【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】15
2 :
テンプレ 1:2008/08/05(火) 21:06:47 ID:???
巻頭特集【テンプレート】
〜このスレについて〜
Q1
新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
A1
ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。
Q2
△△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
A2
ノンジャンルスレなので大丈夫です。ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。
Q3
00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
A3
新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。(H19.9現在)
捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。
Q4
××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
A4
基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。
Q5
△△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
A5
基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。
Q6
○○さんの作品をまとめて読みたい
A6
まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます
Q7
○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?
△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
A7
事情があって新人スレに投下している場合もあります。
3 :
テンプレ 2:2008/08/05(火) 21:08:21 ID:???
Q8
○○さんの作品が気に入らない。
A8
スルー汁。
Q9
読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
A9
まとめサイトへどうぞ。そちらではチャットもできます。
捕捉 まとめサイトのチャットでもトリップは有効ですが、間違えてトリップが
ばれないように気をつけてください。
4 :
テンプレ 3:2008/08/05(火) 21:10:52 ID:???
〜投稿の時に〜
Q10
SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
A10
タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのかを書いた上で投下してください。
分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……
等と番号を振ると読者としては読みやすいです。
捕捉:SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。
Q11
投稿制限を受けました(字数、改行)
A11
新シャア板では四十八行、全角二千文字強が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(
>>1)個数にも制限があるますが普通は知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。
Q12
投稿制限を受けました(連投)
A12
新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。
Q13
投稿制限を受けました(時間)
A13
今の新シャア板の場合、投稿の間隔は最低十秒以上あかなくてはなりません。
Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
A14
設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。
捕捉
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは読者から見ると好ましくない。
と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の為に短編を一つ書いてしまうと言う手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。
5 :
テンプレ 4:2008/08/05(火) 21:11:31 ID:???
〜書く時に〜
Q15
改行で注意されたんだけど、どういう事?
A15
大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。
また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。
以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。
Q16
長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
A16
三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。 『……』、『――』という感じです。
感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。こんな! 感じ? になります。
そして 記 号 や………………!!
空白行というものは――――――!!!
とまあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。
6 :
テンプレ 5:2008/08/05(火) 21:13:10 ID:RdUz+Cee
Q18
第○話、って書くとダサいと思う。
A18
別に「PHASE−01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではあります。
Q19
感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
A19
むしろ積極的に思った事を1行でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。
むろん専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
Q20
上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
A20
上手い人かエロイ人に聞いてください。
===========================
テンプレは以上。以降投下待ちに入ります。
>>7 新ブランドの一発目がOOだっていうのは、アニメ本編の予算は兎も角
プラモ方面で力を入れ込んでるって事だろうね。
SEED『†』 第十四話が投下されてたのに前スレ落ちちゃったね
前スレが落ちた所為で読めない方が多いというのであれば
もう一度投下しますが、どうしましょうか?
よろしくお願いします!
>>11 それでは行きます。 十六レスくらいあるので要支援です。
8/
――ミネルバ バイタルシャフト内 廊下
廊下を渡るレイは、頭上のエアロックに向けて飛び上がり、取っ手に手を掛けようとして失敗した。
遠心力ではない本物の重力に、床まで引き戻されて舌打ちを漏らす。
「頭では分かっていても、体が慣れていないという感じね?」
聞き覚えの薄い女の声だ。彫りの深い顔と風船の入ったような胸にマリア=ベルネスだと思い出す。
「私も経験が在るわ。酷い人だと、三階くらいの高さから飛び降りてしまうの。
ええっと……サイ君を探してるんでしょう?」
「ええ……ですが?」
動揺を微塵も見せずに首肯した。
「パイロットが興味あるのは、皆そう。でも、着艦のときの曲芸は上司命令で仕方無かったの。
本当は自分の技をひけらかすような子じゃないのよ?」
まるで古くからの知り合いで在るかのように――実際そうなのだろうか?――マリアは
アーガイル三尉の事を自慢気に語っていた。
「ちょっと特徴的なところが在るけど、基本的にはいい子だわ」
「……」
――応用的にはどうだか知りませんがね!
シンの幻聴が聞えたのは、彼に毒されたと言う事なのかも知れない。
「特徴的なのはそれだけではないですが」
「ああ、プログラミングも中々の腕よぉ? 」
技術者と知り合い、コーディネーター、プログラミングの名手、わけありのパイロット、
そしてアスハ代表の懐刀――レイの脳裏で焦点が移動し、ピントのぼやけた何者かの像が結ばれつつあった。
顔を知らないが、もしや――
「――……――使わないの?」
「――え?」
「捜索システムをどうして使わないの? "私達"の居場所くらい、この許可証でわかるでしょう?」
マリアは、電子チップのはめ込まれたIDカードをひらめかせた。
「結局は、その場所まで自分で行かねばなりません。主機関を?」
レイは、マリアの来た方向を考えて話題を逸らす。
マリアの声が聞こえないほど、思考の淵に沈んでいたのは、余り調子の良くない時だと思った。
「ええ、中は見せてもらえなくって、少し残念だわ」
流石に当然だろうと思い黙って居ると、マリアは慌てて手を振り、三歩後退した。
「――え? ……ああ、ザフト型の反応炉を見るのが始めてだったから、ちょっと興味が湧いちゃって、ね。
私は修理の手伝いに来ただけで、機密をどうしようというわけではないの」
「そんな堂々と言い訳をする人を、スパイなどと疑ってはいません」
人の口に戸は建てられぬ――よくいったものだ。
お陰で、サイ=アーガイルに関しての情報を知り合いから得ることが出来る。
修理の礼を告げてその場を立ち去った二秒も後には、マリアの顔も体も、記憶の端に追いやっていた。
意識に残るのは言葉だけ――パイロットはパイロットにしか興味が無い。
彼女の言うとおりだろう。
殺すか殺されるか、天秤の両端に乗る人間同士だけが、にらみ合うのだ。
9/
――ミネルバ バイタルシャフト内 士官室前
オーブ側の客人の為に用意された部屋、の前で何故かヨウランが簀巻きにされていた。
彼を踏みつけたまま、全身を縛る荒縄――何処から持ち込んだのだろう?――の端を握のは、
藤色のスーツをまとったシズル=ヴィオーラ女史だ。
「レ、レイ、いい所に来た。助けてくれ!」
「わが軍のクルーを簀巻きにされては正直困りますが……一体何が?」
「説明したってもええけど、正直に説明してええんどすか。ザフトへの正式な抗議になりますえ?」
「な……誤解するな、レイ! 俺はただ、ちょっと――」
「海に捨てておいて下さい」
レイは底知れぬ侮蔑を籠めてはきすてた。
「――他の方々は?」
「代表は艦長を交えて会議どす。ウチも資料を持って行かんと――アーガイルはんは知りまへんな」
「そうですか、どうも有り難う御座います。ああ、ダストシュートは其処ですので、失礼」
「おおきに」
「レ……レイーー!」
ヨウランを待ち受ける運命に一瞥もくれず、レイはその場を足早に立ち去った。
――ミネルバ 格納庫
レイは結局、勘だけを頼りにフロアを数階分降りた。ミネルバでコレだけ下に向かえば、
行き着く先は決まっている。白いオーブ軍服の三尉は予感どおりに格納庫に居た。
「失礼……アーガイル三尉。ちょっとお話があります」
ムラサメの足元で整備のクルーから二重に囲まれ、和やかに談笑していたアーガイル三尉を借り出す。
「なんだよー、パイロットの特権て奴かぁ? お客さんを独り占めしやがって!」
とはヴィーノの台詞。
――ミネルバ 甲板に向かう通路
「アーガイル三尉」
「サイで良いよ、何?」
甲板に向かう道すがら、頬にくっきりと紅葉のような跡を残す横顔に告げた。
「首が曲っております……」
「正確な報告をありがとう。ホークさんの張り手は強烈で速いね。
腕が消えたと思ったら、もう宙を舞って居るところだったよ」
曲った首のまま、整備と何を話していたのだろう?
10/
「ホークさんに伝えてよ、地上の風はいきなり吹くから気をつけてねって」
苦労して頭を両手で掴み、"ごきゅるり"と音をたてて頸部の向きを元に戻す。
「本当に"見えた"のですか。彼女はカミカゼが吹いたと言っていました……伝えておきましょう」
「見えたけど、大変な目に合ったよ。全く……モビルスーツ乗りは首を大事にしないとね」
レイやシンならば、首が繋がって居る幸運を感謝するところだ。耐久力、Aクラス。
「感謝、かあ。いいねぇ。僕も感謝しようっと」
懐から数珠を出して十字を切るアーガイル、レイは珍獣の糞を見るように眉をひそめた。
「で、バレル君は何に感謝するのかな。プラントに信教の在る人は少ないでしょう?」
「……天にでも。ですが、地球の太陽は少し眩しいですね」
コーディネーターは全員人造の子である。ナチュラルの言う"神"に弓引く技術の産まれから、
それらを信ずる者は当然の如く少ない。
二人の出た甲板は通り雨に打たれて、所々水溜りを作っていた。傾いた太陽が、レイの見上げる空に
七色の橋を架けて居る。レイは始めて虹を見た。
「ああ、太陽を神様に持って来た人たちもいたね。感謝はいいけど地球の太陽は強烈だよ」
潮の香りを含んだ風によって纏わり付く前髪を右手で抑えつつ、左手が作る影の下で目を細めた。
アーガイルは、レイの白い肌を見て言葉を選んだのだろう。
「……日焼け止め程度は」
「外に出るなら、麦わら帽子位は欲しいよね」
アーガイルは平然と、日に焼けた肌を太陽の下にさらしている。髪は手を入れていないだろう、
がさついた様子だ。レイは自分の長髪が気になったが、髪が痛むのが気になってしまうようならば
今すぐにでも刈り取る準備がある。
「麦わら帽子……」ザフトでは余りに聞き慣れない言葉だ。
「うん、涼しいよ? 僕の先輩は夏に愛用してたりする」
「軍服には絶望的に似合わないでしょう――」
ザフトとオーブのトップガンが、雁首を揃えてする話題だろうか。けれど、ぶしつけに
レイのコーディネートについて、たとえば紫外線に強い肌を持つような因子を加えられていないか、
といった事に関して聞かれてしまうよりは、答え方の分からない質問をされてしまうよりは、
このとぼけた話題の方が都合がいい気もした。
「それが、半ズボンにTシャツ姿で麦わら帽子を被って、スイカ畑の世話をしてるんだよ。
滑走路の脇に何故か畑があってね。……まあ、そもそも軍服の似合わなさそうな人なんだけど」
どちらにしろ、ザフトの制服には似合わないだろうと思う。自然と、レイの目が細められた。
笑顔ではなく緊張によってだ。彼は、何かから話題を逸らそうとしている。
11/
「そうかな……制服のデザインを変えてしまえば面白いかも」
「予算の無駄遣いです……」
「そうかな?」
「そうです。それに、暫くは太陽がかげるかもしれません。紫外線を恋しく思うようになるほど、
空の色がかわってしまうかもしれません」
アーガイルは、赤茶けた空と、時折天空を裂く流星を眺めていた。
「そうだね、ユニ――デブリのカケラが沢山落ちたから、しばらくは寒くなっていくかもしれない」
「直撃はしていません」
「君たちのお陰でね」
「……我々だけではありませんよ、三尉」
「ああ、そういえばアレックスとアスハ代表も居たね」
「それだけでは無いのです……あの場には、核を持った者が居ました」
一番知りたかった事は、相手にとっては最も知られたくない内容に違いない。
「……へぇ?」
だが、にこやかだったアーガイルの顔はそのまま、皮下の血管に水銀が流れ始めたかのような、
一変した雰囲気を感じさせた。
「そして同時に、大気圏を上がってくるムラサメをミネルバが記録しています」
笑顔で鎧うアーガイルに気圧されぬように、意識して過剰なほどに語気を強めてなお、
背中にかく汗が体温を奪って行くのを、ありありと感じずに居られなかった。
「オーブはそんな機体を見てないね」
「我々は見ました、そしてアーガイル三尉、貴方はここに」
簡単な事実を推理を組み立てれば誰でも到達しうる事実が、今レイの眼の前に居る三尉だった。
「崩壊寸前のユニウス7に取り付き、侵入した核――それを捕捉していたオーブのムラサメ。
ムラサメには超高高度での迎撃能力がありますね」
「よく知っているねぇ……それで?」
「攻撃出来るならば、護衛する事も可能でしょう?」
「何をだい? 真逆ユニウス7を、だなんて言わないよねぇ」
「……」
レイは沈黙した。答えは相手から言わせたかった。
「……その"未確認な飛行物体"が、核を護衛していたって言いたいのかな?
一体何処のだろう、オーブは由緒正しい非核保有国だったはずだよ」
だからこそ、プラントがNJを落としても沈黙の春を迎えなかった。
12/
「僕はねぇ、テロリスト達が自決用に残していた核弾頭じゃないかなって思ってるんだけど?」
「核を使って自決する理由が無い――ユニウス7の上です」
「そうだろうか、でも、"僕は"そう考えている」
「……?」
「違うよ、きっと違うんだよ。ユニウス7を落とそうとしたテロリストも、ナチュラルを全部
滅ぼそうとはしなかったし、地上にコーディネーターが沢山残って居る事も忘れてはいなかったんだよ」
アーガイルは言葉を連ねる。
「僕は先刻言ったよね、"思ってる"って。普通、軍人が使わない言葉だけれど、今だけは多分、使える」
レイの体中をびりびりと、背筋を伸ばす衝撃が走った。
目を見開き、歯を食い縛ってそれを耐える。
「僕たちは"事実"だとか、充分それに類するもので無ければ信じない。
けれど思って、期待していい時――それはどんな時だろう……?」
「……国がそれを望んだ、時……」
「うん」
アーガイルは……レイの青い瞳に映る"彼"は、見る間に存在感を希薄にしていった。
代わりに透けるような影を通して、鼻をついたのは化外の気配だ。
「彼らは……地球に"確実に"ユニウス7を落とそうとしていました。そのためにモビルスーツを
持ち出しさえした。殺意は、確実です」
「そうかもね。でも、例えばデュランダル議長とアスハ代表あたりが話し合ったなら、
そういうことにはならないんじゃないかな――」
こいつは、何を言っている?
「――彼らが殺意の塊であった"だけ"だなんて、耐えられないよ。殆どのナチュラルは、
コーディネーターに対して特に何もしていないのに、滅びを望まれて居ることに耐えられない」
お前は、何を言っているんだ?
「エイプリルフール=クライシスの時、プラントのシーゲル=クラインは地球の人口が一割も減ると
思っていなかったよね。NJが其処まで強力に殺すだなんて信じて居なかった。地球の人たちが
すぐに抵抗を諦めて、お互いを助ける為に動くだろうって、そんな事を信じていたんだよ」
事実はこうだ、地球連合は戦争継続の為に幾つかの国や地域を捨てて、プラントと泥沼へ踏み込んだ。
「そしてユニウス7の落下……地球の人たちは嫌でも気付くと思うよ。地球は卵より脆いのに、
宇宙は地球に厳しすぎる――プラントは余りにも容易く地球を滅ぼしてしまうんだって」
「サイ=アーガイル、貴方は……アスハ代表がそんな嘘を信じると?」
「地球にも、宇宙にもそんな殺しを受け入れる余裕は無い。どれだけ宇宙が広くても、重力が、
人を寄せる地球の存在が、それの希薄を許さない」
――だったら、目を逸らすしかない。
"殺し"という物騒な言い回しでアーガイルは印象をゆがめたが、レイに言わせれば、
オーブという国が侵した重大な各種条約違反に対する隠蔽でしかない。
13/
「デュランダル議長が、そしてプラントがアスハ代表の意見に応じるとは思えませんね」
「だから、アスハ代表とデュランダル議長が話し合っているんじゃないかな。
一つのシナリオはこうだ――ユニウス落としの主犯達は、最悪の災厄を起す気"だけ"は無かった。
もう一つは君の言うとおり――ザフトがどうしようもなかったテロリストの尻拭いのために、
オーブが取り出した核でユニウス7を吹っ飛ばした――公式発表されるのはどっちだろうね。
マイニチ・タブロイド・オンラインのネタになるのはどっちなんだろうね」
「彼は、そんな俗な脚本家ではない――!」
「――それとも、君の言葉ならデュランダル議長が動くような、そんなつながりがあるのかな?」
不意に訊かれて、レイは瞬きの最中に出来る暗闇の中で想像を巡らせてしまう。
そして、現実に起こるであろう場面に至った。
ミネルバにある証拠を示して言葉を尽くすレイ――デュランダルは困ったような微笑を浮かべ、
同じだけの言葉を返して説明するだろう。その量で信頼を示すためで、畢竟、考えを変えはしない。
デュランダルを困らせて時間を奪うだけだから、レイもそんな事もしない。
「そんなものは……ありませんよ」
認めたくはないが、そうだ。たとえ信頼はあっても、レイの言葉は何も影響しないのだ。
そして、デュランダルとのつながりは、知られるわけには行かないことだった。
「……だから、彼らの遺志を無かったことにすると。事実を歪めて?」
「……生き残った人達には、真実の落とし所が必要だよね」
真実と事実は違うのだ。悲しい事に、レイはそれを嫌と言うほど、身に染みて理解していた。
「サイ=アーガイル。貴方は多分、嘘つきだ」
「同感だね。そしてレイ=ザ=バレル、君は多分、過去を見過ぎてる」
――自分は未来を見ているつもりか。
その傲慢さに腹が立つ。
そして、今は激発の時ではないが、鋼の巨体を纏って対峙したとき――未だ彼に勝てないと、
分かって居る自分にも同じだけ苛立ちが湧いた。
「さて、僕も君に一つだけ、聞きたいことがあるんだよ。本当はもっと別の事を聞きたかったけど、
代わりにコレだけ聞いて置くことにする」
いつの間にか太陽は空を朱に染め上げていた。
14/
「僕と話して、君は知りたい事を知ることが出来たのかな?」
「なぜ……そんな事を?」
「うん。僕が君を誰かじゃないかと思ったように、君は僕を誰かだと思ったんじゃないか。
ひょっとして、まだ僕に向かって言い足りない事が在るんじゃないかなって思って」
「キラ……ヤマト?」
「僕の勘は人違いで終わったけれど……どうやら君は、誰かを見つけられたのかな?」
「キラ=ヤマト――お前は!」
「"ソイツ"はここに居ないよ、レイ=ザ=バレル。でも、僕は君の威圧感に良く似た人を知っているんだ」
アーガイルは――否、レイは否定された今こそ確信を持って呼ぶ――キラは、夕日に背を向けた。
レイから顔を背けたといえるほどには、レイ自身が強さを持っていなかった。相手の立場も考えずに
本能のまま殴りかかることのできる、シンの無分別な強さがこの一瞬だけ欲しかったが、
それが得られる事は永遠に無い事も分かっていた。
「三尉……ここに居たのか」
アレックスがドアを押さえて立っていた。後にカガリとシズルの姿を認めて、
レイは自分を急激に覚まさなければ行けない時間だと知った。
「三尉、時間を取らせて失礼しました」
敗北感に塗れた理性から振り絞る言葉は、真水に落としたインクのように、憎しみを混ぜ込んでいる。
声の震えは心の揺らぎ、抑える事など出来そうになかった。
「うん……じゃあまたね」
振り返りもせずに、キラは言って去る。
顔も目も合わせたくないが、その顔だけは二度と忘れない。
一つだけ分かったことがある。ブレイクザワールドの日、レイがムラサメのパイロットに直感を得たように、
キラもまたレイのプレッシャーを感じて探しに来たのだ。彼らは矢張り、天秤の両端に乗るべきだった。
「ラウ……貴方を殺した奴が、すぐ近くに居ます。けれど許してください。
俺はまだ、奴を殺す事ができない!」
レイはこの日、仇を見つけた。
15/
ブレイクザワールドより一週間――低軌道
日光を白銀に反射する投網が真空に広がり、太陽風に軽くそよいだ。
繊維の一本一本が人間の胴ほどもある太い金網を手繰るのは、ザクの腕だ。
『ネット放出完了! 後は展開だけですね』
「ダッチも手際が良くなったもんだが、まあ、俺に比べりゃまだまだだ」
『そりゃあ隊長には敵いませんって』
威張る声すら様になるハイネ=ヴェステンフルスのザクファントムを隊長として、
ザクとゲイツRがトラクター・ネットを手に、汚染軌道へ散開している。
『隊長、軌道との交差まで七分切りました』
「よっし。クラウスはそのまま、周辺の警戒怠るな」
『しっかし、議長は本当に降りるんですかね、この状況の地球に』
「だから掃除してんだろ。ゆっくりしてたら俺たちで弾除けだぞ」
とはいえ、未曾有の惨事から一週間、働き詰めの隊員を休ませてやりたい。
「これが終わったら、一旦ノウェンベルに帰還だ。一坏やろうぜ」
『へへっ、おごりは久々ですね』『ごちになりやす、隊長!』
「事故が無かったら、だ。地球産が飲みたけりゃあ、ケツを締めて作業やれ」
自然とハイネの気前も良くなっていた。
デブリに飛び込むストレス、それを除けば優しい任務だ。
最新鋭のMS装備に加え、隊員はヤキン=ドゥーエを共に生き延びたベテランばかり、
肩の装甲を黄昏色に染めた"オレンジショルダーズ"はザフトに名高い。
『隊長。デブリに紛れて接近する機影があります』
「……あん? 何処だクラウス」
だから、クラウスの駆るザクウォーリアが不審な機影を察知したときも、
誰一人として不安を感じるものは居なかった。
『三時方向東北天に三つ、アンテナ張ります……高エネルギー反応!?』
叫びと同時に宇宙が燦めく。攻撃を受けたアンテナの蒸発煙に包まれて、ハイネの視界から
ザクが消えた。
「ダム。撃って来やがった……迎撃、迎撃だ。ネット捨てろ! クラウスは無事か!?」
『――健在っす。敵はビーム兵器、海賊じゃないっす。ネコ1、ネズミ2を確認。パターン照合中』
素早く予備のセンサーを展開するザク、有線で繋いだアンテナを機体から離したことが
ザクを直撃から救っていた。MS1にMA2は、数こそ同じであっても俄然ハイネ達の有利だ。
16/
「散れ、先に目を潰すクソ脳ミソの在る奴だ! クラウスが後、ダッチはランダムウォーク!」
隊長を務めるハイネが矢継ぎ早に指示を下すと、クラウスのザクとダッチのゲイツが散開した。
指示を受けるでもなくデブリ捕集のためのネットを前方に展開、障害物とする咄嗟の機転は、
"フェイス"のハイネに従うだけの練度がある。
「この三日で無人の偵察機が二十は消えてたのは、こいつの仕業か!」
『オレンジショルダーズに喧嘩を吹っかけてくるなんざぁ、宇宙の道理も知らない奴ですね』
回避乱数で狙いを絞らせない機動を行い、前面で囮となっているのがダッチだ。
敵を叩きのめす気迫の充溢している様子だったが、それこそがハイネの危機感を煽った。
味方が調子に乗るときは不味い。ハイネはビームライフルをMSの影に向けた。
「油断するなよダッチ。クラウス、敵影は!?」
『距離三千から接近中――なんだこれ、まるでミサイルです!』
クラウスの言うとおり、ザクファントムの構えたからダッチのゲイツR同様ランダムウォークで
狙いを逸らす機影は、短距離ミサイルのような加速を見せていた。
「FCSが追いきれない、何処の機体だ?」
ハイネが叫び、そして幾つかの事が瞬間に、それでも順番に起こった。
MAがミサイル/ザフトの"ファイアーフライ"を発射――ハイネ隊を襲う強烈なジャミング
――母艦との連絡を断たれたMSが、熱紋識別領域に機影を迎える。
そして、隊長機のハイネだけが結果を知った。
「カオス――だと!? 全員、退却!」
自機のブレイズウィザードから"ファイアービー"誘導ミサイルを全て放出しつつ絶叫する。
二種類の短距離ミサイルが共食いによって、ハイネ隊とカオス両者の中間に爆炎の花を開く。
ゴミ掃除の部隊が散らした粉塵を裂いて、小さな影が飛び出した――二つだ。
『MA2、先行して接近――』
「――ソイツはドラグーンだ!」
本来ミサイル以上の機動力がある機動兵装ポッドが、ミサイル"並み"の加速でしか動いていなかった。
それはつまり、宇宙戦最強の機体が手加減していたという意味だ。
『あの、カオスってのはアーモリー・ワンから盗まれた――』
「馬鹿野郎、さっさと下がれ、ダッチ!」
と言うハイネの視界を三条のビームが横切り、その全てがゲイツRに吸い込まれた。
カオスの本体は未だ粉塵の向こうだ――ポッドからのフィードバックだけで狙撃を!
分析するハイネは――味方の死は割り切れ、出ないと自分が死ぬ――爆散するゲイツRから
目を背けざるを得なかった。敵と、生き残りの味方だけが見えていた。
17/
『下がってください、隊長!』
アンテナを切ったクラウスが、自分のザクから"ファイアービー"を放った。
ビームライフルの点ではなく、面をもって制圧するミサイルの群れにカオスはしかし、
悠々とした機動で引き回しながらポッドからの掩護を使い、一基ずつ対処していった。
『隊長!』
「すまないクラウス……もう下がれねぇ……」
その時点で、ハイネはすでに悟っていた。相手が絶対に引き剥がすことの出来ない
カオスで在る以上、母艦に連れ帰るわけには行かない。
『自分が引き付けますよ、だから隊長は――』
「馬鹿、俺ですら十秒も持ちそうに無い以上、殿なんて意味が無いんだよ」
『……』
「頭切り替えろよ、じゃないと死ぬぜ?」
『はは……』
あくまで生き残るつもりで居るハイネの台詞に、クラウスが乾いた笑いを漏らした。
"ファイアービー"を壊しつくしたカオスが、余裕の動きでザクを見る。その背中に
二機の機動兵装ポッドがたどり着いた。
『けど、倒してしまってもいいんでしょうが、ハイネ隊長?』
身を捻って怪鳥の姿に変形したカオスが、全力加速を開始する。
『ダッチの仇を取りましょうぜ!』
「応、ねらい目はポッドを戻す瞬間だ、カタログデータでビームは十一発!」
トラクター・ネットに引っかかるかと思いきや、鷹が爪をきらめかせるように展開した
ビームサーベルで障害物を切り裂き、カオスは勢いを殺すことも無くビームを放った。
"カリドゥス"の猛火に秘められた熱量が、至近弾を受けたクラウス機のライフルを溶かす。
『ぐぅ……!』
「コレを使え!」
ハイネは手持ちのライフルをクラウスに私、自身はビームトマホークを抜き放ち突撃した。
カオスが迫るその時に、ハイネは恐らく最後であろう、クラウスに向けての命令を下す。
「ライフルの連射間隔を最短にセットしろ――死ぬなよ!」
4
円
18/
――ガーディ=ルー 艦橋
「敵モビルスーツ、二機目が沈黙しました」
「"カオス"残存プール電力、六割です」
慣性航行中のブリッジは静かな報告のみが響き、艦長のイアンにはたまに装甲板を叩く
デブリの断末魔が聞える程度だった。
「ふん、最後は中々粘るな。部隊長のエースといった所か……」
帽子のつばを握ってつぶやくイアンの声は、誰かに向けたものではない。
「信号弾放出。電力が五割を切ったタイミングで作動させろ」
「了解……敵の母艦は如何いたしますか?」
「深追いは必要ない」
MS隊が"カオス"に襲われていながら援軍を放出していない様子を見るに、艦載戦力は
残していないようだったが、イアンは不慮の事態を嫌った。
嫌が応にも緊張の解けてしまう移動時間を戦闘の合間にはさむことが、パイロットである
スティング=オークレーにとって過大なストレスとなることを見抜いていたためでも在る。
「ししししかし艦長、た……対艦戦闘能力を測る絶好のき、機会かと……」
もう一つの理由は、忌々しい事に拳銃を握った事もないような手をしていながら、
戦況に口を挟むこの人間鍛冶屋の存在だった。
「ここ、今度こそは艦長の命令を効きますよう、念入りに、それはもう念入りに調整を
重ねておりましてねぇ……」
「必要ないと言ったのが、聞えませんでしたかな?」
「ひぃ……っ!」
年端も行かぬ少年の心身を回復不能に弄繰り回し、死地に戦地に向かわせて居る男は、
イアンの軽い殺気にも失禁しそうなほど慄いていた。
――哀れなものだ。
イアンは三機目を着々と損傷させつつある"カオス"の少年に憐憫の情を覚えた。
調整された理性故に味方を守るため暴走し、その結果、限界に近い調整を受けている。
コーディネーターを狩る為に作られるナチュラルの改造兵士は、歪で狂った論理と
倫理を感じずには居られなかった。
更に非情な事に、実際のイアンは戦力としてのスティングに、全く期待して居ないのだ。
洗脳で服従を引き出した、持続不可能な戦力を望まないのは、むしろ軍人としての義務である。
「ポイントE6、距離一万より敵影出現しました。数二、種類は不明です」
「敵の増援だ。撤退させろ」
イアンは即座に命令を下した。
信号弾の明かりを見守るその左手が、胸ポケットの懐中時計を触っている。
家族の写真を収めたそれは、冷えた硬さを指先に伝えるだけだった。
19/
「おい、返事をしろクラウス……クラウス!」
それは、戦闘というには余りにも一方的な殺しだった。
カオスの異常な速力を前に、なす術も無く屠られたザクは原形を留めずに浮かんでいた。
中身の見えないコクピットへと飽きずに呼びかけるハイネの背筋を、氷の柱が貫く。
目前に迫った"カオス"から発せられる圧倒的な威圧感が、ザクを繰る腕を凍らせていた。
「う……動けぇ――!」
ロックオンアラート、ビームの数条が飛び交う。ハイネは右腕を左腕で殴りつけて叫んだ。
強張った腕で凍りついた機体を揺らし、コクピットだけを死守したハイネのザクは、
カオスの機動兵装ポッドから放たれる赤いビームに四肢をもがれて無為に漂う。
「なんなんだ、なんなんだお前は――!?」
ハイネの目には、索敵レーダーに示された二つのシグナルも、敵の信号弾がつげた撤退の合図も
映っていない。ただ、深緑の装甲と妖しく光るツインアイだけが、双眸に入り込んでいた。
『……弾切れだ』
――たまぎれ? それは何だ。死を告げる混沌の言葉か?
意味すら分からぬハイネの前から、反転したカオスがあっという間に消え去る。
行動不能のザクでどうしようもないまま、ハイネはカオスがもう一度反転して、
加速接近からビームサーベルでコクピットを切り裂く瞬間を待っていた。
去り際にポッドを切り離し、赤いビームで自分を伐ち貫くのを今か今かと待っていた。
やがて、彼の元に二度と"カオス"が戻ってこないと知った時――「無事か?」通信が入る――
ハイネはモニターの中に、二機の"カオス"を見た。
「ああああああああああ! 増えたのか、俺の部下を殺しておいてお前は増えたのか!」
「落ち着いてくれ、ハイネ=ヴェステンフルス。こちらはコートニー、プロトカオスだ!」
ああそうかそうか、その声は確かにコートニー=ヒエロニムスだ、それがカオスに乗ってるって
言うのはつまり、俺の敵に寝返ったわけだな!
我を忘れたハイネの思考は、異常な回路に陥っている。
「"幽霊戦艦"を追っていたが、襲撃の察知が遅れた為に君の部下が……本当にすまない」
「貴方の母艦は無事だから、だから……」
その声はリーカ=シェダーか。メガネウサギは確かにリーカのマークだ。ガイアのテストパイロットが
プロトカオスに乗ってるなら、二人とも寝返ったのか、敵だな。
さあハッチを開けろコートニー、助けの前に呑気に機体をペイントしていたあばずれともども、
自前の牙で食い殺してやる。ハイネは歯を剥いて行動に備えた。
「"フェイス"だろう、落ち着け。熱でハッチが溶けて開かないから母艦まで引いていくぞ」
「生命維持装置がもたないから、動力を切るね。暗くなるけど我慢して」
「関係在るか……! 俺の、俺の部下を返せ……クラウス、ダッチ……あいつらに吐くほど酒をおごらせろ!
カオスめ、カオスめぇ! 許さねえぞ、重力の底だろうと何処までも追ってやるから覚悟しろぉ!」
そして、やっと、やっと理解した。クラウスとダッチは死んだ。部下を見殺しにした自分一人が、
援軍に助けられてぬけぬけと生き残っていて、死んだモニターを殴りつけている、破壊衝動が収まらなかった。
手袋の中で皮が裂け、骨にヒビが入っても、何度も何度も、飽きることなく繰り返した。肉ではなく、
骨に怒りを刻みつけた。この気持ちだけは、風化させてたまるものか。
「ちっっっく……しょおおおおおーーーー!」
叫びは自然と口から出て、反響するコクピットに溜まっていった。
支 †=まとめの人? もうまとめに有るのなんで?
1/
ウミネコの鳴く軍港はイージス艦が模型に見える程に広く大きかったが、
少し高台からその港を臨む古びた本屋は悲しいほど狭かった。
陳列された極薄の電子メディアを即時印刷してくれる機械が在るのだが、そうと知らない
一見の客は必ず品揃えを心配する店である。店内でハタキをふるって埃を払っていたカズイは、
店の駐車場に客らしき車が入ってくるのを、珍獣でも見つけたような目で見ていた。
「よっ」
「やあ……サイ」
路面にブレーキの跡を残し、たった二台分の駐車スペースを一台で埋めてくれた車の、
助手席から出てきた男と交わした会話はそれだけだった。
「うわあ、本当にお客さんなんか来たんだ。この店」
「たまたま近くに寄ったから様子見に来たけど、大丈夫かよ?」
「なんとか、ね。何か探してる本でもあるの?」
「あー……ナチュラルとコーディネーターがお互いに理解する本、なんてあるかな?」
カズイは黙って棚の一角を指し示した。
ファンタジにフィクションにSF。まあとにかく、そういった棚だ。
一応コメディの棚も探しては見たが、『世界のジョーク大全集 オーブ版』位しか見つけられない。
「野球監督とオーブ氏族は良く似ている。両方とも、酒場の親父が"自分ならもっとやれる"と思う。
違うのは、それが事実かどうか……なんだこれ?」
「一応、ベストセラーだよ」
「世も末だ」
「ああ、サイ君サイ君……ちょっとお姉さんは待ちくたびれた、かな?」
見ると、ワインレッドのスーツに固めた女性がサイの背後に立っていた。
ヒールの分だけサイより背が高く見える。
「ええっと……アーガイルの彼女さん?」
「そんなーーー、彼女さんだなんて、そんなっ! そんなっ! ……ねえ?」
そんな、のたびに全力でサイの背中を張り手するので、サイは息が詰まって反論も
出来なくなっている。"お姉さん"とやらは耳まで真っ赤にしていた。
「ところでさ、サイ君サイ君って繰り返すとまるで細君みたいに聞えないかい?
男なのに奥さんかよーみたいな! それじゃ、車で待ってるね!」
うわー、この人テンションたかーい。たった三十秒でげっそりしたサイとカズイは、
彼女から見えないように目を合わせて肯きあった。男同士の無言の詩が、そこには流れていた。
――大変だね。
――ああ。
21/21
「で、あの人がコーディネーター? ……そう、だったら今日入港する"ミネルバ"を見に来たんだね」
「ああ、けど本人は"入港反対"と"おいでませ、オーブ"、両方の垂れ幕を作ってきてるんだ。
此処まで来てなんだけど、未だにどっちに参加しようとしてるのか分からない」
反物質兵器を搭載したミネルバ受け入れについては、地元住民の反対を氏族会議が無理矢理
押し切った形で問題は先送りにされている。だが、身を呈して被害を防ごうと尽力したザフトの艦に
歓迎を占めそうとするオーブ人も、特に残留コーディネーターを中心に多かった。
「……でも、反対デモにしては遅すぎない?」
「そうそう……何故かキラの奴からさ、暫くは出歩かないでねって言われて、急に連絡が来たんだぞ?
今日まで家でゆっくりしてたんだけど……ゆっくりしていった結果がこれだよ」
家でゆっくりしていたって、必要以上にやせこけた君の顔はそう言う事なのかい?
急に遠くまで行ってしまった友達が余りにも眩しくて、カズイは目を背けた。
「そっか……君も大変な人に捕まっちゃったね。ああ、来たみたいだよ?」
「おっと、こうしちゃ居られない! じゃあまたな。ミリアリアの連絡先は知ってるか?」
「ううん、件のエルスマンに付いてったきりで、偶に手紙が来るくらいかな。
危ない紛争地帯をめぐってるらしいよ!」
後半は、遠ざかるサイに向けて声が大きくなった。この小さな本屋で声を張り上げるなど無い事だ。
「やれやれ、行っちゃった」
箒を手に外に出たカズイは、軍港にドック入りしつつある"ミネルバ"の、煤けた白い艦隊を見て、
今日は早仕舞いしようかな、等と考えていた。
店先に溜まった埃と塵を払っていく。空は多少粉塵に曇っている程度で、
此処最近の感覚からいけば、まあ晴れの部類だった。
白い艦から発進したムラサメが二機、編隊を組んでカズイの見上げる空を二つに裂く、
跡に引く飛行機雲で分かたれた空の、どちらがどちらのもので在るか、等と考えなくても良い国が、
少なくともオーブだろうとカズイは思った。
前スレが落ちた為に、今日二度目となりました投下終了。
>>23>>24、
>>27さん
支援の方本当に有り難うございました。
>>27さん
先ほど落ちた前スレにも投下しているので、まとめ管理人様がそちらをみて
まとめられたのだと思います。
感想、ご指摘などがありましたら遠慮なくどうぞ。
>>31 本棚に「少女マテリアル」と「年刊中年チャンプ」が在る程度には。
投下、乙です
議長は素直にオーブの提案に乗らなそうだな〜
サイと一緒にいる女は誰なんだろう
続き期待してます
「四月一日 −No.8−」 −Night of Midsummer−
(1/2)
エイプリルフールの夜。もう十分ほどで日付も変わる。
昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。
「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。
「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っておく。
「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
だから、
「そうだな。うん、分かった」
と、あっさり返す。
ルナは少し驚いたように目を瞬かせたものの、数秒後には笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
そう言いながら玄関へと向かう。
どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、部屋を出て行った。
玄関のドアが閉じる音を聞きながら、俺は考えた。
ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。
(2/2)
それは分かっていた。
だが、俺はルナの後を追って部屋を飛び出した。
スーツケースが重かったのか、ルナはまだ数メートル先にいた。
俺がドアを開けた音に驚いたらしく、目を丸くしてこちらを見ている。
その距離を数歩で詰めて、俺はルナを抱きしめた。
「行くな!」
腕の中のルナの戸惑う気配がする。
しかしやがて、
「うん……」
と、小さな声と共に、背中に両手を感じた。
俺はルナの肩を抱いて、俺たちの部屋へと戻る。
今夜は真夏のように暑い。
「四月一日」のバージョン5になります。
毎度の事ながら、他バージョンを既読の方は2レス目からだけでもOKです。
>>30とんこつラーメンの人乙!
とんこつラーメンはわりと好きです。
ハイネの
>>20-26がすごかった!続き楽しみにまってる!GJでした。
>>36きしめんの人乙!
きしめんは食べた事がないので・・・
でもIn the World〜は好きです。In the Worldも続きまってる!
>>†
投下乙
歴戦の赤服ならばミネルバ前に当然こういう戦歴はあるだろう訳で
いきなり相手がカオスなのもイカス!
なかなか設定的にもハマって居るとも思う
そしてカズイは本屋か……。なんてピッタリなw
但し惜しむらくは個人的主観ではあるが少し戦闘描写がクドイか?
戦闘のスピード感より新庄を優先して様にも見える
だがむしろ今後ハイネを活躍するならば多少クドイくらいに印象付け
が必要なのかも知れないな。
『主な相手』がイアン艦長なのもスピードが落ちて見える原因か
いずれにせよ複数回投下も含めて毎度お見事。と言わせて貰おう
>> 4/1
投下乙
バージョン5と言いながらもしもシリーズ原型なのだろう
どんでん返しもオチもない、普通な感じでこれ一編だったら正直ツマラナイだろう
だが、他のバージョンがあることで『普通』がむしろ生きてくるのだな
>>†
レイとサイ(仮)の対峙にドキドキした。
本物のサイの動向も気になる。
>>河弥
4月1日なのに真夏? と思って再読したらなんとなくわかってニヤリとした。
だがbフ意味がわからん。
俺は『†』のクドイくらいの戦闘シーンが好きだったりするな。
たまに読んでて背中がゾクッとする時があるんだよなぁ。
>>40 済まぬ。『今回は』が抜けた
俺も好きなんだ
1/3
「だ・か・らぁっ! 一体なんなんですかっ!これはぁっ!」
陸上戦艦レセップス級アンコールワットのハンガーに、ティモシー・チェンバレンの悲痛な叫びが響く。
「なにって、お前の機体じゃないか」
顔を紅潮させて怒りと哀しみが入り交じったチェンバレンの肩を、ザク整備主任のヒーマ・ジーンが叩いた。
ジーンの顔には、仕事を終えた男の持つ独特の充実感が浮かんでいる。
「そんな事は百も承知ですよ! 僕が聞きたいのは、なんでこんな事になってるのかですよ!」
チェンバレンは改めて彼の愛機を見上げた。
真紅に塗られ、『連合上等』、『狂音烈士』、『殺戮天使』『暗虚悪流輪斗』等というあまり頭の良さそうではない言葉が書かれている。
「なにってなぁ。お前も赤なんだし、専用機体がほしいだろ? だから、ザク・ファントム・アンコールワットスペシャル・チェンバレン仕様にしたんだ」
どうだ、シブいだろ、と付け加えるジーンは、チェンバレンの憤りなど何処吹く風といった風体である。
「シブくなんかないっ! これを見て格好いいと思ってたら美的センスがどうかしてるっ!」
ジーンの態度はチェンバレンの怒りを加速させる。
「ああ、なるほど。日章旗カラーかファイアーパターンじゃなきゃ駄目だったか」
「論点はそこじゃないっ!」
チェンバレンのこめかみに青筋が浮ぶ。激した感情のせいなのか、心なしか息も荒くなり肩で呼吸をし始めた。
彼の声の大きさに、ハンガーにいた整備員達はチラチラと怪訝そうな視線を送っている。
「別になんでもありませんよ?」
取り繕うチェンバレンのぎこちない笑顔に、整備員達はからかう様に囃立てる。
「分かってますって。主任との痴情のもつれだなんて誰にも言いませんから」
その言葉にチェンバレンがキレた。
「アンタは部下にどんな教育をしてるんだぁーっ!」
外聞を気にせずに話題の主はジーンの首をグイグイと締め上げる。
「教育したのはアカデミーだ! 俺じゃねえっ!」
ジーンはそう叫ぶと金魚の様に口をパクパクと動かしてチェンバレンの腕を叩く。
しかし、頭に血が登ったチェンバレンは更に力を込める。
「凄いプレイだな」
「ああ、命懸けてるな」
誰もチェンバレンを止める事なく、三十秒後にグッタリとしたジーンは解放された。
2/3
部下が気を利かせて持って来た缶コーヒーを飲み、ジーンはひとごこちついた。
流石にやり過ぎたと自覚したのか、チェンバレンの口調は穏やかなものになっている。
「なんでも良いですから、元に戻して下さいよ」
「お前の為にしたんだぜ? 人の好意は素直に受けとけよ」
首を締めるなよとチェンバレンを牽制しつつ、ジーンはザクファントムを見上げる。
「何処に好意があるんですかっ! ジーンさんのは善意の押しつけって言うんですよ」
「あれだけ派手なら戦場で殺される事はないだろ」
戦場。ジーンの発した言葉に、チェンバレンは反応する。
「後方支援、整備のジーンさんに前線の事が分かるんですか?」
ジーンはポケットからタバコとライターを取り出して慣れた手付きでタバコを咥えて火を付ける。
自然な動作ではあるが、ある種の威圧感を感じさせる。
「……分かるさ、俺だって戦った事はある。たった一度、一度だけだけどな」
口ごもりながらのジーンの言葉に、一度だけで自慢ですかとチェンバレンは返したが、その言葉を口にした瞬間に後悔した。
ジーンの纏う空気が変わり、目の色が重く沈んだものになったのだ。
一息タバコを吸い込み、手にしたタバコの紫煙を揺るがせる様に煙を吐き出す。
「まあ、確かに自慢する様な事じゃないわな」
ジーンは自嘲染みた笑みを浮かべると、丁度良いから昔話をしてやると小声で呟いた。
――前の戦争のパナマ。俺はあそこにいた。お前も知っての通り、あそこでの戦いは楽勝だった。
……楽勝ってのがミソでな。いや、本当に楽勝だったのかも定かじゃない。
なにしろ、あそこであったのは戦いって呼べる代物じゃなかったからな。
……一方的な虐殺ってヤツだ。グングニルだかなんだか忘れちまったけどな、そいつの影響でパナマ基地は沈黙。
後はナチュラルどもを七面鳥打ちさ。白旗上げてようがお構いなし、皆殺しさ。
ああ、勿論俺もそれに加わった。熱に浮かされたみたいにナチュラルを殺したよ。
奴等が泣こうが助けを求めようがお構いなし。皆で皆殺しをしたのさ。
まあ、なんにせよ、だ。お前の言う通りかもしれない。俺は戦場ってのを知らないのかもな。
お前もそう思うだろ?――
3/3
ジーンの語った話にチェンバレンは二の句をつぐ事はない。
静かに、淡々と語ったジーンにはいつもの様な何処か人を食った様な雰囲気を感じさせなかった。
「ああ、この話は他言するな。あまり広められたくない暗部ってヤツらしいからな」
チェンバレンはジーンの言葉にただ頷く事しか出来ない。
人に歴史あり。その言葉を噛み締めるチェンバレンの顔は青褪めてこわ張っている。
が、ジーンの話と珍装されたザクとは関係が無い。
「で、どうしてザクがあんな珍装なんですか?」
「そりゃあ、目立つからだろ」
チェンバレンは全く噛み合わない会話に頭を抱える。
「目立ちたくないですよ! あんなんじゃあ的にしてくれって宣伝してるだけじゃないですか!」
ジーンは溜め息を吐いて七分程の長さになったタバコを指で摘んで揉み消す。
「殺す側にとってな、地味で目立たない奴が殺し易いんだよ。個性も何もない、ただの置物って思えるからな。
目立つ奴ってのは的にしやすいが殺し難いんだ」
「本当ですか。信じますよ?」
不思議な説得力のありジーンの言葉に、チェンバレンは渋々と同意の意を現す。
が、ザクに書かれた文字の一つに目を剥いた。
「……ちょっと待って下さいよ。『美月愛羅武優』ってなんですか?」
「ああ、それは『ミツキ・アイ・ラブ・ユー』だ。お前もあの娘の事好きだろ。俺には分かる。なんたって俺もあの娘が好きだからな」
チェンバレンは顔を紅潮させてプルプルと震え、再びジーンの首に手をかけた。
「消せっ!今すぐ消せっ!痕跡一つ残さず元に戻せっ!」
「ちょ、待て! その前に俺の命が消える! そもそも俺はこんなプレイは嫌いだ!」
「まだプレイとか言うのか、この口はっ!」
ハンガーの乱痴気騒ぎを生温かい視線で見つめる人物が二人。
「なにやってんの、あいつら。ねぇ、ミツキちゃん、分かる?」
「さぁ? サイトーさんに分からなきゃ私だって分かりませんよ」
遠くで見ていたトメ・サイトーとミツキ・シライシは呆れて溜め息を吐くだけだった。
――fin――
45 :
ひまじん:2008/08/08(金) 22:19:06 ID:???
お久し振りです。謎短編を投下してみたよ。
1/
「大丈夫、ニナちゃん?」
寮の一室でうなされていた私は、友達の呼ぶ声に助けられるように目を覚ました。
日の出前、彼女の持つランプの明かりだけがお互いの顔を照らしている。
「何でもないわ……気にしないで」
汗で濡れた背中と、冷え切った手足をゆっくりと確認して身を起こした。
「……泣いてたの?」
「分からない……私は泣くことなんて、無い」
頬に触れた彼女の指先が、夢の名残をたどるように涙の跡をなぞる。
すごく、すごく嫌な夢を見ていたような気がした。
彼女は、ポットから注いだお茶を手渡してくれた。喉を潤すものが甘露のように感じられて、
乾ききっていた自分に気付く。
俯く私を上目遣いに覗き込む瞳は、晴れの日の空を思わせる深く澄んだ蒼だ。
見つめられて感じる後ろめたさは、夢に彼女が出てこなかったからだろうか?
「もう一眠りする時間があるわね……」
あの人からプレゼントされた置時計を見る。
毎日の勉強はとても苛酷だ。一位をキープしようとする私は、寝不足で授業を受けるなど出来ない。
二、三言葉を交わしてベッドに横たわると、彼女がシーツの中に潜り込んできた。
「――ちょっと……!」
「えへへ。たまには良いでしょ――?」
ベッドの幅は一人分だ。窮屈さを気遣うつもりはないのか、ぴたりと密着してくる。
息遣いが首筋に掛かる距離。
ルームメイトはもう一人居る、彼女を起こさないように、小声で話した。
「ねえ、どんな夢を見ていたの?」
「アンタに関係ないわ、早く寝なさい」
「えー……気になるよ」
「覚えてないの――きっと楽しい夢じゃないわ。それでも、アンタが居なかった事だけは覚えてる」
「ふぅん、それは寂しいよね。次はちゃんとニナちゃんの夢に呼んでね」
例え夢の中でも、彼女が居たらそれだけで騒がしくて――けれども楽しくて――
私は眠りながら泣いていなかっただろう。でも、彼女を呼ぶには嫌な夢だった。
「ええ……」曖昧な返事をして、それきり目を瞑る。彼女も何も言わず……それどころかすぐに
規則正しい寝息が聞こえてきた。この健康優良児め、おやすみなさい。
指先に彼女の髪を感じて、夢うつつに絡めて弄る。私の髪とは違って柔らかい。寄り添う彼女は
とても暖かくて懐かしくて――覚えてはいないけれど、まるでお母さんのように思えた。
意識が、深いところに落ちてゆく。
さっきの夢の続きは見ないで済むような気がした。
2/
そして――
「起きろニナ、仕事の時間だ」
エレカの助手席でそんな夢を見ていた私は、上司の小突かれて目を覚ます。
仕事だ、今から沢山殺さなくては――今年の秋は早くも寒い。
舞乙-SEED『†』 踊る人形
エレカは路地裏で止まる。降車すると、待っていた男が無言で乗り込み走り去った。
「今からお前は俺の娘のニナ=ウォンだ。他の名で呼ばれても返事するな」
「……はい」
親子連れを装って表通りへ――町明かりに照らされる路の所々が浮浪者のたまり場と化している。
清潔なコート姿の私達は、自然と彼らの舐めるような目線を受けた。
半分は、誰かから貰う時を待つ半死人の目。半分は、誰かから奪う隙を伺う人面獣の目。
――私はどっちだったろうか。そして今は、どちらの目をしているのだろうか。
「どうしたニナ、あっち側に帰りたくなったか?」
「…いえ。冬を思い出していただけです」
あの冬には帰りたく無かった。
「動かなくなった奴から服を剥ぎ取るような冬か。ゴミを漁り、土下座して食い物を恵んでもらう冬か?」
「まるで、見てきたように言うのですね」
「何処でも同じだ……どの道、あちら側に帰る術など用意されて居ないさ。
人生を降りるまで、殺し続けていくだけだ。それとも豚の家畜になる方を選ぶか?」
私がそうだったように、人間は立派な"商品"になる。
ラボに送られ、設計どおりの性能を得られない素体は、他所に売られることもある。
"そのまま"か"ばらばら"か、それは知ったことではない。私は幸運だったのだろう。
現場に向かいながら、頭一つ以上高い位置にある顔を見上げた。
「何故、同じブルーコスモスのメンバーを狙わねばならないのですか?
私たちはコーディネイターを殺すために居ると思っていたのですが……」
「……質問するな。疑問に思うな」
「――! すいません、忘れてください」
――もう一度ラボで調整を受けたいのか? 口ほどに物を言う目で射抜かれて、体が凍る。
ラボ送りは地獄行きと同義だ。
3/
「まあいい……これは独り言だ――いいな?」
「はい」
上司はぽつぽつと"独り言"を始めた。
「ロゴスの中でも、運輸関係に大きな力を持っていた爺さんだ。陸海空、そして宇宙を問わずな。
手広くやっていた爺さんだったが、今回は相手を選ばなさすぎた。何を売ったのかは知らんが、
ザラ派テロリストを相手にしたとなれば、組織も見過ごすわけに行かなくなったのさ」
「……」
「しかし爺さんのやっていた事は、それはそれで立派な商売だった。内部で粛正してしまうと、
結束が破れて困る。だからコーディネーターに殺られた事にしようとなったわけだ……」
「……」
「というわけで、コーディネーターの装備を使ってコーディネーターのように殺す事の出来る、
まあお前の出番なわけだ。ニナ」
「はい……」
独り言は終わったらしい。私はなんとなく、自分の不安定な立ち位置を確認した。
つまり、コーディネイターのふりをしてブルーコスモスの変節漢を殺せということで、
ファントムペインに"出荷"されていない私が適任だったということだ。
コーディネーターは保身の為にナチュラルを騙る。ならばその逆――きっと、今までに
何度も行われてきたのだろう。コーディネーターの仕業とされてきたテロの何割が……余りにも
栓の無い事なので、私はすぐに考えるのをやめた。
決して私の能力が上司に認められたのではない。それが分かって――人殺しとして完成する事は
とても忌まわしい事なのに――無性に腹が立つ。
意識的に早まった私の足に、上司は何も言わず付いて来てくれた。直に二人は
「現場到着。それじゃあ行って来い」
買い物と同じ気安さで送り出される私――殺しに行こうとしているのに。
鞄を抱えてホテルのロビーに入る。きらびやかなシャンデリア、私にはそぐわない世界。
上司と別れて、私は心の内で数を数え始める。1、2、3。
フロントで偽名を名乗り、預かり物を受け取った。15、16、17。
封筒に入れられたそれは、一枚のカードキーだ。
……やがて二百を数え終える。
自然と、しかし素早く――私はホテルマンたちの視線を潜り抜けて、従業員専用のエレベーター
入り口に立った。シーツや食事を運ぶためのエレベーターだ。受け取ったカードを端末に滑らせ、
開いた扉から白塗りの筐体に乗り込む。ここまで二十秒、誰の記憶にも残っていない。
私は天井のカメラが停止しているのを確認して、纏っていたコートを脱ぎ捨てた。
下は裸ではないが、それにも近い。体にぴったりと密着した金属質の"皮膚"は、MAやMSの
操縦者が着るノーマル・スーツにも見えるが、機能は似て非なるものだ。
4/
二百四十を越えたあたりで目を閉じる。
エレベーターはゆっくり昇って、そして止まった。自分の息遣いだけが聞える停止した闇の中で、
私は仕事道具を衣装のアタッチメントに取り付け終えて待つ。
三百――五分。
目を開けるとそこは暖かいベッドの中で、殺し屋の自分なんて悪い夢の中の冗談だった。
満面の笑顔で友達が言う。
「おはよう、ニナちゃん! 今日はお寝坊さんだね!」
すると私は頭を振って、今までの夢を全部からだの中から追い払った。
ああそうだ、今日は掃除当番だ。急いで着替えないと――
――なんて希望に満ち溢れた事も無くて、其処もまた暗闇だった。
ホテルのワンフロアが丸々、電力を断たれて照明の無い世界に閉ざされているのだ。
問題は無い。すでに慣れた私の目には、驚き慌てる男たちの姿がはっきりと見えたし、
銃で武装した彼らの気配を鮮やかに肌で感じることが出来たから。
ねえ、夢の中の貴女。やっぱり貴女を呼ばなくて良かった。
私はとても汚くて、此処は寒くて暗い世界だもの。
少なくとも友達なら、こんな所に来させたくない。
仕事の時間だ、私は意識のすべてを、肉体へと刻み込まれた条件付けに委ねる。
消えて行く私の自我――状況開始。
私/ニナ/ロゴスの機械は、その体は、武器/銃/ナイフを手にし、突撃してゆく。
今日始めて感じた暖かいものは、切りつけた男の返り血だった。
5/
暗闇に光るマズルフラッシュ――突如戦場と化したフロアの様子を、隣のビルから伺う
人影があった。
「はあ……一体誰がどんぱち始めてんのよ!?」
いらだたしげにため息を一つ。
マイクと一体のイヤホンを耳に当てていた女は、暗闇に反響する銃声に顔をしかめる。
『ナオ、突入のタイミングが早い、何をやっているんだ!』
通信機から聞こえる声は更に、ナオと呼ばれた女の鼓膜を破かんばかりの怒声だった。
「アタシじゃないわよ班長。どっか別の班とブッキングした訳じゃ……無いわよね。
よっピー、そこら辺どうなのか一応確認して?」
『今の所"処理班"以外に動いているチームはないぞ、ジュリエット――』
「アタシをその名で呼ぶんじゃないわよ。班長の手料理喰わすわよ」
「ひぃ……っ! それは勘弁!」
よっぴー、もとい"処理班"の下っ端を沈黙させたナオは、覗いた手持ちスコープの中に
高速で動き回る人影を発見した――こいつだ。
「だってよ班長。どっか心当たりが無いわけ、相手はブルコスとロゴスの幹部でしょ?」
『我々よりも早くブルーコスモスの動きを知る者、それはブルーコスモスに他ならない。
ナオ、直に突入しろ、我々の目的はあくまで奴の確保だ。殺させるな』
「はい、了解了解っと」
ナオは立ち上がった。
『それから、私の料理がどうして脅しに――――』
ぐしゃ。
イヤホンを踏み潰し、足首まで丈のあるジャケットを脱ぎ捨てる。
若々しく蠱惑的なボディラインが首からつま先まで、メタリックなデザインの衣装に包まれていた。
首元のスイッチを入れると表面の色合いがパールホワイトからエメラルドグリーンへと変わる。
モーターの駆動するかすかな音が全身から聞こえた。
「"ファクトリー"特製装甲強化服……さーて、と!」
カメラと連動した視聴覚ユニットを被り、フェイズシフト装甲服を纏ったナオは、
右手を振って組み込まれたギミックの調子を確かめると、その場で二、三飛び跳ねた。
乾燥重量二十キロ超――装甲の重みを感じさせない身軽さで助走を開始すると、
わずか三歩でトップスピードに達したナオは手すりを蹴りぬいて跳躍した。
重力から解放される動きに躊躇いは無い。回転する肢体が右手を振るうと夜闇に微かな輝線が走り、
自由落下の動きが変わる。窓に引かれる様に、回転するナオはガラスに映る自分の像――深緑色の
女郎蜘蛛――を蹴破り、ホテルの廊下へと侵入を果たした。
散乱したガラスの上を一回転、慣性を殺し、猫の如きしなやかさで体勢を保つ。
ナオの右手グローブが、甲高いモーター音上げてを極細のワイヤーを巻き取っていった。
この鋼糸がホテルの看板に絡みつき、墜死すべき軌道を変化させしめたのだ。
6/6
「わお、ブラッドバス――」
壁に身を潜め、そして目にした光景は血だまりだった。もしくは一方的な戦場。
混沌を生み出して居るのは少女型の暴風だ。
右手に収まるニードル・ガンと、マチェットに見えるほど大きなナイフを左手に、
踊る人形が一時も止まる事無く銃撃を掻い潜り、打ち出す銃弾と振るう刃とで一人ずつ、
丁寧な仕草で地獄へ送っている。
全ての生者が殺すものと死ぬものに分類され、瀕死と臨死が混在し、生死の境は消滅していた。
掴み、捻り、折り、投げ、躱し、捌き、往なし、駆け、迫り、切り、回り、狙い、撃ち、離れる。
個々の動作は人間の技、鍛錬によって再現が可能。
全体の流れは人外の業、常態の心身で実行は不能。
動作の収束から開始までに隙も無く淀み無く、絶え間ない舞踏を見て居るようだ。
銃口から身を躱す――回転する動きが即座にナイフの燦めきへと転化されて一人の首筋をかき切った。
膝を付く男を盾に銃弾を防ぎ、斃れた一人の顔面を蹴って跳躍――翻った肉体は空中で蹴撃に転じ、
また一人が延髄を折られて命を落とす。一瞬にして仲間二人が屠られた男は、驚愕の表情を刻んだまま
眉間に銃弾を受けて即死した。
輝く凶刃に目を奪われていた男は、自分が何によって殺されたのかすら理解しなかっただろう。
電磁力で針状の弾体を加速するニードル・ガンは、銃声も発射炎も漏らさない。
床から顔面を潰された断末魔が響き、小さな発射音によって途切れる。
四秒で三人――武装した成人を相手に、自動的な程効率的な死を量産している、
それが十代も前半と見られる少女だった。
――と、客室のドアが乱暴に開け放たれ、幼い死神を小銃の口が向いた。
たたたたたんっ! 鉛玉を浴びる少女はしかし倒れない。頭と急所を庇ったその腕は、
漆黒の輝きを放つ金属質なスーツに覆われていた。
PS装甲――少女は、ナオと同レベルの技術で作られた装備を持っている。
「班長、見てる?」ナオは同期された視聴覚ユニットに聞いた。
『見えている……出来れば無力化して確保しろ。たのんだぞ、ナオ!』
「出来ればやるわよ、出来れば……ね」
――いつか人事課をとっちめてやる。
「はーーい、元気に殺ってるう?」
意を決したナオは、右手を揺らめかせながら躍り出た。
少女は淡々と、硝煙を上げる小銃を左手で掴み、右手のナイフで喉笛を裂いていた。
天井まで吹き上がった返り血を、雨のように浴びる小柄な影が今、ゆっくりと振り返る。
「……」
感情の揺らぎがない漆黒の瞳と朱に染まったナイフの刀身が、ナオの全身を映していた。
C
何を血迷ったか分かりませんが、舞乙-SEED『†』、前編投下完了。
舞乙-HIME、鋼糸つかい、クロス
という単語に拒絶反応をを示される方は、まあ適当に読んで下さい。
では、また。
dat落ち条件
・レスが30未満で3日の空白がある場合
・レスが30以上でスレが立ってから90日を経過した場合
テンプレ入り希望
種死んぼ
――こんにちは! 栗田ゆう子です。
今日ははるばるプラントからお越しになったプラント評議員のイザーク・ジュール氏を案内してに陶人先生の所へお邪魔しています――
民俗文化に興味があられるのか、イザーク氏は陶人先生の作品を眼を輝かせています。それに引換え、山岡さんったらもう!
退屈そうに煙草をふかして……だからグータラ社員だなんていわれるんですよ?
「ほうほう、アンタはまだ若いのに中々の目利きじゃのう」
「ああ、下手の横好きだがな。先生、此方の棚の作品は作風が違う様に見えるのだが……」
「それは雄山が作ったもんじゃ」
海原雄山! 作品の出来に感心して見入っているイザーク氏とは裏腹に、山岡さんたら舌打ちをして苦虫を噛み潰した様な顔。
「海原先生の作品……。大胆にして繊細、雄壮にして華麗。実に見事と言うより他ありませんな!」
「雄山はワシの弟子じゃからなぁ。師匠が良いから弟子も良いものを作るんじゃ」
「これは一本取られたな!」
お二人は楽しそうに笑ってるのに、山岡さんたら酷い顔。
海原雄山の作品を誉めたからって因縁つけたらダメですよ?
「フン、あんな最低の人間に本当に良いものが作れる筈ないだろう!」
空気を読まない山岡さんにイザーク氏は顔を真っ赤にして怒り出してしまいました。
大変!なんとかしてフォローしないと……。
「なんだ、貴様ァッ!良いものを良いと言って何が悪い!」
「アンタが有り難がっている海原雄山というヤツは最低の人間だと言っただけだ!」
あらあら、二人は火花を散らすような視殺戦を始めちゃいました! どうしましょう!?
「イザークさん、此処はワシに免じて抑えてくれませんかな。この山岡士郎はワシの孫みたいなヤツなんじゃ」
有難う御座います、陶人先生! やっぱり亀の甲より年の効ですね。
「陶人先生、アンタに口を挟まれる筋合いはない!」
「貴様、陶人先生になんて口を!」
「よいよい。士郎、そういう頑固な所はお前の父親、雄山にそっくりだな」
びっくり!海原雄山もツンデレだったなんて!
イザーク氏は山岡さんを見て、意味ありげに笑っています。
「こんな無礼な男と海原先生が親子? ………成る程。深い事情があるようだな。俺の親友にもそういうヤツがいた」
何処か遠くを見るような、心此処に有らずといった感じでイザーク氏は物憂げに笑います。
「イザーク氏! その親友という方は……」
私の質問に対してイザーク氏は乾いた笑みを溢します。
「さあな……生きてるのか死んだのかも解らない。ヤツは頑なだったが良いヤツだった」
イザーク氏の話に皆沈痛な表情。山岡さんも同様です。
「憎しみは何も生まない。ナチュラルとコーディネーターだっていつか和解出来る筈だ。どんなに心に蟠りが有ろうが、それを乗り越えて行くのが今生きている我々の義務だ」
まだ私より若いイザーク氏は立派な考えなのに、それに引き替え山岡さんは……。 むすっと黙ってイザーク氏の話を聞くだけです。
「……いつか貴様が雄山先生と和解出来ると信じている」
――その後、イザーク氏の気分を害してしまったお詫びとして岡星さんの店でブラックさんを呼んで食事会を開きました。
民俗文化に興味がおありのイザーク氏はブラックさんの落語に大喜びでした。
ナチュラルとコーディネーター、山岡さんと海原雄山先生、どちらも和解できると良いですね!
――劇終
投下乙。タイトルで吹いたw
血迷い栗田投下終了。
7/
「はーーい、元気に殺ってるう?」
音声認識/対象を目視/判断項目の不足――やがて私は覚醒した。
「よっっくもまあ、これだけ殺して見せたもんよねえ」
周囲は鮮血の海。誰がこんな事を?
――決まっている、私だ。泥の中にいるような疲れが唯一、殺しの実感を湧かせてくれる。
身長は154から157センチの間、釣り目がちの碧眼に短い赤毛――私の"スーツ"と似た
金属質の衣装を纏うその女性は、軽々しい気配を漂わせながらゆっくりと近づいてくる。
「ああ班長? とりあえず接近してるんだけど……」
足取りに停滞はない。空気を撫でる右手――早撃ちの構えか?
彼女の腰元に銃は見当たらないが、重心を低く身構えて攻撃に備える。
「……んん? ふんふん……はぁい、了解」
こちらの攻撃手段は? 彼女の着ているスーツも、きっとフェイズシフト装甲による
防弾防刃機構を備えているだろう。狙うならば露出した頭部。しかし動きが早ければ躱される。
「アンタにちょっとだけ、話を聞かせて欲しいからさあ――」
"条件付け"から脱した私の判断は、機械人形に求められる即断即決からは遠い。
一歩、また一歩。決して速くはない動き、けれど隙の無い歩み。
私が背を向けたなら即座に全力疾走に移り(然も追いつかれる)滑らかさで、彼女は近づいてくる。
そして膨らむ威圧感、私はいつの間にか,彼女の間合いの中にいた。
「ちょっと、大人しくしてね――」
「――!」
彼女が発するプレッシャーの気配が臨界を越え、右手を振り上げてくる――拳銃か。
本能的に跳躍して射線を回避した私を、細い輝きが追ってきて――左腕に感じた抵抗が、
私に停止を余儀なくさせた。
「――何!?」
「捕まえちゃった――♪」
薄暗い廊下に微かな輝きが張り詰めている――ワイヤー? フェイズシフト装甲に食い込む
細すぎる輝線に繋がれて、刹那の間、女と引き合う格好になった。
「あまり動かない方が良いわよぉ。ねえ……右利き?」
たるんだ輝きが"ぴん"と張り詰める――なんという婉曲表現だ。
今や完全に敵と認識――した相手へ向かって跳躍。間合いを詰め、腕に巻きついた鋼線が
巻かれるよりも早く、ナイフの届く位置に潜り込む。
8/
――斬撃、衝撃。
私のナイフが彼女の首筋をえぐる直前、強烈な前蹴りがカウンター気味に私の胴体を襲った。
PS装甲も慣性を殺してはくれない。ウェイトに劣る私は軽やかに弾き飛ばされて――それは
同時に私が跳んで下がったからだというのもあるが――間合いを離される。
彼女はワイヤーを巻き取ろうとして、気付く。
「え――!?」
「ほどけ……胴だけで生きていけないのならば、少し不便になりますよ」
私は会心の表情を浮かべて言ってのけた。
私の腕を縛る輝きが、『彼女の首を一周して』モーターデバイスに吸い込まれている。
「ん……なかなかやるじゃない!」
彼女は右腕のワイヤーを基部からパージした。
これで、五指それぞれのモーターデバイスに取り付けられたワイヤーは残り四本。
私は足に殺気をひしひしと感じている。彼女は握った拳を私に向け、人差し指と中指を
同時に弾く――猛烈に嫌な予感を感じて、退いたその足元の床に、深々と切れ目が入った。
「早いわね……」
脚の代わりに床を裂いた鋼線は蛇の如くのたうち、斃れ伏した男の胴体に絡みついた――何故?
彼女と死体を結ぶ戦場に私の体が――首があって――!?
「えい――♪」
モーターが甲高い音をたててワイヤーを引く、鋼線が張り詰める、直線は私の首にまで食い込むはずで、
腕で庇った私の体は予想外の力強さで弾かれた。
「けどやっぱり疲れてるぅ?」
逸れた糸にざっくりと裂かれた頬が、意外なほどに血を流す。
そう、十人以上二十人以下――私は数すらわからない――を排除した疲労は、
全身にわだかまっていた。短期で仕留めねば勝ち目は無い。
頭の片隅に置かれたスイッチを入れるイメージ、何度も繰り返した想像力を辿り、
私は余計な思考を省いた反応状態に移って行く。
状況再開――戦闘続行!
9/
ホテル屋上で待機していたヨップ=フォン=アラファスは、
階下の惨劇から逃れてきたブルーコスモスの男を捕らえていた。
「その一より班長へ。目標、確保しました」
自由を求めてもがく初老の男を取り抑えつつ、班長へと通信を送った。
コールサインは手下その一、"処理班"内部での立場が知れる。
『ご苦労だった。直に帰還しろ。ナオ、そちらはどうなっている』
『――戦闘中! 通信で邪魔するんじゃないわよ班長! よっピー掩護に来なさい』
ヨップの耳にも、下の階からの銃声や打撃音が聞こえてくる。硝煙の香りが、上空の風に散らされた。
「――?」
『行くな、手下その一。お前は目標を運ぶことだけを考えれば良い。ナオ、お前が苦戦する相手か?』
『力は大した事はないんだけど速いのよ! 動きが前の班長に似てる』
「なに……!?」
ヨップの驚愕は、班長も共有していた。
『それは――それは不味い。下がれ、ナオもヨップもだ。そこはすでに――』
「――ここは猟犬の巣だ。無能を上司に持つと苦労するな」
警告に重なるように男の声――深々と響く零下の殺気が、鉄の硬さで全身を舐めた。
拳銃を構え振り向こうとしているところに――声。後ろを向いた、その再び背後から。
「だが良かったな――その苦労も今日までだ」
空から月明かり、地上からネオンサインに照らされている男が拳銃を構えていて――
「お前は――!」
ヨップの叫びは銃声に遮られる。胸を熱い塊が走り抜け、背中から飛び出して行った。
一発と聞こえたのは、余りに早く拳銃から連射された弾丸四発の咆哮だ。
折角確保した標的の男とヨップ本人、その胸の中心に2発ずつが吸い込まれる。
「ノース……ハウン……ド」
脳から血流が退く音を聞きながら、ヨップの意識は途切れた。
「……動くものなし――"処理班"はこんなものだったか?」
喋る相手が居なくなった――口数の多い"番犬"はヨップから視聴覚ユニットを奪うと、
マイクのスイッチを入れた。
10/
「ヨップ、下がれ……どうしたヨップ!?」
『戦場で男の名を呼ぶ女など、当てに出来るものでは無いな』
部下を呼ぶ"処理班"班長、ナツキ=クルーガーに答えたのは、氷点下の声音を持つ男だった。
「ノースハウンド――!?」
『反応が遅い……"白い悪魔"が居なければ、"ターミナル"自慢の処理班も烏合の衆か』
「我々を素人扱いとは笑わせてくれるな、人間鍛冶屋風情が――!
今度の人形はどれだけ時間をかけて洗脳した? "新作"は既に私の射程内だぞ」
ナツキが構えた狙撃用レールガンのスコープには、暴れまくる少女が捉えられている。
『"蜘蛛"を助けたいのならすぐに撃つ事だ。上の処理を終えれば、俺も下に降りる。
二対一では"蜘蛛"に勝ち目はないさ』
「――!」
ナツキはスコープを覗く。暗いフロアで戦闘を続ける少女とナオが、掠むほどの速さで動いている。
逡巡――少女の形をした戦闘機械の頭を、超音速の弾丸で吹き飛ばすべきか。その命を奪うべきか。
『どうした、オーブの学園時代を思い出したか? それとも今更、良心の呵責に悩んでいるのか?
ならば"氷雪"の二つ名は今日で返上しろ、お前には過ぎた異名だ』
「吼えるな、番犬!」
トリガー、スコープの中央に捉えた少女までの距離はたった二百メートル。しかしナオと対峙し、
戦闘に集中している少女には回避しようも無い遠距離からの狙撃である――筈だった。
「――!」
重い引き金を引く瞬間、ナツキは確かに見た。スコープの中の少女が、ナオからナツキの方へ、
一瞬向き直るのを。
回避。
突き出すから放たれた弾丸は、少女の残像を貫く。
『ああ、説明を忘れていた。その子に仕込んだ条件付けは少々特殊でな。
というよりも条件付けの結果がいささか奇抜だった――』
二撃、そしてまたも回避。
『――躱せと教えれば、見えてもいない弾丸を躱す。人間の能力は興味深いものだ。
遺伝子を弄繰り回さなくとも、これだけの技を覚えて見せる』
「良く喋るな、所詮は口先だけか番犬!」
三撃、すべてを躱されて、ナツキは状況を悟る。番犬の自信は本物だ。
少女が狙撃を躱すことが出来るのは――躱せと教えられたから、か。
「鍛冶屋如きがふざけたことを――!」
『遺伝子の積み木細工共に言えたことか』
11/
ナツキの背筋を、氷のような悪寒が駆け上がった。スコープを持ち上げ、ホテルの屋上を見る。
其処にはライフルを構えた男が一人立っていて――
『狙撃手なら場所ぐらい移せ、三流』
身を捩って躱そうとしたが、肩に重い衝撃を感じて弾き飛ばされる。炸薬式の、重く赤熱した
弾丸が装甲を突破し、筋繊維をひきちぎりつつ突き抜ける。肩の肉ごと意識をそぎ落とされ、
ナツキは気絶した。
闇に落ちてゆく意識を必死に繋ぎとめながら、処理班のメンバーに通信を送る。
「撤退しろ……ナオ……」
矢折れ弾尽き、最後には肉弾戦となった。
「……」
「ぐっ――!」
迫る少女、退くナオ。至近距離から放たれる双掌底の撃力を手足で殺すと、
"スーツ"の残存電力が危険粋に達した。
――まずい!
防御か、攻撃か――残りの一動作に賭けてナオは電力をモーターに回した。
通電が途絶えて、装甲の発色が切れる。
「止――まれぇ!」
「……」
無言の少女を中指と親指から放った鋼糸で締め上げ、手足を塞がれた矮躯に向かって回し蹴りを放つ。
筋力補佐も満足に行かない状態の"スーツ"では、戦闘力を奪う事はできない。だからナオは、
少女の軽い体を窓の外まで蹴り飛ばす事で戦場から排除した。
きらきら光るガラス片と共に、踊る人形は糸が切れ、重力に引かれた小柄な陰が夜闇に溶け去る。
「はぁ……疲れた」
激しい戦闘の末に、少女を蹴り出す事に成功したナオは、もぬけの殻となった最上階の
スイートルームに舌打ちを洩らす。電力の切れた"スーツ"は果てしなく重い。
「なによ、ノースハウンドに仕事をとられる為に、どんぱちやったんじゃあ無いってのに……」
屋上にいたるまで、猟犬の気配を感じる事が無かったのが幸いした。
少女は手ごわく、攻撃は辛辣で守りは堅牢であった。右手のワイヤーは殆どが基部から千切られ、
人差し指の一本がナオの持つ最後の武装である。
――どっかから銃を調達しようかな?
廊下のあちこちに倒れ伏す男たちを見て、その手に握られた銃を手に為るべきか考える。
12/
「無駄……よね」
どうも銃は得意ではない。不得手な得物を握ったとして、音に聞く"猟犬"に
対抗できるか……ナオは無理だろうと判断した。
敵を捕捉したなら即座にワイヤーを巻きつけ、切断する。不可能なら牽制して撤退。
それ以上のプランは無いように思える。
「――って言っても、モーターが動かないなら切断も自力かぁ」
自分の体を包む装甲機動服を見ても、灰色と化した表面装甲は精々アルミ箔程度の強度。
最終的に少女が使った武器は、蹴りと掌底のみ。同じ電力消費ならばフェイズシフトによる
防御の嵩上げよりも、モーター補佐による近接攻撃の方が効率が良いとはいえ、見えない刃物を持った
ナオを相手にしながら、実際にやってみせる技量は言語を絶する。
そろそろと屋上に上がる。見覚えのるシルエットが血溜まりの中、仰向けに倒れていた。
ヨップだ。『死因』は胸部の銃創。常人ならば即死だろう。
「マトモなニンゲンだったら……ね」
周囲に人影の無いのを一応確認すると、ナオは腰のポシェットから強心剤を取り出した。
ボールペンのような無針注射器に入っている。液体を、ヨップの首筋に叩き込む。
――数秒。
「が……がハッ! ゲホ……ゲホ――うえええ!」
飢えるように空気をかきこむヨップ、その抑えた胸からは血液の蒸発するような不気味な音がしている。
全身の血液と酸素を使って破損した肉体を修復しつつあるヨップの肉体は、ガン細胞から取り出した
変異遺伝子によって常ならぬ生命力と再生力を持っている。
『……ナオ、無事か?』
「ああ、班長? 今までなに気絶してたのよ?」
『む……それはいろいろとあってだな。肩に風穴が空いて居るところだ』
また冗談ばっかり。肩に穴が空いていて、そんな平気な声が出せるわけが無い。
『ああ、神経を切ってペインブロック(痛覚遮断)しているからな』
「はあ――? ああ、それからヨップが死んでたわよ、もう生き返ったけど」
『……そうか、そろそろ何か食べ物を用意してやってくれ』
「ノースハウンドの件は?」
『――後で話そう』
無感動に通信が切れた。
13/
「全く……! 寿命が五年は縮んだぞ……。う、うおおおぉ――は、腹減ったー!」
「本当にニンゲンっぽくないわよねー、ウチの班は――」
代償は、再生のたびに細胞が劣化することで縮まる寿命と、修復のエネルギー消費に伴う猛烈な飢餓感。
二十代前半のヨップは、既に四十前にも見えるほどに老化が進んでいた。
「食道もきっと傷付いてるわ、今食ったらまた死ぬわよ」
「ぐうぅぅ、喰わせてくれえ!」
「早く食べさせてやろう、ナオ」
黒髪ストレートの、低血圧っぽい女がナオの背後にいた。
「は、班長――!? アンタとなりのビルに居たんじゃないの?」
「飛び移ってきた」
「大通り挟んで二百メートルくらい在るんだけど――」
事も無げに話す"処理班"班長ナツキ=クルーガーは確かに、左肩から下を血まみれにさせていた。
血圧の低そうな様子も、その怪我で納得がいく。
結局、無傷であったのはナオ一人であったと言う事だ。
「で……ヨップ、標的は?」
「其処で死んでます」
「猟犬は?」
「自分を殺してどっか行きました。頭じゃなくて心臓を狙われたのが幸いです」
ナオが階下から持って来たフルーツを齧りながらの台詞である。
「で、どうすんのよ班長?」
標的は死亡、データは奪われ、こちらの動きも読まれていた。
「せめて、取り引きの内容は把握したかったがな。下の階から、あるだけの資料を持って撤収する」
「班長――」
下から、人の上がってくる気配がある。静かなホテルが鉄火場と化してから僅かに五分、
警察が飛んでくるには充分な時間だろう。
「一度本部に帰ろう――"ターミナル"が踊らされたのかどうか、確かめる必要が在る」
プラント情報部への不信感をやや滲ませながら、ナツキは静かに宣言した。
14/
――衝撃で飛び出た空中だ。
体の重みから解放された私は、雪のように輝くガラスのカケラを呆然と眺めながら重力に引かれていった。
冬のような空気と光景に心を奪われていて着地の事すら考えていなかった私は、あと数秒で大地に散らばる
赤い花となり、通行人に迷惑をかけるはずだった。
墜死する運命の私を中空で抱きとめてくれたのは、たくましく暖かい腕だ。
どうやってかは分からないが、地面すれすれで減速を終えて激突を回避した私達は通行人が
目をつぶって居る内に路地裏に走りこんだ。
風のように流れる夜の街の景色に、結晶質の硬い雪が降る。
「大分汚れたな――ニナ」
「あ……」
殆ど抱えられたまま運ばれた私は、全身にこびりついた返り血を拭われている段になって、
ようやく上司の事を認識した。
「大佐は……」
「ニナ、まだ任務中だったろう?」
「あ……お父様のほうは如何でしたか?」
任務が始まったときの約束事が、未だ引きずられていた。精々十分前の事――とは思えない。
上司は懐から書類の束を取り出して、不敵に笑ってみせた。
「頬に傷が入っている――手傷を負う相手と戦ってどうだった?」
私の顔に絆創膏を貼り付けながらも、上司は周囲の様子に気を配っている。
「……覚えていません。2,3回は打ち込んだ記憶があります」
「そうか、"蜘蛛"を相手に上出来だ――」
"蜘蛛"――? 成る程、ワイヤーに手足を取られた時は、蜘蛛の巣にかかった蝶の心地だった。
あの鋼線を使う女性の事を、上司は知っているようだ。
「どうやって戦えば、あの"蜘蛛"を倒せたのでしょうか。切り付ける動きが見えませんでした」
「鋼糸使い相手にはコツが要る――教えて欲しいのか?」
「……どうして私に聞くのですか? 私に必要な技術ならば、無理やりに教え込めば良いではないですか」
「内から出た向上心がなければ、応用の効く技術に昇華できん。詰め込み教育で教えた分は、
生き残る為に最低限必要な基礎に過ぎんぞ」
ならば、私をファントムペインで育てられる彼らのように薬漬けにしてしまえば良い。
15/15
私が人前で不自然の無い格好になるまで返り血を拭ってくれた上司は、私に代えのコートを羽織らせると
さっさと先を歩き始めてしまった。
コンパスの差――私は歩調をあげて上司に追いつく。
「で……どうする? 教えてやらんことも無いが、正直あんなのとやりあう機会はそうそう無い」
「……訓練をやる気にさせる薬だって、あるのではないですか?」
「あー……何かを勘違いしているようだが。お前は部下や手駒ではなく、弟子なんだぞ?」
上司は私に向かって再び、『これは独り言だぞ』と喋り始めた。
「……俺の家系は、戦い方を人に教え込む。それを生業にしてきた家系なんだよ。
技術というものは、訓練方法と、使い手と、そして実績で構成されなければいけない」
「どうして私を?」
「五体満足で、薬漬けになってなくて、その上一番才能が無さそうで、言う事を素直に聞きそうだったからだ。
才能ゼロの奴を一人前に出来なければ、技術の伝達、訓練法などに意味はないというのがウォン家の考えなのさ」
前々から思っていたことだが――この上司はおしゃべりだ。
「お師匠様――?」恐る恐る言ってみる。
「――未だ任務中だ」「はい……お父様」
上司――そしてどうやら私の師匠らしい――は、ぺらぺらと書類をめくりながら釘を刺した。
大事な事は形に残したい。重要な事は書類に残るから、記録メディアではなく書類を持って来たのだそうだ。
「フレアモーター……。ニナ、やっぱり先刻の技について教えてやろう」
「――え?」
何の事を言われたのか分からない。
「中央アジアの山奧に、PPの訓練キャンプが在る――まあ半分休暇がてら、山篭りも悪くないさ」
「ですが……大――お父様は海の方が好きではありませんでしたか?」
「津波が恐いから……な。ニナが来ないなら俺一人でも行く」
「い……行きます! ついて――行きます。……あの、任務が終わったら、どうお呼びすれば?」
「適当に呼べ、大佐でも先生でも名前ででも――俺はニナとしか呼ばんがな」
「――セルゲイ……大佐」
名前を呼び、申し訳程度に階級を加えた私の声は聞こえていたに違いない。
「あ、置いて行かないで下さい――!」
無視してスタスタと先を行ってしまう、大きな背中に追いつく為にペースをあげた。
これから冬に向かう北半球で、山奥がどれだけ寒いか分からないが、重たいスーツを着て小走りになる
私の体は熱く火照っていて、未来の寒さなど忘れて居る事だって出来た。
舞乙-SEED『†』 踊る人形 了
後編 投下完了。注意事項は
>>53に同じです。
では、また。
# 自由落下
考えるよりも体が先に動いた。
頭を下に落ちてくるルナマリアを胸で受け止める様に滑り込む。意外と重いルナの体重がかかり、肋骨がミシミシと軋んだ。
爆ぜる様に熱い息が呻き声とともに喉を通過する。
その瞬間、何かが俺の顔に押し付けられて、視界を閉ざされて呼吸を止められた。
――息苦しさが幼かったあの日記憶を呼び起こす。
一面を死で塗りつぶされた世界。
そこで俺は何も出来なかった。
ただ助けられただけだった。
目の前の死に逝く人を助けられなかった自分の弱さが憎かった。
――ポニョポニョ。
俺の顔に押し付けられた柔らかい何かが跳ねた。
口は覆われた状態だけど、だんだんと視界が広がっていく。真っ先に俺の視界に入って来たものは――。
「アンタ、どさくさに紛れて何やってんのよーーっ!」
制服越しに感じるルナマリアの二つの膨らみ、そして鬼の形相のルナマリアだった。
「待て、俺はお前を助けようと!」
ワイワイガヤガヤと人が集まってくる気配を感じる。まずい、ルナから離れないと変な風に誤解をされる。俺がルナの下からもがき出ようとした瞬間――。
「何の騒ぎかと来てみれば……。学校での不純異性交遊は校則違反の筈だな」
ナタル姉が立っている。凛とした佇まい、一部の乱れもない服装。
――汚ならしい物を見るかの様な冷たい視線。
溜め息を吐くとナタル姉は俺を文字通り足蹴にしてルナから引き離し、ルナを助け起こした。
「大丈夫か? 安心しろ、アレは軍法会議にかけて極刑に処するから……」
ルナの頭をあやす様に撫でるナタル姉は慈愛の化身その物だ。見とれてしまうけど、蹴られた場所がジンジンと鈍く痛む。
「誤解だよ、ナタル姉……」
「誤解も六回もない! 小さい頃から面倒を見てきたお前がこんな事をするとは……言い訳は女々しいぞ」
――誰も俺を信じてくれない。
俺はルナを助けたかっただけなのに。
皆がが俺を裏切る。世界が俺を裏切る。
絶望と悲しみ、そして怒りが嵐となって俺の体を吹き荒ぶ。
「先生、シンは階段で足を滑らせた私を助けてくれただけなんです!」
ルナの声が嵐を鎮める。嵐は弱くなりつつ駆け抜ける爽やかな風へと変化していく。
「でもね、シン。責任取ってよね。結婚式はチャペルでやって、丘の上に白い屋根の家を立てて、子犬を飼って明るい家庭を築こうねー!」
異論を挟みたい台詞とともにルナが俺に抱きついてきた。しかも渾身の力でだ。
万力の様な力で締め上げられた俺は悲鳴すらあげる事が出来ずに、ただ、肋骨が軋んで折れていく音を聞くしか出来ない。
急速に暗くなっていく視界の果てで、ルナの唇が奇妙な形に歪むのが見える。
理由は解らない。解ったとしても意味はない。
――俺の時間が終わったのだから。
――ラブコメend
実録マユ道場
いあいあいあ!どーもー、自爆霊のマユでーす。おひさー。
今回はルナぽんと結婚ですかー。せんとさむしんぐふぉー!
じょーきょーはんだんがあまいでーす。助けるなら落ちる前にたすけないとーだいすけー。
セーブからやり直しましょー。現在せいさくちゅーだけどー。あははー。
よい子のみんなー、お盆にはちゃんとお墓参りしよーねー。じゃないと祟るよー。ぞびぞびぞー。
hoshu
星
光さす場所は〜正義のカタチ〜
冗談じゃない!
わかっていたとは言え、索敵班の報告に思わず声を荒げそうになる。一度大きく息を吸う。
ザフトの最新鋭戦艦と超機密兵器。そしてそれを指揮するのは親しい訳ではないが知った顔。
気にする事はない、我が道を行け。と人は言うだろうか。だが他人を傷つけてまで我を通す程
私達の、いや私の正義は正しいのだろうか……。
その白い軍服を着た彼女は黒い服の副官と打ち合わせをしているようだった。
彼女の指揮する女神の名を冠された白い船は、どことなくアークエンジェルを彷彿とさせる。
彼女にシンパシィを感じたのはどういう訳だろう。偶々艦長席に座った私とはそもそもが違う。
白い服ならオーブならば左官相当官、場合によっては将官にも匹敵するだろう。エリートだ。
だがその彼女と私とは普通に会話を交わした。何故か初めて会った気がしなかった。
友人としてもう一度会いたい、そう思った。
その船がドックに入港しているうちに事件が二つ。プラントに核が打たれ、そしてザフトは
降下作戦開始の断を下した。昔はともかく、今や連合よりのオーブである。グラディス艦長以下
のクルーが何時までも無事である確証などもはや無い。
『彼』はミネルバへと『砂漠の虎の伝言』を伝えた。
次の朝早々に出航したその白い船は、オーブと連合に挟み撃ちになりながら辛くも包囲網を
脱出、オーブ領海を離脱していった。
もう会う事もないだろうその白い服の女性はきっと艦長席で指揮を執っていたはずだ。
既に何も見えなくなったモニターを見てため息を吐く。また、戦争が始まったのだ……。
船首に展開したのは陽電子砲、例えそれが彼女、グラディス艦長との確執になったとしても、
とにかくにも、あれを打たせる訳にはいかない。
だが、既に機関は励起され、砲身は輝きを増しつつあった
冗談ではない!
私達が護るべきモノはきっとあれが打たれれば揺らいで崩れていくだろう。その為にあえて
また私は艦長席に座りキラ君はパイロットスーツに袖を通したのだ。ならば……!
キラ君っ! 私の叫びとフリーダムのライフルから光が伸びるのはほぼ同時だった。
ミネルバの艦首は光に包まれ陽電子砲は爆発した……。
光さす安らぎの場所は護るべきモノの先にあるのだろう。ならば私達はそれを護るために
戦おう。馬鹿げた戦いだが、それこそが私達の正義であると信じて……。
今回分以上です
ではまた
GJ!このシリーズはなんか好き
>>75 冗談じゃないシリーズ投下GJ!
でも左官と打つになってたりw
>>光さす場所は 投下乙でした。
冗談じゃない! から始まるマリューの葛藤シリーズですが、
まりゅーがグラディスに対して共感した様子、そして其処から来る逡巡が
短い中に込められていると思いました。
虎がマリューの中で『彼』になっていて、さりげなく親しさを表していたのも
面白かったです。
誤字は一興と言う事で、次の投下をお待ちしております。
些細な事で始まったナチュラルとコーディネーターの争いは自然消滅しました。 つまり、お互いに戦う事が出来なくなったのです。
詳しく説明すると、戦う事が出来なくなるほど人類は減ってしまったんですね。
人類が減ったのが戦争を出来なくなるくらいだったら良かったのですが、今まで人類が構築してきた文明社会が維持出来なく程に減ってしまいました。
そうなるとロゴスだとかターミナルだとかの怪しげな組織もなくなってしまいます。経済の維持とかそんな事も出来なくなりましたから。
景気とかの問題で悩む必要がなくなったのは良い事なのかもしれませんけれども。
なんだかんだで戦いがなくなって世界は平和になったと思いたいのですが、そうは問屋が卸しません。
ナチュラル、コーディネーターを併せて人類の数は絶滅危惧種に認定されてもおかしくないくらいに減ってしまったのです。
誰が認定するのかは私には解りませんけれども。
兎に角、長い間地球を支配してきた人類は衰退しました。そうなると、誰か別の生物が台頭してくるのが世の常です。
私ことラクス・クラインは、ついさっき誰かと表現しましたが、それなりに深い意味があるのかもしれません。
人類に成り代わって新しい地球の支配者になったのは妖精さん達なのですから。そういう訳で、便宜上に私達人類の事を旧人類と呼ぶ亊にしましょう。
旧人類は宇宙から撤退しました。やっぱり宇宙空間は人が住むには過酷ですから。そのうち滅んでしまうという現実に帰巣本能が働いたのかもしれません。
それに生活区域を縮小すれば、どうにかそれなりの文明レベルを維持できましたから。
そんな訳で生き残った旧人類は肩身を寄せ合って細々と生きる事を選択しました。
場所はオーブのオノゴロ島です。私にはよく解りませんが地熱発電などの設備が整っているからだそうです。
決して広くないオノゴロ島ですが、生き残った旧人類にとっては少し広すぎる事も選ばれた原因の一つなのかもしれません。
懸念材料だったのは食料や資源なのですが、世界中から集めたらかなりの量になりましたので当分の間は大丈夫だそうです。
まぁ、残存物資が尽きる頃には人類は絶滅してる筈だから心配する事はないかもしれません。
一応、形だけでもと政府もつくられたのですが、私がトップになる亊になりました。カガリさんがナンバー2です。
勿論、能力で選ばれた訳ではありません。やりたい人がいなかったんですね。旧人類最後の政府のトップなんて滅亡の責任を負わされるだけの物でしかありませんし。
ひょっとしたら誰がやっても同じなのかもしれません。やる亊なんてないのですから。
やるべき亊はやれる人がやって、責任は私が負う。そして私はなにもしない。
ある意味では理想なのかもしれません。本来ならそんな理想なんてこちらから願い下げなのですが、人類の存亡がかかった非常事態ですので、諦めました。
――仕方ないですよね?
「種世界は衰退しました」
#1 妖精さん、こんにちは。
やる亊がなければやる亊はお散歩しかありません。カガリさんを誘ったのですが、彼女はのんびりと過ごすのが苦手だそうです。
すげなくお誘いを断られた私は、一人で散歩をする亊にしました。
ぽかぽかとした柔らかい日差しの中で風が運ぶ草木の匂いを楽しんでいると、心が癒されます。
旧人類が衰退したのが嘘みたいな風景は、私に束の間の安らぎを与えてくれます。
道すがら砂浜をキュッキュと踏み鳴らす様に歩くのは楽しいですし、ちょっとした勾配を歩くのは良い運動になって心地よい汗を流せます。
そして、着いた先は慰霊碑です。
かつての愚かな過ちで亡くなられた方々を慰める為に建てられた慰霊碑は、草が伸び放題伸び呆けて、蔦やらなんやらが絡まっています。
無惨と言えば無惨な光景に私は心を痛めてしまいますが、もう暫く経てば私達も彼方に逝ってしまうのですから死んだ方々よりも生きている私達の方が大事なのです。
つまり、無駄な事はしません。
でも何もする亊がなくて暇を持て余している人間、つまり私が無駄な事をする亊は無駄な事ではありません。
有意義な暇つぶしになります。
ですが、少し綺麗にしようかな、と思ったのですが何一つ道具を持ち合わせていません。
やる気はあるのに何も出来ない、はからずしもそんなジレンマを抱えてしまった私は途方にくれるより他ありません。
「にんげんさんだー」「にんげんさんですか? でした?」「おおきいでした」「ぼくらはちいさいです? です?」
不意に草影からこしょこしょと小さい声が聞こえます。
この場には私しかいない筈です。
場所は慰霊碑です。
つまり、幽霊です。
そんな筈はありません。
撤退しましたがついぞ先程まで人が宇宙で生活する時代でしたので、旧時代のオカルトめいた事がある筈ありません。
答えは一つ、ただ一つです。
「よ、妖精さんですか?」
緊張したのか声が上ずってしまいました。それはそれで仕方ありません。だって私は妖精さんとコンタクトした経験がないのです。
不慣れな事は成功させるのは難しいのです。
「ことばしゃべりましたか?」「ことはさんはかわいそうです」「すこしかみましたでした」「ぼくらかまれます? たべられます?」
声のする草影を覗き込むと身の丈僅か10センチ程の小人さん、つまり現在の地球人類である妖精さんが四人いました。
極端に低い等身、子供みたいなつぶらな瞳、厚いフェルト地の衣服と三角帽子。
はっきりいって可愛いです。
「私はあなた方を食べませんよ?」
四人で輪になってこしょこしょです。
「にんげんさんはたべませんか?」「ぼくらがたべていいでした」「ぼくはほねだらけでおいしいちがいです」「もうねむいです」
どうやら言葉は通じるようです。知的レベルはそれなりに高そうです。
それなりの意志の疎通が出来たのでファーストコンタクトとしては大成功です。
「えーと、私はあなた方とお友達になりたいんですの」
妖精さん達に通じるかどうかは解りませんが、しなを作ってみます。上手くいったらお慰み、拍手です。
「ともだちてなんです?」「ぼーるがともだちらしいです」「ぼーるてなんでした」「ぼーるはけるものらしいです」
可愛い妖精さん達が心和ませる光景を私に見せます。私は思わずにっこりと微笑んでしまいます。
「にんげんさんわらってるです」「やくざはさいしょはやさしいらしいでした」「ぼくらはじあげされるですか」「やくざこわいです? です」
こしょこしょと話していた妖精さん達は急に青ざめていきます。何処かで意志の疎通が不十分になったのか、プルプルと震えて怯えはじめています。
緊張感がたかまってしまったのか、ズボンを濡らしてしまった妖精さんもいます。
「あの、もしもし?」
私の声に高まった緊張感が弾けてしまったようです。
「ぴーーーーーーーーーーーーー!」
擬態なのかどうなのかはわかりませんか、妖精さん達はボールみたいに丸くなってしまいました。
どちらかと言えばだんご虫みたいです。
ファーストコンタクトに失敗したようです。
一人残された私は途方にくれてしまいます。そろそろ暮れてしまいそうな夕日が私の背中を押します。
魔が差しました。一本なら耐えられたのですが、黒ひげ危機一髪の様にプスプスと何本も差してしまいました。
そうです。お持ち帰りしてしまいました。お土産に丁度良いと思いました。
要するに、妖精さん達を拉致してしまいました。
――To be continued on the next time.
>>種世界は衰退しました
投下乙です。
ラクスから語られる衝撃の種世界でしたが、語り口が読みやすかったので、一人称の
説明文がスラスラと読み進めることができました。
野性のイキモノを拉致っちゃだめでしょう。ラクスの行動に吹きました。
そして、陰で奮闘しているであろうカガリに同情の念が湧きました。
元ネタを知らないので、妖精さん達が全く分かりませんが、またの投下をお待ちしております。
人は隠し事をすると後ろめたくなるそうです。勿論、私も例外ではありません。
現在の地球人類である妖精さん達を数匹、いいえ、何人かを無断無許可でご招待したのですから仕方ないのです。
先ず最初に私の異変に気付いたのはカガリさんでした。彼女は私と違って責任感がおありですので、細かい亊まで気を使っています。
「ラクス、コレはなんなんだ?」
カガリさんは私が机の上で転がして遊んでいた未だにボール状の妖精さん達を注視します。
「はい、これは妖精さんですわ」
私は隠す事もないので素直に正直に答えました。でも、カガリさんは私の言葉が信用できないのか訝しげです。
人を信じられなくなる程に人の心が荒廃している亊は悲しいのですが、馬鹿正直に人を信じる亊もあまりよろしい亊ではありませんので、私は仕方ないと思う亊にしました。
「本当か?なんでそんなのが此処にいるんだ?」
もしょもしょもしょ。
カガリさんの声に反応したのか、妖精さん達は擬態を解きました。
「にんげんさんふえましたです」「こわい? へいき?」「ぼくらはらちかんきんされました。せいとうなあつかいをようきゅうするです」「おなかすいたー」
カガリさんは擬態を解いてもしょもしょし始める妖精さん達を見ると、文字通りに目を丸くしています。
「は、はろー? ないすとぅーみーちゅー」
カガリさんは余程驚かれたのか、片言です。愛想笑いをしているのですが顔が強張ってます。
「にんげんさんはろーわーくにいくですか?」「すべてはかくさしゃかいのせきにんです」「せちがらいよのなかです」「ひとつひとのよいきちをすするです? です?」
妖精さん達のボキャブラリーは良く解りません。それでもそれなりに知能が高そうです。
「お、おい、こいつら喋るぞ?」
当たり前です。妖精さん達は現在の地球の支配者なのですから。
「意志の疎通が出来ると思われた方がよろしいかと」
カガリさんは現状の認識が甘いようです。旧人類はとうの昔に生態系の覇者の地位を妖精さんに譲り渡してしまったのですから、妖精さん達は私達よりも優れているのです。
何処が優れているのか? そんな疑問は愚問です。専門家ではない私が解る筈がないのですから。
もっとも、皮肉な亊に妖精さん達と史実に残るファーストコンタクトを成功させたとして、後々なのですが私は妖精さん達の専門家になってしまつのですけれども。
兎に角。今は妖精さん達と友好的な関係を築き上げる事が急務です。知らぬ間に政府のトップから敏腕外交官に格下げです。
「えーと、あなた達は……」
「お前達は何処から来たんだ?」
実はやり手の外交官はカガリさんだったみたいです。私の言葉はけんもほろろに遮られてしまいました。
ひそひそひそ。妖精さん達は円陣を組んで作戦タイムのようです。
「あっちからきた?」「むしろむこうからのようなきが」「きたのくにから?」「びっぷからきますた」
ファンシーな妖精さん達がもそもそしているのは可愛いのですが、カガリさんは答えが中々出ない亊にご立腹のようです。一本、二本。コメカミに刻まれる青筋が増えていきます。
「すみません、ききたいことあるです」
一人の妖精さんが手を振ります。どうやら答えが纏まりつつあるようです。
「はい、かまいませんわ」
「言ってみろ」
妖精さん達は合唱の様に声を合わせます。
「ぼくらはどこからきたですか?」
「私にそれを聞きますか?」
種世界は衰退しました
#2 接近遭遇カガリさん
私は呆れてしまいました。だけどカガリさんは堪忍袋の緒が切れたみたいです。
「お前ら、私を馬鹿にしてるのかーーーっ!」
短気は損気。その言葉が良くお似合いのカガリさんの大声に妖精さん達はボールの様に丸くなってしまいました。
「なんなんだ、コレは!」
さあ? 解る人がいれば私も聞いてみたいものです。
「多分、防衛本能が働いたのではないでしょうか」
これは私の推測に過ぎませんが、カガリさんが怖かったから妖精さん達の防衛本能が働いて丸まってしまったのでしょう。
球体というものは丈夫らしいと何処かで聞いたことがあります。
カガリさんか怖いのは事実ですしね。
仕方ないから私は丸まった妖精さん達を使ってお手玉をします。やる亊が無くなればする亊なんてありませんし、無駄に暇を弄ぶのも怠惰でありますから。
「いっちれっつらんぱんはれつしてー、にっちろーせんそうはっじまったー」
歌を歌いながら、リズムに合わせてお手玉です。あまり手慣れた手つきではありませんが、四つの丸まった妖精さん達を操ります。
「おおー、これはまさしくくうちゅうせんー」「めびうすわん、めっそー! めっそー!」「じゃん・るいがやられたー」「いやむしろこれはぜっきょうましーん」
きゃいきゃいきゃい。
妖精さん達は丸まり状態から元に戻ってお手玉にされるがままを楽しんでいます。これは大発見かもしれませんし、そうでもないかもしれません。
とんとんとんとん。
私はお手玉に飽きたので妖精さん達を机の上に並べます。
「いかかでした?」
「ちびるかとおもたです」「あたらしいかいかんがかいはつされた?」「そらをとぶはたのしいです」「もはやきいろのじゅうさんでした」
口々に感想を述べる妖精さん達はニコニコ笑っています。余程楽しかったのか、机の上に置いた私の手に登ろうとしています。
「ラクス、コイツラの名前はなんなんだ?」
カガリさんは妖精さんに慣れて来たのか興味深そうに見つめています。
「さあ? 聞いてないのでわかりませんわ」
カガリさんはずっこけました。私が名前をしっているとでも思ったのでしょうか。自分で妖精さん達に聞かないのがカガリさんらしいと言えばらしいのかもしれません。
ほのぼのとしたやり取りに思わず噴いてしまいますが、妖精さん達は本気そのものです。
「作戦タイム終了です。それではお名前をどうぞ」
いつまでものんべんだらりと作戦タイムをされても困ります。カガリさんの堪忍袋が切れる前にタイムアウトを通告です。
「ななしさんつうじょうのさんばいです」「そこはななしのごんべえにすべきかと」「ぎめいでもいい?」「それはみすてりあすです」
なるほど。良く判りました。
「あなた方は名前がないのですね?」
はーいと良い返事が返ってきます。それならそうと、早く言ってくれれば対応したんですけどね。
「あなた方と友好関係を築く為に、私達がお名前を進呈したいのですが宜しいでしょうか」
「おお、あいでんてぃてぃーのさきがけです」「つまりはごっどふぁーざー?」「まふぃんではなかろうか」「いいや、まふてぃーにちかいかも」
きゃいきゃいきゃい。
妖精さん達はダンスしながら遊びはじめました。楽しいのは良いのですが、時間がかかりすぎると私達が滅亡してしまいます。
それなら、それならば。
「カガリさん、妖精さん達に名前を付けてあげて下さい」
「は? 何で私が?」
いきなり話を振られたカガリさんは目を丸くしています。そうでしょうね、カガリさんは意外とヘタレですから。
そんな訳でお話は次回に続きます。
――To be continued on the next time.
>>種世界は衰退しました
絶滅寸前の人類が妖精さんとの交流を通して如何に滅亡を回避するか、
というシナリオなのかと思っていましたが、妖精さんの観察日記と考えたほうが
近いのでしょうか? とにかく投下乙でした。
妖精さんたちの思考がまったく読めないですが、逆に彼らのことを
先読みしたくなるほどには続きが気になります。ラクスとカガリの態度が
対照的というか、天然なラクスに対して現実主義的なカガリのでこぼこコンビが
コントを見ているようでした。
カガリをヘタレ扱いするラクスの、さりげない腹黒さにちょっと笑わせてもらいました。
続きをお待ちしております。
>>種世界は衰退しました
妖精がユーモラスでかわいらしいがこれがいっぱい存在するとなると恐ろしい世界だと思えます
ラクスの一人称は珍しいしカガリとのやりとりも軽妙で面白いです
今後が読めないので続きが気になりますね
「 In the World, after she left 」 〜彼女の去った世界で〜
第14話 「急告 −あやまち−」(後編)
(1/9)
艦長室でのミーティングが終わった後、アスランはまたデッキに出ていた。
薄曇りの空のせいもあるだろうが、四方の海はオーブのそれよりも深い色で凪っている。
その色が自分の心境とリンクしているようで、アスランは一つ溜め息をついた。
ふと、この海がオーブと本当に遠く隔たっているのに気づいた。
その事実さえもまた自分とリンクしているようで、もう一つ溜め息を追加した。
思えば合流して以来、正確に言えば、ダブル・アルファのBユニットの改造が終了して以降、もう何日にも
なるというのにキラとは顔を合わせていなかった。
会えばカガリの話になるのは目に見えていたので、アスランが避けていたのもある。
が、キラの方でも同じだったのも多分間違いないではないだろう。
近いうちにキラとの対峙があるだろうことは、予測していた。
いや、避けられないと思っていた。
だがそれは、あんな事を原因としてではない筈だった。
──違うな。根っこがカガリの事なのは変わらないか……。
『戻ったところでできることなどないだろう』
この言葉に偽りはない、と確信している。
それがどんなにカガリを傷つける言葉であったとしても、それは事実だ。
そしてまた、キラに突きつけられた『君には何ができたの?』という言葉も厳然たる事実だった。
──図星を指されてキレるとは、俺もまだまだだな。
自嘲気味の笑みと共に、また一つ溜め息がこぼれる。
力が欲しかった。
何者にも負けない、借り物ではない、自分だけの力が。
力になりたかった。
何者にも負けない、借り物ではない、自分だけの力で。
何のために? と問われれば、答えは一つだった。
だから僅かなコネクションを頼りに、プラントへと渡った。
そこで会ったその人は、他の誰でもない「アスラン」の力を望んでくれた。
『戻って来い』
そう言って、迎えてくれる仲間もいた。
『力が欲しい』
一度は捨てた剣を再び手にしたいと渇望したその時。
アスランに剣を差し出してくれたのは、オーブではなくプラントだけだった。
そうして力を得て、結局何が出来ただろう。
彼女のために得た筈の力は、彼女のために行使されたことは一度もない。
もしもあの日彼女がオーブに残っていたとしても、ザフトに戻った自分に何が出来ただろう。
(2/9)
ザフトの一兵として、戦争を終結させること。
それがいつしか彼女の助けになるだろうと信じて、ザフトへと復隊した。
だがそれも、すぐに後悔した。
カガリの拉致を聞いたその時に。
眠れぬ夜を何度も過ごした。
浅い眠りと悪夢とで迎えた朝も両手では足りぬほど。
そして──再会したカガリから聞かされた、裏切り。
『戻ったところでできることなどないだろう』
その言葉がカガリを傷つけるのは分かっていた。
それでも言葉を飾ることもせず、「言わない」という選択肢を採ることもなく、口にした。
彼女を泣かせるつもりがあったのか否か。
そうであるのかもしれないが、そうではなかったとも思える。
『カガリを守りたい』
ただ素直にそう思っていた頃が懐かしい。
カガリに抱いていた愛情が残っているのか、もう冷めてしまったのか、それすら自分ではわからない。
アスランは自身の気持ちですら推し量れなくなっていた。
もう一度、大きな溜め息をついたその瞬間。
「アスラン」
突然、背中から呼びかけられた声に驚いて、アスランは慌てて振り返った。
名を呼ばれるまで背後に寄られていた事にまったく気づかずにいた自分に、内心で舌を打つ。
「少し、いいかな?」
まるで先程の対峙などなかったように薄く微笑む友に視線を合わせることもせず、小さな溜め息を隠し、
アスランは首肯した。
(3/9)
「やっぱりオーブの海とは違うね。色も、深さも」
デッキの端に設けられた手すりに寄りかかったキラが、呟くようにそう言った。
先刻、自分が考えていたことと殆ど同じその台詞に、アスランは「ああ」と頷いた。
しかし、アスランの返事が聞こえているのか、いないのか。
キラはそれきり口をつぐむ。
──話があるんじゃなかったのか? 相変わらずマイペースなヤツだ……。
そう思いながらも、アスランはキラを促そうとはしなかった。
──キラの方で用があると言うのなら、キラから話すのが筋だ。それで時間切れになるなら、仕方ない。
自分の思考がただの意地張りだとは気づかぬまま、アスランはキラが口を開くのを待った。
ああ言われたら、こう返そう。こう言われたらああ返そう。
キラが言い出しそうな事とその返答を頭の中でシミュレーションしつつ、アスランはキラを待つ。
やがて思いつく総てに解答を用意し終えてしまった。
しかし、それでもキラは手すりに身体を預けたまま、石像にでもなったかのように微動だにしない。
ただ時折吹く潮風がキラの髪を軽く弄ぶ。
思考の時は長いようでいて短く、短いようでいて長い。
実際にはどのくらいの時間が経ったのか、アスランには判然としなかった。
だが、いい加減しびれを切らしキラのとの対面を終了させようと決心した時、まるでそれを見計らっていたかの
ようにキラが動いた。
「さっきのことだけど……」
── っとにこいつは子供の頃からこうだ……。
計算し尽くした行動なのかそれとも単なる天然なのか、未だに判断がつかない。
タイミングの外されっぷりの絶妙さに、もはや隠すこともなく嘆息する。
「僕も少し言い過ぎよって言われてさ……どうかした?」
「……いや……」
アスランの投げ遣りな雰囲気に気づいたのか、問いかけるキラに短く返す。
──「言い過ぎよ」ということは、ラミアス艦長に言われてきたってことか……。
キラの言葉からそれを察して、アスランはわずかに落胆した。
そして落胆した自分に気づき、自分がかすかにでも期待していたことに気づかされた。
キラと自分の関係が以前と変わらないものである筈だと。
「……アスラン?」
キラがもう一度声を掛けてきた。
その問いかけるような何かを促すような声音に、にアスランはキラが何を望んでいるかなんとなく察する。
だから。
「そんな事はないさ」
と、一言を返す。
その言葉にキラの顔が明るくなる。
(4/9)
そんなキラを真っ直ぐに見据えて、アスランは言葉を続ける。
「俺は言い過ぎたとは思っていない。お前が言い過ぎだったとも思っていない。間違いなく事実だ。──どちらもな」
「……え?」
キラはしばし何を言われたか分からないように目を瞬かせた。
しかし、やがてその顔色が徐々に色を失ってゆく。
「アスラン、君……」
「事実だろ?」
キラが口を開きかけたのを遮って、アスランは軽い口調で駄目押しした。
内心では、親友と思っていた相手への決別の意味を込めたその言葉の軽さに自身でさえ驚いていたが。
「俺にもお前にも何も出来なかった。それが可能だったのはカガリだけで、実際に彼女はオーブの中立を為し得た筈だった。
だが、それを壊したのは誰だ? 出奔したカガリと、それに手を貸したお前たちじゃないのか?」
「違うよ、アスラン。カガリを無理矢理連れ出したのは僕らで、カガリはずっとオーブに戻るって言ってて」
「どちらが主体かなんて、関係ないんだ。今は」
色を失って反論するキラを一言で切り捨てる。
「結局お前たちのしたことは、プラントと地球軍との間に新たな火種を撒いただけじゃないか」
言い切ってからアスランは先刻まで考えていたシミュレーションを思い出した。
あの時は、こんな事をこんな風にいうつもりはなかった。
──いや、こんな風にすらすらと言葉になるということは、俺の中にこう思っていた自分がいた、ということか……。
自分の中に新たなる自分を発見したような感覚に、アスランは思わず口の端に苦笑を浮かべた。
その笑みを別の意味に受け取ったのだろう、それまで視点が定まらなかったキラの双眸がアスランに鋭角に
焦点を合わせた。
「じゃあ、何もしないでいた方が良かったの? ──カガリがユウナさんと結婚しても良かったって言うの?」
その質問への答えは、一拍遅れた。
「……それは、カガリ自身が望んだことだ」
「本気で思ってるの? カガリが『望んだ』ことだって」
「どちらにしても……カガリはもう正式にユウナ・ロマ・セイランの『妻』だ」
更に畳み掛けるようなキラの問いに、「事実」で返す。
キラは、唇を引き結んで押し黙る。
──数秒後、
「君の考えはわかったよ、アスラン」
再び口を開いたキラは、そう言うとアスランに背を向けた。
しかし、数歩歩いてその足を止めた。
「君がどう考えていても、君が何を言ったとしても、でも僕はカガリを守るよ」
振り返ることもせずそれだけを言って、キラはアスランの視界から姿を消した。
(5/9)
「隊長、こんな処にいたんですか?」
キラが去って五分と経たぬうちに、また背中から声を掛けられた。
キラの背中を見送った後、すぐにここを動けばまるで彼の後を追っているようで動かずにいたのだが。
アスランは、少女に気取られぬように溜め息をついてから振り返った。
「ブリーフィングルームに来ないから、どうしたのかと思いました」
そう言われてからアスランは、クルーへの状況説明のためにブリーフィングを行う筈だったことを思い出した。
本来ならばアスランの出席は必須なのだが、どうやら不在のまま話は終わってしまったらしい。
自分などいようがいまいが構わない。
そんな風に僻んだ思考になるのは疲れているからだ、と思いたかった。
「ブリーフィングでは、何を?」
「ジブラルタル方面への移動、とだけ。……違うんですか?」
アスランの問いにルナマリアは不思議そうな顔で首を傾げる。
「ああ、いや。そういうわけじゃなんだが……」
ルナマリアの様子から、カガリの偽者が出現したことやミネルバがその拉致に関与していると発表された事は
知らないらしい、とアスランは判断した。
それはまぁ当然と言えば当然だ。
特に後者は下手をしなくとも、クルーの動揺を誘うだけだ。
アスランはルナマリアが医務室での患者着姿でないことにようやく気づいた。
ギプスの腕はまだ吊ったままだが、普段のミニスカートに赤服を羽織っている。
「もういいのか?」
「ええ。今朝やっと許可が出ました。まだ腕はしばらくこのままですけど」
余程嬉しいのか、満面の笑みを浮かべるルナマリアにつられるように、アスランは苦笑した。
「……元気そうだな」
何気なく口にしたその台詞に、ルナマリアが「えっ!?」と目を瞠った。
一瞬、責めているように聞こえてしまったのかと焦ったが、
「そんなことは、ない、です、よ?」
と、ルナマリアがはにかみつつ応えたので少し安堵する。
──「こうやって、隊長とお話できるのが嬉しいんです」って言ったりしたら、どんな顔するかしら?
シンに撃墜されたことは──あくまでも自分自身のミスとして──悔しくも情けないが、ルナマリアにはひとつだけ
良かった、と思える事があった。
その事だけで、この怪我も──もちろん反省は必要だけれども──落ち込みがちになる気持ちも何もかもを
チャラにできる程の事が。
(6/9)
それが「アスラン」だった。
ディオキアでの一件以来、ぎくしゃくとしていたアスランとの関係。
それがこの事故で全部キレイに流れ去った。
アスランとぎこちなくなったのも、元はと言えばルナマリアがアスランとその婚約者ラクス・クラインの一夜を
嫉妬して突っかかってしまったのが原因だった。
久し振りに会った婚約者と夜を過ごす──それは仕方のないことではないか。
例えその婚約者が、下着同然の寝巻きで出てきたりするような、抱いていたイメージとは多少(いや、かなり?)
異なる印象だったとしても、ルナマリアが関与すべき問題ではない……筈である。
でも、やはりショックは隠せず、何度か嫌味を言ったり褒められぬような態度を取っているうちに、アスランから
避けられるようになってしまった。
しかし、被弾し、危うく海面に叩きつけられるところだったのをアスランに助けられた。
その後も事情聴取を兼ねた見舞い(どちからと言うと兼ねられているのは見舞いの方なのは分かっていたが、
そうは思いたくないのが乙女心だ)で何度も医務室を訪ねてもらっているうちに、以前のような「普通の」会話も
できるようになった。
それが本当に嬉しい。
シンは自分の所為だとひどく落ち込んでいたけれど、ルナマリアはシンに感謝こそすれ、恨む気持ちになど
なる筈がなかった。
ルナマリアはアスランに気取られぬように大きく深呼吸をした。
腹部にぐっと力を入れ、「隊長」と、アスランを呼ぶ。
だが、アスランに「ん?」と視線を向けられると、言おうと思っていた言葉が勇気と共にしぼんでしまった。
「えーっと、あの、た、隊長には助けていただき、ありがとうございました」
「いや、まあ、あの場に偶然居合わせただけだから……」
何故か不思議と口ごもるように礼を言うルナマリアに、アスランも流暢とは言い難い口調で応えた。
動きがおかしく──と言うか、まったく動かなくなったシンの救援の為にルナマリアが差し向けられたのは
当然アスランも知っていた。
しかしアスランはその頃、カオスとの交戦の真っ最中だった。
だから、そちらへ行くつもりは皆目なかったのだ。
その場に居合わせたのは、追尾していたカオスが移動したのがその方向だった、という単なる偶然である。
しかも、こちらがカオスを追う立場だったから良かったが、もしも逆だったら、二人とも撃墜されていたかも
しれない。
ルナマリアのムラサメを抱えて戦線を離脱するセイバーをカオスが追ってこなかったのは、本当に幸運だった。
(7/9)
「それは、そうかも知れませんけど、お見舞いにも何度も来ていただきましたし。それにシンの事も、不問に
してくれるよう尽力していただいてるって、メイリンから聞きました」
「それは、まあ……」
今回の誤射がシンの故意の行動ではない事は、最も近くにいた目撃者であるキラと、そして何より被害者で
あるはずのルナマリアの証言により明らかとなっていた。
二人が別々に聴取されたというのに、シンが「おい、避けろよ」と警告していたという同一の証言をした為である。
ルナマリアがそれを語ったのは被弾直後のミネルバの医務室でであり、キラは戦闘からの帰投直後。
二人が口裏を合わせる時間もなく、キラに至ってはそうする理由すらない。
故に、シンの行為に対し、一切の処分が科されなかったのだ。
更に言えば、シンが疑問に思っていたシン自身への事情聴取がなったのは、レイからシンがかなりの錯乱状態に
あるという報告があがっていたのが理由である。
「お見舞いと言えば、カガリも何度も来てくれたんですよ」
「カガリ?」
仮にも一国の最高責任者を呼び捨てにしたのに気づいたアスランの咎めるような口調にも、ルナマリアは平然と
した顔で頷く。
「呼び方の事ならご心配なく。本人のご希望ですから」
「希望?」
「ええ。年齢(とし)も近いんだし、呼び捨てで構わない、敬語もやめてくれって」
「……そうか」
同じ赤服でありながらフェイスというだけで隊長と呼ばれ、こうして敬語で話されることさえ受け入れている
自分に対し、国家元首でありながら、その垣根をあっさりと取り壊すカガリ。
どちらが正しくて、どちらが間違っていると一概に言えるものではないだろう。
しかし、アスランは確かに苛立ちを感じていた。
それがカガリの奔放さに対する嫉妬なのか、自分自身に対する劣等感なのかも分からぬままに。
そんなアスランの胸のうちに気づくこともなく、ルナマリアは言葉を続けた。
「あたし、実はちょっとだけカガリのこと、羨ましいんですよね」
「羨ましい? カガリが?」
ルナマリアが発したその単語を聞きとがめたアスランが繰り返す。
カガリの何が羨ましいと言うのだろう。
どれだけ頑張っても思い通りになる事など殆どなく、それでも代表首長として立ち続けなければならなかった
カガリの何が?
豪華に着飾り、贅沢な暮らしをしているだけだとでも思っているのだろうか?
(8/9)
しかし、ルナマリアの答えは、アスランの意表をついた。
「ええ。代表首長っていう肩書きとか職務とか、そういうのはきっとあたしの想像なんか追いつかないほど大変
なんだろうなって思いますけど。それでも支えてくれる素敵な恋人がいるし」
この時、ルナマリア、いや、ここにはいないメイリンを加えたホーク姉妹は大きな勘違いをしていた。
かつてカガリが言った「(左手の薬指の)指輪はユウナからもらったものではない」という言葉と、その後の
キラとカガリの親密さを見た彼女らは、指輪の相手はキラだと思い込んでいたのだ。
キラとカガリがきょうだいである事を知る者は、ミネルバ内にはアスランとシンしかいない。
カガリに指輪を贈ったのがアスランである事を知る者も、この二人のみである。
それを知った後もシンがキラとカガリを話題にする事はなく、シンにキラ達の話題をふる強者(つわもの)も
いなかった。
故に、ルナマリアがそれを知らぬのは当然であり、事実の曲解から誤解へと繋がったのも無理からぬことでは
あるかもしれない。
そしてアスランもまた、ルナマリアの言葉を間違って受け取った。
アスランはカガリがルナマリアらに指輪の話をしたことを知らない。
更に、ルナマリアらとは逆にキラとカガリがきょうだいである事を知っているアスランは、知っているが故に、
彼らが恋愛関係にあるなどと勘違いするとは想像だにしなかった。
だから、ルナマリアの言う『カガリの恋人』が一般的に知られているカガリの婚約者、すなわち、ユウナの
ことであると思ってしまったのだ。
「事情はあるでしょうけど、やっぱり好きな人と将来を誓い合うって素敵だなって」
意に沿わぬ結婚を強いられた恋人を、結婚式場から救い出す。
大昔の映画にでもありそうな、ロマンチックな展開ではないか。
そんな意味で語ったルナマリアの言葉も、アスランにとっては「急に決まった式だったけれど」と聞こえていた。
アスランの脳裏に先ほど映像の中にあったウェディングドレスのカガリが浮かんだ。
その姿が、かつての悪夢の中のカガリと重なる。
それは最早夢などではなかった。
カガリは確かにウェディングドレスを着て、ユウナの隣に立ったのだ。
「で、俺に何か用か?」
「あ、いえ。別に用ってわけじゃ……」
一瞬、ルナマリアは何か寒気のようなものを感じた。
実際に何か用があったわけでもないので、それ以上の言葉が出てこない。
その時、アスランを呼び出す全館放送が耳に届いた。
アスランはルナマリアが声を掛ける前に、まるでルナマリアの存在などなかったかのように踵を返す。
取り残されたルナマリアの胸中には、名前の付けられない感情が渦巻いていた。
(9/9)
「行き先の変更ってどういうことですか?」
ダブル・アルファのブリッジへ戻ったキラは、マリューからその事を聞かされた。
カガリの事、そして今後のオーブへの対応を検討する為にも、ミネルバと共に議長とコンタクトを取れる
ジブラルタルのザフト軍基地へ急行する。
それを決定したのは、つい先刻のことだ。
しかしこの僅かの間に、ミネルバとは一旦別れダーダネルス方面へ反転するよう計画が変更されており、今は
その対応の真っ最中だった。
キラは目を丸くする。
「ミネルバの方にたった今、命令が下ったの。何でも放棄されているらしい連合軍の研究施設があるって情報が
住民から入ったそうなの。以前は頻繁に出入りがあったみたい。それの調査をするそうよ」
「同行しなくていいんですか?」
連合の施設ならば何らかの調査が必要なのは理解できるが、この次期にミネルバと別行動を取るというのが
解せない。
それに、MS開発に関するような施設ではないだろうが、かつてヘリオポリスでキラが学んでいたような工学的な
施設ではあるかもしれない。
そう想像すると、なんとなく以上の興味が湧く。
「グラディス艦長とも話したけど、まあ、そこはお互い色々と、ね」
「そう……ですか……」
ほのかな期待に反して苦笑いと肩をすくめるマリューに、キラは肩を落とした。
共闘はしていても……と、いうことなのだろう。
仕方のない事ではあるが、やはり一抹の寂しさのようなものを感じずにはいられなかった。
「まぁ、それもまったく関係がないとは言わないけど。その施設は内陸部にあるそうなの。Fシステムがあるから
ダブル・アルファじゃ接近はできても着艦ができないし」
「ああ、そうですね」
キラの考えていることを察したらしいマリューが言い訳のようにそう言うのを聞き、キラもまた頷いて理解を示す。
「相談も無しに勝手に決めちゃって、ごめんなさいね」
マリューの謝罪に、今度は首を横に振ることで理解を表した。
「あ、でも、ダーダネルスへUターンというのは何故ですか?」
キラはふと思いついた疑問を口にした。
ミネルバとはどこかランデブーポイントを決めて、その海底で待機で良いのではないだろうか?
「ええ、こちらにもちょっと行く所ができたから」
「行く所? 何のことですか?」
キラの問いにマリューは悪戯っ子のような笑顔を返した。
「連絡が入ったのよ。ミリアリアさんから『会いたい』って」
>>河弥氏
投下乙、GJ!
種世界は衰退しました
#3 アンニュイな気分と妖精さん
カガリさんは腕組みをして考え込んでいます。多分、カガリさんの頭の中では沢山の素敵な妄想がぐるぐる蠢いているのでしょうね。
でも、これ以上私達に残された貴重な時間を費やされる訳には参りません。つまり、名付け親失格です。
「タイムアウト……」
「よし、そこのお前! なんか執事っぽいからウズだ!」
カガリさんは私の話の腰をポッキリへし折りつつ凛とした佇まいの妖精さんビシッと指差します。
「なんとー、うずうずしたです」
「それでは今後は言葉遣いに考慮してくださいね」
名付けてそのままなのはあまり宜しくないので然り気無くフォローをいれます。
「かしこまったです、おじょうさまー」
ウズさんはピシッした敬礼を返してくれます。勿論私にです。カガリさんは不満そうにぷうっと頬っぺたを膨らませています。
だけど気にせずに司会担当、議事進行役の私はサクサク進めようと思います。
「それではカガリさん、次をお願いします」
カガリさんはなにやら言いたげですが、泣き言を言われたら大変ですので余り気にしないようにしましょう。
「次は……そこのお前だ! えーと……」
「ぼくこちーがいいです」
カガリさんに指を差された妖精さんは私の方をじぃっと見ます。
カガリさんと言えば何かショックを受けたのか、澱んだ空気を出してます。泣き言を言われたら大変ですので、取りあえず今はスルーしましょう。
「ええと、少し待ってくださいね」
急に話を振られるのは困ります。仕方ないので妖精さんの目の前に人差し指を突きつけて回します。
ぐるぐるぐるぐる。ぺたん。
「目を回してダウンしたあなたはとんぼさんですね。眼鏡をかけて眼鏡男子を目指して下さい」
「うぃ。ちきゅうはまわってますー」
さて、残りは後二人です。サクサク進めないと大変です。
「ごてーあーん」
「なんでしょう?」
「じぶんでなまえ、きめたいです?」
「ん? 自分で名乗りたい名前があるのか?」
あたりまえだのにーるきっくと前置きして、こくこくと頷きます。
「さー・よしゆき・とみのー」
「……サーってなんだ?」
「……さあ?」
自信ありげに胸を張る妖精さんに対して、私達は沈黙します。
後で調べたところ、サーとはなにかの称号だそうです。
残る一人の妖精さんは、ウキウキとしながら躍りを踊っています。
「そろそろぼくのじだいでは? では?」
「あなたはどうなさ……」
「お前はどうするんだ? 自分の名前は自分で付けるか?」
……これで何度目でしょうね、被られるの。
「とおからんものはおとにきけ、ちかくのものはめにもみよ。やあやあぼくこそはがんもどき、りゃくしてがんもなりー」
微妙にナンニュイな気分の私を無視して妖精さんはエヘンと咳払いして声高らかに名乗りをあげます。
「どこからそういうのが出てくるんだ?」
「それはうれしはずかしにゅあんすゆえ」
はい。これで命名完了です。今日の仕事はお終いです。サービス残業をしてしまいましたが、恙無く本日の業務を終了出来ます。
ほっと一息安心至極の私を見てカガリさんは訝しげです。何故でしょうね。
「ラクス、こいつらはどうするんだ? ここで飼うわけにはいかないと思うんだが」
昔のどこかの誰がが言いました。ローマの人らしいです。
“人は沢山ある真実から自分に都合の良いものをチョイスする”
そうです。
つまりは、私は妖精さん達の処置を考えていませんでした。正確に言えば、あえて思考の片隅から場外にポイ捨てしていました。
仕方ないので、夜道を散歩しがてら慰霊碑に返しに行きましょう。
一人では寂しいので誰かを誘いたいのですが、多分キラは忙しいのでカガリさんになるでしょうね。
外交問題が発生しなければ良いのですけど。
そんな訳でお話は次回に続きます。
追記 妖精さんに対する雑記。
本日、妖精さんの生息区域を慰霊碑近辺にて発見。学術的見地によりを数体捕獲。
妖精さんが人類と同等、もしくは高等な知性を持つ亊を確認。意志の疎通は可能ではあるが、その真意を読み取る亊は至難である。
個体認識の術として妖精さんにナンバリングの代用としてネーミングを行う。
ウズ、とんぼ、さー・よしゆき・とみの、がんもの四体を被験体として今後の経過を確認するのが今後の課題。
外見的特徴は
平均身長およそ30センチ
性格はいたって温和で人懐っこい
知性はそれなりに高い
危機的状況に陥るとボール状に丸まる
etc...
――ラクス・クライン
――To be continued on the next time.
>>In the world〜
第十四話の後編、投下乙です。
タイトル通り、キラとアスランの関係、そしてアスランとカガリの関係が
風雲急を告げてどろどろになってきました。
曲解が誤解を産んで、人間関係が更に複雑化していますが、
混乱することなく理解できました。
次回はエクステンデッドの施設と、ミリアリアとの会話が同時進行するようですが、
どのようにキャラクター同士が絡み合いながら進んで生くのかが気になります。
GJでした。
>>種世界は衰退しました。
投下乙です。カガリとラクスが本当にコントですね。
妖精さんのテンポについていけるラクスは天然腹黒の素質を十二分に
備えて居ると思います。
またの投下をお待ちしております。
■コードヒンドゥー 覚醒のヨウラン 第二話 シズルさんと底なしの変態たち
〜あらすじ〜
彼は靴下に童貞を捧げた誇り高きソックスハンター・ヨウラン。
今日も未だ見ぬソックスを探してシズル=ヴィオーラさん(年齢不詳)の部屋に忍び込んじゃって、
あっさり見つかりさあ大変!
「で……あんたなんでウチの部屋におるん?」
ここを逃げねば人生終わる。しかし退けない男の意地よ。
「こんな時こそ、中学生の時に作ったオリジナル拳法の出番だ。はぁぁぁぁ――!」
ぐるぐる回ってばんっ! 両掌を床に合わせ、同時に額をこすりつける。
これぞ、我がニホンコク拳法最終奥義――!
「――伸身後方二回転・全方位先行土下座! ゴメンナサイ、すいませんでした。
反省決していたしませんが、半生かけて謝ります。だから貴方の靴下をくだすぺぺーーっ!」
ぐしゃあ……っと。
頭をヒールで踏みつけるシズルさん――ヨウランは詰問を受ける事になった。
「あんた……まさかソックスハンターなんか? ウチの部屋にはソックスなんかありまへんえ?」
そうしてシズルさんはロングのスカートをたくし上げて、白い足袋を見せてくれた。
「足袋……足袋ーーー!?」
シズルさんがソックスハンターについて知っていた事も忘れるほど驚いて、
見上げようとした頭を更に力強く踏まれてヨウランは床にはいつくばった。
ぐりぐり。
「そ、そんな、メイリンにも踏まれたこと無いのに!」
無駄口を叩けないように、更に強く踏まれた。
殆どシズルさんの全体重がヨウランの頭部に乗っていた。
ぐりぐり。
「――っていうかもっと踏んで、なじってください!」
「堪忍なぁ。ウチ、ガチやさかい、アンタに嫌悪感持つ事も出来んわぁ」
「ヤッパリですかぁ――! お茶、ワイン、柿に含まれる!」
「タンニンなぁ――」
「探偵が指差します!」
「ハンニンなぁ――」
「閉じ込められました――!」
「監禁なぁ……踏んであげるさかい、だまってくれへんやろか?」
2/4
「おおぉ……うれしゅう御座います!」
ヨウランは恍惚と叫んだ。床しか見えない彼にも分かる。いや、彼にしか分かるまい。
――シズルさんは今、"明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なんやねえ"と、
豚を見る目で俺を見ている――いや、見てくれている……違う、見て下さっている!!
「――ああっでもっこの精神放置で肉体責め攻めなシチュエイションは、俺にとって正に!
嬉し恥ずかし桃源郷! ついでにイントネーションはシチュ(→)エイ(↓)ショーン(↑)!」
故郷(クニ)の父さん母さんごめんなさい、息子はずぶずぶのMに覚醒しました。
「そして今一度お願いします。どうかこの下衆めに貴女の足袋を下さいシズルさん!」
「……」
「その、無言で俺を簀巻きにかかった非情さこそを、今まで追い求めていたのかもしれません!
そして良いところに来てくれたレイ! 社会的に取り返しが付くうちに、お願いだから助けてくれ!」
「だが断る……手遅れだ」
かくしてヨウランの運命は決した――合掌。
3/4
「行くか……」
甲板から逆さづりにされたヨウランを見て、一人言葉を漏らす影があった。
ミネルバの千里眼、そう。ヨウランの師にして魂の義兄弟、バート=ハイムである。
「……助けに行くの?」
背後から響く声は、特徴的にシャギーをかけた前髪の御方のものである。
「アビーか……知れた事。ヨウランを排除して油断したヴィオーラ嬢の部屋に赴き、
その足袋を盗み出すのみ――」
何たる僥倖であろうか――平常心にて足袋を履きこなす美女など、CEの世にあっては既に
天然記念物も同然、故に――
「――あれは正にレアアイテム。ソックスハンターとして……否、今は一人の足袋狩人として、
虎穴に入らぬ訳が無い!」
「……そう、貴方はヤッパリそうなのね。ソックスは心と心を繋げる事が出来ると嘯いて!
ソックスは人と人を暖かくくるんであげる揺りかごなんだと、他人を、自分だって騙して!
人間なんて本心ではどうでもいい。ソックスにしか、あの布の固まりにしか興味の無い人なんだわ!
どうして……どうして私のあげたソックスだけでは満足してくれないの!?」
「アビー……君は其処まで」
封印していた思い、隠していた真情を吐露して縋りつくアビー――バートがその肩に置いた手は
邪険に払われ、苦渋に満ちた顔を向けることしか出来ない。
「すまない……だが男には! 愛よりも重大なものがあるんだ。それがソックスだった、
というダケなんだ!」
「許さないわ。どうせ、足首までしかないソックスよりも、オーバーニーの方が燃えて萌えるんでしょう?
全裸よりも、靴下だけーとかの方がお好みなんでしょう!?」
「いいや、むしろ裸体が邪魔だ!」
「――!!!」
ソックスに敗北した前髪……じゃない、アビーは床に崩れ落ちた。
「……行くといいわ。でも覚えておきなさい。貴方は絶対に私のところに帰ってくるのよ。
これは確実な未来なの。だから今日は貴方を送ってあげる――さようなら、バート=ハイム」
「ふ……その時を楽しみにしているとも。しばしの別れだ、アビー=ウィンザー」
そして、男気を背負うバートの後姿は去った。バートが完全に見えなくなるまで、溜めた涙を
堪えていたアビーも、バートが本当に去ってしまったことを悟ると――あるいは、自分のところに戻る気配が
無い事が分かると、もう嗚咽を躊躇う事も無く泣き崩れる。
「馬鹿……バートの馬鹿! 相手は"オーブのマムシ"なのよ! どうなるかなんて分かりきったことなのに!」
逆さづりの蓑虫がもう一つ増えたのは、そのすぐ後の事であった。
4/4
空は青く、海は紺碧に輝いて居る。大きく長い翼に悠然と潮風を受けて飛ぶ海鳥は、そのどちらにも
染まることなく白い孤高を誇っていた。
ただし、逆さまで。
「いやぁ……良い眺めだな。ソックスヒンドゥーよ」
「頭に血が昇ってきましたよー、ソックスレーダー」
二刻もすれば、血管が破裂して死ぬはずである。
「でも、なんだかコレはこれで気持ちよくなってきました、ソックスレーダー」
「君はどこまでいける口かね?」
「自覚の無い女子高生全能神とか、錬金術製の自動人形までなら余裕でいけます」
「属性の広さに恐れ入る……私はソックス以外に燃えられる物が無かった――
だがその空虚な人生も、今日で終わりかもしれない」
「そんな! まだわかりませんって! ヴィーノやシンが通りがかってくれたらきっと助けてくれます!」
「はは……そうかな」
バートは乾いた笑いを漏らした。ヨウランは心臓の一打ち毎にハンマーのような衝撃痛を感じている。
「そうか、もし生きて帰る事ができたなら……彼女に言いたい事が……」
「その言葉は自分で伝えてください。それと忘れないでくださいよ、貴方を越える
ソックスハンターになるのは、この俺なんですから!」
「ふ……君ともっと早くに出会えていたらな。ソックスヒンドゥー」
「ちょっと、ソックスレーダー! 冥土の土産に聞かせますけど、俺だって毒みたいな健康ジュースを
薦めてくるおなごさんはゴメンです……」
「そんな君は信用できない! 私は自分のみを自分で守る事にする。いいか、今から私の部屋には言った奴は、
全て犯人だと思うからな! ……おや? 誰か来たみたいだ」
「なんですって! 俺の事は気にせずに先に行ってください……なあに、後からすぐ追いつきますって!」
「そうか、後で必ず再会しよう! 何時もの店でおごらせてくれ」
「ええ、いきなりなんですけど、俺実はモビルスーツのパイロットになりたかったんです。
でも気が変わりました、この任務が終わったら、家庭を持って平凡に暮らすことにします」
こうした二人の無益な応酬は、見かねたサイ=アーガイル(仮名)がやれやれと言いながら
引き上げてくれるまで続いたと、ミネルバの日誌には伝えられている。
「君って本当に変なのを拾ってくるのが多いわね」
とは、マリア=ベルネス(仮名)の談。
To Be Continued
あくる日、妖精さんとのファーストコンタクトに成功した私は政府のトップとして一つの提案をしました。
それは、
『慰霊碑付近の地域を妖精さん達の居留地にする』
です。
まぁ、ハッキリ言えば現在誰も慰霊碑を管理しないので、条件をコミコミにして押し付けてしまおうというややブラックな魂胆がある訳なのですが。
「アンタって人はーっ!」
ですが、やっぱり、世の常と言うべきなのか、いるんですね、不満分子。
予想通りにシン・アスカ氏です。
因みに。私がシン・アスカ氏をシン・アスカ氏と呼ぶのは理由があります。
カガリさんみたいに呼び捨するのははしたない亊ですし、余り親しくないのでフレンドリーに呼び掛ける訳にはいきません。
適度に距離を取りつつ敬意を失わない亊を追求した結果、シン・アスカ氏になったのです。
多少よそよそしい感じがない訳ではない訳なのですが、それはそれで仕方ない亊だと思い込む亊にしたので問題はありません。
素晴らしいですね、思い込みって。
かのミーア・キャンベルさんみたいに思い込みが激しいのは問題ありなのでしょうけれども。
種世界は衰退しました
#4 シン・アスカ氏は○○しました
予想通りと言えば予想通りです。シン・アスカ氏は慰霊碑に並々ならぬ思い入れがあるらしいですから。
でも、個人の感情に拘泥していては組織が成り立ちません。
悲しい亊ですね。
私は余り好きではないのですが、理想の組織は『個人が個人の自由意思を捨てて組織の歯車となる』事だそうです。
私の胸がチクリと痛みますが、人類が滅亡しつつある現在では我が儘は敵なのです。私が我慢すればそれで事が足りるのです。
泣いて馬謖を斬る心境です。
でも、だけど、当然の様に、シン・アスカ氏は不満たらたらのようです。
親の心子知らずです。第一期反抗期の子供を持った親の心境です。
ですので、結論としてこうなりました。
隊長・私、副隊長・カガリさん、ヒラ隊員・シン・アスカ氏で妖精さん訪問使節団の結成です。
静けさや 岩にしみいる 蝉の声
そんな一句が心に浮かぶ蝉時雨の中、燦々と照りつける日差しを一身に浴びて使節団は一路慰霊碑へと徒歩で向かいます。
鬱蒼と膝下まで茂っている藪を掻き分けて進みます。
敵は藪だけではありません。小刻みにある勾配のアップダウンは確実に私達の体力を削り取ります。
時おり視界に入る謎の虫は私とカガリさんを恐怖のどん底に陥れます。
はっきり言って白旗をあげたい気分です。
アカデミーで訓練を受けたシン・アスカ氏やレジスタンス活動に勤しんだカガリさんとは違って、私は深窓の令嬢として育てられたので泣き言を言っても仕方ないのです。
それにしても、オーブの野山を駆け巡って育ったシン・アスカ氏の提案した慰霊碑への近道はまるでダンジョンです。
距離的には短いと思うのですが、整備されていない荒廃した獣道以下の道を歩くのは辛いのです。
「そろそろ着くぞ」
私達か弱い女性陣(か弱いのは私だけかもしれません)の先を行くシン・アスカ氏はぶっきらぼうに振り返ります。
少しだけ安心しました。素直に普通の道を通ったならばとうの昔に着いていてもおかしくない位の時間が経っていたのは内緒ですけれどもね。
視界が開けた先には、私達が知らない光景が広がっていました。
そうです。慰霊碑を中心として妖精さん達のサイズのミニチュア都市が出来ていたのです。
立ち並ぶ高層ビル群、整備されている道路。生意気な亊にきらびやかなネオン街まであります。
私達旧人類が失った文明が存在しています。
まぁ、何度も何度も繰り返したりしてくどいのかもしれませんが、現在の地球の支配者は妖精さんです。
謎の超技術があって然るべきなのです。寧ろない方がおかしいのです。
突如として現れた都市は肯定しなければならないのでしょうね。
そんな結論に達した私とは裏腹に、カガリさんは呆然と立ち尽くしています。
シン・アスカ氏と云えば夢遊病のお方の様にフラフラと都市に近づいていきます。
うーうーうーうー。
サイレンが鳴り響きます。
一つの区画の建物がパカッと開いて人型ロボットが現れます。
プールらしき水溜まりの水が抜けて鳥型ロボットが登場します。
空き地になっている所がクルッとひっくり返って四足歩行の獣型ロボットが見参です。
びっくりして足を止めるシン・アスカ氏の目前で三体のロボットが合体してスーパーなロボットに変形です。
「ぜったいむてきー」「げんきばくはつー」「ねっけつさいきょうー」「みなみはるおでございますー」
あらあらあらあら。パイロットは先日お会いした四人の妖精さんみたいです。
「なんなんだ一体!」
シン・アスカ氏の思考回路はオーバーフローしてオーバーヒートの様です。
「どう? かっこいー?」「つよいですぞー。ぐたいてきにはねこまっしぐら」「いたのさーかすもかのうですぞー」「どうりょくはゆうきとどりょくとゆうじょうです」
取りあえず私に出来る亊は驚愕の展開についていけずに固まってしまったカガリさんとシン・アスカ氏を再起動させる亊だけです。
具体的には頭部に刺激を与える亊ですね。正確には頭を叩くとも言います。
ぺしぺし。
二人の頭は石頭でしたので、私のは真っ赤になってしまいましたがどうにか再起動完了です。
「これは一体……」
「なんなんだ、コレは!」
予想していた亊ですが、カガリさんは人の話の腰を折るスキルの保持者だと言うことを確認しました。
シン・アスカ氏は不満そうに口を尖らせています。
「ここはぼくらのまちです」「いいえ、ていとです」「ごっさむしてぃーのまちがいなのでは?」「むしろさうすたうんかと」
これはパイロットの四人の妖精さんです。
「にんげんさんきた! これでかつる!」「にんげんさん、おっはー」「おっきーのー」「これはもしかしてかみこうりん?」
こっちはわらわらと集まってきた妖精さん達です。
「お前ら、誰に断って此処に街を作ったんだよ!」
乱暴な物言いのシン・アスカ氏は交渉には向いてないみたいです。マイナス査定です。
「くかくせいりいいんかい?」「そんなんでいいんかい?」「くじょうはぶんしょにしてがいとうぶしょにー」「おやくしょしごとのへいがいだー」「むだをなくさないとー」「どげんかせんといかんのですなー」
きゃいきゃいきゃい。妖精さんは楽しそうに輪になって踊っています。
シン・アスカ氏は何やら意義申し立てをしています。
――カガリさんと言えば――。
「二人とも、お腹すかないのか?」
敢えて今の今までコメントをしませんでしたが、カガリさんは大きなバスケットを持って来ていました。
その中に入っていた食べ物広げて食事をしています。至福を感じてるようにおにぎりを頬張っています。
食事の内容はおにぎり、お新香、お茶菓子などなど。実にカガリさんらしい(?)チョイスです。
私は優雅にサンドウィッチなぞを嗜みたいのですが、ぐうっと鳴るかもしれないお腹を背中には代えられません。
「おだんごー、しらたまー、おはぎー」「まったりとしていて、それでいてまろやか」「これはあじのるねっさんす」「ほうしょくのじだいのもうしごです」
妖精さんもちらほらと集まってきてお茶会です。
シン・アスカ氏も渋々としながらも参加です。
妖精さん達はお菓子を好まれています。
シン・アスカ氏はおにぎりを食べてしかめっ面です。多分、梅干しだったのでしょう。
残念な亊にカガリさんは爪楊枝を使ってシーハーシーハーをしていません。
兎に角。私達使節団は妖精さんと友好関係を築く亊に成功しました。大事な大事な一歩を踏み出したのです。
そんな訳でお話は次回に続きます。
後日談。
後日、妖精さんシティーを訪れたところ、都市は綺麗さっぱり荒廃していました。 お菓子でおびき寄せた妖精さん曰く、『あきちゃった』との亊です。
超技術を誇る妖精さんの弱点は移り気で飽きっぽい亊みたいです。
あと、甘い物には目がないようです。
因みに。
慰霊碑の傍らに女神像(妖精さんの信仰対象?)が慰霊碑の傍らにポツンと建っていたのですが、モデルはカガリさんでした。
ちょっとショックでした。
なんか悔しいのでカガリさんには内緒です。
――To be continued on the next time.
>種世界は衰退しました
妖精さんが予想より大きくてびっくり
カガリがラクスに振り回されているかと思いきやかなりのマイペースっぷりですね
このメンバーだとシンが苦労しそうだ
>河弥氏
各人の気持ちの溝が埋まるどころかさらに亀裂が入ったままααとミネルバは別行動で嵐の予感
>機動戦士巻末シードデスティニー
シズルさんの足袋はオイラも欲しい!踏んで欲しい!
水彩絵具、パステル、色鉛筆、ポスターカラー。
かつては芸術を産み出した画材も、衰退して文化活動を放棄しつつある私達にはもはや無用の長物です。
そんな訳で無用の長物を活用しようとお絵描きです。具体的には絵本作りです。妖精さんに進呈して友好関係を発展させようという試みです。
因みに。今回のメンバーは、私、カガリさん、ルナマリアさんです。
カリカリ、ペタペタ。
三人とも無言のままゆっくりとクリエイティブな時間が流れていきます。
〆切りがないので時間をかける事が出来ます。時間をかけ過ぎると人類が滅亡してしまうのが目下の所の悩みのタネですが。
「出来たぞ!」
口火を切ったのはカガリさんでした。
「アスハ代表って手が早いんですね」
「あら、もう出来たんですの?」
私達はカガリさんに憧憬の眼差しを送ります。
「いやあ、それほどでもある」
カガリさんは照れながら頭をポリポリかきました。態度とは裏腹に自信がおありのようです。
「よし、始めるぞ?」
カガリさんは画用紙を私達の方に向けます。表紙なのか、『もりのなかまたち』と大きく書かいてあり、合わせてリスやネズミがファンシーに可愛らしく描いてあります。
「もりのなかまたち。森にはりすの兄弟がいました……」
声を張り上げながらお話を朗読して画用紙をめくります。絵はパステル――ではなくて、クレヨンで描かれていてかなり上手いです。
ストーリーはりすの兄弟が目玉焼きを作るといったシンプルなものです。
駄菓子菓子、もとい、だがしかし。これは絵本でなくて紙芝居です。当初の目的から乖離しています。
絵が上手かろうかやっぱりカガリさんはカガリさんみたいで安心しました。
私の安堵と裏腹に紙芝居は続いて大きな玉子を大きなフライパンで焼いています。 どうやら片面焼きのサニーサイドアップです。
ルナマリアさんは何か不満があるのか目をひそめて私に囁きかけてきます。
「ラクス様、目玉焼きはやっぱりターンオーバーじゃないと駄目ですよね?」
いいえ、私はサニーサイドアップ派です。黄身は半熟が好みです。
「こらぁ、そこ! 無駄話をしない!」
カガリさんは自信作にケチをつけられて大変ご立腹です。
それはさておき、紙芝居は続きます。
「もりの仲間が集まって、皆で目玉焼きを食べる亊にしました」
「やっぱりアスハ代表って醤油派なんですね。私はウスターソース派なんですけど」
どうやらルナマリアさんは目玉焼きには並々ならぬこだわりがあるみたいです。
ですが、それは話の本筋とは違いますし、人それぞれの嗜好の問題なのでスルーします。
種世界は衰退しました
#5 もりのなかまたち
「ごちそうさまぁ」
最後の一枚は衝撃です。
描かれていたのは今までのファンシーな絵柄とはうって変わってリアルに描かれた食い散らかされた死屍累々の山。
そして満腹したのかゲップをしているファンシーなライオンさんです。
……カガリさんは何処までいってもカガリさんでした。頭が痛いです。
「どうだ? 面白かっただろ?」
かなりの自信があるのか、カガリさんは目を輝かせています。エヘンと胸を張っています。
「りあるー」「じゃくにくきょうしょくのおきてですなー」「つきつめられたけつまつです」「もうちょっとあかるいはなしをしょもうです」
いつの間にやら妖精さんがいました。 口々に好き勝手な感想を述べつつカガリさんとハイタッチをしています。
ルナマリアさんは初めて見る妖精さんを前にして固まっています。
そして私に一言。
「……ラクス様、この前提出された報告書は間違ってますね。この子達の平均身長は30センチじゃなくて10センチくらいですよ」
虚偽報告を指摘されてしまいました。あれは誤字なんです。ケアレスミスなんです。訂正し直すのが面倒臭かった訳じゃないんです。
私に降りかかる運命は厳しいです。始末書は嫌いです。
私の思いを那由多の果てに追いやってルナマリアさんのお小言が始まりました。
「これはまさかでんせつのきょういくまま?」「じゅけんせんそうはようちえんからはじまるです」「ゆとりきょういくのへいがい?」「むしろこころのきょういくがだいじなのでは?」「やーん、べんきょうきらいなのー」
晒し者ですね、私。
そう言えば妖精さんはいつ来たのでしょうね。
答えは始めからだそうです。
カガリさんの紙芝居の絵を書いたそうです。
野性味溢れる話を考えたのはやっぱりカガリさんだそうです。
そんな訳でお話は次回に続きます。
後日談。
今回のイベントは一応レクリエーションとしてかなりの成果を残す亊に成功しました。妖精さんとの友好関係もぐっと深まった亊でしょう。
今度は妖精さんが私達をイベントに招待してくれるそうです。
――To be continued on the next time.
「アスハ! 右翼から突き崩してくれ!」
「解った、任せろ!」
目の前で激しい戦闘が繰り広げられています。まるでゲームみたいです。だけど私にとっては現実なのです。
なんと申しますか、リアルRPGとでも言うべきなのか。
私には良く解りませんが、私達はファンタジーの世界から盗んできたような甲冑を身に纏っています。
シン・アスカ氏は全身を鋼鉄で覆った金色に輝くプレートアーマーで、例えるなら騎士です。
カガリさんはむやみに肌の露出を多くしたビキニタイプの鎧で、例えるならアマゾネスです。
でも、ひたすら戦いに没頭するお二方を私なりに正しく形容するなら、バーサーカーとかバーバリアンです。
私ですか? 私はどう贔屓目に見ても盗賊っぽいです。何故でしょうね。心当たりが無いわけではないのですが。
種世界は衰退しました
#6 迷宮組曲
妖精さん主催のイベントに誘われた私は手の空いている人を募って慰霊碑改め妖精さんシティーを訪れました。
私、カガリさん、シン・アスカ氏といったそうそうたるメンバーです。
そして、今まさにイベントとして60階立ての塔を攻略している最中なのです。
因みに。今回の私は至って地味です。
武器を持っての肉弾戦は深窓の令嬢として育てられたので無理ですし、魔法を使って援護するのも無理です。
自慢ではありませんが、私は肉体労働や頭脳労働は得意ではありません。育ちが深窓の令嬢な訳ですし。歌姫なら得意なのですけどね。
残された道は敵モンスターがドロップした宝箱を空ける役割の盗賊か、迷宮踏破を記録するマッパーしかなかったのです。
個人的にはどちらかでもない傍観者になりたかったのですが、無理でした。前科を踏まえた結果、盗賊になってしまったのです。
更にマッパーの大役まで仰せ付けられてしまいました。私はその場のノリでコロコロ変わる言動のアバウトさがウリだったりします。言わずもがなですね。
兎も角。現在はマッピングに使う60枚の方眼紙残り一枚です。私達の血沸き肉踊る冒険を記したマップは全て埋まっていませんが、それはご愛敬です。
ですが、問題があります。ラスボスのいるであろう部屋の扉が開きません。過剰に退廃的な装飾のなされた扉はびくともしません。
いかにも怪しそうな鍵穴があいている事と関係性がありそうです。
つまりは、扉を開けるカギがありません。ラストバトル目前の今から探すのは疲れます。
私は途方に暮れました。でも、カガリさんとシン・アスカ氏はそうでもなさそうです。
扉を破壊すべく攻撃しています。
「アスハ、二人の力を合わせないとこの扉は開かない!」
「だけど、シン! 私はお前の家族を……」
「正直に言えばわだかまりはある。だけど、それは別の話だ!」
「……シン!」
知らぬ間に和解してますね。言葉に出来ないほどの感動的なシーンですが、言葉に出来ないので敢えて語りません。
「いくぞ、必殺! アスカファイナルスラッシュ!」
「一撃必殺!ゴッドカガリアタック!」
お二人はちょっと頭の痛くなる様な技の名前を叫びながら同時に扉に切りかかります。
友情の力って凄いですね。扉が開きました。直情径行肉体派には不可能はないみたいですね。
ですが、たかが扉に必殺技を使ってどうするんでしょうね。ラスボスには愛情の力を見せてくれるんでしょうか。
そんな訳でラスボスの登場です。
「ラクス様、アスハ代表! ……そして、シン! よくぞここまで来たわね?」
「……お姉ちゃん、恥ずかしいよぅ」
見覚えのある人達ですね。ホーク姉妹のお二人です。
「フフフ、ここまで来たのは誉めるけど、ここまで来た亊を後悔しなさい!」
「……恥ずかしいよぅ」
自分に酔っているのか、ノリノリのルナマリアさんは鞭をピシパシ振るって女王様みたいです。メイリンさんは囚われのプリンセスでしょうか。
兎に角。戦いの火蓋は切って落とされました。
妖精さん達には次のイベントをもっと文化的で平和な物をと提案しましょう。
後日談。
結局ラストバトルには勝利しました。
今回のイベントで用意された60階建ての塔やモンスター、装備品などで妖精さん達には謎の超科学力があるのがわかりました。
相互理解に一歩前進です。
今回の一番の被害者はメイリンに満場一致で決まりました。
ラスボスがキラでなかったのは嬉しい亊でした。
残念な亊にシン・アスカ氏とカガリさん、ルナマリアさんは三角関係にならずじまいでした。
そんな訳でお話は次回に続きます。
――To be continued on the next time.
>種世界は衰退しました
酔っぱらった自分にこのノリはやばいほどつぼです
とりあえずラクス様の嘘つきー(妖精さんのサイズ)
>>衰退
連投乙。
自分もこのノリはかなり好きだ。
なんやかんや言いつつカガリが一番妖精と友好を深めてるなw
>>彼女
投下乙。
本編とは違う流れなのにやはりアスランは孤立するw
曲解による勘違いの流れがわかりやすかった。
無理のない組立てだと思う。
>>覚醒
投下乙。
自分はメガネ萌なので多くは語れぬ。すまぬ。
だが気持ちは非常によくわかる。
>>108 語るスレで騒いでる人もいますので、
次から投下予告でもしてみたらどうでしょうか?
>>120 ちょっと待て。
SSの内容に言及もしてない只の提案だぞ。
それがスレのルールなら今から読まないといけないが、
感想を言ってからで無いと発言も出来んのか?
>>119,121
語るスレで思う存分語ってこい
思いつくまま書いて連続投下は
今までも何度かあったパターンだし
それで文句言う職人は居なかったはず
別にルールじゃないが四円要請の時は
投下予告もあるだろうが
それにたかが2ちゃんのカキコでルールもなにもあるか
ただそのレスをするタイミングかどうか
空気を読めと言っているだけだ
>>衰退
投下乙
妙なノリの文体とラクスの一人称という
珍しさに思わず次が気になる
原作は読んだことはないが興味を持ったので今度見てみよう
ラクスの腹黒さを直接表現無しで見せられればもっと面白くなると思う
次回も期待する
>>彼女
投下乙
いずれ、もつれるのだな。原作もこちらも
話の見せ方がかなり上手くなった
お見事。次回も期待して待つ
>>巻末
投下乙
ソックスハンターか……
多いんだな、ガンパレマニアがw
小さな島に風は吹く
第2話『史上初の戦い(前編)』(1/6)
「コイト三尉! 返事をしろ、オイ! こら、コイト、答えろ!!」
「……こ、こちらA4、コイト三尉……。すみません機体中破、であります。頭部ブロック損傷、
脱落……。その他は大きな破損は……」
「すぐ返事しろっ! 馬鹿野郎! ……体はなんでもないんだな? ――ふぅ、良かった。
機体を降りて駐屯地に行って技術のサポート! 気にしないで良い、貴様の所為じゃない」
確かに彼はエース級という訳ではないが、センスを感じてダイが自らの部下へと引っ張った。
だいたいオーブ国内でMSにライフルを撃たれるという想定は国防軍に所属している誰にも
ある訳がない。いきなり居ないはずのMSに、しかもアストレイにライフルを向けられて即応
出来るパイロットばかりならば、確かに訓練などすること自体無意味だ。
「司令室、こちらA1。映像は見たな? 『敵』はM1と思われる機体を最低一機ウェポンロック
解除の上運用中。A4中破、活動続行不能なれどパイロットは健在。A1は現在起動位置にて
待機中、A2、A3の起動準備を急がれたし」
『ヨコヤマだ。M1各機の準備はさせている、それと斥候を上に送った。少し待て。ポートに下りて
きた研究所員の話に寄れば武装した複数名の男に襲われたそうだ。MSはどうやら動作確認用
に研究所の地下にあったものらしい』
『通信班フジワラ士長よりA1、二の一分隊から映像が来ました。そちらにも回します』
クソ、なんであんな機体が……。ダンは地団駄を踏む想いでモニターを睨む。
カラーリングが違うものの機体はM1の試験型、恐らくはプロトタイプに系譜が近いであろう
事は形状から容易に想像は付いた。但し武装はPBF系の装備ではない。右手に持つライフルも、
左手のシールドのデザインも違う。細かい所では頭部アンテナの形状とイーゲルシュテルンの
位置が微妙に違う。
そして背面デザインがM1とは明らかに違う時点でダイは気が付いた。
「X105をコピーしようとしてたのか。真面目に……!」
ならば機体の動作を司るOSは最新型の可能性がある。連合からフィードバックされたのは
X105のOSで、それを元にM1のOSも構築されている。そしてX105のOS自体は今でも
アップデイトが繰り返されているのは、元テストパイロットである以上ダイは当然知っている。
腕が同等ならば機体性能はあちらが上。と言う読みは妥当であろう。
「正面切っていったらマズいって事か、くそったれ…………!」
『研究所の副所長と連絡が取れました。機体のベースはマスプロ・プロトV2、主機部はそのまま
なので出力はMBF−M1より下。OSとフレームに若干手が入っているので、瞬発力はデータ
では若干上とのこと。また武装は全てワンオフでかなり威力が大きいとの事であります』
なんでそんなモンが簡単に持ち出せる状態でおいてあるんだ! ダイが無線に怒鳴り返す。
「肉弾戦以外、出力の多少の大小なんか関係あるか! パイロットの心当たりは!?」
『警備員数名とプログラマーの女性が一人行方不明だそうですが、内部のものではないだろう
という見解です。それとOSがナチュラル用に完全に特化しているのでコーディネーターでは
逆に操縦しづらい筈だとも言っています』
ナチュラル専用と聞いても嬉しくないダイ。自身もそのナチュラルでM1のパイロットである。
それにベースがマスプロ・プロトV2と言うのも嘘だ。『無敵のストライク』のコピーなのだろう。
『ヨコヤマだ、M1の準備完了、以降、特機小隊の指揮は任せる。頼んだぞ』
第2話『史上初の戦い(前編)』(2/6)
『A1へ、A3マーシャル先任三尉。A2チャンプス三尉と共にM1の起動完了。現在格納庫内で
全ロック解除、待機中。小隊長の指示を請う。――ダイ、どういう状況だ? 何をすれば良い?』
ダイが血が上った頭を冷やすために深呼吸をしていると無線が呼びかける。
「マーシャルはそのまま山を登れ、チャンプスはノースビレジまで回ってから登山開始。
タイミングは両機で合わせる。簡単な概要は、今テキストで転送したから両名とも確認しろ」
『A1へチャンプス三尉。A2、1種装備で待機中。登山……?、小隊長、なにしろってんです?』
「囮だ、両方から挟み撃ちで威嚇射撃しろ。当てるなよ?」
と言いながら再度試験機の映像を見直すダイ。
『囮って、おいダイ! 何考えてやがる!? ――位置はこのデータで良いんだな?』
状況がどうあれ国防軍がビームライフルやビームサーベルを使うのは色々制限がある。
部下にそんなどうでも良い政治的なリスクを被せる訳にいくか。とダイは顔を引き締める。
「最終的には俺が正面から当たる。カッコイイトコは隊長である俺が頂く、そう言うことだ。
――只今より作戦開始だ。各機移動開始せよ! 全機定位置に到着10秒後に進出開始!」
『ジョーモンジ二尉、こちらは参謀部アズチ二佐だ。目標の該当機体は出来る限り少ない損傷で
動きを止めろ。それと、わかっていると思うが威嚇以上の火器の使用については、現状認める訳
にはいかん。使えば何らかの処分があるのは間違いない。自分の立場からはこうとしか言えん、
……俺には何も出来ん、許してくれ。以上』
第2話『史上初の戦い(前編)』(3/6)
全身を淡いピンクと赤で塗られた機体。シールドに銀で斜めに大きくプロジェクト名のレタリングが
あるのはデモ用機体の慣例通り。その下にモルゲンレーテと、国防軍ではなくオーブ首長府の
レター。如何にも機密兵器な装いではある。
「T03……? テストベット三号機。『ここ』にあったんだ! 自分の足下にあったのに秘密に
されてたなんて……」
プロジェクトの正式名称は知らされていなかったが資料やプログラムの中に『ProjekutーR』や
『深紅計画』の文字は見たことがあった。それに彼女は各種資料のフィードバックで先ず最初に
新技術をテストされるのが三号機であることだけは知っていた。
今、目の前にある機体が自身の作った各種プログラムのテストベットであることは先ず間違い
あるまい。但し、彼女はそれはきっとオノゴロか何処かの秘密工場のような所にあるのだと
思っていたのだが。
既に状況など忘れて演壇の外に出て窓越しのMSに目を奪われるコーネリアスである。
「背面のハードポイントはX105そのまま? アストレイ、ガワだけって事? ならばあんなに
撃ったら簡単に本体がバッテリー上がり――。え? ライフルが励起電源別体式なの?
軽量化失敗してP系じゃ保持も精一杯のはず……。あの子はX105そのもの……なの?」
国防軍の正規型MBF−M1と互角以上にやり合う試験型三号機。その動きを見た彼女は
思う所があった。
「コーディネーター? 出来る限りオートをカットして動かしてるかな、あの挙動は」
コーディネーター専用とされる機体はあらゆる全ての動作をマニュアルで行う。歩く時の
バランスやジャンプの時の微妙な挙動まで全てはパイロットの瞬間的な反応に委ねられて
いるのだ。だからこそナチュラルでは歩かせることさえ出来ない。片足立ちのバランスを機体が
自然に取ることはないのであっさり倒れてしまうからだ。勿論ただ歩くだけの様な基本動作なら
オートモードはあるのだが、その状態で複雑な動作は出来ない。戦闘など無理な相談である。
対してM1などに組み込まれたナチュラル用OSは初めから基本的な動作はプログラムされて
いる。ただ歩くだけにしても、全ての考え得る挙動全てのモーションをキャプチャーし、歩き続ける
限りそのモーション同士を繋げ、穴を埋めるための計算を止めることはない。当然1/10秒の
単位で動作が鈍くなるのは否めないもののパイロットは微細な挙動は気にせず、機体動作に
専念出来る。それにナチュラルであれば反応が鈍い。などと気づくことさえ出来ないのだ。
「むぅ。一応ここはセキュアな研究所施設内。ならばパスワードだって……。あれ?」
胸から手帳大の端末を取り出して叩きだしたコーネリアスは、もっとも軽いセキュリティーコード、
それが通ってしまった事に軽い憤りを覚える。
「だったらカトリが上と下、行き来する必要ないじゃない!」
コーネリアスは怒鳴りながら試験機の機体テレメーターへとアクセスを始める。そして数秒後。
ディスプレイにはあっさりと【login Success !!】の文字が出た。
「機体テレメーターに入っちゃった、なんてゴリッパなセキュリティ。……取りあえず、まぁ良いか」
第2話『史上初の戦い(前編)』(4/6)
ダイのM1は一気に丘を駆け上ると研究所の中庭にでた。研究所2階部分の一部からは
真っ黒な煙があがるが火の勢いは今の所強くないように見える。その正面、試作型が左右から
の威嚇射撃にも悠々とした態度で構えているのは直撃はないと踏んでいるかららしい。国防軍の
マークの付いたヘリはもう飛び立てる程のスピードでローターを回す。
足下には敷き詰められた芝生とかなりの面積に施された舗装。そしてかなり大きな穴があるが
如何にも人工的に穴のカタチは真四角。
「初めて見たがなんてデカイ庭だ、山の上だぞ。駐屯地二つ分はあるじゃねぇか……。あそこから
出てきたのか。――なっ! うわっち、アブねぇっ!! カエンよぉ、動き止めんのも命懸けだぜ、
こりゃあ……。あの動き、慣れてやがる。傭兵か? なんつう正確な射撃だ……」
Project Rouge−T03のレタリングをデカデカと胸とシールドにかかれて、全身が薄い
ピンクと紅で塗装された試験型は、ダイの機体を見つけると巨大な、と表現するのが相応しく
思えるライフルを緩慢に構えた。と思うやいきなり発砲する。
ダイが反射的にシールドで受け止めたのは良いが、モニターで見た限りシールドの形が若干
あやふやになったように見える。ダメージコントロール画面もシールド上半分については対ビーム
コーティングが既に使い物にならなくなった、と中庭でM1を走らせるダイに伝える。
「クソっ! 地下にこもって内緒で遊ぶおもちゃにしては威力でかすぎじゃねーか!
腕もかなりなモンだな、あのスピードでピンポイントでポンポン狙って来やがる……」
1キロ以上離れた場所からほんの一瞬でポイントしてMSの頭のみを吹っ飛ばした相手だ。
射撃で打ち合えばジリ貧になるのは目に見えているが、勿論簡単に距離を詰めさせてくれる
様な生やさしい相手ではない。
「司令室へA1、リニアガンタンクと自走砲は山にあげるな、ヘリコもダメだ! ただ的になる、
ピンク野郎のパイロット、かなり出来るぞ!」
大事な試験機である以上、撃墜する事は出来ない。それに火器の使用は厳しく制限されて
いる国防軍である。そしてそんな事は織り込み済みだといわんばかりにライフルを速射し
イーゲルシュテルンでダイを牽制する試験機。
「どうしろっつーんだ! ……ん? ――司令室! A1ジョーモンジだ、アズチ参謀が居たら
出してくれ!」
第2話『史上初の戦い(前編)』(5/6)
時間的に見て、T03はクロゥに渡したプログラムが既に適応されてアップデートされた筈だ。
とコーネリアスは思う。
そして試作で作られる全てのソースコードには自壊プログラムが添付されている。自分の
作った分のそれを起動させようとして彼女は考える。自分が作ったプログラムは恐らくモーション
管理の基幹部分だ。それを自壊させてしまえばモーション間の整合が取れなくなるため、機体の
モーション計算は全て止まる。
普通ナチュラルのパイロットならば操縦不可、となるのだが、T03のパイロットは恐らく
コーディネーター、それも色々な機体に乗ったことのある傭兵かテストパイロットであろう。
そしてT03のベースは、恐らくコーディネーター用OSのX105V3。
「むしろ動かし易くなる可能性の方が高いか。……ならば」
一瞬彼女は何かを考えた後、プログラマーの速度で小さなキィを叩いていく。
「ちっ。リモートシャットダウンはキッチリ無効にしてるか。とにかく動きを遅く――テストモードオン
……やりっ、効いた! 実験主任権限によりモード3に移行、オートバランサーシステム介入最大。
オートマニューバプランAに移行、モーションセレクトフルキャプチャ、全自動測距モード終了。
省エネモード開始、照明、エアコンカット、火器管制強制シャットダウン……はヤッパリ効かないか。
あれ? あとは選択不可……、って主任権限、これだけ〜? って、なによ。この試験管制!」
どうやら彼女の知る最高権限では強制的に機体の電源を落とすことは出来ないらしい。
第2話『史上初の戦い(前編)』(6/6)
「クソっますます動きが悪くなった! ジンの方が百倍マシだ、畜生!! ――おい、スミダ。
BBは地下から上がったか? 包囲されちまった。BBが戻りしだい撤退だ、今日のところは
なんとしても帰らにゃならんのだからな」
突然照明が消え空調が止まって既に40度を超えた試作3号機のコクピットの中、モニターの
薄明かりに浮かぶ男は額の汗を拭いながら明らかに機体のものではないインカムにだみ声で
怒鳴る。
『おい、リーダー。そうすっとBB拾ってこのまま飛べばいいのか?』
「アホぅ! 山の陰にランチャー構えた歩兵とMSが待ってるんだぞ!? ヘリはもう捨てろ、
中に入った連中もBB以外待つ必要はねぇ! BBはその辺素人だ。何とか森の中を逃げ延びて
海に潜れ! 良いな?」
先ほど人質を取ったと得意げに連絡してきたマチスもどうやらやられたようだ。人数は不明で
あるものの建物内部に諜報系のエージェントが何人か居たらしい。極秘プロジェクトの研究所で
国防軍参謀本部のヘリが普通に横付けになるくらいである。当然そういった備えはあると見る
のはむしろ自然だろう。
だから7人じゃ無理だつっったんだ。誰にともなく男は毒づく。見た目はただの研究所では
あったが初めの警備員に見つかりやむなく射殺した時点で施設中にアラートが出た。想像以上に
素早い対応で端末はロックされ職員は脱兎の如く逃げだし、更にはあのウスノロ国防軍がたった
15分でMSまで持ち出してきた。小さなミスから状況は全く持ってデータ奪取どころではなくなって
しまったのである。
その上データ奪取のための潜入組も潜伏していたエージェントに次々打ち倒され、今や電子戦
のプロではあるものの荒事は素人のBBただ一人。外部攪乱担当のスミダも何も出来ずにヘリを
始動して目立っただけ。そして男も地下格納庫にあったMSを起動したのは良いが予想以上に
早い国防軍の迎撃体制にただ追い込まれてしまっただけである。
「とにかくBBが上手く施設のデータを持ってくる事だ。失敗すればそれこそウチのファミリーは、
終わりだ……」
ごく簡単に起動できたので気にしていなかったが、どうやらコクピット回りの制御に関しては
何らかのロックがあったらしい。照明が消え空調の吹き出しからの風は止まり、ライフルも速射
モードどころか測距までもが手動になってしまった。システムにちょっと手を入れれば復旧できそう
ではあるが、そんな余裕はその男には今現在全くない。
しかしナチュラル用の機体は煩わしい。なんで余計な動きを付けようとするんだ。シンプルに
動け!! と思いながら国防軍のアストレイを見る。MSの運用という点に関してはザフトや
彼のような一部の傭兵よりも数段遅れているはずだが、その機体を見る限りそれを感じることは
男には出来なかった。
「何故慣れてやがるんだ! 向こうも傭兵だっつーのか!!」
「クソっ! 照準出来ねぇのがバレれば一気に飛び込んできやがるだろうな……。良し、BBは
オッケーだっつったんだな? 仕込みはまだかかるのか!? ――バカじゃねぇのか? 聞けよ、
タコ!! とっととヘリから降りろ、バカっ!! ――ライフルのパックはこれで最後か……。
クソっクソっクソっクソ野郎がぁ!!!」
ますます思い通りに動かない機体、これで接近戦などゴメン被りたいところではあるが
これでは対応のしようがない。敵のパイロットの腕が此処まで良いとわかっていればMSなど
持ち出さなかったのに。と今更ながら思うと男はライフルの狙いを付けるため、口を閉じると
目測から距離を暗算で計算し始めた。
今回分以上です、ではまた。
<7>
ゲイツRのモニターにはツインタワーの後ろからプロトジンがバラ撒くマシンガンと、
鋭角に接近を試みるシンのゲイツRの後ろ姿が映し出されている。
そのあまりに直線的な接近に内心レイはヒヤリとしたが、シンは軽快にマシンガンの脇
を擦り抜けて行く。
「射程に入った。いけーっ!」
操縦桿を押し込む音に続き、シンのゲイツRがビームライフルを放つ。ビームの塊は牽
制のマシンガンをかき消して直進するが、プロトジンは寸前で身をかわし、目標を失った
ビームは緑地に突き刺さった。芝生は焼け焦げ土砂を吹き飛び、巨大な穴から金属製の外
壁が垣間見える。
「すげぇっ! 何だ今の威力?」
「何だって、ごく普通のビームライフルじゃないか」
「ちょっと待てよ! 模擬弾じゃないのか? マシンガンが一瞬で蒸発するし、緑地も土
ごと吹っ飛んだ! どうなってんだ!」
「コンピューターでの合成画像だ、よく見ろ。プラントの内で本物のビームを使うバカが
どこにいる!」
「え? そうなのか?」
「当たり前だ。それより今は演習に集中しろ」
しかしそう答えるレイのモニターにも、ビームで出来た穴ははっきりと見て取れる。シ
ンの言うように、やけにリアルに感じるその穴を、レイはゲイツRの高性能シミュレータ
ーの所以として片付けた。
その間にも、体勢を立て直したプロトジンがマシンガンを撃ち始める。モニターに次々
と警告メッセージが広がる。
「この!」
反射的に操縦桿を引き、ビームライフルを連射。プロトジンはツインタワーの裏に逃げ
込み、ビームは左右のタワーに着弾する。
レイは着弾部を拡大するが、タワーに目に見えて大きな損傷は見当たらない。
「やはり模擬弾だ。シンの奴、心配し過ぎだ」
そう呟く間にシンのゲイツRはプロトジンに接敵、
「当たれェェッッ!」
狙いを絞ったレールガンが直撃。制御を失ったプロトジンは転がりながら緑地の端まで
吹き飛ぶ。
続けて放った追撃のビームは狙いを僅かに逸れ、先程と同じように緑地に突き刺さる。
土砂が吹き上がり緑地が焼けただれ、飛び散った土がプロトジンの上にパラパラと降り注
いだ。
「本当にコレ、合成画像なのか……?」
金属製の外壁まで垣間見える映像は、シンには本物にしか見えなかった。
<つづく>
GJやな
>>種世界は衰退しました #6 迷宮組曲
投下乙でした。
イベントの為に六十階建てのダンジョンを建設する妖精さんたちが不思議でツボです。
>>慰霊碑改め妖精さんシティー
マユが草葉の陰で泣いていそうです。イベントに付いて行ったそうそうたるメンバーというのが、
全員暇人扱いなのが笑えます。滅亡を回避する為に総力を挙げる段階がとうに過ぎた世界なんですね。
自覚在る腹黒にGJを。またの投下をお待ちしております。
>>小さな島に風は吹く。
投下乙です。
コーディネーターが操縦するモビルスーツに、ナチュラル用の補正をかけて妨害する
アイデアが面白いです。エアコンカットの地味な嫌がらせが一味効いています。
続きの気になる戦闘中。またの投下をお待ちしております。
>>P.L.U.S.
久しぶりの投下乙、シンの突っ込みが一々楽しいです。
でも、本当に仮想現実なのか分からなくなってきました。
オチがなるべく早く読める事を願って、GJ。
意外と衰退が面白いな…
文章のテンポで読ませてくれるところと、カガリ、ラクスを
可愛く描いてくれているところが面白い>>衰退
0/0
花を捧げる――人造の花/枯れない不死性を死者に。
僕達はしっかり生を謳歌しているけどね。朝日を浴びる。
そんな侮蔑ゆえに魂と目をあわせられない。だから頭を下げて祈るのだ。
慰霊碑は、キラの無力と無覚悟の証だった。
祈り――目を逸らす。黙祷して、瞑想の中の暗闇。
意識の沈黙から、無数の声が呼び覚まされる。
フレイ=アルスター、トール=ケーニヒ。
目蓋の裏に映る死者は、かつての友人たちだ。
キラは、懺悔の為に思い浮かべる顔を他に知らなかった。
死者を弔いもしなかった怠惰な偽善者から、死者に許しを籠い自己の安寧を願う卑怯者へ。
キラは祈りを捧げる事で、ようやく脱皮を遂げた。
SEED『†』 第十五話 開戦の狼煙
1/
「"アスハなんて気にしてない"なんて言うなら当然、上陸に抵抗ないわよね?」
「国に関係は無くなったとはいえ、昔の家くらい尋ねて来い」
オーブ入港から二週間、いっこうに陸にあがらないシンの気を向けようと、パイロット仲間の
搾り出した台詞がそれだった。段々と、彼らからいいように扱われてきつつあると思う。
「此処が台所だったよな。父さんと母さんの部屋。俺の部屋。この倉庫に自転車を置いてた。
父さんの釣竿がここ……良かった、おぼえてる。そして……うん。ここ、マユの部屋だったんだ」
最初に向かった足で、更地になった自分のかつての家を見た。
むき出しの土台に涙を落としそうになるのを堪えて、そっと花を置く。
住人のいない家が、オーブ再興の旗印の下、区画整理の標的になったのだ。真新しい集合住宅を
建築する工事が、シンの立つ廃墟から数件先にまで迫っていた。
コンクリートの土台につま先で書く家の間取り。完成するにつれて、幻想の家が蘇ってきた。
家はモノだけれど、そこには確かに、シンの"家庭"があった。
「俺、MSのパイロットになったんだ。安心してよ。絶対にみんなを守ってみせるからさ」
――皆を守るって誰から、誰を? 決まってる、敵から味方をだよ、母さん。
――父さん、俺はこれから先、戦争しようっていう奴らをインパルスで倒していくんだ。
――そうすれば大切な人が守れるんだよ……うん、マユみたいな。
胸にこごった固まりを吐く。悲しみにくれてオーブで生きる道を選ばなかったのは、
そこで立ち止まる事を許せない程に、自分の無力が悔しかったのだ。
「そうだ……お墓――は慰霊碑か。トダカさんがやってくれたんだっけ。
海軍さんは忙しいだろうし会うのは無理かな? 佐官だったし」
家族の墓――死の後始末。シンにとってその頃は失意の時代で、思い出すのも息苦しい。
形ばかりの合同葬儀に出たその足で、プラント行きのシャトルに乗ったのだ。チケットまで手配を
してくれたのが、トダカだった。ミネルバの入港時にもしかしたら、という期待は裏切られていた。
「……行かなきゃ、あそこに」
意に反しても、血が噴き出してでも――そんな思いに駆られて、レンタルしたバイクを走らせた。
「あ……」
あの森、爆発に削られた場所にも慰霊碑が据えられていた。土を盛られて整備された土地が
波に削られて、ビーム熱でガラス化した斜面が覗いている。
「うっ……」
引き裂かれる痛みに胸を押さえた……そう、血を分けた人達が死んだのだ。この場所で。
腹中をこみ上げるもの。冷たい鉄の怨嗟と、灼熱にうずく氷の悲嘆が皮膚を押し上げる。
「キミ……大丈夫?」
爆発を抑えこんだのは、シン以外の人の気配。
「アーガイルさん――」シンはそっと先客の名を呼んだ。
2/
「アレックスはね、宇宙(うえ)に上がったんだ、先週の事だよ」
正午を回ったばかり、夕暮れのような日差しが慰霊碑に向かって注いでいる。
「……議長と話したい事が在るって。僕も明日、ニホンに向けて飛ぶ。ダムにヒビが入ってる
所があってね、M1じゃないと作業もできないって陸軍さんから言われてさ――」
荒れ果てたその傍らに跪き、黒髪の青年は顔を覗かせる竜胆の花に手を伸ばしていた。
「……枯れていたのか」
触れた指先に花弁が砕ける。花の残骸を上着で擦りながら、代わりの造花を慰霊碑に供え、
合掌と黙祷を捧げた。
「……当たり前だ、人を焼いた所に花なんて」
「え……?」
「魂が埋まった土を隠そうとしたんです……だから花だって枯れて見せるんですよ――忘れるなって」
ふと、死を覆い隠そうとした欺瞞への悪態が、口を割って出た。
「そう……そう、かもね」
「他人事みたいに……!」
死者を悼みに来た青年の感傷を分からなかったシンは、ただちに、苛立ちの渦へと身を任せた。
「貴方だって二年前に戦ったんでしょう、モビルスーツで!」
アーガイルの見せた技量――そうに違いないという決め付けは、無言で首肯される。
「敵を……倒したんですよね」
「敵って誰かな? ……うん、これは流石に誤魔化しだよね」
「……答えてください」
"彼は連合軍を殺した"、そうであってくれという、これはシンの希望だ。
なのに、今度の首は横に振られた。
「あんなに操縦が巧いのに……敵を殺せなかった? だから倒せなかったんだ」
「……鋭いね」
臆病者、と目で訴えた――貴方がもう少しだけ敵を倒してくれていればもしかしたら家族は――。
荒れ果てた慰霊碑の前で、誰かに責任を擦り付けたいのだ。
「でも僕だって――僕は」
――貴方の言いたい事を言ってやる。
「戦争でも、殺したくなかったんでしょう? あの時はそうするべきだったのに!」
シンは針の無謀な鋭さで、青年が持つ玻璃の繊細さを突いた。
「ねえ……これ以上はやめようよ」
青年は真っ白になるほど手を握り締めている。
3/3
「その手――結局拳を作ってるんだ。悔しいんでしょう? だったら振り上げて、殴りつけるべきだったんだ!」
「……"あれ以上殺したくなかった"んだよ、最初から殺しあうべきじゃあ無かったから。
それはだいぶん――全然違う事だろう?」
「死んだ人には同じです、そして――ええ、確かに随分違いますよね、味方に見殺しにされたってのは!」
シンは切って捨てた。軍人だから、殺戮機械として敵を殺す事に躊躇うなと、そう言った。
理念に従い共に滅びろと自爆した――あれ程嫌いだったアスハにも似た傲慢さを自分に感じる。
「う……」
いつしか、今にも降り出しそうなほどに、空は翳っていた。
「俺なら――!」
激情を支える内圧は、たった一つの覚悟だった。即ち、
「たとえ誰であろうとも、それが敵なら殺してみせる」
「……守りたいひとが敵に回ってる、そんな戦いを知らないんだね」
「ええ、未熟者ですから!」
「……幸せなことかもね」
風向きが変わって、慰霊碑の周りに吹く風が、潮のにおいを運んできた。
殺せなかった軍人は、黒瞳を新たな人影に向ける。手を振り、軽快な歩みで近づいてくる少女。
「……来たみたいだ」
「此処にいましたの? 迎えに来ましたわ!」
桃色がかった髪を肩の高さで短く切り詰めた少女は、儚げで華奢な雰囲気ながら、
声には生命の輝きが張り詰めていた。
「これ以上はやめようよ、シン。此処は……こころのこりが多すぎる」
「ええ……そうですねサイ=アーガイル三尉」
少女に比べれば、目の前の軍人は死人のようだと、シンは思った。
「サイで良かったんだよ――ねえ、レイ君から何か聞いてない?」
「……? いいえ」
「……そう、か。すまない、行くよ。待たせたね?」
「バルトフェルドさんが送ってくださいましたの」
青年はそれきり、少女を伴って歩き去った。シンから十歩離れたくらいで手と手がつながれる。
死者と生者の雰囲気が交わって、空気のような中性で完成された趣が、その後姿にはあった。
「花を植えても、人はすぐにそれを吹き飛ばす。俺はそうはさせない――守りきってみせるさ」
青年の歩みは変わらなかった。シンの放った決意の声は、まるで少女の背中にこそ
当たって砕けたように、風の中へと消えて行った。
以上、投下終了。
指摘や感想がございましたら、遠慮なくどうぞ。
種世界は衰退しました
#7 ゲームセンターたねし
「シン、これで終わりよ! スーパーアーツ“馬乗り直視の魔眼”(種割れゲージ2本消費→←↓→+AB)!」
「なんの! リバーサルで“答えは聞いてない”!(種割れゲージ1本消費レバー一回転+C)」
モニターの中ではシン・アスカ氏がルナマリアさんをブレイクダンスで蹴り上げています。
そうです。今日のイベントは妖精さん謹製の2D対戦格闘ゲーム“シン・あすか120%”の全国大会です。
迫り来る滅亡を忘れて皆楽しそうです。 でも私は一回戦敗けなので楽しくなかったりします。
「ルナ、待ちハメはチキンだぜ?」
「シンこそチーズ(必殺技で相手の体力を削って勝つ亊だそうです)なんてセコい真似をしないでよね!」
お二方は白熱しています。地球温暖化になってしまいそうです。
「種割れコンボ(いわゆる一つのオリジナルコンボだそうです)を全段ブロッキング(特殊なガードで必殺技による削りダメージがないそうです)だと?」
「見え見えのコンボなんて通じないわよ?」
スピーディーに攻守が入れ替わる戦いは見ているだけで手に汗を握ってしまいます。
「それならこれで!“おねえちゃんだー(↓→A+入力後↓→+A入力後↓→+C。ディレイ可能)”!」
「そんな二択にもなってない攻撃なんて効かない! ガードキャンセル割り込みで“殺人考察(前)”(種割れゲージ三本消費A・A・→・D・C)で終わりよ!」
「いーじゃんいーじゃんすげーじゃーんーっ!」
ゲームキャラのシン・アスカ氏の負け台詞が響くと“2P WIN”の文字がモニターに表示されました。
決勝戦の勝者、つまり優勝者はルナマリアさんです。
皆に祝福される中、ルナマリアさんはシン・アスカ氏とお互いの健闘を称えあってハグしています。
ちょっと破廉恥ですね。見てる此方が恥ずかしくてドン引きしてしまいます。
兎に角。続編が出るので有れば私の持ちキャラ(使用するキャラクタ―)を強化して欲しいですね。
俯瞰風景なキャラは嫌です。
技表
※コマンドは全て右向きの時の物です。
A…小パンチ
B…中パチン
C…小キック
D…横山キック
L…大パンチ
R…大キック
一部の必殺技は載っていません
アスラン・ザラ
それは秘密です…↓→+AorBorL
歌はいいねえ…↓←+CorDorR
ディアッカ・エルスマン
任○堂…←溜め→+AorBorL
ス○ブラ…↓↓+A・B同時押し
イザーク・ジュール
剥ぎ取り御免!←↓→←↓→A・B同時押し
ムルタ・アズラエル
上海グランド…↓→↓→L・R同時押し
ステラ・ルーシェ
桑島キャラ死亡の呪い…A・B・C同時押しで溜め
注意
このSSには意図的な誤字があります。
――To be continued on the next time.
種世界は衰退しました第7話投下終了です。
御指摘、御感想や元ネタに対してのご質問がおありの方は遠慮なく気軽にお願い致します。
146 :
ご挨拶:2008/08/27(水) 23:12:06 ID:???
>SEED『†』
投下乙です
分岐点って感じですね。原作通りにはいかないでしょうが、
高ぶった感情のまま相手にぶつけた言葉を後のシンが思い返すとしたらどう考えるんだろう
そのあたりが気になりました。続き期待してます。
>衰退
ラクスのへっぽこっぷりもちょっと見てみたかった
投下乙です
>>衰退
サブタイふいたwww
懐かしい時代を思い出したぜ……
あげておきます。
最近書いた新作を投下したいんだが、正直文章力に自信がない。
そこで一話だけ投下して皆さんの反応と評価が見たいんだがどうだろうか?
評価は厳しめで頼む
そしてどこが悪いのかも
CE73―――コロニー【アプリリウス・ワン】 最高評議会議長 執務室
大声が執務室に響きわたる。そこでは一人の少女が目の前の人物に抗議していた。
「どういうことだっ、コレは!!」
「これ、とは? いったい何がおかしいのですか?」
と対面している人物―――現・プラント議長―――は、その少女の今にも噛みついてきそうな獅子を思わせる勢いにに全く動じず首をかしげている。
「オーブによるプラントへの技術協力、食料支援などはいい、だがなんだあの衛星軌道上に建造中とかいうバカげた兵器は!!
あんなものを使ってどうするつもりだ!?」
そう言われると思い出したようにその「議長」は、「あぁ、あの事ですか。それがどうかしましたか?」と漏らした。そして少女を一瞥して、何事もなかったかのように事務仕事を再開する。
するとそんな態度に少女は堪忍袋の尾が切れた。
そしてずかずかと歩み寄って「議長」の座っている司令官用の机に、たたき割るくらいの勢いで拳を叩きつけた。
「とぼけるなっ!! 強大な力はまた新たな争いを呼ぶ……これだっ!!」 少女はその「議長」の読んでいた資料を奪い取るように取り、読み上げた
そこには新型MSの製造計画、地球の軍事基地新設計画、そして衛星軌道上にて建設中の兵器の資料―――と、「議長」の机の上には、とても平和な今の時代には似つかわしくない資料が山積みになっていた
「二年前のお前はこんなことをする奴じゃなかった。あの時の一緒に世界を平和にするという誓いは嘘だったのか!?」
「違いますわ、カガリさん」凛とした声が響いた。
「何!?」
「争いが無くならないから、新たな力が必要なのです。そう、争いを止めるような強大な力が」
現・プラント最高評議会議長【ラクス・クライン】はそう言い切った。その瞳には迷いなどといった類のものは一切含んではいなかった
「しかし……でも……」少女―――中立国オーブ代表【カガリ・ユラ・アスハ】はだらりと降ろした拳を固く握り、やりきれない思いを体の全体から染み出させていた。
その様子を見てラクスは迷える子犬を見るような穏やかな目を向け、内線を取り
「みなさん、カガリさんは日ごろの激務でお疲れのようですわ。ホテルのほうにご案内しなさってください」
「何だと!? 私は疲れてなど……」すると出て行かせたはずのラクスのSPたちが執務室に数人入ってきて、無駄のない動作でカガリを取り囲んで拘束した
「失礼します代表。ホテルのほうまでご案内します」
カガリは抵抗するが、ただのナチュラルの少女がコーディネーターであるSP数人にかなうわけもなく、そのまま連行されていった。
「は、はなせ!! ラクスっ、私の話を聞いてくれ!! このままでは、世界は…」
プシュウ、とドアの開閉音。
「安心してくださいカガリさん。世界は……平和ですわ。この私がいる限り」
誰もいなくなった執務室でラクスは一人呟く
>>151 長くなったのでまず一言
後ででいいので、テンプレを読んでくださいね。
それでは足りないというのであれば、以下を読んでください。
1、
――は偶数個ずつが普通でしょう(テンプレにもあります)。
一行がもう少し短いと読みやすいかもしれません(テンプレにry)。
2、
一言だけならともかく、長いセリフのあとに直接地の文を続けない方が読みよいです。
(セリフと地の文を混同してしまい、読みづらくなったりしますので)
3、
そこでは一人の少女が コレは!! その少女の あの衛星軌道上 あんなもの そう言われると
あの事 そんな態度 その「議長」 etc そのやあのが多すぎて何を指しているのかが
分らなくなるので、どうか半分くらいは具体的な描写に書き換えてください。
特に、「あの衛星軌道上に建造中」の「あんなもの」を「あの事」で済まされては、少し困ります。
何なのかキャラクター達だけに分かっているよりは、厨二なネーミングであろうとも具体的な方が
遥かにましです。
4、
固有名詞を強調するのに【 】を使うのは別にかまわないと思うのですが、
議長はわざわざ「 」で囲んでまで強調する必要はないと思いました。
5、
(前略)内線を取り
「みなさん(中略)ください」
「なんだと!?(後略)」すると
ラクスが内線をとった行動からセリフを直接描写し、そのあと地の文で受けて無いので
違和感があります。
6、
カガリのセリフが一行目に来たなら、読み始めのインパクトがあったかもしれません。
7、
とここまで書いたのですが、
>>151さんが投下を終えているのかどうか、私には自信がありません。
1/2 2/2とされているか、「第一話 終わり」または「続く」と書かれているか、
あるいは投下宣言の時に2レスです、等と明示されていないからです。(テンry)
もしまだ投下が終わっていないのでしたら、勝手な評価を失礼しました。
1:了解しました。ここに来たのが初めてだったもので、
そんなものがあることに気付きませんでした(汗)
2:了解です……が、地の文って分割して書いても違和感がありませんか?
一行にまとめなければならないものと思っておりました
3:すいません。あれは、SEED本編でもフリーダムやジェネシスを見て「アレは……争いを(以下略」とかかなり抽象的だったので、
あのラクシズのどこかおかしな雰囲気を出したかったんです。
4:了解しました。確かにあれは必要ないですね
5:了解しましたが、具体的にはどのようになるんでしょうか?
もしよろしければお手本となるような物がみたいです
6:確かにそうですね。修正します
7:すいません。後で気づいたのですが題名と1/2などを入れ忘れて投下したらそのまま寝てしまい、今気づきました(汗)
今度からは気を付けます
あと、自分は本好きな理系なんですが理系が小説を書くのは変ですか?
少なくとも2については、他の職人さんの作品読めば分かりそうだが…
小学生の時に「」の後は段落変えろって習ったのは俺だけか?
>>156 文がズラッと縦に並ぶと読みにくいかなと思いまして(汗)
まったく意味がありませんでしたが。
この板でいろいろ言われてからどれだけ自分の文章が読みにくいものか気づきました
反省して次回に生かそうと思います
>>155 実はこのスレには理系の現役大学院生職人が存在しているのだよ。
しかも謎の拳法の達人らしい。
あんまり叩くなよ
最初がコレだから伸びしろがあると思うんだ
>>152-153 投下乙
試験ではあってもせっかくの作品、題名を付けよう
種死の焼き直しシチュで、相手がラクスならば広げ様は色々あるな
上の人達がだいたい言ってるのでその辺参考に、で細かいところを俺の主観で
カガリの一言目、どうゆう事だ! で止めた方が、カガリが知らなかった感が強くなるかも知れない
それと毎行の改行は構成上の事情がない限りはむしろ読みズラい
それと上の人の3番だがシンプルに
「例の軌道上に作ってるアレは何だ!」
「ご存じでしょう? 軌道要塞ですが」
みたいな感じでは道だろう
>>157 継続は力なり
†や弐国も初期といまでは読みやすさがかなり違う
めげずに次の投下を期待する
印刷媒体とネットでは読みやすさは全然違う。
無論PCと携帯でも。
このスレに限らずたくさんみてみれば、参考になるかも。
文章による読みやすさ
構成による読みやすさ
大事なのはどっち?
文章→読みやすい
構成→面白い
につながるのでは?
>>151 気になったのは読み辛い亊。
大まかな亊は↑のお二方が言っているのと同じ。
無駄な空白行が多いような感じ。
空白行を入れれば読みやすいと言うわけではないことに注意。
地の文は適度な長さで分割した方が読みやすい。長いとどの言葉がどの文にかかっているのか解らなくなる亊がある。
内容については、もっと見せ方を考えた方が良い。始めに読者のハートを掴まないと下手すればスルーされる。
Fight!
>>151 他の方が言っていない部分で気になったところを。
>するとそんな態度に少女は堪忍袋の尾が切れた。
この行の「すると」は、不要な気がします。
>すると出て行かせたはずのラクスのSPたちが
こちらの「すると」には違和感を感じました。
直前がカガリの台詞だからかもしれません。
この行の「出て行かせたはずのラクスのSPたちが」も唐突な感じがしました。
出て行かせた事を事前に説明しておいた方が良かったのでは、と思いました。
>>166 参考になります。
あと初心者は一人称で書いたほうがいいと小説の書き方系の本やホームページで
よく見かけるんですが、一人称では主人公がその場にいないシーンで、他の人物が
「そういえばあいつってどう思う?」
という感じで、主人公とは違う全く別の人物と会話などをする場合どんな風に書けばいいんでしょうか?
その時だけ三人称の書き方にすると不自然ですし、かといってそのシーンを省くとストーリーに支障が出るし……
視点キャラクタの切り替えのない一人称の場合、視点キャラクタの知らない事は書けません。
視点キャラクタが話す訳ですから、当然と言えば当然です。
その場にいなくても、その場の話の内容を知っているということは、その場にいた誰かからの
伝聞とか、盗聴していたとか、何かしらの理由がある筈ですので、そういう風に書けば良いのでは
ないでしょうか?
例えば、種死でアスランとミーアが食事をしたことをラクスが知っていたとしたら、
1、アスランから聞いた。 2、ミーアから聞いた。 3、その他の人から聞いた。 等の
選択肢があるわけです。
1の場合なら、「後日、アスランから聞いた話では……」という風に書けますし、
3の場合なら、「その時偶然店内に居合わせた○○さんのお話では、二人の様子はこんな風だったようです。」
といった風に書くことができます。
どうしても書かなければならない場合、私なら、
「その頃○○でこんな会話が交わされていた事を、その時の私はまったく知らなかったのです。」
というような感じで書くかなと思います。
主人公の盗聴盗撮という手もある。
―――現プラント議長―――の部分とかは――ーいらないと思います。
その後に
―――現プラント議長ラクス・クラインは
で問題ないし。あと――ーいるのかなと言う部分がちらほらと。
―――はあっても無くてもいいような部分には極力使わない方がいいと思います。
強調とか、溜めとかで使うものだと思うので。
あと横書きでやる以上、なるべく改行して左側の画面だけで読めるように編集
したらいかがかと。
左から右に目を動かすのって結構疲れます。
最後に視点切り替えする以外にも、三人称と一人称を混ぜると言う手法は変になる、
と言っておられますがそういった手法も含めて色々試してみたらどうでしょう?
一人称と三人称の混ざり合った文章が変だとは限りません。
自分で読んでみて違和感無ければ問題無いとは思います。
新作ってこともあるし、
>>151は一回書き直してタイトル、コテ、トリップをつけて
再投下してもいい気がする。
>>172 了解です。もう少し話の構成や見せ方を勉強したあと、
一話を投下してみます。
ちなみにあの文は頭に思い浮かんでちょっと書いてみたものですので
あれが一話冒頭ではありません。(一応修正してどこかで使う予定)
あとコテ、トリップってのは何のことですか?
初心者なもので質問ばかりですいません(汗)
>>173 コテは固定ハンドル。要は名前、ですね。
名前欄、今は
>>173さんは何も書いてないので”通常の名無しさんの3倍”ですね
トリップは自分の名前のうしろ、◆以降に付いてる文字列。
#の後ろに適当な文字を入れることで生成されます。
自分で書いてる訳ではないです。
偽物除け。なんですが要らないかも知れません。
トリップはともかくコテは付けた方が宜しいかと思います。
読者の皆さんも呼びづらいでしょうから。
>>174 了解です。とりあえずトリップはつけずにしておきました。
テッカマセランスです。長いのでランスでお願いします
新人職人で何もわからない状態ですが、よろしくお願いします。
1/
「――大胆だな」
「……え?」
呼びかけられるまでキラは、自分が眠っていたことにも気づかなかった。
「あ……すいませんでした、うたた寝なんて……」
キラは左手の航空時計で時間を確認した。
コ・パイロットが四時間も昼寝というのは、確かに不敵な行動かもしれない。
「構わないさ、それより時差調整だ……一時間」
竜頭を巻きながら現在位置を確認――北緯三十四度、東経百三十度。
四時を回って傾き始めた太陽を正面近くに眺める輸送機は、島国の一地方都市に向けて
徐々に高度を落としつつある。
「……君が忙しいのは今からだろ、アストレイ・ドライバー」
「現地への到着予定時刻はヒトナナマルマル……うん、覚えてます」
――本当のところはムラサメ・ドライバーですしM1は陸軍のですから、ドライバーとは
言わないですよ。それに僕みたいなイキモノはなるべくヒマで引きこもってニートな方が、
きっと世の中平和になってて……。
呆然と思考の淵に立っていると、うっかり眠りの沼に落ちてしまいそうになる。
こらえきれない欠伸をするキラに、操縦桿を握るノイマンは苦笑を洩らした。
「そうしていると、ハイスクールの学生と変わらないな。胸に着けているウィングマークが
とても信じられない」
「ハイスクール……きっと楽しいでしょうね」
実のところは想像もつかない。いつも眠たそうにしているものなのだろうか?
「はは……そんな時間は、どこかに置いてきてしまいました」
失われた平和の代わりには、戦火の記憶と戦技の知識が詰め込まれている。
「今から拾いに行くんじゃないぞ? この機体、ベイルアウトは二席同時だからな」
「パラシュートはありませんか?」
キラはおどけて聞いた。
「我慢してくれ――オーブに帰ったら、例の彼女と学生プレイでも何でもできるじゃないか」
「はは……」
あいまいにぼかして回避――はできない。
「借り物を使って赤服プレイ、くらいはやったとみているんだが」
「えーと、あのですねぇ――」
しかも回り込まれた。
2/
「しかも、その服は彼女に着せた、そうだろ?」
「どうしてわかるんですか!」
クリティカルヒットを食らう。翌日、アスランに怒られたというか半泣きで詰問されたのは、
今やいい思い出だ、と言えたならどれだけマシか。今でも恨まれていて、たまに思い出される。
女々しいアスランめ――その点一方的に悪い癖に、こう思っているキラだった。
『今からでも遅くない、大学にでも行ける』などととおり一辺倒の慰めを期待してはいないから、
ノイマンのからかいは却って快かった。
あまり話したことはなかったが、気楽な大人だ。出来もしないことを勧めてきたりしない。
「……下の新しい空港は、やっぱり波にさらわれちゃったんですね」
「灘に落ちた一発が効いたな」
海上に落下した破片が起こした津波によって、陸から沿岸の陸繋島に向けて伸びる
長細い砂州は分断され、海上に新しく造成途中の国際空港も完全に洗い流されていた。
「それから、あれだ」
ノイマンが大気に軽く舵をあて、都心部の上空を旋回する。降下する輸送機の窓から、
川の流れが作った中州、その歓楽街が見えた。
いや、元歓楽街というべきか。色鮮やかな不夜城の光景は今や、凄惨の一言に尽きる。
何らかの暴力によって平らげられ、焼け焦げた街区――その中心、倒壊したビルの隙間に
挌坐したモビルスーツの巨体が見える。
「……ジン――あんなもので」
MSを持ち出すことができたなら、混乱に乗じるもっと巧い破壊工作のやり方があったはずだ。
にも関わらず、各地で起きた集団テロにおいてはコーディネーターの象徴ともいうべきMSが
用いられた。
「――あのジンが最初に破壊したのは、病院だそうだ」
今も治療を受けられずにいるけが人が居ると、短波ラジオのニュースが伝えている。
「きっと、建設重機や作業用のMSも同時に壊してます」
憎悪の爪痕を深く残す荒廃した市街で、重機と幾つかのワークスMSが動いていたが
その数は明らかに足りなかった。
「病院と……非戦闘員ばかりを狙ったのか――」
「無力を感じさせるためです」
「え――?」
「壊すためでも殺すためでもなくて、何もさせないためにやったんだ……」
見れば、ビルというビルはミサイルで破壊されるのではなくジンの巨体でなぎ倒されたような
根元から折れた壊され方をしている。
3/
「それは……失礼だが、コーディネーターの感じ方かい?」
「いいえ、多分モビルスーツパイロットの感覚です。人を沢山、がれきの中に閉じ込めて――
違う、ビルを壊したかったのかな?」
キラは、その日破壊のあり様に居合わせた、不幸な人間に思いを巡らせた。
その日は、何も起こらない平穏な日々であるはずだったのだ。
サイレンが鳴り響き、宇宙の高みから自分たちを殺そうとしている存在を知った時、
この町の人々は一体何を思ったのだろう?
戸惑い、恐怖し、あるいは自分に向けられた憎悪を正しく理解し――高まった感情が
やがて怒りと憎しみに変わって空に向けられる。
そして、見上げた空を流星が飛び交ったのだ。
北の海に隕石が落ちる。そのかけらが、誰かの住んでいた場所だなどとは関係がない。
水平線に白い線が浮かぶ、海が盛り上がる。
逃げ込んだビル――眼下を流されてゆく人、物、車。
助かった命に安堵する時間を、ジンのモノアイが五階の窓越しにねめつける。
足元で床が無くなる。あるいは外から見ていた人間ならば、眼前で崩れ落ちるビルを目にしただろう。
軍が来て、ジンが動かなくなって、敵を倒して、それがなんだというのだ。
鉄骨に体を挟まれて、いつになっても助けてくれない、やがて救助の声が聞こえなくなる。
瓦礫に埋まった人がいて、どうしようにも助けられない。やがて悲鳴が静寂に飲まれる。
「嫌だな――」
助けを求めて、それに応えて、伸ばしあった手が届かない――死に至る無力は、
キラにとってあまりにも恐怖だ。
力を奪われ剣を折られ、抵抗する術の無さゆえに排斥され怯えて生きるよりは、
疎んじられるほどの力を持っている方が良いと、悪魔が耳元に囁く。
それを抑える。
過ぎた力の呼ぶ戦という愚の連鎖を避けねば、キラと、彼の守りたい者たちに平穏は
ありえなかった。
「なぜだろうな?」
「巨人になって、踏みつぶしたかったんでしょう」
脊髄反射で答えて、しまったと思う。エマージェンシークイズではないのだ。
もっと考えて言葉にするべきだったと思い、ノイマンの顔色を窺うようになる。
4/
「それは……キラ君、きみの言っているのは彼らが"ジン"を使った理由だろう」
「……それがすべてだろうと思います。あれに乗ると、大きくなった錯覚がありますから」
大きな手は力強くすべてをなぎ倒す。踏みしめる脚は大地を揺らす。
高い目線はどこまでも見通せる。虚ろでいて、どこまでも現実的な錯覚。
「モビルスーツはまさに大きくなった自分そのものです。きっとテロリストも、モビルスーツが
無ければこれをしようとは思わなかった――あの機械が、これをさせた所があります」
「……そういうものか」
巨大な暴力を自分の手足が備えるというその錯覚、戦争を決意させるのに十分すぎる程の万能感、
暴力への衝動を、戦争の中でキラも感じたのだ。
「乗っていたのは、コーディネーターの中学生だそうだ……ん?」
無線通信、空港から。ノイマンの表情が見る見るうちに険しくなる。
「……君は空港で降りるな、だとさ。神経質になっている……恨まないでくれよ」
「恨むって誰を? MSで暴れるコーディネーターが見たい人を、ですか?」
吸えば吸うほどに酔う、危険な蜜の味を、未だに覚えている。自分の内に対する恐れが、
ノイマンに向けた言葉をとげとげしくさせた。
「皮肉を言うなよ、キラ君」
ノイマンは短く言葉を切る。
「すまん……本当のところは恨んでくれてもいいさ、さんざん君を利用した軍部だからな」
謝罪に時間を割く態度に、罪悪感が透けて見えた。
「仕方がないです。どう考えても、僕以外には適材がないですから」
「頼むよ」
「……」
死んでも悲しむ人間が少ない、という意味でキラは言ったのだ。
雨のにおいが鼻腔をくすぐる。ひと雨来るかな、とキラはベルトをきつめに締めた。
「僕、降ろしてもいいですか?」
「……ユーハブコントロール」
ノイマンは操縦桿から手を離す。キラはスロットルに手をかけると、ムラサメよりはだいぶ
シンプルに設計されたコントロールシステムを掌握し、眼下に広がる平地に向けて、輸送機を
降下させていく。
内に積んだM1の分だけ甲高くなった機体は、甲高い車輪のきしみをあげながらも、
極めて穏やかに着陸した。
降り立った空港跡は、キラの気分を代弁するかのように、暗く燻った分厚い雲の下にあった。
5/
――二時間後
「なあ、キラくん」
額に青筋を浮かせたノイマンが、眉根を寄せたまま言う。
「腹にモビルスーツを積んだ輸送機でなあ」
「……」
「幾ら何でもインメルマン=ターンはあり得ないと思わないか?」
「……すいませんでした――調子に乗りすぎました」
キラは、コ・パイロットシートから降ろされ、ノイマンの背後で正座させられている。
『猿でもできる反省中』と書かれたノイマン直筆の張り紙が、その背中に輝いていた。
「でもですね――」
「デモもストライキも無い! いいか、くれぐれも頑張れば垂直上昇できるような、
変態宇宙戦艦と一緒にするなよ、いいな!」
戦艦だってバレルロールできる時代ですから、と言いかけたキラは先手を封じられて困った。
「変ってノイマンさん……自分で動かしていた艦でしょう?」
「戦艦で空戦機動させられると知っていれば、幾ら何でも辞退したとも!
或いは艦長の性格を事前に把握していればな」
「……苦労、したんですね」
「ああ……」
万感こもった心情吐露は、かの不沈艦をその操艦技術で支え続けた操舵手ならではのものである。
「ん……? 後方レーダーに反応――モビルスーツの熱紋だ」
『旋回せよ――そこの輸送機』
低空から山間部に入ろうとした輸送機を揺るがしたのは、その一報だった。
「何だ――!?」
「黒い……ストライク?」
後方カメラが捉えたシルエットは、単独飛行する懐かしいシルエットだ。
――単独飛行システム、完成させていたのか。
かつては滑空程度の飛行性能しかもっていなかったストライクが、黒色のフェイズシフト装甲を
維持しながらの飛行を実現しているその完成度に驚く。
『繰り返す、旋回し、引き返せ』
声の調子だけで、キラは黒いストライクを駆る相手が、ナチュラルのエース級であると見てとった。
同時に優れた指揮官であることも――はるか後方に、こちらへビームライフルを向けた機体がSFSの
助けを借りて浮かんでいる。
「嫌がらせ? でもどうしてこのタイミングで?」
「ばかな――早すぎる。キラ君――!」
無線機に耳を当てたノイマンが重く叫ぶ。
「連合がプラントに宣戦布告した――開戦だ」
上のレスが5/5です。以上、投下終了。次はドンパチ。
>>†ちん
ノイマンかっけぇーっ!
女だったら惚れるね。
>>ランス
ガンガレ!超絶ガンガレ!
>>181 上でも言われてますがノイマンさんが素敵
くたびれ加減がとてもいい感じです
SEED『†』 第十五話 開戦の狼煙
6/
「連合が宣戦布告したって!?」
「ナチュラルは私たちを皆殺しにするつもりなんだわ!」
「男は武器を取れ! 自警団まがいのナチュラルが我々を狩りに来るぞ!」
「女、子供から車に乗せるんだ。もっとナチュラルのいないところへ!」
都心でのコーディネーターによるテロ、それに続くコーディネーター排斥を受けて、
宇宙へ逃亡する手段のないコーディネーターは内陸に身を隠していた。
最初はNJによって廃棄された町や村へと、ばらばらに身を潜めていた彼らだったが、
排斥活動の激化に伴って武装市民の襲撃を受ける事件が多発し、今ではエレカに乗って
移動を繰り返すキャラバンに近いものへと変わっている。
「何がもっとナチュラルのいないところへ、だ! 私たちは、単なる巻き添えじゃあないか!」
そのメンバーは殆どがコーディネーターと、彼らの家族に限られていたが、中には
純粋なナチュラルであったにもかかわらず、その能力を疎まれ"悪しきコーディネーター"の
レッテルを張られ、郷里を追われた者達もいたのである。
「……だったら、我々のグループから離れるんだな、我々にはもう、協力しないナチュラルを
守り続ける余裕も無い――」
「守る――守るだと!?」
「落ち着けよおっさん達、ここで仲たがいしてどうなるってんだ?」
いがみ合う大人たちに割って入ったのは、未だ少年期を脱したばかりとしか思えない青年だ。
「若造が分かったような口を!」
「おっと――! 何も分かってないのに口出ししてるわけじゃあないぜ?」
「だったら――!」
「――都心に駐留していた記者団を通して、もうオーブ政府に連絡は入れてある。
崩壊寸前のダムに工事を施す名目で輸送機が来てるんだ」
プラントなら成人だ等と、無意味な言い訳はしなかった青年のセリフによって、
難民の間に俄かに希望の色がわく。
「オーブ! オーブだって、それは本当なのか?」
「ああ、本当だ。軍部にちょっとした知り合いが居て、な」
「私たち……助かるの?」と、子供連れの女性。
首肯する青年の周りに、リーダー格と思しき男が近づいてくる。
「当然君にも同行してもらうとして……だ」
「ま、当然だろうな」
軽い口調の青年を見る顔には、色濃く疑いの気配がある。
7/
「君の言葉を信頼する根拠は、どこに示してもらえるんだ?」
青年は黙って、手にした高感度の短波式無線機を掲げた。NJ投下後に開発された代物だ。
怪訝な顔でイヤホンを耳に当てた男の表情が、見る見るうちに驚愕に歪む。
「オーブ輸送機からの無線だ――!」
「事前に周波数を送ってもらってるのさ。言っとくが、緊急時以外にこっちからの通信はなしだぜ?」
「お……俺にも聞かせろ!」
先ほどの言い争いを見せたナチュラルの男が奪い取るように無線機を取り、
通信の内容に耳を澄ませると、やがて彼自身の家族に向けてうなづいて見せた。
信頼の無くそして利害の一致する二人が同時に納得して見せたことで、青年の言葉は
俄然現実味を帯びてくる。
「それで、我々はどうすればいい?」
「輸送機は名目上、ダム工事のために来る。そこに行かなきゃいけないんだ」
「それは――私たちから危険区域に踏み込んで、向こうに発見してもらうということ?」
先ほどの女性の言葉に、青年は力強くうなづいた。
「そういう事、オーブがどういう国か知ってるだろ?」
「ええ、知っているわ。ナチュラルとコーディネーターの一緒に住んでいる国――
私たちを排除はしないわ」
「その通り! ……というわけでだ。向こうが"偶然"おれたちを発見してくれるポイントまで、
もう示し合わせてある。みんな急いで移動の準備だ」
青年が両手をぱんっ! と張り合わせると、はじかれたようにそれぞれのグループが、
エレカに乗る単位で動き始めた。
「武器なんざ置いていけ、こっからは邪魔なだけだ! 身分証なんかの貴重品はまとめておけよ!
身軽に、とにかく荷物を少なくだ! 場合によっちゃあダッシュだからな。ちゃんと全員、
車に乗せてやれ!」
堂々と支持を飛ばす青年の周りを、ナチュラルとコーディネーターを問わず大人が走り回って
移動の準備を整えていく。そんな青年に近づこうとするのは、何度か言葉を交わした女だ。
子の手を引き、行き交う人の間を抜けようとして、荷を抱えた男に肩を当てられてよろめく。
「おっと――! 気をつけな」
バランスを崩した体をたくましい腕で支えて、浅黒い肌の青年は笑いかけた。
「あ……ありがとうございます! ……あの、本当にあれだけでよかったんですか?」
「上出来上出来! おかげで男の信用が得られた。アカデミー賞もんだったぜ?」
おどけた調子の青年に褒められて、母親の疲れ切った美貌に、明るい兆しが見える。
集団を誘導するためにサクラとして、質問をする内容と場面を指定していたのだ。
8/8
「無事に合流ポイントに到着したら、輸送機に乗るのは女と子供が先さ」
精神的にも余裕のない彼女に演技をさせる条件が当然あった。
「たとえどれだけ格納庫に余裕がなくたって、床板をはがしてでもあんたと
お子さんは絶対に乗せてやる――約束通りだ」
それでも、子供を守らねばならない母親として不安の色が消えない彼女に、
青年は顔を引き締めて言葉を繋げた。
「輸送機のパイロットも、オーブでの世話役も、俺の知り合いで信頼できる人間達だ。
何かを取られたり要求されたりはしない、安心しな」
「わ……私、何も持たずに家を追われて、この子に食べさせるものも、
交換できるものも無くて、だから――」
青年は黙っていた。
身だしなみを整える時間がなくとも、彼女の美貌は顕わだ。
そして、彼女の顔には今、濃い疲労とかすかな暴力の跡が見えた。
「でもあいつらは一昨日、バンから消えてたわ。グループから逃げたのかと思っていたけど、
食料は手つかずで残ってた――あれは貴方が?」
「馬鹿のつけを払わせただけさ……気にしなさんな」
青い瞳に一瞬、狡猾で残忍な光がともる。
纏う雰囲気が、鉄と硝煙の匂いが混じるそれに一変したようだった。
「急ぐんだぜ、あいつらはゆっくり待ってくれないから、な?」
と、危険な輝きは瞬きの後に消えて、穏やかな青い瞳が女性とその子供を見ていた。
「本当に――本当にありがとうございました!」
落ち着きのある声に守られるようにして、女性は去って行く。
その手を握った幼児が、少し振り返り、彼に向って手を振った。
宙をなでるように、あるいは幼児の頭を撫でてあげるように――振り返した手を、
次は金髪に当てて空の一点をにらむと、青年の表情が一変する。
碧眼が、空の間際にぽつりと浮かぶ、よく見知った巨大なシルエットを映していた。
「グゥレイトゥ……こりゃまずいぜ。あの緑色は"バスター"じゃねえか」
というわけで、登場人物紹介短編を除けば、やっとこさディアッカ登場でした。ああ長かった。
次でどんぱちとか言っておきながら嘘吐いてすいません。次こそです。
>>187 連続投下乙!
キラの旧日本行きにこんな裏話があったんですね。次も楽しみです。
ところで、話に関係ない部分だけど迂闊で残念な人の瞳の色は確か紫。活躍に期待!
小さな島に風は吹く
第2話『史上初の戦い(後編)』(1/5)
「人間を巻き込まない条件で許可する。いいな? 犯罪者であっても巻きこむ事は許さんぞ!?」
『了解了解、俺だって人殺しは趣味じゃねぇ、であります参謀閣下。司令室、以上A1!』
中隊司令室、その中隊長席のヨコヤマ一尉は自身の後ろに立つ参謀部のエリートの気配を
察して振り向く。
「参謀閣下、御友人なのだそうでありますが、いったいヤツは何を……?」
横に立ったフライトジャケットの三尉からインカムを受け取りつつ、おずおず、と言った風情で
ヨコヤマは聞く。
「閣下は止めて下さい、中隊長。自分はそんなに偉くない。それに中隊に対して意見する立場
にもないですから。――恐らく直撃さえ避ければそれで良いとか、そんなトコでしょうね。アイツの
考えそうな事だ。ご存じでしょうが、始末書の枚数から逆算して行動を計算してる節がある」
「中隊長、研究所の副所長です。船の出港許可を求めてきています」
狭い司令室の中、オペレーターの女性の声が響く。
「我々にはそもそも許可する権利さえない。護衛は付けられんとだけ伝えろ。――あ、えーと、
アズチ参謀?」
「自分は……。えぇ、管轄下に無い上に現状の戦力では護衛は無理。既に所員が乗り込んで
出航体制にある以上中隊長の判断は妥当だと思われます。――二曹、民間の方にMSの事は?
……結構。中隊長。研究所で【大事故】が起こった以上、住人の方には島外への一時避難を
勧告するのが妥当であると進言します。状況を見ながら民間人はビーチへ誘導しておいた方が
良いです。あそこは広いし揚陸艇ならば着ける事が出来る。国防海軍への災害出動要請も
進言します。村長と連絡が付かないなら要請には自分の名前を。住人は100名強でしたね?」
「中隊長、一の二分隊長クロキ曹長から報告。船の出航を確認。それと住人数名がイースト
セントラルポートで責任者を出せと騒いでいるので応援乞う、との事ですが」
「またあの人達か。憲兵隊はノースビレジ……。ヤマセ巡査とはまだ連絡が取れないか?」
ため息を吐くと、多少遠慮がちに立ち上がったヨコヤマはカエンに振り返る。
「一時的に中隊指揮権をアズチ参謀にお預けしても宜しいでしょうか。自分以外では住人の
暴走を抑えられません」
それ自体に異論は無いし自信が無い訳でも無いが、軍規とかそういったものは……。
カエンは少し目眩を覚えた。
第2話『史上初の戦い(後編)』(2/5)
「A2、A3、残弾全てを使ってかまわん、ピンク野郎を正面玄関前に追い込め! 司令室、
特科小隊に支援を要請する。距離的にギリで曲射が出来るはずだ、座標はこっちから送る。
直撃は絶対させないから安心しろと参謀殿に、――っ! 二の一オヤマ三尉、地下から一人
出てきた、マーク頼んます。ヘリコのヤツと海に行くはずだから、絶対逃がさんでください!」
動きの悪くなった赤いアストレイ。あれほど正確無比だった射撃の命中精度も動いている限り
当たらないと思える。但し。ダイは顔を引き締める。なんの考えも無しには飛び込めない。
むしろ誘っている可能性もある。
いずれ地下から出てきた男は一目散に海への道を目指し、赤い機体はダイがそれを目視
しようとするのを阻止する。この機体はあきらかに囮だ。そしてダイが頭に来ている直撃はない
と踏んだ機動は動きが悪いなりに継続していた。
「だが、その巫山戯た機動が命取りだっ! もらったっ、おりゃぁあ!! ――出力全開ぃっ!!」
ビームライフルと自走砲に追われて建物の玄関脇、ヘリの横まで移動してきた試験型。
ダイのライフルが国防軍の紋章を付けたヘリを直撃。燃料を満載したヘリは光と熱を撒き散らし、
ほんの一瞬、試験型からセンサーを含めた全ての視界を奪う。そして試験型のモニターとセンサー
が回復した時には、既に試験機のコクピットにM1アストレイがビームサーベルの柄を突きつける。
『回線オープン。――自分は第113中隊特機小隊長ジョーモンジ二尉である。操縦士はハッチを
開き、両手をあげて投降せよ。軍法第3条特殊避難条項の2によって機体の損壊を認められて
いる、その場合パイロットの身の保全は自分は考える必要がない。コレは脅しではない』
第2話『史上初の戦い(後編)』(3/5)
「あのパイロット、すごい……。MS自体配備になってまだ日がないのに。元テストパイロット
とかなの?」
挙動を見ればほぼ間違いなくナチュラルOSであろう胸に113S−SA1と書かれた正規型
M1アストレイ。それが徐々に、性能的には間違いなく上のT03を追い込んでいくのを見て呟く
コーネリアス。OSの設定弄くらなくとも大丈夫だったかしら……。などと思ってみるが圧倒されれば
数で勝る国防軍である。当然撃墜の選択肢もあり得るだろうし、一部分とは言え自身が手をかけた
機体が目の前でそんな憂き目を見るのはやはり嬉しくないな。と思い直す。
多少余裕が出た彼女は演壇の下に戻るとメインフレーム内の情報を覗こうとして手を止める。
「仮フォーマットしてある、だからパスワードも初期化されてたんだ。でもこの状態なら私だってある
程度……。データ領域はコイツじゃ復旧は無理か。システムは見えるの? ――え? 機密
データの転送完了が10分前って、何処に……」
やたらに大きくなったMSの音に演壇から首を伸ばすコーネリアス。
「ちょっとちょっとぉ。建物に近すぎ! 何するつもりよぉ!?」
彼女の正面、巨大なガラスの壁に迫るT03。そしてそうなるようにし向けているのは国防軍の
アストレイ。そしてサーモンピンクの機体が玄関方向に流れて見えなくなった瞬間。
「なん、――きゃぁああっ!!!」
轟音が耳をつんざき、光が彼女の視界を奪う。ガラスが割れ鉄の擦れる音。胃を直接揺さぶる
衝撃。演壇の下で頭を抱えてから数十秒後、自身の体の無事を確認した彼女は窓の外を伺う。
「もしかして……、やっちゃった?」
演壇のしたから這い出すと、ガラスが吹き飛んでフレームだけになった大窓からそっと身を乗り
出したコーネリアスの目には、サーモンピンクのMSのコクピットに刃の部分のないビームサーベル
を突きつけるM1アストレイの姿が映った。
「オーブ国内初のMS戦大勝利、ってとこか」
国内でのMS戦自体、今後もあまり無いだろうけれど。アストレイっぽいガワは着ているが、
PS装甲が無い他はほぼX105ストライクであるだろう機体を眺める。本来であれば連合の
技術である以上オーブが持っているのは倫理上不味いからアストレイなのだろうか。
「GAT系よりはセクシーよねぇ、アストレイの方が。ハリボテ作ったデザイナーはなかなか
頑張ったじゃない?」
彼女は自分なりにT03と書かれた機体の成り立ちを結論づける。
第2話『史上初の戦い(後編)』(4/5)
「けれど、なんであんな色なんだろう……?」
銀色で斜めにデカデカと書かれたレタリングの字体は確かに慣例通りではあるのだが、通常の
試作機ならば機体色は社内で運用試験を行う限り彼女の着ているブルゾンと同じ色、オレンジが
ベースになるはずだ。
試作機、試験機の類でもプロトアストレイのような例外は勿論あるのだが、例えばP01ゴールド
フレームはオーブ氏族が搭乗する前提があっての金色である。但しこれはMSの様な巨大なもの
を金に塗ったらどう見えるか。という実験の意味合いが強い。金色のMSが頭が悪く見えるよう
なら、当然だが氏族の人間など搭乗させる訳にはいかないからだ。但し視認性実験の前にその
『氏族』が既に運用してしまっているらしいが。
そして02と03はそもそも一般的な試験場以外での実機試験機なのであえて如何にも、といった
塗装にはしていない。必要以上に目立つ必要はないからだ。目立つだけなら連合のXシリーズの方が
よほど目立つ。ピンクとレッドの色の親和性は悪くないと思えるが、だからといって機動兵器に塗る事
にも疑問を禁じ得ない彼女である。
プロジェクトルージュの機体だから赤。と言う訳でもあるまい。視認性か何かの実験だろうか?
そう思ってもう一度機体を見やる彼女。MS自体新しい技術である以上、機構以外の面でも様々
な事の検証をしなければいけないのは勿論知っているのだが。
「なんの意味があるんだろう、あの色」
と思わず繰り返し呟きながら、端末を放り出してきたことに気づいて慌てて演壇の方へと戻る
彼女である。
第2話『史上初の戦い(後編)』(5/5)
「……繰り返す、諦めてハッチを開けて投降せよ! もう逃げ場はない!!」
少しでも動くならば軍規違反だろうがサーベルのスイッチをオンにするつもりのダイである。
そしてハッチが開き始めた刹那、彼はモニターの隅で人影が動くのを認めた。
「なんだ? 子供……か? 建物の中に! おい、やめろ! 中はまだ安全が確保されて
――うぉ!?」
地鳴りのような振動と共にM1の右足が地面に飲み込まれる。ハッチの開いたピンクの機体も
そのまま倒れ、コクピットにいた男は地面に放り出された直後に走り出す。モニター正面の建物は
数カ所から煙を上げて倒壊を始める。
「地下格納庫に仕込みやがっただと!? やられた!! クロキ曹長っ、逃げたパイロットの
フォロー、できますか!?」
『――セントラルポートより司令室へ至急電! 港で爆発を確認。中隊長以下数名が負傷!
民間の方の人的被害は確認出来ず!』
『こちらクロキ曹長。地鳴りが始まった、土砂崩れだ! 申し訳ありませんが一時後退します!』
『司令室から各小隊長、サウスポートで爆発を確認、はしけが二艘沈没、詳細確認中――』
『憲兵隊より司令室! すいません! 男を二人、海に逃がしました!! 直後にノースポート
で爆発を確認!』
「畜生っ! 結局、やりたい放題されただけかよっ!!」
斜めになったA1のコクピットの中、拳でパネルを何度も叩き付けるダイの姿があった。
予告
住人避難のために国防軍が応援に来るが、ダイ達は引き続き島への駐屯を命ぜられる。
一方、廃墟となった研究所の地下で密かにうごめく影。それはいったい……。
――次回第3話―― 『廃墟からの救出』
今回分以上です、ではまた。
保守
プロローグを投下します。
例によってまた読みにくい部分がある、とかの批評をお願いします
プロローグ
CE72年 九月
約一年半に及んだ地球、プラント間の戦いは、ヤキン・ドゥーエ宙域戦を以てようやくの集結した
やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、
今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めていた。
そして時は流れ……ナチュラルとコーディネーターの確執が消えたわけではない。
いまだ世界各国では両者の対立が続いていた。
あの戦争から一年がたった。
まずプラントはあの戦争の直後、かつてのクライン派が行っていたとされたフリーダム強奪事件などは
戦争を裏で手を引いていたとされるラウ・ル・クルーゼ氏が行ったことと発表され、
無実が証明された「平和の歌姫」ことラクス・クラインがプラント最高評議会議長に選出された。
不思議なことにアイドルだった彼女の政治家としての能力に疑問を抱くものはプラントにはおらず、
民衆は彼女を平和をもたらす新しい指導者として、喝采と共に受け入れた。
↑すいません、1/2というのをつけ忘れました。
(2/2)
ラクス・クラインが議長に就任してからというものの、彼女は議会で次々と新しい政策をうち立て、
技術局が新技術や新素材を開発し、戦後の荒廃したプラント財政は数年もあれば元に戻るだろうとまで言われた。
しかし、その陰では大規模な人事異動が行われている。
ラクス・クラインの傍は彼女の息のかかった政治家だけで構成され、
彼女の元々の部下だった「歌姫の騎士団」と呼ばれる人材はそのほとんどがザフト軍上位に食い込み、
ファクトリーなる技術組織がその優れた技術力でプラントの工業を一手に支配することになった。
そしてオーブではラクス・クラインの親しい友人カガリ・ユラ・アスハが父、ウズミの遺志を継ぐ形で代表首長に選ばれ、
プラントとは、あくまでオーブの理念を守りながらの交流を行うようになった。
地球連合、大西洋連合など地球の各国は新型MSの開発など、過度のザフト軍の軍拡やクライン議長の言動などに非難の色を示したが、
クライン議長は"平和のための行い"と称し意志を曲げず、地球の各国では再び反プラント感情が沸々と湧き上がっていた。
その一方でプラント本国ではクライン議長の支持率は常に99%を保ち、その指導者の行いの正しさを疑うものはだれ一人としていない。
彼女が、平和をもたらしてくれる。プラントの市民はそう信じてやまない。
「ラクス様万歳!!」
「ラクス様万歳!!」
「ラクス様万歳!!」
「ラクス様万歳!!」
「ラクス様万歳!!」
世界は平和を謳歌していた。かに、見えた。
だが、その平和もたやすく崩れ去ることとなる
他ならぬ選ばれし平和の使者の手によって。
「機動戦士ガンダムSEED Desteny」 × 宇宙の騎士テッカマンブレード クロスオーバー
「宇宙の騎士テッカマンデスティニー」
CE73年 あの戦争から復興したオーブにて、運命は交差する
やぁ、すまない。二次創作じゃなくてクロスオーバーものなんだ。
うん、痛いというのは自分でもよくわかっている。
だけど僕は種死とブレード、この不幸な主人公をもった両作品にたいして
何かときめきみたいな感情をもったんだ。
そしてそのときめきを忘れないようにするために
ssを書いてみようと決心するにいたったんだ
やはり読みにくいですか?
>>200 投下乙です。
1、投下までに時間がかかっているのが気になりました。
それぞれ24分、30分。即興で書いてはいないかと思うほどですが、ネットの環境が悪いですか?
2、文章は読みにくくはありません。
3、支持率99%
これだと、気持ち悪いのはプラント国民ですね。狂気のプラント住人に後押しされたクライン議長、
という構図になりそうな気がします。
プラントの厚い支持を受けているというなら八割でも十分でしょう。
ラクスの独裁的な面を出すなら、「支持率は99パーセントであると発表された」
4、テッカマンを全く知らないので痛いとは欠片も思いませんが、逆にときめきもありません。
再構成の如く話を進めておいて、いきなりテッカマン(?)を出した方がインパクトもあったでしょう。
知らない人にも分かるように、描写を頑張ってください。
またの投下を期待しています。
1:実は後半を投下しようとした時に僕はいざ物事を決める時になってから「あ〜、やっぱりここはこうしたほうがいいな」
と思ったりするタチでして、いろいろ組み替えたりしていたらけっこう時間がたっていました
あと前になんか警告文?みたいなものがでて連続で投下できなかったこともありましたし
2:そう言ってもらえてうれしいです
3:これなんですが、支持率99%とかはオーブ政権ではガチでこの設定らしいです。
(嫁の頭の中はどうなっているんだ?)
ですから、プラントもそんなもんじゃないかな、と思いました
ですが確かにあれはやりすぎでしたね
反省します
4:実はプロローグを四つほど考えてその中にはテッカマンがいきなり登場するのもあったんですが
最初に世界観を説明するこのパターンが自分的にしっくり(?)きましたのでこれにしました
テッカマンについては話の途中で説明を入れたりして描写を頑張ってみることにします。
評価していただき、ありがとうございました。
>>200 投下乙です。
ストーリーの内容の個人的な見
とラクスが凄いのではなくて、ラクスはただの傀儡で黒幕が後ろで操っている感じがしました。
クロスオーバーも二次創作と思う今日この頃です。
9/
漆黒のヒトガタに追われる輸送機は、厚く垂れこめた曇り空の下を飛ぶ。
「キラ君! "黒ストライク"の位置は?」
「後方五百! ぴったりとついてます」
ちっと舌打ちを一つ。作業用のアストレイを抱えた輸送機では振りきれない。
「相手方の数を確認してくれ。何機だ?」
「可視範囲に三と……熱紋探知にもう三機の計六! うち三機はガンダムタイプ」
ノイマンの肩越しにレーダーでSFSの数を数えていたたキラが、操縦席の背後に伏せる。
「後ろの黒ストライクが下がりました――ロー・スピード・ヨーヨーで前に回ってきます!」
降下し重力加速、追い越して後に上昇減速する事で前方に躍り出た黒ストライクは、
正反対に向きを変える。巨大なツインアイがノイマンを睨みつけた。
「モビルスーツで空戦機動。逆噴射で後進。すごい機動性だな――どうしてこっちを?」
「ノイマンさん、見られてます!」
『所属を名乗れ……副操縦士はどうした?』
通信――モビルスーツからパイロットが誰何する。
"黒ストライク"の両眼が、遮蔽ガラス越しにノイマンだけを確認したのだ。
MSの索敵能力を経験的に知るキラが即座に身を隠したのだと知ると、
ノイマンは舌を巻く思いでその存在をごまかすことに決める。
「体調不良により、先の着陸時で降りた」
応答しながら、カメラ映像をキラに見せた。
「こちらはオーブ空軍、オノロゴ基地第407飛行隊所属、Y4−0733。
連合の許可を得て当空域を飛行している。身元はオノロゴ基地に照会してもらいたい!」
ノイマンとしては、自分たちの作戦行動に正当性を信じて疑っていないが、相手は
『即座に引き返せ。ここは、我々の掃討作戦区域としてすでに立ち入りを禁止している』
と、ノイマンたちにとっては信じられないことを通達してきた。
『本日ヒトロクマルマルの時点で既にオーブ側にも連絡が行っている筈だ。非はそちらにこそある』
「な……どういうことだ。待て、そちらの身元が先だ!」
『答える必要はない……我々の目的は先日都心部を破壊したテロの首謀者と思われる人間の確保、
或いは排除だ。容疑者の名は……ディアッカ=エルスマン』
「何……だと?」
黒ストライクはエンジンの一吹かしで一気に上昇すると、輸送機の背後で高位を取った。
「高位を取られた……くそっ! 何様のつもりだ?」
戦闘出力のプラズマジェットエンジンなどを目の前で使われては、たまったものではない。
輸送機は残留プラズマに飛び込み、エンジンに吸い込んでしまう。ノイマンといえども、
機体の制御を失った。
「なんてことだ――ディアッカ! 指示に従う振りを。あれは危険な機体です」
ノイマンが立て直しを図るコクピットで揺られながら、キラが叫ぶ。
「知っているのか、キラ君?」
機体を安定させ、都市部に向けて操縦桿を切った。
10/
キラは肯き――といってもノイマンにはそれが見えなかったが――「アクタイオン・プロジェクト」
と機体の出所を説明した。
「彼らはファントムペインです!」
「聞きたくなかった名前だな――本国に連絡を取るか?」
通信気にかけて伸ばした手を止められる。首を左右に振るキラ。
「セイランに嵌められたんです」
「これはアスハ側から振られた作戦だぞ?」
「陸にも空にもセイラン派は居ますよ……ディアッカの事が連合にリークされてます」
もはや助けようとした難民は、オーブ本国にすらコーディネーターのテロ集団として
認識されている――ディアッカの存在が致命的だ。
確認を求めれば帰還を命じられるのは確実だった。
「……帰投する」
「極秘部隊の人種洗浄なんてもの、容認するんですか!?」
「……」
ノイマンは黙して語らず、機体の操作に専念する。
キラが背を向けて、M1のある格納庫に向かおうとする気配を見せた。
「……やる気か?」
「彼らは非公式の虐殺部隊です。表側に引きずり出せば――」
「逆だ、逆だよキラ君。エルスマンを守れば君の立場があまりに危険すぎる!」
『前科持ち』のキラにとって命令無視は致命的だ。
敵のいない作戦と思ったがこれでは――ノイマンはキラを押しとどめる説得材料を模索したが、
どう考えてもキラは退くべきだった。
これは、キラの性格と心情を把握された上での、セイランの罠だ。アスハ最大の懐刀にして
最悪の弱点でもあるキラを、その庇護の下から引きずり出して料理するための。
「……エルスマンはアレを持っているだろう?」
キラに向けた消極的な提案は、あっさりと首を横に振られてしまう。
「ファントムペインをたとえ撃退できても、ディアッカだけでは難民を守りきることは不可能です。
どちらかをふるいにかけるとしたって、この輸送機が無ければ誰一人救えないんですよ!」
「よく考えろ、そのために君を失うわけにはいかないんだ、軍も、オーブも!」
「……!」
キラの顔が苦渋に歪む。
「俺達が難民を助けるためには、本国を無視して奴らを退けなくちゃあいけない!」
「だから確認はとらずに、難民だけを――」
ノイマンは首を振った。どちらにしてもファントムペインとの衝突は避けられない。
「だからこそ僕が――!」
「本国"から"連絡が来ないのは、君の暴走を望んでいる一派があるからだ!
君がM1で出る? 彼らをのきなみ打ち倒して手を出させないようにする気か?」
「……はい」
キラ=ヤマトならできるだろう、M1が武装も装甲も無い工兵仕様だったとしても、だ。
「――認められないな」
戦争時、混乱に乗じて海賊紛いの戦争介入をしていた時ではないのだ。
11/
「この輸送機で難民とエルスマンを救出する――よしんば成功したとしよう」
ノイマンは調子を抑えて主張する。
「君は勝手な戦闘で命令無視、オーブはテロリストに手を貸した非難を受ける。二度目だぞ」
勿論、ノイマンもディアッカがテロリストだなどとは欠片も疑っていない。
「連合にとっては、エルスマンの主義信条などどうでもいいんだ。大事なのは
テロリストに仕立てるシナリオで、エルスマンを保護するのは極論、
連合でもオーブでもどっちでも良い」
セイランと連合の間で、筋書きはすでに出来ているのだ。
舞台袖のキラが飛び出し、引きずりおろされる。それだけ避けねばならない。
「……」
固くこぶしを握り、身を震わせて、感情と理性の板挟みに耐えるキラ。
彼の正当性を守ることが、ノイマンにとって最低限の責任であると考えるからだ
「連合に貸しを作れば、セイランがそれを返す――同盟という形でだ!
オーブをまた戦争に巻き込むつもりなのか!? 次はプラントが相手だぞ!」
「……」
だから、誇張した"亡国の危機"であろうとも、考えを改めさせるためなら口にしてみせる。
オーブを戦火に焼いた事について深く後悔しているキラにとっては、十分な理由であると、
ノイマンには思えた。
「……先刻、筋書きはできていると言いましたね?」
「――ん? ああ」
だから、キラがふと震えを止めて口を開いたときには、違和感も覚えた。
「つまり、どうやってもディアッカは逃げなきゃいけないんです。出ないと僕達アスハ派は、
テロリストの容疑者を助けに来たことになっちゃいますから」
「……おい」
「その上で彼等を黙らせるには、面目を思いっきり潰してやればいいんです。
"非武装のM1から一方的に遊ばれる"みたいに! 僕ならできます!」
「子供の浅知恵かよ! やめろ、キラ君――!」
「この座標を経由して、途中で僕を降ろしてください――合流地点をポイント・ブラボーに。
ディアッカには僕から連絡を入れます。M1の通信消しますからそのつもりで!」
かくして聞かん坊は、操縦士に背を向けて格納庫に消えていった。
「ああくそ――これだから子供は!」
正面コンソールを殴りつけながらノイマンは、キラにかける一言を探る。
恨みごとの一言でもくれてやるべきかと思ったが、AAで艦長の無理難題に無言で答え続けた
男のキャラでは無かった。
「雨が降り始めたから気をつけて――死ぬなよ!」
聞こえたかどうか――ノイマンの自信は小さかった。
12/12
ベルトを締め、通信を開くと同時にディアッカから連絡が入ってきた。
『キラか? ……合流をポイント・ブラボーに変えさせてくれ』
「いいよ、もうそっちに進み始めてる」
パワー、オン。ディスプレイをアクティブに。
『流石、話が早いな』
「君は……回収できないけどね」
パイロット認証過程スルー。個別モード省略。
『分かってるよ、何とかするさ。こっちには女神もいるし、な』
「はは……あとでミリアリアによろしく」
OS起動、ロゴが浮かぶ。
『俺も"バスター"で出るぜ?』
「――止めないけどディアッカ、殺さないで」
システムチェック。シート調整。コクピットハッチ閉鎖。
『……ナチュラルの特殊部隊が俺達を殺そうとしてる。我慢しろってのか?』
「ううん、損傷したMSは手間がかかる……死んだ兵士には墓しかいらないから」
センサーシステム、オールグリーン。視点を頭部基準に。
『ゲリラ流……か? 分かったよ』
「僕が、ガンダムタイプを最低二機は引きつける」
ヘルメット無し、耐Gスーツ無し。加速度制限――無し。
『できれば黒い奴を頼むぜ?』
「うん、多分そうなると思う」
圧電アクチュエーターシステム、オールグリーン。関節稼働域最大。
『そんじゃあ、そろそろ敵さんが近づいてきたんで通信を切るぜ』
「うん……外は雨?」
オートバランサー、補正カット。フルマニュアル。
『ああ、こっちは土砂降りだ。……死ぬなよ』
「そっちこそ、ね」
オールウェポン・フリー。武器なんてないけどね。
M1スタンバイ完了。では、覚悟を決めて。初仕事はノックだよアストレイ。
身じろぎ出来る程のスペース――壁を叩く合図でハッチが開き始める。
「キラ=ヤマト。M1アストレイ――行きます!」
ハッチが解放される。スタビライザー排除。
キラは重力から解放され、六百メートル下の地面に向けて雨の降りしきる空を降下していった。
以上、投下終了。
ど……どんぱちは次です。次はBパートとかそういうことで、次こそなんです。
感想、指摘がございましたらどうぞ。
それからディアッカの瞳は確かに薄い紫でした。指摘ありがとうございます。
乙です。
211 :
通常の名無しさんの3倍:2008/09/06(土) 21:46:04 ID:6Mm/AQU+
初めて、やっと、ついに、第一話を投下します。
前にも言ってた通り、自分的には全然文章に自信がありませんので、後の作品のために
「つまらん。氏ね」よりも
「この○○は××にするより△△したほうがいいよ」というような詳しいアドバイスをどうかよろしくお願いします。
第一話 「黒い鉄騎士」前編
1/3
オーブ国防省、その司令室にけたたましい警告音が鳴り響く。
「何事だ?」
「衛星軌道上のオーブ宇宙軍から入電。
10mほどのデブリらしき物体が地球に向けて落下している模様です。
この大きさでは高度200mあたりで消滅すると思われます」
若い下士官が淡々と慣れた口調で報告する
「大事には至らんか」
上官らしき人物がやれやれ、とため息を吐く
前大戦の後、大量に漂うこととなったスペースデブリが
地球に落下してくることなど、日常茶飯事である。
たいていは地球に落下する前に燃え尽きるが、稀に地球に落下するような巨大なものには注意を払わなければいけない。
とりあえず規則としてMS隊に他の落下しそうなデブリの調査を命じようとしたまさにそのとき、再び警告音が鳴り響く。
「今度は何だ!? 」
またか、というようなうんざりとした顔で上官は部下に報告を促す
「再びオーブ宇宙軍より入電!! これは!?」
冷静なことで仲間内では有名な下士官の顔色が変わる。
「さっきのデブリが減速を開始!? どうなってんだ!?
さ、さらに目標デブリ、大気圏突入コースに入ります!!」
ざわざわと司令室に緊張が走る。
その中でもその下士官の声が一番際立っている。
減速、ましてや大気圏突入をするデブリなどあり得ない、そこから
出される結論はただ一つ。
「司令!! これはデブリなどではありません!!」
↑またやってしまいました。これは前編ではありません。
サブタイトル横の「前編」の文字はスルーしてください
2/3
そのとき、オーブ宇宙軍を取材していたジャーナリスト、ジェス・リブルは最近もらったばかりのMS、
アストレイアウトフレームのコクピットでモニター越しにそれを見た。
先ほど、その謎の物体の出現によって取材は一時中断ということになった。
「謎の物体」、このキーワードに対しジェスの「野次馬」の血が騒ぐ。
その無邪気な目を輝かせ、意気込む
「よぉし、俺が〈真実〉を見極めてやる!!」
「お、おいブン屋の兄ちゃん!! 危ないぞ!!」
元取材相手のオーブ軍人が制止するが、こうなっては〈真実〉をとことん追い求めることで有名な
「野次馬ジェス」を誰も止めることはできない。
大丈夫だって。そう言い残し、ジェスのアウトフレームはガンカメラを構え、加速した。
オーブ軍のM1の乗っている軍人も、あきれながらスラスターのレバーを引き、その後を追った。
「な、なんだあれ? ただのデブリじゃない!?」
ギリギリまで近づき、構えたガンカメラの映像を見てジェスは驚愕した。
デブリにしがみついている物体、それは人の形をしていた。
鎧のようなプロテクターをまとった2mほどの人間サイズのものが
腰からスラスターのような光をふかしながら、連合の戦艦の一部であったろうデブリにしがみつき身を任せ、地球目掛けて落下している。
『信じられんことだが、あれはおそらく腰の推進機構で減速して、大気圏突入シーケンスに入っている。
まったくをもって謎の物体だ』
コクピットの脇にあるコンピュータ――「ハチ」が補足をする。
ザ……ザザ……
『ジェス。あの鎧からオープン回線で通信が入っている。
繋ぐか?』
そう言われるや否やジェスは慣れない手つきで回線をつなぐ
3/3
『ザ……死ねない……ザザ……こんなところで…ザザー…こんなところで俺は!!
待ってろよアスハァァァァァ!!』
通信が切れ、その鎧は地球に落下していった。
『ここらが限界だ。重力に引かれるぞ』
ハチがアウトフレームを駆動させ、重力圏外へ退避させる。
「あれは間違いなく人の声だった…… あれは人間なのか!?」
『わからない。少なくとも、私のメモリーにはあんな人間は記録されていない』
地球の重力圏から退避して、ジェスたちが呟く。
「謎の黒い鎧現る!?」
翌日のオーブの新聞でジェスのガンカメラの写真がどんと載った大きな見出しは、
オーブの人々の目を引いた。
あの物体は軍がオーブ近海へ到着した時にはすでにおらず、行方がまったく知れないという。
朝のいくつかの有名なニュース番組に取り上げられたりしたが、午後にもなると忘れさられていた。
なぜならその日は、オーブの歴史に残るような大事件が発生したからだ。
以上で一話の投下を終わります。
次は後編じゃなくて第二話です。
「見せ方」というのをいろんな小説を読んだりして学ぼうとしているんですが
いまいちしっくりきません。
この一話で見せ方を改善すべき点というのがあったら教えてください。
小説書きとしては皆さんを楽しませたいので、お願いします。
投下先に困ってこちらに書き込みします
2年前まで新シャアでSSとか書いていたのですが、忙しくて投げ出してしまって・・・
リハビリがてらまたぼちぼち書こうかなと思ったら、無くなってるSSスレが多いこと
新人ではないのですが、腕のナマリ具合など知りたいので投下
今回は短編で00ネタ、本編の後日談的なお話です
2ndシーズンは面白くなるといいですね
219 :
1/4:2008/09/07(日) 01:45:07 ID:???
西暦2308年AEU領ジブラルタル――
ソレスタルビーイングと国連軍の最終決戦から半年。新連邦政府樹立に伴い、
AEUも統合に向けての準備を進めていた。AEU軍の中核基地のひとつ、ジブラルタル
でもその動きは顕著であった。ことに、GN-Xを持つ者たちにとっては……
GN-X、通称ジンクス。疑似太陽炉を装備するこの機体は、旧国連軍のエースにのみ
与えられた特別なMSであった。
しかし、「監視者」からAEUに与えられた10機のGN-Xは、最終決戦で一機を残すのみ
となっていた。その他は、すべてガンダムによって破壊されていたのだ。その最後のGN-X
のパイロットは、ガンダムとの激戦を、地獄を生き抜いた男。彼は、AEU最強の男として、
地球連邦軍設立に伴い解体されるAEU軍の最後の英雄として、その名を刻む……ハズだった。
そんな彼は、戦争が終わった今日も闘っていた。彼の頭の上がらない、最強の上司と。
早朝のMS格納庫。愛機の前で、上司に呼び止められ、きついお叱りを受けていた。
「愚か者! 貴様、軍に来て何年になる!?」
「ハッ! 幼年学校からですと、もう10年は優に超えております!」
「なら、なぜ報告書をため込む! なぜすぐに出さない! なぜ3週間分もため込んだ!?」
「ハイ! ガンダムとの死闘の後、議会や軍のお偉いさんをはじめ、色々な方から式典や
パーティに引っ張られまして……ついつい、後回しにしたのであります!」
彼を罵るのは、女性の上司。やれやれとため息をついた後、彼女は逡巡する。確かに、忙しか
ったのは事実だろう。ガンダムを倒した英雄のひとりとして祭り上げられ、地球連邦軍でもエース
として活躍を期待される男である。無理はないとも思う。
だが、本来の軍務をおろそかにしたのは事実。ケジメはつけなければならない。
「少尉……いや、今は特進して中尉だったな」
「ええ! 今日まで自分がやってこれたのは、大佐のおかげ――」
「――歯をくいしばれッ!」
元少尉の感謝の言葉を遮り、上司の鉄拳制裁は下された。バキッ、という鈍い音ともに。
頬を殴られ、よろめきながらも部下はすぐさま敬礼で返す。謝罪の言葉も添えて。
「申し訳ありませんでしたあっ!」
「自分が、なにをすべきか分かっているな?」
「パトリック・コーラサワー中尉、ただいまより3週間分の報告書の作成します!
明日朝までにすべて終わらせます!」
無言で頷き、上司――カティ・マネキン大佐は踵を返した。もっとも、この約束は実行されず……
正確にはプラス半日を費やし、ようやくコーラサワーは仕事を完遂するのだが。
220 :
2/4:2008/09/07(日) 01:47:40 ID:???
AEU軍ジブラルタル司令室。
マネキンはコーラサワーを叱責したのち、自室で物思いにふけっていた。英雄パトリック・コーラサワー……
まるで現実味のない響きだった。模擬選負け知らずというだけで、戦術面は素人同然。MS操縦には強みを
見せるが、お調子者で酒と女に弱い男。それが、出会った当初のコーラサワーの印象であった。
彼に対して抱く基本的な印象自体は、今もそれほど変わっていない。
だが、彼は世間では英雄だった。国連軍30機のGN-Xのうち、生き残りはわずかに3機……
どれも大破、損壊し、かろうじて疑似太陽炉が無事だった機体は、それだけだった。残りの27機はすべて
ガンダムに破壊されたのだ。AEUの生き残りは、コーラサワーただ一人。あとは人革が2名。
想像を絶する戦いに、彼は生き残ったのだ。
「フッ……よくも、生き残ってくれたものだ」
先ほどまでコーラサワーを叱責していたときとは、うって変わって優しげな表情に変わる。
それは、彼女自身気づいていた。馬鹿でおっちょこちょいだが、どこか憎めない男。いまでは公私ともに
付き合いを持っている。軍務では私情は挟まない。しかし、一人の女のときは違う。
普段周囲に見せることのない表情が、心情が湧いてくる。
「生きている……それだけで十分だよ。おまえはしぶとい。それが……好きだ」
この場に当人がいれば、小躍りして飛びついてくるだろう。そんなセリフが、一人のときは出てきてしまう。
それが彼女であった。
カティ・マネキン大佐。彼女は、AEU始まって以来の俊英、戦術面ではAEU軍ナンバーワン。
それが周囲の彼女に対する評価だった。世間で30半ばといえば、そこそこの年齢ではあるが、軍の参謀本部
や司令部といった部署では若年。おまけに女性である。だが、それを覆すほどの力があった。半年前には、
対ガンダム作戦部隊の指揮官を任されるほどに。
20代で軍大学校を首席で卒業。AEU領内の反乱や不穏分子の掃討作戦で成果を上げ、彼女は軍での出世の階段を徐々に昇っていく。
しかし……私生活はそれほど順調ではなかった。
ふと、彼女は机の上の写真を見る。まだ彼女が若いころの写真が数枚、デスクの上に並んでいた。
写真は3枚あった。コーラサワーではない、別の男と並んでいるのが、3枚ずつ。男の顔は、3枚とも違う。
写真を撮った時期もそれぞれ違うようだ。 それらの写真に向ける彼女の眼は、先ほどコーラサワーを思ったときと同じ、
優しい眼差し。だが、彼女の言葉は優しさと同時に、物悲しさを含んでいた。
「アンディ、マーク、オルソン……みんな私を残して逝ってしまった。
今も私を見守っていてくれるのなら……どうか、あいつだけは連れて行かないでくれ」
悲しみに表情がゆがむ。マネキンの声は、切実なる願いを孕んでいた。
221 :
3/4:2008/09/07(日) 01:49:35 ID:???
男たちは、みな彼女の想い人であった。
最初の男、アンドリュー・ジョンソンは、彼女が20台前半で付き合っていた男。陸軍の作戦士官であり、
彼女の士官学校の先輩だった。マネキンも情熱的な年ごろであり、相応の関係でもあったが……
彼はある日、いなくなった。紛争の絶えないチェチェン方面に赴いた折に、テロのターゲットとなって。
二人目の男は、マーク・ギャラガー。陸軍のMS部隊のパイロットだった。アンドリューとの死別を乗り越えたあと、
出会った男が彼であった。彼は有能なMS部隊長だった。ある作戦で行動を共にし、二人は惹かれあう。
だが、彼もいなくなる。有能であったが故、AEUが中東の紛争に介入した折に、部下を庇い。
三人目の男は、アレックス・オルソン。彼女が30に差し掛かるころの上司だった。前線に赴くことのない上級佐官
であれば、自分を一人にはすまい。面倒見の良い40代後半の大佐であり、尊敬していた人物であったが……
彼もKPSAのターゲットとなり、彼女の前から消える。
彼女の前から、3人の男が姿を消した。まるで、私は不幸を呼ぶ女だ――そう思った時期もあった。
それからしばらく、彼女は付き合いを絶っていた。
男が欲しくなかったわけではない。
だが……みんないなくなってしまうのだ。
もう、恋などすまい。そう、思っていた。
しかし、ある日突然、目の前にとんでもない男が現れた。
初日に逢引して遅刻するほどの醜態を見せながら、悪びれず女との関係を断ち切り、自分に告白する。
そんな豪胆さ、神経のずぶとさを見せながら、コーラサワーは自分のもとへやってきた。
模擬戦不敗を誇りながら、ガンダムにただ一撃で倒された男。その後も、彼は何度かガンダムに苦杯をなめた。
負け犬――そんな言葉も出てくるほどの惨憺たる有様だった。
でも、彼は生きていた。多くのエースパイロットがガンダムに挑み、命を散らす中、彼は生きていた。
「戦争根絶」を掲げる秘密組織に対し、使命感でも憎悪でもなく……上申書に、ただ「ガンダムをぶっ倒したい」
と書いて。ただひたすらにガンダムに挑み続けた。
そして、彼女の部隊、対ガンダム作戦部隊に配属された。30機中、27機が撃破・行方不明になる中、
彼は死なずに生きている。その事実が、なによりも彼女にとっては嬉しかった。
初めて彼を男にしたとき、彼女は彼を抱きながら言った。
「いまから、ある命令をする。最優先事項、至上命令だ」
きょとんとして、子犬のような目で、部下は自分を見ていた。
「死ぬな。私を一人にするな。絶対に。破ったら、どれだけ謝っても許さないからな」
彼は、彼女の過去を、意図するところを知ないだろう。それでも、力強く頷いた。
222 :
4/4:2008/09/07(日) 01:51:44 ID:???
だから、自分も誓わねばならない。彼を絶対に死なせないと。
自分は、男の上官なのだ。自らの作戦ミスは、愛する部下の死に直結する。
私は、危険を伴う任務の中で、最善の判断をし、軍を勝利に導かねばならない。
時には彼を死地に赴かせることもあるだろう。それでも、極力そばにいて、
事あるごとに細かく命令してやらねばならない。なにせ、希代の調子者なのだ。
手綱は握ってやる。死なせはしない。
机の上の3枚の写真を取り出し、自分のバッグにしまいこむ。もう、思い出に浸る必要はない。
あの男、コーラサワーと生きるのだから。
また、机の上には、ある書類が置かれていた。
――貴官を、地球連邦軍特務大佐に任ず。書類には、そう書いてあった。
彼女は、その命令を受諾するにあたり、ある条件を付けた。それは、部下のコーラサワーも同部隊に所属とすること。
新政府樹立に伴い、混迷の時代から統一の時代へと移ろうとしていた。それが、すべてガンダムに、
ソレスタルビーイングの行動に端を発しているというのは、なんとも皮肉な話だったが。
「おかげで、あの男に出会えた。感謝せねばなるまい」
それだけ言うと、彼女は軍帽をかぶりなおし、同時に女の顔から軍人の顔に変った。
その時、彼女の部下が司令室に入ってきた。ノックもせずに突如として飛び込んでくる。
「た、大佐ぁ!」
「な、なんだ! きゅ、急に! ノックくらいしろ!」
取り乱すマネキンに委細構わず、コーラサワーは泣きつく。
「報告って言ったって、自分はここ3週間くらいほとんど軍に来てないんですよぉ?
一体全体、なにを報告すればいいんですかぁ?」
困りはて、ペンと報告書を手に持ち、泣きつきながら上司に相談に来たのだ。コーラサワーの報告書など、
ただ日付の欄と、軍務の欄に自分がやったことを書けばいいだけだ。形式的なものなのだ。式典でもパーティでも、
一応任務なのだから。そんな簡単なことを、このタイミングで聞いてくる。
――せっかくの、ひとの決意を、人の気持ちも知らないで……!
「わたしはいま、お前を無性に殴りたい! 歯をくいしばれ!」
「……え? ちょ……フベッ!アバッ!ヒデブッ!」
単発ではなく、連打。数発のフックを浴びせられ、彼は司令室に沈んだ。細かい事情はわからないが、
コーラサワーは妙な快感とともに気を失った。そんな彼をに怒りが収まらない上司は、まだ罵っていた。
「馬鹿ッ! この馬鹿っ!!」
西暦2308年――今この時だけは、世界は平和だった。
>>218-
>>222 GJです。嬉しくて泣けてきます。
やっと新シャア板で、OOの補完的なSSが読めた・・・
心理描写、行動描写、状況解説、それらすべての構成、
どれも無駄がない&ツボを抑えているところがたまりません。
そこから浮かんでくる、軍人として、女としてのカティさんの姿が
これ以上ないほど魅力的かつ鮮やかです。
あのカティさんが、もう愛する人に死んで欲しくないという気持ちを
コーラにぶつけると同時に、上司として彼を守ろうと誓うシーンは
掛け値なしに泣けます。
欲を言えば、(カティコラのファンとして)コーラさん側からの
視点も入れてほしかった気もしますが・・・でもやっぱり
今のままの方がすっきりしていてよいという気もします。
いっそ炭酸さん視点の別バージョンか別話を書いてペアにするのもいいかも?
(↑勝手な願望です、すみません)
またの投下よろしくお願いします。
今度は違うキャラでもカプでもMS対戦でも、ぜひに。。。
>>218-222 00はキャラくらいしかわからないけど、話に引き込まれた。
状況が目に浮かぶってこういうこと言うんだね。
面白かったよ、GJ!
>>218 投下乙です。
損耗率九割近い地獄を生き延びたコーラサワーは、まさにエースパイロット。
カティとの絡みがとても良かったです。
13/
「雨か……」
スウェン=カル=バヤンは星の見えない空を、モビルスーツのコクピットから見ていた。
画面を上下に落ちるオレンジの弾丸――オーブの輸送機から降下するアストレイだ。
スウェンは敵にして的と即断、トリガーにかけていた指を躊躇なく引き絞った。
当然、姿勢も安定させないまま放った射撃は標的から逸れる――それでいいのだ。
ノワール、もっと言うならナチュラル用OSの特色は学習能力にある。
失敗の原因を互いの機動から即座に解析し、補正を掛けてくれるのだ。
コーディネーターに張り合うことなく、一度外せば二度撃てばいい。
自分の能力に対する冷静な割り切り方が、彼をエースたらしめている所以だった。
「……ン?」
しかし、様子見のつもりで放った一撃に対して、輸送機から自由落下するアストレイは
身じろぎ一つせずにやり過ごしていた。
雨のせいでビームが見えなかったか筈はない。よほどの度胸があるのか、高をくくっているのか。
スウェンは余計な判断を下す事無く、あくまで冷静に第二撃を放つ。
「む――?」
拡大画面に、大きく開くモビルスーツ用パラシュート。オレンジの機体を照らす炎は
緊急降下スラスターの噴炎だ。ビームはその下をすり抜けていった。
降下速度を大きく減じせしめ、光条を逸らしたパイロットに疑問が沸く。
^
「――OSの性質を熟知している」
三発目を躱された瞬間、疑問は確信へと変わった。
パラシュートを切り離したM1は、スラスターを上に向けて降下を速めることで、
ノワールが接近した上で放つ狙い澄ました一撃すらも回避してのけたのだ。
二度、殺す機会がありながら二度も取り逃した。
即座に対艦刀"シュベルトゲベール"を用いた接近戦へ切り替えるべきだが、スウェンは
加速しすぎたM1がいかにして着地を遂げるか、そこに興味があった。
少年期、星や宇宙に対して抱いていたものとは違う、胸中の暗い所から出てくるのだ。
落ちて死ぬようならばただのまぐれ、気にするほどのことも無い。
減速、加速――二度の速度変化によって二撃を回避し、Gに惹かれて外道は墜ちる。
行き着く先は地の底か。
黒い死神の待つ戦場ならば、地獄と大して差もあるまい。
14/
地表すれすれでスラスターを緊急噴射――止まるわけがない。
ズンっ――!
緑なす木々をへし折り、アストレイは森林に覆われた山肌の険しい斜面に落着した。
ノワールは既に旋回を終えて、着地に動きを止めた瞬間へ狙いを定めている。
「――!」
――だが、M1は停止しなかった。
糸の切れた操り人形、というのは脱力した人間に使われる比喩だが、
よもや鋼鉄のMSに当てはまることがあろうとは。
勢いを殺しながらぬかるんだ斜面を二転、そして三転するアストレイ。
「関節をアンロックして衝撃を機体全体に分散した……!?」
事もあろうに『受け身を取る』MSの挙動はFCSにも予測不能で、見下ろすノワールの
放ったビームは地面を抉りながらも転がるアストレイを捉えきれない。
コクピットはミキサー並みに揺さぶられただろうが、機体の動きは精妙にコントロール
されたものであることが、スウェンだからこそ分かる。
「こいつは……ミューディー!」
ひさしく覚えなかった感情の揺らぎを感じながら、僚機を呼び出す。
援護に向いたヴェルデバスターも、斜面の多いこの地形で今は位置が悪い。
『ハァイ、スウェエン。私が手伝わなきゃいけない感じ?』
「機体はゴミだがエース級だ。ムラサメに乗られないうちにここで殺す」
『オッケエ――つまり、コーディネーターなわけね? 今行くわ」
ザフトレッドクラス――かつて見ない強敵がアストレイに乗り込んでいること自体に
新鮮な驚きを感じながらも、スウェンは油断なく間合いを詰めた。
更に二発を空中から。
アストレイは、開発者が知れば狂喜するだろう俊敏さを発揮した。
雨続きの緩い地盤を柔軟にステップし、身を攀じて光条のはざまを抜ける。
しかも身を躱しながら、空のノワールに向かって倒木を投げつけてくる。
当たってもどうということはない攻撃だが、敵の戦意を垣間見るスウェンは
飛来する巨木をノワールの脚で払うとライフルを向ける。
ビームではない。この相手に、長物のライフルを振り回すのは電力の無駄だ。
代わりに打ち放したのは、オプションの175mm口径のグレネード。
対人殲滅用の焼夷弾頭は敵機の頭上で炸裂し、雨だろうが土が濡れていようが関係ない、
あたり一面を火の海に変える筈だった。
15/15
「――! 弾いた……まさか……?」
炸裂寸前の弾頭が、M1の投げつけた倒木に阻まれ小範囲を燃やし尽くすに留まった事を、
さすがにスウェンはまぐれと断じる。それが可能な人間ならば、箸で蠅を捕まえられよう。
「……ふっ」
『なあにスウェン。楽しいんだ?』
近づくミューディーに言われるまでも無く、スウェンは愉快な自分を感じていた。
もちろん、思考と感情は別だ。
強いパイロットが弱い機体に乗っている事は、好機以外の何物でもないと、
現実的な判断を冷静な思考で下し。それでいながら、強敵との戦いにどこか
心が躍るスウェン=カル=バヤンがいる。
戦いに愉悦を感じる――これは間違いなくMSの毒だ。
「切り込む――俺に当てるつもりで援護してくれ」
背後の斜面に身を現した青い機体――ブルデュエルへ向け、短く命令を発する。
『あら、私にそんなこと言っていいの?』
答える声も、同じ毒に漬かった女だ。ノワールを地面へ。両足で立たせる。
衝撃とともに伝わる重量に、背骨を何かが駆け巡る――指先まで、
神経の全部が毒漬けにされ侵されていた。
『戦場で士官の二割は、"味方の誤射"で死ぬらしいわよ?』
「それは頼もしいな……」
前門の虎、後門の狼というやつか。しかし、フル装備のブルデュエルと比較してすら、
目の前にいる丸腰のアストレイにより脅威を感じる。この直感はきっと正しい。
『ヒャハァ! そっちはよろしくやってるかいスウェン! こっちは面白いぜ、
旧式のバスターが出てきやがって……うお! 一機食われた! ぶっ殺してやる!』
ヴェルデバスターのシャムスは更に楽しそうだと、トリガーを引く。
ストライカーの連装リニアガンで様子見と思いきや、ノワールの肩越しに
ビームが空を切って走り、アストレイに不格好なダンスを踊らせた。
『後ろからあたるわよ! 死んだコーディネーターはいいコーディネーター、
でもアンタはいいコーディネーターなんかになっちゃ厭よ?』
「……わけがわからない」
気の早いミューディの掩護に、なぜか唇の両端がつりあがる。
はるか遠くの空を、ヴェルデバスターの物では無いビームが走った。
シャムスの相手もその気になったらしい――良いことだ。
「行くぞ!」
右マニュピレータに対艦刀シュベルトゲベール、左にライフルショーティーを選択。
どの旗を掲げようとも、頭にあるのは結局敵を殺すことだけ、ならばそれに集中しよう。
90tを飛翔させるストライカーの推力を借り、シュベルトゲベールを振り上げ、
ミューディーの掩護弾幕の中、突進するノワールとスウェンは確かに、戦火の毒に
酔っていた。
>>228 投下乙です。創発板の方も頑張って下さい。
>>217 黒い鎧(選ばれし平和の使者?)とオーブアスハの関係、敵なのか味方になる
のか等気になる。始まったばかりなので次回からの展開が楽しみです。
>>219-222 見える男の話以来ひさびさに面白い短編を読んだ気がする。
妙な快感とともに気を失ったコーラ視点でも読んでみたいw GJでした。
>>226-228 得意のどんぱちGJ!
丸腰キラがどこまでやれるか続き楽しみに待ってます。
>>小さな島
投下乙
無線の音をモブに使うやり方はあんたは良くやるが、今回はかなり良い感じ
良い意味のごちゃごちゃ感を見せる事で主人公達の戸惑いと危機感を感じる
次回も期待する。お見事
赤い試作機がいったい何なのか。
作中人物サイドはともかく、少なくとも読者側は知ってる訳で、面白い仕掛けだと思う。
あと、台詞回しはもう少しだけ整理出来ると思うがどうか?
>>テッカマンデスティニー
投下乙
導入部分は一昔前のいわゆる アンチラクシズ な感じだが
地の文、台詞回しとも気にするほど読みにくくはないと思う
99%の支持率のくだりのみを取り払うとかなりアンチ臭が薄れる
アンチ系は読まない、と言う人を弾いてしまってはあんたの文章は勿体ない気がする
それと気になるのは情報量。一回投下分で見せたいところを絞った方が良い
全部見せ場だ。と言う気持ちはわかるが多少詰め込んだ感が漂う
どう展開するのか次回に期待
>>219-222 投下乙
全くリハビリなど必要無いように思える
上の人も書いているが
コーラとマネキン、双方キャラを崩さずなおかつ
本編で騙られないであろう部分の話を
本編に 干渉 せずに書けている
お見事、次回も是非投下を待つ。それとコテを付けて欲しいがどうか?
>>†
投下乙
ノワール対M1、バスター対ブルデュエル。いつも通りの興味が尽きない大風呂敷
どう納めるか、次回投下に期待。早めに頼む
説明が説明臭くならない辺り上手い。
マネコラの話と違ってこちらはある意味 劇的キャラ改変 ではあるのだが
いつもながら全く違和を感じない。お見事
ファントムペイン組はあまり変わってない気もするが……w
16/
この国には温泉が多い――山中においても、この一地域は保養地として栄えていたのだろう、
上流ダム決壊の危機にあって無人と化した温泉街を、タイヤを連ねて走る車列があった。
人目を避け、視界のきかない雨中にヘッドライトも消して走る車の進路に、
けたたましいエンジン音を挙げて数機のモビルスーツが立ちふさがる。
――スローター=ダガー。
屠殺の短刀と名付けられたMSの目的は、問われるまでもなく。
そして一切の警告すらなく。
『撃て、一人たりとも逃すな』
"聞かせるために"スピーカーを通した、冷徹な命令だけがあった。
車列を揺るがす轟音、警報を思わせる重く低い咆吼は、一個に連なる砲声だ。
分速一千発以上――脚部12.5mm五十口径機関砲の一斉掃射を受け、
穴だらけのチーズと化したエレカは直後に爆発、炎上する。
警告も確認も行わない――有無をいわせぬ掃討行為。
しかし――
「排除完了――死体を確認しろ……何!」
――白い閃光が黒の機体を照らし出す。
死体の痕跡を確認すべくエレカの残骸に向けられたセンサーは閃光弾の強烈な光に焼かれ、
コーディネーター殲滅の任につくダガーは目をつぶされた。
「――かかりやがった」
暗く狭い空間、罠の作動を見やる紫の瞳は、酷薄な光をたたえていた。
自動運転のエレカを囮に、車内のセンサーと起爆装置を連動させたシンプルな罠。
手づから設置したそれの効果に、残忍な歓喜から唇を釣り上げる。
パワー・オン。
ディアッカは――GAT-X103"バスター"は、身を潜めていたコンテナから
暗い緑の機体を起こした。
望遠で拡大するダガーは未だにあたふたしているが、バスターが見えたとしても、
反対方向に徒歩で去った難民を追うことはできまい。
17/
「どうか上手いこと、回収ポイントまで逃げ延びてくれよ、坊やとそのお母さん!
緑の髪のガキってのは、何となく死なせたくないからな!」
持ち合わせの少ない優しさは、そうすべき相手だけに――。
車を捨て、雨の中を走りゆく難民達が無事に回収ポイントまでたどり着ける事を祈る。
狙う……一千二百、外すはずもない距離。
先ずはライフルで、一機のダガーから腕ごと武装を撃ち抜いた。
ディアッカ=エルスマンは思う。話の通じない外道が敵で、一つだけ良い事があると。
「なけなしの倫理と罪悪――浪費しなくて済むもんだ」
殺して悔いも残らぬ奴らが相手だが、知り合いから『嬲れ』と勧められた今日は、
奴らに恐怖を刻みつける日だ。
めくらめっぽうに"イーゲルシュテルン"等を乱射するダガーを冷たい目で眺め、
たまたま飛んできた二、三発もフェイズシフト装甲で弾く。
「恨んで――そして震えな」
たいした感慨もなく、350mmガンランチャーを向けて一発。
脚を撃ち抜かれたダガーは、脳震盪確実の不格好さで転倒した。
「ちっ……これじゃあ自分の恥も覚えてねえか――。
だったら次はもっとゆっくり倒れるように、だ」
と次の標的に狙いを定めたとき、センサー範囲の外から高エネルギービームの火線が飛来し、
バスターの足下を焼いた。
『外した外した! 次は動くんじゃないぞコーディネーター! 棒立ちがお似合いだからな』
オープンな通信、耳障りな声。
「あの改造バスターか――!」
ごてごてと追加装甲をつけた敵のバスターが、肩にビーム砲を構えていた。
「人の愛機を不格好に改造しやがって。下手っぴが砲戦モビルスーツなんて乗るんじゃねえ!」
毒づきながらも、誤差を修正して放たれる第二撃はさすがに回避行動をとる。
「デザインは不細工だが、腕も性能も本物か。上手いことクロスファイアに捕まえられたぜ」
敵バスターは距離二千、反対側の斜面に陣取り、執拗に射撃を重ねてきた。
敵の数は、最初に排除した一機をのぞき、敵のバスターを加えて三機。
対するディアッカ適当な遮蔽物を使ったヒット・アンド・アウェイで敵の火線を躱し続ける。
18/
「もっと近づいてこい……だめか、千五百を割ってこねえ。俺だってそうするがな」
敵バスターの砲口は、常に位置を変えていた。ディアッカも一つの遮蔽物に依ることがないのは、
火力を集中した際に発揮される"バスター"の力を互いに知り尽くしているからだ。
当然、その逆として接近戦には弱い。二機程度のダガーでも、サーベルの届く間合いに入れては
不利は確実、ディアッカは二百から一歩も近寄せないつもりで牽制を続けていた。
ディアッカは時間を稼げればいいのだ。ミサイルの出番を計っているところに、
稜線を超えて待望の輸送機が見えた。
「……あんなコースを!」
――しかし、現れたの場所がバスターの射程内だった。
「キラの戦闘のせいか! まずいな」
常に移動するような二つの戦闘区域を避ければ、事前に設定したコースを大きく割り込みもする。
「ちっこんなことは不向きなんだがな! こっちだ、ナチュラル!」
温泉宿の陰から姿をさらし、自らを囮として掃討部隊の注意を引く。
本来は装甲と機動力に優れた、たとえばデュエルやストライクの役だ。
わずかな時間の代役といえど、バスターがこなすのはディアッカにも荷が重い。
砲戦型の鈍足を引きずってまで敵バスターへの接近を試みたのは、敵が砲撃一回をバスターに
割けば――ついでにそれをディアッカが躱せば――輸送機は無事に山向こうへ消えられるからだ。
距離千二百まで迫った時、輸送機が頭上にきた。ダガー二機はディアッカに標的を変えたようだが、
敵バスターの興味は輸送機にこそ注がれていると感じる。
なれないスラスター制御までして長距離ジャンプをコントロールしながら、ガンランチャーの
残弾すべてをダガーへの牽制に費やす。
輸送機を背にしてしまえば楽だが、高さが足りない内に距離が一千に、ビーム砲を構えた
敵バスターに向けて機体を走らせながらミサイルを発射する。
六連装ミサイルポッドから飛翔した弾頭はロックはこそされていないが、
狙いは着弾から舞い上がる噴煙で視界を隠すことだ。
雨の中、もうもうとあがる煙を割いてビームのきらめきが走り、輸送機から逸れて空に吸い込まれた時、
ディアッカは喝采を上げたい気持ちだった。
「あれは……シィット!」
だが、敵バスターの攻撃は終わったわけでは無い。
深緑の機体が今度は、350mmガンランチャーを肩で構えていた。
敵は輸送機、散弾の破片でも当たれば落ちる可能性がある。
19/
「間に合え――!」
距離五百――このままでは。何とか敵バスターの気を引かねばと、言葉を絞り出す。
「俺はコーディネーターだぞ、そこの知能障害クソナチュラル!」
『ああん――!?』
――効いた!
シンプルな罵倒の効果は絶大だった。
雷に打たれたように、敵はディアッカの方を向く。ミサイルポッドとガンランチャーを排除し、
装甲に無理やり括りつけていた"アーマーシュナイダー"一本を手に走り寄る旧式のバスターは、
相手にとってさぞかし魅力的な獲物に見えただろう。
きらり。
光る銃口にコクピットを覗かれぬよう左右にステップを踏んで躱すバスター。
その背後で足元で、熱ビームによる火柱が上がる。
距離百――敵が振り上げたライフルの先、取り付けられたバヨネット(銃剣)をナイフで逸らし、
勢いのままに突撃――そのまま相手ともつれて転げた。
「マウントポジション! 上を取ったぜ」
『YAーーHAーーッ! "機嫌は如何でございますか?" メイド・イン・プラントの
遺伝子パッチワークさ、ま、よぉ!』
ディアッカが下に敷いた機体から、またも過剰に陽気な声がする。
二機のバスターは、ディアッカがコクピットへ向けて突き出した"アーマーシュナイダー"を
下から押し上げる形で力を拮抗させていた。
『この世に未練はいくつある? 子種の心配しなくていいかい?』
「……機嫌はアンタらの所為で最悪だ」
答えながら、バスターのセンサー反応を確認して安堵する。輸送機は識別信号を今も
送り届けてくれている。
「特にアンタの耳障りなラップもどきには、な。なぁに……パッチワークになった
アンタの面を拝めば、すぐに最高だろうさ」
『いいねえ、宇宙の化け物が吠えるのはいいもんだ! けど膠着状態ってのは頂けない。
一つ提案だが、三つ数えて離れようじゃないか――』
「――いい考えだな。いち……」
『に』を数える前に、ディアッカは機体を跳ね上げていた――敵も同時に。
互いに砲戦型、馬鹿正直な騎士道精神など、心の贅肉に過ぎない。
20/20
『いいねえ、アンタ本当に――むかつくコーディネーターだ!』
足で蹴りつけ肩で押し、互いの獲物を突きつける。
敵バスターの銃剣が胸部装甲をかする衝撃があった。
『ハァッ――! ちゃちなナイフも落としたみたいだな!』
先んじてライフルを向けられる――敵のバスターが撃つ気配。
「ナイフはな――アンタのライフルに刺さってる」
ディアッカは教えてあげた。
『何――!』
ライフルが基部の励起機構から暴発した。砲身に突き刺さったナイフが、発射寸前の
ビームをせき止めたためだ。どれだけ驚いたところで、ビームを止めるのは間に合わない。
ごんっ!
離れたディアッカと違って、まさに目の前でライフルが爆発したのだ。貫通はなかったものの
装甲をへこませる衝撃は機体に浸透し、パイロットにダメージを与える。
「おっと――!」
膝をつき、倒れようとする敵のバスターをディアッカは支えた。
もちろん親切では無い。
「へへ、一回やってみたかったんだよな。……そこのダガー二機、てめえらの事だ、
上官の命が惜しかったら停止しやがれ!」
もう一本のアーマーシュナイダーをコクピット付近に突きつけるという、とても分かりやすい
悪人⇔人質の構図で、とても分かりやすい脅迫の文句を並べる。
相手が聞くかは五分というところだ。のるかそるかは得意では無かったが、この際仕方ない。
『お……お前ら、そいつはノット・クールだ。
こんなコーディネーター野郎の言う事なんか聞くんじゃねえぞ!』
敵バスターのパイロットが、こうしてしゃべったのは明らかに失敗だった。
上官が生きているのか測り損ねていたダガーが、即座に停止する。
『中尉を離せ――』
「あんたらが、そこにのびてるダガーごと撤退したら、な。一応殺しちゃいない」
『馬鹿が! 信用するんじゃない。俺ごと撃て、命令だ!』
「黙りなよ、中尉の兄さん」ナイフを煌めかせ、黙らせる。
今なら大丈夫か? ディアッカは輸送機のノイマンに向け通信回線を開いた。
To Be Continued
以上、早めにといわれたので早めに投下しました。
丸腰のキラはまた今度です。
感想や指摘がありましたら、ご自由にどうぞ。
創発……板? あそこにいるのは 28 ◆WZm3jzCkZQ のはずであります。
ディアッカがかっこいいなんて!
旧バスターぱくったまま放浪してたのかねこの人は?
とにかく続きが楽しみ。投下乙でした
<8>
「頭を押さえろ。一気に追い込むぞ」
レイがタワーの裏側にゲイツRを着地させると、吹き飛び土煙を被ったプロトジンにラ
イフルを突き付けるシンのゲイツRの姿が目に飛び込んだ。
手前に大きな穴が空いているのが気になる。合成画像にしてはやけにリアルな気がする。
「ああ、任せとけ!」
短くそれだけ告げるとシンのゲイツRはプロトジンの頭を押さえる為に飛び上がる。
歯切れの良い返事に軽く頷き操縦桿を押し込むのと、プロトジンが土煙をあげて上体を
起こすのはほとんど同時だった。
囲まれたプロトジンに重斬刀を引き抜く余裕はない。細かいブースト操作をしながら二
機のゲイツRの死角を探すが、既に囲まれている。苦し紛れのマシンガンをレイは余裕を
持って回避する。
(あとはじわりと間合いを詰めて、十字砲火で追い込めば――)
「逃ィィがすかァァァッ!」
しかしその瞬間、シンの怒号がレイの思考を遮る。
猛烈な勢いで突っ込んできたゲイツRはそのままプロトジンを蹴り飛ばした。
吹き飛ばされたプロトジンは、それでも何とか体勢を立て直し、後退しながら距離を取
ろうとマシンガンで牽制する。
「足並みを揃えて左右からライフルで追い詰める。出来るな?」
「ラ、ライフルでか? 平気なのか?」
「シン、演習に実弾を使うようなバカは、少なくともコーディネーターにはいない。心配
するな。遠慮なくやれ」
「本当だな?」
「ああ、俺を信じろ」
「よっしゃ! 信じたからな、レイ!」
それだけ言い残すと、足並みを揃える事などすっかり忘れたかのようにシンのゲイツR
が猪突する。プロトジンの反応も早く、接近するゲイツRに向けてバーストショットを連
射する。
<9>
「シン!」
「消えろォォォッ!」
ゲイツRから放たれたビームは連射されたマシンガンの弾丸を瞬時に蒸発させ、マシン
ガンごとプロトジンの右腕を吹き飛ばした。レイには相手パイロットのくぐもった悲鳴が
聞こえた気がした。
「よっしゃ!」
感嘆の声を上げるシンにつられるようにビームで追撃を入れる。更にシンがとどめのビ
ームを打ち込むと、今度はプロトジンの両足が消し飛び、同時にディスプレイに敵機撃破
のメッセージが表示される。
違和感がある。レイは視線を外さず、大破したプロトジンが吹き飛ぶ様を半ば呆然と見
つめていた。
「やったぜレイ、圧勝だな俺達!」
「あ、ああ、そうだな」
浮かれるシンの声も耳の奥には入らない。
レイが見つめる中でプロトジンのコックピットから緑色のパイロットスーツが這い出し
飛び降りる。
非常用パラシュートが開くと同時に機体は爆散。パイロットは爆風を受けてバランスを
崩し、地面に叩きつけられる。機体は大小幾つもの塊となって緑地に降り注いだ。
「凄ぇな〜、ザフトの技術は世界一だ。瞬時にあんなにリアルに合成されるんだもんな。
これじゃ、実機演習やる必要もないくらいだ」
シンの浮かれた声も、レイの気分を重くするだけだ。
「……本当に、合成画像だったのか?」
しかしその呟きは、ただコックピットの中に静かに反響するだけだった。
<つづく>
>>P.L.U.S.
投下乙、でも本当に合成画像だったのかすごく気になる書き方でちょっと怖いです。
まさか実戦だった? オチが気になります。
>>SEED『†』
すごくおもしろかったです!
これぐらいの長さ、好きかも〜。
三人称のこういうSFっぽいの大好きです!
ひとつひとつの文章が短かったから、気持ちよ〜く読めました!
あとー、台詞と地の文がい〜具合に混ざってますね!
『ハァッ――! ちゃちなナイフも落としたみたいだな!』この言葉! 耳に心地よいフレーズですね!
あと、空行が多かったように思います。
これからもがんばってください! 応援してます!
小説の第二話が完成したんですが、ちょっと長いんで、支援?とかいうのを
お願いしてもよろしいでしょうか?
>>243 待ってましたよー。
大体10レスに近づいたらそのときスレにいる人が適当に
支援してくれると思うので、投下完了が分かるようにだけ注意すれば
いいと思いますよ。
完成して見直したら山ほどでてきた手直し部分を修正して、やっと投下します。
ちなみにやっとテッカマンが出てきます。
第二話「オーブ大乱」
「プラントのクライン議長、協議のため、各コロニーを訪問、か。
ラクスも頑張っているんだな。」
私は、いつになく暇だったから議会の休憩所のベンチで新聞を広げていた。
会議の時間まであと少しある。
通りゆく人が私に向かって軽く会釈しているのを返しながら、この数分をどう潰すかを考えていた。
するとガコン、と音が。
「へぇ、カガリも新聞読むんだ。意外だね」
隣にあった自販機から缶コーヒーを取り出した男――ユウナ・ロマはちょっと驚いたような顔でさらっとひどいことを言った。
「バ、バカにするなユウナ!! 私でも新聞くらい読むぞ!! 仮にもオーブの代表としてだなぁ……!!」
「はいはい…朝から元気だねぇ〜」
ズズ〜っとすするようにユウナは缶コーヒーを飲んで言った。相変わらずムカつく言い方をする男だ。
こんな奴が一応私の婚約者だとは……とりあえずそのムカつく態度としゃべり方だけは直してほしい。
――ふいに読み進めていると、ん? と気になった記事があった。
「なぁ、ユウナ。これ、知ってるか?」
私は横で眠そうに缶コーヒーを飲む男に新聞の一面に載った記事を示して見せた。
それは「謎の黒い鎧現る!?」という見出しの大きな写真が載った記事だ。
「――あぁ、それのことかい? 昨日もそれについての対策会議が行われたばっかりらしい。
ひとまずは保留、ということになったよ。プラント、連合でもあんな兵器は開発されたなんて聞いたことがないし、
そもそもネタに困っていたマスコミが持ち上げただけの情報だろうから信憑性もないしね」
「そうか……けど記事を書いたフリージャーナリストによるとその鎧は、オーブを目指していた可能性が高い、と書かれてあるな…」
「まぁあんまり気にしなくてもいいんじゃない? さっきも言ったとおり存在自体あいまいだし。
そうそう、前の会議ではこいつの呼称は【インパルス】っていうのに決まったよ。」
「インパルス……〈強襲〉か…」
あまり気にも留めず他の記事を見る。
他に目に留まる記事はない。芸能人の婚約疑惑だとかのゴシップ記事だらけだ。
特に目を引く凶悪犯罪などはほとんど見受けられない。
「……平和だな、オーブは……」
私は顔をほころばせながら小さくつぶやいた。
私は、その時まで、前大戦で私たちがやったことは間違っていなかったんだと確信していた。
……その時までは。
ちらっと時計を見る。――そろそろ会議の時間だ。
「カガリ、ちょっといいかい?」
ユウナは椅子から立ち上がった私を呼んだ。
「何だ急に」
「……この会議はオーブの食糧問題における、とても重要な会議だ。
だから代表として、絶対にヘマをやらかしたりしないでくれ。
このままだとみんなから軽視されるよ?」
絶対に、という部分だけ強調してユウナはいたく真面目な顔つきで言った。
「……? あぁ、気をつけることにするよ」
「頼んだよ」
そう言ってユウナはスタスタと先にってしまった。
私はユウナの後を追って会議室へ向かった。
「ふざけるなぁ!!」
バァン!! と私は思いっきり机を叩く。
ざわつくオーブ首脳陣。
「しかしですな代表……ここで連合と仮でも同盟を組まないと、
島国であるオーブはおそらく食糧難などの問題に見舞われますが?」
オレンジのサングラスを掛けたハゲのオッサン…もとい、ユウナの父親であり
オーブの宰相であるウナト・エマ・セイランは冷ややかな顔で報告をした。
こいつはさっきの会議で、連合と同盟を組もうと言い出したのだ。
たしかにオーブを立て直すときに、連合各国からの資金はありがたかった。
だが同盟を組むのは話は別だ。
それでは他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない、というオーブの理念を汚すこととなる。
お父様の残した、あの理念だけは守らねばならない。
「お前たち、オーブの理念はどうした!! 理念さえあればこの国は甦る!!」
いつもは賛同してくれる周りの官僚たちはこっちを見るだけで何の反応も示さない。
……? いつもなら私に加勢する者たちが静観している。
ユウナのほうも見るが、こちらを観察するような目で私を見ている。
何か違和感がするが、ここではあまり気にも留めなかった。
「では代表、お尋ねします。あなたは理念か国民、どっちが大事なのですか?」
ウナトがやけに丁寧にしゃべる。そんなこと決まっている。
「両方とも大事に決まっているだろう!! それらを守るのが我々の義務であり、使命だ!!」
「――話になりませんな。残念ですが……もうこれ以上の協議は無駄のようです。ここで会議は終了。解散とします」
ウナトがスッと腕をあげ、解散の意志を伝える。
「お、おい!! お前ら!! 理念は……お父様の遺志はどうした!!」
そのままなし崩しに会議は終了となった。私の不満をのこしたまま。
「クソっ!!」
ドカっという音とともに、今しがた蹴りを入れた休憩室のごみ箱が倒れる。
こぼれる紙屑の山。
……なさけない。なにゴミ箱に八つ当たりしているんだ私は。
「カガリ」
肩に手を置かれた感触がして、振り向く。
次の瞬間、バシっ、というやけに響く音。
そして頬に走る強烈な痛み。
……私が、目の前の男・ユウナに頬を叩かれたということに気がついたのは数秒の時間を要した
「な、何をするんだユウナ!!」
「カガリ、君は最悪だ。一人の政治家としては、最低でどうしようもない。
とてもあのウズミ様の遺した娘とは思えない。国はあなたのおもちゃじゃないんだ!!
天国でウズミ様も泣いていらっしゃるんじゃないか!?」
今まで聞いたこともないような数々の暴言がユウナの口からもれた。
「なんなんだいアレは? アレが、いち政治家のやる会議?
……笑わせるな。
ただ君は自分の意見を通そうと叫んでるだけで、他の具体案も何も出さずに他の人の意見を否定しているだけだ。
そして珍しく意見を出したと思えば、口から出るのは理念理念理念。君はまたオーブの理念なんてもので何の罪もない国民を焼くのかい?
いや、もしかしたらこの国ごと核か何かで英雄的自決を行うかもしれないね。今の君ならやりかねない。
ねえ、そうだろ? ……おい、聞いているのかいカガリ? カガリ・ユラ・アスハ!!」
ユウナが今まで私に見せたこともないような、すごい剣幕で機関銃のように罵詈雑言を浴びせた。
私はふと、心の中で自分を支えていた地盤のような物が崩れ去ったような気がして、へなへなと廊下の壁にもたれかかってしまった。
……普段ならユウナの首根っこをつかんで「何だとこの野郎!!」と抗議するのだが……そんな余裕すらない。
ふと、機関銃がやんだと思えば、今度は丁寧な声でユウナはしゃべり始めた。
「カガリ、いいかい? よく聞いてくれ。この会議はただ単にオーブの食糧問題を解決するためだけの会議じゃなかったんだ。
もう一つの目的は他の官僚たちに、君が本当にオーブの代表にふさわしいか示すものだったんだ」
「あぁ……あぁ……」
……コクコクと力なく首を動かすだけで精いっぱいだった。
なるほど、確かにいつも私を擁護してくれていた官僚たちが変に静観していたし、見る目も違っていた。
――だから今朝、会議の前に休憩室でユウナはあんなに念を押して忠告したんだな……
4
「クソっ!!」
ドカっという音とともに、今しがた蹴りを入れた休憩室のごみ箱が倒れる。
こぼれる紙屑の山。
……なさけない。なにゴミ箱に八つ当たりしているんだ私は。
「カガリ」
肩に手を置かれた感触がして、振り向く。
次の瞬間、バシっ、というやけに響く音。
そして頬に走る強烈な痛み。
……私が、目の前の男・ユウナに頬を叩かれたということに気がついたのは数秒の時間を要した
「な、何をするんだユウナ!!」
「カガリ、君は最悪だ。一人の政治家としては、最低でどうしようもない。
とてもあのウズミ様の遺した娘とは思えない。国はあなたのおもちゃじゃないんだ!!
天国でウズミ様も泣いていらっしゃるんじゃないか!?」
今まで聞いたこともないような数々の暴言がユウナの口からもれた。
「なんなんだいアレは? アレが、いち政治家のやる会議?
……笑わせるな。
ただ君は自分の意見を通そうと叫んでるだけで、他の具体案も何も出さずに他の人の意見を否定しているだけだ。
そして珍しく意見を出したと思えば、口から出るのは理念理念理念。君はまたオーブの理念なんてもので何の罪もない国民を焼くのかい?
いや、もしかしたらこの国ごと核か何かで英雄的自決を行うかもしれないね。今の君ならやりかねない。
ねえ、そうだろ? ……おい、聞いているのかいカガリ? カガリ・ユラ・アスハ!!」
ユウナが今まで私に見せたこともないような、すごい剣幕で機関銃のように罵詈雑言を浴びせた。
私はふと、心の中で自分を支えていた地盤のような物が崩れ去ったような気がして、へなへなと廊下の壁にもたれかかってしまった。
……普段ならユウナの首根っこをつかんで「何だとこの野郎!!」と抗議するのだが……そんな余裕すらない。
ふと、機関銃がやんだと思えば、今度は丁寧な声でユウナはしゃべり始めた。
「カガリ、いいかい? よく聞いてくれ。この会議はただ単にオーブの食糧問題を解決するためだけの会議じゃなかったんだ。
もう一つの目的は他の官僚たちに、君が本当にオーブの代表にふさわしいか示すものだったんだ」
「あぁ……あぁ……」
……コクコクと力なく首を動かすだけで精いっぱいだった。
なるほど、確かにいつも私を擁護してくれていた官僚たちが変に静観していたし、見る目も違っていた。
――だから今朝、会議の前に休憩室でユウナはあんなに念を押して忠告したんだな……
5
「そして、テストの採点した結果は……これさ」
ユウナが懐に手を入れて取り出したそれは……黒光りする拳銃だった
銃口は私に向いている。
「え…………!?!?」
思考が凍結する。
ユウナが私に拳銃を向けているという状況に思考が追い付かなかった。
「そうそう、今ちょっと面白い番組をやっているよ。見るかい?」
と、思い出したかのように銃を突き付けながらユウナは休憩所に備え付けてあるテレビを指でさし、フラッと画面を見た私は目を見開いて愕然とした。
テレビでは特番として「かつて国を焼いた逆賊・アスハの実態!!」とテロップが流れており、
画面の中では数人の人がレポーターに必死に訴えている。
『私たち家族はアスハに家を焼かれました!! 私たちの住みなれた家を返してください!!』
『なんであのとき市街なんかに布陣したんだ!! 死んだ妻はその時病気で入院してたんだぞ!!』
『それ以前になんで戦闘が開始されてからやっと避難警報が発令されたの!? 対応が遅れたせいで家が…息子が・・…!!』
そんな声が画面越しに私の頭に直撃する。ハンマーか何かで頭を粉々に砕かれたような気分だ。
「どうですか国を焼いた逆賊・アスハ殿? 自分の罪を見て。」
「私は……。私は……仕方がなく……」
力なくうなだれる。
気づいてしまった。
こんな小娘が代表なんざやってこれたのは、民衆に対する客寄せパンダのような扱いだったからだと。
そしてその意味をなくしてしまったとたん、これだ。
今までやってきたことはすべて無駄だったのだろうか?
「議会に返り咲いたラクス・クラインと違って、君は何の成果もあげない。ただ騒ぐだけ。
……そんな君の味方をする者はもういないだろう。
そして君を見限ったアスハ派を取り込んで、セイラン派は巨大になった。
父上が次に何をすると思う?」
一呼吸おいてユウナは続ける。
「クーデターだ。セイランがオーブの頂点に立つためのね。
手際のいい父上のことだから、もうすでに手は打ってあるはずだ――ほら、来たよ」
窓からはバタバタとヘリのローター音。外の針葉樹が風圧でしなっている。
6
『逆賊アスハに告げる!! 貴様はすでに包囲されている。投降せよ!!
繰り返す!! おとなしく投降せよ!!』
拡声機で増幅された掛け声が響く。
対応が早すぎる。まるでこのことが予定だったように……!?
「嘘だ……嘘だ……」
「――立ちなよカガリ」
銃口が額に押し付けられる。
「君はこんなところで終るのかい?
今の君に足りないものを教えてあげよう。それは敗北だ。
君は泥にまみれ血涙を流すような敗北が圧倒的に足りないんだ。
ウズミ様の遺志を継ぐものとして、君は泥をすすっても生き抜かなくてはならないんだ」
諭すような声でユウナは言った。
――何を言っているんだ? 私を殺すんじゃないのか?
するとスッと拳銃を私の額から放し、あさっての方向にむけ、発砲。
割れるガラスには目もくれず、携帯端末を取る
「え〜、こちらユウナ・ロマだ。
逆賊アスハは拳銃を発砲して裏口より逃走。繰り返す、裏口より逃走!!」
――ユウナ……お前……?
「行け、カガリ!!」
私は駈け出していた。休憩所のドアを蹴とばし、廊下を疾走する。
裏口とは正反対の正面入口を出ると、すぐさま最近買ったばかりの愛車に乗り込む。
7
『フフフ……どこにいこうというのです? 元代表?』
上空からローター音と拡声機の声がする。
……!! 見つかった!? だがエンジンはかかっている。
思いきりアクセルを踏む。
古びた会議場の正門を蹴散らし、急発進。
『おやおや……我々をあまり怒らせないほうがいいですよ?』
――思い出した。拡声機で増幅されている、この舐めたようなムカつく声。
たびたび私に媚びへつらっていたコルベットとかいうハゲの軍人だ。
そんなことを考えながら無言で車は公道を駆ける。
『……応答がないので実力行使に出る。……やれ』
その言葉を最後に拡声機の声は止まった。
次の瞬間、車内に強烈な振動が走り、目前には爆風が巻き起こった。
――そのときはグレネード弾が至近距離に着弾したものだ、ということはまだ分からなかった
支援
8
その時、時刻はちょうど日が暮れる時間帯だった。
横転した愛車は燃えさかっている
私の車内から投げ出され、地面にたたきつけられた。体中が痛む。
――こんなところで私は死ぬのか?
そんな考えが頭をよぎる。
ヘリからサーチライトが照らす。
『よし、ターゲットを確保し、連行――!? なんだあれは?』
拡声器の声が凍りつく。
すると私の視界に炎の向こうから何かが近づいてくるのがかすかに見える。
――人影?
いや違う。
影が燃えさかる炎から出てきた。
ヘリのサーチライトに映ったそれはまさに異形、だった。
全身が黒光りする装甲に包まれており、突き出た肩の一部は羽を連想させる。
太くたくましい両腕には身の丈ほどもある大剣。
脚甲に覆われた長い足は、一歩一歩踏みしめるたびにアスファルトを踏み割る。
その頭部は、耳に当たる部分に装飾が施された西洋兜のようなもので覆われている。
間違いない。こいつは新聞にのっていた鎧【インパルス】だ。
『バ、バカな!! なぜテッカマンがこの世界に!?』
よくわからないが、コルベットが知らないということは、追手ではないらしい。
「た、助けてくれるのか……!?」
体を起こし、ソイツと向き合う
「お前……カガリ・ユラ・アスハだな?」
――!? しゃべった!?
仮面のT字になっているスリットから無機質な光が灯っているのが見える。
それは愛を知らない瞳のようだった。
「家族のカタキだ」
――え?
「お前を……殺しに来た!!」
目の前には、大剣を大きく振りかぶった鎧が――
これが私と「テッカマン」の出会いだった。
今思うと、最悪の出会いだったと思う。
(・∀・ )つC
支援。
以上で投下を終わります。
見事にバイバイさるさんに引っかかってしまいましたよ。
支援ありがとうございます。
それはさておき、あらためて見るとひどいですね。グチャグチャだ。
僕は小説を書くとき、まだ駆け出しですので、
基本的に思い描いたシーンにあった文を書く練習を兼ねています。
よっていろんな場面が混じったり、詰め込みすぎてカオスになる場合があります。
ご了承願います。
今回の目標は
1、一人称で書く
2、主人公・カガリを徹底的にいたぶる(笑)
3、急いでる、緊迫したシーンというのを念頭に置く
4、テッカマンの姿の描写に力を入れる
です。
文章力上達のために「つまらん。氏ね」とかのよりも、「○○は××にしたほうがいいよ」
などの詳しい解説があれば個人的にうれしいです。
そして一応、わからない人には絶対わかりませんが、ヘリに乗っているコルベットという軍人は、
テッカマンブレード本編に出てきたおっさんです。
元ネタ本編ではあくどい事を企んで、テッカマンに殺されました。
だから別世界に転移したのに、現れたテッカマンのことを見て驚いているのです
あ、すいません。一番重要なことが抜けていました。
読んでくれた方、ありがとうございます。
そして、形はなんでもいいので、感想をお願いします
>>テッカマセランス
投下乙です。
1,一人称について
カガリの内面を使った地の文にしては、ウナトのことをおっさんと呼んでいたり、
代表なんぞ、といった言葉遣いだったりとイメージにずれを感じました。
もっと女の子らしい言葉の地の文にするか、あるいはカガリそのものを
男らしく描写してしまうかの方が良いかと思います。
2,主人公をいたぶる。
成功しているだろうと思います。
3,緊迫感
それなりです。緊迫したイメージは伝わりました。
4,テッカマン
テッカマンの姿と重量感がわかりやすいです。欲を言うならば、
最初の投下でここまで来ていれば、と思わずには居られません。
インパクトが大きかったでしょう。それとインパルスは確か衝動や衝撃です。
強襲はストライクの事でしょう。
次の投下に期待しています。
追加
源作とコルベットのことを知らない私は、
「どうしてこのハゲはテッカマンがこの場所ではなく、世界にいる事に驚いているのだろう?」
と疑問に感じて、つまりは興味を引かれたのですが、即座にテッカマセランスさんが
ネタばらしをされました。
せっかく引きに使える材料を、文章の外で解説してしまうのはもったいないと思います。
>>257 4が二個ある……orz
誰か樹海の行き方知りません?
>>261 1:最初は「男勝りだから女を意識しなくてもいいだろう」
と思って書いてたらいざ完成してみるとおっさんみたいなカガリになっていましたので
急きょ全部手直しを加えましたが、まだまだ改良の余地がありそうです。
がんばります。
2:僕は物語ではキラやハガレンのエドみたいな「強さが最初からレベル100」な主人公があまり好きでないので
思い描く小説ではほとんど主人公をどん底に落としてから書くようにしています。
なんで、今回のカガリもすべてを失い、どん底の状態から始まる予定です。
3:ありがとうございます。前作がどっかの板で書いたくだらんギャグssでしたので
緊迫感が出せるかどうか全く自信がありませんでしたが、少しは自信が持てました。
4:確かにそうですね。この描写を前に持ってくれば……と書いてる最中も後悔していました。
インパルスは……ゴメンナサイ。素で間違えました。
そういえばまとめのほうであの「〈強襲〉か…」の部分を〈衝撃〉に変えたりして修正したいんですが
作者ではそれは無理なんでしょうか?
>>262 本当にゴメンナサイ。
「なにこいつ? 」と混乱する方がいたりするかも、と思っただけなんですが、軽率でした。
まさか自分でネタをどぶに捨てるとはなんたる不覚。
反省して次回に活かします。
あ、ちなみにこのあとも本編のキャラはどんどん出てきます。
>>263 まとめの管理人さんに言えば、一、二カ所位なら訂正してくれますよ。
というわけで投下開始。
21/
ざあ……。と降りしきる雨音。
音は、遠くの音を遮る。暗闇に沈む山に、雨が静寂の帳を降ろしていた。
――どん。
静けさを引き裂く咆吼は、地を打つ稲妻だろうか。
違う――齢を閲した樹を倒し、流れる水を土ごと抉るモノ達が居る。古来より人の信仰を受ける鬱蒼と
閉ざされた山岳、そこを激震に揺るがすのは、伝承の中からテクノロジーの呪いによって呼び出された、
鋼鉄とメカニズムの巨人達――すなわち、モビルスーツ同士の戦闘だ。
土砂を跳ね上げながら、明橙のM1と漆黒のストライクが激突する。狭間に置かれた雨と大気を弾き、
轟音、二機は離れた。圧電アクチュエーターから、過剰フィードバックのスパークを洩らすM1だ。
『筋力低下2%』
「よし、理解した……」
ダメージレポートに肯くキラは、確信を持って肯く。
敵デュエルの射撃を恐れて間合いを離しきれず、望まぬにらみ合いに興じる現状で小手先の技術を駆使して
猛攻をしのぐ。そんな彼は今――
「無理だ……誰かたすけてええ!」
――おびえていた。
「そうだ――投降しよう! でも……どうやるんだ? ええと――学校で習ったかなあ?」
多少、錯乱もしている。
「うーん、そう言えば投降するのって初めてかもしれないけど」
疲れた脳はオーバーヒート気味であった。
「今更ながら考えれば間違ってストライク乗っちゃった時にあれでAAを制圧してからアスランに
投降しとけばトールとかフレイとか死ななかったり……ってそんな事考えてる間に来たぁ!」
青白い炎を後方に飛ばす漆黒の機体――背部パックのスクラムド・スラスターによって
劇的な加速力を得る。下半身を泥に汚した敵機は、猛スピードに自重を乗せ突撃した。
「回避、間にあっ――」
M1は三歩の助走を取って跳躍する。
「――た!」
"シュベルトゲベール"に分断された樹木が――幸運なことに木だけが――くるくると宙を舞った。
「サンクス、モルゲンレーテ!」
元凶な気もするが、メーカーに一応感謝しておく。
ストライクが追って第二撃――身をよじり、地面に倒れ込む。肩口を掠めて巨刀が走った。
勢いを殺さず倒立し、腕を起点に回転蹴りを放ったM1が、黒ストライクの胸を蹴る反動で距離を取る。
「機動性――だけ――ならこっち有利かな?」
カポエラ紛いの体勢を立て直し、ワイヤーを木に搦めて引き寄せて斜面を駆け上る。
バランスを崩されてたたらを踏む黒ストライクに対し、M1の機動は危うさがない。不安定な斜面で、
発砲金属の軽さは武器だ。三次元的機動力を最大に活かし、複雑な動きで翻弄する。
22/
「"シュベルトゲベール"は何とかなるか……なあ?」
あくまで不安なキラだ。
本邦初公開の軽業MSに敵方も驚嘆しているのだろう。
全長に匹敵する対艦刀を構えたまま、黒ストライクの動きも凍り付いていた。
大剣の発振するレーザー・ブレードが振り付ける雨の水滴を焦がし、辺りに濃密なオゾン臭を漂わせる。
「そうか、アスラン! これは赤服汚しちゃったアスランの、僕に向けた復讐だな、きっとそうだ。
うん、きっと後三分ぐらいしたら向こうから"大成功!"って看板持って……こないよね――!」
追いすがる黒いストライクの突き、払いや流し斬りを、その度「ひゃあ」や「うわあ」等と口を
挟みながらも全てを躱しきる。自分で自分を混乱に追い込んでも、流石にベテランだけはあるのだ。
スティックさえ握っていれば、その操縦は正確にして俊敏の一言につきた。
「仕切りなおす!」ペダルを一気に床まで踏み込む。
とにかく間合いを離したいキラは、シートに体を埋め込む程の下方Gに耐えた。
だが、飛び上ったM1の頭を掠める一条のビームが、カメラアイの片方を焼く。頭を押さえられ、
慌ててスラスターの逆噴射で降りた――片目をつぶされた所為でノイズ混じりの視界で探した着地点は、
目標よりはるか手前だ。
「デュエルか――せっかちなぁ!」
敵の掩護は的確だった。
『バランサー不調』とモニターに報告。
「――そんなこと分かってる。マニュピレイターモード掌握!」
七十年生きた杉を踏み折って立つ自機へ、大剣を振りかぶって漆黒のストライクが迫る。
『例外動作、要コントロール』
「掴みモーション――間にあえ!」
根本から折れた木を両腕で掲げ、盾代わりだ。
金属対木、等と五行思想に問うまでもなく、倒木は敵の"シュベルトゲベール"に両断され、
M1は袈裟懸けに一閃を喰らう。
『胸部損傷』と表示。
「M1はこれだから!」
逸らしていなければ即死だったとキラが胸をなで下ろす通り、外装に深々と刀傷が走っていた。
装甲という程の代物はこのMSには無く、当たれば切れるのだ。
「とにかく、止まれない!」
視界の端に青デュエル。その火線と黒ストライクの視線がM1を狙う。
黒ストライクを中心に広がる螺旋を描きながら、複雑な山地の稜線に遮蔽物を探した。
23/
地形ほど頼りになる盾はない。生命線といえる機動力を殺さず下がる。
黒い敵も追う――迫りながら武器を構えた。地面近くまで振り下ろされていた刃が、
踏み込む巨人の手中で反転。
「――返し切りか!」
返す刀による逆胴の起点となる手首へ、即座にM1の足を当てる。
――踏み止められるか? そう思ったキラは、ぐんと前方に引かれるGを感じる。倍以上も重い
黒ストライクに、M1は斬撃の勢いそのまま跳ね飛ばされた。
「まずい……離れすぎた」
攻撃の予感に慄然とする。その足元に、重々しい衝撃音を上げて実体弾頭が着弾した。
立て直しも利いていないアストレイを制御してランダム・ステップを取らせる。見れば、黒光りする
連装リニアガンが卑猥なシルエットをのぞかせていた。ストライカーについたリニアガンの発射間隔は
おそらくライフルより早い。回避は三発弱が限界だ。威力は、胴に当たれば反対まで抜けるだろう。
「あんなのにレイプは御免だ……くっ!」
中距離の不利を見積もったキラ、飛び退ろうとしたM1ががくんと傾く。
「ワイヤーアンカー!? 後退できない!」
彼我の間を、ストライクから射出されたワイヤーがつないでいた。敵手は突進し、M1を真っ向から
唐竹割りに――打ち据えられる対艦刀を躱しようがない。
「ええいっ!」
『――!』敵の驚愕が機体を越しても伝わった。
迫るレーザー刃が、数センチほどM1の頭部にめり込んだ時点で停止する。
真剣白刃取り――M1は刀身を左右の掌で挟み取っていたのだ。
極限の神業が課した、脳を焼き切るほどの集中は、キラの体を損ねた。
どろりと鼻から垂れた血が舌の上にのる。
「はあっ――はあっ!」
過熱した頭で鉄の味を覚える。
「ウェ……こんな曲芸、いつまでも続かない。あと何分持てばいいんだ、ノイマンさん!」
振り下ろすストライク、支えるアストレイがせめぎ合う。
「――勝ちが見えないのが、こんなにきついなんて……」
刹那の拮抗状態を作ったキラは思わず、本音の弱気を洩らした。
味方と連絡も取らず、ひたすら敵を引き付ける。孤軍奮闘と言えば聞こえは良いが、孤独な戦いだ。
「……生きて帰れるかな?」
焦りは深い。徹底的に逃げ抜くつもりが、倍も重い機体に追いつかれたのだ。黒ストライクの巧みな機動が、
キラの操るM1の進路を塞ぐことで、青デュエルだけでも振り切る、という目論見をも阻んでいる。
24/
「……ん、接触回線?」
『敵パイロット、降伏しろ』
開戦を開くと、氷点下の声がキラに投降を呼びかけた。
『今なら裁判が出来る。コーディネーターでも、だ』
「嘘をつくな――!」
冷徹な男の声に、キラは嘘の響きを感じ取った。幼い頃から同じような感触を知っている。
ナチュラルとコーディネーターを分け隔て無く接しますといった幼年学校の教師の言葉に感じたもの。
首筋に張り詰める偽りの気配――それを強くした感覚だ。
心が折れそうになる。
敵の、表面だけは優しい言葉の所為ではない。相手が嘘をついてまでキラを、コーディネーターを
殺そうとしている事にだ。もしもナチュラルだったなら、男の降伏勧告は真実だったろうとキラは信じた。
「コーディネーターを殺しに来た相手が……」
『我々もコーディネーターに仲間を殺されている。アラスカで誰が死んだ?』
「情を使って――そんなに僕が殺したいか!」
キラは叫ぶ。
『そうか……ならば』通信が途切れる。
「――!」
業を煮やした黒ストライクは、嫌がらせとばかりに"イーゲルシュテルン"を一斉射した。
「……まずい!」
――致命的だった。
装甲が「薄い」のではなく「無い」仕様のM1なのだ。骨組みにベニヤ板程度の乏しい耐久性は、
CIWSの機銃弾と言えども軽々と貫通を許す。
「くそ、これだけはやりたくなかったけど!」
全身から火花を散らしたM1が、震える脚部を振り上げた。
直撃――黒ストライクの股間。
ビクリと、反射的な動作で相手は退いた。
「はあ……はあ……相手が男で良かった」
不快感に耐えながら安堵するキラ。今まで対MS近接格闘戦において禁じ手にしていた理由は、
臍下三寸のあたりが自分も痛くなるからだ。
レッドアラートの数が一桁増えていた。
「こっちの紙装甲は……ばれたよなあ」
M1工事仕様――機動力だけは原型となったP−01アストレイを上回ることもあり得る。
しかし武装、装甲ゼロのドカタ機体は、機敏な二本足のショベルカーに過ぎないのだ。
25/25
「ん……?」
急所攻撃に多少は激高したか。あるいは反応してしまった自分自身にいらだちを感じているのか、
黒ストライクは"シュベルトゲベール"を捨て去り、ハードポイントに差していたライフルを手にする。
「しめた――!」
銃身切り詰めたショーティー・タイプを向けられ、キラの顔には逆に余裕が浮かんだ。
周りにはえる樹木を数本まとめてなぎ倒し、適当な一本を手に取る。
「射撃タイミングを予測プログラムにリンク――全力回避!」
機体の中央を狙う射撃を、M1は俊敏きわまりない動作で回避した。
「この反応、誤差修正の速さ――やっぱりエース級だ!」
機体を半身にして光条をやり過ごし、退く。斜面から舗装された道路へ。
追う黒ストライクがM1の足跡を踏み、落とし穴にでもはまったかのように足を取られた。
キラが植生を根ごと引き抜いた地盤は、重いストライクを支えきれなかったのだ。
足を止めた敵の射撃を、キラは今度こそ、余裕を持って躱すことが出来た。
「でも、エースだからこそ――」
首筋にちりつく焦燥感、そして殺気。
「――その正確な射撃が読める!」
ぶん、と整地でM1が横回転し、ビームの回避と倒木の投擲を同時に行う。
放物線を描いた倒木は槍となって、ライフルを構えていた青いデュエルの胸をしたたかに打ち付けた。
デュエルがバランスを崩す合間に距離を取ることに成功する。
「よし――!」
喝采をあげるキラは、橋になった道路から下の河原に飛び降りる。
「アクチュエーター動作逆転!」
圧電アクチュエーター、M1に搭載された人工筋肉は、電力による伸縮伸縮で発電する。その逆もしかりで、
迂回抵抗に接続されたアクチュエーターは衝撃を電力に、電力を熱に変えて、落着による損壊を防いだ。
抵抗にたまった熱が、高い伝導率を誇る炭素繊維を通じてラジエーターから外気に排出され、
川に浸った脚が湯気を立てた。
『回収 3m』
ノイマンからテキストオンリーで通信が入った。あと三分ということか。
「……うん」
何かを決意したキラが、コントロールスティックを揺り動かす。視界には青と黒の機体が映っていた。
その手にはビームライフル。M1が手を振って水を巻き上げる。M1で荒立つ水面をかき回し、水の盾を
作り出した。
ボシュッ!
降り続ける雨で増水した川を光条が穿ち、水蒸気爆発を引き起こした。ビームの高熱に対抗する装甲は、
堅さではなく厚みだ。収束の甘いショーティー・タイプなら十分に防げる。
白く水煙の舞い上がった川をジャンプし、キラはより険しい地形――川の上流へ向けて
M1を遡上させていった。
To Be Comtinued
以上、投下終了です。
改行や一文の長さは、一つの基準に中々落ち着きません。
感想やご指摘がありましたら、ご自由にどうぞ。
それでは。
271 :
僕は、神の使いである。:2008/09/13(土) 17:05:07 ID:q2BaMv0t BE:691986454-2BP(0)
SSってなんですか?
272 :
僕は、神の使いである。:2008/09/13(土) 17:07:15 ID:q2BaMv0t BE:415192234-2BP(0)
だれか教えて。。
ちょっと書き詰まったので質問。ギャグって小説に必要ですか?
一応シリアスな小説なんですが、シリアスすぎたら読者読まれなくなるかなぁ、と
今悩んでおります。
>>275 シリアス一直線の文体にたまにコメディ調を混ぜる人、
度シリアスで暗鬱な掌編と、実力的に実録なコメディを書く人、
たまに巻末と称してギャグ外伝を混ぜる人。
作品からしてコメディ。
いろんな人がいます。気晴らしに明るい話を書くもよし、でしょう。
>>270 すごくおもしろかったです!
まとまってて、なんかかわいいですね。
三人称のSFが舞台の話って憧れちゃう。行ってみたくなっちゃった。
それぞれの文章がいい長さでまとまってますねぇ。尊敬しちゃう。
あとー、地の文での描写多くて雰囲気いいですね!
「アクチュエーター動作逆転!」この言葉! 耳に心地よいフレーズですね!
あと、英語のタイトルはちょっと覚えにくいです。
これからもがんばってください! 応援してます!
>>278 ノベルチェ(ry
まあいいか。そういうやり方で感想を書いちゃあいけないとは、
テンプレにも載ってない品
>P.L.U.S
この人の描くシンがけっこう好きだったりする。
>『†』
全体的に好き。
>テッカマセランス
まだ様子見。面白くなりそうだと思ってる。
26/
癪に障る声の主は、武器を突きつけられながらも幾度か抵抗を試みた。
『ジャッ――!』
「おっと、危ない危ない」
その度に、ディアッカはアーマーシュナイダーを翻して敵機を分解してゆく。
今ではほとんどコクピットブロックだけの敵機をダガーの一機に支えさせている有様だった。
「そのやる気だけはクールだな」
『うるせえ、コーディ野郎が!』
足下には、人質を使って敵からはぎ取った多数のガンランチャーやビームライフルが転がっている。
武装を解除したディアッカは、ダガー達のアンテナブレードを破壊して目と耳をつぶした。
『キラ君は上流に向かった――』
「――! てことは……」
通信回線は輸送機のノイマンと繋がれている。彼方で丸腰の戦いを強いられているキラの動向を
うかがうためだ。M1の位置からキラの思惑を掴んだディアッカは、時計を確認してささやいた。
「後五分――ってところか」
『ああ――』
「――待つんじゃないぜ? さっさと行きな、おっさん」
『おっさんじゃない、アーノルド=ノイマンい、ち、い、だ!』
「快適飛行で頼むぜ、ノイマンの兄さんよ?」
どこかでやったようなやりとり、ディアッカは、モニターに反射する顔が笑っているのに気付いた。
通信が途切れる。難民数十人を乗せただけの輸送機は、大した滑走路を使えなくとも軽々離陸できるだろう。
上層の指示が現場に行き届きさえするなら、オーブの装備は確かに、こうした島峡地での任務に向いている。
『……思い出したぜ。どこで手に入れたかと思ったがその"バスター"、ヘリオポリスの初期GATだな?
情報はガセじゃなかったてわけだ、元ザフトレッド、ディアッカ=エルスマン。薄汚い泥棒野郎が!』
只でさえディアッカの癇を刺激する声が、命知らずな罵りをあげた。
「――骨董品からスクラップにされた気分はどうだよ」
微かな感傷を邪魔されて、もとから穏やかではないディアッカの苛立ちは深い。
「民間人相手に虐殺してる分には、ラクチンな仕事でよ、良い就職先だったのに当てが外れたよな。
相手がまともに抵抗してくりゃあ、這いつくばって見逃してもらうしか出来ないわけだ?」
『ハッ! てめえ、この面倒臭い状況になった順序を知っててほざいているのかよ、エルスマン?
情報はな、お前が山に捨てたお仲間から伝わったんだよ』
「……あいつらか」
つい今まで、存在も忘れていた奴らだった。コーディネーターだとは知っていたが。
27/
「理性も知性もどっかに忘れたんだろうな、ナチュラルに助けを求めるなんて、よ」
適当に壊して放り出した。積極的に殺そうとはしなかったから、人目につけば助かりもするだろう。
――PPに目をつけられた不運は同情に値しない。その所為で自分の存在が露見した事を考えれば、
釣りをくれてやっても丁度良い程だ。
『理性? 知性? 遺伝子パズルの木偶人形が何を抜かしてやがる!』
"敵"が怒声を連ねた。
『スウェンとミューディがお前のお仲間をぶち殺し――お前達は絶滅するんだよ。
ガキの為にコマされたコーディ女を助けようったって無駄――』
「――黙れ」
『――!』
思考を通じず、腕が動いた。
寸分の狂いもなくふるわれたアーマーシュナイダーが、コクピットハッチだけをはぎ取る。
理性は灼熱するほどに澄み切って、これ以上ない正確さのナイフ捌きだった。
「動くなよ?」
びくりと身構えるダガーへランチャーを向ける挙動だけで制し、ディアッカはコクピットを暴く。
黒人の、驚くほど若い男――それでもディアッカより上だが――が見上げていた。
「……」一瞥。
スティックを少し倒せば、相手は為す術もなく死ぬ。極太の刃物に両断される、安らぎにほど遠い
死に様で、だ。
それを、しない。
殺しても良心の痛まない"敵"を手中に収めながらも殺さない。
――そう、怒りや憎しみの奴隷になるのは御免だ。
ディアッカは己が、理性に依って動く、自分自身の主である事を確かめた。
話さず、動かず……閉まりゆくセイフティ・シャッターの中で怯えた"幻肢痛"の男を、
揺れ動かない紫の瞳でただ見る、見据える――幻滅を深める。
男は震えていた。相手に滅んで欲しいと『願う』人間など、精々がそんな物だ。
狂気に身を浸していながら、冷徹な"芯"を持たない。コーディネーターを含めた全てを滅ぼすために、
プラントの英雄とまで成ったラウ=ル=クルーゼの如きは期待できないだろうか。
「ちっ――」
冷めてしまった心が天を見上げる。雨の止んだ雲間が常よりも輝いて見えて、星の光に心を揺さぶられる。
プラントと、その間に星のように燦めく戦争の光があった。
五分程は経ったか? 聞こえてくる水音に注意しながら、ディアッカはダガー達にライフルを向け、
挌坐した機体を運ぶように指示を飛ばした。
28/
ふと気づくと静寂――雨の止んだ山中に、ビームの投射音はこだませず、響いていたMSの足音すらが
消えていた。全てが止まって――拮抗している。
「気付いた――かな?」
白いコンクリートの壁がそびえる行き止まりに立つM1を、優しく労るように振り向かせる。
腕をそっと、ヒビの入ったコンクリート壁に添えると、背後に迫っていた二機がびくりと震えた。
決して誇張ではなく、いつでも後退できるようにと、膝をかがめた所為だ。黒ストライクなどは、
今にも飛び立ちたくてたまらないといった気配すら見せている。
「――そう、僕はここまで来た」
ライフルを構えながら撃てずにいる敵――聞いて居ないだろう相手へ勝手に語りかけた。
道をふさぐのは、キラがM1を使って修復作業をするはずだったダムだ。
ユニウス7の欠片に直撃を受けて損書したダムは、雨で増えた大量の水を排出する機能すら失われ、
危険な状態にある。
「つまり、僕の勝ち――と言いたいけど」
飛び立った輸送機の、遠ざかる識別信号を横目で追ったキラが言い、
『どうするつもりだ――?』
攻撃を躊躇わざるをえないファントムペインのパイロットが問う。
決壊寸前だったダムは今や、背中にある盾としてキラを守っていた。
「もっとも――」
キラは問いに答えず、独り言を続ける。保護されるために来たのでは無かった。
「セイランの罠にかかって、戦略的には勝ちはなし。アクタイオン・プロジェクト製の機体なんてモノを
相手にしてる時点で、M1一機のこっちは戦術的にも負け」
なにしろ、無事本国に凱旋する、という大前提すらが失われているのだ、最初から。
「今更戦闘レベルで何をやったって、敗戦処理にしか成らないんだけど――」
キラは言葉を連ねた。決意の言葉だった。
「僕は貴方たちから彼らを守りきってみせる。コレを壊してでも、だ。覚悟は――ある!」
『止めろ――!』
敵を無視して拳を叩きつける。
一見しては異常のない、しかし致命的な一点へ向けて穿たれた衝撃の杭(パイル)がダムの
壁面全体に広がり、染み通る。ピックに突かれた純氷のように新たなヒビが生まれ、微かな傷に
染みる水が抉り広げていった。
各所のヒビが一カ所に――M1の打った一点に――集い、広がる。
崩壊が始まった。
29/
「ミューディ!」
アストレイが壁を打った時、既にノワールは手にした得物を打ち捨てていた。
「武器を捨ててスラスターを全開にしろ、ノワールで攫うぞ!」
ランチャー、ハードポイントのビームライフルと、ストライクノワールの搭載武装をパージしつつ、
スウェン自身も逃げる算段を付けて、ブルデュエルのミューディに叫ぶ。
『まだアストレイの野郎が!』
ミューディは、ヒビの入り始めたダム壁面前に佇むM1から狙いを逸らそうとしない。
「そんなことよりもお前が生き残る方が大事だ、奴もすぐに沈む!」
優秀な兵士とは、敵を殺して終わる者ではなく、死地をくぐり抜けて敵に損害を"与え続ける"ものだと、
信じて止まないスウェンの言葉である。
効果は劇的だった。
『ちっ――。了解。優しく抱いてね、スウェン!』
「保証は為かねる!」
この期に及んでエキセントリックが止まらないミューディ相手に、何処かずれていると思いながらも、
至極スウェンらしい真面目なレスポンスを返しつつ、ノワールを走らせた。
『このいけず――キャアッ!』
情熱的な激突のように、デュエルとノワールは一瞬の後には宙にあった。
「しゃべるな、舌を噛む――決壊するぞ!」
ひび割れから数十気圧に押された噴流が飛び出し、直後、瓦解したダムと土砂が水に押され、
膨大な濁流となってあふれ出す。土色の竜が地形に沿ってのたくり、全てを飲み込みながら走った。
アストレイが濁流にのまれていく様も確認する。
『こ、高度が足りないわよおぉ! スウェン、デュエルを捨てなさい!』
「断る――」
出来ない相談だし、捨てる時間が惜しい。
「ミューディ、デュエルの手足をパージしろ」
『え……ええ!?』
「手足など飾りだ、正直に言うぞ、重い」
『……先生が言ってたわ、レディの体重をとやかく言うやつは地獄に堕ちろって!
ええい、このボタンよぉ!』
ミューディの抗議にスウェンが答える暇もあればこそ、ノワールに抱えられたデュエルの肩と股関節で
爆裂ボルトが作動し、手足がぼろぼろと宙を落下して濁流に飲み込まれた。
30/
『まるで生け贄を捧げたみたいねぇ』
「おかげで助かった」
地上を離れたノワールの脚が水に浸るが、それでも軽量化して、上昇。
眼下でうねる濁った川の流れは、雄大な竜の遊泳を思わせるほどに長く続いていた。
『礼を言うのはこっちよ。……アストレイ野郎は?』
「……沈んだ」
『そう、自殺志願なんて、良いコーディネーターだったのね』
「生きるつもりだったのかもしれないがな」
『しぶといのは悪いコーディネーターよ』
スウェンは沈黙した。
稜線を一つ越えると、水の害は考えるほどでもなくなっていたが、味方の損害はこちらでも同じだった。
『すまねえスウェン。エルスマンを逃がした、畜生! あんの野郎!』
死者が居ないのだけが救いだろうか。
スローター=ダガーに抱えられて飛行するヴェルデバスター――そのコクピットだけ――から、
賑やかしくシャムスが憤慨を洩らしていた。
『くそ、コイツらが俺ごと奴を撃っていれば、それでコトは済んだのに、よお!』
「生きていただけで十分だ――」
戦争はこれからなのだ、優秀なパイロットは引く手数多、こんな些末な任務で死なせられない。
『そうよ、シャムスゥ――。先生が言ってた、あきらめずにコーディネーター達をぶっ殺すのが、
いいナチュラルだって』
『そ……そうか、スウェン、ミューディ、ありがとうよ。俺は危うく道を踏み外すところだった』
「……問題ない」
『心を入れ替えて、まず血祭りに上げるコーディ野郎は、山の中に居た腐れ○○○どもだな。
コーディ女に手を出したってのは兎も角、味方の情報を売るなんて人間の風上にもおけねえ!』
『そうね、シャムス。ああ、どうやって料理してあげようかしら。考えるだけで濡れそう』
コーディネーター絶滅に向けての抱負と具体案を語り始めたシャムスに多少冷たい目を向けるが、
スウェン=カル=パヤン、彼のチームはこの二人以外にありえないのだった。
「……ほどほどに、な」
『適当に痛ぶっておくぜ、後で参加したくなったら来な』
『早く合流しないと、全員壊しちゃうからね?』
「……了解」
スウェンが多少人事部の仕事に呆れた開戦の日、晴れた空の下からは、所々に燦めく閃光が見えたという。
31/
静まりかえった茶色い水面に、一つ二つ、人間の頭程の泡がつかの間の存在を得ると、
「……ぷはっ!」
その下から、パイロットスーツに身を包んだ人影が浮上し、流れる家の屋根に登って一息入れた。
「……くそ、結局M1は沈んだか。勿体ない」
家は流れる。M1を水面下で安定させるのに全神経と体力を使い切ったキラは、もはや身動き一つ
とれず、徐々に沈み行く仮初めの浮島で水没の瞬間を待つほか無かった。
何も手段が無くて、却って心が落ち着く。仰向けに寝そべったキラは、ヘルメットを傍らに置いて
ようやく訪れたひとときのくつろぎを満喫する。
澄み切った山の大気を伝わって、ヘリのローター音がキラの耳に届いた。
「敵かな、味方かな?」
この辺りに友軍など居るはずもない。もしもファントムペインが寄越した連合のヘリであったなら、
自決用拳銃の出番かな、等と思っていると、
「キラ――!」
接近したヘリに開く側面ドアから顔を出したのは、
「ミリアリア――!?」
キラもよく知る少女の顔だった。
「ディアッカもノイマンさんも、無事に逃げ切ったわ」
回収されたヘリの後部座席でドリンクパックに口をつけていると、プレスマークつきの腕章を
腕にはめたミリアリア=ハゥが状況を説明する。足場にしていた屋根は、直に水中に没した。
「……僕は?」
「濁流にのまれてMIA……そういうことになってる。ファントムペインの事はさっぱりよ」
「そう……か」
となると、キラがオーブに戻るのは危険だ。
「ハハ、人生二回目のMIAだね……ノイマンさんが危ないな。事実を知る、公の生存者だ」
どのルートで本国に潜り込むべきか、ミリアリアを巻き込んでも良いか、決めあぐねるキラの横顔を、
突如として白い光が明るく照らす。ミリアリアがカメラのフラッシュでも焚いたのかと勘違いして
光源をにらんだキラは、眉間に深くしわを寄せた。
「――ねえ、ミリアリア、一つ聴きたいんだ」
ミリアリアもまた、謎の光に――夜に生まれた太陽に――怪訝な顔をしている。
「"ナチュラル"っていう全体の概念があったとするね。それらはあんなにも"僕たち"に、
居なくなって欲しいのかな?」
地上を照らす数十個の光が、つかの間、夜闇を白昼に変えていた。
「キラ、何……あれ?」
「あれは……核の火だ」
深い悲しみと、拭い得ない諦観を澄んだ黒瞳にたたえて、キラは答えた。
十五話、『開戦の狼煙』了。十六話に続く。
というわけで第十五話、投下終了です。今回は早めのペースで書けました。
感想、ご指摘はご自由にどうぞ。
>『†』
GJ! 今回も
おもしろかった!
次回からは十六話ですね
期待してます!
初っ端w 40すますた。
のちの腕立て100回の刑である
†さんGJ! ww
>>†
なんか、ちょっと怖いですね。でも、その雰囲気がイイ!なんかかわいい感じですね。
三人称のこういうSFっぽいの大好きです!
それぞれの文章がいい長さでまとまってますねぇ。尊敬しちゃう。
あとー、台詞が多くてすごく読みやすかったです!これからもがんばってください! 応援してます!
>†
>「覚悟は――ある!」
この台詞をここで使うとは思わなかったw
ハイペースなのにクオリティが落ちていない。凄いと思う。
乙でした。
>277氏の
>シリアス一直線の文体にたまにコメディ調を混ぜる人、
が誰のことがわからん。なんか悔しい。
>>297 シリアス一直線の仮想戦記風文体に、たまにコメディを混ぜる人、
という意味だった。
小さな島に風が吹く
第3話『廃墟での出来事(前編)』(1/6)
『――自分は今現在の責任者、国防軍アズチ二佐であります。詳細をお話しする事は出来ません
が、簡単に今回の事故のご説明を致します。えぇと、あぁすまない。――先ず工場の地下区画で
操作ミスにより火災が発生しました。……』
工場の爆発が各港の発電施設に誘爆を促す、か。電気の知識が少しでもあれば絶対おかしい
と思うだろうな。小さなモニターの中。飾諸(※)を吊った制服。明らかに狼狽の見える親友が
ビーチに集めた全住人に『事故』の説明をするのを、中隊長が出てこないのはかなり悪いのか?
等と思いながらM1のコクピットで何となく眺めているダイである。
出来れば倒壊寸前に建物へ入り込んだ人影、それを今すぐにでも探しに行きたいのだが
降機許可も起動許可も出ないでは何も出来ない。オペレーターには一応人を出してくれ、
と頼んだのではあるが。
『二尉、申し訳ありません。やはり現状では人は出せません。ついでに参謀殿も中隊長も動け
ないので起動許可も降ろせません。A1は現況で起動準備のまま待機、と言う事になります』
人命尊重はカタチだけかよ。口ではご苦労さんと言いながらそう思いつつ煙草をくわえるダイ。
『それでですね、二尉。重ね々々申し上げにくいのですが、中央から試験機検分のためにヘリが
来ますのでA1から下りるなとアズチ参謀から伝言です。それと、その、コクピット内は禁煙ですが、
ご存じ。ですよね……?』
「……くわえてるだけだっつーの!」
建物倒壊直前に見た少年のものらしい人影。その他プログラマーと警備員数名も行方不明と
聞いたダイは直ちに建物内の調査をすべきだ。必要ならば自分のM1も使う。とカエンに進言した。
『全機、動力停止。パイロットはその場で待機だ。降機は認めん。小隊長、復唱どうした?――
俺は今から釈明会見だ、頼むからこれ以上話をややこしくするな。全てはその後にしてくれ!』
二佐の階級章を付けた友人にそう言われてしまえばダイの立場で出来る事など何も無い。
ダイは暇つぶしに、オペレーターとやり取りをしていてコレまでわかった事を整理する。
「島民一〇五人全員確認、不明の警備員も一人を除いて射殺された事を確認、か。だが、
あの坊主は警備員にゃ見えないよな、いくら何でも……」
ガンカメラを再生すると確かに少年のものらしい人影が建物に入り込んでいる。決して錯覚
ではないのだ。警備員でも島民でも無いならアレは誰だと言うのか。
そして侵入してきた者達は何をしに来たのか。キッチリ半分だけ倒壊した建物を見る限りプロだ。
建物の『急所』を狙って爆薬を仕掛けている。半分だけしか倒壊しなかったのは恐らく建物自体が
こういう事態を想定してブロック構造になっているのだろう。そうでなければ全開しているはずだ。
国防軍が常駐している事を無視するかのように侵入してきたからには、それなりの価値が
この建物の何処かにあるのだろうが……。
「俺が今考えてもしゃあねぇか……」
考える事を放棄して大型ヘリ3機接近中の表示を眺めるダイである。
第3話『廃墟での出来事(前編)』(2/6)
「ヘリコの運転手まで含めて見事なモンだ、本防軍のエリート様か……」
大型ヘリがあっさり降りた中庭。降りてきた国防軍の迷彩服はあっという間にシートで試験機を
覆い隠し内部から機械を外して持ち出していく。階級章だけで所属部隊章の無い密林迷彩の服。
きっと本土防衛軍の諜報機関なのだろう。
MSからの降機許可が降りたダイはアストレイの足下にしゃがみ込んで、今度こそは煙草に
火を付ける。どうやら試験機自体はこのまま放棄するようだ。ウチの機体に使える部品はある
だろうか。などとボンヤリ考えていると不意に彼に声をかけるものがある。
「ジョーモンジ二尉、色々ご苦労だったな?」
ファイルを小脇に抱えたカエンがオペレーターの一曹を従えて中庭に居た。喋り方で来たのが
友人のカエンでなく『かなりご機嫌斜めのアズチ参謀』なのがわかったダイは携帯灰皿で慌てて
火を潰すと直立不動で敬礼する。
「アズチ二佐、わざわざ御足労お疲れ様であります! 何か自分に御用でありましょうか?」
「雰囲気を読む能力は称賛に値するよ、全く……。こっちもやりにくいからそのまましゃっちょこ
ばっててくれ」
「……何か、あったのか?」
それには答えずにカエンは手に持ったファイルを開く。
「規律委員会より今回の件について仮処分通達をする。第113特別混成中隊特機小隊長
ダイ・ジョーモンジ二尉。右の者、軍法を故意に曲解し犯罪者とは言え相手に兵器の殺傷能力を
ひけらかし、恐怖を与えるなど幹部国防官にあるまじき行為である。また命令も無く、更には
許可も得ずにMBF−M1アストレイの主要武装であるビームライフルを使用し、部下に対しても
使用を強要、更には恫喝まがいの手法で参謀部アズチ二佐より許可を引き出し、国民の財産
たるヘリコプター一機を破壊せしめるなどの行為に至っては平和を愛し維持する国防官、しかも
幹部としての埃などは微塵も感じさせないと言わざるを得ず、はなはだ遺憾であるばかりだ……」
かなりの極悪人扱いである。ダイも一応予想はしていたがこれほどとは思っていなかった。
文章の方向性を見れば懲戒免職とか即時身柄拘束などと文末に付いていても全くおかしくない。
不機嫌の理由はダイが悪人過ぎる事なのだろう。何しろ報告書を本部にあげたのは
処分通達書を読み上げているカエン本人である。
「……おい、ちょっと待て! いきなり憲兵に逮捕されるんじゃねぇだろうな!?」
「二尉、私語を慎め! 処分の通達中である――よってジョウモンジ二尉は懲戒処分とし本日
より無期限で謹慎。小隊指揮権は剥奪。並びに一階級降格。三尉とする。更に減俸2/10
六ヶ月、各種手当ての執行停止二ヶ月。第一種及び三種パイロット資格は是を六ヶ月停止。
第二種、特一種、特二種、並びに准教官資格、ビーム取扱者証、誘導兵器取扱責任者証、
幹部国防官指揮者講習終了証については剥奪。全ての処分は猶予無く本日1600より執行する。
また付帯して拘禁処分三ヶ月とし、執行日は軍法会議に依って決定する。また72時間以内に
国防空軍本部総隊長室に出頭する事を命ずる。軍法会議の日程については出頭時に通達する」
第3話『廃墟での出来事(前編)』(3/6)
確かにしょっちょこばっていなければカエンの口から通達するにはかなり辛い処分ではあろう。
現場での行動自体は瑕疵(かし)がない。むしろ良い判断だった、とはカエン本人が言った事だ。
だが言う方も辛かろうが通達された本人はもっと辛いぞ。と口に出そうとして更に続きが
ありそうなので止めるダイ。
「尚、同件について監督不行届きとしてヨコヤマ一尉は中隊長の任を解き即時本部更迭。
また直接の指揮権は無かったものの現場の最高階級として状況の沈静化を図れなかった参謀部
アズチ二佐も減俸1/10一ヶ月の処分とする。なお中隊指揮は現状の最高階級であるアズチ二佐
が暫定的に取るものとする。その後のことは追って通達する。以上、総監部規律委員会」
いずれにしろ公式には発表できない事件であり、上層部はそもそも襲撃自体を無かった事に
したいらしい。と聞いたので島に入り込んだ犯罪者の逮捕拘束をダシにしてダイが実弾演習を
始めた事にしたらどうか、と言ったのはダイ自身である。事件のディテールは誤魔化しようが
あるだろうが、機体に残った戦闘記録のみは消しようがない。
但し、彼はカエンとヨコヤマに火の粉が被らないようにシナリオを組んでくれと条件を付けた
はずだった。
「ちょっと待て! 俺の処分はともかく中隊長は関係ねぇじゃねーか! おまえが報告して
なんでこんな!!」
「落ち着け、一尉はケガの具合がかなり悪いんだ。本島に移送するにはこうするしかない。
すぐにヘリコを回す。……一尉のことは俺に任せてくれ、絶対悪い様にはしない。頼む」
あのヘリコは使えないからな。と小さく呟くと少しだけ背後の大型ヘリを気にするカエン。
「それにな、通達すべきはもう一件あるんだ。――あぁ、一曹すまない」
ファイルを閉じると如何にも端末から打ち出したまま、と言う書類を手にするカエン。
第3話『廃墟での出来事(前編)』(4/6)
「あー、本日2000をもって駐屯地は放棄。第113特別混成中隊は解散。国防空軍将兵とその他
一部を除き一両日中に撤収。残存部隊は以降第18号特務小隊と呼称する。第18号特務小隊の
任務については追って通達する。アズチ二佐は第113特別混成中隊撤収完了まで島に留まり
完了の確認をせよ。ジョーモンジ三尉については謹慎、懲戒処分は本日1605をもって一時停止。
階級規定第五条第二項特例二の適応により一階級特進。二尉とし第18号特務小隊の小隊指令
を命ずる。小隊長として本日2000より任に付き、部隊指揮を適当に執れ。以上」
「……なんだよ、ソレ」
「とりあえず今回の謹慎は5分で済んだって訳だ。――18隊はジャンク屋対策だそうだ。
建物と試作機、当分後始末を付けられん。所有権を放棄していないと言うそれなりの
パフォーマンスが必要だと言う訳だ。ついでにおまえの処分を有耶無耶にする時間が稼ぎたい」
崩壊したコロニーの中に偶々MSがあったので拾った。細かい話は横に置けば、本来最終的
には彼の所属していたテスト大隊に配備されるはずだった機体であるプロトアストレイはそう言う
『設定』の元、ジャンク屋組合と傭兵団の所有になったのだとダイは当時の大隊長からそう聞いた。
「連中は機械が落ちているとなれば何処にでも入り込む。兵器ならば尚さらだ。それに技術協力
云々と氏族の横やりで誤魔化されているとは言え、技術系のエライさんはプロトアストレイの件、
未だに根に持ってるヤツが多い。データが増えたって喜んでるのはモルゲンでもシモンズ女史
くらいだそうだ。まぁ、今回については中身はなくとも重要機密には変わらんと言うことなんだが」
エライさんに限るまいけどな……。ワンオフの最新鋭機が手元に来ない事で相当に頭に血を
上らせているメカマンがいたのをダイは知っているし、それは一人や二人ではない。
どういうルートかはダイには知る由もないがデータはもらえるのだし、国防軍が実戦テストなど
出来る訳もない以上ジャンク屋や傭兵が運用した方が良いだろうに。と、当時は思ったものだ。
だが、技術陣としては思い入れのあるだろう国産初のMS。杓子定規で割り切れぬものが
居てもその部分に不思議はない。
但し、ジャンク屋憎しの感情だけでは回らないのがこのCEの世の中である。データを貰いつつ
動向を警戒するか……。皮肉なもんだな。ダイにしては多少複雑な表情を浮かべる。
「それ以外は聞いた通りの意味だ。それと確定してないが減俸分と精神的、将来的被害の分は
モルゲンと軍が補填してくれるそうだ。する気のない出世分まで面倒見てくれるらしいぜ?」
「国防軍辞めたら即逮捕のおまけ付きじゃ嬉しくねぇよ。今回、悪いコトしてねぇだろ? 俺。
せめて懲戒処分の撤回してくれなきゃ心臓に悪いじゃねぇか! なんだよ、停止って!?」
「……普段の行い、としか俺からは言いようがないな、正直。――ま、2週間以内に処分の
撤回は決まってるんだから安心し……。そう言う顔をするな。俺が悪いみたいじゃないか!?」
第3話『廃墟での出来事(前編)』(5/6)
コンクリートで囲まれた倉庫のような部屋。圧迫感を更にますような赤くうすボンヤリとついた
照明。その中に黒髪の女性が数枚のオレンジの防寒着やブルゾンで体を覆われ、隠されるように
眠っていた。
「…………つっ。……うくっ……」
爆発に巻きこまれて、その後どうしたのか。女性の意識はぐるぐると混濁する。
「目が覚めたか? ケガをしているからあまり動かない方が良いぜ?」
ビクッとして頭を上げた女性の横。まだ幼い気配を残した少年が座り込んで彼女を見ている。
その横にはサイレンサーの付いた大型拳銃とアサルトライフルがまるで無造作に置かれていた。
「キミ、それを私……つっ〜」
「足に怪我をしている。一応血は止めたけど女の人の体を触るのはいけないと思ったのでそれ以上
の事はしてない。薬とかはココにあるから、目が覚めたんだったら自分でやってくれよ。出来る?」
今の痛みで本格的に覚醒したクロゥは自分の体を点検してみる。違和感を感じた右の太股
には以外と器用に巻かれた血の滲む包帯と止血のためのベルト。ブラウスのボタンは上まで
キッチリしまり、ガンベルトもそのまま背中に巻き付いている。どうやら本当に体に触るのを
ためらった様だ。ぶっきらぼうなのは少年特有の恥じらいだろうか。
取りあえず現状、彼は敵ではあるまい。と彼女は一応気持ちの整理を付ける。
「大丈夫、自分で出来ます。その大きなビンと、それからその脱脂綿も取って貰えますか?」
止血用のベルトと包帯を解く、と血は止まっているが大きく口を開けたピンクの傷口。
クロゥの見立てでは5針以上。初期の手当は良好。
「キミは、私の命の恩人な訳ですね? いろいろありがとうございます」
「困った人がいたら助ける。『あのおっさん』はそう言った。あんたは死にそうだったからな」
確かにこの傷なら止血されずにいたら危なかったかも知れないですね……。しみる消毒薬で
整った顔をしかめながら考える彼女。
かなり大きな、薬品の入った鞄。その前に座る少年を見つめる。殺気も邪気も感じないが
はたして彼は誰なのか。
「その茶色のビンと、糸と針なんか……入ってる? それってドクターバック? 元の持ち主は
外科のお医者さん? まぁ、あるんだから使わせてもらおうじゃないですか。使いますとも!」
傷が気になっては然るべき時に然るべき行動は取れまい。と思いながらも湾曲した針を
見ただけで背中から力が萎える気がするクロゥである。鞄の中に、麻酔の類を見つけることが
彼女に出来なかった事と、それは無関係ではないだろう。
第3話『廃墟での出来事(前編)』(6/6)
「隊長、情報処理班長から最終便の出航を確認との事。参謀閣下のヘリも参謀部へ到着された
模様。本島には、現在我が小隊八十名、及び国防省の事務官五名のみです。以上報告終わり」
「報告ごくろー。ところでモモちゃん、クロキ曹長は何処にいる?」
「いずれ隊の全機能はこの中庭に移設しましたから見通しの何処かにおられるはずです。
それとファーストネームで呼ばないで下さい。セクハラです」
「……。それは失礼した、フジワラ士長。――曹長にあったら手空きの時に声かけてくれる
ように言っておいてくれ」
便宜上小隊、とは言いながらかなりの大所帯だな。とダイは思う。旧中隊でも小隊長では
あったものの、小隊なら機体が2〜3機、部下は多くて10名が良いところである。
M1が4機あったのも、コイト三尉が見習い扱いで”一応エース”のダイに修行に出されていた。
と言うのが正しい。彼に関しては素質を見込んだダイが是非に。と上申した事もあるし、コイト自身
が実験小隊時代からダイを慕って、師事を仰いでいた経緯もあったので一概には言えないのだが。
もっとも、国防陸軍クロキ曹長率いる普通科分隊と、MSの整備班を含むオオニシ技師長の
技術科分隊を引けば半分も残らないのが実情であり、彼らは自身の隊、それ自体で完結した
部隊として機能出来る能力がある。
M1の補給がなかったので特機分隊長は他のパイロット三名の中でも先任であるマーシャルに
任せ自分は小隊司令専任と言う事にしたのではあるが、階級章だけで隊長に任ぜられた彼の
小隊司令としての統括の仕事など、だから無いに等しい状況ではある。
ほぼ半分が崩壊した建物を望む朝の中庭。如何にも急ごしらえの大型のテントが数張りと
車両。それを囲むように白と赤の巨人が三人ひざまずいている。急遽シールで18PーS1の
機体番号が胸に貼られた機体の足下で女性の副官を従えたダイは煙草をくゆらしながら、
ぐるりと周りを見渡す。
「どうせ広く使えるんだから真ん中に陣どりゃ良いものを。貧乏性だな、みんな……」
倒れてシートをかけられた試作機の横、建物が崩壊を始めてもギリギリ影響を受けないと
思われる距離にそのテントの群れは設営されている。そしてその試作機には頭がない。
「隊の重点監視目標が試作機である以上、これ程合理的な設置方法も無いと思いますが?」
フライトジャケットのポケットに手を突っ込んだダイ。いちいち気にいらないのではあるが、
口で言い合っても絶対勝てないだろうな。チラっと隣の服装も言動も隙のない副官を見てそう
思って話をそらす。
「A4の改造は終わったんだろうか。アレに目処が立たないと枕を高くして眠れんのだが……」
既に重要部品の外し終わった試験機の頭部。M1の取り替え部品など消耗品以外ほぼ
無い事を一番良く知っているダイはカエンが居るうちに使用許可を取り付け、それを中破した
A4に取り付ける作業をさせていた。勿論戦闘など出来る訳もないがそもそもセンサーの塊である
MS、それを歩哨に使えるならば設置するセンサーの数は大幅に減らせるし、最新鋭試作機の
頭が取り付けばセンサー感度も更に上がり、背の高い可動式望遠カメラとしても使える。
整備と事務方、パイロットを除けばダイの個人的感想とは裏腹に決して多くは無い数しか
残らない18隊で、監視作業の省力化。これは最重要課題ではある。
「その件ですが。コイト三尉を説得してくれと泣きが入っているのは、……まだ放置されますか?」
「隊長の仕事、なんだろうな。……そう言うのもさ。――行ってみるか、しょうがないから」
今回分以上です、なんか字ばっかりの印象ですね。
ではまた。
飾諸:イメージとしては偉い軍人さんが通常右肩に吊ってる飾り紐です。参謀等が付けるのだそうで
音楽隊なんかでもつけてますね。読み方はしょくしょ、もしくはしょくちょ。本編のオーブ国防軍では
カガリやユウナの軍服に付いてました。カエンにはエラい人を示すわかりやすいマークとして
付けてもらってます。軍事に関しての話は難しいのでこれ以上は興味があればお調べを。
以上、知らない人もあるかと思って一応補足します。
まとめ様へ
自分のミスでサブタイトルが変わりました。
前回の予告部分サブタイトルを直して頂けるとありがたいです。
>>小さな島に風が吹く
投下乙です。GJでした。
一行一行の情報量が多いのが特徴ですね。
>>『〜降機は認めん。小隊長、復唱どうした?―― 俺は今から釈明会見だ〜』
こういう台詞の途中で、ダイの応答まで想像させるところに、文字が多そうに見える
印象が浮かんでくるのだと思います。
TPOをわきまえたアズチとダイ、会話が気持ちいいです。
たった五分間の謹慎処分、下げて持ち上げるアズチさんのやり方と、
それに一喜一憂するジョーモンジが面白いですね。
所有権を主張しなければ、兵器と見れば直に持ち去るジャンク屋が、
わざわざそのために部隊を置かねばならないという点で、どうにも恐ろしいです。
重ねてGJでした。
1/ シホ、開戦
コズミック・イラ73年11月。
いまだブレイク=ザ=ワールドの傷跡から立ち直らぬまま、地球連合宇宙軍は、
アルザッヘル基地より艦隊を展開、旧ヤキン要塞のあった宙域で睨み合いを続けていた。
地球圏の体勢を立て直すに至るまでザフトへの牽制を続けるかと思われた連合艦隊は、
11月下旬、連合の宣戦布告に伴い戦端を開いた。
正確な時刻は記録されていないが、この会戦における最初の戦死者は、偵察のためザフト
勢力圏内深くまで侵攻し発見されたレイダー制式仕様のパイロット、ジョン=ドゥであると
言われている。
しかしそんな些末なデータなど、畢竟、前線で命を賭ける兵士には関わりなど無く、
殆どの兵士達にとっては、傍らに立つ戦友のために、眼前の敵を屠るべく、最善を尽くす
己のことしか頭になかった。
今、濃密な飽和ミサイル攻撃をにビームの連射を浴びせ、後衛のガナーザクウォーリアが
狙撃を行いやすい状態を守り続けるシホ=ハーネンフースもまた、そんな兵士の一人である。
「ええい……数が多い!」
敵が八に味方が三――敵の先陣をはねる彼女の隊長が居ないために、
後衛を守護する防衛ラインとしてシホの負担が大きい。
「隊長は……隊長はまだなの?」
作戦上の必然とはいえ、普段から頼りとする隊長の居ない心細さは、
敵への容赦ない射撃となってシホの操縦に現れる。
『姐さん! 天頂方向距離六千に敵影八!』
ジュール隊の副通信士兼副オペレイターにして副索敵手――ヘルマン=ミハイコビッチの声が、
素早く正確に敵の接近を告げる。
「ガナー隊、ヘルマンの情報に従って火力を集中なさい! ヘルマン、報告もっと早く!」
副隊長として指示を飛ばしながら、自身はガナーウィザードの"オルトロス"には近すぎる
距離まで詰め寄るウィンダムを、積極的にコクピットを狙う射撃で打ち落として行く。
敵は何を狙っているのか、MS隊ではなく戦艦を前面に押し出そうとしているおかげで、
劣勢ながら一進一退の戦況を維持できているが、状況は流動的だ。
2/2
『敵機接近――7』
ヘルマンが、陣形の隙を突き、一時防衛ラインを抜けた敵を見つける。
「見逃したの――!?」
艦隊の不調な索敵システムに舌打ちしながら、FCSにコンタクト、設定を変更する。
耐衆敵――マルチ・エネミー・モードに移行したザクファントムはスラスターをフルに使った
乱数機動でビームをくぐり、シホの視点と連動して七機をマルチロック。
「マニューバ継続、ロック手動で調整。行け――!」
両腕のビーム・ライフルが最短の速射間隔で吠えた。
射撃、機動、狙撃、回避と、射撃即移動の手本を見せる戦闘機動で瞬く間に三機を屠る――が、
それでは足りない。
「ちっ! 残った――!」
損傷しながらも、四機でウィンダムが狙っていた。
ザクファントムを囲う光条にとらわれて動きを止める内、胴体を揺るがす着弾の衝撃に、
体ごと意識を持ち去られそうになる。
「――!」
……ビームだったら死んでいた。
が、そんな事などどうでも良い。
「……よくも」
重装甲のザクファントムは、当たり所が良ければミサイルの直撃にも何とか耐える。
だが、破片をまき散らしながらなお顕在である眼前のザクファントムには、並み居る
ウィンダムのパイロット達も特別な物を感じただろう。
『まずい、姐さんは自分が一発喰らったことよりも、ザクが損傷した事の方に怒るタイプ!』
「……よくも隊長から貸して頂いたザクファントムを――!」
光条――止まって見えるビームを余裕で回避。外れた肩シールドの裏からビームトマホークと
ハンドグレネードを引き掴み、もろともに投げつける。旋回する戦斧を辛うじて躱したウィンダムは、
グレネードの爆発半径に入っていた。
爆発――炎の去った後には、捻れた人形が宇宙に漂うのみだ。
シホの気迫と神業に威圧され、一瞬静まりかえる戦場だ――しかし激情は未だ去らず。
「絶対に――許さないわ」
味方の残骸が量産される光景に、怯えて竦むウィンダムとそのパイロット達、
彼らへと向けて、ジュール隊の隊長機が躍りかかる。
ウィンダムのパイロット達が最後に見たのは、白銀の機体が頭部に走る斜めの傷だったろうか、
それともその肩に咲き誇る鳳仙花であっただろうか。それは誰にも分からない。
……出かけなければいけなくなったので、残りはまた後で。
3/
「逃がすか――!」
『うお、全部コクピットを……敵より怖いぜ姐さん!』
この時の戦いぶりが後に『第二次会戦の花葬』として、シホの名を全軍に轟かせることとなるが、
一撃必中の釣瓶打ちを連発して居るシホには、全く関係の無いことだった。
『姐さん、一回下がってください。ザクファントムの損傷は危険です!』
「馬鹿言わないで、ヘルマン! 前線指揮官が下がっちゃあザフトは成り立たないのよ!」
『美学の問題じゃあないです!』
とはいえ私怨を戦場に持ち込むシホも、冷静さを失った訳ではない。
「私がやられたら次は貴方よ、ヘルマン! その為に居るんだから!」
『な……姐さん!?』
「ガナー隊、一人も生かして通しちゃだめよ。一機でも抜かれたらプラントは終わりだからね!
ヘルマン、敵の動きを逐一本部へ送っているでしょうね……ええ。それで良いわ」
ラインを下げた敵からのミサイル攻撃へ、ビームライフルをおおざっぱに撃ち放しつつ、
部下を鼓舞して檄を飛ばす。
「全く――ナチュラルみたいに怒り狂うなんて……やってやろうじゃない!」
シホは、自分の体から放たれるアドレナリンの匂いを嗅いでいる。
怒れるシホの駆るブレイズザクファントムは、不得手なトマホークをも駆使しつつ、
雲霞のごとく寄せるウィンダムを屠っていった。
『――姐さん、左翼にガンダムタイプ!』
「まさか……カオス?」
ヘルマンの報告に慄然とする物を覚える。ヘルマンが熱問の照合を終えるまで、
シホは肝の冷える思いでライフルを構えていた。
カオスが来たならば、確実に抜かれる。確定事項とも言うべき分析がある。
『コウモリです! それと亀を直援に巡洋艦が接近、距離二千!』
「ち……コウモリと言えば、忌々しいアスラン=ザラを思い出すわ!」
ほっとした分、口が軽くなったシホである。
敵は全長の半分もあるコンテナを抱えた巡洋艦だ。量産型のレイダーとフォビドゥンに
守られているかのような悠然とした動きが、シホの癪に障った。
「ガナー隊、ラインを500下げて巡洋艦を食って! 敵のエースはいただくわよ!」
言い残して距離を詰める。
ガナーにはレイダーの突破力も、フォビドゥンのG・パンツァーも分が悪い。
絡み合う様に近づく二機のガンダム・タイプに――そう言えばイザークも頭が
ガンダム・タイプのデュエルに乗っていたと思い出す――ライフルを撃ち放す。
「く……やはり出力が足りないか」
三発をフォビドゥンのG・パンツァーに弾かれたところで、残存エネルギーが危険域に、
俄然うるさくなったコクピットで敵の隙を探る。
設計上はオルトロスをも弾きうるG・パンツァー……接近戦しかない。
4/
「早くしないと巡洋艦に抜かれる……いやな感じが為るわ、コレ――そこぉ!」
直線でくるエクツァーンは兎も角、攻撃の読みにくいフレスベルグを連射されると
回避に手間がかかる。
「躱すだけなら――大丈夫!」
敵の読み違いは、イザークからシホへの教授だ。
曲がるフレスベルグの回避に必要な独特のコツ――射角を外すと同時に間合いを
詰めるべし――を、シホは既にイザークから聞いていた。
もちろん、口伝を体得するのはシホ自身の才能と努力のたまものであろう。
問題は、回避したザクファントムを狙う格好となるレイダーの突進だ。
頭部――というか口から下品なビームのほとばしる様に、悪寒を貰って吐き気がする。
つきだしたクローで、ザクファントムを引き裂こうとする突撃に当たってやる道理は無い、
だが躱せないものには変わりなく、あえて肩のアーマーをはぎ取らせた。
「戦利品のつもり――?」
アーマーをクローに引っかけたまま旋回し、勝ち誇ったようなレイダー。
背後のフォビドゥンと共に、フレスベルグと破砕球ミョルニルで同期した攻撃を
仕掛けようと言うのだろう。
「でもお土産付きよ、それ……やったかしら?」
どん――比較的近距離では、爆発で生じたガスが装甲を叩き、衝撃"音"もする。
アーマー内のグレネードが爆発し、炎に包まれた敵を期待のまなざしで見ていたシホは、
TPS装甲は伊達ではないとばかり、無傷で現れたレイダーの姿に失望する。
「もう……時間が無いのに!」
ミョルニルとフレスベルグのコンビネーションが、背を向けたザクファントムを追い回す。
あと数手――それだけ撃てば、電力不足のザクは、シホを収める棺桶と化すだろう。
「相手のコンビネーションを崩せれば――!」
焦りながらフレスベルグを躱し続けていると、ミョルニルを振りかぶったレイダーに
十近い"オルトロス"の火線が集中し、内二つが直撃した。バッテリーに残存したエネルギーが
一斉に解放され、盛大な炎の花が咲く。
「ヘルマンの仕事ね――!」
状況を察するシホは、ザクの機体を翻し、単機となったフォビドゥンに向かった。
曲がるフレスベルグの内側に潜り込むと、ここぞとばかりに14×二連装、計28発の
"ファイヤビー"誘導ミサイルを宇宙に解放する。
そして、スラスターを全開にして加速。自ら作った弾幕を追う。
フォビドゥンの"イーゲルシュテルン"がファイヤビーを抉り、粉塵を撒き散らす。
――そこまでが計算の内だ。
5/5
「行っっけぇ――!」
破片の渦を抜け、炎の壁を破り――煙幕を割いて進んだ先には、間近に大鎌を振りかぶる
フォビドゥンの姿がある。
鎌に落とされたザクの頭を引き替えに――隊長、申し訳ありませんと一言――フォビドゥンの
コクピットにビームライフルを突きつける。
「逸らせるものなら、やってみなさい?」
G・パンツァーの内側から、熱換算にして数万度を誇る、荷電粒子が装甲を抉った。
電力不足――敵フォビドゥンと同時にシホのザクも機能を停止する。
『姐さん、大丈夫ですかい!?』
「私は良いわ――それより敵艦を!」
『合点承知の一番鶏!』
ヘルマンの合いの手と同時に、ガナー隊の一斉射が敵巡洋艦を襲う。
レイダー、フォビドゥン――守りを欠いた巡洋艦は、回避しようもなく、
高熱の荷電粒子に蹂躙され、艦体を維持できず、崩壊。
そして散らばったコンテナの中から、十機以上のウィンダムが飛び出してきた。
「何ですって――!?」
突如現れたウィンダム部隊に死を覚悟したシホだったが、彼女の機体を一顧だにくれず、
特大のバックパックを背負ったウィンダムはある一点を目指して加速する。
「まさか――」
シホとて予想はしていた、だが期待はしていなかったのだ。
この戦いは、軍人同士の戦闘で終わると、そう期待していたのだ。
なのに――
『姐さん、ザクは戦闘不能です。パック詰めのチキン野郎共はガナー隊で処分為ちまいますから、
動かねえで居てください!』
ヘルマンの注意を告げる声、どうでも良い声、もっと大切なことがある時に、だ。
「ヘルマン――ヘルマン、そんなのは良いわ、司令部に連絡を! センサーに注意して!」
『――? 姐さん何言って……コイツら!』
そう、ヘルマンも気がついたのだ。
『NJCの反応を出してます――核武装機体です!』
SEED『†』 第十六話 『その日、炎』
というわけで腕立ても終わったので、第十六話の投下開始です。
感想、指摘はご自由にどうぞ。
では、また。
・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!!
なんで腕立て×100じゃないですか!
どーして、どーして!?嘘でしょ!?
信じられないよおっ†先生がひよるなんてっ!!
……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・
私はあのおそろしく社会不適格者な†先生が(たとえド変態でもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!!
先生のカバッ!!え〜ん・゚・(ノД`)・゚・
>>312 †氏GJ!
>止まって見えるビーム
怒りのシホすごいなw
腕立て二百しゅーりょー……拳が痛いです。
「45 ◆Ry0/KnGnbg がひよった」と>思った
>>313さん、どうもすみませんでした。
自分はひよったわけではないのです。腹がたるみ気味なだけなのです。
>>まとめサイト管理者様
事後連絡になりますが、某板の某スレに移籍しますので、まとめサイトより拙作の削除をお願いします。
いままで有り難うございました。
「四月一日 −No.13−」 −Falls down−
エイプリルフールの夜。もう十分ほどで日付も変わる。
昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。
「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。
「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っておく。
「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
だから、
「そうだな。うん、分かった」
と、あっさり返す。
ルナは少し驚いたように目を瞬かせたものの、数秒後には笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
そう言いながら玄関へと向かう。
どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、ルナは部屋を出て行った。
玄関のドアが閉じる音を聞きながら、俺は考えた。
ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。
そう思いつつ、玄関へと忍び足で近づく。
扉に耳をつけて、なんとか外の音を拾ってみた。
微かに聞こえるコツコツというルナの靴音は、エレベータホールの方へと向かっている。
何となく嫌な予感がして慌てて部屋を飛び出したが、廊下にルナの姿はない。
裸足のまま、エレベータホールへ全力疾走する。
長い長い三秒の後、エレベータホールへと駆け込んだ俺の目に、閉じる寸前のエレベータのドアとその中の
赤い髪が映る。
「ルナッ!」
彼女の名を叫びながらボタンに手を伸ばしたが、一瞬遅く完全に扉を閉ざした箱は降下を始める。
俺は慌てて転進、階段室に向かい、階段を二段飛ばしに駆け下りながる。
エレベータと階段。
間に合わないとは考えなかった。
ただがむしゃらに足を動かし続ける。
2Fの表示を過ぎたその時、百八十度回転した身体に一瞬足がもつれる。
あっと思った瞬間には頭から転げ落ちていた。
世界が暗転した。
(3/3)
何分経ったのか、はっきりとは分からない。
しかし、誰かに名前を呼ばれていることだけははっきりと分かった。
重い瞼を薄く持ち上げると、赤い色が前に入った。
「シン、しっかりしてっ!」
悲鳴のような声も聞こえた。
もう一度、渾身の力を込めて、瞼を今度こそこじ開ける。
「ああ、シン。良かった……」
そう言いながら顔を覗き込んでくるのは、間違いなくルナだった。
「何で、ここに……?」
呟くように問うた俺にルナは、エレベータに同乗する人がいて二度ほど途中で止まったこと、一階に着いてからも
スーツケースが重くて少し手間取ったこと、歩き始めたら階段室から大きな音が聞こえたこと、不審に思って
覗いてみたら俺が倒れていたことを半泣きで説明した。
俺はルナに支えられて半身を起こした。
身体中がひどく痛む。なんとなく懐かしい痛み。
アカデミーに入った頃、慣れない格闘技で受身を取り損ねた時に良く似た痛み。
頭の片隅でぼんやりとそんな事を考える。
「起き上がっても大丈夫?」
ルナの心配する声に「ああ」と微笑しながら返す。その顔は多分、痛みで歪んでいただろう。
今度はゆっくりと立ち上がった。
身体を支えてくれるルナに、もう少しまともな笑みを見せる。
その瞬間、膝から力が抜けた。
「――え?」
そんな声と共にルナが離れてゆく。
伸ばした腕は、指先は、ルナを捕らえられなかった。
何が起きたか分からない。
そんな表情でルナは落ちてゆく。
そして――
「四月一日」のバージョン6になります。
他バージョンを既読の方は(ry
カードNo.13 はズバリ「死神」です。
まったくひねってません。
>種世界は衰退しました 様
とても好きなシリーズだったので残念です。
移転先のヒントでもいただけたら嬉しいのですが、駄目でしょうか?
河弥氏 投下乙
最後のシーン、実際に崩れ落ちてるのはシンの方だけど
シンにはルナが落ちていくように見えたでいいのかな?
衰退氏の話
自分も続き読みたかったので探してみたら案外簡単に見つかりました
本人ではないのでヒントはこのぐらいで
いきなりですが質問です。一度投下した作品って書き直したらダメですか?
先日、「もうちょっと構成とか見せ場の勉強をしたほうがいい」という感想を書いてくださった方がいらっしゃったので、
図書館で初めて小説書きのためのハウツー本の類を借りて読んだところ、
自称物書きを勝手に名乗っていた自分には、非常にためになるまさに目から鱗な話ばかり書いてありました。
それから、その本に書いてあった、文の構成の点などを見直してみると、
まともな推敲もせずに熱意だけでガリガリと書いてしまい、そのままストレートに投下してしまった
欠点だらけのプロローグや一話をあらためて見て、自分のでたらめな文に恥ずかしくなってしまいました。
「いまさらそんなこと言うな」と言われては何も返せませんが、
今度はちゃんとした構成、プロット作りなどをして、プロローグから投下しなおしたいのですがよろしいでしょうか?
>>322 このスレ的には別に大丈夫だろうけれど、二回投下したからって
二回目も読んでくれるとは限らない。
>>四月一日
投下乙です。
ちょっと最後がわかりにくい所がありました。
落ちたのはシン? それともルナマリア?
十分ぐらいしたら投下します。
6/
――プラント アプリリウス
空調の効いた応接室。男が二人、チェス盤を間に挟んで座っていた。
「OP.スピア・オブ・トワイライト――」
長髪痩躯の男は、ポーンを一歩進軍させた。
大型のモニターに、いましも外で進む戦争の映像が流れ、生と死が宇宙に散らす輝きが、
駒の動きに注視する彼らの横顔を照らしている。
「――君が何処から、あるいはどうやってこの作戦を知ったのかは分からないが」
「予測したのです――事実と、今の世界を取り巻く状況から。そしてプラントがこの瞬間に
押されているという事実が、確信をくれました」
男の言葉を遮り、青年――アレックス=ディノはナイトを跳躍させた。
大きくスペースを取ってあつらえられたソファに漸進が埋まるように深く腰掛け、
盤上の戦争に興じているのは、ギルバート=デュランダルである。
「ふむ……いい手だ」
デュランダルはとがった顎に手を当て、しばし黙考する。
「……だがしかし、君があくまでもアレックスとして生きて行こうとするのなら――」
いましも戦争中のプラント議長は、ルークを進める。
「君は勝ちを捨てねば成らないよ――?」
チェック。
ルークに弾かれたビショップは、盤の外に転げて倒れた。
「勝負の前の約束は覚えているね?」
「はい……自分はザフトに復帰します」
彼らは非常時に、ただ遊んでいるのではない。
盤上の全ての駒が、なにがしか、アレックス――アスランと、デュランダルとの間に
交わされた条件に結びつけられている。
今、盤上に落ちたルークは、アスランの行き先をきめる一手だった。
そして今、アスランは一つの選択を迫られていた。
盤上の戦況――互いに拮抗してはいる。
チェックを利かせたデュランダルのルーク、それをキングで取るか、それともクイーンで取るか。
前者では、既に詰むまでの筋道は見えている。
しかし、その過程で――。
7/
「――決めたルールに従うのなら、君はアスラン=ザラの名を再び名乗り、君の女王を
諦めなければいけない――君が勝ちを拾いたいのなら、ね」
「――」
"彼女"がこの場にいたならば、何を望むだろうか?
きっと、盤上の遊戯でプラントとオーブの行く末を決める、罰当たりな二人に激怒して、
何も決め手はくれないだろう。
――だから。
「……そう。選択して――そして勝ちたまえ」
微笑むデュランダルの前で、アスランは、手にしたキングでそっとルークを弾いた。
デュランダルの動かしたポーンがクイーンを放逐し、次いで、アスランのナイトが
ポーンを狩る。
「チェックメイトです……議長」
「――よろしい、我々プラントは君と、君の女王が願いを聞き届けよう」
ただし、と付け加えるデュランダルの横髪が揺れる。
小指に小さなリングをはめた右手が、アスランのものであったクイーンを手に取り、掲げた。
「クイーンは我々のものだ――」
「……貴方が欲しかったのは、それでは無いでしょう? 私をザフトに戻し、
赤服を着せ、機体を与え、ミネルバに行かせて――貴方はなにをしたいのです?」
「地上に降りた友軍を助けて貰いたい――そんな答えでは不服そうな顔だね?」
「私にザフトレッドの身分を押しつけてまで、やることではないでしょう」
「ふむ……君に必要だと思ったから、その条件を加えたのだよ?」
――相手の欲しい者を与えたつもりでいる、それが傲慢だというのだ。
額に指先をあて、目をつぶり、モニターの音声報告に耳をすませる。
「私は勝ちました……議長。あちらの盤面でも、押し込まれているようですが――」
モニターの中、プラントに向けて、前線は徐々に後退する様子を見ている。
「アスラン――我々プラントは確かに、戦力で劣っていると言わざるを得ない」
爆散するゲイツの炎が、デュランダルの白い顔を照らす。
「――その劣勢を盤上で覆せないと言うのなら、君ならどうするかね?」
アスランは、盤上に残ったキング、ポーン、ナイト――全ての駒をその手で払いのけた。
「……盤を支配する、戦場のルールそのものを変化させます」
「……素晴らしい。やはり君は戦士だよ」
と、テーブルの上に置かれた通信機に、受信のランプが灯る。
8/
「私だ……うむ。ニュートロン・スタンピーダーの準備は出来ているのだね?
ならば、全ては滞りなく、淀みなく――この一戦を終わらせよう」
議長が戦争に口出しをしてもどうにもならないと、開戦の前に応接室に下がった
デュランダルが今、アスランを残してそこを出ようとしていた。
つまり、彼の仕事が回ってきたのだ。
「では、行ってくるよアスラン……ああ、あとで君の機体を見せよう」
応接室を出るデュランダルに、無言のアスランはザフト式の敬礼を以て送った。
デュランダルの姿がドアの向こうに消える、微動だにしないアスランの背後で、
モニターの中に無数の太陽が踊り、薄暗く証明の節約された部屋をひととき、
真昼の明るさに彩った。
――地球 その頃
「あれは……核の火だ」
ずぶ濡れのキラは、空を見てつぶやく。
天に輝く光を見て、キラはプラントに居るアスランとの間に、とてつもない距離が
出来てしまった、と直感していた。
9/
「ピースメイカー隊――消滅!」
プラント防衛ラインの外縁、ミラージュコロイドの膜に身を隠し、息を潜める
ガーディ=ルーの艦橋は、突如として起こった異常事態に騒然としていた。
「解析班、この事態は何事か!?」
「あと十秒お待ちください…………艦長、報告します! ピースメイカー隊の損害は、
全て搭載核ミサイルの暴発によるものです!」
艦長帽をかぶるイアン=リーは、前面ディスプレイに表示されたデータを凝視して、
消滅の直前、NJの不調が観測されたことを知った。それは、消滅した友軍が、
命を賭して最後に送ってきた情報だ。
「ニュートロン・ジャマーの過剰負荷、核の暴発、NJに関連したプラントの新兵器か。
カオスが危ない、攻撃を中止させろ!」
「攻撃の停止には、上位命令者の直接指令が必要です――回線繋ぎます!」
核を積んだスティング=オークレーの"カオス"は、ピースメイカー隊の動きに呼応して、
今し方出撃したばかりだ。
「カオスの距離はどうか!?」
「――本艦から一万の距離を慣性航行中!」
「近い……呼び戻せ!」
ステルスモードのカオスは、防衛ラインを突破した時点で最大加速。敵巨大空母である
"ゴンドワナ"まで単機接近し、搭載した核ミサイルによってそれを破壊するはずだった。
ガーディ=ルーの隠密性と、カオスの突破能力を掛け合わせて、高い成功率を算出した
この作戦が、まさか突発的な新技術に邪魔されるとは、とイアンは歯がみする。
「通信を送れば、敵に本艦の位置を悟られる可能性が――」
「――構わん、カオスに積み込んだ核が暴発すれば、どのみち同じことだ!」
「了解、通信繋ぎます……どうぞ!」
『……スティング=オークレーです』
"SOUND ONLY"の表示と共にカオスのコクピットが呼び出され、乗り込む少年兵の声が艦橋に響く。
「命令だ、即座に搭載したミサイルを放出、本艦に帰還せよ」
『……出来ません』
「――何!? 理由を説明しろ」
『ミサイルの放出は出来ません……より上位の命令者が――ウグッ!』
「――! 外部から強制信号でカオスの操作に介入! 本艦と反対にミサイル放出させろ」
イアンが手振りでオペレイターを動かすと、ガーディ=ルーから放たれる信号が
カオスのFCSを掌握した。
放出される核ミサイルは、有効射程よりもはるか遠くから"ゴンドワナ"を目指す。
――迎撃されるのは免れないか。
10/
「スティング=オークレーは放出を確認後、ステルスモードを解除し帰還、良いな!」
『は……りょう――かい。帰還――します』
「……あの"技術屋"を呼べ、問いただしたいことがある」
辛うじて、という感じのスティングの復唱を聞き、イアンはエクステンデッドに起こっている
異常の正体を確信した。より上位の命令によってミサイルを"放出してはいけない"と言った
スティング――イアンの意思を介さず勝手に命令を行った者が居る。
「艦長! NJ不調……レーダー回復します!」
「何――?」
報告に、今度こそイアンの目が見開かれる。NJが不調を起こした次に来るのは――
「敵新兵器の第二波だ、早い! 艦底をミサイルに向けろ、カオスは着艦停止して本艦の陰へ!」
核ミサイルは未だ近い位置にある。
「誘導送りました!」
「よし、総員衝撃注意――!」
直後、艦全体を襲う核の爆風に、イアンはシートを掴んで耐えた。
揺さぶられる頭から艦長帽が落ちる。イアンの中で何かが吹っ切れた。衝撃波が落ち着いても、
たがが二、三個はずれて昂揚した意識は、沸点を突破したまま戻らない。
艦橋のどこかで、「また艦長がハイパーになった!」と声がする。
「かか……艦長、い――いったい何事ですゎらばっ――!」
艦橋に入ってきたエクステンデッド専用の技術者を、物も言わずに殴り飛ばす。
「貴様、私に"特効作戦"の指揮を取らせるつもりだったとは――覚悟しておくことだな!」
有無を言わせない艦長イアンの迫力だ。
死を前提にした作戦を立ててはならないというのは、イアンにとって最低限のルール。
それを一技術者に侵された怒りは大きい。
己の保身のために、問題を起こしたエクステンデッドの個体――スティングを闇に葬ろうと
画策した技術屋は、うなだれたまま兵士に肩を掴まれ、艦橋から連れられていった。
「イーゲルシュテルン起動、スレッジハマー装填。主機関臨界準備――急がんかぁ!」
復唱し、作業をこなす部下をさらに叱咤して戦況レーダーを睨む。
遙か彼方まですっきりと見渡せるようになったレーダー画面に、数多のモビルスーツと
巨大な陰――ゴンドワナが見えていた。
11/
「今の爆発でミラージュコロイドははげたな? ……よし、ならば直に敵は来る。
カオスは生きているか?」
「……健在です」
敵に存在がばれるのは避けようがない。しかしイアンは誰一人として――たとえそれが
生き人形の兵士であっても――見捨てるつもりは無かった。指揮官の義務だ。
「いいか、敵の新兵器は本艦に限らず、連合艦隊のNJに過負荷を起こし、機能を停止させている」
すっきりと遠くまでも見渡せるレーダーが、その証拠だ。
「そして、宇宙の化け物共が"自分たちのNJをも停止させている"、その理由は一つだ。
索敵、"ゴンドワナ"から目を離すな、敵が出てくるぞ! スティング=オークレー!」
『はい……』
呼び出したカオスのパイロットは、声に相当の疲労を含ませている。
「生きているな……先の命令拒絶については、状態を考慮して不問とする。殿を粘れるか?」
『相手にも依ります――が、"適当"にやってみせます』
「……ふっ、良い返事だ。ならば、やれ」
スティングの声に微かな恐れを聞きとったイアンが、野太い笑みを満面に浮かべて、
スティングの望んでいるであろう、命令を下した。
――エクステンデッドと侮っていたか。
死を恐れない、命令に従うだけの機械と思っていたが、それはイアンの読み違いであった。
スティング=オークレーは、敵に脅威と恐怖を覚えながらなおかつ殿を買って出る、
すなわち兵士であったのだ。
「艦長! 敵空母に動きあり」
ゴンドワナから幾つもの機影が飛び出して行く。熱紋照合の結果に、艦橋へ驚きが走った。
純白の機体に、背中に大きく広げられた羽状のスラスター・ユニット。
「艦長――!」
「来たな……」
報告を受けずとも分かっていた。
戦場の全てでNJが停止、あるいは機能を低下させているならば――当然だ。
なるほど、NJを一方的に停止させうる手段と、核を無効化する手段を併せ持つのなら、
ベースマテリアルを連合に掌握されていようとも、NJCが必要なくなる。
量産された二機の"フリーダム"が、姿を現したガーディ=ルーとカオスに向けて
最大加速を開始していた。うち一機は、映像で確認する限り肩の装甲を鮮やかなオレンジ色に
染め抜いているようにも見える。
「黄昏の肩(オレンジショルダー)? ……まさか、な」
連合で音に聞こえたゲイツ使い、マジックアワーの死神、ハイネ=ヴェステンフルスが
ガーディ=ルーただ一隻に構ってくる理由など、どこにも見当たらない。
12/12
「NJ復帰の目処は!?」
「機関の安定に、10分程度はかかります!」
10分――ザフト最強を謳われた"フリーダム"とそれを任せられるモビルスーツパイロットが
連合艦隊に損害を与えるには、充分過ぎる時間だ。
「艦長、敵にエネルギー反応あり!」
「一発目は外れる、心配するな。二発目のビーム射出タイミングに合わせてAB爆雷展開!」
強大な火力の主に、接近されれば終わりだ。
ガーディ=ルーの命運は今、既に出撃しているカオスと、そのパイロットに託された。
ガーディ=ルーの退路をフリーダムからのビームが塞ぐ。波状攻撃をAB爆雷で辛うじて阻んだ。
ゴンドワナ周辺の艦艇から、敵陣深くに進攻しているガーディ=ルーへ向けて、嵐のごとく降り注ぐ
噴進弾をイーゲルシュテルンで打ち落としていると、カオスのポッドから放たれた一条のビームが
ブリッジ近くに到達しようとしていた一撃を打ち落とした。
「"オークレー少尉"、余計なことはせずに敵モビルスーツに集中するが良い、
カオスから一ミリたりとも、本艦に近寄せるな」
『了解――!』
余裕のない状態でガーディ=ルーを守ろうとするスティングに釘を刺すと、
打てば響くとばかりの返事が返ってきた。
カオスの動きが、二機のフリーダムを巧みに阻止する気迫に満ちる。
「総員に告ぐ――! これより本艦は、しんがりを務めるオークレー少尉を、
敵MSへの直接砲火によって援護する。くれぐれも少尉に当てるなよ!」
「「「イエス・サー!」」」
今、スティングを始めて少尉と呼び、その支援を命じた艦長イアンの発破に、
ブリッジクルーの応答がこれ以上ないほど完璧に重なった。
というわけで、第十六話の続きを投下。
感想、ご指摘がありましたらご自由にどうぞ。
それでは、また。
投下乙です。
すてぃんぐかんばれ
あげ
保守
☆
燃える展開だ!
艦長かっこ良いよ艦長
どうして本編であんな扱いだったんだろう
量産型フリーダムか……敵役としてもってこいな感じですね
登場の仕方もその恐ろしさがでていていい感じです GJ !
小さな島に風が吹く
第3話『廃墟での出来事(後編)』(1/6)
「免許も全部戻ったそうで何よりだな? ダイ」
実験大隊時代から自分の機体の面倒を見てくれたメカニックであるオオニシ技術一曹、
妙に気のあったダイは旧中隊設立時に彼に声をかけて、技師長として一緒に来て貰った。
技術者としてはかなりの知識を有する彼ではあるが、機密の塊であったMSの整備については、
お前と一緒に覚えるさ。むしろいつも触れるならば有り難い。とひげ面で笑ったものだ。
その彼の前、ファイルを開いてフジワラ士長と並んで話すのは勿論ダイである。
「……あぁ、そう言う事だ、司令閣下。リモートで本部から簡単に横を向いたり頭振ったりは出来る
ようになったぜ? 各センサーはブーストかけて一応島全体が見れるようにしてある。あとは……」
そこまで言うとオオニシ技師長は、自分の腰にぶら下げてあったインカムをダイに放って寄こす。
『……ントにお願いですから。三尉、いくら座ってるだけとは言え一人で24時間監視なんてこと
出来る訳……』
『自分の機体だ。A4(こいつ)がこうなってしまった責任は自分にある。リモートは必要ない!!』
ケーブルを引きずって中庭の真ん中、島のほぼ中心に屹立した18P−S4のステッカーと
サーモンピンクの頭を付けたアストレイ。無線から聞こえるコイトの声は怒っているようにも
泣いているようにも聞こえた。
インカムを耳に当てたダイはため息を一つ吐く。
「聞いたとおりコイト君、ずっとあの調子だ……。なぁ、ダイよ。俺に仕事、させてくんねぇかな?
頭が純正じゃねぇんだ、調整はかなり手こずるぞ? 早くかかりたいんだが……」
「隊長、クロキ曹長からシフトが組めないのでA4の改修予定を早く立てて欲しいと……」
「……技師長、モモちゃん。もういい、わかった!」
イヤホン部分を回して、ヘッドセットのマイクの部分を強引に口元に持って来るダイ。
「小隊長ジョーモンジからマーシャル三尉。コイトをA4から引きずり出せ、今すぐだ! イヤだっ
つーならそれでかまわんがその場合、24時間態勢勤務容認で提訴されたらオマエも俺と一緒に
安全衛生労働法廷で被告席に座って貰うからな? 聞こえてんだろ? 副小隊長殿、どうぞ!」
『ダイ、テメーどんな嫌がらせだよ。安衛法廷のそう言う案件で指揮官側が勝てる訳ねぇだろっ!
あぁ、だぁっ、……しゃあねぇ。わかった、了解だ。――おいコイト! 今なら許してやる、たった今
降りてこい! 出てこねぇってんなら文字通り引きずり出す! 聞いてんだろーが、返事しろっ!』
いきなり無線の声が途中から大きくなり、ダイはインカムを耳から離すが、それでも聞こえる
部下達の怒鳴り声に顔をしかめると、無線のスイッチを切ってオオニシへと放り返す。
「隊長、パワハラと部隊内暴力について提訴を受ける可能性が出てきたようですが?」
「どうみても必要な措置だろっ!? はぁ……、そうなったらモモちゃんが弁護を引き受けてくれ、
頼むぜ……」
「……。セクハラ裁判では自分が原告となりますが宜しいですか?」
「…………。たった一本のヤラファスへの直通ラインが切れたそうだからな。両方とも提訴は
かなり先になりそうだぞ? ――つーコトでセクハラ裁判だけでも考え直さないか?」
第3話『廃墟での出来事(後編)』(2/6)
「ぷわっ! うぅ。はぁ、はぁ。頭でわかってたってぇ。実際、うっくうぅ。イタイものは、イタイ。です」
クロゥは肩で息をしながら、口にくわえた防寒着の袖をはき出し零れた涙をブラウスで拭う。
「――そう、ですか食料調達に、……くっつぅ、来たんです、か」
自他共に認める几帳面な彼女にしては珍しく、簡単に血を拭った針と糸を放り出す。
いくら研鑽を積んだ優秀なエージェントでも部位が太ももで麻酔無し、しかも執刀医が自分の
縫合手術は、これはかなり痛かったものらしい。
「ずっと目をつけてたんだけど入り方が分からなかったんだ。ちょうどガラスが無くなったから……」
どうやら『野生のコドモ』であるらしい彼は、建物の異変に乗じて食料の『調達』に来たところで
巻きこまれたものらしい。食料品と医療品以外は彼は集めていなかった。金目の物を持って行こう
が換金のしようが無いし、そもそもこの島で現金を持っていたところで無意味だ。
と言うのはクロゥにも理解できた。
「階段は途中までいける、外の光は見えるんだ。けど、出口は全部ダメだ」
包帯を巻き直しながら建物の構造を考えるクロゥ。爆破されたのは少年の話から行けば主に
東側の構造部。有事に備えて5つのブロックの分割構造になっている建物である。ならば。
「私が歩けるようになれば何とかなります。あと何日か待って。……大丈夫。秘密の出口を知って
ますから、私」
MS試験場から外へ至る緊急避難口は多分使えるはずだ。指紋認証やらパスワードやらは
バックアップ電源でか細いながらも照明がついている以上、生きているだろう。電源が生きている
なら解除に力は要らない。但しその先は緊急用の細く険しい階段。麻酔も無しで太股の縫合を
終えたばかりのクロゥが歩いて行くというなら、それはあまりに遠い道のりである。
「キミの食料が減っちゃうのは申し訳ないけど、長い距離は今歩けないから、ね。ところでキミの
名前を教えてよ?……命の恩人の名前くらい知りたいと思うんですけど。それに、何日か一緒に
いるのにキミとかあんたでは。……ね? ――私はカトリーヌ・クロゥ。カトリで良いですよ?」
カトリは腹を決めると全身の警戒を解いて少年に微笑んでみせる。何者であろうとも何れ彼の
世話にならなければ、当面は食事どころか水を飲むことさえもままならないのだ。
と、本気で照れた様子の少年を見て今度は本心から笑みがこぼれる。彼女はこの状況下で
生きていられた奇跡が少し嬉しくなった。
「……リコ。名字とかは、無い。みんなにリコって呼ばれてたから、多分リコで良いんだと思うんだ。
あと、食い物はたくさんあったから気にしないで良い。あんた……、その……。カトリ、の分はあと
で。うん、あとで取ってくるから。……き、気にしないで良い」
最後はうつむいてしまったリコを見て、名乗るだけでそんなに照れることはないだろうに。
この年頃の男の子って難しいですねぇ。とクロゥは思う。
但し、厳しい教練課程で『【女で有ること】も最大限に利用しろ、状況によっては微笑みでさえ盾に
なる!』等という無茶な課程を疑問も持たずに普通にこなし、その微笑みがもはや癖になっている
ので下手に発動しないように、黒縁メガネをの着用義務を課せられた事など、まるで頭にない。
そもそも、その顔立ちで教官筋から【盾の防御力】には定評のあった彼女である。
そんな訳で本人は気づいていないが、リコはその『盾』で力の限りぶん殴られてしまった。
攻防一体の最強兵器で、思春期まっただ中の少年を『一発KO』してしまったとは思い至る訳も
ない彼女は、ただ不思議そうにリコを見つめるのみである。
第3話『廃墟での出来事』(3/6)
「隊長、そんなところに入って、崩れて死んだって知りませんからね!?」
「だから、士長は入らんで良いって。同じレトルトだってモルゲンだったらもう少し良いもん喰ってる。
絶対そうだ」
18隊は現在総出でA4の試験調整中である。本来であれば試験調整の陣頭指揮を執る
はずの小隊長はMSのパーツと毛色の変わった食料を探すべく崩れた研究所の大きな窓から
中に入り込んでいた。
「図面もないから構造もわかんないですし、そもそも何時崩れるか……。早く戻って下さいっ!!
だいたい何で隊長が直々にそんなとこに行くんですか!」
することがないからだ。手空きは俺しか居ないからな。そう言うと戦闘服の腕まくりを下ろして
靴紐を結び直すと、薄い皮の手袋をはめ簡易ヘルメットのバイザーを降ろすダイ。
「学生の時に施設科の勉強もしたんだ。多分この建物はブロック分けしてある、大丈夫だ。
本部に戻ってマーシャルの手伝いをしててくれ。以後連絡はラジオで……。わかってるよ、
東側には近づかないしラジオの不感地帯にも行かない。俺だって死にたかぁ無いよ」
「――ったく、ただ文句を言いたいのか世話焼きなのか。隊長も副官も慣れてねぇと言やぁ
そうなんだがな」
必死で止めようとした副官の顔を思い出してため息を吐くと頭に付けたライトを点けるダイ。
尉官とは言いながら階級章は幹部搭乗主義のためであり、パイロット以外の部下なぞ持った
事の無いダイと、そもそもただの通信士で、特別手当を目当にダイの副官として島に残ったらしい
彼女、フジワラ士長である。通常ならこれほど不慣れな組み合わせで配置される事もあるまいに。
とまたため息を吐く。
「確かにこの辺から入っていったんだが、瓦礫に潰されたか、別の部屋に逃げたか、さて……」
彼のもう一つの目的、ガンカメラに写った少年はヘリの爆発の煽りでガラスの吹っ飛んだこの辺りから
建物へ入った。そして講堂か体育館のようなこの部屋は天井がすっぽり落ちて床が見えない。
「この程度なら照明がブチ当たってなければ即死は無さそうだな。せめて生きていてくれよ……」
彼は以前島の漁師から聞いた『野良コドモ』の話を思い出す。研究所の出来る前、山の頂上
には孤児院のような物があって物好きのじいさんが身よりのない子供を十数人手元に置いて
いたらしい。研究所の設立計画と共に保証金を積まれて移転したらしいのだが、子供が数人、
山に逃げ出して未だに行方不明なのだ。と漁師は言った。
そんな話はたった今まで彼も忘れていたのだが、だから島に数の合わない子供が居る事自体、
おかしくはない。
「第3施設大隊もたいしたことねぇなぁ。完全に天井が落ちてらぁ、カンペキ手抜き工事じゃねぇか
……。マーシャル三尉、オオニシ技師長、取れるか? ダイだ。センサーのテストはどうだ」
『感度を上げすぎて半径1k以内は真っ赤っかで良くわからん。おまえの位置トレースはラジオ
の発信位置でイケるんだがな。――技師長、どーなんだコレ?』
『各港とビーチについては完全に見える、カメラはOKだ。振動とか赤外線とかは確かに調整に
手間取るなぁ、こりゃ。定格の370%は無理があるかぁ、海はあきらめてソナー使うか……』
「建物自体の損傷は内装以外は軽微、ハッキリしたことは調査の後だが、倉庫かなんかには
使えそうだぜ? 技師長は旧中隊の記録にココの構造図か、そんなのが無いか探しといてくれ」
食い物の反応が出たら教えろ。と言うと更に足を踏み出すダイ。開きそうな扉が奥にある。
多分MSのパーツなら地下、食料庫なら1階だろう。少なくとも講堂にはどちらもあるまい。と
判断して広い講堂の奥、開きそうなドアへ向けて歩を進める。
第3話『廃墟での出来事』(4/6)
『オオニシ技術一曹から隊長へ緊急! ダイ、オマエの近所で熱源探査に感! 何かあるか?
大きさ1m〜20m、温度20〜50℃。もう見えてるはずだ』
「……技師長、なんだよそれ。巫山戯(ふざけ)てんのか?」
『すまんがわからん。熱源探査が復旧したとたんに反応が出たんだが、現状まだおおざっぱにしか
表示できないんだ。形状、高さは不明、中心位置はおまえから南に15m、東に12m付近』
彼がそちらに頭を向けると舞台の壇上、そこだけ何か盛り上がった部分がある。足早に近づいて
瓦礫をみる。
「……演壇、か?」
大型ライトの破片や天井の材料が演壇を囲んで櫓のようになっているらしい。
「技師長。熱源中心は恐らく舞台の演壇。発熱は50度以内で間違いないんだろうな?
ヘルメットと皮手しか装備がないんだ、化学薬品処理なんぞいやだぜ、俺は」
瓦礫をどけるとオレンジの布にモルゲンレーテのマークとオーブの国旗の刺繍が見える。
と、そのオレンジの布が、動いた。
「マーシャルっ! 俺の位置のトレースは出来てるな!? 要救助者発見、直ちに3、4人、
担架と一緒によこせ!! それとモモちゃん、聞いてたら医療班に準備させといてくれ!
技師長。他にもいるかも知れん、各センサー調整は後回し、定格に戻して感度最大!」
第3話『廃墟での出来事』(5/6)
大きなテントの横、たき火のそば。足を投げ出してたき火をボンヤリ眺めながら座るオレンジの
ブルゾンの女性。頭に鉢巻きのように包帯が巻いてある。もっとよく見れば手足の至る所にも包帯
やら絆創膏やら賑やかではある。
「まだおやすみではなかったんですか? イタバシ主任。寝床は女性テントに確保してあり、
……ますよね?」
「何か眠れないので。それに私、なんかたき火って好きなんですよ。――あっ。ジョーモンジ隊長、
でしたっけ。助けて頂いたのですよね? 私、その、お礼もキチンと……」
頭をかきながらコーネリアスの横に直立不動で立つのは、無精髭にフライトジャケットのダイ。
「まぁ、国防官として当然のことをしたまででして。お怪我も大したことが無くて何よりでした。
――ところで、せっかく起きてらっしゃることだし、主任にお伝えしたいことがあるんですが。
今、宜しいですかね?」
彼女が頷いたのを見ると改めてダイは彼女の隣に腰を下ろす。
「……あぁ、その前に。隊長、私に敬語は要らないですよ? 主任とかも要らないし。
私のことはコーネラで良いです。歳もそんなに変わんない、ですよね?」
「……なら俺もそうしてもらっていいっすかね。改めてパイロットのダイ・ジョーモンジ、宜しく。
俺のことはダイで良いっす。だいたい隊長なんざ押しつけられただけだし、しゃっちょこばってる
のはそもそも性に合わね、ってなもんでね」
「はぁ……。まぁ、そんなトコだろうとは思ったけどねー。……じゃあ、いつまで。って言うのは
わかんないんだ」
「未来永劫って訳じゃ無いだろうが、ね。食料と燃料が約4ヶ月分。半分に見積もっても2ヶ月は
間違いないと思う」
ダイが伝えたのは全島民避難で定期船が無くなってしまった事と、ダイの率いる18隊が
当面島への駐屯を命ぜられている事の2点。一応技術者救助の報は入れたものの、現状のまま
引き続き保護せよ。と言われてしまえば『あなたは島から出られない』と伝えるしかないのが彼の
立場ではある。
「通信筒で連絡ってアナクロよねぇ。MSが四機も配備になってるのにさ?」
「命令は電波で来るんだけどな、コッチの言い分は聞く耳持たんって事かな。ははは……」
大出力無線機もレーザー発信器も旧中隊にはあった。だが18隊と名前が変わった直後に
発信器は全て撤去され双方傍受しかできなくなっている。
当然、切られた海底ケーブルの復旧など言わずもがなな島の現状である。
「まぁ、ここ暫く休みもなかったし。有給だと思ってビーチでバカンスね。あと、迷惑でなければ
M1の整備もさせて欲しいんだけど、どう? これでも元第一MSテスト大隊付きでメカニック
出向だったのよ?」
「……俺、元はそこの第三小隊だ。世の中狭いな……。1131号機、いじったこと無いか?
はは、それ俺のヤツだ。姐さん、整備の件は是非に宜しく。ウチはMSの本職がいなくってさ。
技師長はいろいろ器用な人でさ、有り難いんだがMSの専門分野となると……」
第3話『廃墟での出来事』(6/6)
「かなり大出力のセンサーで島一面を監視してるな。……但しセンサーは基本一個。
ならば人間程度の大きさなら中腹まで登らん限りはバレねぇとは思う」
崩壊したイーストセントラルポートの片隅。黒のウェットスーツの二人組がアタッシュケースに
収まった機械を囲んでなにやら話し込んでいる。
「ならばある程度見ていった方が良いだろうな。BB、おまえは残って何かあればデータを……」
「慌てんなよ、スミダのアニキ。道沿いには間違いなく対人センサーくらいはあるって。反応が
見えないが軍用ならそんなモンだ。ジャンク屋組合のちゃちなセンサーとは訳が違う。道沿いなら
カメラだってあるはずだ。ポートから出たらヤバいぜ」
そう言いながら細面の男はアタッシュケースを閉めると複雑な防水機構を手際よくロックする。
「軍隊を置いて此処までするんだ。あの何とか言う赤服のにぃちゃんの情報は当たりと見て
良いんだろうかな?」
「マーセッドとか言ったな。うさんくせー野郎だけどさ、確かに何かはあるんだろ? 国防軍
どころかM1までいやがったからな」
「これでスカだったらさすがにリーダーに怒られるぜ。アイツの情報を引っ張ったのは
俺とおめーだからよ」
オーブの新型MS。設計図でもOSのソフトでも何でも良いから良いから持ち帰れ。
赤の軍服を身に纏った青年はそう言ってあり得ない額の提示をした。のみならず、失敗しても
返せとは言わない。と言いながら手付けとして1/4を現金でジャンク屋兼傭兵団である彼らに
渡した。半月前の話だ。
「リーダーはともかく、グランパだろ。ジャンク屋だけで食える時代じゃねーだろうしあの金が
入らなきゃウチのファミリーは終わりだぜ? アニキ。――情報屋以外に能のねぇ俺を拾って
くれた恩をグランパにかえさにゃならねぇんだからな……」
黒のウェットスーツの二人組は身支度を終えると静かに海の中へと消えていった……。
予告
住環境向上と食料の調達のために廃墟の中へと向かうダイとコーネリアス。
一方、機密を狙う傭兵団は密かに島への上陸を開始しつつあった……。
――次回第4話―― 『地下での邂逅』
今回分以上です、ではまた。
>>島風
投下乙です。
笑顔のシールドバッシュ一発KOが素晴らしい。
モビルスーツの頭の使い方が、一工夫効いていると思いました。
またの投下をお待ちしております。
>>347 投下乙!俺もクロゥさんに盾でぶん殴ってほしいですが…
四時くらいから投下です。
13/
二機のフリーダムは左右に分かれ、一機は主戦場へと赴いていった。
この場は一機で十分という意思表示らしい――その間違いを思い知らせてやろう、と
スティングが身構えていると、モニターに幾つもの光点が表示され、速度のベクトルを示す
矢印が、見る間に大きくなっていった。
「ミサイル――でかい!」
飛び来る数基に身構えるも、全長七メートル前後、噴煙を引く対艦ミサイルは
カオスを素通りして直進、母艦のガーディ=ルーへと食らいつこうとしている。
母艦に落ちられては少し困ったことになるし、何より――
「俺とカオスを無視するってのは、無しだぜ?」
――なので、MA形態に移行する反動を使って、背中から羽付きのドラム缶を放出した。
カオスの胴体ほどもある簡易型ドラグーンは、機動兵装ポッドと呼ばれている。
心の動き――脳波の量子的変化をコクピットが読み込み、フィードバックして操作するポッドは、
カオス本体にも不可能な加速力で瞬きの間にミサイル群へ詰め寄り、ビームの軸線をあわせた。
引き金だけは手元で――中指のトリガーを引き絞り、精密な偏差射撃によって全ての噴進弾を
破壊することに成功する。
と、通信――艦長から。
『"オークレー少尉"、余計なことはせずに敵モビルスーツに集中するが良い、
カオスから1mmたりとも、本艦に近寄せるな』
「了解――!」
答えてから気付いたが、一見して文句のような、遠回しな形の激励だ。
艦長が自分を、物を見る目で見ていたのは知っていた。
怪訝な顔を、ロックオン・アラートのランプが赤く照らす。
ビームを回避――体を叩くGが、口元を笑みの形にゆがませた。
――少尉、ねえ。
どうやら今の戦いには、命令では割り切れない何かが宿っている。
そう思うと、スティングは荷重の負荷を承知でスロットルを更に開いた。
敵は――むかつくことに――カオスよりもガーディ=ルーを狙っている。
「そこは――俺の帰る艦だ!」
深緑の怪鳥を思わせるMAのカオスでもって、最大火力"カリドゥス"により牽制しつつ、
ガーディ=ルーに取り付こうとするフリーダムの進路に割って入る。
敵機が羽根のような砲塔をこちらに向けて、一斉射撃の体勢をとる。
「フルバーストって奴か!」
と、多量の対MSミサイルがフリーダムに降り注ぎ、動きの出だしを押さえた。
「掩護――だと? ……へっ」
今まで思いがけすらしなかった母艦の支援に、面映ゆい何かを感じながらスティックを倒す。
前へ、ひたすら前へ――カオスは、これまでにない軽さでビーム輝く真空の宇宙を飛翔していった。
14/
フリーダムに向かった対MSミサイルは、ゆったりとしているように見える速度で中距離に
接近すると、僅かずつタイミングをずらして、鋼鉄の矢と化した。
放出された十五基は、至近距離で炸裂、数十本の徹甲芯を打ち出す対装甲仕様で、
PS装甲付きの機体といえども、関節部分に喰らっては不調を被るはず。
「アクションを見せた瞬間、その隙を突く!」
読みは正しく的中し、オレンジ肩のフリーダムはミサイルの鼻先でステップを踏んだ。
右に左に、横滑りする機動が徹甲芯の狙いを逸らす。
それだけにとどまらず、斉射(フルバースト)の矛先をミサイルに向け、一基ずつ、
精密な射撃で迎撃に成功する。
だが、過剰な大火力の使用は機体制御の間隙を生むものだ。
スティングは、フリーダムの機動に生じた僅かな乱れを見逃さなかった。
「其処だ――!」と、機体を最大速力域へ追い込む。
飛び散る破片を機首で弾くカオスは、禍々しいビーム爪の輝きを見せた。
躍りかかるカオス――敵もまた素早い反応を見せた。接近戦でライフルは不利と見るや、
サーベルを抜きはなって逆撃に転じたのだ。
互いの重量を速度に乗せた衝突は、激突の狭間にまばゆいスパークを生む。
目の眩む、超高速での邂逅は一瞬だった。
互いにビーム刃を弾き合い、すれ違うように間合いを離す。
槍騎兵同士の決闘を思わせる光景――そうしなくては、互いに減速Gで潰れるが故だ。
「接近戦では互角か!?」
スティングは分析し、次いでフリーダムが即座に接近するそぶりを見せた事に驚き、
MAからMS形態へと再変形するタイミングを逸した。
「今のは一端退くタイミングだろうがよ……!」
振りかぶられたビームサーベルを辛うじて魔鳥の爪で挟み込むが、敵の空いた手は
カオスの頭を掴んできた。
「ちっ! 鬼ごっこじゃねえんだぜ」
毒づき、掴まれた頭を引きはがそうとするが、流石は核駆動モビルスーツの力である。
カオスのマニュピレイターでは、万力で固定されているかのようにびくともしない。
互いに長物を振るうには近すぎる間合い。
――しかしカオスにはドラグーンがあった。
15/
『照準範囲に自機』
「――うるせえ、やれよ」
FCSの警告を無視して、密着したフリーダムにビーム砲の狙いをあわせると、
青い翼をはためかせる"オレンジ肩"はカオスの頭を強かに蹴りつけ、離脱する。
フリーダムはガーディ=ルーへ進路を向ける、と見せて、進路に割り込むカオスを
徐々に母艦から引きはがしに懸かった。
疑問が生じる――狙いは俺、なのか?
任務の事を全て覚えているわけではないし、恨みを買っている事が多すぎて、
誰から買った恨みなのかも特定できないスティングだ。
『オークレー少尉、聞こえますか?』
「――ああ?」
立て込んでいるときに通信を送り、しかも返事まで要求するのは誰か?
ガーディ=ルーのオペレイターだった。
『敵フリーダムから、NJCの反応は検出されていません。核駆動ですがキャンセラーは
搭載していないのです――いいですか?』
『つまり本艦のNJが復活するまでの……何分だ? ……うむ、あと七分保てと言うことだ。
――左舷弾幕薄いぞ、何をやっとるかぁ!』
オペレイターに代わり、怒声を上げる艦長だ。
余程、フリーダムに追い回されたくないのだろう。気持ちは分かる。
『できんか? オークレー少尉?』
「冗談――三分も保ちませんよ……相手がね」
『良く吠えた、任せたぞ! ……ダメージ処理班向かわせろ、バリアント……っ撃え!』
「アイコピー、キャプテン」
了解の前に通信は切られていたから、イアン艦長に聞こえては居ないだろうが、
せわしない艦橋の雰囲気を一瞬でも知ることが出来たのは行幸だった。
まだ落ちてない……それだけで十分だ。
「……というわけで、数分つきあって貰うぜ」
さて、と気を取り直し、敵に意識を集中させる。
『未練をなくすのに、それだけで十分かよ――改造人間?』
互いに猛烈なスピードで位置取りを行いながら、不意に会話がつながった。
「……そういえば、NJが利かなくなってたな」
『そうさ、お前の死に顔までばっちり見える』
「プラントの眼科は藪医者ばっかだな、遺伝子細工で病気予防のおかげか?」
通信が通る珍しい事態だ。
ポッドで牽制し、動きをゆるめさせたところに加速力を活かして背後を取ると、
フリーダムは五対の羽を羽ばたかせるように、鋭角の切り返しを見せた。
16/
『そんな甘い戦法が、通ると思ってたのか?』
「しつこいうえにうるさい奴だな――」
後ろを取られた――臓腑を捻るGを浴び、骨という骨をきしませながらなお、
スティングは虚勢に咆哮し、かつ笑って見せる。
背後、全身此れ砲台という風情の"フリーダム"は、肩関節を保護する装甲だけを、
夕陽を思わせるオレンジに染め抜いていた。
「あんた……どっかで見たことあるか?」
『そのいじられた脳みそから、記憶を反芻して、恐怖と共に飲み込みな!』
展開される濃密な弾幕に対し、変則的な乱数機動を駆使して回避する。
『個人的な恨みしかねえが――これも任務でなぁ!』
"ルプス"ビームライフルで弾幕を張り、敵は"パラエーナ"プラズマ砲をたたき込む、
そのタイミングを測っているのだろう――前大戦で戦線を荒らした悪名高きフリーダムは、
武装が良く知られている。
その性能も――弱点も。
「"ルプス"の連射モードは三連――その後に一秒空く!」
左、上、と背中を掠める攻撃が来て、三発目がコクピットを狙うタイミングでカオスを
反転させた。
「いけよ――!」
ビームを掻い潜る隙に、二基一対の機動兵装ポッドを切り放す。
第一手は、ポッドから飛び出すミサイルの嵐だ。カオスは猛然と接近してゆく。
ミサイルの処理に追われて対応しきれない敵機へ、次いでビームの驟雨を浴びせた。
疾風と怒濤――動きを乱した敵へ、本命のクロー攻撃。
フリーダムは、この期に及んでサーベルを抜いた。
「それじゃあ遅いんだよ、のろまが!」
一発――右腕を多少掠める程度の損傷で速度をゆるめずに回避し、スティングは、
フリーダムに肉薄した。避ければポッドからの追撃がフリーダムを屠る。
フリーダムは迷わずに回避を選択――
「今――!」
ポッドビーム砲の引き金を引いたスティングは、発射の直前、ポッドからの
フィードバックが途絶えた事を知る。
「……ぐっ!?」
思考に僅かなノイズが生まれ、カオスの操縦も覚束ない。その隙をフリーダムに
狙い撃たれ、カオスの胴を深々とビームが抉った。
損傷に伴う衝撃が体を揺さぶり、コクピットの中に火花が散る。
17/
『言っただろうが、任務だってなぁ! 俺一人でカオスを狩るなんて、
割り切れねえやりくちは考えてないんだよ!』
ポッドを狙ったのは、一度主戦場に向かった筈のフリーダムだった。
伏兵だ。
「へっ……油断した、だが!」
それは、戦力の逐次投入というのだ。
敵の持っていた、可能ならば一人でカオスを討ちたいという拘りが、
考えを禁じ手に向かわせたのだ。
『何――!』
スティングはフリーダムから離れず――よって、二機のフリーダムに挟撃を
受ける事もなく――機首を敵機の胸に押し当てると、カオスの爪を振り上げさせた。
「フリーダムだろうが、ザクとは変わりない、案山子と同じなんだよ!」
『カカシって何だぁ――!?』
ビームを発振させながら無理矢理蹴りつけた爪は、荷電粒子でPS装甲に
おぞましい傷跡を刻みつけながら、基部より折れて砕けた。
「ちっ、三分保たなかったな――おさらばだ! ――艦長!」
『二十秒後に全力加速して離脱する! 後部のハッチから戻ってこい!』
「了解!」
艦長に通信を送り、残存した一機の起動兵装ポッドを操る。羽付きドラム缶で
もう一機を牽制しながら、土産とばかりに損傷したフリーダムを蹴り飛ばした。
おかげで二本の脚は両方とも折れたが、スティングは溜飲を下げる。
そしてカオスの推力を解放してやると、シートに埋もれる加速Gが僅か数秒で
ガーディ=ルーに追いつかせた。フリーダムをも置き去りにする加速である。
艦影が米粒から切手程に拡大される、一秒にも満たない時間で反転、減速、側方の
スラスターを使って位置を微調整して、ぽっかりと口を開けた後部ハッチに滑り込む。
この間、僅か12秒。
カオスの固定が完了すると時を同じくして、ガーディ=ルーの後部から目映く輝く
プラズマの尾が吹き出され、クルーは手すりや壁、思い思いの場所に捕まって
流されるのを防がねばならなくなった。
「外にいるのは敵じゃない、外にいるのは敵じゃない――」
電源を落としたコクピット。ハッチを開ける前のまじないに自己嫌悪しながら、
スティングは焦げた装甲の冷却を待って正面ハッチを開く――数度の衝突と
至近距離を掠めたビームによって熱で歪んだ装甲が、ぎりぎりと部品同士で
削り合い、異音がスティングの耳を騒がせた。
「ナイスランディングです、少尉!」
開けたハッチから顔を覗かせ、スティングに向けて手を差し出すメカニックに、
スティングは一度親指を立て、それから引っ張り出して貰うためにその手を握った。
18/
「ちぃ――逃した!」
怨敵を逃したハイネ=ヴェステンフルスは、コンソールを叩いて悔しさを募らせる。
『おい、ハイネ――手前ぇ!」
「この○○○! ××の△◆野郎が、何時か絶対に‡†で⇒∴してやるからな!」
誤作動を起こしたFCSが僚機に向かってレールガンを発射するのもお構いなしに、
とても青少年には聞かせられないボキャブラリーをずらずらと並べるハイネ、
呆れた僚機のパイロットも無言に立ち返り、"フェイス"の激情が収まるのを待った。
戦場は、1ダース近い量産型フリーダムの攻勢によって、連合の陣形にチーズのような
虫食い穴が穿たれ、其処にゲイツ、ザクを中心とした部隊が攻め入る事でザフトの優勢に
傾いている。
もうじき連合側のNJが復活して、量産型に搭載された核炉が停止するであろうが、
それまでに緒戦の趨勢は決するはずだ。
イザーク=ジュールの駆るフリーダムを旗頭にした一団が槍の穂先となって、
敵中核に切り込んでいる。ここまでひたすら我慢を重ねていたであろう守護神は、
ここぞとばかりに、敵に損害を与えていた。
単軌駆けの可能なフリーダムに乗っていながらチームプレイを欠かさないジュール隊は、
反撃不可能なレベルに損傷させた敵機を残し、後衛にトドメを譲るという余裕まで見て取れる。
「こりゃあ勝ったな――」
ひとしきりガス抜きをしたハイネの、落ち着いて一言がそれだ。
フリーダムなら――そう思っていたハイネは、とても緒戦の勝利を手放しで喜べない。
ザフトでは、このフリーダム以上の戦力は望むべくも無い、然もこのフリーダムは
戦術のパーツとして組み込まれた部品だ。ハイネの自由になるものではなかった。
なんとかしてカオスに対抗するには――地上にたたき落とすしかない。
「OP.スピア・オブ・トワイライト、そのときが勝負か――宇宙じゃ勝てない」
決意を固めると共に、苦い確信がハイネを占めた。
さらに、一つの疑問がハイネの胸中を渦巻いていた。
「それにしても――カカシって何なんだ?」
ハイネは、地球の農業に詳しくなかった。
決め手を欠き、予想外のフリーダム部隊投入に対応の遅れた連合艦隊は、NJの再起動と、
それによるフリーダムの攻撃力低下を機に艦隊を再編成し、投入した戦力の三割近い損害を
被りながらも撤退した。
この会戦によって宇宙でのザフト有利が、ある程度の期間を限定しながらも決定的となる。
以後数ヶ月に渡り、宇宙では月のアルザッヘル基地とザフト宇宙軍がにらみ合い、
その間に地球上で激しい戦闘が繰り返される事となった。
19/19
――数日後、アプリリウス。
「議長もどういうつもりだか――"セイバー"、最高機密を、出戻りの俺に預けようだなんて」
与えられたホテルの一室で目を覚ましたアスランは、備え付けの電気シェーバーを
使っている間、デュランダルの台詞や仕草の逐一を思い出していた。
「しかし……底が読めない」
デュランダル――議長の行動から、プラントの方針を読み取ろうと考えての事だが、
デュランダルは遺伝子が行動に与える無意識の影響についての専門家でもある。逆に
アスランが印象操作を受ける可能性も無いとは言えないのだった。
穏やかな表情と理性的な口ぶりは、かつて見知ったシーゲル=クラインや、ナチュラルへの
報復という妄執に取り付かれる前の父を思い起こさせる。
一見して妖しいところのない、穏健派の議長であると思える。
「しかし、OP.スピア・オブ・トワイライト……」
キラからその作戦予測を聞いた時は半信半疑であったが、デュランダルは否定しなかった。
『既に作戦の準備が始まっているとして、緒戦をプラントが追い詰められるならば――』
ザフトが既に戦力をそのために割いている証拠だと、キラは言った。
ギルバート=デュランダル――争いを疎ましく思えども、必要ならば恐れないということか。
「カガリ――」
そしてあの奇妙な勝負、だ。アスランはキングを刺し、デュランダルはクイーンを奪った。
「ミーア――」
デュランダルがその後に紹介したのが、ラクスと全く同じ顔と声を保った少女だ。
『これが我々のクイーンだよ』
チェス盤から、デュランダルのクイーンを落とす事の無かったアスランへ、デュランダルは
そう言って笑った。
今もテレビには、演説を行うデュランダルと、ラクスを模した少女が映っている。
「……どうなると言うんだ」
アスランは不安を感じずには居られなかった。
息をつき、コーヒーメーカーが黒い液体をはき出すのを眺めるアスランを、
ドアベルが呼び立てる。
「はい――」
デュランダルからの呼び出しだと思い、カメラの確認をしなかったのが間違いだった。
ばんっ! とドアを蹴破って入ってきたのは、背中まで届く黒髪も艶やかな少女だ、
ただし少女に似つかわしくない事に、ワインレッドのスーツ姿は刃渡り26cmの短刀、
銘行光(めいゆきみつ)を腰溜めに構えている。
「は……?」
「アスラン=ザラ――覚悟!」
少女の煌めかせる白刃が、寝起きの眼にまぶしく映った――。
以上、投下終了。
次回予告
アスラン=ザラ刺殺さる!? 騒然とするプラントに、白服の隊長探偵が立ち上がる!
「この事件、3レス位で解決してみせる、母上の名にかけて!」
次回、プラント事件帳 〜オーブ高官殺人事件〜
シホ=ハーネンフースは見た!(ホトケの死に様を)
嘘です、感想やご指摘がありましたらご自由にどうぞ。
乙。
まさか『†』に実録マユからスペサルゲストが出るとはw
>>358 ギアス第2期と同じ展開ですねわかります
「四月一日 −No.7−」 −Long Talk & a word−
エイプリルフールの夜。もう二十分ほどで日付も変わる。
昼間の騙し騙され、見抜き見抜かれの勝率は五分五分と言ったところだろう。
そんな一日はそれなりに楽しかったもののそれでも疲れたことに変わりなく、俺はルナに背を向けたまま、
テレビをぼぅっと眺めていた。
「ねえ、シン。吊り橋効果って知ってる?」
「ん?」
ルナの問いかけに俺は生返事を返す。
「『人は生理的に興奮している事で、自分が恋愛しているという事を認識する』ってヤツよ」
「んー、なんとなく……」
やっぱり生返事のまま、頭の片隅で考えた。
確か、ドキドキするような環境にあると恋愛していると勘違いする、とかいうのだっただろうか。
「あたし達もそんな感じで始まったって思わない?」
ルナの台詞に、昔のことを思い出した。
アスランの脱走にメイリンが加担し、俺が彼らを撃墜したのが始まりと言えなくもないだろう。
吊り橋効果と言うよりは、寂しい者同士がくっついたと言った方が正確な気がする。
それでも反論するのが面倒で、適当に相槌を打っておく。
「ね、シンもそう思うでしょ? あたし達ってちょっと違うのよ。だから別れましょ?」
突然の言葉に思わず驚愕の声を上げそうになる。
が、ふと気づいた。今日はエイプリルフールなのだ。
だから、
「そうだな。うん、分かった」
と、あっさり返す。
ルナは少し驚いたように目を瞬かせたものの、数秒後には笑顔になった。
「分かってくれて嬉しいわ。じゃ、残りの荷物はそのうちに引き取りに来るから」
そう言いながら玄関へと向かう。
どこに隠してあったのか大きなスーツケースを出してきて、ルナは部屋を出て行った。
玄関のドアが閉じる音を聞きながら、俺は考えた。
ここで飛び出したりしたら、にんまり笑顔のルナに後々までからかわれる羽目になる。
もう一分くらいすれば、ルナの方が少し拗ねた顔で戻ってくるだろう。
と、思っていたらドアが開いた。
「あの、ね、シン……」
おずおず、という表現がぴったりな風にルナが顔を覗かせる。
予想以上処ではないその早さに、からかう言葉すら浮かばなかった。
「えっとね……」
彼女にしては歯切れ悪く口ごもりながら、俺に向かって、おいでおいでと手招きする。
怪訝に思いつつ、俺はルナの許に向かった。
ルナが開けたドアから廊下を覗くと、そこにはルナとよく似た赤毛の少女が肩を震わせ俯いていた。
彼女の足元には、ルナが持って出たのと同じような大きさのスーツケース。
「メイ、リン?」
名前を口にするとメイリンははじかれたように顔を上げた。
てっきり滂沱に濡れていると思ったその顔は、怒りで震えている。
「シン、お姉ちゃん、ちょっと聞いてよ!」
そう言うとメイリンは、怒涛の如く彼氏との喧嘩の内容を話し始めた。
身振り手振りを交えての一人二役の熱演は、口を挟む隙すら与えない。
喧嘩と言っても、今日が四月一日だということを加味すれば、そう深刻なものではないと思う。
そんなことは絶対に口にはしないが。
――たっぷりニ十分は話し続けただろうか。
「と、いう訳なのよ。非道い話でしょ!? ……ところで、そろそろ部屋に入れてくれない? あ、お茶も貰えると嬉しいな」
――うん。俺も疲れたよ。
そんなことも間違っても口には出さず、代わりにメイリンのスーツケースを持ち上げた。
「シン、ありがと。あれ? お姉ちゃん、そのスーツケース、何? どっかへ旅行?」
不思議そう訊ねるメイリンに、ルナは力なく首を横に振る。
「ううん、何でもないの。気にしないで」
こちらも疲れきったようなルナの声音に首を傾げながらも、メイリンは俺の前を通り過ぎ、部屋へと消えてゆく。
自分のスーツケースをずるずると引きずるルナを見かねて、俺は空いた手で彼女のそれを受け取った。
戸惑ったように視線を揺らしながら何かを言いかけたルナの声がちゃんとした単語になる前に、「おかえり」の一言で
彼女の言葉を封じた。
「四月一日」のバージョン7になります。
他バージョンを既読の(ry
カードNo.7 は「戦車」です。
行動的 とか 一途 の意味があるそうです。
今回のメイリンのイメージは「ハロウィン」です。
ハロウィンだけど「四月一日」です。
何故かと問われても答えられません。
前回(バージョン6)での「落ちたのは、シン? ルナ?」というご質問ですが。
どちらも有りです。
お好みでどうぞ。
20/
――アプリリウス。道路。
一台のエレカが、中心部にほど近い高架道路を編縁部に向けて走っていた。
「ハッハッハ! いやあ、済まなかったな朝っぱらから刃傷沙汰で!」
後部座席で相好を崩すスーツ姿は、イザーク=ジュール。
「笑い事じゃない! 危うくサスペンス物の被害者になるところだった、この傷を見ろ!」
シリアスにクレームを入れる人影は、アスラン=ザラである。
ホテルの一室で行われた命がけのナイフ戦は、イザークの一喝が無ければシホの繰り出す短刀が
アスランを血風呂に沈めるというところであった。
アスランが袖をまくると、そこには確かに、まるで何度も突きだされたナイフを必死に防いだ
かのような傷跡が刻まれている。
「向かい傷ならば男の勲章というものだ。女に刺されたとなれば尚更な!」
「歴史に汚名を刻むところだぞ!?」
「刻むなら大きな名前が良かろう?」
「雪(そそ)ぎ方も分からないような汚名は、願い下げだ!」
何時、運転手が急ハンドルでアスランを放り出そうとするかと考えると恐ろしく、
シートベルトをきちんと締めたマナー精神を久しぶりに発揮していた。
「シホに刺されたとなれば、将来の語り草だぞ? ハッハッハッハ!」
豪快に笑い飛ばすイザークに対し、
「……すでに雪辱のしようもない程を泥をかぶっているくせに――」
ハンドルを握るシホは不機嫌を隠さない。殺意を押さえた棒読みが聞こえなかった振りを
するのには、苦労が必要だった。
両手を開けてはアスランに危険という事で運転手をやっている上に、イザークが隣では無く、
アスランと並び後部座席に腰を降ろしている事も関係しているのだろう。
シホ=ハーネンフース――隊長の姿が見えなければ禁断症状に苦しむらしいとは、
ヘルマン=ミハイコビッチの弁。
「しかしまあ……流石は元ザフトレッドというものだ。体の形に白線を引かれずに済んだな」
「そのまま、元生存者にしようと思ったのです……」
半径数キロのプラントである、景色はすぐに入れ替わり、低層の集合住宅地区に差し掛かっていた。
ビルは低いが、プラントの地下は深く、広い。多くの公共施設は足元に埋まっているのだ。
「最善を尽くしましたがし損じました。申し訳ありません、隊長――」
「なあイザーク。お前の部下がこんな空恐ろしい事を行っているんだが――」
「小さい事を気にするな、アスラン!」
「そうです、貴方の生死などは全く以て些細な事――」
「全然小さくないぞ。どちらかというと外交にまで響く問題だ!」
21/
バックミラー越しに見える視線は氷点下で、アスランにとっての休暇であるはずなのに
全くくつろげる気配すらない。
そもそもアスランは、オーブで待つカガリのためと思えばこそプラントにいるのである。
彼に安らぎをもたらすべきはあくまでも、思い人であるカガリ=ユラ=アスハの他に居ない。
「国家最強の秘密兵器を持ち逃げした裏切り者に、安らかな眠りを差し上げようとしたまでですよ、
ミスター・アレックス・ディノもといアスラン=ザラ?」
「それは安眠ではなく永眠だ」
そう、断じて、ほぼ初対面の相手を骨董物のドスで突き殺そうという危険少女ではない。
叶うならば"チェンジ"の一言で交替して貰いたいものだった。
エレカは居住区を抜けて、さらに商業区を素通りし、編縁部のグリーンゾーンに入って行く。
「……なんとかならないのか、イザーク?」
アスランは、不満を口調に溜めている。
「我慢しろ。そうだな、プラントを出るまでは、お前に安らぎはないものと考えてくれればいい」
「ちっとも慰めになっていない! これは虐めか、虐めなのか……」
そこまで言って、アスランの脳裏に電流が走った。
「イザーク、お前の次の台詞は、"ザフトに虐めは無い"だ!」
「案ずるな、ザフトに虐めは無い……ハッ!」
にやり、とアスランは年相応の笑みを浮かべて、驚愕に震えるイザークを見下ろした。
「な……なぜ分かった?」
「既視感、英語で言うならデジャブがしたのさ、イザーク」
「……なんだか和気藹々としている事に○×したくて仕方ないのですが。
――それとデジャブはフランス語ですよ?」
勝ち誇るアスラン、悔しがるイザークと、そして妬むシホである。
「お二人とも、着きましたよ?」
「おっと!」
「減速のGに流されたふりをして隊長に触ったりしたらデリート……じゃない、ポアします」
「もう少しオブラートに包んでくれ、頼む!」
戦死者用の共同墓地前でエレカを停車させる。こころなしか、ブレーキがきつかった。
「御苦労だった、シホ」
自動で開いたドアをイザークがくぐると、外の温かい空気が入ってきたはずなのに、
シホと二人だけ取り残された空間で、アスランは汗が引いていった。
「邪魔ですよ、降りたらいかがですか?」
「あ、ああ……ありがとう」
「隊長が乗っていなければ……」
絶対零度のつぶやきがこれ以上耳に入らぬように、アスランは足早にエレカを降りた。
22/
共同墓地――町並みの見える小高い緑の丘を、白い墓碑が埋め尽くしている。
銘を刻まれたものたちの多くは戦場に散ったままだ、その下で眠りにつく事はない。
「ここにはよく――?」
「まあ、な。任務の合間にだが」
「――俺は初めてだ」
「罰当たりな奴め。オーブなどに行くからだ」
真ん中剛速球の物言いは、確かにシホ=ハーネンフースの隊長なのだと思わせる。
「彼女は――?」
「そう、安心した顔をしながら言うな。あいつも、此処に人を待たせている口だ。
殆どのザフト軍人はそうだろう……ここだ」
白い百合を手にしたアスランと紫の桔梗を抱えたイザークが二人連れだって
やってきたのは、かつての戦争で失われた友人の墓だ。
「ニコル、ラスティ……珍しいのを連れてきたぞ」
「……遅くなった。済まないな」
そっと花を供え、アスランが祈りを捧げていると、ふとイザークが口を開いた。
「シホが目の前にいては言いにくかったがな、アスラン……戻ってくるのか?」
「……いや……ああ」
「ふん……」
否定とも、肯定とも。
曖昧なアスランの態度に、かつてのイザークならばすぐさま業を煮やしていただろうが、
彼の微妙な立場をおもんばかってか沈黙を以て遇するのは、二年の歳月を感じさせた。
「ザフトの中で困ったら、躊躇うことなく俺の名前を出せ、多生の無理も融通も利く」
「ああ、それは心強いな」
「心が強くなるだけでないぞ、俺は実態も強いのだ」
だから信頼しろ、と眼力で言い放つイザーク。アスランの記憶ではまだ露わだった顔の傷は、
大分薄れているようで、目立つほどではない。
「信頼しているさ」
「ハッハッハ――ほめても何も出らんぞ? 俺は――」
イザークは腕を組み、丘から見える町並みを眺めた。
天に向けて掠み行くほど高く屹立する主柱は、空を覆う薄膜の夜を天頂に結んでいる。
人工的に生み出される風がイザークの銀髪をそよがせて、その一景色へと溶け込ませた。
23/
「――俺は、このか弱い大地を、プラントを守って行きたいだけなのだ。
そのためにアスラン、お前が必要ならば幾らでも助ける」
「……そうか」
「連合が敵ならば、それをつぶしてプラントを守る」
「地球を?」
「連合を、だ」
プラントのために邪魔ならばアスラン=ザラであっても容赦なく討つ。
そうは言葉に出さない事が、示しうる最後の友誼であったのだろう。
「だが、連合がプラントのためになるならばその存続に全力を尽くすぞ?」
「現実的な意見をいうようになったな」
「お前は夢見がちなままだ。……もっともそのためには、連合の宇宙勢力は強すぎる。
もっと弱体化させなければいけないがな」
探り合う必要のない二人である。
「だが……俺は出来る事ならオーブとプラントと、そして連合も含めた平和を――せめて
拮抗した冷戦構造でも良い、作りたいと思っている」
「無理だな……」
「そうとも限らない」
「一人のMSパイロットに出来る事ではない――それは政治の領分だ」
「最善は尽くすさ」
「尽くす戦場が違うというのだ」
「……」
「アスラン――出来ない事は言わない方がいいぞ? 口に出してしまえば、
思いにあわない状況に陥ってしまったとき、迷いが必ず生じる」
「……だろうな」
「俺たちには、敵を前にして迷う暇など無いのだ」
それにな、とイザークは言葉を継いだ。
「戦場に立ち、銃を握る瞬間――心の引き金を引いた時と言い換えても良い。
お前は何を思っている、アスラン?」
「……そんなときは、何も考えられなくなるな、敵しか眼に入らなくなる」
「ああ。俺も何も考えられない……戦いの事以外は何一つだ」
アスランは、例えば親友と殺し合いに興じたときのような、心の殻が弾けた全能感の奈落を
焦熱が埋め尽くす瞬間を思い出している。
敵は的でしかなく、自分はそれを討ち取るための手段――人間性を排除した、一個の兵器。
確かに、そういう存在であった刹那が存在したのだ。
24/
「政治も主義も頭から離れ、味方と敵の事しか考えられなくなってくる――そうしなくては、
自分だけなら兎も角、部下を失うからな。死んだ戦友の事すらが、過去のものになるほどだ」
アスランがイザークの視線を追うと、一つの墓碑に、黒髪の少女が跪いている。
同じような影が霊園のそこかしこに散在していた。
「なあ、アスラン……軍人は人と言えども、銃を持った獣と対して変わらない……戦争がどれだけ
進歩しても結局の所、生きるのに邪魔な相手を殺すイキモノでしかないのだ。MSに乗っていては、
敵を叩き潰す事しか出来ないし、考えられん。それ以上はただの"ヒーローごっこ"でしかないのだ」
「ヒーローごっこ……」
「軍人の域を超えているのだ……無論、悪い意味でな」
イザークが口にするには意外な言葉でありながら、いざ聞いてみればしっくり来る。
「人間には分がある」
「分……?」
「そうだ。動詞をつなげるならわきまえる、という言葉が続く」
「領分か」
「分際というものだ」
一言で訂正を加える。
「オーブにある俺は、それを侵していると?」
「そうではない」
「なら……オーブのためにザフトでパイロットをしようという俺が、か?」
イザークは黙って首を縦に振った。
「なあアスラン、俺には今のお前が、立ち位置を間違えているように見えてならない」
「立ち位置……か、確かにな」
アスランは大黒柱のようにどっしりと地に足をつけたイザークの、その背に走る一本の
"スジ"を垣間見る。立ち姿に秘められた勢いは、今のアスランには、とても覆せそうもない。
「俺達コーディネーターがありとあらゆる生物の中で、どこに立ち位置があるのかは分らん」
「生き物の中で?」
イザークは首肯し、ネアンデルタール人を例に挙げる。今の人類と同時期に生まれ、生存権を争い、
そして滅びた、最も近い種である。
「コーディネーターは、人類が多様性の実験に使う踏み台か。違うだろう?」
「そう。違う――どちらかが犠牲にされる関係では無い」
あるいは、ナチュラルがコーディネーターを産むための母体となって歴史に埋もれるかも知れないし、
ナチュラルとコーディネーターがともに、その多様性を発揮する未来があるのかもしれない。
イザークはプラント=コーディネーターに都合の良い未来を夢見ているわけでは無い。
25/
「己で立つ二本の脚を持つのはコーディネーターというあやふやなものでは無い。ヒトだ」
「遺伝子の区別を取り払って、俺達自身がよって立つべき場所を決めるという事か」
「うむ……お前のように、な」
プラントにとってコーディネーターは不可欠だが、逆はそうでは無いと、
イザークはアスランを指差した。
「それに、先刻も言っただろう――」
「切羽詰まれば、政治は関係ない」
「ああ、コーディネーターでも死ぬ。戦友を殺す原因にもなる。ヒトとして前線に立つならば、
畢竟、俺達は二本足の獣に過ぎない――」
これはオフレコだぞ、とイザークはくぎを刺し、続ける。
「所詮は、相手が邪魔だからという理由だけで殺しに走る、野蛮なケダモノに過ぎんのだ、俺達は。
悪ければ邪魔ですら無い相手も殺す――畜生にも劣る迷惑な糞袋にすらなりうる」
「そこに理性は――?」
「無い。道具が高等なだけだ」
「二本脚の獣ならば、ならどうすればいい?」
「己の家族と巣を守る事に全力を尽くせばいい」
「敵が撃ってきたら、撃つしかないと?」
それは一度アスランが選び取り、そして後悔した道だ。同じ過ちを繰り返したくないからこそ、
アスランはここにいるのだ。
「いいや、違う――」
「じゃあ――やっぱり話し合うのか?」
「……よく狙って、それから撃て」
イザークは言うべきかどうか迷い、そして口の中で言葉を二、三度転がし、答えた。
「それでは、未来の為に必要な平和は訪れない」
「巣を失くしてから平和が訪れても、意味があるまい。それに平和を作るのは俺たちではなく、
別の奴らの仕事じゃないか?」
「意外な饒舌だな」
ヒト科の獣としての正道を歩もうとするイザークの言葉である。
イザーク=ジュール。この顔に向かい傷を持る白銀の狼は、プラントというとてつもなく
か弱く貧弱な場所を巣と定め、守る覚悟を決めている。
26/
「このような場所だ……普段は語れぬような事も口を衝く。すまん……説教臭くなった」
「……いいさ」
いましも迷い続けているアスランには、立ち位置を決める道しるべとして、これくらい揺るぎない
男が必要なのかも知れない。それに背くにせよ、準じるにせよだ。
「俺の望む平和は、プラントの勝利以外にあり得ない。アスラン、お前の理想とする世界は、
どのような色に塗られているのだ?」
眠る英霊達にも語りかけるかのように、イザークは口を開いていた。
「……さあ、どうだろうな」
自分の声は恐らく彼らには聞こえるまい、彼らの思いを受け継ぐ資格がもはや無いように、
アスランは場違いな自分に身震いを一つすると、アスランを睨み付けながら近寄ってくるシホに
うんざりとしながら、プラントの風にその身を吹かせていた。
彼らは見ていなかったが、その時街部では、プラント議長ギルバート=デュランダルが
プラントの"歌姫"ラクス=クラインと共に街頭テレビに現れ、地球連合への対応を説明していた。
「ところでイザーク。ジュール隊の隊長と副隊長が同時に休暇を取っていたりしていいのか?」
「現在、優秀な副隊長補佐代理が代わりを務めている! 心配するなぁ!」
同時刻、ジュール隊の戦艦ヴォルテールでは、ヘルマン=ミハイコビッチが過労死寸前の環境で、
書類整備に忙殺されていたが、奇跡的に不備は全く見当たらなかったことが記録されている。
OP.スピア・オブ・トワイライトが発動したのは、その四日後の事である。
地球に向けて旅立つ数多のザフトMSの中には、見慣れぬ真紅の機体が存在した。
SEEd『†』第十六話 『その日、炎』 了。
To Be Continued
以上、投下終了であります。
次は十七話。
感想、ご指摘がありましたらご自由にどうぞ。
それでは。
Gj!
ヘルマンwww
たねし彼女
━━プロローグ━━
アタシ
ラクス・クライン
だからさ
おぃィ
跪けよ
アタシ
ラクス
歳?
忘れた
数えるの
たるい
みたいな
彼氏?
まぁ
当たり前に
いる
てか
下僕?
みたいな
てか
アタシが付き従えて
あげてる
みたいな
下僕の名前
キラ
歳?
知らない
てか
キョーミない
顔?
まぁカエル顔?
性格?
まぁオタク
アタシが
変な男を
付き従える訳ないし
確定的に
明らか
みたいな
アタシ
昔
歌姫
だけど
飽きた
みたいな
てか
徹子の部屋
出れないし
呼べよ
タモリ!
みたいな
今
議長
してる
仕事?
たるい
だから
人まかせ
みたいな
だから
仕事しろよ
イザーク(笑)
みたいな
最近
イラつく
シン
つかえねぇ
シスコン?
みたいな
てか
目が
恐い
だって
赤いんだよ?
だから
カラコン
しろよ
マヂ
ありえねぇ
だから
死刑?
みたいな
地獄で
妹と
ヤってろよ
みたいな
投下終了
みたいな
”――私は、代表府来訪の目的と自身の名刺と共に、面会の約束をしていることを告げた。
その場でSPによる念入りなチェックを受け入れると、来賓用の客間へと案内される。
――待つこと、数分。だが私の未だ短い人生に於いて、五指に入るほどの最も長い待ち時間に
なることは疑いないことだろう。それ程、私はこの瞬間を興奮していたのだ。
理由は単純名明快。私のような駆け出しの若造であるジャーナリストが掴む事ができた、
千載一遇の機会であったからだ。こんなチャンスをものに出切るとは当時思っても見なかったのだ。
この時期、ジャーナリスト程、社会的地位が低い職種はないであろう。
その理由を挙げれば切りは無いのだが、大筋として例のラクス・クラインとその一味が関わっていた事は、
非公式的見解に基づく事となるが、ほぼ真実であろう。
ジャーナリズムの価値を高めるのがジャーナリストとすれば、それをまた貶めるのことが可能なのも
ジャーナリストであると云うことなのだ。
此処で、一つ際立った悪例を紹介しよう。
――”野次馬”の異名を持った得体の知れない武装パパラッチ達は、”自分の見た真実をみんなに伝えたい”
という欲望を正義の建前にして、押付けてきたその”真実”とやらは、テロ武装組織”ターミナル”の活動の援助と
あの”ラクス・クライン”に全面的に利したことによって、世界的規模でジャーナリズムの不信感を蔓延させていったのだ。
あの当時、各報道機関は、こぞってターミナルによる介入を受けて、ラクシズの掲げる正義。
即ち、”報道の真実”とやらを紹介していったものだった。
私も幼心にラクシズの”活躍”とやらに不覚にも心躍らせたものであった。だが、次第に鍍金は剥がれてゆく。
ターミナルやラクシズの情報操作が追い付かなくなって来た頃に、世界中でラクス・クラインの排斥運動が起こり、
そのため彼等は宇宙へと自分の住処へと逃げ出していったのだ。
時流という名の”怪物”によってラクス・クライン一党はそ、の虚像を自己の過剰へと昇華してゆき、
それが歴史の流れに対して大いなる歪みを与え、更にはジャーナリズム自身の存在意義すらも歪めてしまったのだ。
極端な例では有るのだがこのようにして、C・E年70代から90年代に於いて地球から宇宙へと版図を広げつつある
人類社会において、ジャーナリズムの公正さをこれほど失わしめた事件はないであろう。
”報道とは常に公正であるべき”という事実と捻じ曲がった”自由と正義”とが複雑に絡み合えばどうなるのか?
この一連の不祥事は、それを証明する一環となったのは事実であろう。
だが、私はジャーナリズムとは、そのような不正行為がある一方で、また真実を伝える事ができる
唯一の手段であるとも確信していた。
彼等によって貶められたジャーナリズムをいつか”真実を報道する”という本来の使命に戻す事が我々の、
そしてこれからのジャーナリズムを志す者たちの務めであろうと愚考する。
私はその為の活動の一環として、各国首脳部によるジャーナリズムに対する不信感を解く為に、
政治家や有力者、または官僚達に向って報道の利点を説く事が必須と考えていた。
現在、宇宙へと生活圏を広げた人類ではあったが、先に述べたように報道機関の権威や信頼の失墜は甚だしく、
少しでもジャーナリズム関連の者だとわかると即座に”テロリストの手下”や”犬”扱いされるのが現状なのである。
ジャーナリズムがテロリストの走狗となった記憶がまだ、人々の間には生々しく残っているからであろう。
私はジャーナリズム=テロリズムが同意義と結びつけられ、世界に混乱を起こす元凶のように語られることは、
常に真実の報道を心掛けていた大いなるジャーナリストの先達に対して申し訳が立たないのだ。
その為に僅かな機会でも飛びつき、己の危険を顧みずに行動する事こそが是となるのだろう。
そして、その機会の一つとして、まさかこのように大国の宰相と知己となる機会を得ることができるようとは。
――扉が静かに開くと、室内に一人の老翁が入室して来た。
頭髪は雪のように白く、その顔には深い大木の年輪の如く深い皺が刻まれているが、逆にその双眸は
深く大海の深淵ともいうべき澄んだ色があり、全体として超然とした雰囲気を纏わせていた。
――カズイ・バスカーク卿。
これが、私と太陽系三大強国の一角であるオーブの大宰相を務めた建国の元勲との最初の出会いであった。
余談であるのだが、私は緊張のあまり、頭を下げようとした際にテーブルに足をぶつけて、備えてあった
灰皿を落とすという失態を卿に曝け出してしまった。
私が間抜けにも、痛みの為に声も出せずにいると、卿は闊達に御笑いになられ
「そのように緊張することはない。私は見ての通り政府の公職から身を引いて、
只今は相談役の地位にある一介の老人に過ぎぬ」
その荘厳な表情が和らぎ、近所に住む親しい隠居のような雰囲気を醸し出していた。
そこに秘書が入室して来て、薫り高いコーヒーを運んで来たので話は一時中断した。
バスカーク卿は、カップに一口着けると、
「若い時はたくさんの失敗を重ねるものだ。だがそれは決して汚点となるものばかりではない」
「……はい」
首肯せざる得ないのだが、若かったのだろう。この時、卿に対してある種の反発感が湧いてくる事を
抑える事ができなかった。私はこの瞬間、卿を多くの老人の共通にある老害の愚痴であろうと傲慢にも解釈していたのだ。
「――私も若い頃はそれは酷い失敗のや苦い敗北の経験を重ねてきた」
卿を老害と侮っていた私だが、次の瞬間その悠揚極まる雰囲気に圧され萎縮していたのだ。
……やはり器が違う、と改めて考え直す。浅慮な若造が太刀打ちできる相手ではないのだ。
片や駆け出しのジャーナリストに元とはいえ、地球連合強国へ名を連なる太陽系国家の一つ、
大国オーブの大宰相なのだ。
「――それが、今の私を形成していると思えば、そう悪いものではないと、思っている」
「はい……」
このようにオウム返しの返答をするよりなく、卿の視線を私はまともに直視することが叶わなかった。
卿の全てを見透かすような深い眼差しは、私の浅慮をとっくに見通しておられたのだろう。
この時、居た堪れない感情に私は支配されていた。
「このような引退した老いぼれを貴公のような若い俊才が、尋ねてくれる事の方に私は意義を感じる」
卿はその私の無知に対しても、鷹揚であり、逆にそのことを逆手にとって私の緊張を
和らげる材料としてくれたのだった。
やはり、人物が違う。この人は歴史上の人物としていずれ、その名をを偉人史に刻む人物なのだろう。
いわば、歴史上の人物と対面するという後世の歴史家の立場から見れば私は垂涎の的となる。
そう考えるてみると、不思議と同時に誇らしさをが湧き上がって来たる。
※この会合の遥か後年に、この手記を整理しながら、再びペンを動かしているのだが、
その時の光景は、晩年になっても色褪せることはなかった事を追記しておく。
――中略。
……卿は、この時代で私が今まで出会ったどの人物よりも、剛毅と風格を兼ね備えた偉大な人格であった”
J・J・ミラン著 C・E199年度出版 ”G・F・ミラン手記”から抜粋
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――C・E83 6月27日オーブ軍・財務部門兼後方総勤務本部長室――
この財務部部門兼後方総勤務本部長室こそが、心臓部と云えるべき存在であろう。
財務部はその名の通り、国庫という名の心臓から財務と言う名の血管を通し、資金という名の
血液をオーブ全体に潤滑に送り込む極めて効率的で実務的なシステムを構築しているのだ。
少し前まで、室内は雑然とした雰囲気の中ある種の、不安感に満ちていた。
プラントを支配するラクス・クライン一党から停戦条約集結直後からの突然の宣戦布告。
そして、電撃的な太陽系辺境〜中央回廊への侵攻とそれに伴う、オーブ各宙域の拠点衛星基地の
攻略とその防衛の要である軍事衛星ヘリオポリスUと第二機動艦隊と第三機動艦隊の壊滅。
一時期、オーブ政軍内で大混乱が起きる。新生オーブとしては、ここ近年に稀に見る
大敗北を喫してしまったからである。
だが、この財務部門は他の代表部門と比べてそれなりの平静さを保っていられるのは、
この部門の総括責任者によるところが大であろう。
一時、ざわめいていた士官達に向って、
”この程度で、我が国はビクともせん”
特にその一言で沈静化させたことがである。
有言実行の人である後方総勤務本部長・カズイ・バスカーク少将がそう仰るならば……と。
破綻寸前の国家財政を建て直し、時代遅れのモビルスーツによって成り立っていた脆弱なオーブ軍を
最先端の近代兵器であるモビルアーマー等の機動兵器群の配備等、新時代に於ける宙域戦闘可能の
軍団に転換できたのは、全てこの人物の運営能力といっても過言ではない。
その、バスカーク本部長は先の大敗北を眉一つ動かさずに冷静に受け止め、上記の至言を放ったのは
正しく、オーブにとって僥倖であったのだ。
これによって政府内部の政務文官と官僚達の不安が激減したのは確かであった。
しかし、後にその一言を放った人物は、”それは事実であり、特に気負う必要もなかった”と証言を残している。
”私は国家に於ける正確な数字を把握していただけであり、この程度の被害など挽回が可能だと
既に自身で解答を出していた。
明確な解答が既にそこにあるのに、何を闇雲にラクス一党ごときを恐れる必要があるのか?と”
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――C・E年代記偉人録・オーブ編から抜粋 C・E172年度 国際学術会 第29版発行より
384 :
戦史:2008/10/06(月) 18:48:34 ID:???
ご無沙汰してます。長くなりそうなので分けました。
次回また投下します。
>>384 戦史キタ━ヾ( )ノ゛ヾ( ゚д)ノ゛ヾ(゚д゚)ノ゛ヾ(д゚ )ノ゛ヾ( )ノ゛━━!!
待ったかいがあった GJ!!!
>>たねし彼女
投下乙
みたいな
>>戦史
少年は成長するも……カズィ翁ぅ――!?
予想外のバスカーク卿に、とても驚いてしまいました。
>>戦史
投下乙です。
カズィが歴史に名を残すオーブの宰相になっていたり、その取材の手記が
本編から一世紀以上も後に整理されて出版されたり、スケールが本当に
大きな作品だと思います。