【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】16

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299通常の名無しさんの3倍:2009/03/02(月) 23:46:52 ID:???
保守上げ
300河弥 ◆w/c45m7Ncw :2009/03/03(火) 00:02:47 ID:???
「四月一日 −No.21−」 −The World−


 エイプリルフールの夜。もう十分ほどで日付も変わる。
 昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
 そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。

 やがて。
「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
 ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
 やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
 確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。

「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
 ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
 アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
 吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
 それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っておく。

「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
 突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
 が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
 だから、
「そうだな。うん、分かった」
 と、あっさり返す。
 ルナは少し驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
 そう言いながら玄関へと向かう。

 どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、部屋を出て行った。
 玄関のドアが閉じ、俺は少し待った。
 ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
 もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。

 だが、ルナは戻ってこない。
 念のためあとニ分待ってみたが、やはり帰ってはこない。

 しかし俺はその場を動こうとはしなかった。
 俺とルナはさっきルナが言った通り、そして俺が思った通り、なんとなくなし崩しに始まった関係だった。
 それなら、終わるのがなし崩しなのも悪くない。

 俺がルナに惚れているのも、ルナが俺を想ってくれるのも、そのどちらもが真物ならば、俺たちはまた始まる筈だ。
 だけど、それは今日じゃない。
 今日は「エイプリル・フール」だから。
301河弥 ◆w/c45m7Ncw :2009/03/03(火) 00:06:59 ID:???
「四月一日」の最終回になります。

カードNo.21 は「世界」です。正位置で目標達成,次のステップのはじまり という意味があるそうです。
サブタイトルの「The World」は、決して某DI○様のスタンドではありません。

長らくのお付き合いをありがとうございました。
読んでくださったすべての方、そしてとめさんに感謝を。
302通常の名無しさんの3倍:2009/03/03(火) 00:17:05 ID:???
>>河弥さん
投下乙です。そしてシリーズお疲れ様でした-。
303通常の名無しさんの3倍:2009/03/09(月) 00:07:45 ID:???
>SEED氏
虜囚の身に落ちた上、盾にされ、更に嫌われるカニがいと哀れw
何気に弱かったことがバレつつあるアスランに未来はあるのか?

>河弥氏
シリーズ完結乙。
どの話も甲乙つけ難いが、自分は前回の「Carelessness, Regret and」と
「Twinkle Twinkle Little Star」、「Next Time, Please」が良い。


>ROM諸氏
某スレより転載
>喜んでくれる人間がいるという事が、書く原動力に大きくプラスになるからな
>書いても無反応ってのは、叩かれるより痛いぞ

ってことらしいんで、たまには1行でも書いてみては?
304通常の名無しさんの3倍:2009/03/09(月) 13:10:12 ID:???
>45氏
AA組の行動が本編よりも読めない分、不気味で楽しみです

>河弥氏
完結お疲れさまです 色々なパターンを短編に纏めるのは大変だったと思います
長編の続きもお待ちしてます
305通常の名無しさんの3倍:2009/03/09(月) 23:33:40 ID:???
あえて突っ込んでみる。

>>河弥氏
伏せ字の意味ないw
306SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:37:19 ID:???
1/

 オーブ、黄昏に包まれるオノロゴ島の代表首長府が一室に、金髪も豪華な少女と、
青みがかった黒髪の青年が向かい合っていた。
 カガリとユウナである。
 年若い彼らは社会的には夫婦と見なされている。しかし、テーブルを挟んで話し合う
様子は禅問答さながらであった。

 夫婦二人の険悪な時間を過ごしている、という訳でもない。
 二人の背後には、柔和な笑みを浮かべた藤色のスーツ姿の美女=カガリの側近と、
能面を貼り付けた中年男=ユウナの秘書が静かに控えていた。

 カガリがカガリ=ユラ=セイランとなって以来、議会でも代表首長府でも、彼女を
飛ばしてユウナに物事が伝わる様になってしまったので、お飾りに甘んじる性格ならば
それも楽でよいが、はた迷惑な程の勤勉さを発揮していたカガリであるので、
「派兵は仕方がない、がしかし派遣艦隊を戦場にはなるべく出したくない。
君が言いたいのはつまり、そう言うこと?」
「そうだ――」
 という感じに、今度はユウナから色々と聞きだそうとしているのだった。
「しっかしまあ、それを僕に相談する――」
 彼らは表向き夫婦ではある。
 同時に裏返せば政敵である。
 そんなカガリがユウナを情報源にしようというのは――
「代表のお人好しを知る僕ですら、茨の道だと直感できるね本当」
 聞こえるように独りごちる、ユウナであった。
「何か言ったか?」
 何も、と言って誤魔化す。
 結婚前よりもごまかしの増えたな、と自重の笑みを漏らした。
 笑ってばかりもいられない。
 彼女は茨の道を通り抜けようと言うだけでなく、ユウナの手も引いているのだ。

「カガリがそんなことを言ってもね、連合との同盟は国益を重んずるが故だよ。
地球連合には勝って貰わなければ……」
「わがままだとは分かっている――しかし、戦争で栄える国にオーブをしたくない」
「……」
「オーブが派兵で被る出費、軍への被害と天秤に掛けてみてくれ」
「ふむ……」
 ユウナが幾らかでたらめを並べて派兵の利を上げてみると、カガリの背後からそっと、
側近のシズル=ヴィオーラが進み出て耳打ちした。
 カガリが形の良い眉をひそめる。
307SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:39:27 ID:???
2

「……ユウナ、オーブ軍の損耗を度外視しないとその計算は出来ないだろう?」
「ああ、ゴメンゴメン。引き算を少し間違えたんだよ」
 顔で笑って心で舌打ち――去年ならこれでだませていたのに、と思う。

「ともかく」カガリは咳払いを一つ挟んだ。
「これから議会で、"オーブ派兵反対"だなんて事を言ってユウナやウナトを困らせる
つもりは無いから話を聞いてくれ」
「つまり、他の事を言って困らせてくれるわけだね、カガリ」
 この切り返しには、カガリも釈然としない物を感じたようだが、彼にしてみれば
"言うことを聞かなければだだをこねるぞ"という脅しなのは変わらない。

「ユウナ、少し考えたんだが――」
「誰が?」
「――私がだ! いいか、オーブから兵を出しつつ、派遣艦隊を危機に落とさない
方法としてだ。まずは艦隊の分散を認めないこととする」
「うん、とってもいやな予感が為てきたよ僕は」
 頭痛のしてきそうなユウナに、カガリは構うこともない。

「次にだ。オーブ艦隊の旗艦タケミカヅチに「私とお前が乗り込む」――って、
どうして分かったんだユウナ!?」
「うーん。これが夫婦の絆ってやつ?」
「ユウナと思考レベルが同じだなんて――!」
 異口同音を放ったユウナは底意地の悪い笑みを見せたが、
カガリは大仰な動作で頭に手を当てて嘆いた。

「同じ思考レベル? それは違うよ、カガリが読みやすいだけだよ」
「うるさい!」
「非道な言論封殺に、僕は粛々と抗議の声を上げる次第です――」
「う――! オホン。ユウナ=ロマ=セイラン君、意見をどうぞ」
 ユウナの悪戯めいたからかいに動じることなく、カガリはテンションを合わせた。
 大分慣れてきたな、と内心でカガリの成長を喜びつつ、頭の中で文句をひねる。
 カガリの背後では側近が笑いをかみ殺していた。
 ユウナの秘書は、いつもの能面だろう。。
308SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:40:26 ID:???
3/

「艦隊の分散を認めないってのは間違ってないね。命令系統ごとばらされた艦隊を、
囮なりなんなりと良いように囮で使われるわけにも行かない。逆に言うと基本過ぎる」
「……うん」
「どうやってその案を通すかってのは置いておくけど、問題として――君、
誰に艦隊指揮を執ってもらうつもりだったの?」
 暫し考え込み、オーブ海軍の現第一艦隊司令の名を挙げたカガリに、ユウナは
「却下」
と短く告げた。

「元からサハクの子飼いだったけど、二年前のオノロゴ戦で部下を亡くして以来、
ばりばりの反アスハだよ?」
 ユウナは兎も角、カガリの安全が保証できない、と告げる。
「そ……そうなのか? 以前会ったときはそんな気配を見せなかったが」
「上司のご機嫌伺いは得意な男さ。艦隊運用の達人でもあるけどね」
 不安げなカガリが背後を伺うと、藤色のスーツを纏ったシズルが無言で肯く。

「それでどうすればいい?」
「……僕に聞くのかい? 他に将官のあては?」
「無いから聞いてるんだ。……他に、相談できる相手がいないんだ――」
 なんとまあ、陳腐な殺し文句が出たものだ。
 まさか女性からこんな台詞を聞くとは思っても見なかったユウナは、この時、
本気で迷っていた。
 後ろで控えているシズルの存在を考えても、彼の舌先三寸次第で、
妻の思い通りにする事も出来るし、思いとどまらせることも出来る。

 カガリ一人だけ艦隊に出張させて、そのまま太平洋に沈んで貰う事も――出来る。

「――オノロゴ戦で、逃げ遅れた民間人の救出に当たった者が居たな。
沖の第一艦隊に補給を行った、輸送艦隊の指揮官だった」
「トダカ一佐です」
 ユウナが首をひねる前に、背後の秘書が名前を答える。オノロゴの大敗北を慰める、
数少ない美談であったためにユウナの記憶にその人物があったのだ。
 何が美談なものか、とユウナは思う。戦場から民間人を避難させる前に戦端を開いて
しまったという、オーブ最大の恥でしかないというのに。
309SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:42:04 ID:???
4/

「そう、トダカ……彼は少将じゃなかったかい?」
 そんな嘲笑はおくびにも出さずに聞くと、秘書は能面を貼り付けたまま答えた。
「戦後に一佐に戻されました」
「野戦任官か――」
 上官が戦死したか、あるいは給料を下げるために平時は佐官扱いなのだろう。
 どちらにしても、戦場の端っこで輸送艦隊を接岸、民間人の救出、離脱と、
単純な艦隊戦よりは難しいことをやってのける腕はあるわけだ。

「……彼を昇進させて艦隊司令にするのか?」
「それが良いかなと思うけど、知ってるのかいカガリ?」
「私が帰国したときに少し話しただけだが。何故かミネルバの事を気にしていたな」
「ふぅん……」
 現役の司令官をそのまま連れてくることしか考えなかったらしい。
 しかしミネルバの事を――? コーディネイターに親戚でもいるのか。
「ま、アスハ派じゃないにしても、少なくとも君を嫌っていることはないだろうね」
 この件とは別に、身辺を調べさせることにユウナは決定した。
「どうして分かる?」
「君があそこにいた理由と同じ。あの負け戦で、オノロゴに引っ付いていたからさ」
 窓の外が赤みを失くして、オノロゴはひっそりと夜の空気に覆われていく。

「さてと、それじゃあ行こうかカガリ」
 ユウナは、秘書と目配せをして重い腰を上げる。
「――何処にだ」
 つられて立ち上がりながら、カガリの頭上には"?"が浮かんでいた。

「ネ・マ・ワ・シ。もしかして君、明後日の議会で直接言うつもりだったの?
……そうだったんだろうねぇ。"わたしのかんがえたいいあいであ"位にしか
受け取ってもらえないよ、それじゃあ」
「た、ため息をつくな! 分かった、有力氏族との会合に行くんだな?」
「そう。これから十回は、親父たちとごはん食べなきゃいけないだろうけど」
「うぅ……一日何食になるんだ」
「大抵のわだかまりは、一緒にご飯を食べてる内に解決するのさ」
 僕と君には、わだかまりがちょっと多いってことだけど――と言ってしまうのは、
今のカガリには酷かも知れないので黙っておく。
310SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:43:09 ID:???
5/5

「まずはウナトが相手だな? ……準備する」
「ああ、ドレスでね。それから今回はちゃんと僕のうしろを歩いてくれよ?」
 関係ないだろ、という顔をするカガリに、大いに関係があるんだよ、と見つめ返す。

「僕の意見に君が同調してるって雰囲気を出してくれよ、お願いだから。
その逆よりは遙かに良いって分かるだろう?」
「……了解した。せいぜい夫をたてるさ」
 と言ったカガリは、即座に部屋を飛び出して、ドアを後ろ手に閉めた。立てつけの良い
木製のドアは音こそ立てないが、乱暴な風をユウナに感じさせる。
「……僕も出るんだけどな」
 取り残されたユウナは、そっとひとりごちた。上着を手にした秘書が背後に立つ。

「ユウナ様、本気ですか?」
「何が?」
「"カガリ様とユウナ様が同行すれば、連合軍もオーブ艦隊を危機にはさらせまい"と、
本気で信じておられるのではないでしょう?」
「全く……乙女の幻想だよねえ?」
「では、何故? トダカ一佐であればむしろ、艦隊を犠牲にカガリ様をお守りするでしょう」
 鋼のような能面がかすかに歪んでいるところに、ユウナは秘書の心配の深さを読んだ。

「彼女は幻想を幻想と知らなきゃ行けない」
「カガリ様に恨まれる覚悟がおありですか?」
「彼女は僕を恨むだろう……だけど恨めばそれだけ、彼女は強くなる。
オーブに必要なのは正しいセイランじゃなくて、強いアスハだと思うんだよ」
「ユウナ様が死ぬかもしれません――」
「そうなれば、僕はカガリに恨まれなくて済むよね?」
 強いアスハ、か――僕も毒されたものだ。

「ねえ、僕らって結構似合いの夫婦に見えないかな? 未だに寝室から追い出されるけど」
「……」
 独身の秘書を黙らせながら、ユウナは窓を開けた。夜の風に顔を撫でさせながら、
自分こそが幻想に浸っているのだと実感している。
 夜に見る幻想は夢でしかないのだろう、しかしユウナにとっては幸せな夢なのだ。


 幻想の名前は、"オーブの獅子"と言う。




SEED『†』 第二十話 黄昏の谷に先駆ける――
311SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:44:52 ID:???
6/

 ――カーペンタリア基地 某所

「ちぃーーーっす。何スか、議長?」
 客室。ドアを開けた金髪の赤服はハイネ=ヴェステンフルスだ。
「やあ、ハイネ=ヴェステンフルス。相変わらず元気そうで安心したよ」
 ソファー。歓迎する黒い長は、プラント議長ギルバート=デュランダルである。

「元気は元気っすよ、たかが大気圏を突破しただけですから。――おお、すいませんね、
普段からこんな感じで。議長の前でパイロットスーツまんまですし」
 パイロットスーツ、指さす胸にFAITHの勲章が輝いている。

「気にしなくとも良いさ、私は気にしていないよ」
「急に呼び出しが来たもので――省略すればQYKですよ」
「……なんだねそれは?」
 怪訝な顔の議長。椅子を勧めると、ハイネは腰を下ろして即座に力を抜いた。

「Zaft Armed Keeper of Unityでザクとか、GUNDAMとかと同じです」
「そうか」
 ハイネの個人的な流行と理解したのは、正しい。

「呼び出したのは他でもない、君に新型と任務を預けたいのだが――」
「おっと、新型ですか? 最近はSaviourとかImpulseとかなんで、よもやまた
変なノリの略称のMSじゃあないでしょうけど」
「……」
 無言の内に肯定する、ハイネのいやな予感を。

「……またですか?」
「すまない……止めようとはしたのだが」
「議長のせいじゃないっすよ。名前は後で聞きます。それで任務ってのは?」
 デュランダルの責任感に、ハイネは話題を変えた。

「ああ、先ずはコレを見てくれたまえ」
 白亜の戦艦と、黒い戦闘機のスライドが表示された。
「アークエンジェルと、隣はムラサメですね。黒い塗装は初めて見ましたが、
背景はこれ、オーブじゃないでしょう?」
「流石だ」
 デュランダルは賞賛する。
「これらは共に、太平洋で展開中のザフトによって、偶然に撮影された物だ」
「――太平洋の亡霊」
「うむ。そしてこの写真と共に記録されたのが、次の映像だ」
 続くスライドに映されたのは、青空の下を飛ぶ深緑の怪鳥だった。
312SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:46:24 ID:???
7/

「……カオス――!」
 ハイネが無意識に、拳を握りしめた。デュランダルが肯く。
「君が地球の重力に落とした機体だ。アーモリー・ワンから強奪されたこの機体を
運用しているのは、地球軍第十七独立機動群"ファントムペイン"」
「――"ファントムペイン"」
「そう、"太平洋の亡霊"は"ファントムペイン"を執拗に追跡している。まるで何かを
伝えようとするように、この歌を流しながらね――目的は不明だ」
 流れ出す音楽――少女の声が静かな歌をさえずっていた。

「ラクス=クラインに似てますね。今の彼女はもっと派手に歌うでしょうが」
「声紋鑑定では別人と結果が出ている」
「へえ」と、興味なさげなハイネ。

「それで、俺には"ファントム"と"ゴースト"を追えという事ですか?」
「いいや、まずはミネルバに合流して欲しい」
「ミネルバに? アスラン=ザラがセイバーに乗ってるでしょう。それで十分では?」
「ほう、彼と知り合いかね?」
「アプリリウスで少し。一緒に飲みました」
「ならば話は早い。つい先日、ザフトが"亡霊"および"ファントムペイン"と接触した。
正確には、ミネルバに対してファントムペインが奇襲を掛けた前後に、"亡霊"が現れた
のだがね」
「奇襲の前後に?」
「うむ」デュランダルは含みを持たせて肯定する。

「報告によれば、"亡霊"はミネルバのセンサーに一瞬だけ姿を現した。ミネルバは対応して
警戒網を強化、奇襲寸前の"ファントムペイン"を捉え、結果として防御に成功したとある。
そしてファントムペインの撤退後、先の写真が記録されたのだよ」
「……」
 憮然と、何かを考え込む様子のハイネだ。

「僅か三秒間、レーダーに映るだけで双方の勝敗を逆転させたとも考えられるね」
「アスランとセイバーが居るなら、結果は大して変わらんでしょう」
「ミネルバもザフト本部にそう報告している。本部はグラディス艦長の強がりと
受け取ったらしいが、君が言うのならばそうなのだろうね」
 デュランダルは、これで買いかぶっているつもりはない。

「改めて命令しよう、ハイネ=ヴェステンフルス。FAITHとしての全権限を利用して、
"太平洋の亡霊"を追ってくれたまえ。ファントムペインと"亡霊"は共に、ミネルバの後を
追って紅海を北上している」
「……了解しました。"亡霊"を追ってミネルバに合流します」
 立ち上がり、ハイネは敬礼と復唱で議長に応えた。
313SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:48:28 ID:???
9/9

 ――その会話が、十五時間前の事だ。

「くそっ! アスランも俺も、妙な敵に巻き込まれちまったな――」
 太平洋上を西進する新型機"グフ"の操縦席で、ハイネは猛烈にわき上がる
いやな予感にもだえていた。

 機種転換訓練も受けていない新型機に、ありったけのバッテリーを背負わせて、
カーペンタリアを飛び立ってからはや三時間。左手にはオーストラリア大陸が見える。
 そこまで離れ、フライトレコーダーを切って、ようやく安全に毒づく事が出来る。

 声紋鑑定で"今の"ラクス=クラインと違うだと――?

「てことは、アークエンジェルに"本物の"ラクス=クラインが乗ってるじゃねえか!」
 ハイネは趣味の一環として歌手活動も行っている。
 その感性が、デュランダルに聞かされた歌声こそ、機械で鑑定するまでもなく、
かつての"ラクス=クライン"の歌声そのものだと告げていたのだ。

「俺が"アークエンジェル"の行方を突き止めたなら、どうなる?」
 もしも、その時ミネルバに乗っていたなら?

 プラントの偶像は、二人も必要ない。
 いまだ不確定要素に過ぎない、アークエンジェルは邪魔でしかない。

「……当然、ミネルバには、アークエンジェルの破壊命令が下るな」
 陰謀論者でもないハイネだが、危機感は深く静かに凝り固まっていった。
 深入りせず、命令を遂行せよ――碌な事にならないと、軍人の本能が警告を発する。
FAITH勲章が今日ほど煩わしい日も無かった。

「先に戦争の決着が着いちまえばいいんだが……そうでなけりゃあ――」
 ハイネは、割り切る。FAITHの男は、迷いを捨てて生き延びてきたのだ。

「――"天使"を落とす時には、恨むなよ? アスラン」
31445 ◆/UwsaokiRU :2009/03/10(火) 05:55:01 ID:???
以上、投下終了です。
キラが全然出てませんけどどうせシン主人公だから……あれ、シンも出てない?

感想、ご指摘は自由にどうぞ。
それでは。
315通常の名無しさんの3倍:2009/03/10(火) 06:00:11 ID:???
ミス一つ。
8/ はありません。
316通常の名無しさんの3倍:2009/03/10(火) 14:31:23 ID:???
>>45

ユウナ、ハイネのキャラがいいですね!
AA組の動向が気になるところです。
317通常の名無しさんの3倍:2009/03/10(火) 20:08:41 ID:???
>45氏
投下乙です
カガリも結局オーブ艦隊側でダーダネルスへか
悲劇は避けられそうになさそうだが
ユウナ先生に脂肪フラグ きのこれるか?続き楽しみです
318通常の名無しさんの3倍:2009/03/11(水) 13:27:04 ID:???
>317
>脂肪フラグ
でぶキラならぬでぶユウナを想像して笑えた

雑談すまん
319通常の名無しさんの3倍:2009/03/13(金) 06:06:19 ID:???
>>318
数ヶ月後、そこには墜落するグフを脂肪で跳ね返すユウナ先生の姿が!
320通常の名無しさんの3倍:2009/03/13(金) 12:37:53 ID:???
なるほど 脂肪フラグとは遠まわしな生存フラグなのだな
321通常の名無しさんの3倍:2009/03/13(金) 16:21:23 ID:???
>>河弥氏
Un'expected Guest が個人的に一番です、
ヨウランとヴィーノ登場に吹きつつ、どこかシンの優勝を願った自分が居ます。
32245 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:38:03 ID:???
投下しまーす。
多分8レスか9レスです。
323SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:40:12 ID:???
9/

 中東。
 かつて南北に流れた河は、そこが礫砂漠と化してもなお、水の流れに深い渓谷を残し、
連合の支配地域を行くミネルバは人目をさけ、大地のくぼみを縫うように通過していた。

 巨艦の起こす振動に不動の大地さえも揺れ、断崖を転げ落ちた岩塊が白亜の艦体に
当たって砕けた。知恵の女神を名乗る戦艦は、場違いなほどに異様なMAを、その艦首に
貼り付けている。

 夕刻にさしかかる空は、西側から赤のグラデーションに化粧されつつあった。

――ミネルバ ブリッジ

「進路はグリーン? 艦を谷に当てないように気をつけてくれよ」
 アーサーは嫌な予感に胸を押さえている。
 数ヶ月前、ボギーワンを追うミネルバは、デブリベルトで大損害を被った。
罠に懸かったのは、丁度こういった景色だった。
「思い出しますか? 不吉な予想はよしましょうよ、副長――」
「はいはい、どうせ連合軍に察知されて襲撃されたら、私のせいですよ」
 冗談めかして、アーサー。ミネルバ最底辺のナンバー2は「冗談で済めば良いな」と、
とことん状況を悲観していた。


 ミネルバがこのような危険な地形を飛行しているのは、当然訳があった。
 ペルシャ湾北のマハムール基地で受けた命令は、ユーラシア西側の連合軍ガルナハン
基地攻略への参加だった。
 タリアが問題としたのは、基地の攻略ではない。
 その前段階、ガルナハンに至る道のりの険しさである。

「ガルナハンに至るザグロス山脈を抜けるのは、ミネルバにとって危険です」
 1000mから2000m級の峻厳な、しかも連合の支配する地域を突破せねばならない。
 当然の心配をするタリアに、マハムール基地の司令官ヨアヒム=ラドルは、
「ガルナハンを支配下におき、スエズの連合軍をユーラシアから孤立させることが先決である」
と、言い張った。
 独力での攻略が困難――不可能だと認める、高圧的な敗北宣言である。

「ミネルバにこんなトンネル工事をさせようだなんて、どこの狸が考えた作戦かしらね」
 ガルナハンに何かあると踏んだタリアは、艦長室でアスランと作戦を練っている。
 既にガルナハンの部隊とも連絡を取り、現地住民との連携も考えているという。
324SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:41:39 ID:???
10/

「我々を使い潰すつもりか、ザフトの地上軍は……」
 艦長の居ないブリッジで、アーサーはミネルバの立場を考えた。
 ミネルバに無理を強いるザフト地上軍の意図は分かりやすい。
 "規格化された"地上のザフト部隊に対して、ミネルバは余りにも異質過ぎたのだ。
 地上軍の気分の問題ではない。
 インパルスシステムを備えた宇宙戦艦ミネルバを戦力として維持する補給は、
その特殊性故に、確かに地上軍の台所事情を圧迫する事だろう。


「インパルスシステムは、言うなればファッションだからなあ」
 平時だから許された高級志向のシステム。本来なら、技術的成果だけが現場へ
フィードバックされるはずだった"使われないはずの高性能"。開戦した現在、
上層部が高価な一張羅を脱がせ、廉価の制服を着せたい気持ちも分かる。

「だからこそ、ミネルバは高いコストパフォーマンスをアピールする必要があって、
つまりこんな所を飛んでるわけだ……はぁ」
 辛気くさいため息をつく副長に、クルーが"なんとかせねば"と危機感を抱いた。
 彼らが好きなのは、あくまで地面にのの字を描く『弱っちいアーサー』であって、
けっして深刻な考えにふける『真剣な副長殿』なんかでは無い。

「副長、それよりはクイズでも如何です?」
 繊細に舵を切りながら、マリクは朗らかに声を上げる。
「最近はクイズに凝ってるのか――どうぞ」
「それででは……言いますよ?」
 ブリッジの雰囲気も操りたい従順なるムードメーカ−にして、冷静と情熱の
操舵手――数多の趣味に走っては飽きる――は、一息に謎かけを出す。

 クイズです。
 日本神話の神様、イザナギとイザナミの離縁の原因は、次の内どれでしょう。
A,プライバシーの侵害。
B,イザナミの浪費癖。
c,イザナギの浮気。
 ヒント、イザナギは、黄泉の国(あの世)の入り口を岩でふさいでしまいました。

「どうです、副長?」
「うーん、bかな。神様が贅沢を始めると凄そうだ」
 メイリンがじろりと睨んだので慌てて、
「女性が、じゃなくて神様が、一般論だよ」
と付け加える。
325SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:43:56 ID:???
11/

「そういうメイリンは――どうせcなんだろうね」
「どうせ、とは何ですか! ……でもCです。ニホンの神様って人間っぽいって
聞きますもん。きっとイザナミが裏切られたんだわ」
「俺もCっす」
 ブリッジに咲く紅一点たるオペレイターに、チェン=ジェン=イーが同意した。

「男たるもの、たくさんの標的を狙い撃たずには居られないっす」
 極端に積極的な――トリガーハッピーの――火器管制官は、主砲の使えない鬱憤
混じりに鼻息を荒く説明、メイリンが小さく「うぇ――」と不快感を表した。

「私は、Aだと思う。夫婦の間といえど、秘密はあるだろう」
 聞かれるまでもなく応えたのは、バート=ハイム。
「恐らく、どちらかが相手の携帯電話を盗聴したり、端末をクラッキングしてメールを
盗み見たのだろう」
「――だから神話の話だって。全くバートさんは……」
 距離感を愛する索敵手――離婚歴有り――は、体験談の様に語った。呆れるマリクは、
メイリンに次いで若いブリッジクルーだ。

「待機中のパイロット諸君はどう思う?」
 回線を繋いで、マリクは聞いた。


――ミネルバ格納庫

「A――かな? 覗こうとした訳じゃないのに見ちゃったら、滅茶苦茶怒ったし」
 コアスプレンダーに乗るシン=アスカ。羽ばたく烏の黒髪と、燃え上がる炎の紅瞳。
 戦禍のオーブから戦後のプラントに移住、ザフトレッドになった奇妙な経歴を持つ。
「怒られた。誰にだ……?」
「……」
「言いたくない、か。まあいいだろう」
 慣れないプラントで努力に努力を重ね、三種の武装を持つインパルスの使い手となった。
環境に適応する努力の少年は"怒ったのは誰か"を言わず、少女趣味な桃色の携帯電話を
いじっていた。

326SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:49:49 ID:???
12/

「私はBね。メイリンも結婚したら気をつけなさい」
『どうして名指しなの、お姉ちゃん!』
 スラッシュザクに収まるルナマリア=ホーク。軍服と同じ赤の短髪とアメジストの瞳。
 プラントの軍人一家の生まれで、当然の様にアカデミーに入り、当然の様に赤服を着る。
「どうしてって……一般論よ?」
『何、それ。意味が分かんない。』
 アカデミーにおいて、歴代ザフトレットでも最高クラスのMS操縦技量を発揮した直後、
ぶっちぎりで歴代最低の射撃成績を残し、教官連中の拍手とため息を一身に浴びた少女は、
いつでもシンやメイリンを相手に姉貴風を吹かせ、いつでもミニスカートである。

「答えは知らないが"分かる"。だから言わない」
『またレイはそんな事を――』
 ガナーザクの中から応えるレイ=ザ=バレル。流れる金糸の長髪と深い空の碧眼。
 施設暮らしから、"さる高官"の後押しを受けアカデミーに。期待に応えて赤服をまとう。
「じゃあ教えろよレイ!」
「そうよ、独り占めはずるいわ」
 "全て平均以上"のオールラウンダー。シン、ルナマリアの強烈に過ぎる個性を補佐して、
ついにはアカデミーに適う者無きトリオを結成、教官陣に涙ながらの感謝を受けたまとめ役。
今は、機体の入念なセッティングを終わらせた直後だ。

「三人で正解して、マリクからのおごりを獲得しましょうよ」
『こら、誰もそんな事は約束してないぞ"ホークアイ"!』
 ルナマリアの提案に、ブリッジからマリクの抗議の声が上がる。

「じゃあ、今から約束してよ。ねぇ……オ・ネ・ガ・イ♪」
『う……仕方ないな』
「弱ぇ――! 今から食券の心配をしろよな、マリク」
 ルナマリアの健啖ぶりを知るシンが、ひっそりと忠告を飛ばす。

「そんなわけで、レイに答えを教えて貰わないと、だけど?」
「考えろ。神話や物語の類型の一つだ」
 にべもなく突き放してから、レイはマリクのヒントを補足した。
「……イザナギが黄泉の国のイザナミを岩で閉じ込めたのだな? 逆ではなく」
『イエス。どうやら本当に"分かる"みたいだな。レイの予想通りだろうよ』
 "お手上げ"と、マリクのジェスチャーが送られた。
327SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:50:50 ID:???
13/

「どういう事なの、レイ?」
「……これがオルフェウスとエウリュディケーなら、答えは変わるが解答は分かる」
「なるほど、そう言うことね」
「ええっと……どういうことだ?」
 解答の理由まで応えなければ、クイズの正解にはならない。
 シンは首をひねった。

「アスランには聞かなくて良いの、マリク?」
「いいだろあの人は! ……艦長と話し合い中じゃないか、邪魔だろ、きっと」
 シンが突然の反発を見せる。
「それに、きっと答えを知ってるさ。日本神話ならオーブとも関係あるしさ」
「ならばお前も知っているはずだが――シン」
「俺は国語の成績が良くなかったんだよ。……それにオーブはもう関係ない」
「……それは、アスランと同じだな」
 言い含めるようなレイに、シンは沈黙で答えた。あまりない事だった。
 格納庫に沈黙が降りる。気まずい雰囲気はブリッジにも伝播して、
『え……俺のせい、なのか?』
 それに押しつぶされそうなマリクが、深い困惑に包まれた。


「ねえ、レイ。気にならないの?」
 ルナマリアはレイのザクだけに通信を送った。
『何がだ――?』レイの返答。
「携帯電話。前はインパルスに持ち込んだりしなかったわ」
 アスランに話しかけられると、急に携帯電話をいじり始めるシンを見ていた。

『訓練はちゃんとしている』
「でも実戦だと心配で――」
『――ライフルの狙いが定まらないか?』
「レイ、真面目に聞いてよ」
 真顔で笑えない冗談は、レイ=ザ=バレルの悪癖だ。
328SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:51:50 ID:???
14/

『真面目に聞いている。その上で言うならば、放っておいた方が良い』
 シンとて赤服だ、と追加するレイ。
「でも、まだ十五才よ――」
『お前もまだ十七で……俺も同じだ。だからこそ"成長"が解決する』
 レイは何歳なのか聞いた事はない、ルナマリアと同年代と言うことになっていた。

「成長が解決する……そうかしら?」
『そうだ、アスランによってシンは今変わっているが。外からの"変化"ではなく、
内からの"成長"がシンを前に進める』
「レイはそう言う経験ってある?」
『俺は……成長する程に"死"が怖くなった。今でも怖い』
 レイが"恐怖"を語るのを、ルナマリアは初めて聞いた。

『だが、暗い場所で怯えて泣いていた時、ある人に救い出された』
 "死の運命に泣き叫ぶよりも、その運命の中で何かを成すといい"
 そう言われたのだとレイは教えてくれた。

『それ以来、死に脅える必要がなくなった。さらに"成長"したと言えるだろう。
今は、"何者でもないまま"死ぬことのないようにしている』
「そう――それでザフトレッドにまでなっちゃったわけね。レイでも怖いんだ」
『当たり前だ、シンも恐怖する事があるだろう。オーブで見たものから、シンは
プラントに逃げてきた。あの携帯電話がザフトに入った原動力だと、俺は思う』
 "俺はアスハに家族を奪われた"というシンの言葉。
 "親を"ではなく"家族を"――ピンクの可愛らしい携帯端末は誰の形見か。

「シンがオーブで見た景色、想像がつくわ」
『運命がシンを恐れさせた。二度と同じ景色を見たくない、目を逸らしたい恐怖を、
シンは生きて怒りに成長させたのだ』
「抗えない"変化"が運命で、そこから昇華したのが"成長"?」
『その通りだ。運命を選ぶことはできないが、運命の中で自分を決めて生きる事は出来る。
今の俺ははっきりと、ザフトレッドのレイ=ザ=バレルだと名乗る』
 決して"他の誰かではなく"――。
 レイは、ルナマリアではない誰かに宣言するように言った。
329SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:53:33 ID:???
15/

『――シンなら時間が解決すると信じろ。それでも気になるなら、真正面から
心配してやれば良い。戦場で出来る、俺達にしかできないやり方でな』
 戦場で出来るやり方――ルナマリアは心の中で反復した。
「分かったわ。それって掩護射撃するってことね」
『ルナマリアがやったら逆効果だな』
「レイ!」
 フレンドリー・ショットの女王、シンは"誤射マリア"とすら呼ぶルナマリアは、
実はちょっと自分の射撃を気にしている。

『冗談だ……。生き残ればその先がある、それだけだ』
「ええ、そう……その通りね」
 通信を切った。切れる直前聞こえた、『しゃべりすぎたな』の独り言は、
後悔している風では無かった。まるで照れているような、そんな声だった。
 一緒に生き残る戦いが出来る――あたりまえのそんな事が、生きている
彼女らの最大の強さだった。それがある限り負けていないと確信できた。

 

『あー、なんか静かになったな、パイロット諸君?』
 恐る恐ると、マリク。
「それじゃマリク、答え合わせをお願いするわ」
 何も無かったかのような口ぶりで、ルナマリアは言った。


――ブリッジ

 渓谷のカーブに合わせて舵を傾けて、マリクが努力して明るい声を出す。
「それじゃあ、答え合わせと行こうか。答えは――」
「――CMの後だ! 渓谷の東側に熱源。距離200、数は15」
 バートの悲鳴。ブリッジの視線がディスプレイに集中した。
「ええええぇぇっ! って驚いてる場合じゃないよ。コンディションレッド発令、
ブリッジ遮蔽。バルジファル、ディスパール装填。モビルスーツ隊発進急げ!」
「敵、更に増大。渓谷の影に隠れていたようです。総数十七」
「モビルスーツ隊に位置情報を転送します」
 バートの目がセンサーの情報を読み、メイリンの指がコンソール上を舞うように滑る。
330SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:55:47 ID:???
16/

――格納庫

「流石、インパルスは発進準備早いわ。シン、アンタが先だから、任せたわよ!」
 エレベーターの竪穴に吸い込まれるコアスプレンダーを見ながら、
ルナマリアはザクをカタパルトに寄せた。
『了解――アスランが来る前に片付けてやる!』
「そう言う張り切り方じゃなくって……ああもう!」
 通信相手を切り替えて、聞く。
「ねえ、シンは大丈夫よね――?」
『信じろ――』短く、力強く、レイは言い切った。


――ブリッジ

「全く――インド洋の時といい、また連合の襲撃か!」
 この時、もしもブリッジに艦長タリアが居たならば、敵部隊の攻撃が
"襲撃"ではなく"要撃"であることに気付いただろう。
「準備ができ次第発進させてくれ」
「了解、コアスプレンダー、カタパルトオールグリーン、発進準備良し」
 あるいは、ブリッジが遮蔽されていなければ、タリアは通路を迂回する必要もなく、
インパルスの発進前にカタパルトの解放を少しだけ遅らせただろう。
「コアスプレンダー、発進どうぞ!」
 要撃――待ち伏せは、もっとも効果の高い一撃をたたき込む為に行うからだ。

「十一時に熱源反応――! 大きいです!」バートの悲鳴。
「面舵一杯――!」アーサーの怒号。
「無理です!」マリクの絶叫。

 刹那、中央カタパルトに強力なビームが飛び込んだ。
 爆風に煽られて、発信直後のコアスプレンダーが体勢を崩し、辛うじて回復する。
 続いて左右両舷、開きかけのカタパルトハッチ基部を砲撃がひと薙ぎ、動作中で
強度の落ちたハッチが崩壊した。

「損害は――!? インパルスは無事か!?」
「こ……コアスプレンダーは健在――」
 震える声でメイリンは、シンの無事を報告し、
「――なれど全てのカタパルトが大破しました。モビルスーツ隊、発進不能……です」
次に、知恵の女神が守護者全てを閉じ込められたことを告げた。
331SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 18:58:53 ID:???
17/

――渓谷 

「ああ、面倒くせえし体もくせえ。けどちゃあんと当たったぜ? へへっ。
何人か死にやがったかな、コーディ野郎どもは」
 狭苦しい操縦席でほくそ笑むシャムス=コーザ。色つきメガネの黒人青年。
痩身をパイロットスーツに包み、吸っていたドリンクパックを放り投げる。
『シャムス――久しぶりに声を聞くわね……でもヴェルデで突っ込んじゃだめよ?』
「分かってらぁ。油断はしてねえよ。ただ、この臭っせえコクピットの恨みを晴らすだけだ」
 ミネルバを待って三十時間の待機――狙撃手は忌々しく糞尿の匂いを漂わせる。
 緑のPS装甲、左右に大砲を装備した砲戦型の乗機"ヴェルデバスター"は、射撃即移動の
原則に従い斜面を駆け降りた。

「先生が言ってた――相手を撃つときは、顔が見えるくらい近づきなさいって。
つまり……とどめは私の役よ――」
 息を潜めた待ち伏せを終えて、殺気を放出するミューディ=ホルクロフト。エキセントリックな
化粧の白人女。"コーディ殺しは勝負下着で"のジンクスに忠誠を誓っている。
『いいよなあミューディは。着替えられて外でくそが出来て!』
「我慢してくれてありがと。おかげでクソそのもののコーディネーターを殺せるわ」
 待ち伏せ前には生活スペースとトイレ用の穴を掘った。これからはコーディネーター用の
墓穴を掘る。青のPS装甲にライフルとサーベル――汎用性を追求した"ブルデュエル"は
突撃する穴掘り機械に過ぎない。最後に詰め込むものは、どちらも等しく"価値が無い"。

「シャムス、ミューディー、疲労は問題ないな?」
 まともな返答は無いと知りつつ、操縦桿を握るスウェン=カル=バヤン。銀髪、筋肉質の
引き締まった長身。一人でも三人でも大して変わらぬ無口な青年は、体が発する悪臭に混じる
アドレナリンの匂いを嗅いだ。
『ヒャッハア! これからコーディ人形を壊しに行くんで、ハイになってんぜ!』
『先生が言ってた。いい子はコーディネーターを殺す時に、弱音なんて吐かないって』
「……」
 特に激しい感情は湧いてこない――が、この二人と組む事に何か釈然としない小隊長。
 漆黒のPS装甲に包まれた重装備の"ストライクノワール"は、背負った翼の産む莫大な
推力に任せて、重力に引かれる大質量を物ともせずに飛翔した。

 三機を含んだ"ファントムペイン"は総勢二十。地の理と待ち伏せで勝機を得た彼等は、
知恵の女神を地に落とすべく、白亜の戦艦へ一斉に襲い掛かった。
332SEED『†』 ◆/UwsaokiRU :2009/03/14(土) 19:04:11 ID:???
以上、投下終了。
なんだかサーバーにつながりにくい、です。
感想、指摘等がございましたらご自由にどうぞ。

では、また。
333通常の名無しさんの3倍:2009/03/16(月) 17:38:32 ID:???
どなたか次スレよろ
334通常の名無しさんの3倍:2009/03/16(月) 23:14:56 ID:???
480までは要らない気もする。
335弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 19:55:37 ID:???
小さな島に風は吹く
第9話『チカラの使い方(前編)』(1/5)

『距離が足りません。それにあの辺りは風が逆です。三尉の腕を信じないではありませんが、
流石にここからでは……』
「これ以上は遮蔽物がねぇ。となれば、ここから狙撃(ヤル)しかねぇさ。射撃の元メダリストだぜ?
いけるさ、スコープでは見えてんだ。すげーちっちゃく、だがな。”向こう”の状況はどうだ?」
 サウスの広場に展開する敵上陸部隊。津波対策で設置されたとおぼしき低い防塁に身を
隠して、小声でマイクにぼそぼそとしゃべる男達。マーシャル率いる別働隊はその敵部隊を
最大望遠のレンズ越しに睨んでいた。

『A4を撃墜(と)られました。各ライン約10m後退中、Bラインは時間の問題。おそらく二班は入り口
に回らざるをえんでしょう。MSの上陸阻止は継続中ですが、技術の連中ではそう遠くなく限界が。
――Nジャマー反応が強い為、照準の電制補助はほぼ不可能、……でありますが?』
「腕の勝負、か。望むところだ! ……なーんてな。――ドミニク、あの辺りの最新の天気!」
『サウスビレジ2時間前のデータ、天候快晴、気温23℃、湿度67%、西南西の風、風力3ノット』
 湿度が予想より高いし、風はもう少し強くなっているか……。最大望遠でも迷彩服の男の全身を
とらえるのがやっと。指揮官はあのベレー帽の男で違いないだろう。が、問題は……。照準を
調整するマーシャルの額に脂汗が浮かぶ。俺自身、か……。
 かき回せればそれで成功。当たったらカミサマレベルの話だ。彼は自身にそう言い聞かせる。
「……全員聞け、自分が2発目を打ったら二曹が一発かます。成功でも失敗でも、そこで一旦
Dポイントまで退却、一時本隊に任せる。こちらは全員腕とアタマは勝ってるが数で負けてる。
ぼやぼやしてたら丸焼きにされっちまうぞ。良いな!」

「くっ、持たないか……。フジワラさん、二班は現時を持ってラインを放棄、入り口の防衛に回す! 
負傷者は地下に搬送、避難している国防省の人達を動員して良い。子供達にも医療班の手伝いを
させる様に言ってくれ。それと、指揮所の放棄準備。各人に手持ち火器のチェックをしておくよう!」
 18隊指揮所。壁際にズラリと並べられたディスプレイは、ほぼ全てが赤くなって何某かの
緊急事態を知らせ続けていたのだが、ここに来て表示自体を止めて暗くなってしまったモノも
見られはじめた。
 チャンプスの付近に開いていた仮想ディスプレイも、既に当初の半分の数しかない。

「了解、――二班は防戦しつつ移動を開始。重傷者より順に地下への転送は実施中。庶務係長
以下非戦闘員も既に全員手伝いを……。代理、最終的に指揮所(ココ)はどうなります?」
「いずれホールの情報車を潰されたらおしまいだ。指揮所に居る全員で非常階段を守るのが
最後の仕事になる。地下の隊長が早めに片を付けてくれれば別の手も打てるのだけど……。
フジワラさん、人員、遮蔽物の設置も含めて配置を考えておいてくれ。防火シャッターも使……」
『情報2から緊急、エレベーターの動きが止まった! クリヤマっ! そっちはどうだ!?』
336弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 19:56:46 ID:???
第9話『チカラの使い方(前編)』(2/5)

 断続的に鉄のこすれる音が徐々に大きくなる『地下10階』の薄明かりの中。
小柄な女性の影と更に小さな影。
「多分敵はシステムにハックをかけて熱源情報でこちらを割り出してくる。そう言った意味で
こちらは逃げも隠れも出来ない。そして敵は恐らく特殊訓練を受けたコーディネーター」

 だけど。胸元のホルスターに警備室からリコの持ってきた拳銃を滑り込ませると、
自身の大型拳銃を手にするクロゥ。
「其処につけいるスキがある。脱出のこともあるから、向こうも人数はある程度絞ってくるはず。
多分実質2,3人。――そう、……あなたは私の最期の切り札」

 そして。サイレンサーを外すと作業用の机にコツンと音を立てて几帳面に立てる。
「切り札を切るならば。どんなに劣勢だろうが、一気に形勢を逆転してその瞬間に勝負を決める。
その為のジョーカー。いいえ、あなたはさしずめスペードのエースかしらね」

それ故に。チャキッ! 腰を落とし愛銃を虚空に構える。と、背を向けたまま片手に銃を下げ
元の姿勢に戻る。
「私が失敗して倒れるまでは絶対姿を現さない。そして姿を現したそのときは。あなたを見た敵、
全てを……。皆殺しにしなさい。たった一人も残してはイケない。……良いですね、エンリケ?」
 私の気持ち、私の想い、そして本当の私。何一つ彼に伝える訳にはいかないならば……。
せめて只の少年になってもらいたい。だから、私は倒れる訳にはいかないんです!
 諜報のプロではあるが戦闘のプロとは言えないクロゥだから、手持ちの火器も拳銃のみに
絞った。使い慣れた銃は残弾一発。ならばその後は、”アドリブ”で道を切り開くほかは無い。

 悲壮な決意を胸に、厳しい表情で虚空を睨むクロゥ。だからこそサイレンサーを外し、あえて
ボディースーツではなく、クローゼットのブランドスーツに身を固めてきた。出来る限り目立って
敵に場違いな姿を見せつけるのだ。圧倒的不利の中では奇襲に打って出るしかない。
 相打ち覚悟で仕留めるならば3人が限度。それ以上入り込まれたならばリコを出すしかない。
最大で4人と踏んでいるが、せめてその内一人は戦闘の素人であって欲しい。今のクロゥに出来る
事はせいぜいそう願うことぐらいだった。

 そうだ、薬を飲むまで忘れていたのはこの感じだ。今の俺なら出来る、確実に仕留めてやる! 
だから俺に殺せと命令してくれ! 
 一方のリコは久しぶりの高揚感に包まれていた。
 時間と共に研ぎ澄まされる感覚。良く1キロ先に落ちた針の音を、等と訓練で言われたのを
思い出す。リコには今の自分ならミリ単位で落ちた位置まで聞き分けることが出来そうに思えた。
 そう。クロゥの出す命令ならば、たとえ地上の全コーディネーターを皆殺しにしろと言われても
それはたかが数千万人。今の自分ならばその程度なら十分遂行可能だ。そう思う。

「被検体213号の姿を知るものを残してはいけない。見える敵は全て排除。それがキミの任務」
 何故ならば。コトン。静かにサイレンサーの隣に銃を置くと振り返るクロゥ。振り返ったその顔は
リコの予想を裏切る。
 いつもの一本抜けた物知りお姉さん、カトリだった。
「――だってキミは只の少年、リコに戻らなければいけないのですから。……ね?」
 やはりというか、リコとクロゥの想い。それは、ここでも喰い違った。
337弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 19:58:01 ID:???
第9話『チカラの使い方(前編)』(3/5)

「ふん、地下だけ別系統とはな。手間取らせやがって。システム完全制圧っと。……? 
リーダー、ちょっと見てくれ、なんだこの広さ!!」
「地下にMS演習場……、なのかコレは。広さもそうだが高さのデータ、間違いないのだろうな? 
なるほど、時間がかかる訳だ」
 データグラスに流れるデータ越しに忙しくキィボードを叩くBBを見る。視界の端、残り時間の
項は既に5分を切った。
「なるほど。旧世紀の、オーブ以前の戦争の前線基地跡なんだとさ。……ヒュー。これ、山自体が
まるまる偽装なんだ。すげぇ」
 流れてきたデータの最大高130mが本当ならば、多少大げさだが山一つ丸々くりぬいて
ある事になる。
「海抜ほぼ0mって事か。建物は飾りかよ……。調べ物は結構だが、地下の詳細図と熱源発生
ポイントは押さえてあるんだろうな?」 

「詳細図はもうあるぜ。出口の位置もOK。ん? ……ビンゴ! 捕まえた。2番出口から
東北東23m、2名。……ちいせぇな。一人はガキか。――? おかしな立体迷路も造ってある」
「近すぎるぞ、BB! 待ち伏せされたら避けようがない!」
 BBが座るコンソールの上、大きなディスプレイ。広大な敷地の中エレベーターを示すらしい
小さな四角のすぐ脇、赤い点が二つ、『進入者』の注意書き付きで表示されている。
「エレベーターでMSを下ろした先には当然MSデッキがある訳だよ。つまりは遮蔽物だらけ。
待ち伏せは確かにヤバいが、システムは完全に俺の手の中だ。連中にはコッチは見えてない。
片側だけでもハッチが3つ、更に人間用のドアなら8つ。それが両側。……勝ちだよ、リーダー」 
「ガキはオペ。”出来る”エージェントは1人と見て良いんだな? わかった。なんとかしよう」

「大佐では無いがな、BB。……慢心は身を滅ぼすぞ。一度非道い目にあったのではないのか?
それと、おまえもだ。ジジイの戯言だというならそれまでだがな……」
 喋る者は居なくなり、鉄のこすれる音。それ以外、何も聞こえなくなる。
「……状況は把握しなきゃ”仕事”になんねぇでしょうが。勿論、十分気をつけますよ。おやっさん」
「すんません、グランパ。勿論、今の話は慢心なんかじゃありません。こちらの優位は変わらない。
――拾ってもらった恩は必ずお返しします。……全力で!」

『間もなく着底します。緊急事態の為全てのドア、ハッチが開放されます。最寄りのドアから……』
338弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 20:00:27 ID:???
第9話『チカラの使い方(前編)』(4/5)

 身を屈めてゴーグルを付けた男二人が、棚やロッカーで急造したと思われる”立体迷路”
を進む。すっ。音を立てずに前を進む男が手を挙げると後に続くBBは何も言わずに姿を消す。
 あえて明かりを消さないか。この辺だと思うのだが……。はっとして歩みをとめる男。
 進む男の前、ゆがんだロッカーに映る黒髪にスーツの女性はまるで見当違いの方向に
銃を構えている。確かにこれならBBの後ろを取れる。作戦としては悪くない。……バレなければ。

 策士策に溺るる、か……。音を立てないまま一気に突進すると向きを変え、ロッカーに映る
虚像の持ち主へ銃を向ける。
「先ずは一人っ! ……なっ! ホロだと!? しまっ……、左か!?」
 振り返ったが銃を構える時間はなかった。ドンっ! 腹に響く音が響くとあまりの衝撃と痛みで
男のライフルから手が離れ身動きが取れなくなる。
「く、はっ、こんな単純な手に……。壁もホロ!? ……。BBの奴に壁を”見せた”……だと?
……エライ至近距離からの、大口径。アバラがいったか、防弾部分を狙う……? ――なっ!」
「システムを誤魔化す方法がないと思ったら大間違いです。――勿論狙いはわざと、です」
 壁だったはずの横合いから出てきた小柄な女性は、左手に大型拳銃を持ったまま
、口径の小さい銃を極近距離で撃ちながらそう言った。
「コッチは弾切れ。コレでとどめを刺す以上、確実に動きを止めて貰う必要がある。そう言う事です。
先ずは……、一人っ!!」
 左手の大型拳銃を投げ捨てながら、額に2つ穴の空いた男がゆっくり倒れていくのを、
横合いから出てきた小柄な女性。クロゥは見やった。

「……良いことを聞いた、今後の参考にさせて貰うぜ」 
 男の声。その声を聞き終わる前にクロゥは背中に衝撃を感じてそのまま床に突っ伏す。
「防弾チョッキを着てようが衝撃までは吸収出来んと。なら、近距離で打たれりゃ死ぬだろ? 
ブランドスーツに吸収素材無しのチョッキたぁたいした自信だな? ……てめぇが、イタバシか!」
「なっ……。逆から!? くっ、ぐぅう……。じ、じゃあ、あなたが、BB……!」
「巫山戯たトラップ組みやがって。テメェの考えなんざお見通しだ! この状況下でオレ様が右から
出てくるわきゃねぇだろうがっ! おおかた一人目の武器を奪って二人目以降に対応しようとした
んだろ? 裏をかきすぎてミエミエなんだよっ! 手間取らせやがって! ――何回もジャマして
くれた礼はしっかりしねぇとなっ! えぇ!? おらぁ!!」

 足でクロゥを踏みつけ一発ずつ、ほんの至近距離から、防弾チョッキのラインは外さずに
アサルトライフルを撃つBB。スーツの下の防弾チョッキは吐き出された弾を押さえ込んだものの
弾は体にチョッキごと喰い込み、彼女の口元に何本もの血の筋を作った。
 もとよりスーツの下に着るような防弾チョッキである以上、ライフルの近距離射撃など想定
されていない。何発かは彼女の体も、反対側の素材をもあっさりすり抜け、床に穴を開ける。
「こっちにゃデータで見えてんだぜ? もう一人はガキだろうが! 見てるならコイツが死ぬ前に
出てきたらどうだっ! それとももう逃げたか!? はんっ、相棒が腰抜けとは付いてねぇな!
えぇっ? イタバシさんよぉ!!」
339弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 20:02:31 ID:???
第9話『チカラの使い方(前編)』(5/5)

「大尉から入電。現在後送者2、これ以上ラインを上げるのはリスクが大きすぎだと……! 
大佐!!」
「あの程度の戦力に翻弄されるとはな。あの時点で南のラインをあっさり放棄など、なかなか
出来る事ではない……。――敵の兵隊のみならず、指揮官も出来るぞ! ラインの維持だけで
良い、大尉にはあと45分持たせろと言え! ビーチの連中はどうしたか!?」
 実戦経験のないお飾り軍隊か……。相手は仮にも正規軍。確かに俺自身に慢心があった
やもしれんな。等と反省しながら考え込もうとした”大佐”はふと背後に気配を感じて振り返る。
何もない背後では雑木林が葉を鳴らすのみ。

「……気の、せい。だろうか」
 振り向いた時の違和感の意味を向き直りつつ考える。そして考えがまとまる前に歴戦の
『カン』が体を動かす。
「少尉、9時方向に敵部隊の可能性! 至急確認の上排除し……!! ――た、待避っ、
全員待避だっ! 伏せろっ! 耐ショック、耳と口を塞げっ! 来るぞぉ!!」
 ベレー帽を飛ばしながら大佐が叫んだ瞬間、『何か』が煙の尾を引きながら自らに飛んでくる
のが見えた。

「大佐、お怪我は!?」
「問題ない。――少尉の隊は戻らせろ、もう逃げた後だろう、今からでは無意味だ。……位置を
変える、敵本陣からミサイル来るぞ! 索敵班は対空監視増強、もたもたするなよっ!」
 ベレー帽を拾うと軍曹に指示を出す。あれだけリスクを冒して信号弾とは……。我々を舐めて
いるのか。敬礼をして軍曹が走り去った後、真っ赤な煙を上げる着弾点からベレー帽に視線を
移す。 いや……。舐めていたのは、この俺の方だと言うのか。……まさか。大佐の目は
ベレー帽から離せなくなる。

「大佐、ご用意は宜しいですか」
「あぁ、今行く。用意ご苦労! ――助かったのは経験値、か。よもやこの風の中、あの距離から。
……狙撃とはな。懐に入り込んでおいて、即座に逃げる、か……、人数を最小限に絞ったな? 
――この戦、こちらもそれなりに覚悟を決めねばなるまい」
 請負額が安すぎたな……。大佐は、それだけ呟くと銃弾の擦過によって焦げ目の付いた
ベレー帽を坊主頭に被り直した。  
340弐国 ◆J4fCKPSWq. :2009/03/17(火) 20:04:59 ID:???
今回分以上です、ではまた。

自分は弾かれましたので
どなたか次スレよろしくお願いします。
341通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 01:09:36 ID:???
>>弐国氏
投下乙です。

スレのタイトル、テンプレについてはどうしましょうか。
342通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 11:03:12 ID:???
モモちゃんが出てこないのが不満
俺の中ではこの作品の85%がモモちゃんでできているというのに……
つーかクロゥさん、いきなりそれですか……

>>347
とりあえず次スレはテンプレ含め現状のままで良いのでは?
次スレの終わりまでにある程度の結論が出れば良し、と言うことで

と思ってスレ立てやってみたが俺もだめ
次の方にタッチ
343通常の名無しさんの3倍:2009/03/18(水) 11:04:40 ID:???
レスアンカーまちがいた
>>341
344本スレまとめ:2009/03/19(木) 06:24:05 ID:???
SEED『†』
十七話 >>49-53 >>93-97 >>141-147
十八話 >>183-189 >>203-209 >>224-234
十九話 >>239-244 >>255-263 >>285-298
二十話 >>306-313 >>323-331

舞乙-SEED『†』 >>54-57

感想。
戦闘が長すぎて間延びしているような感じもする。
345本スレまとめ2:2009/03/19(木) 06:29:32 ID:???
小さな島に風が吹く
四話後編 >>84-89
五話 >>112-117 >>121-126 
六話 >>128-134 >>154-157
七話 >>165-169 >>194-199
八話 >>212-219 >>266-271
九話 >>335-339

事務官かく戦えり
>>102-106

感想
ストーリーを広げてたたむ流れがお見事。
物語の裏側を見せる短編も◎。
クロゥさんの安否が気遣われる。
346通常の名無しさんの3倍:2009/03/19(木) 06:39:01 ID:???
大地と薬
>>9-14
>>17-21
>>23-28

感想
お見事、GJの一言。ロックオンを通してOOの世界を広げてくれた。


戦史
41話
>>36-43
>>62-69

感想
サイとカズイがとても格好良くて、女らしいカガリが新鮮。

四月一日
バージョン8 >>72-73
バージョン9 >>137-139
バージョン10 >>151-152
バージョン11 >>248-251
バージョン12 >>300

「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
第15話 「再会 −おもいで−」(前編)
>>174-178

感想
同じ前振りから数々の結末を生み出すのは流石。
長編の続きも大期待
347通常の名無しさんの3倍:2009/03/19(木) 06:59:31 ID:???
マイスターの憂鬱
>>75-82

感想
アクエリオンとのクロスの仕方、落ちのつけ方がすっきりしていていい。

P.L.U.S.
>>162
>>217

感想
カオスなアカデミー時代。このペースでも、続いてくれれば面白い。

テロリストのうた
>>109-110

感想
――To be continued on the next time. ?
この飽きっぽさは。テロリスト二人の掛け合いは流れるようでGJ。



次スレ
まとめ管理人さんの意見。諸事情により
1 今まとめに載っている作品の続きはまとめるが、
2 次スレからの新規連載はクロスオーバーWIKIへお願いしたい
とのこと。
348通常の名無しさんの3倍
次スレ立ちました。

新人職人がSSを書いてみる 17ページ目
http://hideyoshi.2ch.net/test/read.cgi/shar/1237414014/l50

テンプレ貼ります。