【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】3

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1通常の名無しさんの3倍

好きな内容でSS・ネタを書いてくださいよ。
長編の連載可。
該当スレがなく投下先に困っている職人さんも投下おk。
分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
「つまらん」と言わずアドバイスしてあげましょう。面白いものには素直にGJ!を。

前スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】2
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1171663499/

まとめサイト
http://pksp.jp/10sig1co/
2通常の名無しさんの3倍:2007/03/10(土) 21:38:32 ID:???
にげっと
3通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 03:59:42 ID:???
>>1
乙! そして2ゲトずさーー!!
4元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:25:54 ID:???
P.L.U.S. SS 第二話投下行きます。
5元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:31:49 ID:???
改行整形忘れてたorz
見直して再開します。
6元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:45:52 ID:???
すいません(^_^;
再開します。
7元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:47:00 ID:???
 <パイロット実習U 1/9>

 昼食時を前にしたプラント軍事アカデミーの食堂には多様な人種が寄り付く。午後の講
義に備える者、混雑を前に早目の昼食を取る者、友人と語りに精を出す者、机に倒れ込み
安らかな寝息を立てている者など実に様々だ。
 そんなざわめきを尻目に、シン・アスカはレイ・ザ・バレルに誘われ、喧噪の渦から遠
い窓際の席にコーヒー片手に陣取った。午後から再びプロトジンを使った演習を控え、早
目に昼食でもと考えていたシンは二つ返事で誘いに乗った。
「シン、次の演習だが、俺はお前とルナマリアと三人で組んでみようと思う」
 コーヒーを舌で転がしながら昼食のメニューを考えていたシンに唐突にレイがそう切り
出す。
 そう言えば演習は三人一組で小隊を組み集団戦を行うという実戦色の強いものと聞いた。
誰と組もうがベストを尽くすだけと割り切っていた――と言えば聞こえは良いが、実際何
も考えていなかった――シンは、ルナマリアと別段親しくもないレイからそんな話が出る
とは、正直意外な気がした。
「ルナと? なんでまた?」
「ルナマリアは前回お前と上手い具合にチームワークが取れていた。俺が見ても動きはな
かなか良い。チームを組んでも申し分ないだろう」
 前回の演習を思い起こすシンは些か歯痒い。演習はクリアしたものの自分の見栄がピン
チを招いた。その後の怒涛の巻き返しをルナマリアは評価してくれたが、がむしゃらに突
っ走っただけで正当な評価に値しないのでは無いか? というわだかまりもある。
「そうは言っても、ルナがもう一度俺と組むのか?」
 シンの心中は複雑だったが、あくまでもレイは冷静だ。
「ルナマリアは前回のお前の動きを高く評価している。他を断ってでもお前と組みに来る
と、俺は見ている」
「そんなバカな事……」
 言いながら何気なく視線を泳がせると、何の偶然か反対側の入り口付近で左右を見回り
ながら歩き回るルナマリアの姿が目に映る。シンはまさかと固まり言葉も出ない。
「噂をすれば、本人が来たようだ。早速話をしてみるか?」
「いや、ちょっと待てよ。まだ俺は何とも言って無いぞ」
 話す間にルナマリアと視線が合い、ルナマリアは大きく手を振り駆け寄ってくる。
「そうだな。向こうはお前に用があるみたいだしな」
 しれっと流し目で呟くレイの声がやけに心の奥に響く。
8元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:49:18 ID:???
 <パイロット実習U 2/9>

「はぁい、シン。レイもお揃いでちょうど良かった。今ちょっと時間ある?」
「なんだよ、ルナ」
 思わずつっけんどんに答えてしまったのが気恥ずかしく、シンは視線を逸らした。
「二人とも、次の演習は誰と組むのか決めたの?」
「ちょうど今、その話をしていたところだ。俺とシンとで組むつもりだが、あと一人、足
りない」
 ルナマリアに椅子を勧めながらレイが応じる。
「良かったぁ〜、私もまだ誰と組むか決めてなくって困ってたところなのよ。もし良かっ
たら、一緒に混ぜてくれない? 私が後ろから、ばっちり援護してあげるから!」
 素直な喜びを表すルナマリアを横目に、気まずいシンはさも興味無いフリをしていた。
「ふむ。そうだな。シン。お前はどう思う? 前回の演習、一緒に組んだ者として」
「えっ? ああ。そうだなぁ」
 そっぽを向いていたシンは話を振られ、慌てて前回の演習を思い起こす。
 少しでも動きが遅ければ敵機を撃破される程には実力は切迫していた。戦闘に差し支え
る大きな被弾も無かったように思う。射撃の腕も悪くは無い。だがそれよりシンの心に残
るのは、プロトジンが吹き飛ばされた時に聞こえた彼女の声だ。その声は身近な者を永遠
に失ったシンに久方振りの暖かみを感じさせた。
「腕は悪くない。攻めも守りもまとまってると思う。それより結構良い位置にいるんだ。
フォローするにもされるにも。組んでて不安は無かったな」
「ふむ、そうか。なら決まりだな。ルナマリア、この暴れ者をきっちり援護してやってく
れ。好き勝手動くんで、俺一人では些か不安でな」
「おい、レイ――」
「わかったわ。任せて! またよろしくね、シン」
 抗議の声を上げるシンだったが、レイのすました横顔とルナマリアのウインクの前に空
しく掻き消されるだけだった。
9元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:50:37 ID:???
 <パイロット実習U 3/9>

 設定されている演習の状況はこうだ。
 アーモリーワンの工廠エリアに敵工作員が侵入。ハンガーにあったモビルスーツを奪取
して逃走中である。敵部隊から程近い場所で演習中の各候補生は三人一組の小隊を編成し、
敵工作員の逃走阻止せよ。
 演習中という想定のため、搭乗機はプロトジンである。基礎実習や前回の演習でも使用
した、候補生たちが最も乗り慣れる機体だ。対して敵モビルスーツはハンガー内の量産機
からチョイスされるというが、詳細は明かされていない。
「準備は良いか、シン」
 パイロットスーツに身を固めたレイがヘルメットを後頭部のアタッチメントに嵌めなが
ら尋ねる。
「いつでも」
 胸のファスナーを上げヘルメットを掴み、シンも応じる。
「落ち着いて行こう、シン。俺達ならやれる筈だ」
「わかってる」
「焦らずとも、お前の援護には俺もルナマリアも付く。状況によってはお前が指示を出せ」
「ああ、頼りにしている」
 ロッカールームを出るとパイロットスーツ姿のルナマリアが女子用のロッカールームか
ら出て来たところだ。その視線は気合十分、強い意志が感じられる。
「今日の演習、取りに行くわよ!」
「勿論だ。上に行く俺達の、大切な第一歩だ」
「ルナ、今日も頼むぞ」
「任せて! シンこそ安心して前線で暴れてきてよね」
 三人は軽く頷き合ってモビルスーツハンガーへのドアを開いた。
 ハンガー内は演習用のプロトジン三機が直立している。シンたちのチームの出撃を見届
けようというのか、他の候補生たちもデッキに集まってきた。最後のチェックをしていた
若い整備士たちが三人に気付き、敬礼をして手早く機体から離れて行く。
 シンはコックピットに乗り込み素早く機体を起動させる。素早く確実に機体を起動させ
られるのも重要な採点項目だ。各計器を確認し操縦桿を軽く押すとゆっくりとプロトジン
が一歩を踏み出し、呼応するようにレイとルナマリアのプロトジンも動き出す。三機のプ
ロトジンのモノアイの光が点灯し、明度の低いハンガー内を照らした。
「シン・アスカ、プロトジン行きます!」
 格納庫の外まで歩き、辺りに人影が無い事を確認してブーストを吹かす。プロトジンは
超低空を滑空するように飛行した後、徐々に出力を上げ工廠エリアへ向けて高度を上げて
行く。
「レイ・ザ・バレル、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、出ます!」
 続いて僚機のレイ機とルナマリア機もシン機の後を追い発進。程なく人工の空に浮かぶ
光点となり、格納庫には打ち付けられた熱風と見物人の余韻だけが残った。
10元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:51:36 ID:???
 <パイロット実習U 4/9>

 アーモリーワンの工廠エリアは比較的開けた地区だ。最も目に付くのはモビルスーツの
稼働試験にも使われるエリア中央部の広い舗装区であり、次が舗装区脇に並んで立つ二つ
の高層ビル、通称ツインタワーである。その他、区画の端には区画外へと抜ける高架道路
と点在するビル、反対側には巨大なコンビナートタンクが三つ並ぶ。
 三機のプロトジンはタンクと高架道路に挟まれた舗装区の端に着地した。シンのプロト
ジンを中心にレイ機とルナマリア機が両翼に展開する。
「演習とは言え、実弾を使った実戦に近い訓練だ。甘く見るなよ」
 演習開始を受け、レイが警告を発する。
――大丈夫。甘くなんて見てない。今度はもっと慎重にやるさ――
 前回の教訓を心に刻みながらシンは心の中でそう呟く。モニターに映るレイに頷く間に
索敵センサーが反応。目に染みるような人工の青空を背景に、舗装区を隔てたエリアの反
対側へ二機のジンオーカーが着地した。
「補足した!」
 舗装区は身を隠せる障害物が無い。この距離では互いに射程外とは言え、迂闊な攻撃は
避けるのが賢明だ。とりあえずシンは一番手前のタンク後方から回り込み、相手の出方を
伺う事にした。
「数の上ではこっちが有利よ! シン、レイ、援護するわ!」
 言うなりルナマリア機がタンクの上空をホバリングしながら二機のジンオーカーに牽制
のマシンガンを撃つ。射程外から撃ったマシンガンは狙いを外れ地面に次々と着弾するが、
二機のジンオーカーはそれぞれ反対の方向へ回避し分断された。
「行くぞシン! 合流させずに各個撃破だ」
「了解!」
 シンは向かって左手のジンオーカーに狙いを定めると、ブーストを吹かせて一気にジャ
ンプ。右脇にも同じように敵機へ向けて間合いを積めるレイ機が映る。
「いけーっ!」
「貰った!」
 シンとレイの怒号に合わせ、プロトジンのマシンガンが火を吹く。一発、二発、三発。
ブーストダッシュで逃げるジンオーカーに細かく撃ち分けたマシンガンが掠り、徐々に体
力を奪う。敵機のマシンガンを躱しこちらのマシンガンを撃ち込むと、隣のジンオーカー
も同時に黒煙を吐き出し撃墜シグナルを上げた。
「よし、次だ」
 早々の二機撃破にも冷静なレイの声に、シンは確かな手応えを感じた。このチームなら
行ける。
11元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:53:24 ID:???
 <パイロット実習U 5/9>

 敵の増援としてマシンガン仕様のジンが背後のビルの合間に現れた。
「こいつら!」
 振り向きながら牽制にマシンガンを撃ち、ビルの陰に身を隠す。同時にセンサーが背後
の敵影を察知し警告するが、今のシンに目の前の敵から目を離して後ろを確認するだけの
余裕は無い。とにかくビルの向こうのジンを何とかしなければと機体を移動させたその時。
「いっけーっ!」
 ルナマリアの叫びと同時にプロトジンは背後から断続的な衝撃を受けよろめいた。その
瞬間、ビルの陰からジンが姿を現し、シンに向けてマシンガンを乱射。プロトジンはたま
らずきりもみ状態で吹き飛び、背面を高架に打ち付けながら滑って行く。
「なんだ……? 何が起きたんだ!」
 突然の衝撃に頭を振りながらコンソールパネルを確認。幸い大きなダメージは負ってい
ない。操縦桿を押し込むとプロトジンがゆっくりと上半身を起こす。その間、すぐ脇でマ
シンガンの銃撃音が聞こえ、敵機のジンがきりもみしながら吹き飛ばされていく。
「シン、大丈夫? 生きてる?」
 起き上がるプロトジンに付き添うように一機のプロトジンが降り立ち、マシンガンのマ
ガジンを交換する。モニターには心配そうに覗き込むルナマリアの姿があった。
「損傷は大した事無い。大丈夫だ!」
「私の流れ弾が……。ゴメン」
 その言葉にシンははっとして周囲を確認した。もう一機の敵機はタンクの向こう側でレ
イが押さえている。こんな戦場の最中、誤射などという物は本来あってはならずシンはカ
ッとしかけたが、倒れ込んでいたジンが上体を起こすのを見て文句と怒りを飲み込んだ。
「来るぞルナ! 俺がここで足を止めるから、回り込んで横から仕留めろ!」
「シン……、了解!」
 シンがプロトジンを後退させて距離をとる間にルナマリアもビルを回り込んで挟撃の陣
形を取る。ちらりとレーダーを見るとレイはもう一機の敵をよく押さえているようだ。距
離も位置も変わりは無い。
「行くぞ、ルナっ!」
 ジンに対して高度を取りながらマシンガンを連射。半分は地面に火花を散らせ、残の半
分がジンに降り注ぐ。たまらずよろけるところに、ルナマリアのプロトジンが重斬刀を引
き抜き突っ込む。
「落ちろっ!」
 渾身の斬りはよろけるジンの脇腹に突き刺さり電気系統がスパークを起こし、ルナマリ
ア機は素早く重斬刀を抜きその場を離脱する。一呼吸おいてジンは黒煙を発し、モニター
の敵機識別から消えた。
12元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:54:11 ID:???
 <パイロット実習U 6/9>

「シン!」
「大丈夫だ、まだ行ける! それよりレイは?」
 振り返るとタンクの向こうからレイのプロトジンがジンを撃墜して後退して来るところ
だ。僅かに被弾しているようだが、戦闘に支障があるようには見えない。
「二人とも、無事か?」
 モニターを通して見えるレイは心なしか憔悴しているようにも見える。演習とは言え、
援護も無しで敵機と対峙していた精神的疲労感だろうか。いや、それは一瞬の危機を乗り
越えたシンの思い違いかも知れない。
「ああ、そっちはどうだ?」
「見ての通りだ。まだ行ける」
「来たわ! 敵増援二機!」
 ルナマリアの声に天を振り仰ぐと、マシンガン装備のジンが更に二機、真上から降下し
て来る。反射的に三人は散開し、二機を取り囲むように布陣を組む。
「このっ!」
 すぐさま辺りは三機のプロトジンと二機のジンが入り乱れ、双方の銃弾が入り乱れる混
戦に突入。ジンのマシンガンの方が性能的にやや高く、射撃戦で打ち負けたレイ機が大き
くよろけるのが見えた。
「レイっ!」
 シンはマシンガンのバーストを全開にし、レイ機に追い打ちをかけようとするジンを狙
い撃つ。三発、五発と命中し、全弾撃ち尽くす頃にはジンが耐え切れずきりもみ状態で吹
き飛びダウンする。
「レイっ! 無事か?」
「少し気が緩んだようだ。お陰で助かった。大した事はない」
 落ち着いた声色でそう返事が戻って来るが、モニターには忙しなくコンソールパネルを
操作し被害状況を確認するレイの姿が映っていた。
「こンのお〜!」
 ルナマリアの怒鳴り声に混じって数発の弾丸が二機の脇を掠める。ハッと振り返ると、
もう一機のジンとルナマリアのプロトジンが射撃戦を演じている。射軸の合ったマシンガ
ン同士が激突し、パッと火花を散らす。
 射撃戦では五分と感じたのか、ルナマリア機はマシンガンの切れ目を狙って重斬刀を引
き抜く。が、ジンの立て直しの方が早く、プロトジンはマシンガンの連射を受けてよろめ
いた。
「ルナっ!」
 シンはマシンガンを乱射しながらジンに肉薄。ジンもマシンガンで応戦しながら離脱を
試み、射線の中央にいたルナマリア機は両機の流れ弾を受けて吹き飛びダウンした。
「ちょっと、シン……」
「す、すまない、ルナ――」
 モニターに映る頭を押さえるルナマリアの姿に、思わずシンの動きが止まった。今し方、
自分が誤射を受けて窮地に陥ったばかりなのに、今度は自分が誤射してしまうとは。
 シンの一瞬の動揺を見抜くように、ジンは着地間際の僅かなブーストを調整してマシン
ガンの銃口をシン機に合わせる。シンも気付いて目を剥くが、もはや応戦する暇は無い。
耳をつんざく炸裂音が響き、瞬時にモニターが真っ白に染まる。
――やられた。今のは完全に俺のミスだ――
 来るべき衝撃に身を固くし、思わず操縦桿を引き込む。すると機体は思いがけない程ス
ムーズに意に従い、その場を離脱した。
13元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 15:55:14 ID:???
 <パイロット実習U 7/9>

「シン、ルナマリアも、連携が乱れているぞ。もっと落ち着くんだ」
 白濁したモニターの視界が戻ると、ビルの陰にいたレイのプロトジンが空になった弾倉
を交換しているところだった。吹き飛ばされ、もんどり打って倒れるジンは黒煙を吹き上
げ、既に敵味方識別信号は消えている。脇ではルナマリアのプロトジンがようやく上体を
起こすところだ。その向こう側では先にレイがダウンを奪ったジンが起き上がりマシンガ
ンを構え直す。
「レイ、すまない」
「気にするな。切り抜けるぞ。出来るな?」
「ああ」
 シンが頷く間にセンサーが新たなの敵機の接近を告げる。ちらりとモニターを確認する
と、敵機は遥か後方。こちらに到達するまでは少し時間に余裕がありそうだ。
「俺が前に出る。シンは右から、ルナマリアは左から、マシンガンを細かく撃ち分けて援
護を頼む」
「了解!」
「わかったわ!」
 シン機とルナマリア機が左右に飛ぶより早く、レイのプロトジンはマシンガンを一発ず
つ丁寧に撃ちながら機体を振って上昇する。ジンも負けじと応戦するが、左右に展開した
シンとルナマリアのプロトジンからの攻撃を受け、じりじりと被弾していく。
 ジンが態勢を崩すのを見逃さず、レイのプロトジンは重斬刀の刃をジンの頭部に突き付
け薙ぎ払う。ジンの頭部がスローモーションのように宙を舞い、やや遅れて小さな炸裂音
を残し、頭部を破壊されたジンは識別信号を失って人工の大地へと落下した。
「やるじゃない、レイ!」
「さすがだ!」
「気を緩めるな。敵はまだ残っている。掃討するぞ」
 レイはモニターに振り向きもせずに、すぐさまプロトジンを反転させる。シンも遅れて
索敵スクリーンを開き、レイ機の後を追う。
 後続の敵機はバズーカ装備のジンだった。バズーカ弾頭は威力が高くダウンを奪われる
厄介な武器だが、上手く弾頭を狙撃出来れば無力化も可能だ。特にマシンガンは射撃弾数
が多くバズーカ弾頭を迎撃しやすい。
 シンは先行するレイのプロトジンと共にマシンガンの弾幕を張りながらジンへと接近。
マシンガンに撃ち抜かれたバズーカ弾頭が炸裂し視界を邪魔するが、構わず前進する。索
敵アラームが鳴り見上げると、増援のバズーカ装備のジンがもう一機、ジンの脇に降下し
てくるところだ。
「あれもか! まとめて片付けてやる!」
 シンは怒鳴って引き金を引いて着地する。着地を狙ったバズーカはマシンガンの流れ弾
で迎撃出来る筈だった。
 カチッ
 しかしマシンガンの弾丸は発射されず、代りに残弾無しの警告通知と引き金を引く空し
い音だけが響く。着地を狙ったバズーカは掻き消される事無く吸い込まれるようにプロト
ジンを補足。直撃した。
「うわーっ!」
 バズーカの炸裂にプロトジンは敢え無く吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。強烈な
衝撃にシンの体は激しくシートの中で踊り、シートベルトが胸に食い込み思わず息が詰ま
る。
14元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 16:00:21 ID:???
 <パイロット実習U 8/9>

「ちょっとシン! 何やってるのよ?」
 遅れてやって来たルナマリア機がマシンガンの弾幕を張りジンを牽制する。その間にレ
イ機はタンクの裏側に着地。二機のジンに交互にマシンガンを撃ち牽制している。
「ルナマリア。シンの援護に付け。俺は大丈夫だ」
「了解!」
 ルナマリア機はマシンガンを連射しバズーカ弾を迎撃してジンを後退させ、その隙にシ
ン機の脇に着地する。険しい表情でジンを目で追うルナマリアの姿がモニターに映し出さ
れる。
「くそっ!」
 またやってしまった。残弾管理を怠るなど、極めて初歩のミスだ。ましてや空撃ちする
まで気付かないとは!
 シンはコンソールパネルを叩きながら機体を起こす。もどかしいほど緩慢にプロトジン
はその身を起こしていく。
(これ以上のミスは出来ない。いや、違う。ミスは取り返すんだ。俺の、この手で!)
「こんな事で、こんな事で俺はーっ!」
 次の瞬間、シンの中で何かが弾けた。
 操縦桿を押し込み瞬時に強制リロード。全開でブーストを吹かしジンを追う。
「シン、無茶しないで!」
 ルナマリアの声が耳に届き重斬刀を引き抜こうとしていたのを思い止どまり、ジンに正
確に照準を合わせてマシンガンを撃つ。ジンはブーストを使い切っていたのか回避はせず、
振り向きバズーカで応戦を試みるがバズーカ弾は圧倒的な弾幕のマシンガンに無残に打ち
抜かれ爆散する。そのまま雨のようなマシンガンはジンを撃ち抜き、ジンはきりもみに吹
き飛びながら黒煙を上げた。
「次は?」
 敵味方識別信号の消えたジンの脇に着地しブーストを回復し、レイが相手をしているジ
ンへと向かう。レイはじりじりとした射撃戦を繰り広げていたようで、ジンの損傷が大き
いのは一目見て分かる。今もタンクを盾代りにマシンガン細かく撒いてダメージを与えて
いる。
「そんな好き勝手!」
 そこにシンのプロトジンが真横から割り込む。通常の倍近いマシンガンの弾幕の前に、
レイの緻密な射撃に苦しめられていたジンは哀れなほど無力だった。慌ててブーストを吹
かせて飛び上がろうとするが、圧倒的な弾幕に足を取られよろめき、そのまま機体を蜂の
巣のように撃ち抜かれ吹き飛び地面に叩き付けられた。
「やった!」
 識別コードが消え、撃墜を確認したシンはレイ機の脇に着地し、マシンガンを降ろす。
「見事だシン。助かった」
 大きな損傷も見当たらないが、そう言われると悪い気はしない。
15元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 16:03:08 ID:???
 <パイロット実習U 8/9 後半>

「まだよ二人とも! 後ろ!」
 安堵の溜め息を吐きかけた瞬間、けたたましい索敵アラームと同時にルナマリアの鋭い
声が飛んだ。
 振り返ると一機のジンがタンクの上部から頭を出し、バズーカを構えてシンのプロトジ
ンに狙いを定める。思わず操縦桿を引き回避行動を取らせようとした瞬間、ジンはぐらり
と姿勢を崩し黒煙を上げて地面へ叩き付けられる。ジンの背後から現れたのは重斬刀を構
えたルナマリアのプロトジンだ。
「やったわ!」
 歓喜に溢れるルナマリアの声と同時に、モニターには演習終了を知らせる表示が点灯し
た。
「よくやったな。ルナマリア」
 いつでも撃てるように援護の態勢を取っていたレイのプロトジンも構えたマシンガンを
降ろしながらふわりと着地する。モニター越しのレイも安堵と微かな笑顔が浮かぶ。シン
の心も急速に緊張感が抜けて達成感が広がっていく。
「演習終了。これより帰投します!」
 シンの声を合図に三機のプロトジンはアーモリーワン工廠エリアを離脱し、アカデミー
の格納庫へ向け飛び立った。
16元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 16:04:14 ID:???
 <パイロット実習U 9/9>

 アカデミーに戻った三人は一躍有名人だった。
 二回の演習をクリアし、かつ現在でトップの成績である。ハンガーからロッカールーム
までの短い距離ですら人込みに阻まれ、普段の三倍にも四倍にも感じられる。
 またもや終盤で派手な活躍をしたシン、最後のジンを両断したルナマリアだけでなく、
最も堅実に立ち回り被弾も少なかったレイにも人だかりが出来た。ロッカールームに着く
頃には別の意味での心地よい疲労感が体を包んでいた。
「でもやっぱり、アレよね。シンの怒涛の攻め! あれで一気にひっくり返ったわ。それ
までは、正直ちょっと押されてるかなって感じだったけど」
 パイロットスーツから着替え再び食堂に集まると、真っ先に口を開いたのはルナマリア
だった。
「そうだな。あのシンの動きで戦況が変わったのは事実だ。よくやったと思う」
 レイはそう応じたが視線は緩まない。
「ただ俺達はああいう奇跡みたいな追い上げじゃなく、もっと堅実な勝利を勝ち取れるよ
うにしなくてはならない。その為に、今、多くの事を学んでいるんだからな」
「ちょっとレイ、そういう言い方はないんじゃない?」
「いや、良いんだルナ。レイの言う事は確かにその通りだし」
 テーブルを叩きそうになったルナマリアをシンは制した。平静を装ってはいたが耳が痛
い。本来ならレイの言うようにもっと手堅く勝ちに行けたろうし、そうあるべきだろう。
ただ、自分の失敗を自分で埋め合わせ出来たのは一つの自信にはなったと思う。
「そうだな。俺も少し厳しい物言いをしたようだ。ルナマリアも良い動きをしていたし、
今日はこれで上出来だろう」
「そうよ! 結果は残せたんだし、ね?」
 そのルナマリアの笑顔は、間違いなくシンの心を落ち着け、癒していった。
「なあシン?」
「なんだよレイ」
 レイがぽつりと話しかけてきたのは、食堂を出てルナマリアと別れた後だ。辺りは既に
薄暗く、アカデミーの中も人通りは疎らだ。
「ああは言ったが、俺はこのチームならやって行けると思う。アカデミートップとかザフ
ト入隊とかじゃなくて、もっと大きな目標に向かって行ける気がするんだ」
 シンは一瞬耳を疑った。そんな事を語るレイは初めて見たし、そんな事を語るとも思わ
なかったからだ。一歩先を行くレイの表情は伺い知れない。しばらくシンの反応を見るか
のような沈黙を挟みレイは続けた。
「まずはアカデミーをトップで卒業しよう。次はザフトでのトップガンを狙うんだ。そう
すれば、俺達の理想を追えるんじゃないかと、俺は思う」
「俺達の理想……」
 思わず立ち止まり空を見上げる。人工の夜空にぽつぽつと星が映し出される。
 自分が目指すべきトコロは何処か? どうすれば戦争の無い世界を、戦争で悲しむ人の
いない世界を造る事が出来るか?
 それはシンが永遠に失った温もりを少しでも取り戻せるような、そんな響きを纏ってい
た。
「だから苦しくても頑張ろう。俺達なら、きっともっと上に行けると信じて」
「ああ、そうだな。やってみるか!」
 そう言い力強く一歩を踏み出したシンの瞳には、希望に導かれた強い意志が確かに宿っ
ている。
17元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/12(月) 16:06:06 ID:???
以上です。
改行規制引っ掛かって8/9が変な構成になってしまいましたが、大目に見てやって下さい(^ ^;
18通常の名無しさんの3倍:2007/03/12(月) 23:37:35 ID:???
ちょっと戦闘シーンでダラダラしすぎな感を受けた
出てくる機体数はある程度削減しても問題ないと思う
あと、相手キャラをセリフだけでも多少は出してみては?
前回と今回は構成が
演習→苦戦→種割れ→勝利→喝采
と言った感じでほとんど同じなのも気にかかる
蛇足で言うと投下前の調整云々とかは一々言わなくてもいいよ

ちょっと辛目かもしれんが続き楽しみにしてる、ガンガレ
19通常の名無しさんの3倍:2007/03/13(火) 18:59:09 ID:???
連ザII PLUSのP.L.U.S.モードですか?
GJ
20元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 :2007/03/14(水) 12:31:00 ID:???
>>18
意見ありがとうございます。
参考にしていきます。
また何かあれば、遠慮なく意見を下さい。

>>19
はい。
連ザUのP.L.U.S.モードがモチーフです。
先が長いのと筆が遅いので、どう進めようかは悩みの種です。
21通常の名無しさんの3倍:2007/03/14(水) 19:06:33 ID:???
>>元スレ385 ◆EWxNN5VMR6 氏

やってることは良くわかる
ただ間延びして見えるのも事実だが、でも削れないって気持ちも分かる
むしろ俺オリジナル要素は排除したい?

種とりうの関係くらいなら良いんじゃね?多少やっちゃっても
22通常の名無しさんの3倍:2007/03/14(水) 20:02:15 ID:???
関連スレ

新シャア板の職人文章力向上スレ
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1173497820/l50

武者修行にどうぞ
23機動戦史ガンダムSEED 18話 1/5:2007/03/14(水) 22:22:33 ID:???

――『第4艦隊旗艦』<クサナギW>指揮官用クラブ――

 最新型の宇宙機動戦闘母艦である <クサナギW>は、宇宙艦隊を率いる旗艦用として様々な機能が充実している。

艦隊統率用の通信機能の充実は無論の事、戦闘中には艦隊内での連絡シャトルによる行き来が激しい為に、
その方面の『専用シャトル用牽引システム』も完備している。
 それは、戦闘中は通信妨害が激しい為に、地上で言う『伝書鳩』のようなものである。
近代の艦隊戦でも、このようにある意味、原始的な連絡手段が取られるのだ。

 また、旗艦の役目の一つとして、艦隊総司令長官が、分艦隊を率いる指揮官達を一同に招き、
作戦の会議を行われる事もある。これは艦隊の運用中にも、通信機器では敵側に盗聴される恐れがあるからである。

 無論、機密保持の一環でもあるが、要するに指揮官同士のコミュニケーションという意味合いも含まれているのだ。

 そして現在、艦内の一角にある、『高級士官』用クラブに4〜5人の士官クラスの人間が集まっていた。
全員が、『第4機動艦隊』に所属する分艦隊の指揮官である。
オーブ宇宙軍では分艦隊指揮官を主に佐官クラスが充てられている。

 今、さっきまで彼等指揮官は、共同で自分達の上官である『アーガイル』艦隊総司令に対して、
独自の作戦案を具申しようとしていたのだが、あっさりと却下されたばかりだった。
 その不満も手伝って、彼等のリーダーの立場にある『アマギ一佐』の提案で、彼等はこの場に集まっていた。

 現在、オーブ宇宙軍に所属している、その『アマギ一佐』は当初、『メサイア戦役』中盤までオーブ海軍の一尉であった。
当初はオーブ黒海派遣軍に従軍し、戦死した『トダカ』名誉司令の副官として派遣軍の旗艦タケミカズチに乗艦していたのだ。

 タケミカズチ撃沈し派遣艦隊が全滅後に、生き残りの将兵を率いて『不正規軍』である『AA』に乗艦。
彼自身はCIC指揮官の任に就き、『A・D作戦』や『O・F』では砲撃の指揮を執った。
24機動戦史ガンダムSEED 18話 2/5:2007/03/14(水) 22:25:15 ID:???

 『AA』が『不正規軍』からオーブ軍 『第二宇宙艦隊』へと編入した後は、
イズモ級航宙艦『クサナギ』に搭乗した。

 以後は終戦まで、ここで副操縦士兼CIC管制官として職務に従事したという経歴の持ち主であった。

 そして、今現在はオーブ宇宙軍の艦隊指揮官として『一佐』の階級にある身だ。
彼は、正道を好み、政治的権謀術数を嫌う正義漢であり、亡くなった『ウズミ代表』は無論のこと、
戦死した『トダカ』名誉司令をこよなく尊敬している男でもある。

 そして、そのウズミの娘である『カガリ』も大切に思っているが、
逆に権謀術数の権化である『サイ・アーガイル』に対しては毛嫌いの意思を周囲に示していた。
指揮官としては、攻勢に定評はあるが、守りに難があり、やや粘りに欠けると周囲には評価されている。

 その歴戦の勇士である『アマギ一佐』は、肩をいからせ、その自慢の口元に蓄えた顎鬚を震わせながら、大声で怒号した。
 
 「……お前ら!みんな、本当に『あの男』の指揮を大人しく受け入れるのか?!」

 ――ドン!とテーブルを叩き、その衝撃で、載っていた飲用グラスが倒れ、中の飲み物が溢れてゆく。
テーブルの周りに座っている男達はそれぞれのリアクションをする。
やや困惑する者。アマギの叫びに応じて頷く者。

 「……それが『上層部』の……『カガリ様』の……『アスハ代表』の御決定によるものなのだぞ?
   そして、今現在までの戦況は、その決定の正しさを証明するものだろう?」

 アマギ一佐のその怒鳴り声に対して、落ち着いた感じの壮年男性が受け答えた。
彼、『ハヤカワ一佐』は『大戦』や『メサイア戦役』ではなく、
その後の『統一戦争』から頭角を現し始めた遅そ咲きの『大器晩成』タイプの軍人である。

 その戦闘指揮は、攻守共に粘り強く、手堅い指揮能力を持つと評価されている。

 
25機動戦史ガンダムSEED 18話 3/5:2007/03/14(水) 22:31:16 ID:???

  彼は『統一戦争』では『サイ・アーガイル』総軍司令の指揮の下で『反乱軍』の後方を遮断し、
補給経路を絶つという地味だが重要な局面に彼の部隊は投入され着実に戦果あげた。

 そして、戦後の評価を相まって宇宙軍の艦隊指揮官に抜擢されたのだった。

 強烈な個性はないが、着実なで堅実な実務家として、軍内部では広く知れ渡っていた。
そして、猛進タイプの『アマギ一佐』のブレーキ役としても活躍しているのだ。
 『静』の『ハヤカワ一佐』と、『動』の『アマギ一佐』として双方上手くバランスを取っている。
彼等が組んで軍を動かす時に、絶妙なコンビネーションが生まれ、今まで二人は多大の戦果を上げてきたのだ。
 
 ハヤカワのその落ち着いた態度に、益々激興したアマギは、顔を真っ赤にしながら、
 
 「はっ!本気で言っているとは思えんぞ?」

 と唾を飛ばしながらも詰め寄るが、彼はアマギからの飛ぶ唾に顔を顰めながら、それには乗らずに、 
 
 「よせよ……アマギ」

 アマギの態度を嗜めるように、上手くかわすのだった。
元々彼は、戦中にサイによって抜擢されたという経緯もあり、『制服組』の間でも、
蛇蠍の如く嫌われているサイに対してアマギと違い、客観的にものを見ることができる。

 だが、彼にしてもサイを全面的に支持しているわけではない。
5年前にサイが在野に下り、権力を失った時点で、彼に対する見切りをつけた。
彼に対する自分の一応の義理は、果たしたと思っていた。
だから、今回の『ラクス』との戦いで『元上官』が復帰した事にやや面食らっていたのだ。

 だが無論、彼にも強かな計算がある。今、サイを全面的に非難する事は、これからの自分の出世にも響く可能性があるので、
アマギのように、好悪だけで判断し公言する事をなるべく避けていたかったのだ……
 だが、肝心のそのアマギは、ハヤカワのその強かな計算を、弱気の態度とみて業を煮やしたのか、

 「ちっ!おい、ゴウ。貴様は!?」

 と別の佐官に話を振った。ゴウと呼ばれた風采の上がらない30代後半の士官は、
『メサイア戦役』で戦死した『ゴウ一尉』の兄でもある。
その風采に似合わず、防御戦の戦闘指揮に定評がある彼は、凡庸とした表情にやや困惑を顔に浮かべながら、
26機動戦史ガンダムSEED 18話 4/5:2007/03/14(水) 22:34:38 ID:???

 「いや……確かに、5年前の当事、『統一戦争』が終わった直後……
   『サイ・アーガイル』のやったことは、人としては、まさに許されない事なのかもしれんが……」

 彼は、歯切れの悪いどっちつかずの無難な返答でそう答える。

 「そうだ!」

 とばかりに『我事を得たり!』とその言葉尻を捉えたアマギは、調子づいて大声で断言する。
 
 「――私も同感だね」

 と、アマギの勢いに援護を出すように今度は眼鏡をかけ、一見は会社員の風貌に見える佐官である『エルリック一佐』は、

 「――奴は……代表府『首席補佐官』の権力を嵩に着る事をいいことに『大戦』の――『ウズミさま』の元で活躍した
   『アスハ派』の『氏族』出身の政治家、官僚の多くを『政界』から追放した……』

 と断罪するかのように低い声で言った。彼はそこで一息を吐くと、更に憎々しげに続けた。

 エルリックは、オーブの下級『氏族』の血縁者の一人で、当初は外交官を目指すためにオロファトの大学で国際問題を専攻したが、
『オーブ解放作戦』で一旦はオーブが滅んだ後、軍人を志しオノゴロの士官学校へと入学したのだ。
そして、現在は分艦隊指揮官の一人としてここにいる。

 「……そして、それらの戦いの主要人物だった『アスハ派』の将官、士官……彼ら軍人の首を容赦なく切り捨てたのだぞ!!
   しかも、戻ったばかりの『アメノミハシラ』の人間達を『重職』として後釜に据えた……」

 と続けた。そこをアマギが引き継いで更に煽ぎまくる!

 「そう――これは、オーブの為に、常に先陣を切って戦い、いかなる犠牲をも払ってきた『氏族』出身者や我ら『アスハ派』の……
   いいや!全ての『オーブ国民』への裏切りと侮辱以外の何物でもないではないのか?!」

 「――言葉を慎みたまえ……アマギ、それにエルリック。もう5年前の話だぞ?
  いまさら、こんな議論をして何になるというのだ!我々の敵は『ラクス軍』だろうが?!」

 流石にハヤカワも付き合いきれなくなってきたのか、温厚な彼に似つかわしくないアマギ達に大声で怒鳴り返した。
27機動戦史ガンダムSEED 18話 5/5:2007/03/14(水) 22:35:56 ID:???

 「今の状態では、とてもその『ラクス軍』と戦えないと言っているのだ、ハヤカワ!
   本来なら『オーブ』の為に血を流した、我々『ウズミ様』の志(こころざし)を継いだ人間達こそが、一番に重用されなくてはならないのだぞ!」

 「その通りだ。――我々の意見具申が『上層部』に一度でも通った事があったのか?」

 「しかも、今の『オーブ上層部』は、『アメノミハシラ』派閥だ……
  『サハク』の亡霊どもに事実上、乗っ取られたような恰好ではないか!!」

 『アメノミハシラ』とはオーブ連合首長国所有の宇宙ステーションである。

 ウズミ・ナラ・アスハが国家元首(代表首長)に就任したC・E58年にオーブが、
宇宙開発の更なる発展を目指し国家的事業として建設を開始した軌道エレベーターこそ本来のアメノミハシラだったが、

 最頂部である大規模ファクトリーを内蔵した宇宙ステーションが完成したC・E70年時点で、
軌道エレベーターとしての建造計画はストップを余儀なくされていた。

 オーブは地球連合軍、ザフト軍何れにも属さない中立国家としての立場を貫こうとした。
だが、どの道を歩むにせよ、軍備の増強は必要不可欠な事項となり、
それ以降『アメノミハシラ』は、大規模ファクトリーを利用した軍事用宇宙ステーションとして活用される事になる。

 しかし、『ロンド・ミナ・サハク』を含めた一派が正式にオーブに帰順したことによって、
現在は、オーブに正式に組み込まれた領土の一つとして世界に認識されている。

 「カガリ様がおいたわしい――」

 「そうだ!この『状態』を作ったのは、いま我等の上官として、
   いけしゃあしゃあと軍に帰ってきた『あの男』ではないか!――許せるのか、これを!!」

 「……うむ」

 少数の異端の意見は多くの大勢の意見に淘汰されるのが常である、
ハヤカワも、もはや反論しようとしなかった。そこを――バシュン!と音と共に急に、部屋の明かりが落ちた。

 「な……なんだ、なんだ!」

 慌てふためく連中。すると、部屋の扉が急に開いた。

 「なぁに?『サハク』派閥の人間がどうとか言っていたけど、私にも何か御用かしら?」

 そこを、落ち着いた女性の声が室内を木霊するのだった。

 
>>続く
28通常の名無しさんの3倍:2007/03/15(木) 17:53:00 ID:???
『』が多すぎる
何かのギャグのように思えてしまい話に集中できない
29通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 05:32:11 ID:???
前スレ>582
クロスACの続き投下されてた?
どのスレかヒントちょーだい!
30通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 06:31:34 ID:???
異界の傭兵でググれ
31通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 12:19:50 ID:???
>>30
ありがと!
32通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 22:53:46 ID:???
そろそろしっかりが見たいな。
33通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 03:13:58 ID:???
んじゃ俺はそれに加えて、†さんとなんでも屋さん読みたい!
34通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 07:15:04 ID:???
本日のリクエスト受付は終了しますた。
35通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 12:07:19 ID:???
森の娘の没ネタ8話分まだー?

>>34
え?終わってたの
36通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 13:39:55 ID:???
リクエスト受付再開!
ただし職人さん次第ですが。
37通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 18:58:26 ID:???
みんな向上スレ行ってんのかな?
38通常の名無しさんの3倍:2007/03/17(土) 19:50:28 ID:???
あー。私がショートは推敲の練習になるって、うっかりなこと書いたせいかねぇ……orz
39機動戦史ガンダムSEED 19話 1/8:2007/03/17(土) 21:10:47 ID:???
 
 「「シ、シモンズ総裁!」」

 「元総裁……よ?」

 「い、いえ……その」

 そこには、モルゲンレーテの元総裁である我らが、エリカ・シモンズ主任が入り口からの光を背に立っていたのでした!
主任は、周りを見回すと、深くため息をつきます。

 「……貴方たちの気持ちも、わからないでもないわ――」

 そして、特にアマギ一佐の方に向けて淡々と語ってゆきました。

 「……確かに彼は、今までオーブの為に尽力して来た、氏族の出身者や、
  ウズミ様の派閥に属していた多くの功臣達を表舞台から葬り去っていった……」

 そのアマギ一佐は、やや俯きながら主任の話を聞いていました。

 「そして、国力と軍の精強さを追及した――当時のサイ・アーガイルの政策が本当に正しかったのかどうか……」

 主任はそこで大きく首を振りながら、一度言葉を切りました。

 「そう……何の確信も保証もないわね」

 「小官達は、その、ただ……」

 アマギ一佐達も何か反論しようとしますが、構わずに主任は続けます。

 「……しかし、彼は『信念』の人よ。だから敵も多い。
  幾ら世間で『英雄』という偶像に祭り上げられてもね……」

 「「……」」

 他の分艦隊の指揮官達も黙ったまま、主任の話に聞き入っています。
40機動戦史ガンダムSEED 19話 2/6:2007/03/17(土) 21:12:03 ID:???
 
 「だけど……だからこそ、彼を性急に判断しないで欲しいの。彼の理想を……真意を知って欲しい。
  ……せめて貴方たちだけでも彼を、信じてみてくれない?」

 「……いえ。この非常時に……我々も軽率でした。申しわけありません」

 そう語った主任に対して、アマギ一佐達は慇懃に頭を下げました。
それを見届けると主任は、場の雰囲気を変える為に明るい声を出します。

 「――これで話はお仕舞いね。分艦隊の指揮官連中がこんな所に集まって、
  らちもない雑談をしていられるほど、今の我が軍には余裕がないわよ?さっさと仕事に戻りなさい!」

 「「――はっ!」」

 「では、失礼いたします!」

 「――では」

 まるで母親か教師に叱られた子供達のように指揮官達は、
主任に頭を下げながら解散して行くのでした。ちゃんちゃん!

 「はぁ、疲れた……なんだかね……」

 主任のその苦労に対してねぎらいを掛けたくて、

 ――ぱちぱち。

 と思わず、私は思わず拍手をしてしまいました。
41機動戦史ガンダムSEED 19話 3/6:2007/03/17(土) 21:14:21 ID:???

 「……ん?」

 今更のように、シモンズ主任は隅っこに隠れていた私に気がつきました。

 「たった一睨みで不穏分子を撃破!いやぁ、さっすがシモンズ主任!そこが痺れる!憧れるぅ〜」

 「なぁに?あなた……今の見てたの?」

 「もう!ばっちりと!」

 シモンズ主任が呆れた様に私に話しかけてきたので、私は胸を張りながら自慢げに、

 「この<クサナギW>は、建造時からずっと付き合っている私の庭みたいなものですもの。
   何かゴタゴタがあれば、すぐに分かります!」

 そう私が答えると、主任は何かに気がついたかのように、ハハァーン?と言いたげにして、

 「さては……さっきの匿名の緊急コールはあなたでしょう――?」

 さっすが!シモンズ主任!そうです!はい!イエスですよ!

 「アハハッ……一番穏便に片が付くと思いまして」

 子供のように頭をかきかき、そう私は主任に答えますね。まるで教師にイタズラが見つかったみたい。

 「まったく、もう!……でもまぁ、確かにサイに報せるのも気が引けるしね」

 主任は私に向かってメッ!と云うような態度を取りながら、
私の判断を褒めるかのように、私の頭をナデなでしてくれました。

 もう!小学生じゃないんですから……やめてくださいよー恥ずかしいなぁ。
42機動戦史ガンダムSEED 19話 4/6:2007/03/17(土) 21:16:05 ID:???
 
 私たちはひとしきりにそうすると、私は以前からちょっと疑問に思っていた事を、
改めてシモンズ主任に質問をしてみました。

 「……でも、本当にアーガイル司令、氏族出身者や軍の制服組の間では、人気がないんですよね?
   ……っていうか、すっごい恨まれてますし……『統一戦争』の頃に、何か恨みを買うような酷い事をやったんですか?」

 それを聞いてみるとシモンズ主任は呆れたような、そして驚いたような顔をするのでした。
何で?と、私はそう表情で問いかけてみますと、

 「なぁに?あなた、5年前の『国防人事の大刷新』を知らないのかな?
   ――政府や軍内で今や公然の秘密となっている大事件でしょうに、これは……?」

 私は、ちょっとムッとしました。

 「……5年前といったら、私は中等学校で制服を着たばかりのお嬢ちゃんでした!
   ……それに、もともと『軍人』じゃありませんもん……!」

 呆れちゃいました。シモンズ主任は可愛い元部下の顔さえ覚えていないのでしょうか?
もう年だからかしら?

 「えっ?……そう言えば……」

 「……お忘れかも知れませけど、私は<クサナギW>の建造を請け負った、
   モルゲンレーテからの『出向職員』なんですよ?」

 私は改めて自分の立場を明確に主任に話しました。司令直轄の副官を務めていますが、
私は正式な士官の訓練を経ずに『出向職員』から急に士官へと転任した俄か軍人だったりするのです。
43機動戦史ガンダムSEED 19話 5/6:2007/03/17(土) 21:18:25 ID:???

 「……だから、私にとってアーガイル総司令は、アスハ代表を補佐して『統一戦争』を戦い抜いた
  稀代の『英雄』――これだけなんですね」

 主任は納得が要ったように、大きく頷くと、

 「――なるほど。そうだったわね。地獄の軍隊教育を潜り抜けて来たはずの、今日日の若手士官にしては、
   ずいぶんと砕けいるなとは思ってたけど……それならば、仕方がないか……」

 「……事前に、私の経歴書が行っていると思ってました。……お気に触りましたか?」

 やや憮然とした態度で私は主任を上目使いで見ると、

 「……私だって正式な軍隊教育は受けてないわよ。
   昔のことをほんの少し、多く知っているだけで、その他は大してあなたと変わらないわ」

 と年上の余裕か鷹揚に答えてくれます。

 「ほんの少し……?」

 私は、ついうっかりと口に出してしまうと、主任は目敏く、口元に柔らかい微笑みを浮かべながらも
私を睨み付けています。目が怖いですよ……主任。
そうして、シモンズ主任はしょうがないわねと云う様な態度で、

 「……わかりました。ならば無知な『お嬢様』のためにもいつか折を見て、
   ゆっくりと教えてさしあげるわ」

 と、そうおっしゃってくださいました。それを聞いた私は、身体を前につんのめる様に出しながら

 「……ドロドロのお話ですか――?」

 と思わず好奇心丸出しの態度で声と顔の表情に出しました。

 「……なに目を輝かせているの?」
44機動戦史ガンダムSEED 19話 6/6:2007/03/17(土) 21:19:19 ID:???
 
 「ア……アハハ……」

 やっぱ叱られていましましたね。はい。シモンズ主任はそう言いながら、

 「全く!これを聞いたら、貴方の直属の上官に対する認識が一変するかもしれないわよ?」

 「へ……?」

 私が思わず間抜けな声を出すと、主任は続けて、 

 「――前に言ったかもしれないんだけど……彼はね、あの茶目っ気たっぷりな言動で本性を晦ましているけど、
   ……その実は、恐るべきリアリストなのよ?」
 
 「はぁ……」

 「……彼を補佐する立場の人間が、これを知らないでは、のちのち厄介なことになるかもしれないから……まぁね」

 厄介て……どういうことなんだろう?



>>続く
45アスカしっかりしなさい ◆YqJJJk6AAw :2007/03/18(日) 09:12:02 ID:???

TV局の外に出ると風が冷たい。暖冬だなんてラジオのニュースで行っていたけれど流石にまだ寒い。
体や心が寒いと懐までもが寒くなる。ガチャガチャで百円で当てた十年来使っている腕時計で時間を確認すると、バイトの時間が近くなっている事に気付いた。
上着の襟を立てて寒さを堪えようとすると視線を感じる。
大勢の女の子達が黄色い声を挙げている。
もしかしてこれが出待ちってヤツ?俺の人気も捨てたもんじゃないなとニヤニヤ笑う。
すると女の子達が俺に向かって押し寄せてくる。
いやあ、人気者は辛いな……ってええ!?
俺は女の子達に弾き飛ばされて強かに腰をアスファルトに打ち付けた。アスファルトは硬くて冷たく、痛いなんて物じゃない。
恨みがましい視線で女の子達を見れば、誰かを囲んでキャーキャー叫んでいる。
そうですか俺は無名人で不人気者ですか。
「やめたまえ、君達!」
凛々しい声がすると女の子達の壁がモーゼが海を割ったように二つに割れる。そこから現れたのは……レイ・ザ・バレルさん(役名)だ。
レイさんは某歌劇団の男役スターさんでマジで男性と見間違える位に凛々しい人だ。
「人を突き飛ばして謝罪をしないのか君達は! 僕は悲しい……人の心が感じられない!」
レイさんは華麗な歩きで俺に近付き、舞う様な動作で手を差し伸ばす。
「君は……シン君じゃないか!災難だったね。怪我は無いかい?」
「は、はい!体だけは丈夫ですから……。ありがとうございます」
俺は差し伸ばされた手を掴もうとするけれど、掌に血が滲んでいるのに気付いて手を引っ込めた。
「おや?怪我をしてしまったのかい?見せてみたまえ。バイ菌が入ったら大変だ」
レイさんは俺の手を掴んでジッと掌を見つめてポーチからファンシーな絆創膏を取り出して貼ってくれた。傷口を押されて刺すような痛みを感じたけど我慢我慢。
「あ、ありがとうございます……」
俺はお礼を言うと立ち上がり埃を払う。
「君達!人の心を持たなければ人間とは言えない!人の心……愛それは甘く……切なく……」
レイさんは振り返るとファンの女の子達にポーズを決めながら注意した。するとファンの女の子達は感極まってバタバタと倒れていった。凄い異様な光景だ。
「じゃあ、俺はこれで」
失礼します付け加えてそそくさと立ち去った。
──バイトの時間に間に合うかな?遅刻したら首になっちゃうよ。

──to be continued──
46SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 14:01:45 ID:???
1/

 アーモリー・ワンにおける強奪事件の発生から凡そ六時間。

 ボギーワンを追うミネルバは、地球とプラントの間に横たわる星屑の海、
小惑星と人工物の残骸が漂う濃密なデブリベルトに入り込もうとしていた。
「しかし艦長、本当に行方をくらませるためとはいえ、
こんな危険な宙域に逃げ込むものでしょうか?」
 デブリ群の軌道要素にミネルバの相対速度を合わせる作業が続いている。
指示を送る副長のアーサーは、艦長席のタリアに向けてそう質問した。
「ミネルバの分析チームは有能だわ、デブリベルトに入るまでのトレースは確実よ」
 タリアはオペレイター席のメイリンと、索敵手のバートに視線を送る。
二人は確信を持った表情で肯き返した。

 レーダーの精度が十分に確保できないCE時代の戦闘においては、
入手できる情報を即座に分析する能力が戦闘の行く末を左右する。
 タリアは、ミネルバの艦長に就任する事が決まった直後からオペレイターと
索敵手を直接スカウトに走り、バートの実績とメイリンのセンスに目を付けた。
 バートは艦内のネットワーク上に集められた分析チームの中心となり、
宇宙に残された僅かな痕跡と監視衛星などから回収されたデータをつき合わせて、
2%の誤差でボギーワンの航路を特定していた。
 彼らを信用せずに宇宙を行くという事は、目隠しを為ているに等しい。

「それにこうした危険な宙域だからこそ、大量の兵力を展開する事は出来ないわ。
攻めるに難く、守るに易く、そして隠れるならばもっとも容易い。
いままでと違ってセンサーも当てにならなくなって来る――航跡を十分確認して」
 巨大なデブリが密集しているので、僅かな軌道の変更で行方を眩ませることが出来る。
「まさかアレの影に隠れているとも思えないけれど」
「其処まで軌道を変える噴射は、今のところ確認されていません」

 いつデブリが船体を直撃してもおかしくはない、そんな危険な宙域において、
ブリッジクルーの注目を集めるものが、モニターに映っている。
「大きいですね――」
 レーダーを使用するまでも無く、モニターの中にはっきりと確認できる小惑星が在った。
宇宙的なスケールに慣れた彼らは、宇宙において『映像で存在が分かる』物が、
どれだけ大きいのかを良く知っている。
「当たり前よ、アーサー。あの小惑星はプラントの材料だわ」
 悠然と回転するその天体は、確かにプラントほどの大きさが在る小惑星であった。
ほぼ球形を為ており、一番短い直径で八キロもある。
47SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 14:03:23 ID:???
2/

 ――プラントの作り方


「……先ず質問です、艦長。直径が数キロ、とてつもない質量が在る天体を一体何処から、
どうやって運んできたんですか?」
「いい質問ね、メイリン。小惑星といえば、火星と金星との間に在る小惑星帯を
思い浮かべる人が多いでしょうね。けれどプラントの材料となる天体は殆どが、
地球に近い軌道を周回する『地球近傍小惑星』なの」
 地球が出来るとき、原始惑星に衝突しなかった宇宙の孤児達である。
或いは小惑星帯の軌道から"落ちてきた"ものがこの仲間に含まれる時も在る。

「種類としては、鉄やニッケルを主成分とするM型小惑星ね」
 炭素を主成分とする物をC型と呼び、この種類が一番多く、小惑星全体の八割近くを占める。
その次に多いのが珪素――シリコンを主成分とするS型で、M型は三番目に多い。

「ふんふん、そして運び方は?」
「アーサー慌てないで。やり方は単純よ……核弾頭を積んだ無人機を接近させ、
適当な場所で爆発させるの。これで大体の軌道は修正できるわ」
 小惑星の表面を吹き飛ばす反動で軌道が逸れる。
宇宙スケールでは大きな軌道のずれとなるので、遠くに在る小惑星が地球に落下しそうになっても
当たらないようにするのは簡単である。ブルース=ウィルスが命を賭けて砕く必要は無い。

「後は軌道要素を考えて、旧型のフレアモーターで加速するの」
 此処で言う旧型とは、太陽光で発電し、イオン――荷電粒子を噴出するエンジンのことである。
タリアは新型の動作原理については詳しくない。
 地球に運んでくるところまでは核とフレアモーターを搭載した無人の作業機でどうにかなる。

「はは、しかし野蛮ですねえ。アレだけ核を恐れてNJをばら撒いたのに」
「アーサー。きちんとコントロールして、近くで使わなければ早々危ない物じゃないわ。
私たち人類が常に恩恵を受け続ける太陽の出力に比べれば些細な問題――ね」
 太陽からは一分毎に水爆が一つ分程のエネルギーが地球に向かって降り注いでいる。

「それでも艦長、このままだと只の石ころですよね? 一体どうやってプラントにするんですか?」
「それはもう、こつこつと丸く整形していくわけなのよ――メテオブレイカーを使って」
「大変な作業ですね」
「そうね、メイリン。最初は手作業で時間も労力も非常に掛かっていたわ。やがて宇宙服の関節に
モーターを付けた強化服になり、それが巨大化してMSの母体が開発されたの」
 MSのご先祖が小型のメテオブレイカーを使って小惑星を掘削している様は、
まるで工事現場でつるはしを振るう土方のようで在ったと言う。
48SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 14:04:55 ID:???
3/

「……なるほど、プラント以前は月で製作した各種のユニットを軌道上で組み上げる方式を
取っていましたから、地球連合にはMS系統の技術がそれ程必要なかったというわけですね」
「必要は発明の母、と言う事よ」
 最初期のMSは、連合――プラントに出資した国の規制を逃れるために、
作業用ポッド扱いで開発されたという経緯がある。

「そして丸く整形した小惑星の内側へ掘り進めて行くの。プラントの内部構造を作りながらね」
「そして最後におなじみの砂時計型が出来上がる……と、そうですね艦長?」
「そうよ、直径方向に切れ目を入れておいて、メテオブレイカーで叩き割り、段々と離れて行く
二つの陸地を何十本ものシャフトで繋ぐの」
 シャフトの製作装置は両端の陸地に設置され、一日に二十メートルずつ伸びて行く。

「少し伸びるたびに真ん中から継ぎ足して、規程の長さに達したら伸ばすのを止めて固定し、
シャフトの間をユニット化した透明な外壁で繋いで行く――」
「太陽光が入らなければ、中で暮らすことが出来ないですもんね――」
「その通り、後は内側に空気を入れて水を入れて、陸に色々な設備を整えてはい、完成」
 プラントの竣工完了イベントは、内側に空気を送り込むポンプを起動させる瞬間に行われる。

「一基を作るのには時間が掛かったけれど、ユニット方式で円柱型のコロニーを作るよりは
遥かに安く上がるの。打ち上げ費用の関係でね」
 無重力での金属技術を用いて、鉄を主成分とした非常に強靭な合金を作ることが出来た事が、
小惑星を原料としてそのまま住処にする様な真似を可能にしていた。技術の勝利である。

「そういえば、プラントの内側には何故海があるんですか? 水は貴重なのに」
「一つには、温度と湿度の調整と、土壌のコントロールが難しかったから、ね」
「成る程、土は管理がやり難いですからなあ。土中の微生物などの問題が……」
「そういうこと――」
 水――液体と違って。土はかき混ぜて均一にしにくいために、放って置くと地中の細菌が
予想外の繁殖を見せて大気のバランスを崩すことがありえる。
 プラントにおいて、花の咲き誇る庭園を持つという事は特権階級の証であった。
 
「海の深さは一メートルぐらいで、常に循環されているの。"海底"には遺伝子改良した
藻が生えていて、酸素を供給すると共に、水質を安定させていてくれるわ」
「そう! 実は藻のお陰で、プラントの水面は緑色なんですよね。
私は、地球の海には青い藻が生えているんだと思っていました」
 地球の海も深さが精々一メートルぐらいだろうと高を括って飛び込み、溺れた間抜けな
プラント出身者も居る。

 ――プラントの作り方講座、終了。
49SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 14:07:59 ID:???
4/

「――艦長、敵艦の熱紋を発見しました」
 索敵手のバート=ハイムからの報告が、艦橋の雰囲気を一変させた。
 遮蔽された薄暗いブリッジの中で、クルーの視線がタリアに集まる。
 索敵手バート、火器管制のチェン、操舵手マリク、管制官メイリン、そして副官アーサー。
艦橋を見渡し、皆の視線にゆっくりと答えながら、帽子の位置を正した――スイッチオン。
「……さて、坊やたち。悪い子を懲らしめる時間が来たわよ。気を引き締めて行きましょう!」
『イエス、マム!』クルーの唱和が艦長の意気に応じる。
「機関最大。電子戦用意、敵の一挙手一投足、見逃したら許さないわよ。バートは索敵密に。
チェン、CIWS起動。マリク、初弾の回避は一任するわ、上手く踊ってみせなさい」
 全艦にコンディションレッドが発令され、艦橋の左右に配置されたレーダードームが
最大出力での運動に備えて冷却される。
 艦体を覆うラミネイト装甲システムが、正面装甲から順番に予備放熱を開始した。
「メイリン、パイロットと機体の状況を報告して頂戴」
「了解。MSの調整は全機とも完了。しかしルナマリア=ホークが、
ザクでのソードシルエット使用を求めています、如何なさいますか?」
 メイリンがパイロットからの伝言を伝えた。
「ああ、スラッシュウィザードが未だ使えないのね――シンは何と言っているの?」
「消極的賛成……だそうです」
 タリアは、癇癪を起こして拗ねている子供を見たときのような顔をした。
気持ちはわかるが態度が気に入らない、というような表情だ。
「許可します。インパルスの発進シークエンスと干渉しないように注意してね」
 基本的にこういったパイロットのわがままは認めてしまうのが、ザフトの流儀である。
とにかく個人が最大のパフォーマンスを発揮する事を求める風潮の原因は、深刻な人手不足だ。
「"ちゃんばら"がやりたかったら、女が相手でもはっきりと物を言うように伝えなさい」
 草葉の陰で、装備を取られて泣いているパイロットの悲劇は、こうして忘れられた。
「それから、出撃時にはルナマリア機とインパルスの発進シークエンスはアビーに一任して、
ショーンとデイルが先発。レイは待機させて」
「了解です」
「敵艦、進路変更なし――」ミネルバとボギーワンの詳細な進路データを述べつつ、バートが報告。
「未だ反応が無いの? こちらの動きには気付いている筈――」
 首筋にちりちりとした焦燥感を感じていた。アーモリー・ワン襲撃の直前にも覚えた感覚だ。
今までに何度と無く自分の命を救ってきたこの勘でもって、今は全乗組員を守らなければならない。
「バート、全天に索敵。MS隊発進。作戦を開始します」
 タリアは即座に命令を下した。
 其処へ艦橋下部の非常用通路の――と言ってもタリアの用心によって艦橋が遮蔽されたままになって
いるため、出入りする全員が通らなければならない――入り口を潜っていくつかの人影が入ってきた。
「グラディス艦長、我々にもこのミネルバの戦いぶりを見せてもらって構わないかな?」
 疑問刑で命令を下す長髪の美丈夫に、タリアは心中でため息をついた。デュランダルの背後に
立つ二人のナチュラルの方が、彼女の心情を理解してくれそうだった――なにせ女性だ。
50SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 14:09:34 ID:???
5/5

 同時刻――ガーディ=ルー艦橋

 デブリの海の片隅で、ミネルバの姿を見ている者達が居た。
「やれやれ……向こうはプラントの騎士を気取っている積もりかな?」
 モニターに映るミネルバはネオたちからすればまるで見当違いの方向にMSを発進させており、
隠れているガーディ=ルーの艦影を捉えているようには見えない。
 完全な奇襲の形が此処に完成していた。

「嬉しい限りなんだが、こうも対応が教科書どおりだとなんだか申し訳ないな」
「戦争をやっている意識が弱いのでしょうな。自らの能力を信用する者ほど正当性に拘るものです、
それが過信であると気付くまでは。……そういう我々は褒められた存在ではないのですが」
 正面から乗り込んできたミネルバを見て、艦長のイアン=リーとMS隊隊長のネオ=ロアノークは
互いに勝手な感想を言い合う。

「ちなみにリー艦長、君ならデブリ帯に逃げ込んだ敵を探す時はどうする?」
「トレースが信用できるとして……敵艦の位置にあたりをつけて長距離ミサイルを放ちますな。
敵の反応によって索敵を行います。艦載機を発進させるのはその後です」
 ミサイルが迎撃されるか否かで、敵が本当に其処にいるか――デコイの可能性を探る。
「追撃側はすでに存在を知られておりますから、大人しくする必要がありません。
待ち伏せを考えるならMSをこの様な場所で出すのは躊躇うところですな」
 ネオはイアンの口調に、意外と人材を大事にする響きを感じ、快い気持ちを覚えた。
「成る程、兵器は攻撃のためにだけ使われる物ではない……か」
 ならば兵士にも戦争をする以外の使い道が見つけられるかと考えて、"生き方"ではなく"使い道"を
思考している自分を軽く嫌悪した。
「どうかなさいましたかな?」塞ぎこむようなネオに、イアンが問いかける。
「いやなに、気を抜くと部下を駒としてしか見ていない自分に気が付いてね。
危ないと感じていたところさ」
「……貴方は軍よりも教壇を選ぶべきでしたな」

「話を戻すが、こういった状況でMSを先発させるのは――?」
「愚策でしょう」一言で断じる。「あの艦の性能であれば、MS隊と共に行動する方が上策です。
この様な宙域では攻める側が戦力を分散させるのは危険ですからな」
「それはつまり、こちらが有利に立っている、という事か」
「油断は出来ません」イアンは葬儀場を思わせる沈鬱な声音で答えた。
「大人気の無さを我々が指摘できる筋ではありませんが――まあ若いのでしょう」

「それじゃあ若さゆえの過ちって奴を、向こうのお偉いさんにも認めさせてあげようじゃないか。
カオスとMS隊は所定の位置についたな、作戦開始、エグザスも出るぞ!」
 ガーディ=ルーはデブリ帯に追い詰められたのではない、虎穴に誘い込んだのだ。
それを敵に知らしめるべく、ネオは仮面の下から覗く顔に危険な笑みを浮かべた。
51通常の名無しさんの3倍:2007/03/18(日) 16:08:14 ID:???
いや、面白かった
話こそ動かなかったけれど、詳しい説明とちょっとした描写で
その世界が実際に人が生きている場所なんだと思わせてくれる
量の少なさを埋めるプラントの作り方も初めて見たので興味深かった

それと、少し気になったのだがネオは艦の運用には明るくないのかな?
元々パイロットであるし、確か艦長ではなかったと思うので
そうであってもおかしくはないと思うのだけれど
知識のある者が確認のために聞いているにしてはやや丁寧すぎる気がしたので気になった
52259改め弐国:2007/03/18(日) 19:45:37 ID:???
森の娘の見た光〜番外編〜
ソフィとシャミィ

 1025は隊長のイシカワの趣味でコック長はかなりの腕前の人物が務めている。
シャミィお気に入りのパンの他シチューもまた絶品である。そして材料の鮮度などの関係で
ワザと多く作る時がある。そういった場合、彼の独善的判断で配給券が配られ、多くは若者の胃袋を
満たす事になる。そして食事くらいしか楽しみがない僻地の部隊では、その配給券はプラチナカード
である。当然金銭よりも1025の隊員にとっては重要な価値を持つ。

 あるものは涙を浮かべ、あるものは走ってその場を去った。かなりの枚数の配給券。
今回のメインデッシュは大人気のシチュー。それを自分の横に積み上げてカードを配るソフィと
カードを受け取るフランク。ソフィの山勘と奇策、フランクの計算高い作戦は、カードに参加した者の
配給券をほぼ彼らの下に集めていた。そしてついにその二人のみの直接対決となる。
 相手が悪い。奇策を打った所で定石から一歩も外さない相手には効かない。カンには自信が
あるがあちらの計算が一枚上手だ。ソフィは表情を変えずに思う。ともかくシチュー券4枚は
確保しなければならない。ケースに収まって渡される以上日持ちはするはずだし、夜中の空腹を
満たすのがあのシチューならばきっと太る事もあるまい。
 もう中盤に差し掛かり、点数的にはソフィ敗色濃厚。奇策に引っかかって配給券を取り上げられた
連中がニヤニヤしている。このままでは、まずい。何とかしなければ。何とか。
鉄面皮のフランクからは何の表情も読み取れない。ふとフランクの横に座るシャミィが気になる。
カード一枚ごと表情が変わる。もしや! あえて大事なカードを切る。シャミィの表情がぱっと
明るくなる。どうやらカードのルールを覚えてしまったらしい。誰も気付いて居ないことを確認すると
その時点でソフィの相手はシャミィになった。
 数十分の後ソフィの手元にはシチュー券8枚とパン券10枚があった。

次の日、調査に出たフランクを見送ったシャミィを捕まえて配給券を見せる。
「欲しいのあげるから好きなだけ取りなさい?」 
「いただくマスでボクはよいですか? そふぃちゃんにお仕事はやりません」
「アンタに仕事をもらった覚えは無い! じゃなくて、別にあたしの仕事はしなくて良いのよ?
おなか、すいてるでしょ、いつも。こっちがパン、こっちがシチューね」
「ダイスキにござます、そふぃちゃんアリガト!」
そう言うとシチュー券3枚とパン券6枚を手に取って走っていく。
「もう仕事はしてもらってるから遠慮はしなくて良いのよ…だけどアンタの顔を見てカードが読めたとか、
フランクが知ったら怒るかしら」

 実はフランクは気付いたのだが、シャミィに気を使って黙っていたという事実が明らかになり
真っ赤になってソフィが怒るのは、かなりあとの話である。

>>35
第四話の前に挟まるはずだった話
ね?使えない理由が在るんデスよ…ガンダム、絡まないじゃんorz
53通常の名無しさんの3倍:2007/03/18(日) 21:45:39 ID:???
 >>戦史
 オーブの中にもきちんと不満を言う人達が居るというのは或る意味健全だなあと思いました。
上層部への不満を堂々と口に為ることが出来るのはいいものですね。

 こちらは書き方の問題ですが、台詞が連続する時は一行あけないでも良いのではないでしょうか?
文脈の切れが時々分かりにくくなります。
54通常の名無しさんの3倍:2007/03/18(日) 22:07:22 ID:???
>>47
>小惑星といえば、火星と金星との間に在る小惑星帯

火星と木星の間のこと?
5545  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/18(日) 22:15:11 ID:???
 火星と金星の間にあるのは? どう見ても地球です。本当に有り難うございました。
そのとおりです。ご指摘に感謝を。
56通常の名無しさんの3倍:2007/03/18(日) 22:45:01 ID:???
>>45
レイは宝塚の人なんだww
次に出て来る役名が気になりますw

>>55
GJ!
読み飛ばし推奨どころか面白かったです!
57通常の名無しさんの3倍:2007/03/19(月) 20:35:22 ID:2SAqJiCp
投下待ち
58 ◆NBwe12OQEU :2007/03/20(火) 00:10:04 ID:???
申し訳ありませんが(誰も楽しみにしてなかったり?)、投下作品を書き直す事にしました。
さらに言うと学生生活もそろそろ再開してしまうので、いつ投下できるか分かりません。

申し訳ないです。 OTL
59SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/20(火) 00:49:56 ID:???
1/

 無重量状態の実現された操縦席で、シンは重さの掛からない腕をモニターの中の虚空にかざした。
カタパルトから射出されたインパルスは、初速をほぼ保ったまま僚機と歩調を揃え、ボギーワンの
居ると見られる宙域までを慣性航行で漂っていた。

 先行するのはインパルスとザク、やや後ろをつかず離れず、二機のゲイツRが追随している。
砲戦仕様のブラストインパルスが、接近戦用装備を見に付けたザクと並行するという一風変わった
陣形なのは、セカンドシリーズを強奪した凄腕のパイロットたちが出てくる事を予想して
交戦経験の或るルナマリアとシンを前に出したからだ。

 連携の取れた集団戦法よりも個人の経験と腕を信用するのは、ザフトのお家芸である。

 ルナマリアが洩らす憂鬱なため息がシンにも聞こえてきた。
『はあーーー。デブリ戦って苦手なのよね――』
 コアスプレンダーよりは些か広いザクの操縦席に収まるルナマリアは、本当に苦手だと思っている
のだろうが――シンは苦笑いを浮かべて通信機を操作した。
「ルナマリア、それって嫌味の積もりなのかよ? 高難度機動試験、成績は一番だったろ――」
『あんなの、F1レーサーに縦列駐車を練習させるようなものよ。実際には意味が無いわ』
 高難度機動試験とは要するに、MSを使った障害物競走である。小惑星やデブリに見立てられる
障害物を避けながら、定められたコースを可能な限り短い時間と少ないバッテリー消費で抜ける。
 ルナマリアは今も乗っている赤いザクを用いたその試験において、教官側が設定した理論的な
最速スコアを三十パーセント近く上回る記録を弾き出し、訓練所の語り草となっている。

 その伝説に曰く――赤いザクは通常の三割速い。

「意味が無いって言う割には、大分本気で練習してたじゃないか――」
 徹夜でシミュレーションに付き合わされたシンが言う。
『そうじゃなきゃ実機に乗せてくれないんだもの。本物に触れないと意味が無いわ。
MSでもなんでも実際に動かしてみて覚えるものよ』
「アレだけ射撃訓練したのに少しも命中率が上がらなかった、ルナの台詞じゃないよな」
 射撃が平均点――せめて常人並みの能力さえあれば、インパルスのテストパイロットには
誰から異議を唱えられる事も無く、ルナマリア=ホークが選ばれる筈だったのだ。

『シン、魚が空を飛ばないのは、空が苦手だからじゃないのよ?』
「鯨が宇宙にいる時代に何を言ってるんだよ。そんなに嫌なのか、射撃は!?」 
『鯨とトビウオの事は言わないで、食べた事も無い動物について語りたくないわ――』
「ルナ、恐竜については一生語らせないからな!」
 ルナマリアの射撃姿勢を思い出した。シンの記憶する限り、銃弾が的に当たったのは一回だけだ。
三つ隣のブースにいたルナマリアの射撃が、何故かシンの的に当たったので良く覚えている。
60SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/20(火) 00:50:53 ID:???
2/

「本当に、よくもまあ赤服を着ていられるもんだよな。射撃が嫌いなザフトレッドなんて、
訓練所始まって以来他にいないんじゃないか?」
 普通ザフトレッドに選ばれるようなMSパイロットというのは、凡そすべての面において
標準以上の能力を有し、更に誰にも負けないと言う得意分野を持つような者達である。
 シンの台詞は字面だけを追うならば、かなりルナマリアを馬鹿にした発言であるのだが、
対するルナマリアの態度は、
『本当、お母さんのおなかの中に、射撃センスって物を置き忘れた感じだわ。
……っていうことは、メイリンには二人分の射撃の才能があるのかしら?』
 というものだった。
「体力がその分ルナの方に偏ってるから、センスだけあっても駄目だろ」
『そっか、クラス選考試験の時、体力検査はシンがメイリンのバディだったんだっけ?』
 メイリンは体力不足を理由に、MSパイロットへの道を閉ざされていた。

 無駄口を叩きつつも、最小限の動きで上手くデブリを回避しながら進んでいる。時折センサーにも
映らない小さなデブリが表面をノックするが、MSの堅牢な装甲は簡単に弾いていた。

「気をつけろよルナ。デブリに当たっても、助けてやれないんだからな」
『ちょっと、レイみたいな口をきかないでよ。ぞくっとしちゃったじゃない』
 何気なく同僚に失礼な事を言っているルナマリア機を見る。見慣れた赤いザクは全長に匹敵する
長さの"エクスカリバー"対艦刀をカウンターウェイトとして振るい、デブリの間を飛んでいる。

「本当に対艦刀二本でよかったのか? 
この宙域なら距離をとって戦えるブレイズやガナーの方が良かっただろ?」
 ルナマリアの赤いザクは、出撃直後にシルエットフライヤーから対艦刀受け取った後、
予備のビームライフル只一丁を腰のハードポイントに据えていた。
『そこはそれ。障害物が多いなら多いで、戦い方は幾らでもあるわよ』
 ルナマリアの調子はいつもどおり軽い。シンは本気で心配しているのだが、だからと言って
ルナマリアのザクにビーム砲を持たせた方が良いのかといえば、背中が不安になるのだ。
 レイのザクがビームライフルを構えているのとは訳が違うのである。

「ま、これで後ろから撃たれる心配は無くなったと思えば、安心かな?」
『ちょっとシン、それどういう意味?』
「ルナ、最後まで言わせるなよ――」
『甘いわねシン。エクスカリバーだって、投げたら遠くまで届くのよ?』
「あ、コイツ人のインパルスの装備を投げ捨てる気かよ!?」
 ――しかも俺に当てる気だ!
 シンはゆっくりと赤いザクから距離をとった。
61SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/20(火) 00:54:06 ID:???
3/

 騒ぐインパルスとザクの後姿を眺めるゲイツRの中で、
ショーンとデイルは同時にため息をついた。
『騒がしいな』二号機のデイルが忌々しげにつぶやく。
「元気だねえ――」一号機のショーンは、見世物を見ているような感じだった。

 インパルス、ザクは共に目的宙域に到着、しかし――
『――なによこれ? デブリしか見当たらないわよ?』
「こっちのセンサーにも感が無い――艦影は無しだ。まさかデコイ?」
 嫌な予感は、こういうときにこそ的中する。
 シン達は宙域を漂うデブリの中に、徐々に近づく燃料タンクがある事は見えていても、
穴が空いている様に見える細工を施されたタンクにいまだ噴射剤が大量に眠っている事は
分からなかった。
 ゆったりとMSに近づいて行くタンクにゲイツRの頭部――センサー群が向けられた瞬間、
虚空の何処かから微かな輝きが燃料タンクに吸い込まれた。
 ――爆発。インパルスとザクの後方でゲイツR二機を巻き込んで宇宙に大輪の花が咲く。
花弁の一枚一枚が極超音速で走る星屑の嵐だ。
 一瞬、同時に撒き散らされたチャフによって通信が途絶する。
『ショーン――!』「デイル――!」シンとルナマリアが、それぞれにパイロットの名を呼んだ。

『こちら一号機、大丈夫だ。少しデブリを被ってしまったけどね!』
『二号機――問題は無い、いや、FCSに少し不調が見られる。カメラを幾つかやられたな』
 データリンクは直に回復した。インパルスのモニターに二人の顔が映し出される。
 二人ともザフトレッドではないが、二年前の大戦――実戦を潜り抜けたベテランである。
 爆発の直前で不穏な空気を感じ取った二人は、申し合わせる事も無くデブリの影に身を隠し、
爆発によって弾き飛ばされた破片の渦に巻き込まれる事を避けていた。

 続いて一号機からインパルスとザクに向けて警告の通信が送られる。
『シン君たち気をつけてくれ。今の燃料タンクの爆発はビームライフルによるものだ。
この近くにMSが居る!』

 ショーンからの声に重なるように、閃光――連続に三条。

 警告に反応する直前の虚をついて飛来したビームを、シンとルナマリアは持ち前の判断力で
それぞれ一つずつ躱した。しかし――
「――えっ!?」『キャァーー!?』

 機体に着弾の衝撃が走る――三撃目に放たれた高出力のビームがザクとインパルスを
"二体同時に"射線に捉えた。インパルスの右脚が吹き飛ばされ、その向こうのザクは右腕を損傷、
マニュピレイターが握力を失ってエクスカリバーを取り落とす。
62SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/20(火) 00:55:45 ID:???
4/4

 その攻撃を全て理解していたのは、離れた空域から攻撃の一瞬を見ていたショーンとデイル、
そして奇襲を成し遂げたMSのパイロットだけであった。
『あれは――意図的な攻撃なのかな!?』
『分からん……だがこちらにもお客だぞ!』
 爆風のダメージから立ち直りつつあるゲイツRに向かって、デブリの影から飛び出した
黒いダガーからの射撃が放たれる。
『どうやら嵌められたようだ――戻るぞショーン、ミネルバが危険だ!』
 俊敏な機動で迫るダガーへ牽制に両腰のレールガンを放ちながら、二機のゲイツRはじりじりと
後退して行った。

『ショーンたち、下がってくの?』
「いや、アレでいいんだ。ここにボギーワンがいない以上、ミネルバを守ってもらわないと――」
 ゲイツRは突如として姿を現したダガーに押され、徐々にインパルスからの距離を離されつつある。

『たった一機でショーンとデイルを抑えているだなんて――あれも仲間の内なのね』
 ルナマリアは交戦したガイアのパイロットを思い出しているのだろうが、
シンにも思い出す存在が在った――変幻自在なダガーのパイロット。
「ああ、妙に声を掛けてくる変な奴だ」」
 戦場に来ているとは思えないほど軽薄に声を掛けてくるパイロットだと直感した。
カオス、ガイアを追撃しようとしたシンはこいつに足止めされたのだ。
「ショーン、デイル、接近されてからのビーム攻撃が厄介だ。距離をとって――!」
『分かったよシン君』『先に言えシン! ショーン、レールガンで弾幕を張れ!』
 データリンクから伝わる二機の状態――デイルの一号機は既に右腕を損傷していた。

「とにかく俺たちも下がろう、ルナ!」
 ゲイツR共に後退しようとしたザクとインパルスを、再び上下からビーム攻撃が襲う。
初撃で破壊された機体のバランスを取り直しつつ回避――コックピットを正確に狙ってくる射撃に
シンの背筋を悪寒が駆け上る。
「俺とルナ――二機を一機で足留めしようって言うのか!?」
『え……一機?』上下左右、多方向からの厳しい攻めに、敵が複数機であると考えていたのだろう、
ルナマリアは驚きの声を挙げる。

「馬鹿――! 気付いてなかったのか? このビーム、エネルギーパターンは――」
 と、シンは言葉を切ってインパルスに向きを変えさせた。瞬時に掲げたシールドに焦熱の牙が
突き刺さり、ビームが表面のABコーティングに散らされる。反撃に放ったインパルスのビームを
優雅とすらいえる動きで回避した機体の装甲色は――深緑。

 デブリの影から、独自の機動兵装ポッドを駆使した多角的攻撃を見せたそのMSの名を、シンが呼ぶ。
「――カオス!」
 これより後、凡そ一年に渡り宇宙戦最強の名を欲しいままにするセカンドステージモビルスーツ、
混沌の名を冠する機体とそれを駆るパイロットにとって真の意味での初陣であった。
63通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 13:17:21 ID:???
『†』氏、GJ!!乙!!

今回もドキドキさせてもらいました!、シン達の会話に現実味が感じられて良かったと思いますよ。
このまま最終回目指して書ききってほしいです。

とりあえずスティング、シン、ガンガレ!
64通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:20:55 ID:???
「連合によるモビルスーツ開発計画ですか? 正気の沙汰ではないですね」
 手に持った古風な黒電話風の受話器を通じて、ムルタ・アズラエルは溜め息混じりに言った。
 アズラエル財閥の所有するビルの一室。完璧に環境を整えられた快適な執務室にいるのに、アズラエルの顔には不快の色が現れている。
「MSだなんて。あの、宇宙の化け物どもの真似事をして、戦争に勝てると本気で思って居るんですか?」
 アズラエルが反発するのは、何もコーディネーターへの嫌悪からだけではない。
「今から開発‥‥まあ、機体が出来るのは早いかも知れません。しかし、動かす為のOSの開発の時間は? それに、訓練はどうするんです? MAのパイロットだって、1000時間を超える訓練をして、やっと一人前だというのに」
 MS自体は宇宙開発用の工作機械から発展した既存技術でもあり、完全に新技術というわけでもない。人型の機械人形を作るのは、難しいとは言えないかも知れない。
 一番、問題に思えるのが、OSと訓練時間だ。
 実際、MSと言う物は操作が煩雑であり、コーディネーターに対して基礎的な能力に劣るナチュラルでは、まともに動かす事すら困難な代物なのである。
 OSによるサポートに加え、パイロットの訓練も必要だろう。
 パイロットの訓練も、数週間で終わりと言うようなものではない。
 それを、戦時中に1から始めようという考えが、どれほど悠長なものか‥‥だいたい、全部上手く行ったとしても、MSの運用に関しては、ZAFTが年単位で先を行っている。後を走ったところで、追いつけるとはとても思えない。
『ハルバートンが、調子に乗ったのですよ』
 電話の向こうで、答える男の声。その男の声も、苦々しさを強く表している。
 アズラエルは、電話の向こうの男の、苦虫をかみつぶしたような顔を想像した。映像付きの通信ならそれも見られたのだろうが‥‥ZAFTがばらまいたNJのせいで通信機器はまともに使えず、有線の電話という古い物を引っぱり出して使うハメになっている。
 何事も、ZAFTのせいで、非常に忌々しい。
 男の声を聞きながら、戦争が始まって以来、続きっぱなしのイライラに浸っていたアズラエルは、電話の向こうの男‥‥連合軍の高官なのだが、彼がハルバートン准将への不満を並べ終わるのを見計らって答えをかえした。
「多分、彼はモビルスーツ偏執症になったんですよ。病気です。静養をお勧めするべきですね。正常な脳なら、今からモビルスーツ開発を始めるとは言い出さないでしょう」
『モルゲンレーテに唆されたとも聞きますが』
 アズラエルは、オーブの敵対企業の名を聞いて眉を寄せた。
 平和主義の中立国を騙るオーブ。その国の企業が兵器開発分野に首を突っ込んでる。果ては、モビルスーツ開発にまで手を広げようと言うのか。
「モルゲンレーテなら、連合にスクラップを卸しても良いのでしょうね。自分達の国は戦争の外側ですから。連合が負けても、痛くもない」
 しかし、アズラエルにしてみれば、連合に負けて貰っては困る。
 ブルーコスモスの頭首であるという事もあるが、何より商売が立ち行かなくなる。路頭に迷ってしまっては、コーディネーターの粛正どころではない。
「やはり、MSなどより、今までの実績のあるMAを使用すべきです。MSの研究はしておくべきですが、この戦争には間に合いません。やはり、MAです」
『しかし、MAでMSに対抗できますか? 戦場では、一方的にMAがやられています』
 電話の向こうで、男が問うた。
65通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:21:41 ID:???
 連合製MAのメビウスが、ZAFTのMSに対して5対1の戦力比と言われている。
 ドッグファイトに対応できる機種でその成績であり、他の船外作業艇モドキのMAでは、戦力比を考えるのも馬鹿らしい。
「当たり前です。過去の兵器は、現在の戦場に対応していないのですから」
 MAが負けているのは、MAがレーダーや通信が使えていた時代の兵器なのに、レーダーや通信が使用できなくなった戦場で戦ったからゆえの結果だ。
「とはいえ、いっそ今のままメビウスを量産しつづけても、今度の戦争には勝てますよ? 人口と資源の差を考えてください。こっちが揃えられる兵士とMAの数は、ZAFTの10倍以上なんですから。でもそれでは、無駄に資源を浪費して、人の被害を増やすだけです」
 宇宙の化け物が減るのは大歓迎だが、人の被害が大きいのは困る。だから‥‥
「現在の戦場にあわせて、MAを作り直せばいいのですよ。攻撃力で負けているなら、より強大な火砲を持たせればいい。防御力に負けるなら、より重厚な装甲を。機動力で負けるなら、より高出力なバーニアを。MSを凌駕するMAを作ればいい。違いますか?」
 アズラエルは、言いながら机の上に置いてあるファイルを手に取り、そこに挟まれた資料に目をやった。
 アズラエル財閥兵器開発部門に属するMA開発研究所が上げてきた、新型MAの企画書である。
 そこには、アズラエルが上げた、攻撃力、防御力、機動力、全てにおいて現在のMAを凌駕する筈の物が描かれていた。
 新型MAの開発には、今までのノウハウが利用できる。だから、MSの新開発よりは、手堅い物が出来上がる筈だ。また、パイロットも、MAのパイロットが機種転換訓練をする事で対応可能。
 この新型MAは、MSなどよりも、兵器としての完成度は高くなるはずだ。
「新型MA開発プラン。やっと、本題に入れましたね。連合に対して、当社が提案する最新兵器というわけです。詳しい資料は、まずは貴方に1部‥‥そして、後ほど公式に連合へもお送りします。さしあたっての根回しを、お願いしたいのですが?」
『わかりました。大西洋連邦派閥は、ハルバートンを良く思っておりません。対抗出来るプランがあるならば、多くが飛びつくと思われます。他の派閥からも、賛同者を探してみます』
「ありがとうございます。では、お礼はまた後ほど」
 電話の向こうの男が答えたのに満足し、アズラエルは受話器を置いた。
 そして、もう一度、手の中のファイルに目を落とす。
 新型MA‥‥その姿は、MSに無い力強さに満ちている。
 これが、宇宙の化け物共が作った人形を次々に討ち滅ぼす‥‥その想像は、アズラエルの顔に満足げな笑みを浮かべさせていた。


 ――その後。
 ハルバートン主導のMS開発計画に、対抗するように立てられた新型MA開発計画は、MS開発計画とは別枠で開発が進められる事となった。
 そして、完成した新型MAの先行量産機の一機が、ヘリオポリスへと運び込まれる。
 そこで開発された5機のMSとの評価試験に望むために。
66通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:22:27 ID:???
「‥‥大きいわね」
 マリュー・ラミアス技術大尉はドック内を見渡す指揮所の窓の傍らに立ち、停泊中の輸送船から降ろされている、コンテナの予想外の大きさに、そんな言葉を漏らした。
 このヘリオポリスで開発されたMSより、かなり大きい。新型MAとは聞いていたが、通常のMA等とは比べものにならない大きさがあるようだった。
 マリューは、輸送船の到着に伴い、荷下ろしに先んじて送られてきた分厚い資料をめくる。
 そして、その顔を疑問と不快さに歪ませた。
「こんな物を‥‥連合軍は、本当に使おうというの?」
「当然です。新型機にかかれば、MSなど玩具みたいなものですよ」
 突然、かけられる不満げな声。マリューが顔を上げると、いつ指揮所に入ってきていたのか一人の連合兵がいた。どうやら、彼も技術士官らしい。輸送船に乗ってきたのだろう。
「搬入作業終わりました。受領証を確認していただけますか?」
 言いながら、書類を差し出してくる。
 マリューは、自分の不用意な発言が彼を怒らせた事に気付き、書類を受け取ってから詫びの言葉を探す。
「ごめんなさい。悪く言う気はなかったの。でも‥‥」
「謝罪は不用です。ですが、開発に関わった者全てが、これで戦局を覆せると確信しています。ご理解、いただけますでしょうか」
「‥‥ええ」
 口ではそう言いながらもマリューは、このMAは、好きになれそうにもないと思っていた。
 しかし、好悪の感情で、戦力をはかれるものではない。
 マリューは、手近のコンソールに触れ、港湾内各部署の作業進展状況を確認の後、受領証にサインをした。
「TS-MA-04X‥‥受領。確認しました。任務、ご苦労様です」
「はい‥‥では、テストの方をよろしくお願いします。もっとも、新型MAが負ける事は、絶対にないですが」
 根に持ったのか、受領証を受け取りながら技術士官は声だけは平静にそう言って、マリューに礼をして指揮所を出ていく。
 マリューは、彼の背が締まる自動ドアの向こうに消えるのを確認してから、溜め息をついて再び資料を見た。
「負けない‥‥か。そうよね。MSの方はまだ、動かす段階にもなってないんだから」
 開発中のMSは、OSの開発で止まっている。現状では、ナチュラルが動かすことはもちろん、コーディネーターだって満足に動かせそうにもないのだ。
 その点、資料を信じるなら、手堅い技術で固められた新型MAは、ナチュラルによる動作テストを既に終了している。まあ、軍の公式の資料を疑う理由もないのだが。
 OS開発の技術者達に、またデスマーチの日々が訪れるのが目に見える。マリューも、それとは無関係でいられない事を考えると、溜め息ばかりが出てくるわけで。
「また、お肌が荒れるわね」
 つまらない事を言って気を紛れさせながら、資料のページを繰る。
 とにかく、この資料を一通り頭に入れようと‥‥マリューはその場で資料を読みふけり始めた。
67通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:23:14 ID:???
 ――そして、翌日。事件は起こった――


 爆音と砲声。合間を埋める銃撃音の中、マリューは格納庫を目指して、基地内の廊下を走っていた。
 突然、襲い来たZAFT。
 3機のMSが既に奪取され、残る2機のある格納庫も襲われている。
 一刻も早く格納庫へと向かい、MSの奪取を阻止しなければならない。あそこにあったMSは、ZAFTに対抗するために必要な物なのだから。
 MAの資料に熱中してなければ‥‥
 マリューは、走り続けながら悔やんだ。
 MAの資料‥‥技術士官として、魅力的なそれに熱中していたため、今日は格納庫へは行かなかった。普段なら、格納庫のMSの側にずっといただろうに。そうしていたら、MSに乗り込んででも、ZAFTを阻止できたかもしれない。
 しかし、現実は、遠く格納庫を見ながら走っているわけで‥‥
 と、その時、轟音が響いて格納庫が炎と黒煙を上げた。
 中から、巨大な人影が2体、立ち上がる。連合製MS2機‥‥
「しまった。遅かった!?」
 マリューは声を上げて足を止める。状況はあきらか‥‥間に合わなかった。
 MSは全て奪われた。なら‥‥どうする? 奪還する? どうやって?
 いや、その前に、ZAFTの攻撃の前に基地が‥‥いや、このヘリオポリス自体が危ない状態にある。
 ZAFTを撃退しなければ‥‥
 そこまで考えて、マリューはその存在を思い出した。
 資料には、操作マニュアルが付属していた。それに、MAの操縦も動かすくらいならした事がある。
「そうよ‥‥見てなさい。まだ、武器は有るんだから!」
 そう思い至った瞬間、マリューは走り出していた。
 今度は、昨日、コンテナを運び込んだ格納庫へと――
68通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:24:01 ID:???
 ――格納庫。いま、そこには誰も居ない。
 戦場より少し離れたせいか、砲声もやや遠く、むしろ静寂が勝っている。
 走り込んだマリューはようやく足を止め、両の膝に手をついて荒い息を沈めようとした。
 そして‥‥彼女は見上げる。そこに居座る、連合製新型MAの姿を。

 そこに、巨大な顔があった。
 昆虫の複眼のような目。その目は前方に鋭く伸びた涙滴状の形で、前をぐっと睨み付けているように見える。
 その下には、大きく開いた口。5本の牙があり、今にも噛み付いてきそうだ。
 その巨大な顔の横には、先端が鉈になった腕が二本。
 足はなく、巨大な円筒状のバーニアが、後方に向けて伸びている。
 既存のMAとは全くかけ離れた‥‥そして、MSとも違う。兵器としては、あまりにも異質な姿だ。
「‥‥思ったよりも、良い面構えじゃない。やっぱり、見合い写真よりも、実物を見なきゃってところね」
 資料添付の写真で見たときには、その姿に呆れたが、実物を見ると、その巨大さもあって、身体が震えるほどの威圧感を感じる。
 伝説の中の魔獣と向き合えば、こんな気分になるのだろうか? そんな事を考えながらマリューは、新型MAのコックピットに向かった。
 ワイヤーリフトを使って、機体のコックピットまで上がり、中に入って座席に身を沈める。
 OSを起動。既存のMA用OSをバージョンアップさせたのであろうそれは、MSのOSとは違い、頭文字が「GUNDAM」と読める文字列を表示しない。
 ややあって、このMAの機体名が表示され、そしてMAは完全稼働を開始した。
「頼むわよ。貴方しか、いないの」
 マリューは呟きながらコックピットハッチを閉じ、操縦桿を手にする。
 そして、目の前のモニターに映る、凶悪な鋼の魔獣の名を目でなぞった。

 TS-MA-04X ZAKRELLO
 重火力、重装甲、高機動を併せ持つ、MSを凌駕する新型MA。

 ――連合製新型MAザクレロが、その姿を現した瞬間であった。
69通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:24:47 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
70通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:38:16 ID:???
 三レスめ辺りで「まさか――」と思ったが……やっぱりか!
不味い、続きが非常に気になる!
71通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:45:33 ID:???
しかし、何か、余計な、ものが、多い、気が、する、よ。
72通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 16:57:39 ID:???
 >>アスカしっかりしなさい
 役柄と役者の乖離が激しすぎて面白いギャップになっています。
レイのあまりにタカラジェンヌな雰囲気に笑いました。
レイが本当にファンシー絆創膏を取り出して耽美台詞を口走ったら、突っ込みも忘れて絶句します。
 GJでした。
73通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 18:15:04 ID:???
ボクらが望んだザクレロだ!!
74通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 21:09:29 ID:???
>>52
色々気にしすぎじゃないか?
券の枚数が次の伏線になってるんだね

>>64-68
GJ!発想の勝利だな
75通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 21:10:32 ID:???
ザクレロにwktk
ビグロのほうがいい戦果出しそうだとかは、言っちゃいけない
76通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 21:21:18 ID:???
動物はでかい顔には身がすくむのですよ
77通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 22:01:42 ID:???
ザクレロ様吹いた。
次の戦争のためのMS研究をしつつも、そして今の戦争のためのザクレロですね。
78感想:2007/03/20(火) 23:28:06 ID:???
 >>森の娘の見た光 番外編
 GJです。作者殿は、オリキャラを使ってガンダムの二次創作をしている関係上、
ガンダムの出てこないオリキャラだけの物語は余り出すべきではないと考えていたようですが、
私はむしろ逆だと思います。この様な場面こそ必要だと感じました。
 この板のSS読者は大抵"ガンダム"や"キラ=ヤマト"といった単語を一つ出せば、頭の中に
大方のイメージがあるので殆どの場合説明のための説明は不要でしょうが、オリキャラは
そうはいかず、SSの中での描写が全てです。(ここで設定資料を出されても困ります)
 その意味で今回のSSは、フランク、シャミイ、ソフィといった主役級三人の
立ち位置が良く出ていて、短い文の中で特徴付ける事に成功していると思います。

 やや長くなりましたが、結論を言いますと「残りの没ネタ七話分マダー?」です。
GJでした。
79通常の名無しさんの3倍:2007/03/20(火) 23:28:32 ID:???
ビグロはザクレロの後継機

偉大なるデミトリー様はおっしゃった
80通常の名無しさんの3倍:2007/03/21(水) 01:31:28 ID:???
第35話「舞い降りる鉈」
次回、機動戦士ザクレロSEED。赤き鉈、蘇れ!ザクレロ!!
81通常の名無しさんの3倍:2007/03/21(水) 07:46:35 ID:???
M.S.ERAの白い奴やバニシングマシンの正面からじゃないとザクレロに見えない奴なら
種にそのまま出てもおかしくないかも
82真・オーブ学園! 1:2007/03/21(水) 14:34:58 ID:???
 みんな、こんにちは。
 俺の名前はシン・アスカ。
 オーブに住まう普通の学生さ。
 最近、一人暮らしを始めていろいろ大変なこともあるけど、それなりにやっていけている。
 唯一の不満はマユと会えないことだけど、何、オーブ鉄道でたったの五駅だ。
 会おうと思えばいつでも会える。
 しかし、ここでほいほい会いにいっては余りにも情けない。
 という訳で、今日も今日とで授業が終わったら一目散に家に帰ることにした。
「おーい、待ちなさいよー!」
 ルナの声が追ってくるが、どうせろくなことではない筈だ。
 それに何より、生徒会の人間に見つかる前に帰らなければ、またいらん苦労をする羽目になる。
 よし、校門が見えてきた。
 このまま一気に、と思ったのだが、校門の影から一人の少年が現れる。
「そんなに急いでどこに行く気だ?」
「ザラ先輩!?」
 現れたのは、三年生のアスラン・ザラ先輩だ。
「おい、シン。俺のことはアスランって呼べって言っただろう?」
 爽やかな笑顔を浮かべて迫るザラ先輩を見て、全身に鳥肌が立つ。
 気持ち悪いとしか思えないのだが、これで学園一のアイドルなのだから納得できない。
「さあ、俺と一緒に生徒会に行こう」
 差し伸べられる手をはらって、俺はザラ先輩の横を駆け抜けていく。
「おい、シン!」
「すいません!今日は用事があるんで!」
 適当な嘘をついて学校を去る。
 ザラ先輩はそれなら仕方が無いと頷きながら、生徒会室へと向かったようだ。
「……まあ、信じてくえるのは嬉しいんだけど」
 やはり鬱陶しい。
 その後、俺は特に寄り道をする訳でもなく、自分の家へと一直線に走って行った。
 走ること十分。ようやく見えてきた我が家。3LDKという一人暮らしには身に余るマンションだ。
 この家は、生徒会の一人、アスハ先輩に用意してもらったのだが、まあ、その話は後ほどということで。
 エレベーターは使わず、階段で四階まで駆け上る。
「ただいま」
 誰もいないが、一応言ってしまう言葉。
 しかし。
「やあ、おかえり」
 はあ!?誰だよ一体?
 俺は玄関に立て掛けてある傘を持ち出し、リビングへと駆けていく。
 そこには。
「どうしたんだね?そんな傘など持って?」
 そこには、仮面を被った男がソファーで寛いでいたのだ。
83真・オーブ学園!:2007/03/21(水) 14:36:00 ID:???
なんかモチベーションがね……最初から書き直すことにしました。
84通常の名無しさんの3倍:2007/03/21(水) 18:21:34 ID:???
>>58
まぁがんばれよ
でも趣味だからさぁ、頑張る必要さえホントはないのだよ?
書きたいときに書けばヨロシイ
85SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/21(水) 18:32:57 ID:???
5/

 ライフルを構えてカオスの機体を探すが、一撃離脱を繰り返すカオスは巧妙にデブリの間を進み、
一瞬たりとも姿を捉えさせない。
「こそこそ隠れやがって……そこだあ――!」
 旋回――そして照準、射撃。インパルスのビームライフルは廃棄された太陽電池パネルを撃ち抜き、
その影にいた深緑の装甲を持つMSを追い出す。
 ライフルで更に追い込もうとしたインパルスの進路を塞ぐように、射出されていた機動兵装ポッドが
ビームを吐き出し、インパルスの上下から巧妙に時間差を掛けて直撃を狙った。
『シン――! 後ろよ――!』
「そんな事は分かっている! ルナは少し下がって、こいつは――相性が悪すぎる!」
 大人しく後方に下がる赤いザクを視界の端に捉えながら、シンは"カオス"の攻撃を察知する。
 ――コイツの攻撃は、確認してから対応しようとしても駄目だ!
 機体を覆いつくすように殺気を感じながら、目を瞑った。ヘルメットの恒常化機能が働き、
乾燥したエアが汗を吹き飛ばす。真紅の瞳で射抜く様に真空の向こうを睨んだ。

「――なんとしても、返してもらうぜその機体! 戦争の火種なんか吹き消してやる!」
 その瞬間まで、シンでさえも奪われたカオスと、強奪したパイロットを相当に過小評価していた。
当然シンは蛇をトカゲと間違えたわけではない、しかし深緑の大蛇が双頭のそれぞれに鋭利な
毒牙を隠し持っている事には気付いていなかった。
 カオスはセカンドシリーズ最大を誇る推力をを利用してデブリの間を縫うように接近、
千切れたコロニー外壁の影から飛び出すと強襲形態のままインパルスに向かって突撃する。
 凄まじい加速力によってモニターの中で見る見る大きくなるカオスに向け"ケルベロス"
高エネルギー長射程エネルギー砲を構えたが、左右からポッドの掃射を受けて照準をずらされた上、
間合いへの侵入を許してしまう。

「ちいっ――!」
 反射的にインパルスが"デフィアント"ビームジャベリンを構えた事がシンの命を救った。
柄の部分に施された対ビームコーティングが、MS形態に変形しつつ回し蹴りの要領で放たれた
カオスの脚部ビームクロウを防ぎ、噛み合い、もぎ取られる。
「舐めるなあ――!」
 一撃離脱――後部のスラスターユニットをインパルスに向けたカオスに向けて、"デリュージー"
レールガンと"ファイアーフライ"誘導ミサイルをまとめて放つが、再び強襲形態となったカオスの
機影を捉えきれない。僅かに装甲表面に掠らせる事に成功した破片もVPS装甲にはじかれた。

 カオスは機動兵装ポッドを回収してデブリの影に紛れ込む。
ザクの接近も許さないほどの一瞬に行われた攻防、本体とポッドを使って繰り出されるその神業に、
死線を潜ったシンも、戦いに加わる事すら出来ないで居るルナマリアも絶句する。
「なんだよ……奪った機体でこうまで戦うだなんて――!」
『これが――セカンドシリーズの本当の力だっていうの?』

 燃料タンクの爆発とケルベロスの掃射によって、デブリの流れが大きく乱れている。
OSは宇宙の塵との衝突を避ける為、自動的にデブリベルトとの相対速度を変化させる。
 インパルスとザクは、ゆっくりとだが着実に、母艦と引き離されつつあった。
86SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/21(水) 18:35:39 ID:???
6/

 ブラストシルエットを背負うインパルスの重量は約八十五トン。
対するカオスの重量は九十一トンとインパルスより重量はあるが、大気圏内戦闘を考慮せずに
宇宙戦闘に先鋭、特化したその推力は一撃離脱において最大の効果を発揮していた。
 特に、切り離して浮遊砲台とする機動兵装ポッドを本体と結合した状態での推進力は、
テストパイロットであるコートニー=ヒエロニムスをして『ミンチメイカー(挽肉製造機)』と
言わしめ、リミッターを付けさせたパイロット殺しの機体である。
『カオスってあんなに早かったの? あれじゃあ中のパイロットは……』
「きっとリミッターを切ってるんだ、機体も、パイロットも!」
 ルナマリアの予測――強奪犯はエクステンデッドによって構成される――を裏付ける、
異常なほどの耐G能力であった。

 唯一の幸運は、アーモリー・ワン付近の戦闘においてシンは新型のMAと交戦し、
有線のバレルを用いた多角攻撃と一撃離脱に対応した経験があった事であろう。
 明らかにあのMAと同じ流れを汲んだ完成度の高く辛辣な強襲戦法は、
この戦闘が初見であったならば、対応できたとは言い難い。

「ルナマリア、いまから数十秒間だけカオスを引きつける。 
その間にミネルバの掩護に向かってくれ、レイと交代だ」
『シンは一体どうする積もりなの? 相手は間違いなくエース級よ!?』
「対応するだけなら俺でも出来る! 対艦刀でカオスを相手にするのは無理だ、右腕も無いだろう?」
 ボギーワンを減す事を考えて、対艦装備で固めてきた事が災いした。
「最悪、コアスプレンダーだけならカオスでも引き離せる――行け!」
『分かったわ、ちゃんと待っててね!』

 カオスを敵に回した以上、シンの考える理想の陣形はフォースインパルスを前衛に置き、
レイのブレイズザクに援護してもらう事だ。突撃してくるカオスをザクのミサイルで制圧し、
勢いを殺がれたカオスに対して中距離に強いフォースで高機動戦を仕掛ける。
 ――レイの野郎……これで撃墜されたら絶対文句言ってやる!
 フォースシルエットが使えない以上、レイとブラストインパルスで弾幕を張って近寄せないように
する必要があった。そしてこの状況、単機のシンはカオスを近寄せてはならない。
 スラスターを吹かして後退するザクを狙う気配を感じ、シンはケルベロスを最大出力で放った。
ポッドを探したり、カオスを狙う暇など無い。インパルス本体を回転させながら宙域全体をなぎ払い、
荷電粒子によって挙動を乱したポッドを発見した。
「其処だ――!」
 ポッドの位置から突撃の開始ポイントを見切ったシンは、加速をし始めた状態で速度の足りない
カオスに向けて再びケルベロスを放つ。回避によって速度を大きく減らすカオス。
「ルナ……頼んだァ!」
『――任せて、シン』
 二度に渡るケルベロスの使用はインパルスのバッテリー残量を大きく減らしていた。
以心伝心、『ミネルバにシルエットの射出を要請する』という仕事を受け取ったルナマリアは、
シンの牽制によってカオスに生じた隙をついて宙域を離脱した。
87SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/21(水) 18:37:19 ID:???
7/

 ネルバは、シンの危惧した通り敵艦の奇襲を受け、小惑星の表面近くを追い立てられていた。
強力なジャミングによって前線との通信が瞬時にして途絶し、ボギーワンがミネルバの背後に現れて
砲戦が始まったのは、ショーンとデイルが燃料タンクの爆発に巻き込まれたのとほぼ同時である。
 艦艇を小惑星方向に向け、開けた方向にミラージュコロイドを打ち破るためセンサーシステムを
集中して向けていたミネルバは、実質的な死角――小惑星の地平線から突如として現れた
ボギーワンの攻撃によって行動の主導権を奪われ、レイ機の発進もままならないまま行動の
自由を奪われていた。

「――く、面舵二十! 高度を上げて、小惑星の表面に叩きつけられるわ!」
 艦長タリアは遮蔽されたブリッジの後方に座る客人たちを見遣る。
 プラント議長ギルバート=デュランダルとオーブ首長国連邦代表カガリ=ユラ=アスハ、
及び随員のシズル=ヴィオーラが、艦長席の後ろに設けられた特別席で戦闘の推移を見守っていた。
 面子を気にするの軍人の本能により、彼らに無様な戦闘を見せるわけにも行かなかった。

「艦長、敵艦が後方約七十に接近!」
 バートが告げた距離は、濃密なデブリベルトにおけるビーム砲の有効射程であった。
「小惑星の地形を盾に砲撃を躱して。メイリン、MS隊を呼び戻せる?」
 ミネルバがあえて高度を下げ始める。通信回線を探るメイリンの表情は険しかった。
「敵のECMが強力で、時間が掛かります……いえ、テキストによる報告――ホーク機からです!」
「内容は――!?」
「一号マクドナルド機、二号ホッパー機もそれぞれに戦闘を行っています。
インパルスは……カオスと戦闘中――!? 脚部を損傷しバッテリーの残量僅か、
新たなシルエットの射出と、レイの増援を要請しているとの事です!」
 メイリンの切羽詰った報告に、タリアは唇を噛む。強奪したMSをもう実戦に
投入してくるとは――早すぎる。
「えええっ! 戦闘開始から二分でこんなに損傷を――!?」
 アーサーに向かって取り乱さないよう注意する事すら忘れ、画面に現れた各機の状態に息を呑む。

 前線に居るパイロットが増援を要求するのはいつもの事だが、レイはミネルバの掩護から
離すわけにはいかなかった。しかしシルエットは送らねばならない。
「射出するシルエットの選択はレイに任せて、私たちは射出タイミングの確保に集中するわよ」
 戦艦同士が狭い宙域を高速で機動しながら戦っているため、お互いが放出するエネルギーが
デブリベルトに荒れ狂い、流れに不確定な要素を与えていた。互いにMSを発進させないのは、
この嵐を通り過ぎなければMSが発進直後にデブリの渦に呑まれ破壊されるからである。

「とにかく時間を稼いで、敵艦からMSがこれ以上出てきたら危険よ。対空防御密に――!」
「ミサイル接近――!」バートの警告。
 ミネルバ各所のAMM発射管とCIWS砲塔が存分に存在意義を示し、ボギーワンから飛来した
ミサイルを軒並み爆散させた。爆炎に照らされ、小惑星の表面に流線型の艦影が落ちる。
88SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/21(水) 18:40:53 ID:???
8/8

「……あれは――!」
 宇宙を白く染める閃光によって、ミネルバの進路前方で直径数十メートルという大き目の
デブリが鮮明に浮かび上がった。
 その小惑星を見たタリアの脳裏に、この窮地を脱するための作戦が浮かぶ。
「回避行動はマリクに、対空防御はアーサーに一任するわ。ナイトハルト装填、イゾルデ起動」
 マリクとアーサーから了解の声を聞く前に矢継ぎ早に指令を行う。
「しかし艦長――ボギーワン相手には射線が取れません!」
「チェン、狙いはボギーワンでは無いわ。狙いを前方の小惑星に合わせなさい、
砲撃で岩塊を砕いて、相手にデブリの雨を降らせてあげましょう! 復唱は!?」
「は……はい! ナイトハルト装填、イゾルデ機動!」
 同時にシルエット及びMSの発進準備も指示する。
「――了解、ウィザードはブレイズを選択。チェストフライヤーとシルエットは……ソード?」
「貴方が疑問に思うことでは無いわ。恐らく十秒程度しか余裕が無いわよ」
「――了解! シルエットの射出は第二艦橋のアビーに任せます!」

「デュランダル議長とオーブの方々はショックに備えてください。相当の揺れが予想されます」
「大丈夫なのかね、グラディス艦長?」
「……最善を尽くします。本艦とスタッフは有能ですわ、デュランダル議長」
 民間人と親しくなる必要は無いが、信頼と信用を受ける事は欠かせない。
努力して平静を装い、ブリッジの不安感を払拭すべく、スタッフの有能さを強調した。

「なるべく接近して、小惑星の下を通る瞬間にイゾルデで砕くわよ」
「しかし……それでは本艦も相当の損害を浴びる事になりますよ!?」
 副長の席から、情けの無い声があがった。その間にどんどん岩塊は接近してくる。
「覚悟を決めなさいアーサー。後ろから主砲の直撃を食らうよりはましよ。号令は任せたわ」
「あと三秒……二……一……イゾルデ、撃てぇ!」
 ミネルバに搭載された"イゾルデ"三連砲が火を吹き、"上空"に接近した岩塊を破砕した。
「続けてナイトハルト、撃てぇ!」
 四つ程度に砕けたデブリを頭上に眺めて通り過ぎつつ後部のナイトハルトを発射する。
 着弾、爆発――千々に砕けたデブリが互いに衝突し更に細かい星屑となりながら、
ミネルバを追うボギーワンの船体に絡みついた。
 ボギーワンのCIWS砲塔の幾つかを潰し、デブリの雨でその加速を鈍らせた結果、
ここまで追われる一方であったミネルバにとって、待ち望んだ一瞬の余裕が生まれる。
「――今よ!」デブリが薄くなった瞬間に、指示は短く、簡潔。
「ブレイズザクファントム、発進どうぞ!」
『レイ=ザ=バレル……発進する!』
 メイリンの声にレイの宣言が続き、二体のフライヤーと共に白いザクが虚空へと飛び立った。

 ザクを旋回させながら、通信回線を受信のみに切り替えたレイは、操縦席で一人叫ぶ。
「ギルの乗っているミネルバを、シンとルナマリアの帰ってくる場所を――やらせるものか!」

 星屑の嵐、その一瞬の晴れ間を縫って真空の宇宙に舞う純白の巨人。
 デブリベルトでの戦闘は、その激しさを増しつつあった。
8945  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/22(木) 02:03:11 ID:???
 まとめ管理人さんの、仕事の早さと細かさに感動しました。いつも乙です。
感想をくれた住人のかたも、どうも有り難うございます。
90通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 13:57:28 ID:???
>>89
GJ!
そして素早い更新も乙です!レイも出撃ですね、続き期待してます!
まとめサイトの更新が異常に速いけど、まとめの中の人って…







家から出ない人なのかな?
91弐国:2007/03/22(木) 14:05:13 ID:???
>>74
自分に規制を付けないと取り留めの無い文章になるんですよ、ワタクシ
再構成してあるだけで、実はこれで4レス分あったんです。読みたくないでしょ?

>>78
thxです。図に乗っちゃいそうです
再構成の時間があればもう一つ二つ投下したいですが

>>まとめの中の人
毎回ありがとうございます。仕事、はやっ
92通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 21:28:55 ID:???
ウザいコメントなんて見たくないから投下しなくて良いよ。
93通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 22:23:21 ID:???
そんな言い方しなくても…。
待ってる人もいるしコメント控えて投下すればいいよ。
94通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 22:24:52 ID:???
待ってる人  ここに一匹いますです
95通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 22:32:41 ID:???
確かにコメントはウザいな。SSだけなら読みたいがコメント付きならイラネ。
96通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 22:33:16 ID:???
自分は敢えて後書きコメント書かない派ですが、
まとめの管理人様、乙でございました。

97通常の名無しさんの3倍:2007/03/22(木) 23:16:49 ID:???
俺はコメントがウザイとか思わんけど「ワタクシ」てのをやめて欲しいw
98通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 00:50:23 ID:???
えー、流れぶった切りですいませんが。

何気なく種死とアメコミの「SPOWN」とのクロスを書きたくなってしまい、
書いてしまったんですが。

ココに投下しても宜しいでしょうか?
99通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 00:51:48 ID:???
 どうぞどうぞ!
10098:2007/03/23(金) 00:51:49 ID:???
×SPOWN
○SPAWN

……いきなりスペル間違えた。スマン。
101SEED of SPAWN ◆ozOtJW9BFA :2007/03/23(金) 00:56:55 ID:???
<序章>   1/3
 C.E71、6月15日。
 オーブという国で、俺の『運命』は一度終わった。
 

 ……ただ、燃えていた。
 己の手が、己の体が。抱きかかえて守ろうとした妹の、マユの体も。
 熱くて、痛くて、苦しくて――どうにもならなくて。
 空から落ちてきた炎の塊が、俺と俺の家族を残さず焼き殺していく。
 その最中、俺だけは――何故か意識がはっきりとしていた。


 ――生きたいか?


 何処からか、『声』がした。


 ――生きて、復讐したいのなら……誓え。


 俺には、一応の選択肢があった様だった。
 『死ぬか』、『生きて、何かを成すか』。


 ――お前の忠誠を、捧げろ。我、『マレボルギア』に。


 それは、俺にとって新たなる『運命』の始まりだった。
 オーブという国が炎で包まれていくその時に、俺――シン=アスカの運命は
『マレボルギア』という異形の魔神に握られる事となった。
102通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 01:00:50 ID:???
<序章>  2/3
 二年――俺という存在がもう一度世界に帰ってくるまでに、それだけの時間が経過していた。
うっすらと目を開いて世界を見る――それは、俺の居たはずの世界。
 人が、生まれて死ぬ場所。……俺がもう一度、死ぬべき場所。
 俺は、二年間ずっと夢を見ていた様だった。ただ炎に焼かれ、焼かれ、焼かれ続ける夢。
 痛く、苦しく、そして救いの無い夢。それと比べれば今の状況は――まるで天国の様だ。
 少し体が緩慢だが、何、そんなことはどうとでもなる。ゆっくりと半身を起こし、
自分が寝かされていたベッドから立ち上がろうとして――

 「ようやくお目覚めの様ね、『新たなる運命の虜』さん?」

 目の前に、女が居た。腕組みをして、何処か偉そうにこちらを見下ろしている。

 「私はルナマリア=ホーク――人間としての名前はね。私はアンタの『トレーナー』。
『マレボルギア』様の温情に感謝する事ね。一介の『スポーン』にこんなに厚遇がある
なんて事は、滅多に無いことなのよ?」

 その赤毛の女は、くすくすと笑いながらこちらを見ている。頭に一房くせ毛があり、
それはその女のアンテナの役割の様だった。……どうもこの女、目が見えていないのだ
と俺には直感出来た。

 「その通り、私には視覚は無いわ。でも、この『角』でアンタ程度の思考は容易く読めるのよ」

 直ぐにそんな返答がくる。……どうやら疑問の余地は無さそうだ。
だが、取りあえず現状を彼女が知っているのは間違い無さそうだ。つい先程まで炎獄で身を焼かれていた人間としては、
取りあえず現状を知っておきたい。『マレボルギア』の機嫌を損ねて、またあそこに落とされるのは堪ったものでは無い。
それは、二年という煉獄の期間に培った知恵だ。まずは色々、ルナマリアと名乗るこの女に聞こうとして――

 「……まずは、色々聞きたそうね。それは思考なんか読まなくても解るわ。
けれど、最初にやるべき事はこれよ。『アンタはまず、鏡を見なさい』。……驚くわよ? とてもセクシーでキュートなご面相だからね」

 言葉の真意を探るより、体が動いた。どうやら先の言葉に『命令』が組み込まれていた様だ。
 今の俺は『スポーン』――地獄の兵卒。上官には絶対服従というワケか。
 苛立たしいが、それでも煉獄よりはマシだ。そう自分に言い聞かせて、洗面所にある
鏡を見て――俺は硬直した。
 そこには、俺の思っていた顔など無い。生まれてきてから、見慣れていた顔など無い。
 ただ、焼けただれ、火膨ればかりの異形のモンスターがそこにいた。

 「どう? 男前でしょ。爽やかでで、セクシーで――正に”女泣かせ”って感じね!」

 ルナマリアのくすくすとした笑いが、一層俺の勘に触る。だが、俺は何一つこの女に
言い返せなかった。命令、というワケじゃない。……焼けただれた唇が、開かないのだ。

 「あらら、無口な殿方ってワケ? 良いんじゃない、兵士がべらべら喋れたって、
何も良いことは無いわよ。むしろ好感度アップって奴?」

 焼けただれた体、そして喋れない体。それが生まれ変わった俺に与えられたもの。
 心の中で「畜生め!」と叫びながら、俺はすすり泣いた。
103通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 01:01:49 ID:???
<序章> 3/3


 ――取りあえず心が落ち着いた頃を見計らって、ルナマリアが俺に喋りかけてきた。

 「『マレボルギア』様より、アンタへの当座の命令があるわ。
『ザフトと呼ばれる組織の兵士として、十分な戦果を上げよ』……ですって。楽なモンよね?
ただの戦闘マシーンに成り下がったアンタには。」

 いちいち勘に触る言い方をするこの女に、俺は殺意すら覚える。だが、それすら読まれているという
事実がいやらしい。
 おそらく、そんな俺の揺れ動きもこの女は愉しんでいるのだろう。そういう顔をしている。

 「良いわ、そういう誰彼構わない殺意。……精一杯、それを世界に振りまきなさい。
それが、アンタの唯一の仕事。それが、アンタの唯一の存在理由。『マレボルギア』様に命を救われ、
新たな人生を営むアンタへの唯一の義務。しっかりやりなさい? あたしが見ててあげるから」

 それは『見張り』という事だろう。そう思うと、ルナマリアはにっこりと笑った。……当たりらしい。
 ふと、ルナマリアは俺に服を差し出してきた。これを着ろ、という事らしい。
 というより、その時俺はようやく気が付いた――全裸だったのだ。

 「ザフトの制服――エースパイロットだけが着れる、通称”赤服”よ。この世界のメインの兵器は
モビルスーツという人型の機動兵器だから、アンタもそれを操る事になるわ。……え?
操縦訓練なんて受けてない? アンタね……自分が『スポーン』だって事解ってないの?
アンタ用の装甲は勝手に”アンタの兵器”に変わってるっていうのにねぇ……」 

 ルナマリアに急かされるまま、ザフトの制服と覆面(さすがにこのご面相では不味いらしい)をして
モビルスーツデッキに連れて行かれる。この時になってようやく今自分がいる場所が何かの軍船の
中なのだと気が付く。
 モビルスーツデッキに行くと、”そいつ”が俺の到来を待ちかまえて居た。
 俺には直ぐに解った。これが俺の武器であり、鎧なのだと。

 ZGMF―X56Sインパルス。

 その鋭い眼差しが、俺を見据えている。……俺は我知らず、心が熱くなるのを感じていた。
 今の俺にとって、戦うことは紛れも無く正しいことだった。悲しいかな、そう教育されてしまったから。
 そんな俺の様子を、ルナマリアは相変わらずくすくすと笑っていた。 
104101-103:2007/03/23(金) 01:04:56 ID:???
うわ、改行とか色々駄目だったorz

メチャ拙作で申し訳ない。
お目汚し失礼。

続くかどーかは、そもそも突発的に書きたくなっただけだし。

お騒がせしました。
105通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 16:08:12 ID:???
微妙
106通常の名無しさんの3倍:2007/03/23(金) 18:12:51 ID:???
スポーンってアメコミのあれで良いんだよな?

元ネタを読んでいないせいか
煉獄での様子が漠然としすぎていて
戦闘マシーンに成り下がったという台詞が唐突に感じられる
107機動戦史ガンダムSEED 20話 1/10:2007/03/24(土) 00:09:20 ID:???
 
 かつてプラントの政治体制は、プラント最高評議会 (PLANT Supreme Council) と呼ばれた、
プラントの首都アプリリウス市に議事堂を持っていた、最高意思決定機関によって運営されていた。

 その政体は共和制であり、評議会の構成員は互選制によって12の市から1人ずつ選ばれる。
互選制とは、政治に適性のある成人(15歳以上)から住民投票で選ばれる制度だ。
その適性は本人の意思とは関係なく、能力や実績から合理的に且つ冷徹にコンピューターが判断していたのだ。
それはある意味、デュランダル前議長が提案していた”運命計画”に近いものがある。

 だが、メサイア戦役からの政治闘争が始まり、ラクス・クラインがデュランダル前議長から、
武力によって政権を奪取した事によって事態は急変する。
クーデターを合理化する為に『クライン派』と呼ばれる、公然のこのテロ組織によって
完全な独裁体制へとプラントの政体は移行する事となった。

 前大戦で、ラクス・クライン率いる『クライン派』はターミナルと呼ばれる非合法組織と
ファクトリーと呼ばれた武器密造組織によって大きく力をつけ、メサイア戦没の政治闘争に勝利したという。

 もはや、現在のプラントの政治体制はラクス・クラインとその取り巻きによる、専制体制と言っても過言ではない。
既に共和制は形骸化し、ラクスを頂点とした一部の特権階級の支配体制としてしか機能していなかった。

 ――プラント・ラクス本軍本営・機動要塞エターナル―― 

 この機動要塞”エターナル”は莫大な資金を投入して建設された言わばラクスの”動く城”である。
命名は無論のこと、ラクス・クライン本人である。

 それは、かつて地球圏においてラクスの抵抗勢力との戦闘で轟沈した旗艦エターナルを因んで命名されたものだった。
無論、外装は悪趣味のピンク……桃色の装甲で覆われているのだ。
その機動要塞に今、一通の通信文が届いた。
 
108機動戦史ガンダムSEED 20話 2/10:2007/03/24(土) 00:14:26 ID:???

 ラクス付きの首席秘書官を務めるメイリン・ホークは、その一通の特別な通信文を受け取ると、
急いで自分の主の元へと向った。極めて高度な政治的判断が必要であるこの通信文は、
現場の司令官の判断だけでは対処できないとし、彼女は熟慮の末、ラクスの許へと取り次ごうとしていた。

 メイリンがラクスの居室に足を踏み入れると、丁度、ラクスは午後のお茶の時間を楽しんでいる最中だった。
彼女の周りには、色とりどりの円形状の物体が飛び跳ねており、一種の異様な光景がそこには広がっていた。
メイリンは一瞬立ち尽くしたが、改めて丁寧に部屋の主に挨拶をした。

 その部屋は、バロック調の貴族形式の館を最新の技術で再現した、部屋自体が一種の芸術品であった。
 
 これだけに装飾設備を建設するには、莫大な資金を注ぎ込むことが必要であろう。
プラントの一般市民が一生掛けて働いてもこの部屋の小物すら買うことができない。
それを、ラクスの一時の居室であるはずの、この機動要塞内に装飾するなど狂気の沙汰であろう。

 そして、そこにはラクスと共に今回の遠征軍の総司令官であるキラ・ヤマトも同席していた。
彼はラクス・クラインの愛人としての権利を主張するかのように尊大な態度で、
入室してきたメイリンを一瞥すると、彼女の無礼を咎めるかのような視線を向けた。

 その様子にメイリンは一瞬、戸惑ったが、思い切って彼女の主人に言葉を掛ける。
 
 「……ラクス様」

 ラクスは、優雅な手付きで飲みかけのティーカップを部屋に
備え付けられた大理石のテーブルに置くと、相変わらずの美麗な声でメイリンに向かって

 「……メイリンさん。貴女も御一緒にお茶でもいかがですか?」

 のほほんと鷹揚な態度で自分に応えてくれた事に対して多少、安心したメイリンは、

 「――オーブ連合首長国、代表府ホワイト・ヒルのロンド・ミナ・サハク首席補佐官から
   重要国事専用の超光速ハイパーリンクでの通信が入りました」

 と自らの主人に告げるのだった。
109機動戦史ガンダムSEED 20話 3/10:2007/03/24(土) 00:17:12 ID:???
 
 ラクスはメイリンの話の内容に首を傾げながらも、

 「……ロンド・ミナ・サハク。データにあったカガリさんの懐刀ですね?」

 とメイリンに確認の意味も兼ねて問い返した。

 「はい。両国トップ会談を前提とした予備交渉の申し出です……いかが致しましょうか?」

 「……大方、少々の巻き返しに浮かれて停戦条約にでも、持ち込むつもりだろうね」

 そこを、キラが小馬鹿にするかのように、自分とラクスとの会話に割り込んできた。
本来なら主人であるラクスとの会話に入り込むなど僭越の極みだが、
彼はラクスの愛人と言う立場から、その権限はある程度の暗黙の了解として周りには認められていたのだ。

 「……おそらくは」

 メイリンは、僅かに気分を害しながらも、そう受け答える。だが彼女もキラの立場が、
ラクスとほぼ同格という周囲の暗黙の了解を理解しているので、どのような事でも彼には決して逆らうことはなかった。

 「ラクスの……僕達の目的は、オーブ領宙域の完全占領だ」

 そうだろ?と言う様にラクスに向かって頷くキラ。

 「プラントから地球への安全なルートを確保して、ラクスの理想の許で醜い争いの土壌となっている地球圏を浄化する。
   あの全ての元凶である地球連合強国討伐の為にも、オーブ領宙域をその前線として軍事基地化とすることが第一なんだ……」

 キラは、ウットリと自分の考えを周りに語り出した。それにメイリンはやや硬い表情で反論する。

 「ですが……キラ様」

 キラは、そのメイリンを宥める様に、

 「――今の時点では、裏切り者のカガリ達とは、まだ何も話すことは何もないよ。そうだろ?メイリン」

 「はい……仰るとおりです、キラ様」
 
 渋々とメイリンはそれを認めた。キラはそう言いながらラクスに向かって顔を向けた。
ラクスは、キラの考えに同意するかのように軽く頷く。
110機動戦史ガンダムSEED 20話 4/10:2007/03/24(土) 00:20:54 ID:???

 キラもそれに頷き返すと、改めてメイリンに向かって言い放った。

 「その通信回線は、バルトフェルト司令の第1軍から、アスランの第4軍までの攻略部隊司令部の
   双方向に転送しておいて。後は、彼等が適当にあしらってくれるよ」

 「はい……畏まりました。しばらくお待ちください」

 メイリンは己の主人である二人に深々と礼をするのだった。


 ――オーブ連合首長国代表府”ホワイト・ヒル”・オーバル・オフィス内――

 『――こちらプラント所属ザフト遠征軍第1軍司令本部……貴殿がサハク首席補佐官か?』

 「……うむ?」

 ロンド・ミナ・サハクは訝しげな声を上げる。
通信画面に出てきたのは、ラクスではなく壮年の隻眼の男だったからだ。男は、ラクス軍の高級将校の軍服を身に纏っている。

 その男の名はアンドリュー・バルトフェルド。
『砂漠の虎』の異名を持つ、ラクス軍きっての将軍であった。

 『こちら第2軍司令本部、フラガ司令です』

 もう一つの通信ウィンドウが開くと、そこに現れたのは司令官服を纏った女性だった。
こちらは成熟した大人の雰囲気を溢れた女性だ。

 ――マリュー・フラガ。

 かつて浮沈戦艦と呼ばれた『AA』の艦長にしてプラントでは、歌姫の騎士団の英雄の一人。
逆に地球圏では、悪名を轟かせた人物でもある。

 『……第3軍司令本部。作戦司令のジュールだ』

 フラガ司令の後に続いて、物憂げで美しい銀髪の青年がもう一つの通信ウィンドウ画面が開いて現われた。
彼は、他の司令と比べて特別に誂えた司令官服と豪奢なマントを纏っている。
その秀麗な表情は、苛立っているのか眉間に皺がよっていた。

 ――イザーク・ジュール。

 今度の地球侵攻作戦に於いて、総司令官であるキラに続いて実質のNo.2とも言うべき立場の人間である。
作戦総司令として軍本営の実質的な総指揮官を務めていた。

111機動戦史ガンダムSEED 20話 5/10:2007/03/24(土) 00:25:40 ID:???

 『第4軍司令アスラン・ザラです。……初めてお目にかかります』

 生真面目な言葉と共に、イザークに続いて端正な顔立ちだが、黒い前髪の生え際が、やや後退している青年が画面に映った。

――アスラン・ザラである。

 アスラン・ザラは、キラ・ヤマトと並ぶMSを駆る戦闘能力の持ち主として、
歌姫の騎士団の重要戦力であった人物だ。彼はMSジャスティスを駆り、キラと共にラクスの敵をその力で葬ってきた。

 メサイア戦役後に一時はオーブに在籍していたが、ニュートロン・ジャーマー・キャンセラーと兵器のハード面での革新的な発達、
それにより戦場におけるMSの急速な不要化が進むことによって、彼の本来の活躍の場が奪われる事となった。

 結果、サイ・アーガイルが密かに邁進していたオーブの国防人事の改革によって、彼は軍を勇退という形で勲章を与えられて追い出される事となり、
その事によって元々、冷えていたカガリとの仲も急速に悪化していったのだった。
そして、キラ達がプラントへ帰化したと同時に、それを契機としてメイリン達と一緒にプラントに戻った一人でもあった。

 アスランは、後ろめたさを覚えつつ、通信画面にカガリの姿が出てこないことを、
心からホッとしながらロンドに対して丁重に敬礼の姿勢を取った。

 しかし、ロンドはアスランのその丁重な態度にも、まったく感銘を受けず冷淡な表情を変えないまま、敵軍司令官達の顔を一瞥すると、

 「……貴公らは?」

 改めて、彼等に何故この場にいるのだ?というような意味を含めた問い掛けをした。
その言葉に反応するかのように、司令官を代表してバルトフェルドが対応した。

 『――貴殿の話を聞くようにと、ラクス様より承っている』

 『……さぁ、用向きを聞こうか?』

 それに続いて、イザークが横柄な態度で話を続けた。

 「……私は、エターナルの本営総司令部に繋いでくれるように、要請したはずなのだが?」

 そのイザークの無礼な態度にもロンドは怒気どころか、呆れた態度も微塵も表に出さず、
相変わらずの冷徹な顔でこちらの要請と疑問を投げ掛けてゆく。
112機動戦史ガンダムSEED 20話 6/10:2007/03/24(土) 00:30:45 ID:???

 『――総司令部は、ただいま作業多忙でありまして、代わりに我々、軍団司令が、
  オーブ政府との直接交渉を任されております』

 交渉が悪化する事を恐れてか、アスランはイザークが発言する前に、
ロンドのその疑問に丁寧に答えた。アスランの答えにロンドは、ある程度の事情を悟ったのであろう。

 「……なるほど。総司令部がそのように忙しいところを見ると、まだまだ貴国は
  オーブ領宙域占領と地球侵攻を諦めておられぬようだ」

 その”地球侵攻”と言う単語が気に入らなかったのか、マリュ―は、

 『……何故、我がプラントが、”地球浄化作戦”を諦めなくてはならないのかが理解できませんね』

 と眉の根を真ん中に寄せながら、そう答える。

 『――もし講和条約をお望みでしたら、その前にオーブ領宙域の全区域を
   プラントへの協力体制下に置くという条件――。これを承諾していただこう!』

 更にイザークがマリュ―の言葉を引き継いで、勝ち誇ったかのように宣言する。
だが、ロンドはその様な彼らの態度を一顧だにせず、

 「――オーブ領宙域を基地化して、地球侵攻及び、地球連合強国との戦いの前衛基地にするなど、
   そのような提案を我が政府が飲めるわけがあるまい――?」

 すかさずそのように淡々と答える。それに対してイザークが更に辛辣な一言を放とうとしたが、
異様な一種の雰囲気がその場を支配した。それは、ロンドが画面越しから放つプレッシャーのようなものだった。

 『『……』』

 画面越しからも感じる、そのプレッシャーに一同は気を呑まれた。彼らは喉から出掛かった言葉を飲み込むのだった。

 「――その為に、我が軍の<クサナギU>と第二艦隊の将士たちが、犠牲になったかと思うと、
  激しい憤りを感じずにはいられぬ」

 『……オーブの勇敢な兵士の死に哀悼の意を表します』

 ロンドのプレッシャーに辛うじて対抗してアスランが答えた。そして彼は言う。

 『だが彼等の死は、我が軍の責任ではありません。――』

 前議長を父に持った故に、多少の政治理解を持つアスランは、あくまで責任はそちら側にあると明言するのだった。
113機動戦史ガンダムSEED 20話 7/10:2007/03/24(土) 00:34:29 ID:???
 
 その様子に無表情だったロンドの顔に、初めて変化が訪れた。

 「……ウン?」

 自らの眉根が訝しげに寄ることをロンドは理解した。

 『――その通り。責任はこちらの提案を無視して、強引な作戦を取ったオーブ政府にある。
   これ以上の犠牲者を出さないためにも、ラクス様の御提案に従うことです』

 「……」

 そう、ロンドはある意味絶句したのだ。
この筋金入りの政治家を絶句させたプラントの司令官達……彼女は、改めてラクスの配下達の顔を見渡すと、

 「……つかぬことを伺うが」

 『はい?』

 マリュ―は、釣られて思わず返事をした。

 「――貴公らは、気は確かなのか?」

 『……?!』

 思わぬロンドの問い掛けにマリュ―が絶句すると、

 『――全てはラクス様の理想の許で、地球圏にナチュラルとコーディネイターが
   手を取り合って自由と平和の世界を建設するためなのだ……!』

 代わりにイザークがロンドの疑問に答える事となった。

 『この人類共通の悲願を達成するためにこそ、我々がここに来たと思って頂きたい!!』

 イザークは自慢げにそう最後に締めくくった。
ロンドは、改めて彼らの口からその答えを聞いた

 「ラクスの理想……」

 彼女は、思わず呟いてしまう。
 
『そう、これが我がプラントの国是なのです』

 そして、立ち直ったマリュ―が続けて答える。

114機動戦史ガンダムSEED 20話 8/10:2007/03/24(土) 00:36:41 ID:???
 
 「……」

 ロンドは暫くの間、怖いくらい沈黙していたが再び口を開く。

 「……なるほど、そちらの言い分は了解した。……そうか。それが、そちらの政治か」

 『……え?』

 『……言葉に気をつけていただきたいものですな。政治ではない――理想だ!!』

 ロンドのその返事にマリュ―はまたもや絶句し、イザークは逆に憤慨した。
自分たちがやろうとしている事は、政治という不純な物ではなく、あくまでラクス・クラインが掲げる理想の許での正しい戦いである。
 それは、前の戦いのメサイア戦役のデュランダル前議長が掲げた身勝手な『運命』を撃ち破り、
その自由の代償の為に戦う事を誓った高邁で偉大な理想なのである。
それを一言『政治』と唱えられる事は、彼らには耐えられない事だったのだ。

 だが、ロンドは容赦しなかった。

 「――ならば余計に始末が悪い」

 『なにぃ……?』

 「酔うのなら、酒を飲んだ時だけにするがいい」

 『なっ……!』

 ロンドのあまりの暴言にイザークは、怒りの唸り声を上げた。

 「――仮にも人の上に立つべき人間が、そのような愚にもつかないお題目で酔っている様子は、
   はたで見ていても、あまり良い光景ではないぞ?」

 『……な、なんだと!?ぶ、無礼なっ!!』

 ロンドは、絶対零度の刃のような言葉でイザークに向って斬りかかった。
イザークはそれをかわす事ができずに、激興した。

 そうは見えないが、今、ロンドの内心では凄まじい怒りが胸を滾らせていたのだった。
余りに幼稚で馬鹿馬鹿しい理由で、オーブの将兵は殺されていったのだ。
これに怒らずしてどうしようというのだ?

115機動戦史ガンダムSEED 20話 9/10:2007/03/24(土) 00:38:57 ID:???

 『イザーク!……乗るな、挑発だ!!』

 バルトフェルドは必死にイザークを宥め、そして制止しようとする。

 「……老婆心ながら忠告させて頂いた。気に障ったのなら謝罪しよう」

 ロンドは、冷徹な態度を崩さずに慇懃に謝罪の言葉を連ねた。
だが、全く謝罪の意思が篭っていなかったのは誰の目から見ても明白である。
彼女は続けて言う。

 「……だが、その前に貴公らに、今ひとつ尋ねたい。プラントは、此処に辿り着くまでの
   幾つもの戦争を体験した上で、いったい今まで何を学んできたのだ?」

 『な、なに?』

 「……貴公らも、仮に一軍の将なら知っているはずだ。その理想とやらの為に
  ビームやミサイルを撃ち込まれた瞬間、何が起きたのかをな……」

 『……』

 『……サハク首席補佐官!ラクスの理想を中傷することは誰であろうと許されないっ!!』

 今まで黙っていたアスランも激発して、ロンドの言葉を遮ろうとするが、本人は意にも返さない。

 「――愛も、笑顔も、記憶も、一瞬に打ち砕く圧倒的な力。
   荒れ狂うプラズマが消えた時に、そこに理想が残っているのか……?……名誉は?誇りは?」

 『……』

 「……ない。そこには血と鉄片にまみれ、悪臭を放つ肉片があるだけだ。
   現在、貴国のやっていることはただの虐殺なのだ。それを少しは自覚するがよろしい。戦争は利害でやるものだぞ」

 『……』

 「正統な理由も、人間らしさの欠片もない理想の名の下に、この行為がすべて浄化されるとでもいうのか?」

 『……うるさい、黙れ黙れっ!通信を切るぞっ!』

 イザークが沈黙に耐えられず騒ぎ出す。しかし、ロンドは無視した。
116機動戦史ガンダムSEED 20話 10/10:2007/03/24(土) 00:43:24 ID:???

 「……よしんば、浄化されるとしてもだ。一方的に敗北を強要される、
  そんな手前勝手な理想を、我が国が黙って享受するとでも思ったのか?」

 『……うぬぅぅぅぅっ!』

 「……もう少し、想像力を働かせてみたらどうなのだ?」

 ロンドは、大人が聞き分けの無い子供を叱るかのような態度でものを言った。イザークは、大声で反論をしようとするが、

 『……我がプラントの理想は、地球圏と人類の永遠の平和と繁栄のために必要なのだ!
  その為の避けられない犠牲なのだ!安寧の日々をむさぼってきた貴様等オーブの人間にラクス様の理想に意見する資格はないっ!』

 「――よかろう。ならば、貴国は貴国の道を行くが良い。
   我々は、アスハ代表の指揮の許で国家の総力をあげ、その『理想』とやらを粉砕する」

 ロンドは、その苛烈にオーブの意思を宣言した。それは、ラクス・クラインの完全否定でもあった。

 『……うぬぅ……くそっ!貴様ぁぁっ!!』

 『やめろ……イザーク!お前の歯が立つ相手ではない!!』

 最後までイザークはロンドに対して見苦しく喚こうとしたが、そこをバルトフェルドが制止する。
その醜態を横目に、ロンドは淡々と話を続ける。

 「最後に……代表カガリ・ユラ・アスハから貴国宛てのメッセージだ。ラクス殿に伝えるがいい。
  ”わがオーブ連合首長国は、ラクス軍の即時撤退を要求する。――”」

 『……』

 「”我々、国家指導者は、人間の死を賛辞麗句で飾り立て、その本質から目を逸らす事は許されない”――以上だ」

 そう言葉を切ると、ロンドは相手の反応を待った。別に相手の答えに期待している訳ではないのだが。
辛うじて、司令官達の中でバルトフェルトが代表してそれに応じた。

 『……分かった。そのようにお伝えしよう。……サハク閣下』

 「お互いとんだ茶番であったな。次の機会では、ラクス殿とお目にかかれることを願っている。――では」


>>続く
117通常の名無しさんの3倍:2007/03/24(土) 17:18:44 ID:???
>>戦史
 キラ、司令が四人がかりであしらえてない、あしらえてませんよ。本当にどうなってるんだプラントは?
この作品がヘイトスレ用のものだったということがようやく理解出来た気がします。
 個人的には馬鹿であることを描写するために馬鹿な発言をさせるのは好きではないですが、
今回は突き抜けていてそれはそれで面白かったです。皆様もミナ様も。
 乙でした。
118通常の名無しさんの3倍:2007/03/25(日) 13:24:50 ID:???

119通常の名無しさんの3倍:2007/03/25(日) 23:36:08 ID:???
ミナ様のみは誰がどう書いても性格があまり変わらない
種系で一番、キャラ設定がしっかりしているキャラなのかもしれないw
120通常の名無しさんの3倍:2007/03/25(日) 23:56:56 ID:???
>>117
いい加減その同人SS痛独特のヘイトの定義を改めろ
121通常の名無しさんの3倍:2007/03/26(月) 00:10:11 ID:???
>>120
べつに何も定義してなくね?
122通常の名無しさんの3倍:2007/03/27(火) 21:15:30 ID:???
ho
123通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 01:32:06 ID:???
124SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/28(水) 02:37:28 ID:???
1/

「ギルの乗っているミネルバを、シンとルナマリアの帰ってくる場所を――やらせるものか!」
 ミネルバを発進したレイは、岩塊の合間を縫うようにザクを飛ばしながら敵影を探った。
慎重かつ大胆に、派手さは無い操縦だが危うげ無くデブリの密集する領域を抜ける。
 レイの役割はミネルバについて防御を行うことでは無い。
 頭を抑えられ、小惑星の表面に追い込まれているミネルバの近くに居れば、
遠からずしてデブリの直撃を浴びて墜ちるだろう。
「ボギーワン……追われる者の気持ちを知って貰おう」
 反転して小惑星から遠ざかると、スラスターを吹かしてボギーワンの後ろへ回り込もうとした。
後方から反撃を加える事でミネルバへの攻撃を緩めさせ、敵が出したMS部隊を呼び戻させる。
「――と言って、戻ってきた部隊に俺が挟み撃ちにされるわけにもいかん。早々に……何!」
 ミネルバとボギーワンが戦う様を俯瞰し、ビームライフルを構えて突撃しようとしたレイは、
首筋に刺す様な悪寒を覚えた。
「この……感覚は――!」
 アーモリー・ワンの宙域で感じたプレッシャー、ガンバレルを自在に操る凄腕のMA乗りが放つ
濃密な殺気を、レイは鮮明に感じていた。
 意識をより深い場所――本能に根ざす領域まで潜行させ、五感と第六感との一致を探る。
すぐさまレイの視野に、矢のように伸びる殺意の線が幻視された、その数は五条、伸びる先は――
「ミネルバ、上空にMA! 防御しろ!」
 叫びながら、母艦へと向かって伸びる死線にザクを割り込ませる。
「……間に合わん!」
 ザクファントムの両肩に固定されたシールドを切り離すと殺意の奔流へと向けて蹴り飛ばす。
 防御兵装と近接武装を捨てる――レイの決断は早かった。実質コンマ一秒とたっていない。
 射撃、閃光がザクのカメラを焼いた。
 MAから放たれた五本のビームはザクのシールド、デブリ、ミネルバのAB爆雷と三段構えの
防御に遮られて直撃には至らなかったが、多くの至近弾を浴びたレイの機体を大きく損傷させていた。
「……くっ!」
 ――迂闊な! 敵が既に艦載機を発進させていた事に考えが回らないとは――!

 広い空間に配置された多数の物体の動きを予測する事は、多体問題と呼ばれ原理的に不可能である。
しかしある種の特異な人間は近似的にこうした予測を無意識のうちにこなし、自動回避プログラムが
音を上げるほど密度の高いデブリベルトであっても機体を損傷する事無く飛行してみせる事が在る。
 機動兵装ポッド――ガンバレルの操作に必要とされたその力を、超空間認識能力と言う。

 敵MAは先ずレイを片付ける事に決めたようだ。読みの甘さを悔いる暇も無く、
レイは次々に放たれるMAからの射撃に対応せざるを得なくなる。
「――速い!」
 激しいGに血液が偏り、顔が歪む。唇を噛んでスティックを操作した。ビームライフルで弾幕を
張りながら必死の回避機動を行うが、損傷したザクの動きは十全とは言いがたい。
レイはMAの一撃離脱攻撃によって徐々にデブリの密集する領域へと追い込まれつつあった。
125SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/28(水) 02:39:18 ID:???
2/
 
 ダガーの放ったビームカービンが、三度ショーンのゲイツR一号機を捕らえた。
「なんて……パイロットだ! ダガーでゲイツを此処まで――!」
『下がれショーン! 一号機は損傷が大きい!』
「まだ残弾も電力も在る! 此処で僕が下がってしまったら、ミネルバまで一気に抜かれるぞ!」
 ゲイツRを駆るショーンの焦りは大きい。
 ストライカーパックすら外し、四門の"トーデスシュレッケン"と一丁のビームカービンのみで
軽快に戦うたった一機のダガーが、総合性能において上回るはずのゲイツR二機を追い込んでいる。
『コイツの目的は俺たちの足留めだ――死んでも何もならんぞ!』
「アラスカだって生き延びただろう? そうそう簡単に僕たちは死なないよ!」
 ショーンは下がる積もりは無い。
『よし……ショーン、俺が前に出る!』
「――任せた!」
 接近してくるダガーを牽制しながら、ショーンとデイルは互いのポジションを交代した。
一号機は後衛へ、デイルの二号機はシールドのビームクロウを展開させながら前に出る。
「間隔0.5で弾幕を張る、四つ――!」
『了解、下から回り込む。俺を撃つなよショーン!』
 二号機は反転、最大加速によってダガーの足元から迫った。ショーンは最短間隔でレールガンを連射する。
デイルの突撃から二秒弱、計八発の弾幕によって動きを制限されたダガーに、二号機が食らいついた。
 ヤキン=ドゥーエ攻防戦において、数多のダガーを屠った二人の連携である。
『取った――!』
 掲げたシールドでビームカービンを弾きながらダガーの機影に向けてビームクロウを突き出す。
弾切れのレールガンを排除して軽くなった二号機は黒塗りのダガーに突進、喰らいついた。
「ちッ――浅い!」
 ビームクロウによって片腕を切り落とされたダガーを見て、ショーンは再びレールガンを掃射する。
残弾全てを吐き出す積もりで放った質量弾は、二号機を狙うダガーを牽制した。

『すまん、仕留め損なった――!』
 間合いを取って一号機の横につき、ダガーとにらみ合ったデイルが通信を送って来る。
「気にしなくていいよデイル。……ゼロ3シールドなら今ので決まっていたね」
 旧型のゲイツに装備されていた二連装ビームクロウ付きのシールドを思い出す。形式番号MA-MV03は
取り回しこそ難しいものの決定力に優れる武装として、ゲイツ乗りの間で評価が高かった。
『無いものねだりをしても始まらん……とにかく追い込むぞ』
「もうレールガンの弾が無いよ、君のビームライフルを貸してくれ……!」
 デイル機の放ったライフルを受け取ったショーンは、モニターの端に接近する物体の存在を捕らえる。
『ショーン、フライヤー接近――!』
 デイルもまた殆ど同時に、二機のフライヤーが近づいてくることに気付いていた。
「レッグとソードフライヤーか。成る程、という事はシン君もピンチ……のようだね。
先輩として情け無い所は見せられない。踏ん張り所だねえ……!」
『フライヤーを落されるわけにはいかん。タイミングを合わせてもうひと当てするぞ!」
「オウケイ……!」
 二機のゲイツRは、ダガーに向かって行った。
126SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/28(水) 02:41:04 ID:???
3/

 ルナマリアはショーンもデイルもシンも気付いていない戦場で、狼を模した漆黒のMSと戦っていた。
「ガイアなんて……所詮は地上用のMSだとばかり思ってたけれど――!」
 元々が地上用に設計され、宇宙空間における機動性や推進力など考えられていないガイアであった。
もし本当の意味での"宇宙"であれば、足場の無い虚空の戦場であればガイアはゆっくりと漂い、
強靭な手足をばたつかせるだけの雑魚に成り下がっていただろう。
 敵がガイアをカオスと一緒に前衛に出さず、デブリの影に隠れさせていたことも、
その機体特性を鑑みればおかしい事ではない。
 しかし――
「――デブリがあるっていうだけで、此処まで動いて見せるとはね!」
 宇宙に飛び出たガイアは、360度全方向に広がるデブリを蹴る反動を得る事で、
大抵のMSにも追随できない強力な運動性を確保していた。

 カオスが宇宙用の大推力スラスターを備え、アビスに潜水機能のためのスケイルモーターが搭載
されているのと同じように、地上での運動性能に特化されたガイアもまた、余り目立たないが特異な
機構をその関節に内蔵している。
 関節を動かすモーターの回転を、摩擦係数を殆どゼロにした軽量な超流体に導きエネルギーを蓄積、
毎秒数千から数万回転という角運動量を、関節に導き解放する事で劇的な瞬発力を生み出す機械。
調整の難しさから格闘専用の機体にしか搭載されない僅か数十kgのシステム。
 今、小惑星へ後足で着地した鋼の狼が静かに作動させたその仕組みを、インパクト=モーターと言う。

 跳躍。
 小惑星を蹴り飛ばすと同時にスラスターを吹かしたガイアが、矢のような加速でザクへと向かう。
「接近戦――上等よ!」
 バイザーの中に充満するアドレナリンの匂いを感じながら、ルナマリアのザクは対艦刀を振るった。
 激突――激しい衝撃が片腕のザクを揺らす。ガイアの突き出した"ヴァジュラ"ビームサーベルと、
ザクの"エクスカリバー"レーザー対艦刀が宇宙の真空にスパークを起こした。
 ガイアは人知を超えた反応速度によって、ザクはルナマリアの先読みによって続く第二撃を放つ。
ガイアのビームサーベルがザクの回し蹴りによって防がれ、互いの機体が反動に弾かれた。
「――ショートレンジでは互角、か。あと二十秒とすこし……気付かないでよね!」
 ルナマリアの意識は、こちらへ向かって飛んでくる二機のフライヤーを捉えている。
「このガイアのパイロット、反応は早いけれど視野が狭い。其処を上手くつければ――!」
 ルナマリアがガイアの注意を引いておけば、フライヤーはこの宙域を楽に通過し、
シンは新しい装備と消耗したバッテリーの補給を受けられる。
「一対一で負けるなんて、ザフトレッドとは言えないのよ。シンがカオスを抑えているのに、
私が宇宙の犬ころに負けるわけには行かないじゃない――!」
 一生、犬なんて買うものか。そう固く心に誓いながら、ルナマリアはザクを突進させた。
127SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/28(水) 02:42:12 ID:???
4/4

 デブリを蹴り飛ばしてジグザグに急機動を行うガイアだが、逆を言えばデブリが無ければ
早い動きも姿勢制御も出来ないということだ。
 ルナマリアは対艦刀をハードポイントに突き刺し、代わりにビームライフルを構えた。
前面モニターはコロニーの太陽光反射パネルを駆け回るガイアを写している。
「分かっていても悔しいものよね、当たらない射撃をするっていうのは――!」
 本気で狙っても牽制代わりでしかないが、接近戦用の武器を手にしていない事を示して誘う。
 ガイアは当たらない射撃をわざわざジグザグに回避しながら進んでいたが、やがて業を煮やしたのか
反射パネルを蹴ってザクに飛びかかってきた。
「ザクの性能を……舐めんじゃないわよ!」
 如何に速い突撃であろうとも、来るのが分かっていれば対応は難くない。最小限の余裕を以って
突進を躱したザクは、背後から急襲するように加速する。
 連合製の量産期よりも三割重いザクは、四割出力の高いスラスターで機動力を確保している。
力任せに加速する機体の重量を存分に乗せて、ルナマリアはガイアに体当たりを敢行した。
 カオスに吹き飛ばされた右腕の側をガイアに向け、ライフルを捨てた左手でシールドから
トマホークを引き抜きつつ突進を仕掛ける。如何にガイアといえども、碌に対応する事も出来ずに
肩からの体当たりを受けた。
 黒――最も堅牢な赤に次ぐVPSはザクのショルダーアタック程度では打ち破れないが、
流石に体勢を崩したガイアの装甲に投擲されたビームトマホークが喰らいつく。 
「良し――!」
 喝采をあげるルナマリアの背後を、二機のフライヤーが通過し、飛び去って行った。
「ちゃんと送ったからね、シン……きっちりカタをつけて来なさいよ!」
 MS形態になり、その手で背中に突き刺さったビームトマホークを引き抜くガイアを見据え、
ルナマリアはザクにエクスカリバーを構えさせた。
 ガイアの動き――ルナマリアの反応。瞬時にガイアの挙動を察知して乱数回避を取ったザクの横を、
ガイアの放ったビームライフルの光条が通過する。
 二撃、三撃と今度はマニュアルで躱しながら、ルナマリアは歯をむいて笑った。
ガイアがビームライフルを構える様を見るのは、初めてだった。
「どう、一寸は落ち着いた? それともようやく本気を出す気になったのかしら?」
 片腕のザクで対艦刀を構え、大見得を切る。ビームライフルは何処かに行った。トマホークも無い。
ガイアの損傷は突き刺さったトマホークで装甲が少し千切れた程度。
 戦況は圧倒的不利ながら、意気軒昂にして戦意充分。
「此処が勝負どころよ、ルナマリア=ホーク!」
 自分自身を奮い立たせる文句を叫びながら、ルナマリアはコントロールレバーを倒しこんだ。
赤いザクが背中からイオンジェットを噴出し、加速していく。
128通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 09:05:47 ID:???
キター!!!!
「†」氏GJ!!乙!!

ルナ対ステラの戦いが、細かい設定も交えて丁寧に描写されて
るからバッチリ脳内再生されましたよ!。
ゲイツパイロット二人もちゃんと活躍してて、ミネルバ隊をつい熱く応援してしまう…。

今回もGJでした
129通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 09:13:51 ID:???
おぉ、ルナやショーン、デイルがかっこいい〜!
130通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 20:43:44 ID:???
45氏GJ!
前にも誰か言ってた気もするけど単独スレでやった方がいいんでない?
追い出したくて言ってんじゃなくて、今より読者が付きそうだしさ。
131通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 12:26:28 ID:???
う〜ん、確かにそこまでのクオリティはあると思うけど
単独で立てても下手すると過疎って落ちたり、変な特攻がきて荒れたりとかの弊害の可能性もあるからね〜
難しいとこだと思いますよ
132SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/29(木) 19:48:37 ID:???
5/

 耐える、しのぐ、留まる。
 躱す、避ける、防ぐ。
 シンは守勢に回ってひたすらカオスの攻撃を捌いていた。
「まだだ、まだ攻める時じゃない――必ずフライヤーは来る!」
 一撃離脱を繰り返すカオスの猛攻に機体の片腕を失いながらも、焦る事無く勝機の到来を待っていた。
 その間に、操縦も徐々にではあるが、カオスの動きに対応しつつある。
 牽制に使う弾丸が一つ減り。
 光条を回避するための動きが少しだけ早く、無駄の無い物になり。
 攻撃の合間にデータリンクを見る余裕さえ生まれていた。
「みんなは……無事か!」
 データリンクが伝えてくる味方の状態は無機質なコードと数字に簡略化されてしまっているが、
シンはその向こうに仲間の息遣いを感じていた。落された味方はいない。
 各機体がそれぞれ損傷しているが助けに行くことは出来ない、シンは近くて遠い戦場において
同じように耐えながら戦っている仲間を信じている。
「ルナマリアが居る。レイが居る。ショーンも、デイルも! だからフライヤーはきっと来る!」
 信じ続けたことが、敵よりも少しだけ早くレーダーに映る小さな機影に気付かせたのだろう。
 識別を持つ二つの物体、モニターの中に座標とベクトルを表す小さな三角形が出現した。
〈F/L〉そして〈S/β〉。
 フライヤーとシルエットが接近中。表示は小さかったが、その意味は大きかった。
「――来た!」
 換装を果たすために、損傷したインパルスを加速させる。残存電力を全て投入して加速する
インパルスをカオスが追った。
 カオスのパイロットも、飛来するフライヤーが何らかの増援であると見抜いたのだろう。
 ――このままでは追いつかれる、だけど!
 シンは迷うことなく、操縦席の端――インパルスだけに存在するレバーを引く。
「インパルスには、こういう使い方も在るんだ――!」
 インパルスの背後から迫るカオスへと、シンの操るインパルスは"蹴りを飛ばし"た。
排除されたレッグフライヤーのキックが加速中のカオスを見事に捉え、シンは換装する隙を得る。
 シンは自然と思う――この乱戦の中、こうして武器が届くのは並み大抵の事では無い。
 コンソールを操作して合体シークエンスを起動させる。三機の飛翔体が軸線を合わせ、
相対速度を落としながら接近してゆく。
「確かに受け取ったぜ……みんな!」
 インパルスは加速しながらまずレッグフライヤーとのドッキングを果たし、
次いでブラストシルエットを排除して"エクスカリバー"の無いソードシルエットを背負った。
 軽い衝撃と共にインパルスの状態データが更新――新たなレッグパーツとソードシルエットが
インパルスと同じ構造体として認識され、エネルギーの共有を開始した。
 簡易検査プログラムが全速力で機体の情報を走査し、オールグリーンの表示を残して操縦権利を
フライヤーの電子頭脳からメインパイロットであるシンに委譲する。
 バッテリーゲージの回復と共に、兵装セレクター画面に武装が追加された。外からインパルスの姿を
見るものがあったならば、VPSの装甲色が緑から鮮やかな赤に変わる様が見えただろう。
「ソードシルエット――? 成る程、レイの選択か!」
 レイの意図を察したシンは、シルエットに装備されたブーメランを手に取らせた。
133SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/29(木) 19:53:13 ID:???
6/

 インパルスにシルエットとの合体を許したカオスはまたデブリの群れに隠れてしまったが、
今のシンにはカオスの突撃に対応する自信があった。
 ――来た!
 機動兵装ポッドの位置を把握した瞬間、インパルスは腕を振った。強靭なモーターによって
初速を与えられた"フラッシュエッジ"ビームブーメランが回転しつつ乱数曲線を描いて
浮遊砲台に喰らい付き、ビームの刃も使わず弾き飛ばす。
 ポッドのビームがインパルスの機体を軽く撫でた事も無視して、宙に漂うコロニーの残骸から
飛び出してきた深緑のMSに向けてライフルを構えた。
 来るべき加速Gに備えて、シンは呼吸を整える。
 エンジンの高まりを感じながら、裏コードで機体のリミッターを解除した。
「ソードの軽さと突撃力なら、カオスにも追いつける――!」
 カオスの"カリドゥス改"複相ビーム砲を躱し、突出した本体を躱してやり過ごす。溜めに溜め込んだ
噴火寸前の鬱憤を解き放つようにペダルを踏み抜いた。暴力的なGに顔が歪み、肺が押しつぶされる。
「か……はあっ……」
 ――流石にきつい、だけど!
 象徴ともいうべき対艦刀、そして空力翼を持たないソードシルエットはフォースよりも更に軽い。
デッドウェイトを排したインパルスの加速力はこの瞬間だけ、カオスの追跡を可能としていた。
 加速の振動を勘で補正し、インパルスのビームライフルをカオスに向ける。強襲形態のカオスに放った
ビームは際どいところで回避されてデブリを一個粉砕した。
 向きを変えるするカオス。インパルスはAMBACによって方向転換し、旋回機動を追う。
 十G近い加速を続ける中で、パイロットスーツが下半身を締め付けブラックアウトを無理矢理ぐが、
脳から血流が引く感触と共にシンの意識が吹き飛ばされそうになる。
 シンがスロットルを絞ればカオスに引き剥がされる。カオスが加速を緩めればインパルスのライフルが
カオスを狙う。デブリ衝突の恐怖と加速Gの厳しさに負け、先に減速した方が負ける。
「我慢比べだ……泥棒野郎――!」
 二機は決して加速を緩めることなく、そのままデブリの密集している宙域へ突入した。
秒速で数キロに達する速度差は只のデブリを砲弾に変える。
 前面ディスプレイが"危険"を表す赤色に彩られ、減速を促すアラートが耳障りなほど鳴り響いた。
 勢いに任せてスイッチを切った。アラートの止んだ操縦席にスラスターの咆哮が伝わってくる。
「警告……なんか――!」
 ――知った事か! 今一番危険な物は目の前のMSだ、戦争を起こす大馬鹿野郎だ!
 デブリベルトに於ける高加速度高機動戦。MSパイロットが最も恐怖する戦闘領域にインパルスと
カオスは突入している。
 エースパイロットですら悲鳴を上げるその状況で、シンには少しだけ勝算が在った。
 それは装甲とバッテリーだ。危険を冒して換装したインパルスは、十分なバッテリー残量と強固な
赤いVPS装甲を持つ。総じて、デブリの衝突に対する耐久力は、インパルスの側に軍配が上がる。
 今この瞬間も、回避しきれない小さなデブリが表面装甲を叩き、MS乗りに"死神のノック"と呼ばれ
恐れられる振動を起こしてバッテリーを消費させているが、シンは焦りを感じてはいなかった。
 起死回生の一撃は、既にインパルスから放たれ、カオスに接近しつつある。
134SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/29(木) 19:59:44 ID:???
7/

 そして、加速に追随するカオスの背後から回転するRMQ-60"フラッシュエッジ"が襲い掛かった。
 突撃を開始する直前、ポッドに向けて投擲したものだ。量子通信によって機体と接続している
フラッシュエッジは、電力の続く限り本体を追跡し、敵を狙い続ける。
 本体に数倍する加速力で乱数曲線を描きながら接近するビームブーメランは回避し難い。
それは持続力と威力に劣るものの、操作の容易な簡易型ドラグーンであるといえた。
 カオスのパイロットも予期していないであろうこの攻撃は、必ず何らかの反応を引き出す。
その瞬間に生まれる隙を狙って、シンはビームライフルを構えさせた。
 ――ドラグーンは、カオスの専売特許じゃないんだよ!
「――く……らえ!」
 押しつぶされそうなGの中で何とか言葉を搾り出す。
 カオスに近づくフラッシュエッジがビームの刃を周囲に展開し――
『御免だな、自分で馬鹿をやるのは好きじゃねえ』
 ――カオスが何気なく放ったビームによって貫かれ、爆散した。
「な……ん、どっ――!」
『いや、ちょいと興味が湧いたんで、カオスに慣れるついでにその機体も頂こうと思ったんだがよ――』
 身元がばれないように声を変調させてあるとはいえ、確かにカオスを操っているパイロットが
送って来るその通信は、遊園地で木馬に揺られているかのように厳しさや危なさが無い。
「どれ……だけ……!」
 ――加速度に抵抗力があるんだ! こいつは!?
『さっきとは違ってあんまり撃たないし、装甲も硬そうだから、バッテリー狙いは面倒だな――』
 シンの背筋を貫く悪寒――本能が告げる危険信号。
 最大加速を続けるカオスが、今度はインパルスに向けてライフルを構える。
『そんなわけで……部品だけでいいや――』 
 涼しげな殺害予告と共に閃光が走る。インパルスの頭部に生るアンテナブレードが
ビームの輝きの中へ、溶け込むように蒸発した。モニターにノイズが走る。
「がはっ――!」
 反射的に全力での急減速を果たし、ビームを間一髪回避するが、逆Gによってレッドアウトを起こして
赤く染まった視界の中で恐慌状態に陥る。
 シンをビームの直撃から救ったのは、敵の放った台詞に他ならない。言葉の端に感じた確実な殺意が、
ビームの到来よりも一瞬早い反応を生んだのだ。
「う……わあァァーー!」
 ほんの数瞬ではあったが絶叫しながら減速を続ける。カオスは旋回しながら加速を続け、遠ざかった。
接近するデブリはインパルスが自動的に回避した。
 ――此処まで、手加減されていたって言うのかよ、俺はあんなに本気で戦っていたのに!?
 敵から離れたい一心で、シンはペダルを踏み抜く。 
 しかしカオスのパイロットにとっては、シンの反応すらも罠への布石に過ぎなかった。
『俺の上司いわく、戦場ではなけなしの冷静さを失った奴から死ぬそうだ……詰みだな』
 "フラッシュエッジ"と同じく、カオスに追随していた二基の機動兵装ポッドがシンを――
コックピットを照準に捉えた。耳障りなロックオン警告がヘルメットの中で反響する。
 乱れた呼吸が、脳から僅かな酸素を奪う。シンは数瞬後に訪れるであろう確実な死を予感した。
 突如として時間がゆっくりと経過し、シンの脳裏をこれまでの思い出が突き抜ける。
 ――これって……走馬灯かよ!
 凄まじい相対速度にも揺るがない、正確無比な照準がインパルスを二つの方向から捉えて――
135SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/03/29(木) 20:03:24 ID:???
8/8

『おおっ――!』
 しかし次の瞬間、驚愕の叫びを上げたのは敵パイロットの方であった。
 シンの駆るインパルスは、ポッドからビームが放たれる直前に合体を解いていた。
分離した機体の間を荷電粒子が流れ去り、コロニーの欠片に吸い込まれて消える。

 走馬灯現象を体感した一瞬、シンは訓練の時間を思い出した。
 インパルスの"フラッシュエッジ"で模擬敵を狙った時のことだ、着弾前に目標のバルーンが破裂し、
ブーメランは何をするでもなくビームを収め、インパルスの手に戻ったことがあった。
 超空間認識能力を保有するオペレイターが直接座標をイメージして操作する旧式のドラグーンと違い、
簡易型のドラグーンは間にFCS――MS側のコンピュータによる判断が介入する。
 インパルスを良く知らないカオスのFCSは、分離した直後の各パーツを敵として認識できず、
"ばらばらになった"敵を敢えて狙う事をしなかったのだ。
 カオスが新型である事を利用した裏技によって、シンは九死に一生を得ていた。

 コアスプレンダーを行き過ぎた機動兵装ポッドが反転してくる前にシークエンスを起こし、
シンは再びソードインパルスへと合体させた。
「危ない……マユと父さん母さんの顔が見えたよ……」
 走馬灯の中に都合の良いシーンが出てきたのは家族のお陰だろう、息を荒げながら感謝した。
「だからって、もう一回当てにするわけにはいかないよな……」
『よお、今のは凄かったじゃねえか……』
 遠ざかりつつあるカオスから、嘲るような声が聞こえる。
『さっきと言い、今と言い、自分の手足を随分気安く切り離すもんだよなあ……』
「何を言ってやがる!」
 インパルスの速度を落し、全方向を警戒しながらデブリの間をすり抜ける。
『切り落とした手足の痛みは感じねえのか?』
 MSは手足ではない、只の機体だ。ずっと乗り込んできた愛着はあれど、自分のために切り離して
痛みを覚える事は無い。敵の術中に陥る事のないよう、シンは答えることなく索敵を続けた。
『まあ、そうだろうな、お前たちコーディネーターが誰かの言うとおり宇宙の化け物なら、
切り捨てた部分がどれだけ悲鳴を上げていようと、何も感じないのかも知れねえ』
 デブリの合間にちらちらと燦めくスラスターの燦めきを見逃さず、シンは出来る限り落ち着いて
モニターを睨む。全身に焼け付くような殺気を感じるのは気のせいでは無いだろう。
 我知らず、恐怖に歯を鳴らせていた。手の震えを押さえつけて、スティックを握る。
『だからこそ言わせて貰うぜ……幻肢痛を思い出せ』
 静かな声と共に、接近する機動兵装ポッド――
 ――切り捨てた場所の痛みを感じない? そんなわけがあるか!
 唇を噛み千切り、痛みを触媒に怒りを蘇らせる。戦火に消えた家族の幻影は今なお鮮明に残り、
シンに耐え難い疼痛を感じさせ続けていたのだ。
 血の味が口腔に満ちる。恐怖を怒りによって塗りつぶしていく。
「負けるか――!」
 自分を鼓舞する怒号と共に、シンはペダルを踏み込んだ。
 宇宙に鋼の巨人と灼熱のビームが乱舞し、星屑の海で嵐が生まれた。
136通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 20:46:30 ID:???
(・□・)ゞ『†』氏、更新乙であります!

今回も戦闘がスピーディーに描かれていて良かったです。

軍人とはいえ場数の少ないシンより、強化人間として戦ってきた
スティングの方が強いってのが良かったと思います。

ルナガンガレ、君なら勝てる

脇役もちゃんと動いていて、生きた物語になっていると感じました。
137通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:14:56 ID:???
「ここまで壊されたんだから、追加で屋根の一枚くらい良いわよね」
 マリューは、ザクレロの姿勢制御バーニアを使って僅かに機体を浮かせた。
 そして、徐々に機首を上げ、ザクレロに上を向かせる。
「よし‥‥じゃあ、行ってみましょうか」
 言うが、ザクレロは動かない。
 何か問題があったのかと、コックピット内を見回したマリューは、操縦桿を握る指先の震えに気付き、安堵とも苦笑とも取れぬ顔をした。
 緊張で、身体が動かなかっただけ。踏み込むべきフットペダルは、まだ軽く足が乗せられているだけだ。
「落ち着いて、マリュー。こんなの、入隊試験前の24時間耐久教科書丸暗記に比べたら、どうってことないわよ」
 気休めを言う。それでも、多少なりとも落ち着きは取り戻せた。
 こんどこそ‥‥行ける。
「マリュー・ラミアス! ザクレロ、行きまあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
 台詞の途中で、マリューの声は濁った悲鳴に変わる。
 フットペダルを躊躇無く踏んだ直後、マリューの身体を凄まじい圧力が押し潰した。
 ザクレロは、派手に噴射炎を吐き出した直後に飛び立ち、屋根を紙のように突き破って、コロニーの空へと舞い上がる。そして、そのまま一直線に加速を続けた。
 その間にも、複眼に似た複合センサーは周囲の空間を見渡し、精細な情報をコックピット内にもたらす。
 もっとも、中のマリューが、ザクレロの急加速で発生したGで押し潰されている状態では、その情報は何の役にも立たなかったが。
 ザクレロはコロニーのガラス面へと真っ直ぐに向かいながら順調に加速を続け、そのまま愚直にガラス面へと突っ込み、大穴を開けて宇宙へと飛び出していった。

「何だ、あれ」
 ZAFT製MSジンに乗っていたミゲル・ハイマンは、格納庫を吹っ飛ばして一直線に空へと登っていった物を見送った。
 機体のデータが無いので正体はわからなかったが、少なくともMSではなかった。宇宙に飛び出したことだし、当面の脅威にはならないだろう。それに、外には隊長が居るはずだ。
 ミゲルは、MAを甘く見ている事に気付かないまま、今見た物のことを頭の片隅に追いやった。
「アスラン、ラスティ、撤退準備は?」
『OSの書き換え完了。大丈夫だ』
『‥‥‥‥』
 通信機に問うと、イージスのアスランが通信で答え、ストライクのラスティは無言のままストライクの手を振って答える。脱出準備は完了。
「じゃあ、先行したイザーク達と合流する。俺が最後尾になるから、二人は先に行ってくれ」
 ミゲルはそう言って、アスランとラスティを先に行かせた。
 この作戦は、連合製MSの奪取が目的。量産機のジンで支援に出たミゲルが、盾になるくらいの事は最初から折り込み済だ。それに、もし連合MS強奪組に何か有れば、ただではすまないと言う予想もある。
「政治家のお坊ちゃん達は良いよな」
 彼らを嫌いではないが、立場の違いはやりきれない。
 呟きつつ、ミゲルはジンを歩かせた。
138通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:15:58 ID:???
 宇宙。そこでも戦闘は行われていた。
 連合製MSのパイロットを運んできた輸送船が、折り悪く今日の襲撃に巻き込まれたのだ。
 輸送船は、護衛の連合製MAメビウスの部隊を発進させて抗戦。
 しかし、ZAFTの側はローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフとナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスという戦闘艦2隻にMSジンの部隊という戦力。
 戦闘は一方的で、メビウスは次々に屠られていた。
 もはや、残るメビウスは1機のみ。メビウス・ゼロという、有線式ガンバレルを装備した特殊な物だ。
 最後に残ったそれも、白いカラーリングのシグーに一方的に追われ、苦戦の最中にある。
 シグーの中、ラウ・ル・クルーゼは顔を覆う仮面から垣間見える口元を歪ませて言った。
「どうも、君との縁もここまでのようだな。エンディミオンの鷹くん」
 皮肉げに追いつめつつある敵のことを考える。
 エンディミオンの鷹‥‥ムウ・ラ・フラガ。連合のエースパイロットであるという以外に、色々と因縁のある相手だ。
 もっとも、ムウの方はラウをZAFTのエースパイロットとしてしか見ては居ないだろうが。
 だからといって、因縁をとくとくと語るまでもない。ラウにしてみれば、ムウは因縁があるにしても、歩む道に落ちた石に過ぎない。排除して進むだけだ。
 ラウがトリガーを引くと同時に、シグーはその手の重突撃銃から銃弾を吐き出す。
 銃弾の奔流が、宙を滑るように走るメビウス・ゼロの後を追った――

 ラウが、メビウス・ゼロの撃墜を確信した瞬間。虚を突いて、コックピット内に警報が鳴り響いた。
 コロニー方面に熱源反応。高速で接近中。
 それだけの情報を読みとったその時には、メビウス・ゼロは既に攻撃から逃れてしまっていた。
 タイミングの悪さを残念に思いながら、ラウは新たに現れた物を確認する。
「何だこれは?」
 大きさからすれば、脱出艇か何かにも思えるのだが、それにしては速度が速すぎる。驚異的な速度で、それは真っ直ぐにこちらへと突っ込んでくるのだ。
 ラウは、カメラの映像を拡大して見る。その時の操作‥‥拡大率を若干大きめにしたのは、ラウの失敗であった。
「顔!? 巨大な顔だと!」
 拡大表示したモニター一杯に映し出されるザクレロの顔。
 凶悪なその人相に睨まれた瞬間、原初的な恐怖感がラウの身体を襲った。
139通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:16:44 ID:???
「MA風情が、大きければ良いという物では!」
 僅かな恐怖が、判断を鈍らせる。
 ラウは、躊躇することなくMAに対するのと同じ対処を行った。
 その動作は正確無比であり、シグーの手にある重突撃銃から撃ち出された銃弾の奔流は、正確にザクレロを捉える。
 MAならば、それで粉微塵になる‥‥そう、並のMAならば。
 ザクレロは、全ての銃弾をその装甲表面で弾いた。
 PS装甲ではない。ザクレロの重厚な正面装甲は、そんな物に頼らずとも、ZAFT製MSの基本装備である重突撃銃に耐えられる厚さが持たされている。
 敵に正面から突っ込み破砕するのがザクレロ。
「ちっ‥‥」
 手元で、重突撃銃が最後の銃弾を吐き出し、弾倉が外れた。
 それを報せる警告音が、ラウを現実に引き戻す。あらゆる攻撃を正面から弾きながら迫る魔獣と言う悪夢から、現実へと。
「連合の新兵器‥‥MSだけでは無いというのか!」
 回避をとラウは操縦桿を倒す。しかし、その動作は遅きに失していた。
 いや‥‥それでもラウは早かったのかもしれない。致命的な直撃は避けられたのだから。
 ザクレロの口から、前方に広がる様にビーム粒子が飛んだ。それは、回避するシグーをわずかの差で、その効果範囲に捉えた。
 下半身にビーム粒子を浴びたシグーは両足を砕かれ、その衝撃は脱出の機会を奪う。
 直後、ザクレロは、脚部の爆発に煽られて宙を漂うシグーに突っ込み、はじき飛ばした。
 力の抜けた人形のように出鱈目に手足を振り回して回転しながらシグーは、宇宙の彼方へと飛ばされていく。
 不規則な高速回転の中、コックピットの中で出鱈目に振り回され、ラウはその意識を失った‥‥
140通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:17:31 ID:???
「!? あいつが消えた!」
 その瞬間、メビウス・ゼロの中でムウはその事実に驚く。と、同時に、今が最大のチャンスと言う事も察した。
「やっぱり俺は、不可能を可能にする男だったってわけだ! ここで、戦局逆転させられるなんてな!」
 ムウは即座にメビウス・ゼロを駆り、後方に位置するZAFT戦闘艦を目指す。
 指揮官であるラウを失ったことで、ZAFT側は軽い混乱状態にある。その空隙を突いて、ムウはナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスに肉薄する。
 機を逃してではあったが、ヴェサリウスは対空砲を撃ち始めた。
「遅いよ。残念だけど」
 弾幕を抜け、メビウス・ゼロは対装甲リニアガンの射界にヴェサリウスを捉える。同時、有線式ガンバレルは既に展開を終えて、艦の要所に狙いを定めていた。
 引き金を引く。
 ヴェサリウスの艦橋が、対装甲リニアガンの直撃を受けて引き裂かれた。
 そして、二つの有線式ガンバレルは砲塔に銃弾を浴びせ損傷を与える。残る二つ有線式ガンバレルは、艦の後方にまわって推進機に銃弾を叩き込んだ。
 ヴェサリウスは艦橋を崩壊させ、そして砲塔二つを拉げさせた。推進機の損傷は確認できないが、無傷とは行かないだろう。
「撃沈とまでは行かないか‥‥っと」
 環境を破壊されたせいで一瞬止まっていたヴェサリウスの対空放火が復活した。ついでとばかりに、ローラシア級モビルスーツ搭載艦ガモフが接近し、対空放火をばらまき始める。
 十字砲火でメビウス・ゼロを確実に仕留めるつもりだろう。
 そうなる前に、ムウはこの空域から離脱する事を決めた。
「十分な戦果だね。で‥‥あの、不格好なMAはどうなったかな?」
141通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:18:17 ID:???
 一方でザクレロは、まるで何事もなかったかのように、そのまま飛行を維持していた。
 かなりの速度で宙を突っ走ったため、敵のいる場所からは遠く離れてしまっている。
「は‥‥ははっ‥‥落ちた」
 シグーを吹っ飛ばしたお陰で加速に歯止めがかかり、Gから開放されて座席から身を起こすことが出来たマリューは、フットペダルから足を放してコックピットの中でただ虚ろに笑う。
 操縦不能のまま真っ直ぐ敵に突っ込んでしまい、恐怖にかられて拡散ビーム砲のトリガーを引いた。後は全部、ビギナーズラックとザクレロの高性能さ、そしてザクレロの顔の怖さのお陰。
 誇る気分には全くなれない。というか、着ている作業服の、股間が濡れているのが不快で仕方なかった。
 無事だったとは言え、自機に対して銃撃を行う敵に真っ直ぐ突っ込んだのだ。その恐怖は、なかなかの物だった。その恐怖の残滓に、呆然としてしまったくらいに。
 と‥‥その時、通信機が叫んだ。
『ザクレロの搭乗者! もうすぐ奪取されたMSが宇宙に出るぞ!』
「‥‥うわ、そんなの相手するの無理。って、その声はナタル?」
 怒声じみた警告。その声を聞いてマリューは、知り合いの連合少尉を思い出す。彼女は、最新鋭強襲機動特装艦アークエンジェルのブリッジ要員だったはずだ。
 改めて通信ウィンドウを見れば、そこには思った通りの顔があった。
『ラミアス大尉? 正規のパイロットでは‥‥』
 ナタル・バジルール少尉の声は少し戸惑った様子だったが、すぐに元の調子に戻って言う。
『ラミアス大尉。奪取されたMSが外に出ます。すぐに撤退してください』
「でも、敵はどうするの!?」
 ZAFTがそこにいる以上、何とかしなければ殺されてしまう。ヘリオポリスを破壊されたら、民間人にまで被害が出る。
 そして、誰が戦えるかと言うと、自分達しか居ないのだ。
 しかし、ナタルは首を横に振って言う。
『ラミアス大尉が敵の指揮官を撃墜、また味方のメビウス・ゼロが敵戦闘艦に重大な損傷を与えたようです。敵もすぐには戦闘出来ません。今の内に、防衛体制を整えましょう』
「‥‥それは、基地司令の命令? それとも艦長?」
 聞き返したマリューに、ナタルは深刻な声と表情で返した。
『‥‥お二方とも、ZAFTに攻撃を受けた際に戦死いたしました。現在、士官は私だけです。下士官も兵も被害甚大で、手が全く足りていないんです。だから、私が代理で指揮を執っています』
 状況は、マリューの想像以上に深刻らしい。
「わかったわ。ザクレロ、これより帰還します」
 答え、マリューは操縦桿を握る。そして、慎重にそれを動かして、ザクレロの進路をヘリオポリスに向けた。
142通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:19:03 ID:???
 機動戦士ザクレロSEED‥‥以上。
143通常の名無しさんの3倍:2007/03/30(金) 22:33:55 ID:???
ザクレロが主人公機………地球上で戦えるのか? あれ。
まだ序盤だし、これからに期待。それとGJ
144 ◆XGuB22wfJM :2007/03/30(金) 22:36:43 ID:???
ベルリンの零細企業、何でも屋ドミニオンは今日の午後、虐殺短刀という縁起でもない名
前の機体を入荷予定である。付け加えると転売予定の悲しい機体だ。
件の機体を持ってきた迷惑社長は、既に社から去っていた。

「常務、カイトなんだけど、護衛の仕事で今はプラントのようです。
用件は留守電に入れましたが、連絡がつくのは最短で三日後、最長で一ヶ月。
守秘義務でプラントの居場所は伏せられています」

フレイの報告を聞いて、バジルール常務は眉間にしわを寄せた。
「面倒なことになったな。いわくつきの機体を買ってくれる当てなど他にある訳もなし、
ばらして売ったのではたかが知れているし……」
一度言葉をくぎる、大きく息を吸い、
「まったく、いつもいつもいつも厄介ごとを持ってきてくれる。オーブの時も、ボアズの
時も、ジェネシスの時も、艦が沈んだ時も、起業の時も、バスターダガーの時も、ソード
パック大量購入の時も、いつも、いつも、いつも、いつもだ! ええい、腹が立つ」

ナタルの心の愚痴手帳に新たな一頁が加わり、マイナス思念が吹き上がる。
危機感を抱いたカズイがすかさず冷蔵庫から備蓄の栄養ドリンクを取り出す。
彼女らしくもなく、礼も言わずにカズイの手からそれをもぎ取り、ファイト一発!
一息で瓶の中身を飲み干した。

軍人とは耐えることと見つけたり。一種の悟りの境地に至ったのか、しばし瞑目すると憤
怒の雰囲気が収まり、微笑を浮かべた。
「ふ……………………ふふふふふ。今更なにを、私は。ふ、ふふ。
ああ、カズイ差し入れすまなかったな。
───ん? どうした皆、顔を背けて」

全職員がナタルと眼を合わそうとしない。
恐い、恐すぎる。感情を仕事に持ち込む人間ではないので直接的な被害はありえないのだ
が、本当に怒っている人間が笑い出すと恐ろしすぎる。

今日の仕事でミスはすまい───。
アイコンタクトを超えた、人間の持つ、なんらかの共感能力によって職員の心は一つにな
った。

馬鹿三人組はそうそうに現場に逃げ、シンもまた倉庫でのMS整備に逃げ出した。
ナタルと共に遺されるは、カズイとフレイ。
ああハウメアよ、彼らに幸あれ。
145 ◆XGuB22wfJM :2007/03/30(金) 22:39:25 ID:???
コズミック・イラ76年現在、電波による長距離通信は死に絶えている状態である。
自然、有線による通信が息を吹き返した。有線ケーブルの繋がった都市間や、レーザー通
信が容易な立地条件ならば、Nジャマー投下以前と遜色ないところまで回復している。
無論、例外もある。旅客機や移動中のトレーラーなどは長距離無線が使えず、事故やトラ
ブルがあった場合、状況を伝える術がない。
道路に公衆電話を設置するなどして対応に当たるぐらいしか改善手段はないが、世界中の
行政府で対応はまちまちである。
その理由はNJキャンセラー。すなわちNジャマーの効果を打ち消す装置のせいだ。
それが改良され、地球全土からNジャマーの効果を取り払ってくれれば、全てが元通りに
なる。そのため公衆電話などの設置を見送る行政も多い。また、現状を維持してこそ利益
の上がる人間も多く、NJキャンセラー反対派もいるそうだ。

ベルリン近辺の幹線道路は、幸いにも数キロごとに公衆電話が完備されており、住民サー
ビスが他の都市より進んでいると評判である。
その道路に設置された公衆電話から、一本の連絡がドミニオンへ入った。

「はい、なんでもやドミニオンです、ご用件をどうぞ」
「もしもし、こちらアクタイオン社の者です。今日の午後2時搬入予定のモビルスーツを
運搬しているのですが、猛吹雪のため遅れることになります。申し訳ありません」

女性の運転手らしい。
ベルリンはまだ晴れているが、確かに今日の昼は吹雪の予報だったとフレイは思い出した。
今の時代、荷物が予定時刻に着くほうが珍しいぐらいだったが、さすがに高いモビルスー
ツのせいか、こまめに情報をくれる。
なお治安の悪化する昨今。貴重な積荷を横領して逃げてしまう輩もいるため、モビルスー
ツのような高価な重機は、直接販売者が運搬することも珍しくない。

「わかりました。お気をつけて」
「では失れ───な! あれは、バクゥ!?
ちょっ、スウェン! アンタ何やって────────────────」
「ちょっと、なにがあったの! もしもし! もしもし」
146 ◆XGuB22wfJM :2007/03/30(金) 22:41:06 ID:???
受話器を捨ててトレーラーに戻ったのか、聞こえるのは吹雪の音だけ。
状況は、おそらく停車中のトレーラーが盗賊に襲われた。
計画的か、たまたま運が悪かったのかは不明だが、モビルスーツというお宝が襲われるの
は無理もない。
敵は陸上モビルスーツのバクゥ。
トレーラーの運転手はモビルスーツ3機を輸送なら、最低三名以上。
盗賊に積荷を奪われた場合の保障などは、と考えつつ倉庫に内線。あいにく昼休みで事務
所はナタルだけだった。ナタルに先に報告する時間も惜しい。まずはモビルスーツの準備、
うまくするとシンが捕ま───った。
「はい、シンですけ」
「現在、スローターダガーを輸送してるトレーラーが襲撃を受けてるわ、すぐに準備し
て!」
「は? へ、………………、フォンドゥヴァオゥ! りょ、了解であります!」

ガツンと受話器を下ろして、次はナタルへ向き直り、内線と同じ言葉を告げようとして、
既にナタルはベルリンの役所に電話している最中であった。
フレイの行動とシンへの電話を聞いて、全てを察知したらしい。
次にフレイは、事務所の第一種戦闘配備のボタンを叩き押した。
携帯電話は無理でも、かつてシン・アスカがおぼれた少女を助けたときのように、合図ぐ
らいは送ることができる。これで他の4人もとんでくるはずだ。

出撃は一刻を争う。オルガ達が戻ってくる前に、一秒でも速く出撃準備を整えなくては。
フレイは立ち上がり倉庫へ猛然と走りながら、髪を輪ゴムで止めた。

続く。
147通常の名無しさんの3倍:2007/03/31(土) 14:17:35 ID:???
ドミニオンキタ!

何気にスタゲ組みも登場ww
148通常の名無しさんの3倍:2007/03/31(土) 16:51:01 ID:???
  >>ザクレロSEED
 大真面目にザクレロを相手にする破目になった種世界の方々がとてつもなく同情を誘います。
マリューさんでもクルーゼが倒せるという事は、ザクレロ量産の暁には……

 >>何でも屋
 盟主の顔の広さと、永遠の中間管理職たるナタル女史の悲哀が面白いです。
スタゲ組の活躍も楽しみに為ております。

 お二方ともGJでした。
149通常の名無しさんの3倍:2007/04/01(日) 23:36:43 ID:???
何でも屋さんGJ!!待ってた!
150通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 03:30:29 ID:???
>>144-146
よく紹介されてたので今さらですが最初から読んできました。
とても面白かったです!続き楽しみに待ってますよ。GJでした!

引越しとか幼稚園児の子守りとか依頼してみたいw
151通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 07:27:53 ID:???
>幼稚園児の子守り


阿鼻叫喚の地獄絵図が読みたいのか?
152通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 08:44:04 ID:???
>>151
通園バスを襲う悪の組織と戦うんじゃないの?
153通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 11:23:52 ID:???
>>151
差別主義者で遠方からの狙撃殺人事件を起こしてる基地外が
バスジャックしてそれをシンがマグナムでぬっ殺すわけか
154通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 13:25:32 ID:???
>>153
それなんてダーティハリー?
155通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 13:50:58 ID:???
ただの子守りからスゴイことになってるなw
156通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 15:20:16 ID:???
>>150
引っ越し……屋根を持ち上げてそとから直接つかみ出す様子が目に浮かんだ。
そして当然家具を握りつぶす三馬鹿……
157 ◆XGuB22wfJM :2007/04/03(火) 20:19:45 ID:???
時刻はお昼。何でも屋ドミニオン社員のオルガ、シャニ、クロト、カズイは昼食のためバ
スに揺られていた。わざわざバスに乗ってまで昼飯を食いに行くなと言われそうだが、彼
らに常識はあんまり通用しない。
晩飯で食べに行けばいいのに、とはカズイの弁だが、ナタルでなければ止められまい。

目的の早くて美味い、少々遠くの中華の店を教えてしまったのはカズイで、それを聞いた
オルガが「じゃあ食いに行くぞ」と道案内にカズイを連れて来たのだ。ついでに、彼らの
せいにすれば昼休みが延びるかな、と小さなズルを考え付いたカズイの思惑も混じってい
る。

しかし彼らの中華の夢も儚く散った。不幸にもバスジャックが起ったのだ。
彼らが不幸なのは当然だが、もっと不幸だったのは犯人だった。

走行中のバス内、鞄を持った何の変哲もない男が運転手の傍まで近づき、おもむろに鞄か
ら銃器を取り出した。
短機関銃を左手に持った犯人は天井に威嚇射撃を行い、バスの空気を凍りつかせた。

空いた手に拳銃を握り締め、運転手を脅しつける。行き先は近場の放送局、加えて目的地
の放送局へ自分の声を放送させるよう連絡しろと命令した。
さらに男は、驚くべきことに警察への無線を止めるどころか、どうぞ通報しろと宣う。ど
うやら我が身を省みず、主張したいことがあるようだ。

まったく時代遅れである。最近の流行は核動力モビルスーツの強奪、隠蔽、敵対勢力への
根回し、民衆の扇動、有無を言わさぬ先制攻撃、論より銃、撃ってから自分の正当性を主
張するのがスタンダードなのだ。
自殺覚悟で、自分の主張を世界に発信して果てるなど、全く持って時代遅れ。
彼はラクス・クラインから何も学んでいないらしい。
小火器で脅しつけても犯罪者だが、フリーダムと陽電子砲で脅しつければ、立派な軍事行
動なのだ。その辺りが判ってない様では、国家転覆への道のりはまだまだ遠い。

カズイはその犯人のあまりの小ささを嘲笑った。ただし座席に顔を伏せたままで。
158 ◆XGuB22wfJM :2007/04/03(火) 20:20:10 ID:???
沈黙と恐怖と緊張に包まれる車内、正義感から行動に移る勇気あるものはいなかった。
いや、いないと思われたが、三人の若者が勇敢にも立ち上がったのだ。
それはカズイの同僚であるオルガ達だった。信じられない! 彼らが横暴な政治犯に、銃
で武装する犯罪者に素手で立ち向かおうとするとは!
カズイはオルガ達の正義の心に感動し、そして自分の弱さを情けなく思った。

オルガは中央の通路を悠然と歩きながら、犯人までの距離を詰めてゆく。クロトは隣の席
の乗客から何かを強奪、もとい譲り受けている。シャニは何故か自身の座席の上に、土足
のまま中腰で待機。まるで引き絞った弓のようだ。ついでにシャニはヘッドホンで音楽を
聴き続けたままだ。

「てめえ、俺の昼飯どうしてくれんだ、アァ!?」

カズイは、中華が食えなかったことへの怒りを爆発させるオルガに力が抜けた。
そうだ、彼らは正義なんてもので行動する訳がないのだ。

「な、何を言っている! 死にたいのか!」
銃を向けて脅す犯人。なんの気負いもなくこちらに歩いてくるオルガに危機感を感じ、つ
いに短機関銃をオルガの腹めがけて発射した。逃げ場など無い絶体絶命の状況下、オルガ
は電光石火の早業で、左右の座席を土台にして天井に飛んだ。

ほんの一瞬、犯人はオルガを捕捉できなくなる。だが一秒とかからず、銃口は滞空中のオ
ルガに向けられるだろう。
その機を逃さず、クロトは隣の子供から奪ったグレートワンダースワンXXXを犯人めが
けて投擲する。きっと自分のを投げて壊したくなかったのだろう。
研ぎ澄まされた一投は、正確に犯人の顔面を直撃した。

犯人が怯んだ絶好の好機。しかしオルガはまだ通路に着地寸前。クロトは今度はゲームソ
フトを奪おうとしている。そんな中、オルガに向けて弾丸が放たれた瞬間から走りこんで
いた影がある、シャニだ!
バスの先頭までを、通路ではなく、座席の背もたれの上を飛ぶように走って移動していた。
いや二人ほど頭を踏みつけられたのがいるようだ。

犯人は豹のごとく迫り来るシャニに狙いを定めたが、その短機関銃はシャニに蹴り飛ばさ
れた。ならば拳銃だと右手を振り上げるが、シャニは素早く犯人の右手首を掴み、ひねり
上げる。そのまま拳銃を撃っても、誰も傷つけることはできない。
シャニと犯人は互いに片腕を封じたまま、狭いバス内で格闘戦に移行した。
159 ◆XGuB22wfJM :2007/04/03(火) 20:23:45 ID:???
技量はシャニが上だったが、拳銃を封じなければならない分、シャニが不利だった。
が、オルガが通路を走り、クロトがシャニと同じ移動方法ですぐにシャニと合流すると、
形勢は逆転。犯人に打つ手はなくなった。

シャニ、オルガ、クロトは三人がかりで犯人をボコボコのサンドバックにした。正義の味
方の所業とは思えぬ、無体な仕打ちだった。
傍目からみると、路地裏で弱いものいじめをしているチンピラにしか見えない。

10分かけて、全身を、急所以外の全ての部分を丁寧にいたぶられた犯人は、もう動くこ
とはなかった。
「けっ」まだ怒り収まらないと、わき腹を蹴り飛ばすオルガ。
「正義!」さっき投げつけたワンダースワンの傷を確認するクロト。
「……………」音楽に没頭するシャニ。

こうしてバスジャックは、ほんの1分の恐怖と、10分間のリンチで幕を閉じた。

幕を閉じる筈だった。

もう犯人は動かないと、全ての人間が思っていた。
しかし、彼の不屈の闘争心は肉体を制御し、腰の後ろのベルトに挟んだもう一丁の拳銃を
抜き、シャニの頭部めがけて発射させていた。

その全霊を篭めた弾丸は、脳天を直撃したと思った弾丸は、シャニが軽く首を曲げるだけ
で躱わされていた。
160 ◆XGuB22wfJM :2007/04/03(火) 20:25:27 ID:???
それは無駄な足掻きだった。シャニに傷をつけることさえできなかった。
だが、その弾丸はシャニを傷つける代わりに、シャニのヘッドホンを壊していた。
その先は悲惨の一語………。

切れたシャニは、犯人からマウントポジションを奪うと、全力で顔面を殴り始めた。殴り
続けた。
「おまえ!おまえ!おまえ!おまえ!おまえぇ〜!」

ゴッ、ガゴッ、グチャ、ベキッ、ゴギ!

「高かったんぞ、これぇ!!!」

正拳、正拳、正拳、拳槌、手刀、喉への貫手、鼻への掌底、拳骨、拳骨、拳骨。

見ているほうが震え上がるほどの狂気で、シャニは犯人を殴って、殴って、殴りまくった。

クロトあたりから言わせると、自分達はこの5年で随分丸くなった。本来の訓練ならば、
犯人はとっくの昔に鼻をちぎられ、耳をちぎられ、目玉を抉り抜かれていただろうと。


最終的に犯人の顔面が、赤い肉塊にしか見えないほど殴り続けたところで、警官隊が到着
した。

オルガ達四人は、過剰防衛の疑いで警察署にしょっ引かれることになった。
カズイはヘリオポリスの惨劇を思い出しながら、自分の運命を呪うのであった。

続く。
161通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 20:50:20 ID:???
 >>何でも屋
 話題に素早く応えた投下乙です。
 カズイの小物っぷりが良い味を出していて、三馬鹿の個性にスパイスを添えていました。
 バスジャック犯よりも三人による被害の方が大きい事は面白かったですが、もう少し表現を変えた方が
笑いを誘えたか、と思います。自分のものを壊したくないけれど遠慮なく他人のものを投げるクロトに笑った。
そして投げられたワ○ダース○ンに黙祷。
 文章はもう少し練る事が出来ると思います。
162通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 21:19:07 ID:???
何でも屋GJ。オチがツボったw
163弐国:2007/04/03(火) 23:29:15 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

プロローグ〜宇宙(そら)に落としたもの〜

 アラスカで大規模な戦闘が起こる、その少し前。
 ナスカ級の展望室で言い合う二人の赤い服を纏った陰。
「なんでアンタが隊長なのよ!シミュレーターの成績だって撃墜数(スコア)だって私が上なのに」
「ボクが決めた訳じゃない、文句は国防委員会にでも言えよ」
 台詞ほどには女性は怒っていないようで、男性の方もさして気にしては居ないようだ。
彼らの隊長が直前の戦闘で死亡した。便宜上隊長が必要なのでザフトレッドの彼に白羽の矢が
立ったのだ。誰でも良かった。とは、だから双方ともわかっての会話だ。
但し隊長の響きは心地良い。アカデミーを出てすぐに隊長になるものは、そうは居ない。
「ブリーフィングルームに戻ろう、まだ待機中だし。隊長命令だぜ?」
 突如鳴り響くサイレン。
『艦隊全艦にコンディションレッド発令。各員戦闘配置、MSパイロットは乗機にて待機せよ』
「譲ってあげたんだから戦争終わったらおいしいものおごってよ?隊長さん」
「隊員がスコアを上げて隊長の株が上がればな!おごるまで死ぬなよ!」

 連合の艦艇が三隻。その真ん中に位置するアガメムノン級のブリッジ。
「司令、大丈夫なのでありましょうか?連携が必要な行動は無理だと財団の担当からも…」
「心配性だな、艦長、胃を患うぞ?そのためにアイヒマンを一緒に出す。それに…」
 オペレーターが何事か言ったのを一瞥し肯定の意志を示すと少し声を潜める。
「あれが落ちようがアズラエルはなにもいわんさ、ここにあるのは機体も何も、全てが試作品だからな」
「その、あの方ににらまれるようなことになっては司令にも…」
「構うことはない。むしろ不完全なものの実戦テストをしてやってるんだ。感謝されこそすれ文句は言わせん。
敵も戦闘から敗走してきた連中だろう?テストと言うなら最高ではないか。ラウ・ル・クルーゼでも居るというなら
話は別だがな」
 そこまで言うと、その将官の階級章を襟に付けた初老の男は通話機をつかむ
「大丈夫だろうな、無理はせんで良いが始まるまではそれなりに制御しろ。
それと始まったら中尉の小隊はあれらとは距離を取れ。あれらが部下だと言うなら、
どのみちまともな指揮など執れるものではない」
「ハッ」

 確かにそのザフトの艦隊は完全ではなかった。
だが5機のMS、それも実際に戦闘を行ったのはたった2機。それだけの陣容とも呼べない体裁の敵に
苦戦どころではない戦いを強いられるザフト艦隊。【G】と呼ばれるその2機は一般的なキルレシオを全く無視して
ザフトのMSと艦艇を火球に変えていった。

 たった30分の後、11機から成るMS隊は中破した1機のみになり、3隻の艦隊もどうにか航行できる状態の
ユーラシア級1隻がかろうじて残るのみ。
「なんで…おごってくれる約束どうすんのよ……。それより、妹どうする気よ。帰るの、待ってるんでしょ……?」
 親友であり、ほのかな憧れであった彼とエースパイロットとしてのプライドの双方を一瞬で失った彼女は
泣くことも出来ずに呆けたようにただMSデッキに蹲るしかなかった。

164弐国:2007/04/03(火) 23:36:18 ID:???
第一話 起動(1/5) 

「ふーん。ウチに来るって事は、要するに左遷されたわけだ」
 白い軍服に身を包む意外に若い女性がブリッジの中、航宙図の脇を流れながら言う。
「間違っても本人に聞こえるトコでは言うなよ?ココに来るのが場違いなくらい優秀なんだ」
 赤服なんだぜ?緑の服の襟飾りに刺繍の着いた男性が露骨に顔をしかめて言う

 白の軍服はモニカ・モンロー。アスラン・ザラ達よりすこし上のアカデミー出身者。ナスカ級1、
ローラシア級2を預かる、艦隊名に自らの名前を頂く隊長である。白い服に恥じないような優秀な
人物ではあるのだが上層部と揉め事ばかり起こし、国防委員の一部からカミソリモンローの
ありがたいあだ名を拝領するに至っている。他に狂犬病のアイドル。笑顔のカミツキガメ。
微笑のハイエナ。彼女を形容する言葉だけは、戦況に係わらず次々に開発されて行く。
 一方緑の服はダン・クルーガー。元機械屋で整備士としてザフトに志願したがMS操縦のセンス
を買われてパイロットに転向。撃墜数23を誇るエースでMS隊8機の隊長、ではあるのだがやはり
と言うかココまで上官と揉め事が絶えずにモンロー隊に【左遷】されてきた。
 ダン当人としてはココの居心地は良いものの、カミソリの異名をとる隊長よりは常識もあるつもりだ。
モンロー隊に配属になるのならば、それは左遷以外何者でもないし、赤服ならばエリートだ。
将来の幹部候補だ。そんなことが聞こえればモチベーションにモロに影響が出るだろう。
いずれわかることだが。それに上手くのせれば、もしかしたらもう隊長をしなくて良いかも知れない。
それは助かる。実際問題、きちんと教育を受けた人間が隊長ならば運用も、もっと上手くいくだろう。
上に睨まれている関係上、員数外の最前線部隊がモンロー隊の実情である。

「失礼します!サーシャ・ニコラボロフ、着任の挨拶に参りました。モンロー隊長はどちらに?」
赤い服に輝く黒い髪。切れ長の瞳。吹き溜まりには全く似合わない美少女。敬礼にも一部の隙も
無い。ブリッジの全員、女性クルーまでもが息を飲む。エリートで美形、聞いていた以上だ。
「ご苦労、隊長のモンローです」
何かするのではないかとブリッジ中固唾を呑んで見守る中至極まともに敬礼を返す隊長。
「前任の部隊はほぼ全滅だったそうね?」
 サーシャは二の句が次げない。始まった!隊長より美人だったのがいけないんだ、ちょっと若い
だけで!若いのは彼女のせいじゃないのに。クルーが勝手なことを思っている中。モニカは
一拍置いて続ける。
「その中で生き残った手腕、運。そしてあなたのココまでのデータ。ウチは最前線の火消し役みたい
な部隊よ。無能な人間に用は無いの。あなたの高い能力はきっとウチにこそ必要だわ。
あなたには非常に期待しています。ダン、彼女をまず部屋に案内してあげて。細かい話は後で
時間をとります」
 隊長がまともに挨拶をした!磁気嵐でも来るんじゃないのか…オペレータ二人は慌てて機械を
チェックし始める。他の者もむしろ若干青ざめた顔で通常業務に戻る。

「う〜ん、今度こそはクルーの尊敬を集めると思ったんだけどなぁ」
 無重力にした展望室に浮かぶモニカ。
「ま、普段が普段だからな」
 ジュースを投げるダン。コレはコレで彼女は本気で言ってるのだ。カミソリモンローが偶にこんな
顔をするのを知ってしまったから、突撃命令なんかに従わなくちゃいけない。だからと言って
男女の関係にもならないし、なりたくも無い。サーシャはMS隊隊長を変わってはくれないだろうか。
165弐国:2007/04/03(火) 23:40:37 ID:???
第一話 起動(2/5)

「イシカワ大尉。ストライクダガーだが、ひよっこどもの教育の方はどうか?」
 襟元には将官の階級章。中肉中背でいかにも物腰の柔らかそうな初老の男性が椅子に座った
まま直立不動の士官に問う。  
「はっ。寄せ集めの割には錬度は高く仕上がっていると自負して居ります。」
 メビウスパイロットなら良い方で、元整備兵、元植物学者、元衛生兵。彼が集め、また彼の元に
集められた人間は明らかにパイロット向きでないものも含めて四十数名。かなり難航したが何とか
24人、二個中隊を編成できそうだ。ココまで2ヶ月ならばむしろ行幸だろう。
「そういった時間があるかは別にしてMSパイロットなら最低尉官だ。出来る限り教育を頼むぞ」

 かかとをそろえて敬礼すると、部屋を後にする。入れ違いで敬礼をすると部屋にはいるのは
アイヒマン中尉。この艦隊のMS、ストライクダガー12機は全て教導隊の扱いでイシカワの管理下
にある。だが直接は言われていないが員数外のMSが5機あるのを知っている。アイヒマンの試作型
ダガーとストライクダガーが2機、そしてデータがイシカワの階級では見ることの出来なかった
通称【G兵器】と【生態CPU】が二組。XシリーズのMSの様だが詳細は全く不明。専用になっている
MSデッキから覗き見た限りはかなり見た目が禍々しい。X105の映像は見たことがあるが大違いだ
。そしてその5機についてはウィリアムズ准将直轄であり現場指揮はアイヒマン中尉。
彼はまるで蚊帳の外なのである。
「将軍閣下もヤツも、胡散臭いな…」
 新兵器、MSストライクダガーのパイロット育成と共に艦隊司令ウィリアムズ准将の監視。
司令部付きの参謀から言われたことを思い出す。階級が違いすぎるので本人を直接監視など
勿論出来ない。本人がダメならアイヒマンか。ウマは会いそうに無い男の冷たい視線を思い出す。
 嫌なことは後回しだ。【G兵器】と【生態CPU】から当たってみることにしよう。一応、肩書きは本国
の司令部から出向中の技術将校ではあるのだし、ならば技術に興味を持ってもおかしくは無かろう。

「良い機体だな、コイツは。起動音からして俺のよりいい」
 モンロー隊旗艦、ナスカ級イアハートのMSデッキ。ダークグレイに赤のラインのシグーが調整を
受けている。シグーでパーソナルカラーならば間違いなくエースか隊長機。昨日搬入されたサーシャ
の機体だ。隣の標準色のシグーとはだいぶ違って見える。
「本当は友人の、機体だったんです。一度も使わないで、逝ってしまって…」
それだけ言うと赤い制服を着た少女はうつむく。メカマンたちの避難がましい視線を感じる。
別に苛めているわけではないが、話している相手はたった一日で非公式ファンクラブまで出来た
少女である。みんなよほどあの隊長に辟易していたのかもしれない。見た目だけで言えば
ラクス・クラインとまでは言わないがどちらもアイドル並なのだが。
「仲が良かったのか?」
「同期でした」
 3つ下の妹が優秀でかわいいのが自慢だったあいつ。しかし両親は居ないので自分が面倒を
見ると意気込んでいたあいつ。絶対ザフトには入れないよ、お前みたいに成ったら困る。そういって
笑ったあいつ。その彼はもうこの機体に乗ることは、ない。
「おい!このシグー、操縦系の調整は良いか?…わかったありがとう! …さてサーシャ、気分転換に
俺と模擬戦、やってみようじゃないか。ザフトレッドがどれだけ出来るのか、一度やってみたかった
んだよな。シミュレーターなら操縦系だけあがってれば、他は未調整でも問題ないだろ?」
「…クルーガー隊長、手加減、しませんよ?」
「ダンで良い。悪いがお言葉、そのまま返すぜ。現場の叩き上げをなめるなよ?」
166弐国:2007/04/03(火) 23:43:32 ID:???
第一話 起動(3/5)

 【生体CPU】とはすぐに出会えた。要するに専属パイロット位の意味なのだろう。
目つきの鋭い短い青い上着を着た少年とピンクの上着は普通だがミニスカートにスニーカーの
若干おっとりして見える少女。学徒動員にしか見えないが、表向き連合各国ではそういったカタチ
での動員はして居ない。彼らはいったい?
「おっさん、なんの用だよ?俺たちに構うなって言われてねぇのかよ?」
 言われるも何も公式には存在すら知らされて居ない。
「いきなりケンカッぽいしゃべり方はダメだよ。またケンカになっちゃうよ」
「なったって負けやしねぇよ。こないだみたいに腕の一本も折ってやりゃ良い」
「あぁ、まぁ待ってくれ。自分はMS部隊の統括のようなことをしているイシカワ大尉だ。君たちを
偶に見かけるので挨拶でもと思ってさ。ケンカは得意じゃないし、腕を折るのも勘弁してくれ。
キミらもパイロットなんだろう?自己紹介ぐらいはしてくれよ」
 少年はコンゴウ、少女はサファイアと名乗った。あからさまに偽名、だろうな。と内心ため息を
つく。そのまま居なくなる二人。名前から何かを調べるのは不可能か。司令部が監視しろと言った
ものには彼らも含まれるだろうな。全くエライ人達は俺に何をさせたいのだか…


 負けた。あっさり負けた。ザフトレッドの私が、機械修理工からパイロットになったダンに…
「直撃は意地でもくらわねぇか、さすが赤服だな。スコア3対1は流石に出来すぎだがな」
そういって笑う。ひとしきり笑った後シミュレーターが私に不利になっていた説明をするが
シミュレーション開始の時点からそれには気付いていた。わかっているのにかわせない。わかって
いるのに読みきれない。かわせば有利の展開になった筈。ついに一回も有利にはならなかった。
「何故私の動きが読めたんですか?完全ランダム機動でさえ先を読まれた気がしました」
「教科書どおりのランダム機動ならば、オートはかわせても人間には読まれる。それだけだ」
「ダン、是非教えてください!」

 おぉ、と、どよめいたのがわかる。赤服は初めからそうした目で見られている。けれどどうせ私は
赤服拝領者の中では最下位だったのだ。恥をかいてでも多くを学んだ方が利口だ。
 最もどよめきの半分以上は意味が違うのだが彼女にはわかるわけも無い。
「教えろったってなぁ…まぁなんだ、うちの隊長の言動に多く触れろ。ヒントはそこにある」
 もっともな顔でダンが言うとメカマン達がわっと沸く。馬鹿にされているのだろう。悔しすぎて
涙も出ない。何がザフトレッドか! 下を向いて唇を噛む。といきなり良く通る女性の声が響く。

「ダンは上官不敬罪で1週間営倉入り!笑った連中は全員減俸1/10、2ヶ月!」
 教科書を超えるランダム機動の女王がいつの間にか白い服を来てそこにいた。
「ウチは成果主義だし、隊長は当面ダンのままね。サーシャは用兵なんかのことをダンに教えてやって?
現場指揮官としての心得は無いに等しいから。ダンはサーシャに実戦の機動なんかをお願い。対MSの
実戦はザフト全体でも経験者が少ないものね」
 どうやらシミュレーターの模擬戦は見ていたようだ。サーシャに真顔で向き直る
「片方営倉に入ってても座学は問題ないわよね?」
 微笑む。確かにこの人は読めない。冗談事ではなく、凄い…。
カミソリモンローのあだ名の意味を、完全に誤解しているサーシャである。
167弐国:2007/04/03(火) 23:46:25 ID:???
第一話 起動(4/5)

「…同じ船の中だ。機密と言うほどのことでもない。一応技術将校だし、貴官の仕事を増やさんように
と思っていただけだが、そういうことなら今日中に貴官のコードでアクセスが出来る様にしておこう。
ただ、Xシリーズは特殊すぎて貴官の仕事にはあまり参考にはならんぞ。それと出来ればだが
国元にも当分口外はしないでくれ。軍本部の工廠の他にアズラエル財団が絡んでいる、
【ひも付き】の機体だし、それが此処にあることは国元も知らん話なのでな」
 結局【生体CPU】に関しては直接話をしてみることにした。秘密にしておきたくても、艦内で会う
のだから仕方が無い。案ずるより生むが安し。とりあえずデータベースには入れるようになったし、
専用ハンガーへの出入りも許された。本国へ報告するなと言われてもそもそも報告のしようが無い。
電波を発信すればすぐにバレる。
 【新型G兵器】に【生体CPU】。これらははアズラエル財団のひも付きの技術。…ブルーコスモス
には触りたくないがいずれは突き当たるだろう。そして恐らく准将はブルーコスモス幹部だ。
一つ対応を間違えれば、消されかねない。そして毎度のことだが給料には全く見合わない。


「ウチに偵察任務、ねぇ」
 特務隊からの命令書を見てモニカはあごに細い指を当てる。モンロー隊は宇宙軍でも員数外
であるので所属は国防委員会直属。そうはいかないので特務隊直轄部隊になる。そして命令書の
署名は軍法会議や査問会で自分の命令以外でも毎回弁護に回ってくれている特務隊のガスコイン。
彼とユウキ隊長に対しては、いかなカミソリモンローであってもごねる訳にはいかないのだが、
偵察の上に【強行】が付いていないのが気になる。何を見てこいと言うのか、いつもどおり詳細な
命令の中身など無い。
「ジンの偵察型はすぐ出せる?……そう、だったら12時間以内でお願い。ダンとサーシャをブリッジにあげて」
 目的地までは高速艦ナスカ級のイアハートだけなら2日だがユーラシア級のアムンゼンとカワグチを
置き去りにするわけにはいかないし、作戦開始まではそう時間は無い。
「モンロー隊全艦に通達。メインエンジン始動準備。目標…」
 インターホンが鳴る。
「……え?二人とも何で営倉にいるの?」
168弐国:2007/04/03(火) 23:48:57 ID:???
第一話 起動(5/5)  

「…ストレス、か。そんな繊細なものを実戦投入して大丈夫なのか?」
「先ほども申し上げましたとおり戦闘状態になれば問題は無いのです。まだ途上の技術ですから
問題点はどうしても出てきます。それに閉鎖空間で精神的に問題が出るのはサファイア個別の問題で
全体からすれば些細な不具合にすぎません」
 MS12機を先導する4機のランチの内1機の中。ウマが会いそうに無い人物と並ぶイシカワ。
20名ほど乗れる後ろの席にはコンゴウとサファイアがやや怯えたようすで座る。
「演習の間、散歩するのは良いが戻ってこれるのか?」
「行動は規制しますし、発信機も持たせます。大尉の演習範囲からは5キロ以上はなれます。
決して邪魔になることはありません」
 初期に作られた今は無人のコロニー。太陽電池の動力系はまだ生きているし重力も0,8Gならば
我慢が出来る。何より空気がある。絶好の演習場を見つけたイシカワが、地上の市街地戦を想定
した訓練を行う予定を提出した後、思いがけない人物から同行を申し出る連絡があった。
 サファイア少尉と呼ばれる【生態CPU】が若干閉所恐怖気味であるのでコロニー内部で気晴らし
をさせたい、と申し出をして来たのは今となりでランチを操縦するアイヒマンである
 データを全て参照したことを前提に『仲間』に入れてくれたのかもしれない。
「ストライクダガー、地上の配備は順調に進んでいるようです。大尉の機種変換訓練プログラムが
完成すれば、パイロットの心配も無くなり更に配備は進みましょう」
「噂の大規模侵攻作戦には間にあわなそうだがな」
「パナマをいきなり取られる事も無いでしょう。見た目より地上は苦しいですよ、ザフトは」
「そうだと良いのだがね…」
「申し訳ありません。そんな事は自分より大尉の方がお詳しいですな。間もなくです。一応ヘルメット
を着用してください」

次回予告
偶然は少女を少年に引き合わせる、しかし敵と味方の線引きは彼らの間に
決して越える事の出来ない深く暗い溝を静かに刻んで行く。
第2話『邂逅』
169弐国:2007/04/03(火) 23:51:08 ID:???
今回分お終い。ではまた
170弐国:2007/04/04(水) 00:57:19 ID:???
二つ訂正します
×ユーラシア級
○ローラシア級

アムンゼン は既に本編でガイシュツですのでスコットと言うことで

すいません、直したつもりになっておりました
171通常の名無しさんの3倍:2007/04/04(水) 07:38:55 ID:???
「カワグチ」がいるなら、「フジオカ」も…
172通常の名無しさんの3倍:2007/04/04(水) 16:36:16 ID:???
あるある発掘探検大辞典?
173 ◆XGuB22wfJM :2007/04/04(水) 21:36:49 ID:???
時刻はお昼。シン・アスカは何でも屋ドミニオンの倉庫で、ストライクダガーの膝関節の
消耗部品を交換し終えるところだった。
物言わぬ機械と付き合うまったりとした時間が一息つき、昼飯は何にしようと気を緩めて
いた。

そんな彼に届けられたスクランブルの内線。
気分はアーサー・トライン。無意味にオーバーリアクションしてしまうのも無理はない。
直後に鳴り響く警報。間違いない、本当にトラブルだ。しかも荷物は会社の物になる財産。
しかもしかも、警報より先に倉庫の自分に内線が来るぐらい事態は切迫している。
大急ぎで非常用務のダガーシリーズを戦闘ステータスで起動させ、出撃準備を整えなくて
は。

電話のある机から、自分の乗るダガーLへ全速ダッシュ。寝そべったダガーLに飛び乗り
コクピットへ潜り込む。慣れた手順でいつもの様に起動させようと、習慣どおり本体につ
いている予備バッテリーに真っ先に視線を流して、なんとイエローゾーン! くそ、委託
業者の若いの、バックパックのバッテリー管理はしても、本体の方すっぽかしてやがった。
くそ、あとでクレームだ、畜生!
ともかく電源をON。搭載された量子コンピュータが冬眠から眼を覚ます。速く、もっと
速く。遅い、遅すぎる。DAGGERの表示が浮かび上がる時間さえもどかしい。ナチュ
ラル用はコーディ用より立ち上がりが遅い、そんな気すらしてくる。暇見て計っとくかな。

すっぴんのダガーLを起動させたシンは、いそいそとストライカーパックシステムまでダ
ガーLを走らせ、とりあえずエールを選択する。
敵の情報が未知数の場合、ライフルとサーベル、空中戦闘可能なエールを選ぶのは無難な
選択だ。

エールストライカーが装着されたところで、フレイが大慌てで倉庫に飛び込んできた。わ
き目も振らずにグゥルに乗り、システムを立ち上げ始める。詳しい状況を聞くのは出撃後
でも構わないだろう。
自機の準備が終わったので、オルガのバスターダガーに移り、同じように機体を戦闘ス
テータスで起動させる。
その時ナタルの声が内線ではなく、直接二人の機体の通信装置に届いた。

「シン、フレイ、聞こえているな」
「「はい」」
二人は手を止めず、応える。
「オルガたちは間に合わない。すぐ二人だけで出撃してくれ。
私も後で追いつく。他の傭兵も出撃してくれるが、おまえ達が一番早い。
いいか、勝つ必要は無い。相手を牽制し、退かせればそれでいい。くれぐれも単機で無理
はするな。いいな!」
「「了解」」

バスターダガーの用意が無駄になったシンは電源を落とすと、再び自分のダガーLへ搭乗。
準備の終わったフレイのグゥルに飛び乗り、大空へと飛び出していった。
174 ◆XGuB22wfJM :2007/04/04(水) 21:37:37 ID:???
フレイは目的地の指定を行い、次に飛行ルートを幹線道路に沿うように設定。そして限界
速度になるようフルスロットル。後は量子コンピュータがその設定を維持する。もともと
自動で運用することも可能な機体のため、フレイは目的地まで余裕ができた。そのことを
察してか、シンが今回の事件についてようやく切り出した。

「それで、相手は?」
「バクゥ一機以上、天候は猛吹雪。
最後の言葉が、ちょっとスウェン、アンタ何やって、よ」
「なるほど。それで敵の情報をすぐに教えてくれなかったんですか」
「そうよ、何が出てくるか解らないんだもの、シンの好みに任せるほかないでしょ」
たしかに一秒を争う状況下では彼女の選択は正しい。シンは敵戦力の想像を膨らませなが
ら、憂鬱に呟く。
「バクゥとなると、相手はコーディネイター」
「そうね。………アクタイオンの運転手、多分、投降しても助からないでしょうね。うま
く逃げ切れてるといいんだけど」

二人は経験上、現場の光景を予測できた。MSを積載したトレーラーがバクゥの俊足から
逃げ切れるとは思えない。とっくに運転手は殺され、機体は奪い去られているだろう。
せめて一台、一人でも逃げられれば幸運だろう。

「最後の、何やって、って気になりますね。もしかしてモビルスーツで応戦しようとした
んじゃないでしょうか」
「本気で言ってるの? あれは七つ道具を搭載した民間用のパックしかついてないのよ。
どうやって戦闘するのよ」
「105ダガーの系列なら、オリジナルとは違って腰にサーベルがついてますから、応戦
できますよ」
ただし、サーベルを抜いても敵に接近できなければ意味が無い、ましては吹雪で視界が悪
いとなれば、距離をとりながら熱源反応を狙い撃ちするだけで、スローターダガーは粉砕
されるだろう。無論、シンは口には出さない。おそらくフレイも気づいているだろうが。

「追い詰められたからモビルスーツに乗って戦おう。なんて馬鹿を実行する人なんて、…
…………………一人だけで十分よ。
どうせ、仲間を見捨ててトレーラーを発進させたんでしょ。その内道路を走ってるのを見
つけられるかもしれない。下から目を離さないで」
「了解。………随分勇敢な人いたんですね。後で教えてくださいよ」
「嫌よ!」
「………………」
冷たく拒絶されて、シンはちょっぴり傷ついた。
175 ◆XGuB22wfJM :2007/04/04(水) 21:39:00 ID:???
道路に注視しつつ数分が経過したところで、他のグゥルから通信が入った。倉庫から出撃
した直後のナタルだった。流石は通信装置を大改造したグゥル、この遠距離でも映像が鮮
明に伝わる。
「フレイ、状況は?」
「現在こちらへ逃走するトレーラーに注意しつつ、道路に沿って目的地まで移動中。現場
は猛吹雪、敵はバクゥが最低一機以上。他の状況は不明です」
「分かった。私も目的地を目指す。データを転送してくれ。それとオルガ達がこれない理
由だが」
ナタルの表情が苦渋に満ちたものに変わり、搾り出すように声を吐き出した。
「理由は、理由は……、──場だ」
「すみません、ノイズが入ったみたいで、もう一度お願いします」
「留置場だ!」

気まずい沈黙が三人に襲い掛かる。シンは勇気を振り絞って理由を問うた。
「どうして、どうして、そんなことになっちゃったんです!?」
「どうしても………訊きたいのか?」
「………訊きます」
「昼休みにバスジャックが起こった。その現場に居合わせた彼らは、犯人を半殺し、いや、
殺しかけた。そして過剰防衛の容疑で全員警察に捕まった。以上だ。質問はあるか、シ
ン・アスカ」
「ありません、サー!」
ナタルが哀れすぎて真っ直ぐ顔を見ることができない。どうしてこんなタイミングで揉め
事起こすんだろう。あの先輩方は。

「シン。独りで全部倒す自信、ある?」
フレイの不安げな問いにシンは即答できない。かつてインパルスで30機を相手取ったシ
ンだが、吹雪の中でエールダガーL一機、援護なしで勝てるかと言われれば、勝ってみせ
るとは気休めでも言えなかった。

すると通信を繋いだままのナタルが何かを閃いたらしく、
「シン。試しに名乗りを上げてみてはどうだ。相手が元ザフトなら十分効果が見込めるだ
ろう」
「正気ですか!」
「私も賛成。ダメで元々でしょ、やりなさいよ」
「そ、そんな」
2対1で、民主的にシンの反対意見は却下された。
何でも屋ドミニオンにおいて、女性の意見が通らないことはほとんどない。今回も例に漏
れずシンの抗議は黙殺される。
「わかりましたよ、ええ、やりますよ。でも、逆に侮られる可能性とか、名誉欲しさに攻
撃してくることもあり得るんじゃないんですか?」
「どうせ攻撃してくるなら同じでしょ。気負った敵の陣形が崩れるかもしれないし、勝算
は確実にあがるわ。いい、とちったら怒るわよ」
「……了解」

エールダガーLを乗せたグゥルは、現場に近づくにつれ酷くなってきた吹雪の中を飛び続
ける。
事件の現場で、如何なる光景が彼らを待ち受けるのだろうか。
続く。
176通常の名無しさんの3倍:2007/04/04(水) 21:59:34 ID:???
ワクテカ
177通常の名無しさんの3倍:2007/04/04(水) 22:39:27 ID:???
ちょ、あの小話こっちに繋がってるのかよwwwww
178通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 01:15:51 ID:???
何でも屋さんGJ!
繋がってたのか、小話から繋げたのか分かんないけどおもろい!
179通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 02:46:19 ID:???
>>弐国
 シナリオには文句をつけることが出来ないですし、
台詞回しも自分には改善点が浮かびません。総評は面白いです。GJ

 構成的には何点か問題があります。
 視点移動がやや多すぎて唐突である為に、話を追うのに労力が掛かりました。
特に一レスの中で視点を変えられると読みにくくなります。
 場面転換後に状況を表す一文を入れるか、ザフト連合で纏めてしまう方が良いです。
 例えばプロローグですがザフト→連合→ザフトと視点が切り替わっています。
これを殆どアガメムノン級のブリッジ視点にして、士官の会話→モニターに映るザフト艦隊→
戦闘の推移と繋いで最後にサーシャの独白で閉じれば少しすっきりすると思います。
 もう一つ、2/5の後半です。第三者視点だったのが、いきなりサーシャ視点になっています。
 オリキャラで固めた分自由度は高いですが印象付けるのが難しくなります。
描写は申し分ないですが構成で損をしないように気をつけてください。
 続きは胸躍らせながら待たせてもらいます。

>>何でも屋
 先の展開が楽しみです。関係の無い小話と思わせつつ状況がリンクしているのが上手い。
 空白行を入れるのに合わせて行頭の一字下げも導入した方が読みやすいと思います。
 もう一つ、四十行で改行させておられるみたいですが、三十五〜四十五位の間で柔軟に
改行した方が良いかと思われます。単語が切れたり、行頭に二、三文字だけ来たりしています。

 お二方とも投下乙でした。続きを楽しみにのんびり待っております。
180通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 13:28:31 ID:???
181通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 14:12:02 ID:???
>>180
素直に読み辛いですな
182181:2007/04/05(木) 14:14:47 ID:???
つうかただのマルチか。ちっ、レスつけちまったぜ
183180:2007/04/05(木) 14:29:29 ID:???
読んでくれたお前d。読みずらいのは改行の問題ダバ
展開を見守りくだせぇ
184弐国:2007/04/05(木) 23:09:13 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

第二話 邂逅 (1/6)

「イワノフ准尉、おめでとう、戦死で二階級特進だ! 副賞として腕立て500回追加! 
元飛行機乗りが聞いて呆れる! おい、ゲインズ准尉周りを良く見ろ! 上手いフリして一人で
的になりたいか! 回りをうまく使え! フルブリッジ准尉! 余裕が有るならカバーに回れ! 
既に部下が二人死んだぞ!? 一人分腹筋100回だ!・・・」
 12名の准尉殿に檄を飛ばす軍曹の声を聞きながらイシカワは隣の男を見る。目が合う。
「生体CPUな、一緒に行かなくて良かったのか?彼らは中尉の言うことだけは聞く様だが」
「自分が一緒では気晴らしにはならんかと思います。嫌われていますからな。言うことを聞くように
仕込んであるだけです。今後はもう少し改良されると聞いておりますが、最初期型ですから…
しかし、失礼ながら酷いものでありますな。落とされるために訓練をさせているわけではないので
ありましょう?」
 話をそらしたか。しかし嫌味な方向に振ったもんだ。
「このグループは元MAパイロットが一人も居ない。むしろ褒めて欲しいもんだな」
「全滅だ! 全員降機の後、腕立て200回。Cグループの准尉殿は全員大至急乗機準備!」
 まぁ、プログラムの組みなおしは必要かも知れんな。軍曹の声にため息を吐く。


「反応あり! MSのようなモノ…11〜12!?本当に?」
「特務隊の情報は当たり、か。あまり広域索敵は控えろよ? 逆に補足される。こっちは1機だ」
 ジン強行偵察型のコクピットにはサーシャとダン。プラント型とは形の違う丸い筒のようなコロニー
がメインモニターに写っている。
「宇宙(そら)で大規模演習とはやってくれるな…で、さっきの反応は中からか?」
「反応が中なのは間違いないです。私たちはどうすれば良いんですか?詳細命令が無いですが」
「臨機応変だ。俺たちは反対から入る。写真の一枚も撮らんで帰れば、今度こそ隊長サマに営倉にぶちこまれる」
「母艦は向こう側のドッキングベイ手前、距離約30で停泊中。熱紋からドレイク級が2。
MAと思われる機影3機分。直縁の位置からは動く気配無し。手前には各センサー反応ありません」
「中に入らねぇのは入り口を警戒してんのか…ますます見ていかなくちゃな」
「ジンは目立ちます、内部で車両が調達できるでしょうか」
「出来なきゃ2本の足で走るしかないだろ。たかだか50キロだ。ジンは入り口付近に係留して人間
だけがメンテハッチから入る。ん? …ハハ、大丈夫だ、カムフラージュシートだけで目視では意外
とわからなくなるもんだぜ? それよりコロニー本体のネットワークにハッキングかけろ、ハッチ
開放データの上位伝送を阻止しとけよ? コイツを取られちゃここで一生オレと暮らさにゃならんぞ?」
185弐国:2007/04/05(木) 23:11:39 ID:???
第二話 邂逅(2/6)

 壊れたビル、誰も居ない家並み、雑草と背の低い潅木に埋め尽くされた公園。その公園の中に
湖があった。人の気配はまるで無いが、むしろ俺たちには心地良い。と少年は思う。誰も住んで
居ない理由は知らないが野良猫を一匹見かけたし、湖にはサカナの影もある。死の世界と言う
わけではない。その湖に足を浸してサファイアは幾分気がまぎれたようだ。空こそ無いが上を
見なければ済む話だ。
 彼には物心付いた時、5人の兄弟が居た。本当の兄弟かはわからないが畑から野菜を盗み、
鳥や魚を捕まえて子供だけで暮らしていた。あの日までは。
 『食べる物には絶対に不自由は無い』そう言った男の言葉に嘘は無かった。その引き換えに
薬を飲まされ訳のわからない手術をされ、ケンカのやり方を教えられ、あの機械に乗せられる。
5人の兄弟たちはいつしか自分とサファイアの二人だけになって居た。悲しいはずなのに、
大変なことのはずなのに、既に少年はあまりそれを感じることが出来なくなって居た。ただ
サファイアだけは守らなくてはいけない、とは思う。コイツは一人では何も出来ない。引っ込み思案
なコイツは『あいつら』に文句を言うことさえ出来ないのだ。
 人は居るかも知れないがいつもの方がよほど死の世界だ。


 ダンとドッキングベイの制御室で別れてから約一時間。
赤いパイロットスーツが市街地をやや早歩きで歩く。壊れた窓、色を失った壁、雑草だらけの庭。
雲が浮かんでいる以上雨も降るのかもしれない。雑草達が繁茂しているのを見てそう思う。
市街地の形はしていてもぬくもりや優しさは感じない。作り物の街だ。人間も街の景色の一部
なんだ…。人の姿が見えない事が違和感の原因である事に気付くとつい呟く。
 あまり目立つのも好ましくないが、MSが演習をしている廃棄コロニーである。いきなり減圧する
可能性が捨てきれない以上パイロットスーツは脱げない。そして彼女のそれはエリートの証の赤で
染め抜かれている。色を失った無人の街にあって、ますます目立つことこの上ないが仕方が無い。
 ダンとの合流時間は4時間後。反対の港の付近に音響センサーが反応している以上、最大望遠
でもかなり移動しなければ資料になるような映像は撮れない。車両は有ったが砂埃を巻き上げれば
目立つのでやはり使えず、ダンの言うとおり「2本の足で」と成ってしまった
 一瞬、薮の中にきらめきが見えた。道に落ちた看板には【市民公園】の文字。持ってはいるが
サイレンサーがついてないので拳銃は使えない。彼女は腰のサバイバルナイフを確認すると身を
低くして光った方向へ近づく。
186弐国:2007/04/05(木) 23:14:08 ID:???
第二話 邂逅(3/6)

 ザフト特務隊のオフィス。ガスコインはため息を吐く。
 モンロー隊は吹き溜まりだ掃き溜めだと好き勝手言われてはいるが能力は高い。撃墜数だけに
限って言えばかのクルーゼ隊にも引けは取らない。だが今回のような微妙な任務はどうだろう。
既に地球では一部配備の始まった噂がある連合の量産型MSのデータ。モニカ以外では配置が
遠すぎる。任務的に隊長の性格には会わないが、ダンがうまくまとめてくれれば問題はないか…。
腕組みをして考えに沈んでいると、彼の背後に立つ痩せぎすのザフトの黒い制服。
「カナーバ議員から非公式ではありますが先日の件に対しての抗議文書と資料です」
「フリードリッヒか、毎度ご苦労な事だが直接ユウキ隊長に回してくれ。政治は俺の範疇ではない」
「酷い言われようですね。私もザフトの一員のつもりですが?」
「クライン派のメッセンジャーをやめたらそう思ってやるよ」
 対ナチュラル強硬派のパトリック・ザラに召喚されて以来、ガスコインは胃の痛い日々を送っていた。
むしろフリードリッヒと入れ替わりたいくらいだ。顔色ひとつ変えないユウキ隊長はやはり特務隊の長に
ふさわしい人物なのだろう。オレには無理だ。と、またため息を吐く。
「ところでこの間の彼女はやはり…」
「ん? あぁ、モンロー隊長に預けた。可哀想だがあの状況下で当人のみ生き残ればな」
「左遷、と?」
「ザフトレッドは能力が高い。最前線に送り込むならば左遷ではなく人的リソースの有効活用だ」

 データを解析すれば左遷する必要は無いことはわかる。だが報告書は枝葉を求めずに結論だけ
を欲する。俺の報告書の結論は最前線送り。だからあえてモニカの元に送ることにしたのだ。
モンロー隊も最前線部隊ではあるが無茶ばかりするようなイメージとは裏腹に、実は隊員の生存率
に対しては神経質だ。さらにモニカの隊長としての能力の高さもあいまって、他の部隊よりは幾分
生き残る可能性は高いだろうと言う腹である。少なくとも彼女は部下を駒の様に扱う事はしない。
 更に言えばモニカの場合、余計な事さえ言わなければ本国の防衛部隊に居てもおかしくないし
俺の部下である必要など無い。国防委員の一人とケンカになって潰れたが、過去には特務隊入り
の噂もあった。それほどまでに『言動以外』の評価は高いのだ。彼女の白い服は伊達ではない。
だからこそ、そのギャップの分『毎回』俺の胃にも負担がかかるのだが。
 最高評議会の一部の人間が言うように能力の高いものが残らねば戦後が不安だ。
今後100年、戦争を続けるわけでもあるまい。ただ単に彼女、サーシャ・ニコラボロフのおかれた
立場を可哀想に思った。と言うのがモニカに預けた一番の理由ではあるが。

「それに【カミソリモンロー】は問題のある言動に対してだけのあだ名ではないぞ?」
「興味本位でお聞きしたまでですから。では、コレはユウキ隊長に直接お渡ししてよいのですな?」
「あぁ、好きにしてくれ…」
187弐国:2007/04/05(木) 23:16:27 ID:???
第二話 邂逅(4/6)

 いきなり首筋に何かを突きつけられた。やはり、赤い服は返上した方が良いのかもしれない。
ヘルメットを脱いで居たので直接喉に触る感触。ヘコんでいる余裕はあるの、サーシャ?
「お前は誰だ!」
 押し殺した声は、若い。同年輩か?視線を下に落とすと青い袖からでた右手が枝のようなものを
掴んでいるらしいのがわかる。ここは完全に無人と聞いたし、連合ならば枝など使わないだろう。
「私はサーシャよ。どうして私を殺そうとしているのか、わけを教えてくれない?」
「殺そうとは…して、ない。お前一人か? 何しに来た?」
「一人よ。散歩しに来たって言ったら信じてくれる?」

「なんなんだよ! お前…!」
 一瞬枝に力がこもるがすぐに体が自由になる。隊長風に受け答えて見たのが意外に効いた。
あの人からは、やはりたくさん学ばねばならない。ここは隊長のキャラのまま押し通してみよう。
 いくらか余裕が出たので襲撃者を眺めてみる。連合の制服を若干だらしなく来た私と同じくらい
の男の子。意外とかっこいい部類にはいるか。但し、目に隙が無い。見つめているとこちらの思考
を読まれてしまいそうだ。相手に思考の隙を与えない。これもモンロー流だ、ならば。と喋りだす。
「あんたは何してたの?ココまで歩いて見たけど、薮の中は散歩には向かないよ?」
「散歩じゃない、い、妹が調子が悪いので、気分転換だ」

 彼の背中越しに水に足をつけてぼんやりときらめく湖を眺める少女。光って見えたのはどうやら
湖であったらしい。それはともかく、彼女も連合の制服。どういうことなのだろう。しかもこんな廃棄
コロニーに気分転換も無い話だ。例のMSに関係は有りそうだけど、どう繋がるのかは私には現状
さっぱりわからない。
「確かに静かで良いよね、ココは。何処からどうやってきたの?」
「演習の連中のランチに乗ってきた。船の名前なんか知らない。お前は?」
 やはり連合だ。そして勿論かえしはそう来るだろう。誤魔化しきれるか?
「女の子は秘密がある方が素敵じゃない?」
「ザフトのパイロットスーツだろ?ソレ。それくらいは知ってるぞ、MSで来たのか?」
「意外と物知りね。そ、MSに乗ってきたのよ?」
 どうやら多少ヌケてる部分はあるものの、馬鹿ではないらしい。ちょっとヤバイ。身体能力だけに
限って言えば向こうの方が上だ。
「俺たちは後6時間したら帰るから、お前はそれより前か後に出ろ。あいつらは確かに下手糞
だけど、あれだけ数がいるとまぐれで当たる時がある。ランダムは避け辛い」
「あれだけってそんなに居るの?」
「俺のこと馬鹿だと思ってるだろう? 教えたら数を揃えて襲ってくるだろ、いくらなんでも」
「馬鹿だなんて思ってないし襲うつもりも無いんだけどな。けど、迷惑そうだからもう帰るね。
その前に名前教えてよ。あんたと、妹も」
 軍人、軍属…どうだろう。そんな風にはまるで見えない。彼らはいったい何者なのだろうか。
「俺がコンゴウ、あっちがサファイアだ。おまえはMS何に乗ってるんだ?」
「……え? えっと、ジンハイマニューバの真っ赤に黒ラインのヤツ」
 嘘をつく以前の話だった。会話で惑わすどころかむしろ相手のペースに乗せられた私は
ついエースの経歴と共にスクラップになった機体を口にする。
「なるべく狙わないようにする。サファイアにも言っておく。じゃぁな」
188弐国:2007/04/05(木) 23:19:17 ID:???
第二話 邂逅(5/6)

「軍曹、もう一回確認するが使える連中はBグループは5人と見て良いんだな?」
『はっ大尉殿。付け加えれば追加で2人であります。ギリギリではありますが』
 帰りのランチの中。眠るサファイアの隣、一人もの思いにふけるコンゴウ。サーシャと名乗った
少女の言葉が蘇る。
『一人よ。散歩しに来たって言ったら信じてくれる?』
 ザフトの連中は散歩にもMSが使えるのだろうか。必ずアイヒマンが隣についた上でなければ
俺たちは発進できないし、例の薬を飲まなければコクピットに入っても頭が割れてしまうだろう。
そして自分は何故こんなくだらない事を考えているのだろう。
 どうして彼女の声が気になるのか。どうして彼女の顔が浮かんでくるのか。自分の感情が彼には
まるで理解できない。ただ赤のジンハイマニューバは出来る限り落とさないようにしよう、と思う。
サファイアにも言っておかなければ。隣で眠るサファイアに目をやる。
「どうした、何かあったのか?」
 イシカワとか言うオッサンがを気にしている様子なのを見て、担当がアイヒマンでなくてコイツ
だったら楽だったのだろうか、ふと思う。ただコイツはMSに乗れない。担当には成れない。


「ストライク! …では無いようですね。ただ12機ともなると運用試験と見て良いのでしょうか」
「もうちょいデカく…最大か? 量産機の実戦配備前の最終調整、う〜ん、多分そうだろうな」
 6時間後。と言うコンゴウの言葉をたよりにデブリの影に隠れていた複座のジン強行偵察型。
「ビームライフルじゃないですか?携行してるのは。映像、10秒後にアウトです」
「そんなものを量産されたのではたまらんな…さっき遠くから見た限り動きは鈍かったが」
 完全にMSが点になったのを確認するとジンはブースターは吹かさずにデブリから離れる。
「大手柄だぜお嬢さんよ。よくわかったな、連中の予定なんか」
「大声で早く帰りたいとか下手糞とか言ってましたから…」

 当然コンゴウの事はダンには言って居ない。やはりパイロットなのだろうか。演習の連中を
下手糞だと言って居たがそもそも連合のMS自体『脚付き』の『ストライク』以外殆ど目撃例さえない。
今操縦しているダンは2機撃墜のスコア持ちだが、対峙したのは映像に移ったタイプとほぼ同じ、
機動もウスノロだと言っていた。
『なるべく狙わないようにする』
 と言い切った不遜な態度。メビウスは考え辛いが、ならばメビウス・ゼロ?
不意に青と緑の2機のMSが脳裏をよぎる。大きな鎌と巨大な砲塔で次々味方を火の玉に変えて
行くツインアイの禍々しい2機のGタイプMS。
「後で交代する。先に眠ってて良いぞ?」
 そこまで出来すぎた話もあるまい。MSはナチュラルの少年に動かせるような代物ではないし、
彼の鋭い瞳はむしろそれ故、戦争も人殺しも似合わない。
「ありがとうございます、そうさせてもらいます」
 コンゴウ、か。どこかでまた合えるだろうか。その時は戦争が終わっていれば良いのだが。
昔読んだ小説の筋書きのようにカフェで羽交い絞めにした代償を要求する自分と頭をかくコンゴウ
の図が浮かぶ。私は馬鹿じゃなかろうか…。頭を軽く左右に振って楽しげな幻を振り払う。
それに男の子の事を気にするような余裕は現状私には無いじゃないか。そこまで思うと急速に眠気
が思考に霞をかける。けれどいつかカフェで会えると言うなら、それはそれで、悪く、ない……。
189弐国:2007/04/05(木) 23:21:47 ID:???
第二話 邂逅(6/6)

「褒められちゃった…」イアハートの艦長席、背もたれに斜めに座りながら嬉しく無さそうなモニカ。
「おいおい、せっかくお嬢さんが頑張ってきたのにそりゃないだろう…」
「ガスコイン氏が喜ぶとね、大概次はもっと酷いトコに行けって事になるのよ…」
 言いながらため息を吐く。これだけ戦績が上がるのだからとそれを言い訳に更に最前線へ送り
込まれるのだ。ダンは、ガスコインが押さえきれないのだすまない、とモニカに話しているのを
聞いたことがあった。モニカを本気で亡き者にしたい勢力がいるのだけは確かだ。ザフト上層部に
国防委員、政治家。ケンカの相手を選ぶようなことはこの人物はしない。だから敵を増やすなと…
ダンが呟くのは聞かないフリをする。クルーゼを見ろ! 似たような立場ではあるが殆ど議長直轄だぞ?
「次の命令は拝領されたのですか?」
 赤い制服を隙なく着込んだ少女が生真面目な顔で問う。
モニカはすぅっと艦長席を離れるとそのまま全天座標図の前に流れて行く。
「近々、地上で大規模な反抗作戦があると言うのは知ってると思う。我が隊はそれに対する先鋒
として降下開始予定地点の連合の部隊の排除、使用機材の護衛が任務になる。作戦詳細
については現在…」

「上は完全に頭に血が上ってるわね、あれは。だいたい命令書の発行者がユウキ隊長だもの。
砂漠の虎まで落とされて、更にアラスカも実質ハズレ。では士気にも係わるでしょうしねぇ。
宇宙(そら)が薄くなるとウチは困るんだけど」
「バルトフェルド隊長が足付きにやられた話、本当だったのですか?」
「足付きの件は一応調べたわ、本当みたいね。クルーゼ隊長は振り切られ、砂漠の虎はやられて
どうやらモラシム隊長も。そして足付きはあっさりオーブ沖で行方不明。名のある皆様方がさ、
どうなってんのかしらねぇ、たかが巡洋艦1隻。だけどアラスカで巻き込まれちゃったんじゃない?」
「バルトフェルド隊長が…」一時期、彼の元に配属されるのが夢であったサーシャである。
そしてその情報は何処からか既にモニカにもたらされている。
「あたしが隊長では不満だと、そう言う訳だ。キミは?」
「機体の整備がありますので、これで失礼しますっ!」
 サーシャは、すっと表情を無くすと完璧な美しい敬礼を隊長に送りエレベーターへ流れて行く。
「すっかりウチに馴染んだ感じねぇ」
「あんまり馴染むのはどうなんだろうか、彼女の場合はいろんな意味で素直にもったいない…。」


「赤いジンのハイマニューバ?」
「あぁそうだ。友達が乗ってるかもしれないんだ」
「だれ?」
「お前は知らないやつだ。けど良いやつなんだ」
 良いやつ、なのかどうかは本当のところは良く知らない。羽交締めにして5分ちょっと話をしただけだ。
ただ始めて思った。コイツは良いやつだと。だからきっと、良いやつだと思う。サーシャ、か。

次回予告
モンロー隊に迫る2機のG。ただ力を見せ付けるためにそれは迫る。
当人の望まぬ力を少女に見せつけるたび、また大切なものが一つ、壊れていく。
第3話『衝撃』
190弐国:2007/04/05(木) 23:25:05 ID:???
>>171-172
分かってくれる人が居て嬉しいですw

>>179
視点移動はある程度わざとやってますが前回ちょっとやりすぎた気はします。
今後無意味に唐突な視点変更にならない様に気をつけます
人称の間違いは言われるまで気付きませんでした。反省

>>まとめの中の人
誤表記訂正までさせてしまってすいません

ではまた
191通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 23:25:38 ID:???
カミソリ隊長…
某二課か
192通常の名無しさんの3倍:2007/04/07(土) 21:22:56 ID:FTPPF8hN
保守
193通常の名無しさんの3倍:2007/04/07(土) 22:37:30 ID:???
誰かこのスレの事雑誌とか言ってたなw
さて、今週号の職人氏にGJ!しつつ来週号に期待。
194機動戦史ガンダムSEED 21話 1/5:2007/04/08(日) 00:06:51 ID:???

 教育というものは、才能を発掘し個性を伸ばす事業だが、
もともと存在しないものは、発掘することも伸ばすこともできない。

 ことに軍事的才能という奴は、芸術的創造力以上に、素質が常に努力を凌駕する。
そう、ある意味で最も非道徳的分野に属しているのだ。

 生憎なことにその素質がサイ・アーガイルには存在し、キラ・ヤマトには存在しなかったというのは、
別の意味で、歴史的観点から見ても皮肉なものであった。

 ”モビルスーツを扱えないサイ・アーガイルと天才的に扱えるキラ・ヤマト”

 コズミック・イラと呼ばれた時代の70年代の一時期にモビルスーツと呼ばれる非効率的な、
人型機動兵器が優位性を確立した時、フリーダムと呼ばれたネーミングセンスがゼロのモビルスーツが、
持て囃されキラ・ヤマトは時代の寵児となっていた。
彼とラクス・クラインこそが、新たな時代の旗手と謳われ、錯覚された時期が確かに存在したのだ。
それは、1機や2機のモビルスーツが戦局自体を変えるという、現実では有り得ない、云わば童話じみた事がまかり通ったからだ。

 だが、そのような歪んだ観念が長い間まかり通るはずがなく、NJCの技術進歩とハード面での
機動兵器の進歩は、童話じみた時代を終結させた。

 残ったのは現実という、ごく当たり前の常識が残っただけだった。
 
 童話じみた時代は終結し、軍事的常識が再び戻ってきた。
伝説に彩られた英雄達のメッキは剥がされ、荒廃した地球圏から宇宙へと逃げ散っていった。

 結局のところ、地球圏に一時的な平穏が戻ったのは10年近くの年月が掛かり、
地球連合の大国と呼ばれた、強国連合による圧倒的な軍事力によってのみであったからだ。
195機動戦史ガンダムSEED 21話 2/5:2007/04/08(日) 00:11:58 ID:???
 
 ――話を戻そう。

 この時代について、よく歴史学者に比較されるカガリ・ユラ・アスハ達とラクス・クライン達の違いは何か?と問われると、
一方はごく普通のナチュラルであり、他方は、莫大な資金と技術を投入され創造された
コーディネイターという存在だと指摘することであろう。

 特にキラ・ヤマトは人工子宮によって、調整通りに完成されたスーパーコーディネイターと言う存在であったからだ。
そして、サイ・アーガイルは、ごく普通のただのナチュラルであった。

 ――サイ・アーガイルとキラ・ヤマト。

 歴史的に見てどちらが勝利者か?と問いかけると大抵の人間が、
サイ・アーガイルの名を挙げるのは皮肉なことである。

 彼らは一時期とは言え同じ陣営に属し、片方はスーパーエースとして持て囃され、
そして他方では、唯の目立たぬオペレーターとしてしか存在しなかった。

 しかし時代がやや下ると、その目立たぬ存在は、オーブという強国にとって無くてはならない存在になり、
国の運営をその双肩に担う事となったのだ。これもある意味、皮肉な事であろう。

 その魔術じみた時代というものによって、国家は、一介オペレーターの底に秘められ存在するその『才能』というものを
喉から手が出るほどに渇望したのだった。

 それは、動乱の時代に国家が求め、必要とされるのは、冷徹な強権を自在扱える『非常の才』だったからである。

 そして動乱の時代を纏め上げ、新たな国家建設の事業が軌道に乗り始めると、国家はその『非常の才』は必要としなくなった。
それを彼はごく普通に承知しており、自らの役目が終わった事を自覚していた。

 彼は身を引き、時代の表舞台から立ち去る事となったのだ。

 だが、過去の栄光にしがみ付き、認めない輩の多いこと。
地球圏から宇宙へと逃亡した連中の中にこそ、それは巣くっていたのだった。
196機動戦史ガンダムSEED 21話 3/5:2007/04/08(日) 00:19:50 ID:???
 
 ――そう、歴史的に自分が時代の中の役目を終えたと自覚する人間は、多くない。

 その最たるがラクス・クライン達であろう。

 彼女らは本来、最大の激戦地であり、最後の決戦の地となった宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの名を取って、
こう呼ばれたヤキン・ドゥーエ戦役 (C.E.70-72)よって時代の役目を終えたはずであったが、
続けて、メサイア戦役へと無理に首を突っ込む事になるのだ。相手が自らの価値観と違うというだけの事で。

 ……発端ととなったラクス・クラインの暗殺未遂事件があった言われるが、真相は不明である。

 事の真相は兎も角として、彼らは犯人をギルバート・デュランダル前プラント議長と決め付けていた。
誰が書いたか判らない、走り書きのようなノート一冊で全てを決め付けるような輩の連中である。
彼らがそう信じていたのは、事実であろう。

 ――そして丁度、その頃に歴史を歪める不可思議な力が働いていたのだろうか?

 C.E.73年、ギルバート・デュランダル前プラント議長が提案した”運命計画”と
プラント防衛の為に行われたレクイエムによるアルザッヘル基地攻撃を大義名分の隠れ蓑にしてラクス・クライン率いる『クライン派』の
密かな暗躍のもと、オーブ、スカンジナビア王国は、その頃、全力を挙げて『ロゴス』と呼ばれた古来の
兵器開発関連の企業体を中心とした組織とブルーコスモスの狂信者の頭目であるロード・ジブリールを倒して、
戦線が膠着し、疲弊したプラントへ宣戦を布告したのだ。

 当時のプラントの市民や動乱の収まりつつある世界の人々にとっては、寝耳に水の事であろう。
ラクス・クラインが大義名分として掲げたことは、完全な言い掛かりで有り、何ら正当性も持たない根拠の無い推論でしかないからだ。

 レクイエムによるアルザッヘル基地攻撃も、疲弊したプラントの国力と戦力の維持の為に国家として体面を保つ為にも、当たり前の事である。

 そして、最も宣戦の理由としての難癖に呆れた事は、”運命計画”に対するラクス側の評価である。
しかも彼女達は、それに代える代案もないまま、自分達を価値観が違うというだけで、世界を死に追いやる計画であるという極端な評価で決め付けていたのだ。

 何故なら、動乱が終了した世界に対して、ギルバート・デュランダル前プラント議長が提案した”運命計画”とは、ただ世界の人々に対して、
新たな人類の進む道の一環としての提案であり、何ら強制力が伴わないプランの一つに過ぎなかったからだ。
197機動戦史ガンダムSEED 21話 4/5:2007/04/08(日) 00:24:47 ID:???

 そうして、オーブ艦隊及びザフトクライン派は、世界安全保障条約に標榜する形で、宣戦布告前から
スカンジナビア王国を初めとした地球連合艦隊が合流し、レクイエムの中継ステーション「ステーション・ワン」、
レクイエム及び機動要塞メサイアに侵攻し激しい戦い繰り広げられたのだった。

 激しい戦闘の結果、レクイエム及びメサイアは陥落し多くの乗員諸共に完全破壊され、ラクス・クラインによってデュランダルが殺された為、
ザフトが停戦勧告を受諾したことよって戦闘は終了した。

 コズミック・イラ74年にオーブ連合首長国とプラントは、ある意味一方的な停戦協定を締結する。

 プラント最高評議会は、クライン派と呼ばれるテロリストの裏の政治工作によって
戦後の再編の為ラクス・クラインをプラント評議会へ招聘したと言う形を取ることになる。

 彼らにとって、やっと自分達の思い描いていた『理想』とやらを実現できると胸をなで下ろしていたことであろう。

 ――だが、歴史を無理に歪めた力も、ここまでだったようだ。

 戦後、ラクス・クライン率いるクライン派は、独善的な自分達の価値観を『世界』に対してに振りかざし始めた。

 正義や自由や平等といった、現実を伴わない絵空事によって、首脳陣が壊滅した大西洋連邦。
そしてユーラシア諸国による連合の仮政府によって運営され始めた地球連合強国は、
ラクス・クラインに対して反抗戦力を結成し対抗してゆく事になってゆく。

 そして、クライン派もそれらに対する抵抗勢力との戦いによって、泥沼の消耗戦を開始する事となった。
その結果、クライン派の旗艦たる宇宙戦艦エターナルは、地球周回軌道上での混然とした攻防戦で撃沈。

 そして、地上での戦いでモビルスーツ戦闘では、無類の強さを誇ったストライクフリーダムや∞ジャスティスも
旧ユーゴスラビアの現地人によるゲリラ戦によって撃破される始末だった。

198機動戦史ガンダムSEED 21話 5/5:2007/04/08(日) 00:27:42 ID:???

 そして、地球圏では徐々にラクス・クラインに対する反抗勢力が形を作り、勢力を拡大してゆく中で
大西洋連邦とユーラシアの科学技術陣によってニュートロンジャーマーキャンセラーの新たな開発が成功する。

 事実上、無制限の可動時間を持った核動力エンジンを搭載された通常機動兵器が登場する事になったのだ。
……そう、画してモビルスーツと呼ばれた時代の仇花とも言える、非現実的な機動兵器の退場の時間がやって来たのだ。
そして、キラ・ヤマトが時代に必要とされない時期が来たのだ。時代の寵児と言うステージを降りねばならない時が。

 それと同時期に、モビルスーツが扱えないサイ・アーガイルが指揮官として戦場に立つことになったのは、
歴史的に見て皮肉と言うべきか、それとも興味深い事なのだろうか?
この激動の戦術の転換期に於いて順応し、新たな戦術を確立し柔軟に飲み込んだ点でサイ・アーガイルの軍事的センスの天才性は、疑う術はあるまい。
彼の天才的政略と戦略手腕によって小国のオーブは大国として新たに生まれ変わっていったのだから。
そして、この時代に必要とされたサイ・アーガイルが幸福か不幸は、本人以外の誰にも判らないであろう。

 サイ・アーガイルとキラ・ヤマトはこの全てが転換する時代の激動の中で、明暗と表裏を代表する存在となってしまったのだ。

 ――だがそれは、所と時代が変わっても人類にとっては、なんら変化のない営みに一貫であったに過ぎない。
童話は終わり、そして歴史が再び始めり、時はごく普通に流れるだけであるのだから。




 ――某学生による世界概論史レポートから。
C・E102年度発行 『童話の終わりと歴史の始まり』を参考、一部抜粋。 


>>続く
199通常の名無しさんの3倍:2007/04/08(日) 07:02:25 ID:???
GJですた。
モビルスーツがゲリラの生身の工作で壊されるというのは現実的で好き。
ターンAの世界や、初代ガンダムのジャブロー潜入ジム工場爆破工作を思い出します。

>事実上、無制限の可動時間を持った核動力エンジンを搭載された通常機動兵器
これは新型NJCでなくても、旧来のNJCで十分ではないだろうか。
電波誘導が可能になったのならばものすごいことだが(何故かミーティアミサイルは
誘導してるが)なんというかUCガンダムほとんど全否定? いや嫌いじゃないけど。
200通常の名無しさんの3倍:2007/04/08(日) 08:02:55 ID:???
MSもパイロットが居なきゃただの箱だからね
201 ◆XGuB22wfJM :2007/04/08(日) 09:53:39 ID:???
「「…………………」」

何でも屋ドミニオンに所属するシンとフレイは、盗賊に襲われたアクタイオン社の運転手を
救助すべく、道路沿いにグゥルで移動していたが、MSを載せたトレーラーが一台も走って
来ない現実に二人とも黙り込んでいた。

───全滅。

このご時世、決して珍しい事ではない、そう、ごくごくありふれた悲劇だ。。
破壊されたトレーラーと、機銃の直撃を受けた死体を確認して、アクタイオンに連絡して、
今回の取引の始末をつけてお終い。
そんな苦々しい仕事が待っているだけの事だ。

「シン、もうすぐ現場よ、敵の攻撃に備えて」
「了解……」

途切れた公衆電話にグゥルは近づいてゆく。シンの目に、からっぽの荷台となった3台の
トレーラーが飛び込んできた。
やはり、もう荷物は奪い去られた後のようだ。

落ち込んでいたシンの耳に、フレイの凛とした声が響いた
「シン、北西に駆動音複数。近いわ、注意して!」
「了解!」
せめて、仇討ちくらいはしてやろう。シンの胸に怒りが沸き上がった。

そうして、息巻いたシンの眼下に広がった光景は、想像を超えるものだった。

切り刻まれ、大破したスローターダガーが一機。
胴を切断され、上半身と下半身に分けられたケルベロスバクゥが一機。
一機のケルベロスバクゥに組み伏せられ、今にも破壊されそうな、危険な状態のスローター
ダガーが一機。そして、

「な、何あれ!?」
フレイの唖然とした声。

そこには、疾走するケルベロスバクゥの肩にワイヤーアンカーを引っ掛け、雪上を引き摺られる
スローターダガーの姿があった。

一見して水上スキーで転倒した人間のようにも、拷問を受ける罪人にも見える。
しかしそれは、苦し紛れだとしても実に合理的な戦法だった。
バクゥシリーズは火器が前方を攻撃するように取り付けられている。人型モビルスーツなら
走りながらでも、腰を捻り、腕を振れば後ろを攻撃できるが、獣型のバクゥでは頭から旋回
しなければならないので、隙が大きい。
もしも、バクゥのパイロットがスピードを緩めたり旋回すれば、途端にワイヤーは巻き上げられ、
ビームサーベルを逆手に持ったスローターダガーが、その名の通り獣を屠殺するだろう。

自分の首筋に死神の綱をくくりつけられたバクゥは、一か八か、旋回してダガーを破壊する賭け
に出るか。走り回ってダガーが振り落とされるのを期待しつつ、仲間の援護を待っているのだ。
202 ◆XGuB22wfJM :2007/04/08(日) 09:55:25 ID:???

民間用の新型ストライカーパック。通称七つ道具パックには、確かに自重の数倍を保持できる
ワイヤーアンカーが付属している。しかし、あくまで土木工事用。決して戦争用ではない。
使い勝手が悪いどころか、戦闘ステータスで武装として認識させるのも一苦労だろう。
ましてやロックオンなど絶対に不可能。オールマニュアルで手に持たせたアンカーを投げつけ、
高速で走り回るバクゥに引っ掛けたのだ。搭乗者は間違いなく熟練したコーディネイターだ。

眼下の光景と、行われたであろう神業を想像し、シンですらしばし呆ける。

「スウェン! は、早く加勢しろ! うぁああ!!!」
その悲鳴で現実に意識を引き戻されたシンは、悲鳴の主を助けるため、ライフルを───撃てない。
ケルベロスバクゥが組み付いているために、誤射の可能性がある。
即座にシンはグゥルからダガーLを降下させ、滑空状態に移行。しかしそれでは接近するまで
間に合わないとシンは判断し、瞬時に盾を投げつけることを選択。
猛烈に回転して飛んでいった盾は双方に直撃、バクゥの動きを止める。
哀れな獲物にとどめを与えようとしていたケルベロスバクゥの顔がこちらを睨み付ける。

「そこだあ!」
その隙に接近したダガーLは、勢いを殺さぬままに、オルガの如くバクゥにとび蹴りをかました。
吹っ飛ぶバクゥ。シンは落下予測地点にビームライフルを構え、必殺のタイミングで引き金を
絞った。

蹴り飛ばされたバクゥのパイロットは衝撃の中、推進装置とAMBACで落下地点をずらしつつ、
見事に四足で着地。ビームは空を切り、水蒸気を巻き起こしただけだ。

「なぁっ!」
シンの経験上、確実に倒しているタイミングだった。
あの状態から獣型モビルスーツの体勢を立て直すとは───。
敵の技量は半端ではない。シンは予想外の強敵との対峙に、武者震いが全身を襲う。

「ちょっとシン! 名乗りよ、名乗り」
「うっ!」
完全戦闘態勢に移ったシンの精神に冷や水を浴びせるフレイの忠告。
仕方無しに、シンはヤケクソで叫んだ。
「俺は傭兵団ドミニオン所属! 元ザフト、デュランダル議長直轄の特務隊、フェイスのシ───」

蹴り飛ばされたバクゥは即座に身を翻すと、ダガーLの外部音声を完全に無視して走る。
危機に陥っている仲間に走り寄り、口のビームファングでワイヤーを溶断。開放された仲間と共に、
一目散に吹雪の中に消えていった。

盗賊たちはベルリンからの援軍を確認すると、すぐさま逃亡を選択したようだ。

「シ──、シ──、シン・アスカです………」
3年前のプラントナンバーワンパイロットの自己紹介が、冬の寒空に響いて消えた。


続く
203通常の名無しさんの3倍:2007/04/08(日) 23:55:07 ID:???
シン・・・強く生きろw

しかしバクゥがケルベロスとは、因果を感じるな。
204通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 01:38:54 ID:???
シン・アスカです。にワロタww
205通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 11:09:01 ID:???
職人の皆さんGJです
そしてまとめの中の人も相変わらず仕事速い!乙


>>193
現在大好評連載中


機動戦史ガンダムSEED

SEED『†』

何でも屋ドミニオン

彼の草原、彼女の宇宙(そら)

その他隔週企画も満載!
新人のみなさんの新規連載は、ジャンルを問わず随時受付中!
今週号の新人スレもお見逃し無く!!
206通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 15:50:22 ID:???
>>193>>205
俺も定期講読させてもらうよw
207通常の名無しさんの3倍:2007/04/09(月) 21:00:24 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

第三話 衝撃(1/6)

 ウイリアムズ准将の自室。椅子に座る准将と直立不動のアイヒマン。
「自分の【部隊】も訓練をと思いまして」
「何をするつもりだ? 現状、簡単に【G】を動かすことは出来んぞ?」
「緊急避難であれば使用許可を出されても閣下に瑕疵は無いかと」
「あれらが実戦から離れるのもあまり上手くない、そう言いたいのか?」
「そのように認識して居ります。せっかくの戦力です。有事の際に動けないでは困りましょう」
「もう一度聞こう、何をするつもりだ?」
 その部屋から約50mほど下の最下層、荷物室を改修した手術室のような部屋。目も眩む様な
ライトに照らされて、少年が全裸でベッドに縛り付けられている。

 ベッドに横になっている。動けない。このライトはまぶしすぎて嫌いだ。だがイヤだと言ったところで
やめてくれたためしは無い。ほんの数時間、意識を失っていれば終わる事だが、だからと言って
慣れると言うわけには行かなかったし意識を失うまでは、当たり前だが意識が有るのだ。
 此処に来る前は、夜はみんなで固まって眠った。ベッドなんて無かったし毛布だって2枚しかなかった。
いつオトナ達が来るかも知れず誰かが交代で見張りをしていた。3時間おきに目が覚めたし、熟睡と言う
言葉があることだって最近知った。だけどあの頃は明日になることが楽しみだった。
けれど今は。せめて夢の中で、兄弟たちに会えれば良いのに。
 腕に刺さった透明なチューブに何かの液体が流れ始める。具体性の無い恐怖と共に夢さえ見ない眠りに急速に
落ちていく。この瞬間が一番怖い。二度と目覚めないのではないかと言う恐怖。何故なのかは知らないが
とにかく死にたくない。たとえ生きることと、人を殺すことがイコールで繋がるとしても……。


 ダークグレイに赤のラインのシグーのコクピット内。初期調整終了で搬入されてきた機体は既に
出撃準備完了になっている。イアハート内の誰も居ない深夜のMSデッキで、一人黙々とデータの
打ち代えをしているサーシャ。

 黒に赤、赤に黒。2機のジンハイマニューバが屠ったMAは総数で30を超え艦船も4隻沈める
に至って、隊長からはおまえらの好きにやれ。とお墨付をもらった。あいつとはホントに良いコンビ
だった。あいつがおとりに成る。私が打つ。私がロックオンされる。あいつがカバーする…。
親友だと思っていたあいつの思い出は戦闘のものしかない。それに気付くと、不意に涙腺が緩むのを感じる。
 モンロー隊の『お嬢さん』は人知れず涙を流すようなキャラとして認知されては居ないだろう。
きっとただ真面目なだけのエリ−ト気取りの女の子。ぐらいの認識だろうし、ならば見てしまった人も困るだろう。
人に見られるのはあまり宜しくない、よね。
 ハッチを閉める言い訳を構築し終わった私は【単独シミュレーション】のスイッチを入れ、ハッチを閉める。
無線の映像スイッチも切った。少しだけ、ほんの少しだけ。エリート崩れから偶々赤服をもらったおちこぼれに戻ろう。
涙が静かに溢れると空中で丸い粒になる。上を見上げる。
 これは隊長になったあいつが乗るはずだった機体なのだ…。優秀な親友の指揮はついに一度も受けることはなかった。
そして私はあの時、何も出来なかった。あいつの命が宇宙(そら)にこぼれて行くのをただ見ていただけだ。
新たに増えた大きな涙の粒は、キレイに丸くなると私の周りで静かに光ながら浮いていた。
208弐国:2007/04/09(月) 21:03:29 ID:???
第3話 衝撃(2/6)

「追跡される形になってんのは間違いないんだな?」 
「再度状況を確認。サーシャもブリッジに上げて」
「位置変わらず。ブルー15、アルファ。ですが距離を徐々にではありますが詰めてきています。
戦艦若しくは巡洋艦、総数5」
 オペレーター席の背もたれにつかまるモニカとダン。追撃されることはあっても、追跡されるのには
あまり縁の無いモンロー隊である。ダンの後ろの艦長と共に3人顔をつき合わせて唸る。
3人がかりで考えても相手の真意を掴みかねるばかり。敵は何故ウチと戦闘がしたいのか。
「遅くなりました!」サーシャは敬礼と共に隊長の元へ流れて行く。
「音紋解析完了! アガメムノン級1、ネルソン級1、ドレイク級3。艦載MA推定30以上」
「ちょっとすみません!」
 アガメムノン級の音紋解析データを呼び出してじっと見つめるサーシャ。
「出撃許可下り次第先鋒で出ますっ! 機体で待機します!」
 ブリッジを飛び出していく。
「なんだありゃ? 優等生が珍しい事もあるもんだ」
「そうでもないかもよ? 以外に義理堅いから敵討ちとか。うん、多分それよ。ダンも一緒に出て?
もしかしたらエライのが出てくるわ。音紋データ生で見て理解できるなんてどうかしてるけどね
連合は新兵器のデモンストレーションがしたいのかも、よ?ウチも舐められたわねー」
 モニカの喋り方が普通なのがかえって気にかかり、ダンも急いでエレベーターへ向かう。
「なにも心配要らないから思い切りやってきなさい。ウチから左遷される先なんて、無いんだから」


 サーシャが音紋を見つめていたアガメムノン級のブリッジ。
「前方のザフト艦隊速度変わらず」
「座標の修正、キッチリあわせろ。陣形は維持。第2MSデッキは待機願います」
『むしろデモンストレーションを行えとそういうことかね?』
「そうではないが、状況は揃ったと言っている。恐らくは降下部隊だし、ならば自分も軍人だ。
使える手駒は全て使いたいと理事にはお伝え願いたい。少なくとも自分の使える駒は現状3機のみだ。
MAは現状5機しか搭載して居ない。緊急避難の条項で問題無いと思うが」
『状況からいって許可は下りよう。理事には私から伝える。前回同様データは全てこちらへ』
「了解。感謝する……。中尉、大至急準備を」
 会話のさなかにブリッジにイシカワが上がってきていた。通信の相手がスーツにネクタイである事
のみを確認すると、後は何気なく聞き耳を立てながら通信が終わるのを待つ。財団の担当者か?
見たことがなかった顔ではあるが、調べはすぐにつくだろう。
「閣下、戦闘でありますか? 我が教導隊は…」
「気にする事はない、演習の延長のようなものだ。教導隊の連中にも何も言わないで良い。
ところで大尉の機種転換プログラムはどうか?」
「は? いや、はい! 失礼を致しました。既にカリキュラムの方はご報告申し上げた通り、前回の定期書簡で
本国司令部へ送っております。プロセスチェックと最終評価基準も後は閣下にサインを頂ければ完成であります」
 そう言いながらここに来た本来の目的、紙の束とディスクを渡す。
「やっとパイロットが増やせるな、今日中には目を通しておこう。自室で休んでいて良いぞ?」
209弐国:2007/04/09(月) 21:05:43 ID:???
第3話 衝撃(3/6)

 2機のシグーのモノアイに灯が入る。ほぼ2機とも同じ動作で、機体動作の確認を行うと
ライフルを手に取る。黒の機体は更に重斬刀を装備する。
「おい、お嬢! いったい何が来るってんだよ? 優等生が何をそんなに慌てる?」
 サーシャに習ってダンの機も重斬刀を掴む。
「おそらくは最新のGタイプが出てきます。一機は戦艦の主砲並の砲塔が4門と副砲が多数、
もう一機は曲がるビームと大きな鎌に可動シールド。両機とも常識を逸脱したスピードで機動します。
各機のデータベースに私の手持ちデータを転送します。出撃まで確認を」
「とにかく落ち着け、感情で戦ったって良いこたぁ無い。らしくないぞ!」
『敵。MAではなくMSを3、4……、5機放出。そのうち3機該当するデータなし、アンノウン』
「…っ! ブリッジ、アンノウン2機はこっちのデータで合致した。お嬢、データをブリッジにも上げろ。
…なんだこのデータ、これがMSかよ……ヒッコリー! お嬢と組んで鎌のヤツだ。テンペルは俺と大砲、
この2機はとにかく連携させるな。普通のMSも出てくるはずだから残りはそっちを見ろ。数で侮るなよ?
データ上はMSの大きさの戦艦が来るようなもんだ!」


『たいしたことは無い。MSが10機前後に船が三隻、お前たちなら5分だ。何をしても良い。全て叩き落とせ。いいな?』
 モニターに写ったアイヒマンの顔を見て本気で腹を立てるコンゴウ。
「アイヒマン! 能書きは良いからとっととやらせろ!」
『全部ぶっ殺せば良いんでしょ? 簡単じゃない』
 敵は全部落とす。ただそれだけだ。電池と薬が切れるまで戦えとアイヒマンの馬鹿は言うが、
それならそういう相手を用意すれば良い。たった10機など物の数ではない。
赤いジンのハイマニューバを撃墜してはいけないのは誰の命令だったか。間違えて当たるなら何の問題も無い。
アイヒマンに従う以外ルールなど無い。命令は全て叩き落せ。これだけだ
『はい? あぁいったものです。気にする必要はありません。……構わん、Gのカタパルト両機発進位置へ!』
『サファイア! カラミティ、出るよ!』
「フォビドゥン、出すぞ! どけてろ!」
210弐国:2007/04/09(月) 21:08:32 ID:???
第3話 衝撃(4/6)

「は、速えぇっ! なんだコイツは、重量級じゃねぇのか! テンペルっ距離を離されるな! 
ビビってないで真正面につけろ! パイロットはコーディネーターかっ! 何してる、牽制しろ!」
 いきなりイアハートを狙ってきた青のMS。お嬢が言ったとおりの凄まじいまでの破壊力の砲を
装備している。掠っただけでも命取りになりかねない。既に掠ってしまったイアハートは数箇所から
煙を吹いている。エネルギー残量は気にならないのか、戦艦を落とせる火力の砲をほぼ無照準で
MSに向けて打ち続ける。近接戦の装備は無いと踏んで距離を詰めようとするが全く桁違いの
機動性でするする逃げられる。のみならずいつの間にかあっさり後ろに付かれてしまった。距離を
全く気にしないで至近距離からいきなり肩の砲を撃つ。肩に掠った。と思った瞬間、機体が虚空へ
放り出される。損傷モニターは左肩から下が無くなった事を示している。刀を使うどころの話じゃない!
 制御を取り戻しざま反転してライフルを連射。テンペルに気を取られた相手に全弾直撃。
やったか!? 爆煙の中、ツインアイがまるでこちらを見透かすように輝く。
「っ! しまった、PS装甲か!?」
 いきなり煙の中から3条のビームが飛び出すと背後で爆光があがる、テンペルがやられた!?
勘だけでかわした直後更にもう一発。一瞬の差で最大ブーストをかけてかわしたが機体と体が悲鳴を上げる。
俺一人で抑えられるのか!? 恐怖を感じるなど初陣の時以来始めてだ……


「くっそぅ! チョロチョロとうざったいヤツ!」
 黒のシグー。微妙な距離を持続してこちらを牽制してくる。ライフルをいくら撃とうが大きな問題は無い。
ここまで全てかわし、弾いているし直撃を多少喰らったところでTP装甲がある。
だが、雑魚に振り回されている思うと悔しさがいや増す。ナスカ級にまるで近づけない
「また外した?何でだっ!」
 ただ逃げ回るだけではない。距離をとっての湾曲するフレスベルグまでをもかわし続けるシグー。
だからと言って向こうに決定打がある訳ではないし、もう一機も既に落とした。
ならば圧倒的な戦力差がある以上、時間をかけて追い込んでしまえば良いのだがそんな思考は
今の彼には無い。と重斬刀を握って一瞬の死角から飛び込んでくる黒いシグー。
「ふざけるな!」
 シールドではじいてバランスの崩れたところにニーズヘグを一閃する。
「なに! これもかわしやがった!」
 胴体から二つに分かれるはずだったシグーは表面の装甲を削られただけでそこに居た。
赤いパイロットスーツを着たパイロットの姿が見える。
「こんのぉおお! 今度こそ直接ぶちのめして…」
 こちらを見上げた赤いパイロットスーツに直接狙いをつける。太陽を受けて銀色に輝くバイザー。
パイロットスーツ越しのシルエットはきっと女性。その刹那、頭の中で何かが音を立てた。
「あぁっ! な、なんで、あかいMS、だって、言って、俺は…うぅっ」
 ライフルの直撃が来る。エネルギー残量警告の画面。頭を抱えたまま動けなくなる少年。
『ちっ。G両機を回収、撤退する』
 アイヒマンの声は本当にどんな状態であっても癇に障る。そう思った時点で意識が無くなる。
211弐国:2007/04/09(月) 21:10:21 ID:???
第3話 衝撃(5/6)

「シグーは2機とも中破、ハイマニューバ、ジン共、帰投全機小破。現状全機出撃不能。
テンペルとヒッコリー、カーチスのジン・ハイマニューバは撃墜、パイロットは3機共全員死亡。
更に我が艦も損傷を受け現在最大出力の約30%減。砲塔、ミサイル発射管の24%が使用不能、
メカニックと艦内作業員の一部にも被害が出ています。現在死亡9、重軽傷12。現在のところ以上です」
「作戦継続は不可能、でいいかね? 隊長」
「手持ちMSはジンが2機、ハイマニが2機、偵察型ジンが1。今アレがもう一度来たらアウト。か。
下手に動き回るのも危険ね。公宙域からプラント宙域まで後退、特務隊ガスコイン司令に連絡、
補給を待ちます。艦長、ダンとサーシャは?」
「ダンは治療、サーシャは精神的ショックで双方医務室だ。しかしダンはともかくサーシャは…」
「彼女が此処に来た理由がアレなのよ、艦長? ショックを受けないはずが無いでしょ。
当面ほっといてあげて。ところでダメコンの最終データがあがってこないのはどうして? 
艦長もショックを受けたの? だったら遠慮しないで医務室に行っていいのに。
艦艇の大規模損傷はイアハートだけね? カワグチの詳細データあがってない! 何やってるのっ!?」
 自身もショックではあるがそれはおくびにも出さない。ダンとサーシャの組み合わせには自信が
あった、事実そうでなければ艦は戦闘開始直後に落とされていただろう。
だがあそこで敵が引かなければやはり全滅しただろう事も確かだ。どう考えても実質負けだし、
10名以上の死者が出た事実は曲げようが無い。


「モンロー隊、やられたそうですな?」
 特務隊のオフィス。X10A強奪から端を発した大騒ぎはいまだ収束して居ない。クライン派の
議員や構成員は有無を言わさず拘束され、抵抗するそぶりを見せただけで射殺されたものもいる
らしい。そんな中クライン派とザフト中枢のメッセンジャー役であるフリードリッヒは飄々として普通
に仕事をしている。何故拘束されない。そもそも特務隊には関係ない割には、この状況下のここに
気軽に入ってこれるのはどうしてだ。
「敵の新型MSだそうだ。データと引き換えに15人死んだ。不遜な言い方は慎め!」
「それは気付きませんで。そういえば聞きましたか?アスラン・ザラの話」
 ザラ議長の息子が特務隊入りした上でX10Aを追うための専任になるらしい話はユウキ隊長
から聞いた。アスラン自体はデータ上も優秀な男であるし、ストライクを落とした実績もある。
親の七光りではあるだろうが、そのこと自体は問題ない。
「それが何か?」
「出世なさるチャンスではないかと…」
「……出て行け! もう2度と俺のところに来るな!」

 あの男は議長に対する氾濫分子としては格が足りん。やはり見張るべきはユウキ隊長か。
確かにもう来なくても良かろう。
212弐国:2007/04/09(月) 21:13:56 ID:???
第3話 衝撃(6/6)

「申し訳ありません閣下。精神の不安定が悪い方に出ました」
「仕方があるまい、試作品だ。」
「報告はいかが致しますか?」
「ありのままだ。こちらの運用自体は悪くない。むしろ引かざるを得ないデータは
向こうのバージョンアップに役立つだろうさ。あっちも間もなく実戦に突っ込むらしいしな。
それにこちらはあくまで仮運用だ」

 隣で転がるサファイアの気配を感じながら、頭を抱えてうずくまっていると声が聞こえる。
「大丈夫か? 戦闘の後はいつもこうなのだと聞いたが、酷そうだな」
 イシカワとか言うオッサンの声か。良くわからないが目も開けられない。肩に手が触れる。
「邪魔してもいかんな、後でまた来るから今はゆっくり休め。欲しいものがあればその時に聞こう。
あぁ、ジュースを持ってきたんだ、飲めるようになったら口くらい付けろよ?」
 肩に触れた手が離れるとガサゴソと音がする。
「コレで頭はぶつけないだろう、サファイア、苦しいのはわかるがもう少し大人しくしろ。
後でコブになったらせっかくの美人が台無しだ。邪魔だろうが、それは外すんじゃないぞ?」
 うざったいオッサンが遠ざかっていくのを聞いてさびしく思う。兄弟以外から気にされることなんて
今まで無かった。何故かイシカワの人の良さそうな顔が浮かぶ。
さっきの音は隣で転がりながら呻くサファイアにクッションをあてがってやったのだろうか。
後で、は何時だろう。ここ暫くで始めて時間が気になった。

 サファイアが落ち着いて寝息を立ててからも頭痛が治まらない。
胸に引っ掛るものを感じながら頭を押さえるコンゴウ。
大事なものを傷つけてしまった気がするのは何でだろう。
その傷つけてしまった大事なものはそもそもなんだろう。
割れるような頭痛の中、彼の胸中の疑問はいつまでも晴れることが無かった。


次回予告
攻めるもの、守るもの。それぞれの立場の中で少女たちは望むと望まざるとに係わらず
時代の波に徐々に飲み込まれていく。戦うこと以外の価値など、戦場では認められない…
第4話『攻防』
213弐国:2007/04/09(月) 21:16:29 ID:???
今回分お終い、ではまた
214通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 00:18:39 ID:???
職人の皆様方に触発されました。
if系SS「もしも種死でキラの傍にラクスがいなかったら」です。

----------
ユニウスセブン落下後、ミネルバがオーブへ寄港したところから物語をはじめます。
そこまでの話は、キラのそばにラクスがいない以外は、すべて本編と同じです。

(1/5)

第1話 「邂逅 −にくしみ−」

 艦を降りたシンは、無意識に空気をめいっぱい吸い込んだ。
 プラントの管理された清浄な空気とは違う、潮の香りのする空気。懐かしい故郷のにおい。
(懐かしい?)
 シンはかすかな苛立ちを覚えて、あたかもそこに小石でもあるかのように何もない空間を蹴った。
 もうこの地を踏むことなどないと思っていた。なのに、自分は戻ってきてしまった。
(俺の意志じゃない。あの女のせいだ)
 忌々しい金髪の女。自分を裏切ったアスハ家の女、祖国の現在のトップ──代表首長
カガリ・ユラ・アスハ。
(あいつがミネルバに避難なんかしてこなければ……)
 シンのアスハ家への憎しみは、すべてが今現在唯一人のアスハであるカガリへと注がれる。
(さて、どうしようか)
 士官学校時代の仲間は、みんなとっくに上陸してしまった。今頃は、繁華街で買物でも
している頃だろう。艦にはレイが残って射撃訓練をしているが、それに付き合うのも億劫だった。
かと言って折角の自由時間を自分に割り当てられた狭い空間で過ごすのも味気ない。
 外へ出たのは良いが、行く当てもない。仲間を追いかけて繁華街へ向かっても良いが、かつての
知り合いに会うかもしれないと思うと躊躇われた。
 立ったまましばらくそこで考え込んでいたシンは、やがて何かを決断したように歩き始めた。

(ここ……か?)
 港から、少し歩いただけのところで、いきなり公園のような場所に行き当たった。
 シンは自分の記憶が誤りだったのかと思った。自分の記憶では、ここはアスファルトで固められた
無機質な軍港だった筈だ。しかし今は、足元は石畳に変わり、その周囲は芝生の広場や花壇となって
いる。
215通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 00:20:29 ID:???
(2/5)

 とりあえず公園に入ってみたシンは、そこにある全てのものが新しいことに気づいた。完成から
せいぜい一〜二年というところだろう。
 そして、確信する。自分の目指していた場所がここで間違いない、と。
 更に奥へと進んだシンは、芝生で覆われた斜面の前で立ち止まった。
(間違いない、ここだ)
 シンは斜面を見上げた。シンの記憶の中ではこの斜面は、数メートルにわたって木がなぎ倒され、
土が剥き出しになり崩壊していた。
 ここで──シンの家族はその生命を無残に奪われたのだ。あの『フリーダム』というMSに。
 斜面を見つめているうちに、シンは呼吸が苦しくなるほどの怒りを感じた。
 何もなかったかのように、装われたこの場所。
(さすが、綺麗事好きなアスハのすることだな)
 ふと気づくと、拳が白くなるほど両手を握り締めていた。力を抜くと指先に赤みが戻り、軽い
しびれを感じた。
 斜面に背を向けて、シンは再び歩き始めた。もうその美しく汚された場所を目に入れないように。
 ふと前を見ると、海辺に石碑のようなものが立っている。その前には、男が一人。
 シンの気配を感じたのか、男が振り返った。茶褐色の髪に線の細い顔立ち。黒い服がその体躯を
余計にほっそりと見せている。シンより少し年長に見えた。肩には緑の羽の小さな鳥。
シンに驚いたのか飛びたった鳥の「トリィ」と鳴いた声が機械的で、それではじめてロボット鳥と
気が付いた。
 男はシンが石碑に近づけるように場所を空けた。
 シンは別に石碑を目的としていたわけではないが、なんとなく誘われたような気がして近づく。
「慰霊碑……ですか?」
 シンは男に尋ねた。石碑に刻まれた文字には目を通す気にならない。どうせ飾り立てた綺麗事が
書かれているだけだ。
「うん、そうみたい……だね」
 男の答えをシンは少し意外に思った。観光客には見えなかったので、てっきり地元の人だと思って
いたのに違ったのだろうか?
「よくは知らないんだ。僕もここへは初めてだから……。自分でちゃんと来るのは……」
 シンは男に不思議な印象を感じていた。ボーっとしている、とか、心ここにあらず、といった感じと
よく似ているがそれとは少し違う。身体はちゃんとそこにあって会話もしているのに、心の存在感が
希薄、という奇妙な印象だった。
216通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 00:21:57 ID:???
(3/5)

「せっかく花と緑でいっぱいになったのに……波をかぶって、また枯れちゃうね」
 男の言葉にシンは改めて周囲を見渡した。確かにこの辺り一帯は芝生が赤茶け花も萎れている。
これもユニウスセブン落下の影響なのだろう。
「誤魔化せないってことかも……」
 声に出してからシンは自分が口走ったことに驚き、しかし同時にそれを正しいことと感じていた。
「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす」
 そうだ。表面だけ飾り立てて誤魔化したって、人間の本心は誤魔化せない。口先で平和だ何だと
言ったって、ユニウスセブンを落とそうとした連中のように戦いを望むものはいる。
「君……?」
 男がシンを不思議そうに見ているのに気づいてシンは慌てて謝罪する。
「すいません。変なこと言って」
 あまりの恥ずかしさに、シンがその場を立ち去ろうと踵を返した。
 その時。


「キラ」
 女声が聞こえ、シンは自分の耳を疑った。今、誰かが「キラ」と言わなかったろうか? 憎い、
どんなに憎んでも憎み足りない仇敵と同じ名前。ヤツがこの辺りにいるのか?
 シンは思わず辺りを見回した。シンは「キラ・ヤマト」の顔を知らない。それでも見回さずには
いられなかった。
 その瞳が、こちらに向かって手を振る金髪の女を捉えた。
(!?)
 まさか、と思った。あれは──シンの仇、ナンバー2の座にいる女──アスハ?
 その少し離れてアスランが続くのを見て、その女がカガリであることを確信する。
 そして。
(!!)
 「キラ・ヤマト」は終戦後は、オーブにいる、と噂で聞いたことがある。
 「キラ」はアスハの仲間だった。ならば、アスハが「キラ」と呼ぶ男。それは「キラ・ヤマト」以外に
あり得ない。
 そのアスハがこちらに向かって「キラ」を呼んでいる。
(なら。それならっ!!)
 シンは、背後を振り返った。
217通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 00:23:01 ID:???
(4/5)



 車から降りたカガリは、慰霊碑の傍に立っている二人の男を見つけた。逆光ではっきりとしないが、
そのうちの一人がキラであるように見えた。
 同じく運転席から降りたアスランにそう言うと、彼も頷きカガリに同意する。
──ミネルバから行政府に移動したカガリは、ユニウスセブン落下に伴うオーブの被害状況の説明を
受けた。国土への破片の落下はなかったが、高波で海岸沿いにはかなりの被害があったと聞いた。
ただし、被害は建築物や停泊していた船舶のみで、人的被害がなかったのが幸いだった。
 だがカガリにはどうしても気がかりなことがあった。キラのいるマルキオ導師の伝道所兼孤児院は
どうだったのか、という点だ。
 それを見越したかのようにウナトが、伝道所は破壊されたが、導師もそこに住む孤児たちも
シェルターに避難しており無事だったこと、今はアスハ家の別荘に仮住まいしていることを教え、
一時間の休憩をカガリに与えてくれた。
 表向きはミネルバから帰ったばかりの自分を労ってのことだが、その一時間で孤児院(というより
キラ)を見舞って、その後は政務に集中しろ、ということなのだと、カガリは理解した。
 すぐにアスランを呼び出し、彼を待つ間に用事をひとつ済ませてから別荘へ向かったが、キラが
出かけていることを聞いた。子供たちは引き止めてくれたのだが、戻りの時間を考えるとゆっくりも
していられず、すぐに別荘を出た。
 そして帰り道、立ち寄った公園で、偶然キラの姿を見つけたのだった。
「キラ」
 手を振って声をかけると、キラは肘から先だけを軽く振って応えてくれた。
(前のキラだったら……)
 以前の彼なら、カガリと同じように大きく手を振って名を呼び返してくれただろう。そうでないのが
悲しかったが、カガリは思い直す。一年前の今頃に比べたら──一人で散歩できるようになっただけ、
ずいぶんマシじゃないか、と。
 ところで、キラの隣にいるきょろきょろしている少年──シルエットが小柄なので自分より年少
だろう──は誰だろう?
 もう少しだけ近づいたところで、少年と目が合い、カガリの全身が凍りつく。
(シンッ!)
 カガリの後ろをついてきたアスランもシンに気づいて立ち止まったのか、足音が聞こえない。
(どうして、シンがここに!?)
 シンが、背後を振り返った。
218通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 00:24:46 ID:???
(5/5)



「キラ」
 自分の名を呼ばれた。でも、それは彼女の声じゃない。
 あきらめがキラの体から力を奪ってゆく。
 もうずっと、そうだった。
(ずっと? 何日? 何ヶ月? それとも何年?)
 キラには分からない。彼女が自分の許を去ってからどれだけの時間が経ったのかさえも。
 母や一緒に暮らす子供たち、それに親友たち(うち一人は血を分けた双子の姉、らしい)がどれほど
元気付けてくれても、彼女がいない、という事実が、キラの内からすべてを奪い去っていった。
 それでも最近は少しなら散歩に出かけることが出来るようにもなった。先ほど、出かけてくると
伝えたときの母の顔を思い出せば、このままではいけない、とも思う。
 そうして振り絞った気力も、彼女を思い出すだけで消えてゆく。
 それでも何とか手を挙げて、自分を呼ぶ少女──カガリに応えた。その向こうにアスランの姿も
見える。
(何だか久しぶりのような気がするな。……そう言えば、どこかに行くって言ってたっけ? ここに
いるって事は、もう帰って来たのかな? それともそれも僕の気のせい……?)
 時間の感覚がなくなっているキラには、よく分からなくなっていた。夢と現実と空想とが交じり
合った世界。キラは今、その中で生きている。しかし、そのどこにも彼女はいない。
 ふと、自分の目の前の少年──名前は知らない。それとも覚えていないだけかも──が、なぜだか
きょろきょろしているのに気づいた。
 少年の動きが止まった。カガリを見ているらしい。
 カガリも立ち止まる。アスランもだ。
 少年が、キラを振り返った。
219通常の名無しさんの3倍:2007/04/11(水) 09:59:46 ID:???
>>弐国
相変わらず字数制限?ちょっとツラそうだね。どうせ2chなんだから増やせば良いのに
オリキャラ封印して、種キャラで箱庭系とか、書かない?
多分才能あると思うんだけど
森の娘の没ネタも待ってますよん

>>214
せっかくの作品、題名つけようよ
あと、オリジナルの部分をむしろしょっぱなから全面に押し出さないとヒキは弱いかと思う
220通常の名無しさんの3倍:2007/04/11(水) 12:42:33 ID:???
>>214-218
えーと、何か「振り返った」ばかりが印象に残ったw
221214-:2007/04/11(水) 22:43:18 ID:???
>219
近いうちにタイトルを考えますので、もう少し時間をください。

>220
ある意味狙い通りかも。w
222214-:2007/04/11(水) 22:46:02 ID:???
(1/3)

第2話 「慟哭 −こうかい−」

 シンは振り返って、その男を見た。
 その男は、きょとんとした顔でシンを見ている。
「お前が『キラ・ヤマト』か……?」
 押し殺した声で男に尋ねた。自分がこんな声を出せるとはシンは今まで知らなかった。
「えっ……うん」
 男──キラ・ヤマトは、ぼうっとした口調で応える。
(なんだ、こいつ?)
 シンは、内心拍子抜けしていた。こいつが本当に「キラ・ヤマト」? 家族の仇? この、ぼうっと
した男が?
 シンが想像していた「キラ・ヤマト」は、もっときつい目つきの、触れる者は皆傷つけずにはいられ
ないような尖った雰囲気の男だった。血も涙もない、悪魔のような戦闘狂。それが「キラ・ヤマト」の
筈だった。
 それでも。
 シンの身体の中に、凶暴な力がふつふつと湧き上がってくる。
「お前が、マユを殺したのかーっ!」
 想像は想像だ。この男が「キラ・ヤマト」なら、マユの、家族の命を奪った仇なのだ。
 シンは、渾身の力でキラの頬を殴りつけた。キラは避ける素振りさえ見せずにシンに殴られ、その場に
倒れ伏した。
 そのキラを蹴りつけようと足を振り上げたシンは、何かがキラに覆いかぶさるようにして彼を庇いに
入ったのに気づき、動きを止めた。
 コーディネイターの反射神経があったこその動きだが、キラを庇うそれがカガリであることに気づき、
シンは脚を止めたことを後悔し、舌打ちをする。
 カガリが代表首長であり、その彼女に危害を加えたらどんな処罰を受けるか──などということは
シンの頭には欠片もなかった。目の前の二人は、家族を殺した仇だ。復讐して何が悪い。
 シンがもう一度脚を振り上げたところに、何かがぶつかってきた。バランスを崩したシンは数歩
よろけて、片膝を付く。
 きっと顔を上げると、仇の二人を背中に庇うようにアスランが立っていた。
223214-:2007/04/11(水) 22:47:32 ID:???
(2/3)

「なんなんだ、あんたはーっ!」
 アスラン・ザラ。「大戦の英雄」だという男。
 ルナマリアやメイリンが騒ぐのは気に食わなかったが、ユニウスセブンで見せた技術は、シンよりも
多分レイよりもずっと上だった。何せ、シンたちが苦戦していたカオス・アビス・ガイアの三機を
ジュール隊の二機との連係であっという間に戦闘不能にしてしまったのだから。
 だから、内心でほんの少しだけ尊敬した、自分の目標にした男。
 その彼が自分の邪魔をした。
 シンの心は怒りに燃えた。咄嗟に銃を抜こうとして、今が私服でかつ銃を携帯していないことに
気づき歯噛みする。
 チャキ。
 すぐ近くで聞こえた音に思わず顔を上げ、アスランが自分に銃口を向けていることに気づいた。
 おそらく、シンの動きに反応して銃を抜いたのだろう。アスランの目がシンの身体の上をすばやく
動いて、銃や武器を持っていないことを確認する。
 シンはアスランに飛び掛って銃を奪おうかと考えたが、先日彼がミネルバで見せた射撃の正確さと、
彼の真剣な眼差しを見て断念した。
 アスランはシンが不審な動きを見せたなら躊躇なく撃つ。それを確信した。
「お前こそ、何なんだ?」
 アスランがシンに問い返す。言外に「代表への無礼は許さない」と言われている気がして、シンの
心中は更に燃え上がる。
「そいつは、俺の敵だ。家族を殺した仇だ。俺の邪魔をするなら、あんただって許さないっ!」
「仇? キラが?」
 アスランはシンがミネルバで語った言葉を思い出す。確か彼は「オーブで家族を殺された」と言って
いた。カガリの父、ウズミが唱えたオーブの理念。その理念のために国が焼かれた時、彼の家族はその
犠牲となった。アスランはそう理解していた。
 それなのに、キラが彼の仇?
「そうさ、そいつのMSが俺の家族を撃ったんだっ!」
「「えぇっ!?」」
 アスランの驚愕の声に、カガリのそれが重なった。
224214-:2007/04/11(水) 22:49:14 ID:???
(3/3)

 見れば、カガリもキラも既に身体を起こしていた。しかし、キラはまるで子供が母親にするように
カガリにしがみつき、震えながら怯えた目でシンを見ている。
 その様子がシンの怒りを更に増す。
(これが「最強と謂われた『フリーダムのパイロット』」? こんなヤツに……)
「こんなヤツに俺の家族は殺されたのかーっ!!」
 シンの叫びに、キラの瞳が大きく見開かれる。
「あ……」
 その口から漏れる、音。
「あ、あ、あ……ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」
 音はすぐに大きく、長く、慟哭に変わる。
「キラッ!?」
 キラの脳裏に、宇宙で見た光景が浮かぶ。
『今まで守ってくれて、ありがとう』
 笑顔で紙の花をくれた小さな女の子。でも自分は最後まで守ってあげられなかった。
『僕が守るから』
 誓い合って身体を重ねた赤毛の少女。でも自分は最後まで守ってあげられなかった。
 その二人の笑顔が、ピンク色の長い髪の少女に重なる。
 ずっとずっと一緒に、と願った少女。でも、彼女も自分の傍にはもういない。
 頭を抱えたまま、キラは叫び続ける。そのキラを、カガリはただじっと抱きしめる。
 アスランもシンに狙いをつけたまま、気遣わしげな視線をキラに向ける。
 その隙に銃を、とシンは思ったが、アスランはそれを許すほどの油断は見せなかった。
 しばらくして、叫び疲れたのか、カガリの肩に頭を預けたままぐったりと動かなくなったキラを見て、
(こいつ、狂っているのか?)
 と、シンは思った。
 ゆっくりと慎重に、アスランを刺激しないように立ち上がると、数歩後ろに下がる。
「そいつに言っておけ。もしMSに乗って俺の前に出てきたら、必ず殺してやるってなっ!」
 そう言い捨てて、シンは踵を返して歩き出す。
 後ろから撃たれるかも、とは微塵も考えなかった。
 シンは唇を噛み締めた。

>>続く
225通常の名無しさんの3倍:2007/04/12(木) 15:08:01 ID:???


これが殺す価値もないってヤツか・・・
226弐国:2007/04/13(金) 13:50:38 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

第4話 攻防(1/6)

 補給隊との接触を待つモンロー隊の3隻の船。その旗艦イアハートのMSデッキ。
「そりゃ確かに作業は半日だが、ホントに良いのか、嬢ちゃん? ダチの形見なんだろ?」
 30時間後の補給部隊到着まで出来る事はほぼ終わってしまったメカマンたちの、そのチーフ。
修理の打合せに来ていたサーシャから、修理ついでに黒に赤のラインの機体を真逆に塗りなおしたい。
すぐ出来るか。と聞かれたメカマンチーフは本気でそう言った。大事なものではないのか?
「どうせ制御系もイカレて新品入れ替え、イニシャル調整が必要ならもう別の機体です」
 その状態で運用していたこと自体実は内部規定に抵触するのだが、今まで起動時に表示されていた
パイロットの名前は彼女のそれではない。そこだけは打ち直さなかった。
制御系新品入れ替えならば今度は表示される名前は彼女のモノになる。ならばもうあいつのものではないし、
それなら私の機体は赤だ。サーシャの切れ長の瞳が痛みに耐えるように少し細くなる。
「なぁ嬢ちゃん。その辺、あんまり無理するもんじゃねぇぞ?」
 そのままデッキを出て行こうとする赤い服に声をかける。
「大丈夫です。私はモンロー隊長みたいには成れませんから。塗装、ヨロシクです」
 どの意味でも成らなくて良いんだが。大体ウチのモンローちゃんがナニに耐えてるっつーんだよ…。
メカマンチーフはそう思うと塗装のテストピースを作り始める。


 ダンがブリッジに上がるとブリッジ要員はあからさまに嫌な顔をして仕事をしていた。
モニカの明らかに怒気を含んだ凄みのある声がブリッジ中にこだましている。
オペレーター席まで流れて二言三言かわすと手元のモニターに紫の制服を着た男性が映る。
お互い肩をすくめてダンが手のひらをヒラヒラさせると映像は消える。
そのまま今度は艦長が避難している席の隣に納まる。
「今日の原因はなんだ? 何で国防委員とケンカになってる」
「途中まではGのデータと追加補給の話だったんだがな、向こうさんが戦死者の話にしやがった」
 モニカはプライドがむやみに高い。その上、ああ見えて実は人一倍責任感は強い。
自身に過失が無いとしても、失われた部下の命の話など噛み付いてくれと腕を差し出したようなものだ。
意味もなく狂犬病のアイドルなどと呼ばれているわけではない。条件が揃えば喜んで噛み付いて
肉まで噛み千切るだろう。その辺の加減が出来ないが故の【カミソリモンロー】ではある。
 いつもの仕返しにちょっとヘコましたかっただけなんだろうけどな。既に『狂犬病』の発作を発症してしまった
自らの隊長を見やって、ダンは再度肩をすくめる。
「ブリッジ要員ってのも大変だな、俺はハンガーに居るから用事があったら呼んでくれ。
勿論カミソリにカバーをつけてから、な?」
「冷たいな? 年は離れてるが友達だと思ってたぞ。ならば艦長命令だ、俺の話し合い手になれ」
 俺は隊長直轄だから命令は無効だ。と言いながらダンはいそいそとブリッジを出て行く。
227弐国:2007/04/13(金) 13:52:33 ID:???
第4話 攻防(2/6)

「ネタ元は何処だね、大尉」
「本国情報部からの定期連絡書簡からであります。当然閣下もご存知とは思いましたが
一応念のためご報告申し上げます」
 あえて突っ込んでみるか。イシカワはそう思って情報部の情報を持ってブリッジに上がった。
「パナマ侵攻作戦か、狙いはマスドライバー、だな」
「先日G兵器を使用したのは、降下部隊の先遣隊を狙ったものだったのでありますね。
間に合う位置にあるのは我が艦隊のみ。情報を見て、始めて納得した次第であります」
「全てを詳しく知っているわけではないので表立って動けなかった。流石は司令部付だ、情報が早くて助かる」
「なんと言っても同国人同士、お役に立てたならば光栄であります」
「そう言えば参謀部のロンサム少佐を知っているか? ……」
 G兵器についてもう少し突っ込みたかったがあからさまに違う話にされてしまった。
これ以上はやめて置くのが無難だろう。まだ退場するわけには行かない。


「間もなく訓練も終了ですな。大尉殿」
 自室への帰り道、アイヒマンにいきなりそう呼び止められる。
「半分以上が使えるとは正直思って居なかった。かなりパイロットは増やせるだろうな」
「ところで生体CPUに入れ込んでおられるようですが、あれらは部品、ですよ?」
 やはりモニターされていたか。そう思ってあえてそういう言動を取っていたのだが。
「だが生き物ではあるし人間だろう? なら精神の安寧は結果的に良い効果をもたらすのではないか?」
 生意気なコンゴウの口利き、笑ったサファイアの顔。あんな部品があってたまるか!
「本来であれば存在すら知らされない部品なのですよ? それをお忘れなく」
「わきまえておこう。それより中尉の機体とウデに興味がある。俺に、いや、うちのひよっこどもに
見せてくれないか?既に105ダガーは重要機密の項目からは外れたと思ったが」
 コーディネーターに対抗するために、問題の発生しなさそうな子供たちを【改造】して実戦に投入する。
まさに悪魔の技術だ。いくら連合軍でもここまでは出来ない。ブルーコスモスならばやりかねないが、
それならなおのこと手は出せない。報告書に記載する事さえ、出来ない。
「ならば、大尉さえ宜しければ訓練生諸君に模擬戦でもお目にかけましょうか?」
228弐国:2007/04/13(金) 13:55:46 ID:???
第4話 攻防(3/6)

 順当に補給を受けたモンロー隊は機材の護衛任務には間に合った。
モニカがモニターに敬礼をするとモニターの向こうも敬礼を返す。
引継ぎも終われば本作戦に参加するでもない、そもそも員数外の部隊は
そのまま『荷物』と共に待機になる。
 暇をもてあましてブリッジに上がるダン。モニカがいかにもやる気が無さそうに、
自らのシートの上に座った形のまま腕組みをして浮いている。帽子は離れたところに所在なさげに漂っていた。
「お嬢はまだお篭りなのか?」
「エリートさんなのだもの、やる事があるなら当然じゃない?」
 新型Gのデータ解析と自らの機動の分析。食堂でさえ見かけたものが居ないところから
文字通り寝食を削っているのだろう。丸二日部屋に篭っているらしい。
修理のついでに真っ赤に塗りなおしたシグーの初期設定は既に超人的なスピードでは終わらせたうえの話だ。
さすが赤服、しかも美少女なのが凄い。などとまたぞろ話題になっているのだが、当人がお篭りではいじりようが無い。
「エリートでも飯は必要じゃないか? なんか落ち込んでるみたいだし、お前さんなら女同士…」
「やりたい様にやらせたら良いじゃない。きっとあの年頃はダイエットしたいのよ……。艦長?
3時間休憩。後、ヨロシク」
 白い服は、宙に浮かんでいた帽子を掴んでそのままエレベーターへ流れて行く。

 エレベーターで移動しながら思う。あの娘はあたしに似ている、要らない所が生真面目なのがそっくりだ。
だからあたしはケンカになるのだが、あの娘は内に秘めるタイプか。
確かに自室に篭って気になることを研究している方が、誰彼構わず噛み付いて回るよりはよほど建設的ではある。
やはりウチで一番ダメなのはあたし、か。まぁあたしが落ち込んだところで何も解決はしないか。
何よりあたしは部隊の太陽! よし、復活。そう、単純なのは悪い事ではないのよ? サーシャ。
 何を思いつめているのかは知らないがあなたならば克服できる。あなたの赤い服が伊達じゃないのは
あなた以外はみんな納得している。後はあなたの認識だけ。それにウチは確かに吹き溜まりの部隊だろうが、
最前線の最後の火消し役だ。問題児でも無能なものは絶対に配属されない。
「それも楽観的な思い込みかしら」
 でもそれだって才能のうちよね。展望室でいつも通り横になって浮かぶと帽子を顔に載せる。
自分の手に負えないことを考えても時間の無駄だ。昼寝をしている方がマシ。
彼女もそう思える様になってくれれば一皮剥けるのだろうけれど。


『訓練生諸君、作業の手を休めてモニターに注目して欲しい。この艦隊のエース、アイヒマン中尉の小隊が模擬戦を
公開してくれることになった。本当のMSの動きをよく見て頭に叩き込んでおけ。おまえ達が自惚れてる事が良くわかるだろう』
『あれが105ダガー! すげー』
『ホントに俺らと同じストライクダガーか? アレ』
 作業は無いが自室のモニターに同じく注目する二人。アイヒマンはいつも後方で待機しているばかりで何もしない。
だからたいしたことが無いと思っていた。機動の凄まじさはあのシグー以上かもしれない。
機体の性能が高いのではなく機体の性能をフルに使っているのだ。
これは理論ではなく生体CPUとして知識を植えつけられたモノの直感だ。但し彼の機体はGAT−01A1ダガー、
通称105ダガーの初期生産タイプ。ほぼストライクと同じ性能といわれる機体。決して性能は低くない。
ただフォビドゥンの方が性能は上だ。モニターを見つめる彼の目つきは徐々に鋭さを増す。
 やつを倒さねば自由には成れない。そんな事は初めて思ったのだが本人はそれとは気付かず、
ただモニターを食い入るように見つめる。生体CPUにはあまり見られない行為だと技術担当者が日誌につける事になる程に。
229弐国:2007/04/13(金) 13:58:13 ID:???
第4話 攻防(4/6)

『…5、4、3、2、1。全部隊作戦開始、カウントアップ継続中、3、4、5、6、7…』
 イアハートのブリッジ、モニカの正面のメインモニターにも刻々と変わるカウントの数字が映し出されている。
「始まったみたいね」
「人事、みたいだな?」
「人事だもの、実際。後はあのグンニグルとか言うのが下でうまく動けばおしまい。当面我が隊の
目標は月基地オンリーとなる。と。一応MSは準備しといてね? 荷物が出発するまではウチの責任だから」

 オペレーション・スピットブレイクで、戦力を大幅に減じてしまい地上の戦線維持さえ困難になった結果、
プラント本国を地球連合軍に直接叩かれる可能性が出てきた。それで戦力を地上に封じ込めるために、
連合に唯一残されたパナマ基地のマスドライバーを破壊する。と言うのがさっき聞いた今回の作戦の概要である。
『で、ウチは今回は荷物番が仕事よ』隊長サマはつまらなそうに自分たちの任務をそう付け加えた。
 ザフト以外ではオーブがマスドライバーを所持しているが今の連合に貸与するとは到底思えない。
なので上手くいけば確かに彼女が言った通り、当面新規の戦力は宇宙(そら)へは上がれなくなる。
 だが、作戦の肝のうちの一つがイアハートの後方に浮いている。真面目とは縁の無い俺でさえ
気になっていると言うのに、ウチの隊長サマは肝が据わってるのか、やはり馬鹿なのか。
 ただ、護衛はウチの他に二つの隊がついている。まぁ酷いことにはなるまい。
だが気になる以上はMSデッキに行っておくことにしよう。俺はこの勘だけでここまで生き延びてきたのだ。


ブリーフィングルームに集まる5人のパイロットスーツ。
「いいか、おまえらは左に回れ。ザフトのものならば何を破壊しても良い。好きに叩け」
 小さなアンプルの頭を折ってコンゴウに渡しながらアイヒマンは続ける。
「われわれは隙をついて真ん中のデカ物を落とす。位置から言って連中は間違いなくパナマに落とすつもりだ。
中身がなんであれ叩き潰す」
 アンプルの中身を飲み干す前にコンゴウは考える。赤いパイロットスーツが強烈に印象に残っている。
アレはサーシャだろうか。ただあいつは真っ赤の機体だと言っていたしアレは黒かった。
それにこれを飲んでしまえばそんなことすら忘れるのだ。考えても無駄かもしれない、
と思いながらも装甲の裂け目から自分を見上げた赤いヘルメットの、銀色に光ったバイザーが頭から離れない。

 カタパルトが打ち出す5機のMSを見ている。そのうちの2機のパイロットはこのところの彼のトモダチだ。
「教導隊を出すわけにはいかんぞ大尉。彼らは既に『売約済み』だ。数を減じるわけにはいかん」
「しかし閣下、たったアレだけの戦力で間に合うのでありますか?」
「大気圏に突入する荷物なら、ただ一発直撃すれば良いだけだ。それにGは一機で一個中隊、アイヒマンも只者ではない。
ブリッジに上がってみていればわかる」
 何故艦隊の人間の衆目を集めるような戦闘にコンゴウたちを出したのか。
Gの存在は公にしても良くなったというのか? 好々爺然とした艦隊司令の顔からは何も読み取れない。
230弐国:2007/04/13(金) 14:01:42 ID:???
第4話 攻防(5/6)

『各隊の旗艦にG2機のデータを送れ! ダン、サーシャ! 荷物の防衛!』
 2機のGがめちゃくちゃに暴れるおかげでアイヒマンはあっさりと包囲網の中に入り込む。
新型のNJか何かか?考えている暇は無い。ライフルを照準する。トリガーを引く一瞬前、赤い影が視界をよぎる。
考えずにいきなり推力最大で後退。一瞬後に何も無い空間に重斬刀が振り下ろされる。
「かわした?例の機体じゃない、量産型の高性能タイプ? だけど!」
 姿勢が乱れたまま左手に掴んだライフルを連射する赤のシグー。弾丸は過たず全て105ダガーを捉えた。
はずだったがあっさりかわすとダガーはライフルを撃ちかえす。
「当たるもんか!」
 かわすと同時に見失う。違う、牽制だっ上! と思った時にはもうビームサーベルを握った105ダガーが
突っ込んできている。まずい! と、直角に曲がって機体を避けていくダガー。
「ダン!」
 重斬刀を下段に構えたシグーが下からすれ違う。
『お嬢! あいつはヤバイ、パイロットがかなり出来るぞ!』
「かわすだけなら直撃はもらわない自信があります! ダンは援護を!」
『今だってヤバかったじゃないか、なんだその自信は?』
「前に自分で言ったじゃないですか! 名づけてモンローウォークですっ!」
 言い放つといきなりジグザク軌道で敵に近づく。
『ナニ考えてんだっ、おい! 馬鹿お嬢っ!』
 今度は曲線的な軌道、ダガーのライフルは全てかわしきっている。
モンローウォークだ? うちのお嬢さんは何時から戦闘時の会話にジョークを取り入れる事にしたのか。
確かに次が読めない切れ味鋭い軌道。カミソリモンローの人となり、そのものだ。
なるほど部屋に篭って解析していたのは隊長サマのデータだったか。
口元に笑みを浮かべると105ダガーに照準するダン。


『モンロー隊長、後どれくらい耐えられる!?』
「時間は約束できないわ! 数こそ少ないけれど、既に懐にもぐりこまれてる! ゴトー隊長、発進まだ?」
『五分だけ耐えてくれ! 今出してしまえば他の降下部隊と連携が取れん! 
微調整終わったなら係留索をとっとと外せ! ココで落とされるわけにはいかんのだぞ! すまん、モンロー』
 相手はたった5機、防衛に当たるザフトはモンロー隊を含めて艦船11、MSは総数40を超える。
但し、この状況下で圧倒的な戦力差を見せ付けているのは連合側である。
「シグーはクルーガー、ニコラボロフとも健在、高性能タイプの足止めに成功しています。
ジンは残り1、ジルダのハイマニ…信号ロスト! 我が隊の残りは計6機、敵は量産型1機撃墜のみ」
「エルード隊、旗艦ノビレ轟沈! 残りは2隻のみです!」
「ゴトー隊MS半減、現在8機」
「量産型のデータが違うの? いえ、これはパイロットね。…エルード隊のMSはウチの指揮下に。
他は構わずG2機の牽制のみ。近づけなければ良いから色気を出して撃墜を狙うなと伝えて!
ダンとサーシャは足止め継続! 二人以外は量産型に集中、こっちは必ず叩き落せと言って
231弐国:2007/04/13(金) 14:05:35 ID:???
第4話 攻防(6/6)

 話にならない。叩けとは言われたがこれでは叩きがいが無い。彼に言わせれば敵は勝手に落ちているのである。
わざわざこちらの射程に入ってきて撃たれ、切られる。エネルギーの残はかなり余裕が有る。
サファイアもただ撃ってるように見えるが微妙にセーブしている。やはりツマラナイのだろう。
 音紋索敵に何かが引っかかる。こないだの黒いヤツ! デカいヤツの直近にいる。アイヒマンも近所にいるが、
アレは俺の獲物だ! 今度こそ! 他を無視して一気に距離を詰める。

 サーシャの背後、巨大なブースターに火が入る。のろのろと大きな塊が移動を始める。
既に赤い機体はすすと焦げた跡で黒くなっている。エネルギー残量も怪しくなってきた。
直撃こそ喰らっていないが既に機体各部はメカマン達が見れば小破だろう。
重斬刀を握り締めた右手も動きが渋くなっている。敵がライフルを撃つのはコースも含めて既に読み切った。
『荷物』が動いた以上あとは時間稼ぎだけだ。重斬刀を犠牲にして塊への直撃を避ける。
徐々にスピードを上げる塊。105ダガーが追うそぶりを見せるがすでにMSでは追いつけない速度域になっている。
ライフルを撃つ105ダガー。サーシャがかわすと、既に大きく距離をとった機体は背中から信号弾をあげる。
その背後から迫る例の緑の機体を手で制すると2機とも向きを変えてごくあっさり引いていった。

 薬が切れてきている。肩で息をしながら自分の目で見たものを考える。
データは黒いヤツだったが赤いMSだった。こないだの赤いパイロットスーツが乗っているのならば、
機種は違うがアレはやはりサーシャだったのかも知れない。
『散歩しに来たって言ったら信じてくれる? 』 『えっと…真っ赤に黒ラインのヤツ』
 不意に彼女の言葉が、赤いパイロットスーツで微笑む顔と共に脳裏に蘇る。
まさか黒髪を揺らして戦場に散歩には来るまいが、だが。
「俺は、何がしたい……」
 何をそんなに気にする事がある。兄弟でもなくイシカワでさえない。ならば、落としても、殺しても…
サーシャだったら何故落としてはいけない? 誰かの命令か? 殺してはいけないその理由…
手が振るえ、頭痛が耐えがたくなっていくのは薬のせいだけではないと思いながら頭を抱え蹲る。

 モンロー隊の活躍はあまり語られる事は無いが、ともあれグンニグールの投入によってパナマは堕ちた。
マスドライバーは使用不能。連合が使用できるマスドライバーはこれで事実上なくなってしまった事になる。
また人道上問題のある行為が作戦中一部であったらしいが関係の無い話だ。
そんなことよりもMSとパイロットの補給はどうなっているのか。
 プラント宙域まで後退したイアハート以下のモンロー隊の三隻。ガスコインとモニカが映像付で
話し合っているところである。モンロー隊はまたも補給待ちになった。本国までは距離がありすぎるし、
その位置が色々と今後都合が良いというガスコインの話からすれば連合はオーブのマスドライバーでも
接収するつもりなのか。そうなればモンロー隊一隊でどうにかなる話でもなくなるのだが、
そこまでの詳細な情報を無線で話すわけも無く、モニカもまたそこまでの話には興味は無い。
 モンロー隊の三隻が宇宙に漂いながら補修の火花を光らせている間にも戦局は刻々と変わって行く。
補給が到着する前にオーブが侵攻を受け事実上連合に併合された旨の連絡があったが、
マスドライバーが使用不能ならばモニカがあせる事は無かった。敵は月から飛んで来るモノのみだし、
員数外のモンロー隊は、正規部隊が追い込まれなければ出動命令は出ないのである。

次回予告
それは圧倒的な力、それは友人との別離。少女と少年、それぞれの胸を押しつぶして行くもの。
エリートのプライドも大切な友情も少しずつ手のひらから宇宙(そら)へとこぼれて行く。
第5話『重圧』
232弐国:2007/04/13(金) 14:09:14 ID:???
今回分以上です。ではまた

>>219
箱庭系のカテゴリがそもそも良くわからないですし、
既製キャラを背景以上に自分が扱うと、多分・・・
233通常の名無しさんの3倍:2007/04/13(金) 19:43:34 ID:???
>>232
ここでの「音紋」って何のこと?
234通常の名無しさんの3倍:2007/04/13(金) 22:03:43 ID:???
>>232
遥か昔に前々スレに投下されたSSウンメイノカケラみたいな奴。マユスレのまとめにあるから見てみたら?
235機動戦史ガンダムSEED 22話 1/6:2007/04/14(土) 00:25:11 ID:???

 ――第4機動艦隊旗艦クサナギW・総司令官室――

 二日酔いや宇宙酔いの人間にとっては、耳障りな呼び出しコールがラクス軍に奪われた防衛拠点『ボラリス』奪還の作戦に向けて
艦隊運用の行動指示を出していた直後の俺の脳髄へと向けて、ダイレクトに鳴り響く。
同時に、パチン!と指揮官専用コンソールモニターから、いつもの見慣れたお嬢さんの顔が大きく映る。

 「――あ?」

 『……司令。ホワイト・ヒル総司令部のサハク首席補佐官から、超高速暗号通信でコールが入っていますが……』

 俺のその寝起きで不機嫌そうなその声に対して、小娘君は、彼女らしくない表情で俺に恐る恐る用件を告げてくれた。
イカン。作戦行動中で俺の顔付きが剣呑としていたのだろうか?小娘君の緊張をほぐす為に、いささか冗談を交えながら応答する。

 「ロンド・ミナか……あの御仁は苦手だね」

 おどけながらも、首を竦めてみせるとモニター越しの彼女の表情が和らぐ。

 『……繋ぎますけど、よろしいでしょうか?』

 「えぇ、えぇ、よろしいですとも。――もう大人だからね私も」

 それを聞いた小娘君は一瞬、呆れ顔になりながら、次の瞬間に噴き出していた。
まったく失礼な奴だ。正直、ロンド・ミナとまともに対話するのてのは、気が滅入るのだ。

 『で、では、回線をリンクしますね……』

 「……はいよ」

 そう笑いを堪えながら、小娘君は通信をこちらに回してくれのだった。.
モニターの中央には相変わらず、無表情ともぶっちょう面ともいえるロンド・ミナの顔が映った。
この女が、大口を開けて笑ったところを俺は見た事がない。無論見たくも無いが。
236機動戦史ガンダムSEED 22話 2/6:2007/04/14(土) 00:27:03 ID:???

 『……反抗作戦は順調のようだな。さすがはサイ・アーガイルだ』
 
 開口一番に時候の挨拶も無く、相変わらず単刀直入に切り込んでくる。そして、俺を褒め上げる。
滅多に人を誉める事が無いロンドにしては異例である。

 だが、無駄な前置きが無いのはありがたい。俺もその方が好みだし、下手な長い前置きの挨拶等されたら即座に通信をぶった切っている事であろう。
しかし、無味乾燥過ぎるのもまた問題もある。それでだけではユーモアがあるまい。職場のコミュニケーション不足である。
俺は場の雰囲気を和らげようとし、

 「――代表府首席補佐官殿にお褒めをあずかり、光栄至極に存じ奉り候」

 と時代掛かった口上を述べ、画面に向かって一礼をした。
そしてモニターの画面に視線を戻すと、ロンドは相も変わらず無表情にこちらをジッと見つめていたのだ。
その瞳には、何ら感情も浮かんでいないようだった。
……何か怖くなってきたぞ。俺は、余計な事をし過ぎたのだろうか?

 『……』 

 「……」

 ……暫く無言の時が流れた。無意味な時間が流れ、
それに我慢ができず、先に言葉を切り出して来たのはロンドの方だった。

 『……そんなに嬉しいのか?』

 「……いいや」

 俺も馬鹿正直にそう答えてしまった。それに良く考えたら、俺が彼女に褒められる筋合いは無いのだ。
元々この艦隊の戦力の規模を整えたのはロンドの方だからである。
……別に拗ねている訳ではない。

 「……まぁ、これだけの戦力があればな。誰だってやれるさ。
  わざわざ俺を駆り立てて呼び出すまでもなかったようだな、首席補佐官殿」
 
 と俺はロンドに向かって、分かりきった事を確認の為に述べて置いた。
237機動戦史ガンダムSEED 22話 3/6:2007/04/14(土) 00:29:44 ID:???

 実際に緒戦の大敗北の直後の僅かな期間で、敵前衛部隊の3倍以上の機動戦力を整え、
第4機動艦隊としての体裁を整えた、ロンドの手腕は驚嘆すべき事なのである。

 そう。従って、今の俺は御輿に乗っているに過ぎないのだ。このまま順調にいけば、敵の前衛部隊の撃破も時間の問題であろう。
この通り、ロンドのシナリオ通りに動いていれば、誰がやっても勝利できたはずなのだから。だが……

 『――まだ終わってはいない』

 「うん?」

 ロンドのその言葉に、俺は首を傾げてみた。その一言は、妙に耳に残り気に障った。
敵前面部隊のディアッカ・エルスマンの部隊は、総司令部のある代表府ロンドを中心としたスタッフが
予め解析しておいてくれたお蔭で、それ程、困難なく敵兵力の規模を確認できていたのだ。

 俺が改めて、留意している点は、エルスマンが拠点防衛の為に配置している兵力と伏兵存在。
それと、敵本営からの増援部隊の規模を明確に計る事くらいの事だろう。

 だが、どうやらエルスマンの奴は、上層部に嫌われているらしく、援軍のえの字も見えない有様だった。
まぁ、油断は禁物だろう。上官ではなく部下にトコトン嫌われている指揮官もここに居ることだ。どちらがマシとも言えまいがな。

 『――貴公でなくては、対処が仕様のない不測の事態が、今後起きぬとも限らぬのだからな」

 それは、そうだろう。戦場では何が起きるか分からない。戦いの中に身を置いた者同士だ。
その事は、互いに熟知している。だがその言葉に改めて考え込んでしまう。
 
 同時に幾つもの敵の行動パターンの可能性が頭に浮かぶ。
ラクス軍が新たに侵攻ルートの為の拠点を設置する事。
本国であるプラントから更なる援軍を呼び寄せるなど。
幾つかの懸案が思い浮かぶ。

 「不測の事態……か」

 『……』

 正直、あり得るので俺も否定はできない。
ふと画面に目を戻すとロンドもその事は、無言で肯定していた。

238機動戦史ガンダムSEED 22話 4/6:2007/04/14(土) 00:33:15 ID:???

 それともう一つ、現在の情勢では、可能性は極端に低いがもう一つの選択肢も存在する。

 「で、今時分にいったい何の用かな?……もしや、ラクスとの講和条約の目処でもたったのか?」

 『……地球連合強国の支配下の宙域方面で動きがあった……』

 俺がまったく期待していない可能性を口にしたら、このように今までの苦労が、超怒級に報われない答えが返って来たのだ。
相変わらず……俺は疫病神に取り憑かれているな、と心の中で神と運命とやらを罵った。

 「……そいつは素敵なニュースだ」

 自分の表情が引き締まるを感じた。何しろこの戦いで、最も重要な懸念は地球連合強国の介入なのだ。
奴ら強国連中が、横から連中が槍を突き出してきたら、どうしようもないほどの泥沼の戦争状態になる可能性がある。

 そう、十数年前の泥沼の大戦へと逆戻りする恐れがあるのだ。だからこそ、速攻でラクス達を叩き潰さないといけないのだ。

 ――地球連合強国の動静は、常にオーブとって頭の痛い問題であった。

 オーブは連合強国の一つ、超大国・大西洋連邦の猛攻を受けて、一時期は本国を陥落とされ、実質的にオーブは一度、滅亡したのだ。
この事でウズミ前代表は、歴史的に見て無能として扱われるている事は致し方が無い事だ。

 名君というのは国を保つから名君なのであって、滅ぼしたら暗君と言われても仕方が無いのだ。
実際、俺自身の感情としてはあの方は嫌いではなかった。だが、理性の面ではラクス同様に、全面否定する対象でもある。

 現代表であるアスハ代表も感情は兎も角として、公式ではその事を認め、前代表の轍を踏まない事を戒めにしているのだ。
何度も俺は彼女に対して繰り返し諭した事だ。国が滅ぶ責任は、全てトップに帰すと。

 過程が名君と呼ばれどうあれ、国を滅ぼした時点で前代表は暗君なのだと。
そして、ロンドもその事を骨身に染みている人間の一人なのだ。
 
 『――具体的には、地球連合強国の一つ、ユーラシア連邦の宙域で内乱が発生したらしい。
   これがこれから、オーブにどのような影響を与えるかは、まだ見当がつかんのだ……』
239機動戦史ガンダムSEED 22話 5/6:2007/04/14(土) 00:36:50 ID:???

 ――ユーラシア連邦。

 地球連合を形成する強国の一つだ。そこで本国を遠く離れた宙域で内乱が発生した……
素早く俺は、オーブに対する影響力を計算する。だが何分詳細な情報が無いままのドンブリ勘定での計算だ……
正確な答えが出ないのは仕方がない。大西洋連邦が介入するのだろうか?それに他の連合外諸国はどう動くか……?

 ……一つでも打つ手を誤れば、オーブは滅んじまうのだ。舌打ちを鳴らす。

 「……勝手に自滅してくれる分には大いに、結構だがね。それで――こちらは、どのようなリアクションをとるつもりだ?」

 『貴公も承知の通り、オーブが動員し得る機動兵力の70パーセント以上を、対ラクス軍との戦いに差し向けているのが現状だ。
   従って、地球連合強国方面の警戒にあてられる予備兵力は、本国の手元には存在しない。それはわかるな?』

 「……ああ」

 また舌打ちを鳴らすが、これは仕方が無い事だ。
本国に残っているのは、最終防衛用の予備兵力とも言うべき第一機動艦隊のみ。
これを動かして本国を空にする事は論外だ。空き巣にどうぞ土足で侵入してくださいと誘っているようなものなのだ。

 ――対応策の選択肢が狭まれるは、頭の来ることだ。
だが俺達は、そんな悪条件でしか選択肢がない戦いを繰り返してきたのだ。

 「……第二次軍備拡張計画の要である、クサナギ級機動戦艦を始めとしたこちらの虎の子の機動戦力は、
   本来なら地球連合強国に対する防衛の為に造られた物なんだがな……世の中こちらの思い通り上手くいかないもんだ」

 俺は内心で歯軋りをしていた。無いものねだりなど、軍人として失格だろうが、
ここに開戦初期で失われた第2機動艦隊とコロニー型戦闘要塞ヘリオポリスUが健在ならば……と。

 これらを軸にして第二次軍備拡張計画が順調に進めていれば、遅くとも、10年後には、10個の機動艦隊を中心に戦闘要塞を軸とした
完璧な防御体制が構築できていたであろう。そして防衛を完備すれば国力も順次増大できるのだ。

 ……今や、このような本音に近い愚痴が、垂れる事ができるのは、俺にとってロンドかシモンズ主任くらいしか居ないだろう。
こんな事を部下の前ではとても言えないからだ。無論、小娘君は論外だ。それに部下に立場上、愚痴を垂れる事は死んでもできない。
 
240機動戦史ガンダムSEED 22話 6/6:2007/04/14(土) 00:41:19 ID:???

 指揮官というのは、大勢の兵士の命を握っている。彼らの生殺与奪の権限をこの手に握っているのだ。
そして兵士達はその指揮官を信じて戦うからには、戦い勝利する事が、指揮官の絶対の務めなのだ。

 そして今日び、兵士達の苦労をかける指揮官は一緒に苦労していると思われ、兵士に楽をさせている指揮官程、遊んでいると思われている。
本来は逆なのだがな。報いが無いというものだろう。そこへロンドの声が耳を打つ。

 『……なるべく速やかにラクス軍を撃破してもらうしか方法ない』

 「……なにぶん、相手がいることだ。こちらに都合の良い様には、なかなか事は進まんだろうが、
   やるだけのことはやるさ。とりあえず、緒戦の勝ちは見えてきたよ」

 嘘でも、首席補佐官殿を多少なりとも重責を軽くしてやるのが今の俺の仕事の一つだろう。
政治の最高責任者と一応は、軍事面での最高責任者の対談だ。ちゃんと結果を出してみせよう。
それに軍が文民統制でこそ国家として体面だしな、俺も乱世の奉公人ということなのだ。

 ロンドから一言は万金の重みがあった。

 『――頼むぞ』

 「お任せあれ」

 俺はそう答えるのだった。


 ”オーブ首長国連合の政治面での最高責任者ロンド・ミナ・サハク首席補佐官から
サイ・アーガイルの元に連絡が入ったのは、彼が拠点衛星基地『ヘーリオス』の奪還の成功した直後のことであった。
具体的に云えば、ロンドから地球連合強国を構成する大国ユーラシア連邦の支配下にある宙域方面で、不穏な動きがあることが報告されたのだ”

 ”だが、オーブ首長国連合は、現在、動員できる全戦力をラクス軍との前線へと投入しており、予備兵力などはどこにもなかった。
そして、地球連合強国方面での知らせは、さらにサイ・アーガイルを悩ませる頭痛の種となるのだった”

 ”地球連合強国の脅威は、ラクス軍のそれとは比較にならない――。
オーブ軍にとって、更に苦しい戦いになる事をサイ・アーガイルは、この時点でそう予測していた――”


 『C・E80年代』戦史評論より


>>続く
241通常の名無しさんの3倍:2007/04/14(土) 00:48:32 ID:???
>>240
最後のところの序文の

”オーブ連合首長国”の政治方面での”でした。

またやってしまった……
まとめサイト管理人様、もし、まとめサイトに載せるならば、よろしければ修正お願いいたします。
いつも即効の掲載ありがとうございます。この場でお礼を申し上げます。
242通常の名無しさんの3倍:2007/04/14(土) 00:58:01 ID:???
>>戦史
 投下乙です。とことん世界情勢がきな臭くなっていくんですね。
 最後の戦史評論なんかは面白い雰囲気をかもし出す役には立っていますが、
あんまり未来の書籍の引用なんかを持ち出すと、歴史が出来レースみたいな具合になるので注意。

 それから戦史さんが喋っているところを久しぶりに見た気がする……
243通常の名無しさんの3倍:2007/04/14(土) 23:29:41 ID:???
>>戦史
投下乙です おそらくは誤字ですね
× 超怒級
○ 超弩級
244 ◆XGuB22wfJM :2007/04/15(日) 07:16:21 ID:???
盛大に自爆したシンの心をブリザードが吹き荒れる。
「マユ………僕はね、僕はね」
「クロトの真似してないで、後始末するわよ。通信繋げて」
フォローしてくれないフレイに、世間の冷たさを感じるシンであった。

周波数をいじると、引き摺られていたスローターダガーのパイロットと通信が繋がった。
銀髪の剽悍な顔をした、二十台前半とおぼしき男性が映る。
シンはこの凄腕パイロットと是非とも話をしたいと思い、口を開こうとしたが、それより先に
むこうから言葉が届いた。

「俺は」
バクゥにワイヤーアンカーを引っ掛けるという、荒業を成し遂げた男は、無表情のまま
こちらを凝視して、
「元地球連合、第81独立機動群中尉、ファントムペインのスウェン・カル・バヤンだ!」
「……………………えぇえぇえええ!」
ついミネルバ級一番艦の、副艦長ばりのリアクションをとるシン。

ファントムペインといえば、メサイア戦役後、白日の下にさらされた地球連合の暗部だ。
幼少から、洗脳と戦闘に関する英才教育を詰め込まれた、対コーディネイター用の戦闘部品。
フリーダムに匹敵するほど有名になったデストロイの搭乗者も、ファントムペインから選出された。
ロドニアのラボからの記録では、非合法の生体実験も連日行われており、まさに悪の地球連合を
代表する特殊部隊である。

彼らの悪行は、戦後、大量に噴出し、誇張を交えつつワイドショーを賑わせた。その裏には
プラントやオーブの圧力があったという事実は、ネットを漁れば誰でも知れる。
地球連合が悪党であればあるほど、連合との同盟に反対したカガリ・ユラ・アスハの英断が
クローズアップされる寸法だ。

シンが直接言葉を交わしたファントムペインは二人。
彼女と彼女が信頼していた、ネオという仮面をつけた佐官だけだ。

彼女は自分を差別しなかった。アーモリーワンの襲撃犯で、たくさんのコーディネイターを
殺したけれど、とても無垢で純真だった。プラントにいるナチュラル蔑視をする大人よりは、
ずっとまっすぐだったように思う。

ネオとは、一度だけ言葉を交わした。
彼は嘘をついた。
彼女を暖かい世界に連れて行ってくれなかった。それでも、憎む気にはならない。
少し考えれば誰でも分かる。人体実験をするような組織が、生きた証拠である彼女を手放す訳
が無いという現実を。
アスランもレイも気づいていた。自分だけが気づかないように、思考を止めていた。
ネオは、そんな子供だった自分を傷つけまいとしたのだろう。
もしかしたら、嘘をつくのが辛すぎるから、顔を隠していたのかもしれない。
地球移民後に調べてみたが、彼はベルリン戦でMIA認定されていた。おそらくフリーダムに
落とされたのだろう。仮に生きていたとしても、戦犯として処刑される末路しかなかっただろうが。
245 ◆XGuB22wfJM :2007/04/15(日) 07:17:00 ID:???
思考の海から帰還したシンだったが、モニターから自分を見るスウェンがどんな意図が
持っているのか、まったく掴めない。デュランダル派のエースとして名高い、シン・アスカ
の名を聞いて自己紹介したということは、敵対する意思があるということだろうか。
しかし、彼の表情からは、コーディネイターに対する敵意や憎悪といったものは感じ取れなかった。

「このむっつり馬鹿! 何を張り合ってんだよ、こっちの心配しろよ!」
「………シャムス。おまえが日頃、コーディネイターに負けるなと言っていた」
「そんなことで勝つな! この酸素欠乏症馬鹿!」
「俺に後遺症はない」
「嘘つけ、ネジとんでんだろうが! この金星馬鹿!」
たちまちスウェンのぼけた返答と、シャムスと呼ばれた男の怒鳴り声が交差する、うるさい通信
となった。漫才みたいで、傍から見ると大変面白い。
どうやらスウェンの名乗りは、単純な対抗意識だったようだ。
シンは、ザフトの宿敵たるファントムペインだったこの男達に好感を抱いた。

そういえば、彼女もどこか浮世離れというか、抜けたところがあったよなあ。
シンの脳裏に回想シーンが流れ始め、海の匂いと、オートバイで受けた風が鮮明に蘇っていく。
……そういえば、放置したレンタルバイクの弁償でなけなしの退職金、消えたんだよな。
苦い思い出も再生されてしまった。サインする前にしっかり読んでおけば良かった。

「って、そんなのどうでもいい。ミューディー、ミューディーが」
「セーフティーシャッターが作動した。彼女は無傷だ」
「何が無傷だ! 全然繋がらねえだろうが! ミューディー、今助ける」
シャムスのダガーが大破したミューディー機に接近するが、それをスウェンが押し留めた。
「彼女の病気が再発した可能性がある。一人で抑えられると思うな」
「っ、そりゃあ…………分かったよ。
独りで無理はしない。二人で抑える、それでいいだろ」

するとグゥルで傍観していたフレイが、二人の会話を聴いて口を挟んだ。
「彼女、危険な状態なの? ああ、先に言っておくけど、私は生粋のナチュラルだからね」
シャムスと呼ばれていた、眼鏡を掛けた男が悲しそうに答える。
「……彼女はメサイア戦役中、今回と同じ目に遭ったんだ。
複数のケルベロスバクゥに嬲り殺しにされた。セーフティーシャッターでかろうじて助かったが、
機体を切り刻まれた恐怖で、閉所恐怖症、暗所恐怖症、犬恐怖症、コクピット恐怖症を併発したんだ。
やっと立ち直って、まともな生活ができるようになったばっかりだったのに。
……くそ! 改造人間共め、化け物共め!」

親しいものを傷つけられた怒りを滾らせ、シャムスは怨嗟の声を吐き出す。
ザフトだったシンからすると、すこぶる居心地が悪い。

「襲ってきたのもコーディネイター。助けに来たのもコーディネイターってことで、
チャラには───してくれないか」
誰にも聞こえないようにぼやくシン。今回の仕事は、彼にとって貧乏くじだったようだ。
246 ◆XGuB22wfJM :2007/04/15(日) 07:17:36 ID:???
シンが落ち込んでいる間にスウェンとシャムスは機体から降り、ミューディー機のセーフティ
シャッターを解除しようとしていた。二人の背に緊張感が漲っている。
「ちょっと待って、私のグゥルに鎮静剤が積んであるわ。用意するから、開けるのは少し待って。
シンは機体から降りないで、彼女と眼が合ったら刺激するわ」
「了解、周囲を警戒しつつ待機します」
「感謝する」

グゥルが着地すると、トランクケース大の大きな医療箱を持ったフレイが降りてきた。
中から一番強力な鎮静剤をシャムスに渡す。オルガ達にも効くように調整された代物で、
効果は保障済みだ。実験台にされたシャニは涙ぐんでいたけど。

フレイは念のため、麻酔弾の照準を大破したスローターダガーのコクピットに合わせていたのだが、
元ファントムペインの二人からやめるように警告された。
曰く、薬物の耐性が一般的なコーディネイター以上のため、効果が薄い。
銃器が視界に入るとただの暴走から、危険を排除すべく戦闘行動に移るかもしれない。
そうなった場合、無傷で抑えるのは難しいのでやめて欲しい。とのことだった。

そこまで言われ、フレイも納得して麻酔銃を下げた。ただし、仕事柄用心深くなったフレイは、
二人に気づかれないように麻酔銃を背中のベルトに挟んで隠し持つ。
状況によっては躊躇いなく撃ち込むだろう。

スウェンがコクピットの開放、ミューディーを抑える役目。シャムスが動きの止まったところに
鎮静剤を打ち込む役目。フレイは危険すぎるので遠巻きに見守るという役目に落ち着いた。
何も仕事がないシンは、たまらなくもどかしい。赤い眼というのは顔を覚えてもらう分には有効だが、
デメリットが多すぎた。こういう時は両親に恨み言が言いたくなる。今度、伊達眼鏡を用意
してみようかな。などと考え始めるのだった。
247 ◆XGuB22wfJM :2007/04/15(日) 07:19:25 ID:???
スウェンが強制開放のパネルを操作すると、錆付いた音をたてて、コクピットが開いていく。
中に光が差し込んだ筈だが、反応はない。
シャムスはミューディーを刺激させない為、隠し武器の要領で、一見して素手に見えるように
注射器を握りこんだ。

コクピットが開いてから30秒ほど経過したが、やはり何の反応も無い。
気絶しているのかもしれない。
四人に安堵が広がる。

彼女を引っ張り出すべく、スウェンがコクピットに入って、
「あぁぁぁぁっ!!!」
ケバい化粧の女性と共に、もんどりうって飛び出してきた。

二人は錐揉みしながら雪上を転げまわる。
「ミューディー、俺だ、スウェンだ。分からないのか? ちっ!」
スウェンが彼女から離れた。右腕が赤く染まっている。
ミューディーはナイフを所持していたのだ。

「スウェン!」
「問題ない。シャムス、次で止める。用意してくれ」
「分かった。確実に止めろよ」
「了解」

血走った眼をしたミューディーは、他人の言葉が耳に入っていないようだ。
その姿は手負いの獣、雪上の雌豹の如く獰猛さを放っている。
正気を失ってなお、培ったナイフ捌きは健在らしく、隙が無い。
「ミューディー、今、助ける」
「うぅうううぅうぅぅ」
ナイフを持った相手に、スウェンは素手のまま躊躇いなく飛びだす。追う様にシャムスも走る。

急所を的確に狙うナイフを、スウェンは右腕を差し出して止めた。そのまま筋肉を固めて逃がさない。
ナイフを止められたミューディーは、スウェンの目玉を抉り抜くため、空いた腕で貫手を
繰り出したが、今度はシャムスにがっちりと掴まれる。

「悪い、ミューディー」

両腕を留められたミューディーが蹴り技を放つ前に、首筋に鎮静剤を打ち込んだ。

そうして糸の切れた人形のように、がっくりと彼女は雪に倒れ付したのだった。



248通常の名無しさんの3倍:2007/04/15(日) 09:47:19 ID:???
GJ。
セーフティーシャッターw
249通常の名無しさんの3倍:2007/04/15(日) 12:33:04 ID:???
連合のセーフティーシャッターは化物か!?w
250アスカしっかりしなさい ◆YqJJJk6AAw :2007/04/15(日) 17:42:22 ID:???

「お疲れ様でしたー」
今日も無事に収録が終わった。いや、無事じゃない。演技とは言えアスランさんのメリケンパンチを食らったから奥歯がガタガタだ。
「おう、シン。大丈夫か?」
アスランさんが申し訳なさそうに手を合わせて謝ってくる。だけど目がなんか怖い。まるで王蟲の眼だ。
「ええ……なんとか大丈夫ですよ」
「そうか……そうなのか。老いちまったもんだな、俺も……」
アスランさんは謎の台詞を残し肩を落としつつ去っていく。どういう意味?
歯の治療費って労災にしてくれるかな。ああ、気が重い……。
「…………………………」
「うわっ!何ですかキラさん。えっ?NG大賞でお茶の間に浸透出来る?マジッすか?」
キラさんがいつもの様に気配を消したまま話しかけてきた。キラさんが言うのならそうなんだろう。いわゆる一つのオイシイってやつなのかな。
「シンさん、大丈夫ですか?私、心配です……」
今度はメイリンさん(役名)がやって来た。彼女はおたねこクラブと言うアイドルグループの一員だ。
おたねこクラブを鉄拳でまとめあげているとか、お姉さんよりも年上などと良く解らない噂の持ち主だ。代表曲は「血のバレンタインデー・キッス」だ。
「大丈夫だよ。俺は男だしね」
本当は死ぬほど痛いけれど、耐えがたきを耐えて忍びがたきを忍んで強がってみせる。
「男だったら大丈夫なんですか?」
メイリンさんは俺の瞳を覗き込むように見上げてくる。すげえ、なんだかラブコメ展開になってきましたよ?

「いつも眼が赤いシン・アスカに目薬をさしてあげたいーっ!」
しかしその展開は騒がしい雄叫びと共にかきけされた。
現れたのはダコスタさん(役名)だ。まさか人気バラエティ「進め!電種少年」のアポ無し突撃なの?
驚く俺をさし置いてメイリンさんは逃げたみたいだ。
「いつも眼が赤いシン・アスカに目薬をさしてあげたいって企画なんすけど、良いですか?」
ダコスタさんは不気味な笑いを浮かべながら目薬の蓋を開けて近付いてくる。
「いや、この眼は生まれつきで赤いんで目薬は……」
俺はジワジワと後退りながら答える。
「いやいや、そんな事仰らずに!」
「顔は辞めてくださいよ!俺は俳優ですから!」
「大丈夫ですよ!すぐ終わりますから!」
押し問答をしていると誰かに羽交い締めにされた。誰だよ!?
251アスカしっかりしなさい ◆YqJJJk6AAw :2007/04/15(日) 17:45:09 ID:???

「ダコスタくん、及ばずながら僕が助太刀するよ。さあ、存分に目薬をさしたまえ!」
……レイさんか!この前は優しかったのになんで?
「レイさん、ありがとうございます!それでは……ドピュッと一発!」
「なんか台詞がいかがわしいですよ!マジでやめてください!」
逃げようとしてもレイさんは俺を確り掴んではなさない。
……なんか柔らかい感触が背中に二つ……ポヨポヨしてて気持良いなぁ……。
「つーかレイさん!耳に息を吹きかけないで下さいよ!」
「嫌いじゃないだろ、こういうの。僕は君が泣いている姿を見てみたいんだよ。……駄目かい?」
酷い人だ。信じていたのに……。こういうのは嫌いじゃありませんが。
「シン・アスカに目薬をさしてあげたいーっ!」
ダコスタさんは笑いながら僕に目薬をさしてくる。強引過ぎて眼が痛い。
「ちょ……メチャクチャ痛いですよ!突っ込まないで!マジで勘弁して下さい!」
俺の叫びは虚しく響くのみ。俺に目薬をさして満足したダコスタさんは去っていき、レイさんは息をあらげながら俺を妖しげな笑みを浮かべて見ている。
「うぅ……酷い……なんでこんな目に……」「それは……君の瞳の罪さ。罪は罰をもって償わなければならないんだ。悲しい事にね……」
レイさん、意味不明です。だけどレイさんの持つ雰囲気によって説得力がある。これがトップスターの実力なのか。
「さあ、涙を拭きたまえ。君の涙はとても甘美ではあるのだけれど、無闇に人に見せるべきものではない」
綺麗なレースのハンカチを差し出され、俺は涙を拭いた。手触りがいいなあ。シルクなのかな。それに、良い匂いがする。
「すみません。洗濯して返しますよ」
レイさんは首を振り俺を見つめる。
「いや、それには及ばないさ。君に洗濯されても困る。君のパンツ等と一緒に洗われるのも悪くはないけれどもね……」
「はい?」
レイさんの言葉に首を捻る。パンツと一緒に現れたら普通は嫌じゃないのかな?洗わないけどね。
「いや、先程の言葉は忘れてくれたまえ。では、僕はこれにて失礼させて貰うよ」
レイさんはハンカチを綺麗に立たんでポケットにしまうと去っていった。

……しかし我ながら馬鹿だなあ。芸能人は顔は命だけど、アスランさんのメリケンパンチで凄い事になってる。治療費どうしよう?

──to be continued──
252通常の名無しさんの3倍:2007/04/15(日) 20:03:34 ID:???
 アスカーー、惚れられてますよー、注意してくださーーい。
面白すぎて困った。
253SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:14:41 ID:???
1/

 船体に当たる大小様々な多数のデブリが耐G処理の施された艦橋の椅子を揺らした。
状況を報告する専門用語と数字が飛び交い、コードの羅列が舞い踊っては流される。
閃光と爆炎がモニターを焼く艦橋は今、メカニズムの祭壇となって狂熱の最中にあった。
レーダーでしか捉え得ない敵を、電子の文言と鋼の呪詛をもって冥府に送る死の儀式が続いている。
 熱に浮かされた艦橋にあって、一人物思いにふける人物がいた。偶然ミネルバに乗り込んでいたに
過ぎないカガリだ。後部座席に設けられた特別席に腰を下ろし、体を覆う衝撃とGに反射的に応えながら、
うつむき加減の表情を崩さない。
(――流石奇麗事はアスハのお家芸だな!)
 格納庫に立ち並ぶMSをデュランダルが自慢していたのを多少皮肉交じりに受け答えした時、
階下から聞こえた少年の怒声だった。真紅の瞳が燃え盛る怒りを孕んでカガリを睨みつけていた。
 オーブからの難民だと直後にデュランダルから聞かされた。オノロゴの崩壊からたった二年である。
コーディネイターであったとしても、赤服になるには越えねばならない壁が幾つもあったはずだ。
 同僚にはシンと呼ばれていたあのパイロットも、二年前のオーブでは無力な存在だっただろう。
それが何の目的を持ってザフトに入ったのかは分からないが、いまや最新鋭機のパイロットとして
重要な位置を占めている。
 二年前の自分はどうだっただろうかと自問する。
 大戦の頃、自分は貧弱ではあったが、決して無力な存在ではなかったはずだ。国の意思と父の志に
反するわがままを許されていた。その力があった……正確には与えられていた。
 それにも拘らずカガリはひたすら我を通した。結果最も重要な局面で父の意を曲げる事が出来ずに
国を焼かれ、復興を手伝う事も為ずに其処から離れ、己の立場をテロ活動に貶した。
 認めよう、当時は熱に浮かされたように自らを省みる事は無かったがアレは間違いなく、穴があったら
入ってひきこもりたいほど、胸を張って堂々としたテロルだった。
 自分がオーブを離れず、父親を補佐する事が出来ていればと思わずには居られない。
理念が祈れば湧く物ではないと理解していれば、オーブは焼かれなかっただろうか? 
 父は今尚生きて、自分を導いてくれただろうか?
 父がオノロゴの炎に消えたその日から、カガリは毎日自分に問いかけ続けている。
 自分と大して年も変わらないようなあの少年は、力を求め、それを手にし始めているのだろうか。
 自分はこの二年間、与えられた力に振り回されて無為の時間を過ごしてきた気がする。
 大きすぎる力は争いを呼ぶと、自分はデュランダル議長にそういった。しかしそれならば争いを
起こさせない力とは、どれ程大きいものなのだろうか。
 人を疑うことをせずに生きていけるのならば、力などは必要ないのかもしれないが。
 ――確かに、私の言葉は奇麗言に過ぎないのかもしれない。
「代表……」
 椅子に深く腰を据える。腕を組んで内心自嘲するカガリに、隣のシズルが声を掛けてきた。
「――ああ、すまない。考え事をしていたんだ。格納庫で見たあのザフトレッドの事でな。
あのパイロットが自分で戻って来たいと思えるような国にオーブを変えてゆくことが、
これからの目標だと思ったんだ」
「代表……この状況で考え事とは、ウチが思っとったよりも肝が据わってはるんやね」
「……む?」
 よく見れば艦橋がこれまで以上の喧騒に包まれている。
254SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:19:26 ID:???
2/

「二番、三番スラスター再起動できません! ランチャーワン、ツー使用不能!」
「前衛のMS隊より再度通信。ゲイツはダガーの撃退に成功、こちらに向かっています。
ルナマリア、レイ、シンは敵部隊に抑えられています」
「左舷トリスタンの砲身が曲がって使用不能です」
「ボギーワン接近中。デブリの"晴れ"まであと二百秒!」
「岩塊に邪魔されて動きが取れません」
 副官、通信士、火器管制、索敵手、操舵手と次々に損害状況を報告してくる、
只一人静かなのは指示を下すべき艦長だ、口に手を当てて考え事を為ている。
 静かな顔をしているのは隣に座る議長とシズル、そしてカガリくらいのものだった。
 ボギーワンの攻撃に対応しきれなくなったミネルバは、小惑星の表面に縫い止められ、
大量の岩塊を浴びて動きを封じられていた。左舷側を下敷きに為るような今の格好は、
人間であればとても寝相が悪そうに見える。
 ボギーワンにとっても、デブリが邪魔をして有効な攻撃が出来ない時間となっている。
デブリが薄くなる――晴れた瞬間にボギーワンは接近し、主砲で狙ってくるだろう。
 デュランダルが口を開いた。
「ミネルバは動きの取れない状態です。恐くはないのですかな、姫は?」
「姫はやめて欲しいといったでしょう、デュランダル議長。……成る程オーブの将来に
思いを馳せている場合では無いな。こんなところでシズルとアレックスに死なれては私が困る」
 此処まで酷い揺れだったはずだ。それに気付かなかった鈍感さが少し恥ずかしかった。
「随員の方々を気にされるとは……御自身の事は心配ないのですか?」
「私が死んだ後を心配してもしょうが無いでしょう、議長」
 あえて艦橋全体に聞こえるよう大き目の声を出した。注目を集める。
「敵――ボギーワンがミネルバを攻撃してくるまでに後何秒残っている?」
 カガリは索敵手――バート=ハイムへ唐突な質問をぶつけた。指揮系統が自然と無視されて
唖然とするバートだったが、デュランダルとタリアの視線を受けて答える。
「ミネルバの基準を適用するならば、あと百五十秒でデブリの密度判定が"晴れ"となります」
「……後二分すれば戦艦の主砲が飛んでくるということだな」
 与えられた数字を二割ほど勝手に厳しくしてカガリはつぶやく。
「それで、左舷側のスラスターは後どれだけ残っている、それとビーム砲は?」
 自らの演技力を試すように自信に満ちた様を装い、カガリはメイリンに聞いた。
255SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:21:31 ID:???
3/

 ザクファントムの周囲をぶつかりながら飛び交うデブリの数は戦闘の開始から指数的な増加を遂げ、
典型的なケスラー=シンドロームの様を見せつつあった。打ち尽くした"ファイアービー"ミサイルの
影響だ。
 操縦席に収まりコントロールスティックを高速で操作するレイにも、ザクの胸部装甲を撃ちつける
デブリの雨が感じられた。スラッシュウィザード万歳。デブリを細かく細かく砕き、避ける事は
出来なくなってもそれがコックピットに入り込んでくる事は無くなった。

 ザクの頭部ほどの大きさがある岩塊を蹴り飛ばす。連続に四つ。
「これが人型を、モビルスーツを相手にするということだ――MAではこうも行くまい」
 三つはMAを直接狙った。音速にも達しない岩塊であればMAにとって回避は容易い。
一つは狙いを完全に外して遠ざかる。
 ――いや違う、MAの脇を通り抜けたかに見えた岩塊は漂う太陽電池パネルに跳ね返り、
逆方向から流線型の機体を襲った。交差するMAへ更にビームの光条が追い討ちをかける。
「不意をつき惑わせば、ガンバレルの動きが乱れる。思うがままに動く事が徒となったな!」
 動揺が有線で伝わり、ワイヤーが延びきった瞬間を狙ってビームライフルの一撃で狙撃する。
 MAは打ち抜かれたガンバレルをトカゲの尻尾切り宜しく排除。ザクへと果敢な接近を試みてくる。
「砲台の残りは二つ。これなら攻撃を見切る事も……出来る」
 残った三つの砲門から交互に発射されるビームを精妙な動きで躱す。舞踊の如くつかず、離れず。
宇宙における接近戦は動きの読みあい、詰め将棋だ。コンマ一秒の駆け引きが生死を分かつ。
Gとデブリとビームの閃光がレイの思考を埋めた。
 上下、二つの方向から放たれたガンバレルのビームを、機体を回転させてすり抜ける。
 至近弾となったビーム周囲に強力な電磁場をおこし必ずセンサーの感度を乱す。
機体の両脇を熱線に浴ぶられ、モニターを砂嵐に覆われて、しかしレイは心を乱さなかった。
 たとえ電子の目がMAを見失おうとも、その耳でその鼻で舌で肌で心拍で、
虚空を行くMAの存在を捉えていた。マニュピレイターを完全手動で操作する。
レイの五感六感がレーダーとFCSの能力を越えて機体を照準に収めた。
 ――絶対に当たる。
 レイは火線の行く先にMAの幻影をはっきりと感じた。パイロットごとビームの中に
焼き尽くすべくトリガー。しかし迸った火線は機体を翻したMAに回避された。
「このパイロット、後ろに目がついているのか……? それとも――こいつも!?」 
 レイはモニターの端に母艦の姿を見た。埋葬寸前の女神が小惑星の表面に張り付いている。
「ミネルバが動きを封じられている!? ボギーワンめ……!」
 転進しようとした瞬間、眼前のMAから届く思念がレイの脳裏に燦めいた。
「……行かせない、だと? ならば押し通るまでだ。お前の殺意だけで、俺の動きは止められまい!」
 敵のすべてを拒絶してやると言う感覚が何処からとも無く沸いてきた。最早レイは自分とMAの
パイロットとを繋ぐ何かの存在を疑っていない。自分の覚悟もまた、MAに伝わっているのだと言う
確信があった。
256SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:23:53 ID:???
4/

「行かせるか――!」
 細く頼りない感覚の糸を手繰り寄せる。敵からは何故か憎悪を感じない事が、照準を狂わせた。
 発射命令が下されてから荷電粒子が励起され加速グリッドに放り込まれる迄の
コンマ一秒以下のタイミングで機動を急変させたMAの至近をビームが通過する。
「ちっ……」
 必中を期して放った一撃を躱され、MAの突撃を真っ直ぐ受け止めざるを得なくなる。
背後には動きの取れないミネルバ、躱してしのぐ事は出来ない。
 ビームライフルの連射間隔を最短にセット。ビーム弾幕を形成しMAの進路を塞ぐ。
二撃、三撃。互いにもつれあいながら徐々にミネルバへ漂っていった。
「気付いているか? ザクのビームライフルはもうじき過熱によって使用不能になる」
 レイはザクの性能限界に近いレベルで精密な射撃を行うその合間に、MAのパイロットへと向けて
話しかけた。
 モニターの中、武装の情報を表示するエリアに赤いサインが灯る。冷却機構の能力を超えて
ビームを放ち続けたライフルが使用不能となった。
 ザクはビームライフルを放り捨てて反転、下がるザクをMAが追ってくる。
「――だが、ザクの武装がライフルだけだと高を括ったのが、お前の失敗だ!」
 ビームライフルを捨てたザクの進行方向にある小さな物体。それはザク両肩のシールドだ。
力なく宙を漂うシールドに追いつき、内部からトマホークを取り出す。
「避けられると思うなよ――!」
 ガンバレルを展開してミネルバを撃とうとするMAに向かってトマホークを投擲する。
 狙いは本体ではない。回転するビーム刃が切り裂いたのはMAとガンバレルとを繋ぐ強靭な
ケーブルであった。
 接続を断たれたガンバレルが名残を惜しむようにビームを吐き出し、虚空を穿つ。
 ガンバレルは全て潰した、しかしMA本体のビーム砲は未だ残っている
「ミネルバ――!」
 間に合わない、止められない、ミネルバが落される。
 炎の中にデュランダルが消えて行くという最悪の想像に背筋が震えた。
 次の瞬間、MAを上下から閃光が襲う。
 完璧なタイミングでMAを挟み込むように加えられた射撃をMAは辛くも回避した。
あえて完全な回避を狙わないやり方で、生きるためと、逃げるための最低限の機能を残す。
『よくぞここまで保っていてくれた、レイ君!』
「ショーン、それにデイル! 助かりました」
『礼は後で良い。それよりもミネルバを守りに戻るぞ、バレル!』
 緻密な連携で敵を撤退させた二人は前衛に出たMS隊の中で最も早くミネルバに戻ってきていた。
 二機がともにライフルを構えて威嚇すると、MAは流石に状況不利と見たのか撤退をはじめた。
257SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:26:05 ID:???
5/

 直後、ザクファントムのセンサーシステムに微かな異音が入った。カメラシステムの連続性に
異常が見られるという表示。ようは、宇宙が歪んで見えているという事だ。システムが歪みを捉えた
方向へと目を向ける。
 デブリに満ちた真空、その向こうに燦めく歪んだ宇宙の姿は、モビルスーツよりも遥かに大きく。
「ボギーワンです、回避を――! 近い!」
『むうっ!』
 ボギーワンから放たれたミサイルを、二機のゲイツRが迎撃した。背後に損傷したザクを庇う事も
忘れない。近くにひきつけて二門の"ピクウス"近接防衛機関砲で打ち落とす。散らばった破片如きで
損傷するモビルスーツの装甲ではない。
 ユニウス条約違反の技術、ミラージュコロイドによって姿を隠していたボギーワンが、
纏っていた暗闇を脱ぎ捨てるように灰色の艦体を現し、ミネルバに迫った。
 ボギーワンの両舷砲塔が開き、内側から対要塞砲レベルの主砲があらわになる。砲口の向く先には
岩塊に埋もれたミネルバが見える。
「ミネルバ……聞こえるか、回避しろ!」
 ゲイツRがビームライフルを放ち、ボギーワンの動きを止めようとするが、素早く展開された
ビーム撹乱膜によって荷電粒子は散乱され、コヒーレントを失ったビームはラミネイト装甲の表面を
軽く焦がす事しか出来ない。
 ボギーワンは止まらない。
 ビーム撹乱膜の輝きに隠れてレイのザクがグレネードを投げつけても、有効な損傷に至らない。
逆にボギーワンへと位置を知らしめ、ミサイルの第二波が三機のモビルスーツを襲った。
「武器が足りない――ミネルバが! こうなれば……!」
 ぶつけて止めるまでだ。覚悟を決めてスロットルを押し込もうとした直前、ミネルバがカメラを
焼くほどの閃光に包まれた。
「ミネルバ……応答してくれ、ミネルバ!」
『落ち着け、レイ君。あれはミネルバの攻撃だ。デブリを抜けるための布石だよ』
「何……!?」
 ショーンの言う通り、荒れ狂うデブリの中からミネルバの艦体が加速してきた。
白亜の女神へと向けて砲撃を加えようとしていたボギーワンを迎え撃ち、すれ違いざまに近距離から
トリスタンとミサイルでの攻撃を浴びせる。
 就航から丸一日と経っていないはずのその姿は、アーモリー・ワンの工廠に横たわっていた時からは
考えられないほど傷付いていた。装甲は所々が凹んでいる。砲塔もミサイル発射管も多数が崩壊して
攻撃能力を失っていた。
 損害の半分以上は小惑星から"離陸"する為に自ら負った物だ。ボギーワンと殴り合いをする余力は
最早無い。素早く信号弾を打ち上げたボギーワンに構う事も出来ずに宙域から後退する。
258SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:28:28 ID:???
6/

「……帰って来いって言われたみたいね? 寂しいわ」
 聞こえてはいないだろうが、ルナマリアはそんな通信を送ってみた。
ガイアは忠犬よろしく動きを止めている。
「律義よね。もう少しだけ攻めてれば私を落せたのかも知れないのに」
 スクラップ寸前のザクは、操縦席の端々からも不吉な火花を散らしている。精一杯の強がりは
ルナマリアの流儀だ。言いたいだけ言っておけば、地獄に行っても悔しくない。
 ガイアは身を翻して宙域を去って行った。漆黒のPS装甲はすぐに宇宙の暗闇に溶けて見えなくなる。
「さよなら」
 追う事は出来ない。機体がガラクタならばバッテリーも空だった。
 ガイアを見送り、ノイズの混じるレーダーを入念にチェックして伏兵の存在を確かめた上で、
ようやくルナマリアは一息ついた。
「ガイアって狼型よね。これが送り狼とかいう奴なのかしら? 後でシンに聞いてみようっと。
それよりミネルバまで帰れるかの方が問題だけど」
 レーダーをいじくってミネルバへ向かおうとするが、狂い掛けた航法コンピュータが酷使に音を上げた。
檄を入れる積もりでコンソールを叩くと、煙を吹きだして計記が全て停止する。ご臨終。
 気まずい沈黙が一人の操縦席に降りる。
「フ○○キン ア○ホー○! こうなりゃ目視で帰ってやるわよ。女の勘を……舐めるなあ!」
 ハッチを開放、目を凝らす。濃密なデブリの海といえども宇宙は広い。目印になるはずの小惑星でさえ、
距離があれば点にしか見えないのだ。はっきりとした目印は、地球と太陽と月だけ。
「……こっち!」
 適当にめぼしをつけて、ルナマリアはザクを進めた。


 最後の最後までコクピットへの直撃を避け続けたのは、流石にザフトレッドだということなのだろう。
信号弾の輝く原色を見ることが出来たのは、決してシンの幸運だけが要因ではない。
「はあっ……はっ……はっ……」
『撤退信号か……まあ今回は見逃して、これで十分という事にしておく。
結構手ごわかったぜ、アンタ』
 カオスは両の腕でインパルスのシルエットを抱えていた。
『この幸運がずっと続くように祈っておけよ? それから二度と俺には会わないようにしな』
「言われなくとも、二度と会いたくなんか無いよ」
『そうだな……それがいい。じゃあな、追うんじゃねえぞ』
 何気ない挨拶を電波の残響に残して、カオスは去った。終始インパルスを圧倒し続けた深緑の毒蛇を
見送るシンの体は、小刻みな震えに襲われている。
 そうすれば震えが止まるのだとでもいうように、シンはコンソールを打ち付けた。握りこぶしで三回。
「くそーーー!」
 シンが操るインパルスは最早、コックピットブロック――コアスプレンダーのみとなっていた。
「俺は……俺はザフトに入って、MSに負けない力が欲しかったんじゃ無いのかよ!
こんなに……完全に負けて。一体何の為に――!」
259SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/15(日) 20:30:56 ID:???
7/7

「追い返せた……のか?」
 薄氷を踏むような戦いだった。たった二十分程度の戦いを長く感じたレイは、ふと緊張を解いた。
操縦席にもたれかかるようにして息を付く。
 戦場では、そのようにして気を抜いた瞬間が最も危険だと言う。
『あ……居た』
 ショーンが発した言葉はそれだけだった。
 瞬時に加速したゲイツR一号機の胸部に、デブリの陰から放たれたビームが直撃する。
『貴様ァ――!』
 レイの叫びより早く、デイルの怒声が電波に乗って宙域に響く。ショーンの声は無い。
 驚愕の一瞬から素早く立ち直ったデイルの射撃によってダガーは沈黙して宇宙を漂う。
『ショーン――!』
 二号機は発射したビームライフルを放り捨てるとスラスターを吹かして一号機に向かった。
 ――駄目だ、行ってはいけない。
 レイの、声にならない声などデイルには当然聞こえない。
 デイルは一号機に近づき、ビームに焼かれたコックピットに同僚の姿を探す。
『ショーン、何処に居る。どうせ脱出したんだろうが、お前は』
「デイル、ショーンは――!」
 レイにははっきりと見えていた。デイルは見ていなかったかもしれない。
 ショーンは脱出しては居なかった。
『こんな所で巫山戯るな、如何した、早く通信を送れ……聞こえんぞショーン?』
 デイルの動揺を表すように、ゲイツRの二号機は過剰な動きでレーダードームを動かし、
見つかるはずの無い射出座席を探している。
「落ち着いてください、ショーンは……脱出しては――」
『黙れ、バレル! おい、返事をしないとミネルバにおいていかれるぞ、マクドナルドの次男坊!
これ以上家の恥を晒す気か……声が……小さいじゃないか、随分――!』
 動きを止めた一号機を捕まえて、デイルの二号機は宙を漂うダガーに向かってビームを叩き込む。
ダガーの原形を留めないほど破壊して、先ほどの一撃を無かった事にするために。

『ミネルバは……無事だったのか。良かった』
『ねえ、レイ。どうして一号機のシグナルが……ショーンは?』
「シン、それにルナマリアか。ミネルバは大丈夫だ。だがショーンが……ショーンが――』
 帰ってきたザクとインパルス。その損害の大きさに驚くことも出来ず、レイは言葉を失う。

 避けることのないダガーはビームを受け、形を失くして行く。やがて、バッテリー切れを起こして
停止したゲイツRから悲痛な叫び声が聞こえてきた。
『ショォーーーン!!』
260通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 00:42:15 ID:???
『†』氏キタ━━━━━━━━━!!!


更新乙です、お待ちしておりました。

カガリの自問自答が良かったです、悩み悔やみながらも代表としての自分をちゃんと認めるカガリ。このカガリならオーブは大丈夫。
まだ動きがあまりない議長とラクス達がどうなるか不安ですが…。

レイの戦闘が熱く、パイロット達の熱も伝わって来ました。
毎回続きが楽しみです。
261週間新人スレ:2007/04/16(月) 13:29:37 ID:???
職人さん大挙来訪。贅沢な週末
今週号目次


彼の傍らには彼女の姿は無い。慰霊碑の前で出会ったシンとキラは・・・
「もしも種死でキラの傍にラクスがいなかったら(仮)」
>>222-224

ザフトの少女が見た、もうひとつのヤキン・ドゥーエ戦役!
彼の草原、彼女の宇宙(そら)
>>226-231

動乱の宇宙、オーブを救うためサイ・アーガイル再び起つ!
機動戦史ガンダムSEED 
>>235-240

公共事業からモビルスーツ戦闘まで!何でも屋ドミニオンへの今日の依頼は?
何でも屋ドミニオン
>>244-247

新人芸能人、シン・アスカの明日はどっちだ!?
アスカしっかりしなさい
>>250-251

混迷を極める情勢の中、ザフトの新型艦ミネルバは出航する!
SEED『†』 
>>253-259
262通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 15:02:55 ID:???
SEED『†』氏乙です
このカガリはヨウランの失言の際には本編とは違う感じで意見を言いそうですね
で、シンの突っかかりにもただ「お父様が〜」とか泣くだけじゃなく
シンの言った事をちゃんと受け止めた上で言葉をかけようと心がけそう
ただ、シンも自分の気持ちとか制御できない性質だから簡単にはいかないだろうケド
263通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 15:34:28 ID:???
昨日は豪華連載だったんだね。三氏ともGJです!

>>261
GJですよ編集長w
264種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/16(月) 23:43:43 ID:???

ぼんやりと浮かぶは赤い影。陽炎の様にあやふやにふらふらと漂っている。
影は揺らめきながら次第に人の形へとなっていく。はっきりと実体を伴うと目をパチクリとさせる。
「……死んだと思えば死にきれずに蘇る……か。」
蚊の鳴くように小さく呟くと自分の手を月に照らしてみる。
少年は確かに実体化している。人として生きる事も出来なければ死ぬ事も出来ない。何故ならば少年は神の血を引いているから。
遥かな昔、天から下界に落ちた天女は偶然出会った男と恋に落ち、子種を二粒作った。子供は神と人の血を受け継ぎ強大な力を持っていた。
ある人々は崇め敬い、ある人々は恐れ忌み嫌った。
敬う人々は大江山に神殿を作って今で言うカルト教団を作り出し、忌み嫌う人々は神殿を襲い全てを血祭りに上げた。
しかしたった一人、神の血を受け継いた子供が助かった。それが少年──黄川人だ。
彼は朱点の鬼となりこの世を滅ぼす災厄となった。しかし鬼は退治されるのが世の習わし。ある一族に討伐されて死んだ……筈だった。
何故かは解らぬが黄川人は黄泉路の果てから甦って今ここにいる。蘇ったのならば再びこの世を滅ぼす災厄となる。恨みはそうはなくならない。簡単になくなるのであれば戦争なんて誰もしない。

不意に黄川人は空を見上げる。懐かしい気配を感じたのだ。そう、もう一人の神の血を受け継いだ人物がいる。──黄川人の姉だ。
姉は死んで神となったが、何故か生まれ変わりがいた神となった姉はある一族を作り出し、生まれ変わりの姉はある一族に仕えて一人だけど二人で鬼の討伐を手助けした。
故に、黄川人は姉に歪んだ感情を持っている。
「……姉さんもいたんだ……?今度は失敗しないよ。必ず……ね。」
黄川人は唇を歪める様に笑うと空を睨んで耳を澄ました。
微かに聞こえるのは恨みの唄。極上の憎悪が奏でる不協和音は黄川人を誘う。
「へえ、面白い。手駒にしてみるかな」
爆ぜる様な音と共に黄川人は闇へと溶ける様に消えて行った。
265種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/16(月) 23:46:55 ID:???

道端に落ちているのはモノを喋らぬしゃれこうべ。野晒しとなりて無惨な姿で恨みがましく赤い空を睨んでいる。
モノは言わぬが確かに聞こえる怨みの声。小さくか細い声なれど、判る者にはしっかり判る悲哀と憤激。
僅かな差で父母より早く死んだ為に賽の河原で石を積み上げては鬼に崩され続け、無垢な心は歪み果てた。
鬼のいぬ間に現世に戻ってみれば肉体はすでにしゃれこうべ。
怒りと悲しみに狂いながら世界を焼き付くす程の恨みを吐き出し続けている。
人を呪い、世界を憎めば穴二つ。捨てる神有らば拾う神有り。恨みの唄に誘われて、この世に仇なす朱点の鬼が少年の姿でしゃれこうべの傍らに隙間風の様に現れる。
「へぇ……?あの一族もこうもなれば哀れだねえ。散々利用され続けてポイ捨てか……」
少年は口許を歪める様に笑い、しゃれこうべを手に取り語りかけた。
「この世を憎むのなら僕が力を貸してあげるよ。なあに、君と僕は兄弟みたいな物だからね。困った時はお互い様さ」
しゃれこうべはカタカタ震えて聞こえぬ声をあげる。
「憎い、恨めしい。この世が私をこんな姿にするのなら、私は世界を滅ぼす災厄になりたい」
少年はクスリと微笑みしゃれこうべの額に口付ける。
「君に幸あれ。この世に災いあれ。全てを滅ぼす力を君に……」
爆ぜるような乾いた音が響き、しゃれこうべは光始め、人型になって行く。光が晴れて現れ出たるは一人の可愛らしい女の子。首には妖しい光を放つ朱色の首飾りをしている。
少年は少女の姿を見て目を丸くする。
「うん、どことなく姉さんに似てるな……。君は姉さんの血を深く受け継いでるみたいだね」
少女は戸惑いながら自分の姿を確認して微笑みつつ少年に礼を述べる。
「ありがとう、知らない人。えーと、貴方の名前は?私はマユ。マユ・アスカ」
「知らない人なんて酷いなぁ。僕は黄川人。朱点の鬼さ」
マユは黄川人の言葉を聞くと退屈そうに足元の石を蹴る。
「マユつまんなーい。二人だけじゃ世界なんて滅ぼせないじゃん」
マユの仕草に黄川人は苦笑いをしながら語りかける。
「世界を滅ぼすなんて君と僕の二人がいれば簡単さ。なんて言ったって君はあの一族なんだからね。力に目覚めれば何でも出来るさ」黄川人の言葉を聞くとマユは目をキラキラと輝かせる。
「本当に?私のお兄ちゃんを殺せる?酷いんだよ、お兄ちゃんって。お墓を作ってくれないしお線香すら立ててくれないの」
266種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/16(月) 23:50:14 ID:???

「それは酷いなぁ。そんなお兄ちゃんならマユに殺されて当然だよ。」
マユの言葉に頷きながら黄川人は甘い声で囁く。
「ものは相談なんだけど、僕の母さんになってくれないかな?僕は長いこと一人だったから寂しいんだ」
マユは吹き出す様に笑い、黄川人哀れむ様な視線で見つめる。
「友達でも恋人でもじゃなくてお母さんなの?黄川人ってマザコン?」
黄川人はマユの視線に悶えながら桃色吐息を吐き出し狂った様に笑い始める。
「くはははは……その瞳だ。その瞳が姉さんを思い出す……」
「えーと、マザコンでシスコン?キモいから死んじゃえば良いのにー」
マユは黄川人を見て呆れ果て溜め息を吐き、手を合わせむにゃむにゃとお経をあげる。
「酷いなぁ。そこまで言うかい?」
黄川人は肩をすくめてうなだれる。声は笑っているのだが瞳は笑っていない。マユはそんな黄川人を意に介さずあっけらかんとししている。
「いーよー。別に減るものじゃないし暇だからマユが黄川人のお母さんになってあげる」
黄川人はクスリと笑って空を見上げて天を掴むかように手を伸ばした。
「手始めに伯父さんをさっくり殺しに行こうか。死んだ人間の恨みを教えてあげないとね。体に刻み込めば忘れないこと受け合いさ」
「さっくり殺るのは反対ー。ゆっくりと後悔させながら奈落の底に落とそうよ?マユはお兄ちゃんが泣いても許さないもんね」
黄川人はマユの言葉を聞いてフフフと仄かに笑みを浮かべる。
「じゃあ、まずは友達を探そう。友達100人の百鬼夜行でびっくりさせれば面白いに決まってる」

黄川人の声にマユが頷くと太鼓を叩くような音が轟き二人は風の中にかき消える。
災厄の訪れを予言する様に空には赤い一番星が妖しく輝いていた。


──to be continued──
267種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/16(月) 23:52:08 ID:???
投下終了。サブタイ入れ忘れ
序章 歪んだ弟と妹、出会うの巻き
268通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 01:59:26 ID:???
種の屍氏乙。

これは新シャア二次初ファンタジー系SS…?
設定はなかなか良いけど、いきなり鬼と神と天女などなど、種と
関係ない昔話で始まったから風景と舞台背景の説明文が
もう少し無いと、少し物語に入りづらいかな…と言った印象も。
しかし設定は面白いので更新は頑張って欲しいです。





ところで、黄川人って何と読めば良いのですか?
269通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 02:56:39 ID:???
俺の屍を越えてゆけのクロスか

ただなんかこの出だしアルファシステムのスレで見たような感じがする
気のせいか?
270 ◆YqJJJk6AAw :2007/04/17(火) 07:02:05 ID:???
気のせいじゃないよ。俺があれを士魂号スレに俺が投入してたんだから。書いてたら話が脱線してきて士魂号を出せなくなったから打ち切ってたけど、ここに移動して再出発。

ちなみに黄川人は「きつと」と読みます。
271通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 07:11:13 ID:???
マユ主人公ならマユスレに行けよ
272通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 07:23:02 ID:???
>>271
>>264->>266の職人さんは過去にマユスレに誘導されたにも関わらず住人に追い出された
経歴があるから、マユスレには絶対に行かないと思う。

個人的にはこのスレではなくクロスオーバースレに投下をすべきだと思う。
273通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 08:23:05 ID:???
>>271-272
それが世界の選択なのよ?

何処に投下するかは当人が決めればいい話
投下先に云々とはテンプレにもあるしね
274弐国:2007/04/17(火) 18:24:38 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

第5話 重圧(1/6)

 オーブを落とした連合が、今度はザフト占領下のビクトリアに大規模侵攻を行った。
後に第三次ビクトリア攻防戦と呼ばれるこの戦いに於いて、ビクトリア宇宙港は連合が奪還を果たす。
この結果を受け、既にザラ派のみとなったプラント最高評議会は翌日には宇宙戦力の増強を決議した。
そしてこの状況下ならば、当然最前線に配置されるべきモンロー隊は急遽本国へ呼び戻されていた。

「我々に何をさせたいのか、理解が出来ません」
 特務隊ガスコインのオフィス。先ほどまで一緒に来ていたイアハートの艦長とダン、サーシャの3人は
既に帰されている。
「モンロー隊に何をやってもらうのが良いのかわからんのだ、正直なところ」
「はぁ?」
「これから話す『独り言』には特務隊の守秘義務に絡む話がある。そしてそれは勿論キミに話す必要は無いのだが、
知りたいだろうと思うので10分少々耳を塞いで居てくれ」

 NJC搭載型の新鋭機X10Aフリーダム強奪に端を発し、クライン派の逮捕拘束、アスラン・ザラの特務隊編入。
そこまではモニカも知っていた話だ。その他にフリーダム強奪の手引きをしたのがラクス・クラインであるらしい事。
そのクライン派に対する親衛隊や特務隊の行動が実際は弾圧、粛清である事、オーブの姫は災厄を逃れて宇宙にいるらしい事。
行方不明の『足付き』が宇宙にいるらしい事。そして強奪されたフリーダムと共にオーブのクサナギと行動を共にしているらしい事。
戦況を鑑みてプラント本国への侵攻の為に連合が月に戦力を結集させつつある事。
 『独り言』が終わったガスコインは小さくため息を吐く。
「だからさ、モニカ。キミに何をさせたら良いか、俺がわからんのだ。だいたいフリーダム強奪すらクライン派の粛清を
視野に入れたザラ派の陰謀の可能性がある。ラクス嬢が監視カメラにはっきり姿を残しているとか、派手過ぎるからな。
その辺は、まぁ考えればキリが無いし、口にするだけでもホントはマズイ」
 モニカとしては沈黙するしか無い。
「今のところ国内は平穏だが、何も無いとも言い切れん。特務隊とは言え俺なんかは下っ端だしな。こういう言い方は何だが、
正直な所は使える手駒を手元においておきたいんだ」
 情報をつき合わせて考えられるのはクライン派の武装蜂起か。テロに備えて臨戦待機など趣味ではないが仕方がない。
使える手駒。と言われれば踵をそろえて敬礼するしかないモニカである。



 ふう。隠しファイルの裏報告書をとりあえずある程度書き上げたイシカワは息を吐く。どうやらコンゴウたちと同じ機種を
オーブ、ビクトリアと投入して多大な戦果が上がったらしい。第2世代型のXシリーズMSは構造から言って普通の人間、
ナチュラルどころかコーディネーターでさえ操縦するのにはかなり無理がある。
設計を見る限りは運用に特化した生体CPUを使う事が前提のようだ。
ならばコンゴウ達以外にも人道にもとる行為をなされている子供達がいることになる。許しがたい話だ。
そして報告書を書いたは良いが提出する先が無い。司令部だって全体となればブルーコスモスの息がかかっていないかは怪しい。
命令を下した参謀には一応渡す事になるだろうが、その先はどうなるものか。彼だって消されたくは無かろう。
 全く……。呟くと報告書をネットワークからは外れた機器へとしまいこんで別の原稿をモニターに引っ張り出す。
明日までに殆ど暗記しなければならない。コンゴウ達は気になるが自分の仕事も疎かには出来ない。
やれやれ。再度呟くともう何度も目を通した原稿を読み返し始める。
275弐国:2007/04/17(火) 18:27:35 ID:???
第5話 重圧(2/6)

『モンロー隊全艦にコンディションレッド発令! 総員戦闘配置に付け! 繰り返す……』
「本国の港でいきなりコンディションレッドとは何事だ?隊長」
「知らないわよ、ガスコイン氏に直接聞いて。それより艦長、すぐに出せる?」
「今やってる。イアハート単独なら20分、スコットとカワグチを待てば50分だな」
「イアハートだけでも先発で出る、15分でお願い! モンロー隊、全艦緊急発進シーケンス開始!
スコットとカワグチは体勢整い次第追随! MS即時発進体制、ダンが何処に居るか確認して!
ガスコイン氏と連絡、まだ取れない!?」
 いきなりガスコインのオフィスからアラートが来た。目標はプラント本国真正面の宙域。
『艦一隻の拿捕、若しくは撃沈』の命令が付いてきたものの、艦種も艦名もわからないでは対処が
出来ない。だがガスコインが現地に向かう事それ自体を命令として発令したのであれば、
立場的にかなりマズイ人間の反乱か、若しくは逃亡。いずれにしろガスコイン、若しくは特務隊の
『手駒』が現地に居なければ問題があると言う事か。他の部隊にもスクランブルはかかっているだろうが、
行くだけではまず済むまい。モニカはそこまで考えると再度声を張り上げる。
「上陸中で間に合わないものはおいて行く! 緊急発進急げ!」



「…また、選考基準に満たなかったものについても恥じる事は無い。
MSパイロットとしての活躍が出来ないだけの話であり、今回の教習課程自体は
諸君の今後の活動に必ず役立つはずだ…」
 イシカワがホールで演説をぶっている。教導隊の解散式。ついにパイロット29名を戦場に送り出す事になったのである。
自身も既に指揮官としての配置が決まっている以上、できる事なら教導隊の枠組みのまま実戦部隊にしたかったのだが
情勢がそれを許さない。MS量産が軌道に乗ったいま、どの部隊でもパイロットは欲しいのである。

「ね? イシカワはどっか行っちゃうの?」
「多分な、あいつはただのオッサンじゃなくてエライヤツみたいだし」
「あたし達も一緒に連れて行ってくれないかな? 担当官をアイヒマンと交代してさ」
 演説をモニターで見る生体CPUの二人。初めての兄弟以外のオトナの『仲間』。
軍隊と言う組織が良くわからなくとも、教導隊が解散すれば異動になるだろう事は二人にも容易に想像がついた。
 サファイアが言う可能性にしても、実は控えめではあるが可能な限りイシカワは動いていた。
が、想像以上に機密の壁は厚く、結果二人を連れ出すのは断念せざるを得ない状況になっている。
連合軍もブルーコスモスも一介の将校がケンカを売れるような組織ではない。
コンゴウはイシカワの言葉の端々からこの事実を読み取っていた。
「無理、だろうな」

「…諸君のチカラで平和を掴み取り、いつか此処での経験を肴に上手い酒を酌み交わせる日が来ることを希望する。以上!」
「きをーつけぇーっ! 敬礼っ!」
276弐国:2007/04/17(火) 18:31:22 ID:???
第5話 重圧(3/6)

『…どうか船を行かせて下さい。そして皆さんももう一度、私達が本当に戦わなければならぬのは
何なのか、考えてみて下さい。』
 ボアズ、ヤキンドゥーエからスクランブルのかかった部隊のジンやシグーが固まる。
ザフト船籍のピンクに輝く戦艦。そこから発せられる【プラントの歌姫】こと国民的アイドル、ラクス・クラインの声。
たとえ反逆者の烙印を押されていようと自らの発砲でラクスを殺したいものはいるまい。

「あと、どれくらいかかるの!?」
「3分で作戦宙域到着! MS発進準備完了」
 出遅れたイアハートのブリッジ。エターナル発進時の画像とデータを見ながらいつも飄々としている
彼女にしては珍しく、イライラしている様子のモニカ。

『目標はザフト船籍戦艦FFMH−Y101エターナル。拿捕が困難と判断した場合は撃沈せよ』
 出発2分後に目標の詳細が届いた。サーシャには黙っている話ではあるが、直接話をした事こそ無いにしろ、
モニカはバルトフェルドを隊長としての、【心の師匠】として信奉していた。
そしてエターナルに艦長として就任している事はガスコインから聞いている。
今もきっと指揮を取るのは、バルトフェルドその人であろう。彼なくしてはアレほど鮮やかに発進出来る筈は無い。
少なくとも港の管制官ならばラクスの声に固まったりはするまいし事実、破られたものの港を閉鎖している。
ラクス・クラインが危険人物である旨のアナウンスは既にザフト全軍に通達されている上、平時であっても命を預かる
彼らの判断は、常に冷静だし命令には忠実だ。その彼らを出し抜いてエターナルは発進した。
 そう考えれば目標のエターナルにはプラントの歌姫と砂漠の虎。ザフトに対してかなり影響力が大きいと思われる
二人が乗っていることになる。落しても、拿捕しても、その後どうしたものか。
確かに事態収拾には特務隊のごり押しが必要ではあろう。モニターを見ながらモニカはそう結論する。

 いずれ他の部隊に何かをされるわけにはいかない。とは思ったのだが、結果的に出遅れた。
「我が隊の目的はエターナルの拿捕である! MS全機発進、エターナルの主砲、並びにミサイル発射管を潰せ! 
主砲、ミサイル発射管、準備は良い!?」
「MSデッキ。発艦許可下りました。発進、どうぞ」
『クルーガー。シグー、出る!』
 既にエターナルにはミサイルが飛んでいる。艦載機が無いはずだがアレでは持つまい。
だからと言ってイアハート1隻でどうにかなる事ではないのだが、どうしたものか。
だいたい砂漠の虎と呼ばれた男がそれなりの覚悟を持って指揮を取るなら、果たしてやすやすと拿捕なぞさせるだろうか。
何か対抗策があると言うのか……。
「グリーン15、マーク1チャーリーに所属不明MS…あれ、ライブラリに? データ照合完、え?……。エッ、X10Aフリーダムと確認!」
「…っ! 何ですって!? 大至急特務隊に緊急回線開け! MSは発進待て!」
『サーシャ・ニコラボロフ。シグー、行きます!』
277弐国:2007/04/17(火) 18:33:06 ID:???
第5話 重圧(4/6)

「一応断って置くが、此処で見聞きしたものは連合本部はもとより国元の…」
 イシカワは踵を鳴らして敬礼すると言葉を遮る。
「勿論であります。閣下のご厚情により、技術将校として見聞を広められたことを光栄に思って居る
ところであります。データもコピーしておりませんし、報告書もその事には一切触れておりません。
既にそれに関しては検閲も終了して居りますので詳細はケール憲兵大尉にお聞き下さい。
出立が2時間後ですので自分はこれで失礼致します。閣下のご恩は一生忘れません」
 とは言いながらGに関してはいくつかデータはコピーできた。生体CPUに関してはまるで手が出せなかったが、
戦況が落ち着くまで二人が生き残ってくれれば、司令部の特権を生かして手の打ちようはあるはずだ。
自室の前まで来ると、廊下に見慣れた青とピンクの服が立っている。彼を待っていたものらしい。

「ね、行っちゃうの?」
「すまない、俺はそれを自分で決めるわけには行かないんだ」
「また…会えるんだよな?」
「あぁ、今度会うときはもっと偉くなって二人とも俺の部下にしてやる。だから生き残れよ?」
 表情を変えずに涙を零し始めるサファイアと、口をへの字に結んで彼を見上げるコンゴウ。
「……これで良いのか? 部下ってこうやって挨拶するんだろ?」
 敬礼の形をまねるコンゴウ、サファイアもそれを見て涙顔のまま同じく敬礼の形を取る。
「コンゴウ少尉、サファイア少尉。諸君らの健闘を期待する! また会おう!」
 イシカワは帽子を被りなおし最大限背筋を伸ばして、声を張り上げると二人に敬礼を返した。
何もしてやれない自分の無能さを呪いながら。何が将校か、何が司令部付きか。
たった目の前の子供二人さえ守ってやれないではないか! 何のために軍人になったのか!
 いきなり二人をまとめて抱きしめる。
「ちょ、オッサン…。何を…」
「黙れコンゴウ! 俺の部下になったおまえらへ初めての命令だ! 両名とも生き延びろ!
……おまえら。絶対死ぬんじゃないぞ…。俺が迎えに来るまで」
 そのまま3人は士官室前の廊下でいつまでもそのままでいた。
278弐国:2007/04/17(火) 18:36:19 ID:???
第5話 重圧(5/6)

『お嬢。今さっき、隊長サマが何か言ってなかったか?』
「例のX10Aフリーダムが出たそうです。そのせいで私以降は発艦中止です。エターナルに合流するのなら
色々問題、ありそうですよね?」
『そういう問題には俺は興味は無いな。それよりデータ以上の事、何か知ってるか? 
たった1機で何をするつもりだと思う? フリーダム』
「私の意見はともかく、隊長も良くわからないと。ただ大出力の火機を同時に連射できるのは
間違いないです。NJCのおかげでエネルギーの余裕が半端じゃないですから。
今わかる事といったら、後はカタログデータ上の出力スペック詳細不明とかマルチロックオンとか何とか」
『まぁ良いや。ジンに気を取られてる隙に後ろに回る。アレも鹵獲した方が良いんだろ?』
「特務隊の命令書は鹵獲若しくは破壊、それと、係わったものの完全排除になっていた筈です」
『おっかねぇ話だな……。行くぞ!』

 エターナルを背中に虚空に浮くフリーダムは全く無防備に思えた。
が、エターナルに殺到するミサイルを事もなく全て叩き落した上で、自らに撃ちかけられたライフルなどの
砲撃は全てかわして見せた。包囲を詰めるMS隊。フリーダムが数回瞬いた様に見えた。
その間、まさに一瞬。1秒にも満たない僅かな時間。フリ−ダムから目を転じるとウデや頭をもぎ取られて
戦闘不能になったMSが量産されて虚空にただよっている。
「いっ、今のはなんですか、ダン! えと…マルチ・ロックオン? そんなの無理っ、人間ワザじゃ……」
『しっかりしろ、お嬢! なんだかわからんがうかつに近づくと危険だ。とりあえず今のデータを解析しろ。
救助は他の連中に任せる、距離をとって向こうの動きを見るぞ。スレイブ設定良いな?離れるなよ!』

 群雲の如くエターナルに向かっていたMSは、フリーダムたった1機のせいで既に数を半減されている。
艦載機無しの戦艦を拿捕または撃沈するのが命令であればD装備の機体も多い。
只でさえ機動が鈍くなる上に、例の新型Gを明らかに上回る機動性と異常なまで火力、
それらを寸分の狂いも無く操り火器とメインカメラのみを潰すという操縦テクニックを駆使するフリーダム
が相手では勝ち目は無い。運良く近づいたものも次々ビームサーベルの餌食になる。
勿論火器とメインカメラのみが獲物だ。現状一太刀とて浴びせたものは居ない。
そしてその間ザフト最速の高速艦エターナルは加速を続け、間もなく巡航速度に達しようとしている。
『くそっ逃がすわけには』
「出すぎです、ダン! マズイですっ! フリーダムの射程に!」
 全く背後のシグーを意識したようには見えなかった。だがまたしても一瞬の後、
モンロー隊所属のシグー2機は左右のマニュピレーターのみを失っていた。
「せ、戦闘続行不能。なにも…なにも出来なかった……」
『な、何が起こったんだ……? 何も見えなかった……おいお嬢、生きてるな?』
「はい、ダン。一応生きて、ます…けど。私たち、何しに、来たんでしょうか……?」
 何のための赤い服なのだろう。それを思うのはモンロー隊配属以来何度目になるのか、
己の赤いパイロットスーツの胸元をぼんやり見つめるサーシャを尻目に、エターナルはフリーダムを
従え悠々と遠ざかっていった。
279弐国:2007/04/17(火) 18:39:59 ID:???
第5話 重圧(6/6)

「財団から謝意が届いている」
「は?」
 ウィリアムズの自室。襟元を緩めてくつろぐウィリアムズと直立不動のアイヒマン。
「オーブとビクトリアに正式なアレを投入したらしい。こちらのデータを見てかなり感情や人間性の
部分をかなりそぎ落としたようだな。なかなかの戦果を挙げている」
「役に立ったと言うならば良かったのですが。正直こちらは初戦以外は目立った戦果もあがらず」
「テストだから良いのだろう。アズラエルが現地で指揮を取ったと財団の担当は威張っていたぞ?」
 口元には嘲笑の笑みが浮かぶ。
「それはなんとも…」
「現地指揮官殿は宇宙(そら)へ上がって来るそうだ。出来ればご一緒したくないものだな。ハハハ……
それはともかくイシカワ大尉だが、大丈夫なのだろうな?」
「検閲の結果は異常ありませんし切れ者ではあるのですが、それ故本国の司令部でも煙たく思っている
ものもおるようです。連合全体ならばますますでしょう。仮に情報を入手しても外に出す手段は無いと思われます」
「ならば良かろう、キミも一杯どうだ? 勤務時間はもう過ぎたろう?」
 返事を待たずにグラスに琥珀色の液体を注いで渡すと自分も杯を取り上げる。
「青き清浄なる世界のために……」



「もう見えないや…」
 休憩室の窓からイシカワの乗ったドレイク級を見送る不完全な生体CPU達。
「帰るぞ? 此処に居たってしょうがない。誰かが来ればまたケンカになるだけだ」
「ねぇ? イシカワの部下になったら、コンゴウはケンカしないでもよくなる?」
「あぁ、多分。な」
「イシカワ、早くエラく成れば良いのに。そしたらあたしたち、キチンと部下になれるのに…」
 自分達に気を使ってそう言った事はわかっているつもりだったが、ついイシカワの部下。
という言葉に反応する自分を責める気にもならない。だが部下になれば、散歩の途中のサーシャには
もう会えないだろう。と何の理由も無くそう思うと胸が疼く。この感覚の意味は良くわからないが
不快なだけではないということに最近気付いた。
 いずれにしろ、イシカワの命令でもあるし先ずは生き延びる事だ。
死んでしまってはイシカワの部下もサーシャの散歩も全て無くなる。
その為にはアイヒマンに従わねばならない事に思い当たり嫌なものを感じる。
最近わかった事だが、今は俺達はあいつの部下だと言うことなのだろう、多分。それでも。
「あいつには、敬礼なんか絶対するもんか!」

次回予告
少女と少年。また出会っってしまったのは運命の悪戯か。
銃口越しでしか会話の許されない二人の間に横たわる溝は、いよいよ暗く、深い。
第6話『決意』
280弐国:2007/04/17(火) 18:42:17 ID:???
今回分以上です。ではまた

>>233
もしかすると、やっちゃいましたか・・・熱紋、にしたら意味は通ります?いろいろ自信がなくなってきますたorz

>>234
当然見た事はあって、最後まで読ませる吸引力と言うか流れと言うか普通にそういう部分は凄いなと
内容は自分がとやかく言う事では無いと思いますし、すぐ上におられるようですので此処では控えますw
箱庭系=一幕物+アクション無し+大事件無し+MS当然無しみたいな認識で良いんですかね?
いずれ自分には無理かと思いますが・・・
281通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 21:32:14 ID:???
>>280
熱紋でしたか。

第6話も期待してますのでよろしく。
282アスカしっかりしなさい ◆YqJJJk6AAw :2007/04/17(火) 23:12:34 ID:???

「おはようございまーす」
収録も終盤にさしかかって来てるけどますます出番が減ってきた様な気がする。でも、あまり気にしないでスタッフや他の出演者の人に大声で挨拶をした。
……?なんだかおかしい。空気がピーンと張り詰めている。まるで切れたナイフだ。いや、違う。それはハイネさん(役名)のあだ名だ。
ルナマリアさんが俺を見ると小走りでやって来て耳元で囁く。
「タリアさん(役名)とマリューさん(役名)が鉢合わせしちゃったのよー。それでもう大変よ」
タリアさんとマリューさんは小さい頃からアイドルとして活躍しているんだけど、険悪なまでに仲が悪いらしい。理由は昔二人は髪をピンクに染めていてキャラが被っていたからだとか。
「マジっすか?今日の収録やばいじゃないすか……ってぇ!耳に息を吹きかけないでくださいよ!」
どさくさに紛れてルナマリアさんは耳に息を吹きかけてきた。ゾクゾクするような感覚がして俺は大声を出す。
「うわ。ホントに耳が弱いんだー。可愛い反応じゃない?」
「可愛いって言われても嬉しくないです!男が可愛いって言われるのは馬鹿にされてるのと同じですよ!」
全く。俺は硬派な俳優を目指しているんだからやめて欲しいよ。
「シン。ちょっとこっちに来なさい」
タリアさんに呼ばれてしまった。何の用だろう。俺はダッシュでタリアさんの元に急いだ。
「何かご用ですか?」
「聞きたい事があるんだけど。クマのヌイグルミを持ってカマトトぶるのってどう思う?しかも自分の名前を連呼するような歌なんて歌われたらお笑い草じゃない?」
タリアさんは微笑みながら……物凄くトゲのある口調で俺に話かけてくる。美人だけに怖さ三倍増しだ。トゲの行き先が俺じゃなくて良かった。行き先は勿論マリューさんだ。
「えーと、えーと……」
非常にやばい。変な風に答えたら芸能界から抹殺されそうな気がしてきた。
「早く答えなさい?口が無い訳じゃないでしょう」
「……えーと……」
頭をフル回転させて答えを考えてると肩を物凄い力でムンズと掴まれた。
「決まってるでしょう?変なステッキ振り回して変身するような女より遥かに素晴らしいでしょうに。ねえ、シン。そうよね?」

283アスカしっかりしなさい ◆YqJJJk6AAw :2007/04/17(火) 23:15:46 ID:???

………ああああああ………。マリューさんだ。タリアさんに敵意を剥き出しているのが背中越しに解る。前門のタリアさん、後門のマリューさん……。
田舎の父ちゃん、母ちゃん、ごめんなさい。シン・アスカは志半ばでリタイヤしそうです。この前送ってくれたとろろ美味しかったです。
「「ねえ、どっち?」」
二人のプレッシャーは重く俺にのしかかってくる。潰されてアンコが出てきそうだ。誰か助けて……。
「俺は……俺は……シャア・アズナブルだーっ!」
何故か口から出たのはギルバート・デュランダルさん(仮名)の名曲「元祖シャア・アズナブル伝説」の一節だ。デュランダルさんはバンドマンだけど俳優をしたり小説を書いたりと多彩なジャンルで活躍をされている。
「弾けて目覚めていく種達の姿をー」
さらにノイマンさん(仮名)の参加しているバンド「イースたね・ユース」の名曲「種のかたまり」を口ずさみながらスタジオの外へと逃げたした。

──女って怖いね。
284 ◆YqJJJk6AAw :2007/04/17(火) 23:18:57 ID:???
投下終了。

では、またそのうち。
285通常の名無しさんの3倍:2007/04/17(火) 23:37:10 ID:???
>>何でも屋
 セーフティーシャッターの頑丈さに笑いました。シンは哀れ。アーサー並みにヘタレて行くとは
……強いのに。スウェンは良い感じに後遺症が残っているみたいですね。

>>しっかりしなさい
 シンは何処までもしっかりしてほしい。心地よいカオス。
人間はどろどろとして自分勝手なままなのに、シン(役名)のキャラのせいでギャグになっているのが
なんともいえない。
 マリューさん(役名)もタリアさん(役名)も若い……というより大人気が無いなあ。

>>俺の屍を越えてゆけ
 相変わらず読者を光の速度でおいていくクロスの仕方は最早見事。でも或程度の長さが無ければ
面白いもつまらないも感じようが無いので、反応が悪ければ打ち切るなどといわずに続けてほしいです。
 話は未だ先が見えないものの、続きが楽しみです。

>>戦史
 個人的にはカトー教授の再登場を望んで居ます。そして早く小娘さんの本名を…… 

>>弐国
 もう少しゆっくりと展開を書いても良いと思います。進みが駆け足過ぎて勿体無いです。
とりあえず一レス中の視点変更が無くなる位に描写を深めてみてはいかがですか?

286通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 00:11:33 ID:???
今連載中の職人の中で新人の人っている?誰か新人の定義を教えてくれ。
287通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 02:50:21 ID:???
連載している職人さんでは45氏と弐国氏もかな?
言いたい事は分かるけど、初代スレの時に誰も投下しなくて投下先の無い職人さんにも投
下してもらえば?って意見が出てからだからなぁ…。
次スレで新人大歓迎、投下先の無い職人がSSを書いてみるスレに変更したらどうかな?
288通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 11:19:55 ID:???
>>287
スレタイに引かれて落す気になる人もいるわけだし
その辺は現状通りテンプレに入ってれば良いんじゃね?
それに動きの無いスレなら誰も見に来てくれないわけで
289通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 12:13:25 ID:???
>>286は新人が気軽に投下できないって言いたいんだよね?
ここは新人職人投下専用にして連載用スレ立てたら?
ここに投下して続き期待されたり、連載したい新人職人は連載用スレで連載。
投下先に困ってる職人さんも連載して欲しい。
290通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 13:07:58 ID:???
>>286
自己申告
291通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 16:28:38 ID:???
一連載が完了するまでは、新人でいいんでね?
292通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 16:48:11 ID:???
>>286
いろんな人に投下してもらいたいのは同意だけど、正直スレを分けるのはどうかと思う
現状のままで長編、短編、新人などに限らず受け入れていく方向性がいいと思う
今、連載ものが多くなっているけど、読みきりものもOKなんだし
293通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 22:50:08 ID:???
なんでもありでいいんじゃね?今でもシリアスありーのギャグありーのでカオスなんだから。
投下を控える人だってドンドン投下をすればいいのさ。このスレには良作が多いし参考にすることも出来るし。
294通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 22:52:25 ID:???
スレタイを

新人・放浪職人がSSを書いてみる

に改訂すればいいんじゃないか?
295通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 23:08:19 ID:???
塚ね、投下を尻込みしてる奴は職人とは言えないんじゃないか?怖いけど投下をする。それが職人としての第一歩でしょ。
296通常の名無しさんの3倍:2007/04/19(木) 00:38:04 ID:???
そうそう。 初めてのときは、不安になったりしながら、どきどきしながら送信ボタンを押したもんさ……(遠い目)
送ったのは2chぢゃあなくて、今は亡き携帯の某ゲームコンテンツだったがw
297通常の名無しさんの3倍:2007/04/19(木) 02:56:25 ID:???
男は度胸ならぬ、職人は度胸ですか
298通常の名無しさんの3倍:2007/04/19(木) 14:49:25 ID:???
スレタイに新人と書いてあればプレッシャーもいくらか和らぐと
そういう事ではないかなぁとROMの分際で思ってみたが、どうよ?

>>289
別けたってしょうがないと思うぞ?その分、人が分散するだけ
299通常の名無しさんの3倍:2007/04/19(木) 18:16:32 ID:???
このまま行けばいいと思うよ
て事で投下待ち!
300214-:2007/04/19(木) 20:58:29 ID:???
自分の場合は>289さんのおっしゃる通り、「新人」スレってことで
背中を押された気分でした。

ってことで投下させていただきます。

「もしも種死でキラの傍にラクスがいなかったら」 改め、
「 In the World after she left 」 です。(モロ直訳 w)
301214-:2007/04/19(木) 20:59:48 ID:???
(1/6)

第3話 「過去 −はなび−」


「あら。シン、いたの?」
 艦に戻ったシンがタラップを上がりきった瞬間、ルナマリアに声をかけられた。
 彼女も私服だったが、それほど違和感を感じない。普段もミニスカートなせいだろうか?
「いや、今戻ったとこ。そういうルナこそ、まだいたんだ」
「うん、ちょっと艦長に呼ばれてて。あっそうだ、ちょうどいいわ」
 ルナマリアの瞳が輝いたように見えてシンは少々たじろいだ。もしかして、街へエスコート
しろ、とか言われるのだろうか?
「これ、アスハ代表から届いたメッセージ。艦長がみんなに見せてくれって」
「アスハ? 何、俺の処分について、もう何か言ってきたのか?」
 シンは先程の事を思い出して、また腹を立てる。
 結果的にカガリに手は出していないが、不敬と言われればそうなるかも知れない。ミネルバに
乗っている間のことと合わせて文句を言ってきたのだろう。対応が早すぎる気もするが、あの
場所からでも無線か何かで連絡すれば十分間に合う時間だ。
 あいつは、とシンは更に考える。あの女はアスハ家の女──権力者なんだ。それくらいのこと、
するに決まっている。
「シンのことじゃないわよ。とにかく、これ読んで。みんなにも見せるんだから、くしゃくしゃに
しないでよ」
 大体シンを処分するつもりなら、もっと早く言ってくるわよ、と言いながら、ルナマリアが
シンに一枚の紙を渡した。シンの言葉の「もう」の本当の意味には気づかなかったらしい。
 シンはルナマリアの渡した紙にしぶしぶ目を通した。
「……なんだよ、これ」
 思わずつぶやきが漏れる。
 それは、シンが想像していたシンを糾弾するようなものとは正反対の──ミネルバクルーへの
感謝と謝罪の言葉だった。
 もう少し正確には、ユニウスセブン破砕作業のミネルバの尽力への感謝。それに、それ以前の
レクルームでシン達と諍いを起こした事への謝罪である。しかもきっかけとなったヨウランの
軽口については一言も触れていない。
 詳しい事情を知らないものが読んだら、ユニウスセブン落下の報を聞いたカガリが八つ当たりで
シン達に絡んだことへの謝罪、としか読めない。
「艦長に『何があったの?』って聞かれて、返事に困っちゃったわよ」
 と、ルナマリアは笑っている。
302214-:2007/04/19(木) 21:01:26 ID:???
(2/6)

「どうせ、こんなのあいつが書いたわけじゃないさ」
 ルナマリアに乱暴に紙を返しながらシンは言った。
「お付きの……あのアスランあたりが書いたんだろ、きっと」
「そうかしら……?」
 紙を畳みながら、ルナマリアは考えた。
 手紙の飾らない文章は、確かにお姫様が書いたものとは思えない。だが、あのお姫様は少しも
お姫様らしくなかった。ルナマリアもカガリの言葉を聞いたのは、カガリが乗艦してすぐ、
医務室で治療中と士官室へ案内した時、それにレクルームでの騒動と地球へ降りてから、と
数えるほどしかない。が、あのお姫様はいつもこの手紙の文章どおりの飾らない、男言葉では
なかったろうか。それに、言い回しもアスランのものとは少し違う気がした。
 ルナマリアは思ったことを腹にためるタイプではない。だから今も、シンに自分の考えを話した。
「そんなこと、あるわけないさ。相手はあの『アスハ』だぜ?」
 しかし、シンは取り付く島もない。
 そんなシンをじっと見つめていたルナマリアがいきなりシンの左手を掴んだ。
「な、なんだよ、急に」
「ちょっと話があるの、少し付き合ってよ」
 そう言いながらルナマリアはシンの返事を聞かずに歩き出す。
 驚いたシンだったが、ルナマリアの真剣な横顔を見て、黙って彼女について行った。


 ルナマリアが立ち止まったのは艦のデッキだった。
 シンは島側の手すりに背を預け、水平線の方を見る。
「ねえ、シン」
 ルナマリアは、シンの隣にシンとは反対向きに手すりにもたれた。
「ん?」
 シンは陸が目に入らないよう、顔を動かさずにルナに応える。
「シンが家族を殺したオーブのことを憎いって気持ちもわかるけど……じゃあ、シンはあの時、
オーブがどうするのが良かったって思う?」
「え……えっ?」
 ルナマリアの真剣な顔つきから、何の話だろうかと身構えていたシンは、思いもよらない
ことを問われて動揺する。
「地球連合軍の言うとおりに国も施設も明け渡してたら、良かったのかな?」
303214-:2007/04/19(木) 21:02:43 ID:???
(3/6)

 生粋のプラント育ちであるルナマリアは、先の大戦中の地球の政情なぞ詳しくは知らない。
五年後、十年後なら歴史の授業で習うこともあるかも知れないが、今はまだ、その頃ニュースで
流されていた状況──地球連合軍が宇宙に上がる術を求めてオーブに協力を強制したが、それを
拒否されオーブに侵攻した──くらいしか知らされていない。
「そうするのが一番いいとは思わないけど……でも、そうしていたら俺の家族は死ななかった」
 対するシンは、その当事者の一人だった。そしてシンは信じている。オーブの首長たちの夢の
ような理想だけの「理念」とやらのために、国が、家族が焼かれたのだ、と。
「シン、打ち上げ花火って知ってる?」
「は?」
 シンは、いきなり変わった話題についていけない。
「あたしね、花火、好きだったの。前はね、プラントでもニュー・イヤーの時とかに花火を
あげてたのよ。空気が汚れるから、プラント内でじゃなくて、宇宙空間で。重力がないから、
こう垂れ下がるような感じにはならなかったけど、とってもキレイだった」
「ああ、うん」
 目線まで上げた手をひらひらさせながらゆっくり下げるルナマリアの動作に、シンも昔見た
大輪の花火を思い出して頷いた。そうだ、その時は両親もマユも一緒だった。
 シンが思い出す最後の花火は、二年前の真夏の夜、家の庭で遊んだ花火だ。
 時々かき氷をつつきながら遊んだ手花火は、小さいながらもとても綺麗だった。
『来年もまたやろうね』
 と、マユが言っていた。その約束はわずか二ヵ月後に永遠に叶わぬものになってしまった。
「でもね、二年前からプラントでは花火は上がらない。だって、みんな思い出しちゃうもの。
ヤキン戦の時、プラントの外で咲いた沢山の──核の花火を」
 シンはようやく気が付いた。ルナマリアがする花火の話は、皆、過去形だ。
「怖かったわ、とっても。すぐ外で戦争をしてる、今この時にも核が迫って来てるって分かって
ても、どこにも逃げ出せないもの。あたしもメイリンも両親も、近所の人もみんな、ただ震え
ながらニュースを見てることしかできなかったの」
 連合の第一目標はプラントの首都アプリリウスだったろう。しかし、最終的には全てのプラントを
落とすことを狙っていた筈だ。プラント市民に逃げ場はなかった。もちろん地球に避難するなど
論外だ。そこは敵陣なのだから。
「だから、あたしは軍に入ったの。もしも、次があるのなら──その時は自分も戦おう、自分の
手で守ろうって」
 それまでシンに目線さえ向けなかったルナマリアが、身体ごとまっすぐにシンを見る。
 シンにはルナマリアの気持ちがよく理解できた。シンも動機は同じだったからだ。違って
いたのは、ルナマリアが失わなかったものを、シンは失ってしまったことだけだ。
304214-:2007/04/19(木) 21:04:17 ID:???
(4/6)

「ねえ、あのアスランがどうして『英雄』って言われてるか知ってる? 彼は特務隊の所属だった、
それに加えて当時の最高責任者は自分のお父さんだったってのに、軍を脱走したのよ。普通なら
銃殺刑ものでしょ。それなのに、どうして『大戦の英雄』って呼ばれてるのか」
「?」
 シンはまたもや変わった話題に戸惑いながらも考えた。
「大戦の英雄」、「伝説のエース」。どちらもあのアスラン・ザラを形容する言葉だ。
「伝説のエース」の方はまだいい。「伝説」というのは少々大げさな気もするが、当時最強と
謂われたストライクを落としたのだから。それに実際彼のMS操縦技術がエースの名に恥じない
のは、シンも良く知っている。
 しかし「英雄」?
 先日アスランを実際にその目で見るまで、ただ聞いたことがあるだけの名称だったから深く
考えたりしなかったが、確かにおかしい。
 怪訝な顔で考えるシンに、ルナマリアは彼女にしては言い難そうに言葉を続ける。
「それともう一人……『フリーダム』のキラ・ヤマト」
 シンの心拍が跳ね上がった。
 シンはついさっきの光景を思い出す。穏やかな顔で慰霊碑を見つめていたキラ・ヤマト。
狂ったように叫び続けるキラ・ヤマト。そして、自身の想像の中だけの悪魔のようなキラ・ヤマト。
「彼なんかコーディネイターなのに連合に所属してて……彼に殺された人の数は両手両足使っても
足りない。それなのに彼も一部のプラント市民の間では『英雄』扱い」
「嘘だろっ!?」
 シンには信じられなかった。プラント市民にとって「キラ・ヤマト」は敵ではないのか?
「もちろん、軍の中でそんな事をいう人はいないわ。でも本当なの。簡単なのよ、彼らは
プラントを核から守ってくれた。もちろん核を落としたのは彼らだけじゃないけど、彼らが
いなかったら、多分プラントはなくなってた。だから『英雄』」
 シンは知らない。ヤキン戦でのフリーダムとジャスティスを。その働きは一騎当千というのに
相応しいものだったということも。しかし、ユニウスセブンでのアスランの動きを思えば、容易に
想像ができる。
「オーブも一緒なの。もともとオーブはコーディネイターを差別しない珍しい国だから、
プラントともそれなりに友好的だったけど。もしもあの時、オーブが連合の言いなりになって
施設も技術も渡していたら……」
 シンはルナマリアの言葉の続きを理解し、続いて愕然とした。
 もしそうなっていたら、拮抗していた両軍の軍事力は連合が大きく上回ることになっていた
だろうこと。
 そして、ルナマリアやレイ、メイリン、ヨウラン、ヴィーノ達が辿っていたであろう運命に。
305214-:2007/04/19(木) 21:05:20 ID:???
(5/6)

「シン、ごめんっ」
 突然、ルナマリアがシンに向かって頭を下げた。
「こ、今度は何っ!?」
 もう何度目かの話題の転換とその度に受けるショックに、シンの思考はオーバーヒート寸前だ。
「今の話、忘れて。あたしがこんなこと言えるの、あたしの家族が無事だからだわ。シンの気持ち、
わかってるつもりで全然分かってなかった。ごめんなさい、シン」
「あ、いや、気にするなよ。ルナ」
「え?」
 シンの言葉にルナマリアが驚いたように顔を上げた。その反応にシンの方も驚く。
(俺、何かおかしなこと、言ったか?)
 シンは気づかないが、このような話題の場合「お前に何がわかる!」と突っかかるのが普段の
彼なのだ。
「なんか俺……えと、うまく言えないけど……、いろいろ分かったって言うか……分かってない
ってことが分かった気がする」
 シンは自分の手のひらを見た。そして思う。その手の中にあったもの。失くしたもの。得たもの。
……失くしたくないもの。
「もう少し、ちゃんと考えてみようと思う。ルナの話してくれたこと」
 ルナマリアの瞳がいよいよ大きく見開かれた。が、すぐに笑顔に変わる。
「ありがと、シン」
 そう言うと、ルナマリアは街へ出かけて行った。シンも一緒に、と誘われたがそれは断った。
 シンは変わらず視線を水平線に向けたまま考える。
(もしも俺がアスハ──オーブの代表だったとしたら……俺はどうしていただろう?)
 シンは二年間ではじめて考えた。今までは、アスハの非を叫ぶだけだった。何もかもをアスハの
せいにして、恨むだけだった。
 代替案も何も提示せず「嫌だ、嫌だ」と叫んでいるだけなら、子供が駄々をこねるのと同じじゃ
ないか、と気づいた。
(あの時の俺は無力だった。だから力が欲しかった。だけど、俺に力があったなら何が出来た
だろう……)
 オーブを焼かず、プラントも焼かない、そんな方法がきっとあった、あった筈だと思っていた。
しかし。
(……わからない……)
 何も思いつかなかった。
 オーブだけを守ろうとするのなら、ルナマリアが最初に言ったとおり、連合の言うなりに
なればよかった。連合の手足となって、プラントを討てばよかったのだろう。
306214-:2007/04/19(木) 21:07:27 ID:???
(6/6)

(あれ、でも!?)
 シンは突然気がついた。プラントを討つという事は、コーディネイターを討つという事と
イコールなのだ。そして連合の言うなりになるという事は、大西洋連邦の、ひいてはブルー
コスモスの言うなりになると同じ事。
 ならば自分は、自分の家族はどうなっただろう? コーディネイターを人間と認めず、化け物
扱いし、その全ての抹殺を望むブルーコスモスの言うなりになったなら、自分たちは生きて
──生かしてもらえただろうか?
 答えは否だ。たとえオーブが国を明け渡す際に自国のコーディネイターの身の安全を保証を
条件としたとしても、それがずっと守られると考えるほど、シンは楽天家ではなかった。
 レイなら、どんな答えを出すだろう? と、シンは考えた。ルナやヨウランじゃ駄目だ。
あいつらじゃどうしても思考がプラント寄りになるだろうから。でもレイなら、きっともっと
広い視野で考えてくれる。
(でも、もう少し自分だけで考えてみよう)
 他人と意見を交換するのは大事なことだ。けれど自分の考えを持たないまま他人に答えを
求めるのは、何か違う気がした。どんなに考えても答えが出せない事だってある。けれど。
(俺はまだ、考え始めたばかりだ)
 シンは振り返って自分を裏切った──と思い込んでいた──祖国を見つめた。
 かつてそこで暮らしていた自分、両親、マユ。今もそこにいるかもしれない、友人知人。
間違いなくそこにいる金髪の女と黒髪の男、それにもう一人。

 シンはまだ気づいていない。オーブを出て以来、初めて芽生えたある感情に。
 そして、ミネルバの誰もまだ知らない。プラントの外で、再び大輪の花火が咲こうとしている
ことに。
307通常の名無しさんの3倍:2007/04/19(木) 22:22:05 ID:???
>>300
GJ。投下お疲れ様でした。ちょっと手厳しいのかもしれません。
まずタイトルの意味が解りません。
次に句読点の使い方。文章の区切りをもっと考えた方が良いと思います。
そして()を使用しての心情の吐露。地の文で描写すべきだと思います。
これらは私の嗜好もありますので、参考程度に考えて頂ければ幸いです。
話自体は悪くはないと思います。
それではこれからも頑張ってください。
308214-:2007/04/19(木) 22:41:05 ID:???
>307
まず、ご意見・ご感想をありがとうございます。

手厳しいご意見は熱烈歓迎です。
できましたら、具体的にどの文章か教えていただけましたら幸いです。

それとタイトルの意味ですが、
「 彼女が去った後の世界で 」 の直訳になります。
(left は 左 ではなく、 去る(leave)の過去形です)
309通常の名無しさんの3倍:2007/04/20(金) 21:20:48 ID:???
GJです。
2ちゃんではめずらしい視点ですが、ルナの台詞とか好感もてました。
応援します。がんばってください。
310通常の名無しさんの3倍:2007/04/21(土) 21:19:31 ID:???
311通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 00:04:29 ID:wuFea/iJ
投下お疲れ様でした
307さんも指摘していましたが、句読点の使い方に難がありました
読点の後に改行せずに続けると、ダラダラした文章に見えてしまいます
只、これはたくさん読むなり書くなりしていれば、自然と身に着いていくもの
ですから、これからもがんばって下さい

内容に関してですが、キラとラクスが一緒じゃないという発想がいいと
思います

ですが、ルナやシンの考え方がある意味浅薄ですね
この場合、考えなくてはならないのは因果、核攻撃やオーブ侵攻を招いた
元凶は一体誰かということです

まず、自由奪取による穏健派壊滅と強硬派の暴走がなければ、―少なくとも、
パトリックはアラスカの責任を取る羽目になっていた―和平交渉という選択も
十分有り得たでしょう

また、自由と正義が核攻撃への対策だった以上、盗まれたり離反されなければ
ボアズも陥ちなかったでしょうし、ラクシズ追討部隊―クルーゼ隊を中心に、
ゲイツが配備された精鋭―が消耗していなければ、核部隊にあそこまで接近を
許さなかった可能性が高いでしょう
つまり、『マッチポンプ』に感謝するほうがおかしい、ということです

オーブ侵攻ですが、あの状況を招いた無能というしかないウズミが悪いですね
セイラン・サハクらが持ってた連合とのパイプを潰そうとしたり、
最悪の事態まで手を拱いて、連合と対等な同盟国となれる機会を逃したり
そんなに国を焼きたいのか、としか思えません
第一、『手段』の一つでしかない―地政学的に無理だらけの―中立を、
『目的』にしている時点で、スターリンや毛沢東の劣化版です

こういった原作に欠けていた、まともな視点をもったキャラがいないと
二の舞を踏む羽目になりかねません

長々と失礼しました







312通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 00:13:42 ID:???
ザフトが独立しようなんてしなければよかったんだよ。
313通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 00:33:09 ID:???
ジョージ・グレンがカミングアウトしなければよかったのに
314通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 01:28:34 ID:???
そして辿り着く所は

クロマニヨンがネアンデルタールを(ry
315通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 01:42:17 ID:???
「こういう意見もある」という意味でルナにああいう事を言わせるのは悪い事ではないし、そのセリフでシンがいろんな事を考えるようになるのは良い事だと思いますが
あの時のウズミの決断や三隻同盟に通ずる人々の行動をベストなものだったとするのは少々危険かと思います
ウズミの決断は自分の意見を押し通す為に国民などを犠牲にし見ようよっては自己満足で自殺したのは本当だし
核攻撃だって自由正義が強奪されなければザフトの人々がちゃんと防いだ可能性もあるのですから
まあ、その部分は今後の展開で様々な意見が出てくるのを期待します
316種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/22(日) 07:26:12 ID:???

第一話 違いの解る男・善行


善行忠孝が此方に来てから早五年。もう二度と袖を通すまいと決めた軍服に袖を通してから四年が過ぎた。
ザフトに参加した最初の一年目が出来すぎた為かあまり趣味のよろしくない白い服を貰い、戦場を転々としていたら泥沼の戦争は泥沼な落着を迎えていた。
もう人類同士が殺し合う戦争は御免だと辞表を出しても、ザフトは人材不足の為か有能な指揮官である善行をを手放しはしない。
上層部に下げたくもない頭を下げてアカデミーの教官の職を得て、一緒に此方に来た長年連れだった副官である若宮康光と共に赴任したのが二年前。
つい昨日の様に思える。

善行はアカデミーの職員室で一通の手紙を前にして溜め息をついている。
中身は適当な人材をアカデミーの卒業見込みの者の中から見繕っておいたから彼等を引き連れてザフトに復帰しろというものだ。
ご丁寧に議長のサインまでもが書いてある。
その見繕われた適当な人材は善行の眼鏡に敵う人材ではない。善行の望むものは未知数のスーパールーキーではなく花も実もある経験豊かな古参兵だからだ。
溜め息を吐き机の上のマグカップに手を伸ばす。中身はコーヒー。インスタントではあるがあちらのコーヒーに比べれば遥かにマシな味だ。
「残業ですか?手当もでないのに苦労を背負いこむ事もないでしょうに」
見れば傍らに若宮が呵呵と笑って立っている。
「苦労性なんですよ、私は。それに世間はきな臭くなってきているみたいですしね。今の内に苦労をしておけば後で楽が出来るかも知れません」
「……また戦争ですか。正直、自分は嫌ですね。幻獣が相手なら派手に暴れてもみせますが、人間が相手だと気分が悪くなります」
若宮は目を伏せて肩を落とす。大きい体を小さく縮めている姿は滑稽だが、善行は笑わない。
「同感ですね。人類同士が争っても意味はありませんし、建設的ではありません」
「しかし適当にやってしまうでしょうね、自分は。生まれ持った性という奴は変えようがありません」
適当。それは手を抜くという意味ではなく持つ限りの頭脳と肉体を使うという事。つまり全力をだすという事だ。
善行は若宮に辞令を見せて眼鏡をクイッとかけ直す。
「貴方には雛鳥を一人前にして貰います。私の時の様に厳しくやって下さい。」
若宮はクスリと笑みを浮かべて顎をさすった。

317種の屍を越えていけ ◆YqJJJk6AAw :2007/04/22(日) 07:31:13 ID:???

「貴方の時は随分と優しくしたつもりでしたがね。良いでしょう、ビシバシと鍛え上げて見せましょう」
「いつの間に冗談が上手くなったんですか?貴方の冗談はいかにも軍人の冗談だったと記憶しているのですが」
若宮は歯を見せながら大笑をしてチラリと外を見やる。
暮れなずむ校庭には人一人いない。かつて若宮がいた学校ならばこの時間でも誰か一人は居残りで訓練をしていたが、この校庭にはそんな人間はいない。
「しかし、静かな校庭を見るのも見ると悲しいものがあります。時間は限られているのに誰もそれを有効的に使おうとはしない」
「危機感がないんですよ。私も生徒の意識改革をしたかったのですが、
無駄骨だったみたいですよ。あまり好きではありませんが明日から強制的に訓練をして貰います」
善行は若宮に一枚の写真を見せる。
「右からシン・アスカ、レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホークです。彼等を一週間でそれなりに使えるようにして下さい」
若宮は腕を組みフムと考え込む。
「一週間ですか。時間が圧倒的に足りませんな」
「それは分かっています。足りない分は実践で補って貰う事にします」
「彼等にはさぞかし恨まれる事になるでしょうな」
善行はそれは私も同じ事です、と若宮の言葉に付け足す。若宮はTVでラクス・クラインの特集がありますからと去っていった。
善目を閉じて思索する。
新造艦に配属されるのはどちらかと言えば光栄な事ではあるが、モルモットとして扱われる可能性もある。
人事についても疑問がある。
どういう考えで決めたのか。普通ならばこのような重要な人事は歴戦のつわものの中から選ばれる筈だ。
しかし選ばれたのはまだ卵の殻を被った雛鳥。死ねと言うのと同義だと考えてしまう。
噂だとプラントの議長は遺伝子至上主義者であるらしい。人の資質は遺伝子で決まるかも知れないが、能力はどれだけ努力したかで決まると知らない様だ。机上の空論を振り回すタイプだと思える。
瞳を開けて今日は数えきれない程に吐いた溜め息を吐く。悩みの種は尽きる事がない。それは善行の性格によるものなのか、世界がそう選択しているのかは誰にも判らない。
たははと自嘲気味に笑うとポツリと呟く。

今からこんなに悩んでるとは。さてはて如何になるものか。


──to be continued──
318通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 07:54:34 ID:???
>>311
>>315
別にルナやシンは、ウズミやラクシズの肯定なんぞしてないと思う
大体、あいつらのアホさ加減を、プラントの都合のいい情報しか聞かされてないルナやシンに全部わかれつーのは無理w
まあ、今後の展開で様々な意見が出てくるべきというのには同意するが
319通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 14:27:04 ID:???
>>316-317
職人様GJです。なんか面白くなりそうな予感です。
320通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 15:40:27 ID:???
>>種屍
いきなり善行の離反フラグが立ってしまったような……?サブタイに深い意味が込められていそうな気がします。
321SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/22(日) 16:48:08 ID:???
1/

 ガーディ=ルーにぽっかりと開いたシャッターへ相対速度を合わせながら滑り込む。
殆ど無傷のカオスは重量も衝撃も感じさせる事無くカタパルトに収まった。
 気密服を纏ったスタッフの誘導に従ってカオスを動かす。ステップが真横にスライドし、
機体は気密ロッカーに収まった。
 反対側のシャッターが開いた時には、カオスは超臨界ガスによる洗浄を終えて
一気圧の空気に包まれていた。
 ステップはスライドを続けて定位置に移動する。ガイアとダガーは既に着艦を終えていた。
 ステータスをウェイトへ。フェイズシフトダウン。ハッチのロックが解除される。
ザフト規格のバッテリーアダプタにコネクタが取り付けられ、太いケーブルが接続された。
 戦闘に高揚した神経を沈めるのに、二呼吸の間が必要だった。
 操縦席の電源を落す。暗くなったコックピットの中で、其処に自分の肉体がある事を確認するように、
両手を握って開く、五回。
 操縦桿を握り締めてこわばっていた筋肉がゆっくりと解すのに合わせて独言をつぶやく。
 ――いまから外に居る奴は敵じゃない。
 そう自分に言って聞かせねば、整備班を相手に殺戮を開始する可能性すらあるのが、
エクステンデッドと言う存在だった。条件付けは"凶器のようなもの"すべてに反応する。
 シートに張り付いた背中を引き剥がし、のろのろと立ち上がる。自分をシートに押し付ける
ベルトも加速Gも無いが、澱のような疲労が溜まった足はそれでも重かった。

 操縦席から顔を出したスティングを整備班の拍手が包む事に驚く。
「おいおい、ウチのエースは何時からジャンク屋に鞍替えしたんだ?」
 壁を蹴ってカオスに向かってくる影を捉えた。ネオだ。
「貰ってきた、拾ったんじゃない」
 ネオの手をとり慣性とモーメントを殺しながら簡潔に答える。ネオの質問はカオスが持ち帰った
MSの部品の事だ。巨大な砲や対艦刀を、弁慶宜しく背負ったカオスの雄姿は猛々しく頼もしい。
「コイツ……カオスに慣れるついでに、見覚えが無いほうの新型からな。気前のいいパイロットだったぜ」
「これがジャンク屋だったら一財産作れるなあ。なんたって秘密の新型機のパーツだ。大したもんだよ」
「はっ……褒めてもこれ以上何も出ないぞ、ネオ?」
「そりゃあ残念。ジャンク屋の連中なら一番良い部品はポケットにねじ込むらしいからな」
「どんなでっかいポケットだよそりゃ?」
 カオスの胸部装甲を蹴飛ばして広い格納庫を飛ぶ。本当は床の上を大人しく歩かなければならない
という誰も守っていない規則があるのだが、ネオの計らいによってスティング達でも或る程度
"現場の裁量"が認められている。
「……落したか?」
「いいや、トロい奴じゃなかったんで逃げ切られた。帰艦信号はとどめの直前さ」
 指笛を鳴らしてスティングを労う整備班へとおざなりであっても手を振った。
艦に乗り込んだ当初の珍獣を見るような視線に競べれば大分ましなものだ。
「スティングから逃げ延びるなんてのは久しぶりだな」
 ネオは仮面の下の両眼を光らせる。
「今度は俺に回せ――いいな?」
 興味津々のネオへと、もろ手を挙げるジェスチャーで答える。
 二人の漂っていく先には、ステラとアウルの姿があった。
322SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/22(日) 16:50:24 ID:???
2/

「あんたが本気で叩く必要は無いと言ったからそうしたんだぜ?」
 エクステンデッドたち専用の区画へと足を進めるネオに呼びかける。
「ああ、確かにそんなことを言ったし、命令した。俺の言う事を良く聞いてくれたよ。
お前たちが規則に反している事は、何も無い」
 先を行くネオはスティングに振り向く事も無く、しかし優しげな口調で答えた。
 それを聞いたスティングは緊張を解いて歩くスピードを落す。
 もし此処でネオが『いいや、そんな命令は下していない』と一言洩らせば、
スティングのみならずエクステンデッド達三人を綿密で厳しい再検査が待つことになる。
「結局三人とも無事に帰って来てくれて何よりだったし、奪った機体は殆ど損傷も無かったからね。
今回の戦闘、ガーディ=ルー側の損害は死者1だ」
 帰艦信号を無視して新型艦を深追いしたダガー隊の隊員が一人、命を落していた。
「それはそいつが鈍間だったからだ。動きの遅い奴は戦闘の流れにも乗り遅れて死ぬだけだからよ」
 鈍間とは本当に一緒の仕事をしたくないと、常々感じていた。
「だが、本当にあんな戦い方でも良かったのか? 俺たち三人で纏めて掛かればあの船を落す事だって
出来ただろうがよ。わざわざばらばらにしなくても、連携した方が効果的だぞ?」
「本気で落す必要が無かったんだよ、スティング」
「……何だと?」
「まあ本当を言うと、こっちの仕事は追っ手の足留めだけで終わりなんだよ。
止めを刺すのは別のところに頼んであるのさ、ザフトの人たちを混乱させる為にね」
「……ふん、そういうことか」
 また自分たちは重要な情報を知らされて居なかった。
「それからこれは情報の収集が遅れた所為なんだが……」
 少し言い難そうに、ネオは口を開いた。
「あの見覚えの無い新型な、インパルスと言うそうだ。二時間ほど前にザフトから緊急の発表があった」
「カオス、アビス、ガイアと来てインパルス……ねえ。統一感のないネーミングだな」
 そう言ってやるなよ、とネオは笑った。
「国運をかけたモビルスーツに自由だの正義だの名前をつける連中さ、ゲイツやシグーなんかの方が
洒落ていると思うんだけどね、俺は」
「名前はともかく面白いモビルスーツだったぜ、合体するところなんかな」
「合体か……いいねえ」
 仮面の上からでも分かる。ネオはうっとりとした表情を浮かべていた。
 きっと合体の掛け声を考えているに違いない。
「――だろ? だから持って帰ってきたんだよ」
「……モビルスーツが合体したり分離したりして、何の意味があるの? ネオ、スティング」
「「――それは違う、合体する事に意味があるんだ!」」
 ステラのとぼけた疑問に、ネオとスティングは異口同音に答えた。

 "寝室"へと向かう道を、スティングは一人外れた。
「何処に行くんだ?」
「トイレだよ。一緒するか……なんて言う仲でも無いだろうが、俺とアンタは」
 背中を追いかけてくる言葉に、片手を挙げて応じる。上げた手は二度、来るなという形に払われた。
「なんだスティング……戦闘中ずっと我慢していたのか? 男はホースが痛みやすいんだぞ?」
「ホース……一体なんの事なの、ネオ?」
「ああ? ステラには関係の無い話だよ。さっさとネオに御褒美でも貰って、早目に寝とくんだな」
 意味の分かっていないステラと笑っているアウルを追い払い、人の居ない洗面室に入った。
323SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/04/22(日) 16:53:07 ID:???
3/3

 個室に入り、後ろ手にドアを閉じる――
「ぐあっ……ぶえぇっ……!!」
 スティングはその場でうずくまり、便器の中へと盛大に反吐をぶちまける。
鼻をつく酸味が煩わしくも口中に残った。脂汗がこめかみから滴る。
 吸引スイッチを押し込みながら、体の震えを握りつぶした。血管に氷水を流し込まれた
ように震えが止まらない。
「がはっ……う――ぐほっ……! 牛乳みたいなもんを、人の体に流し込みやがって……!」
 断裂寸前まで緊張した筋肉が骨をきしませる。事前に渡された中和剤を噛んで飲み下した。
 戦闘の直前に注入された人工血液は、確かに耐G能力を飛躍的に向上させた。しかし赤い血液の中に
白い血液を混ぜるという行為が、果たして健康的なものか。確実に寿命が縮んだ気がする。
「あの薮医者……何が意識を失わないため、だ!」
 右腕に刺さる針の感触を思い出した。人工血液がスティングの体に流し込まれてゆく様子を監視する
医療スタッフの目は、明らかにモルモットを前にした実験屋のそれだった。
「だがよ……ステラ、アウル。今日も生き残ったよな? 精々あと二、三年だ……それぐらい
生き延びれば、あいつらも俺たちを信用するようになるさ」
 それだけ待てば、検査という名目の洗脳と肉体改造の日々が一応の終わりを告げる。
その後のキャリアはどうなるのか皆目見当もつかないが、とにかく明日の命に怯える日常は終わる。
「絶対に……死なないぞ。こんな投薬実験程度で死んで……たまるかよ――!」
『リスクの高い検査と投薬は全て自分が引き受ける』
 守られるかどうかは分からないが、あるというだけで安心できる、そんな類の約束がある。

「……ったく、あんまり無理するもんじゃねーよ絶対」
「……! アウル――」
 洗面室に入ってくる気配は感じなかった。相変わらず神出鬼没だと嘆息する。
「スティングががたがた震えながらトイレに入ってったからさ、かえって心配してたぜ?」
「はっ……バレていたか、情け無ぇ――」
 洗面室に踏み込む事も出来ずに、アウルに頼んだのだろう。
「あんまりさ、一人で負担を背負い込まなくても良いんじゃないの? 
ステラはそろそろ限界だからともかく、俺はまだまだ余裕があるぜ」
 投薬の事だ。
「だがよ、生き残るにはこれが一番効率が良い。俺は鈍間と無駄は嫌いなんだ」
「普段馬鹿をやれとか言ってる奴の台詞じゃねーよ、それ」
 ――体の震えもアウルの台詞も無駄だ。
「……うるさい」
 無駄は嫌いだ、必要ない。体が震えるのは神経の異常で、神経は脳に繋がっている。
「勘違いするんじゃないぞ、これは俺の為にやっている事だ――」
 だから意識で――気合で震えは止められる……筈だ。
「お前たちよりも俺の方が薬物耐性が強い。アウルやステラに薬で倒れられたら俺が困る……それだけだ」
 スティングの自分でも苦しいと分かっている言い訳を、アウルは鼻で笑った。
「とりあえずさ、震えが止まったら行こうぜ――」
 アウルの声から、悪戯っぽい響が消える。
「――ステラに見えないところまでは肩を貸してやるからさ」
 スティングの体を襲う震えと悪寒が、ようやく止まった。
324通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 19:33:04 ID:???
>>321-323
GJ!!そしてネオとスティングに激しく同意w
325通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 21:53:05 ID:???
合体はロマン
日本刀もロマン
必殺技の名前を叫ぶのもロマン
残念だが種で出来るのは合体だけか…
326通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 22:00:19 ID:???
>>325
つジン高機動II型
327週間新人スレ:2007/04/23(月) 10:07:34 ID:???
今週号目次

アカデミーの教官室、若宮と共に訓練計画を練るのは噂に聞こえた鬼善行!
種の屍を越えていけ
>>264-266
>>316-317

エターナル強奪を受け急行するモンロー隊。美少女パイロットサーシャはフリーダムと出会う・・・。
彼の草原、彼女の宇宙(そら)
>>274-279

大物女優二人とブッキング!新人シン・アスカ、最大のピンチをどう乗り切る!?
アスカしっかりしなさい
>>282-283

緊急リレーコラム
『新人とネタとそして 〜新人スレの今後の展望〜』
>>286-299

ルナマリアはシンに語る。ザフトの英雄、アスラン・ザラの話を・・・。
In the World after she left
>>301-306

帰還したスティングは賞賛で迎えられた。彼の背負うエクステンデッドの真実とは・・・?
SEED『†』 
>>321-323


各単行本も好評公開中
詳しくはttp://pksp.jp/10sig1co/ までアクセス!
328通常の名無しさんの3倍:2007/04/23(月) 12:29:36 ID:???
目次ご苦労様です
>>286-299はコラムなのかww
329通常の名無しさんの3倍:2007/04/23(月) 15:03:33 ID:???
こっそりスレ汚しの投下。

それは春のある一日の終わりのこと。
仕事が終わりアスランが帰ろうと廊下を歩いていると、仕事が終わったらしいホーク姉妹が歩いてきた。
ホーク姉妹はアスランを見つけ寄ってくる。
「アスラン、帰りましょ」
ルナマリアが腕を絡めてきた。
「ルナマリア…」
二の腕を胸の谷間に挟むルナマリアにアスランが戸惑うと、反対側でメイリンがアスランの服の袖を掴んで言った。
「お、お姉ちゃんばっかりずるいよ……」
「あら、だったらメイリンも抱きついたら?」
ふふん、と少し意地悪じみた表情でルナマリアが微笑む。そして腕に力を込めアスランに身体を寄せてきた。
それを見てメイリンがむっとする。
「…………」
しばしの躊躇いの後。
ぎゅっ…
姉に対抗するようにメイリンの腕がアスランの空いている右腕に絡む。
「メ、メイリン…?」
アスランは戸惑いながら言うとメイリンが消え入りそうな声で答えた。
「…だって……お姉ちゃんばかりずるいです…」
(それは理屈じゃないと思うぞ。メイリン…)
そうは思っても口には出さないアスランだった。
そう思っているとメイリンは腕に力を込めて身体を寄せてきた。
「あー、えっと」
かたまるアスランに二人が言った。
「アスラン」
左にルナマリア。
「アスランさん」
右にメイリン。
「「一緒に帰りましょ」」
「…ああ、だが二人ともひとまず腕を二人とも放してくれ。人の目もある…」
そう言ったアスラン。
アスラン達の職場は男女関係には大らかだが、これはやり過ぎだろう。
そして数は少ないが人の目があった。何人かの男達は夕日を見ながら涙を流していた……
330通常の名無しさんの3倍:2007/04/23(月) 15:05:00 ID:???
家までの帰り道。
ご機嫌な二人は左右それぞれアスランの腕を抱く。
その光景にすれ違う人々は目をとめる。
実際のところアスランはそれが恥ずかしくて二人に言った。
「済まない…腕を放してくれるか…?せめて人気のないところまで…少し恥ずかしいんだが…」
「だって、メイリン。アスラン離してあげなきゃ」
アスランの言葉を聞いてルナマリアがメイリンに言う。ルナマリアはアスランの腕を放す気はないようだ。
「お姉ちゃんこそ。アスランさん困っているよ」
アスランの腕を抱く力を強めてメイリンがルナマリアに言葉を返す。メイリンもアスランの腕を放すつもりは無さそうだ。
「メイリン。こんな時は我慢しなきゃ…」
ルナマリアはそう言いながらアスランの腕を抱く力を込める。
「だからお姉ちゃん、あまりアスランさん困らせちゃダメだって言ってるじゃない」
メイリンはぐっと身体を寄せてくる。
「……………」
どちらかだけダメとは言えず、どちらもダメは拒否され結局アスランはこのまま二人に腕を絡ませられたままホーク家へと向かったのであった。
幸いなのはホーク家が近いことだった。
(これは絶対皆にからかわれるな…)
歩きながらアスランはそう思った。

つづく
331通常の名無しさんの3倍:2007/04/23(月) 15:52:47 ID:???
ふむ、なんか日常っぽくていいですな
332弐国:2007/04/23(月) 18:28:32 ID:???
彼の草原、彼女の宇宙(そら)

第六話 決意(1/6)

「これがゲイツか、MS全機入れ替えとは豪気だな?」
「喜んでる暇、無いですよダン? 機種転換訓練が必要です」
「エースパイロットには訓練はいらんのさ、ウチは全員エース級だからな! ハハハ」
「全く、もう……。ところで、どうしてダンは一般色なんですか? 一応隊長なのに」
「敵に狙い撃ちにされるのはイヤだからだっ!」

 笑いながら頭の部分だけが一般色とは逆の配色の自分の機体の足を、カンカンこぶしで叩くダン。
エターナル強奪から休む間もなく各部隊の穴埋めに東奔西走していたモンロー隊。
今は本国付近の宙域に居るのだがコロニー本体への寄航は許されず補給隊の輸送艦が横付けになっている。
「ところでお嬢の機体はどれだ? 特殊なもんらしいな?」
「来たようですね。アレです」
 一機だけ遅れて搬入される灰色のゲイツ。背中には大げさなリフターを背負い右手にフリーダムと同じ
タイプのビームライフル、腰にはビームサーベルと折りたたみ式の砲のような物が装備されている。
「チーフ、カスタマイズは指示通りされてますか?」
 搬入されてくる機体にメカマンチーフがデータ端末を差し込んで一緒に動いている。
「データ上、嬢ちゃんの指示通りだな。PS装甲は電流値最弱、リフターの中身を出来る限り外して予備バッテリー。
その他もまぁOKだ。後はオプション分で発注したバッテリータンクとロングアタッチメントもついてきてる。
ただこれでも全開では30分切るぐらいが良いところだぞ?」
「使えと言われれば使わざるを得ませんからね。ならば出来るだけ手を入れてやりたいですよ。
電源、入れてください」

 YFX−600R火器運用試験型ゲイツ改。何故かサーシャ用にガスコインが調達してきた機体だ。
そもそも X09Aジャスティス、X10Aフリーダムに搭載される各種火器の運用試験用にゲイツから
何機か改修された実験機で、武装はその2機とほぼ同等。PS装甲も搭載されている。
但しジャスティス、フリーダムの両機はNJC搭載が前提にあってのこの装備である。
NJC非搭載のゲイツから見ればエネルギーの余裕は全く無く、実稼働時間は5分とも言われる、
実戦に投入するのは無謀とも思える機体だ。それをチーフとサーシャ、二人であれこれ設定を
いじくりまわして何とか30分の稼働時間を確保したのであるがモンロー隊の運用には
やはり今ひとつそぐわない。
 PS装甲装備の一点で、生存率向上のためにガスコインが強引に開発部から徴発して
送り状をただのゲイツとして送ってよこしたのだが、そうまでして彼が生存率を向上させたかった
パイロットからの評判はあまり宜しくないようだ。
 その機体がPS装甲の起動音と共にさぁーっと灰色から赤く色を変えて行く。
ラインこそ無いが赤に黒の機体はモンロー隊のニコラボロフ専用機であることを主張する。

「青ならばもう少し電力消費を下げられるんだが…」
「それくらいのわがままは聞いてやれよ、普段文句を言わないお嬢が言うんだからさ?」
「まぁそうなんだがな…」
 設定の見直しで稼働時間をあと10秒だけでも何とかならんものか。
メカマンチーフは自分の娘のような年頃のパイロットの姿を見やってそう思う。
この機体を寄越したガスコインの意図のみは理解が出来るチーフである。
333弐国:2007/04/23(月) 18:30:49 ID:???
第六話 決意(2/6)

『如何でした? 理事のご様子は』
 虚空を飛ぶランチとその横に105ダガー。少し離れて更にストライクダガーが3機。
「悪いわけは無かろう、自分が指揮を取ってキッチリ結果が出た。なんと言ってもNJCの設計図だ。
既にいきなり量産に乗せているらしいが」
『となると…』
「メビウスに例のピースメーカーアタッチメントが付くのだろうな」
『理事は一気に戦争に肩をつけるおつもりで?』
「当人で無ければ何を考えているかなど、わかるものではない。特にあの男はな」
 ピースメーカー隊を一気にプラントに送り込む。そう言った彼の目は既に常軌を逸して見えた。
だが考え方としては悪くない。敵の本拠地を叩けばそれ以降は抵抗すまい。
が、むしろ彼としては抵抗してくれた方が良いのかもしれない。
それならば一気に全滅まで持っていく理由が出来る。
「当面、我が艦隊は第七艦隊の指揮下に入る事になった。お前も彼らもおとなしくしていてもらう。
ピースメーカーが動くまではな」
『状況がどうあろうと、自分は閣下のご命令に従います』


 2機のMSをカタパルトから射出する連合のアガメムノン級。そのブリッジ。
好々爺然とした初老の将官と、傍らに立つ中尉の階級章をつけた将校がMSのスラスターが
吐き出す炎を見ている。
「自分が同行せずとも良かったのですか、プラント宙域が目の前ですが」
「構わんさ、ピースメーカー隊が出撃するとなれば使うと言っても、露払いくらいのものだ。
それに本調子でないと言うならますます使えん。それに化け物どもは本国防衛で手一杯だろう。
我が方が月に戦力を集中させている理由は、それこそ馬鹿でもわかる話だ」
「ですが艦隊の司令は……」
「一応司令に話は付けた。Gは疫病神だとサザーランドが言っていたろう? 
Xシリーズを知ってる連中こそ触りたがらんのだ。ましてアレを預かる人間など数が知れている。
いまや私まで触らぬ神になんとやら、だ。ところで帰っては来るのだろうな。
我等が理事殿が大々的に使っているところ、今更ではあるが、TP装甲の事もある。
鹵獲されるのは出来れば避けたいところだが」
「それは大丈夫です。此処でしか生きられない事は十分刷り込みましたし、よしんば何かがあっても、
彼らの体が持たなくなった時点で機体も自壊します。試作品ですのでそういったシステムも実験的に
組み込んであります」
「壊すには惜しいのだが、奪取されるよりはマシか」

 自らの【上司】の言い草も知らず、2機のスラスターの光は徐々に小さくなる。
334弐国:2007/04/23(月) 18:33:41 ID:???
第六話 決意(3/6)

 ユウキに敬礼をすると自分のオフィスに向かうガスコイン。戦況が思わしくない上に状況は混迷を深めている。
 エターナルは足付きこと連合のアークエンジェルとオーブのイズモ級というなんともよくわからない組み合わせ
で艦隊を組んでいるらしい。もっともオーブの船はおそらく姫の座上艦クサナギでM1アストレイが満載、
そしてアークエンジェルにはストライクとバスター、エターナルにはジャスティスとフリーダムがそれぞれ確認
されているし、なんと言ってもクルーゼ隊と連合の船に挟撃された際に、クルーゼ隊の旗艦ヴェサリウスを
落として突破している。数こそたいした事が無いが攻撃力は侮れない。クライン派の狙いが何処にあるのかが
わからなければ、うかつに手を出す訳にはいかない。
 ラクス・クラインを信奉するものたちの動きも気になっている。そもそもが国民的アイドルであり
更に嫌戦気分が広がった現状では、ちょっとしたきっかけを彼女が与えればザフト自体が崩壊しかねない。
現に重要機密のエターナルと艦載MSまでもがあっさり奪取されているのだ。一部では既にその三隻を指して
【歌姫の船団】などと持ち上げる動きさえある。
 彼らの思想信条はともかく、反逆者には違いないし、そうならば武装蜂起は視野に入れなければならない。
武装集団が隠れることが出来る様な廃コロニーはプラント付近にいくつかあるのを思い出す。
調査は無駄かもしれないがなすべきだろう。この状況下で内紛だけは絶対に避けねばならない。 
 そしてモンロー隊をこれに当てれば調査が空振りとしても、有事の際に近所に居ない事態だけは避けられる。
彼が自由に使える手駒は現状モニカだけである。

 そしてもう一つ、こちらの方が重要なのだが連合がNJC技術を手にしたとの情報がある。
もし本当ならば月に戦力を集めているのは血のバレンタインの再来を目指しての事だろうし、
そうであれば規模はきっと件の事件など比較にならない筈だ。
そしてプラントには核ミサイルに対抗するすべなど無い。対向できるならばNジャマーなぞは初めから必要ないのだ。
 実は対抗手段は無い事も無いのだが、使ってしまえば今度はこちらが血のバレンタインを起こす事になる。
抑止兵器として見せるだけで十分だろう。いくらタカ派のザラ議長でも使うまいとは思うがはたして。
 オフィスの自席に着くと彼はいつも通り深くため息を吐いた。

「ウチに偵察任務、ねぇ」
 特務隊からの命令書を見てモニカはあごに細い指を当てる。
この状況下でモンロー隊にテロリストのあぶり出しをさせる。そんなに危険な連中が潜んでいるのか、
それとも遊ばせずに自分の近所においておきたいのか。
もし後者ならば国防委員会は既にプラント本土決戦を視野に入れている事になるが、
そこまで思考が及ぶとやはりうぬぼれだろうか。
「何を見て来いっつーんだ?」
「【プラント周辺宙域7つの廃棄コロニー並びに資源衛星内部に反国家思想を持つ者が潜んで
居ない事の調査、確認を命ずる。調査時に於いて住民等を発見時に、調査に協力を得られず、
かつ火機等で抵抗された場合、必要に応じ反乱分子とみなしてあらゆる手段での排除を認める】。
満足した? ダン」
「今回はまた、エラく中身のはっきりわかる命令書だな、マジで何か潜んでるのか?」
「その辺はわからないわ、とにかくコロニーの確認が先ね。ゲイツの調整は? 
…そう。じゃ、完熟飛行をかねてMS全機に出撃用意を。サーシャはロングアタッチメント仕様で出して。
シュペルとトゥーリーは今回は待機。各機受け持ちはコロニー1基、何らかの反応があった場合は必ず連絡、
独断で調査を続行する事は禁ずる。出撃は2時間後、全MSパイロットは30分以内にイアハートのブリーフィングルームへ集合、
良い?……じゃ、モンロー隊全艦コンディションイエロー発令!」
335弐国:2007/04/23(月) 18:35:32 ID:???
第六話 決意(4/6)

 湖こそ無かったが草原はあった。もしかすると過去は畑だったのかもしれないが、
人間が手を入れなければ野菜の類は生きられず、何処でも生きる事のできる雑草の天下になる。
しゃがみこんでぼんやりと草の波を見つめるサファイア。そばに立つコンゴウも草いきれを気持ち良く感じる。
 そう俺たちも、昔は勝手に生えてきて生きていく雑草だった。今は、しかし野菜以下だ。
 あと3時間はいられる。イシカワと別れてからのサファイアの落ち込みようは、
その後戦いが続いた事もあるが激しかった。ただ良かった事もある。時間こそ区切られたが、
アイヒマンの監視から逃れて此処に来れた。
 ただぼんやりと佇む。唯一彼の持ち物であるペンダントをポケットに探る。彼の今の名前の由来、本当に小さな、
しかし透明に透き通った石のついたペンダント。何故持っているのか本人すら知らないペンダント。
持ってる事は知っているはずだがあいつらはこれだけは見逃してくれている。
 大事なものってなんだっただろう。何時から大事なものがなくなったのだろう。
それとも持っているのに忘れているのか。このペンダントのように
……取りとめの無い思考は草が揺れる度に波紋のように広がっていった。


 大きなリフターの上に更に大きなブースターのようなものを背負った赤いゲイツ。
これで活動時間だけはノーマルゲイツ同等だが戦闘になれば当然切り離さなければたちいかない。
あまり格好が良いものではないな。とパイロットの少女は肩をすくめる。プラント領からギリギリ外れたコロニーが
サーシャの担当として割り当てられた。新型機ゲイツのみで構成されたMS部隊にあっても、
ロングアタッチメント装備の彼女の機体は直線加速と航続距離は群を抜いていたからだ。
『遠くからでもとっとと逃げてこれるだろ?』
 ダンの声が蘇る。調査対象7基のうちここだけがむやみに離れているのだ。イアハートとは言わないが、
スコットぐらい随判してくれても良いのに。ちょっと納得の行かない彼女はもう1度肩をすくめるとコロニーへ近づく。
廃棄されて居るとはいえ、緊急避難や何かの実験の際には使う事もあるので最低限の機能は生きている。
連合諸国から禁止された農業コロニー。ユニウスセブンでの実験の前段としての農業特化型コロニーのプロトタイプ。
旧式のエアロックはサーシャが近づくと自動で開き、閉じた。

 中を一気に飛びぬけて異常なしと報告すればお終い。楽な任務だ。
やはり特務隊は本土決戦用にモンロー隊を温存したいのだろうか? 
などと彼女の上司と同じ思考にたどり着いた時にデータの異常に気付く。
「…っ!エアロックの開閉データ! 空気の流出データも。1時間以内だ…誰かが入ったの?」
 詳細データをチェックする。移動した質量から行くとMSのようだがいったい。熱源センサーが何かを拾う。
「熱紋が照合できる、まだ止めたばかり? MS!……Gだ! 何で!?」
 モンロー隊呼称【鎌】と【大砲】。フォビドゥンとカラミティの2機。無防備に開くコクピットハッチ、即時起動可能を示す計器類。
人の気配は無い。
「まさか、あの子達じゃないよね…」
 コンゴウの鋭く尖った瞳の光を思い出す。サーシャは禁止された独断を下すと
Gから直接見えないところにゲイツ改を止める。そして腰の拳銃を確認するとコロニー内部へ侵入していく。
灰色の巨人は彼女が一歩踏み出すごとに暗闇へと溶け込んでいった。
336弐国:2007/04/23(月) 18:37:53 ID:???
第六話 決意(5/6)

 連合のパイロットスーツは他に人の居ない草むらにひときわ目立っていた。
身を低くして音を立てないように背後に回りこむサーシャ。
右手の拳銃は既にセーフティを解除してある。やおら立ち上がり銃を構える
「動くなっ! 連合がこんなところで何をしている!」
 後ろを向いたままパイロットスーツが答える。
「……散歩しに来たって言ったら信じてくれるか?」
「あんた…コンゴウ? な、じゃあ、港のMSは…」
「俺たちのだ、散歩は嘘じゃない。サファイアは船の中にいるとおかしくなるんだ」

 コンゴウがGのパイロットだった。サイアクだ。いつかカフェで、
などと妄想を逞しくしていた自分に腹が立つ。みんなを落したのが、
【あいつ】を殺したのがコンゴウだったなんて…ならばコンゴウはあいつの仇だ!
ゆっくり振り向く頭に両手で握った銃を照準する。
「赤い機体と言っていた、なのに黒い機体だった。わからなかったんだ」
「それじゃない! 私が言いたいのは、それじゃない!! あんたがみんなを、あいつを…!」
 まっすぐにこちらを見つめるとゆっくり歩いてくる。震える銃口。
「俺が大事なものを…? でも戦わなきゃ、俺たちは死ぬんだ。薬をもらえなけりゃ狂って死ぬ」
「何を言って……」
「けれど自分で死にたいとは思わない、生きていても人殺しをさせられるだけなのに…」
「う…くっ、来るなっ!」
 歩みが止まる。
「俺は頭が悪いから今、お前に言われるまでわからなかった。お前に殺されるならば俺は問題ない。
お前には理由が在る。大事なものを俺が壊した。けれどサファイアは許してくれ。頼む」
 その鋭い目でこちらをじっと見つめる。その瞳の中には悲壮感など無い。あるのはただ虚無。
何故人を殺すのか。何故生きていくのか。何故死ねないのか…。そんな事を問われても答えられない。
銃が震える。両手で握っているのに、敵なのに、あいつの仇なのに、撃てない。何故……
 銃をおろす。チクショウ! もう、撃てない……。不思議そうな顔のコンゴウ。
「……あんたたちの事、もう少し、教えて」

「さっきも言ったろ、薬を飲まなけりゃ狂って死ぬ。言う事を聞かなけりゃ飯が食えずに死ぬ。
俺たちはただ街に放り出されたらそのまま死ぬんだ。野菜は一人では生きられないし、俺もサファイアも死にたくない…」 
 無防備に背中を向けて座るコンゴウ。その後姿とサーシャは話していた。手術に薬、洗脳。何処の世界の話だ。
彼女にはまるで馴染まない。違和感。「いつでも撃て」そういった少年は振り向く気は無いようだ。
「けれどお前に撃たれるならそれで良い」少年は話の最後、そう言うと口を噤む。
「自殺志願? それとも口説いてるつもり? どっちも洒落になってないよ!」
 銃をホルスターに収めながら彼女は半ば本気で怒って言う。
人としての尊厳を踏みにじられてまで生き延びたいと願う人間を、どうして私が撃てると言うのか。
「俺は頭が悪いからな、怒らせたなら謝る。ところで『くどいてる』ってなんだ?」
 薬や手術でコーディネーター以上の能力を付加された少年。ならば前回あっさり後ろをとられたのも合点が行く。
但し本人の望まぬ能力は必要以上に代償を要求するものらしい。薬、記憶、感情…。
人間性はMSを操縦するのには不要ではあろう。だがしかし、少年や少女の人生を奪い取ってまで
付加しなければいけない能力なのか。
「……ね、一緒に来ない? プラントの医療は優秀だよ? もしかしたら…」
「いや、俺たちはあいつらにしか治せない。特別なんだそうだ」
337弐国:2007/04/23(月) 18:39:56 ID:???
第六話 決意(6/6)

「あんたの機体はどっち?」
「フォビドゥン、緑のヤツだ。お前は赤いヤツか?」
「機種はゲイツに変わったけど、赤いよ?」
 立ち上がると振り返ってサーシャを見つめる。薬を飲んだら全て忘れちまう。
赤のゲイツは狙わないようにするが実際はどうなるかわからない。そこまで言うと視線を外す。
「もし、もう一度会えたなら、俺をプラントに連れて行ってくれ。一度で良い、……その、一緒に、散歩してくれ。
そしたら死んでも悔いは無い。今度MSを降りて会う事があればお前に全て従がう」
 そう言うと少し赤みのさした顔をサーシャから背けて、サファイアに声をかけると港の方へと去っていく。
背中を見つめながらサーシャは自分の顔が熱くなっているのに気付く。
「ちょっ…『口説く』も知らなかったにしては強引、じゃない……? 馬鹿。
……オーケィ。次に会ったらお望み通りMSから引きずり出してあげる……っ!」

 イアハートの隊長室。直立不動で立つ赤い服と、デスクから真顔で服の主を見つめる白い服。
「本来ならば営倉なんかではすまない、軍法会議ものよ?」
「覚悟はあります。ですがそれを押してでも隊長にはお話しておきたかったのです」
 聞いてくださってありがとうございます。そういって敬礼するサーシャ。
「聞いちゃったらあたしも同罪じゃない、全く……。この話はあたしの胸にしまっておく。a27は異常なし、良いわね?」
 あっけに取られた表情のサーシャ。始めて会ったときの事から全部喋ったのに。
「ウチの部隊は臨機応変。今はパイロットは一人でも惜しいの。……多分その子達はブーステッドマンね。
そういった技術を連合が開発しているという話は聞いた事があるわ。そしてあなたは一つ重荷を背負う事になった。
MSだけで個人を特定できる特殊な状況下で、親しく話した事のある相手を『撃つ』ことが出来る?
自信が無いならMSからは降りなさい?」
 相手は自分で言っている以上、きっと見境無く襲ってくるのだから。そういうとデスクから立ち上がりサーシャの前に立つ。
「『保護』しようなんて思い上がっちゃダメよ?」
 両肩に手を置くとサーシャの目を覗き込むモニカ。
「アレと同タイプのMSがフリーダムに損傷を与えたと言う話がさっき来たわ。何が言いたいか、
わかるわね? 少なくとも、死にたくは無いでしょう? あたしも死んで欲しくない」
「その時は…襲ってくるなら落します! 私の手で!!」
 モニカの瞳を真正面から見返す瞳の光は【お嬢さん】のそれではない。
「頑固者は戦場では長生きできないわよ?」
 なるほど、ウチに来るだけの事はある。と、内心苦笑しながら表情は変えない。
肩から手を外すとそのまま振り向き、手を後ろに組むと背中のサーシャに指揮官として声をかける。
「もし出会ってしまったならば、その時はあなたの判断に任せます。退室して良しっ!」

「閣下、ご心配をおかけしました。彼らが戻りました」
「では予定通り強化のステージを上げてくれ。ピースメーカーの露払いをしてくれとの事だからな」
「時間はありますので理事からのデータのフィードバックは十分可能です」

次回予告
命を焼き尽くす光の中、機動兵器の鎧をまとった少女と少年は戦場で出会う。
殺しあう事こそが彼らの宿命であるかのように。
第7話『業火』
338弐国:2007/04/23(月) 18:41:22 ID:???
今回分以上です。ではまた

>>285
長い文章がかけないという自分の欠点に直面して居ります
7話以降は多少構成を変えてみようかとも思ってますが
今のところ一話ごとの起承転結がバラバラに・・・
339329:2007/04/24(火) 15:25:56 ID:???
弐国様GJです。
文章に勢いがありますね。自分ではとても書けない文章で羨ましいです。

出来た分だけ投下させていただきますね。

ホーク家についた。
「ありがとう」
「ありがとうございました」
ルナマリアとメイリンがアスランにお礼を言い、にっこりと二人が笑う。
「ああ」
二人にアスランは答える。そして言ってからアスランは気付いた。
(ちょっと待て、ここは二人に注意を促すべきところだろ?しまった…orz)
見事に流されたアスランであった。
そんなことをアスランが思っていると、メイリンが恥ずかしそうにアスランに話しかけた。
「あ、あのアスランさん…明日…」
そこまでメイリンが言ったところで、ルナマリアがわってはいる。
「明日デートしません?明日私オフなんですよ」
「ん?何で俺の休日知っているんだ?二人に言ったか?」
アスランはルナマリアに尋ねる。
「そんなの調べれば一発ですよ。人事部に問い合わせてもいいし…ね?だから明日デートしません?」
たたみかけるルナマリア。
「今、私も言おうとしたのに……」
不満そうに言うメイリン。それを聞いてアスランが反応する。
「え!?メイリン?」
ショボーンと顔を伏せているメイリン。未だアスランの腕を掴んだままだ。
「メイリン?」
アスランはメイリンが気になり顔を近づける。
「あ、あの!」
メイリンは顔を上げ、アスランに詰め寄った。
「あ、明日私とデートして下さい!」
積極的なメイリンだった。
それを聞いてかたまるアスラン。
「えっと……」
「私とデートするんですよね?」
「私ですよね?」
ルナマリアとメイリンが詰め寄ってくる。
340329:2007/04/24(火) 15:27:58 ID:???
「アスラン…」
「アスランさん…」
二人は目を閉じる。
(どうしてそこで二人とも目を閉じるんだ?)
アスランは思った。
「「ん……」」
二人の女の子がアスランの返事を待っている。
(ど、どうすればいいんだ……?くっ、ならば……)
アスランはこの場をどうにかしようとして言った。
「そ、それなら明日三人で出かけよう」
「え〜」
「ええ?」
ルナマリアとメイリンが不満そうに上目遣いでアスランを見る。
「アスラン、ここまできて私かメイリンか選べないんですか?」
猫科の動物が獲物を追い詰めるかのようにアスランに詰め寄るルナマリア。
「アスランさんの一番を教えて下さい……」
汚れ無き子供のような目差しで見つめてくるメイリン。
(どうすればいいんだ?)
アスランは思考停止した。
そして―――種がはじけた。
――まとめて二人を抱きしめる。
「きゃあ」
「ひゃん」
驚くルナマリアとメイリンの二人に言うアスラン。
「二人とも好きだから……」
「あ……」
「ず、ずるい……」
アスランの腕の中で頬を染めたメイリンとルナマリアはそれでは不満と言いたげだ。
二人の視線がアスランに絡む。
「じゃあ、明日は10時半に新しくできたショッピングモールの時計塔広場の前で」
そう言ってアスランは颯爽と(?)逃走した。
「あっ」
「アスランさん」
後ろからルナマリアとメイリン声が聞こえた。
(二人が好きなのは本当だが、この状況、マズイよな……)
自宅へ帰る途中、アスランはそんなことを思っていた。

つづく
341通常の名無しさんの3倍:2007/04/24(火) 17:37:02 ID:???
>>338
今回誰かさんの死亡フラグが立った気がする
生き延びて番外編で良いから活躍させて欲しいんだけどなぁ

>>329
こないだも書いたがせっかく投下する 『作品』 だから題名をつけよう
342通常の名無しさんの3倍:2007/04/24(火) 20:16:18 ID:???
>>弐国
 今回はかなり読みやすくて、物語に没入できました。静かに深い強化人間の苦悩に
しんみりとしています。ようやくオリキャラに慣れた、というところでコンゴウが……
続きが楽しみです。
>>329
 日常のワンシーンという感じで、これはこれで面白いです。
 SSの名前もそうですが、SSを投下するレスとコメントするレスは別にした方が
ベターです。アスランの優柔不断さもラブコメタッチなら許容できます。

343通常の名無しさんの3倍:2007/04/25(水) 04:30:06 ID:???
>>329
「アスカしっかりしなさい」をパクって「アスランしっかりしなさい」とかww
344329:2007/04/25(水) 20:47:46 ID:???
色々とアドバイスありがとうございます。

色々題名考えてみましたが、なかなか良い題名が思いつきませんでした。
>>343さんの「アスランしっかりしなさい」も良いなと思ったのですが、「アスカしっかりしなさい」の
作者様に迷惑がかってはいけませんのでやめました。スミマセン。

題名は「アスランとホーク姉妹の休日」でお願いします。

では出来た分を投下します。
345329:2007/04/25(水) 20:49:15 ID:???
次の日。
「ふう……なんとか間に合うな」
アスランは一人呟く。時間に余裕を持って出かけたつもりだが道路の渋滞に巻き込まれてしまったのだ。
だが、なんとかぎりぎり間に合う時間でショッピングモールへ着けた。ショッピングモールの駐車場に車を止め、待ち合わせの時計塔に向かう。
時計塔を中心にしたスペースは待ち合わせには絶好の場所であり、待ち合わせの人間で溢れていた。それを確認したアスラン。
(えっ!?溢れている?)
よく見ると待ち合わせの時計塔の前はかなりの人が犇めいている。
しかし男ばかりだ。なにやら声高に自己アピールをしている。およそ女性を口説くことに慣れていそうな二枚目から賢明な三枚目まで実に多種多様である。
アスランは何となく原因がわかった気がして溜息をつく。
(さて、行くか…)
そう思って人の少ないところをかき分けて中心にでる。
それだけで一苦労だった。
「ふう…」
やっと中心にでれたアスランが一息つく。
「――!」
ルナマリアがアスランに気付いたようだ。メイリンも続いてアスランに気付く。
アスランは二人に近づいていった。
「済まない…少し渋滞に捉まった…」
言い訳であることはわかっていたがアスランは二人に告げた。
「……んん」
ルナマリアの咳払いにアスランは少し身を固くする。
「10時25分……ぎりぎりセーフですね」
騒いでいる男共にはもう目もくれずルナマリアは時計を見て言う。
「でもアスラン。こんな状況に女の子を待たせちゃダメですよ」
最後は少しルナマリアはほっとしたように言う。
やはり不安だったのだろう。二人に申し訳なく思った。
いくら何でもこの人の数と無遠慮な誘いの声、そもそもこういった男の目につきやすい場所、時間に待ち合わせ場所を指定したのはアスランだ。責任はアスランが負うべきだった。
だからアスランは素直に二人に言った。
「全くだ……言葉もない……別の場所にすれば良かったな。まさかこんなコトになるとは思わなかった…」
アスランはちらっと周りを見る。嫉妬のオーラが飛び交っていた。
(はは……)
アスランは心の中で苦笑する。
346329:2007/04/25(水) 20:51:03 ID:???
「…そんな気にしないで下さい。アスランさんが悪い訳じゃないんですから」
メイリンがフォローしてくれた。アスランはメイリンに感謝した。そしてルナマリアが言った。
「そ、それにこれだけギャラリーがいればアスランのモノって証明になるわね」
悪戯に無邪気に楽しそうに嬉しそうにそう言って、ルナマリアはアスランに抱きついた。
柔らかなルナマリアの感触とルナマリアの右腕をアスランは左腕に感じる。
同時に周囲にどよめきが起こる。
「ルナマリア…誰が…その俺のモノなんだ…?」
アスランがそう言うとルナマリアは身体を寄せてくる。
「私」
ルナマリアがアスランの質問に一言で答える。アスランはさらに尋ねる。
「誰の?」
「あ・な・た・の・も・の♪」
そう言ってルナマリアはてれた。
周りからは神(この世界では負債)さえ殺しそうな悲鳴が上がる。
そしてメイリンがむっとした。
「うう……」
そんなメイリンに気付いてアスランは尋ねる。
「あ、ああ…メイリン?」
「どうしてそうお姉ちゃんばっかり……」
メイリンが呟く。そんなメイリンにルナマリアは微笑を浮かべて言った。
「欲しいんなら自分で取りに行かなきゃ。それが自分の好きな人ならなおさらね」
「け、けど…」
メイリンは周りの男が気になるのか、ちらちらと見て赤くなる。
「で、出来ないよ…」
メイリンな少し泣きそうな声で言った。
「ふーん。じゃあアスランの腕は私が独占しちゃうわよ」
そう言ってさらにアスランに身体を寄せるルナマリア。
そして顔にルナマリアの吐息を感じるアスラン。
固まるアスラン。
347329:2007/04/25(水) 20:52:05 ID:???
それを見て意を決したのかメイリンが言う。
「アスランさん…」
「ぁ、ぁぁ…」
アスランはルナマリアの吐息を感じて赤くなっていたので返事がぎこちない。
「め、迷惑じゃないですか?」
メイリンはそんなぎこちない返事に気付かず、アスランに尋ねる。
「メイリンさえ良ければ俺は問題ない…」
周囲の視線は気になるがここまできたら一緒である。覚悟を決め、なんとか気持ちを立て直してアスランはメイリンに答えた。
だが、周囲の視線があるためかメイリンは固まってしまっている。
「あう…」
「ふふ」
「はは」
テレ、悪戯、誤魔化し、メイリン、ルナマリア、アスランの三者三様の言葉が出る。
「じゃ、じゃあ行きます」
覚悟が決まったのかメイリンはそう言ってアスランの右腕に抱きついた。
メイリンの温もりが服越しにそして腕越しにアスランに伝わる。
周りからは絶望の叫びが漏れた。
「――――」
メイリンは照れている。
「うふふ」
ルナマリアは嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、少し歩こう」
アスランがそう言って、デートが開始された。

つづく
348通常の名無しさんの3倍:2007/04/25(水) 23:17:34 ID:???
>>329
しまいま。だろ?これ。
ほとんどそのままじゃん。
349通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 00:51:13 ID:???
>>348
詳細を詳しく。
350通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 01:51:07 ID:???
 アリスソフトがよくばりサボテンなるソフトの販売促進用に無料配布したソフトらしい。
一応言っておくが、349の為に調べたわけではない、勘違いしないで欲しい。
351通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 09:19:28 ID:???
姉妹系ならば内容は似てくるのじゃないか?俺も内容良く知らないけどな
『しまいま。』でググると無料でDL出来そうなのでこれ以上は見てから。だな
一応エロゲなので良い子は落しちゃダメだぞ

あと>>350が微妙にツンデレな理由もkwsk!
352329:2007/04/26(木) 12:10:11 ID:???
(やはり間違えたか…)
アスランはそう思った。先程の無遠慮な男達の件もあったが、女の子二人とこのようなショッピングモールを見て回るということを後悔した。
映画を見ようとすれば二人の意見が割れるし、洋服を選べば二人はアスランの好みに合わせようとアーじゃないコーじゃないと始めるし、引っ張り回されてばかりのアスランだった。
まあ、それでもここまでは良かった。心地よい疲労だった。
あまりに大量の買い物で一度アスランの車に向かって荷物を積んだコトは含まれないが。

それはさておき
ルナマリアの一言がアスランを地獄か極楽かはわからないがどこかへ突き落とした。ルナマリアは本当に何気なく言った。
「じゃあ、買い物の〆にアスランに下着選んでもらいましょう」
「は!?」
「ええ!?」
アスランとメイリンが吃驚した声を上げる。
「あら、せっかく色々見て回ってアスラン好みの服買ったのに、下着がアスランの好みじゃなかったらアスラン興ざめでしょう?」
「………ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺にあのフリルとレースの国に一緒に行けというのか…?それに興ざめって……?」
恐る恐るアスランはルナマリアに聞く。
「あら…私にそこまで言わせるんですか…もうアスランのエッチ!」
ルナマリアは言う。
「…お、お姉ちゃん。いくら何でもそれは……」
アスランを誘惑していることは恥ずかしさのあまり気付かなかったのだろうランジェリーショップへ行くことのみに対しての意見をメイリンが言った。
「あら、良いじゃない。メイリンだってアスランの好み知っておきたいでしょ?言い換えれば脱がせてみたい下着ってコトだからね。きっと野獣になってくれるわよ」
「………そっか…」
メイリンは未だ恥ずかしさはあるようだが、どうやら堕ちたようだ。
353329:2007/04/26(木) 12:11:53 ID:???
「あ、あの…俺の意見は…?」
アスランが恐る恐る言った。
「さっ、そうと決まれば行きましょ」
ルナマリアがアスランに腕を組んで歩き出す。どうやらアスランの意見は無かったことになっているようだ。
「じゃ、じゃあ行きましょう…」
メイリンもアスランに腕を絡めて歩き出す。
端から見れば二人の女の子と一人ダブルデートをしている羨ましいヤツでしかないが、この時だけは、アスランは自分が婦人警官に連行される犯罪者みたいに思えて仕方がなかった。

入り口をくぐるとそこはレースとフリルの国だった。アスランはなにも考えられなくなった。店の中心まで進み三人は止まった。
「・:*:・(*/////∇/////*)・:*:・ 」
もう一度言う。一面レースとフリルの国である。アスランは真っ赤になる。
「アスラン、何真っ赤になってるんですか?」
わかっているくせにルナマリアがからかうように聞いてくる。
「…やはり、ここは俺がいて良い場所じゃないようだ……」
そう言ってくるりと後ろを向こうとしたが、腕を取られているため不可能だった。
(くっ…これではどうにもならないじゃないか…)
「そ、そうですよ…往生際悪いです…」
未だ少し恥ずかしいのかうつむき加減ではあるが、メイリンも言ってくる。
(どうしろっていうんだ……)
アスランは思った。
そしてある意味拷問、ある意味天国の時間が始まりましたとさ。

つづく?
354通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 20:03:35 ID:???
>>329
書きたいことが美味く伝わってない気がする
が、巻き込まれ系主人公のエロゲ、若しくは美少女ゲーのシナリオならばすなおにGJ

>>351
ツンデレワロス
355通常の名無しさんの3倍:2007/04/27(金) 22:16:13 ID:???
劣化リウを読むよりマシだね。GJ!
356 ◆YqJJJk6AAw :2007/04/28(土) 22:03:08 ID:???
申し訳ない。他スレで投下していたSSをリライトしてこちらに投下しなおしてもいいかな?
357通常の名無しさんの3倍:2007/04/28(土) 22:07:03 ID:???
どぞー!
358通常の名無しさんの3倍:2007/04/29(日) 01:03:09 ID:???
>>356
どーぞどーぞ!
できればしっかりしなさいもお願いしたいです!
359 ◆EWxNN5VMR6 :2007/04/29(日) 22:24:36 ID:???
ちょっと腰折りますが、冒頭だけ投下します。
360P.L.U.S.SS ◆EWxNN5VMR6 :2007/04/29(日) 22:39:14 ID:???
 CE73年春、プラント軍事アカデミーは卒業の時期を迎えた。
 アカデミーの卒業まで一カ月を切ったこの時期になると、卒業後の配属先に想いを馳せ
る候補生も少なくない。この時期には本人の希望と総合成績を加味して配属先が内定して
いる場合が大半であったからだ。
 シン・アスカ、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルの三人もアカデミートップの実
技成績を買われ、ザフト入隊後は一線に投入される事が確実視されていた。
「シン! 来週の卒業演習、俺と組んでくれ! 必ずトップを取るんだッ!」
 だからシンは、血相変えて飛び込んで来るレイの意図が理解出来なかった。実技、理論
共にトップの成績のレイは、卒業演習を欠席しても総合トップの座は変わらないだろう。
「勘弁してくれよレイ。俺は筆記がヤバくて卒業ピンチだって、お前にも言たろう? 演
習に裂ける時間なんて無い。悪いが他を当たってくれ!」
 振り返らずひらひらと手を振るシンは食堂でルナマリアと卒業試験の勉強に追われてい
る。二人とも実技演習は他の候補生を大きく突き放してトップだが、筆記は平均以下だ。
「そんな事を気にしている場合か! 俺達の卒業演習に議長が視察に来られるんだ! ギ
ルに無様な姿を晒す訳にはいかないんだ、俺は! 分かるか、シン!」
「知るか! そんな事!」
「何だと!」
 思わずレイはシンの胸倉を掴み上げ、シンの手から滑り落ちたペンが音を立ててテーブ
ルの上で踊る。緊迫した空気にルナマリアが思わず声を上げて立ち上がる。
「やっぱり俺、理論はサッパリだ。ザフトになんて上がれそうにない……」
 シンはぐったりと力無くうなだれ涙目の視線はテーブルの上のノートへ落ちる。レイは
胸倉を掴む手を緩め、片手でノートを拾い上げた。
「……シン。まさかこれが分からないのか?」
「そうだ! 悪いか! 人間遺伝子的に向き不向きがあるんだ! 俺の神経中枢は運動神
経に特化してるから、理論に回す余力なんて残って無いんだよ!」
「仮にもコーディネーターが、情けない事を言うな!」
 半ば逆ギレしたシンの叫びに物見高い候補生達が集まり始め、辺りの雰囲気を察したレ
イが溜め息を吐きながらシンを放すと、シンは反動で椅子にもたれるように座り込んだ。
「モビルスーツ工学はパイロットの基本だ。基礎知識も分からずにモビルスーツを動かし
ていたのかと思うと、正直ぞっとするそ」
「ちょっとレイ、私達は優等生のあなたと違って理論はさっぱりなのよ! シンと私は卒
業演習はもう捨てたの! 出来損ないの私達なんて放っておいて帰ってくれない?」
「まさか、ルナマリアもこのレベルが分からないのか?」
「そうよ。悪い? だからこうやって無い知恵絞ってるんじゃないの! 私達の成績、知
らない訳じゃないでしょう?」
 それ見た事かとばかりに胸を張るルナマリアに周囲からは訳も分からず歓声が上がり、
拍手が飛ぶ。今度はレイが椅子にへたり込む番だった。
「わかった。筆記の基礎は留年しないようにばっちり教えてやる。その代わり卒業演習で
シンは俺と組んでくれ。それでどうだ?」
「私、講義受けてても中身はさっぱりなんだけど、平気かな?」
「へっ! そんなこと言って、本当に留年しても悪く思うなよ?」
 レイはその二人の答えに頬を引きつらせながら
「……心配するな。なんとかしてやる」
 と答えるのが精一杯だった。
 取り上げたテキストは『ハイスクールで学ぶモビルスーツ理論(基礎)』と題され、一
般のハイスクールの学生用に要約された超基礎のテキストだった。

<続く…>
361弐国:2007/05/01(火) 01:18:55 ID:???
森の娘の見た光〜番外編2〜

腕章とパイロット(1/3)

 野戦病院のスタッフ全員が整列する中ゆっくりと連絡機は下りてくる。中ほどのドアが開くと
司令部付きのエリート中尉が出てくる。周りにいるものは直立不動で敬礼する。責任者の少尉はもはや顔面蒼白である。
そして彼が来る原因を作った本人は敬礼をしながらまだ文句を言っていた。
「私はそんなに悪い事して無いじゃん、どっちかって言うとみんなのために…」
 ピンクの制服に白い上っ張り、赤十字のマークの着いた腕章、やっと私の居場所が出来たのに…。
輸送機の排気で乱れるプラチナブロンドも気にせず、納得行かずに口をへの字に曲げる彼女。
その中尉は、もう彼女の目の前まで歩いてきていた。

 その少女、ソフィは学校から事あるごとに落ち着きが無い、授業態度が悪いと文句を付けられた。
ただの文句で終わったのは成績だけは良かったからだ。
それも毎回カンニング疑惑のおまけつきではあったがあまり気にしていなかった。
医者になりたい。と当人は思っていたがそう言った学校は入学金だけでもかなりの額が必要であり、家はさして裕福では無い。
そして学校の受けの悪い彼女には当然奨学金を出してまで入学させてくれる学校など無かった。
 とりあえず進学はしたものの、自分の居場所では無いと思っていた。そう思いながらも博士号をいくつか取った。
自分の居場所ではないと思いながら人より長く在籍していた。童顔であったので在籍年数を知ると皆が驚いた。
そして在籍するためには学費を払わねばならず、アルバイトが
欠かせなかった。各教授が重要視する講義にはほぼ間違いなく仕事がブッキングし、その場合
彼女は全く躊躇せず仕事を選んだ。
 成績優秀なれど就学態度悪し。その評価のみは時間に比例して更に磨きがかかっていった。

 学生として何事も無く過ごしていたころ、血のバレンタイン事件を発端とする戦争が起こった。
自分には関係ないと思いながら、自分の中の何かが憤るのを感じた。
数ヶ月後、ソフィ・ゲインズ2等兵は野戦病院を手伝っていた。
そもそもが器用な彼女は包帯の巻き方も、三角巾の扱い方もあっという間に誰より上手くなった。
機械の扱いは当初から誰も敵わなかった。機械類の配線や設定、運転は自然に彼女の仕事になった。
野戦病院に担ぎ込まれる兵士やスタッフから
『ヤッパリ、ゲインズじゃないとな』と言われるのが素直に嬉しかった。
今までそんなことは言われたことはなかった。私の場所だ。生まれて始めてそう思った。

 彼女が連合にもMSがあるのを知ったのは直接見たからである。
骨折した少尉とともに野戦病院に運び込まれたストライクダガーのプロトタイプ。
彼女は既に機械マニア呼ばわりされては居たが、実はそれ自体が気になったわけでは無かった。
戦況が進むにつれ定数を超えて運び込まれる負傷兵。雨が降らないのを良いことに炎天下にシートを敷いて寝せられている。
彼女は近所の学校から手伝いに来ている女子学生にシートを繋ぐように話をする。
制服を着た人間にそう言われれば、彼女たちは素直にシートを集め始める。
そして彼女は未だOSの改良さえ暗礁に乗り上げて、テストパイロットの肋骨をへし折ったダガーを、
負傷兵に影を作るためのシートの台としてあっさり四つん這いにさせた。シート自体は好評だったが、
ダガーの無断使用は不味かった。野戦病院前にそのまま駐機してあったとはいえ、一応かなりの強度の機密扱いだったのである。
 結果、司令部から件の中尉殿を呼び寄せることになった。原因は、だから彼女にあるのである。

 敬礼の手を下ろすと同時に口元のへの字が不意に元に戻る。
意外に若い、人の良さそうな中尉がかなり近寄ってきたからだ。そのくらいの常識は彼女にもあった。
だがその整った顔立ちには若干不満そうな表情が残り、全く納得いかないと雄弁に物語っていた。
362弐国:2007/05/01(火) 01:20:58 ID:???
腕章とパイロット(2/3)

「ゲインズ二等兵、キミがそうか?」
 人の良さそうな顔には不釣合いな厳しい瞳が彼女を正面から捕らえる。
「そ、その、中尉殿。ゲインズのかっ、監督不行き届きは自分の責任であり、彼女は知らずに機械を、その…」
 今にも倒れそうな白い顔をした少尉が青い髭剃り跡とのコントラストも鮮やかに、
それでも直立不動、敬礼を崩さず中尉に対して彼女を庇おうとする。
「軍医少尉、貴官には聞いていない。話があるなら後で時間をとろう。……ソフィ・ゲインズだな」
「はい」
 返事はしたものの何をどう話して良いかはわからない。軍隊の言葉使いなんてわからないし、
何か言ってもきっと聞いてはくれないだろう。彼女はただ、その中尉のズボンを見て軍服もアイロン
をかけるのだな、とその部分に関心した。ウチの少尉のズボンは折り目などあったためしが無いし、
自分の軍服は上着だけで下はGパンだ。
「自分は司令部のイシカワ中尉だ。キミがアレを動かしたと言うのは本当か?」
 四つん這いで腹と胸にロープを結わえられてシートの基台になっているストライクダガー。
その後、誰も動かせないのでそのままになっている機体を見やるイシカワ中尉。
 本人に確認の上連行されて軍法会議にかけられるのだと、
まだ白くならずに青い顔だった少尉はさっき教えてくれた。
だからと言って嘘をついたところで誤魔化せるものでもあるまい。
「そうです。その、わ、私、あの……」

「ソフィは悪くないぜ、中尉殿! 俺らが熱いとか眩しいとか文句言ったのが悪いんだ!」
「原因は搬送者が多い事にあるのであります! キャパを超えて此処への搬送指示が出てるのは、
それは司令部の責任でもあるのじゃあ無いでしょうか!? 中尉殿!」
 頭と腕に包帯を巻いた彼女よりいくつか上の上等兵と、赤十字の腕章の彼女の父親ぐらいの伍長。
司令部の中尉殿に意見をすれば自分にも害が及びかねない。多少及び腰なのは当然だが、
それでも彼女を庇って叫ぶ。中尉がそちらを向くと、それでも怯まずに二人とも中尉を見返す。
「勘違いをしているようだがまぁ良い。必要があれば後ほど貴官らからも話を聞こう」
 中尉殿! まだ食い下がる彼らにそういうと、ソフィに向き直る。
「ともあれ、一緒に司令部まで来てもらうぞ。ゲインズ二等兵」
363弐国:2007/05/01(火) 01:23:41 ID:???
腕章とパイロット(3/3)

「それは、あの…わた、いえ、んーと、自分は、その此処の……」
 何処にも行きたくないです。此処には帰してもらえますか? 看護助手の仕事は続けられますか? 
どう話せば良いのかわからない。そして焦るほどに言葉は出てこない。
「自分に対して言いたい事があれば、気にせずキミの喋り方で構わんぞ?」
 中尉はふと人の良さそうな顔に似合った瞳の色になる。良いのかな? 
白くなってしまった少尉の目は彼女の方を向いているが何処も見て居ない。コレでは同意の求めようが無い。
「あ、えと、わた、私がいて良い場所は此処しかないんです。怪我をした人に食事を運ぶくらいしか私、出来ないんです。
私、刑務所とか行くんですか? も、その、戻って…来れますか?」
 全く、どうして何処に行っても上手く伝わってないんだ。呟くと彼女の目を見る中尉。
「どうやらキミも勘違いしているようだな、……単刀直入に言おう。MSのパイロットになる気は無いか?」
 一瞬、周りの空気のみならず彼女の頭の中も真っ白になる。パイロットって、何だっけ……。
「せっかく出来るんだ、やってくれないか? 現にアレに言う事を聞かせたのはキミ一人だ」
 振り返る彼の眼の先には誰もまともに扱えない重要機密兵器が四つん這いになっている。
「い、……だ、誰でも練習すれば……」
「キミは練習が要らなかったろう? 才能があるんだ。それにこんな言い方はなんだが、キミがパイロットになれば
結果的に此処に運ばれてくる人数を減らせるかも知れんぞ。みんなの希望になりたくないか?」
 彼女の想像は遥かに超えてしまった。私が怪我人を減らす? 私が『みんなの希望』……?。
固まってしまった彼女から責任者の少尉に目を転じる。
「軍医少尉、彼女を手離したくない気持ちはわかったが決定事項だ。ゲインズ二等兵はパイロット候補生として
司令部が預かる。この件についての意見は一切認めない。司令部からの命令書だ」
 ギクシャクと命令書を受け取る少尉。周りの人間も予想外の展開に何も言えない。
「まぁ、彼女の代わりにはなるまいがスタッフ2名とA型仮設病棟7棟、それに搬送用車両2台を
1週間以内に此処に寄越すことを約束しよう。すまないが自分に出来るのはココまでだ」


 数ヶ月後、月軌道付近。
 数日前、正式に自らの上官になったイシカワの部屋に呼ばれたソフィ。
司令部に呼ばれた時点で便宜上上等兵に昇進した彼女はパイロット候補生として宇宙に出ると、
どういう経緯でそうなったのかは知らないが准尉として灰色の制服を着ていた。
 免許が無いんだから外で着けるなよ? と言われながら
赤い十字のマークと将校である事を示す線の入った腕章を任官状とともに渡される。
任官状の階級の欄には軍医少尉と記されていた。
「所属は医療班と兼任でMS小隊だ。たった今から二人分仕事をしろ。文句は無いだろうな?」
 


 元看護助手のパイロットを筆頭に、元ゲリラ戦隊のおちこぼれを何故か自らの事務官に置き、
部下からも昼行灯呼ばわりされる将校が副官、仕事は出来るものの気弱な医療班長、
戦争で仕事を無くすまでは元一流ホテルでシェフだった少し偏屈なコック長。
更には現地採用の私設秘書兼、通訳兼、運転手と言う若干14歳の少女…
 イシカワが自分の人を見る目のみを信じて集めた変わり者達。彼がその部隊を擁して、
計算上の戦力差3.5倍強のザフトの部隊を打ち破り、『司令部の更生センター』などと
よくわからないあだ名で呼ばれるのはこれから数年先の事である。
364弐国:2007/05/01(火) 01:26:21 ID:???
余ってたプロットを直したので投下させて頂きました。GWと言うことでご容赦を
ではまた

>>339
thxです。褒められると図に乗る性質ですよ、自分www

>>341
……う。フラグとかはまぁ、ねぇw 乞うご期待って事でww
番外編は、草原についてはお話、余ってないんですが。考えておきますです……

>>342
thxです。むしろ冗長になってなきゃ良いんですが。自分じゃ分かりませんもので
365通常の名無しさんの3倍:2007/05/01(火) 22:50:50 ID:???
すみません、質問です。
該当スレがあるのですが、事情がありそちらへ投下出来ないので
このスレへ投下しても良いですか?
366通常の名無しさんの3倍:2007/05/01(火) 22:53:57 ID:???
ダメ





と言われたらどうする
ノンジャンルのスレでいちいち許可を求めんでも
367365:2007/05/01(火) 22:58:18 ID:???
ダメと言われたら投下は諦めようかと思っていました。
取り敢えず勇気を出して投下をしようと思います。
内容は種とWのクロスです。
368通常の名無しさんの3倍:2007/05/01(火) 22:58:36 ID:???
>>366
編集長、新人さんにキツイ事言わなくても良いじゃありませんか。

>>365
どーぞどーぞ。どんな作品でも受け付けてますよ?
369夢に楽土求めたり ◆1GxYc5XlEw :2007/05/01(火) 23:01:42 ID:???
第一話

 サーカス団の朝は早い。
 キャスリン・ブルームは弟分のトロワ・バートンと共に動物達の餌の準備をしていた。
 余り規模が大きいサーカス団では無いが、それでもくたびれる作業だ。
 顔見知りになった肉屋から安価で分けて貰った屑肉をライオンに与えるトロワを尻目に、キャスリンは象の為に水を運んでいた。
 重労働ではあるが、キャスリンはこの時間が好きなのだ。動物達と一体感を感じられるし、何よりもキャスリンは動物が好きなのだ。
 朝靄の中、キャスリンとトロワは仕事に励んだ。辺りには動物達の嬉しそうな鳴き声だけが聞こえる。
 額に流れる汗を拭っていると、キャスリンはトロワと目が合った。
「ねえ、トロワ。そっちはおわった?こっちは終ったわよ」
「ああ、姉さん。俺の方は終わったよ」
 キャスリンの呼びかけにトロワは大人びた声で答えた。
 
トロワは一度サーカス団から出て行った子だ。再びキャスリンの目の前に現れた時にトロワは記憶を失っていた。
 きっと辛い体験をしたのだろう。その時には泣き濡れた瞳でボロボロの服を纏い街をさまよっていた。
 何かに脅えるように肩を抱えていたトロワを見て、思わずキャスリンはトロワを抱き締めた。
 キャスリンはその時に決意をしたのだ。自分がトロワを守ると。
 キャスリンはその決意を実行し、ありとあらゆる危険からトロワを守って来た。
 キャスリンの気持ちが伝わったのか、トロワは以前以上に明るくなり、芸にも磨きが掛かって来た。

 そして、今。
 サーカス団は興業の移動途中で世界を超えた。CEと言う名の世界だ。
 キャスリンの知っている世界とは似て否なる世界だが、一つだけ共通点が合った。
 ――戦争。キャスリン達のいるオーブには余り影響は無いらしいが、これから先はどうなるかは判らない。

「私の方も終わったわ。戻って私達も朝ご飯を食べましょ。」  キャスリンは幾ばくの不安を拭い去るように明るい声でトロワに向かって叫んだ。

370夢に楽土求めたり ◆1GxYc5XlEw :2007/05/01(火) 23:03:58 ID:???
投下終了です。
新人なので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
371通常の名無しさんの3倍:2007/05/02(水) 07:05:37 ID:???
>>369
 序章ゆえに、説明的文に終始して話の展開がないことから、面白いか詰まらないかの評価は不可能な段階です。
 言葉の用法・表現間違いと思われる箇所のみを指摘します。

・『尻目』。 これは、【相手を意識しているが無視する。または問題としない(相手としない)】という意味のはずです。
 前後のつながりから見ても誤用と思われます。

・すべて人物名になっていますが、「彼」ないし、「彼女」に代えても問題ない部分が数箇所在ると思われます。
※文字数制限を気にしないのであれば、そのままでもいいですが。 正直な話。読むほうでダレるかもしれません。

【顔見知りになった肉屋から安価で分けて貰った屑肉をライオンに与えるトロワを尻目に、キャスリンは象の為に水を運んでいた。】
 ・『顔見知り〜』この説明語句必要ですか? 省けるのではないでしょうか。
 ・屑肉がどういうものか理解していますか。 取材、調査というものは必要です。 想像力だけで書くと言葉だけが上滑りになるので注意が必要です。

【重労働ではあるが、キャスリンはこの時間が好きなのだ。動物達と一体感を感じられるし、何よりもキャスリンは動物が好きなのだ。】
 ・キャスリンが動物が好きだというのを強調したいのだと思われますが、好きだを2度重ねるのはうまくないかもしれません。
 『重労働ではあるがキャスリンは辛いと思ったことはなかった。甘えるように餌をねだる動物たちのしぐさを好ましいと思っているし。何より動物たちが好きだった』
 徹夜明けの寝ぼけ頭なので大した代案は出ませんが、こんなものでしょうか。

【そして今〜】
・非常にひどいことを述べますが。 『そして』はその前の文で述べている事の『何』を受けているんですか?
 前に述べた事柄を受けて、それに引き続いて起こる事柄を述べる場合が「そして(そうして)」という接続です。
 前後の繋がりがないと思われます。 推敲をしっかり行っていれば避けられる誤りです。
 この種の誤りを減らすには、2つの方法があります。
 1)辞書を傍らに置き、自分でうまく説明ができないあやしい表現はチェックしながら書く。
 2)うまく表現できないということは、自分の知識が足りないということ。 とにかく様々な本を読んで表現について自分の中に知識を蓄積する。
  ただ、巨匠であっても、言葉の意味を間違って使っていることもあるので要注意。

※例えば。 「三十六計 逃げるにしかず」を知らずに、「三十六計の三十七計目」といって「逃げる」というトンデモ表現をしたプロの人がいます。
 (原文では「逃」ではなく「走」ですが) …誤って憶えたり、物を知らぬまま適当に書き散らすというのは、後で恥ずかしい思いをするものです。
 かといって、知っているからといって読み手の判らない難解専門用語や表現が羅列されても鼻につくわけですが。
 まさに、表現についても「彼を知り、己を知れば百戦危うからずや」というとこでしょうか。(何か違うか…)
372SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 13:56:57 ID:???
1/

「終わったわね……」
 静かに戦闘の終決を宣言したタリアは、艦長席に深く体を沈めた。三秒だけ気を抜く。
心臓に残る気だるさをため息と共に長くかけて吐き出すと、顔を引き締めた。
 細かい作業は部下に任せる殊に決めている。
「各員ダメージのチェック。MSへ帰艦の誘導をメイリンがお願い。
アビーにMS隊の損害報告をまとめさせて。何人帰ってきたの?」
「ショーン機のシグナルがロスト。脱出は確認されていません」
「……そう」
 タリアの顔が暗く沈んでいたのは、一呼吸の間だったろう。
 絡めた指を組みなおす、それだけの時間だ。
「アーサー、バートと協力してミネルバを退避させる位置の選定をお願い。この宙域には
丁度良い場所が沢山あるでしょう。マリクは其処まで移動させて、静かに、そして急いで。
敵の第二波も考えるのよ」
「……艦長――」
「――チェン、火器のエネルギーレベルは落していいわ。CIWSだけは起動しておいて」
「了解です……」
 副長の不安げな目線を、タリアは逸らした。
「完全に負けだわ。セカンドシリーズを奪われた上にボギーワンには逃げられた。
ミネルバは損傷を受けて搭載機とパイロットを失った」
 帽子を取ってつばを握る。タリアの手の中で階級章のついた帽子は歪んだ。
「……完全に負けだわ」
 二度目の敗北宣言は小さく、自分自身に言い聞かせたものが思わず外に漏れただけだ。
 タリアはぎこちなく頭を巡らせ、後ろに座るデュランダルとカガリを見た。
「アスハ代表、確かに貴方のお陰で本艦は危機を免れました。艦のクルーを代表して感謝します」
 謝辞を受けたカガリはうなずいた。
「……ああ、それも私と部下の身を守る為に口出しした事だ」
 横のシズルに目をやると、側近は微笑を浮かべたまま小さく俯く。随員として代表の言葉を
待つという態度を崩さなかった。
「むしろ指揮系統を無視して横から意見して済まなかった。ミネルバも相当のダメージを受けて
しまったようだしな」
「いえ、閣下が意見を仰ってくれなければ、私は決断を下すことが出来なかったでしょう。
あの場に及んで、私は艦を傷つけないことを考えていました」
「そうか、そう言ってくれると助かる」
 船への愛着が有効な戦術を曇らせたと、タリアは反省していた。
「アーサー、アスハ代表閣下とデュランダル議長を士官室へお連れして。
メイリン、艦の被害はどの位なの?」
「先ほどの脱出の際に整備班が何人か医務室に運ばれたそうですが、命に別状は無いようです」
「人的損害はショーン=マクドナルド只一人……ね。大きすぎる損害だわ」
373SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 13:58:25 ID:???
2/

 がつんという衝撃だけが、最後の感触だった。
 
 覚醒する。トンネルを抜けたような唐突さで目蓋を開いた。
 目を刺すような眩しさを感じたのは一瞬で、直に明るさに慣れる。
 知らない天井が、此処はお前の眠るべき処では無い、と告げていた。
「えっと……何がどうなったんだっけ?」
 頭を打った所為か脈絡がつかめない。誰かに様子を聞こうと人影を探すと、
医務室の反対側に数人の姿を見つけた。
 身を起こそうとして、後頭部に走る疼痛に顔をしかめる。
 痛みの出所に手を当てようとして、右腕の感覚が無い事に慄然と肝を冷やす。
 すぐにほっとしたのは、のろのろと持ち上がる右腕をその目で確認したからだ。
どうやら眠っているあいだ、体の下に敷いていたので血が回らなかったらしい。
 後頭部に当てた手のひらは髪よりも早く布に触れた。
「あー。頭に包帯が巻いてある? ……此処は医務室だっけ?」
 ぼんやりとした思考に身を浸したまま周囲に視線を巡らせた。
 視界と思考が鮮明さを増す。清潔感に溢れるこの部屋は、確かに医務室だ。
部品と工具が混沌と跳梁跋扈する格納庫とは対極にある場所だろう。
「なんで……?」
 何かを修理に来たのかな、と本気で考えて、ヴィーノは頭を振った。
心拍と同期して頭に鈍い痛みが走り、今度こそ意識がはっきりとする。
 怪我をして担ぎ込まれたに決まっている。
「ちぇ、さっきシンをからかうんじゃなかったぜ」
 頭を切って血が出たのか、後頭部に何かが刺さっているような感じがした。
 拘束されていない事を考えても、動いて悪いという事は無いのだろう。
 或いは自分一人に時間を咲く事が出来ない程忙しいのか。ベッドに横になったまま
感じる限りでは、戦闘が続いているような気配は感じない。
 ベッドに腰を下ろした黒髪の青年が、女性二人を前に話を聞いているようだ。
側に控えてその様子を見守っていたらしい看護婦が近づいてきた。
「ご機嫌は如何ですか? 気分は優れませんか?」
「……大丈夫っす。ちょっと頭の皮が突っ張ってる気がしますけど」
「ここに運ばれた時には工具で頭を切っていましたから、三針縫いました。四日はお風呂に
入らないで下さいね。異常はありませんでしたが、明日もう一度精密検査をするそうです」
「……あの、俺何時間寝てました?」
「戦闘が終わってから……三時間くらいですね。医務室に運ばれたのは貴方が最後です」
 てきぱきと事務的な口調であったが、言葉よりも優しげな態度の方に気が向いてしまう。
 差し出されたカルテに自分の名前を書き込みながら、実は柔らかそうな手を凝視していた。
「ヴィーノ=デュプレ、っと。これで良いですか?」
「はい……意外ときれいな字を書かれるんですね。手書きは書体が乱れる方が多いのに」
「はは、両親がアナログ趣味というかアナクロというかで……勘当されちゃいましたけど」
 そのとき、先客から声が掛かった。
「ああ……すまないが、少しの間アレックスと二人に為てくれないか?」
374SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:00:17 ID:???
3/

 というわけで、ヴィーノは医務室から丁重に追い出されてしまった。代表殿の
随員である女性も一緒に、である。オーブの代表閣下に声を掛けてもらった上、
美女の隣に立つことを許されたわけだが、かえって声を掛けづらいというものだ。
 此処まで美人だと、つい色々妄想してしまう。

 ――似合いそうな装甲強化服とか。

 東亜重工製"玖我"――色気が足りないので除外。黒一色で夜間の被視認性を
下げても、放熱に欠陥があって赤外線で丸見えという片手落ちがある。
基本的な防御力は高いが、装甲を素材の頑強さに頼る分重量と大きさが
嵩む上に筋力の補助が弱いのが玉に瑕だ。モーターがすぐにヘタレる。
動作の精度と固定機能が強いので、反動の大きい大砲を撃つのには役に立つのだが、
この人には似合うまい。
 アクタイオン製強化外骨格"零"――同様に排除。あの昆虫っぽいデザインでは、
女性が着る意味が無い。自分用なら硬質防御能力と強靭なモーター補助で
お薦めだが、ガチガチの格闘戦仕様は余りにも泥臭すぎる。却下。
 嶋デザインの人工筋肉型ウォードレス"久遠"――似合いそうなのはこの辺りか?
世界初の女性専用装甲強化服は、本当に売れなかった。前大戦の初期で局地的に投入
されたが、蛋白燃料を調達する難しさと敷居の高さが災いした。損傷すると全身が
真っ白い人工たんぱく質で汚れて非常に卑猥だったという。本気で想像すると
何か大切なものが穢れてしまいそうなので矢張り排除だ。
 次、オーブはモルゲンレーテ製の"ミスリルドレス"――これはデザインこそ良い
ものの性能に難がある。拳銃弾を止められる程度の装甲は紙で、関節の柔軟性と
瞬発力に重きを置いたその設計は恐らく五年早かった。モーターを手首足首に
集中させ、肘と膝の柔軟性を大幅に向上させた上で出力と持続力を向上させた
アイデアには素直に感心させられたものだ。しかしどうしてモルゲンレーテは
回避能力重視のM1といい多形態空戦機のムラサメといい玄人向けなのだろうか?
 ヴィーノ個人は装甲にフェイズシフトを採用して軽量化を果たしたという
モルゲンレーテ新型の"ローブ"シリーズに期待している。PS装甲に色がつく
瞬間掛け声を上げてしまう事請け合いだ。
 戦闘力で行けば圧倒的に重量型が有利だ。丈夫で大きく、重い武装を運用できる。
 しかしこれからは体のラインが浮くような、薄くて軽いタイプが流行となるはずだ。
重量型はMSという極端で完成された形を持ってしまい、行き詰っている。人間の
持っている柔軟性を損なうことなく――極論すれば普段着の下に着込む事の出来る
ような、薄く邪魔にならない代物になっていくはずだ。
 というか折角この人に着せるのなら、この柔らかそうで、出るところが出ているのに
締まるところがきゅううーーっと締まっているスタイルを隠してどうする、という話だ。

 ……実際に着てくれる訳無いだろうけれど、勝手な妄想ぐらいは良いじゃないか!
375SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:03:21 ID:???
4/

「……」
「……何か?」
 いつの間にか凝視してしまっていたのだろうか、声を掛けられてしまった。
 話しかけられてしまうと後悔するほど話題が無い。モーターの話題であれば
一週間でも話し続けていられるが……女性にメカは縁が遠いだろうか?
 とりあえず共通の話題を探る。
「二人に為てくれって、どのくらいの時間なんでしょうかね?」
「相場から言うたら三時間どすな……」
 何処の相場だ。
「一体何をするって言うんですか?」
「ナニをするんやろうね……?」
 ちょっとヴィーノには分からない、オトナの話かも知れなかった。
 それはさて置いておくとしても、仕事場が気になる。医務室を出た瞬間に
分かった事だが、ミネルバの主機関が一つ停止している。
「そんなことも分からはるの?」
「え? あ……はい、伝わってくる振動で分かります」
 ミネルバの両舷にある主機関は遮蔽しきれない振動を船体に伝えている。
二つの主機関からは同じ振動が伝わるが、内側のバイタルシャフトが
回転しているために振動の伝わり方が違う。
「それで両舷から伝わる振動が低く唸るんですよ。今はそれが無いから……」
 相手が美人なので思わず口が滑ったと思った。この内容は軍機だったろうか?
 いや、肝心なところはそうじゃない。
「……って、こんな事興味ありませんよね?」
 救い難いメカオタク、そう思われる事は避けなくては。
「――面白いけど、ちょっとウチには難しい内容やったわ」
 その女性――シズル=ヴィオーラははんなりとした笑みを浮かべた。
 ――これがオトナのオンナの余裕って奴ぅ?
 ヴィーノは訳も無く嬉しくなってしまった。女性と無駄話をするというのは、
三次元では久しぶりだ。初等学校の先生を抜ければ初めてかもしれない。
 もう一歩踏み込んでみようかと考えて、相手が政府高官である事を思い出した。
若いながらもエリート中のエリート……駄目だ、只の整備士とは立場が違いすぎる。
「……って、いけない! 整備班の仕事は山積みじゃないか!
マッドな班長に目蓋を溶接されちまう……これで失礼します!」
 せめて仕事熱心な一介の整備士として美女の記憶に残ろう、と声を張り上げる。
頭痛なんかは無視しておこう、家を勘当されたときの父親の拳は何倍も痛かった。
「無重力に行くと傷口が開くかもしれんから気をつけやす。頑張ってな」
「はい――!」
 真面目な女性と会話――久しぶりだ。心が軽くなったような気がした。
376SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:11:49 ID:???
5/

 狭い艦内の事だ、格納庫へと向かう道すがらでも顔見知りとすれ違う。
 食堂から人影が飛び出し、ヴィーノと正面衝突すると思われた瞬間急転換を果たした。
ヴィーノに一瞥も加えず過ぎ去った影の纏う服は、赤――シンであった。
「――待て、話は終わっていない!」
 食堂の中から続けて出てきたのは、背中まで届く金髪も豪華な美青年だ。
 ――あれはレイ……か。
 ヴィーノの頭に疑問符が二つ浮かんでしまうほど、普段は感情の振り幅が小さい男だ。
ミネルバ顔面偏差値男性部門No.1(アビー調べ)――レイ=ザ=バレルだった。
「どうしたんだよ……?」
 ヴィーノの中にあるレイ=ザ=バレル像は精神安定装置付き美青年だが、
実はそうでもなかったようだ。
「いや、パイロットの内輪の話だ。今のは忘れてくれ」
 レイにも、人に見られたくは無い顔があると、初めて知った。
「ふうん、ならいいけどさ……」
 新鮮な驚きと共に、親近感が湧く。
「ヴィーノ、整備班は外壁の修復に当たっている……怪我をしたようだな?」
 頭に巻かれた包帯に、今頃気付いたような心配をされても困る。
「……うん、なんか頭を打っちまったみたいでさ。どうして医務室に居たのか分からないんだよ」
「記憶が無いのか。状況は聞いているか?」
「他の様子は医務室で大体聞いてるよ」
 ミネルバ修復に出遅れたとなると、マッドの叱責は覚悟しなければならない。
どういう状況で自分が頭を打ったのか分からないが、一週間は茶坊主の刑だ。
「……そうか」
 深い青の瞳がヴィーノを見ていた。
「無理はする必要ないぞ。十分休んでからモビルスーツの整備に入って欲しい」
 一番きつい思いを為てきたはずのパイロットに労わられてしまうと申し訳が無い。
「そっちこそ、ミネルバを守ってくれて有難うな。実戦は初めてだったから緊張したよ」
「礼なら、ショーンに言うなのべきだろうな。彼が居なければミネルバは落ちていた」
 そんなに危なかったのかと、今更ながらに思った。
「わかった、後で見かけたらお礼を言っとくよ」
「……おい、少し待て――」
「それじゃ、マッド班長が待ってるだろうからさ――」
 あまり長い事無駄話をしても居られない。メカニックの腕は睡眠時間に反比例すると
言われているのだ。長い事眠っていたならその分働かなくては。
377SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:18:44 ID:???
6/

 ヴィーノはシャワー室の前に通りかかる。
「はあ、四日はシャワーを浴びちゃいけねえって話だったよな」
 体を拭けば頭を濡らさずにすむが、髪を洗う事が出来ないのは痛い。
「頭がフケだらけになってさ、只でさえ女の子に縁が無いのに、
出会った端から嫌われてしまう……どうすりゃいいんだ?」
「あ、ヴィーノ……怪我してるの?」
 緑服のオペレイターが、ツインテールを揺らして走り拠ってきた。
もしや自分の身を心配して来てくれたのかと期待に胸が膨らむ。
「大丈夫だってメイリン。ザクのショルダーアーマーにドリルをつけるまで、
俺は決してダウンしない」
 両手を振って強がってみる。
「……頭大丈夫?」
 心配された。
「今のは……どっちの意味だよ?」
「分からないの? やっぱりもう一度診て貰ったら?」
「大丈夫……大丈夫さ、大丈夫だよ」
 目から出て来たのは多分、魂の汗だ。 
 お願いだから、手にした書類で体をガードしないでくれ。
「出遅れた分今すぐにでも整備班の手伝いに行かないと。
班長たちは今、何の作業をしているか知ってる?」
「ううん、私は今お姉ちゃんを探してたから。今、少しだけ仕事が空いたの」
 殆どは外壁の修理じゃないかな、とメイリンは告げた。
「ヴィーノ……お姉ちゃんを見なかった?」
「ん? 俺はついさっき医務室から出てきたばっかりだからさ、見てないよ。
シンとレイはそこで見かけたけど」
「食堂で?」
 ヴィーノの肯定に、メイリンは形の良いあごに小さな手を当てて考える。
そんな何気ない動作を可愛いなと思う。顎という体の一部分を取って整った顔立ちを
想像できるのが大きい。そしてそこに触れている小さな手、その細い指先でミネルバの
情報の7パーセントを動かすという仕事ぶりがディ・モールト、ベネ。
 整備班の面々は顔が良いというだけで評価はしないのだ。
 二番手は矢張り同じオペレイターのアビー=ウィンザーであったが、前髪が個性的過ぎて
メイリンにダブルスコアで差を開けられている。
「ん、多分居場所の見当がついたと思うわ。ヴィーノありがと」
「なんてことないよ。整備班は外壁の修理だってレイが言ってたな、そういえば」
「うん、殆ど全員ミネルバの外側を修理してると思う」
「あれ……全員? モビルスーツ隊は無傷だったわけじゃないんだろ?」
 モビルスーツは五時間で整備が終わるほど単純なメカニズムではない。

「……もしかしてヴィーノ、知らなかったの?」
「え――?」

378SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:24:56 ID:???
8/

「俺はジンで、地下に突入する直前で脚を撃たれて機体が転倒した」
 パイロットは、アラスカを語りたがらない。
「衝撃で頭がくらくらしてな、コックピットハッチの裂け目から太陽を見ていた」
 ヴィーノは初めて本物のMSパイロットから、生の体験を聞いていた。
「すると青と白のモビルスーツ……フリーダムが宇宙から降りて来た」
 百を越える砲門の前に機体を晒し、武器を捨てて警告を発した白亜のモビルスーツを
デイルは目に焼き付けた。
 装甲の裂け目の向こう、フリーダムは太陽の中で輝いていた。
「"一つ目"の存在を知ったのはその瞬間だな、何とか逃げようとして機体の外に
出た迄は良いが、徒歩ではどうしても逃げられる距離じゃなかった」
 内部に突入した者の情報によって一部の部隊はアポカリプスの存在を知る。
逃げる部隊と、突入を続ける部隊との間で混乱が生じて、自力の逃走手段を持たない
者達へ手を差し伸べようとする力は皆無であった。
 近くを通るモビルスーツも車両も、デイルには目もくれずに走り去っていく。
 そしてデイルは地平線に近い向こう側に昇る神々しい光の柱を見た。
 数多の命がその中に吸い込まれ、焼かれて消えて行く様を見た。
「ああ、これは焼かれるなと思った時だ。バクゥの一体がジンの近くで急停止した、
俺はこれが最後のチャンスだと思ってその足にしがみついたよ」
 それがショーンだったというわけだ。
「それからの五百メートルは思い出したくもない。俺は揺れるバクゥの足から
振り落とされない事だけを考えていた。他の部隊や、パイロットがどうなろうと
気にする暇が無かった」
 バクゥは光に飲まれるナチュラルとコーディネーターとを公平に無視して進んだ。
NJとマイクロ波の干渉によってアラスカに生じたプラズマの球は最初ゆっくりと
その半径を広げ、サイクロプスが自身の生み出した光によって自壊すると同時に弾けた。
「今だから言うが、俺はその光に見蕩れていた」
 マイクロ波による被爆は避けられたが、爆発の衝撃波によってバクゥは横転し、
デイルは高速で走るバクゥの足から振り落とされた。
「パイロットスーツを着ていなければ即死だったろう、起き上がると周囲の木が燃えていた。
バクゥは横転していてもう動けない、俺はコックピットまで焼けた装甲の上をよじ登って、
中のショーンを引きずり出した」
 今は大分薄くなっているが、デイルの両掌には火傷の跡が残っている。
 ヴィーノに背を向けるデイルからは微かなアルコールの匂いが為ていた。
「驚くな……飲んではいない」
 そういうとデイルは懐から、小さな酒瓶を一つ取り出した。丸っこいガラス瓶には
地球産を表すラベルが張り付いている、天然ワインだった。
「ミネルバが無事に出港したらこっそりと飲もうと言って、あいつが持ち込んだ。
……勝手に持ってきてやったぞ、怒ったなら生き返って怒鳴って見せろ」
 そして封を解きコルクを抜くと、再びコルクを嵌めてヘルメットの中に収めた。
「……しばらくの間は一人で飲め、俺も数十年ほど為たら付き合おう」
 ワイングラスを添えて、操縦席のあった場所にそっと横たえる。
「その時にはもっと上等な酒を持って行ってやる」
379SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 14:28:24 ID:???
9/9

 ゲイツRの一号機に掴まり低く嗚咽を洩らすデイルの姿に耐えられず、
ヴィーノは背を向けた。 
 何処に行くべきなのか分からない。
 怪我も悼みも忘れて格納庫を回転しながらゆっくりと漂う。
 工具と部品の散乱する無重量の海でそれを見つけることが出来たのは、
果たして何の導きによるものか。
 言葉を忘れた者のように、視界に入ったそれへと向けて壁を蹴る。
 上手く重心を射抜くことが出来なかった。無様な回転を行いながら近づく。
 両手を伸ばしても届かなくて、それを睨みながら行過ぎる。
 もう一度壁を蹴った。
 近づく、涙に掠む視界の中で、それが段々と大きくなる。
 全身を伸ばし、指を開き……掴む。
 受身も取れずに壁にぶつかり、くるくると回りながら漂うヴィーノの
手の中には確かにあのお守りがあった。
 壁にぶつかった拍子に頭を覆っていた網が外れ、解ける。
 
 ――もう、何も失くさない。

 手に取ったお守りを胸に抱き、声を押し殺して、泣いた。
380通常の名無しさんの3倍:2007/05/02(水) 17:17:53 ID:???
あの髪形しか特徴のなかった空気が、こんな魅力あるキャラクターに……
ホント、このスレには場違いなお方だ
381通常の名無しさんの3倍:2007/05/02(水) 19:54:53 ID:???
「7/」
抜けてませんでしょうか。
382通常の名無しさんの3倍:2007/05/02(水) 20:00:34 ID:???
 全くその通りです。
383SEED『†』  ◆WZm3jzCkZQ :2007/05/02(水) 20:01:24 ID:???
7/
 
 息を切らせて格納庫に着く。
 思い出したのだ、気絶する直前の事を。

 ポケットからお守りが落ちた。
 艦体は停止して揺れが収まる。
 お守りは目の前で浮いていた。
 手の届かないぎりぎりの場所。
 艦は何時動くのか分からない。
 体はベルトに固定されている。
 見失わない様に凝視していた。
 失くせば多分、もう拾えない。
 迷いの中に長い沈黙が過ぎた。
 装甲を叩くデブリの声を聞く。
 そして――

「我慢できなくなって、ベルトを緩めたんです……そうしたら急に動いて」
「……そうか」
 格納庫の中は静かだった。
 その静寂を作っていたのは主のいないゲイツRの前に一人浮かぶデイルで、
沈黙を破ったのは格納庫に駆け込んできたヴィーノだった。
 無重量空間でありながらデイル=ホッパーは、地面に立っているかのように
ゲイツRのコックピット前に静止している。ビームに焼かれたコックピットは
次の誰かを待つように破壊痕を見せている。その空虚にデイルは誰かの面影を
探しているのだろうか。デイルは何故か、ヘルメットを一つ持っていた。
 床面を蹴ったヴィーノはゲイツRまで漂い、勢いを完全に殺す事が出来ずに
一回転してやっと止まった。それでもデイルのように、完全に静止する事は
出来ない。只の整備士とパイロットの差だ。
 デイルは振り向く事も無い。その表情をヴィーノが伺う事は出来なかった。

「奴とは……ショーンとはアラスカ以来の付き合いでな」
 微動だにしないまま、デイルは訥々と話を始める。
384機動戦史ガンダムSEED 23話 1/7:2007/05/03(木) 01:57:54 ID:???

 歴史というものは、主観を完全に排除することは不可能であるし、その必要もないのであるが、
自国に都合の悪い情報を提供しない歴史などというものは、余りに恣意的であると言わざるを得ない。

 後世でサイ・アーガイルという人物が語られるとき、先ず大まかな評価として冷徹で有能な政治家であり、
後方で采配を振るう軍師としての、イメージが定着していることが比較的に多い。
 
 だが、実際に軍人としての彼は「謀を帷幄のなかにめぐらし、千里の外に勝利を決した」という軍師タイプというよりも、
常に最前線で指揮を執り続け、臨機応変の戦術の冴えに拠って敵を撃ち破っていた。
後方で策謀を張り巡らせる幕僚タイプというよりも、むしろ前線で指揮を執る将軍タイプの人物だったのだ。

 彼は緻密な戦略を組み立て戦う場合もあれば、周囲が驚嘆するような猛将として苛烈な戦い方を示す場合もあった。
本質は政治家という後世の評価はあながち間違ってはいないがそれはある意味、彼の複雑な内面の一面だったのだ。

 サイ・アーガイルという人物について『コズミック・イラ歴史人名辞典』には、次のような記述が見受けられる。

 ”旧体制下のオーブでは、その体制から氏族出身以外の者が要職の地位に上ることは、
殆どなかったのだが、彼は数少ない例外であり、氏族以外の出身の人物であった。
その一点だけをみても、内外政策と対外戦争における、彼の功績と能力がいかに重要視されていたかがわかる”

385機動戦史ガンダムSEED 23話 2/7:2007/05/03(木) 02:05:47 ID:???

 『ポラリス宙域』で行われた小規模な会戦は、会戦とも言えないまま比較的短期間で終結した。
一つはオーブ軍の目的が敵の殲滅ではなく、包囲攻撃されていたオーブ宇宙軍第3機動艦隊の救出が目的であったからだ。
それともう一つは、ラクス軍の前衛部隊の指揮官が、ディアッカ・エルスマンであったことである。
これ以上の戦線の拡大を望まなかったディアッカ・エルスマンは早々に撤退命令を下し、
第4機動艦隊から攻撃を受ける直前に部隊の本拠への帰還を命じていたのだ。

 彼の用兵の非凡なところは、凡庸な指揮官ならば通常『ポラリス』へと帰還させ、即時に防衛戦へと移らせるところだが、
その非凡さを際立たせていたのは、一気に自部隊の本拠地として確保している拠点衛星基地『ミカサ』まで包囲軍全軍を引かせたところだった。
更に『ミカサ』までのルート各地に小規模な攻撃衛星を巧妙に配置し、味方の撤退行動をスムーズにさせた点も大きい。
実際にオーブ軍は、この攻撃衛星の排除に少なからず時間を取られる事となったのだ。

 そして、サイ・アーガイル自身が敵包囲網について打った手は、特に手の込んだものではなかった。
味方の兵数が敵の兵数を上回る事が可能な数の差でモノを要った戦法を取ったに過ぎない。
簡単に言えば、第4機動艦隊に所属している高速艦艇を中心とした機動戦力を編成し、本隊から離れた分艦隊としての奇襲の独立行動を取らせた事だった。
本人曰く、「ペテンの類だ」と。もしディアッカ・エルスマンによる全面撤退行動が僅かでも遅れていれば、ラクシズ前衛部隊の包囲軍は壊滅していたであろう。

 その指揮官にハヤカワ一佐を任命し、サイ自身は動かずに艦隊本隊に座し、裂いた分として減った艦艇は”ダミー”によって数を元に『戻し』、
艦隊本隊から離れた2個分艦隊分を誤魔化すという、云わば水増しともいうべき仕掛けをして、こちらの行動を敵側からは把握し難くしただけに過ぎないのだ。
 
 分艦隊の中心となった高速艦艇はC.E80年に就役したばかりの最新高速機動戦艦であるグレイ・ファントム級を中核とした2個分艦隊を編成。
グレイ・ファントム級高速戦艦は、超大国である地球連合強国の盟主とも言うべき『大西洋連邦』の最新技術を投入して、完成させたオーブ側の最新型の戦闘艦である。

 軍事用最新技術は、コズミック・イラの80年代では、大西洋連邦が一番であり、逆に閉鎖的て非外交的な『プラント』は年々、技術の劣化が激しくなっている。
未だに時代遅れの『モビルスーツ』が、現役で運用されているのは、悪しき慣例であろう。
時代が、もう既に次の段階に移り変わっているのにだ。

 オーブも『第二次軍備拡張計画』の段階でモビルスーツは旧式として廃止され、艦載機にはモビルアーマー『ハヤテ』が採用されている。
これも地球連合の大手軍需企業を中心として、モルゲンレーテの技術改良の元で共同で開発された航宙戦闘をメインとした最新型モビルアーマーである。

 この頃のハードウェアの軍事技術の発展は凄まじく、ナチュラル、コーディネイター問わずに等しく
同規模の戦闘が可能な最新のテクノロジーが満載している。

 かつての核エンジン搭載のモビルスーツの一斉攻撃など、今では笑い話の種にしかならないのだ。
386機動戦史ガンダムSEED 23話 3/7:2007/05/03(木) 02:09:36 ID:???

 ――第4機動艦隊旗艦クサナギW――

 ……俺の頭に響く。艦橋には、小娘君の嬉しそうな声が響き渡った。

 「司令!ハヤカワ一佐から連絡です!敵の第3艦隊の包囲網を崩す事に成功!敵軍は、順次ポラリスへと撤退している模様です!」

 「よし。このまま、ポラリスまで一気に攻め上るぞ。分艦隊との合流を優先する。
  それと、第3艦隊旗艦<クサナギV>のソキウス司令に通信を繋げ!急げよ!」

 些か会心の手応えを感じた俺は、思わずガッツポーズを取りながらも、包囲されていた第3艦隊の旗艦<クサナギV>への連絡を小娘君に急がせる。

 「はい!了解です!!」

 高速艦艇を中心に再編成した2個分艦隊を使った奇襲で、敵軍の第3艦隊の包囲網を崩す事に成功した俺達は、
本来の攻略ポイントの一つである拠点衛星ポラリスに向けて怒涛の進軍を開始したのだった。
やはり、味方が敵軍より数が多いということは、戦術の幅を広げるのだ。俺にとって久々に何の問題の無い戦いだ。

 やや、気分がよくなっている所でちょうど、第三艦隊の色男から通信が入って来る。
しかし、後になってエルスマンの見事な撤退行動を知るに連れて、舌打ちする事になるのは、この時は正直、思ってもみなかった。

 メインスクリーンに、無個性的な色男の上半身が画面いっぱいに広がった。

 『……こちら第三艦隊旗艦<クサナギV>のソキウスです』
 
 ソキウスは、相変わらず馬鹿丁寧な態度で応えてくれた。

 「よぉ、どうやら間に合ったようだな」

 『おお、包囲網を崩す事に成功したのですね?さすが、相変わらず手際がいい……!』

 こいつに絶賛されるのは少々、面映い。こいつもそれなりの用兵と統率力を持った人間なのだ。

 「そちらの復旧状況は?」

 『――最悪です。艦隊の総数が全体の5割を切っているのに加え、その内の運用可能艦艇数がほぼ1分艦隊だけです』
 
 「むぅ……」

 全く期待していなかったが、こちらの予想を遥かに斜めゆく状況のようだ。
387機動戦史ガンダムSEED 23話 4/7:2007/05/03(木) 02:12:28 ID:???

 『しかもこちらの旗艦<クサナギV>は、主用兵装と航宙ポートが大破。これは、もう修復のしようがありません。
   現在、<クサナギV>と第3艦隊は、戦闘運用能力の約60パーセントを喪失した状態です』

 「……機動艦隊が強力であり得るのは、まとまった数の運用艦艇数を揃えて初めて可能となり、
   敵の航宙艦艇をアウトレンジに置いて一方的に攻撃を仕掛けられる間だけだしな。――となると、残る方法は後方退避しかないな……」

 俺は即座に結論を出した。ここまで被害を受けた艦隊をこの宙域にこのまま残すことはできない。

 『……確かに、いったん詰め寄られ、小型艦艇や艦載機やモビルアーマー類の砲撃圏内に捉えられたら、
   これ程脆い代物は、他にはないでしょうね……』

 悔しそうにソキウスは呟く。艦隊司令官として屈辱であるのは分かる。ここまで壊滅的な被害を受けたのだからな。
だが、何を思ったのか血相を変えた奴は、とんでもないことを俺に向かった吐き出した。

 『ですが、まだ対要塞用大型砲である『バスター・キャノン』が<クサナギV>で健在です。
   こちらも浮き砲台となって、そちらの援護ぐらいは出来るはず……!』

 何を血迷ったか知らんが……仕方が無く俺は続けて言う。

 「クサナギ・シリーズを設計した技術者がどういうつもりで、そんな馬鹿でかい大砲をくっつけたか知らんが、
   そいつは実戦じゃ、なかなか役に立つ代物じゃあない」

 『しかし……!こちらに出来ることなら、なんでも命令してください!!貴方達を残して、私だけこのまま退くわけにはいかない……!』

 必死に形相で俺に詰め寄ってきやがった。俺が奴さんを説き伏せようとするが奴はマスマス熱くなってゆく。
勘弁してくれよ……しかたがない……あまり言いたくはないがな。俺はため息を吐きながら、

 「……じゃあ、コーヒーでも持ってきてくれないか?」

 『……は?』

 俺のその一言にソキウスは、数秒固まった。

 『な、何を仰っているんですか……?!』

 「今のお前さんに頼める仕事はそれだけだ。それが嫌なら邪魔だ。――さっさと後方に下がってくれないか?」

 『……』
 
388機動戦史ガンダムSEED 23話 5/7:2007/05/03(木) 02:16:14 ID:???
 
 俺がわざと冷淡な口調で素っ気無く話すと、ソキウスは呆気に取られながら、次の瞬間に苦笑し始めた。
奴も馬鹿ではない。俺の言った意味が直ぐに理解できたはずだ。そんなこともわからない馬鹿は、今のオーブ軍の将軍にはいない。

 『――相変わらず……きつい事をハッキリと仰る人だ……』

 「おかげでいつも嫌われ者でね」

 『いえ……私はそうは思いませんよ』

 「……」

 そう苦笑いしながら、ソキウスは俺の顔を暫くの間、見つめると一つ大きく頷いた。

 『……フゥ。どうやら、柄にもなく少し熱くなっていたようです……。――わかりました。ここは、大人しく撤退しましょう』

 「賢明なご判断だ、色男。あとはお任せあれ」

 第3艦隊は、総撤退する事を決まった。戦闘不能艦艇は多いが、ここまで艦隊乗員を生き残らせたのはソキウスの手腕だ。
これは誇っても良いことである。いつの時代も人員こそが、最も貴重な財産なのだから。
云わば用兵家が効率よく兵士を犠牲にするのとは逆に、効率よく生き残らせたのだ。
そして最後にソキウスは、意味深な一言を残していった。

 『ただ、最後にこちらから運用可能な残りの艦隊を分艦隊として派遣させていただきます。
   指揮官に、あの伝説のサイ・アーガイルが復帰したと聞いて、是非ともあなたの指揮の下で戦いたいといっている者がいるのですよ』

 「……どこの物好きだ、いったい?」

 『優秀な人材であることは、折り紙つきです……では、第3艦隊はこれより後方に撤退します。――ご武運を!』

 綺麗な敬礼と共に画面がブラックアウトし、同時に第3艦隊が撤退してゆく。艦橋から遥か向こうの映像の無数の光点が消えてゆく。 

 「<クサナギV>以下残存艦隊の高速ドライブへの突入を確認。――無事、撤退しました」

 「さて、お次の目標は『ポラリス』の奪還だな。もうひと踏ん張りだ」

 俺はお嬢さんから、第3艦隊の撤退完了の報告を聞く。本当にもうひと踏ん張りだな……とそう思っているところ、また報告が入る。

 「はい!――あっ司令。ソキウス将軍より派遣された分艦隊司令官が到着したようです」

 「――よし、通せ」

 「はい」

 俺は、特に何も考えず応じた。俺としては、別にどんな奴が来ても構わないのだ。
すると暫くして艦橋の自動ドアが開き、オーブ軍の将校の軍服を纏った一人の若い男が入ってきた。
389機動戦史ガンダムSEED 23話 6/7:2007/05/03(木) 02:20:10 ID:???
 
 「――失礼致します。アーガイル閣下、アラヤ二佐、只今到着致しました」

 「うん?アラヤ?」

 黒髪の顔立ちの整った偉丈夫がそこには立っていた。名乗りを上げ正式に着任の挨拶をする。
敬礼も中々見事なものだ。俺より若いその若い男の顔には、どこと無く俺には見覚えがあったのだ。まてよ……?

 「……お前さん、もしかして?」

 「はい。自分はアラヤ中将の息子です」

 「……そうか、やっぱりな。……お前さんのオヤジには統一戦役のおりに随分とひどい目に遭った。……まったく、瓜二つだな」

 「光栄です」

 アラヤ退役中将は、氏族出身の熱烈な『旧アスハ』派の一人で、統一戦役の時に反乱軍の軍司令官として参加した高官の一人だ。

 彼も俺が実施した『国防人事の大刷新』によって『クビ』になり、そうしてあぶれた旧アスハ派の軍人共に担がれた形で反乱軍の司令官に祭り上げられたようなものだった。
俺個人としては、彼には同情すべき所も多々あったが、結果的に能力不足という判定を押さねばならなかったのは、正直辛かった。
が当時の情勢下では、どうすることもできない状況であり、苦渋の決断だったのだ。

 まぁ、そう言い訳するのは楽なことだろう。何せよ俺が犠牲を強いた人間達にとっては俺は不倶戴天の許されざる敵であろうから。
その息子が俺の下に付きたいと言うのはどういうことなのだろうか?

 「フン……私の下で働きたいそうだが、その御存念とやらを聞かせていただこうか?」

 「――と、申しますと?」

 アラヤ二佐は不思議そうに俺の問いに応じる。

 「……私は、知っての通り、オーブ連合首長国……オーブ氏族出身の制服組の間では、
   親の仇みたいに嫌われているし……。それにな、お前サンにとっちゃ文字通り、そのままの意味だからな」

 「父が、当時の貴方の指揮していた部隊によって討たれた件ですか?」

 「ぶっちゃけて言や――そうだ」






390機動戦史ガンダムSEED 23話 7/7:2007/05/03(木) 02:24:09 ID:???

 当時の反乱軍のアラヤ司令官を討ち取ったのは俺の指揮する部隊だった。別に奴を殺したことに後悔はしていない。
反乱による犠牲を最小限に抑えるためにトップを討ち取るのは、用兵上から見ても最善の方法だったからだ。
ようするに俺は反乱軍の拠点を強襲して、有無を言わさずに一気に拠点ごと彼らを潰したのだった。

 お陰で統一戦役は僅か二月余りで終結。犠牲も最小限度で済み、他の国内反乱勢力の決起を未然に防ぐ事ができたのだった。
当時の反乱軍は、プラントのラクスやキラのラクシズの援助を当てにしていた様だが、あまりの早期終結の為に無駄に終わった。
だが今、まさにラクシズ連中がオーブに攻め寄せて来たのは皮肉でもあり、またこの統一戦役の事も奴らは、大義の旗印にしている可能性もあるのだ。
まぁ、その点は今どうこうしても仕方が無い。アラヤの話を聞くとするか……

 「我々の一族にとって、正統な戦いにおいて失われた命は、決して悔やまれるべきものではありません。
  また、その死の責任を、もう一方の当事者に負わせる習慣もありません――少なくとも、心得のある者は」

 「ふぅん……ずいぶんと出来た奴だな。ガキの頃、悪ガキ仲間に掠め取られた女の復讐をと、未だに恨んでるどっかの馬鹿とは大違いだ」

 俺は些か、悪意を含みながらも一応は、感心しておく。俺は心の狭い人間だから、未だにどこか奴に対して根に持っているらしい……。

 「それどころか、私は統一戦役後に貴方が断行した人事改革にも感謝しているのです。
   あれがなければ、アスハ代表に剣を向けた人間……そのリーダーの息子が、分艦隊司令官などという高級職には就けなかったでしょう」

 「お前サンが優秀だったんだろ。私ぁ知らんよ」
 
 本当のことである。能力のある人間ならば、貴賎を問わず出世できるのが建前上は、今のオーブの政策である。
それにその点では在野にいた俺は一切感知していないのだ。それに例え、自分が気に要らなくても能力がある人間を今の代表府の人間なら起用するはずだ。

 「他の士官がどう思っているかは知りませんが、私は貴方のシンパです」

 「そんなことを公言すれば、軍内での出世に差し障りがあるかもしれんぞ?」

 「こうして、最初に旗幟を鮮明にすることこそが、我が一門の美学です。お気遣い無く。――なんなりと御命令を。アーガイル総司令官閣下」



>>続く
391通常の名無しさんの3倍:2007/05/05(土) 14:38:49 ID:???
>>戦史
 これからしばらくはサイVSディアッカで戦争が動いていく感じですね。
攻め手と引き手がお互いに「上手くいかねえ」とぼやいている様を想像してしまいます。
そしてサイのモノローグのなかでも小娘扱い……名前が知りたいです。

 投下乙でした。
392実録!プラントザフト軍 ◆JOaW6wYxoc :2007/05/06(日) 01:20:28 ID:???

ここはプラントのアカデミー。赤服を目指す若者が集まる学び舎であります。
え、自分でありますか?ヨウラン・ケントであります、押忍!まだ嘴の黄色い雛でありますが赤服を目指して頑張っているのであります。

今日もまた、諸先輩方に気合いを入れて貰った尻がヒリヒリ痛みますが、学友とも言うべき仲間を紹介させて頂きます、押忍!

まずはシン・アスカであります。この顔を見て下さい。目付きの悪い事この上ありません!オーブから流れてきたらしいのですが様々な噂の持ち主であります。
例えば目が赤いのは人を殺した時の反り血だとか……。この凶悪そうな顔ならば人の一人や二人を埋めていてもおかしくありませんでしょう?
それに本当はオーブから流れてきたのではなくて別荘にいたとか。勿論別荘とは高い塀に囲まれた臭い飯が主食の場所であります。
そしてこいつは1年では数少ない特別待遇を受けている人間なのであります。
あまり大きな声では言えませんが、先輩方の中には特別な性癖を持っておられるお方がおられまして、こいつも手解きを受けそうになったのであります。
白い肌に整った顔立ちは特別な性癖を持つ先輩にとってツボにハマったのでございましょう。
ある日呼び出されてある行為を強制されたらしいのですが、その先輩に反抗してボコボコにしてしまたのであります。いわゆるクーデターであります!
携帯を片手に先輩方をタコ殴りにしたのですが、それはまさしく悪魔の所業でありました。
自分はその神をも恐れぬその暴れっぷりにスカッとしましたが、その後とばっちりを食らい酷い目にあったのであります。押忍!

その後奴は先輩方は愚か教官方にまで一目置かれるようになりました。悔しいのですが、アカデミーは実力主義なのであります。
例え狂犬だろうが腕が立てば何でも許されるという社会の不条理が支配しているのでります!

次の機会にはルナマリア・ホークを紹介したいと思います、押忍!
393通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 07:27:57 ID:???
携帯片手にって、凶器扱いかよ!
394通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 10:57:48 ID:???
>>実録
 アカデミーを卒業した頃には、「あの赤服は沈めた上級生と教官の血で染まっている」とか
言われそうですね。どうせなら各国が抱える護衛団同士の抗争を憂えた議長が"転校生"
レイ=ザ=バレルを召還して、副番冬のヒビキ(キラ)と因縁を持つまでやったら良いのにと思いました。
 貴方のテンションなら多分出来ますよ。
 とりあえずは投下乙。

>>P.L.U.S
 成績良いのに必死なレイに笑った。扱いがカワイソくなりやすいキャラクターの筆頭ですな。
でもシンの台詞はレイに対して何気に失礼、シンは気付いていないけれども……

>>森の娘の見た光
 番外編としては場面設定、終わりの締め方共に一般的と言うか新しさはありませんでしたが、
読ませる力がありました。全員オリキャラでここまで書けるのはすごいと思います。真似が出来ない。
 味方のけが人を減らすという事は、敵方のけが人死人を増やすという事ですが、ソフィはそれに
気付いているのかいないのか。分かっているだろうイシカワを含めて、目と手の届く範囲でしか
何かをする事は出来ないし、守ろうとすることも出来ないということなのでしょう。其処も含めて
人間なのだろう、と思いました。

 皆さん投下乙です。それからまとめ管理人も毎度早い仕事乙です。

 そしてそろそろ容量が気になって参りましたが、私が建てるとしてテンプレはどうしましょうか?
 
395実録!プラントザフト軍 ◆JOaW6wYxoc :2007/05/06(日) 14:27:07 ID:???

押忍!突然でありますが自分はヨウラン・ケントと申す者であります!

今日は同期の中でも異色のヤツがいますのでちょいと紹介させて頂きます……。
そいつはルナマリア・ホークというムチムチな女ので、こいつも一応特権階級の身分を手に入れております。
なぜ女の癖に特権階級の身分なのかと言いますと、悪魔の化身と言われたシン・アスカを凌駕する逸話があるのであります。

ある日、白兵戦の訓練がありましたのですが、我々空気キャラ一同は教官殿に可愛がって貰いズタボロになったのでありますが、ルナマリアは違ったのであります。
コインを半分に薄くして剃刀で挟んだという古典的な武器を両手に教官殿を血祭りに上げてしまったのであります!押忍!
教官殿も女の色香に惑わされる様なちんけなお方だったのでありますが、髪を反り血にそめて笑いながら切り刻みつつ血で乾いた喉を潤すという所業に
隣にいたヴィーノなどは失禁してしまう有り様でした!一欠片だけ大きい物も出してしまったのは完全に余談であります。
とにもかくにもこの事によりルナマリアは先輩方はおろか教官殿にも一目置かれる存在になったのであります。

聞く話によりますとOBの方には教官殿をミリ単位で切り刻んだお方がおられたそうでありますが、このルナマリアとどちらが恐ろしいでありましょうか?
幸運な事にそのOBのお方は父親を叩き殺……、否、ポアなされましてオーブに逐電なされたそうであります。
そのOBの方と同じ隊にならない事に我々は胸を撫で下ろしています。押忍!

それでは、自分は先輩方にいつものお馴染の気合いを頂戴して参りますのでこれにて失礼します!押忍!
396通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 18:28:08 ID:???
ぱん!
397通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 18:39:31 ID:???
てんぷら、スレタイともそのままで良いのでは?
投下する方の判断に任せる、と
398通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 18:54:07 ID:???
>>395
面白くなりそうww俺こういうの好きだw

>>394
次スレ立ててもらえるならお願いします。
テンプレはこのままで良いと思う。
399通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 18:59:44 ID:???
>>395
オモロイオモロイ!
続き楽しみにしてる!
400通常の名無しさんの3倍:2007/05/06(日) 20:31:06 ID:???
建てて来ました。ついでに400ゲット。

次スレ
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】4
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1178450679/l50

>>実録
 何とテンションの高い職人ですか貴方は。
 >>コインを半分に薄くして剃刀で挟んだという古典的な武器
 ああ、あれか。流行という奴は三十年ぐらいで一周するから……ってこれCEの話ですよね!?
 >>叩き殺……、否、ポアなされまして
 言い換えた意味が無い! ヨウラン、最早君は空気キャラなどでは無い、立派な……舎弟だ!
401週間新人スレ:2007/05/06(日) 23:58:24 ID:???
GW特大号目次


 アスランとルナマリア、メイリンの美人姉妹、3人の休日の風景。
アスランとホーク姉妹の休日
>>329-320,339-340,345-347

 再びサーシャは少年と出会う。その彼女が固めた決意とは・・・!
彼の草原、彼女の宇宙(そら)
>>332-337

 卒業の時期を迎えたアカデミー。卒業演習に燃えるレイとは裏腹に、何故か暗い表情のシンとルナ。
P.L.U.S.SS
>>360

 天才オタクパイロット、ソフィ。その誕生の秘話!
腕章とパイロット 〜 『森の娘の見た光』 番外編 〜
>>361-363

 サーカス団の朝、動物たちの世話をするトロワとキャスリン。
無題
>>369

 戦闘の終わったミネルバ。彼らの失ったものは被害以上に大きかった・・・!
SEED『†』 
>>372-377,383 >>378-379

 孤高の天才サイ・アーガイル。ともに戦うべく彼の元を尋ねて来たのは・・・。
機動戦史ガンダムSEED 
>>384-390

 プラントのトップエリートが集うアカデミー!その門外不出の真実とは!!
実録!プラントザフト軍
>>392,395

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まだまだ新人職人募集中!
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402通常の名無しさんの3倍:2007/05/07(月) 01:49:43 ID:???
>>400
乙であります!

>>401
編集長も乙!相変わらずうまい事書くww
403通常の名無しさんの3倍:2007/05/08(火) 01:16:38 ID:???
 >>401
 編集長お疲れ様です。ここは読む人に優しいスレですね。
404通常の名無しさんの3倍:2007/05/08(火) 09:19:15 ID:???
>>402,403
ま、俺に感想文は無理だからさ
多少歪んだ形だけど職人たちを応援してるつもり
今回レスアンカーに個数制限がある事を始めて知ったよ
405通常の名無しさんの3倍:2007/05/08(火) 21:58:53 ID:???
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406通常の名無しさんの3倍:2007/05/08(火) 22:01:07 ID:???
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407ラウ・ル・クルーゼ
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