも…!!こんな…
こんな悲惨な戦争を早く終わらせたいんです!」と叫ぶと、
ムウの表情が固くなり眉がピクリと動く。
それと時を同時にして、
「自惚れるな!!」
と、細面の顔からは想像出来ないほどの
ロベルトの野太い怒号がキラとムウのコックピットに響く。
「お前が戦いをすれば戦争が終わるとでも思っているのか!?」
そう言葉を被せて来ると、
キラはうっ…と少しだけ声を漏らしたが、尚も
「そんな事で戦争が終わるなんてのは
戦争を理解していない愚か者の言う言葉だ!」
と、先日に見せた穏和な表情とは違う
まさに戦士としての表情だった。
返す言葉の無いキラは下を向いて、
悔しそうに両拳を握り締めるーーー。
おお、憑りついたモノが祓えるかな
支援放てーい
0===。El
(・ω・ )
>┘>┘
#34
なんて甘い考えなんだ僕は…
僕が戦争を終らせる…?
僕が…?
そんな事出来るわけないのに…?
“違う…違う…!!”
“そうだ…戦争を終らせる為じゃない…!”
“守るんだ…大切な人達を…!”
“それだけで良いじゃないか…!”
キラは頭の中で自問自答を繰り返し
やがて下を俯いていたキラがスッと顔を上げると
「僕は…守るべき者の為に戦います!!
戦争を終らせる為なんかじゃない!…この命に代えても!!」
とモニターに映るムウとロベルトを、
真っ直ぐに見てそう決するーーー。
「フ…こいつぁ顔の割に結構な頑固者だな中尉?」
キラの覚悟を受け止めたムウが、
いつもの軽い口調でロベルトへ言うと、
「ハハハ、そのようです。」
と、ロベルトも軽く笑いながら答える。
「キラ・ヤマト…これから俺達は仲間だ。
その覚悟…信じさせてもらうぜ。」
ムウが口元を釣り上げて伝えると、
キラは晴れやかな表情で大きく頷いたのだった。
「大尉、《アークエンジェル》によれば
ティターンズがザフトの奇襲にあっているそうです。」
ロベルトがそう言うと
ムウ達の目付きが鋭くなる。
「ザフトがまだこの宙域にいるという事は、
補給が済んでいない可能性があるな…
中尉、ブライト大佐はなんと?」
「ザフトも戦力はあれが手一杯のはず…
ガンダム奪還のチャンスは今だと。」
ムウの問いにロベルトがそう答えると、キラに対して
「坊主…いや、キラ。
相手はコーディネイターだ…
お前の同胞を撃つ覚悟は出来ているか?」
「……分かりません…でも…
守るべき人達の為ならそれでも構いません!!」
キラのそれはもはや揺るぎないものとなり、
覚悟を決めた男の目に次第に変わっていくのだったーーー。
支援
以上でございます。
長くなりましたが、
支援して下さる皆さんのお陰で無事投下できました…
面白い支援ネタは楽しませて頂きましたwww
投下おつおつ
二つの世界がいよいよ一つの物語としてキャラが回転し始めたようで、面白くなってきた
キラが例のシスの桃色卿の誘惑に堕ちない方向へ動き出したようで何より、主人公これでこそ!
さて、支援で遊ぶなとは言わんが悪ノリで某地域ネタ出した連中ちょっとグラナダの裏まで来るように(#^ω^)ビキビキ
229 :
通常の名無しさんの3倍:2014/01/11(土) 16:19:44.41 ID:FTMtsB0D
>>228 ありがとうございます。
ちなみにライラ大尉は
ムウの元カノという設定にしました。
ムウは後の方の物語でも
かなり〜〜り重要な役割を担って行きます〜。
投下乙
種とZで破綻せずに話が動いてて、まさにクロスの醍醐味ですねえ
支援はアレや、さるキツいのがいけないんや……w
GJ!
カミーユは親父に撃たれずに済みそうかな?
乙
文章が長過ぎず読みやすくて良い感じ、改行が上手くいってる
話も種クロスにありがちな種以外マンセーにならずバランスよくできてていい感触で
次回もこのチャンネルといったところ、続きが楽しみ
あと支援ネタはくれぐれも作者の投下の邪魔にならん程度で頼むw
GJ!!
キラに熱血化の兆しが!?
カミーユの方は順調に鬱イベントこなしているなあ。
どんどんこなしてくれないとZZにならないからな
923です。
色々とコメントありがとうございます。
さて…投下……と行きたいところなのですが、
諸々忙しくて投下は土曜日の昼過ぎくらいになりそうです。
また読者様のご支援いただければ幸いです。
ADVANCE OF Zの機体は出てくるのだろうか?
>>236さん
検討中でございます。
キャラ設定とか細々したのを覚えてないので
見直すか、
オリジナルで絡めるか迷いますね…
という事で投下開始します
#1
第13話_「運命の分かれ道」
時を同じくして
プラント・アプリリウス市〜
ピンストライプ地に紺色のスリーピーススーツを身に纏い、
議長室に通された白銀の髪を後ろに束ねた男と、
黒いスーツに褐色の肌をした細面の男が、
議長席に腰をかけるパトリックに頭を下げ口を開ける。
「お初にお目にかかります。ザラ議長閣下。」
「…うむ、頭を上げたまえ。」
パトリックは男に言うと、
その精悍な顔がパトリックの目に入る。
その目は力強く、まさしく戦いを知る武人のそれだった。
このような力強い目をした兵が我が方には
どれだけいるだろうかと一瞬考えた。
「私共のような若輩者への
丁重なる出迎えに非常に感謝しております。」
男の口から出る言葉は固く、
形式ばってはいたが、彼は粛々と挨拶を済ませた。
「噂に違わぬ男のようだな…アナベル・ガトー少佐。
君に会えると聞いて内心ワクワクしていた。」
パトリックは彼から滲み出る空気に触れ、
少しばかり内心興奮していた。
一年戦争時代『ソロモンの悪夢』と呼ばれた
このアナベル・ガトー少佐の功名は
地球圏全体に知れ渡るほどの男だった。
#2
「勿体無いお言葉…。
議長閣下、こちらがデラーズ少将からの親書でございます。」
世事をあまり好まないガトーは軽く返すと、
本題であるジオン残党軍を指揮する
エギーユ・デラーズ中将の親書をパトリックに手渡した。
ガトーが使者としてプラントへ赴いた目的は、
まさしく打倒連邦を掲げ敵を同じくする
プラントとの同盟関係を築く事にあった。
ガトーの後ろにいるのは
同じく一年戦争時代の生き残りで、
ガトーの腹心である
カリウス・オットー中尉だった。
パトリックはソファー席にガトーとカリウスに掛けるよう施し、
二人はいかにも高級な本革張りのソファーに腰を掛ける。
ガトーらの対面に座るパトリックは、
親書に目を通して数分が経過すると、
テーブルに読み終えた親書をそっと置き、
一つ息を吐いてからガトーの目を見て口を開ける。
「つまりは我々と同盟を結びたい…そういう事だな?」
パトリックが読み終えた親書の内容を理解し、
ガトーへ単刀直入に伺う。
「連邦は内訌状態…
ジオン、プラント双方にとって千載一遇のチャンスなのです。」
「だがそなたらのような、
少数勢力と組むメリットは?目的は何だ?」
理路整然と答えるガトーにやや消極的とも思える姿勢で
再度、ガトーにその真意を問うた。
#3
ガトーにとってもパトリックの反応は、
当然だろうと考えていた。
ジオン残党はごく少数で連邦に対して粘り強く、
ゲリラ戦を続けているとはいえ、
ジオンと組んだ所で、ドラスティックに
何かが変化するとは誰もが思わないのが普通だった。
しかしそんな心配を払拭させる事が出来る
ある一つの情報をパトリックにガトーは打ち明ける。
「ご心配には及びません。
サイド3は遅かれ早かれ我々が取り戻します。」
パトリックのぴくりと動いた眉をガトーは見逃さなかった。
若干の動揺を押し殺していたパトリックだが、
その顔にはどういう事だ?と、言いたげな色が垣間見えると
「小惑星アクシズと共に、
ミネバ・ザビ様が地球圏にご帰還致します…」
とガトーがたたみかけるかのように続けて言うと、
衝撃的な彼の言葉にパトリックの背筋がざわりとして、
何か冷たいものが触れた気がした。
「…なんと!?それはまことか?!」
彼はプラントの最高責任者という立場であるにも関わらず
正装に身を包んでいるとはいえ、
ジオンの落ち武者の前で声を上げて驚く姿を晒していた。
#4
「ミネバ様の地球圏ご帰還が叶えば、
サイド3は再びジオンの名の下に立ち上がるはずです。」
ガトーは予想通りの反応だなと、
隣に座るカリウスに顎を軽く上げると、
側に置いたジュラルミンケースを徐(おもむろ)に開け、
その中から数枚の資料をパトリックに手渡した。
パトリックはまだ驚いていたが、
手渡された資料を目にすると
連邦軍のモビルスーツ、ガンダムに関するデータが
詳細に記されている資料だと分かった。
各ページに散見され、ある単語に気付いてガトーに聞く。
「『ガンダム開発計画』?アナハイム製のようだが…」
ガトーとカリウスは互いの顔を見合わせた。
やはり食いついたな…。
そう思っていたガトーは小さく頷くカリウスを見ると
「ガンダム試作2号機…《GP-02A》 の資料をご覧下さい。」
と言って、パトリックは言われた通りに
該当する資料を開いて驚愕した。
そこには『核兵器』とそれに関する詳細なデータが記されていた。
資料を持つ彼の手は震え、
噴火寸前の火山かと思わせるような表情を見せていた。
「『血のバレンタイン』の悲劇を繰り返すつもりか…!」
パトリックは左の拳を太腿の上に乗せ強く握り締めていた。
そこへガトーはパトリックの言葉を被せるように、
「我々には秘策があります。
それを『星の屑作戦』と言います。」
とパトリックを見据えて言うと、
パトリックの目がガトーの方へ向けられた。
#5
「『星の屑作戦』…とは?」
パトリックの問いに、ガトー頷きは無言で返事を返した。
カリウスは更にケースから、
新しい資料をパトリックに手渡す。
資料の見開きをめくると同時にガトーが口を開けパトリックへ、
事細かに『星の屑作戦』に関する説明をしていった。
普通ならばこれは超極秘事項であり、
作戦の詳細なども明かすべきでは無いのだが、
パトリック・ザラは必ず協力を承諾してくれる事を
親書を寄越したデラーズ中将は信じていたようだ。
パトリック・ザラはガトーからの話を聞いて、
そんな事が上手く行くのかどうかと懐疑的ではあったものの、
彼らを迎え入れる方へと、やや傾きかけていた。
そこで敢えて彼を揺さぶりをかけるかのように
ガトーは同盟を結んだ場合の一つの条件を提示した。
エゥーゴとは同盟、もしくは協力関係を結ばない事…
これが最大の条件だった。
真の独立をする為には打倒連邦という大義名分を掲げ、
ジオン再興を目的としたザビ派の集合体である残党軍と、
反ザビ派が多く在籍しティターンズの横暴を止める為や、
地球に住む者達を宇宙に上げるなどと
主張する『連邦政府』の一組織とは、
元々の目的が違うと言うのだ。
#6
「閣下…。二つのサイド以上の規模を持つプラントと
我々が手を組む事が成ったならば、
間違いなく一瀉千里(いっしゃせんり)に事は運びましょう。」
自信に満ち溢れて言ったガトーのこの言葉に対して
一先ずは議会での決議が必要として、
パトリックは彼らへの返事は即決に至らなかったものの、
確かにプラントと残党軍が同盟を結び、
更にミネバ・ザビというザビ派の旗頭が、
地球圏に来るとなれば、各地に点在すると言われる
隠れザビ派の者達が蜂起するのは間違いない……
そうなれば硬直化した戦局も打破出来るのでは…?と考えた。
そして、クルーゼ隊から上がった偶発的なエゥーゴとの交戦は、
こうなる運命だったのかもしれないとも考えていたが、
しかし議会でよくよく議論すべき議題であると、
冷静さを取り戻すかのように自分に言い聞かせていた。
「とにかく、議会での決議が出るまでは
こちらで待ってもらうが宜しいか?」
「は…良い御返事を頂ける事を期待しております。」
パトリックはポーカーフェイスを装い、
ガトーらに言うと、この返事も予想の範疇(はんちゅう)と
言いたげなガトーは二つ返事で受け入れた。
猿きついなぁ……続けます。
#8
「中々良い腕してるじゃないか!!…だがな!」
カクリコン機のビームをなんなく躱したミゲルは
《シグー》の左腕に装着されている。
シールドガトリングガンで反撃に出る。
3つの砲口が回転し数百発もの弾丸が撃ち放たれると、
シールドの裏から発射された弾丸分の
薬莢(やっきょう)が飛び散り、
《ジム・クウェル》に放たれた弾丸は熱を帯び、
赤く色を変えてその濃紺の機体を目掛けて襲いかかる。
カクリコンはシールドを構え攻撃をなんとか凌ぐが、
劣勢に立たされているのは明らかだった。
「なに!?帰艦はたったの2だと!?」
「は!《ボスニア》のガルバルディ隊だけのようで…」
「ええい、情けない…!!」
ジャマイカンはオペレーターの報告に
全身の血の気が引くような感覚に襲われた。
エゥーゴとの戦いで想像以上の損害を出した上に、
ザフトのモビルスーツの中には、
4機ものガンダムがいるという事実も一つの要因だった。
#9
「高熱源体接近!!」
「なに…!?回避だ!!」
オペレーターが悲鳴のように叫ぶと、
ガティが操舵士にすかさず指示を出し、
回避運動を行うとブリッジ内が薄緑の光で照らされ、
ビームの光軸が掠めていた。
イザークの駆る《デュエル》の放った、
スナイパーライフルによる長距離ビーム攻撃だった。
ヘリオポリスを襲撃した際に回収した、
《デュエル》用の追加武装の一つでもある。
「通信機器が使用不能!!
レーダーやセンサーも一部が使えなくなりました!」
《デュエル》の狙撃により、
《アレキサンドリア》のブリッジ内部は、
各部の電子機器がスパークを起こし、
戦闘指揮所としての機能を失っていた。
「くそ…撤退信号を上げろ!!」
機能不全を起こした光景を目の当たりにした
ジャマイカンは堪らず声を上げた。
「ち…掠っただけか…!」
ブリッジへの直撃を損なったイザークが軽く舌打ちをする。
#10
「おいおい、イザーク。
慣れない事はするもんじゃないぜ?」
通信を開いて皮肉ってきたのはディアッカだった。
ディアッカの言葉にイザークは眉をピクリと動かすと
「…フン、次は外さん。」
と苦し紛れにも聞こえる言葉を返し、
コンソールの照準機に目をやると、
戦闘宙域に《アレキサンドリア》から信号弾が上がり、
漆黒の空間は数秒間だが鮮やかな光に照らされる。
「チ……腰抜け共め…」
好機を逸したイザークが毒づくと、
構えていたスナイパーライフルを下ろした。
「フン……準備運動は以外と早く終わったな。」
「はい。ガンダムの性能は驚くべきものです。」
尻尾を巻いて逃げる様を見ていたクルーゼが皮肉っぽく言うと、
アデスは初めて見るガンダムの性能に舌を巻いていた。
すると、ブリッジのセンサーから音が鳴る。
「エゥーゴのモビルスーツが近付いて来ます。」
索敵担当のオペレーターがそう言うと、
「フフフ…まんまと網に掛かったようだな……」
微動だにしないクルーゼが口元を釣り上げ小さく呟いた。
クルーゼの言葉が耳に入ったアデスが、
「…何か策でも?」と、伺う。
その問いに対して、
「まぁ見ていろ…アデス。」
と、彼の言動に相も変わらぬ冷酷さが垣間見えた。
#11
《アーガマ》のモビルスーツデッキでは、
ノーマルスーツを着たデッキクルーや、
メカニッククルーらが忙しなく動き回っていた。
《Mk-U》1号機の足元にはエマ・シーン中尉が、
ドリンクのストローを口にして喉を潤していると
目の前をカミーユが横切り、思わず彼女は声をかける。
「カミーユ、あなたまだ戦うつもり?」
それがエマの率直な感覚だった。
母親が目の前で無残な死を遂げたというのに
尚も戦おうとするカミーユの姿勢が理解出来なかった。
「動いていないと気持ちが沈んでしまう気がして…」
俯き加減で言葉を返すカミーユを見てまずいと思い、
「ごめんなさい…そういうつもりではないの。」と謝ったが、
エマは彼の傷口に平然と触れてしまったと思い、
少し後悔したようでカミーユの背中を
ただ見守る事しか出来なかった。
そこへクワトロが後ろから「エマ中尉。」と
声をかけると、エマは直ぐにクワトロの方へ体を向ける。
#12
「中尉、すまんが次の戦闘までは協力してくれ。」
「私は構いません。」
エマがクワトロに一言で返すと、
クワトロは頷いてヘルメットのバイザーを下ろし、
「先行した部隊がそろそろ戦闘に入る。
我々も急いで向かうぞ。」
と、言うと《リック・ディアス》のコックピットへ
体を泳がせると、エマも《Mk-U》へと向かって行った。
「先行しているフラガ大尉達は?」
《アークエンジェル》から補給を終え、
先行しているムウ達の動きをブライトがシーサーに確認する。
「まもなく接触します。
会敵予測時間は凡そ5分後です。」
レーダーに目を配らせながらブライトに答えると、
ブライトは「分かった。」と言って軽く頷いた。
「しかし…ザフトもギリギリの状況でよくやるものだ。」
隣に座るブレックスがボソリと呟くと、
「そうですね…こんな敵陣真っ只中にあの残存戦力で
艦隊規模の戦闘に横槍を入れたわけですからね…」
と、ブレックスの方へ顔を向けてヘンケンが応じた。
#13
「まさかとは思いますが、
伏兵がいる可能性もあるかもしれませんね…」
ブライトはどこか予感めいた物を感じ、
ブレックスに徐(おもむろ)に口を開けた。
それも一つの可能性だとブレックスは考えながらも、
「ここはティターンズと、ルナツーの防衛圏内だ。
ザフトといえどあの2隻が侵入するのがやっとのはずだ。」
と、ブライトを否定する訳でもなく答え、
ブライトはそれに納得しつつも、
前方に広がる漆黒の海へと視線を向け直した。
「いたぞ!キラ、集中しろよ!?」
「はい!」
GAT-XナンバーズとZGMF-1017、515の計6機の
型式番号が表示されると、
ムウ達の操縦桿を握る手が自然と強くなる。
「フラガ大尉、自分は《バスター》を叩きます!!」
「了解だ!クワトロ大尉達が来るまで10分くらいだ!
それまで持たせるぞ!!」
ロベルトは先ず、中、長距離からの支援攻撃に秀でた
《バスター》へと攻撃の目標を定める。
これは元技術大尉のラミアス艦長からのデータによるもので
広域への攻撃能力を持つ移動砲台とも言うべき
《バスター》は第一目標とすべきモビルスーツだった。
#14
「ん!?…来ました!!」
ニコルがコックピットに鳴り響いたアラートに反応し、
コンソールに目をやって声を上げた。
「《ストライク》…!?」
アスランはモニターのHUDに拡大表示される、
《エールストライク》を見ると、心臓が強く脈動する。
それと同時に喉が妙に渇く感覚を覚え、
生唾を呑み、体に力が入っていた。
「ったく!なんでエゥーゴは仕掛けてくるかね!!」
「ガンダムを奪い返すつもりなんだろ!!」
ディアッカはエゥーゴを相手にするのは、
どうも嫌なようで命令とは言え、その気持ちを隠さずに
愚痴ると、イザークがすぐさま言葉を返す。
《デュエル》は両手に持ったスナイパーライフルを、
バックパックにマウントすると
右腰部にラッチされたビームライフルを手に取る。
「無駄話はよせ!奴らは強いぞ!!」
ミゲルがそう叫ぶと、
《メビウス・ゼロ》に向かって直進し、
右手に持つマシンガンを撃ち放つ。
《メビウス・ゼロ》はその機体を回転させて攻撃を躱す。
「あの《シグー》…クルーゼじゃないな!?」
ムウは《シグー》から、
いつもの不愉快さは感じていなかった。
#15
距離を開けながらマシンガンで迎撃する《シグー》は、
その機動力を活かして《メビウス・ゼロ》との
ドッグファイトに突入する。
「さすが隊長の《シグー》だ…!スピードは申し分ないな!!」
ムーバブルフレーム式となっているクルーゼの
特別仕様である《シグー》のスピードは
セミモノコック式であるミゲルの《ジン》とは
比べ物にならないほどの機動力だった。
「相手はあの『エンデュミオンの鷹』だ…!
落とせば勲章モノだな!!」
ミゲルは自分を鼓舞するかのように、
興味も無い勲章などと口にして戦意を高揚させていった。
会敵と同時に《エールストライク》と、
《イージス》はビームサーベルを引き抜き、
互いは睨み合うとアスランが通信回線を開く。
「キラ!!」
「アスラン!?」
キラは《イージス》に乗っているのは、
アスランだと分かっていた。
だからこそ、《イージス》の下へとやって来たのだった。
#16
キラはアスランの呼びかけに応答すると、
「剣を引けキラ!!僕達は敵じゃない!
そうだろう!?何故僕達が戦わなくちゃならない!!」
とアスランは声を荒げて、キラを説得にかかりに来る。
その言葉にキラはその気持ちは無意識に揺らいでいた。
「お前が何故エゥーゴに居る?
何故ナチュラルの味方をするんだ!?」
更にアスランがキラに対して言葉を続けると、
キラが堰を切ったように反論をする。
「ナチュラルとかコーディネイターとか…
そんなの僕には関係ないんだ!!」
キラは無意識に揺らいでいた気持ちを
振り払うかのようだった。
アスランは幼馴染であるキラのこのような表情を
今まで見た事が無かったのか、驚きを隠さなかった。
「あの船には仲間が…友達が乗ってるんだ!
君こそなんでザフトになんか……!
なんで戦争をしているんだ!
戦争なんか嫌だって…君だって言ってたじゃないか!
その君がどうしてヘリオポリスを…!」
キラもまた幼馴染の心優しく正義感に溢れていた
アスランが戦争に加担している事が信じられなかった。
#17
その時ーーー
《エールストライク》に向けて、
ビームの雨が降り注ぐ。
「何をモタモタやっているアスラン!!」
「イザークか!?」
《イージス》の下へ駆け付けたイザークは
アスランへ怒声を浴びせながら、
ビームライフルを《エールストライク》へ乱射して
キラへ襲いかかった。
「壊さん程度にやらせてもらう!!」
一方、ロベルト機は左手に構えたビームピストルを数発放つと
黄色の光軸がバスターに次々と向かって行く。
「ファットマン…!あの時のオッサンか!?」
ディアッカはビームを躱しながら、
《バスター》の左腰部のサブアームを稼働させ、
94mm高エネルギー収束火線ライフルを
左手に構えると、《リック・ディアス》に撃ち放つ。
大口径の砲口から超収束されたメガ粒子の光は
《リック・ディアス》に向かって伸びて行く。
しかしそれをロベルトは読んでいるかのように、
躱し左手を前に出して構えると、手の甲の部分から
マルチプルランチャーを《バスター》目掛けて放つ。
#18
放たれた小さな玉は白い硝煙を棚引かせ
《バスター》の眼前で爆ぜると、辺りに白い煙幕が広がる。
「スモークディスチャージャーか!?」
ディアッカは予想外の目眩ましに顔を歪ませると、
白煙の中からロベルトの《リック・ディアス》が現れ、
ビームサーベルを振り上げ《バスター》の目前まで迫る。
「うわっ!?」
ディアッカは反射的に操縦桿とフットペダルを動かし
ロベルト機が振り下ろしたサーベルを掠めるように回避した。
これを避けるのか…!?
ロベルトは《バスター》の異常な反射速度に驚愕した。
白兵戦用の武装を持たない、
《バスター》最大のウィークポイントを突いた
戦法だったがそれを見事に凌いでみせたのだ。
通常ならば勝負ありというタイミングだったにも関わらず
それを躱すコーディネイターへの驚異を感じていた。
すると、コックピットに警告音が鳴りロベルトが反応する。
「ディアッカ!!距離を開けて下さい!」
ニコルがそう叫び、《ブリッツ》から
ビームガンが撃ち放たれ、
《リック・ディアス》を《バスター》の前から引き剥がす。
《ブリッツ》か…
《バスター》の小回りの効かなさを補うには、
《ブリッツ》のような機動力のあるモビルスーツは
少しばかり厄介だと感じ、ロベルトが顔を曇らせながら
「チ…面倒だ!」と、
口中に吐き捨てビームピストルで応戦する。
#19
そこへロベルト機の放ったビームとは違う方向から
ブリッツに向かってビームが襲うい、
左肩部を掠めるとアーマー部分が僅かに溶解する。
「ロベルト!援護する!!」
「アポリーか!?」
《アーガマ》のモビルスーツ隊が一足遅れて到着すると、
アポリーはロベルトへの援護に回っていた。
「当たるかっての!!」
ムウは持ち前の操縦技術を駆使して、
ミゲル機の攻撃を蝶のように舞い躱し続け、
《シグー》と《ジン》に対して渡り合っていた。
「すばしっこい奴め…!」
一方でミゲルは当たらない攻撃に苛立っていたその時ーー。
3発4発と、ビームの光軸が、
《シグー》と《ジン》に向かって迸(ほとばし)る。
回避運動に入った《ジン》だが、
確実にコックピット部分が撃ち抜かれると、
火球となって消えて行き、
ミゲルがビームが向かって来た方へ目をやると
モニターには赤い《リック・ディアス》と、
カミーユの《ガンダムMk-U》が視界に入った。
「大尉はキラ・ヤマト君の援護へ向かってくれ。
カミーユは《バスター》と《ブリッツ》を追い込め。」
「すまん!分かった!!」
駆けつけたクワトロがそう指示を送ると、
ムウは《ゼロ》のスラスターを噴かせて
キラのもとへ向かった。
#20
「カミーユ、問題ないか?」
「わがままを言って出て来ましたから、
さっきのみたいに勝手な真似はしません。」
クワトロは随伴するカミーユを気遣うと、
カミーユはやけに大人しい返事を返した。
母親を殺されて落ち着かない気持ちを抑えようと、
クワトロやブレックスに懇願して出撃したという
本人の自覚はしっかりとあったようで、
決して突発的な行動と判断では無い事に少しだけ安堵しているが
あえて冷静に振舞っている彼をやはり心配していると、
カミーユもクワトロのもとを離れて、
アポリーとロベルトの援護に向かって行った。
わざわざ1対1を挑むとは舐めているのか…?
《シグー》は《リック・ディアス》に対して、
シールドのガトリング砲を放ちながら
距離を詰めて行くと、腰の重斬刀を手に取り斬りかかる。
《リック・ディアス》はガトリングを躱して、
重斬刀を振り上げる《シグー》を見極めると
ビームサーベルを引き抜き、攻撃を受け止める。
#21
「ほう…接近戦を挑んで来るとは自信があるようだな。」
「なに…?」
接触回線を通してクワトロがミゲルに言って、
「だが接近戦は一撃で仕留めねば意味が無い。」
と、言葉を重ねると頭部バルカンファランクスを
《シグー》の頭部に放つとメインカメラを潰される。
ーーーメインカメラを…!?
ミゲルはしまったと焦ると、更に右腕を溶断された。
「まずい…!引くしかないか…!!」
隊長から借りている《シグー》を大破させられないと
感じたミゲルはガトリング砲を撃ち、
距離を開けると、すぐさま反転して離脱した。
「くそ…!当たれ!!当たれ!」
「そんな攻撃!!」
キラはビームライフルを乱射して、
《デュエル》を狙うが攻撃を当てられずにいた。
アスランが目の前にいる気持ちが冷静さを狂わせていたが
何よりも、経験値の差が如実に現れていた。
ヘリオポリスのコロニー内での戦闘時と違い、
足枷の取れたイザークは水を得た魚のように
《デュエル》を自分の手足のように操っていた。
アスランは劣勢に立たされる自軍の戦いに参加せず、
《エールストライク》を追い詰める《デュエル》を見ながら、
彼のその表情は曇っていた。
#22
しかし、戦場でそのような無防備な姿を逃さなかったのは
エマ機の《ガンダムMk-U》だった。
本来は保護観察の身になるが、ブレックスの判断により、
今回は特別という事で戦いに出ていた。
エマにとっても信用してもらう為のチャンスでもあった。
エマは動かない《イージス》を照準に定めると、
《Mk-U》はハイパーバズーカを撃ち放つ。
完全に不意を突かれたアスランは、
迫り来る砲弾に気付いたものの回避は間に合わず
《Mk-U》のハイパーバズーカが直撃する。
《イージス》のコックピットは激しく揺れ、
アスランは衝撃に耐えようと、全身に力が入る。
エマは《イージス》に直撃弾を当て、
これ以上ないほどの手応えを感じていた。
しかし、爆煙の中から現れた《イージス》を見て驚く。
「直撃だったはず…普通の装甲じゃない!?」
通常のジム系モビルスーツなどに装備される
バズーカとは威力も違う攻撃を物ともしない
《イージス》を見てエマは思わず声が出ていた。
支援
#23
「アスラン!ボケっとするな!!」
イザークの怒声がコックピットに響き、
アスランは唇を噛み締め、操縦桿を動かし
ビームライフルを構えて《Mk-U》へと反撃を試みる。
エマはメガ粒子の光軸をぎりぎりで躱すと、
ムウの《メビウス・ゼロ》が、
リニアガンを《イージス》の背後に撃ちつける。
再びコックピットが揺れると、
アスランの表情に焦りの色が出て来ていた。
その時ーーー。
戦闘宙域を大きなメガ粒子の光軸が漆黒の海を切り裂いた。
「なんだ!?」
クワトロは、ビームの発射源に目を送りモニターで
ズームをすると、そこには思いもよらぬ物が映っていた。
「あれは…ザンジバル級?」
ミノフスキー粒子の影響下でハッキリと見えないものの、
その特異的な寸胴な船体を見て、
クワトロは間違いなくザンジバル級だと認識できた。
#24
ザンジバル級《リリー・マルレーン》の
ブリッジの艦長席には、
元ジオン軍のキシリア・ザビ少将の子飼いだった、
シーマ・ガラハウ中佐が腰掛けていた。
「おや?もう始まっていたようだね…」
シーマは歯に衣着せぬ口振りで口元に扇子を当てながら、
通信を用いて《ヴェサリウス》のクルーゼへ言う。
「随分と遅い到着だったようだな、シーマ・ガラハウ中佐。」
クルーゼはいつもの調子で皮肉っぽく言った。
シーマ艦隊は一年戦争終結後に宇宙海賊として海賊行為や
時には傭兵やスパイ活動を行って、自らの口を賄っていた。
「野暮用があってね…だが、
主役は遅れて登場するのが定石だろう?」
シーマがクルーゼの言葉をさらりといなすと、
それに対してクルーゼはフン…。と、
鼻で一つ笑ってから口角を上げて言う。
「ご覧の通り私の部下が少々手を焼いてな。
そちらにひ安くない報酬を払っている…
早速、元海兵隊の実力を拝見させて頂こうか。」
#25
クルーゼとシーマのやり取りを、
ブリッジで見ていたアデスやブリッジクルーは
怪訝な顔でそれを見ていた。
この男は一体何を考えているのか…ーーー。
下劣で悪名名高い宇宙海賊と関わるとは…ーーー。
ブリッジにいる部下達の何人かはそう考え、
ラウ・ル・クルーゼという男の真意を計りかねていた。
「せっかちな男だね…まぁいい…アタシも出るよ!」
「よし、モビルスーツ隊発進!
《アトモス》と《テュポーン》は前進!!」
シーマが鼻で笑いながら言うと、
副官のデトローフ・コッセル大尉が、
その凶悪な顔と威圧的な声を上げて指示を送り、
随伴するムサイ改級から先駆けて、
次々と《ゲルググ・M》が、
スラスターを煌めかせ戦闘宙域へと突き進んで行く。
シーマ・ガラハウは立ち上がり、
ブリッジを後にして行った。
#26
クワトロの視線の先から、モビルスーツが近づいて来ると、
クワトロの《リック・ディアス》にマシンガンの鋼弾が襲う。
「マリーネ…やはりあれはシーマ・ガラハウの…」
クワトロはマシンガンを軽々と躱すと、
攻撃を仕掛けてきた《ゲルググ・M》を見て、
クワトロは即座に相手が誰なのか勘付いた。
これだけの数の《ゲルググ・M》を搭載している
地球圏に残るザンジバル級と言えば、
リリー・マルレーン以外に無いと読んでいた。
次々と現れる《ゲルググ・M》はカミーユ機にも襲いかかる。
「クワトロ大尉!こいつらはジオン軍ですよね!?」
カミーユは攻撃を躱し、
ビームライフルで反撃をしながらクワトロへ聞く。
「落ち武者が海賊になっただけだ!敵に変わりはないがな!」
声を若干荒げながら言うクワトロも、
カミーユ同様に攻撃を躱して反撃を試みる。
《ゲルググ・M》は合計12機、3機4隊編成を組み
クワトロ達やアポリー達にマシンガンの集中砲火を浴びせる。
#27
「こいつら…!」
「狙いは俺たちか!?」
アポリーとロベルトが吐き捨てるように言いながら
マシンガンを躱し反撃をするが、
素早く動き周り《リック・ディアス》の攻撃を避けて行く。
だが、ここでアポリーは違和感に気付きつつあった。
彼らの前で《ゲルググ・M》が見せている機動力を目にし、
まさかな…と、交戦しながらも考えるアポリーに
クワトロからの通信が入る。
「この《ゲルググ・M》は普通じゃない!
おそらく改良が加えられている。気をつけろ!!」
クワトロはそうは言いつつも、
クレイバズーカで敵機に直撃を喰らわせると、
早々に《ゲルググ・マリーネ》1機を撃ち落とす。
海賊め…やってくれるな…。
と、クワトロは心の中で吐き捨てると、
カミーユは負けじと敵機を撃ち落としていた。
アポリーはクワトロの言葉で、
自分が感じていた違和感と合点がいった。
クワトロの言うように、シーマ艦隊の《ゲルググ・M》は
ムーバブルフレームを内臓しており、
従来の《ゲルググ・M》とは、
比較にならないほどの性能向上を遂げていた。
「何!?ザンジバル級だと?」
クワトロからの暗号通信を受け取ったトーレスの報告に
ブライトが踵(きびす)を返す。
#28
「ムサイ級4隻が随伴。
モビルスーツ部隊と既に交戦中との事です。」
トーレスはクワトロからの報告を続けて読み上げると、
まさかジオンとザフトが手を組んだのか?
などとブライトは考えていると、
再びトーレスがブライトへ《アークエンジェル》から
通信があると伝えると、「繋げ。」と一言だけ返す。
すると、通信用モニターからラミアスが
真剣な眼差しをこちらに送り口を開ける。
「ブライト艦長、艦を前に出します。」
ラミアスの言葉にブライトは即座に
艦隊戦力が違い過ぎる上に、
集中砲火を浴びて堕とされる可能性が高いと返すが、
ラミアスは上官であるブライトに物怖じする様子もなく
「ここで退いても後ろを撃たれます。
敵艦隊の足を止め、その後で撤退がよろしいかと。」
と、淡々とブライトへ進言するが、
主砲の射程圏外にいるこの状況でどうするのかと伺う。
すると、彼女は大胆な作戦を発案した。
それは《アークエンジェル》に装備されている。
陽電子砲ローエングリンの試射を兼ねて、
敵艦隊に向けて発射するというものだった。
#29
ヘンケンは正確な座標が分からないのに、
どうやって狙うのか?と、質問をしたが、
ローエングリンの威力はカタログスペック通りであれば、
直撃はせずとも、掠めただけで通常クラスの艦艇ならば
戦闘能力を奪い去るほどの威力があるとして、
座標に関しては、おおよその位置が分かれば問題ないらしい。
発射後に敵に隙が生まれる可能性がある為、
それをきっかけに撤退するべきだとの意見だった。
彼女の考えではあくまでも敵に対する牽制であり、
このような強力な兵器があれば、
下手に戦闘を仕掛ける事が出来なくなる…。
と、考えての事らしい。
「どちらにせよピンチである事には変わりは無い。
君の策に賭けてみよう。」
ブレックスは考える間も無く即決するとブライトが、
「決まりだな…。」
と言うと、ヘンケンやレコアが大きく頷き、
各セクションのブリッジクルー達の顔が一気に引き締まる。
「よっしゃ!ローエングリンの発射まで
《アークエンジェル》を死ぬ気で守るぞ!!」
「了解!」
ヘンケンがCICのキースロンや、
操舵士のサエグサに檄を入れると、
サエグサ達も気合のこもった返事を返した。
#30
やはり彼女は有能な人材だとブライトは改めて感じ、
今すぐ自分の部下として側に起きたい気持ちだった。
「よし、艦隊前へ!
これより最大船速で戦闘宙域に突入!!
主砲副砲発射準備!両舷部メガ粒子砲準備、ミサイル全弾装填!」
エゥーゴのモビルスーツに対して猛攻を仕掛けている
ジオンのモビルスーツを見て、
アスランやイザーク達はその光景をただ見ているだけだった。
「おいおい!ありゃゲルググってやつだろ!?
なんで俺達を援護してやがる!」
ディアッカが驚きを隠さずに声を上げていると、
《ヴェサリウス》から電文が届くと、
コンソールにその内容が表示されるーーー。
“傭兵と共にエゥーゴを叩け。”
《ヴェサリウス》からの電文の内容はこれだけだった。
#31
「傭兵?一体何なんだ?」
簡潔な指令内容に、
理解出来ないアスランは怪訝な顔で呟くと、
「何であろうとこれは命令なんだ、行くぞ!」
イザークはそう言うと、再び《ストライク》に向かって行く。
「まぁやるしかないよな!!行くぞニコル!」
「分かりました!!」
ディアッカとニコルは仕切り直しといった感じで、
操縦桿を強く握りフットペダルを踏み込み
ロベルトとアポリーの《リック・ディアス》に向かって行った。
《ストライク》のキラは、
《ゲルググ・M》の頭部をビームライフルで撃ち抜く。
《ゲルググ・M》のパイロットは初めて剣を交える
コーディネイターの実力に驚愕していた。
当てられる攻撃のハズが、紙一重の差で躱され続けた上に
僅か一発のビームライフルで、
メインカメラを破壊されるという
状況に、
《ストライク》のトリコロールの機体を一年戦争の時に
“白い悪魔”と呼ばれたそれと重ね合わせていた。
#32
キラの援護に回っている、エマとムウも、
《ゲルググ・M》を追い詰めていた。
ムーバブルフレームの飛躍的に、
旧式モビルスーツの性能すらも向上させていたが、
新鋭機である《Mk-U》などに比べれば、
所詮は一年戦争時代のモビルスーツに
手を加えた骨董品に過ぎなかった。
一方、アポリーとロベルトは初めこそ《ゲルググ・M》の
通常とは違う性能に驚いていたが、
《リック・ディアス》の性能と、彼らの持つ実力は
海賊に成り下がった者など敵ではなかった。
クワトロはアポリーとロベルトに露払いを任せ、
《バスター》と《ブリッツ》を相手にしていた。
ディアッカとニコルはアポリー達とは比べ物にならない、
クワトロの実力に翻弄されていた。
「くっそ!この赤いヤツ…バケモンかよ!?」
《バスター》は既に右腕に構えていたガンランチャーを
ビームサーベルで溶断され広域への攻撃を封じられていた。
全力で距離を開けようにも、信じられない速度で
追い付かれて、白兵戦を仕掛けられ防戦一方だった。
支援
0===。El
(・∀・ ) テレレーテレレレッ
>┘>┘
0===。El
( ゚д゚ ) ピコーン
>┘>┘
0===。El
(・∀・ ) テレレレテレレレッ
>┘>┘
0===。El
(゚∀゚ ) ピコーン
>┘>┘
うわー……デラーズフリートとプラントってまたプラント以外在住のコーディから反感買いそうな……
今は亡きギャザビ風になってきたぞ!+(0゚・∀・) + ワクテカ +
;y=ー(´・ω・) カチャ
;y=ー( ゚д゚ )・∵. ターン
まさかのデラーズフリート勢参加だと!
#33
「ディアッカ…!…どうすれば……!!」
《バスター》に常に離れない《リック・ディアス》に対し、
ニコルは《バスター》への被弾を恐れて、
トリケロスに内臓されたビームガンや
ランサーダートを使えない状況だった。
有線アンカーのグレイプニールも、
既に一撃のもとに切り捨てられており、
選択肢はビームサーベルのみとなっていたが、
下手に攻撃を仕掛ければ返り討ちに合うのは目に見えていが
そんな隙を見せる《ブリッツ》に襲いかかるのは、
カミーユ機の《ガンダムMk-U》だった。
「よそ見をするなんて!」
《Mk-U》からビームライフルが撃ち放たれると
《ブリッツ》はすかさず功盾ユニットのトリケロスで
ビーム攻撃を防ぎ、ビームガンで反撃をする。
「当たれ!当たれ!」
ニコルはビームガンを撃ち、
間髪入れずにランサーダートを《Mk-U》に放つと
カミーユはビームサーベルを左手に持ち
襲いかかる3連装貫通弾を切り払った。
#34
《アーガマ》と《アークエンジェル》、
そして《モンブラン》は戦闘宙域に到着した。
すでに宙域は火線が飛び交い、
あちこちで大小の爆発が起きていた。
ブライトが緊張した面持ちで、
ブレックスやヘンケンと目を合わせ、
コクリと互いに頷くと声を張り上げ指示を出す。
「ローエングリン発射まで
モビルスーツ隊への援護射撃を行う!!
《モンブラン》にも通達、撃ち方始め!!」
「よぉし、主砲照準!目標、前方のムサイ級!!
その後、メガ粒子砲と対空ミサイル、対空機銃用意!!」
それに呼応するかのようにヘンケンが
CICオペレーターのキースロン達に指示を送ると、
両舷カタパルト側部に張り出た砲塔と、
全部中央上層部の砲塔から単装の大型の
メガ粒子のムサイ改級に向けて、
合計3門の主砲が発射されて行く。
その後、両舷のシャッターからせり出した砲塔から
メガ粒子砲と艦橋後部のミサイル発射管から
対空ミサイルが次々と発射されて行く。
#35
《アーガマ》や《モンブラン》から発射されたメガ粒子砲が、
真空の宇宙を突き抜けて行き、
艦隊の防衛ラインを引く《アトモス》と《テュポーン》の
シーマ艦隊の色であるブロンズ色の船体を掠める。
対空ミサイルは敵モビルスーツめがけて進んで行き、
艦隊に取り付こうとする《ゲルググ・M》に直撃すると、
瞬く間に爆散して火球となって行く。
《アーガマ》と《モンブラン》のアシストを受けていよいよ、
《アークエンジェル》はローエングリン発射シーケンスに入る。
「前方にムサイ級2隻!
後続に複数の艦影を確認しました!!」
「よし、ビーム撹乱幕を展開!
CIWS作動、敵を艦に近づけるな!!
ヘルダートは自動発射にセットしろ!」
トノムラの報告を受けると、
ナタルが次々と指示を送った。
ビーム撹乱幕は横一列に並ぶ艦隊を包んだ。
それに合わせて《アーガマ》と《モンブラン》は
ビームが撹乱される数十秒の間は、
艦砲射撃をミサイルや副砲を実態弾頭に切り替え撃ち放つ。
ローエングリン発射に伴う最大のリスクは、
発射シーケンス中の敵機による攻撃の被弾である。
その時に被弾しようものならば、
たちまちシステムダウンを引き起こし、
艦の運用に多大な支障をきたす可能性があった。
#36
「前方ムサイ級2隻、距離630に接近!
間もなく本艦の有効射程距離圏内に入ります!」
チャンドラが報告すると、ラミアスは拳を強く握る。
それはナタルも同じようで、二人の顔は少し強張っていた。
「ラミアス艦長、ここから指揮権は君に移す!頼むぞ!」
通信モニターの向こうにいる
《アーガマ》のブライトからラミアスへ、
指揮権を移されるとラミアスは息を大きく吐き、応じる。
「は!慣性航行に移行!
バジルール中尉は射線上にいる味方機に離れるよう通達!」
指示を受けたナタルは真っ直ぐに前を見据えて口を開ける。
「全艦及び、作戦展開中の各機、
本艦は60秒後に敵艦隊に対しローエングリンの斉射を行う。
本艦の射線上にいる各機はただちに離脱せよ!!繰り返す、
本艦の射線上にいる各機はただちに離脱せよ!」
「射線軸…?ここじゃないか!」
《デュエル》と交戦中だったキラは、
《アークエンジェル》からの警告と共に、
コンソールに表示されたローエングリンの
射線軸データを見ると慌てて、
フットペダルを踏んで離脱を開始する。
「逃げるつもりか《ストライク》!」
イザークは離脱を試みる《ストライク》へ
《デュエル》は右肩部にマウントされた、
スナイパーライフルを手にして《ストライク》を
その照準に捉えようとした。
#37
その時ーーー。
キラの乗る《ストライク》は、背後から強い衝撃に襲われた。
キラはなんだ?と、視認する間も無く
続く衝撃に全周囲モニターの各パネルの映像が乱れる。
衝撃に耐えながらなんとか機体を反転させると、
紫の胴体に黄土色の四肢を持つ機体色の、
通常のF型ではなく、Fs型と呼ばれる
シーマ・ガラハウ専用の《ゲルググ・M》が
MRB-110型と呼ばれる大型ビームライフルを手に、
マシンガンモードへ切り替えて撃ち放っていた。
「あの白いやつからやるよ!!」
「は!」
シーマは戦闘宙域に到着し、
《ストライク》の背後を取ったシーマが
随伴する3機の《ゲルググ・M》は、
マシンガンを構え、シーマの指示により
《ストライク》へ集中砲火を浴びせる。
「あのゲルググ…指揮官機か?」
イザークは突然獲物を横取りされたような気分で、
シーマ隊が《ストライク》を追い詰めるその様を見ていた。
#38
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「フフフ…頑丈だねぇ…!
でもそれがいつまで持つのかねぇ!!」
シーマ隊による一斉射撃で、
《ストライク》はシールドを構えるものの、
四方を囲まれての攻撃で機体にも、
マシンガンの光弾がぶつかる。
PS(フェイズシフト)装甲によって、
ダメージはなんとか免れていたものの、
揺れ続けるコックピットで、
キラはエネルギーゲージに目をちらと送ると
エネルギーがみるみる内に減って行くのが分かった。
「ぐ…っ!!」
コックピットを揺らす激しい衝撃にキラは顔を歪ませる。
反撃を試みようにもシーマの《ゲルググ・M》が
撃ち放つビームの光弾の乱射と、マシンガンの攻撃を防ぐだけで精一杯だった。
すると最悪の事態はすぐにやって来た、
既に《デュエル》や他の《ゲルググ》との戦闘で
消耗していた《ストライク》のコックピットに
警告を知らせるアラートが鳴り響き、
コンソールに『FUEL EMPTY』と表示されると、
キラの顔は一気に青ざめさらに汗が流れ出る。
「エネルギー切れ…!?…まずい!」
《ストライク》のボディが出撃前のように全身が灰色になる、
フェイズシフトダウンを引き起こしていた。
その時《ストライク》を攻撃していたシーマ隊に
ビームライフルが次々と放たれたーーー。
#39
「ん…!?」
シーマがそちらへ目をやると、
《イージス》がビームライフルを構え、
銃口をシーマの《ゲルググ・M》へと向けられていた。
(キラ……)
アスランは自分が何をしているのか理解できていなかった。
キラの危機を目の前にした事により、
無意識の内に彼の体を突き動かしていた。
それを見ていたイザークは通信モニター越しに
アスランへ詰め寄るも、イザークの怒号など
アスランの耳には入らなかった。
どういう事だ…!?
ヤツはザフトのガンダムのはず…
シーマは眉間に皺を寄せると、歯をギリと噛みしめた。
《ストライク》への攻撃がピタリと止むと、
「…攻撃が止んだ…!?」
射線軸から離れなくちゃ!!
キラは止まった攻撃に安心せず、
フットペダルを一気に踏み込むと、
《ストライク》のバーニアを激しく噴かせ、
急いで射線軸からの離脱を始める。
「なっ!?逃がすな!打て!」
《イージス》を睨みつけていたシーマは、
動き出した《ストライク》に気付き、
声を上げると、シーマ隊は再び一斉射撃を行う。
シーマはビームライフルモードに切り替えて、
照準を《ストライク》の背中に定めて、
コックピットごと撃ち抜こうと考え狙いを定め、
いざトリガーを引こうかというその瞬間だったーーー。
#40
「有効射程圏内に入りました!
射線軸から全ての友軍機の離脱を確認!」
「よし!ローエングリン、1番2番、斉射用意!」
「陽電子バンクチェンバー臨界!マズルチョーク電位安定しました!発射口、開放!」
CIC席のトノムラ、ナタル、チャンドラの報告で
ローエングリン発射の準備が整った事を知ると、
前を見据えてラミアスが大きく叫ぶ。
「ローエングリン、てぇーーー!!」
ラミアスの号令と共に両舷カタパルトの発射口から、
電気を帯びた反粒子の巨大収束火線が突き進んで行く。
射線軸ギリギリで躱したはずの、《ゲルググ・M》は
ローエングリンの放出する膨大なエネルギー量により
掠めた程度でその機体は爆散し、1機だけでなく
5機ほどが、ローエングリンによって消え去った。
その陽電子は勢いを止める事なく、
宇宙空間に浮かぶ小さなデブリや隕石を
飲み込み、幾つもの火球を発生させ
陽電子は轟音と共に敵艦隊に直進して行く。
その光景を見たムウが唸り声を上げていた。
#41
《リリー・マルレーン》や、
《ヴェサリウス》の前に出ていた、
《アトモス》と《テュポーン》は、
ローエングリンの直撃を受けた。
艦艇の主砲などどは比べ物にならない破壊力を見せる
陽電子エネルギーは、瞬く間に2隻のムサイ改級を
飲み込み爆散するも、陽電子の粒子は爆ぜる事なく
更に突き抜けて行く。
ローエングリンの射線上には、
ヴェサリウスも僅かながらそれに乗っていた、
アラートがけたたましく鳴るブリッジでオペレーターが声を上げる。
「…熱源接近!!方位000、到達まで3秒!!」
「右舷スラスター最大!躱せっ!」
思わず身を乗り出したクルーゼが叫んで指示を送る。
操舵士は指示通りの操艦を行ったが、
ブリッジが白い閃光に晒さられ、
全員が強い衝撃に備えて身を構えた。
左舷スラスター部分を掠めたもののその威力は絶大で、
装甲は溶解し、内部の構造物ば爆発すると、
ノーマルスーツを着たクルー達は爆発に巻き込まれ、
巻き込まれなかった者は、宇宙空間に飛ばされた。
#42
「状況報告!!」
アデスは顔を真っ赤にしながら各部のチェックを急がせる。
各セクションのブリッジクルーから入る報告は
惨憺(さんたん)たるもので、
ブリッジに響く報告はまさに阿鼻叫喚だった。
死者何名…行方不明者何名…負傷者何名…戦闘続行不可能…
ありとあらゆる報告がもたらされ、
クルーゼは忸怩(じくじ)たる思いで、
決断を下し撤退命令を出した。
《ヴェサリウス》から撤退を告げる信号弾が打ち上げられると、
ローエングリンの射線軸から命からがら脱した
シーマの《ゲルググ・M》にも、
リリー・マルレーンからの報告が届く。
「アトモスとテュポーンが沈んだ…?」
その報告にシーマの目付きが更に鋭くなると、
舌打ちをして「チ…クルーゼめ…!
追加料金を貰わないと気が済まないよ!!」と、
口中に吐き捨てて撤退していった。
《アーガマ》からも帰艦信号が打ち上げられると、
展開中のクワトロ達は撤退を始め、
キラも動揺に《アークエンジェル》を目指した。
#43
「帰艦信号!?させるかよ!あいつだけでもっ!」
イザークは撤退命令に従おうとせず、
フェイズシフトダウンを起こし、
《アークエンジェル》へと向かう《ストライク》を追う。
《ヴェサリウス》とは逆の方向へと行く《デュエル》に
アスランはイザークへ声を上げ、
《デュエル》と、《ストライク》のもとへ急ぐ。
「おい!あいつら何をしてやがる!?」
ディアッカが《イージス》と、
《デュエル》の動きに気付いて叫ぶ。
「と、とにかく行きましょう!」
ニコルは慌てた様子で、ディアッカに言った。
《ストライク》がピンチとは言え、
既に《ゲルググ・M》は全機撤退を始めており、
《デュエル》を下手に突っ込ませれば、
撃ち落とされる可能性があったからだった。
「イザーク!?撤退命令だぞ!」
「五月蠅い!!貴様は引っ込んでいろ!」
イザークは今すぐにでも、
アスランを殴り倒してやりたい衝動に駆られるが、
《ストライク》撃破のチャンスを逃すまいと、
《デュエル》がビームライフルを構えて
《ストライク》に狙いを定める。
#44
もらった!ーーー。
《デュエル》がトリガーを引こうとしたその時、
キラは突然衝撃に見舞われると、
4本の鉤爪のようなモビルアーマー形態に変形した
《イージス》が捕獲しているのに気付く。
イザークはアスランが再び起こした不可解な行動に驚愕した。
キラは操縦桿とフットペダルを動かすが、
《イージス》から逃げる事は叶わず、
慌ててコンソールのキーボードを出してタイプする。
「捕獲された…!?…《ストライク》…
《イージス》に捕獲されました!
フェイズシフトダウンを起こしています!!」
キラからの無電がCICに届くと、
トノムラが慌てて報告する。
それを聞いたブリッジに緊張が走り、
メインモニターにその光景が映し出されると、
ラミアスは即座にムウへ援護を要請する。
「《ストライク》がザフトに捕獲されただと!?」
「そのようです!フラガ大尉とエマ中尉が追っています!」
《アーガマ》のブリッジにブライトの声が響いた。
レコアも慌てた様子で、ブライトに報告すると
モニターに映る《イージス》に捕まった《ストライク》が映る。
#45
「クワトロ大尉達は!?」
「向かいました!!」
ブライトは椅子の手摺を叩くと歯を噛み締め、
頼む…間に合ってくれーー。
と、願いを込めるかのように
モニターに映っている様子を見届けるほか無かった。
「チィ…!あの馬鹿!!」
ムウは《アークエンジェル》からの命令を受け取り、
捕獲された《ストライク》の姿を見て口中に吐き捨てた。
「エマ中尉!ヤツらを止めるぞ!」
「分かりました!!」
と言ってムウがエマと共に、
フットペダルを一杯まで踏み、急ぎキラの救出へと向かう。
「何をする!?アスラン!」
「この機体、捕獲する!」
「なんだとぉ!?」
イザークはもう何回目かと言うくらいに、
アスランへ怒声を上げる。
アスランからは捕獲するなどという受け応えが返ってくると、
《ブリッツ》と《バスター》が追い付き、
それを聞いていたディアッカがアスランに言葉を返す。
「命令は撃破だぞ!勝手なことをするな!」
と語気を強めるものの、
アスランは即座にディアッカの言葉に被せる。
「捕獲できるものならその方がいい。撤退する!」
#46
イザークはアスランへの怒りを感じ、
ニコルはいつもの冷静なアスランとは違うことに
違和感を感じずにはいられなかった。
「キラ!!一緒に来い!」
「ふざけるなっ!僕はザフトの船になんかいかない!」
「お前はコーディネイターだ!僕達の仲間なんだ!」
爆発寸前の感情を抑えるように、
アスランは、
キラを引き入れようとする。
彼と戦いたくないという、戦争に参加しながらも、
元は心優しい少年のせめてもの情けにも近かったが、
これはアスラン・ザラ個人の独断で、
軍人としての行為では無かった。
「違う!僕はザフトなんかじゃぁ…」
「いい加減にしろ!キラ、このまま来るんだ!!」
コーディネイター=ザフトというアスランの
強弁にも似た理屈にキラは拒絶の意思を口に出すが、
アスランは畳み掛けるように言葉を重ね、
「でないと…僕はお前を討たなきゃならなくなるんだぞ!」
声を荒げアスランが心の底から、
気持ちを吐き出して行くと
次第に彼を苦しめている、記憶が彼の脳裏に浮かぶ。
「血のバレンタインで…母も死んだ…!僕はっ……!」
声は震え、顔を俯かせたアスランは、
まるで聖母マリアのように温かい母の顔を思い出していると、
コンソールの熱源反応が目に入り警告音が鳴るーーー。
#47
「行かせないわ!!」
エマは《ストライク》を捕獲し、
離脱をはかる《イージス》に向けてビームライフルを撃ち放つ。
「くそ!追いつかれたぞ!」
「アスランの援護を!!」
ディアッカは声を荒げて叫ぶと、ニコルと共に
エマの《Mk-U》に対して攻撃を開始する。
《Mk-U》は《ブリッツ》のランサーダートを回避すると
ビームライフルで反撃をする。
その横から《バスター》は
94mm高エネルギー収束火線ライフルを放つ。
それをなんとかエマは躱すと《バスター》に対しても
ビームライフルを撃ち放つが《ブリッツ》も《バスター》も
見事に攻撃を回避する。
「行かせるかよ!」
ムウはガンバレルを展開して、
《イージス》を包囲するとガンバレルポッドから
マシンガンの雨を降らせ、
《イージス》は《ストライク》を掴んだまま、
回避を行うが機動力の増すモビルアーマー形態とはいえ
スピードは思うようには上がらず、
被弾を許すと、機体に激しい衝撃が走る。
堪らず《ストライク》を離して、
モビルスーツ形態に戻るとガンバレルを回避して行く。
「キラ!離脱しろ!!」
ムウが通信モニター越しにそう叫ぶと、
キラは再び《アークエンジェル》へと向かう。
#48
だが、それを狙っていたのはイザークだった。
《デュエル》はビームサーベルを右手に斬りかかると
《ストライク》はシールドを構えて防ぐが、
シールドは真っ二つに溶断されると、
防御力はほぼ皆無という状態に追い込まれたーーー。
「トドメだぁ!!」
イザークはそう叫び再び斬りかかる。
討ち取ったーーー
そう思ったその瞬間、
ビームサーベルを振り上げた右腕にビームが直撃する。
なんだーーー?
何が起きたんだ?と、考えていると、
どこからともなく放たれたメガ粒子の光軸が、
《デュエル》や《イージス》に降り注いで行く。
「キラ君!下がれ!!」
聞き慣れた声がコックピットに聞こえると、
コンソールのレーダーに映る方へモニターを見る。
そこにはクワトロの《リック・ディアス》と、
カミーユの乗る《Mk-U》に《リック・ディアス》2機が、
アスラン達を追いかけて来ていた。
「引け!イザーク、ディアッカ!これ以上の追撃は無理だ!」
状況を完全に不利と見たアスランはそう叫んだ。
#49
「何っ!?」
イザークはアスランに対し、どの口がそう言うのだと、
腑(はらわた)が煮え繰り返る思いだった。
「アスランの言うとおりです!
このままだと今度はこっちのパワーが危ない!」
ニコルはイザークの声色と顔色を見て、
諌めるようにイザークへ言うと、大きく舌打ちをして、
《ストライク》を一瞥し撤退して行った。
アスラン…僕はいかないよ…
復讐なんかの為に戦う君とは一緒に戦えないから…
キラは去って行くアスランの姿を見ながら心の中で誓った。
ムウとロベルトと交わした言葉を
曲げる訳にはいかない。
契(ちぎ)りを交わした仲間への思いにより、
たとえ親友が敵であろうと自分の決めた道を信じるとーーー。
終わりです。
猿さん食らってそのまま放置しちゃいました…
読んで頂いた方々には申し訳なく思っております…。
モンキーの性格悪いから仕方ないね、投下おつおつ
ストライクが凹られたときはFb化とFbストライカー来るかと期待してしまったw
>契りを交わした仲間
三国伝フラグ……はないか、さすがに
次回もこのチャンネルで生き延びることができるか!?
GJ!
まさかのデラーズフリート!0083より雌伏してそうだからシーマ様もいい歳(ry
>「…なんと!?それはまことか?!」
パトリックのこのしゃべり方にワロタwww
>>296さん
>>297さん
ありがとうございます。
シーマの年齢ですか…www設定より4歳増しですね(汗
ただ、0083キャラには年齢は足していません…。
じゃないとバニング大尉は43歳で
MSパイロットやれる身体じゃないのでw
デラーズフリート勢参戦って事は
アルビオンがアーガマ&AAに合流のフラグか!?
ストライクとかのGATもUC系列ということは核融合炉のはず。フェイズシフトダウンが起きたのはサザビーと同一の現象?
>じゃないとバニング大尉は43歳で
>MSパイロットやれる身体じゃないのでw
某海賊のNT自称老人「そりゃ単にクソ真面目にやり過ぎただけじゃろ、ハッタリが足りんからそうなっちまうんだ」
>>299 どこでどう絡めるかはまだ考えていません…orz
ですが無関係という事はないですね。
>>300 そう解釈してOKです。
デュエルに無駄弾使い過ぎと、
ゲルググMの実弾兵器を受け過ぎでエネルギー切れです。
スェイズシフト装甲は異常なエネルギー消費量があるとお考え下さい。
>>300 ウモンさんすいませんw
ディスるつもりはありませんwww
正直、クロボンを混ぜたいのもあったんですが
難しいかな?というのであえなく断念しております。
種死までのんびりやるつもりですが
厄介なのはデスティニーガンダムの武装です。
○の翼とか…
○○ムシールドとか…
まあ、色々と考察してみようかと思います。
>>299 どこでどう絡めるかはまだ考えていません…orz
ですが無関係という事はないですね。
>>300 そう解釈してOKです。
デュエルに無駄弾使い過ぎと、
ゲルググMの実弾兵器を受け過ぎでエネルギー切れです。
スェイズシフト装甲は異常なエネルギー消費量があるとお考え下さい。
>>300 ウモンさんすいませんw
ディスるつもりはありませんwww
正直、クロボンを混ぜたいのもあったんですが
難しいかな?というのであえなく断念しております。
種死までのんびりやるつもりですが
厄介なのはデスティニーガンダムの武装です。
○の翼とか…
○○ムシールドとか…
まあ、色々と考察してみようかと思います。
なんかキラが成長してる!
デスティニーが青くなってEXAM搭載したりとかしますか?
パイロットはユウ・カジマで頼む。
>303
書き込みお疲れさまです。
楽しんで見てます。
《》←で機体や艦艇の表示は良いですね。
とても面白いやり方だなぁって見てました。
次に違うのやる時に参考にしたいです。
ただ、使用のルールみたいなのがあるのですか?
台詞でも描写でも使っている場合と使っていない場合の違いが
ちょっとわからなかったので、有れば教えて頂けたら幸いです。
続き頑張って下さい。
>>307 量産型牛さんの作品は私も楽しんで読んでいます。
色々と手探りで書いているものですから
最初のほうと今とでは微妙な違いがあると思います。
決まり事としては
《》←を使うのは機体名、艦艇名です。
そこはガンダムUCの小説を参考にしているので、
分かる方は分かると思います。
例えばムサイ級ペールギュントならば
ペールギュントに《》←で囲む。
ムサイ級ムサイなら、
〜級という部分に《》←は囲まずに、
艦艇名だけ囲むようにしていると思います。
“ ”←の部分は回想だったり
ニュータイプの言葉では言い表せない
“何か”〜←みたいに表現したりしてます。
文才が物凄く無いと思ってるので
誤魔化すための飾りとして使っているようなものです。
最大の問題は
バルカンなのかイーゲルシュテルンなのかCIWSなのか
対空防御ミサイルなのかコリントスやヘルダートなのか
対艦ミサイルなのかスレッジハマーなのか
メガ粒子砲なのかゴッドフリートなのか
メガ粒子砲なのかスキュラなのか
マシンガンなのか重突撃銃なのか
ガトリングなのか28mmバルカンシステム内装防盾なのか
バズーカなのかキャットゥス500mm無反動砲なのか
種系の長ったらしい武装名とかは本気で悩んでいます…。
ブリッツのレーザーガンはビームガンに置き換えてますけどw
ブリッツのレーザーはMGでビームに設定変更されてたな。
ティターンズの旗のもとにを読んでるとバスク麾下の連中のゲスい行動にやるせなくなる。
#1
923です。
投下開始します。
第14話_「理想と現実」
ノーマルスーツルームでイザークの怒号と共に、
ロッカーに何か大きなものがぶつかる音が響く。
「貴様!どういうつもりだ!
お前があそこで余計な真似をしなければ…!」
イザークは右の拳を握ったままで、
ロッカーに背を預けているアスランが
唇の端から血を流して、やや斜め下に視線を置いている。
「とんだ失態だぜ。
しかもあの傭兵を攻撃したんだって…?」
それを止めるでもなく辛辣(しんらつ)な言葉を、
ディアッカはアスランに浴びせていた。
あと一歩の所で《ストライク》を落とせたはずが、
シーマ隊やイザークを妨害したアスランの行為に
イザークは激昂し、追及していると
既に着替えを終えていたニコルとミゲルが
ヘリオポリスで負った怪我の具合も
だいぶん良くなったラスティと共に部屋に入って来た。
しかし部屋に入るなり彼らの視線に入ったのは
胸ぐらを掴み力一杯に腕を振り上げ
今にもアスランを殴りつけようとしていたイザークの姿だった。
#2
「…何やってるんですか!?やめて下さいこんなところで!」
誰がどう見ても普通ではない光景を見て、
何が起きているのか察知したニコルは、
慌てた様子で床を蹴り体を泳がせてすぐさま止めに入る。
「あれだけの数でかかったんだぞ!
それで仕留められなかった…こんな屈辱があるか!」
イザークはニコルの制止を振り切るように、
火山の噴火の如く収まらない怒りを吐き出す。
「だからといって、
全てをアスランに押し付けても仕方ないでしょう!」
ニコルはとにかくこの場を収めようと声を荒げ、
「イザーク…!これ以上はやめろ!」
とラスティがイザークへ諌めるように続いて言う。
「うるさい!!俺を止めるな!」
「アスランを殴ったところで今度は
アイツらに勝てるわけじゃないんだぞイザーク!」
未だに収まらない怒りを収めようと、
ミゲルもイザークの体を抑えてイザークを説き伏せる。
#3
「なに…!?お前ほどの男が
いつからそんな弱気になったミゲル!」
「俺達はザフトでも精鋭部隊だと自負してる。
だが《ストライク》1機をようやく落とした所で、
結果は変わらなかったと思うがな。」
ミゲルは敢えて客観的見地に立って説き伏せようとすると、
「確かにそうだな。
実際のところティターンズなんかと比べても、
エゥーゴは戦い慣れしてる。
悔しいけどもっと相手を知ることが必要だな。」
と、ディアッカがミゲルの言葉に同調した。
コーディネイターである彼らのポテンシャルは
間違いなく紛れもないエース級の腕だが、
経験に裏打ちされたエゥーゴの
操縦技術や戦場における判断力は想像以上で、
彼らに勝つ為には相手の実力を最大限認め、
戦闘データを検証してしっかりと準備しなければ
二の轍を踏む事になるのは明白だった。
ミゲルやディアッカはクワトロと対峙して、
説明のつかない“何か”見えない力のようなものと、
味わった事のない戦慄をあの戦場で肌で感じていたのだ。
実力を認めている彼らの言葉が、
信用に足るものと分かっているイザークは、
少し落ち着きを取り戻したのか舌打ちをしてから、
体を抑えるミゲルを振り払い、
アスランを鋭い眼つきで一瞥してから、
ノーマルスーツルームを飛び出していった。
#4
「アスラン。貴方らしくないとは僕も思います…でも…」
「今は放っておいてくれないか、ニコル……。」
途端に静かになった部屋でニコルはアスランへ
話しかけ何かを言おうとするも、
それを言いきる事もなくアスランが言葉を被せ
ニコルを突き放すような態度を見せる。
「ニコル、俺達じゃそいつから理由を聞けないだろ。
本人がそう言うなら今は放っておこうぜ。」
ディアッカがアスランを見ながら、
皮肉っぽく言うとニコルは下を俯いた。
「アスラン、クルーゼ隊長が呼んでるぞ。早く着替えて行け。」
ミゲルは口元の血を拭うアスランに言伝だけ伝えると、
ノーマルスーツルームをラスティと共に出て行ったーーー。
着替えを終えたアスランは赤服を身に纏い
クルーゼのいる司令室の前に立って緊張の面持ちでいた。
「アスラン・ザラ、出頭致しました!」
「…あぁ。入りたまえ。」
《ヴェサリウス》の司令室の扉の向こうから
アスランの畏(かしこ)まった声が響くと、
クルーゼは手元の通信モニターのスイッチを切って
部屋に入るようアスランへ施すと、
扉が横に開きアスランが入ると敬礼をしてみせ、
手を後ろに組んで直立していた。
#5
「色々とバタバタしていてな。
君と話すのが遅れてしまった。」
「はっ…!先の戦闘では、申し訳ありませんでした…。」
「話を詳しく聞いておきたい。
あまりにも君らしからぬ行動だからな…アスラン。」
先程の戦闘での行為についての話をする為に
クルーゼはアスランを呼びつけていた。
ちなみにイザークはアデスから隊長が話す前に
余計な事をするなとお叱りを受けたようだった。
クルーゼもクルーゼで、
アスランの思いもよらぬ行為で、
シーマの怒りを冷ますのに少し苦労したようだが、
狡猾なクルーゼは上手い事その場を収めたようだ。
「ミゲルからの報告でヘリオポリス以来、
君の様子がどうもおかしいと聞いていてな。」
クルーゼは冷静な口調でアスランへ、
あのような行動に走った経緯を伺うと、
少しの間、部屋の中が沈黙に包まれる。
そしてクルーゼが何かを言おうとした時に
アスランが意を決したように口を開ける。
「申し訳ありません…
思いもかけぬことに動揺し…報告ができませんでした……。
《ストライク》…あれに乗っているのはキラ・ヤマト。
月のローレンツ幼年学校で一緒だった
幼馴染のコーディネイターです。」
「ほぉ…」
支援
#6
アスランは正直に事の経緯を話し始めた。
それを聞いたクルーゼは心の中は
どす黒い何かが広がって行っていた。
アスランとキラの悲劇的な再開をまるで楽しむかのように、
しかしマスクの下に隠されたクルーゼの表情からは
そんな事を読み取るのは難しかった。
「まさか…あのような場で再会するとは思わず…
私はどうしても確かめたくて…」
「…そうか。戦争とは皮肉なものだ。
君の動揺も仕方あるまい…仲の良い友人だったのだろう?」
「…はい。」
アスランは拳を握り辛そうな表情を見せる。
マスクの下では冷酷な笑みを浮かべ、
さも彼を心の底から気遣うように装っている。
そして彼は一つ面白い事をしようと何かを思いつく。
「分かった。そういうことなら我が隊に君を外そう。」
彼の言葉にアスランは思わず「え!?」と声を上げ、
いつも情け容赦無い命令を下す隊長にしては
随分とらしくないと一瞬考える。
「そんな相手に対して銃は向けられまい。
私も君にそんなことはさせたくないからな…
本国防衛艦隊に転属させるように頼んでおこう。」
「いえ!隊長、それは…!」
「君のかつての友人でも、いま敵なら我らは討たねばならん。
それは分かってもらえると思うが…」
クルーゼのさらに意外な言葉に迷いが生じていた。
だがそれは正論なのかもしれないと考えるも
自分以外の誰かがキラを殺そうとする事に心臓の鼓動は高鳴る。
#7
「…キラは!…あいつは…
ナチュラルにいいように使われているんです!
優秀だけど、ボーっとして…
お人好しだから、そのことにも気づいてなくて…
だから…彼を説得したかったんです…」
「君の気持ちは分かる。
だが結果、彼は聞き入れなかったのだろう?」
アスランは必死にクルーゼに理解を求めるように
まくし立てるが、全てを言い終えるのを待たずして
クルーゼは厳しい現場と結果をアスランへ突き付ける。
クルーゼの言葉はカウンターのパンチのように
彼の言葉に歯止めをかけると、
途端に意気消沈したかのように下を俯き「…はい。」
と、やや消え入りそうな声で返した。
「君に彼を撃つ覚悟は出来ているのかいないのか…
それを確かめたいんだよアスラン。
君はザフトの赤服を着ている軍人なのだぞ?」
クルーゼはそう言って、俯くアスランに
とどめとばかりに追い討ちをかけるように問うた。
アスランはクルーゼの問いにすぐには答えられず、
暫くの沈黙が二人の間を彷徨う。
「すぐに返事をしろとは言わんよ。
君も知ってのとおり、我々は本国へ戻るからな。」
沈黙を破るようにクルーゼが静かに口を開き、
一見、考える時間を与えてくれるような口振りだが
その実、答えは一つしかないと言うのは明白だった。
#8
「…は。お心遣い感謝します…。」
アスランはただただこのくらいの言葉しか返せない状態だった。
しかしあの時のキラと交わした言葉の数々から考えても
もう答えは出ているのも事実で、
その理想と現実の狭間でアスランは苦しんでいた。
話を終えるとアスランは部屋を後にして行ったのだった。
ーーーーー
カミーユは応接室のソファに座り顔を俯かせていた。
その席にはクワトロとレコアも座っており、
カミーユの隣に座るレコアは、
カミーユの肩を抱えて介抱しながら口を開いた。
「誰のせいでもないわ。あそこは戦場だったのよ。」
「僕が飛び出したりなんかしなければ…」
レコアは彼のせいではないと言うものの、
自責の念にかられているカミーユの耳には入らない様子だった。
あの時《Mk-U》に乗って、
衝動的な行動を起こさなければ、
おふくろは死なずにすんだんじやないのか…ーーー?
と、戦闘によって張り詰めていた気持ちが解放されると、
目に焼き付いた残酷な光景だけが途端に蘇っていた。
#9
「君が飛び出さなくてもいずれ
ティターンズは君の母上を殺したはずだ。」
いつもクールなクワトロだが彼も彼なりに
カミーユを気にかけていた。
確かにカミーユの軽率な行動が引き起こした
悲しい結果とは言うものの、このような
作戦を立案するティターンズという組織に問題があると
俯き続けるカミーユに言い聞かせている。
その時、「失礼します。」と
扉の向こうから透き通る女性の声がして応接室の扉が開くと、
ハヤイー軍曹に連れられてエマが部屋に入って来た。
二人は部屋に入ると扉の前にハヤイーが直立して
彼女が逃げないように出入り口を塞いで立ち止まり、
エマはそれをチラと軽く目を配らせた。
「エマ中尉。サイズは大丈夫だったみたいね。」
「ありがとう。
現地徴用兵が希望だけれど今は保護観察の身だから。」
エメラルドグリーンのエゥーゴ用の軍服に着替えた
エマにレコアが少し緊張から解れたような表情で言うと、
エマは少し大きめなバストが強調されている服に
若干の違和感を感じつつもリラックスした様子で
レコアの言葉に受け答えていた。
エマの処遇を巡ってブレックスはよくよく悩んだが、
やはり先ずは数日間の保護観察が妥当と判断したのだった。
これから激化して行くであろうティターンズとの戦いの中で
悪行の限りを尽くしているティターンズに耐えられなくなる
ティターンズ兵は今後増えて行く事を鑑(かんが)みても、
エゥーゴという組織をまとめ上げる将たる者として、
この判断は道理至極と言えるものであった。
#10
「今はいい。また中尉が移動するときは呼ぶ。」クワトロが、
扉の前に直立しているハヤイーに部屋から出るよう施すと
「はっ。」と、言って応接室の扉を開いて部屋を後にした。
クワトロはエマと話をする為にここへ呼んだが、
当のエマ本人もクワトロと話がしたいと考えていた。
エマは部屋を出て行くハヤイーを見てから、
視線をクワトロの方へ向き直すと、
クワトロが彼女の目をじっと見ていた。
サングラスに隠れている彼の目はどこを見ているのか。
一見すると分からないが、
エマはすぐに自分を見ていると察知して口を開く。
「大尉は、まだ私がスパイだとお思いですか?」
クワトロの顔色をうかがうような素ぶりで彼女は問うと、
「君のご両親が地球にお住まいならば、
人質に取られているようなものだからな。
君がティターンズに戻る可能性はゼロではない。」
と、ぴしゃりと言い放つ。
エマは内心クワトロが働きかけて、
すぐに保護観察を取り消してくれるのではないかと
期待をしていたものの、クワトロの口からは
期待をするような言葉は出てこなかった。
クワトロはエマを戦闘にまで参加させた事から、
彼女のエゥーゴへの参加を、すぐにでも
認めてやっても良いのでは?と考えたものの、
不用意に全てを認めるわけにもいかないな…と思い、
ブレックスの決定に口を挟む事はなかった。
#11
実際ブレックスはエゥーゴの誰よりもクワトロを信頼しており、
彼に意見を求め、彼の進言を受け入れたりと、
彼の存在なくしてはエゥーゴは成り立たない。
とまで考えていたのは事実だった。
軍という絶対的組織に属していた彼女も
期待半分といったところではあったが、
毅然とした口調で返答してきたクワトロの言葉を聞くと、
「それが現実的な見方ですね。」
と返して納得している様子だった。
「そうだ。今も母親の命を盾に敵が追ってきて、
その敵と戦ってきた少年がここにいる。」
カミーユに視線を送って先の出来事にたとえながら、
エマ中尉の両親も同じ手口で巻き込まれる事もある…
と、言うような口振りでエマに伝えていた。
「両親は志の高い人達です。
私のやることを理解して許してくれると思います。」
軍人一家にありがちな固定観念に捉われた育て方をせずに、
旧態依然の連邦政府、連邦軍に危機感を抱いていた両親は
エマに柔軟な思考を持つよう徹底的に教育していた。
旧世紀から続く名家の出である軍人は数多くいる。
しかしながら紆余曲折を得て突入した、
U.C.(ユニバーサルセンチュリー)への改暦以来、
永らく続いた統一政府は凋落の一途を辿り、
それが今の地球至上主義者などという、
レイシストを生む結果ともなった。
#12
しかし彼女の両親のような教えを貫き通す家系は
今の軍閥(ぐんばつ)の時代において非常に稀であり、
代々続く家を守る為に志を捨てる家も少なくないが、
彼女をエゥーゴ参加へと駆り立てたのは、
むしろこの時代において必然だったのかもしれない。
「…いいですね…素敵だ……」
二人の会話を横で聞いていたカミーユが
俯いたままの状態で言葉を発すると、
途端に部屋の空気が重くなり
「エマ中尉のように、真実親をやっている大人を親に持てて。」
と、先程まで押し黙っていたカミーユが言葉を続けていた。
「グリーンノアにいる父は、
母が死んだって聞けばきっと喜びますよ…。」
どこを見るでもなく視線を泳がせ、
笑いながら言うカミーユの脳裏に浮かんだのは、
肉欲に溺れた父の顔だったーーー。
「カミーユ…そんな事…」
エマが苦しいフォローをしようと何かを言おうとすると、
カミーユが声を荒げ両の拳を握ってテーブルを叩き、
声を荒げながらエマの言葉に被せる。
#13
「いけませんか!?こんなこと言って!
でもね、僕は両親に親をやって欲しかったんですよ!
そう言っちゃいけないんですか子供が!!
父は前から愛人を作っていたんです!!
仕事が上手くいかなくなっても余計に酒と愛人に溺れて…
母は父が愛人を作っていたって仕事で満足しちゃって…!
そんな父を見向きもしなかったんです!
軍の仕事ってそんなに大切なんですか!?
エゥーゴだ…ティターンズだって…
もうそんなことじゃないんです!
子供が無視されちゃ堪んないんですよ。」
軍の技術者であった両親は仕事に没頭し、
常に家をあけて充分な愛情を受ける事ができなかった。
果てには夫婦関係の悪化に板挟みとなったカミーユの
長年の蓄積された辛く、孤独な思いが一気に噴出した。
何か大きな事を成し遂げて、
いつかは親を自分へ振り向かせてやろうと思っていたが、
そんな相手がいなくなった事で、
哀しみと孤独感に襲われていたのだった。
カミーユの主張を一言一句聞いていたエマや
レコアは彼の苦悩を肌で感じ、部屋の中が
一瞬静まり返るもクワトロが静かに口を開けた。
「良くわかる話だが…」
「死んだ親のことは言うなというのですか!?」
「そうだ。
そして、次の世代の子供達のための
世作りをしなくてはならない。」
#14
傷付くカミーユに気遣う様子もなく淡々と答える。
傷付いて泣いている場合ではないという事を
クワトロは敢えてカミーユに伝えたかった。
どんな事があろうと前を向いて生きるしか無いのだと、
本当の彼という存在が持つ数奇で壮絶な過去が、
クワトロ・バジーナという仮初めの男に言わせていた。
「僕にそんな責任があるわけないでしょう?」
「いや…あるな。」
「大尉は僕の何なんです…?
目の前で二度も親を殺された僕に…
何かを言える権利を持つ人なんていやしませんよ!」
感受性の強いカミーユは落ち着きを失っており、
クワトロの真意を窺い知る事が出来なかった。
彼の言葉を理解出来ず余計に混乱する頭が
全てを拒絶しているかのようだった。
「…シャア・アズナブルという人のことを知ってるかな?」
一瞬間を置いて、クワトロの口から言い放たれた言葉に
エマとレコアがぴくりと反応していた。
カミーユも同様に彼の言葉に反応を示した。
「…?尊敬してますよ。
あの人は両親の苦労を一身に背負って、
ザビ家を倒そうとした人ですから。
でも組織に一人で対抗しようとして敗れた馬鹿な人です。」
「正確な評論だな。
が、その言葉からすると
その人の言うことなら聞けそうだな。」
カミーユらしい独特の口振りで、
落ち着いてカミーユの言葉にクワトロは
耳を貸して答えるとクワトロの口角が僅かに上がる。
#15
「クワトロ大尉…。」
自分はシャア・アズナブルであるという事を
暗に示唆しているような口振りにレコアは驚いていた。
エマもそれは同じだったようで、
言い表すのが難しい『何か』をエマは彼に感じていたからだ。
しかし、カミーユはそれを気にする様子も無かった。
というよりも、悲劇のヒーローとなった自分に
少し酔いしれているのかもしれないと思う程に、
何を言っても反発していた。
そんなカミーユを気にも止めずに、
まるで自分に言い聞かせるようにクワトロは続ける。
「その人はカミーユ君の立場とよく似ている。
彼は個人的な感情を吐き出すことが事態を突破する上で
一番重要なことではないのかと感じたのだ。」
「聞けませんね、僕にとってはもうエゥーゴも
ティターンズも関係ないって言ったでしょう!?」
カミーユはそう言い放つと、勢い良く立ち上がり
目に涙を浮かべて部屋を飛び出し、
扉が開くと表で待っていたハヤイーが驚いて、
走り去って行くカミーユの背中を見ていた。
「…あんなことを持ち出して彼を
説得するなんて上手じゃありませんね。」
「そうだな…俗人はついつい
そういう事を言いたくなってしまう嫌な癖があるのさ。」
レコアの言葉にクワトロ自身、
柄にもなくカミーユに入れ込んでおり、
少々感情的になっている事に気付いたが、
ニュータイプの革新を夢見るクワトロにとって
カミーユ・ビダンという少年はそれほどまでに
期待を寄せるほどに価値のある存在だったのだ。
#16
先の戦闘において初めての空間戦闘というものを体感して
キラは《ストライク》の調整をようやく終わらせた。
ヘリオポリスでの戦闘と違い、
完全なる無重力とではまるで感覚が違っていて
複雑化していたOSをさらに変えて、
空間戦闘向きの数値へと調整していたのだった。
これをすんなりとやれるキラを見ていたマードックは、
ただ呆気に取られていた様子だった。
その調整がちょうど終わった頃に、
ブリッジから出撃後に必要な報告書を提出するように施された。
キラはそんな物が必要なのかと思い、少々面倒だったが
報告書のまとめ方をムウから教えてもらい
書き終えた書類を手にブリッジへ向かっていた。
無重力ブロックであるブリッジへ繋がるエレベーター近くの
連絡通路をリフトグリップを握って進み、
後ろから聞き慣れた声がして振り返ると
そこにはトールらカトーゼミの面々がいた。
「あ…!トール、みんな。」
「馬鹿野郎!急に飛び出して戦いに行くなんてよぉ!」
会うなりいきなりトールがキラに叫んで床を軽く蹴り、
体を直進させて近付いてキラの肩口を手で押さえると、
慣性で前に進もうとする自分の体を止める。
「ご、ごめん…」
キラの気弱な性格なのか反射的に平謝りをするも、
トール達が着ている服装に目が行くと
「…どうしたの?その格好?」と聞いた。
#17
トール達が着ているのは、
紛れもない連邦軍の制服だった。
キラの着ている少年兵用の水色の軍服に、
ミリアリアはピンク色の軍服を身に纏っていた。
面々の中にフレイの姿だけが無かったが、
とにかく何故こんな格好をしているのかが気になった。
「僕達も艦の仕事を手伝おうかと思ってな。」
キラの問いにサイがいの一番に答え、
「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ。」
カズイが少し緊張しながらも、
自分の着ている軍服をさすりながら答えた。
キラは二人の言葉に慌てた様子で、
「で、でも危ないよ…!」と言うと、
「それはこっちの台詞よキラ!私達びっくりしたんだから。」
そう言ってミリアリアが可愛くむくれた表情を見せて
腰に手を当てながら片方の手で、
キラに指差すジェスチャーを見せると、
キラはくぐもった声で「ご、ごめん…ミリアリア。」
と言って、まるで染み付いた口癖のように謝っていた。
どうやらサイ達は戦闘の後にしばらくしてから
ブリッジに押し入ってラミアスに艦橋要因として
手伝わせて欲しいと懇願していたのだった。
報告書をまとめてブリッジにいたロベルトからは
すぐに反対されたようだが、
アナハイム高専に次ぐ名門校であるモルゲンレーテ高専の
各分野における機械工学を専攻していた彼らは、
確かに少しは役に立つ知識も持っていた。
#18
それを必死に売り込んだサイ達の押しに根負けしたのか
ラミアスがブレックスの指示を仰いだところ、
予てから《アークエンジェル》の人員不足を懸念していた為、
彼らを志願兵とする処置をとった。
しかもブレックスは、もし《アークエンジェル》艦内に、
協力したいという者が今後出てきたら、
その判断は艦長であるラミアスに一任するとまで言った。
一見すると無責任とも言えるように感じるが、
ブレックスも彼らの人となりを僅かでも知っての判断だった。
地上でエゥーゴと連携を密に取っている
反地球連邦組織の一つに『カラバ』という組織がある。
そこでは民間人も戦いに参加しているという事実もある。
今回はその事例に沿って…といったスタンスであり、
ティターンズから鞍替えしたエマ・シーン中尉とは
状況は違うという考えがあったようだ。
但し民間人が除隊を希望した場合はそれを拒む事なく
即座に受理し、然るべき場所と然るべき時において
退艦させる事を必須事項として許可を出した。
《アーガマ》のブリッジでブレックスとラミアスの
一連のやり取りを聞いていたブライトは、
一年戦争時の自分と今のラミアス。
そして《アークエンジェル》の白亜の船体を、
《ホワイトベース》と重ね合わせて、
どこか懐かしさを感じ、共に戦った盟友を思い出していた。
#19
「でも…なんで…?」
キラは言葉足らずに一言でみんなに問いかける。
「実はさ、俺達フラガ大尉に直接聞いたんだよ…。」
「…あのカプセルにいた人って人質で
カミーユさんのお母さんだったんだろ…?」
と、トールとサイは途端に曇った表情で、キラに質問を返した。
「うん…僕もさっきロベルト中尉から聞いたよ…。」
キラも思い出したくないような、
あの残酷な光景がフラッシュバックしていた。
《アークエンジェル》に身をよせる民間人の数人は
トイレに駆け足で向かって嘔吐する程であり
暫くはあの光景は目に焼き付いて離れずに、
魘(うな)される日を送るのは間違いなかった。
サイ達は戦闘を終え帰艦したムウに、
その事を聞いたようでムウは答えないようにしていたが、
隠すような事でもないかと思い、ありまま、
あの時起きた事を彼らに話をしていたようだ。
「私もみんなも…ティターンズのあんなやり方に
黙ってられないって思っちゃってさ…。」
「そういう事だよキラ。
飛び出して行ったお前と同じようなもんだって。」
ミリアリアとトールがいつになく真剣な眼差しでキラに言った。
その二人の真剣な言葉に呼応するかのように
「だからやれる事をやろうってみんなで決めたんだ。」
「キラにだけ怖い思いはさせられないからね…。」
サイとカズイも自分を奮い立たせるかのように
キラに自分達の思いを伝えた。
#20
するとブリッジに繋がるエレベーターを降りてきた
チャンドラU世がサイ達を見つけるなり
「こら!お前達こんな所で油売ってたのか!?
着替えが終わったんなら早くブリッジに来い!」
と、肩を強張らせるような歩き方で近付き声を張り上げた。
「あ、もう行かないと。」
「キラもブリッジに行くんでしょ?」
サイがチャンドラの言葉に従うように体を直進させ、
ミリアリアがキラに聞いて
「うん。」と一言だけ頷いて返すと、
チャンドラのいる方へ皆で歩き出し、
小さなエレベーターに乗り込んでブリッジへと向かった。
急造ではあるものの、
ブリッジはようやく必要最低限の頭数を確保する事が出来た。
交代要員がいない事は仕方が無いという事ではあったが。
ミリアリアはモビルスーツ管制オペレーターで、
サイは索敵担当オペレーターとなった。
航行管理をする為のメインブリッジでは
カズイがレフトオペレーター担当となり、
トールは副操舵士を担当する事になった。
階級についてはカミーユと同じく、
志願兵扱いである為にまだ与えられていないが
モビルスーツパイロットであるキラは准尉。
サイ達ブリッジ担当は二等兵からの階級が予定されていた。
彼らは意気揚々とやる気に満ちていたものの、
これから先に待ちうける様々な困難と戦争という現実を
まだ知る由もないのだった。
支援
#21
「カミーユ…!!カミーユったら!」
「出て行ってくれ…一人にして欲しいんだ。」
カミーユは薄暗い自室のベッドの布団に被さって
体を揺するファの呼び掛けに応じず、
振り向こうともしていなかった。
「カミーユを放って一人になんて出来ない!」
応じないカミーユに尚も食い下がっていると
目の前でカミーユ勢いよく体を起こす。
「ホントにいいってば!!
親を無くした僕の気持ちなんか分かるわけないだろ!?
だから出て行ってくれよ!」
体を起こしてカミーユはファに対して声を荒げて
突き放す言葉を浴びせ、再び布団に潜ってそっぽを向いた。
暫くの沈黙が続いたが、ファはつまり気味の声で、
唐突にカミーユに語りかける。
「ねぇカミーユ。私ね…ブレックス准将から聞いたの…
捕まったお母さんとお父さんがどうなったか聞いたのよ…?」
目を閉じてそっぽを向いていたカミーユは、
ピクリと反応して目を開けると体を起こして、
体ごとファの方へと向けると、ファは大粒の涙を流していた。
「……殺されたの…カミーユを庇って…」
ファの口から出た言葉は衝撃的な事実だった。
カミーユの心臓の鼓動は早くなり、
体の芯が熱を帯びて行くのを感じていた。
#22
「ティターンズからどんなに追及されても…
どんな些細な事でも何も答えなかったって…。
お母さんとお父さん…カミーユの事が大好きだったから…
だから何も言わなかったのよ…!!」
ファは溢れ出る涙を拭わずに声を張り上げていた。
ブライトはブレックスに嘆願して、
グリプスに潜む諜報部を使って、ファの両親の安否を探らせていたのだが、
その結果はあまりにも残酷だった。
ティターンズはユイリィ夫妻を幇助犯だとして、
反逆罪と見なされ裁判にかけられる事なく、
民間人であるにも関わらず銃殺刑に処されたのだった。
仕事にのめり込む母や女に狂っていた父の代わりに、
ユイリィ夫妻は愛娘の幼馴染である
カミーユの面倒をよく見てくれていた。
彼女の言葉を聞いたカミーユは何かの冗談だと思い、
「…う、嘘だろう?…」
と、言って動揺を隠せないでいた。
しかしファは、「嘘じゃない…!」
と叫んで動揺するカミーユの言葉に被せる。
自分がティターンズのジェリド中尉に殴りかかり
騒ぎに乗じて《ガンダムMk-U》に乗り込んだ挙句、
エゥーゴに参加した自分を彼女は憎んでいるんじゃないか?
そう感じたカミーユは
「僕が…憎くないのかい?
僕がガンダムに乗ったりしなかったら…」
と言って、泣き崩れるファへ恐る恐る問うた。
#23
「……憎くなんてないわ…私は誰も憎まない…!
でもカミーユがそんなんじゃ…
私はどうしたらいいのか分からないのよ!!」
ファは感情のままに
思いの丈を言い放ち部屋から飛び出して行った。
カミーユは彼女を追いかけるでもなく、
悲劇のヒーロー然としていた己の情けなさに嘆いた…。
ーーーーー
〜地球・シアトル〜
旧アメリカ合衆国で唯一
旧世紀時代の戦争被害に合わずに当時の文化の面影を残す
このシアトルの市街地の裏路地には、
ひっそと佇むバーがあった。
昼間とあって準備中となっているものの、
スーツを着た男が迷いなく店の扉を開き、
カウンターにいるマスターと目が合う。
マスターは厨房の奥へと進むように首をくいと動かして
合図をすると、男は黙って頷いて歩き出して厨房に入ると
厨房の奥には突き当たりに頑丈そうな鉄扉がある。
その扉は見れば誰もが大型冷蔵庫か何かの扉だと答えるはずだ。
しかし男はその扉を開けると眼前に広がるのは
まさに部屋と呼ぶべきそれがあった。
薄暗い部屋には真ん中にテーブルとソファ。
壁には無数のモニターがあり、
このバーの周囲500メートル以内の
監視カメラの映像が映し出されていた。
そして男は一人ソファに座っていた若い男に声をかけた。
#24
「ようジェス、待たせたな。」
「あ、カイさん。
いやぁ、忙しいのに呼んじまってすいません。」
怪しい雰囲気のバーに怪しい部屋。
そんな場に似つかわしくない
気さくな挨拶を交わしたのはカイ・シデンと、
若手の戦場カメラマン、ジェス・リブルだった。
「全くだ。で、大スクープってのは何だ?
俺を呼び出したからには飛び切りのネタなんだろ?」
カイ・シデンはジェス・リブルからの連絡を受けて、
ジャブロー行きの日程をずらして彼との接触を図った。
ジェス電話やメールでは話せない内容だと言って
何か大きなネタを掴んだと察知したカイは
ジェスへこの店で待ち合わせるように指示を出していたのだ。
カイは早速、ジェスに呼び出した理由に値する
特上のネタなのかどうか皮肉っぽい口調で聞いた。
「ネタとかスクープとか…そんな生易しいモンじゃないですよ。」
そう一言返した陽気で明るい性格らしい
ジェス・リブルの顔が途端に険しくなり
「…何?勿体ぶらずに早く見せろ。」
と、カイはどこか殺気立った空気を肌で感じて
同様に表情が鋭くなりジェスへ要求する。
「…これです。」
ジェスが胸のポケットから取り出したのは
コピー用のデータディスクだった。
それをテーブルに置いてあるパソコンの
ディスクドライブにセットしてディスクを読み込ませ、
数秒の後にパソコンモニターに映った映像を目にして
思わず身を乗り出して絶句した。
#25
というよりも異常なほどの怒りを感じていた。
その怒りを感じた対象はティターンズに他ならない。
映像には『30バンチ事件』に関する重要な証拠だった。
カイのような反ティターンズ派のジャーナリスト達には
『30バンチ事件』の概要は知っていたものの、
映像として残っている物を見るのは当然初めてだった。
ティターンズが秘匿していたと思われるこの映像は
ティターンズの最高機密である事は明らかだった。
「…これはどこで手に入れた?」
映像を最後まで見るまでもなく、
カイがジェスに聞くと、
「……俺の知り合いの戦場カメラマンの
知り合いが持っていたようです。
持ち主は紛争地帯で死んだらしいんですが…」
と、ジェスは映像を見ながら問いに答え、さらに続ける
「実はこれはコピーなんです。
元の記録媒体は遺品と一緒に息子に渡したらしいです。
息子は成人したばかりの連邦兵だと聞いてます。」
それを聞いたカイは、
腕を組んで何か考え込み「まずいな…」と言うと、
「…何がです?」
ジェスが怪訝な表情で聞いた。
「俺は予定通りに南米へ向かうが、
お前はそいつの居場所を慎重に探ってくれ。」
「身辺を?どういう事です?」
カイはいきなりジェスへ指示をしだすと、
ジェスは何が何だか分からないというような顔で
カイの考えが何なのかを問うた。
#26
「記録媒体を持ってるその息子はこれを見たかもしれん。
要するに狙われてる可能性があるって事だ。」
「狙われる…?…ティターンズにですか?」
ジェスの顔が一気に緊張に包まれる。
カイは「そうだ。」と言って頷くと、
「そいつは今、世間に公表しちゃまずいモンだ。
お前も下手に見せびらかしたりメディアに流すなよ?
確実に命を狙われるからな。」
と、ジェスに警告を促すようにまくし立てる。
何故、公表してはいけないのか?
と頭の中でジェスは考えたが、
確かにティターンズは連邦軍を掌握しており、
メディアすらも味方に付けている状態だと、
この情報も表では戯言だとして所詮アングラ物扱いされ、
その裏ではカイの言うようにティターンズが
間違いなく秘密を知った者を消しにかかる事は
想像に難しくなかった。
「嫌な予感が当たらなきゃ良いがな…
店から出た時点で周りに神経を張り巡らせておけ。」
「…分かりました。」
カイの緊張感の伝わる空気に、
ジェスは軽く生唾を飲んで返事を返しつつ、
やはり一年戦争の英雄であるカイ・シデンの
言い知れぬ凄みというものを感じていた。
カイはジャブローへと向かう為、
ジェスと行動を共にする事は難しかった。
その代わりに腕利きの用心棒を用意してくれるらしく
3日後にこの場所と時間で合流してから動くように指示をした。
ジェスはくれぐれも慎重に動くように念を押すように言われた。
こちらの動きが察知されれば、
ティターンズに引っ張られる危険があると
ジェスに警告して店を後にしたのだったーーー。
今回はこれで終わりでございます。
短いうえに中途半端な終わり方ですいません。
ZやSEEDの小説読んでませんので、
基本的には自分なりの独自解釈で書いてます。
GJ!!
カイとのジャーナリストつながりでジェスキター!
そして元の映像受け取ったのって刻に抗いし者の主人公ヴァン君じゃないですかー。
マタ・ビリヤラクシャサとかいい敵MAだけに出番に期待。
投下乙!うおおおすんげえ盛り上がってキタ――(゚∀゚)――!!
カイとジェスは同業者だから当たり前のように繋がりあるんだよなあこの世界
こういうのがたまらん
カミーユの親の恵まれなさは異常。
盟主王の役割が気にある。
ウオンさん的ポジションで
アクシズと交渉・・
923でございます。
今回はちょっと内容的にやり過ぎたかな…
という感じですが一応、投下を開始します。
#1
第15話_「激戦の序曲」
0087.03.11
《アーガマ》を追跡する《アレキサンドリア》に
バスクの命により要塞アルテミスからビスケー級補給艦と、
アルテミス駐留部隊ルナツー艦隊所属
ティベ級《ブラックウィドウ》、
僚艦であるネルソン級《エストック》と《マンイーター》、
同じくアルテミス駐留T3部隊ティターンズ艦隊所属の
アレキサンドリア級《アスワン》が合流していた。
エゥーゴによって《ガンダムMk-U》を
全て奪われたという報告を受けたジャミトフが、
ティターンズ製ガンダムの一つでもある
《アスワン》を母艦とする《ヘイズル》を運用している、
ティターンズ・テストチーム、T3部隊に白羽の矢を立て
対抗策として《アレキサンドリア》へ合流させたのだった。
「まさかこのような部隊を寄越すとは…」
合流した艦艇を見たガティは、
予想外の役者の登場に面喰らった様子だった。
「それだけ本気なのだろう。」
ジャマイカンはいつもの調子で言ったものの、
バスクからはこの部隊が来るとは聞かされていなかった。
そもそもこの部隊を寄越すように根回しをしたのは
ジャミトフだという事はバスクが自身の面目を保つ為に
ジャマイカンにも明かしていなかった事だった。
#2
そんなジャマイカンはよりによって、
自分よりも階級が上の者がいる部隊を寄越された事に、
内心は苦虫を噛み潰すかのような思いで
そんな度量の小さい考えを持つ自分を恥じる事すらしなかった。
一方でガティは《ブラックウィドウ》にいるであろう、
人物になるべくならば会いたくないと密かに思っていた。
「ジャマイカン司令、
《アスワン》のペデルセン大佐から通信です。」
オペレーターのブト少尉がそう言って
気まずそうにジャマイカンの顔色を伺う。
ジャマイカンは心の中を部下達に悟られないように
平静を装いながら「繋げ。」
と、だけ言うとブリッジのメインモニターに
《アスワン》艦長のオットー・ペデルセン大佐の顔が映る。
「ジャマイカン少佐、随分と苦しめられているようだな?」
「は。ザフトからの横槍は予想外でした。」
ティターンズ本隊のバスクの腹心であるジャマイカンも、
ティターンズの大佐という肩書きを持つ
ペデルセンの前ではいつもの横柄な態度は控えていた。
「不測の事態は常に起こると想定すべきだったな。
バスクは尻尾を巻いて逃げたと聞いたが。」
ジャマイカンに対して皮肉たっぷりに言うと、
ブリッジの空気が一瞬にして固まる。
するとジャマイカンの眉が一瞬ピクリと動き表情が強張る。
#3
「…私がグリプスに戻るよう申し上げたのです。
全てはバスク閣下の御身の為です。」
と、ジャマイカンは屈辱的な思いをしつつ答えると、
「末端の部下達にもそのように挺身(ていしん)してやれば
バスクに取って代わる事が出来るぞ?ジャマイカン少佐。」
とペデルセンは更に皮肉を重ねると、
ますますブリッジの空気が重くのしかかり
そのやり取りを見ていたガティ達は息苦しさすら感じた。
「今回は本隊であるそちらに指揮権がある。
少佐、お手並み拝見とさせてもらうぞ?」
ジャミトフからの直命を受けたとはいえ、
本隊への編入とはなっていない《アスワン》は
あくまでも《アレキサンドリア》の支援という形だった。
「…相手はたかだか3隻です。
これだけの数は必要無いと思いますが。」
ジャマイカンはまるでペデルセンを
邪魔者扱いするかのような口振りで婉曲(えんきょく)するが
ペデルセンはそんな浅慮(せんりょ)な腹の底を見せる
ジャマイカンを見透かすかのように
「傲(おご)りや敵を知ろうとしない者は愚かな失敗を重ねる。
君もバスクもそれを理解すべきだな。」
と言って、刃物のような鋭い眼光と
急所を突くような論述でジャマイカンの言葉を一蹴した。
「…は…。肝に銘じておきます。」
ジャマイカンは下手な事を言ってしまったと思い、
取り繕うように言うと、ペデルセンは通信を切った。
#4
張り詰めた空気から解放されたブリッジクルー達はいつの間にか
ジャマイカンに聞こえないように小さく息を吐いていた。
彼らも心の中ではバスクやジャマイカンの無能ぶりには
少しは辟易(へきえき)している節があったようだ。
※ ※ ※
クワトロの部屋でシャワーを終えたレコアは
タオル一枚を体に巻いてバスルームから出ると、
ベッドへ横になっているクワトロに向かって歩み寄り
タオルを外してベッドの中へ身を投じる。
クワトロにその滑らかな肌を密着させると、
彼女は唐突にクワトロへ疑問を投げかける。
「大尉はカミーユに冷たすぎるんじゃありません?」
「…私としてはこれでも甘やかしているとは思うが。」
男と女だけの空間になった部屋のの中でする会話ではなかった。
カミーユは《アーガマ》に乗艦以来、
クワトロからの頼みにより、レコアは
カミーユの面倒をよくよく見ていた。
カミーユも軍人とはいえ綺麗な歳上の女性が
側にいてくれていたのは悪い気はしていなかったようで
何かと頼りにしていた部分はあった。
レコア自身もカミーユが頼りにしてくれているのは
分かっていたせいでジャブローへと赴く今は
とにかくカミーユが心配でならなかったようだ。
#5
「あの子はとても繊細です。
あなたが言うほど強くはないと思います…」
「分からない話ではないが…カミーユの選んだ道だ。」
クワトロの返す言葉に、
しかしーーーと、返したかったのだが
彼は淡々と言葉を重ねて行く。
「彼が前を向く事を信じるしかないさ。
復讐心に染まる事だけは避けねばならないが…」
ベッドの中で密着させている身体に感じる熱は、
クワトロの言葉の冷淡さによって冷めてしまいそうだった。
しかしクワトロ自身はその言葉とは裏腹に、
カミーユを気にかけていた。
レコアも他人に興味を示さないクワトロが
本心はとてもカミーユを心配してくれているのは分かっている。
だからこそクワトロからその体を離そうとはせずに、
レコアは体を起こしクワトロの体の上に股がり
自身の体を露わにしてどこか寂しそうに言葉を投げる。
「…貴方という方は自分にも他人にも厳しいのね…」
「そうでなければこんな時代を生きていく事などできん…」
レコアはその言葉を聞くと、
熱を持った体をクワトロの厚い胸板に預け、
甘えるように口づけをすると体を交わせたのだったーーー。
「ティターンズが?」
ブリッジに立つヘンケンが、
少し怪訝な表情で報告を聞いていた。
先の戦闘で撤退したが、
どうやら再び追って来ているようだった。
戦闘宙域からは離脱したものの、
《アーガマ》の光学センサーとカメラが、
僅かながら引いたはずのティターンズの動きを捉えていた。
#6
「ブライト艦長、どう思います?」
「やはり体制を立て直した可能性は大きいな。」
彼の癖なのか顎の髭を摩りながらブライトに視線を向け聞くと、
冷静にブライトもこの状況を分析するように答えた。
ヘンケンは「そうですね…」と一言だけ言葉を返す。
あれだけの被害を受けていながら、
尚も追って来るならそう見るのが妥当だった。
ティターンズとザフトを退けたあの戦闘から、
ティターンズの監視防衛衛星を撃破しながらの航行で、
1週間近くが経とうとしていたものの
特にトラブルも無いまま順調な航海を続けていた事もあり
若干の緊張が緩くなっていたのだ。
そこでティターンズの動きを推測したブライトの言葉を聞いて
ブリッジ一同からは少しばかり緊張が走り、
襟を正すような感覚を覚えた。
「やはり…やるのか?」
「リスクはありますが准将は決行するつもりです。」
この状況でカプセルを降下させるのは
レコア中尉にも艦隊にもかなりのリスクが伴うな…。
そう感じたブライトは不安を隠さずに
強張らせた口を開いてヘンケンに問うと、
ヘンケンも同じ気持ちなのかブリッジから見渡せる
青い星を目を細めて眺めながら答えた。
降下座標を正確にする為には艦の足を止めて、
敵を迎撃する必要が出る今回の作戦は
相当な危険が及ぶとブライトは予想していた。
#7
「現有戦力では少し苦しいな。
ティターンズが速度を落としたのは
間違いなく補給か増援部隊とのランデブーの影響だろう…」
ジャブロー降下ポイント上には太陽電池衛星があり、
これの破壊も同時に行わなければならず、
もしもティターンズが攻めて来た場合は、
モビルスーツ部隊を分散させる必要があった。
太陽電池衛星の防衛隊にも数機のモビルスーツはいるだろうし
ティターンズと防衛隊からの挟み撃ちを受ける形になる為、
ブライトの心配も一入(ひとしお)といった様子だった。
そんな中ブリッジの扉が開き、
ブレックスがブリッジにやって来ると開口一番に
「ブライト艦長、ヘンケン中佐。
なんとかなりそうだ。」
と言ってその言葉に反応したヘンケンが、
「どういう事でしょう?」と、ブレックスの方へ体を向けて聞く。
「こうなる事は予想出来た。
そこでヘリオポリスの時後処理を任せていた《トルネード》と、
L1宙域付近で新型モビルスーツのテストを行っていた
《スルガ》に増援要請を出しておいた。」
ブレックスはその言葉通りに、
ティターンズが執拗に追いすがるのは予想出来ていたようだ。
まだ宇宙の戦いに慣れていないティターンズは
どこかで必ず戦力の増強を図ると見ており、
先の戦闘で惨敗した結果を見れば、
次の戦いではそれ以上の戦力で落としにかかると
読むのはブレックスにとってそう難しい事では無かった。
#8
ナタルにブリッジを任せて休息中のラミアスは
食堂でムウと食事を取っており、
「増援が?今から間に合うのか?」
と言うとムウは食事の手を止めてラミアスの顔を見る。
《アーガマ》からの報告通り《アークエンジェル》からも
速度を落としているティターンズ艦隊の動きを捉えており
ブライトからはブレックスの手配したという
増援との合流があるという事はラミアスは聞き及んでいた。
「戦闘前のランデブーは難しいそうです。」
「どちらにせよ《アークエンジェル》は前線に出る事になる…か。」
「ええ。今までより激しい戦闘になるわ…。
あの子達…大丈夫かしら…。」
ラミアスの心配事はまさにそこだった。
ブリッジ要員とはいえ、
初めての戦闘を経験するサイ達を気にかけていた。
「やるって決めたんならやってもらうしかないだろう。
キラだって次も出るんだ。あいつらも奮起するさ。」
ラミアスの心配をよそにムウは前向きだった。
予定までの約1週間近くの間は彼もブリッジで
彼らへの指導を買って出たのだった。
※ ※ ※
《アレキサンドリア》に合流した増援部隊の艦艇から
次々とランチが《アレキサンドリア》に到着する。
「ご苦労様です!」
誘導員がランチから出た、《ブラックウィドウ》の指揮官
ダクザ・マックール少佐に敬礼をして迎える。
#9
「ダグザ少佐!」
ランチから出たダクザを読んだのは、
同じルナツー艦隊所属のライラが出迎えに来ていた。
「ライラ大尉か。中々苦戦しているようだな?」
「は。予想以上に懐は深いようです。」
ダグザ少佐はティターンズとは違う
正規軍が設立予定のジオン残党狩り部隊への
編入が予定されているエリート兵だが
軍を好き勝手に動かすティターンズを敵視している一人だった。
「《アスワン》のT3部隊が君用に《ガルバルディβ》の
高機動タイプを運んで来たらしい。後で調整をしておけ。」
ダグザはそう言うとライラは「はっ。」と返事をしていると
もう1機のランチが到着して来た。
そのランチにはジャマイカンやガティなど
ノーマルスーツを着た多くのクルー達が出迎えると、
ランチから《アスワン》のオットー・ペデルセン大佐と
モビルスーツ隊のT3部隊が出て来た。
「大佐、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
と言ってジャマイカンは敬礼をした後、ペデルセンと
T3部隊隊長のウェス・マーフィー大尉を司令室へと連れて行った。
「へぇ。やっぱり《アスワン》とは
ランチ用の着艦デッキが違うんだな。」
「《アスワン》はそれだけ特殊なのよ。」
T3部隊のエリアルド・ハンター中尉と
オードリー・エイプリル中尉が艦内を見回して話をしていると、
カール・マツバラ中尉が二人の会話に割って入る。
#10
「しかしたった3隻相手に苦戦してたんだろ?
実戦部隊の本隊ともあろうものが情けないねぇ。」
カールは何気なく皮肉を言うと、
《アレキサンドリア》クルー達の視線が一気にカールに集まり、
「ちょっとカール…」とオードリーが
刺すような視線に気付かないカールに言うと、
「おい貴様。今なんて言った?」
「今の言葉は聞き捨てならんな。」
案の定、カールに詰め寄って来た二人の男がいた、
その二人はジェリドとカクリコンでかなり腹を立てていた。
言わんこっちゃない…。と、
オードリーは頭を抱えてこの場にいないマーフィー大尉に
助けを求めたい気分でいるとエリアルドが、
慌ててジェリドとカクリコンを宥めようとその場を取り繕う。
「…誰だ?あんた達。」
カールは詰め寄って来た二人に涼しい顔で名前を聞いていた。
皮肉屋な性格が血の気の荒いジェリドやカクリコンの
逆鱗に触れてしまったが、カール自身に悪気は無かったようだ。
カールの悪びれる様子のない態度に火に油を注がれたジェリドは、
「試験部隊のくせに態度がなってないなモンキー野郎。」
と言って皮肉どころか差別的な言葉を浴びせると
カールの眉がピクリと動き表情が険しくなる。
「…その階級章…へぇ。
もしかしてあんた達がジェリド中尉とカクリコン中尉か?
せっかくの新型ガンダムを盗まれたとかいう。」
見下すような口振りのジェリドに対して、
更に皮肉を重ねるカールの一言で場の空気は一気に殺気立つ。
#11
「…っ貴様!!」
「調子に乗るな!」
完全にきれたジェリドとカクリコンは
カールに向かって拳を振り上げるとオードリーと
エリアルドが止めに入ろうとすると、
ジェリドとカクリコンは後ろから突然腕を掴まれた。
「そこまでだ。」
「ダグザ少佐…!?」
明らかに太い腕でカクリコンの腕を掴んだダグザと、
ジェリドの腕を掴んだライラか二人を制止する。
「…!?俺を止めるな!」
「よしなジェリド中尉!」
「…くっ。」
掴んだ腕を振り払おうとするジェリドだが、
暴れるジェリドを彼女が突き飛ばすとジェリドの体が少し浮く。
「エリート部隊ならもっとそれらしくしたらどうだ。
ここは学校ではないのだからな。」
ダグザがそう言うとジェリドやカクリコンを睨みつける。
その凶悪にも見える表情から圧力を感じて二人は歯を噛んだ。
ダグザはカールにも鋭い視線を送ると
「申し訳ありませんマックール少佐。」
と言って頭を下げエリアルドやオードリーもダグザに頭を下げる。
「大尉、行くぞ。」
ダグザは艦内へと続く通路へと向かって行き、
カールの肩をポンと叩きライラもダグザを追った。
ジェリドはカールを睨み聞こえるように舌打ちをして
カクリコンと共にデッキを後にした。
#12
ラグランジュポイント・L1に
ほど近い宙域に浮かぶ花の形をしたような鉄の構造物。
エゥーゴがアナハイム社から貸与されている
ラビアンローズ級自走式ドック艦
《ロサ・ギガンティア》の周辺宙域に
スラスターの白い炎を噴かして激しく動き回る
4機のモビルスーツが模擬戦を行っていた。
白い《リック・ディアス》に乗る少女、
アスナ・エルマリートはコンソールに映る照準器で、
動き回るアナハイムの新型ガンダム《ブロッサム》を狙っていた。
生唾を飲み込みこめかみからは汗が滲む中、
強張った親指でグリップのボタンを2回、3回と押すーーー。
《リック・ディアス》の構えるビームピストルからは
訓練モードの為、ビームは発射されないが
発射をした時のようにエネルギーCAPの残量が表示される。
しかし命中を知らせる音は鳴らず、「…っ早い!」と、
思わず素早い動きを見せるガンダムをメインモニターで凝視した。
「なんだよ畜生!!」
「早すぎですよ隊長!」
2機の《ジム・カスタム》に乗る、
ゴーローとシェルド・フォーリーがそう吐き捨てながら
《ブロッサム》を必死に追いすがるが、
「無駄口を叩くな!!」
と彼らの乗る2機の《ジム・カスタム》のコックピットに
《ブロッサム》のパイロットであり、
このハロウィン小隊を率いる隊長である
ジャック・ベアード中尉の声が響く。
#13
シェルドは冷静さを取り戻せずにいると、
機体がロックオンされた警告音が鳴り「あ!ヤバい…!!」
と、慌ててフットペダルを踏み込み動きながら
モニターで周囲を見回すものの、
相手がどこにいるか分からずにやみくもに動きまわる。
すると、「後ろ!!」とアスナの声がシェルドの耳に入る。
しかしその刹那、被弾し撃墜を知らせるブザーが鳴ると、
シェルドは「や…やられた…。」と言って、
リニアシートに背中を預けてヘルメットを取り汗を拭い、
後ろを振り返りモニターを見ると、
ビームライフルを構えた《ブロッサム》がいた。
「目に頼り過ぎだな。その癖は直したほうが良い。
宇宙空間では相手の気配を肌で感じるんだ。」
「す、すいません…。」
バイザーを上げて通信モニターに映るベアードの表情は
言葉とは裏腹に厳しくは見えなかったが、
シェルドはあまりに不甲斐ない自身の結果に意気消沈していた。
「だが最初の頃よりは良くなって来ている。」
彼は軽くフォローすると次にアスナへ声をかける。
「《リック・ディアス》にはだいぶ慣れたようだな。
《ブロッサム》でなければ落とされていた。」
《リック・ディアス》のアスナにも
シェルドに見せたような表情でそう言うと、
アスナはモニター越しに映るベアードに軽く微笑んで見せた。
#14
「訓練は終わりだ。帰投するぞ。」
「了解!!」
ベアードが全員に号令をかけると、
《ブロッサム》を先頭したハロウィン小隊は
一斉にスラスターを煌めかせて、
《ロサ・ギガンティア》にドッキングしている母艦
サラミス改級《スルガ》へと急いだ。
「ハロウィン小隊が帰投します。」
《スルガ》のオペレーターが今日は珍しく艦長席に座っている
ベルナルド・フェレ中佐の方へ顔を向けて言うと、
「じゃあ半舷休息な。左舷は休んでおけよ。」
酒を持ち込みだらしなく飲んだくれながら言うと
通信席に通信を知らせる音が耳に入ると、
面倒臭そうに通信席の方へ視線を移す。
「艦長、カーク少佐から映像通信です。」
通信長がコンソールを操作しながらフェレに伝え、
「カークから?繋いでくれ。」
と言うと、《ロサ・ギガンティア》の戦闘指揮官である
クリスティアン・カーク少佐がモニターに映る。
「…?…フェレ中佐、
《ブロッサム》のトライアルは順調そうですね。」
《ロサ・ギガンティア》の通信モニターに映ったのは
ベルナルド・フェレだった事もありカークは少し驚いたが
当たり障りのない言葉でその場を取り繕う。
いつもなら副長がこういう事に応じる上に
艦橋にすら顔を出さない事の方が多かったからだ。
#15
「そうみたいだな。」
フェレは興味が模擬戦の事など全く興味が無い様子で答えた。
どうやら今日は艦橋から望む宇宙を眺めながら
酒を飲みたい気分だったようで、
酒を食らう姿が《ロサ・ギガンティア》のモニターに映ると
カークや《ロサ・ギガンティア》の管制員達も
呆れた表情を隠さなかった。
「で…何か用でもあるのか?」
「…ああ…はい。グラナダのマンデナ少佐から
フェレ中佐へ言伝を受けています。」
グラナダに駐留するエゥーゴのマニティ・マンデナ少佐は
女性ゆえだらしなくしているフェレと関わりたくないようで、
何かと用がある時にはカークや、
《スルガ》の同じ女性な副長を通して話を通していた。
間に挟まれるカークも副長もたまったものではないが、
立場上、仕方がないと思っており渋々それに応じていた。
「マンデナから…?」
フェレはより一層に面倒臭そうな表情をすると
モニター越しにその表情を見ていたカークは
本当に面倒臭いのはこっちだ酔っ払い!!
と、本気で怒鳴りつけてやろうかと思ったが、
ぐっと息を呑み拳を強く握って耐えていた。
「お呼びでしょうか?」
青いノールスーツを着たままのベアードが
ブリッジに赴(おもむ)き辺りを見回す。
「模擬戦ご苦労だったわね中尉。」
ブリッジでそんな彼を待っていたのは副長の
ミハエル・アカレッテ少佐で、
模擬戦を終えたばかりのベアードに労いの言葉をかける。
#16
「はっ。…それで艦長はどちらへ?」
そう聞いたベアードの前で副長がいつもの呆れた表情でいた。
副長によれば、面倒臭さいから副長よろしく。
と言って、艦長室に酒を大事そうに抱えて戻っていったそうだ。
艦長が呼んでいると聞き珍しい事もあるもんだと思い
着替えずにブリッジに急いだベアードだが、
あの人は相変わらずだなと副長同様、呆れていた。
《スルガ》のクルー達は艦長のぐうたらぶりには
だいぶ慣たのだが就任当初はクルー達が
ストライキ未遂を起こしかけた事もあるほど混乱していた。
彼が変わる事をじっと待っていたのだがその様子も無く
変わるなんて事は無いと皆が諦めている。
「…副長、それで用件は?」
「実はグラナダ経由で
《アーガマ》から増援要請が入ったわ。」
「総旗艦の《アーガマ》から…でありますか?」
それを聞いたベアードは
《アーガマ》との合流は月へ到着してからの筈…。
と当初の予定とは違う事に考え込む様子を見せた。
「ええ、ジャブロー潜入作戦によるカプセル降下の際に必要な
防衛戦力の増強を准将は望んでいる。」
副長はそのような要請があった旨を伝え
明確な理由を説明すると、
「ですが…《ブロッサム》のトライアルはまだ…」
と言ってベアードは少し歯切れが悪い様子で答える。
#17
「言いたい事は分かるがこれは准将からの直命だ。
《ブロッサム》のテストと部隊の訓練はここで打ち切るわ。」
ミハエルはベアードの言葉に被せ彼の主張を伏せた。
准将の直命と言われれば反論のしようもない…仕方ないか。
とベアードは納得したようで「了解です。」
と、一言そう言うと敬礼をしてからその場を後にした。
※ ※ ※
ミノフスキー粒子を散布しながら、
ヘリオポリスを離れたエゥーゴが唯一保有する、
ザンジバル級機動巡洋艦《トルネード》は月に向かっていた。
エゥーゴは正規軍のハルバートン准将からオーブ本国経由で
ヘリオポリスの事後処理を依頼されており、
ティターンズや正規軍の調査立ち入りの前に
エゥーゴが関わっていた痕跡を消す作業と、
オーブ本国が保有していた2機の試作機回収任務を
ブレックスは《トルネード》に任せていた。
試作機はエゥーゴの顧客であるサイド1コロニーの
シャングリラを拠点とするジャンク屋に
ジャンク屋の輸送機を用いて回収させており、
GAT-X関連のデータ抹消作業を《トルネード》が行った。
その《トルネード》の艦長を務めるメラン少佐は、
《スルガ》のフェレ同様に、グラナダからの要請を受けて
当初の予定が変更となった為に、
ブリーフィングルームに各部署の責任者と
パイロット達を召集していた。
#18
「《アーガマ》と合流ですか?
予定より1ヶ月以上も早いですな?」
モビルスーツ隊隊長のガブリエル・ゾラ大尉は
《アーガマ》との合流の通達を伝えられると、
率直な疑問をメランに投げかける。
「そうだ。ジャブロー潜入作戦のカプセル降下アシストをする。」
メランはくどくどと言わずに端的に説明をすると、
ブリーフィングルームに集まった一同が
にわかにざわめき立って話を始める。
《アーガマ》のエースパイロット、クワトロ・バジーナ。
彼らにとってはシャア・アズナブルその人に会えるのでは?
という期待に胸を膨らませていた。
「ティターンズもかなり必死そうだな。」
ゾラ大尉は隣に座っている、左の頬に大きな傷痕を持つ
一年戦争時のシャアの部下であるシグ・ウェドナー中尉へ
ティターンズを嘲笑うかのように小さな声で話かける。
「シャア大佐がいる《アーガマ》相手なら無理もありません。」
シグはゾラに対して一言だけ言って返すと
ゾラは全くだ。と、言わんばかりの表情で頷いていた。
《トルネード》のクルーは
艦長のメラン少佐や数人のクルー達を除いて
シグやゾラを含めた大半のクルー達は、
ザビ派であるエギーユ・デラーズに迎合していない
反ザビ派の元ジオン公国兵達だった。
ざわざわとするクルー達に向けて「ブリーフィング中だ。私語は慎め。」
と言ったのは、副長のカザック・ラーソン大尉だった。
#19
彼の言葉にざわめくブリーフィングルームの空気は断ち切られ
メランはラーソンとちらと目を合わせ一同の顔を見渡してから
「ここでお声がかかるのは准将が我々を信頼している証だ。
合流は6日後。
ポイントへ到着した時には既に戦闘中と予想される。
各機の点検や調整は機付班としっかり連携を取るように。」
と、その場を引き締めるように言ってブリーフィングを終えた。
※ ※ ※
「よぉライラ大尉。」
合同のブリーフィングを終えて、
ブリーフィングルームを出たライラは
声をかけられ立ち止まって体を後ろに振り向くと、
そこにはジェリドが立っていた。
「…なんだい?ジェリド中尉。」
彼女を呼び止めたジェリドはご満悦そうな表情で立っており
ライラは一つ息を吐いてから呆れ顔で聞く。
「次は俺が小隊長だからな、よろしく頼むぜ。」
ジェリドがご機嫌な理由はそれだった。
ブリーフィングを始める前に小馬鹿にしていた
正規軍兵を黙らせる事が出来たジェリドは気分が良かったようだ、
「ふん…!どこまで傲慢なのさ。
宇宙での戦いに慣れてもいないくせに…。」
ライラは皮肉たっぷりにジェリドに言い放つと、
ジェリドの表情が途端に曇りライラに詰め寄る。
#20
「何だと?そりゃ一体どういう事だ。
地球でも十分訓練はした!適応能力は高かったんだ。
だからオレはティターンズになれたんだ。」
「適性と対応するっていうことは違うね。」
「…どういう事だ?」
「新しい環境、新しい相手、
新しい事態に会えば違うやり方をしなくちゃならないんだよ。」
ライラの言った言葉にジェリドはざわざわと
身体の底から悔しさというものが込み上げて来た。
痛い所を突かれているはずなのに、
苛立つ事もなく自然と彼女の言葉が耳を通して脳に入ってくる。
「新しいやり方…オレはそうしてきたつもりだ。」
「何も見ていないクセに…何が変えられるものか。」
「オレが何も見ていないと言うのか…?」
「見ていれば《ガンダムMk-U》にだって勝っていただろう?」
ジェリドの心にザックリと刺さる言葉は
図星以外の何物でもなかった。
込み上げた悔しさを振り払いたくなったジェリドは
「くっ…!…お、教えてくれ…オレはヤツを倒したいんだ!」
と言ってライラに更に近付き声を荒げ、
ライラはジェリドに「なぜ?」とだけ聞いてその真意を問う。
「なぜだと!?オレだって
いつかはティターンズをこの手にしたいと思っている!!
そのためには面子を捨てて勉強しなくちゃなんないんだ!」
ライラの目を見て必死な形相を露わにしながらも
ジェリドは自分の思うままの気持ちを吐き出した。
その言葉を聞いたライラは少し考えた後に口を開く。
#21
「本気らしいね…なら次の作戦、ボスニアから発進させな。」
「あなたの船から?」
「ああ、宇宙での戦い方…教えたげる。」
彼女はジェリドの覚悟を受け取り、
次の戦いへの戦意を高揚させた。
※ ※ ※
0087.03.16
《アーガマ》の艦隊は地球軌道上を目指し、
暗礁地帯を進みながら目的のポイントまで
およそ15時間ほどといった地点まで来ており、
それはレコアの地球降下とジャブローへの単独潜入という
極めて危険な任務を目前にしているという意味でもあったーーー。
モビルスーツデッキ近くにある機付員用の
情報室へアストナージがと入ろうとすると扉が開き、
部屋から出ようとしていたカミーユと出くわす。
「カミーユ…。大丈夫なのか?」
「ええ。ハサン先生にもじっとしているより
何でも良いから集中出来る事を見つけろって言われたんで。」
アストナージは少し気を使う風にカミーユへ聞くと、
以前のカミーユに戻っているような気がした。
母親を亡くしてからは軍医のハサンに
メンタルケアを受けている効果が少しは効いているようだった。
#22
「へぇ…そりゃごもっともだ。
で、こんな所で何をしてたんだ?」
「何でもいいでしょ?気晴らしですよ。」
「何だよ。隠す事ないだろ?」
「何でもありませんよ。」
アストナージは中で何をしていたのか
カミーユに聞くがいつもの素っ気ない調子で煙に巻く。
「ったく…それよりお前、
レコア中尉に挨拶しなくていいのか?」
「さっきから質問ばっかりですね…何がです?」
カミーユは少しうざったく感じながらも
何の事かをアストナージへ質問を返す。
「何がって、中尉はジャブローに降りるんだ。
一言くらい礼を言ったらどうなんだ?
お前さんざんあの人に世話になってたろ。」
アストナージがそう言うと、
すっかり忘れていたという様な様子で
アストナージから目を逸らして考え込み、
「…そうしてくれなんて頼んだ覚えはありませんから。」
ぶっきら棒に言い放つちカミーユはリフトグリップを手にして
その場を立ち去って行った。
「まったく…素直になりゃいいのに。」
彼がどこに行くのか大体察しがついたのか、
鼻で息を一つ吐きカミーユの背中を見送った。
#23
居住区を進みレコアの部屋へと続く途中の曲がり角を入った所に
クワトロの部屋の前にいるレコアの後ろ姿を見つけ、
「あ、レコア中尉…」
と、カミーユは視線の先にいたレコアを呼びかけたが、
彼女はクワトロと何やら話をしていた。
カミーユはアストナージの言うように素直に
挨拶をしようと赴いたが、予想外にもクワトロがいたため
カミーユは思わず振り返ってその場から離れて行く。
あれだけ反発してしまったクワトロの前では
レコアに礼を言う事は出来ない。
とつまらぬ意地を張っていた。
その弾みでジャンプスーツのポケットに入れていた
ディスクがこぼれてレコアとクワトロのもとへと流れて来た。
「ん?」
「…カミーユ?」
角を曲がって行く後ろ姿を見たレコアとクワトロは
その人物がカミーユだと気付き目の前に浮かぶディスクを
クワトロが手にするとカミーユを追いかけて行った。
保護観察中のエマがいる部屋の扉がふいにノックされた。
飾りも何もない部屋のベッドに腰を掛けていたエマは
扉の向こうにいるであろう来訪客を確認するために
「どなた?」と、声を出すが応答は無く、立ち上がって
髪を少し整えてから扉を開ける。
#24
そこにはカミーユがおり、エマは
少し俯きがちなカミーユの双眸(そうぼう)を覗き込んで
「なんでしょう…?」
と、カミーユの心の中を読み取ったかのように問うた。
「用がないと…来ちゃいけないんですか?
ただ話をしに来ただけです。」
カミーユも見透かされているような気がして
反発するかのような言葉を彼女にぶつけると
エマは予想通りの反応を見せるカミーユを見て言う。
「…お入りなさい。
ただね…慰めてもらいたいだけならば無駄よ。
あなたと私は恋人でも何でもないんだから。」
エマの口から出た言葉はまさに図星だった。
彼女が敢えて突き放すように言うのは、
自身がまだエゥーゴの正式な一員ではないし
幼馴染のファに素直に泣きつけば良いのに。
とエマは思っていたからだった。
「もういいです!
なんであなたのような方がティターンズになんかいたのか…
それを聞こうと思っただけです!」
カミーユは声を荒げていると、
その声に導かれるようにエマの部屋の前に立つカミーユを
クワトロが見つけた。
「カミーユ、落し物だ。
こんな所で何をしている?」
「…っ!!」
クワトロが差し出したディスクを乱暴に受け取ると
そのまま走り出して
「カミーユ!」
「悪気はないんです、クワトロ大尉。」
彼を呼び止めようとするクワトロを、
エマは静止するように言うとじっとクワトロの顔を見る。
#25
少しの沈黙が二人の間に流れるがクワトロが「話がある。」
と言うとエマはクワトロを部屋に招き入れると
彼は部屋の中を見渡してからエマの方へ体を向けると
彼女はピリピリとした空気を肌で感じて体が少し強張る。
保護観察中のエマを見張っていた観察室に動きがあり、
監視している対象が女という事もあり
監視を担当していたマリア・オーエンス軍曹に呼ばれた
ブレックスとヘンケンが到着したのを確認して
「クワトロ大尉が保護観察中のエマ中尉の部屋にいます。」
と、報告すると
「エマ中尉の?」と反応したヘンケンが
ブレックスと共に監視モニターに目を送り、
「音声を大きくしろ。」とブレックスが指示すると
マリアはパネルを操作して音声を大きくしていくと
次第に部屋の中でどんな話をしているのか分かって来た。
そこを通りかかったカミーユは観察室の入口が
開いたままになっていた事もあってか
その様子を覗き見てエマとクワトロの話に聞き耳を立てる。
「私はティターンズには戻れませんし戻りたいとも思いません。
しかしエゥーゴがこれほどまでに
好戦的である必要はないんじゃないですか?
この事が全面戦争に繋がるのは誰の目にも明らかです。
何の関係もない人々を死の危険に追いやってまで
グリーンオアシスに先制攻撃をかけるべきだったのですか?」
#26
ベッドに座るエマは向かいの椅子に座るクワトロへ
毅然とした態度で鋭い指摘をすると、
クワトロはサングラスを外してエマに鋭い視線を浴びせる。
「『30バンチ事件』を起こした相手に対してはこれでも甘いくらいだ。」
「…『30バンチ事件』?」
眉間にしわを寄せるクワトロの口から放たれた
『30バンチ事件』という言葉にエマは怪訝な顔をする。
「サイド1の30バンチコロニーで、
反地球連邦政府へのデモを鎮圧するのに
バスク・オムは何をしたと思う?」
表情を強張らせるクワトロからの唐突な問いに、
エマは背中からざわりとした感覚に重苦しい空気が
部屋の中を包んみエマは彼の問いに答えられずにいた。
「〈G3〉…毒ガスだ。」
「コロニーで毒ガスを使った…?まさか……!南極条約の規定では
〈G3〉の使用は禁止されてます。
そんな物を使えるわけが…」
「君がどう思おうがこれは事実だよ中尉。」
エマは事実を知らされたものの、
あまりに現実離れしたクワトロの言葉を理解する事は
すぐには出来なかったが、先の戦闘で行った非道な行為を
容認するバスクならやり兼ねないと、
思考を巡らせて行くうちに考えていたものの言葉を失う。
#27
「そういった事実を知っている我々が
知らぬふりをするならそれは大きな罪でしかない。」
どう言ったら良いのか分からないという様子のエマに
クワトロはそう重ねるとエマが顔を少し上げて
「真実から…目を背けるなと…?」
そう言ってクワトロの目を見るとクワトロは
「そうだ。」と返して軽く頷いた。
「信じ難いでしょうな…彼女にとっては。」
モニターでエマの様子を見ていたヘンケンが何気なく言う。
「今までと正反対の立場に放り込まれたのだからな。
彼女や《アークエンジェル》のメンバーにも
30バンチを見せてやる必要があるかもしれんな…。」
クワトロの言葉を聞いていたブレックスは
モニターを見ながら思いついたように言った。
カミーユは観察室を離れてリフトグリップを握って
コロニー内で毒ガス…まるでジオンじゃないか…
心の中で素直にそう感じ
自室に戻りながら「オレも知らなかった…」と一人呟き、
30バンチへ行くと言うなら自分も、
それを見に行かなければと考えていた。
※ ※ ※
同時刻
プラント・アプリリウス市
「パトリック…考え直す事は出来んのか?」
「議会で決まった事を覆す事など出来んよ。」
議会を終えたパトリックは議長室へ歩みを進め
シーゲル・クライン副議長から必死の説得を受けていたが
パトリックは彼の言葉を袖で払うかのように聞き入れなかった。
#28
「ジオンに与すれば連邦への要求の一切が通らぬ恐れがあるんだぞ!?」
「端(はな)から要求を認める気など奴らには無い。
だからこそ勝つためにジオンと…いや、アクシズと手を組む。」
「奴らの愚行を認めるつもりか!?
わずか12歳の少女を祭り上げ政治利用する組織だぞ!!
それを……」
「もう決まった事だ!!これ以上の口出しをするならば
お前を更迭しなければならなくなる!」
パトリックは激しく詰め寄るシーゲルを突き放すように
声を荒げてシーゲルの言葉に歯止めをかけ、
「……パトリック…!」
と言ったシーゲルは次の言葉を失う。
なり振り構っていられないという表情を見せるパトリックの姿は
シーゲル以外には見せない姿であり、
実の所は戦局が疲弊し始めている現状を打破したいという
パトリックの意思は読み取れた。
しかし、一年戦争から続く復讐の連鎖を引き起こした
どうあってもザビ家を認める訳にはいかないシーゲルは
パトリックに同情するという気持ちは起きなかった。
「…我々はどんな事をしてでも必ず勝たねばならんのだ。」
パトリックはそう言いながら妻レノアの顔を思い出し
少し歯切れの悪いように呟くと、
「手段を誤っているとは思えないのか…?」
と、シーゲルはパトリックの様子が変わった事に気付き
落ち着いたように彼に聞くとパトリックは
何も言わずにシーゲルの前を立ち去ったのだったーーー。
#29
作戦開始30分前ほどとなった、
《アーガマ》のノーマルスーツルームで、
クワトロとアポリーが着替えているとカミーユが
ノーマルスーツに入って来た。
「カミーユ、無理をする必要はないぞ。」
「ファだって心配していたぞ?」
「無事にレコア中尉に地球へ降りてもらうには
僕だって出た方が良いに決まってますから。」
クワトロとアポリーがカミーユを気遣うよに言うと、
いつもの調子で答えるカミーユがそこには居り、
クワトロとアポリーは思わず互いの顔を見た。
「それに…30バンチを僕も見て見たいって思ってますから。」
自分のロッカーを開け、
ノーマルスーツを取り出し着替えながら言う。
クワトロは今の状態のカミーユを見て
どこか無理をしているようにしか見えず、
「大丈夫なのか?」と聞くと、
「今は戦う事でしか答えを出せないと思いますから…」
クワトロの問いにカミーユは自分に言い聞かせるように答えた。
クワトロはこれ以上は無理に引き止める必要は無いか…
と、判断して
「着替えたらレコア中尉に会いに行くといい。
何か話があったんだろう?行くなら今のうちだ。」
とカミーユに言い、「はい!」と答え、
カミーユの表情が少し軽くなったのに気付いたクワトロは、
この純粋過ぎる感覚はまるでアムロ・レイだな…と、
心の中で感じており、着替えを終えたカミーユは
ノーマルスーツルームを出てレコアの下へと急いだーーー。
#30
補給部隊から受領した
《高機動型ガルバルディβ》に乗ったライラが、
「いいな?私の隊が先行する。」
とジェリドの乗る《ジム・クウェル》の肩を掴み
接触回線を通して言う。
「わかっている。」
「宇宙では全周囲に気を配るんだ。」
「モビルスーツの装甲越しに殺気を感じろって言うんだろう?」
「そういうことだ。」
ジェリドとのやり取りを終えると、
ライラは機体の脚をカタパルトの射出装置に置いて
青い星を望む宇宙の海へと《ボスニア》から飛び立った。
「宇宙の真空中に己の気を発散させる…か。」
ジェリドは彼女のアドバイスを思い浮かべながら
射出装置に自機の脚部をセットすると、
発進の合図を知らせるランプが赤から緑色に変わり、
腰にバズーカをマウントした《ジム・クウェル》が発進した。
続いて《ガルバルディβ》2機が発進して行く。
「先発隊の《ボスニア》から
モビルスーツ隊の発進を確認しました。」
「よしT3部隊を発進させろ!」
ペデルセン大佐はオペレーターの報告を受けると、
声を張り上げで発進の号令を出し、
激しい戦場になるであろう漆黒の海を見たのだったーーー。
終わりです。
私は寄せ集めた感じが否めない気がしておりますが、
投下した以上はしっかりとやっていきたいと思います。
今回のように今後もGジェネキャラは
そこまで重要ではないキャラとして
使ってみようかと思いますがいかがでしょうか?
GJ!
続々とゲストキャラが!
ダグザさん、そしてT3部隊までが合流とは。この時点だとTR5とイカロスユニットまで完成してるな。
T3部隊はいい人揃いで、エリアルドとか平和を守るために戦うと燃えてる人だから、ジュリド達とは気が合わないだろうなあ。
幻に終わったインレの実戦投入とか見てみたい。
神だわ…。おつっす!
毎回楽しみに読んでます
>Gジェネキャラ
Gジェネアレンジされた本編キャラも含みますか?
流派東方不敗ククルス=ドアンとかキレイな三馬鹿とかデレてロリ返りしたはにゃ〜ん様とか
乙!
シグ!モノアイガンダムズのシグじゃないか!
シスクードくるんか?
中二病みたいなSSなんぞを読んで頂きありがとうございます。
ちなみにT3部隊は読んでお気付きだと思うのですが
拠点がコンペイトウではなくアルテミスに変更してあります。
>>377 それは出て来ませんw
ですが、三馬鹿と盟主王の扱いはどのようにするかちょいと考え中です。
ジャマインカンやジュリドは普段偉そうにしてるくせに、いざ同格のティターンズが来たらヘタレたなw
まさかのGP00登場。
反ザビ派のシグやゾラ達とギレン派のガトー達のかちあいは面白いことになりそうだな。
後半はアーガマー、アルビオン、アークエンジェルの揃い踏みか
ティターンズが星の屑作戦に対してどう動くか。
>>385 それはそれ、これはこれでコロニー落とし阻止で共闘するかもね
地上編ではアムロが加わったカラバとアークエンジェルの組合せか・・・・
支援者は香港のルオ商会とオーブ連合首長国
連邦軍とザフト+ジオン残党軍の激戦区域オーストラリアと、ティターンズの基地が在るポートモレスビーでドンパッチ
アフリカ戦線では、嫌々顔でジオン残党軍に味方する虎さんかあ・・・
虎さんはさりげない顔でサボタージュを決め込むのではないかな(笑)
とてもじゃないが艦隊式なんてやってる場合じゃねえ!がワイアットさんは行うのだろうか?
スペースノイドでティターンズというエリアルドさんの合流だな。
カミーユあたりとの舌戦見てみたいわ。
923です。
あと1日か2日で16話書き終わります。
五輪見ていて途中でまったくの手付かずとなってました…
もうしばしお待ち下さい&#22247;rz
お持ちしております!
923です。投下開始します〜
#1
第16話_「レコア地球へ」
「進路クリアー。モビルスーツ隊発進どうぞ!」
《アスワン》のオペレーター、ケイト・ロス少尉の
凛とした声がカタパルトと各機のコックピットに響くと
カタパルトクルー達が忙しなく動き出し、
誘導員のコンダクトバーの誘導によって
ブラックオター小隊の隊長、ウェス・マーフィーと、
エリアルド・ハンターが乗る可変型モビルスーツ、
《ギャプランTR-5》2機がカタパルトから発進して行くと、
カール・マツバラとオードリー・エイプリルが乗る
《アドバンスド・ヘイズル》2機もマーフィーらに続いた。
《ブラックウィドウ》の指揮官ダグザは
《アスワン》からのモビルスーツ隊の発進を確認する。
「《エストック》と《マンイーター》から
モビルスーツ隊を出させろ。」
とその低い声がブリッジに響き渡りオペレーターが
カタパルトデッキへ発進の合図を出すと、
《ガルバルディβ》が2機《エストック》から発進して、
中距離支援ユニット装備の《ジム・スナイパーV》2機が
《マンイーター》から発進した。
「よし、10分後にこちらのモビルスーツ隊も出して前線に投入しろ。」とダグザ。
「了解です。」とオペレーターが答え、
オペレーターはモビルスーツデッキに通達を済ませると、
喧騒に包まれたデッキ内は更に大きな声と艦内放送が流れた。
一方の旗艦《アレキサンドリア》は
カクリコンを小隊長とした《ジム・クウェル》隊が
直掩機として4機発進する。
《アレキサンドリア》は艦隊の中央に陣を取っていた。
#2
「エリアルド、機体の感覚は掴めそうか?」
「かなり良い機体です。モノにしてみせます。」
マーフィーは共にモビルアーマー形態で進むエリアルドに、
空戦用TMS《ギャプラン》の改修テスト機である
《ギャプランTR-5》の感触を伺うと
エリアルドは自信に満ち溢れた声で返した。
「エリアルド、奴らはかなり強いと聞く。
下手に被弾してメカマンを困らせるんじゃないぞ?」
「どやされるのはこっちも勘弁です。」
マーフィーは上機嫌で冗談ぽく言うと、
エリアルドもそれに応えて同様に冗談ぽく返す。
ティターンズ試験部隊という括りから外され、
機体共々いよいよ実戦への配属が決まった事でマーフィーは内心、
武者震いを起こしているかのように戦意は高揚していた。
※ ※ ※
《アーガマ》のモビルスーツデッキには
レコアがジャブロー降下の際に乗り込む予定の
小型カプセルジェット《ホウセンカ》の最終チェックを
メカニックのハナン軍曹が行っていた。
ハナンは一通りの各部チェックを終えるとレコアに
「問題は無さそうですね。」と言うと、
「時間はあとどれくらい?」
とレコアは少し落ち着きを忘れたかのように聞き、
「あと30分ほどです。」とハナンは
ノーマルスーツの左腕部に装着されている時計を見て答えると
「ありがとう、もういいわ。一人にしておいてくれるかしら。」
と言うとハナンは軽く頷きデッキを離れると、
レコアは《ホウセンカ》に乗り込みシートに腰を降ろしたその時
デッキの出入り口の方からカミーユが
「レコア中尉!」と、慌てた様子で無重力のデッキ内に
体を泳がせてレコアに寄ってきた。
#3
「カミーユ…今は第2配備中でしょ?
こんなところにいて良いの?」
レコアは意外な来客に不意をつかれたような表情だった。
言葉の通り第2戦闘配備中であり、
自分に構っている場合ではない筈なのにと思い
シートへ腰を掛けたままカミーユに聞いた。
「…レコア中尉、本当に一人で行くんですか?」
「これは一人しか乗れないし、1機しかないのよ?
それに私にしか出来ない事でもあるの。」
カミーユの居ても立ってもいられないという
表情と言葉に覚悟を感じさせる言葉でレコアが答え、
カミーユの思いを受け止める素振りの無い
レコアの答えにカミーユは少し寂しそうに言葉を詰まらせ
少しの沈黙の間に何かを言おうとした時、
「中尉、エアロック解放します。」
と出入り口横にあるエアロックレバーの前にいたハナン軍曹が
レコアに声を掛け
「よろしく。カミーユ、バイザーを下ろしなさい。」
と答えると、機を逸したカミーユは
喉元まで上がって来た言葉を飲み込んで、
レコアは《ホウセンカ》のキャノピーを閉じ、
言いたい事も言えないカミーユは後ずさりしながら
《ホウセンカ》から離れて行った。
聞いてあげるべきだったかもしれないーーー。
そう思っていたレコア自身だが、
彼女はカミーユに構っている気持ちの余裕が無かったのも事実だった。
カミーユに申し訳なさを感じつつ、
《ホウセンカ》から離れる彼の後ろ姿を見ていた。
「じゃあ行くよ、フレイ。」
作戦前のノーマルスーツルームの前で、
着替えを終えたサイが俯き加減のフレイに
顔色を伺うかのように言う。
#4
「不安だろうけど…待っててね。」
とミリアリアがフレイの手をそっと取って言うと、
フレイは何も言わずに小さく頷いた。
トールとカズイが遅れて着替えを終えて出てくると
サイらともう一度フレイに声をかけてブリッジへと向かった。
サイ達が通路を曲がった所で一人残されたフレイは
ただ立ち尽くしているだけだったーーー。
サイ達が戦いに参加しているのに自分は何をしているのだろうと
自らを責めるかのようにもどかしさすら感じていた。
そこへパイロット用のノーマルスーツに着替えた
キラがノーマルスーツルームから出てきて
二人の目が合うとキラの心臓の動きが少し早くなる。
「あ、フレイ…サイ達、もう行っちゃったの?」
とキラは少し緊張しながらもそう聞くと、
フレイは突然キラに抱きついた。
キラは状況が読めない展開に動揺して
顔が紅潮して頭が真っ白になる。
「キラ、お願い…私を守って…」
フレイの唐突な行動と言葉にキラは
彼女がなぜそんな事をしてそんな事を言うのか分からなかった。
しかしフレイの怯えたような表情に
キラはサイの事など考える余裕もなく
「う、うん…フレイもこの船もみんな守るから。
だから居住区に戻ってて。」
とフレイの瞳を見つめながら優しく微笑んでみせると
キラはモビルスーツデッキへと向かって行った。
赤い躯体をした《リック・ディアス》がハンガーを離れて
左舷カタパルトデッキへと通じるリフトへと移動し、
アポリー機の黒い《リック・ディアス》はクワトロ機とは逆の
右舷カタパルトデッキへと続くリフトへ移動する。
そのモビルスーツデッキ内には、
モビルスーツのアクチュエーターから聞こえる駆動音が響く。
#5
カミーユは既にエアロックが開放されて無重力状態となった
デッキ内を泳いで《ホウセンカ》から離れたカミーユは
開放されている《ガンダムMk-U》のコックピットに乗り込む。
モビルスーツのジェネレーター出力を上げて
全天周囲モニターを作動させると、
コックピット内に各セクションの無線の声が
カミーユの耳に入りながらもコンソールで
機体を動かす為の操作を黙々と進める。
「カミーユ、アポリー。これより太陽電池衛星の破壊に向かう。
私に続け。遅れるなよ。」
カミーユ機とアポリー機のコックピットに、
既にリフトで左舷カタパルトへと発進体制に入った
クワトロの声が耳に入ると、
「了解!」と二人が応答して、
カミーユも誘導員に従ってリフトへと機体を移動させて行く。
「総員第2種警戒配備、各機スクランブルに備え。」
「ダミー隕石放出。
火器管制は全てマニュアルに切り替え。
ミノフスキー粒子の数値に目を離すなよ。」
「艦尾ミサイル発射管、スレッジハマー、榴散弾頭ミサイル装填。
SAM、CIWS起動準備、ビーム爆雷装填。」
ブリッジ内にラミアスやナタルらの指示が飛び交う中、
ミリアリアが作戦のカウントを始める。
「作戦開始まであと10秒!
…9、8、7、6、5、4、3、2、1。
作戦スタートです!」
ミリアリアの言葉と同時にブリッジのメインモニターに
《アーガマ》から3機のモビルスーツ隊が
発進して青白いスラスター光を煌めかせて、
太陽電池衛星のある方向へと進んで行った。
#6
「《アーガマ》からのモビルスーツの発進を確認。」
サイの報告にラミアスは先ずはクワトロ達の
無事の帰還を願いつつティターンズや
ザフトの出現が無い事を願うような気持ちだった。
しかしその時、ブリッジ内に熱源探知を知らせる
ブザーが鳴ると一同の緊張が一気に高まる。
「敵機発見!…ティターンズです!!」
「やっぱり来たわね…数は!?」
「数は4機…いや、後方に更に8機!!」
ラミアスはサイの言葉に心臓の胎動が止まったように感じた。
それはナタルらブリッジの一同も同じだった。
「ミノフスキー粒子散布。フラガ大尉達を発進させて!」
数の上では圧倒的不利な状況でどう戦うか…
ラミアスはこの作戦前の約1週間近くを、
《アークエンジェル》による対モビルスーツ戦闘用の
シミュレーションを徹底的にやって来た事もあり、
少しの不安を抱えながらも何としてでも
増援が来るまでを持たせてみようと
声を張り上げて指示を出し腹を括った。
「《メビウスゼロ》フラガ機、右舷カタパルトへ!
ロベルト機は左舷カタパルトへ!!」
トノムラの声がデッキ内に流れると、
モビルスーツデッキが一様に騒がしくなり、
メカニッククルー達はデッキを離れて、
ノーマルスーツを着た誘導員の誘導により、
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》は
それぞれリフトによって左右のカタパルトへと移動を終える。
「ムウ・ラ・フラガ、出る!増援が来るまで持ち堪えようぜ!」
「了解!《リック・ディアス》、ロベルト機出るぞ!」
リニアカタパルトの射出システムが作動すると
内壁部が発光し、LUNCHの文字が表示され
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》の
射出装置が真っ直ぐに走り出し2機が発進して行った。
#7
「続いて《ストライク》、発進位置へ!
カタパルト接続、システムオールグリーン!」
トノムラの声が《ストライク》とデッキ内に再び響くと、
コンダクトバーの誘導に従って機体をリフトへ移動して
カタパルトの発進位置にリフトが止まると、
《ストライク》が射出装置へ接続し、
ガントリークレーンが作動してエールパックを装着する。
発進の合図を待っているとコックピットのHUDに
ミリアリアの顔が映し出されキラに、
「キラ、以後私が機動部隊の戦闘管制となります。よろしくね。」
とHUDに映るミリアリアはそう言って
ピースサインをして茶目をやってみせると、
「よろしくお願いします、だよ。」
と気の抜けた振る舞いをしたミリアリアに
トノムラが軽く一喝をする。
キラは知らぬ間に少し緊張していたのか、
ミリアリアとトノムラのやり取りに少し笑うと
緊張が少し解けた気がして、
ミリアリアに心の中でありがとうと礼を言っていた。
「装備はエールストライカーを。
敵はすぐそこにいる。気を抜くな!」
ナタルは緩みかけたその場を締めるように、
整然とした声でキラへ指示を出す。
その言葉に「…はい!」と、大きな声で返事をする。
フレイ…みんな…僕が守ってみせるよ。
とキラの頭の中にサイ達やフレイの顔が浮かび上がり
心の中で誓うように意を決すると、
カタパルトの向こうに見える真空の宇宙を見据える。
「進路クリアー、《エールストライク》発進どうぞ!」
「キラ・ヤマト、ガンダム行きます!」
ミリアリアの合図によって、
顎を少し引いてフットペダルを踏むと
射出装置が一気に全身してカタパルトから機体が発進し、
フェイズシフトを起動させた。
#8
「先鋒と思われるティターンズ部隊、
有効射程圏内に入りました!」
トノムラの報告にラミアスとナタルが互いに目を合わせ
はっきりと頷いてラミアスは対空戦闘用意の号令の後に、
「なんとしても《アーガマ》を死守するわよ!」
と声を上げて指示を出すと
火器管制システムを担当するチャンドラや
トノムラの表情が一気に険しくなった。
「いたぞ、ジェリド中尉。集中を切らすな。」
「了解だライラ大尉!」
ジェリド機は早速ビームライフルを構え、
《メビウス・ゼロ》に向けるとライフルの銃口から
ビームの光軸が数発放たれると、
ライラの《高機動型ガルバルディβ》も
随伴するロベルト機の《リック・ディアス》に対して
《ガルバルディβ》がビームライフルを撃ち、
もう1機の《ガルバルディβ》は、
モンブランから発進した《ジムU》に
同様にビームライフルを放つ。
会敵と同時に《アークエンジェル》から
主砲の連装メガ粒子砲や副砲のリニアカノンが
ライラ隊のモビルスーツ部隊を襲い、
同時射撃を行った《モンブラン》からのメガ粒子砲と
ミサイルランチャーがライラ隊をに向かって行く。
《高機動型ガルバルディβ》は
その機動力を活かして艦砲射撃を苦もなく躱し、
ジェリドもその軌道を読んでメガ粒子の火線を躱し
自機の《ジム・クウェル》の腰にマウントされた
散弾式の砲弾を装填したハイパーバズーカを構えて、
向かって来るミサイル群に対してバズーカを撃ち放つと
拡散した鉄球が飛来するミサイルを迎撃すると
辺り一面に無数の火球が発生する。
#9
「中尉、キラ、各個撃破で確実に数を減らすぞ!
味方の艦砲射撃に当たるなよ!」
「了解!!」
「はい!」
ムウはそう叫んで指示を出し、
非力な《ジムU》を落とさせまいと
ガンバレルを展開して《ジムU》を狙う
《ガルバルディβ》の四方を取り囲み、
ガンバレルポッドから数十発の鋼弾が火を吹き
《ガルバルディβ》はガンバレルを撃ち落そうと、
攻撃を避けながらビームライフルを放つが
ガンバレルに気を取られている隙を逃さずに、
《メビウス・ゼロ》からレールガンが放たれると
相手の右手に構えるビームライフルを破壊する。
相手が怯んだ所を、ロベルト機の《リック・ディアス》が
《ガルバルディβ》の腹部にクレイバズーカを放つと
コックピットを潰された《ガルバルディβ》は
モノアイの光が消え完全に沈黙すると無重力空間を漂った。
キラはもう1機の《ガルバルディβ》を
《エールストライク》の高機動性能によって
ビームライフルを乱射する相手を翻弄して躱すと、
敵機にあっという間に肉薄して、
ビームサーベルでシールドごと機体を両断すると、
反応炉が誘爆を引き起こして二つの火球が起きる。
「チ…!!情けない!」
ライラは顔が強張って口中に舌打ちをすると
フットペダルを踏み込み一気に距離を詰め
操縦桿を操作してコンソールのレーダーに映る、
《ストライク》へ狙いを定めてビームライフルを撃ち放つと
亜高速の早さでメガ粒子の黄色に光る1本の光軸が
迫ると、それに気付いたキラはフットペダルを踏み
《ストライク》の鼻先を掠めるかのように躱すと
機体を更に動かして上昇すると、
先読みしていたかのようにライラは上昇するコースに
いち早くビームライフルを放つが、
キラはシールドを即座に構えてビームを防いだ。
#10
「やはり…あの反応速度は普通じゃない…!」
ライラは以前の戦闘で見せた反応速度を
再度確かめていたかのように一人呟いていると
「俺に任せろ!」
とライラの耳に語気を強めたジェリドの声が聞こえると
《ジム・クウェル》が、ライラ機を援護する為に
《ストライク》へとビームライフルを乱射する。
ライラは周りの状況を見渡して、
《メビウス・ゼロ》と《リック・ディアス》が
こちら側に接近している事を確認して、
「ジェリド!踏み込み過ぎるんじゃないよ!」
とジェリドへ声を少し荒げて言うと、
《メビウス・ゼロ》が《ジム・クウェル》に向けて
ガンバレルを展開して集中砲火を浴びせる。
「く……!?邪魔を…!」
表情を歪ませながらもスラスターとAMBACを使い分けながら
《ゼロ》の放火になんとか対応するものの、
初めてオールレンジ攻撃を体感したジェリドにとっては
躱し続ける事の限界がすぐに訪れ、
ジェリドは躱し切れないと判断してシールドを構え
苦し紛れと分かっていても、バルカンを
厄介なガンバレルに向けて放つが、
ムウもそれは折り込み済みといった形で
ガンバレルを巧みに操作してビームのそれを躱すと
キラもガンバレルに気を取られて動きが散漫になった
《ジム・クウェル》へビームサーベルで斬りかかると
咄嗟に反応して《ジム・クウェル》はシールドで防ぐが、
シールドが溶断されると共に左腕もサーベルで斬り落とされた。
「深追いし過ぎだよジェリド!下がれ!」
ライラがジェリドにそう言って援護に回ろうとすると、
ロベルト機の《リック・ディアス》が
左手に持つビームピストルで、
《高機動型ガルバルディβ》の動きを止めて
援護に回らせまいとするとライラの表情が険しくなる。
#11
「キラ!トドメを刺すぞ!!」
ムウがこの好機を逃すまいと言うとキラは
「はい!」と応じて《ジム・クウェル》に
ビームライフルを構えてトリガーを引こうとしたその刹那ーーー。
《ゼロ》と《ストライク》へ突如ビームの光軸が襲いかかり
僅かに反応の早かった二人がビームを避け、
「あれは…!?ガンダム?」
「モビルアーマーもいるぞ!」とキラとムウが口走って
ビームの飛んで来た方へと目をやると、
視線の先には《アスワン》から発進した
ブラックオター小隊がライラとジェリドのもとへ到着する。
ライラ隊のガルバルディが見当たらなかった。
「既に堕とされたか…」と一人呟くと、
戦況を冷静に把握したマーフィーは
敵機を前にして一層その集中力が高まり背中に力が入る。
ティターンズよりも宇宙における空間戦闘に秀でた、
ルナツーの部隊が合流を前にこうも簡単に…。
と感じているとカール機が先行して《ストライク》と、
《ゼロ》に対して手にしたビームライフルを撃ち放って、
撃墜される寸前だった《ジム・クウェル》を援護する。
「おい、そんなんじゃもう戦えないだろ!?
落とされる前に早く退けよ!」
通信から聞こえてくるカールの声に
聞き覚えのある声に、あいつだ。と少し腹を立てた様子で
「俺に命令するな!まだ戦えるんだ!!」
とジェリドは語気を強めて返すと、
「ろくに戦えない奴がここにいても邪魔なんだよ!」と
カールはたたみ掛けるように言葉を被せるとジェリドの
こめかみの血管がじんわりと浮き上がる。
「黙れ!俺はまだやれるんだ!」
ジェリドは尚も食い下がるように言うと、
手負いの筈の《ジム・クウェル》は、
ビームライフルを乱射すると、油断をしていた
《ジムU》はコックピットを撃ち抜かれやがて火球となり、
どうだと言わんばかりに一人コックピットで叫ぶジェリド。
《高機動型ガルバルディβ》がジェリド機に近付く。
#12
「無理はするなジェリド。まだ戦うならサラミスを狙え。」
ライラはそう言ってセンサーが接近を知らせる
アラームに反応してビームピストルを撃つ《リック・ディアス》と交戦に入ると、
それを見たジェリドは心の中で了解だ。と言って、
視線の先にいる《モンブラン》を目指した。
マーフィーはモニターに映る敵機を見据える。
「エリアルド!あのガンダムはカールとお前に任せたぞ!
こちらはオードリーと共に『エンデュミオンの鷹』をやる!」
「了解です!」と返したエリアルドは、
《ストライク》に対して、モビルスーツ形態に変形して
ロングブレードライフルからビームを放ち、
続くようにビームライフルを撃つカール機と共に
《ストライク》へ波状攻撃を仕掛けるーーー。
が、エリアルドやカール達は《ストライク》の
その性能とパイロットに驚愕するのはまもなくの事だった。
エール装備による高機動によって、
彼らの攻撃を躱し続け逆にビームライフルを撃ち返し、
苦し紛れのではなく正確な射撃を見せる相手に肝を冷やす。
キラは先の戦闘を教訓にして、
より自分の望んだ通りの性能を引き出す為、
事前に機体の調整を入念に行っており
乗機の本来持つ性能を遺憾無く発揮出来ていた。
《ストライク》は敵機の攻撃を躱しながら、
ビームライフルを撃ち続けて距離が詰まった所を、
ビームサーベルを引き抜いて猛然とカール機へ斬りかかると、
《アドバンスド・ヘイズル》もビームサーベルを抜いて
《ストライク》のサーベルとぶつかり合い火花が散る。
「もうやめろ!こっちの船には避難民が乗ってるんだ!!」
とキラは執拗に追いかけ続けるティターンズに対して
怒りをぶつけるように叫ぶ。
まだ幼なさの残る声がコックピットに響き、
カールは「子供の声…!?」と言って驚愕していると、
カールが反射的に呟いた言葉をエリアルドは聞き逃しておらず、
「子供だと…?カール、どういう事だ!?」
とHUDに浮かぶカールへ詰め寄るように聞くと
カール機は《ストライク》から距離を置く。
#13
二人の脳裏に過ったのは情報にあった
カミーユ・ビダンという少年の存在だった。
僅か17歳という年齢にしてモビルスーツを乗りこなし、
更にティターンズの対抗勢力である、
エゥーゴの一員として活動しているという事実に、
エリアルドやカールだけでなくマーフィーやオードリー。
ペデルセン、ダグザ、ライラ達すらも驚愕したのだ。
アムロ・レイの再来なのでは?といった
噂が俄かに広がって来ているのも事実だった。
動揺するエリアルドとカールに対して
《ストライク》はビームライフルを撃ち続けていた。
だが子供を相手にするという事を躊躇(ためら)う二人は
反撃を出来ぬまま攻撃を躱し続けるしかなかったが、
エリアルドはコンソールの通信を全回線に切り替え、
《ストライク》のパイロットを確かめようと
意を決したように口を開ける。
「そこのガンダムのパイロット!
君がカミーユ・ビダンという少年か!?」
戦闘宙域にいる全ての機体、艦艇に、
エリアルドの声が響くーーー。
通信可能域から外れている《アレキサンドリア》や
母艦の《アスワン》にはエリアルドの声は届いていないが、
マーフィーやカール、オードリー達は
エリアルドのその突然の行動にただ驚くばかりで、
一体何をするつもりなのかとマーフィーやカールが
通信越しに声を荒げながら言うが、
エリアルドは彼らの言葉に耳を貸す事は無く
まだ見ぬ《ストライク》のパイロットの応答を待つ。
ムウやラミアス、ロベルト達は
相手の意図しない行動に怪訝な表情だったが、
敵に無用な情報を与えないように相手の言葉には
耳を貸すなとキラに忠告をしていた。
#14
しかし、キラはこの通信越しに聞こえてくる男の声に
威圧感や刺々しさは感じておらず、
「…僕はカミーユさんじゃない。」
と、思わず戦火を交えつつも通信に応答をしてしまう。
これに驚いたのはムウ達なのは当然だったが、
更に驚いたのはマーフィー隊の一同やライラやジェリドだった。
全員のコックピットに聞こえている声は
どこから聞いても大人の男の声ではなく、
カミーユさんという言葉からして、
更に若い少年だという事に全員が気付く。
「じゃあ、君はカミーユ・ビダンではないとしたら何者だ!?」
マーフィーやライラ達もこの場の戦いをやめる事は無いが、
エリアルドの問いかけに対しての応えを
自らの耳に神経を通わせて注意深く待っていると、
「僕は普通の学生だ!!あなた達が酷い事をしなければ
僕の友達だって怖い思いをせずに済んだのに!」とキラ。
エリアルド達が期待する応えは返って来なかったものの、
鬼気迫る感情が何故か手に取るように感じられた。
「酷い事?俺達ティターンズは平和の為に戦っているんだ!
君のような子供に一体何が分かるんだ!?」
エリアルドはこれ以上の問答は無用だといった様子で、
ビームサーベルを抜いて《ストライク》へ斬りかかる。
キラも同様にビームサーベルを引き抜き、
《ストライク》と《TR-5》のサーベル同士がぶつかると、
収束されたメガ粒子が細かい火花のように細かく爆ぜる。
「僕は……僕はコーディネイターだ!
あなた達がプラントを攻撃しなければ…
僕はアスランと…親友と戦わずに済んだんだ!」
「…何!コーディネイター!?」
キラの言葉は衝撃的な事実だった。
親友の名を口走ったのを聞き逃さなかったムウやロベルト、
《アークエンジェル》の一同は絶句していた。
自らの存在をコーディネイターだという事を
敵に情報を漏らした事などよりも大きな動揺が走る。
一方のエリアルド達にとっても何に驚けば良いのか、
迷ってしまう程に驚愕の連続だった。
#15
キラの感情が防波堤の決壊の如く爆発すると、
頭の中で何かが弾けたかと思えば、
《ストライク》はもう1本のビームサーベルを
シールドを捨てて左手で引き抜いて、
《TR-5》の右腕を一刀のもに斬り伏せ、
更に左手に装備したシールドブースターを両断する。
「エリアルドっ!!」
動揺している場合じゃない!
相手が子供だろうとコーディネイターだというのなら
エリアルドもやられる可能性があると察知したカールは
《ストライク》に向けてビームライフルを
これでもかという程に乱射をしてエリアルドの《TR-5》から
《ストライク》を引き剥がすが、
カールの《アドバンスド・ヘイズル》に
《ストライク》が異常な程の速度で肉薄すると、
両手に持ったビームサーベルで、
カール機の頭部ユニットとビームライフルを持つ
右手を斬り落として腹部へ右足で大きく蹴り飛ばすと
「くっ…なんて奴だ…!」
とカールは想像を絶する能力の前に歯を食いしばりながら
激しく揺れるリニアシートで衝撃に耐える。
強すぎるーーー。
鬼人の如き戦い方を見せている《ストライク》に、
マーフィーやライラもそう認めざるを得なかった。
その隙を付いて《マンイーター》と《エストック》の
《ガルバルディβ》と《ジム・スナイパーV》が、
《アークエンジェル》に向かって行く。
キラはそれに気付くと途端に表情が険しくなり、
スラスターを全開に噴かしてその2機を追うために
エリアルドとカールのもとから離れて行った。
※ ※ ※
《ジムU》だから良いが数が多いな…。
太陽電池衛星の防衛隊からは8機もの《ジムU》隊が
クワトロ達の足を止めようと、
手に持ったビームライフルを次々と放つ。
その後方からは衛星の対空レーザー砲がクワトロ達を襲う。
#16
「アポリー、ここはお前とカミーユに任せて、
私は先行して衛星を破壊する。」
このままでは予定時刻に《ホウセンカ》を降ろす事が出来ない。
クワトロはアポリー達にこの場を任せ、
スラスターを最大まで噴かせて、
対空レーザーと《ジムU》のビームを躱しながら
太陽電池衛星を目指して行く。
当たるなよ。
クワトロはアポリーとカミーユに心の中でそう言うと
微かに衛星の存在をその視界に捉え、
クレイバズーカとビームピストルを構えた。
「こちらサラミスの《スルガ》。
これより援護を開始する。」
コックピットに突然、女性の声がして、
通信用のHUDに映っていたのは《スルガ》の副長
ミハエル・アカレッテ少佐だった。
その言葉と同時に、コンソールのセンサーが反応した。
《スルガ》からモビルスーツが4機発進すると、
艦砲射撃が《ジムU》隊に直進して行く。
2個小隊で固まって行動していた《ジムU》の2機ほどが、
単装メガ粒子砲とミサイルランチャーの餌食となり、
《スルガ》より発進した《GP-00ブロッサム》が
先行して右手に持ったビームライフルで
更に1機の《ジムU》を撃ち抜くと融合炉に誘爆して火球となる。
ベアード中尉の《ブロッサム》の後に
アスナ機の《リック・ディアス》や、
シェルド、ゴーローの《ジム・カスタム》が
各機が手に持った武器を撃ち放ち《ジムU》隊を包囲すると、
「カミーユ、俺達も続くぞ。」
「…了解!」と、
機を見たアポリーに従いベアードらと共に集中放火を浴びせる。
#17
しかしその中の1機が火線と《スルガ》の放つ
ミサイルの雨を抜けて、背部バックパックの
ビームサーベルを引き抜いて、
ゴーロー機の《ジム・カスタム》に特攻をかける。
腹部のコックピットめがけて、
ビームサーベルを突き立てながら突進する《ジムU》を眼前に、
ゴーローはたじろいで回避行動が遅れると
ベアードの《ブロッサム》がすかさず、
ビームライフルで《ジムU》を撃ち撃墜する。
しかし同じようにベアードも《ジムU》に狙われ、
ベアードは反応するものの、一瞬間に合わず、
斬りかかる《ジムU》だったが、
背後を撃ち抜かれてそのまま爆散する。
ベアードを救ったのはビームライフルを構えていた
カミーユの乗る《ガンダムMk-U》で、
残りの《ジムU》もやがて全機が撃墜されて
太陽電池衛星の防衛隊の殲滅に成功した。
「そこのガンダムのパイロット。
俺はハロウィン小隊の隊長、ジャック・ベアード中尉だ。
助けてくれた事、礼を言う。流石だな。」
「い、いえ。僕はカミーユ・ビダンと言います。」
ベアードは通信でカミーユと挨拶を済ませると、
情報にあったカミーユ・ビダンという名前を聞いて
素人とは思えない操縦技術に関心していた。
その横でアスナは《Mk-U》の装甲越しのカミーユの内から出る
悲しみや孤独感といったものに似た“何か”と形容できるものを、
感じ取っておりカミーユもまた、
白い《リック・ディアス》の中の存在に、
アスナが感じ取ったものを感じていた。
それからまもなく、太陽電池衛星の破壊をしたと思われる爆発が、
視線の先の向こうで確認したアポリーが、
「カミーユ、お前は《アークエンジェル》の援護に向かえ。」
と言うと、
「分かりました。必ずレコア中尉を無事に降ろします。」
と言ってスラスターを噴かせて《アークエンジェル》のもとへと急いだ。
#18
※ ※ ※
マーフィーとオードリーは《マンイーター》の
《ガルバルディβ》と共にムウの《ゼロ》を相手にしていた。
しかし新型機である《ギャプランTR-5》こそ、
ムウを苦しめていたものの、オードリーと
《ガルバルディβ》のパイロットは、
ムウの見せるその操縦技術に苦戦しており、
やっぱりただの航宙機じゃない。と感じていたオードリーに、
「奴の動きに惑わされるな。
武装ポッドを確実に撃ち落とせばいい。」とマーフィーが言うと
オードリー機の《アドバンスド・ヘイズル》と
《ガルバルディβ》を襲うガンバレルの狙いを1基に絞り、
モビルスーツ形態へと変形すると、
マーフィーは《ゼロ》の攻撃を躱しつつ右手に持つ
ロングブレードライフルを撃ち放ち、被弾しながらも
辛うじて直撃弾を免れていた《ガルバルディβ》を攻撃している
ガンバレルの破壊になんとか成功する。
しかし、先ほどのコーディネイターの少年によって
損傷したエリアルドとカールは既に退いており、
第4パイロットであるオードリーにかかる負担は
かなり大きなものになり、ティターンズの有利だった
形勢が徐々に変わりつつあった。
一方、艦載機を失った《モンブラン》は正に格好の的だった。
対空機銃とミサイルランチャーによってなんとか
敵機が張り付かぬようにはしていたが、
先んじて交戦に入ったジェリド機は
次々に対空放火をくぐり抜けて的確に
各所へビームライフルを命中させていた。
《アークエンジェル》からも支援射撃があるものの、
敵機と《アークエンジェル》の相対距離は、
《モンブラン》よりも離れており、
ジェリド機や《ジム・スナイパーV》、
《ガルバルディβ》は軽々と攻撃を躱していた。
#19
「太陽電池衛星の破壊は成功!後は防空衛星の破壊です。」
「アポリー中尉より入電!
カミーユ機をこちらに回すとの事です!!」
「《モンブラン》が攻撃に晒されています!
このままでは撃沈します!」
「《アークエンジェル》より入電!
敵艦隊位置を特定…ですが、新たな熱源を探知した模様!」
《ホウセンカ》の発射が刻一刻と迫っている
《アーガマ》のブリッジは緊張の糸が張り詰めていた。
ブライトに上げられる報告は、
次々とその表情を変える大しけの海のようだった。
どの報告に反応するかも考える暇も無く、
拳を強く握り締めてただ作戦の成功を願うだけで、
まもなく降下開始とは言え劣勢である事は変わりなく
このままではまずいのでは?そんな考えが頭の中を駆け巡る。
《ストライク》のライフルから放たれた光軸は頭部と
コックピット部分を撃つと、
《モンブラン》に攻撃をしていた《ジム・スナイパーV》は、
瞬く間に火球と化した。
ジェリドは《モンブラン》への攻撃に集中する為に
《ガルバルディβ》へ《ストライク》の足止めを任せる。
《ガルバルディβ》はビームライフルを乱射するが、
圧倒的な機動性能を見せつける《ストライク》は
ビームライフルを放って同様にコックピットを撃ち抜いた。
そしてジェリドの《ジム・クウェル》は対空機銃を躱し切り、
《モンブラン》の艦橋にビームライフルの銃口を向け、
即座にトリガーを引くと
銃口から収束されたメガ粒子が放たれ、
いとも簡単に艦橋部分を貫いた。
《モンブラン》の各部に爆発が起きてやがて大爆発が起き、
真空の宇宙空間に激しい爆風が吹き荒れる。
#20
《モンブラン》の撃沈にキラやムウ、ロベルトは、
目の前で起きた事態に眉間のしわが寄る。
その報は《アークエンジェル》から、
《アーガマ》にもすぐに伝わり、
ブライト達はブリッジから見渡す漆黒の海で
激しく爆煙を上げる《モンブラン》のものであろう
その爆発をただただ見ていた。
ブライトのみならず戦場に出ているキラ達や艦のクルー達も、
増援はまだなのかと逸る気持ちをなんとか抑えていると、
追い討ちをかけるようにセンサーに敵機接近を知らせる
ブザーが両艦内に鳴ると、
《ブラック・ウィドウ》から発進した《ガルバルディβ》2機が
《アークエンジェル》の対空放火を躱して
シールドミサイルを叩き込み、
更に《ジム・スナイパーV》がビームライフルを放つと、
ビーム爆雷の効果が切れた船体の一部が爆発を起こし
《アークエンジェル》の艦内が激しく揺れ動く。
「状況報告!」
「左舷カタパルト、陽電子チェンバー損傷!!」
「中央船底部通路で火災!」
「消化班を向かわせて!!チェンバーの隔壁を閉鎖!」
「波状攻撃が来るぞ!弾幕を張り続けろ!!」
様々な声が飛び交い騒然とする、《アークエンジェル》のブリッジクルー達は
完全に浮足立ち、初めての実戦となった
トール達は膝から下が明らかに震えている事に気付くが
逃げ出したい気持ちをなんとか抑え込んでその場に留まった。
居住区の向こうでもっと怖い思いをしているであろう
避難民達の為にも逃げるなどという事は出来ないと、
彼らの心の底にある気持ちがそうさせていた。
#21
「…?3時の方向!ザンジバル級です!!」
サイの口から唐突に出た言葉に更にブリッジ内に緊張が走り
サブモニターには確かにザンジバル級である
船体が確認出来ており、
「ザンジバル級!?ジオンの残党軍だと言うの…?」
とラミアスは怪訝な表情で呟くとサイが少し戸惑った様子で
「これは…友軍の識別コードを発しています!」と言葉を重ねる。
一同が目にしたのは増援の為に、
駆けつけた《トルネード》だった。
戦闘宙域到着と共に《トルネード》の船底部のハッチが開き
1機、2機、3機と順々にモビルスーツが発進をした。
すると《アーガマ》から通信が入り、
ブリッジの通信用モニターにブレックスの顔が映る。
「ラミアス艦長、あのザンジバル級は味方だ。」
「では、あれが准将の仰っていた増援の…」
「そうだ、彼らと協力して時間を稼いでくれ。あと5分だ。」
「は!了解です!」
ラミアスはブレックスとのやり取りを終え、
増援のモビルスーツをモニターで確認すると
そこには友軍だと確信させてくれるモビルスーツがいた。
先頭を進む機体の左肩に『ZION・ALIVE』と
ペインティングされたゾラ大尉の《リック・ディアス》と、
シグとヒルデガルト・スコルツェニー少尉の乗る
《リック・ディアス》が2機、ゾラ機に続くと、
《ブラック・ウィドウ》の《ガルバルディβ》と
《ジム・スナイパーV》の部隊に、
3機が揃ってビームピストルを撃ち放つ。
#22
そこへマーフィー機の《TR-5》がロングブレードライフルで、
ゾラの《リック・ディアス》へ狙いを付けてトリガーを引くと
ゾラは自分の機体めがけて迫るビームを躱し、
ゾラは攻撃して来た《TR-5》を見て、
ウィンドウを拡大させて見ると、
《TR-5》の機体に施されたT3部隊の部隊章が目に入ると、
シグとヒルデにその場を任せてマーフィー機に
向かってフットペダルを思い切り踏んで、
スラスターを噴かせて直進して行った。
「ZION・ALIVE」などと、
マーキングされた機体を見てしまえば、
ジオン残党としか思えないが、
今まで執拗に攻撃を仕掛けて来ていた奴らは
エゥーゴだったのかとマーフィーは気付かされた。
だが、それよりも形勢が覆ってしまった現状のほうが
マーフィーにとっては大きな問題だった。
直前まで相手にしていた《メビウス・ゼロ》は
増援の到着を確認したのかと思えば、
早々に引き下がって行ったが、
エゥーゴのモビルスーツは2、3機程度ならば、
悠に相手に出来る程の実力を持っている為、
今の状態は完全に危機的だと感じていた。
そんな中、コックピットに新たな敵の接近を知らせる
アラームが耳を劈(つんざ)き、
接近して来るガンダムタイプのモビルスーツが視界に入る。
コンソールにはRX-178の型式番号がはっきりと表示されており、
エゥーゴに奪われたというティターンズガンダムの一つ、
《ガンダムMk-U》だという事に気付く。
《ガンダムMk-U》しか確認出来なかったロベルトが、
ライラとの交戦の最中にカミーユへ通信を通して、
「カミーユ、クワトロ大尉とアポリーは大丈夫なのか?」と問う。
#23
「向こうにも増援が到着して防空衛星の破壊も終わりました。
後はここを抑えれば作戦成功です。」
カミーユとロベルトの会話を聞いていたキラも
良かったと肩を撫で下ろしたが、
今はまだ戦闘中だったと気を引き締め直す。
カミーユの到着と同時に《アーガマ》と
《アークエンジェル》にも防空衛星破壊の報は、
カミーユによって伝えられていた。
しかしこちらの目的を悟られない為にも、
早々にティターンズのモビルスーツを退ける必要があった為、
《アークエンジェル》や《トルネード》からの
艦砲射撃もより激しくなり、ライラやジェリド、
マーフィー達も一筋縄ではいかない
モビルスーツを相手にしながらの戦闘は難しいと感じ始めていた。
「くそ!こう味方機が踏ん張りきれんと…!!」
まさに危機的状況という状態に吐き捨てるように
ジェリドが言うと《トルネード》から放たれた
メガ粒子の火線が全周モニターの眼前を覆い、
ギリギリで躱し切ったその瞬間に、
安堵する余裕すらなく機体に激しい衝撃が走った。
衝撃によってモニターパネルの一部が
点いたり消えたりする中で、視界に捉えたのは、
右手に持ったビームサーベルを振り終わった態勢でいた
漆黒の機体色を纏ったシグの《リック・ディアス》で、
気付けばライフルを持った自機の右手を切り落とされていた。
シグは迷う事なく、次の攻撃を防ぐ手立てを失ったであろう
《ジム・クウェル》のコックピット部分の腹部に
サーベルを突き刺そうとしたその時、
シグは2発のミサイルが自機の、《リック・ディアス》めがけて飛んで来たのに気付いて
バルカン・ファランクスでミサイルを迎撃すると、
舌打ちをして《ジム・クウェル》から距離を離した。
#24
ジェリドの危機を救ったのはライラだった。
「ライラ…!」
「これ以上の戦闘は無用な被害を出すだけだ。
悔しいがここは引くしかなさそうだな。」
ここで死んだ…。そう思ったジェリドは、
ライラが助けてくれた事に感謝する余裕は無かったが
もう戦える状態ではない事は分かっていたのか、
ジェリドは彼女の考えに反駁(はんばく)する事なく
それに従って
《高機動型ガルバルディβ》に抱えられるようにして
戦闘宙域からの離脱をして行った。
既に《マンイーター》と《エストック》の
モビルスーツ隊も損傷をしていた為、
母艦へと帰投を始めており、
マーフィーもここが潮時と判断して、
ヒルデ機と交戦中だったオードリーに、
信号弾を上げるように指示を送ると
《ヘイズル》の手の甲部から信号弾が発射される。
「キラ!深追いはするなと言った!!」
と《アークエンジェル》に先に帰艦していたムウが、
通信越しにキラを止めると《ガンダムMk-U》が、
《ストライク》の肩を触って接触回線が入る。
「キラ作戦は成功だ。お前はやっぱり凄いな。」
「カミーユさん…」
カミーユはの声はどうしてか少し寂しそうだった。
作戦の成功は一時的にとはいえ、
レコアとの別れを意味するものであり
カミーユはどうにかして無事で帰って来て欲しいと、
心の中で願う事しか出来なかった。
#25
「時間だな…よし!《ホウセンカ》を発進させろ。」
「了解。進路クリア、レコア中尉、ご無事で!」
ティターンズの撤退と時刻を同じくして
ブライトがトーレスへ指示を送り、
トーレスの言葉に緊張した面持ちのレコアが少し頷き、
「行って参ります。」とレコアはモニター越しに
敬礼をしたのをブライト、ブレックス、ヘンケン達が確認すると、
カタパルト射出機に接続された《ホウセンカ》が、
勢いよく発進して行った。
作戦成功の為に役目を全うした末に轟沈した
《モンブラン》の残骸が大気圏で次々と燃え尽きて行く。
それは同時に《ホウセンカ》の降下を隠すかのようであり
レコアの無事を祈りつつ、母なる星へと帰る
《モンブラン》の全乗組員の勇敢なる命へ
敬礼をしてエゥーゴの一同はその最期を見送ったーーー。
※ ※ ※
同日、同時刻ーーー
北米地区シャイアン防空基地の外れにある
居住地のまさにとある豪邸の敷地内にある
プールサイドの椅子に身を預ける一人の青年が、
夕暮れ時の空を見つめている。
その青年の視線の先には遥か先の空と宇宙(そら)の狭間で、
重力の井戸に引かれて燃え尽きては煌めく光があった。
「アムロ様、お茶をお持ちしました。」
空を見上げるアムロと呼ばれた青年に
見なり整え黒服を見に纏う執事と呼ぶに相応しい老人が、
純銀製のトレーに見るからに高級なティーカップに注がれた
紅茶を脇に置いてある円型のテーブルにそっと置く。
流れ星?いや…違う。
何か大きな事が起きようとしている…。
だが…俺にはもう関係のない事だ。何も考えるな。
空を見つめながら感情を押し殺すように考え込むアムロは
心の奥底で一体何を考えているのか。
おそらくはアムロ・レイという青年の数奇な運命を知る
者にしか推し量る事は出来なかった。
#26
その時、テーブルに置かれた携帯電話が鳴ると、
普段は滅多に鳴らない携帯を手にしてアムロは
電話に応答すると、懐かしさを感じさせてくれる声に少し驚く。
「よぉアムロ。隠居生活はどうだ?」
相変わらずの皮肉屋ぶりに思わず口角を少し上げたアムロは
「大人しくしてれば問題ないさ。」と返す。
「大人しくしてればか。
いつまでそんな所にいるつもりだ?」
皮肉から一転したカイのストレートな物言いに
アムロは眉間をピクリと動かした。
この会話は盗聴されている。
これ以上の話は危険だ…。
そう感じたアムロは突然、押し黙り爪をかちかちと噛み始めた。
数秒の後に電話の向こうで爪を噛み続ける音を聞いていた
カイが沈黙を破るように、
「分かったよ、お前さんの考えに従うさ。
せいぜい頑張れよアムロ。」
と言って、カイは電話を終えた。
カイに伝わっただろうか?
いや、あの口振りなら伝わっただろうな…。
アムロはそう確信しながら、カップを手にして紅茶を口にした。
※ ※ ※
連邦宇宙軍第8艦隊司令部のある、
プトレマイオス月面基地の管制塔にいる
管制室長は司令室に通信を繋げる。
モニターの向こうにいるハルバートンに向けて
管制室長は敬礼をしてから
「提督、情報部から通信が入っております。」と言う。
ハルバートンは机にある時計の時刻を確認した。
ヘリオポリスに関する提示報告の時間だと認識すると
「うむ、繋げ。」と言うと
机の中央に埋め込まれたモニターに、
背広を着たハルバートンが
独自に動かしている情報部員が写っていた。
#27
「提督、少々問題が…。」
情報部員は顔色一つ変えることは無かったが
ハルバートンは彼の言葉に怪訝な顔をして反応を示す。
「問題…?何があった?」
「は。ヘリオポリスより運び出された
2隻輸送船の内1隻がジオン残党シーマ・ガラハウの
艦隊によって撃墜されました。」
情報部員の報告は最悪の報告だった。
情報が漏れての事なのか。
偶発的な遭遇による被害なのか。
何の為に輸送船の撃墜をしたのか。
ともかく悪名名高いシーマ・ガラハウに
狙われたのは運が無かったとしか言いようが無い。
などと、ハルバートンは思案を巡らしつつも、
「助かったもう1隻には何が載っている?」と、
とにかく自分を落ち着かせる為にも、
情報を少しでも整理しようと努めて問うが、
ハルバートンの問いに顔色一つ変えなかった筈の
情報部員は途端に歯切れの悪い返答が来た。
「は…それに関しては現在調査中ですが、
ティターンズや正規軍の哨戒任務の航路上ですので
こちらの調査は難航しております…」
「…最悪の場合は打ち切られねばならんという事か。」
「恐れ乍(なが)らそれも判断の一つとしてお考え頂ければと…」
破壊されてしまったのならば仕方ないと割り切れるものの、
こちらの不自然な動きをティターンズに察知されるのは
今のタイミングでは更にまずい事態になる事を第一に考え
とにかくこれ以上の情報漏洩を防ぐ為にも
不本意ながらもそう判断せざるを得ないとして、
調査を20時間後に打ち切るように指示を出した。
その背景にはやはりティターンズが
宇宙での活動を活発にしている事が大きく、
その動きに注視しなければならない状況でもあったからだった。
情報部員は「了解致しました。」と言って通信を終わらせた。
#28
ブレックスを疑ってはいなかったが、
とにかくどのようにして情報が外部に、
ましてや海賊風情に漏れたのか?
ハルバートンはどうにも腑に落ちない事に
頭を抱えたい思いだった。
考え込むハルバートンの傍に立っている副官のホフマン大佐が
ハルバートンへ今後の事について
「どうなされるおつもりですか?」と、
顔色を伺うように聞いて来た。
「サハク家とアスハ家に連絡を入れろ。
出向く事は出来んが話の通じぬ相手ではない」と言った
ハルバートンは腹を括ってホフマンの問いに応じると、
ホフマンは無言で頷く。
この件もヘリオポリスの件も近い内にティターンズに暴かれる。
その時まで今は我慢の時だと考え
「ホフマン、そろそろ私達も覚悟を決めなければな。」
と言ったハルバートンの目は力強さを感じさせるものがあった。
※ ※ ※
彼らが見つめる視線の先にあるそれは圧倒的な光景だったーーー。
前大戦で敗北したはずのジオン残党のどこに
ここまでの艦隊を編成させるだけの資金と
拠点があったのだろうか?
これは先遣艦隊のはずではなかったのか?と、
パトリックは秘書官に改めて確認してしまうほどだった。
#29
そんな先遣艦隊の中で一際目立っていたのは、
一年戦争のア・バオア・クー会戦において
圧倒的な存在感を放っていたと言われるドロス級超大型空母。
一年戦争時に戦没、又は接収の後に処分された
ドロス級よりも一回り以上も大きく、
全長4kmもの巨体は移動要塞そのものだった。
パトリックの疑問はもっともだ。
ドロス級の建造などしようものならば
多くの資材や資金を必要とする為、地球圏から遠く離れ
木星圏にほど近いアステロイドベルトでの
これだけの規模の艦艇の建造はできる筈も無かった。
だが、サイド1・ブッホコロニーに拠点を置いている
三大財団の一つ、ブッホ・コンツェルンによる出資協力で、
木星圏の更なる開発に力を注いでいるサイド2のアメリア、
カラブリア、ブルー3コロニーなどが
その裏でアクシズと関わっているのだが、
その内情はアクシズやジオン残党以外の耳に入る事は無く、
いかにして彼らがこれだけの艦隊戦力を物にしたのか?
という疑問は深まるばかりだった。
ザフト軍が所有する小惑星基地ヤキンドゥーエの司令管制室に
通常ならば彼らが足を踏み入れないが、
議長のパトリックを含めたシーゲルら評議会議員達が
司令管制室に集まっていた。
彼らは想像を絶する規模の艦隊をその目に焼き付けており、
ヤキンドゥーエの側に浮かぶ小惑星基地
ボアズにいたクルーゼやクルーゼ隊のアスランやイザーク達も、
基地内の窓やモニター越しにアクシズ先遣艦隊の
その動向を見守っていた。
「閣下、先遣艦隊の司令官より通信が入って来ております。」
管制室のオペレーターの言葉に、
「繋げ。」と言うと、
細面の輪郭にしわがやや目立つユーリ・ハスラー少将が、
管制室のメインモニターに映し出される。
#30
「私はプラント最高評議会議長パトリック・ザラである。
貴艦隊に対する受け入れ態勢は整っている。」
ハスラーの第一声を待たずしてパトリックが
管制室内に漂っていた緊張に張り詰めた空気を
破るかのように口を開いた。
議長自らが艦隊の出迎えにあがるとは…
ハスラーは意外そうな表情を一瞬見せると、
「私は先遣艦隊司令官のユーリ・ハスラー少将です。
手厚い出迎えに感謝致します。」
といたって形式然とした挨拶を済ませる。
先遣艦隊は管制室からの誘導で、
ヤキンドゥーエに《ドロスU》以外の艦艇が入港する。
各艦内にいる将兵やクルー達は、
ようやく辿り着いた地球圏への帰還に安堵の表情を浮かべていた。
ハスラーを含めた数人の将校達は、
議長を含めた評議会員との会談に臨む為、
庁舎内の会議室にてパトリックを待っていた。
数分後、会議室の大きな扉が開くと、
パトリックとエザリアら何人かの議員が会議室に入ってくるが、
その中にハスラー達が見知った男を見つける。
その男こそがガトーであり、
彼は直ぐにハスラーのもとへ歩み寄る。
「ハスラー閣下、よくお戻りになられました。」
「おお、ガトー少佐か。
よくぞ地球圏に留まり奮戦してくれた。
その勇気はアステロイド・ベルトにまで届いていたぞ。」
ガトーとハスラーは力強く握手を交わすと、
同席していた将校達はガトーに向かって敬礼をすると
ガトー、そしてハスラーも敬礼をし、
互いの健在ぶりを再確認したのだったーーー。
というわけで16話終了でございます。
種絡みのイベント少ないのは温めているだけです。
エゥーゴが月に到着してからがーーー
という流れになっていますのでZシナリオに偏っているのは
何卒ご容赦頂ければと思います。
書いている途中に期間が空いたので
ちょっとおかしな点があれば教えて下さい。
GJ!
エリアルドさんはこの青臭さがいいよな。
そしてまさかのアクシズ大艦隊wwwブッホがここで出てくるとは予想外だわ。
乙ー
うおう、オールスターとはいかんがそれでも凄い面子が山盛りでお腹一杯だよw
めっさwktkする展開だわ、ブッホで木星の影が見えかかってるしワーオだよ旦那
デラフリは原作じゃ逼迫した戦力でぎりぎり回してたけど、このSSだとばっちり後ろ盾あり、ガトーは7年待ったかいがあったな。
投下記念age
キラが凄い勢いで主人公していってる!
まとめ・ウィキ管理人さんへ
2ch運営のクーデターで新管理人Jim氏になったらしいんで運用情報板覗いてみたら、
転載やまとめは公式wikiのみに嫌儲民に議論が誘導・弾圧されてました。
それ以外は全面転載禁止で、違反したら嫌儲民が荒らしに行くそうです。
バックアップ取っといた方がいいかと思います。
SEED:Reのザフトにより強化されたGATシリーズとか楽しみだ。
>>428 たしかバスターがミーティアモドキ使ってるんだよな?
量産牛先生は何処・・・
>>429 イージスがウイングバインダーと新盾とロングライフルで飛行形態に、デュエルが簡易IWSP、ブリッツがネロブリッツ+マガイノクタチだな。
432 :
通常の名無しさんの3倍:2014/03/06(木) 00:45:46.51 ID:QABhJwFf
BFさながらの魔改造ワロタ
まさにザフト驚異のメカニズム。
434 :
通常の名無しさんの3倍:2014/03/06(木) 19:05:29.79 ID:QABhJwFf
ザフト魔改造とかはすごいな
量産機は・・・・
種運命の新型機の立場がなくなってしまう魔改造w
羽パーツ追加で飛行できるイージスがある意味凄いのかもしれないがw
種運命もリマスター記念で漫画化されたら魔改造カオスガイアアビスとかあるかも
Reじゃ砂漠ですでにパーフェクトストライク、ラゴゥはハイマニューバ化だからな。
天帝対ガンバレルストライクもありそうだな
439 :
通常の名無しさんの3倍:2014/03/31(月) 22:19:59.11 ID:xxbJP0o4
>>438 クルーゼのゲイツもプロビシグーみたいに改造されそう
>>438 GBAの「友と君と戦場で(タイトルこんな感じ)」ってゲームでそれやれたな
量産牛先生、なんか生存報告でも・・・
すみません。忙しくてまとまって投下する時間が確保出来てません。
とりあえず、近いうちに投下したいと思いつつです。
あと、投下ペースを月一はご覧の通り無理なので、
纏まって時間を取れた時にということで。
暫く書いていないうちに2chの仕様が変わった様ですね。
例の件と関係有る様で、表示で確認しました。
書くべき場所を考えないといけないかもしれませんね。
やっぱ投稿サイトですかね。
スレ違いだよ、坊や
捕手
保守
保守
保守
451 :
通常の名無しさんの3倍:2014/09/19(金) 18:23:02.14 ID:ElkxIhIi
ほ
453 :
皆の衆:2014/09/23(火) 11:47:35.02 ID:SXp2xhlK
ミネバ様。ユニコーンのミネバ様。ミネバ様が赤ん坊の時から見守ってる萌え豚も一緒に来るでしょう。そして世界は最悪になる。皆の衆。
AGE
AGE
もしもMHの古龍がSEED世界にいたら
>>455 一応種世界ではジャンク屋組合とかいう武器商人が存在してる
ジャンク屋組合はもうどうしようもないところまで来ているわ。
460 :
通常の名無しさんの3倍:2014/11/19(水) 12:38:56.75 ID:7Kvehexz0
>>459 最新作でとうとう武器自主開発して売り出したらしいな
>>460 言い分が「リミッターつけてるから兵器じゃないよ!リミッター解除は自己責任だけどね!」
これは酷い。
シロッコ「ゆくぞ。ついてこれるな、少年」
カミーユ「いけますよ。僕がそうでなけりゃ皆だって困るでしょ」
クワトロ「無駄話はそこまでだ。総員、このまま敵陣を突破する」
ハマーン「シャア、貴様には私がついているのだ。精々頼ってもらいたいものだな」
アムロ「邪気が来たか!みんな必ず生きて戻るぞ」
ジュドー「死んじゃったら何にもならないからね」
463 :
通常の名無しさんの3倍:2014/11/20(木) 01:30:09.91 ID:IWgkzr8EO
シロッコ以外はスパロボであり得るのか、うすら寒いな
シロッコは軍人には似つかわしくない彼の繊細な指先でモニターに映る人物の一部を拡大した
カミーユ・ビダン。少女の様な風貌に挑戦的な瞳が印象的な美しい少年
あの青い星を思わせる健やかな髪の色とその凛とした頬は、木星暮らしの長い彼に知るはずのない母性を思わせる物だった
「なんですか?急に呼び出して」
刺のあるカミーユのいつもの言い方に、しかしシロッコは優しく返すのだ
「今度、ルナツーに立ち寄る。久しぶりに地球を眺めながら茶でも啜る時間がほしいな」
日頃の態度と裏腹に、察して赤らめるカミーユが可愛い。まだまだ彼との恋愛ごっこは飽きないと思ったシロッコだった
君を生涯の伴侶とするのはこの戦いを終わらせてからでも遅くはないのだ、と
AGE
モニターにはその戦いの悲劇とも言える顛末が描かれている
「さて、いくか」
飲みかけの珈琲を残して天才は全てを終わらせる決意でデスクから立ち上がった
「シロッコ!!」
カミーユはその天才に詰め寄る。ジュピトリスの中で、いや突然投げ出された宇宙の中で、急に襲ってきた戦禍の中で、決して幸福ではなかった少年の人生の中で、
誰よりもカミーユに優しく誠実であり続けたシロッコ
だからカミーユは、思春期とは言え破滅的とさえ思う繊細な自分の感覚を、戦場という狂気の地にも晒せたのだ。貴方がいるから
「僕は…」
何故だろう。言葉より涙の方が早い
「カミーユ・ビダン。私は親の顔を知らない。唯一の家族であった妹は幼い時に戦争の中で失くした」
「…え?」初めてなのだ。シロッコが自分の生い立ちを語るなんて
でも、そんな予感はカミーユにもあった。そうか…
だから僕達は…
「私とて生身の人間のつもりだ。心を許した者を二度も失いたくはない。カミーユには、ずっと私の後ろにいてほしいな」
「僕も戦いますよ!許せないんです。貴方を傷付ける奴等は」
シロッコは傷付いてるのは自分ではなくカミーユだとは言わなかった
カミーユのそんな鬱屈した愛情を何度も見てきたから、そう言ったってこの少年は聞かないだろう
「…は、…ぅん…」そのキスには媚薬と麻酔薬が含ませてあった
愛情と悔しさが混濁した意識の中に落ちていくカミーユはそのままシロッコに体をあずけた
これが大人の優しさだと知ってるつもりだったが、やっぱり涙の方が早かった
カミーユを私室のソファに任せると、彼はすぐに部屋を出る
「戦いは終わるよ、カミーユ」
珈琲は飲みかけのままでいい。愛用の髪止めも置いてきた。自分は必ず生きて帰ると約束したから
全てが終わったら一緒に木星へ行こう
そこは彼が知る一番優しい場所なのだから
「ジ・O出るぞ」
異形の巨躯を纏う神の意思に秘められた誓いを、群がる敵艦隊の放火は知るはずもなかった
おつ
「もう…ぃく…」
白く細い流線を象り、カミーユの腰がせりあがると、シロッコはそれまで以上に熱くなったそれを思い切り押し付けた
「あぁん!、あぁん!」
カミーユが一呼吸する間に、シロッコのそれが埋める様に差し込まれる
痛みに息が上がり汗は止まらず、高揚で頭が真っ白になりそうなカミーユは何故か初めて宇宙をMSで飛んだ日を思い出した
そんな宇宙に浮かび重力を忘れた様に曲がり狂うカミーユの華奢な腰を見て、シロッコは綺麗だと思った
ジュピトリスはその大きな巨体のそここに先の戦いで刻まれた損傷が痛々しく目立ってはいたが、補給を繰り返し徐々に地球圏を離れつつある今の航海は順調と言っていいだろう
カミーユは舷窓に流れてゆく星を見ていた
「やはり地球を離れるのは寂しいか」
蒼白く均整の取れたそれはまるで野生の豹を思わせる裸体で、乱れた紫髪を取り繕うより先にシロッコはカミーユにそう尋ねる
その彼の胸から腕にかけては、真新しい大きな傷が今も生々しく残っていた
「不思議なんです。寂しいって気持ちとか、戦争で仲間が死んだ悲しみとか、辛い事が色々あったのに此処にいると全部忘れていく自分が」
シロッコは傷を隠す様に手早く上着を羽織った
「忘れなくては宇宙では生きてゆけん」
「そういうの、今はまんざら不幸でもない人が言う言葉ですよ?」
カミーユが悪戯っぽく笑う
シロッコは生まれて初めて、その命を生んだ地球に感謝しながら彼の瑞々しい頬に唇をつけた
469 :
通常の名無しさんの3倍:2014/12/07(日) 20:30:03.23 ID:1zdH5VZwO
シロカミ出来たのでageますねw
スレ違いだ阿呆
471 :
通常の名無しさんの3倍:2014/12/17(水) 04:41:24.03 ID:k2BJKsi70
AGE
473 :
通常の名無しさんの3倍:2015/01/30(金) 02:36:35.47 ID:a5Y7Mlhr0
まとめからきたけどダンバインとのクロスが凄い面白かった
474 :
通常の名無しさんの3倍:2015/02/08(日) 18:53:48.92 ID:r4Akq0p00
関連しねえ
476 :
通常の名無しさんの3倍:2015/02/21(土) 12:19:19.46 ID:9yOFkHXiO
過疎すぐる
477 :
通常の名無しさんの3倍:
最近クロススレどれも息してないね