一番奇抜なガンダムってどるだ?2

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1通常の名無しさんの3倍
どれだろうな…

まとめ
http://www8.atwiki.jp/gundam_dollda/
2通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 17:27:49 ID:???
ここは前スレ>>1がスレタイを誤字のままで立ててしまったことによって
「どるだって何のガンダム?」という話題なり、「00に出る新ガンダム」や「2010年放送の新作ガンダム」など
スレ住人達の遊び心によって「新しいガンダムであるドルダを作るスレ」となりました

%
3>>2が何故か切れたorz続きです。:2008/12/12(金) 17:29:19 ID:???
現在キャラクターやMSなどの設定の投下や複数のSSが連載中!
もちろん歴代シリーズの中で奇抜なガンダムを語ったり、新たな「ドルダ」を創造しても構いません

基本的にはsage進行で。
下に行きすぎたと思ったらageてください。

前スレ
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1213176857/
4通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 17:57:07 ID:???
>>1>>3
「ドルダ」を創造しても構わない
なんてカッコつけるから、
このスレはネタにもならない正にゴミになってしまったな

せめて、ネタになる要素は残しておけよ
元々昔どっかであったような話題なんだからさ
5通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 18:34:02 ID:???
テンプレを貼っただけなのに文句言われても
そういう文句は前スレでテンプレ案が出た時に言えクソが
6通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 19:08:27 ID:???
とりあえず>>1
7通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 19:24:46 ID:???
>>5
まあそんなに真っ赤な顔せんでも……

マヌケが
8通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 20:47:00 ID:???
>>1

>>4>>5>>7
お茶いかがですか?
9通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 21:23:03 ID:FjtaElm7
>>1
乙です
新スレ記念age
10通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 21:29:44 ID:???
皆立てられなかった中>>1は唯一立てられたんだしな、とにかく乙
11バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/12(金) 22:48:46 ID:???
お久しぶりです、>>1乙です!
wikiの更新をしておきました。
12通常の名無しさんの3倍:2008/12/12(金) 23:16:42 ID:???
ドルダをスクラッチしてみたいんだけど、全体像とかありますかね
13本家ドルダ:2008/12/13(土) 02:48:25 ID:???
Doll-Device Archive No.06 トークス





 第28コロニーの民間ポートに、1隻のシャトルが入港する。
 休戦協定の呼びかけを受けた周辺のコロニーから、
代表としてドルダ追撃部隊の三名が出席することになった。
 マイケル、ターニャ、ニコラスである。
 そして、シャトルの操縦しているのはディランだった。
 ディランは淡々と管制との受け答えをしつつ、誘導に従いシャトルを着船させた。
「じゃあ行ってくる。後を頼むよ。ディラン」
 操縦席に顔を出したマイケルが、ウインクと共にそう言った。
 ディランは無表情のまま、「了解した」と返す。
 マイケルは少しだけ残念そうな顔をして、トボトボと先に降りたニコラス達を追った。
 エプロンでは二人の男女が、マイケル達のことを待っていた。
「ようこそ第29コロニーへ。私は今回仲介役を務めます、クラン・R・ナギサカと」
「ギデオン・マクドガルです」
 社交辞令の笑顔と共に差し出される手。
 マイケルは快くそれに応じると、クラン達の顔をまじまじと見た。
「ナギサカ、マグドガルというと、もしや第一次火星調査隊の?」
「そうです。ご存知で?」
 マイケルの言葉に、穏やかな口調で返すクラン。
14本家ドルダ:2008/12/13(土) 02:51:33 ID:???
 そんなクランの顔を見ながら、マイケルは満面の笑みを向ける。
「勿論だよ。僕等は君達が火星から謎のモビルスーツと一緒に逃げてきてからずっと追っていたからね」
 楽しげに、マイケルは言った。
 途端、クランとギデオンの顔が強張る。
 目の前にいるのは、何度も命を狙われた相手。
 よく見れば、柄の悪そうな男は、敵意を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「今回の休戦協定に向けた会談と、その件は関係がありません。混同されぬように」
 念を押すように、三人を見ながらギデオンが告げる。
「あ、あの時は、私達も生き延びることに必死でした」
「あぁ、わかっているよ。スウィフト君も、事を荒立てないように」
 ニコラスを見て、ギデオンが言う。
 注意を受けたニコラスは、機嫌が悪そうに舌打ちをした。
 マイケル達は一通りのボディチェックの後、仲介役の二人の案内で地球圏連合軍側の待つ一室へと向かう。
 ギデオンはドアをノックし、皆と入室した。
 室内には、軍服を着た屈強な男達。
 そして、一人着席し、目を瞑って沈黙するメリリヴェイルがいた。
「では、火星コロニー義勇軍の方々も、席にお着きください」
15本家ドルダ:2008/12/13(土) 02:57:34 ID:???
 クランがそう言うと、マイケル達は腰をかけた。
 対峙するメリリヴェイルと、マイケル、ニコラス、ターニャ。
 話し合いがこじれれば一触即発となるかもしれないと、クランは息が詰まりそうだった。
 そんな心配を振り払い、クランはギデオンと目を合わせる。彼が頷くと、4人へ順々に書類を配っていった。
「今回の休戦協定に関する資料です。各項目をご確認ください」
 クランは戻ると、ギデオンと共に腰を降ろした。
 目を通す両軍の者達。
 眼鏡のレンズ越しに見えるメリリヴェイルの瞳は、一見して落ち着いているように感じる。
 しかし、傍観するギデオンは、彼女に違和感を持っていた。
(初回にして、合意に結びつけるとは思ってはいないが……)
 彼女から伝わってくる空気は、自分達を拘束したあの時から変わっていないように思えて仕方ない。
 政府の名を借りた公社からの、ごり押しの休戦協定。
 納得できないこともあるだろう。
 だが、それだけではない。
 自分だけしか信じていない、頑なさが見えた。
「訂正箇所がいくつかある。言って構わないか?」
 メリリヴェイルが顔を上げると、ギデオンと目が合う。
 不意のことで、思わずギデオンは視線をそらす。
「構わないか?」
 眉を顰め、強めの口調で再度訊く。
「す、すまない。仰ってくれ」
16本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:03:29 ID:???
「指揮系統が分断され、各コロニーの連絡さえままならない今、
この“両軍の即時停戦”という項目は削除するべきではないか?」
 鋭い視線がクランとギデオンを捉える。
 二人の顔が曇った。
「この休戦協定、範囲を狭めるべきだと考えるが。地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍ではなく、
第29コロニーの地球圏連合軍と周辺コロニーの火星コロニー義勇軍という形ではどうだろうか」
「自分達だけ見逃してもらおうと?」
 メリリヴェイルの提案に、つまらなさそうにマイケルが言う。
「駐留軍の総司令がおられるこのコロニーは、いずれは貴軍の攻略対象になるだろう。
それを後回しにしてもらえないだろうと、頭を下げて頼んでいるのだ。何か不服か?」
 ハーフムーンを離脱して第29コロニーに逃げ込んだ一部艦隊に、追撃は驚くほど少なかった。
 そして、第29コロニーも、コロニー一斉制圧以降火星コロニー義勇軍の攻撃はない。
 今まで攻めてこなかったのだから、これからもそうするべきだ。
 遠回しにそう言っている。
(この司令代理殿、悪びれもせずによく言うね)
 思わず、口角が上がってしまう。
 退屈していたマイケルの興味が、少しずつ引かれていった。
 第29コロニーの駐留軍は、火星コロニー義勇軍によるコロニー制圧の侵攻の際に交戦し、辛くも勝利した。
17本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:08:13 ID:???
 ローズの多くは地球圏連合軍に接収され、義勇軍のパイロット達は軍施設内の収容所に送られている。
 その後、ハーフムーンから逃げてきた艦隊を受け入れ、今に至るのだが。
(時間が欲しいのか……何か策があるのかな)
 泉のように興味が湧き出す。
 顔がにやけそうになるのを、堪えるのに必死だ。
 目的、計画、メリリヴェイルが今どんなことを考えているのさえ気になってしまう。
 表情を作る筋肉が、とうとう、緩んだ。
「あだッ!?」
 しかし、脇腹に突かれる痛みに一瞬にして顔が歪む。
「ダーリン、そろそろこっちも、条件を提示した方がよろしいんじゃなくって?」
 呆れ顔のターニャが、低い声で言った。
「そ、そうだね。こちらも、休戦協定を飲むにあたって、条件を出したいと思う」
 堅い表情に戻り、マイケルは言った。
 双方、一筋縄にはいかない。
 クランの顔が、暗くなった。
「仰ってください。ルシェッタ司令代理、構いませんか?」
 クランが訊くと、短く息を吐いて、メリリヴェイルは頷いた。
「このコロニーにいる我が軍の捕虜を解放してほしい」
 マイケルの提示した条件に、否、マイケルの言ったある単語に、メリリヴェイルの眉が動いた。
18本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:14:57 ID:???
「“捕虜”? 貴軍は正規軍ではない。コロニー独立を訴える者達が武装した、ただのテロリストだ。
貴軍がモビルスーツと称している機動兵器に乗っていたパイロット達は、犯罪者と相違ない。
この会談を設けたのも、犯罪者である貴官等に配慮して、こちらと対等であることを示すためだ」
 だいぶ、気が立っているようだ。
 メリリヴェイルが声を荒げる。
(本性が出たね。メリリヴェイル・ルシェッタ……)
 隠すこともせずに、マイケルは笑う。
「このアマ! この期に及んで、自分達が強者とでも思ってんか? アァッ!?」
 今まで黙っていたニコラスが、遂に大声を上げた。
「若造が、舐めた口を利くな……!!」
 唸るように言いながら、メリリヴェイルはニコラスを睨みつける。
 ぶつかり合う両陣営。
(やっぱり、駄目なの……?)
 クランは、心の中で呟いた。
 呟くことしか出来なかった。
 マイケルが、腕にはめた時計を確認する。
 そして、ゆっくりと口を開いた。
「この交渉は決裂だね」
 立ち上がるマイケル。ターニャもそれに続く。
 ニコラスも、メリリヴェイルに向けたきつい視線をずらし、席を立った。
19本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:20:15 ID:???
 彼等の不可解な行動に、ギデオンは嫌な予感を走らせる。
(まさか……)
 そう思った瞬間、室内を揺れが襲った。
 ざわめきが広がる。
「さて、先刻言った通り、捕虜は解放させていただくよ」
「な、なんだと!?」
 マイケルの言葉に、メリリヴェイルは動揺し声を上げた。
 余裕綽々と胸ポケットにかけたサングラスをつけるマイケル。
 ターニャとニコラスも同様だった。
「君達はちょっと油断しすぎかな。僕達のシャトルを民間の港に停めさせたのも、
僕達だけに注意を置いて、シャトルの操縦士には監視をつけなかったみたいだしね」
 マイケルは足を曲げ、踵に手をやった。
(靴……閃光弾か!?)
 ギデオンが直感したのも束の間、
「それと、ボディチェックはもっと厳しくね」
 マイケルはそう一言付け足して、手にした靴底らしき物体を床に投げつけた。
 辺り一面に、一瞬にして眩しい光が放たれる。
 混乱の最中、遠ざかる足音と、ドアの開く音。
 騒ぎに掻き消されながら、どこかでメリリヴェイルの声がする。
 恐らくマイケル達を追うように命令をしているのだろうが、
屈強な兵士達はその肉体を生かせず慌てふためくしかなかった。
20本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:54:45 ID:???
 騒然とした空気が収まったのは、閃光弾の効果がなくなった数分後のことだった。
 部屋に兵士が入ってくる。
「通路でも閃光弾を使われ、振り切られました……」
 情けない報告。
 メリリヴェイルは悔しさに拳を震わせる。
「収容所の犯罪者共は!?」
「た、たった今、脱走されたと報告が……」
 鬼のような形相のメリリヴェイルに気圧され、隣にいた部下は声を震わせる。
 長い溜め息の後、メリリヴェイルは静かに立ち上がった。
「アレを使う。コントロールルームに伝えろ」
「ですがあのシステムはまだ完全では……」
「試運転を兼ねる。攻撃が可能ならそれでいい。操作は未熟で構わん」
 メリリヴェイルの言葉に押し切られて、部下は了解する。
 そのまま、メリリヴェイルはドアに向かって歩いていく。
 そして、クランとギデオンを見た。
「もう二度と、こんなふざけた茶番は開かないことだな」
 吐き捨てて、メリリヴェイルと部下達は退室していった。
 直後、机を激しく殴る音が、室内に響く。
 クランだった。
「ナギサカ君……」
 クランの行動に、驚くギデオン。
(私のしようとしていることは、ただの夢物語なの……)
21本家ドルダ:2008/12/13(土) 03:58:37 ID:???
 焦りと悔しさが滲む。
 ギデオンの携帯端末が鳴った。
 発信者はヴァイス。何事かと、ギデオンは通話に出る。
「どうかしたか? ……なんだと!?」
 ギデオンの声に、クランは振り向いた。
「シンシア君が、撃たれた……!?」
「えっ……どういうことですか!?」
 言葉を失うギデオンに、詰め寄るクラン。
 状況を把握できず、二人は立ち尽くしたまま。

 第29コロニー内の、とあるモビルワーカー整備用ドック。
 公社の所有する施設の一つだ。
 そこに、ドルダはあった。
「ヴァイスさん、コーヒーを持ってきました」
 見上げながら、ミランダが声をかける。
 ドルダの他に、3機のモビルスーツ。
 ローズの原形があるが、ところどころ別のパーツに換えられている。
 その作業をしていたのがヴァイスだ。
「サンキュ。ちょうど休憩しようと思ってたところだ」
 ヴァイスが降りて、コーヒーの入ったコップを受け取った。
「いえ、そんな……」
 照れながらミランダが言う。
 チラッと、ヴァイスを見ると、彼は自身が改造を施していたモビルスーツを眺めていた。
 ミランダも、彼と同じものを見る。
22本家ドルダ:2008/12/13(土) 04:03:17 ID:???
「モビルスーツ。最初はサッパリだったが、段々と掴めてきた」
「楽しそうですね。兵器なのに」
「使わなきゃでっかい機械の塊さ。いじり甲斐のあるな」
 ミランダは、あぁこの人は機械が好きなんだと、表情から理解した。
 自分が得意としている分野とは違うが、自分も機械は好きだった。
 彼の考えに共感できる。
 だから、訊きたいことがあった。
「ヴァイスさんは、この紛争、どう思います?」
「紛争、か。俺にはよくわかんねぇ」
 頭を掻きながら、ヴァイスは言った。
「ただ、スゲェ嫌なんだ。みんなが仲良くできねえのが」
「仲良く?」
 ヴァイスの言葉に疑問が湧く。
「地球圏連合が火星コロニーに圧政を強いてるのはわかってる。
だがよ、火星コロニー独立派のやり方に賛成なんかはできやしねえ」
「クランさんみたいなこと、言うんですね……」
 クランは、そのどちらも間違っていると思ったから、
地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍の間に立って、
今、休戦協定を取り付けようとしている。
 クランが休戦協定の仲介役になったと聞いた時、ミランダはクランのしようとしていることが理解できなかった。
 火星コロニー民としては中流の生まれのミランダだが、
23本家ドルダ:2008/12/13(土) 04:06:41 ID:???
それでも火星コロニーの生活レベルの低さは知っている。
 そのせいで両親は働き詰めで、喧嘩も多かった。
 自分のこともろくに構ってもらえず、食卓で交わされる政府に対する愚痴も嫌というほど聞いた。
 だから、地球圏連合というものに、ミランダは疑念がある。
(そんな私が、政府の管理下にある公社の第一次火星調査隊に参加したのは……)
 縋るような目をして、ミランダはヴァイスを見る。
「俺はクランみたいに立派な考えはねえさ。俺はただ、ジャンク屋としての流儀を通したいだけだ」
 モビルスーツを見ているままのヴァイスは、ミランダの視線に気付かない。
「ジャンク屋ってのは、宇宙開発の進むこの時代、ジャンクのある場所ならどこにでもいてさ」
 そう語るヴァイスの表情は、先程のモビルスーツのことを話す時と一緒だった。
「俺はそんな奴等に命を救われた」
「命を……?」
「馬鹿やって、宇宙を漂流したことがあった。酸素も食料も尽きかけて、
俺は、あぁこのまま死ぬんだ、何もない空間で独り腐っていくんだって。
そんな俺を拾ってくれたのは、偶然通りかかったジャンク屋の船だったんだ」
 当時を思い出すと、その時の感覚が蘇ってくる。
24本家ドルダ:2008/12/13(土) 04:09:39 ID:???
 孤独。恐怖。絶望。人間のあらゆる負の感情が現れる。
 そしてそれすらも無くなって、最後には漠然とした死の予感だけが残った。
「でも、俺は生きてた。缶詰に入った味の薄い離乳食みたいなペーストを貪ってた」
 ミランダは心配するが、過去を語るヴァイスは思いの外明るくて。
「そのまま俺は、ジャンク屋の世話になって、メカいじりの技術を学んだ。
アイツ等は施しを受けない。でも、困ってる奴は助ける。たまに喧嘩はするけどな」
 ジャンク屋だって、決して豊かな生活をしているわけではないのに。
 そう言って、ヴァイスは笑った。
「だから俺は、助け合えない、どっちかが正しいなんてやり方は、賛成できねえ」
「そう……ですか」
 ヴァイスの意志は強い。
 クランと似ているようで、違う考え方。
 聞けただけで良かったと、ミランダは思った。
「あのっ、ヴァイスさん。もし、私が……」
 言いかけたその瞬間、ドアが開く。
「シンシアじゃねえか。どした?」
「お姉ちゃんがいないから、寂しくて」
「ドルダを見に来たってわけか」
 恥ずかしそうに頷いて、シンシアが駆け寄ってくる。
25本家ドルダ:2008/12/13(土) 04:13:30 ID:???
 ジャンク屋の精神が刻まれるヴァイスには、もうシンシアにもドルダにも不信感はない。
 そこにいるもの、あるものを、受け入れてしまっている。
「そういやミランダ、さっき何か言おうとしてたよな?」
「何でもありません。もう……いいんです」
 一度伏せた目を上げ、笑う。
 その笑顔は、どこか悲しげで、ヴァイスはかける言葉に困ってしまった。
 そんな時、
「いやああああああ!!」
 ドアの向こうから、絶叫が木霊する。
 それは少女の声。ヘルガの悲鳴だった。
 直後、ドアが開き、何者かがドッグ内に入ってくる。
 見知らぬ少年が銃を構え、自分達に向かって一直線に突き進んでくる姿が見えた。
 危険だと認識するその前に、少年が手にした銃から、弾丸が放たれる。
「危ないッ!」
 シンシアが叫び、ミランダの前に飛び出した。
 ヴァイスが、ミランダが、その光景の一部始終を目撃する。
 シンシアが、凶弾に倒れた。
26本家ドルダの人:2008/12/13(土) 04:27:37 ID:???
(ここでCM。アイキャッチは倒れるシンシア)





前スレに投下すると途中で容量オーバーになってしまうのでこちらに。
>>1さん新スレ乙です。
まさか2スレ目に突入するとは。
前スレではドルダのメカイラストも投下され、まだまだ絵師さんもいるご様子。
ドルダスレは終わりませんねぇ。

wikiで自分の作品を読んでいてふと気付いたのですが、アイキャッチの文まで入ってるのですね。
「アニメって設定なんだからアイキャッチがなくちゃ」というただのお遊び的な要素でレスに書いていたのですが……w
バルドさんこんなところまでまとめてもらって感謝です。
1〜3話は()で表記してあるのですが4、5話ではないようなので、
地の文と混同しないよう区別するために今回のレスから自分で()しておきますね。

後半の投下はまた後日。
27バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/13(土) 16:59:57 ID:???
本家ドルダ乙です!個人的にマイケルは良いキャラです。
今回はついに火星軍の方々と対面ですね!シンシアピンチ!

4、5話のアイキャッチの文に()を入れておきました。

キャラデザの方についてですが、
すでにマイケル・ミッチェル隊の面々とダンのデザインは決まっています。
ただ、肝心のテンプレを無くしてしまって一から全キャラ修正を入れる事になってしまいましてorz
落書き(顔だけ)で宜しければうpしてみます。
28通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 14:11:35 ID:4r93//GT
>>1
スレ立て乙です!!
このまま流れてしまうのではと不安でしたがよかったです。

本家ドルダの人乙です!!
和平交渉は決裂しましたか……
まぁ、ここで成功していたら話が進まないですけどね。
とりあえず両陣営にもっと交渉がうまい人を連れて行けと。
さて後半ではシンシア達に一体どんな事態が巻き起こるのか?
29通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 20:04:38 ID:???
前スレではあんまり見かけなかったが名無し増えてきたなw
いい傾向だw
30通常の名無しさんの3倍:2008/12/14(日) 21:10:17 ID:???
前スレ産めないの?
このまま落とすの?
31通常の名無しさんの3倍:2008/12/15(月) 13:37:06 ID:???
誰かドルダの全体像イラ持ってる方、うpしていただけませんか・・・
まとめも探したけどなかったんで…
3231:2008/12/15(月) 13:39:03 ID:???
自己解決しました、すんません
無視してください
33エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/15(月) 21:36:33 ID:???
どうも、新スレ立ってたんですね
挨拶遅れました、>>1&本編の人乙っす
ちょっとリアルで忙しかったのと展開が収拾つかなくなってきて間空きましたが、明日か明後日には投下できると思います
ウィ○ドの方もあるんだけどね…
じゃあスレ汚しすいませんでした
34通常の名無しさんの3倍:2008/12/16(火) 21:44:27 ID:???
絵師さん来るのかなwktk
35通常の名無しさんの3倍:2008/12/17(水) 00:34:14 ID:???
まとめトップのタイトルロゴが「DOOL-DA」になってるんだが「DOLL-DA」じゃないのか?
36バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/17(水) 17:50:13 ID:???
>>35
ロゴを修正しておきました。
前よりハッキリとしているのは汎用性を考慮しました。
37バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/17(水) 17:51:36 ID:???
>>36の追記

>>35氏、ご指摘感謝します。
38通常の名無しさんの3倍:2008/12/17(水) 18:39:31 ID:???
Dがより強調されてるんだな
乙!
39エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:18:13 ID:???
お久しぶりです。投下します。
ぶっちゃけもうヤケクソですw
40エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:19:14 ID:???
新説ガンダムドルダ
第七話 夢のあと

どこからが夢で、どこまでが夢なのだろう…

アレスに戦闘の意思はない。ただ、ドルダに搭乗した少女から行われるであろう攻撃から身を守りつつ、現場より離脱しようと考えていた。
これからのことについて少し、ティモールやベイトと話す必要がある、と、冷静になった頭でやっと考えることが出来たのだった。
やがて、外にいるクランの方を一瞥すると、戦闘機形態に可変し、離脱しようとする。
戸惑うクランは、身の安全の為に再びドルダに搭乗せざるを得なかった。
その刹那…
ガンダムドルチェの放ったロングレンジビームライフルの閃光が、二機の合間を通り抜けて行った。
「はいはーい、ケンカはヤメね♪」
エリスが心から楽しそうに笑いながら言う。
「どういうつもりだ!?」
対照的にデイヴは険しい表情を見せる。
「どうもこうも。ケンカ両成敗って言葉、知らない?」
「そういうことじゃねえ!今から何をするつもりだ!」
「戦うの」
「何!?」
「戦うのよ、デイヴ。死を怖れてはならないわ。それはいつでも私達の隣にあるもの。ただ純粋に、死を想えたらどんなに素敵かしらね」
「答えになってねえってんだよ!この中二病が!」
たまらず激昂するデイヴ。それ言っちゃダメっすよ…
エリスは気にする様子もなく、巧みにドルチェを駆る。
「使い方違う気もするけど…とにかく、あなたは座ってるだけでいいから」
今は、ね…意味深なことを言いつつ、ドルチェはビームレイピアを抜き放ち、ガンダムマルスへと振りかぶる。
「!」
アレスは瞬時にマルスを変形させ、ビームサーベルでそれを受け止める。
「へぇ…なかなか」
ニヤリと笑うエリス。いやな笑みだ。
「何者だ!」
語気鋭く言い放つアレス。
「ご機嫌よう、アレス」
「!何故俺の名を知っている!?」
「何故も何も。いつも会ってたじゃない?私達は」
バチッ!サーベルとレイピアが互いを弾く。
「夢の中でね!」
「戯言を!」
アレスは、ビームブレイドを発生させた脚で廻し蹴りを放つ。
「昨晩も。覚えてない?」
ドルチェはひらりと舞うような動きで、いとも容易く避けてみせる。
「最後の最後まで、呼びかけたつもりなんだけどね!」
体勢を立て直したドルチェが、レイピアによる突きを繰り出す。
41エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:20:08 ID:???
「!」
アレスは紙一重でその突きを見切り、機体をわずかに転身させ、再び蹴りを放つ。
嘲笑うように攻撃を避けるドルチェ。
流麗で変則的なその動きに、アレスは苦戦を強いられていた。
(あのパイロットも、俺と同じ夢を見ていただと…!?)
一方デイヴは、自らの体にかかるGに歯を食いしばりつつも、そんなことを思っていた。
「その機体は一体何だ!」
ビームライフルを撃つマルス。
「ガンダムドルチェ。覚えてない?」
ひらりと身をかわし、背部に装備されたビームキャノンを撃つドルチェ。
「あなたの家族を…そしてシンシアを、殺した機体じゃない!」
エリスは心から嬉しそうに笑い、再びロングレンジビームライフルを放った。
最大出力のそれは容赦なく収束し、マルスを襲う。
(早い!あれだけの出力を、チャージもせずに…!)
だがマルスとて、半端な機体ではない。
稀代の天才であり、そして宇宙一の変人…少年自身の祖父、ティモール・ルナーク博士の誇る最高傑作だ。
進宇宙歴102年現在、MS最速の名を欲しいままにしているこの機体にとって、回避という動作はそう難しいことではない。
ビームライフルを連射しながら、アレスが言う。
「シンシアを…!?まさか、貴様!」
「アッハハハハ!よく避けてくれたわぁ!フフッ、そうよ、そのまさかよ!」
それなんてひろし?なんてツッコミはスルーの方向で。
「貴様ァー!!」
ガンダムマルスのメイン武装、カメラファンネルが、ガンダムドルチェに牙をむく。
蝶のように舞い、蜂のように刺す八基のすれが容赦なくドルチェを襲う。
「アッハハハハ!そうでなくちゃ!楽しいわぁ!そうよね、ドルチェ?」
襲い来るファンネルに臆することもなく、少女は純粋に歪んだ笑みを見せる。

「…!」
一方ドルダに搭乗した謎の少女は、再び起こった激しい頭痛に苦しみもがいていた。
「くっ……ああああああ!私は…わたしは…」
「どうしたの!?シンシア、シンシア!」
とっさに口に出た妹の名。クランは少女を心配しながらも、自らが妹の名を口にしてしまったことに気づき口を噤む。
「くっ…うう、シン、シア…?」
苦痛に顔を歪めながらも、少女は「シンシア」という名に反応を見せる。
「シンシアって、わたしの名前?」
「そう。貴女はシンシア……私の妹よ」
それは全ての真相が明らかになってない今、言うべきではなかったのかもしれない。
彼女を傷付ける可能性もある。
否、それはただの都合のいい言い訳だと、クランは自嘲した。
(ただのエゴね。自分の妹を、この子に重ねて)
再び寂しそうに、少女を見つめるクラン。 )
そんなクランに向かって、少女は微笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん」
「!!」
クランの目尻に、じわっと涙が滲む。
黙ったまま、クランは再び、少女を、シンシアを抱き締めた。
しかし、ずっと抱き合っているわけにはいかない。
クランはシンシアを離すと、迷いを振り払って、向き合う。
42エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:20:54 ID:???
「シンシア、貴女はこれを、ドルダを動かせる?」
「ドルダを…?お姉ちゃん、一体何を…」
「アレスを…私達の弟を、助けるの!あの白い機体から!」
「アレ…ス?」
「そうよ、あなたの弟。あんなに仲が良かった、あなたの弟よ!」
MSやテラ・フォーミング、コロニー開発等、科学技術は栄えているが、人々の生活水準を鑑みると、荒んでいると言えるこの時代。
家族が無事に、全員揃って、平和に暮らすことなど、滅多にないことであった。
例えばデイヴィッド・リマー。例えば宗谷頃奈(そうやころな)。例えばアレス・ルナーク。そしてクラン・R・ナギサカ。
度重なる食糧危機、紛争・事変の勃発、天災…
いつしか人々は、絆というものを忘れかけていた。
自らが生き残る為には、まず隣人を騙せ…
親が子にそう教える世界。
だからこそ、だからこそ…
人々は皆誰しも、人というものに疑念を抱きつつも、心の何処かで、家族、あるいは友人の絆というものに憧れていた。
クランが、アレスが、「家族」というものに異常なほどの執着を見せる原因が、世界そのものにあったのだった。
「知ら、ない」
「!」
「知ら…ない…!わたしは…アレスなんて、知らない…」
「シンシア!」
「知らない、知りたく、ない…」
知らないというより、忘れたがっている…?
クランはシンシアの表情から、そのような意志を読み取った。
「お願い、シンシア。今は思い出さなくてもいいから!あの紅い機体を、助けてあげて!」
クランにはわかっていた。
自らの願いが、少女をシンシアに重ねること以上のエゴで、そして自らが業の道を歩み始めていることに。
自分勝手な願いの為に、シンシアを、そしてドルダの未知なる力を利用しようとしている…
(私はッ…本当に、ダメね…)
クランは自らの言動に吐き気を覚えていた。
空に唾を吐きたい気分だった。
けれど、そんなものより大切なものが、今彼女を支えている原動力となっていた。
「お願い…」
静かに涙を流しながら、クランが言う。
「……」
静寂が、二人を包む。冬の雪風よりも、氷と闇の世界よりも、冷たさを知ったうえで…
「…わかった」
小さく呟くシンシア。その瞳に迷いはなかった。
「Doll-daシステム、起動。ビームジェネレーター、展開」
魔神ドルダの参戦により、三つ巴の戦いが幕を開けようとしていた…
43エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:21:40 ID:???
宇宙を駆けるファンネルからの猛攻を巧みに避けるドルチェ。
先程のデイヴとディックとは異なり、エリスは心底楽しそうだった。
「アッハハハハ!鬼さんこちら、手のなるほうへ〜」
言いながら宙返り、二基のファンネルを避け、背部のビームファトランクスで撃ち落とす。
刹那、ビームサーベルを構えたマルスが、ドルチェの頭部を捉えた。
「!」
白い残像が、サーベルに貫かれる。
ドルチェはしなやかな動きで、マルスに足刀蹴りを入れる。
「くっ!」
「格闘戦用でしょ?しっかりしてよね〜」
クスクスと笑い、ドルチェは匙状をした奇抜な刃を取り出す。長い柄と、柄の先端に取り付けられたスプーン状の幅広の刃からなる武器だった。
「させるか!」
アレスは力を振り絞り、マルスのビームガンブレードのトリガーを引く。
そしてドルチェの後方からは、二基のファンネルが襲いかかっていた。
「未完成なんだけどなぁ…ま、いっか」
エリスが呟くと、それまでドルチェの下半身を覆っていたドレススカート状のパーツ…
否、ファンネルが舞い、宙でシールドを形成する。
「何!?」
形成されたシールドファンネルが、マルスの攻撃のすべてを弾く。
「まずまずね、アレス。でも」
今度は暗く笑うエリス。
「これで終わり!」
匙状の実体刃にビーム粒子を纏わせた武器、ビームスコップが、マルスの命を刈りとろうと踊り出る。
「そんなもの!」
ガキィィィン!二刀流でビームスコップの斬撃を受けとめるマルス。
「ああああ!」
叫ぶアレス。空いた方の手で、ビームレイピアを構えるドルチェ。
「見苦しいよ、アレス」
レイピアをマルスに向けて、静かに振り下ろす。
瞬間、アレスはありったけの力を込めた。
「ああああぁぁぁぁぁ!」
「!」
渾身の力で、ビームスコップを弾く。
自由になったマルスを阻むものなど、もう何もない。軽やかにレイピアを避ける。
「お前は…お前だけは、絶対に倒す!」
「世界の声を、聞きたくないの?」
「黙れ…黙れェェ!」
マルスは手足合わせての四刀流で、豹のようにドルチェに飛びかかる。
「!」
マルスのしなやかな獣の動きに、意表をつかれるエリス。
その時、それまで沈黙を守っていたデイヴが、エリスのコクピットに身を乗り出し、ドルチェを…否、シールドファンネルを操ってみせた。
マルスの全力を強かに受け止めるシールドファンネル。
44エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:22:23 ID:???
「デイヴ、あなた…」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
デイヴ自身、自分が何をしたのか、何が起こったのか理解出来なかった。
「それでこそ、私のデイヴ」
余裕を取り戻したエリスが言う。
「勘違いするな」
冷たく言い放つデイヴ。
「俺は、この無駄な戦いを終わらせたいだけだ。もうやめろ!」
「心配しないで、すぐに終わるわ」
エリスが再び笑う。
「彼が死ぬことによってね…!」
再びビームスコップを構えるドルチェを、自身のシールドファンネルが阻む。
「させない、と言ったはずだ」
「デイヴ…!」
悲しそうな、けれどその口元にわずかな苛立ちを含ませ、エリスは言う。
と、そこに…
「!」
ガンダムドルダによって放たれた一閃のビームキャノン。
「ドルダ…!」
少女の中で、苛立ちが憎しみへと成長しつつあった。

後編へ続く
45エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 02:23:22 ID:???
七話後編は明日の夜には投下出来ると思います
そんなわけでサヨウナラ
46バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/19(金) 21:06:07 ID:???
エルト氏GJです!
今回は前編後編に分けてるんですね
ティモールはアレスの祖父だったとは…
47エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/19(金) 23:03:53 ID:???
特に意味はないんですけどねw
あと色々調子に乗ってすいませんw
今から後編書き始めるんで、また後で投下します
48エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/20(土) 00:47:47 ID:???
後編

「!待って!ここで待機しよう」
フィリア・シュードは地下遺跡ポイントで起こっている戦いにいち早く気づいた。
前進をやめ、停滞するカナリヤ。
「一体何が起きているんだ…」
顔を曇らせるギデオン。
モモは不安そうに怯え、ヴァイスは相変わらず黙っている。ミランダは焦り、ディックは息をのんだ。
「何てことだ…デイヴとナギサカさんは、この状況で一体…」
フィリアが呟く。
その場の全員が、あまり良くない結末を想像する他なかった。
「クソッ…!」
突然ディックが、ゲイリーの胸倉を掴み怒鳴る。
「何であの時止めた!」
ひっ、小さく言い怯えるゲイリー。弁明を始める。
「わ、私は、皆の安全を考えて…」
「やめなよ、中尉」
たしなめるネルネ。しかしディックはネルネの手を払うと、ゲイリーを殴ろうと拳を振り上げる。
その時…
パン!ディックは自らの頬に走った痛みに目を丸くする。
「今はそんなことをしている場合じゃないでしょ!?そんなこともわからないの!?」
フィリアが、ディックの頬を打ったのだった。
「……ッ!」
ディックは乱暴にゲイリーを突き放すと、駈け出して行った。
「あ、あの…」
不安そうにフィリアを見るモモ。
「ごめんね…」
フィリアには、ただ曖昧に謝ることしか出来なかった。
忌々しそうに襟元を正すゲイリーと、唖然とするネルネ、ミランダ。
そんな中、一人ギデオンは行方不明となった自らの部下のことを考えた。
(ナギサカ君、無事でいてくれ…!必ず君を連れ帰る!)
ああ、これほどまでに、自らの無力さを感じたことがあっただろうか…
(祈ることしか出来ないのか、我々は…!)
カナリヤの一同は、戦場を見つめながら、ただただ祈ることしか出来なかった。
49エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/20(土) 00:48:34 ID:???

光が、ドルダを包む。時代の刹那に輝く光が…
ビームフィールドを纏い、ドルダは真っ直ぐドルチェへと向かう。
「フッ…そういうこと…」
ドルダのビームソードと、ドルチェのビームスコップが火花を散らす。
「やはり、あなたは失敗作だわ、シンシア!“DOLL”としての使命を見失うあなたに、ドルダは相応しくない!」
一見華奢に見えるドルチェ。しかし、そのパワーはドルダと比べて遜色のないものであった。
「…ッ!」
顔を歪めるシンシアに、ニヤつくエリス。
「歯向かおうというの!?この私に!?あなたの新しい“姉”に!?“家族”に!?」
シンシアは、一瞬だけ戸惑う。「家族」という言葉に反応したのだった。
しかしすぐに気を取り直し、強い瞳でドルチェを見据える。
「関係、ない」
静かな、強い意志が感じられる。
「私は…私の為に…お姉ちゃんの為に、戦うの!」
ビームスコップを弾いたドルダは、腹部のビームキャノンを収束させ、ドルチェに放つ。
「くっ…!」
エリスの顔が、焦りに支配される。
ビームキャノンがドルチェの右肩を掠め、大きな隙が出来る。
ドルダはそのままビームソードを構え、ビームフィールドを展開したまま突進する。
「はああああぁぁ!」
叫ぶシンシア。ビームソードを、ビームスコップが再び迎える。
一方、ガンダムマルスに乗ったアレスは…
(クランを、守らなければ…)
真っ先に考えたことは、唯一の肉親とも呼べる存在である、クランを助けることであった。
(そうだ、あの時とは違うんだ…俺が、クランを守る!)
ガンダムマルスは、その力を振り絞り、ドルチェに向けて再びファンネルを放つ。
四基しかないそれは、変則的な動きでドルチェの元へと向かう。
「!」
エリスの鋭い眼光が、マルスのファンネルを捉える。
シールドファンネルが、マルスのカメラファンネルのうちの二基とぶつかり合う。
そしてシンシアも、マルスのファンネルを自らへの攻撃と判断したのか、ビームフィールドで対応し、空いた方の手でマルスに向けてバスターライフルを放つ。
「くっ!」
バスターライフルの閃光を避けたマルスは、ドルダとファンネルに応戦しているドルチェへと突っ込む。
「俺が…俺が!」
四刀流の構えで、ドルチェに飛びかかる。
驚愕のエリス。
「クランを、助ける!」
シンシアではなく、クランの名を叫び、ドルチェの体を強く打った。
「くっ…ああああああ!」
吹っ飛ばされるドルチェ。中破もしていないが、今の一撃で戦闘を続行できる状態ではなくなったようだ。
(ここまでか…!厄介なことになったわねッ…!)
エリスが小さく舌打ちするのと同時に、デイヴが再び身を乗り出し、拡声器のスイッチを押す。
50エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/20(土) 00:49:16 ID:???
「デイヴ!何を…」
「聞こえるか!」
「「!」」
同時に反応を示す、クランとアレス。
「もうこんなことはやめよう!俺達が、これ以上争ってどうなるってんだ!」
クランは、その声を思い出す。
二年前の、テロリズム・イヤーの悲劇。
ガンダムドルチェに蹂躙され、命を落とした家族。
けれど、そんな中、最後まで諦めずに自分と弟を救ってくれた軍人…
「あなた…デイヴィッド・リマー、さん…?」
答えが返ってきたことに、嬉々とするデイヴ。
「!そうだ!君は、クラン・R・ナギサカだろ!?」
「ええ!」
「貴様…!」
アレスは、デイヴの声がドルチェから聞こえたことに憤る。
「貴様が何故、その機体に乗っている!!」
「!」
再びドルチェに攻撃を加えようとするマルス。
「やめて!」
ビームサーベルを構えたマルスを、ドルダが羽交い締めにする。
「答えろ!貴様が何故、その機体に乗っている!」
「答えろも何も…いきなりコイツが現れて俺をこん中に入れやがったんだよ!」
律儀に答えるデイヴ。ひろしとは違った。
(デイヴィッド・リマー…どこまで俺をバカにするつもりだ!?)
表情を険しくするアレス。
しかし、アレスは心の何処かで知っていた。
二年前の自分の弱さの全てを、デイヴへの怒りとしてぶつけている、己の弱さを…

『助けてよ、軍人さん!お願いだから、僕はどうなってもいいから…!』
『ダメだ!ここにいたら巻き込まれる!君と彼女を連れて逃げるぞ!』
『でも、シンシアが…!』
『済まない…!今は君達の命の方が、大事だ…!』
『シンシア、シンシアぁっ!』
『シンシア!姉さん!』
『お姉ちゃん!』
ドドドドド…崩れ落ちる建物が、生者と死者を無情にも分けて行った…
51エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/20(土) 00:50:13 ID:???
(ほらね、デイヴ)
再び笑う全ての元凶。
(あなたは、逃れられないの。だから今アレスに向けてそんなことを言っても無駄なのよ)
エリスはそう思いながら、デイヴに気づかれないようにロングレンジビームライフルを最大出力で、撃つ準備をする。
(イタチの最後っ屁ってヤツね。あんまり好きじゃないんだけど)
ドルチェが発射体勢に入る。
「「「「!」」」」
エリス以外の全員が、目を見張る。
「チャージ完了!それでは皆様、良い夢を♪」
ドォォォォォォォ!
光の渦が、全てを飲み込んでいく…

「何て、ことだ…!」
目の前の情景に、絶望するフィリア。
「そん…な…」
肩の力を抜かし、崩れ落ちるミランダ。
驚愕の表情を浮かべたまま、固まるヴァイス。
体の震えが止まらず泣き出すモモ。
ギデオンは、その拳をふるふると震わせている。

綺麗な景色だった。
まるで、夢の中でしか見ることのできないような、それは綺麗な。
綺麗なものに絶望することが、ある。
すべてを奪われたカナリヤの面々は、静かに涙を流すしかなかったのだった。

深い深いまどろみの底で、見た夢。
それは、決して開けてはならない、パンドラの箱…

一人の少女が、悠久の時を眠る。
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…

世界が、崩壊した。

………
以上で、運命の序曲における役者達の邂逅は、ひとまず区切りをつけることとする。
これからは、「夢のあと」に聞こえる「世界の声」に、耳を傾けていくことにしよう。

七話 終 八話に続く
52エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/20(土) 00:51:53 ID:???
長かったマンネリ駄文からもようやく抜け出せそうw
次から新章の予定。けれどコピペは使うかも…
そんなわけでサヨウナラ
53通常の名無しさんの3倍:2008/12/20(土) 15:51:11 ID:H/h/4mZp
エルト氏GJ!!
複雑な人間関係とガンダム関係。
ここからどう発展していくのか!?
新章、楽しみにしてます!!

54本家ドルダの人:2008/12/20(土) 22:24:39 ID:???
>>バルドさん
いつもお早いまとめありがとうございます
キャラクターもwktkです

>>エルトさん
あぁもうキャラクターの絡みが良すぎです……!
新章も期待してます!





(CM終わり。アイキャッチは銃を構えた少年ことディラン)
55本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:29:07 ID:???
 施設に侵入するのは簡単だった。
 ディランに与えられた任務は2つ。 
 収容所にいる火星コロニー義勇軍のパイロット達の救出と、ガンダムの破壊。
 休戦協定の会談は好機だった。
 会談で地球圏連合軍の注意をそらし、定刻後一斉に行動を開始する。
 ディランはパイロット達の救出ルートを確保すると、ガンダム破壊のため公社の所有するドッグに向かった。
 潜入工作は、昔取った杵柄というのだろうか、体に染み込んでいた。
(民間施設だけあって、警備は手薄だな……)
 天井の通気口が外れて、通路にディランが降り立つ。
 物静かな通路。人の気配を感じない。
 誰もいないのは好都合だが、逆にこのドッグが存在する意図も気になってくる。
(データによれば、もうすぐのはずだが)
 頭の中には、このドッグの見取り図が全て記憶してある。
 これもまた、彼の経験で得た特技だった。
 人の気配がして、ディランは立ち止まる。
 壁に背をつけ、角から通路の先を見た。
「迷っちゃった……」
 きょろきょろと辺りを見回している少女。
「探検するとか言ってお兄ちゃんはどっかに行っちゃうし。もうっ……」
 どうしたものかと、溜め息をつく。
56本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:32:57 ID:???
 ディランは疑問に思った。どうしてこんな場所に少女がいるのだろうかと。
(ガンダムのパイロットは、確か10代ほどの少女……)
 情報通りなら、今そこにいる少女の可能性もある。
 ディランは、ゆっくりと銃を抜いた。
 ガンダムのあるドッグは、この先。
 いずれにしろ、鉢合わせするのは必至。
 なら。
(苦しませず、一撃で)
 ディランが、駆け出す。
 足音に気付いた少女が振り返る。
 その目は驚愕し、一気に見開く。
「い、いや……」
 恐怖に歪む少女の顔。
 トリガーを引くディランの指が、止まる。

 薄暗い室内。
 血と硝煙の臭いが充満する。
『隣の家で物音がした』
 数人の男達の中に、場違いな少年が一人。
 手には彼等と同じ銃が握られていた。
『なんだと。見られたか?』
『耳がいいお前を連れてきといて正解だったな。行くぞ』
 男達は、隣家へ向かう。
 それに続く少年。
『シュテフィとヘルガは奥に隠れていなさい。私は警察に連絡を』
『あなた……』
『大丈夫だ』
 父親らしき男は優しく笑って、母親と娘らしき二人を置いて、部屋を出て行った。
 母親は娘を抱き締める。強く強く、娘が痛いと感じるほどに。
57本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:35:52 ID:???
『な、なんだお前達は……!』
 部屋の外から、父親の声が聞こえた。
 その直後に、銃声。
 恐怖に震える母親と娘。
 信じられない、信じたくはない現実。
 勢い良くドアが開かれた。
『ひぃっ』
 母親の声が、耳元で聞こえた。
 自分を抱き締める母親の腕の力が、緩む。
『お、母さ、ん?』
 母親が、床に倒れた。
 顔を向ける娘の顔が、驚きと絶望に揺れた。
 そして、ドアの方へと顔を向ける。
 そこには、自分と年も背丈も変わらない少年がいた。
 少年の手には、煙を立たせた銃が。
 娘は何が起こっているかもわからず、目の前の銃からは再び弾が、発射された。

「い、いや、いやぁぁ」
 力が抜け、床に崩れる少女。
 ディランは蘇る自分の記憶に、混惑する。
(この少女は、あの時の少女だ……)
 だが、何故。
 どうしてこの場所にいるのか。
 少女は地球に、ドイツにいたはずなのに。
 そもそもあの時、この手で殺したはずである。
 ディランは、考えを振り払う。
 何年も前のことだ。運良く助かり、火星に移住したということもあるだろう。
 あの少女は、助かったのだ。
(助かったことが、俺は嬉しいのか……?)
58本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:45:16 ID:???
 トリガーを引かない自分。
 無関心だった自分に芽生える、人間的な感情に戸惑う。
「いやああああああ!!」
 ディランが躊躇する中、少女が叫び声が通路に反響する。
 そして、少女は事切れたように気を失ってしまった。
「くっ!」
 ディランは少女を横目に、ドックに向けて走りだした。
 今は目的を果たすだけ。
 ガンダムを破壊すれば、もしあの少女がパイロットだったとしても、戦闘で殺さずに済む。
 ディランはドックのドアを開けた。
 走りながら、4機のモビルスーツを確認し、一気に迫った。
 目の前には3人の男女。
 もう迷ってはいられない。
 ディランは、トリガーを引いた。
「危ないッ!」
 一人の少女が飛び出してくる。
 発射された弾丸は、その少女に命中し、少女は床に倒れた。
 構わず突進してくるディラン。
 そんなディランに、青年が咄嗟に床に置いてあった工具を投げ付けた。
「ぐぅっ!」
 それが、ディランの手首に上手く当たり、持っていた銃が転がり落ちる。
(タイムアウト……!!)
 脳内で刻んでいた時間が、超過を告げた。
 銃を拾うこともせず、ディランは踵を返して、デッキを出る。
59本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:48:42 ID:???
 通路には、未だ気絶し床に横たわっている少女がいた。
 気になったが、ディランは自分の意思を振り払い、その場から走り去る。
「こちらディラン・クロス。ガンダムの破壊に失敗」
 携帯端末を取り出し、マイケルに連絡を取る。
『ご苦労様! 仲間の救出ルートを作ってくれただけで及第点だ。
僕達も今シャトルに向かってるから、さっさと合流しちゃおう』
「了解」
 今まで心に浮かぶことのなかった感情。
 これが一体何を意味するのか、彼はまだ知らない。

 嵐のように過ぎ去った出来事。
 謎の少年、そしてその少年の発砲。
 少年は逃げていったが、事態はまだ終わってはいない。
 ディランは携帯端末を取り出し、ギデオンと連絡を取る。
「俺です! ドックに侵入者、シンシアが……撃たれました」
 スピーカーの向こうで、驚きの声が聞こえる。
「はい、はい。交渉は決裂っスか……」
 近くで、シンシアの様子をしきりに尋ねるクランの声が聞こえる。
「クランには気にすんなって伝えてください。この会談、どっちも成功させる気がなかったと思うっス」
「ヴァ、ヴァイスさん!」
 助けを求めるような震えた声で、ミランダがヴァイスを呼んだ。
「じゃあ、こっちは俺達が」
60本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:50:24 ID:???
 クランのことも気になるが、手早く通話を終わらせる。
「ミランダ! どうかしたのか!?」
 駆け寄りヴァイスが訊く。
「あの、それが……」
 シンシアを抱き上げたミランダは、複雑な顔をしてヴァイスを見た。
 上着は脱がされ、傷口が見えるようにされている。
 服にも血が広がっている。しかし、少し様子が違った。
「なんだ……これ……」
 傷口は、細かな光に覆われていた。
 その光の現象に、ヴァイスとミランダは同時に、あることを思い出す。
「ドルダの……」
「ナノマシンによる修復……」
 それと同じことが、シンシアにも起こっているのか。
 医療分野において、ナノマシンは実績を上げてきた。
 今まで不治の病とされてきたいくつもの難病を治療、完治させている。
 だが、これはそれとは一線を引いた、異常な光景だった。
 モモを呼ぶ間もなく、二人がただ呆然としている内に、傷口は塞がってしまった。
 そして、シンシアがパチリと目を覚ます。
「敵が来る……」
 目覚めて最初に発したのは、いつもの明るいシンシアとは思えない、冷静すぎる一言。
 ミランダの手から離れて、起き上がるシンシア。
61本家ドルダ:2008/12/20(土) 22:54:18 ID:???
 それと連動するように、ドルダのコックピットが開く。
 ドルダに向かって、シンシアは歩き出した。
 ミランダはシンシアの体を支えていた態勢のまま、震えている。
(火星の地下に眠っていたモビルスーツと、それに乗っていた謎の少女……)
 それは、恐怖する感情。
(………………不気味だわ)

 火星コロニー義勇軍のシャトルが停まる民間ポート。
 マイケル、ターニャ、ニコラス。そして、収容所から逃げてきたパイロット達が集まる。
 パイロット達をシャトルに乗せ、三人も中でディランを待った。
 ディランが先か。地球圏連合軍の追っ手が先か。
「賭けるかな」
「じゃあアタシはディランが来るに5000」
「じゃあ俺もそっちに2000」
「おいおい、それじゃ賭けにならないじゃないの」
 そんな談笑をしていると、エプロンに人影が見えた。
 三人は、賭けにならない賭けに、勝ったのだ。
「すまない。4分16秒の遅れだ」
「誤差範囲内だよ。さぁ、さっさと操縦席についた」
 乗り込んできたディランを迎入れ、背中を押す。
 顔の端しか見えないが、ディランがふっと笑った気がした。
 ディランは操縦席につき、発進準備を進める。
62本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:25:11 ID:???
 しばらくして、シャトルは第29コロニーを飛び立った。
『後は我々に!』
 10機のローズがシャトルと擦れ違うように第29コロニーに向かっていく。
「頼む。シャトルは宙域の離脱に専念する」
 通信を送り、ディランはより強く操縦桿を握った。
 ディランは思う。昔の自分と今の自分の違いを。
 昔の自分にも仲間がいた。しかし、仲間という存在をどう認識していたかは、よく覚えていない。
 自分のしていること、人を殺すことに、疑問など感じたことはなかった。
 身を置いている組織に、ただ戦うためだけの存在として利用されていた。
 テロリズム・イヤー。その年が終わり、騒乱が終息に向かっていく。
 ディランは、格安を謳う旅行会社の惑星間航行用宇宙船に乗って、火星圏に向かっていた。
 元いた組織から、マイケルに引き取られたからだ。
 戦う必要のなくなった自分は、新たなる地へ旅立った。
 そして、その地で、戦うことになる。
(今は、昔とは違う。俺は、俺の意思で、戦っている)
 ディランは、変わっていく。
 人間らしい感情が、少しずつ芽生えていく。
 まだ少年といえど、人としては、あまりにも遅いのかもしれない。
63本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:30:11 ID:???
 しかしディランは、今そこにあるものを、掴もうとしていた。
 それが、彼に迷いという感情を生じさせるとしても。

 第29コロニーの3番から5番までの軍事ドックには、
ハーフムーンより退避してきた艦隊が収容されている。
 旗艦のドードー級レユニオンが1隻、そして僚艦であるドードー級ロドリゲスが5隻。
 そのレユニオンには、あるシステムを操作するコントロールルームが設置されている。
「イーグルクロウ、全機射出」
 第29コロニーの付近宙域に、5機のイーグルクロウが配置される。
 パイロットは搭乗していない、無人状態での出撃である。
「ビットシステム起動。戦術データリンク、正常に受信中」
 ビット(Battle-target Identification Total-control=B.I.T.)システム。
 メリリヴェイル・ルシェッタによって考案、開発されたものであり、
無人機を遠隔制御することによって半自動化させて戦闘を行う。
「経過はどうか」
 ドアが開き、メリリヴェイルとその部下達が入ってきた。
「ハッ。正常に作動中であります。ですが……」
 敬礼もそこそこに、コントロールルームに詰める士官の一人が心配そうに言った。
64本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:34:53 ID:???
「気負うな。初陣だが、撃墜されても貴官等が死ぬわけではない」
 強い口調でメリリヴェイルが返す。
 そんな言葉が後押しになり、堅い表情で士官は作業に戻った。
(だが、よもや人型機動兵器……モビルスーツに対して使用することになろうとはな)
 兵士は命令に絶対であるが、人間であるパイロットがそれに従う可能性は、決して100%ではない。
 例え命令に従ったとしても、指揮官の指示を完全には把握できない場合もある。
 メリリヴェイルは他人を信用せず、自身の考えを貫く性格故か、部下にも厳しい。
 一部の部下からは“鉄の女”と陰口を叩かれることもあった。
 そんなメリリヴェイルが行き着いた先は、無人機による戦闘だった。
 命令に忠実で、決して裏切ることのない兵器。
(そうだ。それがあれば)
 ビットシステムを搭載したイーグルクロウならば、ローズの機動性にも対抗できる。
 無人機ならパイロットの肉体の限界を考慮しなくとも済み、
それ以上の性能を発揮させることも可能になるのだ。
(司令代理の地位も悪くはないがな。だが私はこのシステムと戦果をもって、地球圏に舞い戻る)
 これは好機なのだと、メリリヴェイルは思った。
65本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:41:35 ID:???
「索敵範囲内に敵機進入。ローズ、数10」
「小隊クラスが2、か。シャトルの離脱支援が目的だな。各機、臨戦態勢」
「了解! ビットシステム、戦闘モードに移行します」
 現在はコントロールルームからの遠隔制御を必要とするが、
戦闘データが蓄積されていけばいずれは完全に自動の無人戦闘機となる。
 そんな無人イーグルクロウの群が、レーダーに入った標的に向けて移動を開始する。
 ローズの部隊も気付いたのだろう。
 ビームライフルを構え、イーグルクロウに接近していく。
「虫けらがぁー!」
 発射されるビーム。
 通常ならば当たるはずのそれが、躱される。
「何ッ!?」
『隊長、敵の動きが!』
 イーグルクロウが散開した。
 今までのイーグルクロウとは思えない速度で、部隊を翻弄する。
「包囲。攻撃を回避しつつ、火力を集中」
 メリリヴェイルが指示を出す。
 3機のイーグルクロウは補足した1機を取り囲むように展開した。
 放たれる2連装キャノン。ローズの装甲にはかすり傷程度にしかならない。
 3機が引き、その後方にいた2機が畳みかけるミサイルを発射する。
「くぅっ!」
 ローズはビームで応戦する。
66本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:46:18 ID:???
 しかし、全基撃破することはできず、ローズにミサイルが命中した。
 腹部下方から脚部にかけて爆発が起こるローズ。撃墜には至らなかったが、大破し、行動不能に陥った。
「や、やりました!」
「我々のイーグルクロウが、奴等を……」
 歓声に包まれるコントロールルーム。
「気を抜くな!! 戦闘はまだ継続中だ、馬鹿者!」
 メリリヴェイルが喝を入れる。
 慌ててモニターに向き直った士官達。
(やはり、戦争としての感覚が薄くなるか……)
 遠隔での制御を必要とする内は、その制御を担当する士官に対して危惧することも多い。
 まだ残す課題は多いかと、メリリヴェイルは懸念する。
「クッ! なんだこのモビルアーマーは!」
 隊長格であるローズパイロットが焦りを滲ませる。
 1機は大破させられ、回収のために2機を向かわせた。
 イーグルクロウの2連装キャノンは脅威ではない。ミサイルも同様だ。
 だがこうまでローズの攻撃が当たらないとなると、パイロットとしての資質を問われかねない。
「マイケル・ミッチェルとニコラス・スウィフトに笑われてたまるかぁぁぁ!」
 ミサイルを撃ち落とし、接近する。
 レイピアを抜き、一気に至近距離まで。
「これなら避けられまい!!」
67本家ドルダ:2008/12/20(土) 23:49:41 ID:???
 串刺しになるイーグルクロウ。
 レイピアを引き抜きローズが下がる。
 やっとのことで、イーグルクロウを倒すことができた。
 残りの4機。それに目を向ける。
 攻撃を開始しようとしたその瞬間、アラートが鳴った。
「高出力ビーム……奴か!」
 コロニー下方から一筋の光芒が、ローズとイーグルクロウの群を襲う。
「あれが、例のドルダか……!」
 メリリヴェイルが息を呑んだ。
「イーグルクロウ、広範囲ビームにより全機壊滅!」
「ですがローズも4機の撃墜を確認!」
「奴は公社の機体だ。味方の識別信号を送れ」
 イーグルクロウが壊滅した今、それも無駄なことではあるが。
(それともドルダ、見境無しか……)
 休戦協定が無になったといって、武力で両軍に戦闘停止を訴えるわけでもあるまい。
 メリリヴェイルはそう考えるが、果たして。
「私は、倒す…………敵を、危険を及ぼす者を……」
 ドルダの中で、シンシアは低く呟いた。





To Be Continued...
68バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/21(日) 13:20:35 ID:???
本家ドルダGJ!
ヘルガの家族を殺したのはディランだったんですね!
そしてA.S.D.世界もついにビットシステム登場!
とにかく乙です!
69エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:46:14 ID:???
こんにちは、00放送前に投下します。
なんだか叩かれる要素満載な八話ですが、とりあえず投下
70エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:47:09 ID:???
新説ガンダムドルダ
第八話 世界の声

さあ、耳をすましてごらん。
聴こえる、聴こえる。世界の声が。
知っているものは、いつでもそのままの姿であるとは限らないんだよ。

宇宙要塞ハーフムーン。
月を割った、半月のようなボウル型の小惑星。
火星圏における地球連邦軍火星方面駐留軍…つまり、「火星コロニー軍」の最重要拠点…
その付近を、一機の大型輸送艦が飛行していた。ずんぐりとしたその赤色の輸送艦は、カナリヤの同型艦『テレウス』である。
無駄な区画の多いカナリヤとは違って多数のMSを搭載でき、現在、その広い格納庫には三十機ものMSが鎮座していた。
三十機近くのローズの中に一機だけ全身を黒く塗装した機体があった。頭部の形状も少し異なっている。
黒い機体、ドル・デーのコックピットには、赤毛の男が瞑想するような面持ちで佇んでいた。
『レオ五郎右衛門隊長、玉音放送が始まったみたいです』
通信でレオ五郎右衛門と呼ばれて、赤毛の男は微かに目じりを震わした。レオ五郎右衛門というのは洗礼名である。
スペースノイドの彼がコンパニヤというマーズノイドの宗教に入信してから一年の月日が過ぎている。しかし珍妙な洗礼名には未だに慣れることが出来ないでいた。
部下にはなるべく元の名前で呼んでもらいたかったが、彼らは火星の独立にかこつけて、今では公然と互いの洗礼名を呼び合うようになっている。そこに悪意が感じられないだけに赤毛の男としては決まりが悪い。
『ああ! 教皇ペトロ四郎猊下はなんと神々しいお方なのでしょう。満ち満ちた霊(アニマ)が目に見えるようです』
画面にいるペトロ四郎の姿に部下は感極まる様子であったが、赤毛の男からしてみれば、その老人は柔和な顔立ちという以外には別に取りたてて言うべきこともない老人である。
赤毛の男は恍惚とする部下たちを窘めて、あらためて作戦内容を確認させた。作戦開始は演説が終るのと同時である。
 船体下部のハッチが幾つも開いて、下半身を固定された逆さ吊りのローズが姿を現した。
『ゼスス・キリシテ、サンタ・マリヤ、サンチャゴ』
 全パイロットの合唱が聞える。赤毛の男も控えめに祈りの文句を唱えた。
『ゼスス・キリシテ、サンタ・マリヤ、サンチャゴ』
 下半身の固定装置が外された。重力に引かれたローズが順々に降下していく。
71エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:48:09 ID:???
やがて「火星コロニー義勇軍・ダイモス」所属のMS、ローズが手にしたビームライフルを構える。
その数およそ三十。半端な戦力ではない。戦争でも始めるつもりなのだろうか。
対してそれを迎え討とうとするのは火星コロニー軍最新鋭MS、ガーランド。
その数はおよそ百。ローズの三倍以上はいる。
『どういうことだ!ベイト大佐!』
ハーフムーン司令室より響き渡る男の怒声。
火星コロニー軍・ハーフムーン司令のアーロン・キム少将の声であった。
「故郷に錦を飾りたくなりましてね、少将閣下殿。ガンダムマルスの力は我らマーズノイドのためにこそ用いられるべきでしょう」
『火星の重力に中てられて先祖返りしたか、マスター・ベイト。だが、そう簡単にこのハーフムーンが落とせると思うな!この要塞の強固さは、貴様も知っているはずだ』
しかし、真紅の機体のコックピットに坐る男は唇の端を歪めるに過ぎなかった。
通信の相手に対するものとは別に表示されたウインドウには、三重冠を被って白い法衣を着た老人が、巨大な十字架の前に立って演説する場面が映し出されている。
この映像は地球と火星圏の全コロニーに向けて放送されていた。
演説の主な内容は、マーズノイドの独立宣言と地球連邦政府への宣戦布告である。
先日宗谷陽光が行ったものとは、随分趣が違う。
「門は開かれました。去勢された人類が目覚めねばならぬ時がきたのです」
『狂信者が世迷い事を』
「水に落ちた犬を打たぬは人の子弟を誤る。狆はことに水中に打ち落としてさらに追い打たねばならぬ――古代の俚諺です。閣下を捕虜には致しません。
革命成就のために敢えて汚名を、この私、トマス金鍔次兵衛が!」
真紅の機体、ドル・デーの持つビームスマートガンのレドームが回転を始める。ガーランド隊がライフルの引き金に手をかけた。
『撃てば、貴様も死ぬぞ』
「我らが天主(デウス)
さんたくるすの御しるしをもて
我らが敵をのがしめ給え
天主ぱあてれ
ひいりよ すぴりつさんとの
御名をもて あめん」
男が奇妙な祈祷文を詠い終えたのと同時にウインドウに映る老人の演説も終了し、一拍置いてビームスマートガンから一筋の赤い閃光が放たれた。
司令部のある建物の外壁が爆発した途端、ガーランド隊の約半数の機体が、残る半数の味方に銃口を向けて引き金を引いた。彼らは示し合わせていたのである。
連邦軍のガーランド隊は不意の裏切りになす術も無く破壊されて、同士討ちにもならなかった。
72エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:48:55 ID:???
『ベイト大佐――いえ、トマス金鍔次兵衛枢機卿猊下。連邦軍施設の制圧および軌道上監視衛星の破壊は滞りなく進んでおります。あと数時間もすれば完了するでしょう。
ダイモスに同意を表明したコロニーは、現在のところ全体の約六割。異教徒の多いアルカディア地域などの新興コロニー郡は中立を主張しておりますが、それも時間の問題です』
「報告ご苦労、アンデレ権八郎」
そう、その中には、アレス・ルナーク…
そして、彼の駆る真紅の戦神、ガンダムマルスの姿もあった。
但し、その様相は異なる。
機体の全身は重厚なフォルムに覆われ、その存在感を圧倒的なほどに示している。
ガンダムマルスの怒りの姿とも呼べる、「ガンダムマルス ムスペルヘイム」であった。
マルスもその重厚な追加装甲に内蔵されたミサイル類で、ハーフムーンを制圧してゆく。
派手な爆発とは裏腹に、建物の損傷自体は大したものではなかった。
外壁から内部の司令室にかけて、整った円形の穴が開き、そこから見える床のタイルに軽い焦げ付きがあるきりである。穴を塞ぐだけで司令室は機能を取り戻すであろう。
出力、照準ともにおそろしく精密なその射撃は、ガンダムマルスの性能の為せる業であった。
しかし、連邦軍にも意地という名の面子がある。
キム少将の機転により、すぐさま地球本部の軍隊からの増援が送られてくる。
その数、ムウシコス三十、ドグッシュ百。
本格的な戦争が、幕を開けようとしていた…

「これで、二十五…!」
呟いた陽光は、機体の持つビーム刀で、向ってくるガーランドを袈裟斬りにしつつ言う。
ローズとは違う機体、少数量産機、ドル・デーに搭乗した彼も、ハーフムーン制圧作戦に参加していたのだった。
「さすが宗谷大尉…!」
ローズパイロット達は、陽光を素直に称える。
「大尉がいれば俺達も大船に乗ったつもりで戦えるな!」
「無駄口を叩くな」
そんなローズパイロット達に向けて、陽光は威厳のある声で静かに言う。
「は、はっ!」
ローズパイロット達は一斉に静かになり、殲滅戦に集中する。
(!増援か!)
向かってきたドグッシュ隊を鋭い眼光で捉え、陽光は身構える。
「皆、敵機の増援だ!マイケル・ミッチェル隊、先行せよ!」
陽光が言うと同時にすかさず踊り出る数機のローズ。
素早い動きと巧みなフォーメーションで次々とドグッシュを撃墜してゆく。
余程優秀なパイロット達なのだろう。
続いて陽光はドル・デーの持つビーム刀を二刀流に構え、雄叫びをあげる。
「私に続けェ!すべては火星コロニー群の独立の為に!」
おおおおおおおおおお!
生まれついての実質的指導者である宗谷陽光の怒号に続き、ローズ達は統制のとれた動きで次々とドグッシュを破壊していった。
73エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:49:37 ID:???
「ガンダムマルス ムスペルヘイム、目標を溶解する」
アレスは冷たく呟くと、手にしたビームバズーカのトリガーを引く。
ドオオオォォォォ!
ドルダのバスターライフル、ドルチェのロングレンジビームライフルに負けず劣らずの破壊力で、要塞ハーフムーンを撃滅させてゆく。
「炎と熱の世界」の名を冠する火星の神は、存分にその性能を発揮していた。
元々ガンダムドルダの滷獲、それができない場合破壊を目的とし、製造されたこの機体であるが、要塞攻略戦に適した形態でもあるのだった。
「この裏切り者共が!」
向かってくるガーランド。
マルスは落ち着き払った動きで、左手首部追加装甲に収納された捕縛用のグラップルスティンガーを射出する。
「!うああああ!」
ガーランドを挟み、そのまま刃で機体を両断する。
「俺の邪魔を、するな…!」
クランやシンシアに見せた時とは対照的な、それでいてデイヴやエリスに見せた憎しみとは少し異なる類の瞳をしたアレスが、静かに呟く。

裏切ったガーランドの中にはガンダムマルスやドル・デーを向いて祈るように両手を組んで跪いている機体や、大げさに十字を切る仕草をして見せる機体があった。
建物に空いた穴の横に、端末や内装の残骸、それから生身の人間が放り出されていた。気圧差で外に吸い出されたのである。
ベイトが少将閣下と呼んだ老人もそこに混じっている。
彼らの直接の死因はマルスのビームによるものではなく、主に野外活動服を着ていないことによるものであった。
最期に顔を歪める余地があったのは、火星の半端なテラ・フォーミングが理由であろう。ベイトは胸に下げた十字架に手を触れて、
「いんぴいあんぱあしすゥ
えっぽろすぺりたちすゥ
じりがつなうすゥ
おむにぽてんす……」
という古代語の呪文を唱えた。スペースノイドの元同僚たちを弔う意味があったかはわからない。彼の表情は小揺るぎもしていなかった。

(ああ…!)
先程の黒く塗装されたドル・デーに搭乗した男、レオ五郎右衛門、いや、ジミー・アン元火星コロニー軍大尉は顔をくしゃくしゃに歪めていた。
元々気が優しく、争いごとを好まない性格の為、彼は自らが為したことに相当な後ろめたさを感じていた。
(私は…私は…)
地球連邦政府の圧政のせいで、コロニーに住まう愛する妻と息子を失い、途方にくれていたところを、気の合う同僚である宗谷陽光に誘われたのだった。
ほら、この男も。
どうしようもない、世界の声が物語る。
相応の悲劇を持たぬ人の方が珍しいこの世界。
『ジミー、君の力を借りたい。我々の大いなる過去と未来の為、共に闘おう!』
MSパイロットとして優秀な彼は、元々の大尉という称号もあってか、直ぐに専用のドル・デーを与えられた。
しかし、心根が優しく小心者である彼は、現在の状況をひたすら憂いていた。
(ああ、リンダ、ハンス…私は…)
亡き妻と息子の名を呼び、赤毛の男は一人、むせび泣いた。

…これが、進宇宙歴102年に起こった、後の歴史に言うところの、「半月崩落事変」である。
死者2万余名、行方不明者3万余名、負傷者二百余名…
しかし、これほどの事件も、これから起こる悲劇の序曲に過ぎないのだった…
74エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:50:17 ID:???
分厚いスーツ越しですら、冴えた空気を感じている。
白銀に光る肌を眺めながら、クランはゆっくりと月の大地に降り立った。
弛んだコードを引き寄せた。ぴん、と張りつめたのを確認して、背部からエアを吐き出しながら彼女は飛んだ。
「ナルコレプシー、こちら01よ」
『オーケー、聞こえてる。デブリには気を付けろよ』
答えるのはヴァイス。先日クランが行方不明になりかけたのを気にしているのか、なんだか優しい声だ。
ナルコレプシー…火星開発公社の小型飛行挺だ。
元々クラン達第一次調査隊が火星に降り立った時に使用されたものだったが、燃料が尽き、第七次調査団のカナリヤによって、燃料の補給を受けていたのだった。
『お姉ちゃん』
か弱い声。ドルダに搭乗していた少女、シンシアのものだ。
「シンシアも。何をそんな声を出すの?」
『違うの。いってらっしゃい』
「…行ってくるわ」
クランはゆっくりと歩き出す。これからどうするか、どうしなければならないのか…
考えた末、月面に存在する人々の町へと、これから踏み出すところだ。
(心配してくれているのかしら)
あの子の感じている事は分からないわ……、とクランは声には出さずに呟いた。
火星の地下遺跡でシンシアを発見してから、そしてガンダムドルチェの最後の攻撃から、命からがら逃げ出してから…
ドルダはカナリヤと合流することに成功したのだった。
フィリアは、共に地球へ向かうことを提案した。
しかし、今の時代、地球は立ち入り禁止だ。
特にコロニー生まれコロニー育ちのギデオンやヴァイス、ミランダなどは。
また同様に、クランとて18の時までは地球で暮らしていたが、一度地球を捨てた身である。
そう簡単に戻れるわけもなく、調査隊の面々は、少しの燃料をカナリヤから分けてもらい、月へと逃げ出して来たのだった。
ここにも、世界の声。コロニーの者は入ってくるな!
…クラン達の所属する公社の支部に戻るには、まず月を経由しなければならない、というのもあるのだが。
クランとナルコレプシーが通信を行えるのは、ノーマルスーツの腰から伸びた、緊急時の通信用コードのおかげだった。
命綱の役割も果たすそれが伸びる範囲は約1km以内。艦に搭載されていた月面図では、この近くに施設があるはずだったが――。
(何も無し、か)
地球所属である月ならばそうそう死にはしないだろうが、助けがなければ緩やかな死を待つのみである。
O2だって無限ではない。
クランには、急にメットが息苦しいものに思えてきた。
『クラン、大丈夫か?』
「大丈夫よ。それより、付近の警戒をきちんとしなさい。私ももう大分離れてるのよ」
『分かってるよ。なあ、本当に――』
「行ってくる」
通信を切り、クランは大地を蹴る。彼女の身体が、ゆっくりと旋回しながら宙を舞う。
星空。
蒼い影を残しながら、地球が流れていった。
75エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:51:05 ID:???
「……感傷に浸る暇は無いのよ」
まず生きる事を考え、次にシンシアをどうするかを考え、それから――
目には見えないはずの、「やるべき事の山」が高く積もっている様が見えるようで、クランはうんざりした。
だが、それすらも今は許されない。まだ偵察任務は終わってはいないのだ。
星空に目を走らせる。
星々の冷たい光が、身体を突き刺すようだった。
「ウサギもカグヤも居ないのね」
呟きはナルコレプシーには届かない。今は通信を切っていた。
「異常無し。ついでに目標の施設も……」
一周して月面と向き合った身体を星空に向き直す。
感傷に浸る暇はない、と自らに言い聞かせつつも、クランは考えてしまう。
(アレス…)
クランの目からこぼれた涙が、白銀の大地を映す…

「それでは皆様、良い夢を♪」
ドォォォォォォォ!
ガンダムドルチェによって放たれた最大出力のビームエネルギー。
「させない!」
絶望しかけた三人を余所に、一人シンシアだけが毅然とした表情で立ち向かう。
ドルダが、再び輝く。
やがてドルダの両肩から、虹色の光が輝いたと思うと、そのままビームフィールドが火星全体を包む。
「あああああああああああ!」
シンシアが叫ぶのと同時に、虹色のフィールドが、ドルチェのビームを吸収していく。
ドドドドドドドド!
ガンダムドルダは、力強くそのすべてを受けとめる。
しかしドルチェは、そんなことはもうどうでもいいとでも言うように、デイヴを乗せたまま離脱して行った。
ドルチェが去っていくのを見届けた後、シンシアは薄く笑うと、静かに気を失ったのだった。
『シンシア!アレス!』
叫ぶクラン。気を失ったシンシアを心配して。そして、自らの前から去っていくアレスを呼びとめるかのように。
クランは、あの時の光景を忘れることが出来ないのであった…
76エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:52:03 ID:???
「アレス!」
帰還し、シャワーを浴び終えたアレスに、一人の少年が抱きつく。
陽気な表情の、金髪の美少年だ。
「エステル」
エステルと呼ばれた少年が問う。
「辛かっただろ、今度の作戦…」
「問題ない。もう後戻りは出来ないのだからな」
今度は心底悲しそうにアレスを心配して言うエステルと、気にも留めないといった表情のアレス。
「そっか。うん、なら良かった」
安心するエステル。
「ねぇ、アレス。この世界は悲しいことばかりだ。なにか辛いことがあっても、くじけちゃ駄目だよ」
「…分かっている」
「君には、僕がついてるから」
「……」
アレスの肩に手を置くエステル。
少年の素性の一切は謎だが、共にダイモスに所属する者として、エステルはアレスを何かと気づかい、弟のように接していた。
そしてアレスに気づかれないように、エステルは憂いを帯びた表情で想う。
(君の思っていることはわかるよ…辛いんだね、アレス)
二人の少年は、何も言わないまま、静かに同じ時を共有し続けた。

「お帰り、姉さん」
そこはどこかもわからない。天国のように明るい場所であり、闇のように暗い場所でもある。
炎と熱の世界とも、氷と闇の世界とも呼べるそんな場所で、少年の声が凛と響く。
「どうだった、ドルダは?僕らの新しい“妹”は?」
「ハンス」
ハンスと呼ばれた少年。薄い銀髪に、燃えるような赤毛がちらほら混じった不思議な髪をした美少年だ。
「失敗作。使えそうにないわ」
大袈裟なジェスチャーで、肩を竦めるようにしてエリスが言う。
「それで、彼の方は?」
少年が言う。
「今は、眠ってもらっているわ」
「まさか、連れて帰ってくるとはね。姉さんらしいや」
「もう!色々邪魔が入ったの!」
からかうように薄く、美しく笑う銀髪の少年と、ふくれっ面をしてみせる金髪の美少女。
「それで、これからどうするつもり?」
「ハンス…世界の声を、もっと、聞きたくない?」
ニヤリと嫌な笑みを見せる少女。
「ああ、そうだね」
少年は目を閉じて、薄く笑うだけだったが、考えていることは少女と同じのようだった。

八話 終 九話に続く
77エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 16:53:37 ID:???
MS設定等は00終わった後に。
書き直せとかあったらいつでも言ってください。では。
78エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 18:35:01 ID:???
その1。
MAS-005P ドル・デー
所属:ダイモス・火星義勇軍
主なパイロット:ジミー・アン
武装:
ロングレンジビームライフル×1
ビームソード×2
シールド×1
ビームバルカン×2
肩部ショルダースパイクシールド×1

詳細:
マルスの前型機に当たる。型式番号のPとは、マルスのプロトタイプであることを指す。
また、ローズはこの機体を量産することで開発された。
少数機であり、現在の所四機しか開発されておらず、そのうちの二機はパイロット専用に改造されている。
ローズよりも白兵戦に向いた機体であり、スラスター類も高い出力を誇る。
イメージはトールギス。

MAS-005PS ドル・デー(宗谷陽光専用機)
所属:火星義勇軍
パイロット:宗谷陽光
武装:
ビームハンドガン×1
ビーム刀×2(長・短一振りずつ)
ビームバルカン×2
肩部ショルダースパイクシールド×1

詳細:
陽光専用ドル・デー。接近戦を得意とする陽光用にカスタマイズされた。
イメージはブシドー専用アヘッド。
79エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/21(日) 18:36:09 ID:???
その2。
MAS-005K ドル・デー(マスター・ベイト専用機)
所属:ダイモス
パイロット:マスター・ベイト
武装:
ビームスマートガン×1
ビームサーベル×2
ビームバルカン×2
肩部ショルダースパイクシールド×1
プロトナインテール

詳細:
ベイト専用ドル・デー。新兵器ナインテール搭載型の試作機。

今回は以上です
80通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 18:15:01 ID:???
前スレ落ちましたな
81いまは通常の名無しの3倍:2008/12/22(月) 19:31:10 ID:SFzhbMuJ
エルト氏GJ!!
か、火星全体!!??
ス、スケールがでかい!火星全体となるとこっちも書かなきゃいけなくなる。
う〜ん、どんどんとなぞの人物登場ですね。
外伝もはやく第一話書かないと。先が消えてしまうww

>>80
まぁ、スレの内容は全部wikiに保存されてますし、ここは敬礼で見送りましょう。
82通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 19:36:09 ID:???
(´ヘ`;)う〜んこ
83通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 19:57:53 ID:???
本家ドルダ&エルト投下乙!
84通常の名無しさんの3倍:2008/12/22(月) 22:37:45 ID:???
ageたら変なの湧いたよ・・・
85エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/23(火) 00:01:41 ID:???
どうも。今回は挨拶だけ。

>>本編の人
物語が動き出して来て、予測がつかないw
wktkしっ放しです。
あとハーフムーンパクってすいませんでした…

>>バルド
いつもwikiまとめ乙です。
キャラデザ投下も楽しみにしてます。

>>81
外伝投下楽しみにしてます

で、言う必要あるのかどうかわからんが、一応。
ゆとりの私は明日から冬休みなんで、あと三日ほどはハイスピードで投下できそうです。
でもちょっとしたらネット環境の良ろしくない実家に帰省せねばならんので、二週間ほど投下できないかもです
でもまあその間も書き続けますんで。
スレ汚しすいませんでした。では
86エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:00:33 ID:???
深夜に九話前半投下。
飲み会うぜぇ…
87エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:01:33 ID:???
新説ガンダムドルダ
第九話 月夜のルナリアン

ここは…一体…?
俺は、死んだのか…
薄暗いな…天国ってのはこんなにも薄ら寒いトコなのかよ…
いや、それとも地獄の入口か。こんな俺にはお似合いのトコかもな。
楽に死ねたんだ、それもまた一興。
面倒な人付き合いも、荒んだニートでいることももうねえ。
過去の悲劇から、俺も漸く解放される…もういいだろ、十分苦しんだんだ。
頑張ったよ、俺は。

父さん、母さん、フィリアにディック…
クラン、アレス、シンシア…

………あー、まだ、死にたくねえなぁ…

デイヴィッド・リマーはやがて目を覚ます。
目を覚ました時、自分の顔のすぐ目の前には、顔を覗き込むようにしていた少年の顔があった。
「!」
デイヴは驚いて思いきり仰け反ろうとする。
が、そうしてしまったことが悲劇の始まりだった。
ゴツン!
自分の額と、少年の額が思いきりぶつかる。
「いった〜…目が覚めたみたいだね、デイヴ。元気そうでなによりだ」
よろめいて額に手を当てる少年。あちゃ〜、と呟きながら軽く舌を出す。
滑稽に見えるが、何よりも銀髪にちらほら覗く赤毛、という不思議な髪に目がいくせいでそんなことはどうでもよく思えてくる。
「ここは…お前は、誰だ」
同じく、頭に走る痛みに顔をしかめながらも、デイヴは目の前の少年を睨みつける。
「ああ、まだ動かない方がいい。一応傷の手当はしておいたけど、もう少し安静にしててね」
薄くほほ笑んだ少年。
怪訝に思い自らの体に目をやると、ガンダムマルスとの戦いによる負傷がすべて完治していた。
「おま、俺に、何しやがった…」
「傷を治したのさ、君が怪我をしていたから。…ああ、自己紹介がまだだったね、僕の名はハンス。宜しくね、デイヴ」
にっこりと無邪気な笑みを湛え、少年は右手を差し出す。
対してデイヴの方は左手を差し出す。
不意に、ぶつかり合う両者の手。ハンスは少し驚いたような顔をしてみせ、すぐにニヤリと笑う。
88エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:02:28 ID:???
「…俺は左利きだ。それはそうと、お前は何者だ?何故俺のことを知っている?何で俺がここにいるのか理由を聞かせてくれ」
デイヴは目を細め、少年の瞳を捉える。
「そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないか、デイヴ。君のことは姉さんから聞いていたよ。姉さん、すっかり君に夢中だ」
対してハンスは目を閉じて、やや皮肉を言うように冗談混じりで答える。
「姉さん、だと…?」
デイヴが訝しげにしていると、部屋の扉が開く。
扉の向こうには、自分を一時甘美な純白の世界へと誘った、金髪の美少女の姿があった。
「!お前…!!」
驚愕の表情を見せるデイヴ。
「デイヴ!目が覚めたのね!」
少女は駆け寄ると、上半身を起こしたまま横になっているデイヴに抱きつく。
「良かった!心配してたのよ!」
少女は嬉しそうに、デイヴを抱き締める。
デイヴは、鼻腔をくすぐる少女の香りに目を白黒させそうになるが、少女の手をとり突き放す。
「離れろ」
あん、少女が残念そうに言う。
「色々聞きたいことはあるが、お前らがまともに答えてくれそうもないことはよく分かった。とりあえず、俺がお前らに望むことは一つだ」
デイヴは人差し指を立てて言う。
「帰してくれ。そしてもう二度と俺に関わらないでくれ。そっとしといてくれ」
「三つもあるじゃない、欲張り〜」
金髪の美少女、エリスがクスクスと笑う。
「残念ながら、その願いは一つしか聞けないね、デイヴ」
落ち着き払ったまま、答えるハンス。
「じゃあ関わらないでくれ」
「イヤ、それじゃなくて…ていうか答えるの早いなぁ…」
あはは、ハンスは人差し指で頬を軽く掻きながら、頼りなく笑う。
「デイヴをね、故郷に帰してアゲる」
エリスが先程デイヴがしてみせたように、人差し指を立ててから言う。
「故郷って…あのボロくせえ小惑星か?…まあ何でもいいよ。帰してくれりゃ」
ぶっきらぼうに言うデイヴ。もはやこの姉弟と問答する気はないらしい。
「そうじゃないの。地球よ、地球。ブルーアース。…地球は青かった!誰の言葉か知ってる?」
エリスが大げさなジェスチャーをしながら言う。
「地球…?ハッ、帰れるわけねえだろ。確かに俺はアースノイドだ。でも一旦地球を捨てた身だ」
デイヴは自嘲気味に言う。
この時代、地球生まれ地球育ちの「アースノイド」といえど、旅行等の事由で地球を離れ、コロニーや小惑星群に一度移住したならば、地球に戻ることなど出来ないにであった。
もっとも、旅行などといったことが出来る人種も、そうそういやしないのだが。
「あら、そんなことないわよ?…宇宙船地球号!誰の言葉か知ってる?」
首をかしげながら言うエリス。
「デイヴ。フィリア・シュード達は一旦地球に戻った。いや、何も君を見捨てたわけじゃない。君をもう一度きちんと探すため、本部に調査隊を呼びに行ったのさ、報告も兼ねて」
ハンスが口を挟む。
デイヴが口を開きかけたと同時に、ハンスは続ける。
89エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:03:12 ID:???
「僕達は、今から君を火星開発公社の地球本社に送り届けるつもりだ。親友を、これ以上心配させたくはないだろ?」
ニコニコと微笑み続ける姉弟。
デイヴは根負けしたのか、ハァッと大きな溜息を一つ吐くと、諦めたように言う。
「お前らが何でフィリアのことや諸々の事情を知ってるのか、とかどうやって地球に帰る手筈を整えるんだ、とか気になることはたくさんあるが」
言葉を切るデイヴ。
「…分かったよ。おもしれえじゃねえか、そんなに言うなら俺を地球に連れてってくれよ」
その言葉を聞いて喜ぶ姉弟。
「嬉しい!それじゃ、早速準備しなくちゃね」
「良かったね、姉さん。デイヴ、僕は用事があるからここを離れられないんだけど、姉さんと二人で良い旅を」
二人で、という言葉を聞いて若干イヤそうな顔をするデイヴ。
「何よぉ」
エリスがふくれっ面でデイヴを見る。
「…別に。で、どうやって帰んだよ」
「決まってるじゃない、ドルチェを使うのよ♪」
満面の笑みで、人差し指を振りながら、言うエリス。
「冗談じゃねえ!またあの機体に乗れって言うのかよ!」
「だって今あれしかないんだもーん」
「ふざけるな!」
「じゃあ帰るのやめよっか?ずっとここで二人で暮らすのもいいわね。毎日デイヴの好きな物、作ったげる」
「もっとふざけるな!」
「…なによぉー」
テンポ良く掛け合う二人。そこにハンスが口を挟む。
「心配しなくていい、デイヴ。戦いなんて起こりやしないし、考えてもない。あくまで君を送り届ける為の、手段さ」
デイヴは両手で頭を掻きながら叫び出す。
「…だぁー!ちくしょう!分かったよ、分かったから俺を帰せ!もうどうにでもなりやがれ!」
「そうこなくちゃ♪」
寝台から立ち上がり歩き出すデイヴィッド・リマーの手を取ると、金髪の美少女、エリスはニヤリと笑ったまま、ガンダムドルチェの格納庫へと歩き出した。
90エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:04:10 ID:???

地球にいた頃は、夜に兄弟三人でよく月を眺めたものだ。
その美しさに感嘆の溜息を洩らしていると、シンシアなどはよくこう言っていた。
『私、いつか月に行ってみたいなぁ…だってこんなに遠くから眺めてても綺麗なんだもの。ホントに行ったら、きっともっと綺麗よ!』
力説するシンシアの目はキラキラと輝いている。
それを聞いたアレスが、わぁー、と洩らし張り切ってから言う。
『だったらいつか、僕がお姉ちゃん達を月に連れて行ってあげるよ!こーんなでっかい宇宙船を造って、父さんと、母さんと、五人で行くんだ!』
両手を一杯に広げて見せるアレス。
『本当!?約束よ?アレス』
シンシアが、心から嬉しそうな笑顔を浮かべる。
『うん!僕、うーんと勉強して、大きな宇宙船を造ってみせるから!』
張り切るアレス。
そんな二人を見て、クランは言うのだ。
『あら、でもこないだの算数のテストがあの点数じゃ、どうかしらね?』
『あぁ、お姉ちゃん!それは言わないでよ〜…』
クスクスと笑うシンシア。
やがてその笑いは、二人にも広がって…
そして父と母も笑って、家族全体を、温かい光が包むのだった…

(そういえば、そんなこともあったっけ)
何も見つからない状況を不安に思いつつも、クランはそんな昔のことを思い出し、笑っていた。
いつだってそうだった。
辛い時こそ、笑わなきゃ…
それは彼女が、彼女の人生そのものから学んできた教訓だった。
(この辺一体は探し終えたわね…)
クランは確認するように辺りを見渡すと、踵を返し、再び月の大地を歩きだす。

地球に到着したフィリア・シュード達第七次調査団は、直に報告書を作成し、同時にデイヴィッド・リマー捜索の申し立てを行っていた。
しかし、デイヴ捜索の件は曖昧にされたまま、アルフ・スメッグヘッド教授とディック・オメコスキー中尉、そして隊の主任であった自分とが、公社の重鎮から呼び出されていたのだった。
「失礼します」
扉を開けるフィリア。
スメッグヘッドとディックは既に部屋で待機していた。
部屋の中にある椅子に腰かけていた男がフィリアの姿を確認すると、片手を挙げて陽気に微笑む。
91エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:05:00 ID:???
「やあ、よく来てくれたよ、シュード主任。俺は公社のカナン・ラヴホールド。一応人事課のモンだ。宜しく」
男と握手を交わす。
そして男の傍に控えていた女性が、恭しく自己紹介をする。
「同じく、人事課のヴァニラ・ヴァニニですわ」
「フィリア・シュードです、宜しく」
挨拶を済ませると、男、カナンが再び椅子に座る。
「早速本題に入ろう。実は、あなた達三人は連邦政府のお偉いさんに呼び出されててね。今から彼に会いにいかなければならないんだ」
「お偉いさん、ねえ」
ディックが怪訝そうな顔をする。
スメッグヘッド教授は少し機嫌が悪そうだ。
「手短に済ませて貰いたいものだな。私には、時間が惜しい」
「ソイツはちょっと、難しいかもしれません、教授。なにせ彼は、相当マイペースなので」
カナンが教授の呟きに答える。
「さあ、行きましょう。ご案内いたしますわ」
ヴァニラが言うと、小型の五、六人乗り程度の飛空挺(この世界における乗用車のようなものだ)が、姿を現す。
カナンが両手で窓を開き、高らかに言う。
「ジャイアントマンの元へ」

(あった…!)
クランは、人々の暮らす街のようなものを確認する。
(早速、ナルコレプシーに連絡をとらなきゃ)
手慣れた動作で、通信を入れてから言う。
「ナルコレプシー、こちら01。人々の居住区を発見。応答されたし」
ザザ…ザザ…ザー
『こちら、ナルコレプシー。01、現地点の座標を転送されたし』
事務的に答える女性の声。ミランダのものだろう。
「了解。指定座標ポイントの転送、完了。現地で待機行動に移る」
『了解』
通信を切る。
「なんとか、助かったようね…」
クランは安堵の溜息を洩らし、再び星空を見上げた。

後編へ続く
92エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/24(水) 04:10:30 ID:???
>>88で訂正
×旅行等の事由で
○旅行等の事由以外で

失礼しました
93エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:18:06 ID:???
メリクリです。飲み会連チャンキツイです。
後編投下します
94エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:19:11 ID:???
コロニー、ジュネス…
反地球連邦政府組織である火星義勇軍「ダイモス」の本拠地…
火星圏コロニー群で生まれ育った「マーズノイド」の、マーズノイドによる、マーズノイドの為の宗教、「コンパニヤ」を信仰する人々が、一人の老人を見つめている。
柔和な顔立ちの老人は、教皇である、ペトロ四郎という男だ。
時々、チリン、と鈴が鳴らされ、人々は一点を仰いで何か呪文のようなものを暗唱していた。
ここは相変わらずのようだ。
そして神殿のようなこの場所の奥の奥…
深い闇の中で話をする男が二人。
少年と、その祖父だった。
「ゲッゲッゲッ。アレスよ、やっと事の重大さが理解出来たようじゃな。して、どうだったね、ドルダは?ハーフムーン攻略戦のせいでまともに話が聞けんかったからな」
高らかに笑うティモール・ルナーク博士。アレスはやや決まりが悪そうにしながらも口を開く。
「一筋縄ではいきそうにないな。あの能力はムスペルヘイムでも危ういかもしれない」
言いながら目を瞑り、アレスは一つのカード型端末をテーブルにかざす。
すると、テーブルを媒体とし、闇の中にガンダムドルダ・ドルチェとの交戦記録が浮かび上がる。
それを見てティモールは、ほうほう、と言ってニヤニヤ笑ったり、心の底から驚いたような表情をしてみせたりと、実にコロコロ表情を変えていった。
「ふむ、ドルダのみならず、ドルチェか…厄介なことになってきたな。こちらにはドル・デーがあるとはいえ、これは…」
顎の辺りを撫でるようにして、ティモールは目を細める。
唐突に、アレスが言う。
「ドルダには、クランが乗っていた」
それを聞いたティモールは椅子から転げ落ちる。
「な、なんと!クランが…!?しかし、一体何故…?」
「分からない。ただ、確かにクランだった。実際操縦していたのはシンシア…もどきだったがな」
「何故あの娘が…いや、そしてシンシア、もどき…本当に、シンシアの姿形をしていたのだな?」
「ああ。実際に目にしたが、あれはシンシアだ。2年前の、15歳の時の姿形だった」
「ウーム、まさか本当にそうだとは…」
顎に手を当てたまま、首を傾げるティモール。
「やはりお主の言った通りか、エステル」
部屋の入口の方を一瞥し、ティモールは言う。
「立ち聞きなど、趣味が悪いものだ。こちらへ来い」
すると、部屋の中に、金髪の少年が入ってくる。
95エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:19:57 ID:???
「すみません、博士。けれど僕、どうしてもアレスのことが気になって…でも邪魔したら悪いかな、って」
「ふん、お前とワシらの間柄じゃ。何を今更」
「…ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
エステルが傍にある椅子に腰かける。
この少年の素性の一切は謎だった。
ティモール・ルナーク博士の優秀な第一助手でありながら、試作MSドル・デー一号機のテストパイロットにして、アレスの親友。
これが、ダイモスにおける少年の立ち位置であり、それ以上でも以下でもない。
素性の一切等に拘るティモールなどではない。
優秀な頭脳と優秀な腕。加えて精神的にやや不安定な孫の支えと呼べる存在であるだけで、十分過ぎるほどだった。
「これは僕の仮説に過ぎませんが」
エステルがゆっくりと口を開く。
「あの古代地下遺跡には、何か人の残留思念や記憶のようなものを読み取る極小の粒子が、あると思うんです」
「何故そう言える?」
鋭くエステルを見据えるティモール。
「ガンダムマルスの機体より、二種類の未確認粒子を確認出来ました。一つはナノマシン。これは傷の治療等に応用が可能であるとかんがえられます。そして…」
エステルが一旦言葉を切り、再び口を開く。
「もう一種類の粒子の反応を調査しようとした際、信じられないことに、アレスと二機のガンダム達との戦闘の様子・思念が僕の頭に流れ混んで来て…」
「な、なんと!?ウーム、ワシが新型MSの設計に精を出しとる間に、そんなことが…」
驚いた表情のアレスとティモール。
そしてアレスが口を開く。
「つまりドルダの少女、シンシアもどきは、最初に遺跡に入ったクランの思念を読み取った、ということか」
「僕の仮説ではね。実際のメカニズムは全くといっていいほど解明されていない」
エステルが両手を上げて言う。
「ウウム…こうしちゃおれん!ワシは今すぐその粒子の研究に取りかかることにしよう!」
バン!とテーブルを叩き、席を立つティモール。
急いで駆け出そうとする。
と、急に扉を開いた所で止まり、後ろを振り返らずに言う。
「…クランは、どうしていた?」
急な問いかけに、目を丸くするアレス。一呼吸置いてから、口を開く。
「立派な人だよ、姉さんは。今は火星開発公社で働いていると言った。俺の為に涙も流してくれた」
アレスが静かに答えるのを聞いて、ティモールはやや安堵したように言う。
「…そうか」
祖父はそれだけ言うと、扉の奥の更なる闇へと足を踏み込んで行った。
「……」
アレスは窓の外を見る。
窓の外のコロニーの外壁には、周囲の状況を知ることが出来るようにする為の、更なる窓がついていた。
そこから覗く月光を見て、少年は暫し物思いに耽る。
「……」
静かに、止まった時間を共有する二人の少年。
やがて、頃合いを見計らって、エステルが言う。
「綺麗な月夜だね、アレス。同じ月を、お姉さんも眺めているといい」
少年エステルも同じようにして月を見上げる。
それから暫く、二人の少年は氷の彫像のように、動きを止めたのだった。
96エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:21:03 ID:???


ナルコレプシーと合流したクランは、艦の中に入り、調査隊の面々と街に入る手筈を整えようとしていた。
月の中心部とも呼べる街、ルナリアン。
人々は、月にも移住していたのだった。
ドーム状をしているその都市の入口へと向かう第一次調査隊。
「わぁー…ね、見て下さいよ、クランさん!私、月の街なんて初めて見ました!」
はしゃぐモモ。シンシアも、心なしかそわそわしている。
「私も、初めて」
シンシアの呟きを耳にしたモモは、シンシアを見てニコッと微笑むと、シンシアもそれに応えるようにしてモモに微笑む。
シンシアは、今ではすっかりモモ・マレーンと仲良くなっていた。
「ここが、ルナリアンか…私も来るのは初めてだ」
ギデオンが感慨深そうに言う。
ヴァイスはと言うと、格納庫に収納されたガンダムドルダに興味を持ったらしく、色々いじくり回している。
やがて、ミランダが口を開く。
「ルナリアン東ゲートに到着。緊急信号と、入港許可を求める信号を、送ってみます」
「ウム、頼んだ」
ミランダが通信機器をいじくると、信号が送られる。
暫くして、返事が送られてくる。
火星開発公社の飛行挺であること、現在危機にある為一時保護を求めることなどの旨を、了承してくれたのだった。
月には地球圏コロニーも火星圏コロニーもない。しかし、火星開発公社の第二支社が、ここには存在している。
故に、公社の飛行挺である、ナルコレプシーの呼びかけには思いのほか簡単に応じてくれた。
『了解いたしました。識別コード04728、ナルコレプシーの入港を許可致します』
事務的な返事だ。しかし、悪意のようなものは感じられない。
ゲートが開くと、ナルコレプシーは月夜の街、ルナリアンへと入港して行った。

中に入ると、ドームの環境が整えられているせいか、人々は地球と同じようにして暮らしていた。
いわばここは、月の上に存在するコロニーと言っても過言ではない。
『東ゲートから、ナルコレプシーへ。ひとまず火星開発公社第二支社へと訪問されたし』
「了解した」
ギデオンが応答する。
街の中は、活気ある人々で賑わっていた。荒んだコロニー群や、地球等とはまた違い、ここには人のあるべき生活、というものが感じられる。
但し月地区も、地球連邦政府の圧政下にあることには変わりない。
いくつかの自治政府が存在するものの、それがきちんと自治政府としての役割を果たしているかと問われれば、微妙な所だ。
「火星開発公社月方面支社、確認。入港の許可を得たい。応答されたし」
ミランダが問うと、返事が返ってくる。
『こちら火星開発公社月方面支社。ナルコレプシー、その旨を良しとする。ポイントS46に、安全に着陸されたし』
やがてナルコレプシーは、指定された座標ポイントへと降下する。
久々に重力下の大地に降り立つ面々。
97エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:22:02 ID:???
「ったく、一時はどうなることかと思ったぜ。誰かさんが危うく遭難しかけたせいで」
ヴァイスがぶっきらぼうに言う。
「あら、そんな言い方ないじゃない。月に降り立った時、何度も心配して通信を寄越してきたくせに」
クランがヴァイスに軽口で答える。
「……チッ」
ヴァイスは小さく舌打ちすると、クランの方を見もせずに、ずんずんと歩き出していく。
「なによ、すぐスネちゃって」
クランが少し溜息をつきながら言うのに、モモが独り言を呟く。
「…どんかーん」
とにかく一同は、火星開発公社第二支社、通称月方面支社の本部へと(ややこしいが)、足を踏み入れるのだった。
面会室に顔を出すと、一人の女性が、彼らを迎える。
「ようこそおいで下さいました。私はルナリアン。ルナリアン・スロウンです、以後お見知りおきを」
ウェーブがかった栗色の長い髪の、知的な雰囲気の女性だ。
「只今支社長の方が急用でして、皆さま方のご対応に、秘書である私が担当させていただくこととなりましたことをお詫び申し上げます」
「歓迎、いたみ入ります。火星開発公社地球圏コロニー支社、第一次火星調査隊隊長、ギデオン・マクドガルです」
「同じく副隊長のクラン・R・ナギサカです」
かまずに挨拶出来たギデオンすげえ。
とまあそんなことは置いといて、自己紹介が終了した後、ヴァイスが口を挟む。
「ルナリアンって…この街と同じ名前じゃねえか」
「ええ。父母は、公社の技術者だったんです。それで、この街の発展を願って、ということで名付けられたんです」
ヴァイスの問いにも笑顔で答えるルナリアン。
そして口を開く。
「とにかく皆さんもさぞやお疲れでしょう。詳しい話は後日にお伺いすることにして、近くのホテルを手配してあります。今夜はそこでゆっくりお休みになって下さい」
「では、お言葉に甘えまして、失礼します」
ギデオンに続き、部屋を出る面々。ルナリアンが笑顔で見送る。
五人、いや、六人は、これまでの疲れを癒そうと、手配されたホテルへと向かって行った。

98エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:23:46 ID:???
「きゃーん! 久々のシャワータイムぅ!」
モモが嬉々として叫んだ。
女性陣は、真っ先にシャワー室を訪れていた。
「火星適応訓練のせいで、ここ最近はこうやってゆっくりとシャワーを浴びることもしてなかったわね……」
胸に温かいシャワーの水滴を当てながら、クランは体を火照らせていく。
「ふぅ…心の洗濯」
ミランダも、満悦といった感じで呟く。
汚れを、疲れを、そして痛みを、洗い流してゆく。
色々なことが起こり過ぎて、頭がパンクしそうになるクランを、温かなお湯が清めていゆく。
(本当に、色々なことがあったわね…)
火星での地下遺跡の発見。そこにいた謎のMS、ドルダと妹・シンシアに似た少女。
探し続けていた弟、アレスとの再会。そしてそのアレスが同じくガンダムと呼ばれるMSに搭乗していたこと。
現れた白いガンダムと、謎の少女。
自分の家族を、シンシアを、殺したと言った少女。
命の恩人、デイヴィッド・リマーとの邂逅。
一つ一つの出来事を思い出しながら、クランは体を清め続ける。
「あのぉ…クランさん?」
物思いに耽るクランを心配そうに覗き込むモモ。
「あ…大丈夫。ゴメンね。ボーッとしちゃってて」
クランは慌てて答える。
「じゃあ、私はあがるから。お先に」
シャワーを止め、バスタオルで軽く体を拭き、そそくさと出ていくクラン。
「…?」
モモは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐにまたお湯の温もりに酔いしれ出した。
99エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/25(木) 01:24:22 ID:???

クランは自らに割り当てられた部屋に戻ると、窓から街の様子を眺め始める。
相変わらずボーッと物思いに耽っていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「何を見てるの?お姉ちゃん」
「シンシア」
同じくシャワー室から出てきたシンシアだった。
「あ、いや…私、今月にいるんだんぁって思って…ほら、シンシアとアレスと月を見てた頃を思い出して」
言った後、クランは自らの失言に気づく。
そうだ、この娘は、アレスのことを…
シンシアは、クランの言ったことを無視して、クランの隣にやってきて、同じように街を眺める。
「綺麗、だね」
「…ええ」
勿論、その綺麗さは月の輝きによるものではなく、街のネオンだ。
「シンシア、ごめんなさい、私…」
クランは答えた後、やや気まずそうに謝る。
すると、シンシアは優しく言う。
「いいの。お姉ちゃんは悪くない。…少しずつ、思いだしていくから」
街の光が、より一層輝いて見えた。
「今はまだ、何もわからないけれど…思い出も優しさも。少しずつ、思いだしていくから」
言葉を切るシンシア。そして続ける。
「だから、待ってて。お姉ちゃん」
クランに向けて、精一杯の笑顔を見せるシンシア。
「…!」
クランは、その笑顔を正面から受け止め、そして再び窓の方を向き、街の光を仰ぐ。
「…そうね」
今、この月を、アレスは見ているだろうか…
そんなことを想いながら、クランはシンシアと二人並んで、月の街を見つめ続けた。

九話 終 十話に続く
100通常の名無しさんの3倍:2008/12/25(木) 13:48:42 ID:???
投下乙
人いねえな…
101いまは通常の名無しの3倍:2008/12/25(木) 17:45:40 ID:8GDQEpBT
GJです
は、速い……!!!
一日と経たずに投下とは、さすが。

思考を読み取る粒子……もしかしてデイヴの夢もこれが原因なのか?
とにかく武装転用できそうです。
102いまは通常の名無しの3倍:2008/12/25(木) 20:59:27 ID:8GDQEpBT
ダレモイナイ、キャラヲダスナラ、イマノウチ

というわけで外伝のキャラ設定を投下します。


名前 ラング・リッサー
年齢 26
生年月日 8月29日 
血液型 不明
身長/体重 182cm/78s

傭兵団”アスルビエント”唯一のパイロットで元地球連邦宇宙方面軍大尉。
出身地は不明だが、火星方面の出。地球連邦軍ではラング・レムリンという偽名を使っている。
ころころと態度や言動が変わるが、その全ては演技、のように見えるし素のようにも見える。
2年前の事件でドルチェに相棒を撃墜されたため、深い怒りを持っている。

MSの操縦はもちろん戦闘機やMAの操縦も出来るマルチパイロット



名前 ミリン・タチバナ
年齢 19歳
生年月日 3月31日
血液型 AB
身長/体重 170cm/53kg

アスルビエント母艦”アスルファイサ”のオペレーター。愛称はミリー
元は火星公社の輸送船オペレーターだったが、事故で遭難していたところをアスルビエントに助けられ、
そのまま成り行きでオペレーターとして残った。
人に干渉されることが大嫌いで、自分のことに口出しされると激しく怒る。ただし信頼している人間は別。
皮肉屋だが礼儀正しい。クランとは小学校からの付き合いがある。

103いまは通常の名無しの3倍:2008/12/25(木) 21:00:46 ID:8GDQEpBT

名前 カルロ・ビスターシュ
年齢 23歳
生年月日 10月21日
血液型 不明
身長/体重 176cm/63kg

アスルファイサの操縦士兼船長。
元はダーツと呼ばれる高速艇を乗り回すダーツ乗り。
もともとラングとは親交があった為、共にアスルビエントを結成した。
船での発言権は低い。


名前 ノワ・ノワゼット
年齢 29歳
生年月日 6月7日
血液型 不明
身長/体重 178cm/60kg

カルロの従姉。アスルファイサの砲撃手をつとめる。
カルロのことを弟のように可愛がっているが、カルロからは恐れられている。
ラングとは従弟と同じく親交があり、非常に気が合う。
ある意味船で一番の発言力を持つ。


今のところはこれだけ。
104バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/25(木) 21:24:40 ID:???
エルト氏乙です。
遅筆の私としてはその速筆っぷりを尊敬します。
新キャラのバーゲンセール!そしてエリスの電波っぷりが最高!
レオ五郎右衛門の名前も明らかになったし…

>残留思念や人の思考、記憶を読み取る粒子
そのネタ頂き!来年あたりに学園ドルダで使わせてもらいますね。

すいません、キャラデザはもうしばらくお待ちくださいorz
105コナイ:2008/12/25(木) 21:31:59 ID:8GDQEpBT
571、いまは通常の名無しの三倍と名前を変えて来たコナイです。
571=コナイです。
外伝の第一話が出来たので投下します。
つたない文章ですが最後まで読んでくれるとありがたいです。
では
3……2……1……投下!!!
106コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:36:26 ID:???

 火星上空、大量のデブリが漂う中を一隻の輸送船が進んでいく。
 それを狙う三機のグワッジの姿がデブリの陰にあった。
『へへ、また獲物が来たぜ』
『ありゃあレアメタルの輸送船だぜ』
『じゃあ、あれを襲えば俺達は金持ちだな』
 無線を通じて下卑た笑い声が聞こえてくる。グワッジのパイロット達の声だ。
 火星周辺は多くの資源衛星があり、またそこでは多くのレアメタルが採れる。
 それが火星コロニーの人々を支える貴重な収入源の一つとなっている。
 だが、その労働環境は劣悪極まりなく、毎月何人もの死者が出ている。
 更には親がいない子供たちを引き取って働かせるところまである。
 しかしそんな劣悪な環境でも、生きるためには働かなければならない。
 そんな過酷な火星の環境が、時に非常に厄介な副産物を生み出す。
 そう、彼ら、グワッシュのパイロット達のような宇宙海賊である。
 海賊の存在はいつの時代も厄介でしかない。そしてその存在が、火星周辺の治安の悪さに拍車をかけていた。
『見たところ護衛もいなさそうだ。一気にやっちまおうぜ』
 そういって一機のグワッジが120ミリマシンガンを構えた。
 久々の大物だ。逃す手立ては無い。他の二機も同意の声を上げ、武器を構えようとした。
 しかし、それよりも早く、デブリの影から突如現れた何かが最初に武器を構えてグワッジに直撃し、それと同時に爆発する。
 更にもう一つ、またもデブリの影から長方形の筒、ミサイルが飛び出し同じグワッシュに命中した。
 二発のミサイルの直撃を受けたグワッジが無残に爆散する。それと同時に他の二機が背中合わせに武器を構えた。
『な、何だ!!何が起きているんだ!!』
『敵がどこかに隠れてるんだ!』
 二人のパイロットは慌ててカメラとレーダーの両方で敵を探した。しかしレーダーに反応は無く、カメラでも捕捉できない。
『見つけたか!?』
『いやみつかんねぇ!!いったいどんな手品を使ったんだ!?』
 そういいながら、二人のパイロットは懸命に見えない敵を探した。
 熱探知、電波、カメラなど考え得る方法を尽くして探したが一向に見つからない。
 いくらデブリの中とはいえMSレベルのものが近づけば熱探知やレーダーに何らかの反応が出る。
 一撃離脱の戦法で逃げたと思い緊張を解いたパイロット達の耳に、歌声が聞こえてきた。
 思わず惚れ惚れしそうな女性の声である。普通なら聞きほれるところだが、パイロット達は違った。
 初めに凍りついた。信じられないものを見たときの人の反応と同じように。
 次に二人同時して同じ行動を取った。つまり、それぞれ別の方向に逃げ出したのだ。
 今二人の頭には女性の歌声は入ってこない。彼らの頭にはその時、一つの名前が焼き付いていた。
 (ローレライの悪魔)
 "目に見えず、熱すら持たない悪魔。その歌声を聴いたらすぐに逃げなければいけない。さもなければ必ず殺されるだろう。"
 行きつけの酒場のマスターが口にした、目に見えない歌姫の噂話。
 初めにその話を聞いた時、彼らはその話を笑い飛ばした。
 姿の見えない悪魔などいない、いたとしても如何程のものか、と。
 しかし、今ではそんなことも忘れ、ただ見えない恐怖から逃げ出そうとした。
 彼らは今、まさにその(ローレライの悪魔)に襲われているのだ。
 機体にデブリが当たっても気にせずに逃げる。
 肉食獣から逃げる草食動物のように。
 ひたすらに逃げ、やがて少し落ち着きを取り戻した。
 先ほどの場所からずいぶん離れた。ここならもう大丈夫だろうと、彼は安堵し、休もうとした。
 そして、姿を隠そうとデブリの後ろに回りこもうとした男が見たものは緑色の光だった。
107コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:37:02 ID:???
 グワッシュがデブリごと真っ二つに切断され、爆散する。
 二機のグワッシュを葬った悪魔は、翼から伸ばした光の刃を消し、残った一機に向かって突撃した。
 先程のグワッシュとは反対方向に逃げていた為、その姿は豆粒ほどに小さい。
 しかし悪魔は、恐るべきスピードでデブリの中を駆け抜けていく。
 全力でバーニアを吹かしているグワッシュよりもなお速く、しかもほとんどデブリに当たらずに宇宙の暗闇を進む。
 見る見るうちにグワッシュとの差は狭まり、迫っていく。
 寸前でそれを探知したグワッシュのレーダーが警告音を鳴らす。
 それに気付いたグワッシュのパイロットが死ぬ物狂いで反撃しようとグワッシュを振り向かせようとした。
 しかしグワッシュが振り返るよりも速く、悪魔は翼から再び光の刃を出現させ、グワッシュを追い抜きざまに両断した。

 破壊され爆散するグワッシュの火球が宇宙を赤く照らす。その赤い光を後に悪魔はデブリ帯を抜けた。
 所定のポイントまで移動すると、そこには一隻の高速船が停泊していた。
 悪魔はその高速船の下部へと速度を落としながら滑り込む。
 高速船の下で悪魔が完全に止まるとハッチが開き、中から3本のアームが出てきた。
 それによって悪魔がハッチの中に収納されると、高速船は無音の宇宙を静かに走りはじめた。




 進宇宙暦102年、人の歴史に大きな傷跡が刻まれた年。
 火星と地球による戦争、その最中には常にガンダムの姿があった。
 しかし、ガンダムでも軍でもなく、一つの勢力として戦争を駆け抜けた者たちもいた。
 戦いを生業とし、安息と緊迫の狭間に位置する者達。
 そう、人は彼らを「傭兵」と呼んだ。



新機動戦士ガンダムDollda外伝第一話 「"始まり、使命、焔星"」


 火星からアストロイドベルトの間、おそらくこの進宇宙暦でもっとも治安の悪い区間。
 そこでは宇宙海賊やテロリスト、犯罪者が潜み、獲物や機会を待っている。
 ゆえに地球連邦軍は幾度となく火星−アストロイドベルト間の浄化作戦を行ったがその全てが満足な成果を挙げることをできずに終わっている。
 アストロイドベルトの大量の小惑星と、それを生かす奇襲戦法を得意とする海賊達に真正面からの戦闘に慣れた軍では太刀打ちできないのだ。
 そのため地球連邦軍はこの宙域の安全確保をほとんどあきらめた。調子に乗って海賊たちが地球圏に来ないように小規模な掃討作戦を行うだけである。
 連邦軍はそれでよかったかもしれないが火星の人々にとってはちっとも良くなかった。
 特にアストロイドベルトの資源衛星からレアメタルや鉄を運搬する者たちにとって死活問題である。
 そこで彼らは自分のみは自分で守るという精神の元、輸送船を武装したり自分自身でMSを操ったりと自衛手段をとった。
 しかしそれだけでは宇宙海賊には対応しきれない。
 いくら武装したりMSを操っても所詮素人、その手段はほとんど効果を示さなかった。
 ならばと、戦闘のプロ、つまり傭兵を雇うものが出始めた。そしてその効果は抜群だった。
 多少金は掛かるが安全に物資を輸送できるならその程度の出費は惜しくないと、他の者達も次々と傭兵を雇い始めた。
 しかし急な需要の増加に対して腕の立つ傭兵の数はあまりに少なかった。
 そのため商人達はいい傭兵を得ようと必死に金を出すようになった。
 それを求めて多くの人が傭兵になり、数年で火星−アストロイドベルト間で働く傭兵の数は4倍近くになった。
 今では需要と供給のバランスが取れ、以前より金回りは悪くなったもののそれでも仕事に困るものはいない。
 これが傭兵業の発展の歴史だ。そしてその傭兵の中でも一際有名な傭兵団があった。
 それが「"アスルビエント"」、翼を広げた青い鳥のマークをもつ傭兵団だった。
108コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:37:48 ID:???
 男がベッドの上で横になりながら歌を聴いていた。
 宇宙船の狭い個室だがほとんど物は無く、ベッド以外のものといえば服などを入れたロッカーと古いタイプのオーディオプレイヤーが一台置いてあるだけだ。
 歌はそのオーディオプレイヤーから流れてきたものだ。
 静かな哀愁が漂う音と、澄んだ女性の声。
 例えるなら霧の深い月夜のような、美しくそれ故に悲しみが溢れる声。
 男はそれを心地よさそうに聴きながらベッドに横になっていた。
 男の名前はラング・リッサーと言う。やや短めで長さが不揃いな赤い髪と、目を閉じているため今は見えないが深い青い瞳を持っている。
 顔も、美男子とは言えなくとも中の上程度の評価はつけられる。
 身体は水泳選手のように引き締まった筋肉をつけているが、それ以外は特に目立つものは無い。
 傭兵団"アスルビエント"のパイロット、ラング・リッサーはそんな、冴えない若者のような容姿を持っていた。

 しばらくして歌が終わると、ラングは名残惜しそうにオーディオプレイヤーの電源を切り、上着を羽織って部屋を出た。
 この船は居住区が驚くほど狭い為、通路の幅も狭い。大人二人が互いに壁に張り付いてもすれ違うことができないほどだ。
 ラングはその広い肩が壁に当たらないようほとんど横を向いて通路を移動する。この船は船底部で発生させている重力が弱い為、浮くように通路を移動できる。
 部屋を出て数歩のところでドアにぶつかる。ラングはドアの開閉スイッチを押し、ドアを開けその中に入っていった。
 そこは先ほどの通路が嘘のように広い空間だった。いや、先ほどの通路のせいで広く見えるのかもしれない。
 だが少なくともテニスコートの半面ほどの広さはある。その広い空間の中に、いくつかの席と同数のコンソールが設置されている。
 そして帯状のモニターに映し出された宇宙が、それらを囲むように存在している。
 ここはこの船、アスルファイサのブリッジ。この船のほぼ先端に当たる部分だ。
 そんなブリッジの中央、最も高いところにある席の上で、一人の男が静かに寝息を立てていた。
 その手にはこの船の舵が握られており非常に危ないのだが、彼に言わせればこんなところ眠っていても通り抜けられると言う自信の表れらしい。
 確かにその状態でデブリの隙間を縫うように船を操っているのだからその操船技術の高さが伺える。
 そしてその周りにいるほかのクルー達も彼を起こさないことから、仲間からの信頼の高さも伺える。
 だがそれでも怖い為、ラングは男を起こすことにした。
「おい、カルロ、起きな。ほら、ほら、ほら」
 ラングは男の足を下から掴むとありえない方向に無理やり曲げようとした。
 突然の激痛に男が飛び起きるとぱっと手を放し、笑顔でおはようと言う辺りが怖い。
 男の方はおはようどころじゃない。気持ちよく快眠(船を操りながらはどうかと思うが)していたところを無理やり起こされたのだ。しかもかなりの痛みを伴って。
 怒鳴ろうとして自分の足元に顔を向け、口を開いたところでげんなりと息を吐いた。
「なんだお前か、ラング」
 なら仕方が無いと男、カルロ・ビスターシュは呟いた。そのままため息をつき、色の濃い茶髪に手を突っ込む。
「あーくそ、後もう少しで木星までいけたのによぉ」
「どうせ夢だろう?」
「夢に見ちゃいけないか!?ダーツ乗りにとって木星の氷の輪は憧れの場所なんだぞ!」
 カルロがぐっと拳を握り力説する。
 ダーツと言うのは一人乗りの小型高速機で、その流線型の形からそう呼ばれている。
 これに乗る人はダーツ乗りと呼ばれ、宇宙船を操舵するものにとって敬意を示すものとなっている。
 と言うのもダーツがあらゆる宇宙航行船よりも速く、そしてその速さゆえ操作が難しいからである。
 火星ではそうしたダーツ乗りが多く、その速さを競うレースや勝負が頻繁に行われている。
 地球で行われているストリートレーシングと同じようなものだ。
 ダーツの値段自体もさほど高くなく、簡単に手に入る為、その競技人口は非常に多い。
 年に何度か火星公社主催の大規模な大会が開かれ、その中継は火星コロニーすべてで放映される。
 ゆえに優れたダーツ乗りは総じて有名になり、多くの憧れや敬意をその身に受ける。カルロもその一人だ。
109コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:41:10 ID:???
 だがそんな男もラングにとっては年下の若者でしかない。いつものように力説するカルロを無視し、いつもの席に座った。
「んー、9時間ぐらい寝たかな?宇宙だと時間の感覚が分からなくて困る」
「15時間ですよ、先輩」
 と、ラングの横から冷ややかな声が聞こえてきた。声の方向に顔を向けると黒い長髪が目に入ってきた。
「よぉ、ミリー、今日も綺麗だな」
 そうラングが言うとミリーと呼ばれた女性はとくに表情を変えずに「下手なお世辞はいりません」とだけ言った。
 彼女の名前はミリン・タチバナといい、まだ19歳の若いオペレーターだ。
 そのツンツンとした興味なさげな態度は、クルー達にとっても既におなじみのもの。
 特に何かとミリンに話しかけるラングには慣れたもので、いくら興味なさげでもかまわず話続ける。
 そしてミリンが切れる寸前で話を終わらす。周りから見ればミリンがラングに手玉に取られているように見える。
 これも、クルー達にとっておなじみの光景だ。ちなみにミリーという呼び方はラングの考えた愛称。
 ほとんどのクルーがこの呼び方を使う。

 今日もまたラングに手玉に取られたミリーはそれだけで人を刺し殺せそうな鋭い視線を隣に座る対象に向けていた。
 ラングは気にせず、次の依頼内容に目を通した。
「火星上空の警邏?カルロ、お前こんな仕事受けたのか?」
「ん、ああ。なかなかの額がもらえる仕事だったしな。嫌か?」
「いや、そういう判断は全部お前に任せてるから、お前が選んだ仕事ならいやでもなんでもないんだが……」
 カルロの返答を聞いてもラングには納得できないものがあった。だがそれを決して口に出さない。口に出す必要が無い。
 ラングはラングなりにカルロのことを信頼している。だから必要ない。
 自分は、だが。
「カルロ!この仕事の概要、詳しく聞かせな!」
 後ろでドアが開いたと思えば途端威勢のいい女性の声が聞こえてきた。
 ラングが後ろを振り返るとそこにはカルロをじっと睨む茶髪の女性がいた。
「ね、従姉さん……」
 それに気圧されるカルロ。女性の名はノワ・ビスターシュ。カルロの従姉でこちらも元ダーツ乗り。
「あんたの事だからまともな任務だろうけど、警邏を傭兵に頼む時点でおかしいと思わなかったのかい!?」
「い、いや、向こうにはちゃんとした理由があったし……」
「理由?こっちは聞いてないよそんなもん!いったいどんな理由だったか、答えてみな」
「い、いや、近くで海賊が出たからそれを退治するけどその間警邏ができないから代わりにって……」
 先ほどラングと話していたときとは違うおどおどした口調で説明するカルロ。
 彼にとってこの従姉は畏怖の対象で、絶対勝てない相手でもあった。ラングと出逢った頃から今まで二人の力関係は一切変わっていない。
 以前昔の頃をたずねた時、カルロは全身を震わせながら必死に首を振り、何も答えなかった。それだけの恐怖をこの従姉に感じているということだ。
「で、それを聞いて納得したあんたはこの仕事を受けたってことかい?」
 カルロが必死に頭を縦に振る。それに対してノワは呆れたといった感じで、しかし確かに怒気を含んだ声音で言った。
「あんた、今火星の動きがおかしいこと知ってるさね?そんなときに火星の警邏を受けるなんてあたしゃ信じられないよ!全く。一応アルにはいつでも出せるように言っといたよ。なんか起きた時の為にね」
 ノワとカルロの会話を聞いている間、ラングはずっと笑いっぱなしだ。無論隠れてだが。
 隣のミリンも同じように笑み……ニヤリとした嫌な笑みだが会話を聞いている間笑っていた。
 こうやって仕事の疑問点はすべてノワがカルロに詰め寄るおかげで無くなる。
 いつの間にかそういう分担がノワについてしまったのだ。そんな彼女も別にカルロが嫌いなわけではない。
 弟として可愛がっているし信頼もしている。けれどそれとこれとは別らしく、ほぼ毎回あのようにカルロに詰め寄る。
 この船では当たり前の光景に、ラングは安堵感を覚えた。
「ふぅ、やっぱりいいな。」
 そう呟くと、ラングは背もたれに身を任せ、ゆっくりと瞳を閉じた。
 戦場とは違い、変化の乏しい、惰性とさえ言われそうな日常。
 ラングはそんな日常が好きだった。その中に身を委ね、気ままに生きるのも彼の憧れだった。
 ……例えそれが次の瞬間陽炎のように消えてしまうほど儚いものでも……
110コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:42:38 ID:???



……リッサー……
 突然耳の奥に声が響いた
 鼓膜を伝ってではなく、脳に直接呼びかけられたような感覚的な声
 同時に苦痛に似た閉塞感に襲われる
 いま自分がいる場所が分からなくなるような強い閉塞感
……私の……声は……聞こえる?……
 再び声が聞こえる
 ラングは答えようとしたが口が動かない
 それどころか指一つ動かすことができない
……あなたの……使命……世界の……声……Doll……
 目の奥に強い刺激が走る
 思わず目を開いたが、何一つ見えない
 ただ暗闇だけが広がる
……覚えていて……この光景……止められるのは……イレギュラーの……貴方だけ……
 声と共に、今度は一つの光景が頭に入ってくる
 二機のガンダムが互いを刺し貫き、爆散する
 同時に火星と地球をすさまじい閃光が包みこむ
 その閃光は、一瞬にして多くの命を奪い去った
 ヒトも、動物も、星さえも
……これは……私では止められない……Dollでも……貴方でなければ……
 徐々に声が小さくなっていく
 ラングは待ってくれと叫びたかった
 しかしいくら叫ぼうとしても口は、身体は動いてくれなかった
……お願い……ラング・リッサー……まことの……私の……民……
 まて!!待ってくれ!!消えるな!!まだなにも!!!
 声ではなく、心で叫ぶ
 瞬間、暗闇は白い光に包まれ、ラングも共に光に包まれる
 ま……て……まだ……なにも……
 光と自分の境が無くなっていく
 自分の存在が消えていく感覚
 そんな中ラングの心は叫び続ける
 だめだ……消えては……まだ……まだ……!!!!
 手を伸ばして気がした
 もう感覚も消えかけている
 だが確かに手を伸ばした気がした
 そしてその手を、誰かが優しく包むのも、確かに感じた
……私の……名前は―――
 声が聞こえたと感じた瞬間、ラングの意識は光と同一化した



111コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:44:45 ID:???


「!!レーダーになんか引っかかったぁ!?」
 いつの間にか眠っていたラングはその声に起こされた
 声の持ち主は先ほどからずっと通信機器やコンソールを動かしていた金髪の男だ。
 途端、そこにいた全員の表情が引き締まる。目が覚めたばかりのラングも例外ではない。
 瞬時に覚醒し目の前のモニターをじっと睨む。
「シェバル!!何が引っかかった!!」
 ついさっきまで情けなかったカルロも、まるで別人のような鋭い声を飛ばす。
「か、かなりの熱源を持ってる!!デブリじゃない!それにこのスピード、MSだ!!」
 シェバルと呼ばれた男は始めこそ上擦った声を出したが後になるほどその声は落ち着いてきた。
 この速い落ち着きが彼らの強さの一つであった。
「MS!?グワッジか!?」
「違う、それより速いし、データにも存在しない!!」
「ち、向こうが味方である可能性は!?」
「ありません。先ほどから連邦軍の通信回路で呼びかけてますが反応無しです。」
 さほど広くないブリッジで慌しく情報が飛び交わされる。そんな中、ラングだけが口を閉じ、じっと自分のコンソールに出された相手の情報を見つめていた。
 やがて、静かに口を開く。
「火星か……」
 その言葉に、カルロは即座に頷き、言った。
「だろうな、ラング、出てくれ!」
「よし来た。やれやれ、今度からは仕事を選んでくれよ船長」
 ラングはシートのベルトを外すとカルロの肩軽く叩きながらそう言って、ブリッジを出て行った。
 先ほどの夢も忘れてはいないが今はそれも意識の片隅に追いやった。
 いまは目の前の事に集中する。その切り替えの速さもラングの強さだった。
 ラングが目指したのは格納庫だった。さほど大きくない船の為20秒もかからずに格納庫の扉の前に着く。
 先ほどと同じようにドアの開閉スイッチを押し、ラングは格納庫に入っていった。

 初めに目の入るのは惚れ惚れするような深い黒。続いてその黒で塗られた4枚の主翼といくつかの武装、そして本体。
 狭い格納庫の中、一機だけ存在する美しい機体。
 MAF−01『セイレーン』
 ラングの愛機にして、現在ではかなり珍しい完全な戦闘機だ。そう、MSではなく戦闘機。ただし旧時代の戦闘機とは違う。MSと同等の力を持たせる為に作られた試作型高性能戦闘機。
 多くの試作武装が搭載されており、連邦内部でもその存在を知るものは少ない。これは機密と言うわけではなく興味を示す人間がいないだけである。
 MSが主流の今戦闘機など取るに足らない。そう考える人間のほうが遥かに多い時代だ。その考えを変え、戦闘機の支援機としての有能さを示す為に作られた機体。
 それがMAF−01『セイレーン』だった。
 ラングはすばやく愛機に近づくと、コックピットハッチを空け、中に飛び込む。
 ハッチを閉め、コンソールに起動キーを打ち込み、『セイレーン』を起動させる。
 同時に『セイレーン』の機体各部に赤い光が走り、すぐに消えてしまった。
 その様子を中にいたラングは見ることはできなかったが、全周囲モニターが起動したことでその現象が起きたことを知ることはできた。
 さらに機体各部を細かく動かし、以上が無いことを確かめ終わると、機体の下にあるハッチが開いていくのが目に入った。
 ぱっと顔を上げると入り口近くのコンソールを操作していた少年がぐっと親指を突き出してきた。
 ラングは相手に見えないことを承知で同じように親指を突き出し、すっと表情を引き締める。
 ハッチが開ききり、『セイレーン』を支えていたアームが船の外に『セイレーン』を出す。
「ラング・リッサー!!!行ってくる!!」
 アームから機体が解放された瞬間、美しい歌声を持つ魔性の鳥は宇宙へと飛び立って行った。

112コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:45:41 ID:???
 アスルファイサから出撃したラングは、程なくして身元不明のMSを見つけた。
 データが無いと聞いたからてっきりカスタムされたグワッジかムウシコスだと思っていたが全く別の機体だ。
 紅く塗装され、ビームライフルを構えながらこちらに突撃してくる三機のMS。
 確かにグワッジとは比べ物にならないほど速い。最新型のガーランドよりも速いかもしれない。
 だが……
「『セイレーン』から見ればまだまだ遅い、な」
 そういってラングは三機のMSの後方に回った。
 ステルス機能を持つ『セイレーン』を三機のMSは捕捉できていないのだ。それに気付かぬままアスルファイサに近づく三機。
 ラングはその後ろにしっかりとついていく。怪しい動きをしたらすぐにでも打ち落とせるよう小型ビームキャノンの標準をそれぞれの機体に合わせる。
 自分達の後方で魔性の鳥が爪を磨いているのも知らず、三機のMSはアスルファイサに近づき、突然止まる。
 それに合わせ『セイレーン』も逆噴射を用いて停止する。
「そこの船!!!所属と船名を言え!!」
 通信を通じて若くない男の声が聞こえてくる。おそらくMSのパイロットの一人だろうが、なかなかに重みのある声だ。
「人に名前を聞くならまず自分から名乗れ。お前達はどこの所属だ!?」
 こちらはアスルファイサから。カルロの声だ。
「どこの所属かって?教えてやろう!!我らこそ地球連邦の圧政から火星を救おうと立ち上がった、火星義勇軍だ!!どこの馬の骨か分からんが我らに会えたことを誇りに思うがいい!!」
 ずいぶんと尊大な口調で先ほどのパイロットが言う。ラングはやや呆れながらも、火星義勇軍と言う言葉に興味を持った。
 何故なら名前だけならば既に知っている存在だからだ。
「火星義勇軍ねぇ。こっちの船名はアスルファイサ、所属は傭兵団アスルビエントだ。」
 こちらもやや呆れ気味に言葉を返すカルロ。それに対しての反応はあまりよくなかった。
「ふははは、なかなか通った名前だが、あのアスルビエントがそんなちっぽけな船に乗っているはずがあるまい!とにかく、お前達の船は我々が拿捕する!!下手な抵抗をしてみろ!!どうなっても知らんぞ!」
 相変わらず尊大な態度を崩さないパイロットに対して、溜息交じりのカルロの声が聞こえてきた。
「はぁ、下手な抵抗はするな、か。じゃ、上手に抵抗すればいいのか?まぁ良いか。ラング、やってくれ」
「了解」
 カルロの言葉に対し即答したラングは、何のためらいも無く引き金を引いた。
「何!!」
 カルロの言葉に異常を感じたMS達がアスルファイサに向けたビームライフルを撃とうとしたが、時既に遅し。
 『セイレーン』の4枚の翼に取り付けられていた小型のビームキャノンが、それぞれのMSの胸部を正確に撃ち抜いた後だった。

 目の前で爆散したMSには目もくれず、ラングは『セイレーン』の通信を全周波に変え、あるものを探す。
 アスルファイサでも同じことが行われていた。彼らの探していたもの、それは火星義勇軍の宣戦布告だ。
 地球には無い新型のMSを開発しているほどだ。それが行われていてもおかしくない。
 幸い、探す必要なかった。通信に、全周波で強い割り込みがはいって来たのだ。
『我々、火星コロニー群独立運動団体は今この時をもって、地球連邦に対し独立を宣言する!』
 強制的に開かれたモニターに映る、壮年の男性。モニター越しからでも伝わる、研ぎ澄まされた覇気。
『ダイモスよりもたらされた技術が、我々を勝利へ導くのだ!!』
 男は手にした日本刀を掲げ、高々と言い放った。
 途端、通信という事を忘れてしまいそうになるような爆発的な歓声が巻き起こる。
113コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 21:49:12 ID:???
 その歓声をしばらく聞いていたラングは、いい加減飽きてきたのかすべての通信を切った。
 熱狂的な歓声も消え、仲間の声すら聞こえなくなったコックピットには、ただ無音だけが広がる。
 全周囲モニターの、ちょうど正面にテラファーミングの終わった、赤と青の火星が見える。
 その姿が目に入った瞬間、再びあの夢がフラッシュバックする
 語りかけてきた声、頭の中に入ってきた光景……
 激しい頭痛と共にそれらがひとつ残らず浮き上がり、渦に飲まれるように混ざってゆく。
 全てが混ざり合い、一つの情報となった時、ラングは目を見開いた


 幼い頃の記憶、父親と母親が見せてくれた光景
 何千年も前から世界を変えてきた意思
 そしてその意思を具現化するために作られて人形達
 そして同時に蘇える父の言葉

 
 それが、彼に確信を与えた。
 真(まこと)の火星の民、1400年前から火星の地下遺跡に住み、研究を重ねてきた民。
 地球の歴史には決して残らない時間を生きてきた民。
 その民を統べる火星の領主だったリッサー家の使命。
 ならば、とラングは思う。
 その使命、果たして見せよう。
 配役の決まったこの人形劇で、唯一のイレギュラーとして、生きて見せよう。
「それが、真の火星の民の最後の一人である俺の役目なんだろ」
 そう、力強く言い放つ。
 自分が生まれ育った火星に向かって。

 どこからか、返事が聞こえた気がした。






 進宇宙暦102年
 火星の独立宣言と時同じくして火星上空に咲いた小さな決意の花。
 それは、表の歴史から見れば取るに足らない些細な出来事だった。
 だがそれすらも彼らは記録する。
 途絶えぬ世界の声を聞き続け、多くの惨状を目に焼き付け、彼らは歴史を記憶する。
 それは決して表の歴史、正史には残されない。存在すら肯定されない。
 だが確かに彼らは存在し、記憶し続けていた。
 後の世に伝わる『焔星の外史』、これはその一行の中の出来事だった。
114コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/25(木) 22:26:52 ID:???
以上です。
ラングは人間ですよ。あはははは
第二話はいつ書き終わるか分かりません。
というのも元々筆の進みが不安定な上、受験があるため時間配分が難しくなったため
というわけでまた忘れた頃に来ると思いますので、記憶の片隅に放置しておいてくれるとうれしいです。
それでは
115バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/25(木) 23:09:12 ID:???
改めて初めまして、コナイ氏乙です!
この作品は一年戦争外伝やSEEDアストレイ的な何かを思わせます。
主人公が戦闘機で戦う所も良いですね。ざっくりwikiにまとめてみました。
116エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 02:18:38 ID:???
どうもこんばんは

>>バルド氏
wiki更新いつも乙です。キャラデザの方も楽しみにしてます。
あと、予告といっちゃなんですが、新説に伊吹・アダルベルトを登場させる予定ですw

>>コナイ氏
外伝一話読みました。おもしろかったっす。また一話からぶっ飛んでますね、色々と。
主人公が戦闘機乗りなところにしびれました。
受験か…いやぁ死ぬ思いしたなあ…
とりあえず頑張って下さい、しばらくここのことは忘れてwでないと…死ぬぜ?(何

今日はいるかいらないか微妙な設定集もどきを投下。ではいきます
117エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 02:19:59 ID:???
その1。

地球連邦政府:
現在、世界の全権を掌握し、その政の全てを司っている政府。
国連から発展したもので、歴史的にも正当にその権力は認められている。
政府議会上層部がアースノイドで構成されている為、コロニー、月等に対して圧政を強いている。
資金力は豊富だが、コロニー群を蔑視しており、その力を軽視しているきらいがある。

地球連邦軍:
地球連邦政府直属の組織で、世界で唯一の公式的な軍隊。
世界で起こっている様々な紛争・事変等に武力介入している。
宇宙に展開する連邦軍は、「コロニー軍」「火星コロニー軍」等と呼ばれているが、母体は同じ。
一般に、地球連邦軍という名称は、地球に滞在する軍のことを指す。
階級は同じでも、地球連邦軍とコロニー軍では、地球連邦軍の士官の方が強い権限を持つ。

アースノイド:
地球生まれ、地球育ちの人々の事。
コロニーや月に住まう人々を見下すような意識を有している。
地球連邦政府の上層部は全てアースノイドで固められている。
地球の外の者達に敏感で、もともとアースノイドでも仕事や外遊等の事由以外で一度地球を出、コロニー等に移住すると差別の対象となることがある。

新説劇中では主に以下の人物がアースノイドである。
元・アースノイド:
クラン・R・ナギサカ、デイヴィッド・リマー(現・スペースノイド)
アレス・ルナーク、ティモール・ルナーク(現・マーズノイド)

現・アースノイド:
フィリア・シュード、ディック・オメコスキー、シヴォーフ・ラーグ
アルフ・スメッグヘッド、カナン・ラヴホールド、ヴァニラ・ヴァニニ
ネルネ・ルネールネ、ゲイリー・ターレル、カマッセ・ドッグ
118エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 02:21:10 ID:???
その2。

火星圏コロニー:
火星開拓のために設置されたコロニーだが今では多くの人が住んでいる。
食糧の自給が困難で地球から輸入しているがその値段は通常の価格よりも遥かに高い。
長らく地球の圧政下にあり、地球に対する不満や不信感は頂点に達している。
地球に対して面従腹背を貫き、裏では火星の資源を横流ししたり
アストロイドベルトから資源衛星を持ってきてそこから資源を調達したりしている。
そのため資源はそれなりにある。また技術力も高い。ただし資金が無い。
火星のテラフォーミングが終了し、食糧の自給が可能になった。

マーズノイド:
火星コロニー群で生まれ育った人々のこと。
長らく連邦政府の圧政に苦しんでおり、その暮らしのせいか他人というものに対して常に疑心を抱いている者が多い。

新説劇中では主に以下の人物がマーズノイドである。
マスター・ベイト、宗谷陽光、ミランダ・ウォン、ヴァイス・トロニクス

地球圏コロニー:
地球圏及び月周辺に展開するコロニー群。
ただしこちらのコロニーは長く存在しているため、いくつかの企業が存在し、工業用コロニーもある。
長らく地球の圧政に耐えてきたため、火星コロニーには同族意識がある。
技術力はあるが、資源及び資金が無い。

スペースノイド:
地球圏コロニーで生まれ育った人々のこと。

新説劇中では主に以下の人物がスペースノイドである。
ギデオン・マクドガル、モモ・マレーン、ジミー・アン
アーロン・キム、伊吹・アダルベルト

コロニー軍:
正式な名称は地球連邦軍・宇宙方面支軍。
地球圏コロニーに存在する地球連邦軍。
地球連邦軍と主だった違いは無いが、軍としては中流に当たる。
火星コロニー軍を見下すきらいがある。

火星コロニー軍:
正式な名称は地球連邦軍・火星方面支軍。
地球連邦軍及びコロニー軍から見下されており、「三軍」の蔑称で呼ばれることも少なくない。
しかしその実力は地球連邦軍・コロニー軍よりも優れている。
現在内部分裂が起きており、独立派と称する一部の者達が「火星義勇軍・ダイモス」を名乗り、軍を離反した。
119エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 02:22:26 ID:???
その3。

火星義勇軍・ダイモス:
火星コロニー軍より離反した一部の、火星コロニー独立派を称する者達の集団。
総帥はマスター・ベイト元火星コロニー軍大佐。
その補佐として、宗谷陽光元火星コロニー軍大尉、ジミー・アン元火星コロニー軍大尉がいる。
宗教性から発足したベイト派と、純粋に独立を求める宗谷派の、二つの離反組織が手を組んだもの。
「コンパニヤ」というマーズノイドの宗教信仰者が構成員の大半を占めている。
ティモール・ルナーク博士とその第一助手、エステルにより、連邦政府が持ちえない技術力を有する。

月:
月にもドーム状のコロニーが幾つか形成されている。
火星コロニー群に比べると治安は良い。

どうでもいいけど、MSの力関係をば。

ドル・デー>ローズ>ムウシコス>(ビーム兵器の壁)>ガーランド>ドグッシュ>グワッシュ>(プラズマ兵器の壁)>ジオネオ>ヘッドバレット>プーリッツ
120エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 02:25:59 ID:???
なんかあったら適宜追加していきます。
これちゃうやんとか、ここはこうせいとかあったら言って下さい。
ちなみにこれはあくまで新説ドルダでの設定なんで、本編の人はお気になさらず。

それじゃあサヨウナラ
121エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 05:59:10 ID:???
おはようっす。十話前半投下します。
しばらく投下出来ないんで、前倒しで。
122エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:01:03 ID:???
新説ガンダムドルダ
第十話 追撃、そして

天高く聳え立つ高層ビルの群れ。都会のネオンは淡い幻想。
街の喧噪もあまり見られないここは、地球の中でも比較的治安の良い場所だ。
公社の寄越した小型飛行挺に乗車した(この時代・この世界における乗用車の一種なので、敢えてこの表現を使用することにする)、フィリア・シュード。
頬杖をつき、景色を眺めていると、助手席に搭乗したカナンが話しかけてくる。
「シュード主任、初めての火星はどんなモンでした?エイリアンとか、いそうな感じのイメージが俺の中にはあるんだけどねえ」
意外と話好きなのかもしれないこの男。
「エイリアンもプレデターもいませんよ。全て昔の人達の妄想です」
「夢がないねぇ」
「夢は見る物じゃなくて、叶える物ですよ」
デイヴ譲りの皮肉で返すフィリア。
「…詳細は、その“ジャイアントマン”なる人物に提示する予定ですので、その際にご一緒にどうぞ」
そう、フィリア達がジャイアントマンなる人物に呼び出された理由。
火星での調査報告を直に行うことと、未確認MSについての情報の直接的な提示、であった。
ジャイアントマンなる人物が一体何者なのかは一切知らされてはいないが、地球連邦政府の重鎮、とだけは先程聞かされていた。
ロクでもないことになりそうだな、とフィリアは腹を括る。
しかし、同時に考えてもいた。
うまくジャイアントマンに取り付くことで、デイヴ捜索の為に動けるかもしれないからだ。
(その辺、うまくやらなくちゃ)
フィリアは夜空に浮かぶ月を眺め、親友・デイヴの為に決意を新たにした。

「地球へは、どうするつもりかね、ソウヤ君?」
火星義勇軍・ダイモスではマスター・ベイトを中心に、今後の動向についての会議を行っているようだ。
陽光は起立し、ベイトの質問に答える。
「はっ、地球へ向かった火星開発公社の者達の追撃には、既にマイケル・ミッチェル隊を向かわせました」
「フム…彼ならうまくやってくれるか。いいだろう。第七次調査団、だったかな?彼らの個人データを先程閲覧したが、なかなか興味深い」
ベイトは唇の端を上げると静かに言う。
123エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:03:11 ID:???
「それで、月へ向かったと考えられる謎のMS、ガンダムドルダを有する者達への追撃はいかがなさいましょう?」
レオ五郎右衛門、いや、ジミー・アンが口を挟む。
「そうだな、禍根は早めに絶っておかねばなるまい。来るべき連邦との“聖戦”の前にな」
「ジミー。それなら私に考えが…」
陽光がジミーに対して意見を言おうとするのに対し、ベイトは冷たく射抜くような視線で陽光を捉える。
「彼はレオ五郎右衛門だよ、ソウヤ君。口には気をつけたまえ」
「!」
陽光の瞳がわずかに揺らぐ。
が、日本刀のように研ぎ澄まされたその瞳は、真っ直ぐベイトを見つめ返した。
「…失礼致しました」
「……」
静かににらみ合う陽光とベイト。
ジミーはどうしていいかわからず、おろおろとしている。
やがて、ベイトが口を開く。
「…どるだ、を追撃した方がいいというのは君の意見だったな、エステル」
「…ええ」
エステルが答える。この少年は、重要な会合に出席することも出来るらしい。
「あれは、放っておけば我々にとっても大きな障害になるでしょう。即刻、滷獲及び破壊すべきです」
「その機体、連邦側への攻撃意思はないのか?我々の味方となる可能性も…」
陽光がエステルに問う。
「ガンダムマルスのミッションレコーダーを拝見しましたが、あの機体は数機のローズを破壊しています」
「そうか…」
陽光が頭を抱える。
「…で、考えというのは何だね?ソウヤ君。聞かせてもらおうか」
ベイトが頬杖をついて尋ねる。
「はっ、今こそ『ムスペルヘイム』を使うべき時なのでは、と…」
「…うむ。まあ、そうだろう。しかし相手も一筋縄にいきそうにないな。誰か同行せねばなるまい。構わないな、アンデレ権八郎?」
これまで静かに話を聞いていたアレスに話しかける。
「問題ありません、猊下」
無表情のアレスが淡々と答える。
「でも、君にはツライだろ?」
気遣うように言うエステル。
「構わない。マルスに乗ることになった時から、どんなことになろうが覚悟はできている」
「でも…なら、僕がドル・デーに搭乗してマルスを補佐します」
エステルが強い決意を宿した瞳でベイトを見る。
「ふむ…よかろ」
ベイトが言いかけたのを、ティモールが阻む。
「ならん、エステル!済まんがお主にはワシの研究を手伝ってもらわねばならん。敵を知り己を知れば百戦危うからず、そうじゃろ?」
「…博士の仰ることはもっともです。では…」
ベイトが言いかけると、陽光が名乗り出る。
「僭越ながら、私めが」
「陽光、しかし君は対連邦軍の指揮を取らねば…」
ジミーが陽光をたしなめる。
「百聞は一見に如かず。私はこの目で一度ドルダなるMSを見ておきたいのだ」
頑として譲らない陽光。
「…そういうことなら、ソウヤ君。君に任せた。対連邦指揮はしばらくレオ五郎右衛門、君に一任する」
124エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:09 ID:???
「「はっ!」」
コンパニヤ式の敬礼をするジミーと、火星軍式の敬礼をする陽光。
「当面の方針はそういうことにしておこう。では諸君、祈りの時間だ」
席を立ち、神妙な面持ちで胸に手を当てるベイト。
「…くだらん。ワシにゃ時間が惜しい。退室させてもらおう。行くぞ、エステル」
「…はい」
そそくさと退室するティモールに、その後ろに従うエステル。
「私も、失礼させていただく」
陽光もそれに続く。
やがて薄暗い部屋の中には三人の男が残った。
「…フン、無粋な者達だ。では始めよう」
ベイトが言うと、アレス、ジミーは静かに目を閉じ、彼らの神に祈り始めた…

そして同時刻。
デイヴィッド・リマーを乗せたガンダムドルチェは既に大気圏を突破し、無事に火星開発公社・地球本社へと向かっていた。
「わぁー、見て見てデイヴ。海よ!」
はしゃぐエリス。対してデイヴは気のない返事を返す。
「そうだな」
ここまで何事もなく来られた、ということはデイヴにとって少し意外ではあった。
なにせあのハンスとかいう少年、超絶うさん臭かったからだ。
…理由?デイヴ的に言わせてもらうと、そもそもエリスがうさん臭い。イコールその連れもうさん臭い。
ただそれだけだった。…ただ、恐ろしく勘の鋭いこの男の読みは、少なくとも外れてはいない。
(ホントに、来ちまった、地球…)
デイヴは感慨深そうに景色を見渡す。
(俺の故郷、か)
思えば色々なことがあったな…
地球で、平凡な中流階級のアースノイドの両親の下に生を授かり、それなりに生きてきたこれまでの人生。
人より恐ろしく勘の良い彼はその勘の良さで、神童と呼ばれたフィリア・シュードと学生時代の全てを過ごしてきた。
彼らは進宇宙国際記念学園の卒業生だった。
それから大学も同じところに進学して、共に軍に入隊して…
父さんが死んで、母さんも死んで。一人になって。
やがてテロリズム・イヤーでのガンダムドルチェの悲劇。
助けられた筈の少女の命を助けられなくて。
自暴自棄になって、軍を退役して、地球を出て。
それから…
(ああ、こっからは思い出したくもねえや)
デイヴはエリスのはしゃぎ声をBGMに、自嘲気味に笑う。
「…ちょっと!ねえデイヴ。聞いてるの?」
エリスがデイヴに話しかける。
あの謎の場所を飛ってからというもの、ずっとこんな調子であった。
125エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:04:55 ID:???
「…聞いてるよ」
頬杖をつくデイヴ。
「じゃあさっきまでの私の話を300字以内で要約してみて」
「う・み・が・き・れ・い。(マル)…悪りぃ、7字だわ」
指を折り曲げながら答えるデイヴ。だんだんエリスの扱いにも慣れてきたらしい。
「…ちょっとぉ!愛があれば出来るはずよ!」
「愛なんかいらない」
「えー!?デイヴったら、冷たい男(ヒト)…」
泣き真似をしてみせるエリス。
「同情するなら金をくれ」
「じゃあ、お金をあげたら私のものになってくれる?」
「だが断る」
…二人はそんな感じで、目的地へと向かっていた。
突然、先ほどまでキャアキャアはしゃいでいたエリスが、鋭い目つきになる。
「…どうした?」
さすがのデイヴも気になったらしい。尋ねてみる。
するとエリスは面を上げ、いやな笑みを見せながら言う。
「来たわ、来たわぁ。雑魚がわんさか!」
それなんてミハ兄?って思った人は五秒正座。
「!」
見ると、ガンダムドルチェの目の前には、火星義勇軍・ダイモスの手によるローズ部隊がいたのだった。

「うーん、アレがドルチェか。ディラン、どうだい?」
第七次調査団の追撃任務として遣わされたローズ隊の隊長、マイケル・ミッチェルが言う。
「……」
ディラン、と呼ばれた少年。静かにローズのコクピットに座っている。
どことなくアレスに似た雰囲気のこの少年を、やはりどことなくエステルに似たマイケルは放っておけないのであった。
「どうするの?すぐにでも仕掛ける?」
尋ねたのは女パイロット、ターニャ・ソブロフ。マイケルの右腕的存在の女性だ。
「…そうだね、敵にも視認されたみたいだし、こちらから先手を打った方がいいかもしれない。タオとマオ、君達もいいかな?」
マイケルがそう言うと、ディスプレイに『OK, Master.』と文字による通信が送られてきた。
タオとマオ。この二人の少年兵は口がきけなかった。けれど、マイケルはその理由を知らない。
むしろ、知らなくていいと思っている。人には誰しも、知られたくない事があるのだ。
人の弱さを知ることで、歩み寄れる…そんなものは詭弁だ、とマイケルは考える。
「それじゃあ行こう。僕とディランで先行する!」
五機のローズは、白き舞姫ガンダムドルチェの元へと向かっていった。
126エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:05:49 ID:???
世界一高い塔。ここに、通称・ジャイアントマンがいるらしい。
「ここに、ジャイアントマンがいらっしゃいますわ」
長い長いエレベーターに乗って到達した扉。ヴァニラが恭しく言う。
「彼は地球圏連邦政府発足の当時からその風格を現し、今も尚各界に影響を与えることのできる大富豪、『BIG5』のうちの一人。くれぐれも、粗相のないように」
ニヤリ、と笑ったヴァニラが扉に手をかける。
ゴクリ。息を飲んで、扉に入るフィリア。
しかし彼の目にしたものとは…
(これが…ジャイアントマン!?)
世界一高い塔と思われる場所に到着し、世界一高いエレベーターに乗って、世界一高い場所に案内されたフィリアの前にいたのは、なんてことのない小男だった。
身長は、140cm前後だろうか。
リーゼントを自慢気にキメ、偉そうに足を組んでいる。
変な柄のアロハシャツに、趣味の悪い純金のネックレス。
ディックもスメッグヘッドも、驚きを隠せない様子だった。
「ねぇ、主任。これ、どこの白雪姫ですか?」
ひそひそとフィリアに耳打ちするディック。小人のことを揶揄しているのだろう。
「え…!?知らないよ、僕に聞かれても…」
困った表情のフィリアに、男・ジャイアントマンが言う。
「…聞こえてんぞ、コラ」
「「!」」
びくっ、と肩を震わせるフィリアとディック。
「あ、い、いや、失礼しました!」
慌てて言うフィリア。
「フン、まあいいさ。これぐらいのことで怒る俺様じゃねえ。なんたって俺様は、世界一ビッグな漢、ジャイアントマン様だからなぁ!」
夜露四苦ぅぅぅぅ!声高に叫び、ジャイアントマンが言う。
「は、はぁ…」
苦笑いするフィリアとディック。スメッグヘッドは帰りたそうにイライラしている。
「なあお前ら思ったろ?何故俺がジャイアントマンなのか、不思議でしょうがねえだろ?」
煙草をふかしながら言うジャイアントマン。
フィリアとディックは焦りつつ答える。
127エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:06:51 ID:???
「い、いえ。別に…」
「よし、答えてやろう!なんたって今日の俺様はビッグだからな!」
まあいつもビッグだけどな、ジャイアントマンはそう言うと口を開く。
「なんてったって、デカイからさ」
「態度が、だろ?」
口を挟むカナン。
「ァア!?んだとカナンテメェコラ!」
思い切りカナンにメンチ切るジャイアントマン。
「まあまあ。お客さん、困ってるぜ?ジム。さっさと本題に入ったらどうだい?」
カナンがジャイアントマンをたしなめるように言う。
「…わかったよ。で?フィリア・シュードにディック・オメコスキー、アルフ・スメッグヘッドだな?」
急に、なんだか深みのある目線になって三人を順々に見ていく。
「フェアプレイの精神といこうぜ。俺の本名は、ジム・ストライカー。連邦議会ではジャイアントマンで通ってる」
偉そうにふんぞり返るジム。
「今日お前らを呼んだのは他でもねぇ。こないだの火星調査の件だ。なんだありゃ?意味わかんねえな。世の中デカいぜ、チクショー」
煙草をふかすジム。
「そうそう、世の中は広いですわね、ジム。ジムが小さいのではなく、世の中が広すぎるのです」
粗相のないように、と言っておきながら早速粗相をしてみせるヴァニラ。相当強かだ。
「うんうん…って何度言わす気だコラァ!このスットンキョーがァ!てめえヴァニラ(ピー)するぞコラァ!」
この男、ノリツッコミもばっちりだった。
「あら、そんな気なんかないクセに」
しれっと流すヴァニラ。どうやらカナンとヴァニラ、ジムの間ではこの程度の会話は日ごろから行われているらしい。
「あー、悪りぃ。話を戻すぜ。で、早速調査の詳細を、直にこの俺に見してくんねえか?」
「…ええ。し、承知しました」
この場のノリに着いていけず、まだフラフラするフィリアとディック。
スメッグヘッドなどは最初から着いて行く気などないらしいが。
フィリアがおぼつかない足取りで、ジムの座る椅子の前のテーブルに、カード型端末を通す。
現れるホログラム映像に、ジムは「ほぅ」と洩らし、ニヤリと笑ってみせたのだった。

後編へ続く
128エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/26(金) 06:09:01 ID:???
出来?まぁ、アレです。だが反省はしていない。
ただ一言言うとしたら本編の人、色々本当にすいません。苦情はいつでも受け付けます。

それでは皆様良いお年を
129コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 16:39:40 ID:???
>>バルド氏
wiki更新ありがとうございます!!
いつもいつもまかせっきりにしてすいません。

>>エルト氏
設定&新説投下乙です。
ジャイアントマンwwwGJです
デイヴとエリスの会話がなんかいいです。正座五秒?やりましたよ。
そうですか、ぶっ飛んでますか。
飛ばしましたからね、そりゃ飛びますわ。
第二話も飛ぶ予定。第三話もおそらく。
ちなみにアスルファイサはラングが持ってきた純火星製(コロニーではない)
出力機関はドルダやドルチェと同じです。

130コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/26(金) 17:05:44 ID:???
そういえばアスルファイサの設定かいてなかったので投下


 超高速戦闘艦アスルファイサ
 所属:アスルビエント
 船長:カルロ・ビスターシュ
 武装:小型連装陽電子砲×1
    360°回転式ビームバルカン×8
    大型ビームサーベル×3
    戦闘用大型グラップラーアーム×2
    対デブリ用ビームフィールド

アスルビエントの母艦。ラングが持ってきた船でドルダやドルチェと同じ純火星製
形は非常に分かりやすく言うと水の中のペンギン。
その速さは現存する全ての船より速く、最大速度はローズの三倍のスピード
強力な対G装置のおかげで最大速度を出さない限りは人体にGはかからない
武装の大型ビームサーベルは艦首と左右両翼の下に取り付けられており、持ち前のスピードですれ違いながら敵を攻撃することが可能。
グラップラーアームは戦闘以外にもさまざまなことに転用可能。通常時は翼の中に格納されている。
対デブリ用ビームフィールドは艦全体をビームで包み接触下デブリを融解させる。
ただしビームなどは防いでくれない上、一定以上のスピードだとデブリが融解されない。

131バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/26(金) 18:01:08 ID:???
エルト氏GJ!
とうとう地球に降下しましたね。エリス段々馴染んでるw
態度のでかいジャイアントマンもイイ!
132通常の名無しさんの3倍:2008/12/26(金) 22:35:12 ID:???
投下乙!
133本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:29:40 ID:???
Doll-Device Archive No.07 ドリームズ





 それは、彼女が今より若かった頃。
 彼女が幸せだった頃。
 幸せに、満ち溢れていた頃。
『近年、戦争による被害者は増える一方。兵士も、民間人も』
『それで、無人兵器を戦争に投入して早期解決を図るか』
 彼女には恋人がいた。
 同じ軍人で、同僚であった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
 未来を悲観して、彼女は憂いを口にする。
『でも無人兵器は、戦争をゲームとして考えてしまうんじゃないのかい?』
『それは指揮官が正しく導ければ大丈夫よ。私は、そんな指揮官になりたいの』
『メリル、君は強いな』 恋人の言葉に、彼女は小さく首を振る。
『私はそんなじゃないわ。ただ、世界の安定を望んでいるだけ』
 相次ぐ戦争は、彼女の心を痛めた。
 戦地に赴き、その惨状を目にしたこともある。
 彼女は優しい女性だった。
 あの事件が訪れるまでは。
『どういうことだねルシェッタ大尉?』
『わ、私はっ……』
 厳つい中年の男。当時の上官だった男だ。
 彼女を、火星圏に追いやった男でもある。
134本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:33:01 ID:???
『機密漏洩。スパイであった君の恋人がしでかしたことで、我々は対応に追われている』
『私は関係ありません! 信じてください!』
『信じておるよ。調査もしたしな。君は実に優秀な士官だ』
 その目は、信じてなどいなかった。
 一度疑いがかかれば、信用は一気に地に落ちる。
 それが例えどんなエリートだったとしても。
『それでだ、ルシェッタ大尉。君を特別待遇で中佐に昇進させ、
火星圏駐留軍艦隊、旗艦モーリシャスの艦長に任命したい』
『!?』
 彼女に衝撃と動揺が走る。
『それは、左遷ということ……でしょうか』
『何を言う。2階級特進に艦長就任。立派な栄転じゃないか』
 苦虫を噛み潰したように、彼女の顔が歪む。
 2階級特進。それが何を意味するか。
 地球から遠く離れた、治安の悪い火星圏に転属すること。それが何を意味するか。
 彼女はわかっていた。
(あぁ……この男も、そうなのか。同じなんだ……)
 彼女は、諦めてしまった。
 呆れて、笑みが込み上げてきそうになる。
『メリル、愛しているよ』
『ふふっ。私もよ』
 違う。
『ルシェッタ大尉。君と肩と並べられるとは光栄だ』
『いえ、私も司令殿のお隣で勉強させて頂きます!』
 違う。
135本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:37:50 ID:???
『メリルの才能には惚れ惚れするよ。君は僕の最高のフィアンセさ』
『そんなに褒めないで。照れてしまうわ……』
 違う。
『ハッハッハ。これでは私のイスも危ういな』
『私はまだまた、現場も不慣れな未熟者です』
 違う。
 そうやって、いかにも気を許したかのように笑いかけ、優しい言葉を吐く。
 ただ自分の目的のために、自分が満足感を得るためだけに。
 そして必要がなくなったならば、簡単に切り捨てる。
(そうか……信じた私が…………)
 一言一句に喜んで、舞い上がって。
 ただいいように扱われただけじゃないか。
 信じることに、意味などあるのか。
(こんなに惨めな思いまでして……)
 彼女は、ゆっくりと目を覚ました。
 肌はじんわりと汗をかき、不快にさせる。
「あの頃の夢を、見るなんて……」
 ビットシステムが軌道に乗ったからか。
 ビットシステムの原形は、あの頃にあった。
 優秀な指揮官が無人機での戦闘の指揮をとることによって、人命の損失の軽減を図る。
 戦場には少ない人員で済む。被害も最小限で抑えられ、早期解決も可能だ。
 初めは、そんな淡い願いから生まれた構想だった。
 しかしその願いは変貌し、別のものへと変わっていく。
136本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:41:29 ID:???
 命令に絶対服従の無人兵器。
 信じることも疑うことも必要ない、裏切らない機械。
「そうだ……それでいい」
 そう割り切っても、虚しいのは何故だろう。

 ドルダを狙った襲撃から、半日近くが経過した。
 戦闘は、残存したローズの撤退をもって終了。
 ドルダはそれを追撃することなく、ドックに戻った。
 地球圏連合軍側も、ビットシステムを積んだイーグルクロウを墜とされ、追撃を断念した。
「どう? ヘルガちゃんの容態は?」
 医務室にクランが入ってくる。
 休戦協定の交渉が決裂し、ギデオンと共に居住施設も兼ねたドックに帰ってきていた。
 ベッドにはヘルガ。そしてそれを見守るシオンとモモ。
「例の侵入者さんと遭った極度の恐怖感のせいで失神したみたいですね。その内起きると思いますぅ……」
「クソッ! 俺のせいだ。……俺がヘルガから離れたから!」
「シオン君、自棄になっちゃ駄目よ」
 シオンに駆け寄るクラン。
 屈んで、今にも泣き出しそうなシオンの頭を、優しく撫でる。
「昔、私にも妹がいたわ。もう……この世にはいないけれど」
「えっ……」
 シオンは、クランが何を言っているのかわからずに、不思議そうに顔を上げた。
137本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:46:15 ID:???
 モモは不安気に、かける言葉を探している。
「私は助けられなかったから。だからシオン君、あなたは、ヘルガちゃんを守ってあげて」
 強いが、悲しい瞳。
 クランは切なく、小さい笑って、またシオンの頭を撫でた。
 そんなクランを見つめていたモモは、不意に立ち上がる。
「クランさん……モモ、思うんです。クランさんも、自分の過去に決着を付けた方がいいと思います」
「モモちゃん……」
「シンシアちゃんと出会ってからのクランさんは、ずっと辛そうです。
クランさんは、本当の妹さんとシンシアちゃんと重ねてるんじゃないですか?」
「それは……」
 表情を曇らせていくクランに、モモは苛立ちを募らせていく。
「しっかりしてくださぁい! モモはどんな結果になっても、クランさんとシンシアちゃんを応援します!」
 怒るようにも励ますようにも取れる言い方で、モモは言う。
 精一杯の叱咤激励だった。
「…………ありがとう」
 クランは、笑った。
「そうね。そうだわ。このままじゃいけないもの」
 クランも立ち上がる。
「行ってきます」
「はいっ! 行ってらっしゃいです!」
 互いに笑って、短い挨拶を交わす。
 クランはしっかりと顔を上げて、医務室から出て行った。
138本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:51:47 ID:???
 吹っ切れたように。否、彼女は吹っ切れたのだ。
「なぁ、シンシアって、何者なんだ?」
 クランのいなくなった医務室で、ぽつりと、シオンが疑問を口にする。
「シンシアちゃんは、火星の地下でドルダと一緒にいたんです。何者なのかは、わかりません……」
「それって……」
「でも、モモは信じたいんです。シンシアちゃんも、クランさんも」
 例えシンシアが普通じゃないとしても。
 紫藤兄妹には知らされていないが、シンシアが撃たれたことはモモの耳にも入ってきている。
 患部が謎の発光現象を引き起こし、傷を治癒させたことも。
「モモは地球にパパとママがいるし、ヘルガちゃんにだってシオン君やパパがいます」
 暗い表情に変わるモモ。
「……でも、このままじゃ、クランさんは独りだもん」
「そっか……家族に、姉妹(きょうだい)になろうとしてるんだ、あの人も」
「うん。だから、シオン君もシンシアちゃんのこと、変な目で見ないでくださいね」
「おう! 俺はジャンク屋の子供だぜ!」
 明るく元気に言ってみせるシオンに、暗い面持ちだったモモも笑顔に変わる。
(でも、独りなのはクランさんだけじゃない……)
 シオンに不安をかけまいと、笑顔は消さずに。
139本家ドルダ:2008/12/27(土) 02:56:07 ID:???
 しかしモモの中には、まだ心配に思う人物がいた。
「ん、んん……」
 ベッドから声が聞こえる。
「ヘルガ! 気が付いたか!?」
「…………?」
 ぼんやりとした顔で、ヘルガがシオンを見る。
 一瞬、この人は誰なんだろうと、疑問が浮かぶ。
 段々と意識が晴れていく中、やっと目の前の少年がシオンだということを思い出した。
「お兄ちゃん……」
 彼女は夢を見ていた。
 今より幼かった頃の夢。
 血の繋がった家族と暮らしていた頃の、夢。

 クランはドックに向かう。
 用意された自室に、シンシアはいなかった。
 そうなると、シンシアはどこにいるのだろうと考える。
 もし、このコロニーに友人がいるなら、繋がりを求めて、その友人を訪ねるかもしれない。
 繋がり。そう、繋がりだ。
 シンシアにとっての繋がり、それはドルダ。
 安心できるのは、偽りの姉ではなく、自分が眠っていた揺り籠。
「やっぱり、ここにいた」
 ドルダの足下で、うずくまっているシンシアがいた。
「……クラン」
 気付いたシンシアが、名を呼ぶ。
 呼び方が、ステーションにいた時に戻っていた。
「気付いたのね。自分が、私の妹じゃないって」
140本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:00:35 ID:???
 クランが言うと、シンシアはハッとする。
 やはりそうなのかと、シンシアは思い詰めた様子だった。
「これに乗ると、わたしがわたしでなくなっちゃう」
「シンシア……」
「敵を倒せって、別のワタシが囁くの。これに乗ると、その囁きに耐えられなくなっちゃう」
 ドルダに乗ると、一時的に記憶を取り戻すのだろうか。
 火星の地下で出会った、冷たいあの少女に。
 デブリでの一戦の際、酷く苦しそうにしていたのは、攻撃的な自分に抗おうとしていたからなのか。
「わたしは誰なの? なんなの!?」
 縋り付くように、シンシアは声を荒げた。
「撃たれたはずなのに、どこも痛くない……」
 服の上から撃たれた箇所を触りながら、シンシアは消え入りそうな声を出す。
「わたし、化け物なのかな」
「!!」
「ねえ……わたし、化け物なの!?」
「違う!」
 クランはシンシアを抱き締める。
「あなたは化け物じゃない! 化け物なんかじゃない!!」
「でも、こんなの、人間じゃないよ…………」
「それでも、あなたは私の妹よ」
 クランはより強く、シンシアを抱き締める。
「いもうと……?」
 そうではない。
 クラン自身も、妹ではないと言った。
141本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:05:11 ID:???
 ゆっくりと、クランはシンシアから少しだけ距離をとる。
 目線の高さをシンシアと同じにして、クランはまっすぐ、シンシアを見た。
「私は、してはいけないことをしてしまった。死んでしまった妹と、あなたを、重ねてしまった」
 謝罪にもならない。
 ただただ、クランは自分を責める。
「あなたと、あの子は違うのに。あの子だと思おうとしてしまった」
 だが、それは間違いなのだ。
 そんなことを続けていても、嘘はいつまでも嘘に過ぎない。
 自分は、赤の他人を妹として扱うというその嘘に対して、永遠に自責の念にかられ、
そして偽りの妹は、自分が本当に妹なのだろうかという違和感に、自分と姉を疑い続ける。
「だから、もう一度、やり直させて」
 こんなことを頼むのは、図々しいことなのかもしれない。
 けれども、言わずにはいられなかった。
 そうしなければ、贖罪にもならないから。
「私はあなたの、姉になりたい」
 今度は、都合のいい言い訳などにはしない。
 クランは、右手を差し出す。
 どんな結果になろうとも、後悔はしない。
「…………」
 シンシアは、否、もうシンシアではないのかもしれない。
 彼女はクランの目を、じっと見つめていた。
142本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:09:29 ID:???
 そして、その視線は、差し出された手へと移る。
 彼女はゆっくりと自分の右手を、クランの右手へと持っていく。
 その二つの手を重ねて、優しく握った。
「わたしはシンシア・ナギサカ。あなた、だぁれ?」
 そう言って、笑った。
 込み上げてくる涙を抑えず、クランは再び、シンシアを抱き締める。
 泣きながらも、クランの顔は、笑顔に満ち溢れていた。
 シンシアも抱き締め返す。
 心地良い温もり。
 心の中にあった壁が一つ、崩れた気がした。
 だが、まだシンシアの中には、自分に対する疑問が残っている。
 ドルダに乗ると現れる攻撃的な自分。
(もう一人のワタシは誰なんだろう)
 それが、本当の……
「化け物です」
 ドックに、クランとシンシアではない女の声が響く。
 クランとシンシアは振り返る。
 そこにいたのは、ノーマルスーツを着た、ミランダだった。
「ミランダさん、何を言っているの……?」
「その子は、化け物だと言ったんです。クラン・R・ナギサカ」
 強い口調で、ミランダは言う。
「火星地下の建造物。そこにあったモビルスーツとそのパイロット。その正体が何かはわかりません」
 ゆっくりとミランダが近付いてくる。
143本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:14:56 ID:???
 その表情は険しく、凄みさえ感じさせた。
「わからないけれど、それが何を意味するのかはわかります」
「何を、意味するのか……?」
「敵意あるものから自身を防衛し、そして掃討を行う兵器です」
 現在の人類とは別の高度な技術を持った人類が生み出した兵器。
 信じたくはなかったが、やはりそう考えなくては合点がいかない。
「そして私は、その兵器から、火星コロニーの独立を訴える人々を守らなくてはならない」
「ミランダさん、あなた、何を言って……」
 ミランダの言っていることに、理解が追い付かない。
 そんなクランとシンシアと、ミランダがいるドック内に、警報が鳴り響く。
『皆、聞いているか。コロニーにローズ部隊が接近している。
1機は、隊を離れてコロニーの下方に向かったということだ』
 ギデオンの声がスピーカーから流れてくる。
 コロニーの下方。
 この、ドックが位置する場所。
「まさか、ミランダさん……」
「火星調査任務。素晴らしい経験でした。火星の大地を踏み締めて、火星コロニー民の未来にも希望が持てた」
「いつから? いつからなの!?」
「第一次調査隊が選抜される以前からです。審査官の中に潜入者がいたんです。
144本家ドルダ:2008/12/27(土) 03:22:24 ID:???
私はその方の推薦で調査隊に選ばれ、監視のために貴女達と行動を共にした。
ステーションのスタッフも、私の指示で独立派の構成員とすり替えておきました」
 嘘はついてない。
 いつもと変わらない、真面目で冷静な、ミランダだった。
「そんな……」
 あまりにも受け入れ難い事実。
 動揺を隠せずにいるクランの目の前にまで、ミランダはやってくる。
「今まで、ありがとうございました」
 頭を下げて、ミランダは謝辞を口にした。
 そして、シンシアに顔を向ける。
「私は、あなたを殺す」
「……」
「あなたとこのモビルスーツは、危険すぎるわ」
 敵意に満ちた顔をして、ミランダが告げる。
 シンシアは、驚くでも怖がるでもなく、じっとミランダを見ていた。
(ッ……不気味だわ!)
 ミランダは駆け出す。
 もうこの場所にいる理由はない。
 ミランダは、気密扉のロックを解除する。
「ミランダさん! ミランダ・ウォン!!」
 クランの叫びは届かない。
(さよなら、調査隊として過ごした日々。さよなら……ヴァイスさん)
 ミランダは、開いた扉の先に、消えていった。
145本家ドルダの人:2008/12/27(土) 03:29:35 ID:???
(ここでCM。アイキャッチは寂しげなミランダ。そして彼女の想い人の後ろ姿)





サブタイはXのOPではありません。

一週間ぶりくらいでしょうか。
一週間のうちに投下がたくさんでビックリ。
新説、外伝、これからwikiで読ませてもらいます!

ではまた後日。年明けでしょうか。
146コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/27(土) 16:48:54 ID:???
ミランダさーーーーーん!!!!
本家ドルダ、投下乙です。
クランとシンシアにしろミランダにしろ今回の話は急展開が多かったですね。
それを違和感無くつなげている辺りがすごい。
GJです!!
147通常の名無しさんの3倍:2008/12/29(月) 22:13:42 ID:???
保守
148本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:31:18 ID:???
(CM終わり。アイキャッチはヴァイスと、ノーマルスーツを着た誰かの後ろ姿)

 内側の気密扉が閉まり、気密の調整が終わると、外側の気密扉が開く。
 目の前には、広大な火星圏の宇宙が広がっていた。
 ヘルメットに搭載された通信機が鳴る。
『ミランダ・ウォンか』
「回収お疲れ様です」
 ギデオンの言っていた、コロニー下方に向かっていたローズ。
 乗っているのは、ディランだ。
 コックピットが開き、差し出されたディランの手を取り、ミランダが乗り移る。
「あんたは……」
「あの時のことは気にしないでください。貴方は貴方の任務を全うしただけ」
 ヘルメット越しに映る顔でも、誰だかは覚えている。
 記憶力がいいのは、お互い様だった。
「ドルダ……いえ、コードネームガンダムの破壊任務は、まだ継続中でしょうか」
「いや。だが、可能ならばこの場で破壊を優先したい」
 淡々とした会話だった。
 一分一秒が短く過ぎていくような。
「では、頼み事があります。アレの破壊は、私に任せてください」
 淡々とした口調の中に、少しだけ感情が加わる。
 すぐにその変化に気付いたディランは、多少の間を置いて口を開いた。
「それは上が決めることだ。だが今は、あんたの回収を優先させよう」
「感謝します。必ず、アレを討ちます」
 ミランダは決意に、燃える。
149本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:36:41 ID:???
 ドルダの破壊は、ディランだけの任務ではない。
 追撃部隊だったマイケル・ミッチェル隊もその任に就いている。
 だが、ミランダの意志はそれをも押しのけてしまいそうな、執着にも近かった。
「俺からも一つ、訊いていいか」
「なんでしょうか」
「ガンダムのパイロットが誰なのか、知りたい」
 何故そんなことを訊くのだろう。
 ミランダは疑問に思う。
 シートの脇に移動したミランダの位置からでは、ディランの顔色を窺い知ることはできない。
 別に隠すこともないと、ミランダは素直に答えた。
「火星の地下で、あの機体は発見されました」
 言葉だけで思い出してしまいそうになる自分を、心の中で叱る。
「その時に乗っていたのは正体不明の謎の少女で、今もそれは変わりません」
「……そうか」
 抑揚なく、ディランは言う。
 ミランダは心なしか、その声が安心しているようにも聞こえた。
 ディランとミランダが乗るローズは、コロニーを離れ飛び去っていく。
 コロニー中間部付近の宙域では、未だにマイケル・ミッチェル隊が
ローズを回収した地球圏連合軍の部隊と交戦中だった。
 マイケル・ミッチェル隊。
 隊の一員であるターニャ・ソブロフもまた、この物語の中で、誰かと家族になろうとした一人だった。

 それは数時間前に遡る。
150本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:42:29 ID:???
 第33コロニーの軍事ドックは、作業に追われたていた。
 先日届いた武装の取り付けが、急ピッチで進められている。
 そんなドックで、タオとマオは、じーっと自分達のローズを眺めていた。
 二人が搭乗する2機の装備が、ビームライフルからビームガンブレードに交換されていく。
 左肩部にはシールドが取り付けられた。
 レイピアは、対ガンダム戦のためにそのままにされている。
「あんた達、ここにいたのか!」
 聞き慣れた小気味よい女の声に、二人は振り返った。
「ミッチェル隊のパイロットは全員ミーティングだってさ」
 ニッと笑って、ターニャは出口に向かって歩き出す。
 それを追うタオとマオ。
「それにしてもあのオッサンはアホだね。帰ってきて早々出撃って」
 オッサンとはもちろんマイケルのことである。
「鷲がすばしっこくなったことへの牽制と、新型装備の慣らしだってさ」
 一方的にターニャは喋る。
 彼等は声を出すことができない。返事がないことは、百も承知だ。
 しかし、ターニャはどこがで期待していた。
 いつか二人が一言でもいい。言葉を発してくれるのではないかと。
 彼等は幼少時のトラウマで声を出すことができなくなったという。
 つまり声帯や喉には異常はないのだ。
151本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:45:53 ID:???
 だから、ターニャは信じていた。
 かつて自分が、マイケルによって変われたように。
 火星コロニー群の中には、性風俗に特化したコロニーがいくつかある。
 そのコロニーの一つに、幼い頃のターニャはいた。
 貧しかった家庭事情のせいで、ターニャはその身を娼館に売られてしまった。
 泣こうが喚こうが叫ぼうが、親は冷たい目のまま。
 信じていた、唯一の肉親だというのに。
 その時、彼女の中で何かが壊れてた。
 己の境遇に絶望し、死を望んだこともある。
 そんなある日、彼女の元に、彼はやってきた。
 床に無造作にばらまかれる札束。
 ペコペコと頭を下げる娼館のオーナー。
『……アンタ、なに?』
『僕は火星圏に新天地を創る男さ』
 オーナーがいなくなり二人きりになった部屋で会話が始まる。
『ハッ。何言ってんの? この火星圏にそんなとこありゃしない! ましてや創ることなんて……』
『できるさ! 僕が創る!』
『アタシと年も変わらないガキが!?』
『年なんか些細なことさ。未来を創るのは老人かもしれないし、
若者かもしれない。要するにその意志があるかないかだよ』
 なんという夢想家だろう。
 ターニャは呆れ返ってしまう。
152本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:49:50 ID:???
 だがその反面、不思議と、その言葉に実現性があるように思えた自分がいる。
 この男は何故、荒んだ火星圏で、こんなにも明るく振る舞えるのだろう。
 絶望に満ち溢れていたターニャに、少しずつ希望が生まれていく。
(アイツがアタシをあの娼館から連れ出してくれた時から、
ずっとアタシは、アイツの創る新天地を信じてきたんだ)
 だから、ここまで来れた。
 生きるために、様々なことを覚え、何度も死線を乗り越えてきた。
 ターニャは振り返る。
 そして、タオとマオを抱き締めた。
「あんた達も、アイツの創る未来には欠かせない。だから死ぬんじゃないよ」
 タオとマオは、突然のことに驚いた様子だったが、感情の起伏は余りにも薄かった。
 この兄弟は、何を思うのだろう。

 ミランダのいなくなったドックに、ギデオンとヴァイスが入ってくる。
 力無く床に座り込んでいるクラン。
 シンシアと再び歩み始めることのできた感動の涙は、突然の別れへの悲しみの涙に変わっていた。
 シンシアはそんなクランを不安そうな面持ちで見つめている。
「何があった!?」
 啜り泣くクランにヴァイスが訊く。
 顔を上げたクランの顔は、涙で濡れていた。
153本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:53:39 ID:???
「ミランダさんは……火星コロニー独立派だった……」
「なん……だと……」
 クランの言葉に、茫然自失となるギデオン。
 ヴァイスも、動揺のあまり目が震え、愕然と立ち尽くす。
「そんなことってあるか……あってたまるかよッ!!」
 来るもの拒まず去るもの追わずのジャンク屋精神も、この時ばかりは意味がなかった。
 つい先刻まで話していた彼女が。
 火星の調査のために、何ヶ月も寝食を共にした仲間が。
 眼鏡の奥の冷たい両眼を、時より細めて優しく笑うミランダが。
 自分達を執拗なまでに追っていた火星コロニー独立派の、火星コロニー義勇軍の一員だったとは。
 クランも、ギデオンも、ヴァイスも、そこにある事実を受け入れられない。
「追おうぜ、ミランダを」
 静かに、ヴァイスが言う。
「ヴァイス……」
 クランがヴァイスを見る。
「仲間じゃなかったのかよ! 俺達は!? なんでこんな突然……何も言わないで……」
「裏切ることに突然も何もないとは思うがな」
「ッ! 隊長!!」
「落ち着けトロニクス君」
 驚きはしたものの、ギデオンは冷静さを取り戻していた。
154本家ドルダ:2008/12/30(火) 04:58:00 ID:???
 リーダーシップを執らなければならない立場として、一瞬の焦りも禁物なのだ。
「隊長だって信じられねぇだろ! ミランダはこの戦いのことを俺に訊いたんだ……」
 紛争を案じていたミランダがこんなことをするはずがない、と。
「それに、あいつは何か言いたげだった。あいつは……」
 ミランダは何を言おうとしたのか。
 ヴァイスは、ハッとなる。
(止められなかったのか、俺は!?)
 ミランダは酷く思い詰めたような表情だった。
 ヴァイスは後悔する。
 何もかも遅すぎる後悔。
「彼女は独立派だった」
「隊長、あんた……!」
「だが、我々火星調査隊の一員でもある」
「!」
 ギデオンの顔はしっかりと何かを見つめていた。
 ヴァイスはその視線を追う。
 視線の先には、ドルダではなく、ヴァイスが改修作業を進めていた3機のモビルスーツがあった。
「我々は軍人ではないが、成すべき事のために戦わねばならないのかもしれない」
「成すべき……」
「事?」
 ギデオンの言葉に、ヴァイスとクランが聞き返す。
「この3機のモビルスーツは、元はステーションにあった火星コロニー義勇軍のローズだ。
155本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:01:31 ID:???
だが今は、一部を残し完全な別物へと変貌を遂げた。EA-001グワッシュ・モビルスーツだ」
 まじまじと眺めながら、ギデオンは語る。
「ジャイアントマン。彼は我々に地球圏連合軍と火星コロニー義勇軍の休戦協定の会談の場を用意してくれた。
そして、それがもし無になった時のために、彼はもう一つの“和平への道”を用意してくれたのだ。それがこれだ」
「私達に、戦争をしろと?」
 怪訝そうに眉を顰め、クランはギデオンに尋ねる。
 ジャイアントマンが用意した休戦協定以外の“和平への道”など、クランは知らなかった。
 ギデオンは敢えて知らせなかったのかもしれないが、クランは納得がいかない。
 火星からこのコロニーまで、数々の戦いを目にしてきた。
 討たれたモビルスーツは爆発し、パイロットのほとんどは助かってはいないだろう。
 クランは、そんなことをするのは嫌だった。
「確かにこのモビルスーツで戦場に出れば、こちらに攻撃をしてくる者もいるだろう」
 ギデオンが、クランを見る。
 クランは驚く。
 その顔があまりにも真剣だったからだ。
「だが、戦場に出なければ、説得も何もできないということだ。ウォン君にしろな」
156本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:06:43 ID:???
 ウォン。即ちミランダの名が出たことに、ヴァイスは驚いた。
 だが、すぐにその顔を笑みに変える。
「ウォン君の一件、彼女も悩み決めたことだろう。なら、その悩みを我々も共有して、解決してやりたい」
「やっぱり、あんたは俺達の隊長だ!」
「私は最初から追わぬとも止めぬとも言ってはいないさ」
 喜ぶヴァイスだが、まだクランは不信感を拭いきれない。
 そんなクランを見て、真剣一色だったギデオンも、困ったように苦笑する。
「戦況を変えられるとか、戦争を終わらせられるとか、そんな大それたことは考えていない。
我々は軍ではないし、武力蜂起をした過激派でもない。そのどちらも間違っていると考える者だ」
 だから両軍に介入して、新たな道を模索する。
 調査隊は、その力を与えられたということ。
 だが、本当にそれだけなのだろうか。
「私は、解せないんです。なんだが、あのジャイアントマンという人物の掌の上で、踊らされてる気がして」
 クランの中にある不安。
 休戦協定締結の失敗を予期していたかのような、こんな別の方法に。
「私達の力が、要らない火種にならないでしょうか……」
「そうならないための力だとは、考えられないか?」
157本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:10:17 ID:???
「それは……わかりません」
「あの男の前で言ったことは偽善か? 違うだろう」
 クランは黙ってしまう。
 会話に入らないでいたシンシアは、ずっと心配そうにクランを見ていた。
「ならお前は戦闘になんか出なくったっていい。このコロニーでずっと喚いてろ」
「ヴァイス……」
「テメェは自分の考えと違うから、それが間違いだと思ってるだけだろ。
そんなの、地球圏連合軍や火星コロニー義勇軍の奴等と変わんねえだろうが」
「ッ……それは」
 休戦協定の交渉が絶対に成功するとはクランも思ってはいなかった。
 クランは考えていた。どうすればこの戦いは終わるのだろうと。
 自分達に力があると言われた今、その力を使うべきなのだろうか。
 だが戦場に出てこちらも応戦すれば、犠牲が出る。自分のような境遇の者を、増やしてしまう。
 そう考えると、クランは前に進めないのだ。
「シンシア、クランを連れてドックから出てろ。俺と隊長はグワッシュで出る」
「えっ……」
「今はお前も戦うより、クランと一緒にいてやれ」
「……わかった」
 ヴァイスに言われ、シンシアは「行こう」とクランに声をかける。
 腕を引っ張ると、力無くクランは立ち上がった。
158本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:14:35 ID:???
 クランは何か言いたげな目をしてヴァイスを一瞬見た後、シンシアと共にドックから出て行った。
「少し荒療治すぎやしないかね。トロニクス君」
「あれでいいんス。クランもホントはわかってるはずっスから」
「吹っ切れずにいるということか……なら、今は待つしかあるまい」
 ギデオンの言葉に、ヴァイスは力強く頷く。
 今は、クラン自身に時間を与えるしかない。
(それにアイツは、色々と抱えすぎだ)
 己の過去も、シンシアのことも、この火星圏の和平のことも。
 ヴァイスは頭を切り替える。
 端末を開くと、外はまだ交戦状態にあると情報が表示された。
 ミランダはまだこの宙域にいるだろうか。
 否、いなくとも、今は自分達の存在を示さねばならない。
 ジャンク屋として他者の争いに関しては不干渉を決め込まなければならないのだろうが。
「シドーのオッサンにも笑われちまうぜ」
 そう、自嘲した。
 ヴァイスはグワッシュのユニット換装作業に移る。
 EA-001グワッシュ。
 その名はGeneral Operation Unit And Carbon Hybrid-armour Equipment
(広範囲活動ユニット並びカーボン複合装甲装備)の略であり、
159本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:21:04 ID:???
広範囲活動ユニットことGOユニットはあらゆる用途に対応するために複数存在し、
今後も新たなユニットが開発されていく予定である。
「隊長、GOユニットはタイプAとタイプBのみが装備可能っス! って、今はこの2基しかねえっスけど」
 急拵えだったため、グワライダーの作業用アームを丸々ユニットとして改修したタイプA(Arm)。
 そしてタイプB(Booster)はブースターユニットであり、高出力での活動が可能になる。
 グワッシュ自体の武装は、元のローズの武装であるビームライフルとレイピアがそのまま流用された。
「他のユニットはC.B.F.B.社が開発を急いでくれている。
君はタイプAを使いたまえ。私がタイプBで戦場まで送ろう」
 C.B.F.B.(Cherry Blossoms Full Bloom=桜花爛漫)社。モビルワーカーの製造メーカーだ。
 その上層部にもまた、ジャイアントマンの協力者がいたということだろう。
 しかし、全面的に善意で協力したというわけでもなさそうだった。
(向こうの開発責任者は私の改修プランを簡単に承諾したが……売り込むつもりか)
 この第29コロニーには駐留軍の司令官とハーフムーンから退避してきた艦隊がいる。
160本家ドルダ:2008/12/30(火) 05:25:55 ID:???
 そしてこのコロニーの地球圏連合軍は、ローズを回収し自軍の機体として運用するに留まっている。
 そこで火星コロニー義勇軍と対等に渡り合える新型モビルスーツをアピールすれば……
(掌で踊らされる、か。ナギサカ君が不快に思うのもわかる)
 ギデオンはグワッシュに乗り込んだ。
(だが、今はそれをも利用せねば、進めない……!)
 機体を起動させる。
 モニターが点灯し、明るくなるコックピット内。
『隊長、こっちも起動したっス。この後の作業は誘導なしっスけど大丈夫ですか?』
「あぁ、経験不足は技量でカバーする。そちらこそ大丈夫なのか」
『俺は一回、ぶっつけ本番でローズを動かしたんスよ!』
 心強い返事に、ギデオンは笑みを見せた。
 エアロックが解除され、機体発着用気密扉が開いていく。
 奥へ進むと内側の扉が閉まり、気圧調整が始まった。
 数分後、気圧の調整が完了し、外側の扉が開き始めた。
「ギデオン・マクドガル。グワッシュ、出るぞ!」





To Be Continued...
161本家ドルダの人:2008/12/30(火) 05:27:50 ID:???
6:00から第8話の投下を開始します。
162本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:12:54 ID:???
Doll-Device Archive No.08 ドリームズII





 第29コロニー付近戦闘宙域。
 ディランの乗機を除くローズ9機を持つミッチェル隊と、
有人のイーグルクロウ10機と回収したローズ3機の地球圏連合軍。
 やはり戦力の差は歴然なのか、前に出たイーグルクロウはことごとく撃墜されていく。
「ミサイル搭載機は後方より支援を続行。残りで殲滅に当たるよ」
 マイケルの指示を皮切りに、6機は一気にイーグルクロウやローズに迫る。
「ガンダムはいねえのかァ!? ツマンネエなぁ!」
 ニコラスは叫び上げながら、地球圏連合軍のローズに接近する。
 背部に装着されたアームシールドのせいで機動力は落ちているものの、敵のローズの攻撃は当たらない。
「何故だ! 何故当たらない!?」
 混乱する地球圏連合軍パイロット。
「射撃精度が低いんだよ! ボケェッ!!」
 シールドからアームを展開する。
 地球圏連合軍のパイロットは、まだモビルスーツの操縦に慣れていなかった。
 白兵戦闘距離まで接近してきたニコラス機に対してレイピアを使用しようとするが、
レイピアを引き抜くのに手間取ってしまう。
 その隙を突き、ニコラス機はアームを開き、ローズの腰部を捕らえた。
「押し潰されろやァァ!!」
 まるで鉄環絞首刑。
 ギリギリと痛め付けるように潰した後、一気に圧壊させた。
「うわああああ!!」
 爆発するローズ。地球圏連合軍の貴重なモビルスーツの損失である。
163本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:16:27 ID:???
 イーグルクロウの殲滅に当たるダン機、そしてタオ機とマオ機。
「モビルアーマーの機動性が向上したと聞いていましたが、聞き間違いだったようですね」
 残念そうにダンが呟く。
 イーグルクロウの連装キャノンをものともせず、突き進んでいく。
 イーグルクロウは後退しながらミサイルを発射した。
「逃げ腰でそんなことをしても、小賢しいだけですよ!」
 ビームガンブレードを射撃モードにし、ミサイルを撃ち落とす。
 尚も逃げようとするイーグルクロウに、ビームガンブレードの銃口が向く。
 避けようとするイーグルクロウだったが、
「甘い!」
 ビームガンブレード銃剣モード。
 避けようとイーグルクロウが移動する方向へ剣を振る。
 ビームの刃がイーグルクロウの胴体を捉えた。銃口のみでは届かないはずの距離。
 そのまま、両断される。
「素直に負けを認めればこんな結果にはならないのに……」
 悲しそうに呟き、イーグルクロウの爆発を見届けるダン。
 そんなダンはタオとマオの戦闘を目撃する。
 ビームガンブレードを連射し、イーグルクロウの回避ポイントを殺す戦法。
 兄弟である二人でしかできない連携だった。
「よ、容赦ない…………」
164本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:18:42 ID:???
 ただただ唖然とするばかりのダン。
「タオとマオも頑張ってるみたいだねぇ」
『ダーリン! そっちに行ったわよ!』
「はいはい」
 果敢にもマイケル機に向かってくるローズがいた。
「犯罪者がぁ!」
 ビームライフルによる射撃は、やはり拙い。
「その度胸は認めよう」
 こちらのローズはすんなりとレイピアを引き抜く。
 先程のパイロットよりは操縦技術は上。
 接近戦で勝機を見出すつもりか。
 マイケル機はナインテールを構える。
「食らえぇぇぇッ!!」
 レイピアを突き出すローズ。
「……やっぱり、駄目ダネ」
 ナインテールに絡め取られるレイピア。
 レイピアを取られ、なす術が無くなる。
 次の瞬間には、奪ったレイピアを放り攻撃を仕掛けてくるマイケル機の姿があった。
「熔・断」
「ああああああぁぁ!!」
 ナインテールによって斬られたその断面は鮮やかに熱を帯び、宇宙に色を添える。
 直後、ローズは爆発した。
「面白い武器だね、コレ」
 ナインテールの斬れ味に満足といった具合のマイケル。
 そんなマイケル機の背後に回ったイーグルクロウの1機が、ミサイルを放った。
『感心してる場合じゃないだろ!? アホダーリン!』
165本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:24:22 ID:???
 ターニャ機がミサイルを撃破する。
『当たってたら、コックピットの真裏だったわよ?』
「いやぁ、気を抜いてた。サンキュ」
『うっふん♪』
 ターニャはそう返すと、ミサイルを撃ったイーグルクロウを追った。
(守んなきゃね。ちょっと間抜けな新天地の創る男も、無口なガキンチョ達もさ!)
 機動性で負けるイーグルクロウにすぐに追い付くターニャ機。
 ビームガンブレードを銃剣モードにして、イーグルクロウを切り裂いた。
 次々と撃墜されていく地球圏連合軍勢。
 残す機体はイーグルクロウが2機、ローズが1機。
 勝負は、見えていた。
「ハッ! ツマラネェツマラネェ! 地球のクソに染まった薔薇なんざ、さっさと墜ちろやぁッ!!」
 残ったローズに接近するニコラス機。
 その時だった。
「みんな、気を付けな! 急速で近付いてくる大型の熱源反応!」
 レーダーに注意を置いていたターニャが呼びかける。
「コロニー下方から……まさかガンダムですか!?」
 遂に来たかと、ダンが声を荒くした。
「いや、違うようだね」
 マイケルが否定する。
「大型の熱源はブースターか何かだ。熱源本来はローズのもの。それも、2機!」
 マイケルの言ったことは、事実。
166本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:28:29 ID:???
「私は支援機の手を止める。トロニクス君、そちらは頼む」
『やれるとこまでやりますよ! 死にたくねえっスけど!』
 ギデオンの乗るグワッシュは、戦闘宙域の中心部に向けて、ヴァイスの乗るグワッシュを放り投げた。
 ギデオン機はミサイルを放つ3機のローズに向かう。
「速度固定。ビームライフルセット、着弾予想ポイントを算出……避けてくれるなよッ!」
 ギデオンはトリガーを3度、引いた。
 3つの光の放物線が、3機のローズに向かっていく。
 ビームは見事、ローズに命中した。
 1機は肩部のミサイルポッドに当たりそれが誘爆。
 1機は頭部に当たりメインカメラを破損。
 1機には命中しなかったが、丁度ミサイルを放った直後だったため、
ギデオン機のビームがミサイルに当たり爆発に巻き込まれてしまった。
「ビギナーズラックと笑いたければ笑え!!」
 ギデオン機はそのまま旋回し、ヴァイス機を追った。
「支援してたローズが全機撃たれた!? 無事か!」
 珍しく焦りを見せるマイケル。
『すみません隊長!』
『2機中破、1機生体反応はありますが応答無しです……』
 支援していたローズから通信が舞い込む。
167本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:31:35 ID:???
 胸を撫で下ろすが、安心してはいられない。
「動けるなら、その1機を回収して撤退しろ! 後は僕達でやる!」
『わ、わかりました!』
『ご武運を!』
 通信が切れた。
 マイケルは俯き、震えていた。
「規模は小さいが立派な急襲だ……賞賛に値するよ」
 レーダーに移る高速機の熱源。
「楽しいな! これでこそ戦い甲斐のある!!」
 マイケルは笑っていた。
 それは紛れもない武者震い。戦意が掻き立てられていく。
「アレは僕が戦る! 手を出すなよ!!」
 皆に通信を送るマイケル。
「じゃあもう1機は俺にくれ! このアームがまだ潰し足りねえってさァ!」
「スウィフト君、君も好き者だね。構わないよ!」
 通信を切ると、マイケルはギデオン機に向かった。
 ヴァイス機を任されたニコラス機も、近付くヴァイス機とすぐに対峙する。
『ミランダは、ミランダはどこだ!?』
 ローズ各機に向けたいきなりの通信だった。
「アァッ!? なんだコイツ?」
 意味がわからずニコラスが苛立つ。
「ミランダ……?」
 入ってきた通信に、マイケルは何かが引っかかる。
『ミランダは、ミランダ・ウォンはどこだって訊いてんだよォッ!』
「知るかァ!」
168本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:36:11 ID:???
 構わずにアームで潰しにかかるニコラス。
 ヴァイス機に、文字通りアームの魔の手が迫った。
「アームを持ってんのは、ソッチだけじゃねぇんだよォォォ!!」
 ヴァイスは叫んだ。
 GOユニットからアームが展開し、ニコラス機のアームを掴む。
「ナニィ!?」
 驚愕するニコラス。
「教えろ! ミランダと一緒なんだろ!?」
「知らねェっつってんだろ!」
「このチンピラがァッ!」
「ドッチがだッ! クソヤロォ!!」
 口汚い言い合いを繰り返すヴァイスとニコラス。
 アームによる掴み合いをしている今、どちらかが別の攻撃に移れば勝機がある。
「馬鹿がッ! こっちのアームはひとつじゃねぇんだよ!」
 先に出たのはニコラスだった。
 もう一方のアームを展開し、掴みかかろうとする。
 だが、
『止めるんだスウィフト君』
 マイケルの声だった。
 ハッとして、すぐさま掴み合っているアームを引き離し、ヴァイス機と距離を取る。
「どうした!?」
『この2機は地球圏連合軍じゃない』
「なに……?」
 マイケルの言葉に、ニコラスは思わず疑問の声を発した。
 マイケルは、至極落ち着き払っていた。
「そうだろう? 火星調査隊の諸君」
169本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:42:01 ID:???
 2機に通信を送る。
「そうだ。先刻ぶりだな。火星コロニー義勇軍の代表殿」
 返ってくる冷静な声。
 マイケルは確信した。間違いなく会談で仲介役を務めたギデオン・マクドガルである。
「マイケル・ミッチェルで構わないよ。でもなんだい? そんなもので戦場なんかに」
「我が隊の隊員を返してもらいに来た」
「ミランダ・ウォン。確かに君達の隊の一人だね。でも、彼女は僕達の仲間だ」
 そう、ミランダはスパイだった。
 マイケルの言葉が、それを物語る。
「馬鹿言うな! あんなに深刻そうな顔だったあいつが!」
 激昂したヴァイスで割って入ってくる。
「落ち着きなよ。これは彼女の意思だ。それを否定するのは、君達の仲間の否定だよ」
「何ッ!?」
「長い潜入任務で情が移ったのかも知れないね。でも結果的にはこちらに戻ってきた。その意味がわかるだろ?」
 マイケルにそう訊かれ、ヴァイスは黙ってしまった。
 ミランダの意志。火星コロニー独立派、火星コロニー義勇軍だという意志。
 やはり、全てが遅かったのか。
 ヴァイスは唇を噛んだ。肉が切れ、口内に血の味が広がった。
170本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:47:50 ID:???
「それに隊長さん、あんたもあんただ。民間人のあんた達が、そんなモビルスーツに乗って」
「我々にはある有力者からの許可があり、戦闘に介入し休戦ないし停戦を呼びかけることができる」
 強い声だった。
 ギデオンはヴァイスとは違い、ミランダの奪還に来ただけではないことが窺える。
「まだ続ける気かい? あんな終わり方をした休戦協定の交渉を」
「そうだ。我々は火星コロニー義勇軍の味方でもなければ、地球圏連合軍の味方でもない」
 問いを変えれば、ギデオンは迷いなく返してくる。
 マイケルは参ってしまった。
 戦意も、すっかり削がれてしまっている。
 黙っているマイケルだが、ギデオンの言葉はまだ終わってはいなかった。
「我々は、“和平への道”を実現する者だ!」
「!!」
 言い切られる。
 マイケルは驚き、そしてもう一度聞き返しそうになった。
 だがなんとかそれを抑え、マイケルは別の言葉を口にする。
「各機、戦闘を終了。直ちに戦闘宙域から離脱するよ」
 マイケルは撤退指示を出す。
「ギデオン・マクドガル。今日はあんたの熱意に免じて、隊を退く」
 彼にしては珍しい、真剣な声。
171本家ドルダ:2008/12/30(火) 06:53:27 ID:???
「だが、次はこうはいかない。これは火星コロニーの独立を賭けた戦争だ。
地球圏育ちの君達の声が届くほど甘い現実なんか待ってはいない」
「しかしここで諦めるより、やってみなくてはわからないこともある。
武装蜂起などを必要としない、潜入工作など必要としない、そんな道も」
 諭すようにギデオンが言う。
 そんな彼に、マイケルは笑った。
「僕も大概だけど、あんたサイコーに馬鹿だよ」
「マイケル・ミッチェル、貴方もそうじゃないのか? 本当は……」
「僕達の任務は、ガンダムの破壊だよ。それは絶対に、変わらない」
 マイケルは通信を完全にオフにした。
 ターニャ機、タオ機、マオ機、ダン機が宙域を離脱していく。
「ミランダ、返してもらうぞ。絶対に」
「だから知らねえって。聞き分けねぇな」
 この問答にほとほと嫌気が差したのか、ニコラス機も飛び去っていった。
「ドッチがだ……クソヤロー…………」
 コックピットに、ヴァイスの声が虚しく響いた。

(ここでCM。アイキャッチは戦場に残されたグワッシュと離脱していくローズ)
172本家ドルダ:2008/12/30(火) 07:31:15 ID:???
2009年を前になんとか投下することが出来ました。
執筆意欲が途切れなければ、年内に第8話後半の投下もいけるかも?

ドルダ戦ってNEEEEEEEな展開で申し訳ないです。主人公機なのにネ。
調査隊の面々が喋り出すとシンシアも途端に空気です。

>>エルトさん
ジム名前負けしすぎwwwww
GJです!

>>コナイさん
外伝良いですねぇ!
傭兵ネタは私も使おうと思ってたので先越されたぁ!って感じですw

クランとシンシア。第2話から続いていた偽りの姉妹関係の苦悩は第7話をもって無事決着です。
ミランダがスパイであることは第3話辺りから匂わせていたのですが、
火星コロニー義勇軍と連絡と取る等の描写はあえて一切しませんでした。
ですが第7話でミランダが回収を手配する描写がないのはこちらの完全な描写ミスです。
なんだか突然すぎね?って自分でも思います。
直したいけどgdgdになりそうなのでこのままです。サーセン……

>>バルドさん
いつもお早いまとめありがとうございます。
お忙しいとは思いますが、シオンとヘルガの父親の名前を設定してもらえるとありがたいです。
お願いできますか?
ここはやっぱりキャラ原案者様に頼まないとなぁと思いまして。
173エルト ◆hy2QfErrtc :2008/12/30(火) 09:49:47 ID:???
携帯からおはようございます
本家ドルダGJです!
まさか調査隊の面々が戦うことになるとは…
今後の展開に期待します

本編の人がおっしゃるように、僕もシンシアは動かしづらい…
なんつーか、新説は本編×アナザー+俺の自己満なんで、やっぱり自分のキャラは動かしやすいんですけど、まあそこは反省。
3分の1本家の血が入ってるせいか、こう意図的にコピペとか似せることもあるんだけど、自然にシンクロしてしまう時もあるというか。

今本家に感化されてか一応12話前半まで上がってますが、投下は年明けになりそうです。
ウィ○ドの方は完全にネタ切れな感じなんだけど…w
まあ、何が言いたいかと言うと本家GJということでw
ではスレ汚しサーセン
174バルド ◆lqbqZrNVoQ :2008/12/30(火) 13:48:39 ID:???
お久しぶりです、バルドです。

本家ドルダ乙です!いよいよ21世紀っぽいガンダム展開になってきましたね。
「主人公サイドが中立の立場で戦局に介入するが、それが新たな戦いを呼ぶ」みたいな。
クライン派やCBとはまた違った中立の立場が見れそうです。あと、桜花爛漫が登場していた事に驚きました。


「シドーのオッサン」こと、紫藤兄妹の父の名前は「紫藤蘇芳」です。
シオンが紫苑なので、紫繋がりで蘇芳にしました。ちなみに、シオンの実父
という事は母親がいたことになります。何かあった時のために名前だけでも
作っておこうという事で当初は「萌葱」あたりを考えてたのですがよく考えてみたら
そんなに都合よく夫婦の名前に関連性なんてある訳が無い…という事でシオンがカタカナ表記
である事に辻褄を合わせるため、外国人の名前「アリシア」にしました。

エルト氏>もう1クール分作るとは…GJです!

それでは、年賀状も描いた事だし、本格的にキャラデザに入ろうと思います。
175コナイ◇8GDQEpBT:2008/12/31(水) 16:49:56 ID:???
本家ドルダ乙です!!
年末に投下とはすごい。
GJです

エルト氏、じゅ、十二話……さ、さすがです。
投下、楽しみにしてますね。

バルト氏、キャラデザインがんばってください。
それでは、よいお年を!!
176コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/01(木) 00:00:18 ID:fux2KFIZ
明けましておめでとうございます。
今年もドルダをよろしくお願いします!!

バルト氏、wikiの素敵な年賀状、GJ!!謝謝!!
クランとギデオンが素敵です!!

177通常の名無しさんの3倍:2009/01/01(木) 23:13:36 ID:???
あげましておめどるだ
178通常の名無しさんの3倍:2009/01/01(木) 23:56:27 ID:???
>>177
うまいなw
179通常の名無しさんの3倍:2009/01/04(日) 03:00:28 ID:???
ほしゅ
180エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:14:37 ID:???
あけおめです。投下します
181エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:18:09 ID:???
翌日。
ルナリアンの手配したホテルですっかり疲れを取ったクラン達は、再びルナリアンの元を訪れていた。
「ようこそ。お待ちしていましたわ」
恭しくクラン達を迎えるルナリアン。
「どうぞ、かけてください」
大きなテーブルに、豪奢な椅子。
こんな高価な椅子には腰掛けたことのないヴァイスなどは、ドギマギしていた。
「では、早速本題に入らせていただこう」
ギデオンが、指を組んで神妙な面持ちで言う。
先日の火星調査報告の件…コロニー支社本部にはメールで報告を済ませてあった。
ただ、ルナリアンの直属の上司である月支社長の要請で、その報告をルナリアンに行うように、とのことであった。
故に、面々はこうして再びルナリアンの元を訪れていたのだった。
ギデオンがカード型端末をテーブルにかざす。
浮かび上がるホログラム映像。
議論を交わすギデオン、クラン、ルナリアン。
小一時間ほど、報告や議論等が交わされる。
そんな中、モモ・マレーンは退屈で仕方がなかった。
(ふあぁ…退屈です)
これまで何度も欠伸を噛み殺してきたが、今回はそれが出来なかったようだ。
ふと、ルナリアンと目線が合う。
ニッコリと大人の微笑みを浮かべるルナリアンに、サッと顔を赤くするモモ。
(うぅ…見られちゃいましたぁ、恥ずかしいです…)
がっくりと肩を落とすモモに、ルナリアンは優しく言う。
「…なんでしたら、月支社の内部を色々とご覧になってください」
「!い、いえ!だ、大丈夫です!」
慌てて首を振るモモ。
すると、シンシアがモモに話しかける。
「私、色々見てみたいな。行こ?モモちゃん」
シンシアの微笑みを見て、モモの顔にもじわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
「…うん!」
シンシアとモモは、ルナリアンに礼をすると、手を繋いで部屋を駆けだして行った。
「…ふふ」
微笑ましそうに笑うルナリアンと、安心するクラン。
(すっかり仲良くなっちゃって…)
モモとシンシアは、年齢が近いということもあってか、すぐに仲良くなっていたのだった。
「…いいよなァ、子供はのん気で」
ヴァイスがぶっきらぼうに言う。
「あら、一番の子供はあなたでしょう?」
クランが出された紅茶を一口飲んでから言う。
「…フン」
そっぽを向くヴァイス。不意に、こみ上げてきた大きな欠伸を噛み殺す。
「……」
真っ赤になるヴァイスに、ルナリアンが言う。
「少し、休憩にいたしましょうか」
上品な手つきで紅茶を注ぎ、それを口に含む。
182エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:18:53 ID:???
「ハッハァ、成程なァ。コイツは相当グレイトなことになってきてやがる」
フィリアの報告が全て終わった後、ジムが言う。
「ガンダム、ドルダ、か。フン、なかなか粋なデザインじゃねえか。で」
ジムはそこまで言うと、豪快に2リットルコーラを飲みほしてみせた。
「これからお前らは、どう動くつもりだ?」
再び、悟ったような鋭い目つきになるジム。
その視線に捉われたフィリアとディックはやや戸惑うが、意を決してジムに切り出す。
「実はそのことで、一つお願いがあるんです」
フィリアが真っ直ぐジムを見据えて言う。
「…何だい?言ってみろよ」
対してジムはニヤニヤしながら、煙草をふかす。
「先ほど、報告の際にも述べたのですが、我々第七次調査団の中に一名、MIAがいるのですが、その捜索に動きたいのです」
フィリアが言う。
ジムはニヤニヤしたまま何も言わない。
「公社の上層部や連邦軍の方にも働きかけてみたのですが、却下されてしまい…」
そこまでフィリアが言うと、ジムは手をかざし口を挟む。
「一つ聞きてえ。なんだって今更ソイツを探す?調査からもう数日経ってる。死んでるんじゃねえのか?」
「それは…!」
唇を噛むフィリアとディック。
「あら、ジムったらまたデリカシーのないことを」
「…るせえよ、ヴァニラ。静かに聞いてろ。で、何でだよ、理由を言ってみな」
今度はディックが答える。
「はい、実は今回の報告、火星で起こったことのすべてではないのです」
「!てめえら、この俺に嘘をつきやがったのか…!?」
ジムのこめかみがピクピクと動く。
「おいおい、ジム。そういう物言いだから器量が小さいのさ」
カナンがフッと笑う。
「黙ってろ、カナン。それと俺様の前で小さいは禁句だ。…で?どうなんだよ?」
ジムが目を細める。
カナンやヴァニラの挑発にも乗らない、ジムの真剣(マジ)モードだった。
カナンとヴァニラは目を合わせると、肩を竦める。
「その鍵を、現在MIAのその隊員が握っています。ですから、お願いします!」
ディックが深く頭を下げる。
プライドの高いこの男には、さぞや辛かろう。
ジムは、静かに問う。
183エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:19:34 ID:???
「オメーは軍人だったな。捜索隊には間違いなくオメーも選ばれる。またあのドルダと出会うかもしんねえ。それでも行くか?」
「!…答えるまでもありません。自分は何としてでも、彼を捜し出す心づもりです」
真っ直ぐジムを見据えるディック。
再びジムは静かに口を開く。
「そうかよ。で、探す理由は?調査の全貌を知る為かい?」
ジムの鋭い目線が、さらに鋭くなる。その眼力に、思わず何も言えなくなる二人。
そこに、カナンが助け舟を出す。
「…そういや、シュード主任は彼と親友なんだっけ」
親友、という言葉にロコツに反応を示すジム。
「そ、そうです!彼とは、生まれた時からの親友なんです!だから僕、いや、自分はどうしても彼を助けたい!お願いします!何だって言うことは聞きますから!」
ダメ元で畳みかけ、豪快に土下座するフィリアとディック。
カナンとヴァニラ、スメッグヘッドは目を丸くする。
ジムの表情は小揺るぎもしない。
(やっぱり、ダメか…!)
フィリアが悔しそうな表情をする。
ふと上を見上げると、ジムはその目からポロポロと、大粒の涙をこぼしていた。
「オ、オメーラァ、泣かせるじゃねえか、コノヤロウ…!」
突然の反応に、戸惑う一同。カナンとヴァニラはニヤニヤしているのだが。
「チクショウ、ダチの為かよ…!命賭けててめえの鬼友(オニダチ=マブダチの最上級形、らしい)助けに行くだとぉ…!」
どうやらこの男のブロックワードは「親友」などとそういった類のものらしい。
「いいぜ、オメーラ気に入ったぜ!連邦議会には俺の方から言っといてやる!大船に乗ったつもりでこのジャイアントマン様に全てを任せなァ!!」
何処から取り出したのか、可愛い少女趣味なクマの絵がプリントされたハンカチで、涙を拭っている。
(うわぁ…嬉しいけど、なんか色々どうしよう…)
立ち上がったフィリアとディックは顔を見合わせ、戸惑っていた。
が、すぐにお礼を言う。
「あ、ありがとうございます!」
「なぁに、いいってことよ!おっと、こうしちゃいられねえ!ヴァニラ!メシの時間だ!よぉ、オメーラ、ソイツとの漢なレジェンド、この俺に聞かせやがれ!」
豪快に言うジムに、ヴァニラは恭しく頭を下げ、給仕室に連絡を入れる。
184エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:20:33 ID:???
「ささ、座れよ!漢と飲む酒ほどうめえモンはねえ!今夜は飲み明かそうぜ!」
戸惑いながらテーブルの席につくディック。
フィリアは、ふとカナンの方を見る。
カナンはフィリアの視線に気づくと、パチッとウインクをしてみせたのだった。

「ところで」
紅茶をすすったルナリアンが言う。
「あの娘…シンシアさん、でしたか。彼女は調査隊の一員なのですか?」
「!」
クランとギデオンの動きが一瞬止まる。
報告には、シンシアの件は適当にごまかしていたのだった。
「…私の、妹です」
クランが言う。
「ええ。それで、調査隊の一員なのですか?」
にこやかに尋ねるルナリアン。相当強かだ。
「…あなたには、包み隠さずお話いたしましょう」
ギデオンが観念したように言う。ルナリアンの、全てを見透かすかのような瞳の前に屈したのだった。
「…ええ」
ルナリアンが頷くと、一同は再び真剣な面持ちで話し始めたのだった。

ジュネスでは、ガンダムマルスに搭乗したアレスと、ドル・デーに搭乗した陽光が出撃の準備を行っていた。
「準備はいいな、少尉?」
気遣うように言う陽光。やはり、置いてきた自らの娘に年齢が近いことがあってのことだろうか。
「問題ありません、大尉」
アレスは静かに答える。
ちなみにアレスは、ベイトやジミーの前ではコンパニヤの名を名乗り、全てをコンパニヤの礼儀に則って行っていた。
しかし、陽光に対しては、以前自らが所属していた火星コロニー軍の所属であるかのように接していたのだった。
「ふっ、そういえば我々ももう、軍の大尉や少尉ではなくなっていたのだったな…」
陽光は呟くと、わずかに目を細める。
「では、いざ、尋常に参らん!」
目的地は月。
ガンダムドルダの追撃を目的としたローズ部隊が一斉にジュネスを発つ。
宇宙を舞うローズを確認すると、二人も声高に言う。
「ドル・デー、宗谷陽光!出るぞ!」
「マルス ムスペルヘイム、アレス・ルナーク!出る!」
勢い良く宇宙に現れた紅きMSが、今再び、ドルダと運命の剣を交えようとしていた。

十話 終 十一話に続く
185エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:21:32 ID:???
新説ガンダムドルダ
第十一話 絶望の光

「そうでしたか…」
ルナリアンは紅茶のカップを置くと、目を瞑る。
全ての真実を語り終えたクランは、ある意味清々しく思っていた。
全員静かに、ルナリアンの次の言葉を待つ。
「それで、あなた方はこれからどう動くおつもりなので?」
ゆっくりと目を開き、再び全てを見透かすような瞳で、クランを見つめる。
「少し、前置きが長くなりますが…私個人は、こう考えています」
クランが続ける。
「先日の私達の調査の一件、そして『半月崩落事変』。火星コロニー圏の人々が剣を手に取った。
地球圏の生まれである私は、火星圏コロニーでの人々の生活をこれまで目の当たりにしてきて、本当に心が痛くなりました。
何も知らずに、地球で幸せに暮らしていた自分を、恥ずかしくさえ思いました。
…ご存じの通りの、『舞姫の殺劇』で私は家族を失いました。…けれど今では、それで世界の声を耳にすることが出来たのだと思っています」
ルナリアンは目を細める。
「あなたはお強いのですね…『舞姫の殺劇』、あれは酷い事件でした…」
続けて下さい、ルナリアンが言う。
「世界の声を聞くことで、どうしようもない人のうねり、というものがあるのだと気付きました。地球圏の人々にも言い分がある、けれど火星圏の人々にも言い分がある。
どちらもそれぞれの正義の名の下に、今を生きています。
けれど、だからといってこれを武力で解決していい理由にはなりません」
ルナリアンは黙って聞いている。無言で続きを促す。
最早クランの瞳にあるのは、自らの過去の痛みだけではなかった。
痛みを乗り越えて、人と歩み寄る未来を信じること…それが、今を生きるクランに出来ること。
痛みを知り、儚さを知り、そして世界の声を耳にしたクランは、未来の為に戦うことを決意していた。
絶望がもたらす光を、育てていかなければならない、と。
186エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:22:17 ID:???
「世の中には誰一人として潔白な人間などいない。それは自明です。
毎日こうすれば、ああすれば、のジレンマに板挟みになって、そういう歪みが重なって。
…世界の全てを救えない、そんなことはわかっています。
けれど、その歪みの原因を解決することで、信じる未来が訪れるというのなら私はそのすべてを解決していきたい、と考えています」
真剣な眼差しのクラン。
ギデオン、ヴァイスにミランダは目を丸くしている。
「…そうですか、あなたのお気持ちは良くわかりました。しかし、あと一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ルナリアンはにこやかに微笑むと、続ける。
「あなたは、シンシアさんと、ガンダムドルダを通して、何を見つめていくおつもりなのですか?」
「……」
ルナリアンは、自分が本当に聞いておきたい問いは絶対に問うておかねばならないと、思っているようだ。
クランが口を開く。
「あの機体、ドルダが何処からもたらされたモノなのか…そしてこの世界に何をもたらすのかは、わかりません。
ただ、私は…詭弁ですが、シンシアとの触れ合いの中で、ドルダをあるべき道へと導かなければ、と考えています」
「あなたの導く先に、必ずしも正しい答えがあるとは、限りませんよ?」
「わかっています。けれど、あの娘が、ドルダと共にいた、シンシアが進むべき道を示してくれる、と信じています」
強い決意を灯した瞳は、ルナリアンの澄んだ瞳を真っ直ぐに捉える。
絶望の光…クランの瞳に宿った光。
「…わかりました。ドルダとシンシアさんが実験対象にならないように、上層部の方には、私の方で対処しておきます」
「しかし、それではあなたが…」
ギデオンが口を挟む。
187エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:22:58 ID:???
「私は、見てみたいのです。貴女が…クランさんが信じた未来を、私も見てみたい」
ルナリアンが静かに言う。
「それに、大丈夫ですよ。私には、ライセンスがありますので」
またしてもにっこり微笑えむ。
「さ、おかわりを。おつぎいたしますわ」
そう言うと、ルナリアンは席を立ち、一同に紅茶のお代わりを並々と注いでいった。

包囲してビームライフルを放つローズ。
先行したマイケルとディランが、ビームサーベルによる接近戦を試みるものの、ドルチェの圧倒的なパワーの前に気圧されていたのだった。
「どう?気は済んだかしら?」
エリスが冷たく、高慢に言い放つ。
放たれたビームの全ては、ドルチェのシールドファンネルによって阻まれ、舞姫の身体に触れることすら叶わなかったのだった。
「…参ったね、どうも」
マイケルは舌を出し、ペロリと唇を舐める。
しかし、その口調とは裏腹に、相当焦っていた。
「ねえねえ、弱っちいんだからさ、早く帰りなよ。きっと、その方がいいわ」
エリスが拡声器を通してローズ全機に呼びかける。
「!女…!?」
ディランが呟きながら、ドルチェの隙をうかがう。
マイケルも、敵の酔狂な警告を耳にして何を思ったのか、エリスに言葉を返す。
「悪いけど、そういうわけにもいかないんだ。キミを連れ帰るか、破壊するか。それが僕達の仕事だからね。
それに、機体の性能差が必ずしも勝敗に繋がるとは限らないさ」
再びマイケルのローズがサーベルを抜き、ドルチェに立ち向かう。
「ダメよ、お兄さん。そんな仕事人間になったら。あなたの彼女、きっと泣いてるわ」
ドルチェはビームスコップを軽く振りまわし、いなすように受け止める。
両手を使いすべての力を込めたマイケル機の斬撃を、片手で軽く止めるドルチェ。
「ディラン!」
マイケルが叫ぶ。
「分かっている!」
ディラン機がビームサーベルを構え、マイケルの剣を受けている方と反対側に踊り出る。
「はああぁぁぁ!」
通常のローズよりも遥かに速い速度で、ビームサーベルでドルチェの脇腹を薙ぐようにして向かう。
「なんとかの一つ覚えってね!」
エリスは目にもとまらぬ速度で、左手でビームレイピアを抜刀すると、ディランの渾身の一撃を静かに受け止める。
188エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:23:44 ID:???
「ターニャ!タオ、マオ!」
今度はディランが声を荒げると、三機のローズのライフルからは、カーボンネットが放たれる。
ドルチェを滷獲するつもりなのだろう。
「強引なトコは好きよ。誰かさんにも、見習って欲しいくらい」
エリスは動じることなく、落ち着き払った動作で、全力のディランとマイケルを軽く弾き飛ばすと、二刀流でカーボンネットを切り裂く。
「…!いつでも出来ましたよ…ってことかい?ソレ」
「そういうこと♪」
勢いを殺しつつ体勢を立て直すマイケルに、エリスが言う。
「マイケル、プラン移行を推奨する。密集隊形で取り囲むぞ」
「分かった、ディラン」
すると、五機のローズは陣形を組み、五角形の形になると、そのまま左右に動きつつ、ドルチェの方へと向かう。
「狙い撃つぜ!…ってね」
ロングレンジビームライフルを取り出したエリスは、出力をマシンガンモードに調節し、ローズに照準を定める。
「来たよ!」
マイケルが言うと、襲い来るビームマシンガンの速射を、一斉に陣形を広げることで回避、次に縦列に並ぶ。
続くビームマシンガンの雨を、縦列から、マイケルを中心とし、逆の扇型になるよう横列に移動、一斉にビームライフルを放つ。
「なんとか至近距離まで近づいて、ライフルが放てればね…」
マイケルが言い、ライフルを撃つ。
「ちょこまかちょこまか…あぁ〜もう!」
エリスが言うと、ライフルの出力を上げ、速射モードから通常のビームライフルモードに切り替える。
「…!やっとマシンガンのリズムを掴んだところで…!」
ターニャが舌打ちをする。
「けどね!もう覚えたよ、あんたのクセ!」
ターニャが言う。
「私のクセ、ね。可愛らしく髪をかきあげてしまうことかしら?」
エリスが再び笑うと、ロングレンジライフルからは、ビームマシンガンとビームライフルがランダムに放たれた。
「クッ…!」
ディランの目が鋭くなる。
「あんなこともできるのか…けどね!」
マイケルがスラスターをグン!と踏み込むと、一瞬のうちにドルチェの後方へと回り込む。
「これで、終わりさ!」
マイケルのローズが至近距離でビームライフルを構える。
189エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:24:28 ID:???
「ところがぎっちょん!…ってね」
背部に搭載された、追尾型のビームファトランクスがマイケルを襲う。
「気をつけてね。追っかけてくる上、出力も結構キツイから!」
サーベルとライフルを構えた四機のローズを前に、ドルチェは機体を転身させる。
タオとマオの連携の取れたライフルの全てを紙一重で避け、ディランとターニャのサーベルを、武器を素早く持ち替えることで対応する。
「なかなかやるじゃん♪ここまで食らいついたのって、そうそういないよ」
実際、マイケル・ミッチェル隊のこの五人は、相当優秀なパイロットであった。
中でも、マイケルとディランは、ドル・デーパイロットの最終候補者だったのだ。
戦闘力も平均的なローズパイロットとは比べ物にならないほど高い。
「この…!バカにするんじゃないよ!」
ターニャがサーベルを持つ手に一層力を込める。
刹那、タオとマオが、ビームライフルを撃ちつつも、ビームサーベルそのものを投擲してきた。
「!」
エリスの目が見開かれる。しかしすぐに笑うと、目を細めて呟く。
「あら、大胆だこと…」
「クソッ!俺の出番って言いてえんだろ、どうせ」
「分かってるじゃない、デイヴ」
デイヴは理不尽な戦闘に巻き込まれた怒りから、今はエリスにではなくマイケル隊の面々に対して敵意を抱いていた。
それもそうだ。今のデイヴにとって、この五人はただのお邪魔な名無しパイロットにしか過ぎないのだから。
「そこを、どけェ!」
言うと、シールドファンネルが再び宙でシールドを形成し、不意をついたタオとマオのサーベルを弾き返す。
「「!」」
咄嗟に返されたサーベルを避け、体勢を立て直す二人。
線対称になるようにして、それぞれが、ディランとターニャの加勢に向かう。
四本の太刀を受けてもなお、超然としているドルチェ。
「…これはさすがにちょっと、キツイかもね」
舌舐めずりをしながら言うエリス。
と、そこに…
「僕を忘れて貰っては、困るな!」
ビームから逃げ切ったマイケルが、ドルチェにビームライフルを放つ。
「至近距離で放てば!へんなシールドも使えないだろ?」
マイケルの放ったライフルを食らうドルチェ。
「仕上げだ!ディラン!」
言うと、ディランのローズがビームサーベルをもう一本構え、ドルチェの顔面を穿とうと突きを繰り出す。
190エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 16:27:00 ID:???
さるさん死ね
続きはまた後で投下します…
191エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:26:21 ID:???
「はああぁぁぁ!」
鬼気迫るディランと、したり顔のマイケル。
「!」
驚愕に目を見開くエリス。
ガンダムドルチェは、五人の精鋭が駆るローズによって、今まさに天使の羽をもがれようとしていた。

「わぁ〜、さすが月支社。噂には聞いていましたけど、やっぱりすごいです!」
モモ・マレーンと謎の少女シンシアは、二人で仲良く月支社の内部を探検中だった。
「…よくわからないけど、私も初めて見るものばかり」
二人がいるのは月支社の医療部門研究室。
医療隊員であり、将来本格的に医療を志しているモモが、シンシアの手を引っ張って強引に連れてきたのだった。
研究室の中には入ることが出来ないので、ひょこっと頭を出し、外部のガラス張りから研究員の作業の様子を見ていたのだった。
「う〜ん。医療部門は本社より、だいぶ進んでいますね…」
モモが唸る。シンシアは、「ほぇ〜」と感心したように見つめている。
「早速メモメモ…」
モモは取り出した携帯端末に、今目にしている情報を書き込もうとしていた。
と、そこに。
「なんだ。どこのいたずら鼠かと思ったら、可愛いお客さんじゃないか」
研究員と思しき人物。白衣を身に纏っている。
ただ他の研究員と異なる特徴があるとすれば、彼女は白衣に帽子をかぶり、ポッキーと言う地球圏のお菓子を食べていたことだった。
「あ…す、すいませんでしたぁ!」
モモが急いで頭を下げる。
「いーのいーの。気にしなくても。…実は私もココで何やってるかよく分かってないんだ」
すると、研究員がポッキーをモモに差し出しながら、ニッコリと笑ってみせた。
「あ、ありがとうございます!」
ポッキーを受け取り、頭を下げるモモ。
対照的にシンシアは、もう既にポッキーを目にしてどうやって食べていいのか四苦八苦している。
「ああ、いいよ、もう。そんな」
「あ、あの…研究員の方ですよね!?ここで何の研究をやってるか見学させてください!」
再び深々と頭を下げる。
192エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:27:09 ID:???
「そ。私は伊吹・アダルベルト。一応ココの研究員…なんだけど、最近ココに来たばっかで、よく分んなくてさ」
タハハ、と笑う伊吹。
「専門がコンピュータプログラミングなんだけど、ちょっとココでその力を貸してくれないか〜なんて言われちゃって。
普段は学生やってるんだけど、ちょうど長期休暇中だしね。だから私、医療部門のことはよく分らないんだ」
すると、モモは何かに気づいたように、慌て出す。自己紹介をしていなかったのだ。
「あ…私、モモ・マレーンです!公社の第一次火星調査隊の、医療隊員です!」
「第一次火星調査隊!?凄いね、モモちゃん。ところで、そっちの娘は?」
聞かれてまたもや慌て出すモモ。シンシアはマイペースなのか、人見知りなのか、自己紹介をしようとはしなかった。
「シンシアちゃん。私の、友達です!」
「そっか、ヨロシクね。…あ、そうだ。今ちょうど私休憩中だからさ、談話室でお話しない?お菓子とか、ツマミながら」
お菓子、という言葉に反応を見せる二人。
「あはは。じゃ、行こう?」
シンシアとモモの二人は、伊吹に連れられて談話室へとその足を運んで行った。

「邪魔」
不意に、エリスがひどく冷たく言い放つと、ドルチェが四機のローズを吹っ飛ばす。
いや、力で押したというわけではない。それが出来るならとうにしている。
いくらドルチェといえど、四機のローズに両腕を塞がれたまま攻められてはたまったものではない。
何か、圧縮されたエネルギーのようなものがローズを吹っ飛ばしたのだった。
「くっ…ああああぁぁ!」
叫ぶターニャとディラン。
「ねぇ、ゴミの癖にさぁ?調子に乗らないでって、ワタシ言ったよね?」
不意に目にもとまらぬ速度で、ビームスコップとビームレイピアを抜刀し、マイケルのローズの両腕を切り裂く。
「!」
咄嗟に回避しようとしたマイケル。しかし、なす術もなく両腕を持っていかれた。
「Doll-ceシステム、解放。アンタらなんか、ワタシの奴隷にも相応しくないわ」
ドルチェの純白の機体が、より一層…いや、白銀に輝く。
「そうね…この世界から、消してあげよっか?」
嗜虐心を隠そうともしない表情で、少女は一切の武装をしまう。
「なん…だ!?」
マイケルが言い終わらないうちに、ドルチェの全身からビーム状の波動が放たれる。
「こ、これはッ!?くああああ!」
放たれた波動は、徐々にローズの装甲を削り取っていく。
「アッハハハハハ!苦しんで、死ね!」
輝きを失った瞳で、少女が冷たく笑う。
193エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:27:54 ID:???
「クッ…!一時、撤退だ!!」
フラフラと逃げていく五機のローズ。
「ターニャ、テレウスに、連絡をッ…!」
ぐああああ!叫ぶマイケルの全身からも血が溢れ出す。パイロットスーツには亀裂が走る。
しかし、その美しい容姿とは裏腹に、それを黙って見逃す程、少女は甘くなかった。
冷たく輝きを失った瞳で、しかし激情をその心に秘めながら。
その可憐な唇からは、普段の彼女からは想像も出来ないような言葉を紡ぎ出す。
「…下等種が。見苦しいから、サッサと消えて」
ロングレンジビームライフルから放たれるは、特大のビームキャノン。
五機のローズは、絶望の光に飲み込まれていったのだった…

「!」
同時に目を見開くはエステル。座っていた椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がる。
「今…」
冷や汗をかいている。呼吸も荒い。
「どうしたんじゃ、エステル」
粒子の研究を進めながらも、助手を気遣うティモール。
「いえ、なんでもありません。博士」
「…少し休憩にするといい。お前さんも疲れておるじゃろ」
「…ええ。すいません」
研究室を後にするエステル。
ティモールは顕微鏡を覗きながらも、片手をあげ、助手を見送った。
フラフラと、薄暗い廊下を歩くエステル。
(絶望の、光…)
唇を噛むと、そのまま廊下にうずくまる。
(まさか、あのチカラを…!?)
エステルは天を仰ぐようにして、縋るような目つきで、暗い天井を見つめ続けた。

「…結局、なんだったんだろな。あの人は」
ルナリアンとの会談を終え、会議室を後にする一同。
歩きながら、ヴァイスがそう呟いた。
「なんだった、というと?」
答えるのはミランダ。
「いや、なんつーか…不思議な雰囲気だったよな。何でもかんでもお見通し、みたいなさ」
「まあ、それはそうですけど」
「オマケにコイツがとんでもないコト言い出したのにはビビったけどな」
ヴァイスは、自らの前を歩くクランの方を顎で指す。
「…ええ」
頷きながら、寂しそうにクランを見つめるミランダ。
194エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:28:36 ID:???
(夢物語だわ、クランさん…)
俯きながら、その足を進める。
(けれど、私も…私も、彼女と同じ世界が見たい…)
絶望の光…ミランダの瞳に宿った光。
「…どうかしたのか?」
「いえ、大丈夫です」
ミランダ・ウォンは、第一次調査隊の一員として、自らに何が出来るのかを今一度自らの心に問い、決意を新たにしたのだった。

伊吹・アダルベルトとのささやかなお茶会が終わり、クラン達と合流すべくモモとシンシアは会議室へと足を運ぶ。
ドアを開きかけると、そこで会議はもう行われてはおらず、ルナリアンが何者かと回線で話をしていたのだった。
(なんだか、まずいです…)
咄嗟に隠れてしまうモモとシンシア。
ルナリアンはにこやかに話をしていた。
「…ええ。彼らの個人データは、後日お送りいたしますわ。それで、そちらの方は…」
頷きながら相手の話に耳を傾けるルナリアンを見て、モモは怪しく思う。
(個人データの転送って…!やっぱり、あの人は怪しいです!)
ええ、ええ。相槌が聴こえる。
「了解いたしましたわ。それでは、良い夢を。ジム」
気になる回線の相手。それは、先日フィリア・シュード達と出会っていた、ジャイアントマンこと、ジム・ストライカーであった。
不意に、シンシアがひょこっと顔を覗かせてしまう。
(!ああ、もうお終いです…)
何がお終いかはモモのみぞ知る所ではあるが、とにかくその時彼女はそう思った。
「あら?あなた達は…」
「あの…会議の方は、もう終わったのですか?」
シンシアが尋ねる。
「ええ。もう終わりましたよ。あなたのお姉さんなら、一階のレセプションホールにいらっしゃると思いますわ」
にこやかに答えるルナリアン。
「ありがとうございます、早速行ってみま…」
「あ、あの…なんだかすいませんでした!モモ達、別に盗み聞きとか、そんなつもりじゃ…」
お礼を言うシンシアを阻み、またもやモモが頭を下げる。
ルナリアンは目を丸くすると、再び微笑えむ。
「…いえ、構いませんわ。取るに足らない会話ですもの。それより、お連れの方々がきっとお待ちしていますわ」
モモは再び自らの顔が赤くなるのを感じた。
195エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:29:38 ID:???
「し、失礼します!」
「ええ。また、お会いできるといいですわね」
足早に去っていくモモとシンシアを見送り、ルナリアンは静かに呟いたのだった。

「指定ポイントに到着。月地区標準時刻一四○○を以て、任務を開始する。マルス ムスペルヘイム、目標を溶解する」
そう言ってアレスが手に持つビームバズーカの銃口を向けたのは、コロニー軍ルナリアン駐屯部隊の基地。
そして重厚なフォルムを持つ機体…マルス ムスペルヘイムの横には、宗谷陽光の駆るドル・デーの姿があった。
「ローズ部隊は二手に分かれ、片方はルナリアンへと向かえ。ドルダをおびき出すのだ!もう片方はここで、まず駐留軍を叩く!」
陽光が言うと同時に、十機程のローズが、二手に分かれていく。
「うわああああ、敵襲ー!」
マルスの銃口から放たれたビームバズーカの、絶望の光が、駐留軍基地を蹂躙していく。
「おのれ、火星義勇軍か…!出撃出来るMSは全機、直ちに出撃せよ!」
駐屯基地の司令官が命令を下すと同時に、二十機ほどのグワッシュ・ドグッシュの混成部隊、ガーランド十機が一斉に出撃する。
「ここまで来たら、もう戻れぬのだよ…」
陽光は、紅き戦神を駆る少年が心を痛めてやしないかと心配しつつ、そして、自らを鼓舞する為に呟き、静かにビーム刀を抜いたのだった。
「ドル・デー!敵部隊を一掃する!」
絶望の光…陽光の瞳に宿った光。
陽光の描くビーム刀の軌跡が、その光を強く強く、映し出した。

十一話 終 十二話に続く
196エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/05(月) 18:37:53 ID:???
出来?まあアレです
なんだか好き勝手やっちゃった十話に00一期見直した直後に書いたらこんなんなっちゃった十一話。
ぶっちゃけ主人公陣営の戦う理由を考えるのが難しい。
後で書き直すかもしれないです

>>バルド氏
年賀状GJです。クランとオマケっぽいギデオンがいい感じ。
つーかギデオン30だったのか…てっきり40くらいかとw
どうでもいいけど未だにとてもじゃないけどクランやミランダが俺とタメだなんて信じられないw

久し振りだったんで、オマケに仮次回予告

人は何故、戦うのか?
時代の流れに袂を別った自らの姉と再び向かい合う時、少年の瞳が映す物とは…?
次回「ムスペルヘイム」
想いという名の剣戟が、ぶつかり合う
(CV:アムロの人)
197コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/08(木) 20:45:06 ID:JQv97o97
GJ!!わぁどんどんとストーリーが進んでいく
急がないとほんとに先が無くなる。
次回予告カッコEE!!!
198通常の名無しさんの3倍:2009/01/10(土) 20:58:05 ID:???
投下乙
過疎ってるな
199通常の名無しさんの3倍:2009/01/11(日) 18:01:56 ID:???
保守しとくか
200通常の名無しさんの3倍:2009/01/13(火) 17:23:06 ID:???
ほしゆ
201通常の名無しさんの3倍:2009/01/13(火) 23:13:03 ID:???
サイトの更新が止まってるな
202エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:39:15 ID:???
久しぶりに投下
今回は前々から短かったなーって思ってた第一話を加筆したものを投下します
203エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:40:15 ID:???
新説 ガンダムドルダ
第一話 運命の序曲

進宇宙歴100年 地球・旧アメリカ地区

「何だってんだよ!?あのMSは…!?」
荒れ果てた街。殲滅された軍事基地。逃げ惑う人々。
血に叫ぶ人の弱さが、暁の夜明けと共に世界を包んでいく。
瓦礫の中に佇むは、雪のように真っ白な機体…MS(モビルスーツ)。
純白の舞姫とでも形容出来そうなその機体は、地球連邦軍の有するMS、「グワッシュ」「ドグッシュ」「ガーランド」のいずれとも異なる様相を持つ。
極限まで白という白を突き詰めた美しい流麗なフォルム。
レイピアを振りかざし、殺戮を繰り返す姿であっても、その姿は一つの完成された芸術品。
ただ、ただ一つ、先に挙げた三種のMSとは大きく異なる点。
顔面部にV字のアンテナを持ち、絶望を色濃く映す二つの瞳…
「ガンダム」と呼ばれるタイプのMSであるのだが、この時人々がそういうことを知る筈もなく。
ただ、自らに与えられる虐殺という名の苦渋を甘んじて受けるしかないのであった。
『怯むな!ドニ隊、後方へ回り込め!』
編隊を組んだグワッシュとドグッシュの混成部隊が、一斉にリニアライフルを構え、プラズマのエネルギー弾を放つ。
舞姫は音もなく、プラズマのエネルギーを、手にした奇妙な匙状の武器で打ち払う。
静かで流麗な、洗練されたその動きに、恐怖心からでなく美というものに感心するという意味で、息を飲む者も少なくない。
と、一瞬のうちに舞姫が匙を振りかざす。
死神の鎌のようなその武器は(見た目はひどく滑稽だ)、音もなく十機の…いや、十人の、命を否定する。
「うわああああああ!」
次々と撃墜されてゆく仲間達を目の当たりにし、テッド・デッドは冷や汗をかいていた。
まだ耳の奥で、エマージェンシーのブザーがやかましく鳴り響いている気がした。
彼の意識はほとんど薄らいだ状態であったが、気の遠くなるほど訓練を繰り返した肉体は、滞りなく最新鋭機、ガーランド起動の動作を行い、今や発進を待つのみとなっていた。
狭いコックピットに計器の音が響くと、ようやく五月蝿い耳鳴りが治まってくれた。しかしそれと同時に、引きつった心臓が烈しく鼓動し始めた。
204エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:41:09 ID:???
地球連邦軍少尉という称号を持ち、エースパイロットとしての名を欲しいままにしている彼。
しかし、軍基地の損耗率が既に40%を超えているという前代未聞の事実を突き付けられた今、全てをかなぐり捨ててでも逃げだしてしまいたかった。
モニターが起動し、自分の体とコンソールを除いた全てが消え去った。手を伸ばせばすぐ届くところに格納庫の壁があるのと同じく、自分の死も目前に迫っている心地であった。
足が震えた。操縦桿を握る手も緩み始めた。
けれど、けれど…
この街は、自分の生まれ故郷。自分という人間をここまで育て上げた場所。
家族も、恋人も、友人も、彼の全てがこの地に存在する。
発進シークエンスに移行する旨がオペレーターより伝えられると、彼は大きく深呼吸をして覚悟を決めたのだった。
「テッド・デッド、ガーランド!発進する!」
勢いよく発進したガーランドは宙を舞い、同時に発進した仲間のグワッシュやドグッシュ、ガーランドと合流し、編隊を組む。
不意に仲間の一人が呟く。
「ガンダム…ガンダム、ドルチェ」
ガンダム…?確かに今そう聞き取れた。その後は何と言ったのかよく聞き取れなかったが。
ガンダム、という言葉がなぜか脳裏に焼き付いて離れないまま、テッドは奇妙なジャメヴを感じつつもアサルトライフルを構える。
彼の隊に所属する十機のMSは、同時に舞姫に向けてプラズマのエネルギー弾を放つ。
「ガーランドは私について来い!接近戦による離脱戦法を取るぞ!」
先程呟いた仲間の声が凛々しく響き渡る。
進宇宙歴100年当時における、地球連邦軍最新鋭機・ガーランド。
当時のMSの中で最速を誇る為、その機動性を活かしてのヒット&アウェイ戦法を得意としている。
圧倒的な戦闘力を有する目の前の機体に対抗するには、最早これしか手段は残されていない。
グワッシュとドグッシュはひたすらリニアライフルを撃ち続け、舞姫の牽制に努める。
テッドは仲間の駆るガーランド数機と共に、主武装の一つ、白兵戦用のD-2ダガーを抜き、ライフルを撃ちつつ特攻する。
「うおおぉぉぉ!」
全てを賭けた命がけの一撃も、ひらりと避けられ、最早ガーランド達は空に特攻しては離脱の繰り返しという虚しい醜態を晒しているに過ぎなかった。
舞姫はその間も匙を振るい、牽制役を買って出たグワッシュ・ドグッシュを次々と破壊していく。
「舐めやがって…!」
テッドはアサルトライフルの出力を最大にし、仲間のグワッシュを屠る舞姫へとそのトリガーを向ける。
205エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:42:16 ID:???
「食らいやがれ、化け物が!」
放たれた閃光を、舞姫が匙を構え受けとめる。
流れるようなその動作と共に、ひぃと気の抜けた声を上げて袈裟斬りにされたグワッシュの半身が、テッドのガーランドの元へと飛ばされてくる。
鮮血のこびり付いたコンソールの残骸がガーランドのメインカメラに当たり、テッドは中のパイロットと視線が合う。
死者の目線だ。
テッドがOSを再起動し、抱きつくように片腕で絡みついたグワッシュをやっとのことで振りほどくと同時に、少し遅れて機体は爆散したのだった。
やがて何度目になるだろうか、仲間のガーランドのうちの一機が、舞姫の頭部を捉えた。
「貰ったァ!」
よし!
その場にいる全員が、わずかな希望を見出した時、それは起こった。
舞姫の対の瞳が妖しく光ったかと思うと、その華奢な機体の全身から、何か不思議な波動が放たれたのであった。
「うわあああああぁぁぁぁっ!」
一斉に強風を浴びせられ、遠く飛ばされる機体の中で、テッドは舞姫の衝撃波から起こる驚異のGにその身を蝕まれ、吐血した。
薄らいでいく意識の中で、痛みだけが激しく疼きテッドは半壊したガーランドのコクピットの中で、静かに息を引き取ることとなった。
彼が最後に見たもの。
それは、舞姫に敢然と立ち向かう一機の友軍機の姿。
恐らく、静かな呟きを洩らした仲間の機体であろう。
テッドはその姿を一瞥すると、安堵したように、ああ、と呟いたのだった。

撃墜されたグワッシュのうちの一機。
そこに、彼がいた。
地球連邦軍ドニ隊所属、デイヴィッド・リマー曹長は、乗機であるグワッシュを大破させられながらも奇跡的に一命を取り留めていたのだった。
軽傷で済んだ彼は、人員不足のこの現状に対応する為、すぐに戦場へと駆り出される。
いわゆるレスキュー隊として駆り出され、街に住まう一般の人々の救助・救援活動に当たることとなったのであった。
…人々の直接の死因、あるいは怪我の原因は、舞姫から放たれるビームによるものというより、それによって引き起こされる二次的な要素にあった。
炎上の街に崩れ落ちる建物、人々は呻き、叫び、戦慄き、祈った。
街の惨状に息を飲む彼は、強い正義感を持った瞳で戦場を駆け巡る。
既に息も切れかかっている。
無理もないことだ。先ほどまで死の恐怖と戦い、ある意味それに打ち克った。
と、今度はパイロットである彼が慣れぬ救援活動に駆り出されたのだ。
しかし、それでもと、炎上の街をひた駆ける。
一人でも多くの人の生命を、助けなければならない。
誰も皆、死ぬ為に生れてきたわけではないのだ。
「リマー曹長、あれは…!」
仲間の一人が指を指した先に映る光景…
既に生き物ではなく赤黒い物体へと変貌してしまっている、夫婦と思われる一組の男女。
降り注ぐ瓦礫にその生命を奪われたのだった。
半壊した建物の外には、長く綺麗な赤い髪を持つ少女と、真っ直ぐな瞳を持つ少年。
中途半端に破壊されたその建物は、メラメラと迫りくる炎にその身を委ねる寸前であった。
206エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:43:16 ID:???
「君達、大丈夫か!?」
デイヴィッド・リマー曹長は、二人の下にすぐさま駆け寄る。
仲間の一人が、少年と少女に毛布をかける。
と、そこに。
起こっては、ならないことが起きた。
運命の歯車が、狂ってしまった。
白き舞姫は、彼らがいる地点にその瞳を向けたのだった。
「お、おい…!」
仲間の一人が指を指す。
舞姫は、まるで自らの愉しみの為だけに、その手に持つ匙状の武器をゆっくりと振り下ろす。
「!逃げるぞ!」
蒼白になりつつも、冷静な判断を下す曹長。
「うわああああああああ!」
つんざくような音がこだまする。
やがて、意識が黒に支配されて…

これが、進宇宙歴100年…
「テロリズム・イヤー」と呼ばれ、世界中でテロによる悲劇が多発した年に起こった、もう一つの、そして最大の悲劇。
後の時代に、「舞姫の殺劇」と語られるこの悪夢は、人々の心から決して拭い去ることのできない傷跡を作り出すに至った。
物語は、二年後、進宇宙歴102年から、その幕を開ける。


深い深いまどろみの底で、見た夢。
それは、決して開けてはならない、パンドラの箱…

一人の少女が、悠久の時を眠る。
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…

世界が、崩壊した。

デイヴィッド・リマーはそこで目を覚ました。
「クソ…!またあの夢かよ…!」
デイヴは忌々しそうに頭を掻き、水を飲もうと立ち上がる。
汗をびっしょりとかいた所為で、ひどく喉が渇いていた。
寝台にはシーツもなく、あちこち綿のはみ出たマットが剥きだしになっている。作業着と黄ばんだ下着を一緒くたに丸めたのが枕代わりであるらしかった。
床には空き瓶と空き缶が散乱し、部屋に据付と思わしき冷蔵庫は開け放しで、乱暴に放り込まれたビール缶に、バスケットシューズが覗いて見えた。
これが、デイヴィッド・リマーの住処。唯一、誰にも気を使わずとも過ごすことのできる場所だった。
お世辞にも清潔であるとは言い難い水道水を、一気に飲み干してから、時計を見る。
ひどく不快な気持ちで、すっかり目も覚めてしまった。
207エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:44:27 ID:???
「…半端な時間だな」
昨日、いつ床に着いたのかはよく覚えていない。
確か、いつもどおり正午に起き、大家の催促を逃れてパチンコ屋へ出かけた。
負けも勝ちもせず夜になって、行きつけのバーでカードに興じ、負けが込んできて、店主に追加の酒を頼んだら店から追い出された。
その後の記憶はぼやけて、なにやら悪態を付いていたかもしれず、通行人に絡んでいたかもしれない。
酔いが回りすぎて、デイヴィッドは自分が何を言ったのかさえ覚えていなかった。
時間は九時半。但し夜のほうだ。
この感じだと、ほぼ丸一日寝ていたようだ。
「まあ、構わねえさ」
玄関には大家の書置きがあったが、それを丸めて捨て、デイヴはいつものように夜の街へと繰り出して行った。

フィリア・シュードは戸惑っていた。
仕事で新たな人材が必要となり、その処遇を上から任されたので、自らが適任と判断した旧友を誘うことに決めた。そう、ここまでは良かった。
「何でこんなに臭うかな…デイヴ、君は本当にこんなところに住んでいるの…?」
現在フィリアがいる場所、それは人類が火星開拓のために築き上げた簡易居住惑星であった。
火星軌道と木星軌道の間には小惑星帯が存在し、そこには岩石をくりぬいて作られた安価な居住小惑星が無数にひしめき合っている。
進宇宙歴102年…
度重なる紛争や、人口爆発、食糧問題…これらの出来事を解決しようと、人類は新たなる希望を火星に抱き、テラ・フォーミングを計画してから102年…
その中で、テラ・フォーミングに携わる労働者、技術者達が、作業効率を上昇させ、また自らの住居とする為地球及び火星軌道上に幾つかのコロニー群を形成していた。
進宇宙歴102年現在では、テラ・フォーミングも終了し、そういったコロニー群も一段落ついてはいた。
しかし、かつては食糧の自給が困難で地球からの輸入に頼らざるを得ず、長らく地球の圧政下にあり、人々の地球に対する不満や不信感は頂点に達していた。
そんな中、デイヴが居住しているのは、テラ・フォーミングの為の仮住居であるコロニー建造の、そのまた仮住居であったのだった。
軌道が不安定で行き来も不便であるから、これら簡易居住小惑星の地価は地球・火星間の小惑星やコロニーに比べて数千分の一である。
フィリアが訪れたのも、何々番小惑星と呼ばれる名も無き居住小惑星の一つであった。
農業区画から垂れ流されるリンと流れの停滞とで富栄養化現象が発生し、居住区画の川は緑色に濁っている。
鼻にさわる臭気は、そこと、天井の大型空調機から発せられるかび臭い空気が原因であると思われた。
路肩にぽつぽつ坐っている乞食も月の大都市で見られるそれが上品に思えるほど薄汚く、立ち並んだ粗末な作りの建物からは、酔っ払いの怒鳴り声や夫婦喧嘩と思われる金きり声が響いてくる。
208エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:45:48 ID:???
フィリアは自分が通行人にじろじろ見られているのを感じた。
染みが無く糊の利いた服を着ているのがフィリアだけであったこともあるが、路地の物売りの中年女性たちはフィリアを見てひそひそ囁き合い、軽蔑の言葉を漏らしている。
労働者ふうの男が馴れ馴れしくフィリアの肩を抱いて、卑猥なことをささやきながら皺だらけの紙幣をフィリアの手に押し付けた。
見当違いも甚だしい。フィリアは男の手を払って歩き出した。
後ろから怒鳴り声が聞こえたが、フィリアがある事実を告げてしまうとすぐ静かになり、少し遅れて、先ほど囁き合っていた中年女性たちが大笑いするのが聞こえた。
フィリアは小さな下宿屋の前で立ち止まった。携帯端末を操作して住所が間違っていないのを確認し、それからインターフォンを押した。
しばらく経つと、中年と熟年の中間ほどの年齢と思わしき女主人が出てきて、胡散臭そうな目つきでフィリアを眺めた。
フィリアは女主人に事情を話しながら携帯端末に映る顔写真を見せたが、彼女はのらりくらりとフィリアの質問をはぐらかし、相変わらず疑りの目でフィリアを見ていた。
フィリアはこのままでは埒があかないと考えて、女主人の手に幾枚か紙幣を握らせた。
その途端に彼女は打ち解けたと見え、フィリアを家の中に通し、「デイヴィッド・リマー」と表札に書かれた部屋に案内した。
部屋の主は居なかったが、どんな人物がここに暮らしているのかは容易に想像できる有様であった。
女主人の話によれば、デイヴィッド・リマーはここ数ヶ月ずっと働いていないらしかった。
朝から晩まで酒場や賭場へ通い、そうでなければ部屋で何もせずに飲んだくれているそうである。
部屋の使い方が汚いやら家賃の支払いが三ヶ月も滞っているやらと、女主人がいらぬことまで愚痴り始めたので、フィリアは暇を告げて逃げるように下宿屋を立ち去った。
デイヴが入り浸る界隈を訪ね歩いて、そのたびにいやらしい言葉を浴びせられながらもフィリアは根気強く彼を捜し続けた。
一見して余所者と判るフィリアがからかわれないでいるためには、会話を交わすごとに財布を軽くしなければならなかった。
さて、幾分かの時間と金を使い知り得た情報を元に、フィリアが辿り着いたのは、とある賭博場だった。
209エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:46:33 ID:???
ふーっと深呼吸をし、扉に手をかける。先ほどの住民達からの態度にはもうだいぶ慣れてはいたが、やはり気持の良いものではない。
意を決して開けた扉の先は、大乱闘の真っ只中であった。
その中心にいる人物…よく見知った顔の男を見て、フィリアは溜息をつく。
「るせえっつてんだよ!俺はイカサマなんざしてねえ!」
旧友、デイヴとそれを取り囲む男達。
酒を呑むどころか酒に完全に呑まれてしまい、自制の意思が利かなくなっていた旧友の眼は、獣のそれだった。
…なんだか大変な場所に居合わせてしまったらしい。
(あーあ、出来上がっちゃってるなぁ。デイヴ、お酒に弱いから…)
殴る、殴られるの乱闘が続き、やがて床に打ち伏せられるデイヴ。多勢に無勢だ。
「このアル中が!調子に乗ってんじゃ…」
毛むくじゃらの大男が酒瓶を振りかざす。
「ねえぞ!」
ヒュン!フィリアは考えるより先に体が動いてしまっていた。
ありったけの力を振り絞り、デイヴを抱え、そのまま共に横転する。
「なんだあ?」
虚しく空を切った酒瓶の割れる音と、男達の疑問の声。
フィリア・シュードは、美女と見紛う外見を持ちながらも、いざという時の度胸と瞬発力についてはまさに天賦の才を持つ男であった。
「フィリア…?」
途端に怪訝そうな表情になるデイヴ。
「何でお前が…」
「危ない所だったね」
薄く苦笑いをしながらデイヴに言う。
「久し振り、デイヴ」
「クソ!なんだってんだよ!邪魔しようってんならてめえも容赦しねえぞ!」
男達が激昂する。
やれやれ、フィリアは思う。どうしたものか…金で大人しく引き下がりそうな雰囲気ではない。
となれば、道は一つだ。
「話は後で!逃げるよ!」
言い終わらないうちに、フィリアはデイヴの手をとり、全速力で駆けだす。
男達が何か叫びながら追ってくるが、さすがに自らの界隈、周辺を知り尽くしたデイヴの案内でなんとか逃げおおせた。
息を荒くしながら、床に座り込む二人。その場所は、とある廃工場だった。
210エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:47:24 ID:???
「で?何でお前がこんなとこにいるんだよ」
尋ねるデイヴ。その息はまだ荒い。
しかし、酔いはすっかり醒めたようだ。焦点の合った瞳でフィリアを見る。
「うん、単刀直入に言うよ」
疲れた表情のフィリア。長ったらしい前置きや、久闊を叙そうといった考えはもう無いらしい。
「実は、第七次調査団として火星に派遣されることになったんだけれど、MSパイロットの枠が一つ空いているんだ」
「テラ・フォーミングはもう終了したんだろ? 何でわざわざ調査団なんか送るんだよ?」
 パイロット枠の件には触れず、デイヴは思いついた疑問を口にする。
「そういった視察も火星開発公社(ウチ)の仕事だからね。そのために連邦から資金援助も受けてるし。…まあ、ほかにも色々と事情がね。だからさ――」
「悪いが、他を当たってくれ」
即答のデイヴ。そして続ける。
「俺にそんな大層なご大役、向いてねえよ」
「デイヴ!」
フィリアが叫ぶ。
「…しかしフィリアはメカニックチーフで参加するわけか。まあ、なんだ。お前も相当に出世したな。たしか引き抜かれたんだろう? 連邦にいたころより給料だって――」
「デイヴ! 四方山はもう止めようよ。僕は、君を誘いに来たんだ」
デイヴは口を噤んだ。フィリアの様子が思いのほか真剣味を帯び始めてきたからである。
「君は、今のままの境遇で本当にいいの! 軍を抜けて、こんな辺境で夢も希望もない人生を続けるの! ここは空気も悪いし、人間だってみんな性根が薄汚い。
こんな、食べるために生きるのか生きるために食べるのか定まらないところにいれば、いつかきっと、デイヴは駄目になる!」
「もう充分駄目人間さ」
「だったら、これから立ち直ろうよ! 飲酒と放蕩と伊達気取りなんてすっぱり止めて、もっと、地に足付けて将来を考えることにしよう!」
「今の時代、地球は立ち入り禁止だぜ」
「だから、火星に行こうと言ってるんだよ! 火星には大地があるし、安定した職だってある! 
調査団が解散した後のポストは僕が用意するし、君の借金だって、僕が立て替えるから、昔みたいに、僕と一緒にがんばろうよ!」
211エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:48:30 ID:???
お前はなぜそうまでするんだ、という藪蛇を突っつくような言葉は飲み込んだ。デイヴィッドにはその理由を三つも四つも挙げることが出来るのである。
彼は他人の性情に深く立ち入りたくなかった。
真実であるとか、理想であるとかはぜいたく品で、物事を深く考えずにだらだらと上辺だけの人付き合いをしながら、残りの人生を死ぬほど退屈に暮らしたいと願っていた。
「返事は、早めにしないと駄目か?」
「出来れば、今日中にして。早くしないと、火星の位置が変わってシャトルじゃ行けなくなっちゃうから」
「それに」
フィリアは思いついたように言い、かすかに笑う。
「さっきの騒ぎで、君もここに居づらくなったでしょう?」
「…わかったよ。行くよ。行けばいいんだろ。ったく、お前にはかなわねえよ、フィリア」
 デイヴィッドは観念した。どのみち、下宿にも財布にも金が無い一文無しの彼には、強情を張るという選択肢は無いのである。
「デイヴ、ありがとう!」
フィリアはぱっと咲くような笑顔を見せて、心底嬉しげに今後の計画をあれこれと語り始めた。

一話 終 二話に続く
212エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/15(木) 22:53:50 ID:???
今一応脳内では十六話くらいまで出来上がってるんだけど、試験期間なんで投下遅れます
ちゃんとウィ○ドの方も脳内では進行中です
それじゃあサヨウナラ
213コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/16(金) 21:53:23 ID:sUzsjgLn
投下乙です、試験期間ですか、頑張ってください。
プラスされた前半、舞姫の殺劇がようやく明らかに!
なんだか00第一話や種死の第一話みたいな雰囲気が良かったです。

さて、願書書かなきゃ。では
214コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/18(日) 14:07:18 ID:Dhv9ZcKF
保守
215通常の名無しさんの3倍:2009/01/18(日) 19:59:13 ID:???
しばらくぶりに来たら2スレ目突入してたんですね。おめでとうございます
まとめサイトまで出来て大分充実してきた感じ。

少しwiki覗きましたが、自分の書いた拙作が収録されていて感謝感激の極みです。
作り手さん方、頑張って下さい。
216コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/20(火) 20:01:43 ID:610Rip5w
age保守。

>>215さん、はい、頑張ります!
217通常の名無しさんの3倍:2009/01/21(水) 16:09:46 ID:???
保守
218通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 22:58:14 ID:???
 アナザードルダの者です。二話分続けて投下します。久しぶりですので大まかな設定も一緒に投下します。長いです。
新説とはキャラクターの性格が若干異なります。ご了承下さい。

アナザーキャラ設定
■デイヴィッド・リマー
・二十六歳。二年前に連邦軍を抜けて以来、無為徒食の日々を過ごしていたが、フィリアの勧めで再就職する。連邦軍時代の階級は中尉。
搭乗機は払い下げのグワッシュ。
■フィリア・シュード
・デイヴィッドの連邦軍時代の友人で、カナリヤのメカニックチーフ。男好きのする容貌で、体つきも女性的。二十四歳。身内人事でデイヴィッドを調査団に参加させる。真性。
■ヴァニナ・ヴァニニ
・第七次調査団地質調査部主任。二十七歳。主任といっても、地質調査部の研究員は彼女一人きりである。
■アルフ・スメッグヘッド
・火星開発公社第七次調査団の総司令。七十二歳。二十七歳年下の愛人がいる。
■ディック・オメコスキー
・カナリヤMS隊隊長。金髪。十九歳。自分の能力をやたらとひけらかしたがる。搭乗機はガンダムムウシコス。
■ネルネ・ルネールネ
・カナリヤMS隊隊員。腰ほどの黒髪を後ろで束ねている。二十二歳。お菓子が好き。搭乗機はドグッシュ。民間訓練所あがりのパイロットで実戦経験がない。
■ゲイリー・ターレル
・カナリヤMS隊隊員。ふくよかな体形で、団子鼻の上に眼鏡が乗っている。四十二歳。離婚暦があり、十五になる娘と別居している。
もと連邦軍パイロットで少尉の地位にいたが、ある性癖が問題となり除隊される。搭乗機はドグッシュ。
■マスター・ベイト
・火星出身の連邦軍大佐。五十歳。連邦軍を裏切ってガンダムマルスを強奪する。コンパニヤでの洗礼名はトマス金鍔次兵衛。デハドス(火星連合義勇軍)およびコンパニヤでの位階は司教。
■赤毛の男
・テレウスのガーランド隊隊長。デハドスの異端審問官で、位階は司祭。二十二歳。スペースノイド。洗礼名はレオ五郎右衛門。本名はシリノア・ナチーサス。
■アンデレ権八郎
・ベイトの副官。
■シヴォーフ・ラーグ
・プロローグに登場。愛機のドグッシュを戦闘不能にされながらも、『ドルダ』とガンダムドルチェの戦いの結末を見届ける。生死不明。
■カマッセ
・プロローグに登場。『ドルダ』の放ったビームに巻き込まれて消滅する。
■デッド
・プロローグに登場。『ドルダ』のビームスコップに機体を中身ごと両断される。
219通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 22:59:09 ID:???
アナザー機体設定

第七次調査団
■MSU-06Fグワッシュ改(デイヴ機)
・追加装甲が施され、高出力スラスター兼追加バッテリーの大型バックパックを装備している。カラーリングは国防色。
・武装
 高周波スコップ(長)
 高周波スコップ(短)
 対人バルカン砲×2
 特殊グレネード
 シールド(ドグッシュより流用) 
■MSU-14ドグッシュ(ネルネ機)
・カラーリングは赤。
・武装
 高周波ブレード(長)
 高周波ブレード(短)
 カントーン・リニアライフル
 対人バルカン砲×2
 シールド
■MSU-14ドグッシュ(ゲイリー機)
・カラーリングは緑。
・武装
 高周波ブレード(短)
 大口径スナイパーライフル
 ミサイルランチャー
 ガトリング砲
 対人バルカン砲×4
■GEY-001ガンダムムウシコス
・火星開発公社が開発したガンダム。最大九基のビーム兵装の同時使用が可能で、十一基のビーム兵装を搭載したアサルトでバスターな全部乗せ機体。名前の由来はmousikos(音楽の心得あるもの)。カラーリングはトリコロール。
・武装
 ビームライフル×2
 ビームサーベル×2
 ロングレンジビームキャノン
 ビームディフェンスロッド×2
 キュイエール×4
■カナリヤ
・ドーム・テーレマコスの所有であった大型輸送機「ピロメラ」を火星開発公社が買い取って調査用に改造したもの。同型機が二機現存し、それぞれ「プロクネ」「テレウス」という名称。ピロメラ時代の愛称はつばめ。

宇宙連邦火星方面軍
■MSU-13ブッシュ
・連邦軍の現役機。

220通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 23:01:34 ID:???
デハドス(火星連合義勇軍)
■MAS-66ガーランド
・火星産ということが理由で選定落ちした機体。
■MAS-66ガーランド(極冠遺跡制圧戦仕様)
・カラーリングは雪原迷彩
・武装
 高周波ブレード
 汎用リニアライフル
 ハンドグレネード
 対人バルカン砲
■MAS-66Sガーランドカスタム(赤毛の男機)
・カラーリングは黒。
・武装
 カタナ型高周波ブレード
 汎用リニアライフル(グレネードランチャー装着)
■GVX-044R071ガンダムマルス
・連邦軍が火星の技術者を徴用して開発したガンダム。赤い。
・武装
 ビームスマートガン
 ビームクルセイダーズソード
 ビームカルサン
■テレウス
・カナリヤの同型機。ガーランド三十機が搭載されている。愛称はやつがしら。

その他
■ドルダ
・プロローグに登場。
・武装(MA時)
 高出力ビーム砲
・武装(MS時)
 ビームスコップ
 高出力ビーム砲
■GEY-002ガンダムドルチェ
・プロローグに登場。名前の由来は、音楽の発想標語のdolce(甘美に、やさしく)
・武装
 掌部ビーム砲×2
 掌部ビームサーベル×2
 キュイエール×8
221通常の名無しさんの3倍:2009/01/22(木) 23:02:51 ID:???
地名
■地球
・この時代では既に手ひどく汚染されていて、人が住んでいない。
■火星
・テラフォーミングは完了していない。火星に生まれた人間はスペースノイドから火星人と呼ばれて蔑まれている。火星の重力に魂を引かれた豚ども、とも呼ばれている。
■ドーム・オデュッセイア
・数百年前に建造された火星最初のドーム。北極冠遺跡とも呼ばれる。
■ドーム・テーレマコス
・火星最大のドーム。デハドスの拠点となる。

組織・宗教
■宇宙連邦
・殖民衛星、コロニー等の統一政府。中央議会は月にある。火星の地主。
■火星開発公社
・本来は宇宙連邦政府の一部門であったが、火星での微生物・藻類循環の安定と同時に半民営化された。五十年周期の調査のほかには主な仕事が無いためである。ここ数十年で急激に成長し、このごろでは軍需産業などにも手を出している。
■火星連合
・宇宙連邦に反旗を翻した火星ドーム郡の連合。
■デハドス
・火星連合が擁する義勇軍。神に委ねられた人々の意。階級はコンパニヤにおける位階がそのまま適応される。
■コンパニヤ
・マーズノイドが信仰する一神教。デハドスの兵士はもれなく入信している。
222アナザードルダ 1/15:2009/01/22(木) 23:05:44 ID:???
 遺跡が息を吹き返して以来、周辺の磁気が強まってレーダーは利かなくなっていた。辺りは暗く、吹雪も勢いを増して、ドグッシュが通信用ケーブルを引きずって歩いている。
周辺の警戒よりもあちこちの岩にケーブルを絡ませず歩くほうに気をとられる。そんな状況でゲイリー・ターレルが異変に気付けたのは僥倖であった。
 遠い空中に何か光るものが見えた気がした。メインカメラに張り付いた雪を払って最大望遠で確認してみると、やはり何かがちらちら明滅している。
しかも複数で、下へ下へとかなりの速度で下がって行く。ゲイリーは唾を飲み込んだ。下半身にぞっとした感覚が走る。
「敵襲、でしょうか」
 ゲイリーはカナリヤへ信号を送ると、すぐさまケーブルをパージしてドグッシュを走らせた。移動してきた地形は全て頭に入っている。
ドグッシュは手ごろな場所にある小高い丘の影に身を隠した。

223アナザードルダ 2/15:2009/01/22(木) 23:07:00 ID:???
 少女は眠り続けていた。モニターの数値は全て正常を示しているが、少女自身はあるかないかの微かな息をしているばかりで、傍目からは死人と大して変わりない。
彼女が琥珀色の瞳を見せたのは三日前に冷凍睡眠カプセルを運び出したときの一度きりであった。
呼びかけてみようにも、何せ四百年もの時を経た人間である。手違いがあるかもわからない。
フィリアの調査したところによれば、冷凍睡眠カプセルは正常に稼動していて、いかなる原理によるものか四百年間分もの膨大なエナジーはあの白い機体から供給されていたらしかった。
それにもかかわらず、今、格納庫で調査を進めている白い機体には残留エナジーの反応がない。抜け殻である。
「だからさ、デイヴ」
「あれは塩漬けの原始人みたいなもんだろ? 俺はとっつかまって食われたくない」
「ねえ、君はあのとき何か感じたんでしょう? 磁場に特異な乱れが出たし、君の様子もなんだかおかしかった」
「閉所恐怖症なもんでね。そういったオカルトは専門家の火星人どもにやらせろよ。そもそも俺の仕事じゃない」
 フィリアは頬杖を付いてため息した。向かいに腰掛けるデイヴィッドは黙々とかけそばをすすり、フィリアと目を合わせない。
医務室で眠るあの少女とデイヴィッドを接触させてみろという命令が下されたのであるが、デイヴィッド当人は頑なに拒み続け、被雇用者の人権を主張するばかりであった。
カナリヤの食堂は閑散としている。研究員やメカニックはほとんど遺跡へ出払っていてコックたちも差し入れの食事を届けるのに忙しく、皿洗いの音さえ聞こえない。
フィリアはといえば、ただでさえ短い睡眠時間を削ってデイヴィッドの休憩時間に合わせたのであった。
「なんでいやなのさ」
「仕事を怠けるのに理由がいるかい?」
「ふざけないで」
 語調を強めると、デイヴィッドはフィリアを横目で見返した。目つきは鋭いが、口の端からそばをぶら下げているので間の抜けた感が強い。
しばしにらみ合いが続いて、デイヴィッドがわざと音を立てて蕎麦をすすり上げる。顔にかかった汁飛沫をフィリアが袖で拭ったとき、艦内中にブザーの音が響き渡った。
つい先ほどまでメロドラマを流していたモニターには警告の文字が表示され、乗組員たちが廊下を慌しく駆けて行く。
224アナザードルダ 3/15:2009/01/22(木) 23:08:04 ID:???
『敵機の数は不明。哨戒に出ていた機体はルネールネ機とターレル機の二機。警報はターレル機からです。ムウシコスは既に甲板にて防衛体制に入りました。リマー機は遺跡最奥部へ急行し、作業員の収容を行ってください』
「ヴァニナ嬢、あんたがオペレートか?」
『正規の人員は遺跡へ出払っていますのであくまで代理です。それと気安く名前を呼ばないで』
「失敬」
 ハンガーの移動が終わり、発進体制が整えられる。三日前に遺跡に浸入したときと違い、通信と電力供給を兼ねたケーブルはつながっていない。
「デイヴィッド・リマー。グワッシュ出るぞ」
 グワッシュは両手にコンテナを抱えて、鈍重な音を不恰好に響かせて走り出した。

 風が強く、レーダーの乱れもあってガーランド部隊は目標地点からだいぶ離れたところに着地せざるを得なかった。
赤毛の男が乗る黒いガーランドの近辺には、十機ほどガーランドの姿が認められ、光通信で互いに状況を知らせあっている。
電撃作戦である。悠長に部隊の合流を企てる余地はない。赤毛の男率いるガーランド部隊は、軽装備で機動性の高い二機を先頭にして進軍を開始した。
 敵母艦と遺跡の明かりから、ちょうど影になる位置に巨大な断崖があった。塹壕の役割も果たせるであろう。
ガーランド部隊は順々にその断崖の下へ取り付き、赤毛の男のガーランドも断崖へと足を進めた。
雪上よりも遺跡施設内での機動性を重視した装備なので、ガーランドといえどもその足取りはおぼつかない。
断崖まで十歩ほどの位置にくると、深雪に足を取られて歩みを止めた。それと同時に、ガーランドの右肩が爆発した。

225アナザードルダ 4/15:2009/01/22(木) 23:09:52 ID:???
 ゲイリーは待った。コンピュータの情報処理能力を最大にして、光学センサーが七機の機影を捉え、彼のドグッシュよりカナリヤに近い座標へ敵部隊が踏み込んでも待ち続けた。
あと数百メートルほど敵機が進めば一網打尽も無理ではない地点に入る。そんなときである。雪上であるというのに黒い塗装をした機体が視界に入った。
他の敵機の塗装は白く、黒いのは一機のみである。あれは隊長機か、もしくは別の系統の機体か、それとも単なる目立ちたがりか、ゲイリーは見開いた目玉をぎょろつかせた。
黒いのが隊長機であるなら撃墜すれば敵部隊は浮き足立つ。下半身にしびれが広がった。しかし今撃ってしまえば、断崖の下の敵機どもが散開する猶予を与えてしまう。
ゲイリーは唇の端を小さくゆがめた。どうも下半身が落ち着かなくて、自然と貧乏ゆすりが出てしまう。撃つか待つか、数秒間の思考の後に彼が選んだのは前者であった。数十秒後の悦楽よりも、一瞬後の快感を選んだのである。
絶頂の予感に胸が躍る。ドグッシュの指が大口径スナイパーライフルの引き金を絞った。
 緩みかけた膀胱がすぼまり、鼻に脂汗がにじみ出て眼鏡がずり落ちる。コックピットのある胴体を狙った一撃は、右肩を破壊したに過ぎなかった。
黒い機体はすぐさま蛇行した機動をとり、残りの敵機もゲイリーの居る方角に当たりをつけて銃弾をばら撒く。
ゲイリーの狙撃は失敗したのであった。
「まあ、陽動にはなるでしょう」
とこぼして自分を慰めてはみたが、胸の高ぶりもなりを潜めてしまった。雪上のホバー移動は快適で、ゲイリーのドグッシュは弾幕を浴びることなく新たな狙撃位置に到達する。
今はもはや、相手に自分のいることを気付かれていた。いまさら敵機を撃墜しても得るのは出涸らしのようなものである。
ゲイリーは嘆息を吐くと、断崖を越えるべく飛び上がった敵機があったので、着地に合わせてその敵機の胴体を撃ち抜いた。
「……ふぅ」
 脱出装置の働く様子がないのを見て取るとゲイリーの股間にじんわりとした温かみが生じた。無論、パイロットスーツは人間の生理に対応している。
「温うございますね」
 そうは言いながらも、ゲイリーの顔は心底幸福そうに緩みきっていた。

226アナザードルダ 5/15:2009/01/22(木) 23:10:47 ID:???
 カナリヤから警報が発せられると、ネルネ・ルネールネは即座にケーブルをパージした。いつどこから敵機が襲い掛かってくるかわからないので、機動を鈍らせるケーブルは邪魔以外の何者でもない。
地表から吹き上がる雪と降ってくる雪とが混ざり合って視界を遮り、カナリヤと遺跡の位置は薄ぼんやりした明かりでしか見分けられなかった。
光通信も正常に機能しないであろう。つまり指示も受けられない。ネルネ・ルネールネが失策に気付いたのは、地べたに放り出されたケーブルを雪が覆い隠してしまってからである。
「……どうしよ」
 カナリヤへ戻ろうか安全なところへ隠れようか、ネルネはとりあえずドグッシュの足を止めて、辺りを見回してみた。
「まずっ――」
敵機がいた。二機いた。しかもネルネが気付くと同時に撃ってきた。ホバーが雪を吹き上げる。
ドグッシュは方向転換を瞬時に終えると、スラスターの加速で雪上を滑って行く。
敵機は振り切れない。機動性能はドグッシュが上であるけれども、射線から逃れたと思えば別の敵機が現れ、それでまた進行方向を変えれば先ほどの二機が先回りしている。
進む先は断崖で、行き止まりである。ネルネのドグッシュは徐々にそこへと誘導されて行った。
振向きざまにライフルの弾をばら撒いてはみるが、ろくに狙いも付けないでは虚空に撃つのと変わりなく、せめて弾幕を張ろうにも敵は反撃の暇を与えるほど親切でない。
アラートがけたたましく鳴り、激しい振動が続けざまにネルネを襲った。
「グレネード?」
 天地がひっくり返ったと思うと爆炎がカメラを覆い、白い地面と灰色の空がめまぐるしく入れ代わりを繰り返す。ドグッシュは慣性の法則に従って雪の斜面を転がり落ちた。
「……にげなきゃ」
 辛うじて意識を失うのを免れたネルネは遠いカナリヤの明かりを見つめた。出し抜けにアラートが鳴る。
「にげなきゃ!」
 弾丸の雨がドグッシュのスラスター光に降り注ぎ、白い大地を削り取る。ネルネには背後を見る勇気がない。
とにもかくにも逃げなければいけない。カナリヤと遺跡を敵から守るという考えはネルネの頭から消し飛んでいた。

227アナザードルダ 6/15:2009/01/22(木) 23:11:44 ID:???
 ドグッシュが蛇行しながらカナリヤへ向かってくる。時折、申し訳程度にライフルを撃つが追随する四機の敵機は意に介した様子もなく、隊列を乱すこともない。
「敵機は……ガーランドか。火星人だな」
 逃げ惑うドグッシュをムウシコスの高性能カメラで眺めて、ディックは愉快そうに呟いた。サブウインドウの三次元マップに四機のガーランドが表示され、四つのロックオンカーソルがめまぐるしく動いている。
「いい火星人は死んだ火星人だけさ。なんたって有機肥料になるものな」
折り畳まれていたロングレンジビームキャノンの砲身が展開される。コンソールに表示されるエナジー供給率が70%を超え、ムウシコスは右肩の巨大な砲身を担ぎ直した。
分かたれた砲身の間にプラズマが発生する。
「だからさァ、スコア稼がせてもらうぜ!」
 マルチロックオン完了と同時に、真紅の光芒が放たれた。

 なぎ払われたビーム光は手始めに二機のガーランドを蒸発させ、ドグッシュを撃とうと構えていたガーランドの上半身を抉り取り、最後に後方の岩場でミサイルの発射体勢を整えていたガーランドを岩ごと消滅させた。
赤い光が消えるのに遅れて水蒸気爆発が起こり、ドグッシュの背後に白煙の壁がそびえ立った。
 衝撃波でドグッシュが膝を突く。ネルネは荒い息をしながら、カナリヤの甲板に立つムウシコスを打ち眺めた。
「あれが、ガンダムの力……」
 圧倒的である。機動兵器どころではない。ネルネはムウシコスの機動性やら運動性やらの基本性能は知っていたが、搭載したビーム兵装の破壊力がこれほどのものであるとは思いもよらなかった。
ネルネはガンダムを頼もしく思うより、恐ろしくなった。もしあの砲口を自分に向けたら、もし自分が敵ごと巻き添えにあの光に包まれたら、そう考えると怖くてたまらなかった。
ネルネからしてみればディックという青年は傲慢な人間である。笑いながら味方を撃つことはあっても、仲間を殺すのに躊躇することはないであろう。
ネルネが震える膝を叩いたとき、ふとある男の顔が頭に浮かんだ。デイヴィッド・リマー、二年前にガンダムを撃墜したという噂がある男である。

228アナザードルダ 7/15:2009/01/22(木) 23:12:46 ID:???
 デイヴィッドは苛立ちを募らせていた。作業員の大半がコンテナに乗り込みを済ませているのに、最重要人物であるアルフ・スメッグヘッドが作業を続けているのであった。
アルフ博士は遺跡の中枢ユニットに接続した端末をいじりながら、周りの研究員たちを怒鳴り散らしている。
「爺さん! まだなのかよ!」
 もはや敬語も忘れている。学者の探求熱は結構であるが、時と場をわきまえてもらいたい。スピーカーの怒鳴り声に気密服姿の老人は中指を立てる仕草をした。下品である。
『カナリヤが敵部隊に包囲されました。ムウシコスとドグッシュ二機が応戦していますが遺跡ゲート付近は制圧されつつあります』
 カナリヤとの通信を行う端末から芳しくない戦況がもたらされる。それでもアルフ博士は作業を止めない。
『たった今ガーランド三機が遺跡内部に――』
 ヴァニナの声が途絶えた。おそらく浸入したガーランドによって通信ケーブルを切断されたのであろう。
「おい!」
 アルフ博士は端末から数枚のディスクを抜き取ると、ようやく駆け出してコンテナに乗り込んだ。
『出せ』
 接触回線で命令されるまでもなく、グワッシュは両手にコンテナを抱えて走り出した。コンテナの中には両方合わせて五十人弱の作業員が詰まっている。
体を固定し、耐衝撃機構もついているので多少荒っぽい動きをしても死にはしないであろうが、胃袋の中身は保障の範囲内ではない。

229アナザードルダ 8/15:2009/01/22(木) 23:13:48 ID:???
 ゲイリー・ターレルは四機のガーランドを仕留めた。初めの一機、雪に足を取られて転んだ一機、敵部隊が狙撃兵にかまわず進軍を始めてからの一機、それからカナリヤ周辺でムウシコスが仕留め損ねた一機である。
戦況は既にカナリヤの防衛に変わり、敵機を撃墜するよりも近づけさせないことが重要視されている。
「勝つにせよ負けるにせよ、わたくしと致しましてはもう仕事納めといったところでしょうか」
 有線ミサイルを放ち、ガーランドを回避行動に専念させて時間を稼ぐ。続けて弾幕を張ることで、突出しているネルネ機を援護する。
「もったいないですね」
 弾薬を惜しみなく消費するこの作業はゲイリーの気に入らなかった。例の高揚感もなく、パイロットスーツの下半分の半端な湿り気が不愉快で仕方ない。
チャージを終えたムウシコスが極太のビームをなぎ払う。逃げ遅れた一機が撃墜された。カナリヤから電力を供給されてエナジー切れの心配がないとはいえ、大雑把な砲撃である。
「ガンダムパイロットといいますのは、戦いの楽しみというものを知っていらっしゃらない。まったくもって勿体ございません。……ふむ」
 ネルネ機が一機撃墜した。高周波ブレードを構えて敵機に突撃し、シールドを破壊されながらも胴体の中心に切っ先を突き刺したようである。
「おや」
 敵機を戦闘不能にしたならすぐさま離れねばならない。爆発の危険があるし、動きを止めれば反撃で道連れにされる可能性もある。
けれどもネルネ機はブレードを構えたまま動かなくなってしまった。ゲイリーはネルネ機の様子を仔細に窺ってみたが、致命的な損傷は見受けられない。
「もしやわたくしと似たようなご趣味が」
 それにしたって、危うい状況である。近くに居たガーランド数機もネルネ機の異常を見て取ったらしく、動かないネルネ機に群がり始めた。

230アナザードルダ 9/15:2009/01/23(金) 00:24:58 ID:???
 そのころデイヴィッドのグワッシュは建物の影に四つん這いになっていた。市街地に出た矢先、銃弾の歓待を受けたのである。
通路でなくて僥倖であったともいえる。市外地のように広い空間でなくては、こうして無様に逃げ回ることさえ出来なかった。
グワッシュの腹の下には、デイヴィッド曰く『文化財』のなれの果てが転がっている。頭の横には店らしき看板があり、モノアイを動かすと店内が見渡せた。
無論、惨憺たる様相を呈し、食肉であるか野菜であるか他の何ものかであるか判別の付かない物体が転がっている。自分もいつ仲間入りするかわからない。
『デイヴィッド・リマー』
 接触回線から小うるさい老人の言葉が聞こえる。この状況になってから幾度も繰り返された内容で、デイヴィッドは返事をする気にもなれなかった。
『何度でも言うぞ。左手の、向こうのコンテナを捨てろ。両腕が塞がっていては武器は使えまい。応戦してここから脱出する。
貴様とてこんなところで死にたくはなかろうよ。下らんセンチメンタリズムとヒロイズムに囚われて目的達成の手段をえり好みするのは愚か者のやること、貴様は凡人であるが、愚か者ではないはずだ』
「俺は手段のために目的を選ぶタチなんでね」と強がってはみるものの、このままでは埒が明かない。
一度コンテナを放して戦うという手もあったが、報告によれば敵MSはガーランドである。グワッシュとの性能差からして、まともにやりあったら勝ち目がない。
逃げ切るしか手段がなく、その手段にしたって、一か八か、無謀にも出口まで突っ切るくらいしか思いつかなかった。
光学センサーが危険を感知してアラートを鳴らす。銃弾が付近の建物を削って行く。銃声が止むと、ドラム缶型をした銀色の塊がいくつか落ちてきてグワッシュの目の前に転がった。
231アナザードルダ 10/15:2009/01/23(金) 00:26:26 ID:???
「畜生が!」
 デイヴィッドはやむなく想定していた操作を行った。グワッシュが地を斜めに蹴って飛び上がるのと同時に足元が爆発し、爆風によって都市区画の天井に背を打ち付けられる。
落下運動に入る直前にスラスターを最大出力で吹かし、同時に腰部ハードポイントのフラッシュグレネードとスモークグレネードの接続を解除する。
着地点のビルにグワッシュが頭から突進し、ビルの外壁が轟音を立てて砕け、機体の各部に損傷があったのをサブウインドウが告げる。
一拍遅れてフラッシュグレネードの爆音が聞こえ、デイヴィッドはグワッシュの操作を自動操縦に切り替えた。進路は既に複数用意してあった最適のものを入力してある。
抱きしめるように持っていたのが幸いして、コンテナに損傷がないことが接触回線からの様子でわかった。悲鳴か泣き声、さもなければ昼食の噴出す音で、作業員たちはいたって元気そうであった。
 グレネードの効果が切れてメインカメラが生き返ったとき、グワッシュは三機のガーランドより出口に近い位置に到達していた。
グワッシュを発見したガーランド三機が追ってくるが、通路に入ってしまえば逃げる側が有利である。
フィリアの用意した試作型モーションセンサーグレネードが役立った。デイヴィッドは、その動体反応式の対MS爆弾を道すがら置き土産にいくつか転がしておいた。しばらく進むと爆音が響く。
「えげつない。大方、条約で禁止されるな」
『だが、相当な利益を上げるであろう』
「テロリスト相手に?」
 安心から軽口を叩き合っていた折である。グワッシュは通路の角でガーランドと鉢合わせた。
立ち直ったのは同時であった。ガーランドが高周波ブレードを構えるが、両手がコンテナで塞がっているグワッシュは棒立ちである。
232アナザードルダ 11/15:2009/01/23(金) 00:27:24 ID:???
 デイヴィッドは数瞬後に己が死ぬことを理解した。ガーランドの動作はよどみなく、最小限の手間で最大限の効果を上げるに違いない。
振動する切っ先は寸分たがわずコックピットの己を狙っている。避けようにもグワッシュの鈍重な反応と運動性能では身を翻す間もなく突き刺さるであろう。
身を守るシールドも今は装備していない。片腕か何かを犠牲にして防いだとしても、次なる一撃がデイヴィッドの命を奪う。
したがってどうしようもない。デイヴィッドは時間の流れが止まっているかのように感じた。
過去に経験した出来事が次々と脳裏に過ぎり、それをぼんやり眺めながらどうでも良い感想を述べている自分が居る。
ああ、あのときこうすればよかった、もしこうだったなら今の自分はきっとああいう感じになれたろう、これまで戦場で殺してきた敵もこんなふうだったのか、といやに澄んだ思考が駆け巡る。
まだか、とデイヴィッドは思った。画面いっぱいに映し出されたガーランドは静止している。
デイヴィッドは己が認識していることが疑わしくなって頬を抓ってみようとした。体が動かない。そういえば呼吸さえしていない。息をするという行為自体、理解できないことのように思われた。
 何時間経ったろう。何日かもしれない。もしかすると、何年も待っていたかもわからない。走馬灯を繰り返し眺めるのにも飽きた。
それどころか己がものを考えているのかさえ疑わしかった。
思う故に在るのか、知る故に在るのか、在る故に知るのか、在る故に思うのか、主観的・客観的観念論か、形而上学的・弁証法的唯物論か、こうしたばかばかしい想念が入れ代わり立ち代わり生じてデイヴィッドを困惑させる。
デイヴィッドはとにかく現実に戻りたかった。たとえその意識が一瞬しか続かなくともかまわないから正気に帰りたかった。
不意に、この遺跡で見た少女の姿が思い出された。ひとたび思い出されてしまうとデイヴィッドの望む望まざるにかかわりなく、エメラルド色の髪と琥珀色の瞳が眼前に浮かび上がった。
233アナザードルダ 12/15:2009/01/23(金) 00:33:41 ID:???
「薄気味悪い」
とデイヴィッドは吐き捨てた。無論、声が出るはずもない。
「消えろよ」
 幻覚の少女はデイヴィッドをじっと見つめている。
「しつこいぞ。おい」
 少女は左手を伸ばしてデイヴィッドの頬に触れた。
「なぜ出てくる。俺はお前なんか知らない。知りたくもない」
 少女の髪が微かに揺れた。紳士的ではないが、デイヴィッドは少女を張り倒したくなった。残念ながら腕は動かない。
「くたばれ、化け物」
 何の表情も示していなかった少女の顔に変化が現れる。少女は眼を伏せて、左手をデイヴィッドの頬から離した。
少女が俯いて眼を瞑ると、少女の足元から黄緑色をした光の粒子が広がり、見ればその光は少女の体を構成しているものらしく、光が宙に消え去って新たな光が生じるごとに少女の体も欠けて行く。
その有様を前にしてデイヴィッドもなけなしの良心に咎められ、もはや右肩から左わき腹にかけての断面の下が消え失せてしまった少女に向かって、柄にもない言葉をかけた。
「その……悪かったな」
 少女はデイヴィッドを見て小さく微笑み、やはり雲散霧消した。
 いよいよ幻覚を相手に会話するようになって己の情けなさに嘆いたのもつかの間であった。画面のガーランドは相変わらずポーズをとったままであるが、己の指先が微かに動いた心地がした。
デイヴィッドは呼吸を試してみた。やはりゆっくりと喉が開く感触がある。一旦意識してしまえば、神経の使い方を体が自然に思い出し、真っ当な五感も蘇り始める。
非常にゆっくりした反応が当然に思われ、感じ方がそれに合わせられて行く。
しかし、単純な思考だけは先ほどと変わりなく、もし世界の時間がこの早さで流れているのなら、己は凄まじい速度でものを考えていることになるであろう。
ガーランドもゆっくり動き始め、その動作そのものも、徐々に加速して行く。
234アナザードルダ 13/15:2009/01/23(金) 00:37:45 ID:???
 認識する時間が正常に戻りつつあったと同時にデイヴィッド自身は別の異変を感じた。そう遠くない瞬間に死のうとしているのに、やけに落ち着いていた。
計器の数字やガーランドの動き、視界の中にあるものとそれが示す意味を直感できる。それどころか、ガーランドのパイロットの息遣いや、コンテナの無数の人々が恐れおののいている様子さえ感じ取れる。
デイヴィッドは試しに敵パイロットの顔を想像してみた。ヘルメットをかぶった男の顔が瞬時に頭に浮かぶ。
彼は口を軽くあけて、眼前のグワッシュを凝視している。片手は操縦桿を堅く握り、もう片手はコンソールパネルに伸びていて、つい先ほど兵装モードの切り替えを終えたことがわかる。
ブレードを突き出す滑らかな動作は彼にとっても会心の出来であるに違いない。しかしその一撃も失敗に終わるであろう。

 絶え間なく流れてくる思念が、デイヴィッド自身の行動原則を素通りして、得られた情報からデイヴィッドという固体が在り続けるための手段を取捨選択し、最適の手順を構成する。
脳髄から発せられたその命令は一切の誤差なく神経に伝達され、デイヴィッド自身が認知するより早く、彼の肉体によって実践される。
 時は加速する。ブレードの切っ先はやはりグワッシュのコックピットを目掛けて伸び、グワッシュはせめてもの悪あがきか、左腕を上げ始める。
デイヴィッドの感じる時の流れが正常に戻るころには、ガーランドのブレードが装甲を貫いていた。
振動する刃が装甲の内側にあるものを引き裂いて行く。しかしガーランドのセンサーが感知するのは、鉄のひしゃげる感触でも切れた配線が火花を発する熱でもない。
繊維と樹脂と硝子と僅かな合金、そして有機物をない交ぜにして引き裂いて行く手ごたえであった。

235アナザードルダ 14/15:2009/01/23(金) 00:41:00 ID:???
 人を乗せたコンテナを盾にしたという事実にガーランドのパイロットが気付いたときには、既にグワッシュの蹴りがわき腹に食い込んでいた。
それなりの衝撃があったが、そもそも機体性能に差があり過ぎる。モーターからして規格が違う。
ガーランドは僅かによろめいたに過ぎなくて、体勢を立て直しながらブレードにまとわり付いたコンテナの残骸を振りほどくにはほんの僅かな時間があればよかった。
抜き払われたブレードの刃先から赤い霧が吹き散った。ガーランドのパイロットがグワッシュに注意を戻すと、グワッシュは空いた右腕に持った高周波スコップを振り下ろすところであった。
スコップで頭部を横殴りされ、その衝撃でガーランドのセンサーに一時的なエラーが生じる。

 ガーランドが平衡感覚を失っている隙にグワッシュが足を払う。コンテナの残骸をこぼれた中身ごとスコップで掬って、仰向けに倒れているガーランドの頭部にぶちまける。
コンテナの裂け目から流れ出るものがメインカメラを覆い、センサーの切り替えに要する結構な長さの時間が稼げる。
グワッシュはスコップを逆手に持ち替えてガーランドの胴体に突き刺す。コックピット周りの装甲は厚く、グワッシュの片腕のみでは貫けない。
グワッシュは柄の先端の持ち手を握り、スコップの刃に足をかける。同時に高周波振動が開始され、グワッシュの重量と刃の振動とでガーランドの胴体を掘り進んで行く。
236アナザードルダ 15/15:2009/01/23(金) 00:42:16 ID:???
 足にかかる抵抗がいやに軽くなり、再び元通り重くなると、
『リマー、デイヴィッド・リマー。何があった。貴様はまだ生きておるのか』
とアルフ博士の通信が入った。アルフ博士の顔は青ざめている。
「俺は何をした」
『何をしただと。こちらが訊きたい。敵襲があったのか』
「俺は何をした」
『リマー?』
「なあ、何をした」
 デイヴィッドは湧き上がるものに耐えられず口元を押さえた。指の隙間から生ぬるい液体がこぼれる。
理解はしていた。光景も目に焼きついている。自分はガーランドと相対した瞬間からずっと茫然自失の状態にあったと言い訳しても、誰も信じてくれやしない。
無論、誰もというのは自分自身も含めてである。体が勝手に動いたとか夢遊病に似た精神状態にあったとか、思い当たる理由はいくらでも挙げられる。
しかしMSの操縦に関してあれほどまで熟達した覚えはないし、二度と出来る動作とも思われない。何よりもまず、自分は命惜しさに数十人の非戦闘員を生贄にしたのである。
『答えるんだ、リマー』
「右のコンテナを失いました……接触回線のログを聞けばわかります」
 デイヴィッドは口の中のものを飲み込んで操縦桿を握った。おちおち感傷に浸っている余裕はない。
237通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 00:44:44 ID:???
続けて投下します。
238アナザードルダ 1/18:2009/01/23(金) 00:49:51 ID:???
 カナリヤは離陸準備を終えてアルフ博士の到着を待つばかりとなっていた。ムウシコスが遺跡のゲート付近に火力を集中させてグワッシュの通り抜ける道を作る。
コンテナを持ったグワッシュがゲートから出てきたのと時を同じくして、ゲイリーのドグッシュは弾薬を使い果たした。
ガーランド部隊は約半数を撃墜されて壊滅状態になっても撤退する気配を見せない。おそらく近いうちに援軍が来るであろう。
ネルネ機は先ごろのガーランド部隊の砲撃によって片足を失い、彼女が撃墜したガーランドのそばで孤立している。
ゲイリーがいくら援護砲撃を行っても無防備な姿勢のまま動こうとしなかったのである。
「何にせよ、わたくしに出来ることはもうございません」
 ゲイリーは残念そうに首を振ってドグッシュを着艦させた。最善は尽くした。ネルネがこれからどうなろうと彼の評価に響くことはない。
ゲイリーがコックピットから降りたときにデイヴィッドのグワッシュも着艦して来た。左手に高周波スコップを持って右手にコンテナを抱えている。
グワッシュがコンテナを降ろすと、中から気密服姿の作業員たちが頼りない足取りで歩き出た。
彼らのヘルメットの内側には様々な食物の成れの果てがこびり付き、中には担架で運ばれる者もあった。
ゲイリーがグワッシュに駆け寄ろうとすると、突然グワッシュが腕を振り払って元来た道を引き返し始めた。作業員の静止も聞かずに再び発艦しようという様子である。
『もう離陸態勢に入っているのに救出すると言って聞かないんです!』
 ゲイリーがCICに繋ぐとそんな答えが帰ってきた。

239アナザードルダ 2/18:2009/01/23(金) 00:51:10 ID:???
 馬鹿が一人取り残されたと思えば、それを拾いにもう一人の馬鹿が出てきた。只でさえ不愉快であったディックの気分が苛立ちへと変わる。
「何考えてやがんだ」
 ガンダムに乗っておきながら、たかが火星のMSを四機も撃墜し損なった。甲板の上で防戦に徹していたとはいえ、不甲斐ない戦果である。
シミュレーションでは最適な動きをするはずの敵機が、何の意味もない行動をしたり、通信の不備から隊列を乱したりしている。
動きが正確ならコンピュータにも予測しやすいが、時おり素人かとも思われる挙動をするMSを相手にするのはむしろやりにくかった。
現在の撃墜スコアは、ディックが六機、ネルネ・ルネールネが一機、ゲイリー・ターレルが少なくとも二機以上を落としている。
そしてデイヴィッド・リマーは、カナリヤに到達できたということであるから、ディックが逃がしてしまった四機のガーランドを撃墜したに違いない。
この戦場で戦うMSの中で最も性能の低いグワッシュで、火星産の小器用なガーランドを仕留めたのである。ディックの気に入るはずもない。
『デイヴィッド・リマーは贖罪をしたくてたまらないそうだ。援護をしてやれ、ディック』
 サブウインドウに映るアルフ博士はにやにや笑いを浮かべていた。普段の彼ならこのような場合は見捨てることを選択するはずである。
「クソ親父め……何がおかしい」
 電力のほとんどがカナリヤの推進力にまわされているためロングレンジキャノンは使えない。
ディックは兵装モードを二挺のビームライフルに切り替えて、ロックオンカーソルをグワッシュから外した。

240アナザードルダ 3/18:2009/01/23(金) 01:31:38 ID:???
 グワッシュは走る。アラートがめまぐるしく付いたり消えたりを繰り返して、別な警告も視界の端に入るが、デイヴィッドは気に留めない。
飛び立つカナリヤに帰るだけのエナジーが残っているかも確認しない。彼がネルネ・ルネールネを救出するために再出撃したのは、やけっぱちのような気持ちからであった。
罪悪感だとか、己への不信だとか、英雄的な行為へのあこがれだとか、理屈はいかようにでもこじつけられる。
それぞれない交ぜになって自身でも何を望んでいるのかわからない。助けに行く対象がネルネでなくても同じことをした。
フィリアや、ゲイリーやヴァニナといったカナリヤの乗組員、いけ好かないディックやアルフ博士、
たとえそれが人間でなく鰯の頭であったとしても、大義名分が立ちさえすれば高揚感にまかせて正義の味方の真似事をするに決まっている。
放たれた銃弾が掠ってグワッシュの肩部装甲を吹き飛ばす。遺跡の中で結構な無理をさせてきたのがもろくなっていたに違いない。
複数の方角から弾丸が飛んでくる。喧しくてかなわないアラートを切り、グワッシュを空中で一回転させながらバルカン砲を放つ。この距離での対人機銃はけん制にもならない。
この分では無駄死にであるが、デイヴィッドにはネルネを拾ってカナリヤへ戻れるという確信があった。無論、ある種の狂信者のそれと同じ性質のものである。
241アナザードルダ 4/18:2009/01/23(金) 01:33:09 ID:???
 ネルネ機に駆け寄ったころには、敵の砲撃はほとんど届かなくなっていた。遠くにちらほらビーム光が見えることからムウシコスの援護であるということがわかる。
「おい、生きてるか馬鹿女。死んでるなら死んでるって言え」
 デイヴィッドはグワッシュにドグッシュを背負わせると接触回線を繋いだ。画面のネルネは膝を抱えて震えている。
『わ、私、こ、怖くなって……そしたらあし、足を……』
「パイロットが今さらPTSDか? 初めて人をお殺しになった? だったら童貞卒業おめでとう」
 ネルネの経歴はフィリアの権限で閲覧して知っていた。デイヴィッドやゲイリーと違って民間出身である。大方、茫然自失して無防備になったところを狙われたのであろう。
デイヴィッドの罵声を聞いて、ネルネは涙ぐんだ目を向ける。
『せせ、接触回線で、き、き、き聞こえた』
「火星人の断末魔生中継をか。自分のじゃなくて良かったな」
『だだって、私、しら、しらなかった』
「ああそうかい。人生相談ならベッドの上で聞いてやるから今はケツまくって逃げるんだよ」
不意に、後頭部のあたりに妙な引きつりが生じる。デイヴィッドは反射神経の命ずるまま背後に向けてスコップを投擲した。

242アナザードルダ 5/18:2009/01/23(金) 01:34:28 ID:???
 極冠遺跡周辺では無線通信も光通信も使えない。このような状況でのMS戦において、常に指揮を執って戦おうとしてはかえって戦術の幅を狭めることになる。
個々人の判断に任せ、訓練通りの連携を行わせたほうが効果的である。損傷して手持ちの火気を失った指揮官機が前に出れば、むしろ足手まといになる。
赤毛の男はそのような意味のことを考えて、追撃戦には積極的に参加せず断崖に身を隠していた。
敵の『ガンダム』の砲撃は厄介である。相当な命中精度のあるビームを惜しみなく撃ってくる。機体の能力だけならガンダムマルスに匹敵するかもしれない。
肩に背負った大火力・長射程の大型ビーム砲は言わずもがな、かなりの連射性能を持つ二挺のビームライフルも油断できない。
苦労して敵母艦に取り付いても、最新兵器と思われる有線式オールレンジ攻撃兵装によって蹴散らされる。
数十分後には、テレウスの姉妹艦『プロクネ』とMAS-69『プロテラ』の部隊が援軍として到着するが、敵母艦は既に離陸態勢に入っている。
北極冠は制圧できても肝心のガンダムを逃がしてしまうことになり、ガンダムの持つシステム起動コードが無くては、コンパニヤの約束の地――ドーム・オデュッセイア――も単なる宗教上の偶像に過ぎない。
「神はおらずとも、せめて大佐とマルスがおいでであったなら……」
 赤毛の男は嘆息した。腑抜けた民間企業相手の戦闘で戦略的な敗北を喫するという以上の失態はない。敵MSが情報より多かったことは弁解にも値しない。
事前の情報ではガンダムの護衛機は試作量産MS二機のみであった。少なくとも一機は遺跡で救出活動を行うはずであるから、護衛機が二機とも防衛に参加するのは数が合わないことになる。
しかしもう一機存在したとしても、数の上での戦力比は十対一である。古代の共産主義国家じゃあるまいし、これで負けてはデハドスでの評価も地に堕ちる。
けれども、赤毛の男にとって何よりの気がかりは、ベイト大佐の期待に応えられないことであった。スペースノイドである赤毛の男は、コンパニヤの経典などよりも宇宙連邦軍時代の上官に対して信仰を持っていた。
243アナザードルダ 6/18:2009/01/23(金) 01:37:08 ID:???
 こうなったらせめて首の一つでも持って帰らねば気が済まない。雪原で孤立している赤い敵MSに、とどめを刺そうと赤毛の男が考えるのは必然であった。
移動は天然の塹壕のおかげでガンダムのセンサーには察知されない。相当な遠回りであるが、カタナ型高周波ブレードのみという心もとない装備で防御不可能のビーム光に身をさらすよりはいい。
計算した座標にたどり着くと、ガーランドは崖を這い登ってちょこんと頭を出した。カメラが捉えたのは二機のMSの姿である。
片足を失った赤いMSを背負って、国防色のグワッシュが走っている。どうも仲間を助けに来た様子である。
赤毛の男が見逃す道理はなかった。汝の敵を愛せという教えのままに、戦場の美談を敵軍にくれてやるほどコンパニヤに染まり切るつもりはない。
ガーランドはスラスターを吹かして空中に飛び上がる。一機は大企業特有の不具合で動けないかも知れない試作MSで、もう一機は動いているが、所詮はグワッシュである。ガーランドの敵ではない。
一粒で二度美味しいとはこのことである。
 赤毛の男は口の端を吊り上げた。大した距離ではなく、数瞬後には太刀の間合いに入る。
しかし、ガーランドが抜刀するべく柄に手をかけると、不意にグワッシュの腕が動いて何かが飛んで来た。
スコップであった。グワッシュのメインカメラは前方を向いたままで、スコップの先端はガーランドの破損した右肩、したがって胴体内部の機械部品が剥き出しになっている箇所に突き刺さった。
 装甲は役目を果たさず、幾種ものエラーの表記が全天周囲モニターを埋め尽くした。
数秒するとパイロット保護システムが働いて、白い泡をコックピット内部に噴射する。瞬時に硬化する泡なので赤毛の男は身動きが取れない。
過剰ともいえるほどの拘束が済むと、ようやく炸薬が爆発してコックピットブロックが外に放り出された。

244アナザードルダ 7/18:2009/01/23(金) 01:38:47 ID:???
 カナリヤが離陸するのが見えた。
「左巻き女、推進系は生きてるか」
『ねえ、なんで、なんでみんな戦いなんかするんだ? 撃ちたくないのに、撃たせないでほしいのに……』
 ネルネは先ほどからずっとこのような具合で、ある種のヒステリーに陥って自問自答を繰り返していた。相手をするデイヴィッドには堪忍袋の緒を繋ぐ暇もない。
「ノータリンお嬢様は勝手に哲学を並べるがいい。俺たちは飛びさえすりゃいいんだ。思春期のくせして操縦桿も扱けんのか。それとも何だ、豚娘。火星人どもにアブダクションされたいか」
 しぶしぶという感じでドグッシュがスラスターを吹かす。途端に強烈な加速がグワッシュの姿勢を崩し、あわや手を離してすっぽ抜けるところであった。
しがみついて空中での姿勢制御を行い、二機の推進方向をカナリヤの進路と交差するように整える。
グワッシュに残ったエナジーと推進剤は心もとなく、ドグッシュの推進力に頼れるとしても、しだいに高度を上げつつあるカナリヤに届くかはおぼつかない。
 カナリヤの黄色い船体が光の尾を引いて灰色の空を横切って行く。当然であるが高度を下げる様子はない。
対空砲の弾丸が機体の横を掠めてデイヴィッドとネルネの神経をすり減らす。エナジーが無くなって落ちるか対空砲に撃ち落とされるか、どうにかこうにか着艦できるかのどれかである。
「こっちはエナジー切れだ!」
 メインカメラと生命維持装置を除いてグワッシュの全ての機能が停止する。上昇速度も格段に下がった。
「わ、私も!」
 数秒してネルネの悲鳴も響いてきた。万事休すである。カナリヤがゆったりと上空を横切り、巨大な船体も小さくなり始める。
吹雪に煽られて機体が揺れる。墜落は免れない。カメラに張り付いていた雪が散って、空から舞い降りてくる雪の群に合流する。
 デイヴィッドが舌打ちした刹那である。忌々しい灰色の空を切り裂いて向かってくるものがあった。

245アナザードルダ 8/18:2009/01/23(金) 01:40:40 ID:???
 フィリアは憤懣遣る方ない思いであった。デイヴィッドは身勝手である。敵に囲まれてカナリヤが飛び立つ寸前であるというのに、フィリアの言う事を聞かずに出て行った。
帰れる見込みは少ない。そこへ踏み出すのは、むざむざ死地にとびこむようなものである。
案の定、グワッシュが着地して走り出すや否や、ガーランドはここぞとばかりに集中砲火を浴びせて、デイヴィッドのためにフィリアが夜なべして仕上げた追加装甲を砕いて行く。
回避ルートも何もないめくらめっぽうの機動と、ムウシコスの援護射撃で辛うじて助かっているに過ぎない。
フィリアは気が気でないのを通り越して、もはや骨髄に徹し、思わずぼそりと呟いた。
「デイヴはいつも勝手だ」
 昔からそうである。フィリアの問いを口先でごまかして、肝心なところは何もかも一人で抱え込む。連邦軍を辞めたときでさえ何一つ相談してくれず、気付けば除隊していた。
「自分勝手だ」
 会えなかった二年間のうちにデイヴィッドは変わった。フィリアの知らないところで、勝手に変わっていた。
人当たりの仕方や犬儒的な言動は以前と変わりないけれど、根本のところがフィリアのデイヴと異なっている。
連邦軍時代のデイヴィッドは部下と打ち解けるそぶりを見せながら、いざ戦場に出れば容赦なく切り捨てていた。
足手まといになった部下を撃ち、慈悲死を与えたといって微笑むことはあれども、自ら危険を顧みず仲間を助けに行く人間ではなかった。
彼の後見人である上官と利用価値のあるフィリアの二人は例外であったが、そうかといって人と物との区別をつけない人種の一人であることに変わりなかった。
「なんで」
 フィリアにとって何よりも腹立たしいのは、デイヴィッドがネルネ・ルネールネを助けに向かったことである。
後見人の上官のように援助をしたでも、フィリアのように長らく付き合ったわけでもない。たかが数日ばかり仲間ごっこをしたに過ぎないそこらの小娘に、あの『微笑みデイヴ』が執着するとは思われない。
そういえば極冠に来るまで、あの女はしきりにデイヴィッドの部屋を訪ねていた。まさかとは思うが二人の関係が妙な事情に立ち入りそうな気配になっているのかもしれない。
フィリアは即座にその可能性を否定した。ありえない。デイヴィッドの嗜好を知り尽くしているが故の断定である。しかし疑念は増すばかりで、フィリアは覚えず歯を硬く食いしばった。
246アナザードルダ 9/18:2009/01/23(金) 01:42:09 ID:???
そうして、個人的な感情に頭のはたらきを占めつくされていたフィリアは、アルフ博士がいつの間にか横に立っていて感嘆の声を漏らしたのに気が付かなかった。
「シュード。リマーは何をやった」
「ふぇ?」
「死角から接近するガーランドを感知し、即座にスコップを投擲して命中させる。彼奴は背中に目が付いているとでもいうのか」
「はぁ……第六感というものでしょうか」
 とりあえず話を合わせてはみたが、ぼんやりしていたことを悟られれば当てこすりを言われるに違いない。
 カナリヤは高度を上げつつあり、グワッシュとドグッシュは抱き合って空を飛んでいる。先ごろああは思ったものの、やはりフィリアはデイヴィッドに見切りをつけることは出来なかった。
そわそわと気持ちが落ち着かず、携帯端末で上昇距離の計算をしたり、帰ってきたデイヴィッドにかける罵り文句を考えたりした。所詮は皮算用であるが、こちらからは何と遣りようもない。
これ以上カナリヤの上昇速度を下げれば追い縋って来るガーランドの射程に入ってしまうし、またその冒険がフィリアの望むところであるにしても、他の乗組員が承知するはずがない。
フィリアに出来るのは、祈ることのみであった。祈るといっても、マーズノイドでないフィリアは祈るべき神仏を持たず、運命や魂といったあやふやな観念に向けて己の願望をぶちまけるに過ぎない。
大半のスペースノイドは、祈るという行為について食前食後の挨拶程度の観念しか持ち合わせないのである。
 グワッシュのスラスター光が消え、フィリアは息を呑んだ。そうして自分を勇気付ける間もなく、ドグッシュの光も消える。
赤いくせに役に立たない女である、とフィリアが思ったかもわからない。けれども二機が落下運動を開始する直前、フィリアは咄嗟の思いつきで通信回線を開いて、
「ディック・オメコスキー、キュイエールを!」と叫んだ。

247アナザードルダ 10/18:2009/01/23(金) 01:43:31 ID:???
 遠隔誘導端末を用いた多角攻撃兵装の構想は以前からあった。最初に試作されたのは無線式リニア砲台である。
しかし無線操作は電子戦機によるハッキングやジャミングを受ける可能性があることが判明し、実戦投入されることはなかった。
簡易的なAIを搭載するにしても、無人兵器であるという解釈でブラックテクノロジー規制法に触れてしまう。
そのうえ、弾薬が実体弾であるが故に端末自体が大型化せざるを得なく、要となる運動性と機動性にも問題があった。
研究者たちは諦めずに試行錯誤を繰り返し、半ばむきになって様々な種類のオールレンジ攻撃兵装を試作した。
可能な限り軽量化した有線式ガンポッドや、先端に姿勢制御バーニアを配置した伸縮式プラズマロッド、
いっそMS並みに大型化して機動性と攻撃力を確保し、通常のMSの演算能力では運用できないので戦艦の装備として開発した機動砲台など、
幾種類もの高コストで怪しげな試作品を完璧の状態に仕上げて、研究者たちは揚々と連邦軍高官のところへ売り込みに行った。連邦軍高官は鷹揚に答えた。
「そんな高価な兵器をわざわざ使うよりMSの頭数増やしたほうが早いだろ、常識的に考えて」
 研究者たちは軍人の心の冷淡さを思うにつけ、寝床に入ってから涙をこぼした。
 それ以来、MS武装開発の恥部として捨て置かれていたオールレンジ攻撃兵装の構想は、火星開発公社のガンダム開発で再び日の目を見ることになる。
攻撃手段は実体弾からビーム砲になり、推進機構は軽量な羽状可変スラスターを用いることにより重力下での十分以上な機動性能を確保した。
月のマザーコンピュータに匹敵するガンダムムウシコスの処理能力ならば、複雑な姿勢制御の演算も問題ない。
問題があるとすれば、コストに見合う効果が得られるか疑わしいことくらいである。
運の良し悪しは定かではないが、ムウシコス開発を指揮するアルフ・スメッグ博士は日ごろの振る舞いとは裏腹に、兵器開発においては実際的な効果より精神的な満足を優先する性質を持っていた。
基礎設計を任された助手のフィリア・シュードが幾度となく思いとどまるよう説得を試みたが、一度やると決めたことは撤回しなかった。
平たい推進装置が扇状に広がり、中心から細長い円筒形のビーム砲が突き出ている。その外観から『キュイエール(匙)』と名づけられた兵器は、このような事情で完成したのである。

248アナザードルダ 11/18:2009/01/23(金) 01:44:26 ID:???
 ディックは伊達でも木偶の坊でもない。己の実力でガンダムパイロットの座を勝ち取ったことを自負している。
女もどきの主任が叫んだことは即座に理解できるし、いくら凄まじい形相をしていても女性的な色気を失わない見目良さに呆れ返る余裕さえある。
一基あたりMS数機分もする高価な武装を、こんなことに用いろと一切の迷い無しに言う人間が正気とは思われない。
ディックはデイヴィッドとフィリアの仲を本気で疑わしく感じ始めながら、キュイエールの安全装置を外した。
「獅子身中の虫か城孤社鼠か、気の振れた味方ほど恐ろしいものは無いってか。お前までキの字になってはくれるなよ」
 キュイエール、と叫ぶが、無論、起動するのにわざわざ掛け声を出す必要はない。せめてもの憂さ晴らしである。
両膝と両肩に位置する四基のキュイエールが外れ、一瞬ばかり宙に浮いたと思えば、一点に向かって同時に加速する。
抱き合ったグワッシュとドグッシュの直前に来ると、それぞれ明後日の方角へ急転回し、目標の二機のぐるりで鋭角の軌道を繰り返す。
羽状スラスターがAMBACで推進方向を小刻みに変え、スラスター光が幾重にも交差する。
キュイエールとムウシコスを繋ぐワイヤーが複雑に絡み合って、MS二機分の重みに軋んだ。

249アナザードルダ 12/18:2009/01/23(金) 01:45:30 ID:???
 少女が目覚めたのはグワッシュの再出撃より暫く前、カナリヤの乗組員が離陸準備で忙しく働いているころである。
 まず目に映ったのは染みのある天井であった。白亜の真ん中にぽつねんと灰色の霞が浮かんでいた。
じっと見つめると、染みがだんだん歪んで人の形をとり、手足を振って踊り出した。
少し経って、灰色の人間は踊るのに飽きたのか、なにやら苦しそうに胸をかきむしり始めた。
大きく開いた顎がさらに開いて、頭の端まで真っ二つに裂けた。裏返った中身が全身にあふれ出し、手足を取り込んで、もはや人の形を留めていられなくなった。
それでもなお悶え続けて、むき出した咽喉の穴からヒュウヒュウと何かを訴えようとしていた。
少女は目を瞑った。声が聞こえた。次々と聞こえる声が互いを打ち消し合って、彼が何を伝えようとしているのか少女にはわからなかった。
少女は目を開けて上体を起こすと、腕や胸に何かのコードが張られているのに気付いたけれど、かまわずに寝台から降りた。
シーツがずり落ち、あらわになった肌が外気に触れてひんやりとした。
筋が引きつって定まらない足を進めると、僅かな抵抗と共にコードの取れる音が聞こえた。
少女は再び目を瞑った。彼の温もりが感じられた。少女は彼のところへ行くために、壁を伝って歩き始めた。

250アナザードルダ 14/18:2009/01/23(金) 02:06:41 ID:???
 デイヴィッドがネルネの頭に拳骨を振り下ろす。鈍い音がして、デイヴィッドが腕を押さえて蹲る。口を軽く開けてか細い声を出すことで、のた打ち回るのを堪えようという腹である。
ネルネの被ったヘルメットには傷一つない。フィリアが格納庫に着いてまず目にしたのはこのような光景であった。
「馬鹿ですね」
「うん、馬鹿だね」
 フィリアはゲイリーの言葉に相槌を打った。全力疾走で荒くなった息を整えながら、胸を撫で下ろした。
「ほんと、よかった」
 平たい胸の内に、もどかしい疼きを伴った温かみが生じる。
「ええ、どうなることやらと思いましたよ」
 戦闘行為による高揚で代謝が上がったせいか、ゲイリーの顔は艶出ししたように光を帯びていた。加えてなぜか下だけジャージである。芳香剤のどぎつい臭いも漂って来る。
デイヴィッドから修正を受けたネルネはというと、けろりとしてヘルメットを外し、心配そうにデイヴィッドの背中をさすっている。
ネルネの慰めにデイヴィッドは「うっせ」と返すばかりであるが、それが虚勢であることは目尻の涙で露見している。ゲイリーが意味ありげな目配せをした。
「なんですかゲイリーさん」
 その声の調子に難点のあるのが自分にも気が付いた。要因の一つに妬みがあったのは否めない。ゲイリーは微笑みを深めて、たったいま思い出したように、
「そういえば、遺跡におられた方々ですが」
「知ってますよ」
 デイヴィッドが救出したのは半数である。残りの半数がどうなったかは、デイヴィッドに報告をまとめてもらわねばいけなかった。
フィリアとしては、非常に気の進まない仕事である。迂闊な訊き方をすればフィリアの心象を害しかねない。
フィリアが声をかけあぐねていると、先にデイヴィッドに話しかける者があった。
251アナザードルダ 15/18:2009/01/23(金) 02:08:15 ID:???
「余計な仕事増やしてくれたな。ええ? 三八野郎」
 ディックであった。キュイエールのワイヤーを傷めたことは、相当な経済的損失であるのに加えてカナリヤの戦力の低下でもある。
作戦外のMSの損耗はパイロットに責任が行くと規約で決まっているので、あのとき指示を出したフィリアとしては決まりが悪い。
ディックは腕組みをし、人差し指で二の腕を叩き始めた。デイヴィッドとネルネを興味深げに見比べると、鼻笑いを漏らして顎をやや上に向けた。
こうすることで、身長が勝っていなくとも見下ろすことが出来るのである。
「ほんっとによお、無様だよなあ。覚悟がないのに、弱いのにのこのこ出て行くから、植民地土産ごときにああもやられちまって……」
 ネルネがいきり立った。胸に下げていた髪の尻尾を払い、拳を前に出して、形の良い唇を引きつらせた。
けれどもネルネが怒鳴ろうとした折も折、デイヴィッドの手が背後に回って髪をぐいと引っ張った。
「何をするデイヴィッド!」
 デイヴィッドは答えず、魚釣りでいう合わせの要領でネルネの尻尾を引き続ける。あうあうとネルネが声を上げて、ぐったりしてしまうとようやく手を離した。
ネルネが素早く気力を取り戻してどやし付けようとするが、デイヴィッドはそれを手で制し、つかつかとディックに歩み寄った。そのままディックの横に立って肩に手を置いた。
「おいおい、今度はDラン殿が何か言うのか」
「ああ。ありがとうな、ディック。正直助かった」
「はぁ?」
 ディックが間の抜けた顔をした。思いもよらない言葉である。デイヴィッドは返答を待たずに立って行く。
「頼りにさせて頂くぜ、ガンダムパイロット殿……それとネルネ、さっさとシャワー浴びたほうがいいぞ」
 去り際の言葉にネルネの顔が先ほどと違う意味合いで赤くなった。
 フィリアがデイヴィッドの後を追うことに思い当ったのは、ネルネが顔を覆って駆け出した後であった。

252アナザードルダ 16/18:2009/01/23(金) 02:09:35 ID:???
 どうも妙な気分である。戦いは終わったというのに、気が騒いで落ち着かない。久方ぶりの実戦で幾度も死ねるような目に遭い、もろもろの事情で結構な負い目も作った。
けれどもそれを原因にこのような気分に落ち込むとは思われない。軍に居たころでさえ、この類の後遺症に悩まされたことはない。
意識が宿酔のようにぼやけている。脈がどくどくと慌しく鳴って大量の血液を送り出しているくせに、頭の中はぞっとするほど冷え切っている。
足を進めようとすると一拍遅れて肉体が反応し、ちぐはぐな歩みになってしまう。血の巡りが失せて全身が痺れているような具合である。
体調は歩くごとに悪化して行く。口の中では嘔吐感もなしに途方もない量の唾液が分泌され、視点は小刻みに揺れて定まらない。
通路の突き当りまで何歩の距離であるかも測れず、手を持ち上げてみれば、指が二十本あるように感じられる。
知覚の恒常性が失われているのである。時間の感覚も一定しない。つい今しがた連邦軍の除隊式を済ませたばかりとも、ガーランドのコックピットの中身を刺し潰したのが遠い昔であるとも思われる。
 デイヴィッドはびっこを引いて歩いた。彼は先ほどまで自室に戻ろうと考えていたのであるが、このような状態であったから、己がどこへ行こうとしているのかさえわからなくなっていた。
彼は彼の意識に残る僅かな表象を足がかりに歩みを続けた。壁に手を着かないのは、壁があると知らないからである。
己の意思というものが消え失せているために、現在の彼は機械と変わりない。頭に浮かぶ命令を即座に実行するばかりである。
その命令というのも、後の彼自身の解釈によれば、外部から送られたものであった。
253アナザードルダ 17/18:2009/01/23(金) 02:11:42 ID:???
 眉間の奥で火花が散った。針を突き刺され、抉られるような痛みが走る。火花が立て続けに散った。脳みそに爆竹を挿して遊ばれる心地である。
デイヴィッドは見開いた目を血走らせながら、頭を両手で押さえて大口を開けた。
悲鳴は出ない。ヒュウヒュウという息が漏れるばかりである。デイヴィッドは喉をかきむしりながら転倒した。
己の意思はあやふやなくせに、死ぬるばかりの苦しみは、はっきりと感ぜられる。
眉間のみであった火花が数を増やし、眼球の裏、耳の奥、顎の下、と範囲を広げて行き、遂には視界にまで直接的に及び始めた。
通路の映像が凄まじい速度で点滅する。天井に並ぶ光源は役目を果たさない。
光と光が混ざり合って飽和する。赤、黄、緑、青、菫、橙、藍、それから喩えようもない色の光の帯が四方八方から伸びてきて、幾何学模様を形成したと思えば崩れ去る。
帯が止め処なく流入するために視覚が損なわれ、目を瞑ったときに見えるのと同種の暗闇に埋め尽くされる。
 不意に、真紅の光芒が横切った。光芒が晴れると、無数の恒星の光に照らされた宇宙が眼前に広がっていた。
恒星が一斉に右へ動く。方向転換したのである。
新たに定まった視界には、灰色の惑星と、そこから生えた巨大な塔があった。そうして、それを背に白い機体と灰色の機体が戦っている。
交差する刹那に赤い光を閃かせ、離れたときにはどちらの機体も必ずどこかが欠けている。
決着は数合の後に訪れる。光の刃で互いの中心を貫いてどちらも機能を停止する。残ったのは、寄り添い合う残骸のみである。
「……ほんとうに、それでよかったの?」
 彼女の声が聞こえた。デイヴィッドの答えは決まっている。
「ああ、それでいい。これで、いいんだ」
 眼前いっぱいに灰色の星が広がった。
「ふざけんな!」
 怨嗟の声が突き刺さる。怒りながら死んだ者、恐れながら死んだ者、気が付かぬまま死んだ者、死にかけて苦しんでいる者、人々のうつろう意思がデイヴィッドを取り囲み、咎を責め立てる。
その声によってデイヴィッドの意識は塗りつぶされ、再び暗闇と静寂に閉ざされた。

254アナザードルダ 18/18:2009/01/23(金) 02:13:08 ID:???
 暗闇の中に針先ほどの点が二つ浮かんだ。点はしだいに大きくなって行き、琥珀色をしていることがわかった。
点はさらに近づき、それが瞳であることが見分けられるまでになると、顔の輪郭がぼんやりと現れてくる。
その姿に見覚えのあることを認めるに至って、デイヴィッドの知覚する世界が本来の在り様を取り戻した。
 デイヴィッドは大量の唾液を飲み込んで立ち上がった。
「おまえ……か」
 少女は答えず、ふらふらとした足取りで近づいて来る。
「俺に何をした」
 少女はデイヴィッドの体にもたれて目を瞑った。返答する意思がないかのようである。
「何なんだよ! お前は!」
 少女は顔を上げたかと思うと、やはり真っ当な受け答えをせず、デイヴィッドの胸に顔を埋めた。

 フィリアは口をあんぐりと開けた。デイヴィッドを追って来て見れば、当の本人が通路の真ん中で例の少女に抱きつかれている。
デイヴィッドは殺気立った目を血走らせ、少女は身体検査のため生まれたままの姿である。事情を知らぬ者が見れば手が後ろに回るのは疑いない光景である。
「え、ちょ、まっ、いつの間に目覚め、デイヴ? いやそもそも犯罪? と、とにかく服、じゃなかった、警備へーい! 警備へーい!」
 フィリアは二人の間に割って入ってデイヴィッドから少女を引き剥がした。デイヴィッドの視線を遮る位置に立ち、なるべく少女の体を見せないようにする。
相手がいくら小娘といっても、十四五の背格好であるからそれなりに成熟している。デイヴィッドにその方面の嗜好が無いとはいえ、目の毒であることは変わりない。
「セラピストを呼んでくれ」
「え、何?」
「心的外傷だよ糞ったれ!」
 デイヴィッドはそう吐き捨てると手で額を覆い、事切れるように膝を突いた。
255通常の名無しさんの3倍:2009/01/23(金) 02:14:47 ID:vOek/ist
ドルダのドの字もございませんが、以上です。
256エルト ◆hy2QfErrtc :2009/01/23(金) 02:27:25 ID:???
久々に覗いてみたら投下されとるw
アナザーの人投下乙です!
なんていうか上手く言えないけどお帰りなさいってか今まで続きが読みたくてたまらなかったので嬉しい限りです
それと、新説の方でアナザーの秀逸な世界観やキャラクターを好き勝手に扱ってしまってすいませんでした。
257コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/23(金) 18:41:47 ID:???
……っ凄い……
なんかそれ以外言いようが無いです
アナザーの人お帰りなさいです!
昨日覗いたら15の8まで投下されていたのでおお!と思ったのですがまさかさらに18まで……w
とにかく、アナザーの続きが読めて嬉しいです!


ん?語尾がですぅになってる?まぁいいか?
バルトさん、元気かなぁ……
258コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/25(日) 03:42:38 ID:???
あ、トップページが更新された!!!
259通常の名無しさんの3倍:2009/01/26(月) 00:13:44 ID:BEW3axma
↑コメント入れたからだろww
良く見ろよww
260通常の名無しさんの3倍:2009/01/26(月) 01:20:52 ID:???
ワラタwww
261コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/27(火) 02:35:58 ID:???
ぐぅわぁぁっぁ!!
自分で自分を笑いてぇww
しかもコメントに書いた事も見間違いだったしww
262通常の名無しさんの3倍:2009/01/28(水) 18:46:21 ID:???
保守
263通常の名無しさんの3倍:2009/01/28(水) 21:05:44 ID:81XepQ+J
このスレ、住民何人くらい居るんだろ?
264通常の名無しさんの3倍:2009/01/28(水) 22:06:25 ID:???
>>263
ノシ
265コナイ◇8GDQEpBT:2009/01/29(木) 23:52:37 ID:???
>>263
ノシ
266通常の名無しさんの3倍:2009/01/30(金) 00:00:17 ID:???
>>263
ROMだけど
267本家ドルダの人:2009/02/01(日) 17:52:26 ID:???
長らく間を置いてすいませんでした

第8話の後半を投下します
268本家ドルダ:2009/02/01(日) 17:55:44 ID:???
 数日後、調査隊は拠点を公社所有のドックからC.B.F.B.社の工場へと移した。
 グワッシュのカーボン複合装甲とGOユニットを開発した工場である。
 タイプAとタイプBのユニットの予備。そして新たなユニットの製造も進められている。
「クッ……また撃墜されてしまった」
 グワッシュとGOユニットと並行して、モビルスーツ用のシミュレーターも開発された。
 シミュレーターはローズのコックピットを模しており、操縦、戦闘の訓練を行える。
 今、それにはある人物が乗っている。
「なぁなぁクランさん、早く代わってくれよ〜」
 シミュレーターの横で、シオンが急かした。
 騒がしさに気付いたのか、ハッチが開いてクランが顔を出す。
「シオンくん?」
「やっと出てきた! 俺にもシミュレーターやらせてくれよ!」
「えぇ!? そんな、あなたがどうして……?」
 不安そうな顔をしてクランが尋ねた。
 シオンは明るく、強い面持ちで、クランを見る。
「クランさんが言ったみたいに、ヘルガを守りたいからさ」
「だからって、あなたがモビルスーツに乗る必要はないのよ?」
「ヴァイスだって戦闘に出たんだろ? それに、クランさんだって人のこと言えないじゃん」
269本家ドルダ:2009/02/01(日) 17:59:05 ID:???
「それは……」
 困ったように目を泳がせるクラン。
 迷っているわけではなかった。
 ただ、言ってしまえば、シオンにも同じ枷を背負わせかねない。
(でも、言うべきよね。私も覚悟を決めたんだもの)
 クランは再び、シオンを見る。
 そして、優しく笑った。
「シンシアの隣にいたいと思ったの」
「シンシア……の?」
「そう。いずれまた、あの子も戦場に出る。その時、あの子の隣にいられたらなって、思ったの」
 “和平への道”を進むために、調査隊は戦場へ向かう。
 そうなれば、攻撃的な人格のシンシアが現れるだろう。
 止めたいと思った。苦しみを分かち合いたいと思った。
 自分は化け物だと、人間ではないと嘆くシンシアを見て、クランは決めたのだ。
「それに、あの子にも見せてあげたいから。戦いのない、火星圏を」
 戦場に乱入することで戦闘を止められるのだろうか。
 今でもクランは疑問に感じている。
 だが、ギデオンは真剣だった。成すべき事のために邁進しようと意気込んでいた。
 なら、それについていこう。
 きっとその先にあるのだろう。
 自分達は、戦いを望んでいるのではないのだから。
270本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:03:13 ID:???
「決心はついたようだな、ナギサカ君」
 ギデオンの声に、クランとシオンは振り返る。
 ギデオンだけではない。そこには、ヴァイスとモモと、シンシアとヘルガもいた。
 火星から、ステーションから、今まで一緒に逃げてきた仲間。
 改めて考えると感慨深いものがある。クランは心強い気持ちになった。
「なんでそんな嬉しそうな顔してんだよ」
 暗い表情のヴァイスが言う。
「ヴァイスこそ、目の下にクマ、出来てるわよ?」
「うっ、うっせーよ!」
「あのミランダって人が出て行っちゃってから落ち込んでるよなー」
 クランの後ろから、ニヤニヤと笑うシオンが顔を出す。
「ヴァイス、やっぱりミランダさんのこと、好きだったのね……」
「ちがッ。お、俺が好きなのはッ……」
「いいの、何も言わないで。辛いわね……だからあんなに取り乱して」
 クランは心配そうな視線をヴァイスに向ける。
 ヴァイスは何か言いたげにしているが、結局何も言えず、言葉を詰まらせた。
 それを不満気な顔で見るモモ。隣にはヘルガもいた。
「……どんかんどんかんどんかん」
「はぁ……お兄ちゃんのせいよ」
「俺のせいかよ!?」
271本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:07:21 ID:???
 わかっていないシオンに、ヘルガは諦め気味に溜息をつく。
「うぉっほん」
 わかりやすく、ギデオンが咳払いをした。
 彼の隣には、シンシアがちょこんと立っている。
「君は普通の子ではないが、だからといって彼等の輪の中に入れないわけではないのだぞ」
「え?」
「行きたまえ。調査隊にいる内は、君もあの子等も、私の子だ」
 年頃の娘の親になるにはまだ経験も年齢も不足しているだろうが。
 そう付け足して、ギデオンは少しだけ顔を赤くして、黙り込んでしまった。
「ありがとう……ギデオンさん」
 シンシアは小さく笑うと、クランの元へ走っていった。
 その小さな笑みは、どこかクランに似ていると、ギデオンは思う。
「お姉ちゃんも、あのグワッシュっていうのに乗って戦うの?」
 駆け寄ってきたシンシアが、何の気なしに訊いてきた。
 クランは膝を曲げ、シンシアと目線の高さを同じにすると、優しく微笑んで首を振った。
「戦いに行くんじゃないわ。戦いを止めに行くのよ」
「止めに?」
「そう。一方的な主張と、それを否定しかできない戦いは、止めなくちゃ」
 武力蜂起以外の、火星コロニーの独立の道。
 クラン達の本来の仕事は、そこだろう。
272本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:20:17 ID:???
 火星の移住権は、火星開発に投資した地球圏連合加盟各国に与えられる。
 しかし、軌道エレベータの建設や火星の調査には、火星コロニー民も多くが協力してきた。
 調査隊の一員だったミランダのように。
(そうね。争う以外の火星コロニーの独立ためにも、あの子を……ミランダ達を説得しなくちゃ)
 ミランダの顔が浮かぶ。
 シンシアを殺すと、ミランダは言った。
 確かにドルダの力は強大である。
 幾度もの戦闘で、ミランダからすれば志を同じする者を、ドルダによって討たれてきた。
(けれど、憎むだけでは何もならないわ……)
 火星コロニー群の独立。火星コロニー民の自由。
 それを武力以外で勝ち取ることができるのか。
 それは、夢なのだろうか。
(だから、私達がいる。貴女の、貴女達の未来を、夢にはさせない!)
 クランはそう、強く、決心する。
「お姉ちゃん」
 そんなクランを見つめていたシンシア。
「わたしも、頑張るね」
 シンシアは言う。
 そして、俯いた。
「だから……………ワタシを止めて」
 微かに聞こえたシンシアの一言に、クランはハッとする。
 クランはシンシアを抱き締めた。
「わかった……わかったわ」
 変わろうとしている。
 シンシアが。世界が。
273本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:24:31 ID:???
「失礼する!」
 そんなところにやってきた、聞いたことのある声。
「メリリヴェイル・ルシェッタ……」
 ギデオンがその名を呟いた。
「この工場を探し出すのに数日の無駄な時間を要した。こんな民間会社を隠れ蓑にするとはな」
 カツカツと靴音を鳴らして、メリリヴェイルが近付いてくる。
 すぐ後ろには部下であろう屈強な士官が二人。
 明らかな威圧的な態度に、ヘルガは怖がりシオンに擦り寄った。
 子供達を庇うように、ギデオンはメリリヴェイルの前に出る。
「御用は何か、司令代理殿」
「フン。先日の、貴様等が起こした戦闘介入の件に決まっているだろう」
「その件に関しての許可は、司令代理殿もご存知だと思いますが」
「ジャイアントマン。私もその名を知らぬわけではない」
 ジャイアントマン。正体は知れずとも、軍の上層部に名は知れ渡っている。
 彼の言葉は政府からの命令に取って代わることがある。軍にも影響を及ぼすのだ。
 それが、メリリヴェイルの癪に障る。
(キム司令も、奴に媚びを売っていたようだった。この火星圏で甘い蜜を吸うために)
 アーロン・キム少将。
 地球圏連合軍火星圏駐留軍の最重要拠点である宇宙要塞ハーフムーンの司令。
274本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:26:29 ID:???
 そして、駐留軍の総司令も兼ねるこの男。
 火星コロニー群に対する政策にも一枚噛んでおり、
輸入される食料にかかる税金の一部は、キムに流れていた。
 ハーフムーンに配属された佐官クラスの将校なら、誰もが耳にしたことのある話だ。
 キムはジャイアントマンと接触し、私利私欲を貪れるような位置に居られるよう働きかけた。
 ジャイアントマンはそれを容認したということだろう。
「私は気に入らない。得体の知れない者のせいで、この火星圏がどうにかなるのがな」
 メリリヴェイルの態度に、ギデオンはデジャヴを感じた。
 誰も信じることはない冷たい瞳。
 初めて会った時と変わらない。
「確かに、ジャイアントマンの真意がわからぬ以上、貴殿の言うことは間違いではない」
 ギデオンの言葉に、メリリヴェイルは眉を顰めた。
「我々は彼の犬ではない。我々も、彼には注意を置いているのだ」
 そう言っても、メリリヴェイルの表情は変わらなかった。
 言葉だけでは、何も伝わらないのか。
 だが、諦める気など毛頭なかった。
「これだけはわかってもらいたい。我々は、この火星圏の平和を願っている」
 そして、現状では願っても、何も変わらないということも。
275本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:29:11 ID:???
「そうです!」
 ギデオンに続くように、クランも声を上げる。
「私の和平交渉の希望も、まだ終わってはいません」
 命の重みを誰よりも知っているクラン。
「クラン・R・ナギサカ……それが夢物語だと、何故気付かない!」
「夢物語なんかじゃねえッ!」
 ヴァイスが叫ぶ。
「手を取り合うことなんて、本当は簡単なことだろ?
あんた等も火星独立派も、なんで仲良くできねぇんだ!」
 共に火星に降り立った友と、再び会うために。
 ジャンク屋の性故か、人種や暮らす場所に関係なく誰とでも分け隔てなく接することのできるヴァイス。
 ギデオン、クラン、ヴァイス……
 三人を順に見ていくメリリヴェイル。
 彼等は、火星コロニー民ではない。
(なのに何故、これほどまでに強い意志を……)
 自分も彼等と同じだ。生まれも育ちも、火星圏ではない。
 彼等と自分の違い。彼等にあって、自分にないもの。
(高官共の長年に渡る汚職。腐敗と堕落の温床……)
 その被害者は、常に火星コロニー民達だ。
 自分は何のために軍人になった。
『これ以上人命を軽視できないわ。こんなことを続けていれば、
いずれ世界中の人々の感情は爆発して、暴動やテロが起きてしまう』
276本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:30:54 ID:???
 蘇る記憶。
 若かった頃のあの志。
 嘘や裏切りによって、捨ててしまったはずだった。
(私は……)
 今一度、彼等を見る。
 ギデオンやクラン、ヴァイスだけではない。
 まだ幼い子供達もまた、同じ面持ちだった。
「クッ……戻るぞ!」
 メリリヴェイルは踵を返す。
 慌てて追いかける部下達も目もくれず、メリリヴェイルは歩調を速めていった。
(大丈夫だろう、彼女なら……)
 それを見送るギデオンは、心の中でそう呟いた。

 第33コロニー。
 格納庫に輸送機が入った。
 輸送機から降りる人影。ミランダだ。
「案外、お早いお着きだったね」
「新型を26コロニーから受領して、トンボ返りでこちらに来ましたので」
 待っていたマイケルは、苦笑してミランダを見る。
「本日付けでマイケル・ミッチェル隊に配属されました。ミランダ・ウォンです。改めてよろしくお願いします」
 ミランダは険しい表情を崩すことなく、小さく頭を下げた。
 顔を上げる際、灯りに反射して、眼鏡が鋭く光る。
「まさか君がパイロットとして来るなんてね。実戦経験もない、シミュレーション回数も乏しい君がさ」
277本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:32:34 ID:???
「操縦技術に関しては問題ありません。上の判断でもあります」
「断言するねえ……」
「決意がありますから。それに自機であるブラッシュ・ローズは長距離狙撃用モビルスーツです。
前線に出ない限り、ご迷惑をおかけすることはありません。それに、私はこれで戦果を上げます」
 表情一つ変えることなく、ミランダは言った。
 そんな彼女に、マイケルは不安を感じる。
(まるでパンパンの風船だね。ちょっとの刺激で割れてしまう)
 それほどまでに気を張って、ミランダを突き動かすものとは。
 ドルダは確かに脅威だ。
 だが、機体は地球圏連合軍にはないとわかった。
「ガンダム。向こうでの名前はドルダだったね。あれは駐留軍には渡らず、君がいた調査隊が所有している」
「知っています。あの人達がこの戦いを止めようとしていることも」
(内緒にしておこうと思ったけど、この様子だと報告もしちゃってるなぁ……)
 火星コロニー義勇軍にとっては、和平を目指す者達もただの障害か。
 新型機を寄越してまで、ドルダの破壊を優先させるその意図とは。
 火星コロニー義勇軍、独立派……
 自由を勝ち取るために、決起した者達。
278本家ドルダ:2009/02/01(日) 18:33:13 ID:???
 その頂点に立つ宗谷陽光。
(自らの望む手段や結果以外は認めない……ということか)
 彼の信念と、今目の前にいるミランダの考えは似ているような気がする。
 目的に向かって突き進む。それは構わない。

(けど、度を越した暴走は、身を滅ぼすよ……)





To Be Continued...
279コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/02(月) 20:49:44 ID:???
本家ドルダの人、乙です!!
本当にギデオンが父親に見えてきましたww
ジャイアントマン、その目的は一体……?
GJです!
280通常の名無しさんの3倍:2009/02/05(木) 11:35:09 ID:???
保守
281コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/06(金) 18:56:31 ID:???
保守
282通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 19:59:47 ID:???
あげとく
283通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 21:32:36 ID:???
絵師さん、もうこないのかね。
284通常の名無しさんの3倍:2009/02/07(土) 23:25:04 ID:???
規制か飽きたかじゃね?
来ないなら来ないで誰かまとめサイト更新しなきゃだが
285コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/08(日) 01:19:06 ID:???
現在受験シーズンだから忙しいんじゃないか?
残念な事に更新は管理人からのメンバー登録がないとできん。
一応申請したがいつ届くか・・・
とりあえずこのスレのここまでをメモ帳に保存しとく。
286通常の名無しさんの3倍:2009/02/08(日) 16:17:18 ID:???
287通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 17:55:35 ID:???
保守
288通常の名無しさんの3倍:2009/02/10(火) 23:23:29 ID:???
$だ。
289コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/13(金) 00:08:29 ID:???
保守
290通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 21:46:50 ID:scCrU5NY
アナザードルダ投下します。
291アナザードルダ 1/22:2009/02/14(土) 21:48:25 ID:???
 マリネリス渓谷の東、マルガリテフェル地方の外れには、ドーム・ディオゲネスが位置している。太古には湖であったと推定されている地方である。
やはりこのドームも他のドームと同じく、火星のテラフォーミングが完了すれば水の底に沈むことになる。
 ドーム・ディオゲネスは主に羊毛と羊肉を生産している。都市部といえるようなところは運河ターミナルくらいである。敷地のほとんど全部が草原である。
このドームで生まれた者は、羊飼いになるか、さもなければ屠殺業者に就職する。識字率は人口の三割を超えず、古くからの住民はたいてい親戚関係にある。要するに火星における田舎ドームである。
 そこに、仮面の聖女と呼ばれた女が暮らしていた。エウテュミアという名前である。二年前、ふらりとある村にやってきて小さな教会に住み着いた。
この教会で神父をしていた男は、テーレマコスの神学校を出たと聞くが説教が下手で、古代語の知識も怪しい。
安息日になれば、羊飼いの青年たちのいかがわしい歌に合わせて古びたアコーディオンを鳴らし、度数の強い密造酒を煽った。
時たま村人が持ってくる家畜と、コンパニヤ総本山ドーム・テンポロからの僅かな補助金で暮らしを立てていた。
そんな清貧暮らしを続けていたわけであるから、エウテュミアと名乗る女が教会の扉を叩いたとき、いくら貧しき者に手を差し伸べるコンパニヤ神父とはいえ、どう処置していいやらと暫し悩んだ。
そもそも風采からしてよろしくない。女は蝶の形をした仮面で顔を覆い、みすぼらしくはないが見たことも無い種類の白装束を纏っている。
そのとき女が聖典ほどに分厚い紙の束を出さなければ、神父といえども追い出していたかもわからない。
 異端と疑われたくない五十過ぎの神父は口にするのをためらったが、エウテュミアはどうも神秘的な雰囲気を持つ女であった。
彼女が主の祈りを始めると、礼拝堂の空気が張り詰めるというよりも、やらかく安らいで行くような心地がした。億劫な早朝の礼拝でさえ、いつまでも続けていたくなる。
292アナザードルダ 2/22:2009/02/14(土) 21:49:50 ID:???
 村の神父という役職は、本来の業務とは別に、庄屋と並んで諍いごとを調停する役割も担っている。
男女間の惑わしごとでなにやら食い違いがあったやら、あそこの羊がどこぞの敷地に入ったやら、酒の上での無礼やらと、なかなかどうして多忙である。
神父は日ごろこうした話はなるべく波風立てずに当人同士に解決を任せるように取り成していたが、あるときふとした思い付きから、エウテュミアに一任してみようという気になった。
仮面で素顔を隠しているとはいえ、背格好がすらりとしていて、村人たちに評判のいいシスターである。面倒ごとを避けたいという気持ちもある。
 実行に移してみると思いがけない成果を上げた。一人の村娘をめぐって争っていた青年客気の男二人が、神学校の入学生のごとく大人しくなっていた。
涙をぼろぼろこぼして悔い改める始末である。どのような手管を用いたかは知らないが、楽をしたい神父は手放しで賞賛した。
 この村に一人、物狂いの青年がいた。数年前に出稼ぎから帰って以来、奇態な行動をするようになった青年であった。
羊の鳴き声が聞こえると飛び上がって、すかさず手近にある干草の塊を抱え、羊の足元に飛び込んで行くのである。
羊の足に踏みしだかれながら「我突入ス、我突入ス」とわめき散らす。出稼ぎ先の木星で何があったか知らないが、村人にとってはたまったものではない。
錯乱した彼に羊が殴り殺されたこともある。青年の唯一の肉親である母親は肩身が狭く、教会へ礼拝に通うのも、数ヶ月に一度、平日に青年を連れてこっそり礼拝堂に座るばかりである。
 エウテュミアがこの青年を見たのは、彼女が教会に住み着いてひと月ほど経ったころである。
その日は礼拝堂の入りもまばらで、座っているのは、井戸端しにきた主婦や、信心屋の老婆ばかりであった。そこに、扉をそっときしませて、例の母親が青年の手を引きながら足を踏み入れた。
なにやら青年にはげましの声をかけつづけているが、神父はその哀れっぽい様子を見飽きていたので、別段気に止まった素振りを見せずに聖典の朗読を続けていた。
293アナザードルダ 3/22:2009/02/14(土) 21:50:47 ID:???
 神父はエウテュミアが立ち上がったのに気付いた。朗読中いつもつつましく横に控えている彼女にしては考えられない粗相である。神父は朗読をやめて、エウテュミアの様子を観察した。
彼女は物狂いの青年をじっと見つめていた。仮面で隠れてわからないが、どこか悲しげな眼差しをしているとも思われた。
神父が何か声をかけようと思い立ったとき、エウテュミアは静かに青年に歩み寄って彼の手を握った。神父は首を振った。青年が彼の母親以外に無反応であることを知っていたからである。
けれどもエウテュミアが手を握ってしばらくすると、青年は顔を上げ、ぼんやりした目でエウテュミアを見返した。
蝶を模った奇怪な仮面を見て思うところがあったのかも知れなかったが、青年は暫し仮面を眺めた後、何かぼそぼそ呟いたかと思えば、母親の手を借りずに礼拝堂を出て行った。
 翌朝、青年は近所の老夫婦の家を訪れて、人手は要らないかと口を利いた。老夫婦は物狂いの青年の物言いを訝しく思ったが、あれこれ聞いてみるに、どうも正気な様子である。
ためしに仕事を任せてみると、青年はそつなくこなしてしまった。青年の母親は感激して跪き、涙を流しながら己の主に感謝の祈りを捧げた。
村中から人が集まってきて、青年の仕事振りを見たり、おっかなびっくり何かものを訊ねてみたりした。青年はいたって正気な人間になっていた。
294アナザードルダ 4/22:2009/02/14(土) 21:52:36 ID:???
 この事件以来、エウテュミアは仮面の聖女と呼ばれるようになった。奇跡を行い、頭の疾病を消した聖女としてたちまちに話は伝わった。
奇跡の噂は、村は元よりドーム・ディオゲネスの外、コンパニヤ総本山ドーム・テンポロにまで広まった。村には各地から青年と似たような症状に悩む者たちが集まってきた。
かつて抱いていた野心をぶり返した神父は、張り切って仮面の聖女の宣伝を行い、それと同時に、異端と見なされぬよう教会の上層部への手回しにも奔走した。
エウテュミア当人はといえば、なるべく目立ちたくないというような言葉を漏らしたが、成功の味を知った神父からしてみれば穏便に事が済むのは面白くない。
神父は彼女が時たま行った説教の言葉を編纂して経典を作った。幸いにもエウテュミアの思想は実践的であり、どれも穏便な類のものであったから、教会が異端の言いがかりを付ける余地は少ない。
神父は上京してレコヒミエントという宗派を立ち上げた。信者には仮面の聖女の居場所を知らせず、月に一度、幾人かの患者を彼女に治療させた。
ディオゲネスの住民が存外閉鎖的な気質を持ち合わせていたのが幸いし、現代に蘇った奇跡というものを神父は独り占めすることが出来た。
指導者の仮面の聖女が人前に出ないということも宗派の神秘性を高め、二年も経つと、レコヒミエントは火星で相当な勢力を持つに至った。
しかし、そうそう一人の男の思い通りに事を進ませるほど彼らの主は寛容ではない。
別な宗派の宗教的嫉妬やレコヒミエント内での勢力争いによって、成り上がり者は瞬く間に没落し、結局は以前と同じく小さな村の神父で落ち着かざるを得なかった。
今はもはや、彼は過去の栄光を反芻する世話役の一人に過ぎなかった。
295アナザードルダ 5/22:2009/02/14(土) 21:53:24 ID:???
 礼拝堂の板敷は掃き清められるようになって久しく、ぶどう酒の染みや埃の縁取りは見受けられなかった。ステンドグラスから明かりが差し込み、色とりどりの模様を映していた。
模様の上に跪いて光を浴びているのが、今や仮面の聖女と呼ばれて、栄光をほしいままにしていると思われている一人の女であった。彼女はよく通る滑らかな声で聖歌を朗唱していた。
「デウスたるおんみを讃え、主たるおんみをあかし奉る。久遠の父よ……」
 やつれてしまっている神父と貧しい恰好をした村人たちが、仮面の聖女の声に合わせてぼそぼそと口を動かす。その声は歌うというより散文を諳んじるのに近かった。
レコヒミエントの主導は歌い手たちから離れて一人歩きを続けている。各地のドームに散在する信者の手綱を握るのは、神父の背後で賛美歌を聞いている男たちであった。神父は密かに彼らのことを鮫の歯と呼んでいた。
「天使(アンジョ)、天国(ハライソ)の民、権力(ちから)ある者、ケルビムもセラヒムも、断えず声をあげて歌ふ……」
 ここまで歌い終えて、突然エウテュミアが仮面を押さえて苦しげなうめき声を発した。
すぐさま神父と村人たちが彼女に駆け寄ったが、エウテュミアはか細い声で喘ぐばかりで、神父たちの呼びかけに反応する様子がない。鮫の歯の男達が目配せしあい、仮面の聖女を寝室に運ぶよう指示をした。
 彼らへの罵倒は口の中だけに留めて、神父は村人達の手を借りて彼女の体を持ち上げた。
ひどく軽い体である。数百万人もの信者の希望を担っているとは思われないほどか弱かった。二年も顔をつき合わせていれば愛着が沸く。己の野心に利用したという罪の意識もある。
神父はエウテュミアを休ませると、一人自室に篭って、壁の十字架に告解の文句を浴びせた。
296アナザードルダ 6/22:2009/02/14(土) 21:54:50 ID:???

 眉間の奥の凄まじい火花の嵐は静まっていた。世話人たちを退室させて一人きりになると、エウテュミアは仮面を外した。改めて見ても趣味の良くない仮面である。
しかし仮面を外して数秒経つと、耳鳴りが始まり、恐れおののく声や、何者かを罵る声が聞こえてくる。あまりに喧しくて堪えられそうもない。
エウテュミアは再び仮面を付けた。すると声が途切れ、聞こえるのは遠い羊の鳴き声ばかりになる。エウテュミアはなるべく静かに息を吐いて、仮面の脇に垂らした黒髪の纏まりから一本抜き取った。
強くしごくと指先が黒ずんだ。毛髪の先端は、ほのかな翡翠色の輝きを発している。エウテュミアは下腹にそっと手を当てて呟いた。
「シンシア、あなたなの……」
 答える声はない。教皇ペトロ四郎の演説が放送されたのはその三日後である。居合わせた者たちによって、仮面の聖女が独立戦争の始まりを予言したという風説が流布された。
297アナザードルダ 7/22:2009/02/14(土) 21:56:42 ID:???

 青い惑星の地表のあちこちで光が半球形に広がる。光が止み、黒いまだらばかりが残ると、今度は幾つもの巨大な岩の塊が光の尾を引いて惑星に向かって行く。
惑星に飲み込まれる直前、岩の塊は赤く染まり、それが豆粒ほどに小さくなってしまうと、惑星の表面全体に波紋が広がる。
惑星は急速に色あせて行き、遂には灰色に覆われる。振り返り、今度は真ん丸い衛星が大写しにされる。瞬時に接近し、広い議場に変わる。
壇上には男が立ち、腕を振り上げて熱っぽい調子で何やらわめいている。都市部では奇抜な恰好をした人々が心底幸せそうな様子で歩いている。
再び宇宙空間に変わる。近づいて行く先には、機械部品を生やした歪な岩石の塊がある。洞窟の中では、汚れで顔を真っ黒にした老人や少年が小型作業MSで岩を削っている。
そこに小奇麗な服装をした紳士が現れ、不愉快そうに鼻を摘む。大通りに出ると、道端に薄汚い身なりの物乞いが幾人も座っている。
中には一族郎党の組もあり、パンの欠片を手にした子供が、目を瞑ったまま動かない父親に声をかけている。
先ほどの紳士が現れて、喧しいのか、子供をステッキで打ち据える。今度は緋色の惑星が映し出される。
『火星。そこは最後のフロンティア』
 錆色の大地に気密服姿の人々が降り立つ。土を手のひらに載せると、弾力の頼りない土がぽろぽろと零れ落ちる。
時は流れ、人々が鍬を手に列を作り、土を黙々と耕している。土から芽が伸び、荒涼とした土地はしだいに緑に覆われていく。
煉瓦造りの粗末な民家が立ち並び、それらの中心に、質素ながら美しい建物が見える。その屋根の上には真っ白い十字架が突き立っている。森が出来て、草原では牧童が家畜を撫でている。
『しかし』
 軍服の男たちが、穀物の袋をトラックにうず高く積み上げている。トラックから離れた道端で、農夫がそれを見つめている。農夫の子供は咥えていた指を抜き、裾を引っ張って父親に何かを尋ねる。父親は力なく首を横に振る。
『民は餓えた』
 土間のテーブルで、家族が透明なスープをすすっている。主な具材はキャベツとじゃが芋で、その上に申し訳ばかりのパンが泳いでいる。
突然、一人の青年が匙を叩きつけて立ち上がる。家族の者たちが落ち窪んだ目で一斉に彼を打ち眺める。青年は己に言い聞かせるように語り続け、ぼろぼろの鞄を持って家を出て行く。
298アナザードルダ 8/22:2009/02/14(土) 21:58:38 ID:???
 場面は再び居住小惑星に変わる。先ほどの青年が、小型作業MSで鉱石を運び出している。青年の肌は黄色く、青白い者たちの中にいれば汚れていても一目で見分けが付く。
底意地の悪そうな顔つきをした労働者が、青年の小型作業MSの背を小突く。体勢を崩し、鉱石のコンテナがひっくり返る。
すぐさま監督官がやってきて、青年を引きずり出して幾度も殴りつける。青白い肌の者たちは作業を続けながらにやにや笑いを浮かべている。
作業員たちが横一列に並び、監督官から日当を受け取る。青年の順番が来て、封筒を受け取ってみるがどうも隣の作業員より厚みが少ない。
青年が口を開く。すかさず監督官の拳が飛んでくる。周りの作業員たちははしゃいでいる。
顔面の幾箇所かを赤黒く腫らした青年が道を歩いていると、あどけない顔立ちの子供らが彼に石を投げる。周りの大人たちの中にそれを止めようとする者はいない。
 ここで場面は切り替わる。護衛官をはべらせて通路を歩く連邦政府高官に、記者がマイクを伸ばしている。
「未だ根強いマーズノイド差別について、何かコメントを!」
「そんな事実はないと思われます。既に差別は根絶されたという報告を受けておりますので」
「事実として迫害を受けている火星出身者がいるんですよ!」
「それはきっと見解の相違でしょう」
 記者がやにわに高官の頬を引っ叩く。要人に暴行を加えた記者を護衛官が取り押さえる。
「顔に蚊が止まっていると思ったんです! これも見解の相違です!」
 しかし記者は、屈強な護衛官たちにもみくちゃにされる。
『嘘をつけ! 嘘をつけ! 嘘をつけ!』
 先ほど頬を叩かれた高官が細君と腕を組んで繁華街を歩いている。
細君とはいうものの、相当にふくよかな体つきなうえ、小皺を埋め尽くしてしまうまでにどぎつい化粧をし、手をかけすぎて下品に転じた類の装飾品を幾つもぶら下げている。
細君が立ち止まり、店の陳列窓を指差して夫に何か言う。高官は仕方ないという様子でため息を吐き、細君に促されるまま店内へ連れられて行く。
場面は議場に移る。例の高官の口から発せられる一言一句に、いちいちもっともであるという具合で他の高官や議員が頷きを繰り返している。火星ドーム群の住民税増額は、大多数の承認を得て議決される。
299アナザードルダ 9/22:2009/02/14(土) 22:01:09 ID:???
 失職した男性が、頭を抱えている。男性のすぐそばでは赤子を負ぶった女性が洗濯物をしている。指の皮はひび割れ、節々に鮮やかな色が覗いている。
別の子供がやってきて、「ご飯は?」と訊ねる。母親は視線を桶に向けたまま、テーブルの上の小さな黒パンを指差す。硬そうな黒パンの割れ目からは藁がはみ出ている。
 家の外では、宇宙からの観光客が買い物をしている。「あら安い」「悪くないんじゃない?」と勝手なことを言いながら、あちこちの店で品物を買いあさっている。
町の教会では、中年者の観光客がしきりにシスターに言い寄っている。紙幣をシスターの体に押し付けて、何やらけしからぬことを口走ってさえいる。
そこに、温和な顔立ちをした老人が現れて中年男をたしなめる。中年男は顔を赤らめていきり立ち、大げさな身振りで老人に殴りかかろうとする。しかし老人は拳をかわして、たちまちに杖で中年男をやっつけてしまう。
 ここで大仰な音楽が始まり、老人の背後にある十字架が輝き出す。
「火星の民よ、武器をとれ!」
と老人が叫んで、杖を床に一突きする。すると幾十どころか、幾百機ものガーランドが地から聳え、跪いた姿勢のそれらが画面を埋め尽くす。
「火星の民よ、立ち上がれ!」
 ガーランドが一斉に立ち上がる。老人はいつの間にか三重冠を被り、白い法衣を身に着けている。
「矛を持て! 盾を構えよ!」
 ガーランドが右手に持った銃剣を立て、左手のシールドを掲げる。
「今こそ我らの手で、真の自由と独立を、勝ち取ろうではないか!」
 天から差し込む光が老人の法衣を輝かす。白髪も眩しいほどの光を帯びている。背後の十字架の上に鷲が舞い降り、十字架の下には蛇が絡みつく。安っぽいファンファーレとともにその輪郭が紋章に変わる。
「デハドスこそが、我らマーズノイドの矛と盾である!」
『皆様の利益と安全を守るデハドスにご協力をお願い致します』
というテロップが表示されると、
「ばかばかしい」
 デイヴィッドはそう吐き捨てて映像を消した。そもそもプロパガンダになるかも疑わしい。初めの紳士、監督官、連邦高官、好色な中年男性、これら主役の四人からして同一の役者を使っている。
鬘と付け髭を変えただけである。マーズノイドにとってスペースノイドの顔は見分けが付きにくいとはいえ、視聴者を侮辱するにも程がある。
300アナザードルダ 10/22:2009/02/14(土) 22:24:18 ID:???
「あれだけの軍備を整えられるくせに、今さら何が独立戦争だ」
 寝返りを打つと、部屋の隅に少女が座っているのが見えた。肌は居住小惑星の住民よりも更に青白く、見たのがデイヴィッド以外の者であったなら体温の有無を確かめてみるに違いない。
髪の毛は、人間動物には見られぬ類の色をしている。目がちかちかする色合いである。どうみても正常な遺伝子を持つ生物とは思われない。
その人形面から喜怒哀楽は読み取れないが、どこかしょんぼりしているように感じられた。既に小一時間ほど置物同然に扱っていたわけであるから、デイヴィッド自身に憐憫の情を催させたかも知れなかった。
「糞忌々しい」
 そう聞こえよがしに口にした相手は、確かな実体を持っている。
「おい、何で俺までモルモット扱いされなきゃならん」
 少女は首を傾げた。まるで解せないという様子である。デイヴィッドは舌打ちをして己の愚昧さを罵った。四百年前の人間もどきに言葉の通じるはずがない。
ブラックテクノロジー全盛期についての物事は、言語体系ですら殆ど知られていないのである。
「一服してくる」
 デイヴィッドは誰に言うともなく言って寝台から立ち上がった。自室は禁煙ではないが、この少女といえども最低限の礼儀は適用される。開発公社の所有物の肺機能を害しては減給で済まされない。

301アナザードルダ 11/22:2009/02/14(土) 22:25:42 ID:???

 カナリヤは現在、ヴァスティタス・ボレアリスの岩場で迷彩布を被っている。
コンパニヤ指導者によって火星ドーム群の独立宣言と宇宙連邦への宣戦布告が行われていたという事実をカナリヤの乗組員が知ったのは、所属不明部隊の追撃と極冠の強力な磁場から逃れた後である。
通信網は全て火星連合側のもので占められている。通信衛星が機能していないので、宇宙との交信は断絶している。
報道の内容を省みるに、テーレマコス・ターミナルのマスドライバー施設は、デハドスと名乗る武装組織に押さえられているらしい。
つまり、連邦軍が彼ら反乱軍を鎮圧しないかぎり、宇宙に逃れることは出来ないのである。
火星開発公社は元々は連邦政府の一部門である。加えて、先日の襲撃部隊はガーランドで構成されていたためデハドスの手の者である可能性が高い。
火星連合と敵対する意思はないと主張して降伏しても、あまりいい待遇を受けるとは考えにくい。また、カナリヤの遺跡調査と宣戦布告の時期が重なったことについて、内通者の有無も問題である。
乗組員は皆スペースノイドであるが、袖の下に対して人種の壁は無力に近い。
やや思い上がった考えであるが、時勢が時勢であるから、火星連合が決起の頃合を計ることで、会戦のどさくさに紛れてブラックテクノロジーを手に入れようと画策した可能性もあった。
 しかし、そうした内輪の揉め事は後回しにされた。第七次調査団は民間団体である。連邦軍とは違って、己の身から出た錆がどこでどうなろうと知ったことではない。
利益を上げられさえすれば結構なのである。内通者が研究成果を持ち出すにしても、研究は各部門に細分化され、具体的な形にまとめる人間は、実質的にアルフ・スメッグヘッド博士一人といっても過言ではない。
白衣の研究員たちのほとんどは自身が何を研究しているのかさえ知らされず、アルフ博士の手足と変わりなかった。
歪な組織構造であるが、ブラックテクノロジーの調査といういかがわしい仕事をする組織においては理に適う構造であった。
何となれば殆どの職員が、法を犯すという観念を抱かずに済むのである。調査団が今最も恐れているものは、野蛮な火星の武装組織と、連邦政府のブラックテクノロジー規制法である。
302アナザードルダ 12/22:2009/02/14(土) 22:27:12 ID:???
 アルフ博士を中心に、各部門責任者の何人かで相談した結果、アルカディア地方の中立ドームに保護か補給を求めるという方針で落ち着いた。
しかしいくらドーム側が非戦を主張するといっても、カナリヤは体のいい生贄にするに恰好の素材である。中立体制維持のためにどちらかの陣営へ捧げられかねない。
調査団は最低限以上の自己防衛力を確保しておかねばならなかった。

 喧騒と呼ぶには、格納庫はあまりにも凄惨な様相を呈していた。四方から騒音が襲い掛かり、飛び交う整備員たちの激に巻き添えを食う。
ネルネやゲイリー、さらにはディックでさえ作業の手伝いをしている。パイロットを動員するまでに人手が不足しているのである。
被弾の無いゲイリー機と、キュイエールが痛んだに過ぎないムウシコスは想定内の作業量で済む。しかしデイヴィッドのグワッシュとネルネ機は目も当てられない有様であった。
今朝フィリアが話したところによれば、予備パーツのあるネルネ機はともかく、デイヴィッドのグワッシュには応急処置しか施せない。あと一戦行えるかも怪しい状態までにしか仕上げられないそうである。
パーツの規格が合わないので騙し騙し使って行くしかない。関節に負担をかける追加装甲は外し、スラスターも最低限のものを残して撤去する。
ノーマルと変わりない状態に気休めの防塵処置を施すばかりである。連邦軍ならばよほどでないかぎりこのような割の合わない修理を行うことはない。
しかし、頭数の少ないカナリヤMS隊にとっては、たかがグワッシュといえども貴重な戦力であった。
 顔を黒く油まみれにした作業員が白い目を向けてきた。デイヴィッドは格納庫の中でただ一人、煙を吹かしてぼんやりしている。
そんな姿を見れば、作業員が穏やかならぬ印象を持つのは当然であろう。彼らは最後に一服したのはいつかも忘れ、昼夜を分かたず働かされているのである。
デイヴィッドは心底旨そうに煙を吐いてみた。それを見た作業員が歯を食いしばり、スパナを振り上げてグワッシュの装甲に投げつけた。
デイヴィッドは下卑た笑いを浮かべた。勤勉な作業員には悪いが、例の小娘のもたらした鬱憤を発散する絶好の機会である。
303アナザードルダ 13/22:2009/02/14(土) 22:30:20 ID:???
「リマーさん、なにやってんです!」
 デイヴィッドが身構えようとしたとき、きんきんと喧しく聞こえる性質を持った声がそれを遮った。振り返ると、ゲイリー・ターレルよりもさらに大らかな体の作りをした中年女性が、息を切らせて駆け寄って来た。
「何の用件です、ドクター」
 ドクターと呼ばれた中年女性は、白衣を羽織って首に聴診器をぶら下げていた。窮屈そうに捲くったままの袖を見れば、つい先ほどまで負傷者の治療をしていたことがわかる。
「この子からひと時も離れてはいけないと、わたし何度も何度も言いましたよね」
 ドクターの後ろから、よたよたと頼りない足取りで少女が歩み出る。豊満な体に隠れて見えなかったが、どうもドクターと一緒に追いかけてきたらしい。
「この子は生まれたばかりの赤ちゃんと一緒なんです。リマーさんを最初に見たから、リマーさんを自分の保護者、親だと認識したんです。
だから、あなたは責任をもって、この子のお世話をしなくちゃいけない、わたしそう言いましたよね」
「鳥じゃあるまいに」
「根本は人も動物も同じです。ましてや、この子は言葉すらしらない。この子にとっては、リマーさんだけがたよりなんです。
親のあなたがいなくなってしまっては、縋るものはなにもない。孤独です。寂しいんです。心細くてたまらない。だからものを知らない彼女なりの絶望をするんです。
御覧なさいな、あなたの酷い仕打ちで、この子がどんなにか可哀想な思いをしたか」
 少女はデイヴィッドの上着を掴んで離さなかった。幾度か試みた教育によって初めの頃のように抱きつくことはしなくなったが、デイヴィッドに付き纏いたがるのはある種の習性らしく改める気配をみせない。
ドクターのねちっこい口説に従って顔を見れば、少女は目の周りを赤くして、目尻から顎先にかけて液体の筋を生じさせていた。
そのくせ能面顔は全く歪んでいないという有様である。いっそ不気味であるけれども、デイヴィッドは決まりが悪かった。彼が作業を免除されているのは、休養の名目で少女の世話を命じられたからである。
304アナザードルダ 14/22:2009/02/14(土) 22:33:02 ID:???
 このまま格納庫に居座っていては冗談好きの整備員たちに具合の悪い嫌疑をかけられかねないが、そうかといって自室に戻ってもすることがない。機内をうろつき回って暇を潰すのは論外である。
「おい、どうする」
 ドクターが去った後、デイヴィッドはとりあえず少女に言葉をかけてみた。やはり少女は無言の行である。
デイヴィッドは琥珀色の瞳から視線を逸らしつつ、そういえば、この少女を何という名で呼べばいいのか決まっていないことに思い当たった。物扱いするにしても名称は必要である。
 遺跡で回収した白い機体は予備ハンガーに収められていた。ガンダムタイプに類似した顔はバイザーに覆われ、解析用の器材が各部に接続されている。
「綺麗な機体……」
 ネルネが純白の装甲に見惚れながら熱っぽいため息を漏らした。
「骨董美術としてはともかく、実用はどうだか知らん。ドグッシュの修理は済んだのか」
 ネルネは答えず、白々しく口笛を吹いてごまかした。作業の邪魔になって干されたということは容易に想像できる。
「それよりデイヴィッド、この女の子が例の」
 ネルネが近寄っても少女は別段気に留めた素振りを見せず、ぼんやりした目で白い機体を見つめていた。
「もしもーし?」
 顔の前に手をかざして振ってみても、やはり反応がない。
「こら、挨拶しろ」
とデイヴィッドが言うとようやくネルネを打ち眺めた。
「なに、この子?」
 ネルネの声は、機嫌を損ねた風でなく、単純な疑問を口にする調子であった。そのままエメラルド色の髪の毛を指先で弄びながら、ネルネは少女にいろいろと質問を浴びせ始めた。
「いくら話しかけても無駄さ。お医者様の言うには人形同然らしい」
 知能テストをすると芳しくない結果が出て、分析の結果、少女はある種の記憶喪失に陥っていると診断された。
それが一時的なものであるか、元からそうであったかというようなことは現代の医療技術では判別できない。コールドスリープの後遺症と断定するにも暗中模索の状態である。
デイヴィッドは、白い機体の解析をしているフィリアとアルフ博士を呼んだ。ここに来たのは四方山のためではなく、少女の呼び名をどうするか聞くためである。
305アナザードルダ 15/22:2009/02/14(土) 22:36:57 ID:???
 フィリア、アルフ博士、ネルネの順に、そこに居合わせた者たちが思い付いた名前を言って行く。
「フルフロンタル」
「ルーシー」
「ホワイトロリータ」
「却下だ、却下」
 どの命名もあまりと言えばあまりの内容である。アルフ博士もそれは承知しているようで、目下の者のぶしつけな言葉にも気分を害した様子は無く、少女に観察の目を向けていた。デイヴィッドは駄目で元々で当人に話しかけてみた。
「おい、名前はないのか。名前だよ、名前」
 フィリアが首を横に振るが、デイヴィッドは身振り手振りを交えて意味を伝えようと試みた。
「デイヴ……フィリア……博士……だ。わかるか?」
 順々にその人物を指差し、もう一度繰り返す。
「デイヴ、フィリア、博士、馬鹿……」
「なんだと!」
 最後に指差されたネルネが声を上げるが、
「……デイヴ」
と少女の口が掠れた声を発し、フィリアが目を丸くした。
「うそ、喋った」
「フィ、リア……はか、せ……ばか」
 ネルネの唇が引きつった。少女は再び口を開く。
「デイヴ……フィリア……博士……ばか」
「で、お前は」
 デイヴィッドは少女を指差した。
「……ドルダ」
「どるだ? その、なんていうか……奇抜な名前だね」
 フィリアがそう繕ったのも無理はない。人名にするには響きの良くない言葉である。
「ドルダ、か」
「デイヴ、ドルダ」
 デイヴィッドが中指でこめかみを叩きながら呟くと、ドルダと名乗った少女は、デイヴィッドと自分を交互に指差して名前を言った。その仕草にはどことなく浮ついた調子があるように思われた。
 デイヴィッドの記憶の片隅に同じ単語があった。無論、それは白昼夢の生み出した妄想である。
ドルダの懐く要因がそこにあるかもしれないが、身の安全を考えれば、フィリアやアルフ博士に滅多なことを気取られるわけにはいかなかった。
アルフ博士はといえば、ドルダという単語に何か思い当たることがあるらしく、顎を撫でながら端末のところに立って行った。
その端末に生えたケーブルは、白い機体の手甲から引き出された指につながっていた。しばらくして、アルフ博士は恐ろしく素早い手つきでパネルを叩きながらフィリアを呼んだ。
このままここに居続けても邪魔者扱いされそうである。デイヴィッドたちは予備ハンガーを後にした。
306アナザードルダ 16/22:2009/02/14(土) 22:40:43 ID:???
 デイヴィッドは格納庫でネルネと別れると、ドルダを連れて艦内食堂に行った。彼女に現代人の作法を教育するためではなく、デイヴィッド自身が空腹を覚えたからである。
暇をもてあましているくせに、どうしてかすきっ腹になっていた。ちょうど昼食時であったけれども、テーブルで食事をしているのは数組ほどであった。
遺跡調査からずっと、乗組員たちは落ち着いて食事をする暇もないのであろう。脱出時に結構な人数を失っていたので、勤務シフトにも支障を来たしている。
食堂側も今では常駐のコックの人数を減らして、食事の差し入れを主な業務にしている。
 白衣の研究員たちのテーブルをデイヴィッドが横切ったとき、彼らは名状しがたい表情でさっと互いに目配せし合い、暫し雑談を途切れさせた。
遺跡脱出時のグワッシュのパイロットがデイヴィッド・リマーであったことは、殆どの乗組員の知ることとなっている。
閉鎖された環境では噂の広まるのも早く、同僚の死因がデイヴィッドにあると思う者もあれば、それとは逆に同情を寄せる者もある。
どちらにせよ、平時ならばあまり心地の良い心証であるとはいわれない。けれども、要因となった出来事の記憶が薄らいでいない現在において、このことはかえってデイヴィッドの感ずる後ろめたさを和らげていた。
デイヴィッドが研究員に聞こえぬよう小さく鼻を鳴らすと、上着を掴んでいるドルダの手が強張った。横目をやると、デイヴィッドの顔をじっと見つめていた。例のぼんやり目でなく、年頃の少女らしくぱちりと開いた瞳である。
「デイヴ」
 少女が覚えたばかりの言葉を口にしたのには黙して答えず、デイヴィッドは「こいつまつ毛長いな」と思いながら足を進めた。
307アナザードルダ 17/22:2009/02/14(土) 22:44:42 ID:???
 食券を購入する際に及んで、デイヴィッドはドルダに何を与えればいいかわからないことに気が付いた。
少女の顔の作りを見ると頬骨から頤(おとがい)にかけての線は小奇麗に纏まっているが、まさか緑色の流動食を主食にしていたわけではあるまい。
デイヴィッドは、少女の世話を押し付けられたときにドクターがまくし立てた取扱注意事項を思い出そうと頭をひねった。
それというのも、メモリースティックなどの媒体では流出の可能性があり、口頭でなければ末端のデイヴィッドに情報を与えられないためである。
ドルダの顔を見るともなく見つつ、中指でこめかみをこねくり回していると、どうやら消化器官は現代人と変わりないというような意味のことが思い出された。デイヴィッドは券売機に紙幣を入れて、日替わり定食のボタンを二度押した。
 この日の献立は、白米に押麦を混ぜた麦飯と味噌汁、主菜は焼いた豆腐に餡をかけたもので、副菜は艦内栽培のもやしの和え物と、動物性たんぱく質の補給に火星蝗の佃煮である。
デイヴィッドとしては合成肉の塊に齧り付きたい気分であったが、カナリヤには月出身者が多く、食肉に類するものは嗜好品として売店にパックが置いてある程度である。
月では数年前の人肉騒動が依然尾を引いていた。
 火星蝗の佃煮が、ちゃぷという水音を立てて味噌汁に落ちた。あめ色のたれが洗い流され、硬く強張っていた表皮が本来の色と弾力を取り戻しても、蝗たちは生き返らない。柔らかそうな腹を出して浮かび、逆さの目を捕食者に向けている。
箸の代わりにフォークや匙をドルダに与えても成果がなかった。持ち上げる先から落下する。デイヴィッドがもやしを摘めばドルダはそれを盆に撒き、豆腐を割って見せれば手にした物を弾き飛ばす。
少女の見よう見まねの行動は全て失敗に終わっている。手つきからしてぎこちなく、そんな器用な動作はとてもできるものではないといった按配である。
口に含むことが出来たのは麦飯と味噌汁くらいで、それにしたって、あたかも砂を噛むような口を動きである。少女が味の良し悪しを感じるかは知らないが、このような骨折りが楽しいものでないことは察するに余りある。
「デイヴ」
「自主性尊重、自主性尊重」
 デイヴィッドはそう言ってドルダの声を聞き流した。むごい仕打ちという自覚はあるが、新兵教育の経験上、そうそう簡単に手を貸してやるわけにはいかなかった。無闇な手助けは習い癖をつけかねない。
308アナザードルダ 18/22:2009/02/14(土) 22:46:41 ID:???
 しかしそれが単なる八つ当たりの口実でないとも言い切れなかった。
デイヴィッドは自覚するのをためらっているけれども、彼の心の中には少女に気を許すまいという激しい欲求があって、意識しない所作で少女を虐げるにつけ、ある種の快感を彼自身にもたらしていた。
そうしてその欲動は、変態性を帯びていると言っても差し支えないのである。
 先だってあれほど頬を濡らしたというのに、デイヴィッドが目の前にいればそのための器官は働かないようである。ドルダは文句一つ言えず、時折デイヴィッドの名を呼ぶばかりで、意義のない動作を繰り返していた。
少女の手の震えが目立ち始めたとき、デイヴィッドは箸を置いた。食事を終えたのではなく、少女の手を小休止させるためであった。
デイヴィッドが何となしに視線をさまよわせていると、見知った顔を見つけた。その人物は盆を両手で持ち、カウンターの前で食事が出てくるのを待っていた。
まばらな人影にちらちらと目を向けつつ、待ち時間をやり過ごしているようである。目が合った。その人物は僅かに眉を顰めたかと思えば、心底軽蔑しきったような目つきでデイヴィッドを睨んだ。
どうやら穏やかならぬ誤解が生じたらしい。まったくもっていやらしいといわんばかりの表情である。昼食を受け取ってデイヴィッドたちの横を通り過ぎざま、視線を進行方向に向けたまま、
「いやらしい」
と実際に声に出した。デイヴィッドに聞かせるべくしてついた悪態である。
「待ちたまえ、ヴァニナ・ヴァニニ女史」
「人身売買は旧時代の悪習です。男性の欲望のあからさまな発露です。文明退行的な唾棄すべき風俗です。人倫の破綻です。畜生にも劣る所業です。
いつどこでそのような不良少女を連れ込んだのかは知りませんし知りたくもありませんが艦内の風紀を乱さないで下さい。
そもそも恥を知りなさい。いっそ生身で艦を出てって下さい。せめて微生物に分解されることで僅かながらでもテラフォーミングに貢献して下さい。本当に、けがらわしい」
 二重に思い違いをしているらしい。
309アナザードルダ 19/22:2009/02/14(土) 23:05:33 ID:???
「偏見を持つなとまでは言えんが、頼むから、あんたくらいは論理的にものを考えてくれ」
「小児性愛者は誰しもそう言って自らの性癖を肯定するんです。貴方に入用なのは論理ではなく倫理では? というか話しかけないで。
貴方の口が撒き散らす瘴気に満ち満ちたおぞましい空気振動で鼓膜が腐食して耳が壊死します。貴方が人間なみに言語中枢を弄んでいるという事実を知るだけでも吐き気を催して不快に……」
 ヴァニナは首だけを振り向けて口をつぐんだ。カウンターからは少女の背中で見えなかった食卓を目にしたのである。
ヴァニナは訝しげに目を細めた。それで生じた一時の小康状態を逃さずに、デイヴィッドは弁解を試みることにした。
「とにもかくにも一分間でいい、妄想と憶測と悪罵を浴びせるのを止めて、俺に弁解の余地を恵んでくれ」
 デイヴィッドらしくない真顔での嘆願に怯んだのか、ヴァニナはドルダの隣に腰を下ろして彼の話に耳を傾けてくれた。
 ドルダが顔を伸ばして、豆の乗った匙をあむと咥えた。匙を持つのはヴァニナの手である。咀嚼している最中に、スープを掬って息で冷まし、咀嚼を終える頃合になると匙が伸びて行って、口元がこくこくと鳴る。
その頃合というのも、早すぎも遅すぎもせず、ちょうど良い間隔を保ち続けている。
少女が気遣いの観念を持ち合わせているかはわからないが、余裕を感じさせるゆったりしたヴァニナの動作は、食事をさせる間、いたずらに咀嚼を急かすことも口さびしい合間を作ることもなかった。
ありきたりな表現であるが、まるで雛に餌を啄ばませる親鳥である。
ヴァニナの手はかさかさに荒れていた。彼女の顔の色艶と比較して見るに、年齢によるものとは考えにくい。おそらく彼女の仕事に関係したものであろう。
「何というか、様になってるな」
「何がです」
 ヴァニナは眼鏡の鎖を鳴らしてデイヴィッドをにらみ付けた。デイヴィッドの言動に他意があると受け取ったのかもわからない。
迂闊に訂正すれば嫌味に思われるに違いないので、デイヴィッドは思っていることをそのまま口に出す口吻で続けた。
「こういうの、慣れてるのか」
「え、あ、はい。年の離れた妹が居ましたので」
「手馴れたものだ」
310アナザードルダ 20/22:2009/02/14(土) 23:07:43 ID:???
 デイヴィッドは音を立てて玄米茶をすすった。デイヴィッドが食器を片して結構な時間が過ぎたが、ドルダの食事はなかなか終わらなかった。
ヴァニナの手を借りて、ドルダが三皿目のスープを平らげた。すました表情に似合わず相当に健啖である。こんなのが毎日続けばデイヴィッドの酒手に及びかねない。
そのような心配も手伝って、デイヴィッドは食後の煙を吸いたくてたまらなくなっていた。辛うじてお茶で誤魔化しているとはいえ、ドルダが遠慮する気の無いのを見て取ると、我慢を持続する自信が失われる。
デイヴィッドはせめてもの気晴らしにヴァニナを観察してみた。昼食にこれほど時間を割けるということは、おそらくデイヴィッドと似たような身の上なのであろう。
そういえば、以前まで彼女の指示のもと土いじりをしていながら、ヴァニナの部署で彼女以外の研究員を見たことが無い。
ヴァニナが地質調査部の主任という話であるが、もしかすると、形式上置いているに過ぎない個人部署という可能性もある。
テラフォーミングの途中経過報告は単なる名目で、実質的には遺跡調査が主となっている内情を鑑みれば、充分に考えられる事態である。
 デイヴィッドは手前勝手に憶測したのを後悔した。情の移る気配がちらほら見え始めたからである。
ヴァニナはデイヴィッドに対して相変わらず南京虫を見るような目を向けるが、ドルダの世話をする姿は、日ごろの気張りが優しさにすり替わって、女性的な気配りが感じられた。
あーん、と言いながら口を半開きにする彼女を見るのは、これまで抱いていた印象が影響してなかなか馴染めそうにない。
ヴァニナがドルダの口元に匙を運ぶべく身を乗り出すと、うなじのところにほつれた髪が幾本か垂れているのが見えた
眼鏡にぶら下げた鎖も飾り気の無い銀色の鎖で、装飾としてではなく実用のために違いない。
髪を整えて化粧をし、野暮ったい白衣を着替えれば化けるかもしれない。
 そんな考えに至ると、
「やめておけデイヴィッド・リマー。貴様は女日照りのあまり、脳をわずらっているのだ」
とデイヴィッドは心の中で己に言い聞かせて、こめかみを叩いた。不意に、ドルダが咀嚼を止めてデイヴィッドの目を見つめた。
「いいかドルダ。この白衣のご婦人は、ヴァニナというお方だ。恩人の名前くらい、一度で覚えろよ」
「……ヴァ、ニナ」
「口にものを入れたまま喋るんじゃない」
 ヴァニナが慌ててドルダの口元を拭いた。
311アナザードルダ 21/22:2009/02/14(土) 23:11:10 ID:???

 アルフ博士がキーを叩くと、珍妙なスペルの単語の羅列が画面全体に表示された。これらは、白い機体のデータベースにアクセスし、そのデータをムウシコスの機能で翻訳したものである。
翻訳といっても、M論証の形式に当てはまる内容を強引に抽出し、辛うじて判別可能な文変項をそこに代入したに過ぎない。アルフ博士は顎をしゃくって、画面の一点をフィリアに指し示した。
「Doll-DA、……ドルダ、とも読めますね」
「ファイル構造を見るに、Doll-DAとはこの機体の開発コードである可能性が高い。しかしDoll-DA自体の中枢に当たると思われる箇所は、どうしても見つからなんだ。加うるに、ここと、この辺りの構成は何に似ている」
「ムウシコスのビーム制御と、事象予測の補助システム……」
「わかるか、シュード」
「彼女はDoll-DAの生体CPU。そういうことですか」
「Pフレームの解析を急いでくれ。それと、デイヴィッド・リマーの生体データを頼む。無論、過去のものも含めてだ」
 アルフ博士は薄笑いを浮かべて画面に魅入っていた。フィリアが形の良い唇を噛んで俯いたのには気付かなかったであろう。

 奪取されて数日のうちに、ガンダムマルスの外観は様変わりしていた。真紅の装甲の各所に子札板(こざねいた)を模した外装が取り付けられ、胸部にデハドスの紋章が描かれている。
頭部に目をやれば、ガンダムタイプ特有のブレードアンテナとは別に、頭頂部のぐるりを小型アンテナで囲っているのが見える。これは茨の冠を模したと思われる。
背中に背負った巨大な十字架は、高出力ビームソードを改造したもので、担当者はビームクルセイダーズソードと呼んでいた。クルセイダーズソードとは古代の宗教戦争で兵士が用いたといわれる剣である。
そうして主武装であるクルセイダーズソードとビームスマートガンには、煌びやかな銀色の装飾が施されていた。つまり、ガンダムマルスの改修は実用よりも見てくれを重視したということである。
マスター・ベイトは内心呆れつつも、それと気取られぬよう重々しく口を開いた。
「ずいぶんとめかし込んだな」
「性能はご心配に及びません。アイティオンの機能の一部を復元しましたから、むしろ上がっています」
312アナザードルダ 22/22:2009/02/14(土) 23:14:19 ID:???
 ガンダムマルスはデハドスのシンボルとしての意味合いが強いとはいえ、担当者の得意げな様子に当てられてベイトは一抹の不安を感じた。
いざ戦闘に入れば見てくれなどにかまっていられない。デハドスの兵士の中でも、テーレマコス出身者の大半は、未だに民兵気分を脱しきれていなかった。
「しかし何ですかね、改修品というのは大概、元が痛めつけられているのが常ですが、マルスの中枢は殆ど完璧といってもいい状態ですね。どんなパイロットなんです、ガンダムアイティオンを撃墜したのは」
「デイヴィッド・リマーという名を聞いたことはあるか」
「いえ、存じません」
「やつは私が育てた。息子同然の男さ」
 そう言いながら、ベイトはガンダムマルスに乗り込んだ。情報によれば既にダイモスのヴォルテール基地駐留軍は降下準備を開始している。
初戦のプランは立ててあるとはいえ、その後も連勝できるほど連邦軍はマーズノイドの考える烏合の衆ではない。
「人はおこないによって位が決まる。私は私に出来ることを為すだけだ」
 ベイトは盗聴のおそれの無いことを確かめてから、コンソールを撫でて続けた。
「デイヴ、お前は逃げた。だが私は、お前という男の生きた証を利用させてもらう。火星の民衆のためではなく、私自身のエゴのために」
 起動画面からG−AITIONの文字が消えて、代わりにG−MARSと表示された。
313通常の名無しさんの3倍:2009/02/14(土) 23:20:59 ID:???
以上です。

>>256
ご自由にどうぞ。
314コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/16(月) 23:07:44 ID:???
GJです!
アナザードルダは展開が読めなくていつもドキドキします。
デイヴはロリコン?
315コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/18(水) 16:06:23 ID:???
保守
316コナイ◇8GDQEpBT:2009/02/20(金) 23:56:10 ID:LPzROdEY
保守
317通常の名無しさんの3倍:2009/02/21(土) 12:42:24 ID:???
盗作野郎がいるスレはここですか?
318通常の名無しさんの3倍:2009/02/21(土) 13:05:29 ID:???
肯定です、サー
319通常の名無しさんの3倍:2009/02/21(土) 22:23:48 ID:zLMwX+Vz
なんか変なのが湧いてるぞ
320通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 15:02:15 ID:???
こんな過疎スレに湧いたって……
321通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 18:04:37 ID:rtaVpfOa
惨めよのぉ
322通常の名無しさんの3倍:2009/02/23(月) 23:51:57 ID:???
どっちがだよ
323通常の名無しさんの3倍:2009/02/25(水) 20:40:07 ID:RnhBoq5C
ほしゅ
324通常の名無しさんの3倍:2009/02/25(水) 20:48:02 ID:???
ドルー
325通常の名無しさんの3倍:2009/02/26(木) 23:53:21 ID:whHtuBm1
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
326通常の名無しさんの3倍:2009/02/28(土) 00:10:33 ID:WGWtyE+d
過疎ってはいるが・・・・・・
この程度の危機、当に越えてきた!!
327通常の名無しさんの3倍:2009/02/28(土) 00:57:50 ID:SQmrYAm1
まとめは更新されないのかな?
328通常の名無しさんの3倍:2009/03/01(日) 00:08:52 ID:???
>>314
「ガンダムはシャアの物語である。そしてシャアはロリコンである。故に、ガンダムはロリコンの物語である」
ということになると自分は思います。

アナザードルダ投下します。
329アナザードルダ 1/23:2009/03/01(日) 00:11:53 ID:???
 全天周囲モニターに映るのは灰色の隔壁ばかりで、火星の姿を間近に見ることは出来なかった。
G−ADYNATAと表記のある画面が、機体パラメータの正常なことを示していた。作戦内容の確認も機体状況の報告も済み、パイロットはもはや作戦の開始を待つのみであった。
 ミレンナ・カマシーヌはそっと目を瞑った。自身の呼吸と心臓の鼓動だけが聞こえていた。とくっとくっ、という音に耳を澄ませていると、その音が次第にぼやけてきて、数時間前に聞いた演説が思い出された。
『――戦争はすべて盗むことのみを目標とする。これは、我が基地の名前の由来となったヴォルテールという人物の言葉である。
戦争はまず尊い人命を盗む。次に戦争に勝つために敵の機密を盗む。戦いが終われば領土を盗み、人民を盗むことまで行われる。
そして、そこで最も多くを盗んだ盗人は何と呼ばれるか。――英雄である』
『この人道上の矛盾は誰が作り出しているのか。それは戦争を起こす者たち、起こそうと望む者たちである。
彼ら煽動者は民衆の目を眩ませ、耳を聞こえなくし、己の頭で物事を考える能力を失わせる。そうして、もろもろの偶像を崇めるように仕立て上げるのである』
『いまこのとき、デハドスと名乗る武装組織が破壊活動を行っている。
火星、ひいては太陽系全体の市民生活の要であるマスドライバー施設を武力によって占拠し、火星ドーム群統一という大義名分をでっち上げて、善良な連邦市民の住むドームを侵略しようとしている』
『これはまだ戦争ではない。いち反連邦組織によるテロに過ぎない。しかし、いずれ戦争となる可能性を孕んでいる』
『人類は、先の狂気の時代を経て、何を学んだか。母なる地球を失うことで、何を悟ったか』
『過ちは繰り返すまい――それが、統一された人類の意思なのである』
 この演説をした基地指令は木星の激戦区帰りで、少々頭がおかしいことになって左遷されたと噂される将校である。
しかし彼と同じく木星で戦ったことのあるミレンナにしてみれば、演説の内容自体は概ね同意できた。
「なのに、なぜ」
 ミレンナはそう心の中で呟きながら睫毛を震わせた。自然と顔が強張り、食いしばった歯がきりきりと軋んだ。操縦桿に添えた手が力んでいるのが彼女自身にもわかった。
『わあ、こわぁい。アデュナタのパイロットらしい面構えですぅ』
330アナザードルダ 2/23:2009/03/01(日) 00:14:08 ID:???
 通信回線が開いて、派手なパイロットスーツを着た男が茶々を入れてきた。垂れた前髪で片目を隠している男である。
髪型は優男風であるが、鉤鼻の頭に黒い毛穴が目立ち、瞼がぽってりと膨らんだ類の細目であるから、初見の者は均整のなさを感じるであろう。
彼のヘルメットには、電撃で痺れる骸骨と、牙を剥いた狼が描かれている。
「統牙(とうが)・E・ニードルスキン少佐、それは侮辱と受け取ってもよろしいか」
『そいつは自意識過剰というやつなんだぜ、カマシーヌ婦人。オレらガンダム乗りはエリート中のエッリートたんよ。もすこし鷹揚でなくちゃあいけませんな』
 統牙・E・ニードルスキンという名前の形式は金星圏コロニー出身者に特有のものである。
金星圏に住む人々はたいてい気質が大らかで、ひっきりなしに卑猥な冗談を飛ばすというのが世間の通念である。そのため、ミレンナのような物堅い気質の月出身者とはそりが合わない。
 統牙が大げさに肩をすくめるのを見てミレンナは舌打ちした。いけ好かない同僚に猫を被ってやる必要もなかった。
「作戦前だ。そのあばた面を見せびらかす暇があるのなら、デュナトンの調整でもやっていろ」
『あーてすてすマイクてす……ねえ、ねえねえねえー。昔の上官を殺せといわれて今どんな気持ち? ねえどんな気持ちぃ?』
「ベイト大佐はわたしが仕留める」
『元、大佐なんだぜ。間違えるな』
 統牙がこちらに通信を繋いだのは裏切りを警戒してのことに違いない。彼は気取った顔を崩して、嘲るような声色で、
『さすが例の部隊におられただけのことはある』
と続けた。
『味方殺しのドロップアウト野郎、あれだよあれ。あれよあれ、たしか微笑みデブっつったっけ? 木星じゃあれの隊にいたんしょ。マスターベートたんご贔屓のさ』
「……隊長を侮辱するな」
『アっタシぃ、お菊も蛤も隊長に捧げましたぁ! あーやだやだね。これだからルナリアンのファッキンビッチは一途で困る。
なに未だに引きずってんの? 重い女はウザったくね? おばちゃんちょーきもいですぅ。ねえねえ、なら何でございましょうか、例のデブ隊長殿も向こうさまに居たんなら――』
「どちらでも変わらない。裏切り者は、わたしがアデュナタで始末をつける」
 これほどあからさまに挑発されるとかえって気が落ち着いてくるものである。ミレンナは統牙を付け上がらせたくないので、作戦の開始まで何を聞いても黙りこくっていた。
331アナザードルダ 3/23:2009/03/01(日) 00:17:06 ID:???

 火星には運河がある。運河というのは、ライフラインを兼ねたリニアレールの通称で、それが火星の地表に縦横に張り巡らされている。
航空機の保有が制限されている火星ドーム群にとって、運河はドームとドームを結びつける重要な輸送手段である。
各地方ドームに延びた運河は、全てテーレマコス中央ターミナルに通じている。唯一のスペースポートとマスドライバー施設があり、宇宙から下ろされた物資および人員と、宇宙へ送る年貢の全てがそこに集中している。
故に、中央ターミナルを制圧するということは火星ドーム群の覇権を握ることに等しい。
 降下の際の損耗は予測範囲内で、MSの数も四対一で勝っていた。けれども、連邦軍は攻めあぐねていた。
第一の理由に、地の利がデハドス側にあることが挙げられる。峡谷の地形を利用した敵軍の一撃離脱戦法や、連邦軍のパイロットが火星の重力に不慣れなことなどがある。
しかし何よりも進撃の妨げとなったのは、テーレマコス中央ターミナルの施設そのものと、それに関する宇宙連邦軍の軍規であった。
物量を生かした強引な戦術で防衛線は抜けたものの、以降は被害が増すばかりであった。敵のMSが中央ターミナルとドーム・テーレマコスの外壁、それからマスドライバーを背にしているのである。
デハドスが主に用いているMSはガーランドとブッシュで、砲撃戦装備のそれらがぴったりとくっついている。運河の上に陣取っているのもある。
これらは連邦軍が運河の関連施設に攻撃出来ないのを予期しての戦術であった。流れ弾が施設を破壊するおそれがあるために、連邦軍のMSは火器を封じられたのである。
加えて、火星特有の兵器が連邦軍の戦力を確実に削り続けていた。運河を走る列車砲である。
列車砲自体はその大きさからして格好の目標であったが、連邦軍は運河に攻撃を加えられなかったため、列車砲の砲撃を黙らせるにはMSで肉迫するしかなかった。
そうしてそれは、遠距離から砲撃して来る敵MSに対しても同様であった。
332アナザードルダ 4/23:2009/03/01(日) 00:20:12 ID:???
 ガンダムアデュナタが僚機のブッシュ数機を伴って煙幕の中を走って行く。高性能センサーが列車砲の弾道を感知し、弾幕の間隙をミレンナに示した。
どうやら煙幕と砂煙でめくら撃ちになっているようである。ミレンナが無線暗号通信で僚機に予測弾道を知らせようとすると、偶然飛んで来た砲弾がアデュナタの脇を掠めた。
何の通信もなく、レーダーにあった僚機の一つがLOSTの表示に変わった。
「こんな仕方では!」
 煙幕を抜ける直前に、アデュナタがスラスターを吹かして飛び上がった。纏わり付いた煙が尾を引いて、突如現れたガンダムに列車砲護衛のブッシュが怯んだ。
ブッシュがライフルを構えようとしたころには、アデュナタの脚部ビームクローが胴体を切り開いている。
アデュナタはそのままブッシュの残骸を踏み台にして、隊長機と思わしきガーランドに踊りかかった。
考える余裕を与えずビームスコップの刃がガーランドを両断し、返す刀で砲台をなで斬りにした。
列車砲を無力化したのと同時に、残る護衛のブッシュを後続の僚機が高周波スコップで蹴散らした。
「煙幕を!」
 僚機がスモークグレネードを投げた。あたりが煙に覆われて、全天周囲モニターが擬似視界映像に切り替わる。
「戦いに手段を選ばないなんて、これでは木星の連中と同じではないか」
 この列車砲を沈黙させるのに三機もの僚機を失った。ガンダムの率いる部隊でさえこうである。他の小隊ならさらなる犠牲が出ているに違いない。
撃墜されたMSがあまりに多いので、衛生部隊に問い合わせたがパイロットたちの生死の確認はままならなかった。
ミレンナは痺れを切らして司令部に通信を繋いだ。ガンダムパイロット専用の直接回線である。
「施設への攻撃許可を求む。このままでは損害が拡大する一方です」
『却下だ。引き続き火器の使用を禁ずる。敵戦力には白兵戦闘で対処せよ』
「上はテロリストを生かすために死ねとおっしゃる」
『そうだ。故にプランをDに移行する。アデュナタはデュナトンと合流せよ』
「……了解。ガンダムアデュナタ、デュナトンの援護に回ります」
 通信を切ると、ミレンナは不服そうな顔を浮かべた。
「デュナトンのあれを使うという。一つの倫理のために別の倫理を否定する。これは矛盾よ」
333アナザードルダ 5/23:2009/03/01(日) 00:23:59 ID:???
 アデュナタがフライトユニットを展開した。エナジー節約のため温存していたのである。
背部に折り畳まれていた骨格が広がって、そこに特殊繊維の膜が張られる。生じた翼の横幅は、身長の倍ほどである。
胸部装甲が展開され、筋模様のある赤黒い廃熱機構があらわになる。センサー強化のため頭部装甲の一部も展開した。
鋭角の形状をしていたツインアイとは別に、マスク部のスリットが割れて三対のカメラアイが露出する。これで額のセンサーを加えれば、目玉が七つあることになる。
人間で言う耳に当る部分に二対、頭頂部に一本の計五本のアンテナが起き上がり、元のV字アンテナを合わせればこれも七本である。
この暗褐色の機体が飛び立とうとする姿は、奇怪な形状の頭部と猛禽に似た下半身とがあいまって空想上の合成生物を思わせた。
コンパニヤ教徒が見れば悪魔と形容するに違いなく、コンパニヤ教徒でなくとも嫌悪感をかきたてられる。それがGVX-027ガンダムアデュナタ本来の姿であった。
『うはっ、きめぇ。相変わらずアデュナタたん気色悪っ』
 空中で合流したとき統牙はまずそんなことをのたまった。からかわれるまでもなく、ミレンナも自分のガンダムが風采上の問題を抱えているのは承知している。
「第一目標へ先行する。そちらの用意はよろしいか」
『あいさ、ところでどっちが地面だっけ?』
「ガンダムアデュナタ、突貫する」
 彼の与太話にいちいち付き合ってはいられない。アデュナタはビームスコップを構えて急上昇した。
334アナザードルダ 6/23:2009/03/01(日) 00:27:08 ID:???

 デハドスの士気は高かった。随時送られてくる戦果報告と、防戦側でありながらほとんど一方的ともいえる形勢に鼓舞されて、MSパイロットたちは守るというより攻めるのに近い心境になっていた。
自分は何機撃墜できたか、自分たちは敵部隊を幾度退けることができたか、たった一時間のうちに上げた武勲を胸算用して得意な気持ちになっている者があった。
後の出世を考えて敵機の追撃に精出す者や、これ幸いと勇敢な仲間の後ろに下がる者もあった。戦争というものは、なかなかどうして楽しいものだと考える者さえあった。
どういうわけか連邦軍は火器を使って来ない。施設の破壊を恐れるにしたって、行き過ぎている。戦争となれば手段を選んでいられないのはそちらも理解していることではないか。
だのに、火の明かりに吸い寄せられる羽虫のようにわらわらと群がっては撃退されて行くのである。もしや学習能力が欠如しているのではあるまいか。
哀れを催すよりか、いっそ腹を抱えて笑ってしまいたくなる有様である。
奇麗事をいうほうが愚かなのである。信仰を持たないスペースノイドどもは、この当然の摂理を弁えないほど無知であったのか。
彼らの怠惰なる魂は、長らく続いた安逸の中で機知さえも無くしてしまっていたのか。
火星の独立ばかりに留まらず、むしろ彼らの無知を告発してやることこそが、我らマーズノイドの義務なのではないか。
程度の差こそあれども、テーレマコス出身の兵士のほとんどはそういうような意味のことを思っていた。増長ともとれるこの種の思考は、ドーム・テーレマコスに直接的な戦争の経験が少ないことに由来する。
 チョウ・シノーティルもそのようなパイロットの一人であった。洗礼名はルイス七左衛門、デハドスでの位階は助祭で、これは連邦軍でいう少尉の地位である。
デハドスに入隊する以前は大学でMS陸上競技の選手をしていた。無論、軍務に服したことはない。操縦能力はそれなりにあるとはいえ、入隊まもなくの尉官待遇は異例の出世であった。
彼の父親であるシノーティル司祭はとある銀行経営者の細君の聴罪司祭を務めていて、それが関係していると考えられないこともないという話が同期のパイロットの間で囁かれていた。
335アナザードルダ 7/23:2009/03/01(日) 00:30:21 ID:???
 チョウは今やもはや自分が生まれ変わったような心地でいた。あんなにも恐れていた殺し合いというものは、思いのほかなんてことのないものだと感じられたからである。
以前までは、同期のパイロットに疎まれるのも、父に珍妙な洗礼名で呼ばれるのも、親戚を招いて盛大な出征式を催されるのも彼の望むところではなかった。
しかし今では、それらがむしろ誇らしく、どうしてあのときこの心境に至らなかったのかと歯軋りさえした。
敵機を撃墜しても映画や小説の登場人物のように罪悪感に苛まれることはなかった。
「MSは、人間じゃないんだ」
 ライフルを撃って行動不能にした敵MSの様子を見るに、中のパイロットが死んだとは思われなかった。
爆発するでも分解するでもない。ただモノアイの光が消えて、胴体の弾痕から真っ黒い煙を上げているだけである。
チョウはガーランドのカメラを味方に向けた。運河中継区画の上に載っているブッシュが弾切れを起こしたのが見えた。
「隊長、そちらの援護に回ります!」
 ガーランドが銃撃している間に、ブッシュがライフルのマガジンを交換する。幸い、煙幕に潜む敵機が襲いかかって来ることはなかった。
『ルイス七左衛門、恩に着る。これで貸しを作ったな』
 チョウが隊長と呼んだ男から返礼が来た。
「なんの。ガーランド(こいつ)を譲ってもらったのを思えば、負債はまだまだこっちにありますって」
『気にするなと言ったろう。私にはブッシュが馴染んでいるのさ』
 彼は、連邦軍からデハドスに移籍したスペースノイドの一人である。
「火星魂、みせてやりましょう!」
「おうさ!」
 志を同じくするなら人種は関係ない。戦場で拾った些細な功徳に酔っていた頭がそんなことを考えたかもわからない。
隊長が威勢良く答えたのを聞いて、チョウは面はゆい反面、何だか安心した気がした。
 ガーランドのセンサーが上空に機影を捉えたのはそのときであった。隊長、とチョウが叫ぶころにはブッシュのセンサーにも感知できるまでに接近していたらしい。
ブッシュとほぼ同時に上を向くと、黒い影がチョウの部隊のところに急降下して来た。ライフルを構え直す暇はなかった。
眼前で巨大な黒い影と真紅の光が瞬くのと同時に、
『ガンダ――』
という言葉を最後に隊長の通信が途切れ、爆煙がコックピットのモニターを埋め尽した。
336アナザードルダ 8/23:2009/03/01(日) 00:33:18 ID:???
 粉塵の晴れた後もチョウは暫し何が起きたのかわからないでいた。黒い影は跡形もない。隊長のブッシュも消えている。
チョウはブッシュのいたところを見た。視線をやや下に逸らすと、レールの溝に二本の足が残っていた。膝から上がどこかに消え去っている。
露出した機械部品が火花を発したと思えば、ブッシュの二本の足はレールの隙間に転げ落ちて行った。
『空だ、敵は空だぞ!』
 チョウははっとして空を見上げた。先ほどの黒い影が頭上を旋回していた。黒い影は一回りごとに空で描く輪を小さくして行った。
その動きは猛禽が獲物を狙うのに似ていて、急降下の頃合はおぼろげながら予感できたけれども、対処する方法は思いつけなかった。
影が一瞬だけぼやけて縮んだ。それが襲撃の直前の羽ばたきであることをチョウが理解したのは、黒い影が急降下して味方のブッシュに覆いかぶさってからであった。
黒い影は地上すれすれのところを旋回して、また舞い上がった。噴き上がった粉塵の中に、先回と同じくブッシュの足だけが残っているのが見えた。
「MSを、喰った」
『寝言は死んで言え! ありゃビーム兵器だ! ガンダムだ、ガンダムが来やがったんだよ! 各機、密集隊形をとれ! 弾幕で飛ぶ鳥を落とす!』
 副隊長の声がかかり、散らばっていたブッシュとガーランドが施設の屋根に集まった。チョウのガーランドも少し遅れて円陣に加わった。
ガンダムは加速と減速を繰り返して、高度をめまぐるしく変えつつ旋回している。右に見えたかと思えば左から現われ、羽ばたいた数瞬後には真後ろに回っている。
凄まじい機動性である。赤い空に現れる影を追ってチョウがライフルを撃つと、
『同じ目標に撃ってどうする! お前はお前の持ち場に撃ちゃいいんだ!』
「は、はい」
 チョウはライフルの銃口を虚空に向けた。黒い影がさっと横切ると、照準を動かしたい衝動に駆られてじりじりした。
離れた地点にいた味方のMSが寄って来て射界が厚みを増した。黒い影が距離をとったとき、チョウは生き残ることを考え始めた。仲間の隊員も似たような考えを持ったに違いない。
しかしその心の緩みに付け入るように、突如煙幕の中から銀色に光るものが現れて、粉塵を吹き上げながらこちらに向けて一直線に飛んできた。相当な低空飛行である。
『ガンダムがもう一機だと!』
337アナザードルダ 9/23:2009/03/01(日) 00:36:17 ID:???
 その方角にいた味方機が、咄嗟に銀色のガンダムを照準で追った。副隊長が『馬鹿野郎!』と叫ぶころには既に遅く、弾幕に生じた間隙を器用に通り抜けて、暗褐色のガンダムは円陣の中心に侵入を済ませていた。
発光する足の爪が二機のブッシュの胴体を抉り取る。同時にスコップらしきものから真紅の光が延びて、副隊長の乗るガーランドの首を刎ねた。
 暗褐色のガンダムは三機のMSを屠ると即座に離脱していた。部隊の者たちがそのことを知ったのは、同士討ちをしたのに気付いた後である。
新兵の何人かがガンダムを狙うつもりでライフルの引き金を引いて、放たれた銃弾は全て味方機に当たっていた。
無防備な背部を撃たれたMSは行動不能に陥り、コックピットに直撃を受けたMSもあった。チョウ・シノーティルも味方を手にかけたパイロットの一人であった。
「化け物……」
 しかしチョウが暗褐色のガンダムに抱いた畏怖は良心の呵責に勝った。再び円陣に加わって引き金を引く際は、震える利き腕をもう片手で抑えながらである。
黒い影の中心に垣間見えた七つの光の輪郭が目に焼きついていた。七つの目玉の幻覚を打ち消したのは、モニターに現れたもう一機のガンダムの姿である。
銀色のガンダムは暗褐色のガンダムに比べて真っ当な見かけをしている。反面、挙動は不気味で、空中で意味のない宙返りをしたかと思えば地面を蹴って飛び跳ねたり、爪先を伸ばして奇妙なポーズをとったりしていた。
それでもなお暗褐色のガンダムと同様に銃弾を避け続けているのである。チョウはいやな寒気を覚えた。パイロットスーツのグローブの中が汗でぬめっていた。
「救難周波数?」
 発信元は銀色のガンダムで、あのガンダムのパイロットは、敵味方双方に向けて音声を流しているようであった。
『地面、見つけた! 重力、あったぁ!』
 銀色のガンダムが空中で身悶えした。新式のAMBAC機動かもしれない。その証拠にブレード状をした二本の背部バインダーが立ち上がった。
『悔しいッ、でも魂惹かれちゃう!』
『気が、くるっとる』
と味方の誰かが言った。声にある訛は、ドーム・ディオゲネスの方言に伴うものであった。
ガンダムのパイロットも笑い声を上げていたが、声の調子に張りは少なく、大根役者の白々しい大笑いに似ていた。相手の気を引くためにあえて笑っているとも考えられた。
338アナザードルダ 10/23:2009/03/01(日) 01:08:35 ID:???
『重力すなわち愛! 愛は大地で大地はガイア!』
 ガンダムのパイロットがそう叫ぶと、先ほど立ち上がったブレードの間に球状の発光体が出現した。くすんだ青色をしているので、ビーム兵器の類ではないらしい。
光の球はだんだんと明るさを増して行った。光が反射して、ガンダムの銀色の装甲がてらてら輝いた。
『ガイアがオレにもっと輝けと囁いているッ!』
 その言葉と同時に、光の奔流がチョウの目を眩ました。
 チョウは初め、自分は光で目が潰れて盲目になってしまったのかと思った。何も見えなかった。音も、自分の息遣いのほかは聞こえなかった。
操縦桿を握る感覚はあった。手を動かしてみるとコンソールに触れた。どうやら何らかの異常で電源が落ちていることがわかった。
チョウは手探りで非常用レバーを引いた。しかし反応がない。MSの機能が完全に死んでいるのである。そのことに思い当たると、急に息苦くなったように感じられた。
チョウはヘルメットを外そうとスイッチを押したが、これも非常用レバーと同様である。チョウの息が荒くなった。
MSばかりでなく、パイロットスーツも機能を失っている。手動で外すべく首周りを弄るが、あせりばかりが先に立った。
鍵をせわしく抜き差しするのに似た音と、息遣いとともに激しくなる心臓の鼓動がチョウの発汗を促した。ようやくのことでヘルメットが外れると、今度は鉄を激しく打つ音が反響してコックピット全体が傾いた。
 チョウがヘルメットを外したことは、外さないでいるよりも幸運といえる結果を招いた。彼は頭をしたたかに打って気絶した。
酸欠で意識を失うのを待っていては、酸素の無くなることへの恐れや、暗闇から聞こえる装甲の軋む音、それからガーランドが機能を取り戻したときに感ずるぬか喜びなどに苛まれて、天上の楽園を空想する余地はなかったであろう。
彼は夢を見ていた。夢の中で、少年の彼は父親に手を引かれて教会に出かけていた。

339アナザードルダ 11/23:2009/03/01(日) 01:11:24 ID:???

 乱戦の中、一機のガーランドが跳躍してガンダムアデュナタの翼にしがみ付いた。ガーランドは空中で振り回されながらも、高周波ブレードを逆手に持ってアデュナタの翼を引き裂こうとする。
ミレンナは舌打ちした。腕で無理に引き剥がすことも出来るが、その間に敵の銃弾が当らないとも限らない。
アデュナタは翼全体に配置された補助スラスターを使って、空を蹴るように転進した。重力とメインスラスターの加速によって赤錆色の大地が見る見るうちに迫って来る。
地面に接触する間際、上体を逸らして進路を水平方向に変えた。地面に引き回された衝撃でガーランドの手からブレードが落ちる。
それでも離そうとしないから見上げたものである。アデュナタはぶら下げたガーランドで砂埃を上げながら敵陣に飛び込んだ。何機かのブッシュが撃つのをためらった。
アデュナタは翼の角度を変えつつ飛ぶことで、それらのブッシュにガーランドをぶつけた。これによって敵部隊の砲撃に付け入る隙が生じて、ガンダムデュナトンが前に出る。
『やばいやばいマジやばい、オレ輝いてね? ちょー輝いてね? つーかこの瞬間、宇宙の中心は間違いなくオレ』
 デュナトンの背部ブレードが立ち上がり、その空間に光の球が発生した。
『オレは戦場という劇場に舞い降りた黒騎士。エレガントに舞い、クレイジーに酔う。――シーンの最前線に立つ覚悟はあるか?』
 光の球が一瞬のうちに巨大化し、デュナトンばかりでなく、半径数キロ付近にある全ての物体がそれに飲み込まれた。
光が消えた。建物も敵MSも傷一つなく、先ほどと何ら変わっていないように見えた。しかし敵MSは攻撃を続行しようとはしなかった。
それどころか一切動かなかった。見ればカメラアイの光も消えている。煙幕の中から連邦軍のブッシュが現れて、デハドスのMSに群がり始めた。デハドスのMSは立ち往生したままであった。
 この現象は、GVX-012ガンダムデュナトンから発せられた特殊EMP(電磁衝撃波)によるものである。
ブレード状の発生装置から生じる光の球体はプラズマの一種で、これの範囲内に飲み込まれた電子機器は一定時間使用不能となる。
ガンダムのような高級機ならともかく、シールドの不十分な量産機などはひとたまりもない。
340アナザードルダ 12/23:2009/03/01(日) 01:14:09 ID:???
実際のところ、ビーム制御技術を応用したデュナトンのEMP兵装は、本来の意味でのEMPとは原理からして異なっている。そのためEMPと称するのは正しくない。
理論段階では別な名称が考案されたが、考案者本人にも覚えられないような長ったらしい名称であった。ならば頭文字をとってはどうかという案も出た。
しかし頭文字を並べてみると、口にするのも憚られるような文字列が出来上がった。そうして結局、効果が似たようなものなのでEMPと呼ばれ続けて、そのまま定着したのである。
 味方のブッシュが敵のブッシュを押し倒して、コックピットに高周波スコップを突き立てた。暫く経てばEMPの効果が切れる。その前に完全に行動不能にしておかねばならなかった。
パイロットのみを狙うのは、いちいち解体していては間に合わないからである。
「非殺傷性の人道的兵器、か」
 既に数箇所の拠点をこの仕方で制圧していた。味方のパイロットたちも手馴れて来たようで、MSを仰向けにしてスコップを刺す動作も様になっている。
『一つだけいえる真理がある。「男は黒に染まれ」ってことさ!』
「白黒の区別もつかないキ印め。自分のしていることが、まるでわかってはいない」
 ミレンナは気分を害していた。自分のしていることが後ろめたく、しかしそれ以外に仕方がないと心の中で弁解している自分自身が不愉快であった。
『第五中継区画、制圧完了しました』
「よろしい。工兵部隊を向かわせてシステムの掌握に移れ。運河を攻撃出来ないのは敵も同じ。掌握と同時に運河で兵力を中央ターミナルへ移送せよ。こちらはこれよりマスドライバー制圧へ向かう」
『ここからがオレの伊達ワルレジェンドの始まりッ!』
 統牙は舞い上がってさきほどからずっとこんな調子で、何かあるごとに錯乱したようなことを叫んでいる。
通信を試みても真っ当な言葉を返さないどころか、民間用の救難周波数で敵味方双方に自分の狂乱ぶりを見せつけてさえいる。
宇宙連邦軍の恥部を宣伝するようなものである。デイヴィッド・リマーならこの男に何と言うだろう、とミレンナは思った。
ミレンナの師である彼ならば、不愉快そうにこめかみを叩いて、
「品性の欠片もない」
 そう吐き捨てたに相違ない。
341アナザードルダ 13/23:2009/03/01(日) 01:18:11 ID:???

 司令部のモニターには、デハドスのMSがなすすべも無く破壊されて行く光景が映し出されていた。
能力の程度に関係なく、パイロットたちの生命が失われて行く映像を見ながら、マスター・ベイトは苦い顔を作った。
「近接戦闘に特化したガンダムアデュナタがかく乱した後に、電子戦機であるガンダムデュナトンが敵部隊を沈黙させ、後続のMSがとどめを刺す。
ガンダム二機を撃墜の危険にさらす点を除けば、確かに理に適った戦術だ。しかし……」
 ベイトは腕を大きく払って法衣を翻した。大仰な仕草である。
「こんなものは、品性の欠片もない卑劣な戦いだ。アンデレ権八郎、ガンダムマルスの出撃準備を始めてくれ」
「枢機卿猊下御自ら御出陣なさるのですか。対ガンダムならば、ノーメンクラートル隊でも充分かと愚考いたしますが。幸い、プロテラはシールド処理がされております」
「剣をとる者は剣によって滅ぶ。それを連邦の者どもに教えてやろうというのだよ」
 我ながらよく言う、とベイトは顔色を変えずに思った。先に戦争を仕掛けたのはデハドスである。この矛盾に気付いた者もいるに違いない。
しかしベイトの目の前にいる義士たちは、それを面に出すのを恐れ、考えまいとしている。
「オラテ・フラテス(祈れ、兄弟らよ)。私は銃後の将軍でいるより、遍歴の騎士でありたい」
「ゼスス・キリシテ。サンタ・マリヤ。サンチャゴ……御武運をお祈り致します」
 そう言って、アンデレ権八郎は再びその文句を繰り返した。司令部の者たちも総立ちとなり、十字を切ってアンデレ権八郎に合唱する。
信仰を持たぬ人間がこの光景を目撃したなら、彼らが素面でないと思うであろう。
342アナザードルダ 14/23:2009/03/01(日) 01:21:16 ID:???

 数日前は連邦軍基地であったところの一区画を効果範囲内に収めて、デュナトンがEMP兵装を起動した。
『ブリリアントな罠がオマエを篭絡するッ!』
「デュナトン、対空砲に近づきすぎるな」
 ミレンナがそう言っても統牙は聞くものではない。彼は結果さえ出せば良いと考える類の人間である。
ミレンナはアデュナタのエナジー残量を確認した。なるべく節約して来たつもりであったが、半分を切っていた。
「この反応は」
 ミレンナが一抹の不安を覚えたとき、凄まじい速度でこちらに接近してくる機体をセンサーが感知した。
カメラをそのスラスター光に向けて拡大すると、肥大化した頭部を持ち、真紅の装甲の上に銀の装飾を施したMSが映った。
左手にビームスマートガンを構えて、背中には巨大な十字架を背負っている。
「やはり出たか! ガンダムマルス!」
 事前に渡された情報とは外見が違っているが、あのMSはデュナトンのEMPを恐れずに接近してくる。故にガンダムであることは確実である。
「デュナトン、下がっていろ!」
 ミレンナは統牙の返答を待たず、アデュナタの管制システムを対ガンダム戦のものに切り替えた。全てのスラスターに火が入れられ、モニターにはガンダムマルスを模したホログラムが無数に表示される。
ホログラムの一つから赤い空間が扇状に広がった。アデュナタが体をひねって宙返りをすると、紙一重のところを真紅の光芒が横切って行く。
「なんて精度なの」
 瞬時に弾道の再計算が完了して、モニターの殆どが赤い空間に占められる。これでは飽和攻撃を受けるのと変わりない。
ミレンナは、アデュナタの進行方向をマスドライバー施設に向けた。幸いにも機動性は勝っている。
 ガンダム同士の戦闘は、一瞬で決着するか、さもなければどちらか一方のエナジーが切れるまで延々と続くといわれている。
両者とも一撃必殺のビーム兵装を持ち、事象予測による驚異的な回避能力で大抵の攻撃は当らないためである。
単純な運動性や機動性よりも、センサー類の性能とパイロットの技量とが結果を決めるといっても過言ではない。
343アナザードルダ 15/23:2009/03/01(日) 01:23:44 ID:???
 ガンダムアデュナタがマスドライバーの支柱を背にすることに成功した。ガンダムマルスのビームスマートガンはこれで封じられる。アデュナタはビームスコップを構え直した。
スコップとクローとの先端は仄かな赤い光を帯びているだけで、ビーム刃そのものは延びていない。これはエナジーの節約と、攻撃の間合いを読まれないためである。
「接近戦なら、アデュナタはオリュンポス・キングにだって負けない」
 ミレンナの言ったオリュンポス・キングとは、GVX-001RXオリュンポス・キング・ガンダムのことである。現代のガンダムの始祖にして最強といわれるガンダムで、連邦軍兵士の間では英雄視されている。
 ガンダムデュナトンが単機で多数を圧倒するガンダムであるならば、ガンダムアデュナタは一対一の戦闘に特化したガンダムであるといえた。
殆どのガンダムが多数を相手にする大火力兵器を装備している中、射撃兵装をビームバルカンのみに絞り、外見が異様になるのもかまわずセンサーを強化している。
加えて、白兵戦において万能な武器と呼ばれるスコップと、脚部のビームクローを装備している。ミレンナの断言は虚勢とばかりはいえないのである。
 ガンダムマルスは背部にスマートガンを収納して、ビームクルセイダーズソードを正眼に構えている。対するアデュナタも両膝をやや曲げて、両手でビームスコップの切っ先をマルスの胴体に向けている。
二機は空中で制止していた。アデュナタはマルスのスマートガンを恐れてマスドライバーから離れようとせず、マルスはアデュナタの近接戦闘能力を警戒して斬りかかれないでいる。
離れた位置にいるデュナトンも、マスドライバーのあるためにビームライフルを構えたままである。
344アナザードルダ 16/23:2009/03/01(日) 01:25:52 ID:???
 ミレンナの顎から汗の雫が落ちた。パイロットスーツの空調は快適で、汚れた空気がヘルメットに篭ることはなかったが、どうしてかミレンナには、うなじの辺りから漂う女の臭いがむせるように感じられた。
彼女は長らく集中した反動で頭がぼんやりし始めて、過去のことを思い出したのかもしれなかった。その間も、残りエナジーの数値は刻々と変化して行く。
長期戦となればこちらが不利である。ミレンナは通信回線を開いてみた。周波数はデイヴィッドの部隊にいたころに使っていたものである。
ガンダムマルスのパイロットが事前の情報通りマスター・ベイトであるなら、何らかの反応を見せるはずであった。
ミレンナは会話で敵を惑わすことで状況を打開しようという腹であった。彼女の師が得意としていたやり方である。
『やはりアデュナタに乗っているのは貴様であったか』
 マスター・ベイトがモニターに映った。一年前最後に見たときより、頭髪に混じった白髪が増えているように思われた。
ベイトは黒い法衣を身に纏っていた。ノーマルスーツさえ着ていない。皺の刻まれた顔は、やはり以前と同様に、人間らしい感情を読み取れない威圧的な表情が張り付いている。
「降伏してください、大佐」
 無論、ミレンナは彼を説得できるとは思っていなかった。そもそもベイトの人柄さえろくに知らないのである。
隊長の後見人で自分たちの部隊の後ろ盾であったけれども、得体の知れない人物という印象しか持たなかった。
「私たちとともに木星で戦った人が、なぜ謀反を」
『故郷を救うためよ、ミレンナ・カマシーヌ!』
と、言い終えると同時にマルスが加速してクルセイダーズソードを振り下ろす。
「だからといって、やり様はある!」
 アデュナタが反射的にマルスの握り手を狙ってビームクローを蹴り上げるが、マルスは直前になって片手を柄から離してそれを逃れる。
ミレンナはすかさずビームスコップを起動してなぎ払った。ビーム刃の伸びたときには既にマルスは後退していた。
スコップが空を切り、三日月型のビーム粒子の残滓が空中で拡散する。今の空振りでスコップの間合いを見切られたかもしれない。
二機のガンダムは同時に姿勢制御を行い、再び先ほどと同じ位置で相対する。
345アナザードルダ 17/23:2009/03/01(日) 01:31:10 ID:???
マルスのクルセイダーズソードからは出力を絞りきれないためにビーム粒子が漏れていて、十字架が血を流しているように見えた。
マルスがクルセイダーズソードを払って真紅の飛沫を散らした。その芝居がかった動作の後、マルスは柄を右手に持ち直して切っ先をアデュナタの顔に突きつけた。
いつの間にかマルスからの通信が、部隊用周波数ではなく救難周波数に変わっていた。ベイトが何を思ってそうしたのか考える余裕は、ミレンナには残っていなかった。
『もはや内からは変えられぬ段階にまで、宇宙連邦は腐敗しているのだ。快と善を履き違え、何も知ろうとせずに豊かさを貪るルナリアン。その場限りの喝采を得たくて奴らに尻尾振る弁論術屋ども。
そんな人非人どものために、どれほどの民が食い物にされていることか!』
 その口上を終えると、マルスはクルセイダーズソードを振ってビームの刃を伸ばした。そのまま柄に左手を添えて脇構えで突撃してくる。
逆袈裟に斬り上げる軌道がアデュナタのモニターに表示される。ミレンナはアデュナタを急上昇させつつ叫んだ。
「戦争を起こせば人が死にます! おかしくなります! 貴方はそれを知っているはず!」
『知っていても人は争う。私とて人の子だ! 民衆の理想のためなら捨石にもなろう!』
 切り上げた姿勢からマルスが突きを放つ。
「理想と空想は違います!」
 アデュナタは翼を羽ばたかせて、ビームスコップの横なぎで対抗した。相打ちを覚悟しての一閃である。クルセイダーズソードの刀身がアデュナタの翼を焼き、スコップのビーム刃はマルスの冠を掠めた。
「見切られた?」
 両者はそのまますれ違い、互いの位置を入れ代えた。ほとんど同時に方向転換を終えるが、翼に穴をあけられたアデュナタは体勢を崩しかけていた。推力を補正する間も無く、マルスが上段構えで迫り来る。
『ガンダムすらも食い殺すワイルドさ!』
 クルセイダーズソードが振り下ろされんとする直前に、下方からのビーム光がマルスの鼻先を掠めた。下に回ったガンダムデュナトンのものである。上空への射撃ならば施設を破壊する恐れはない。
『人はオレを「マッド・ロックの伝道士」と呼ぶ。来いよ、サムライおじいちゃん。どこまでもクレバーに抱きしめてやんぜ』
346アナザードルダ 18/23:2009/03/01(日) 01:37:43 ID:???
 デュナトンが水平方向に移動しながらビームライフルを連射する。マルスはデュナトンのビームを回避することに専念した。その隙を逃さず、同じくデュナトンのビームを潜り抜けながらアデュナタがマルスに肉迫する。
スコップを槍のように構え、ビーム刃を最大出力にして突撃した。
真紅の光刃がマルスの胸に迫る。デュナトンのビーム掃射が檻の役目を果たして、マルスの回避ルートは残されていない。
マルスは最後の悪あがきのためか、クルセイダーズソードをスコップのビーム刃に合わせた。当然、ビーム刃同士は干渉しないのでその防御は意味を為さない。
勝った、とミレンナは確信した。しかしその刹那、スコップのビーム刃の赤色が薄らいだかと思えば、別な赤色の光がアデュナタの足元で瞬いた。
「……なぜ」
『確固たる信念を持たぬ貴様らでは勝てない。我らは信仰によって立っているからな! そして、主も我らに味方しておられるのだ!」
 ミレンナが現状を理解したとき、モニターの各所にエラーの表記が並んで、機体状況の表示されたサブウインドウには、足のないアデュナタのホログラムがあった。
凱歌を上げるガンダムマルスの脚部は、ビームと思わしき赤い光の膜で覆われていた。
 ミレンナはマルスに隠し武器があったのは理解できた。しかし、アデュナタが打ち負けたということは到底納得が行かなかった。
あの瞬間、確かにスコップのビーム刃が消えたのである。ビーム兵器に対する防御手段などきいたこともない。
 アデュナタは地面に叩きつけられる直前にスラスターを吹かした。あらためて機体状況を確認すると、太ももの中ほどから下がビームで消滅させられたことがわかった。
戦闘能力を完全に失ったわけではないが、ガンダムを相手に出来る状態ではない。エナジーもせいぜい撤退できる分量が残っているに過ぎなかった。
『我らは敵を殺さない! その邪気を殺す!』
『テラヤバス』
 味方を失ったデュナトンにマルスが襲い掛かる。デュナトンが乱れ打ちといわんばかりにビームライフルを撃つが、ことごとく回避される。
EMP関連を除けば、デュナトンの機体性能はガンダムタイプの中でも下から数えた方が早い。ましてや、今回の敵は量産機でなくガンダムで、それもアデュナタと正面から互角に渡り合ったガンダムマルスである。
マルスにデュナトンの相手は役不足であった。
347アナザードルダ 19/23:2009/03/01(日) 01:41:41 ID:???
『往ね! 邪教の徒よ!』
 瞬く間にクルセイダーズソードによる連続攻撃がデュナトンを八つ裂きにした。コックピットブロックがどうなったかはミレンナのところからは確認できなかった。
『敵が増援を出してきました! 新型が、新型なんです! 中継区画が奪還されつつ、やつら運河にかまわず攻撃を――』
 駄目押しに味方部隊から連絡が入る。ミレンナは拳を硬く握って、ノイズばかりとなった通信画面を叩いた。司令部のある本隊の方角に撤退信号が上がる。
「撤退といって、どこへ撤退するのです」
 マスドライバーが使えなければ宇宙へは戻れない。
『デハドスが手段を選ばぬなら、こちらも手段を選ばぬまで。アルカディア地方で増援を待つ』
 場合によっては戦時徴収の名目で略奪も辞さないということである。ミレンナは先ほどと同じ動作を行った。画面を叩いた衝撃で機体が爆発してくれればいいとさえも感じた。
「ミレンナ・カマシーヌ、椅子を暖めるしか能の無い女!」
 このように屈辱に打ちひしがれているばかりで自分は感情を切り替えられずにいる。その器量の小ささを思うにつけ、ミレンナはどうしようもなく情けない気持ちに襲われた。
かつて彼女に修正を行ってくれた上官はもういなかった。
348アナザードルダ 20/23:2009/03/01(日) 02:05:05 ID:???

 宇宙連邦軍は敗退した。
 デハドスの兵士たちが喚声を上げた。喚声に応えて、教皇ペトロ四郎の演説が行われる。勝利を得た兵士たちへの労いと、犠牲となった敵軍の兵士への追善の祈祷である。
略式の祈りが済んで兵士たちがしんとなると、続いて詩を詠い上げた。
『十ぺるしいぬん、さんてくるしす、でいにるしす、あめん』
 通信を聞いている全ての兵士が朗誦する。
『あめん』
 勝利の余韻に浸っている兵士の様子を窺いつつ、ベイトはアンデレ権八郎に通信を繋げた。
「広報部へは、こんなもので良かっただろうか」
『さすが大佐ですね。予定にはありませんでしたが、素晴らしい絵が撮れました。早速編集に回します。ガンダム二機を相手に立ち回って勝利する。この映像は、きっと相当な効果を上げますよ』
 彼らのほかにこの通信を聞く者はない。故に、アンデレ権八郎はベイトを大佐と呼んでいる。
「世辞はいい。所詮は水もの、老兵の無謀と変わりないさ。マルスの状態も芳しいとはいえんのでな。我が方の損害はどうか」
『徴兵組の士官が相当数戦死いたしました。いかがなさいますか』
「二階級特進が妥当だろう」
『では、方々の遺族には……』
「いいや、文字通りの二階級特進さ。私の権限で彼らをノーメンクラートルへ配属させる。今はまだ殉教者をまとめて供養する時勢ではない。反戦教派に口実を与えかねん」
『了解、そのように手配いたします』
「ああ。それと、今夜あたりディオゲネス行きの便は出せるだろうか」
『運河の復旧に暫くかかりますのでテレウスの帰還次第になりますが、おそらくご期待には沿えるでしょう。しかし番組の収録はどうなさるのですか』
「以前見せてくれたCG合成があるだろう。大根の私よりも本職の役者がやったほうが効果的さ。君とて、本心ではそう思っているのだろう?」
『はい』
 アンデレ権八郎が即座に答えたのを見てベイトは小さく笑った。ベイトの腹心の一人である彼は、純粋な義勇兵と違って気の抜き方を心得ている。
『ディオゲネスに行かれるということは、やはり聖女を?』
「老人どもが喚き始めている。そろそろ火星を民衆の手に取り戻す頃合だ」
『大佐?』
 アンデレ権八郎の顔色が変わったとき、ベイトは鼻の下に冷たいものが流れているのを感じた。拭ってみると手に赤い筋が出来ていた。鼻血である。
349アナザードルダ 21/23:2009/03/01(日) 02:10:19 ID:???
「小言はいらない。私の体だ。パイロットとしては欠陥品だが、当分くたばることはないさ。人類の革新、それを君たち若者に見せるまではな」
 ベイトはそう言って通信を切ると、突っ伏して咳き込んだ。先ほどああは言ったものの、唾液の中にも血液が混じっていた。
「マルスには暫く乗れんか……」
 ふと、戦場で演じた三文芝居が思い出された。ミレンナ・カマシーヌに放った言葉が真実に心にもない言葉であったのか、なぜか己でも疑わしく思われた。
自分自身の命を何よりも優先するのがマスター・ベイトという男の格律である。けれども、殉教という自己犠牲の精神に心引かれている自分もいた。
「なんという矛盾。だが、このような矛盾を孕むことこそが、オールドタイプの業というものか」
 マスター・ベイトは未熟な現在の自分を罵りながらも、さほど遠くない未来の情景に思いをはせて、自分自身を慰めた。

 向かいの壁には、煙草に×印をつけた標識が貼られている。壁の塗装も染み一つない白さで、それを燻らせるのは気が引けた。デイヴィッドは二本目の煙草に火を点けた。
 死を思え、と、彼は彼の後見人に云われたことがある。
『――それは逃げていく老人を追いかけ、卑怯な若者の足や臆した背中をも容赦しない』
『用心深く鉄と青銅で身を隠していても、死はそのように守られた首を奪い去る』
『太古のある民族は、宴会の食器に人間の骸骨を使っていた。それは残虐性の嗜好によるものではない。快楽に身をまかせている最中も、己が死すべきものであるという事実を忘れぬためだ』
『哲学、宗教、自然科学、俗流形而上学に至るまで、様々な思想が現れては消えて行き、死を知ろうと試みた。
何よりも恐れるべきは死で、それさえ恐れなくなってしまえば、浮世の恐れなど取るに足りぬことになると考えたからだ。たとえそれが己の死であろうと、他人の死であろうとな』
『死をあらかじめ思いみることは、自由をあらかじめ思いみることだ。いかに死ぬかを知ることは、あらゆる隷属と束縛から人を解き放つことだ。
デイヴ、死を思えという言葉は、死を恐れよというのではなく、死を征服する勇気を持てということなのだよ』
350アナザードルダ 22/23:2009/03/01(日) 02:13:45 ID:???
 下穿きを湿らせて、涙と鼻水でまみれた顔をしたデイヴィッドに、マスター・ベイトがそう言った。そのころデイヴィッドは十代であった。
何年か後に読んだ本にほとんど同じようなことが書いてあり、ベイトの顔を見るにつけ、噴出すのを堪えたことも思い出された。
受け売りに違いない台詞を知らん顔して平然と言い放った後見人が、滑稽でもあり、頼もしくも感じられた。
「しかし大佐、人間はそんな合理的に出来ちゃいないんです」
 デイヴィッドは昔の思い出で緩みかけた顔を引き締めて、苦々しげに煙を吐いた。いくら死を思おうとも、現在の自分の置かれている状況で心の平静を保つことは出来なかった。
苛立ちと羞恥心とがデイヴィッドの心をかき乱し、煙草の減りも普段の二倍に近かった。
 デイヴィッドのいる空間に、白衣の女性がいそいそとした足取りで入って来た。
知らない顔であるが容貌はなかなかよろしく、場所が食堂や休憩室であったならば、下心で声をかけていたかもわからない。
しかしその女性は、煙草を吸うデイヴィッドの姿を見止めるや否や顔を顰めて転進し、言葉も無く去って行った。
彼女がいやな顔をしたのは副流煙を嫌ってのことではない。ゲイリーあたりならむしろ喜ぶかもしれんが、と失敬なことを考えながら、デイヴィッドは背後の扉に寄りかかった。
「デイヴ」
 少女の声が聞こえた。デイヴィッドは気だるそうに腕を上げて扉を軽く叩いた。
「はいはい。ちゃんとここにいる……畜生が」
 デイヴィッドとドルダは約一分毎の間隔でこのような問答をしていた。
前に一度、デイヴィッドは耐えられず逃げ出したことがあり、そのときに蒙った衛生上の損害と失った面目とに比べれば穏便なものとはいえ、矢面に立つデイヴィッド当人にしてみれば到底許容できるものではない。
食堂でのことがあって以来、デイヴィッドはヴァニナに少女の教育の片棒を担がせるようになって、今少女のしているような行為に関する直接的な教育もヴァニナに任せた。
しかし、ヴァニナにはヴァニナの仕事があるうえに、ドルダという少女は付き添いなしにはどこへも行こうとしなかった。
ドクターに言っても、デイヴィッドが叱られるばかりである。軍人が一般市民の気持ちを理解しないように、病人相手に器具を扱いなれている医者はデイヴィッドの屈辱を理解しなかった。
351アナザードルダ 23/23:2009/03/01(日) 02:15:15 ID:???
 やっと水の流れる音が聞こえた。ドルダに手を洗わせると、デイヴィッドは彼女の首根っこを掴んで逃げるようにそこを去った。
入り口の壁には、スカート穿きの人間を模した赤い印と、「W.C」という文字が書いてある。
352通常の名無しさんの3倍:2009/03/01(日) 02:16:53 ID:???
以上です。
353コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/02(月) 06:46:18 ID:???
さよならデイヴ。

乙です。久々の投稿ですね!
なんか嫌な奴がまた出てきましたね。
逆にマスターベイトはなかなか。


業務連絡
一応wikiメンバーに入りましたが、自分の権限ではキャラ紹介やストーリーの所はいじれませんでした。
現在トップとドルダスレとは?ならいじれることを確認しています。
管理者権限を持つバルト氏が戻ってくるまで他はいじられませんので、また今までのを保存しときます。
354通常の名無しさんの3倍:2009/03/02(月) 23:20:36 ID:VRTokcvN
ドルダが俺にもっとageろと囁いている・・・
355コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/04(水) 20:31:58 ID:???
保守
356通常の名無しさんの3倍:2009/03/05(木) 05:03:40 ID:???
人減ったね。
357通常の名無しさんの3倍:2009/03/05(木) 11:46:31 ID:???
たまに変なの湧いたりするしな
358コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/07(土) 13:46:29 ID:???
age保守
359通常の名無しさんの3倍:2009/03/07(土) 23:25:11 ID:???
保守するだけなら誰でも出来る
360コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:19:03 ID:???
よろしい、ならば投下だ。
361コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:21:51 ID:???


 儚く揺れる湖面
 舞い上がる風
 白く染められた山
 無機質なコンクリート
 崩れかけたビルの森
 天空に聳え立つ塔
 その塔に響く喧騒
 道路を走る人影
 空に打ち上げられる船
 無数に漂うデブリ
 水を抱えた赤い大地
 虚空に浮かぶコロニー

 何の前触れも無く、すべては消滅した
 白い閃光に呑まれ
 その存在すらも
 白き光に呑まれていく
 白い光は彼をも飲み込んでいく
 やがて彼は光と同一化し
 世界との繋がりを絶たれた

362コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:23:34 ID:???

 新機動戦士ガンダムDOLL-DA外伝 第二話 「"ユメノカケラ"」



 
「……パイ、先輩!!」
 自分を呼ぶ声にラングは目を覚ました。
 続いて辺りをゆっくりと見回す。部屋の様子を見て、ここがどこだかはっきりと分かる。
 棚には薬ビンが並び、高価そうな機材が並ぶこの部屋は、どこからどう見ても医務室だ。
 医務室?
 そこまで理解した瞬間一気に頭が覚醒した。同時に跳ね起きようとしたが、身体が動かない。
 拘束されているわけではなく、ただ身体に力が入らない。もう一度跳ね起きようと身体に力を込めようとしたがやはり入らない。
 だが、その動作は周りから見てもそれと分かるぐらい大きな動きだった。
「!!先輩!!目が覚めたんですね!」
 すっと、視界に黒い髪とどきりとするほど美しい顔が入ってきた。
「ミリ―……?何で俺は、こんなところに寝てるんだ……?」
 ラングがいるのは医務室の寝台の一つだ。手術台よりはましだが何故ここにいるか理解出来なかった。
「覚えてないんですか?帰ってくるなり激しい頭痛に襲われて悶えてたんですよ?」
「悶えて……だめだ、思い出せない。その後は?」
「それは私が代わりに話そう」
 ラングの問いに答えようとしたミリーの後ろから紳士的な声が聞こえてきた。
 ラングは視線だけをそちらに向ける。ミリーも後ろを振り返り、声の主に軽くお辞儀をする。そこにいたのは背だけではなく鼻まで高い白衣の男。
 柔和な笑みを浮かべながら椅子に腰掛ける姿はお手本のように整っていた。
「よう、シャルル先生……」
 男に対してラングが言う。
「おはよう、ラング。さっきの話の続きだが、あの時ひどい頭痛に襲われていた君を楽にする為に押さえつけて麻酔薬を打ち込んだのさ。身体はまだ動かせないだろ?」
 男がそういうとラングは軽く肩をすくめた。つもりだったがわずかに肩が動いた程度だった。その動きを見た男はやっぱりと言うように頷いた。
「無理はしないほうがいい。検査の結果、異常は見つからなかったけど、頭痛があったことは事実なんだから。とりあえず麻酔が切れるまではおとなしくしてくれるかな?」
「ふ、言われなくても動けませんよ」
 ラングは唇に笑みを浮かべながら言った。
363コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:25:20 ID:???

「ところでなんでミリーがここに?まさか俺が心配で……」
「はぁ?どうしてそうなるんですか?みんなで交代で看病していて偶然私の番だっただけです」
 ラングが確認を取るようにシャルルに顔を向けると彼は苦笑しながら首を縦に振った。
「確かに、私以外のクルーで順番に看病していましたよ。まぁ、ミリーさんは他の人の倍近い時間ここにいますがね」
「先生、なに言ってるんですか。他の人がみんな忙しいから仕方なくいるだけです。勘違いしないでください」
 シャルルの言葉に冷水のように冷たい声が返ってくる。
 このときラングからは見えなかったがミリーはシャルルを射殺さんと言うばかりに睨んでいた。
 意味を要約するなら、それ以上何か喋ったらただじゃすいませんよ?と言う無言の脅迫だ。
 気の弱い男だったらその場に土下座をして許しを請うような鋭い眼光。それに射抜かれたシャルルはそのまま竦んでしまった。
 これを真っ向から受けれるのは若い頃に柄の悪い連中を纏め上げていたノワとカルロ、既に慣れきったラングぐらいだ。
 確かにシャルルもいくつかの修羅場を潜り抜けてきた男だが、
 相手にしてきたのは全員グラサン黒服の男だった為視線に射抜かれたことは今まで無かったのだ。
 もっとも、頬が僅かに赤くなっていることに気付けばシャルルも笑って受け流せただろう。
 しかしそんな余裕は無い。
 冷や汗を流しながら「あはははは」と乾いた笑いを立てるだけで限界だった。
 
364コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:26:10 ID:???
そんな二人の様子を訝しみながらラングは口を開いた。
「で、先生。特に身体に異常は無いんですね?」
 その言葉にミリーがラングのほうに振り向き、やっとの事で殺人視線から解放されたシャルルが助かったとばかりに言った。
「あ、ああ。多少髭は伸びてるけどそれ以外は特に無いよ」
「なら麻酔が切れた後、"夢"へ入りたいのですが……」
 途端、シャルルとミリーの表情が変わる。
 シャルルはピンと張り詰めた表情を、ミリーはひどく心配そうな表情をそれぞれ浮かべた。
「確かに身体に問題はありませんが、だからと言ってすぐにあそこ、君の言う"夢"に行かなくても……」
「いえ、なるべく早く行かないといけないんです」
「でも!!あれは先輩の命を確実に蝕んでます!!」
 ミリーが悲痛な声を上げる。その言葉も声も、本当にラングを心配しているが読み取れる。
 もちろん、ミリーだけではない。シャルルも同様だ。
「ミリーの言うとおりです。あそこで何が起きているかは知りません。ですがあそこに言った後の君の状態は目を覆いたくなるほどだ。医者としても、仲間としても、君に"夢"に行って欲しくない」
「そうです!!何もあんなことしなくても」「やらなければいけない」
 一瞬、ラングの声が覇気を込められたように強く硬くなった。
 それだけでシャルルとミリーは喋れなくなる。
「なぜなら俺がそうしようと、自分で決めたからな。それを曲げるのは俺自身が許さない。許したくない。だからやらなければならない。悪いけど、こればっかりは曲げられない。俺の我が儘だってのは分かってはいるがな……」
 シャルルもミリーも何も言わなかった。何も、言えなかった。
 彼の、ラングの気持ちが分かってしまう、その言葉の決意を感じ取ってしまった、仲間ゆえの沈黙。
 ラングは黙ってしまった二人に対し心の中で感謝と謝罪をした。
 ラング自身も、"夢"にはいることの危険性は良く知っている。その危険を冒させまいとする仲間の気持ちは素直に嬉しいと思う。
 だがそれをやめる訳にはいけない。自分の誇りと、使命の為にも。
 だからラングは感謝と謝罪をした。自分の身を心配してくれた感謝とそれを踏みにじることへの謝罪。
 そしてそれを、二人はラングの目を見て悟ってしまった。
 だから、もう止めることは無かった。
「無理は、しないと約束してください。先輩」
 ミリーが絞り出す様に言った。
 それにラングは小さく頷いた。
「分かった。約束する。さてと、じゃあ麻酔が切れるまで一眠りしますか」
 そういってラングはさっさと目を閉じて眠ってしまった。
 ミリーはラングが眠ったのを確認すると、シャルルに一礼して医務室を出て行った。
 残されたシャルルも、暗くなった気分を紛らわす為に薬ビンを一つ一つ磨き始めた。
365コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:27:08 ID:???
 ちなみにこの二人はクルーの中でも心配性で、ミリーがラングのことをカルロとノワに話すと、
「ん、いいんじゃない別に」
「あいつがそうしたいならそうすればいいさ。それがあいつにとってのベター何だろうし」
 という、特に心配も何もしないコメントが帰ってきた。
「二人は先輩のことが心配じゃないんですか!?」
 と、ミリーが問えば、
「ん〜、あいつだし、大丈夫だろ。何気に悪運強いし、限度も知ってるしな」
「確かにね。無理や無茶は平気でやっても無謀は決してやらないのがラングだからねぇ」
 といった返答が帰ってくる。
 この二人はクルーの中でも2番目にラングとの付き合いが長い為、多少のことでは心配したりしない。
 逆にクルーの中でも最もラングとの付き合いの浅い(と言っても4年近くになるが)シャルルとミリーはちょっとの事でもかなり気にかける。
 ここは信頼の差と言うよりも慣れの差だ。
 何はともあれラングが"夢"に入ることはクルー全体(ラングを入れて7人)に伝わった。



 "夢"と言っても人々が眠っている間に見る夢ではない。
 では何かと聞かれてもラング以外のクルーはさっぱり答えられないだろう。
 "夢"に入る際はアスルファイサの中心部にある部屋に入る。
 そこに入るのはラングだけで、彼は決して他人を入れようとしない。
 というのも他人がいると"夢"には入れないからだ。
 これはラングの"夢"の秘密を解こうとカルロが部屋の天井に張り付いていた際にラングが"夢"に入れなかったことから証明されている。
 ちなみにその際ラングがカルロに厳しく説教をしたことは有名だ。
 時間にして約15時間ずっと正座。最後のほうは酔っ払いの話の様にループしていた。
 この説教がよほどこたえたらしく以後誰も"夢"の部屋に関わろうとはしなくなった。
 そんな事もあり、"夢"が何かは誰も知らない。
 そのためこの"夢"と中心部の部屋はアスルファイサ七不思議に入っているのだ。


「さ、て、と。じゃあ行ってくるから。エンジンのほうよろしく」
 そういうとラングは中心部の部屋に入っていった。
 それと同時にドアが閉まる。ここのドアはほかと違い非常に手間のかかるしまり方をする。
 まず左右にドアが閉まり、次に上下からシャッターのような扉が降りて来て、扉に数重にロックをかけ、更にその外側にドアが閉まる。
 この物々しい扉はラングいわく部屋の内側で起きている現象を外に出させない為のものらしい。
 この扉の存在がこの部屋を更に神秘的にしている物の一つである。

「よし、ラングが部屋に入った。アル、頼んだ」
 ラングを見送ったノワからの報告を受け、カルロが右斜め前に座る烏色の髪の少年に言った。
「はい、エンジンと部屋のエネルギーラインを接合、5秒後に開くよ。5、4、3、2、1、開!!」
366コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:27:48 ID:???

「ん、開いたな」
 部屋の中央に立っていたラングが短い機械音を耳にした。
 この部屋とエンジンのエネルギーラインが接合され、開かれたのだ。
 今のラングはパイロットスーツ姿になっている。
 ヘルメットも着用し、気密までやっている。このまま宇宙に放り出されても死なないだろう。
 ラングはヘルメットの気密をもう一度確認し、他の部分の気密もチェックする。
「さて、そろそろ来るかな」
 そう言った途端、四方の壁にあいた穴から淡い青の光が吹き出してきた。
 光は吹き出す同時にバラバラになり、細かい粒のようになり、空間を浮遊する。
 どんどんと光の粒はその密度を増していき、淡い青が徐々に深くなっていく。
 やがて部屋が青い光、細かな粒子に埋め尽くされ、辺りは透き通った海に様変わりした。
 そんな中で、ラングはヘルメットの気密を解いた。だが青い粒子はヘルメットの中には入ってこない。
 ラングはヘルメットに手を掛けると、ぐっと歯を食いしばり一気に脱ぎ捨てた。

 青い粒子に包まれた瞬間、ラングの身体は激しい痛みに襲われた。
 身を切り裂くような冷たさ、焼き焦がすような熱さ、神経を引き千切るように流れる電流、
 殴られたような鈍い痛み、貫かれたような鋭い痛み、様々な痛みがラングを襲う。
 あまりの痛みに声も出ない中、ラングは飛ばされそうな意識を必死に繋ぎ止める。
 同時に、一つの単語を頭に思い浮かべ続ける。
 "ガンダム"
 やがて痛みは引き始めたが、今度はいくつもの光景が頭の中へと流れ込んできた。

367コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 06:28:26 ID:???

 それは、夢を見ているような感覚だった。
(いよいよ見つかったようで)
 控え室のような部屋で、火星コロニー軍の軍服を来た男と神官のようないでたちの男が何か話している。
(うむ。この世界を裁く時が来たのだ、福音とでも言うべきか)
 その光景はまるで水彩画のように輪郭がぼやけていた。
(では、使うのですね?マルスを…)
(マルスの力は我々の為に使用されるべきだ。来るべき新世界に向けて、な)
 そこで光景は一瞬のうちに滲むように消え、また別の光景が映し出される。
 
 今度は廃工場のようだ。その中で二人の男女……いや、男だ。
 女と見間違えるような男性がもう一人の男を説得しようとしている。
(君は、今のままの境遇で本当にいいの!軍を抜けて、こんな辺境で夢も希望もない人生を続けるの!
 ここは空気も悪いし、人間だってみんな性根が薄汚い。
 こんな、食べるために生きるのか生きるために食べるのか定まらないところにいれば、いつかきっと、デイヴは駄目になる!)
(もう充分駄目人間さ)
 ラングは男達に見覚えがあったがここも先ほどのように輪郭がぼやけていてはっきりとは分からなかった。
(だったら、これから立ち直ろうよ!飲酒と放蕩と伊達気取りなんてすっぱり止めて、
 もっと、地に足付けて将来を考えることにしよう!」)
(今の時代、地球は立ち入り禁止だぜ)
(だから、火星に行こうと言ってるんだよ! 火星には大地があるし、安定した職だってある!
 調査団が解散した後のポストは僕が用意するし、君の借金だって、僕が立て替えるから、昔みたいに、僕と一緒にがんばろうよ!)
 そこで再び違う場面に切り替わった。

 浮かび上がった風景はラングの良く知るもの、火星の表面だった。
 そこに、調査用の小型宇宙艇から降り立った調査隊の隊員たちがいた。
(…………これが、火星の空気)
 長い赤髪を束ねた女性がヘルメットを外し、火星の大気に触れる。
(第一号は取られてしまったな)
(すみませんマグドガル隊長)
 後ろから声をかけられ、女性は振り返る。
(いや、第一号は動物実験で放たれたマウス達か。私はコロニー育ちだが、やはり星は違うな)
 そういって声をかけた男はヘルメットを脱ぐ。ぼやけてよく見えないがシャルルと同じ程度の年に見える。
(火星の大気も人工的に創られたものだというのにな)
(そうですね。やはりそれは、火星も生きているということなんじゃないでしょうか)
 その言葉に思わずラングは微笑んでしまった。同時に、三度光景が変わる。
368通常の名無しさんの3倍:2009/03/08(日) 10:59:30 ID:???
あれ、終わり?
369コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:19:58 ID:???

 映し出されたのはまたあの女性だ。しかしそこは……。
「!!第四小格納庫、確かここには……!!」
 映し出された光景に思わずラングは声を出す。そこは見られるはずの無い光景だったからだ。
(これは……!!)
 女性が何かを見つける。ラングにはそれが何か分かっていた。
 片膝を付き、主の前で一礼する騎士。巨大な人型の機械、MS……。
(貴方は誰?どこから来たの?)
 女性は恐る恐るそれに近づいていく。
 ラングはぐっと意識を光景に集中させた。ぼやけていた輪郭が徐々にハッキリしてくる。
(これは、地球の、ものなの?)
 MSの胸部に刻まれたアルファベットの羅列、それを見て女性が言った。
 ところどころ掠れているが、ラングには正確に読むことができた。
「DOLLDA、ドルダ……じゃあ、この女性が……」
 そこまで言ったところで更に光景が入れ替わる。

 今度は赤い機体が映し出された。まるで憤怒の化身のような赤い装甲。
 そしてその形状は……
「ガンダム?いや、しかしこんな機体は火星に……ティモール氏か……)
 ラングが思い当たったのは以前共に仕事をしたことがある変わり者の科学者。
 彼は火星に関する文献、特に伝説の機体ガンダムに心奪われていた。
 あの彼なら作りかねない。ティモール博士の才能を知っているラングはそう思った。
 もう一人造りそうな人物がいるがこちらが作るなら必ずラングに連絡が来るので、候補から外している。
 そうこう考えているうちにいつの間にか場面が変わり、何かのコックピットが映し出されていた。
(ガンダムマルス…アレス・ルナーク、出る!!)
 声が聞こえた。少年の声だ。しかし当の本人の姿が見えない。
 だが冷たいまでに狂おしい感情が伝わってきた。
 ”救う”
 あの時助けれなかったものを、最も大切なものを、必ず救い出す。
 自分が必ず、彼女を助け出す!!
 その思いが伝わってくると同時に赤い閃光が宇宙を駆けるのを見た。
370コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:20:59 ID:???


 再び違う光景が映し出される。
 また先ほどの格納庫だ。だが天井が崩れたのか、瓦礫があたりに散乱していた。
 先ほどの女性は床とMSとの間にて無事だった。
 起き上がった女性は横に倒れた機体の胸部が開かれていることに気付いた。
 女性はゆっくりと機体に近づいていき、開かれたコックピットを覗き見た。
(えっ……!?)
 コックピットの中には少女がいた。
 年は15か16歳ほどの女の子だ。気絶しているのか、身動きをとらない。
 女性は女の子が生きているのを確認すると近寄って揺すった。
 すると少女は、ゆっくりと瞼を開いた。
(…………あなた、だれ?)
 虚ろな表情でそう問われた女性は、柔らかい口調で言った。
(私はクラン。クラン・リザレクター・ナギサカ)
 そこで再び、光景が途切れる。



 青い粒子で埋め尽くされた部屋でラングは立ったまま目を閉じていた。
 さほど長くない真紅の髪が、風でもあるかのようにふわふわと揺れていた。




 映し出された光景は戦闘風景だった。
 先ほど自分達を襲った赤いMSとグワッジ、ムウシコスが戦っている。
 なかなかいい連携を見せるグワッジとムウシコス。
 一機の赤いMSを撃破した後、退却するもう一機を追おうとしたが、そうは行かなかった。
 ムウシコスのビームキャノンがビームに貫かれる。
 その発射元には、先ほどのガンダム、マルスの姿があった。
 マルスの前に圧倒される2機、必殺の一撃を辛うじてよけるが、二機とももう戦えるような状態ではなかった。
 止めを刺そうと、ビームサーベルとビームガンブレードを構えたまま、マルスは動きを止めた。
 辺りは静寂に満ちていた。もともと真空の宇宙では音は伝わらないのだが。
 その静寂を切り裂くように、一閃のビームキャノンがマルスを狙って撃たれる。
 間一髪でそれを避けたマルスがキャノンが撃たれた方向に振り返ると、そこには目覚めてしまった鬼神、ガンダムドルダがいた。

 ドルダに向かって他の四機のローズがビームライフルを放つ。
 同時にビームサーベルを抜き、ドルダに接近する。
 だが、ドルダはそのミノムシの様な装甲をパージし、ビームジェネレーターからビームシールドを展開しそれを防ぎ、同時に手にした二丁のバスターライフルで向かってきたローズをすべて消失させた。
「Doll-daシステム……ドルダの本当の力か……」
 まるでその宙域だけ時間が停止したような静寂に包まれる。
 そんな中、マルスだけが止まった時間の中で動き続けていた。
 二刀流の構えを取り、ドルダと対峙する。
 そして、一瞬の間を持って、マルスはドルダに斬りかかった。
371コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:22:07 ID:???



 再び光景が切り替わる。どうやら全部は見せてもらえないようだ。
(慣れていてもこうコロコロ光景が変わると疲れ……)
 そこで、突然ラングは口を閉じる。目をゆっくりと細め、強く鋭く目の前の光景を睨む。
 いや、睨んだのは光景ではなくそれに移る機体だった。 

 映し出されたのは、白き舞姫だった。


 ラングの目の前に映し出された白き舞姫、ドルチェ。
 それはラングにとって何よりも、何よりも憎むべき存在だった。
「ドル……チェ……!!!」
 獣が唸るような低く強い感情が、ラングの口から漏れる。
 今すぐ叫びたい気持ちを押さえ、映し出された光景に集中する。
 もしここで意識をそらせば、全く違う情報が映し出されてしまうからだ。
 だから意識を集中する、雑念を振り切るように集中しながら……目の前の光景を睨みつける。
 ドルチェの前には大破したグワッジが浮かんでいる。そのコックピットを覆っていた装甲は剥がれ、中にいる男の姿が見えた。
 まだ、若い男だ。いやラングと大体同じぐらいなのだが、印象ではラングよりも若く感じられる。
 ただ、どこか自堕落的な雰囲気が彼を若く見させているのかもしれない。
 いやラングが20代の癖に40代と間違えられるほど渋いのも若く見える原因の一つだろう。
 確かに普段のラングは冴えない若者のような容姿をしているが、一度パイロットスーツに身を包めば雰囲気はがらりと変わる。
 目は日本刀のように鋭く、短く生えた顎鬚は見事に整えられている。
 口元には泰然とした笑みをうかべ、それでいて底が見えない深く落ち着いた雰囲気。それがパイロットスーツに身を包んだ、戦闘時のラングだ。
 ”年寄りに見える”というよりは”とても若造には見えない”という方が正しいだろう。
 グワッジに乗っている男の表情を、ラングは見た。
 ひどく怯えていて、目の前のモノに嫌悪と恐れを表した顔。
 そこに、白い手が伸びる。一目で少女の手だと分かる。
 その手が男に触れる。
(ずっと貴方に会いたかったの。デイヴ)
 ラングの視界に、少女が現れる。
 金の髪に漆黒の瞳を持つ、美しい少女。
 しかしラングにはその美しさが見た目だけの物だと言うことが分かった。
 いや、ラングでなくとも勘の鋭いものならば気付くだろう。
 美しい悪魔だということに。
「……エリス……お前か……」
 ギリッと、奥歯が鳴った。いつの間にか歯を食いしばっていたらしい。
 ラングはドルチェのその禍々しい白い姿を睨みつけた。
「……いつか必ず……」
 堕とすと誓う。
 ただただ怨みを込めて、ラングはドルチェを睨み付けていた。
372コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:23:12 ID:???
 また光景が変わった。
 あまり整備されていない格納庫のような場所だった。
 そこに、パイロットスーツを着た黒髪の男と、白衣に身を包んだ老人が立っていた。
 その目線の先には、白と青のカラーリングのMSがあった。
 その両脇には二機の大型、過去でいう爆撃機と同じ大きさの戦闘機のようなものが同じように配備されていた。
(悪かったな、マルスのパイロットからお前を外してしまって)
 老人がパイロットスーツの男に話しかける。
(いいえ、アレス坊ちゃまの方がカメラファンネルの扱いが上手いといったのは私ですから、気にしていません)
 それに、と男はMSの頭部を見た。暗い空間の中でもその存在を誇示するようにV型のアンテナが光っていた。
(私専用にガンダムまで用意してくださったのですから、文句の付け様がありません)
(ゲッゲッゲッ。これの名はメイラス、Marsのaをエイと読んだ名じゃ。もう一機のガンダムにはピッタシの名じゃろ?)
(ええ、いい名前です。博士、感謝しています。エステルにもそう伝えてください)
(ゲッゲッゲッ、お主らは兄弟なのじゃから直接言えばよいじゃろうに)
 その言葉に、男は俯いた。
(いえ、エステルは自分のことを兄とは思っていないでしょうから)
(やれやれ、相変わらずじゃな。それはそうと、お主は隣の二機について知っておるか?)
(いえ、説明お願いします)
 男と老人が二機の戦闘機の方に顔を向けたその時、視界を白黒の砂嵐が覆った。




「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁァ!!!!」
 ラングは頭を抱えてその場で暴れだした。頭が内側から破裂しそうな痛みが突如として彼を襲ったのだ。
「あっ、あっ、あぐぅぁぁぁああああ!!」
 ラングはその場に跪くように倒れ、身体を痙攣しながら苦しむ。
「う、がぁ、はぁっ、あ、ぐぅうぅ!!」
 それに懸命に耐えながらラングは一つの言葉を叫んだ。
「ゞйБ£яч†‰ゝ^Э!!」
 それは、まさに言葉にならない叫びだった。
373コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:24:16 ID:???

 ラングの言葉の後、青い粒子は一斉に出てきた排出口に戻って行った。
 排出口のシャッターが閉まると同時にラングの頭痛は納まった。
 だが、ラングは違和感を感じた。シャッターが閉まったなら部屋のドアが開く筈だがその音が聞こえない。
 そもそも目を開けているはずなのにまだ目には何も映っていない。身体全体が麻痺したかの様に感覚が無い。
 ラングは気付いた、同時にため息を付いた。
(今回は視覚と聴覚と触覚か……まぁ、軽く済んで良かった……)
 何てことを考える。これがミリーやシャルルがラングが"夢"に入る事を止める理由だ。
 "夢"に入った後ラングはひどい頭痛に襲われた後、五感のどれかを一時的に失う。
 それはパイロットにとって致命的なことだ。実際にラングが五感を失っている間に攻撃されれば迎撃する術はない。
 "夢"は確かに便利だが、多用すれば自らの身を滅ぼしかねない。
 それがラングが"夢"に入ることをためらう理由だった。
 昔はこんな事はなかった。パイロットがもう一人いたから。
 視界と聴覚と触覚、五感の中で重要な3つが無い中、ラングはそのパイロットのことを思い出した。


(中佐は動きが速すぎる。変態なぐらいに)
 そういったのは烏色の綺麗な髪を持った相棒だった。
(それが逆に中佐の弱点となっている) 
 訓練を終えて愛機を降りると同時に忠告された。
(速すぎるから、相手はろくに狙わない。弾を撒き散らすように撃ってくる)
 確かにそうだった。訓練相手のMSも弾を撒き散らすように撃ってきた。
(そのせいで弾幕を張られた状態と同じになるのさ。現に、部隊中最も機動が鋭いはずの中佐が、一番被弾率が高いんだぞ)
 そう言われて反論できなかったのが懐かしい。
 自分のことを中佐と呼びながら一切敬っていなかったあいつ。
 むしろ偉そうに忠告してくる部下だった。。
 同じ時に軍に入ったのに、3つも階級が違った相棒。
 唯一、戦闘機部隊で自分に付いてこれた、最も信頼していた仲間。
 いや、家族だった。
 
 悲しい。
 相棒のことを語るとそのすべてが過去形になってしまう。
 それがどうしようもなく悲しくて……

 自分でも気付かないうちに涙を流していた。
374コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:25:09 ID:???
「先輩!!」
 部屋の前で待機していたノワから通信が入った後、船の操舵をしていたカルロとレーダー担当のシェバル以外のメンバーはラングの元へと走った。先の二人も走りたかったに違いないが役目を忘れることは無かった。
 一番最後に部屋に駆け込んだミリーだったがその時点で既にラングは運び出されようとしていた。
 思わず駆け寄ろうとしたミリーをノワが止めた。
「慌てなさんな。大丈夫、生きてるよ。ただ全身に麻痺が見られるから医務室に移すだけだよ」
 すっとミリーを連れて後ろに下がったノワの前を、アルとシャルルに抱えられたラングが通り過ぎていく。
 ミリーとノワは黙ってその後に続いた。
「先輩は大丈夫なんですよね、シャルル先生」
「ええ、とりあえず死にはしませんが早く精密検査したほうがいいでしょう」
 心配性二人は妙にソワソワしていた。それに対して他の二人は妙に落ち着いていた。
「ラングなら大丈夫だと思うけどねぇ」
「この程度で死ぬほど、兄さんは可愛い人間じゃないよ」
 特にアスルビエントでラングと一番付き合いの長いアルは悟りの域に達している。
 伊達に17年間の人生の内17年間彼と共だった訳ではない。彼がどんな人間で、どれぐらい無理しても大丈夫なのかは分かっている。
「「アル!」」
 だが付き合いの浅い二人にはそれが分からない。
 そのためアルがラングの話をする度に二人は度胆を抜かれる。
 ときどきカルロやノワさえも驚くような話もあるのだ。二人には到底考えられないことだろう。
 二人から同時に怒鳴られたアルはバランスを崩した。
「あれ?」
 その時偶然、目がラングの頬に光るものを見た。
「兄さん……泣いてる……」
 その言葉に一斉に残りの三人が反応する。
 ばっとラングの顔に目をやった三人も涙を確認する。
「本当、泣いてるねぇ……」
「ラングさんが泣くとなると……」
「きっと……」
「・・・・・・姉さんの事、だね……」
 四人の顔に暗い影が落ちる。
 四人がアルの姉を思い出している間も、ラングの頬に涙は流れ続けていた。
375コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:26:03 ID:???
 ラングを医務室に運び終えた四人の内、ノワ以外は医務室に残った。
 ノワが残らなかったのは今の事を報告する為だ。
 狭い通路を抜けブリッジの扉を開ける。
 部屋にはいるや否や、カルロに声をかけられた。
「従姉さん、次の目的地が決まったぞ」
「ん?どこだいそりゃ?言っとくけどラングはしばらく戦闘できないよ」
「安心して、戦闘はないと思う。補給に行くだけだし」
「補給?」
 カルロと顔を合わせれるところまで移動したノワは首をかしげた。
「連邦軍の拠点はもう堕ちきったんじゃないのかい?」
 それに、カルロはニヤリと笑う。
「大丈夫、あそこはそう堕ちないから」
 その言葉にノワも口元に笑みを浮かべた。
「ああ、あそこね」
「そう」
 カルロはコンソールに映し出された基地見て、言った。
「ユキフル少佐のいる、ハイント基地だ」
376コナイ◇8GDQEpBT:2009/03/08(日) 11:29:22 ID:???
以上です。
>>368

すいません。さるさんに引っかかり投下できなかったので。
さるさん氏ね。
377通常の名無しさんの3倍:2009/03/10(火) 07:15:56 ID:pC2iWg4g
保守
378通常の名無しさんの3倍:2009/03/12(木) 07:19:51 ID:???
保守
379通常の名無しさんの3倍:2009/03/12(木) 18:34:20 ID:???
誰か作品別に世界観まとめてくれ
380通常の名無しさんの3倍
一応WIKIの世界観の「地球と火星コロニーの状況」に
新説ドルダの世界観が乗っているぞ。
他の作品は原作者さんに書いてもらうかしないと。