もしも刹那がエヴァの主人公だったら第弐話

このエントリーをはてなブックマークに追加
1通常の名無しさんの3倍


刹那・F・セイエイ「エヴァ初号機、刹那・F・セイエイ、目標を殲滅する!」

・テンプレ
刹那がEVAの主人公だったらというIFネタ、00とエヴァのクロスネタのスレです。
基本sage進行 。落ち過ぎたらageて
荒らし、アンチはスルー
次スレは>>980あたり

・前スレ
もしも刹那がエヴァの主人公だったら
ttp://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1247303298/l50


・SSの保管先: ガンダムクロスオーバーSS倉庫
ttp://arte.wikiwiki.jp/
その他→一番下に作品が置いてあります。
場所が変わる場合もあるので見つからなかったらログ参照

ネタ師、新人職人、雑談、考察歓迎
2通常の名無しさんの3倍:2010/01/11(月) 22:53:06 ID:???
       ∧  ∧
       |1/ |1/
     / ̄ ̄ ̄`ヽ、
    /        ヽ
   /  ⌒  ⌒    |驚愕の展開に、ムーミンも驚きを隠せないようです。
   | (●) (●) U |
   /          |
  /           |
 {            |
  ヽ、       ノ  |
   ``ー――‐''"   |
    /          |
   |          | |
   .|        |  | |
   .|        し,,ノ |
   !、          /
    ヽ、         / 、
     ヽ、  、   /ヽ.ヽ、
       |  |   |   ヽ.ヽ、
      (__(__|     ヽ、ニ三
3寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/11(月) 23:09:21 ID:???
という事で半年ルールにより落ちたので立てました。正直焦りましたorz

それと、即死判定から逃れる為に予告していた解説レス今から投下します。
新スレ一発目から投下失礼します。
4寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/11(月) 23:11:58 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
EVA-00設定解説

第一回『世界情勢と各組織について』

まず、開設コーナーに関して。
本来小説で説明しろ!と言う部類の文章なのですがそれやると
説明台詞と地の文での説明が長過ぎ
物語をやりたいのか作った設定を説明したいのか解らなくなるので
物語部分のウェイトを減らす為に別個で解説シリーズを設ける事にしました。
一部物語の展開前に開示されている情報もありますし
後から物語で説明する台詞もありますがご了承下さい。

では、今回は第一回という事でざくっと世界についてのお話を。
ココは00準拠の設定が濃い目に反映されています。
原作EVAでは殆ど世界情勢に触れなかったのでそのまま導入しました。
既に閑話窮題(シンジ編1)や本編でグラハムやスメラギさんが言っている様に
AEU、人革連、ユニオンが全部あって勿論、各自一基ずつ軌道エレベーターを所有しています。
ユニオンの経済特区として日本は入っています。で、00世界よりは緊張状態にはありません。
CBがあっちこっちでテロもやらなければ、イオリアが全世界に
喧嘩も売っていないので程よい冷戦状態にあります(今のところは)。
なんでかというと大体の三勢力の首脳クラスは殆ど使徒の話を知っている上に
この世界でも勿論セカンドインパクトが起きているのでその混乱を平定する為に
軍は使われており、お互いにドンパチ遣ってる余裕はあんましありません。
むしろ、小競り合いに全力掛け過ぎて使徒の対応をNERVに丸投げしている形です。

それ以外の地域。主に中東は相変らずと言う感じです。
石油枯渇はない(本家でもいつの間にか無くなってました)のですが
セカンドインパクトの混乱がまだ尾を引いてます。
実際、原作EVAでも民族紛争や戦争が結構起こっていましたのでそこら辺は程よく被ります。
後、やっぱり軌道エレベーターの恩恵が受けられません。
刹那が巻き込まれた紛争も殆ど原作通りですがココらへんは物語で追々。
5寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/11(月) 23:15:45 ID:???
NERVに関しては3勢力全てに支部があり、技術徴用もされています。
そして、バックアップと言うか陰で操っているのは
ゼーレともれなく、監視者(コーナー家など)もついてきます。やったね!
彼らは『人類補完委員会』と言う形で一つの会合を参加しており
NERVの方針や処理を話し合ったりしています。

ゼーレとNERVの関係は一緒ですがそれとは別に監視者の勢力もあります。
監視者達はEVAのより現実的な運用
要するに”使徒を全部倒した後の世界”の事を考えています。
終末思想的なゼーレとあくまで人類の存続に拘る監視者は
『使徒を倒す』『人類に革新をもたらす』と言う共通目的で一緒になっています。
EVAなどの原作EVA技術はゼーレ供給
GNドライヴなどは監視者の側の技術者が提供しており
両方を享受しているNERVの技術力がやばい事になっています。
イオリアは両組織がまだ一つだった頃の代表(キールのポジ)で
『人類補完計画』と『来るべき対話』について両案を纏めています。
要するに考え方というか、死海文書の解釈の方針で派閥、宗派が出来たと考えて下さい。

で、NERV本部ですが酷く人材不足です。
赤木博士とミサトさんの脱落、シンジ、レイが出れない事情、零号機の実験失敗で
全体的に技術が遅れており、監視者(GNドライヴやヴェーダ)の技術の占有率も高いです。
単純なイメージで言えば、原作のNERVに比べて半分近くまで技術力はダウンしています。
その減った半分を監視者側の人材、技術etcで補っている形ですね。
詳しいことはまた別の日に改めて解説します。

後、原作EVAではダミー組織だったマルドゥーク機関ですが今回はばっちり存在します。
細かい事はおいおい登場しますがそのおかげでNERV本部も含めてEVAパイロットや技術者の派遣や
採用が制限されているのでトウジの様な現地徴用が難しくなっています。
その代わり、あっちこっちで00世界の登場人物が
NERVと軍を出たり入ったりがあって人間関係所属がカオスになってます。
そこら辺もまとまり次第、物語とは別に解説コーナーで纏めようと思います。

今回は大体こんな感じで。次回解説は『この世界の技術について』
本編投下はまた来週以降、纏まり次第予告します。
ちょっと刹那の心理パートを入れたら長くなってるのでバランス調整中。
その後解説コーナー二回目投下予定です。では、投下失礼しました。
6通常の名無しさんの3倍:2010/01/12(火) 00:21:11 ID:???
>>1乙がエヴァンゲリオンだ!
7通常の名無しさんの3倍:2010/01/12(火) 13:33:24 ID:???
ゲンドウ=リボンズ
冬月=アレハンドロ
これなら俺は楽しめる
8通常の名無しさんの3倍:2010/01/12(火) 17:55:13 ID:???
土壇場で「後は任せましたよ。アレハンドロ様」なリボンズはアリといえばアリか?
9通常の名無しさんの3倍:2010/01/13(水) 23:44:14 ID:XnDUggH2
支援age
10通常の名無しさんの3倍:2010/01/19(火) 22:11:45 ID:???
半年ルールで落っこちてたのか。
寝腐さんスレ立て乙。
ついでにあげ。
11通常の名無しさんの3倍:2010/01/19(火) 22:18:17 ID:???
GJ、GJ
それはいいが、ここ30レスルールとかなかったっけ?
12通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 00:12:06 ID:???
なんか面白そうなことやってるな少し期待してるぜ
13通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 08:21:34 ID:???
>>1スレ立てとそして投下乙

>>11三ヵ月ルールじゃなかったっけ?
14通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 12:28:29 ID:???
このスレ見たことないけどカヲルとかは味方なの?
15通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 12:52:11 ID:???
>カヲル君
職人が一人居て、それではまだ未登場
前スレでは刹那と性格あわなそうってネタがあった
貞本版では大分冷めた性格だったからとか
16通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 20:42:45 ID:???
>>15
なるほど

声優ネタで何かやろうと思ったけど職人が一人ならやめといた方がいいかな
カヲルの中身をネタにすると冷めた感じとは真逆になるだろうからさ
17寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/20(水) 20:48:08 ID:???
>>16
いやいやいやいや、むしろ遠慮しないでやっちゃって下さいorz
こっちは設定重いし、作成速度遅いんで手軽に楽しめるネタとかは大歓迎ですよ
18通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 22:08:49 ID:???
>>13
俺もちょいちょいルールがかわるから、わけわかめになってる。
ともかく、レス数は増やしておくに限るかと。
19通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 22:35:09 ID:???
ただの通りすがりだが落ちるルールについて

20レス未満で2週間レスがない場合
980レス以上で24時間レスがない場合

以上
20通常の名無しさんの3倍:2010/01/20(水) 22:39:12 ID:???
そうかじゃあ20いったし落ちはしないな
21通常の名無しさんの3倍:2010/01/21(木) 02:35:34 ID:???
サンクス!
で、これで規定は守れた訳だな。
例のウイルス型使途との攻防ではないが、2秒余裕あれば言い訳かw
22寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 19:33:26 ID:???
本日九時、閑話窮題「死の天使 中編」投下予定です。
前編は此方
ttp://arte.wikiwiki.jp/?EVAcrossOO_%BF%B2%C9%E5%A2%A1PRhLx3NK8g%BB%E1_EX_2%CF%C3

話を繋げる為に一部00にもEVAにも出てないキャラが出張ってます
詳細元ネタはあまり気にせず、よくあるマッド爺位の認識でOKですので
23寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:02:15 ID:???
という事で投下開始します。ちょっと今回長めです
24寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:05:10 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    閑話窮題「死の天使・中編」

―4年前人革連のとある研究所にて

             ”双子は何処だ!”

 時は第四使徒襲来より四年前、人類革命連盟の数多くの地域でこの言葉が踊っていた。
 ありとあらゆる人種の双子が政府から買い上げられた。
 召集された双子は何処ともわからぬ施設に収監されていった。
 それに便乗し双子である事を隠したり、故意に双子と偽って富を得ようとする者まで現れる始末。
 だが、そこは人員は畑で取れるといわれている人革連。
 まさにその力をフル活用した研究がこの場所では行なわれていた。薬物投与に精神操作etc。
 人道、人権などという言葉は既に忘れ去られたアーティファクトの様に此処に居る誰もが狂っていた。
 そんな狂気のゆりかごの中で皮肉めいた口調のままぶつぶつと文句を言い合っている集団。
 アジア系とロシア系の科学者らしき格好の人物達が不満を吐き散らしながら廊下を闊歩している。

「あのドイツ人がまた双子で実験をするそうだ」
「あんな気狂いに我々の超兵研究の予算が持っていかれているとなるとやりきれないモノだよ」
「なぁに、あんなやり方ではその内ヘマをするのが眼に見えている。
 エヴァを動かすのに最適なのは我々の超兵だ」
「口だけで動かせりゃ苦労しねぇーよヴァーカ」
「ふん、あのドイツ人の子飼か。生意気な口を利く」

 それを立ち塞がる様な位置で仁王立ちになっている少年が1人。
 青い髪に独特の白い生地に黄色いラインの入ったスーツを身に纏っている。
 ぴたりっと吸い付くそのデザインは筋肉の隆起を如実に表していた。
 大人数人など叩き伏せるには充分な程の肉体とそれに伴った自信溢れる表情を見せ付けている。
 その少年の言葉に不機嫌さをあらわにする集団。流石に殴りかかる様なモノは居なかったが
 指を指してやんややんやと罵りあいが始まった。男達は口々に理論だった批判を展開した。
 やれ、途中から入ってきた新参者がだのあれはヨーロッパのスパイだの皮肉と妬み
 様々な負の感情が混ざった罵詈雑言をその少年に向けている。
 少年は面倒そうに足を組み、耳を小指で穿り返しながらも
 一通り反論が終わった科学者達を睨み返す。その視線だけで一瞬怖気づく集団。

「ったく、男らしくねぇなさっきからぐちぐちと。手前らの超兵なんざ
 ろくに成果が上げられなかったのが、内のDrが何とか使える様にしてやったんじゃねぇーか」
「ハプティズム兄弟は我々の研究成果だ! それをあの男が横から」
「あぁん? シンクロ率を飛躍的に上げたのは何処の誰のおかげだ?
 そもそも、あいつ等の単独(シングル)での研究成果なんて俺達より下じゃねぇーか」
「なっ……知った風な口を!」
「貴様などあのドイツ人が居なければ此処にも居場所が無いモノを!」
「ミハエル!」
25寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:07:14 ID:???
 少年の言葉に研究者達はネジ巻きを忘れた玩具の様にぴたりっと静止した後、わなわなと拳を振るわせる。
 最初は子供のからかい程度に感じていた研究者達もある人物の名前を自ら挙げて罵声を返す。
 青い髪の少年ははき捨てる様に言葉を返していく。
 一触即発の雰囲気の中、今にも殴りかかりそうな態度の少年を見つけた
 褐色肌の青年は少年の名前を呼び、静止を促す。
 研究者達のため息と安堵に近い声が漏れる中、ミハエルと呼ばれた少年は
 罰の悪そうな顔を向ける。それを見て科学者達はその褐色肌の青年へと矛先を一斉に向ける。
 その青年もまた独特の白いスーツを纏っていた。
 此方もやはり筋骨隆々と言った感じでミハエルよりも威勢と危なっかしさは無いが
 それでも目の前のもやしと肉饅頭の群れを一蹴するには充分に見えた。

「すいません。うちの弟が生意気な事を。ほら、ミハエルも頭を下げろ!」
「だってこいつらDrの事を!」
「いいから! 本当に申し訳ありません」
「育ちが知れるぞ、ヨハン・トリニティ!」
「狂犬には首輪をしっかり付けておきたまえ!」
「何処の馬の骨かも解らんから親の顔も見れんな!」
「全くだ! 躾けがなっとらん!」
「んだぁとごるぁっ!」
「ミハエル! もう行くぞ!」

 ヨハン・トリニティと呼ばれた褐色肌の青年は大人の対応を見せる。
 それに気を良くしたのか、大人気なさを体を張って表現していた研究者達も
 散々に捨て台詞を吐き散らして去っていく。
 その負け惜しみに釣られたのか怒鳴り声で怒りを露にするミハエルの手を引っ張って行くヨハン。
 ミハエルは途中でヨハンの手を振り解いてずかずかと不機嫌そうに歩調を合わせていた。
 最近のミハエルが苛立ちを隠せず、だれかれ構わず噛み付いているのをヨハンは知っていた。
 こうやって注意するのも今週で何度目になるか数え切れない程の頻度。
 ミハエルのあからさまな態度の変化に兄であるヨハンは手を焼いていた。

「ミハエル。今日は何があったんだ? Drの悪口で怒るほど好いてたとは思えんが」
「兄貴も知ってるだろ。今日もDrはあの双子の実験に掛かりきりだ。
 俺やネーナもようやく適正年齢になってシンクロの兆候が見えたっつーのによ!」
「また、そのことか? 仕方ないだろ。俺が年齢的に上がってしまった事もあるし
 いよいよヨーロッパでソロでのシンクロの成功が見えつつある。
 Drとしてはどうしても双子(ダブル)でのシンクロを成功させたい様だし」
「だけどよ、兄貴! あの二人だって年齢ギリギリ。
 そろそろ上がっちまう年だ。だっつぅーのに俺やネーナを差し置いて!」
26寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:09:56 ID:???
 トリニティと名を冠するDrヨーゼフ・メンゲレの人体実験成果ミハエル・トリニティ。
 彼の苛立ちは実にシンプルだった。彼等はEVAを動かす為に生きていると同義。
 しかし、肝心の起動実験に関してはかなり長い期間お預けを喰らっていた。
 4年前、ドイツ支部から転属し、設備も実験成果も乏しい人革連所属の此方の支部へと移った。
 当初、左遷に近かったが待遇ではあり、不安も大きかった。
 だが、ヨハン・トリニティによる実験成功と革連の作り出した”超兵”と呼ばれる
 強化兵の起動実験への修正の評価は彼の予算にも顕著に見られた。
 順番的にも成果的にも、既に成果を上げているトリニティの次候補である自分や
 妹のネーナが優先的に起動実験に割り当てられる筈。
 研究機関に勤める誰もがそう思っていたが、見事に予想を裏切られる形となっていた。
 その当たり前だと思っていた展望と現実のギャップがミハエルを苛付かせていたいた。
 ヨハンはその弟の態度に自分の無力さを感じていながらも何とか宥めようとする。
 幾ら実験での成果を上げたとしても、起動出来なかった事が
 弟と妹への期待と感心を奪ってしまった事への自責の念は
 その研究所に所属する人間の想像より遥かに重く圧し掛かっていたのだった。

「心配するな。Drはちゃんと考えているよ。今度出向が決まったんだ」
「な? 兄貴だけかよ?」
「ああ、ゼーレ直轄のダミープラグとかいう奴の研究機関だそうだ。
 開発が大分難航してるらしいからな。実験と研究成果が活かせるらしい」

 それでもヨハンはそういった顔を見せる事はなかった。長兄としての責任感か。
 否、正確には兄だの妹だのと言う序列も名義的なものである実験成果ではあるのだが
 社会適合を目指した精神の変化なのかもしれない。
 ヨハンはミハエルにもネーナにも一度もそういった不安要素を見せる事は無かった。
 今もこうやってヨハンはミハエルを宥める為に両肩に手を添えて親の様に諭している。 
 物語的な視点で見れば、明らかに兄がよい判断をされていないのはミハエルにも解る。
 恐らく、ヨハンもそれは感じられているだろう。
 だが、それでも心乱している事が良いことにならないという共通認識の構築にヨハンは勤め
 それもミハエルも渋々受け入れるという形になっていた。
 不服だと顔にでかでかと書いているミハエルの表情を見てもヨハンは言葉を続けていく。

「良いか、ミハエル? 俺が此処を出るとなるとネーナを護ってやれるのはお前だけだ
 ”何かあったらお前がどうにかするんだぞ?”」
「あ、ああ」
「今日みたいに嫌でも頭を下げなきゃならん事が多いかも知れない。
 いや、それだけですまない事だって起きうる。だが、ネーナにとって支えはお前だけだ。
 ミハエル、この意味が解るな?」
「兄貴……もういっそ」
「Drへの義理立てはコレで済ませた事になっている。だから、お前達は上手くやれ」
27通常の名無しさんの3倍:2010/01/23(土) 21:12:59 ID:???
 数ヶ月後、実験中の事故によりヨハン・トリニティは死亡したと書類上報告される。
 2年後、ミハエル・トリニティをダミープラグ研究施設への出向が決まる。
 それを知った当人が暴れ、警備隊との乱闘に発展。
 同実験成果ネーナ・トリニティと共に脱走を試みるが捕縛され
 その時に受けた傷が原因で意識昏倒。
 その後、病院へと運ばれるが翌日に死亡と書類上報告される。
 両名とも信仰宗教を持たなかった為葬儀は行なわれなかった。
 同年ネーナ・トリニティはEVA起動実験に成功し
 現在も人革連施設内で実験が続けられいると報告されている。
 また、人類で始めてEVAへのシンクロを成功させたのは
 AEU空軍所属の一人の少女である事をネーナ・トリニティは意図的に知らされてない。

― 同時刻、NERV北京支部EVA起動実験場

「Drメンゲレ」
「何かね! 私は今、いそが――」
「ネルフ本部より冬月副司令がご到着されました」
「なっ! 早く通したまえ!」
「わしを気にせず、作業を進めてくれたまえ」
「ようこそ、プロフェッサーコウゾウ・フユツキ」

 手術マスクで顔を隠す男が陣頭指揮を取り、データを打ち込まれる音が狭い制御室の中で響いている。
 目の前には巨人の姿……否、それは人と呼べるかどうかも怪しいものであった。
 手も途中までしかなく、下半身は丸ごと無い。まるで牛の精肉途中の様な形で吊るされている肉塊。
 それに何本もコードがつながれており、十字架の様な台に巨体を括り付けられていた。
 巨大な水槽に浮かぶそれはホルマリン漬けを彷彿とさせ、不気味な印象を与えている。
 自動ドアが開けば、二人の警護兵に挟まれる様な形で老人が1人入ってきた。
 最初警護兵の声を掛けられた男は不機嫌そうに声を荒げたが、続く名前には声色を変えて
 諸手を上げて歓迎するという言葉を体で表現するかの様に老人を中へと通していった。

「まさか、NERV本部の副司令殿が着て頂けるとは恐悦至極。研究者冥利に尽きます」
「本来は赤木博士や司令自ら来たかったのだが人革連は中々人の出入りが厳しい様でね。
 まぁ、視察という仰々しい形ですまないと思っているよ」
「はははっ。まぁ、ソレもまた人革連らしさと言う奴ですよ。私も最初は戸惑いました」

 冬月と呼ばれた老人は促されると僅かに頭を下げた後
 禍々しい肉塊を見上げながらそのマスクの男へと声を掛ける。
 マスクの男Drメンゲレは笑い飛ばしているがこれは皮肉であった。
 専門知識を持つ司令や赤木博士では見ただけで何か技術や情報を盗まれるかもしれない。
 そんな器の小さい懐疑心、この男の隠遁めいた性質、人革連の方針全てが合致した所為で
 兎角、此処の情報は本部へと届く事は少なかった。今回の視察が承認されるのも時間が掛かっていたし
 冬月も冬月で恐らく自分一人ならどうとでも言いくるめられると思っている評価を感じ取っていた。
28寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:15:46 ID:???
「しかし、大事な実験日を覗きに来た様で申し訳ないよ」
「お気に為さらず。何せ、プロフェッサーは歴史の目撃者になります。
 今日この日を持って人類が初めてエヴァを起動させる日のね!」
「そうかね? まぁ、確かに驚嘆に値するよ。エヴァ仮設伍号機。
 聞こえは良いが、AEUがしぶしぶ人革連に差し出した不良品。
 いや、肉の残骸から此処までやるとはね」
「指定の材料が無ければ出来ないのが三流。あり合わせと既存の方法で何とかするのが二流。
 自分で材料から方法まで作ってこそ一流ですよ」

 嬉々とした表情はマスク越しにでも解るほどだった。それで漸く冬月にも合点がいった。
 この男には復讐心の様なモノが原動力なのだと。学会や以前のNERVドイツ支部での成果も
 否定されていた男がそれらを見返す為、そして見せ付けて認めさせる為。
 この男の話し口調の節々から垣間見える居丈高な態度は
 それらの巨大な自尊心から来るのだろう。今回も冬月が本部から探りに着たのではない。
 自分からこれを見せてやっているのだと言うつもりなのだ。
 ユニオン、AEU、そして人革連といがみ合う陣営からバランスを考えて
 与えたお為ごかしだったこの廃棄物に何か心情的肩入れをしているのかも知れないと
 安易な推理が冬月の頭を過ぎっていた。その思考を中断させる声がオペレーターの1人から上がる。

「ハプティズム兄弟、準備出来ました」
「Dr何時でもいけます」
「おーい、準備出来たぞー」
「宜しい。では、ハプティズム兄弟によるエヴァ仮設伍号機の起動実験を開始する」
「はいっ!」
「おぅっ!」
「今回はA-1からE-4までだ」

 準備完了の合図と共にDrメンゲレの指揮でオペレーターのコンソールを叩く音が一斉に始まる。
 専門用語のやり取りによる指示の応答が飛び交う中
 通信画面から顔を出したのは頭にパッチとコードを何個もつないだ少年二人だった。
 やや緑がかった黒髪の少年二人。肌が微妙に浅黒いなど
 他にも特徴はあったが冬月の視界に入った彼等の印象は瓜二つと言う言葉だった。
 まるで合わせ鏡に映りこんだかの様なその容姿のにかよりに目を疑い
 クローンではないかと錯覚するほどであった。映像と声が二人ともずれていた事から
 漸く二人が全く違う個体だと言う事に気付かされる。
 1人は大人しそうな雰囲気で丁寧な口調で通信を返し
 もう1人は子供の様な粗雑で乱暴な態度とふてぶてしさを持っており、性格は全く似ていない。
 冬月は目の前に居る男がかねてから言い続けていた一つの理論と目の前の状況が附合していった。

「双子(ダブル)の理論か……Drメンゲレ。
 私は正直な話、人革連の出すデータをあまり信用していない。本当にそれは可能なのかね?」
「ええ。そもそも、単独(シングル)でのエヴァのシンクロは非常に不安定だ。
 一対一でエヴァと対峙しお互いにそれを摺り合わせるには才能と資質が問われる」
「それを解消するのが双子(ダブル)と言うのかね?」
29寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:19:43 ID:???
 冬月の言葉にメンゲレはその言葉を待っていたと言わんばかりに目を大きく見開いていた。
 それはこの男が長年に渡って独自の研究路線を推し進めていたEVAとのシンクロ方法の事である。
 正式な名義ではないのだが一卵性双生児を用いた用法である事から
 双子(ダブル)と言う名称が浸透しつつあった。逆にそれに釣られる形で
 一人でシンクロ実験を行なう事が後付で単独(シングル)と呼ばれる様になっていた。
 無論、好き勝手にしている様に聞こえているが実際にそれなりの成果を出している。
 パイロットを二人も揃える事と選別に時間が掛かる事から日本のNERV本部では行なう事が無く
 もっぱら機体の技術で一歩で遅れていたAEUや人革連で行なわれていた手法であり
 この男がその理論の第一人者であった。

「その通り! 一対一がダメなら二対一にすればよい。
 まず、双子による人間同士のシンクロをさせ”エヴァを人間に合わせさせる”」
「理論は解る。郡れる生物は数の多い方へ流れ、多数の風潮に従う傾向にある。
 今までの単独による個と個の対峙から個と郡による個の迎合を促すだったかね?」
「ええ。何も人間がわざわざ合わせる必要は無い。二つの同一性から世界はそれが標準だと思わせ
 エヴァ自ら歩み寄らせる事に成功すれば、後は一卵性の双子に訓練と多少の調整でパイロットなぞ
 幾らでも量産する事が可能になる。其方の諺にもありましたな? えーと、人は防壁だったか?」
「人は石垣、人は城、人は堀、なさけは味方、あだは敵なりだな」
「ああ、そう。それでしたな。エヴァも数さえ揃えば、強固な城にもなり強大な敵になりえる」
「ふむ。少し諺の意味が違っているが結論は合っているよ」

 恐らく説明の為に何度も何度も良い続けていた文言なのだろう。
 まるでトークショーの様につらつらと流れ出る言葉に濁りの無い情報の波へと浴びせ掛ける。
 メンゲレとNERV本部の考えは所謂思想の違いに等しかった。
 単独でのシンクロはあくまで実験過程とデータ取り、EVAと言う巨人との対話を促す為であり
 双子のシンクロはパイロット、機体の量産とその後の戦略的運用を視野に入れていた。
 実際にAEUでは先行量産型の弐号機が開発され、それに合わせた軍隊の運用を検討している。
 それらの事態にNERV本部や長々と語りを聞かされている冬月もあまり良い顔をしては居なかった。
 粗悪乱造の懸念もさる事ながら悪用の懸念も充分にあったから。特にユニオンとの軍事力
 技術力の差を埋めたい人革連や優位性を保ちたいAEUの態度は露骨であり
 それに煽られる形でユニオンもNERVへの予算計上は年々増していった。
 そんな懸念をわざと避けるかの様に誤った意味を引き出してメンゲレは低い声で笑っていた。

「ハーモニクス安定! ハプティズム兄弟のシンクロ率、80%を超えました」
「エヴァとの精神回路を開放。エヴァ、同調を始めました!」
「ふふっ、よし、H-3の過程まで進める! 今日こそは起動させるぞ!」
「はい!」

 だが、邪に見えるこの男の理念もその裏に隠れる政治軋轢すらも霞むほどこの現場は純粋に見えいてた。
 否、純粋に邪なのかも知れない。この歪んだ人命軽視の実験ですら
 活気と熱意に押されて爽やかな印象を与えてしまう。たとえ、結果と求めていたモノが何でアレ
 人が集い何かを作り上げると言う現場というのはこう感じさせてしまうのだろうか。
 複雑な心情を吐露出来ないまま、冬月はその現場を見つめていた。
 人間同士のシンクロが高められれば、その回路がEVAへと注がれていく。 
 混濁としつつも整列した思念の激流がEVAの脳内へと駆け巡り、自我を喪失していく。
 二人の双子はまだ落ち着いていたが徐々にその意識の葛藤から眉間に皺を寄せ始める。
30寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:24:11 ID:???
「Dr! エヴァがアレルヤ・ハプティズムとのシンクロに偏り始めました!」
「ちっ、そちらとの精神回路を86%まで絞れ。ハレルヤ! もっと集中しろ!」
「うああっ はれ・・・・・・るや」
「アレルヤ! ちっ、解ってらぁっ!」
「死にたくなければあちらに持っていかれるな」
「くっ、あああっ! うぜぇな! おらぁ、俺達に従いやがれ!」
「映像に変化がありました。モニター開きます!」

 呻き声と怒声が通信越しに聞こえ、葛藤が肌に伝わるほどの迫力が木伝わってくる。
 メインの画面がパイロットのモニターから実験施設内の映像へと切り替わる。
 其処には実にグロテスクな光景が映る。肉塊と呼ぶに等しい巨人が居た。
 四肢も揃っておらず、頭部と胸部から人であることがようやく認識できる。
 僅かにそのくくりつけられた腕が動き肩こりを患っているかの様に首を動かしていく。
 悪夢に魘されているかの様に首筋だけがぐぎぎっと何かから逃れる様な動き。
 前にガッガッときつつきの様に首を前後させてその反動で拘束から逃れようとする。
 その反動で施設が揺れ、空気の振動がガラスを震わせていた。

「ハレルヤとのシンクロ率上昇! 70%を超えました! アレルヤもシンクロ率65%突破!」
「待ちたまえ! そんな高いシンクロ率では」
「よく動くでしょう? むしろ、コレの匙加減が難しいのですよ」
「しかし、エヴァに持っていかれるぞ?」
「その為の双子(ダブル)です。片方が飲み込まれそうになれば、もう片方が引っ張り上げる。
 何より二人ともよく鍛えておりますからなぁ」
「むぅ……」

 冬月の叫びにメンゲレは何を今更と言う感じで一蹴する。
 単独(シングル)と双子(ダブル)のシンクロの問題は別のベクトルにあった。
 双子(ダブル)の場合はシンクロ率の上昇が抑えられない。
 単独(シングル)が30%から60%前後を標準とするのに対し
 双子(ダブル)の場合は平均常に70%以上をキープしている。故にパイロットの消耗も激しい。
 実験をする度に自我と双子同士の存在の垣根が曖昧になっていく。報告書では聞かされていたが
 目の前の現実を目の当たりにすればそれが虚偽の記載ではない事に冬月は衝撃を受けていた。
 冬月にとって人革連の事なので誇張表現程度に感じていた数値が目の前で凄まじい計上されていく。
 暫くパイロットとオペレーター達の悪戦苦闘が続く。EVAとパイロットの綱引きを機械がサポートしていく。
 お互いの落としどころを探しているのだ。双方が干渉せず、共存出来る距離感。
 双子の引力が強過ぎている故にEVAもそれに急速に近付く度に引き離す。

「……起動成功しました! シンクロ率以前70%台をキープしています!」
「でかした!」
「起動させたのか? ……よもやこんな方法で」
「ふはははっ、私は正しかったのだ!」
31寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:27:20 ID:???
 狭い室内が歓声に沸く。各々の故郷の言語、方言が入り混じり動物園の様な様相を呈し
 喜びの声が耳をつんざく。2004年碇ユイによる初号機による初めてのEVA起動実験から
 約10年の時を経て、ようやく人類はEVAの起動に成功させたのだ。
 呻き傷みから逃れる様に暴れていたEVAの動きがぴたりと静止する。
 満たされる充足感にメンゲレは拳を握り締めて勝利を宣言し
 それに呼応するかの様にオペレーター達の喝采の拍手の音が耳をつんざく。

「……! アレルヤのシンクロ率上昇!」
「ふん、まだあがなうか……小賢しい。アレルヤへの精神回路70%まで縮小!」
「くっ、うぜぇな! とっとという事聞きやがれ!」
「まさか、フェイント?!  ハレルヤシンクロ率が急上昇抑えられません!」
「なんだと!?」
「ハレルヤ! どうしたの!?」

 オペレーターの声と同時に双子のパイロットの内一人が苦しそうに嗚咽を漏らしていく。
 歓喜に沸いていた現場の空気は一変する。
 情報の集積と現状の確認にその場の人間全てが動いていた。
 モニターに映るのはまるでSF映画のワンシーンの様な惨状だった。
 角砂糖を珈琲に落としたかの様にじわりじわりとハレルヤの体が融けていく。
 着ていた試作のプラグスーツは指先、足先から徐々に立体感を失っていく。
 まるで空気の抜けた風船の様にハレルヤと呼ばれた少年の存在が徐々に欠けていった。

「パイロットが融けている? 彼を持っていこうというのか? やはり、この方法では」
「……ちっ。コイツでもダメか」
「は、ハレルヤ! ……渡さない! お前なんかにハレルヤは渡さない!!!」

 もう一人のアレルヤと呼ばれた少年の咆哮の様な叫びが木霊する。
 それとほぼ同時、一斉に計器が狂い始め、モニターの映像はそこで一旦途切れてしまった。

                                    「死の天使・後編」へ続く
32寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/01/23(土) 21:29:16 ID:???
以上です。なんか、番外編に出るキャラは
毎回死亡フラグを建てたり、実際死んだりするのは気の所為です、多分。

次はまた、設定レスを一回はさんだと、本編もしくはシンジ編後編どっちか完成した方を出す予定です。
また、長くなりそうなので2〜3週間後位の予定。ではでは、投下失礼しました。
33通常の名無しさんの3倍:2010/01/25(月) 19:58:40 ID:???
アレルヤァァァァ!ハレルヤアアアアアアアアア!
過去編の死亡率はぱねえと思いつつ、GJです。
トリニティは早くもネーナ一人とか厳しい環境ですな。
しかし、ユニオンより人革連よりAEUが先に初シンクロ成功とは、
一体誰が成し得たのでしょうか…?
先が気になりますね。
34通常の名無しさんの3倍:2010/01/30(土) 05:36:49 ID:???
>>16は結局辞退してしまったのだろうか?
結構楽しみにしてたんだが
35寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/02/04(木) 00:29:52 ID:???
っと、規制激しいみたいですねorz
えーと、明後日頃辺りにまた、設定レスとちょっと落書き投下予定です。
それと、一話に関して誤字と設定ミスが見つかり修正しましたorz

また、Wikiもコメントが出来る様に設定してしました。
もとい、新しく補完して下さった分は既に対応して貰っていました。
えーと、そういうコメントへのレスもこっちでして大丈夫ですかね?
何か話題になればと思うのですがどでしょう?

と言う訳でお邪魔しました。
36寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/02/07(日) 18:35:05 ID:???
すいません。此方の私事で少し投下の目処がつかなくなってますorz
申し訳ありません。目処が着き次第また予告レスします
37通常の名無しさんの3倍:2010/02/10(水) 02:25:51 ID:???
やっと規制解除された、寝癖さん乙です
ハレルヤがアレルヤの脳内に吸収されちゃうフラグでしょうか・・・
今後の展開が楽しみです
無理しないでくださいね、気長に待ってます
38通常の名無しさんの3倍:2010/02/11(木) 20:28:47 ID:???
寝癖ちがうぞw
39通常の名無しさんの3倍:2010/02/11(木) 21:03:32 ID:???
やべぇ、>>37じゃないが、初めて>>38の指摘で気付いたわwww
40通常の名無しさんの3倍:2010/02/12(金) 14:01:23 ID:???
>>37
のせいで、寝腐さんの髪型イメージが寝癖に固定されてしまったw

それは兎も角寝腐さん乙。
41通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 10:32:26 ID:???
なんか俺も書きたくなってきた…
刹那以外00の人でないし設定変わるけどね…

あー…だけど規制厳しいし一つの板に職人二人もいたらややこしいか?
42通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 11:55:43 ID:???
>>41
いやいや、普通に大歓迎だぞ?
スレに職人が何人もいる状態のスレしか殆ど生き残ってない位だ
場合によってはどこか経由して代理貼りとかも頼めるだろうし
書きたいと思った時が書き時だぜ
43通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 21:06:22 ID:???
そうなのか
だけどストーリーがあんまり変化してないんだよな
それでもいいなら一話投下したいんだが構いませんかな?
名前はそんとき付けるってことで
44通常の名無しさんの3倍:2010/02/20(土) 21:14:50 ID:???
>>43
バッチコーイ!
男は度胸なんでも試してみるもんさ(女だったらすまん)
45通常の名無しさんの3倍:2010/03/03(水) 20:28:37 ID:???
保守
46通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 10:10:50 ID:???
規制って…何なんだ…
日曜の昼ぐらいにゲリラ投稿するけどいいよね?

答えは聞いてない!
47通常の名無しさんの3倍:2010/03/05(金) 10:20:38 ID:???
きにするな、俺は気にしない
48通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 07:48:10 ID:BTdn/EZP
遅いが、またこのスレの住人になれて嬉しいな
というわけで、一応保守
49第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:09:31 ID:???
よし、眠りながら書いてたのを載せてみる
あんま展開かわらないから見なくてもいいかもしれん
50第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:10:27 ID:???
『特別非常事態宣言発令されたため、現在、全ての通信回線は不通となっております』
「………」
1人の少年が公衆電話の前で佇んでいる。
髪は黒く、ボサボサしており、肌は少し日焼けしている。
服装は学校で見かける夏服の上に赤いマフラーを首に巻いているという、何とも奇妙な格好だ。
その少年、刹那・F・セイエイは何度も同じ言葉を繰り返す受話器を戻した。
「……待ち合わせ時間を完全にオーバー。葛城ミサトは未だ確認できず」
腕時計を見ながら確認する。
数日前、自分の父親から届いたメッセージによれば写真に写る人物『葛城ミサト』と自分は既にこの場で合流しているはずだ。
しかし、未だに葛城ミサトは現れず、セミの声が聞こえるばかりだ。
「現状では待ち合わせは不可能と断定…生命保護を最優先とし、シェルターに避難する…」
周りを見渡す。
坂道の道路、自動販売機、街路樹、別にどこでも見かけるような見渡しのいい通り。
それを見てると、ふと何かが見えた。
「……?」
少女が1人歩いていた。
空のような青い髪、白磁のような白い肌、血の色をそのままにしたような赤い瞳をした少女が。
「………」
別に少女自体には不明な点はない。
強いてあげるなら、青を基調としたセーラー服を着ている点ぐらいだ。
だが、刹那は彼女に何故か奇妙なものを感じた。
例えるならこれは…既視感?いや…懐かしさ?

そう思って見ていると地面が音を立てた。
「…!?」
大きな音。それもズシンズシンと巨人が大地を歩くかのような音が辺りに響いた。
そして、バラバラという聞きなれた音も。
「これは…?」
ふと頭をあげる。
「なっ……!?」
巨人がいた。
51第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:11:33 ID:???
―――――――――――――――第3新東京市 直上 「使徒、襲来」―――――――――――――――――――――――――



黒い巨体に仮面のような白い顔、細長い腕を持ち、胴体には赤い球体。
巨人。それ以外の何者でもない。
それを取り囲むヘリコプターの数々。
ヘリコプターが数十にも及ぶミサイルを巨人に向かって発射した。
「…!!」
刹那は反射的に身を低くし、店の影に隠れる。
身を隠した瞬間、大きな爆発音が辺りに響く。

「チィッ…」
刹那が第一に考えたのは「ミサイルが」とか「あの怪物は」という類のものではなかった。
「あの少女はどうなった?」だった。
なぜ、あの少女をそこまで気にかけるのかは刹那自身も分からない。
それでも、あの巨人に対する爆発の余波で少女が怪我をしなかったのか、と確認しようとした。
「なっ…」
その少女は先ほど自分が見た通りからは姿を消していた。
避難したのか?数秒で坂を上って?幻か?あれほど鮮明な?
少しの間、混乱したが巨人の事を思い出してハッとする。
再び上を見た。
「……何!?」
巨人は健在していた。それも全くの無傷で。
経験上、ミサイルの威力を熟知している刹那にとって直上の状況は驚きのものだった。
ヘリは完全に弾を撃ちつくした状態で巨人の周りを囲んでいる。
刹那の本能の鐘がなった。
再び店の影に体を隠れさせる。

何かの発射音が聞こえた後、先ほどのミサイルの爆発音と比べ物にならない爆発音、そして熱風が体を叩き付けた。
「ぐぅぅ…!!」
余りに大きな熱風に体が少し浮いた。
もし店の影に隠れなかったら少し吹き飛ばされていたかもしれない。
そう思わせるほどの熱風だった。
その時、急に通りに車がやってきた。
「刹那・F・セイエイくんね!ゴメン、お待たせ!」
「アンタは…!」
サングラスをかけた若い女性が車の扉を開けて顔を覗かせた。
「私はミサト!葛城ミサト!あなたを迎えにきたの!乗って!」
52第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:13:04 ID:???
刹那とミサトが車でジオフロントに向かう間、刹那はミサトから話を聞いていた。
「ネルフ……」
「そう。国連直属の非公開組織よ」
刹那はミサトから渡されたネルフの資料に目を落とす。
「碇ゲンドウはそこで働いているのか」
「え…そ、そうよ。お父さんの仕事について何か知ってる?」
刹那の父親に対する呼び方にミサトは驚きつつ、雑談を続けようとする。
しかし、
「いや。ゲンドウから職務は機密事項だと言われたので聞いていない」
「……そっか」
刹那のあまりに感情の伴わない言葉に話が続けにくかった。
2人の間にしばしの沈黙が流れる。
「………」
「………」
「………」
「……ねぇ」
「なんだ」
(き、気まずい…!!)
ミサトは悟る。この空気、この感じ。
この子は間違いなく自身の上司である碇ゲンドウの実子だと。
書類上では彼は碇ゲンドウの養子にあたる。
しかし、間違いなくこれは実子だ。性格的な意味で。


ミサトはさっきから気になってる事を聞いてみる。
「刹那くんってさ、お父さんを名前で呼ぶのね」
「………?」
「偽名なんでしょ、『刹那・F・セイエイ』って。お父さんが付けてくれたの?」
「……ああ」
ふいにミサトから投げられた質問に刹那は訳が分からないまま頷く。
「お父さんの事、苦手?」
「…………」
「……」
再びしばしの沈黙。だが、今度は刹那が沈黙を破った。
「分からないな」
「え?」
「俺のこの、ゲンドウに対する感情が好きというものか、嫌いというものかが分からない」
「…そうなんだ」
「ただ…」
「?」
刹那はミサトの方に顔を向ける。
「俺は碇ゲンドウの命令には従おうと思っている。どんなものでも。自分の意思で」
「刹那くん……」
刹那は最後の2つを特に強調してミサトに言い放った。
その目には何か強いものが秘められているようにミサトは感じた。
「そっか。お父さんが好きなのね…うらやましいかも…」
そうミサトが言ったと同時に、車がジオフロントに到着した。
53第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:13:47 ID:???
「予定時刻を20分もオーバーしてる。何をやっていたの?」
エレベーターでミサトが言う『見せたいもの』の方まで向かう中、
途中でエレベータに乗ってきた白衣を着た金髪と黒眉の女性がミサトに声をかけた。
「ゲッ…リツコ…」
「あんまり遅いんで迎えにきちゃった」
「ごっみーん!許してーん!」
「はぁ…」
ミサトの悪びれない態度に金髪の女性はため息をつく。
それを見ていた刹那に金髪の女性も気づいたようだ。
「彼が例の子?」
「そう。刹那・F・セイエイくんよ」
紹介されたと同時に、刹那は軽い会釈をする。
あら、と軽い声を出した後、金髪の女性も軽い会釈をしながら自己紹介をし始めた。
「赤木リツコよ。よろしくね、刹那・F・セイエイくん」
「…あぁ」
エレベーターが到着した。


エレベーターが到着した通路は暗かった。
なんとか歩き回れる程度の明るさはあるものの、目が慣れるには時間が要りそうだ。
「着いたわ」
リツコの言葉に刹那は反応する。
正面に何も見えないが、巨大な何かの存在を感じる。
自分は何を見せられるというのだろうか。
「刹那くん、これが貴方に見せたかったものよ」
ミサトがそう言った瞬間に周りの照明が入った。
その瞬間、目の前の物が目に入る。
これは――――――
「これは汎用型ヒト型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号…刹那くん?」
リツコが正式名称を説明しようとする前に刹那の様子に気づいた。
「え?」
ミサトも刹那の今までに無い様子に気づいた。


刹那は眼前の巨人の前で立ち尽くしていた。
紫の鎧を纏い、角、口、目を持つ巨人の前で。
「………ぐっ」
巨人は何も語らない。
少年は小さく呻く。
少年の中に何かがフラッシュバックする。
大きな、光を纏った女性の姿が…
「ぐぁぁぁぁ……」
再び少年は小さく呻く。
白き巨人はそれを見つめている。
何も言わずに、動かずに、ただ見つめている。
見つめて見つめてみつめてみつめてみつめてみつメテ―――
「刹那くん!」
「っ!!」
54第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:14:57 ID:???
刹那はしゃがみこんでる自分、そしてその自分の背中に手を当て、自分を見つめるミサトに気づいた。
「……俺は…」
「大丈夫?具合が悪いの?」
「…心配ない」
心配するミサトの手を払い、立ち上がって意思を示す。
「刹那くん、話を続けたいけどいいかしら?」
「ちょっと!さっきのこの子の状態を見なかったの!?無理に決まってるでしょ!」
「私達には時間が無いのよ!今でも彼らがここに攻めてくるかもしれないの!具合が悪いじゃ済まされないわ!」
リツコが話を進めようとした瞬間、ミサトが反論するがリツコに一喝される。
だが、話が見えてこない。これではまるで…
「よく来たな」
「っ!!」
1人の男の声が聞こえた。


上を向くと黒い服と眼鏡をかけた黒髪の男が立っていた。
刹那はその男の名を呼ぶ。
「碇ゲンドウ……」
「久しぶりだな」
「あぁ」
刹那はただジッとゲンドウを見る。
ゲンドウはその様子を見てフッと微笑んだ。
「刹那、お前がやらなければならない事、分かるな?」
「…!」
その言葉で刹那は自分が何故、ゲンドウに連れてこられたのか、何故エヴァンゲリオンを見せられたかを瞬時に理解する。
そして、何故、リツコやミサトがそれを説明しなかったのかも。
「戦え」
「分かった」
刹那は頷く。
ゲンドウが言ったその一言で自分が納得したからだ。
「さっきの巨人と戦え」とゲンドウが言うなら戦う。
少なくとも自分の意思で。あの時とは違うと。
「…本当にあっさりと納得したわね、彼」
リツコがボソリと呟く。
「赤木リツコ。操縦方法と機体能力、装備について教えてくれ」
いきなりフルネームで話を振られたリツコだが、さして驚く事無く答える。
「緊急配備されたから装備はプログレッシブナイフのみ。操縦方法は…」
「構わん。このまま乗せろ」
リツコが軽い説明を行おうとしたがゲンドウがそれを拒否した。
「っ!碇指令!?」
ミサトの反論とも取れる声をゲンドウは流し、刹那を見る。
「刹那、乗るなら早く乗れ」
「……了解」
「なっ……!」
ゲンドウの言葉に刹那は肯定の意を示し、リツコの方へ向かう。
「碇指令!今、彼を失うのは得策ではありません!せめて操縦方法だけでも…」
「問題ない。全て奴に任せておけ」
ゲンドウはそう言ってその場を去った。
55第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:16:36 ID:???
『停止信号プラグ、排出終了』
『了解。エントリープラグ挿入。脊髄伝達システムを開放、接続準備』

様々なアナウンスが刹那の耳元で鳴る。
現在、刹那はマフラーを外した姿でエヴァンゲリオンのコクピット、エントリープラグの中に入っていた。
「考える…」
刹那はコクピットの操縦桿を握る。
赤木リツコは自分に考えるだけで動くと言っていた。
それだけ。考えるだけで動かせる。だが、そこからは自分で何とかしなければならない。

『エントリープラグ、注水』

「これは・・・!?」
エントリープラグ内に謎の液体が注水される。
『大丈夫よ。LCLが肺に直接、酸素を取り込んでくれるから』
「LCL………」
エントリープラグの中がLCLで満たされる。
大量の水の中で呼吸するのは少し慣れなかった。

『発進準備』

『第一次接続開始』
『第一ロックボルト解除、アンビカルブリッジ、移動開始』
『第二ロックボルト解除、第一拘束具除去。同じく第二拘束具を除去』
『第一番から十五番までの安全装置を解除』

初号機をロックしていた全てのシステムが外れ、わずかに初号機が揺れる。

『現在、初号機の状況はフリー』
『内部電源充電完了。内部電圧異常なし』

初号機が射出口に向けて動き始める。

『エヴァ初号機、射出口へ』

初号機が射出口へ到達。リフトにセットされる。
リフトの上にある数多の扉が全て開き始めた。

『発進!』
56第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:17:54 ID:???
ミサトの声と共にリフトが初号機を乗せて加速し始めた。
「……っ!!」
リフトのスピードにより、刹那の体にGが体を打つ。
それは大きなものではないものの、初めてGに打たれる体には少々堪えたようだ。
そのまま一気に外に出る。
外はいつの間にか夜だった。
そして目の前には…あの巨人が。

『最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

リフトの安全装置が解除され、エヴァ初号機は完全にフリーの状態で使徒の前に立ちはだかった。


「………」
刹那は目の前にいる使徒を見る。
仮面が2つになっている。
大きなダメージでも受けたのだろうか、わずかだが血らしきものが流れているのも見えた。
『刹那くん、今は歩くことだけを考えて』
赤木リツコの声が聞こえる。
刹那は赤木リツコの声を反芻する。
「考えるだけで…いい…」
『そうよ。考えるだけで…えっ!?』
リツコは刹那が素直に歩き始めるものだと思ったが違った。
いきなり初号機は使徒に向かって走り始めたのだ。
『何を考えてるの!?いきなり走るなんて危険だわ!』
刹那はミサトの声を無視して使徒を殴ろうとし始めた。
だが、突然謎の壁に阻まれる。
「チィ……っ!!」
57第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:18:36 ID:???
「駄目です!使徒はATフィールドを展開!使徒にダメージはありません!」
作戦室ではマヤがさきほどの使徒の状態を伝える。
ATフィールド。使徒が、エヴァが、そして人が持つ他者と分かつ心の壁。
何人も侵されぬ聖なる領域。使徒が通常兵器のほとんどを無力化していたのは、この力である。
「くっ…駄目か…」
ミサトは拳を止められた初号機を見て悔しそうに呟く。
「でも、驚いたわ…初めて乗ったのに、シンクロ率も30を超えてるし、いきなり使徒に向かって走り始めるなんて…」
リツコは目の前の出来事にかなり驚いていた。
動き自体は遅いものの、刹那のエヴァは使徒に向かって走り、そして殴った。
エヴァの操作は考えるだけでいい…確かにそうだ。
だが、考えるといっても体を動かすイメージをすぐに出せといわれて出せる人間などそうはいない。
ましてや死ぬかもしれないという極限の緊張状態の中なら尚更だ。
それを初めて乗った人間が、いきなり動けといわれて躊躇せず走る動作を展開するのは、リツコとしては信じがたいものだった。
「彼は一体・・・」
リツコは手元にある刹那・F・セイエイの資料を覗き込む。
そこには「経歴抹消済み」と大きな文字で書かれていた。
「刹那くん!」
ミサトが大きな声をあげた。


刹那は自分の拳が謎の壁に阻まれたと認識し、戸惑った。
その隙に使徒がエヴァの腕を掴み始めた。
「っ!!」
突然、刹那の左腕に大きな激痛が走る。
「ぐあああ!!」
『刹那くん!』
ミサトの声が聞こえる。
「ぐっ・・・!」
刹那は左腕の激痛を無視し、使徒に右足の蹴りをいれようとする。
だが、それもATフィールドに阻まれる。
「くっ・・・」
その時、ビキッという声が聞こえた。
エヴァの左腕が折られた。激痛が刹那に走った。
「がああああああああ!!」
『刹那くん!折られたのはエヴァの腕なのよ!あなたの腕じゃないの!』
ミサトが大声で声を送るが、刹那に届かない。
そのまま使徒は刹那の頭を掴んだ。
「っ!!」
『刹那くん!避けて!』
残った右腕で使徒の左腕を握るが突然、頭に衝撃が走った。
58第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:19:46 ID:???
使徒の左腕から出た、光の杭の様な物は、何発も初号機に打ち込まれた後、ビルまで初号機を吹き飛ばした。
「刹那くん!」
「頭部破損!損害不明!」
「制御神経が次々と断線していきます!」
「パイロット反応ありません!生死不明!」
「初号機、完全に沈黙しました!」
次々と挙げられる報告からミサトはこれ以上は無理だ、と判断する。
「作戦中止!パイロットの保護を最優先!プラグを強制射出して!」
だが・・・
「駄目です!完全に制御不能です!」
「何ですって!」
頭部が壊れた影響か、エントリープラグは排出不可能となっていた。
その間にも使徒は初号機に忍び寄る。
ミサトの頭に最悪の光景が浮かんだ…その時。

「ウオオォォォォォォ……」

獣が、吼えた。


初号機が目に怪しい光を灯し、立ち上がった。
「エヴァ・・・再起動・・・そんな…動けるはずありません!」
信じられないという表情でマヤがミサトに報告する。
その時、再び初号機が口を開けて吼えた。
「ウオオオォォォォォォォ……」
初号機が飛び上がる。
その動きは速く、明らかに先ほどまでとは比べ物にならない動きだった。
「シンクロ率は!?」
リツコが我に返って訊ねる。
「以前、マイナスです!」
「まさか・・・暴走!?」
日向の答えからミサトは1つの結論を出す。
エヴァによる暴走。
エヴァはただの機械ではない、魂を持つ器なのだ。
故にエヴァは意識を持ち、パイロットとシンクロすることにより凄まじい力を発揮する。
逆にシンクロ率が低い場合、それでも動くのはパイロットの意思ではない。エヴァの意思。
つまりは、暴走。
それを別の場所で見ていた2人は呟く。
「勝ったな…」
「あぁ・・・」
59第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:20:33 ID:???
飛び上がった初号機に向かって、使徒はビームのような物を放つ。
だが、暴走した初号機は体を空中で捻ってビームを全てかわした。
「初めてエヴァに乗ったのに…あんな複雑な動きはできるはずないわ!」
リツコが声をあげる。
地面に着地した初号機は使徒に向かって駆け出した。
しかし、使徒に触れるかという直前で、再びATフィールドに阻まれる。
「使徒、ATフィールドを展開!」
「・・・駄目か!」
だが、暴走した初号機も別の動きを見せていた。
「初号機もATフィールドを展開!相違空間でATフィールドを中和していきます!」
初号機がATフィールドを侵食。そして、わずかに穴が開いた部分に手をいれ、ATフィールドを無理矢理こじ開けた。
「凄い・・・」
誰に言うわけでもなく呟くミサトの言葉。
その間にもエヴァは行動していた。
使徒の腕をお返しとばかりにへし折り、胸の赤い球体を殴り続けていた。
だが、その時、誰もが予想もしなかった事態が起こる。
『う・・・く・・・』
通信から音声が入った。


「パイロットに反応が!」
日向は報せるまでも無く、ミサトは通信で呼びかけていた。
「刹那くん!」
『こ…これは…!?』
モニターが映らないことによりプラグの中の様子は分からないが、刹那が今の状況で混乱しているのは間違いない。
「刹那くん!今は・・・」
「使徒に反応!」
「!?」
再び日向の報告でモニターを見る。
すると使徒が急に球体となって初号機を包み込んでいた。
「自爆する気!?」
『!!』
刹那の方も事態がわずかだが飲み込めたようだ。
「使徒に高エネルギー反応!」
「刹那くん!」
60第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:21:19 ID:???
エントリープラグで意識が戻った刹那は混乱していた。
(これは・・・なんだ?なぜ、勝手に手足が動いている?なぜ使徒は俺の下に倒れている?なぜ・・・おれは・・・)
そう思っていると使徒が急に自分を包み込んだ。
「!!」
辺りが真っ暗になる。
死。
頭の中に1つの言葉が過ぎった。
(死ぬ?死ぬのか?何も出来ぬまま・・・何も返せぬまま・・・)
様々な思いが一瞬のうちに刹那に駆け巡る。
そして、走馬灯が駆け巡る。
戦争によって様々な物が朽ち果てた街。
そこで佇む幼い自分。それに手を差し伸べる女性―――
「死ぬか・・・」
まだ自分は何も返せてない。何もやっていない。
少なくともまだ、死ねない。
「死ぬものかぁぁぁぁぁぁ!!」
少年は雄たけびを上げた。

使徒が爆発した。


第3新東京市に天まで届くかというほどの、高い炎の柱が上がる。
その炎の柱は、数秒経つまで消えず、その間、ネルフの作戦本部は静寂を保っていた。
「使徒・・・殲滅を確認しました・・・」
「エヴァは!?」
ミサトの問いを聞き、焦るように日向が反応を探す。
だが、モニターでは既にエヴァの様子が捉えられていた。
悠然と立つ、エヴァ初号機の姿が。
「あれが・・・エヴァの本当の姿・・・」
再び、ミサトが呟いた。
「パイロットの生存、確認しました!」
青葉の報せを聞き、ハッとする。
「刹那くんとの回線、つないで!}
「回線繋いでます!」
「刹那くん!」
ミサトは刹那に呼びかけるが、刹那の方からは返答ではなく、呟きが聞こえていた。
『俺は生きている・・・生きているんだ・・・生きているんだ・・・』
「・・・刹那くん?」
『俺は・・・俺が・・・』
その声は小さく、そしてはっきりと
『俺が・・・エヴァンゲリオンだ・・・』
ネルフ施設に静かに響いた。
61第4使徒ラッセル ◆vm4K0BVuy. :2010/03/07(日) 14:24:27 ID:???
一応終わりだがヤバイwwww
載せてて思ったけど長いしつまんないwwwww
一話で10レスも使っちゃったよwww
こんな駄文でよければ感想まってますw
62通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 14:26:26 ID:???
乙。結構良かったと思うよ。
最後のセリフは、絶対言ってくれると信じていた。
63通常の名無しさんの3倍:2010/03/07(日) 23:46:41 ID:???

何事もやりとげる事が一番大事だと思うんだ
64寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/14(日) 19:16:40 ID:???
>>60
投下乙です。取り合えず、HNに吹かざる終えない
ストレートな話の作りと細かい部分の掛け声等ちゃんと書いてるなぁっと思いました
続き楽しみにしてます。



それと、近々此方もまた、投下復帰予定です
ようやく、つまってた部分が解消及び日常も安定の兆し? 後は流れのままですかね
大体、次投下分はほぼ完成してるので、グラハムの話、次の次の投下が半分位完成したらまた始めます
長らく空いてしまって申し訳ありませんでしたorz
65通常の名無しさんの3倍:2010/03/16(火) 02:47:17 ID:uCEy1yVn
>>寝腐さん
投下楽しみにしています。
キャラに厳しいというか、殺伐とした世界が好きです。
66寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/21(日) 23:18:21 ID:???
投下予告だけでも寂しいので以前の解説レス続き投下します。

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
EVA-00設定解説

第二回『この世界の技術について』

今回は主に技術面でのお話をします。
まず、第一回でも言った様に2年の使徒襲来の遅れで
諸々のNERV発の技術があっちこっちで使われています。
レイのクローニング技術は再生医療
EVA周りに関してもJ/Aが有人になったりと幅広く使われています。

―各国の技術方針
人革連に関しては技術協力に本腰を入れており
もはや官民共同開発の勢いでがっつりNERVに食い込んでます。
どっちかというと人的資源が豊富なお国柄なので技術の無さを
人員と磨り潰し強化と人権無視の強引な手法で何とかしている感じでしょうか。
何より、データや情報を捏造、秘匿して、眠れる獅子を演出しているので正確なところはつかめないのが現状です。

ユニオンは監視者の技術よりになっておりGNドライヴ装備のEVAは殆どがユニオン製です。
基本的にEVAとGNドライヴ技術の運用に注力。
すげーエンジンをすげーロボットに積んですげーはべらせれば無敵じゃね?と言う単純理論で
ビグザムを量産する勢いで兵器開発をしています。

AEUは弐号機の運用を軸に色々と試行錯誤をしているという感じです。
今のところAEU所属のEVAは一機しか持っていないので大事に扱いたいというのが本音。
一応他も製造中ではあるのですが未だに完成しておりません。
EVA単体運用よりはその他兵器のサポートと考えている様で少しユニオンとは方向性が違います。
あくまでEVAは戦車、騎兵の扱い。歩兵あってこその軍隊だろうと言う感じでしょうか。
その代わり、通常兵器へのGNドライヴ搭載は実用化しつつあります。

―EVAの生産について
基本的に現存するEVAは零号機以外ほぼ全部出る予定です。
むしろ、兵器が足りないので色んな所から持ってくる予定。
六号機、八号機はちょっとQの放映を待たないといけないので不明です。
零号機は閑話窮題のシンジ編の結末次第で。一話で零号機と書いてしまいましたが修正してますorz
NERV本部というかユニオン所属のEVAは初号機、参号機、四号機ですね。
67寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/21(日) 23:20:29 ID:???
―GNドライヴに関して
オリジナル太陽炉と擬似太陽炉が世界に数基あり、監視者が保有しています。
監視者からNERVに下されている形になるので彼らの顔色も伺わないといけません。
で、GNドライブに関してはGN粒子発生装置兼高性能の電池として扱います。
GNドライヴを積むとEVAの起動時間が飛躍的に延びます。
平気で数時間フル稼働で動ける設定です。
大体コレは本家ガンダム00の非トランザム時の活動時間程度と思ってください。
GNドライヴはオリジナルの方が高出力なので扱いが極めて難しく実験の成功率は低いです。
量産型は出力を抑えている反面、安定性がとても高く量産に向いており、ちょっとずつですが数は増えており
EVA以外にも搭載されています。それらの兵器は後で登場させます。

―EVAの性能について
EVAの性能に関しては初号機と弐号機は原作通りなのですが
初号機は特にシンジ君の才能で持っていた部分があったので今回あまり強くありません。
無論、後でテコ入れは入りますが、性能上は後から出来た方が強いと言う感じになります。
ターンエーの御大将理論ほぼ踏襲。兄より優れた弟は一杯居るよ!
まだ、未登場の機体が多いのでこれは後で別個に纏めようと思います。

―J/Aに関して
上に述べた様にユニオンが何でもかんでも作っちゃう+日本統治なので時田さんもNASAっぽいのに採用されてます。
グラハムが乗ってたのは初期の試験型で、EVAの機構に頼らず、実戦で使える
でっかいGNドライヴ搭載の人型ロボットを作るという名目のみで製作されてる節がありました。
小型化計画も同時に進んでおり、先行量産された小さいJ/Aが軌道エレベーターとかで黙々と作業してます。
NERVの零号機の一件とゼーレが監視者と二分している関係でのびのびと開発が進んでるので
世界が存続すれば、ガンダムのMSとかのポジに近くなるんじゃないでしょうか?
無人で長時間可動するロボットって普通に需要とか使い道多いですし。
ただ、ATフィールドだけは勘弁な!


というわけで今回はこれにて。三回目は話のネタとして読者からのリクエストもしくは
「シンクロについて」にしてみたいと思います。
本編のペースが遅いもんで開示できる情報が少なくてすいませんorz
グラハム偏もなんとか終わりそうなんで来週週末に本編一話分投下する予定です。
では、投下失礼しました。
68通常の名無しさんの3倍:2010/03/23(火) 13:59:22 ID:???
>>―J/Aに関して

何故か、軌道エレベーターの作業上で小型J/Aたちがヤンキー座りして煙草吸いながら、
「使徒ってーの? あのATフィールドってのがウザいよなあ」とか愚痴ってるのが
想像された。
69通常の名無しさんの3倍:2010/03/23(火) 17:25:08 ID:???
>>68
サンレッドのノリじゃねぇかwww
70通常の名無しさんの3倍:2010/03/23(火) 17:59:01 ID:???
むしろ攻殻機動隊のタチコマ?
71通常の名無しさんの3倍:2010/03/24(水) 13:45:58 ID:???
スターウォーズのR2-D2みたいに
光と信号だけで会話しそうだ
72寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:17:41 ID:???
さて、ぎりぎりになっちゃいましたが投下始めますorz
なんかタイトルと予告が若干あってないが気にしない!
73寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:18:54 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    第四話中編「逃げ出せぬ夜」


―第伍使徒襲撃の翌日、NERV直轄の病院の病室にて

 瞼を開ければ其処には見知らぬ天井と言いたい所だが
 現実には何度もお世話になっている施設内の病院だと
 EVA初号機パイロットフェルト・グレイスはおぼろげな意識の中で認識できた。
 目の前にはあの男が立っていた。通信越しに死ねと言わんばかりに
 罵詈雑言と命令を浴びせ掛けてきた男。普段より無精ひげが薄くなっており
 あまり着ているところを見ないびしっと決めたスーツ姿が違和感を感じさせている。
 寄りにもよって一番目を合わせたくない人物とご対面をしてしまった。

「”何故命令違反をした?”と聞いてくれると思っているか?」
「いいえ」
「ま、なら話は早ぇ。さっさと首にして追ん出してやる。
 命令が聞けん奴に持たせる程、手軽な玩具じゃねぇからな、アレは」
「……」
「と言いたい所だがーーーっ! お前は司令のお気に入りだからな。お咎め無しだとよ!
 全く、お役所組織は甘いこった」

 にこやかな怒気の孕む顔で質問される。ソレに答えれば、ふんっとつまらなそうに
 息を漏らし、顔色は怒気を通り越して、愚か者への憐れみに満ちた色合いへとなる。
 怒声を孕んだ重苦しい声にフェルトの心臓は押しつぶされそうになってしまう。
 続けられる言葉の流れからフェルトは自身の解雇が当然だと思っていた。
 それに応えるかの様にアリー・アル・サーシェスは突き放す言葉を発するがすぐに撤回される。
 フェルトはそれに目を僅かに大きくして、うつ伏せていた顔を見上げる。するとアリーの目には
 苛立ちと怒りが孕んだ侮蔑的な視線を向けられ、すぐに顔を反らす。
 苛立紛れに近くにおいてあった、空のゴミ箱が蹴り上げられる音が
 耳に飛び込んできたがそれでも向きあうことは出来なかった。

「何故ですか? 私はあの人と話したこともない」
「前任パイロット絡みのセンチメンタリズムとか言えば、手前もちったぁヤル気は出るか?
 あの顔で似合わねぇけど、中々繊細なんだとよ。アレで」
「あの……私はやっぱり向いてないですよ……ね」
「……あのなぁ? そーいう愚痴や弱音はサイボーグ女に言え。ただな?」
74寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:20:06 ID:???
 フェルトにとって司令の碇ゲンドウと呼ばれる男との接触は殆どない。
 正式採用をされた時も簡単に面通しの様なモノがあっただけで挨拶すらなく
 サングラス越しですら自分を見ていたといえる記憶は一欠けらもなかった。
 それゆえにアリーの台詞には違和感がある。正直、本人としては自信を喪失していた。
 上手く出来ないのは解っていたが、何故自分が今この場に居られるか記憶もない。
 回収されたという記憶すら曖昧で何故か頭にコブが何個も出来ていたり
 打ち身があっちこっちに出来ていたりとろくな目にあっていない。
 なんで自分はこんなに辛い思いをして乗っているんだろう?
 疑念と諦めが支配しているのが見えたのか
 アリーはぐっとフェルトの前髪を掴み顔を覗き込む。
 
「こちとらお守りやりに中東から来てるんじゃねぇ。これでも手前が死なねぇ様に頭使ってんだ。
 査定に響くからな? そこら辺考えてちったぁ行動しな」
「……解りました」
「なら、いい。じゃ、後はサイボーグ女が迎えに来るまで適当に休んどけ。検査は異常なしだ」

 髪をつかまれた痛みに目を瞑り、僅かに呻き声が漏れるが
 そんな小さな音を掻き消す怒鳴り声。手を離す際わざと力を入れてベットへと押し飛ばす。
 無碍に扱う様はフェルトに何か個人的な恨みでもあると思われる様な態度。
 フェルトにはこの温情もアリーの冷酷さも理解の範疇外だ。
 理由はあるのだろうかと以前は考えても居たがそういうのは詮索するのも諦めた。
 そのまま、シーツを引き寄せる様にして蹲って泣く事も我慢して
 僅かに嗚咽を漏らす。アリーはその様子を確認した後、適当に言いつけて踵を返す。
 病室を出てドアを閉めれば、右側から刺々しい視線がアリーを襲う。
 
「わざと? まるで絵に描いた様な外道ね」
「おや、葛城一尉。これは奇遇な」
「露骨過ぎない? 病室がわざわざ隣。その上ドアが開けっぱなしでお説教なんて。
 しかも女の子扱い方を知らない訳でもないでしょーしねぇ? 何が目的?」
「ああ、失礼。病院ではお静かにという奴か。悪ぃな育ちが良くないもんでよ」
「そーいう、レベルには見えないけど?」

 露骨な嫌悪の視線と共にがアリーに侮蔑の言葉が浴びせかかる。
 廊下に出れば、其処には車椅子を転がしている葛城ミサトの姿があった。
 わざとらしいアリーのリアクションにじっと目を細めたまま、皮肉を織り交ぜた言葉を言う。
 車椅子の手すりに頬杖をついて、眉をぴくっと上げながらも問い詰める様な推理の羅列に
 アリーは馬耳東風と言わんばかりに惚けてみせる。かりかりと頭を掻きながらも
 斜め上を見上げている。嘘なのはバレバレだ。しかし、ミサトはそれ故にいらだつ。
 わざとやっているのが解るからだ。バレているのも計算の内。いや、バレてからが本番か。
 まんまと釣られてしまった事実が、ミサトの苛立ちを加熱させていた。
75寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:21:50 ID:???
「まぁ、よかったよかった。再生治療に本腰を入れて貰える様で」
「ええ、おかげ様で郊外の景観豊かな病院から行き成り被災地直下の
 けが人の呻き声溢れる賑やかな病院に転院させてくれてありがとう」
「いえいえ、それ程でも」
「……ちっ。無精ひげといいムダに長い髪といい、忌々しい」
「昔の男と面影でも似てたか?」
「−−−−っ!!」

 話題を変えればちっと舌打ちをしつつもそれに皮肉で応えるミサト。
 謙遜する態度も無く言葉尻は火に油を注げられ、全部逆手に取られている。
 フラストレーションの積もり積もったまま、冷静に対応しようと務めようとするが限界を感じ
 愚痴をもらす。それすらも聞き漏らさずに返してくる。この男の事だ。
 きっと、それらも全て知っているのだろう。兎角、ココまで人を苛立たせる事に対して
 どうしてココまでの才覚を発揮できるのかミサトには理解出来なかった。
 ていうか、純粋にムカつく。恐らく、脚が動くのなら蹴りの一発も入れていただろう。
 その歯がゆさも計算だったりしたらと考えるだけで憤死しそうで
 きりきりと軋ませる歯はエナメルを削り、奥歯を砕く勢いで顎に負担がかけている。

「はぁ。まったく、人使いが荒いわね。NERVは今も昔も」
「”2年間”甘くしてたツケって奴さ。使徒なんて本当に来るかどうかもわからねぇ。
 だから、あんたの予備の補充も適当に過ごされた。その内職場復帰するだろう位でな?
 参号機は動いたし、初号機もそこそこ動けるから大丈夫だろう。四号機だって間に合う筈。
 ところが意外にも早く二匹目が着てそりゃー酷い有様だったもんでね」
「まぁ見たわよ、映像は……今更嫌味?
 お望み通り復職は決めたわよ。ま、明日明後日にって訳じゃないけど」
「それは結構。結構ついでにちょっと一仕事頼みたくてねぇ。ま、サボった分の帳消しツー事で」
「……何やらせよってのよ」

 おまけに散々コケにして、頼ろうとするのだから始末が悪い。
 普通なら交渉決裂は必至だが相手はすでに勝てる算段をつけている。
 多分、嫌われる事すら計算なのだろう。じゃあ、その計算を利用して
 恐らく鬱憤も含めて原動力にするつもりなのはミサとにも解る。
 故にその内容がどれだけのモノか身構えざるおえなかった。

「女を口説くのに使えそうな男紹介して貰えないかね」
「……はぁ?」

76寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:23:26 ID:???
―第五使徒襲撃から一週間後、とあるマンションのエレベーターフロアにて

 沙慈・クロスロードはやや大き目のタッパーを入れた保温パックを片手にマンションの廊下を
 同じクラスの男子相田ケンスケと共に右往左往していた。踏ん切りが付かない様子
 あれやこれやと心配する声にケンスケは大丈夫だってっと励まして一歩一歩進めさせている。
 見るかに挙動不審な彼ら二人には来る理由があった。
 先日の使徒襲撃の一件で使徒を見てしまった三人の内、二人。
 無論、あんな巨大なモノへの目撃者がゼロと言う訳では済まないのだが
 EVAを間近で見た人間と言うのは関係者以外では数少ない。
 それなりの口止め料と厳重注意と言う名の脅迫も受けている。
 3人とも快くその場では受け入れる程度の生存本能が働いてくれたのが幸いだったが
 それでも事態への影響は大きかった。

「ねぇ、大丈夫なの? 知らないマンション入って」
「大丈夫だから。ルイスちゃんからも塞ぎこんだままなんだろ?
ココで動かなきゃ男じゃないぞ、クロスフォード君」
「まぁ、そりゃそうだけど、ほんとにあの助けてくれたクリスさんに辿り着けるの?」
「上手くいけば、多分ね」
「多分って……」

 沙慈は未だに決心が付かないというよりもあまりにも計画性と希望の薄い
 公算にため息を漏らしていた。先日の一件で男子二人を救ってくれた人間。
 通信の関係からクリスと言う女性だとは解ったのだが救助された後は引き離されてしまい
 直接会う事がその後なく二人は自宅に帰されている。
 礼の一つもと思っていたのだが諜報担当の黒服の方々に
 しっかりと伝えておくと実に曖昧で期待値の低い対応をされてしまっている。
 無論、それはそれで致し方ないという事なのだろうが、同じく抜け出した
 ルイス・ハレヴィは違っていた。救助後、目立った外傷は無いという事なのだが
 学校を数日休み、戻ってからも上の空というか酷く学校が居心地が悪そうに見えた。
 それを見かねた二人の行動と言う事だったのだがそもそも、二人には訪ねる宛てすら無かった。
 あの紫色のカラーリングがなされた巨人のパイロットも解らず
 可能性があった刹那には偉く暴力的なお目付け役の存在がちらついているので
 話を聞き出す事も出来ない。そんな中、ケンスケが僅かに残された可能性を
 見出したのがこのマンションであった。

「えーと、こっちだったかな? 多分、合ってる筈。忘れてるなー、僕も」
「で、何処に行くの?」
「ココにさぁ、前にNERVに勤めてた人が住んでたんだよ。
 で、ずっと前に事故で怪我して入院してたんだけど」
「それドレ位前? 別の人がもう入ってるんじゃ?」
「二年前かな? いや、なんか出て行ったと思ったらまだ名義がそのままらしいんだ。
 別の人が入ってるってのは解ってるけど」
「……という事は」
「少なくとも親類、知り合い、もしくはNERVの関係者さんが住んでる筈。
 まぁ、藁をも掴むって奴だね」
77寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:24:44 ID:???
 マンションのエレベーターフロアに設置された案内図を頭に思い浮かべながら
 ケンスケは記憶を手繰り寄せる様にして、沙慈にココへと向かった経緯を話す。
 おおよそ見当のつく内容ではあったがし、後回しにされた選択肢としては妥当。
 まず、相手方が違う部署ならばそもそも、名前も知らないかもしれない。
 空想、想定する内容はきわめて不利なモノしか思い当たらず、足取りも重くなっている。
 若干、目が据わっている様に見えたケンスケの表情の合点がいった。
 一人で突撃するにはあまりにも細い一本橋。確かに分の悪い賭けではある。
 けど、ソレだったら何故と不信が積もってしまう程度に沙慈もいい人ではない訳で 
 ジト目の視線でその説明に対するリアクションを示していた。

「なんで、もっと早く言ってくれなかったの?」
「話したらそれだけ僕に渡してルイスの所行ってだろ?」
「……ん、いや、ボクは」
「はは、僕が同じ立場だったら付きっ切りで居たいと思うからね。
 それに僕も度胸がある方じゃない。誰かとつるまないと此処まで来れないんだよ。情けない事に」

 ケンスケは眼鏡をくいっと軽く上げる。逆光が光るレンズ越しに沙慈の心を見透かしている様だった。
 どきっとする沙慈の視線をさまよわせる中、ケンスケはけれんみと妬みのスパイスの効いた口調で
 罪悪感を煽りつつも自らを卑下してみせる。肩をすくめてそう漏らす相手に沙慈にはこの慎重さと裏腹に
 何が彼を此処まで行動をさせるのかイマイチ理解が出来なかった。先日の一件でもそうだ。
 幾ら兵器や敵の姿を見て見たいとは言ってもわざわざ危険を冒してでも見たいものだろうか?
 ミリタリーマニアらしき事は大よそ解っており、ぼんやりとだがそれらへの好奇心が強いのは解る。
 それは命を賭けるに等しいのかと沙慈の価値観からは理解が出来なかった。
 そんな気まずい雰囲気の中、後ろでポーンっと機械音がなり、エレベーターの扉が開く。
 訝しげに僅かに眉間を寄せる少年の姿に二人は一瞬ぎょっとしていた。
 少年は両手からぶら下げている大きめのスーパーのビニール袋に
 食材やら生活用品やらが詰め込まれている。うつむきがちにエレベーターから降りると
 丁度、ケンスケと沙慈からの視線とかち合う。しばしの沈黙。
 不信感と疑心が無表情な顔から滲み出ていた。

「あ、セイエイ君」
「……また、俺に用ですか? 何も話すことはありません」
「クロスフォード、頼むわ」
「いや、違う違う。たまたま、此処に用があってね。そっちこそここに住んでるの?」
「……関係ありませんから。失礼します」
「そ、そぅ」
「つれないなぁ。ま、仕方ないか」
「……?」
「あ、うん。それじゃボク達も行くから。ごめんね、勘違いさせちゃって」
「いえ、では失礼します」
78寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:25:36 ID:???
 ケンスケは早々と会話を諦めて、沙慈に託した。沙慈はやや、慌て気味に首を横に振りつつも
 手振りを交えて否定をする。当然二人の言語はアラビア語基本英語交じりなので
 日本の男子学生として平均程度の英語能力しかないケンスケにとっては内容はさっぱりだったが
 なんとなく刹那の坦々とした受け答えから察する事は出来た。
 呟くケンスケの言葉には刹那は理解の範疇に及ばなかった為
 一瞬きょとりっとした顔をして僅かに会釈をして、歩を進める。
 最初の数歩、同じ方向を進んで言うと思われる刹那と二人。刹那も同じ方向なのだろうと
 警戒感を弱める事もなく微妙に距離を取る。ケンスケと沙慈も刹那に変に警戒されない様に
 その距離のとり方に合わせて進んでいく。マンションの廊下を黙々と歩く三人。
 刹那がマヤ宅へと着くと再び軽く会釈をした後、キーをポケットから取り出してあけようとした時だった。

「って、えぇっ!?」
「……?」
「どしたの? 急に変な声だして」
「いや、僕達が目指してた家が此処」
「へ? って、それじゃ」
「……では」
「い、いや、その目的地が。って、えぇ? それじゃセイエイってやっぱり?」

 ケンスケの素っ頓狂な声に、刹那も思わず振り返る。
 刹那からすれば、行き成りの奇声に警戒感が一気に高まるが、沙慈も驚いている事から 
 想定していなかった事態だというのは伺えた。沙慈はケンスケの話を聞けば
 想像の補完により、刹那への以前の疑いがほぼ確信的になっていく事実に気付く。
 NERV関係者の家に住んでいるとなれば、その可能性がより濃くなっているだろう。
 そういって、何度も顔と部屋の玄関扉を往復させる沙慈の視線の動きに事情が飲み込めない刹那。
 口が滑っては不味いという本能だけが沈黙を貫き、足早に部屋の中へと逃げる事を選択した瞬間
 玄関扉が勝手に開き、タンクトップとハーフパンツのラフな格好の若い女性が顔を出す。

「刹那君、おかえりなさい。あれ、鍵は渡してた筈だけど……」
「……あ」
「え?」
「ただいま戻った」
「…………………………………………………………何、この空気?」

 伊吹マヤは刹那に初めてのお使いを頼んでいた。
 本来一緒に行けば良いのだが当人の日本に馴染む為の試験的な運用だった。
 無論、それを一人部屋で待つのは気が気ではない訳で
 そわそわとしていた中、玄関から声がすれば出迎える為にドアを開けた。
 ただ、それだけの動機だったのに玄関を開けば少年三人の視線がぶっ刺さってしまう。
 その重苦しい空気は思わず、疑問が口を滑らせるに至った。
79寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:28:58 ID:???
―第伍使徒襲撃、三日後。高校の教室にて

 避難中に頭を打ったという事で数日欠席していたフェルト・グレイスが学校に登校する。
 最初の3時限までの休み時間や朝は数名の女子生徒が入れ替わり立ち代りで
 怪我の心配と非難時の愚痴を残していく。
 やれ、面倒だっただの姿が見えなかったけど、大丈夫だっただのと当たり障りの無い応答。
 誰もフェルト自身が戦っている事など知らないのだ。この学校に居る3人の生徒以外は。
 緊張の走る時間が続いていたが、来たと思えば顔を僅かに上げて視線を少し外す。
 ルイス・ハレヴィが席へと近付いた途端、フェルトの顔がこわばっていく。
 あからさまに話したくない雰囲気は出しているが逃げられないなと思っているのも事実。
 ルイスも正直積極的に話したく無い雰囲気を漂わせていたが
 一度話さなければいけないと思っているのだろう。

「退院おめでとう。ちょっと話を聞きたいんだけど?」
「……う、うん。その」
「話し辛いなら場所変えましょうか」
「……そうして」

 昼休みと言う事で二人は屋上へと向かった。放課後まで待てなかったので手弁当込みだ。
 珍しい組み合わせにクラスの数名ははてなマークを浮かべているがそんなのは些細な事柄で
 沙慈が他の生徒より少し気になった程度だった。廊下の移動中二人の会話はなく
 やや風の強い日、二人の憂鬱な気分など気にも留めない快晴の空は忌々しい程の清清しさであった。
 風で散らばっていく髪を手で抑え逃げる様にしてフェルトはベンチに座る。
 ルイスはそれと向き合う事をせず、フェンス軽く背を預けたままルイスも
 パック飲料にストローをさしている。フェルトが小さくいただきますと呟けば
 ルイスもそれに習い軽く黙祷に近い祈りを捧げた後、白身魚のフライが挟まったパンをかじる。
 
「私にもたんこぶ出来ちゃったわよ。あの後何があったかしらないけど、そっちは大丈夫?」
「う、うん。その平気。ちょっとアザも出来たけど」
「……何時からなの? 確か飛び級だったから私より若い筈だったけど」
「13歳から」
「そんな早くから?」
「私は適正が解ったのが早かったから」
「……脊が低いからとか若い内からってレベルじゃないわよね。
 アレって……何で動いてるか知らないけど……ま、聞いても解んないだろうから聞かないけど」

 二人には年齢さがおよそ3歳程ある。フェルトは優秀という事らしく
 ユニオンに組み込まれた日本において進められていた飛び級制度を適応された一人であった。
 刹那も含めて、年齢層がイマイチ一致していない生徒も多く、基本的に同年代のグループが出来易い。
 故にルイスとフェルトの両名はこうやって学校で話したのは初めてだったりする。
 フェルトの緊張は手に取る様に伝わり
 ルイスにとってもどう話を持っていけば良いか戸惑っており、合間の沈黙は長かった。
 誰に向けてか解らない呟きの様な言葉。トリガーの様な手摺と画面以外よく分からない
 あのコックピットはおぼろげにも覚えていた。ただ、覚えていただけで解ってはいない。 
 そして、多分説明されても半分も理解出来ないのだろうとルイスは自覚していた。
80寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:31:04 ID:???
「なんで、乗ってるのって聞くのは野暮かな」
「私はアレを使いこなさなきゃいけないの」
「適正って奴?」
「それもある……けど」
「けど?」
「お父さんとお母さんの遺志だから。私まで負けちゃいけないから。
 アレを使いこなさないままだと、私のお父さんとお母さんの死が無駄になっちゃうから」
「……そぅ」

 聞くのが恐る恐るだったルイスに察してかフェルトの声は反比例して大きくなり始めた。
 何か自分の中で覚悟めいたモノが宿っているのか
 背筋を伸ばし、言い振りは一介の軍人のソレに近いものがあった。
 ルイスはその言葉を驚きを隠せないまま、視線を逸らしてストローを咥える。
 ちゅぅっと言う音にかき消されなくはっきりと耳に残るフェルトの意思表明。
 言い終えた後、おもむろに昼ごはんのサンドイッチを頬張るフェルトを見つつも
 ルイスは次の言葉を濁していた。気まずい沈黙の時間は空の爽やかさで打ち消される事もなく
 二人の食事が黙々と進んでいった。空気が悪ければ、食事もあまり美味しくない。
 そんな二人の歯がゆさを楽しんでいる様に時間だけが過ぎていく。

「聞きたいことはそれだけ? 後、危ないから、ああいうのは」
「解ってるわよ。私だって馬鹿じゃない」
「……そう」
「もういいわ。ごめんなさい」
「こっちこそ。黙ってなきゃいけない事、抱えさせちゃったから」
「別にグレイスさんは悪い事何もしてないし……ね?」

 最後に何か言いたかったのか語尾に若干の沈黙が混ざった。
 けど、それからは平凡的な労りの言葉へと摩り替わってしまい、その場は解散となる。
 その日から数日ルイス・ハレヴィは上の空だった。
 本人にとっては葛藤の日々であったが誰もその心中は解らなかった。
 本当はもっと聞きたい筈だった。もっと、問い詰めて洗いざらい話させて
 そして、自分が気が掛かりになっている事を確認したかったのだ。
 けど、ルイスにはそれが出来なかった。
 年下の少女が戦場で戦い、苦悶し、罵倒されながらも頑張っていた。
 その苦痛、苦難を目の前で見て、更に命散らす覚悟で臨み続ける事も。

「……なんでよ。なんでそんな必死に……頑張ってるの。
 ちゃんと理由もあるし……それじゃ……聞けないじゃない。
 聞かなきゃいけないのに……あのクラスがアレに乗る為に……集められてるって話とか
 それになんで……なんで……クラスの中で私”だけ”ママが居るのとかっ!」

 ルイスは家に帰れば一人部屋でそう呟き、自問自答しながら惰性の一週間程過ごす。
 言葉は思いはぐるぐると渦巻いて、沈殿して絡み付いて、身動きが取れなかった。
 苛立ちをクッションに乗せてが壁に叩き付けた後、シーツで包まって現実から自身を隔離する。
 その後、ルイス・ハレヴィは暗い雰囲気を払拭するかの様に
 沙慈を引っ張り回す何気ない日常へと戻していった。
81寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/03/28(日) 21:31:53 ID:???
次回予告
 相田ケンスケ。一学生である彼には託された思いがあった。
 なんとかたどり着いた藁も彼の指の間をすり抜けていってしまう現実に贖う。
 二年待ったこの機会を失う事など許せずに声をあげた。
 滑り落ちる藁を必死に手繰り寄せる先の彼に待つ未来はあるのだろうか?

第四話後編「超えられぬ一線」

思ったよりまったりじゃなかったけど、次回こそサービス♪サービス♪




以上で投下終わります。次はまた2〜3週間後で本編とは別のグラハム偏予定
過去話ではないので本編って事でも良いので後編と一緒になるかもしれません
解説レスを間に一回入れられたらなぁと言うスケジュール予定です。
では、投下失礼しました
82寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/04/01(木) 22:56:58 ID:???
折角な日なのでちょっと短編投下。本編とあんまし関係ありません
83寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/04/01(木) 22:58:43 ID:???
  刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    閑話窮題「暦のワタヌキで嘘を叫んだフール」

―四月一日リボンズ邸にて

「司令に副司令揃ってどういったご要件で?」
「わざわざ、御足労頂かずとも通信なりの手段があったと思いますけど」
「事は急を要しつつ、そちら側と話を詰めなければいけない事案が生じてしまってね」

 いかにもリゾート地と言わんばかりの晴れ晴れとした外の景色に
 だだっ広い部屋におかれた10人くらいがゆったり座れそうなソファー。
 そこに中性的な緑色の単発の少年とややうねッた紫色の髪のどちらともつかないメガネの人物が一人。
 ソレに対峙するは年老いた白髪の老人とサングラスをかけた中年の男。
 いかにも擦れ汚れた大人達と対比すると少年達は実に色素の薄く汚れき印象を与えていた。
 紫の髪をした人物はいかにも暇なんですねと言わんばかりに目を細めて
 其の大人たち二人を見つめていた。そんな視線を何処吹く風といった感じで
 司令碇ゲンドウと副司令冬月コウゾウは真剣な面持ちで勧められた席へと座る。
 そして、懐から一つの書類を取り出す。

「これを」
「要望書ですか? 拝見してよろしいですか?」
「ええ。見て頂ければ話が早い」

 一枚に及ぶ簡素な書類。ボールペンで殴り書きされた文字からそれが
 エヴァ四号機パイロットヒリング・ケアである事が解る。
 その内容で目を通した途端、紫髪でメガネの人物リジェネ・レジェッタは若干イラついた口調で
 ばしっと其の要望書を机に叩きつける。どれどれとソレを見る。
 以下にはこういった内容が書かれていた。

『マルドゥークがやってくれないからこっちで頼むんだけど
 そろそろ、胸位大きくしたいんだけど、なんとかなんない?
 いい加減他の子の発育の良さに対比されるのウザイからさー。なんとかしてよ』

 何度か頭をカリカリとかき、口の中で「あのバカは」と愚痴った言葉を飲み込んでいるリジェネ。
 いかにも不愉快と言うか呆れた表情のまま申し訳なさそうに陳謝を込めて発言する。

「この件ですか。コチラでも何度か言われていたのですが聞き入れないものでね。
 戦闘型において胸などあっても意味が――」
「今、この一件で本部が真っ二つに割れてしまってね」
「…………は?」

 その発言を遮る様に声をあげるのは白髪の老人NERV本部副司令の冬月コウゾウ。
 眉間にシワを寄せてこちらも頭痛の種であることをアピールするかの様に首を横に振る。
 リボンズだけは其の様子をすでに見知っていたかの様に冷め切った表情で見つめていた。
 そういうとリジェネの困惑した表情で視線を泳がせている中、サングラスの中年の男
 NERV本部司令碇ゲンドウは真剣な面持ちでなおかつ、口元を隠したまま語り始める。
84寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/04/01(木) 23:01:45 ID:???
「大事なのはスタイルだ。ヒロインたるにはボンキュッボン。
 たわわに実った果実。それでいて決してデブではない。
 もう、それを目撃した瞬間から顔なんて記憶に残らなくていい。
 野郎どものスケベな視線は右に揺れても左に揺れても縦でも斜めでも
 常にそこに釘付けになれ。それがヒロイン、ヒロインの持つべきボイン。
 ……もといスタイルというものだ。ロリ巨乳? だがそれが良い!
 と言う訳で四号機パイロットヒリング・ケアに対する処置案として
 大容量豊胸派が私含む男性職員の6割女性職員1割をを占める」
「……はぁ」

 ゲンドウの熱弁にそれを聞かされたリジェネは驚きの後、蔑視を丹念に織り込めた視線を注いでいる。
 何を言っているんだろうかこのまるでダメなおっさんは。むしろ、そんなくだらない事を言いに来たのか。
 多忙な職務を縫ってスケベ理論を? そんな疑念が頭をかけめぐっていた中
 いかにもまだまだ若いなと言わんばかりに冬月が言葉を発する。
 先程の無骨で無機質な感情の吐露とは違った落ち着きのある口調で言葉は紡がれていった。

「わしはそうは思わんのだよ。何でもかんでもでかければ良いという訳ではない。
 トータルバランスと言うものがある。彼女の細身の体に無理矢理大きいモノをつけると言うのは
 いかにもアンバランスで芸がない。業者の発想だ。美しさとは人格とスタイルが合致してこそなる。
 あの白肌の小さい背に無闇に胸という一点のみで評価するのは野蛮だな。
 小さいなりには小さいなりの価値というモノがあるのだよ。むしろ、あの天真爛漫な性格から
 其のささやかによるコンプレックスや恥らい、慎ましやかさが出るのはまた魅力でもある。
 と言う訳でわし含む残り男性3割及び女性職員4割の意見により微増量派で割れていてね。
 NERV初の派閥が出来てしまい、職務に大分影響が出ている」
「…………そうなのですか」

 理路整然として無駄の無い無駄な意見を連ねる冬月にリジェネは完全にあきれ返ってしまう。
 返す言葉もなく、視線を細め口元をひくつかせながらもこめかみを抑え、この現実から逃避を企てる。
 しかし、相手も立場が立場の人間だ。無碍に返すのは些か躊躇われる。
 視線をさまよわせる中、ふと先程から沈黙を貫いていたこの邸宅の主リボンズ・アルマークが視線に入る。

「ちなみに残りの職員は?」
「不潔です!と一蹴されたりだな。全く、わかっておらん」
「…………いや、むしろまともなのは女性職員半分と男性職員1割なのか?」
「いや、それは間違っているよ、二人とも」
「ほぅ」
「では意見を聞かせて貰おうかリボンズ・アルマーク」

 ようやく、言葉を発するリボンズに一抹の期待を寄せるリジェネ。
 後ろから、無言で「変な事いって、これ以上時間伸ばすな」という脳量子波をフルに発している中
 リボンズの口元は笑っていた。終わる。これで話が終わる。
 多分、きっと、いやそうでなければならないこの話題のほかにもっと重要な要件があるはずだ。
 大の大人二人がスケベ理論を語りに来ただけなどというのがあってはならない。
 しかも国を、人類を守るための組織の役職につく2名だ。そうであって欲しいと言う
 僅かな願望が胸中で膨らみつつあった。
85寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/04/01(木) 23:05:15 ID:???
「この時期にわざわざ胸の補強を言い出すと言うことはそれなりの心境の変化というのがあったと言う事さ。
 だが、ボクとしては敢えて苦境を与える意味でも男体化を勧めるべきだと提唱している。
 肉体のコンプレックスなど誰もが通る道だ。安易にいじり回して解決というのではつまらないと思わないかい?
 ココは敢えて男にしてしまうことで悩み苦闘しながらも其の壁を超えるロマンがあるとボクは思うよ。
 この案は以前から提唱しているのだがマルドゥークで理解を得られなくてね」
「リボンズ・アルマーク。まさか君が女性職員残り5割、男性職員1割を締めた男色派とは。
 考慮外と思って敢えて伏せていたというのに」
「……NERVにまともな奴は居ないのか。大丈夫か、この組織」
「わしとしても女装状態の維持はアリかと思ったのだが流石にそれでは一般受けが厳しいと思うのだよ」
「冬月、私の息子まで飽き足らず、まだそんな欲求を。……私は断固反対だ。
 男女は健全に付き合うべきであり、ボインとは母性の象徴。
 それは大きければ大きい程よい。その真理は揺ぐとは思えん」
「それだからオールドタイプなどと言われるのですよ、碇司令、冬月副司令。
 人類の半分は女性で回っている。禁断の花園、戦いに疲れたパイロットに微笑むまいえんじぇる。
 そんな可愛い娘が女の子の筈がない! 少女に母性を求めるなんて歪んだ大人は修正されるべきだ。
 同性故の甘酸っぱい関係に背徳感を感じつつも手を伸ばしてしまう性。世界はそうあるべきだね」

 ―糸色望したーーーーーーーーーーーーっ!

 リジェネの思考回路はオーバーヒート寸前に陥る。圧倒的絶望の前に膝をつきたい気分だった。
 そういえば、前に冗談交じりで言っていたのを思い出す。がこの男、あの頃から本気であったのだろう。
 これ以上複雑にしてどうする。この三つ巴は誰が得をするんだ? 何の利益を産む?
 いや、ナニを産みたいのかリボンズは。……って、くだらん!
 別に戦闘型イノベイターの一人に胸があろうとナニがついてようと、どう戦績に影響するんだ。
 理詰めでどう屁理屈をこねくり回してもその理論が導き出せない。
 やや、力強めにリボンズの肩を握り締めつつも問いかけるリジェネ。

「リボンズ。そっちの方が歪んでると思うんだが気の所為か?
 むしろ、君を修正したいんだが?  許されるならオヤジにもとか言えない位ボッコボコに」
「例の銀髪で鼻歌な彼が間に合わないからボクが主張するしかないんだよ!」
「これは徹底的に話しあう必要があるな」
「ふむ、致し方あるまい」
「受けて立つよ」
「……もう勝手にしてくれ」

 春の暖かさに浮かされた男たちの熱い議論は一昼夜にぶっ続けて行われていたという。

 次回予告
 突然の招待状。四号機パイロットヒリング・ケアの謎の招集から物語は始まる。
 ありえない高さのマンションに数々の警備システムが襲われる旅路。
 ステルス迷彩のメイド部隊との激戦につぐ激戦。
 刹那達はヒリングの部屋へと辿り付き芋煮会が行えるのだろうか?
 そして、チェス盤の様な床に鎮座する巨大な重機の影は一体。

閑話休題「四月馬鹿当日に書いただけあって文章が情け容赦無しね。左様でございますね、お嬢様」

日付を確認しながらもサービス♪サービス♪
86寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/04/01(木) 23:06:31 ID:???
以上。なんか、ほんと思いつきで作ったので色々さーせんでした
では、投下失礼しました。
87通常の名無しさんの3倍:2010/04/08(木) 14:18:24 ID:???
ネルフはいつからダメ人間の集まりになったんだw
……あ、ベクトルが違うだけで最初からか
88通常の名無しさんの3倍:2010/04/09(金) 00:08:19 ID:???
ユイは美乳なのに巨乳好きのゲンドウとはコレいかに
89通常の名無しさんの3倍:2010/04/10(土) 22:04:27 ID:???
ゲンドウ「なんとか私があのサイズまでしたんだ」
90通常の名無しさんの3倍:2010/06/05(土) 18:20:26 ID:???
保守
91寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/05(土) 22:13:58 ID:???
規制とけてないかテスト

解けてたら明日九時にでもなんか投下しますよ
92寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:00:28 ID:???
お久しぶりです。規制……長かったorz
では、間がかなり空いてしまいましたがグラハム編投下始めます。
93寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:06:55 ID:???
―ユニオン軍基地にて

「また、派手にやってくれたね。左腕部大破、あっちこっちもベコベコに凹ませて。
 ま、持って帰ってきてくれた事には感謝するよ、本当に」
「うむ。頑丈さはあると聞いていたが大したものだな、シロウ・時田。やはり軍用はこうではなくてはいかん」
「……お国柄。生まれの気質なのかねぇ。全く」
「ん? 私の知っている日本人は君みたいに遠回しにモノは言わんぞ?」

 基地へと戻ったJ/Aを見てJ/A開発者時田シロウは報告書に書かれていた通りの現実に口元を歪ませる。
 コックピットから降りてくるパイロットに厭味ったらしい視線を送りながらも拍手と共に言葉をぶつけてきた。
 パイロットはそれをいつものことを受け止めているのか全開の笑顔でそれに応える。
 肩をバンバンと叩けば、痛そうに少し目をつむる時田。
 漏らされた言葉にふとパイロットの男は先程まで一緒だった少女を思い返し、否定する。
 そこまで突っ込むのかと言わんばかりにジト目を注ぐ時田はすぐに忌々しく思うことすら馬鹿らしくなった。
 此のパイロットの男が全く悪意なく今までのセリフを吐いているのだと解っているからだ。

「はぁ、しかし聞いたよ。まさか……ね」
「ああ、全くどこの誰がたぶらかしたんだ」
「選ばれた子供達とはいえ、所詮子供という訳か」

 会話を続けながらも時田は整備員の報告を纏めて、メモにとっている。
 改修費用、必要なパーツetc。官製の仕事は常に書類と予算から成り立っている。
 湯水に使えるのはあくまではんこが押された部分だけだ。しかも、J/Aは元々実験用で正式な兵器ではない。
 どう言い訳して予備のパーツと必要なパーツを調達するか。時田の頭の中の電卓と作文用紙がガリガリと働いていた。
 そんな事を尻目にパイロットの男は憂慮する。今回の事態は想定しされていなかった訳ではないが
 それでも今のこの世界において悪手であるのは間違いない。まだ、EVAの配備が進んでいない中
 実験用の機体まで持ち出す事態。何より気がかりが知り合いに居た。
 そんな事を微塵も感じさせないパイロットの男の健気にも感じられる快活さを更に不安に掻き立てられた。
 ハンガーへに現れた一人の男の顔色は当に幽鬼の様であり、目はひどく濁っていた。

「……どうしたビリー? この作戦の間中、ずっと顔色が悪いままだったぞ?」
「ん? ああ、いや。ちょっとね。預かっていた子がちょっと出て行く事になって」
「猫だったか? 全く、大の男が猫で寂しさを紛らわすなど」
「それはお互い様だよ。全く。ああ、そんな事よりMr時田。朗報だ」
「Mrカタギリ、どうしました?」
「コレを見て欲しい」

 親友の心配をよそに乾いてひきつった微笑にパイロットの男は不安で顔で怪訝になる。
 事情を話してもらったが無論、それが本当の理由でない事はわかる。
 話せない何かがあったのだろう。それを踏み込むべきだと思った矢先
 ユニオンの技術者ビリー・カタギリは差し出した書類を片手に強引に話を変えていった。
 時田も心配気な視線を送ってはいたが、パイロットの男ほど親しい関係でも無い自分では
 差し出がましいと思って会話に参加はしていなかった。
 だがが声をかけられてようやく言葉を返しながらも手渡されたじっと渡された書類に視線を流す。
94寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:09:00 ID:???
 しばしの静寂。しかし、すぐにその静寂は破られる。

「……ふむ、ほぅ。おおっ!? こ、これは!!!」

 数秒後、時田の普段あまり聞かされる事の無い大声がJ/Aのハンガーの中でこだました。

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
  幕間窮題 「自由と反逆の弧」

 第四使徒が第三新東京市を襲撃をして数ヶ月の事。事態は使徒襲来とは別の事件で起きていた。
 各国の紛争地域に対してゲリラ、住人、駐留軍人全てを壊滅させる事件が連続で行なわれていた。
 犯行方法は何処で手に入れたか解らないがN2兵器の火力で地域ごと消滅させると言う強引な手法。
 おかげで地図から領土争いをしていた多くの街や島が次々消えていった。
 展開していた基地や人員物資も丸ごと吹き飛ばしてしまい草木も残らない消滅してしまう。
 クレーターの出来た荒野の権利に再展開する余力はどの勢力もなく、人が居つかぬ不毛の地域を次々と増やしていく。
 結果的にその地域は平和になったと言う皮肉な事態を迎えていた。

「なんでよりによってあんたなのよ」
「ん? 何かね」
「うざーい。あー、やだやだ。こんな南米のよくわかんない所でしかもこんな似非日本通と一緒だなんて」
「ははは、相変らず手厳しいなアスカは。だが、そろそろレディーとしての慎みを持たないといかんな。
 立派な大和撫子とやらにはなれんぞ?」
「アタシはアタシのままで良いわよ」
「ふむ。その心意気もまたよしとする!」

 世界がひっくり返る様な事態が起きているがマスコミと現地市民と一部過激な思想家以外は冷静だった。
 犯人も犯行に使われた道具もわかっているからだ。故に秘密裏にそれを捕獲せねばならなかった。
 そんな大事件の為とはいえ、不満を隠せない少女式波・アスカ・ラングレーは愚痴を零していた。
 狭いプラグの中で待機すること数時間。輸送飛行機の中で通信で行なう相手には不満を零すばかり。
 その主な内容は今回の作戦に辺り、援軍として連れ添う相手のことだ。
 ユニオン軍所属グラハム・エーカー中尉。アメリカでの大学生活の間、警護をしてくれた人物であるのだが
 アスカの中での評価は既に地に落ちていた。要因は主に性格面において。
 モニター越しに忌々しげに視線を向けているがグラハムはそれに気に掛ける事も無く
 此方は先日の使徒襲来の際に使用されいたJ/Aのコックピット内に収まっている。
 完全に収納されているEVA用に作られた輸送機と違い、J/Aはまるで吊るされているかの様に
 ぶらぶらと垂れ下がっており、バランスを取るのが実に大変そうだった。

「なんでAEU空軍のエースのアタシがユニオンと一緒なのよ。ってか、エヴァは無いの? エヴァは」
「仕方あるまい。エヴァはヴァチカン条約で各勢力3機ずつしか保有出来ない。
 そして、ユニオンの分は全て日本のNERV本部に回しているからね」
「ったく、何やってんのよあんたの所は? そんなもん作ってて肝心のエヴァがお留守なんて」
「ま、幾らエヴァを揃えたところで本部がやられてしまっては終わりだからな」
「……はぁ。まー良いわ。AEUの軍も被害があったみたいだし、ちょっと狼藉者を〆てやらないと」
「おお、仲間のA☆DA☆U☆CHIと言う奴だな! 美しい! 私も武者震いがするぞぉっ!」
「……あんたちょっと黙ってなさい」
95寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:11:53 ID:???
 不満のマシンガンの火線をかいくぐる様に大人のいい繕いでグラハムは話を逸らす。
 それに不満げにしながらも、そんなのは解ってると言わんばかりの語気で言葉を返すアスカ。
 話に出てきたヴァチカン条約。使徒という未知の敵に対し
 EVAと言う巨額の費用を投資してつくられた超兵器は当然の如く
 国家間の軍事バランスにおいても危険視されている。
 故に調停でユニオン、AEU、人革連共に3機を上限とされていた。
 そして、それに伴って開発されたのがJ/A(ジェット・アローン)である。
 EVAの上限とは関係なしに所持する事が可能な巨大な戦略兵器として開発を進めている。
 流石に世界で一番軍事費用に金を掛けているアメリカ合衆国を中心としたユニオンだけの事はあり
 現段階でエヴァ4機を建造していてもまだ足りないらしい様は
 誰の目に見ても明らかであり、それらの行動は勿論、他の勢力と国家から蔑視もされていた。
 
「ま、改修が終わったエヴァ弐号機のお披露目には丁度良いわ。
 日本本部に来た使徒との相手には間に合わなかったし」
「期待させて貰うぞ」
「中尉! 着ました! 」
「宜しい投下準備を進めてくれ。アスカ通信を一時切る。次は空で逢おう」
「はいはい。じゃ、行くわよ! 家出した鳥さんを捕まえないとね!」

 雲が晴れると其処には白い鳥が居た。だが、明らかにサイズがおかしい。
 本来この輸送機が見える鳥など豆粒に等しいサイズだと言うのに
 これははっきりとそのシルエットが見られていた。
 おまけに赤い粒子を振りまいており、まるで出血したまま空を飛んでいるかのように見える。
 コレが上記で述べられた数々の爆撃事件の犯人であった。
 この犯人を開発をしていた人革連は世界の被害が26件、人革連での被害が9件目になってから
 初めて口を割り、急遽捕獲部隊が結成するに至った。
 秘密裏に拿捕、亡命させない為に二勢力以上の連隊を組まされている事を
 グラハムや大人達は聞かされていたがアスカには敢えて伝えられていなかった。

「これより脱走したエヴァ量産型の捕獲作戦を開始します。弐号機投下開始!」
「覚悟しなさいよ! って気持ち悪!! 何あれ! 誰がデザインしたのよ!」
「人革連のセンスは相変らずファンタスティックでオリエンタルだなぁ!」

 ほぼ、オペレーターの言葉と同時にハッチから投下されるエヴァ弐号機。
 両肩にごてごてとしたバーニアの付いた武装空中挺進専用S型装備を搭載し
 上空から舞い降りている。その白い鳥もその機影に気付いたのか振り返り
 手に持っていた大型のライフルで反撃する。その際、ようやくその白い鳥の全容が明らかになった。
 鳥の様な大きな翼に生白いカラーリング。なにより特徴的な鰻の様な頭を持つEVA。
 量産型として試作開発されていたモノであり、アスカが感想を漏らす様に気持ち悪い印象を与えていた。
 うねうねとした生白い筋肉の隆起に赤い唇、その割に滑らかに動く背中についた白い翼などの特徴全てが
 感性に対して嫌悪感を与えている。アスカには不気味であり、吐き気のする存在感がひしひしと感じられいてた。

「ちっ、パレットライフルまでくすねてたの!? こんのぉぉおっ!!」
「そのまま、ATフィールド中和! 高度も下げるんだ!」
「簡単に言って!! やってやろうじゃない!」
96寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:15:35 ID:???
 自由落下をしながらもブースターで軌道を変えつつ、空中戦を繰り広げる両機。
 エヴァの手に持てば普通のライフルなのだがそれでもその大きさは薬きょうが車と同程度のサイズ。
 それをぼろぼろと零しながらもATフィールドの中和距離に至ってなかった為、お互いの射撃を弾き合っていく。
 量産型と違い翼を持たない弐号機の機動性では当てる事もままならなかったが
 奇襲による効果なのか動揺だけは与える事は出来た。とっとと逃げればいいモノを
 ムキになったのか量産型は反撃を銃でけん制する。相手は何かの戦闘機かと思ったのか
 その存在確認と共に驚きを隠せていない様子でもあった。
 そして、反撃と驚きが量産型の動きを鈍らせたのが致命的な結果へと導かれる。

「よし、私がそのまま落とす! 着いて来い、アスカ!」
「ちょっグラハム!? あんた何してんのよ!」

 量産型は更なる驚愕を見る事になる。空からでっかい塊が降ってきたのだ。
 しかも、EVAから見てもそれなり大きい塊。
 J/Aは吊るされていた拘束具を外し、まっすぐに量産型に向かって落ちてくる。
 動きを止めた量産型はそれを回避することも出来ずにATフィールドで受け止める。
 がきぃっと金属の擦れる音もさることながら、”障壁”はあくまで”障壁”であり
 地面に展開出来ていないATフィールドはJ/Aの質量をそのまま発生させている量産型全体に圧し掛からせる。
 速度と重量と飛翔能力の算数が導き出した結果、量産型はそのまま南米のジャングルへとJ/Aと共に落下する。
 途中なんとか羽をばたつかせたおかげで地面への衝突する際の衝撃は和らいだモノの
 自殺行為に等しい突撃にアスカは激昂する。

「ばっかじゃないの! あんた、あのまま激突してたら死んでたわよ!」
「HAHAHA、何とかなったから問題ない! 無理そうならパラシュートをギリギリで開くつもりだったからな!」

 木々をなぎ払い、二つの巨人が落ちたそこへと赤い弐号機がブースターをふかしながら軟着陸をする。
 その間、圧し掛かっていたJ/Aを振り払う様にATフィールドで弾き飛ばし距離を取る。
 何とか再び飛翔する機会をうかがう様にしつつもパレットライフルでのけん制射撃。
 しかし、それは弐号機のATフィールドで弾かれる。量産型はATフィールドの中和を試みた瞬間
 J/Aの拳が丁度中和したスキマを縫ってぶち当てられる。
 純粋な馬力はJ/Aの方が上だったので軽く吹っ飛ぶ量産型。白い肌がぬかるんだ泥で汚れていく。
 それでもJ/Aの突進は止まらない。量産型は圧し掛かる様に覆いかぶさるそれを両手でそれを拒絶する。
 しかし、その押し出された両手をJ/Aは掴み、握り潰す。肉と骨が砕け引き裂ける音がジャングルへ響いた。
 絶叫を響かせる為、量産型の口は拘束具を外れてしまう。
 弐号機はそれを見張っているかの様に、周囲を警戒していた。
 アスカ的にイジメの見張り番の様で情け無い構図なのがかなり腑に落ちない。
 無論その行動にも意味があり、当人達には残念ながらも意味がもたらされてしまった。

「ちっ! おいでなすったわよ!」
「むぅっ! やはり、参番機と弐番機は見張っていたか!」
「くっ……私に覆いかぶさるなんて良い度胸してるわね!」
97寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:20:23 ID:???
 空中から注がれる砲弾の雨。バズーカの弾がJ/Aの背中を襲う。
 空中の砲撃と共にもう一機量産型が急転直下の突撃をしてくる。
 手には両手で今正に振り下ろそうとしているグレイブがある。
 弐号機が肩に搭載されていたニードルガンで砲弾の雨を誘爆させていくが、何発か周囲へと着弾する。
 爆発の衝撃でJ/Aの手の拘束が緩むと腹部へと蹴り上げられ距離を取る。
 弐号機は肩のソケットからナイフを取り出して、そのグレイブを受け止める。
 グレイブとナイフの刃がかち合って火花を散らしていくが
 質量及び空中からの助走によりグレイブが勝ち、鎖骨に軽く刃が食い込む。
 突き入れられた刃にアスカは僅かに呻き声を上げながらもその痛みを払拭するかの様に軽口を叩く。
 
「つぁあっ……3対2ねぇ」
「ま、ハンデには丁度良いと言ったところか! 早く落とさんと帰りの便がやられてしまうぞ!」
「ふん。あんたに担がれて帰るなんて死んでもゴメンね。
 帰りは窓際の席で優雅に遊覧飛行するんだから!」
「その心意気やよし! では、行くぞ!」

 ジャコっと音を立てて折れた刃を押し出して、新しいナイフの刃をグレイブを握る量産型の腕に突き刺す。
 思わず量産型が手を離したと同時に背骨を折りに掛かるかの様に突撃するJ/Aの体当たりに頭を大きく上げる。
 両指を折られた量産型はそれを追撃するかの様にJ/Aへと回し蹴りを浴びせかけようとし
 大きな衝撃音と共にJ/Aも膝を崩しつつもガードに向けた左腕がへしゃげ、バチバチと音を立ててショートさせている。
 弐号機はJ/Aの体当たりを食らって倒れ伏していた量産型の頭を踏みつける。
 突き刺されていたグレイブを手に取り、J/Aの左腕毎蹴り付け、量産型の足にグレイブを突き刺していく。
 再び響く量産型の絶叫。正に泥仕合の様相を呈した乱戦であった。
 ぐちゃぐちゃと周囲の土や木々は掘り返され、周囲の動物達はおびえて逃げ惑う中
 巨人の死闘は続いていくかと思われた。しかし、終了の合図は大きな爆音と衝撃波によりもたらされる。
 遠くで爆発が起きたのだ。それも規模かしらN2爆雷を使用したモノだろう。
 一瞬、全ての計器が狂い、振動が此方の方まで響いていた。

「ちっ、一匹は任務遂行。二匹は足止めだった訳ぇ?」
「む、空中の奴が降りてこないと思ったが……役割分担もしていたと言う事か」
「せめて、手負いの一匹だけでも!」
「止めておけ。この装備と損傷で、空中に居る残り一体と合流した相手と戦うの厳しい」
「……っでも!」

 まるでその爆発がのろしだったかの様に、じりじりと量産型二機は距離を取る。
 逃がす毎とする弐号機にJ/Aは右手でそれを制止させる。
 二量産型は両手と片足をやられた量産型を抱え込む様にして飛翔する。
 程なく空中でもう一機が合流するのがモニターから見えた。
 どんっと拳を握りしめてトリガーへ八つ当たりをする音がアスカの通信から漏れる。
 グラハムはそれでもどかっとコックピット内の椅子にもたれ掛かったまま、頑として譲ろうとしない。
 そんな空気の消火活動にはせ参じたかの様に、通信が飛び込んでくる。
 若いとも老いているとも言えない、年齢の声。
 それと同時にサイレンの音や怒号、爆発音などの修羅場の音が混ざっていた。
98寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:24:19 ID:???
「アスカ、聞こえるか、アスカ! 現状はどうなっている!?」
「……ハッ、マネキン大佐。こちら、式波、グラハム共に無事です。……弐号機は損傷軽微」
「此方も……小破と中破の間と言ったところだ。回収を頼む」
「そうか。こちらはおそらく壱番機と思われる機体からの爆撃で壊滅状態と言った所だ。
 全く、コーラサワーを一時出向させた途端コレだ」
「ちゃんと見張っとかないから。うかうかしてると”あの娘”に取られるわよ、大佐」
「……徒歩でここまで帰るか? 式波」
「あー、ごめんなさい。それは勘弁して大佐」

 怒鳴り声に近い声がアスカの耳をつんざく。一瞬、目を閉じて耳を抑えつつも
 外のノイズとのバランスをとりながらもボリュームを絞る。
 相手は今回の作戦総指揮を取っているAUE軍カティ・マネキン大佐の声はそれで大きかった。
 本来は二機による攻撃による損耗させ、3機を別働隊が捕獲という手筈。
 しかし、相手の判断は更に上を行っていた。劣勢ながらも二機による足止め。
 作戦遂行を優先し、襲撃予測地帯の一つであった麻薬製造を行っている地区の消滅。
 人の畑も塵ひとつ残らず、大きなクレーターだけがぽっかりと浮かび
 周囲を警戒していた空軍も被害があった。空戦における戦果は散々だ。
 何せ、空軍は飛ぶのがやっと、バレルロールをしなければ旋回も出来ないと言うのに
 あちらは翼を羽ばたかせ縦横無尽に空を駆ける。ミサイルも効果なく、体当たりで
 紙飛行機の様に大量の税金を注がれたジェットはへし折り
 時間と金を掛けたパイロットを圧殺する。
 一騎当千。わざわざ他のスペックを削ってまで翼をつけた価値はそこにある。 
 空中で戦う分には量産型は圧倒的な火力と防御力でその場を支配できるのだ。

『テステス。大人達に告ぐ。もう籠には戻らない。この自由な翼は奪わせない。
 私達チルドレンは人形じゃない。そこのチルドレンもこちら側に来る事を願う』 

 衝撃。声の大きさによるものではない。画面に映ったのはEVAに使われる通信回線。
 試作型のプラグスーツのヘルメットと覆面で顔は隠れているがどうみても少年か少女の体系。
 肩から上なので性別の判別は出来ないが、どうみてもEVA内からの通信に見えた。
 そして、発信源は先ほど退散したEVA量産型からと見れる。
 遠隔通信による自演という訳では無さそうだ。何せ画面の端からは移動中の景色が映っている。
 声は変えられていた。ボイスチェンジャーを使った無機質で耳障りな音声が脳にこびりつく。
 それが一斉に通信に割り込んできた。自らの存在を誇示する様に一方的な宣言。
 そして、明らかに最後の台詞はアスカに向けられた言葉だった。
99寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:28:33 ID:???
「なっ……まさか」
「有人だって言うの? ……嘘、人革連の話とちが……量産型は無人じゃなかったの!?」
「……そもそも、人革連の話を信じる方が馬鹿という事か」
「ああ、そういう事だ。今回の行動ではっきり解った。
 人革連の言うダミープラグと模擬作戦プログラムとやらの誤作動ではない。
 誰かがダミープラグのデータ、改ざんに関与して操っている訳でもない」

 話が違った。人革連からはEVAの自動制御システム、別名ダミープラグの暴走という話だった。
 無論、それでは明らかに戦略性が伴わない為、遠隔操作やプログラムに何か仕込んだ
 内通者がいるという見方をユニオンもAEUしていた。何せ、ダミープラグは所詮AIみたいなモノで
 特定パターンを想定した命令し、指揮官が近くにいるだけで幾らでも対処が出来る。
 そう謳って予算をここ数年で伸ばしていた肝いりの技術だ。
 諦めの声がグラハムやマネキンから漏れてくる。殆どない人革連の信用を更に下げられた。
 それに憂いる余裕がある事を双方で確認しているかの様な静寂だった。
 沈黙を経て二人はほぼ同じ結論に達していた。

「誰かが操縦している」
「それ、すなわち」
「”チルドレンの誰かが裏切った”だ。ただでさえ、数が少ないと言うのに何を考えている?」
「私達に人殺しをしろっていうの……べ、別にそん位構わない……けど」

 当たり前だ、有人のチルドレンならすぐバレる。特定はすぐに出来る筈だ。
 だから、それはない。チルドレンは数が限られている。そんな常識を根底から崩す
 量産型からの宣戦布告。相手が化け物とは違う。少年少女で殺し合いをしなければならない事実。
 アスカからの動揺が声に伝わってくる。気丈に上ずった声のまま出された余裕の隠蔽が何よりの証拠だった。


                    幕間 終了。本編へと繋がる
100寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/06(日) 21:29:27 ID:???
以上です。なんか、規制もあってかなり間空いてすいませんでしたorz
次の投下は未定。では、投下失礼しました。
101通常の名無しさんの3倍:2010/06/06(日) 23:20:53 ID:???
おお、投下乙!
アスカとグラハムの共闘、実にいい。
改変とかいうレベルでない大胆な設定分解&再構築に敬服。
102通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 19:09:21 ID:???
前スレの>>1だけど、このスレ2スレ目になってたのかwww
103通常の名無しさんの3倍:2010/06/13(日) 20:46:03 ID:???
>>102
かなりローペースだが進んだからな
ほんと乙 ほそぼそと楽しませて貰ってる

104寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/21(月) 23:47:25 ID:???
少し零してみます。

実際、マヤと刹那のエピソードって需要ありますかね?
今、エピソード的にそのエピソードと刹那とアリーのエピソードを入れるか迷い中
テレビ5〜6話相当パート前には入れたいのですが
思ったより元ミサトの部屋での生活パートが割けなかったんで
局所的に入れるとあざと過ぎるかなぁ? マヤのエピソードは
105通常の名無しさんの3倍:2010/06/22(火) 00:40:09 ID:???
>>104
需要あるかないかじゃない。貴方が書きたいかどうかだと思う。
だから、どんなエピソードでもOKです。商業用の話を書こうっていう訳じゃないから、
多少話がたるんでもいいですよー。
案外、こういうのが後で話を詰まった時の材料にもなりますしね。
106通常の名無しさんの3倍:2010/06/23(水) 23:21:24 ID:???
零零号機、動いてくれ!
ここには綾波(ダミーシステム)と母さんと・・・俺がいる!!!
107通常の名無しさんの3倍:2010/06/23(水) 23:44:59 ID:???
>>106
>零零号機
その発想は無かったwww
108通常の名無しさんの3倍:2010/06/23(水) 23:50:32 ID:???
ツインプラグシステム
109通常の名無しさんの3倍:2010/06/24(木) 00:47:36 ID:???
>>106
天才現るw
110寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/06/26(土) 17:30:03 ID:???
>>105
レス感謝。ふむ。では両方詰め込んでみます。
ちょい次の投下遅れるかもですがorz
>>108
それやろうとしてt〈げふんげふん
111通常の名無しさんの3倍:2010/06/28(月) 01:02:15 ID:???
寝腐さんお久しぶりです!最近規制多いですよね
しかしこの板ってどんぐらいで落ちるんだ?
一ヶ月に2回くらい書き込みあれば大丈夫?
112通常の名無しさんの3倍:2010/06/28(月) 14:50:50 ID:???
ちょりすチルドレン
113通常の名無しさんの3倍:2010/06/29(火) 16:36:28 ID:???
それは勘弁ちょりす
114寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/13(火) 14:58:30 ID:???
ども。うまく行けば今週本編投下予定です。
中々ペース上がらず申し訳ないorz
戦闘無しの回が難産気味だったのですが
次はある程度ぽんぽん進む筈……だと思いたいorz
115寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 01:28:21 ID:???
よし! 後は誤字チェックをして明日夜九時に投下できそうです。
お待たせしてしまって申し訳ない。
116寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:02:02 ID:???
ども。では予告通り久しぶりの本編投下します。
ちょい、まだ確認しながらなので投下が遅いですがご了承下さいorz
117寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:04:30 ID:???
―元葛城ミサト宅、現伊吹マヤが管理している部屋PM11頃にて

 ”何も話せなかった”

 伊吹マヤの思考がぐるぐると練りこまれ、脱線し、それを逃すまいと手を伸ばし
 捏ねくり回して原型を留められない廃棄物と化していた。
 今日のことで改めて学校での対応の不安要素が浮き彫りになっている。
 そういえば、彼が家で携帯電話がなったのを聞いただろうか?
 友達が出来たなどの報告を受けただろうか?
 彼が昨晩何を食べていたのかすら解らない。ゴミ箱を漁れば良いのだが
 その時点で既にダメだという意識が働いている。
 彼はスムーズに生活をしている様に見えた。食器もきちんと片付けるし
 ゴミも出してくれる。一度言えば、きちんと洗濯物の選別もしてくれたし
 柔軟剤まできちっと入れてくれるので先程のシャワー上がりのタオルは柔らかかった。
 一人で暮らしていた時よりも格段に生活は楽になっている。
 悪くなった事といえば、自分の部屋の片付けをする周期が微妙に異なり
 ちらかって見える程度であり、それは自業自得だ。

「はぁ」

 ため息がテーブルへとふきかかり微妙に湿り気を帯びていく。
 久し振りに彼と夕食を共にした。冷蔵庫の用意も無かったのでピザを頼んだ。
 美味しそう……だと思う、多分。彼に選ばせたし、好きなものを選んだと思う。
 そんな事すら確信がもてない程にマヤの思考は追い詰められていた。
 食事の時も沈黙に絶えられず、テレビをみる。ニュースで流れた
 この間の使徒襲撃の件で適当にお茶を濁しっぱなしだった。
 そんな情報を彼と共有してどうしたいんだろう?
 もっと色々話さなきゃならない事があるんじゃないだろうか?

「一難去ってまた一難……ん。この一難はずっとあったわね」

 マヤがこうまで悩みが深くなっているのは昼間にクラスメイト二人が訪ねてきた事もそうだが
 丁度、先日実戦投入が間に合った兵装の件が一段落着き
 刹那に対する思考時間が取れた事が起因する。
 今までは”生活と言ってもまず、自分達が生き残るためにどうするべきか?”
 ということで思考のほとんどが占められていたのだ。
 マヤは先日の戦闘については報告書でしか知らなかった。
 フェルトの散々な戦いっぷりに関しても無論、記載してはいたが
 十分に使徒に対抗できる武装の開発が間に合った事に意識のほとんどを持っていかれた。
 先輩もとい赤木リツコ博士の後任になってやっと果たせた成果。
 その気の緩みの中、待ち構えていたツケが今になって回ってきたのだ。
 夕食を終え、デザートを食べ、シャワーを浴び、柔らかいタオルで体を拭いても
 その懸念は当然片付く訳でもない。すっかり湯冷めもして
 ひんやりとしたテーブルと冷房に効いた気温に余熱も奪われていた。
 さっきからテーブルに移る自分の顔とにらめっこをして何分……否、何時間経つだろう。
118寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:07:00 ID:???
「うん。こんなんじゃ寝付けないわね……よし、ちょっと話してみるしかない……わね」

 ふと、時計を見れば、夕食を終えて顔を合わせなくなってから時間がだいぶ経っている。
 刹那は既に習慣のストレッチメニューを終えて寝てしまっているだろうか?
 彼は早寝早起きをしている。朝は自分より早く起きて掃除をしたりストレッチをしていたりと
 おぞましい程に健康的な生活を送っている。例えるなら修行僧と言ったところか。
 勢い良く立ち上がるがわずか数秒でその勢いは失速し、不安に覆われて体が重くなる。
 そして、そんな重い足をひきずる様にしながらもマヤは刹那の居る部屋へと向かっていた。

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    第四話後編「超えれぬ一線」

―同日の昼間にて

 伊吹マヤの思考が流転する。最初は空気は重さと状況判断に硬直していたが
 状況の整理からこれはまずい事態に陥っている事ようやく理解できた。
 目の前には男子学生三人の視線が自分へと集中している。
 一人は自分の家で預かっている少年パイロット刹那・F・セイエイ。
 無論、其の事は極秘事項。二年前の事故を境に規律が厳しくなっていた。
 クリスティナ三尉のところですらきちっと守れているのにこんな訪問者が来るなんて
 ……いや、刹那に限ってそんな事はないとマヤは思い直す。
 ということは偶然だろうか? けれど、残り二人は避難警告が成されている中
 危険区域にいて、保護をされた学生三人の内二人。
 偶然にしては出来過ぎている。では、刹那が後を付けられたのか?
 いや、勘の鋭い子だからそれは無い筈。誰かにリークされた?
 まさか、他のパイロットが保護した子から?
 これは下手すれば諜報部に報告、目の前の子達は処分を受ける事になる。
 
「あ、あのぉ。初めまして。俺達セイエイ君の友達で」
「No. 彼らとは友人関係ではない」
「……あははは。えーと」
「取り敢えず中に入って? 刹那君もそういう風に言うのは」
「事実の誤認があってはいけない」
「……ま、まぁ詳しい話は中で聞くわ。どうぞ」

 空気を何とかしようとメガネをかけた少年、相田ケンスケの言葉に
 刹那は言い切る前にぴしゃりっと遮り否定する。
 友人と言う言葉に関しては耳に残っていたのか反射的に嘘の暴露がなされた。
 それを聞いたもう一人の気の弱そうな少年沙慈・クロスフォードは
 苦笑いを浮かべながら視線を泳がせている。
 このまま、刹那だけを入れて二人を返したら、無駄に話が広がってしまう可能性もある。
 禍根を残せば、腹を探らせる様に問題がまた発生する可能性も考えられる。
 視線をぐるっと周囲を這いずり回らせた後、うんっとわずかに頷けば、マヤは二人を招き入れる。
 少年二人は小さく”お邪魔します”と呟きつつも横目でちらりちらりと部屋を見回す。
 大きい冷蔵庫が二つある事以外は綺麗に片付いている部屋という印象だった。
119寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:09:42 ID:???
「今、お茶をいれるわね。麦茶でいい?」
「あ、そのお構いなく」
「……俺はどうしたらいい?」
「んー、座布団じゃなくて……えーと、クッション配って取り敢えず座ってて」
「了解した」

 刹那は先程の発言からずっと黙ったままでマヤに指示を乞う。
 指差しも含めた簡単な指示。アラビア語も混じっているので
 ケンスケ以外は大体何を言っているか解った。
 黙って二人にクッションを手渡し、座る刹那。
 ケンスケと沙慈もそれにならってリビングのテーブルへと座る。
 空気は重かった。嘘がばれたのもあるが、何より同席した刹那は本当に
 いわれた指示をだけをこなすと一言も喋らずにお着物の様にじっとしており
 なんだか、それが楔の様に雰囲気を沈殿させ、浮き上がらせる事を許さなかった。
 しばしの静寂。麦茶をグラスへ注ぐ音とエアコンの音だけがやけに大きく聞こえる。

「で、二人とも一体どういう用事で? その……刹那君と一緒に来たって訳でもないだろうし」
「……あ、えーと」
「僕たちはそのこの間、避難中の時に助けて貰った人にお礼を言いたくて」
「……話が繋がらないけど?」
「その、なんだか特殊な救助チームに所属してたみたいでその後、全然逢えなくて。
 それで昔、此処に住んでた友達を預かってた人がそこに勤めてたって聞いたんで訪ねてみたら
 セイエイ君とばったりという感じで。すいません、嘘つきました」
「ま、ああいう空気だと言っちゃうのは解るから。刹那君、ちょっとペンペン持ってきて」
「了解した」

 マヤが人数分のグラスをお盆に乗せて持ってくる。
 二人の部外者にとってそれは救世の女神の様に感じられた。
 グラスが配られて、最初に口を開いたのは沙慈だった。
 丁寧にアラビア語も交えており、刹那にも解る様、気を使っていた。
 そのため、ひどく断片的であり、一瞬話が繋がらなかったが
 ケンスケはそれを細かく説明を加える。
 その説明を沙慈が刹那向けに説明を付け加え頭を下げ、それに沙慈も追従する。
 酷く混雑、迂回をしている会話の流れだったが住人二人にとってようやく事態が飲み込めた。
 そして、この確認はマヤにとって、とても大きい収穫でもあった。今回の訪問は偶然の産物であり
 二人が本来逢いたい相手と言うのは同僚のクリスティナ・シエラの事だと解ったし
 この場所に辿り着いたのは前の住人葛城ミサトからのルートだと言う事も解った。
 刹那は勿論、自分にも同僚のクリスやその保護しているパイロットにも落ち度はない。
 心の中でほっと胸を撫で下ろし、その場合の対処を行使する。
 幸い、事前に人が尋ねて来た場合に対しての対処法についてはミサトと打ち合わせが済んでいた。
 マヤが刹那に指示を出せば、立ち上がり冷蔵庫への方へと向かっていく。
 二人暮しには場違いな大きい冷蔵の扉を開ければ、中から何かを抱えてくる。
120寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:11:55 ID:???
「クァークァッ! クァ?」
「……これはえーと、ペンギン?」
「だよね? テレビ以外で初めて見たかも」
「そのね。私は先輩の知り合が飼ってたこの子を部屋ごと預かってるだけだから。
 この子、ちょっとあの大きい冷蔵庫が無いと飼えなくてね。
 こんなに大きいと持ち出して一緒に預かるにも部屋が広さとか
 電気代も馬鹿にならないし。帰る時に見れば解るけど、メーターの回り方酷いのよ」
「成るほど」

 刹那が抱えてきたのは黒く、ずんぐりむっくりしたシルエット、くちばしがあり目元の付近には
 赤と黄色の毛が生えた偉く派手な鳥類。恐らくイワトビペンギンの一種と思われる鳥であった。
 抱えられている間、少しじたばたとしていたが沙慈と目があえば、首をかしげている。
 とりあえず、微笑で返す沙慈にそのペンペンと呼ばれたペンギンも大人しくなっていく。
 刹那はそれを抱えたままテーブル付近の自分がさっきまで座っていた場所へと戻る。
 挙動不審気味に二人を見つめるペンギンと微動だにしない刹那のギャップが酷くシュールだった。
 そんな光景を打ち消す様に事前に算段のついていた説明をマヤは口に出す。
 苦笑気味に語られる言葉。刹那は我、関せずと言う感じでペンペンを抱いたままじっとしている中
 沙慈は頷き返す中、ケンスケの表情は段々と暗く重くなっていた。

「あの、その人って今はどうしてます? ていうか、どういった病状で?」
「今も入院中で面会は無理ね。経過はあんまし、口外しないでって言われてるから詳しくはちょっとね。
 私は此処が職場から近いし、家賃も折半してくれるから甘えさせて貰ってるだけの立場だから」
「……そうですか」
「クロスロード。少し見ててくれ」
「え、あ、うん」
「その……何か訳ありって感じに見えるけど」

 口に出す決心がついたのか、やや早口気味に前のめりでマヤに確認を求める。
 その様子に沙慈もちょっとぎょっとする。マヤから既に準備されいた答えを聞けば
 それに引っ込む様に俯き、顔色も悪くなる。その様子の変化にマヤも沙慈も
 戸惑う中、じーっとグラスを見つめていたペンペンの様子を見れば
 沙慈の近くにペンペンを置いて立ち上がり、刹那は台所へと向かう。
 再び空気が気まずくなる中、マヤは一歩踏み込むことを決意する。
 残念ながらそこに大人としての余裕や慈悲はない。あくまで確認。
 これ以上、何かされない為や予防線を張るための情報収集。
 ひどく保守的な意識にやるせなさを感じるマヤだがそれすらしない訳にはいかなかった。

「出汁に使ってすまん、クロスフォード」
「え? あ、うん。べ、別にいいよ。僕だってその色々あったしね」
「そういう、所をつけ込んでるんだよな。すまん」
「い、いや、いいって。それより話を続けて」
「すまん。で、実は……二年間ずっと探してる奴がいるんです」
「二年前?」
「クアァークァッ?」
121寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:19:04 ID:???
 何度も何度もケンスケは沙慈に頭を下げる。
 ケンスケは罪悪感を背負いきれる程大人でも悪い性根でも無かったようで
 涙目で頭を下げる様子にやはり、因縁を感じられた。
 向き直りケンスケが話す事情を切り出す。
 
”二年前”

 そのワードだけでマヤの顔は一瞬で青褪める。
 ペンペンも大きく鳴き声を上げて、其の空気を察知したのだろうか。
 沙慈の懐の違和感に忙しなく動いていたを止め、視線と頭を固定してじっと聞き入っている。
 沙慈だけはなにやら事情が解らずに其の空気についていけない様子だった。

「碇シンジ、綾波レイ。俺達のクラスメイトだったんですけど
 二年前に急に転校して連絡がつかなくて。
 特に碇の方はその後、共通の友達が転校しちゃって俺だけが此処に残ってる形で」
「その人に託されたって感じかな?」
「そういう事。そいつとは連絡はまだ取れるんだけど……ね。
 すいません。彼について何か知りませんか? ほんとに些細な事でも良いんです」

 沈黙の中、マヤの緊張度が一気に高まっている。心当たりがある。
 しかし、それは顔にすら出してはいけない最重要機密事項。
 奥歯をかみしめつつも顔に出さない様に努めている。けれど、押し黙ったままではいけない。
 しかし、何を言えば良いか……否、”何が話せるか”が解らない。
 嘘をついてしまうのは簡単だ。嘘をついて、二度と此処に彼らが来なければ良い。
 ただ、現実は厳しい。彼は刹那と同じクラスメイト。つまり、交友関係を持てば
 何度も家を訪れる可能性もある。今日だってまさか家を訪ねられるとは思わなかった。
 そう、万が一があるのが今の自分の状況だと言う事は痛いほどに解っている。
 それを込みで務めているのだとマヤは自分に言い聞かせ、重い口を開ける。

「ごめんなさい。その前の人からは断片的にしか知らされてないから
 詳しいことは解らない。……けど、亡くなったとは聞いてないわ」
「い、生きてるんですね!?」
「いえ……その」
「すまなかった。ペンペン、こっちだ」
「クァッ!」

 ペンペンも二人の名前が出てからはじっと聞き入っていたが
 ストローと缶ビールを持った刹那を見つければ、とてとてと歩み寄っていく。
 頭を軽く撫でた後、ぷしゅっと音を立てながらもプルタブを開ければ、再び大きく鳴く。
 答えを窮している中、ざっくりと話の腰を折り曲げつつも、沙慈とケンスケは視線はそっちへと向く。
 ストローを缶に挿し込めば、器用に口に加えてそれを飲み始めていた。
 刹那は暴れない様にペンペンの頭を撫でながらも其の様子をじっと見張っている。
 
「ビール? 飲ませて平気なの?」
「ああ。こいつの好物らしい」
「ふーん……そういう顔もするんだね」
「何のことだ?」
「ん、なんでもない」
122寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:21:34 ID:???
 沙慈の声に顔を向けずに適当に答えを返す刹那。アラビア語での会話で返す。
 相変わらずケンスケは理解は出来てないのでまたマヤの方へと向き直る。
 沙慈には普段は鉄仮面をかぶったかの様な表情とは違った別の顔を垣間見た事の印象が強かった。
 物珍しさに思わず口に漏らしてしまったが、慌て前言を撤回する。
 一拍おくことが出来た事により、マヤは少し緊張感が解けたのか、落ち着いた口調で言葉を続けた。

「私はその本当に部屋を借りてるだけに近い関係だからね。
 ……ん、ただ例の事故のことなら多分”生きてる”。それだけは前に住んでた人が確信してたと思う」
「そうです……か」
「便りがないのは無事な証拠って昔から言うけど……だからって、何も音沙汰なしは不安だもん……ね」
「……はい」

 踏み込んだ言葉。この言葉が今のマヤの善意と規約との帳尻の中で出来る最大限の譲歩だった。
 転校して元気にやっている。そんな言葉で彼が納得出来る筈がない。
 手紙や電話の一つもよこさない説明にならない上にソレ以上の猜疑心を産んでしまう。
 次は何をやるか分からないと言う打算としての押さえ込み。
 残念ながらとても希望など持てる状況ではないのはマヤが一番よく解ってしまっている。
 受動的に受け止められた事態と情報、それを忘れる事のできない業務上の立場。
 ケンスケも理解は出来ないが踏み込んだ言葉に真実味を感じられた。
 思わず、気持ちが決壊し目元から感情とともに涙が溢れ出す。
 嗚咽に近い鳴き声にぎょっとするペンペンと沙慈。刹那とマヤはその様子をじっと見つめていた。

「ごめんなさいね。こんな事しか言えなくて」
「……い、いぇっ、ずみばぜん……ぼんどに」
「……」
「あ、刹那君。ティッシュを」
「了解した」
「ありがど」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔になっているケンスケ。刹那は何かそわそわしているのをわずかに感じさせた。
 しばし考えた後、んっとわずかに喉を鳴らせば、マヤは刹那へと指示を出す。
 少し体をひねって手を伸ばせば、ティッシュの箱を手にとり、ケンスケの前へと差し出す。
 目一杯手で掴んだと後、ぢぃーーんっと大きな音を立てて鼻をかむ。
 完全に他人事ながらも沙慈は備わった感受性からも目をわずかにうるませている。
 端的な事実としては何年も友人を探している少年。
 友達と離れても尚も其の行動力の源泉となる事実に感慨を受けるのは勿論
 凡その動機にようやく合点がいった沙慈にはどこか清々しさもあった。

「なんだか、大変だったんだね。言ってくれたら良かった……って程でも仲じゃないか」
「ずまんば。ぢゅうがぐがらのやぐそぐだっだもんで」
「そっか。ケンスケ君確か地元上がりだもんね」
「あら、友達じゃなかったの?」
「いえ……元々僕は高校からこっちにきた口で」
「…………そう。大変だったわね。まだ、そんなにこっちに来てから経ってないでしょ……う?」
123寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:25:37 ID:???
 ただのクラスメイトだった男子二人が命掛けで戦地同然の所に忍び込み
 今もこうして独白を聞く立場にいる。それは沙慈にはとても想像のつかない顛末ではあった。
 ふとした疑問を口に出せば、そもそもそんな深い仲でもない事実に自嘲気味に笑う。
 そんな中、解っていた事ではあったが、それでも沙慈が連れて来られた理由に思う節のあるマヤは若干顔が曇る。
 誤魔化す様に言葉を続けていくが言葉を濁らせているのは解る。ケンスケは自分の気持ちで
 イッパイイッパイなのでそんな機微には気づかない。鈍い沙慈でもうっすらと其の違和感を感じ取れた。
 無関心とまではいかないが踏み込まない方が良いというそれなりの判断が働き沙慈も黙る。
 静かにケンスケが泣き止むのを待つ。それが終われば、グダグダとした流れのまま
 沙慈と共に立ち上がり、玄関を後にする。
 取留めの無い会話をしながらもお互いに先程以上に突っ込んだ話はしなかった。
 
「じゃ、ごめんなさいね。ろくなお構いも出来なくて」
「い、いえ。……あ、そうだ。コレ良かったらどうぞ」
「ん? 何?」
「えーと、筑前煮です。こういうのしか出来なくてお口にあえば良いんですが」
「筑前煮? 古風なチョイスね。
 ……えと、おね……いや……えと、自分で作ったの?」
「はい。一人暮らしが長いもので」
「あら。凄いのね。男の子が料理でわざわざ煮物なんて」
「一人暮らしなんで色々と出来る様にとよく言われてたので」
「じゃあありがたく。器は洗って刹那君から渡すわね」
「解りました」
「後、救助した人はまぁ前住んでた人に聞いてみて
 私の方で出来るだけ連絡する様にはしてみるけど」
「はい、ありがとうございます」
「あんまし期待はしないで? その人も現場から離れてるし」

 にこやかな笑顔で送り出すマヤ。沙慈とケンスケもそれなりの社交性を持ってソレに返す。
 最後に沙慈は手に持っていた荷物を渡した。なんてことは無い適当な会話を繰り返していく。
 社交辞令の様な賛辞とちょっとした家庭事情の申告。
 はにかみを交えた沙慈の表情にふぅんっとなにやら意味深に受け取った風を見せるマヤ。
 ケンスケは先程の一連の言動が恥ずかしいのか今すぐにでも帰りたい様子で若干そわそわしていた。
 そんな中、思わぬ申し出でぱぁっと顔が明るくなる。溺れるモノの藁は繋がった様だ。
 ある程度の確認を済ませた後、その場を後にするケンスケと沙慈の両名。 
 沙慈はエレベーターまで押し黙っていた。気を使っていたのだと思い
 ケンスケもその沈黙に付き合う。エレベーターに入り、降りている個室の中
 いつの間にか神妙な面持ちになっている沙慈は重い口を開く。

「ねぇ、やっぱあの人何か知ってるのかもね」
「ん? どうしたクロスフォード」
「なんであの人、最初にお姉さんって言おうとして訂正したのかな。
 確かに僕の両親は既に死んでるし、唯一の身寄りだった姉さんも
 もう死んじゃったから料理を作る事も教える人も居ないけどさ」
「!? な、そうだったのか? 初耳……え、ちょっと待て?」
「そう、 ”あの人には何も話してないのになんで気を使ってくれたの?”
 両親が居ない事まで知ってる様な言い方だったし」
「……それって」
124寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:29:49 ID:???
 沙慈の呟きに近い情報の開示にケンスケの瞳孔は開き、驚きを露にする。
 遡る記憶の回想、確かにあの部屋の住人だった女性の言いよどんだ言葉は覚えている。
 帰り際の全てが終わって、気の抜けた時だったのでケンスケもその時は気にしていなかった。
 ただ、沙慈の一言により情報が一気に繋がってくる。
 あれ?あれ?とケンスケは一個一個の情報の繋ぎ合わせでいく中、恐怖で一度思考が停止した。
 家族構成、存命の是非、色々と情報を知る事は出来る。
 可能性は無限大だし、手を伸ばせば手に入る手段はいくらでもある。
 しかし、それにしても出来過ぎている。それがケンスケと沙慈が辿り着いた結論であった。

「ルイスが前に姉さんが居て昔ネルフって所のことを調べてたって事は言ってたけど。
 普通さ、親とか後は祖母とかなら解るけど、最初に”姉”って選択肢が出る?」
「出ないよな」
「可能性は色々あるよね。その話から深読みしたのか?
 後、刹那くんにはケアさんとも関係あるみたいだし、人伝に聞くことも出来る。
 特に隠してた訳でもないし」
「……けど、普通そこまで考慮して言わないよな?」
「今ならちょっとは解るかな。ルイスがこの前に無茶した気持ち」

 漠然とした不信感と疑問に包まれれば、不安と衝動に駆られてくる。
 可能性をわざと口に出しては意識を散らして無かったことにしたいのか、すらすらと言葉を繋いでいく。
 このまま後ろを振り返って、今のことを無理に問いただしたい気持ちがのんびりした自分ですら
 うっすらと宿っている事を考えれば、気性の激しいルイスの心中察する事が沙慈にようやくできた。
 沙慈は一線を超えることもなく、エレベーターの扉は閉まり、視線の先にあった先程の部屋が
 分厚いの壁に隔たれてずるずると下へと降りていく気分は居た堪れないモノであった。

―その日の夜 同場所にて

「……刹那君。起きてる?」
「ああ、起床している」
「ちょっと良いかな」
「問題ない」
125寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 21:34:44 ID:???
 麩をがらっと開ければ、まっ暗い部屋の中に光の筋が染み渡ってくる。
 部屋の中の殺風景な風景を荒く光が輪郭を作っていく中
 真っ暗な事にマヤの疑問が脳へと行き渡る寸前
 くらがりの中からぬるぅっと褐色の肌をした手が延びて来る。
 真下に引きずられる様な感覚。魑魅魍魎の類の所業の様に
 がくっと膝を崩されていく。膝を付きそうになる中、刹那はどこから持ってきたのか
 自前の拳銃でマンションの部屋の中に視線と警戒を張り巡らせていく。
 安全装置は外しており、銃を向けられたペンペンはくわぁっと大きく鳴きつつも
 気配を察したのか冷蔵庫へとそそくさと帰っていく。 
 視線だけは隅々に気配をまさぐっていく中、刹那の中で安全が確保されたと認識すると
 その視線はいつもの無関心そうな何処を見ているとも見えない視線へともどっていく。

「……? なんだ、不審者ではないのか」
「っ! ちょっと、刹那君、急にどうしたの!? 何があったの!?」
「伊吹マヤ、アナタが不審者に連行されているのかと思った」

 淡々と述べている刹那。警戒をほどき、銃の安全装置を入れなおす。
 痕がつくほどに強く握られた手を離せば、刹那はすまなかったと軽く頭を下げている。
 当然、マヤは驚愕を強いられており、泣きそうになりながらも激しい剣幕で問い詰める。
 刹那はそれでもまっすぐとマヤの視線の奥底を覗き込む様な視線を注ぎながらも回答する。
 予想外の答えにマヤの驚愕は止まらない。むしろ、予想だにしない答えに
 頭を殴られた様な混乱と思考停止の連鎖にぐるぐると目の前の世界が揺らぐ。
 右側のこめかみ部分に手のひらを当てる。ひんやりとした自分の手がほんの数秒で
 ぐっしょりと汗ばんでいた事が確認できた。まるで海外ドラマの様な
 判断に徐々に空転していた視界と頭脳がゆっくりといつもの平常運行へと戻されていく。

「根拠を聞かせて。此処は確かに無防備かも知れないけど諜報部だって仕事はしてるし
 アナタの情報の隠蔽は……確かに今日みたいな事もあったけど」
「………んっ」

 拙速気味にマヤは真意を問いただそうとする。
 不安を解消する為の行動選択の中、考えていくと思考は芋づる式に導きだされていく。
 マヤの中では今日、クラスメイトが二人訪ねてきた事への懸念だと思っていた。
 だが、またも予想に反し刹那にしては珍しく視線を逸らしそうにしたそうにわずかに瞳孔が揺れている。
 普段の変化が少ない分、こういう場面では顕著に違いが手に取れた。
 マヤの思考が巡る。この子は根拠なしに気まぐれやイタズラにこういう事をするとは思えない。
 つまり、何か起因があった筈。それが何か? また、本人が話さない方が良いと判断したのだろう。
 根は人並みに優しい子である事はなんとなくマヤにも感じ取れている。
 マヤ自身も踏み込むことに若干迷った。彼なりに考えた判断だ。
 それを無理にしてどんな結果が待っているのか恐れもあった。
 それでもマヤは前に進んでみる事を決意する。

「ちゃんと話して。これは重大な問題だから」
「了解した。俺がこの部屋で共同生活をするにあたり、伊吹マヤ。
 アナタは一度も俺の部屋に入ろうとしなかった。むしろ、出来るだけ避けている様な傾向があった」
「……!? そ、そう?」
126寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 22:20:43 ID:???
 マヤは心境的に踏み込んだ先の一歩は空白で、ずるっとそのままずり落ちそうになっていた。
 特に刹那が何かを要望、懇願しているとは思えない。単純にありのままの現状の報告。
 しかし、それはマヤ当人に取っては敢えて触れていなかった事への指摘。
 慌てて、それに意義を申し立てようとするも、やはりその論拠に自信が持てない。
 そんな曖昧な言葉に惑わされる子ではないという事くらい、マヤは理解している。
 予想通り、刹那は大した動揺も意見の修正を加えるつもりもなく
 じっとマヤの視線を見つめる。根負けしたのか視線を逸らすところに
 刹那はまたはっきりとした声で論拠を続けていく。

「用事がある時はわざと大声でFUSUMAであってたか? この扉を開ける事もなく済ませていた。
 まして、夕食後のお互いにシャワーを浴びて時間も経っている時間帯。
 就寝の可能性も十分に考慮出来る。それを踏まえての今回の行動は明らかに違和感がある」
「……っ」
「アナタが何を思って今回の行動に及んだかは俺は理解出来ない。
 別に尋ねた事自体は問題視はしていないが、本来ならありえないと今までの生活パターンから推測した」

 刹那の言葉はまるで心がすべてを見透かされている様で、しかもそれは正確無比な一撃であった。
 相手に悟られない様にも不自然に避けていた事もこうやって話すのすら
 夕食後数時間の葛藤があってからだという事実。
 マヤにとっては一個一個のハードルをクリアする事すらも躊躇われたのに
 それの躊躇も臆病も全て悟られていたという事実に膝をつきそうになる。
 まるで今日までの日常は取り立てて記述する事のない空虚な日々だと宣言された様なものだった。
 ただただ、お互いの生命活動の補助でしかなかった。同居、ましてや生活ですらない。
 食べて、寝て、着替えて、風呂に入るスペースがたまたま一緒だった程度の認識だったという事。

 ”悪いことではない” ”きっとそうあるべきかも知れない” ”その方がお互い楽だ”

 甘言を言い聞かせようとする弱い心にマヤは贖おうとする。
 そう、目の前の少年はそういう事すらも納得出来てしまう子なのだ。
 疑問を挟まない程、頭が悪い訳ではないが理屈を通して気持ちを押し殺してしまう子。
 それになんていう事を強いてきたのだろう。罪悪感がマヤの脳に焼き付いてくる。

「これから導きだされる可能性は不審者の侵入により、脅迫を受けてでの俺との接しょ――」
「……ごめんなさい。気を使わせてたの……ね」
「いや。俺は気にしていない」

 刹那の言葉がより鮮明に明確になる度にマヤの心がえぐられる。
 言葉が終わる前に心の堤防は決壊し、その溢れ出す気持ちは涙となって溢れでている。
 この痛みはツケなのだと嫌というほど理解できた。遠まわしに逃げていた事実。
 巨大な人造人間と意識を繋ぎ、未知の生命体と命の危険を顧みず処理しなければいけない任務。
 まだ、年端の行かない16歳の少年に何もしてやれていなかった事。
 空白期間が長ければ長いほどにその罪悪感は重くのしかかってくる。
 数週間の生活の間で、自分は彼に何が出来ていただろうか? 回想する自分の姿は酷く冷たかった。
127寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 22:28:32 ID:???
”今日は資料作成で遅くなる” ”明日、実験場へいくから9時に集合”
”先にご飯は済ませていて” ”報告は受けたわ。とにかく今はこっちの実験に集中して”

 物分りのいい所に甘えていた。保護者なのに、大人のなのに、年上なのに
 身寄りのない彼の家族にならなければいけないのに。

「……ほんとうぅ……にぃ……ごめんなさい」
「……っ!? 今日のアナタはおかしい」

 泣き崩れる様に抱きしめるマヤ。体重が掛かっているが支えられる程の細い体だという事は
 理解は刹那にも理解出来ていたが、この感情の濁流は理解できてはいなかった。
 瞳孔はぶれにぶれて瞼は猛禽類の様に見開かれている。
 刹那にも何故コレほどまで罪悪感に苛まれているか解らない。
 こうして散々泣いている泣き、罪悪感に打ちひしがれていても
 伊吹マヤは彼の部屋へと一歩も入る事はできず
 刹那・F・セイエイも握りしめた銃を手放す事は出来なかった。


次回予告

 刹那・F・セイエイ。彼に対して、マヤはなんとか日常への回帰を促そうと奮闘する。 
 経験も教本すらない試行錯誤の日々の中、四番目に選ばれた子供、ヒリング・ケアの復帰が決まる。
 彼女の部屋を尋ねた刹那がそこに目にしたモノとは?

第伍話前編「四人目の適格者」 
128寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/07/18(日) 22:30:31 ID:???
以上です。途中、規制食らって遅れましたorz
大体、次からはテレビ版5〜6話辺りなのである程度とんとん進むはず。
この5〜6話相当で話が少し区切りになる予定です。では、投下失礼しました。
129通常の名無しさんの3倍:2010/07/20(火) 01:10:03 ID:???
GJ!なんというか、読ませてくれましたね。
刹那は戦場帰りなので、某戦争馬鹿とかぶる行動がありますが、
こっちは洗脳からの帰還なので、胸にくるものがあります。
状況を察する能力が十代の子供ではない。まるで老人のような洞察力と経験。
適切な戦闘準備と立ち位置。そして、適切な行動。
しかし、涙の意味は同年代の子よりも疎い。
これだけの子と付き合うと鏡よりも正確に自分(マヤさん)が見えるものです。
ただし、今回のように向き合ってみて、初めてわかる子でもありますが。
どこにでもいて、近くにいるシンジと、近くにはいないけど遠い戦場ではまるで当たり前のようにいる刹那。
ある意味、同じであり、裏表のような存在。
普通ではない普通の子で異質ではよく似合っている。普通にいるけど、異質な場所では違和感な子。
…なんというか、こういうストーリーの方がこういう子が戦争にいたんだよって、
よくわかって戦争の罪をもう少しわかって貰えてたような気がします。
まあ、00の刹那があってのエヴァ刹那ですが。
次も楽しみに待ってます。
130通常の名無しさんの3倍:2010/08/02(月) 00:13:53 ID:???
第一種保守配置!
131寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/04(水) 12:56:32 ID:???
うむ。予想通り、よく筆が進む。
というわけで今週土曜か日曜本編投下予定です。
132寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:50:44 ID:???
ども。では今から本編投下します。
10レス位になる予定。途中で切れたら多分規制です。
その際は夜に再開します。
133寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:52:08 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    第伍話前編「四人目の適格者」

―元葛城ミサトの自室、現伊吹マヤが管理する部屋の夕食時にて

「ふーん。家事分担してるんだ。意外とこき使ってるのね」
「そ、そんなんじゃないわよ。そのほら、刹那君ってそのなんていうか
 生活観がないじゃない? 何やってるか解んないっていうか」
「……うん。確かに」
「あー、まぁーねぇ」
「だから、一応その日常感がないと駄目かなぁって思って。
 その、少しずつ慣らせるには良いんじゃないと思ったんだけど」

 女三人集まれば姦しい。文字の如く、伊吹マヤ宅の食卓は久し振りの談笑が
 飛び交っていた。クリスティナ・シエラ、フェルト・グレイスが同席するテーブルには
 エスニックな雰囲気で名前がなんなのか良く解らない煮込み料理や
 羊肉を焼いた料理が並べていた。料理名を聞かれたらカタカナの羅列になるので
 大体、香草焼だの煮込み料理だの日本語的解釈で済ませば、腑に落ちそうな雰囲気だ。
 それを作っていたのは現在進行形で台所で家事に従事している刹那・F・セイエイである。
 マヤは彼が台所に立っている事情を説明しながらも、フェルトはふぅんっとそのまま受け取り
 クリスはニヤニヤとした顔でへぇーっと返している。
 深読み気味なクリスの表情にマヤは一瞬むっとするがそれをみてクリスは更に笑いを深めている。

「でもその……ああ見えて、意外と手際良いのよね。
 料理とかも良く出来るし。むしろ、私が教えて貰ってるレベルで」
「あちゃ、そりゃなんか色々とご愁傷様ね」
「彼のクラスメイトで筑前煮が上手く作れる子も居てね。
 私、今まで女として何遣ってたんだろって感じで」
「だ、誰でも得手不得手は」
「……不得手か」

 よく分からないが取り敢えず魚が煮込まれたスープをすすりつつもマヤは
 若干自虐気味に言葉を連ねていた。料理下手なのは自覚していたがそれでも
 女としてのプライドなんてものが潜在的に植え付けられていた訳で
 それをフォローするフェルトの言葉は更に深く突き刺さり、より一層暗くなり
 頭の中ではネガティブな言語が飛び交っている。
 その様子を缶チューハイ片手に膝をたたきながら笑い飛ばしているクリスに
 ジト目でフェルトは視線を注いでいたが、そんな視線に酔いが回り始めているクリスが
 気が付く訳もなく、その視線の行き場を失ってしまっていた。
134寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:53:52 ID:???
「あははは、まぁー仕事柄仕方ないでしょ。
 私たちの仕事じゃ、冷蔵庫に食材なんて入れてたら腐らせちゃうわよ?
 フェルトが来る前はうちの冷蔵庫はドリンク保管庫になってたし」
「そういうものなのかなぁ」
「特にフェルトが煩くてねぇ。賞味期限とか色々と。
 もう、将来良いお嫁さんになる気バリバリなのよ? ほんと」
「だ、だってクリスは適当に色々買ってくるから」
「食べたいときに食べたいもん買うのがフツーなのよぅー?
 フェルトは良い子過ぎるのよぅー?」

 クリスはよく分からない羊肉らしき焼き物にフォークを伸ばしつつも投げやりに言葉を吐く。
 酒で顔が赤らんでおり、缶チューハイの上の方を持ち
 手首をくねらせて揺らしながらも矛先をフェルトへと向けてなじり絡む。
 フェルトはなんでばらすの?と言わんばかりにジト目でクリスを見た後、顔を赤らめたまま俯くが
 その表情すらもかぁいぃっと猫かわいがりで抱きしめて敢えて空気を読まないクリス。
 その空気に釣られてマヤの表情も緩やかになってくる。
 ふと、気配が一つ増えている事にクリスは気付くと石像の様につったっている刹那が視線にはいる。
 会話が丁度途切れた間を縫って両手に抱えた鍋をテーブルの中央へと配膳する。
 種の緊張感を醸し出しながらも、青魚とご飯辺り煮込んだのであろうリゾット的なモノが椀に盛っている。
 主食及びメインらしきそれを運び終えれば、エプロンを折りたたみ席へと着く。

「これで終わりだ」
「ご苦労様。刹那君」
「しっかし意外よね! ネズミとかトカゲとかそのまんま焼いて食べてそうなのに」
「クリス、そういう言い方は失礼だよ」
「ネズミもトカゲも食べられる」
「……食べた事あるの?」
「たんぱく質は貴重だ」

 日本の慣例に倣い、仰々しくも両手を合わせて仏教式の祈りを捧げると刹那もフォークを伸ばしていく。
 ちょっとした空気を揉んでやろうとクリスはちょっと高めのテンションで話題を降ってくる。
 手を止めることもなく、聞いていた中フェルトが良心的にも途中で割って入るが
 刹那は斜め上の返答を返す。止まる空気。マヤだけは手を止めておらずどこか
 現実逃避をした様な視線の置き方をしていた。
 しばしの沈黙、フェルトの質問にYES、NOではなく理屈で返す。
 その返答には感情とか気分とか言う配慮の要素が無く相手への納得ではなく
 本人の確信のみが伝えられていく。
 大抵、刹那との会話が続かないのはこのパターンが殆どに限られる。
 己の経験と理屈による自分はこうするという表明。
 別に同意や説得する意志も無く、何を強要したり、理解を求めることも無い。
 その上に普段から押し黙っているので染まる事も無ければ相手も染まらない。
 何時までも認識と理解の溝が埋まらず、”よく分からない”という印象が根づいてしまう。
135寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:55:34 ID:???
「……まさか、入ってないよね?」
「以前、捕獲した野生動物を材料として使ったら伊吹マヤが卒倒。その後、指導が入った」
「まさか、公園の鳩が食卓に並ぶとは思わない……でしょ?」
「…………うわぁっ」
「此処はまだ動植物が多いのだが衛生面の配慮からダメらしい」
「御腹壊して任務に支障が出るのは困るからね」
「………………あははははっ」
「ひぅっ!」

 フェルトの手がふと止まる。ぎぎぎっと油をさし忘れた機械の様に
 首を曲げつつも確認と否定される事を懇願を含めた視線と共に問いを投げ掛ける。
 マヤの視線は遠く宙空のはるか別次元へと投げかけられて回想と共に語られる。
 想像をするだけでスプーンを落としそうになるクリスとフェルト。
 乾いた笑いで場を濁している中、フェルトの小動物の様な悲鳴とともに手が止まる。
 何事かと三人が視線を向ければ、そこにはスプーンの上にやや大きい魚の頭が
 丁度フェルトと顔をにらみ合う様な形で置かれていた。
 視線を逸らしたまま、煮込み料理らしきモノを掬った結果、掘り返してしまった様だ。

「あはははっ、その位で。まだまだ、子供ねぇ。
 まぁ、最近は切り身と本でしか見たことない子も多いか」
「私達の世代ですら、解剖実験も中々やらなかったしね。高校からだっけかなぁ」
「頭が入ってたか。残してくれていい」
「あ……うん。ごめんなさい」
「謝る必要はないと俺は思うが。この国の人間は残すのが慣例と伊吹マヤに聞いた」
「いや、うん。こっちが本来正解っちゃ正解なのかもなんだけどねぇ。
 文化のギャップっていうのかしら? 優劣関係なしに」

 スプーンの行き場を失っている中、ようやく刹那の言葉でフェルトはそれを下ろす事が出来た。
 クリスはそれを笑い飛ばしつつもマヤも学生時代の回想が脳裏をよぎっていた。
 刹那のスプーンにも頭が入っており、それを骨ごとがりごりと軽く音を立てつつも噛み砕いている。
 それが目に入ったのでおずおずと頭を下げるフェルトを刹那は理解が出来なかった。
保護者二名はそれを苦笑気味に漏らしつつも肴に箸を進めている。
 まさか、自分達がこんな大きい子供。しかも全く生まれも育ちも違う子達を預かるなど
 人生のプランに当然組み込んでいる訳でもない。クリスもクリスなりのフェルトとの回想が頭を過ぎる。
 経験者という部分もあるがそれでもわずか経験は2年。
 物分りが良い子ではあるが、それゆえに繊細でもある。
 まして、両親が亡くなってすぐのことであった事もあり、メンタルケアも担わされていた。
 それらの気遣いや今こうやって気さくに話せる事も目の前で試行錯誤するマヤの姿にも
 しみじみと心に感じ入るのか今日はクリスの酒が進んでいる。
136寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:57:06 ID:???
「意外と大きいよねー、習慣の壁って。フェルトが最初来た時も色々あったわ、ほんと」
「ハァ……今度、ヒリングも復帰するし大丈夫かしら?」
「弱音吐いちゃダメって言いたいところだけど
 協調性という言葉から一番遠い位置にいるからね、あの娘」
「あ……う、うん」
「? 任務は任務だ。やるべき事をやればいい筈じゃないのか?」
「理屈はね?」
「……そう理屈ならね」

 まるで思い出のアルバムを一枚ずつめくっているかの様なクリスの感嘆に
 マヤはこれからの苦労と心配をちらりと覗かせる。
 クリスもフォローの言葉を入れようとするが相手が悪かった様子で
 頭の中の辞書とワードソフトをフル活用しても適切な言葉を綴ることが出来なかった。
 フェルトもフォローへの増援へ続こうとするがあえなく返り討ちにあい、苦々しい同意の言葉しか出なかった。
 その一連の応答から刹那だけが一人ぽつんっと取り残されていた。
 刹那は珍しく不思議そうな視線を三人に向けた後、口を開く。
 それに対して、クリスはどこか諦めたかの様な言葉をぽつりと吐いて、マヤもそれに続く。
 フェルトもどこか視線を逸らしたまま、刹那だけが頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

「あーそうそう。Drモノレから新しいパス預かってたんだったっけ。
 明日届けて欲しいんだけど……どしよ?」
「えーと、学校に行く前が良いわね。ヒリングが学校来るか分からないし」
「……あの、えと」
「案内次第で行けるなら俺が行く」
「そう? じゃ、刹那君に頼むわね。ま、いざという時に家を知ってるのはいいことだろうし」

 ふとその空気からはっと思い出したかの様にクリスががさごそと一枚のIDを取り出す。
 それを聞いただけでフェルトは既に私はダメですよという視線をがっつりクリスに向けており
 言葉にそれを出すのか迷うほどであり、マヤも遠まわしに選択肢を狭めようとする。
 逆に刹那はそれくらいで何を戸惑っているのか解らなかった。
 届けに行くだけの簡単な仕事。郵送などにしないのは事故を防ぐための手渡し。
 理屈も道理も通っているし、忌避すべき部分などどこにもない。
 感情や苦手意識による忌避などという選択肢が欠落した刹那は当然率先してそれに名乗り出る事になった。
 続くクリスの言葉にはどこか背徳感の漂う語気ではあったり
 マヤも罪悪感からか大きなため息をこぼしていた。
137寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:58:12 ID:???
―第三新東京市公共住宅にて

 案内のとおり進んだ場所は本部から近い集合住宅。鉄筋コンクリートむき出しで
 おそらく午後二時位になれば、床で生肉がそこそこ火が通りそうなほどの簡素な作りであった。
 郵便桶にはダイレクトメールや通販のカタログが無造作に突っ込まれており
 整理整頓という概念が抜け落ちているかの様に散乱された状態を維持されていた。
 インターフォンを一度おせば、ブザーの様な音が反響しているのが僅かに聞こえる。
 反応が無かったので数秒後もう一度インターフォンをおせば、ピッと音を立てて声だけが返ってくる。
 
「あら、六番目? 鍵開いてるから上がって良いわよー。少し待っててー」

 散乱する買ったばかりと思われる衣服が壁一面に吊るされてに並べられたり
 食べた後そのまま突っ込んだと思われる菓子とコンビ二弁当やファーストフードの紙袋と
 プラスチックのカップが詰め込まれたゴミ袋。詰まれていた名残がある、崩れて散乱している女性ファッション雑誌。
 質素な部屋には不釣合いなほどの大型のテレビが鎮座し、最新型のゲーム機器がずらりと並んでいる。
 その場に訪れた刹那にはゲーム機器の存在以前にゲームを遊ぶという概念すらよくわからないレベルであり
 無表情ながら不思議そうにおかれた機器を眺めていた。シャワーの反響音混じりの
 家主からの質問が飛ぶまで刹那は何をするでもなく、置物の様に部屋の中央で立ち尽くしていた。
  
「で、何の用ー? こんな朝一に」
「IDカードを届けに来た。新しく発行し直しらしい。何処におけばいい?」
「はいはい。お使いごくろーさまー。ちょっとまってねー」

 水音が止むとがらっとおくの扉が開く音がする。声が反響しており
 風呂場からの声だというの刹那にも理解出来た。
 そういって、部屋の主がシャワーから出る。
 それに振り返れば、刹那の視界に共に飛び込んできたのはヒリング・ケアの半裸体であった。
 下のショーツは履いているが首にはタオルを掛けており
 真珠の様に白い色と水滴をわずかに残した肢体はさらされており
 頬はわずかにシャワーの熱でほてり、クセッ毛のある髪もやや濡れてまっすぐになっていた。

「で、IDカードだが――」
「あんた、存外に失礼ねっ!」
「なっ!?」

 対峙したまま、数刻の沈黙と静寂が部屋を支配する。
 ふむっとわずかに頷いた後、手に持っていたIDカードを差し出そうとする中
 目を細め、睨みつけている中、ヒリングの左回し蹴りが刹那の顎を狙ってくる。
 すんのでわずかに背をそらそうとする中、蹴りの途中で僅かに膝を曲げつつも
 軌道をぴたりっと止めた後、そのまま、刹那の腹部に向けて蹴り飛ばす。
 もろにくらってしまった刹那はそのままよろめきそうになった後、そのまま足を下げたと同時に
 後ろに振りかぶっていた右手がまっすぐに刹那に向かって延びてくる。
 繰り出された右手の掌打によりベットへと押し倒され、衝撃で脱ぎ散らかした下着が散乱している中
 ヒリングは近くにあったデニムのホットパンツを見つけ、刹那の右手に通した後、一度ひねった後
 パイプベットの横につけらた格子に通した後、左手も同様に嵌めて両手の自由を奪う。
 口調では怒っていたがヒリングはその一連の動作を嬉々とした表情で行っていた。
138寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 16:59:20 ID:???
「ま、死にはしないと思うけど、一応大丈夫っぽいわね」
「がっ、ゲホッ」
「デニムだから簡単にはいかないだろうけど、結構気に入ってるから千切ったら弁償ね?」
「はぁっ、んっ……くっ」
「鈍ってんじゃないのぅ? ま、そんな事はどうでもいいわ。さて質問、あんたゲイ?」
「お前が何をしたいか、質問の意図が理解出来ない」
「同性愛者かって聞いてるのよ。男に抱かれるのは好き?」
「いや、そんな趣味はない」
「なら、”反応したら勝ち”ね」
「なっ、何をする!?」

 刹那の上にまたがる様に座り込んだ後、まるで新しいおもちゃを与えられた子供の様な
 表情にんりつつもつんつんっと刹那の鼻先を指で突っついているヒリング。
 同じ年頃の相手一人にこうもやり込められてしまっている事に刹那は自分の不甲斐なさを感じていた。
 その感情が僅かに顔に見えただけでもヒリングはくすくすっと小さく微笑を漏らしたまま、顔を覗き込む様にして
 その心理を抉る様な言葉をぶつけていくが、続いた質問には相手に動揺と疑問の衝撃を与えていた。
 数刻の沈黙を待った後、ようやく頭が整理出来た。状況の把握、安否の確認から殺意がある訳ではないと理解する。
 何か失礼があったのか?と刹那は考えたが本人の考えうる中で出された該当は無し。
 そもそも、ヒリング・ケアという人物に対して情報量が少なすぎるという判断から降参に等しい言葉を差し出す。
 けれど、ヒリングはそんな事を気にする事もなく、質問を断行。
 話が進まないと思い、ため息を漏らしつつも刹那は回答する。それを聞けばにんまりと口元を歪めつつも
 鼻歌交じりにまるで着せ替え人形を扱うかの様に刹那のYシャツのボタンを上から外していく。
 困惑を隠せないまま声も荒くなるがヒリングは全く関することもなく作業をすすめていく。

「理屈って私、嫌いなの。正しい正しくない以前に口先でやり込められるのってムカつくじゃない」
「質問に答えろ」
「私は女なのよ? 裸を見たのに顔も赤らめも逸らしもせずってのは
 ちょっと反応として失礼じゃない?」
「……んっ」
「あ? 今、胸無い癖にと思ったわね?」
「ああ。……だが」
「そう、ココはないでしょ?」

 手を止めること無く、手前勝手な言葉を並べ立てるヒリングに刹那は眉間に皺を刻んでいく。
 その眉間を人さし指でぐりぐりともみほぐす様にして目は笑ってない笑みをこぼしている。
 言葉に対して、僅かに揺れるタオルの向こう側に見えるヒリングの胸板へと視線を注ぐ。
 腹部の薄い脂肪から胸元へと上がるにつれて全くの隆起のないそれは刹那が知っている
 女子の肉つきと断定することは出来ず
 どちらに近いかと言われれば自分の様な男子に近いという印象さえあった。
 ヒリングはそんな視線の移動を見る事もなく、まっすぐに刹那の瞳の奥底を覗き込む様な視線を注ぐ。
 見ずともに経験則からその判断はよくわかる。だから、自然と次に動くべき行動に写っていた。
 ズボンをおろしたトランクス越しにヒリングのショーツが重なる。
 刹那の垂れ下がったモノが感じとった触感から
 布越しにヒリングのその場所に男子特有のモノがないことが確認される。
 認識は半ば疑問のまま、立証されていく。無いモノはない。だから、特定は可能な筈だ。
 しかし、断定が出来ない。混乱と感じ取られる状態から刹那の理性がぐらぐらと揺ら付き始める。
139寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 17:00:38 ID:???
「”体質なのよ”っ、理屈はあるの。けどさ、口先だけでハイそうですか納得されても嬉しくない。
 しかも大抵そういうのって言葉で解ったフリをしてるだけだから」
「言いたいことは大体解るが」
「だから、六番目の体と脳が如何認識するかが重要なのよ。
 あんたが反応したら私は女、しなかったら男。シンプルでしょ?」
「……いや、ちょっと……まっ」
「ま、しなかったらこのまま絞め殺してやるんだけどね」

 ヒリングはわざと難しい単語を避けて、アラビア語で刹那に跨ったまま語りかける。
 経験則から来る言葉、判断、心境はその手の事に疎い刹那でも解る。
 理論よりも実力、実績、証拠、それら全てが折り重なって実証という筋を通し
 物事は判断される。突きつけられる検証は実に合理的だったが、刹那にとっては
 まず、それらにこだわる心理は理解への道筋が早すぎて承認を得る前に着々と行動が行われている。
 最後の言葉と共に、ヒリングの白い手が刹那の首筋に触れる。粗暴な性格や行動とは裏腹
 その手は正に女性の手であった。しっとりとした手触り、柔らかい指の動きと手つき。
 触れる体温はシャワー上がりの所為なのか、少し暖かく感じられる。
 締め付ける様な手の動きと共に近づく顔、囁かれる声は刹那の唇をなぞり、頬
 そして、耳元へと舐める様に這いずっていく。
 
 刹那はその行動以外について心が揺さぶられている。
 その手、その声、そして手に包み込まれている既視感が全身の血の巡りを荒らげていく。
 心と記憶が錯乱して、オーバーヒートしてしまいそうだった。
 自分が知っているあの人はこんなに生白い肌ではない。
 自分が知っているあの人は自分とそっくりのタールの様な黒髪だった。
 自分の知っているあの人はもっと手は大きく、体の起伏もそれなりにあった。
 自分の知っているあの人はこんなギラついた獣の様な目をしていない。
 検証、判定、否決。それを繰り返し繰り返している。
 だが、幾ら繰り返しても刹那は否定を断定出来ない。
 血流が蠢き、刹那の雄の部分血が溜まり、筋肉が隆起してしまう。
 張り詰められるそれを目の前の人物に知られてしまう。感じられてしまう。
 恥辱。それは刹那の羞恥心に対してではなく、目の前の人に対するモノではない。
 遥か彼方の向こう側に逝ってしまったあの人へ向けての罪悪感。

「あらぁぁ? 六番目、あんたそーいう趣味? 、マニアックゥねぇ」
「ち、ちがっ……お前は少し考えが淫売過ぎる!」
「売るって感じ取ったなら、買いなさいよ?」
「なっ!?」
「あんたに説教されるほどガキじゃないのよ?」
「……だ、ダメだ」
「それにこの国には据え膳食わぬは男の恥ってのがある――は、ハックッシュンゥッ!」
140寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 17:01:33 ID:???
 今まで自重気味だったそれの硬直を感じ取ったヒリングは僅かに頬を染めつつもニヤニヤとしている。
 誤解。否、正確にいうなら理解以外の何物でも無いのだが刹那としては誤解であると認識していた。
 故に刹那の少ない語彙のおもちゃ箱をひっくり返して、手近にあった一番汚い言葉で罵ろうとする。
 まるで、牙がようやく尖ってきた仔犬が必死になって噛み付こうとする様な
 その牙の意味すらもわからず、噛み付くという動作の見よう見まね。
 そんな稚拙な一撃などヒリングに効く訳もなく、噛み付くその体を絡みつくかの様な言葉の応酬。
 突き立てた牙に螺旋を描くかの様に絡みつき蛇の舌が歯茎へと舐め上げていく様な心理であった。
 ヒリングは左手で体重を支えながらも刹那の体を愛撫する。
 手が進む度にずらされていくシャツ、白い大蛇の様に褐色の肌を舐める様に這いずり上がる。
 近づけたヒリングの吐息が刹那唇を僅かに濡らし、鼻先をくすぐっていく。
 顔を逸らし、視線をそらそうとしても尚、近づいてくそれ、頬をなぞる右腕は顎を持って
 顔を真正面へと向けさせていく。いよいよと言ったところで豪快な破裂音が耳元をつんざく。
 べとべととした唾液とか鼻水とかの体液の混合物が刹那の顔におもいっきりぶっかけられて
 濡らされていく。刹那は眼を閉じていたが、ちっと言う舌打ちの音が聞こえたと同時に
 体にのしかかっていた僅かな重しが取れた様に感じられた。

「ぁー。サブィ。冷房効かせ過ぎたわね。ごめんごめん。興が醒めたわね、こりゃ。
 ま、反応したから私の勝ちって事で」
「もがっ……や、やめ」
「抜け出せるでしょ、そん位? あんたも意外と付き合いいいわね。
 あ、それとも結構楽しんでたぁ? やっぱりおっとこの子ーって奴ね」
「ちがうっ!」

 目を開けた瞬間、真っ白い布が顔に覆いかぶさってくる。
 おそらく先程までヒリングの首筋に掛かっていたタオルだと思われる。
 僅かに湿っており、おそらく体の水滴や髪を吸い取ったそれを顔に押し付けられて
 粗雑にそれで顔を拭かれていた。思わず足をばたつかせながらも
 それが終わればその布越しの手の感触も無くなっていった。
 首をおもいっきり左右に降れば、底には着替えを始めていたヒリングの背中が映る。
 背中越しに投げかけられた言葉。僅かに体をずらし、少しひねる様にすれば
 先程まで鋼鉄製の手枷の様に感じられたホットパンツによる拘束がするりと抜けた。
 手首は僅かに赤くなっていたが、そもそもそんなに抜けるのに力は要らなかった。
 状況による混乱だと判断付けた瞬間にそれを崩される言葉に刹那の顔が真っ赤になる。
 ヒリングは振り返ってその真っ赤な顔を眺めておもしろーいっとつぶやきつつも
 下着を付けて、ブラウスに袖を通していた。刹那の必死の否定などどこ吹く風だ。
 くらくらとした頭を支える様に刹那は額に手を当てたまま、鞄の中に入っていたIDカードを取り出す。

「はぁーー、取り敢えずIDカードはココに置いておく」
「あ、六番目。アナタ、面白そうだから今日付き合いなさい」
「学校がある。今日は休日ではないぞ?」
「ぁ? サボる……って解んないか。えーと、サボタージュ。休むに決まってるじゃない」
「何故だ?」
「私と遊ぶからよ」
「理由になっていない。休んでいい訳がない」
141寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 17:02:46 ID:???
 大きなため息。まるで肺の空気を全て搾り出していそうな程の量を吐き出した後
 刹那はベットにIDカードを投げて帰ろうとする瞬間、生白い肌の足が刹那の首筋でピタリと止まる。
 ヒリングによる脅迫。掲げられたナマ足を下ろそうと手に触れると振り子の運動の様に軌道を戻し
 ぴたりっと足は床に着地した。そのまま、入り口を塞ぐかの様にヒリングは手に壁をついて
 寄りかかるかの様に立ちふさがる。一応、ヒリングの中では理屈は通しているのだが
 刹那にとってそれは理由の体を為していなかった。そもそも、ワガママなどという言葉と概念は
 幼少の頃うち捨ててしまった刹那に取ってもはや奇行に近い物言いであった。
 その言葉にふーんっと呟きつつ、目を細めたヒリングが口を開けば、予想外の角度からの攻撃が飛んできた。

「アンタ、授業全然解ってないでしょ? そもそも、先生の言う事理解できてる?」
「まだ、難しい」
「アハハハっ、やっぱりー? そーいうのを時間の無駄って言うのよ」
「しかし、行かない訳にはいかない」
「どうせ、私達は授業で出なきゃいけない日なんて満たせる訳無いんだから何日休んだって関係ないでしょ。
 理解も出来ない授業、満たせない授業日数に時間潰して何が楽しいの?」

 まるで刹那の通学及び授業中の態度を全て見ていたかの様な言葉。
 それに僅かに衝撃を受けながらも、刹那は言葉を返す。
 それを一蹴し、ヒリングは刹那の生真面目な行動及び今までの時間を笑い飛ばす。
 僅かに眉間に皺を寄せつつも、続けられる言葉にやれやれっと手を外側へと振り払いつつも
 その態度の価値を換算、蹴り飛ばしている。刹那の既視感は先程と似通っていた。
 容易に口を出せばまた、ヒリングの口車に飲まれていしまう。
 刹那は僅かな沈黙の間を置いた後、慎重に言葉を選んでいく。
 次はどんな言い訳をするのかむしろ、それを一蹴することがゲームの一種かである様に
 ヒリングは黙ってその続く言葉を待ち構えていた。

「普段の学校生活の態度から色々と評価されると聞いてる。
 まして、俺達パイロットにもきちんと通学を推奨しているのはNERVの方針だ」
「私達は世界と全人類を守るため、命張ってるの。これ以上の優等生って世の中に居ると思う?
 それに方針は方針。NERVにとって一番なのは使徒を倒す事でしょ?」
「……それはそうだが」
「第一あんた、勉強して何したいの? 進学? 就職? 何かやりたい事でもある?」
「…………解答に応じられない……だが」
「だが? で?」
「………しかし……いや」
142寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 17:03:58 ID:???
 口から紡がれた言葉を聞けば、思考時間の割にそれぇ?と言わんばかりに
 やれやれっと肩をすくめてヒリングは首を左右に降る。
 無論、刹那のひねり出し、精査した言葉など敢え無く一蹴される。
 内申書に”世界を救いました”、”街を守りました”と堂々と書かれた人間が評価されない訳がない。
 自問自答気味に刹那は次の言葉を探している中、それを見かねたヒリングの追撃。
 混乱。未来など考えたことのない刹那に取ってその問いはどんな数学定理より難しかった。
 ”将来?” ”やりたい事?” まるで魔法の言葉の様に現実感を感じられず
 再びぐらぐらと視界が淀み、頭が重くなる。刹那に取ってそんなモノは無いに等しい。
 明日死ぬかも知れない。けど、それを認めてしまったら目の前の人物にどう言えばいいのだろう。
 休む理由どころかまるでその時の一時一時の快楽を優先させた方が良いかの様な判断になってしまう。
 本能的にそれはダメだと感じ取っていたが理由が解らない。
 底なし沼に落とし物を探す為、手を突っ込んでいるかの様な感覚。
 どんな形だったか、どんな大きさだったか、どんな色だったかすら解らない落とし物。
 ただ、落としたという記憶だけを頼りに探している。否……探させられている。
 そんな感覚に刹那の思考はどろどろと溶けていく。 

「ぁーーっ、もぅ! 理屈で言うのはやっぱ面倒だわ。
 今日は私と遊ぶ! 命令! 上に怒られたら私の責任。OK?
 NOって言ったらまた蹴り倒すから」
「…………解った。付き合う」
「最初からそーいえば良いのよ」
「お前は変わっているな。ヒリング・ケア」
「六番目に言われたか無いわね。さーてっと、ゲームでもしましょーか」

 大声を出して、だんっと床を踏みつけた後、人さし指でそのまま顔面に突き刺しそうになるほど
 間近に持ってきて、命令という名のワガママを叩きつける。
 助けられた。ワガママという体を為しているが、それは助け舟に等しかった。
 あのまま、ずるずると自我が崩壊しそうになるまで悩み抜いてしまう方が辛い。
 ただただ、ヒリングはその刹那の思考時間すら面倒だったという判断だった。
 屈した刹那の返事を聞けば、ふんっと僅かに鼻で笑いながらもがちゃがちゃとコード類を繋ぎ始める。
 ヒリングは後ろで珍しく安堵かおかしさからか笑みをこぼしている刹那を見ることはなかった。


次回予告
 なんとか貞操を守り切る事に成功した刹那。
 それとは一方、少女は怒気と不機嫌で吹きこぼれそうな渦中に居た。
 少女と刹那、邂逅に繋がる言葉と視線は未来をどう紡いでいくのだろうか?

第伍話中編「繋がる世界」

次回はガンダム登場で、サービスゥサービス♪
143寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/07(土) 17:05:02 ID:???
こんな感じで今回の投下終了です。
次はお盆は終わり、月末あたりを予定です。
では、投下失礼しました。
144通常の名無しさんの3倍:2010/08/08(日) 00:22:53 ID:???
極めて奇妙な邂逅。本来の世界では顔を合わせたかどうかもわからない。
しかし、ハッキリしてたのは敵同士。出会ったら殺し合う。シンプルな関係だった。
この世界ではチルドレン同士であり、『仲間』という関係。
本来の世界のリボンズが見たら、どういう反応するのかもわからない。
まさに『未知との遭遇』。『未知の体験』まで合わさったというお話。

さて、刹那、俺と変われという奴が何人いるかはわからんが、
ともかく、まさかの逆レイプ乙。 なにやら母の記憶か、今だ出番がないマリナの記憶か。
今後のヒントもフラッシュバックしてのお話。
子供の頃から戦争漬けの刹那って、『無駄』という名の『遊び』が出来ないんだなと。
つまりは、心を育てる…『楽』を育てる事が出来なかった。
それだけにヒリングの行動が、まさに『未知なる行動』で回避法がわからないw
肉食少女はキツイよなぁ…どっち見ても肉食な男性はいただろうし、ケツも狙われただろうが、
女性によもやこういう事をされるって…まさに理解不能w
しかも、この世界の彼女もどうやら『イノベイト』のようだから、さらに理解不能。
お察しするぜ…w

次回も楽しみにしております。
145通常の名無しさんの3倍:2010/08/11(水) 09:37:57 ID:???
作者はいいんだけど、感想書いてるのが何とも気持ち悪い。
146通常の名無しさんの3倍:2010/08/11(水) 19:06:13 ID:???
>>145
なら作者に気持ちいい感想レス打ったれ
147通常の名無しさんの3倍:2010/08/13(金) 09:48:27 ID:???
だが断る!
148通常の名無しさんの3倍:2010/08/14(土) 00:17:31 ID:???
>>145
なら、次の感想は簡潔にする。
申し訳ない。
149寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/18(水) 23:31:37 ID:???
すいません。作品自体は結構掛けてるのですが今月最終週は
ネットに繋げられなくなったので来月初旬投下の予定になります

ただ、遅れの報告だけでも何なので話題がてらに
本編投下の後、久しぶりに設定解説ネタか過去編を挟もうかと思っています
以前予告のシンクロは少し開示が遅くなりそうなんで〈最低7話終わり辺り?〉
何か他に知りたいネタ、キャラがあれば優先的につくろうと思いますので
リクエストがあればレスお願いします
150通常の名無しさんの3倍:2010/08/19(木) 12:32:24 ID:???
リクエストというか、簡単な人物紹介を。
エヴァ関連の人物だけでなく、00のキャラもいるので、
誰がどこの陣営で、出てないのは誰だろうとか、把握しきれないもので…。

出来れば、でいいのでよろしく〜。
151寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/21(土) 21:08:42 ID:???
どうも、こんばんは
リクエストにあった人物紹介ちょっと書いてみたら結構な量になったので
今回は抜粋&もっとディープなのは別うpロダという形にしてみます。

また、登場人物が増えたら追記版再うp及び追加部分をレスという形にしてみる予定。

公開可能な全キャラ紹介
http://u1.getuploader.com/arte/download/59/EVA-OO%E4%BA%BA%E7%89%A9%E7%B4%B9%E4%BB%8BVer0.10.rtf
DLパス:eva

以下、メインキャラクターのみ抜粋でレスします
152寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/21(土) 21:10:25 ID:???
もしも刹那がエヴァの主人公だったらSS人物紹介

―チルドレン

○名前 刹那・F・セイエイ
所属:ユニオン日本経済特区日本 NERV本部〈預かり〉 
役職:人造人間エヴァンゲリオン参号機パイロット「六番目の子供達」
備考:現伊吹マヤ一尉宅〈元葛城ミサト一佐宅〉にて預かり。
    日本語、英語による会話難、アラビア語の会話が一番堪能だが読み書きが得意というほどでもない
    元所属はマルドゥーク機関の組織の一つに所属からNERV本部預かりの身になる

○名前 フェルト・グレイス
所属:ユニオン日本経済特区日本 NERV本部〈預かり〉
役職:人造人間エヴァンゲリオン初号機パイロット「伍番目の子供達」
備考:クリスティナ・シエラ宅にて預かり。日本語、英語会話可能。
    元はAEUのNERVドイツ支部の研究者及びテストパイロットの両親の娘。
    事故による、両親の死亡及び治療のため、NERV本部のある日本へと渡る。
    建前上はNERVドイツ支部所属であり、出向という事になっているが
    実質的にはNERV本部所属の扱いとなっている

○名前 ヒリング・ケア
所属:ユニオン経済特区日本 NERV本部〈預かり〉
役職:人造人間エヴァンゲリオン四号機パイロット「四番目の子供達」
備考:出自出身、経歴一切不明。戸籍も確認できず
    語学堪能だが基本的に頭が悪いというか色んなルールに囚われない行動が目立つ〈オブラート的表現〉
    現在、第三東京都市付近の公共住宅にて一人暮らし
    元所属も不明でマルドゥーク機関から直接派遣される
    一切、実験データなどがない状態からの抜擢のため、本当に時系列的に四番目なのか怪しい
    四号機のとある実験にて暴走。しばらく重傷の身であったが第伍話から復帰

○名前 式波・アスカ・ラングレー
所属:AEU連邦 NERVドイツ支部
役職:人造人間エヴァンゲリオン四号機パイロット「弐番目の子供達」
備考:AUE空軍〈劇場版ではユーロ空軍〉所属のれっきとした軍籍持ちである
    階級は大尉だがNERV内ではその軍籍は適用されないというか省略されている
    日本語、英語、ドイツ語と語学は幅広いが、漢字があまり読み書きが出来ない
    アメリカ国籍持ちであり、大学も卒業している
    一時就学の為にホームステイをしていた際、グラハム・エーカーの預かりになる
153寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/21(土) 21:12:11 ID:???
―軍人
○名前 アリー・アル・サーシェス
所属:ユニオン日本経済特区 NERV本部〈預かり〉
役職:NERV/戦術作戦部作戦局第一課 課長代理
備考:モラリア共和国の民間軍事会社「PMCトラスト」の傭兵。NERVには出向という形になっている
    本会社とNERVの関係は繋がっている可能性もあるが公式には否定
    戦場に出る事は少なく、EVA各機に戦術指揮及び防衛設備との連携を図る
    本来、課長である葛城ミサトが休職中の為その権限の半分ほどを認められている
    また、本部の自衛警備隊の権限も有している

○名前 グラハム・エーカー
所属:ユニオン空軍中尉
役職:試作人型兵器J/A〈ジェット・アローン〉テストパイロット
備考:ほぼ、原作と同じ扱いであるが、変更点としてJ/Aテストパイロットという事になっている
    どう考えても陸上兵器のJ/Aを空軍の人間が扱っているのは
    落下傘による降下作戦を主とする事と将来的には航空戦闘も視野に入れている為
    原作EVAの葛城ミサトの代わりにアスカの保護者となっていた時期もある
    軍による監視及び情報を聞き出す任もあったのだが成果はあまり上がらなかった模様
    J/Aに関しては非武装型での駆動及び空挺降下実験中であるが
    馬力及び駆動時間に関しては大幅にEVAを上回るため、殴ったり体当たりするだけでも今の所強い

―NERV本部職員

○名前 伊吹マヤ
所属:ユニオン日本経済特区 NERV本部
役職:NERV技術開発部技術局第一課所属臨時技術開発責任者 
備考:一尉権限を持ち、現在のNERV本部における技術開発の全ての責任者。
   経験不足、知識不足、見た目の貫禄とあらゆるモノが不足しているが
   前任者赤木リツコ女史のデータ引継ぎやノウハウを一番理解していた為採用される。
   現在、参号機パイロットを自宅にて保護している。

○名前 クリスティナ・シエラ
所属:ユニオン日本経済特区 NERV本部〈預かり〉
役職:情報局第2課及び騎兵随伴兵〈スカウト〉
備考:二尉の扱いを受けているが普段はオペレーター及び事務職をこなす
    戦闘時にはバイクや徒歩でEVAのパイロットの救助、サポートを行う戦車随伴兵の任務を担う
    フェルト・グレイスを自宅で保護しているが家事はフェルトの方が得意
    駆動実験中のサイボーグだったりもするが何故そうなったかはまだ不明
154寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/08/21(土) 21:14:07 ID:???
―民間人
○ ルイス・ハレヴィ
刹那と同じ高校のクラス所属の女子生徒。ボーイフレンドに沙慈・クロスロードが居るのは原作通り
変更点としてスペイン語を母国語としており、感情が高ぶるとスペイン語でまくし立てる癖を持つ
日本語が若干苦手で英語の方が沙慈とは会話が通じることが多い
NERVに異常なほどの嫌悪を寄せており、懐疑的に刹那のことを見ている

○沙慈・クロスロード
刹那と同じ高校及びクラス所属の男子生徒
変更点はアラビア語が得意で刹那と会話が出来るという点以外はほとんどが原作通り

以上です。あとのキャラは細々とした作品に東京する為と言語の壁を作る為の変更
後は外伝にメインになるキャラが多い感じです。
では、投下失礼しました。また、来月に
155通常の名無しさんの3倍:2010/08/23(月) 00:29:33 ID:???
GJ!細かいデータとかはあとで頂きます。
いろいろ説明していただき、感謝。
156通常の名無しさんの3倍:2010/09/01(水) 21:03:18 ID:???
保守
157寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/29(水) 00:06:04 ID:???
大分遅れましたorz
今週中、早ければ明日の深夜には投下予定です。
158寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:07:05 ID:???
よし、これでOK。投下開始します
今回実験回なのでやや量が多く、規制掛かって一時間が開くかも知れません
159寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:08:29 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
     第伍話中編「繋がる世界」

―エーカー邸、元アスカの部屋にて

 惣流・アスカ・ラングレーはいらつきながらも懐かしいホームステイ先の部屋へ戻っていた。
 気分は最悪だ。せっかく、グラハムがディナーをおごってくれるというのでめかし込んで行ったのだが
 その店はSUSHIバー、日本で言う回転寿司屋であった。それだけならまだいい。
 彼女にとって日本で数度食べてきた事のある寿司にはあんなにマヨネーズは山盛りに盛られないし
 オリーブオイルも掛かってない。無論、一部のメニューはあったがそれが全部とか狂気の沙汰だ。
 知らないとはいえ、こういうバッタモンを掴まされた悔しさとかそれで済まされた感覚とか
 諸々の細かいストレスが蓄積しており、それをグラハム当人に言ったところであのド天然に解る訳もなく
 やり場の無い怒りを枕にぶつけていた中、更に煮え切った油に火を注ぐ様な相手の名前が表示されいていた。
 表記上は”BITCH”と書かれている着信、携帯を取れば唇をひくつかせながらも既に臨戦態勢であった。

「アスカセンパァ〜イ、こーんーばんーはー」
「ぁ? あんた、なめてんの? 今、何時だと思ってるのよ?」
「えーと、日本との時差で、ざくっと夜九〜十時位かなぁー?」
「糞ビッチ、人が疲れてまったりしたい時にナニ掛けてきてる訳ぇ。デートの途中だったらどうするのよ?」
「ぇー? だって、センパイは高嶺の花だから男からのお誘いなんて無いでしょー?
 あ、それとも似非日本通か、AEUのスペシャル様〈笑〉辺りで妥協しましたぁ?」

―ブチッ

「「どぅああれが、あんなポンコツ似非ザムライを好きになるかボケェ!
  おまけに最近は変な小娘がスペシャル様〈笑〉に近づいて大佐の機嫌が悪くなって
  私に八つ当たりするし、あんたらが東京でちんたらやってる間にこちとら南米くんだりまで行って
 白ウナギ相手にどろんこレスリングやるわ、今夜誘われたディナーが
 似非日本通オススメのカロリーと油分こってりの寿司モドキだったわで今、サイコーーに機嫌が悪いのよ!
  ……次、要件言わなかったら切るわよ、マ・ジ・で!」」

 電話の向こうから猫なで声に近いあまったるい声が聞こえてくる。
 わざと上げられた音程や虫酸の走る男にこびた言い回しにサブイボが出来そうで
 握りしめた携帯がフルフルと震えている。だが、アスカはそれが相手の狙いなのは
 理解するほどの冷静さは”あった”。過去形である。
 電話越しのヒリングはにんまりと笑いつつも、相手の地雷をわざと踏みに行けば、見事に大爆発。
 こうかはばつぐんだ! 烈火の如く、たまった不満を全て弾倉に詰めて、マシンガンの様に
 ヒリングへと言葉をぶつけていくアスカ。思うつぼなのは解っているがそれを御せる程
 アスカの怒りの限界突破線との距離は保たれておらず、見事にぶちまけてしまった。
 きっと向こうでは手をバンバンと叩いているのが通話越しにも見えるがそんなことすらどうでもいい。
 もはや、覚醒に近いほどの怒りにアスカは身を任せていた。

「いえ、ちょっと遊んでやろうかと思って。ガン×ガンつなげる?」
「あんた学校は? 今、日本って朝10時位でしょ?」
「休んだけど何か? 遊ぶ方が大事に決まってるじゃない」
「さらっと言いやがるわね、この不良が。ま、いーけど」
160寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:13:00 ID:???
 ヒリングも満足したのか猫なで声をやめて、普段通りの口調に戻る。
 あいかわらずの上から目線とその言葉にアスカは逆に落ち着きを取り戻し
 続いた言葉にやっぱり、ヒリングはヒリングだったと溜息と共に納得を強要されていた。
 電話越しなので青筋と引きつった口元が見えないのが幸いだったと思いつつ
 アスカはホームステイ時に置いてきたゲーム機のセット配線を始めている。
 屈みながらも、きちんと奥の方まで掃除が行き届いているのを見れば
 グラハムの評価がコンマ数ミリ上がったりしたり、しなかったりする。
 が、そんな最中ヒリング側から届いてきた音声に石像の様にぴたりと止まっている。

「よかったわね、六番目。アスカセンパイ相手してくれるって」
「そうか」
「…………………ぇ? ちょっと待ちなさい。誰か居るの?」

 電話越しのヒリングが別の第三者に声を掛けるのが勿論、アスカにも聞こえた。
 それと、ほぼ同時。小さくではあるが少年の声が耳元へと届けられる。
 アスカの脳裏でヒリングが言った言葉がゆっくりと情報を連結させていく。
 ヒリングはアスカのマネをしてチルドレンを番号で呼ぶ様にしていた。
 アスカは二番目。だが、ある一件を境に皮肉も込めてセンパイと呼ぶことになっている。
 フェルトは五番目。一番目と三番目は欠番だがそれを会話で指す時も番号で呼ぶ。
 今度入ってきたのも勿論その慣例に習い六番目と呼ぶ筈。
 ということは、今現在その傍らにはその六番目が居ることがほぼ間違いないわけで
 アスカの脳がコンマ数秒で恐るべき事実を推理してしまう。

「初めましてだな。先日、本部に赴任されたEVAパイロット。刹那・F・セイエイだ」
「………どこから聞いてた?」
「電話を掛けていた最初から。ヒリング・ケアが面白いからと言って
 最初からスピーカーで流していた」

 たどたどしい英語ならがもきちんと返事を返す少年の声。続く言葉でアスカは状況が理解できた。
 先程まで行われていた会話は行っていた相手の状況を察するに
 携帯電話はスタンドか何かに立てられており、スピーカーとマイクでの広域に会話。
 アスカの声はヒリングの居る場所に響き渡り、その傍らには噂の六番目がいた事。
 資料上でしか知らない六番目の子供達、刹那・F・セイエイと初めて声を交わす。
 それはアスカにとってはとんでもない羞恥であり、度し難い現実でもあった。
 抜き身の自分。ヒリングの安い挑発に乗り、色々なモノが剥げ落ちたままの状態。
 大声でヒステリー気味に叫んだ稚拙な内容。喧嘩腰にヒリングに大層お上品なご挨拶をかましてしまった自分。
 それをいいようにあしらわれていた自分。何もかもが晒されてしまい
 素の自分を見ず知らずの少年に見られたのだ。テレビ台の中に屈みこみ
 配線を差し込んでいる姿勢でアスカの動きはぴたりと止まったまま、わなわなと震えていた。
 かたんっと携帯を落としても反応すらせずに、その暗がりから表に出たくないオーラを全身から滲ませている。
161寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:14:30 ID:???
「…………ん? 音声が途絶えたぞ、ヒリング・ケア」
「六番目と話せた嬉しさに携帯落としちゃったのかしらねぇ?」
「そうなのか?」
「きっとそうでしょ? ほら、センパイ、感受性豊かだから〜」
「そうなのか」

 落ちた携帯電話から話し声が聞こえる。アスカの耳にその言葉は入らない。
 否、正確には聞き入れたくない。拒絶、何も聞こえず、何も見えず、何もしゃべらず。
 猿の彫刻の様に今はだた、この部屋のオブジェのひとつとして存在したいほどの虚無感。
 心を殺す。嗚呼、そんな現実は夢であって欲しいと切望していた。
 そんな事は杞憂であり、そもそもドイツ語で会話をされていたヒリングとアスカの会話は
 刹那に解るわけもなく、なんだか大声で元気があるな程度の印象しか持たれていなかった事を
 アスカは当然知る由もなかった。そして、その沈黙は一人の来訪者によって憤怒と共に打ち破られる。

「アスカ、シャワーが空いたぞ。……ん? どうした、尻がつかえて出れなくなったか?」
「んんなぁあわけあるかぁあああーーーっ!
 後、アタシの部屋に入る時はノックしろっていってんでしょうががあああああっっ!」
「ぐぅっ! 相変わらず激しいなアスカは!」

 携帯電話越しに聞こえたのはドアを開ける音、青年男性の声、アスカの絶叫
 人が絨毯から助走を付けて飛ぶ音、打撃音にそれに対する痛みを耐える為の嗚咽。
 刹那は状況が全く理解出来ていない中、その向こうで行われていた惨事を
 手に取る様に解るヒリングはベットの上で笑い転げていた。
 
―ヒリング邸テレビ前にて

 壁を埋め尽くす程の大画面。ヒリングの部屋に置かれていた部屋に不釣合いな程の薄型テレビには
 広大な砂漠の荒廃地のど真ん中に建設された市街地が映し出されていた。
 更に画面端にテレビのワイプ画像の様に映し出されるのは対戦相手の顔。
 専用の3Dゴーグルを掛けている為、目元や顔は正確には認識できないが
 オレンジの長い髪を二つの髪飾りで止めている健康的な肌の少女と
 金髪で笑うときの白い歯が眩しい快活そうな男性が映っている。
 それらはテレビ台の前に置かれた小型のカメラの顔認証システムによる映像であった。
 これらの映像が地球半周した先にある大都会のマンションビルの一室から届けられているとは
 思えない程の鮮明な画像と音声。刹那に遠隔通信や通話の経験が無い訳ではないが
 それが一般家庭、まして余興の品でのクオリティとはとても思えないシロモノであった。
 
「フィールドはダカール? ま、私はどこでもいいけど」
「ヒリング。今日”も”こてんぱんにぶっ潰してやるから覚悟なさい」
「おー、やる気満々〜♪ まぁ、センパイってコレくらいしか私に勝てないですもんね」
「……潰す」
「おお、久しいな少年! 噂はこっちにも届いているぞ」
「その声はグラハム・エーカーか? 何故そこにいる」
162寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:18:04 ID:???
 四人がが遊んでいるソフトは”ガンダムVSガンダム”と呼ばれるアクション型対戦ゲームシリーズの最新作である。
 富野由悠季という人物が数十年前に繰り出したアニメーションを発端に続編や外伝
 色々な解釈を用いた作品を出されていた一連のガンダムシリーズを
 全てごった煮で単純に対戦アクションという形にしたゲームでかなりの人気がある作品であった。
 刹那にも馴染みのある荒廃した砂漠の風景とそれとは違和感のある発展した都市が混在した場所ダカール。
 そんなデジタルのフィールドに視線をさ迷わせているとワイプ画像に映る青年男性の声がかすかに聞き覚えがある事に
 刹那はようやく気づく。口に出す名前と共に、最初に第3新東京市についた際の記憶がフラッシュバックする。
 あの時は音声越しだったのでどんな顔かは知らなかった為、改めて顔を合わせるというのも変な気分ではあった。
 そんな中、相変わらずヒリングはアスカに挑発を続けており、酷く低い声で行われた宣戦布告ににやにやとした笑みを返していた。

「ああ、センパイはこいつと同棲中なのよ。全く、妬かせてくれるわ」
「ちがーーーうっ! 今、AEUは大変なの! 私はこいつの家で足止め食らってるだけよ!」
「だってさ、六番目。センパイ、説明乙であります!」
「了解した」
「HAHAHA、ヒリングも相変わらず元気な様だな」
「潰す。絶対潰す」

 初めて音声と映像でアスカという人物を確認する刹那。
 相手の語学も中々ある様で、ヒリングがわざと英語に切り替えてホラを吹けば
 アスカもそれに対して、英語で言葉を返してくる。
 刹那にもようやく会話のあらましが解る中、ヒリングは敬意のない敬礼を
 台上に置かれたWebカメラに向かって返す。
 そのやりとりを笑いながら見ているグラハムも機体の選択を終えた様で
 いよいよゲームが始められようとしていた。
 2分割された画面に刹那、ヒリングの選択した機体が映り
 フィールドへと放り出されていく。同じくレーダーには相手方の二機も映る。
 専用の3Dゴーグルは画面を立体的に見せるだけではなく
 手元や足元をまるでコックピットの様に計器や手足の細かい機器の演出表示をしてくれている。
 実戦さながらという程ではないが刹那も僅かに緊張の度合いを高めていった。
 無論、ヒリングはそんな様子を気にする事はさらさらなさそうに鼻歌交じりで
 ゲームコントローラーを握っていた。

「ペアでの対人は六番目は初めてだからねぇ。ま、軽くもんでやってよ」
「心得た!」
「相変わらず悪趣味ねぇ。アタシ相手に素人ぶつけるなんて」
「視界はクリーン……どう出る?」
163寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:20:44 ID:???
 このゲームは各々の機体にコストが掛けられている。
 コストの高い機体は強力だが、その分何度も戦場に出ることが出来ず
 撃墜されたらポイントを大きく削られて敗北へと近付く。
 コストの低い機体は武装が少なかったり、高コスト機体よりは少し劣るが
 何度も戦場に出て戦闘が行われるなどのバランスを保つシステムになっているが
 やはり登場作品と機体が多い事とネットによるランキングや特典機体
 度重なるアップデートによる能力調整もあるので
 正確な優劣は開発者すら把握し切れていないと言われている。
 最終的に相手に撃墜されて自軍が持つ一定のポイントを0にされたら負けとなる。
 刹那の駆る機体はGP-01Fb〈ゼフィランサス〉。
 青と白のカラーリングを基調とし、武装は極めてシンプルだがコストに対して
 機体の機動力が極めて高い。刹那は実勢経験も踏まえた動作で対応する。
 ビルの物陰に隠れて、レーダーで相手の位置を確認。動きをつぶさに観察する。
 映る敵対マーカーは二つ。アスカとグラハムであるのは解る。
 ひとつは直線的にまっすぐ突っ込んできて、もう一つはあまり安定しない機動でゆっくりと近づいて来る。
 対する味方の機体であるヒリングのマーカーは地図上から全く動かずにどうやら静観をする様だ。
 
「……六番目〈シックスゥ〉〜。FPSかなんかと勘違いしてるんじゃないのぅ?」
「なっ! しまっ――」
「はい! 一オチ!」

 刹那が隠れている物陰からなにやら小さいマーカーが急速接近してくるのが解る。
 それに対して、反応し、機体を僅かに下がらせるとそこにはビームの一斉射撃。
 画面上にはふよふよと浮かぶ青い色の鋭利な欠片の様なモノが浮いていた。
 ドラグーンと呼ばれる遠隔操作によってあらゆる角度から攻撃する兵装。
 それが執拗に刹那に迫ってくる。アスカのくぐもった声と共に
 物陰から回避運動をこまめに行うがそれでも何発か食らってしまう。
 振り切る様に移動を繰り返しているといつの間にか刹那の機体は大通りへと出ていく。
 次の瞬間、極太の多色のビームがGP-01Fbを焼き尽くす。
 構えたシールドも貫通し、どろどろと足と構えたシールドの手が溶けて機体が爆ぜる。
 まるでそこが出るのが計算づくだったかの様な動きと射撃。
 最後の映った映像には遠方から僅かに浮かび上がる、青い翼を広げた機体がみえた。
 アスカの駆る機体はストライクフリーダムガンダム。
 先程のドラグーンと呼ばれる武装と多数の射撃武器を備えた
 このゲーム切っての高コスト機体であり、大会の特典機体の内の一つである。
164寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:24:26 ID:???
「あーあ、センパイ大人気なーい」
「ふん、高見の見物してるあんたに言われたかないわねぇ」

 刹那の機体は落とされてしまい、スタート地点へと再び機体が搬入される。
 刹那は焦る。そう、目の前、丁度ビル一つ越しに敵のおそらくグラハムと思われるマーカーが接近していた。
 どちらから回りこんでくるのか? 一瞬の緊張、音を立てて地面へと着地した刹那のGP-01Fb。
 これは少し変わった機体であり、一度撃破されると追加で機動ブースターが装備され
 コストと機動力が大幅に上がり武装も変化する。故に今度はそう安々と落とすわけにはいかない。
 既に刹那側のポイントは1000削られて敗北まで残り5000ポイント。
 刹那のGP-01Fbは2000にコストが倍増する。残り3回落とされたら負ける。
 そんな計算を吹き飛ばすかの様に目の前のビルが吹き飛ぶ。
 その崩壊した瓦礫の向こう側から巨大な竜巻が刹那へと迫っていた。

「シュツルム! ウントゥ!! ドゥランクゥゥッ!!!」
「なっ」
「逃がさん! アイアンネットゥ!」

 グラハムの駆る機体はガンダムシュピーゲル。
 両手にブレードを備えた、近接格闘を得意とするMF〈モビルファイター〉と呼ばれる機体部類に属するモノで
 黒と白のカラーリングに軍用のヘルメットの様な頭部パーツを持つ忍者をモチーフとした機体である。
 高速回転して竜巻を起こし、広い当たり判定を持つその攻撃に思わず、後ろへと飛び去ろうとするが
 グラハムのシュピーゲルはそれを逃さない。ぴたりと回転が緩くなった途端、機体の袖口から
 網が放射状に降りかかってくる。逃げ切れず、刹那のGP-01Fbはそのまま地面へと落下。
 網にかかって身動きがとれない中、再び小型のマーカーが接近してくるのが解る。
 アスカのドラグーンの接近にもがきつつも硬直がまだ終わらない。
 ブレードからの格闘態勢に入り、グラハムのシュピーゲルがにじり寄っていく中
 間を割る様にして光の輪がガリガリと地面をえぐりながらも突っ込んできて網を切り裂き
 グラハムと刹那の間合いを空ける。グラハムが其方の方へと振り向く前に
 光の輪による連撃、猫が柱を引っかいたかの様にアスファルトには生々しい爪痕を残しつつも
 刹那の機体は離脱しつつ射撃による応戦。一気に形勢は逆転され、今度はグラハムが追い詰められる形になった。

「まったく、女の子を助けるのが男子の本懐でしょー? 一方的にぼこられちゃって、しっかたないわねぇ」
「助かった」
「なら、次は助けなさいよっ? ほらっ、反撃開始〜♪」
「ちっ、ようやくおいでなすったわね!」
「くぅっ、近接機体二機では荷が重いか」
165寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:29:27 ID:???
 機体のマーカーがあっという間に刹那のすぐ傍に着ていた。
 思わず、その機動性にたたずを飲む中、ヒリングの駆る機体が姿を現すと同時
 ドロップキックをグラハムのシュピーゲルの頭部へと叩き込む。
 その場へと着地してからの足技の追撃、細くしなやかな機体のシルエットから繰り出される
 格闘の連打はとても機械による動きとは思えなかった。
 刹那も距離をとりつつもバルカンとビームライフルで
 近づいて来るドラグーンを沈めつつも、シュピーゲルの反撃のタイミングをカットしていく。
 猛攻を終えてグラハムのシュピーゲルは爆散する事によってようやくヒリングの機体の全貌が解った。
 しなやかな女性の様なシルエットライン。まるで長いブロンドヘアーを思わせる黄色の頭部パーツ
 リボンをあしらった様なデザインの胸元を持つMFノーベルガンダム。
 女性らしいデザインの割には攻撃的な動きを印象づけており
 見た目の愛らしさとはイマイチ一致していない様に刹那は感じていた。

「足止めするからさっさと復帰しなさい!」
「あいや、解った!」
「パートナーを失った奴をのこのこ生かす訳ないでしょ?」
「ちぃっ、二人ともすばしっこいわね!」

 前線近くに出ていたアスカのストライクフリーダムガンダムに刹那とヒリングの両機が肉薄する。
 ドラグーンと両肩、両脇に抱えられたビーム砲、両手のビームライフルをフル導入で一人で火線と弾幕を撃ってくる。
 じゅっとシールドの表面を焦がしたていく中、刹那のGP-01Fbはスラスターをふかして
 ビルとビルの合間を縫う様に飛んでいく。それよりも驚異的なのはヒリングのノーベルガンダムである。
 ビルの側面、屋上を駆け上あがり、時にスラスターをふかしつつもまっすぐに突っ走ってくる。
 跳躍、体のひねりを加えられた回避は細身のシルエットが更に細く絞られており、アスカから見れば
 まるで揺れ落ちる木の葉に狙いを定めているかの様な感覚。嘲笑う様に火線をくぐり抜ける様子に気を取られている内に
 刹那の機体が突撃してくる。まっすぐにブースターを最大出力でふかし上げて、ビームライフルを撃ち込みながらも
 既にライフルの先には銃剣の様にビームサーベルが発光する。
 突き刺すことに成功したと思われる瞬間、目の前に黒い影が現れる。

「くっ!」
「男子の本懐とはこういうモノだ! 捉えたぞ、少年! シュツルムゥッ! ウント――」
「あらぁ! 忘れてるんじゃないかしらっと!?」
「はい、貸し2つ目!」
「なんとぅっ!?」
「それを見過ごすほどアタシだって甘くないわよ!」
166寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:35:02 ID:???
 復帰したグラハムのガンダムシュピーゲルが肩から突っ込んで来てサーベルでえぐられながらも不敵に笑う。
 刹那は仕留め損ねた事に慌てる事もなく、サーベルを引きぬき、後ろに飛び退くがそれすらが不覚にも隙を与えていしまう。
 じゃこっと両手に備えられたブレードを展開し、機体にひねりを加えていく。刹那は予備動作を見ていないので
 僅かに反応が遅れるが、グラハムの音声から先ほどと同じ技だということが解る。
 まっすぐに後ろに下がる入力をしてしまったので今更軌道を変えられない。ビームライフルを向けるが間に合わない。 
 再び、撃墜されるかと思ったが、グラハムの機体にまっすぐ黄色に発光した布状のモノが見え、足元に絡み付いてくる。
 その正体はノーベルガンダムのビームリボン。手には棒状の発生装置が既に握られており、回転を加えて軸足になっていた
 機体の右足を絡めとったまま、ずるっと引っ張ればすっ転ぶ様にグラハムの機体が刹那の画面から消える。
 そのまま、グラハムの機体は遠くへと飛ばされてビルへと叩き付けられていく。
 形勢が変わったと思われた瞬間、目の前でアスカのストライクフリーダムガンダムがヒリングの機体に火線を巡らせ、一斉発射。
 大破に等しい惨状、ノーベルガンダムは左腕とその長いロングへアーの様な後頭部のパーツの半分を失った。
 幽鬼の様にあちこちに煙を上げたまま、ゆらりっとアスカの機体の方向へと顔を向け、跳躍。
 右手が発光する事と機体全身が僅かに黄金に輝く。

「ゴッド・フィンガーーァアアッてね!」
「追撃する!」
「ヒィィトゥエ――ぁっ、こら、馬鹿!」
「……ぁ〜、駄目ねぇーあんたたち。アタシの機体が格闘出来ないって何時言った?」
「ぬっ?!」

 ヒリングのノーベルガンダムの手がアスカのストライクフリーダムガンダムの頭部を捉え
 表面を焼き焦がしていく。止めを刺さんと刹那のGP-01Fbも急接近する中、ヒリングの機体の動きが止まる。
 顔をつかまれたと同時、腹部にサーベルが突き刺され、貫通する。また、右方向から来る刹那の機体からなる
 サーベルをもう片手で持っていたサーベルで霧払いをし、その突撃を止めた。
 まるで、格闘機体の様な美しい連撃。ダメージこそは多くないが、両手に構えられたサーベルで
 片方は刹那の斬撃を牽制し、必殺技の硬直から抜け出せないヒリングの機体を切り刻んでいく。
 満身創痍だったヒリングの機体は四肢と頭を切り取られて爆散し、搬入エリアへと戻る。
 すっ飛ばされていたグラハムの機体も急接近してくる。
 挟み撃ちをされるのはその場に取り残された刹那の機体。

「六番目! 私が来るまで生き残りなさいよ!」
「了解した」
「隙を付かせてもらうぞ少年ゥッ!」

 ”一番難しいことを”。内心ぽつりと呟いた刹那はすぐ隣に居るのに離れてしまっている
 ヒリングに対して僅か肩を竦めたまま、その場の離脱を始める。
 離れ過ぎてもアスカの機体の的になり、近づき過ぎたらグラハムの機体に切り刻まれる。
 高機動とビルの合間に逃げようにもビルごと吹き飛ばす斬撃に回り込みをする遠隔兵器。
 それでも刹那はするりと斬撃と射線の縫い目を掻い潜る様に切り抜けていく。
 傍から見れば、回避するだけでも手一杯な状況。忠実に指示を遂行してる様に見え
 実際に肩や足元のパーツは削られ、ビームの熱で焼け焦げて、徐々に機体の色を汚していた。
 じりじりと削り誰の目で見ても優勢が確かなのにアスカは沈黙を貫いている。
 復帰エリアから猛追する移動速度を観察しつつも僅かにヒリングの移動速度が増したことにアスカは気付く。
167寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 00:36:29 ID:???
「ち、またか。あの馬鹿」
「ぬぅっ」
「毎度パターン過ぎるのよ、飛んで火に居る夏の蟲って奴ね」
「そんなんじゃカトンボも落とせないわよ? さぁセンパイ、あーそ−びーまっしょっと!」
「少年は任せろ!」
「任させてあげるんだから感謝しなさいよ!」
 
アスファルトをえぐる様に踵に重心を置いて横道から姿を現すヒリングの機体は紅々と輝いていた。
 その様子を見て、ため息と共に露骨に舌打ちをするアスカ。
 憎まれ口と共に火線はいっせいにヒリングの機体へと向けられる。
 今度は避けようともせずに低く頭を下げて、両腕を真後ろへと向けたままの突進を行う。
 その異変を察知してかグラハムは刹那の機体の前に立ちはだかる。
 刹那は二人の経験則からの動きに戸惑いを感じながらも目の前のグラハムの機体との
 一騎打ちの挑戦を受けていた。ヒリングから指示が無いという事はそれに集中すべきと判断したからだ。

 そして、ヒリングの機体を真紅に染めたモノは”バーサーカーモード”。
 ヒリングの駆るノーベルガンダムに備えられた特殊なシステム。
 一定以上のダメージと時間が経過すると解放される。
 攻撃の威力上昇、機動性の大幅な上昇、被弾してもダウンをしないなどが与えられる。
 それを利用しての直進と連撃は大抵の機体を沈める事をアスカは知っている。
 故に躍起になって先手を取りにかかった。
 アスカの機体から出た紅黒い極太のビームにより頭をへし折るほどの威力。
 一度進行が止まるかと思われたがそれもむなしい憶測に終わる。
 ヒリングの機体は音を立てて道路を抉り、両手を左右のビルへと伸ばせば
 ガラス窓と枠をぶち破りながらもブレーキを掛け
 ダメージからの反動を殺して尚、前へと進んでいく。
 一気につめられる距離感、機体の顔部分が融解して機械の部分と
 赤いパーツがだらりと熱で垂れ下がるのはさながらホラー映画のワンシーンである。 

「だから、言ったでしょ? ワンパターンだって!」
「六番目!」
「了解した」
「勝負の最中に背を向けるとは笑止!」

 次の攻撃へのチャージを待つ筈へもこのままダメージを受けて沈められると思われた瞬間
 アスカの機体は腰からビームライフルを抜き出す。予備射撃の武器の準備。
 撃墜には至らないがそれでも射撃による迎撃とあのビームサーベルの連撃が入れば、無事ではすまないだろう。
 それまで壮絶な距離の取り合いをしていた両名だったが今度はアスカがヒリングを迎え撃つ形になる。
 それとほぼ同時、ヒリングの呼び掛けに刹那はグラハムを目の前にして背を向けて離脱する。
 直進するのはアスカの駆るストライクフリーダムガンダムへと向かっている。
 が、そんなことを許すわけも無く、グラハムの機体も
 スラスターを吹かし追い縋るが機体性能の違いからか若干速度が遅れていた。
 それでもグラハムは気負う事も無く機体の右手を前へと突き出す。

「させんぞ! アイアンネットゥ!」
「脚部着脱」
「むっ!? そう使うか」
168寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 07:10:32 ID:???
 先ほど見せた同じ技ではあったが、まっすぐに進む刹那の機体に対して狙いを外すとは思えなかった。
 事実、そで下から吐き出された網は獲物を捕らえて、引き寄せている。
 しかし、それは刹那の機体の下半身部分だけであった。
 むしろ、下半身のパーツのブースターを後ろ向きにふかしており
 グラハムの機体へぶち当てられて相手ごと地面に叩きつける。
 上半身だけの機体となった刹那の機体は更に速度を上げて、アスカの機体へと切りかかる。 
 ヒリングを七面鳥撃ちにしようとしてた構えられたライフルは刹那の機体のビームサーベルに
 真っ二つにされて目の前で爆発する。

「ライフルが! 邪魔すんじゃないわよ!」
「センパイ、これでおーっわりっぅぅっとぉっ!」
「ちっ!」

 上半身だけになった刹那の機体は更に半分に兜割りをされて綺麗に4分の1のサイズになり
 ずるりっとそれが僅かにずれ落ちた後爆発する。
 ヒリングと刹那のチームの残りポイントは1000となり、どちらかが落ちれば負ける。
 が、圧倒的劣勢など気にする事も無く、ヒリングの機体は紅く輝く両手を後ろ手にしたまま
 アスカの機体へと飛び掛る。まるで、跳び箱を飛ぶかの様に両手を紅く輝かせ
 アスカの機体の頭部パーツへと掴みかかり、そのまま爆発。
 頭部パーツは勿論、コックピットと肩、腹部の一部を焼け爛れさせて
 上下逆さのΩ形の風穴を開け、アスカの機体をしとめる。
 露骨なしたうちと共に、初めてアスカの機体が落ちた事により、ほぼ残りポイントは同数。
 どちらのチームも後、一機落ちれば、負けという状況であった。

「むっ、タイムオーバーかしら?」
「しとめさせて貰う!」

 アスカの機体を撃沈したヒリングのノーベルガンダムの紅い輝きは終わり
 関節の節々から蒸気を吐き出していた。それの霞に潜むかの様に
 何時の間にか距離を詰めていたグラハムの機体による一刺しにより
 ヒリングは二度目の撃墜を経験する。勝負は意外にもあっさりと決まってしまった。
 撃墜後、搬入された箇所から追う事もままならないアスカと刹那。
 WINとLOSEと書かれた画面に変わり勝敗が決したことを表している。
 
「んー、負けちゃった。やっぱり厳しかったかしらねぇ」
「アタシ相手に勝とうなんて100年早いのよ」
「さすがセンパイ他に遣る事が―」
「うむ。しかし、御美事であったぞ? 少年、結構遣りこんでいたのだろうか?」
169寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 07:14:36 ID:???
 各自ゴーグルを上げればお互いの顔がようやく確認できた。
 刹那にとってグラハムという男は予想より、目鼻が整ったすっきりとした顔つきであり
 アスカにとって刹那は声と態度の印象に比べて、童顔であり
 グラハムにとって刹那は書類上の年齢より5歳は年下に見えた。
 責任感も後悔も微塵に感じさせない負け犬の遠吠えをヒリングは零せば
 ふんっとアスカは当然と言わんばかりにわずかに鼻息を荒らげて誇らしげにしていた。
 頬杖をついて目を細めつつも続く言葉を続けようとした中、グラハムに言葉を遮られる。
 相変わらず会話に参加する機会の少ない刹那へと注目が集まれば
 グラハムの英語を上手く咀嚼する様に聞き取った後、ゆっくりと口を開いた。

「……いや、その推測ははずれている」
「ほぅ?」
「二時間よ」
「ぇ?」
「今日初めてこのゲームを触った。機体選択も性能も全ては把握していない」
「こいつが選んだ奴を私も選んで簡単に動かし方を見せただけよ。
 結構筋良いでしょ〜? あ、私の指導が良かったのかな?」
「ふむ。まぁ、成果は結果を物語っているな」
「へ、へぇ」

 淡々とした言葉に感慨深げにうなづいた後、ヒリングは言葉を割り込ませ
 アスカは最初その意味を掴めなかった。刹那による淡々とした説明に
 押し黙りつつもヒリングは自慢げに語っていく。
 アスカにはその言葉もグラハムの頷きも半分程度にしか耳に入っておらず
 二時間の経験であの動きを見せた刹那への興味の視線を注いでいた。
 が、それはヒリングの部屋から大音量のジャズなんだかロックなんだよくわからない楽曲が流れてくる。
 それに驚いたのか会話が一瞬で静止。ヒリングのワイプだけマイクからがさごそとした音と
 背景が動いているのがわかる。かちっとゴーグルのロックが外れる音がすれば
 ヒリングのみSOUNDONLYと黒い背景に赤文字のみの画面になっている。

「あ、アリーのおっさんからメールが着てる」
「連絡をとっているのか?」
「時々ね。あ、えーと六番目を本部に連れてこいってさ。バレちゃってたわね」
「お説教食らいにのこのこ行くの? だっさーい」
「ふたりとも休日ではなかったのか。まったく」

 手にとった携帯を眺めれて一人でいじりまわしているヒリング。
 すぐ近くにいるのにわざわざライブチャットを通しての報告。
 むぅとしかめっ面になるグラハとは対照的にアスカは口元をにやりと歪めたまま
 視線をそらして肩をすくめる。軽蔑を込めた視線。
 すでに食べて文句の塊を生み出していた夕飯ですら美味く感じる程の悦楽を感じていた。
170寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 07:17:29 ID:???
以上です。途中規制で間が空いてしまいました。
次の目処ですが思ったより忙しくなってしまい未定
もう少し時間が確保出来るかと思いましたがちと厳しくなりましたorz

では、投下失礼しました
171寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/09/30(木) 07:18:22 ID:???
「じゃ、六番目しょっぴいてくるわ。全く、世話の焼けるわねぇ」
「……」
「ふんっ、まぁこってり絞られてらっしゃい」
「まぁ規則だからな。仕方あるまい。次は怒られない時間にあいてをしてもらおうか少年」
「了解した」

 そういって、細いケーブル線一本で海と山を飛び越えての邂逅は終わる。
 不服申立てをしたそうな表情が一瞬見られた刹那ではあったが今はそれよりも
 本部に向かうほうが重要だと思考を切り替える……というのは意識の建前。
 刹那の心理の中ではアリーと久しぶりに対峙する事への懸念と
 シュミレートなどに意識のほとんどを占領されていた。

 次回予告
 スメラギ・李・ノリエガ。怒号と殴打音と共に
 彼女は少年と少女の現実をまざまざと見せつけられる。
 二年の現実逃避の暗がりから眩しく焼けつきそうな流れに
 彼女を待つことなく、第六使徒の襲来を告げるアナウンスが本部に響く。
 スメラギは立ち向かうことが出来るのだろうか?

第五話後編「戦闘命令、撤退禁止」

次回も遅れそうだけど、サービス、サービスぅ!
172通常の名無しさんの3倍:2010/10/02(土) 17:04:24 ID:???
GJ!
ガンガンでアスカと対戦かw
一瞬、エクシアでやり合うかと思ったが流石に世界観的に無かったか。
しかし、アスカ…ストフリとか容赦なさすぎw
173通常の名無しさんの3倍:2010/10/31(日) 20:15:33 ID:???
てす
174通常の名無しさんの3倍:2010/11/01(月) 09:11:10 ID:JaSnW0YG
ゲンドウ>お前がエヴァのパイロットだ!使徒を殺せ
セツナ>了解!(ビシィ)
使途>ボロボロ、ブギャ〜(死)

ミサト>判ってるわね?セツナ君?
セツナ>問題ないw

アスカ>七光りのエヴァパイロット、あたしに勝てる訳
    無いでしょ?
セツナ>俺がエヴァンゲリオンだ!!(キリッ)

レイ>貴方は死なないわ、私が守るもの
セツナ>必要ない!俺一人で十分だ!
175通常の名無しさんの3倍:2010/11/02(火) 06:51:30 ID:???
母親をぶっ殺した時点で初号機に乗ると拒絶されそうな気が・・・・・・・・・
176通常の名無しさんの3倍:2010/11/02(火) 16:50:50 ID:???
>>175
原作通り母父両方を親殺ししたとは限らない。
しかし、原作通りであるならば…と、言うかここの刹那は初号機には乗ってないぞ。
使ってるのは参号機だ。
177通常の名無しさんの3倍:2010/11/03(水) 09:54:36 ID:6adw2tDN
あれか・・・使徒と同化して完全なる存在に・・・

セツナ>うぉおおおおおおおお(目真っ赤)、目からビィ〜ム
    使途のATフィールド引きちぎり、「うはぁ〜」
マヤ>た、大変です!三号機のシンクロ率が2000%
   超えています
ミサト>な、何なのよアレ?リツコ???
赤木>し、知らないわよ、何よあれ??こんなの仕様には・・・
一同>か・・・神だ・・・

こんなんか?
178通常の名無しさんの3倍:2010/11/04(木) 23:22:42 ID:???
>>176
逆にいうとわざわざ参号機ってのも不思議だよな
初号機とかのが主人公のイメージも付き易いのに
179寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/08(月) 23:26:58 ID:???
お久しぶりです。週末位までには投下予定。
今回少し短いかもです
180通常の名無しさんの3倍:2010/11/09(火) 07:38:08 ID:???
まもLovewww
181寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:42:01 ID:???
遅れました。今から、投下開始します
182寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:44:26 ID:???
―NERV本部司令部にて

「■■■■■■っ!!!」
「参号機、敵の加粒子砲を胸部に被弾!」
「参号機を退避させ――」
「ぁ!? 誰がそんな命令だした? 駄目だ。
 ヒリング、N-3地点へ! 青葉! 四号機に例の銃を渡せ!
フェルトは二射目急げ!」
「ぇ? あ、はい!」

 響き渡る絶叫がインカムとスピーカーからその場に居る職員の鼓膜へとたたきつけられていく。
 目の前の巨大スクリーンには蒼い水晶の塊の様なモノが陣形を作り
 浮遊して、超出力の粒子砲を赤い球体から吐き出しているという事を数値と映像が示している。
 その光の線は眼に見えない速度で注がれている為、肉眼では確認できないが
 参号機の胸部の装甲を徐々に溶かして、真っ黒い核をむき出しにし、じりじりと焼き焦がしている。
 その痛みは刹那へと連動し、激痛、衝撃、すべてが脳へと伝えられていた。
 当然のごとく、その場に居たマヤは撤退を指示しようとする……がその声をアリーは遮る。
 職員一同戸惑いを隠せない中、サーシェスは狼狽するフェルトへと一括。
 次の武装の準備をしているヒリングへ向けて声を張り上げる。

「アレならざっと1分はもつな。ヒリング、フェルト。その間に倒せ!
 じゃねぇと参号機パイロットが死ぬぞ!」
「えと……は、はいっ!」
「りょーかい!」
「ちょっ、ちょっと待って。刹那君が!?」

 装甲の溶け具合と粒子砲の照射が徐々に衰えているのが解れば
 一撃で参号機のコアを砕くことが出来ないとサーシェスは判断する。
 その命令にフェルトは戸惑いながらも初号機に狙撃銃を構え直させていく。
 思考は既にパニックと絶望と哀しみの坩堝に陥り、ガチガチと奥歯を鳴らせ
 それでも僅かに残る意識で祈る様に充電を終えるのを震えながら待っていた。
 ヒリングは射出された銃器を四号機に取らせて、ビルの合間から飛び出る。
 リロードをした後、吐出される粒子の飛沫を紅い塗料の様に浴びせかけられる。
 蒼い鏡の様な使徒の壁面が文字通り、蜂の巣の様な跡が付けられていく。
 それに反応して、使徒も粒子砲を照射したまま形状を変えようとするが
 それが不用意であることを使徒は思い知らされる。
 形状が変化し、コアが露出した瞬間、四号機の第二射が浴びせかけられれば
 まるで、ガラスをひっかいた様な音が木霊をする。
 宙空に浮いていた青い水晶の塊が乱れ、周囲のビルを引っ掻き回していく。
 再びリロードをし、車が潰れるほどの大きな薬莢を地面へと転がしながらも
 四号機は後ろに飛び退きつつも第三射を放つが
 回転した水晶に阻まれコア表面を爛れさせる程度の損害しか与えられない。
 現場は迅速に処理を進めている中、司令部は混沌の極みであった。
 実質的な権限が無いとはいえ、技術部のトップであるマヤの言葉を無視する訳には
 立場上いけない。しかし、サーシェスの直感が既に警鐘を鳴らし、覚悟を決めさせていた。
 ”この使徒は強敵であり、エヴァ一機位失ってでも倒さねばならない”と。
183寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:45:50 ID:???
「サイボーグ! 参号機の床のパージ及び救護班の手配! エントリープラグ強制排出後
 お前が直接救護に迎える準備をしておけ!」
「はい! ……手配完了! 失礼します!」
「このままでは参号機が持ちません! 見殺しにするつもりですか!」
「敵は攻撃してるつー事はATフィールドも弱くなってる。これはさっきまでの戦いでほぼ確定だ。
 だから、あの使徒が参号機にかまけてる間に潰すんだよ!」
「しかし、それでは参号機が! 仮に参号機は修復出来たとしてもパイロットが!」
「俺はソランに戦えと言った。逃げるなとも言った。それを実行しているのは奴の判断だ。
 だから、今あいつは自分の意志でああやって殺され掛けてるんだ!」
「で、でも!」
「黙れ! ほんとに死ぬぞ? お前は銃の実戦データでも取っておけ!」
「……っ! 碇司令! あのままでは参号機が!」

 サーシェスの指示にクリスは席を立ち上がりモニター画面の向こうへと飛ぶ。
 人が落ちる音と金属音が僅かに聞こえているがその後の忙しない靴音から
 クリス専用と言ってもいいスクリーン下の緊急通路へと抜けていくのが解る。
 サーシェスの言うことにマヤは反論出来ない。自分たちの目的は使徒と戦うことではない。
 使徒を殲滅することである。だから、犠牲は少ない方がいいが
 それでも殲滅することが最優先課題であり、参号機の価値が一戦力と見なすなら妥当である。
 だが、残念ながらマヤ及び二年前を知っている人物にとって参号機は”兵器”としての
 認識を超えた思い入れがあることをサーシェスは知らない。
 すがる様な声と視線をマヤは最上段に構える碇ゲンドウへと向ける。
 一番、それを受け入れられないと思える人物にこの望みを賭けてしまう
 マヤの絶望と逼迫感は並のモノではなかった。マヤは主張する。
 参号機の喪失が何を意味をするかを。

「……落ちて!」
「初号機の第二射、目標に命中!」

 初号機が構えた銃口から光線状のモノが吐出されて、まっすぐに使徒へと伸びていく。
 被弾、爆散。八面体の左斜め上の部分がごっそりとえぐられる様に割れ砕けていく。
 土煙と共に機器が一時停止。映像が再開されるともうもうと立ち込める煙の絵を
 食い入る様に職員たちが見つめている。煙が晴れていく中、まだ加粒子砲が途絶えない。
 倒れれば、それが途切れる筈。そうすれば、参号機が回収できてパイロットも助かる。
 刹那の絶叫が悪い意味で止まる事を恐れ
 刹那の絶叫がいい意味で終わる事をその場の全員が願っていた。
184寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:47:15 ID:???
「……嘘っ」
「ちっ!」
「目標確認! 活動停止の兆候なし!」
「落ちねぇか。参号機回収! 初号機、四号機も撤退だ!」

 フェルトの絞り上げる様な泣き声、悲壮な願いは届かずヒリングの舌打ちも大きく響く。
 モニターには陽電子砲でえぐれた部分、蜂の巣になった部分を修復しつつも
 加粒子砲の第二射の発射準備に入る使徒の姿が映っていた。
 参号機が再び焼かれぬ様に通路はパージされ回収。入り口近くを焼かれるが
 なんとか回収は間に合った模様。初号機、四号機もまた迅速に回収され
 悠然と使徒は丁度、NERV本部直上へと再び向かうのが確認される。
 完全な敗北。損害は参号機中破、四号機小破、参号機パイロット重症という現実に
 アリーは奥歯が砕けそうになるほどのいらだちを隠せないで居た。

「さぁって、まぁこんな感じです。俺達は字の通り、死力を尽くした。
 ただ、”それでも敵わない”って奴がいつかは出ると思いましたがこんなに早いとはねぇ」
「……っ!」
「戦術予報士様の腕の見せ所ですな、スメラギ・李・ノリエガさん。
 自分が何のために呼ばれたか、解っていらっしゃいますな?」

 呆然と立ち尽くしていた一人の女性へとサーシェスは皮肉交じりに声をかけた。

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
     第伍話後編「戦闘命令、撤退禁止」

―参号機被弾まで残り2時間59分13秒。NERV本部廊下にて

「いやはや、ノリエガさんが来てくれたおかげでこれで私の仕事も楽になる」
「は、はぃ。恐縮です」
「マルドゥーク御推薦の戦術予報士の派遣がどれだけ心強いか。
 全く、何時の時代も軍師様ってのは三顧の礼をせんと来て下さらないモノですな」

 スーツの姿のアリー・アル・サーシェスは廊下をにこやかな顔と普段ではありえない
 口調で一人の女性を案内している。年の頃は30になるかならないかの艶めかしい
 起伏の飛んだラインをスーツの下に隠している女性。
 本日付けでNERV/戦術作戦部作戦局第一課 課長代理になったスメラギ・李・ノリエガである。
 緊張した面持ちのまま長い長い廊下を歩いている中、談笑混じりで話すこの男に
 彼女はやや本能的な警戒心を抱いていた。この男の話しぶりからすれば
 自分以外にも人選をかけ、招致を促したのが初めてではないことが透けて見える。
 経験から出ているであろう軽口がこの職場、NERV本部における人材不足を如実に表していた。
 行き交う職員も20代の若いモノも多い上に、司令にも以前顔を合わせた事があるが
 40程度の年齢に見えた。妙齢の副司令と比べれば、まさに親子にも等しい程。
 様々な不安や予見は来る前から重々承知であった筈なのにいざ現場を見れば
 その覚悟も消し飛んでしまう。スメラギの顔色を気にすること無く
 アリーはつらつらとどこに視線を向けているかも分からずに話を進めている。
185寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:49:08 ID:???
「今、手の空いてる二人も呼んでいます。午後には実験もしますので
 大体”どういうモノ”か。見て頂くには良い日取りですな」
「お気遣い感謝します」
「いえいえ。そういえば、ノリエガさんは二年前の実験を見学なさっていたとか。
 まぁ、アレは”失敗”でしたからね。ちゃんと動くのが今日は見れますよ」
「そ、そうですか」
「パイロットも優秀です。駒としてね」

 にこやかな笑みからは全てを知っていて尚、こういう話を持ってきた事をが透けてみる。
 うっすらとした視線は確実に自分の表情が観察、監視、評価されているかの様に
 感じていた。無論、サーシェスも全くそれらを意識していなかった訳でもないが明らかな過敏。
 彼にとって緊張しているというのは集中力の足りない証拠という実践論で済まされる為
 内心は既に期待は0に等しいことを無論、スメラギは知る筈もない。
 だから、二年前の話を振ったのもスメラギにとっては何かを試されているかの様に感じたが
 サーシェスにとってはどーでもいい雑談の話の種の一つであった。

―参号機被弾まで残り2時間47分33秒。NERV本部内長距離エスカレーターにて

「ねぇ、六番目。あんた人を殺したことある?」

 タンクトップにジャケットを羽織り、プリーツスカート姿という明らかに私服な姿で
 本部へとやってきたヒリングは学生服を着込んだままの刹那に対して
 後ろから声を掛けてくる。もちろん、わざとである。
 刹那が背中への意識や気配に対して訓練をしているのは当然、予見出来たので
 意識させる為にわざわざ刹那を先に進めさせた。
 曰く、”この国ではレディーは殿方の三歩後ろを歩くモノなのよ”との一言で論破。
 刹那にとって感情や意識云々もあるが、”風習”や”文化”という言葉に対しては
 ほぼ無条件に受け入れられるのをヒリングはなんとなく察していた。
 己の意志が無い訳ではないが、他者の意志に対して譲歩する。
 良くも悪くも対立を作らない、もしくは印象が残らない様にする。
 街中で下手に事を荒立てず、潜入するための訓練の賜なのであるが
 ヒリングにとっては格好の玩具でしかなかった。

「ああ。経験はある」
「初めてって誰だった? 訓練? 実戦? それとも私怨?」
「離れろ。命令で母親を殺した」
「へぇー、羨ましいなぁ」
「っ!!」
186寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:50:45 ID:???
 刹那は最初訝しげに何を聞いているのかと呆れたまま、適当に頷きを返した。
 するとヒリングは刹那の予想以上の食いつきを見せる。後ろからヘッドロックを掛ける
 勢いのままに抱きついて、耳元で訪ねてくる。ただでさえ、あまり人に触られる事に
 慣れていない刹那に取って鬱陶しさは数倍に膨れ上がり、言葉を濁す事無く
 白状することを選択する。が、それをすぐに後悔する間もなく憤怒へと変わった。
 刹那の体はまるでその行動をする為に設計された機械の様にヒリングの手を振りほどき
 振り向き様、大ぶりの握りこぶし――から、わずかに理性が残った事による
 起動中に変化させた平手打ちを繰り出す。その振りかぶる瞬間、珍しく怒りの表情を
 刹那を晒してしまう。が、それはヒリングも想定済み。片手でその平手打ちを止めて、手首を掴む。
 ぐっぐっとその掴みから逃れようとするがまるで蛇かすっぽんにでも噛み付かれたかの様に
 ヒリングの手を振りほどく事が出来ない。しばし、にらみ合いが続く中刹那が折れ、力を抜く。
 だからといって離して貰う事はない為、手をぶらりと上げたまま刹那は
 僅かに不機嫌さを滲ませた言葉をぶつけていく。

「今のは失言だ。ヒリング・ケア」
「んっ、そこは怒るんだぁ? 意外とマザコン?
 まさか、殺す時やらしー事してないでしょーね?」
「お前っ! ……くっ!」 
「まぁまぁ、落ち着きなさい。なんでこーいう時だけせっかちさんなのよ」

 苦虫を噛み潰す顔を出さない様に繕いながらも刹那の糾弾の言葉に
 ヒリングはむしろ、それを更に逆撫る様に言葉を送り返してくる。
 平静さを保とうとするも一度出た綻びをしまい込む事は叶わず、刹那は再び怒りの顔を滲ませてしまう。
 羞恥というよりも自分の精神の脆さに苛立ちを隠せないが
 下手に言葉を漏らせば、目の前の存在にあれよあれよと喰われてしまうのは解っている。
 一方、その部分でからかうのはもう飽きたのか、掴んだ刹那の手首を離さずに親指で
 手のひらをぐりぐりとまさぐりつつも、ヒリングなりに刹那を落ち着かせようとする。
 はぁーっと大きなため息を吐いた後、普段どおりの無表情を繕っていく刹那。
 まるで”サービスなのよ”っと言わんばかりにヒリングはゆっくりと話し始めた。

「私ねぇ、物覚え悪いのよ。特に都合の悪いこととかなーんか、嫌な事があったりとか」
「何が言いたい」
「覚えてないの。特に二年前以降とか最近のことでもね。
 だから、私はひょっとしたら誰かを殺しているかも知れないし
 誰かに犯されてたり、誰かを抱いたりしてるのかも知れない。
 実は一回位死んでるかも知れないわね?」
「……」
「六番目。そんな辛い事もあんたはちゃんと覚えてる。
 けど、私は忘れちゃうかも知れない。
 こうやってあんたをからかって感じるこの体温とか匂いとか味とかもね?」
「っ! 自分から話の腰を折ろうとするな」
187寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:52:57 ID:???
 語る言葉の意味を刹那は自分をバカにしているのかと思われたが
 先程の間を持った為、冷静に続きを聞き入れる事が出来た。
 ヒリングのどこか諦めきったかの様な表情からこれが嘘でもデタラメでもない事が解る。
 散々からかった後なので適当に聞き流すと思われた刹那が意外とクソ真面目に
 聞き入っているのを見れば、いたずら心が再燃してしまう。
 つかんだ手首をそのまま自らの頬へと撫で付けて、すぅっと僅かに呼吸の空気の流れを
 感じさせた後、ちろりと舌を出して、刹那の手の側面部分を舐め上げる。
 流石にそれを許容する事は出来なかったので慌てて手を離すが
 その反応すらもヒリングにとっては滑稽でいじり甲斐のあるアクションであった。

「こんな話、真面目に話すのも面倒なの。女心を察しなさいよ」
「解ったから続けろ」
「まぁーきっとね。六番目が死んだら六番目なんて居なかった事になってるわ。
 一々死んだ奴を覚えてるとは思えないし
 ああっ、もしかすると実は随分前に会ってるかも知れないしね。
 その位、私の性格と違って記憶が曖昧なのよねぇ」
「……」
「こら、六番目。此処笑う所。ま、笑ったら殴るけど」

 先程まで刹那の手を掴んでいた左手の人差し指と中指と薬指をうねうねと
 蛇の様に動かしてそれがそのまま、つーんっと刹那のおでこへと突き入れる。
 僅かに頭を仰け反らせなつつも刹那はじっと視線を戻したまま押し黙っていた。
 言葉を探していたが見つからない。そもそも、ヒリングが何故こんな事を言い出したのかも解らない。
 境遇への同情? 話を聞き出して怒らせた事への代償? 自分への理解と興味のため?
 気まぐれという言葉一言で片付ける選択肢しかない位に刹那はヒリングの人格を掴みかねていた。

「……」
「ったく、黙ってないでなんか言いなさいよ?」
「それはない」
「なんで? っていうか何が?」
「お前は一度逢ったら忘れる様な人格ではない。
 これから先も俺からは忘れる事はないだろう」
「……ふーん」

 暫くにやにやとその無表情に困った様子をヒリングは眺めているが
 流石に時間切れだったのかぐりぐりとおでこへとつけた指先を捻りつつも急かし始める。
 その後も僅かに沈黙の間を残した後、刹那は否定する。
 ヒリングは主語というか否定の対象を掴めないが適当に受け流して疑問を返す。
 続く言葉は在り来りな、誰もがそう思うだろう言葉。むしろ、忘れる事が難しい。
 そんな、誰もが思うであろう言葉を刹那は紡ぐ。
 そのまま、言葉を残した後、まっすぐ前へと刹那は向き直る。
 だから、彼は見逃してしまったのである。
 否、見ようとしたら蹴っとばされていたかも知れないのである意味命拾いをしていた。
 その後、ヒリングは押し黙っていたが刹那はそんな事を気にする事もなく
 施設内の目的地へと向かっていた。心地良い静寂、駆動音や他の職員の話し声など
 気にすることのないまま歩を進めている中、やはり沈黙を破ったのはヒリングであった。
188寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:54:48 ID:???
「あ、アリーのおっさんが女連れだ」
「おー。来たか。よし、ソラン!

 ”避けるな"

命令だ」
「了かっ――っ!」
「……えっ、さ、サーシェスさん!?」
「――だぁっ!?」

 刹那も視認は出来ていたが敢えて声に出さなかった。
 遠くからスーツ姿の男女が一組見える。一人はアリー・アル・サーシェスであるが
 もう一人は二人が見知らぬ女性であった。ヒリングはまるで子どもが
 何か異端なモノを見つけて、その後母親に注意されるであろう流れをそのまま体現した様に
 指で二人を指し示す。無論、刹那にもそれが見えていたがその声によって
 実に実りのない雑談で適当に茶を濁していた二人は刹那とヒリングの存在を認識する。
 これ幸いと言わんばかりにサーシェスは手を上げた後、僅かに助走をつける。
 続く言葉に刹那は反射的に言葉を返すが全てを言い終わる前に、おもいっきり頬を殴りつけられた。
 大人、しかも格闘経験のある人物の体重の乗った拳に体重も足らず、命令によって
 無防備になっていた刹那はおもいっきり後ろへと仰け反らせる。傍にいた女性は
 思わず声を上げて困惑を表現するが誰もその言葉に反応を返すこともなく
 ふらついていた刹那の両肩を持った後、サーシェスはそのままみぞおちへと膝蹴りを入れる。

「何%だ?」
「ぐっ!」
「そうやって、少し悪ふざけをして、わざわざ俺が迎えに来るなり、気に掛けてやると
 頭の中で何%位の確率で期待した?」
「ち、ちがっ―」
「ガードを下ろせ! お前はエヴァに乗る為にこっちによこした。
 ソレ以外は一切なにしようが構わん。女孕ませようが酒を飲もうが薬に手を出そうがな!」
「っ!」
「だが、勘違いするな。確かにお前は俺の部下であり、俺はお前の上官だ。
 上の命令があれば尻拭いでも何でもしてやるが、それはこの本部の”仕事”の中だけだ」
「わかっ――」
「お前の理解なんざ知らねぇよ! 今、教えてんのは他の期待や展望を捨てろって言ってるんだ。
 そんなありえねぇ期待で非行に走ってエスカレートさせたところで俺は全く興味がねぇ。
 だが、それでてめえの性能が落ちたら、しわ寄せが来るのは俺達だ。
 だから、俺がわざわざ今、話してやってる」
「ぐっ」
「こういったじゃれ合いは金輪際ねぇ。俺が話す時は呼び出すがな。
 ソラン、てめえの仕事外の事で俺から何かリアクションしてやることはねぇから覚えておけ!
 てめぇが人生壊しても俺は一切関知しねぇからな!」
189寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 17:59:08 ID:???
 質問。主語がない言葉に刹那は困惑をする暇も与えられず、崩れ落ちたそうになる中
 裏拳で刹那の体を本部の床へと叩きつける。刹那はぐりぐりと右肩を靴で踏みにじられ
 嗚咽を漏らす中、サーシェスは罵声と怒号を織りまぜた言葉を叩きつける。
 従軍経験がないモノならば、聞いただけでも震え上がりそうな地獄の底から搾り出した様な声。
 刹那は身を護る為に芋虫の様に丸くなろうとするがサーシェスの言葉にその動作が止まる。
 再び腹部への蹴り。一通り言い終わる度に刹那の嗚咽か、もしくは言葉を搾り出させるが
 それをわざと粉砕するかの様なタイミングで蹴りが続けられる。
 痛みが、意識を侵食していく。サーシェスの言う期待。もしかしたら、ひょっとしたら
 そんな想いが自分にはあったのだろうか? ヒリングに流された今日の行動
 その要因に全くそれが無かったと言い切れるのか? 痛みと共に意識は自問を繰り返す。
 が、それも徐々に痛みと言葉で踏みにじられていく。生命維持の本能がその思考回路を
 焼き切り、思考の拠り所としての機能を喪失していく。
 スメラギは絶句をしたまま、これは人を呼ぶべきか、呼ぶとしても誰に? どこへ?と思考が錯綜する。
 不安が入り交じっている為に正常な判断が、思考が遅れ始め
 それは自責や不安を更に駆り立て能力を麻痺させてくる。

「あー? ヒリング、どういうつもりだ」

 その状況に一石を投じるが如く、ヒリングは大きく弧を描いた右足の踵が
 サーシェスの背中を襲うが手首の骨をアキレス腱の位置に合わせて防がれる。
 その現状を把握したとともにサーシェスの思考が一気に流動する。
 何故、このガキはケリをかましてきたのか? ソラン(刹那)に懐いたか?
 独占欲でも湧いたのだろうか? 2対1なら自分に勝てる算段でもついたのか?
 そんな事をぼんやりと巡らせながらも振り返り腹部へと拳を打ち出すが
 細く白い腕の見た目に反した的確な防御で衝撃を殺される。
 が、それはフェイク。上から振りかぶる左手は拳を握りこめて頭部へと叩きつける。
 俗に言うげんこつを繰り出せば、ヒリングの脳は揺さぶられて蹲り、痛みに悶えている。
 
「つぅーっ。ん? どういうつもりって、忘れたの? ヤ・ク・ソ・ク♪」
「ぁ?」
「怪我治って一撃入れられたらエヴァ乗って良いって言ったのアリーのおっさんじゃん」
「……あぁ。そういやそんな事言ったな。ま、次からは出す予定だったからそれは無しだ。取り消す」
「え? ほんと? やった〜♪」
「ただし、四号機に積むのは量産型GNドライブの方だ。
 まだ、本物は出力が安定しねぇし、怪我されても面倒だからな」
「ちぇっー。ま、別にイイわ。量産型の色も結構好きだし」

 頭をぺたぺたと手のひらで輪郭を確かめ、たんこぶによる頭の膨らみを確認すれば
 大きくため息を吐きつつも、上目遣いに言葉を返す。
 約束?と言われてもアリーの記憶は再び洗い出される中、続けざまのヒリングの言葉に
 ようやく合点がいったのか過去の映像と共に記憶が蘇っていく。
 第四使徒襲来の非常時に病院から抜けだしたヒリングとの乱闘。
 叩き伏せた後、大人しくさせる為に言った口約束を後生大事に覚えていたのか
 ただ、蹴りたかった事に言い訳したいだけなのか解らないがこの約束の維持は
 ”うわぁ、めんどくせぇ”という瞬時の判断により、破棄撤回をサーシェスは決める。
 元々決まってきた事項を告げるだけでヒリングは文字通り、飛び跳ねる様に喜ぶ。
190寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 18:00:25 ID:???
「あー、それよりあの女は誰? 放置プレイが好きみたいだけど」
「え!? あ、は、はい」 
「え? マジでそういう趣味? うわっ、やらしー」
「違うわよ! え、えーとサーシェスさん、これは」

 その跳ねる際に視界に入った人影にようやく意識が向いたのか
 先程まで狼狽えることしか出来ない置物になっていた女性に視線と言葉を投げる。
 思わぬ矛槍にやはり、おたつくしか出来なかったスメラギだが続く言葉には即時に否定をする。
 えぇ〜? ほんとー?と言わんばかりににたにたと顔と体を這いずり回る様な視線で観察しつつも
 ようやく砕けた表情と言葉にふぅーんっとサーシェスは暫く状況を放置する事にした。
 スメラギも困惑を隠せないが、埒が明かないと判断。サーシェスへと助け舟を出す。
 情け無いがなりふりを構えないと判断した模様。
 まだ、スメラギに関して掴みかねていたサーシェスにとって
 程良く化けの皮を剥がしに掛かってくれるヒリングの行動を淡々と観察をしていたがそれも中断。
 先程からずっと踏みつけていた刹那を抱え込めば、そのままヒリングの方へと背負い投げ
 大の字を逆にした体勢のまま、ヒリングの背中へとドミノ倒しの様に倒れ伏し、巻き込んでいく。

「あ、失礼。はははっ、うちの奴は跳ねっ返りばかりでしてね。
 ま、このくらいのガ……失礼。子供はコレくらい伸び伸びとやってもらいませんとな」
「は、はぁ」
「今、投げた奴が刹那・F・セイエイ。こっちのをふざけた奴はヒリング・ケア。
 それぞれ、参号機、四号機を担当してるパイロットです。
 ほら、てめぇらあいさつしとけ。新しい上官様だ」
「アリーのおっさん。六番目伸びたままなんだけど。私はそっちの上官様と違って
 公衆の面前でするとかそーいう趣味……うーん、今のところ無しかな?」
「私はそんな趣味無いわよ!」
「おらっ、そろそろ起きろ。押し倒すのは構わんがTPOを選べ」
「ぐっ……了解した」

 ぎろっとケモノの様な睨みを効かせた後、ぱんぱんっと手を軽く叩いて一仕事終えれば
 再びに快活で爽やかな笑顔を作り直す。その笑顔のままヒリングと刹那に対する
 口調が変わらないのは違和感と共に恐怖感を倍増させていた。
 刹那に押しつぶされたまま、片手を上げるヒリング。
 サーシェスは面倒くさそうに刹那の脇腹に軽くケリを入れて意識を覚醒させる。
 ダメージが残ったままなのか頭を振りつつも自分の真下にヒリングが居る事に
 若干戸惑いを隠せないまま、よろよろと立ち上がる刹那。
 ごほっ大きく咳き込むのを尻目に、ヒリングは軽く自分の服の
 埃を払いながらも立ち上がり、ぴしっと背筋を伸ばして自己紹介をする。 

「ヒリング・ケアよ。私は四号機担当」
「刹那・F……セ……イエイ参号機パイロ……ット……だ」
「そーいや、上官って言うけどあんた何出来んの?」
「こほんっ、スメラギ・李・ノリエガです。戦術予報士としてこちらに赴任しました。
 使徒の解析とそれにちなんだ戦略立案を行うのが仕事と聞いています」
「へー。ま、宜しくー」
191寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 18:06:50 ID:???
 多少よろめいたままになっていたが刹那は途切れ途切れに名乗りをあげる。
 ヒリングの問いにスメラギはまるで面接をしに来た学生の様に
 つらつらと言葉を並べ立てている。ふーんっと再びスメラギのことを観察するが
 すぐに飽きたヒリングはまるで虫けらを見るかの様に軽薄な態度を取る。
 既に眼中に無いといった所か、視線と意識はサーシェスへと向きなおしていた。

「ヒリング。お前はコイツと飯を食った後は訓練を一三〇〇より始める」
「はいはい。了解。じゃいってきまーす」
「昼飯は一人で食べれる」
「ランチを一緒にってのも命令でしょー?」
「……了解した」

 訓練開始時刻伝達というお説教終了のお知らせを聞けば
 まだよろよろとしている刹那の手首をつかんで食堂へと向かおうとする。
 一瞬立ち止まり、僅かに思考。この場合、下手な質問は怒りを買うだろうと
 学習したのか先に回答を提示する。しかし、すかさずに返されるヒリングの言葉に
 閉口したまま、ふむっと頷きを返していく。ヒリングが”ちょろいわぁw”っと内心思っている
 事を知る由もなく、また仮にあったとしても知ろうとも思わぬ程に
 ダメージの回復と意識の集中に余念の無い刹那は幽鬼の様にヒリングの後をついていった。

「ノリエガさん。午後には初号機パイロットも来ます。
 そいつと逢って、跡は技術部の奴に顔を出しておいて、実験を一通り見れば初日は終わりです。
 何分広い施設ですからな。前任者もよく迷っていましたので道はよく覚えておいて下さい」
「あ、はい……えと、すいません」
「何か?」
「トイレの場所だけは早めに把握しておきたいです」
「ははっ、なるほど。コレは失礼を」

 排泄が目的ではない。何もかも吐き出したくてスメラギは逃げ場所を聞くことにした。

―参号機被弾まで残り2時間31分06秒

次回予告
 秒針の進みを追い抜くかの様なEVA三機による乱撃
 それぞれが死力を尽くしても尚、敗北の運命は変わらない
 少年と少女はそれを知ることは無く、ただひたすらに戦場で摩耗していく
 何故、少年はその命を死の間際に晒してしまったのか?

第六話前編「乱戦、第3新東京市」

 負けが決まっててもサービス、サービスゥorz
192寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2010/11/15(月) 18:08:53 ID:???
以上です。ちょっと今回(毎度か?)、変化球でやってましたがどうでしょうか?
今後の予定はリアルでゴタゴタ続きで今年中にもう一話行くか行かないかで本編予定
何か気が変わったら外伝のシンジの続きかコーラサワーの話辺りをねじ込もうかと思います
では、投下失礼しました
193通常の名無しさんの3倍:2010/11/18(木) 18:19:33 ID:???
乙です!今回も面白かった
194通常の名無しさんの3倍:2010/12/01(水) 20:20:29 ID:???
>真っ黒い核をむき出しにし

エヴァの光球の部分って黒だっけ?
195通常の名無しさんの3倍:2010/12/31(金) 00:42:13 ID:???
保守
196通常の名無しさんの3倍:2011/01/08(土) 15:42:25 ID:???
保守
197通常の名無しさんの3倍:2011/01/26(水) 16:38:22 ID:???
保守
198通常の名無しさんの3倍:2011/02/09(水) 23:43:34 ID:???
保守
199通常の名無しさんの3倍:2011/03/03(木) 22:08:09.08 ID:???
保守
200通常の名無しさんの3倍:2011/03/14(月) 10:25:36.64 ID:???
保守
201通常の名無しさんの3倍:2011/04/09(土) 00:26:38.74 ID:???
保守
202 忍法帖【Lv=10,xxxPT】 :2011/04/21(木) 22:28:09.04 ID:???
保守
203 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/04/25(月) 13:06:10.93 ID:???
保守
204寝腐:2011/04/26(火) 17:41:24.61 ID:???
出先なんで酉無しですいません。大分お久しぶりです
現在、参加している別スレのアンチに!suitonされて
長文が投下出来ない状態です。Lv上げてもまた!suitonされそうなのと
SS投下に耐えられる長文レスは何Lvなのか見当もつかず。

何かいい手はないでしょうか? 投下できない分書き溜めは進めています。
205通常の名無しさんの3倍:2011/04/26(火) 20:00:59.86 ID:???
ああ、お帰りなさい。
なんか、妙なのに付きまとわれてるようですね。
・・・どこかで避難所を作って、そこに投稿し、我々が代理うpするようにしますか?
206通常の名無しさんの3倍:2011/04/26(火) 21:36:16.16 ID:???
クロスオーバー倉庫の掲示板なら気兼ねなくスレ立て出来て手っ取り早いかも。
作ってこようか?
207通常の名無しさんの3倍:2011/04/26(火) 21:41:21.64 ID:???
言うが早いか立ててしまいました。
寝腐さん、後は頼んだ!

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1303821565/
208寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/04/26(火) 22:28:40.74 ID:???
うぉ、はえぇー。ありがとうございます。
では、近日中に一本本編投下します。つーか、させます。
209寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/05/06(金) 01:42:38.37 ID:???
詰め込みすぎて、通常の3倍位長さになっててまだ終わらないというorz
210通常の名無しさんの3倍:2011/05/06(金) 02:15:13.85 ID:???
なに、Qも似たようなもんと思って幾らでも待てるんだ、気にすることはない
無闇に急いだ文章よりもじっくりと書き上げた作品の方が面白いに決まってる
211通常の名無しさんの3倍:2011/05/09(月) 18:41:37.02 ID:???
あえて言おう、君(寝腐氏)を待ち望んでいたと

投下、楽しみにしている!
212寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/05/09(月) 20:54:37.81 ID:???
ということで大分お待たせしましたorz
量がなんかエライ事になってしまいましたが、六話前編投下完了です
GN粒子とATフィールドの関係についてはのちのち。
後、使徒の道中に関してはWikiもしくはエヴァ2参照という事で。

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1303821565/3-18

後、お待たせしてしまった代わりという訳ではないですがコチラも軽く予告を
213寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/05/09(月) 20:59:09.49 ID:???
番外編次回予告
おーし、ココの予告はAEUのスペシャルエース! パトリック・コーラサワー様がお送りするぜ?
スペシャルな俺はAEU代表として人革連との合同調査部隊に配属、中東の小国へと派遣される。
そこで見つけたのはなんと巨大な地底湖! ソコに迫り来るは巨大な影と俺様は対峙する!
だが、そんな事はどうでもよく、今日も俺のスペシャルな相棒は抜群に可愛いぜ!

次回番外編予定 コーラサワー編「レイクダイバー」
うん、意外とそのまんまだが番外編でもスペシャル! スペシャルゥ!



という事で投下失礼しました。次はちょっと息抜きでコーラサワー編が先になる予定です。
214通常の名無しさんの3倍:2011/05/09(月) 22:39:01.65 ID:???
待ちかねたぞ寝腐氏!
215通常の名無しさんの3倍:2011/05/11(水) 18:36:02.14 ID:???
寝腐氏はガンダムだ!
216代理:2011/05/20(金) 17:59:01.61 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
第六話前編「乱戦、第3新東京市」


―参号機被弾まで残り1時間45分03秒 NERV本部食堂にて

 食事と言うのは意外と無音である。
くちゃくちゃと音を立てるほど、野蛮ではない人類二名が
 会話を交わす事もなくただただ、栄養素の租借して胃袋へと運ぶだけの作業をしていた。
 ヒリング・ケアは相向かいに座る刹那・F・セイエイを試していた。
 ニコニコと絵に描いた様な微笑を向けたまま、数分が経過する。
刹那は黙々と一人で頼んだ、タマゴサンドをほおばる。
口をわずかに切っているのか時々、苦み走った顔を露にするが
それでも刺激物が入っていないそのメニューの選択は最適であると当人は納得している。
無論、そんな考慮など歯牙にも掛ける気がないヒリングにとって後、数口頬張れば
刹那はゲームオーバーになる。張りつめた緊張感を忍ばせているヒリングとは裏腹
静かなら静かで事を進めるだけの刹那。両者の思惑は相変わらず平行線であった。

「まったく、ほんとダメね。あんた」
「”何がだ?”と聞く気にもならないが」
「言ってくれるわね。ま、聞きなさいかっこ、命令、かっことじ」

開口一番、いきなりダメ出しを始め、ジト目の侮蔑を込めた視線を注ぐヒリング。
そのヒリングの言葉に漏れる溜息もないのか、粛々と食事を進めている刹那。
ヒリングにとっては反抗的に見えるその態度にほぅ?と眉をわずかに上げて
よっと声を出してテーブルに乗り出し、特に見えても嬉しくない不動の胸元をちらつかせる。
無論、刹那の視線を誘導する事も感慨を抱かせることもなく
目の前で最後の一つとなったたまごサンドを掴み勝手に二つへと割いている。
その作業をじっと見つめている中、ヒリングはようやく口を開いて
いかにも上から目線で勿体ぶりながらも講義を始めた。

「女子と食事するときは30%位を目途にお互い交換して食べたりするのがいいの。
 その際、自分の好みと相手の好みを配慮したり、普段食べられない様なめずらしーもん頼むとかね」
「それはこの国の風習か?」
「明文化されてるもんでもないし、10年後残ってるか知ったこっちゃないけど
 “今どき”はこーいうもんなのよ。1〜2年で流行り廃りは変わるしね、一部の国は」

 その言葉を聞けば、刹那はいかにも不服だという感じの空気をわずかに出しつつも
 目を閉じて一度小さく深呼吸。その後視線を反らしたまま、残った半分に手をつけている。
 ヒリングもそのまま、半分にちぎった卵サンドをかじる。
 やはり、腑に落ちないのか刹那もしばらくしてジト目で見る。
 言いたいことあれば言えばぁと言わんばかりににやにやと笑い続けたまま
 刹那の視線を受け流しているヒリング。少女らしく小さい口で卵サンドを啄んでいる中
 不服さに珍しく我慢ができなった様で刹那もようやく声を上げることにした。
217代理:2011/05/20(金) 17:59:43.16 ID:???
「やはり、了解しかねる内容だ」
「あら、珍しく反抗的な態度を続けるわねぇ? 壕に入れば郷に従え。
先進的な便利さってのは人を堕落させるもんなのよ」
「それはお前、個人の問題ではないのか?
 言い訳を作って甘やかしているだけにしか見えないが」
「そうだと思っててもいいけど、六番目にこの対応を強いる事には変わりないわ♪」
「……了解した」

 一蹴。刹那の誠実かつ理性的な抗議の芽もヒリングの独善によって踏み潰される。
 情けないという感情が刹那には湧く事もなかったがそれでも不服さを腹に抱えたまま
 食事を終えようとしていた。ヒリングが食べていたシーフードのピザを一切れ刹那の皿へと置く。
 しばしの沈黙がテーブルを支配するが、ヒリングはそそくさと口元をナプキンで拭きつつも
 食後のアイスティーのグラスを傾けていた。仕方なく口を開く刹那。
 おそらく、無口な刹那をここまで饒舌にさせるという点においては
ある種の才覚がヒリングにはあるのかも知れない。
当然、不機嫌になるという付随事項もあるが当人にとっては
些細な事由である為、相当の強みでもある。無論、刹那にとってはかなり迷惑な才覚ではあるが。

「どういうつもりだ?」
「あんたの分よ? さっき言ったの聞こえなかった?」
「いらない」
「このままじゃ私はこんなケチなタマゴサンドを強奪したことになるじゃない。
 恥かかせるんじゃないわよ」
「恥と言われてもな」
「食べなかったら捨てることになるんだけど?」
「……了解した」

 刹那は引っ掛かった事はないが悪徳商法とか押し売りの類に引っかかるとは
 大体こういう心境なのだろうかと朧気に感じ入っていた。
 さすがに食料を無碍に扱うことに抵抗があったのか、刹那は最後のピザの一切れを口に運ぶ。
 散々言い倒された後であり、その前にもアリーのバイオレンスな指導が入った後だった故
 刹那は気づくことができなかった。ヒリングが笑っている事とピザの表面が妙に赤い事に。
 ピザを口に入れる、舌に乗せる、噛む、味わう。
 次の瞬間、口内に刺激と痛みと辛みが一斉に襲ってくる。
 特に口を切った切り傷にそれらは効果をいかんなく発揮して口の中でテロを続けていく。
目を見開き手にぐっと力を入れてわなわなと震えて
 おそらく、さっき貰ったピザにはタバスコを大量に注いでいたのだろう。
 いつやったのだろうか? 気にもしてなかったのだから解る筈もない。
それだけ相手に興味がなかった事に後悔し、相手に公開をしている事になった。
 ぐっと腰に力を入れながらも口を開くことができずにグラスに手を伸ばし、水を流し込む。
218代理:2011/05/20(金) 18:00:26.66 ID:???
―甘い!!!

 よくよく見たら角砂糖が溶け切らず残っていた。
 蜂蜜をそのまま口に注がれた様な甘さに悶絶しつつも
 痛みはそれでも取れず、口の中が意味不明な甘辛状態へと陥っている。
 その様子をヒリングは笑うのをこらえながらも優雅なティータイムを堪能している。
 刹那のリアクションが最高のお茶菓子なのだろうか。実に旨そうにストローを咥えていた。
 テーブルの端を握り、今にも砕かんとせんばかりの力を込め、苦悶苦節の表情を浮かべる。
 毒物などの耐性はともかく、単純な甘味、辛味への耐性など訓練を受けている訳もなく
 その衝撃の最中に忍び込まされた角砂糖への警戒など払える訳がなかった。

「ま、これにこりたらもうちょっと食事中でも相手に敬意を払うべきね?」
「二度と一緒に飯は食べない」
「あらぁ〜? ひどいわねぇ、六番目。口で言ってもわからないだろうから体で教えてあげたのよ。
 綿密に計画を立てて、速やかかつ確実に作戦を成功させたの。意外に知的でしょ? 私って」
「作戦内容の称賛よりもお前のその情熱と行動力にほとほと呆れる」
「ありがとう。もっと褒めてもいいわよ?」
「……くっ」

 椅子の背もたれに体重を預けて、意気揚々と刹那を見下すヒリング。
 刹那はその態度などではなく、単純かつ純粋に能力の方向性及び
力の入れようが極めてくだらない事への罵りを腹の中へため込んでいた。
己が全力を出してことにあたっても尚、上手くいかないことを彼は多々目にしているからである。
ヒリングはそんないら立ちも何もかもがおもしろいのか次はどんな手で
弄ってやろうかと考えている最中、耳をつんざく様な警報とアナウンスが流れる。

「使徒を映像で捕捉。総員ただちに持ち場および指定の避難区画への移動してください。
 繰り返します。使徒を映像で補足、ただちに持ち場及び指定の避難区画へ移動してください」

―参号機被弾まで残り1時間27分21秒 警報及び使徒襲来を伝達

一度アラートが大きな音をたてた後は永遠と似た様な内容のアナウンスが
 繰り返されていく。その内容にパイロット二人は緊張が走る――こともなく
 刹那は落ち着いたまま、ブツブツと言われた内容を復唱、反芻しに
ヒリングは意気揚々と右手で拳を握り、左手のひらに打ち付けていた。
放送も終わり、ほかに残っていた職員達も各自の行先に移動する最中
刹那はふと、思いついた様にヒリングのほうを見る。

「さーって、いよいよ本番ね」
「ひとつ言いたいことがある」
「あら、こういうタイミングでいう告白なり、願望は死を引き寄せるわよ?」
「知ったことか。それより戦闘中ああいう悪ふざけはやめろ」
「へ?」
「正直、お前にはそれほどまでに信頼と信用がない。
 だから、最低限の確認をしておきたい」
219代理:2011/05/20(金) 18:00:57.54 ID:???
何を言い出すのやらと、取り合えず死亡フラグをつぶしている中
続く刹那の言葉にヒリング唖然とする。正確にはそういう人物であるという認識は正しいのだが
そこまで心配し、わざわざ口に出すという刹那の行為に唖然とした。
生真面目というより本当に冗談とかそういうモノの分別がつかないのだ。
ありえなかった。目の前の人物はド田舎の世間知らずではなく
本物の戦争馬鹿なのかも知れない。ヒリングの記憶の中に
確かそんな本物の戦争馬鹿をどこかで知っていた記憶がわずかに浮かぶが
それすらもどうでもよくなる位に刹那の真剣な顔に衝撃を受ける。
刹那も刹那でヒリングが何故固まっているかも理解ができていない。
奇しくも生ぬるい空気と微妙な沈黙により二人とも意味不明な落ち着きを強要されていた。

「……それってヤレって振り? 流石の私でも
戦闘中に悪戯しろってのは要求難易度高過ぎだわ」
「違う。そういう悪ふざけではない」
「あはははははっ、そう! マジなんだ。やっぱ六番目! あんた、面白いわぁ」

 半ば、半信半疑のまま、尋ねて確認するもやはり本気だということが解る。
 その返答により文字通りの抱腹絶倒。規格外の運動神経の持ち主であるヒリングが
椅子の背もたれに手を掛けねば体のバランスが取れない位の大笑いをしている。
当然刹那も憮然とはしているが今は個人的感情よりも確認と持ち場に向かうのが急務と考える。
まして、今回から戦闘に参加するであろうヒリングとわざわざ置いて行って後から合流するのは
今日及び日頃の行動から明らかに不利益が被る事であるだろうと刹那は学習していた。
はたから見れば、ヒリングの大笑いを棒立ちで観察する刹那という極めてシュールな光景なのだが
他職員達は特に突っ込みを入れる余裕も注意する度量も持ち合わせて居なかった様だ。

「じゃ、戦闘前の最後の悪ふざけにするわね。
えーと待機場所まで競争! 負けた方が次の機会にランチを奢ること!」
「なに!?」
「よ〜い、ドン!」
「くっ、勝手に約束を取り決めるな」
「この国には“言ったもん勝ち”って言葉があるのよ。
 文句いう暇あったら私を追い抜いて先に着けば良いじゃない?」
「くっ」

ヒリングは笑い過ぎて涙が出そうになっているまま、ヒーヒーと息を整えた後、素面へと戻る。
素面とは文面通りではなく、何か思いついた模様で平静を装っているのが正確ではある。
 とんとんっと軽くつま先で地面をたたいた後、少し前傾姿勢になり突然の競争宣言。
 ドン!のセリフと共に一気に走りだす。相変わらず無表情だが驚愕という反応は帰す刹那も
待機場所へ早急に向かうという利点は理解出来たのか少し遅れて走り出すことになる。
避難、持ち場へと戻る職員達とぎりぎりですれ違い、怪訝な顔をされたり
 怒鳴られたりもするが二人ともそれが耳に届く事もなく
(そもそも、刹那にとって怒鳴った日本語を聞き取り、意味を理解する事も難しく)
待機場所へと二人で駆けて行った。ちなみに刹那がどっちにしろランチに付き合わされるのが
勝っても負けても同じだということに気付くのは大分先の話である。
220代理:2011/05/20(金) 18:01:31.91 ID:???
―参号機被弾まで残り1時間04分11秒 NERV本部作戦会議室にて

 正八面体の水晶の様な半透明のガラス細工。手のひらサイズであれば雑貨店で
 いくらもしなさそうなその正体不明の浮遊物は巨大でありつつ尚、悠然と空中を漂っていた。
 一見、大気の流れに流されているだけかの様に見えたそれはまっすぐに、そして確実に
 約束された地へと向かっていた。人類は武力という名の接触会話を試みるも
 全て拒絶の壁、ATフィールドにより無視を決め込まれている。
 雁首を揃えるのは情報をまとめるオペレーター、青葉シゲル。
 技術屋および科学者からの立場にある開発責任者伊吹マヤ。
 現存戦力及び戦術から現場での陣頭指揮を執るアリー・アル・サーシェス。
 幹部候補生として政治的及び事務的に内容の可否を検討する日向マコト。
 そして、この度新しく加わったのが戦略的観点から作戦立案を決定するスメラギ・李・ノリエガである。

「さて、どんなびっくり箱かね今回の奴はぁ。俺もさすがにこりゃわかんねーや」
「形状から見れば、言葉通りの箱ですね。光学兵器の反射位はしそうですが」
「ノリエガさん、戦術予報士としてご見解は?」
「ぇ? あ、はい。そうですね」

 最初に口を開いたのはサーシェスであった。人以外を狩る経験が全くない訳ではない
 彼ですら正直、宙を浮かぶ正八面体の対処と言われても対処には戸惑う。
 故に意見を求めるというギブアップ宣言と共にインテリ連中の言葉に丸投げを決め込むことにした。
 その軽口に青葉も乗る。五名中二名のリタイアにより
三人寄って文殊の知恵を絞らなければならなくなった。
最初に話題を振られたのは新参者であるスメラギ。数分前に見た光景の影響からか
やや、自信なさげに言葉をつづけていく。それを少し煽り立てようと日向は言葉でせっつけば
なんとか饒舌になり理論らしい理論を並べ始めた。

「なんとも言えませんが今まで報告が上がっている第三〜第六使徒の傾向を合わせてみると
 対象は驚くほど構造がシンプルに見えます。外見上ですが」
「ふむ。まぁ、僕らの目で見てもそれは解りますが」
「つまり、あの形状はあれで完成しているという事です。手足、触手、触覚、眼球もない。
 報告に上がっている第三使徒の様に何かに寄生するタイプとも取れますが
 なら、巨大さを必要としません」
「寄生すんなら小さいまま、もっとでかい奴か使えそうなのにするってか?
 幸い、途中でやられたエヴァ用の装備とは似ても似つかんみてーだしな」
「そういうことです。現に第三使徒は専門家であるNERVですら活動開始まで見抜けませんでした。
 それよりも悪い手を相手が打つとは……っと、いえ。その」
221代理:2011/05/20(金) 18:08:51.02 ID:???
 スクリーンに映し出されるのは移送中に壊滅させられた船団。
 見るも無残な海の海蘊と化して、使徒の襲来を教えてくれた鉄くずである。
 続いて変わる画面は二年前に松代の実験場を襲撃した第三使徒
 正確には汎用ヒト型決戦兵器 試作零号機以外は化け物と呼ぶに相応しいグロテスクであり
 生物的なシルエットを模した使徒であった。故に今回の使徒は一線を駕する。
人工的に見えて、意図が見えない。先日、せん滅し、解体、解析を進めている
第五使徒は中身や意図は別としてある程度生物としての傾向は解析は出来ているのだが
それらのデータを照らし合わせても尚、文字道理のブラックボックスにこの使徒は該当していた。
スメラギの言葉はそのまま、第三使徒へと言及する。唯一の寄生タイプであり
当初、輸送中のEVA用の装備を襲撃している事からそれへの寄生が言及もされていたが
形状があまりにも異なるので既にその推測は取るに足らないものであった。
途中でアリーとスメラギだけの会話になっていることに遅れて二人が気づく。
第三使徒襲撃の当事者である日向、マヤ、青葉の三名は沈痛な面持ちでいた。
そのリアクションからようやく、スメラギは当時現場に居た人間でありながら
配慮が足りなかった事、サーシェスはセンチメンタリズムに浸っているお役所連中の
温さに呆れかえるというリアクションを返すことになった。

「気にしなくて結構です。二年前の使徒襲来により、我々の落ち度で零号機を始め
貴重なモノを数多く失ったのは事実ですしね」
「ああ、古傷の舐め合いはどーでもいい。で、そこから導くもんは何d――あ、えーと何かね?」
「簡潔にかつ感情的に言うなら、“自信“です。相手に感情があるか分りませんが
 あの大きさでかつ、応用も必要とせず、特定の手段に絶対的自信を持っている。
 むしろ、それ以外を捨てている可能性が非常に高いです。
 故に手も足も何も要らず、ただ浮かんで近づく体の構成でよいと判断している。
 だから、我々としては相手のその自信ある一手を探る必要があると考えます」
「ぁー。そりゃ、不味い。大変不味いな」

 大きく咳払いをして、仕切り直しを演じるのは日向。
 それに同調してそろそろ猫を被るのが面倒になったのか、頬杖を突きながら
 スメラギの言葉を引き出そうとするサーシェス。動揺して宙空を彷徨っていた視線が
二人の男の喝によりなんとか安定し、大きく深呼吸をし直して舌を躍らせるスメラギ。
その意見にはやや怪訝気味に受け取るサーシェスは視線を僅かにずらす。
今までの化け物相当、それは寄生された零号機含みある程度対処も出来た。
それは使徒という存在が所詮、獣の延長に過ぎなかったからだ。
獣を狩るという視点で見れば、いくらでも遣りようがあるし応用も利く。
しかして、今回の敵はプログラムや機械に近い。おまけに戦術予報士の言うことを信じるなら
一芸に秀でた強力な攻撃、防衛手段があるという事になる。確実に損害を被り
戦術の限界が見えて、おまけに尻尾を巻いて逃げる事も出来ない作戦。
手駒は三機、どれも貴重で一機やられるだけで損耗率30%を超える。
戦争屋としては非常にモチベーションの下がるシチュエーションであった。
222代理:2011/05/20(金) 18:15:13.16 ID:???
「伊吹一尉。今の意見を受けて、敵の形状から推察される攻撃手段は?」
「そうですね。具体的には解りません。ティエリア君からもヴェーダは回答保留と報告を受けており
 移送中だった船団もろくな報告も出来ずに殲滅させられました。
ですからこれは推測になりますが恐らく遠距離か近距離の極端な射程と考えます」
「根拠は?」
「先ほどの言葉を借りるなら、応用が要らないという事は
 それが必要と想定している以外のシチュエーションでは何もしないという事です。
 現に道中の戦略自衛隊の攻撃には一切反応を示していません。
 となると考えられるのは接近される前に排除するか、された後に排除するか。あるいは両方か」
「ATフィールドの力と強度だけを頼りにひたすら突き進むってのは?」
「各自使徒が力を増している傾向にある事から、情報や知識、経験をある程度は
共有、引き継ぎしている可能性があり、中和される懸念は想定されていると思われます」
「相手も学習してるってことはあり得る訳か。
 形状の違う化け物が寄ってくるってシチュエーションじゃねーからな」

 議論を止めない為にこの場でおそらく一番頼りないであろうマヤの意見も一応引き出される。
 続く言葉を聞くだけでげんなりとした空気が包まれる。
 青葉の追加された質問が更に重みを増して今にも底が抜けそうになっていた。
 結局行き着く結論は変わらないし、他にまともな手段が見当たらない。
 スメラギも先ほどから頭を捻らせてはいるがどうにも時間と実証データ、いろいろな物が足りない。
 では、足りないというとやはり調達しなければならないのは必然である。
 その必然を然りと受け止めてどうするかといわれると結局は子供の乗るあの巨人に頼るしかない。 

「で、大の大人が雁首揃えて出す結論は一つか」
「そういうことになりますね」
「司令にはいい顔をはされませんが、仕方ありません」
「すいません。あまり役に立てず」
「まぁ、スメラギさんは今日が初日の上にまだエヴァの力を把握してませんからね」
「戦力が解ってない指揮官の戦略なんてろくなもんじゃねぇからな」
「では、私は新武装の調整を急がせます。上手くいけば、今回実戦投入可能になりますから」

 溜息交じりになりつつもスクリーンには以下の文章が浮かび上がり、全員の承認が得られた。

“戦略提案:EVA各機による複数射程からの威力偵察”

 末席ながらも承認を押したスメラギの顔は鎮痛であり、浮かなさを通り越して欝にすら見える。
 一応、男二人青葉が慰めをするかの様なフォローを加えつつもサーシェスは冷水に等しい一言で
 場を沈め返す。その様子を見かねて、行き先が違うマヤだけはひとり足早にその場を後にする。
 文殊どころかもはや、ただの子供に丸投げに近い戦略(笑)により、戦力が投入される事が決まる。
それも司令からの承認を得て実行。碇ゲンドウはその際、眉一つ動かさなかった。
223代理:2011/05/20(金) 18:26:55.27 ID:???
―参号機被弾まで残り33分10秒 NERV本部、パイロット控え室前ロビーにて。

 ハンガーへと続く待機場所。ロッカールームを出たすぐの場所に遅れて
 やってきたフェルト・グレイスは何故か軽く息を切らしている違和感のある
刹那とヒリングに会釈をした後、あわてた様子で、青色のプラグスーツへと着替えていた。
それが終われば待機場所へと戻ると黒と白のスーツをすでに着込んでいる二人は
息を整え、ストレッチを始めていた。久方ぶりの実戦ともあって緊張の渦へと溶けていた記憶が
ようやく再稼働をし始めたのか、そういえば二人が連絡もなしに休んでいたのを今更思い出した様で。

「ん。二人とも本部に来てたんだ」
「ああ」
「ま、サボったのバレて呼び出されたのがほんとのとこだけどね」
「ケアさん、先生怒ってたわよ。セイエイ君まで巻き込んで」
「ゆーとーせー気取れるほど私は一山いくらの他人に興味ないの。
 こいつひとりのがよっぽど面白いわ」
「報告すまない。それについて処罰はもうすでに受けている」
「そう」

 わずかな良心からか教員の怒りを軽く伝言をするが敢え無く一蹴。
 今更言われたところでヒリングの思考と態度が変わるとはもちろん言った本人である
 フェルトも思ってはいなく、返される言葉もこちらも軽く聞き流す。
 刹那は妙な距離感を不思議に感じることもなく、黙々と体を動かしていた。
 刹那もそうなのだがもヒリングも中々、引き締まった体である。
 二人と相対すると自分の体が一般人の範疇に納まっているのが若干引け目に感じるのか
 こちらも申し訳なさげにストレッチを始めるフェルト。
 ヒリングが黙っているとやはり、会話が発生しないのか若干空気が重くなる。
 耐えきれなかったのか、単純な興味なのか本人の心中は計り知れないが
 意外にもフェルトから刹那へと声を掛け始めた。流石にEU圏の人間だけあって
 英語は流暢であり、刹那にも聞き取り易い様にゆっくりと
 安易な単語と文法を選んで話している。

「何してたの?」
「ん?」
「午前中。会話がその、えーと、長く続く様には見えないから。
まぁ、ケアさんが一方的にしゃべってそうだけど」
「そうか。安心した」
「え?」
「あいつが五月蠅いと感じるのは俺だけじゃないという事だ」
「ま、まぁ。静かではない……かな? 私も一時期毎日引っ張り回されてたし」
224代理:2011/05/20(金) 18:40:21.54 ID:???
 しどろもどろなのが幸いしてか単語が途切れ途切れに聞こえるおかげで
 刹那は非常に言葉が返しやすかった。だが、返される言葉にフェルトは意外そうに驚く。
 あまり、印象が良くないというより最近では校舎裏で一悶着起こしたり
 魚の頭をかみ砕く印象が強い中、意外と冗談めいたというか
 軽い話をするのだということへのギャップ。
 青あざなどを見て、さっき言った処罰の一環を垣間見る中
 それとは別に何か肩の力が抜けたかの様な悪く言えば脱力感
 よく言えば雰囲気が柔らかくなっている印象を感じていた。
 二人が英語で話を進めていれば、やれやれといった具合でヒリングも
 当然の如く、会話に混ざってくる。此方も言語を英語にしての会話。
 フェルト程の配慮はないが十分流暢に聞こえるレベルである。

「二人とも露骨過ぎてくしゃみも出ないわ。
五番目。こいつ無口っぽいけど意外とどーとでもなるわよ?」
「そうなの?」
「お喋りが好きという訳ではないがそもそも必要なこと以外喋らないというか喋れない。
こいつは不必要な話すら言語を合わせて無理矢理喋らせる」
「六番目ぇ〜? 言語の壁ごときで私の暇つぶしを止められると思う方が間違いなのよ」
「そういえば、そうだったね。流石にこの短い期間じゃ無理か」

 やれやれと言った具合に肩をすくめたまま、呆れた表情で二人を見るヒリング。
 フェルトもいきなり振られた話題ではあったが少し複雑な表情を見せていた。
”あの取っつき辛い印象の刹那との会話をこうも簡単に言ってのけるというのは
 やはり、才能なのだろうか?”おぼろげに感じていた中
ヒリングの自意識による誤認という可能性が続く刹那の言葉によって否定される。
当人は無表情ながらも精神的な疲れを一時伺わせる声色と態度であり
おおよそ、午前中どの様な心労を受けたのかは経験のあるフェルトにも手に取る様に解った。
続く自信に満ちたヒリングの言葉にはどこか頼もしさすら感じられる程で逆に関心してしまう。

「そして、あんたらのその“そこらへんの力の入れ具合をもっと別の事に”って無言の意見は
 今日の実戦で証明されるから、ますます私の魅力に磨きがかかる訳ね」
「い、いや、別にそんな事は」
「結果が出せるならな。自信があろうが無かろうが敵をせん滅出来なければ無意味だ」
「言ってくれるじゃない? 五番目もこの位ドライになっときなさいよ?
 めそめそしたところで結果がよくなる訳じゃないんだから」
「う、うん」

 ヒリングの言葉にフェルトはドキッとしながらもあわてて視線をそらしてその意見を肯定する。
 ニシシッとその慌てぶりを堪能しつつも最後のストレッチを終えて軽く髪をかきあげる。
 刹那はその様子を特に意見をすることもなく傍観しており、最後に一言ちくりと言葉を刺す。
 意外だった。緊張するモノだと思っていたし、以前の事故の一件からヒリングも
 もっと前のめりにピリピリした空気で意気込むかと思っていた。
 自分はじっと震えながら、死の恐怖と隣り合わせになり、強い二人は黙々と戦いに備えている。
 きっと、そうなるとフェルトは出撃前にイメージを巡らせていたが現実は違った。
 まるでここが学校の教室の様に感じられるほどの雰囲気にフェルトはいまだに信じられなかった。
 そして、その虚構とも思える空気を現実へと引き戻す役目は適任かつ的確な声であった。
225代理:2011/05/20(金) 18:44:19.45 ID:???
「おーっし、お前ら。出撃準備だ。各自、配置及び武装の説明に入る。一回で覚えろ。いーな?」
「了解した」
「はぁ〜い」
「はい、解りました」

 スピーカーの先からアリー・アル・サーシェスの声が響く。
 各々が声を上げてそして、決意を固めようとする。率先して応える刹那
 自分のペースで適当な返事を返すヒリング
 そして、最後に弱々しい意思を無理矢理絞り出すかの様に声を上げるフェルト。
 三者三様の少年少女が緊張と共に表情は戦場の空気へと呑まれていった。

―参号機被弾まで残り21分48秒 第三新東京市郊外芦ノ湖沿岸にて

 市街のビルのガラスに青々とした正八面体のシルエットが描かれていく。
 その直下、地下に運び込まれている巨人が高速で押し出されると同時、八面体の上下を隔てる
 黒いラインに僅かな光が見え、徐々にその光の点滅が加速するのが望遠のカメラから確認される。
 警報とともに内部の熱量が上がったことから敵の攻撃準備を確認。
 敵はEVAが見えている。熱か、生命反応か、それともATフィールドを感知したのか。
考えられる事は多々あり、議論と推察の必要性は十二分にあるが、時間はそれを許してくれない。
おそらく、EVAの出撃と同時に攻撃が開始されているのは司令部の誰が見ても明らかであり
突然のことで慌てふためく中、サーシェスは一人冷静に策を考え実行を決断する。

「青葉、リフトのストッパー解除!」
「え?! は、はい!」
「ソラン! 気合いで避けろ!」
「了解した」
「いつでも障壁が展開出来る様にしておけ! 前々回の奴よりも大分使い回す事になる!」
「解りました!」

 怒声に近い指示が飛ぶ。内容は極めて無責任。某服の収納に収まる怪物使いの少年の様である。
 リフトのストッパーが外されたまま、カタパルトを駆ける参号機。
 それが地下から射出されると同時、八面体は変形し、薄い板が折重なった様な形状へ。
 それと同時、中央の紅い光球からは閃光が光り、参号機の胸元へとそれは届き
 EVAの胸元にある光球を焼き潰す予定であった。

―が、それは当たらない。

 ストッパーが外れた事により、参号機はそのまま射出され直上の青空へと放り出される。
それにより、射出されてとどまる筈だったカタパルトの残骸は飴細工の様に溶けて、爆散する。
使徒は照準を落下地点へと定めようと再び割れ目に光を移動させる。
が、黒煙の立ち込める中、一本の巨大な日本刀が地面へと突き刺さる。
それにつけられた文字通り紐付きの巨人はその投げられた刀の方向に
引っ張られて、そのまま側転、着地をする。その動作が予想できなかったのか
使徒の加粒子砲はむなしく空を焼くだけに終わった。
使徒は再び狙いを定めて光を放つが半月を描くかの様な
参号機の切り払いにより目の前で散らされ、そのまま息を吐く間も無くビルの影へと駆けていく。
出力が小さいとはいえ、その光景には司令本部にも驚きの声が上がった。
226代理:2011/05/20(金) 18:50:38.49 ID:???
「中々、反則的な性能ね。あの武装は」
「GN粒子拡散で圧縮粒子を云々って説明は可能ですが現実で見ると流石に」
「敵は粒子砲による射撃をメインの奴っぽいがあれ一本って訳でもねぇだろ。
 四号機出撃! ソラン、相手は要するに電気をぶつけてくる。電気より早く動け!」
「了解した」

 戦略および事前準備のタイムラインに仕事をするスメラギは
現場の光景を固唾を吞んで見守る。使徒も動揺などを感じるそぶりも見せずに
再び粒子を加速させている状態に移行する。参号機はビルの影から刀を大きく振りかぶり
使徒に対して、大上段からのまっすぐに切りかかる。金属音に近いこすれる音と共に
ATフィールドが視覚化される。参号機の手に持つGNマゴロックスが帯びていた
緑色の粒子がさらに出力を増し、じゅくじゅくと浸食をするが
それでもまだ、使徒のフィールドは破れない。続く使徒の射撃。
参号機はバック宙返りに加えて、ちょろちょろとビルの谷間と路地を縫って参号機は逃げ回り
サーシェスと青葉の連携による耐熱隔壁が時間を稼がせる為、波を作る様に展開されてくる。
ATフィールド中和および、GN粒子による侵食の度合は悪くはないのだが
GNマゴロックスはあくまで刀剣部分の保護と強度に粒子を使っている為
ATフィールドを切るという能力はあくまで通常兵器よりマシというレベルである。
それでも刹那は相変わらずのサーシェスの戦術指示という名の無茶ぶりをこなしていた。
そして、その無茶ぶりをこなす最中、別方向からの弾頭が使徒を襲う。

「はぁーい♪ 真打登場ぉ。暫く、弾幕貼るから当たんじゃないわよ?」
「了解した」

音声とワイプ画面から四号機とそのパイロット、ヒリングの参戦が刹那に確認される。
銀色のカラーリングがビルのガラスの光の反射も相成ってパイロット同様異彩を放っていた。
武装は巨大な肩掛けのバズーカ砲左手側にかけ、片手で持てるハンドバズーカを逆手に持っている。
肩掛けの方のバズーカ砲の弾頭は直径1mを優に超えるサイズであり、
弾頭が再び使徒のATフィールドに命中、爆発。辺りに熱風を立ち込めさせるが
それもさしあたって効果なし。程よくビルと周辺の車やインフラ設備を吹き飛ばすだけに終わる。
だが、それでも弾幕は止まらない。肩掛けのバズーカ砲の装填時間をハンドバズーカで埋めて
弾切れになったらビルの中に収納されている予備弾倉に手を掛け
また、ハンドバズーカも捨てては予備へと持ちかえる事によって
その合間も執拗な斬撃の連打に休む事なく、参号機と四号機で攻撃を続けていた。
吐き出される薬莢と殻になった弾倉が周囲に止まっていた車や信号機をへし折りつつも
ヒリングの砲撃が止まらない。それに加勢するかの様にビルが変形し、中からはミサイルの雨が
使徒に対して降り注げられる。刹那は一旦障壁を盾にしながらも避難。
使徒の砲撃はそれを追う予定ではあったが、立ち込める煙とムラのある熱量に圧倒されていた。

「米軍のMOAB(Massive Ordnance Air Blast bomb)もダメかぁ?
 あんだけぶち込んだのに今回のは堅ぇなぁ!?」
「法案でねじ込ませたのも徒労ですかね」
「ま。使える武器が少ねぇよりは良い。うし、ヒリング、ソラン!
 二人とも適当にそいつと遊んでやれ。こっちは別の手を準備する」
「了解した」
「ぁ〜い」
227代理:2011/05/20(金) 20:02:43.61 ID:???
頭をかりかりと掻きつつもサーシェスは画面越しの使徒の守りにやや呆れ気味に見つめる。
 別の意味で単純に湯水の如く武装を消費している使徒との戦闘にスメラギは唖然としていた。
 使徒の危険性については事前に聞かされており、また2年前に身を持って体験していたとはいえ
 現実に国が、世界がそれを倒す為の力を行使するという現実に驚嘆していた。
 少女が消費し続けている弾頭は一本幾らするか考えるだけで予算の潤沢さに卒倒しそうになる。
 弾幕を張りつつも刹那はその合間合間で、強固なATフィールドを蹴りつける。
 当然、それは突き破るに至らないががこっと音を立ててその反動で飛び退く。
 その隙に再び弾頭が襲っては来る。二人相手に完全に後手に回っている使徒は
 形態を変化、周囲へとシャワーの様に粒子砲を浴びせかけてくる。

「二機の前に障壁展開!」
「は、はい!」
「おぅ、露払いも出来るってか。芸が細かいねぇ」
「あー、もぅ! これ使えない! 五番目、銃ってのはこー使うのよ!」
「あぁーあ。別にその辺に捨てれば良いのに」
「俺らの命と守ってるモンよりは安ぃんだからいいんだよ」

 ヒリングが撃ち続けていた弾頭は途中で爆散、爆風に吹っ飛ばされそうになる中
 同時に障壁の展開によりなんとか秒数を稼ぐことが出来た。
 ひるんだまま、バック宙返りで距離を取るが先程の射撃により
 バズーカの先端が軽く溶けてしまう。ヒリングの舌打ちと共に四号機は
 大きく振りかぶってへしゃげたバズーカを投げつけ、ブーメランの様くるくると回転しつつも
 使徒のATフィールドにぶち当たり、鈍い音を響かせる。
 ソコに追い打ちをするかの様に四号機の肩から射出されるニードルガンが撃ちこまれ
 バズーカは弾数を数発を残したまま使徒の目の前で爆散。再び爆風と共に地面を凹ませるが
 それでも尚、使徒のATフィールドを突き破る事はできなかった。
 予想以上の強度、頑強さに司令部の誰もが口を開くことができなかった。
 そして、スメラギはその少女の対応及びそれを任せている事実と
 サーシェスと青葉の言葉にも思わず二度見をするほどの衝撃を受ける。

「青葉、伊吹一尉につなげ」
「はい。伊吹一尉への回線開きます。ティエリア、伊吹一尉は?」
「なんですか? まだ、GNショットガンは調整が終わっていませんが」
「暴発してもいいから、それの配備を急がせろ。本格的にやべぇみてぇだしな。
 そう開発主任代理に伝えな」
「了解した」

 青葉へ軽く一言ともにワイプ画面にまずティエリアの顔が浮かぶ。
 その背後にはマヤが陣頭指揮をとっているのかせわしなく声を上げて
 あっちこっちに指示を飛ばしているのが目に見えた。
 ティエリアはサーシェスに言われたままの言葉を伝えると慌てて画面のある位置へと向かう。
 その表情には焦燥と不安と嫌な予感を漂わせていたが口を開き始めれば
 その勢いに任せるかの様に早口で確認と現状の把握に努める。
 ティエリアは指示があることを見越して、既に後ろで搬入作業を進めている。
 巨大な銃が背景にちらりちらりと映る。何やらコードを繋げるプラグソケットがある以外は
 そのままのデザインで巨大化されたショットガンであった。
228代理:2011/05/20(金) 20:18:03.35 ID:???
「GNマゴロックス、MOABでもだったんですか?」
「そーいう事だ。守りも火力もやべぇ、正に鉄壁の空中要塞って感じだ。
 初号機の砲撃が失敗、そっちの奴が使えない場合、最悪自爆特攻か一旦出直しだ」
「……っ! 分かりました。急がせます。それと私も司令部に戻ります!」
「ふん、勝手にしろ。こっちはブツさえ上げてくれりゃいい」
「じゃ、ティエリア君。後は頼むわね」
「……まったく。解りました」
 
 油断していた。マヤは前回の戦略的な評価ではなく技術的な評価による自尊があり
 更には新たに追加、承認された通常兵器と四号機の参戦。
 それらをもってすれば勝てるという根拠のある楽観視が油断をさせていた。
 参号機一人でも事足りていた前回、それは自分が手配した武装と刹那の実力。
 その半分でも携えたという実感がこの男の無慈悲さへの認識を甘くし
 再び、少年少女の命の軽視が現実味を帯びてきていた。
 マヤは許可を取る事無く、司令部への戻る事を断言し
 ティエリアと現場に指示を残した後、ろくに荷物を持たずに司令部へと走っていく。
 ティエリアは説得と説教をする時間も惜しいと判断し
 当初の計画を早めた通りに現場を指揮していた。
 悲しき幸いかな、マヤがいても居なくても現場は動いていた事実があった。

―NERV本部司令部にて:参号機被弾まで残り3分12秒

 司令部へと走り、到着したのはざっと十分ほど。息が切れながらも
 マヤは目の前の巨大なスクリーンに映し出されている光景に目を疑った。
 そこには未だに襲来した使徒と白兵戦を続ける、参号機と四号機の姿があった。
 両機ともに表面の装甲は既に何か所も焼け焦げ、煤がついている。
 GNマゴロックスで幾度となく切り掛かっては弾かれる参号機。
 四号機も手にはそれを更に脇差程度の長さに小型化されたGNマゴロックスを両手に携え
 何度も切りつけて逃げるのを繰り返していた。二人のちょこまかした動きに
 使徒は翻弄されている様に見えたがそれでも現状は圧倒的に不利である。
 いくら二人が切り掛かった所で未完成品のGNマゴロックスではATフィールドを貫く事は出来ず
 消耗する一方だった。それと同時に隔壁の数も心もとなくなり、何枚かは収納出来ずに
 悠然とその場で立ち尽くしていた。それはまるで二人に向けた巨大な墓標の様にさえ見えた。

「粒子砲相手に格闘戦を続けていたんですか!?」
「ああ。要はあれは照射時間が長くねぇと意味がねぇ。浴び続ける事に意味がある。
ずどんと一発くらって内蔵やられる弾丸と違って、熱した油と一緒だ。ちょっとなら我慢すりゃいい」
「その調子でざっと10分ほど動き回っています。常人離れしてますね、あの子達は」
「体力的には座ってるだけですからね。後は集中力とこっちの耐熱障壁の数の問題です」
「私も正直、ずっと見てましたけどこれは」
「ソラン! 気抜いてると吹っ飛ばされるぞ! 」
「……了解し……た」
229代理:2011/05/20(金) 20:42:06.35 ID:???
 驚嘆の叫び声と共に事実が羅列されれば、それはにわかに信じがたい現実が映る。
 マヤが技術部から移動する間、二人は何度も蒸発の危機に合いながらも戦い続けていたのだ。
 青葉はもはや呆れを通り越して絵物語の様にそれを語り、スメラギは視線が泳いだままだ。
 これが初戦であり、初見であり、初日であるスメラギには現実が現実と認識できない程であった。
 そう会話が交わされる最中、参号機の右足が蒸発しかける。
 力が切れつつある状態である事は誰の目にも明らかであり、疲労の色も見える。
 それでも足を止めることはなく、両機は動き続けており、サーシェスは刹那に
 無慈悲な一喝を浴びせれば、それでも返事を返す。マヤはその間思わず目を背けて
 ぎゅっとまぶたを閉じていた。恐る恐る目を開けたらまだ生きている。
 それが幸いであり、恐怖であり、それに愕然とする。マヤは着いたばかりだが
 ここに居る他の全員がその恐怖を10分以上見続けているのだ。

「ま、それもそろそろ終いだ。ようやく小娘の準備が整った」
「初号機、配置及び武装装備完了しました」
「うし、発進だな。ま、こそっと撃ってさっさと終わらせろ」
「了解しまし……た」

 その号令と共にはるか遠方の山が動いた。木々に囲まれた中、そこだけ人工的に窪ませた塹壕。
 コンクリートで固められており、何やら影崩れが起きたかの様に地面が動く。
 土色と上には人工の緑の木々を絡めた巨大な布の中に初号機は埋没していた。
 前回の戦いから初号機パイロットのフェルトに戦闘のセンスは認められないことから
 新たに考案された運用法がこれである。狙撃銃を担いで移動各々ポイントから隠れて
 遠距離から強力な一撃を加え、見つかったらとっとと逃げつつも再び狙撃をする。
 EVAという巨人を運用することで、巨大な火力を手軽に持ち運び塹壕施設をATフィールドで守る。
 一度やられたら再び補修しなければ使えない遠隔砲台と違い、効率的な運用を目指すそれが
 まさかこんなに早くも実戦で使われるとは思いもしなかった。

「2年掛けて開発にこぎつけた陽電子砲、発電所数個分の電力をくれてやってるんだ。
 それなりの結果は出してもらわねぇとなぁ」
「っ! 解ってます!」
「うし、滅れ」

 蒸気とバチバチとした音が巨大な布の中で混ぜ返し、不快指数を高めていく。
 EVA初号機の目の部分に備え付けられた遠隔カメラは巨大な銃へと何本もコードを繋がれている。
 変電装置や送電装置のタービンが唸り、震えて山全体が震えているかの様な感覚を与える。
 異質な気配に使徒も感づいたのか、先ほどと形態と気配を変える。
 細長く回転する水晶を初号機の方向へと向けてそれを支える様に宙空では後ろに四角形を重ねた
 水晶を展開。いかにも火力を集中させますといった形態に司令部に緊張が走る。
 サーシェスは程良く弱気になっているフェルトに対して皮肉を込めた喝を入れれば
 珍しくむきになってフェルトも言葉を返してくる。クリスはそのやりとりを意外そうに眺めていた。

「ちっ、勘がいい。障壁展開!」
「障壁展開します、ってぇ!? 参号機障壁側に移動を確認!」
「援護に回る!」

―参号機被弾まで残り31秒

「ぁ? 盾になるってか? ふん。まぁ、いい。ヒリング! お前は敵を誘導しろ!」
230代理:2011/05/20(金) 20:46:22.36 ID:???
 他の障壁とは違い、蜂の巣の様に金色の六角形が連なっている特殊な障壁が射線の途中に出る。
 それは光を弾く様に反射させていく中、加粒子砲の直撃に耐えていくが程なく融解。
 しかし、その後ろへと飛び込み、壁の裏に控えていた参号機が立ちはだかる。
 垂直に立てられるGNマゴロクスの峰に左手を添えて、相手の加粒子砲を割る。
 緑色に発色、発行する刀身から真っ二つに左右へと流れていく加粒子砲。
 左右に別れたそのエネルギーは第3新東京市のインフラを焼き付けていくが
 あちこちと装甲は溶け、焼け焦げている参号機一機が悠然と刀を構えたまま立ち尽くしていたでいた。


「すまない、これ以上は動けない」
「参号機、損傷大。こりゃ、立ってるだけでも奇跡ですね」
「ナイス、六番目! 私がケリをつけてあげる♪」
「ATフィールドが割れた?」
「攻防同時ってのは無理だという事でしょうか? 攻撃に比重が回る形態は守りが弱くなると」
「チャンスだな。両機攻撃、初号機は狙撃ぞっこ……なっ!」

 使徒が加粒子砲を撃ち終えたにも関わらず参号機はその場から動くことが出来なかった。
 機体にはじゅぅっと言う音と共に焼け焦げた異臭と溶けた装甲がこびりつき
 腕をあげることすらままならない。しかし、参号機は既に仕事を終えた。
 それと同時に斬りかかるヒリング。小刀を突き刺そうとすれば、それが大きく音を立てて
 薄い布の様に今まで難攻不落であった使徒のATフィールドを引き裂いていく。
 同時にもう片手であった小刀がそれを浮かんでいる水晶体に突き刺せば
 使徒は雲丹の様に水晶を展開。慌ててそれを後ろへ飛び退く。数十分及死闘の末に
 ようやく使徒に一撃を入れれた事に歓喜の声が司令部に湧いた。
 照準を向けられて思わず目を背けてしまいそうになるほどの緊張に達していたフェルトも
 再びトリガーを握りなおして、充填と照準のじりつく時間を耐える作業へと戻る。
 が、それもつかの間、使徒は雲丹の様な形態から一点、再び形状を変える。
 その姿、形は司令部全員の背中に戦慄を這いずり回させた。

「アレって」
「粒子が紅くなってるけど」
「馬鹿な、GNドライブだと!?」
「パターン緑! 敵使徒が内部で加速させているのはGN粒子です!
 熱量、エネルギー量は先程と比べ物になりません!」
「小娘! 撃たれる前に撃て! 早くだ!」
「解ってます! まだ、ロックが! ……来た! 撃ちます!」

 使徒の形は円錐に切れ目の入った形状に先ほど動揺細長い水晶が射線軸に回転している。
 先ほどと違う点は円錐の切れ目から紅い色の粒子が駆け巡り圧縮されているのが確認される。
 そう、それはEVA四号機に搭載されている量産型GNドライブをそのまま巨大化させた様な形。
 紅い粒子をまき散らしながらも参号機とその射線の先の初号機を狙っていく。
 参号機は動くことはままならない中、再び刀身に粒子を纏わせて受けて立つ模様。
 ジリジリと焦っていたロックがようやくクリアとなり、それの報告のセリフとほぼ同時
 フェルトは引き金を引いて、使徒を狙い撃つ。山の中から布がはだけ
 そこに紫色の巨人が寝そべりながらも銃を構えていた事が顕になったと同時
 長く太い送電線を何本も繋がれたコードを経由して送られる電力の塊が
 敵使徒へと吐き出されていく。それは空気を裂き、ひたすらにまっすぐに
 使徒へと向かって伸び、参号機を通り過ぎる……が。
231代理:2011/05/20(金) 20:49:17.80 ID:???
「陽電子砲のエネルギーごと持っていきやがったのか?」
「GNマゴロクスが……折れた」

―参号機被弾まで残り0秒 命中

「参号機被弾! 敵、再び粒子加速! 今度は通常の加粒子砲の様です!」
「ち、もう後は普通ので十分ってか。舐めやがって」
「止まりなさいよ! このクソ立体!」

 一手遅かった。先に射出されていた初号機の狙撃銃から出た陽電子をかき消す。
 相応のエネルギーを使った筈ではあったがそれでも巨大なGN粒子の紅く太い粒子の塊が
 陽電子の塊を飲み込み参号機へと浴びせかける。 GNマゴロクスは再び粒子を張り
 それを迎え撃つが、数刻もせずに刀身が真っ二つに折れて中から
 ホースの様に緑色のGN粒子を吹き散らしていく。
その粒子の雨は天高くまで上り詰めて、どこまでもどこまでも高く吐き出されていった。
そして、使徒から吐き出されたエネルギーの波は
 参号機を飛び越えてはるか遠く、初号機が寝そべっていた山を直撃。
 不幸中の幸い、参号機のおかげで射線軸がずれたおかげで初号機付近の山を
 抉り、溶かす程度に終わる。溶岩が通り過ぎたかの様にどろどろと山の土を溶かして
 穴が空いたソコからは重みに耐え切れずに土砂崩れが始まっていた。
 参号機からは音声と映像が途絶え、生死不明の回答を司令部に知らせる。
 四号機は一度引いた後、再び接近し懸命に小刀を突き刺し、引き裂いてはいるが
 使徒に対しては効果的なダメージを与えられていない様子であり、歯がゆさと
 いらつきをぶちまけながらも攻撃を続けていた。

「小娘はもう一発だ! 次こそ決めろ!」
「……はい!」
「ティエリアに繋げ! もう待てん。さっさと銃を射出出来る様に準備させろ!
 ヒリング、銃を渡すから一旦そいつから離れろ!」
「ちぃっ! 解ったわよ!」

 間髪入れずに指示を出しながらも初号機は再び充填及び、狙撃準備
 四号機は小刀を突き刺した後、その場から離脱。銃を受け取りに走る。
 皆がそれぞれ出来る中の最善の采配と最速の行動をもってしても尚、それは届かず
 直立不動のまま、動くことが出来ない参号機へと使徒は再び加粒子砲を浴びせかける。
 丁度、それは参号機からの音声と映像が再開された直後であり
 痛みに気絶していた刹那が再び激痛をもってして覚醒させられる瞬間を
 披露することに相成った。直後、司令部には刹那の言葉で表現するのは難しい程の
 金切り声に近い絶叫が響き渡ることになる。
232代理:2011/05/20(金) 20:52:37.59 ID:???
次回予告
使徒の殲滅に至らなかったNERVとEVA。
敗北の感傷を与える間もなく、使徒は本部へと侵入を開始する。
GNドライブすら取り込んだ使徒に対して人類に打つ手はあるのか?
そして、刹那が死の淵で見たものは一体?

第六話後篇「刹那、心のむこうに」

次回もてんこ盛りで、サービス、サービスゥ♪
233代理:2011/05/20(金) 20:55:38.91 ID:???
転載完了
規制が解けてやっと転載出来たぜ
あと一部行数が長くて書き込めなかったので、少しレスの文章をずらして転載しました
234通常の名無しさんの3倍:2011/05/21(土) 00:54:05.56 ID:MMg/ZZKC
転載乙

ヒリングに体よく弄ばれるせっちゃん可愛いなww
235通常の名無しさんの3倍:2011/05/21(土) 13:38:51.39 ID:???
GN箱……なんて恐ろしいものを……
236寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/05/22(日) 20:54:09.36 ID:???
遅ればせながら、転載ありがとうございます。
237通常の名無しさんの3倍:2011/05/31(火) 21:39:27.72 ID:???
保守
238球磨川 禊ψ ◆DMZBuMECHA :2011/06/06(月) 19:27:23.42 ID:???
『逃げてはだめだ、逃げてはだめだ、逃げてはだめだ…。ここは私が行きます!』
『私は…。私は…。エヴァンゲリオン200号機のパイロット、球磨川 禊です!』
239通常の名無しさんの3倍:2011/06/07(火) 19:32:24.67 ID:???
>>238
さあ、早くエヴァ板かSS速報に建てるんだ
240通常の名無しさんの3倍:2011/06/27(月) 23:26:31.85 ID:???
保守
241通常の名無しさんの3倍:2011/07/23(土) 20:15:30.69 ID:???
保守
242通常の名無しさんの3倍:2011/08/19(金) 20:38:08.34 ID:???
保守
243寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/08/29(月) 00:00:55.74 ID:???
お久しぶりです
予定していたコーラサワー編に手こずり過ぎて数ヶ月経ってしまいましたorz
一昨日破を見て、もう序の最終版である本編終わらせようとして今もりもり書いてます。
まだ、このスレを見ていらっしゃる方いらっしゃったら良いのですが
近々、本編を上手く行けばTV版6話全部、ダメでもヤシマ作戦実行前位までには行くと思います。

と、近況報告のみですが、レス失礼しました。
244通常の名無しさんの3倍:2011/08/29(月) 00:26:54.30 ID:???
|∀・)ココニイルゾ!
245櫂 トシキψ ◆.KAI32WBkE :2011/08/29(月) 06:30:42.23 ID:???
LCLがコカコーラだったら…。エヴァを降りた後は、身体が砂糖でべたべた。
246通常の名無しさんの3倍:2011/08/29(月) 21:50:58.74 ID:???
会いたかった……会いたかったぞ寝腐氏!
247通常の名無しさんの3倍:2011/09/03(土) 20:51:14.31 ID:???
待ってました!
先日、TV版映画エヴァの放送もあったし、ここで出ないとねw

しかし、改めてあのラストは衝撃だよな・・・。
どこへ行くのかと本当にわからない・・・。

それはそうと、来年にQがくるーー!
248通常の名無しさんの3倍:2011/09/04(日) 09:25:38.44 ID:???
確か『Q』と『?』は同時公開じゃなかったっけ?
249通常の名無しさんの3倍:2011/09/06(火) 15:20:30.57 ID:???
>>248
同時のはずだが、Qの上映時間次第か、
?の構想が大きくなったりで分離しても可笑しくはない。
250通常の名無しさんの3倍:2011/09/06(火) 17:00:41.67 ID:???
>>249
本当にそうなったら清川さんの寿命が来てしまわないかすごい不安だ
251通常の名無しさんの3倍:2011/09/07(水) 10:37:26.70 ID:???
>>250
こればかりは運に天を任せるしかないね。
ともかく、Qの完成をあと一年後に出来る事を待つしかないな。
?がどうなるかは、その後だな。
252寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/09/12(月) 00:43:47.64 ID:???
来年のQ前にはQの予定プロットを消化したいところです。
ちょっと、保守がてら相談をば。

アスカ→フェルトのあだ名がイマイチ思いつかんので何か無いでしょうか?
前は「エコヒイキ」で確定してたのですがそんなにエコヒイキされてないんじゃね?と
思い迷走してます。「ナナヒカリ」って案もあったのですが両方死んでて「ナナヒカリ」って
もう守護霊じゃね?って感じでオリジナルで行こうかと思ったのですが
思いつくモノが全部、語呂がよくなくorz

アスカの場合、見た目の造形ではなく、ポジションとか周りの大人との関係性で
呼ぶのでなんとも名付けが難しい。
253通常の名無しさんの3倍:2011/09/12(月) 01:00:46.71 ID:???
生存報告お疲れ様です
オドオドしてる所が少しシンジっぽいから
バカフェルトでいいのでは?
254通常の名無しさんの3倍:2011/09/14(水) 22:05:32.84 ID:???
エリート
ヒリング的には褒めてんだけどフェルト的には皮肉
255通常の名無しさんの3倍:2011/09/16(金) 00:28:05.60 ID:???
うーん、何気に難しいな。
シンジ、トウジ、ケンスケは、三人揃って頭に『馬鹿』
映画版でナナヒカリ→馬鹿シンジになりましたね。
レイは『エコヒイキ』とか、『人形』とか、あ、『ファースト』がTV版にあったのがありましたわ。
あと、番外に『鉄顔皮』とかw(・・・なんか違う気がするが)

という訳で、普通に『フィフス(五番目)』とかで。
レイがいないので、勢い余った時に『身代わり人形』とか言われてしまうのもありかなと。
言うとおりに動くところか、危険な事を肩代わり(現時点で出撃してもボロボロになるので)
をしてるので、その現状から。
フェルト人形からの揶揄からもありえる。
・・・最終的に強くなってきたら、馬鹿フェルトで収まるといいな。
256通常の名無しさんの3倍:2011/10/05(水) 23:22:54.01 ID:???
保守
257寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:21:43.53 ID:???
仕事マジ大変な秋な夜にこんばんはです。
遅れましたが、本編投下。伸びに伸びて迷った挙句中編です。
もうこりゃがっつりラミエル戦やるしかないと判断しました。

では、投下始めます
258寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:24:15.79 ID:???
 機械的な警報音らしき音が聞こえる。声ではない。
 カタカナで形容するならカンカンカンと言った具合だろうか?
 それから僅かな記憶のまどろみを抜ければ、それが遮断機の音だと
 EVA参号機パイロットの刹那・F・セイエイは確認する。
 連鎖する認識。おそらく、此処は電車の中なのだろう。かなり、レトロなデザインだった為
 一瞬そうだと認識できなかったがこの座り心地と空間設計は人を輸送する為のものだと
 朧げに記憶と感覚に認識をさせる。

「君はなんでエヴァに乗るの」
「乗ってはいけないのか?」
「死ぬかも知れないのに」
「死んではいけないのか?」

 無意識だった。目の前の少年。アジア人、おそらく日本人の子供だと刹那は直感的に感じた。
 根拠もない、そして見た目より実は年をとっているのかも知れない程に幼い印象を与えられる。
 目はおどおどしており、まっすぐ自分が見つめると視線を逸らそうとする。
 何やら黒くて四角いプラスチック製の機械。おそらく音楽機器だろうか?
 彼が住んでいた村に似たようなモノの行商があった気が僅かに残る。
 それを持っている少年に刹那は言葉を返していた。
 少年は刹那の言葉に一々驚いては視線をそらす。
 恐る恐る視界を戻す、けれど直視はしない。首筋を見る。
 殺意の欠片も無いその視線はどこか刹那にはこそばゆかった。

「死ぬのは怖くないの?」
「怖いと思うのは死んだ後でいい」
「死ぬのは嫌じゃないの?」
「そういう趣味はない」

 子供が見る目は何処か野獣や悪魔かそれとも何かもっとよく分からない。
 そういった色合いが態度ににじませている。その恐怖感からか
 どうにも子供に一線を引いてしまう刹那の言葉。本人としては
 傷つけるつもりも近づけるつもりも遠ざけるつもりはない。
 ただ、自分で言っていて何か心の引っ掛かりを感じている。
 言い淀むことはなく、顔にも出さないが、何か引っかかる。
 それは子供に対する違和感なのかその場所に対する違和感なのか。
 それすらも刹那は解らずにまっすぐに淀みなく、泳がせない視線で
 子供を見つめていた。別に強制も脅迫もされてはいないのだが
 刹那は子供に対して何故か真っ向から向き合わなければならない義務感を感じていた。
259寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:27:09.73 ID:???
「強いヒトなんだね。君は」
「っ――違う!」
「じゃあ、強いヒト”だった”んだね」
「犠牲に出来るモノが自分しか無いだけだ」
「嘘だね。君もボクと一緒で逃げてるだけだよ」

 弱々しい子供の言葉。羨望でもなく、むしろ哀れみに近い。
 上とか下ではない。不理解、感情の拠り所が見つからない。
 何処か嫌悪感をにじませていた。しかし、それが刹那になのか
 それとも自分になのか刹那は察する余裕もなく、初めて声を荒げる。
 何故か否定したかった。勿論、刹那にも理由なんて解らない。
 ただ、声を上げる。席を立つ。吐き捨てる。目の前の子供ではない。
 やや、自分から斜め右下の何もない空間に、言葉と視線をぶつける。
 初めて、刹那は子供から目を逸らす。
 ソレを見た子供は一言呟く。今度は子供が刹那をじっと見つめていた。


刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
第六話幕間「盲信の価値」

―NERV本部内病院の病室にて

 フェイト・グレイスは固まっていた。物理的にではなく精神的動揺による硬直である。
 尋ねた病室のドアで目に入ってくる視覚情報に文字通り面食らってしまい
 石像に様に固まっていた。尋ねた理由は勿論、EVA初号機のパイロットとして
参号機パイロットの容態が気がかりであった事と何よりも彼に助けられたと感じていたからだ。
 正確には既に何度も戦闘というシチュエーションにおいて窮地を助けられている。
 人並みの感情として恩義を感じるほどにしっかりとした道徳観を踏まえていた彼女だった故に
 眼の前の光景には凍りつかざる終えなかったのであろう。
 彼女の視線の先には同じ学校の制服を来た女生徒が寝ているのであろう刹那の
 シーツをめくりあげて、主に下腹部、正確に描写するならおそらく男性器のあるであろう
 股間部分を凝視しているのが視界に飛び込んできたのである。

「な、ヒリングさん何をして!」
「あ、五番目。え? 何って、ナニを見てるに決まってるでしょ?」
「いやだから」
「あてくし、こ〜見えて結構貞淑なの。コレを中々見れる機会無いからね。
 いや、ネット探せば幾らでもあるんだろうけど」
「そういうことじゃなくて、貞淑ならまず普通は見ないっていうか」

 おもいっきり視線を外して、目の前の現実から目を遠ざけようとするフェルト。
 声に気付いたのかその覗き込んでいた女学生は顔を上げる。
 けろっとした表情で淡々と告げる言葉はやはり、フェルトに対しては
 もはやナニをいっているのか解らないのか、言語回路が溶解し
 パクパクと口を開きつつもなんとか言葉を搾り出そうとしていた。
 ニマニマとその評定の変化を堪能した後、ヒリングは再び覗きを始める。
 羞恥とか公開とか外聞とか一切考慮しないムダのない覗きの再開に
 フェルトは再び言葉をつまらせる。
260寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:28:46.47 ID:???
「へーこうなってるんだ。童顔だけど流石に毛は生えてるのねぇ」
「い、イヤだからその」
「五番目も見てみる? こいつ、このタッパの割に結構大きい――」
「……ナニをしている」

 ヒリングはどきまぎと踏み出せないで居るフェルトの反応が面白くて仕方ないのか
 わざと声を大きくして、興味と妄想をふくらませていく為の言葉を振り掛ける。
 フェルトは靴底に接着剤をくっつけた様にその場で立っていた。ぴくっぴくっと
 言葉に対して僅かな反応を見せるが一歩踏み出せない。
 それは好奇心や興味に対する羞恥や倫理観ではない。むしろ、逆であった。
 どうにも頭の中でその事象への意識が薄れている事への恐怖。
 普通ならそれは赤面するなり、倫理的な観点から咎めるなりすればいい筈だった。
 しかし、フェルトからその言葉が出ない。正確には言葉を発する事は可能なのだろうが
 意図的にそれを口に出そうとする意識が出ないのだ。
 それがフェルトにとっては言い知れぬ底の見えぬ恐怖を駆り立てていた。
 幸いそれの助け舟を出すかの様に寝ていた刹那は目をぱちりと開ければ
 自分の裸体を見つめているヒリングの横顔へと眼球を向ける。
 また、くだらない事をと言うセリフも込めたかの様な侮蔑の視線をぶつけながらも
 シーツをひっつかんでそのまま起き上がる。

「おっはよーっと眠り姫。え? だから、ナニを見――」
「次の作戦が決まったから伝えに。使徒はその……倒せなかったから」
「そうか」
「チャンス逃しちゃったわね?」
「べ、別に」
「……?」

 引き締まった褐色の半裸体を晒すことも気にせずに手をぐーぱーと動かして
 自分の動きを確認する。瞼を閉じて首を動かしている間にヒリングは
 えいっと刹那の額に軽くデコピンをした後、先程の問いに答えようとするが
 流れとしてこれはまた一悶着が起きるのを予見したのかフェルトは
 その会話に割って入っていく。物珍しい行動に目をぱちくりとさせるヒリングを尻目に
 少しの言いよどみを挟んだ後、使徒の殲滅失敗を告げた。
 当然、刹那はそれを聞いてさしたるショックも見せずに小さく頷いた後、体のチェックを
 続けていた。それがひと通り終えれば、ベット脇のナースコールに手を伸ばして押す。
 妙に手慣れていたその所作を見つつも、皮肉めいた口調でフェルトへとぼそりっとこぼすヒリング。
 ため息混じりに毅然と振舞おうとするフェルトの様子に何故その様な事になっているか
 皆目見当のつかない刹那。独り困惑を振り回されそうになるが
 自分が倒れた後、使徒殲滅の好機があったのだろうと勝手に結論づける。
261寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:30:01.25 ID:???
『どうなされました?』
「刹那・F・セイエイ。先ほど、起床した。時間と報告を頼む」
『了解しました。今、医師を向かわせます』
「了解した。で、フェルト・グレイス。次の作戦内容は?」
「正式には装備の準備次第だけど、ちょっと待ってて」

 刹那の疑問を打ち切るかの様にノイズの掛かったマイク越しに看護婦らしき声が返って来る。
 事務的な応答を済ませた後、 再び目を閉じて小さく息を整えた後
 フェルトへ向かって顔を向き直す。それと同時に発せられる催促にがさごそと
 自分のポケットから携帯を取り出す。数度、ボタンを押した後、送られたメッセージを開く。
 すぅっと僅かに息をすった後、口と連動する様に視線は文章を追って行った。

「明日、午前0時より発動されるマツノ作戦のスケジュールを伝えます。
 ケア、グレイス、セイエイの全パイロットは本日1930第二ターミナルに集合
 2000零号機、初号機及び参号機に付随し移動開始
 2005射出ハンガーにて作戦用特殊兵装を装備しつつ待機。
 解らない所あった?」
「いや、問題ない」
「おー、すらすらと。五番目ってオペレーター辺りの方が向いてるんじゃない?
 後はアナウンサーとか? 口下手そうな割に滑舌いいもん」
「そう……かな?」

 普段の非積極的な姿勢と態度とは打って変わってすらすらとなめらかに出る言葉の波。
 刹那にも聴きやすい様に英語の丁寧な発音と簡略された文法。
 中学校の英語の教科書の様を朗読しているかの様な報告に刹那は小さくうなずきを返す。
 言い終えた後の心配げな視線と問いの言葉にしっかりとした返答を返した事で
 ほっとした様子で胸を撫で下ろしたのも束の間、ヒリングの言葉に再び視線は泳ぐ。
 何に向いているとかそういうことを考えたこともなかった。
 フェルトにとって将来も人生もなんだかんだで殆どネルフにおんぶにだっこだった。
 漠然とこのまま、EVAのパイロットを続けるか両親の様に研究者として生きるか。
 そんなイメージにもなっていない空虚な将来像。
 なんでそんな言葉に動揺してしまうかも解らない自身の心境が
 より思考を混沌の淵へと落としていった。

「特殊兵装か」
「例の女、えーと。スメラギだっけ? あいつの考案の作戦らし〜ってのは聞いてけど」
「え? あ、うん。そうみたい」
「出発は何時だ?」
「90分後の予定だけど」
「そうか」
262寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:31:19.18 ID:???
 刹那のぽつりと呟く言葉。この作戦の為だけに用意された武装に加え
 作戦名を初めて聞いた。つまり、それだけ計画に沿った軍事行動という事になる。
 今まで作戦らしい作戦など殆どなかったことを考えたことの変化が刹那には気がかりであった。
 それとは別にヒリングの言葉を聞いてはっとフェルトは病室には
 似つかわしくないパイプ椅子の方に視線を落とす。
 それにおかれていた真っ暗な画面の携帯ゲーム機が物語る意味を解ってしまったのだ。
 充電が切れるまでやっていたのか、それとも飽きていたのか知らないのか
 アレから経った時間を考えた後、一つの事実に気付いて思わず、目を見開くが
 気取られない様にぎゅっと右手で左腕を抑える。
 そして、それを気取った訳では無いのだろうが、間髪入れず飛ぶ質問に
 何とか意識を戻そうとするがそれが更に意識を混濁させる。
 彼は今、次の集合時間を聞いた。即ち、自分から進んでまた
 EVAに乗ろうとしている。フェルトはえ?と一瞬戸惑いながらも時間を告げれば
 すでに刹那の思考は集合までに何をすべきかを考えていた。

「セイエイ君。その……また参号機に乗るの?」
「? 何故、疑問形なのか解らないが返答はYESだ」
「嫌じゃないの? さっきだけって死にかけたのに」
「フェルト・グレイス。お前の質問の意図を理解しかねる」
「あんな怖い思いをしたのに」
「それは辞退の理由にならない」

 フェルトは迷いに迷ってようやく、疑問を口にすることにした。
 当然、刹那はその質問の意図が理解出来ない。むしろ、既視感に襲われていた。
 故に妙な警戒心を刹那は抱いてしまう。見た目状の変化は微々たるが
 いつもより顔が強張りはっきりとした発音で返答を返す。
 意図していた訳ではないとはいえ、フェルトにはそれに意思の強さを感じてしまう。
 刹那が強い人物だという誤解は既にしていたが今の言葉で恐怖に近い感情へと変わっていく。
 生死の境を彷徨う激しい戦闘を続け、眼の前で凄まじい熱量で体を焼かれるのに等しい体験をし
 今もこうやって何時間もベットの上で昏睡状態に陥っていた人間が
 自ら次の戦場へ行く時間を尋ねてくる。彼女の理解の範疇を超えていた。
 逆に刹那はこの視線と空気の変化は既に何度も何度も何度も経験している。
 まるでヒトを化物の様に見る瞳の揺れに理解出来ない質問の連続。
 煩わしさは無いがそれだけ自分の異質さをまざまざと感じてしまうが
 問題はそれが問題と感じられない程に刹那がもう慣れてしまっている事もあった。
 気まずい沈黙、そしてそれを破ったのはやはりヒリングであった。

「五番目。別にあんた乗らなくていいわよ?」
「え? だって」
「五番目はがっこでもちゃんと女学生やってるしね。私やこいつと違ってさ」
「そんな事、今になって」
「多分、あんたは何とかして生き残らせられるでしょ。私達と違って消耗品じゃないし」
263寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:36:34.27 ID:???
 しれっとした視線と半目、どかっと刹那のベットの傍らに座りながら足をブラブラとさせる。
 その行動に刹那も一瞬驚きを見せようとするが意図にようやく合点する。
 手をひらりっと宙空に居る何かを払う様なしぐさと共に突き放す言葉を吐き出す。
 一瞬、戸惑いつつも踏みとどまろうとするが睨みつけられるヒリングの視線
 ”私達”という言葉から2人の間に深い溝が出来る様な錯覚に陥る。
 ほんの数メートルの距離だというのに遠い。また、逆に似ているとは思えない二人が
 とても近いことが肌に感じて解ってしまう。同時にフェルトの思考が死んでいく。
 じくじくと何かよく分からない何かに乗っ取られる様にひんやりと体温が下がる感覚。
 足が棒になっていく。さっきの羞恥を感じない恐怖と一緒に何かが、体を蝕んでいく。

「初号機は私が乗ってやるわ。四号機も損傷激しかったし丁度い――」
「フェルト・グレイス」
「な、何?」
「俺にはお前の質問の意図が解らないが聞け」
「う、うん」
「俺は武器を手に取る生き方しかしたことがない。
 最近になってエヴァに乗る生き方を知ったが武器という意味では大して変わらない。
 お前が恐怖を感じ、死を恐れるのは他の生き方を知っているからだ」

 傲慢で横柄な態度を見せつつも刹那の方へと背を預けつつも指をまっすぐフェルトに向けるヒリング。
 が、それを遮る声を発したのは刹那であった。そのあまりにも珍しい行動パターンに
 思わずヒリングも二度見する。突然名前を呼ばれた事に先ほどとは違う緊張が背筋に響くフェルト。
 その驚きでようやく手足への感覚が戻ってくる。続いて聞かされた長々とした独白に近い言葉。
 冷たく、やり場のない自虐にも見れるがそれには優しさを感じられた。
 その場に居たヒリングもこの言葉に驚く。刹那のこの長さの言葉を一度に発するのは
 初めてだった事も加えて動揺の嵐の中、二人ともその言葉を構える事無く受け止めてしまった。
 フェルトには経験と知識がない為にそこまで削られてしまった刹那の意識が理解出来ない。
 見えるのは硬く透けてしまっている瞳から映る自分の色。

「ごめんなさい!」
「まだ、終わってない。お前は幸せを実感出来る人間だ。
 だから、その幸せを丁寧に、大事に扱うのは悪いことではない。
 フェルト・グレイス。お前が謝る必要はない」
「それはセイエイ君だって――違うの?」
「俺にはそういうモノは“もう“ない。俺はこういう場所でしか生きられない」
264寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:38:02.19 ID:???
 自分の虚弱さ、不覚悟。フェルトもまた、それが刹那を通して透けて見えてしまう。
 その怯えた表情に伊吹マヤの影を見た刹那はやはり、何か気に触ってしまったのだろうかと
 内心考えを巡らす。何も言葉を返せない。優しさがむしろ、耳に痛い。
 口元を隠して大きく謝罪の言葉を置き土産に振り返ろうとするフェルトに
 刹那は言葉で踏みとどめさせるがやはり、無作為に傷つけてしまう。
 引き剥がされた弱さを露見させたまま、フェルトはぐっとあふれ出るモノを抑え込んだまま
 問いを返すが刹那は瞼を閉じ小さく、首を左右に降る。
 ソレを見れば、何も言わずに病室を後にするフェルト。刹那は当然理解が出来ない。
 彼も彼なりに自分の中で理解する努力をしているつもりであった。
 けれど、それは全く伝わらない。相手が違うから対処法として不正解だったのか 
 それとも、対処法自体が間違っているのか。ちっぽけな彼の経験則からは
 とてもではないが正解が導き出せそうにないと結論づけた。

「六番目からそういうセリフを吐くなんてねぇ」
「前に同じ事を問われていただけだ」
「へぇ誰に?」
「知らない奴だ」
「ふーん。あんたに質問なんて変な奴もいるもんね」
「お前ほどではない」

 ヒリングはフェルトが行ってしまうと退屈そうに携帯を取り出して弄りつつも
 独り言の様に呟いていく。声のトーンが若干普段とは違うのだが
 刹那は音質的な違いは解っても感情的な機微について思考が回らず
 立ち上がる後姿にわずかに視線を追うだけで興味を失っていた。
 どうやらメールを打っている様子が指の動きで解り
 一般的に思わせぶりな行動ではあるのだが相手が刹那という時点で
 これが空振りに終わってしまう。

「そーっしんっと。誰にメールしたか知りたくない?」
「知りたかったら最初から聞いている」
「あっそ」

 はぁっとため息を吐きつつもヒリングは向き直りつつも大きなアクションで指で
 携帯を押していく。それでも尋ねない刹那に聞いてみるが敢え無く一蹴。
 つまんなぁーっいと小さく愚痴りつつもちっとも不機嫌そうに見えない様子が
 更に刹那のヒリングへの理解を彼岸の彼方へと追いやっていった。
265寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:41:10.01 ID:???
―約2時間前 NERV本部女子トイレ個室にて

”このまま、背中が割れて脱皮してそのままどこか遠くへ飛べないかな?”
 そんな幻想に半分意識を混濁させつつも戦術予報士スメラギ・李・ノリエガは頭を抱えていた。
 場所は女子トイレの個室。綺麗に磨かれた床に僅かに頭のシルエットが映る。
 篭ってしまって何分経過しただろうか? 逃げ出したところでどうなることか。
 自滅的に破滅的に暗い未来しか見えない。だから、思考は逃げる事すら拒否する。
 思考停止、手元にかろうじて掴まれているウィスキーボトルは
 既に一滴の中身も垂らす事も出来ないほどに絞り取られていた。
 そろそろ出ないといけない。何をしに? 言い訳はいくらでも出来るのだ。
 戦力が解らない、敵が解らない、事情が解らない、打開策見つからない。

―で?

 思考は再びスタート地点へと流転する。ここから逃げ出したところで
 落とされれば世界が終わる。人類最後の砦。ここがNERV本部なのだ。
 逃げる酒も尽きた現状、頭を抱えたままなんとかひりださなければいけない。
 妙案を、作戦を、奇跡を。ふらふらと立ち上がる。
 下手したらあのひげ男は女子トイレまで乗り込んで引きずり出すだろう。
 被り切れてない猫の合間から見れるのを散々見ているスメラギにとって
 今の紳士的態度はただの圧迫とプレッシャーに過ぎない。
 彼は返す手のひらを見せているのだ。いつでも返せるぞと。

「……うう。なんとか、なんとかしないと」

 壁に手を伝いながらもなんとか手洗い場の近くまでふらふらと辿り着く。
 言葉は少ない。下手に口を開くと同時に胃の中に入れたアルコールがあふれてしまうから。
 手を洗う。特に汚れた訳でもない。心理的、精神的に汚れているという意味では
 すでに汚れているかもしれないが彼女は今メンタルクリニックにかかる時間的余裕はない。
 アライグマの様にせわしなく手を洗う。指先はすでにつるつると表面が
 研磨されて指紋がそぎ落とされている様な感触を伝えている。
 ふと、虚ろだった視線の先が流れる蛇口の先を見る。止まらない水。
 泡を一切含まない水流が指先で空気を混ぜ返し、変色して垂れ流され落ちていく。
 フラッシュバックする光景。少年パイロットの絶叫、焼け付く画面その最中見たモノが
 スメラギの脳へと思考を直結させる。ぐらぐらと視界がゆがみかける中彼女は女子トイレを後にする。

「失礼。遅れました。会議を再開してください」

 戻ってきた戦術予報士の異変へと会議参加者のほとんどが気づいていた。
 座った目にふらふらとした足取り、口を開けば若干、アルコール飲料の香りが
 鼻先を通り過ぎる。明らかに飲酒をした後が見られていた。
 反応、感想は各々にあったが今それを咎めている余裕がないことは誰もが承知しており
 言及する者はいなかった。足取りは乱れつつもどかっと自分の席に座るスメラギ。
 視線は彼女へと集中する。しかし、彼女は特に何も発する事なく、手元の資料を
 一心不乱に読み漁り、手元の端末に打ち込んでいく。
 再生される先ほどの戦闘の動画を見つめつつ、ぶつぶつと呟く様子は
 話しかけられる雰囲気ではない空気を醸し出していた。
266寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/15(土) 20:42:13.44 ID:???
「長いトイレでしたな」
「女は大抵な長いのよ。さて、戦術立案の前に現状を確認します。
伊吹一尉。先ほどの参号機が使っていた刀剣は?」
「修復は可能ですが、時間がかかります。とてもではないけど、間に合う状態では」
「解りました。問題ありません」
「え? あ、はい」

 彼女が居ない間、会議自体は全く進んではいなかった。
 一番確実そうだと案件として上ったのはEVA一機を用いた特攻。
 三機それぞれに爆弾を抱えさせてATフィールドを突破
 誰か一人でも辿り着いて、本体と兵器による二重自爆を敢行すれば相当な威力になる。
 もちろん、それで倒せる保証はないが他に有効打が思い浮かばない。
 戦術的に全力を尽くした結果であった。
 現状で一番火力があるGN-マゴロクソード及び発電所から直接電気を
 送って狙撃したポジトロンスナイパーライフルも行使も一応は可能である。
 しかし、ソレによる勝率は先程の戦闘で全て無に帰してしまう。
 GN-マゴロクソードはATフィールドを切り裂くには至らず、二機による撹乱があったからこそ
 狙撃の準備及び行使に成功したモノのそれでも殲滅はならなかった。
 再びEVAによる狙撃をしようものなら、間違いなく真っ先に狙われる可能性が高い。
 参号機が中破以上に等しい現状ヒリング一機による接近陽動も難しい。
 理詰めでは既にこの戦い負けている。本部自体の自爆すら考慮され始めていた中
 戦術予報士のスメラギがのこのこと酒の匂いを纏いながら戻ってきたのであった。
 誰もが僅かに瞼を持ち上げた後、苦言を呈するサーシェスの言葉を一蹴。
 その語気の強さと態度に驚きと笑みを混ぜつつも背もたれに体重を預けて
 にやにやと眺めることにした。

「次、ここの本部に現存するGNドライヴ及び10時間以内に運べる個数は?」
「オリジナルは参号機使用中と予備を合わせて2機。
 量産型は四号機が使っている分と予備を合わせて2機。
 現在開発中の兵装に使用している量産型のGNドライヴも数点ありますが
 すぐ使える状態とは言えませんね」
「北京支部は?」
「伍号機は中東へ派遣中の上、呼び寄せるのには条約に引っかかります。
 また、他のGNドライブ自体はヴァチカン条約には引っかからないですが
 貴重品の上、差し出すとは思えませんね」
「了解。では二機を頭数に。これの整備及び改造に掛かる時間を算出。
 間に合わせられるなら作戦案として提出します」
267通常の名無しさんの3倍:2011/10/15(土) 21:37:38.03 ID:???
∀゚)キテター!
試演?
268寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/16(日) 00:10:04.67 ID:???
 そんな空気に押し潰されて一度逃げ出した彼女が何を言い出すのか。
 一同は立たずを飲んで見つめている中、数度の質問を交わす。
 画面から目を離すことはない。がたがたと目にも留まらぬタイピングで何かを
 この状況を打開する何かを紡ぎ出そうとしていた。
 ヒソヒソと小声で雑音が空気に紛れ込んでくるがスメラギの耳には
 それすらも気付かない程に脳が回転する。グラグラと来る視界の舵を
 意地だけで固定しながらも画面の中で一つ一つピースが重なっていく。 
 最後に力強く、キーを押した後、べとりっと机に手を付きつつも鉛の様に重くなっている
 頭を抱えながらもマヤに必要な兵装と物資への確認を取る。
 横のサーシェスがそれを覗き見れば、はぁ?という声が漏れる中
 つらつらと視線だけを移動させるマヤの顔も途中から青ざめていった。

「おぃ、コレ大丈夫なのか? んな、安直な」
「大丈夫にするのが現場の仕事です。不可能なら条件を更に悪化させながら
 他の案を考えるだけで――失礼。検討お願いします」
「何処h、いえ。解りました」

 サーシェスの目には荒唐無稽という訳でもないが、あまりにも間の抜けた案であった。
 スメラギなりに計算と計略を尽くしての案なのだろうがそれにしても滑稽だ。
 目を疑う内容だったがマヤは大きく目を見開いた後、その実効性の検証に入る。
 小さい頷きの繰り返しから目に見えた欠点はなかった様子。
 それによる安堵と共にスメラギの胃袋と喉からアルコールの逆流が始まる。
 茶々を入れるサーシェスに強気に捲くし返す。おどおどとトイレの場所を聞く
 女性の面影はその時点で良くも悪くも微塵も残っていなかった。
 剣幕と薄っぺらな確信を盾ににらみ合いを効かせようとすると生憎喉の検問を突破した
 アルコールがすぐそこまで攻め上がっていた。がたっっと立ち上がり再び去ろうとする
 スメラギを見て、日向は不機嫌と嫌味をぶつけようとするが無言と睨みの打撃により
 その場で佇む事になった。アリーはその姿を見送った後に机を叩いて全員の意識を戻す。

「ま、これでちょうどいいや。それ提出するのちょっと待ってくれ。伊吹一尉」
「何ですか?」
「この案に修正案を提案する。
 それさえ通れば俺もこの案に乗るぜ?」
「修正案って……コレは」
「詰めが甘いんだよ。コレ位やってちょうどいい。俺たちは確実に殺さなきゃならねぇんだ。あの化けもんを」
269寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/16(日) 00:40:15.14 ID:???

―アスカは知っている

 今のフェルトは義務感と使命感と責任感で自分の輪郭を作っていることを。
 2年前の事故で”人でなくなってしまった”フェルトが
 どうやって”自分”を築いてきたのかを。今、それが音を立てて崩れてしまう。
 あの時のフェルトに”また”戻ってしまう。
 アスカに地獄の業火の様な焦燥感が襲い、それの罵りとか怒りとか苦労は
 取り敢えず、ヒリングへと後日ぶつける事を緊急採択。
 まだ、泣き声が聞こえる。まだ、”間に合う”。アスカの決断は早かった。

「何? やめて良いって? 二人に言われたの?」
「うん……私……ぃ回も何もでき……くて、怒られて……っりで怖がってば……りで」

 イメージは容易い。ヒリングは実際、デリカシーの欠片もなく
 笑顔で告げる姿は安易に想像できる。きっと辞めても次が来る程度に思っているのだろう。
 こうやってアスカが悪戦苦とするのも織り込み済みで楽しむ外道ビッチなのは承知していた。
 この間ゲームをやった六番目も生真面目できっと女心なんて微塵も理解出来ない
 どっかの軍人と似た様なタイプなのだろう。悪気はなくても傷つけるタイプ。
 何かに絶対的な自信があってTPOに対応する事を停止している。
 それが優しさであり、打算でもあり最善だと思っていたに違いない。
 だが、それは違う。フェルトがEVAが無いという事がどういう意味を成すか知らないのだ。
 手に取る様にアスカには解ってしまった。

「だからぁ?」
「……ぇ?」
「忘れたの、フェルト。あたし達には絶対成し遂げなきゃいけない事があるじゃない」
「それは」
「あたしはまだ信じてるのよ?」

 アスカの声が震える。フェルトはその震えに気付けないままに突然の言葉に思考と言葉が停止する。
 うつむいた顔で前髪が瞳の行き先と表情を隠す相手の事など気付ける筈もなく
 淡々と突きつけられるワードが心へと突き刺さる。泣くことも忘れて視線が泳ぐ。
 突き刺さる言葉はそのまま、こじ開けていく。逃げることへの恐怖を蝕み
背中には見えない壁ができて追い詰められる感覚。
 アスカの気迫がジリジリとにじり寄って来る。鬼気迫るとは文字通りで
 電話越しなんて事を忘れてしまうかの様な冷淡で重みのある声。

「見つけるんでしょ!? ライルもニールも!
 だから、お墓参りなんて言ってない! あたしはあん時にアンタと約束したんだから」
「でも……めいわ――」
「結果出せなくても、迷惑掛けても? そんなん良いじゃない。
 アンタが出来なくてもあたしが二人分戦えば良いの。
 けどね、優等生? どんなにあんたが無能でグズでへっぽこでも
 もう、アタシとフェルトだけなのよ!」
270寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/16(日) 00:44:46.49 ID:???
「そりゃ、怖いわよ! 痛いわよ! けど、怯えてたらずっとあの二人は死んだまま。
 だから、戦って勝って、偉くなって認められなきゃいけないの。
 優等生、あんたはもう二人に会いたくないの?」
「そんなことは……ない」
「なら、あたし達のする事、出来る事なんてエヴァに乗る事だけよ。
 大学出たって、いい顔して大人に取り繕ったってちっとも前に進まない!
 もう、これしか無いでしょ?!」

 アスカの脳裏に先日の量産機との戦いとその後に告げられたメッセージが過る。
 もしかすると自分は人殺しをしなければいけない。
 事故でも使徒との作戦における犠牲でもない。
 明確な敵として同じ人類を、同じ年齢の少年か少女を、手にかけなければいけない。
 EVAに乗っているのなら、痛覚を感じる。それだけでショック死するかも知れないし
 仮に生け捕りにしたとしても尋問したり、射殺したり、思い浮かぶのすら
 嫌悪する残酷で吐き気をもよおす目に合わせないといけないかも知れない。
 そんな事、自分一人では耐えられない。グラハムやミサトにも頼りたくない。
 ソレを思うと結局、頼るのは今電話越しに居る弱々しい少女だけなのだ。
 優等生で箱入りで親が死んでて、何もかも近くて頑張ってるのに
 自分と違って評価されていない。それ故に傍に入れば
上に立てるし、守りたいしと下衆な考えが滲み出てしまう。
 アスカはその事実を認めない。認めない代わりに泣いていた。
 認めたらさっきのフェルトと変わらなくなってしまう。

「そもそもね! あたしがアンタなんかの為に心配してるってこの状況がむしろ、心配でしょ!
 むしろ、アンタを心配しているあたしを心配すべきだわ」
「うん」
「何かあったら電話しなさい。コレは命令。次、勝手にギブアップしそうになったら
 今度こそ息の根止めに行ってやるわ。あの時みたいにね。覚えときなさい!」

271寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/16(日) 00:46:07.50 ID:???
 心配ではない。アスカは自分の言葉が脅迫であると自覚していた。
 一方的に電話を切る。後悔があった。反省があった。恐怖があった。
 踏み込んでしまった。相手の領域を踏み進んでしまった。
 繋がってしまった。そんな感慨を抱えたままアスカはベッドへと倒れ込む。
 べたべたとした人間関係は嫌い。一人で生きてられる。
 そういうプライドを投げ打ってしまった。
 裸を見られた感覚に近い羞恥心からか顔が見事に紅に茹で上がる。
 何をしているのだろうと問い掛ける虚しさと言いことをしたと思い込ませる偽善と
 何やってんだかと呆れる冷静な自分の大激論が脳内に開催されている。
 倒れ込んだまま数刻が流されるままに過ぎていくとその空気に謙遜しているかのような
 か細い携帯の振動音がアスカにメールの着信を伝えていく。
 死んだ魚の様な目でそれを黙認、ぱちっと開いて視線だけでそれを読んでいく。

From:ビッチ
Title:センパイお疲れ様です♪
いやー、あの顔は完全に堕ちてますね。もう、結婚しちゃえばいんじゃない?

「あんぅっちくしょぉーーー! ふっざけんじゃないわよぉ!!」

 文面を読んで脳が理解をし、そして怒りに震える体温を取り戻すのに
 若干時間がかかってしまったが、深夜3時という真夜中でもアスカは見事平常運転に戻る。
 もちろん、それを隣室でうんうんっと頷いているグラハムの気配に気づくことなどなく
 アスカの激戦の夜は騒がしく終わりを告げていた。

次回予告
EVA三機による初の合同作戦が行われる。
各々の死力、人類の知恵の結晶をもってして不沈の使徒へと挑む。
失敗が許されず、運命はまたしても少年に身を焦がす道を突き進まさせる。
絶叫すらあげることのない痛みの果てに彼は何を見るのだろうか

第六話後篇「刹那、心のむこうに」

予定変更になったけど、今度こそ
サービス♪ サービス♪
272寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2011/10/16(日) 11:04:38.68 ID:???
しまった。こっちに〆のレスしてませんでした。以上です。
猿さん途中食らってました。

当初、フェルトとアスカは後日、初顔合わせになる予定でしたが
同じAEU圏に居て、顔合わせないのおかしくね?って事で絆再確認エピソード。

慰める予定役だったクリス残念! 次があるさ!
次の投下未定ですorz では投下失礼しました。
273通常の名無しさんの3倍:2011/10/16(日) 19:45:52.26 ID:???
乙!
やっぱ面白れぇ!
つか終わりが予想出来なくてwktkするな
次回も気長に待っています
274通常の名無しさんの3倍:2011/10/18(火) 19:32:09.48 ID:???
まさか機種変更で私がいない間に来るとは、この失態始末書ものだ!

次回も楽しみにしている!
275櫂トシキψ ◆.NERVpDWGM :2011/10/21(金) 04:36:50.73 ID:???
エヴァンゲリオン仮設壱拾七号機(櫂くん専用のエヴァ)が宇宙に出たとき…。

櫂トシキ
「なんだか、うまく動かねえな…。」

-インダクションレバーを動かすも、エヴァの足は宇宙空間でのこのこと空振りするだけだ。-

式波・アスカ・ラングレー
「ちょっと!櫂くん!歩いているわよ!加持さんにモード切替してもらってないの?」

櫂トシキ
「あー、よく見ると、「地上戦モード」のままになっていた。で、モード切替ってどうやってやるんだ?」
276渚カヲルψ ◆.NERVpDWGM :2011/11/06(日) 06:34:29.50 ID:???
碇シンジ
「なんだか、うまく動かないなあ…。手足にシンクロさせても宇宙空間でじたばたやっているだけだし…。」

渚カヲル
「ん?初号機の動きが変だな…。シンジ君、歩いていますよ!歩いていますよ!
加持さんにモード切替を頼んでおかなかったのかい?」

碇シンジ
「エヴァ初号機は、S型装備にしてあるが、モード切替が必要なの?カヲル君、モード切替ってどうやるの?」

渚カヲル
「本当に困ったなあ…。通信規制中なのですから、やむを得ない場合以外は無線を使わないでくれよな。
エヴァンゲリオン初号機、宇宙飛行モード切替!信号を送信します。」
277通常の名無しさんの3倍:2011/12/13(火) 19:40:34.52 ID:???
保守
278通常の名無しさんの3倍:2012/02/10(金) 23:30:43.76 ID:???
年変わってからレスないのか
279通常の名無しさんの3倍:2012/03/15(木) 15:07:42.98 ID:???
保守
280寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/05/13(日) 01:45:14.21 ID:???
ん、規制が解けたかと思えば、長文無理になってるのかな?
まだ、見てらっしゃる方居ますか?
281通常の名無しさんの3倍:2012/05/13(日) 02:42:09.02 ID:0aL0KFOW
∀・)ノ
282通常の名無しさんの3倍:2012/05/14(月) 21:08:35.17 ID:???
ノシ
半分、2ch引退ぎみだけどな。
それでもここはチェックしてます。
283通常の名無しさんの3倍:2012/05/14(月) 23:13:57.81 ID:???
ノシ
284寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/05/20(日) 04:01:51.96 ID:???
ふむ。近日中に避難所に投下出来るかもなのでまた後日告知します。
ただ、まぁ一点大問題というかまぁ仕方ないのですが

ヨルムンガンド面白過ぎてうちの刹那がどう頑張っても霞む件

ヨナ坊可愛いよヨナ坊orz プロの少年兵の描き方はマジパネェ
285通常の名無しさんの3倍:2012/05/26(土) 19:52:09.12 ID:???
プロの書き方と比べてもしゃーない
自分はこっちはこっちで楽しんでるし
気にしないで好きなようにやるといいと思う
286通常の名無しさんの3倍:2012/06/24(日) 00:16:54.77 ID:???
ほすーん
287通常の名無しさんの3倍:2012/08/21(火) 23:09:10.92 ID:???
保守
288寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:43:13.28 ID:Ur+RyrQC
 夜の静寂。深い藍色の闇から溶け出ている様に目に映る透明な立方体は
 ビルの合間にぼんやりと浮かんでいた。このまま、ただのオブジェとして浮いているなら
 精々交通の邪魔程度にしかならないシロモノであるが
 生憎”ソレ”からは本体の一部がまっすぐに地下へと掘り進められ
 人類を破滅へと導く作業の真っ最中である。
 融解させているのか、融合させているのか、分解しているのか
 定義は不明であるが着実に地下のドグマへと向かっていた。
 その先にある何かを知るのはごく一部の人間に限られており
 文面だけで知るモノ、機密漏洩と言うなのうわさ話で聞きかじった者を含めても少ない。
 途中の区画、装甲と装甲の隙間に出る。
 其処に鎮座していたのは円錐状の大きな装置であった。
 突き抜けたと同時に警報がけたたましく使徒の眠気を叩き起こしにかかる。
 当人が寝ているか、そもそも睡眠をとっているかは知らないが
 勢いとしてはそう評するに激しい音が鳴り響いていた。

「目標ポイントに接触!」
「GNフィールド展開!」
「GNフィールド展開します」

 それに起こされたのは使徒ではなく
 地下深くの司令部にて装置の発動の機を伺っていた人類であった。
 声が響く、ソレと同時にスイッチとコンソールを叩く音がオーケストラの様に一斉に鳴り響き
 冷たい機械に電力と言う名の生命の息吹を吹きこんでいく。
 起動する装置はそのまま、赤く輝きならも障壁を張り巡らせていくのは量産型GNドライヴ。
 貴重な予備の一機を今、此処で使う。正確に言うなら使い潰す。
 試作型の出力発生装置がこんな形で役に立つとは技術者達も予想はしていなかった。
 ぎゃりぎゃりと音を立てつつも侵食していく使徒の螺旋を受け止める。埒があかない。
 単純に制御する事なく、どれだけフィールドとしての出力を測るためだけに作られた装置は
 文字通り鉄壁であり、攻めあぐねてくれる。これで時間が稼げる。

――そんな楽観的予測は軽々と使徒に擦り潰された

 宙へ浮く使徒は形を変える。
 上部が円錐状になり、此方も紅い粒子を吐き散らす様にしていく。
 螺旋に紅い色が混じり込み、血を纏った蛍の群れを吐き散らしていく。
 螺旋の先端は軽々と真紅の鉄壁をえぐり捻ってそのまま装置ごと踏み潰す。
 螺旋の速度は加速する。一気に緊張が走り、そして寿命までの時間が押し縮められる。
 今、人類の猶予が大幅に圧縮された。

「何秒足止めできた?」
「変体も含めて、20秒です」
「本部到達時刻は?」
「使徒の進行速度が加速されました。予想時刻を残り30分から、約2分に変更」
289寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:46:21.39 ID:???
 司令部で報告を済ませる青葉の表情は笑っていた。
 鉄面皮を気取る司令も老練さを絵に描いたような冬月も
 めっきり職場では仏頂面も増えた日向ですら笑顔がこぼれ
 司令部の色合いを塗り替えていた。理由は単純明快で
 それを腕を組んでモニターを見つめている戦術予報士にして戦略担当の
 スメラギ・李・ノリエガの言葉が全てを物語っている。

             「ここまで戦術予報通り。マツノ作戦開始!」

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
第六話後篇「刹那、心のむこうに」

―1時間前、NERV本部EVAハンガー内にて

 鉄骨が張り巡らされた穴蔵の底、子鼠の様に気配を寄せ合いつつも
 これから自分たちが埋められる巨大な棺桶に等しいソレを眺めている。
 三者三様、険しい能面をかぶっているかの如く沈黙を破ることもない。
 目の前には巨大なミイラ男が居た。明確な説明を付け加えるならば
 先ほどの使徒との接触戦において敗れたEVA参号機である。
 装甲など付け直す暇もない。手足の拘束具は爛れ
 皮膚を覗かせており胸元は黒い光球を見せぬ様に巨大な包帯で覆われて
 お化け屋敷のアトラクションの様にハンガーに括り付けられていた。
 そのボロ布の様になっている参号機ですら今回作戦には駆り出される事になっている。
 隣に鎮座する四号機も参号機ほどの重症でもないが無傷ではない。
 手足にガムテープの様にベタベタと張り巡らされた簡易装甲と
 皮膚を保護するための包帯やビニールシートが貼られていく。
 いたずらで壊したおもちゃを子供自身が直したかのような有様である。

「辞めなかったんだ」
「うん」
「そうか」

 後から遅れてきたフェルト・グレイスにぽつりとヒリングがにやついた顔で携帯を弄りながらも
 一声を掛ければ、泣きはらしたであろう赤い目のまま恥じらいを含めた笑顔で応えていく。
 刹那は相変わらず無関心な様子で小さく返事を返すだけに終わる中
 その様子にサービス足りないわねぇというジト目の視線を注ぐヒリングであったが
 それも徒労だと十数秒後に気付く。その後、しばしの沈黙が支配する。
 相変わらずヒリングが喋らないと沈黙シーンが続くメンツではあったが
 それが平常に戻ったとも言える空気であった。
 両手を後頭部に鎮座しつつも、”しょーがないわねぇ〜っ”という言葉を
 背中に背負っている様に瞼を閉じたまま、自慢気な語調で口を開く。

「ま、心配要らないわよ。少なくともあんた達は死なないわ。私が守ってあげるから」
「え? あ、うん」
「……」
「盾役はケアさんだったから、うん。ちゃんと私もやるから」
290寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:50:10.21 ID:???
 ヒリングの言葉にフェルトは戸惑いながらも事態を飲み込む。
 今回の戦いはオフェンス、デフェンス、サポートの役割がしっかりと担われている。
 フェルトの言葉通り、驚嘆すべき事実としてヒリングが今回はデフェンスである。
 それについての言葉としてフェルトは思考と情報をつなげあわせて納得の意を見せる。
 いつもビックマウス程度だし、かっこつけなんだろうと合点するところに人影がもう一人。
 しれっとした態度のまま現れるティエリア・アーデは目標の三人を補足すれば
 顔色や空気を読むという動作も態度も捨ておいて口を開いて指示をぶつけてくる。

「ヒリング・ケア、フェルト・グレイス、刹那・F・セイエイ。全員居るな? 出撃準備に入る。
 兵装については事前説明通りだ。エントリープラグに入れ」
「はい、分かりました」
「ぁーい」
「ティエリア・アーデ。ヒリング・ケアと話がしたい。猶予は何分ある?」

 刹那だけがその不躾な指示に珍しく了解の意をすぐに示さなかった。
 不思議そうに疑問を視線に乗せてぶつける二人と相手の反応を待つティエリア。
 数秒後、意を決したのか刹那は言いよどみそうな口を無理やりこじ開けているかの様に
 言葉を紡ぐ。その内容には意外性を十分に孕んでいた故に一瞬、ティエリアとフェルトは
 聞き間違いかと意識が止まってしまった。咀嚼される言葉と刹那の態度から
 それが本心であることを汲み取った後、眼鏡の縁をくいっと上げてじっと相手を睨みつける。
 ティエリアはNERV本部で刹那を怖がらない数少ない人間(と思われる存在)であった。
 
「刹那・F・セイエイ。作戦に対する遅延行為の申し立てはいかなる理由があっても却下d――」
『硬い事言わないの。六番目がワガママいうのなんて死ぬまで何回も無いでしょ?
 作戦が作戦なんだしさ。それとも話が済むまであんたをぶっ倒せばいい?』 
「くっ……ふん、気が変わった。10分間待つ。フェルト・グレイスはどうする?」
「え? 私はえーと……うん、大丈夫」
「では先を急ぐ。ソレ以上の遅延は万死に値する。作戦を終えてから万回程、死ね」
291寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:51:15.19 ID:???
 いつもどおりの厳しい口調と態度のままにそう告げている中、ティエリアの脳内に
 言葉が突き入れられる。一瞬淀む顔と苛ついた皺が眉間に刻まれる。
 端末から再び時間を確認した後、ぶつぶつと何か計算をした後、意外にも思える譲歩。
 刹那にとってもこれは意外であった。
 まず、自分がそんな内容を申し出した事、ティエリアが許可する事、そして何よりも
 了承されて少し心に感情が沸き立った事だ。
 ティエリアの確認する言の葉は予想外だったのか視線とともに思考と心が揺らぐが
 その揺らぎから何か伝えるべき音と言葉を出す事はフェルトにはかなわなかった。
 当然、ティエリアも言った当人ですら何が大丈夫かよくわからないが
 此処はつつがなく事を進めるべきだと二人は判断する。
 二人がそれぞれハンガーからエントリープラグの乗り入れ場所に移動するのを目で追う。
 珍しくも沈黙を貫くヒリングはその空気に我慢出来なかったのか
 本来、言葉を待つべきこの場面に自ら口を開いて問いただしに入った。

「で、何かなー六番目? あんまし、しょーもない話だと張っ倒すわよ?」
「ヒリング・ケア。お前は嘘がヘタだ」

―現時刻、第三新東京市NERV本部直上

「エヴァ三機を出撃! 武装はプラン通り!」
「了解。エヴァ全機出撃!」

 使徒の本気の掘削と入れ替わる様に地下からは射出されるのは三機のEVA。
 ルートはそれぞれ通っていたがそれの目的地は一点に集中していた。
 司令部のモニター画面の点滅が使徒の方向へと導いいていく。
 使徒も遅れてその気配に気付くがその反応はとても鈍い。
 慌てて赤い粉塵を吐き出すのは止めるが、射出前のEVAに対して狙いをつけるまでの
 時間と対応が出来なかった。エネルギーの加速をする中
 まず躍り出るは四号機が道路の射出口から目の前に吐き出される。
 手にはEVA本体をすっぽりと包める程の巨大な盾を片手に構えたまま
 手榴弾の様にゴロゴロと大型の爆雷を数本転がしていく。
 鈍い金属が転がる音とともにそれは数秒後に遠隔操作によって爆発。
 白煙立ち込める中根本の伸びている部分は
 真下に投げ込まれた爆雷による爆発は瓦礫によって散開する。
 しかし、使徒は当然その程度では怯むことはない。
 そもそも怯むという思考すらないのだろう。
 白煙を突き破る様に加粒子砲を四号機へと噴きつける。

「この程度!」
「参号機目標地点に到達。作戦行動に移る!」
「接続完了、GNドライヴ発動! GN粒子供給問題なし!」
292寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:56:34.40 ID:???
 しかして、それは大盾によって防がれる中、続いて現れるのは参号機。
 手には折れたGNマゴロクソードを持ったまま、プラグを四号機へと繋ぐ。
 同時に陸上のクラウチングスタートの様に地面に手をつき
 待機しているリレー選手の様に持っていたGNマゴロクソードを後ろ手にする。
 四号機がATフィールドを展開しつつ擬似GNドライヴを吹かしていく。
 剣先からは赤い粒子が吐き出し始める中、参号機もGNドライヴを起動する。
 そう、接続先はGNマゴロクソード。二対のGNドライヴによりGNマゴロクソードは
 激しく震えながらも赤と緑の粒子を混ぜ込ませながら吐き出していく。
 まるで手持ち花火の様に色が汚く混ざり合ったまま段々とその光の量は多くなる。

「初号機目標地点到達!」
「装備の受け渡し完了!」
「五番目! 決めなさいよ!」
「……はいっ!」

 最後に吐き出されたのは初号機。
 後ろ手に構えていたGNマゴロクソードを手にとった後
 それを大きく振りかぶり跳躍する。足で鈍い音を立てながら参号機の踏みつけ
 大盾を飛び越えた後にまっすぐに綺麗な弧を描きつつもそれを振り下ろす。
 緑と赤の吐き出した粒子がまるで刀身の様に伸びきっていたまま
 敵ATフィールドを切り裂き、まっすぐに使徒の八面体を熱でえぐり切った後
 中央に向けてそのままGN粒子を射出し続けている。

 此処までがスメラギが立案したマツノ作戦の概要である。
 使徒に擬似GNドライヴ仕様を誘発、その隙にEVA三機による接近。
 GNドライヴ二機接続によるGNマゴロクソードによる近距離直接粒子照射。
 幸い、刃物用に丈夫に作っていた刀身故か数刻は持つとの推測は弾き出された。
 熱と粒子により分解、溶かされていく使徒の体をいよいよコアへと到達しそうになる。

「……っぁああっ!?」
「ちっ、耐えろ! 神経接続切ったら手の力も緩む!」
「二機はDNドライヴの供給を続けて!」
「了解した」
「ぁぅっ……んぅあっ、はぃ!」
「ああっもぅ!」
293寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:57:35.73 ID:???
 しかし、その願望はフェルトの痛みと共に漏れる絶叫と同時に打ち崩される。
 分解、宙に浮いていた使徒の体の一部が鋭利に尖った後、初号機の腕へと突き刺さる。
 斬りつけていた軸はぶれて傷はやや斜めに逸れる。
 反動と震えを抑えながらも懸命に握っていたGNマゴロクソードは手の中で暴れていく。
 痛みがシンクロするがサーシェスの言う通り、今此処で接続を着れば、間違いなく
 その手から刀はスッポ抜けて暴発してしまうだろう。
 使徒は勿論その好機を逃さない。変形を繰り返し、以前参号機を焼いた
 巨大な擬似GN炉へと変体し、まっすぐに雁首を揃えているEVA三機を照準に
 エネルギーを加速させ始める。そして、照準の定まらなさもあるが
 何よりも出力がやはり足りない。焼き斬るに足らない斬撃故に
 初号機には執拗に自らの尖らせた水晶体を突き刺していく使徒。
 状況は絶望的かつ、そして敗北の色を濃くしていた。

「ち、仕方ねぇ。ヒリング!」
「なぁに!?」
「プランB移行だ! 準備しろ! ソラン! てめぇが代わりに盾を持て!
 初号機と参号機は巻き添え食らわすなよ!」
「……っ! 了解!」

 その言葉に取り残されたのはフェルトと司令部に居た女性二人。
 説明を求めようとする前にすでに事態は動き始めていた。
 参号機の前へと突き刺す様に盾をおいた後、大きな蒸気と
 拘束具のパーツがぼろぼろと地面へと叩き落ちていく中
 刀によるGM粒子の照射を行なっている初号機を追い抜こうと進む。
 ソレと同時にメインモニターで大量の警告が鳴り響き
 喧騒をより一層の緊迫と不安を塗り重ねていく。

「四号機、自爆シークエンス起動確認!」
「……なっ!? え」
「そんな作戦聞いていません!」
「当たり前だ、言ってねぇからな!」

 マヤが声を上げる中、スメラギは既にその結果と言動から理解はしていた。
 おそらく……否、確実に作戦に修正が加えられている。
 こうなった事態を想定して、どの機体を損切りするか決めていたのだ。
 勿論、疑問にも残る。初号機は兎も角、損傷が軽微な四号機を
 中破状態になる参号機より優先する。ソレはおそらく司令の個人的な思惑だろう。
 当然自分にもその考えが無かった訳ではない。が、選択出来なかった。
 紅い文字がモニターへと浮かび上がり、四号機の残りの命の時を刻んでいく。
 当然中に居るヒリング・ケアの命も無残に消し飛ぶだろう。
 だから、考えるのだ。たとえ、10秒でもいい。何か起死回生を。
 年端のいかない少女の命を救うか否かはスメラギの脳細胞にすべてかかっていた。
294寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 19:59:29.39 ID:???
「なっ!?」
「参号機パイロット何をやってる!?」
「っつぁああんのがきゃやぁ!!!」

 サーシェスの怒号、冬月の驚愕と共にモニターを皆が見上げる。

―いつか どこかで

 テーブルがある。木製であり、刹那はそのテーブルを見たことがある。
 伊吹マヤ邸のものだ。家具の配置、部屋の構造からほぼ同一であると考える。
 刹那の思考には薄くもが掛かるが認識は
 その強烈な違和感から逃れる事が出来なかった。
 少年が居た。見ず知らずの、そして包帯が巻かれている。
 ミイラ男の様だ。眼帯をしており、右手は動きそうにない。
 学生服とおもわれるシャツの下も包帯で巻かれている。
 一体どういう事故を経て彼はその現状に至っているか刹那には皆目見当がつかない。

「なんで?」

 少年は顔を上げて自分に尋ねる。一瞬女と見間違うばかりの様にも見える
 整った顔立ちではあったが、その淀んだ眼と倦怠感を漂わせる声色が
 壊れかけのラジオの様に無理矢理声を出している印象を刹那に与えていた。
 漏れる声色にはノイズか喉を負傷しているのかわからないがガラガラと音を立てながらも
 頭の中に直接声が響いていく。おそらく口の動きと耳が聞き取る文章の相違が見える。
 テレパスのようなものだろうか? つまり、言語を介していない。そんな不思議な体験だった。

「なんで辛いことばかりするんだよ」
「任務だからだ」
「痛いんだよ。君が来てから」
「それが仕事だ」

 意味は理解出来なかったが即答をしてしまった。
 刹那にも理由が解らない。テーブルの傍らで佇む彼を睨みつける少年。
 すぐに目をそらせる。そうやって敵意を向けるのに慣れていないのだろうか?
 それとも刹那という個人に対して負い目や恐怖があるのだろうか。
 すぐに視線を逸らし、顔を俯かせたまま、恨み言の様に言葉を少年は連ねていく。
 刹那は呆然と立ち尽くしていた。何故此処に居るんだろうとか
 少年は誰なんだろうかとかそういった思考には何故か至らなかった。
 
「君がやらなくてもいいじゃないか。そんなに痛いのが好きなの?」
「好きではない」
「じゃあ、なんで生きてるの?」
「生きていけるからだ」
「人を殺してでも?」
「必要があるならば、そして可能ならば当然だ」
295寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 20:00:34.07 ID:???
 顔に手を当てて泣きそうになりながらも声が漏れていく。
 辛い、助けてという気配を纏いながらも少年の質問を連ねる。
 しかし、刹那はそれは全く意に介する事はなくすべて回答を示す。
 取り付く島がないとはこの事だろうか。だんだんと回答に苛立ちを募らせる少年。
 最後の質問に対しては両手をテーブルに叩きつけて立ち上がる。
 そして、刹那の襟元を掴んできっと睨みつけ、吠える。
 彼の心の琴線に触れたのだろうか。先ほどまでの弱々しさは消え失せていた。 

「誰かを傷つけてでもそんなに生きていたいの!?」
「お前は生きたくないのか?」
「ああ、誰かを傷つけて生きる位なら死んだ方がマシだ」
「では、死ね」
「……っぁぁぁあああっ!?」

 吠える少年、仔犬の様な雰囲気に弱々しい手。
 刹那の応えは早かった。いつの間にか握っていた銃が少年の太ももを貫く。
 赤いシミがじんわりと学生ズボンへと広がっていく。
 えりを掴んでいた手は離れ、のた打ち回る様に床へと転げて
 紅い液体を塗り広げていた。
 容赦がなかった。何故、刹那が撃ったのか自分でもわからなかった。
 ただ、直感として今、この少年は障害である。
 排除しなければいけない。そうしなければ、先に進めない。
 そんな意識が先に産まれて、引き金を引いていた。

「痛い――っぁんでだよ!?」
「邪魔をするなら殺す。それだけだ」
「そこまでしてなんで」
「銃があって、俺が扱えるからだ」
「くっ――ぁあ――生きたいから銃を持って――いるの?」
「銃が、ナイフが、俺の意思が諦めさせてくれないだけだ。
 使えるものならなんでも使う。エヴァもその一つに過ぎない」

 続けて、転がっていた少年に銃口をまた向ける。
 目を見開いて口を開き、拒否を願い出ようとした瞬間、銃口は火を吹いて
 再び、紅いシミをフローリングに形成していった。
 右肩、左もも、左腕、適所を潰していって動きを封じていく。
 穴が開けられた水風船の様にどくどくと滴る紅い液体が漏れる中
 少年は痛みから顔を歪めつつもそれでも問いただす。
 照準は少年の額へと合わせられる。
 コレで少年は死ぬだろう。何故殺すのかわからない。
 
―銃声が部屋に鳴り響く
296寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 20:04:50.40 ID:???
「刹那・F・セイエイ。お前は間違っている」
「っ!?」

 刹那の脇腹にじんわりと紅いシミが形成されていた。
 振り返る。それは紛れもない幼少の頃の己であった。
 自動小銃による弾丸は内臓と骨と横隔膜と脂肪を貫いていた。
 思わずよろけて、テーブルへと肘をつく。
 爪を立てて、ワックスが塗られているテーブルへとなんとか縋ろうとする様は
 ひどく弱々しく痛々しい。自らの幼少期はそんな様子を蔑むように
 銃を構えたまま、淡々とした口調で言葉を紡ぐ。

「作戦の完遂には彼女の犠牲が最適だ。
 使徒をすべて殲滅し、エヴァを用いて紛争を根絶する」
「そうだ」
「自分でそう願った筈だ。だからお前は今、此処にいる。
 ならば、何故そんな事をする。情が湧いたか?
 一人の女の為にお前は成し遂げたい夢を諦めるのか?」
「っ!」

 彼女とはおそらくヒリング・ケアの事を指している。
 そして、これは葛藤なのだと刹那は理解する。 
 あの少年は誰か解らない。だが、目の前の幼少の自分は
 紛れもなく自分なのだ。銃を右手で握りしめたまま、睨みつける。
 幼少の自分は無表情でその殺意も敵意も受け止めることはなかった。
 しばしの沈黙、床には二人分の血痕の水たまりが広がっていた。
 心底、幼少の自分は残念そうな顔を、悲しそうな顔をしながらも口を開く。

「お前の行動は不合理だ。刹那・F・セイエイ。
 親から貰った名を捨てた人殺しが何をしている」
「俺は間違っていない」
「戦って、勝て。目標を完遂させろ。俺は今までずっとそうしてきた筈だ。
 これからもずっとそうだ。でなければ、俺は何のために母親を殺した」

 銃口を突きつけながらも幼少の自分は迫る。ソレは泣いていた。
 そして、引き金を惹かれる。膝を、右肩を、左腕を
 自分が先ほど撃ちぬいた様に同じように撃ち抜こうとする。
 引き金は引かれた。銃は肉を貫き、骨を砕き、血管を食い破り 
 血液を漏れ出させる弾丸を相手の肉体に貫かせる。
 そして、止めるのだ。命を、想いも、何もかも撃ちぬいて。

「お前も……いや、俺自身も邪魔なのか。邪魔ならば排除する」
「………かぁ……さん」
297寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 20:08:16.67 ID:???
 幼少の自分の心臓を撃ちぬいたのは刹那本人であった。
 その後、学生服の少年の額を撃ち抜く。
 大量の出血、異常な事態、それでも視界はクリアで狙いは正確無比であった。
 念入りに殺す。幼い頃の自分を。銃が少年の体を撃ち抜く度に
 まるで打ち上げられた魚のように体を跳ねる。
 最後の一発。否、正確には何発かは解らないが確かに銃弾はまだ残っている。
 幼少の自分は何故か死なない。
 殺している筈なのにうわ言のように母親の事を泣き求めている。
 刹那は震えながらも立ち上がる。血は滴ったまま、目を曇らせる事もなく、二本の足で。

「女一人救えず、争い一つ終わらせず、何が神か、何が希望か」

―神が居ないのなら

「刹那・F・セイエイ、ソラン・イブラヒム。お前では何も救えないというなら」

―人の身では何もなせぬというなら

「俺はもうお前で、俺で、なくていい」

―刹那は銃口を自らのこめかみに当てて

「「俺がエヴァンゲリオンだ」」

―引き金を引き、吼える

                               続く
298寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2012/08/22(水) 20:10:25.77 ID:???
以上、投下失礼……そして、纏まり切らずに遅れ過ぎて後編がまさかの前後編にorz
もうちょっとだけ続くんじゃ。多分、九月には終わらせたい
299通常の名無しさんの3倍:2012/08/22(水) 20:37:13.47 ID:???
∀゜)キテター!!
寝腐さん投下乙です!!
300通常の名無しさんの3倍:2012/08/23(木) 01:03:41.69 ID:???
投下乙
301通常の名無しさんの3倍:2012/08/27(月) 12:53:56.36 ID:???
おお!久々に覗いてたら来てた
ここのせっちゃんはガンダムに出会ってないせいか、
まだ少年兵を引きずってるからどうなっていくのか楽しみだ
302通常の名無しさんの3倍:2012/08/31(金) 14:03:40.27 ID:???
久々に来てみたら・・・投下乙です
そういや、参号機には刹那のカ-チャンがいるのか?
今回の母を求めるソランを見て気になった
303通常の名無しさんの3倍:2012/12/10(月) 21:08:13.79 ID:???
保守
304通常の名無しさんの3倍:2014/02/12(水) 10:47:12.11 ID:???
捕手
投下待ってます
305寝腐:2014/02/23(日) 18:47:55.16 ID:???
お久しぶりです。ちょっと色々ありなのですがとりあえず
3月中に第一部最終話投下予定です
まだ、見ていらっしゃる方が居れば良いのですが
306通常の名無しさんの3倍:2014/02/23(日) 18:56:13.93 ID:???
>>305
お久しぶりです寝腐さん!見てますよ!!

あとちょっと相談なのですが、まとめサイトのカテゴリが今のところ「その他」になっていますが、
クロスのカテゴリに移動するご希望はありませんか?

その他よりは人目につきやすくなる(左のメニューバーにカテゴリが表示されます)分
利点→人目につく機会が多くなる
欠点→荒らしがくるかも・・・
というメリットとデメリットがあります
よろしければご検討ください
307寝腐:2014/02/23(日) 23:29:37.06 ID:???
>>306
ありがとうございます
Wikiに関しては途中から掲載されてませんので出来る方にお任せしております
希望はあれど、実際にやって頂くのは他の方ですのでヤっていただけるなら
好きにして頂いて大丈夫ですよ
308通常の名無しさんの3倍:2014/02/23(日) 23:36:47.57 ID:???
>>307
実は他スレのまとめをしている身でして、こちらの作品がその他にあって
カテゴリ変更されてはと思った次第です

こちらでまとめをしている分でも、その他にあるのとクロス項目に独立してあるのとでは
大分アクセスも違い、また同じロボアニメということで
実はエヴァとのクロス作品を読みたいと思っている人もいるのではないかなと・・・と
出すぎたおせっかいですみません

それではすぐではないとは思いますが、出来るときにしかるべき場所に移動しているかもしれません
その際掲載がまだのようなら僭越ですが続編も載せておきます
直接確認が取れてよかったです、ありがとうございました
309寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/02/27(木) 23:36:16.37 ID:???
最終話ほぼ完成ですが肉付けと修正と少し寝かしたいこの頃です。
来月末投下にしてその間に外伝の筆が乗ればなんか投下してしまおうかと考えております。

また、大分間もあいてしまったので
自分がどんな話書いてたか思い出す為用に作ったあらすじを投下していきます。
大分内容はネタバレ気味になりますが、結構話数も多かったので
Wikiで読み返すきっかけになってくだされば幸いです。
310寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/02/27(木) 23:43:29.08 ID:???
  刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみるのあらすじ

 元少年兵の刹那・F・セイエイはアリー・アル・サーシェスの手紙(With航空チケットと偽造ビザ入り)を送りつけられ
居場所として記載されていた第3新東京市へと足を踏み入れる。
それは丁度、人類の天敵、使徒と呼ばれる巨大生命体の襲撃を受けている真っ只中の日程であった。

 刹那は使徒の襲撃の中、J/A(ジェット・アローン)という大型の人型兵器を駆るユニオン連邦空軍グラハム・エーカーと
戦車随伴兵兼オペレーターのクリスティナ・シエラにより救助され、第3新東京市の地下巨大空洞に居を構える特務機関NERVへと導かれる。

 NERVで怨敵のサーシェスを発見し、襲撃するも返り討ちをされ、昏倒させられる刹那。
再び意識を取り戻した際、対使徒用の汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン(以下EVA)へと文字通り押し込められていた。

 刹那はサーシェスと取引をする。
『EVAは神になれる。ただ、単純に見ても強大な戦力である。この世から戦争を全て無くせるかも知れない』
この言葉に刹那は再びサーシェスの元で戦うことを決心する。

 第四使徒との戦闘。刹那はEVA参号機を操り善戦していたに見えた。
サーシェスの計略も機能して、不慣れながらも戦い続ける中、予備電源への切り替わりにシステムが気付かずに沈黙。
そのまま、暴走状態になり使徒を撃破する。
311寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/02/27(木) 23:44:28.10 ID:???
 病院で目覚める刹那。六番目の子供(エヴァパイロットの適格者は最初から数えられて○番目の子供と表記される)ヒリング・ケアと初めて接触する。
また、現在の技術班の長である伊吹マヤのマンション(元葛城ミサトの邸宅)と同居することが決定される。

 刹那は地元の高等学校への編入、無為であり無意味な学生生活を送る。
その際、同学年のクラスメイト、ルイス・ハレヴィと沙慈・クロスロードへNERVに関する質問を受けるが
これを拒否した事とヒリングの乱入により小さい揉め事となる。

 それから日がたいして空かずに第五使徒が襲来する。
刹那の駆る参号機は武装の試験をしており、四番目の子供フェルト・グレイスが登場する初号機で応戦。
使徒に傷を負わせる事も適わず、同戦場にて緊急避難的にルイスと沙慈、そして相田ケンスケを初号機に同乗させる。

 使徒は駆け付けた参号機の新武装GNマゴロクソードにて一刀両断される。
そののち、ケンスケと沙慈はマヤと刹那の家を尋ねる。そして、ケンスケは自らの抱えていた使命を吐露することになる。
312寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/02/27(木) 23:45:49.32 ID:???
 ヒリングのパイロットへの復帰が決まる。刹那はヒリングの私室を尋ねると共に学校のサボタージュの共犯へとされる。
ゲームのネット対戦にて、2番目の子供、式波・アスカ・ラングレー及びグラハムと擬似戦闘を興じる。

 その後、NERVへとヒリングと共に戻った刹那は第六使徒の襲撃を知り、戦場へと出る。奮戦虚しく、初号機を庇った形で参号機は損傷、武装も破損してしまう。
しかして、少年と少女は戦場から逃げる事は許されず、第六使徒に対して戦術予報士スメラギ・李・ノリエガの提案する『マツノ作戦』を決行する。










以上です。では、投下失礼しました。
313寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:30:25.00 ID:???
仕事が忙しくて投下し忘れて原稿をようやく発見orz
外伝ですが投下します
314寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:31:34.43 ID:???
刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
    閑話窮題「レイクダイバー 前編」

 少女が苦悶し葛藤する。それは偏重したサディスティックな嗜好から見れば
 とてもとても美味しいご褒美に見えるが生憎、現場の人間の主要な人物はだれしも
 そういった嗜好を持つ者がおらず、おろおろと心配そうに見つめるばかりである。
 EVA仮設伍号機パイロットのアレルヤ・ハプティズムと
 ロシアの荒熊の異名を持つ男セルゲイ・スミルノフはどうしたものかと
 瞼を閉じて寡黙に考えていた。二人ともその言動によって答えが出ないのは解っているが
 当人と少女にとってはそういう姿勢がとても大事なのだと判断しているからだったりする。
 そんな重苦しい空気の原因は何かと問われれば、皆の視線の先に映るのは二人の人物。
 背の高いスラリとした青年と年端もいかないアジア人らしき少女へと視線が注がれる。

「マナ。今日の俺を見て、どう思う?」
「……凄く、スペシャルです」
「よっしゃ! じゃ、今日も上手くいくな。間違いない」
「はい♪ 少尉は昨日にも増して、とってもスペシャルですから大丈夫です♪
 少尉の格好良さは天井知らずですね!」

 シベリアの極寒の如き殺伐とした空気を物ともしないAEU所属の
AKY(敢えて空気を読まない)少女、霧島マナと
KYB(空気を読むという事象を知らない馬鹿)エース、パトリック・コーラサワーは
 背景を暖色に染め上げ、高らかに笑い声を上げてキャッキャウフフな光景を繰り広げていた。
 この二人は毎朝顔を合わせる度にこの様なやり取りをして程よくテンションを上げて
 任務を敢行している。故に洞窟を抜ける道中、暗い穴倉の中をさまよっていても尚
 はつらつに明るく、ムードメーカー(当人達限定)を担っており、今日も元気に
 茶番を繰り広げてはミーティングの時間を待ちわびていた。
 
「中佐、あれはどうにかならないものでしょうくぁっ!」
「大尉、何度も言うが我々とは軍規も命令系統も違う。
まして、あちら側が指導すべき最上級上官があの男なのだ」
「くっ、AEUはなんであんな奴を送ってきたのだ」
「嫌がらせかな? ……ぐっ!」

 ベースキャンプにもなっている陸送輸送艦のロビーで
少女は手を震わせて、ぶちりっと程よく良い擬音が聞こえそうなほどの剣幕を
携えながらも、血の涙が出そうな程に目を見開き、セルゲイへと詰め寄る。
“うざい“という言葉を知らずに育ち、今もその感情の発露をどう昇華していいか分からない
超兵であり、EVA仮説伍号機パイロットのソーマ・ピーリス大尉の申し出にうむっと小さく頷いた。
続く言葉は当然ソーマの求める回答を得られる訳もない。
本来、合同任務というのはとてもデリケートなものである。お互いの機密にも触れるし
軍規の異なる相手とも些細なトラブルなど起きては外交問題にもなる。
しかして、AEUが送り出したのは自己流のスペシャルデリカシーを持つ男と
デリカシーよりも少尉が大事な乙女を送り込むという時点で
アレルヤのいう嫌がらせという観点はあながち間違いではないかも知れない。
その事実を鑑みた苛立ちをソーマはそのまま、アレルヤの腹部へと拳を打ち込む。
315寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:33:58.36 ID:???
「それなら尚の事、性質が悪い!」
「ピーリス大尉、ドメスティックバイオレンスも性質が悪いよ」
「アレルヤ少尉! お前と家庭を作った覚えはない! これはパワーハラスメントだ!」
「はぐっ!? いや、それもそれで性質悪いから!」
「……はぁ。私には五十歩百歩に見えるがね」

 撃ち込まれた拳に悶絶しながらも、アレルヤは消え入りそうな声で
 ソーマの八つ当たりに抗議の意を示すが、それに北極の氷の様な瞳を向けられつつ
 両手を握りしめて上から後頭部へと叩きつけてアレルヤを艦内の床へと突っ伏させる。
 超兵とはいえ、女の細腕故に加減容赦のない攻撃手段を見たセルゲイはため息と共に
 現状を客観視すれば、対して違いが見えないことにどう言葉をかけていいか迷っていた。
 端的にいえば、元々尻に敷かれ気味であったアレルヤは、今作戦のソーマの苛立ちにより
 軽くサンドバックになっている現状はいい意味でも悪い意味でも変化があったのだと
結論付けてはいる。が、若者二人に対する未来を鑑みると複雑な心境であり
誰に向けてもいない、独り言の感想を呟く。

「いやぁ、怖いですねぇ少尉。暴力女って」
「はははっ、女の子は元気があるほうがいいけどな!」
「ハッ!? 大佐と同じヴァイオレンスっぷりに心をときめいてないですよね? 少尉!」
「ん? 心配するな、マナ。今日もお前は抜群に可愛いぜ!」
「ほんとですか? 嬉しいです♪」

 一方、AEU側のすちゃらかバカップルもそのやり取りを見ており、怯えた演技をしながらも
 腕を組み、後ろへと隠れるマナ。ん?と意図に気付かずに頭をなでなでしながらも答える
 コーラサワーに対して、更に意図的に斜め上の発言を飛び出させれば
 ばちこーんっと片目ウィンクとサムズアップを貰っていた。
 ここで赤面しているのが演技ではない点においてマナの幸福感に嘘偽りは無く
 “人間”として幸せになるという当然の権利を行使しているに過ぎない事になる。
 故に人革連の男性二人においてもそれを咎める事が出来ないのであった。
 彼らは若くしてこんな作戦へと駆り立てられなければならない少女への同情心と
 そういう充実感に大して爆破を願わない程に大人であった。
 大人以外はこの四名に対して末永く爆ぜる事を願っている。

「相変わらず朝から憂鬱にさせてくれて何よりだ。では、ミーティングを始める」
「「「はっ」」」
「「了解であります!」」
「……はぁ。とりあえず我々は昨日見つかったこの地底湖の調査を行う。
 この任務の為にAEU及び人革連の“優秀“な軍人を派遣して貰っているのは解るね?」

 ドツキ漫才と惚気のカップルとそれを見つめる保護者の空間を見て呆れ返りながらも
 その空間に参加することになる紫の短髪の少年、リヴァイヴ・リバイバルは号令を掛ける。
 人革連の人間は一応軍規に沿った敬礼をするがAEUはそれに比べて雰囲気的に軽い。
 むしろ、甘い。ただ、そんな些細なことを一々気にしている程、リヴァイヴは他人に興味はなく
 スクリーンに映し出される巨大な湖の映像に目をやる。人工的に出来たにしては
 あまりに奇麗に刳り抜かれている球形のドーム。中央には生物の気配が感じられない
 巨大な地底湖が広がっていた。照明が照らされているが岸の反対側が視認できない程の
 広さであり、また、鍾乳石の長さから比較的新しい時代に作られた場所だというのが推察出来る。
316寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:35:55.10 ID:???
「以前説明したとおり、今回の任務は人類が小競り合いや縄張り争いの意義など
 路傍の石に等しいほどの大偉業になる。機関から直接僕が陣頭指揮をとっている意義を
 重々承知して探索任務にあたって貰いたい」
「地底洞窟でドキドキ宝探しって感じですね」
「うん、そうだな。20世紀的なロマンだぜ」
「AEUの軍人というのは人のを話を聞かない訓練でも受けている様だな」
「ははは……ピーリス大尉も習得すれば楽になるんじゃ、ぐっ!?」

 リヴァイヴはどうせ、解らないだろうという態度と意識の中、せめてプレッシャーと緊張感を
 取り戻そうと尊大に大っぴらに言葉を並べていく。それを粉砕爆破してくるマナの発言に
 瞼を閉じて青筋を立てる中、更にコーラサワーが感慨深くうなずくのを見れば、脱力。
 ソーマは視線をまっすぐどこか虚空の彼方に向けて、毒付いたの言葉の槍を放り投げる。
 ぴしりっと直立したまま、横目にソーマの見事な槍の不法投擲を乾いた笑いとともに
 成功確率皆無のフォローをするアレルヤ。当然、無言無表情のひじ打ちが腹部へと叩き込まれる。
 それを見かねてか、セルゲイが一人シリアスな空気を吹きいれる様に言葉を発し始める。

「質問がしたいのだが宜しいかね?」
「許可しよう、セルゲイ中佐」
「具体的にどんなモノを探すのかね?
 我々はまだそのモノについては具体的な説明を受けていないのだが」
「ああ、そういやぁそうだな」
「君まで理解力が足らない事に僕は失望を禁じ得ない訳だがまぁ、説明はしよう」
「あ、機密事項だから言えないのかと思ってました」

 敢えて今までの作戦中触れていなかった(約一名は素で気付いていなかった)事項へと
 足を踏み入れる。彼ほどの軍歴を持つ人間なら深入りは厳禁というのは重々承知している筈。
 故にその場の誰もが(約一名を除く)が緊張感と危険な気配を感じ取りつつも
 その問いを掛けられたリヴァイヴへの一挙一動に視線が集まる。
リヴァイヴは溜息交じりになりつつもふと周りの面子の今までの言動を見るに
どこかやるせない視線を左斜め下に向けたまま、軽く肩をすくめる。
そして、当然の如くその約一名は思い出した様子で声をあげて
マナもそれに続いて道化を演じていた。一瞬、マナへと鋭い視線を
リヴァイヴは向けるがそれも面倒そうに途中で止めてしまう。

「勿論、君達に機密事項である対象の説明の義務もない上に
 現状はどんな形状及び状態になっているか不明だ。
 故に僕が派遣されて目視及び確認を行うという任務を機関から承っている」
「わからないという事ですか?」
「常人にはね。無論、超兵とかいう強化を促してもエヴァに乗れたとしてもだ。
 ま、ここからはサービスという事だから、聞いたらすぐに忘れてくれ。
 これはお願いではなく、命令だ」

 相変わらずのもったいぶった言い方をしているが、それを端的にアレルヤに
 総括されてしまえば、少しむっとした表情をリヴァイヴは返す。
 それを憂さ晴らしをするかの様ににこやかな笑顔とともに厭味と皮肉を織り交ぜながら
 命令を行使する。見た目の通り、子供っぽいところがあるものだとセルゲイは思いつつも
 ようやくリヴァイヴのご機嫌が直りつつ、じろりっと並び立つ軍人たちに睨みを利かせる。
 そして、その言葉は一同の全員に想定以上のプレッシャーを与えられることになる。
317寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:36:59.07 ID:???
「これはセカンドインパクトにおいて飛散した、とても貴重なモノの回収任務にある。
 そして、それは使徒と呼ばれる化け物も狙っている可能性が高い。
 調査、回収、護送と色々とやることが多いんだよ。今回の任務はね」
「マジかよ」
「セカンドインパクだと?」
「ようやく、理解の到達に近づいてくれて、僕は感涙を禁じ得ないね。
 ま、泣いたりはしないが」
「故にエヴァ、更にはAEUの特殊兵器まで引っ張ってきている訳か」

 脳裏には各々の17年前の悲劇の記録、もしくは経験が瞼の裏から蘇ってくる。
 世界の勢力地図を塗り替え、統合、廃棄、破壊、復興のすべての原因となったとされる
 世界規模の災害の“一因“を見つけるとなる。まして、未だ実戦を経験していない
 EVAパイロット2名と特殊兵器の搭乗員1名には使徒との戦闘までを示唆され
 緊張が隠せなかった。約1名、武勲と誉れの機会を獲得できる好機と考えて
 胸高鳴らす者も居たが、それでもその重圧にいつもの笑顔に若干の引きつりを刻んでいる。
 その様子にようやく満足をしたのか、リヴァイヴからの任務の説明が始まった。
 皆の気持ちは上の空とまではいなくとも漠然とした何かに支配されていた。
それは来るべき災厄への予感だったのかも知れない。

―巨大地底湖沿岸にて

 機械の駆動音と共にハンガーからは3機の巨大な機影がゆっくりと地に足をつけて
 降り立っていく。一機は巨大な四脚に片手は道中の道を確保するための破砕用をする為と
技術者たちのロマンを体現する為につけられたドリル。もう片手のマニュピレーターには
巨大なつりざおの様なモノがアタッチメントとして付けられていた。EVA仮設伍号機。
人革連が勝手に名乗りを上げて、後から追認する形となったそのEVAは人型とはほど遠く
汎用性という概念とは全く別物の作りとなっている。
 それに遅れて弐体同時にハンガーから音をたてて歩いてくる機体。
 元戦略自衛隊試作、現AEU軍所属トライデント級陸上軽巡洋艦“雷電”、“震電”。
 AEU軍内ではLAND CRUISER T・RAIDEN・T、LAND CRUISER T・SHINDEN・T
 呼ばれるれている(以下、震電、雷電と呼称する)。
震電には霧島マナ、雷電にはパトリック・コーラサワーがそれぞれ搭乗している。

「うし、今日も雷電、震電はご機嫌だな」
「震電起動。オールクリア。GNドライブ、出力安定。潜水形態へと移行します。」
「全く、ユニオンもこれが要らねぇなんざ贅沢なことだな」
「垂直式使徒キャッチャー先端部。装着準備完了した」
「お、釣餌は俺のほうだな。レディーにこういう事はさせられない」
「そんな事は聞いてない。雷電へ先端部取り付け作業に入る」
318寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:38:58.48 ID:???
 言葉のとおり、ご機嫌に乗りこなしている(?)コーラサワーの三歩ほど後を
 追従するマナの震電。陸上走行は可能とは言え、身長はEVAの2/3、前後は
 大柄なこの機体の足は重く、怪獣の様にのしりのしりと洞窟を響かせながらも
 地底湖の端へと歩いていく。伍号機もまた、四足で近付く様も相成って
 とても現代科学の粋を集めた機械化部隊の行軍とは思えない歩みであった。
 地底湖の端へと付いた、雷電、震電は細かい変形を繰り返しつつも
 関節を固定及び防水化をしていく。伍号機は手に持っていた釣り竿の釣り針部分に
 当たる部分を雷電の左手のマニュピレーターに装着する。

「ドッキングを確認」
「水中用ライトとカメラ視認を水中モードへ切り替えます」
「さーって、未知の地底湖へダイブだ!」
「ソナー起動開始、周囲に反応なし」
「意外と深いなぁ。しっかし、魚一匹いねーってのも寂しいもんだぜ」

 確認する様にモード展開をいちいち告げるマナに対して、コーラサワーは
 気の知った相手という事であくまで先行するマナの作業工程の注視のみをする。
 おかげで一人だけあほっぽい掛声や感想が響くのを聞いてか瞼を閉じつつも
 軽く眉間のしわを刻み始めるソーマとその後方できりきりと胃を痛めるアレルヤ。
 流線型のフォルムに丁寧に淡い寒色で彩られた機体が
 移動車両の照らすライトが描く透明度のきれいな水へと沈んでいく。
 最初は仄暗い水溜まり程度に思えていた地底湖の深さに二名とも
 驚嘆を隠せないでいた。そのまま、奈落に飲み込まれてしまうかと疑う程に
 深く、闇が溶け込んだかの様に暗く見えない水底を眺めれば、自然と
 恐怖を本能に訴えかけてくる。中心部へと潜っている訳ではない事と
 同伴する同型機がいなければ、正に奈落か深淵へと沈み落ちている
 錯覚を覚えるほどである。コーラサワーが言う様にカメラ越しからスクリーンに
映し出される水中の映像は生命の影どころか下手したら
プランクトンの一匹もいないのではないかと思われる程の静けさを見せつけていた。

「さて、絶滅を免れた恐竜とか出てきたりな?」
「ん〜、どうせなら人魚とかの方がロマンチックじゃないですか?」
「麗しの人魚なら俺の隣に何時も居るだろ? 珍しくもないぜ」
「少尉! 人魚姫だとバットエンドだから却下です!」
「お、なるほど。そりゃ駄目だな、ハハハハッ」

 ほどなくして、二機は湖底へと降り立つ。
 真っ白な岩と堆積された砂が静かにその場を演出しているだけの
 うすら寒い風景であり、ここに至っても尚、生き物の影も見えない。
砂煙をスクリューで巻き起こしつつも和気あいあいとした会話のキャッチボールを続けている。
いい加減、怒るのにも疲れたのと途中から自身の知識の範疇を超えた為、ソーマも計器の
数値を眺める作業へと専念していく中、二機は地底湖の中心部へと向かっていく。
すると途中、地響きと共に水面が波紋を描き、ぱらぱらと鍾乳石のかけらや
天井部分のかけらが落ちてきて、地底湖に小さい波紋を描いていく。
小さい水音が反響し、音楽ホールの様に心地よい演奏を提供している中
3機を載せてきた輸送艦とそれぞれの機体は警報を鳴り響かせて、人類に異常を知らせていた。
319寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:41:27.57 ID:???
「水中に未確認の反応を探知! これは……通常の生物のサイズではありません!」
「ネッシーか!?」
「パターン青、使徒です!」
「くそっ……って、使徒か!」
「やっぱり、来たね。作戦内容を変更。使徒の殲滅最優先。
 後は、発見次第、捜索物の回収及び確保も継続! 中佐、後は任せましたよ」

 オペレーターの発言に皆が耳を傾けている中、どんな事態に陥っても
 少年の心を忘れないコーラサワーのリアクションを颯爽にスルーする一同
 ――というほど楽観視できる状況は余裕がなかった。
 誰もがそんな些細なことに構うほどの余裕もなく、リヴァイヴも唇をゆがめたまま
 じろりっとセルゲイの方を見て、指示を飛ばす。現場の主導権と指揮権が変わり
 冒険から戦場へと認識を改めさせられることになる。
 相手はそのまま水中から来るか、それとも湖面や沿岸を沿って地上から来るかも不明。
 あくまで遠方から巨大な機影とパターンが使徒であることしか分らない。

「了解しました。伍号機は沿岸にて待機!
潜航中の雷電、震電の両機は目標探索と接触次第報告を怠らぬ様!
雷電はそのまま浮上し先行! 震電はそのまま湖底にて少尉と距離をとりつつ随行せよ!」
「よし、雷電は先行する! マナ、後方は任せた」
「了解です、少尉!」

 コーラサワーが駆る雷電が威勢よく前に飛び出せば、それをマナが追う様に
 あとに続いていく。湖底を静かに滑走していた二機は一旦別れていく。
 水泡をまき散らしながらも先行する雷電のやや後ろから
 こちらも砂煙を巻き上げながらも進んでいく震電。
 真っ暗な水中遊泳が途端、さながらパニック映画の人食いモンスターの
 出待ち繋ぎの様に感じていく。緊張感の中、レーダーが捉えたソレが
 水中ではありえない速度で接近してくる事からオペレーターが声を張り上げる。

「機影急速接近!」
「少尉来ました!」
「で、でっけぇな!?!」
「こちらも目視で敵使徒を視認!」
「くっ、どうやって入ってきたんだ? アレ」

 カメラとライトの向こう側からは大きく生白い巨体が接近してきた。
 流線型の生物的なフォルムでこれが通常の水族館で見るサイズなら
 エイか何かの一種だろうと片付けられるのだろうが、明らかに迫り来るその生命体は大きかった。
 水流を掻き分けて真っ白い体はクジラ一体を丸まる飲み込めるのではないかと思われる
 鋤歯の様な口を大きく開けて、コーラサワーの雷電へと食らい付こうとする。
 水生生物的なフォルムを持つこの使徒に対して、何とか機体を捩りつつも一回目の体当たりを回避する。
 といっても、回避と言えるほど寸の出ではない。
 ガコンっと機体の一部がぶち当たってきりもみ状態のまま、なんとか姿勢制御を行う。
 溢れる水泡と水の動きが湖の外からでも解る程にその巨体は大きい。
 そして、その巨体は再び湖の暗い中へと溶けて行く。
 静寂を取り戻した水中であったが、かき乱された水流が湖底を荒らしていく。
320寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:42:33.65 ID:???
「如何なさいますか?」
「捜索物との接触阻止を第一。戦術は一任する。適当にやれ!」
「〈捜索物=使徒ではないのか?〉……了解しました」

 リヴァイヴは神妙な面持ちでモニターを見る。正確に言えば、驚愕を隠そうと
 瞼を閉じているがわずかな手の振るえを既にセルゲイに見ぬかれている。
 彼は使徒の襲撃に関しては想定されていたのだろうが、この状況は想定してなかった。
 そう、あんな”巨大に成長し切ったフォルムの使徒"の襲来は聞いていない。
 コンソールを叩き通信網を開く振りをする。実際に彼にはそういう事は本来必要ない。
 通信機器でいかにもな言葉で地上との連絡をとりつつも、念話に等しい能力を用いて
 ある人物と会話を始める。

『どういうことだリボンズ!』
『おや、そんな地下でも案外通じるモノなんだね。使徒接触の情報は今、入ったよ』
『話が違うぞ! 聞いていたのはまだ再生中の使徒だ!
 あんなデカい奴は僕は聞いてない!』
『相当大きい奴みたいだね。魚っぽいから多分、ガギエルって名付けられると思うよ』
『名前なんてどうでもいい。どういうつもりなんだい?』
『いや、僕は確かに再生中の使徒だと言ったけど、一体だなんて一言も言ってないしね』
『……なっ!? それは……まずいぞ!? こんなところで起こすなんて聞いてない』
『もちろん、そんな予定はこっちのプランにも死海文書にもない。
 だから死んでも止めてくれないと困るね。ま、その為のエヴァ伍号機でもあるし』
 
 静かな激昂。顔と態度は無表情ながらも今回の作戦立案者に声無き声を荒げる。
 相手のリボンズと呼ばれた少年の様な声の男はそれをどこ吹く風と言った風情で
 その声を往なしていく。リヴァイヴにとって今回の任務は言葉通り
 ある使徒を生け捕りにすることだ。生きた使徒のサンプル。
 是が非でも手に入れたい貴重なものであり、敵を一体消すことと同意義でもある。
 ただ、事態は大きく変わっていた。目の前の使徒は聞いていたモノとは違う。
 すなわち、あの巨大な使徒はイレギュラーであり、現場で鉢合わせたことになる。
 最悪のシナリオがリヴァイヴの脳裏を過る。
 もし、その再生中の使徒がそれを終えて戦いに加わった場合、圧倒的な状況の不利。
 それで済まされれば良いが、それよりももっと恐ろしい事すら想定できる。
 漫画的な表現をするならリヴァイヴの背景と造詣がぐにゃりと曲がる程の
 逼迫した状況。其の時、割って入る会話。女の声。
 不可解と不愉快と我儘と傍若無人さと面倒臭さを混ぜて化学反応させた声が
 二人の脳裏へと突き刺さる。
321寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:46:32.11 ID:???
『あー、ピーピー煩い! ぐちぐち言ってないでさっさと倒す為に頭使いなさいよ』
『な! もし、例のアレが此処にあったらサードインパクトが――』
『起こさない為にあんたが大口叩いて動いてるんでしょ? それが出来ない無能なら
 無駄口叩いてないで無能なりに身体張ってでも何とかしやがりなさいよ』
『はは、これは一本取られたね。ま、そういうことだ。そろそろ君も結果を出してくれると嬉しいね。
 ま、最悪君たちが自爆すれば、使徒一体位は葬れるだろう?
 回収ついでに死体も掘り起こすさ』
『くっ! 勝てば、いいんだね!? ……っ勝てば!』
『最初からそういっているんだけどね』

 がちゃりっと音を立てて通信機を切る振りをし、その念話を終える。
 顔は真っ青に近く激情と葛藤と焦りが丸見えであった。
 切迫する表情と言葉がセルゲイのみならず、周りのオペレーター達からも
 見て取れるほどだ。瞼を閉じて、大きく鼻から息を吸う。口元をわずかに開き
 音が漏れる規則正しい深呼吸の動作。数度繰り返した後
 セルゲイを手招きで呼び寄せた後、耳打ちする。
 オペレーター達もそれに聞き耳を立てていたい気持ちは湧き立ってはいたが
 残念ながらそんな余裕がないほどに使徒の猛攻は激しい。
 特にコーラサワーの乗る雷電の損傷が増えていった。
 一見、雷電のみに攻撃を集中している様に見えていたのだがそれは違っていた。
 使徒の基本的な行動は震電をメインに主に湖底に体当たりをしようとしていた。
 しかし、それを阻むのがコーラーサワーの駆る雷電である。
 疑似餌の様に試作伍号機に指示を飛ばしては
 使徒のわずかの上方へと回避をしながらも魚雷と水中機雷をばらまいていく。
 途中、湖底をえぐるように進んでいた使徒はそれを嫌って水面近くへと移動する。
 
「使徒殲滅を命令されましたが……セルゲイ中佐」
「はっ」
「ここだけの話、捜索物と使徒の接触は人類の存亡に関わる。
 いざとなれば、エヴァ及び他二機の自爆を持って敵を排除する。
判断は中佐に任せますが、責任は機関が負います」
「……其れほどまでに」
「言わずともがなです。正直、僕を含めて
ここにいる人間が全員死んだとしてもその英断にはおつりがくる」
「ではそちらは何を?」
「私はその間、送られてくるモニターと情報から捜索物を探します。
 予備の探査機も動かして、なんとしても先に捜しモノを見つけないといけない。
パイロットによそ見運転できるほど使徒というのは油断できる相手ではないですから」
「解りました」
322寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 14:48:13.97 ID:???
 耳打ちされる内容に思わず目を見開きつつもそれを気取られぬ様にする。
 目の前のこのプライドと自尊心の塊のような少年がその自らの命を賭して
 なさねばならぬと判断したことはセルゲイにとってそれが
 重々たる責務であることを理解するのは容易かった。
 苦々しくも少年を見た後、セルゲイは振り返ると同時に思考を切り替えて
 送信されてくるメインモニターの映像を流れる。
 通信から聞こえてくる低く張り上げる声には苛ついた様子を露見させた
 コーラサワーの返答が返って来る。
 咎める猶予すら無く淡々とセルゲイは命令を発していく。

「少尉、通信は生きているか? 今から私が指揮権を一任された」
「ぁ? あのエラソーなガキは何やってるんだ中佐? 逃げ出したのか?」
「少尉。彼は別任務に入った。彼はココに居るし、通信も聞こえている」
「ぇ? あ、ヤバッ」
「少尉! 損耗が激しいです!」

 『俺の口、軽過ぎ?』と言わんばかりに慌てて口元を抑えた結果
 使徒の体当たりを食らって後方に錐揉み回転をしつつも脳みそをシェイクされる。
 マナの声で何とか意識は引き戻されるも、ATフィールドも破れずこちらの攻撃は
 一切届かない現状はあいも変わらず絶望的であった。

「っーーー! よっしゃ、じゃぁとっとと畳んじまうか」
「何か活路が見えたか少尉?」
「当たり前だ! 俺はAEUのスペシャルエース、パトリック・コーラサワーだぜ!」

 高々と死亡フラグを掲げたコーラサワーを敬愛の感情を抱くのは一名。
 他全員は多分ダメだろうという諦めの下、彼の言葉を受け止めていた。

                                   ―後編に続く
323寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/02(日) 16:20:08.49 ID:???
さるさん解けたかな?

以上です。ギャグのネタが微妙に旧いのは書いたのが結構前だった所為だと思いたい
後、先頭の空白入れ忘れをレス投下後に気づく有り様orz

また、数カ月ぶりに読み返してこのコーラサワーとマナへの既視感はラムネ&40のダ・サイダーだと判明しました
次は月末にも本編投下です。余裕があれば、もう一話位外伝が投下出来るかもな感じです
では、投下失礼しました
324306:2014/03/04(火) 17:57:05.64 ID:???
>>323
寝腐さん投下乙です。

コーラサワーが出てくるとギャグ色が一気に増しますね。
鉄壁の死なないフラグで良くも悪くも気楽に読めてしまうというかw

さて、まとめWikiのカテゴリ変更の件ですが
メニューバーの
移転前「その他作品集」→移転後「クロス」の「00-EVA」にお引越しをヤらせていただきました。

少しお時間をいただくとは思いますが、続編の収納がなければ順次ヤっていきます。
またご希望や、一応確認はしましたが訂正などがあればどうぞ。
325寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 20:52:25.51 ID:???
では最終話投下始めます。
326寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 20:54:46.67 ID:???
―ああ、あいつが、あんな奴が、震えが止まらない
 故に私は、僕が、自分が、俺が、何故義務を果たせない

 ヒリング・ケアは泣いていた。
 舌を噛み切るというのは実は自殺としては迷信的で医学的根拠が無いという知識が
 ヴェーダから流れ込まれているがそんな些末事などどうでもよいのだ。
 まるで赤子の様に無力な子供の様にヒリングはそのエントリープラグという名のゆりかごで震えている。
 単純なことだ、自爆特攻、時間稼ぎ、命を散らして好機を導く。
 幾多の戦士がその死を覚悟して行ってきた当たり前の行為であり、犠牲でありそれ故に紡がれた未来。
 まして、自分が死んでもまた新しく体が生成される身であり、必要な覚悟とリスクは羽毛の様に軽い。
 その為の自分、その為の厚遇、その為の存在。そんなことは解っている故に道化を演じられる。

「全部、あのバカの所為よ」

 ヒリングの脳裏に浮かぶのは六番目が自ら作り設けた600秒の時間。
 再生される言葉と空気、其の一瞬の走馬灯は彼女が心象の理解を得るには十分であった。

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる

  第六話終篇「奇跡の声は」

―ヒリングの脳裏に思い返される出撃前の事

「あたしが正直者だったら世界中は聖人君子に溢れてるわよ」

 突然の言葉、予想も全く無かった訳でもないが、それでもヒリングは僅かな動揺を隠す様に
 大きなリアクションとため息から残念さを演出していく。
 また、お説教?と言わんばかりに腰に手を当てて睨みを聞かせる瞳はまっすぐに視線を注ぐのは
 相手に怖気づいていないというアピールにも等しいものであった。
 悪態とともに投げつけられる皮肉とともに苛つきを感じることに内心驚きを隠せていなかった。
 まさか、もっとロマンティックでセンチメンタルな展開を期待してたのか?と考えると
 バカバカしさからこの10分がとても長く感じてしまう気持ちが芽生えていく。

「ヒリング・ケア。死を恐れぬ事は不可能だ。怖がることは臆病なことではない」
「はぁ? 何言ってんの? ったく、辛気臭い面に辛気臭い話はごめんだわ」

 嘘と断言することも、そして自分の心象と経験から基づく言葉もそれが心理的に如何な意味を持つか。
 それはヒリングの感性は察知出来る。故に言葉と空気故に苛立ち感情を露わにする。
 彼女にとって立場は本来違う。気を遣われる事を求めている訳ではない。
 威嚇する猫の様な剣幕もいつもの刹那の鉄面皮が崩れるには及ばない。
 ヒリング自身も驚いていた。苛立っている自分に、指摘される事ではない。
 当然、自分に自覚が全く無かった訳ではないが、この場、このタイミングで
 使徒殲滅に対して一番ストイックだった刹那がこんな不利益な会話を振っている事は驚愕に値した。
 
「取り繕う必要はない」
「……っ、あんたに何がわかるってのよ! ちょっと遊んで上げたからって調子に!」
「俺にはお前の事は何も解らない……だが」
327寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:00:04.18 ID:???
 睨みつける様に顔を近づける。刻まれた皺も怒気の孕んだ声とともに吐きつけられる唾液の飛沫も
 胸ぐらを掴んでくるその白く細い手も何もかも刹那の態度と声を変えることは叶わなかった。
 花を手折る様にその手を重ねながらも刹那の言葉は止まらない。
 まるでそれは遺言の様に泣き止まぬ赤子に捧ぐ歌の様に。それはヒリングにとっては別の恐怖であった。
 今まではただただ、自分の屁理屈でねじ伏せられるただの根暗で無口な少年。
 それが今、自らのふるさとの言葉で、まるで詩人の様に優しく語りかけてくる。
 同じ人間の様には思えないし、同じ人間だったとしてもここ迄動揺することは想定外だった。

「そういう顔を俺は何人も見ている。大義、覚悟、復讐心、殺意
 いかに壊れようとも強くあろうとも死は寂しく怖いモノだ」
「知った風な事言ってんじゃないわよ! 少年兵上がりの殺人マシーン気取り?
 戦場で色々見てきましたって言いたい訳? 経験者は語るって奴!?」
「俺が今、お前に話したいと思った。それだけだ」

 言葉の重みが胸へとのしかかってくる。否定の思いでなんとか意識をヒリングは保とうとする。
 自分と相手は違う。自分が何もかも知っていて、自分が何もかも優秀で
 そして、何よりも適任だということは解っている。だから、いいのだ。
 そう言い聞かせていたし、其の覚悟も疾うの昔についていた。
 恐怖。それはそんな当たり前に日々築き、塗り固めてきたモノを
 たかが数回あったこの少年に呆気無く、躊躇なく、遠慮なく、突き崩されていたとう現実だった。

「怖がる人間は死ぬべきではない。それは生きたいという意思の現れだ」
「っ! いい!? 六番目は色々と機密じゃ言えないんだけど私は平気なの!
 けど、使徒は倒さなきゃいけないのよ! そうしないと世界が終わるの!
 そんなのあんたも聞いてるで……しょ」
「俺は何も知らない。何も解らない。……ただ、仮にそれを知っていても死ぬのはお前ではない」

 叫ぶ声はその狭い部屋の二人だけの空間に響き渡っては本人の耳へと打ち戻ってくる。
 まくし立てる言葉は、相手に向けたのではない。自ら言い聞かせる様にそして、それで騙す様に
 言葉をかき消す様にしていくが、刹那の真っ直ぐな視線と顔に徐々にしぼみ枯れて逝く。
 聞きたくない。耳を両手で塞ぐ。見たくない。瞼を食いしばらんばかりに瞑る。
 それでも、刹那の手はヒリングの両の手をそっと添えてはその手を穂垂していく。
 ヒリングの抵抗は歳相応の少女のごとく弱く、恐る恐る開かれる眼は少し潤みを含ませていた。 

「死ぬな」
「……ダメ。勝たないといけないのよ。私が死んでもね?
 そして、アンタは代わりが見つかるまでは死ぬことは許されないの」
「……訂正する。死なせない」
「なら、使徒を倒す事。生きて帰ってくる事ね」
「それは命令か?」
「出来ない人間が人に説教垂れる資格が有ると思ってた訳?」
328寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:02:58.88 ID:???
 刹那の言葉に目を見開いた後、唇を半月に曲げ其の顔を近づける。
 その瞳の潤いすらも恥ずかしいがそれでも瞼を再び伏せて、顔を寄せる。
 刹那は其の息遣いにも動揺することは出来なかったが、ソレに驚きがあったのか否か
 当人も気づかぬ合間にヒリングの大外刈が右方向から刹那の足を捉えては
 そのまま、刹那の姿勢のバランスを奪って、硬い床に叩き伏せられる。
 怪我人相手に容赦の無い投技と共に刹那の視界は流転をする。
 踵を返してまるで背中に口が生えたかの様に顔を合わせること無く
 ヒリングはいつもの調子をなんとか振り絞り、いつもの大口をひねり出す様に紡いでいく。

「……生きて帰ってきたら誤魔化さずに最後までしてあげるわ」
「それは――」
「命令よ」
「……了解した」
「そろそろ10分ね。折角生き残った後、万回殺されたらこの命令も無意味だわ」
「それもそうだな」

 時計など見ていない。正確な時間も解らない。ただ、ヒリングにはこの時間で十分だと
 いつもの様に、身勝手に、我儘に、独断で決めただけにすぎない。
 お互いの顔も見ず、お互いの根拠もなく、お互いの何もかも信じられなかった二人が
 最後に言葉を交わして、今この死地へと赴いていた事をヒリングは脳裏にまざまざと思い起こされた。

―現時刻、第三新東京市NERV本部直上

「ヒリング前に出ろ! あのバカを引き剥がせ!」

 四号機の自爆シークエンスが一時的に止まる。外部からの信号でその紅く刻まれた最期の時は
 コンマ一秒も動くことはなく、映しだされていた。そして、眼前に広がるのは参号機の特攻。
 四号機から、ヒリングから盾を、譲り受けた刹那はそのまま、ボロボロの参号機で突進する。
 自爆特攻するはずだった四号機の頭を掴んで後ろへと放り投げた後
 何の戦略も、勝算もない奇行であり、蛮行の選択に司令部から声が上がる。
 怒り狂ったサーシェスの言葉と命令がヒリングの意識をなんとかつないでいるが
 ヒリングは前へと出ることが出来ず、その心理を露わにする様に尻もちをついたまま機体共々動けない。
 参号機はそんな事態を尻目に前へと突き進む。浴びせられる加粒子砲はその大盾を焼き溶かしていく。
 
「おぃ! 現状どうなってやがる!」
「三号機応答不能! ……これは暴走状態です!」
「んだと!?」
「参号機のシンクロ率80%突破、外部の信号も拒絶しています!」
「四号機シンクロ率急低下! 20%を切りつつあります!」
「初号機は!」
「シンクロ率、意識はありますがパイロットの様子から応答出来る状態ではなさそうです!」
「ぅったくよぉ! なんでこんな肝心な時に命令が聞こえねぇもんしか使えねんだよ!」
329寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:11:01.81 ID:???
 サーシェスがオペレーターのイスを怒りに任せて蹴り飛ばしたところで現実は変わらなかった。
 やけ溶けた盾が消えても参号機は止まる事はない。拘束具ははずれ、大口を開けて
 使徒に掴みかかろと手を伸ばしていく。其の指先の装甲はまるで日に炙られたビニールのごとく
 穴を開けてはその異色の肌を焼きこがしていく。取って付けられた包帯は燃え尽きて
 ベタベタと張られたガムテープの簡易装甲は爛れ剥がれ落ちていく。
 ぎょろぎょろとした眼球だけはひたすらに使徒を見つめては
 もはや、立つ事もままならぬ状態でも、それでも参号機は、刹那は使徒へと歩を進めていく。
 自らのその巨体で初号機と四号機を庇う様にその体は、意思は止まることはなかった。
 残りの命の焔を輝き示す様に参号機のGNドライヴは徐々に弱々しくなりながらも
 初号機の持つ折れた刀へとGN粒子を注ぎ続けていく。
 一度その砲撃を終えた使徒はまだ目の前で弱々しく立つ参号機を一瞥することもなく形状を変えて
 GNドライヴへと酷似した形状へと再構築されて、EVA三機まとめて葬る準備を進める。
 初号機が注ぎ切り続けていく粒子の刀などもはや眼中にないのだろうか?
 そもそも、視界という概念すらあるか怪しいただの砲台に等しい化け物は淡々最期を創りあげようとしている。

「……ムカつく。無敵の暴走モードでも勝てない奴なのこいつは? そんなの無理ゲーじゃない」

 通信すら届くことも叶わず、ただただでかい巨人の脊髄に埋め込まれたゆりかごで
 ヒリングの気持ちのギアは切り替わりつつあった。脳みそはぐつぐつと煮えたぎっている。
 何故、あんなガキの為に自分が恐怖せねばいけないのか。
 何故、あんなガキの為に自分があんな格好悪い最後の姿と口約束をしなければいけないのか。
 何故、あんなガキの為に今、何も出来ないことに苛立たなければいけないのか。
 これでは常日頃馬鹿にしていた二番目の子供より酷いではないか。
 細かいプライドに、下らない見栄に、我慢ならない現実にキャンキャンと怯えて吠える子犬の様な
 あの式波・アスカ・ラングレーの方がまだ戦果を上げているのではないか?
 そもそも、人間無勢の格好いいだの悪いだのという価値観に何故振り回される?
 その声は彼女にとって親しい人の声へと再生され、問いかけられる。
 想いと意識は練磨される。そして、ヒリングの瞳はまるで血潮の様に紅く、紅く輝き始めて声が紡がれる。

「私が戦わないと」
「そうでしょヒリング・ケア?」
「彼を死なせないで」
「倒さなきゃね、敵を」
「大事な人だから」
「奪わせないわ」
「失いたくない」
「「私が守るって決めたのよ」」

 わずかに通信に漏れるノイズの様な声に碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウは顔を見合わせる様に驚愕を示し合わせる。
 しかし、その事実に司令部の誰もが視線を向けることはなく、現状への対処と報告に文字通り手一杯であった。
 そんな大人たちの喧騒と混乱を尻目に数値の乱高下を告げるオペレーターの声がモニターを釘付けにさせる。
 画面にでかでかと掲げられていくのは四号機のパラメーター。一部が欠損、再構築されていく。
 絶叫、劈かれる怒声、同時に白銀の四号機は雄叫びとともに背中を割り、GNドライヴを露出させる。 
 その形は変わらない。しかしてそれはなにか意味があり、その意味に司令部の全員が活目することになる。
330寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:13:27.87 ID:???
「四号機! シンクロ率急上昇!」
「なんだ、こっちも暴走か!」
「違います……これは……量産型GNドライヴの性能が、通常のGNドライヴとほぼ同じ……いえ、ソレ以上です!」
「五番目ぇぇええええ!!!! 私が! 本気出して上げるから、確実に仕留めなさいよ!!!」
「ぇ!? へ、あっ……」
「後、終わったらアイツをすぐ助けんの! 解った!?」
「う、うん!」

 紅い血しぶきの様な粒子が徐々にそして確実に赤味を薄れていく。
 同時に沈黙寸前であった、参号機のGNドライヴもそれに応える様に息を吹き返していく。
 しかして、使徒も黙って眼前の起ころうとしている奇跡を見過ごしてくれている訳ではない。
 充填の終わったGN加粒子砲は光を溜めてそのまま解き放とうとする。
 その光を掴み、へし折ろうとする様に踊り出る四号機の手のひらを使徒は容赦なく焼き溶かす
 爛れていく装甲は白銀をまるで火に炙ったアルミの様に波打たせる中、其の光すら切り裂く一閃。
 赤と緑混じりだった光の螺旋は一本のただただ、碧く光り輝く一本の柱となって
 其の光を押し返していく。紅く輝く使徒の光の線は絆され、乱れ消えていく中、碧い光が飲み込み
 ある一点を超えると同時に羊羹を包丁を入れるが如く、真っ二つにその線が駆ける。
 山を溶け斬り熱の傷跡を残した後、まるでそうなることを忘れていたかの様に
 使徒は綺麗に切れ目を作っては紅い血を吹き出し出血とともに動きを止める。

「使徒、活動停止を確認! 参号機、四号機共に活動停止!」
「救助班出動要請! クリスティナ・シエラ、現場に向かいます!」
「……で、なんだったんだありゃ?」
「量産型GNドライヴが本来のGNドライヴに変化?
 いや、そんな……、四号機は一度搭載してはいるけど……それを覚えて創り直したって言うの?」

 終焉を迎えた後継の反対側、肩を抱き支える様に参号機を抱える四号機。
 初号機はまだ、光を噴き出している折れた刀を放り投げては、参号機の脊椎のパーツをつかみとる。
 焼けた肌、露出する骨と筋肉、そんな些細な事など気にすることもなく外される装甲とともに吹き出すLCL。
 エントリープラグを地面へとすべらせる様に置いた後、初号機も地面にひざまずく様にエントリープラグを排出する。

「死んじゃう! 早く、早くしないと!」

 フェルト・グレイスは熱の残る地面とEVAの装甲をプラグスーツの耐熱性で耐えしのぎつつも現場へと辿り着く。
 途中ずっこけて、あつあつのLCLが混ざったドロが髪と顔についてる事など気にする余裕も無く
 へと手を着けるが白煙上げるエントリープラグ。非常用の開封スイッチを探るが
 手に振れた際にその熱量を体の反射が教えてくれた。混乱とともに周囲へとなんとかする術を視界で探してる内に
 後方からつんざき響く声に振りけると同時、おそらく過去に似た様な経験があったのだろう。
 フェルトの体は正直にその経験に基づく反射行動を取っていた。

「五番目! 頭伏せる!」
「ひっ!」
331寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:16:32.95 ID:???
 弾丸の様に視界へと飛び込んでくるのはヒリングの両足の靴底。
 頭を下げたフェルトを飛び越える様に非常用のスイッチへと蹴り込めば、熱に溶けかかっていた外装から
 二本のハンドルが頭をもたげて蒸気と共に目の前に現れる。
 ヒリングが何かを言いかけて大口を開け、向けていたフェルトへの視線を外せば、その熱のこもった
 ハンドルへと両手で掴みかかる。握った瞬間、思わず目を見開くが歯を食いしばり、歯茎をむき出しにしながらも
 そのハンドルを下げようとする。痛いとか熱いとか色々と感じ入るところがあれど
 それを感知できる余裕も作れないほどに脳は逼迫していた。中々動かない様子、呆然としていたフェルトも
 数秒遅れてハイドルを手にかけて、その熱に思わず飛び退き、そしてそれを行っているヒリング見る。
 まぶたを閉じて、決心を固めれば再びハンドルを掴む。泣きそうになりそう表情を飲み込む様をして
 女二人がかりでハンドルを回せば、ようやくそれは動き出しエントリープラグの扉を開ける。

「セイエイ君! 生きてる!?」
「気持ち良く寝てんじゃないわよ、ボケがぁ!」
「……ぐっ!」

 安否確認をしに体を乗り入れようとするフェルトの頬をかすめる様に
 ヒリングのYAKUZAキックが刹那の頬へと打ち込まれる。
 なんでこの人は一々こう、暴力的なんだろうと訝しげな視線を顔に向けようとすると
 ヒリングの頬から一筋の光がわずかに月光に反射しているのをフェルトは見てしまう。
 思わず声が漏れそうなのを飲み込んで、そして自分も泣いている事も確認が出来ない程に
 良かったと次の瞬間には色々な心の重みが開放されていた。
 頬の痛みとくらくらとする視界の中から注がれる女子二人の視線。
 生き残った実感すらよくわからないが二人の喜びだけがその表情豊かな表現から感じ取られる。
 思わず、目を伏せる様に視線を逸らしていく。

「俺は無事だ」
「見りゃ解るわよ」
「すまない。こういう時……俺はどういう顔をすればいいか解らない」
「えっと……そういう時h―」
「笑いなさいよ。生きている事に喜びなさい。これは命令」
「……解った」

 珍しく惑う様な言葉と共に迷いを吐露する刹那。
 どうしようもないわねっとヒリングが肩をすくめる中、フェルトが少し考えた後
 口を開いて言葉を紡ごうとした瞬間、ずいっとフェルトの頭を後ろから掴んで
 残ったLCLにわずかに顔を沈めさせられた後、乗り出して来たヒリングは言葉をぶつける。
 身勝手に、我儘に、独断で惑う刹那に命令の言の葉で踏みつける。
 一瞬、溺れそうになるって必死にタップをするフェルトだったが
 程なくして、これはこれで照れ隠しなのかなと自分の中に落とし所を作った後、ゆっくりと顔を上げる。
 視線を泳がせていた刹那もその言葉を聞き、理解して、表情に笑顔を刻む。
 3機のEVAはお互いボロボロで寄り添う形でその様子を眺めているかの様に佇み
 GNドライヴ二基によって吐出された粒子が街にOOの軌跡を描いていた。
332寝腐 ◆PRhLx3NK8g :2014/03/30(日) 21:22:02.61 ID:???
以上で、一旦「もしも刹那がエヴァの主人公だったら」のお話は終了します
一応、プロットでは最終決戦まで組んでると言えば組んでるんですが
クオリティと製作ペースの維持が無理と判断してます
閑話窮題系の投下も良いモノが書けたらとは思っているのですが
なんとも、裏設定と時系列の説明の為のお話になってしまうので面白く作れておりません

では、以前の時は長い間から。復帰後、知った方は短い方ですが読んでいただいてありがとうございました
333ギンコ ◆BonGinkoCc :2014/04/13(日) 06:51:52.12 ID:???
まあ、難しい事は考えずに、エヴァンゲリオンをシンクロする事だけを考えてな。
334通常の名無しさんの3倍
保守age