【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】14
白い暴動を青春時代に聞いたとしたら、何歳なんだ?
いや、別に今高校生や大学生くらいの年代の人で
初めて尾崎やら陽水やらを聴いて嵌まっちゃうような人はいるので、
青春時代にクラッシュやらセックスピストルズやらを聞いた20代もいると思うよ?
hate and war
“Hell W10”
プラントの兵隊、ヤツらはパナマで出合った虫けらを撃ち殺したがってる。
ロゴス供の持ってる金は世界中のお偉いさんに戦争拡大を訴える。
訴えるどころの話じゃない、実際に命令だって下してる。
戦争にはうんざりだ! だけどオレはなにも出来ない。
オーブのカガリはいつもテレビに出てる。なにしろ人気とりが趣味のヤツだ、政治させるよりはマシだろう。
プラントのラクスは影武者の方がマシだった。なんせ偽者はただのキャバスケだ。なにもしないだけ本物よりもまだマシだ。
政治なんてうんざりだ! だけどオレになにが出来る?
搾取! 弾圧! もううんざりだ!
カムバック、カビ臭いコミュニズムのデュランダル!
カムバック、軍国主義者のパトリック!
マーシャンなんて知らない、謎の一族なんて尚更だ。
誰が救世主なんだ、それともいないのか!?
良く分からないモノ投下。
私は中学生の時にクラッシュに出合った20代ですがなにか? なにかしら?
>>真言
マニアックな元ネタだね。タイトルは例の無音声映画?貴方があっち側の人間だと再認識した。
怒りにが滲み出る文章は好き嫌いが分かれるので程々に。とは言え、これが貴方の借り物ではない素の文章なんだろうね。
出来ればもそっとうちひしがれた虚無感を出して貰いたかったかな。その方が“らしい”文章になる。
今後の課題は怒りを抑えてもっとクールに、だね。
今回のはかなりひとりよがりになってるから気を付けるべき。
個人的には面白かった。
何かに誘われるかの様に、シンは一際高いビルの屋上へと向かっていた。
ギィ、と立て付けの宜しくない冷たい鋼鉄製の扉を開くと、生温くて生臭い風がシンの頬を撫ぜる。
ゆるりとフェンス際まで歩を進めると、フェンスは御飾り程度の物であり、シンの腰程度の高さだ。
俯瞰する街の景色は遠く、現実感を感じさせはしない。
視界の限りに広がる無機質な街からは、窒息しそうな程な息苦しさを感じる。身を投出せばプラントの偽りの空を掴めそうな感じだ。
――クスクス。
何処か聞き覚えのある、懐かしい様な、耳障りな、幼い少女の笑い声をシンは聞いた。
周囲を見回しても誰もいない。気のせいだな、と思い頭を振ると風の生臭さが一段と増し、シンの不快感を加速させる。
――気付かないの、お兄ちゃん。
気のせいではない。今度は確実に聞こえた。誰もいる筈のない、フェンスの向こう側からだ。
――ビュッ。
風がそよぎ、宙でまどろむ。見える筈のない風がシンの網膜に映る。
ゴシゴシと目を擦り、その一点を凝視すると、そこにはうっすらと透き通った少女の輪郭が見える。
冷たい汗がシンの背中を濡らして、下着がへばり付く。
マユの冷たい宣告に、シンの頬に朱が差す。
「俺は人殺しを楽しんでなんかない!」
「それも、嘘。そうでなきゃ何人も殺さないでしょ。」
「――違う違う違う違う違う違う違う!」
熾りの熾きた様に体を動かして、シンは誰となく、それとなく叫んだ。
「交わる事のない平行線、お兄ちゃんと私みたいだね。マユにはお兄ちゃんの言葉は届かないし、お兄ちゃんにはマユが冷たい賽の河原で味わった苦しみは分からない」
クスクスと嗤うマユが手招きをすると、シンはあがらう事の出来ない力で引き寄せられる。
足を踏ん張り、フェンスを掴み見えない力に逆らうが、引きずられる様にシンは宙へと引かれて行った。
「なんで、なんで!」
恐怖に打ち震えるシンに、マユは唇を歪めて嗤う。
「なんでって、祟り。お兄ちゃんはマユを供養してくれなかった。それが理由。
ごっこ遊びの戦争なんてしてないで、御線香の一本、御供えの一つを供えてくれれば良かったのに」
シンの瞳が大きく見開かれ、狂気の色に染まり、獣の様な叫び声を上げる。
「バイバイ、お兄ちゃん。――あの世で会おうね」
マユの冷たい宣告に、シンの頬に朱が差す。
「俺は人殺しを楽しんでなんかない!」
「それも、嘘。そうでなきゃ何人も殺さないでしょ。」
「――違う違う違う違う違う違う違う!」
熾りの熾きた様に体を動かして、シンは誰となく、それとなく叫んだ。
「交わる事のない平行線、お兄ちゃんと私みたいだね。マユにはお兄ちゃんの言葉は届かないし、お兄ちゃんにはマユが冷たい賽の河原で味わった苦しみは分からない」
クスクスと嗤うマユが手招きをすると、シンはあがらう事の出来ない力で引き寄せられる。
足を踏ん張り、フェンスを掴み見えない力に逆らうが、引きずられる様にシンは宙へと引かれて行った。
「なんで、なんで!」
恐怖に打ち震えるシンに、マユは唇を歪めて嗤う。
「なんでって、祟り。お兄ちゃんはマユを供養してくれなかった。それが理由。
ごっこ遊びの戦争なんてしてないで、御線香の一本、御供えの一つを供えてくれれば良かったのに」
シンの瞳が大きく見開かれ、狂気の色に染まり、獣の様な叫び声を上げる。
「バイバイ、お兄ちゃん。――あの世で会おうね」
――落下。
シンはアスファルトに真紅の大輪の花を咲かせて動かぬ無数の肉片となった。
手足は中心に重なり合うように、まるで白い花弁の様に鮮血の花びら飾り立てている。
ひしゃげ潰れた頭は、もはやシンの面影等なく、無貌の仮面の様である。
――うらめしや、お兄ちゃん。地縛霊になったら許さないから。
未だ宙に佇むマユの唇の動きは、シンの瞳には映る事はなかった。
――幕。
――ベタン。
ルナマリアはつまづいて前に倒れた。目の前にはシンがいたが、彼は決して彼女を助けようとはしなかった。
そして、倒れた状態であるルナマリアに手を差し伸ばそうと間しない。
その事に付いて、ルナマリアは彼に非難がましい視線を送る事によって苛立ちをぶつけようとした。
だが、彼女の周りには誰もいなかった。先程までいたシンはルナマリアを無視して先に行ってしまったのだろう、とルナマリアは結論付けて立ち上がる。
埃に塗れた服を乱暴にはたく。
「根性、根性、ど根性だ〜い」
と、間近でシンの声が聞えた。しかし、周囲にはシンの姿は見えない。
――新手の嫌がらせ?
ルナマリアは頬を膨らませて朱に染め上げる。
シンは何処かに隠れていて、ルナマリアの醜態を嘲笑っているのだ、と思うと自然に握り締めた拳に力が入る。
「おう、ルナマリア。寿司が食いてえ」
「一人でお寿司でも食べれば? アンタなんか知らない!」
往来を行き来する人達はルナマリアを怪訝そうに見つめる。
そんな周囲の視線に気付くとルナマリアは、オホホホホホ、と何かを誤魔化す様な猫撫で声で笑い、路地裏に消える。
「ああ、もう最悪!」
ルナマリアは路地裏のブロック塀に拳を打ち付けて、その怒りを発散させた。
だが、幾らザフトの一員として身体が鍛えあげられていても、乙女の柔肌からは赤い血が滲む。
「……根性、根性、ど根性でぃ!」
「いい加減にしてよ! 何処まで私を馬鹿にすれば気がすむワケ!?」
堪えていた怒りが堰をやぶった様に溢れ出る。だが、それと同時に惨めさも浮かび上がってくる。
ツウッと涙が頬を伝わり、雫となって地面に墜ちた。
「根性、根性、ど根性だ〜い!」
脳天気なシンの声にルナマリアはキレた。
獲物を狙う猛禽の様な鋭い目付きになり、周囲を見渡す。そして、姿を見せないシンの気配を感じようと意識を集中させる。
影も形も見えない。でも、呼吸音は聞こえる。
――とても間近。すぐ近く。
更に耳をすませると、吐息の音はルナマリアと重なっている。
――まさかまさかまさか!
ルナマリアは自分の胸部を見つめる。
人並み以上の大きさを持つ二つの膨らみの下に、シンはいた。
平面シンとして。
どっこい生きてる、シャツの中。
――幕。
リソウノカケラ
“crying locust”
すぐ後ろに立ち声を掛けた私に、カガリは驚いた様な、惚けた様な顔をした。
「あ、ああ。なんでもない。なんでもないんだ」
カガリは乱暴に服の袖で涙を拭い微笑む。無理をして笑ってるのが手に取る様に分かるその笑顔は、とても痛々しい。
だけどそれよりも、富貴の身の人ならば涙を拭うのならばハンカチを使えばいいではないか、と少しばかり幻滅してしまう。
でも、それがカガリなのだ。そして、気取る事なく有りのままに生きるカガリは、ある意味私の憧れだ。
カガリは常にカガリであってそれ以上でもなくそれ以下でもなく、カガリのまま。
自由である事が有り得ない身分なのに、だ。
人は世間知らずだとか、ただの我が儘と悪く言うかも知れないけれど、私はカガリの自由さに憧れる。
私は散歩する程度の自由しか持ち合わせていないし、箱庭の人形として仮面を被って生きている。
素顔なままのカガリには、嫉妬してしまう程に憬れてしまう。
「でも、心配だよ。だってカガリは泣いていたから」
カガリは涙で濡れた瞳で私を見つめて、私の肩を抱き寄せた。
「……ごめん、ごめん……」
すぐ後ろに立ち声を掛けた私に、カガリは驚いた様な、惚けた様な顔をした。
「あ、ああ。なんでもない。なんでもないんだ」
カガリは乱暴に服の袖で涙を拭い微笑む。無理をして笑ってるのが手に取る様に分かるその笑顔は、とても痛々しい。
だけどそれよりも、富貴の身の人ならば涙を拭うのならばハンカチを使えばいいではないか、と少しばかり幻滅してしまう。
でも、それがカガリなのだ。そして、気取る事なく有りのままに生きるカガリは、ある意味私の憧れだ。
カガリは常にカガリであってそれ以上でもなくそれ以下でもなく、カガリのまま。
自由である事が有り得ない身分なのに、だ。
人は世間知らずだとか、ただの我が儘と悪く言うかも知れないけれど、私はカガリの自由さに憧れる。
私は散歩する程度の自由しか持ち合わせていないし、箱庭の人形として仮面を被って生きている。
素顔なままのカガリには、嫉妬してしまう程に憬れてしまう。
「でも、心配だよ。だってカガリは泣いていたから」
カガリは涙で濡れた瞳で私を見つめて、私の肩を抱き寄せた。
「……ごめん、ごめん……」
泣きながら謝ってくるカガリをあやす様に、彼女の頭を撫でる。
金色の髪は手入れが行き届いていないのか、少しばかり痛み気味だ。それはそれでカガリらしいと思ってしまい顔が綻ぶ。
暫くして落ち着いたのか、カガリは呟く様に、囁く様に私に話を始めた。
政治の話、日々の不満。
――そして、悔恨の言葉。
カガリは自分を責めている。戦争で失われた命の事、不安定な政治の事。
私には余りにも難し過ぎて、半分も理解する事は出来ないけれども、カガリは悩み苦しんでいる。
私は慰めの言葉を一つも持てずに、ただ、彼女の頭を撫でる事しか出来ない。
そして、カガリは私の足元に崩れ落ちる。どうしたら良いのか、と戸惑う私はカガリの言葉に凍結した。
「――マユとシンを会わせる事が出来なかった」
何故カガリが私の兄の名前を知っているのか、と言う疑問よりも、カガリが兄と私を会わせようとした事が、私の動きを封じたのだ。
カガリとプラントの歌姫は懇意であるという事は、箱庭に訪れた客から聞いた事がある。
兄もいつか見た限りでは歌姫と懇意みたいだから、兄とカガリが見知っていてもおかしくはない。 問題は、兄と私を会わせようとした事。
今の私は素姓がよろしくない。でも、兄は違う。
兄は今の私を知れば幻滅するだろうし、私の存在は兄の足枷になるかも知れない。
会わない方が良いという私の結論を、カガリは簡単に覆してくれた。それは非常に腹立たしい。
それをぶつけようとしても、泣きじゃくるカガリに追い討ちを掛けてしまう様で気が進まない。
私はそこまで人でなしにはなれないし、そうしたら私は心醜い私を嫌いになってしまうだろう。
しゃがみ込み、今度は私がカガリの肩を抱き寄せる。
「辛い時、悲しい時は泣く方が良いよ。思う存分、泣いて」
夕日が沈みきるまでカガリは泣き続けた。そしてポツリポツリと兄の事を話始めた。
私は黙って聞くままで、言葉を発する事なく純粋に聞き手に回る。
いつしか戻らなければならない時間が過ぎた。別れの時間だ。
私がそわそわとし始めると、カガリは再び私の時間を止めた。
「もう遅いから、送る。せめてもの、私の気持ちだ」
カガリには、箱庭の人形の真実を知られたくない。私の気持ちを知ってか知らずかカガリは無邪気な笑顔を向ける。
――季節外れの蝉の声が、途絶えた。
to be continued.
やっとリソウノカケラの続きを投下出来ました。
この続きは未定。
マユ自ら箱庭をでるのかあるいは出されるのか、はたまた箱庭の方が壊れるのか?
続き期待してます
hate and war
“Give'en Enough rope”
もしも権力者に良心があるというのなら、奴等にロープを渡してみろ。
奴等は良心に従って、ためらわずにロープで自分の首を括るだろう。
奴等に良心がなければ、俺は奴等にロープで首を括られるだろう。
ようやっと長く続いた戦争が終わったというのに、あいも変わらず政情は安定しない。
まあ、頭が変わっても中身が変わってないから仕方がないのかも知れない。
税金は高いし、雇用保険の支払いはかなり前から滞ったままだ。
物価だけは右肩上がりで、とにかく住みにくい事だけは確かだ。
金がなければないなりに暮らせと昔の人はいうけれど、それを実行したら俺はそこら辺の何処かでくたばる羽目になる。
政治というシステムは複雑怪奇で、僅かな少数の『持てる人々』を幸せにする。
だけど多数の『持たざる人々』は幸せにはなれない。
現実を現実として認めよう。綺麗事じゃ腹は膨れない。
今必要なのは立派な理想よりも一欠片のパンだ。牛乳が付いていたら文句なしだ。
ところで、ラクス・クラインは大通りのいとろかしこに張られているポスターの中でニッコリ微笑んでる。
気にいらない話じゃないか。
奴は良いもん食べてるのか顔色も良い。もっとも、修正が入ってなければ、の話だが。
それに引き換えて、俺は青息吐息どころか虫の息だ。
腹立ち紛れに奴のポスターの額に肉の字を書く。
勿論書く物、ペンの類なんて買う金がないから、指先を噛み千切って書く血文字だ。
髭を書きたいがなにより奴には赤い髭は似合わない。似合うのは青い髭だ。
だから髭を書くのは諦めた。
なんにせよ、生きる事に未来はないし、未練なんて尚更ない。今のままじゃただの生ける屍にすぎないのは事実。
どうするべきか。悩む事なんてない。
何か行動を起こしたくても、腹が減っては戦は出来ない。
何もしないで野たれ死ぬしかない。
もし、俺に運があるのならくたばる前にラクス・クラインが俺を見つけて鱈腹飯を食わせてくれるだろう。
だってほら。俺はラクス・クラインを知ってるんだから奴だって俺を知っていてもおかしくないだろ。
――知ってりゃ憐れんで何か恵んでくれるはずさ。
血迷い短編投下終了
>>hate and war
投下乙です。
最初三行の言い回しが印象的で、とても気に入りました。
庶民的な恨みつらみでポスターに落書きをするあたりが、
等身大の憎しみを感じさせてくれます。
またの投下をお待ちしております。
『鏡』
「どうしたんだ、鏡なんかじっと見てさ」
唯一の肉親であるカガリ・ユラ・アスハの声に、少年は我に返った。
ぼんやりと周囲を見回し、自分が戦艦アークエンジェルの医務室にいるのだと、
時間をかけて、ゆっくりと思い出す。
いつの間にかベッドから起き出し、洗面台に備え付けられた鏡と向かい合って
いたらしい。頭に包帯を巻いた自分が、眠たげにこちらを見ている。
「絶対安静だって言われたじゃないか。お前、頼むからこれ以上心配させてくれるな。
フリーダムが墜とされたときは、本当に死んだかと思ったんだぞ」
墜とされた――その言葉に、もやが掛かったような思惟の中から一つの記憶が
浮かび上がってきた。圧倒的な気迫、こちらの癖を知悉した猛攻。
そうだ、僕はインパルスに負けたんだ。
「こっちの心臓が止まるかと思ったよ、まったく。だからさ……まだ寝てろって!」
ぐいぐいとキラをベッドの方に押しやりながら、彼女は返事を待たずに喋り続ける。
根負けした弟がいそいそと布団にもぐりこむのを確認すると、一仕事終えたように
なにやら勝ち誇った顔をして、うんうんと嬉しげに頷いた。
「しかし、お前はやっぱり並外れて丈夫にできてるんだな――なんだ、嫌な顔をして。
私は弟の無事を喜んでるんだぞ? お前の生まれについて皮肉ってるわけじゃない」
キラの目が語る無言の非難にさっさと弁解を済ませ、彼女は続ける。
「なにしろルージュでお前を助けに行って、ハンガーでコックピットを開けたときは、
シートもコンソールも血まみれで、お前自身も虫の息に見えたんだからな。
それが集中治療室に運ばれて、少ししたらどうだ。『命に別状はありません』だって?
こうして見ても、運び出されたときより傷が少ない気がするよ……」
自分の生還を心から祝ってくれているらしい姉の前で、キラは「ああ、それはね」と
心の中で答えた。
“そのときの僕”はきっと、確かに致命傷を負っていたのさ。
「じゃあ、絶対安静にしろってことだし、ちょっと寝させてもらってもいいかな」
「そうだな。人がいても寝づらいだろうし、私はこの辺で退席するよ。それとも
……お姉さんに寝かしつけて欲しいというんなら、一向に構わんが?」
「遠慮します! オーブの理念にかけて、他人の安眠を妨害しないでよ」
苦笑しつつ、部屋を出て行こうとしたカガリが、ふと足を止めて訊いた。
「そういえばキラ、さっきはなんで鏡なんかと睨み合ってたんだ?」
すると弟が背を向けて「なんでもないよ」と、いかにも眠そうに返したので、
彼女はそれ以上追求することなく、今度こそ医務室を出て行った。
世界との繋がりを遮断するように閉じたドアを振り返り、音もなくベッドから出た
キラ・ヤマトは、再び鏡の中の自分と向かい合った。
もう眠気はない。僕は完全に覚醒している。
「なんでもないさ。本当になんでもないんだ、カガリ……」
眼前に映る己の似姿は、どこか寂しげな笑みを浮かべている。しかし果たして、
こちらにいる自分も同じように笑えているだろうか?
少年は己の独語に二の句を次いだ。
「ただ、ここにいるのが何番目の『キラ・ヤマト』なのかと、それを考えてただけさ……」
<了>
n人目キラ説を元に1レス短編を一本。
「フリーダムを落とされたら僕は〜」とかのくだりは無かったものと考えております。
>>『鏡』
GJ!
描写も分かりやすいし上手く纏まってる。
しかし視点を統一させた方が良かったと思う。
でも、不条理なオチを突き詰めてキラ視点で書いているのは秀逸。
出来ればもっとやるせなさを感じさせて貰いたかった。
>>“Give'en Enough rope”
GJ!
上の人も言ってるが最初の三行がとても印象に残った。
惜しむらくは話の本筋とは関わりがなかったところか。
元ネタ探しをすると青い髭は青髭で良いのかね。
タイトルは……いつもの様に洋楽からか。
全編通して感じる暗い閉塞感はプラントと言うよりもイギリスみたいだと思うがどうだろう。
>>『鏡』
投下乙です。
n人目キラ説は2ちゃんねるでは頻繁に出てくるネタですが、
複製されているのは自覚しつつもそれを客観視できないキラ、
という視点で描いているところにうまさがあると思いました。
欠点といえるのは上の人も書いていますが、カガリが部屋を出る瞬間に
視点をキャッチボールしています。唐突だったので違和感を
覚えてしまいました。
またの投下を期待しております。
>>[[鏡]]
文章には何も恐ろしい言葉や表現は無いはずなのに、言葉に出来辛いこわさを感じたよ。
キラに自分が何人目かのキラか、自覚があるっぽいところが特に…。
乙です。
>>鏡
ホラーっぽく仕上げてあって面白かった。
>>鏡
ラストの淡々としたキラのセリフが雰囲気に合ってて良い
ふらっと入ってこれだけ読んだんだが
「いそいそ」って楽しい時に使う表現だよな…?
たまに訳の分からない状況で使われてるのを見かけるが
慣用句としてもおかしいと思うよ…
小さな島に風が吹く
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(1/8)
「――それと、eqip2の中に先日お話のあった新規の反応予想の試作品を2種類、
作ってみたので入れてあります」
コーネリアスが説明をしながらダークスーツの女性に徹夜で作ったディスクを渡す。
「2種類も? 今日、間に合うとは思っていませんでした。その、言葉は良くないですが
凄まじいスピードですね。流石主任です」
黒い長い髪に黒縁のメガネ、あまり抑揚を感じないその女性は中央行政府から定期的に
やってくるエージェントの一人で、機密管理等を主な仕事にしているカトリーヌ・クロゥ。
細い顎も相まって、あまり人好きのするタイプではないが美人ではある。そして見た目に反して
機械工学に明るい。
コーネリアスは彼女が連絡員として来ることを、だから好んだ。少なくとも要らない説明をする
手間は省ける。
「まぁ、正直まだ遊びの範疇でして。それを見てもらって基本ラインだけでも決めて貰えれば
設計方針が立ちます。今回については五里霧中なんですよ、ホントに」
何を作っているのかわからないなりに彼女は見当を付けていた。さわれる部分はかなり
限定されるのだが構造やプログラムの方向性の癖から行けば、たぶんG計画100系のOS
に近いものだと決めつけて色々作っている。
実際、アークエンジェルのヤマト少尉からフィードバックされたX105のV3以上がベースなのは、
ほぼ間違いない。それを決めつけた時点から明らかにリテイクが減った以上間違っては居ない
のだろうが、どう見てもナチュラル用OSである以上、今更連合X系のOSを改造(いじ)るくらいなら
アストレイP02あたりのデータを手直しした方が早い……。
「外は今日も暑いですよ? イタバシ主任は肌が綺麗だから日焼け対策が大変そうですね」
急にどうでも良い話題で物思いから呼び返されて、しかも外、と言われて自分は外に
出られないコーネリアスは少々カチンと来た。
そんなに暑いなら上着を脱いだらどうです? 思うだけに留めてそれは口に出さない。
前に彼女の上着の隙間から皮のベルトが見えたことがあるのだ。彼女はパンツスーツは着ない、
そして彼女の所属、それを考えればサスペンダーの類で無いのは明白だ。上着のサイズだけが
若干大きめで合わない様に見えるのもその所為だろう。だから。
「此処にいる限り外には出ないで生活全部すみますからね。それに徹夜ばかりでお肌は
もうボロボロ……。素顔じゃ外に出らんないわぁ、あは♪」
と普通に受けた。クロゥが疲れの見える彼女に気を使って、雑談を振った事に思い至った
事もある。そもそも生活臭など微塵も感じさせないクロゥが、世間話を振って来ること自体
あまり無いことではあった。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(2/8)
「データは間違いなくお預かりしました、ありがとうございます。私は下の工場を回ってから
帰りますので今回はコレで」
クロゥが日本式の作法通りのオジギをしながら、そう言ってコーネリアスの部屋を出たのは
どの位前になるのか。ちょっとした修正をしようとディスプレイを覗き込んだ彼女はそのまま
作業に没入していた。
「イタバシ主任! まだ居たのですか!! 先ほどの放送、端末にも緊急メッセージ送って、
聞いて、見てないんですか!」
いきなり前触れ無しにドアが開くと、いつも彼女がIDチェックを受ける初老の警備員が
息を切らして立っている。
「放送、壊れてるって一昨日ジャックに言ったんだけどなぁ。それにこっちの端末は
いま完全スタンドアローンだから……。おじさん、いったい何があったの? 火事?」
「とにかく大至急ここを出ます! 主任が最後です! 船はもう間に合いませんので
駐屯地まで走ります!! その端末だけ持てばいいんですね!? 山道を走りますよ!?」
彼女は全く無視され、機密が満載の端末を電源の入ったまま持ち上げようとする警備員。
「ちょっと、おじさん! ヤルタ警備主任!! それは――――っ!?」
部屋中が震える様なガーンという音が響くと、警備員は彼女の机を抱きかかえるように
ゆっくり崩れ落ちる。
「危機管理という面では以外とまともだな……。アナタが責任者か?」
茶色と黒の迷彩服にサングラスの男がコーネリアスに問う。彼の持つアサルトライフルの
銃口から煙があがる。警備員が倒れた床に赤い液体が少しずつ広がっていくのを見て、
漸く彼女は理解した。
何だか良くわからないが私は逃げ遅れたらしい……。何故冷静にそんなことを思えるのか
自身で理解が出来ない。
「所長はオノゴロの本社で会議です。序列から行けば私は5番目だからそんなに偉くないです」
「エライ必要はないのだがね。キィコードを教えてくれればそれで良い。隠せば非道い目に
遭わせなくてはいけなくなるんだが、年頃のお嬢さんにそう言うことを強いるのは趣味じゃない。
出来ればやらせないで欲しいものだな?」
「非道い目には遭いたくないです。けれど、所長しか知らないことを私がお教えする事は、
そもそも不可能だと思いませんか?」
クロゥはもう逃げただろうか。美人でしかも諜報畑の人間だ。所属がこの手の連中にバレれば
只では済まない。
「何処にいるのかわかっているなら連絡して貰おうか。繋がれば俺が変わる、アナタは
所長と繋いでくれれば良い」
つい本社などと口走ってしまったことを後悔するコーネリアス。だが死にたくない以上は
所長に電話に出て貰う。弔慰金なんか貰ったって死んだらブーツもバッグも買えやしない。
そう思うと意を決してボタンを押そうと受話器をデスクから取り上げるが…………。
「あの、通信制御室とか端末制御装置とか壊しました? 発信音、しないんですけど……」
と言いながら彼女は心当たりに目を走らせる。デスクの下、既に絶命したであろう警備員の
右手がセキュリティの為のカットアウトスイッチの部分を隠すように伸びている。
最後までプロだったんだね、おじさん。ゴメンね、私の所為で……。彼女は目線をそこから
外して受話器を戻しながら心の中で手を合わせる。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(3/8)
「いいや、機器は壊しては居ないぞ? この部屋だけつながらないのではないのか?」
「そんなに大事な部屋に見えますか? さっきも言いましたけど偉くないんですよ、私」
コーネリアスは困った顔を作ると男に向けて見せた。警備員の意志をついで全館通信不通
で押し通さなければなるまい、と彼女なりに決意をする。もとより無線も携帯も届かない島である。
通信が不通ならばパスはわからずデータも引き出せない。
ならばシステムごとごっそり持って帰るより他に無いのだが、記録媒体の本体はこの建物の
場合は大きなホール一つ分である。大事な部分は確かに小指一本だろうが強引に外せば勿論
保存されたデータは自壊する。だからといって諦めて素直に帰る訳もあるまい。
男が次にどんな行動を取るのか読みかねる彼女。
「……あぁ、いったん退くしかあるまい。表のヘリはどうだ? ……わかった。人質が居る。
俺とスミダがヘリだ。……? 面白いな、動かせるなら好きにしろ。――お嬢さん、悪いが
所長と連絡が取れるまで俺につき合って貰うぞ?」
男がなにやらトランシーバーに話すのを聞くともなく聞いたコーネリアスは、銃口を突きつけ
られているとは思えない程自然な動作でオレンジのブルゾンに袖を通しながら男に話しかける。
「ヘリコプターに、……乗るんですよね? 私も」
あぁ、私は死にたく無いから次の行動を冷静に考えているんだ。と、そう思い当った彼女は
自分を情けなく思った。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(4/8)
「……だったら手紙でも出したらどうだ、女性は以外とそういうのに弱いぞ。今回は
真面目にモノにしたいんだろ?」
「そりゃそうだが、そんなガラじゃねぇしなー。あっちも仕事、忙しそうだしさ」
岩場にまたしても煙草をくわえて座る二人。砂浜に目をやればカエンを乗せてきたヘリの
パイロットが備品の非常用シートを敷いた上でどうやら本格的に寝入っている。
「ま、女なんざ星の数。人口の半分は女だろ? それにココだって僻地ではあるが妙齢の
お嬢さん方ならばあそこに……」
研究所の方向を振り向いたダイがしばし固まると、首にかけていたインカムをズリあげる。
「煙が出てる! ――中隊司令室、特機小隊長ジョーモンジ二尉より至急電、応答乞う!」
『司令室フジワラ士長了解、現在研究所警備室、並びに警察、消防団への通報中。
……ところで小隊長、M1、起動してますか?ラジオにノイズがのってくるのですが』
「いくら俺でも命令無しに起動はしないぜ。ホントにMSの駆動ノイズか? 技師長に……」
『司令室、特車小隊RG2より至急電。研究所の職員が大挙して道を降りてくる、
何か聞いてるか? 応答乞う!』
「コイト! 災害発生の可能性あり、だ! 寝てるなら起きて機動準備、災害出動準備待機!
――ヘリコの運転手叩き起こして司令室に行け! 状況によってはおまえさんの立場は
中隊長の役に立つ! ラジオ、聞いとけよ!」
インカムをカエンに投げつけて自分のM1へと走り始めるダイ。。
『こちらは中隊長ヨコヤマ一尉である。全隊警戒態勢発令。状況を鑑み人命救助、財産の保全を
目的に全部隊に出動準備を命令する。大至急出動準備待機に入れ』
『総員起こし、総員起こし。現時をもって全隊警戒態勢、準備待機。班長以上は至急司令室へ
所在の連絡をされたし! 繰り返す……』
駐屯地のサイレンがうなり始める
「ダイ! 何が起きたんだ!?」
「俺が知るか! たぶん火事かなんかだろ!? イーストセントラルポートのジープは道が
ふさがって上がれまい。こっちの方が早く着くか。――司令室、こちらA1。ジョウモンジ二尉
以下一名、A1、及びA4都合2機のM1アストレイを使用して現地に向かいたい、M1の起動を
許可されたし!」
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(5/8)
「火事かなんかか? チャンスだな……」
「リコにぃ。行くの?」
「あぁ、あそこなら多分食い物も本もディスクもたくさんあるだろ? 何とか出入り口を見つけ
られればこの先、楽だ」
少年一人と少女が二人、煙の上がる研究所を小さな小屋の前から見上げる。
「それに薬だって名前だけはわかってる。始めから一年持たないんだ。それも探して見る」
「お水とお薬、入ってるからね? 無くしちゃダメだよ?」
肩までの髪の面長のかわいらしいと表現するのが適当と思える少女、彼女がバッグを渡す。
「あぁサンキュ。おまえらも薬飲むの忘れるな、勉強もサボるなよ? ……行ってくる」
少年は薮の中に走り始めると、少女達の前から姿が見えなくなる。
「……ななにち、で帰ってくるんだよね?」
肩までの髪の少女よりは多少年長に見える、長い髪を髪をうしろで無造作に縛った少女は、
自らを振り返ったその少女の肩をそっと抱く。
「リオナ、大丈夫よ? リコにぃが優秀なおかげで私達、今まで生きてこれたんだから」
そう言って長い髪の少女は、その優秀な『兄』を失えばその時点で自分たちの命運もつきる
だろう事に気付いた。
食べられる野草の鑑別、簡単ではあるがトカゲや魚を捕まえてきては作ってくれた料理。
彼の存在無くして、人里離れた山奥で子供三人だけで数ヶ月生き延びる事など、絶対
出来なかったはずだ。
「そう、大丈夫。大丈夫だから……」
彼女には生きる事への執着は無かったが、だからと言って死にたい訳でもなかった。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(6/8)
「コイト准尉。起動終わりしだい各種センサー最大、先ずは様子を見る。急に走ったりするなよ?」
ダイから見ても若者な部下に声をかける。火事であれば初期ならM1の応急消火キットで
消火が可能かも知れない以上、走っていきたいのは山々だが、警察にも島の消防団本部にも
火事発生の一報が入っていない、警備室とも連絡が取れない。と司令室から言って来た。
研究所の警備室と連絡できない、などとは平素を考えればそもそもあり得ない。
さっきのカエンの話もある。慎重にならざるを得ない材料は既にダイの手元に集まっていた。
『もう学校は卒業して三尉です、小隊長! 火事ならば大至急現場に向かった方が良いのでは
ないでしょうか!?』
「MSが要らない状況だってあり得るだろう? 現地に行ってデカブツはイランとなったら
どうすんだ? 足場がどうなってるかわからんのだぞ! 重さで足下抜けたらジャマなだけだろうが!
つべこべ言わんで、先ずは光学観測倍率最大、司令室にそのまま絵を送れ!」
怒鳴りおえて、すまんな。とダイは呟く。慎重になっている一番の理由はさっきのカエンの
話だが、相手が誰であろうとそれは未だ、喋る訳にはいかない。
『申し訳ありませんでした、小隊長。――A4起動完了、立ち上がります。』
隣でアストレイがゆっくりと膝を伸ばしていく。人間の視線より17m程高いカメラが捉えた映像が
ダイの元にも送られてくる。モニターの1/4を占める画面の中、木々に遮られて上半分だけしか
見えないが一部から煙を上げる建物、穴の空いた中庭、ゆっくりとローターの回るヘリコプター。
そして――。
「あり得ない、なんでこんなトコにモビ…………。 っ! コイトぉお! 大至急左に回避ぃっ!
回避だ、全力後退っ! 逃げろぉお!!」
ダイが叫んだ次の瞬間、頭を失ったアストレイA4は再び地面に片膝を着いた。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(7/8)
「覚悟が良いのは結構だが、アンタは人質なんだぞ? 一応その端末も貰っていくか……」
わかっています。コーネリアスは答えながらブルゾンのジッパーを閉める。先ずは服従しなれば
殺される。だけどその先は……。既に冷静にパニックを起こしつつある頭では上手く考えが
まとまらない。
「ヘリで5分も飛べば携帯が通じる。所長と話が出来ればアンタの役目は終わりだ。2,3日で
解放する、安心しろ」
頭の良いお嬢さんとなら話をしたいヤツがたくさん居るからな。退屈はさせないぜ?
そう言うと男の唇の端がにやりとゆがむ。
非道い目に遭わされて殺されるんだ。さっき殺されておけば良かった……。
彼女の足から力が抜けそうになった瞬間。
『ぱすっ、ぱすっ』
と気の抜けた音が2回鳴った。それと同時に下卑たニヤニヤ笑いを唇に貼り付けたまま
男は前のめりに倒れる。
「大丈夫でしたか、イタバシ主任! お怪我はないですか? その、何も、されませんでしたか?」
いつの間にか開いていた扉の向こう、大型の銃に更に長さを強調するかのようなサイレンサーを
付けたものを構えるのは、メガネと黒い上着を脱ぎ捨て、ブラウスの上に背負ったガンホルダーが
アクセサリーに見える美女。クロゥだった。
「私は大丈夫、ありがとうクロゥさん。私のことはコーネラで良いわ、みんなそう呼んでるし。
それと敬語も要らない。たぶん私の方が歳は上だろうけど」
「では、私のこともカトリで良いです。コーネラさんの5つ下のハズです。喋り方は、その、
勘弁して下さい……」
アサルトライフルを背負って、右手にサイレンサーの付いたゴツイ銃を構えたクロゥを先頭に
長い廊下を歩くコーネリアス。地下の工場で異変に気づいたので全ての部屋を点検して回った。
敷地への侵入者は6,ないし7。そのうち4名は打ち倒して1名は外のヘリコプター。最低後一名
足り無いので気を抜かないで下さい。
周囲に目を配りながらコーネリアスの前を歩くクロゥは簡単に状況を説明する。
タイトスカートはスリットのように破け、ブラウスの右袖が少し破けて端が焦げているのを
コーネリアスが言うと、
「それこそかすり傷というヤツです。一応ブランド品なんですが経費で落としても良いですよね?」
と言うと堪えきれない、といった風にすこし笑った。
私がただ死なないように考えていた時にカトリは……。そう思うと情けなくて涙が出そうになる
コーネリアスである。
「とにかく表にさえ出られれば、何とかなります。私の立場の人間が複数居るように向こうには、
――あぁ大丈夫ですか。もうちょっとだけ、頑張りましょう――見えているはずですから、うかつに
手は出してこないでしょう」
やっと一階まで降りたのだがあえて窓のない廊下を進むクロゥ。外にいる人数がわからない
のだ、と言いながらビーチへ続く道に出てしまえばきっともう手は出さないだろうとも言う。
コーネリアスにはその辺のロジックは良くわからないのだが、彼女が言うのならそうだろうと
思えたので、わざわざ聞いたりはしなかった。
第1話『僻地手立ての付く島(後編)』(8/8)
「ちょっとコーネラさんはココで待ってて下さい。外、見てきます。その演壇の影ならば広いし
裏からしか見えません」
たどり着いたのは大講堂。全面ガラス張りの壁からは中庭から木々に囲まれたビーチが
見下ろせ、天気が良ければ水平線が綺麗に見える。景観は良いのだが隠れるのには如何にも
適していないようにコーネリアスには思える。
「むしろどの方向から来ても見えると言うことです。こっちは隠れてますから先に発見できます」
「そんなモンなの? 疑う訳じゃないけど、ホントに?」
「多少頼りないかも知れませんが、一応プロです。信じてくだ、――なんで動かせたの!?
不味い、まさか地下にっ!!」
ココを動かないで下さい、地下に用事が出来ました! と言うといきなり走り始めるクロゥ。
「ちょっ、カトリ! 私はどうすればいいの?」
状況を見て、左のドアから外へでたら絶対止まらずに駐屯地へ! 言いながらその姿は
入ってきたドアへ消えた。
何が彼女を慌てさせたのか。恐る恐る窓の方を覗くと『アストレイ』がビームライフルを
中庭からビーチに向けて構える所だった
「うそぉ! 聞いてないっ!! なんでP系アストレイが研究所(ココ)にあるのよ!?
――っ! 撃った……! 撃っちゃったぁあ……あ……」
予告
誰も経験したことのない対MS戦。ダイは軍法違反承知でM1アストレイを駆り丘を走る。
そしてクロゥと分かれたコーネリアス。彼女は生き延びる事が出来るのか?
――次回第2話―― 『史上初の戦い』
今回分以上です、では。
>>182 あまり意識してないつもりですが、そう見えますか?
おっ!弐国GJ!
この『兄』てのと二人の妹?がどう関わってくるか展開が楽しみです
もちろん、兄より髪の長い少女が楽しみですがw
そして警備員のおっちゃんに敬礼!
>>弐国
まさか自分が新人スレで萌え担当だと自覚してなかったのか?
8/
――ミネルバ バイタルシャフト内 廊下
廊下を渡るレイは、頭上のエアロックに向けて飛び上がり、取っ手に手を掛けようとして失敗した。
遠心力ではない本物の重力に、床まで引き戻されて舌打ちを漏らす。
「頭では分かっていても、体が慣れていないという感じね?」
聞き覚えの薄い女の声だ。彫りの深い顔と風船の入ったような胸にマリア=ベルネスだと思い出す。
「私も経験が在るわ。酷い人だと、三階くらいの高さから飛び降りてしまうの。
ええっと……サイ君を探してるんでしょう?」
「ええ……ですが?」
動揺を微塵も見せずに首肯した。
「パイロットが興味あるのは、皆そう。でも、着艦のときの曲芸は上司命令で仕方無かったの。
本当は自分の技をひけらかすような子じゃないのよ?」
まるで古くからの知り合いで在るかのように――実際そうなのだろうか?――マリアは
アーガイル三尉の事を自慢気に語っていた。
「ちょっと特徴的なところが在るけど、基本的にはいい子だわ」
「……」
――応用的にはどうだか知りませんがね!
シンの幻聴が聞えたのは、彼に毒されたと言う事なのかも知れない。
「特徴的なのはそれだけではないですが」
「ああ、プログラミングも中々の腕よぉ? 」
技術者と知り合い、コーディネーター、プログラミングの名手、わけありのパイロット、
そしてアスハ代表の懐刀――レイの脳裏で焦点が移動し、ピントのぼやけた何者かの像が結ばれつつあった。
顔を知らないが、もしや――
「――……――使わないの?」
「――え?」
「捜索システムをどうして使わないの? "私達"の居場所くらい、この許可証でわかるでしょう?」
マリアは、電子チップのはめ込まれたIDカードをひらめかせた。
「結局は、その場所まで自分で行かねばなりません。主機関を?」
レイは、マリアの来た方向を考えて話題を逸らす。
マリアの声が聞こえないほど、思考の淵に沈んでいたのは、余り調子の良くない時だと思った。
「ええ、中は見せてもらえなくって、少し残念だわ」
流石に当然だろうと思い黙って居ると、マリアは慌てて手を振り、三歩後退した。
「――え? ……ああ、ザフト型の反応炉を見るのが始めてだったから、ちょっと興味が湧いちゃって、ね。
私は修理の手伝いに来ただけで、機密をどうしようというわけではないの」
「そんな堂々と言い訳をする人を、スパイなどと疑ってはいません」
人の口に戸は建てられぬ――よくいったものだ。
お陰で、サイ=アーガイルに関しての情報を知り合いから得ることが出来る。
修理の礼を告げてその場を立ち去った二秒も後には、マリアの顔も体も、記憶の端に追いやっていた。
意識に残るのは言葉だけ――パイロットはパイロットにしか興味が無い。
彼女の言うとおりだろう。
殺すか殺されるか、天秤の両端に乗る人間同士だけが、にらみ合うのだ。
9/
――ミネルバ バイタルシャフト内 士官室前
オーブ側の客人の為に用意された部屋、の前で何故かヨウランが簀巻きにされていた。
彼を踏みつけたまま、全身を縛る荒縄――何処から持ち込んだのだろう?――の端を握のは、
藤色のスーツをまとったシズル=ヴィオーラ女史だ。
「レ、レイ、いい所に来た。助けてくれ!」
「わが軍のクルーを簀巻きにされては正直困りますが……一体何が?」
「説明したってもええけど、正直に説明してええんどすか。ザフトへの正式な抗議になりますえ?」
「な……誤解するな、レイ! 俺はただ、ちょっと――」
「海に捨てておいて下さい」
レイは底知れぬ侮蔑を籠めてはきすてた。
「――他の方々は?」
「代表は艦長を交えて会議どす。ウチも資料を持って行かんと――アーガイルはんは知りまへんな」
「そうですか、どうも有り難う御座います。ああ、ダストシュートは其処ですので、失礼」
「おおきに」
「レ……レイーー!」
ヨウランを待ち受ける運命に一瞥もくれず、レイはその場を足早に立ち去った。
――ミネルバ 格納庫
レイは結局、勘だけを頼りにフロアを数階分降りた。ミネルバでコレだけ下に向かえば、
行き着く先は決まっている。白いオーブ軍服の三尉は予感どおりに格納庫に居た。
「失礼……アーガイル三尉。ちょっとお話があります」
ムラサメの足元で整備のクルーから二重に囲まれ、和やかに談笑していたアーガイル三尉を借り出す。
「なんだよー、パイロットの特権て奴かぁ? お客さんを独り占めしやがって!」
とはヴィーノの台詞。
――ミネルバ 甲板に向かう通路
「アーガイル三尉」
「サイで良いよ、何?」
甲板に向かう道すがら、頬にくっきりと紅葉のような跡を残す横顔に告げた。
「首が曲っております……」
「正確な報告をありがとう。ホークさんの張り手は強烈で速いね。
腕が消えたと思ったら、もう宙を舞って居るところだったよ」
曲った首のまま、整備と何を話していたのだろう?
10/
「ホークさんに伝えてよ、地上の風はいきなり吹くから気をつけてねって」
苦労して頭を両手で掴み、"ごきゅるり"と音をたてて頸部の向きを元に戻す。
「本当に"見えた"のですか。彼女はカミカゼが吹いたと言っていました……伝えておきましょう」
「見えたけど、大変な目に合ったよ。全く……モビルスーツ乗りは首を大事にしないとね」
レイやシンならば、首が繋がって居る幸運を感謝するところだ。耐久力、Aクラス。
「感謝、かあ。いいねぇ。僕も感謝しようっと」
懐から数珠を出して十字を切るアーガイル、レイは珍獣の糞を見るように眉をひそめた。
「で、バレル君は何に感謝するのかな。プラントに信教の在る人は少ないでしょう?」
「……天にでも。ですが、地球の太陽は少し眩しいですね」
コーディネーターは全員人造の子である。ナチュラルの言う"神"に弓引く技術の産まれから、
それらを信ずる者は当然の如く少ない。
二人の出た甲板は通り雨に打たれて、所々水溜りを作っていた。傾いた太陽が、レイの見上げる空に
七色の橋を架けて居る。レイは始めて虹を見た。
「ああ、太陽を神様に持って来た人たちもいたね。感謝はいいけど地球の太陽は強烈だよ」
潮の香りを含んだ風によって纏わり付く前髪を右手で抑えつつ、左手が作る影の下で目を細めた。
アーガイルは、レイの白い肌を見て言葉を選んだのだろう。
「……日焼け止め程度は」
「外に出るなら、麦わら帽子位は欲しいよね」
アーガイルは平然と、日に焼けた肌を太陽の下にさらしている。髪は手を入れていないだろう、
がさついた様子だ。レイは自分の長髪が気になったが、髪が痛むのが気になってしまうようならば
今すぐにでも刈り取る準備がある。
「麦わら帽子……」ザフトでは余りに聞き慣れない言葉だ。
「うん、涼しいよ? 僕の先輩は夏に愛用してたりする」
「軍服には絶望的に似合わないでしょう――」
ザフトとオーブのトップガンが、雁首を揃えてする話題だろうか。けれど、ぶしつけに
レイのコーディネートについて、たとえば紫外線に強い肌を持つような因子を加えられていないか、
といった事に関して聞かれてしまうよりは、答え方の分からない質問をされてしまうよりは、
このとぼけた話題の方が都合がいい気もした。
「それが、半ズボンにTシャツ姿で麦わら帽子を被って、スイカ畑の世話をしてるんだよ。
滑走路の脇に何故か畑があってね。……まあ、そもそも軍服の似合わなさそうな人なんだけど」
どちらにしろ、ザフトの制服には似合わないだろうと思う。自然と、レイの目が細められた。
笑顔ではなく緊張によってだ。彼は、何かから話題を逸らそうとしている。
11/
「そうかな……制服のデザインを変えてしまえば面白いかも」
「予算の無駄遣いです……」
「そうかな?」
「そうです。それに、暫くは太陽がかげるかもしれません。紫外線を恋しく思うようになるほど、
空の色がかわってしまうかもしれません」
アーガイルは、赤茶けた空と、時折天空を裂く流星を眺めていた。
「そうだね、ユニ――デブリのカケラが沢山落ちたから、しばらくは寒くなっていくかもしれない」
「直撃はしていません」
「君たちのお陰でね」
「……我々だけではありませんよ、三尉」
「ああ、そういえばアレックスとアスハ代表も居たね」
「それだけでは無いのです……あの場には、核を持った者が居ました」
一番知りたかった事は、相手にとっては最も知られたくない内容に違いない。
「……へぇ?」
だが、にこやかだったアーガイルの顔はそのまま、皮下の血管に水銀が流れ始めたかのような、
一変した雰囲気を感じさせた。
「そして同時に、大気圏を上がってくるムラサメをミネルバが記録しています」
笑顔で鎧うアーガイルに気圧されぬように、意識して過剰なほどに語気を強めてなお、
背中にかく汗が体温を奪って行くのを、ありありと感じずに居られなかった。
「オーブはそんな機体を見てないね」
「我々は見ました、そしてアーガイル三尉、貴方はここに」
簡単な事実を推理を組み立てれば誰でも到達しうる事実が、今レイの眼の前に居る三尉だった。
「崩壊寸前のユニウス7に取り付き、侵入した核――それを捕捉していたオーブのムラサメ。
ムラサメには超高高度での迎撃能力がありますね」
「よく知っているねぇ……それで?」
「攻撃出来るならば、護衛する事も可能でしょう?」
「何をだい? 真逆ユニウス7を、だなんて言わないよねぇ」
「……」
レイは沈黙した。答えは相手から言わせたかった。
「……その"未確認な飛行物体"が、核を護衛していたって言いたいのかな?
一体何処のだろう、オーブは由緒正しい非核保有国だったはずだよ」
だからこそ、プラントがNJを落としても沈黙の春を迎えなかった。
12/
「僕はねぇ、テロリスト達が自決用に残していた核弾頭じゃないかなって思ってるんだけど?」
「核を使って自決する理由が無い――ユニウス7の上です」
「そうだろうか、でも、"僕は"そう考えている」
「……?」
「違うよ、きっと違うんだよ。ユニウス7を落とそうとしたテロリストも、ナチュラルを全部
滅ぼそうとはしなかったし、地上にコーディネーターが沢山残って居る事も忘れてはいなかったんだよ」
アーガイルは言葉を連ねる。
「僕は先刻言ったよね、"思ってる"って。普通、軍人が使わない言葉だけれど、今だけは多分、使える」
レイの体中をびりびりと、背筋を伸ばす衝撃が走った。
目を見開き、歯を食い縛ってそれを耐える。
「僕たちは"事実"だとか、充分それに類するもので無ければ信じない。
けれど思って、期待していい時――それはどんな時だろう……?」
「……国がそれを望んだ、時……」
「うん」
アーガイルは……レイの青い瞳に映る"彼"は、見る間に存在感を希薄にしていった。
代わりに透けるような影を通して、鼻をついたのは化外の気配だ。
「彼らは……地球に"確実に"ユニウス7を落とそうとしていました。そのためにモビルスーツを
持ち出しさえした。殺意は、確実です」
「そうかもね。でも、例えばデュランダル議長とアスハ代表あたりが話し合ったなら、
そういうことにはならないんじゃないかな――」
こいつは、何を言っている?
「――彼らが殺意の塊であった"だけ"だなんて、耐えられないよ。殆どのナチュラルは、
コーディネーターに対して特に何もしていないのに、滅びを望まれて居ることに耐えられない」
お前は、何を言っているんだ?
「エイプリルフール=クライシスの時、プラントのシーゲル=クラインは地球の人口が一割も減ると
思っていなかったよね。NJが其処まで強力に殺すだなんて信じて居なかった。地球の人たちが
すぐに抵抗を諦めて、お互いを助ける為に動くだろうって、そんな事を信じていたんだよ」
事実はこうだ、地球連合は戦争継続の為に幾つかの国や地域を捨てて、プラントと泥沼へ踏み込んだ。
「そしてユニウス7の落下……地球の人たちは嫌でも気付くと思うよ。地球は卵より脆いのに、
宇宙は地球に厳しすぎる――プラントは余りにも容易く地球を滅ぼしてしまうんだって」
「サイ=アーガイル、貴方は……アスハ代表がそんな嘘を信じると?」
「地球にも、宇宙にもそんな殺しを受け入れる余裕は無い。どれだけ宇宙が広くても、重力が、
人を寄せる地球の存在が、それの希薄を許さない」
――だったら、目を逸らすしかない。
"殺し"という物騒な言い回しでアーガイルは印象をゆがめたが、レイに言わせれば、
オーブという国が侵した重大な各種条約違反に対する隠蔽でしかない。
13/
「デュランダル議長が、そしてプラントがアスハ代表の意見に応じるとは思えませんね」
「だから、アスハ代表とデュランダル議長が話し合っているんじゃないかな。
一つのシナリオはこうだ――ユニウス落としの主犯達は、最悪の災厄を起す気"だけ"は無かった。
もう一つは君の言うとおり――ザフトがどうしようもなかったテロリストの尻拭いのために、
オーブが取り出した核でユニウス7を吹っ飛ばした――公式発表されるのはどっちだろうね。
マイニチ・タブロイド・オンラインのネタになるのはどっちなんだろうね」
「彼は、そんな俗な脚本家ではない――!」
「――それとも、君の言葉ならデュランダル議長が動くような、そんなつながりがあるのかな?」
不意に訊かれて、レイは瞬きの最中に出来る暗闇の中で想像を巡らせてしまう。
そして、現実に起こるであろう場面に至った。
ミネルバにある証拠を示して言葉を尽くすレイ――デュランダルは困ったような微笑を浮かべ、
同じだけの言葉を返して説明するだろう。その量で信頼を示すためで、畢竟、考えを変えはしない。
デュランダルを困らせて時間を奪うだけだから、レイもそんな事もしない。
「そんなものは……ありませんよ」
認めたくはないが、そうだ。たとえ信頼はあっても、レイの言葉は何も影響しないのだ。
そして、デュランダルとのつながりは、知られるわけには行かないことだった。
「……だから、彼らの遺志を無かったことにすると。事実を歪めて?」
「……生き残った人達には、真実の落とし所が必要だよね」
真実と事実は違うのだ。悲しい事に、レイはそれを嫌と言うほど、身に染みて理解していた。
「サイ=アーガイル。貴方は多分、嘘つきだ」
「同感だね。そしてレイ=ザ=バレル、君は多分、過去を見過ぎてる」
――自分は未来を見ているつもりか。
その傲慢さに腹が立つ。
そして、今は激発の時ではないが、鋼の巨体を纏って対峙したとき――未だ彼に勝てないと、
分かって居る自分にも同じだけ苛立ちが湧いた。
「さて、僕も君に一つだけ、聞きたいことがあるんだよ。本当はもっと別の事を聞きたかったけど、
代わりにコレだけ聞いて置くことにする」
いつの間にか太陽は空を朱に染め上げていた。
14/
「僕と話して、君は知りたい事を知ることが出来たのかな?」
「なぜ……そんな事を?」
「うん。僕が君を誰かじゃないかと思ったように、君は僕を誰かだと思ったんじゃないか。
ひょっとして、まだ僕に向かって言い足りない事が在るんじゃないかなって思って」
「キラ……ヤマト?」
「僕の勘は人違いで終わったけれど……どうやら君は、誰かを見つけられたのかな?」
「キラ=ヤマト――お前は!」
「"ソイツ"はここに居ないよ、レイ=ザ=バレル。でも、僕は君の威圧感に良く似た人を知っているんだ」
アーガイルは――否、レイは否定された今こそ確信を持って呼ぶ――キラは、夕日に背を向けた。
レイから顔を背けたといえるほどには、レイ自身が強さを持っていなかった。相手の立場も考えずに
本能のまま殴りかかることのできる、シンの無分別な強さがこの一瞬だけ欲しかったが、それが得られる事は
永遠に無い事も分かっていた。
「三尉……ここに居たのか」
アレックスがドアを押さえて立っていた。後にカガリとシズルの姿を認めて、
レイは自分を急激に覚まさなければ行けない時間だと知った。
「三尉、時間を取らせて失礼しました」
敗北感に塗れた理性から振り絞る言葉は、真水に落としたインクのように、憎しみを混ぜ込んで震えていた。
「うん……じゃあまたね」
振り返りもせずに、キラは言って去る。暫くは顔も目も合わせたくないが、その顔だけは二度と忘れない。
一つだけ分かったことがある。ブレイクザワールドの日、レイがムラサメのパイロットに直感を得たように、
キラもまたレイのプレッシャーを感じて探しに来たのだ。彼らは矢張り、天秤の両端に乗るべきだった。
「ラウ……貴方を殺した奴が、すぐ近くに居ます」
レイはこの日、仇を見つけた。
15/
ブレイクザワールドより一週間――低軌道
日光を白銀に反射する投網が真空に広がり、太陽風に軽くそよいだ。
繊維の一本一本が人間の胴ほどもある太い金網を手繰るのは、ザクの腕だ。
『ネット放出完了! 後は展開だけですね』
「ダッチも手際が良くなったもんだが、まあ、俺に比べりゃまだまだだ」
『そりゃあ隊長には敵いませんって』
威張る声すら様になるハイネ=ヴェステンフルスのザクファントムを隊長として、
ザクとゲイツRがトラクター・ネットを手に、汚染軌道へ散開している。
『隊長、軌道との交差まで七分切りました』
「よっし。クラウスはそのまま、周辺の警戒怠るな」
『しっかし、議長は本当に降りるんですかね、この状況の地球に』
「だから掃除してんだろ。ゆっくりしてたら俺たちで弾除けだぞ」
とはいえ、未曾有の惨事から一週間、働き詰めの隊員を休ませてやりたい。
「これが終わったら、一旦ノウェンベルに帰還だ。一坏やろうぜ」
『へへっ、おごりは久々ですね』『ごちになりやす、隊長!』
「事故が無かったら、だ。地球産が飲みたけりゃあ、ケツを締めて作業やれ」
自然とハイネの気前も良くなっていた。
デブリに飛び込むストレス、それを除けば優しい任務だ。
最新鋭のMS装備に加え、隊員はヤキン=ドゥーエを共に生き延びたベテランばかり、
肩の装甲を黄昏色に染めた"オレンジショルダーズ"はザフトに名高い。
『隊長。デブリに紛れて接近する機影があります』
「……あん? 何処だクラウス」
だから、クラウスの駆るザクウォーリアが不審な機影を察知したときも、
誰一人として不安を感じるものは居なかった。
『三時方向東北天に三つ、アンテナ張ります……高エネルギー反応!?』
叫びと同時に宇宙が燦めく。攻撃を受けたアンテナの蒸発煙に包まれて、ハイネの視界から
ザクが消えた。
「ダム。撃って来やがった……迎撃、迎撃だ。ネット捨てろ! クラウスは無事か!?」
『――健在っす。敵はビーム兵器、海賊じゃないっす。ネコ1、ネズミ2を確認。パターン照合中』
素早く予備のセンサーを展開するザク、有線で繋いだアンテナを機体から離したことが
ザクを直撃から救っていた。MS1にMA2は、数こそ同じであっても俄然ハイネ達の有利だ。
16/
「散れ、先に目を潰すクソ脳ミソの在る奴だ! クラウスが後、ダッチはランダムウォーク!」
隊長を務めるハイネが矢継ぎ早に指示を下すと、クラウスのザクとダッチのゲイツが散開した。
指示を受けるでもなくデブリ捕集のためのネットを前方に展開、障害物とする咄嗟の機転は、
"フェイス"のハイネに従うだけの練度がある。
「この三日で無人の偵察機が二十は消えてたのは、こいつの仕業か!」
『オレンジショルダーズに喧嘩を吹っかけてくるなんざぁ、宇宙の道理も知らない奴ですね』
回避乱数で狙いを絞らせない機動を行い、前面で囮となっているのがダッチだ。
敵を叩きのめす気迫の充溢している様子だったが、それこそがハイネの危機感を煽った。
味方が調子に乗るときは不味い。ハイネはビームライフルをMSの影に向けた。
「油断するなよダッチ。クラウス、敵影は!?」
『距離三千から接近中――なんだこれ、まるでミサイルです!』
クラウスの言うとおり、ザクファントムの構えたからダッチのゲイツR同様ランダムウォークで
狙いを逸らす機影は、短距離ミサイルのような加速を見せていた。
「FCSが追いきれない、何処の機体だ?」
ハイネが叫び、そして幾つかの事が瞬間に、それでも順番に起こった。
MAがミサイル/ザフトの"ファイアーフライ"を発射――ハイネ隊を襲う強烈なジャミング
――母艦との連絡を断たれたMSが、熱紋識別領域に機影を迎える。
そして、隊長機のハイネだけが結果を知った。
「カオス――だと!? 全員、退却!」
自機のブレイズウィザードから"ファイアービー"誘導ミサイルを全て放出しつつ絶叫する。
二種類の短距離ミサイルが共食いによって、ハイネ隊とカオス両者の中間に爆炎の花を開く。
ゴミ掃除の部隊が散らした粉塵を裂いて、小さな影が飛び出した――二つだ。
『MA2、先行して接近――』
「――ソイツはドラグーンだ!」
本来ミサイル以上の機動力がある機動兵装ポッドが、ミサイル"並み"の加速でしか動いていなかった。
それはつまり、宇宙戦最強の機体が手加減していたという意味だ。
『あの、カオスってのはアーモリー・ワンから盗まれた――』
「馬鹿野郎、さっさと下がれ、ダッチ!」
と言うハイネの視界を三条のビームが横切り、その全てがゲイツRに吸い込まれた。
カオスの本体は未だ粉塵の向こうだ――ポッドからのフィードバックだけで狙撃を!
分析するハイネは――味方の死は割り切れ、出ないと自分が死ぬ――爆散するゲイツRから
目を背けざるを得なかった。敵と、生き残りの味方だけが見えていた。
17/
『下がってください、隊長!』
アンテナを切ったクラウスが、自分のザクから"ファイアービー"を放った。
ビームライフルの点ではなく、面をもって制圧するミサイルの群れにカオスはしかし、
悠々とした機動で引き回しながらポッドからの掩護を使い、一基ずつ対処していった。
『隊長!』
「すまないクラウス……もう下がれねぇ……」
その時点で、ハイネはすでに悟っていた。相手が絶対に引き剥がすことの出来ない
カオスで在る以上、母艦に連れ帰るわけには行かない。
『自分が引き付けますよ、だから隊長は――』
「馬鹿、俺ですら十秒も持ちそうに無い以上、殿なんて意味が無いんだよ」
『……』
「頭切り替えろよ、じゃないと死ぬぜ?」
『はは……』
あくまで生き残るつもりで居るハイネの台詞に、クラウスが乾いた笑いを漏らした。
"ファイアービー"を壊しつくしたカオスが、余裕の動きでザクを見る。その背中に
二機の機動兵装ポッドがたどり着いた。
『けど、倒してしまってもいいんでしょうが、ハイネ隊長?』
身を捻って怪鳥の姿に変形したカオスが、全力加速を開始する。
『ダッチの仇を取りましょうぜ!』
「応、ねらい目はポッドを戻す瞬間だ、カタログデータでビームは十一発!」
トラクター・ネットに引っかかるかと思いきや、鷹が爪をきらめかせるように展開した
ビームサーベルで障害物を切り裂き、カオスは勢いを殺すことも無くビームを放った。
"カリドゥス"の猛火に秘められた熱量が、至近弾を受けたクラウス機のライフルを溶かす。
『ぐぅ……!』
「コレを使え!」
ハイネは手持ちのライフルをクラウスに私、自身はビームトマホークを抜き放ち突撃した。
カオスが迫るその時に、ハイネは恐らく最後であろう、クラウスに向けての命令を下す。
「ライフルの連射間隔を最短にセットしろ――死ぬなよ!」
@@@@
18/
――ガーディ=ルー 艦橋
「敵モビルスーツ、二機目が沈黙しました」
「"カオス"残存プール電力、六割です」
慣性航行中のブリッジは静かな報告のみが響き、艦長のイアンにはたまに装甲板を叩く
デブリの断末魔が聞える程度だった。
「ふん、最後は中々粘るな。部隊長のエースといった所か……」
帽子のつばを握ってつぶやくイアンの声は、誰かに向けたものではない。
「信号弾放出。電力が五割を切ったタイミングで作動させろ」
「了解……敵の母艦は如何いたしますか?」
「深追いは必要ない」
MS隊が"カオス"に襲われていながら援軍を放出していない様子を見るに、艦載戦力は
残していないようだったが、イアンは不慮の事態を嫌った。
嫌が応にも緊張の解けてしまう移動時間を戦闘の合間にはさむことが、パイロットである
スティング=オークレーにとって過大なストレスとなることを見抜いていたためでも在る。
「ししししかし艦長、た……対艦戦闘能力を測る絶好のき、機会かと……」
もう一つの理由は、忌々しい事に拳銃を握った事もないような手をしていながら、
戦況に口を挟むこの人間鍛冶屋の存在だった。
「ここ、今度こそは艦長の命令を効きますよう、念入りに、それはもう念入りに調整を
重ねておりましてねぇ……」
「必要ないと言ったのが、聞えませんでしたかな?」
「ひぃ……っ!」
年端も行かぬ少年の心身を回復不能に弄繰り回し、死地に戦地に向かわせて居る男は、
イアンの軽い殺気にも失禁しそうなほど慄いていた。
――哀れなものだ。
イアンは三機目を着々と損傷させつつある"カオス"の少年に憐憫の情を覚えた。
調整された理性故に味方を守るため暴走し、その結果、限界に近い調整を受けている。
コーディネーターを狩る為に作られるナチュラルの改造兵士は、歪で狂った論理と
倫理を感じずには居られなかった。
更に非情な事に、実際のイアンは戦力としてのスティングに、全く期待して居ないのだ。
洗脳で服従を引き出した、持続不可能な戦力を望まないのは、むしろ軍人としての義務である。
「ポイントE6、距離一万より敵影出現しました。数二、種類は不明です」
「敵の増援だ。撤退させろ」
イアンは即座に命令を下した。
信号弾の明かりを見守るその左手が、胸ポケットの懐中時計を触っている。
家族の写真を収めたそれは、冷えた硬さを指先に伝えるだけだった。
19/
「おい、返事をしろクラウス……クラウス!」
それは、戦闘というには余りにも一方的な殺しだった。
カオスの異常な速力を前に、なす術も無く屠られたザクは原形を留めずに浮かんでいた。
中身の見えないコクピットへと飽きずに呼びかけるハイネの背筋を、氷の柱が貫く。
目前に迫った"カオス"から発せられる圧倒的な威圧感が、ザクを繰る腕を凍らせていた。
「う……動けぇ――!」
ロックオンアラート、ビームの数条が飛び交う。ハイネは右腕を左腕で殴りつけて叫んだ。
強張った腕で凍りついた機体を揺らし、コクピットだけを死守したハイネのザクは、
カオスの機動兵装ポッドから放たれる赤いビームに四肢をもがれて無為に漂う。
「なんなんだ、なんなんだお前は――!?」
ハイネの目には、索敵レーダーに示された二つのシグナルも、敵の信号弾がつげた撤退の合図も
映っていない。ただ、深緑の装甲と妖しく光るツインアイだけが、双眸に入り込んでいた。
『……弾切れだ』
――たまぎれ? それは何だ。死を告げる混沌の言葉か?
意味すら分からぬハイネの前から、反転したカオスがあっという間に消え去る。
行動不能のザクでどうしようもないまま、ハイネはカオスがもう一度反転して、
加速接近からビームサーベルでコクピットを切り裂く瞬間を待っていた。
去り際にポッドを切り離し、赤いビームで自分を伐ち貫くのを今か今かと待っていた。
やがて、彼の元に二度と"カオス"が戻ってこないと知った時――「無事か?」通信が入る――
ハイネはモニターの中に、二機の"カオス"を見た。
「ああああああああああ! 増えたのか、俺の部下を殺しておいてお前は増えたのか!」
「落ち着いてくれ、ハイネ=ヴェステンフルス。こちらはコートニー、プロトカオスだ!」
ああそうかそうか、その声は確かにコートニー=ヒエロニムスだ、それがカオスに乗ってるって
言うのはつまり、俺の敵に寝返ったわけだな!
我を忘れたハイネの思考は、異常な回路に陥っている。
「"幽霊戦艦"を追っていたが、襲撃の察知が遅れた為に君の部下が……本当にすまない」
「貴方の母艦は無事だから、だから……」
その声はリーカ=シェダーか。メガネウサギは確かにリーカのマークだ。ガイアのテストパイロットが
プロトカオスに乗ってるなら、二人とも寝返ったのか、敵だな。
さあハッチを開けろコートニー、助けの前に呑気に機体をペイントしていたあばずれともども、
自前の牙で食い殺してやる。ハイネは歯を剥いて行動に備えた。
「"フェイス"だろう、落ち着け。熱でハッチが溶けて開かないから母艦まで引いていくぞ」
「生命維持装置がもたないから、動力を切るね。暗くなるけど我慢して」
「関係在るか……! 俺の、俺の部下を返せ……クラウス、ダッチ……あいつらに吐くほど酒をおごらせろ!
カオスめ、カオスめぇ! 許さねえぞ、重力の底だろうと何処までも追ってやるから覚悟しろぉ!」
そして、やっと、やっと理解した。クラウスとダッチは死んだ。部下を見殺しにした自分一人が、
援軍に助けられてぬけぬけと生き残っていて、死んだモニターを殴りつけている、破壊衝動が収まらなかった。
手袋の中で皮が裂け、骨にヒビが入っても、何度も何度も、飽きることなく繰り返した。肉ではなく、
骨に怒りを刻みつけた。この気持ちだけは、風化させてたまるものか。
「ちっっっく……しょおおおおおーーーー!」
叫びは自然と口から出て、反響するコクピットに溜まっていった。
20/
ウミネコの鳴く軍港はイージス艦が模型に見える程に広く大きかったが、
少し高台からその港を臨む古びた本屋は悲しいほど狭かった。
陳列された極薄の電子メディアを即時印刷してくれる機械が在るのだが、そうと知らない
一見の客は必ず品揃えを心配する店である。店内でハタキをふるって埃を払っていたカズイは、
店の駐車場に客らしき車が入ってくるのを、珍獣でも見つけたような目で見ていた。
「よっ」
「やあ……サイ」
路面にブレーキの跡を残し、たった二台分の駐車スペースを一台で埋めてくれた車の、
助手席から出てきた男と交わした会話はそれだけだった。
「うわあ、本当にお客さんなんか来たんだ。この店」
「たまたま近くに寄ったから様子見に来たけど、大丈夫かよ?」
「なんとか、ね。何か探してる本でもあるの?」
「あー……ナチュラルとコーディネーターがお互いに理解する本、なんてあるかな?」
カズイは黙って棚の一角を指し示した。
ファンタジにフィクションにSF。まあとにかく、そういった棚だ。
一応コメディの棚も探しては見たが、『世界のジョーク大全集 オーブ版』位しか見つけられない。
「野球監督とオーブ氏族は良く似ている。両方とも、酒場の親父が"自分ならもっとやれる"と思う。
違うのは、それが事実かどうか……なんだこれ?」
「一応、ベストセラーだよ」
「世も末だ」
「ああ、サイ君サイ君……ちょっとお姉さんは待ちくたびれた、かな?」
見ると、ワインレッドのスーツに固めた女性がサイの背後に立っていた。
ヒールの分だけサイより背が高く見える。
「ええっと……アーガイルの彼女さん?」
「そんなーーー、彼女さんだなんて、そんなっ! そんなっ! ……ねえ?」
そんな、のたびに全力でサイの背中を張り手するので、サイは息が詰まって反論も
出来なくなっている。"お姉さん"とやらは耳まで真っ赤にしていた。
「ところでさ、サイ君サイ君って繰り返すとまるで細君みたいに聞えないかい?
男なのに奥さんかよーみたいな! それじゃ、車で待ってるね!」
うわー、この人テンションたかーい。たった三十秒でげっそりしたサイとカズイは、
彼女から見えないように目を合わせて肯きあった。男同士の無言の詩が、そこには流れていた。
――大変だね。
――ああ。
21/21
「で、あの人がコーディネーター? ……そう、だったら今日入港する"ミネルバ"を見に来たんだね」
「ああ、けど本人は"入港反対"と"おいでませ、オーブ"、両方の垂れ幕を作ってきてるんだ。
此処まで来てなんだけど、未だにどっちに参加しようとしてるのか分からない」
反物質兵器を搭載したミネルバ受け入れについては、地元住民の反対を氏族会議が無理矢理
押し切った形で問題は先送りにされている。だが、身を呈して被害を防ごうと尽力したザフトの艦に
歓迎を占めそうとするオーブ人も、特に残留コーディネーターを中心に多かった。
「……でも、反対デモにしては遅すぎない?」
「そうそう……何故かキラの奴からさ、暫くは出歩かないでねって言われて、急に連絡が来たんだぞ?
今日まで家でゆっくりしてたんだけど……ゆっくりしていった結果がこれだよ」
家でゆっくりしていたって、必要以上にやせこけた君の顔はそう言う事なのかい?
急に遠くまで行ってしまった友達が余りにも眩しくて、カズイは目を背けた。
「そっか……君も大変な人に捕まっちゃったね。ああ、来たみたいだよ?」
「おっと、こうしちゃ居られない! じゃあまたな。ミリアリアの連絡先は知ってるか?」
「ううん、件のエルスマンに付いてったきりで、偶に手紙が来るくらいかな。
危ない紛争地帯をめぐってるらしいよ!」
後半は、遠ざかるサイに向けて声が大きくなった。この小さな本屋で声を張り上げるなど無い事だ。
「やれやれ、行っちゃった」
箒を手に外に出たカズイは、軍港にドック入りしつつある"ミネルバ"の、煤けた白い艦隊を見て、
今日は早仕舞いしようかな、等と考えていた。
店先に溜まった埃と塵を払っていく。空は多少粉塵に曇っている程度で、
此処最近の感覚からいけば、まあ晴れの部類だった。
白い艦から発進したムラサメが二機、編隊を組んでカズイの見上げる空を二つに裂く、
跡に引く飛行機雲で分かたれた空の、どちらがどちらのもので在るか、等と考えなくても良い国が、
少なくともオーブだろうとカズイは思った。
以上、SEED『†』 第十四話 "破壊の幕間 出会いの機会" 了です。
支援の方、本当にありがとうございました。