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 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄
〜このスレについて〜
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。
■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。
■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H21,3現在)
■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。
■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。
■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。
■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます
■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。
■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。
■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトへどうぞ。そちらではチャットもできます。
■捕捉
旧まとめサイトのチャットでもトリップは有効ですが、間違えてトリップが
ばれないように気をつけてください。
〜投稿の時に〜
■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。
■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。
■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(
>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。
■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。
■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は最低十秒以上あかなくてはなりません。
■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。
■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
〜書く時に〜
■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。
また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。
以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。
■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!!
“空 白 行”というものはっ――――――――!!!
まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。
■Q18 第○話、って書くとダサいと思う。
■A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。
■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。
■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。
スレ立て乙でした。
容量気にしてなかったっす。申し訳ない。
即死ってあるんだっけ?
一応保守。
〜ロックオン・ストラトス、フリーターになる〜
「仕事もないし、ボーズだったら今日はおかず無し、か。米は後3日分はあるが、さて……。
なんか、すっかり馴染んでしまっているが。……良いのか? オレは。これで」
夕方。岸壁に腰掛けたロックオンは、言葉とは裏腹にのんびりと竿のリールを巻く。
上がってきた仕掛けにはふやけたゴカイが数匹付いたままである。
「よぉ、須藤君。また仕事にあぶれたのか……。キミみたいなマジメな奴が食卓のために
魚釣りか。ヤナ世の中だねぇ。――ありゃあ、しかもボーズ、か。ツイてねぇなぁ」
見た目で損してるよな。まぁホントにガイジンではあるんだが。彼のバケツをのぞき込んだ
中年男性はそう言うと隣に腰を下ろす。
「大型レイバーの免許も有るのになぁ。景気は悪か無いんだが、なんつーか、……ツイてねぇなぁ」
「仕方がないでしょう、正規の免許を持った外人労働者がレイバーで事件を起こす。今月だけで
もう3件目です。オレが社長でも日本語を喋れようが、ガイジン雇うのはごめん被るとこですよ。
――公務員なんでしょ? 帰化申請はどうやったら通りますかね?」
プトレマイオスの格納庫。デュナメスのGNドライブの臨界実験をしていた。……はずだった。
気がつくと彼は何故か海底に機体ごと沈んでいた。通信、反応、全て途絶。湾のような所で
あったので、状況把握の為ハロに機体を任せて上陸し、日本語で書かれているらしい新聞を
拾い上げ、その日付をみて驚く。
「1900年代だというのか、一体此所は……」
その後1900年代後半の日本の東京で有る事がわかった。半端にネットワークが発達していたのは
彼にとっては好都合この上なく、デュナメスとハロを使ってあっさりと戸籍と銀行口座、
現金を手にする。何故か言葉が通じる以上、帰国子女で帰化申請待ちの外国人作業員。
設定はそうしておいた。ならば見た目も、昼間からぶらぶらしていても、おかしくはないからだ。
ロクオ・須藤。今の彼の名前。我ながらセンスのカケラもない。【装脚型建設機械・特殊 《但し
重量・脚数の制限無し》】。そう書かれた安っぽい免許証を見ながらそう思う。
「俺ぁそう言う部署じゃないからねぇ。力にゃなれんが、何でも最近は漢字の読み書きを重視する
傾向にあるそうだよ。――潮目が悪いな。今日は釣らんで帰るかぁ。夕食、せいぜいがんばれよ」
「何故だ……? ――まぁいい。原因は探ってくれ。この先、何があるか判らないからな」
絶対にバレないであろう状況はともあれ、違法に手にしたのに違いはない。そう思って
使う現金はなるべく少なくしているロックオンである。結果、彼の食卓には掌程の魚が一匹のみ。
「それとステルスモードは解除するなよ。ガンダムは今、此所に有ってはならないものだ。
絶対に見つかるな? 以上だ」
『リョーカイ、リョーカイ』
腕時計に偽装した通信機。ハロがよこした通信によれば、戦闘や高速移動でない以上、
半永久的に持つはずのデュナメスのエネルギー。それが何故か目減りしているらしい。
「まぁ、ガス欠になったところで、困りゃしないんだけどさ……」
ガンダムマイスター。俺は、そうだったよな。確か……。彼は、安アパートの天井の木目を
見上げながら寝転んだ。
「やっとラーメンが喰える、か。……ここまで遠かったなぁ」
「普通に言葉が喋れて、免許もあるし腕も良い。――盗み癖でもあるんじゃないのか?」
夕暮れのラーメン屋。ロックオンの隣に腰掛け、「大盛りとライスだ」とだみ声で注文を飛ばす
のは、今日現場で知り合ったがっしりした体つきの初老の労働者。
「そんな訳無いでしょ! ――レイバーのオペにこだわり過ぎてるから、でしょうね。まぁだからと
言って肉体労働向きなわけでなし」
何故此所にいるのかすら判らないが、元の世界へ帰る希望もまだ持っているのだ。
あまりうまくいって正規の社員になどになってしまってはそれはそれで困る彼である。
「俺が現役の内はバビロンプロジェクトで喰えるだろうがな。おまえさん、年食ったときのこととか、
考えた方が良いぜ?」
「……帰化申請が通れば、ね」
申請していないものが通る訳がない。それに老後の事など考える事もない。現状ならば
銀行口座の残高の桁を四つや五つ、増やす事など造作もないのだ。
「明日からどうすんだ?」
「一週間は喰うのに困らないし、その後はまた岸壁で魚を釣って生き延びますよ」
余計な正義心など捨てて今日にでも残高を増やそうか……。等とつい考えてしまう。
全銀行の口座を制圧する事など、一瞬で出来る彼である。
「ヤッパリ此所にいたかぁ。どうだ調子は?」
「後藤さん。……公務員、て警察だったんですか!?」
いつもの中年男性が相変わらずロックオンの脇のバケツに目をやる。但し、今日の彼は
オレンジの制服で胸に階級章が付いていた。後ろには乗ってきたと思しき小さなパトカーもある。
言わなかったっけ? 別に内緒にしてたつもりは無いけど。後藤は警視庁の名刺を差し出す。
「今日は大漁だねぇ。――公務員にゃ違いないよ。少なくとも君の敵じゃあないと思うが?」
「そりゃそうです。俺は悪い事なんかしてません。で、昼間から仕事をさぼって魚釣り、ですか?」
「2,3日、おかずには困らなそうだし、釣り、止めた方が良いぞ? テロの犯行予定を掴んだ」
目の前にそびえる巨大な堤防、その上に立つ未だ鉄骨が組まれただけの高い建築物。
それを見つめながら彼、後藤警部補は続ける。
「この辺かなりヤバいのよ。顔見た奴全員に言っといてくれ。おまえさんは外出も控えとけよ?」
「何故ですか?」
「ガイジンでレイバー乗りだからだ。犯行にレイバーが複数台使われるのは確定。なまじ腕が
良いからな。いらん嫌疑をかけられたくないだろ? 留置所で飯を食いたいってんなら別だが」
話をする二人のすぐ後。白と黒に塗り分けられ警視庁と書かれた装甲車のような車が止まる。
「遊馬、居た! 隊長、何でこんなトコにいるんです! 会議、今日じゃないですかぁ!!」
良く通る若い女性の声が響く。
「午後からでしょ? 未だ昼休みだもの。別に良いじゃない、海を見に来ても」
「そう言う問題じゃないですっ! 会議の前にお昼食べながら打ち合わせがしたいって、
今朝、南雲隊長が言ってたじゃないですか、もうカンカンですよ! 課長も来てるんですから!」
後藤がその車と喋っている間ロックオンはそっと釣り道具のケースに手を伸ばす。
爪の先ほどの小型盗聴器。この世界ならば妨害はおろか検知さえ出来ないはずだ。
「課長はともかくしのぶサンが怖いなぁ。そもそも爆弾テロなんて特車2課、関係ないでしょーが。
――須藤君伝えたよ? 公安も出張ってくる。奴ら、たちが悪いから目を付けられるなよ?」
装甲車に追い立てられるように小さなパトカーは走り去った。
ロックオンの盗聴器を床下に付けたまま。
《ロックオン、エネルギー残3.7パーセント》
「くそ、何でこんなに減った? せめて一発撃てなきゃ意味がない。パイロットスーツでまかなう、
コクピット生命維持装置はカット。ステルスモードからジャミングモードに移行、頭だけ上に出す」
『リョーカイ、モード移行、頭部浮上カンリョウ。モニター回復』
何故、貴重な残り少ないエネルギーを、この世界では日常茶飯事の破壊工作の阻止に
使おうと言うのか。自分でもよくわからない。
【突入はしのぶサンの隊だ。ウチは逃げてきた奴をとっつかまえる。何たって敵は爆弾魔。
よってライアットガンもリボルバーも発泡禁止。使うのは電磁警棒のみ。良いな?】
【お言葉ですが隊長、飛び道具無しでどうやって凶悪な敵を止めるのでありますかぁ!】
【太田ぁ。建設機械がショットガンを標準装備してるかぁ? あくまで逮捕が目的だ。あえて
爆弾魔と一緒に誘爆したいと言うなら止めないが、俺から1キロ以上離れてやってくれ】
肩の赤い回転灯を回した”パトレイバー”。すでにかなり以前からモニターで捕まえている。
二手に分かれたそれは総数4台。テロリスト達が用意したレイバーに数では負けるが、レイバー
同士の格闘戦になれば対レイバー戦専用のイングラムと専門の教育を受けたであろうパイロット。
数に問題はないと言う判断なのだろう。
そして付近の道路という道路には無数のパトカーが待機している。いくらレイバーであっても
この包囲網を突破するのは容易ではない。どうやら破壊工作の後、逃げるつもりはないようだ。
【ついでにここらは出来上がった施設も多い。余計な被害も出すなよ? 今期これ以上何か
やったら、いい加減俺のボーナスにも直接被害が出る。わかったな?】
相手がティエレンやイナクトでさえ、数で押してくればいくらガンダムでも追い込まれる事は
ある。それとも圧倒的な兵器でも所有して居るのか。
後藤警部補率いる”第二小隊”の無線が筒抜けになっている。どうやらあの小型のパトカー、
それ自体を指揮車の様に使っているらしい。
【爆弾はタワー内数カ所、そしてあのてっぺんにいるレイバーの握ってるアレが起爆装置だと。
だからといってだ、――泉ぃ。先走るなよ? 起爆装置、アレ一個の保証なんか無いんだからな】
指示もいつも通り飄々と。しかし一言で部隊が引き締まる。後藤という男、なかなか侮れない。
【も、モチロンですっ。あたりまえじゃないですか。な、なにいってるんですかー、たいちょおー】
電波の発信と受信、ロックオンはそれを示した図から要らないものを取り除いていく。発信源は
タワーの天辺、そして受信先はタワー内外に数カ所。どうやって掴んだのか、情報は正確だ。
わざわざレイバーでないと押せない大きさの起爆ボタン。受信機の先に爆発物があるかどうか
まではわからない。どこまで本気なモノか。
「ハロ、あのリモコンの構造解析、出来るか?」
《リョーカイ、ショーショーオマチヲ》
サブモニターに四角い箱とその中の基盤や配線が透視図で表示される。
「この角の配線と基盤か……。なんてぇこった。誤差1cmで撃ち抜けってのかよ、2kmも先から。
残りの粒子がもう……。ハロ、30秒後。上体だけでも水面に出して射撃姿勢で機体固定。
超精密射撃モード移行、ライフルの絞り直径1cmで2.3km先を狙撃するとして何秒持つ?」
《ツーセコンドデパワーオフ》
「はン、上等。……デュナメス、ジャミングモード維持のまま、射撃位置へ浮上っ、介入開始!
――ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜぇっ!」
「ん? 今なんか、……UFO? ――んにゃ、なんでない。始めたぞぉ。全員その場で待機」
『……完全に包囲されている、武器を捨てて投稿しろ!』
『主導権議ってんのはこっちだ! 先ずは自然破壊の象徴、大堤防のどてっぱらに穴を開けて
やる。嫌でもこちらの要求を飲まざるを得な、――あり? ありゃ? おい、どうなって……』
『第一小隊、全機突入!!』
「泉、太田! 左に回り込め! 入り口でがんばってるレイバーを制圧、熊耳も行け! 篠原、
レイバーの機種の特定! ――爆発物処理班、特車二課後藤だ、爆弾の種類割り出したか!?
「ガンダム、テロリストを制す。か……。個人的にはもう少し派手な方が好みなんだが……」
これじゃ、オレがやったかどうか、わかんねぇじゃねぇか。静かに沈んでいくデュナメスの
徐々にくらくなるコクピットの中、ロックオンは唇に笑いをはりつけて呟く。
そして、彼自身も少しずつ意識を失っていった。
支援
目が覚めると白い天井と間接照明。そして消毒薬の匂い。トレミーの医務室、そのベッドに
寝ているらしい。
「目が、覚めたか。――死ぬとは言っていなかったが、目覚めないのかと思っていた」
水の底に沈んだはずの彼の目の前、無表情という表情を顔にはりつけたエクシアの
ガンダムマイスター、刹那・F・セイエイが座っている。
「勝手に殺すなよ……。どのくらい寝てた?」
4時間だ。身じろぎもせず答える。
「生命維持装置を切って居たそうだな……。何を考えているのかは俺にはわからない。
だが、ロックオン・ストラトス。おまえも選ばれたガンダムマイスターだ。勝手に死ぬ事は
もはや許されない。そのことは忘れるな」
いつも通りの通り一遍、四角四面の言葉。それが彼なりの心配の表現なのだと気付く。
「おまえに言われるまでもないさ……。心配をかけたようだな、悪かった」
なんの事だ? そう言いながら刹那が立ち上がる。
「後で部屋に来いだそうだ。スメラギ・李・ノリエガから起きたら伝えろと言われた。伝えたぞ?」
スメラギの伝言を自分への言い訳にして此処にいてくれたのだろう。刹那は自分が思うほど
冷たくも非人情でもない。表現の仕方を知らないだけだ。
「わかった。すぐに行くよ」
振り向きもせず、返事もせずに刹那が出ていく。病室はロックオン一人。
「――やれやれ、スメラギ女史になんて言い訳すれば。……おまえ、居たのか?」
机の上、水差しの隣で身じろぎもせずにハロが収まっている。呼びかけに対して
目の部分がチカチカ光る。壊れては居ないようだ。それにしても普段なら意識が戻ると同時に
大騒ぎしそうなものだが。と思いながらハロに手を伸ばす、といきなり口を開く。その口の中。
「コレは――、マジかよ……」
「マジダゼ、マジダゼ。……ロックオン、ソゲキメイチュウ。リモコンノソウサフノウヲカクニン」
ハロの口から取り出したカード、それには。
【警視庁 警備部特科車両二課 第二小隊長 警部補 後藤 喜一】
と書かれていた。
「ははは……、俺の自殺未遂は、後藤さんの役には立った訳だ。――行くぞ、ハロ!」
以上です。支援どうもでした。
投下乙! すごく面白かったです。
まさかパトレイバーとは。以前に、アクエリオンとクロスさせた人ですかね。
一発の狙撃で誰にも分からないところから手助けする、
まさにロックオンの仕事だと思いました。
GJ!
後藤さんとロックオンの共演が見られるとは夢にも思いませんでした。
もし太田がデュナメスを見ていたら「オレにもその銃撃たせろーー!」
となったりしたでしょうか…
とにかく、懐かしさと面白さに感激しました。
GJ&ありがとうございます
>>18 ありがとうございます。
保守代わりに慌てて投下したので推敲が甘いかもですが。
>以前に、アクエリオンとクロスさせた人ですかね。
そうです。4人全員分、出来上がるのは何時になるでしょうorz
あと二人……。
>>20 おお、やっぱり。
夢オチかと思わせて、クロスした証拠が出てくる、と言うあたりも
面白かったです
>>13 リボルバーも発泡禁止
↓
リボルバーも発砲禁止
かな。
前スレに落としきるのが無理だったので、
こっちで投下しなおします。
15/
――ディオキア ホテル六階
「ミーア?」
酒の回ってメトロノームよろしくふらつく頭を、なんとか垂直に保つアスランは、
"壁に耳あり"とすら考えず、ドアの前に立つ少女の名を呼んだ。
「えへへ……隣の部屋だから来ちゃった」
七階建て、レンガ造りの城をヨーロッパから移築して改装したこのホテル、
六階にあるたった二部屋は、ミーアとアスランが割り当てを受けている。
最上階は、視察に訪れたプラント議長、ギルバート=デュランダルのものだ。
「……入れ」
静かに招き入れたのは、デュランダルについて何かを知ってはいまいかと期待した、
ただの下心だ。うきうきと部屋に入ってきたミーアを、かろうじて勘違いさせない程度に
距離をおき、アスランは酔った頭で、どう話を聞きだしたものかと思考を進めた。
「ごめんね、疲れてる?」
「いや、飲みすぎただけだ。それでどうした用だい?」
これ以上飲んだら、前後不覚に陥るという所まで酒精が全身をめぐっている。
主に、ハイネのせいだ。
ザルどころか枠しか残っていない奴め、と心の中には居ないハイネに毒づいてみる。
「え〜? だって、ラクス様とは婚約者なんでしょ。こういうこと……しないの?」
「ラクスは、そんな事はしない」
ラクスとは、そんな事はしない。
すり寄ってくるミーアを軽くどけて、アスランは酒気の混じったため息をついた。
「本当?」
「ああ、ラクスがするのはだな……やめておこう」
リボンを体に巻いて箱に入り、「わたくしがプレゼントですわ」プレイを嗜んだり。
アスランの赤服を纏って、「わたくしもザフトレッドですわ」プレイを楽しんだり。
したらしい――キラと。
「怖い顔……どうしたのアスラン?」
「いや、思い出したら腹が立ってきただけだ。君のせいじゃない」
"ごめんね、ちょっと匂いがついちゃった"と親友に笑顔で言われたので、
"いいよいいよ"と言いつつ泣くまで殴るのをやめなかった。
親友なので、次にやったら前歯全部引っこ抜くと宣言して手打ちにしたが、
制服をクリーニングに出しながら、友情の定義について悩んだのが今年の初めだ。
16/
「追い出さないってことは、脈ありかしら?」
「……」
風呂上がりの甘い香りを漂わせるミーアの姿態に劣情を催さないでもなかったが、
脳裏に浮かぶ金髪の少女の影が、それに触れる事を許さない。
「居たければ居ればいい……それだけだよ」
例え、いまこの瞬間にカガリが"夫"のユウナに組み伏せられていようとも、正義を
プラントとデュランダルへ売り渡したアスランにとっては、失笑物のこの純情こそが、
守るに値する最後の信念だった。
「ラクス様の代わりでもいいのよ?」
「ミーア……君はラクスじゃない」
アスランの言葉が示すのは、端的な事実に過ぎず。
――そして、カガリでもないんだよ。
裏に秘められた思いは、ミーアに理解出来ようもなかった。
「それにミーア、君はラクスになりたがっているが、彼女でも出来ないような事をしている」
「本当?」
「ああ、本当だ。たとえ誰かに命ぜられている事でも、それは十分に意義のある事だよ」
露出度を上げて、歌の調子が俗っぽくなった"ミーアのラクス"を、歌姫にふさわしくないと
批判する声も、プラントには出ている。温室育ちのラクスであれば、耳に痛い声の中で歌う事が
出来るか、アスランには疑問だった。
「でも、私、ラクス様みたいに危険な場所には行ってないし――」
「それはしなくて良いことなんだよ。彼女には悪い癖があって……いや、やめておこう」
はぐらかしたが、ラクスはミーアのようにプロバンガンダに徹する事は出来ないと、
アスランは考えていた。
戦争の解決を、戦場で図ろうとする向きがあるのだ。
前回の大戦では、キラと言う切り札的存在を見出してまで、戦場に躍り出た。
結果、確かにラウ=ル=クルーゼという名の、時代が生み出した狂気の具現を
討つ事には成功したが、戦争への介入は明らかに邪道であった。
キラとフリーダム。
アスランとジャスティス。
ラクスとカガリ、そして三隻同盟。
17/
戦争に介入した勢力は、アスラン達自身が生きて戦うために必要だったのであって、
時代に求められた存在ではない。むしろ、討ったクルーゼと同じ、狂気の産物に近い。
プラントという酷く脆い世界がラクスに求めた"歌姫"という在り方は、
世界の狂気につけられた傷を、その歌声で癒すことであったはずだ。
力でクルーゼを倒すのではなく、第二、第三のクルーゼが生まれない世界を作る。
ラクスの影響力は、そのために使われるべきだった。
「君はラクスじゃないが、今の君にしかできない事をしていると思うよ」
ミーアは、宇宙に住むコーディネーターの先導者ではない。
今の時点では、デュランダルの下で動く扇動者に過ぎない。
だがそれでもミーアは、"歌姫"という求められた存在の体現者では無いかと、
アスランは考えるのだ。
「そっか……それでさ、アスランにとっての"ラクス様"としては、私ってどうなの?」
「……」
女性としては。
どうだろう?
答えに詰まるアスランの、その沈黙こそが雄弁に答えを語っている。
「あ〜あ。脈はなしかあ。まさか、出来ないとか、そういう病気じゃないわよね?」
「証明はできないが、違うから」
「よく疑われてるけど、"コレ"ってちゃんと天然物よ。小さい方が好みなの?」
「そういうものでもない……!」
たゆんとした豊満な胸を両腕で支えるミーアが、恐る恐る聞いて来たので、
そうした趣味はないことを強調しておいた。
キラではあるまいし。
冗談交じりにアスランを誘惑するミーアの顔が晴れやかなのは、アスランから努力を
認められたからだろう。
「アスラン、やっぱり疲れてるみたいね」
「いい加減に酒が回ってきただけだ」
ふらつく体を止められないでいるアスランの隣に、ミーアが体を横たえた。
ベッドに埋まるようなミーアの、桃色の髪が広がる。
18/
「うふふ……はい」
「なにが"はい"だ?」
「我慢比べ……まさかレディを追い出さないよね、アスランは?」
邪魔にならないようにベッドのスペースを半分開けて、アスランの寝る場所を
"ぽんぽん"と叩くミーアは、とびきりに楽しそうな笑顔で確認した。
「婚約者同士なんだから、一緒でも全然不自然じゃないでしょう?」
「……」
アスランは、ソファーで寝る事を覚悟する。
「お願い、せめて気分だけでも浸らせてよ。明日、議長と朝食を一緒にする前には
出ていくから。……そうだ、アスランも私と一緒に来ればいいんだわ!」
「ああ……そうだな」
生返事を返しつつ、ミーアの方からそのセリフを云わせた事に満足もしていた。
「朝になったら、一緒にデュランダル議長のところへ行こう」
「嬉しい……本当よ?」
アスランは、ミーアを適当にあしらいつつ、人前でだけ婚約者のふりをする
つもりだったのだ。そうすればデュランダルに会える、と思っていた。
デュランダルとは、ミネルバのクルー、特にレイの居ない場所での対話をしなくては
ならないと感じていたが、アスランの側からデュランダルとの渡りを要求していれば、
ミーアの願いはもっとエスカレートしていただろう。
どうせ相手をする体力の無いアスランは、ふらつくままに少女の隣へと倒れ込んだ。
もちろん、ミーアに背中を向けてだ。
「もしもーし、アスラン? んもう……スタイルと触り心地には、自信があるのに。
女の子相手にこんな失礼なことする人には、イタズラちゃうわよ?」
ミーアの体温は近付いてきたが、アスランの意識はそれより早く現実を遠ざかり、
泥のような深い眠りに包みこまれていった。
19/19
――ホテル 七階
寝物語にSEEDという言葉を聞いた。
デュランダルの腕の中へ体を預けたのは、雰囲気もあったが、ミネルバの修理を
急がせる話をつけにいった、ついでのようなものだった。
それと一緒に、持ち帰ってきた"カニ"をミネルバの装備として認めさせるくらいは、
ベッドの中まで話し合いをもつれこませなくとも十分だっただろう。
タリアとすれば、ミネルバで最前線に行ければ良いのだ。
戦争が有利なるほど、プラントの息子は危機から遠ざかる。クルーからすれば不幸な事
かもしれないが、タリアは、より厳しい戦場をより充実した装備で戦いたいというタイプの
指揮官だ。他よりは上手くやれるという自負もあった。
話し合いの末――シンとアスランには申し訳ないが――ミネルバは、激戦区と目される
黒海へ派遣される事になるだろう。
アスラン達ザフトレッドが居れば、きっと大丈夫だろうと、素人のデュランダルから
ありがたいお墨付きももらった。特にシン――彼はSEEDの因子を、その遺伝子に
持っているからと。
Superior Evolutionary Element Destined-factor
どう訳せばよいものか分からない羅列の頭文字を取って、SEED因子というらしい。
曰く――人類の可能性を開く、革新の要素であると。
悲しいことだと思う。
子孫を残せない遺伝子だと診断されたデュランダルは、こうした他者の運命に賭けるしか
なかったのだろうか。それぐらいなら、半ば親子関係にあるレイの事をこそ、もっと気にかけて
やればいいと思う。
子供のため、デュランダルを早々に捨てたタリアの言えたことでは無いが。
しかるに、そんな男の腕を枕にして感じる安らぎに似た物は、男の孤独を汲み取って
あげようというタリアの傲慢を受け入れる余裕が、デュランダルに備わったという事か。
別れと戦争を挟んだ年月は、お互い、変わらないでいるには長すぎたようだ。
「ん……。ギル?」
変わらないものもある。
十年たっても、眠る間に他人の体をまさぐる寝相の悪さは、治せていないらしかった。
以上、投下終了です。
良い子の新シャア板なので、まあこのくらいで勘弁して下さい。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
やはり彼はあんなプレーやこんなプレーをww
台詞の端々ににじませるだけの方がよほど直接表現よりエロく感じるときだって有る
むしろ朝チュンとか微エロの方が妄想をかき立てて良いかも
ラクス様はHENTAIプレイがよく似合うな
純情つらぬくアスランがなかなかカッコいい
続きお待ちしてます
エロ嫌いじゃない方なんだけど
ラクス様のはちょっとえぐかったかなあ
そんな匂いがついてんなら返す前にクリーニングしてやれよキラ
20/
「ルナ。寝かせておこうぜ、アスランくらい」
「いつもそんな事言って、朝食に誘わないのは失礼なのが分からないの?」
午前六時。シフトの癖で自然と目が覚めて、ロビーで鉢合わせたシンとルナマリアは、
ついでにアスランを誘うために六階まで来ていた。
「アンタ、今日はミネルバで待機なんだから、朝ご飯ぐらい一緒に食べましょうよ」
アスランの部屋のドアをたたいたが、普段ならば、誰かがドアの前に立った気配で
顔を出すはずが、今朝に限っては反応がない。
「アスラン?」
「……ほら、やっぱり疲れているんだよ」
珍しい事態に、アスランを心配するルナマリアを、起こしに来たほうが却って邪魔に
なると思ったシンが引っ張っていこうとした時、樫作りの重い扉が抵抗も無く開いた。
「……なんだ、シンとルナマリアか」
シャワー中だったのだろう。バスローブ姿のアスランは、鈍痛のするらしい頭を
押さえながら、二人の顔を交互に眺めた。
「おはようございます、アスラン。朝食をぜひ、ご一緒にとおも……」
「あら、皆様朝がお早いのですね」
と、アスランの背中にぴったりとくっついて、ラクス=クラインが現れたので、
ゴキブリが足の甲を這ったようにルナマリアは硬直する。
「朝食か……ありがとう。だが、今朝はデュランダル議長と一緒にと思っていてね」
「な? だから寝かせておこうぜって言ったんだよ」
掛ける言葉を失ったままのルナマリアに、アスランとシンは相次いで言う。
「行こうぜルナ。二人とも朝は議長と一緒だってんだからさあ」
婚約者同士の同衾くらい、「今日は雨だなあ」程度にも思っていないシンなので、
固まったルナマリアの肩を掴んで引いていく位はわけが無かった。アスランが頭を下げて、
"ありがとう"とジェスチャーしている理由すら、分かっていない。
「ん……何怒ってるんだよ、ルナ? エレベーター、来たぜ?」
少女の不機嫌を扱いあぐねたまま、エレベーターホールに立つ。
「あら、おはよう」
七階から下りて来たエレベーターに乗っていたのは、タリアだった。
「艦長おはようございます――今日は顔色がいいですね!」
「ふふ、ありがとうシン。今日は、シンがミネルバで待機だったわね。夕方には議長と
夕食だから、昨日の休みを取り戻すつもりでゆっくりすれば良いわ」
タリアも当然、シンの"大活躍"を記した昨日の夕刊を読んでいる。
21/
「夕食、遅刻しないようにね」
「はい――!」
昨日は、ルナマリアに同じような事を言っておいて見事に遭難したわけだが、
安請け合いは男の華――いい返事のシンだった。
「あら、ひょっとして一晩中飲んでいたの?」
エレベーターは和やかな二人とルナマリアの沈黙を乗せたまま、一階に到着する。
ロビーを歩く三人は、朝日を浴びるソファーに、潰れたハイネの姿を発見した。
「あ〜……おはようございます。艦長」
金髪の伊達男は、まつ毛の先までアルコールの回った目で三人の姿を認めると、
タリアに向かって、それでも完璧な敬礼の姿を取った。
「羽目を外すのはいいけれど、程々にね」
「分かってますって。イザークの見送りに一杯やっただけですよ」
意外な名前を聞いて、タリアが眉をひそめた。
"プラントの護り"として名を馳せる、名実ともにエース中のエースだ。
それがディオキアに居た事すら、タリアが知らなかったのは、彼をして秘密裏に
足を運ばせる"何か"がディオキアに存在する、と言う事に他ならない。
「イザーク=ジュール? ユニウス7のところでは世話になったわね」
「その辺りは、昨日アスランがナシつけてたんで、艦長が仁義を通すアレは無いですよ。
あ、ユニウス7の辺りじゃあ、まだザフトじゃなかったですかね? アスランは。
まあいいでしょう、イザークも忙しい奴なんで」
「そう……」
酔いつぶれたハイネからは、これ以上何事かを聞けそうもない。
『見送りに一杯』と言っていたが、ハイネ本人は一晩中飲んでいて、目覚めた
イザークを見かけて、彼を肴にもう一杯開けたと思われる。
「昼前には酔いを覚ましなさいな。酒に飲まれるザフトレッドなんて、
カクテルのつまみにケーキを食べるみたいよ」
「艦長、その心は――?」
「まるでアテにならないわ」
「ヒャッハッハッハ――! ……グゥ」
ハイネはのけぞって爆笑し、そのまま寝息を立て始めた。
寝ている赤服を叩き起こせる人間はそう居ないので、ハイネの眠りはしばらくの間、
安らかだろうと思われた。
「……後でアスランに話を聞かなくちゃね」
フロントで車を呼ぶ。三人は、高いびきをたてるハイネを置いて、ホテルを出た。
22/
放射状に伸びる道路を中央広場までさかのぼり、胴長の乗用車は最も大きな通りへ入った。
左右にビルの立ち並ぶ大通りを、駅のロータリーまで進んだ黒塗りの車は、
駅で乗客を降ろす事無くロータリーを一周し、そして裏通りに足を伸ばした。
「ここで止めろ」
乗客――イザークが運転手に車を止めさせると、場末のバーから金髪の頭を掻きつつ、
色黒の青年が近づいてきた。窓を叩き、中のイザークを確認する。
「ちょいと近くまで乗せて行っちゃあくれねえかな?」
「さっさと乗らんか……」
「おう」
短く返事して、ディアッカは座席に滑り込んだ。
イザークが「出せ」と返事をして、車はモーター音も小さく滑り出す。
流れて行くディオキアの街並みを眺めながら、沈黙が時間を占める事十分。
やがて、イザークが口を開いた。ディアッカに目を合わせる事はしなかった。
「久しぶりだな、ディアッカ」
「ああ、アプリリウスの宇宙港以来か?」
ディアッカ=エルスマンとイザーク=ジュール。
アスランと同じザフトレッドであった二人は、戦争のもたらした数奇な運命から
その道を分かった。今はプラントの英雄と、地球で働く一般人とに立場が異なっている。
いや、果たしてまともな仕事をしていたかどうか。
ディアッカの顔に真新しい生傷がある事を、イザークは見て取る。
「元気にしていたか?」
「適当によろしくやっていたよ。お前が宇宙で粘ってくれたおかげで、
楽しくやらせてもらってるよ、ミリィとな」
戦後の別れからこの再会までには、二年の月日を挟んでいた。
再開を祝う挨拶にしては至極あっさりとしたものだが、彼らなればこそ、
交わす言葉は少なくていい。
「ディアッカ、ザフトに戻れ」
「やなこった」
と、ディアッカ=エルスマン。
コンマ五秒の即答だった。
23/
「前回の大戦の事は俺がなんとでもする。文句は言わせん。今の俺ならば、
一か月で赤に戻してやることもできる。何か不満か?」
あまりな早漏は嫌われるぞ? と思いつつも、誘い文句を続けて放つ。
「お前の副官のさ、髪の長い娘がいるだろ? 命を狙われるそうでさ」
「……無論、それも抑える」
我が身を鑑みるに、シホ=ハーネンフースの居る部隊に配属されたいかと聞かれれば、
その苛烈にして執念深い本性を知る以上、『否』以外の返事が浮かばない。
「ま、俺みたいなのが必要になるぐらいザフトが切羽詰まってるんなら、ゴメンだぜ」
「そうか……」
とはいえそれは、とうの昔に決まり切ったやり取りを、今更なぞったに過ぎないから、
ディアッカに驚きは無く、イザークに残念な気持ちもない。
言わねばイザークの気がすまないというだけだ。
「ところで昨日の夕刊を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……ザフトレッドだな」
広げた紙面に、ルナマリア=ホークがポーズを取っていた。
記事の文責は、ミリアリア=ハゥとなっていて、ディアッカがディオキアに
来ている確証をイザークが得られたのは、この名前からだ。
「見て欲しいのはだな、映っている奴らだ。後ろの三人組」
「……ふぅん、十四から十七ってところか? なかなか良いオッパイしてるじゃないか」
「女だけ見るな。そいつらを追って欲しい」
「どうして俺が、ナチュラル三人組を追いかけなくっちゃいけないんだか」
「そいつらが"居た"からだ――」
「何処に?」
「アーモリー・ワン」
「――何だと?」
身を乗り出したディアッカをとどめて、イザークは分厚い資料の詰まった封筒を
手渡した。中身を取り出すディアッカに向けて説明を始める。
「アーモリー・ワンでのセカンドステージシリーズ強奪事件の際、地球からプラントに
来ていたナチュラルは総勢7450名――」
イザークは強奪事件直後、七千を越すナチュラルから事件の瞬間の足取りが
不明であった三百余名の資料を見ていた。
「その中に、こいつら三人の顔が確かにあった」
見るだけでは無く、一人当たり二十秒も眺めていたわけでは無い写真の、
その顔をすべて覚えていたのである。
24/24
「そんなの、プラントの諜報部に連絡すれば済むことじゃねえか」
「……問題は、アーモリー・ワンの資料から、こいつらを含めて四百人以上もの情報が
喪失されているという事だ」
「降ろせ、この封筒は返す」
ディアッカは封筒を突き返した――と思いきや、その右手がドアのレバーにかかる。
「もう遅いぞ、ディアッカァ! この話はな、軍部に聞かれたら監視が必至の、
超々極秘事項だ。はっはっは、諦めて資料を受け取れい!」
逃がしてなるものかとイザークは、ディアッカの襟首を掴んでその胸を封筒で抑えた。
「きったねえぞ、イザーク! アーモリー・ワンのサーバーから情報が消えてるって事は、
プラント情報部! 噂の"ターミナル"が一枚噛んでるってことじゃねえか!」
狭い車内で男二人が封筒を押し付けあう。
「馬鹿、ザフトに戻れば大丈夫だ!」
「阿呆、そっちが面倒に巻き込んだだけだろうがよ!」
「……」
途端、真面目腐った顔でディアッカにもう一つの封筒を押しつけた。
「とにかく受け取れ。気に入らなければ燃やせ」
声に重さがあるのなら、イザークの口調は鉛を含んでいた。
ディアッカは封筒を開いて中身を改める。
「やれやれ、本当にいいのかよ?」
「プラントが地上に作ったコネだ。今頼んだ仕事以外でも役に立つだろう」
「そりゃあ立つだろうけどさ……この情報網、誰が作ったんだ?
オーブの産業界にパイプなんてあったのか?」
「通称T.サイトー。詳細は不明だが、オーブのスパイをやっていた男が、
プラントへ亡命する手土産に持って来たのだ。過去の遺産だな」
ディアッカはしばらく、イザークと死霊とを交互に見て困り顔を浮かべていたが、
やがて諦観を溜息で吐き出し、資料の束をバッグに入れた。
「仕事の話は、ここまでにして飲みに行こうぜ」
「うむ……そこを左だ」
諦め顔のディアッカに言われて、イザークは車を走らせた。
「愚痴ぐらい聞いてもらわないと、仕事の割に合わねえ」
「こちとらそのつもりだ。それに、愚痴がたまっているのがお前だけだと思うな」
二年のうちに貯まった話の、どれを聞かせてやろうかと考える。イザークを
乗せた車は市街の端へと進んで行った。
二人、ただの友人同士に戻るためには、酒の手助けが必要だった。
以上、投下終了です。
ちょいと地震がありましたが@福岡。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
作者、作品を飛び越して某スパイの方の名前が……
某スパイの方は、いろんな名前で大人気w
オーブにプラントに大活躍ですね。
というわけで、そのスパイの人に報告なんですが、
16スレのアクエリオンクロスと、
>>10-16のパトレイバークロスを、
ガンダムクロスオーバーwikiに登録しておきました。
トップページから左のmenubar下部 etc の項目より、
その他作品集に行きまして、最下段匿名希望氏の
マイスターの憂鬱から読むことが出来ます。
>>作者様
コテを決められたら、ご一報ください。今は匿名希望で書いてます。
第二十三話のラスト、投下します。
たぶん6レスです。
25/
『某月某日 ディオキアにて記す。
今日は素晴らしい日だったわ。
何て言っても、あのアスランと一日中一緒に居られたんですもの。
絶対、人に知られてはいけない内容だけれど、どうしても日記に残しておきたいの。
ネットワークに繋いだりしなければ、絶対に大丈夫よね?
部屋に押し掛けてきた子達をアスランは追い返して、私と一緒に朝ご飯。
なんだか議長と一緒に、アークエンジェルって船について話し合っていたわ。
議長もアスランも、お互いにその船の事、相手なら知ってるんじゃないかって
思ってたみたい。
アークエンジェル……天使の位階で言う、下から二番目の名前だったかしら。
本物のラクス様も、その船に乗っているらしいって、議長もアスランも思ってるみたい。
ラクス様をの話を私の目の前でするって言う事は、ラクス様が見つかったなら、
私はお払い箱になるってことかしら、ちょっとひどいわ。
そう思っていたら、アスランは「違うよ」と言ってくれたの。
コンサート会場に向かう車の中での事よ。
「彼女は、ラクスは、たとえプラントに戻る事はあっても、人前で歌う事はないだろう。
だが、本物の彼女の存在が露見すれば、デュランダル議長の立場が危うい。
だから、俺と議長は彼女を内密に保護するためにあの船を探しているんだ」
たしか、こんな感じのセリフ。
私は、安心するのと一緒に落胆してしまった。
だってそうじゃない? 本当のラクス様が私の立場を望まないって事は、
私がどれだけラクス様を演じても偽物のお人形に過ぎないって事ですもの。
ええ、私は議長のプロパガンダ人形。それは分かってるつもり。「
議会の言葉を、プラントの皆さんに聞こえ良く伝えるための、いわゆる
客寄せパンダに過ぎないって事も、自分でわかってる。
きっとラクス様なら、デュランダル議長の言葉では無く、ご自分の言葉と歌で、
プラントに希望を与えてくださるわ。
嬉しかったのは、アスランが人前で腕を組んで歩いてくれたこと。
本当はラクス様とこうして歩きたいんだろうと思う、けれど、たとえ偽物でも
私のラクス様を受け入れてくれたことが嬉しい。
26/
色んなことを考えてしまったけれど、コンサートの間、彼が近くに居てくれたから。
私はアリーナ席に座っているアスランが、手を振ってくれる度に勇気を貰えたの。
やっぱりアスランは素敵だわ!
追記:
夕食も議長と一緒にさせて頂いたんだけれど、ちょっと堅いお話ばっかりだった。
どうして戦争は起こるのか。誰が戦争をしたいのか。そんな話。
「MSや弾薬を作っている会社が儲かるからじゃないですか」
私はそう言ってみたんだけど、議長は首を振って、
「そうも簡単な問題では無いのだよ」
と、おっしゃっていたわ。
ちょっと考えれば、それはそうよね、プラントとユーラシア連邦が戦争していて、
そこに大西洋連邦がMSを売りつけるなら話は分かるけれど、前の戦争も今回も、
地球にあるほとんどの国が、プラントと戦争しちゃってるもの。
国そのものの疲弊を考えたら、巻き込まれた戦争で儲けようなんて思えないわよね。
自分の家が燃えてるのに、商売出来るわけないじゃない。
じゃあ、ナチュラルがコーディネーターを憎んでいるから?
でも、それだって問題としては簡単すぎるわよね。
「彼等は、"今は"コーディネーターを減らしたいと思っているのだよ。故に戦争をする」
これ、議長からのヒント。
"彼ら"って、誰のことだろう?
アスランと、それにミネルバ艦長のタリアさんは、この言葉を聞いてとっても堅い顔を
してたわ。なにか心当たりがあるのかしら?
気になったのは、オーブのこと。黒海にオーブの艦隊が来ているらしくて、
アスランも、あのシンって子もショックを受けている風だった。
議長はお優しい言葉で、二人に戦えるのかと、覚悟を聞いておられたけれど。
赤い服を着ているパイロットが「戦えない」なんて言うわけないわ。
アスランも、ちょっと暗い顔をしていたけれど――』
27/
「何を書いているんだ?」
アスランに声をかけられたので、ミーアは端末のキーボードを打ちこむ手を止め、
新聞を読んでいたはずの男に振りむいた。
「ねえ、アスラン? 議長とお話したとき、オーブと戦う覚悟があるか、聞かれたよね?」
「……ああ」
「――嫌な質問だった?」
「いや、大丈夫だよ」
アスランは唇を横一文字に引き締めたが、ミーアから目は逸らさなかった。
質問を拒絶しようとはしない態度に満足したミーアは、続けて聞く。
「あのシンって子が"戦えます"ってはっきり言った時、アスランは、自分が同じような
事を答えた時よりも、とても暗い顔をしてた。ねえ、どうして?」
「その事か……」
言葉を探しているのか、アスランは新聞を畳み、テレビ欄の端を指先でなぞっていた。
ニュース番組の上で『の』の字を描いて、指が止まる。
「俺にとってオーブは、ある女性が居るというだけで、『国』にこだわりは無かった。
議長が俺に聞いた"覚悟"は……だから、その女性に銃を向けられるかと言う問いだ。
彼女は戦場に出ないだろうから、俺は"戦える"と答えたんだよ」
まるで、質問そのものが的外れだったと笑うような、アスランの口調だった。
「だが、シンにとってはオーブは生まれ育った国だ。今はプラントの、ザフトでも、
迷いなく"撃てる"と、オーブを"討てる"と、言ってほしくはなかった。それだけさ」
「……そう。アスランは優しいのね。下の人を気遣ってる」
ミーアの言葉を、アスランは首を振って振りはらう。
「……やめてくれ。俺は――」
「アスランは"フェイス"だけど……私、アスランがそんな悩みを感じなくても
いいように、頑張って歌うから!」
ミーアのその決意は、アスランにとってあまりにも意外だったのかもしれない、
あるいは、ミーアの行動こそが的をはずしていると思えたのかもしれない。
「私が歌って、少しでも平和になれば、アスランが戦う事で悩まなくても
良くなるでしょう?」
「ああ……そうだな」
だから、罪悪感に満ちた目を伏せて、ミーアの瞳から目を逸らして、
「ありがとう、ミーア=キャンベル」
それでもアスランは確かに、そうやって礼を言ったのだった。
28/
ヨーロッパの中央。長い年月にわたってとある一族の所有物であるその荘園は、
跳躍する馬の踏みしめる土にすら、古い血と歴史が積み重ねられている。
いにしえの空気を抱く木々の、歴史と闇を見下ろすように、その洋館は佇んでいた。
一般には、城とも見まごう洋館の存在すら知られてはいない。
『真の歴史は、知るに値するもの達が覚えていればよい』
館の主。
世界の歴史を裏から眺め、時には手を差し伸べ、時には流れを断ち切ってきた者の
血族は、そう考えていたのだ。
コズミックイラの現在、血族の主は、名をロード=ジブリールという。
「ジブリールよ、私は前回の会合において、お前に一つの回答を求めた」
「覚えておりますよ、コーディネーターを滅ぼしたのち、我々ナチュラルが
如何に繁栄を享受してゆくのか――でしたな」
広く、洗練された調度を備える大広間に、ジブリールは今一人の客を迎えていた。
「その答えが、これか?」
「ええ、そうですとも。何か不満があったのですか?」
いや、客は一人であるが、その背後に付属物とも言うべき人影が、六つある。
すべて、性別も人種も年齢もバラバラの、しかし年若い少年少女たちだ。
みな、ジブリールとロゴスの男など目に入っていないかのように、幽鬼の茫洋さで
立ちつくしていた。
「誰が、洗脳したコーディネーターの少年と少女を送りつけろと言ったのだ!?」
「ですから、それが私の示す『解決方法』なのですよ」
少年たち手振りで示す男を、ジブリールが鼻で笑い飛ばす。
「この……人形のようなガキどもがか?」
「おや、彼等を"お使い"になっていない? これは失礼、そちらの趣味では
ありませんでしたかな?」
ジブリールは、男の背後に立つ少女に歩み寄り、その肌をつついた。
「ジブリール――!」
「ふむふむ、どうやらまともな"エサ"は与えていたようですが」
男と、ジブリールの少年たちを見る目は、ともに"人間の子供"を見るそれでは無い。
だが、二人の態度には決定的な違いがあった。
ロゴスの男は少年たちを、汚らわしいコーディネーターとみて、敵意すら
向けているのに対し、ジブリールにそれは無く、人形か商品を見る目を向けていた。
29/
「躾も調整も済ませてあるのですから、適当に楽しまれた後は捨てるなり、
送り返すなりしてくれれば良かったのですよ、わざわざ連れてこずとも、ね」
「貴様が送ってきたときのように、木箱に詰め込んでか――!?」
「ええ、そうです。丈夫なコーディネーターの肉体は、それくらいでは死にませんから」
六人全員の血色と髪のツヤを確認したジブリールは、使用人を呼び、
少年たちをどこかへと連れて行かせた。
「ジブリール、今の女――」
召し使いの少女の目が、連れてきた"人形"達と同じ壊れた輝きを宿していた、
それに気づいたロゴスの男がジブリールを呼ぶ。
「ええ、コーディネーターの肉で作った"家具"ですよ」
作られて何年に見えますか? と聞かれて男は、見た目通りの年齢――おおよそ、
17か18というところの少女だった――を答えた。
「正解は10年です。分からなかったでしょうね」
「何だと……!?」
「人工子宮と精神制御の技術は、数々の成功例を元に日進月歩なのです」
モニターに、分裂前の受精卵が表示された。
次々と時間を追って分裂する細胞はやがて胎児と呼ばれる程の形を作り、
やがてガラス管の中で成長する少女の面影を見せ始める。
「肉体の生育にもっとも効率的な条件を、最適化したコーディネーターに当てはめれば、
ごく短期間で優良な労働力となる。アレは、日に四時間も眠りませんが、文句も
言わずによく働いてくれている。全く優秀な家具ですよ」
モニターに、側頭部を切開された少女の写真を映し出し、淡々と語るジブリールへ
男が向ける目は、完全に人間以外の物を見るそれだ。
資料は最後に、メイド服を着てお辞儀をする少女の姿を示して終わる。
先ほどの召し使いだった。
「それが貴様の答えなのか、コーディネーターに滅んでもらうという……」
恐れと恐怖の入り混じった男は、しかしロゴスのメンバーだった。
論理で世界を支配してきた自負が、恐怖による後退を許さない。
「もちろん、滅んでいただきますとも。卑しくも己を"人間"だ、などと僭称する、
愚かなコーディネーターどもにはね。戦争はそのための手段です」
「プラントを破壊しようとしたのは――」
「今は、管理するには数が多すぎるのですよ。何、すべてを壊さずとも、
数を半分ほどにまで減らせば、向こうから助けを求めてきます」
自信に満ち満ちた、ジブリールの言葉は、
30/30
「そもそも、あのプラントですら、我々が作らせたものではありませんか、
全ては我々のために。ナチュラルの発展のために――です!」
語るほどに、怒りを含んで行き、
「それが背いた、何故ですか!? 我々が与えすぎたからですよ! 彼等に。何を?
自由をです。言葉をです。全て、我々のものであるにも関わらず!」
語調を強め、手ぶりも大きくなっていった。
「コーディネーターどもは、全て。われらの思うがままに働かねばなりませんっ!!」
ジブリールの手が一枚板のテーブルを叩くと、空のグラスが一千本の年輪を転がり、
足首まで埋まる絨毯の上へと、音も立てずに落ちた。
「健やかなる時も病める時も、目覚めるときも眠る時も、生きる時も死ぬ時も!
母なる大地より産まれた、純粋なる存在、我々のようなナチュラルの手により
管理されなくてはならないのです。でなければ、摂理に反してそむく!」
この部屋の全てが歴史を刻んでおり、正統なものであり、ジブリールはその主だ。
彼に逆らい、決定的に相いれない存在こそが、コーディネーターと言うのだった。
「ですが、居なくなってしまえば困る。彼等は貴重な労働力だ」
不意に沈静したジブリールが指を鳴らした。
合図を受けて、扉から召使の少女が再び、姿を現す。物も云わずにグラスを
片付ける少女を見るジブリールの目は、この上なく穏やかで紳士的だった。
「我々は彼等を好きにさせすぎました」
――ただし、優秀な道具を見るものとして。
「この失敗を踏まえ、次の品種改良は必ず成功させねばなりません。
ですが、われらの祖先は野犬を猟犬に訓致するまでには、千年以上をかけたのです。
それに比べれば、宇宙の化け物どもを飼いならすまでの百年など短いものですよ。
……お分かりいただけましたか?」
「理解はしたが、共感は出来んな、ジブリール。奴らはヒトの姿をしておるのだ」
「では、必要のない時は四つん這いで歩くように調教しましょう。
ニーズに応えられてこそ、家具としての格が上がりますからね」
「……」
踵を返した男に、ジブリールは「それでは、青き正常なる世界のために」と、
ブルーコスモスの言葉を贈る。男が去り、扉が閉じた。
「そう、我らナチュラルのより遠く、より長い発展のために」
静謐の室内に立つジブリールは、新たな酒杯を掲げてひとりごちる。
「何がSEED因子か。個体のポテンシャルに頼ったハネクジラどもの末路を、
我らは決して辿るまいよ」
"家具"の少女は、その姿を碧玉のように澄んだ瞳でみつめていた。
以上、投下終了です。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
なんか、クロいなぁ。ジブリール
コーディネーターの存在を肯定するブルーコスモス盟主
クロい
・・・そして俺にも少女を一人送ってくれ
アストレイはあまり知らないんだがナチュラルに奉仕するために連合でつくられたコーディがいなかったけ?
完璧な洗脳を施せるなら美しく丈夫な奴隷として使うって奴がいてもおかしくないんだよね
誰もいないようだ 今なら
初めての投下です。
ダブルオーの劇場版を自分なりに想像した話ですが、小説風に出来ず台詞の抜き出し
になってしまいました。
楽しんでいただければ幸いです
劇場版 機動戦士ガンダムOO 木星の花嫁 ”Bride in Jupiter”
アクト1前編 1/13
漆黒の宇宙 ノズルの輝きが 3つ天頂へ伸びる
ジンクス高機動型(カラー連邦色)が、下方へよれる
ジンクスパイロット「2番機 墜とされました Hフォーメーションで隊長の後方に回ります」
グリーンにイエローラインの謎の機体がジンクスの正面に現れる
ディスプレイに1番機 ロストの表示
ソーマ・スミルノフ「速い まさかここまでとは こちらも高機動に改修済だが そこ」
アヘッドのビームマシンガンの閃光は、標的よりはるか下方へ飲み込まれてゆく
謎のパイロット「(ニヤリ)」
センサーに反応
アヘッドスマルトロン・高機動型(カラー桃色)が天頂から飛び込む
ソーマ「牽制にそこまで移動してはな もらった」
謎の機体は、GN粒子を放出 重力帯を離脱
そこから見える景色はコロニー型外宇宙航行母艦「ソレスタルビーイング」そのもの
慣性に引きづられるが、GN粒子の輝きとともに振り切り ソレスタルビーイング重力帯に再侵入する
ソーマ機の後背を捕らえライフルを構えた
ソーマ機ディスプレイからロックオンシグナル 被撃墜表示
そして通信モニターに写る顔は
パトリック・コーラサワー「どうですか 大尉に勝ちましたよ 模擬戦最高!」
ソーマ「喜んでいるところ悪いのですが中尉 ブリーフィングで言ったはずです。
今回の指定エリアはA−G、ジュピトリスワンの重力帯を離れた時点でアウトになります。
併せて侵入時の中尉の座標はL、再挑戦ですね」
コーラ「またですかー それにしても狭すぎですよ このヘクトルの機動力じゃ」
ソーマ「中尉が扱いきれていないだけです。
もっと軌道を最小限で済ませてください。
発令所 本日のテストは終了
これより帰還するミーティングのデータ整理お願いします」
2/13
ガガ(連邦カラー)が信号を出して、巡航MS試作機ヘクトルとアヘッド・スマルトロンに接近してくる
ガガから通信「そこの緑のMSと噂の下手糞パイロットさん L空域は本日掃除中 何度目ですか まったく」
コーラ「ハッハッハ8回だぜ それとオレの名は単身赴任のコーラサワーだ いい加減憶えてもらおう ううぅカティ……」
ソーマ「すまない気にしないでくれ 今回もそのお調子者にケーキとアルコールでも君達の部隊に届けさせる
私は、ジュピトリス・ワンMS教導官ソーマ・スミルノフ大尉 君は?」
ソーマ視点でアヘッドのディスプレイに写る
ルイス・ハレヴィ「えっ はい ごぶさたしております ルイス・ハレヴィです。
乗員名簿から、もしかしたらと思っていましたが やはり中尉、失礼大尉でしたか」
ソーマ「いずれ君達に会いに行こうと思ってはいたが丁度いい お詫びの品は私が届けよう
”コーラ『さっすが大尉』”もちろん中尉のツケでです ルイスさん その後お時間をいいかしら」
ルイス「はい こちらこそ お話 ”信号音『ピー』” すいません仕事戻らなくちゃ では後ほど」
飛び去るガガを見つめ
ソーマ「ソーマ・ピーリス中尉か
ガガのコクピットで
ルイス「アヘッドストロマトン アロウズか…… あれ?デブリにしては 管制 ルイス機 発見物をPD231に指定
回収開始します」
宇宙に漂うものは、丸く紫色の40センチ程の球体 それはハロ
紫色のハロにハッチを開け近づくルイス バックに地球 そして月 火星 アステロイドベルト 木星
3/13
タイトルバック
劇場版 機動戦士ガンダムOO 木星の花嫁 ”Bride in Jupiter”
冒頭ナレーション
ソレスタルビーイングとアロウズの紛争の後3ヵ月、地球連邦政府は緩やかなる統一を続ける。
一方フロンティアの開発によって大衆の意識を逸らす事を目的とし、
さらなるコロニーの開発 宇宙進出の基本方針を打ち出した。
その政策の一環としてラグランジュ2に放棄された
コロニー型外宇宙航行母艦「ソレスタルビーイング」 を接収、艤装変更し
「ジュピトリス・ワン」と改称、長期慣熟航行と過去の木星探査の痕跡の調査のため
木星までの長期探査ミッションを立ち上げた。
このミッションはプロパガンダ効果を持たせるため、
一般を含め希望者を公募しクルーは連邦政府スッタフ・連邦軍を含め
10000人にもなる大規模なものとなった。
クルーは1年間、月の外軌道上のジュピトリス・ワンで適正チェック、
部署ごとのミッションを積み重ねていた。
そして今、地球の重力圏を旅立ち3年の航海に旅立とうとしていた。
4/13
ジュピトリス・ワン デブリ班オフィス
ソーマ「軍よりいつもの迷惑料です どうぞ それとルイスさんはいますか」
ドリンクの詰まったケースとケーキの箱が無重力を飛んでいく
いかついおっさんが、キャッチ
デブリ班「ヤッホー コーラ中尉様様だねえ おう嬢ちゃん 気前のいい男前がお待ちだぞ 浮気か」
デスクから立ち上がる
ルイス「何言ってるんですか 班長 すいません五月蝿くって デッキに行きません?」
デブリ班長「何だいっちまうのか お酌くらいしてくれても じゃあな おう 忘れ物だ しっかりしつけろよ」
投げつけられる 紫の球体 ぶつかる前に足元にワンバンドして
紫ハロ「オイテクンジャネーヨ オイテクンジャネーヨ」
ルイス「えー 私の仕事じゃないですよ」
ケーキを仲間とつまみながら 無言で手を上下させるおっさん
ルイスの顔の前で羽をパタつかせる
紫ハロ「オマエガヒロッタ オマエガヒロッタ」
ルイス「もう オマエじゃなくてルイス わかった」
紫ハロ「ワーッタ ワーッタ ネエチャンビジンダナ」
ソーマ「ありがとう どうしたの紫のハロなんて珍しい」
ルイス「さっき宇宙で拾ってしまいまして せっかくだから班のマスコットにしようって班長が
それで見つけてきた私が教育係りに こっちよハロついてらっしゃい」
5/13
ジュピトリス・ワン展望デッキ
ルイス「以前お会いしてから2年になりますね
ソーマ「そうね いろいろな事があったわ だけどこうしてまたあなたに会えたし
サジ君は元気?」
ルイス「はい 元々宇宙で働く事が夢でしたから 部署は別ですが楽しそうな様子はわかります
それでピーリス中尉 あっスイマセン ですがスミルノフというのは それと軍には」
ソーマ「一度官舎を見納めに戻った時、アンドレイ中尉が整理のためにいたのよ
そこで、このジュピトリス・ワンについて話をしてね
どうしてかしらね宇宙で生まれたっていうのがあるのかしら 無性に宇宙に上がりたくなるは」
ルイス「人革連の超兵計画でしたか」
ソーマ「そう それで まだ私は行方不明の扱いだから
原隊復帰すれば可能性はあるんじゃないかってね
そして父の願いとして できればセルゲイ・スミルノフ養女として
自分の代わりに宇宙を見てきて欲しいって」
ルイス「確かアンドレイ中尉は、ブレイクピラー後のアフリカタワー周辺都市の
復旧任務に就かれたとか」
紫ハロに他のクルーのハロが話しかけてきて ハロばかりが5,6体も集まってきている
ソーマ「ええ…… それにしても賑やかくなってきたわね ここは MSドッグに付き合わない」
MSドッグ
ルイス「先ほどのお話ですが わたしも自分で応募したのですが、まさか合格するとは
元アロウズとか関係はないのでしょうか」
ソーマ「どうかしらね むしろ逆かもしれないわ
私の乗船は、MS教導官との引き換えよ
それに艦長 コーラサワー中尉
そしてサジ・クロスロード彼もよ、軍は彼がCBと行動を伴にしていた事をつかんでいるはず
知っていて このジュピトリス計画の立役者を?」
ルイス「連邦政府宇宙局事務次官セレン・ソレンダ代表とジュピトリス・ワン駐留軍ヤオハン司令では」
ソーマ「発表されている限りではね これはアンドレイ中尉から教えてもらったんだけど
カティ・マネキン准将が図面を引いたらしいわ」
ルイス「如何にもですね まとめてクローゼットに押し込んでみたって事でしょうか」
ソーネ「そうね それともこれも戦術予報かしら ところでルイスさんはどうして
ジュピトリス・ワンに そうかサジ君が」
ルイス「少し違うんです 自分のしたこと やってしまったこと そしてこれからすべきこと
そんな事を考えてしまうんですよね 多分サジにも伝わってしまうんでしょう
それで彼がジュピトリス・ワンを 何も出来ないけど何かをしていなければならない期間ですって」
ソーマ「彼らしいわね でも そうねここは私にとっても最後の巡礼地…… あなたにも主の導きがあらん事を」
ルイス「ありがとうございます でも 彼らは今も見続けているんでしょうね 私達が何をするのか」
窓から地球を見つめる
ルイス「(木星に行けば何か……)
漆黒の彼方の宇宙に目線を移動 グーと奥にカメラよって 近づく光
7/13
地球の戦場
パイロット「はあはあはあ」
鳴り響くブザー
エクシアR2D2 ガショコン ガショコン
刹那・F・セイエイ「エクシア 到着した これよりこの紛争を駆逐する」
ミレイナ・ヴァスティ「まってくださいですう まだロックオンさんが それに三日も休息をとってないですう」
刹那「こちらはCB 警告する直ちに戦闘を停止し武装を解除せよ
戦闘継続を確認 紛争を断定 介入を開始する」
連邦軍ではなくゲリラ組織と地方政権の小競り合い
鉄人等旧世代MS同士の戦闘 リボンズ戦の中破から改修を重ねたエクシアは限界に近い
そしてパイロットも疲労によって 機体差ほどの圧倒ができない
泥の飛び散る 接近戦が繰り返され
なんとか半殲滅に成功
その時、ゲリラ側にジャンク物のジンクスが現れる
ジンクスパイロット「CB! 貴様らは 何なんだ 何がしたいんだ」
刹那「……」
イノベイター効果であろうか超反応でジンクスの腕を落とす
ジンクスパイロット「無くなるはずがない なぜそれが判らない」
刹那「俺は何をするために……」
そこに一条の閃光
ジンクス爆散
ロックオン・ストラトス「またおまえは、死にたいのか だが覚えておけよ死なせはしない 俺が
とにかく戻れ おまえはよくても 機体が限界だ」
刹那「ロックオン…… エクシア……」
8/13
プトレマイオス2ブリッジ
ミレイナ「どうしてここまで無理を 無茶苦茶ですう」
フェルト・グレイス「多分、刹那は連邦軍の手さえ汚させたくないのよ」
スメラギ・李・ノリエガ「そういう子よ いえもう大人ね
刹那の意思をプランに組み込んでベーダいえティエリアに承認をもらっているわ
それに一連のミッションで当分は紛争も沈静化するはず
これで宇宙のイアン達に合流できるわ せめて刹那に
フェルト「そうですね それにしても同じ宇宙でもあちらは3年間の新婚旅行ですから憧れてしまいますね」
ミレイナ「うらやましいですう 早くわたしもカッコイイ男の人をみつけたいですう
そうだスメラギさんには、あの彼氏さんが
スメラギ「彼氏かどうかは知らないけれど、ビリーなら意地悪なメガネ女に木星に飛ばされたわ
自分が若い男と結婚しておいて まったく
9/13
エクシアコクピット
いつものピンクカーディガンでイメージ体ティエリアが出現 音声のみが実際には聞こえる
ティエリア・アーデ「お疲れ刹那 承認したミッションよりペースが35%早いぞ ロックオンではないが、そのうち死ぬぞ」
見えないので視線は合わせない
刹那「教えてくれティエリア 何故争いは無くならない 愚かな行為を何故また繰り返そうとする」
ティエリア「わかりあえる日が来るまでだ ボクはそう信じている」
刹那「では、俺には何が出来る イノベイターと言ったか だからナンなのだろう」
コクピットディスプレイを殴る刹那
ティエリア「イノベイター 革新者か…… すまないがボクにも分からない
実のところ ボクも僕でいられる時間は少ない いずれヴェーダの一部となるだろう
ただ刹那 それでも ボクは祈らずにはいられない 君にとっての幸福を」
刹那「俺の幸せ」
支援↑
あ、10レスか。
自分も支援。
回想
マリナの寝室に例の如くボーっと突っ立ている刹那
気配から目を覚まし
マリナ・イスマイール「おかえりなさい刹那」
刹那「またあなたに会いにきてしまった 聞かせてくれ この世界は何が変ったのだろうか
あなたの答えが知りたい マリナ・イスマイール」
マリナ「そうね 確かに連邦政府の方針は大きく変化したわ だけれど小さな紛争は、なくなってはいない
ならばそこにいる人にとっては何も変っていないのでしょう だれにも自分の世界があるから……
きっかけが必要なのよ 変るための 小さな幸せでもいいわ
それがあれば世界は広がり変化を他人を感じられる あの子達に私がそれを与えているのか
わからないけどね むしろ幸せを分けてもらっているのかも」
刹那「そうなのか」
マリナ「きっとそうよ すこしあの子達と遊んでいって またどこかに行ってしまうのでしょう
ここはアナタの故郷だから、いつでも帰ってくればいいわ」
11/13
プトレマイオス展望デッキ
刹那「……」
ロックオン・幽霊「どーした 暗い顔して また悩み事か」
刹那「いや そうだな 少し疲れたのかもしれないし 何も感じなくなっているだけ
なのかもしれない」
ロックオン「よう 珍しいなおまえが 独り言か ならオレも独り言だ」
刹那「ロックオン」
ロックオン「おれは続けるさ こんなつまらない事で死ぬヤツを増やしたくない
そんな単純な考えでいいじゃないか
いつかわかってくれるヤツに会えるはずだろ」
刹那「長い独り言だ」
ロックオン「うるせえ ミス・スメラギがさっき言っていたが、宇宙にあがるそうだ アレを受け取りにな
そうか 今日が月軌道をでる日だったな あーあ オレも乗りたかったぜ」
宇宙を見上げたその先には スイングバイによって加速し地球を離れるジュピトリスワンの光線が軌跡を描く
12/13
再び宇宙 ジピトリスワン ブリッジ
オペレーター女子「今日で遂に地球を出て2週間ですね
火星のスイングバイも無事に終わって アステロイドベルトまでは、ひと段落ですね」
年の頃は不惑後半 疲れた顔の東洋系の軍人は答える
ヤオ・ハン少将「だといいがな なにしろ問題児ばかりが集まっているからな」
まるで白磁の人形のような顔と肢体の女性は、皮肉そうに笑うと (ヒリング・ケアの容姿)
セレン・ソレンダ「艦長さん 上司どのがあんな事いってるみたいだけど」
呆れ顔の、その顔には眼鏡が鋭く輝いている
シーリン・バフティヤール「あなたも含めてですよ ソレンダ代表 宇宙人にプロポーズするためでしたか
まったく宇宙局ももっと真面目な人材がいるでしょうに」
少年と見まがう金髪の男の顔には、怨讐のしるしであった火傷の跡が、もはや見かけられない
グラハム・エーカー「それならば あなたもだ 副代表 離婚相手の顔を見ないですむからと志願してくるなど
連邦議員というのも真面目とは言いがたい仕事だ」
オペレーター男子「心労お察しします司令 ですが さすがはヤオハン少将です 連邦政府初の1大プロジェクト
このジュピトリスワン最高責任者に抜擢ですし」
ヤオハン「凡人を持ち上げないでくれ 実際何も出来なかっただけだよ
アロウズには必要とされず ハーキュリーの様に理想も無く セルゲイ程真摯にもなれなかった
ただのバランス人事さ 旧人革からってわけだ
それにジュピトリスワンに関しては全部あの女狐の仕業さ」
グラハム「司令自身の評価に関しては異論はありますが、
マネキン少将に関しては全面的に同意ですな
わたしなど、無理やり艦長過程に押し込まれ
この艦の艦長とは」
ヤオ「いや それは私の我儘だ、貴官は少し自分以外に責任を持つ事を知ったほうがいいと思ってな
年相応の苦労をしたまえ つまり我慢を学ぶ機会だ」
セレン「そうよ艦長 はじめ学生かとおもっちゃったわ ストレスが無いのかしら」
シーリン「あら代表こそ お年の割りに」
セレン「そうね イノベイド効果なのかしらね そんなことレポートにはなかったけれど」
オペ子「この中ではオペ男もイノベイドでしたね レベル5の情報レベルとはいえまだ整理できませんよ」
ヤオ「そうだな 改めてデスカッションといくか 2週間もあればそれぞれ思うところがあるだろう」
13/13
ジュピトリスワン ブリッジ
オペ男「では 先だっての紛争がイノベイターないしイノベイドと呼ばれるナノテクノロジーと
遺伝子工学等の結果産まれた、集団によって引き起こされたんですよね」
シーリン「そう、但し戦後連邦は、即時の情報公開を人心を乱すと判断し レベル8の情報凍結と
関係者への緘口令が引かれ 一連の紛争はアロウズのクーデターとして処理された」
ヤオ「全てはカタギリの用意していた結末だ アロウズ参加者には彼の投降を薦める遺言によって
大きな混乱がなく終焉した」
セレン「そのまま秘匿し調査研究を開始しようとした連邦政府に衝撃が走ったのが1年前
ジュピトリスワンの搭乗者候補の宙間検査で、実に6,324人つまり60%を超える者がイノベイドに近いものと判明した
同時に政府と軍内部の調査が行われどちらも3%を超えるのイノベイドの存在が認められた」
オペ子「確かその時、全ての思想過去の等の調査がなされ ジュピトリス計画が1年もの軌道演習を続ける事と
なったんですね」
グラハム「そして調査の結果すべておかしい点はなかった
イノベイド同士の繋がりに特別なものは無く
イノベイドと言っても宇宙空間への適正が優れているだけで
ナノ投入した一般人とそれほど変らないとの意見が上がった そして それを基に
カティ少将が一部情報解除と搭乗メンバーの変更中止をねじ込んだ
そして地球軌道脱出時に情報レベルを5まで引き下げ ヤオ司令セレン代表以外のブリッジクルー
及び艦内クルーの1割が知ることとなった」
シーリン「まったく連邦議会をなんだと思っているのかしら しかし先だっての
閲覧資格者を集めた会議は、えらく落ち着いたものだったわね
まあこんな閉鎖空間で地球に戻るのは3年後だからかしらね」
オペ男「もしかしたらマネキン少将は、見越していたのかも知れませんね
それに、木星圏到着での全クルーへの情報開示の指令といい 体のいい実験空間ですかね
いや隔離施設でしょうか」
ヤオ「実験場なら納得がいくな 君達は揃いも揃って変わり者ばかりだし
クルーもこの通り曰くのある連中ばかりだからな」
中央デスクに並べられる 4枚のホログラムファイル そこに映る男女
サジ ルイス ソーマ そしてアレルヤ
投下終了です。
全体で、アクト3まであります
3日後にアクト1後編を投下します。
すっかりサルサン忘れてたました 支援感謝です
グラハムのセリフにけれん味がいささか足りないか。
シナリオ形式のフォーマットが読みにくいので、
人物名A
「セリフ、台詞科白」
人物名B
「返事、応答返答」
の形にするか、カギカッコの位置を揃えるかした方がいいと思う。
とりあえず、コーラをバカにするのもいい加減にしろとだけ言っておく
ミレイナやロックオンはまだ分りやすいけど、
キャラクターのセリフに個性が出ていないので、
名前が書かれていても誰が誰に向かって言っているのか分りにくい。
グラハムについては既に指摘があるので省略します。
具体的に言うと女キャラのセリフの語尾がミレイナ以外「〜だわ」「〜かしら」「〜ね」
ばかりで、キャラによる書き分けがされていないように思う。
句読点や「……」「――」「!」「?」を使うことを強制する訳ではないが、
語気が表現されないので、ほとんどのセリフが棒読みのような印象を受ける。
あと一部のキャラクターに、原作にそぐわないような悪意のある書き方をされているのが気になる。
後々の展開で、読者が納得のいくような理由が提示されれば全然構わないが、
そうでないなら、強い批判を受けるのもある程度覚悟した方がいいかも知れない。
SSじゃなくてリレードラマのcgiとか「ぼくのかんがえたスパロボのかいわシーン」に見える
あと「」から名前を取ったら誰が誰なのか分からんのが数名
>>八丈島さん
投下乙です。
シナリオ形式は、名前が無くても誰が喋っているのかが
大体分かる位台詞を練り込む必要があると思いますので、
頑張ってください。
またの投下をおまちしております。
1/
SEED『†』外伝 スティング少年編
口付けよりも殺しを優しく 〜kiss and kill me〜
■被検体ナンバー78
■識別名 スティング=オークレー
■性別 男
■エクステンド処置への拒否反応無し。本日付で訓練開始。
「ふぅん。これだけではなんとも言えないわね」
ファントムペインに招聘された戦闘技術教官は、睡眠誘導カプセルの中でこんこんと
眠り続ける少年を前に、挨拶をしないことには、なんとも判断し難いと言った。
三十台前半……と思しき女だ。
とりたてて美人というほどでもない。化粧っ気は無く、何処ぞのショッピングモールで
レジ打ちでもしていそうな女だ。
彼女が、600m先のコインを必中で打ち抜く技量を有する狙撃手であると言う事は、
資料を前にしても信じることは出来ないだろう。
中尉、とだけ呼ばれている。
「普通の男の子に見えるけど、どこ がエクステンデッドなの?」
「ここです、中尉。マイクロマシンが移植されています」
白衣の男が、側頭部を指先で叩いた。
ファイルを開くと、頭蓋骨を切開されたスティングの写真と共に、インプラントされた
マイクロマシンの性能諸元が表示されている。
「重さと大きさはどれくらい?」
「歯の詰め物程度です」
「体に埋め込んで、拒絶反応は?」
「今のところ、確認されておりません」
右手で後れ毛を弄くり続けている、というその余裕は、技術士官の気に障るものだ。
だが、強化人間に殺しの指導を行える人材は希少だった。
「それでどういう効果があるんだか?」
「エクステンデッド――"タイプ・マルチタスク"の詳細はこちらの資料に」
「ふぅん。自分の口から言いたくはないのね」
2/
エクステンデッド――戦闘用に強化された人類。
心に刻まれた条件付けは、殺しのためらいを消し去り。
肉体に施された投薬は、絶大な膂力と神速の反応を与え。
マイクロマシンを移植された彼等の脳と、その意識感覚は、ヒトと異なる。
絶大な戦闘力を強力な精神制御で縛ってはいるが、暴走の危険は常に付きまとう。
万が一の事態において、彼等を取り押さえ得る者達の数は限られているのだ。
「先ずは起こして欲しいわ。これから生徒になるんだもの。
挨拶はしっかりしておきたいじゃない?」
殺人技術を教え込もうという強化人間を、生徒として扱おうというのだ。
技術士官は顔をしかめた。
「中尉、処置に関して拒絶反応は出ていませんが、万一の時は……」
「分かってるわ。これでしょ?」
人差し指と親指を伸ばして、"ぱんっ"と撃つ動作をして見せる。
「はい、エクステンデッドにはマイクロマシンの影響を脳内で中和する措置が、
定期的に必要となります。精神制御のためです」
「まずは一日毎に措置を行って様子見、以降、インターバルを段々と伸ばして行く。
今更のミミタコよ」
「ミミタコ?」
聞き飽きたって事。と中尉の説明。
「とりあえず起こしてよ。寝顔を眺めるために、朝一出来たんじゃないわ」
本当に使いものになるの、コレ――中尉は"揺りかご"と呼ばれるガラスドームの中、
目を堅く閉じて眠るスティングを見つめた。
「覚醒します」
男が、脳波のモニターを睨んで言うと、中尉はガラスドームに張り付いて、
寝返りをうってゆっくり目を開く眠り子を見守りながら、囁いた。
「ハロー、生徒君。地獄にようこそ」
3/
スティングは、芋虫になる夢を見ていた。
夢の中の自分は手も足も無くて、全身を泥にまみれさせながら、地面の上を這っていた。
誰かの捨てたゴミを食って生きていた。
この世の全てが、自分の目線よりも高い所にあった。
誰かの持ち物に伸ばす手はなく。
自分を立ち上がらせる、足も無かった。
うらやましくて悔しくて。
いっそ、目の前を往来する、その足首に噛みついてやろう、と背中を伸ばした時。
「ハロー、生徒君。地獄にようこそ」
スティングは、ようやく目を覚ました。若くない女が、物珍しげにこちらを見ている。
「どうしたの、自分の手をじろじろ見て?」
「ちゃんと、手があるかどうか確認してたんだ。足も動く。良かった」
「ふぅん。本当にちゃんと動くの?」
「は?」
「命令――"今から私を取り押さえなさい"」
言うなり、女は右手で殴りかかってきた。
握りこぶしに鋼の輝き――メリケンサックを嵌めた右フックが、大振りの軌道で
スティングに向かってくる。
あくびの出る程遅いそのパンチを目にして、スティングの思考が五つに分裂した。
一人が言う。コイツは誰だ?
一人が答える。中尉だ、命令を与える女だ。
一人が聞く。「中尉!」と叫ぶ男の、耳障りな声。
一人が思う。こぶしの届く間に、女の喉に手刀を叩きこんでしまえ。
一人が停める。取り押さえるのが命令だ。
"スティング"が動く。全身が最適化された動作でフックを掴むと、
背後に回り込みつつ中尉の腕をひねり上げた。命令は果たされたのだ。
「ふぅん。かなり速い動きなのね。でも……」
停止した彼の眉間に、黒光りする銃口が押し付けられた。右手を捩じられながら、
左手の拳銃をぴたりとスティングに向けている。
「殴ってきた相手が、銃を持っていないとは限らないわ。……離して良いわよ」
4/
スティングが腕を離すと、中尉は捩じられた肩を振って調子を確かめていた。
「さて……今の、その気だったら私を殺す事も出来た?」
「はい、中尉」
スティングが答えると、君はまだ軍人ではないので先生と呼べ、と命令される。
「はい、先生」
「まあ良いんだけどね。狙撃手は接近されたら弱いのよって、教える為だったし」
「狙撃手?」
「そう。今日から私がスティング君に教えるのはね、見えないぐらい遠くから、
一人ずつ一方的に殺す為の、卑怯で卑劣で最低の技術よ」
スティングにそう告げた中尉は、端末でどこかに連絡を取った。
やがて、トレーに載せて運んでこられたのは、黒光りする鋼とツヤのある木材で
出来た、中折れ式のリボルバーライフルだ。
「名前……分かる?」
「I.H.S.V−P3」
「そう、大昔の殺し屋が使っていた骨董品」
「どうして?」
「これが最高の物だから。すぐに分かるわ。そういう風に教えるもの」
中尉から、無骨なライフルが手渡される。
鋼の銃身を、スティングはしげしげと眺め、そして樫材の銃床を掌で味わった。
銃身と銃床を固定する小さな金具を外すと、ライフルは中ほどで二つに折れ、
弾丸を叩く撃鉄と指をかける引き金との、単純で機能的な関係が露わになった。
回転弾倉に開いた虚無の数は、3。今は弾丸の籠められていないその孔からは、
狙撃手と標的を結ぶ一本の直線が、銃身の中に走っているのが見えた。
「それで……どうすればいいんだ、先生?」
「そうだね、先ずはその銃に慣れてもらわないといけない。だから、
それを持って走ろうか。軽く80キロ位。これ地図ね」
「……は?」
中尉がトレーに置いた地図には、彼等の居る訓練施設を見下ろす山、
その山頂周りにそって、直径20km超の歪んだ円が描かれている。
「日没前には帰ってくるのよ」
中尉はスティングに向かって、初めて笑った。
5/
――夕刻
「絶対、これはバカだ……俺はバカをやっている」
「ふぅん……正しい認識ね」
息も絶え絶えに訓練施設へと帰還したスティングがへたり込んでいると、
ありがたいことに中尉は頭から水を被せてくれた。
「人殺しの練習だもの。馬鹿じゃなければ出来ないわ」
水と一緒に口から入り込んだ泥を吐きだして、よろよろと立ちあがる。
「シャワーを浴びてきなさい。整備の仕方を教えてあげるから」
決して銃を降ろすな、という命令を愚直に実行した両腕は、
筋疲労からけいれんを起こして、小刻みに震えていた。
「先生……どうしてこのライフルなんだ?」
"I.H.S.V−P3"を分解しながら、スティングは聞く。
刷り込まれた知識によれば7.62mm弾を使うこのライフルは重量7kgを超す。
C.E.の技術ならば、金属を強化された炭素素材に置き換えて、重さを
二割程度にまで軽減できるはずなのだ。
「……それが最高の物だから」
分解した部品の歪みや傷をあらためる中尉は、先ほどと同じ言葉で答える。
「――ええ、もちろん、導電性カーボンとバッテリー電力で、金属製の
ニードル弾頭を撃ちだす最新式ライフルの性能は認めるわ」
部品の細かな隙間に入った埃を掃き取らせながら、中尉。
「でもね、このライフルの7200グラムは、スティング君の卑劣を保証するの。
トリガーを引く君の心を、この冷たい鉄がきっと支えてくれるわ」
中尉が"良し"と一言発して、スティングはライフルを組み立て始めた。
「今日は、組み立てるところまで。明日は照準のゼロ点調整を行うからね」
「先生……」
「どうしたの? お休みのキスが欲しいかなー?」
「……明日に100キロ走らせるとかいうなら、今日のうちに殺してくれ」
「ふぅん……ごめんね、スティング君には、自由に死ぬ権利もないの」
ライフルの組み立てが終わり、銃身と銃床が一直線に繋げられる。
弾丸を籠められていない鋼の塊は、彼の腕に重さを与えて、ただ空虚だった。
6/
――10日目
訓練の日々が続いていた。
「銃口が、君自身の人差し指の先。そう感じるくらい、この銃に馴染みなさい」
中尉の一言によって、スティングはライフルを抱いて眠るようになった。
銃を手にして目を覚まし、銃を担いで走り、銃を肩にかけて飯を食い、銃を撃ち、
銃をばらし、銃を浄め、銃を組み立て、銃を抱いて眠りに落ちる。
そんな生活に、スティングは不平を言う事も無く順応していた。
不満を考える事も出来ない程、精神が制御されているのかと、中尉が疑うほどだ。
「お休みのキスをしてあげようか?」
中尉のそんなからかいに、スティングが不機嫌がって"揺りかご"のガラスドームを
閉ざすのが、何時しか習慣になっていた。
――15日目
中尉が舌を巻いたのは、スティングの学習能力だ。
「面白いわね。普通、5を教えたら次の日に出来るのは4か3位なものよ。
それが君は6や、下手したら7出来たりする。徹夜で復習してない?」
「いや、寝てるだけだ。先生」
どこかで無理をしていないかと聞く中尉に、スティングは首を横に振った。
答えたのは、スティングを担当する技術屋の男だ。
「エクステンデッド達は、夢の中でその日の記憶を"反すう"しているんです。
非常に高度なイメージトレーニングを、毎晩行っていると言えます」
「ふぅん。じゃあ、やっても居ない事を夢の中で"経験"できたりしないの?」
「可能ですが、実体験の"反すう"に比べれば、定着の効率は1%も無いでしょう」
つまり、"当たる"ようになるためには、"当てた"体験が必要だという事だ。
「先生は600メートルで必中か。俺はまだまだだ」
「素人が300で当てられるのは、十分よ。記録によれば、その銃と同型を使った
あるスナイパーは、野外で1キロの距離を置いて、標的の眉間を射抜いたわ」
「……1キロ……」
その距離に呻くスティングは、必中距離が伸び悩んでいた。
7/
――20日目
鉄の感触。左腕で支える重さを煩わしく思いながら、引き金を絞った。
重い反動と、頭蓋を右から左へ抜けるような銃声。右目はスコープに当てられている。
十字線の中央、標的になった缶詰は、動かない。
「距離が五百なら、胴体を狙った方がいいわね、スティング君は」
双眼鏡を覗く先生が、肩を落とした。トリガーの瞬間に、銃口がぶれたのだ。
先生の言葉は、他意の無いアドバイスだが、"呆れられた"というスティングの
思いは変わらない。ライフルを折って、リボルバーに残った薬莢を転がす。
「何発?」
「18です。残りは6」
常に弾の数を把握していなければ、先生の鉄拳が飛ぶ。素手ではスティングに
ダメージが無い――拳を痛める――と理解した中尉は、普段からメリケンサックを
ポケットへ常備するようになった。
「何か――考え事している?」
ポーチから一発ずつ弾を取り出し、回転弾倉に込めて行く間に先生が質問してきた。
「……コイツの重さの事を考えてました」
シリンダーを回しながら、応える。
「ふぅん……スティング君は、標的が人間に見えてきてしまったわけだ」
そうは答えていないはずだが、先生が言うならそうなのだろう。
スティングの不思議な確信自体が、言葉を肯定しているようだった。なるほど、
500メートル先、ターゲットにしている缶詰が、人のようにも感じられる。
「いいのよ、逆よりも正常な反応だもの」
「ライフルの重さが、俺の何を保証してくれるのか――それが分かりません」
五百メートル。卑劣の間合い。
スコープを覗かなければ、撃ったスティングの顔も分からないような、卑怯の距離。
8/8
「いいわ、解決方法を教えてあげる。心を地面に捨てればいいの」
「心を?」
「半分でも。四分の三でも。心を優しく切り分けて、引き金を引く指以外、
地面に置いて預けておくのよ」
心を切り分ける。
それはスティングにとって、エクステンデッド――"タイプ・マルチタスク"にとって、
いかにも簡単なことのように思われた。
側頭部に移植されたマイクロマシンが脳に干渉し、意識野を切り分けて行く。
『抵抗不能の距離から一方的に死を送り込む』という傲慢。
"ナチュラルの兵士の代わりに、危険な場所へ行くべき存在である自分"が、
"安全な場所から死の弾丸を叩きこむ"という矛盾。
それらによって千々に乱れていたスティングの心が、尚も細かくより分けられて、
肌の表面を伝い地面に落ちて行く。
意識に残ったのは、引き金に掛けられた指の感触だけだ。
そして、銃の重さ。心の抜け落ちた空白を、7000グラムの感触が占めて行く。
ライフルに保証されたる卑劣の重さは、スティングの感じる"罪悪感"の重み。
今、罪を思うその心が、地面に抜け落ちている。
「良い目ね――今なら当たるわよ」
先生に言われるまでもなく、丁度そのタイミングで引き金を引いていただろう。
外すはずもない――ライフルの重さが反動と銃声に変わる中、スコープの向こうで
缶詰が粉々になり、紅い霧のように屑肉をまき散らした。
スティングの肩を、先生の手が叩く。心が、触れた掌から戻ってきた。
「よく当てたわね」
「今日の晩飯に、あの不味い缶詰を食いたくなかっただけさ」
満足感に包まれて、スティングはそう答えた。
以上、SEED『†』外伝 スティング少年編、投下完了。
ひょとしたら、これが前編になって後編書きます。
>>46 で、 『側頭部を切開された少女〜』云々についての
説明的短編でもあります。
どっかで書いたのですが、『SEED『†』内での設定として、
エクステンデッドは側頭部にマイクロマシンを移植して強化する、
という辺りの設定があります。
ひょっとしたら忘れられてるかなー、と思い、上の五行位を
書けばよかったのですが、いつの間にかこうなりました。
なんででしょう?
中尉、もしくは先生の名前は決めてません。きっと最後まで
決まりません。
それでは、また。
なんかどうでもいいがガンスリンガーガールを思い出した
ガンスリンガーシード?
アクト1後編 1/9
ジュピトリスワン通路
サジ・クロスロード
「まいったな まさか迷子なんてことは ハロどこ行ったんだ
こっちは封鎖区画か 1万人もいてまだ7割以上不要スペースがあるからな
信号辿れるかな 奥までいっちゃってたら」
その時 ハロが通路の奥から飛んできて
アレルヤ・ハプティズム
「探しものはこれかなサジ君 ボクも迷ってしまってネ それにしても奇遇だね マリーとは会ったのかな」
邂逅を喜ぶよりも、嫌な予感に身構え
サジ
「――アレルヤさん やっぱり乗っていましたか、ジュピトリスワンに
何かが起きるんですか それとも起こすつもりですか」
アレルヤ
「後者ならば、保安部に報告しようというような顔だね
これはプライベートが8割で、残りがCBの活動だよ
不明な点がまだ多く残っていてね この艦には それで調査をというわけさ」
サジ
「何かイノベイターやアロウズが仕掛けていると」
アレルヤ
「多分それは無いと思うよ スメラギさんからの報告じゃ この1年と6ヶ月
全く残党の気配も無いとヴェーダのお墨付きも貰っているしね」
サジ
「そうですか プライベートというのはマリーさんとの新婚旅行ですか
アレルヤ
「残念ながら これは贖罪というか、つまり巡礼の旅の終着点なんだ
何かきっかけが、お互い必要だったのさ 心理的決着はすんだつもりだけど、儀式を求めていたのかもしれない」
サジ
「立ち入った事を、聞いてしまい すいません」
アレルヤ
「いや こうやって知人に意味を話すことも ひとつのアプローチになるんじゃなうかな
告解みたいなものかな」
サジ
「そういったものなのでしょうか?
……ひとつ聞いていただけないでしょうか
ルイスのことは ご存知でしょう 彼女は、今でも悩んでいて
苛まれていて 戦争の記憶 自分の行為の影響 取り返しのつかない罪
僕はすべてを受け入れる覚悟はあるつもりなんですが、彼女に対して、それだけでいいのだろうかと
僕もあなたのように大切な人の力になる事ができるのでしょうか」
アレルヤ
「どうだろう僕がマリーに救われたというのが正しいんだ
それに、僕には聴くことはできても答える資格はないよ
ただ僕は、ソレスタブビーイングをこの任務を最後にやめるつもりさ
卑怯者かもしれないけど、今だからこそできる様になった考え方だと思いたい
すまないね、再会してそうそうでこんな話を聞かせてしまって
だけど君たちを余り心配はしないよ 君の顔を見ると秘策があるんじゃないのかな」
サジ
「わかりますか…… まあ自信はないんですが 何か決心がつきました じゃ失礼します またお食事でも」
サジとルイスの部屋
ルイス
「おかえりなさいサジ 遅かったけどまた迷ったの」
サジ
「原因は、僕じゃないけどね ただいま ルイス
それでね、一週間後だけど休みを合わせないか
一緒にいきたいところがあるんだ」
ルイス
「なによ、急に たぶん大丈夫だけど
期待しちゃうわよ フフ…… どんなエスコートをしてくれるのかしら
それじゃ食事にしましょ 待ちくたびれちゃったんだから」
深夜
寝室
安らかな寝息から一転し突然うなされるルイス
「うう ああああアアアアアア」
サジ
「――ルイス!」
ルイスの手を握ろうとするも、突き飛ばされるサジ
半覚醒状態で許しを請うように左手を天に突き出し 慟哭する
起き上がったサジは静かに彼女の身体を抱きしめて
慣れた様子で、その左腕をやさしく自身の手で包み込む
糸が切れたように、くずれこむルイスの身体を受け止め
元のベットに横たえる
薄暗闇の中のその動作には乱れがなく、幾度と繰り返されてきた
痕跡だけが残る
互いに繋がれた指には、微弱なナイトランプを照し返すモノはなかった
彼女が落ち着き深い寝息を立てはじめても
サジは手を握り続け、やさしく彼女の髪を撫でるのだった
3/9
調整光がサジの、顔を照らし起床を告げる
彼の隣には、彼女の姿はない
いつもの泣き笑いの表情を浮かべてベットから立ち上がり
コーヒーをカップに注ぐ
サジ
「ハロおはよう」
ハロ
「オハヨウ オハヨウ サジニ メッセージ メッセージ」
サジ
「うん 聞かせて」
ハロ
『おはようサジ
先に仕事に行ってきます
サジは、シフトが遅いから
ゆっくりしていってね
それとあたし特製ブレックファストなんだから
心して味わうように
……ありがとう……』
サジ
「うん……」
テーブルに着き食事をはじめながら、いつものようにTVをつける
繰り返される毎日は、望んだものなのだから
TVの画面が、伝える
池田
『――それでは、本日のジュピトリスレポートの時間は以上になります。
番組の冒頭にもお伝えしましたが、本日より一週間
ジュピトリスワンが磁気嵐の圏内を通過するため
地球からご覧の皆様には、番組が視聴できません
次回の放送は、一週間後の6月26日となり
アストロイドベルト付近よりジューンブライドにちなんで
ユピテルの妻ユーノの名前を持つ小惑星ジュノーの生映像をお送りします
それでは、ジュピトリスワンより特派員の池田がお送りいたしました』
4/9
食器を洗うサジ
ガガに乗り込むルイス
ブリーフィングを行っているソーマとコーラサワー
磁気嵐の圏内に、入ったことを、報告するオぺレーター
頷くグラハム艦長
オフィスで書類のチェックをおこなうセレン代表
昼の定時会見を行うシーリン副代表
午後の仕事に戻る人々 時間がゆっくりと過ぎていく
そしてジュピトリスワン船外の宇宙で……
ジュピトリスワン重力場に侵入するなにか
重力場に接触と同時に光学迷彩が解かれ 大型宇宙航行艦が姿を露わにした
同時に、ハッチからMSらしき光源がいくつも解き放たれる
ジュピトリスワン ブリッジ
オペ子
「重量場に反応!大型質量 宇宙航行艦です
MSらしい機体の発進を確認!10まだ増加します」
オペ男
「司令! オープンチャンネルに交信 音声通信入ります」
――
『我々はジュピトリアン 地球人類に告げる 我らが絶望を知るがいい』
5/9
謎の戦艦より発進したMS部隊は
木星のようなイエローにブラウンを基調とし、後部に展開する黄色い粒子
その容貌はまるで狩を行うする蜂を想像させ
そして その蜂に従うように大きな球体に砲身と腕を取り付けたMAであろう機体が展開している。
一機のスズメ蜂に三機のミツバチが編隊を組み一斉に獲物に取り付かんと
ジュリトリスワン各砲門を破壊しながら、それぞれが攻撃を開始した
自動防衛システムにより残る砲塔が迎撃行動 スクランブル音が響き
パトロール中だったのジンクスが爆発 アヘッドが応射
ヤオ
「『こちらはジュピトリスワン司令ヤオハンである。
これは、演習ではない 各自 戦闘状況Aに従い行動せよ
なお各所 非戦時施設は閉鎖 ブリッジの第二第三を持ってバックアップとする
各自 落ち着いて行動せよ』」
グラハム
「中央司令部より港湾管制へ正面ゲート閉鎖と擬装だ
MS部隊の発進をB65から78ゲートにて誘導 敵艦死角より発進
砲火にて発進援護 同時に船外活動員の収容急げ
ジュピトリアンだと笑止千万ふざけた名前だ
余程後ろめたいことがあるとみえるな」
港湾管制オペ
「正面ゲート間に合いません―― 敵機 突っ込んできます」
MSというより航空機のフォルムを持ち 青白い輝きをまとい
敵機が弾幕を背後に流し まさに侵入を果たさんとしたその時
コーラ
「させないぜ――!!」
猛然とポート入り口より現れた機体はコーラサワーのヘクトル
敵機を抱え込んだまま乱戦下に入っていく
ミツバチ型続けて突入するも間一髪で正面ゲート封鎖擬装が完了し
壁面に衝突爆散
ジュピトリスワン各所
デブリ任務につくガガ各機は船外クルーの避難誘導を行っている
その中にはルイスの姿も
ピーリス小隊も発進 アヘッド・スマルトロンにジンクス2機
6/9
司令部
グラハム
「面白くないなっ! 不意打ちに加えて死角をとられたとはな
あちらの数がわからない以上 無闇に攻め切れん
このデカブツに進入溝を作られんよう分散しての各自撃迎を図る」
ヤオ
「緊急ブイ どんどん射出してかまわない 信号と通信はどうなってるかな」
オペ子
「通信不能なんらかのジャミングが!」
ヤオ
「GN粒子での通信がか」
オペ子
「同系の粒子でしょうか干渉がひどいです
ほぼ戦域を覆いつつあります」
戦闘宙域
青く光る粒子を撒き散らし戦場を駆ける機体
オペ子
「射出したブイが破壊されています 目がいいのがいるみたいです」
謎の戦艦のデッキに長物を携えたMS 先端から青い光が漏れるとともに
進行方向後方に過ぎる射出ブイを長距離射撃で全て破壊していく
ヤオ
「兎に角、状況を地球に伝える 現状時点で地球がこの事件に気がつく最短はいつだ」
オペ男
「磁気嵐を抜けるまで交信の予定はありませんから
こちらの異変に気付くには7日です
信号途絶が仇になっていますよ」
グラハム
「好敵手ですな連中
そこまでわかっているのでしょう」
一応支援。
7/9
沈殿する空気を、なぎ払うように代表が到着する
セレナ
「急いでブリッジに来てみれば、まだ軽口は叩けるようですね
ひとつ提案ですが、地球との恒久通信用の定期設置衛星を使えばどうかしら?」
ヤオ
「可能かな」
オペ男
「遠隔は磁気嵐及び粒子により不可能です 直接動かすしか」
グラハム
「いや多分連中の護衛があるな 情報の遮断が目的で動かれている
虎子を獲んことにははじまらん 私が」
モニターに懐かしい顔が映り、いつものようにたしなめる
ビリー・カタギリ
「無理だよ いくら君でも
戦線を抜けるにしても見逃すとも思えないし
君の機体では、航続が難しい
あと君は気付いていないようだけど、
運があまり良くないからねえ」
セレナ
「同意 運だったらコーラサワー中尉に賭けたいわ」
グラハム
「失敬な ――だがコーラサワーか 単独航行に擬似太陽炉2並列 司令 やれます コーラ機は何処だ」
オペ子
「現在 S外縁部にて交戦中 敵特殊機と交戦中」
グラハム
「なるほど いい位置だ確かに運がいいようだな 通信可能か?」
オペ子
「はい! まだ可能散布濃度です」
グラハム
「通信まわせ 後スミルノフ小隊にコーラ機援護を要請 収容率は」
オペ子
「80% あと300秒で可能かと コーラ機応答まわします」
8/9
グラハム
「こちら司令部 貴官は戦場より離脱し最大航行で現状を連邦本部へ報告
設置した定期衛星S54には近づかず S53を見つけ本部へ通信
平行通信で現状と分析データを航行プランともに送っている データ転送完了をもって作戦を開始せよ」
コーラ
「何いってんだ! 俺がいれば こんな連中」
ヤン
「司令のヤオだ 復唱を中尉 これは一番危険な任務だ不死身の中尉だからこそ任せた
それと奥方にも伝言だ 子供の名前だがパオリックJrでどうかとな 以上」
コーラ
「え 何? 子供 いやっほう!! いくぜ
こちらヘクトル 変形 クルザーモード一気に突き放す 3秒後に援護をくれ」
ジュピトリスワン砲塔からの煙幕がはられるや その一瞬変形し最高速に達し飛んでいくヘクトル
最前までMS形態でコーラ機と戦闘を繰り広げていた青い粒子を発する機体が再度変形 追撃に入ろうとするも
ソーマ小隊支援弾幕により阻止 交戦 ジンクス一機腕部破壊される
ソーマ
「S1後退だS2貴官はS1を援護 目的は果たした ジュピトリスワンの火砲圏まで撤退する
殿は私が引き受ける」
司令部
オペ子
「コーラサワー機 離脱成功 追っ手現状ではありません
さらに重力帯より離脱 以降信号途絶します」
戦闘宙域
敵変形型とソーマ機戦闘 ガガが支援に現れる 2対1でなんとか抑えるが
アレルヤ
「マリーいまだ 撤退しろ」
混戦となり3機ばらばらにはぐれる
ジュピトリアン戦艦 甲板部
ブイを落とした狙撃型MSが先ほどより遥かに長い得物を構えている
はるか遠方のコーラ機の残す軌跡をなぞるように青い閃光が近づき 爆発光
司令部
グラハム
「――あとは人事を尽くすのみだな 状況は」
オペ男
「H23搬入路発見されました 計5箇所になります
F4通路への進行が思った以上に」
グラハム
「囮だ 司令私に出撃の許可をJ35を私が受けます
2個小隊をH23へ F4はソーマ隊が背後から向かえば散るでしょう 他は現状で」
ヤオ
「どうやらその時だな
だがあの3機が寄せて加われば、維持できん そうなれば頭を叩くしか」
9/9
戦闘宙域
ルイス
「L4 避難完了 当機 L3,2,1を再確認し帰艦する
(何 どうなっているの ジュピトリアンって何 こんな戦い 止めなくちゃ でもどうやって
痛っ 何? 頭が……)」
青い粒子を、戦場に侵食させるジュピトリアンMSがすれ違っていた
怪しく光る ガガコクピットの紫ハロ
そして
戦場を覆う青い粒子が、一石を投じられた湖面のように
波紋を広げていく
その粒子の波の伝わった ジュピトリアンの機体は戦闘を停止していく
各所で戦闘が止み ジュピトリスワンの各機MSも突然の事に手を止める
そして戦場の一角から戦艦までジュピトリアンのMSによる黄道が浮かび
そこに一機のガガが進んでいく
そのガガよりジュピトリスワンのチャンネルへ音声が入る
『ジュピトリアンは一時停戦を宣言する そちらに同意の意思があれば これ以上の戦闘行為を停止せよ』
司令部
ヤオ
「なんだこの通信はこちらの機体からだぞ だが確かにやっこさん達の攻撃は停止した」
MSデッキまでの廊下で端末から
グラハム
「一時戦線を整えるため同意すべきですな
各機へ伝達 戦闘行為を停止 レッドラインにて
アラート3にて待機だとな」
騒然としていたジュピトリスワンMSが、静けさを取り戻しながら
機能的に後退を開始する
ガガは続けて発信した
『ジュピトリスワンの賢明な判断に感謝する
我が名は 木星の花嫁 その名において停戦を誓おう』
以上 投下終了
ご覧頂ありがとうございました 併せて前回のレスに感謝
色々いじってみましたが、人物の書き分けがやっぱりダメですね
後4回ですから このまま突っ走ります
次も3日後くらいに それではお休みなさい
乙
コーラさんならきっと生きてるなw
太陽炉3つ賭けてもいいぜ
>>94 前よりはセリフ分りやすくなったと思う。グラハムとか。
前投下からそう思っていたけど、作者氏はルイス好きなんだろうなと。
乙でした。
>>94 投下乙!
個人的に脚本形式って慣れなくて読みづらいんだけど話は面白い
すげー続きが気になります
投下乙です。
セリフはだいぶ読みやすくなりました。
まだ、常識の地面に足をつけたままのグラハムが違和感を残しますが、
キャラクター達はそれぞれの役割を十分果たしているような気がします。
コーラのお約束とか。
句読点と感嘆符、疑問符が入っていれば、今少し、台詞が分かりやすく
なるかと思います。
またの投下をお待ちしています。
感嘆符や疑問符を入れるすぎると物語が途端に安っぽくなるので注意
疑問符を描写を端折る便利アイテムじゃないからこれまた注意な
まあ、その辺りはテンプレ参照だな。
おおっ!いい流れだ!
まるで新人スレみたいじゃないかぁ
きょんさんも投下乙でした
ココ新人スレだろww
まあ定住者も多いんでそういうことだろうが
>>木星の花嫁
投下乙
読みやすくなった。既に出来ているものを推敲したのだと思うが
手を入れる勇気に敬服する
シナリオ自体も良い意味でいかにもな展開ではある
次回投下も期待する
上で何度かキャラ立ちについて言われているが
シナリオ形式の場合、行動描写の無い分
表現が台詞のみになってしまうので
多少、過ぎるくらいにキャラごとの表現を変えないと
キャラクター自体の個性は見えないだろうと思う
本当はシナリオ形式自体、映像ありきの話だからな
ただやり過ぎれば当然、アンチだ。と言われても仕方がないので
その辺のさじ加減は微妙だとも思うが
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
――エピローグ――
ロードトゥセブンス。それぞれの事情【一人目】(1/2)
関係ない戦いに巻き込まれた小さな町。わたし達が到着した時、既に戦闘は終了し町は瓦礫
の塊と化していた。只の石くれになった家々、煙を上げる兵器だった鉄の塊。兵士達の亡骸と
意味もなく死んだ人々。二〇〇余人の住人が居たはずの町は只の廃墟になっていた。
『目が速いのは認めるさ。だがいくら熱源反応が無いとは言え、建物の陰まではいくらハウンドの
センサーでも見えん。おまえ、格闘技はヤバいなんてレベルを超越して弱いんだ。絶対降りるな』
「判っています、アンドレさん。……でも絶対見えたんです。ピンクのスカートはいた女の子が!」
『行くなとも見捨てろとも言ってないだろうが、この頑固娘! コッチもまだ此所を離れる訳にゃ
いかんのだ。3分したら誰か、いや俺が行く。それまで待、――聞いてんのか、コラっ、シライ!』
――チクショウっ! まただ。また、救えなかった……。わたしは何の為にザフトに残った!
『アンコールワット・コントロールからレディレパード。――ミツキちゃんってば! 何でいつも一人
で先行しちゃうのよ! ……隊長、レディレパードとつながりました。――はい、回します』
『マーカスだ。センサーをぶら下げたディンを、――シライ君、人の話を聞かんか! おい!』
訳の判らない戦いに巻き込まれて住人達は……。白いハウンドの足は勝手に建物に走る。
3階まで吹き抜けになっている建物一階の大きなロビー。アンドレさんに言われるまでもない。
わたしが銃を構えたところで何になる。と思いながらセーフティを外して腰を落とす。両手で
グリップを握る。撃つ時は必ず二発ずつ、狙うなら胸。撃った後は絶対に腕を上げない。
何故なら銃が顎に当たるから。訓練の時、すごく痛かったもの。ヘルメットのバイザーをあげる。
サングラス、色を一段薄いものにするのだった。もっとも廃墟に入る予定はなかったのだが。
吹き飛んだソファ、倒れたテーブル。――と斜めになった自動販売機の影に動くもの……!
「う、動くなっ! 武装を放棄して投降しろ! ゆっくり両手をあげて立ちなさ……。えっ?」
ゆっくりと立ち上がったのは可愛らしいピンクのワンピースにはそぐわない焼け焦げを作り、
輝くような銀色の、肩までだったと思われる髪は炎にあぶられたのか、無残にショートカットの
ようになって。宝石を思わせる紅い瞳は恐怖で震え、多分透き通るように白いのであろう顔も
火傷とすすで真っ黒で、涙のあとが頬に筋になっている。小学生くらいの女の子。
「お、脅かしちゃった……かな? コレはすぐしまうから。ホラ、もうしまった。怖くない。……ね?
痛いところは無い? おなか? ――と右手ね。すぐに看て貰おう。あ! 歩かないで!」
どうやらショックで喋れないらしい少女。左手で右手を押さえながら茫然自失の風情で立つ。
二の腕は多分、折れてる。おなかを痛がっているのが心配だ。障害物を飛び越え、せなを抱く。
『熱源反応はシライさんともう一つのみ、つーかもう接触してるのかよ? 敵じゃないんだね?』
「怖かったね。もう大丈夫だよ、私が護ってあげるからね。――女の子、発見です。ヘンリーさん」
ロードトゥセブンス。それぞれの事情【一人目】(2/2)
数週間後、アンコールワットのブリッジ。
「ふぅ、すまんなムツキちゃん。キミの学校もなんとかせにゃならんなぁ。戦争が終わらん事には
お話にならんのだが。――シライ君、その件は良いんだな? ジーンとアンドレに伝えるぞ?」
未だわたし以外とは上手く喋れない彼女。その彼女は誰も何も言わずとも隊長のお茶くみ係
として、自らの立ち位置を確立した。それからもう一人、何故か子供に好かれるとは到底
思えないメカマンチーフ、ジーンさんにも懐いている。そしてそのジーンさんも、邪険にするでも
なくMSの構造を教えたりして、構っているのが、これがまた謎と言えば謎ではある。
が、とにもかくにも。これでマーカス隊の実力者二人に、自らの存在を認めさせた事になる。
まともに喋ることさえ出来ない彼女に、隊の力関係なぞむろん、誰も教える訳がない。賢い娘だ。
わたしの妹みたいなもんだから似た様な発音で良いじゃん。と言いながら実は彼女の
誕生日から名付けたムツキと、自ら思い出した名前グラジオラス。二つの名前を持つ少女。
見た目よりは多少、年齢は上。わたしとは6つしか違わない。
何があったのか具体的には知らないが、言葉を失う程の衝撃があの可愛らしい少女を
襲ったのだ。だから名前と誕生日以外思い出せないのは、彼女にとってはいろいろな意味で
かえって幸せなのかも知れない。
「いってきまーす!」
セブンスに戻ってから、もう2年以上が過ぎた。田舎の駐屯地で荒くれ者を束ねる隊長など、
長くは続かない。と、自分でも思っていたし、”彼”にもそう言われた。
でも、駐屯地は無くならなかったし、私はまだ此所にいる事を許されている。
彼も出来うる限りでバックアップしてくれているし、仲間達もまた、中途半端な私を隊長と
呼んでくれている。――そして彼女。ムツキは私の娘になって、今日もパンをくわえて走る。
「今日こそ平均点を超えて見せなさい! 女の意地を見せる時よ!」
「数学じゃぁ、絶っっ対無理〜! そう言うのは、いい男捕まえる時見せるからっ!」
あれから2年。各陣営は睨み合いながらも融和の道を未だ模索している。そして此所、
セブンスオアシスは規模も大きくなり各種難民や移民を躊躇無く受け入れた事で、一部で
有名になりつつあった。コーディネーターとナチュラル。オーブ、プラント、そして連合諸国。
全てが融和して。いやごちゃごちゃに混ざって暮らす街。学者や政治家の目から見た時、
それはどう見えるのだろう。理想の街か、それとも最低、最悪の烏合の衆か。
プラントの代表が誰であろうと、オーブと通商条約を締結しようが関係なく此所での私の生活
は続いていた。私は知っている。世の中で、何も変えない事こそが実は一番難しいのだと。
私は、未だこの生活を変えようと思わない。彼も娘も、そして亡き師匠も賛同してくれるだろう。
平凡な日常を変えないため、その為に日々戦うのだ。相手は傭兵や盗賊団より、よほど手強い。
ただこうして生きる日常、それ自体が生き残りをかけた戦いなのだから。
「あんたねぇ、今度私が呼びだされたらただじゃ済ませないからねっ、覚えておきなさいよっ!?」
ただ、校長先生とは戦いたくない。負ける戦に好んで出陣する者は居るまい。……ヤレヤレ。
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
――エピローグ――
ロードトゥセブンス。それぞれの事情【二人目】(1/2)
仕事の端末のモニターを消し、キィボードを片付けてから約一分。彼女はまだドアの前だ。
「突っ立っているだけでは何も伝わらん。先ずは座ったらどうだ? 紅茶が冷めてしまうぞ。
わざわざこの部屋に来た以上、オレに何か話があるんだろう? 夕飯の時間もある」
彼女は一般の勉強は苦手だが、図抜けた記憶力を持つ以上それを補ってあまりある。
しかし、問題は人と話すのが苦手な事だ。現に今、身内のオレとさえ喋り辛そうにしている。
おずおずとソファに腰を下ろし、軽く会釈をしてから紅茶に口を付ける黒い髪の少女。
「病院とはかなり環境が違うのはわかっている、お前なら学力だったら問題はないと思うの
だが。やはり学校の環境になじめん……、か」
「そんな事は! 先生方もお友達も、嘘の様に良い人ばかりです! ほ、……本当ですっ!」
彼女はかなりの長期に渡って病院にいたのだが、学力に問題はない筈だ。やりたい事が
見つからない、と言ったところか。そんな物はいつでもどうにでも成るし、無ければ無いで
人として生きる上で、障害になる事など何も無い。しかし彼女の歳ではそうは思うまい。
と。突然、彼女は何かを決意した様な表情を見せ、こちらに視線を向ける。
「……おじさま、わたくしは外の世界が見てみたいのです。町や学校といった意味ではなく、……
その、オーブの外の世界を見てみたく思うのです。――あ、いえ。居候の分際でこのような……」
今日、特に喋り辛そうにしていた理由は言葉の最後、フェードアウトして行く台詞でわかった。
「事情はともあれ、オレの事は親と思えとは何度も言ったぞ? そして出来る事はやっておく
ものだ。幸いにしてお前には、それが出来る環境だけはあるのだからな」
一応氏族の端くれであるオレが戦災孤児の彼女を引き取ったのはヤキンドゥーエ戦役の
直後。氏族に連なる者はそもそも血縁をあまり重視しない。曰く、為政者たる者、それを為す
能力のある者がそれを為せば良いのであって、だから家名は引き継いでも直系でない。
と言う者も決して珍しいわけではない。血縁よりも家銘を重視するのが氏族である。
例えば代表首長家のアスハ家などが良い例だ。G計画に荷担した責を負って代表を降りた
ウズミとそれを継いだホムラは血縁関係にあったが、その後戦火に焼かれたオーブを二度に
渡って再興したカガリ。彼女もアスハを名乗り年若くして代表首長の責を担うが血縁は無い。
氏族の中でも下位であったセイラン家が家名を上げるための政略結婚に失敗したのも、
我が子可愛さでユウナの能力を過大評価したウナトのせい。と言うのが氏族間の認識である。
そしてカガリの活躍を見た氏族の一部が戦災孤児の内、見込みのある者を養子に迎える。
と言う流れになったのは、だからそれ自体はおかしなことでは無い。なにしろ二度の戦争を経て
オーブ国内でさえ、道端に所在なく座る子供達。その図は別段珍しくはなかったのだ。
もっとも俺が彼女を引き取ったのは別段意図があった訳でないし、彼女の継ぐべき家名などは
無いに等しい。財産も多少裕福である程度。我が家に有るのは要らない”氏族の責務”のみだ。
ロードトゥセブンス。それぞれの事情【二人目】(2/2)
ともかくも、財産も教養も家族さえも持ち合わせの無かった彼女。直接オレの家名を与える
訳には行かなかったので空いていた従姉妹の名字、それを引き継ぐ事で氏族の最下流として
名を連ねる事となった。まぁ、事実上の親がオレである以上やはり裕福とは言えないのだが。
それでも彼女には自分の立場が周りの友人達より不当に裕福に思えるのだろう。
だが彼女は出来ることがあるなら、それをやって見せなければならない義務を負ったのだ。
ほんの少し昔の自分を振り返る。青臭い若造が目の前で縮こまる少女とダブって見える。
老いを感じるような、そんな歳では決してない筈だが。
「その。おじさま、生意気な事を言ってすみませんでした。いまのはお忘れになってくださぃ……」
いつにもましてその表情は硬く、うつむく角度は深い。
「ふん、面白いことを言う。実はおまえを受け入れてくれそうな所とコネが出来たばかりなのだ。
外務省から話を通して、親善大使も兼ねて留学。と言うのはどうだ? おまえがオーブの代表と
言う訳だ。……面白いとは思わんか?」
目を開いたまま固まる彼女。別に感情の起伏がない訳ではなかろう。むしろ本当は表情が
有りすぎるくらいなはずだ。本当の彼女、それを取り戻す為には河岸(かし)を変えるのも
悪くはあるまい。普段は枷になるばかりの立場だが、有効に利用出来ると言うのなら、偶には
特権を振りかざしてみるのも良いだろう。彼女には生活の担保以外、何も与えていない。
「第一公用語はニホンゴだから言葉の不自由はない。但しリョーコ、お前がナチュラルだと
言う事実はどうあろうと変わらん――」
片付けた端末を引っ張り出し、セキュリティコードを叩く。
ノブレス・オブリージュ。オレの教育係を自認していた叔父からよく言われた。
特権を持つ者は、持たざる者への義務を持ち、それを果たす事でのみ自らの存在意義を知る。
有り余る権力と資産を手中にした旧世紀の貴族達が、自戒としていた言葉だ。
私利私欲のために力を行使するなどもってのほか。そしてそれは施しであっても哀れみで
あってもいけない。その持てる力で成せることを成す。それこそが義務。それを為してこそ
オーブにあって、氏族と言う特権階級で有ること。それを国民皆が納得するのだ。
そして自らが国民のために何を為せるか。その形は人それぞれであるから、出来うることを
一生をかけて探さなくてはいけない。それこそが”氏族となった者”の責務なのだ、と。
氏族の責務、か……。理由はどうあれ、このオレがそんな抽象的で重い枷を彼女に
押しつける様なことをしても良いのものなのだろうか?
首をもたげる疑問を振り払いながらオフィスへの回線を呼び出す。
「コーディネーター占有率が実に7割を超えるプラントの自治区だが、それで構わんだろうな?
――あぁ、すまんなオレだ。まだオフィスにいたか、助かる。――例の客人とアポを取れるか?
電話で話が出来ればそれで良い。早い方が良いのだが何とか成るだろうか? ――それと
外務省につないでくれ。今の時間ならまだ誰か居るはずだ……」
=予告=
あたしはムツキ・シライ。ちょっと美少女な所を除けば、普通にその辺にいる女の子。
「――っ! ガンダム! なんで此所に……」
次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
【PHASE-01 ふたりは町に、買い物に。】
お買い物……って。ガンダムなんてそんなモン、どこで売ってんのよ! どこでっ!?
今回分以上です、ではまた。
初めてのアフターものになります。
設定がない。と言うのはむしろ、なかなか自由になりませんねー。
そして”砂漠”なので一人称。
何故自分を追い込むようなマネをしてるんでしょうか……。
投下乙!
何とか間に合わせましたが、先に投下されました方がいらしたので、
明日の11ごろに投下させていただきます。
乙です
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト2 前編
1/16
ジュピトリスワン艦内
ノーマルスーツに身を包み、資材運搬を手伝う青年は、その手を止め立ちすくんでいた
サジ
「その声はルイス! なんで」
ハロ
『メッセージ! メッセージ!』
端末に浮かぶ文字を読むや、彼は走り出した。
サジ
「ルイス…… またそうやって一人で
だけど僕も、もう離さないと決めたんだ」
ジュピトリスワン 他区画
ガガを乗り捨てたアレルヤが、交信機を手に、壁を蹴りながら移動していく
アレルヤ
「わかったよマリー、そうかルイスさんが…… いや君は、連邦軍の手綱を握っていてほしい
うん 愛しているよ」
艦外宙域
ルイスのガガに、ジュピトリアンの散布型MSが近づき、招き入れるようにハッチを開放する。
ジュピトリスワン 前日アレルヤとサジが再開した通路
アレルヤ
「サジ君か、いい勘をしているね」
サジ
「お願いがあります」
アレルヤ
「多分、君の願いを聞き入れることは出来ないと思う。
ボクは今から、CBとしてこの戦闘を止める。
刹那ほど無茶じゃないから、駆逐とまではいかないけどね
ただし介入は行わなければならない、それがCBでありガンダムマイスターだ
ルイスさんが、何故そしてどの様にして停戦を行えたかは、わからないけど
その手助けをするつもりだ」
サジ
「わかっています。
そしてルイスの思いも
だけど、行かなきゃいけないんです。
もうボクは、ルイスを諦めてはいけないんです」
アレルヤ
「まったく、ただし命の保障は出来ないいいね」
サジ
「はい」
2/16
ジュピトリスワン ブリッジ
ヤオ
「ルイス・ハレヴィ間違いないな、ジュピトリアンとやらと、どんな関係があるのやら
交渉チャンネルは」
オペ男
「問いかけていますが、返事はありません」
ヤオ
「情報が足りんな、彼女の同室のパートナーは?」
オペ子
「沙慈・クロスロード、恋人でしょうね。現在地は、未踏ブロックのZ5ハッチです。どうして」
ブリッジ入り口より、快声明朗に男が吼える
グラハム
「青年よ わかるぞ、その気持ち!
ヤオ司令、グラハム・エーカー少佐戻りました。
艦長職に復帰します。
恋人が逃げ出して、他の誰かと式場に駆け込むんだ
男子はそんな時、追かけるものと相場は決まってる。
端末に繋げてくれ」
オペ子
「ダメです! 切られてます」
グラハム
「ハッチ開放をブロック、何か知っていれば僥倖だ、捜索班を編成向かわせろ
さて、逃げた花嫁はどんないい男に会いに行くんでしょうな」
ヤオ
「うむ、交渉チャンネルは引き続き応答を求めろ。
なに多少しつこくなってもかまわん、グラハム艦長流にいえば、もてない男の執念だ」
艦外宙域
ガガのコクピットが開き、ノーマルスーツのルイスが一時の宇宙遊泳の末、
ハッチから姿をあらわしたジュピトリアンの伸ばした手を掴む。
まさに今、花嫁が介添人の手に渡されたのだろう
後に従い浮遊する紫色のハロは、さしずめベールを持つ天使だろうか
初陣であろう、まだ年若いパイロットの激しい息遣い
この宙域に、漂う最前までの戦闘の残滓が、彼を躍らせた
ジンクス パイロット
「このスパイが! いかせはしないっ」
狂おうしくも無謀な突撃に、ジュピトリアンの銃弾による反応が起こるよりも速く
ジュピトリスワンの方角より伸びる一条の閃光が、ジンクスの火器を打ち砕いた
3/16
射線をたどり、各陣営が目にしたものは、
オレンジ、朱色、白の彩るMSの姿だった。
その機体は、両陣営の中間に進み、回線を開いた
アレルヤ
「こちらは、私設武装組織ソレスタルビーイング
この戦闘を紛争をみなし介入を開始する」
武器をむける両軍MSに対し
アリオスは、両手に携えるライフルに加え
背部にマウントされたアーチャーの腕部も展開し、その銃口を4つに増やした
二面四臂の異形の天使は続けて語る
アレルヤ
「双方停戦状態を維持するのならよし、今のような行動が再度起きた場合
この力は、紛争原因に向けられる 繰り返す……」
ジュピトリスワン ブリッジ
グラハム
「今度はソレスタルビーイングだと
ふん 少年のガンダムではないのか それと厳命だ 交戦停止を徹底させろ
まったく楽しませてくれる
ジュピトリアンMSの簡易シートに座り、一連の出来事をその目で見ていた彼女は
冷やかに独り呟く
ルイス
「(ソレスタルビーイング…… ガンダム)
予想どうりこれで二重の鍵がかけられた お互い潰しあってもらっては困るよ
まあ無粋な返答は止めておこう、妙な勘ぐりは受けたくない
ねえルイス・ハレヴィ」
そして、奇妙なことに自らに同意を求める台詞を残した
4/16
【回想】
戦闘宙域
ルイス
「L4 避難完了 当機 L3,2,1を再確認し帰艦する
(何 どうなっているの ジュピトリアンって何 こんな戦い 止めなくちゃ でもどうやって 痛っ 何? 頭が……)」
青い粒子を戦場に侵食させんとするジュピトリアンのMSが、ルイス機とすれ違う
青嵐は、ほんの一瞬だが、ガガの全てを覆い尽くし、拡散してゆく
粒子が薄まり、青白い輝きが治まりを見せはじめたコクピットには、
怪しく光る紫のハロ、突然の頭の痛みに顔をしかめるルイスの姿がある
声が聞こえる……
リボンズ・アルマーク
『――それならば私にいい考えがあるよ、ルイス・ハレヴィ 戦闘を止めたいのだろう』
ルイス
「何 この声 私の頭の中から!? それにあなたは、あの戦いで死んだはずじゃ」
リボンズ
『そんな事は些細なことさ、まあ言ってみればGN粒子の悪戯かな
君のなかのボクと、ハロのなかのボクが高濃度のGN粒子下で結合し意識を、意識を取り戻そうとはね。
バックアップが、こんな形でいかされることに、驚きを隠せないよ
それよりもいいのかい、多分この戦いは、もっとひどくなる。
あのソレスタルビーイングには、メメント・モリ級の擬似太陽炉型兵器があるはずだが』
ルイス
「そんな! そんな事をしたら」
リボンズ
『そう、もはや後戻りが出来なくなるだろうね。 まあだから、まだ使用されていないのだろう。
長話がすぎたようだ、幻聴と思うのも君の勝手だが、ルイス・ハレヴィ、君はどうするのかな』
ルイス
「そうね確かにあなたなら、何が起こっても不思議はないわね。
その人を苛立たせる様な物言いは、相変わらずだわ
それで、この戦闘を止める考えって ――わかったわ、手を組みましょう」
リボンズ
『ならば契約成立だね、少しばかり、その身体を預からせてもらおう』
ルイス・ハレヴィ、いやリボンズ・アルマークは、その思考を宙域に満たされているGN粒子へ繋ぎあわせると
戦場を覆う青い粒子が、一石を投じられた湖面のように波紋を広げていく
リボンズ
『聞こえるかなジュピトリアン諸君、私こそが真のイノベイターである。
私の意識が届くことが、ひとつの証拠ではないかな。まずはこの無粋な戦闘を停止して欲しい
さすれば、私は君たちの元に降嫁しよう。
……名前か、そうだな木星の花嫁と呼んでもらおう』
5/16
両陣営中央 アーチャアリオス
アレルヤ
「すまないね、運が悪く乱戦になれば、君を送り届けてもと思ったけど
なんとか最悪の事態は避けることが出来た。
ここからは長期戦だ、すまないが付き合ってもらうよ。
何にせよ話し相手がいる悪くはないさ」
サジ
「はい、それでこのままで」
アレルヤ
「いかないだろうね あちらにとってルイスさんはイレギュラーな出来事みたいだけど
当初のジュピトリアンの宣言が覆るとはどうも
連邦軍は、情報収集をしながら月軌道上の援護艦隊が異変を察知し駆けつけ次第、なにかを講じてくるだろう
さてそれまでに、プトレマイオスは間に合うかだね、どっちが先になるか」
サジ
「刹那達が、何か予想していたんですか? あなたとマリーさんがここにいるのも」
アレルヤ
「いや、これは想像もしていなかったよ。ただ、万が一は備えて置くのが一流の戦術予報らしいよ
彼女の事までは、不可能だったみたいだけどね」
サジ
「ルイス……」
6/16
ジュピトリアン航宙艦ガリレオ 着艦デッキ
『カリスト着艦』
オペレーターのアナウンスが、艦内にひびき、目まぐるしく作業を行っていた整備スタッフは
手を休めて、タラップが取り付くMSを見つめる。
そのカリストと呼ばれるMSのコクピットが開き、小柄なパイロットが軽やかに出てくるや
タラップに片膝をつき、ヘルメットを脱ぎわきに抱える
MSカリスト パイロット
「お手を花嫁様、お待ちしておりました。
ようこそジュピトリアへ」
小鳥の戯れるような声に促され、コクピットより出てその手を受け取らんと
目を向けた先には、
臙脂色のくせ毛、幼さを残すそばかす
そして、少しつりあがった目に涙を溜めた少女の姿があった。
そう、昔リボンズ・アルマークから渡された、CBの資料に写っていた少女
かつて、彼女の父を、母を、大切な家族を殺した少女
そして、自分の手で、その悲鳴を聞きながら殺した女
ネーナ・トリニティがいた 5年前に撮られたであろう写真と変らぬ姿で
ルイス
『ネーナ・トリニティ!』
そんなルイスの動揺など、気にもせずリボンズは、その少女の手をとった
リボンズ
「ありがとう」
一拍が置き、その場に居合せた者たちから、歓声が上がる
「木星の花嫁!」
「そうだ 我等がイノベイター!」
「ようこそジピトリアへ!」
満面の笑みで、応えるリボンズ
「(出来損ないばかりだな ……少し無理をした様だ、君に返そう)」
突然のことに、気持ちの整理もつかず、いつの間に返された体で
多分手を振りながら、着艦ハッチを出たのだろう
気付いたときには、少女の先導で、ルイス・ハレヴィは通路を流れていた
涙のあとが少し残る顔を向けた少女の表情は、
脳裏に焼き付けたあの写真の、冷え切った目とはかけ離れていた
7/16
ガリレオ艦 通路
ネーナに似た少女
「こちらへどうぞ花嫁様、明日改めて会談の用意がありますので、お休みになられる
お部屋と、御召しかえを、ご案内いたします」
花嫁と言う異称が、ルイスを現実に引き戻し、それまで固まっていた口を意思をこめて動かした。
ルイス
「わかったわ
まずは一部リンクを開放しなさい、艦外情報を最低でも
ごまかしは無しわかるでしょ、イノベイターを知っているのなら
……あと、あなたの名前を教えてもらえる」
ネーナに似た少女
「失礼を致しました。
ネネと申します。今回、介添え役を勤めさせて頂きます。お見知りおきを、花嫁様
それと承認がとれました。ご自由にアクセスください、ただ申し訳ありませんが独立リンクを構築させて頂ました」
ルイス
「けっこう あと、その花嫁様というのを止めてもらえるかしら」
ネネ
「すいません、嬉しくて嬉しくて舞い上がってしまっていました。あなたの宣誓された木星の花嫁の名は
運命的な何かを私たちに抱かせました。
それでは、如何及び致しましょう。そうだ、イノベイター様ではいかがでしょう」
いっこうに止まらないネネと名乗る少女の、冗談なのかもわからぬ言葉は、ルイスの心をざわつかせる。
ルイス
「私はルイス・ハレヴィ」
そういって彼女は気がついた、本名を名乗りかつ、この少女に呼ばせる事になってしまった事を
ネネ
「はい…… ハレヴィ様」
その少女は、涙をため、苛立ちをぶつけられた痛みと、与えられた栄誉を噛み締めるように言葉にした。
少女の涙と、自分の行為のうかつさにあきれ、前言の撤回をする代わりに彼女は続ける。
ルイス
「ルイスでいいわ
但しあなただけ、他には、ああもう木星の花嫁で徹底してくれればいいわ
どうせ監視と隔離、接触はあなたのみって所でしょう ネネ」
ネネ
「はい ルイス……様」
8/16
ガリレオ艦内 シャワー室
ネネ
「お着替えこちらに」
90cm四方のボックスに霧の充たされたそれは、軍の匂いを思い出させた
ルイス
「リボンズ、聞こえているのでしょう。やはり彼女達ジュピトリアンって」
リボンズ
『ああ、イノベイドと出来損ないさ。
しかしなかなか賢いじゃないか、自分達がイノベイターでは無い事を、自覚しているようだし
まさか、このボクの把握していない事があるとはね
それに懐かしい顔にも会えたじゃないか、いや仇かだったかな』
ルイス
「黙りなさいリボンズ・アルマーク 私が死ねば、あなたも死ぬ事ぐらいは想像できるわ。
いまここで実験してみる」
リボンズ
『脅迫なんて勘弁してくれたまえ、わかった口を慎むよ
正直情報が圧倒的に足りない、今のところ推論が当たっていたに過ぎないからね
今後も、よろしく頼んだよ』
乾いた風が、湿気を一瞬に取り去る、ボックスから出て着替えを手に取った
そう、ここはすでに戦場である
ルイス
「何を企んでいるにしても、こっちも利用させてもらうわ
それにしても、ここは嫌だ あのコも
まさかまた軍服の袖に腕を通すことになるとはね」
その服は、ジュピトリアンの女性用のものであったが、
配色された赤色と各部に散らされた金色の飾り、
そして、肩から垂れる黒地のマント
全ては彼女の黄金色の髪を引き立て、まるで今日のためにデザインされたかの様であった
連絡通路
室外で待機していた少女も、パイロットスーツから軍服に着替をすませていた。
その服は、とりわけ小柄なネネに合わせて仕立て直したのか
意匠が変っていて、案外かわいらしくみえた。
ネネ
「お美しゅうございますルイス様
それでは、お部屋に案内をさせていただきます。
本日はそのままお休みいただければと、明日また私が伺いますので……」
それでも、やはり軍服であることを思い出し、ルイスはやりきれなくなる
sien
9/16
ジュピトリスワン 司令部
ヤオ
「さて、小康状態になったことだ、状況分析といくかね こちらの戦力は」
グラハム
「初撃が効いてますが、以降はMS各機のトランザムフィールドの効率的使用により、被害は想定以下です。
戦力数値の90%を依然キープしております。それよりも砲塔群が随分と減らされてますがね、
まあ元々の数が多いですから、気にするほどのことはありません。
ただし、あちらも無理攻めをしていなかったという事もありますがね、パターン解析から
敵主力MS1機につき、3機の提灯型のMAをセットで運用しているのですが、提灯が2機損傷した時点で
必ず戦線より母艦に退却しています」
ビリー
「それについては技術部より補足があります。
敵機残骸より提灯型が、無人機であることが判明しました。
多分、ファングシステムの応用に近いものと思ます。
指示機体のMS型が、司令塔となっているのでしょう。
そして、提灯型の構造から、短時間かつ簡易設備での修理、もしくは生産が可能であると推測されます」
ヤオ
「つまり長期戦になってもジリ貧だと
だが、一つわかることは、連中の人員が乏しいことがあるな
ただし、この部隊がジュピトリアンとやらの中でどの程度の戦力か、皆目検討がつかん事が問題だな
それで、こちらの援軍だが希望的観測で、いつ頃になるかな」
オペ子
「計算上では、明朝8:00には定期衛星S53にコーラサワー機が接触
通信を受けた政府が、現在、最も現場に近いと思われる月軌道上の演習艦隊に
即日対応の指示を下してこちらまでは、最短で14日というところでしょうか
あくまで好条件が重なってになりますが
一応、こちらジュピトリスワンも木星コースを変更し、この様な大きな弧を描きながら
地球への帰還ルートをとっていますので、多少の短縮にはなるかと思います」
10/16
ジュピトリスワン 司令部
ヤオ
「ならば、プラスマイナスゼロと考えるか。14日か、亀を決め込んでもあちらに増援が来て、
犠牲を省みないような攻めかたをされては、お仕舞いということだな
ジュピトリアンというからにか、増援もはるばる木星から、おっとり刀で来てくれないものかね
そうなれば、こっちの援軍が早いんだろうが
結局のところ、この一時停戦も、花嫁さんの気持ちしだいの所もあるからな
オレの結婚の時もな、女房がな、まるで毛を逆立てた猫の様だったよ
そういえば、あの時も亀を決めたもんだ」
シーリン
「ヤオ司令、それをマリッジブルーというんですよ。対処を誤れば、後で爆発して離婚でしたわ。
すばらしいご判断かと
そのルイス・ハレヴィですが、イノベイターと呼称されていたとの資料がありましたね
併せて、医療部からですがジュピトリスワンのイノベイドクルーの数人が、激しい頭痛を訴えていたようで
その際に、ジュピトリアンに話しかける女性の幻聴が、聞こえたとの報告が来ています。
そして、その幻聴の声は、木星の花嫁のそれと同じだったと
ルイス・ハレヴィの降嫁宣言前のことです」
セレナ
「つまりは、新しい宇宙の種族”木星人”ではないって事ね、残念」
グラハム
「こんな時によく冗談を弄するとは、さすが政府代表、感服させてもらおう」
セレナ
「あら本気よ、珍しく褒めて頂いて心苦しいのだけど」
グラハム
「皮肉も判らぬとは、呆れて物も言えん
こちらとしては、敵という事実のみで判断させていただく
現状、各機を艦内に下がらせて、スミルノフ大尉のアヘッドが一機船外にて
CBのガンダム、ジュピトリアンの変形型と睨み合いをしてくれているが
交代命令を聞かない
遺憾ながら、私が言ってもいささか説得力に欠ける、司令より」
ヤオ
「かまわんさ 当分彼女に任せておけばいい
若い頃は、お互いの姿さえ見れれば、疲れも感じないものだよ」
支援
猿さんかな。
支援。
日付変わるまでアウトかね?
とりあえずオレも つC
続きの投下前に寝落ちするかもしれないので、今の段階で感想。
リボンズ復活! が面白かった。
11/16
宇宙空間
ジュピトリスワンの外縁レールに立つアヘッド・スマルトロン
コクピットの中で、毅然と宇宙を見つめるソーマ
ジュピトリスワンを、底辺と見立てた正三角形の頂点に陣取るアーチャアリオス
コクピット
ゼリーを飲むアレルヤ、ハロに何かを打ち込むサジ
ジュピトリスワン後部に取り付いたままの、ガリレオ航宙艦の天頂に最も近い外壁には、変形型のMSが
コクピットの中では、誰に伝えるでもなくしゃべり続けるパイロットがいる
その様子からは、疲労の色さえ感じられない
ミゲル
「まったくよお、痺れ切らして、突っかかってきやがれってんだよ
あっちの青いのにゃ邪魔されたしよう、あの赤いのとやり合ったら楽しそうじゃねえか
こいよ、こいよ、あっちからくりゃ、イノベイター様の約束も関係ねえだろうがよお」
ディスプレイは、彼の独り言に関係なく呼びかけていた
ガリレオ艦 オペレーター
「――エウロパ、帰艦してください。聞こえてますか!ミゲルさん」
ディスプレが切り替わり、明らかに責任の高い人物が映し出された
ジュピトリアン戦艦 艦長
「いいかげん交代をしろ、明日は花嫁との顔合わせをするというのに、木星委員会の一員としての自覚は」
ミゲル
「いいよ、おりゃあ、ポンコツだからなあ
そういうのはユニクスとお前に、任せるって言ってるだろ
それに、あいつらより先に退けるかってんだよ
まったくよお、あいつらも相当にイカレてるぜ」
艦長
「相変わらずだな、無理だけはするなよ。
ネネも悲しむ」
ミゲル
「その無理をすんのがオレの役目だろうが、以上切るぞ」
12/16
ガリレオ艦 ルイス居室
人工の朝の光を浴びて起床したルイスが、
ここも地球時間を使用しているんだな、などと考えながら身支度をしていると
端末から、ネネの声が聞こえて現実に引き戻された。
ネネ
「おはようございます。よろしければお食事をお持ちしますが」
ルイス
「そうね、お願い」
ワゴンを押して入室してきた少女は、とびきりの笑顔を見せていた。
ネネ
「おはようございます。ルイス様」
動かない口に、命令を下し、こう話しかけることが精一杯であった。
ルイス
「……その格好は」
黒地を基調としたフレアドレスに、白く柔らかなエプロン
そして、ポイントにも白いフリルの揺れている
メイド服を着た少女は、はにかみながら笑顔を作る。
ネネ
「えへ、どうでしょう? あれからアーカイブで、大切な方をおもてなしするのに相応しい服装を
検索しまして、それで、この艦の女手を総動員一晩で作りましたが……
……なにか、おかしいでしょうか」
昨日のように捲し立てるかと思いきや、消入るような最後の一言には後悔の色が重ねられた
まるで、しかられる子供、おびえる子猫のような
強張った自分の顔を、ネネに見られたことにルイスは動揺し、取り繕うように言葉を紡ぐ
ルイス
「いえ そういうわけじゃないわ
(そう格好じゃない、昨日の涙、そしてその笑顔を、私に見せないで
私の奪ったものを、私に見せ付けないで)」
13/16
ガリレオ艦 ルイス居室
ネネ
「ごめんなさい、みんな嬉しくて、ルイス様に何か出来ることがあればって
今はお話も、私しか許されていませんが、殺風景な艦内ですので
御目を楽しませることが出来ればと
それでも、中身が私ですから大したこともないですけどね」
また上目遣いで見つめてくる。
少し彼女の、ネネの想いが導わる事が感じられる、リボンズのいうイノベイターだからか
――そうじゃない
昔の屈託のない自分が、そこにいた
すねたり 甘えてみたりと 彼の気を引いていた自分だ
ごめんね…… パパ ママ みんな
ルイス
「そんなことはないわ とっても似合っているわよ」
ネネ
「ありがとうございます」
そして、泣きだすんだ
思わず笑う 本当にわたしだ サジにあの指輪をねだった時の
ルイス
「もう 泣かないの 女の涙は無駄遣いしちゃだめよ
何しに来たのかしら もう」
ワゴンの食事用のナプキンを引き寄せ、そっとネネの涙を拭う
14/16
通信作戦予定宙域
コーラ
「それにしても危なかったぜ
あのとき起動用バッテリータンクを切り離してなかったら、死んでたよな
さてS53通信衛星を確認っと、さっさと済ませて格好よく援軍に戻ってやらなくちゃな」
”ビービー” 電子音が注意を呼びかけ、ディスプレイがその危険の大きさを示した
3機のMS、9機のMA、識別信号があるわけも無い。
コーラ
「なんだよ! なーにが敵のいない衛星だよ、しっかり待ち構えてやがるっての
司令部の中に神さまに嫌われているヤツでもいるじゃねえのか」
ジュピトリアンも、コーラ機である可変MSヘクトルの接近を感知し、迎撃行動を開始する
小隊のうち、MS1機と3機のMAが先手を奪わんと先行する。
コーラ
「だが運が悪いのは、あんたらだ
こっちとら連日教導部隊相手に、3対1の模擬戦で、スペシャルなんだよ!」
残り一槽のバッテリータンクを使用、擬似太陽炉は悲鳴を上げ、ヘクトル巡航モードに更なる加速をもたらし
コーラ機は先鋒のMSとMAをすりぬけ、後衛右の群体に強襲をかけることに成功
ヘクトルのロングライフルの閃光とランダムミサイルの嵐が、敵機に叩きつけられんとする。
MSを庇うようにMAが被弾、爆発が3つ両機の間に生まれる。
ヘクトルは爆煙から姿を見せるや、すれ違いざまバッテリー槽を切り離し、生き残ったMSに叩きつけた。
慣性によるその衝撃はMSの駆動系を内部より打ち砕く
コーラ
「さあこれで、1対8だな うおおっ!」
15/16
通信作戦予定宙域
気まぐれによって生き延びた後衛左群の予想射撃が、弾幕となりヘクトル右翼を削り落とした。
バランサーを失ったコーラ機は、錐もみ状態となり大きくよれ減速していく
そこを置き去りにされた先鋒群が、矛先を向き変え、囲い込まんと追走してゆく
コーラ
「っなめんなよ そっちから近づいてくれりゃ、話は早いぜ」
四方から4機の刺客が肉薄せんとした瞬間、巡航形態からMSへ変形をするや
変形時に投棄された自機のライフルを、ヘクトル腕部のバルカンが貫いた。
その爆発は1機のMAを道連れにし、さらにサーベルの斬撃が僅かな時間をおき、宇宙にまたひとつ華を咲かせる。
代償は必ず発生する、生き残った最後のMAの影からMSが放った銃弾がヘクトル右脚部に命中する
コーラ
「ちぃぃ だがな」
パージされた自身の脚部を粒子の刃が切り裂き、マウントされていた予備弾装ごと誘爆がはじまる。
再びあらわれた炎の帳より、先の経験からいち早く抜け出したMSはコーラ機の追撃を狙い撃たんと、
己の掌握する最後のMAとの距離を確認する。
一拍の間が訪れ、残骸と化しているMAの炎が、禍々しくも美しい鮮紅の粒子へと姿を変える。
コーラ
「へっ トランザムってやつだよ。それにな、その程度の連携なら
嫌というほど大尉からやられてんだよ」
想定以上の速さで背後に廻られたジュピトリアンのパイロットは、反撃も、そして
コントロール下のMAへの意識を発する事もなく ビームサーベルの粒子に身を散らせことになった。
コントロールを失ってただ一機漂うMAを、返す刃で破壊するヘクトルは、グリーンの機体色に戻っている。
残存する一群は、ヘクトルの射線上に通信衛星を重ねるよう距離を取りはじめていた。
機体のバランスを欠き、正確な長駆を望めないであろう暴君に最後の狩りを挑むかのように
コーラ
「はぁはぁ…… やっと1対4まで漕ぎついたぜ
――で残ったコイツらときたら、まったく可愛げがないな。
多分色々考えてんだろうな、ならこっちも作戦の優先順位を再確認しとくか
@衛星の通信機能を使用し連邦軍へ状況を報告
A何らかのトラブルで@が不可能となる場合、衛星の破壊を優先する」
コーラ
「バカか! 壊しちゃいけないだろうが! 予想も甘けりゃ頭も悪いのか
結局やるしかないってか、
といっても、トランザムは打ち止めで
腹の大砲は拡散型だからな、仕方ないアレ使ってみるか」
16/16
通信作戦予定宙域
観念したかのように微動だにしない機体を前に、ジュピトリアンが仕上げを開始する。
一機のMAが特攻を仕掛け、同軸線上をわずかに外した2機のMAがアウトレンジで狙いを定める。
MSは万が一に備え衛星の影でバックアップにまわる。
機動性の低下したヘクトルには、三手詰みの攻めとなるはずだった……
その詰みの第一手は、予想外の方角から打ちこまれた閃光に香車がとられた事で脆くも崩れる。
コーラ
「有線ファング やってみるもんだな」
任務の失敗を認識するや、衛星の破壊を知られるリスクを覚悟し、ジュピトリアンMSは銃口を通信衛星に向ける。
コーラ
「悪いな、こっちが一手早かった」
MSまで移動していた有線ファングが、コクピットを貫いた。遅れて2機のMAもファングによって、
奏者のあとを追うのだった。
漆黒を取り戻した宇宙で光を発するものは、ただ一機のMSと、静に佇む人工衛星のみであった。
3機のMSと9機のMAは、いずれ無限の闇に飲み込まれていくことだろう。
各種損傷警告シグナルが点滅するコクピットの中
コーラ
「わかってるよ、それにしても指定コード以外のデータリンクが有線限定なんて
時代遅れにも程があるぜ。よいっと、人差し指からおじゃましますと
『こちら地球連邦軍第1独立機動艦ジュピトリス・ワン所属MS試験部隊パトリック・コラーサワー中尉
宇宙標準時6月19日13:05 ジュピトリスワンは予定航路上にて遭遇戦を開始した
経緯その他は、同送のデータを参照されたし 本官及び本機は、直ちに戦場へ帰還するものとする。
あっ! それからカティ ベイビーだって 何で内緒にしてたんだよ もう 愛してるよ 以上』
送信っと。なんでえ、えらく時間がかかるな」
センサーに機動反応が表示され 新たな警報がオーケストラに参加する。
バッテリーに潰されたMSが、息を吹き返していた。
もげかけの四肢を揺らし、頭部にバッテリーを食い込ませ、通信衛星に向かってくる。
ただ、そのカラダを叩きつけることを目的として
コーラ
「もう いいじゃねえか 生き残ってれば、勝ち負けなんて 関係ないんだぜ まったく」
次の通信衛星までのデータ移行が、まだかかる事を確認して
スロットルを前へ倒し、レバーを操作する。そしてヘクトルを流れくるMSの軌道に合わせた。
衛星の手前で、爆発が起こる。
数刻後、
3つの光が、ついに無人の灯台のそれのみとなった。
星の海は、いつもの静寂に戻っていく
投下終了です
投下回数読み違えて、またサルサンです。支援の方に申し訳
今回もお読みいただければ嬉しいです。
それと前回のレス遅ればせながらありがとうございました
レスに返事は出来ませんが、作品が返事となるよう
ご指摘を活かしているつもりではありますがナントモ
3日後位に投下予定ということで、おやすみなさい。
投下乙
コーラが自分の名前を言い間違えてるのは演出ですか
投下乙。
レス返さないと書いて早々ですが、
>>135 いや完全にミスです
指摘サンクスです
2レス目
グラハム「追いかけるものと相場は決まっている」
4レス目
リボンズ「GN粒子下で結合し、意識を取り戻そうとはね」
5レス目
アレルヤ「君を送り届けてもらおうと思ったけど」
同「何にせよ、話し相手がいるのは悪くないさ」
8レス目
リボンズ「いや、仇だったかな」
投下前にもう少し読み直しを。
このスレで誤字脱字の指摘って珍しいな
それだけ目につくってことだろう。
ここの職人さんたちの文章は比較的推敲されてる感があるから、
それほど誤字脱字は多くないし。
それに誤字脱字が多いってのは、一つ二つならともかく
作者自身が作品を読み込んでない証拠だからね。
読み込んでない→筋が粗く、読みにくい→作品として不親切
ってことだから指摘されるのだと思う。
こちらの理解が足りないかも知れないが、
意味不明瞭なセリフが多い気がする。
シナリオタイプで地の文がないから、余計そう感じる。
>>砂漠U
投下乙
次回予告が何か燃える感じ
一人目後半、ミツキのお姉さん度が上がった気がしたのは
自らを指す一人称が時間の経過と共に変わったのだな
相変わらず芸が細い
本編開始を楽しみにしよう
>>木星
投下乙
上の人も言ってるが推敲が甘い
誤字脱字の類や、キャラクターごとの表現は
まだまだ詰められるはず
台詞の中の改行位置も含めてもっと見直せるだろう
そのせいで読みづらくなっている
それと個人的には句読点に変えてスペースを使うのは
そう言う技法があるのかも知れないが、読みづらい
以前も他の職人に何度か書いたが、そう言うどうでも良い部分で
読み飛ばされてしまってはもったいない
ついでにもう一つ
投下規制にかからない、言い換えれば支援を必要としない
若しくはさるサン規制にかからない投下分量というのも考えた方が良い
字数の制限、話の切り方、要らない台詞の削除に言い回しの変更
出来ることはまだまだある
少なくとも字数や行数は何も専門のエディターを使わずとも
ワ−プロソフトでも確認の出来る事だ
>>137 読んでいて楽しい。ミスは少ないに越したことはないが、それ以上に台詞のセンスに
好感が持てるので期待しています
不覚にもルイスに萌えてしまった
ルイスパートだけ、えらく力が入ってる気がしますよ
>>96じゃないけど、八丈島さんルイス好きすぎだろw
その反動でしょうか、サジが蔑ろにされてるような
誤字、脱字、書き違え?もサジアレルヤパートは多いし、もったいないです
その愛情を、みんなに分けてあげてくれればミスも減るかと
ともかく乙
>>134 面白い!一気に読んでしまった
コーラかっちょええw
アレルヤはガンダムをどこに隠し持ってたんだw
リボンズが復活したことにも驚かされました
続きも楽しみにしてます
145 :
文書係:2009/08/30(日) 07:46:15 ID:???
前スレ
>>335さん(なんというか、物語が進むほどにコーラサワーの評価が〜)、
ありがとうございます。
本編は
・アロウズ入隊・離脱の状況補完
・パトリックとカティの心情補完
を主目的としております。(前編ではリントの状況・心情補完も心がけていますが)
メインのカティ視点を通して本編を読んでいるうちに、パトリックいいんじゃね……?
と思っていただければ作者冥利に尽きます。
前スレ
>>345さん(コーラ何を期待して〜)、dです!
アロウズパイスーイイ!
膝乗せwktk!
(00はこの点主役にすら無情……種だったらできたのに惜しいことを(´Д⊂ヽ)
そんな夢とロマンに溢れる33歳でした。
コメントをくださった皆さん、どうもありがとうございました。
146 :
文書係:2009/08/30(日) 07:47:00 ID:???
以下、続きを2レス分を投下します。
147 :
文書係:2009/08/30(日) 07:51:48 ID:???
公式出たけど脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー/「アロウズ離脱 その17」
(アロウズ離脱その16までは
>>3のまとめサイト「クロス(他)」最下部の「etc」に収録されています)
「あーあ、結局新型、乗り損ねちゃいました。どうせなら行きがけの駄賃に新型かっぱらって、大佐と
駆け落ち! っての、やりたかったんですけど」
地球連邦軍少尉パトリック・コーラサワーは、アロウズからの離脱途次、ジンクスVに同乗する彼の上官、
カティ・マネキン大佐を相手に、思いつくまま気の向くまま、とりとめのない雑談を続けていた。
「そんなことをしてみろ。ライセンサーの2、3人も差し向けられ、即刻処刑されるのがオチだ」
彼の軽はずみな思いつきを、カティは半ば聞き流しつつ、残る半ばを聞き咎めて眉宇に険を表した。
「アロウズは超法規機関であることを忘れるな。離反の証拠を残せば、これまで我々と関わりを持った者、
全てに累が及ぶのだぞ、軽挙は慎め。メメントモリのような兵器が、他にないとも限らん――
となれば中東に次いで焦土と化すのはAEUだ。万一、離脱に失敗しても降格程度で戻れるくらいの
小細工は、しておいた方が良いだろうからな」
新型機体の奪取などという暴挙に及べば勿論のこと、カティとパトリックがアロウズの方針を非として
逃亡したと気取られるだけでも、《イノベイター》のライセンサーが派遣される可能性はあるのだった。
パトリックは一軍人として見るならば、素行も性格も問題だらけである。ただパイロットとしてその力量に
見合う機体さえ得られれば、ガンダムとも拮抗する戦力となり得ることは、先の大戦で実証済みであった。
戦いにのめり込む余り、時に出すぎるという点を除いては、基本的に指揮官の命令に忠実でもある。
アロウズが諸問題に目を瞑り、リントの計らいを受けパトリックの志願を容れたのも、彼を連邦に
放置しておくことを危険視しての措置と思われた。
またカティは、その全てではないにしろ、アロウズの機密に与っていた。アロウズの蛮行の生き証人で
あると同時に、地上に展開する戦力を把握している、数少ない人間の一人でもあるのだった。
連邦軍クーデター派の建て直しはこれからというところであり、戦術も検討の余地を多く残している。
連邦のジンクスVとアロウズ新型機との機体性能差は、パトリックの奮起一つで埋めきれるような生易しい
ものではなく、《イノベイター》の索敵能力も詳細不明である以上、無用の戦闘は避けるに如くはなかった。
まさか今回、上位機種を操る強敵と相対して、彼の不死身の実態を検証している場合ではないのである。
その点、作戦行動中、或いは捜索中の行方不明であれば、先例から推し量るに、下級あるいは
中級クラスの士官が捜索隊として派遣される程度で済む。プライドが高く扱い辛いライセンサー達が、
たかだか行方不明者の捜索のために、早々に重い腰を上げるとも思えない。
アロウズ討伐の準備が完了するまでとはゆかずとも、上層部が二人の相次ぐ失跡に不審を抱き、
保安局局員を派遣するまで些かなりとも時間稼ぎが出来れば、加えて、彼らの関係者に手を伸ばす
口実をアロウズに与えなければよい、とカティは目論んでいたのだった。
「第一、ミスター・ブシドーの機体を除けば、全ての新型は脳量子波対応型だ。お前には向かん」
「あー脳量子波って、人間レーダーみたいなヤツ――あのマカロン頭の、ライセンサーのガキ共ですか」
「マカロン……」
そのとき彼の言葉を鸚鵡返しにしたカティの脳裏を、色とりどりの丸い菓子が軽快に転がり過ぎていった。
食べるという行為に特別関心を払わない彼女だが、思い返せば何度か茶菓子として供された気がするのだった。
「えっと緑のケアって娘がピスタチオで、紫の野郎がカシス・ヴィオレット、赤がフランボワーズ。
うまそうな色してるな〜と思ってたんすけど、アレって染めてるんですかねえ」
興味があるなら本人達に直接訊ねたらどうだと言いかけたが、既に彼らに鼻であしらわれた後のような気がして、
「……多分、地毛だと思うぞ」
彼女にしては珍しく当てずっぽうに答えると、喉元まで出かかった言葉を呑んでしまいこんだ。
148 :
文書係:2009/08/30(日) 07:56:03 ID:???
公式出たけど脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー/「アロウズ離脱 その18」
「じゃああの、サムライ仮面のは」
「……ミスター・ブシドーのマスラオのことか。あれは左利き仕様だぞ」
右利きのパトリックは、どいつもこいつも、と忌々しげに言い捨てて軽く舌を鳴らした。
思えば四年前、国連軍より太陽炉初搭載のジンクスを支給されてよりこのかた、軍のエースでありながら、
彼は新型機にすっかり縁遠くなってしまっていたのだった。
「あとミスター・ブシドーというのは通り名で、ユニオンのグラハム・エーカー元上級大尉ということなのだが」
「ユニオンの、グラ――記憶にないっす! でもあいつの機体、クワガタみたいでカッコいいんで、いっぺん
乗ってみたいって思ってました」
ユニオンのトップガンの名を耳にしても、パトリックはさらりと受け流した。元々自分以外眼中にない男で、
人類の上位種すらマカロンの一言で片付けてしまうくらいなのだから、他者への認識などこんなものなのだろう。
カティは顎に手をかけ、指で蔽った口許をふっと歪ませる。
「やめておけ。心停止しかねん。いくら不死身のお前とて、12Gに長くは耐えられまい」
「ハァ!? マジっすか大佐、ソレ!?」
常識では考え難い重力負荷に、彼は奇声を上げ発してカティの方を振り返り、目を丸くした。
「仕様書を一見した限りでは、機体性能の向上と引換えに、搭乗者の安全を度外視した構造になっているようだな」
2Gの過重力下に一時間も居れば、大半の人間は眩暈等の不調を訴え、過酷と言われる大気圏突入ですら、
その負荷は数Gに留まる。とすれば12Gは殺人的数値というほかなく、パトリックが耳を疑うのも無理はなかった。
彼は再び正面に向き直ると、肩で溜息をついた。
「安全快適! 冷暖房完備! 低反発シートで遭難中もバッチリ快眠! レーションにもこだわりの美味さ!
のAEUイナクトとはえらい違いですねえ……アロウズの技術屋君はドSで、あのブシ仮面はドMなんすか」
密かに目をつけていたクワガタは戦う棺桶であることが判明し、これで諦めがついたようであった。
気まぐれな彼の関心は、早くもあさっての方向に飛び火し始めている。
「そのような個人的嗜好の問題である訳がなかろう――お前は日本の『武士道』というものを知っているか?」
軌道修正を試みるべく、彼女は彼の問いに大真面目に答えて、逆に問いを返した。
「あいつがやってるようなヤツですかぁ? サムライのカッコで大見得きりながら意味わかんねぇコト言って、
気の向いた時しか出撃しない言い訳ですかい」
独自行動の免許を有しているとはいえ、軍籍にある身で任務の選り好みをし、他者の理解を自ら拒むような
時代錯誤ないでたちと言動を貫くミスター・ブシドーの姿は、アロウズの2大奇人と並び称されるパトリックの
目にすら奇異に映っていたらしい。
「18世紀の日本で書かれた『葉隠』という書物に『武士道と云ふは、死ぬ事と見つけたり』とあってな。常に
死ぬほどの覚悟を以て臨めば、己の職責を全うできるという気構えを説いた一節なのだが、後世、軍国主義下
の日本で『戦陣訓』に採られて以降、積極的な死を肯定するものと曲解されているようだ。本名を捨て、
敢えてその名で通しているのであれば、あの機体も最上の力で戦って死ぬ覚悟の表れということなのだろう」
へえ、と興の乗らぬ生返事をしつつも、説明に得心の行くものがあったのか、パトリックははたと膝を打った。
「それで選り好みしてたワケですか。そりゃザコ相手に血ヘド吐いて、肝心カナメのガンダムさんに
会えずじまいでくたばってりゃ、世話ないっすからねえ」
「――でも、戦って死ぬなんてのは、俺はナシです。生きて愛し愛されてこそのスペシャルな人生っすよ!」
彼は続けて自説を弁じたてると、拳を握り自信たっぷりに胸を張った。
「随分とまともな事を言ってくれるが、そう聞こえないのはその口が言うからか?」
149 :
文書係:2009/08/30(日) 07:58:52 ID:???
今回投下分終了。
あと3レスで後編「アロウズ離脱」終了、
(ジンクスVとMGガンダム作ってて書ききれませんでしたorz)
「アロウズ離脱 その19」に多分続く。
>>文書係さん
投下乙です。
何この可愛いコーラサワー。
>>八丈島さん
投下乙です。
何この可愛いルイス。
お二方とも投下乙。何気にOOのSSが増えてきて良いですね。
さるさんを喰らう事の多い八丈島さんに、ちょっとした小ネタ。
>>6【テンプレート】なんですが、ほぼ限界の47行(最大が48行)となっています。
つまり、『テンプレートより短ければ一度に投下出来』ます。
1/5 等を書く一行分の余裕を入れて、そうなるように作ってあるのです。
“空 白 行”というものはっ――――――――!!!
の前後にある改行を調整しただけですけどね。
>>149 GJです!マカロン頭フイタwww
相変わらずコーラの良キャラっぷりがイイですねw
続きも楽しみにしてます
すいません
出来上がりませんでした
近日中には、何が何でも投下します。
>>152 まあまあ、無理せず体や実生活も大切に。
投下はいつでも待っている、乙!
実は生きてたニールが刹那とティエリアを監禁凌辱して
ライル王子が助けに行く小説を投下してもいいですか?
面白いお客さんだな。釣りなんだろうか…
釣りだろ。
本当二書いたんなら、やっぱりエロパロ板に持って行くだろうし。
そもそも、ちゃんとレスを返している時点で此処の懐の広さというか
きっちりした対応に惚れるわ。
>>152 早く続きが読みたいのは山々だが
出来上がったら、もう一度だけテンプレを見て見直しをするんだ
気づいているかどうか知らないが
他のスレなら叩かれたりしない内容なんだぜ? あんた
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-01 ふたりは町に、買い物に。(1/6)
「でさでさ、来週。サウスタウンに用事があるのよ。でね、サウスタウンと言えば……」
「サウスタウン……。わたくしに関係がある。とすれば、古着屋さん……ですか?」
控えめで、口数少なくおしとやか。風に靡くは碧の黒髪、細面。更には正真正銘のお嬢様。
あたしとは全てが正反対の彼女はオーブからの留学生で、何故か大親友のリョーコ・ゲレイロ。
個性、と言う面であまり感じるもののない彼女の唯一と言っていい拘(こだわ)り。それは制服。
セブンスに留学してきたのも制服着るのが目的なんて噂もある。そんなコトはいくら何でも、ねぇ。
オーブでもジュニアハイスクールは制服が大半だそうだし。ソレはさておき、ともかくも普段の
彼女からは考えられない執着心でコレクションを増やす彼女。
そして特に今、欲しがっていたのは。
「そう言う事。そんでね、ハイスクールの制服専門店があるらしいの。ホンモノの旧ニホンの
セーラーフク? とか言うのもあるって。基地のサイトーさんの情報だから確実性は高いわよ。
……一緒、行かない?」
「セーラー服……。来週土曜の午後ですね? わたくし、万事繰り合わせます。是非……!」
予想通り、コスプレマニアのオッサンのような返事が返る。う〜んセーラーフク。そんなに魅力
が有る物なのか? 写真で見た限り只の連合軍の水兵さんの制服なんだけど……。
「あのぉ、ところでムツキさん……?」
あたし達の住むセブンスオアシスは砂漠の中の大きな街。プラントの独立自治領扱いで
半径500Km近隣では唯一『ビレジ』や『タウン』ではなく『シティ』を名乗っている。
ブレイクザワールド前に地上の勢力粋拡大を狙うプラント主導で山からパイプラインで水を
引き、井戸を掘ってタンクを地下に埋め、コロニーの技術も応用することで砂漠の真ん中に、
人工的に作られた環境の上になる農業都市。プラントと周辺都市への野菜、果物の輸出が
基本産業だが、定期的に散水するため砂漠で虹の見れる街として、最近では観光収入もある。
但し、作られた当時の住人の大半は戦争でオーブにいられなくなった、いわゆるオーブの
コーディネーター難民。数の多さと、ナチュラルに抵抗のない住人気質が災いし、プラント本国が
受け入れを拒否する”代わり”として作られた。と言うろくでもない過去を持つ町でもある。
ブレイクザワールド事件と戦争の余波で近隣の山の形が変わり、気候も多少変わったことから
地下水の源、山のふもとに大きな湖が出来た。これで取水が数倍の規模で出来るようになり
環境改善が飛躍的に進み、砂漠の農業都市と言う矛盾する要素は完全に成り立ったのである。
戦争後、砂漠でありながら水と食べ物に困らないこともあり規模、人口共に爆発的に増加。
現在は当初の規模のほぼ7倍の敷地に3万人強が暮らすが基幹産業は農業であることに
変わりはなく、むしろそれに関わっている事が住人の誇りでもある。
近隣の都市中、唯一ハイスクールまでを備えた学都でもあり、また大型旅客機の発着出来る
飛行場は勿論、規模が小さく、更には基本軍用ではあるのだがマスドライバーさえ持つのは
セブンスのみ。結果的に周辺の町はセブンスを中心に人や物が環流することになった……。
#1 ふたりは町に、買い物に。(2/6)
「――ってところで良い?」
と、ココまでは小学生の社会科で習う。らしい。あたしは途中転入だから細かいところは多少は
間違ってるかも知れないが、この町の成り立ちはこうだ。教科書に書いてある事はともかく、
生きている教科書たる、かぁさんやユースケさんに直接聞いたのだ。一度はテロリストの襲撃
を受け、更には戦争の余波で壊滅した町を復興させた、その本人達に。
「何度もしつこくてすいません。町の成り立ちを間違えてしまっては、やはり失礼だと思うのです」
彼女と親しくなったセブンス市民は町の成り立ちを何度も質問される。失礼になっては困る。
毎回彼女はそう言って日本式の腰から曲がるオジギをした。
国費留学、と言う訳ではない。あくまで個人的思惑で、勉強する場を求めてココに来た彼女
である以上、学校の成績はともかく生真面目ではある。本気でそう思っているに違いない。
幼少期から最近までずっと病院暮らしだったらしい彼女は、あえて退院後お嬢様で不自由の
ないオーブを一人出て、元オーブ人が大半で、言葉の壁の無いセブンスへの留学を選択した。
物覚えは良いものの基礎がない。だから彼女は成績は実はあまり芳しくない。
とは言え、とてもそうは見えないが親善大使としての立場――国費留学生じゃないのに!――
も持つ彼女である。偶にドレスを着て公式の場に立つ事もある。だから町の歴史は絶対に
間違えてはいけないと言う立場があるのもまた事実。お嬢様は、実はやる事はただの学生よりも多いのである。
――そして留学生でも親善大使でもないが、成績。その部分だけはあたしも一緒だった……。
いや、もっと悪い。あぁ、予鈴の何と重く感じる事か……。
「ところでムツキさん、収穫期休みはどうされるのですか? わたくしもセブンスに居る以上、
何か農作業のお手伝いがしたいのですが、どなたか良い方をご存じないですか?」
農業の町セブンスでは農繁期は学校はお休みになる。そして学生も先生もみんな、全く抵抗
なく農作業を手伝う。そしてアルバイトは加工工場や販売よりも、むしろ農作業の方が人気が
あるあたりがセブンス風と言ったところ。
「あたしもまだ決めてないんだ。やっぱ実作業が良いなぁ、収穫したぁっ! って言う実感が
たまんないのよね。……正直、あたし物販は向いてないと思うしね〜。――う、お休みと言えば」
「……はい?」
小首を傾げるリョーコちゃん。陶器の人形のようなきめ細やかで健康的な色の肌に、さらさら
の黒髪がふわっとかかる。
お休みと試験。最初にセット販売にしたのは誰なんだろう。あぁ、試験後に”各方面”から
怒られてる自分がくっきり見える……。
予言者ってこんな感じで未来が見えるんだろうか。どうせなら、明るい未来が見たい……。
#1 ふたりは町に、買い物に。(3/6)
スクールバスの停留所の目の前。あたしの唯一の特権と言えばそこに家の門がある事。
セブンス市民でこそ無いが、かなりの有名人で権力もあるかぁさんのおかげではある。
とは言え、じっくりと教師どもに虐められる。いや勉強を見て貰えるのは、コレも特権だろうか。
おまえが落第したらオレはクビなんだぞ! と言われながら勉強するのは、これはいかにも
精神衛生上悪そうじゃないか? などと思いながら玄関ポーチの前まで来る。
「あれ、ナヴィ? 居たんだ。――って事はかぁさん帰ってるの?」
玄関先に止まった白いスポーツカーに声をかける。
《お帰りなさい、ムツキさん。ミツキさんは2時間程前に家に入られました。状況から見ると
今はお休みになっている可能性が高いので、そうなら起こさない方がよろしいかと思われます》
ほんの一瞬、ライトが瞬きするようにパッシングすると『彼女』から合成音声の返事が返る。
ナビゲーションシステムを発展させた人工知能が乗った車、それが彼女。
かぁさんの普段の足であり、自前で警察機構を持たないセブンスオアシスの実質的な警察、
ザフト駐留軍MPの覆面パトカーでもある。最高速度は角度を付ければ大気圏突破が出来る
ンじゃないかと思うくらい。かぁさん曰く、バクゥより速い。――らしい。
通常は禁止だが無人状態でのリモコンではない自立走行も可能。かぁさんの公私にわたる
スケジュール管理係でもある。やっぱり只の車のカテゴリに括ってはいけないヤツだ。
そんな結構大事な彼女なのであるが。名前がいい加減な感じがするのは勿論、かぁさんが
名付けたから。
「ここ暫く忙しそうだったし、いくらあたしでも起こしたりしないわよ。ソファで寝ててもね」
《賢明な判断だと思いますよ。ここしばらくでずいぶん大人になられましたね》
生意気な口を〜。つーか口、何処だコイツ。ただ彼女のおかげで市内なら年齢コードも免許も
関係無しに車に乗れる。私が運転席に乗れば、無人ではない=周りの人が驚かない。のでOK。
と言う詐欺のような論理なのだが。
その場合、運転するのは勿論ナヴィなのだ。果たしてAIが口喧嘩でムクレるのかどうかは
知らないが、だから強くでれない。週末の買い物に自転車やバスを使うのはめんどくさいもん。
自分で免許とっても、AI付きの車は買わないぞ、絶対!
「なら、起こしちゃ可哀想だな。どーせ楽しい用事でもないし、夜にでも出直すか」
「わあぁっ!!」
背後から声が聞こえて飛び上がりそうになる。恐る恐る振り向けば作業服を着た、かぁさんと
同年配の背の高い男性が微笑む。
《ようこそいらっしゃいました。お久しぶりです、オオグロ様》
「お、脅かさないで下さいよ、ユースケさん!」
「ははは……。結果的にそうなっただけだろ? 気づかないむっちゃんが悪い」
#1 ふたりは町に、買い物に。(4/6)
彼はかぁさんの幼なじみ、つまりは元オーブ難民のユースケ・オオグロ。セブンスが最低の
時代にジャンク屋兼、傭兵兼、水道土木関係技師。しかも全てスペシャリストと言う、当時の
セブンスに都合が良い事この上ない職歴でこの町に流れ着き、セブンスの水管理システムの
元を作った人。そしてザフト正規部隊さえ手こずらせたという、今は亡き、伝説の砂漠最強の
傭兵団で実質シライ隊に吸収された『赤き風の旅団』。その2代目であり、最後の頭領でもある。
更にはザフト編入を良しとしない人達が立ち上げた防衛専門の傭兵団、『砂塵の騎士団』の
設立者でもあり団長でもある凄い人。それが今あたしの前、砂だらけの作業服でニッと笑う
背の高い筋肉質の男前のおにぃさん、ユースケさんの正体である。
騎士団服と白いマントがむやみに似合うのだが、普段は作業服を着てスコップで穴を掘る。
『砂塵の騎士団』は、MSを使うような強力な盗賊団などに目を付けられた村や町をほとんど
経費のみで防衛する為に作られた組織だ。なのでセブンス初め近隣で尊敬されてはいるし、
MSや装甲車はたくさん持っているのだけれど、儲からない。だからお金はあまりない。
ユースケさん自身も団長としての仕事は公式の場での式典、会合などに限られ、MSも
『白き雌豹』の二つ名を取るかぁさんを凌駕するとまで言われる腕前。しかもザフトからも専用に
MSを貰ったらしいのだが操縦は封印中。
本人曰く「戦う為に騎士団を作った訳ではない。周りが納得する”顔”があれば団長なんか
俺である必要なんぞ無い」のだそうで、かぁさんも「そりゃそうよねー」とか言っているが、
あたしにはその辺、よく判らないところではある。
騎士団幹部はお給料が貰えないらしいので、その辺が原因なのかも知れないけれど。
「”仕事”絡みの話なら聞くわよ。……夫婦喧嘩の愚痴ならナヴィかムツキに聞いて貰って?」
帽子を取っただけ。手袋も、ザフトのマークの付いた腕章もしたままの、サングラスをズリ降ろしたかぁさんが、
いつの間にかテラスに立って手すりにもたれている。
「そう言う用事でお前んトコに来たら間違いなくこじれるっつってるだろーが。――ま、似たような
もんか……また、そっちのMPとウチの治安警備支隊、今回は2班だそうだな。毎回すまん」
「そうみたいね、帰りに連絡が入ったわ。やることは一緒だけどスタンスが違うものね、お互い。
騎士団の人達も”正義”を追求してるには違い無いもの。――今回は悪いの、ウチかもよ?」
ミツキ・シライ。全く初めて乗ったMSでいきなり一機撃墜、一機大破のスコアを上げ、その後
Gタイプさえをも堕とし、ロゴス討伐戦でも活躍し、『白き雌豹』の二つ名で呼ばれたエース。
その後セブンスの重要性をザフト上層部に掛け合い、自らを隊長に常駐部隊を設立。
更には仕事と住むところを無くした傭兵団、赤き風の大部分を自隊に取り込んだ上でMPを
増強。彼女が治安維持と外敵からの防御を強固にしたのも住民増加の起爆剤の一つである。
その特別な女性は私よりもたった6つ上。その上あたしの戸籍上のかぁさんなのである。
「ま、誰が悪いなんて言ってるうちは良くなんねぇよな。――なんにせよ、忙しいトコ悪ぃが
来週あたり、またお互い市長から担当者会議にお呼ばれだな……。ホントにわりぃな」
「あんたが私に謝ったところで良くは成らないでしょ? 日程はあとで事務長から……」
#1 ふたりは町に、買い物に。(5/6)
「ごめんね、ガセ情報だったみたいだね」
「旧ニホンでは少女が主人公の物語がたくさんあったのです。そしてコスプレ生誕の聖地。
あれは仮想のハイスクールの制服。生地も縫製も完全。だからある意味、本物と言えるのです」
ナヴィに運転を任せ、サウスタウン市街地をゆっくりと流す。
元ネタを知っていた以上、お小遣いが余っていれば欲しかったのですが……、とあくまで
ポジティブシンキングは助手席のリョーコちゃんである。つーかこのお嬢様、制服、軍服のみ
ならず、どれだけマンガやアニメの歴史に詳しいのだろう。底が見えないのが少しコワイ……。
《お話中すいません。――はい。お二人にお願いがあります。只今ミツキさんから連絡が
ありまして、このまま定期点検に行くようにとの事だったのですが、お二人の今後のご予定は
如何でしょう》
「お母様からですか……。作業時間はどの程度を見込んでいますか?」
自宅到着が40分程遅くなる予定です。とナヴィ。
「いんでない? どうせうちに帰ってもやる事無いし。例のジャンク屋さんでしょ。――どう?」
「一度ジャンク屋さんの仕事場を見てみたく思っておりました。ナヴィちゃん、むしろお願いします」
このときあたし達を送ってから勝手に行け。と言っていれば良かったのかも知れない。
そう。非常ランプさえまわしておけば、サイレン無しでも無人走行自体は良いのだから。
但し、あたしは勿論予言者じゃあ無いのだ。今後の事などわかる訳がなかった。
「よお、ムツキ君。たった半年でずいぶんデカくなったじゃねーか。――乳以外、な。要らん処
は親に似るんだナ。コーディネート失敗してなきゃ、人並みには成るだろうから心配すんなよ?」
ホンモノの親子だと勘違いしてる人はかなりの数に上る。そもそも『白き雌豹』のあだ名で
呼ばれるセブンス駐留隊の隊長が、二十歳の女の子だとは思っていない人も多い。
そもそもいちいち間違われるたびに説明なんて、勿論して無いし。
それに当たり前だがコーディネーターの親子なら、やたら親が若く見えても違和感は無いし
何より身体的特徴が似ている必要が全くない。そしてかぁさんは勘違いを正す気も無かった。
公式の場では長袖、長ズボンの制服に帽子にサングラス、手袋のスタイルを崩さない。
いつも制服を規定通り着ていた彼女の『師匠』に倣ったものだそうだが、軍服はそれが例え
ザフトの簡略服であっても、個人というものを着ているだけで薄めてしまうのだろう。
制服の腕まくりさえしないかぁさんだから、ファンクラブが出来るほどの有名人であるにも
かかわらず普段着で町を歩いていても声をかけられる事はほぼ皆無。誰も気がつかないのだ。
「そもそも心配してないですからほっといて下さいっ! ――ナヴィの様子はどうですか?」
セクハラ親父っ!! ナヴィの生みの親でなかったらぶん殴るところだ。但し技術屋として
の腕は基地のメカニック達も認めるほどに優秀で、ナヴィもこの人の作った一品ものだ。
そしてスポーツカー工房の親父さんの顔と、もう一つ。こちらは趣味の領域らしいのだが。
「健康そのものだ、あと10分もあれば。――そういやムツキ君は、見かけに寄らずMSヲタク
だったな? ……見ていくか? 一番の自信作、それも2機同時ロールアウト! すげーぞ?」
#1 ふたりは町に、買い物に。(6/6)
この人が自分で操縦するという話は聞かない。仕事で修理はするが、MSを売るという話も
聞かない以上コレクターか。この人も、ヲタク。そういや2,3機持ってるって聞いた気がする。
PSコンバーターが無傷で放り出してあったんだ。メモリバンクも生きてた。めっけモンだったよ
ホント。そう言いながら裏庭、と言うには少々大きな空き地のようなところに出る。
バラされたエンジンや板金途中の車、製作途中の大きな工作機械達。がはは笑いで胸を張る
店主の飯の種を端に追いやって真ん中に陣取るのは、片膝を付いた白と灰、二人の巨人。
「――っ! ガンダム! 何故、此所に……」
「――っ! Gタイプが、なんで此所に……!」
「ん……? おまえら詳しいな。Gタイプは見た目よりOSが肝なんだぜ。白いヤツはTP装甲だ。
元は黒かったんだが俺様の腕で白く直した。灰色のヤツはVPS、コイツは結構直すのが……」
おじさんの自慢が続く中、ナヴィの認証キィがポケットで非常警報を鳴らす。
「何、どうしたの? 誰かに盗まれたちゃったの?」
《緊急事態です。ムツキさんから南南東、MSの反応を極近距離で検知。通れないので迎えに
行けません。逃げて下さい! ――駐屯地と騎士団は通報完了、ミツキさんには連絡中です》
「あたしは大丈夫、あなたも逃げて! こっちの場所、わかるでしょ? 後で迎えに来てね」
運転手の危機を認識している以上、命令解除をしてやらないと”彼女”は逃げられない。
《わかりました。後ほど必ず、必ずお迎えに上がります。ご無事で、ムツキさん》
「おまえらはナヴィと合流して逃げろ、俺はMPと騎士団に、――なんだあんた。どっから!?」
「良いMSじゃないか、オヤジ。ザフトの方のガンダム、いくらで売る?」
言葉が終わると同時に銃声が響く。おじさんは腕を押さえて蹲(うずくま)る。
「う、売りモンじゃあ、……ない、あいにくな。医者代だけで、勘弁してやる。……とっとと、帰れ」
「ザフトのものを勝手に拾って何を言っているか! 修理費を払ってやろうと言っているのだ。
ふん、その様子では払う必要も無さそうだな。――バクゥ2番、建物の前まで前進しろ!」
小さなインカムを付けて煙の上がる拳銃を構えるのは、赤いザフトの制服を着た目つきの
鋭い男。――ザフトの服? なんで……。
基地で見慣れた小さな頭が建物の上から一つ目で見下ろす。さっきまでは愛嬌があって
カワイイ、と思っていたバクゥの頭が肉食獣のそれに見える。
「ハウンドはオートで回送、俺はガイアを持ち帰る。――人間が居ようが気にすることはない。
工場ごと全て焼き払え! ナチュラルと共存しようという奴らだ。多少の被害は仕方があるまい」
ギィン。赤い一つ目は了解を示すように赤く光る。……殺されるの? こんなに、簡単に?
「くぅ。レイダー、白いヤツだ! 起動はまだ出来ないがTP装甲が生きてる! 乗り込め!!」
何も考えずにリョーコちゃんを引きずって狭いコクピットに押し込めると自分も入る。
『バカ遺伝子の型が親子一緒じゃねぇのか? 一度検査してもらえっ!』
後にメカチーフにそう怒鳴られるのだが。そのとき、無意識にハッチクローズのスイッチを
押した時のあたしは、ただ怖かった。今後どうなるかなんて、想像する余裕など無かったのだ。
=予告=
いきなりMSに襲われたあたし達美少女二人。勢いでMSに乗り込んだのはいーけれど。
「気にしない! しっかり捕まってて。あたしコイツ動かせそう!」
次回 『空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』
【PHASE-02 バイト先、決定。】
なんかこう、イヤ〜んな予感が……。
今回分以上です、ではまた。
投下乙です。
強奪かぁ!
種系ガンダムは第1話で強奪される決まりになっていますwww
かぁさん と同じパターン、ってことだろう
続編だし
続編だけ合って、色々と考えてしまうなあ。
前回(?)はエディさんとコンビだったけれど、今回はリョーコちゃんとコンビを組むのかな?
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト2 中編 1/8
プトレマイオスU ブリッジ
久しぶりの休息に浸るブリッジに集まった面々の間を、少女の報告がこだました、それは事態が次のステージに向かう事を
告げるものであった。
ミレイナ
「大変ですう。スメラギさん、
連邦の緊急通信で、ジュピトリスワンにて戦闘が起きたと情報が、
データから、ジュピトリアンと名乗る所属不明の艦とMS部隊に襲撃を受けたとのことですう」
スメラギ
「なんですって、そんな集団聞いたことも」
戦術予報士はいつもの様に予報の虚しさを、言葉にする。
しかし周囲は、彼女に分析を求め、情報を伝える。
立体ホログラムが口火を切り、自ら意思を伝える者がそれに続く、
ティエリア
「ヴェーダにも該当はないが、画像データにオリジナル太陽炉と思われるGN粒子の輝きがみえる
単なる宇宙海賊やアロウズ残党の仕業ではなさそうだ」
ロックオン
「こまかい事はいい、俺たちはソレスタルビーイングだ、戦闘行為は根絶しなければならない。そうだろ、
ましてやジュピトリスワンには大勢の非武装市民がいる、遭遇戦が殲滅戦に変っちまたら」
仲間の声が、彼女の仕事を何であるのか告げ、冷静さを取り戻させる。
スメラギ
「いいえ戦況を分析すると、早期の決着はないわ。
それに幸か不幸か、アレルヤとマリーさんが、乗艦してるから何か手を打っていると考えてもいいわ、それこそCBとしてね。
ティエリア、私たちCBは、ただ今よりジュピトリスワンでの戦闘を紛争行為と断定し、武力介入を開始します。
ミッションプランは、戦闘空域までに作り上げるわ、承認いただけるかしら」
ティエリア
「ヴェーダが、君たちの判断を決定する意味はもうないさ、出来ることはミッションの成功の可能性を提示することだが、
ミッションプランが後出しではね、
計算では、この火星軌道上フォボス補給基地からでもジュピトリスワン予想進路まで3日、すばらしいプランを期待するよ」
ディスプレイに向かい情報の整理を行いつつ、艦内に高まる緊張を多くの実戦で学んできたクルーが己の役割を全うしていく。
フェルト
「不幸中の幸いは、機体の受け取りのため、最短距離にいることですね、加えてジュピトリスワンのヴェーダの
月への移送が出来ていた事ですね。それでもマリーさんとアレルヤにはお気の毒ですが、
それでは、プトレマイオスU出航準備に入ります。基地スタッフは作業の完了処理を報告の上、ドッグより退避してください」
スメラギ
「そういうことだけど、イアン、リンダ、そっちのマッチングは?」
フォボス基地内実験施設をつなぐモニターに、CBの誇るメカニックとそのうら若き妻の姿が映っている。
イアン
「おう今まさに、終わったところだ、オールグリーンだ、出来れば慣熟テストをしたいところだがパイロットにその気が無い
ときたもんだ、まあスタッフの仕事を信じてくれ」
スメラギ
「わかったわ。聞いての通りよ刹那」
MSコクピットに、身を委ねている青年は、いつものように答える。
刹那
「ああ…… ダブルオーライザー刹那・F・セイエイ、紛争を駆逐する」
自身の思いを抱え込み、その思いに答える機体であるダブルオーライザー
戦場が彼を、彼の機体を求めるのか、人の意思の渦巻く宙域へ彼らは導かれる。
2/8
地球連邦軍 総司令部
「だから言ってるだろ。敵といっても目的もわからん規模も不明」
「ですから、すぐにでも艦隊を」
「14日だぞ戦況が変っている。下手をすればミイラ取りだ、月で決戦を行うべきだ」
「ジュピトリスワンを見捨てるのか」
「止むえんだろ。もっても7日だ、そもそも、それまでに向かえる戦力が無い」
一報を受けた連邦軍司令部もまた、人の意思が嵐のように駆け巡っていた。
その混沌を電子化された一声が、収める。
カティ
「ありますよ それも最高戦力が」
モニターに映る姿は、平服にしては、些か淡白な色合いの衣裳をまとう女性であった。
軍高官
「きみは!! CB特務のマネキン准将、休職中ではなかったか」
カティ
「私宛に、主人のメッセージがあったと、気の利く部下が連絡をくれまして。
現在、特務のFOX部隊が火星軌道上にてCBの追跡の末、その補給基地と思われる衛星フォボスを監視中です。
先ほど入った報告では、CB実働部隊のジュピトリスワン方面への発進を確認したとの事です」
突然もたらされた情報を、かみしめ理解するように、一人の将校が、口に出してつぶやいた。
将校
「あのFOX部隊か、ジュピトリスワンことイノベイターの置き土産から接収したMSとMAを擁し。
機密ながら最高の人員にて編成された単独戦力が、火星軌道上にか。
ジュピトリスワンまでは」
カティ
「4日もあれば。
ですが、CBの手がかりとなる基地をあきらめる事になりますが」
警戒の強いであろう基地の近くでの、迅速な部隊の移動、通信とはそういった事である。
軍高官
「いや、みなまで言わんでもいい。
FOX部隊は、ただちにジュピトリスワンの救援に向かってくれ。
月軌道演習艦隊も併せて出撃をさせ後詰とする。
君を寡婦にするわけにもいきまいて、なあ諸君」
結論のだしに使われた事にも、気にせず雌狐と一部で呼ばれている女性将校は続ける。
カティ
「ご配慮ありがとうございます。
出撃の命の後、FOX隊は司令部直の編成へ以降、そちらにて指揮の一元化をお願いします。
私は、今から別の戦闘が控えておりますので」
ディスプレイに映るカティの背後では、白衣の天使達が忙しなく動きまわっていた。
3/8
火星軌道衛星フォボス周辺宙域
宇宙の闇に潜むかのように黒で統一された集団は、その主人の命令を傾聴している。
猛禽の巣を、そのわずかな痕跡からたどり当てた狐達は、群れを率いる長に忠実であった。
由来となる狡猾さに加え、軍としての集団性を両立したそれは、妖しの類であろうか。
FOX部隊 作戦艦艦長
「というわけだ、我らFOXは、ただ今より月軌道艦隊に先行し、
通信衛星の確保ないし奪還を行いつつ、ジュピトリスワン救援に向かう。
残念だが、1年に及ぶCB追跡の成果はこれで霧消に帰することになる」
その言葉ほどに無念を感じさせない雰囲気は、戦闘へ期待が醸しだしたものなのか。
それとも、彼の有能な部下の答えが、心情を代弁しているのだろうか。
MS部隊長
「仕方がありませんな
こっちとしても仲間や市民を見殺しにする様な上官の下じゃ
こんな任務やってられませんからな また何年か縁が続きますな。
整備班!ガデッサとガラッゾに長距離ブースターを換装しておけ。
先陣は頼むぞ、ブリング」
その長身に鮮やかな赤髪をたたえる男は、信頼に応えるかのように胸の内を明かす。
ブリング
「かまいません。こちらこそ1年半の昔、あなたがたには、生存者の救助を行い自由と選択を与えてもらった。
これで恩を返せる。それに、あの艦には大勢の兄弟がいる。それはディバインも同じ気持ちだろう」
システムチェックのためMAに向かっている同志の名を上げる。その男もまた、あのリボンズ・アルマークの産み出した
戦場に狂い咲いた死の華の生き残りなのだろう。
一年に及び、追跡任務をともにこなしてきた優秀な仲間の一人を現場責任者として頼もしく見やると、
艦長
「気負わんでくれよ、交戦禁止で監視のみしかやってなかったんだ。
総員日々の訓練を実行すれば十分だ。
光学迷彩を解除しろ、ここからは余分なエネルギーは使えんぞ。
レグナント機関を機動。CBの連中に、こいつの勇姿を見せ付けてやれ」
擬似太陽炉が、限界までGN粒子を放出させる。赤い光に包まれたその艦は、戦艦と呼ぶにはあまりにもいびつであった。
艦首と呼ばれる位置には、巨大MAがその威を示しており、それにしがみつく様に連邦MS母艦が結合されている。
かつての女王の亡霊が、従者を引き連れ、再び戦場に降臨する。
その未来絵図は、はたして希望か絶望か、木星の重力がまた一つ因果を引き寄せる。
4/8
ガリレオ艦 一室
艦長
「お待たせをしてしまい申し訳ありません。木星委員会にして当艦ガリレオ艦長ターシンと申します。
1名欠席となりましたが、お気になされないでください。それでは、お互いにすばらしいティータイムをなります事を」
リボンズ
「最古の4衛星とは、随分と詩的だね、そういうところは気が合いそうだ。
それで、単刀直入で申し訳ないが、イノベイド諸君は、何が目的であるのかな」
引き続き答えた事から、艦長であるターシンという男が、一切の会話を引き受けるのだろう。
ターシン
「それは、イノベイターである花嫁様が一番ご存知のことでしょう。我々の作られた理由は、
人類の革新、そして来るべき未来の対話を進めること」
幾度も、繰り返してきた自問を聞かされても面白くも無く、問答のペースを変える。
リボンズ
「それが、この戦闘であると」
質問に答えてのことか、前言に続けての言葉であるのか、澱みなく話を続いていく。
ターシン
「身近にして、不条理な死こそが、絶望を体現する。それは悲しいまでに愚かな人類が最も容易に
知ることの出来るもの。そして意思は統合され、革新に至る」
あまりにも、衝撃的な発言にルイス・ハレヴィは思考を乱す
ルイス
『人の死なんて何も変えやしない どうしてそんな事も!』
リボンズ
『思想論争を繰り広げても意味はない。だからワタシが会談するといったんだ、気持ちもわかるが静かにしてくれたまえ』
宿主の強い感情を、表に出さないよう多少の努力を要しながら、ルイスとの事前の打ち合わせ通りに質問を返す。
リボンズ
「しかし、それはイノベイターの出現によって変更されたと考えてもいいのかな。それとも停戦は一時の方便であると」
イノベイターとしての価値こそが自身の武器でもあり、まかり違えば予想外の事態をさらに引き起こしかねないトリガーでもある。
ターシン
「いえ、我々は決してあなた様に対して卑劣な行いは致しません。
花嫁様には根源となる絶望を知っていただきます。そして選択してください。心より私たちジュピトリアンに嫁して頂きたいと」
その言葉に、リボンズの言葉の端が楽しげに動きだす。部屋の飾りのように給仕ワゴンの傍に控え、
ある意味一番場に相応しい衣裳を纏う少女の姿を目で追いかけながら、その言葉が軽やかに踊りだす。
リボンズ
「ほう、それでは実験動物ではないと、実は少々心配をしていてね」
それまで、壁に背を預けるようにして、会話を任せていた長身の男が口を開た。
ユニクス
「……無論だ」
その短い言葉には、どれほどの感情が渦巻いているのだろう。
リボンズ
「まあ信用しよう。それでその絶望は、いつどこで私に見せてくれるのかな
ターシン
「時期が訪れましたら、そう花嫁様を迎えるにふさわしき場所の
それまでは、ご不便かと思いますが、艦内の散策でもなされては如何でしょう。ネネがご案内いたしますよ」
少女を振り仰ぎながら、ジュピトリアンの男は会談の終了を伝える。
リボンズ
「楽しいお茶をいただけた。次に、もう少し趣の異なる席が期待できるのなら、多少の無聊も心地よいものだ」
こうして、一見うら若い女性が2人と、2人の男が集うお茶会はその幕を下ろした。
5/8
ジュピトリスワン司令部
飛び交う情報の波は、様々な過去も洗い出す。それは誰にでも平等である。
オペ子
「ガンダムの出所ですが、未踏区画に密かに積み込まれていた様です。
そして、サジ・クロスロードのID消失地点が、一致しており、ガンダムに乗り込んでいる可能性が
ただ、声紋が一致しなかったことから、ガンダムパイロットが別にいたと考えられます」
超過任務にも緊張を保ち続ける部下に、労いの声をかけると。若き艦長は振り向きざまに言葉の刃を、上官に向けた。
グラハム
「そうか、ありがとう。
だそうですが司令、私としても部下に余計な仕事をしてもらっていては些か心苦しいですな。
そろそろ、我々にも秘密を開示していただきたい」
いい年をした大の大人が、悪戯を見つけられた子供のように、ひどく照れながら、
この一両日で少々寂しくなったその頭を掻いた。
ヤオ
「悪気のあっての事では、なかったのだがな。私とセレナ代表のみ知らされていたいた事なのだ。
ガンダムパイロットについての情報さ、アレルヤ・ハプティズム、CBのガンダムパイロット。
かつて、フォーリンエンジェル作戦にて捕らえ、軍収容施設に拘束していた人物だ。
クルーの選別に際しマネキンは、その男の乗艦を意図的に見逃し、私に資料だけ送って事後承諾をとりおった。
ガンダムの搬入も、意図が読めれば簡単な事だっただろう」
秘密の共有者は、言葉を引き継ぎ、軍人の言えなかった理由を、にべも無く伝える。
セレナ
「ミスターブシドーの噂は有名でね、ここで暴走されては困るということよ」
若さゆえの過ちとは、誰しも急所である。艦長という立場を彼に知らしめるため、その様なことを
言わざるをえない自分に、さすがの彼女も、ただ鉄面皮を貫くのみであったが、その男には無意味なことであった。
一分の動揺も見せることなく、否、動揺などそもそも無いのだ、何者も今の彼を揺らす事は出来ない。快笑一閃
グラハム
「フハハハハ、もはや既に断ち切っている、その名も、情念も、
それにしても喰えない方たちだ。利用しまんまとこの状況を作り上げたとは」
その物言いこそが、グラハム・エーカーを彼たらしめるのだ。
ヤオ
「それは、結果論でな、マネキンの資料にある残りの対象人物の、ソーマ・スミルノフ中尉は現在命令を無視し
交代をしない、サジ・クロスロード君は、まさに噂の中心でもある。そして、ルイス・ハレヴィ嬢は、花嫁として
各自、絶賛暴走中だ 利用どころか振り回されているだけだよ」
自らの手出しを棚に上げ、いつの間にか被害者然と語るところに、この司令官のおもしろみがあるのだろう。
議論の流れが、いつのまにか変っていた。
オペ男
「マネキン准将は、何処まで事態を予測していたのでしょう。まさか軍上層部とCBとの間に安全保障が
取り交わされているのでしょうか」
ヤオ
「いや、それならばガンダムからコンタクトがあって然るべきだよ。
それに、如何にあの雌狐でも、木星人に襲撃されるなんて予測できん、もしそうだったら尻尾が9つあるに違いないな、
マネキンのことだ怪しい連中を泳がせてその尻尾を捕まえようという腹積もりだったのだろう。
シーリン副代表は、カタロン時代にCBと協力体制をとっていたようだが、ツテは効かないかな」
シーリン
「実は、当時のコードで通信を図っているのですが、なんとも返事が、直接の面談の無かったパイロットでしたし。
それで、思い出しましたが、当時CBに保護を頼まれた青年がいましてね、それがサジ・クロスロードだったような、
そう…… 今にも、へし折れてしまいそうでしたわ。今はどんな男になっているんでしょうね」
6/8
深夜 ルイス居室
いつもの悪夢がはじまった。もはや夢であることが、すぐにわかる程に見てきた。
ネネ、いやネーナ・トリニティが死にたくないと叫び、何故殺したと責めたてる。
反射的に父と母を殺したアナタがと言うや、顔の無い人々が、取り囲む
オートマトンによって殺された人、メメントモリの砲撃によって家にいながらにして消え去った人々、
そう、私の意思によって生れ落ちた兵器が大勢の人々の命を奪った。
そして、それでも、私はこうして生きている。
わかっている。死者は何も語りはしないと、全ては自分の思念であると、
あの少女にネーナ・トリニティを見たとき、それでも罪が忌まわしい姿で体現したと思った。
その、声を聴き、直接自身で命を奪った女は父と母の仇であり、
例えその少女が、ネーナ・トリニティではない事を理解していても、
結局ネネを受け入れたということは、自らの行いに後悔をし、罪に許しを求めているのか。
呼吸が乱れ、体が痙攣していくことがわかる。誰か誰か、一人で耐えなければならないと、頑なに思っていても、
一度知ってしまった人の体温を、彼女は求める。そんな相克がそこにあった。
触れようと、寄り添おうとする者をこばみ、受け入れる。
その手は、彼女をつなぎ止める。いつもの様に心が想いを漏らすサジ…… サジ
だが、今夜の握られた掌はひどくきゃしゃで、心細いかの様に震えている。
まるで小さな女の子のそれだと気がついたルイスは、まどろみを振り払うように言葉を吐き出した。
ルイス
「ありがとうネネ」
うっすらと像を結ぶ自らの目に映る少女は、呼びかけに応えるように、泣き笑いの表情を浮かべている。
気持ちが落ち着きを取り戻すと、半身を起こし、傍らに寄り添うように身を投げ出し手を握り締める少女の頭をそっとなでる。
ネネ
「すいません起こしてしまいまして、ただルイス様が御辛そうだったもので、勝手に御寝所に入ってしまい申し訳ありません。
すぐに退出します」
一息にそう告げて手を離した少女を、掻き抱くことで、ルイスは発言の履行を封じた。
体の自由を奪われ動揺するネネの耳元で囁かれたルイスの言葉が、少女をその部屋に押しとどめた。
ルイス
「ごめんなさい」
少しの嗚咽を漏らしながら、ネネが出て行かないことを、密着した身体から感じ取ると、背にまわした腕をとき
ベッドに腰をかけるよう指し示す。導かれるがままネネが傍らに座ると、訥々とルイスは語りはじめた。
7/8
深夜 ルイス居室
ルイスは語った。
家族の死、自身の怪我、好きだった人とのわかれ、決意、手術、軍への協力、入隊、戦場、殺人
直接も間接的にも、多くの人々の命を奪った。当然の事と信じて、
大切な人が助けてくれて今生きている。以前に割り切れた考えが今は出来なくなった。
行為の代償に自身の命や人生を、秤にのせているという思い込みが、欺瞞であると気がついたから。
覚悟で済ませていた事を、抱え込み、思い考えるようになった。
殺すことで復讐は成ったのだろうか。
ネーナ・トリニティ、私の全てを破壊した女、あの戦いの為に造られた人間、デザインベイビーと知った。
だから許すのか、違う、自ら戦闘に臨み死んだ人間は、殺して当然であったのだろうか。
「だからねネネ、あなたが怖かった生き写しのような声や顔をしたあなたが、
その笑顔が、あの少女がその手を鮮血に染める前に見せていたものだと思うと、
改めて奪ってきたものの大きさに打ちのめされた。
そしてあなたを受け入れることはパパやママを忘れてしまうんじゃないかって。
でもね、その眼差しや微笑はやっぱりあなたのものなのよね、私はやっぱりネネ、あなたを愛しくおもう。
ごめんなさいね、余計な事を聞かせてしまったわね」
深夜の懺悔が終わりを告げた。ただ静かに頷きを返していた少女が答える。
ネネ
「余計なことではありません。その思いを無くすことは私などには出来ませんが、あなた様の悲しみを少しでも分けて
いただける事で、楽になって戴けるだけで、この私には勿体無いことです」
さらに少女は断りを入れて続けたのだった。
「私事になりますが、先の会談の時、言外に仰られたように、私は多くの実験の末に造られたデザインベイビーです。
ネーナ・トリニティとの個体的な類似は、もしかしたら遺伝素体が同様のものであったのかもしれません。
ご存知のように、私たちジュピトリアンの源流は、ソレスタルビーイングですから、
その女性の出自がそれであるならば、納得はいきます。
多くの人体実験が繰り返されたとデータが語り、数多くの犠牲の中から私が産まれました。
イノベイドも先に造られた兄姉も祝福をくれました。
それでも結局出来損ないでした、イノベイターとは成れませんでした。
兄は壊れ、また一人の兄は長くないと知っています。私は偶然生きながらえて、あなたに出会えた
これがジュピトリアンのもつ悲しみのひとつです。ですからルイス様……」
本当に言いたいことを言うや、勝手に泣き出し、仕舞いにはもたれかかる様に眠りこけてしまった少女をルイスは、
ベッドに横たえ、シーツをかけた。
ネネの悲しみと心の奥の苦悩を知ったルイスは、ジュピトリアンの言う絶望を知ることの意味を考える。
そして夜は、2人を包み込む
8/8
アーチャーアリオス
アーチャーのコクピットで、2度目の朝を迎えた線の細いと噂される青年が話しかける。
サジ
「静かですね。3日前が嘘みたいだ、全てが止まっているみたいですよ」
アリオスのコクピットで、モニターに映るアヘッド・スマルトロンを眺めながら、CBのマイスターが予感を告げた。
アレルヤ
「ただ凪の後には 流れが変ってくるかもしれない。あれからどちらもアクションがない、
多分誰かがリアクションを探る頃合だろうね」
その想定に、意を決したサジは、この間ずっと考えてきたのであろうプランを提示する。
サジ
「それでですね考えたんですが、交渉のチャンネルを無理やり作ってみてはどうでしょう。
動きがあれば、余計なことを考えないですみますし。上手くいけば、完全停戦のきっかけになるかもしれない」
CBによる朝の一報が、両軍の通信回線に流れる。鳴らないベルを待ち続け緊張を解くことの出来ない渉外通信員にとっては、
内容如何よりも、とにかく心が浮き立った事だろう。
アレルヤ
『こちらCB。ジュピトリアン・ジュピトリスワンに連絡する。先の木星の花嫁の停戦宣言を取りまとめるため。
調停会談を始める。出席者は各陣営1名ずつ、仲介人としてCBより1名が参加する。
場所はジュピトリアンの艦の中でいかがだろう。これよりチャンネルコードを伝える。
こちらはCBである、受諾されない場合は戦争準備行為とみなし再び介入行動に移る』
サジ
「無茶な事をいうんですね」
アレルヤ
「何、ジュピトリアンでの直接対話を思いつき、立会いを志願する君に比べればね。
それに、どちらにも渡りに船のハズじゃないかな」
ジュピトリスワン ブリッジ
ヤオ
「ではなぜ彼らが このアクションを起こしたのかだが」
セレナ
「まあ どこにでも頭に血が上りやすい殿方はいますからね。そんなところでしょう。
まあサジ君にとっては、この機会に逃げた花嫁を取り戻すつもりかもしれませんよ。
わたしが行って来ますよ。なんせ人類初の惑星外交官を自認しておりますから」
当然の様に、自ら名乗りをあげる。確かに他に、この大役を担う者はいないのだろうが、
ブリッジに流れる空気を他所に、いつもの男の笑い声がこだまする。
グラハム
「あいかわらず冗談が言えるようで、決戦前の血祭りと言う事もあるぞ」
セレナ
「だからですよ。
まず前提として、彼らをやはりイノベイドとすれば、好都合なことに私もそれですから。
ま、なんの取り柄もありませんが、万が一の事態になったら仲間にしてもらいますよ。
他にアロウズ残党、CB、ただの宇宙海賊であれば、話し合いで解決出来るつもりです私ならね。
万が一、ホンモノの木星人であればそれこそ本望です」
ヤオ
「すまんな、とにかく日をもたせてくれ、もしかしたら全ての陣営がそれを目論んでいるのかもいれんがな」
責任から逃れられない者たちは、自身の為さねばならない事をこなしていく。
以上、投下終了です
どうしてか時間がかかりました
アクト2が前中後となったので、まだ残り3回は変わらずです
一週間ペースになりますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです
みなさまのレスを原動力に、とにかく完結させます
読了アリガトウございます。おやすみなさい
>>181 もしかして准将は陣痛の最中にも、いつも通りの態度で通信を?凄い!
>>八丈島さん
投下乙です。お産の最中に仕事するカティが凄すぎます。
そしてルイスパートの描写が特に濃密ですね。
またの投下をお待ちしております。
184 :
文書係:2009/09/10(木) 19:38:33 ID:???
こんばんは、文書係です。保守代わりに。
>>150さん、どうもありがとうございます。
以前どなたかが感想で書いて下さったのですが、「アホ可愛い」コーラを目指して書いています。
>>151さん、感想dです
「マカロン」とリヴァイヴの頭色でググると、実物が見られます。フランスの老舗だそうで。
一人でヒマな時も、いつも楽しげなことを考えてるんだろうなと。
明日の投下分で長かった離脱編が終ります。
補編では前後編で書ききれなかったコーラを書くつもりでいますので、楽しみにして頂けると嬉しいです。
感想を下さった方々、ありがとうございました。
規制などがなければ、明日夜続き3レス分を投下します。
185 :
文書係:2009/09/11(金) 23:11:59 ID:???
こんばんは、文書係です。
これから続き3レス分を投下します。
186 :
文書係:2009/09/11(金) 23:14:59 ID:???
公式出たけど脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー/「アロウズ離脱 その19」
>>147-148(「アロウズ離脱 その18」までは
>>3のまとめサイトに収録されています)
「新型や特別機に限らずとも、機体の特性を最大限に活かして戦えるのが、貴官の一番の強みと私は考える
のだがな。むしろ誇りに思え」
「ええ〜っ!? 何ですかそりゃあ!」
背後に立つカティ・マネキンからの言葉に、パトリック・コーラサワーは心外だといわんばかりに声を裏返した。
危険を冒して転属しても機体に恵まれず、頼みの上官もアテにならずと、このところツキに見放された感のある
彼を慰め、励ますつもりで彼女は言ったのだが、どうやら言葉の選択を誤ったらしい。
実際カティは、パトリックのパイロットとしての才能には内心舌を巻いていた。航空機からMA、MSに至る
まで、瞬時にほぼ完璧に乗りこなせるのは、ひとえに彼の天性のセンスと、模擬戦2000回勝利に顕現する
地道な努力の積み重ねとに因ると彼女は考えていた。長年エースパイロットの名を恣にしているのも、AEUに
人なしという訳ではないのであった。
惜しむらくは自信過剰が祟って油断しやすく、敵戦力を軽視するきらいがあることなのだが、それでも敵の攻撃
をぎりぎりのところで回避し、しばしば一矢報いるだけの余力と胆力があるのは流石と言うほかない。
また、彼女は人命を奪い合う戦闘行為を礼讃する考えを持たない筈であるが、高速で旋回しながら攻撃する、
一見派手やかで無駄の多いように映る彼の戦闘スタイルが、中空を舞うように美しいとさえ思うことがあるの
だった。
あとは彼にいま少しの慎重さと、言葉や態度に重々しさが加わればいうことがないのだが――と以前のカティは
考えていたが、今となっては、それらの点も含めてパトリック・コーラサワーという男たりえるのだと理解する
に至っていた。
ただ表立ってこのことを口にすれば、途端に彼は調子に乗ってどじを踏んでしまうために、カティのパトリック
に対するこの評価は、ずっと彼女の胸の奥底に秘められたままなのだった。
「――悔しいか。パトリック」
アロウズにいた時分、用もないのにモビルスーツ格納庫までついてきて、羨ましげに機体を眺めては「新型下さ
い」と駄々をこねた彼を堪り兼ねて怒鳴りつけ、ひどく怯えさせたことを、カティは今更ながらに思い出した。
彼を作戦の中枢に据えぬよう配置しておきながら、新型が欲しければ軍功を立てろと発破をかける訳にも当然、
ゆかなかった。
リーサ・クジョウの思考をトレースし、ソレスタルビーイングを壊滅に追い込むことに彼女は意識を集中させて
いて、自分の側で役に立ちたいという彼の気持ちをろくに汲んでやることもないまま、アロウズで思うに任せぬ
焦燥だけを、彼にぶつけていたのだった。
「大佐のいないアロウズに未練はさらさらないんですけどね、エースパイロットとしては、一度くらいあの、
バーって赤く光って急に強くなんの使って、ガンダムのヤツと戦ってみたかったです」
「高濃度圧縮粒子全面開放システム、もしくはTRANS−AMと言え」
その時興味のある事柄を除いて、彼の口からいきなり正式名称が飛び出すことは稀である。
カティはその都度、本来口にすべき名称をクイズの解答者のように探し当てなくてはならなかった。
つくづく直感だけでものを言う男であるが、良くも悪くも数年でこれにも慣れた。
「トラン……あぁ? 前にどっかでチラッと聞いたような、聞いてないような」
ええといつでしたっけ、とパトリックは首をひねり、カティが彼の頭越しに、やれやれと呟く。
「国連軍が太陽炉を導入しジンクスを支給された際、整備兵から説明があったはずだが、4年も前のこと。
どうせ覚えてはいまい。お前は自分に直接関係のないことは、綺麗に忘れてしまえるたちだからな」
187 :
文書係:2009/09/11(金) 23:18:18 ID:???
公式出たけど脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー/「アロウズ離脱 その20」
「それなら、ビリー・カタギリ技術大尉くらいは覚えておけ。一度本人の希望で、お前が操縦するX-TOL機に
同乗しているから、面識はあるはずだ」
「ええ大佐。ポニテメガネですね。覚えてます」
「彼は恩師であり、ユニオンにおけるMS開発の前任者でもあるレイフ・エイフマン教授を、ソレスタルビーイングの
奇襲で喪っている――無茶な新型を作り、仲間に託す理由がないとはいえん。教授の遺した資料を元に、連邦で
初めて、トランザムシステムを搭載した機体の開発に成功したのもこの男だ」
そこまで言うと、カティは意味ありげに口端を引いた。
「それが、くだんのマスラオなのだが――トランザム限界時間経過後の粒子残量への配慮を怠ると、機体が爆発
するという致命的な問題を残していてな」
げっ、と言葉にならぬ叫びに喉を詰まらせる彼に、命拾いしたなと、彼女は低声で囁いた。
「しかし、人の名前をすぐに忘れるお前が、珍しいことだな。知り合いか?」
内部資料と調査で得たデータを別にすれば、ビリー・カタギリについては、彼女も過去に面識がある程度だった。
まさかアテにならぬ上官に痺れを切らし、開発者に新型を寄越せと、直談判に及んだとでもいうのか――
「ってほどでもないんすけど。ドーナツもらったことあるんです」
「ドーナツ?」
新型でなく、ドーナツ――またしても予想を裏切る食べ物の登場に、カティは嫌な予感を覚えて顔を曇らせた。
「食堂で時々見かけるんすけど、いっつもドーナツ食ってるんで、よく飽きねえなぁって思って見てたら『君も
どうかい?』って。怖いって噂聞いたことあるんすけど、結構、いいヤツですよ! ドーナツもうまかったです」
敵地に等しいと承知の筈のアロウズで、この男は自分と別行動の間に、一体、何をしていたのか――
「ドーナツの味は、どうでもいい」
どうせ正面から無遠慮にまじまじと見て、他人の目には物欲しそうに映ったに違いないのだから。気になるのは
むしろ、とカティは言葉を続けた。
「――その噂というのを、聞かせてもらおう」
彼女は自ずと険しい口調になり、いつもの癖で顎に手をかけ、片頬を傾ける。
「あいつ見た目大人しそうですけど、ホントはメチャクチャ怖いらしいんす。ユニオン時代にあいつ怒らせた
フラッグファイターが、エンジンにみかん入れられたって!!」
「俺その後、つい自分の確認しちゃいましたよ。もちろん入ってませんでしたけど。ドーナツ一箱、全部、
自分で食うつもりだったらって――あれ、どうしました大佐?」
「……っ」
「ナニがおかしいんすか? 大問題ですよ大佐!? 動力炉にみかんなんて入れられたら!」
追い討ちをかけるようなパトリックの言葉に、カティは口を掌で塞いで首を振り、小刻みに肩を震わせる。
物静かで温厚な印象のあるビリー・カタギリが格納庫へ向かい、遺恨ある相手の機体動力部をこじ開け、白衣の
ポケットに忍ばせていた小型のオレンジを徐ろに取り出し、無言で放り込む姿を想像して、彼女は危うく大笑い
しそうになっていたのだった。
「まったく、……お前という男は、まったく……」
理性で笑いを堪え、徐々に平静を取り戻したカティは、息苦しさをまだ残す中、途切れ途切れに言った。
「私と同じ色を、しているというのに――」
「お前の目に映る世界は、さぞかし愉快なのだろうな」
「ええ毎日、楽しくて仕方ないです。もう今なんてバラ色ですよ!!」
パトリックは心底楽しげに言うと、ヘルメットのバイザーを開いて今一度振り返った。
188 :
文書係:2009/09/11(金) 23:24:00 ID:???
公式出たけど脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー/「アロウズ離脱 その21」
「よく見て下さい! ほら」
カティが見つめるパトリックの瞳の中に、呆れ加減で、怪訝そうに彼を覗き込む自分の顔が映っている。
彼は仄かに頬を染め、一点の曇りもない笑顔で自分を真っ直ぐに見つめている。
こうしたとき、きまってそうであるように、恥じらう風は見せても、彼はけして彼女から目を逸らさない。
そしていつも終いに彼女の方が照れ臭くなり、苦笑いに紛れさせて視線を逸らしてしまうのだった。
「前を見ろ、馬鹿者」
「はぁい」
「――造反とアロウズに知られれば、たちどころに処刑は免れんこの状況がか?」
離脱にこそ成功したものの、現状は薔薇色と言うには程遠い。クーデター軍の取り纏めに他勢力との連携、
圧倒的戦力差を埋める戦術の構築と、既に問題は山積している。
「そんなことはどうだっていいんです! だって」
「大佐と二人、愛の逃避行ですよ〜」
夕闇が辺りを覆いつつあり、去り際の陽に染まる薄紅色の雲の欠片が、薔薇のように見えなくもなかった。
無論、彼が言っているのは眼前に浮かぶそれではなく、心象風景なのだろうけれども。
もし、彼に寄り添い同じ方を見、同じものを見たなら、彼の瞳に映る薔薇色の世界が、彼女にも見えるだろうか。
所詮他人は他人で、視座を共有し、理解し合うなどということは、幻想に過ぎないのかも知れない。
だとしても、互いの胸の内を言葉に変え、そして伝え合えたなら、思いを分かち合うことができるのだろうか。
「――大佐。これが終ったら、お食事に誘わせて下さい!」
「……ああ」
「あとこないだの、美術館巡りの続きも! 次はロマンティック美術館に行きませんか? 庭がキレイですよ」
「そうだな」
彼女は乞われるままに承諾の言葉を口にして、触れることのない彼の肩先に視線を落とした。
よしんばアロウズを壊滅させ得たとして、カティが数多の残虐行為に作戦指揮官として関与し、心ならずも兵士
達を死地に赴かせてきた事実は動かしようがなかった。生き証人としての役目を果たし、連邦軍を本来あるべき
形に正し終えた先に、彼が思い描いているような未来が待ち受けているどうかは、彼女にも分らない。
今このことに思いを致してもどうなるものでもなく、悲観も楽観もしていなかった。自らの行いに相応しい結果
を、従容と受け入れるだけである。
世界が目まぐるしく形を変え、三たび軍装を革めても、全く変わりのないパトリックの能天気な楽天家ぶりに、
呆れ返り、時に苛立ち、今は思いを共にすることのできない寂しさを心に抱く一方で、そうした彼にこそ奇妙な
安らぎを得ていたことに、カティは気付き始めたのだった。
――この男は変わらない。だが、それでいい。
彼女は瞼をゆっくりと伏せて、柔らかな笑みをその唇に浮かべた。
――大佐を妻に頂いて子供は3人!
あの言葉を聞いたのは、いつのことだったろうか。
自らをスペシャルと称して恥じるところのない不遜な男の、思いのほか平凡で慎ましやかな夢を、相手が自分で
あることの荒唐無稽さに返す言葉を失いつつも、それではまるで少女のようだと、微笑ましく思ったものだった。
コクピット内の静寂を破る無機質な信号音に、カティは目を見開いた。
プラン通りにもたらされた同胞からの報せに、彼女は無言で頷いてパトリックに視線を巡らせる。
「――大佐、暗号通信です。解読しますか? ……ったく、ヤボなタイミングだぜ、ちくしょう!」
アメジストの瞳に映る世界は、数瞬の間に宵の闇に溶けていた。
189 :
文書係:2009/09/11(金) 23:24:43 ID:???
今回投下分終了。
後編「アロウズ離脱」終了、補編「戦士の休日 その1」に多分続く。
>>文書係さん
投下乙です。
ジンクス使い、あるいは量産機乗りとしての評価が実は高くて、
しかし本人に教えるわけにも行かないというのはとてもらしいですね。
それからエンジンにみかんは、ラジオネタw 久しぶりにSSで吹き出しました。
語られるにとどまりましたが、ビリーのキャラクタが際立っていました。
一応ガンクロwikiに更新しておいたのですが、改行の辺りが加減が分かりませんので、
殆どベタで編集してます。何か要望がありましたら教えて下さい。
またの投下をお待ちしております。
>>189 投下乙です、毎回楽しみにしてますアホ可愛いコーラw
そして、見覚えのあるみかんネタに思わぬところで再会して吹きましたw
それでは投下を始めます。
12レス位あります。
1/
黒海に向かうダーダネルス海峡を挟み、ザフトと連合の艦隊は、東西からにらみ合っていた。
東に布陣するザフト軍が、歴戦の特務艦ミネルバを前面に押し出しているように。
西、連合艦隊の前衛には、空母タケミカズチを中心とするオーブ軍が突出している。
海峡はOP.スピア・オブ・トワイライト以来、プラントの支配領域であり、黒海に繋がる海路を閉ざす
"閂"として、両岸にザフト地上軍が駐留していた。
しかし、開戦より数か月が経過し、地上の各戦線で連合軍が巻き返してきた。それに従って海峡を
取り戻す攻勢が激化し、現在、北岸を奪還されたザフトは南岸に追いやられている。
海峡の完全制圧を目論む連合軍と。
海峡の徹底死守を命題とするザフト。
陸海の両面を挟んでのにらみ合いは、オーブ艦隊とミネルバとの、狭い海峡を舞台とした一騎打ちに
よって決する様相を呈している。
――空母タケミカズチ ブリーフィングルーム
「ミネルバが囮? ザフトの新鋭艦だろう?」
ユウナの疑問が、二人しかいないブリーフィングルームの沈黙に吸い込まれる。司令官の役を
帯びる青年が向かい合うのは、艦隊指揮官のトダカ准将だ。
この生粋の軍人は、欠片も躊躇を見せずに「はい」と答えた。
「ミネルバの艦長はタリア=グラディス。音に聞こえた特務隊"フェイス"が三人も乗る船です。
彼等は望んでこの海峡に居るのですよ」
「対して僕らは、国を人質に取られて出兵か。ロアノーク大佐は何と?」
「オーブ艦隊の奮戦に期待する、との事です。配置はこちらに」
トダカが操作したスクリーンに、海峡に向かってオーブ艦隊を頂点とした三角形が表示された。
「後ろの連合艦隊が、まるで督戦隊に見えるね」
「ユウナ様に眼病の心配は御座いませんな」
私にもそう見えます、とトダカ。
連邦艦隊の配置には、難敵を前に、オーブをすて駒にしようと言う意思がありありと見えた。
大西洋連邦から派遣された艦隊はオーブ軍後方に配置されていて、オーブ艦隊は護衛艦軍を
タケミカズチの前方に配置するが、そのミサイルの有効射程よりも後ろに連邦艦隊の旗艦はある。
逆に、連邦側のミサイルはミネルバではなく、タケミカズチをその射程内にはっきりと捉えていた。
2/
「……ショウ・ザ・フラッグ、旗幟鮮明にせよとは言うけれど、そのためにここまでの戦いを
要求するのか。僕と"妻"が人質代わりに乗っているだけでは満足しないらしいね」
艦隊の派遣は同盟関係を明らかにする物で、『プラントに与せぬ』という証明であれば
良かった筈だった。二年前の大戦でオーブを壊滅させた連合軍の沽券もある。
ユウナですら、こうして最前面に配置されるまでは、楽観的な予想の側に着いていた。
「それで、相手方に予想される戦術は? まあ狭いんだから、お互いに出てきた所を
叩くのがセオリーなんじゃない?」
「そこまで簡単なものでもございません」
意識しないと、口調から真面目さが感じられないというのは、ユウナの悪い所だ。
軽い口調で出されたユウナの素人考えにトダカの毒々しい視線が刺さるが、
ユウナ本人は、他人の目などどこ吹く風と、人より厚い面の皮で跳ね返していた。
「お互い、バルカン半島とアナトリア半島、両岸に配置された陸上部隊を叩かれない事が、
海峡の支配権を得るため重要なのです」
ダータネルス海峡周辺の地図が、連合軍の青とザフトの赤に塗り分けられた。
オーブの艦隊はダータネルス海峡の西側出口から20kmほど、ギョクチェ島の南に位置して
海峡を睨んでいる。対するザフトは、マルマラ海の何処かに集結している事と、海峡東側に
戦艦ミネルバが配置されていると言うことだけが確かだった。
「ザフトの、他の戦艦は何処にいるんだい?」
「潜水母艦を索敵中ですが、発見には至っておりません」
「それじゃあ、どこから来るかも分からないじゃないか。ふん……見つけられないなら、
近くに居ないのかもね」
「油断はできません。午後には哨戒のサイクルを増やす予定です」
トダカの艦隊運用は堅実の一言に尽きた。教科書通りと言えばそれまでだが、ユウナの
見たところ、その堅実さには筋金が2、3本は入って徹底している。
マニュアルに沿った運用のために、先ずは目に見えている物を徹底的に疑うと言った所が、
ユウナは気に入っていた。
「参謀は、バビやディンといったMSが、マルマラ島から発進すると予想しています」
ムラサメ偵察型を何度も飛ばして、海峡周辺の索敵を十全に終えていると見えた。
ユウナは見ていないが、一人乗りの潜水艇が海中の索敵も行っている。
3/
「ザフトが海峡を突破した時には、バルカン半島の地上部隊は壊滅しているでしょう。
我々の敗北です」
東側から、赤い矢印が海峡の中に伸び、北岸、ゲリボル半島の青い三角を食いつぶして進む。
ミネルバを表す矢印が海峡いっぱいに伸びきったところで、青い三角は陸地から消え去った。
ドットイートゲームの後に残るは、白く表示された白地のみだ。
「この白くなったところは? どうなってるんだ」
「ご想像下さい、ユウナ様」
「……ぞっとしないね。何も残って居なさそうかな」
「つまり、そう言うことです」
待ちの戦いは出来ないと言うことかと納得するユウナ。
「せいぜいがんばって連合軍を守らないとねえ」
「我々がお守りするのはオーブです」
「そう思うなら、カガリを守ってくれてれば良いよ」
皮肉な笑いを浮かべるユウナに、トダカはただ苦い顔をしている。
命は惜しい、が自分の命でも"駒"のユウナだ。カガリが生きて、自分だけが死ぬ状況なら、
恐らく自分に生きる価値はなくなっているだろうと達観していた。
「それで、カガリ様はどちらに?」
「自分の部屋に居るだろう。ミネルバが相手方にいると知って、ふさぎ込んでしまってね。
今は侍従が相手を為てくれているはずさ」
ミネルバの主立った乗組員は、ザフトから戦意昂揚のための宣伝を受けていて、ある程度は
公開されている。その中に"フェイス"章をつけたアスラン=ザラの名を見つけたカガリの
心配やいかばかりか、と想像してみるが、乙女心に疎いユウナの事、叙情の欠片ほども
思い浮かぶ所がなかった。
「カガリ様はミネルバとの縁が深いと聞きます。知る顔と戦う事は、我々でも辛いものです」
「それは君の個人的な経験かな?」
「一般論ですよ」
トダカは誤魔化した。その事をユウナは知っている。ミネルバのパイロットとの関係も。
オーブが飯を食わせてきた軍人である。"インパルス"がオーブを焼くなら、躊躇なく撃つだろう。
「さて……タケミカズチに部屋が余っていて良かった。僕は一休みしてくるよ」
ユウナんの悩みはと言えば、カガリがいまだに寝室から自分を追い出す、というだけだった。
4/
――おいたわしや、カガリさま。
カガリの侍従役を務める少女は、扉に掛けた手を引きこめた。せめて話し相手にでもなれれば、
と思うが、国家代表の静寂を冒せ無い遠慮が、行動を実行に移させない。
カガリと年格好の似た、この金髪の少女は、名前をヒナヨ=サクエダという。
結局、部屋の前をうろうろと往復した回数をカウントしているうちに、五十を過ぎた辺りで
ユウナ=ロマに話しかけられ、ヒナヨは堂々と代表の部屋に入る。
「シズル――?」
カガリの美しい側近は現在、オーブで別名についており、一人戦場に旅立つカガリのために、
ヒナヨは所属する学園から、半ば武者修行のような形で派遣されていた。
「私です、カガリ様」
「ああ、すまないヒナヨか、会議の時間だったな」
敬愛するオーブの代表は、ソファーにもたれて無気力の体だった。
少女には分かる。
これは愛ゆえに悩まねばならぬ女の顔だと。
――ああ、せめてシズルお姉様が此処にいれば! 熟練の技巧でカガリ様の無聊をお慰みする
事も出来るのに。
オーブ氏族の末席、サクエダ家に生まれた彼女。
放りこまれた学園の少々特殊な風土に、どっぷりとはまっていた。
「……やはり気が重いな。ちょっと話相手になってくれないか?」
「わ――私でよければ、僭越ながらお話しさせていただきますっ!」
「ハハ、そう緊張しないでくれ。"今は一杯の茶が怖い"という気分だ。紅いのがいい」
「はい、直においれしますね」
細工は流々、仕込みは上々。
欧風と和風を問わず、お茶の道は礼儀作法の授業でみっちりと叩きこまれている。ヒナヨは
奇をてらわず、ダージリンの茶葉が入った缶を迷わず開いた。
ブレイクザワールドですっかり冬と夏が混じってしまった今、天然の紅茶は高級品だ。
5/
ティーポットにお湯を満たすと、鼻梁から胸を揺り起こすような芳しい香りが部屋に満ちた。
抽出の時間を計る。時計を使わないで、歌謡曲のメロディーを心の中で口ずさんでいた。
「……それは最近の曲かな?」
「――え? いやだ、鼻歌になってましたね。恥ずかしいです」
ルビーの様な紅い液体をポットからカップに注ぎつつ、マーヤが一月に出した新譜だと
教えると、カガリは紅茶を口に含み、破顔した。
「学園では、詩を暗唱して時間を計るように言われたりするんですよ」
「そうか……近頃は音楽を聴く余裕も無くって。良い香りだな」
テーブルの影でクッキーの包み紙を開く。皿に盛ってテーブルへ。カガリ様にお出しする
茶菓子が袋に入ったままだなんて、やっぱり軍人さん達はがさつだわ、と呆れるものだ。
「ふぅ……ミネルバと戦いたくはない。だが、これも仕方のない事なんだろうか」
「……クッキー、美味しいですよ?」
ふさぎ込みそうなカガリの気持ちを、このひとときは逸らす。
暫くお茶と菓子を楽しみつつ、世間話に花を咲かせていたが、やがて遠慮がちに部屋が
ノックされた。本来の用事を思い出すヒナヨ。
「……ユウナ様がブリッジにお呼びです。お加減が優れないようでしたので、
お待ちいただいておりますが」
「いや……行く」
カガリはゆるゆると身を起こす。
「そうだ。ヒナヨに頼みたいことがあるのだが、聞いてくれないか?」
「え……?」
代表の"頼み事"は、ヒナヨからすれば聞けるはずもないことだったが、揺らがない
カガリの口調に、ヒナヨはついに折れて頷いてしまった。
「済まないな、無理を言う」
「いえ……微力ながらがんばります」
――この方はもはや、生きていくだけでは許されない戦いの中に居るのだ。
立ちあがったカガリの後に続く少女は、何があろうともお守りします、という決意に
身を固めていた。
6/
――ミネルバ 艦橋
「即応統合戦闘管制システム、T−レックスはメインをレセップス級ジムノリアに。これより、ミネルバは
その隷下に入ります。戦闘情報リンク確立。南岸からの観測情報……来ます」
ディスプレイにザフトの撮影した情報が映し出され、その焼け野原となった南岸の様子が露わになった。
ブリッジの何名かが息をのむ。戦線を押し込まれていた様子を目にして、地上の厳しい状況を悟ったのだ。
「旗艦となるべく設計されたミネルバのメインコンピュータに比べて、レセップス級のコンピュータに
システムを委任すれば、レスポンスは三割落ち……本当に良いんですか?」
「ミネルバは最前線に出るの。作戦が終了するまでシステムを保持する、保険は必要だわ」
ミネルバが落ちようとも、海峡の守備を果たせばザフトの目標は達せられるという事だ。
「微速前進、取り舵十」
タリアの号を受けて、威容を誇るミネルバが戦場に赴いた。
海峡の入口を抜ける巨艦の回転砲塔はすでに、連合軍陸上部隊の居並ぶ北岸へと向けられている。
北岸各拠点に設置された連合軍砲台の座標が、飛ばされた無人観測機の情報によって更新されてゆく。
ミネルバはゆっくりとした速さで、ダーダネルス海峡に進み行った。
「両岸に動きがあります」
「予測済みよ、互いのダメージに注意して!」
呼応して、南北の岸から対岸へ向けて、中距離対地ミサイルが一斉発射される。
連合の鉄量はザフトのそれに十倍。
対するザフト製誘導兵器の精度と、電磁的な妨害によるミサイルの撹乱、対空防衛システムの能力は、
技術的に連合のそれを大きく上回っていた。
結果、海峡の両岸はトーチカをも吹き飛ばされ、完全な更地となる。
南岸、無人化していたミサイルランチャーを破壊されたザフトは、自陣からザゥート、
ガズゥートと言ったMSを展開させて、ミネルバの侵入する東側へと火力を集中させた。
視界の開けた北岸に、連合の陸上部隊が顔を出す。無人コントロールの戦闘車両を
盾代わりに前面に押し出した105ダガーの部隊は整然とシールドを構え、尚も飛び来る
対地攻撃ミサイルを迎え撃った。
この時点で、両軍に人的損害は殆どない。破壊されたのがほぼ、無人兵器に限定された為だ。
そして、鉄と炎の飛び交う拮抗状態の戦場を、知恵の女神が射程にとらえた。
7/
「目標、右前方陸上部隊。トリスタン、イゾルデ――撃てぇっ!」
アーサーが叫び、ミネルバから流星の如く放たれたビームと砲弾が、大地に立つMSを
クレーターに変える。
「恐らく、北岸に配置された火器は無人化されているわ。遠慮は要らないわよ」
「ランチャー1から6、ディスパール発射! 続いてパルジファルを装填!
海中の警戒も怠るなよ!」
「面舵、15! モビルスーツは?」
「西から……これは、アストレイです! 数は十二。接触まであと二百秒」
ディスプレイに、二つの六機編隊が表示される。
「砲撃が先に来るわ――ルナマリア機、レイ機は対空密に!」
『了解』『了解です、艦長』
「チャフ撒け! 総員耐ショック!」
海峡の反対側から、空を覆うほどのミサイルが飛来した。
「マリク!」
「アイアイ、マム!」
巨艦は増速してこれの誘導を逸らし、後部ミサイル発射管から飛び出した迎撃ミサイル
"パルジファル"が、前方に壁を作ってミネルバを守る。
ミサイルの雲と対空砲火の壁が触れ合った領域から、極大の火球が生まれ、新たな
ミサイルと銃火を飲み込んでいった。火球はミネルバに迫る。後部デッキに立つ二機の
ザクもまた、そのビーム砲とライフルでミサイルを撃ち落としてゆく。
やがてミネルバの防御システムが臨界を迎えた時、白亜の戦艦はミサイルの弾幕を抜けた。
直撃弾は3――CIWS砲台がいくつか崩壊。損害は軽微と、速度を緩めずミネルバは
海面から立ちあがった水柱を突き抜けた。アストレイ部隊は目と鼻の先に居る。
「空戦部隊――発進!」
タリアが右手を振り上げた。
「セイバー、グフ、インパルス――どうぞ!」
左右のハッチが開き、プラズマジェットの輝きも鮮やかに、真紅と燈のMSが。続いて
中央カタパルトから飛び出た影が中空で交わり、トリコロールのフォースインパルスを形作る。
『よっしゃあああ! バリバリやるぜ!』
ハイネの一声。
セイバーとグフ、インパルスがミネルバの前に飛び出して行った。
8/
「シン、アスラン、北に落ちんなよ、助けにはいかないぞ!?」
『ああ、分かっている――』
『了解です、ハイネ』
グフが中距離の乱戦に強い。重い機体に似合わぬ軽快な動きで先陣を切る。
たったの三機で十二機を足留めしなくてはならない。左右から敵味方の砲火が交錯する
海峡でストレスに包まれた戦いをしなくてはいけなかった。
迫るアストレイは、六機ずつ二編隊。編隊は前後に分かれていた。
「突、貫、するぜぇ!」
先陣を切ったハイネが、飛びかうビームを躱しながら一つの編隊を突破する。
六機をやり過ごし、逆上がりのように反転。
セイバーとグフで、編隊を挟み撃ちにする。
「撃て――!」
『合わせる!』
ビームが交錯し、グフとセイバーのライフルが合わせ技で一機を大破させる。
「――ちっ! こら、アスラン。無理するんじゃねえ」
ハイネが眉をしかめた。セイバーが"ギリギリで狙いを逸らした"からだ。
コクピットのある大きな胴体では無く、飛行ユニットを狙ったビームはローターを破壊。
脱出したアストレイのパイロットがパラシュートを開く。
「手加減出来る相手じゃねえぞ、割りきれ!」
そうでなければアスランが死ぬ。
そうでなければ自分が死ぬ。
『……分かっている、ハイネ』
アストレイのビームをシールドで防ぐのではなく、回避行動をとりながらライフルで
撃ち返すその技量は確かにフェイスのものだ。だが、アスランの攻め口は明らかに精彩を
欠いていて、M1に逆撃する余裕すら与えている。
敵敵敵――そして味方が迷っている――こんなの、完全にアウェーじゃねえか。
レイを乗せてくるべきだったと、ハイネの胸中に、後悔の念が広がった。
相手の出鼻をくじいた方が、撤退が早まる分だけ、余計な死人は出ない。
倒すべき敵を殺して、殺すべき敵を減らせ。
一斉射をアストレイに浴びせかけて手本を見せ、瞬く間に一機を落とした。
9/
『アスラン、アンタなにやってんですか!? ミネルバが落ちちゃうでしょうが!』
シンもまた叫び、アストレイを落とす。
『……クッ!』
セイバーがMAに変形、一気に高度を上げて、地上近くを乱舞する砲火から逃れた。
吊られて高度を上げたアストレイに機首のビーム砲を一閃。直撃を受け、白煙を上げ
海に落ちて行く機体を、セイバーが一瞬見送る。
――今はそれでいい。
効果的な弾幕形成で足止めするフォースインパルスの働きにも満足しながら、
ハイネは次なる得物へと狙いを定め、バッテリーを使い果たしたライフルを捨てた。
本当に足止めをしなくてはならないのは、背後に控えたアストレイの部隊だ。
『ハイネさん、敵編隊が進入角度を変えました!』
メイリンの声。巨大な対艦ミサイルを抱えたアストレイ六機が、ミネルバの右翼
から接近しようとしている。
「分かってる――シン!」
『はい!』
左翼の支援部隊をアスランに任せ、ハイネとシンが対応に当たることとする。
2、3を落とせば、ミネルバの兵装で防御はなるだろう。
「レイ、ルナマリア。ちょっとそっちに通すぞ」
『任せて下さい、ハイネ!』
重いミサイルを抱えて鈍重なアストレイ隊だ。グフの機動性で追いつけないわけがない。
半分には減らして見せる。そう思ってマシンガンを向けた先で、アストレイが一斉に
ミサイルを放出した。
「馬鹿な――早すぎる!?」
こんな距離から対艦ミサイルを発射しても、簡単に防御されてしまう。まさか!
焦りを感じたハイネの前で、やはり、ミサイルは弾頭を分裂して大量の子ミサイルを
まき散らした。
「こいつらも囮――かよ!」
ミサイルがインパルスに向かってゆく。掩護する暇もない。同時に、レーダーの中に
四つの光点が出現した。ムラサメだった。
ほいっと支援
あれ、日付変わるまでアウト?
とりあえず支援っと
10/
「おかしい、タケミカズチが来ていながら、どうしてムラサメが現れない?」
アスランは旋回と上昇、反転を繰り返してM1を翻弄しながら、この最前線に可変の
新鋭機が姿を現さない事に疑問を感じていた。まだ信頼度が足りないのか? いや、
キラが愛機としている以上、ナチュラルの部隊が使えない不具合は存在しないはずだ。
その中で、セイバー、グフを迂回したアストレイ隊がミネルバの遥か遠距離から
ミサイルを放出する。まずい、アスランの脳裏で警報が鳴り響く。こんな子供だましの
手に引っかかるとは。
センサーを一瞥する。超低空を接近するムラサメにいち早く気づいたのは、アスランの
僥倖だった。代わりにインパルスが、大量の対MSミサイルに囲まれて爆煙に包まれる。
『う……うわあぁぁ――!』
『バカ、北に落ちるなって言っただろうが! ち、しつこいんだよ、アストレイが!』
悲鳴はシン、文句を吐いたのがハイネだ。グフの識別コードが、インパルスと共に
北岸へ追い込まれていった。
『アスランさん! ムラサメ4が接近、対艦装備を施した高速型だと思われます!』
「分かった……任せてくれ!」
レーダーに捉えられた四つの光点が、セイバーの最大戦速にも匹敵する速さで、
火砲の死角を巧みにつき、海面ぎりぎりを接近してくる。
アストレイと違い、高速型のムラサメを二機通してしまえば、ミネルバが甚大な
被害を受ける可能性があった。グフとインパルスは離され、セイバーは孤軍である。
「来い。……何?」
セイバーをMS形態に。海峡の端へ向けたメインカメラがムラサメを捉えた。
豆粒の如きムラサメのシルエットがディスプレイに拡大表示される。
「メイリン、他にムラサメは観測されているか?」
『いいえ、四機が接近中というだけです!』
「何……だと?」
ディスプレイに映るムラサメの影は、確かに5つ、存在した。
11/
――ミネルバ ブリッジ
「タンホイザー起動。目標、北岸連合陸上部隊! それからグゥルを射出して!」
「艦長! ムラサメは接近中ですよ?」
タリアの号令を即座に実行するブリッジクルーの中で、アーサーだけが、主砲展開の
危険性について反論した。
「こちらの方が早いわ。ムラサメはグゥルで足止めする」
「グゥル、射出します。ザクウォーリア、ザクファントムどうぞ!」
両舷から飛び出した飛翔体にザクが飛び乗り、ミネルバの射線から外れてムラサメの進路を塞ぐ。
『メイリン、他にムラサメは観測されているか?』
アスランの通信。ヘッドセットに手を当ててメイリンが答える。
「いいえ、四機が接近中というだけです!」
『何……だと? ムラサメは五機だ。五機をカメラで確認している!』
「――! チェンは主砲の発射準備急いで! メイリンはT−レックスの情報を再検査」
急ぎ、コンソールに向かうメイリンとチェンを確認して、タリアはアスランに通信を繋いだ。
「アスラン、どちらにしろムラサメはモビルスーツで凌いで貰わなきゃいけないわ。
ザクを前に出します。ルナマリアとレイに指示を、そちらで対応してちょうだい」
『了解!』
セイバーからグゥルの進行ポイントが送信され、守備ラインが再設定される。その間に戦闘管制
システムの検査を終えたメイリンが、ディスプレイに南岸からの観測カメラを表示した。
「南岸、監視カメラの映像です。T−レックス経由」
「……四機ですな」アーサーの独り言。
「――え? セイバー、コクピットハッチ開放!」
『こちらセイバー。肉眼で確認、五機だ。これより迎撃に入る!』
謎をブリッジに残したまま、セイバーのアスランが通信を切る。
「タンホイザー発射完了まで、あと三十秒!」
「敵は待ってくれないわよ、フルチャージの必要はないわ。海峡を吹き飛ばさない座標まで来たら、
北岸をなぎ払うわ。インパルスとグフに当てないよう注意しなさい、良いわね!」
ムラサメが攻撃圏内に侵入するまでがおよそ二十秒。真っ当に行けば、十秒間の
猶予がミネルバを守る筈だ。
12/12
反転しながらのコクピットハッチ開放――曲芸的な動きで、ムラサメが確かに五機存在すると
確信したアスランは、一つの仮定に行き当たった。
統合戦闘管制のシステム――T−レックスが何者かに侵入されている? 誰に?
答えを、アスランは知っている。
レセップス級のメインコンピュータに侵入できるシステムを持った艦は、この世に三種類。
そのすべてに乗ったことのある数少ない人間がアスランだった。
慄然として、眼下のムラサメ編隊を見る。
ミネルバに対して逆向きの五角形を作って、彼らは飛行していた。
オーブ空軍の編成は、二機編隊を基本としているはずだ。何故『五機』がそこにいるのか。
そして何故、銭湯管制から『見えなくする』のではなく、『数をごまかして』いるのか。
セイバーのライフルで、海面に向かってムラサメを撃つ。MA形態に、対艦ミサイルを
抱えたまま高速をひねり出すスラスター付の装甲を追加したムラサメは、氷の上を滑る
フィギュアダンスのステップを見せて光条を回避した。
「流石、揚力の制御はセイバーよりも上、か!」
些かもバランスを崩さずに回避行動を見せるムラサメに、それでもライフルを打ち込み、
グゥルに乗ったザクの待つ"網"に誘い込む。それでも、タンホイザー発射準備中のミネルバへ
突破される可能性が残る。
「撃つなら早くしろ、ミネルバ!」
セイバーをMA形態へ、スラスターの最大出力に揺れる機体を制御しながらムラサメを追う。
と、最後尾を低空飛行していたムラサメが、密になって飛行している編隊の間を抜けるという、
危険な加速を見せた。編隊の動きが乱れる。アスランに危機感が募る。
なぜムラサメ隊は、『最後尾のムラサメが急に現れたかの様に』動きを乱しているのか。
編隊を追い越した機体は、ムラサメにあるまじき加速を見せて更に増速――その上高度を
一層下げる。海面に胴をこすりそうなすれすれの状態で、その機体は各所に追加された
増加装甲を脱ぎ去った。
「――何だって?」
現れた機体は、黒一色に塗られていた。
「――キラ……」呆然と名を呼ぶ自分の声を、アスランはヘルメットの中に響かせた。
以上、SEED『†』第二十四話 「キラ=ヤマトは静かに暮らしたい」の前半、
投下終了しました。
全12レスって支援必須なの忘れてました。本当におさるさんです。
>>202-203さん、改めて、支援有り難うございました。
所要時間、5レスまでに23時間、それ以降に1時間四十五分。なんだこれ。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
208 :
文書係:2009/09/13(日) 01:35:15 ID:???
>>190さん、こんばんは。文書係です。
ガンクロwikiへの更新、ありがとうございました。お手数をおかけします。
昨晩は投下してすぐ寝てしまい、今日も食事以外寝倒してたもので、
お返事が遅くなり申し訳ありません。
こちらのスレではいつも行数が投下制限ギリギリなので、一行50字で改行していますが、
ガンクロwikiの方は幅が狭いのと行数制限がないので45字前後で、単語の切れのよい
ところで適当に改行しています。あと、小段落は投下時同様、空白行を入れています。
他に決めていることはありません。
アドバイスをこちらで頂いて、後編あたりから小段落をつけるようにしています。
なので前編は読みにくいままで放置しており、すみません。
休みがとれて少し時間ができたので、ここ2,3日で改善します。
編集をして下さる方々に感謝です。
また、頂いた感想のお返事はまた後日させて頂きます。
>>206 ×銭湯管制
○戦闘管制
どこをコントロールしてるんだ。
210 :
文書係:2009/09/14(月) 14:40:09 ID:???
>>210 名前出したままだった、ハズカシ。
失礼しました。
>>209 おれ、いっぱい勉強してCIC付き士官になるんだ
Fire Control System って、銭湯の火力管制システムのことだったのか!
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-02 バイト先、決定。
《The data base should be corresponding to the pilot in the system start........The data base……》
ほの暗い狭苦しいコクピット内。女性の声が何度も繰り返す。
「連合のデータベースにぃ、セブンスとオーブの女子中学生が一致する訳が無いでしょーが!」
椅子は一つ。ぎゅうぎゅう詰めでリョーコちゃんと二人詰め込まれている。ぴかぴかに磨か
れたモニターや壁が指紋でベタベタになるのがなんか心苦しい。突如モニターに周りが映る。
「ムツキさん、ムツキさん! と、隣のMSにさっきの人が……! 乗りこんでしまいました!」
「コッチ、無視してくれるよね。……動かないんだから」
『良し、イケそうだな……。ハイパーナパームを持ってきていたな? 連合のGは焼き払え!
反応はあるが完全起動出来る訳ではなさそうだ、ならばTP装甲もそう長くは持たんだろう』
【sound only / For Fang1】と表示された何も映らないモニターから声が聞こえる。
この声は赤い服の目つきの悪い人だろう。いともあっさりと、なんて恐ろしいことを……。
「と、とにかくよ? グラグラしても良いように座り直そう。――リョーコちゃんきつくない?」
「ベルトは無理みたいですが、……きゃっ!」
いくら大人用でも一つの椅子に二人はきつい。何かが当たった音がしてコクピットが揺れる。
狭いコクピット、何だ、頭が……。昔知っていたこと。思い出したこと、思い出したくないこと。
頭の中を記憶が駆け回って……運動場、ランニング、毎日殴られて、蹴られて、週一の検査。
ヤメ、て……。ライフルを腰だめで撃つ時の照準、ナイフの使い方、腕の極め方、首の折り方。
あたしはムツキ、記憶喪失で……。名前、記号、MS、微調整、ターゲットサイト。――そして。
《The retina, the fingerprint, and the palm print are Data0357 and are corresponding.
Operation System loading start. The system is started from the situation by the combat status. 》
突然繰り返されていたアナウンスが変わる。連合のデータがあたしと合致? あり得ない!
絶対。だって、あたしは。でもディスプレイは連合のマークをバックに文字列の表示を始める。
G eneral
U nilateral
N euro-link
D ispersive
A utonomic
M aneuver Synthesis System
「旧連合系か、何故起動が? な? ―― ナチュラルどもはこんな複雑な操作系で……」
今の、言葉。言ったの、あたし……? あたしは、セブンスの中学生で、かぁさんの娘で……。
《Please register pilot's name by the voice.》
「I'm Gladiolus ! ――いちいちうざったい! Switch the voice language to Nihongo ! copy ?」
#2 バイト先、決定。
グラジオラスは自分で思いだした名前。いつの間にか、かぁさんが戸籍に追加していたのだが
それに対しての意味の判らない嫌悪感を感じ、試験の答案以外はイニシャルさえ省略してきた。
そのミドルネームへの嫌悪感の原因……。それは。
「大丈夫ですか、ムツキさん! どうなさったのですか?」
「気にしない! しっかり捕まってて。あたし、コイツ動かせそう! クソぉ、実装武器無し……。
内蔵武器は、――エンプティ〜? 何か無いの、何か。鉄骨でもバオバブの木でも良いのに!」
ウェポン画面の上、おじさんがまださっきの場所で、腕を押さえて座り込んでいた。
「武器がないなら、逃げるしか、――うそおっ! おじさん、まだそこにいたの!?
敵の気をこちらに引くしかない……。機体を立ち上がらせておじさんと反対側に動かす。
右腕を広げてやる気のポーズ。だからと言ってホントに来るなよ〜。やる気ないんだから……。
あれ? ウェポンの項、背面図に赤く光る部分。
「……。バックパック? 見ない形だな、なんだろう、レールガンかな? 使える、の……?」
「何、コレ……。うぅ、気持ち悪い――。MSが、見える……。違う。わかる、の……? 何?」
「――これってガンバレル!? ドラグーンじゃないの? こんなのあたしじゃ使えな……」
【The ability person is confirmed. System standby........ Start completion. You have control. 】
《ガンバレル、現在チャージ率4.7%で起動完了。コントロール、グラジオラスに移管》
モニターに流れる文字はその兵器が起動したことを示している。ただガンバレルシステムは
空間識別能力が卓越した者以外、起動さえ出来ない代物の筈なのに、コントロール渡されても。
「え? 動いた、何で!? ……はれ? わ、わわ……。機体バランス、――背中が、何!?」
ガコン。背中で音がすると、いきなりバランスが前に崩れる。
『ガンバレルを動かせるだと!? 使えんでも有線なら誘導自爆か。クソ、完全に掌握が……!
ちっ。命令変更、全機引き上げだ! 2番機、4番機。俺をフォロー! 周囲警戒しつつ後退、
まだ動けまいが騎士団の第二支隊が近い、モグラどもの待ち伏せには十分気をつけろ!』
そういうと灰色から黒く変化したMSは、何事もないかのようにスラスターをふかして建物を
飛び越えていく。
どーやら、助かったみたい……。おじさんは、とモニターをズームして見れば腕を押さえたまま
ひっくり返ってしまっていた。
「リョ、リョーコちゃん……。その、生きてる?」
……なんとか。とは、隣でぐったりしたリョーコちゃん。あ、そう言えば。ポケットの中を探ると
金文字で『Mutuki=G・Sirai』と掘られた黒いスティックを引っ張り出す。
「ナヴィ、聞こえる? 大丈夫だった? 何所も壊れてない?」
《私は大丈夫です。ご無事で何よりでした、ムツキさん。只、反応が8m上方なのは何故です?》
「場所、判るよね……。かぁさん連れてきてナヴィ。乗ったは良いけど降り方、わかんない……」
#2 バイト先、決定。
「連合のエラい人達は【Gの名を持つ兵器は疫病神】だと言って嫌うそうよ。そりゃそうよね」
数日後、シライ隊駐屯地の応接室に集まる数人。その中にはジャンク屋のおじさんの他、
学校の制服姿であたしとリョーコちゃんもいた。
「ヘリオポリス崩壊から始まってアークエンジェルは陣営問わずずっと最前線。作ったオーブも
只じゃ済まない。カグヤ攻防戦の時に加勢に来たのだとは言え、ジャスティスとフリーダムを
狙った流れ弾が被害を拡大したなんて調査もあるし、ロゴス討伐戦の時だって、甚大な被害を
出したのはやっぱりGタイプ。ザフトだってミネルバは進宙式から轟沈するまで御難続き」
みんなが下を向く中、かぁさんは一人立ったまま手を後ろに組んで話し続ける。
「北欧戦線で投入されたデストロイの件は、連合内部でさえ保証や復興なんかの件で未だに
揉めてるらしいし、何より此所に親子2代にわたって非道い目にあった”生き証人”が居る」
とにかく、話を進めましょう。振り向いたかぁさんはアイスコーヒーに口を付けると咳払いする。
「状況はだいたいこの子から聞いたわ。先ずはポーリーン・サブチーフ、調査報告お願い」
「”芯”になってるOSとフレームは連合のGAT-X370、通称レイダー。見た目はまるで違うけど、
2年前あなたとやり合った機体そのもの。データの合致率87%、先ず間違いない、と。MA
モードはムラサメみたい。顔が正面向かない様にしたのは良い趣味ね。攻撃力激減だけど」
「完全にぶった切ったつもりだったんだけどね、再生に使えたんだ……。いいよ、続けて?」
後ろを向くかぁさんの表情は見えないが、声、それであたしは判る。かなりショックらしい……。
「フリーダムに似せようとしたのね。謎の改造工程を経て、仕上がりは見た目、TP装甲含めて
合格。変形行程は変更、エールストライカーを固定してフレーム欠落部分の加重を分散。主翼
面積の増大でMA時、空力制御も可能。ガンバレルも自力飛行可能でブースターにも使う」
あたし、あっさり動かしちゃったけど、なんかスゴい高性能?
「火器制御はザフト系、主武装はサーベルがMA-M01ラケルタ、ライフルがMA-M20ルプス。
この辺もフリーダム、好きなのねぇ。そして頭部は改造したムラサメ。索敵、測距関連制御も
ムラサメ系のシステムで面倒見てるみたい。で、最終的には全て自作の操作系に渡す。と」
「OSは連合、火器管制はザフト、測定観測のマネジメントはオーブ。操作系システムが自作。
それってつまりはブラックボックスは全く開けないで、出力のみ拾って制御してるって事? 三種
の制御系信号を、自作のシステムで? どうして普通に動くのよ。フレームさえ欠落してるのに」
うぅむ……。それはあとでいいか。で、大事な部分は? かぁさんがポーリーンさんに促す。
「起動ロックは127通りの組み合わせを試したけど全部失敗。唯一起動出来るのが、そこの
二人、同時搭乗時に起動シーケンスを開始した場合のみ。しかも左右の別と距離も関係有る
みたい。ま、システム組んだ本人さえ解除出来ないんじゃあねぇ。ガンバレルも起動条件は不明」
「……も、申し訳無い。あの時までTP装甲以外、そもそも起動出来なかったんだ、本当に」
「はぁ……。まぁ、いいわ。チーフが不在で大変でしょうけど、ポーリィは機体の解析続けて。
――次はトメさん、良い?」
#2 バイト先、決定。
「はいはい。……先ずメカマンチーフの本国出張は予定通りで短縮は却下。当人は機体を
見たがってたけどさ。彼に委員会の技術部、課長サマとケンカさせる訳にはいかないでしょ?」
話を振られて立ち上がったのはトメ・サイトーさん。各方面に顔がやたらに広い凄腕事務長で
田舎の小さな駐屯部隊、シライ隊が予算を意外と潤沢に使えるのはこの人のおかげらしい。
「あと、ムツキくんの件は隊長の時みたいにそう簡単には行かないよ? わかってるとは
思うけど、状況が違いすぎる」
戦闘に巻き込まれた女子高生は、たまたまMSに乗って、しかも襲ってきた敵を撃墜した。
ザフトの事務のアルバイトだった彼女、ミツキ・シライはそのままパイロット候補生に昇格した。
「資格、免許、軍籍、何も無し。でMSを戦闘ステイタスで起動、更には動かしちゃってる。しかも
ただ動かしたのでなくて、相手を威嚇、状況によっては攻撃の意志もあったと見られる。――と」
「あたしはそんな……!」
「MPが動画(え)を押さえてる。――あんたが何を言おうと端からはそう見える、って事よ。で?」
「MSを無免許で動かすのは知っての通り重罪。……けど、『今回も』やっぱり抜け道はある。
免許は何とかするとして、先ず動かしたのが個人の敷地内で、個人所有で趣味の機体、そして
前提条件として武装無し、更にテロリストに襲撃されてたってこと。TP装甲が生きてたんだ。
遊びに来ていた少女達を、素人考えで緊急避難的に乗り込ませる事自体、瑕疵はないよね?」
あのぉ、サイトーさん。抜け道も何も、それってホントの事なんですけど……。
「で。ここからなんだけど、危機回避の為にリモートで動かしたのは良いけれど途中でシステムが
暴走、コントロール不能になったとしたら。――そ。中の女の子達のせいじゃあ、ないよね?」
「なるほど。チーフ不在とは言え、ウチのトップメカマンが二日かけて漸くわかったのが
起動条件だけの”ぁゃιぃ”システムだものね。暴走くらいしても不思議はないわね、確かに」
あたしは動かさなかった。それなら罪にならない、そう言う事みたいだ。農業の町セブンスは
間もなく収穫期休み。MPに拘束されて留置所でお休みなんかまっぴらゴメンだ。
そう、あたしはMSは動かさなかった。ただの女の子がMSなんか動かせる訳、ない。
「……うん、良いんじゃない? その線で方面軍と交渉、お願いして良いかしら? トメさん」
「司法部に友達が居るけど、多分時間はかかるよ。直接行けば話は早いけど、行けなくなるし」
「なんで? ――ところであそこまでいくらかかったの? 領収書切ってくれれば買い取るわよ。
それとも所有し続ける? 動かなくても傭兵や盗賊、果てはコレクターまで絶対欲しがる、Gを」
貧乏人が個人所有は無理だよな、ヤッパリ。話を振られたおじさんはガックリうなだれる。
「それとムツキとリョーコちゃんは収穫期休みは予定入れないでね? ザフトセブンス駐屯部隊
シライ隊のメカニックチームで、今日から新型機のテストパイロットのアルバイト。決定だから」
もしかすると留置所の方が良かったかも知れない。MS、操縦出来ることがバレたら……。
「お話中失礼します。市長から緊急コールです。オーブ外務省本省の方が本国からすぐにでも
いらっしゃるそうです。市長と隊長に直接お話が有るのだそうで。――はっ、すぐに連絡を……」
#2 バイト先、決定。
『MP各分隊は予定通り騎士団警備支隊と連携の上、主要市道の封鎖、警戒を継続して下さい』
MPのパトカーがほぼ全部集まって空港から公園までの道を封鎖している。公園の中は
緊急ランプを回したナヴィを先頭にして、こちらは黒い高級車が天井にランプを乗せている。
『現在業務に就いている者以外は一種制服で1245までに中央公園に集合して下さい。
現在、全隊コンディションイエロー発令中。セレモニア3機以外は全機発進準備で待機。
クイーンオブセブンスはパイロット不在。ガーディアン1,2は双方、準戦闘待機願います』
公園内、ずらっとザフトの制服、それもいつもの服じゃなく緑色の詰め襟でパリッとしたヤツを
着込んだ人達がライフルを掲げて立つ。その一番奥、腰に刀を下げて長い槍と大きな盾を持った
白に茶の差し色のジンオーカーが2機。本体、背中の銃、盾、腰の刀。全て飾りが付いている。
そして槍の先には旗。セブンスオアシスの市樟旗がザフト旗と組ではためく。
その二機の後ろ。白にダークピンク、頭に飾り羽を付けたザクが、こちらもかなり豪華に
装飾された、まさに巨大と形容して良い重そうな剣を両手で地面に向けて持って立っている
コードネーム・クイーンオブセブンス。式典でしか使わない、かぁさんの専用機だ。
そしてパイロットが不在なのは、整列したザフトの制服の先頭に立っているから。
みんなと同じく緑の制服だけど、白の襟飾りには金の刺繍。長い裾の上着。帽子の形も同じく
つばの付いたMPのそれとは違って、黒いつばに金の装飾。正面に豪華な刺繍でザフトマーク。
そのサングラスには、オレンジのドレスを着たリョーコちゃんが緊張した面持ちで映っている。
「ねぇ、サイトーさん、あたしの服、どうして肩に飾りが付いてるの? 胸にバッジも付いてるし」
制服の肩や襟に飾りが付いているのは、これだけ並んでいる中でも人数はかなり限られる。
更に飾りに刺繍まで有るのはサイトーさん含め前の方に並んでるほんの数人。あたしの服は
勿論刺繍は無いし帽子も庇がないけど。コレは隊長の娘だから、って言う事なんだろうか?
「MSパイロットってだけで給与ランクで最低3つ上が……。ん? ――そ、エラい人用の服って事。
書類上バイトじゃないから、キミは。バッジはMSパイロット樟。それはMS免許もってる印だよ」
「――え? あたしエラかったの? そうだ、それにあたしMS免許の試験なんて受けてな……」
「学校の勉強はおいといて、キミは素質があるから2ヶ月前に簡単に一発で取ったじゃないか。
書類の上では、ね。でも素質は本物……、どうやら来たみたいだ。敬礼、教わったとおりにね?」
一台だけランプの乗っていない黒い車。前の部分には小さなセブンスとオーブの旗が揺れる。
その車が公園の真ん中、市長の正面に止まる。青年将校と共に降りてくるスーツ姿の男性。
「きぉーつけーいっ! 総員っ、敬礼ぃっ!!」
その場の全員が黒い車に向かって敬礼する。オーブの軍服を着た青年が一人敬礼を返す。
敬礼に囲まれたリョーコちゃんが、背筋を伸ばして両手を前にお辞儀をするのが見えた。
『市庁舎への移動開始直後からプランCに移行。道路封鎖の解除は市庁舎到着まで継続。
各班対象の安全確保を最優先。コンディションイエロー継続中。2号車は先行し移動開始――』
#2 バイト先、決定。
「シライ隊長閣下。お話の前に、少しだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか」
数時間後。既に夕焼けが間もなく消えようかという頃、スーツに身を包んだオーブの全権大使
を名乗った男性はオーブ国防軍幹部の制服の青年を伴って駐屯地の隊長室に居た。
かぁさんとその男性が対峙して座るあまり大きくはない部屋。かぁさんの後ろにはあたしが
気をつけで。その男性の後ろには同じく気をつけで帽子を小脇に抱えた青年、そのとなりには
背筋を伸ばして、でもややうつむいたリョーコちゃん。それが、いま部屋の中の全員。
既に帽子は机の上に置いたかぁさんが、サングラスを外すと右目に片メガネをかける。
「シライで結構です……。こちらの事は気にせずご随意に。そちらが望まれた会談です」
「先ず私の立場です。全権大使ではありますが、氏族に仕えるものである旨、ご承知置きを
頂きたく存じます。――そしてお嬢様、到着早々ご挨拶も致しませんで大変な失礼を致しました」
「……あなたのお立場もおありでしょう。それに氏族の銘のお陰で留学までさせて頂きながら、
わたくし個人は未だ何もなさぬまま。大使殿が留学生に大仰な挨拶等、むしろせぬが普通です」
すっ、と頭を上げると凛としてそう言うリョーコちゃん。かっこいい! ……え? 氏族?
そう、一昨日の世界地理だ! 氏族はオーブ国内で絶大な支持と権力を誇る……。あれ?
「――っ! 駐留武官を、セブンスに。そう言う……事、ですか。市長はどのような回答を?」
「先だって、ザフトさえ良ろしければ何も言うことはない。と言う旨の回答を頂いて参りました」
MSの件を誤魔化す為にオーブの軍人が来る。と言う事だろうか。政治の話は良く判らない。
ただプラントからある程度の独立を許された、プラントで無いプラント、それがセブンスだ。
かぁさんも住んではいるが戸籍はプラント。ザフトも居るが、それはセブンスの軍隊では無い。
オーブと仲良くするのは悪くないだろう。技術は世界一なのだ。とは世界地理で習ったばかり。
しかし軍人が送られてくるとなればプラントが黙ってはいない。プラントの食糧増産研究施設、
それがセブンスオアシスの本来の姿だからだ。だからこそザフトが基地を構えている。
「ご心配はごもっともです、シライ隊長。ですが駐留武官はリョーコ・ゲレイロ”准尉”一名のみ」
「――っ! わたくしに階級、国防軍にと!? おじさまは何を……」
椅子の横から男性が取りあげたのは、オーブの百貨店のマークの付いた大きな紙袋。
場にそぐわないことはなはだしい。あれの中身、何なんだろう……?
「あくまで臨時の措置ですが、受け取るかどうかはご自身の決めること。と旦那様は仰いました。
MSにお乗りになるなら、こうするより他ないのです。末流とは言え氏族に連なる者で有ること、
お忘れめさらぬ様。勿論、お断りになっても留学中止等無い旨、お約束は頂いて参っております」
かぁさんが机で組んでいた手を離すと、椅子に座り直してインターホンの通話器を取る。
「方面軍(うえ)にはこちらから話をします。セブンスとオーブの関係もありますし、今回の経緯を
みても妥当な話ではあるでしょう。――事務長に来るようにと。……後は本人の意向ですが」
困った顔でリョーコちゃんは隣のオーブ国防軍の制服を伺う。
「……。出来るならやってみせれば良い、イヤなら断れ。伯父上は自ら決めろと言っておられる」
短く揃えた茶色の髪、端整な顔立ちに鋭い目つき。その目がリョーコちゃんを正面に捕らえる。
「……兄様。その制服、わたくしが着て、それでおじさまが困らぬと言うのなら、――やります!」
にいさま? あのかっこいい人がお兄さん! いやいやそれより、リョーコちゃん。何者っ!?
つーことは紙袋の中身、国防軍の制服? …………えーと。何考えてんだろ、この人達。
=予告=
リョーコさんのお兄さんと公園で日向ぼっこのあたし達。あぁ、なんて幸せ……。
「彼女は関係ない。用があるのは、俺たちだけだろ!」
『次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
【PHASE-03 登場、セイギノミカタ。】』
なに? このヤバげな感じ。……どうする、あたし!
今回分以上です、ではまた。
※ミツキが長い裾の緑の服で登場しています。が、本編、外伝ともこういう服装の人物は
未登場だったはずです。まぁ、さして上ではないにしろエラい人を示すマークと言うことで。
その他はなにしろ即席部隊故、全員が緑の服です。
ちなみに裾の長い服はミツキのみ。彼女は軍功をあげようが黒い服を与えられる程、
マジメでは無い筈ですので。生真面目ではあってもマジメじゃない人。ムツキの周りの
オトナ達は、そんな人達ばかりです。
ちなみに普段はムツキも含めて全員無印種のバルトフェルド隊みたいな感じの服装の筈
です。日差しがあるので基本長袖、帽子も多分つばの付いたものをかぶっているでしょう。
そんな中、次回以降の駐屯地内でのリョーコさんは一人、種死アークエンジェル乗員等と
同型のオーブの軍服を着て居る筈です。勿論種なので帽子は無し。
その辺についての細かい描写は多分しないですけど。
投下乙です。
やばい、強化人間だった!
どうなるのかどきどきです。
>>208 文書係様、はじめまして
コーラ短編(長編?)、パトリック隊員として楽しく読ませてもらってます
sswikiを読みやすいように(?)入隊編を前後編にして作ってみました
後半の離脱編も前中後で分けて作りたいのですがよろしいでしょうか?
224 :
文書係:2009/09/15(火) 03:48:57 ID:???
>>223さん、はじめまして。
『短編(の予定だった)小説 パトリック・コーラサワー』の文書係です。
編集して頂いているんだなと思いつつ、どなたか分らずご連絡が遅くなり、すみませんでした。
自分も普段はパトリック隊の隅っこ(文書係は非戦闘員なので)にいます。
長々とここまでお付き合い下さった方々、また編集のお骨折りを頂いた方々、
どうもありがとうございます。あと10〜12レスほどでの完結を予定しています。
さて、段々看板に偽りありになってきたので、wikiの方のタイトルは
既に『補完小説 パトリック・コーラサワー』になっています。
それに続けて現在は
前編 アロウズ入隊
後編 アロウズ離脱
(補編 短編小説○○ 戦士の休日←※未投下分)
としているわけですが、
各編を分りやすく前後編あるいは前中後編に分割、とのことなので、「編」字の重複を避け、
T アロウズ入隊 前・後編
U アロウズ離脱 前・中・後編
(V 短編小説○○ 戦士の休日 前・後編←※今週末くらいには、多分……)
として頂けると助かります。
あと、お恥ずかしいのですがアロウズ入隊の1〜10、同離脱1〜21などの章の数字を
◇ 20 ◇
例えば↑のように、元のような見出しでなくて構いませんので、文中に便宜上残しておいて頂いて
いいでしょうか?投下の切れ目で内容の断絶があるのと、内容を修正・訂正する際の目印が
ないと自分で分らなくなってしまうので。修正は公式4巻の内容次第なのですが。
色々面倒なお願いをして申し訳ないですが、もし宜しければお願い致します。
復刻版 月刊新人スレ9月号目次
20世紀末の東京湾岸。ロックオンは何故か仕事にあぶれた作業員として釣り糸をたれていた……。
マイスターの憂鬱 〜ロックオン・ストラトス、フリーターになる〜
>>10-14,16
アスランにあてがわれたホテルの部屋、そこに現れたピンクの髪の少女が彼に突きつける要求は……。
SEED『†』
>>24-28,33-37,42-47
天上人が姿を隠した漆黒の宇宙。戦闘の火花を散らすのはソーマ・ピーリスとコーラサワーだった……!
劇場版 機動戦士ガンダムOO 木星の花嫁 ”Bride in Jupiter”
>>52-60,63-66,84-89,91-93,113-120,122-123,128-133
彼女の仕事は、エクステンデッド――戦闘用に強化された少年に、人殺しの技術を伝える事。
SEED『†』外伝 スティング少年編 口付けよりも殺しを優しく 〜kiss and kill me〜
>>73-80 輝く銀髪と流れる黒髪、まるで運命の様に二人の少女はMSに…… 。大人になったミツキにも注目!
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
>>105-109,162-168,214-220
謎の勢力に襲われるジュピトリスワン。そしてついにソレスタルビーイングが武力介入を決断する!!
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
>>173-180,
堅物カティと、不死身のコーラサワー。ダブルオーSSの中でも大人気を泊するこの作品は新人スレで!
機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー
>>147-148,186-188
ミネルバVSタケミカズチ。それぞれの思惑を胸に、ダーダネルス海峡戦、ついにSEED『†』で勃発!!
SEED『†』
>>193-201,204-206
新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】
>>1,2-6
各単行本も好評公開中
詳しくは
ttp://pksp.jp/10sig1co/ そして
ttp://arte.wikiwiki.jp/ までアクセス!
・エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。素材は新シャアなので一応ガンダム縛り。
・投下作品とのリンクを問わず絵師、造形職人の方をしつこく募集中です。 勿論新人スレですので
絵師、造形職人さんも新人の方大歓迎です。
・当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
まとめサイト管理人様にご用の方は、トメさん今日は残業何時まで? とお声掛け下さい。
・スレ立ては450kBをオーバーした時点で、その旨アナウンスの上お願いします。
編集後記
久々にやってみるとしんどいなぁ、面白いけど。職人さんのやる気に繋がってくれれば嬉しいです。
何より自分で読むとき楽なんですわww
正直、週単位で更新する方がらくちんだと言う事実を突きつけられました。
来月もやるかどうかは仕事次第です。すいません。
以上お久しぶりの三次職人でした。
227 :
文書係:2009/09/16(水) 00:43:03 ID:???
三次職人さん(でいいのかな)乙乙dd!
自分はここへ来て半年なので、初めてお目にかかります。
いやいや餅が上がりました頑張ります。
ガンダム縛りに吹きました……あ、エロはアウトでしたね。
お久しぶりの名調子!
編集長、無理はしない程度に更新してもらえると嬉しいです
編集長お久しぶりです!
懐かしくて涙が出てきそうです。
ありがとうございます
なんとも恐縮する限りです
テンション上がりまクリスティーで頑張ります
と言ってるそばから、投下が予告より遅れまくりでお恥ずかしい
ガンクロは新人だけが使ってるわけじゃないから程々にな
まあ、wikiでわざわざページ一覧を覗く人は居ないだろうから、作品一覧のリンクだけ消しておいた。
実用上は、これで重複が無くなって問題ないはず。
233 :
文書係:2009/09/17(木) 17:04:03 ID:???
>>231 >>232 こんにちは、文書係です。
先ごろ私こと文書係を含めた複数人でそれぞれ更新をしましたため、
更新が連続し、また同内容のものが一時期複数できてしまいました。
編集して下さった方々との連絡を怠り、また自身の編集知識の
不足から、ガンクロ・wikiの関係者の皆さんと他のSS職人さん、
またご好意で編集して下さっている皆さんに、多大なる
混乱とご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び致します。
今後はこのようなことがないよう留意して参りますので、
どうぞご寛恕下さいますようお願い申し上げます。
いやwikiって誰でも編集できるのが売りだから連絡取り合うとか気を使う必要ないし
被ったから消しただけで新人の専用まとめじゃないことを利用者が覚えとけばいいがな
おまえら、傍目には
なのはクロス専用にみえるとか言うなよ?
恐ろしい牽制合戦だな
今度から重複しないように気をつければ良いでしょ。
八丈島さんのをそのうち編集しようかと思ってるけど、
そのままコピペで良いのかな。
ありがとうございます。
アクト1なんて、特に手を入れてマルッと直したくて仕方が無いくらいのですが……
ただ、アクト1前編の人物名「」行を、それ以降のスタイルにして頂けたらすごくうれしいです。
完結したら手直しを含め自分で編集してみようと思うので、
お手間でしたら、そのままコピペして頂けるだけでも幸せです。
お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。
239 :
文書係:2009/09/19(土) 00:59:04 ID:???
こんばんは、文書係です。
>>190さん、感想ありがとうございます。
また、更新の件ではご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
誉めなくても自分で調子に乗ってしまうパトリックの性格を考えると、
カティとしてはあの一言だけでも言葉を選ぶのが大変だろうと想像しました。
誉めすぎるとフラグ立っちゃいそうですし……。
自分は00のどのキャラも基本的に好きなのですが、
MSは量産機が特に好きなので、量産機乗りとその周辺の人々に
つい目が行ってしまいます。
そんな訳で語られるにとどまっていたビリーですが、補編の視点は彼に移ります。
真の主人公はメインタイトル通り多分、パトリックのままなのですが。
しかしなんという慧眼。
>>191さん、感想dです。
みかんネタに反応して下さる方々が居て嬉しいです。
このSSを書き始めた頃から、パトリックのゲームのセリフと並び
このネタは入れたかったので。
補編ではさる事情で(答えは↓)更にアホになりますので、引き続き宜しくお願いいたします。
240 :
文書係:2009/09/19(土) 01:00:08 ID:???
お騒がせしたお詫びを兼ね、
この辺で流れを変えて続きを2レス分投下します。
241 :
文書係:2009/09/19(土) 01:07:07 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その1」
>>186-188 その日ビリー・カタギリの身は、アロウズ大型海上空母の上にあった。
叔父ホーマー・カタギリ司令の強い勧めで出席した隊員慰労パーティーに、彼は5分と経たないうちに
嫌気がさして会場を後にした。
叔父は入隊以来、彼のために何かと世話を焼いてくれ、今回も非社交的な彼に、他者と交流を深める
機会を与えてくれているのだろう。その点はビリーも重々承知していたけれども、見ず知らずに近い
赤の他人と何を話題に談笑してよいやらさっぱり見当がつかず、叔父のこのような配慮を、正直有難
迷惑に感じていた。
――人には向き不向きというものがあるんです。
つい先日も、陸で催されたアロウズの支援者が集まるパーティーに半ば強制的に同行させられ、
嫌な思いをしたばかりだった。
――そんな暇があったら、試作機の性能実験の一つもしたいところなのに。もう懲り懲りですよ叔父さん。
そう思ってもはっきりと口に出せないところが、彼の弱さであり、また人の好さでもあった。
気分直しに外の風に当たろうとデッキに辿り着くと、座り込み、酒を飲んでいる先客がいた。
「ああ、君は――」
「AEUのエース、パトリック・コーラサワー様ですよ〜」
先客の男は相当酒に飲まれているらしく、おどけた口調で名乗りを上げる。
男は方膝を立てて側壁に身をもたせかけ、右手でワインボトルを鷲掴みにし、左手に空のグラスを
掲げ持ってビリーに向け、挨拶代わりに軽く揺らした。濃い緑の軍服の襟は大きく開かれ、胸許が
はだけている。
それでもだらしないというより随分と様になって見えるのは、その男が容姿に恵まれているせいだろうと
ビリーは結論付けた。
――エースパイロットの要件には、ルックスも入っているのかな? まさかねえ。
ビリーも心の中で呟いて、仕返しに軽くおどけてみせる。
彼の盟友である元ユニオンのエース、グラハム・エーカーも、同性のビリーが見ても惚れ惚れするような、
金髪翠眼の美男子である。
近年顔を負傷したものの、その傷がかえって若者にありがちな青臭さを消し去り、男としての凄味を増して
古武士の如き風格を添えたようにさえ思うのは、長い付き合いからくる贔屓目なのだろうか。
打って変わって、目の前にいるパトリックはといえば、分りやすくいえば女好きのする、見るからに洒落た
感じの色男であった。
異性に目もくれず、ただひたぶるに己を高め討つべき敵と向かい合う、ストイックな求道者であるグラハムを
見慣れたビリーからすれば、ちゃらちゃらした容姿もおどけた態度も、やや薄っぺらに映る。
初対面で薄っぺら、と決め付けてしまうのは聊か短慮のきらいがある。ここでビリーの名誉の為に言うならば、
パトリックは覚えていないようだが、ビリーは以前彼に会ったことがあるのだった。
242 :
文書係:2009/09/19(土) 01:11:16 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その2」
今を去ること5年前、南アフリカの軍事演習場において華々しく披露されたAEUの新型機、イナクトの
テストパイロットに起用されたパトリックに、グラハムとビリーは声をかけられたことがあった。
碧空の下、風に靡く波打つ赤毛に色鮮やかな浅葱色のパイロットスーツのコントラストが、彼を戦場に
不似合いなほど、粋に引き立てて見えた。
――どこの部隊よ?
少し偏屈なところのあるグラハムは、パトリックのぞんざいな言い方が単に気に食わなかったのか、
対立国家群のエースである自分の名と所属を知らないことを無礼と思ったのか、
――知らないなら、答えない。
挑戦的な笑みを浮かべて、けんもほろろに彼をあしらった。
――やめなよ、グラハム。
知らないから聞いているに決まってるじゃないか、と分りきった助言をしても仕方がないので、ビリーは
申し訳程度に制して口をつぐんだ。どうせグラハムは人の忠告など聞く耳を持たないのだから。
ビリーはグラハムの背後で、いかにも勝気そうな二人が、一大イベントの前に盛大に喧嘩でもやらかしたら
どうしようかとヒヤヒヤしながら見守っていた。幸いパトリックは整備兵に呼ばれるままその場を後にし、
ビリーはほっと一息ついたのだった。
しかしその後の完成披露演習において、観覧席にいるビリーがイナクトについて、ユニオンフラッグの
猿真似に過ぎないとグラハムを相手に酷評すると、
――そこの! 聞こえてっぞォ!
さっき耳にしたばかりのパトリックの声が、イナクトのスピーカーを通し演習場全体に響き渡った。
耳聡く聞きつけた点はイナクトの集音性を評価すべきだけれども、AEU幹部をはじめ軍関係者、軍需産業の
お偉方も列席している晴れの場なのだから、大人の対応で聞き流してはもらえないものだろうか。
ことを荒立てるのを好まないビリーはそう思ったが、パトリックはどうにも気が済まないらしく、わざわざ
コクピットから姿を現し、ビリーとグラハムを指して直接怒鳴りつけた。
――今、何つった!? え? コラ!?
ビリーは冷や汗をかきつつ、涼しい顔のグラハムを横目に、ただ苦笑した。
容貌はまずまずだが、思慮の足りなさそうな血の気の多いパイロット。それがビリー・カタギリにおける、
パトリック・コーラサワーの第一印象だった。
聞くところによればパトリックは以後、対ソレスタルビーイング戦に出撃しては派手に撃墜されるのだが、
いかなる過酷な戦況においても、何故かきまって彼だけが、毎回無傷で生還するらしいのだった。
そして出撃の都度、彼が上官カティ・マネキンに奉げる、友軍全体に鳴り響くという赤面ものの愛の告白は、
余りにも有名である。
俗事に疎く、大西洋を隔て出身国家群を異にするビリーの耳にすら、面白おかしい噂話として、しばしば
入るほどであった。
それらの意味で彼は連邦軍屈指の有名人であったが、ここ最近、先んじて転属したカティ・マネキンの
後を追い、志願してアロウズに入隊してきたらしかった。
――“不死身のコーラサワー”か……。
243 :
文書係:2009/09/19(土) 01:12:59 ID:???
今回投下分終了。
短編小説ビリー・カタギリ「戦士の休日 その3」に多分続く。
244 :
文書係:2009/09/19(土) 01:13:40 ID:???
>>223さん、重複の件で更新の際、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。
パトリック隊の皆さんはその2の3行目「浅葱色のパイロットスーツ」を
「新橋色」に脳内変換してお楽しみ下さい。
>>244 >>223です。こちらこそすみません。wikiの編集は一通りできました。
章の数字と文の改行を勝手にしましたので、もし間違いや不都合があったらよろしくお願いします。
あと補編のタイトルですが
短編小説ビリー・カタギリ 「戦士の休日」(↑の補編)
と作りたいのですがもし良いタイトル名があったらお願いします。
246 :
文書係:2009/09/19(土) 01:42:52 ID:???
>>245 こんばんは。
夜分の上、ご多忙のところありがとうございます。
タイトルは
>>245さんの挙げて下さった通り、
短編小説ビリー・カタギリ 「戦士の休日」
でお願いします。
今までに書いた分で、ちょこちょこ恥ずかしい
間違いをしていることに気がついたので、
(致命的なのは先日こっそり直しましたが)
これから明日にかけて訂正に行ってきますノシ
>>238 とりあえずアクト1前編まで編集。
編集過程で(空白や改行を検索→タクに置換するときの都合で)改行位置が
かなり変わっているので、戻すべきところがあればご一報下さい。
以前、他のクロススレで書いていた作品があるんですが
クロススレが落ちてしまった為、また一話から投下したいのですがOKでしょうか?
途中からだと解らない人もいると思うのとどうにも期間が空いてしまったので
どうぞ
>>248 一部リライトも出来てお得、くらいな気分でどうだ?
OOの再構成を書いて見たので投下させて頂きます
私の世界は自由だった。
例え定められた運命でも"正統"なるガンダムマイスターから見て歪んだ
存在だとしても、二人のにーにーが傍に居てくればそれで良かった。
加えて言えば私の世界は自由だった。
ソレスタルビーイングの理念とか武力介入とか戦争根絶とか恒久和平の
実現とか私にはどうでも良かったし、スローネに乗って言われるがままに
にーにー達の背中を追いかけ、感情のまま"力"を振るえればそれで良かっ
た。
世界なんかどうでも良い。
変革なんかどうでも良い。
弱い奴は死ねば良い。
私は自分の生きたいように生きるし、楽しく生きられればそれで良い。
スローネが三機揃えば無敵だし、世界だってやり方次第で簡単に引っく
り返せる。
その為の力を私達トリニティは与えられて存在だと、あの時、あの瞬間
までは信じていた。
一発の銃声に掻き消され、未来の宿敵となるアリー・アル・サーシェス
が放った赤い閃光が"兄"を貫いた瞬間。
私の世界は既に変革を迎え始めていたのだろう。
機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第一話『変革の序曲』
「私達はガン…ダム…マイ」
「にーに!」
赤い粒子を撒き散らし、爆発炎上するスローネ・アインを見て、ネーナ
・トリニティは絶叫を上げていた。
スローネ・アインの漆黒の装甲が、機体内に内蔵された擬似GNドライ
ブの莫大なエネルギーで赤熱化し、膨れ上がる溶岩のように内部から溶け
爛れ、夕暮れの空に流れ星のように散っていく。
「はっっは!!ご機嫌じゃねぇか!」
ドライの機体から聞こえてくる声色は、ネーナの良く知る兄のミハエル
・トリニティの声では無い。
騙まし討ち同然でミハエルを殺害し愛機を奪った憎い仇が、ミハエルの
機体でヨハンを残虐なまでに蹂躙している。
砕け散ったスローネ・アインの機体片を道端の石を蹴飛ばすような感覚
で、サーシェスの放つ粒子砲が無慈悲に撃ち砕いていく。
生体認証がクラックされたとは言え、スローネ同士のリンクは未だ健在
なのかサーシェルの狂笑が耳朶を打ち続けた。
スローネの砕け散った破片がヨハンの肉に、大気に舞い散る赤いGN粒
子が血に見え、ネーナはドライのコクピットの中で唇を噛み締め、手が鬱
血するほど握り締めた。
「このおおお!」
怒りとも悲しみとも似つかない雑な感情がネーナの心を支配し、支援A
IであるHAROが止めるのも聞かず、ネーナはスローネのフットペダル
を踏みこむ。
擬似太陽炉が生み出す爆発的な加速がネーナの体を包み込み、後ろ向け
のまま隙だらけのサーシェスに、ドライの左腕に装着されたGNハンドガ
ンの砲身が向き、ネーナはトリガーに指をかける。
コクピット正面のレティクルがロックオンを告げてもサーシェスに動く
気配は無い。
スローネ・ドライのハンドガンにチャージされた擬似GN粒子が砲身を
赤く染め、ネーナは「殺った」と必殺を確信した瞬間、
「遅いんだよ、お嬢ちゃん!」
突如振り向いたスローネ・ツヴァイの腰部に装着された誘導兵器GNフ
ァングが弧を描き、視覚の外から攻撃がネーナを襲った。
赤い粒子砲がスローネ・ドライのメインスラスターに命中し、機体背部
から黒炎が立ち昇る。
全身を揺さぶる激しい衝撃がネーナを襲い、撹拌された内蔵から競り上
がって来た胃液が喉を焼いた。
「やられた」
メインスラスターを破損し揚力を失ったドライが大地へと錐揉み上に落
下する中、ネーナはフットペダルを巧みに操り、空中でドライの態勢を整
える。
しかし、ツヴァイのファングがドライに与えた損傷は大きく、太陽炉外
装の上部の始動機に亀裂が生じ、ドライの粒子変換効率が急速に低下し粒
子残量が見る見る内に減っていく。
やがて、機体を支える最低限度のGN粒子を無くなり、スローネ・ドラ
イはネーナの手から完全に離れ、重力に逆らう事なく大地に向け"飛翔"し
た。
ネーナの操縦技術が水準以上の技量だとしても、機能停止寸前の機体を
支えるのは不可能に近く、ドライは轟音を立て孤島のジャングルに墜落す
る。
巻き上がる土砂がドライの濃紅の装甲を汚し、激突の衝撃でひび割れ装
甲が、ネーナの砕けたプライドのよう無数の網目模様を走らせた。
コクピット内には機体大破を告げる警報が鳴り響き、ネーナは罅割れた
メットを投げ捨て帯空するツヴァイに目を向けた。
ツヴァイの橙色の装甲が夕日に煌き、あの"優しかった"赤いツインアイ
が、視る者全てを破壊せしめる獰猛な殺意をネーナに向けていた。
「ちくしょう…」
墜落の衝撃で額を切ったのか生温い感触を頬を伝い唇に鉄の味が染み渡
る。
強打した背中は、息を吸うだけ激痛が走り操縦桿を握る手が震えた。
HAROが何かをしきりに叫んでいるが、遠い遠雷のように判然とせず
、鈍った頭は思考をすり減らし、聞こえてくる仇の声すら異国の言葉に聞
こえ、ネーナは薄ぼんやりと昨日の夕食を思い出していた。
(にーに…私…)
ぼやけた視線の奥に、ツヴァイが銃口を定めている。
缶詰の豆と携帯食料はネーナの口に合わず、兄たちに何度も我侭を漏ら
した。
苦笑いしながら、自分達の携帯食料を分けてくれる兄にネーナは気分を
良くし微笑みを浮かべた。
獰猛な笑みを浮かべるスローネ・ツヴァイに二人の面影を見たネーナは
、兄が何故自分を狙うのか自分自身に問うが終ぞ答えは見つからなかった。
ただ、自分が何か悪い事をしたから、兄が怒っているのだと、幼子のよ
うな思考がネーナを支配し放さない
(ちょっと疲れたかな…まぁいっか、明日になれば全部元通り)
自らに起こった現実を理解出来ず忘却の彼方へ沈もうとしたネーナの心
を揺り起こしたのは、皮肉にも兄達の声では無く、荒削りな怒りと迷いを
秘めた耳を劈く猛々しい声、そして、大気を揺るがす剣戟の残響だった。
「…貴様は…歪…い…!」
オープン回線から聞こえてくるのは、自らの苛立ちを直接叩き付けるよ
うな苛烈で鮮烈な響きだった。
声の主はまだ若く、感情を制御する術を持たぬ若者のように聞こえる。
しかし、ネーナは映像を繋がなくとも、声だけで彼が誰であるのか理解
出来た。
刹那・F・セイエイ。
一度は命を助けたのにも関わらず自分達の命を狙った恩知らずの一味で
ガンダム・エクシアのパイロットだ。
正統なるガンダムマイスターを名乗る癖にやっている事は、消極的な平
和思想と散発的な武力介入のみ。
戦争根絶が、イオリア・シュヘンベルグの意志だか何だが、ネーナ個人
には全く関係の無い事だったが、彼らが不甲斐ないから、ネーナ達セカン
ドチームにお鉢が回ってきたとヨハンは教えてくれた。
蒼穹を彷彿させる装甲と大振りの両刃の剣を携えたガンダム・エクシア
が同じく巨大な剣を構えたツヴァイに空を蹴って向っていく。
擦り切れることを知らぬ生乾きの感情をサーシェスに叩き付けるエクシ
アの打つ込みは激烈の一言に尽きた。
しかし、刹那とサーシェスの操縦技術には元々大きな差があったのか、
機体性能が同一となった現在では、刹那はサーシェスに遅れと取っていた。
大空を縦横無尽に駆け巡るツヴァイにエクシアの反応が徐々に遅れ始め
る。
エクシアの青い装甲がツヴァイのGNバスターソードで削り取られ、動
きが鈍くなり始める。
(同じ穴の狢の癖に・・・出しゃばるから)
ネーナの目から見ても刹那の劣勢は明らかだ。
もう後幾許も無い内に刹那はヨハン達と同じ運命を辿るだろう。
家族の喪失を信じれない反面、マイスターとしても資質がネーナにヨハ
ン達の死亡を冷徹に告げていた。
死を認めてしまえば、兄達の一戦闘単位でしか無いあっけない死に様に、
ネーナは、不思議と何の感慨も抱くことが出来ない自分に僅かながらも戸
惑いも覚えた。
(計画に縛られてたのは私も同じか)
だが、兄達の死に冷めた視線を送る反面、サーシェスへの強い憎しみが
胸に根付いたのは彼女にとって幸運だったのだろう。
ネーナは、作られた存在、デザインベイビーである自分に人間的な感情
がある事に自虐的な笑みを漏らしながら、暁の空で戦うエクシアに目を向
けた。
自慢の大刀も根元からポキリと折れ、Eカーボン製の装甲も視るも無残
に傷ついている。
勝敗は既に決した。
計画の妥当性を考えるならば、戦闘に勝利するのを目的とするのでは無
く、速やかに戦場を離脱するべきだろう。
しかし、刹那は戦闘を続行し、獣のような獰猛な叫びを上げ、サーシェ
スに挑み続けている。
(何をそんなにムキになってんだか…)
刹那がネーナを助けに来たとは思い難い。
しかし、刹那が割って入らなければ、ネーナは確実に死んでいたのもま
た事実であり、間接的とは言え刹那はネーナの為に傷つき戦い続けている。
そんな側面も少なからず存在する。
刹那が傷つき続ける間は、ネーナは世界に存在する事を許され、あまり
長く無い人生を振り返る事が出来た。
(礼は…言わないからね)
刹那の絶叫と共に、エクシアの装甲がスローネのように真紅に染まり、
ネーナの視界から消失した瞬間、ネーナは冷たい闇へと意識を手放してい
た。
「で、刹那…こいつをどうしたいんだ」
「分からない」
「どうする」では無く「どうしたいのだ」と聞いたのは、ラッセ・アイオ
ンの精一杯の優しさだった。
髪を短く刈り込んだ髪型に鍛え上げられた肉体は、屈強な海兵隊員を彷
彿させるが、彼の本職はあくまでパイロット、ソレスタルビーイングガン
ダム運用艦"プトレマイオス"の砲撃手を務め同時に予備のガンダムマイス
ターでもあった。
正統たるガンダム・マイスターが任務続行不可能をヴェーダに告げられ
た場合、予備役である彼らがガンダムに搭乗する事を義務付けられている
が、ヴェーダとのリンクが途絶しイオリア・シュヘンベルグの計画に狂い
が生じた今、戦術予報士であるスメラギ・李・ノリエガから、ガンダムマ
イスター達の情緒に気を配るようにラッセは打診されていた。
ガンダムマイスター達は、皆卓越したMS操縦技能と身体能力を秘めて
いるが、まだ若く、メンタルで不安が残る。
最年長であるデュナメスのガンダムマイスター"ロックオン・ストラトス
"ですら二十代前半を迎えたばかりで血気盛んな若者なのだ。
ラッセも似たような年齢だったが、一線を控える身であるからこそ、冷
静に見えてくるモノもまた存在する。
マイスター達が過酷な計画の中で心折れた場合、若い刹那達に代わって
自分が戦わなければならないと、ラッセは静かに誓っていた。
(なんだってんだろな)
言葉が聞こえているのか、ラッセは目を伏せ、子供のように何か考え事
に興じる刹那・F・セイエイに向けて大きな溜息を付いた。
「まぁ、なんだっていいけどよ。我らが戦術予報士様からトレミーに戻れ
って指示が出てるんだ。宇宙に上がった国連軍の動きも気になる。こんな
状況であんまり時間は無いぞ、刹那」
「分かっている」
刹那自身、ネーナの扱いを決めかねているのか、落ち着きなさげに周囲
を忙しなく見回している。
一度戦場に出ると鬼神のような活躍を見せる刹那だが、こう言う態度は
年齢相応の少年らしく、時折見せる幼い態度を含め、ラッセは刹那を気に
入っていた。
「分かってると思うが、そいつは"悪戯"に民間人を殺した人間だ。情や情
けで助けて簡単に改心する相手じゃないぞ」
「…分かっている」
ガンダム専用強襲用コンテナ内の治療ポットには、敵であるはずのネー
ナ・トリニティが静かに眠っていた。
薄緑の再生液の中で死んだように眠るネーナは、まるで、茨の森の中で
王子を待つ姫のように可憐だが、その正体は刹那と同じガンダムマイスタ
ー、イオリアの計画を遂行する為の生まれたガンダムと言う絶大な力
を持つ戦う為の存在人の皮を被った獣だ。
いかに戦争根絶を謳ったとしても、一般人から見れば彼らのやっている
事は人殺し以外でナニモノでもない。
刹那もその事実を否定するつもりも無かったが、だからと言って簡単に
肯定し開き直るつもりは無かった。
ガンダムマイスター達は、己の罪と罰を背負って戦っている。
刹那も一度は怒りと使命感に駆られネーナ達に戦いを挑んだ。
怒りと憎しみで戦えば、戦争に拍車がかかり、後に待つのは完全な無だ
と知りながら、胸中に渦巻いた感情の昂ぶりと圧倒的な全能感に飲み込ま
れ剣を振るった。
戦場、闘争の場で勝敗を別けるのは常に怒りと憎しみだ。
より強い憎悪を相手にぶつけ、骨と肉を食らった方が勝利者となる。
戦争を憎み、戦争を仕掛けるモノを憎み、世界を歪ませる存在を憎み、
ガンダムによって駆逐する。
全ての憎しみはガンダムに集約され、憎しみは浄化され、そして、世界
は清浄な姿を取り戻す。
そう信じて戦って来たにも関わらず、最近刹那の真っ白な心に僅かな染
みのような濁りが現れた。
真っ白な平原に浮かんだ、真っ黒な染みは、形を変え、意義を変え、不
変であった刹那の信念を歪ませ、呪いのように汚染し始めている。
憎しみだけで戦っていいのか。
ガンダムと言う偶像に頼っても世界は変わらないのでは無いのか。
空を覆い尽くす新緑のオーロラが、大地に降り注ぎ、焼け付いた頬に優
しく絡みつく戦場で刹那は、あの時、あの瞬間、機動兵器であるガンダム
の存在に確かに神の残滓を見出した。
迫り来る鋼鉄の巨人を濃緑の粒子が貫き、捲くれ上がった爆炎が仲間の
遺体の骨と肉を真っ白に浄化させた光景は今でも刹那の目蓋の裏に焼き
ついて離れない。
神の名の元に親を殺し、稚拙な願望に縋った結果刹那は家族も友も当た
り前の平穏を失った。
神の名の元に人を殺し、争い続け世界を歪ませた罪から開放された友人
達を見て、刹那は安堵したのを覚えていた。
刹那にとって、ネーナ・トリニティは間違いなく悪であり世界の歪みの
一部だ。
しかし、歪んだ存在だからと言ってあの場所でネーナを放置すればどう
なるのか。
子供でも理解出来る設問だ。
大破したスローネでは、人里まで飛ぶことは不可能に等しく、考えられ
る選択肢は、絶海の無人島で一人孤独な死を迎えるか、よしんば、救助さ
れたとしても全世界のお尋ね者であるソレスタルビーイングの一員が、ま
ともな待遇を受けるとは考えにくい。
懐柔か服従か屈服か。
どちらにしてもネーナの未来は愉快な事にはならないだろう
もし、ゲリラや犯罪組織に保護されても、彼女に待つのは想像するのも
胸糞悪い末路だった
スローネ・ドライやソレスタルビーイングの機密保持の問題もある。
しかし、幾ら取り繕った所で、刹那がネーナを見捨てれなかったのは事
実であり、刹那自身もあの時どうすれば良かったのか、最善手を見つけら
れず考えあぐねていた。
「…俺は…ガンダムだ」
結局刹那は、困った時の御決まりの台詞を呟き、胸中に蠢く迷いを強引
に押し込めた。
今回はここまでです。
再構成だけあって心理状態や時系列は少々弄ってあります。
それでは失礼します。
>>砂漠2
投下乙
リョーコさんの堂々たるお嬢様ぶり、そして気になるムツキの正体
前作登場人物のその後も大人びていたり背が伸びていたりで芸が細かい
その手のアナウンスが一切無いのもむしろ良い感じ
後書き捕捉の類は、完全オリジナルに近い部類に入る以上ある程度仕方なし、か
説明文を細切れで地の文に紛れ込ませる、と言うのは成功していると思う
ただ空白行がもう少し欲しい気がする。字数制限、更に厳しくしたか?
>>編集長
投下乙
まぁ、がんばってね。としか言えないわけだが
同じ事を出来る才能もそうそうあるわけではなさそうだし
次回も投下してくれる事を切に願う
>>ビリー・カタギリ
投下乙
主役が変われど台詞が脳内で声優の声で再生される辺り、本当にキャラを掴んでいる
地の文も特に問題なし。このままがんばって欲しい
>>FRESH VERDURE
投下乙
どこかのスレの再掲載、と言う事で良いのかな
内容的にも地の文もそれなりになれている印象
ネーナ視点序盤、次回投下で話がどう動くのか期待する
テンプレにもある通り、改行時は単語で区切った方が読みやすい
字数で改行しても、大多数の閲覧環境の標準がプロポ−ショナルなので
残念な事に見た目もデコボコになってあまり美しくならないから
ついでにあくまでオレの個人的な読みやすさとしては
一行をもう少し長くしても問題はないのでは? と思うが如何か
しばらく見ない間にラッシュが…皆様投下乙&GJです
>>文書係さん
「アロウズ離脱」編終了乙でした!
カティの軍人らしい覚悟と、未来を思い描く様子に胸が詰まりました
「戦士の休日」編もビリーがすごいらしくていいですね
グラハムの子供っぽい態度に笑ったw
続きも楽しみにしてます
>>FRESH VERDURE
00再構成キタ!!
ネーナ視点が新鮮ですね
本編とはまた一味違いそうな各キャラ像が楽しみです
続きに期待しています
>>254 > 獰猛な笑みを浮かべるスローネ・ツヴァイに二人の面影を見たネーナは
> 、兄が何故自分を狙うのか自分自身に問うが終ぞ答えは見つからなかった。
それこそ環境次第だからどこで切るかは作者の裁量でいいけど、
「。」だけでなく「、」も改行した頭にこさせないように。
他がきちんとしているから気になったよ。
23時に第二話投下したいと思います。
恐らく大丈夫だと思いますが、投稿制限を受けると迷惑をかけるので、
見ている方が居ればひっそりと支援貰えれば助かります。
機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第二話「キスを頂戴」
スローネチーム壊滅より五日後。
ソレスタルビーイングガンダム運用艦"プトレマイオス"
通称"トレミー"メインブリッジ。
「全く理解し難い…あのスローネのマイスターを"保護"してトレミーに連れ帰るなど。
刹那・Fセイエイ。全く本当にどうかしている」
普段は静かなトレミーのブリッジで、腕を組み壁際にもたれかかったティエリア・
アーデが殺気さえ含んだ視線を刹那に向け怒声を放った。
「すまない…」
ティエリアの叱責も刹那は今は甘んじて受けるつもりなのか、視線を伏せ素直に謝
罪の言葉を述べた。
ティエリアは、刹那の殊勝な態度に鼻白みはしなかったものの、出鼻を挫かれたの
か、怒りを堪えるように眼鏡を光らせ鼻息を荒くする。
常に冷静沈着で思慮深いイメージを携えているティエリアだが、その身に秘めてい
る激情は他のガンダムマイスターにひけを取らない。
ヴェーダとのリンクが途絶し、一時は自己のアイデンティティを失いかけたティエ
リアだが、仲間達の強力を得て、現在は苛烈な決意を胸に戦っていた。
「だが、擬似太陽炉の件もある。ネーナ・トリニティをあのまま放置しておけば、俺
達の情報が外部に漏洩する恐れがある。捨てて置けなかった」
「…屁理屈だ」
刹那の言葉に、やはり納得がいかないのか、ティエリエは、憮然とした態度のまま
、隣に控えた長身の青年ロックオン・ストラトスに無言で同意を求めた。
「まっ、確かにな。ペットを拾って来るとは訳が違うしな」
何も不機嫌なのはしかめっ面のまま刹那を睨むティエリアだけでは無い。
大声こそ張り上げていないが、アレルヤ・ハプティズムも物言いたげな表情で刹那
を静かに見つめている。
ブリッジクルーである操舵手のリヒテンダールは、我が身に火の粉が降りかからぬ
よう、肩を潜め、静かに聞き耳を立てる事に没頭しているが、普段から陽気な彼は、
ブリッジに充満する張り詰めた空気がお気に召さない、むしろ針の筵のような雰囲気
が耐え難いのか顔を引きつらせながら、漆黒の宇宙に目を向け現実逃避に余念が無か
った。
隠すまでも無く、ロックオンもティエリアに勝るとも劣らず不機嫌だった。
ロックオンは、刹那を睨みこそしないものの、何度溜息と髪をかく仕草を繰り返し
、憂鬱気な表情で刹那から視線を逸らしる。
ロックオンも刹那の言い分の全てが間違っているとは思えない。
彼らは快楽殺人者ではなく、戦争根絶の為に無数の命を奪ってきたが悪戯に命を散
らした事は決して無かった。
トリニティ、彼らとは違うと自己陶酔のように思い込むが、力を失い丸裸同然の少
女をその場に残して、姿を消すのもまた人道に反する行為だ。
命を賭けて世界と戦っているからこそ、ロックオン自身が偽善だと理解していても
最低限の心は持ち合わせていたかった。
「で、刹那。どうすんだよ、あのお嬢様を」
「…分からない」
「分からないってお前な…あぁもぅ!」
刹那にどう反応仕返せば良いのか分からず、判断を一旦保留したロックオンは爆発
寸前のティエリアを羽交い絞めして押さえつけ、ティエリアの口を塞ぎ、罵声と怒声
の感謝祭を間一髪で遮ったアレルヤに内心拍手を送った。
「…刹那。ネーナ・トリニティはどう?」
指揮官席に座り、今迄沈黙を守り続けていたスメラギ・李・ノリエガが刹那に訝し
げな視線を送る。
「肉体的な健康状態に問題は無い。今はフェルト達が面倒を見ている」
「おいおい大丈夫なのかよ」
マイスターであるならば、生身でもそれ相応の戦闘能力を秘めているはずだ。
内勤組のフェルトとクリスティナでは、もしもの時に対応出来ないばかりか、彼
女達の身に危険が及ぶ恐れがある。
「ラッセを護衛に付けた。何かあればすぐに警報が鳴る」
「そう言う問題じゃないんだよ、刹那。俺が言ってるのは」
「ネーナ・トリニティは曲りなりにも"家族"を失っている。暫くは強行な手段に出な
い、はずだ」
声を荒立てる意見するロックオンの胸を刹那の重い感情が抉った。
鉛のように重苦しい重圧は、家族と言う単語の勢いを得て、ロックオンの深く柔ら
かい心に無遠慮に突き刺さる。
「刹那、お前!何言って…クソ!」
我知らずと何かに突き動かされるように声を張り上げていたロックオンは、苦々し
い表情のまま刹那から視線を切った。
「悪党に家族愛かよ…やるせねぇよ」
両親をテロで失ったからこそ、ロックオンは刹那の言い分を認める事が出来なかっ
た。
自分達の家族を殺した同族が、自分と同じ悲しみを抱いている。
たったそれだけの本当に当たり前の感情が許容出来ず、ネーナ・トリニティの存在
を肯定出来ずに居た。
そして、そんなネーナを肯定出来ない人物が、ロックオンの他にも居た。
「そう、分かったわ。それでスローネは?」
「イアンが修理中だ」
スメラギは、手元の端末を操作し、刹那が"拾ってきた"スローネのデータを検証し
始めている。
戦術予報士に必要な素養は、戦術シミレーションの戦績でもなければ、無数のデー
タを解析し有効活用する処理能力でも無い。
事実"だけ"を認め、最適な戦術を最速で取捨選択する、氷のように冷たく鉄のよう
に硬い精神だ。
"敵"に感情移入してしまえば、事実は客観性を失い、戦局は神の手に委ねられてし
まう。
自己を極限まで封印し、不確定要素が渦巻く戦場のノイズを事実のみよって殲滅す
る。
それが戦術予報士の仕事であり役目だ。
そんな職業を生業をしている彼女だからこそ、スメラギは刹那に「精神的には?」
と敢えて聞かなかった。
聞いてしまえば、スメラギの心の中でネーナの悲しみを肯定し、彼女を悲しみを知
る"人"である事を認めてしまうかも知れない。
スメラギの胸には、未だ埋める事の出来ない巨大な暗黒の穴が穿たれている。
笑いながら人を無慈悲に殺しす彼女が人を失う悲しみを知っている。
大切な人を失う耐え難い喪失感は筆舌に尽くし難く、もう二度味わいたくない、誰
にも味合わせたく故にスメラギはCBの誘いを受けたのだ。
ネーナの存在を肯定する。
世界の歪みを肯定する事は、彼女の信念と覚悟を根こそぎ奪って行きかねない危険
な存在だった。
「装甲の破損が酷いがプラン通り浮き砲台として使うならば、問題はないと言ってい
る」
メインモニターが格納庫へと切り替わり、MS用の固定台に収容されたスローネに
整備用ハロが無数に群がり溶接の光を上げている。
スローネもCB製MSの技術系統の流れを組むのか、装甲の組成成分はガンダムに
使用されているEカーボンに酷似している。
ガンダムの予備資材を使えば、応急修理程度ならば十分に可能だった。
「概ねこちらの想定通りか…使えそうね」
「スメラギさん、まさか」
スメラギの言葉にアレルヤがギョッとして目を見開く。アレルヤの耳が正常ならば
、スメラギはドライを実戦投入すると言っているのだ。
敵の鹵獲兵器を使う事は戦場では良くある事だが、ガンダムによる戦争根絶を目指
すCBにとって御印以外のMS使用はどうなのだろうか。
「国連軍が擬似とは言え太陽炉搭載型MSを投入して来た以上…こちらも戦力の増強
を図る必要があるわ」
「でも、あれは!」
「アレルヤ…貴方も見たでしょ国連軍の新型…GN−Xを」
「それは…」
特徴的なX型のテールバインダーと四つの赤いカメラアイ。
赤いGN粒子を身に纏った国連軍の新型MSは、従来のMSの一線を画す性能を秘
め、CBのガンダムに勝るとも劣らぬ性能を持っている。
それに加え各国のエース級のMS乗り達が完璧な統制の元に戦闘を仕掛けてくるの
だ。
多勢に無勢に加え、皮肉にもガンダムの存在によって一つになり始めた世界に対し
て、マイスター達は迷いは計り知れない。
性能差や実力差と言った字面以上に深刻な彼我戦力差が現在のCBと国連軍との間
には存在していた。
「戦力が足りないのよ」
スメラギの苛立ちと断腸の思いを込めた言葉にアレルヤは唇を噛み締め押し黙った。
「イアン、修理状況は?」
『おお、いきなりだな』
メインモニターには、CBが誇る総合整備士のイアン・ヴァスティが大写しなり、
スローネのコクピットに座り込んだイアンは、電装系の調整に余念が無いようだ。
『完全稼動には程遠いが、プラン通り浮き砲台として使うのなら問題無いレベルまで
なら、あと小一時間程度で終るなこりゃ。でも、ここの設備じゃガンダムの生体認証
、バイオメトリクスをはクラックするのは流石に無理だ。浮き砲台って言っても、腕
部の信号を一時的にジャックする極めて強引な手段だ。どんな不具合が出るのか予想
も出来ん。背負うリスクは高いぞこりゃ』
「いいわ。それから動力の確保はどうなってるの?」
『…トレミーには擬似太陽炉を運用出来る設備が無いからな。スローネには試作品の
GNコンデンサを使う。稼動限界も有線でトレミーの動力炉と連結すれば飛躍的に伸
びるはずだ』
「いいわ、引き続き作業を続けて頂戴」
『了解だ。吉報を待っててくれ』
イアンからの通信が途絶えると同時に、スメラギは戸惑いすら孕んだ重苦しい吐息
を吐き出した。
「でも、スメラギさん。パイロットは誰が」
何かを振り切るようにイアンに向け、盲目的に報告を促すスメラギにアレルヤは違
和感を覚えた。
普段の冷静なスメラギでは無い。
止めなければと考える一方で、GN−Xの性能を目の当たりにしたアレルヤにはス
メラギのプランを否定する具体的な解決案を提示する事が出来ないでいる。
段々と小さくなる語尾の中で、アレルヤの脳内に設けられた空白の脳量子言語野か
ら「無様だな」とハレルヤの声が聞こえたような気がした。
「俺が出来ればいいんだけどな」
エアロックが開く音と共に野太い声がブリッジに響き渡る。
エアロックが開く音と共に野太い声がブリッジに響き渡る。
「俺はGNアームズの操縦役が待ってる。まぁ普通はこいつらに頼むしかないだろう
な」
ラッセの肩から赤色のハロが滑り落ち「マカセロ、マカセロ」と根拠など欠片も見
つからない自信満々の合成音で軽快に話し出す。
赤ハロの後ろから「ズルイゾ、ズルイゾ」と色取り取りのハロ達が溢れ、あまりに
騒がしい様子にうんざりとしたラッセが、赤ハロを除いたハロ達を静かにブリッジ外
に蹴りだした。
「ネーナ・トリニティ」
ラッセとハロ達の"アタタカイ"交流を他所に、ブリッジに入ってきたネーナに刹那
は目を丸くした。
ラッセの後ろに控えたクリスティナが何とも言えない表情でマイスターの面々を見
回す中、フェルトだけが、スメラギの前に飛び出たネーナを静かに見つめていた。
「責任者に合わせなきゃ…舌噛み切るって聞かなくてな」
「アンタが、ここの責任者かしら」
ネーナにとって敵地のど真ん中だと言うのに、高圧的とも取れる態度を崩さない彼
女にラッセは嘆息し、そんなラッセをネーナは一睨みし黙らせた。
スローネチームの制服である特徴的な白いインナーウェアに身を包んだネーナは、
低重力空間を軽やかに移動し、スメラギの前に蝶のように静かに降り立った。
身体的な外傷は認められないが、ネーナの両腕には無骨な手錠がかけられ、首は暴
徒鎮圧用の探触子が当てられている様子は痛々しい。
「個人的には趣味じゃねぇんだけどな。規則だ」
「誰も責めてないわよ」
「ネーナ・トリニティ」
「改めてお礼を言わせて貰うわ、刹那・F・セイエイ」
にこやかに微笑むネーナに刹那の目が見開かれる。
治療ポットから出ても誰とも目を合わせずにまともに口も聞かなかったネーナが、
華のように可憐な微笑みを浮かべればたじろぎもするだろう。
刹那は天使のようなネーナの笑顔に、何処か薄ら寒い物を覚え顔を顰めた。
「俺はお前に礼を言われるような事はしていない」
「助けてくれたじゃない」
「偶然だ」
「優〜しい。でも、そのあんたの偶然のお陰で私は生き延びたの」
ネーナは微笑みを絶やす事無く手錠で繋がれた手で刹那に握手を求める。
無条件で差し伸べられた手に、刹那は戸惑い、差し出された手を微動だにしないま
ま見つめる。
この手を取る事は、どう言った意味があるのか。
考えれば考える程、頭の中で無数の答えが生まれては消えていく。
彼女が自分に何を望んでいるのか理解出来ず、答えを保留した刹那はやや憮然とし
た様子のまま、渋々とネーナの手を取った。
ネーナは、自分の言う事を"素直"に聞いた刹那に気を良くしたのか、もう一度だけ
微笑を返すが、スメラギに振り返った時には、笑顔は消え去り、鋭い眼つきと凄惨と
も言える笑みを浮かべていた。
「国連軍の中にアリー・アル・サーシェスの姿があるんですってね。ミハ兄のツヴ
ァイも」
サーシェスとツヴァイの単語の各々が表情を強張らせるなか、ネーナだけが泰然と
した態度を崩さず、逃げる事は許されないとばかりにスメラギに詰め寄る。
暗号通信では情報漏洩の恐れがあるからと、宇宙に上がる寸前にエージェントから
刹那に直接口頭で伝えられた完全な極秘情報のはずだ。
ブリッジクルーは当然知っているだろうが、"保護"されたネーナが知るわけも無い。
少なくとも刹那はネーナに喋っていない。
刹那の予想が正しければ、口を滑らせたのは恐らくクリスティナの方だろう。
やはり、刹那の予感通り、クリスティナはラッセの後ろに身を隠し、「ごめん」と
ジェスチュアーで平謝りしている。
「単刀直入に言うわ。私にガンダムを一機頂戴。そこで惚けてる腑抜けのマイスター
達よりも、もっと巧くガンダムを操縦したげるわ」
「貴様!私達を何処まで愚弄すれば気がすむ!」
「黙ってろティエリア。話が進まない」
今度こそ完全に堪忍袋の尾が切れた、むしろ爆砕し粉々に砕け散ったのだろう。
白く曇った眼鏡から怒りの波動が撒き散らされ、華奢な割りに強い膂力にロックオ
ンとアレルヤは、ティエリエを必死で押さえ込んだ。
「スローネがお前達のバイオメトリクスに反応するように、俺達のガンダムは俺達に
しか動かせない」
「そんな事知ってるわ。でも寄越しなさい。理屈じゃないのよ」
「無茶を言う。例え出来たとしても、俺達は自分のガンダムを渡すつもりは無い」
刹那の言葉にマイスター達が無言で頷く。
誰しもが引くに引けない目的を持っている。
戦争根絶の裏に隠れた個人の自我<エゴ>が、マイスター達に戦う力を与え、今日
まで生き残らせてきたのだ。
彼らの目的の為にはガンダムは必要必須な力であり、寄越せと言われて「はい、そ
うですね」と素直に言う事を聞くマイスターはこの場に居なかった。
「そう言うと思ったわ」
ありきたりな対応には興味は無いのか、刹那から目を背け、ネーナは嘲るような視
線をスメラギに向けた。
「だから、私に直談判しに来たってわけ」
「ご明察。話が早くて助かるわ」
「最近の娘は礼儀を知らないわね。こう言うときは菓子折り持ってご機嫌伺いから入
るのがセオリーよ」
「私ピッチピチのナウなヤングだから、礼儀分かんないの。ごめんねオバサン。言葉
使いもこれで良い?」
「お、おばさ、ん」
年齢層を揶揄したような言葉使いよりも、おばさんとストレートに指摘された事の
方が腹に据えかねるのだろう。
スメラギの冷静な表情が崩れ去り、罅割れた心の殻の隙間から激情家の顔が鎌首を
もたげ始める。
両者の間に紫電が飛び交い、狭いブリッジには重苦しくも派手な火花が舞い散った。
帯電する大気は、触れれば黒コゲになりかねない危険性を帯びており、女と女の譲
れないプライド同士のぶつかり合いには流石のティエリアも顔を引きつらせ後ずさら
せた。
「刹那。あなたトンでもないお荷物拾ってきたわね」
「す、すまない。善処する」
スメラギが刹那をジロリと睨みつけると、背中に寒気が走り、居心地の悪さからか
刹那はロックオンに無言で助けを求めた。
こんな状況を作った刹那をロックオンが簡単に助けてくれるわけも無く「諦めろ」
と目線のみで促し、刹那はガクリと肩を落とした。
「お荷物かどうか、実力も見ずに決めるの?」
「次から次へと減らず口を。貴女はなんでそんなにガンダムに拘るのよ」
「勝てないからよ。私のドライじゃツヴァイに勝てない。ううん、正確に言えば、ア
リー・アル・サーシェスの駆るスローネ・ツヴァイには逆立ちしたって勝てない」
ドライではアリー・アル・サーシェスに勝てない。
ネーナの淡々と告げる事実には、なんの感情も乗せられておらず、また浮かんでこ
ない。
淡々と事実だけを見つめた割り切り過ぎた思考は、戦術予報士の視点から見てもい
っそ潔いとさえ感じる。
勝てないから次策を練り策の為に奔走する。
一度疑い出すとネーナの挑発的な態度ですら、こちらから情報を引き出す為の方便
に聞こえてくるから不思議だ。
最も高圧的な性格はネーナの"地"であり、スメラギの買い被りに過ぎなかったのだ
が。
「ガンダムならそれが出来るって言うの?貴女も良く知ってるだろうけど、スローネとガ
ンダムの基本性能は殆ど変わらないわよ。攻撃性と特殊性ならスローネの方が秀で
てるくらい、ガンダムに貴女の言う優位性があるとは思えないけど」
「あるわ…あの赤い鎧なら…、アリー・アル・サーシェスに勝てる」
「トランザムシステム」
機体に蓄えられた高濃度圧縮粒子を全面開放する事により、一時的にスペックの三
倍相当の出力を得る、純粋太陽炉搭載型の最大の切り札。
太陽炉がオーバーロードした濃緑色のGN粒子は、緑から赤く変質し、粒子励起状
態にあるGN粒子は通常の物と比べ密度も濃度も段違いに濃く強い。
赤い鎧とは言い得て妙だが、遠目から見ればガンダムが赤い高濃度粒子を纏ったガ
ンダムは、確かに鎧を纏っているようにも見えた。
「名前まで知らないわ。でも、ボロ負けしてた刹那が、赤い鎧を纏ったら、アリー・
アル・サーシェスを圧倒してた。あんな機能はスローネにはないもの、差し詰め純粋
太陽炉にのみ与えられたイオリア・シュヘンベルグの置き土産ってとこかしら。あれ
なら。あの力ならあいつに勝てるわ」
「だから、ガンダムが欲しいと…力の為に」
「そうよ。私は力が欲しいの。誰にも負けない。誰にも屈しない絶対的な力が欲しい
の。もう奪われない為に…」
手錠で繋がれた両手が怒りで青白く鬱血する。
確かにトランザムシステムがあれば、刹那達を何度も窮地に追い込んだサーシェス
と互角以上の戦いが出来るだろう。
しかし、トランザムシステムは爆発的な性能を得られる反面、システムが機動限界
を迎えると粒子を再圧縮するまで、機体の運動性のが極端に落ちる。
一対一の決闘ならば、スメラギも使うのを止めない。
しかし、サーシェス一人倒した所で後ろに控える二十機以上のGN−Xに嬲り殺し
にされるのがオチだ。
スローネドライは戦闘支援、索敵や情報解析に優れた機体だ。
そのメインマイスターならば、戦局を読む事に優れた、言わばスメラギと同質の存
在のはず。
不確定で断片的な情報とは言え、半ば捨て鉢にも見える戦術プランを選択するのは
理解に苦しむ。
仇さえ討てれば、後はどうでも良い。
長い間戦場に浸かり、いつしか人の死を一戦闘単位でしか悲しめなくなったスメラ
ギには、例え認められない存在であろうとも、生の感情を剥きだしで悲しむネーナを
羨ましく思う面もある。
しかし、無理と無茶が違うように、戦場では己を律する事が出来ない人間から堕ち
て行く。
激情に駆られたネーナでは、トランザムを用いようとサーシェスには勝てないだろ
う。
そんな人間にガンダムを託す事は出来ないし、太陽炉の中で眠る"コア<彼ら>"が
彼女をきっと認めない。
「貴女…アリー・アル・サーシェスに会ってどうするの」
「殺すわ…」
殺すの一言で、これまで形を持たず判然としなかったネーナ気配が、薄ら寒い感触
と共に形を持って立ち昇る。
ネーナの背後に姿を現す暗く重苦しい畏怖は、粘性を持った思惟となり、刹那の骨
身を犯し、今迄感じた事の無い恐怖を刹那は目を見張った。
殺意や憤怒では表現しきれない慟哭。
冷たい雨の中で一人佇んで絶対の孤独。
包んでくれる人も頭に手を当てて撫でててくれる人も居ない。
待ち人は現れず、空から降り注ぐ雨に体温を奪われ、永遠とも言える時間をたった
一人で過ごす苦痛が刹那の中に流れ込んでくる。
悲しんでいる。
脳裏に電流のような煌きが走り、脳髄と背骨を迸るネーナの思惟の光が、雑な感情
と共に刹那の感情に宿り、刹那の右眼がほんの一瞬だけ金色に輝いていた。
「やめなさい…復讐に身を焦がしてもろくな事になんかならないわ。過ぎたる炎は身
を焼くだけよ」
「身を焼かなきゃ勝てない相手もいるわ」
「それでも、やめなさい」
「あんたに何が分かるのよ!」
「分かるわ…分かるわよ」
スメラギの万感の想い込めた呟きも、ネーナにはナシの飛礫なのだろう。
労わるつもりで放った言葉も、相手に受け容れる余裕が無ければ、勘に障る発言で
しかない。
ネーナの目がカッと見開かれ、理性の檻から抜け出た本能が、ネーナの心を開放し
激情が堰を切って暴れ出た。
「嘘!分かるわけ無いわよ。大事な人を失った事も無い癖に!にーにー達は私の全部
だった。私の全てだった。にーにー達が居れば他に何も入らなかったのに、あいつは
笑いながらにーにー達を殺した。私はあの男を、絶対、絶対に絶対許せない!見つけ
出して必ず殺してやるんだから!」
「愛した人を失ったのは、貴女だけじゃないの!子供みたいに癇癪起こさないで頂戴」
「あんたのちっぽけな愛と私の愛を同じにしないで!」
「ちっぽけですって」
ネーナのちっぽけと言う言葉がスメラギの心と記憶を犯し、スメラギの頭の中で何
かが音を立てて切れた。
確かに互いに稚拙な愛だったとは思う。
愛、夢、希望、人生の全てがエミリオとスメラギの間には存在した。
勇敢で荘厳でドラマチックで、部隊が戦場で無ければ、極々有り触れた恋愛をスメ
ラギとエミリオはしていたのだろう。
人を救いたいと大層な目標を掲げる反面、小高い丘の上には白い一戸建てに子供は
二人と犬一匹。
たまには優しい旦那様と豪華なレストランで食事をして、待ち草臥れて眠り込んだ
子供たちの寝顔を旦那の肩からそっと覗き視る。
血で汚れた手にも関わらず、そんな少女顔負けの淡い幻想に心踊らさせた。
きっと、自分は刹那達の十分の一もの使命感を持ち合わせていないと、スメラギは
常々思っている。
しかし、エミリオ、想い人を愛した時間は、血と鋼鉄の巨人の咆哮に塗れて人生の
中でも宝石のように輝いている。
失った時間は、これから余りある人生の天秤の対として軽すぎる。
彼女の中であの時間こそが一番輝いていた時であり、まさに青春と呼ぶに相応しい
時間だった。
その輝かしい時を意も知れぬ他人から土足で踏みにじられあまつさえ罵倒された。
冷静な面の皮を剥ぎ取ってしまえば、後に残るのは年並の女の情念だ。
大津波よりも激しいうねりがスメラギの胸の中で渦巻き、火山の噴火にも等しい感
情のエネルギーが出口を求め、スメラギの小さな体を食い破ろうと蠢いている。
いっそ爆発させた方が、体にも心にも良いだろうが、指揮官としてのプライドと年
下に対する温情が彼女にに最低限の体裁を取り繕わせた。
「キスもまともにした事無い娘が愛だなんて調子に乗らないで」
取り繕わせたはずだが、彼女の口から飛び出たのは、実に大人気ない一言だった。
激昂するスメラギの口から"キス"と言う浮世離れした言葉が紡がれると、スメラギ
の言葉の何処に反応したのか些か疑問だが、キスと言う単語にネーナの目が釣り上が
り刹那をギロリと睨みつけた。
「刹那・F・セイエイ…ちょっと顔貸しなさい」
「なんだ…」
殺気を込めたネーナの視線に、刹那の鉄面皮が僅かに崩れ、パイロットスーツの下
に冷たい汗が流れる。
ネーナの細められた瞳は、猫科の肉食獣を彷彿させ、捕食する物とされる物を隔て
る根源的な恐怖と用途不明の重圧が、刹那の感情を揺り動かし、刹那は我知らずに一
歩だけ後ずさった。
「いいから来なさい」
「断る…俺は」
「まどろっこしいのよ!」
刹那はネーナが自分に何かを仕掛けて来る事は理解出来たが、その何かが分からず
戸惑いの表情を浮かべる。
確かに殺気は感じられるが、殺気のベクトルが刹那が今迄感じ慣れ親しんで来た物
とは違い過ぎて、鍛え上げられた体と危機感知能力が働かない。
明確に言葉に出来ないがナニカが刹那の脳裏を横切り、一瞬の判断ミスが刹那の行
動を鈍らせた。
殆ど猫のように一足飛びで刹那に跳びかかったネーナは、低重力状態でもしなやか
なに体をくねらせ、刹那の退路を塞ぐように器用に跳びかかる。
刹那の眼前にぬっと影が伸び、ネーナの顔が至近に迫ったと思ったら、唇に柔らか
いナニカが重ねられた。
ネーナが刹那の唇を奪った瞬間、ブリッジにの時間が静かに停止した。
唇と唇を合わせるだけの稚拙なキスだが、一秒、二秒、三秒と時間が流れる中で、
時は緩やかに戻り始める中、ロックオンのくせっ毛がより一層パーマがかかり、ティ
エリアの白く曇った眼鏡がパキリと音を立て罅割れる。
アレルヤの顔の半分がハレルヤと化し、リヒテンダールの間抜け面にクリスティナ
が携帯で写メを撮影し、ラッセが何故かハロの目を隠し、フェルトが頬が熟れた林檎
のように真っ赤に染まる。
たっぷり三十秒の間、刹那の"唇"を蹂躙したネーナは、スメラギに見せ付けるよう
に刹那から唇を離した。
唇と唇から唾液の糸が引き、照明に反射しヌラヌラと妙に厭らしく光る。
規制か?
はい支援
ネーナのキスを最後まで振りほくこと無く受けきった刹那の羞恥心には賞賛しかな
いが、粒子残量が残り少ないのか刹那は運動機能を完全に停止させていた。
刹那の反応は、初めて出会った時「触れるな」と憤ったあの頃とは雲泥の差だ。
冷たい戦闘機械のイメージしか無かった彼を何がここまで彼の事を変えたのか、ネ
ーナは、ほんの少しだけ興味を覚えたが、やがて胸の中で燃え広がるサーシェスへの
悪意に塗りつぶされていた。
「これでもあたしがガキだって言うの、スメラギ・李・ノリエガ」
「そう言うのがガキだっていうのよ」
勝ち誇った表情のネーナを無視し、スメラギは虚空を見つめ苛立たしげに呟いた。
今回はここまでです。
猿に巻き込まれてしまって申し訳ないです。
今後こういう事がないよう時間は調節して投下したいと思います。
>>260 いえ、多分違う方かと
>>277 GJ
スメラギとネーナのキャットファイト面白かったw
もしかして携帯からの投下かな?
PCからの投下なら投下前に一度Wordかなにかに放り込んでみるのお勧め
つまらない誤字脱字が目立ってしまうのがすごく勿体ないです
>>FRESHさん
投下乙でした。
>>全体
…はテンプレ参照。
改行位置は上の方々も言われている通りです。
句読点が不足気味でしょうか。
>>252 トリニティは与えられた存在だと〜
>>254 衝撃でひび割れた装甲が、〜
砕けたプライドのように無数の〜
生温い感触が頬を伝い〜
息を吸うだけで激痛が走り〜
>>254 意志だか何だか〜
或いは
意志だろうが何だろうが〜
打ち込みは〜
>>255 視るも無残→見るも無惨
(無残、という感情的な感想を伴っているため)
信じられない反面、マイスターとしての〜
>>257 〜力を持つ戦う為の存在人の皮を〜
↓
〜力をもって戦うための存在。人の皮を〜
〜力を持つ、戦うための存在。人の皮を〜
〜以外のナニモノ〜
刹那も〜否定するつもりも〜肯定し開き直るつもりは〜
↓
刹那も〜否定するつもりは〜肯定し開き直るつもりも〜
( も の連続を避けつつ、 〜はなく、〜もない という文の形)
>>258 見捨てられなかったのは
>>264 ティエリエ→ティエリア
>>266 事実のみによって
彼女を悲しみを知る"人"である事を
↓
彼女が悲しみを知る"人"である事を
(認める の目的になっている部分が重複するので)
味合わせたく故に→味合わせたくないが故に
無慈悲に殺しす→無慈悲に殺す
〜技術系統の流れを組むのか
↓
〜技術系統に連なるのか
あるいは、
〜技術の流れを汲むのか
>>267 従来のMSの一線を画す→従来のMSと一線を画す
マイスター達は迷いは→マイスター達の迷いは
大写しなり、→大写しとなり、
>>268 俺はGNアームズの操縦役が→俺にはGNアームズの操縦役が
>>269 〜ツヴァイの単語の各々が〜→〜ツヴァイの単語に各々が〜
>>273 ブリッジにの時間が→ブリッジの時間が
言い回しの完成度、キャラクターの描写と密度とも、とても良いのですが、
上記のように、改善すべき点が多いです。
原因は恐らくエディタかと思われます。特殊なエディタやワープロソフトを
使わずとも、wordに一度入れれば上に示した様な点は指摘されるかと思います。
後は、漢字の変換を懲りすぎている、というイメージを受けました。
文章レベルの話は此処までにします。
シナリオ的には、とても面白いです。
もしや携帯で書いているのでは? 共思いましたが、そうは考えられないくらい
描写がしっかりしています。
(携帯小説をバカにしているわけではありませんのであしからず)
ドライ大破からネーナ救出までの流れは、原作アニメがそうであっても
おかしくないくらいでした。きっと本編では、ネーナとルイスの修羅場をやりたくて
あえて刹那に助けさせなかったのでしょうが。
そしてトリニティを連れてきてしまえば、それぞれのメンバーがどう考えるか。
この辺りも、それぞれのキャラクタが、多少のコメディチックな描写を交えつつ
"らしい"動き方をしていて、楽しかったです。
(礼は…言わないからね)
>>256 ↓
「改めてお礼を言わせて貰うわ、刹那・F・セイエイ」
のコンボには、吹いたw と言わざるを得ません。
感情の変化(いわゆるツン→デレ、声優的な意味で)が早すぎるのか、
ネーナの記憶力が残念なのか、演技力が微妙に足りないまま狡猾なのか。
スメラギなら当然考えるドライのリサイクルについても、ちゃんとアレルヤから
危険性が発言されていて、ドライを手に入れてCBのみんなハッピー、とは
なりそうにない辺りが良いと思いました。
スメラギとネーナの ケンカ!年の差なんて も、殺伐としたOOの空気に
少年漫画的な風が入ってきたようで、新鮮でした。
GJ……と言いづらいのは、誤字と助詞のミスが多いが故です。
ですが、ストーリーはとても楽しみにしています。
投下乙でした。またの投下をお待ちしております。
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
アクト2 後編 1/12
ガリレオ艦
ジュピトリアンもまたリアクションをせざる得なかった。彼らにも目的はあり、その道筋に対して有用な提案とみなされた。
意見拾い上げ、艦長席にてジュピトリアンを代表する男は、MSデッキのユニクス、MSエウロパのミゲルとの会話をまとめる。
ターシン
「受諾し時を待つ。人質となるかもしれんし、向こうの攻め気を削ぐにはいい。
あとで花嫁様から連絡が来るだろう。但し、こちらの代表は花嫁様ではなく私が勤めることを納得してもらわねばな、
それに、予定通りの進路であれば、本日の出立が望ましいだろう」
そう彼女もまた、この場を形成する一つの要素を自負するものである。
当然のように、有用にして危険を孕む男と検討を重ねていた。
まさか立会人としてサジ・クロスロードが来訪するとまでは予想出来なかったにせよ、
当事者としての責任と、事態の進捗を望むものとして、和平締結へのプロセスは歓迎すべきものであった。
それはリボンズ・アルマークにとっても、些細ではあるにせよ彼の計画にとってプラスであると判断された。
ルイス
『どういうことかしらねリボンズ』
リボンズ
『なあに、勘のいい者なら誰でも考えることさ。そして誰も断れない。君の一押しも彼らには必要かもしれないがね」
ルイス
「ネネ、わかるわね。あなた達に受諾と部屋の用意してもらうわ、それと私のオブザーバーとしての立会いは可能かしら」
ネネ
「確認を致します。
承認はおりています。ただし参加はCBの条件のままとして各一人づつの計3名を尊重したく。
ルイス様の参加に限っては我慢をお願いするこことなりました。申し訳ありません」
ルイス
「了解、ジュピトリアンの参加者の一人となれば、さしずめ代表はあのターシンでしょう。
あなたの身体が空いていて退屈はしないで済むことで満足しましょう」
モニターにその代表者の姿が映し出された。彼は、彼女らの会話を聞き及んでいたことを臆面も無く言内に込めて語る。
ターシン
「せっかくのお誘いのところ申し訳ございませんが、日柄も良くなったとの事で、二度目の茶会の用意が整いました。
趣向をかえまして。少し遠出となりますが、茶亭までご足労願えますでしょうか。
実はそれもありまして、花嫁様のご提案、断ざるを得ませんでしたことをご理解いただければと」
その誘いは、一縷の望みとなるか、絶望への誘いであろうか、どちらにしても彼女は、赴き知らなければならないだろう
ジュピトリアンの小さな友人の為にも、そしてジュリトリスワンにいる数多くの仲間たちの為にも。
彼女の気持ちを先読みするかのように、リボンズ・アルマークは呟いた
『決まりだね』
2/12
アリオスアーチャー
アレルヤ
「双方から承諾をとったよ。どちらとも準備のため、明日からの開始を求めるとの事だけど、まあ引き伸ばしたいのは
こっちも同じだから、いいんじゃないかな。それと、ジュピトリアンからは部屋の準備は出来るって事で、
今日から先乗りしても構わないそうだけど」
サジ
「そう言うのなら、今晩から使わせてもらいますよ。少しでもジュピトリアンのことがわかれば、ルイスを……」
アレルヤ
「先走りは危険だよ。あえてリスクを減らすために、停戦の提案者であるルイスさんを同席者に指名しないことは、
君自身が決めたことだっただろ」
サジ
「そうでした…… 誰にどんな思惑があれ、ぼくは和平をまとめます」
自分も含まれているであろうと、認めながらもアレルヤは、仲間とも同志とも戦友でもないのだろう彼との過去を思い返した。
アレルヤ
「それじゃ、明日午後からの和平協議開始を両軍に伝えて、君のチェク・インを予約しておくよ」
そして、友人なのだと気付くことに手間取った自分に苦笑をするのだった。
ジュピトリスワン ブリッジ
セレナ
「明日が楽しみといったところですが、ホストから誘われてしまいましたから、早速お邪魔して来ようと思います。
多分CBも今日のうちに、あちらに行くのでしょうから入場を同じくしましょう。
ガンダムパイロットが出席するとは思えませんから、噂のサジ・クロスロード君の顔をさっそく品定め出来ますわね」
グラハム
「地球人に興味を示されるとは、宗旨替えですかな。まあ、ランチボートのセッティグを急がせましょう。
それと会場までのエスコートにはソーマ・スミルノフ大尉についてもらう。
わずかでも敵艦の情報を収集して、一度戻って休んでもらう。いくらなんでも彼女の体が限界だ」
ヤオ
「逢瀬を条件にとは、グラハム艦長もわかってきたというところかな。
それと交渉にかかわる全権を委譲するが、ランチに乗り込む前に一仕事頼まれてくれんか」
3/12
ガリレオ艦 ルイス居室
艦内モニターに、移動を開始したCBのガンダムが確認された。
併せてジュピトリスワンからも1艘のスペースランチが発進され、艦外に陣取っていたソーマ機と合流をして、
ガリレオに向かっていくる様子が見て取れる。
ネネの手を借り、パイロットスーツに身を包みながらルイスは和平会談よりも、先日の対面で艦長のターシンの言っていた
根源となる絶望に赴く覚悟を固めんとしていた。今から向かう先で、必ず終わりを導くための手がかりを見つけなければな
らない。それはリボンズにも共通の考えでもあるのだろうか、彼はただ黙っている。
ルイス
「これで準備完了ね。それでは行きましょうか。それにしてもまだ2日しか泊まっていないというのに、
この部屋では色々あったわね…… ネネ、その姿よりあっちの服のほうがずっと可愛らしいのにね」
自らのパイロットスーツよりも、ネネのそれがたまらなく悲しく感じた。初めて出会ったときには思いもしなかったことが、
感情を彩るようになっている。
ネネ
「ルイス様は何でもお似合いですよ、それでは右舷MSデッキへ」
ガリレオ艦 右舷MSデッキ
そこには、大勢のジュピトリアンによる幾何学的な列が作られていた。宙空を流れるように彼らの頭上を越えていくたびに、
敬礼の波と、彼女を称えんとする歓声がうねりをましてゆく。それに応えるルイスは、その熱気に圧されてのものではなく、
ネネの想いからの影響が彼らに向かわせたのだろうか、それとも自らのカリスマを浸透させることで、
今後必要となるであろう影響力を作り上げるといった、自らの意図に沿ったものであったのか。
ネネ
「ではガニメデをお使い下さい。お供としまして私がカリストで、ユニクスがイオで先導を致します」
重厚な外見を持つガニメデと呼ばれるMSは確かに、CBのそれを汲むものなのであろう。
かつて見知ったデータのそれとよく似ていた。気付いてみれば、イオや艦外のMSも設計思想の関連が感じられる。
なによりも先の戦闘で、ネネのカリストを見たときに、古傷のようにその既視感を感じてはいたのだ……
コクピットに身を滑らせ乗り込むと、ガガやレグナントに共通するようなコンソールの配置に気がつく。
リボンズ
『よかったよ、これなら君にもすぐに使いこなせる。操縦を代わりにしろといわれたらどうしようかと心配していたのだがね』
軽口を叩く居候を無視し、太陽炉を起こし、起動フェイズを確認していく。計器には光が灯され、
ディスプレイに情報と映像が次々と表示される。
対照的な構図であろうか、まさに来訪者を静に迎えるガリレオ左舷デッキの様子をサブモニターは伝えていた。
和平会談参加者の着艦が開始され、ランチから女性と思われるシルエットが降り立ち、CBのMSの背面ハッチから
ノーマルスーツを着た青年が、その姿をあらわしデッキへと遊泳をはじめる。
危なげなく降り立ちバイザーを取り外して、その素顔を見せた時にはすでに、ルイス・ハレヴィの気持ちの整理は
完了していた。その一挙手一投足を、昔から追ってきた彼女には、顔を見なくともサジ・クロスロードと見間違うことは
ないのだろう。
そして、彼が和平会談の立会いに自分を指名しなかった理由を、理解することも可能であったのだろう。
サジが自分に出来うることを考え実行しているという事実は、声を交わし、肌をふれ合うよりも、勇気と一体感を与えた。
ルイス
「こちら木星の花嫁、オールグリーン ガニメデ発進する」
バイザーを被り、その表情を胸にしまいこみ、ネネのカリストの作り出す高濃度粒子の圏に包まれるようにして、
光学シートをまとう遠出に出かけんとする3機のMSは、ジュピトリスワンの重力圏をそっと抜け出し、磁気嵐の中を
深淵へと向かってゆく。
4/12
ガリレオ艦 左舷MSデッキ
サジ・クロスロードがアーチャーのコクピットから身を乗りだすと、眼下には、少しばかりのランデブーをしてきた
ジュピトリスワンのランチが一艇と、出迎えをするためであろう2人のジュピトリアンが見てとれた。
宙空を泳ぎながら、自然とルイスの姿を探してしまうも、甲板にその足をつけ、バイザーを脱ぎ、
正面にこれから相対する人々の顔を見据えた時には、彼の目が余所に動くことはなくなっていた。
セレナ
「よろしくサジ・クロスロード君、私はジュピトリスワン代表セレナ・ソレンダ。ふーん言うほど頼り無くは見えないわね。
彼女は何が不満だったのかしらね」
感慨に浸る間もなく女性の声が彼を呼び止めた。勝手なことを言い立てるも、その言には情報の乱流が確認でき
ジュピトリスワンの認識を伝えているようであった。
サジ
「他の人が、どう思っているのかは知りませんが、何も成長をしていないのではと自問するばかりですよ。
改めましてサジ・クロスロードです、よろしくお願いします。それで、こちらには未来の伴侶を探しにいらっしゃったと
考えればいいのでしょか」
ジュピトリスワン計画の発足から様々なメディアで使用してきた話題で挨拶を返す青年に、
実のところジュピトリスワン代表にしてイノベイドという案外に複雑な立場でもあるセレナ・ソレンダは、
少しばかり愉快な気持ちになった。
話に聞くCBとは違い教条主義者の匂いを感じさせないことは、何より堅苦しくなくていいのだろう。
ジュピトリアン
「さっそく親交を暖められているところを申し訳ありませんが、
それぞれの方のお部屋へのご案内をさせて頂ければと思います」
初めてその姿を目にするジュピトリアンは、予想していたように何も自分達と変らない人間であることが伺える。
話しかけられたその声を聞いても、感慨を抱かせるほどのことはなかった。
2人の地球人は各々安堵と落胆の色を浮かべて、彼らの後に従ってデッキを離れていった。
言葉と表情をもって探りあいをしていた人々を見下ろすように、デッキに着艦していた2機のMSは、
それぞれの主人の命じるがままにガリレオを後にした。
そこには、互いに伝わるすべの無いはずの心配、想い、意図が濃密に行き来している。
そのパイロット達には、十分にそれが感じられるのだろう。
一つの出来事が始まるように、その影ではいくつもの事象がその距離を縮めてゆく。
それぞれの刻を奪いながら宇宙はその回転を続けるのだった。
支援入れておきます。
5/12
宇宙
ジュピトリスワンの重力圏を抜けてからは、潜行を解き、速度を増してその航跡を伸ばしていった。
外部との情報が遮断された磁気嵐の中を航宙データを頼りに進んでいく。ネネ機カリストの放出する高濃度の粒子が、
わずかに機体間の通信を成り立たせていたことで、退屈とは無縁であった。
それでもネネが一方的に話をしていただけに過ぎないのだが。状況予測とMSの習熟をこなしながら、
仮眠を挟んでいるうちに、時は自然と過ぎてゆくのであった。
艦内と異なり自然時間調節をほどこされていないコクピットの中で、時間の感覚を失い始めたとき、ディスプレイに
巨大な塊が映し出された。近づいて行くにつれ、その大きさは増し続け、計器による光学計算よると、
150kmを超える小惑星であることが判明する。
計算式は、それが通常の考えられる公転周期から、はずれていることを割り出した。
引き寄せられるが如くその懐に導かれるも、ネネとユニクスの機動からそれこそが目的の地であることをルイスは理解した。
リボンズ
『なるほど木星の花嫁には、これほど相応しい舞台はないだろう。なにしろこの小惑星こそが、ジュピターの妻にして
花嫁達の守護たる女神ジュノーの名を冠する星なのだからね」
ネネ
「こちらが、ご新居となります。小惑星ジュノー、またの名を花嫁の星です」
メロディを刻んでゆくような軽やかな語りは何を思ってのことなのだろうか。
この時ばかりは、ネネの表情を見ることの出来ないことがルイスを不安にさせた。
宇宙空間の中その大きさのわりに真円をもたないその星は、生命の存在を感じさせず。ネネの比喩した新居というよりも、
さながら宇宙に浮かぶ墓標に感じられてならない。
ゲートが開かれ、内部へと機体のまま進んでゆく。終着点となるのであろう広大な空間には、ジュピトリアンのMSが
墓所を守る石像の如く立ち並ぶ。先の戦闘やガリレオで見た黄の機体色ではなく、装甲の白と、その隙間から覗く黒色の
駆動部が、まるで大理石のようなコントラストを生み出していた。
ユニクス
「…… こちらより徒歩になります」
小惑星の中に入ってから一言も発していないネネに代わってか、ユニクスがその口をひらいた。
コクピットから降りてジュノーに足を着けるも、未踏の地に対する実感が湧くこともなかった。
居並ぶMSと同じく白色を身にまとうジュピトリアン達は、基地のスタッフというよりも先のイメージから
墓所を維持する墓守のようだ。そして、彼らに何らかの指示を下していくユニクスとネネが儀式を司る司祭へと
その姿を変えてゆく。それはこの地の持つ力であろうか。
リボンズ
『こうなってはイノベイドも哀れなものだな』
呟くように発せられたリボンズの感慨は、かつて見せた事のない陰鬱な風と苛立ちをまとっていた。
彼の心の障壁さえも、ここは揺らがせているのだろうか、ならば自分は果たしてここに来るべきであったのだろうか……
6/12
ジュノー内部通路
改めて軍装をまとい、イメージとした奥へさらに深部へと歩みを進めだす。幾つもの区画を過ぎていった頃には、
感覚的な斥力がその直感を肯定していく。
道の終わりを望みながらも、それを望めない気持ちを確認させる様な参道の途中で、ネネが初めてその口をひらいた。
ネネ
「すみませんが、少しお立ち寄りをいただけますでしょうか」
それまでの沈黙からうかがえたネネの躊躇いを受け止め、自らの決意を示すべくルイスは応じる。
ルイス
「そうね、時が来たら見せる事があるって約束してくれたものね、憶えていてくれてありがとう」
通路にある扉を解除して、中へとネネが招き入れる。ユニクスは事前に知らされていたのだろう、廊下の壁に背を預けた。
ドアをくぐり、ネネの傍らを通り抜ける際、少女の声が聞こえた。
ネネ
「ありがとうございます」
部屋と呼ぶに広すぎるその空間は、白いシーツが張られた寝台が床一面に整然と据え付けられているかの様な錯覚を
初めて踏み入れるものにあたえた。わずかにして目が慣れるや、寝台大の塊は箱状の機器であり、その上面から漏れる
白光の輝きを認識しする。
その時、この小惑星から墓所を連想する理由が、彼女の過去の記憶と共に顕わとなった。
スペインの荒野を望む先祖同胞の眠る台地の一画からから少し外れて、その場所は存在する事となった。
新たに切り拡げられた真新しい区画には、植えられたばかりの芝の緑が引き立てる墓石の白さが整然と輝いていた。
怪我の回復のため、埋葬から数日を経てやってきたルイスの目にした、あのときに死んだ人達の埋まる霊園の景色。
これが、これらが、墓であるのならば……
目線は虚ろに近くにある機器を覗き込む、そう人の亡骸が入っている、詰められて、並べられて、供えられている。
ここはやはり墓地だった。そして、その死体は他の記憶も呼び覚ます。
アロウズで見てきたテントの中身、次々と機械によって運ばれ、並べられ、晒され、おざなりにせよ未使用のシートを
かけられてゆく反政府ゲリラたちの死体の列
上げるべき悲鳴は、もはや彼女の人生には残されていなかった。ただ涙がその頬をつたい落ちてゆく。
ネネがひとつの棺に近づき語りはじめる。その声は小さく、それまで聞こえていなかった僅かな機械音も気付かせた。
ネネ
「これが壊れてしまった私の兄になります。成長の途中で意識の混濁が起こり、それからというもの目を開けた事は
ないそうです。他にも実験の果てに心と体を失ったイノベイド、意思の生まれなかったデザイベイビーたちのむくろが
ここには保管されています」
ルイス
「生きている人もいるのね」
ネネ
「仮死状態に処置をしていますが、自ら生命活動を維持することは出来ないでしょう」
リボンズ
『さっきの白装束は程度の軽い出来損ないというわけだね、自我を持たないイノベイドとはな』
ネネ
「これが私の罪、そしてかなしみです。これほどの犠牲の上に生まれながらイノベイターとなれなかった。
ルイス様、イノベイターたるあなたに見ていただき、そしてわかって貰いたかった絶望のひとつです」
ネネの姿をした祭司が、託宣を行う。生と死の境こそ、惑星となれなかったこの星にふさわしいのだろう。
7/12
ガリレオ艦 会議室
かつて茶会の催されたその部屋には、三脚の茶器が今も置かれているのだが、
各自が手前で給仕していくといういささか間の抜けた行為で和平会議は始まりを迎える事となった。
中身の注がれていないカップを、気にも掛けずに話し合いをはじめようとする男たちを呆れながら見やったセレナは、
テーブルの真ん中に置かれていたポットを持ち上げ、注ぐと共に自身の立場を述べる。
セレナ
「こんな鈍感な方々と、席をともにしなければならないなんて少しがっかりしてしまうわね。
地球連邦軍所属宇宙艦ジュピトリスワン代表セレナ・ソレンダよ」
回されてきたポットが、次の発言者を指名した。
ターシン
「ジュピトリアン運用艦ガリレオ艦長、そして木星委員会代表ターシンと申します。なにぶん人手が無いもので気が回りません」
最後に渡された青年の手で、紅茶はあるべき場所に全て落ち着くことがかなった。
サジ
「ソレスタルビーイング代表サジ・クロスロードです。今日は私たちの提案に賛同していただきありがとうございます」
セレナ
「あれを提案と言うのなら、明日からは脅迫罪が無くなるわね、刑法の改正をしておかなくちゃ」
ターシン
「それでは、あれは地球の正しい礼儀ではなかったのですか」
セレナ
「確かに、いきなり喧嘩を売ってくるようなあなた方には、理解が早いのかも知れないわね」
大人気ないというのか、それとも大人だからこそ出来るのか、取り留めのない舌戦に呆れながらも、サジは、
アレルヤと予想した両軍の時間稼ぎを確信する。
互いのエースないしジョーカーが手札に来るまでオープンを保留し続けるのだろう。
話の内容が、カップのセンスから、名称のセンスに移り変わるところを切り替える。
サジ
「ではそろそろ本線にクロスさせてもらって、和平の条件といったものについて、それぞれの意見はありますか」
ターシン
「そちらの艦をいただく事が条件だといったら」
セレナ
「よろこんで交換しましょうとは答えかねるわね。何かオマケ付けてくださる」
ターシン
「さらなる絶望ならば。それ以上のものを我々は持ち合わせていないものでね」
セレナ
「あら残念ながら地球人は即物的でしてよ。できれば輝く指輪を気付かぬ間に、はめてくれる様ではないと」
どちらかがBJを決めるかバーストを迎える前にと踏み込んでみた次第であったが、当然のように危険はすぐ傍に内包されていた。
その輪郭を撫でては、離れを繰り返しつつセレナ代表は限界を確かめているのであろうか。
役割をそして役者の違いを認め、サジは愚直に質問を重ねることにした。
サジ
「見解の相違は誤解の第一歩といいますが、あなたがたジュピトリアンのおっしゃる絶望とは、いかなるものなのですか」
試演
8/12
小惑星ジュノー 通路
通過儀礼が果たされたのか、文字どおり一本道をその奥へと進んだ先で、ついに参内の終わりが訪れる。
一回りほど大きな扉が正面にその威容を見せた。
リボンズ
『汝らここに入るもの、一切の望みを棄てよ』
ルイス
『それは』
リボンズ
『神曲の地獄篇より地獄の門さ、さてこの扉の向こうに待っているものはルキフェルか、はたまたベアチリーチェであろうか。
君をダンテとするのなら、私はさしずめヴェルギリウスと言ったところかな』
ネネとユニクスはその場にてかしずき、彼女の入室を無言のうちに促がす。ここまでが彼らの導き手としての役割なのだろう。
迎え入れるようにその門扉は開かれ、ルイス・ハレヴィとリボンズ・アルマークは地獄の門をくぐり抜けた。
確かに何者かがいた。
しかしそれは、先のジュピトリアの人々と同じように、永遠の眠りについた青年が一人カプセルに横たわっているに過ぎない。
ただその姿はルイスにとってネネに続く二度目の偶然というよりも、何者かの悪意すら感じるものであった。
そうリボンズ・アルマークその者であった。戦死したと聞かされ、彼自身も彼女の中にいるはずが、
リボンズ
『フフ…… こんなところで、まさか弟の存在を知ることになろうとはね。老人供の妄執は度しがたいな』
カプセルに付けられていたプレートには、リバース・ユピトゥスと刻まれていた。
リボンズの感慨が答えであったのか、呆然と立ちすくむルイスの視線が、無意識に上方から降り注いでいる光を追っていくと、
そこには輝く構造素体が幾層にも組み上げられ、互いに?ぎとめられて天井を作り上げていた。
突然、彼女の音域に情報が流れ込む、それらは言葉をもって介するようであった。
訳識を同調させる脳量子の力を、必要とさせないほどの量子の圧力が、
ルイスをそしてリボンズさえもその流れの中にのみ込んでいく。
それが量子コンピューターによるものであり。リグ・ヴェーダという名が、はじめに認識下に収まった。
ジュピトリアンの長い物語が語られる――
元来この小惑星ジュノーは、第2の外宇宙航行母艦「ソレスタルビーイング」となるため改造が始められた。
CBをもじってソレスタル・ブライドすなわち天上人の花嫁といった愛称で、技術者や研究員はこの星を呼んだ。
工程は順調に進み、木星から届けられるの太陽炉の搬入をもって機能は完成するはずであった。
何が原因であったのか、予定の日々をいくら経過しても、木星輸送艇はその姿を見せることはなかった。
そして、残り少ない食料、空気をめぐり殺し合いが起きた。
各種製造循環プラントは起動と活動に、莫大なエネルギーを必要とする。
量子コンピュター、人工素体槽は完成理論の不在により設備のみが虚しく威容を誇る事となり、そして人間はいなくなった。
どれだけの歳月が経ったのか、0と1のように一瞬であったのか永遠を何度も繰り返したのか。
遠く離れた場所で、一人の青年が造られた。最初のイノベイターの一人、リバース・ユピトゥス。その兄の旅立ちの後、
目覚めた彼に課せられた使命は、木星基地の太陽路の回収と小惑星ジュノーの探査であった。
9/12
一機のMSを接続して長距離航宙艇ガリレオは、彼を目的の地に運んだ。
ジュノーに降り立った彼は、人であったのだろう炭素片の数々と、
高熱で溶け捩れた姿をそのままに残し、小惑星を漂う100を超えるノーマルスーツを目にした。
状況を整合し、理解するまで、それほど時間を必要としなかったであろう。
不幸な事故によって、それまでの使命や尊厳を捨て去った人間達を哀れんだ。
太陽路の未着を調べるため、当時予定された輸送艇の航路と、目的でもある木星基地の探索へと計画を進めた。
そして小惑星ジュノーは彼によって完成をみた。オーキッドガンダムの太陽炉は設備を起動させた。
彼の艦艇に取り付けられていたサブ量子コンピューターにより、ヴェーダ理論は補完され、
リグ・ヴェーダシステムが機能を開始する。さらに自身の遺伝子情報を解析させ、分身ともいえるイノベイターを作り上げた。
人工素体槽が運転をはじめ、イノベイターが次々と産み落とされた。
臓器や筋肉に血液が流し込まれ、第2CBは動き始め、頭脳と機械は相乗的に進化を進める。
イノベイターたちは、己の存在意義を存分に発揮してゆく。
簡易太陽路理論完成、粒子コンデサー設計開始、MS・MAの開発、ヴェーダリンク・システム
用意が十分なほどに整い、リバースは探索の旅を開始した。
生きるもの無く宇宙を漂流する運搬船が、間もなくして見つけられた。
既に地球の木星調査団が立ち寄った形跡が見られるも関与は無く、輸送艇内に残された状況から、
ある一人の人間が全ての乗員を殺しのではないかと推測された。
併せて太陽炉がその輸送艇に積み込まれていなかったという真実も、リバースは知ることとなった。
続けて訪れた木星基地もまた、予想通りの惨状であった。設備は破壊され、研究者や技術者も区別無く皆殺されていた。
何故か残された4基の太陽炉の前で、実行者らしき男の死体はその頭を自ら打ち抜いていた。
全ては機密保持の為なのであろうか、組織内の内紛であるのか、ソレスタル・ビーイングこそが死体を作り出したのだ。
輸送艇の死体も、ジュノーの死体も、逝かれた人間が対話を説く、逝かれた人間の作った人形が革新を導く。
かつて人類の愚かさを哀しみ、その時に改めて導く者としてのイノベターという自負と、自分にそれを担わせたCBを信仰した。
リバース・ユピトゥスの神は失われ、ただ絶望した人類すべてに、そして己自身に。
ガリレオは小惑星ジュノーに戻った。生ける屍と化したリバースと4つの太陽炉を乗せて。
リグ・ヴェーダの持つリンクシステムは、全てのイノベイドに彼の絶望を見せた。拡散された哀しみを彼らは受け入れた。
受け入れることが出来たという事実が、彼らの信仰を生む。
そんな時、リグ・ヴェーダは一つの結論をもたらした。イノベイターの不在を、彼らとリバースは、それでは無かったのだ。
リグ・ヴェーダは彼らをイノベイドと定義したが、それは希望と変った。愚かな人類に代わり、我々がイノベイターを造る。
CBを棄て、父の名前を冠するジュピトリアンを名乗った。
投薬、書換、クロス、イン、デザイン、多くの実験は己の体を心を壊し、次々と作り出され実験は繰り返され、世代は代わる。
残されたものは、純粋種ならざる彼らからイノベイダーは出来ないという結論と、何世代にも継ぎ足され濃さを増した絶望。
彼らの心を食い破る日も、そう遠くないと認識された。そんな時、情報衛星から人類の大規模遠征を知る。
絶望を薄めよう。そうだ地球の人間の絶望も受け入れよう。そして我らの絶望を流し込もう。
――そうして、今があり、ここにいる。ルイスの認識と共に、物語は閉じられた。
昔の彼女のままでいたのならば、戻ってくることは出来なかったのかもしれない。
そして全てを知っても尚、彼女は理解しようと努め、それは現実を言葉にして吐き出された。
ルイス
「どおして…… これだけの事がここまでに。どんなに哀しくても、世界にありふれた悲劇に過ぎないのに」
リボンズ
『彼らには、それしか無かったのだろうな。いいや、何も無いのかもしれないね。
絶望などと言っているが、どんな解釈をしようとも、それそのものに意味も実体も無い。だからこそ深くもあるのだろうか』
扉から外へ戻るとルイスは、ネネの頭をそっと掻き抱きながら、ユニクスに目礼を顕した。
10/12
ガリレオ艦 会議場
ジュピトリアンの代表として、ターシンは答えなければならない。真摯に偽り無く、これまでの打算も韜晦も無く、
サジ・クロスロードの発した絶望が何であるかの問いかけに答えた、何がそうさせるのか
ターシン
「絶望とは、絆であり、信仰そして神でもある。分け合うべきものとしての積み上げられた罪。
死はその架け橋であり、サイフォンとなる」
後を続け、サジは言葉を選び紡ぐ、それは彼の彼らの共通する言語であるのか。
サジ
「ただし、それはまた流れ込む何物も受け入れ、共となすことも出来るでしょうか」
サジのそれは、何も返されること無く、セレナの手によって初日の和平会議を締めるきっかけとなった。
沈黙は否定か肯定か、単純な二択はサジに、次の道のりを決めさせる事となる。
小惑星ジュノー
次の日の朝、ルイス・ハレヴィはネネとユニクスと伴い再びリグ・ヴェーダへ向かった。
何かが欠けている。それが何であるのかを、多分自分は知っているに違いないのだ。
昨日の情報は頭に詰め込まれているのだが、昨晩はそれを引っ掻き回したせいでリボンズに嫌味を聞かされもした。
その何かを、あの情報の流れでならば見つけ出すことが出来るのではないか、二度くぐる事になった門を臨み、
彼女は扉を開け放った。
そして全てが逆転した。死者は生者となりて、地獄の門より出で、その姿を顕す。
一切の望みの無い世界から戻りし男は、全てに語りかける。
「わたしリバース・ユピトゥスは今帰還した。すべてはリグ・ヴェーダより聞き及んだ。
愛しき我が子等よ長きの不在を謝らせてくれ。そして木星の花嫁の来朝を歓迎する。
わたしは地球の人間との対話を望みたいと思わんとする。皆も我とともに赴かんではないか」
ネネの目から涙が流れ落ち、ユニクスの嗚咽が聞こえた。リバース・ユピトゥス、この男はあの門の向こう側からなにを持っ
て帰ってきたのだろう。そうルイスは思った。
宇宙の闇の中で停止していた時計の針が、その働きを刻み始める。動き出した時の流れは、何処に行き着きのだろう。
鳴り始めた鼓動は、いままでの沈黙を取り戻していくかのように人を操りその役に従わせる。舞台は目まぐるしく進む。
パイロットスーツに身と包んだルイスは、リバースと名乗る青年と供にMSデッキのタラップに立っていた。
ネネとユニクスに指示を与え、彼は花嫁の手をとり囁く。
リバース
「しばしのお別れを」
床を蹴り上げ彼の向かったその先には、一機のMSがデッキに用意されていた。リバースは乗り込み告げる。
「リバース・ユピトゥス オーキッドモデル3号機・ジュピター出る」
続けてルイスのガニメデ、ユニクスのイオが彼の後を追う。
導かれるように白色に輝くMSの群れがその楔から解き放たれ、意思無き乗り手を外へと連れ出していった。
ジュノーの外部に出るや、他のハッチから射出されるMAが主機を求めて奔流へ加わっていく。
ジュピトリアンに残された全ての戦力が、その姿を現実のモノとして宇宙にまた一条と光線を刻んでいった。
そして、全てを面へと塗り替えるように莫大なGN粒子を放出する大質量の機体が遅れてモニタリングされた。
識別信号こそ、ネネのMSのそれであるが、腰部から下をGNコンデサーの塊であろう大型スカートに換装され、
背面から肩部にかけて展開している長大な放射板を誇るその機体は、もはや人型を維持することを放棄していた。
手に入れた巨体は、カリストの7倍を計測される。
磁気嵐を弾き飛ばし、その支配域を拡張させていく青い粒子が、先だって放出され戦場にいまだ漂い続ける残滓と結ばれた。
ヴェーダによって解析され送られる粒子の感じた情報は、ルイスの乗る機体のディスプレイに電子宙図を作り上げる。
そこに描き出された見知った艦影は、ジュピトリスワンが指呼の間にあることを今気づかせる事となった。
11/12
ジュピトリスワン ブリッジ
オペ子
「観測室より報告です。光学視認にて当宙域に、青光をまとい接近する大型の小惑星体を発見。モニター繋ぎます」
ブリッジのメインモニターに映し出されたそれは、先日にルイス・ハレヴィの見た光景である。
オペ子
「形状より小惑星ジュノーと断定されるとの事、
なお本来アステロイドベルト帯にあるはずのジュノーが当宙域で認められることから、人為的ベクトルの関与が疑わしいと」
グラハム
「間違いなく連中の拠点でしょう」
ヤオ
「どうやら賭けに負けたといったところかな」
モニターには、大きさを増すジュノーのほかに新たな光点が見出されていく。淡い群青に浮かぶ数多の赤色光が、
擬似太陽炉の輝きであろうことは予感として正しくあった。
ガリレオ艦 会議
昼食をはさみ続けられた和平会議の席においても、ターシンの指示で繋げられた映像が、
時間の経過によってジュピトリスワンのそれよりも大きく鮮明となっていくジュノーの姿を映し出す。
サジは自身と大切な人のため、ささやかだが大切な計画を立ててから幾度となく確認してきた小惑星の名を呟く。
セレナは青い粒子からCBの可能性を計算しようとするも、視認されはじめた赤色光を苦々しく見やることにした。
ターシンは慣性計算の結果として到来を知っているも、主が搭乗することの無いはずのオーキッド型MSの存在に気付くや、
その表情に珍しくも興味の色が浮かび上がっていた。
粒子がすべてを包み込んだ時、彼らの時間もまた引きずられていくことになる。
12/12
ジュノーで作り出された重力圏が、ジュピトリスワンのそれを取り込むタイミングで、MSとMAの一群は機動を停止させた。
ただ先頭を切るMSを除いてになるのだが、それは長大化してきた現行のMSよりも一回り小さく、
灰色のみで構成された独自の機体色を纏っていた。
観客の注視を感じたのか機体は立ち止まり、回線を開放してその意を告げる。
「ジュピトリアンの子等よ、久方ぶりだ。そして、ジュピトリスワンの方々には初めましてというところかな。
私はリバース・ユピトゥス ジュピトリアンの父にして木星の王。
我が花嫁に呼ばれて挨拶をしに来たと理解してくれ。聞けば、ガリレオまで足を伸ばしてもらっているそうではないか。
非礼の詫びも兼ねて、これより私が君たちジュピトリスワンに伺わせてもらおう」
ジュピトリアンでは涙をもって、そしてジュピトリスワンでは更なる警戒をもって受け止められた通信は、あっけないものであった。
ルイス機を伴い再び機動を開始する灰色の機体は、無言劇を演じるているかのように人の目を支配し続けていた。
共演者は時として、唯一舞台の支配を逃れうる存在である。
リバースの駆るMSジュピターに届いた個人通信は、ルイス・ハレヴィのガニメデからのものであり、
支配から逸脱した者は静に弾劾を始めるのだった。
ルイス
「答えなさいリバース・ユピトゥス、いいえリボンズ・アルマーク。
その目的は何、ジュピトリアンばかりか、私まで欺こうとする理由は何」
リバース
「意外と知能は働いていたみたいだねルイス・ハレヴィ。それではご褒美に教えてあげよう、
ただしジュピトリアンの愚かな目的をね。理解できるかい彼らはジュノーを地球に落とし地球人類の殺すんだとさ。
絶望とはなんとも厄介なものだね」
ルイス
「それをリバース・ユピトゥスを騙り回避させると」
リボンズ=リバース
「ああ止めはするさ、実に馬鹿らしい。結果は同じとしても過程と目的こそが重要なのだよ。
望み無き彼らの器には、もっとすばらしいモノが注がれるべきなのさ。
そうだな…… 強いて言葉にするなら野望だね、彼ら以上に愚かな人類を支配し管理するんだ。もっと効率良く、
死は利用されなくては」
ルイス
「あなたも私も愚かで哀しい人の一人だと そうは思わない」
リボンズ
「君と一緒にしないでくれたまえ、またそうやってガンダムに乗っている愚かなピエロと」
ルイス
「さようならリボンズ…… ごめんなさいネネ」
MSガニメデのキャノンが粒子ビームを放つ、ルイスの哀しい殺意を込めて。
その軌跡は、オーキッドガンダム3号機ジュピターから大きく外れる。
観客の息が止まる。まだ呼吸は許されない。
吐き出され行き場を失ったエネルギーの束は、その先にある航宙艦ジュピトリスワンのシャフト装甲に叩きつけられた。
一連の事態をジュピターの操縦桿を倒すことなく、やり過ごしたリボンズが演技を続ける。本幕はこれからなのだから。
観客達に告げなければならない、舞台は君達にも開放されたと。
リボンズ
「ああ 我らが花嫁は生家を憎むのか。イノベイターは導かれた。全ては導きのまま、イノベイドよ我ら不肖なる者たち
全ては導きのまま、父として第一の子として、私は彼女の意を汲み代わりてさらなる絶望を示そう」
そう…… 幕は切って落とされた閉じることの無いように、
以上投下終了
支援サンクスです。
これでアクト2終わりで、ラス2回でやっと完結です。
今回も長物を読了頂きありがとうがざいます。
>>247 ガンクロwiki確認しました。
編集いただきありがとうございました。
これだけして頂けて十分過ぎる程ですよ。
>>277 投下乙です。
同じ題材を他人が描ている事が、とても楽しく
前回もわくわくしながら読ませていただきました。
まだ登場していない人たちとのネーナの絡みに期待がたかまってます。
投下乙。
感想は、明日また読み直してから書きます。
>>296 GJ!
ジュノー怖いよジュノー、と思いながら読んでたら
えちょ、コロニー落とし?w
ルイスとリボンズの戦闘ハジマタ!?
終盤の急展開に引き込まれました
続きが楽しみです
脚本形式のせいか起伏を抑えたような淡々とした独特の語り口で
それもクセになりそうな味があって面白いんですが
クライマックスシーンでは空白行を入れたりして
ためをつくるともっと盛り上がるような気がします
愚見に過ぎませんがよろしければご一考を
投下乙。
えーと、以前書いてたクロススレでの作品なのですがリテイクして投下させて頂きます。
該当スレが落ちてしまっている為、此方への移動となりますので
一部内容が知っている方もいるかも知れませんがご容赦下さい。
ちなみに内容はWクロスの種死アフターモノです。細かいWと設定の絡みと
融和の接点はありますがそこら辺も含めて徐々に投下していきたいと思います。
英雄の種と次世代への翼
エピローグにしてプロローグ「枯れた英雄と憂鬱な死神」
「なー、シーン。反逆してラクス様ぶっ倒そうぜ」
「ああ、ヨウラン。ちょっと左足の関節が動き鈍かったぞ?」
「ん? 此処のパーツはいい加減変えんとあかんな。
ま、それはそれとしてな逆襲のシン・アスカとしてだな」
「んー、このシステムは良く解んないな? なんで、こんなの積んでるんだ?」
「ああ、それはなんか火星から来た新技術用に組んでるらしーんだわ。
でさぁー、此処はすげー、改造されたデスティニーでさ」
「あっちは規格がちょっと違うんだっけか。なんか、旧ホワイトファングとアストレイタイプが主流って聞いてたけど」
「何せ、すげー高性能なガンダムの機体と開発者が亡命してるからな。
で、シン、此処は男の見せ場としてな、キラ・ヤマトもラクス・クラインも
ちぎっては投げちぎっては投げの逆転劇をだな!」
「しつこいし あ り え ん(笑)。無しだろ常識的に考えて」
「えーーーー、どうしてよ?」
まだ、二十歳にも満たない褐色肌の少年ヨウラン・ケントに対して光の速さを超えるツッコミを返す事無く
スルーを続けていた中、ようやく温めのツッコミの言葉が返ってくる。その言葉の主、ザフトの”元”エースパイロット、シン・アスカは
ため息を吐きながらしつこい反逆話に、疲労の色を滲ませつつも苦笑いと怒気を孕んだ口調で気持ちを伝えていた。
ヨウランは前から時々発言が遠慮が無い事もあったのは解っていたが流石に今回はしつこ過ぎた様だ。
此処は月軌道を演習している艦隊、俗にジュール隊と呼ばれるMS部隊の駐留する衛星基地。
アーモリーワン襲撃から始まり雪崩れ込んだ戦争から一年後、この二人は当初ミネルバが就航する予定だった
月軌道を巡航・駐留する部隊へと合流する事に相成った。連合とプラントとの関係も表立っての戦争は無くなり
彼等達軍属は平和なら平和なりの仕事として、演習に終始する毎日を過ごしていた。
「大体なぁ。お前反逆罪で捕まりたいのか? あの二人を倒すってどうやるんだよ。
デスティニーは廃棄。俺の機体も今じゃザクに逆戻りだぞ?
普段はSPをぞろぞろはべらせてるし、外遊もしてるから今いる月の軌道上から
相手に気付かれずに追っかけるなんて無理。まして、その間に月で色々あったらどうするんだよ?
今のプラント政治を皆諸手を上げて受け入れてる訳じゃない。月だって重要な要所なんだぞ?」
「なんだか、お前其処まで考えると結構乗り気か一度考えたこと無かったか?」
「無いと言ったら嘘になるって事にしといてくれ。ほら、あんまし遅れてるとイザーク隊長に怒られるぞ?」
「あの人が怒ってない時は無いと思うんだが」
「いや……んー、それは、なぁ? ま、今の話は無かった事にしてくれ」
まるで長寿ドラマ番組の様な長台詞を噛まずに言い終えた後、それを律儀に返す自分に絶望し
頭を抱えているシン。ヨウランの言葉をはいはいと適当に受け流す事が何故出来ないか自問する。
シンを含め、周りの状況はその位、この一年で色々な事が変わっていた。ラクス・クラインがプラントの統治を掻っ攫い議長へと就任。
これが民主主義的な投票での就任なのか、軍事的恫喝なのか、詳細は彼らにとってアンタッチャブルなので気にしなかったが
それでも色々な影響が出ていた。ロゴス解体から地球各地は経済が混乱し、厭戦感情と各国政府への不満が爆発。
プラントからも独立が認められた後、連合に対して軍縮決議が出されており、正に踏んだり蹴ったりな地球だったり
オーブも戦争からの再建でアスハの姫様は走り回ったりと”此処”の外は目まぐるしく、人と時間が動いていた。
此処で誰かが歌姫に反逆の意を示せば、再びプラントと地球連合との戦争になってしまうだろう。
その懸念も含めて、考えの明示を保留させた。自分自身を納得させる様な言葉にヨウランは
少し食って掛かったがそれも鉄板の隊長のネタへ誘導して黙らせる事に成功する。
「つーかさ? あの歌姫様が議長になったとはいえ、シン!
このままじゃ情けなさ過ぎるぞ。此処は男を上げる為に反逆のシンで要塞の一つ位占拠してだ
『人類は変わらねばならんのだ!』とか言ってだな?」
「逆襲じゃなかったか? さっきの」
「気にするな。俺は気にしない」
「懐かしいなレイの口癖。俺はそういうのはいいよ。世界は平和ってのは言い難いけどさ。
少なくとも何かを倒す戦争から、戦争を起こさない為の戦いをしてる訳だし」
「完全に燃え尽き症候群だな。いっそ、白髪になりやがれ」
「此処ではそれ位が丁度良いさ。けど、この年で白髪はやだなぁ」
ヨウランは立ち上がりシンの肩を手でそれぞれ左右を持ちながらも叱咤激励したいのか
疲労困憊している相手を揺さぶって気分を悪くさせたいのか解らないまま、言葉を続けるが
シンはそれを右の耳で聞いて、左の耳で吐き出しているかの様に無関心な様子だった。
途中今は亡きレイ・ザ・バレルの台詞を真似たりと彼なりに色々と気を遣っている様子ではあったのだが
至って効果は無く、むしろ逆にセンチメンタルな空気を作ってしまう。
更に言葉を返して髪の毛を引っ張ろうとするが当人のリアクションは薄かった。
シン・アスカは戦争時の気性の荒さはすっかりと見る影を失せていた。
まるで牙を抜かれた獣の様に、惰性と共に繰り返す演習と食事と睡眠と言う名の日常を過ごした。
それでも給料をを貯めて、オーブで花屋でも始めると決めたらしく、植物の育て方を学び始めたらしい。
が、それは知り合いから見れば、この間まで部活動に精を出していた熱血少年が
急に老人になって盆栽弄りをし始めたかの様に感じていた。
職場が同じヨウランはそれを心底心配していたのは、シンにもある程度は理解出来ていた。
「爺にしか見えないぞほんとさぁ。あの後、世界を平和を守る為に一緒に頑張るって言ってたろ、この赤服エリート!」
「守ってるだろ。月の軌道を」
「シンーー! お前、完全に飼い殺されてるの自覚してるか?」
「うん。ま、こういうゆっくりした時間も良いんじゃないか?」
「お、シーン。居た居たぁー、ちょっと来てくれー」
「ん? 艦長が呼んでる。なんだろ? 通信じゃなくてわざわざ探すなんて。取り合えず行って来る」
「シン! まだ、話は終わってないから!」
「解ってるよ。また、後でなぁ」
突如、二人の会話を割り込むかの様に、彼らの直属の上司であるアーサー・トラインは
通信も使わずに散歩がてらなのだろうか。直接シン達が休んでいたロビーへと足を運んできた。
それに応じたシンはまるで息子の嫁からお昼が出来た事を告げられて、リビングへと向かう。
老人の様な友の背中を何も出来ない自分を悔しさを感じたまま、ヨウラン・ケントはその様子を見送っていた。
シンが見えなくなった後、壁を殴る音、その拳の痛みに絶叫する悲鳴などがシンの耳に届く事は無かった。
――宇宙のとある航路、ピースミリオン内にて
「……はぁ、やだやだ」
「どうした?」
「いや、今回の任務さぁ。トロワも大変だよなぁ」
「そうか? ミッションレベルはそんなに高くないが」
「やー、ヒイロは兎も角、お前と俺は大変だろ?」
宇宙要塞と言われても遜色ない巨大な戦艦ピースミリオン。その巨大な半月上の機影を
宇宙に漂わせている中、ガンダムデスサイズヘルカスタムのパイロット、デュオ・マックスウェルは
ロビーに置いてあるソファーに寝転がりながらもお凸に手を当てて
左右へと何度も寝返りを繰り返してた。その様子に特に感知する事をもそもそもする発想の無かった
ガンダムヘビーアームズ改のパイロット、トロワ・バートンに声だけぶつけていく。
トロワからすれば、デュオの言葉が非常に不可解だった。
今、彼らはあるミッションを遂行中なのだが、彼らからして見れば、それは今までの激戦とは
比べ物にならない位難易度の低いミッションではある。端的に言えば楽勝だ。
ただ、問題はミッションの難しさではなく、デュオにとって精神的な負担が大きい事を意味している。
おかげで今はこうやってソファーに齧り付いて全身でグロッキーさを表現している事にカトルは気付かない。
「そんな事は無い。確かに、あまりやった事の無い任務だが項垂れるほどではない」
「そもそも、お前項垂れる事あるのかよ?」
「少し待て。……該当する記憶は無かった」
「そうだな。それじゃ、そもそもお前に愚痴った俺が馬鹿だったよ」
「理解は出来ていないが、カウンセリングを受ける事を勧める」
猫の様に背を丸めながらも拗ねたままソファーで寝転がるデュオに
トロワは一言告げただけで、瞑想だが何を思っているかわからない状態へと戻る。
あまりの生真面目なトロワの一言に大きくため息を吐いてる最中
デュオは鬱憤がたまり過ぎて、頭をかきむしりそうになる衝動を溜め込んでいた。
だが、そんなことしたらほんとに精神科医のカウンセリングルームに連れて行かれそうな事が
長い付き合いから解っていたのでそれをじっと我慢する。
そして、その片方はギスギス、もう一人は無の境地と言う全く異なった空気に一瞬、首を傾げたまま
ロビーに入り、歩み寄ってきたルクレツィア・ノインは普段の冷静な顔つきから僅かに訝しげな
雰囲気を滲ませながらも二人に話しかけてくる。
「デュオ、トロワ、どうした? というか任務中だろう?」
「あぁー。俺は即効で追っ払われたよ。流石に艦の中じゃ安全だろうし」
「俺も同じだ。レディーのプライベートと言う奴らしい」
「ま、まぁそれはそうだが、大丈夫か?」
デュオはソファーに突っ伏したまま片手だけを上げて宙を掻き混ぜる様に返事を返す。
トロワはその様子が理解出来ないのか肩を僅かに竦めながらもノインの方を見つめていた。
その視線に応えたのか、デュオの昏倒っぷりが流石に目に余っているのか解らないが
心配そうに言葉を向けると、待ってましたと言わんばかりに起き上がってノインにすがる様に顔を近づけさせる。
げっそりというほどではないが、ノインからは中々体調の悪そうな顔色は見て取れた。
また、その危機迫った表情と行動からは何事かと深刻そうな顔つきへと変わっていく。
確かにここ数年は平和になっていた事とデュオがコロニー出身だったとは言え
慣れない任務と合わせて、艦での長旅というのは堪えているということだろうか?と言う懸念が彼女にはあった。
「大丈夫に見えないだろ?」
「ん? まぁ、そうだな。体調でも崩したのか?
確かに地球圏に向けて出航して、一週間は経っているが」
「だろおぉぉっ。俺はもう限界だ。いやだいやだ。あんなの柄じゃないから嫌なんだよ!」
「って、体調は良いのか。じゃあ、あれか何か意地悪でもされたのか?」
「いや、あいつ苦手なんだよぉ。俺りゃヒイロやカトルと違って、ああいうタイプには免疫無いし」
「情けない。プロなら任務に文句をいうな。しかも、その次元の我侭を」
デュオのあまりにもあっけない理由と態度からどっと疲れが増したのか
ノインは腰に手を当てたまま、少し怒気を滲ませた声色で言葉を返している。
あまりにも情けない理由と言うか、ヘタレ過ぎて心配して損を感じたと同時に危機も感じていた。
確かに何か相性的な問題は憂慮をされてはいたのだが、本来そういう空気を和ませる
カトルが居ない中、ムードメーカーのデュオが此処までダメージを負っているのは予想外だった。
窘める言葉をぶつけながらも、内心は少し困っていた。
そんな心配は露知らず、プロ意識を指摘されては反論出来ないのか
うーーっと唸っているのを見て、トロワも表情には出さないが困惑している様子であった。
「じゃぁあーーさーあぁ、何で俺な訳? レディさんとかサリィさんとか色々いるじゃん」
「聞くか? 後悔しても知らんぞ」
「うーー、そういうのはやだねぇ。だが、いいか。 訳があるなら聞かせてくれ」
「”こそこそと逃げ隠れるのが得意な貴方なら一々気にしなくて済むから”だ、そうだ」
「確かにデュオは隠密任務が得意だし、気配は消すのは俺やヒイロより上かも知れん。適任か」
眉尻を下げながらも事情を話すノインとそれに同意するトロワ。そして、そのリアクションを見てやはり言うべきでは無かったと
後悔を重く感じていた。その言葉を聴いたデュオは一瞬固まった後、体のストレッチを始める。
足の屈伸と腕の筋を伸ばした後、軽く体を温めて一通り終わった後、大きく深呼吸をした後にノインへと向き直る。
トロワはデュオの急な気候に若干の動揺を覚えたが、傍目からみればそれは認識出来ないレベルであった。
びしっと 手を垂直に縦に伸ばす行動にびくっとトロワは一瞬反応した後、まるで小学生が先生に
何かを尋ねるかの様な口調と声でノインに一言尋ねた。
流石に発言は発言だったので一瞬眉を顰めるリアクションを取るが事情を察し切れないほど
ノインはトロワほどクールもといKYではないので困った様子のまま、突っ込みを返す。
「今から殴りに行っちゃ駄目かぁ?」
「女に手を上げるとは関心せんな。男として最低だ」
「そうだよなぁ。けど、あいつは女なんてもんじゃないだろ! 宇宙人だ! 宇宙人!」
「デュオ。お前がコロニー出身なのに人種差別者とは初耳だ。後、彼女はコロニー民ではないはずだったが」
「違うわ! そういう意味じゃねぇぇよ! あーー、胸糞わりぃっ!」
「「……これは重症だな」」
トロワの冗談……ではなく、確実な天然発言に苛立ちを隠せないまま
デュオはいよいよ本気頭をかきむしったまま後頭部についているお下げをぶんぶんと振り回している。
範囲こそ狭いものの時折自分へと向かってくるお下げを片手で振り払いつつも
トロワとノインは顔を見合わせたまま肩を竦める。お互いの認識は全く違っていたが
その重なった言葉から結論は一致していた。ノインはお凸に手を当てながらも
どうするか考え込んでいる最中、デュオは獣の様に唸り声を上げたまま
再びソファーへと突っ伏していく。ぼふっと大きく体を預け
丁度良い反発を体に伝えてくれるソファーにぐてぇっと、死体の様に覆いかぶさったままピクリとも動かない。
「まぁ、我慢しろ。久しぶりにカトルや五飛にも逢えるだろうし、年単位で滞在する訳じゃない」
「そりゃ、そうだけどよぉ……畜生! 月と地球行ったら美味いもんたらふく食ってやる!」
「空腹で機嫌が悪かったのか? 夕餉にはまだ時間があるが」
「違うわ! 今まで何を聞いてたんだ!」
「すまなかった」
「いーや、お前はわかってないだろ! 言葉だけで適当に返すな!」
「……といわれてもだな」
「こっちも別の意味で重症だな。先が思いやられるよ。全く」
トロワがやはり事態が飲み込めないまま謝罪の言葉を述べたことが
すぐにバレてしまい、起き上がったまま因縁をつけ始めるデュオ。
デュオの洞察力はそこまで鋭かったのかと誤った再認識をしている中
ノインはその二人をやり取りを見たまま、どうなる事かと不安を感じる一方で
何か少し楽しい気持ちが心の中に混じっていた。
よくよく考えたら彼らも昔の基準で言えば、学生か大人に成り立てと言う年齢だろう。
そういう”らしさ”が何時の間にか戻っている事に今まで付き添ってきた一人の人間として
嬉しさを感じ取っていたのだろう。ノインは心の中でそう結論付けていた。
本編第一幕「ツキミアイと炒飯一番」へと続く
以上、投下失礼しました。
投下乙。
八丈島氏アクト1wiki終了上げ。
>>文書係氏
重複ページがあったのと、ページ消去の仕方が分かったので、
今wikiの表に出てないページを消しておきたいのですがおkですか?
309 :
文書係:2009/09/25(金) 00:03:23 ID:???
>>308 おkです。
お手数かけますが、宜しくお願いします。
いつもありがとうございます。
>>赤頭巾さん
投下乙です。
何か懐かしいですね。
物語はまだ分かりませんが、またの投下をお待ちしております。
>>八丈島さん
描写がだんだんはっきりしてきたし、キャラの立ち位置がアニメを引き継いで
鮮明だから、台詞の人名表記が殆ど要らなくなってきた気がする。
それはかなり凄いことのように思える。
312 :
文書係:2009/09/26(土) 01:44:37 ID:???
こんばんは、文書係です。
>>260さん、感想ありがとうございます。
声優さんにはあまり詳しくないのですが、ビリーはいい声ですね。
量産機(といってもグラハム専用機が主ですが)の魔改造?に欠かせない彼が大好きです。
補完小説なのでらしさを追求しつつも、補編は酒の力を借りて多少羽目を外し、完結まで頑張ります。
>>261さん、感想dです。
>カティの軍人らしい覚悟と、未来を思い描く様子
まさか結婚までするとは、この時点では恐らく考えていないだろうなと。
パトリックは一期のゲーム(ガンダムマイスターズ)で結婚への意欲を
さかんに口にしていたので、書くまでもないのですが。
その2の子供っぽいグラハムと、ビリー、パトリック3人のやりとりは、
一期のDVD一巻、高河ゆんさんのイラストにあった台詞をそのまま使っています。
313 :
文書係:2009/09/26(土) 01:45:27 ID:???
これから続き2レス分を投下します。
314 :
文書係:2009/09/26(土) 01:48:34 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その3」
>>241-242 「随分飲んでいるみたいだね。大丈夫かい?」
ビリー・カタギリは長身の体をかがめ、相も変らぬ柔らかな物腰で尋ねながら、首を傾げた。悲しいことだが、
好むと好まざるに関わらず、酔っ払いの相手には慣れていた。
「ったりめえだ! フランス人なめんじゃねぇぞ、ワインなんて水と一緒なんだよ!」
水ならこんな醜態は晒さないよと苦笑いしつつ足許を見れば、パトリック・コーラサワーがパーティー会場
からボトルごと失敬して来たらしいワインは、彼の記憶に比較的新しいものであった。
それはフランス産の高級ワインで、陸でのパーティーにおいて饗されたものと同じだったのである。
――確かに、フランス人をなめちゃいけないみたいだ。
ワインラベルに印刷された絵柄と産地とに見覚えがあった。彼にとってはどうでもいいことなのだが、どうやら
先日の余り物を、こちらに回して寄越したらしい。日夜研究に忙しく、会食以外では日常的に飲酒の習慣のない
ビリーが、酒の産地や銘柄に詳しくなってしまった経緯に思いを馳せると、胸に刻まれた傷がまた疼いた。
――“S・A・I・N・T‐E・M・I・L・I・O・N”――
いとおしげにラベルの文字をなぞる白い指先の、死人のように生気のない女の横顔が脳裏をよぎる。
いっそ気付かぬままでいれば良かった忌々しくも苦い思い出に、彼はふと表情を翳らせたが、眼前の酔っ払いは
当然、彼の感傷など知る由もなく、またその変化にも気付く訳がなかったのだった。
「やけ酒は、体に良くないと思うけど――今日は、マネキン大佐とは一緒じゃないんだね」
「ホント、ツいてねぇよなァ、ったく……誰が決めたんだこんなシケた面子はよォ! 野郎ばっかでパーティー
やってどーしろってんだ! ドちくしょうがぁっっ!!」
――ガラの悪さは、相変わらずだなあ。
5年経っても余り変わりがないように見受けられるパトリックの幼稚さに、ビリーはまた苦笑した。男前が
台無しだよと忠告してやろうかとも思ったが、これはこれでご愛嬌のような気もして、彼は言葉を呑み込んだ。
「叔父さ……いや、司令の話だと、グッドマン准将がくじ引きで適当に――ああ、でも、指揮官ばかりや
パイロットばかりに偏らないよう、非常事態に備えて一応考えてはあるそうだよ」
全員が一同に会するパーティー、というのは治安維持部隊という組織の性質上不可能であるため、パーティーは
午前・午後・夕刻の3部制に分かたれていた。メンバーの振り分けはグッドマン准将の気まぐれで、くじ引きの
後に若干の調整を加えたものだと、ビリーは叔父から伝え聞いていたのだった。
そういえば会場にグラハ――もとい、ミスター・ブシドーの姿はなかった。
午前か午後の部に出席していたかも知れないし、「興が乗らん!」の一言で無視をきめこんでいるのかも知れない。
それともマイペースな彼のことだから、食事だけしてさっさと自室に籠ってしまったとしてもおかしくはない
だろうと、ビリーはパーティー会場で黙々と好物をかきこむ友の姿を想像して、少し可笑しくなった。
「男女比率は考えないのかよ。飲んで食うくらいしかすることねぇじゃねえか」
「パーティーって、そういうものじゃないかな」
「はぁ? テメェ、わかってねえだろ! イイ女との出会いの場に決まってるだろうが! メシや酒なんて
オマケだオマケ」
「そうなんだ」
ビリーは肩をすくめた。奥手の彼には思いつきもしない目的だが、本当にそんなものなのだろうか。
「あ〜、大佐と一緒に過ごせないなんて、つまんねーなぁ……」
「僕はここには時々顔を出すだけだけど、いつも一緒だって、皆噂してるよ」
「今一緒じゃねえだろうがよ! 野郎相手にヤケ酒なんて、この俺様が情けないったらないぜ。あぁ、大佐ぁ〜」
それならやけ酒に付き合わされてばかりの僕の立場は、と言い返す代りに、ビリーは深い溜息をついた。
315 :
文書係:2009/09/26(土) 01:54:50 ID:???
おまけに脳内補完/機動戦士ガンダム00/短編小説パトリック・コーラサワー 補編
/短編小説ビリー・カタギリ/「戦士の休日 その4」
「おや? 噂をすれば――マネキン大佐と、あれは――ジニン大尉じゃないかな」
そう言ってビリーは中腰のまま、双胴の形をなすアロウズ海上空母の、飛行甲板の一方に視線を向けた。
パトリックはボトルとグラスを無造作に放り出すと、酔っ払いとは思えない敏捷さで立ち上がり、カティ・
マネキンの姿を探した。中身をこぼしたりグラスを割ったりしたら後始末に骨が折れるじゃないかと、
ビリーが間一髪のところでそれらを受け止める。
「どこよ……あぁっ! 誰だアイツはぁ?!」
二人の後ろ姿を前部甲板に認めるや、パトリックは何故か憤慨して怒号を上げた。
「だからジニン大尉だって」
「クリスマスは絶っ対! 二人っっきりで過ごしましょうね大佐ぁ〜〜!!」
彼はカティ・マネキンに向け大声で叫びながら、力一杯手を振り、とどめに投げキッスを飛ばした。
無駄に通りの良いパトリックの声は確実に艦首近くまで到達したようで、二人は一瞬振り返ったが、またすぐに
彼らに背を向けたのだった。
「ちょ、ちょっと君っ……!」
――こりゃ参った。
ひどく酔っているとはいえ、投げキッスを映画でもドラマでもない、ましてや軍中でしている素人を初めて見た
ビリーは、面食らって頬を朱に染めた。
本人はけろりとしているのだが、見ているこちらが恥ずかしくなってくる。誰が見ていようが聞いていようが
全くお構いなしの、噂に違わぬ大胆な愛情表現だ。
軍服の長い裾を海風に吹かれるままに翻し、カティ・マネキンの許へ駆け寄って行ってしまいそうなパトリック
に対し、ビリーはボトルとグラスを片手に抱え直して姿勢を正すと、彼の上着を軽く引いて制した。
二人の身振り手振りから察するに作戦の打ち合わせ中だろうから、こんな酔っ払いに乱入されてはあちらも
迷惑に違いない。
「構うかよ! クリスマスまでにゃ俺のお陰で世の中平和になって、大佐とは家族になってる予定だからな!」
パトリックは特に悪びれる風もなく、まるで当然のことのように言い放った。が、事情を察したのか、それとも
単純に言いたいだけ言って気が済んだのか、再びデッキにどかりと腰を下ろした。
「凄い自信だね。そういう根拠とか、具体的な計画とか――約束はあるのかい」
ビリーはふっと軽笑すると、パトリックが手を伸ばすのに応じてワイングラスを差し出した。彼が甲板にグラス
を支え置くのを待って、慎重に赤い液体を三分ばかり注ぐ。我ながら実に手慣れたものだ。
「俺の辞書に不可能の文字はねえんだよ! あーあの困ったような顔して口許だけ笑ってるのも、色っぽくて
可愛いんだよなぁ、たまんねーなぁ……」
彼はいかにも恋する男らしく、悩ましげに溜息をつきつつ注がれたワインに口をつけた。
薄暮の中、遠距離であるにも関わらず、パトリックにはカティ・マネキンの表情から、口許の細かな動きまで
はっきりと見て取れるらしかった。パイロットだけに、遠目も利くようである。
「……本当に困ってるんじゃないかな」
視力が良いとは言えないビリーは彼のように見える訳もないので、推測で答えたものの、
――随分非常識だけど、そもそも君の頭に辞書なんてあるのかい?
と心中で痛烈に皮肉っていた。
316 :
文書係:2009/09/26(土) 01:56:17 ID:???
今回投下分終了。
短編小説ビリー・カタギリ「戦士の休日 その5」に多分続く。
>>316 リアルタイムktkr
毎度GJです!
傷心のビリー黒いよビリー
男の嫉妬はみっともないぞ!
酔っ払ってうざすぎるコーラも笑えますw
続きも楽しみにしています
>>文書係さん。
リアルタイム投下乙でした。
ビリーが酔いどれコーラと心温まる酒臭い交流をしただけなのに、
場面が脳裏に浮かび上がってきました。
ビリーの胸中にちらつくスメラギの影が、なかなか味わいも深かったです。
重ねてGJでした。
またの投下をお待ちしております。
確定しました。やっぱり来るみたい。今回は10月1日までは警戒が必要。
千葉神奈川静岡東京茨城や他の関東が危険
(重要事項につき会員同時公開) 2009/09/25
(5) なお、HAARPに誘引されて、関東地方ではM5前後の中規模地震が発生するだろう。
(3) HAARPの影響は大気イオンのみならず、気象現象や通信、動物の狂乱状況をも生み出し、
疑似宏観異常現象を発現させる。いわば環境テロである。
(2) HAARPは電磁波を宇宙に向けて放出、電離層を刺激し、反射して地表付近の大気イオンに影響を与えるものと聞いている。
HAARPの運用状況と大気イオン濃度変動を見比べると、明らかに同期しているとの指摘を多数頂戴した
大気イオン地震予測研究会e-PISCO
理事長 弘原海 清 大阪市立大学名誉教授
http://www.e-★pi★sco.jp/r_i★on/at★tention/090925weekly_z.html
http://s01.megalodon.jp/2009-0925-1414-33/www.e-★pisco.jp/r_i★on/attention/090925weekly_z.html
http://s02.megalodon.jp/2009-0926-0102-46/www.e-★pisco.jp/r_i★on/attention/090924weekly_e.html
HAARPの動きを四川地震のパターンに今回に当てはめると9月27日が危険
http://gol★den★tamat★ama.bl★og8★4.fc2.com/blo★g-date-20090922.html
http://s03.megalodon.jp/2009-0926-0114-47/goldentamatama.bl★og8★4.fc2.com/bl★og-date-20090922.html
世界的科学者がハープは地球の気候や人の脳を損傷させる兵器の疑いがあると
http://www.yo★utube.com/wat★ch?v=8A★MlqRsHUXI&feature=player_embe★dded#t=51★1
2ちゃんねる地震情報
http://li★ve2★4.2ch.net/eq/
9.11事件、破壊されたWTCで働くユダヤ人は1名も死んでいませんでした。
http://da★mhantaikanuma.we★b.infoseek.co.jp/Sonota/91★1dead.html
地震来たら権力者達が犯人。・・・ユダヤ人は大量に人を殺しています。
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
PHASE-03 登場、セイギノミカタ。(1/6)
「まさか本物を触れる日が来ようとは思わなかったわ……。チーフがいたらさぞや喜んだろうに」
あたしとリョーコちゃんの担当メカニックでもあるポーリーンさんが、機体を見つめて感慨
深げにそう言う。ソコだけ聞くとまるでメカチーフが死んじゃったみたいな言い様だ。
当の本人、彼女の上司であるチーフはと言えば、出張が延びてまだ宇宙のプラント本国に居る。
ポーリーンさんがうっとり見つめるのは、誘導員に従ってゆっくりと駐機場付近を走る戦闘機、
のようなもの2機。実は軍需産業がかなりの率を占めるオーブが、それでも他国には売却は
おろか、貸与さえもしない事になっている筈の大事なMS、ムラサメ。
色こそ青系統に塗り直されているが、中身は可変型量産機では最強を誇るMS。その本国仕様。
リョーコちゃんを罰しない事を条件にセブンスオアシス市に貸しだす事になったのだ。
それを借りてもセブンス市が何かを出来る訳ではないので、そのままシライ隊へ又貸しする。
貸す方もそこまで織り込み済みの話らしい。と言う事で機体には、セブンスオアシス市のマークは
おろか、所属を示すマーク自体がそもそも無い。
オーブの軍服を着て隣で立っている彼女は、どれだけ大事なお嬢様なのだろう。
結局『バイトの制服』として、駐屯地の中でだけ軍服を着る事にしたあたし達である。
但し彼女の軍服はあたしとは。――見た目も違うがそれ以上に意味合いが、違うんだろうなぁ。
そして一番気がかりだった、あたしがいきなりMSを操縦した件。これはほとんど誰も話題
にさえしなかった。理由は簡単、3年前にかぁさんが既にそれをやってしまっていたから。
ただの女の子が、成り行きでMSに乗っていきなり動かし、そして敵の撃墜までやってのける。
いくら何でもそんなのは、”隊長の格”をあげるための都市伝説のような話なのだと思っていた。
天武の才を持つ人、と言うのは本当に居る。と言う話である。だから二人目は目立たないし、
血は繋がらなくともあたしとは親子である。撃墜はともかくMSを動かすくらいするんじゃない?
と、周り中みんな意味もなく納得した。まぁ、都合の良い事この上ないと言えばそうなのだけど。
「だいたい、空戦用MSがディンだけなんてどれだけ冷遇されてんのよ。今時飛べるMSなんて
珍しく無いのに、バビさえ回って来ない。アジャイルが主力張ってるの、ウチくらいなもんよ?」
「近隣から見てあんまり強そうに見えても困るンでしょ? 敵と言っても盗賊団くらいなモンだし」
いつの間にかポーリーンさんの隣に立っていたのはサイトーさん。
「それでさらにムラサメだし。他にスピアヘッドだって有る。両方ともザフト正規軍で運用してるのは
ウチくらい。そしてサンナナマル改まで勘定に入れれば、航空戦力の見積もりは高過ぎるくらいだ。
――二人とも今日のバイトはあがりで良いよ。只、帰りに隊長室に寄ってくれって。伝えたよ?」
「でも事務長、戦闘機でMSには――、それにムラサメも、もう最新鋭という訳では無いんですよ?」
我々が駐屯してるのは、あくまで抑止力として。戦闘は想定外。だよ? ポーリーン君。
たまにかぁさんが言う台詞を、今日は手を後ろに組んでサイトーさんが言う。
「この近隣の傭兵や盗賊なら、ウィンダムだって買うどころか借りても運用しきれない。ウチは
機体が古くとも数が有るし、隊長初め、乗り手の腕前は有名だからね。そうそう攻められない」
あまり知られていない話だが、かぁさんは『白き雌豹』の二つ名を実は気に入っていない。
#3 登場、セイギノミカタ。(2/6)
その気に入らないあだ名を、わざわざ自分で宣伝するのは実際の戦闘を避ける、その為。
勿論、腕が追いつかなければ名前倒れな話ではあるのだが、盗賊団がお宝の山に見える筈
のセブンスオアシス市の襲撃を躊躇するに足る理由、それはサイトーさんの言うとおり厳然と
してあるのだ。
かぁさんは言うに及ばず、ガーディアンの双子コンビやバクゥ隊は実際の戦闘をくぐり抜けて
きた歴戦のザフト兵だし、その他の戦闘員も兵科を問わずザフト兵と練度の高さでは定評の
あった傭兵団、元赤き風の旅団の構成員だった人達がメイン。
事務員の長は、戦わぬ最強戦士の異名を取るサイトーさん。彼はたまさか諜報部を出し抜く
程の強力な情報網を持ち、経験値の足りないかぁさんの実質的な参謀でもある。
メカニックチーフも、自隊のザクやバクゥ等を砂漠最強! と自負するまでにカリカリに
チューニングし、砂漠のマッドサイエンティストのあだ名で呼ばれる程。更に元パイロットでも
あるという、現場にとってはこの上なく心強いアニキな存在。
そのザフト駐屯地は北ゲート前のパイプライン入り口とメイン貯水タンクの前にでんと陣取る。
そして、セブンスと近隣の町を護ると言う理由で設立された砂塵の騎士団もある。
南に騎士団旗本隊と騎士団第一支隊。東西南北に第4支隊まで5つの拠点を持つ。
騎士団だけでも全機集結すればMSだけで16機。シライ隊と併せれば優に30機を超える。
さらにセブンス市内には警察代わりにMPが二個小隊、騎士団の治安警備支隊が三班。
警察機構さえない町が大半の中、セブンスではそれに関わる人数は優に一〇〇人を超える。
それを知った上で、それでも正面切ってケンカしたいというなら、それはかなりのバカだろう。
もっともいろいろと弊害はあって、例えばメカチーフは砂漠のマッドサイエンティスト、しかも
元パイロットであるが故に出張が長引いている。
理由は簡単。ザフトは地上戦のノウハウが、ここに来てもまだまだ足りないから。
何しろ仮想敵を連合各国としても100年単位で経験値が足りない。戦争は、当たり前だが
MSのみでやる訳ではないし、ザフトなら尚のこと地上戦に精通している人間は数が限られる。
現役パイロットでも様々な局地戦に投入された経歴を持ち、しかもMSの知識にたけた人と
なれば自ずと数が限られる。サブチーフのポーリーンさんが必要以上に忙しくなる訳である。
騎士団も市から援助がでているものの予算がない。各支隊、定数約五〇に対して専従と
呼ばれる騎士団専任で仕事をしているのはわずかに3人前後。定数全員が専従なのは
唯一治安警備支隊のみ。だから”こないだ”みたいな緊急事態にはMSは当然間に合わない。
団長のユースケさんも普段はスコップを担いで穴を掘っている。それについて当人に
言わせると、「MSは飾っときゃあいいんだ。コッチが本職なんでな」。となる訳だが。
「参りましょう? ムツキさん。お母様……、シライ隊長をお待たせしては失礼です」
「そだね。――じゃ、シライ候補生、ゲレイロ准尉の両名。本日、あがりまっす!」
#3 登場、セイギノミカタ。(3/6)
「シライ候補生、ゲレイロ准尉、入りま……」
「以上で引き渡しの書類一式、終了です。細かい部分については事前にお送りした資料の通り、
現状での変更は無いとのことでありました。シライ指令」
「オーブからのわざわざの回送、感謝します。コスギ二佐。引き渡し、確かに確認しました」
隊長室のトビラを開けるとちょうどザフト式一人とオーブ式五人の敬礼が目に入る。
間が悪いとこに来ちゃった……?
「え? 兄様……?」
ふうん、にいさまが来てるんだ……。って、はい? リョーコちゃんの……、お兄さん!?
「引き渡し完了を確認しました。市長閣下にもよろしくお伝えの程を。シライ隊長にぃ、敬礼!」
かっ、と踵をならしてオーブの制服5人が一糸乱れずに敬礼。かぁさんも再度姿勢を正すと
敬礼を返す。
「あら、ちょうど良いところに。――ゲレイロ准尉、お兄さんが機体の引き渡し完了を持って
只今より休暇に入るそうです。ついてはシライ候補生と共にお兄さんとウチに帰っててくれる?
ささやかに夕食会なんてどうかしら……。ね?」
……。セブンスで、お休み。なのかな? ――ならば、コレは仲良くなるチャンスでは!?
このところ何故か寝ても覚めても彼の顔がちらついて、訓練どころでなかったあたしである。
何がしたい訳でもなく、何かしてもらいたい訳でも勿論無く、面と向かったら多分喋れない。
誰かに話してしまいたいのだが、四六時中、”アルバイト”の時まで一緒にいる、大親友
リョーコちゃんに、この苦しい胸の内を明かすという訳にはコレはもう、絶対出来ない訳で。
こーゆーのを一目惚れ、っていうのかな。あたしにこんな感情が有ると言うのはちょっと意外。
だってあたしは……。
一人暮らしなので助かりますが……。と言うリョーコちゃんを遮ってお兄さんが切り出す。
「妹がいつもお世話になっているのだと伺っています。まさか兄妹でご迷惑をかける訳には……」
「どうせかぁさんが作るんだから大したものはでませんけどっ! あのぉ。……でも、でもでも、
ウチに是非っ! 遊びに来て下さいっ!」
大したものが出ないは余計でしょ、バカタレ。そう言うとかぁさんはお兄さんに向き直る。
「むしろ妹さんに迷惑をかけているのはコレですから。どちらかと言えばこちらがお詫びというか」
「三尉、好意は受けておくものだぞ? 特に美人のお誘いを袖にするなど国防空軍では銃殺だ。
教えてなかったか? 准尉、三尉に適当に説明をせよ! ――はは……、では我々はこれで」
ドアを開けて再度敬礼するとコスギ二佐達は部屋を出て行く。美人だなんて……。カワイイ
って言って欲しいなぁ。……って、あたしな訳はないか。
「大隊長…………。ではシライ隊長、今夜はお言葉に甘えて宜しいでしょうか」
「勿論無理強いはしません。迷惑でなければ、ですけどね。――ナヴィ、ムツキ達を送って
先に帰って。お客さんが居るから後席、展開して一〇分後に正面玄関に回って頂戴」
《かしこまりました。後席使用モードに変更、一〇分後に正面玄関でムツキさんをお待ちします》
#3 登場、セイギノミカタ。(4/6)
「今度全権大使殿がいらっしゃったら、護衛をかねて帰る事になるらしい。細かい事は、下っ端は
教えてもらえないんです。――しかし、砂漠の真ん中だと意識していなければ忘れそうだ……」
いつまでお休みなんですか? の問いにそう答えるとリョーコちゃんのお兄さんはそう言って
まぶしそうに木漏れ日を見上げ、目を細める。
初めてまじまじと顔を見る事が出来た。それだけで、もうクラクラしそう。茶色の髪を短く揃えて
鋭い眼差しに通った鼻筋。あぁ、なんてあたし好みなお顔……。そうしてみるとこの二人、雰囲気
以外まるで似てないが、ナチュラルだそうだし、ならば父親似と母親似の兄妹なんだろう。
あれから数日。セントラルタワーを望む公園の外れ。ゲレイロ兄妹とあたしは町を見たいと言う
お兄さんを一通り案内したあと、人気のない公園の木陰のベンチでジュースを飲んでいた。
「お兄さんと言われると照れくさいし、敬語も使わなくても結構。リョータで良いです、シライさん」
「な、なら、あたしもムツキって呼んでもらって良いですかっ!? その、ファミリーネームは
かぁさんのがやたら有名なもんで。その、えっと、……リョータさん。あっ! あと、敬語はあたし
も、もう、全っ然要らないですから、ホントに!」
名前で呼べる! その事実だけで舞い上がるあたしはヤッパリ、バカ。なんだろうなぁ……。
「まだ17だよ、老けて見えるかい? ……一応三尉と言う事にはなってはいるが、それはコイツと同じ。
前の戦争でMSに乗る必要があったからだよ。適正なんて何所で分かるかわかったもんじゃない……。
まだ学校にも行っているんだけど、実際、次にアカなら進級が不味い事に……」
いくつなんですか? の問いにそう答えて溜め息のリョータさん。老けて見えるどころか
年子の兄妹だと思ったからそう聞いたのだ。でも言われてみれば確かに年齢不詳ではある。
何所まで謙遜なのか知らないがムラサメを乗り回し、部下までいる人が赤点の心配?
三尉だったら普通の軍隊なら少尉、若くして士官。とてもバカにつとまる仕事じゃない。
あぁ、万年赤点ギリギリ少女にまで話を合わせてくれる、なんて優しいリョータさん。
「留学までしてるくせに、コイツも数学、化学以外は全くダメ。兄妹そろって恥ずかしい限りだよ」
頭に手を載せられると紅くなってうつむくリョーコちゃん。いいな、仲良し兄妹で……。
「よぉ、シライのくせに男連れとは珍しいな。何所で引っかけ……、リョーコさんも一緒ぉ?」
男子のクラスメイト達。隣のリョーコちゃんとはいつもながらエラい扱いの差だ。
「あんたら、なんて口をっ! 仮にもオーブ国防軍三尉にしてリョーコちゃんのお兄様だぞっ!」
「そんな立派なものじゃないよ、ムツキさん。リョーコの兄です。――妹がいつもお世話に……」
男子三人はそのままぺこぺこと頭を下げる。なんつー扱いの落差だろう……。
「そういや、あんたらバイトはどうしたのさ? 来週まで休み無しって言ってたじゃん」
「今日は休みなんだよ。リンゴが大豊作で出荷工場がパンクだって。容れ物もないから今日は
刈り取りも、搬送も工場も人、要らないとさ。全く……。あーあ。小遣いの予定、狂っちゃったぜ」
働かざる者喰うべからず。セブンス第一の掟。だから働けないとおやつも無くなる、と……。
#3 登場、セイギノミカタ。(5/6)
「コッチも予定が狂っちまってな。ちょいと小銭を貸してもらう訳にはいかねぇか? なぁオオノ」
急に声がかかって振り向く。市内でも有名な不良グループ四人が居た。目の前の三人も
良い噂を聞かない連中ではあるのだが、少なくとも収穫期を”無職”で過ごす程非常識ではない。
「せ、先輩……。話聞いてたんでしょ? オレら、今日は金が入ってこない……」
「昨日までの分があるだろうが? それにお嬢様が居るなら金には困らねぇだろ。いくらある?」
「か、彼女は関係ない。用があるのは、俺たちだけだろ!」
デカい口叩くじゃねぇか。三人組のリーダー格、オオノ。彼が襟首を捕まれて持ち上げられる。
いつの間にか隣でリョータさんが立ち上がって鋭い目つきで彼らを睨む。
「彼を離せ……。君達が不労所得を得るための要件を満たしているとは、僕には到底思えない。
……他にも居る? 相手をして欲しいなら全員出てこい。2,3人増えた所で何も変わらないぞ」
【ナヴィ、エマージェンシーコードB。あたしの現在位置をMPと騎士団に通報。かぁさんの端末に
実況開始。あなたもランプ回してすぐ来て。急いで!】
ポケットの中の黒いスティックを握りしめ、受信のボリュームを絞って、口の中で呟くように
言う。多分あたしのつぶやきは、”彼女”には聞こえたはずだ。オオノは地面に放り出される。
「はぁ? 訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇ。やるっつーのか? なら、只じゃ済まねぇぜ?」
「――っ! イケません、兄様! 今此所でもめ事を起こしてしまっては、おじさまや国元。
のみならず、ムツキさんのお母様にまでご迷惑が……」
あきらかにリョータさんの顔つきが変わったのを察してリョーコちゃん。
「そう言う事だぜ、お兄さん。金で済むならそれに越したこたぁねーじゃねーか。なぁ?」
リーダー格のヤツがポケットからナイフを取り出す。パチン、と音を立て刃が開く。
「素人が四人なら数の内に入らない……。みんなはすぐ、この場を離れろ。全ては僕のせい、だ」
そしてそれを受けてのリョータさん。これはもうヤルと決めたのだろう。すぅっと腰が落ちて
軽く握っていた両の拳が開かれる。
「んだとぉ……? どんだけ強いのか見してもらおうじゃぁねぇか!」
リョーコちゃんではないが今、彼がもめ事に巻き込まれれば各方面への影響は計り知れない。
でも、止めると言ってもどうやって……。やっぱ、あたしじゃダメだ。ナヴィ、早くしてっ!
「農繁期に、しかも日の高い内から喧嘩とは感心しないな。仕事増やすんじゃねぇ、ガキども!」
騎士団でもエラい人を示す白く長いマントが、無造作にあたし達の間に割って入る。
「一つ、おまえらに聞く。人様に刃物を向ける以上は、それが自分にも向くと言う覚悟は当然
あるんだろうな? 最終的にその切っ先、てめぇに真っ直ぐはね返ることになるんだぞ?」
バンっ! マントの左側が大きく跳ね上げられる。不良グループの顔つきがさっと変わる。
騎士団服の腰のベルト、そこにつり下げられた細身の剣が見えたからだ。
聞き覚えのある声。スタンドカラーの上着、その上の顔。
「ユースケさんっ!?」
#3 登場、セイギノミカタ。(6/6)
ユースケさんは、鞘のまま剣を左手に掴むと 儀式めいた動きで右手に柄を握る。
「騎士団が町中で剣を抜いて良いのかよ!?」
「心配ありがとう。この場合、おまえさんのナイフのお陰で正当防衛に相当するから問題ない」
支隊副長以上が腰に下げている細身の剣、レイピア(※)は多くの場合が制服の一部としての
イミテーションなのだ。とあたしはユースケさんに聞いた事があった。
そのときは「使い勝手の悪い飾りなんぞ、重くて下げてられるか!」と笑っていたのだが……。
「騎士団の剣は”タケミツ”なんだろ? 聞いてるぜ。そんなんでビビると思ってるのか?」
あちゃ、アイツらも知ってたか……。
ユースケさんの顔は、でも全く変わらない。むしろ口元に笑みが浮かぶ。
「もし本物だったらどうする。自分の体で確かめてみるか? それに只の棒きれでもナイフより
リーチが長い、当たれば当然痛いでは済まん。骨の二,三本は頂くがそれで良いんだな?」
多少芝居がかった動きで右手をゆっくり上げると鞘から半分、太陽を映してギラリと光りを
跳ね返しつつ両刃の刀身が出てくる。細い刀身は叩けば折れる。抜けば峰打ちはもう無い。
「今なら間に合う、別の道を選ぶ方が利口だぞ。選択肢が有る以上おま……」
出し抜けに空中からサイレンが聞こえたかと思うと、天井にランプを付けた白い車が空から
飛び込んでくる。ランプの色に染まる埃の中、スピーカー越しの女性の声が大音声で叫ぶ。
『こちらはセブンス駐留軍だ! 動くな! 騒乱罪の疑いでこの場の全員、拘束するっ!』
埃が収まった時には、既に腰だめにライフルを構えたかぁさんと、あたし達を覆い隠すように
ドアを開けたナヴィしか居なかった。
「ちっ、逃がした……! MP二小隊! 一連の恐喝事件の犯人と特徴がほぼ一致。公園中心
に半径五〇〇で非常線。市内MP全隊にコンディションレッド発令。絶対捕まえるっ! 対テロ法
を適用、家族の身柄も全員押さえてっ! ――ロージィねぇさん、アジャイルにスクランブル!」
叫ぶかぁさんの横、全力で走ってきたらしい騎士団の治安警備支隊の制服が二人。
「な、団長!? ……剣を! ――何事ですかっ!!」
シュウゥ、チン。レイピアを鞘にしまうと、腰に戻しながらユースケさんが振り向く。
「シライ隊長が言ったとおりだ。MPに全面協力。見逃してきたがもう潮時だ。例のクソガキども、
全員ふんづかまえろ。真っ昼間から刃物プラプラ振り回す様なバカを放し飼いには出来ん!」
「オオノ君、ごめんなさい。わたくしのために。――っ。あぁ! こんなところまで擦りむいて……」
リョータさんのあの構え、多分格闘技の心得がある。素人が……の言葉には嘘は無い筈。
そしてユースケさん。みんなには聞き分けれない音。みんなには見分けの付かない照り返し。
腰に下がったレイピア、あれは本物だ。もしユースケさんが来なかったら。もしかぁさんが
飛び込んでこなかったら、そしたら……。二人とも、どうする気だったのだろう。
「わ、いや、ホント何でもねぇよ。それよりリョーコさん怪我は? シライは、……大丈夫だな?」
「ひっど〜い! あたしゃおまけかっ!」
少し日常からずれると、その度、頭の中がざわつく。
……もうこれ以上、何も思い出したくないのに!
=予告=
晩ご飯。作るの、イヤ! と屁理屈をこねてリョータさんとホームパーティ、ゲット! やりっ!
「野次馬していたから、人が悪いと言ったまでです」
『次回 空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜』
【PHASE-04 砂漠の焔(ほむら)、芽吹く。】
それにしてもリョータさん、ミステリアスな感じもまた素敵……。
今回分以上です、ではまた。
>>260 >後書き捕捉の類は、完全オリジナルに近い部類に入る以上ある程度仕方なし、か
そう言って頂くと有り難いです。
※レイピア:サーベルより細身で両刃の剣。装飾を施した柄や、ハンドガードの類が付けられて
いる事が多く大概は見た目より重い。刀身が細く、普通に切っても下手をすると折れ曲がった
りする為、この剣の場合相手を突くことが基本になる様だ。
ユースケ達”騎士団”の幹部は権威付けのため、正装時のみ帯剣しますが、正装は式典
や会議などに限られ、帯剣の意味がほとんどないので、軽いイミテーションの時も多い模様。
ちなみに騎士団でも治安警備支隊はセブンスオアシス内の警察活動が主な任務であるため、
常時制服着用、警棒と軽機関銃を携帯しています。
>>327 投下お疲れ様です。
続いて23時45分から投下します。
宜しくお願いします。
「刹那」
「フェルトか…何か用か」
レクリエーションルームから見える景色に変わりは無い。
荒涼た暗黒が眼前に広がり続け、一日、一ヶ月、一年にも比と惜しい闇が巨大な
顎を広げ、刹那を飲み込もうと待ち構えている。
広大なる宇宙、無限の開拓地は、近年になり漸く宇宙に進出したばかりの人類に
は過酷過ぎる環境だ。
「大丈夫かなって」
「危害を加えられたわけじゃない。既にネーナ・トリニティからは一次的粘膜接触
は受けている。事実の事象は微分し積分すればいずれ消え去る。何の問題無い」
「ごめんなさい刹那。どうリアクションすればいいのか…私分からない」
「俺は…ガンダムだ」
やはり、色々な意味でショックを受けているのか、普段の鉄面皮が剥がれ、普段
のクールさが嘘のように乱れ動揺している。
真空の宇宙に向って何かブツブツと呟く姿は、可愛いと言うより不気味過ぎて、
少々どころか絶対的に近寄りがたい。
しかし、フェルトは刹那の奇行に顔を引きつらせると同時に妙な親近感も覚えて
いた。
依然までの刹那ならば、例えキ、では無くネーナとの第二次粘膜接触は「俺に触
れるな!」の一言で幕を下ろしたはずだ。
どんな心境の変化か知らないが、機械のように能動的だった刹那が僅かながらで
も人間味を見せ始めている。
口下手でアガリ症、おまけに年齢による手心を除いていも、人付き合いが下手な
フェルトも刹那の事を言えないが、彼の変化はフェルトにとっても意外であり、ま
た好ましい変化だった。
「ネーナさん気に入ったの?」
「意味が分からない。何故俺がネーナトリニティを気に入る」
「キス、黙って受けてたから」
「事故だ…」
刹那は、フェルトから受け取ったオレンジジュースを一気に飲み干すと、機嫌が
悪いのか、苛立たしげな様子でテーブルに叩き付けるように置く。
刹那の憮然、いや、むっちりとした様子から照れ隠しのようにも見えるが、本人
は、きっと、不本意極まりないのだろう。
「変わったね刹那」
「俺は俺だ。それ以下でもそれ以上でもない」
「私もそう思う。でも、きっと貴方は変わったと思う。ロックオンもそう言ってた」
「ロックオンが…そうか」
自分自身良く分からなくとも、他人から見て変わったと言うなら、刹那は変わっ
たのだろう。
頭の中に、ロックオン・ストラトスのシニカルな笑みが浮かび、刹那は、きっと
彼が言うのならそうなのだろうと思い、外の宇宙へと目を向けた
眼前に広がる暗黒の空間は先刻と変わらず無限の広がりを見せている。
虚空に燦々と輝く星の瞬きは死んでいく人の命を彷彿させ、二十年にも満たない
刹那の人生から見ても、世の無常を彷彿させる。
ここでこうして談笑している間にも人は死に続け、そして、生まれ続ける。
人の死と生のサイクルは、破壊と再生によって保たれ、危ういバランスの上に成
り立っている。
本来円滑に行われるはずの破壊と再生が、戦争や見えざる手によって歪められて
いる事実は、刹那に取って耐え難く、また看過出来る類の物でも無い。
人の死を破壊によって新生し再生する。
自然界では滅多に起こらない歪んだサイクルの一部に自らも率先して手を染めて
いる事実に刹那は眉を潜め、ガンダムでは無く、無限に広がる宇宙に反射的に問質
していた。
(俺は正しいのか)
分かりきっていた事だが、宇宙は何も語らず、何も答えてはくれない。
ただ、目の前に広がる星の光が瞬いただけだ。
今見えている星の光は、何万年もの前の過去からの来訪者だと言う。
光は粒子で構成され、波動する事で視認することが可能となる。
無重力で構成される真空の宇宙空間は、何千年経とうとも光の軌跡を途絶えさせ
る事は無い。
何億光年離れた銀河から届く星の光は、刹那に何を伝えようとしているのか。
星の瞬きは何も答えてはくれない。
星の生涯と比較しても、人は一瞬の内に瞬き消えてしまう儚い存在だ。
だからこそ、生きている間に何を為し何を遂げるのかが重要になってくる。
「俺は何を成し遂げたいのか」
「えっ…」
当然世界から戦争を失くす為に戦っている。
その為の武力介入であり、その為のソレスタルビーイング、ガンダムが存在してい
るのだ。
しかし、幾度と無く死地に身を置き、自身の心底に問質してもいつも答えは決まっ
ていた。
武力によって戦争を失くす以外に一向に答えは見えてこない。
何度己の無力さを嘆き、諦念の波にさらわれそうになったか分からない。
いや、一寸先すら見えない濛々と立ち込める霧の中に居るように、本当の意味で刹
那が求める"答え"の片鱗する見えてこようとしない。
「俺は死なない」
そう死ねない。
テロや戦争が跋扈し無垢の命が理不尽に散ってしまう世界を刹那は認めてはおけな
い。
例え口に出して表現し切れない迷いがあろうとも、世界の歪みを根絶するまでは、
例え己の命が、吐いて捨てる程の安い安かろうと簡単に捨てる事は出来ない。
死屍累々と続く犠牲の上に成り立ってしまった"命"であるからこそ、肉と心を蝕む
呪いのように刹那を突き動かしていた
「強いね、刹那は」
刹那の確固たる意志の称えた光は、フェルトは時折羨ましく感じていた。
迷いを抱えながらも自分の思うように振舞える様子は、戦争根絶と言う同じ想いを
抱えながらも、後ろで控える事しか出来ない自分とは大違いだ。
言葉数が少なくても良い。
せめて、自分の思った事は素直に口に出したいと思うが、実行に移す事は限りなく
難しく、いつもしり込みしてみまうのだ。
一瞬フェルトには、刹那の瞳が"金色"に輝いていた気がしたが、瞬きの間に元の赤
い瞳に戻っていた。
見間違いだろうと、目を擦り、手元の端末に目を落とす。
スメラギの予報に基づいた国連軍の進行開始時間に向けて刻々と時は刻まれている。
補給が早いか国連軍の進行が早いか。
時は一刻を争い、若いフェルト達が十分に迷い考えるだけの時間は残り少ない、
個人個人が出来る事をやれば運命は自ずと開かれる。
使いまわされカビが生えてしまった先人達の言葉だが、フェルトは少し違う解釈を
持っていた。
出来る事をするのでは無く、出来る事しか出来ない。
最適手も最善手も、提示された選択肢の中から選び取る物であって、選び取るだけ
では、第三の選択、即ち"奇跡"を起こすにはほど遠い。
膨大なデータから導き出される絶対的な数字は、奇跡は起こせないとフェルトに如
実に語りかけているようで、フェルトがその度に不機嫌になっていたのを誰も知らな
い。
しかし、自分のそんな陰鬱な思いも、マイスター達ならば、数字の呪縛を振りほど
き運命を切り開いてくれる。
素直に信じさせてくれる力強さが彼らにはある。
フェルト・グレイスと言う少女は、口数こそ少ないが元々感受性豊かで想像力が旺
盛な少女だ。
クリスティナに年頃なお洒落のイロハを叩き込まれている最中も、仏頂面で興味が
無さそうに聞いているように見えるが、実はクリスティナのお喋りが早すぎて、フェ
ルトの考えが追いつかないだけだ。
だから、フェルトは、相手に合わせて話してくれる相手、つまり、ロックオン・ス
トラトスや率先して自分の考えを話さない刹那とは波長が合う。
ロックオンは、ゆっくりと自分のペースに合わせてくれるし、刹那は自分がペース
を合わせれば良いから会話する事が非常に楽だと感じていた。
「ねぇ刹那…」
「なんだ」
「手紙を…手紙を書かない」
「手紙?」
フェルトの微笑に促されるように、刹那は無言で首肯していた。
機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
第三話「片翼の鳥」
「一人は…嫌ね」
「オレガイル、オレガイル」
「あんたは論外よ」
「テヤンデェ、テヤンデェ」
ネーナとスメラギとの交渉はあまりに呆気なく決裂した。
スメラギは、苛立たしげにネーナを一睨みすると、ラッセにネーナを部屋に戻すよう
、暗に促し、ラッセの太い手がネーナを肩を掴むと、交渉失敗を自覚したネーナは、精
一杯の皮肉を込めて特大のあかんべえをお見舞いした。
何がいけなかったのかと自己分析を始めるが、どう考えても全てが駄目だったのだろ
う。
苛立ち紛れに相手を挑発し、八つ当たりのように言葉を紡いだ。
本当に兄達の仇を討ちたいのであれば、泥を啜ってでも、僅かな光明を探し当てる努
力をするべきだった。
「あたしさぁ、実は冷たい人間なんじゃないの」
「シラネェヨ」
「なによ、このポンコツ」
蹴り飛ばしたHAROが、壁に何度も跳ね返り、コロコロとネーナ足元に戻ってくる。
室温は常温に保たれているはずなのに、肌に纏わり付く空気は冷気のように氷のよう
に冷たく痛い。
死に至る病は孤独だと言う。
いつもは両隣に必ずあった温もりが消え去って、どれほどの時間が流れただろうか。
ほんの数日のはずなのに、二人の兄が死んでから、もう何十年もの月日が経ったよう
に思える。
人間は慣れる生き物らしいが、ネーナは違うと思った。
肉親の喪失と言う耐え難い孤独に、人間は忘れることで対処しようとしている。
悲しみに慣れるのでは無く、悲しかった事を"無かった"事にして自己防衛を図る生物
なのだと、大事な人を失って初めて理解出来た。
「嫌だな…一人は」
誰かに聞かせるようにもう一度だけ繰り返す。
ネーナの予想通り答えかしてくれる人はおらず「テヤンデェ」とHAROの拗ねたよ
うな声を最後に、ネーナはいつの間にかいつしか眠り込んでしまった。
「起きろ、ネーナ・トリニティ」
誰かが自分の肩を揺すっている。
淑女の体を何の断りも無しに触る事はマナー違反で、いつものネーナならば、金的目
掛けて蹴りの一発でもお見舞いする所だったが、泥のようにへばり付く眠気の方が勝っ
ていたし、生憎と刹那の無作法を咎める人間はトレミーには居ない。
333 :
通常の名無しさんの3倍:2009/09/26(土) 23:48:21 ID:O5U5W8WE
一応支援
支援
できれば何レスになるか書いてくれると嬉しいかも。
「なによ、うっさいわねぇ」
寝返りをうち、薄らぼやけた瞳に強張った顔の刹那が映る。
肌にぴったりと張り付く白いインナーは通気性に優れているが、慣れないベットと劇
的に変化した環境では寝汗の一つもかこうと言うものだ。
元々あまり寝相が良い方でないネーナは、狭いベットの上で何度も寝返りを打ち、巻
くれがったインナーから、豊かな乳房が見え隠れしている。
「タダ見かしら。あんたにはまだ早いんじゃない」
「…何を言っている。さっさと起きろ」
刹那は怪訝そうな顔でネーナを見つめ、やがて、何かに思いついたように、ネーナか
ら慌てて顔を背けそっぽを向いてしまう。
「初心ねぇ、ちゅーしてあげたじゃない」
「…黙ってこれを着ろ、時間がない」
「はいはい」
「来い」
刹那の有無を言わせぬ様子に、ネーナは毒づくが、訓練された危機感知能力がトレミ
ー中に充満する只ならぬ空気を察知し、文句一つ言わず手渡されたノーマルスーツを着
込んだ。
誰も物か知らないが、胸のサイズがキツく着心地は最悪だったが、HAROを抱えた
ネーナは、刹那の後に続いた。
トレミーの中は厳戒態勢が引かれ、乗組員が慌しく動いていると思いきや、艦内は、
まるで、誰もも乗って居ないかのように恐ろしく静かだ。
CBの組織の都合上、人員は極限まで切り詰めなければならず、CBが運用する戦艦
は、半自動化、ワンマンオペレーションシステムプランが実験的に導入されている。
MSの整備は勿論、格納庫からMS待機位置の移動まで、支援AIであるハロ達がマ
イスター達の代わりに働いてくれる。
おかげで刹那達、ガンダムマイスターは、出撃前の緊迫した時間であるにも関わらず
、直前まで余裕を持って行動する事が出来た。
「アリー・アル・サーシェスが来たの?」
「不明だ。だが国連軍の大部隊が接近しつつある。数で劣る俺達はスメラギ・李・ノリ
エガの戦術プランに従ってこちらから先制攻撃を仕掛ける」
「機先を征そうっての?そんな簡単な相手じゃないんじゃないの」
Msの性能差が拮抗しているからこそ、重要になって来るのは頭数だ。
判明している擬似太陽炉搭載機の総数は約二十四機。
ガンダム一機に対して六機を相手にしなければならない。
彼我戦力比は一対六。
トランザムシステムの性能を加味してもCBには圧倒的に不利な状況を言わざるを得
ない。
「だが、やるしかない」
勿論、白旗を上げて降参すると言うプランもある。
少しでも生きながらえる目的ならば、両手を上げて武装解除すれば、国連軍も非人道
的な手段に出る事は無いだろう。
生き延びる"だけ"ならば、降伏を選択すべきだ。
だが、顔こそ明るみに出ていないとは言え、CBの構成員は、世界の敵として国際指
名手配されている身だ。
満足に裁判を受ける権利すら与えられず、不遇の判決が下る事になるだろう。
乗るか反るか。
掛け率は、武力介入が開始された当初の何十倍も跳ね上がり、刹那達が生き残る為に
は、戦い勝ち続けるしか道は無くなろうとしていた。
「入れ」
案内された部屋は、窓も椅子も無く、只の倉庫なのか未開封のコンテナが所狭しと並
んでいる。
およそ居住性が確保されているとは考えず難く、ネーナは、溜息を付きながらコンテ
ナの隙間に体を滑り込ませ刹那に向き直った。
「行くのね」
「あぁ」
刹那の味も素っ気も無い言いように、ネーナは忍び笑いを漏らし、両手を組んだまま
刹那を睨み付けた。
「このまま、あんたを撃って、ガンダムを奪うって手もあるわよ」
「どこに武器がある」
「隠してるかも知れないじゃない」
「しつこいようだが、生体認証もある。俺以外の人間がエクシアを使うのは不可能だ。
お前が俺を殺してエクシアを奪っても動かせないだろう。そして、俺の仲間もお前を撃
つ」
「そんなこと分かってるわよ、私…バカじゃないの」
「理屈じゃ無い・・・そう言いたいのか」
「そうよ、理屈じゃないのよ」
二人は互いに相手の瞳を見つめ微動だにせず佇んでいる。
怒気すら孕んだ視線は互いを傷つけ、鏡写しのように向かいあった姿は一体何を揶揄
しているのだろうか。
刹那は、ネーナと向き合っていると、己の幼い精神が暴かれ、弱い心が剥きだしにさ
れそうな恐怖感を抱いてしまう。
「…お前は歪んでいる」
「私から見れば、あんたも十分歪んでるわよ」
売り言葉に買い言葉とはこの事だろう。
声を荒立たせこそしないものの、心底に渦巻くマグマのように熱い感情が渦巻き、自
制しようと心がけても、刹那は言葉を押し止める事が出来なかった。
「お前は世界を憎んでいるのか」
「にーにずを殺した世界なんていらないわ」
一際強い憎しみを込めた言い放ったネーナに、刹那は幼い頃の記憶が弾けて消える。
胸に誓った神だったモノへの絶対の信仰が、心を掻き乱し、思考を放棄し神の礎とな
る事を夢見て戦った少年時代が記憶を抉る。
立ち塞がる現実を神の敵にすり替え、心無いままに機械のように命を奪ってきた原罪
の日々を忘れた事は一度たりとも無かった。
ふと、気が付けば、ネーナ・トリニティは、あの頃の刹那と同じ目をしている。
信じたモノに裏切られ、降ってわいた理不尽を憎み、現実を別のナニカにすり変える
事で、自分達の罪から目を背けようとしている。
それが欺瞞であると、無意識化で悟りながらも、詭弁とも逃避とも似つかぬ言い訳で
心を塗り固め自己防衛を図る。
人は厳しい現実よりも優しい嘘の方を好むのだから、誰もネーナの行動を責める事は
出来ない。
少なくとも逃げてばかりいた、刹那が彼女を責める事は絶対に出来なかった。
(お前は俺だ…ネーナ・トリニティ)
認めなければならない。
人の屍の上に立って来た罪深き人間として、目の前の少女ネーナ・トリニティと刹那
・F・セイエイは同種の人間であると。
奪い、壊し、殺す。
刹那の中に根付いた人としての根幹は破壊だ。
いくら否定しようとも、破壊することでしか彼は物事を為しえず、破壊の為にしか人
生を歩くことが出来ない。
そして、両親を殺し、戦いに身を投じた罪は−−−消えず、刹那を永遠に苦しめ続け
だろう。
「俺とお前は同じ物から出来ている」
「はぁ?」
刹那の雰囲気が変わり、瞳の奥に潜んだ悲しみにネーナは気が付かない。
「俺には戦うことしか出来ない」
「奇遇ね。私も戦うのが一番得意なの。戦う事でしか自分を表現出来ないの。あんたが
私の事を歪んでいるって言うなら、ガンダムマイスターである、あんたも歪んでる。そ
れも、私"達"以上にね」
ネーナの言うとおりかも知れない。
戦争根絶の為に無差別テロとも揶揄される武力介入を行った結果、刹那達に与えられ
た運命は滅びの道だ。
人として戦い続けた結末が滅びならば、いっそ血も涙も無い修羅道に堕ちた方が気が
楽だっただろう。
「否定はしない。だが、戦って来たからこそ見えるモノもある。今の世界は悲しい程に
歪んでいる。世界は俺達を滅ぼす事で世界は一つに纏まろうとしているが、俺達の戦い
が世界に何を与え、何を変えようとしているのか。戦う事しか出来ない俺には分からな
い。想像すら出来ない。
だが、俺もお前も…世界の歪みの一部だ。
殺す事で今日まで生きて来た歪みだ。歪みが世界を正そうとするから、真実が尚更歪
んでしまうのかも知れない。だが、歪んだ俺でも理解出来た事も一つだけある。
俺"達"に出来る事は破壊する事だけだ。だが、破壊の先には再生が待っている。そう
信じて戦って来た。そして、俺はこれからもきっとそうするだろう。ネーナ・トリニテ
ィ。お前の歪みはいつか必ず俺が断ち切る。だから、それまでは…もう無駄に殺すな」
「あんた、さっきから何言ってんのよ、意味分かんない」
「俺は、もう行く。戦闘中はここから出るな。非常時はイアンの指示に従え」
「ちょっと、待ちなさいよ」
ネーナが止める間も無く、刹那は扉をロックしてしまう。
分厚い扉に阻まれ、ネーナの手は刹那に届く事は無かった。
「何よ…それじゃまるで遺言じゃない」
刹那の遠ざかる足音を聞きながら、座り込み、扉に上半身を預けたネーナは我知らず自
然と呟いていた。
ガイドビーコンが点滅する中、格納庫から直結の輸送エレベーターの中から、刹那の乗
るエクシアが現れリニアカタパルトに拘束される。
カタパルトの両脇のウエポンラックから、エクシア専用の武装がマニュピレーターによ
り次々に搬出され各部に接続されていく。
サーシェスとの戦いで傷ついたGNソードも復元され、刃先にはGN粒子を蓄え、中和
する性質を持つレアメタルの加工処理が施されている。
先行したロックオン機に続き、アレルヤのキュリオス、ティエリアのヴァーチェが続々
と出撃して行く中で、刹那はエアクッションの効いた、シートに背を預け一人物思いにふ
けっていた。
(やはり、ガンダムの中は落ち着く)
無骨な機械の巨人は、幾多の危機を共に乗り越える内に刹那の血をなり肉となり、最早
切り離す事の出来ない存在となった。
羊水の中で眠る胎児だった頃の記憶がそうさせるのか、刹那はガンダムに無垢な安堵感
を覚え、俯いたまま操縦桿を握り締めていた。
先行したGNアームズ二番機を装備したデュナメスの目的が敵輸送艦の撃墜ならば、刹
那の目的はティエリア達が撃ち漏らした敵を掃除する事だ。
出撃と同時にラッセの操るGNアームズ一番機と合体し、最大火力による一点突破を時
間をずらし国連軍に連続で畳み掛ける。
数で劣るならば、先制攻撃でまず頭数を減らす。
ファーストフェーズの成否こそが、これからの戦局を左右する大事な接点だ。
失敗すれば、生き残る確立は格段に下がってしまう。
だが、迫り来る死の脅威と裏腹に刹那の心は早朝の泉のように静けさを保っていた。
開き直りではなく、ただ、ガンダム(母)に守られているよう気がして、彼の心はいつ
にもまして穏やかだった。
『刹那、ネーナさんは?』
そして、永遠に続くと思われた沈黙は、フェルトの途惑い弱々しい声で唐突に終わりを
告げた。
「C26番倉庫に預けた」
『C26番…物資排出用のパージブロック?』
「戦闘時に"非"戦闘員を主要各所に入れる事は出来ない」
『うん…でも、きっと、そこがトレミーで一番安全だと思う。水と食料も備蓄されてるし
最悪切り離しちゃえば良いから』
作戦開始を告げる刻限は、もう直ぐそこまで迫っている。
こんな風に仲間と穏やかに会話する時間は、刹那には残されていない。
「フェルト…マリナに手紙は届くのか」
『大丈夫だと思う』
刹那達の手書きの書面は、暗号通信でエージェント達に託された。
この戦いで例え、彼らが滅びようとも、刹那の言葉が綴られた手紙だけは、マリナ・イ
スマイールに届くだろう。
「そうか…ならいい。フェルト、リニアカタパルトの制御権限をエクシアに」
『りょ、了解』
刹那は安心しきった様子で、リニアカタパルトの制御をフェルトから受け取る。
思えば彼女とはすれ違っていたばかりのように思える。
互いに言いたい言葉は山程あるはずなのに、お互いの立場を気にして、満足に言葉を交
わす事すらなかった。
一方的で実に卑怯な言い方だが、マリナに手紙が渡れば刹那の言葉"だけ"は彼女に届く。
希望と言うには余りにか儚く脆い存在だが、刹那の平和に対する思いだけは、彼女の胸
に残る、残ってくれれば良いと刹那は思う。
フェルトから刹那に制御権限が譲渡され、ガコンとリニアカタパルトが重苦しい音を鳴
らし、エクシアが前傾姿勢を取った。
後は、作戦開始と同時に刹那の呼吸で出撃するだけだ。
『ねぇ刹那…ネーナさんには手紙は書かないの』
「ネーナ・トリニティに…何故だ」
『そうだね、私、何聞いてるんだろう…忘れて』
思いつめたようなフェルトの声に、刹那は何とも言えぬ気まずさを抱く。
叱責されたわけでも無いのに、刹那は何故か居た堪れない気分になり声を濁した。
「…ネーナ・トリニティには、言いたい事は全て言った。これ以上あるなら、この戦いが
終ってから言う事にする」
おれも支援
フェルトが何を思って、自分にそう聞いて来たのか、刹那には伺い知る事は出来ない。
戦いを通じて他者と触れ合う事で育ってきた自分の感情を否定はしない。
今何を思い、何を感じ、何を為すのか。
曖昧で判然としない思いが胸中で渦巻き、恐らく自分を心配して声をかけて来てくれた
でろう少女には、気の効いた言葉一つかけてやる事が出来ない。
マイスター達の兄貴分であるロックオンならば、微笑み混じりに歯の浮くような台詞で
彼女を勇気付けるのだろうが、悲しいかな異性を慰める語彙を持たぬ刹那には、彼の真似
事など無理な話しだった。
だが、全てはこの戦いが終ってからの事だと、刹那は割り切り、エクシアのシステムを
戦闘モードに切り替える。
純正太陽炉から精製されたGN粒子が、エクシアの機体全域に行き渡り、関節から濃緑
の粒子が力強く溢れ出す。
『刹那…』
「なんだ」
『死んじゃ駄目。ロックオン達と皆と絶対一緒に帰ってきて』
「約束は出来ない。戦術プランにもあるように国連軍の戦力は」
『駄目、理屈じゃないの。約束して』
刹那の言葉を遮り、有無を言わせぬ様子でピシャリと言い放つフェルトに、刹那は鼻白
み、無口な表情に皹が入るのを自覚した。
女は強い。
思えばマリナ・イスマイールもそうだった
母のような暖かさを持っていたが、砂漠の過酷な環境耐え、花を咲かせ種を飛ばす、ア
フナダの花のような芯の強さを持っていた。
珍しい青い六枚の花弁は、命のを育む海を彷彿させ、花弁と対照的にその種子は炎のよ
うに赤い。
炎は命を焼き、奪う半面、巧く使えば命を守り育む事が出来る。
アフナダの青い花弁は、慈愛に満ちた民族ドレス姿のマリナを思い起こさせ、赤い種子
は、マリナの揺ぎ無い意志を象徴するようだと、刹那は漠然と思った。
「…あぁ。約束する」
刹那は、フェルトに人は一人で生きて行けないのだろ暗に思い知らされたような気がし
て、両手を力強く握り締めた。
傷つけ、傷つけられて、それが当たり前の世界を拒否して戦う。
自己嫌悪と後悔を何千、何万回と繰り返し、しかし、人はその度に強く逞しく前に進ん
できたのではないだろうか。
刹那には、そんな生き方が眩しく映る。
そして、いつか自分にもそれが出来ると信じてこの戦いを乗り切ろうと、暗黒に宇宙
に睨み付けた。
「フェルト、後は任せる。エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐…いや、目標を"破
壊"する」
エクシアの太陽炉が濃緑の粒子を吐き出し、刹那は裂帛の気合と共に真空の宇宙
へと駆け出した。
今回はここまでです。
支援感謝します。
次回からは予定レス数も表記したいと思います。
失礼致します。
投下乙!
焚き火がはぜる。火の粉を飛ばす。
草むらから遠巻きに見つめている野獣の眼が光る。
「あれには悪い精霊が憑いている」
水煙草を深々と吸い、族長が天を見上げる。
「ただそれだけのことだ」
吐息とともに煙の輪が大きく広がりつつ漆黒の空へ昇っていった。
その先は、さらに大きな真白の輪……
無数の間接が太陽光に照り映えながら、うねり、ねじれ、きしる。
しかし音の波は外へ伝わることなく、機械の骨格を通して残響するばかり。
真空に限りなく近い空、地球を取り巻き輝く円環。内部で磁性流体を高速回転させることで
自らを支えるオービタルフレーム。自らの尾を飲み込む神話の怪獣ウロボロスが現代に蘇った姿。
そのぐるりをそうがごとく、巨大な海蛇あるいは百足に似た機械が公転していた。
今では旧式と化した宇宙用ティエレンを防御と推進のため先頭に。後部にワイヤーで連なった
ジンクス3を曳航する。疑似太陽炉を用いるMSは航続時間が必ずしも充分とはいえず、GN粒子
の発光で敵に視認される恐れもあるため、まだ最前線でも旧式MSとの協力が不可欠だ。
海蛇の目標はオービタルフレームに居座る敵艦隊。時局が読めずに世界統一の流れに逆行する
中東某国の差し金だ。
要求は軌道エレベータ送電権の制限解除と、疑似太陽炉技術の公開。
むろん聞き入れられるはずもなく、最も原始的な外交で彼等は排除される。その予定だった。
正面モニタに宇宙用ティエレンの後頭部が映る。その中央、太陽の陰となった場所に、暗緑色
をした人型がしがみついている。ジニン大尉は顔をしかめた。人の命がジンバブエドルより安い
人革連の伝統戦術、ティエレンデサントだ。
重装甲宇宙服を着込み、ワイヤーで自らを宇宙用ティエレンの後頭部にしばりつけた通信士が
右手を上げた。
「時間だ」
BOW!
轟音とともに疑似太陽炉が急速起動、GN粒子を花火のように噴出させる。
BOW!BOW!!BOW!!!
花火は先端から連鎖するように吹き上がり、その華々しさは新年を祝う爆竹を思わせた。
オービタルフレームに居座る敵艦隊が慌てたように対空砲火を浴びせてくる。しかしGN粒子で
センサーをジャミングしている上に、強固なGN装甲のおかげで傷一つつけられることはない。
有線通信機から乱暴な叫び声が耳を突き刺す。
「GO!GO!GO!GO!」
正面モニタに目をやると、ティエレンデサントした通信士が右腕を振り回す。無電に期待でき
ない高濃度GN粒子戦闘では、最も冴えた通信方法だ。
畜舎から家畜が追い立てられるがごとく、マニュピレータで互いに押し出すようにジンクス3
が散開。宇宙と成層圏のはざかい、ほのかに青く発光するアトモスフィアの海へダイブする。
上部モニタへ目をやると、宇宙用ティエレンが加速して軌道遷移し、相対速度を落としている。
そうして楕円軌道で急降下して相対速度を増し、一撃離脱した部隊を回収する。制圧だけが目的
ならば大義も援護もはるかに優越しているアロウズがヒット&アウェイする必要性もないが、
GN粒子の技術保持という目的、特殊部隊という位置づけのため、現状ではしかたがない。
「隊長、一番乗りさせてもらいまっさ!」
ランスを伸ばし、可能な限り低姿勢で一機のジンクス3が先行する。GN粒子が一瞬、視界を
横切ってセンサーを殺す。
「バカが……」
SHIT舌打ちしながらもジニン大尉は左マニュピレータを上げ、後続する4機へ援護するよう
指示を出した。
敵味方、互いに火線が交錯するさなか、赤いMSが赤い航跡を引いて敵艦隊へ到達する。
断末魔の砲火を上げていた敵艦隊が、しばらくして沈黙。モニタを望遠に切り替えると、一瞬の
閃光でオービタルフレームの影を白く照らした後、艦橋で爆発を起こした様子が確認できた。
敵艦はゆるやかに回転しながら、断続的な爆発でジグザグに航行し、オービタルフレームへ
接近していく……
「隊長、あれはやりすぎです!」
「……わかっている」
背後で叫び声を上げる部下をふりきるように、ジニンは乗機を加速させた。
地表に対して直立した軍艦が、煙を内部の圧力で噴き上げながら無音でオービタルフレームへ。
「この質量……疑似太陽炉の出力でも対処できんか」
建造物へ近すぎて、爆破解体して被害を最小限にとどめる奥の手も使えない。
さらに映像を拡大すると、逆光で黒くつぶれたMSの姿が確認できた。堕ちゆく敵艦を見下ろ
すように、ジンクス3がランスを下げて戦闘行動を中断している。
「何をしている!……?」
ジニンは叱責を飲み込んだ。
ランスの先に赤々と照らされているMS。……いや違う、爆発光のためだけでなく、MSは
実際に赤くペイントされている。
深い青をしたジンクス3がゆっくりとふりかえる。地球の正規軍にも存在しない機体色だ。
逆光で気づくのが遅れた。
その背後で、ついに軍艦がオービタルフレームへ接触する。単独で宇宙戦闘を継続できる軍艦
でも、さすがにオービタルフレームと比べればちっぽけな宇宙船にすぎないが、衝突した衝撃は
並みではない。外壁の一部に亀裂を作り、内部から……
「磁性流体!」
ジニンはペダルを踏みこんで乗機を前転させ、後背部から噴出するGN粒子で防御する。しかし
オービタルフレームの内部から拡散する磁性流体に飲み込まれ、機体が激しく揺さぶられた。
オービタルフレームから距離を取りながらもジニンは敵MSへ叫ぶ。
「貴様、何者だ!」
返事を期待していたわけではない。磁性流体の奔流とGN粒子の拡散下で、通信機能は途絶して
いる。そのはずだった。
機体の揺れが急激に収まった。正面モニタに突如として特徴的な4つ目が大写しになる。
真正面からディープブルーのジンクス3が組み付いてきている。
「必要ない……」
重々しく、よく通る声が接触通信で聞こえた。ジニンは叫び返す。
「墓石に名前くらいは要るだろう!」
ビームサーベルを抜こうとした左マニュピレータは、あっさりと切り飛ばされた。
「地球には必要ないのだ。君達も、彼等も、太陽炉も……」
その言葉と、アロウズMSを突き刺したままのランスを残し、敵MSは離脱していった。そして
そのまま急激に減速を続け、低く低く軌道遷移。
DEEP DIVE.
断熱圧縮でアトモスフェアを熱しながら、青いジンクス3は地球の夜へ姿を消した。
漂流するジニン大尉が回収されたのは2時間後のこと。
部下の死亡が確認されたのはさらに1時間、敵ジンクス3が1ヶ月前に地上で鹵獲されたものと
伝えられたのは13時間、コクピットに何の痕跡も残されていないジンクス3が地上で発見された
のは24時間、そしてオービタルフレームの簡易修復が終了したのは47時間もたった後であった。
そしてジニンが病院のベッドで女性看護士から熱い視線を注がれているさなかにも、オービタル
フレームから放出された磁性流体でいくつもの人工衛星が破壊され、そのいくつかは地表へ落下した。
もちろんほとんどが海上へ落下し死傷者は出なかったが、ジニンが敵のゆがんだ心象を確信するに
は充分だった。
ALL RIGHT?
疑似太陽炉機は専用の機関がなければ動かせない。鹵獲したジンクス3は使い捨てて、地球連合
と反地球連合の衝突を利用し、オービタルフレームを損傷させる。単純な作戦だが、わずかな時間と
人員で激しい災厄をもたらした。
地球連合はジニンの証言から環境テロリストによる建造物破壊計画と断定、アロウズから正規軍
地上部隊へ任務を引き継がせた。
しかし、この華々しくも声明は出されることなく、一般人の死傷者も出さなかった戦闘が、精霊と
宇宙をめぐる小さな事件の予兆でしかないと気づいていた者は、まだ誰もいない。
TO BE CONTINUED?
SORRY,THAT’S ALL FOR THE STORY.
#最近に、真面目な文章に収束するばかりならつまらないという意見を目にしたので、文体練習しつつ多様性を提案するつもりで書いてみた。
#中編SSの冒頭部に使えそうな状況を考えてみただけなので、一応は結末までプロットを考えたものの、続く予定はない。
#誤爆した別スレにここでも謝まっておく。悪かった。
みなさんGJ
>>弐国さん
投下乙です。GJでした。
どんどん読みやすくなっていて、進化止まらず、と言った感じでした。
主人公の甘酸っぱいところがにやにや出来ます。それからナヴィさんの
汎用性は異常。
またの投下をお待ちしております。
>>FRESH
投下乙です。GJでした。
一期ネーナをトレミーに割り込ませて、刹那とフェルトに焦点を当てると
あっという間に青春小説となって行くことに驚きです。
にーにず→にーにーず でしょうか。
刹那に進化の兆し有り、と出し惜しみせずに巻いているのも良いと思います。
大惨事粘膜接触に期待しています。
またの投下をお待ちしております。
>>ウロボロス
投下乙です。ジニンジョブでした。
デサントは怖いですが、こういう泥臭さと閉塞感を感じる戦闘は大好きです。
文体の多様性というなら、折角なので四文字俗語でもうちょっと遊んでみても
よかったのではないかと思います。
えーと休みで時間が出来たので二話投下します。
あまり修正点は無いのですがよろしくお願いします。
―月都市某レストラン 男子トイレにて
「本日はお日柄もよろしいことでぇー、って……駄目だぁ!?
良く考えたら月じゃ天気はコントロールされてるじゃないか!」
「そうですね……すいません。俺、さっきから場を和ませるギャグだと思ってたですが」
「え?! ずっと本気で練習してたんだけど!? 早く教えてよ!」
「帰りたくなってきた。相手に失礼だからか・え・り・ま・せ・ん・け・ど! しっかりして下さいよ艦長ぉ」
「じゃあ、何て挨拶したら良いんだろか。常套句はコレ位しか僕知らないんだけど」
「そんなの俺が知る訳ないじゃないですか」
「そうだよなぁ。うーん、難しいな意外と」
鼻歌交じりでスーツを着込んでいる元副艦長で今は俺の所属する部隊の戦艦の長である
アーサー・トレイン艦長は何度も鏡で髪型を確認しており、まるで自分の催し物の様に張り切っていた。
さっきまで何度も何度も繰り返す挨拶の言葉の練習が今更、役に立たない事に気付いたらしく
若干の焦りを顔に滲ませている中、狼狽振りを隠すかの様に手を再び、洗い直す。
怯えたアライグマみたいだと思った。アライグマが洗うのは狩りの練習らしいが何となくイメージで。
さて、それを見ている俺、シン・アスカは怪訝な顔つきで、トイレの洗面台の鏡越しにアーサー艦長を見ながら
怠惰なため息を漏らしつつも艦長が凹み過ぎない様に言葉をぶつける。正直、用を足した後だというのに実に気が重い。
陰と陽がはっきりと別れる二人の姿は、傍から見ればかなり異様に見れるのだろうか。
ため息で思わず口に挟んでいたハンカチを落としそうになる中、あまりの態度に視線も自然と冷ややかになる。
「アーサー艦長。はしゃぎ過ぎですよ。大丈夫なんですかぁ?」
「んぅ? 仕方ないだろう。君は身寄りが居ないし、同僚は君と数年しか変わらない子ばかり。
上司以外の理由は無いけど、やっぱ頼られるのは嬉しいからね。それとアテがあった?」
「はぁ……まぁ、確かに艦長は黙ってれば、大人に見えますし……そんな事、頼める大人の人居ないですけど。
見合いのえーと、仲人って奴でしたっけ? 出来るんですか?」
「なぁーに、向こうは大層な君のファンらしいじゃないか。後は若い者同士でと言う事でヘマをする事も無いさ」
「そんな無責任な。要するに丸投げじゃないですか」
「ははっ、シンは場数も踏んでるし、何とかなるだろう? ま、気に入らなかった後で断れば良いよ」
結局、何時もの調子へと戻ってしまった艦長を尻目に他に選択肢の無い現実が憂鬱さを引き立てる。
トイレを二人で出た後、艦長にパンッと背中を叩かれる手の感触は、初めてのMS搭乗訓練の時に
押された教官の手とダブって感じられた。それが勇気付けなのか奈落に落とすつもりだったかは未だに解らない。
だが、それで少し安心出来たのは事実だ。ちょっと艦長ではと思っていたが、やはり大人の手と言うのは安心する。
陰気さを吐き捨てる様に呼吸を整え、背筋を伸ばし案内されたVIPルームへと向かっていく。
事の発端は3日前程に突然、届いた見合い依頼の申し出を来た事から始まった。
しかも軍と政府のお墨付き及びセッティングでその日は休んでいーよと言う事になっている。
終戦から1年も過ぎた頃で連合とプラントの人的交流が活発になったとはいえ
まさかそんな依頼というか、最初受けた時は何かの間違いかと思った。
有給休暇、もしくは特別任務で女性とご飯を一緒にするだけで仕事になるのだから罰の悪さすら覚える。
当初は断ろうと思っていたが、艦長のあまりの盛り上がりっぷりに無碍に断る事は出来なかった。
かと言って俺は結婚などと言うのをモノを、本格的に意識して望むわけもない。
取り合えず、逢うだけ逢って見るとの事だったのだが、結構上等なレストランの予約を入れてしまったらしく
俺は場違いな雰囲気に緊張を隠しきれないでいた。いや、そもそも緊張を隠すなんて事が出来た記憶が無いか。
「しかし、ほんとに何も知らずに来るなんて、シンも度胸があると言うか何と言うか」
「だって、好みじゃなかったら来る前から憂鬱になりますし、好きそうな相手だったら何だか緊張しちゃうし
後は一回で終われないかもしれないじゃないですか。恋愛は兎も角、結婚前提で付き合うのはまだ流石に」
「なぁに、そんなのは逢った男と女が出会ったら事は勝手に進むもんさ。
ま、確かにソレの方がシンにはいいかもね」
予約をされていたVIPルームへと向かう途中、艦長は横目でもう何度も聞かされたセリフを告げられる。
艦長の言った通り、俺は写真も名前も聞かず、出来るだけ期待も面倒さも出さない為に相手の情報を遮断していた。
失礼かとも思ったが前もって色々と知ってしまったら、今日この日のスタンスを取れなかっただろう。
あくまで一回切りの慰問や軍人の現地視察程度の気持ちで行けば良い。どうせ、すぐ飽きられる。
そんな事をぼんやり考えていたが、廊下を曲がれば広がるのは星空と街の夜景に思考は中断させられる。
今日も月は街の明かりと星空の両方を照らし出して、眼下には水の惑星が存在を強調していた。
流石月都市の中でもトップクラスの高級さのあるレストランだけの事はある。廊下ですらこの夜景の豪華さだ。
その星空の中、仲人らしき女性が部屋の前で立っていた。ソレを見るとアーサーは慌てて、俺の手を引っ張っていく。
予定より15分ほど早く来ていたのだがまさか、こんなに相手が早く来ているとは思っていなかった。
「あ、失礼を! お待たせしてしまうとは。私はアーサー・トレイン。シン・アスカの仲人です」
「ご挨拶どうも。実際に逢うのは初めてですね。私はレディ・アンと申します。
彼女とは血縁関係はありませんが彼女も身寄りが無い上、不束ながら本日のお役目をさせて頂きました」
「は、はぁ。となるとお互い身寄りのない同士って事になりますね」
「艦長! って、それじゃ中で待ってるんですね。すいません。本当に」
「いえ、どうしてもと彼女が予定の時間より早く入っていかったので。では此方へ」
眼鏡を掛けて目つきのキツイ女性ではあった所為もあり、あっという間に艦長はへタレ具合を見せてしまった。
早速、連れて来た味方の堕落っぷりに頭を抱えそうになりながらも、急いで俺はその部屋を開く。
そこで待っていた女性は部屋の夜景の中に映し出される。そのしなやかなプラチナブロンドをキラキラと光らせ
アイスブルーの瞳を向けてはにっこりと微笑みながらふわりっとした足取りで抱きついてくる。
柔らかい女性の肉感と……言ったらあれだろうか。いや、いやらしい意味ではない! 断じて!
よくよく考えたら過去の女性殆どが軍人だったことから久し振りに”普通の女性”の感触を体験した気がした。
ドキッとするほどに芳しいパフュームの香りと肌の白さからは想像出来ない位に暖かいその体温を感じた。
いや、違う。この香り、そしてこの手の感じは以前逢った事がある。それは確か
「お待ちしておりましたわ。シン様」
「……わ、い、いえ……って、君は!」
英雄の種と次世代への翼
第一幕「ツキミアイと炒飯一番」
―6日程前、月都市コペルニクスのホテルパーティ会場にて
”時間と金の浪費こそが貴族の嗜み” 何となくそんな言葉を思い浮かんだ。
絢爛豪華なドレスや衣装、手元や首元に輝く宝石に高そうな時計。歩く金庫か宝石店の様に皆、着飾っている。
連合とプラントの戦争が終わり、その後、各方面で開かれたパーティに未だに慣れることも出来ず
首根っこ引っつかんで連れて来られた俺は、正に借りてきた猫みたいに会場の端っこに立っていた。
猫らしく煮干でも貰ってとっとと帰りたいところだったが、一応ザフトレッドな立場にある俺は
そういう訳にはいかず、俺は優雅な音楽を右から左へ聞き流している。
うむ。馬の耳に念仏、豚に真珠、元オーブの餓鬼に最新鋭試作MSという感じか。正直勿体無い気持ちで一杯だ。
そんな貧乏性な思考が過ぎる中、ふと視線を巡らせればいかにも御嬢様と言った感じの女性二人組みと目が合う。
特に好みだった訳でもなく、また女性を探す様に目をやって口説くだ、恋するだ云々と言う気分では無かったので
そのまますぐに目を逸らし宙を睨んでいる。ふと、俺のことについての話し声が耳へと飛び込んできた。
「格好いい人だったわね。女みたいに肌も白かったし、しかも赤服! ザフトレッドよ?」
「ほんと……けど、目付き悪いわねぇ。服も軍隊の礼服のまんまだし、センス無し」
「それもそうね。……趣味悪そう。ああいうストイックそうなのはダメダメ」
「きっと、理解されないし、結婚しても勝手に財産を使われる浪費女と思われるわよ」
「あーーーそれは嫌ねぇ。やっぱ無しだわ。無し」
悪口はもっと本人から遠い所で言ってくれ。通信に慣れ過ぎた所為か、嫌な話も遠慮なくノイズ消して運んでくれる。
目付きが悪いのは生まれつきだ。というか勝手に結婚生活をシミュレートするなよ。
そもそも、一般家庭の育ちの俺にそういうお高い趣味は解らないんだよな。
本来だったら、戦災孤児のただの一平卒。アカデミーでちょっと成績が良かったからテストパイロットの赤服。
そのまま、とんとん拍子で昇進とフェイスにまでなったのは良かったが、そんなのは前議長のお膳立て。
実績はあっても人心はあのミネルバの艦内だけで、結局は将校クラスの人やソレの親族なんかとは相容れない。
ただでさえ、風足りも悪くて配属し直された部隊にだって馴染めて居ないってのにさ。
そんな風に腐って、憂鬱に夢物語の景色を傍観に徹していた俺に先輩としても気さくに話せる人物が声を掛けてくれた。
金髪に色黒で目は鋭いが何処と無く穏やかな空気の色を滲ませてくれる人、ディアッカ・エルスマンさんだ。
片手にグラスを持って……ん? コレ、アルコール入ってないか? ちょっと頬が赤いし、飲んでるのだろうか。
「よぉ、シン。何だか浮かないな。飲んでないのかぁ?」
「あ、ディアッカさん。いや、俺未成年なんで。それに何となく馴染めないというか場違いと言うか」
「ノットグゥレイトォ。そんな仏頂面だからだよ。こういうのは雰囲気だ雰囲気。
どうせ、相手も軍人相手にお高い趣味や話が通じるとは思ってないからなぁ」
「仏頂面は生まれつきです。そんなもんですか?」
「そうそう、こーいうのはな。ハードな戦争を潜り抜けた堅物のほっとして気の緩んだ表情とかのギャップ
を楽しみたい変わった御嬢様方ばかりなんだよ。後は、親のお仕着せで嫌々着てる娘さんばっかりだ。
後者が相手じゃなきゃお前は黙ってりゃ美形なんだからちょっと優しくすりゃ落ちるぜ?」
「は、はぁ。優しくですか」
「お前もMSばかりじゃなくて、女の子の一人も落として見せろよ」
完全な絡み酒。顔を少し赤らめているが、そもそもこの人もまだ未成年だった様な気がするんだけどな。
ぱーんっと指で鉄砲を作った後、俺の目の前でそれを僅かに上へとくいっと上げる。
ムードメーカー的な才覚溢から俺の心理を見抜いているのか、そもそもこの人の地なのか
良く解らないが、俺がザフト軍に残った後、他の部隊や艦の人との遣り取りが増えた中で
俺の過去にあまり気にしないで話してくれる数少ない人だ。逆に言えば、それ以外の人
主にミネルバクルー以外の連中は何処かよそよそしかったり、俺をまるで怨霊か自縛霊の様に見る。
レイも議長もタリア艦長まで死んだのに”何でお前は死んでないんだ?”と言いたそうな連中ばかりだった。
別に議長の命令は特攻命令じゃなかったというのに、まるで俺が生きていてはいけない様な風潮。
まぁ、外の評判は概ね軍規違反を揉み消したり、上官や要人への態度が悪かったり、その癖やたら戦果を上げる扱い憎い奴と言う認識だ。
確かにそんな奴とは俺だって仲良く出来るかどうか怪しい。殆どの人が俺を警戒してしまい、自然と空気は刺々しくなっていた。
本人がそう自覚しているのはまだ救いなのかもしれないが結果として新しい友達など出来ず、誰とも仲良くなれない一年だった。
そして、そんな誰とも仲良く慣れてない俺の手を引きながらも、パーティー会場の淑女達を指差して
軽い女性攻略の講習会が始まった。俺は、そんな事を申し込んだ覚えは無いのだが。
「けど、やっぱ俺はどうも……それに軍人でもああいう人達も居るじゃないですか」
「ん? あー、あの人も火星から帰って来てたのか。ミリアルド・ピースクラフトとオーブのロンド・ミナ・サハクだな。
ばぁーか。ああいうのは根っからの騎士様や貴族様なんだよ。生まれも身分も違うだろ?」
「ディアッカさんも良家の出じゃないですか」
「うちは爵位なんてもってねぇよ。あくまで政治家の息子ってだけだ」
視線の先には煌びやかな衣装に身を包んだ美男美女が楽しく談笑をしていた。
其処だけ切り抜いて絵画になる位画になる二人。光り輝く光景は正に王子様の舞踏会と言った感じだった。
同じ軍人と言う括りになるのに、俺みたいな背の低いガキとはやはり世界が違う事を感じさせる。
そう、そんな二人が居るこのパーティは、地球とプラントとの友好交流をと言うお題目で定期的に開かれる舞踏会であった。
発案者は今プラントの議会を統治しているラクス・クライン議長。和平を願う歌姫らしい提案だと思う。
場所は定期的にオーブやこの月都市を中心としており、今回は諸々の事情で此方で行う事になっていた。
更に今回は特別なゲストとして、マーシャンと呼ばれる火星開拓民との特使達もパーティに参加している。
連合もプラントどちらからも会食や会合に引っ張りだこに呼ばれている人達を参加させただけに
過去に開かれたどのパーティよりも人数がごった返していた。だが、それには少しキナ臭い理由もある。
この4年に渡る二度の戦争を知らない彼らから見たプラント・地球に送られる視線は
”まだ、戦争なんぞやっていたのか?”という蔑視に近く、実際戦時中にはろくに連絡を寄越す事も無かったらしい。
幸い、早く戦争が終わったのは良かったが、この短期間で宇宙では核があちこちで降り注ぎ、地球では原子力が停止し
農業用コロニー落下でボロボロという信じられない状況が連続している。せっせと火星開拓をしてた彼等からすれば
まさに戦争狂という評価が妥当なのだろうと思う。それらの信頼回復というか、ご機嫌取りもかねて
”プラントと連合が仲良く”招いていると言う流れなので、暇そうで肩書きが偉い奴は全員駆り出されていた。
例えば、今は月の軌道で演習任務についている俺みたいな軍人でさえ招待される始末。もうちょっと人選を選んで欲しい。
「ほら、お前も少しは明るくして。スマイルスマイル♪ あ、あれかー? お前女と上手く行って無いだろ?」
「な、なんでそんな……今は関係ないじゃないですか」
「ははぁーん。図星だな。ルナマリアだっけか。あの赤服の子。
後ろめたいのか? それとも誤解でもされるのが嫌なのかぁ?」
「ち、違いますよ。別に彼女とはもう何もないですし、ていうかさっきも久し振りに逢ったし」
「……はぁぁーん、ほほーーん、、ふふぅーーーん、きゅうぅぅいいーーーん。ディアッカ・チャーハニックEYE発動!」
「な、なんですか!? 急に奇声を上げて……つか、チャーハニックEYEって何ですか」
「おぉ〜、お前も戦後失恋組かぁー! うんうん、俺には解るぞ。戦争の熱に浮かされて口だなぁ?」
「何で解るんですか? はい、そうですよ。この間喧嘩別れしました……ってディアッカさんも――」
「なんだディアッカ? また、お前の失恋話か。もしくはどうせ、お前の事だ。シンを捕まえて変なことを吹き込んでるな?」
話の途中、あごに手を当てて目を光らせながら謎の奇声を上げて俺の顔をマジマジと観察した後
なぜか的中したディアッカさんの指摘に思わず汗を滲ませ、引きつった顔でソレに答えていく。
この一年での変化。メイリンやルナはアノ戦争の後、少し俺に距離を置いている。
”遺恨”と言う奴だろうか。色々あったからやはりお互いに段々と気まずくなっていた。
ルナはあのアスランさんと対峙した時に止められなかった自分の責める気持ちもあったし、何より俺は
実の妹を殺そうとした男だ。そんな男と長続きする訳も無く、任務と職場が離れれば自然と会話も連絡も減っていった。
今ではお互いに関係が続いているとは思えない。否、それ以前に関係があった事すら無かった事になってるだろう。
そんな事情を知らないとはいえ、自分の過去の悲しみを織り交ぜて笑い飛ばしてくれるディアッカさんは強い人だと思った。
そういうタフさに甘えている事も踏まえて、この一年で俺は”弱くなってしまった”と実感する。
そんな話をしていると割り込んでくる声と共に一人俺達に近付いてきた人が居た。
銀髪の髪ときつい目付きをした俺と同じザフトの軍人であり、現在所属する部隊の長であるイザーク・ジュール隊長だった。
正直、あまり得意ではない……と言うかディアッカさん含めジュール隊の人以外
殆どが苦手と言うか扱いに困っているらしく、俺もその特例になれる訳が無い。
「あ、イザーク隊長。遅かったですね」
「よぉイザーク。まぁ、ちょっと人生の先輩として若人に色々と教えてやろうと思ってな〜」
「ああ、ちょっとシホとの待ち合わせと支度が手間取ってな。
おまけに人の服装をあーしろこーしろと五月蝿くてかなわん。そして、ディアッカ。また、下らんことを」
「すっかり夫婦だな。ま、あんな奴は放っておいて独身組はきちっと明日の未来を掴まないと駄目だぜ!」
「なぁ? 誰が夫婦だ、誰が! シホとはそんな関係ではないと何度言ったら!」
「はいはい。いーか? 良く聞けシン? 俺なんて戦争終わったらすぐ振られてきちまったZE!
おかげで二年で10kg痩せたからな。そんなのに比べたらお前はまだまだ健全だ」
「ははぁ……って。10kgって、ほんとですか!?」
「当たり前よ。身長180で体重が59とかどんだけ絞ったんだって周りから良く言われたもんだぜ?」
ディアッカさんは何時もの明るい笑顔を向け、人差し指をあげながら胸を張り
自慢にもなら無そうな自慢を聞かされる。体重を聞かされて「うん、ありえないな」と思った。
ほんとにガリガリだったのだろうか? そういえば、何となく着やせしそうな感じではあるけど
軍人なんだから筋肉はそれなりに付けてないといけないだろうし、実際ディアッカさんはきちんと任務をこなしている。
俺はその現実にちょっとした異次元と神様の悪戯を垣間見た気分だった。
ふと、隣から不憫な気配がびんびんと漂ってきている。ああ、何だか空気が微妙に淀んでいると思ったら
隣から阿修羅を凌駕しそうな顔をしたさらさら銀髪の鬼が、徐々にその角と牙が生え出しているのが幻視出来る。
これは波乱の予感がするどころか、波乱確定だなと俺の本能が諦めと共にそれを察知した。
よく解らないが1年の間そういう危険察知に関してはやたらレベルが上がった気がする。
まぁ、周りから痛々しい視線ばかりぶつけられていた所為かも知れないが、悪い事じゃないと少しでも前向きになっておく。
「お前、それだけじゃなかっただろうが! 失恋した直後は二ヶ月位チャーハンしか食べてなかったし
終いには中華なべ担いで”俺は特級厨師になるんだ”って逃げようとしたのは何処の誰だったか忘れたとは言わせん。
おかげで俺はもうチャーハンを見るのも嫌になったからな」
「ディアッカさん。痩せた原因はそれですか」
「ノットグレイィトォ! そんな昔の事はもう忘れたぜ。過去の事だ。
それにお前もお袋さんが逮捕された時は血相掻いてて大変だったのを、傍に居てやったのは俺とシホだぞ?」
「きーーさーーまーー、自分の事を棚に上げおって! お前を探すのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!
俺が折角、赤服のまま軍に戻してやろうとしてた所を、それが原因で緑服降格されたんだぞ!」
「い、イザークさん。落ち着いて。場所が場所ですよ」
「五月蝿い! この黒炒飯には今日と言う今日はびっしっとだな!?」
「きゃー、銀パツンデレが怒ったーーー♪」
「き、きしゃまぁあーーーーー、何だその呼び方はーーー!!」
僅か数回の遣り取りで顔を真赤にして怒り狂うイザークさんを見て、何だかミネルバに居た頃の自分を思い出す。
ディアッカさんも余程酒が回っているのか饒舌なのはいいが、さっきから地雷を敢えて踏む様な言葉ばかり繰り返していた。
こういう風に普段から地雷処理をしているから、戦場で居る時は被弾率が少なかったり生き残ってるのだろうか?
俺は荒ぶる鬼と化しているイザーク隊長を止めようと間に入って、まぁまぁっとおさえようと手を取るが
隊長の振り回される腕を捉える事が出来ず、そのまま跳ね除けられてしまう。うう、この人はほんと腕っぷしは強いんだよな。
俺が止める事を考慮されて居ない力に思わず仰け反って、誰かの体へと当たってドミノ倒しの様になりそうになる。
相手の性別などを確認する前に、バランスを崩そうとする所をさっと手を差し伸べて、わき腹に支えをその場に踏み止まる。
反射的に動いてしまったのかしまったっと思ったが時、既に遅し。その女性とばっちり目があってしまった。
すぐに顔は真赤になりながらも慌てて相手から手を離して何度も頭を下げる。
その顔はまるで能面が張り付いたかの様に冷たい笑顔を掲げていた。怒って居るという気配ではない。
何か小さい蟲が当たったかの様に、微動だにすることもない。端から眼中に無いという感じですっとドレスの皺を直している。
その凍りついた表情と洗練された動作、金糸の様な髪と氷の様なの瞳の色が相俟って彫像の様な美しさを感じさせた。
「ご、ごめんなさい。 ぶつかっちゃって……その怪我はない?」
「いえ、気にしなくて結構ですわ。軍人さんは何時も元気で無ければ安心出来ませんもの。
命の危険はないお酒の席とはいえ、気をつけて下さいね?」
「あ、はい。すいません。ほんとなんか……そのいえ……」
「……? ああ、失礼を」
俺はしどろもどろになっていた。正直、今まで出会ったことの無いタイプだ。
ルナもメイリンもステラも多かれ少なかれ”動き”のある女性だった。
何かをされれば少なからずリアクションなり動きなりがある。しかし、目の前の女性は違った。
本当に彫像か蝋人形がそのまま首をもたげたかの様な動き。綺麗だが少し怖い……畏怖を感じさせる。
笑みを作っているのは解るのだがその僅かに端を上げた唇は美しい恐ろしさを醸し出していた。
暫く、品定めをされるかの様な視線。ああ、コレが世に言う蛇に睨まれた蛙という奴か。
いや、もっと踏み込んで言うなら、今までうろちょろと動き回る仔ネズミがアマゾンの奥地でアナコンダ辺りと
遭遇してしまったというのが適切か? うむ、例えがヘタレ過ぎるな。どんだけびびってるんだ俺。
しばし、そんな仔ネズミみたいな挙動の俺を見て女性は何かに気付いたのか、すっと目を閉じて軽く
こめかみを指でぐりぐりと押している。顔を揉み解して、眠っている表情筋を起こしたのだろうか?
すっと目を開きなおすとその女性が作る表情は一変した。無論、美しさはそのままだったのだが。
「失礼。少し退屈で気分が滅入ってましたの。表情が固まってましたのね。怖がらせてごめんなさい?」
「あ。いえ。そんな怖いだなんて……その何か綺麗な人だなぁっと」
「あら、お上手ですのね。こんな茶番劇の中、良い言葉を聴けましたわ」
「そ、その。えーと、茶番って……君も嫌々連れてこられた口とか?」
「ふふっ、その反応ではお世辞って感じではないのかしら?
ま、そう取って取られても構いませんわ。ただし、周りの人には内緒ですわよ?」
「う、うん。まぁ、言いふらす程、俺も馬鹿じゃないから」
「馬鹿正直は長所でもありますのよ。しかし、こういうパーティには珍しいタイプですわね。
皆、仮面を被った様に言葉を言い繕って居る方ばかりでしたから」
「ははっ、まぁそれならOK。俺は元々パーティって柄じゃないもんで、借りてきた猫みたいなもんですよ」
「それは奇遇ですわ。私、猫って好きですの。では、ちょっとわたくしに構って下さらない?」
すぐ隣で喧々と騒いでいるディアッカさんとイザーク隊長の声が段々と遠くなっていく感じがする。
氷の薄皮が解けてはがれていく様に笑みを称える女性。とても先ほどと同じ人物とは思えなかった。
目はほっそりとまるで眠りに落ちそうなほどに瞼を細めながらも、じっと俺の顔を見つめている。
宙に浮いていた手を相手に捕らえられれば、組み込まれていく指はまるで折り重なった絹の様な手触りを伝えていく。
柔らかな唇が曲線を描いて、うっすらとした桃と濡れた艶を魅せてその陶器の様な白肌の手がそっと重ねられると
俺はどきっと心臓へと血のめぐりが早くなる事が解るほどに手足へと熱を伝えられていく。
最初、それが何を意味するか解らず、ただ顔を赤くするだけだった。しばし、宙を漂うその手の甲をじっと眺めていた。
極度の緊張の中、ふとその仕草に既視感に襲われている中、パーティに流れる音楽は止まる。
そして、その手の意味と自分が丁度ダンスをしている人たちの集団の観客の人垣の近くに居ることが解った。
「んっ! 本来は殿方から誘うのが慣わしでしょうが……宜しかったら私とワルツを踊っていただけないかしら?
今夜をこのまま退屈と言う言葉で終わるのは勿体無いと思ってましたの」
「あ、はい……俺で良ければ、上手くないですけど」
「ふふっ、踊り上手な軍人さんなんて、サボっている証拠ですわ。わたくしがリードしますわね」
言葉と共にその意味を確信し、女性からの誘いを無碍に断るという選択肢が無かった。
戦後、パーティ用に少しダンスは習っていたから出来ない事はないだろう。
だが、そんなささやかで水増しされた自信すらも見抜かれてしまった。
顔はさっきから赤面しっぱなしで、俺の肌の色は元から赤なんじゃないかと思う程だ。音楽は前奏が始まり
周りの踊ろうとしている客人たちはそれぞれの女性の手を取っており、俺もその一人に入る事にした。
――そうして、俺はその夜、運命の手を握ってしまった。それが全ての始まりとは知らずに
舞台は第二幕「第二次マリーメイア事変」へ
以上です。次回はリメイクばかりではつまらないと思うので
後に入れる予定だった別時間軸を二幕という事で投下予定です。
ちょっと、次回は説明気味+時系列が乱れてしまいますがご容赦下さい。
では、投下失礼しました。
>赤頭巾さん
初読みですが笑いました。GJ
ナヴィちゃん欲しい
しかし本当に欲しいのはリョーコちゃん
じゃあリョータと酒を飲みつつ語り合うのは俺がやる。
そうすればムツキちゃんもきっとついてくるし、ふひひひ。
しかし今日は外でザフトがうるさいな、ちょっと様子を見て――
入院したじいちゃんがミツキがいいって。
書いてるのはクロス作品だけど新人の人はここに投稿してもおk?
>>364 もちろん大歓迎ですよ。
新人職人がSSを書いてみるスレですから。
>>364 念のため誤解無き様
新人だから新シャア板では必ず新人スレじゃなきゃいけないって訳ではない
総合クロスやその題材を扱った個々のクロススレが存在すれば、其処でも多分大丈夫だと思われる
ただ、
>>363の言う様に此処でも勿論OK。頑張ってー
367 :
363:2009/09/29(火) 18:22:18 ID:???
>>364 「此処に投下しても良いですか?」
「駄目って言ったらどうする?」
「分かったw じゃあ五分後に投下しますねw」
スレ違いでなければ、これくらいのノリで十分。
ミツキが好きなじいちゃんの許可がいるんかw
新人とミツキとじいちゃんw
カオスw
>>365-367 ありがとう。
まだ書き始めたばっかりだから投稿できるのはだいぶ先になるけど。
>>FRESH
手紙か、何書くんだろ。
どうしても気になったので自己レス。
> 正面モニタに目をやると、ティエレンデサントした通信士が右腕を振り回す。
ここは「正面モニタに目をやると、ティエレンデサントした通信士が右腕を振り回している。」と書くべき。
> 敵味方、互いに火線が交錯するさなか、赤いMSが赤い航跡を引いて敵艦隊へ到達する。
これもジニン視点で話が進行しているのだから「〜到達するのが見えた。」と書く方が良かったか。
>>349 ちょっといそがしいので書けないが、違う言葉遊びもいつか試してみる。
まとめに登録して貰ったらなおしなせえ
■前回までのあらすじ
ここは中東、ダーダネルスの小さな海峡。
画面ミネルバ側に注目して欲しい。このセイバーに乗っている男が今回のターゲット。
「――キラ……」分からなかった方のためにもう一度。
「――キラ……」はい、もう一度、
「――キラ……」おわかり頂けただろうか?
ムラサメが一機増えている。
ちなみにこれ、ムラサメ以外の全ての人が仕掛けられ人。
それにしてもこのムラサメ、ノリノリである。
ってなわけで、投下開始です。
13-21なので、支援は要らない――ですかね。
13/
――ミネルバ ブリッジ
ムラサメが追加装甲を脱ぎ去る。
「脱皮しただってぇ――!?」アーサーはいつも通りの絶叫。
漆黒の装甲が明らかになった瞬間、メイリンが怪訝な表情を浮かべた。
「ミネルバのセンサーシステムが――!」
画面に走るエラー表示――ハッキングによる不調を示す禍々しい赤は、メイリンを唖然とさせた。
「メイリン、復旧急いで!」発破を掛けて急かすタリアもまた、こめかみに汗を浮かべている。
「ムラサメ1、高速で接近しています!」
「まだ我々の方が早いわ。ザクを前面に出して、時間を稼ぐのよ。タンホイザー急いで!」
一秒、二秒。
青い二つの三角形が高速接近する赤い三角形に近づく。
ムラサメ――迎撃圏内へ。
ザク二機――ライフルを構える。
減速なしに低空を来るムラサメが、短距離ミサイルを二つ放出――海面に刺さる。
弾頭が白い水柱を突き立て、ザクの目を眩ました隙にムラサメは、両機の間を突破した。
「ええええぇぇ!? 抜かれた。一瞬で?」
『ミネルバが!』
『ルナマリア、後続のムラサメに備えろ!』
反転を試みたグゥルを、レイが制止してライフルを斉射する。"突如現れた"一機に驚きつつも接近た
四機のムラサメは、編隊を二分してザクを左右に迂回、蛇のごとく湾曲したコースでミネルバに向かった。
ミネルバが上昇する。展開した主砲は多数の機動兵器を照準していた。
ムラサメごと地上をなぎ払うべく、砲口に光が灯る。
「タンホイザー……撃てぇ!」タリアが右手を挙げたとき、艦首を横薙ぎにビームが払った。
「エネルギー回路断線――」一拍遅れて、ブリッジを軽い衝撃が揺らす。
「――! ダメージは?」
「損害軽く、しかし主砲発射不能です。主機関出力不調!」
「手加減された――というのか?」
砲撃直前の手法を狙われた割に小さいそんがいに、目を剥くアーサーに、タリアは帽子を
投げつけて仕事を思い出させる。「バート、九時方向策敵!」アーサーが叫んだ。
「南に新たな熱紋反応――これは、アークエンジェル級です!」
14/
――ミネルバから南に12km
大天使の背に片膝をつく"バスター"が、長槍のごとき連結大砲を構えている。
右腰の350mmガンランチャーを後ろに、左腰にマウントされた94mm高エネルギー収束火線ライフルを
前に連結した状態の大砲は、『超高インパルス長射程狙撃ライフル』という無骨極まりない名前を
与えられている。
改良されたFCSをアークエンジェルのそれと相互にリンクさせる事で、数十キロ単位の距離を
挟んだ精密砲撃を可能とする。が、揺れるAAの甲板から精密狙撃を行うには、機械で補正できない
部分を人間の勘――つまりパイロットの卓越した射撃能力で補う事が不可欠だった。
『本当によかったの、ディアッカ君?』
「あのままミネルバに撃たせちゃあ、ミリィが灰になっちまう。まったく、戦場カメラマン気取りで
鉄火場に顔を出して、心配するこっちのみにもなれってんだ」
操縦席、褐色の肌と金髪の青年は不敵な笑みを浮かべ、緑のパイロットスーツに包んだ
身体を狭いシートの中に落として恋人に不満を漏らした。
『ふふ……それは本人に言いなさい』
「冗談、言えるわけがないでしょうが。ま、なるべく被害は減らすようにしたさ。じゃないと、
次にイザークに会った時に、怖い副官から庇って貰えなくなるからな」
義理立て程度にぎりぎりの精密射撃――エネルギーバイパスだけを焼き切った極細のビームは、
陽電子の蓄積炉に全く損害を与えず、暴発を起こさずに主砲の発射を妨げていた。
「それじゃあ、お願いしますよ、ラミアス艦長」
『本当に一機で大丈夫?』
「大丈夫、北岸にたどり着きさえすれば、混戦の真っただ中だ。モビルスーツの一機が通る
スキマ位はどっかにあるって」
ディアッカがそう言って、バスターはアークエンジェルの甲板に膝をつき、揺れる艦から
振り落とされないようにすると同時に、いざと言う時に大きなジャンプをする準備を整えた。
15/
――ミネルバ ブリッジ
「ムラサメ、さらに接近です」
「着水用意! 下げ舵10で微速降下。高度を下げて、迎撃しつつ着水なさい」
ミネルバ全艦にタリアの速断が伝わる。飛行を継続できない艦を、浮上砲台とする事にしたのだ。
「ランチャー1から10、準備は? いいな、撃て!」
続けて、アーサーの指示によってディスパールが阻止弾幕を形成した。
対MSに特化迎撃ミサイル"ディスパール"の子弾頭は一基辺り12。1ダースの『眼』が互いに
データを補正し合い、標的の脅威を判定、迎撃の困難な軌道を描き、ムラサメを囲い込む。
ムラサメの迎撃=ビームの一撃――炎の輪が広がった。無傷で煙を突破するムラサメの、
損害判定は0。続いて第二陣の子弾頭が特攻を開始し、そのスキマを縫ってムラサメが接近する。
「ソナーに感あり」包囲網の"内"に敵を発見し、「アビスです!」バートが悲鳴を上げた。
「高度を一気に落とせ、潰すわ!」
怯むこともなくタリアが命じて、マリクが舵を前に"ぐい"と押し出し、降下速度を早める。
海面に刺さる数万トンのミネルバに対して、アビスはたかだか数十トンなのだ。爆撃に数倍する
エネルギーが小型の津波すらを作り、アビスはたまらず引き下がった。
「準備は要らない、トリスタン――撃て! 続けてフレア弾を近接信管で放出!
ミネルバの目が潰れても良い、アビスとムラサメに目くらましだ!」
チェンに有無を言わせない――語調の強さが珍しいが故に効果的な――命令をアーサーが下せば、
ミネルバが目映い閃光の繭に包まれる。
ソナーも破壊されるほどの衝撃波が走った海中――そこから逃れるように浮上してきたアビスは、
閃光に包まれたミネルバに向かって砲口を開いた。アビスからすれば、ミネルバは太陽の中に入った
烏だったのだろう。ぼやけて曖昧な輪郭を相手に、照準が一息遅れる。
その数瞬の内に、ムラサメはミネルバに手を伸ばしていた。
「迎――」げき、の形にアーサーが口を開き。
ムラサメは、アビスとすれ違った。
多くの人間の目には、そうとしか見えなかったのだ。
水面にたたき落とされる"アビス"――腕ごとショルダーのアーマーが両断されていて、
足をばたつかせながら沈んでいく。水揚げされた魚のように。
言葉を失うブリッジに目もくれず、ムラサメは大G旋回からの見事な反転離脱を見せた。
全ての動きが、水面から十メートルと離れずに行われたという、その技量を見せつけて。
16/
まるで、友人の家から替えるような悠然とした趣さえ見せて、ムラサメがアークエンジェルに去って行く。
追いすがることの出来るザフトのモビルスーツは、現在、たったの一機に限られていた。
「おまえ、一体何のために出てきた!?」
力の限りに叫びながら、"セイバー"がムラサメを追う。
撃つか? 引き金に指をかけたまま、アスランが行う呼びかけに、聞き覚えのある、疲れ切った声が答えた。
『やっぱりパイロットは君か――下がってないと危ないよ?』
その危ない場所に、わざわざ顔を出してきて、数か月ぶりの第一声がこれか。
もう少しキラの声色に余裕があったら撃っていたぞ、とアスラン。
『僕は、静かに暮らしたいだけだ。彼女と一緒に――』
「なんだと? だったらどうして出てきた、戦場にまで!?」
『それしか方法が無かったから――』
キラの言葉を聞くだけで、虚無の形作る暗黒を覗かされているような、そんな気分に陥る。
たったの数ヶ月でこの変わりよう……一体、何があったというのだ?
「ならば、プラントに助けを求めろ!」
『プラントは、僕達を狙っている――君はそれを知っているんじゃない?』
「――! それは……」
『この社会にラクスが"必要とされなくなる"まで、僕たちは安心して暮らせないんだよ』
オーブを守るため、と称して行われた、茶番のようなチェスゲームが、アスランの脳裏に思い出された。
――君のクイーンは我々プラントの物だ。
ラクスを襲撃したのか、デュランダル議長が!?
「プラントが必要としたのは、ラクスのネームバリューだ! 彼女の上っ面そのものだ!
それくらいは見ても分かるだろう? 決して彼女の身柄が欲しかった訳じゃない!」
『……信じられないね』
ぞっとするほど暗い声――アスランは、自分がのぞき込んでいる黒い物が何なのか、
一瞬信じたくは無かった。それは、ムラサメの構えた、ビームライフルの銃口だった。
「キラ――!」
『静かに……僕たちは聞かれている――』
「――!?」
撃ちながら、キラがつぶやく。アスランの混乱した頭は、戦史の反応を見せてその光条を回避した。
17/
「何をする!?」旋回のGに叩かれて、アスランは顔をしかめながら叫んだ。
『いいから、黙って――』
ムラサメが頭をセイバーに向けた。カタログスペックを熟知しているアスランは、
その動きがノーマルなムラサメの旋回速度を大きく上回っていると察知する。
機首に備えられたビーム砲は派手派手しい閃光こそ発しないが、モビルスーツを
撃破するのには十二分な威力を備えた主砲だ。
一撃の威力ではない、数で押すための武装だ。
その証拠に、命中させることを考えれば、機首に固定されているために射角の調整は出来ず、
機体の姿勢におおきく制限を受ける。
アスランにとっては、予備動作を確認できるために回避は簡単だ。
「……もう一度聞くぞ、何を考えている?」
全く同じ理屈で、セイバーが双塔の主砲"アムフォルタス"を放ったとしても、
ムラサメには確実に回避されてしまう。だから、アスランはそれを使った。
『僕たちは、敵同士になるしかないんだ。"今は"』
戦わねばならない。
殺したくはない。
アスランとキラは、戦っているという証明の為に、機首のビーム砲同士で撃ち合う空中戦を
演じなければいけなかった。
いぶかしげにアスランが首をひねる。その動作すらがキラの操るムラサメを相手にしては
致命的な隙鳴って見えるのか、ビームサーベルを即座に抜きは鳴ったムラサメの一撃が、
軽くセイバーの紅い装甲に裂傷を刻んだ。
「去れ――もう十分だろう? お前を殺したくはない!」
『まだだ……』
「こうして戦闘している事に、意味があるという事なのか?」
その思考をする時間すら、キラの操るムラサメを前にしては致命的な隙となって見えるのだろうか。
サーベルを即座に抜き放ったムラサメの一撃が、セイバーの真紅に浅く裂傷を刻んだ。
何時の間に変形したのか――ナチュラルに、その変形スピードが耐えられるとは思えない。
どうやらキラは、ムラサメのOSをザフト製のものに変えているか、あるいは、
自身で改造を施しているらしかった。そうでなければ、中の人間が耐えられるGを無視しての
戦闘機動をする機能が、オーブ製のOSにはないのだ。
「クッ――付き合うしかないな!」
『ありがとう……』
18/
アスランは覚悟を決めて、セイバーをヒトガタに変形させる。
今度は一転して、剣劇凄じい切り合いが始まった。他のザフトもオーブの部隊も、
強力なモビルスーツ同士の戦闘に巻き込まれる事を恐れたのか両機を遠巻きに眺め、
オーブとザフトの戦闘に集中してゆく。
一合、二合と太刀を噛ませるうちに、彼ら二人は戦場を西に流れ、つまり、
オーブ側の陣営へと少しずつ動いて行った。
19/
――北岸
「まさか……アスランが量産機に押し込まれてる?」
「いや、ただのムラサメじゃないな。だが、俺達も高みの見物ってわけにいかないぜ?」
セイバーの戦闘を北岸から眺めるシンとハイネは、接近しつつある機体を察知していた。
「さあ、来い。ザクとは違うって証拠を見せてやるからよ」
グフは、スラッシュレーザーソードを手にしてムラサメの前に立ちふさがる。
「ハイネさん、此処は俺一人だって何とかなります。だからミネルバを!」
「飛べもしないインパルスで、生意気言ってるんじゃねえよ。それから、ハイネって呼ばないなら
お前の言うことなんか聞きゃあしないっ!」
「ハイネ――」不意に、ムラサメがグフから距離を置いた。
「うるせえよ、シン!」警戒する時間も無く、グフはミサイルに囲まれている。
"ディスパール"のように子弾頭を出したりはしないが、資源の限られているオーブ製だけあって、
誘導兵器は高い命中精度を誇ると言われていた。
「そう、正確な誘導だ。だからこそコンピュータには読みやすいってんだよ!」
ライフル中心のインパルスは、CIWSシステムで落とすしかないが、グフの手にはビーム
マシンガンが内蔵されている。ムラサメを追い払うよぅに弾幕を作りつつ、ミサイルを破壊して
行くことが可能だった。
「ハイネさん――!」
「なんだぁ――? うぉっ!」
レーダーの識別に気づく――同時に身体が反応する。
無意識の反射で、グフは足下に突き刺さるビームの熱線を回避していた。
「おいおい……"ガイア"かよ。モテモテだな、俺たちは!」
ハイネの背中を冷たい汗が流れたが、ガイアが近づいてくるのは、逆に好機だと感じた。
ガイアが連合軍の識別を持っていたから、ムラサメも迂闊に攻撃が出来まいと考えたのだ。
ガイアは、身を低くかがめて走り出した。四足獣の機動性につきあってはグフに勝ち目がないが、
ハイネは油断無くビームマシンガンを斉射してガイアを突き放した。
しびれをきらしたガイアが、スラスターを吹かして宙を舞う。グフもそれに応じて飛び上がった。
「掛かった――!」
ハイネは会心の笑みを浮かべている。そのままガイアがインパルスに向けて走っていれば、
恐らくシンは殺られていた。ガイアのパイロット、マシンガンを軒並み回避する辺り、
反射神経は瞠目すべき物があるが、それでも躱せ無いものは躱せまい――!
空中で身をよじるように閃かせたレーザーソードによって、ガイアは羽のようなユニットを裂かれて
墜ちた。人形に変形するガイアを狙って、スレイヤーウィップを絡ませる。高圧の電流がガイアの神経を
弾圧し、漆黒の巨躯がリズムの狂ったダンスを踊った。
20/
刃を交わすこと10合に至り、アスランの疑念は確信に変わっていた。
「引き延ばし――これから介入してくる"何か"を、俺に見せたいと、そう言うことだな!」
通信を送らずに、言う。もはや確実なそれを、キラに伝えるまでもなかった。
がん、と打ち込んできたムラサメが、精一杯にスラスターを吹かせてセイバーを押さえ込もうと
している。
「させるか。押し返す!」
出力の勝負は、一割以上もセイバーが有利だ。重量級の横綱が小兵力士を押しやるように、
セイバーがムラサメを跳ね返した。
もはや、アスランも本気でビームサーベルをたたき込んでいた。
キラは巧みな剣捌きでもって、その激しい斬撃をいなし、勢いを殺すように間合いを取る。
巧妙なコントロールが必要なつばぜり合いでは、キラに一日の長があった。
機体性能や操縦技量と言った単純な比較ではなく、キラが、自分の身体を動かすように
ムラサメの一挙動を掌握し、最善に近い動きをさせているという事なのだ。
「そうだ、それくらいは出来るはずだな!」
確信できるからこそ、本気で茶番をやれるのだ。
――お互いが本気で殺し合っているようにも、見せられる。
「アスラン――先刻はアビスを見せた。今は北岸に"ガイア"が居るね、そして――」
干渉しあうサーベルの間で、スパークが散る。
つかず離れずの精妙な間合いを保ったまま、キラが通信回線を無理やりに開いて来た。
「他人のシステムを、我がもののようにして――!」
本物の不快感を表して、アスランがキラに吠える。
「此処には、アレが来る!」
構わず、キラ。それを合図にして両者は、示し合わせたように互いをはねのけあった。
二人のどいた隙間を、天地と水平の三方向から鋭いビーム攻撃が襲う。
「カオス!!」
ドラグーンタイプの機動兵装ポッドから、多角的な斉射がセイバーとムラサメに
向って放たれ、二人はほとんど同時に、雲の中から現れた新緑の怪鳥へと振り向いた。
21/
「ネオ=ロアノーク大佐。あれはいったいどういう事なのか、教えてもらおうか」
静かに、しかし確実な怒りを全身ににじませて、カガリは仮面の大佐を呼んだ。
「どういう事、とは意味が分かりかねますな」
落ち着きはらったネオの様子は、カガリの詰問が予想の範囲を出ていないと示す。
「私がアーモリー・ワンにてデュランダル議長との会談に赴いた折、私は確かに、
ザフトから不法な手段によって奪われたのを確認している。私と、そして信頼できる
部下が負傷したのだ」
「カガリ――!」
脇から、ユウナが声を掛けた。戦場で、使われている兵器がどこから出てきたのかなど、
問題にする事がナンセンスだというニュアンスが、声の響きから読み取れた。
「それがいま、我々からは地球連合軍の識別を持って居るように見える。これについて
貴官から説明を求めたい。場合によっては、戦場を混乱させるテロリストとして、当
艦隊の手により、あのムラサメともどもこの海域から排除する」
カガリは、ネオの見ている画面からは影になっている所で、ユウナに向かって、
親指と人差指で円を作ってみせた。打算がある、感情的な物言いをしているのではないと、
ユウナはそのジェスチャーで察して黙る。
「……よろしい、お答えしましょう」
JPジョーンズの側では、情報の開示に際して既に協議が行われていたのだろう。
仮面の下ではどのような顔を浮かべているのか、カガリに推し量ることは出来ないが、
何処かで聞いた事のあるよう声でネオは、三機のモビルスーツがジャンク屋組合からの
入手品であると明かした。
「手にした以上はデータが欲しい。現在は実戦に投入して試験運用中でしてね。
組合がいかにしてアレらを手に入れたのかは、我々の関知する所ではありません。
接触したジャンク屋の情報も渡しましょう。これで納得していただけますかな?」
「……良いだろう」
絶対に嘘だが、それを追求して収まる状況でもなく、カガリはしぶしぶと言い放った。
支援
22/22
おそらく、あれらのモビルスーツは本当にジャンク屋の倉庫を経由して、JPジョーンズの
格納庫にたどり着いている。連合が奪ってどこかに"放流"し、情報料を得て特定のジャンク屋に
回収させ、ジャンクとして引き取る――ジャンク屋には差額が手数料として入る仕組みだ。
国家、企業の管理を離れて宇宙に散るあらゆる構造体を回収し、マテリアルとして利用、運用、
あるいは流通させることの出来るジャンク屋組合は、マテリアル・ロンダリングの温床でもある。
いかなる方法で入手した代物であろうと、意図的にジャンク屋組合に回収させることで、
ジャンクとしての取引が可能になるのだ。
勿論、大部分は真っ当な組織だが、中には海賊行為を働いて自ら大量のジャンクを生み出す
ならず者もあり、大きな社会問題ともなっていた。
「ジャンク屋組合の持つ特権に関しては、現在我々が影響できるところではないしな」
後々には思いっきり追求してやると示唆して、カガリは通信を絶った。
「気分が悪い……失礼させていただこう」
そう言って、艦橋を去るカガリの背中を、痛々しい目で見送るユウナとトダカだった。
だが、たった数分後、彼らは目をむいてディスプレイを見つめることになる。
『私は、オーブ連合首長国代表、カガリ=ユラ=アスハである!』
そう、彼らのじゃじゃ馬が、自分の部屋でおとなしくし落ち込んでいる筈などなかったのだ。
『そこなムラサメ、剣を引けぇ!』
タケミカズチの上空、真紅の装甲を誇る肩にオーブの獅子を御旗と掲げ、ムラサメ、カオス、
セイバーがもつれあう戦場へ向けて大雑把に大砲をぶっ放す国家代表に、ブリッジの全員が
唖然と口を開いた。誰も、空いた口がふさがらなかった。
がん、ごん、と響く音は、ユウナとトダカがディスプレイに突っ伏す激突の音だ。
罅が入った。タケミカズチ初の損害だ。
「すいません、すいません。カガリ様を止められませんでした!」
本来ブレーキ役を務める筈が、口車に乗せられてカガリの出陣を手伝わされた侍従の
ヒナヨが、半泣きで現れた。
「これ、カガリさまからお二人にですっ!」
と小ぶりの瓶を渡し、のろのろと受け取った二人が、ラベルを確認する。
胃薬だった。
支援有り難うございました。
これにて投下終了。次回の投下は、少し早くできるかも知れないです。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
では、また。
388 :
文書係:2009/10/01(木) 20:09:46 ID:???
こんばんは。そろそろ次スレ立ててきます。
長文投下する人はちょっと待っててください。
あ、テンプレに一部修正有り。
〜投稿の時に〜
■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。
■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。
■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(
>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。
■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。
■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は最低四十秒以上あかなくてはなりません。
■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。
■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
投下間隔の制限が、現在は40秒。
〜このスレについて〜
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。
■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。
■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H21,3現在)
■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。
■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。
■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。
■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます
■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。
■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。
■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 旧まとめサイトへどうぞ。そちらではチャットもできます。
■捕捉
旧まとめサイトのチャットでもトリップは有効ですが、間違えてトリップが
ばれないように気をつけてください。
>>45氏
乙です!
本編以上に「いい意味で」訳がわからないキラが好きです。
次回のカオス参戦を楽しみにしてます。
>>391 テンプレ誤爆の意味が分からなかったけど、此処に、って意味かw
スレ立て乙w
>>394 ごめん。明日投下するので更に増えそうだorz
>>395 こっちは雑談なんかでまったり落として、新スレに投下した方が良いかも。
既投下作品に感想つけるなら、こっちの方がやりやすいし。
>>395 もう10k強しか残ってないから
編集長はともかく新スレに投下した方が良いと思う
前スレで某氏が尻切れトンボになって投下しなおした
>>396-397 誤解与えてすまない。いや、次スレで投下するつもりだったんだが
更に作品が増えそうだという意味で
予定通り投下できないよりは増えた方がいいさ、ははは……orz
45氏投下乙!
最後のカガリの登場にウケた 何をするつもりなんだ〜
胃薬はきっとアスランにも必要
次回も楽しみです
>>379 誤字
> 戦史の反応
戦士の反応かな?
>>394 副編集長乙
つい読み直したおかげで今回分の†と砂漠IIで全くシチュエーションが違うけど
両方ムラサメが出てきてることにさっき気がついた
かたや青く塗られて重要なシーンなのにただの背景
かたや黒く塗られて重要なシーンを脱皮しながら演出
意図しないネタかぶりって以外に面白い
なんて思ってるのは俺だけかな?
ムラサメへの愛の差かも知れない(作者の)
保管されたのがコーラだけで吹いた
昨日投下すると言って他の用事でようやく時間が空いたのが今の時間とかorz
明日投下予定です
八丈島さんのは、アクト2まで補完した。じゃなくって保管した。
補完したらSSがオレンジ色、もしくは赤い液体になっちゃうだろ!
>>407 SS補完計画…… それはSSの欠落した部分を補い「完璧な存在」にするための計画っておい
いつも乙です、未だ完成しないアクト3も補完されていたらどんなに楽だろうかなんて。
それと、やってもらっていてで申し訳ありませんが、アクト2は前中後で中が無かったです。中編
>>173〜
>>180 またお時間が出来ましたら差し込んで頂ければうれしいです。ありがとうございました。
ガンクロって各話ごとにカウンターがついてるんだな
>>八丈島さん
アクト2の中編を保管しました。完全に見落としです失礼しましたホンマすいません御免なさい許して下さい。
>>411 イヤだなぁ怒ってなんかいませんよ…… むしろご褒美をくれてやんよ! オラ、ケツ出せケツ
wwwww
ちょっとインチキ 隔週刊新人スレ10月1号目次
その日ビリー・カタギリは何故かコーラサワーと酒を酌み交わす……。大人気コーラサワーのスピンアウト。
短編小説ビリー・カタギリ/戦史の休日
>>241-242,314-315
アリー・アル・サーシェス急襲。絶対絶命のネーナ、それを助けたのはエクシアを駆る刹那だった!
機動戦士ガンダムOO-FRESH VERDURE-
>>253-258,264-276,329-341
和平締結へと画策する各陣営。それを見てリボンズは何を思う。新人スレ成長一番株の作品を是非!
劇場版 機動戦士ガンダム00 木星の花嫁 Bride in Jupiter
>>282-295 老人のようにふぬけてしまったシン。その頃、某所ではディオとトロワがかみ合わない会話を……。
英雄の種と次世代への翼
>>301-305,351-357
軍服に袖を通す事になったムツキとリョーコの二人。そしてオーブからムラサメと共にやってきたのは……。
空(あま)駆ける少女達 〜少女は砂漠を走る! II〜
>>320-326 太陽にきらめくオービタルフレーム。そこでジニンの見たモノは……。新人スレでも硬派で行こう。
嘔吐するウロボロス
>>344-347 ムラサメ対セイバーの息をも吐かせぬ空中戦! その最中、カオスのスティングは意外な行動を……。
SEED『†』
>>376-386 新人職人必読、新人スレよゐこのお約束。熟読すればキミも今日からベテラン職人だ!!
巻頭特集【テンプレート】
>>1,3-6
新シャアスレのマスコット。彼は今日も人知れず悩む
>>2 各単行本も好評公開中
詳しくは
ttp://pksp.jp/10sig1co/ そして
ttp://arte.wikiwiki.jp/ までアクセス!
・エロはアウト、お色気はおk。これくらいのさじ加減で一つ。素材は新シャアなので一応ガンダム縛り。
・投下作品とのリンクを問わず絵師、造形職人の方をしつこく募集中です。 勿論新人スレですので
絵師、造形職人さんも新人の方大歓迎です。
・当方は単行本編集部こと、まとめサイトとは一切の関係がありません。
まとめサイト管理人様にご用の方は、トメさん競馬どうだった? とお声掛け下さい。
・スレ立ては450kBをオーバーした時点で、その旨アナウンスの上お願いします。
編集後記
インチキさせて貰ってすいません。アンカー集めるだけで前回三時間以上かかったので……。
正直、すげー楽ちんでした。またお願いします。つーか代わりにやってくれても全然問題ないんですけど。
415 :
副編:2009/10/05(月) 22:47:49 ID:???
マスコットwwwww
編集長乙です。
言われてみれば至る所にいるな、マスコットwwwww
編集長さん今回もありがとうございます。
自分はこのスレ18からなので、こうやって埋めて今スレを落としていくことが少し切ないですね。
やば… うるっときた。八丈島氏の初投下から見てきた者には効いたよ
けど
>>412とのギャップが酷い酷すぎる。
編集長も乙です。
編集長さん副編集長さん
おばんです、そして乙です。
やはりマスコットがw
続きに詰まる職人の懊悩する姿なのか……そう見ると他人事とは思えません。
◇ ◇ ◇
それとまとめの方と職人の皆さん、SS保管の件すみませんでしたorz
次スレのレス、てっきり自分個人へのレスかと勘違いしてしまい。
未だにここでの一連の流れが分らないので、自分でうpしたり
他の方に編集していただいたり……まさに半年ROMれ状態です。
こちらに投下させて頂くようになってから奇しくも半年ほど経ち、
ようやくトリップがつけられるようになりましたので、
(その意味で半年ryとは実に的を射た表現かと)
次スレ投下より、トリつけて参上します。
それでは失礼しました。
†さんすいません
あおりに次スレ分が混ざっちゃいました……
今回はいろいろと駄目だぁorz
>>421 次スレ分の予告まで為て貰って、文句のでる人なんていませんってw
梅
むかーしむかし、ある所に観月と睦月と言う名の親子が住んでおりました。
観月は山へ芝刈りに、睦月は川へ洗濯に出掛けました。
睦月が洗濯をしていると、上流からプカプカと何かが流れて来ました。
校長先生が流れて来ました。
人生ときには見て見ぬフリが必要ってかぁさんが言ってた気がする。
祐介さんが流れて来ました。
こんにちはー! 良いお天気ですねー! ……挨拶してたら行っちゃった。
斎藤さんが流れて来ました。
木の枝で流れの速い方へ押し返してあげました。
涼太さんが流れて来ました。
涼子ちゃんのお兄さんげっとぉ!!
意識は? 呼吸は? 意識は無いけど呼吸は安定してる!
えっ?呼吸は安定してるの? ……ちっ
でも大変、意識がない! こんな時は人工呼吸よね!
なんたって意識がないんだからっ!
……さいわいあたりにひとかげなしと。
でもこんな時に人工呼吸法を知らないわたし。それでもお兄さんに顔を近づけて……
くんかくんかくんか
お兄さん、とっても良い匂いがするー。
ーーなに?! まただ、こんな時にまた頭の中で記憶が駆け回る。
そう、わたしは知ってる。素手で人を殺す幾多の方法や人体の急所、そして負傷者の蘇生法を。
溺れた負傷者にはたしかヒッヒッフーッのラマーズ人工呼吸法!
……ふぅーっーーごちそうさまでした。
こうしてお兄さんは意識を取り戻したとさ。めでたしめでたし。
>>320ごめんなさいm(_ _)m
謝ったw
>>425 GJ!
ラマーズ法でどうやって息を吹き返したんだw
>>425 >斎藤さんが流れて来ました。
>木の枝で流れの速い方へ押し返してあげました。
だめーーー! ムツキちゃん、その人流しちゃだめーーーー!
明日新スレに続きを投下しに来ますノシ
只只只只只=3<ヤカンミマワリチュー! ダレカナガ゙レテキテルゾー!!
物騒なんでオートマトンは次スレに持ち込まないようにします。
>>429 あ、日付の上ではもう今日でした。それではまた。
こっちがまだ埋まってないのに、新スレが100kb越えてるとか、どうなってるんだろ。
ペース早いな。
うめええええ
umeume
機動戦士ガンダムSEED Destiny 二週目
シードデスティニーの歌 みんなで歌おう みんなで みんなで 歌いましょ
「羽クジラエンド」
もうすぐ200k
向こうの新スレがな。
こっちもなるだけ早く落としてしまおうか。
せっかくうp路だがあるんだし、DATにして保存しておいても良いし。
むかーしむかし(ry
こうして無事に涼太さんを持ち帰り?です。
帰宅したかぁさんと涼太さんは居間で雑談中。睦月さんはキッチンの冷蔵庫前でなにやら思案中。
料理の上手な女の子を見せておかないとね。
まずは栄養のあるあたたかーいスープよね!
「おおっこれは!こんな美味しい野菜スープは初めてです。睦月さんは料理がお上手なんですね。
将来いいお嫁さんになれますよ」
そ、そんな事ないですよぉー
もぅ、涼太さんってば。かぁさんのいる前でお嫁さんに来てくれだなんて(はぁと
ニヤニヤと妄想しつつ冷蔵庫の扉を開けながら、実はスープの作り方が分かりません。
先月の家庭科調理実習で作った、イカと里芋を一緒に煮たのに変更です。
「おおっこれは!こんな美味しいイカと里芋を一緒に煮たのは初めてです。睦月さんは料理が
お上手なんですね。将来ぜひ私のお嫁さんになって頂けませんか?」
いきなりプロポーズされたあああああ!!
もぅ、涼太さんたらぁ(はぁと かぁさんのいる前でプロポーズだなんて……
えっ?!その前に助けてもらったお礼がしたい?
そんなぁー、お礼なんていいですよーーえっ?そですか?どうしても?
……じゃーオデコで。チュッて。
うぅんダメですよぉー、唇はまだまだお・あ・ず・け(はぁと
後方2m。ケラケラと笑いながら一人芝居の睦月を呆然と見ている観月かぁさんがいた。
おしまい。
>>320 何回もごめんなさいm(_ _)m