機動創聖記ガンダムD

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1通常の名無しさんの3倍
時は聖暦0162年。
神の降臨によって人類間の戦争が終結して162年。
人類は神の加護の下に平穏な日々を享受していた。

そんな中、神罰執行機関「EDEN」の新型GUNDAM級MS、インフェルノガンダムが何者かによって強奪されたのだ。
機関所属の少年、少女たちは残された4機のガンダムで追跡を開始する。
「魔」の力を制御できるのは「聖」の力
-ディバインガンダム・セイクリッドガンダム・ホーリーガンダム・ヘヴンスガンダム-のみである。

永遠に続くと思われた楽園は、この事件によって終焉を迎え、
世界は再び戦乱の時代へと突き進むこととなるのである…
2通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:20:23 ID:???
2
3通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:20:26 ID:???
ぐぅぅッ・・・!!
なんだこのおぞましい波動はッ!?
まるで邪気が…


ハッ!!?
>>1、まさか貴様は!?
4通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:21:39 ID:???
ひゃはははは!この第九世界の覇王・凍月のシャスタールが綺麗にお掃除してやるよォ!
5通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:21:48 ID:???
ねえお父様、その楽園ではどんな恋が咲くの?
6通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:22:35 ID:???
良スレの予感w
7通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:29:18 ID:37mhDPZ7
ジムおらんの?
8通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 01:30:07 ID:???
結局は神様がラスボスなんだよな
ホーリーチェーンソーでとどめだ!
9通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 04:00:00 ID:???
聖暦0162年1月1日。
神の降臨、そして聖暦の始まりとともに鋳造され、毎年新年を迎えると共に
高らかに祝福を謳いあげるその大鐘はしかし、噴き上がる業炎の渦を前にして
ただ沈黙するばかりだった。
飴の如くひしゃげる鉄柱。沸騰し、干上がっていく水路。形あるものは全て
際限なく貪る奔火に呑まれ、後には一抹の灰と焼け焦げた匂いを残すだけだ。
荒れ狂う焔に容赦なく蹂躙される都市。
そして、焦熱の渦中、聳える漆黒の巨人。赤く染まる世界に立つ禍々しい鋼の巨躯は
まさしく地獄に君臨する魔王そのものだ。
かつては街を見下ろし、いまや傾き倒壊しつつある鐘塔に吊られた黄金色の大鐘は
悲嘆にくずおれるようにゆっくりと溶け落ちる。
だが、鐘の完全な消失を待つより早く、巨人は鐘塔にその腕を振り下ろす。
地を揺るがす凄絶な轟音はいまだ衰えぬ焦嵐にかき消され、
動くもののなくなった世界で、鋼の巨人は天へ向けて鋭い咆哮を放った。
「ソレ」は、いかに人に似せようとも機械じかけの人形でしかない筈だ。
しかし空を震わせるその軋んだ絶叫は紛れもなく感情を、猛り狂う憎悪を宿していた。
神が創った世界への。
神を礼賛せし人々への。
そして、己を生み出した神への。

聖暦0162年。1月1日。第十三都市「オラトリオ」壊滅。
この年は神を讃える祝福の鐘ではなく、
黒き鋼の巨人・MS「インフェルノ」が放つ呪詛の叫びと共にはじまったのだった。
10通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 05:16:32 ID:???
少年達に聞いてみた。
「あんまりアリョーシャはごく平均な三級市民の少女だった。
辺境エリア育ちのご多分に漏れず、彼女は生まれてから一度も都市部にも行ったことがないし、
敬虔な神教徒の両親から説話や賛歌の類は山ほど聞かされて、
都市生活の詳細については教えられておらず、
勿論、主に都市エリアで活動する治安維持部隊・執行機関も、
機関が扱うというMSに関する知識もない。

だから、少女には本物の天使のように思えたのだ。
蒼天より舞い来たり、今、音もなく草原に降り立つ純白のその機体が。
丘を覆う大木がまるでちっぽけに見えるほどの巨身。
曲線で構成された鎧にも似た外装が、華奢な基本体型の各所を柔らかく包んで、
優美でいて力強いシルエットを成している。


天使の姿に見蕩れていたアリョーシャは、
開いた天使の腹部から這い出てきた人物に気づくのが少し遅れた。
(人が…乗ってるの?)
地に下りた人影はそこからよろよろと二、三歩進んだかと思うと
いきなり草むらに突っ伏した。

少女は少し戸惑い、次いで医を決して駆け寄っていく。
そうして恐る恐る寝転がった人間の顔を覗き見る。
「ん…」
中性的な容姿。陽光を受けて輝く淡い金色の髪。
色素の薄い肌に映える鳶色の瞳。
あどけない顔立ちはまだ少年といっていい。
そんな少年にアリョーシャはおずおずと尋ねる。
「貴方、天使様?」
少年はきょとんとした顔つきになったあと、破顔一笑、そのまま地べたに笑い転げる。
「はははっ…!こいつはひどい勘違いだっ…」
ひとしきり笑った後、
「そうか…MSなんてみたことないよな。…良いよな、平和でさ。
君はさ、こいつが怖くなかったの?」
「お花、踏まなかったもの」
少女は機械の足元を指し示す。
咲き乱れる彼女だけが知っている慎ましやかな花園だった。
「意識はしてなかったけど…都市じゃ、花は貴重品だからかな…キミはこの辺の娘?
この近くに村があるの?」
「キミ、じゃなくて、私はアリョーシャよ。貴方名前は?」
少年は少し考え、
「ううんそうだな…ツバメって呼んでくれ」
「燕…?変なの」
「で、アリョーシャ、頼みたいんだけれどさ。何か食べられるもんない?」
少年の、まぬけな腹の音は少女の笑みを誘い、次いで二人の笑い声が草原に響くのだった。

少これがツバメと名乗る少年と彼女との出会いだった。
11訂正。:2007/01/17(水) 05:18:16 ID:???
「あんまりアリョーシャはごく平均な三級市民の少女だった。
辺境エリア育ちのご多分に漏れず、彼女は生まれてから一度も都市部にも行ったことがないし、
敬虔な神教徒の両親から説話や賛歌の類は山ほど聞かされて、
都市生活の詳細については教えられておらず、
勿論、主に都市エリアで活動する治安維持部隊・執行機関も、
機関が扱うというMSに関する知識もない。

だから、少女には本物の天使のように思えたのだ。
蒼天より舞い来たり、今、音もなく草原に降り立つ純白のその機体が。
丘を覆う大木がまるでちっぽけに見えるほどの巨身。
曲線で構成された鎧にも似た外装が、華奢な基本体型の各所を柔らかく包んで、
優美でいて力強いシルエットを成している。


天使の姿に見蕩れていたアリョーシャは、
開いた天使の腹部から這い出てきた人物に気づくのが少し遅れた。
(人が…乗ってるの?)
地に下りた人影はそこからよろよろと二、三歩進んだかと思うと
いきなり草むらに突っ伏した。

少女は少し戸惑い、次いで医を決して駆け寄っていく。
そうして恐る恐る寝転がった人間の顔を覗き見る。
「ん…」
中性的な容姿。陽光を受けて輝く淡い金色の髪。
色素の薄い肌に映える鳶色の瞳。
あどけない顔立ちはまだ少年といっていい。
そんな少年にアリョーシャはおずおずと尋ねる。
「貴方、天使様?」
少年はきょとんとした顔つきになったあと、破顔一笑、そのまま地べたに笑い転げる。
「はははっ…!こいつはひどい勘違いだっ…」
ひとしきり笑った後、
「そうか…MSなんてみたことないよな。…良いよな、平和でさ。
君はさ、こいつが怖くなかったの?」
「お花、踏まなかったもの」
少女は機械の足元を指し示す。
咲き乱れる彼女だけが知っている慎ましやかな花園だった。
「意識はしてなかったけど…都市じゃ、花は貴重品だからかな…キミはこの辺の娘?
この近くに村があるの?」
「キミ、じゃなくて、私はアリョーシャよ。貴方名前は?」
少年は少し考え、
「ううんそうだな…ツバメって呼んでくれ」
「燕…?変なの」
「でさ、アリョーシャ、頼みたいんだけれどさ。何か食べられるもんない?」
少年の、まぬけな腹の音は少女の笑みを誘い、次いで二人の笑い声が草原に響くのだった。

これがツバメと名乗る少年と彼女との出会いだった
12通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 05:51:51 ID:???
三日が過ぎた。
ツバメは機体を近場の森林に隠して、そこで生活している。
アリョーシャは親の目を盗み折を見ては食料を持っていく。
といっても少女が密かに持ち出せる量などたかが知れており、その分頻繁に
通う事になるのだが、彼女にはむしろ有難かった。
ツバメは色々なことを知っていて話すのが楽しい。都市の生活・技術・風俗…
彼女にとってそれらはきらびやかな別世界の御伽噺だった。けれど彼女はそんな話を
する時決まってツバメの目に宿る翳りを見逃さなかった。
(この人の事をもっと知りたい)
しかし、何処から来たのか?何をしているのか?MSを何故持っているのか?
ツバメははぐらかすばかりで肝心な事はなにも語らない。彼女は次第に不満を
募らせていった。

彼女は仕方なく村の少年達に聞いてみた。あの美しい機械、MSのことだ
「親父にはあんまり話すなって言われてるんだけどな…」
実際は誰かに吹聴したくて仕方ないらしい。
人型の巨大兵装。天を駈け地を裂く、恐ろしい力を発揮する兵器…。
どの話も彼女の知るMS、あの天使のような機体とは重ならない。
「そんなもの何に使うの?」
「決まってるだろ。悪いやつらをやっつけるんだよ」
「例えば?」
「…悪い奴は悪い奴さ」

彼女は思った。あんなに美しく神々しいモノが相手にしなければならない「敵」
とは一体何なのだろうと。ツバメも「敵」と戦う為にあれにのっているんだろうか?

13通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 07:25:41 ID:???
そしてその日がやって来た。
ツバメの元から帰ってくるなりアリョーシャは部屋に閉じ込められた。
普段は温厚な父に頬を叩かれて。
どのくらい時間がたったろうか。泣きつかれて眠った彼女の耳に声が聞こえきた。
扉越しに断片的な話し声が耳に入る。村人達が集まって話をしているらしい。
「…まさかこの村に…あんなものが」
「…中央から部隊を派遣したと…今頃は…」
「とんだ疫病神が舞い込んだもんだ…」
「…もう始末はついているさ…」
彼女ははっきりと悟った。
(ツバメの事だ…!)
後を尾けられていたのかもしれない。
或いはMSの話を聞いて回った少年達の誰かが大人にいいつけたのかもしれない。
だとしたら、全ては彼女の責任だ。
アリョーシャの小柄な身体は狭い窓枠を何とかすり抜けられた。少女は夜道を
懸命に駆け抜ける。
何故ツバメが狙われなければならないのか?
あの白い機体こそは「敵」を逐う天使なのではないか?
(分からないけど…行かなくっちゃ…!)
アリョーシャは見た。はじまりの草原に立つツバメと純白の愛機、
そしてそれを取り囲む機械人形の群れを。はじめてみるこれらの機械人形は
みな一様に同じ姿形でのっぺりとした顔立ちをしている。その様は天使というより
さながらヘルメットを被った兵隊だ。
何も分からずに何も考えられずに、彼女はただ叫ぶ。
「ツバメ!」
振り向くツバメは出会った時と同じ笑顔で、
「巻き込んじまってすまない。ここから一刻も早く離れるんだ、アリョーシャ」
さよならを告げていた。
耳を劈く「兵隊」の集団銃撃。
地に降り注ぐ銃弾が土をめくり、草叢に火を放つ。
ツバメを腹部に収めた機体は、「兵隊」の銃火をものともせずに立ち上がる。
そして、
「は!不完全とはいえ、GM如きが何機群がったって…こいつを」
純白の機体は、
「止められるかっ…!」
変貌を開始する。
14通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 07:27:17 ID:???
指先から生じた黒のあわいが全身を覆い、徐々に穢れ一つない白を全き漆黒に染めていく。
崇高ささえ感じられた顔には亀裂にも似たラインが走り、両眼は沈んだ朱色に濁る。
優美な曲線状フォルムの下からたち現れる狂気じみた鮮血のような鋭角。
立ち上る劫火の如き両翼が開く。

純白から漆黒へ。
神の徒たる天使ではなく、神に牙を剥く異形の悪魔。
MS「インフェルノ」。獄炎の名を冠しあらゆるものを灰に帰す殲滅兵器。
悪魔は軽やかに獲物に飛び掛っていった。
腕を捥がれ、腹を割かれ、頭を潰され、
成す術もなくあしらわれ、薙ぎ払われ、叩き伏せられる「GM」と呼ばれるMS達。
少女の眼前で行われるそれは戦闘ではなく虐殺だった。
圧倒的な暴力。
炎の輪に舞い狂う黒き鋼の怪物。
今こそ彼女はMSの本質を理解した。
そして、その力を生み出した神の、
その力を必要とする世界の、
その力に蹂躙される人々の抱える地獄を。


「GM」を破壊しつくした「インフェルノ」は音もなく空に飛び立ち、その姿は夜明けの
曇天に消えていく。

焦土と化した草原にとり残されたのは、霞む虚空を一心にみつめる少女と、
その足元には焼け残った彼女の花園。
15通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 09:12:29 ID:???
職人だw
いいぞ頑張れw
16通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 12:26:21 ID:???
>魔王そのものだ。

まで読んだ
17通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 12:29:03 ID:???
神は自らのことしか考えない
18通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 16:40:08 ID:???
面白いね。続きカモン。
19通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 16:58:56 ID:???
一基数千万人を収容する最大級都市ユニットの無数に連ねた威容。
全天を覆う幾つもの防護幕は都市を常に淡い光で照らし出す。
神都。神住まうこの地に闇夜は訪れない。

そして中央部に聳え立つ天を突く垂方体。
闇を逐い間を滅ぼす聖霊の群れ。神罰執行機関「EDEN」本部である。

無機質な声が淡々と報告を読み上げる。
「「D」捕獲の為に先日エリア第弐十一区画に派遣されたGM十五機、消息を絶ちました。恐らくは「D」に
撃墜された模様」
「予想はついていたけれどな。功を焦った誰かさんの独断でやったことだし」
足のない白亜の長椅子座す少年は不適な笑みを浮かべている。
裾の長い制服をだらしなく着こなし片膝を立てて座り込む不遜なその格好は、
不思議と様になっている。
白い制服から覗く褐色の肌。獅子の鬣にも似た長髪は華美な装飾を施した髪留めで束ねられている。
世界に数機しかないGUNDAM型MS「ディバイン」の搭乗資格者、「ヒーリィ・イル」その人である。
少年のかたわらで苦虫を噛み潰したような顔をしている男が一人。
「…この失態、埋め合わせは必ずするとも」
男は搾り出すようにそれだけ言うと、そそくさとその場を立ち去った。
ヒーリィは男を見送った後、酷薄な微笑で毒づく。
「…次が、ありゃね」

20通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 18:12:10 ID:???
ガルガリン級戦艦「ヤフキエル」。全長数km超、
独立居住区はおろか小規模ながら各種生産ユニットまで兼ね備える
姿はまさしく移動要塞と呼ぶに相応しい。

「まったく…」
少女、ミディ・オンツは艦内通路を急ぐ。
「着替えくらいはさせて欲しいよねえ…」
ただでさえ人目につく容姿だというのに、体の曲線がはっきり出るパイロットスーツ
にジャケットを一枚羽織っただけの姿とあっては、すれ違う人間の…特に異性の…
目を惹くことしきりだ。
なにしろ暴徒鎮圧から帰ってきたばかりで出頭を命じられたのである。
大体、本来なら彼女の出動は予定されておらず、保安部「ADAM」の馬鹿が
勝手にをGMを別件で動かしたため急遽お呼びがかかったという訳だ。
その作戦も無様な失敗を遂げたという。普段から目障りな「ADAM」の失態は
喜ばしいが、尻拭いはごめんこうむる。
「汗、におわないといいんだけどな」
彼女は窮屈なヘルメットから解放された豊かな赤毛を掻き分けた。

「ディミ・オンツ、入ります」
鷹揚に迎え入れた上司は彼女を気遣って椅子を勧める。
「君に「D」捕獲の任が下りた。至急神徒に戻り追撃隊に合流するようとの事だ」
「…すぐにでありますか?」
「ああ…じゃ出立は二時間後ってことでいい」

青天を走る虹の矢が一つ。
巨大な冠を模したリアクターより五色の燐光が空に舞い散り機体を柔らかく包む。
法衣に身を包んだ白銀の乙女、GUNDAM級「ホーリー」。
全MS中最も速く、美しく空を翔けると云われるその機体の主はコクピットで叫ぶ。
「ううっ…お布団恋しいよおー!」
21通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:12:24 ID:???
ダネル・アラクシェは本部の廊下を所在なげに歩いていた。
GUNDAM級MS「セイクリッド」の搭乗者である。とはいえ正式の任命を受けたのはつい先日のこと。
襟首を正してもなんとなく様にならない。
機関特有の丈の長い制服にまだ馴染めずにいる様子はまるで余所行きの服を着せられた子供のようだ。

個室の扉を開くと上官が立っていた。
「よう、ダネル」
「話って?何さ賭けごとならもう乗らないぜ」
「はっ、顔に出すぎなんだよお前の場合…そうじゃなくてさ」
直属する上官は彼と殆ど年が変わらないこともあってか、二人だけの時は
ごく気安くものをいう間柄だ。
格式ばった機関にある少年達のちょっとした息抜きなのだろう。
「ダネル喜べ。「D」、「インフェルノ」追撃の許可が下りたらしい」
途端に、ダネルの脳裏に蘇るあの光景。忌むべき強奪劇、炎の邂逅を。

その日、第四開発支部の実験棟では
新型G級MS「インフェルノ」の起動試験が行われていた。
ダネルは島を丸ごと一個の開発施設に作り変えたこの開発支部に配属されていた。
要するに技術役の下っ端である。
だから、「EDEN」より監視任務に赴いた機関員とMS「セイクリッド」を仰ぎ見て
なんともいえない気持ちに襲われたものだ。
白金鎧にちりばめられた瑠璃色。対の大剣を背に負う勇壮なる白き英雄。
少年の決して手に届かない憧れを凝縮したその姿。
ダネルは幾度となく機体を眺めては、ため息をつき、その度に上司から
手が止まっていると怒鳴られるのだった。
(「インフェルノ」もああいう機体になるんだよな…)
他方、ダネルは同じG級、同じ白い機体でありながら「インフェルノ」には憧憬を
覚えなかった。
(何が違うんだろ?まだ、完成してないからかな?)

事件は突然起こった。
施設全域での停電現象。明かりのなくなった島に響く爆音。
目覚めれば蛇炎がうねる地獄の闇。人型の炭灰。鼻を突く煙の臭い。
生ける者のない灼熱の苦界。

そしてこの世界で唯一つの動くモノ。MS「インフェルノ」

機体の随所より伸びる配線が生き物のようにうねうねと踊っている。
島全体のエネルギーを吸い上げている。
白色だった機体色は昏闇を映すが如く黒く、黒く…
「インフェルノ」は耳朶を圧する叫喚と焔の渦を巻き上げ誕生の歓喜に打ち震える。
無数に伸びたへその緒をひきちぎり、悪魔は産声を上げたのだった。
22通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:35:59 ID:???
朦朧とした意識でダネルは無心に床に伏した「セイクリッド」に駆け寄っていく。
傍らにはセイクリッドの搭乗者は一塊の墨となって転がっていた。
彼を見下ろすように佇む「インフェルノ」。
突如として押さえがたい怒りに突き動かされた彼は反射的に主を失ったセイクリッドのコクピットに乗り込む。
ダネルとて一通りの操縦位は心得ている。
Gクラスといえど基本的な操縦は汎用MSと何ら変わりはない。
視覚統合モニター展開。
制御用マルチデバイス起動。
システム・イン。
だが、たった一つだけ決定的な違いがある。
GUNDAM級は各々固有の霊性震動を有しており同調できる者にしか搭乗を許さない。
そうでないものには、
「ううああああっ!!」
霊質レベルでの破壊作用を及ぼす。全身を駆け巡る魂さえ砕くほどの苦痛。
遠のく意識、薄れゆく視界。
(…「インフェルノ」めっ)
だが、眼前にたつ悪魔への全てを理不尽に無慈悲に奪い去ったモノへの
怒りが彼を呼び覚ます。
「オレを…」
絶え間ない痛みの奔流の中、ダネルは必死に操縦桿を握り締める。
「オレを選べっ…セイクリッド」
その瞬間、奇跡は起きた。
嘘のように痛みが引いていく。
肉体の隅々まで機体と繋がっていくのが感じられる。
霊従制御機構発動。
我が肉は鋼。
極粒子振動装甲・フレームと連動開始。
我が骨は装甲。
第一神級兵装「セイクリッド・ブレイド」制限解除。
我が魂は必殺の刃。
「インフェルノ」の前に敢然と立ち塞がる白き鋼鉄。
彼は「セイクリッド」に選ばれたのだ。
「いや…ちがうオレは選ばれたんじゃない…選んだんだ」
蹂躙よりは抵抗を。屈従よりは戦いを。

地獄を生み出すモノ共との果て無き戦いの道を。

23通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:36:00 ID:???
wktk
24通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:43:22 ID:???
これはいいwww
ぶっちぎったセンスだwwwwwwwww
25通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:44:05 ID:???
職人さん=>>1
26通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 20:45:44 ID:???
文がなかなか上手い。物語としても面白そう。期待してます。
27通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 21:00:31 ID:???
>>25
違えっす。
面白半分でやった。今は、少し反省している。
28通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 21:06:07 ID:???
>>27
そうか、乙だ
続けてくれw
29通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 22:30:08 ID:???
闇を裂き大地を割る光の大瀑布。
音速に達する勢いで振り下ろされる、光に瞬く大剣は
しかし「インフェルノ」の胸元を掠め地に大きな傷跡を残すにとどまる。
「ちっ外したっ…!?」
「セイクリッド」が二の太刀を放つより速く、
飛び上った「インフェルノ」は身の丈を上回る紅翼を広げ、無明の天を背負う。
ダネルが身構える間もあらばこそ、「インフェルノ」の胸甲が開き、
次の瞬間「セイクリッド」目がけて巨大な火柱が襲い掛かる。
それは今までの貪婪だが無秩序な炎とは違う明確な指向性、獲物に喰らいつく意志を
秘めた灼熱の蛇龍といえた。音速の刃も猛然と迫る炎蛇の勢いを止める事は敵わない。
あえなく白の機体は瞬く間に巻きつかれ劫火に呑まれていく。
「ぐうううっ…!!」
分子振動の制御によってあらゆる攻撃エネルギーを無効化する極粒子装甲とて
限界はある。このまま業熱に曝され続ければ臨界点を越え呆気なく破砕するだろう。
惜しむらくは搭乗したてのダネルには「セイクリッド」が有する豊富な中距離用兵器を
使いこなせない事だ。
熾烈な機体ダメージはコクピット中にまで及んでいる。
「ふざっけんな…こんなトコで、こんなコトで死ねるかっ…!」
「セイクリッドッ!!」
ダネルの気迫に純白の機体は応える。
突然炎の輪が乱れた。「セイクリッド」は急激な加速をかけ、炎の波を泳ぎ空を駆け上がる。

「インフェルノ」が捉えるのは眼前、焔の激流より出でる黄金の騎士。
極限環境下での適応性と対応能力を限界まで追求したこそがMS「セイクリッド」の真価なのだ。
高熱を吸収し金色へと変わった機体はほんの一瞬にせよ焦熱に耐え、今や「インフェルノ」の咽元にまで迫る。
「セイクリッド」の光刃が「インフェルノ」を捉える寸前、拳を割り突き出た
「インフェルノ」の爪が間一髪で防ぐ。

両機は鍔迫り合いの形になった。
30通常の名無しさんの3倍:2007/01/17(水) 23:12:44 ID:???
俺ガンダム登場させたい流れ
311:2007/01/17(水) 23:37:06 ID:???
キーワード

インフェルノ
プロジェクト・ノア
レビヤタン、ベヒモス(新型GUNDAM級MS)
32通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 00:36:50 ID:???
その時。
ダネルの耳は少年の声を捉えた。
「セイクリッドを駆る者よ!お前は何の為に戦う?」
(この声「インフェルノ」から…人が…乗っている?)
MSに搭乗者がいるなど考えてみれば当たり前の話だ。ただ、しゃにむに
「セイクリッド」を操っていた彼にはそこまで考えている余裕がなかったのだろう。
だが今や、ダネルの「インフェルノ」に抱いていた激しくはあるが漠然とした怒りが、
搭乗者という具体的な存在を得て明確な敵意へと変わっていく。
「貴様ぁっ、そこから降りろおっ!ぶん殴ってやるっっ!」
「なんだ、まだガキじゃないか」
「貴様だって!MSはなあこんな事をする為にあるんじゃないだろっ」
「ふん…ならば何のために在るというんだ?神敵を罰するためか?
神はな、人間なんかになんら興味を持っちゃいないぜ。
罪だの罰だの装ったところでMSは単なる破壊兵器に過ぎないのさ」
「そんなこと俺が知るか!けどな、お前が殺した人たちはみんなみんな
好きな仕事があって、好きなもんがあって、恋人がいて、家族がいて…
そうやって過ごしていくこれからが、未来があったんだよ!」
「誰が与えた未来だと思っている!!…何を奪って手に入れた未来だっ!!」
それまで皮肉めかしていた「インフェルノ」のパイロットは突然、激昂し、声
を張り上げる。「インフェルノ」は「セイクリッド」を力任せに振り払った。
機体越しに伝わる凄まじい怒りの鼓動。
パイロットに呼応する様に「インフェルノ」が哭いている。
先程まで歓喜の声と聞こえたその叫びは、今のダネルには悲嘆と痛苦の入り混じる慟哭に聞こえる。
「ふざけんなよっ…お前は皆を殺したんだぞ…オレからかけがえないの人達を奪ったんだぞっ」
理解したくない。理解してはならない。
悲痛な嘶きを振るきるように「セイクリッド」は悪魔の肩口に刃を突きたてる。
「インフェルノ」はよけようともしなかった。
貫かれる装甲。飛び散る循環剤、破砕する粒子体、そして、其処から吹き上がる
無限の火炎流。
「なっ…!」
「セイクリッド」吹き飛ばす程の勢いで吹き上がる火炎は更に肥大化し、
黒い機体をとり巻き円を作り、球を成しやがて小太陽ともいえる程の濃密な火球を容どる。

疲弊の激しいダネルと「セイクリッド」では何処かへと去っていく魔獣をとめる事は出来なかった。
「くそッ…」
「インフェルノ」の姿は消えていた。
ダネルはゆらめく炎を見据えている。炎の先に映る、地獄を作り出し自らも地獄に悶えるモノ達の姿を。
瞳の奥に焼きついた火は決して消える事はないだろう。彼を、あの地獄を止めない限り。

聖暦0161。10・12日
これが後に「インフェルノ・ハザード」として知られる一連の事件の幕開けであり、
そしてダネル・アラクシェが己の運命と出会った時だった。 


33通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 00:38:43 ID:???

…あの日以来「インフェルノ」は二つの大都市帯とガルガリン級戦艦二隻タルシス級一個艦隊を苦もなく
沈めている。その力は日増しに強大に成っているかのようだ。
「あの時のオレとは違うんだ。今度こそオレのセイクリッドで仕留めてやる」
「それが、な」
詳細を伝えられたダネルの驚きは尤もだった。
「GUNDAM全機で出撃だって…!?」
Gクラス全機をもってあたる任など過去に類例がないことくらい新人のダネルとて承知済みだ。
Gクラスは元々神都の守護を主目的に作られたMSだ。それ故各地区への派遣される事はあるが
必ず1機以上は神都に残るようになっている。
この永年の不文律を破ってまで「D」追撃にあたろうというのだ。
機関にとってこの任務がどれほど重要なものかは想像に難くない。
「「インフェルノ」、それ程のものなのか…」
或いは。
(この件にはオレには分からない何かが潜んでいるのか…?)
「インフェルノ」を駆る少年。彼は何かを知っている様にみえた。
ダネルはそこでそれ以上考えるのを止めた。
今は「インフェルノ」をとめる事に専念すべきだ。
余計な事に気をとられていてはあの狂獣には到底歯が立つまい。

「誰が与えた未来だと思っている?」

あの言葉も今は忘れよう。
彼を倒す。
それこそが自分に課せられた唯一の使命なのだから。
34通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 00:39:34 ID:???
ひといきついたんで跡は適当にお願いしますわ。
35通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 00:49:37 ID:???
>>34

あんたのファンになりそうだw
36通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 04:57:49 ID:???
神話の時代の物語か…カノッサに嗅ぎつけられる前に回収しておかなければな…
37通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 05:24:12 ID:???
神は遍在する。
遍く場に。
遍く刻に。
全ての地平に。全ての事象に。
虚空の天に。草満ちる大地に。星辰の煌きに。燃え盛る太陽の中心に。
失われた過去に。約束された未来の果てに。
神は世界であり、世界は神である。

しかし。
唯一つ、永久普遍たる神でさえ望みえないものがあった。

神は孤独だったのだ。


-------
「EDEN」本部内に存在する「エリドの庭」。
神都を中心に地球の7割を占める超国家共同体「真世界」に於いて楽園と呼ぶのに最も相応しい場所だった。
四季を問わず咲き乱れる花々。
鳥のさえずりと小川のせせらぎ、風に揺れる木々の葉音だけが響く空間。
慎重に管理された閉鎖生態系。
「EDEN」にこのような場所が存在する事は一般の構成員はおろか上級幹部にすら知られていない。
更にいえば足を踏み入れるのを許されるのは組織の三角錐の上辺に位置するほんの十数名者だけだ。

花園に少女は一人、風のそよぎを受けて腰まで伸びた長髪を揺らす。透き通るような白い肌。白い髪。
長い睫の下から覗く瞳は雲一つない空を映したかのような澄み切った蒼。
肢体に重ねられた一枚の白長衣は背に受けた陽光に光彩の縁取りを帯びる。

「また見ているのかね、ルエビ?」
少女の後ろには杖をもった初老の男性がいつの間にか立っていた。
「いらしていたのならもっと早く声をかけてくださればいいのに…」
ルエビと呼ばれた少女は拗ねたようにいう。先ほどまでの超俗した雰囲気は影を潜め、
代わって表れるのは年相応の無邪気な明るさだ。
「一寸、見蕩れていてね」
そいって目を細める男は、皺の数よりも老け込んでみえる。
老いているのは身体ではなく心、それは大きすぎる試練に押し潰された人間の顔だった。
セイファー・ジェラルド。「EDEN」の総帥である。

38通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 05:39:45 ID:???

--------
旧暦。前世紀100年代。
量子空間を利用する新世代通信技術の開発は思わぬ余禄をもたらした。
まさに天啓と呼ぶほかない、正真正銘の奇蹟。
超光速を実現する量子空間の地平にて人類は神と交信したのだ。
より正確にいうならこの空間そのものがいわば神そのものだった。
人々はこの次元にアクセスする事で神と交感し革新的な新技術の数々を手に入れ、
それらは人類に発展をいや、生物史に刻まれるような「進化」を齎しつつあった。
これが世界変革の序章、やがて到来する「真世界」の胚胎期である。
前世紀40年代。
いまだ国家間の争いに終始する世界を神意によって治めるために結成された組織があった。
対立する国家群を纏め上げ、量子空間の地平から現世に神を降臨させる。
受肉機関「EDEN」。
後の神罰執行機関「EDEN」である。



39通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 05:42:20 ID:???

-----------
「もう話は聞いているね?」
「ええ、「D」のことでしょう?」
神秘的な雰囲気を称える少女、ルエビ・アンフィルエンナ。彼女もまたG級の搭乗者だった。
EDEN最高位の称号「ヘブンス」の名を継ぐGUNDAM級MS。
白を基調にしたG系列のデザインにあって一際異彩を放つののがこの機体だ。
なにしろ機体全てが白なのだから。
淡雪を重ねたような法衣は軟性の極粒子形成により常にさわさわと波立っている。
十二枚の展開翼の内六枚が体を包むように畳まれており、
またこれらの翼は発振器、ジェネレイターを兼ねていて華奢な外観とは裏腹な大出力を誇る。
外装が余剰エネルギーの排出性能に優れた軟性の極粒子形成なのはこれが理由である。
顔立ちが搭乗者たるルエビをどことなく感じさせる。
無垢なる永遠の白。祝福の処女像。神都を守護する女神こそMS「ヘブンス」なのだ。

穏やかな世界では時間は瞬く間に過ぎていく。
「私はもういくよ。例の計画も詰めの時期に入っているからな」
「ねえ、ジェラルド」
透き通った両の瞳がジェラルドに向けられる。
「ノアは、何も知らない人々を見捨てて心を痛めなかったのかしら」
「彼等は知らなかったんじゃない。ただ信じなかったのさ」
「では、当然の報いだと信じていたと?」
「…止むを得ない決断だったんだろう」
ジェラルドはそれきり口をつぐむ。
「…我々もまた、選択の余地はないんだ」
そう。箱舟に乗り込める人間は少ない。
選別の時間が始まろうとしていた。

ジェラルドは去り際にぽそりと呟く。
「ソフィアの娘よ、愚かな私を赦してくれ…」
しばしの間の後、少女は一人、誰にともなく呟く。
「…ええ。我が父ジェラルド、赦しますとも。生まれてからずっと私はそうしてきたんだから。
…けれどもやっぱり、貴方には聞こえないのね」
少女は、自分自身を赦す事が出来ない哀れな男を想い、寂しく微笑むのだった。

40通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 07:08:28 ID:???
ルエビは土と草の匂いに満ちた空気を深く吸い込む。
この場所に来られるのはこれが最期だ。
彼女はこれから待ち受ける出会いと自らの死に思いを馳せる。

まだみぬ仲間達。
ヒーリィ・イル。MS「ディバイン」の搭乗者。
何よりも己を愛し、それゆえに己を取り巻くもの全てをこよなく愛す少年。
誰よりも人間である事を愉しみ、人間であることを貫く者。

ディミ・オンツ。MS「ホーリー」の搭乗者。誰よりも他者を慈しみ、
自身も他者への愛によって強くなる少女。
裏切られるが故に信じ、ついには箱舟を導く者。

ダネル・アラクシェ。MS「セイクリッド」の搭乗者。
誰よりも純粋さを失わず、正義を求め、正義を成し、正義を捨てる少年。
後に「楽園の破壊者」として歴史にその名を刻む者。

そして私の死、MS「インフェルノ」を駆る少年。
半身を失った哀しみに灼かれる者。神を憎むが故に神に近づく者。
世界を傷つけ、世界を毀し、世界を救う者。

聖暦0162年 2・19日。
神都に終結した4機のGは「インフェルノ」討伐の任に出立した。
タルシス級戦艦が三隻付随する大所帯である。
神の威光に眩く輝く白銀の御使い達。
地平線は遥か彼方。
運命を見通す少女と運命を背負う仲間達の、最初で最期の旅が今、始まったのだった。
41通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 15:33:26 ID:E8Hqc48B
何これ?
と思ったけど、読んでみたら意外とおもすれーww
42通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 16:36:03 ID:???
邪気ガンダム
43通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 17:26:28 ID:???
板違い
44通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 19:58:59 ID:???
…好き勝手やりすぎたかな…w
45通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 20:03:42 ID:4Q/SU9+L
良スレage
46通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 20:10:15 ID:???
ダブルフェイクスレじゃないのか…
47通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 20:15:33 ID:???
UC以外のいろんな世界にガンダムが存在してるんだから、こういう世界でもいいよね
48通常の名無しさんの3倍:2007/01/18(木) 21:05:43 ID:???
以外と良スレだなここ
49通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 00:46:19 ID:???
もうガンダムじゃなくてもいいなwwww
50通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 04:53:07 ID:???
聖なるかな。
永久の眠りにつく廃都震わせる祝福の組鐘。
聖なるかな。
曇天を断ち割って大地を照らす天使の光輪。
聖なるかな。
天を征き地を翔ける鋼の御使い達。
神の威光を冠に抱き、福音を羽ばたきにのせ舞い踊る穢れなき白銀の輪舞。
魔を砕き邪を灼き悪うち滅ぼす善能なる断罪兵装。

51通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 04:55:28 ID:???
第9区画エリア・「ぺネルV」。
二つの大都市エリアの周縁部に位置するこの一帯は今もなお旧時代の面影を色濃く残す。
タルシス級艦隊の放出する局所結界膜「エンジェル・ハイロウ」は
標的を逃がさず、同時に強大過ぎるG達の破壊力から周辺環境を守る役割も果たす。
筆頭鑑「アレオパギタ」に搭載された指向型霊性発振機「マグナカリオン」の
文字通り魂にまでも届く振動波は並の魔性であれば消し散じてしまう程強力だ。

だが、何よりも威力を振るうのはやはり4体の聖霊機「GUNDAM」である。

一呼吸で三撃。斬り払う敵はその二乗。
敵は圧倒的な速度で繰り出される剣撃に阻まれ「セイクリッド」のそばに近寄る事さえ出来ない。
にもかかわらず、ダネルは戸惑っていた。
「こんな数…見たことないぞ」
「怖かったらさ、下がってていいんだぜ、ダネル!」
「蟲にびびるかよ!丁度いい訓練さっ」
(しっかし…なんだな)
ダネルにはああいったが、ヒーリィにしてもこの大群は異常に思えた。
邪霊蟲「バグ」。鈍色の甲殻の側面に沿って突き出た牙で獲物を襲う機械虫だ。
不良化した環境維持用マイクロユニットが変態したもので
放って置けば施設や人を襲う事もあり厄介だが、実際、大した相手ではない。
だが、目の前のそれは質も量も並の蟲どもとは桁違いだ。蠢く銀灰色の地面。
個々のサイズも通常の倍近くあり耐振能力も一際だ。
これではタルシス艦からの援護掃撃も焼け石に水だ。
「ま、文句いってもはじまらねえわな…っと!」
ヒィール駆る機体「ディバイン」が奔る。
白地に金の装飾が施された重厚なフォルムは他のGよりシャープな印象を欠くが
むしろその無骨さが力強さと安定感を見る者に感じさせる。背部より排出される金色の余剰波によって
機体は常に太陽に照らされているかのように薄く輝き、その姿は神意によって君臨する地上の王たる貫禄を醸し出す。
「ディバイン」は大ぶりな六角形のハンマーを振り下ろす。
巻き起こる砂塵。
十二基もの独立式発振器を用いた圧倒的なエネルギーが生み出す膨大な圧力に
耐え切れるモノなどそうそうない。一撃必殺、厳格なる審判を下す裁きの鉄槌。
「あー効率わりー」
しかし、大多数を相手にするにはあまり向いた武器ではない。
(いい機会だし、ここは他の連中のお手並み拝見といくか)
52通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 05:00:07 ID:???
「しつっこいんだよっ!」
空中からの急降下。「セイクリッド」は双剣を蟲の一群に叩きつける。放射状に散らばる光の微粒子と共に
蟲たちはあえなく砕け散る。と、突然、ダネルの視界が無数の影で埋まった。
地中に潜んでいたバグの強襲である。
「なろっ!」
油断しすぎたのか大きな隙を作った「セイクリッド」は腰までバグの渦に埋まり、なおも蟲たちは
機体を這い上がりながら鋭く伸びた牙で痛めつける。
「くそっ」
焦るダネルの耳に飛び込んできたのはミディの声。
「そこ!遊んでないの!」
同時に開始される遥か後方より「ホーリー」の援護射撃。
「ゴスペル・クワィア!」
飛散した無数の羽根は互いに連結し、変型し、人形体となって獲物を切り裂いてく。
群がるバグを前に即座に分離した羽根は角錐を形成し、轟然と直進する螺旋の渦となって縦横無尽に蟲を貫いていく。
変幻自在の遠隔型兵器。「ホーリー」の特殊神級兵装「ホーリー・ビット」が蟲の河を渡り「セイクリッド」の戒めを解き放つ。。
「闇雲に突っ込むだけじゃ的か囮にしかならないって。もっと頭を使わないとボケるの早いよ?新人くん」
「…分かってるよさ、その位っ!」
癪に障るいいようだがミディの言い分も尤もだ。
現役G級搭乗者として最も多くの任務をこなしたという彼女には、Gに乗り込んでまだ日が浅いダネルは
危なっかしくみえるに違いない。お節介じみた忠告にしろ、それを裏付ける経験と実力は十分ある。
「そっちこそなんだってそんなに距離とってるんだよ。連携取りづらいだろ」
「虫、駄目なの。キライ」
「……あそう」
だが緊張感がない。
53通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 05:00:56 ID:??? BE:318960672-2BP(0)
(´・ω・`)
54通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 08:08:55 ID:???
板違い
55通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 16:59:33 ID:???
なんとなく昔ボンボンでやってた騎士ガンダムシリーズを思い出した。

面白いと思うよ。
56通常の名無しさんの3倍:2007/01/19(金) 17:28:39 ID:???
ってか>>1的にはどうなん?
57通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 00:50:33 ID:???
リアル頭身でガンダムのいない騎兵伝説でおk?
58通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 10:25:24 ID:???
職人さんセンスあるな
おもろい
59通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 19:42:21 ID:???
デモンベイン小説版を読んでる気分だ。
60通常の名無しさんの3倍:2007/01/20(土) 20:05:32 ID:/hwQJKha
この邪気、只者ではない…
き、貴様…さてはカノッサの者だな…
6152続き:2007/01/21(日) 00:25:49 ID:???
ヒィールの回線が割り込む。
「丁度いいやミディ、ここらに精査かけてくれないか」
「先刻調査済みだけど」
「いいから、今度はさっきの千分の一単位で頼む。蟲どもの動き方が気に入らない」
同じG搭乗者とはいえ彼女よりも一等級上の地位にあり、G乗りで一番階級の高いヒィールが
実質の戦導隊長だ。彼女に否やのあろう筈がない。
「えぇ、これって地味ーに疲れるんだけどな…いわれりゃやりますけどねー、私って
こう都合いい女扱いされてる気がするなー、姫様とは偉い違いよねーそもそもさー…」
文句は大いにあるらしいが。
「ホーリー」の「ビット」は十六基。四基づつ重なり合って空を舞う白い花弁を四枚作り出す。
花房は対を組んでくるくると旋回を重ねて戦場に大きな円を幾重にも描く。同時に、両端の花弁を繋ぐように生じる
薄赤色の走査線も、合わせてくるくるとめまぐるしく空間を寸断していく。
場に縦横に張り巡らされた走査光はミディの神経網に等しい。線の集合は面に、面の集合は朱色の半球へ。
一帯の僅かな空気の震えから細胞単位の変動、そして万物の真象、霊性に至るまでの膨大な情報像を
彼女の知覚は分解し、拡大し、精査し、評価し、把握する。
「やっぱり先刻と変わらな…いや、待って!」
空間全体に広がった彼女の「眼」は大群に澱む異形の渦の中点、綾なす根源の影を捉えた。
「何かが在る…いって!」
ビットは主の意に従い瞬く間に射撃形態へ移行、蟲群の一点を正確に射抜く。
それを目印に、
「ダネル、合わせろよっ!」
「ああ!」
「ディバイン」の胸部小光径砲。
両鞘から放つ「セイクリッド」の輻射振動波。
指し示された点目がけての両機の同時斉射は爆砕とともに朽ちかけた古都の一角を消し飛ばし、
地盤に巨大な虚を穿った。
瓦解する旧世紀の遺物、粉塵に散る過ぎし日の夢。
62通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 00:30:58 ID:???
そして、辺りに膨らむ土煙の世界で、悪夢は静かに滲み出でる。
「黒い…蟲か…?」
「…違う」
ダネルには既にそれが何なのか分かっていた。
激しい瘴気につれて湧きあがるのは自然の理に反する漆黒の焔。
燃え盛る黒柱に魅入られた蟲の群れは一斉に身を投じてゆく。
融け爆ぜる機械蟲。形を失った鋼肉は蠢く細胞となって火中を激しく這い回る。
ねとつく細胞は劫火に合わせて踊り、融け、精製され、ついには一つの巨塊と変じる。

灼熱巻く永久の闇。

ミディはおぞましさに言葉も発せないでいる。
ヒーリィの上ずった声。独自の軽快な口調はそこにはない。
「これが…そうなのか」
異常蟲群の元凶。
ダネルは、不意に気づいた浅い呼吸と、四肢を重く拘束するプレッシャーはいつからのものだろうと考えていた。
戦闘中か、出撃前か。いや、恐らくはこの地に着いた時点から。
異常な緊迫感は、初陣への不安によるものなどではなく、この遭遇を予期していたからではないか?
なおもさわさわと揺れる幾つもの肉襞が織り上げる巨人の姿。
「間違いないよ…こいつは」
そうだ。彼が見間違えるはずがない。始まりのあの刻よりダネルの目に宿り、いまなお燻り続ける煉獄の業火。

「…インフェルノ…」

MS「インフェルノ」。
災禍たる黒獣の異形が其処にあった。
63通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 00:55:36 ID:???
(・∀・)イイヨイイヨー
64通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 01:04:11 ID:???
あれ?
何か面白いんだけど
65通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 01:16:09 ID:???
>>鳥山 コクーンの外側には、パルスという名の下界があります。
    パルスはモンスターの脅威にさらされている危険な世界。
    まずパルスがあって、たとえば人間がそんな世界で暮らす場合、
    どういう環境が人間にとって適切なのかをクリスタルが考えて作り出した空間がコクーンなんです。

>>鳥山 外なる異物に影響を受けたコクーンの人々は、"聖府"によって隔離されてしまいます。

>>田畑 最初は、誰が敵なのかわかりません。ただ、外界からの侵略は確実に始まっていて、
    世界の均衡が崩れ始めている。
    生徒たちは、敵についていっさい知らされないまま戦い始めることになります。
    なぜその正体が明かされないのか、敵は何者なのかは、物語が進むにつれ明かされていきます。

ttp://www.famitsu.com/interview/article/2007/01/19/668,1169202900,65883,0,0.html


聖府…これもらおうぜw
66通常の名無しさんの3倍:2007/01/21(日) 01:37:35 ID:???
善処しまつ。明日はお休みー。
67通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 00:20:27 ID:???
age
68天唱・1:2007/01/23(火) 02:10:40 ID:???
戦闘終了より数刻後。

タルシス艦・MS区画内。
機体の自己点検を終え居住ブロックへの通路を歩くミディとヒーリィの二人。
「しかし、予想外に長引いたなー」
「誰かさんがさぼってなきゃもっと楽にいったかもね。他人は目一杯働かせるくせに」
「あちゃ、バレバレすか」
「当然でしょ?コノンでの大立ち回りは「EDEN」中に響いてましてよ?コンジシさん」
「ソレやめてくれ…最低だその呼び名考えたやつ…」

「金輪の獅子」。先年、反聖府組織が起した都市ユニット一つを盾に取ったMS暴動を
たった一機で鎮圧した折に賜ったふたつ名だ。
もっとも彼曰く「前線から離れた所に位置取って、適当にサボってたら、包囲の穴目がけて
突破かけてきた敵本隊がそこに雪崩れ込んできたので焦った」らしいが。
勿論、ヒーリィ特有の韜晦だろうが、本人をよく知る者ほど冗談とは聞こえなくなるのが困った所だった。
「あぁ、みたかったのにな、世界一のMS「ディバイン」の本気をさ」
皮肉まじりでも半分以上は彼女の本音だろう。同じG乗りとしては気になるに違いない。
機体特性と直属組織の性質上の理由から、派遣任務に就く割合は彼女の「ホーリー」の方が多いが、
こと内容の面では「ディバイン」の活躍に遠く及ばない。
Gの「EDEN」管轄とはいえ、それぞれの所属は異なる。
都市ユニットを管理・統括する行政体・太教院「エダー」が「ホーリー」。
立法を司る・至法院「カハール」が「ディバイン」。
諜報機関・神智院「コヘレト」が「セイクリッド」。
その三つを束ね神意に則り統帥する「七十一議会」が「ヘヴンス」を受け持つ。
実際にGを運用するのは「EDEN」だがその際にはいずれかの該当する組織の裁可を得ての活動という形をとる。
つまり、最強戦力たるG級MSを四つの組織が分有する事で実質的な軍事機関である
「EDEN」の手綱を握っている訳だ。
G級の通称「四面のセラフ」もこうした理由による(そうした事情を鑑みれば
各組織の域を越えての今回のG揃い踏みがどれだけ異例な事かも分かるだろう)。
よって、各G級MSの運用方法は所属する組織の方針に影響を受ける面がある。
例えば「議会」に直属する「ヘブンス」は聖府の中枢たる神都防衛に重きを置いたGであり、
また種々式典や祭式にも用いられる「真世界」の象徴ともいえる役割を担う。
そして、対照的なのが「ディバイン」だ。
一般に至法院が「ディバイン」の運用を許可するのは事態に、
真世界の秩序を崩壊させる程の脅威の可能性が認められた場合だけである。
大規模な反乱。凶悪な魔性によるユニット各域の侵犯。内乱の摘発…
いわば世界にとって最大級の危機にこそ、主の代行者たる威信をかけて
「ディバイン」は用いられる。
故に「ディバイン」は、最も苛烈な戦場を潜り抜けてきた「EDEN」の筆頭機といっていい。
いうなれば「真世界」の神聖を顕す象徴が「ヘブンス」なのだとしたら 「真世界」の武力を顕す象徴こそが「ディバイン」なのである。
となれば乗り手であるヒーリィがインフェルノ追撃作戦の実質的な指揮を執るのも至極当然の流れではある。


69天唱・2:2007/01/23(火) 02:17:10 ID:???
「…まあいいじゃないか。代わりにもっと珍しいものが拝めただろ?」
「それは、そうだけどね…」
世界で最も有名で、かつ最も謎に包まれたMS。「ヘブンス」。
歴史上、神都が攻撃を受けた事は無い。よって神都防衛を目的として作られたG級も
時代を経るにつれて他の任務に就く事が増えていった訳だが、ただ一機「ヘブンス」だけは
相変わらず神都の防衛を第一義として神都から離れる事はなかった。
結果として真世界の象徴たるMSとして広く巷間に認知されていながら、
その力を示す機会はただの一度たりとて無かったのだ。

その、未知の機体の性能の一端を、彼等は先の戦闘で垣間みることになった。

「で、感想は?」
彼の反応を伺うミディを前に彼は様々な形容句を頭の中で並べ立てて、結局諦める。
「…ますます謎が深まったよ」

透過性の壁窓越しに、遥か後方の地面、残骸の景観に聳える
五色に波立つ繭をみやって肩をすくめた。



70通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 19:19:50 ID:???
正直おもしろいw
71通常の名無しさんの3倍:2007/01/23(火) 19:51:04 ID:???
ここまで徹底してくれると、正直アリだと思えてしまうから困る
72天唱/3:2007/01/24(水) 00:22:54 ID:???
----------

「ダネル、待てっ!」
猛る感情溢れるままにダネルは機体を目前の悪魔に突っ込ませる。
神速の一閃が横薙ぎに黒の肉形を絶つ。
が、
「手応えがない…?」
分かたれた悪魔の身体はすぐさま繋ぎあい復元する。
乗機の手元を確認してだネルはようやく異変を察知した。
刃に染みた黒い影は瞬く間に輝きを貪り尽くし、
「セイクリッド・ブレイド」の刀身は腐食したようにボロボロと形を失っていく。
「落ち着いて視てみろ。そいつはインフェルノの「影」だ」
ダネルはモニタに各種フィルタリングを呼び出し異形を凝視した。
蟲たちの鋼襞の下には、目標には霊質の核を確認出来ない。
振動機関反応、粒子遊体反応、その他あらゆる物理的実在を示す特徴、
いずれもなし。
つまりは、
「純霊体ってことなのか…けど、こいつは…!」
「どうやら纏った瘴気をここに脱ぎ捨てていったらしいな…まるで蛹だぜ」
具顕化するほどの霊性。あまりに高濃度の真黒の残像。
一体、どれ程のエネルギーがそんな事を可能にするというのか。
「ホント、臭ってきそうな位の霊性の塊って訳ね。面倒くさいもの残してくれちゃって」
ミディの言葉通り、これは相当に厄介な代物だ。
これ程の質量を備えた魔霊を根絶するには、恐らくは相当の時間を要する。
かといってこのまま放置を続ければ、濃密な魔の穢れはバグのように辺りの生態を果てなく侵す。
立ち尽くす一行に回線から男の声が聞こえた来た。
「聞こえるかね、ヒーリィ戦導主長?」
タルシス艦同乗員ケイルブ・マーラー、ADAMから派遣された作戦の参謀役だ。
細く爬虫類めいた目と耳障りな甲高い声が人に冷徹な悪印象を与える、
更にいえば内実も外見を裏切らない男だ。それなりに有能とはいえ、
このような男が重用されているのも保安部が嫌われる一因かもしれない。

「こちらでも状況は確認した。私としては禁弾の使用を提案するが」

73天唱/4:2007/01/24(水) 00:28:50 ID:???
地上最強の聖導兵装・Gを操り、真世界においてあらゆる軍事活動を許された
「EDEN」にあっても禁忌とされる兵器は存在する。
それらは強大な破壊力故に物体の霊質そのものまで破壊し、
後には亡者の怨嗟で埋め尽くされた死の大地を生み出してしまう。

膨大な光熱で悉くを塵に帰す「ヴレヴェイルの鏡」。
物質を微粒子状態にまで還元する嵐を巻き起こす「カディンの月翅」
そして「禁弾」。

極小の閉鎖空間で聖性の霊子崩壊を促し破壊力を得るという発想からして神の御心に叛いた兵器。
その上使用された霊質は変質を遂げ全ての霊性を破壊する反霊子と化し、
爆発と共に地に降り注ぐ。後に残るのは霊魂さえ沈黙する死の世界だけだ。
俗称「堕天兵器」の名は決して大げさなものではない。
毒をもって毒を制する、聖と浄をもって秩序なす真世界にあっては忌み嫌われた存在、
それが「禁弾」なのだ。

タルシス艦に搭載を許された禁弾は破壊範囲をごく小規模に絞った威力の低いタイプだが、
それでも場の変質は免れ得まい。
「待てよ。そんな事をしたら…」
「ああ。ここらは百年はつかいものになるまいよ」
ケイルブは平然と、むしろやや愉しげに話続ける。
「幸いにしてこの地区は都市外だ、実害は無きに等しい。それに本部からの承認も既に得ていることだ」
「許可が出てりゃ何でもやっていいってのか!?」
なおも食い下がるダネルとは違い、隊を率いるヒーリィとしては渋々ながらも同意せざるを得ない。


74天唱/5:2007/01/24(水) 00:31:25 ID:???
「気は進まないが…止むを得んかね」
「待てよヒーリィ、なにも禁弾なんか使わなくったってこんなものGの力でどうとでもなるさ」
「やろうとすれば、出来ない事はないさ。けどな、それにどのくらい時間がかかる?」
「だけど…」
「ディバイン」が「セイクリッド」に向けて光弾を発射する。
「!」
放たれた弾は「セイクリッド」の頬を掠めて、インフェルノの幻身を焼き払う。
しかし、飛散した肉持つ影は緩やかに寄り集まって、再び元の形に戻るだけだ。
「お前がいってるのは…錆鉄を磨き上げて綺麗な鏡にするようなことだ。
俺達が相手にしなけりゃならないのは影じゃなくインフェルノ自身だろうが。
だからといって放っても置けない。隣接する都市部にだって厄災が広がりかねないからな。
ダネル、これが一番ベストに近いやり方なんだよ」
「…近くには棄民もいるんだぞ!」
都市ユニットの外縁部には都市からうち捨てられた流民の集落がユニット外周を伝うように点在している。
「そういやお前は外の出だったよな…同情する気持ちは分かるがなダネル、ここらでよく心に留めておけ。
俺達は「EDEN」の執行者、神の剣であり、真世界の砦にして、神民の盾だ。
Gに乗る以上、お前は万民の命に対して義務と責任があるんだよ」
「その万民に全ての人間は含まれないのか!?」
「出来りゃあやってる!」
「…ちょっとお、止めてよね、戦場でいい合いなんてさ!」
二人ともミディの仲裁などに耳も貸そうとしない。意見は平行線を辿ったままだ。

不意に、沈黙を破る涼やかな音曲にも似た少女の声が二人の耳に届いた。
「あの、ちょっと、いいですか?」
「ルエビ…さん?」
「ルエビ嬢?」
「もしよろしければ私に任せていただけませんか?」




75通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 00:31:59 ID:???
リアルタイムでキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
76通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 13:36:40 ID:???
何この中二病なスレ、と思ったらかなりの良スレだw
応援してます
77通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 18:44:09 ID:wZnW3AjJ
いま流行の邪気眼系ってやつかw
意外と面白いw
78天唱/6:2007/01/24(水) 21:43:33 ID:???
生まれてから一度たりとも神都から出る事の無かった彼女は、
外の世界の空気が肌に合わなかったらしくここ数日体調を崩し臥せっていた。
おかげで今回の出撃は見合わせていたのだが。

戦艦のデッキ上で、「ヘブンス」は身に倍する六枚の大羽を広げる。

天に描かれる光の輪を背に舞い降りる「ヘブンス」。
「ホーリー」を、華美な鎧装束を纏った天翔ける戦乙女に喩えるなら、
「ヘブンス」はたおやかに白の羽衣をはためかせる天空に舞う姫巫女と形容すべきだろう。

天に円輪を描くを背に「ヘブンス」合わせて光輪が収縮を始めた。
「輪を、拝借しますね」
水面に垂らした白乳が尾を引いて水底に染み落ちるように、天を覆う白光の輪は溶け落ちて、「ヘブンス」の元に垂れる一本の帯となる。輝く乳白色の尾を引きながら、聖処女は六枚の翼を緩やかにうち震わせる。
発振機関の平行振動を促す羽ばたきに同調して極光の白地に刻まれる文様の連なり。
連なる文様は、一本の帯となって天を泳ぐ。
「これは…詠唱律を詠んでるのか?」
ダネルが驚くのも無理は無い。
詠唱律。仮象領域に聖句を「詠み込む」ことで霊性に干渉し
物理的反応を促す技術の総称であるが、もはや時代遅れの技術といっていい。
聖歴150年代には固有律を圧縮搭載する事で詠唱を省いての効速化を可能にした、
いわゆる振動型武装にとって代わられており、今ではMSの起動式に使われる程度だ。
だが、目の前で展開されるそれは普通のものとは明らかに異なる。
なにせ、「ヘブンス」の羽ばたきが生起する詠唱紋は仮象領域を飛び越して物質域に
直接刻まれているのだから。
驚くべき発現速度で紡がれる聖句の紐帯は黒炎の魔物の周囲を
優しく幾重にも舞い包み極光の格子を構成する。
「あんな結界で瘴気を閉じ込める気かよ…」
練成された光壁は確かに美しくはあるが、元はタルシス艦の障壁光輪である。
封印も束の間、強力な瘴気は直に結界を溶かし穿つだろう。

79天唱/7:2007/01/24(水) 21:44:53 ID:???
しかし、真の驚異はここからだった。

「ヘブンス」が詠う。

本体部、女神像は物理的実在でありながら
霊性にまで届き入る音振動を紡いでいく。

音は韻を。韻は句を。、
句は、詩へ。詩は、唄へ。
唄律は重なり合い響き合い、清らなる聖唱の輪舞で格子を満たす。

MSの中で最高度の振動耐性を備えるGですらが、
結界から漏れ出る音響振動だけで機体を圧迫される程の霊質量。
「インフェルノ」の霊性を尽きせぬ灼熱とすれば
「ヘブンス」の霊性はいわば霊質の凍結。
無尽の噴炎をも静める凍てつくほどの清浄に、
純白の籠を充溢する唄は光の粒を弾く。
凝固した霊質の結晶がキラキラと風を映して格子の淵を跳ね、
いつしか縒り合わされた銀糸を紡いでいく。
巡る銀糸が織り上げる膜は、わだつ境界を無色に染める。
淡い煌きが織り成すそこはもう真白の領域。銀箔の繭。

それは、ヒーリィですら戦場である事を忘れるほどの幻想的な光景だったが、
彼は真に驚くべき事象を見誤る程間抜けではない。
繭の内側で起こっている超高密の霊性相克を。

白色の絵の具はほんの数滴の黒色で無惨に汚される。
反対に同量の白色を加えても黒は依然として黒のままだ。
泥水に同量の純水を注いだところで濁りは消えない。
だが、注がれるのが数百倍、数千倍なら?
「ヘブンス」が行っているのはまさにそのような所業だ。
汚泥の山を大河の奔流がさらうように、
「インフェルノ」の残した濃密な魔をさらに凌駕する膨大な聖流で分解していく。
聖成の無垢。
そこにはどんな細緻な技巧も介在していない、圧倒的な聖のみが成しうる純正の奇蹟があった。

穢れを祓い邪気を鎮める。癒し、清め、総てを守る為に在る機体。
「ヘブンス」の断罪はかくも慈愛に満ち溢れている。

「これが…神都を守護する機体…」
他のGパイロットはおろか、艦に乗船する誰しもが目前に広がる光景を前にして
言葉もなくただ立ち尽くすことしか出来なかった。


80天唱/8:2007/01/24(水) 21:45:49 ID:???
衆目の見守る嗣業の最中、ルエビは異形よりこもれ出る記憶の残滓に触れていた。

紅蓮の檻にひざまづく少年の姿。
鮮血の血溜りの中、骸をかき抱く煉獄。
復讐では軽過ぎる。憎しみでは脆過ぎる。
絶望では届かない。怒りでは及ばない。
容どる言葉など存在しない。ただ赤黒く滾る紅蓮によってのみ示されるこの衝動。
見開かれた両の眼が映すのは、灰と広がる神世界。

瞬きとともに去る白日夢、彼女の前には極光にさざめく繭の沈黙があるだけ。

------------
ヒーリィは繭から、艦内に収められた「ヘブンス」に視線を移す。
「…聖霊なんていわれてるG級だが、MSはMS、所詮は機械だ。どんなに現実離れした性能を誇ろうともそこには貫徹した理論と限界がある。けれども「ヘブンス」は、とてもMSの範疇に収まる代物にはみえない。あれは、まるで…」
神徒たる身にはその先を口にするのは憚られる。
「インフェルノも、そういう相手なのかな」
「ぞっとしないね。そうでない事を祈るばかりだ」
「それにしても、せっかくG勢ぞろいでの作戦だってのにまずお互いの探りあいじゃね」
同じG搭乗者とはいっても立場も境遇も違いすぎる4人だ。この先うまくやっていけるかどうか不安が残る。
「んー?俺でよければ、なんだって教えますよっと、」
ミディは肩に回された腕を引っぱたく。
「その手の台詞は他の娘にしときなさいな。操舵士の彼女、こっち睨んでるよ」
「…嘘だろ?」
「かっこいいとこみせてくれたら、考えたげるよ、コンジシさん」
彼が振り返った時には、彼女は既に後ろ手をふって歩き去った後だった。
「…それはやめろっつうのに」
81通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 22:58:43 ID:???
そろそろGUNDAM5機のイラストが投下されてもいい頃だろう
82通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 23:14:19 ID:???
冷やかしのつもりで覗いただけなのに、気付いたら読みふけっちまってたぜ
作者なかなかやるな
83通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 23:16:26 ID:???
これ、そのうちリバイバルみたいな壮大なプロジェクトになったりしてw
84通常の名無しさんの3倍:2007/01/24(水) 23:24:21 ID:???
ガンダムじゃなくても良いじゃん
85天唄/9:2007/01/25(木) 20:09:09 ID:bpwRsfej
甲盤を風が過ぎる。
タルシス級以上の「EDEN」艦には、機首から後方に反りかえった十字羽が
旗章代わりにとりつけられている。戦闘時には対弾障壁を張るその羽は平時巡航でも
緩やかに作動しており、常に心地良い凪がデッキ上を満たしている。

二人はデッキに立っていた。
「そんなに身を乗り出すと落ちますよ、法士…」
「風がっ気持ちいいですっ…!」
側舷を飛ぶ水鳥と戯れる少女を眺めるダネルの目には戸惑いがあった。
ついさっきあれ程の驚異をみせつけられた神機の繰り手と
目の前の少女の姿が頭の中でどうしても一致しないのだ。
「…あまり無理はしない方が良いですよ 法士アンフィルエンナ」
「気を使ってくださって有難う。けど本当に大丈夫ですから」
機体点検を早々と終えた彼は、ヒーリィに促されて、
というか同乗員全員の意向で彼女の付き添いに任命されてしまった。
ルエビ・アンフィルエンナ、「EDEN」最高位機「ヘブンス」を駆る少女は、
機関上層部とも結びつきのある相当のの重要人物であるという。
(「ああみえて彼女、「議会」側の人間だ。それなりに丁重にな」)
(そんな事いわれてもなぁ…)
ヒーリィは暗に監視も兼ねての付き添いでもある事を匂わせていたが、
よくいって真っ直ぐな、悪くいえば不器用極まる彼にそんな腹芸が出来るわけもない。
実際、新米のMS乗りに過ぎない彼には彼女をどう扱って良いものか見当もつかなかった。

ダネルの困惑を知ってか知らずか、風で乱れた長髪を整えながらルエビは彼に近付いてきた。
駆け寄る少女の背丈は彼の肩ほどしかない。
彼女は少しの思案の後、神妙な面持ちで話を切り出した。
「アラクシェ導士、貴方にだけは告白しておきますけれど…」
それと悟られぬよう息を呑んで待ち受けるダネル。
「あの、ですね…私、外の世界は初めてでして…。
それでその、少々はしゃぎ過ぎまして、船酔いというものでしょうか…。
その、本当に大したことなかったんですけど、皆が大騒ぎするものだから
仕方なく…アラクシェ導士、なにがおかしいんです?」
これが笑わずにいられるか。
「そりゃっ…おかしいでしょうよ…
どうせ、バツが悪くっていい出せなかったんでしょう?」
彼には大騒ぎをする周囲をよそに、少女がベッドの中で悶々とする様子が
ありありと思い浮かべられた。
「導士を信用して恥を打ち明けましたのに…」
膨れっ面そっぽを向く彼女に謝りながらダネルはますますそう確信する。
要するに彼女、ルエビ・アンフィルエンナはごく普通の少女なのだ。
神機「ヘブンス」を駆る超越的な嗣業の担い手である事を除く限りは。
「…ダネルでいいよ。導士ってのは苦手だ。
その代わりこっちもルエビって呼ぶ。それでいいだろ?」
ルエビは、にっこり微笑んで大きく頷く。
「ええ。分かりました、改めてよろしく、ダネル」

86天唄/ラスト:2007/01/25(木) 20:10:36 ID:???

右手には廃都の礫砂、黄昏の大地。対面には海、汚泥に濁る波間も
今この時は暁をうけて絶え間なく揺らぐ紅鱗に輝いてただ美しい。
「旧時代、この辺りは世界で最も綺麗な場所の一つに数えられていたそうです。
…けれどいつ果てる事なく続く争いの中、このように無惨に焼けてしまったのだと」
物憂げな表情に揺れる横顔。
瘴気から解き放たれた蟲の砕片は自己復元を繰り返し本来の生態にとり戻し大地の再生を続けるだろう。
だが、穢され尽くした地が蘇るには人には悠久とも思える永い時間が費やされる。
「だからこそ、戦争を止めない旧人たちの元に神が降臨した。そして真世界を、楽園を創ったんだろ」
少女は黙して何も語らない。

彼にだって分かってはいる。
炎の日。地平線まで伸びる流民の道。血を撒く紛争。
そして、現前する地獄。紅蓮の獄鎖に繋がれた少年。
聖暦を一世紀半数えても、
肉もつ人の身に楽園の夢は今なお眩しいままだ。
「…この世界は確かにまだ、天国って訳じゃないかもな。けれど、だからって地獄にしていいわけがあるか。
俺達は「インフェルノ」を討つ…奴を、討たなければならない」
ダネルの表情からルエビは悟る。
「貴方も、観たのね。あの光景を…」
自分が垣間みた「D」の記憶。それをダネルも共有している。

「ダネル・アラクシェ」

あどけない少女の無垢から深淵をたたえた御子の静寂へ。
吹き抜ける突風に白く伸びる長髪。
黄昏に、水晶の蒼から琥珀の緋へと染めるその瞳。

「貴方は「彼」を赦せますか?」

87通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 20:15:50 ID:PnZX3VQb
>>84
平成ガンダムすべてを否定する発言ですね
88通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 21:53:40 ID:???
『聖府』
 ┣神罰執行機関「EDEN」━┳ディバイン ヒーリィ・イル
 ┃               ┣ホーリー ディミ・オンツ
 ┃               ┣セイクリッド ダネル・アラクシェ
 ┃               ┣ヘヴンス ルエビ・アンフィルエンナ
 ┃               ┗インフェルノ(→強奪)
 ┗保安部「ADAM」

こういう構図でいいの?
89通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 22:19:33 ID:???
>>88
いきあたりばったりなんででよく分からんが多分そんな感じ。
EDENが軍隊でADAMが警察つーか(ADAMは太教院とつながり深いので「ホーリー」
との連携が多い、とか)
権力的にはEDENがADAMの下にくるんだろう、多分。
インフェルノは立ち位置微妙。
追撃任務にADAMの人間も参加してるという事は
何かしら因縁あるんだろうね、まだ考えてないけど。
901:2007/01/25(木) 22:30:36 ID:???
インフェルノは、EDENが極秘裏に開発していた「魔」の機体。
神罰執行機関ともあろう組織が、魔の力を持った機体を開発していたことが公になったら…

ってGP-02じゃんw
91通常の名無しさんの3倍:2007/01/25(木) 22:44:47 ID:???
>>90
「そもそもなんだってインフェルノなんてMSを作ったのか?」ってのは
物語の根幹の一つだな。
921:2007/01/25(木) 23:11:34 ID:???
地球外の脅威に備えて…とかかなw

終盤にEDENを敵に回すかどうかは職人さんにお任せするっす
その場合は、神と悪魔の同一性…みたいな感じで
93通常の名無しさんの3倍:2007/01/26(金) 01:12:19 ID:???
もともとは魔を封印するための聖なるMSだったけど、何か強大な魔に侵されて封印されたとかは?
ありがちか。職人さん、期待してます。
94通常の名無しさんの3倍:2007/01/26(金) 16:54:13 ID:???
この流れの尻尾に乗っかって中二病的に考えちゃうぞー。

聖と邪は表裏一体であり離すことが出来ない存在として捉えられる。
聖の護り手として四機の『G』を建造したが、注ぎ込まれた光の力があまりに大きく
世界そのものの昼と夜、光と闇のバランスが崩れた結果、副産物として
インフェルノの原型が生まれた。
それを使ってMSに仕立て上げたのはほかならぬ『聖府』(FF13センス良すぎw)であり
「天秤は陽に傾いても、陰に傾いても神の世界へ至る階段<きざはし>とは成りえない。
 光陰の完全なる融合――“無”が生み出す揺らぎこそ、神域への門扉<ゲート>なのだ」
と言った具合に聖邪両極のガンダムが揃った。
聖府上層部の真の狙いは神の世界へ至る高次元への回廊<セフィラー>を開き、
神滅兵器として作られた5機のガンダムの真の力で神を滅ぼすこと。
高位次元へと昇ればヒトは四次元宇宙のクビキから解放され、誰もが全能と永遠の安息を得る。
聖府なりに人類の未来を考えての野望だった(真の敵が絶対悪じゃないって厨臭いっしょ?)

主人公らの討伐任務そのものが両極のガンダムを戦わせて回廊を開くための策略、というオチ。
ちょっとメタルギアもパクった。ちなみにこれは名無しの妄想なので職人さんは己の道をドゾー。
95通常の名無しさんの3倍:2007/01/26(金) 19:39:13 ID:???
うむ、実にいい感じだw参考にします。
この手の話ってそんなにバリエーションないからあとは肉付けなんだろーね。
96獄影/1:2007/01/26(金) 19:42:26 ID:???
ガルガリン級戦艦「セルムト」はたった一機のMSによって沈もうとしていた。

横薙ぎに奔る紅い一閃に展開したGM一個中隊は塵芥に帰す。
だが、MS部隊は囮。「セルムト」は大きさに似合わぬ疾速で敵影に迫っていた。
艦体両側に備えられた巨大な車輪が回転を始める。輪に埋め込まれた数百もの振動武装が一斉に全開し、車輪の回転に伴い翠の円を描く。
これがその威力は破壊規模を除けば禁弾の破壊力に匹敵するであろうガルガリン級独自の兵器、猛然たる爆進で獲物を塵と残さず轢滅する神の軍に相応しい清浄な武器であり同時に敵対者にとってはこの上なく残虐な砕断の大車輪である。
翠晶の車輪は半径を更に広げて数km超の戦艦全長を遥かに越えた、天地に跨る圧倒的な規模で敵機を蹂躙にかかる。そうして歯車に絡めとられた哀れな砂礫の一片は跡形も残らず分解される…筈だった。

漆黒を巻く貪蛇に呑まれ溶け落つのは光輝の大車輪。

戦艦の最終兵器をこともなげに退けた敵機は大翼を翻し、「セルムト」の上部に回り込んだ。苦し紛れに戦艦の弾幕は炎に阻まれ損傷を与えられない。艦盤に黒く燃える火球が降り注ぐ。それらは対弾障壁をやすやすと貫き、螺旋とうずまく炎を産む。

艦長の最期の叫びが船内に虚しく響く。
「馬鹿なっ…有り得ん…敵はたった一機なんだぞおっ!?」
モニタに広がる敵機の異形。MSインフェルノ。
禍々しく伸びた爪は容赦なく指令区画を貫いた。
地鳴りの中、天地をを繋ぐ紅い刃が戦艦を二つに断つ。

紅蓮の暴威は神の威光を徹底的に陵虐する。
黒く滾る無尽の劫炎。
止められる事ができるとすれば、4機の神装兵器・Gをおいて外にない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

タルシス級二番艦「バートルビ」。
ダネルは、ヒーリィに「インフェルノ」強奪事件のあの日の一部始終を話して聞かせていた。事件当時、唯一の生存者として何度も証言をした内容だ。
「無我夢中だったからあまり覚えていはいないんだけどな」
「いや、充分だ」
終わりまで話を聞いたヒーリィは珍しく真面目な顔で考え込んでいる。
「少し気にかかることがあるんだがな…」
「?何がさ」
「インフェルノを強奪した「D」はどうやって入り込んだんだろうな」
いわれてみれば確かに疑問である。
事件のあった第四開発支部は島そのものが工蔽だ。自然、部外者の出入りは限られる。まして「EDEN」の厳重な監視の中、最重要機密「インフェルノ」に忍び込むなど殆ど不可能に近い。。
「…何らかの手引きがあったってことか?」
「そこまではいってないが…ま、いいや有難うよ」
ヒーリィは疑問の種をダネルに植え付けてさっさと立ち去ってしまう。
(聖府も一枚岩じゃないってことか…)

ダネルはまだ知らない。
「インフェルノ」の存在が真世界に生じさせた綻びが密かに広がりつつあることを。
いずれ、世界を呑み込み引き裂く混沌、祖の渦中にある己の運命を。
97通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 13:24:08 ID:???
これってG級以外のモビルスーツって、GM以外に何かあるの?
98通常の名無しさんの3倍:2007/01/27(土) 18:37:53 ID:???
>>97
あんまし考えとりまへん。どうすべか?
99獄影/2:2007/01/28(日) 01:58:49 ID:???
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

聖暦099年。都市ユニット「べト・エケド」消失。


少年が思い起すのは幸福の王子と呼ばれた遥か昔の童話。

貧苦にあえぐ人々の為に自らの身体を彩る宝石を分け与える王子。
王子の願いを聞き届けた燕は、
王子の紅玉の目を刳り貫き金箔の皮膚を剥がし貧しき人々の元に届ける。
やがて与えるものを失くした鉛色の銅像と疲れ果てた燕は死を迎え、
共にその魂は神の御許に召される。
少年は思う。
燕はそこで事切れて幸いだった。
もしも燕が、人々の幸福を一心に願った人形を無造作に
うち棄てる群集を眺めていたとしたら絶望のあまり
その魂は地の底に墜ちてしまったろうから。


「他者」の幸福を齎すために生み出された被造物。
その為に産み落とされ、その為に生き、その為に死ぬ。
彼はそんな哀れな人形の生き方を否定し、嘆き、にも関わらずそれに従った。
なぜなら、

 造られた身にとって「幸福」はただ眺める事しか出来ないものだった。

 分かっていた。

 ならば他者の幸福の為、血肉を捧げることこそ己の「幸福」なのだと、
 一心にそう信じぬく。

 分かっていたのだ。

彼はそんな歪な人形の心をなによりも愛していたのだから。

それが、その者の唯一つの願い故に。愛するものを少しづつ毀し、少しづつ殺していく。
彼の魂もまたその度に綻び、その度に砕けていく。
そして待つのはあまりにわかりきった破滅。つたない祈りはついに誰にも届く事は無かった

今だ死を許されない哀れな「燕」は、
無知なる人に呪詛を、全知たる神に悪罵を、鉛色にひずんだ心で世界に憎悪を吐き散らす。
少年は自嘲気味に笑って、そう考える。
自分は共に死に行くべき半身に、とり残された燕なのだと。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
100獄影/3:2007/01/28(日) 03:49:33 ID:???
渇きに目覚める闇黒。
しらず伸ばす掌は虚しく空を掴み、
埋まらぬ寂寞をつたう苦さが舌先に滲むだけだ。

小型の照明器が窟内を暗い蛍光で満たす。
「いつまでそこにいるつもりだ?」
明かりの端に仮面の男が一人。闇から生まれでたかのような黒の衣鉢。
目元を覆う銀灰の仮面だけがほの明かりに照らされて異質である。
「ダレト」。男はそう名乗った
「眠りの邪魔はしたくなかったのでね…こうも身体を傷めつけるのは関心しませんが」
 常識外のMS・インフェルノの灼熱は乗り手をも苛む。
「余計なお世話だ」
「しかし、貴方なら神都を真っ先に狙うものだと思っていましたが…」
「神都にアレがあるならGをああもやすやすと遠ざける訳がないだろ」
「成る程。そういわれるとインフェルノをおびき寄せようという罠にもみえる布陣だ」
いちいち芝居がかった言い草が癪に障る男だ。
「乗ってやっても構わないが、神の台座さえ分かればな」
「どうです、いっそ、真世界丸ごと焼き払ってしまうというのは?神の居所を探す手間も省けます」
気晴らしでも語るような軽い口調。
「…本気でいっているのか?仮にも神徒を騙る男が」
「我々は異端に属する手合いでしてね。それに、人がどれだけ死のうと神は気にも留めやしない。
貴方もよくご存知の筈では?」
「…聖府に余程恨みがあるらしいな」
「は、まるで他人事のようにいう…彼らは神を独占している。
それは赦してはおけないでしょう」
「そっちこそよくもいうぜ。所詮貴様らは「EDEN」の尻尾だろうが」
「彼等と一緒にしてもらっては困りますな…我々の使命は神人による治世です。
その為にこそ貴方にきて頂きたいのだ、我らが王よ」
「誰が王だって?」
「では、「べりア」とでも呼べばよろしいかな」

「……ああ、その名…懐かしくって、反吐が出そうだ」
少年の視線に呼応して、突如として男は炎に包まれる。人影は跡形もなく灰に散った。
だが、しばしの沈黙の後、地の底よりこだまする声は紛れもない仮面の男のものだった。
『…「ハスデヤ」の「鏡」、あれは使えましょう……』
べりア。そう呼ばれた少年は呟く。

「っち…まあいい、唆されてやるよ」

101獄影/ラスト:2007/01/28(日) 04:25:24 ID:???
第五領区「マティ」付近に位置する辺境部。
荒涼とした地に夜気は深く染み入る。
残骸と山なす機塊の広野は神威の雷が通り過ぎた後、
人類の愚行を刻む地層である。

不意に霧がたち込める。
霧が侵し始める。。
とうに動かず朽ち錆び果てたはずの残骸がゆっくりと頭を起す。
軋みをあげるて動き出す四肢。血管のごとく脈打つ配線。
銃創の虚からはあわ立つ闇があふれ出ている。
棘の生えた肩当てに髑髏を連想させる頭甲。くすんだ暗緑色の装甲。
旧世紀の亡霊達。夥しい機屍の群れが蘇る。時に忘れら去られた怨嗟と共に。
闇の奥に真紅の単眼が輝く。
MS「ザク」。
災厄は静かに這い寄り、世界を密やかに侵しつつあった。

102通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 19:30:46 ID:???
ザクキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
敵は悪魔系で統一もいいと思ったけどね
103通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 19:48:02 ID:???
今日は休みっす。やたらだらだらつまらん話の続きで申し訳ない。
次の小エピ挟んでやっとこさそれっぽい展開に入れそうなんで
いま暫しのご辛抱を。
あと希望・要望等超適当に受けつけ中なのでなんかあったらどーぞ。



104通常の名無しさんの3倍:2007/01/28(日) 19:52:23 ID:???
>>103
いえいえ、楽しませてもらってますw
G級の各機体のスペックとか武装とか外見をまとめてくれるとうれしいかな
105通常の名無しさんの3倍:2007/01/29(月) 02:15:36 ID:+xe0MU+l
邪気眼ガンダムおもすれーwww
106卓也:2007/01/29(月) 02:17:11 ID:C92hRCR5
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107楽園の最果て・プロローグ/1:2007/01/30(火) 06:08:57 ID:???

その日、炎の雨が降った。

メギドの火などなくとも、
たった数発の焼夷弾頭で小さな世界はあっけなく壊れる。

いかなる大義名分を掲げようともつまるところ紛争の理由など縄張り争いに帰結する。
真世界辺境に位置する、とある工業ユニット群の閉鎖。
通常、工業ユニットの外周にはそこに寄生するように棄民の街が築かれているものだ。
巨大な傘の下に寄り集まり、そのおこぼれを頂戴した生きる者の群れは、
ユニットの閉鎖に伴い突如として生活の糧を失う事になる。
無辺の荒野に投げ出された群集は次第に暴徒と化し、近隣の村々に大挙して押し寄せ、
収奪の限りを尽くす。
略奪を正当化し良心を糊塗する言葉がある。
殺戮を単純な作業過程に変える武器がある。
それらは大抵の場合過剰に過ぎ、暴走は夥しい惨禍をえがきだす。
地に巣くう魔性に脅かされるまでもない。人間は自ずからかくも簡単に堕ちる。

世界にとってはごくありふれた瑣末な出来事。
ありふれた惨事、ありふれた暴力。
聖暦154年7・14日。
その日、ダネル・アラクシェの村を灼いたのもそうした酷薄な現実だった。

108楽園の最果て・プロ/2:2007/01/30(火) 06:10:07 ID:???
突き刺す日差しの中、緩やかに、遥か遠くのびていく人々の列。
各々の集落から焼け出された避難民の群れはいつしか一本の道に収束していた。
帰る家を失い、肉親をなくし、行くあてのない人々の足は自然とそこに向かうのだ。
未だみぬ楽園の地、真世界へと。
「起きろよドゥマ、いい加減にいこうぜ」
ダネルはもう一度、寝転がったまま動こうとしない友人に声をかける。
「腹減った…」
ダネルはポケットをまさぐり、ドゥマにそれを突き出す。
村から逃げる時になんとか持ち出せたとっておきのパン菓子だった。
しかし、一端は顔をあげた友人はすぐにもとの姿勢に戻ってしまう。
「いいよ、先に行ってくれ…俺、もう疲れたよ」
「何いってんだよ、折角ここまで来たんだろ。
このままここにいたら本当に動けなくなるぞ」
一夜にして村を、友人を、家族を、失った。
疲れと衝撃にかすれた心に哀しみはまだ意識されない。
ただ喪失の塊が他の感情を圧して胸中にごろりと横たわっているだけだ。
この鈍く重い感情は次第に膨れ上がていつしか立ち上がる気力すら奪うだろう。
「この先にいったって、誰かが待ってる訳じゃない…俺はもう、いいよ。お前は行ってくれ…」
周りを眺めれば、道端に点々と座り込んだ人々。
土埃に汚れたどの顔にも疲労と憔悴、諦めの色が浮かんでいる。
辿り着く先とて定かでない彷徨に誰もが耐えられるわけではない。
「…なあ、村で生き残ったの俺とお前、二人だけじゃないか。
お前までいなくなったら俺一人になっちまうよ。だからさ、頼むよドゥマ」
「……」
ドゥマはゆるゆると立ち上がりダネルからパン菓子を受け取って口中に押し込む。
「甘え」
二人は再び歩き出した。
長く長く延びていく道のり。祈りながらただひたすらに足を進めていく。
この先に未来が、楽園が待つと信じて。
109通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 06:23:23 ID:???
G級まとめ少し時間くださえ。
…思いつきをいい加減に書き連ねてきただけなんで細かい設定は
あまりないんですが大まかなやつでよろしいでしょ−か?
110通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 16:31:05 ID:h+ZycuUl
この世界は黒歴史に含まれる?なんか
ゴッドガンダムより、強そうなMSがでるような
気がする。
111通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 16:34:44 ID:cUI8obVZ
デストロイ大きかったね
112通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 16:42:07 ID:???
まとめwktkして待ってます
113楽園の最果て・プロ/3:2007/01/30(火) 17:07:55 ID:???
数ヶ月が経過した。
道の辿り着く先、彼らは難民キャンプ地でただ徒に日々を費やしていた。
週に一度、投下される僅かな食料で命を繋ぐ生活。
湿地を抜ければそこはもう都市ユニットは目と鼻の先だ。
だが、湿地帯を越える事は死を意味する。
都市ユニットへの魔の進入を防ぐ為の防護陣は踏み込んだもの全てを即座に吹き飛ばす。
それは人にとっては地雷地帯のようなものだ。うかつに足を踏み入れれば飛沫も残らない。
「やっぱりな…助けなんかきやしないんだ。俺達ずっとここでこうして干上がってくんだぜ」
失意のドゥマに対してかけられう言葉などない。ダネルとて同じ気持ちでいるのだ。
最低限の食料供給はあるものの、それさえもいつまで続くかどうか。
苛立ちと諦念が日増しにキャンプ内に広まっていく。
諍いや強奪が次第に数を増す。誰もが募る焦燥をどうすることも出来ない。
明日のない、現在だけが続く日々。死からは免れた。だがここにあるのは状態としての生だけだ。
未来のない生き物には希望も意志も生まれ得ない。
隔てられた境界。ダネルは唇を噛みながら聳え立つ角錐に目をやった。
みあげれば楽園の戸はすぐそこだ。だというのに無限に遠く感じられる…

だからこそ待ち望んだ訪れは鮮烈に、眩くさえあった。
ある日、ダネルがこの場所に着てから聞いたこともないような歓喜の立ちあがる方へ向かうと目に飛ぶ込んできたのは鋼の来訪者の姿だった。
地を踏みしめる重厚そのものの巨躯。
どっしりとした紫紺の体躯を支える太い両足は
間歇的に涌く爆風をものともせずに力強い足取りで湿地を進んでくる。
MS「ドム」。「EDEN」所属のMSである。
部隊を率いる隊長機とおぼしき機体のコクピットが開き、ヘルメットを外した搭乗者の髪がはためく。
「諸君、我々は聖府所属の救済部隊である!
手続きに時間がかかってすまなかったが安心して欲しい。
遅ればせながら諸君らは「真世界」聖府に正式に帰依者として認められた。
民族、人種、国家、戦争…我々の世界では無意味な言葉である。
神の御旨に従う限り、諸君らは平等だ。
住居、衣、食その他生活に必要なあらゆるものは全て真世界から提供されるだろう。
また神民としての義務を果たす限りにおいて諸君らの自由は保障されよう。
最後に……ようこそ真世界へ。楽園の扉は諸君らに開かれている」
爆風で飛び散った泥砂にまみれたMSの姿はしかし、
限りなく神聖にして崇高なものに少年には感じられた。
ダネルは思う。自分はこれからこの光景を決して忘れる事はあるまい。
この瞬間、差し伸べられた鉄の腕を。
114通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 18:05:21 ID:???
>>1のガンダム名が種死級に房臭いんだが
115通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 18:07:55 ID:???
>>114
んっ…ふ
邪気眼を持たぬ者にはわからぬだろう…
116通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 18:54:53 ID:???
>>114
光溢れる世界へ還るが良い…。
ここは深淵を覗き込み、深淵に魅入られた者たちの住まう混沌。
汝が去るならば我らは追わず。仄青き暗黒に身を染める覚悟があるのなら、その刻は……。
117通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 20:24:36 ID:???
邪気眼は幽白の邪眼のパクり
118通常の名無しさんの3倍:2007/01/30(火) 21:55:32 ID:???
ドムで皆殺し展開キタ?
119楽園の最果て・プロ/ラス:2007/01/31(水) 01:59:47 ID:???
足を踏んだ楽園の地。都市ユニットの生活。
夜も煌々と明かりを放つ天蓋に覆われた人々の営み。
楽園の名に嘘偽りはなかった。理由なき蹂躙もいわれなき略奪も理不尽な虐殺も
そこにはない。災いなす魔の跳梁もまた遠い。
安寧。平穏。充足。
だのに、しらず胸を焦がすほど熱い何かが少年の奥底で燻り続けていた。
MSに興味を抱いた少年は工員の道へ進む。
そして出遭った、インフェルノ強奪事件。あの日々を共に生きぬいた、ただ一人の友も炎に消えた。
再び家族と呼べる者たちを奪い去った火が忘れかけた少年の地獄を呼び起こした。

数奇な偶然からGの搭乗者となり、操縦訓練をこなす日々。
握った工具でごつごつと硬くなった手の平のタコは薄れ、
いれかわるようにG級搭乗者特有の接続痕が背に刻まれるようになった。

そして神都・大聖堂にておこなわれる。任命式典当日。
この小都市ユニットにも匹敵する規模の建造物の周りを埋める衆群は「EDEN」の構成員が多数を占める。回廊に沿って高く天蓋を支える円柱の間に居並びひざまづくMS達、
そして回廊最奥にて鎮座するはMS「セイクリッド」。
高くせり上がった高台の上に立つ「EDEN」の大師長、
太教院の長たる大聖司長をはじめとするそうそうたる顔ぶれ。
「セイクリッド」の所属となる神智院・局長の姿もある。

ややあって、大師長の演説が始まった。
「先日の「第五開発支部」爆破事件は我が「EDEN」よりも十数名の死者を出す惨事となった。我らが「セイクリッド」の搭乗者、
「オベド・エイエル」もまたその中にある…真に傷ましい事件である」
「だが失われたものだけではない!この惨劇の最中に、Gに選ばれし新たな聖別者が誕生したのである。
これを御主の配剤、我々が賜った恩寵といわずしてなんといおうか!」
「ダネル・アラクシェ、前へ」
「はっ」
礼服に身を包んだ少年は大聖司長の前に拝跪する。
「これより汝は「セイクリッド」の正式搭乗者となる」
ひざまづく。
「汝、何者か」
「我は剣。主の光輝に耀き、万魔討ち滅ぼし正義なす剣の一振り」
「汝、誰が為の剣か」
「万民の家、主の創り賜いし聖所、真世界が為に」
「汝、何処に向かうや」
「永久にして永遠、万軍の主たる我らが神の御元へ。
我が魂は塵に着き、滅びて後の再生を待たん」

群集の見守る中、雄雄しく立ち上がる白の神聖機械。
湧き上がる喝采を身に受けて少年は決意を新たにする。

あの日、差し伸べられた救い。与えられた明日。
彼にとってMSは手を差し伸べる力だった。
「インフェルノ」を識り、「セイクリッド」の搭乗者となった今も、
ダネル・アラクシェは頑なにそう信じている。
今度は自分が手を差し伸べる者なのだと。
120通常の名無しさんの3倍:2007/01/31(水) 02:10:12 ID:???
はーい。退屈なプロローグ終了ーと。
さて、本編入る前にまとめやるか。
>>118
ドムは味方機だよー。

……今の所は。
121G・まとめ/概要:2007/01/31(水) 14:56:13 ID:???
『GUNDAMとは』

愚劣な戦争により崩壊の危機にあった旧世紀末。
降臨した神の忠実なる徒として究極無比の力を振るい
旧世紀の終焉と神世紀の到来を導いた、たった一体のMS。
ただ一機で争いなす総てをうち滅ぼしたその白い機体は、
比類ない崇敬と畏怖の念を込めて人々にこう呼ばれた。

光神機「GUNDAM」と。

G級の呼称は真世界の中心たる神都を守護するために
創聖期に存在したという伝説のMSを模して作られた機体を指す。
即ちその時代での世界最強機がGと呼ばれるMSなのだ。


『MS機体用語説明』

・魂核炉心:発振機関によって生じるエネルギーを注ぎ込むことで発動する霊子エネルギーの源たるMSの中枢部、
まさに心臓ともいえる部分。
Gがみせる驚異的な力の数々はこの機関に由来する、この世界においての最大最高度の技術の結晶体である。
それと共に詳しい構造、実体を把握しているものの少ない謎の多い機関でもあるが
一説にはある種の上部領域から霊子を受け取る一種の転送機なのではないか、ともいわれている。
またG級の魂核は各々特有な霊性を備えた搭乗者でなければ正常に作動しない、
Gは文字通り、乗り手を選ぶMSなのだ。
(補足説明:現存するG級の炉心は聖暦99年代に造成された通称「ミレニアム・シリーズ」と呼ばれるものを使用している。
幾度となく行われた機体の改修・新造を経ても魂核には一度も手を加えられていない
因みに、160年代に建造された「インフェルノ」の魂核も同じく「ミレニアム・シリーズ」のものが使われている。
この辺りの事情も「インフェルノ」建造の経緯についての様々な憶測を呼ぶ要因であろう)

・発振機関:この世界に偏在する仮象領域(下層の並列空間?)に働きかけて、
物理領域にエネルギーを「弾き出す」、MSのエネルギー源たる振動波を生む機関。
魂核の起動に使われるのみならずサブエンジンとしての機能も合わせ持ち
MSの発振兵器など外部武装に独立して搭載されることもある。

・極粒子装甲:敵機からの攻撃に対し発生するあらゆる運動エネルギーを粒子の振動に置換して拡散する特殊装甲。
流れる霊圧によって強度・形状・特性を変える目的や用途に応じて様々なバリエーションをみせる。

122ケイルブ・レポート/G機体説明・1:2007/02/01(木) 20:18:44 ID:???
G級は「一体であらゆる戦局に対応しかつ敵を殲滅しうる」という法外な命題に応えるべく
基本的にスタンド・アローンで活動可能な万能機として設計されているが、
それぞれのGを比較してみれば得意な戦形、独自の特徴など、実際の運用方法ははっきりと異なる。
中でも「ヘブンス」「インフェルノ」はあらゆる点において、
他のGはおろか既存のMSとも一線を画した特異な機体である。

MS「インフェルノ」
全高(頭頂高):28m(18m)
本体重量:16t
タイプ:全域殲滅型
カラー:黒地に赤
光熱放射翼「贖罪の火<イグニッション・フェザー>」
超光熱爪「断罪の火<ヒート・ネイル>」・二基
振動熱線砲「陰府の火<タルタロス・フレア>」・二門 
空間歪曲断光「終末の火<アニヒレイション・ファイア>」

・起動試験段階で暴走し、奪われたままの本機体が
現段階で公開されたスペックどこまでに沿っているのか不明である。
起動実験中に奪われたため外部武装は着けられていないが、
あらゆるエネルギーを聖属霊性に変換する特殊相転移機構を備える点は注目に値しよう。

「インフェルノ」強奪事件…この一件でには多くの謎がるが、
中でも疑問なのは適応者でなければ乗りこなせないGを
「D」が操りえたという点だ。
「インフェルノ」は「D」の魔に染まる事で魔に変質したというのが「EDEN」の見解だが、
そもそも聖なる者を適格者として選ぶ「インフェルノ」が「D」の魔性を受けつけるはずがないのだ。
だとすれば「EDEN」は……いや、自らが乗った船を揺らすような真似はすまい。
本機体の捕獲もしくは破壊。それが我々に課せられた任務である。

123ケイルブ・レポート/G機体説明・2:2007/02/01(木) 20:20:39 ID:???
MS「セイクリッド」
全高(頭頂高):19m(16m)
本体重量:10t
タイプ:格闘戦型・先陣突破型
カラー:白地に蒼紋の縁取り(Gには各々呪的耐性を有する文様が刻まれている)
固定武装:
大剣「過たぬ正義の右太刀/尽きぬ勇壮の左太刀<セイクリッド・ブレイド>」
背部大型振動砲「闇掃う疾光の波濤<セイクリッド・シューター>」・二門
頭部小光径砲「光撒く礫<フォース・バルカン>」・二門
追加武装:
長距離発振兵器「万理に届く無響の槍<セイクリッドランス>」
  
・高い運動性と格闘能力により局所線において無類の強さを誇るが、
オプション兵装である<ランス>を装備する事で長距離戦・大規模戦闘にも対応出来る。
本機体の武装は操り手の意志によるある程度の威力調整が可能なため汎用性は見た目より高い。
特筆すべきは装甲のエネルギー吸収・拡散機能による強靭なダメージ耐性であるが、
その分搭乗者にかかる負担は大きい。

部隊の先陣にたって突破口を切り開く勇猛さが要求される機体だが、
現搭乗者のダネル・アラクシェはいささか度が過ぎているらしい。
訓練時から機体を酷使し、それに合わせて機体の耐久性を挙げると
更に限界を超えた制動で応える、この繰り返しで最後には整備師も匙を投げたという話だ。
徒な暴走を防ぐよう上手く手綱をとる必要がありそうだ。
124ケイルブ・レポート/G機体説明・3:2007/02/01(木) 20:21:48 ID:???
MS「ディバイン」
全高(頭頂高):25m(19m)
本体重量:24t
タイプ:広範囲重爆撃・拠点制圧型
カラー:白地に金紋の縁取り。
固定武装:
腕部回転式光波速射砲「穿ちて回る破極の炎輪<フォース・ガトリング>」・二門
胸部振動砲「魔魅駆逐する閃き<リージョン・シューター>」・二門
広域掃討用肩部全周輻射砲「魔群摘む星流<リージョン・バスター>」・二門
光熱螺旋弾頭弾「魔影追いたてる猟弾<リージョン・ボマー>」・24発
追加武装:
近距離兵器「顕現れる権威の神槌<ディバイン・ハンマー>」
超長距離振動砲「曙光を招くもの<ハルシオン・メーカー>」
背部大光径誘爆弾「轟天の千雷・天照の万雷<ヨシャファト・グレネード>」・6発

・常時展開する重装甲。全身これ火器といえる広範囲に渡る大規模集団を一挙に殲滅するに足る重武装。
G級中でも圧倒的な破壊力を誇る機体である。反面エネルギー不足に陥りやすく、
また僚軍さえも巻き込みかねない光火力の為、慎重かつ的確な運用が要求される機体である。
絶妙のタイミングで勝負を決する砲火を浴びせる姿は軍団の王たるに相応しい。

とはいうものの、乗り手のヒーリィ・イルはどう贔屓目にみても機体特性を口実に
怠けているにしか思えないことがままある。本作戦を取り仕切る戦導主長がこれでは先が思いやられるというものだ。
いずれ何らかの措置を講じることになるかもしれない。
125ケイルブ・レポート/G機体説明・4:2007/02/01(木) 20:30:21 ID:???
MS「ホーリー」
全高(頭頂高):18m(15m)
本体重量:8t
タイプ:高機動・支援・遊撃型
カラー:白地に赤紋の縁取り。
固定武装:
汎用遠隔兵器「祝福に舞い散る羽根<ホーリィ・ビット>」
 射撃形態「風紋にそよぐ尖華<カーム・シューター>」
 格闘形態「福音を鎧う戦女<ゴスペル・クワイア>」
 探査・偵察形態「万象を射抜く眼<スキャンション・アイ>」
 広域攻撃形態「礼賛に響く聖鐘<エバンジェリン・ベル>」
中・近距離兵器「かき鳴らす不朽の弦奏<ストリング・シューター>」
頭部小光径砲「光撒く棘<フォース・バルカン>」

遠隔型汎用可変攻撃兵器「<ビット>」は一斉砲火、牽制、側面からの挟撃など、
様々な使用が可能な汎用性に富んだ武装である。
その為か本体の武装は少なく、全G中随一の高機動性を生かした一撃離脱戦法を得意とする。

また「<ビット>」は探査・諜報任務にも優れており、余談ではあるが本機を「ビットの砲台」と揶揄し、
搭乗者を「ビットのお守」愚弄した我が「ADAM」の一隊員は、
何者かによってその日の内に私生活の詳細を所内にて曝されたという。
…これ以上「EDEN}及び「ADAM」の威信を著しく傷つけるような真似をさせない為に
常に目を光らせておかねばなるまい。


MS「ヘブンス」
全高(頭頂高):?(14m)
本体重量:?
タイプ:広域防御・援護型
カラー:白一色
武装:広域場干渉兵器「彼方越える祈りの風唄<ゼファー・ヘブン>」
(その他固定された攻撃専用兵器を持たない。
目的に応じた起動式をその都度展開して武器及び障壁を汲み上げる)

神都の守護のみを目的とするG…の筈であったが本作戦に参加。
このことは「ADAM」だけでなく「EDEN」内部にも少なからぬ動揺を与えたようだ。
(「議会」からの勅命ではないかと目されているが、詳しいことは分かっていない。
搭乗者であるルエビ・アンフィルエンナも「EDEN」総帥の血族であるらしいこと以外、
一切の経歴が不明であり、機体・乗り手ともども謎に包まれている)
現時点で分かっていることは、本機体は外見・性能・運用目的にいたるまで
他のMSとは明らかに異なっているという事だけだ。
G級でもっとも多く備える振動機関のエネルギーの殆どを魂核炉に注ぎ込む、
6枚の翼を持った天使の異形。予感に過ぎないがこの機体こそ
「インフェルノ」打倒の切り札となる存在なのかもしれない。
126通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 20:57:31 ID:???
ここまで来るともはや天才
127通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 21:37:25 ID:???
設定キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
128通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 21:39:55 ID:???
ただの邪気眼かと思ってたがセンスあるじゃんw
129通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 21:51:39 ID:???
すんません、
絵の投下の仕方がわからんので
よろしかったら教えてください。
130通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 22:16:44 ID:???
>>129
む、絵師降臨か

この中から適当なアップローダーを探すがいい…
ttp://www1.chironoworks.com/love_storm/link/
131通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 22:28:03 ID:???
いえ、残念ながら書いてる本人ですw
そんなわけであくまでこんな感じってなイメージラフなんで
あまり突っ込まんでくださひ。鉛筆書きですまん。
「セイクリッド」
ttp://new1314.freespace.jp/log/up/log/2983.jpg
132通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 22:38:59 ID:???
テラカオスwwwww
133通常の名無しさんの3倍:2007/02/01(木) 22:39:58 ID:???
こやつめ、オーラバトラー意識したなw
134通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 00:30:11 ID:???
>>131
なんという多才・・・
       
   / ̄\
  | ^o^ |  
   \_/
135通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 19:26:42 ID:yRPMktnR
絵うまくね?
136通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 21:48:57 ID:???
>>131
格好良すぎ。何か微妙に某黄金騎士とか入ってますなぁ
137楽園の最果て/1:2007/02/02(金) 21:51:11 ID:???
境界柵に詰め掛ける人の群れに立ち塞がる三機のG。
時折、放たれる散弾は、「ヘブンス」の織り成す極光の帳に遮られる。
「インフェルノ」の足取りを辿っていた一行は
第五領区周域にある谷合いで思わぬ足止めを食っていた。
「インフェルノ」の襲撃の余波を食らって倒壊したユニット群に残された神民を
保護しなければならなくなったのである。「インフェルノ」を討つための特別部隊とはいえ、
荒野に投げ出されたままの神民を黙って見過ごすなど出来ようはずもない。
とりあえず救援部隊が到着するまでの繋ぎとして、現地に駐留する羽目になったのだが、
付近には棄民の集落があり、これが神民の仮設避難所に押しよせた訳である。
正体不明のMSの襲来、都市ユニットの崩落、かててくわえて「EDEN」艦隊の訪問と、
棄民の立場としてはこれで不安にならない方がおかしい。
特に突如として現れたG級の存在が刺激しているようだがそれも強ち過剰反応とは呼べまい。
その気になれば一帯を秒単位で滅ぼすことも可能な布陣である。
勿論、「インフェルノ」事件の真相を知るものは「EDEN」内部、それも極一部の人間に限られている。
よって今回のG派遣も対外的には単なる治安維持の為の周遊という事になっている訳で、
事情を知らない者にとってみれば疑心暗鬼にとらわれることしきりであろう。
もっとも、更に厄介なのはこうした不安を煽り立てている集団なのだが。
「「SIN」の馬鹿どもめ、これみよがしに騒ぎ立てやがって」
現地球上の7割は真世界の掌握下にある。真世界は天界になぞらえて
「シャマイン」「ラキア」「シェハキム」「マコノム」「マティ」「ゼブル」「アラボト」の
七つの領区に分けられているが、そうした世界外の領域を俗に「第八世界」とも呼ぶ。
七天に次ぐ八番目の世界という訳だ。
「SIN」とはその「第八世界」の自治を謳う武装組織を指す。
無論「EDEN」や「ADAM」に比べればたいした武力規模ではないものの、
旧式とはいえMSも所有しているという。
本来は魔物を駆除する為に組織された集団の筈だが時に起こる紛争にも加担しているあたり、
黒白のつけがたい集団ではある。
恐らくはこの暴動も「SIN」がお膳立てしたものだろう。
その証拠に、艦のモニターには時代がかった古式ゆかしいフォルムの戦闘機が映っている。
「マゼラ・トップ」、旧世紀の空戦兵器である。あんなものをただの棄民が所有している筈がない。
「あんな骨董品をよくもまあ…」
呆れるというよりむしろ関心するかのようなヒーリィの口ぶりだ。
頭上から放たれたマゼラ・トップの機銃斉射は「ヘブンス」の装甲に届く事さえない。
弾丸が全て張り巡らされた障壁に包み込まれてしまうのだ。
かわって「ヘブンス」の唄がトップを優しく撫でる。それだけで動きを封じ込められた戦闘機は
しかし、あろうことか挙動を乱して人々の波に吸い込まれていく。
咄嗟に「ホーリー」が、編隊を組んだビットの張った網で墜落する戦闘機を掬い上げる。
だが、墜落する衝撃の余波は間近の渓谷の一角を突き崩し、
棄民の方に向かって波となった砂礫が押し寄せる。慌てて逃げる群集の中、
取り残された小さな子供が一人…
「まずい!」
飛びだした「セイクリッド」の掌が間一髪で子共の身体を衝撃から守った。
「ルエビ嬢、「ヘブンス」の力は大きすぎるんだ。神民の保護に専念してくれればいい」
「分かりました!」
ヒーリィの指示に応え「ヘブンス」は改めて仮設居留地に障壁を厚く張る。
138楽園の最果て/2:2007/02/02(金) 21:52:27 ID:???
「GMに任せればいいのにこんなの!もーっ」
神経を磨り減らす作業に辟易するディミ。
「手が足らねんだよ。救援隊の到着まであと少しだから辛抱してくれ」
ヒーリィの応答はタルシス級からの回線だ。
三番艦「エリフェレト」搭載の新型「クゥエル」は「EDEN」でも屈指の高性能機であるが、
その分ロールアウト数が少なく、いかんせん絶対数が足りていない。
加えてケイルブ参謀役が虎の子の新式機を出し渋ったせいもある。
「…面倒事こっちに押しつけといて、なーにが
『Gの威光をもってすれば暴徒鎮圧など容易いではありませんか』だ、カエル参謀め…」
「あー、聞こえてるぞ、ディミ法士」
ヒーリィの横でケイルブがわざちらしく咳払いをする。
「あら失礼。主長殿も寛いでないでとっと出撃して欲しいんですけどっ」
ヒーリィの「ディバイン」はこうした仕事にはやや不向きな機体だ。
まさか携行武器しか持たない棄民を蹂躙するわけにもいくまい。
「そういうな、俺だって辛いんだ。こうして仲間が粉骨砕身任務に励んでるのを
ただ指を咥えてみているしかない状況下で呑む紅茶は実に味気ないものだよ。
…あ、お代わり頂戴。砂糖とミルクたっぷりとね」
「……ビット送り込んでやろうか」
回線通話に難があるのはお互い様のようだ。

そんな中でダネルは必死に呼びかけを続けていた。
「止めてください!俺達は奪いにきたわけでも、荒らしにきたんでもない!…」
そんな言葉は虚しく響くだけだ。返ってくるのは罵り、怒り、憤懣、抗議…
無理もない。そこには内と外という現前たる区別が横たわっている。
彼らとて多くの被害は受けている。けれど「EDEN」が救うのは神民であって彼等ではないのだ。
理解はしていても目前でそうした差別をみせつけられれば、腹も立とう。
そうと分かっていながらもなお、彼は呼びかけずにはいられなかった。
かつて自らが属していた側の人々に。
139通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 22:08:56 ID:???
…うわ、読みづらい上にクソ長い上にくすぐりの一つもねえ!
ちょっと反省しよう

折をみて他の機体描いてみてもいいもんですかね?
140通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 23:11:43 ID:yRPMktnR
他の機体wktk
職人さんセンスいいよ
141通常の名無しさんの3倍:2007/02/02(金) 23:14:46 ID:???
そろそろまとめサイト必要か?
142通常の名無しさんの3倍:2007/02/03(土) 03:51:12 ID:???
ここに入れるの?
ttp://wiki.livedoor.jp/arte5/d/FrontPage
143楽園の最果て/3:2007/02/04(日) 01:54:08 ID:???
格納庫の脇に座り込んで深々とため息をつくダネルに少女は後ろから声をかけた
「どうした、くたびれた?」
「ディミか…」
目を逸らした少年の顔を彼女はなおも覗き込む。
「…参ったのは気持ちのほうか」
「あんまり姉貴づらすんなよな…。年だって俺と二つ違わないだろ」

実際には彼女の方が位階は上なのだが、同じG級搭乗者として彼らは同列扱いであり、
位階上の差を意識する機会は無きに等しい。それは実力本位である「EDEN」の気風に加えて
あけすげな彼女の気質による所も大きいだろう。
とはいえ今のダネルには、そんな彼女の気安さですら鬱陶しかった。

「女はね、男の倍の早さで大人になるもんなの」
「そんなに速く成長するんじゃすぐバアさんだな、」
烈火の速度で繰り出された肘が実に正確に彼の鳩尾を射抜いた。
「そういう所がお子様なんだっての。いつまでも塞ぎこんでさ」
今の場合、塞ぎこんでいるというより悶絶しているの方が正しかろう。
「はあ……一瞬、息とまったぞ…ひでえな」
「神聖機なんていったって所詮兵器は兵器。現地じゃ疫病神扱いなんてよくあることだよ?」
「…そりゃあ諸手をあげて歓迎されるなんて思ってなかったけどさ」
現実への幻滅というより、むしろ何も出来ない自分への苛立ちの方が強かった。
自信を失った時に頼りになるのは日頃積み上げた実績だ。
が、MS乗りになって日の浅い彼にはその経験が少なすぎる。
144楽園の最果て/4:2007/02/04(日) 01:55:58 ID:???
「ヒーリィが羨ましいよ。なんだかんだいって場馴れてるっていうか」
「…アレを基準にされてもちょっと困るんだけどねえ。…ああみえて昔は神童で通ってたんだよ、彼」
「!本当に!?」
今の彼からは想像もつかない。
「学士院始まって以来の逸材だって、最年少での至法院入りも確実だって囁かれてたんだから」
「「ディバイン」の乗り手になれただけでも充分優秀だとおもうけど」
「MS搭乗者と聖府の幹部じゃ格が違うでしょ」
ついこの間まで一工員に過ぎなかったダネルには雲を掴むような話だ。
「初めはぶっちぎりの首席をひた走ってた奴が、三年目からぱったり教練に出なくなって、
四年目には下から数える方がはやい問題児に成り果てて…後はもう目を覆う有様。
そのくせ要領だけはいいからいつもぎりぎりで落第は免れるの。問題起しても上が非難できないよう
予め有力者の子弟をとり巻きに引き込んだりしてね。
結果を出すために最低限必要な労力を見極めるのに凄く長けているというか、
どこまでやるかじゃなくてどこまでやらないかに、命をかけているというか…」
「ああ、なんかだんだん俺のしってるやつに近づいてきたぞ」
「で、誰もが初めの姿なんてとうの昔に忘れ去った頃になって、突然ディバインの搭乗者に抜擢されて
そこからは知ったとおりの活躍ぶりでしょ?訳分かんないわ、本当」
「ディミ、随分詳しいんだな」
「そりゃ私も学士の出だもん。同期のやつなら皆知ってるよ。珍しいんだよ、あなたみたいのは」
「だろうなあ」
大抵の上級搭乗者は教練施設か学士院の出だ。ダネルの様なケースは稀どころか皆無に等しい。
一介の棄民が何の因果か真世界の守護者となるとは、まさしく奇縁というよりない。だろう
「立場柄、色々悩み事もあるだろうけど、ま、頑張りなさいな」
「悪いな、気遣ってもらって」
「切り込み役がボケてるとこっちもやりづらいからね。…おっと、お呼びがかかってるみたいよ?」
そういわれたダネルが振り向く間もあらばこそ、いきなり整備長のがなり声飛んでくる。
「……また、なんかやったの?」
「今日はまだ何もやってない筈だけどなー…」
ディミは慌てて駆け出していく少年を見送った。
145通常の名無しさんの3倍:2007/02/04(日) 01:58:51 ID:???
支援
146通常の名無しさんの3倍:2007/02/05(月) 19:30:38 ID:C3JxmTnN
職人乙
147楽園の最果て/5:2007/02/06(火) 05:19:31 ID:BSFVwBOu
砂海に立つ波濤が二つ。
地面を潜行する魔物、「グラブロ」が二機、轟然たる勢いで居留地へと突き進んでいた。
地表に露出する不気味な単眼が行く手を阻む障害をぎょろりとねめつける。
立ち塞がる「セイクリッド」の数倍はあろうかという度外れた鉄蟹の爆走する様は正に怒涛である。
「止まれえ!」
真上からの振動砲の一撃が厚く張り出した装甲表面に弾かれ、
お返しとばかりに体表から飛び爆ぜる鋭棘の五月雨。
「迂闊だぞ!」
グラブロの外殻は並の振動砲の直撃にも耐えうる強靭なものだ。
いかな聖霊機の神級兵器といえども、機体の爆発を避けるため威力を抑えた状態では通用しない。
「この程度…、」
山なりに降ってくる飛び道具の回避に気をとられ、ダネルは本体からの攻撃を失念していた。
機体に奔る衝撃にダネルは身体を揺すぶられる。
繰り出される鉤爪に絡めとられる「セイクリッド」。並の軽量級MSならば易々と握りつぶすことが出来よう圧力が極粒子装甲を軋ませる。
「がっ…くっそ…」
頭部バルカンの連弾で緩んだ爪から、逃れざまの居合い一閃が「グラブロ」の腕を両断。
それでも「グラブロ」の勢いは衰える事が無い。邪魔者を振り切って神民の居留地と棄民の集落になおも向かおうと加速をかける。
「それ以上、先にいかせるかああ!」
機動性で劣る「セイクリッド」ではない。
再度回り込んだ先、開いた嘴の奥より極大の振動波が「セイクリッド」を襲うものの、
勇壮なる聖霊機はひるむことなく剣を十字に組んで即席の障壁を展開しながら「グラブロ」の口から腹中に飛び込む。
装甲表面に光条の軌跡が浮かぶ度、「グラブロ」の勢いは確実に削がれていった。
148楽園の最果て/6:2007/02/06(火) 05:21:10 ID:???
対して、もう一機の魔物と交戦する「ディバイン」は
小火器のリズミカルな連続射撃によって足止めを図っていた。
足場の定まらない流砂の中、豪快に見えてその実、
細心かつ瞬時の判断力を要求される機体を難なく操るヒーリィ。
苛立ったように魔物の口中から放たれる振動砲。先読みした機体は宙空に回避する。
弧をうって大地に急着する「ディバイン」は降下の勢いそのままにハンマーを大地に叩きつける。
砂塵の爆発にグラブロの巨体が舞い上がった。
「おうおう。出てきたなっ蟹野榔っ」
隙を見逃さずに「ディバイン」は巨怪の影に潜り込んだ。
地表にみせる背中の甲皮に比べて腹は柔らかい。
「ディバイン」の回転式腕部砲が火を放つ。
機肉を貫く弾丸が背の外殻に無数の凹みを描き出す。
硬い装甲が爆散が拡がるを防ぐのも計算済みだ。
この少年にとっては荒ぶる巨獣との大立ち回りでさえ単なる作業に過ぎないらしい。
「どうやらあちらもケリがついたか…」
動きを停止した「グラブロ」の眼を突き割って出る「セイクリッド」の剣と腕。
恐らく魔物の中身は粉々だろう。

「なんでこんな都市部に近い所に「グラブロ」が、それも二体も出るんだ?」
「グラブロ」は厄介な相手だが目撃例は少なく、どれも単体での事例ばかりである。
「さあなあ。例の瘴気の影響じゃないか」
戦闘を終え帰路に着く二人。
「あのなあ、もう少し機体特性を考えて動けよ。足をとめて真っ向からいくやつがあるか」
ヒーリィの忠告にダネルは妙にきっぱりと答える。
「俺の腕じゃ牽制しながら目標の足を止めるなんて無理だ」
(腕じゃなくて気性の問題なんだけども…)
「で、どうだ、少しは気晴らしになったか」
「そんな余裕ないって…けど、良かったよ。なんとか食い止められて」
「ま、一応GM部隊にはあの辺り待機させてたんだけどもね」
「!そうなのかよ!?」
「そりゃそうだ。流石に一枚じゃ不安だしよ」
ダネルは不承不承頷く。隊を率いるものとしては当然の策ではあろう。
しかし、必死で戦った身からすれば騙されたようで内心面白くはない。
「そんな顔するなって。云わない方が気合入ると思ってよ。結果オーライなんだからいいだろー」
「……ま、そうだな。いいか皆が無事なら。それが一番大事なことだもんな」
ダネルは気を取り直してそう考える。
そう。できない事をくよくよ悩んでいても仕方が無い。
大切なのは、人々を守る事。守りたいという意志。自分はその為にこそ「セイクリッド」に乗っている。それが揺らがぬ限り矛盾も苦境も乗り越えていけるはずだ。
「ん。なんだか知らないが、吹っ切れたっぽいな」
「気晴らしにはなったみたいだ」
「直に救援部隊が着く。そしたら休暇は終わりだ」
「ああ。任せてくれ」
そう答えるダネルはいつもの調子を取り戻している。


救援部隊は思いの外早く、明朝には到着した。

149通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 19:04:14 ID:K0M4xCeS
グラブロキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
150通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 19:41:03 ID:???
[ディバイン]
ttp://new1314.freespace.jp/log/up/log/3090.jpg

途中で思いきり飽きた。例によって超適当な鉛筆画です。
151通常の名無しさんの3倍:2007/02/06(火) 19:47:27 ID:???
普通にセンスあるんだけどw
152楽園の最果て/7:2007/02/06(火) 21:50:21 ID:???
救援部隊との引継ぎの為、一行は神民居留地に降り立っていた。
額から零れる汗を拭うヒーリィ。
「朝から暑いなあ…」
『そうかな?普通だろ』
ダネルにはピンとこない。
「外育ちは逞しいな…で、君たちは何?」
みればディミとルエビ、二人の上空を一基のビットが浮遊している。
即席の日除け傘といったところか、
方錐型の障壁がうっすらと彼女らの周囲に透明のテントをはっていた。
『たまには外の空気を吸わなきゃね。あー、涼しい』
内部は実に快適な空間らしく、
強い陽射しにも関わらずディミはこれ見よがしに丈の短い装いを見せつけている。
「…仮にも神級兵器をそんな事に使うんじゃねーよ」
『これだってれっきとした護衛任務だもん。私にはルエビの安全とこの白い柔肌を
守りぬくという使命があるんだから』
猫可愛がりとはこういうものか、そういいつつ彼女はルエビの腕といわず顔といわず
愛しむようにしきりに撫でさする。ルエビの方は面映いような表情でなすがままだ。
元来、気さくなディミは、ルエビとは瞬く間に打ち解けて今やすっかり姉きどりといったところだ。
「成る程…じゃー、俺もその中入れてもらおうかな、」
ガシャリと音を立てて、ビットから覗いた銃口が近づいたヒーリィに狙いをつける。
『気をつけてね、間接操縦で力加減効かないから大怪我するよ?』
「うん、怪我どころか飛沫も残らないなそれ!」
何気に先日の戦闘の件を根に持っているようだな、とダネルは思った。

「わざわざご足労いただいて恐縮です。後の処置は、我々が引き継ぎますので」
視界に入る紫紺の巨体はまるで彼の記憶からそのまま抜け出てきたようだった。
聖十字を刻する顔。
MS「ドム」を擁する救済部隊。
そして、流れた歳月を感じさせない彼女の姿。あの日あの時と何一つ変わらぬままに。
救済部隊主長セラ・シャルム律士の元へ、ダネルは足早に駆け寄る。
「あの、セラ・シャルム律士…」
「お久しぶりですね、ダネル導士。立派になられて…」
そういって彼女は微笑む。
恐らくは珍しい棄民出のG搭乗者の噂は彼女の耳にも入っていたのだろう。
「そんな、俺、お礼をずっといいたくって、…」

絶望の日々、差しのべられた救いの手。
ダネルは遠い日に見上げた憧憬に追いつき、今は共に同じ視線で立っている。
153楽園の最果て/8:2007/02/07(水) 01:08:52 ID:???
ダネルは彼女に棄民の扱いについて尋ねてみた。
「ええ、その件ですけね。何とかなりそうです」
セラ律士の話によればこの地の棄民は例外なく受け入れ可能だという。
「もともと今年は丁度九周年期の区切りにあたりますから、
ユニットの再編も織り込み済みなんです。だから、新造されるユニットへの受け入れは
そう難しい事ではありません。手続きもいつもよりはずっと楽に済むでしょうし…
私達は先遣部隊だから本隊を待ってということになるけれど、
いずれにしてもそう時間はかからないと思うわ」
「そうですか、良かった…」
「本当にね」
人々の安寧を心より喜ぶ彼女の笑みにダネルは満たされるものを感じていた。


「ふむ。年増好みとは意外だったぜ…出会ったばかりで即接近、切り込み役の面目躍如といったところだな」
「お前、ときたま凄くおっさんだな…。あの人は恩人だよ恩人。昔助けてもらったの俺は」
律士と別れてすぐにこれだ。もっともヒーリィのこういった冗談・茶化しの類は今に始まった事ではないが。
「それだって、好意は好意でしょ?彼、満更でもなさそうだったよねルエビ」
そこに、いつの間にかディミまで加わっているのは何故か。
「ええと、私はよく分かりませんけど、ダネルとても嬉しそうでしたわ」
ディミの胸元に抱えられたルエビは実に無邪気にそう答える。
「だとさ。潔く認めろよ」
「…好きにしてくれ、もう」
ダネルは逃げるようにしてその場を立ち去った。
154通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 02:07:14 ID:???
応援してます
155通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 13:05:12 ID:???
>>150
ちょwハンマーでかっww
そんでもって格好いい……しかし、これとザクやらドムやら
が並んでるところを想像すると……素敵なカオスですね
156通常の名無しさんの3倍:2007/02/07(水) 18:24:31 ID:???
ザクもドムもアレンジされてるんだろw
157楽園の最果て/9:2007/02/07(水) 20:44:08 ID:???
手頃な岩盤に腰掛ける。岩陰に入ってしまえば陽射しもそれほど苦にはならない。避難キャンプからやや離れてはいるが艦隊が目に入る位置なので危険はあるまい。先日まで心にしこりとなってこびりついていたわだかまりが嘘のようになくなっていた。
日にやける土の匂い。乾いた風の音。五感に届く郷愁が心身に染みていく。真世界と外界。別々に分かたれていた自分の生がようやく一つに繋がっていく感触。
物音に後ろを振り返ると子供が立っていた。
「君、あの時の…」
ダネルが先日かばったあの子供。
彼の言葉に子供は同意を示すように頷く。
「名前は?」
「…ハヌン」
彼はそれだけいうと手に持ったものをぶっきらぼうに突き出す。
「これ、俺に?」
またもや黙ってハヌンは頷く。握っていたのは恐らくは手づくりであろう木製のロザリオ。
どうやら礼をいいにきたらしい。
「そうか。有難う」
彼は謹んでそれを受け取った。

話しかけるダネルに言葉少なに受け答えるハヌン。
父と死に別れ、母と姉と暮らしている事。母親は病で床に臥している事。日々増える魔による災害。
そして集落を撫でた黒い熱風。
ユニットと違い何ら防護設備を持たない村落では「インフェルノ」との接近遭遇だけで
甚大な被害をこうむったということだ。
ダネルはハヌンの瞳をみやる。
肌をさす辛苦に、肉を苛む過酷に慣れてしまった幼い目。
緩やかな諦観をそれとしらずに身につけた無垢の瞳。
この目を彼は知っている。

「待ってろよ、ハヌン。もうすぐ楽園に連れて行ってやる。正真正銘の楽園にさ」
ダネルは語った。真世界での生活を。
涸れぬ泉。尽きぬ光。空をつく天蓋は嵐を遮り熱波を和らげる。
折り重なる並軌道路面に並ぶ樹林。生きるために必要なあらゆるものを供給するプラント。
慎重に整置された居住棟の上空を舞う小鳥の群れ。彼に約束された明日を。少年に約束されている楽園を。

「ダネル、そちらにいるんですか?」
見知らぬものの声に驚いたのかハヌンは急いでその場を立った。
「おいちょっと待ってくれ…」
呼び止めたものの既に姿は無い。
口下手な自分では充分に伝えきれなかったのがダネルには口惜しい。
だがそれも仕方のない事かも知れない。幸福を謳う言葉は陳腐に過ぎる。
結局、人は天国を語る言葉など持ち合わせていやしないのだ。

けれど、去り際に垣間みたハヌンの瞳に宿った輝きはダネルの錯覚だったろうか。

158楽園の最果て/10:2007/02/07(水) 22:16:09 ID:???
岩間からルエビが顔を出す。
彼女はディミの保護(というより拘束)から逃れてきたようだ。
「ルエビもこっち来いよ。風が気持ちいいぜ」
少女は彼の隣に腰掛けた。
「ディミにも困ったもんだ」
「気遣い嬉しいんですけど、ね」
「あれは単に好きでやってるだけだ」
「いやでは、ないんですよ」
生まれながらにして特別な地位にあった少女にとって、
これまで他者と気軽に接するような機会は皆無に等しかった。
それゆえ嬉しい反面戸惑っているといった所なのだろう。
「…元気になったみたいで良かったです」
「ああ、心配かけた」
それにしても世事に疎い彼女にまで見透かされていたとは。
自覚はなかったものの彼の様子はいつもとは大分違っていたらしい。。
「ええっと、いつものようにヒーリィと笑い転げたり、
整備の方に工具を投げつけられたり、愉快な鼻歌を口ずさんだりしなかったから」
「…馬鹿みたいなんだな、普段の俺って」
せめて鼻歌は控えよう。

穏やかな風合いの下、
傍らで足を組む少女を横目にダネルはぼんやりとあの不可解な言葉を思い返す。

(「貴方は「彼」を赦せますか…?」)

あの時、呆気にとられた彼は甲板から去る少女に言葉の真意を問い正す事ができなかった。
今となってなっては本当にあったことなのかすら定かでない。あれは自分の聞き間違いではなかったか。
黄昏の情景に溶けてしまった朧な記憶。
こちらの視線に気付いたのか彼女は尋ねる。
「何か?」
「・・・いや、なんにも。そろそろいかないと」
問いかける少女の眼は相も変わらず美しい。見惚れていたなどといえる訳がなかた。



緩やかに過ぎる白昼の幕間劇。
この時のダネルには事態が最悪の結末に向かっている事を知る由も無い。
159楽園の最果て/11:2007/02/08(木) 03:52:37 ID:???
タルシス級2番艦「バートルビ」。
ブリッジにダネルの声が響く。
「受け入れできないってどういうことだよっ!?」
「落ち着きなさいっ、」
激昂する少年を宥めるディミ。彼女に目で促された通信師は手早く盤面に展開律を走らせる。
「これを見て下さい」
棄民の検査結果を記したファイルが中空に現れた。
「高濃度の魔による重度の汚染…」
ファイルを読む彼の脳裏にバグの一件が頭をよぎる。あの時にまみえた「イインフェルノ」の幻体。
あれと同じものが棄民の村に注がれたのだ。
「インフェルノ」が零し落としたあまりに濃密な瘴気は棄民をあまりに早く侵食していた。
魔に侵された魂は魔物にとって格好の獲物だ。
先日撃退した「グラブロ」は汚染された棄民の匂いに引き寄せられたのだろう。
あの集落の人々はこれからもずっと災魔を招きよせ続ける。
そうそう起り得る事ではない。
まさに凶運としかいいようがない事態に愕然とするダネルにケイルブの言葉が追打ちをかける。
「こうなっては浄化措置も止むをえんかな」
浄化措置。
本来は地場に染み付いた魔を除去する処置の総称である。
通常は危険域にまで達した汚染地域に行われる処置であるが、この場合対象は人間だった。
しかし、目的はあくまで魔質を分解・消滅するためのものであり汚染対象の安否は考慮されておらず
奥深く沁み込んだ魔を浄化するために加えられる極度の霊圧は人の身体には耐えられない。
つまり、浄化措置を受けた者は例外なく死に至る。
「なんだよ、それ…」
「ルエビ、「ヘブンス」ならなんとかなるんだろ?ほら、あの時みたいにさ…」
縋るような少年の視線を向けられた少女は苦しげに目を伏せる。
浸透した魔の根は存在に食い込んでいる、引き剥がそうとすれば宿主すら壊すだろう。
まして「ヘブンス」のあまりに強力すぎる聖性に洗われれば肉体は摩滅し
霊性はおろか存在の核たる魂まで分解されて、あとには何も残らないだろう。
「そんな…」
誰もが口を閉ざす中、ケイルブだけが淡々と語る。
「あちらの処置は救済部隊に回ってもらうとして我々はいま少し神民の保護に当たらねばなるまい」
「参謀、あんた…!」
「仕方があるまいよ、ダネル導士」
「仕方がないって…あんた自分が立場が逆だったら言えるのかよそんな言葉!人を何だと思ってるんだ!」
「君こそ。「EDEN」を何だと思っている?」
冷然と言い放たれるあまりに率直な真実。
厳格なる執行者。主の代行たる酷薄無慈悲な審判の雷。
神世の秩序を維持する為「EDEN」は時に非情の槌を容赦なく振り下ろす。
160楽園の最果て/12:2007/02/08(木) 03:54:02 ID:???
「…あの人たちをそのままにしておけないのか」
ケイルブは斟酌なく少年の甘さを指摘していく。
「…それでどうする?どうなる?彼等を守るものはない。
放って置いてもいずれは体内の魔によって滅びる運命だ」
「なら、せめてそれまで俺が、」
「守るというのか?MSなしでもか?」
命令に反する行動をとれば「セイクリッド」を降ろされるのは自明の理だ。
「EDEN」を放逐されればダネルには何の力も残されない。
「…出来るかよ…皆、生きてるんだぞ…助けを求めてる人間を、屠り殺すのが 「EDEN」のやり方かっ!
そんなもののどこが神の騎士だっ、なにが神軍だっ!!」
堪え様のない激しい悲憤に我を失うダネル。そんな彼をルエビは必死で引き止める
「ダネルっ…もうっ」
下唇を強くかみ、濃い蒼い目一杯に涙を溜めている少女を
目の当たりにして潮が引くようにダネルの怒りは収まっていった。
震えるルエビの肩をディミはそっと抱いてやる。
「誰だってさ、気持ちは同じなのよ・・・」
「少し、頭を冷やせよ」
いつになく真剣な表情のヒーリィ。
発作的な激情は冷め澱のようなやるせなさが取って代わる。
仲間に当たってどうこうなるものでもない。本部からの指令が下ればいずれ浄化は行われよう。
「…ごめんな、ルエビ」
ダネルは沈鬱な雰囲気に包まれたブリッジを力ない足取りで出ていく。


それから半時の後「セイクリッド」が無断で艦を出奔したとの報告を受けたヒーリィは苦々しげ顔を覆っていた。
「あの馬鹿っ…!」


161楽園の最果て/13:2007/02/08(木) 17:22:49 ID:???
「セイクリッド」を駆るダネルの心は濁々と流れる夜霧を映して暗い。

集落に赴いた所でどうにかなるという当てなどない。
所詮、馬鹿げた思い上がりだ。無力など承知の上。しかし見捨てることなど出来はしなかった。
(出来る訳が、ないじゃないか…)
自分自身を見捨てることが出来ようか。
(救済部隊は、セラ律士は…)

頑なな思いに囚われ闇宙を疾走するダネルは、それゆえ足元に這い寄る破滅に気付かない。

月が隠れた刹那。
宵闇に同化する粘つく大気が飛翔翼に絡みつく。不意に姿勢を崩される聖霊機。
「!?」
暗く波打つ大地に光る夥しい紅点。「セイクリッド」は霧を割って突然伸びる無数の腕に脚をとられた。
162通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 18:36:36 ID:???
支援
163通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 18:40:05 ID:???
(,,,,,,,,,,,,,,,)
v( ^ω^)v これから心のオペを始めるお。


164通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 18:41:30 ID:???
( ^ω^)ご、誤爆したお。しかもズレてるお。死にたいお・・・


165楽園の最果て/14:2007/02/08(木) 19:36:32 ID:???
神民居留地に停留するタルシス艦隊は混乱に陥っていた。
「夜襲だとっ!?こうも接近されるとは、なぜ気付かなかったんだ!」
参謀役の叱咤にうろたえつつも通信師は答える。
「分かりません!おそらくはなんらかの通信妨害があった模様です」
「この霧か…!」
MS部隊からの途切れがちな通信でMSに搭載された広域センサーの異状報告が入っている。
のみならず戦艦の高精度幽視界モニタにすらノイズが混じる状態だ。
「どういうか仕組みかは分かりませんが、辺りに立ち込める霧が念信を遮っているようです…」
魔気に満ち聖を阻む、悪しき雫が分厚い層を張るそこはある種の結界だった。
そして夜霧の世界から現れ出でる魔の軍勢。
慄然たる髑髏を彷彿とさせるその相貌。鈍い灰緑色の装甲に包まれた忌まわしき機体の群れ。
対峙した「クゥエル」の搭乗者が呟く。
「こいつは…「ザク」だと?」
旧世代の遺物。前世紀から存在する世界最古のMSは今、亡霊の如く蘇る。
「SINの奴ら、また性懲りもなく…」
別の「クゥエル」乗りがモニターを確認して叫ぶ。
「違う…こいつら核炉心がない!こいつらはもどきだ」
放射する魔気は明らかに尋常のものではない。これらは魔性のモノだ。
接近する敵機に応戦しようとする「クゥエル」、
だが漂う魔霧は機体制御にまで影響を及ぼしているのか、反応が鈍い。
目前まで迫る「ザク」、眼光の閃きと共に戦斧が振り下ろされる…

刹那、吹き抜ける一陣の調べが霧をさらう。

拘束を解かれた「クゥエル」の光径機銃が「ザク」の胴体に叩き込まれた。
「大丈夫ですか皆さん!」
「おおよ!Gが来てくれりゃ怖いものなしってもんだ!」
天より舞い降りる「ヘブンス」。
「ディバイン」、「ホーリー」の姿もそこにあった。
「陣形を立て直せっ!なんとしても居留地には近づけるな」
「了解!」

夜半すぎ、霧たなびく深闇の最中
粉砕する光槌の轟音が戦闘開始の合図を告げた。

166通常の名無しさんの3倍:2007/02/08(木) 23:11:25 ID:MRpkY3+M
ザクもクウェルも好きだからすごい楽しみにしてます
167楽園の最果て/15:2007/02/09(金) 03:10:23 ID:???
横一列に並んだ「クウェル」の一斉掃射が死霊の群れに放たれる。
対する「ザク」の連射機銃は「ヘブンス」の障壁に防がれる。
居留地の防御を「ヘブンス」が、局所の隙間を「ホーリー」のビットが補う形だ。
「GM隊は壁を作れ!こうも視界が悪くちゃ同士討ちの可能性がある!」
『照準まで狂ってやがる…くそっ!』
操作盤を叩くクゥエルの搭乗者。
霧による霊場干渉は通信はおろか各種センサにまで被害を及ぼしていた。
魔霧と守るべき拠点という足枷がクゥエル自慢の高機動性・高視界のアドバンスを奪う。
そうなれば当然近接戦闘を強いられる訳だが、白兵戦であれば旧型のザクとて充分な脅威になる。

戦斧を盾で受け止めたクゥエルは銃口をザクの目玉に押しつけそのまま打ち抜く。
が、頭を吹き飛ばされ倒れる機体を踏みつけて、すぐさま新たなザクが押し寄せてくる。

その上敵は一体倒せば三体新たに現れるといった具合である。
「クゥエル」の機体数は20機余り。
タルシス級艦隊の援護を受けられない今、
高性能機による少数精鋭編成がここでは完全な裏目に出たのである。
種々の戦術的不利がジムとクゥエルの性能差を埋め、事態は完全な泥仕合の様相を呈していた。

四方から迫る見えない敵に対してのプレッシャーは搭乗者を少しづつ追い詰めていく。
『畜生、倒しても倒しても…』
一機のクゥエルが残弾の尽きた機銃を捨ててザクに格闘戦を仕掛ける。
交差するクゥエルの加速帯刀とザクの戦斧。鍔迫り合いを繰り広げる両機体。
だが、あろうことかザクの群れは組み合う僚機をも巻き込んで機銃斉射を浴びせかけてきたのである。
『なっ…うあああっ!!』
意想外の敵機の銃撃を無防備に喰らうクゥエルは、頼みの綱である光学センサを砕かれた。
「ちっ!」
咄嗟に「ディバイン」の胸部振動砲がザクの一団を切り刻みクゥエルの窮地を救った。
「あんたはもういい、下がってくれっ」
『「ディバイン」、済まないっ…』
「各機も出来るだけ固まってくれ!孤立すりゃ各個撃破の的になっちまう!居留地の守備が第一だっ、いいな!」
『了解!』
敵味方を遥かに凌駕するスペックを持つ「ディバイン」もまた本来の火力を封じられている。
至近にある居留地を守りつつ戦場を駆ける様はまるで、無数の蟻を避けながらタップを踏む巨象とでもいった所だ。
まさしく神業ともいうべき芸当ではあるが、恐ろしく神経を磨り減らす操縦に違いない。

168楽園の最果て/16:2007/02/09(金) 03:11:41 ID:???
「皆さん、お願いします!」
ルエビの掛け声と共に、居留地に張り巡らせた防護障壁をほんの一瞬緩めた
「ヘブンス」の放つ風唱が束の間霧幕を押し開いて中に潜んだ敵影を暴き出す。
『任せろっ!』
すかさずそこに「クゥエル」隊の集中砲火が重ねられる。
追い討ちとばかりに「ディバイン」の背部弾倉から打ち出された螺旋弾頭弾は中空で拡散し、
闇を縫ってうねりながら「クゥエル」の撃ち漏らしたザク数機を容赦なく貫く。
敵を追いたてる「猟弾」の異名は伊達ではない。
しかし次の瞬間、しとめたはずの一体が、霧に沈んだ身体を起こし背後から「ディバイン」に狙いをつけていた。
「ヒーリィ!」
「ホーリー」の振動矢がザクを射抜く。
「指図はいいけど自分が油断してたら立つ瀬ないでしょ」
「へいへい、ご忠告痛み入ります」
「この霧、再生まで促すみたい。半壊程度じゃ駄目みたいよ」
「ホーリー」はビットを陣営防御に回して、上空からの砲撃で味方機を援護していた。
そのせいか霧のこの特性もいち早く見抜けたらしい。
「道理でなかなか数が減らないわけだ。ますますもって厄介……おい!ディミ…」
その時、ヒーリィは横たわる一機のザクの異常に気がついていた。
「これ…」
ディミが促された先に見たのはのけぞる機体の胴体部。開いたコックピットより覗く人間の腕。
「嘘っ…だって生命反応はなかったはず…」
「ああ、そうだ。ってことは…あれは…」
そう。コックピットは文字通りの棺。
失った魂核の代わりにするかのように、ザクは零れ出た屍を腹中に押し込めて再び立ち上がる。

亡霊機械は、死せる搭乗者を求めている。
169通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 03:16:22 ID:???
「ヘブンス」より「ヘヴンス」の方が好みな邪気眼な俺
170通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 03:20:44 ID:???
>>166
はい、全然期待に応えられませんでした

…微妙にコメントに困るよーな展開ばっかで本当すんません
171通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 03:25:24 ID:???
ゴキラを思い出す設定だなぁ
172通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 13:30:01 ID:???
しかし奴とは七つほど次元を隔てた文章力と
絵も描ける職人の万能性がこのSSを「厨」のカテゴリから昇華させつつあるw
173通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 20:10:02 ID:???
>>170期待を裏切られた…
 
 
 
 
超GJ!!
174通常の名無しさんの3倍:2007/02/09(金) 22:55:13 ID:???
「ホーリー」
ttp://new1314.freespace.jp/log/up/log/3150.jpg

例によって途中でry
175通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 00:26:56 ID:???
>>174

これなんて名前の古操兵?

いや、旨いしよくまとまってると思いますよ。
GJ
176通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 13:31:10 ID:???
>>174
すげー……ヘブンスを早く見たいです
177通常の名無しさんの3倍:2007/02/10(土) 15:14:51 ID:???
「八の聖刻」の一機か?w
178楽園の最果て/17:2007/02/11(日) 02:42:38 ID:???
「ヘブンス」が宙に浮く。
「ちょっと、どこ行くの!?ルエビっ」
いいしれない不安に襲われた彼女はダネルの元へ赴くために機体を翻した。
「ダネルが心配です…」
「あちらを気にかける余裕はねえよ。戻れ、嬢ちゃん」
「けれど…」
「ルエビッ!」
聞いた事がないヒーリィの一喝が少女をの身を一瞬竦ませた。
今は予断を許さぬ状況だ。個人の身勝手が許されよう筈もない。
「持ち場に戻れ。ここを死守だ」
「…分かりました」
「…とっととこっち片付けて、あのアホたれを迎えに行ってやろうや」
「ええ!」
「ヘブンス」の唄句が戦場に再び響き渡る。
179楽園の最果て/18:2007/02/11(日) 02:45:16 ID:???
------

搭乗者のざわめく気持ちのままに、「セイクリッド」は纏いつく霧と機影を蹴散らす。
ダネルは沸き立つ焦りを必死に押さえて急ぐものの、集落に近づけば近づくほど
数を増していく「ザク」に徒に時間を食われていた。
到着までにどれ程の時が経過したろうか。
「くっそお!」
切りかかる一機を袈裟懸けに切り伏せた先、眼前に飛び込むのは
暗緑の軍勢に蹂躙されつくした棄民集落の成れの果て。
穿たれた大地、微塵と化した家屋、泥と血と灰に塗れた死景。
救済部隊のMSは既に倒れ、隊長機であるセラの「ドム」の足元には僅かな生き残りの人々が寄り添っている。その中にはハヌンもいた。
『来ては駄目ですダネル導士!ここは、もう』

ダネルの中で何かが弾ける。
「どけえええぇっ!」

速く。ただただ速く。

(助けるんだ助けるんだ助けるんだ助けるんだ…、)

手を差し出せ。救い出せ。守れ。

その為のG、その為のMSだ。

猛る少年をあざ笑うかのように行く手を遮る「ザク」の壁。
突き進む「セイクリッド」。
我を忘れ闇雲に振るう剣刃に平常の冴えはない。
一体。二体。三体。四体…
なお迫る機体を飛び越えるべくダネルは機体を空に舞わせた。
だが不用意な跳躍は格好の的になる。
背中からの集中砲火を食らって、聖霊機は無様に地面を擦る。
立ち上がろうと揺らめく機体に間断なく覆いかぶさる鋼の死霊。

魔の水粒に浸された装甲表面は鮮やかな色を失い灰に澱んでいる。
あまりに無防備に魔性を帯びた霧を突っ切った機体は本来の能力を発揮できずにいた。

群がる死霊の鉄躯に成す術なく埋もれていく「セイクリッド」の機影。 
歪んだ視界。揺らめく景色。
鼓動だけがはっきりと耳を打つ。
少年はこれから起こる惨劇をただ見ていることしか出来なかった。
180楽園の最果て/19:2007/02/12(月) 23:37:25 ID:???
-‐‐‐‐‐

「ったく、後から後から涌いてきやがって…」
敵は依然、霧に紛れて何処からともなく襲いかかる。
消耗戦を強いられている部隊員の精神的疲弊もそろそろピークに近い。
「ディバイン」が振るう槌の閃きに合わせてクゥエル隊の銃火が舞う。
「嬢ちゃん、いっそこの霧一片に払えないのか?」
「範囲が広すぎて、払っても払ってもすぐに戻ってしまうんです。もう少し時間があればなんとか…」
「ルエビ、私が「輪唱」するから。それなら出来るよね?」
「…!、ええ。お願いしますわ、ディミ姉様。」
即座にディミの意図を察した彼女は「ヘブンス」の大翼を広げ唄波を空に向けて放射し始めた。
と同時に、霧雲を螺旋に裂いて「ホーリー」の操るビットが天空を跳ねあがる。

「そういう訳だ、少しばかり手薄になるが、耐えてくれよっ」
『どうしたっ、前に出るのか?』
『分からんが「ヘブンス」が何かやるらしい。それまで持ちこたえろってさ!』
『確かにこのままじゃ、ジリ貧かもな』
『期待してるぜ嬢ちゃん、ここは任せとけっ』
戦導主長の指示にクゥエル隊は全力をもって応える。飛び交う銃火が更に激しさを増していった。

「ヘブンス」の放射する聖振が空に飛び散ったビット各基を激しく振るわせた。
同期。同調。
共感。共振。
歌声に共鳴した「ホーリー」の飛鐘達は「ヘブンス」のそれと全く等しい旋律を囀るに至る。
一つ一つのビットが聖律に響く音叉であり、それらは祝福を謳う天上の聖歌隊となって調べを高く高く、伝え繋いでいく。
そうして魔雲を越え成層圏まで達した唄声の輪舞は、やがて形をとり、天の息吹となって地に還りゆく。

その様は、月に燦然とかかる輝色の滝。

要請を受けたタルシス級の援護奏射も加わって振り落ちる金鱗の大流はますます勢いを増していく。
幻体を沈めた以前の時とは真逆の発想、霊質の集中ではなく拡散。
濃密な魔層に静かに浸透する聖気。魔の水粒は薄い聖性を少しづつ含んで中和されていく。

いかな「ホーリー」のビットとて「ヘブンス」の唄をそう易々と模倣できる訳ではない。
現にいまも、各基は限界を超えた制動を強いられ不規則に身を揺らせている。
それを、必死に統御するディミの額を伝ういく筋もの汗。
それでもなお、この天唄が途絶えることは無い。充溢する霧界を全て清め尽くすすまで。

-‐‐‐‐‐
181通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 05:17:41 ID:???
「ザク」
ttp://up.spawn.jp/file/up2063.jpg

例にry
パース?なにそれ?
182通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 05:39:28 ID:???
ここまで一気に読んだ
超面白い
183通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 08:28:26 ID:???
>>181
ザクというよりデナン系に見える
184通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 16:54:24 ID:???
>>181
ご職業を聞いてもよろしいでしょうかwww
本職だったらスゲーの一言に尽きるし、平凡な職についててこんなスキルが身についてるなら
それはまた別ベクトルで凄い
185楽園の最果て/20:2007/02/13(火) 20:16:55 ID:???
------

亡霊に覆い潰され地に伏す泥に塗れた神の騎士。
あと少しで手が届きそうなこの距離が無限に遠い。

後方から近づく「ザク」の集団が光杭に串刺しになる。
設置されていた最後の対魔地雷が作動したらしい。
救済部隊の備えた対多数用の牽制兵装を備えていたのは幸いだったといえよう。
それにも増して、セラ律士のなんとしても敵を寄せ付けまいという気迫は凄まじい。
セラ機の光熱榴弾が近づく亡霊の一群に炸裂、尚も近づく一機も薙刀で切って捨てる。
熱の障幕が尽きる事のない軍勢をしばらくは遠ざけえる。
武器弾薬がそこを尽き掛けようという今になってもその気迫は一向に衰えをみせることはない。

だが、そんな緊張もついに途切れる事になる。
僚機であったはずの「ドム」の残骸がセラ機の腕を掴む。
霧は操り人形のようにEDENのMSまでをも魔の走狗に変えていた。
その時セラの頭をよぎったのは怯えか悲しみか。
僅かな間動きを奪われたセラ機に迫る一機の「ザク」。

ひどくゆっくりと流れる時間。
一瞬。ただの一瞬で、終焉はあっけなく訪れて去る。

戦斧を振りかざす「ザク」。
立ちはだかるセラ機。最後まで棄民の盾となるべく。
次の瞬間。弧を描く兇刃が容易くドムの腹を貫く。
恐らく搭乗者は、即死だろう。
ドムの巨体があっけなく崩れ落ちる。

守るべき人々の上に。

丘に立つ子供の姿。
ハヌンは動かなかった。その姿に「ドム」の影が折り重なって呑みこんでいく。
影に消えるハヌンの姿。その瞳に、映るものはただひたすらな闇一色。
地を打つ崩音。舞いあがる土埃が闇霧に融けた。
獲物を求めて群がる死霊が後に続く。

手を差し出し掴んだ筈のその命は、ぬめってすぐに滑り落ちる。

186楽園の最果て/21:2007/02/13(火) 20:18:53 ID:???
ダネルは叫んだつもりだった。
だが、悲鳴はもつれた舌と狭まる咽に絡みついてただひゅうひゅうと乾いた呼気を漏らすだけ。
暫しの後、立ち上がる懐に屍を収めたセラの「ドム」。
相貌に刻まれた聖なる十字紋に浮かぶ煌々と光る紅き単眼。
美しい紫紺をどす黒く染めた装皮が立てるおめきともつかぬ振動音を垂れ流す。がくがくと不安定な足どりで、セラ律士であったものをのみ込みゆるゆると動く鉄棺は迫る。

ダネルの世界が遠く退いてく。
指一つまともに動かす事ができない。
言葉は依然凍りついたままだ。
やがて、堰をきって溢れ出る感情の濁流が堰をきって少年の意識を押し流していく。
無明の霧間に去来する錯像。


故郷に降る火。火と爆発に呑まれる家族…

無惨に

何で奪う。

一面の獄火。炭灰と煙る仲間達。ドゥマ…

無惨に
無慈悲に

何で奪う…。

眼前の惨景。棄民の人々。セラ律士。ハヌン…

無惨に
無慈悲に
果てなく無意味に

何で奪う……!


187楽園の最果て/22:2007/02/13(火) 20:20:31 ID:???
俄かに天空より射し込む煌く息吹。
微かに届く「ヘブンス」奏でる聖律の束が
霧に隠された魂のおめきをあぶりだしていく。
ダネルは観た。
魔機に重なる魂魄の揺らぎを。
身悶えする儚い光点。死霊の腹中に閉じ込められ、
魔に囚われた魂が苦しみから逃れようとするかのように微かな明滅を送る。
屠り殺された人々の、魔に囚われた痛苦の嘆きが。
責めさいなまれ続けた者の無念が。
外部から流れ込む無限の声が彼の脳髄を灼き尽くす。

視界の戻る先にはセラの黒き「ドム」。既に霧魔の傀儡と化した憧憬の残骸。
重なるハヌン。掌から零ち落としたあの日の自分。
「……待ってろよ。今そこから…こんなところから…解放してやる…俺が」
何一つ掴めなかったその手は今、切り裂く剣を握りしめる。

聖なる息吹によってかすかに緩んだ「ザク」達の拘束は「セイクリッド」が抜け出すのに充分だった。
そして全開の飛翔で群影から飛び退る聖霊機に歩み寄る、
たったいま魔に堕したばかりの黒い機体。
突き出される「ドム」の薙刀。
「セイクリッド」は身じろぎもせず刀を胸に受け。
静かに、躊躇いなく、「ドム」を閃断した。
在りし日の誓いを断ち切るように。
その一閃は贖う刃。抜き放たれた刀身が纏う蒼光は、いわれなき咎人を解き放つ浄罪の火、煉獄の焔。

なおも機体を取り囲む死霊の列を前に、
噴き上げる激情に身を委ねる操り手に応えた「セイクリッド」は蒼炎にいななく一個の咆哮と化すのだった。

188楽園の最果て/23:2007/02/13(火) 21:01:26 ID:???
黒の帳を瞬く白の残影。
明滅する白熱光。残る黒煙は霧に溶け。

天に鳴り渡る光輝の聖唄の下、
魔を刈りとる蒼い慟哭が、大地を引き裂く。
並びたつ蒼炎の柱は駆け抜けた裁きの痕。

息つく間もない連弾に唸る砲門。
限界を遥かに越えて励起されつづける発振機が悲鳴にも似たスパークを撒き散らす。
鋼骨格から引き剥がれそうになる装甲の軋りは肉ひちぐ音にも似た機体の狂おしい叫喚。
制動の度、血の如くしぶく蒼い焔。
交錯する十字の斬衝が死霊の波を割り、
すれ違いざま叩き込む二門の振動砲が残る「ザク」を光塵へと帰す。
空間を光と翔ける速度は刃。触れる全身が必殺の兵装。
この光景を目の当たりにするものがあったとして、「セイクリッド」の姿を確認する事など叶わなかったろう。
数十と重なる壊音と数百と連なる破断の亀裂、そして駆け巡る機体の残光だけがその存在を示すのみ。
神聖の翼が奔り抜けるたびに生じる鉄裂く残響も続く砲爆に打ち消され、途切れることなく続く連鎖は轟音の嵐を生じ起こす。

両断し切断し分断し寸断し砕断する刃に。
腕削がれ胸裂かれ腹貫かれ首をもがれる「ザク」の群れ。
もはや相対するのは標的でも、獲物ですらもなかった。
戦場は嘆きの火と光に揺らぐ祭壇。
群勢は怒れる機神に捧げられた供物。
189楽園の最果て/24:2007/02/13(火) 21:03:32 ID:???

封じていた痛み。
忘れたはずの怒り。
ダネルのそれは、禁じられた感情だった。
かつて焔の雨に灰と散った故郷を前に少年の心に宿ったものは、
この悲惨が在る世界そのものへの怒りだったから。
この悲惨を許す世界そのものへの怒りだったから。
だが、少年はそんな世界に救われ生かされた。だから、そんな憎しみを抱いてはならなかった。
自分を生かしたものが偽りだとしたら、自分をも認められなくなる。
愛する者を奪い自分を生かした運命。
愛する者を奪い自分だけを生かした運命。
ダネルはそんな運命を赦した。何よりも自分自身を赦すために。
その赦しが真実であると信じる為にこそ、少年はなによりも他者の救済を欲したのだ。
だが、全ては頓挫し、絶望は虚飾の信念を剥ぎとって隠した心を剥き出しに曝す。
忘れなければならなかった痛み。
奥底に仕舞い込まなければならなかった憎しみの火。

少年の信じた、信じ込もうとした楽園の華は穢れた劫火に腐れて溶け落ちる。
灰に染まる光景から立ちあがるのは「D」の姿。世界を、神を敵と断じた少年の鮮烈なる怒り。
輝ける理想郷に散った花弁が落とした対をなす影。
結局は、そういう事だったのだ。彼の「インフェルノ」への、「D」への執着の正体は。

そう。「D」とダネルはあまりにも似ていた。鏡写しの怒りと。背中合わせの哀しみとが。

対極を成す神聖の光輝と獄炎の常闇。
しかし、次々と魔形を虐砕する「セイクリッド」の姿は「インフェルノ」のそれとなんと近しい事か。

全てが終わり、白騎士のみが立ち尽くす野に鎮魂の雨が降る。
「ヘブンス」の聖歌によって霧は魔力を失い雫となって地に注いでいた。
至る所に鋳鉄とガラス片を散りばめた荒涼に雫が白銀の機体をしとどに打つ。
間断なく鎧を伝って零れ落ちる雨滴。
一切が色落ちくすんだ寂寞の世界で蒼の送り火だけが、果てることなく揺らめいていた。
190通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 21:38:46 ID:???
>>184
パースの取れない鉛筆描きの本職なんていねえーw
いや、お褒めいただいて恐縮です
下手なりに頑張ってきますんでどーかよろしくお願いしますです
191通常の名無しさんの3倍:2007/02/13(火) 22:23:58 ID:???
まとめサイトまだー?
192楽園の最果て・エピローグ/1:2007/02/14(水) 02:30:38 ID:???
「流石に、」
少年は気だるげに手で髪を梳く。
額に垂れるいく筋かの金色が閉じかけた瞼にわずかにかかった。
「今回ばかりは…後味悪いぜ、畜生」
『遅かれ早かれ訪れた事態だったさ…』
男は無表情にいう。
タルシス級「アレオパギダ」司令室。
ヒーリィは目でそれとなく通信師の少女を遠ざける。他のクルーも弁えたもので、自然に二人の話が聞こえない程度まで距離を置く。
「ダネルな、謹慎処分ってところだ。聖別者が独房入りってのも外聞が悪い」
『…隊の士気への影響を考えても無難な選択だと思います』
自分より二回りほど年下の上官の言葉にケイルブ参謀は淡々と応える。
このしかつめ顔から考えている事を読むのは余程骨だなと、ヒーリィは思う。
「なにかいいたいことがあるのかい」
『別に。…ただ、彼の「インフェルノ」に対するあの憎しみは、使えるかもしれません』
「…嫌だねえ。何が嫌だって俺も一瞬そんなことおもっちっまったのがさ。長く続けたくない稼業だな、お互いよ」
そう片目を瞑って笑い、下から相手の顔を見上げるヒーリィ。
。普段仲間には見せない「EDEN」の一幹部としての表情。これも彼の一面だ。
『貴公も「ADAM」は太教院の狗だとお思いか』

魔災を取り扱う「EDEN」に対して、「ADAM」の任は都市ユニットの秩序を乱す行為、
即ち暴徒の鎮圧や、犯罪の摘発など、いわば汚れ仕事が主である。
加えて元々、唯一つの巨大軍事力たる「EDEN」への牽制の為に設立されたという事情もある。
また、当時最も設立を推進していたのが太教院であった為、「ADAM」を太教院の子飼いと捉えている見方は強く、
「EDEN」内にはディミのように毛嫌いする者も多い(ただし彼女の場合は太教院絡みで仕事が増えるからなのだが)。

「いいや、「アダム」は「人間」さ」
冗談めかした口調でヒーリィは応えた。
『…上層部より通達が来ましてな。『目標の機体回収を最優先せよ』とのことです』
「へえ」
「ADAM」はそれほどあの機体に執心ということか。
もしくはいずれかの機関とからの指令ということもありうる。
(どこも騒がしいな…)
ヒーリィの内心を知ってか知らずか直立しモニターを見据えたまま、ケイルブは続ける。
『私には我慢ならない事が三つほどありましてね。一つは愚かな部下の勝手な振る舞い。
そしてもう一つが、上司の出来るはずのない無茶な命令…』
「最後の一つは?」
『紅茶にミルクを注ぐ事、ですかな』
別段ふざけた様子もなく、手にしたカップに口をつける男の姿にヒーリィは肩をすくめてみせる。
「はっ…、こうして腹を割って話してくれるって事は信頼の証と思っていいのかな、参謀殿?」
細い目を更に細くして 方眼鏡を外すケイルブ。
「そうとってくれて構わんよ。内輪でいがみ合っていてどうこうなる相手ではなかろう?」
腰掛けた椅子から身をせり出し宙に人差し指で円を描く。
「なら、こちらも手札を切ろう。至法院からの指示だ。「藪をつつけ」ってさ…」

宙空に展開する画像。そこに写った浮遊都市が次の目的地だった。
193楽園の最果て・エピローグ/2:2007/02/14(水) 03:43:18 ID:???
ごつごつと広がる荒地。谷あいから射す陽は熱く地に照り映える。
窓から覗く風景は昨日とまるで変わらぬまま。

楽園の果てる地。

辿り着く先求め歩んだ長く長くのびる道。
あの刻と風景は変わらぬまま。

しかし今の彼には、約束の場所はもう存在しない。

途切れた道程。途絶えた可能性達。
蒼焔に灼かれた魔機から飛散した光の粒は天から舞い降る息吹にさらわれて
風へと消えた。
あの光はどこへ還っていくのだろうか。


窓に映る少女に気づき後ろを振り向いたダネル。
「ルエビ?」
『御免なさい…。私がもっと早く霧を浄化できていたら…』
力なくうなだれるルエビ。
色素の薄い肌は窓から漏れる陽を浴びて、きらきらと輝く少女の濡れた瞳を際立たせる。ダネルは少女をあやすように目尻に溜まる涙をあわてて拭う。
「おいおい、ルエビが泣く事なんかないんだって。ルエビのせいじゃない。…俺が上手くやれなかったのが悪いんだ」
『あまり、自分を責めないで…』
「ああ、大丈夫。心配しないでくれ」
穏やかな拒絶。
いつもと同じ、だが何かが欠けおちた眼差しは少女の胸を微かにしめつける。
「…ルエビさ、あの時の言葉だけど」

(「あなたは彼を赦せますか…?」)

ダネルの視線が外の荒涼に戻る。
「俺には赦せそうにないよ。あいつが背負っているものが何であれ、あいつが奪ったものより重いってことは、多分ないはずだ。奴がこんな場所を増やす限り…奴が奪い去る限り……俺は奴を赦す事はない。この手で必ず奴を」
強い想いは胸に痞え、言葉に詰まった少年はそれきり押し黙る。
握る手に強く食い込む木彫りの十字架。

少年は選び取った。蹂躙よりは抵抗を。屈従よりは戦いを。地獄を生み出すモノとの果てなき戦いの道を。

そうして掴んだのは、我が身をも切り刻む正義の諸刃。
少年は「D」を赦さないだろう。自分自身を赦さないように。
少年は自分自身を憎むだろう。「インフェルノ」を憎むように。

『ダネル…』
全てを見通した少女は何もいわず、震える少年の背をそっと抱いた。

194通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 03:50:16 ID:???
やややっと終わったー!えらい長い小エピだなおい
次はもっとコンパクトに出来るよう努めます。

まとめ?必要?
195間奏:2007/02/14(水) 17:05:05 ID:???
旧世紀。
この時代、研究が行われていた通信技術は人が過ちなく分かり合う術、窮極のコミュニケーション技術の希求だった。
人々は他者との交感に横たわる絶対的な違和を「脳の量子状態」、即ち量子領域の不確定性に求めた。
ならば量子状態が制御可能となる空間を介する通信によって完全な意志の疎通が実現できるのではないか、いいかえればこの技術をもってこそはじめて本当の意味で人は分かり合えるのではないか。
それは科学であり宗教であり思想であり夢だった。
誰もが理解しあい認め合い、創りだす理想世界という夢。
その過程で見出された特異量子空間はいわば量子的振る舞いを決定しうる性質のものだった。
偶然や運命や奇蹟として片付けるしかない不確定性の振る舞いを左右する力を持った上位次元。
ここは無限のエネルギーの存在する場だった。が、人がそれを任意に抽出する事は叶わなかった。
いいかえればこの空間から得られるものは須く上部領域より分け与えられる性質のものだったのである。
そうした空間の気まぐれな振る舞いを擬人化して、たとえば神と呼ぶものがいたとしても驚くにはあたらないだろう。

そして、量子的特異空間の発見された頃と前後してこの空間とアクセス出来る特殊な人間が確認され始めた。
ある者は飛躍した反射能力を手に入れ、ある者は強大な共感力を身につけ、中には未来さえ見通す直観を持つ者さえいた。
当時、人の新たな進化だと目された特異体の数はしかし一向に増えず、
いつしかそのような人々の存在は選民主義的な信仰を生むに至り、彼らは自らを神に選ばれた者、
神人類あるいは神人種と名乗りはじめたのである。
196通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 22:38:47 ID:???
流れブッタ切りして悪いが

Dガンダム既にあるぞ

ダブルフェイクにでてくる
197通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 22:52:50 ID:???
ドラゴンガンダムやらディスティ二ーはスルーですかそうですか
ぶっちゃけるとDは機体名じゃなくてSEEDみたくキーコンセプトを
表すタイトルって感じで捉えとります。
(ネタバレすっとDに込められた意味合いはDuble・Dual・Duplicate・Dust…等々)

…うん。SEEDはキーコンセプトじゃなかったけどね!
198通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 23:22:10 ID:???
出て来たとか別にいいよ
こんだけ面白い文タダで読ませてもらってんだもん
茶茶入れない!
199通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 23:44:29 ID:???
つーか今更ダブルフェイクの名前を得意気に出すってのがwww
200通常の名無しさんの3倍:2007/02/14(水) 23:53:15 ID:???
ディバインのDを付けただけなんだ。短絡的だったと今は反省している
改名案とかは職人さんに委ねます…
201通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 00:33:41 ID:???
いつのまにやら随分進んでる。
本格的に、ガンダムなストーリーになってきましたなぁ。てか、ザク格好いい。
SDガンダム外伝に出てきても違和感なさそうなデザインだ。職人さん多才でウラヤマシス
202通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 00:42:36 ID:???
>>200
結構書き進めた段階で「やべDってディバインじゃん!」
なんて気づいた俺もかなりのデコスケですがw

スレ主様及び住人の方々さえよろしければタイトルそのままでいかせて
いただきたいです。一応Dで始まる言葉をコンセプトに考えとりますんで。
いい損ねましたがDに込めた最後の意味合いはDearest。
これらの言葉がどう物語を表しているか、確認しつつ、この読みづれー駄文
におつき合いいただけたら幸いです。

…今のところ全然消化できてないけど。終わりまで辿り着けるんだろーかコレ?w
203通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 01:27:50 ID:???
こんなセンスのある職人は久しぶり。最後までついていきますぜ
204儚散天楼・プロローグ:2007/02/15(木) 01:43:28 ID:???
都市ユニット・「バド・シェバ」は吼え狂う熱炎に嬲られていた。

爆砕に傾く建造物群を吹き抜ける不吉な霧は、次々と死霊機械を招きよせる。
『敵は「インフェルノ」以外にも複数…話が違うじゃないかっ…』
「インフェルノ」一機でも脅威だというのに、
通信を遮断する黒霧と大量の敵機が加わってはさしもの
「キャノン」、「スナイパー」を揃えたGM部隊とて勝負にもならない。
その上。
『主長、見慣れない機体が…』
「ザク」の軍団を率いる三機のMS。
鋭角的な鋼鱗に覆われた刺々しいフォルムはまるで邪竜と思しき異容。
背部ユニットから伸びる黒い翼は霧の奔流。
『こいつらが霧を撒いてやがるのかっ!?』
正体不明の機体に向けて「スナイパー」の長弓・長距離帯電振動砲が雷の矢が飛びすさう。
直進する電光が未確認のMSを捉えた、そう「スナイパー」の操縦者は確信したに違いない。
次の瞬間、彼はモニターを塞ぐ邪竜の凶悪な顔に凍りつく。
神速で間合いを詰めた異形は抵抗する間も与えずに鉄鞭としなる尾で「スナイパー」を容易く分かつ。

途絶する意識の最後、「スナイパー」の搭乗者が思い浮かべたのは、
(こいつは…G…?)
彼は、悪魔の禍々しい相貌に聖なるGを重ね合わせて逝った。

205儚散天楼・プロローグ其の2 /1 :2007/02/15(木) 16:15:53 ID:???
出会い頭にきめられた鮮やかなアッパー。
『なんべんいわせりゃあ分かる小僧おお!お前の無茶な操縦のせいで
発振機は軒並みオーバーホールが必要、フレームも打ち直し、装甲表面なぞ全とっかえだ!
こっちゃ「セイクリッド」の面倒だけ見てればいい訳じゃないっ、ったく毎回毎回
どれだけ手間かかせてくれりゃ気が済むんだお前はあああっ!』
距離をとったダネルは咄嗟に傍らの検査計に身を隠し飛んでくるスパナから身を守る。
「ちょっ、待った親方!」
ダネルは今日も今日と手整備師長ダタン・ノファに怒鳴られていた。
一工師から実力で今の地位まで上り詰めたいかにも叩き上げの職人といった風のダタンだが、
聖霊機を取り扱うためには整備師長といえどもそれなりの地位が要求されるらしく
彼にも聖導士という高い階位が与えられている。
筋骨ばった堂々たる体躯、白く蓄えられた口髭をともなった無骨な風貌は
ともすれば威厳のようなもの感じさせないでもない。
それも、黙っていればの話だが。
「ぐっはあ!」
体重を載せた回し蹴りが、防いだ筈のダネルの身体を鮮やかに舞い上げる。
『いっそのこと粒子装甲全部取っ払ってやろうか!
いくら馬鹿のお前でもコックピット剥き出しなら自重せざるをえまい!』
「そんな、無茶苦茶な!」
徳高き聖導士の称号も老いてますます血気盛んなこの人物には不似合いどころか、ほとんど詐欺の域に近い。
「だ・か・ら、それについてはもう謝ったじゃないかよおおっ」
「セイクリッド」の機体破損に関しては先日もきついお叱りを身体で受けたばかりである。
『…む。そうだったな。いかんな、顔みるとむかっ腹がたってきちまって』
とこちらが本題だったのだろう、ダタンは豊かな白髭を撫ぜながら改まって話を切り出す。
『…お前さん身体の具合はどうだ?診てもらったんだろ』
「?普通だぜ。検査でも特に問題はないってさ」
『ふむ。そうか…これだけ機体が魔にどっぷり浸かり続けてたら乗り手にも何かしら影響が出てもおかしくないんだがな』
「「セイクリッド」の防護能力の高さは親方が散々いってた事だろ。何ともなかったんだし、いいじゃないか」
『そういう安易な考え方がいかんといっとるんだろーがあ!』
ダネルは踵を返して、整備長の怒りが爆発する前にその場から退散する。

ダタンは自分の癇癪のせいでもう一つ気がかりな点について聞きそびれてしまった事に気づく。
ダネルの報告にあった「セイクリッド」が発したという蒼の炎について。
(「セイクリッド」にはそんな機能ついてやしないんだがな…)
多少気にはなるものの、彼はそれ以上深く考えるのを止めた。
Gは奇蹟を体現する機械、時に常識外の能力を発揮することもない訳ではない。
整備師として長年MSを扱ってきた彼とて分からない事も多々ある。
MS、特に神聖機というやつはそういうものなのだ。
206儚散天楼・プロローグ其の2 /2 :2007/02/15(木) 21:12:03 ID:???
「…俺も一言いってやろうと思ったがその必要はないみたいだな」
通路からMSデッキでのやりとりをきいていたのだろう。
鼻を押さえるダネルを気の毒そうな顔でヒーリィが見ていた。
そこに飛び込んでくる妙齢の女性が一人
「ごめんなさいね、ダネル導士」
後を追い掛けてきたコズビ・ノファは遠慮する少年の鼻血を布巾で拭う。
彼女は性名からも分かるとおりダタンの娘であり、魂核炉心専門の調整士として働いている。
要するに親子揃って同じ仕事に就いている訳だ。
同業を志すほどだからやはり親子同士似通った所はあるのかも知れないが、
少なくとも外見的特徴に関しては彼女は父のそれを受け継がなかったらしい。
短く編んだ黒髪と紅い唇が印象的な彼女には容姿端麗という言葉がぴたりと当てはまる。
「父さん、あれで導士の事気に入っているんです。少々手荒なのも心配してるからなんですよ」
気遣う相手の脳漿撒きかねないような心配の仕方は間違ってやしないかとダネルは心中密かに突っ込む。
「まあ、「セイクリッド」は無茶が効く分乗り手にも無理をさせちまう厄介な機体だ。
G級で一番乗り代わりが多いってのがその証さ」
そういわれてダネルは「セイクリッド」の前の乗り手に思い至る。
「ああ、オベドなオベド・エケル」
「ヒーリィ、知り合いだったのか」
「ま、同じG乗りだし、戦地で何度か顔合わせしたこともあるわな。あの機体に選ばれる奴は直情型が多いのかね、殺しても死なないって風だったが、あっさりいっちまうとはな」
「……」
ヒーリィは押し黙るダネルの背中を勢いよく叩く。
「だからお前は気をつけろよってこった。ほら、そろそろ到着だ」

コズビに手を振ってブリッジに赴いたダネルは
モニターに映る空に浮かぶ半球体を目にして絶句した。
「なんだ浮界ははじめみるのか?」
「いや、そんなことはないけど、こんなにデカいのは…」
桁外れの大きさだ、
「EDEN」最大の戦艦・ガルガリン級は元々拠点防衛施設であった浮界を
戦艦にあつらえたのが始まりであるが
(その後用途のなくなった浮界は数を減らし今では最盛期の十分の一程にも減っている)、
ダネルの前に見えるものはガルガリン級よりも遥かに大きい。宙に浮く小大陸といえる程だ。
かつて最大の軍事要塞だったこの都市はガルガリン級完成以降、至法院の管轄下に置かれ
ある程度の自治権を許された都市ユニットとして再生を遂げた。
巨大な杯からあふれ出るように零れる大河は地に着く前に飛沫と散って再び杯の内へと戻っていく。
杯の底から幾条もの下界に垂れる糸が見える。恐らく補助用の支柱だろう。
地から離れたユニットは幾重にも張られた障壁もあって容易に魔の侵入を許さない。
この世界最大規模の浮遊都市ユニットを多重の障壁が作る幾つもの虹彩や景観の華やかさ、
歴史的な価値等から人は俗に「小神都」とも呼ぶ。

大浮界「レホボト」は地上と隔絶した、一つの独立した「世界」であるといえた。
207通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 21:51:55 ID:???
「ヘブンス」
ttp://up.spawn.jp/file/up2559.jpg

その…なんだ、すまん。
描写が悪いんだよ描写が!羽十二枚とか描けねえよ、馬鹿じゃねえの!?俺!
208通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 22:31:43 ID:???
ロマサガのボスかww
209通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 22:32:45 ID:yFQFY9d8
                 |;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;|
                   |;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:|   
                    |;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;|
                 |_;:_;:_;:_;:_;:_;:_;:_;:_!
                 |;:_;:_;:_;:_|_;:_;:_;:_;:」
                 fT 、_ `"'''"´ _,.゙!}
    r―、-、          tj、 t苙、 ,ィ苙ア lノ
    ',  ヽ ヽ         ',':,   ,! l、  ,イ
    l   !"´!         ヾ! ,.ィ竺t:、 リ
    l   l  l         人.'´三`' /l          f'^i-、__
    |   |  |,. ―- 、_r≦´、、 `'ー' " ト、       {゙ヽ丶ヽヽ
    |   |_|_::::::::::::::::::::::::::::::::::`ヾミ丶、、ヽヽー-、_  ヽヽ丶ヽヽ
    |  /   i\::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`丶.`'=┘::}:::::::`,==、! ,l_.l,..ヽヽ、
    ト、_.|    l / ̄`ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::`'ー-一'::::〈::ヽ ゙',   、_ ',
    ノ  `'ー‐(⌒ヽ ノ l::ヽ:::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:ヽ ゝ -‐ァ
   ,! __,,.. -r-、`'ーr'´ ノ、:::ヽ::::::::l!:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヾヽ   ;'
    l       ヽ_,.ノ  /::ヽ}::::'i,::::::|l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ丶、_,. -‐
   {  -‐' ´ ̄ソ  /::::::::::::::::|l:::::||::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l!:::::::::::ト-

ttp://www.nicovideo.jp/watch/ut6A4nX-R0yYM

「東方軍vs陰陽軍の戦に参加するのだ」
210通常の名無しさんの3倍:2007/02/15(木) 23:20:01 ID:???
>>207
ヘブンスキター!! ……東方キャラ?
211通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 00:14:46 ID:???
>>209
業者乙
212通常の名無しさんの3倍:2007/02/16(金) 16:46:46 ID:???
>>207
メカ部分がアクセント程度にしかないのが逆にいいwww
213通常の名無しさんの3倍:2007/02/17(土) 03:41:17 ID:???
ちと、投下遅れるかもです、すんません。
まとめの仕方については
当方初めてでまるでわからんのでご指南くだせえ。
214通常の名無しさんの3倍:2007/02/18(日) 17:32:31 ID:???
ただひたすらに待つ
215儚散天楼/1:2007/02/18(日) 22:41:49 ID:???
空を舞う杯の上。
外周を囲むように点在する泉から吹き上がる水柱は真昼の星霜を生み出し、
それらはやがて天景に流れる淡雲と虹の線形を幾つも描き出す。
地に目を移せばなだらかな傾斜に段を重ねて立ち並ぶ積層都市を支える尖塔群。
所々には手付かずの緑地が一帯の眺望に心地良いアクセントを加えている。
そして、中央に位置する円環には古都の雰囲気をそのままに残した街並み。
舗光砂が敷き詰められた滑らかな曲線道路と、滔々と流れる清河の間に栄える建造棟。
都市を高みから見下ろせば、まるで幾条もの金糸が紡ぐきらびやかな織物。
白亜の鐘搭立つ都の中心、織地を二つに割る大通りを抜けて
小高い丘にある鬱蒼と茂げる樹海を抜ければ目前にきらびやかな宮邸が露になる。

開け放しの窓から爽風が頬を撫でる。
来客用車両から、少年は過ぎ去る「レボホト」の町並みをぼんやりと眺めていた。
「街が賑わってる、っていうか騒がしいな」
「そりゃそうよ。これからお祭りだからね」
四人は太守「バニ・サウル・ツェファンヤ」との接見に臨む為、太守公邸に赴く途次にあった。

過去、軍事拠点だった浮界は移動要塞たるガルガリン級の搭乗によって無用の長物と化し、
中でも最大規模の「レボホト」は破棄にしろ維持するにしろ莫大な資源の浪費になるという
厄介な代物に成り下がってしまった。
そのような扱いに困る代物を時の大祭祀長ザブド・シャンマが多大な権力を行使して手中に収めたのが
都市としての「レボホト」の始まりであった。
216儚散天楼/2:2007/02/18(日) 22:43:03 ID:???
「…で爺さん、体よく掠め取った箱庭の手入れに、せっせと励んだという訳だ。
それこそ軍事施設の面影が跡形も残らなくなる位に」
窓枠に片肘を突いて横に座るダネルに講釈をぶつヒーリィである。
「奴さん相当野心的な人物だったらしいぜ、最終的には遷都まで目論んでいたっていうからな」
「それじゃここってもしかしたら「小神都」どころか本当の神都になってたかもしれないのか」
「さあ、どうだろう。いくら至法院のトップたって一個人があれこれ画策したところで聖府は
どうこうなるようなもんじゃねえよ。結局、過ぎた野心を抱いたシャンマ大祭祀長は失脚、
以来ここはそのままなんとなく至法院の管轄になって、院の任命した太守がここを治めるって事になったのさ」
「色々、複雑だな」
「ああ。さっさと太教院に譲り渡しちまえば良かったのによ、後が面倒ったらない」
「?」
「太守は代々ツェファンヤ家が引き継いでてな。昔から三院に人材を輩出する由緒ある血筋で、
今の太守も祝生司長の孫にあたるんだと。おかげで中央もそう簡単には手が出せない訳だ」
自治権を備えたこの地は真世界の中にある一つの国家ともいえる存在であり、
建立の経緯もあってか外部からの干渉を過度に嫌う癖があった。
「…じゃあ、もしかして俺達、探り入れに此処に来たのか?
「インフェルノ」からの都市防衛ってのをダシに使って」
ダネルは「インフェルノ」の襲撃経路から割り出した最有力候補地として
自分たちがこの場所に派遣されたのだと聞かされていたし、理解もしていた。
彼らの目的は「インフェルノ」討伐であって、反乱分子の調査ではない。
そんな事は内部諜報機関である神智院にまかせておけばいいことだ。
そういきり立つダネルを制すヒーリィ、
「奴が来るかもしれないのは本当だぜ。それに、「バド・シェバ」の一件聞いたろ?
あれは明らかに「インフェルノ」だけの仕業じゃない」
「バド・シェバ」強襲の詳細は事件後すぐに彼ら討伐隊の元に舞い込んでおり、
報告にあった所属不明のMSの存在は目下、彼らを悩ませている事案である。
「…協力者か」
以前二人で話した「インフェルノ」強奪犯複数説がダネルの頭をもたげる。
「ああ。でもってここはどうも臭い。「SIN」かもしくは別の外部勢力と
なにかしら関係があるんじゃないかってのがまあ上の見方だな」
「そこから「インフェルノ」と繋がるかもしれない、と…分かった」
ヒーリィは指令の出所をわざと濁した。「インフェルノ」打倒に燃える少年に
泥臭い派閥政治の内幕などをあえて教える必要もあるまい。
217通常の名無しさんの3倍:2007/02/19(月) 02:01:38 ID:???
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
218儚散天楼/3:2007/02/20(火) 18:11:00 ID:???
「そうそ、これもお仕事、ほら、しっかりしないと恥かくのはこっちなんだよ?」
ディミはダネルの襟の折り目を軽く正してやる。身を寄せた折微かに漂う芳香。
一行が今、身に纏っているのはいつもの制服とは違う正装用の法服であるが、
彼女はその上いつもは結って纏めた赤毛を肩まで下ろし、
銀の髪留めで前髪を左右に分けている。
そのしなやかな赤の流線は襞の多いゆったりとした法衣とあいまって
平素にはない柔らかな雰囲気を醸していた。
普段若干きつめな印象のある面立ちもこうしてみれば、
戦地という男の世界で生きる為に彼女が身に着けた仮面に過ぎないことが分かる。
「…そうして少年は匂いたつ彼女の色香にふつふつと沸く思慕の念を禁じえなかった…」
「人の内面を捏造するなっ!」
からかう彼女はにんまりと笑い首を傾けて髪をかき上げてみせる。
「へへ、太守直々のお招きだもの、結構気合いれてみましたよ。
褒め言葉の一つや二つかけたって罰は当たらないぞ?」
「おう綺麗だ可憐だ美しい」
そうヒーリィ。
「言葉が死んでるので却下。もちっと素直な言が聞きたいよねー、ダネル?」
「うーん」
感想を求められたダネルは返答に窮する。まじまじと見詰められれば薄い紅をひいた唇が嫌でも眼に入る。
「そうだな…いつもより」
「ふん、いつもより?」
「…髪長いよな」
「素直っていうかみたまんまでしょうが!…戦闘以外にももちっと脳みそ使いなさい!」
「ははは、馬鹿だなダネル。こういう時は嘘でも世辞でも適当に褒めちぎっておだてときゃ相手は結構満足するもんだぜ」
「あんたはあんたでも少し誠意もてヒーリィ!」
彼女はあきれたようにかむりを振る。
「…ったく、足して二で割れば丁度いいんじゃないのあんた等。
ちょっと、ルエビも何とかいってやってよ、そんな端っこにいないでさ」
話を振られた少女は所在なげに座席の陰に隠れていた。
種々の式典に際して身に着ける法服は着慣れたもので様になっているが、被った頭巾を目深に寄せているので顔はみえない。
「いえ、私は少し…」
ディミは拒む少女を熱心に説き伏せる。
「駄目よルエビ勿体ない!この可愛らしさを隠すなんて世界に対する冒涜いえもはや罪、
神徒として神民として甚だ許されざる行為だわ」
「…何をいっているのやら」
なんでも今回艦を降りるにあたってクルーの女性陣ほぼ全員で寄ってたかって
ルエビの髪を弄り回したという話だ。仮にも聖府上層に関わる貴人に対して怖れ多い話ではある。
(それは嫌にもなるだろうよ…)
ダネルは内心同情を禁じえない。
219儚散天楼/4:2007/02/20(火) 18:14:47 ID:???
「ほら、いいからさっ」
半ば強引にたくし上げられた布地から現れたのは、常とは趣きの異なる少女の相貌。
丁寧に梳かれた髪は細かに編まれて髪に結わえられた明るい紐飾りが彩りを添える。
首元で軽くカールした銀髪が白い肌に映え、はにかみに紅く染まる頬はいつにもまして眩しい。
ディミの魅性を咲きほこる繚華の優美とするなら、ルエビのそれは淡やかに開く蕾の初々しさ。
神秘的な佇まいにかえてこもれでる明るさを発散するその顔立ちはダネルはおろか
ヒーリィまでをも神妙にさせる程、同性のディミにしてからがうっとりと見入っている。
「色々手を入れてみたんだけど、素材がいいと変にいじらない方が映えるんだよね…」
頭に手をやりながら上目遣いでおずおずと尋ねるルエビ。
「なんだか落ち着きませんよ…。これ、変ですよね?」
「いやいや、似合ってるよ嬢ちゃん。これはお世辞でもなんでもなし。な、ダネル」
「ああ。少なくとも俺は、いいと思うけど」
「…貴方がそういうなら、」
ほうとため息一つ、静まるルエビ。代わりに沸騰するディミ。
「はははっ……私の時とはだいぶ対応に差あるよね、貴様等」
彼女は怒気のこもった笑顔を浮かべつつ恐ろしい力で二人の背中を抓りあげる。
「いてえっ!…肉が、肉が裂けっ、」
「いやいやいや、俺は、俺は褒めてたじゃん?ちょっ、あっ、ぐぁ…!」
車中にて少年二人の叫喚がこだました。

まだ痛む肌をさすりつつ、ダネルは同僚に釘を刺す。
「あんまりはしゃぐなよな…俺達はさ、要するに「人質」ってことなんだぞ」
太守に招かれたのはG級の四人のみであり、Gは選ばれた者が乗らない限り動かない。
つまりG搭乗者全員を招き入れる事で浮界側はこちらの主戦力を押さえたと考えて差し支えない。
加えて、自治圏ゆえの領域不可侵を持ち出されれば、「レボホト」に戦艦を停泊させる訳にもいかず、
目下タルシス艦隊は浮界近隣空域にて待機状態にある。
「分かってるって。だから着艦許可の交渉も含めて会いに行くんでしょ?
ならさ、警戒を解く為にも少しでも相手に好印象アピールしなきゃさ」
「…一応いっとくが太守って女だぞ」
「えっ、そうなの!?」
「ヒーリィ、教えて貰えませんか。
私、世事に疎いので存じ上げないのですけど、太守閣下ってどういう方なんでしょう」
「ああ、嬢ちゃんが知らないのも無理ないよ。
バニ太守ってのはなかなかの難物でさ、生まれてから一度も外に出た事がないんだと。
おかげで中央でも思想信条はおろか人物像すら掴めてないって有様で」
「じゃ、会ってみたら案外話の分かる人だったりして」
「残念ながらその可能性は低いね。外部との関わりを避けるような手合いは余程の厭世主義者か
裏でこそこそ何かを企ててるような奴か、もしくはその両方さ。
そういう人物の招待だ、多少は用心してかかった方が身のためだわな」

果たして一行の嫌な予感はものの見事に的中することになる。
220儚散天楼/4:2007/02/20(火) 18:34:55 ID:???
1.2.3.4一纏めなのに間あいてすまん
戦闘まで時間かかりそうでもいっこすまん

かませの悪役三機の名前、何がいいかな?
221通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 18:55:48 ID:???
どんな名前、か…
「強そうなの」とか「噛ませっぽいの」とか指定があるとありがたいんだけども。

とりあえず、キリスト教から色々小物っぽい悪魔の名前を引っ張ってきてみる。
・マーレブランカ(悪の爪野郎)
・マーラコーダ(悪の尾野郎)
・スカルミグリオーネ(髪乱れ野郎)
・アリキリーノ(翼曲がり野郎)
・カルカブリーナ(霜踏み野郎)
・バルバリッキア(巻き顎鬚野郎)
・リビコッコ(放蕩三昧野郎)
・ドゥラーギニャッツォ(デクの坊野郎)
・チリアット(太っちょ野郎)
・グラフィアカーン(引っ掻き野郎)
・ファルファレッロ(軽薄蝶野郎)
・ルビカンテ(赤ら顔野郎)
・グラフィアカーネ(ひったくり野郎)
・カニャッツォ(野良犬野郎)
222通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 19:28:51 ID:???
強そうだけど退場も早いんで、噛ませっちゃ噛ませです

主役級と歩調合せるべきか、別系列のMSだから雰囲気変えるべきかで悩んで
結果ぶん投げようと思いました
そんなもんなので、ごくてきと−にお願いします
223通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 20:50:13 ID:???
レビヤタンとベヒモス
224通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 21:37:35 ID:???
>>223
それは確定枠。出番遥か先だけど
225通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 21:53:13 ID:???
やっぱ悪魔系で鉄板かなぁ
226通常の名無しさんの3倍:2007/02/20(火) 22:55:04 ID:???
スケルトン
ゴースト
グール
227通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 00:52:56 ID:???
バジリスクとコカトリス
228通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 00:57:55 ID:???
ユニコーンとモノケロス
229通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 01:22:21 ID:???
ステノー、エウリュアレー、メドゥーサ
230通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 01:39:10 ID:???
チル(悪寒)
イル(病気)
プレイグ(疫病)
231通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 19:46:10 ID:???
ありがとーございました参考にしますです
232通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 22:08:59 ID:JzzNqqnz
携帯でも画像が見たいものだな
233通常の名無しさんの3倍:2007/02/21(水) 22:55:59 ID:???
うぷろだがね
携帯用リサイズサービスが使えるろだを使ってくれると嬉しいかな
234儚散天楼/5:2007/02/22(木) 01:23:04 ID:???
棟々に下がる垂れ幕。街路は人で溢れかえり、鳴りやまない雅楽の喧騒と
舞踏の闊歩に街は一際光彩を際立たせる。
今期で十八を数えるこの大祭儀は元々、九年毎にゆらぐ霊場により活性化する魔象を
鎮めるという名目の祭りである。
とはいうものの、神都で行われる格式ばったものとは異なり、
「レボホト」の祭儀は活気に溢れた純粋なお祭り騒ぎの感がある。
なんでもこの大祭の期間、特に中央での祭礼が行われる四日間は
浮界のほぼ全人口が中央都市に集まるというのだから圧巻だ。

そんな中、棟を縫って巡回する「ボール」達。縁に細かな装飾を施された目玉を
しきりに右往左往させている動き回る球形機に物々しさはなく、
不思議と街の雰囲気に溶け込んでいる。
「文字通りの監視の目ってとこか。確かに人間相手だったら、あれで事足りるだろうな」
「けど、あんなのじゃMSには敵わない」
中央広場の縁石に腰掛けるヒーリィとダネル。
「こうしている間にも奴がくるかもしれないってのに…」
頬杖をしながら気だるげに応えるヒーリィ。
「…そうならない事を祈ろうや」
祝福の白い炎柱に囲まれた小搭に据えられ、
広場を見下ろす白像はなにあろう聖霊機「ヘブンス」である。
「ああいう仕事は早いこと…」

話は先日に遡る。

235儚散天楼/7:2007/02/22(木) 01:25:37 ID:???
-----

贅を尽くし過剰なまでの装飾に彩られた屋内。見事なまでの懐古趣味、
貴人の戯れと呼ぶにはあまりに夥しい資源の浪費。
まるで、時が止まってしまった様な空間。
恐らくここは大祭祀の古びた夢を保蔵するの豪奢な巣窟なのだ。

「「ヘブンス」をお借り受けしたいのです」
太守の臣下を務める「ヨナ・ラムセイ」はそう、切り出した

太守の間から遠ざけられた十数人の侍女を除けば
傍らの老人はヤアジヤ・シムイ卿。執政を兼ねる第一の臣下である。
反対には侍従役らしき青年、ヨナ・ラムセイ卿。
更に御付の臣下と思しき男が一人。パルオーシュと呼ばれるその男は他の二人から一歩離れた場所に立っている。

「…ご存知の通り今日から十八周記の中心祭礼が行われます、その折にかの神機を祀らば、
我らが民もさぞ慶ぶ事でしょう」
(我等が民…ねえ)
心中ため息をつくヒーリィ。
俗称とはいえ神都の名を冠する都市である。
神都を飾る「ヘブンス」はさぞや魅惑的な装飾品であろう。
それは、まだいい。

(問題は、だ…)
燭台に天然の灯りが点る。
室内に滞留する蛍砂(一握りでMS一機と等価といわれる物質だ)は
大気そのものを和やかな明るさで満たす。
天幕の奥に鎮座する太守、バニ・サウル・ツェファンヤ。
あでやかな衣装に身を沈ませた彼女はまだ幼い少女といっていい年頃だった。
艶のある金髪。整った顔立ち、だのに険の深い表情がすべてを台なしにしてしまっている。
不思慮にダネルらを睥睨する瞳にはいいしれぬ倣岸さが宿っていた。

ひそひそと小言の応酬を繰り広げる四人。
(「ちょっとヒーリィ…聞いてないよっ、あんなガキだなんて…!」)
「てっきりいい年頃だと思い込んでたんだよ!だって、祝生司長ったら、
いつ召されてもおかしくねー耄碌爺だぞ?どれだけ恥かきっ子の恥かきっ子だ!?」)
(「あの、そういう問題ではないのでは…」)
(「そーだよ、不味いぜ。他人の理屈に合わせる気がない分、そこらの大人より性質が悪いかも」)

果たして彼等の案じるとおり、幼さゆえの不遜さに貴人としての尊大さを
仕込まれて育ってきた少女はまさに頑迷固陋の権化。
とりつくしまもなにもあったものではなく、浮界への着艦要求はにべもなく拒否されるのだった。
236儚散天楼/8:2007/02/22(木) 01:31:24 ID:???
「…今は、大祭のとりおこないにて忙しい。物騒な物音で民を脅かされてはたまらん
祭りが終わってから、出直して来るがいい」
太守の言にダネルは思わず反駁する。
「その間、相手が悠長に待ってくれるとでもお思いですか?「インフェルノ」は、怖い相手ですよ」
「そやつが現れるどうかとて定かではなかろうが?」
「何かあってからじゃ遅いでしょうが!」
「おい、失礼だぞダネル」
言葉では諌めるふりをしているが。本気でとめるつもりは無いらしい。
むしろこの場の成りゆきを見守っているといった風だ。
「…そもそも「インフェルノ」はそなたら「EDEN」のMSだったと聞くが?
自らの汚点を拭う為に協力を強いる輩なぞ信用できるものか」
意地悪く笑うバニ。どこから漏れたものか存外内部事情に精通している。
「…いや、まさか防衛にかこつけて「レボホト」を接収するつもりではあるまいな?」
(半分くらい当たりだけどな…)
ヒーリィのそれと分からぬほどの苦笑い。
太守の猜疑に満ちた視線にも構わずダネルは訴えを続ける。
「お願いします、閣下。今は内輪同士で揉めている場合じゃないんです。
どうか俺達を信じて下さい、俺はもう奴に灼かれる街をみたくはないんだ…!」
「わしを恫喝するのか?下賤風情が!」
「太守であるというなら、人々を守る義務があるはずでしょう!?だったら」
「無礼だぞ!わしとて民の安全は考えておるっ!」
「閣下、導士殿はこの「レボホト」を案じていって下さったのですから…」
「ヨナ!お前は口を出すでない!」
年下の娘に怒鳴られヨナ卿は情けなく身を縮こまらせる。
「…お待ち下さい閣下。神罰執行者たる「EDEN」の方々の仰ることです。彼等のいうことも一理あるものかと。ここはご深慮下さいますよう…」
好々爺然としたヤアジア卿がやんわりと窘める。
「…ふん、まあいい。ともかく、「ヘブンス」は借り受ける。また、着艦許可に関しては祭儀が終わった後に検討してやる。以上だ」
ルエビに目で訴えるダネル。
(「…いいのか?」)
(「…仕方がありませんよ」)
不意に、それまでやり取りを面白そうに眺めていた男が急な思いつきを装って主に提案した。
「…どうでしょう閣下、結論を出すまでの間、彼の方々にはこちらに逗留していただくというのは。ゆっくり祭礼をご遊行いただくうちに、我等の間にあるわだかまりも消えてなくなりましょう」
「おお、そうじゃなパルオーシュ。それはよい。華やかさでは真世界一と謳われておる「レボホト」の大祭、そなたらにとってもいい土産話になるであろうよ」
交わされる芝居めいた寸劇。
(何もかも予定通りってとこか…)
内心でヒーリィはまたも毒づく。これもまた選択の余地はないようだった。
会見の後、ダネル達一行を部屋に案内する役をいいつかったヨナは平身低頭、
しきりに詫びの言葉を口にする。
「申し訳御座いません。閣下は、その少々神経質なところがございまして、
今は祭期以外の事にまで気が回らないのだと思います」
「それならば、祭礼さえ終われば了承を得られるという事ですか?」
ヒーリィにヨナ卿は恐縮した顔で返答する。
「は、私ごときには到底確約は致しかねますが恐らくは。
それまでどうか、ご辛抱下さるよう…」
期待してもいいものかどうか?

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237通常の名無しさんの3倍:2007/02/22(木) 01:42:01 ID:flgsdqrR
支援
238通常の名無しさんの3倍:2007/02/22(木) 02:33:25 ID:???
また、変な所で切れてすまんすん
>>232>>233
…う…さっぱり分からないっ…!
…そうともっ…俺は…!うぷすらおっかなびっくりの、いわば、素人…!
リサイズなんて言葉にしてからが、はじめて耳にする用語っ…!
…土台、こんな人間が…使いこなせる訳が無かった…!
この、果てしない電子の網に…弄ばれて…挙句…ただ、沈むのみっ……
…ううっ…!ごめんなさいっ……!
239通常の名無しさんの3倍:2007/02/22(木) 16:54:57 ID:???
ワロタwwwww
( ・∀・)「ざわ…ざわ…」して宜しいでしょうか
240儚散天楼/9:2007/02/22(木) 21:11:56 ID:???
-----
「…とんだ長居だぜ…。あのガキ、自分中心に世の中回ってると思ってやがる」
「事実だろ。少なくともこの中にいる限りは、さ」
しかし、小世界での道理全てが外界に通用するものでもない。
とりわけ、圧倒的な暴力に際しては。
「…本当に「インフェルノ」が怖くないんだろうか?」
「もしかしたら、此処が襲われないっていう「確信」があるのかもな」
協力・内通の疑いはますます濃くなる。
「だとすると罠かな、これ」
「かもしれない」
「なら!」
ダネルを制するヒーリィ。
「可能性の話をしてるんだ、先走るなよ。それにもし、疑い通りだったとしたら
尚更慎重に立ち回らなきゃまずいだろ?どっちにしても焦りは禁物だぜ」
「…そういうもんか?」
「そうそ、動く時は動く。待つ時は待つ。人間、辛抱が肝心よ?」
いつのまにか群集の輪から出てきたディミが横でうんうんと頷く。
腰からのラインをくっきりと出す踝まで届く藍色の長衣。
合わせた絹の上衣は豊かな曲線を描いて上体を包み、
柔らかく波うたせた赤毛から覗く細かな意匠を施した銀輪が光る。
「…どこらへんに辛抱の跡があるのか俺に教えてくれ」
「いいじゃん別に。ずっと戦闘続きだったしこういう機会に一息入れたって
悪くないでしょ。ど、似合う?」
「裾踏んで転びそう」
無言で彼の頭を引っぱたくディミ。
人垣の向こうでルエビの声がする。小柄な彼女の姿は列なす人影に隠れてみえない。
「ったくもー、ほら、迷子にならないようについていってやんなさい」
ダネルを送り出した彼女はヒーリィに口を寄せる。
「…なあんか、余裕ないね」
「そうか?あいつ、元からあんなだろ」
「うん。普通は普通なんだけどねえ…それがちょっと気になるっていうか」
棄民の一件の後、ダネルはすぐに復調した。今では表面上、前と同じかそれ以上に快活である。
しかし、ディミはそれとはなしに感じているのだろう。彼の昏い情動は消え去ったわけではない。
むしろ奥底に沈滞する感情は以前に増して濃く深い。
「ああみえて一人で抱え込むからね」
「優しいね。恋?」
「馬鹿。さてと、いくつかよさ気な細工物屋みつけたんだよね。
ちょっと見て回ってこようかな」
「ああ。俺は寝てるよ」
上司の愚痴と女の買い物には極力つきあわないのがヒーリィの信条である。
「あ、そ。じゃ、あとでね」
流動する群集を横目に、しばし思案にふけるヒーリィ。
(…一応、「保険」はかけてあるが、さて)
ふと、上空をくるくるとせわしなく動く「ボール」と目が合わさった。
「……こっち見んな」

241儚散天楼/10:2007/02/22(木) 21:12:52 ID:???

淡橙の衣を目印にはしゃぐ少女についていくダネル。ごく簡素な色調の装いはかえって彼女を眩さ際立たせている。
「張り切りすぎだって、おい、ルエビ」
「私こういうの初めてですっ」
呼気も荒いその口調からありありと興奮がみてとれる。
「「ヘブンス」乗ってれば式典なんかには事欠かないだろ?」
「いいえ、いつだって見下ろすだけでしたから!ああっ!」
興味を引くものの方へ手当たり次第に駆け寄るルエビの表情は喜色に満ち満ちている。
「あとでへばってもしらないぞっ?」
古風な噴水を幾重にも囲む斉歌の輪に入るルエビ。
弦と笛とが奏でる即興の奇想曲に快哉の群舞はいっそう色めきたつ。
詩吟に波打つ華やかな喧騒の中、唄句口ずさむ少女の透き透った音律は歓びに跳ねるよう。
(今だけは、ま、いいか…)
少女の姿を見守りながら、ダネルはそう、小さく笑う。

同日同刻。
街に遠間から射す影が一条。
高みより祭典を苦々しげに眺める鳶色の瞳があった。
「播祭の時期か…」
少年の古層にある記憶を揺り起こす、祭礼に沸く街、佇む「ヘブンス」の姿。
色褪せた長衣に身を包む彼の周囲は暗く不吉に澱んでいる。
「D」と呼ばれるその少年。
祭りに浮かれ恩寵の響きに包まれるこの街にも直に災厄の火が降り注ぐだろう。

彼が存在する場所、其処は常に深淵の昏闇なのだから。

242通常の名無しさんの3倍:2007/02/23(金) 00:28:13 ID:???
はいやっと「起」終わり。冗長あいすみません
>>239
存分にざわってくださえ
携帯うぷは引き続き調査中…
243通常の名無しさんの3倍:2007/02/23(金) 19:29:19 ID:???
これでみれる?
「セイクリッド」(ちょい改定)
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1355.jpg.html
244通常の名無しさんの3倍:2007/02/23(金) 19:33:49 ID:???
245通常の名無しさんの3倍:2007/02/23(金) 19:41:43 ID:???
どことなくオービタルフレーム的なラインも混ざってるよな
腰がエロい
246通常の名無しさんの3倍:2007/02/24(土) 00:07:47 ID:???
良いくびれだ
247通常の名無しさんの3倍:2007/02/24(土) 00:32:30 ID:+hSpc9VM
すごく…カッコイイです…
248儚散天楼/11:2007/02/25(日) 01:58:08 ID:ybOrcb7s
ダネルは機影を一瞬見失う。
視神経を介して捉えられる幽視界は六面。六つの「目」から逃れた敵機。
間をおかずモニタも死界に機体を振り向けるダネル。
「上かっ!」
と、五月雨れる鋼弾。
スラスターで飛び退るものの全てはかわし切れない。
コックピットを見舞う衝撃。
「やっちまったか!?」
制動感覚に違和はない。損傷軽微。
彼はそのまま戦闘を続行する。

激しい剣戟を舞い散らせるGMの改良機、白と赤の「カスタム」が二機。
内、白く塗られた「カスタム」の方に乗っているのがダネルである。
(流石に反応が鈍いっ…!)
ダネルは「セイクリッド」以外のMSに乗った経験が余り無い。
それゆえ聖霊機と一般MSとの差異に必要以上に梃子摺っていた。

MSの駆動を司る骨格、重層フレームは魂核から操縦基を介して送られる霊子流によって反応する。
その際、霊子の流れは操縦基と繋がる乗り手に、知覚反応としてフィードバックされる仕組みだ。
つまりMSにとってフレームは運動性、追従性、感知能力を兼ね備えた骨であり肉であり神経といっていい。
また、フレームは霊流のパルスを伝える為、強度、剛性を失わないように慎重に加工された重層構造になっている。
基本的にフレームの層の数は多ければ多い程流れる霊質の量が増えていく(その分加工も覿面に難しくなるが)。
いいかえればフレームに施された重層処理の多寡がMSの明確な性能さとして表れるということである。
例えば、量産型MSの層数は凡そ千から二千五百。
対してG級のフレーム層数は約一万超。
これは人間が持つ神経系端末ほぼ全てでやりとりする知覚情報総量を生み出すに足る数である。
要するに、G搭乗者はMSを生身と同じように五感を駆使して動かせるという事だ。
(余談だが、Gが霊流の微細な変動によって統御するビットなどの特殊兵器や、
制御の難しい超高威力武装を扱えるのは、知覚によって霊子を直観的に把握できる程に卓越した
フレームの知覚性能に負う所が大きい)。

そんな文字通り桁違いといえるGとの一体感に慣れてしまったダネルでは、
新規改良型であり、フレーム層数三千超の「カスタム」であっても動きに不満を覚えるのも無理からぬ話だった。
(動きが、もっさりしてっ…)
マシンと操縦者の僅かな齟齬。神経の間に薄皮一枚の衝立あるような歯がゆさがつきまとう。
錘のついた手足を振り回す感覚に舌打ちをするダネル。
加えて、元来ムラっ気のある性質でもある。実戦ならともかく、
今のような状況では今一歩身が入らないというのも事実だ。

「見よ。此方の方が圧倒的に押しておるわ」
特大の映写球を覗き込み太守は愉悦に浸る。
小さな村ならそのまま入ってしまう程の演習場を見下ろす、
屋外に掛かる天幕の下、典雅に設えられた即席の観覧席にて、
少女はいかにも女王然とした尊大な態度でMS二機の戦いを眺めていた。
「これが神機の乗り手か?「EDEN」の筆頭とて噂ほどではないの…」
幼い太守の遠慮仮借ない一言に、同席するヒーリィは返す言葉もなくただ苦笑いを浮かべるほかない。
一言でいえばこの戦闘は浮界側と「EDEN」側の代表との親善試合、模擬戦である。
249通常の名無しさんの3倍:2007/02/25(日) 02:01:47 ID:???
あげちまった…ごめ。
250通常の名無しさんの3倍:2007/02/25(日) 19:37:22 ID:???
捕手
251儚散天楼/12:2007/02/27(火) 07:27:08 ID:???
幾つもの隆起した岩盤を挟んで交わされる銃撃のやりとり。
機体性能は互角のはず。だが機体特性を熟知した手ごわい立ち回りにダネルは圧倒されていた。
赤い「カスタム」の、複雑に入り組んだ岩場にあって
少しのぶれもなく上昇・旋回をこなす様は完璧な戦形把握の証左。
中距離戦では単純な反射反応に頼ったやり方ではなく経験からくる予測に基づいた操縦がものをいう。
事実として両者の射撃精度の差は歴然としており、ダネル機の銃撃は空を切るか岩を穿つばかり、
一方で敵の銃弾は的確にダネル機を捉えてくる。
それでも防盾頼りに距離を縮めた白の「カスタム」を突然の発光が襲う。
携帯榴弾を目くらましに使った敵機、岩間を縫ってこもれ出る閃光に視界半分を奪われたダネル機。
牽制にばら撒かれるバルカンを矩形の防盾で軽くいなし、
お返しとばかりに蹴撃を見舞う赤い「カスタム」。
「がっ!」
離れれば継ぎ目のない巧みな射撃に足を止められ。無理に近づけば見失う。
(くっ…遊ばれてるなっ…)

「小技も練れてる。奴さん、相当な腕だわ」
ヒーリィも認めざるをえない見事な操縦技術は余程の研鑽の賜物だろう。

頃合良しと見るや機銃を捨てて一気に間合いを詰める赤の「カスタム」。
抜き放たれた加熱帯剣は突き出された防盾を真一文字に切断して、尚も白の「カスタム」を追う。
(これは…やられるっ…!?)

落とされる刃に殺意の閃きを感じとるダネル。

すかさず、戦場で培った殆ど動物的ともいえる勘がしらず
ダネルを、乗機の「カスタム」を反応させた。

振り下ろされる剣と機体の僅かな間隙に半分になった盾が滑り込む。
火花を散らす盾をあとに残し、ダネル機は敵機に向けてブーストを全開した。
強引な力でおさえこまれては、いかな技術も発揮しようがない。
爆発的な加速圧をもって赤の「カスタム」を組み伏せる白の「カスタム」。
が、組み合う二機が猛進する先にはそそりたつ岩柱。
このままでは数瞬とおかず両機体は諸共に岩盤の餌食になる。
衝突の寸前、咄嗟にダネルはブーストを水平から下方へと捻り込む。
方向を変えた加速力は加重となって、地に押しつけられた「カスタム」の赤い装甲を軋ませる。
方膝をつきながらもバルカンでくびきを断って横方へ逃れ出る赤い機体、
だがその隙を逃すG搭乗者ではない。
姿勢を立て直した赤の「カスタム」の前には既にダネル機の剣がつきつけられていた。
252儚散天楼/13:2007/02/27(火) 20:24:39 ID:???
演習上から丘を一つ上がった観覧の席では貴人の会合が繰り広げられていた。

「いや、参りました。流石にお強い」
いっそ無邪気とさえいえる、にこやかな微笑み。
赤の「カスタム」から降りたパルオーシュはダネルに声をかけた。
パルオーシュは、真世界内外で近年増加しつつある魔災に備えて、
新たに立ち上げられたレボホト自警組織の長であり今回の懇談にも
その関連で加わっている。
彼はMS操縦の技量だけでなく政治的な面からしても相当のやり手らしく
その腕は「EDEN」でも配備数が少ない「カスタム」を調達してきたことからも窺い知れる。
「いえ、こちらこそ、最後のは偶々上手くやれたってだけです」
先刻感じとった殺気は気のせいだったのだろう。ダネルはそう結論づけた。
「まったくだ。いい勝負どころか、あのまま銃で押されてたら使われてたら完全に負けてたぞ」
喜色にざわめく人の間を縫って来たヒーリィが苦言を呈する。
「…悪い」
「レボホト」側にとって、この模擬戦は力をみせつける示威行動の一つといえる。
「EDEN」としては逆にこの機会に執行機関の実力を披露して武力配備の必要性説きたい所だった。
それがこの体たらくである。ダネルとしては返す言葉もない。
253儚散天楼/14:2007/02/27(火) 20:25:30 ID:???
「…何故止めた、パルオーシュ。おぬし程の腕ならあそこからいくらでも切りかえしようもあるであろ」
むっつりと一際高い台座に座り込む太守は勝敗への不満を隠そうともしない。
臣下を迎え入れる言葉には労いのひとつもなかった。
「お言葉ながらあの時点で勝負は決しておりましたよ。
彼がその気ならそのまま剣を止めずにこちらの頭に叩き込めたはずでしょう」
「調子に乗って戯れておるからじゃ。MS部隊を預かるお主がこれでは「レボホト」も
安泰という訳にはいかぬな…」
男はよほどの胆力の持ち主なのか言葉の棘に気づかない風で
主人の言をさらりと受け流した。
「恐縮ですが閣下、それは買い被りというもので、私はずっと全力でしたとも。
むしろ手心を加えられていたのは私の方かと」

ディミがそっとダネルの脇を突つく。
「あんた、手を抜いてやってたの?」
「そういう訳じゃないよ…だってさ、借り物の機体壊しちゃまずいだろ?」
どうやら常日頃から整備長にどやされている成果が思わぬ所で出たようだ。
「代わりにG搭乗者の面子潰しちゃ駄目だろうが」
と、ヒーリィ。
「流石は聖霊機の駆り手、私如きが敵わぬのは当然ですな…
閣下、私めの力が至らぬのは情けない限りではございますが
ここはアラクシェ導士を称賛すべきところかと」
皮肉にもまるで応えない臣下に興味を失ったのか太守は鷹揚に応じる。
「は、よいであろ…。聖別者どのに惜しみない賛辞を」
太守の言に合わせて、政治的駆け引きなどとは無縁の貴人の無邪気な喝采がわき起こる。
「この上花までもたせられて、立つ瀬ねーなー。俺がでりゃ良かったかも」
「ううっ…」
「ちょっと、あんまりいじめないでよ。唯一のとりえといっていいMSの腕前を
完全否定されたダネルの気持ちを少しは考えなさいっつの」
「ううう…お前の方が容赦ないよディミ…」
「お疲れ様でした導士。ささ、あちらに席を用意してありますので、演舞でもごゆるりとご覧下され」
ヤアジア卿がにこやかにダネルに席を勧める。
「EDEN」と「レボホト」、互いのプライドを賭けた勝負も小世界を取り仕切る
この老人にあっては祭りを飾る行事の一つ、会宴を彩るただの見世物に過ぎぬらしい。
高空に外装に華美な装飾を施したGMの編隊が白煙を舞い上げ鮮やかな直光を結んで
天にレボホトの紋を飾る。
こうして会宴の時間は滔々と流れていく。
254儚散天楼/15:2007/02/28(水) 02:09:28 ID:???
「はあっ…」
慣れぬ機体の操作に消耗したのだろう、歓談の輪を離れた少年は深く息をついて
節くれだった木の根元に座り込む。
「あぅふ…ダネルぅ、大丈夫ですかぁ…」
気の抜けた声をかけるルエビ。
「…そりゃこっちが聞きたいよ。いわんこっちゃない」
饗宴の場から一寸離れた、専用の日除けの中に少女は転がっていた。
お祭り騒ぎのつけが出たらしく彼女は先日のはしゃぎようと打って変わった調子で
白い顔立ちを更に白くして力なく座椅子に横たわっている。
「すみませぇん…もう何とかぁ…」
朝からずっとこの状態である。
「まだ休んでろよ。今日はついて来なくても良かったのに」
「いえ、そういう訳には参りません。
「EDEN」を代表してこの地に赴いた身ですもの、私の都合で勝手に休めませんよ。…あぁ」
急に身を起したせいで立眩んだのだろう、ダネルは少女の小さな背中をそっと支えて、ゆっくりと座椅子に戻してやった。
「無理すんなって。俺もこういう場所は苦手だし、暫くはゆっくりさせてもらおうぜ?」
彼女は観念したように目を瞑る。
「では…お言葉に甘えてしまいます」
束の間の爽風と、空を舞うMSの振動音に揺られる午後の一幕。

「法士様、お加減はいかがでしょうか?」
様子を見に来たらしいヨナ卿。
喧騒を避けるように据えられたこの席も恐らくは彼が気を配ったのだろう。
「ええ、もう大分。卿は忙しいのですから、どうぞそちらに専念なさってくださいませ」
「あいや、しかし…」
「ルエビは俺がみてますから。遠慮なんかしないで下さいよ」
「お心づかい痛み入ります。…皆様がいらしてから、バニ様も喜ばれているようでして、
いつもより和やかな様子で職務を果たしております。どうかこの場を借りてお礼を申させて下さい」
「お礼といっても特に何かをした覚えなんてありませんが?むしろ怒らせた記憶しかないような…}
戸惑う少年にヨナ卿はただ微笑み、
「私には何も出来ませんが交渉が上手くゆくよう祈っています。では後ほど」
再び饗宴の場に戻るヨナ卿の後姿。
「苦労してるなあの人も。主人が主人だけに」
「ええ、けれどあの方がバニ太守について語る言の葉は優しい響きをもっていました」
「そうかな、単純に人が良いだけだと俺は思うけど。
……にしても太守、あれで上機嫌だって!?…普段はどれだけ酷い有様なんだ…?」


255通常の名無しさんの3倍:2007/02/28(水) 13:54:30 ID:???
脳内でアニメーションが展開されるぜ(・∀・)
キャラクターの外見が咄嗟に浮かんだアニメキャラに置換されてるのが問題だがw
256儚散天楼/16:2007/03/01(木) 04:03:46 ID:MhJiDqK4
――――――――――
真黒き陰府ともつかぬ息室に禍つ身を横たえたソレは仮初めの眠りを貪る。
鉄の脳髄より零れる果てなき悪夢はふつふつと現に涌き出でて澱と溜まっていく。
澱はやがて地に垂れた糸を伝い伸びる邪なる蔦となって生長を続け
天の揺籃に黒い毒蜜を滴り落とし。
邪濁な滴は点々と虚ろな杯を満たし
せり上がる悪意は密やかにひたすらに閉じた聖域を浸して汚す。
華飾に踊る大天楼を終へと誘う破滅の壊調は低く低く
栄え誇る煌都が謳う礼賛に通低して流れ、次第にその軋音を広げつつあった。
――――――――――
257通常の名無しさんの3倍:2007/03/01(木) 04:44:08 ID:???
またやったー!?
板汚しあいすまんせん




258儚散天楼/17:2007/03/02(金) 06:33:29 ID:oZ+hGZeB
「ようこそ。ツェファンヤの宝珠庭園へ」
ダネル等四人が招かれたのは太守邸の一角にある庭園だったが、
そこは庭と呼ぶには壮観に過ぎる広景だった。
全天を囲うよう細緻に組み合わされた飾柵に
巻きつく蔓の束は流麗にうねり生え庭と外とをわだつ境界を巡らせる。
天頂部にある天窓から入る反射散光が庭内を隈なく照らし、
敷き詰められた緑面を燦然と咲き誇る千々の花蕾が埋め尽くす様は
なるほど珠玉の園に喩えられよう。

陶磁の器を満たす琥珀の表面には舞い落ちた一片の花弁。
飲みさしのティーカップを置いて、ヒーリィはもう一度尋ねる。
「…では我々の申し出を許諾していただいたと受けとっていいのですね?」
「そういっておる。細部の詰めは中央祭の後で、それで良いなタアジヤ?」
自領の趨勢を決めかねない決定事に、太守は素っ気無く応える。
「…はい、閣下さえよろしければすぐにそのように取り計らいます」
事態は意外な進展をみせた。
明後日には着艦許可を含む「EDEN」の「レボホト」への介入措置の
具体的な取り決めを行えるという事だ。
執政役の老人の様子からすると決定は太守の独断らしく
彼女の気まぐれである可能性は否めないがとりあえずは一安心といったところか。
そんな中、
「あの、もっと早くには無理なのでしょうか?」
陶器を手に持ったまま、太守は眉を上げ言を発したダネルをねめつける。
「そなたは不満か?」
「備えるのであればなるべく早い方がより効果的な対応策がとれるでしょう。
相手は大都市を五つ沈めた怪物です。いくら準備を整えても不足ということはありませんから」
すました表情を保つ太守だったが、白磁のカップを運ぶ口元は意地悪い笑みで僅かに歪んでいる。
「さて、どうしたものか。嫌なら取りやめても構わんのだがな」
即座に取り繕うヒーリィ。
「いえいえ不服などは御座いませんとも。彼は外地の出ゆえ、
この様な席での作法には不慣れでして、な?」
ダネルは曖昧に頷く。
こんな些事で太守の機嫌を損ねて決定を覆されてされてはたまったものではない。
彼にもその程度の事は分かるのだが。
(けど、育ちは関係ないだろヒーリィ…)
(うっせ、少しは場の空気を読め馬鹿たれ…)
彼はテーブル下でダネルの脇を小突く。
(ダネル、変な事はいってないと思いますが…?)
(嬢ちゃんも、物事正しきゃいいってもんでもないの…!)
一方、その間珍しい動物でも見るかのような目で不遠慮にダネルを見回す太守は、
「ふむ、焦れておるか。…成る程、いわれてみればみるからに無粋な面構え。
なら導士殿、ここの空気を吸って典雅の趣風を僅かなりとも身につけるとよいであろう」
(顔は、もっと関係ないいっ…!!)
(こらえてこらえて…)
テーブルクロスを握り締めるダネル、背後で宥めるディミとルエビ。
「茶の時間は終わりじゃ、さてと、少し庭を案内しよう」
席を離れる太守の後ろでは命じられるでもなくヨナ卿がいそいそと後片付けを始めていた。
259儚散天楼/18:2007/03/06(火) 05:06:29 ID:???
庭園中央を貫く柱に螺旋を描いて咲き乱れる薔薇の大輪が訪れた者の胸を甘い芳香で満たす。
つたう茨の棘は主に似て目に刺す程に鋭く、それでいて花弁を染め上げる真紅は目を逸らせぬほどの蟲惑。
御神の封土に浮かぶ「レボホト」という小世界のさらにその中にある
入れ子細工の如きもう一つの世界。それが太守の庭壇だった。

「…どうであろうな、ここは。華やぎにかけてはかの「エリド宮」にも劣るまい…」
「EDEN」の構成員にすら明かされていない秘密の花園の名を太守は口にする。
中央から足が遠のく程、かえって耳聡くなるというのは真実であるようだ。
「勿論です、太守閣下。草花に貴賤はありませんもの」
とり様によっては皮肉に聞こえる言葉もこの少女から漏れれば
花を愛でるものへの素直を共感に満ちた無邪気な歓びと響く。
ルエビとバニ。
絢爛の園に花開く白百合の至純と紅薔薇の香貴。
対照なす二人の令姫に天窓から下りた鮮やかな光輪がかかる。

木陰が作り出す明と暗は絶えず動く光源によって緩やかに色合いを変えていく。
蘭の敷布に挟まれた川沿いの小道にふと道端に腰を落とすディミ。
彼女は路傍に咲く胡蝶蘭を折らぬようそっと手繰り寄せる。
空間把握に長けた彼女の両眼は
一見すると無造作に生える野花でさえも庭景を乱すことなく植えられた
地を彩る細飾の一つであると程なく看過するに至った。
精妙な構成の元に生み出される調和空間。
これを維持するのにいったいどれ程の手間隙が費やされるのだろうか。
(本当、贅沢なことで…。羨む気も起きないくらいだわ)

そんな彼女に目を留めたダネルは尋ねる。
「ヒーリィは?」
「後ろ。爺さんと話してる」

ヒーリィとヤアジア卿は庭を散策がてら早くも「EDEN」上陸についての具体的な段取りを交わしていた。
「…こうも滞りなく諸事を進めて頂ければ、使者としての我々の面子も立ちましょう。
この地の事情を鑑みれば、御太守の果断には感謝の言葉も御座いません。
…近年はずっと余所からの介入はなかったのでしょう?」
「いやいや、お気遣いは無用。「EDEN」の特に聖別者の皆様方となれば話は別ですとも。
聖霊機の守護に預かれるなどこの「レボホト」にとってまっこと光栄の至りで御座いましょう…」
段取り交渉の合間、それとなく探りを入れているといった具合のヒーリィ。
こういう点において「EDEN」の幹部である彼は流石に抜け目ない。
260儚散天楼/19:2007/03/06(火) 05:50:11 ID:???
「俺達も一緒の方が良くない?」
「腹芸のきかない君はそこらで大人しく野苺でも摘んでなさい」
「偉そうによくいうよ。爪弾きは自分だって同じだろーに」
「……」
ダネルは小川の水を引っ掛けられた。
「ぶわっ冷てっ!何すんだよ」
「何となく」
「嘘つけ、悪意ありありだろ!こぉの…!」
お返しとばかりに彼が掬い上げた水はディミの脇をそれて見当違いの方向に飛んでいく。
そうして飛んでいく水飛沫は、
「あ、」
「まずっ…」
傍らで、騒ぎ立てる二人をにこやかに見守っていたヨナ卿の顔をぴしゃりと叩いた。

「すっ、すみません!ついうっかり…」
平謝りに謝るダネル。対して柔和な面持ちを崩さぬまま青年は逆に頭を下げる。
「こちらこそ失礼いたしました。ろくに注意も払わずに立っていた私が悪いのですから、
どうかお気になさらぬよう」
そういわれて気にしないわけがない。悪戯をみつけられた子供のように、
罰が悪いことこの上ないダネルとディミだった。

太守や他の臣下とは違うヨナ卿の柔らかな物腰と誠実な人柄もあってか、二人はすぐに打ち解けた。
「…どうかお気を悪くなされませんようにお聞き下さい。実を申しますと、
初め執行機関の方々がいらっしゃると伺った時にはあれこれと気を揉んだものでした
…しかし、今このように皆様のお人柄に触れてみれば全て私の杞憂であったと思えます
「「こいつは「EDEN」でも特別ですから」」
さも不本意げに互いを指さしていう二人。
確かに人が抱く執行者のイメージから程遠い彼等ではある。
「…であればこそ、バニ様も喜ばれたのでしょう」
「?」
「導士のようにああも率直なものいいをなさる方は
太守の回りには久しくおりませんでしたので」
「…それって、素直に喜んでいいんでしょうか?」
単に場を弁えない無礼者と言われている気がしないでもないが。
「良かったねダネル、単純馬鹿で。褒めてもらえたよ?」
「申し訳御座いません、そう悪くとられませんよう…」
笑い声が暫し、ざわめきとせせらぎの音を三人から遠ざける。
261通常の名無しさんの3倍:2007/03/06(火) 23:24:53 ID:27lVTvxD
応援age
262儚散天楼/20:2007/03/07(水) 07:01:27 ID:???

少年は何気なく目の端に覗く光景に注意を向ける。

木立に遠ざけられた向こう、深い調琢に飾られた壁柱の奥に立っている二人を確認する。
今、太守とルエビは一行の輪から離れて二人きりで庭を回っている。
「…外の旅は、楽しかったか?」
「それはもう!とても言葉では言い尽せぬほどです」
気難しい太守といつのまにか親しげに会話しているルエビ。
この少女には不思議と人心を解きほぐす魅力がある。
それを人徳とも呼んでもいいが、彼女の場合相手が
彼女の類稀な容姿と、それに反する天真爛漫な中身との
相違に毒気を抜かれるといった方があたっているかもしれない。
近い年頃同士の親近感もあろうし、何より似通った境遇の両者ではある。

神都から出ることのなかったルエビと、「レボホト」から出た事のないバニ。

光射す花園に対峙する二人の少女の様は一幅の画布。
惜しげなく金地を織り込めた瀟洒な紅紫の更紗に身を包む太守。
花嵐舞いうつ庭にあって、主はひときわ眩しく芽吹いた色鮮やかな大輪。
向かい合うのはもう一つの華、
白く慎ましやかな法服を纏ったルエビの佇まいは太守に比べていかにも儚なく、
百花繚乱す壮景の中今にも消え入りそうにみえる。

だのに何故か、少年の目に霞むのは太守の方だ。
纏う燦色に一条の翳りが射して褪せる光輝。
そう、ダネルの目には映る。

同じ頃。
ディミは、前方の茂みの奥に蠢く何ものかの正体を突き止めようと忍び寄る。
鋭い観察力を備えた彼女でなければ、叢に潜む密やかな気配など気づきもしなかったろう。
周囲の異和感を敏感に察知する彼女の能力はともすれば神経を著しく疲弊させてしまいかねないが、
そうならないのはどんな物事も積極的に受けとめる逞しい精神のおかげだろう。
それを一部では「図太い」と揶揄するむきもないではないが。
そんな訳で、彼女の行動は持ち前の前向きな精神の現れ、はやく言えば純然たる好奇心による。
その結果として、彼女はこの軽挙を心底後悔する羽目になるのだが。

263儚散天楼/21:2007/03/07(水) 07:13:41 ID:???

「…貴公は刻をみる娘なのだと聞いた…」
太守は呟く。
「座興じゃ、ひとつこの「レボホト」の未来を占ってはもらえぬかな?」
冗談めかした調子で太守はそう漏らす。
一陣の清風が二人の頬を撫でてゆく。
ややあって、ルエビの透き通った声。
「…閣下。私の眼は自在に未来を眺望出来るようなものではございません。
その時は決して定やかならず、けれどもいずれは訪れるもの。
そのようなものを怖れてみても詮ないことでありませんか」
いかなる時も不遜な態度を崩す事のなかった太守が僅かにたじろいだ様にみえた。
尚も言の葉を継ぐ凛としたその声はますます透き、しかし力強く響く。
「バニ様、人の心を囲う檻など御座いません。たとえどのような明日が待とうとも、
自らの意志で今を歩む限りその先に迎える刻はきっと素晴らしいものだと。
私はそう、信じます」
そういって、少女はうららかな陽光に映える微笑みを太守に向けた。
つかの間、華美の鎧に生じた瑕疵は無防備な太守の姿を曝し、
高慢な仮面の下に覗く素描が喘ぐように揺らぐ。
だが。
太守の強張った指が足下の花を掴み無碍に毟る。
先程までの動揺は影を潜め、再び倣岸さを湛えた面相がみるみる怒気に染まっていく。
「わしを諭そうというか…わしが怯えていると…。「EDEN」の人形の分際でよくもいう!
お前に何が分かるというのだ…!」
彼女は引き抜いた草花を力任せにルエビに投げつけた。
思わず飛び出すダネル。だがヨナの方が早かった。彼は即座に太守を押し留める。
「お止めなさい、閣下!…どうかお気を鎮め下さい」
「黙っておれ!お前はいつもいつもいらぬ所ででしゃばる!」
どうやら彼女の癇癪は忠実な臣下に向いたようだ。
「ルエビっ」
「平気ですから、ダネル落ち着いて…」
口に入った砂土をぺっぺと吐き出しながら少女は応える。
ダネルは太守に向き直り、
「何してんのさ!?太守ったって、やって良い事と悪いことがあるでしょうが!」
「その者はわしを嘲笑ったのだぞ!」
「ルエビがそんな事する訳ないだろっ」
「申し訳御座いません導士様、ここは…どうか」
尚も太守を宥めるヨナ卿が目で必死に訴えていた。
「私のいいようが悪かったのですから…」
ルエビにまで止められてはダネルも引き下がらざるを得ない。

と丁度その時、草木を劈く絶叫が庭内に響き渡った。
264儚散天楼/21:2007/03/08(木) 04:26:42 ID:???

夜半過ぎ。バルコニーから仰ぐ央都は祭礼の間常に灯される
天を衝く四本の炎柱に照らされ煌々と明るく、昼間の賑々しさを残す。

「だ・か・ら、本当にみたんだってえ!」
「分かったから。声大きいよ、ディミ」
「ううー…」
不満そうに唇を噛むディミをダネルは窘める。

あの時、草を掻き分けたディミの視界に飛び込んできたのは、
長大な身を引きずる大蛇の、赤子なら丸呑みに出来そうな程の胴回りだった。
頭であるべき所には大きな目玉が一つついているだけ。
振り返った目玉は彼女の姿を捉え…にやりと笑うように目を細めた。
そこから先、ディミには全く記憶がなかった。

ダネルらが駆けつけた時にはだらしなく尻餅をつくディミの姿があるばかりで、
彼等は彼女のいうままに辺りを探索したが何ら怪しい気配はなし。
ヒーリィなど初めからまともにとり合わず半目で優しく、
「いいから少し休め。な。きっと疲れが溜まってるんだ」

265儚散天楼/22:2007/03/08(木) 04:27:57 ID:???

「…他人を可哀想な人みる目で見やがってあの野榔ーっ!
絶対いたの!目玉がさ、こうぐわっと…」
「だから大きいって声」
むきになったディミはまたも大声を張り上げる。
彼女の眼の良さは本人の自負する所でもある。
それを頭ごなしに否定されたのがよほど悔しかったとみえる。
「ケーブルとか、それか監視用の「ボール」を見間違えたとか」
「そんなものが庭の中うろついてるか!?ありえないでしょ!」
少なくとも大蛇よりは現実的だと思うが。
「本当、駄目なのもう…うねうねしたやつとかぞわぞわしたやつとか」
昼間の光景を思い出したらしい彼女は今にも泣きそうな情けない面持ちで身を竦ませる。
ダネルにとって、日頃しきりに先輩風を吹かせる少女のとり乱しようは少しおかしくもあった。
「その顔、何か変な事考えてない?」
「別に…」
確かに自負するとおり明敏な観察力ではある。
「でもあそこ、確かにちょっと妙だったな。土くささがないっていうか…
どことなく嘘っぽかったような」
「庭園なんてそういうものでしょ?この上気持ち悪い虫なんかみたら私立ち直れなかったよ…」
「そういうもんなのか?あれだけ草木があるってのに…」

ダネルは知る由もないが「エリドの庭」の白眉は
ほぼ完全な閉鎖生態系を実現している点にある。
人に依らぬ自然の営み、その循環をほぼそのまま移しこんだのが「エリドの庭」なのだ。
それに比すれば、太守の宝珠庭は見た目こそ華美極まりないが
常に人の手をかけてやらなければあっけなく萎んでしまう、あくまで人工的な創造物でしかない。
ユニット外の耕地で育ったダネルはなんとはなく庭園の美に不自然な印象を持ったのだろう。

結局、ディミの大騒ぎと気分が優れないという太守の理由により
庭園巡りはそこでお開きになった次第である。

「あのさ、ルエビと太守何かあったの?」
「よく分からない。占いがどうとか」
「ははあ。ルエビを予言者かなんかと勘違いしてたんだねきっと。あの娘、神都じゃ託宣式とか出るし、本人雰囲気あるもんだから結構誤解されるかもね」
「だから、ルエビも無理だっていったんだよ」
「太守様はそんな事で怒ったってわけ?ルエビも災難だわ、
ほいほい予知なんて出来たら「EDEN」は要らないっつの、もう…」
勝手に得心する彼女に口を挟もうとするダネルだったが
実際の所太守の怒りの原因は彼にもよくは分かっていないのだ、
上手くニュアンスを伝えられるはずもないのでそのままにしておいた。
「えらくむっつりしてたね太守。承諾取り消しなんていいださなきゃいいんだけど」
「いくらなんでもそこまで子供じゃないだろ」
「みたまんまガキじゃん。ヨナ卿が可哀相だよ、あんな娘の顔色窺ってさ…」

そういわれて、彼はひたすら平謝りに謝る青年の姿を思い起こした。
266儚散天楼/23:2007/03/09(金) 06:40:23 ID:???
会合の後も終始、頭を下げ通しだったヨナ卿。
「重ね重ねお詫び申し上げます。どうか太守の面目をお保ちくださるよう…」
ただでさえへりくだった態度はますますひどくなり、いっそ卑屈といえる程。
主の失態を我が事のように語り、幼い主の身を一心に案じる姿は臣下としての忠節以上のものをこちらに感じさせる。
「どうかご容赦くださいませ…」
まるで太守をあのようにしてしまった非は自分にあるとでもいうような口ぶりだ。
だが、それならばどうして。
「そんな事、俺達にいっても仕方がないと思いますよ」
歯がゆさが口を突いて出る。ダネルは続けた。
「いいましたよね、太守にははっきりものをいう人がいないって。
だったら誰でもない貴方が諭してやるべきでしょう。彼女放っておかれているようなもんじゃないですか」
太守の座が強いる絶え間ない重責は幼い少女を次第に歪めやがては少女ごと押し潰す。
彼に分からないはずがない。
それならどうしてみすみす主の破滅を黙って見過ごさなければならないのか?
「身分なんか関係ないじゃないですかっ!」
青年は自分を見据える少年の真っ直ぐな瞳に対して
ふっと、やるせない笑顔をこぼし済まなそうに首を振った。
「…私には無理なのですよ、導士殿…」
そう侘しげに語りその場を去っていく青年の後姿はどこか小さくみえた。
「…あちらにはあちらの事情ってものがあるのさ」
持つヒーリィは含みをもった話しぶりでダネルの肩に肘をやる。
「ああまでして仕えなきゃならないのは、不憫だよな」

喋るだけ喋って落ち着いたのか、欠伸をかみ殺すディミ。
「もう、寝よか…もやもやした事は眠って忘れるに限る。ここの寝台が極上品だってのが救いだわ」
「簡易寝台の方が効率いいじゃないか。睡眠少なくて済むし」
「あれは無理やり寝かされてる感じがね、好きじゃないんだなあ。身体じゃなくて気持ちの問題」
「俺はあんまり寝つき良くないな…ここに来てからさ、嫌な夢をみる」
目覚めてみれば輪郭さえ覚束ない、ただ嫌な感触だけが残る悪夢の連続。
それだけではない。
この地に訪れた時に感じた些細なわだかまりは日ごとにいやまし、
いつしか汚泥のような濁りになって少年の胸の内に溜まっている。
「なんだろう…確かに妙な気配があるんだよね、ここ。今日私がみたやつだってさ…」
「ま、そういう事にしとこうか」
「もう。お休みっ」
後に残されたダネルは今も耳に残る二つの言葉を想起していた。
去る間際、青年は確かにそういった。

「あの方は、バニ様は哀れな方なのです…」

そしてあの時。
ディミが悲鳴をあげる直前、彼が聞いた太守の呟き。

「…いっそ何もかも、消えてなくなってしまえばいい……」

267儚散天楼/24:2007/03/09(金) 06:47:14 ID:???

屋敷を挟んで反対側のバルコニーには
夜風にあたりながら星辰が彩る闇の黙を仰ぎ見る少女が一人。
「夜更かしはいけないぞ嬢ちゃん」
声をかけたのはヒーリィ。
「もう休みますから、あとちょっとだけ」
「…ルエビ、何を考えている?」
少女をみつめるのは飄々とした相好を纏ったいつもの少年ではなく、
その整った顔立ちは別人ともいえる精悍さと冷えた鋭さを宿している。
若くして「EDEN」上級位階を与った人間に相応しい貫禄で彼は問う。
そんな彼に少女は夜空をみやりながら、淡々と柔らかに心中を語る。
「太守様に偉そうにいったくせに自分はどうなんだろうって。
…「インフェルノ」と対した時私はちゃんと向き合えるのか、少し不安です」
しばしの間をおいて、語るヒーリィは既にいつもの斜に構えた表情に戻っていた。
「嬢ちゃんさ、ダネル好きだろ」
「ええ。勿論。ディミも貴方も皆大好きです」
「なら平気さ。他人を大事に出来る奴は、剄いもんだ」
「ヒーリィもそうなのですか」
「俺は違うさ。いつだって自分の為。自分の為にやってる…」
「そういう事にしておきます」
「嬢ちゃん相手だと、どうも調子が狂う」
そう頭をかくヒーリィをみてルエビが薄く笑みを浮かべる。
「…お互い不自由な身の上だ。今は、せいぜい楽しんどこう」

地には火の穂。天には数限りない光芒の粒。

去りゆく今日は二人にとって仮初に過ぎない幻朧の灯火か。
それとも、酷薄な運命の闇にひとつ輝くかけがえない真実の光点か。
今はまだ、その答えを知るものはいない。
268通常の名無しさんの3倍:2007/03/09(金) 09:56:53 ID:???
「インフェルノ」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3099.jpg

「承」部分は後二三回で終わりっす
早くMS戦いきてーよー
269通常の名無しさんの3倍:2007/03/09(金) 14:07:06 ID:???
別々のフォルダに三枚保存した! これはいいギア・バーラー
妄想力ならひとしおの自信を持つ俺でもこの人にゃ勝てる気がしないw
270通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 03:03:15 ID:pdoHFXeZ
実に悪魔的だw
271通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 13:18:52 ID:???
携帯で見れるように(ry
272通常の名無しさんの3倍:2007/03/11(日) 20:48:37 ID:???
>>271
ここでは駄目でしょーか?
ttp://sv1.kaorin.info/
駄目ならまた考えてみます
273通常の名無しさんの3倍:2007/03/12(月) 00:50:34 ID:???
インフェルノカコイイ
274通常の名無しさんの3倍:2007/03/12(月) 15:33:58 ID:???
tkx!見れたお(^ω^)
インフェルノってガンダムだと思ってた
275儚散天楼/25:2007/03/13(火) 05:46:31 ID:???
―――――
静まり返った暗闇の中、邸内の一室にての会話である。
天幕の奥、二人が交わす囁きは幾条にも垂れ下がる厚い幕地に遮られ決して外に漏れる事とはない。

「…昼間の一件は少々肝を冷やしたぞ…遊びにしても度が過ぎるわ」

『何、こちらの企みに気づいたところで彼等には何も出来ますまいよ。閣下の方こそどうなのです?彼等との必要以上の接近は避けて頂きたいのですが』

「いずれ明後日には露見することじゃ。それまでにGの繰り手、いっそこちら側に取り込めれば…」

『あのような時代遅れの骨董品なぞ、手に入れる必要はないかと。過ぎた欲は身を滅ぼしかねません』

「わしに道理を説く気か…わしはこの「レボホト」の主ぞ…!」

「とくと存じ上げておりますとも、太守閣下…だからこそ申し上げているのです」

「…分かっておるな…わしが、お主のいうとおりにしてきたのもみなお主の言を信じての事じゃ…」

『落ち着き下さい、事は順調に進んでおります。今少し辛抱いただければ必ずや閣下の夢は叶いましょう。全ては明後日、貴方の「レボホト」はその時こそ…』

「…その言葉、くれぐれも忘れるでないぞ」

『勿論です。閣下もそれまで早まった真似をなさらぬよう…』


(やれやれ、子供染みた浅はかな夢と年寄り染みた頑迷さが相半ばするか。あやすのも一苦労だ…)
部屋を発ち、心中でそう呟く男の姿は夜陰に隠れ判然としない。

男はその足で扉をくぐりもう一つの目的の場所へ向かう。


男が着いたさきは、先ほどとはうってかわった眩光の間。
『首尾は、いかがです』
「準備が終わるまであと数時間。処理速度からすると、それから開始しても丸一日とかからないな」
『それで結構。充分に間に合いますな…こちらも手筈を整えておきましょう』
「好きにするがいいさ…」
純白の室内に座す少年はさも興味なさげに言い放った。

――――――
276儚散天楼/26:2007/03/13(火) 18:32:59 ID:???

延々と続く階段をひたすらに下り――――

奈落と誘う階梯を降り、辿り着く深淵の底。
待っていたのは冥い海が広がる一面の死景。

幾つもの礫柱が突き出た海面にさざめく波紋、その中心よりゆっくりと浮き上がる魂核炉心。
寄せ木細工のように緊密に編まれた外表が破れた炉心は中枢部である魂核本体をさらけ出している。
鉄の揺籃に包まれた幽かに光り放つ翡翠の胎児。
と、海の闇に浸る胎児は徐々に姿形を変え、
ぶくぶくと膨れ上がる肉躯は次第に海の昏色を吸い上げて黒く禍々しく成長を遂げる。

誕生れ出でる一頭の狂獣。その嘶きに呼応し発火する冥海。

そうして情景の一切は淀んだ炎にくすんで消えていく―――


気がつけば夜明けは未だ遠く、暗い天井が視界を重く塞ぐ。
眠るたびに悪夢は鮮明な輪郭を結び。
目覚めるたびに催す不快の気は深くなる。
「なんだってんだ…くそっ…!」
服をぬらす汗を拭い、両腕を握り締めながらひしひしと迫る影に全身を経巡る震えを押し殺すダネル。
彼の予感が告げている。

再会の時はもう、すぐそこだ。
277通常の名無しさんの3倍:2007/03/13(火) 19:58:24 ID:???
>>274
一応意識はしたつもりなんだけど、どこからどこまでガンダムだかよく分からんす
元はも少しらしいかも

「インフェルノ(変異前)」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3806.jpg
278通常の名無しさんの3倍:2007/03/14(水) 00:01:35 ID:???
>>268>>277
全然ガンダムじゃないと思ったら……なるほど、百式顔ですか
変異後の奴は、何かスパロボのオリにいそうだw
279儚散天楼/27:2007/03/15(木) 00:12:17 ID:???
中央大祭終日である今日も今日とてまた繰り返される祝宴に潰される事になりそうだ。
なんでも最後の夜宴は夜を徹して行われるという。
恐らくは目前に迫るであろう危機も知らずに暢気なものだと、ダネルは思う。
祝宴の合間、テラスに面する木立の下に集う四人である。
「―――確かにここにきてから、嫌な空気を感じます」
「やっぱりルエビもそうか」
少女も無言で頷く。
この地に漂う不穏な空気だけがいや増す。
「それに、ディミの庭での事もあるしな」
「あんた笑ってたじゃない」
「あんまり、騒ぎたくなかったんだよ。警戒されたらやりづらいだろが」
太守に後ろ暗い所があるとして、あの場で深く追求すればこちらが疑っていると触れ回るようなものだ。
「ああ、そっか。だったらそういってくれれば良かったのに」
「その位分かってるもんだとおもったんだけどな」
返す言葉もなくむーっと睨むディミを余所にヒーリィはおもむろに話を切り出す。

「さて、あの小娘につまらん事を吹き込んだ人物がいると仮定して…該当する奴は誰だ?」
「ヤアジヤ卿は。なにせここの実質的な権限はこの人が握ってるんだし」
卿は執政官として先代当主から二代に渡って仕えてきた忠臣である。
そのような人物が今更「レボホト」の立場を揺るがすような行動に出るものだろうか。
「あの爺さん、良くも悪くもてめえの庭しか見えてない役人気質の典型って感じだったがな。
わざわざ危ない橋を渡ってまで何かするような理由もみえてこないし…そうそう、動機っていえばヨナ卿だ」
「何だって?」
ヒーリィのあげた意外な人物の名に驚くダネル。
「奴さんああみえて太守の分家筋にあたる結構な身分らしいぜ。
つまりはな、ツェフェンヤの家に跡継ぎがなかった場合あいつがここの太守になってたって訳だ」
「じゃあ、なんでそんなご身分の人間が召使みたいなことやってんの!?」
「身内同士のみにくいいがみ合い。よくある話だろ」
その途端、ディミは何かに思い至ったらしく両手を叩き合わせた。
「ああ!そっか、ここ「レボホト」だもんね!事件さ、習ったことあるよ。そうかラムセイってあのラムセイかあ」
首を傾げるヒーリィ。
「学院で教わったはずだよ。閉鎖環境における典型的な組織腐敗の一事例ってやつ。覚えてないの?」
「…俺に、勉学の成果を問うか」
そう語る彼の表情は苦笑いに固まってる。そこにかつての神童の面影は一片たりとも残っていない。
「…まあいいや、ダネルもルエビも知らなそうだし説明したげる」

280儚散天楼/27:2007/03/15(木) 00:16:17 ID:???

至法院より自治権が委任された当初、太守領はツェフェンヤだけでなく、
他四つの分家も加わった実質的な共同統治の形をとっていた。
各門家がそれぞれ主家をあらゆる面で支える磐石の体制により、長らくレボホトの安寧は保たれていた。
事態が変わるのは聖歴102年、第四代太守ナハト・シムイ・ツェファンヤの時代である。
この年、次期太守の座を担うナハトの嫡子が謀殺されるという一大事件が明るみに出る。
当初は不慮の事故と思われた太守継子の死は、調査が進むにつれ
あろうことか太守の座を狙う四家の共謀による企てである事が明るみに出たのだ。
結果として事件に直接関与したとされる三家の当主は死罪、残された一族郎党は揃って浮界を放逐された。
そんな中、ラムセイ家だけは証拠不十分で処罰こそ免れはしたが政務から遠ざけられ
没落の一途を辿る事になる。
こうして今のようなツェファンヤの独裁体制を確立された。こうした事後処理は極めて速やかに行われ、
この事件を煩わしい分家勢力を排除しようとした太守本人の陰謀とみるむきもある。
なお、表沙汰にはなていないが事件には特区の存在を厭う太教院の思惑も絡んでいたらしく、
「レボホト」の干渉嫌いもここに端を発するという。

「―――机上で習った歴史と一致しなかったけど、流石は由緒ある古都だよね」
「なんかもの凄くドロドロしてるなあ…」
「真世界たってね色々あるわけよ」
ダネルももう聖領に過度の幻想を抱いているわけではないが、こういう話は流石に辟易する。
人が人である限り、神治の世とて体制の腐敗、汚染は避けられないという事か。
「そんな訳であの兄さん、成りに似合わず相応のコネはあるんだ。
あの扱われようから察するに今でも事件は後を引いているようだけど」
「けど、60年以上も昔の話だろ?」
「ここじゃ、時間なんて止まってるようなもんだろ」
この「レボホト」は降り積もる時を溜め込む貯蔵庫のような場所だ。
そこに生きる者達は皆、厚みを増す過去の重石に身を押し潰されていく。
「この地は時経た負の念まで受け継いでしまっているのですね…」
そう語るルエビをみやるヒーリィは自問する。
過去のくびきに囚われる生き様と未来を鎖された生き様、一体どちらがましなものか?

281儚散天楼/29:2007/03/15(木) 00:20:10 ID:???
「で、此処を出た分家の一つなんだけどな」
分家の一つアクザブ家は追放直後より第八世界に降って、
その末裔が今、SINに与しているとの噂がある。
「お前がいってた外との結びつきの可能性って、その事か」
「そ。今回の話の元々の出所もそういうところ。あくまで憶測の段階だから伏せといたけど」
「ヒーリィ、そこまで知っててなんで思い出さないかな?」
「余計なお世話だ」
「けど、ヨナ卿ですらあの扱いじゃ太守が自身の意思で接触するなんて到底考えられないよ」
「ああ。だから、かつてのよしみってことでヨナ卿が太守の頭越しに事を進めてるのかも。
案外、外の力を借りてここをのっとるのが狙いだったりして」
「ヨナ卿が、まさか!」
「そうかあ?世が世なら自分が太守だったってのに、それを邪魔した年端もいかないガキの顔色窺って
アゴでこき使われてよ、内心不満たらたらだと思うぞ」
ダネルは青年の優しげな瞳を思い出す。あのほがらかな人柄は他者を欺く仮面なのか。
「あの方の太守へのいたわりようは真実だとおもいますが」
ルエビが異を唱える。
「嬢ちゃん、太守だって悪い人ではありませんっていうんだろ?」
皮肉まじりに語るヒーリィに彼女は大真面目に頷く。
「ええ。今は重責を負ってご自分を見失っているだけでしょう」
「ほらな、嬢ちゃんにかかりゃ皆いい人でこの世は善人ばっかりになっちまう。
そりゃ嬢ちゃんの善良さを他人に見てるだけなのさ。人間、自分を基準にして物事を推し量るもんだから」
「ああ、だからヒーリィにはみる人みる人、腹黒ーく映ってしまうと」
「うん、そうそう。ははは……お前も結構いうよな、ディミ」
「ともかくさ、ヨナ卿が黒幕ってのは有り得ないと俺も思う」
「随分入れ込んでるじゃないかダネル」
「悪いかよ」
ヒーリィはやや真面目な口調で返す。
「いやさ、裏切られた時が辛いぜ。そういうのはさ」
「よくいうよ。あんたみたく猜疑心に凝り固まるよりかは遥かにましでしょーが」
「へいへ…あとはパルオーシュ。外様って意味じゃ奴もまた怪しい」
「数年前まで「EDEN」にいたのなら名前くらい聞いた事がありそうなもんだけど」
「「EDEN」をざっと見渡せば腕利きなんて腐るほど埋もれてるもんさ。奴さん良い再就職先をみつけたもんだ」
「けど、たかだか元・一汎士じゃあ太守と接点ないでしょう?そもそもどういう経緯で取り入ったんだろ?」
「もしも経歴が嘘なら、どうなんだ」
「ふむ。確かに「EDEN」に入る分はともかく出る分には経歴操作はそう難しくないが…
だとすると何もかも当てにならねーぞ。こいつの場合、動機、手法ともにどっちも掴めない」
「でも「インフェルノ」との関連がありそうな人物というなら…」
「ああ、奴さんが一番くさい」
282儚散天楼/30:2007/03/15(木) 00:24:31 ID:???
「結局、どう纏まるんだよこの話」
「さあ…どれもこれも状況証拠ばっかりだ」
問うダネルに匙を投げたとでもいった風に答えるヒーリィ。
「けれど、見過ごせるほどでもない…」
言葉を継ぐディミ。
「誰も彼も怪しいっちゃ怪しいけど…」
ディミも続ける。
「ああ、どうにもしっくりこない。何かピースが一つ抜け落ちているような…」
「要は何の為の造反かってことよね…」
手中に収める繁栄を危うくしてまでこれ以上望むもの、それは。
「つっても「インフェルノ」が絡んだら目論見なぞぶち壊しだろうがな実際」
その時、ダネルの頭にある推論が浮かぶ。
もしも幼い少女があの言葉どおりに行動しているとしたら?

(「いっそ何もかも、消えてなくなってしまえばいい…」)

逆であるなら。何かを手に入れるのではなく、手放す為に。
望みが獲得ではなく破壊なら。
「ダネル、何か?」
「…いや、何でもないよ」
厭な考えを振り払って彼はそうルエビに答える。

「ま、何にしてもこれ以上動きがとれないのも確かだ…」
一見物々しい警備こそないが太守邸一帯には障壁が張られている。
外部の人間が入ることは出来ないが同時に内部の者が出ることも不可能だ。
彼等は浮界とその中にある二重の檻の中にいる訳だ。
また、艦隊には定期連絡を入れているが先方の通信機器頼りの送信であり、報告は逐一監査されているに違いない。報告内容の改竄とて容易なはずだ。
これでは此方から異常を知らせることも難しい。
待遇こそよいが、これは軟禁状態といっても過言ではあるまい。
「ざっとみた限りじゃ怪しい施設はなし。後は探してない所ったら」
そういって、ヒーリィはつま先で地面を軽く叩いてみせる。
浮界が元々要塞都市であったなら地下施設こそ真の要所だったはずだ。
廃棄された筈の地中に深く埋め込まれた工蔽ブロックが今も生きているとしたら。
「そんな所どうやって探すんだ」
「だから、これ以上は俺達じゃ無理だって。どのみち目の前に餌ぶら下げられてるんだし、待つしかないやな」
「本当にそれでいいのか?何もしないでただ待ってるなんて」
受け入れの確約とて反乱を目論む者の提案である。であれば、受け入れ許可の口約束は時間稼ぎともとれる。つまり明日には手遅れだという事。
「「俺達は」動けないっていったんだ…本当に、最後の最後の手段…出来ればやりたくなかったんだけどな」
「一人で納得すんな」
問い詰める一同に片目を瞑るヒーリィ。
「忘れるなよ、俺達って「EDEN」なんだぜ?」
彼は心中で呟く。
(本当のこと話したら怒るんだろーなあ、こいつら…)
283儚散天楼/31:2007/03/15(木) 05:27:23 ID:???
ポティ参謀補佐は戦艦「アレオパギダ」の艦内通路を歩く。
あがってきた報告にある浮界周辺の微妙な霊場の狂いと
空間の歪みはいずれも無視してもいい程の誤差ではあったが、
元来が几帳面な男である。彼は直接相談しようと参謀の元へ急いでいた。

司令ブリッジにて彼を迎えるケイルブ・アサ参謀はしかし、
平素と変わらぬ仏頂面でとんでもない話を切り出した。

「待ってください!武力突入って本気ですか!?」
『潜入捜査といってくれないか?』
「同じ事ですよっ!」
そう。ケイルブは数刻後にMSを突入させる気でいた。
祭期で浮界の監視が緩んでいるとはいえMSでの潜入など気づかれないわけがない。
「こんな独断が許されるとお思いですか!?」
『主長からは部隊の全権を委任されている』
かっきり90時間、特別な命令がなければ後は任せる。そう、ヒーリィは伝えていた。
それは強硬手段の採択を仄めかす暗黙の指示だった。
『我々火消しは煙が無ければ動けない。さて、動きたいならどうすればいい?
―――答えは簡単明瞭、自分で煙を炊けばいい』
無論、一歩間違えれば交渉決裂どころか戦端を開きかねない暴挙である。
「しかし、何も無かったら間違いどころじゃ済まされませんよ!」
『間違いでしたで済ませるさ。何の為に「ADAM」の私が出向してきたと思っているんだね?栄えある「EDEN」に代わってに泥を被る大役を仰せつかった男なのさ、私は』
冷えた目がポティを射すくめる。
「なに、悪くても廃都と「ADAM」の悪名が、またひとつ増えるだけだ…」
聖府全体からすれば、随一の浮界といえど真世界を構成する一都市に過ぎない。
「EDEN」が優先すべきは真世界全土の安寧、「インフェルノ」の消去。
灰色であれば迷うことなく叩く。たとえその鉄槌が三院の足先に食い込もうとも。
そこに属する身でありながらも執行機関の非情を改めて思い知らされたポティ。
だが、真に恐れを感じるのは、すました無表情を崩し慎ましやかに、
けれど心底から愉しげな笑みを漏らす目前のこの男だ。
ポティははっきりと悟る。
ケイルブ・アサは命じられれば煙どころか火を放つ事さえ厭わないだろうと。
彼は「ADAM」が蔑視され疎まれる所以がはじめて分かった気がした。
『―――そろそろだ。各機とも出撃準備に入ってくれ』
こうなればもう彼のような一汎士には、最悪の事態が起こらぬよう祈るより手立ては残されていない。
(どうか神罰が降りませんように…)

284通常の名無しさんの3倍:2007/03/15(木) 05:49:50 ID:???
や…やっと「承」終わった…
長い導火線だった…

あとはぶっ壊すのみ
285通常の名無しさんの3倍:2007/03/15(木) 13:58:06 ID:???
本にして売ってくれ
286儚散天楼/32:2007/03/16(金) 04:53:14 ID:???
夜も深まり、大祭の終焉が間近に訪れてもなお果てることない祝宴。
来賓用に設けられた太守別邸の大広間は多くの人々で賑わい、
なだらかな音曲の調べと水晶の照灯が社交の場に花をそえる。

彼女は傍にいたはずのルエビの行方を目で追いながら、代わりに一人テラスにいる少年の姿を確認した。
(まあた、あんな所にいる…)
ダネルは不似合いな難しい顔をして腰掛けている。
「どうなさいました?」
「いえ…少し酔ったようで」
彼女を囲む男の一人に呼び止められ曖昧に微笑むディミ。
執行機関に所属する妙齢の女性という物珍しさからか、彼女をとり巻く人の輪は後を絶たなかった。
「少しくらい羽目を外してもよろしいでしょう?
貴方のように見目麗しい方が「EDEN」の執行者だとは…いささか勿体ない話ですな」
彼女は差し出されたグラスを手にとった。
「お褒めの言葉と受けとっておきますわ」
そういいながら彼女は、長衣の開いた胸元にちらちらと向けられる視線を見逃さない。
(…鬱陶しいな、もう。こんなドレス着てこなけりゃよかった…けど、化粧っ気ないのも嫌だし…)
活気あふれる歓談に潜む憂鬱の影、華やかな宴席の裏に流れる気だるさ。彼女はうんざりだった。
後ろではヒーリィが、異郷からの風変わりな客人として如才ない振舞いをみせている。
いかにも口達者な彼らしい洒脱な話し振りに笑いの絶えない取り巻きの輪。
(場を弁えているというかなんというか…昔からは想像もつかないわ)
「何か?」
別の男が問いかける。
「いえ、何にも…」
彼女は一息に小杯をあおった。

広間の端にぽつねんと佇むルエビにダネルは気づく。
通り過ぎる人々の視線を気にもとめずに虚空を注視する少女の奇妙な行動の意味も彼には分かろ。
もはや押し隠しようがない、地の底から粟立つような不吉な感触を二人は共有していた。

そして。何の前触れもなくその時は訪れる。
287儚散天楼/33:2007/03/16(金) 04:58:04 ID:???

屋敷を照らす灯り、いやレボホト中の灯りが一斉に消え落ちた。
同時に、この浮界を侵すものの存在をはっきりと感知する少女。
「何処いくんだ、ルエビっ!?」
何も答えず駆け出す少女の後ろ姿を、ダネルは考えるよりも早く追いかけていた。
そんな彼を、突然の闇に惑う人の波を押し分けながら呼び止めるヒーリィ。
「ダネルっ、どうした!?」
「分からない!…ルエビを追う!」
「待てよ、おいっ!」
大広間から消えたダネルに続いて廊下に飛び出たヒーリィ。
だが、そんな彼を人影が遮る。
仄かな蛍砂の光にうっすらと浮かぶ影が彼に問いかけた。
「何処へ行かれなさる?」
隣に控えた衛兵と思しき者が手にする銃は真っ直ぐ彼に向けられている。
「…これはどいうことです、執政官殿?」
ヤアジア卿のにこやかな相貌は闇夜に濃く深く陰影の度を増していた。

ルエビの後を追い屋外に出たダネルの目に飛び込むのは浮界に残された最後の篝火。
「…これは…」
夜天を照らす穏やかな火柱であったものが今、黒く黒く濁っていく。
予感は確信へ。
(あいつが…来ているのか…)
288通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 05:15:21 ID:???
>>285
1部限定本かいw

それはそれで面白いけどまとめサイトを何とかしてーなー…
本当は次章で一区切りつくから、その時にと思ってたんだけど、
今の速度じゃ遅すぎるんでこの章終わったらって事でよろしいでしょ−か?
289通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 14:45:23 ID:???
これはアレだね。
バンプレストに持ち込むしか無いかも知らんね。
290通常の名無しさんの3倍:2007/03/16(金) 19:02:49 ID:uRqu7BQJ
まとめサイトにあげる前に、どっかの出版社に持ってった方がいいかもなw
291通常の名無しさんの3倍:2007/03/19(月) 03:07:26 ID:???
最近はブログブックとか、ウェブノベルとか、ネット公開の小説でも、本として出版されるから
職人は色気出さずにどんど書いて貰いたい。
292通常の名無しさんの3倍:2007/03/19(月) 19:49:07 ID:???
投下遅れてアイスマン
しばらく離れてた内になんかいかした話になっとりますねえw
一冊のみのコピー本くらいならまあネタの範疇だよなっていったつもりだったんだけどw
>>291
ご心配なく。先ずは完結が最優先課題っすから
好き勝手やっときながら恐縮ですが
そもそもこのスレって自分が立てた訳じゃないんで
書いてるもの自体も完全に自分のものとはいえないですし
っていうか所詮、厨なネタ文だし(勿論全力でやってますけど。なぜならそっちの方が笑えるからw)

そんなこんなで今はこんな珍文を読んで下さる方が一人なり二人なりいてくださるって事が
嘘偽りなく一番の褒章ですわ。でもってわずかなりとも面白がってくれるなら冥加が尽きるってもんす
お話の展開的にはまだまだ種蒔いてる段階で次章くらいからちょっとはましになるだろと
勝手に妄想しとります
宜しければこのまま板の片隅でひっそりこっそりやらせて頂きたいので、
もう少しの間だけ見守ってやってて下さい

以上チラシの裏、長々とすまん…この借りは出来る事ならモノで返すつもりだ……
293儚散天楼/34:2007/03/20(火) 19:23:19 ID:???

鮮明になった月光を身にうけて、闇に堕ちたる目下の街並みを眺める男。
彼は黒く立ちのぼる四本の烽火を見届けほくそ笑む。
その隠微な笑みは男から仮初めの清涼を剥がし落として、毒々しい悪意に染まった素顔の邪濁を露出させる。
「あちらももう、完了間近か。…そうとなれば、こちらもそろそろ暇を告げた方がよいな」
闇の中、音もなく地に開いた虚にゆっくりと沈みゆくその身は幕開けの合図。
絢爛たる虚空の座を舞台にした崩壊劇の幕はこうして切って落とされた。
――――――――――――――――――――――――――――――――

突き出された銃口を真正面から覗きながらヒーリィは尋ねた。
「何の真似ですヤアジア卿。「レボホト」は我々に協力していただけるのではなかったか?」
「それは逆。逆なのです。力を貸して頂きたいのは我等の方なのですよ」
「…どういう意味でしょう?」
いまだ真意を図りかね、問うヒーリィに老卿は決定的な一言で答える。
「「EDEN」の執行者としてではなく、Gの乗り手としての貴方に申し出ているのだ。どうか我々の元に来ていただきたい」
「……聖府を裏切れと申しますか」
「そうでない。Gとは神都の守護者。―――なればこそこの「レボホト」にこそ相応しいのだ」
(……そういうことか…)
直観的に真相を看破するヒーリィ。これで合点がいった。
「…ようく系図を洗っとくべきだったぜ……そうか、あんたはここのヌシなんだな」
「左様。わしこそが此処「レボホト」の真主なのです」
――――――――――――――――――――――――――――――――

「っと…!」
敷石に足を取られ少年は危うく転倒しそうになる。
足元の覚束ない暗闇にあって、ダネルはあちこちにぶつかりながらなんとか歩を進める。
なのに先を行くルエビは、まるで昼日中のごとく確かな足取りで闇夜を疾走している。
これではいくら少女の足とはいえ追いつきようがない。ダネルとしては見失わないようにするのが精一杯だった。
「ったく、どこまで行くつもりなんだっ…待てよルエビ!」
と、宮宅の庭先、何の変哲もない広場の突き当たりに立ち止まり、そして。
「な…」
少女の差し出した掌の先、中空に現出する楕円の鉄門。
押し開く扉の隙間に少女の影を呑み込み、門は再びその口を閉じる。
取り残されて沫を食ったダネルが押そうが引こうが鎖された門扉は微動だにしない。
「く、こうなりゃ…」
強引に押し破ろうと彼は己の身体を鉄門に向けて猛突させる。
「うわぁっ!!」
が、衝突の寸前に扉はあっけなく開き、勢い余ったダネルは漆黒の虚の中に頭から転がり落ちていった。
294儚散天楼/35:2007/03/21(水) 18:36:07 ID:???

「―――今の「EDEN」はおかしい。度重なる軍備の拡張。駐留部隊の急増。
その上「インフェルノ」…。あのようなMSを作って、一体何をしようとしていたのか。わかるであろう?聖霊宿す機騎士の駆り手であるそなた等には、真実がみえるはずだ…神罰を賜るべきはほかでもない「EDEN」自身なのだと」
成る程。そういう理屈か、と少年はため息をつく。
「…つまり反乱ではなく世直しだと」
「左様」
聖府の意を離れた「EDEN」の暴走を食い止める為の義挙。
誰が吹き込んだものか知らないが、聖府からの密勅とでもいえば「見返り」に目が眩んだ老人一人操るのは造作もなかろう。
「…生憎ですが閣下、私どもは殿上の礼儀も弁えない下賤の輩に過ぎません。そういう訳で、
閣下の申し出にもつい下衆な勘繰りを働かせてしまうのですよ―――例えばそう、地面の隠しものについてであるとか」
眉間に寄った皺がいっそう深まる老人。
「…何をいっておるのかな?」
少年はにやりと笑った。
「当てずっぽうですよ。素直に反応してもらえるとカマをかけた甲斐がある」
「きっ、貴様!」
彼は激昂する老人にあきれる。疑惑を裏づけるような感情をこうも簡単に露呈するとは。
「長い間こんな辺鄙な場所に引き篭もり埒もない夢想に耽っていたあんたの様な人間には虚々実々の駆け引きなぞどだい無理な話だ。
況して取り引き相手は正真正銘の悪魔だぜ?いいように利用された挙句骨の髄までしゃぶり尽くされるのがオチってもんさ」
「口が過ぎるぞ、若造が…、」

ヤアジア卿の言葉を遮るのは空を鼓する爆音。

「ほら、な。―――後悔しろよ。あんたが招き入れたのは神都の栄光なんかじゃない。ただの破滅だ…!」
295儚散天楼/36:2007/03/21(水) 18:42:28 ID:???
暗がりにて、凄絶を帯びた少年の形相に気圧された老卿は背後に忍び寄る気配に気づかなかった。
「お話の途中失礼しますけど、私も仲間に入れて貰えません?」
ヤアジア卿が振り向けば其処には満面の笑みを湛えた少女の姿。
無邪気な口調とは裏腹にディミは自分の手元をほのめかして老人の動きを制する。
「ああ、動かないで下さい。油断が過ぎると向こうでのびている方のようになりますよ?」
彼女の手には返りうちにした別の衛兵から拝借したとおぼしき銃が握られていた
「ディミ、よくやった」
妙なしなを作ってみせるディミ。
「えへへ、こういう格好も時には役に立つもんね」
(……ま、あえて詳細は聞くまい)
こうみえて徒手空拳ではダネルはおろかヒーリィすら凌ぐ彼女だ。
艶姿に惑わされた衛兵がどんな悲惨な目に遭わされたかは想像に難くない。

ディミは老卿を、衛兵はヒーリィを互いに狙いをつけ。
しかし、銃口で保たれた微妙な均衡はやにわに押し寄せた衛兵の集団によって崩された。
退路を断たれては元も子もない。咄嗟にヒーリィは髪の結い紐を引き千切る。
すると紐に括りつけられていた一粒の銀飾が爆発的な光を放つ。
同時に場に漂う大量の蛍砂が閃光を伝播し、屋敷は一瞬あまりに眩い閃光で満たされた。

視界を奪われた他の者全てが動きを止める中、
ヒーリィは廊下にうずくまるディミの腕を掴んで引っ張りあげた。
「もう、いきなり閃光管なんて使わないでよっ!」
「不意打たなきゃあ意味ねーだろ?!ほらっいくぞ!」
数多の叫喚が巻き起こる邸内はまさしく混沌の坩堝と化していた。無理もない話だろう、突然の暗闇に外からはけたたましい爆音おまけに途方もない光の狂乱と立て続けでは。
背後の混乱を尻目に、窓を蹴破り二人は夜会の席を急ぎ辞去する。
「檻が消えてる…」
庭に下り立てば彼等を閉じ込めるように張り巡らされたはずの障壁が今はない。
「多分浮界中の障壁が落ちてるんだ。行くぞっ」
「ちょっと待って!ルエビとダネル、どうするの」
「あいつらの心配も良いが、ここから脱出して部隊と合流しなけりゃこっちだって手も足も…」
彼等の鼻先を掠める「ボール」の群影。
逃亡者を捕捉するようプログラムされた自律無人機はきょろきょろと辺りを見回してからその場を離れていく。
「…いや、とりあえず奴等の「目」を逃れるのが先決かな」
それにしても、と彼は思う。
(あの爆発……内側からだったな)
296儚散天楼/37:2007/03/23(金) 03:53:48 ID:???
――――
「レボホト」の都市環境を司る中央統御室は紛糾を極めていた。
畳まれきらずに放られた書判から篭れる燐がいたる所に塵を播く室内。
操作主の意に応じて変幻する薄帯モニタも
主の混乱を反映して所在なげにくるくると宙を旋回するばかり。
「中枢部の黒点はまだ分からないのか?」
「ここからじゃ走査を受けつけません、直接いってみなけりゃ…くそっ、移動経路まで死んでやがるっ」
浮界を管理する集積中枢演讃ユニット全てが何者かによって支配を奪われ、
いまやレボホトの環境維持は根幹から不能に陥りつつあった。
都市運行プログラムに関しては第一級の担い手である律行操手が揃いも揃ってこの突発的な凶事に手も足も出ない。
秒を追って操作権限が次々と剥ぎとられ、修正を促す介入も順次遮断される。
妨害などという生易しいレベルではない。これはもはや侵入ではなく乗っ取りだ。
驚愕すべきはこれほど大規模な異変を事前に関知はおろか前触れさえ認められなかったということ。
「だいたい「レボホト」のどこに外との窓口があるんだ…」
「だから、内部からの汚染なんですよこれは!」
そうこうしている間にまたも都市機能の一部が断線。
「…中心部の制御系を一端「避難」させる。必要最低限は、いや、残せるところだけでも残すんだ…!」
もはや焼け石に水の措置ではあろう。が、出来る限りの対応はせねばなるまい。
最悪の事態を想定して絶望に眩む頭を必死に揺り動かし彼等は事態の収拾に努めていた。
――――
鉄の無機質を湛えた側壁が上方に流れていく。
暗闇を延々と潜る逆立した角錐は、少年を浮界の腸へと運ぶ。
レボホトの地中深く穿たれた垂路をダネルは降っていた。
門をくぐり抜けた先、最初彼に濁った沼池とみえたのは、実際は地面にぽっかりと空いた虚だった。
ルエビの姿は認められず、辺りに浮かぶのは都市造成などで使用される昇降床の類が数基だけ。
底のみえない穴虚から響いてくるくぐもった唸り―装置の可動音であろう―を耳に入れた
ダネルはすぐさま昇降機に飛び乗っていた。

深淵に息づく胎動を感じ身芯より沸く熱さに
追い求める少女すらつい忘れてしまいそうになるダネル。―――

「レボホト」地中区画。剥き出しの鋼面が四方を占める浮界の暗部。
陰府にまで届きそうな縦穴は悪夢のままに。
煤けた灰の夢が急速に色を帯び現の今へと移行していく。
夢のとおりだとすれば、この先に待っているのはまぎれもなく
無数に枝分かれした通路にも惑う事はない。
ルエビは吸い込まれるように歩を進める。
近づく程、濃く邪な大気の波動は強く華奢な身体を圧する。
少女を待つのは奈落の闇より抜け出た黒霊。
世界を焼く火に染まるあの瞳は彼女にも向けられよう。

―――なのに、少女の胸を打つ高鳴りは何か。
数えきれない兆しと逡巡とそして祈り。その果てに訪れた「最初」の時。


茫漠と冷えた闇の中に、ダネルとルエビは確かに「彼」の鼓動を感じている。

297儚散天楼/38:2007/03/23(金) 08:08:04 ID:???
光燭を失い黒の帳が覆う浮界の地表をなお断続的な小爆は揺らす。
「何かしら不味い事が起こっているのは間違いないってのにあの目玉野郎どもときたら。
融通利かないにも程があら」
「木偶に何いったって無駄でしょ。命令どおりに動くだけなんだもん」
ヒーリィとディミ。
執拗な捜索を続ける「ボール」避けて二人は
木立を掻き分けて小丘の荒れた急斜面を急ぎ駆け降りる。
監視に気取られない為に、闇夜に踏歩するには些か危険が伴う路程を選ぶ必要があった。
「足元に気をつけろよ…」
そういうや否や足場を踏み外してずざーっと滑り落ちるディミ。
「いったそばからかあっ!?」
「あったた、裾踏んだ…」
茂みに突っ込んだ彼女は挫いたらしい足首をさする。
「ったく、酒なんて飲むからだ」
「あんただって飲んでたくせにっ」
「俺は酔わないからいいの。ほれ」
肩を貸すヒーリィ。
「…ありがと」
298通常の名無しさんの3倍:2007/03/25(日) 02:55:44 ID:???
 
299儚散天楼/39/間奏「スケッチ・1」:2007/03/25(日) 22:16:20 ID:???

燦爛と眩い少年の金色。
彼女にとって学院時代の記憶は常に、陽光に揺れる少年の姿と共にある。
教練。演修。錬理。練体…あらゆる分野において
いつもその名前は自分の上にあった。
どれほど切磋琢磨しても取り沙汰されるのはいつも自分ではなく「彼」。

聖府次代を担う人材の養成機関、真世界全土より異能の才集う学院にあって
なおひと際輝く天凛をもってその少年は君臨していた。
そして修士の誰もが彼を別格視し距離を置く中、少女は生来の負けん気ゆえか一人密かな競争を続けていた。
彼女とて汎民の出から特例で学院に上がった身だ。それなりの自負もあった。
同じ修士であるなら立場は同等のはず――。そう心中に期し少年との「勝負」に臨む事数限りなく。

しかし、相対するたびに歴然とした力の差を見せつけられ、逆に鼻柱を折られたのは少女の方。
少年は生まれ持った天賦の才で少女の全力を悠然と飛び越えていく。まるで彼女の必死さを嘲笑うかのように。
その上、相手は何でもないことのように振舞うのだ。実際、その通りだったのだろう。
彼女が覚えているのはさして楽しくもなさそうな少年の横顔。
さしたる努力も要さぬ代わりにとりたてて達成の喜びもない、
並外れた逸材ゆえの憂鬱な諦念に染まる薄笑い。
それがまた彼女には気に食わない。
敵う筈がない。けれど負けを認めたくはなかった。
いつか余裕しゃくしゃくな厭味ったらしい表情を驚きで歪めてやる――。
頑なに一心に、半ば意地になって挑み続けた日々。

しかし彼女の願いは意外な形であっけなく達せられる。

300儚散天楼/40間奏/「スケッチ・1」:2007/03/25(日) 22:17:15 ID:???


少年はある日を境に全くの別人へと変わった。
溢れんばかりの才気は影を潜め日ごと場の中心から遠ざかり、
いつしか学院に顔を出す事すら稀になる。
時折、人の口の端に上る彼の噂はろくでもないものばかりに変わり、
いつしか皆それを当然のように受け止めるようになっていった。

こうして目指した標はひとりでに消えていき、兎に角も彼女は勝利を収めた。
なのに、心は虚ろに響く。
初めは目標を失った喪失感だと思った。けれども、そうではなかった。
瞼にちらつく彼の横顔。
思えば少年が眺めていたのはいつだって彼女とは違う景色であり、それは今も変わりないのだ。
元々、彼と自分は同じ位置にすら立っていなかった。
彼女が一方的に意識していただけの事。そんな事は分かっていた。それなのに。

暫くして少年は学務修了を待たずして学院を去る事なる。
「EDEN」筆頭機たるGの操手に抜擢を受けて。
やはり彼はただものではなかったのだと騒々しく飛びかう片言隻語の細波。

少年が学院を去ってから彼女はようやく気づく。
自分は彼を追い抜きたかったのではなく、追いつきたかったのだと。
彼女はただ、自分に目を向けてもらいたかったのだ。
そう、大分経って初めて気づいた。

振り返れば既に過ぎ去っていた、恋とも呼べない淡やかな思慕。

しかし、そんなものに耽溺するほど彼女は柔弱な人間ではない。
気がつけば学内随一の優科生となった事実は残り、
より高みを目指し研鑽を重ねた幾年は、儚い想いの喪失と引き換えに得た彼女を支える確かなもの。

執行機関「EDEN」。
この道を選んだのは誰の為でもない己の意志、これから歩むのは紛れもない己の選択。
刹那の感傷を胸にしまい込んで。
彼女、ディミ・オンツは聖霊機「ホーリー」を駆る。
301通常の名無しさんの3倍:2007/03/27(火) 22:03:48 ID:???
つまんねー所でつまってすまんす
もう少しでMS戦入るんでよろしくです
302通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 01:59:56 ID:???
303通常の名無しさんの3倍:2007/03/28(水) 13:19:10 ID:???
こういうトコも大事よ。何気に細やかでおもしろいし
気を使うことなく我道を行ってくれ
304通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 01:23:18 ID:???
応援してるんで…
305儚散天楼/41 :2007/03/29(木) 18:15:00 ID:???

灯火も翳り活況を失った市街。
静寂を湛える大通りには敷き詰められた路石だけが虚しい萌光を放っていた。
民衆の大半は最寄の避難腔に逃げ込んだのだろう。
広場の先、尖塔に高く掲げられた女神像がこの位置から目視で確認できる。
「もう少しで「ヘブンス」の所に行けそうなんだけどなあ」
「どのみち嬢ちゃんがいないから意味ないだろ」
窓の外を横切る球形の機影に二人の囁きは中断される。
路地に面した建物の合間をその長い手が覗く。
「…囲まれちまった、な」
「御免。私がこけてなきゃ…」
痛めた足を庇いながら、座り込んだディミ。
「いや、俺が油断してただけだ…まさかここまでしつっこくつきまとわれるとはなあ」
嘆息するヒーリィ。
必死の逃走も甲斐なく、進路を阻まれた二人。
「ボール」の群れは徐々に探索の輪を狭めていく。みつかるのは時間の問題だろう。
ボールの固定武装はたった一つ。が、その一つが問題だった。
邪視。
いわゆる呪力の類である。
呪術とは聖・魔問わず霊性に由来するものではなくその作用の仕方を指す。
いってみれば幻術の類に近いものだ。

例えば、暗示であっても人の肉体は実際に傷つく。
目隠しをされ冷えた鉄箸を押しつけられた者はそれを熱した火箸と錯覚し、肌には火傷に似た症状が出るという。
呪力とはいわば物象に強力な暗示をかけるようなものだ。

また、極小物理領野において顕著ではあるが、観測自体が観測物に与える影響というものはつとに知られている。
邪視とは視覚認識という行為事態が存在に働きかける力を増幅利用するものである。

とはいえ邪視そのものはそれ程強力なものではない。
物理的な性質を利用する振動兵器等とちがって存在へと直接働きかける力であるがゆえに邪視は微細な効力しか持ち得ない。
よって大半のMSに対呪的防護処置がなされている現在では殆ど用をなさないのが邪視兵装なのである。

ただ、それはあくまでも対MS戦に限った時の話。
有効な対呪手段を備えない生身の人間相手なら話は別だ。
なにしろただ見詰められただけで、その者の肉体にはなんら防ぐ術のない衝撃が加わるのだ。
即効性。威圧力。認識相手のみに被害を及ぼす対象選別性。
およそ都市の治安維持における暴徒鎮圧手段としてこれ程効果的な武器もあるまい。
と同時に生身で相対してこれ程嫌悪感を覚える悪辣な武装もまた、ない。
306儚散天楼/42 :2007/03/29(木) 18:17:31 ID:???

「――ディミさ。ビット、呼べないか?」
ヒーリィがたずねる。進退窮まった末の駄目で元々といった提案だ。
「遠隔操波たって限度があるよ。無理だとは思うけど……ん…」
目を瞑り、神経集中するディミ。

―――
所かわって、戦艦「」内に鳴り渡る轟音に騒然となる乗員達。
「敵襲か!」
「いや!暴発したビットが隔壁を破って…」
「たたた大変だーっ!?破片に巻き込まれて、偶々通りがかった参謀が、参謀があああっっ!!」
「急げ!急いで掘り返せえっ!!」
―――

やおら人差し指を額に寄せるて難しい顔をするディミ。
「―――うーん。心なしかとんでもない事しでかしたような、ちょっぴりすかっとしたような…」
「なんだそれ?」
「やっぱ駄目ね。お手上げみたい」
「運否天賦は嫌いなんだが…仕方ないか。俺一人ならなんとか突破できるかもしれない」
「ちょっと、それって…」
ディミは彼が救援の時間を稼ぐ為に囮になるつもりなのだと気づいた。
立ち上がろうとするディミを手で制するヒーリィ。
「勘違いすんな。最悪でもどっちかは助かる方法を選んでるってだけだ」
彼女はそれ以上反論できない。冗談めかしてはいるが彼のいう事は正しい。
それになにより、止めても無駄だろう。
表向きは斜に構えたヒーリィだが、
その奥にはこうと決めたら梃子でも動かせないほど強く頑な意志が潜んでいる。
折に触れダネルの意固地を茶化す彼だが、根っこの所では結局似たもの同士なのだと彼女は仕方なしの笑いを溢す。
「…あんまり買いかぶるなよ。いっとくがお前を置き去りにして逃げるかもしれないんだぜ?」
「…こういう時は「必ず助けを呼んでくるから心配するな」、とかいうもんじゃない?」
「そういう恥ずかしいやつは、ダネルに任すのさ」
ディミは自分の首飾りをそっと外し、ヒーリィに手渡す。
「お守り。それだって護符だし少しくらいは呪効を和らげられるでしょ?…気休めかもしれないけど」
「ありがとよ。ちょっと借りとく」
「もってていいよ、だから…」
「ああ。天下御免の執行者様がこんなしょぼくせえ所で終われるかよ」
そう。どんな窮地であろうとこの少年から飄然と不敵を取り去ることなどできはしないのだ。
髪をほどいたヒーリィの面持ちは彼女に束の間少年の昔の姿を想起させる。
「気をつけて…」
少女の言葉に背中で応えヒーリィは法服の襟を引き上げる。
「スリルのある鬼ごっこだよ…ったく」

ヒーリィはしなやかな足取りでその身を外の闇へと投じた。
307通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 18:29:12 ID:???
「ボール」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org6652.jpg

応援さんくす。焦れてたのは俺の方みたいっすね
ぼつぼつとやっていきますんでよろしくです
308通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 18:50:26 ID:???
まあ、ぼちぼち頑張ってくれ
一読者として応援してるぞ

…にしてもすげー強そうなボールだw
309通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 19:12:01 ID:???
芸術だw
310通常の名無しさんの3倍:2007/03/29(木) 22:04:51 ID:???
>>307
ワロタw
311儚散天楼/43:2007/04/02(月) 05:27:02 ID:???
小石を空に放って一息に駆け出す。
痩身が音もなく闇を跳ねる。
路面を叩く礫に反応し跳梁を始める鋼眼の群れ。
その時にはもう、少年の姿は路口の暗がりに吸い込まれた後だった。

ヒーリィは入り組んだ裏道を全速力で走りながら追っ手の気配を確認する。
頭頂部から生える白い鬣が夜目にも明るく「ボール」の位置をほの示す。
雑踏の音も遠い市街に際立つ駆動音を嗅ぎ分けなど彼にとっては児戯にも等しい。
手前に三機。更に後方に二機控えている「ボール」の存在を感知。
空高く上がった一機が街路をぐるりと見回している。
邪視の性能はともかく索敵能力そのものはさして優れていないのがせめてもの救いか。
遮蔽物を負っている分には上空から発見される心配はあるまい。

柱の脇に身体を押し込み追走する一体の背後に回りこみ、
塀越しにすれ違った機体の低い嘶きを後に残して、歩を弛める事はなく。
影から影へ、躍動する四肢。
肩にぶつかる風が耳朶を打つ。革靴が敷石の目地につまった砂を掻き出す。
大通り、夜気に身をさらけ出す距離を臆することなくヒーリィは駆け抜ける。
狭まった路地を邁進、そこから一間、二間、三間…
このまま直進を続ければ直に河川に突き当たる。川沿いでは目立つ。
かといって橋を渡るのは無防備に過ぎる。
路地の角を蹴って右折。動きの一切に淀みなく。
先日祭り見物に訪れた際に市街の大まかな地形は把握済み。
割り出した経路を敏捷かつ大胆に少年は踏破し続けていた。
現時点で行程の半分は越えたはず。
中央市街を抜ければ後はどうとでもなる。そこから先は街の外に停泊してある艇車なりを拝借すればいい。

途前、服の上から伝わる肌をやく疼痛を意識するヒーリィ。
反応が遅れた―――。
舌打ち一つ。よもや左手から回り込んできた伏兵を見逃していたとは。
呪力特有のじりじりとした痺れが痛みに変わる。
物理的干渉を伴わない衝撃に隔てる壁もなんら障壁の役を果たさない。
「だから…こっちをみるなってさあっ…!」
遮蔽物を挟んで幾ばくか間隔がある。今ならまだ振り切れる。
胃の腑からこみ上げる酸汁を飲み込み、萎縮する筋肉を無理やり引き動かして
ヒーリィは建物の裏へに身を滑り込ませた。
目標を見失った「ボール」がよりかかった弾みで円輪が勢い側道の曲柱を突き崩す。
(どうにか引き離せたか…)
辿り着いた小路の陰に潜んで軽く息を整える。
二基の飛翔輪を備えた「ボール」の移動速度は決して速くはないが、なにしろこちらは確認されればそこで終わり。
目の端を掠めただけでこの有様だ。直接相対した時どうなるか、想像もしたくない。
見敵必殺を地でいくその力。敵に回して鬱陶しい事このうえない。
集団は数に頼んで経路を一つ一つ塞ぎにかかっているようだ。急がなければ。
312儚散天楼/44:2007/04/02(月) 05:33:38 ID:???
照灯の帯を避けて、再度疾走開始。
ヒーリィは塀を駆け登って、二区画を一気に横断した。
問題ない。このまま逃げ切れる。
なにか予想外の突発事さえ起きなければ…

市外部へと通じる矮路に飛び込んだ途端、ヒーリィの背筋が凍る。
道に横たわる人影は二つ。
怪我をした老親を子供が介抱しているようだ。
あれだけの人手だったのだ。避難途中場の混乱に巻き込まれ、そのまま取り残されたのだろう。
街の異状を察知し、二人は身を寄せ合ったままその場にしゃがみ込んでいた。
ヒーリィが逃走を続ける限りここは「ボール」の通過点でもある。
後方から迫る無人機体が彼等を誤「視」する恐れは充分にあるということだ。
といって二人を連れながら逃げ切れるはずもない。

決断を迫られたヒーリィ。
双肩にかかるのは神威を戴く身に課せられし比類ない使命の重責。
そこからみれば目の前にあるのは天秤にかけるまでもない塵芥に過ぎない。
透徹した内なる声が彼を苛む。
仕方がない―――
諦めろ。見捨てろ。躊躇なく切り捨てろ。
とるに足りない犠牲。瑣末な損害。
見誤るな。忘れるな。
成すべき嗣業。果たすべき宿業。

秒に満たない逡巡の後。
ヒーリィの手が子供の頭を撫でる。
「ここ、絶対動くなよ。もうすぐ助けが来る」
寄せた頬を離し、彼はすぐさま踵を返す。
「ボール」が侵入する前にこの場から離れる事を最優先に。
「馬鹿がっ…!」
誰にともなく毒づきながら。
313儚散天楼/45:2007/04/02(月) 05:45:18 ID:???

道は離脱経路とは逆方向、その上行き着く先は袋小路。
繋がる分岐路からそれぞれ、羽虫の唸りに似た飛翔輪の音が近づいてくる。
(高くつくよな…善人面ってのはさ)
ヒーリィは覚悟を決めた。といって諦める気はさらさらないが。
つまり、呪詛に構わず脱出しようという事だ。
無謀を通り越していっそ笑いを催すような蛮行ではある。
だとしても、他に方法がないのであれば。
彼は無意識にディミから受けとった首飾りを握りしめる。
ほんの少し耐えられればいい、即死を免れさえすれば――。

正面側壁から長い手が覗く。
ついに、視界を塞ぐ「ボール」の眼光が彼を捉え―――

―――るよりも前に、ボールの腹を強かに蹴り飛ばす黒紺の機影。

『ご無事でありますかっ、主長!』
「マファ隊のデイボンか!絶好のタイミングだ!」
MS「クゥエル」は主を遇するが如く、片膝をついて少年を迎え入れた。

コクピットに上がったヒーリィ。
「――あっちにディミもいる、付近に逃げ遅れた人間がいるようだからそっちも頼む」
『心得ました!』
「状況はどうなってる」
『只今、各機は「レボホト」数箇所から出現した魔機の掃討にあたる所です』
MSの高さからなら遠方の爆明がはっきりと確認できる。
爆発の正体はこれか。巨大な鉤爪で地表を抉り抜き立ち現れる首のない異影。
浮界の辺土に蠢くMS「ズゴッグ」。
「…「ヘブンス」はもう確保したか」
『ああ、そちらは先ほど入った通信で心配ないと』
「通信だって?どこの誰からだよ」
『はっ。どうやら我々より先に侵入していた者がいたようで…』
314通常の名無しさんの3倍:2007/04/02(月) 13:24:59 ID:???
ズゴックもファンタスティックなデザインになってるかと思うとwktk
315通常の名無しさんの3倍:2007/04/02(月) 20:00:32 ID:???
ほい
「ズゴッグ」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org7395.jpg
いつになく早描きなんで微妙
316通常の名無しさんの3倍:2007/04/03(火) 22:23:42 ID:???
テラデビルwwwwwww
317通常の名無しさんの3倍:2007/04/04(水) 01:02:37 ID:???
wktk
318儚散天楼/45:2007/04/04(水) 06:09:05 ID:???
少年を託つ円天井の領域。「レボホト」中枢に存する都市制御ユニット心臓部。
室壁は粘る斑が混じりこみ象牙の白濁から鮮やかな縞瑪瑙に転じている。
円天を等分する線形と横に伸びる黒い平行線の交点から不規則に断続的に吐き出される幾何学紋。

決して解ける筈の無かった防衛用詠唱錠は強引な魔の力によっていとも簡単に破壊され順々に改変されていく。
狂穢にゆがめられた神の譜たち。黒の一滴一滴がゴルディアスの結び目を断つ刃。
並みいる律行手とて考えもつかなかったろう、中枢ユニットを利用するに当たって、
少年が先ず機関そのものを丸ごと創り変える所からはじめようとは。
空間から引き出された相導式の奔流は引きつりのたくりながら新たな律式を形成し、
やがて夥しい律式の束はただの一箇所、に凝縮し。
球形の表面を巡る圧縮詠式、終末の門を開く「鍵」が少年の掌の上に収められ
るのと、少女が静かに少年の境界に踏み入ったのは、ほぼ同時だった。
白い髪。瞳に湛えた深い瑠璃色。
「お前は…」
少年は彼女の姿に何を見たのか。
驚愕はみるまに激しい憤りに豹変し、次いで憤嘆の相を成す。
「「EDEN」めえぇっ…!また性懲りもなく繰り返すっ…!」
刺すような鋭い眼光に時折垣間見える哀れみ。
少女は視線を受け止め、胸に手を当てて少年に語りかける。
「ルエビ、ルエビ・アンフィルエンナです。貴方をとめるよういいつかりました」
言葉も遠く立ち尽くす二人。外界を絶し静止した空野で、無限に引き伸ばされた時間は永遠に等しく。
親和する白と黒の視座に交錯する紅と蒼の瞳光。
幾千と絶えぬ永夜、幾億と果てぬ誓いの黎明を経て。

今、ここに少年と少女の軌跡は重なり合う。


迷宮めいた回廊を進むほど、ダネルの歩みは速度を増す。
朽ちた大気を伝う脈動が導く。彼女もきっと「其処」へ向かっている筈。
(なんだ…?)
側面から響く、金属の蠕動に気を留めるダネル。
彼からみて左手、六層の格子で隔てられた壁の先に広がる闇の奥、交錯する鉄条のさらに向こう側より上昇する工蔽ブロックが辛うじて視認できる。

分厚い鋼板を折り重ねた籠の中には尖角を鎧う三匹の竜が不気味に佇立していた。
(なん、なんだこいつら……)
いずれも「EDEN」はおろか記録に残るいかなるMSとも似つかぬ特異な風貌。地表へゆっくりと運ばれていく妖機を成すすべなく見送りながら、少年はいっそう足を速める。
直観が警鐘を打ち鳴らしていた。
アレは敵だ。それも、恐らくは「インフェルノ」に匹敵するほど凶悪な―――。
319儚散天楼/46:2007/04/05(木) 04:39:57 ID:???
「―――邪魔をするならたとえお前でも、俺は壊すよ。ソフィアの娘」
ようやく彼は重い口を開く。
「貴方に、それが出来ますか?」
瑠璃の虹彩が揺らぐ。少女の言葉に挑発の色はなく、それはただの純粋な問いかけだった。
「ルエビ!」
世界を破るのはいま一人の少年。瞬く円周の光を背に織り重なるそれぞれの影。
「ダネル…」
ダネルの目が捉えるのは見知らぬ少年。ルエビと同じ銀髪の奥に覗く眼差しは背理に燃える紅…
――いいや。彼はこの少年を識っている。
「…どこかで聞いた声だな」
嘲りと共に響く「少年」の声が彼の脳を揺さぶりかける。
「そうか、お前か…「セイクリッド」の聖霊手、久しぶりとでもいっておこうか」
その記憶は炎とともに。
「お前はっ……「D」…!」
収縮する視野、体内を駆け上がる血の昂ぶりと赤熱する神経網。
瞬間、爆ぜる幻影がダネルを襲う。

ダネル、ルエビ、そして「D」、三様に去来する錯視幻像が空間を切り裂いて…瞬く間に途絶えた。

急ぎ我に立ち返りダネルは「D」に詰めよる。
「あいつは、「インフェルノ」はどうした…!」
相手のわななきも意に介さず「D」は詩を詠じる様に語りかける。
「分からないのか?すぐ目の前にいるっていうのに」
轟と巻き起こる粉煙と礫片。壁を突いて現れたのは尖角に節くれだった巨大な指。

「レボホト」と地を繋ぐ渦条柱が入り口だった。水滴が岩に染み入るように少しずつ。
極微に分離した霊質は断霊加工され柱の内奧をすら侵して浮界深層に入り込み。
中枢ユニットを喰らいつくし同化・融合を果たし…

「…再構築に思いの外手間取ったが」
周囲の物質を取り込み復元された鉄の肢体。天井の亀裂に紅い眼窩が開く。
この一室は既に「インフェルノ」の懐にある。
「そんな事まで…出来るっていうのか……!?」
戦慄に慄くダネル。このMSが化け物などという生易しい存在なものか。そう、これではまるで――。
320儚散天楼/47:2007/04/05(木) 04:47:44 ID:???
「インフェルノ」の身震いが瑪瑙の檻を崩し始め。
「――悪いが時間切れだ、目当てのものは手に入れた。分かるよな?これで、ここもあと腐れなく消してしまえる――」
ますます大きくなる地鳴りとともに「D」を腹中に収めた機体は自らが穿った虚に沈んでいく。
ルエビは追いすがろうとするダネルを必死に引っ張る。
「待てえっ、貴様あぁ!!」
「ここはもう保ちません!早く戻って!」
支壁を軒並み奪いとられあえなく崩落する円天井。
瓦礫の山が出入り口を塞ぐのと、もつれ合う二人が通路に転がり出たのとはほとんど同時だった。
「助かったルエビ…」
「いえ…それより困ったことになりました…」
おもむろに少女は説明を始める。
「先ほど確認したのですけど…彼、「D」は環境維持ユニットの系律に手当たり次第に干渉して
目当ての律句を引き抜いて回ったらしく、制御律全体が手の施しようがないほど歪んでしまいました。
それは当然、生態保持プログラムにも及んでいて、まもなく都市の根幹が機能不全に陥るのは明白です。
…修復しようにも中核部はこうして壊されてしまったわけで…」
自分には理解不能な説明にダネルは少し難しい顔をする。
「つまり、どういうことさ?」
「ええと、ひとことでいうならこのお椀、夜明け前には落ちゃいます」
「そ・それを早くいええええーっ!!?」


空覆う杯の底部を穿つ爆散を巻きつつ、夜天に出でる真黒き凶獣。
「インフェルノ」は自らが飛び立った大地に向き直る。
大陸ごと焼き尽くす冥府の火を見舞う為に。

――が、しかし。

「D」は自機に襲いかかる光弾を紙一重でかわす。
「やあぁっと会えたな…「インフェルノ」」
「インフェルノ」の前に敢然と立ち塞がった射撃の主は金に縁取られた重量感溢れる白影。
「その機体、…「ディバイン」か」
Gの機中にてヒーリィ・イルは呟く。
「悪いがダネル、ちょっと抜け駆けさせてもらうぜ――」

闇を切り裂く金白の軌条。
熾煌の聖霊機「ディバイン」が大光槌を展開する。
闇より尚深き漆黒の梁動。
至凶の魔影機「インフェルノ」が翼帯砲門を開放する。

倶に天を戴く事叶わぬ存在なれば。
崩落に向かう天都直下、対極なす聖と魔の機神はここに殲戦の端を開いた。
321通常の名無しさんの3倍:2007/04/05(木) 12:34:11 ID:???
うん、まぁアレだ。普通に面白い。
期待してる。
322通常の名無しさんの3倍:2007/04/06(金) 08:23:02 ID:???
そのひとことで頑張れます
ありがとー
323通常の名無しさんの3倍:2007/04/06(金) 12:15:36 ID:???
面白いな、確かに。

……でも、毎回これがガンダムである必要があるのかとも思うけど。
324通常の名無しさんの3倍:2007/04/06(金) 15:35:28 ID:???
G以来、そう思ったとき俺は逆に考えることにしている

ガンダムでやらなければならない内容じゃないが
「あえてガンダムでやるから一風変わって面白い」ってヤツだ
325通常の名無しさんの3倍:2007/04/07(土) 05:10:21 ID:???
がんばれー
326儚散天楼/48:2007/04/08(日) 12:25:00 ID:???
屋敷に灯りが戻る。
廊下を右往左往する臣下達、絨毯を叩く足音だけがやけに騒々しい。
不意の闇天とともに訪れた邸内の騒憂は今や明らかな混乱へと変わりつつある。
レボホトが沈みつつある事実が知れ渡れば騒乱はいっそう深刻の度を増すに違いない…。
「――非常用の環境設備が何とか動いてくれたようです」
太守邸にようやく帰参したヨナ卿を待っていたのは主の叱責だった。
「明りなどどうでも良い!このような時にどこへ行っておったのだ!」
「は、方々の状況把握に赴いておりました。防衛部隊と「EDEN」所属のMSが周辺の防護にあたっているので
とりあえずここは安全かと。大祭りで央都に領民が集中していたのは、幸いでした」
「いずれ、「レボホト」が落ちれば何もかも徒労に帰そう…」
戻ったばかりのヨナ卿に内心の苛立ちをぶつけた彼女は合わせて高慢な気取りも吐き出してしまったようかのに
開け放たれたテラスの外を力なく逍遥する。

地平には湧き出でる魔機の爆影。

「…ヤアジアの謀に私が気づいてさえいれば!領内の不穏な空気は感じておりましたが、よもやこれほどの惨事になるとは…」
足早に駆け寄る従者の一人がヨナに耳打ちする。
「準備が整いました。港に避難艇を用意してあります、後は我々に任せてどうか閣下だけでも先に…」
眉に皺を寄せたヨナ卿の言葉も耳に入らぬ風で太守は悄然と立ち尽くしていた。
「…そうか。わしだけが、何も知らずに…」
327儚散天楼/49:2007/04/10(火) 05:39:05 ID:???
息切れしたルエビが崩れるようにへたり込む。
「すみません…」
無理もない。移動装置の類が停止している以上仕方がないとはいえ広大な工蔽区画を走りづめで、ただでさえ華奢な少女の肉体は悲鳴をあげている。
「あっ、きゃ!何をっ!?」
うすくまる彼女を有無をいわせぬ早業で胸元に抱きあげるダネル。
「こっちの方が早いっ、さっきの話が本当なら一秒だって急いだ方がいい」
「けど…」
「平気平気、伊達に鍛えてやしないっての!」
ルエビの指示で、ダネルは地下回廊から「ヘブンス」が設置されているはずの広場を目指していた。
「そこを右に曲がってっ」
「分かった!」
彼は背負ったルエビをものともせず速やかに十字路を折れ曲がる。
「…にしても、凄いな。こっからでも「ヘブンス」の位置が分かるなんて」
「わたしとあの「娘」は繋がっていますから」
少女の顔をよぎる僅かな逡巡。
「…バニ太守のいうとおり、私は「ヘブンス」を繰る為に用意された人形なの」

MS「ヘブンス」。
凡百のMSはおろか他G級各機をすら凌駕する神秘の機体を真の意味で乗りこなせる者などそれまで誰もいなかった。
そう、彼女が「造られる」までは。
MSの主たる動力機関・魂核炉心が発揮する聖質の源は上位構造野から齎されるもの。上位空間とは即ち神域。そこから引き出される力は文字通り神の力に等しい。
要するに魂核は神の受信回路であり、その意味では小型の神ともいえる無限機関だ。分けても「ヘブンス」の魂核は窮極にまで受神域を高めた限りなく神の器に近しい代物。
「ヘブンス」完成以来、一向に現れない適合者に業を煮やした「EDEN」はついに強引な解決手段に訴えでる。人工的に適正者を作り上げるという暴挙に。

神界との接点、「台座」から抽出した霊子構成を基に造形した、つまりは魂核の精精過程と全く同じ方法を用いて生産された神の塑像。
数え切れない試行の後に生みおとされた、「ヘブンス」の量子的相同体。聖約によって聖霊機と繋がれた生ける魂核構成因子。

造体技術は聖庁にあっては禁忌。まして人為的に聖者を生み出す試みなど許されよう筈がない。
それ故、少女の出自は「EDEN」によって徹底的に秘匿され彼女の生は常に厳かな監視の下にあった。

聖霊から肉の身に墜とされし囚われの天使ソフィアの末裔―――
それが純結の神巫女、ルエビ・アンフィルエンナだった。

彼女の告白を聞いたダネルは走る足をとめずに考え込み、やおら口を開く。
「まだ、よくは飲み込めてないけど…けどさ」
「…はい」
「自分を人形だなんていうな。ルエビは、ルエビだよ」
ルエビには彼の怒ったような顔が妙に可笑しく、思わず相好を崩す。
「…ありがとう。そういってくれる貴方だから、私も打ち明けたんです」
328儚散天楼/50:2007/04/10(火) 06:12:02 ID:???
「――太守がいっていたよな。君が刻がみえるとかって…それって俺が、俺達が前に観たのと同じようなものなのか?」
「インフェルノ」の幻体と接触した際ダネルが触れた「D」の記憶。
「そう、そうだと思います」
彼は先刻あの場に飛び込んだときもまた、空間に重なる光景を幻視した。
どことなくルエビに似た白髪の女性とともにいる「D」の姿。あれもまた「D」の過去なのか、それとも…
その時、ダネルの胸に去来するのは少女が放ったいつかの言葉。
(「あなたは彼を赦せますか…?」)
不意に口をついて出たのは推測ではなく確信。
「ルエビには、これから起こる事もみえるんだな」
答えずとも、彼を捉える淡く深い蒼瞳が全てを物語る。
上位構造は此界の全事物を内包する領域。全知にして全能、普遍にして恒久。
神の力とはいわば物質に先立つ先見的な情報、記述の束だ。
そして過去未来の別なく全てを含む神いますその地平は時間の概念を超越した場。
であるなら、神空と通じる魂核と情報を共融する彼女が未来事象を予め感受するのも不可能な話ではない。
「…あいつとの戦いの結末、どうなるんだ」
ルエビは、

―――「インフェルノ」の少年。彼女をかき抱く彼の嘆き。暁に広がる空。たどたどしく触れる指先。途切れがちな少女自身の囁き。
紅く濡れたその瞳。生まれおちた瞬間から識っていた懐かしいその顔―――
少女の過去より過去。未来より未来。道を一つに繋げる「死」。

…目を閉じてかぶりをふる。
「自分の意志である未来を予見することは出来ないし、観えたとしてもそれは時の断片、ある瞬間だけなの。
そこに至る道筋も、それがどういう意味を持つのかも分からない…」
人間という受容器にはあまりに膨大な情報の波を意味なすものとして構成する事は容易ではない。
結果として感得された光景はおぼろげで不鮮明なイメージの流動でしかない。
「未来がみえるってさ、苦しいのか…?」
待ち受けるのが昏い明日なら絶対予見など絶えざる責め苦に等しいのではないか。
ダネルは過酷な運命を負った少女に、しらず心中に在る一点の曇りを投影していた。
自分は「インフェルノ」を倒す。それが使命だ。迷いはない、なんとしても果たす。
だが、忌むべき半身を打ち滅ぼして後、自分には何が残っているのか…。その先に思い描く未来はひどく虚ろで寒々しい。
「そんなことは、ありませんよ。みえた未来は変えられないけれど、それをどう受けとめるかは私次第ですから。
「…多分、運命なんて、誰だって背負っているものなんでしょう。ただそれに気づくか気づかないかの違いだけ。
そして運命を知ってしまったからといって、今ここにある自分以外結局人にはどうする事も出来ません。
精一杯、悔いなく生き抜けば、辿り着く「その刻」がどんなものであっても、きっと私は喜んで受けとめられる。私はそう、信じていたいんです」
彷徨を続け。流離を続け。それでも歩みとめることはなく。
いつか同じ道に繋がる終局の空に至るまで。人は誰も今を刻む足どりで届かぬ明日に想いを懸ける。
彼女の語るそれは、祈りにも似たの人の営み。
「…ああ、そうだよな。そうだと、いいな」
そう、曖昧に応える顔を凝視っとみつめるルエビ。
彼女には、ダネルにいえなかったことがもう一つあった。
329儚散天楼/51:2007/04/10(火) 06:13:18 ID:???
あの瞬間。「D」とダネル、二人が遭遇した瞬間に垣間みた光芒。
実際には彼女が目撃することのないであろう「彼等」の道程が行きつく先―――。

一切が白無に包まれた真空の宇宙。
光塵かき分けて進む一条の星辰、翔ける箱舟が旋律を宙空に奏でる。

そして。

其はΩ―――終りを招く者。
虚空にたゆたう三十六の大翼をしたがえ黒き神獣が天上に緋を描き。
其はα―――始まりを切り拓く者。
虚空にゆらめく蒼翼を背負い銀灰纏う騎神が箱舟の船首に立つ。

彼等の行く先、彼方には轟然と聳えたつ空間を貫く御柱。

超越の楔。「神の台座」。

やがて滅びと新生とが相和する調律の中、奏光たなびく白界に覚えのある声が響く。

「――さあ、ダネル。神に愛を教えてやろう」

ルエビ・アンフィルエンナは悟る。自分はきっとこの少年と「D」を結ぶ為に生まれてきたのだと。
彼女は少年の頬に静かに手を添え。
聖と魔。光と闇。希望と絶望。神と人…。全てが決する遥けき刻の彼方。その場所に到るまで――。
「負けないでね…ダネル」
「ああ、これくらい、大丈夫さ!」
少年は内心の懊悩を隠すよう強く頷く。言葉に込められた少女の悲想など知る由もなく。
非常用の炸薬式開錠で鉄扉を開く。
「さあ、ここを上がれば…!」
「ヘブンス」の掲げられた小塔の真下にあたる開けた円形の空間には機能を停止した昇降機が地べたに横たわっていた。
上へ上がる手段は万一の場合のために側壁にとり付けられたく螺旋階段のみ。長く段々と坑内を経巡る石段をみあげる二人。
「…大丈夫?」
「……大丈夫。多分…」
ダネルはひくつく笑みで答えた。

330通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 06:22:02 ID:???
てな訳でちらりガンダムD登場ー
きちんとした出番は遥か先ですが…
こっからはほぼMSパート一色なんで暫くのご辛抱をー
331通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 15:49:28 ID:???

後継機wktk
332通常の名無しさんの3倍:2007/04/10(火) 16:53:51 ID:???
何なの、この文章力…
神の世界を垣間見ているのはひょっとして俺かもしれない。
333通常の名無しさんの3倍:2007/04/13(金) 18:54:58 ID:???
保守
334通常の名無しさんの3倍:2007/04/13(金) 19:09:26 ID:???
ガンダムじゃなくて人間でやったほうが受けそうな題材
335通常の名無しさんの3倍:2007/04/14(土) 17:58:32 ID:???
続きマダー
336通常の名無しさんの3倍:2007/04/14(土) 19:22:43 ID:???
すんません、ちと待ってくだせー
どってことない箇所なんだが本格的な戦闘は初めてなんでてこずっとります
337儚散天楼/52:2007/04/14(土) 21:20:26 ID:???

尖った弧月がつき刺さすようにかかる空の封土、「レボホト」は闇にその巨体を震わせる。
あたかも面前で繰り広げられる閃光の饗宴に怯えているかの如く。

目まぐるしく交わり、遠ざかり、また交わり、枝分かれる数多の光焔を後に残して翔ける双流。
不規則に絡み合う二つの軌道は明確な意志を放って輝く。破壊への意志を。互いに断罪欲する戮刃を。

天都に伸びた支柱の一つを蹴って飛び。
「ディバイン」の光槌が敵影に振り下ろされる。
黒い弾幕を防壁に、後退する「インフェルノ」の長爪が間をおかず闇を灼熱で割く。
迫る熱線を潜り抜け、「ディバイン」の光背翼座が前面にスライドし、突き出た砲口が楕円の繊鋼を弾く。
劫罰の紫雷が夜天をはしり地を刳り貫く。
一個師団をまとめて焼き払う破格の兵装も、束の間「インフェルノ」を遠ざける役割しか果たさなかったようだ。
無様な射撃を魔獣は嘲笑うように緋の咆光を立て続けて発する。
最高速を維持しつつの機体のきり返し。
背部翼座を地面に擦りながら柵条柱をジグザグに縫って群がる渦炎を回避する「ディバイン」。
柱の背後に消えた敵影を猛然と追いやる悪獣、だが柱を穿って飛び出た複鎖がその進路を遮る。
「これならさっ!!」
光鎖が大きく曲線を描く。光弾を装填した砲座の集積体である鎖列は本体から伝わるうねりに合わせて一斉に尖鉄を解き放つ。
天に地に、―その一つで通常MSの放つ振動砲に値するであろう―優に一万を超える弾礫が「インフェルノ」の周囲を埋め尽くす。
「はっ…!」」
黒影は一度丸めた翼を勢いよく開く、と同時に狂気じみた輻射熱流を吐き出した。産み落とされた火竜の貪婪な牙は触れる光礫全てを薙ぎ払う。
プラズマが櫛ずる地裂。めくれ返った地岩がさざめく波濤となって夜天を衝く。
爆塵の積雲から現れる機影。「インフェルノ」の損傷は腕部表装の微かなもの。引っかき傷程度といったところか。
「ははっ、予想以上だな「ディバイン」。単機でこれだけやれるなんて、本当に常識外れのMSだ」
「…その台詞、お前にだけはいわれたくねえっ…!」

息つぐ間もなく戦闘を続行する両者。
中空に甲翼がはためく度に光速の軌道が跳ねる。交わされる砲撃の苛烈な応酬。
にも拘らず、小刻みな前進後退を繰り返し空間を縦横に使いながらじりじりと二機のGは互いに距離を詰めていく。
凄まじい弾嵐の中、相殺し合い炸裂する弾頭の切片が消滅音を飛沫く。

両極の霊質。厳密にいえば聖性も魔性も物理的な特性ではない。
霊性とは物質世界の在り様を先見的に決定するメタ物理情報子。世界の法則を加工する奇蹟の素子が聖であり魔なのだ。
神統べる世界の理に則った奇蹟因子が聖であるとすれば、反霊質たる魔は主の全き世界符律を歪ませる侠雑物、妙なる神曲に混じった醜いノイズだ。
聖と魔の戦いとは突き詰めれば相反する二つの原理が世界を書き換えあうといっていい。
一方は賜った秩序を守らんと。一方は押しつけられた束縛を断ち切らんと。
純正の聖と魔は互いに逆らい打ち消しあう。

接近する白きG、重量をものともしない大槌の連撃。構えた六本の熱爪でそれらを捌く黒きG。
激突する白槌と赤爪。
放散する電光は霊性干渉による世界の亀裂。
かつ離れ、かつ近づき、空を切り裂く旋回は狂奔する輪舞、天地を鼓する打突の閃鳴は死線を刻む奏律。
338儚散天楼/53:2007/04/14(土) 22:24:52 ID:???

かつてない凶敵を前にGの本領を如何なく発揮する「ディバイン」。
その機内、背後より突出する操作天盤の積層がその身を鎧うコックピットの中でヒーリィ・イルは僅かに喘ぐ。

激しい交戦の最中にあっても彼は霊性に敵機の性能を分析していた。
近接は熱爪。尾斬。中間距離は光熱放射。遠距離の振動熱線砲。超長距離の空間歪曲断光。
(武装自体は聞いてたのとほぼ変わらずか…)
異なるのは圧倒的な霊質密度。
尽きせぬ霊流にまかせた圧倒的な破壊力と無限ともいえる活動時間。その上――、
前腕部を覆う気泡。先程、体表に入ったはずの罅は既に跡形もない。
――装甲修復さえやってのける驚異の再生力。
(一気にケリをつけるよりないか…)
短期決戦は元々「ディバイン」の得意分野。
「やってやるさ…!」
ヒーリィは機体に意識を沈み込ませた。
負担は増えるが止むを得まい。「インフェルノ」が放散する分厚い瘴気で精度を失った現象系照準を切り換え、想波感知と直結。
途端、堰とめられていた情報の束が渦を巻いて彼の頭に流れ込む。
流れる外界を泳ぐ機体。還元され加工され再構された知覚システム。
拡張する意識、すぼまる自我。MSを操る己を覗く己。脳に張り巡らされた神経糸のざわつき。
発火するシナプスの点が素描する思念の潮流が直接に機体を掴む錯覚。
限りなく同期する反射と反応。同調する操り手と炉心。
戦闘に没入するごとに、「ディバイン」は人と機の境を容赦なく突き崩していく。
Gは思考に等しい疾さで翔ける。繰り手の能力を余す所なく発揮する機体を喩えた言葉だ。
しかしそれはいい換えれば繰り手の限界がそのままGの限界でもある、という事。
より疾く、より強く、より正確に、より自由に…
人が人である以上逃れられない生理学的な制約をわずかでも上回ろうともがくヒーリィの全身と全霊。

機動聖霊は超克を要求する。神敵のみならず、搭乗者たる人間の肉業をも。
戦いこそが人をより高次に引き上げる為の試練だとでもいうように。
339儚散天楼/54:2007/04/16(月) 02:57:16 ID:???

山なり軌道の閃弾。
――避けられる。
背翼の微細な振幅。機体の脇を通過する弾道。
時間差で打ち込まれた紅蓮の直光。
――これは避けられない。
突き出した光鎚が展開、円形の傘となって機体を覆う。
全MS最高度の重装甲を誇る「ディバイン」をさえ圧する被弾衝撃。
膨張する盲白に意識をとられている暇はない。
空白のゼロコンマの後に待つのは嵐のような集中砲射――機体ともどもその身は潰える。
よって即応。見失った敵影の確認よりも迎撃が先んじる。
――内蔵された発振機関の急加速、高速で擦れ合う黄鱗が弾く光振の波が瞬く間に炉心の理力を導出する。
「腕部回転式光波速射砲」―励起。
「胸部振動砲」―充填。
「広域掃討用肩部全周輻射砲」―開放。
―――斉射。
闇空を照らす奔光。ヒーリィは自機の全周囲、死角全てを弾幕の嵐で塞ぐ。
「ディバイン」からのびた複射砲撃の火。四方に分かたれたその様は月下に掲げられた輝色の十字架。
ヒーリィは火線の一端にかかった気配を鋭敏に察知した。
空間の歪曲場を感知―霊性干渉によって操作された物象は通常空間においては特異点であり、
そこには少なからずの齟齬が生じる。空間の変調はその結果だ。
極限まで感度を増したGの多重層皮は乗り手に外界を漂う霊痕の「匂い」を備に伝達する。
反応は後方から。
十字形をとった金色の弾流は一点のみに絞られ闇に染まった荒地を照らして薙ぐ。
「そこらへんっっ!!」
爆音につぐ爆音。衝撃で盛り上がり赤々と燃える崩土の燭台が照らす隻影。
輻射熱を巻き上げ黒獣は上昇する。
「直撃はないぞっ!「ディバイン」っ!」
「はしゃぐなよ、盗んだ機体でさあっ!」
「馬鹿をいうっ、「インフェルノ」は元々俺のもの…いいやこいつは、俺そのものなんだからなあ!」
「なら、もろともにいっちまえっ!」
ヒーリィは敵を広角で捉える為わずかに後退している。
距離をとれば速射性に劣る「ディバイン」には不利だが魔獣が浮界周辺から離れた今なら…。
『砲門開け!』
浮界を左手に据えた遠距離から放たれるタルシス艦「バートルビ」の収束鐘波。数多の波光が夜天を翔ける。
「っつ!」
側面からの援護砲撃が悪獣の動きを封じた。
「卑怯とはいうまいなあっ!」
間を入れずに「ディバイン」が空を滑して「インフェルノ」に肉迫する。
疾駆する白影は閃く魔獣の双爪を鎚の長柄でいなしお返しとばかりに至近で腕部射光砲を炸裂させた。
「…こんなものでは!」
被弾をものともしない「インフェルノ」。
「お前等のやり方はよく心得ているよっ…!」
爆光をまとう機体の胸元に集まる魔気―黒の晶粒が描く蜘蛛の巣状の紋線から生じる黒い球形。
凝結していく霊性密度からもそれが尋常の兵装でないことが分かる。
「この距離で撃つっていうのかっ…!?」
「デヂィバイン」が引き続き腕部速射砲を浴びせかけるも魔獣は身じろぎもせず、
やがて晶粒の微細な囁きは邪黒き閃光の雄叫びに――
340儚散天楼/54:2007/04/16(月) 03:00:42 ID:???
迫撃から身をよじるように機体を傾けるヒーリィ。

響き渡る天の絶叫、地の悲鳴。
「インフェルノ」が最終兵装、「アニヒレイション・フィア」。闇空を捻じ曲げて黒光が奔る。
掠めた浮界を衝撃だけで削する超絶の波動。

機体を組みあいから引き剥がしたヒーリィは放たれた閃光の行方を追う。
「しまっ…!」
魔獣の狙いは「ディバイン」ではなく、遥か後方に控える「バートルビ」。
「終末の火」は船首の三枚翅から成る障壁を易々と貫通して側舷を食いちぎる。
爆炎に包まれ機首を沈ませる戦艦。
「「バートルビ」っ!」
『航行機能には支障なし…しかし左舷砲門を軒並みやられました!』
「もういい、艦隊ごと後方に戻れっ!レボホトの守りをしっかりなっ!」
『……了解っ!下がります!』
ここで戦艦が撃沈されては目算が狂う。
尋常ならざる両者の攻防はタルシス艦隊の天輪障幕に包まれた「レボホト」さえ揺るがす激震を生む。
戦艦三隻による保護がなければただでさえ不安定な浮界は衝圧の余波でたちまち崩れてしまっていたろう。
「…くっそ、艦隊を寄せて逆にプレッシャーかけられるとは…ガルガリン級がやられる訳だよ!」
何が武装は変わらずだ。ヒーリィは軽く舌うつ。
目前でみせつけられた兵装の威力は完全に彼の予測を超えていた。超高密度の魔塊榴弾。
どんな装甲も障幕防御もなんら効果を及ぼさず、直撃を受けて無事なものは恐らくこの世には存在しない。
戦艦ではなく浮界に向かって撃たれていたら。
(アレは撃たせちゃ、まずい…)
あれだけ高密度の攻性霊装なのだ、連発はきくまい。これでまた一つ決着を急ぐ理由が増えた。
「…おとし損ねたか。ははっ、的がでかいんで却って油断してしまうな」
「ぬかせっっ!」
341儚散天楼/56:2007/04/16(月) 03:03:17 ID:???
「インフェルノ」に再び接近する「ディバイン」。
戦艦による援護が望めないなら近づいてのやり合いしかない。
右半身で降り注ぐ加撃を遮り返礼の銃火を敵影とは真逆の虚闇へ放出。
逆方へ打ち出された数十の弾道が弧をうって反転し、敵機へ向かい襲い掛かる。
「魔影逐う猟弾」。
回避不能の絶対追尾、鉄の猟犬は標的を執拗に追い立てる。
ヒーリィとて命中確度を最優先した追尾弾ごときで狂獣を墜せるとは思っていない。
わずかでも怯もうものならすかさず追いうちを浴びせてやる…。
そこで、「インフェルノ」の動きを注視するヒーリィは追尾弾の異変に気づく。
魔獣の総身から篭れ出る濃密な瘴気を潜る内に追尾する光滴は濁り黒く変質していく。
幾条もの弾道を引きつれ夜空を舞う漆黒。
猟弾はもはや敵を追尾しているのではない。「インフェルノ」が放つ引力に吸い込まれているのだ。
ついには黒色に染まりきった猟弾の群れを、魔獣は鎌首をもたげて貪り喰らう。
「…ふざけろよ…」
相転移機構。元は物理エネルギーを聖性へ昇華する機構であったはずが、
今ではあらゆる物性を吸収し魔へと転換する忌むべき機関に成り果てている。
聖度の低い武器では悪機にみすみす餌をくれてやるようなものだ。

「ったく、とことん厄介に出来てるな…こいつは!」
倒すべきはMSはたった一機。Gに乗る彼はこれまで自機の性能を凌駕するMSと剣を交えた事はなかった。
未知の領域、かつてない凶敵を前にして聖霊機の騎手としての自信も揺らぐ。
困惑も怖れも無いではない。だが、醒めた昂りが彼の意識を制する。
「EDEN」の看板も聖霊手の矜持も関係ない。何よりもヒーリィ・イルは戦士なのだ。
そうしてそれは、敵もまた然り。
「どうした聖霊機っ、これで終わりでは「EDEN」の名が泣くぞっ!」
猛りのままに吼える「D」と「インフェルノ」。
一方的な殺戮に飽いた彼らは久々にまみえた強者との死闘を愉しんでいた。
342通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 03:25:55 ID:???
今更なんだが戦闘かけないことが判明

そのうちガンダムらしくはなると思うけれど、まあ先の話ですね…
もしも最後までいけばまあ板違いにはならんと思います
343通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 03:47:28 ID:???
344通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 03:57:52 ID:6dQEdvHt
テキヤ(ボス)が喧嘩相手募集だとさ

東京でタイマンしたい奴ちょっと来い
http://same.u.la/test/r.so/human7.2ch.net/4649/1176354371/

345通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 04:01:52 ID:H7xgWrtt
>>43
これは板違いではなくケタ違いだ
346通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 16:53:54 ID:???
誰が上手いこと言えとw
作者は己の道を突っ走るが宜しいかと思われます
347通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 19:01:58 ID:???
所で、まとめサイト作るとかって件はどうなったの?
348通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 19:14:18 ID:???
へえ、申し訳御座いません
このエピ終わったらつって、まさか一ヶ月たっても終わらないとは…
もう取りかかった方がいいですかね?
349通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 19:29:43 ID:???
うーん、どうだろ…
まだ1スレ目で全部読めるから、あんまり慌てなくてもいいんじゃない?
350通常の名無しさんの3倍:2007/04/16(月) 21:16:18 ID:???
おけっす
のんびりいきます
351儚散天楼/57:2007/04/17(火) 19:09:59 ID:???
「…くっは…!…やっと・着いたあ…」
長い階段を上りきり到着したがらんとした小塔内部。
膝をつくダネルは息を荒げながらも、彼の身を案じるルエビを手で制して先を急ぐ。
外に出てみれば頭上には小塔に括られた機女神の姿があった。
「良かった…」
「!ルエビ待った!」
自らの愛機に駆け寄る少女を、引きとめるダネルの腕。
聖霊機に駆け寄ろうとする二人のゆくてを突如として噴き出す土煙の波が遮断した。
石畳を断ち割ってずるずると這い出る幾本もの長大な触手が「ヘブンス」に纏わりつく。
「ヘブンス!」
咄嗟に彼女をかばったダネルの脇からルエビが叫ぶ。
のたうつ鋼鉄の蛇は見る間に聖霊機を締め上げていく。
「なんなんだよっこいつは!?」
「多分これがディミのみたっていう…」
「ヘブンス」を十重二十重に拘束する正体不明の蛇どもが彼等に向けた単眼をいやらしげに細める。
「くっそ、近づけないだろこれじゃ!」

『二人とも伏せていろ!』
轟音にダネルとルエビは耳を覆う。
頭の上を駆け抜ける銃弾の霰が「ヘブンス」を縛する機蔦だけを正確に弾いていく。
射撃の主は赤いGM。開け放たれたコックピットから覗いた青年の顔には覚えがあった。
「パルオーシュ…あんた!?」
『詳細は後で、中央部は死守させてもらう。さ、早く乗りたまえ!』
彼は片目を瞑ってダネルを急かし、MSの腕で二人を「ヘブンス」へと運ぶ。
「うわっと!」
聖霊機は戒めを解かれた、細かに羽をうち振るって千切れた触手を払い、腹部を開いて主を迎え入れた。
ルエビと一緒に「ヘブンス」の内に転がり込んだダネルは通常とはまるで異なった機内の造りに、思わずあれこれと中を見渡す。
「なあ、操作盤とかってどこにあるんだ?」
彼は不思議そうに尋ねる。
それもそのはず「ヘブンス」のコクピットには制御系にあたる機器の一切が見当たらないのだから。
「別に、特別な操作とかは必要ありませんから。私がお願いするとこの娘が聞いてくれるんです」
「……とことん規格外だなこのMS…」
352儚散天楼/58:2007/04/17(火) 19:11:42 ID:???

夜闇を寄せつけぬ燦然たる白翼を優雅に広げ「ヘブンス」が天に舞いあがる。
上空から「レボホト」表土を見渡せば中心街を背に、円形に布陣した「クゥエル」隊を囲むズゴッグの輪。
「また数が多いな、こんな時に!」
「もう時間がないのに…」
夜明けまであと数刻。今から避難作業に入っても果たして間に合うかどうか。とにかく急ぐほかない…。
「ルエビ、あれだ!」
そういってダネルは大陸の四隅に存在する大気循環ユニットを指す。
意図を察した少女は「ヘブンス」に詠唱するよう強く念じる。
機体は即座に四つの光帯を紡いで、それぞれを四方のユニット各基に繋いでいく。
やがて結びついた詠唱紋を通して注がれる銀の細粒が、統合制御律の混乱で停止した循環ユニットを再び起動させる。
外部から律式を挿入しての直接操作。レボホト深部で「インフェルノ」がやってみせた離れ業を真似ようというのだ。
「ほぼ掌握しました…これならなんとか使えそうです」
頷き合う二人。

「――本当にもう人はいないんだよな!?」
『ああ、領民全て中央部に避難済みだ』
「分かった、「GM」隊の皆、敵を出来るだけ中央から遠ざけて、合図したら離れてくれ!」
ダネルから、上陸した全部隊へ向けた通信を入れる。
『また「ヘブンス」がなんかやんのかい?』
『おお任しとけ!』
『ありったけを叩き込んでやらあ!』
全隊あげての集中砲撃が始まった。銃閃の落雷が浮界を鳴し、一時的に沈黙するズゴッグ達。
「今だルエビ!」
「皆さん、巻き込まれないでくださいね!」
具現する詠唱律紋で編まれた制御式の束はユニットを操る手綱。
詠唱紋の閃きに合わせて、ユニットの円孔から噴出する螺旋を巻く大気流。
四つの大気層循環創出機関から発生した猛り狂う大流がズゴッグの群れを飲み込みながら次第に一つの渦へと収束していく。
「よおし!このまま一片に振り落とせば!」
「「ヘブンス」、お願い!」

魔群を運び去る凄まじい竜巻が「レボホト」の天蓋を突き破った。
353通常の名無しさんの3倍:2007/04/18(水) 21:01:02 ID:8rdLZf3L
保守
354通常の名無しさんの3倍:2007/04/20(金) 19:27:29 ID:???
すんません、投下遅くなりそーです…
355通常の名無しさんの3倍:2007/04/22(日) 10:32:38 ID:???
ほしゅ
356儚散天楼/59:2007/04/24(火) 01:32:52 ID:???

すれ違いざまの一閃が白機を見舞う。
背中を灼く熱迅を意にも介せず「ディバイン」は足下の漆黒に向けて直光を撃ちおとすが、
軌道上に撒かれた爆風に照準を乱された矢弾は虚しく空に弧を印す。
弾幕の衝爆が生む密なる乱気流を泳ぐ「インフェルノ」。
錯乱する風域をかいてその軌跡を辿る「ディバイン」が再度放つ振動荷光。
機体後方からの追弾を小尾が刻む大気の溝に掻き消し、反転する黒影は紅翼の付け根から生えた砲口より蘇芳の嘶きを発す。
「ディバイン」へ乱れ飛ぶ火粒波紋が六連。波状を描く細い火線は牽制とはいえ充当な威力をもった破極の兵装だ。
襲う四つの弾影を光鎚の回転で、撃ち漏らした二つを胸部振動砲で相殺する「ディバイン」。
相打つ眩光と膨らむ爆陣を置き去りに迅る両影。
敵機を映じたモニタを確認しながらヒーリィの顔が険しくなる。少しづつ縮めた間合いがまた開いた。
「ディバイン」は飛行速度を上げながら背面に備した追加砲座を空弾倉ごと切り離す。
速さと一撃の重さで劣る以上は手数で対抗するよりないが、「ディバイン」の残弾は既に底をつきつつある。
(くっそ、露骨に足を使ってきやがった…)
「ディバイン」が長距離砲撃を封じるべく接近戦を挑むとみるやすかさず機動力で翻弄してみせる。
―――巧い。
初めこそ「インフェルノ」の底知れぬ力に目を奪われたヒーリィだが、交戦を続けるうち否応なく思い知らされた。
真に瞠目すべきはその操手であると。
「インフェルノ」はそのあまりに過密な霊性を宿すが故に、絶えざる暴走が常態といえる狂気のMS。
我が身さえ引き裂きかねない魔獣の膂力を余す所なく引き出し、支配し、自在に操ってみせる「D」。
機体が化け物ならその主もまた常軌を逸した存在だ。
一体どれ程幾多の血戦がこの鋭い爪を研ぎあげたというのか?
357通常の名無しさんの3倍:2007/04/25(水) 11:43:59 ID:???
wktk保守
358儚散天楼/60:2007/04/26(木) 03:04:19 ID:???

魔獣を猛追する「ディバイン」が再びアタックをかける。
収束弾砲の四連射に紛れ込ませた大光径弾。
振り向きもせず身を翻してかわす「インフェルノ」。しかし、かわした筈の一弾が左翼を掠める。
わずかに失速する機影。
機を逃さず、頭を押さえるべく前のめりに突進する白機。
「ディバイン」の照準が「インフェルノ」を捕捉したその時、機体前後から迫る重圧を肌に受け少年は舌打つ。
魔獣の配した空間断線の束。罠に誘い込まれた自分の方だ。
音もなく近づく不可視の斬鞭、その数三、四、五――多すぎる。
モニタ確認による回避は間に合わず、迎撃するには接近が過ぎた。
が、何より怖れるべきは。
「インフェルノ」が展開形成する砲門。肩あてからせり出した砲口に追撃の火が点る。
足を止めれば尽きせぬ砲火の暴虐に嬲り墜とされるは必至――
已む無くヒーリィは自機を空間断線の巣窟に投げ入れる。
装甲性能を限界まで引き上げる「ディバイン」。
流体聖質が装甲を奔り粒子間を横溢する。機体層甲の間隙に差し込まれる数百の障膜。
折畳まれた内部障壁は「レボホト」すら覆える程に膨大な霊圧。
その、重装甲をもってしても衝撃全ては散じきれない。
機体を襲う真空の打擲、右脚部外装をひちぐ衝圧。
「…っぐ!」
想定裡の軽い損傷。
目を細めるヒーリィ――神は我を見捨て給いじ。
だが、勝負はここから。
一気呵成の集中射砲が「ディバイン」を強襲する。
きりもんだ白機を容赦なく地表に叩き落す強烈な偏向集火粒。
勢い余った大質量の赤影が斜めに大地を射抜き、抉れた岩盤をマグマで満たす。
やがて、一向に止まぬ射撃の継ぎ目をついて溶岩流を割る機影が「インフェルノ」の前に飛び出る。
ゆらめく煙を巻く全身。磨かれた外装を汚す無数の傷痕。金飾は剥離し白地に醜く垂れ下がる。
「はっ、いい具合に鍍金がはがれてきたよなあ」
「…いう事がいちいち癪に障るんだよ、お前はっ!」
挑発にのるように機体を奔らせるヒーリィ。全砲門をもって応ずる「インフェルノ」。
瞬間、隆起する閃光が魔獣の背後で炸裂。
「ディバイン」が猛攻に耐えている間に地中に放っておいた螺旋弾頭が今、上空の「インフェルノ」に踊りかかったのだ。
爆雷から逃れる魔獣を「ディバイン」の光撃が更に追い込む。黒影が飛び退ったのは浮界直下。
其処は浮かぶ天井と地から生える索柱が超常の機動を制限する閉域。

「…その位置だっ…!」
呟くヒーリィ。
切り札をめくる時。
359儚散天楼/61:2007/04/26(木) 03:12:26 ID:???

「なんだと…!」
その瞬間まで「インフェルノ」=「D」は、眼前に現れた艦船に気づかなかった。
浮界の淵から飛び出る、船体を縦に降下するタルシス艦「アズマベト」。
僚艦とともに戦場から一時離脱したはずの「アズマベト」がいつの間にかこの位置まで回り込んでいた。
激戦の隙をついてとはいえ、戦艦を丸々一隻浮界の陰に隠すとは大胆を通り越して無謀ともいえる用兵術だ。
それだけに、虚を突かれた「D」の驚きは計り知れない。
「貴様っ、艦を下げてみせたのはっ…!」
「ああ、布石だよ…貴様の一発も、いい目眩ましになった!」
「アズマベト」両舷に配置された旋盤射式砲紋の二十四ある砲口が光撒を紡ぐ。
浮界下部をこそぎ支柱を砕き、僚機「ディバイン」をも巻き込んで魔獣を撃つ錦流が幾千光。
「…ならっ、今度こそ沈めてやるよ…!」
横なぐりに全身をうつ矢雨が流石に応えるのか魔獣は、ギクシャクとした挙躯でそれでも黒球を放とうと予備動作に移る。

「けどな、遅えよ」

崩落する岩盤と錯倒する条柱の奥に輝く白影。
艦砲に装填された特殊聖製弾頭は聖霊機が展開する極めて高聖性の装甲障壁には効を失する。
即ち。この領域は「ディバイン」の場。
熾烈な艦砲射撃の中に魔機「インフェルノ」が拘束される一方、聖機「ディバイン」は自在にその力を振るう。
金の五月雨を背負って「ディバイン」が構える大筒は可変展開した鎚器。
通常は光格子で鎚部を形成する六つの方錐基が連結し各々光のアーチを発生させる。
連続するアーチはそれぞれ結びつき長い砲身を形成。前方に折りたたまれた長柄が砲身を支える。
「ディバイン」の身の丈三倍はある長く伸びた大砲の先に集う煌粒紋。

「さあ、いっちまええええっ!」

「EDEN」筆頭機・「ディバイン」最強最大の超越神級兵装「ハル・シオン・メーカー」。
曙光を呼び込む黄金喇叭は今、音高く吹き鳴らされ――

無尽の爆晃が悉闇を駆逐し、現出れた無色の領野に黒影は塗りつぶされる。

――そして訪れる夜中の夜明け。

360儚散天楼/62:2007/04/26(木) 03:13:29 ID:???


空を揺るがす激振によって浮界から傾れ落ちた岩嶺が光源に触れ次々に消滅していく。
圧倒的な聖質の奔流は触れるもの一切を創世より生まれ出でた原初の光に還す。
いかな魔象とて逃れる事あたわず、やがては一握の塵へと消え去る―――――――筈だった。
『主長!やつの反応が…!』
「アズマベト」以下タルシス艦隊も察知したようだ。
「分かってるっ!…なん、で…霊圧があがってるんだっ!?」

そこからが、息を呑む光景だった。

光流を断ち割って黒閃が。
――ありえざる力。
無防備な戦艦機首を貫く。
――あってはならない存在。

白域の調和を失する黒点が一つ。
無情の月牙に重なる緋翼もつ凶貌。
地を充たす太陽の光輝も奈落の深淵に届くことはない――。
体躯をおし包んだ黒曜の輝き。染み出し蠕動し縒り合わさるそれは負の詠唱律が織り上げた闇子装甲。
――凝密した魔質の素子から成る鎧は聖質を絶縁する此界に穿たれた特異点。
「インフェルノ」もまた、詠うのだ。神の調律をかき乱す怒りに駆られた哭き声で。

萎みゆく白光に蘇る昏天へ魔獣は狂気を湛えた静謐とともに浮上する。
「…終わりにしようか、聖霊機!」
小尾打ち振るい「インフェルノ」が飛躍する。
乾坤一擲の一撃に余力全てを投じた「ディバイン」には回避出来ない。
(まずいっ……!)

突然。
「ディバイン」の頭上を影が覆う。
「なっ…!?」
降ってきたのは浮界から振り落されたズゴッグだった。
「はあ、あああああああっっ!?」
落下する魔機の群れに巻き込まれて墜落していく「ディバイン」。
地上を叩く轟音。巻き上がる黒塵をただ見下ろす天空の「インフェルノ」。
「上が騒がしいな。奴め、口だけじゃないか…」
折角の戦いに水を注されいかにも興を殺がれたとでもいった風に、
地上に落下した敵機を残したまま魔獣の大翼は浮界へと羽ばたく。
361通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 03:18:14 ID:???
投下遅くなって大変すまんす
やっぱ戦闘かけねーや
次からは本命の所以外はなるべくさくっと流すよー心がけます
話進まないもんね
362通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 17:43:12 ID:???
いやいや、実にいい感じです
スレの趣旨とはいえ、読めない漢字には困るけどw
363通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 18:44:52 ID:???
やっぱ戦闘かけねーや、って割には十分面白いと思うぞ
364通常の名無しさんの3倍:2007/04/26(木) 19:11:08 ID:???
戦闘熱いなw
365通常の名無しさんの3倍:2007/04/28(土) 23:40:23 ID:MCYRLDn0
保守
366通常の名無しさんの3倍:2007/04/29(日) 02:01:33 ID:???
しまったあぁぁぁぁぁ!
ボールとズゴックの画像を取り損ねたあぁぁぁぁぁぁ!!
367通常の名無しさんの3倍:2007/04/29(日) 02:28:01 ID:???
スレタイ読んで興味沸いたから覗いてみたら……
なんじゃこりゃwwwww

貴 方 は ネ申 か

なんだかデモベ思い浮かべるよ
368儚散天楼/63:2007/05/01(火) 07:41:15 ID:???

『――主長、動けますかっ!?』
「なんとかな。そっちこそどうなんだ」
船体を斜めに切り込まれ未だ火煙が甲板を包む「アズマベト」。
『ええ、こちらはなんとかっ…!けど、これ以上はもちませんよっ』
「いいんだ、無事なら」
全損を免れただけでもよしとすべきだろう。

「いってて…」
ヒーリィは頭を振りつつ、土にめり込んだ「ディバイン」を起した。
「はああ…助かったはいいが……すっげえええ納得いかねー…」
柱に群がる魑魅の蠢影。
爪を突きたて、浮界へ再び這い上がろうするズゴッグ達。
「…いい加減諦めろっての…こんの首なしどもおおっ!」
ヒーリィは鬱憤をぶつけるように「ディバイン」に残されたありったけの弾丸を集団に叩き込む。
放たれた地を這う流星は鉄躯を食い荒らしながら、互いに交接し寄り集まり更に勢いを増して魔群を蹂躙。
十の輝弾が導く百の爆火が生む千の殲光/爆砕に次ぐ爆砕に次ぐ爆砕に次ぐ爆砕―破光の連鎖、輪唱する轟閃は焦華の大輪となって爆ぜ散じる。

「…撃ち漏らしたか」
鋭い鉤爪で地中に潜行していたズゴッグが二体、敏捷な挙動で「ディバイン」に迫る。
「ディバイン」は襲いくる鉤爪を振り払い、組んだ両手を平らな頭部目がけて叩き下ろす。
間をおかず後方より飛びかかるもう一体は背中越しに突き出した長柄で串刺しに。
黒の霧を吐き散らして地に突っ伏すズゴッグ。

目標・全機破壊。
陥没した地形に漂う塵霧にただ一機、「ディバイン」は硝煙たちのぼる砲座を排出する。
「よおおっし」
『よしじゃない!支柱までぶっ壊してどうすんのさ!?』
回線より入るディミの大声に顔を顰めるヒーリィ。
彼女のいう通り、先の戦闘も相まって浮界を支える補助柵柱は根こそぎへし折られ無残な有様を晒している。
「…しょうがないだろさ、この場合。だいたい、お前がもたついてたせいでこっちは危うく死にかけたんだが」
『それは、ごめん。なんだかビットがとっ散らかっちゃててさ…今出るから!』
「ああ、いけるんなら先行しててくれ。発振基、サブも含めて空っけつなんで、戦闘どころか飛べもしねー」
『分かった、ビット置いてくから早く来てよね』
飛来する二基のビットをヒーリィは確認した。
「お、ありがてえ」
―低次空からエネルギーを取り出す発振機関は放っておけば自然回復する半永久機関だが、
消耗につれ―MSの駆動に伴うエネルギー消費量は生成量を大きく上回る―その活動は弱まっていき、
一旦底をついた機関が元の働きを取り戻すにはそれなりの時間を要する。

穏やかにかつ確かな律動を奏でつつ「ディバイン」の回りを周遊するビット達。
遠隔操縦による自律駆動を行うビットには小型だが強力な発振機関が内蔵されている。

―だが、発振機関にはより大きい振動に共振する特性がある。
要するに発振機は、より強く振動する機関に近づけてやれば回復が早まるという事。

旋回する福音の響きに「ディバイン」は枯渇した活力を少しづつ取り戻していく…。
369通常の名無しさんの3倍:2007/05/01(火) 07:51:58 ID:???
>>366
まとめる時なんらかの処置を講じようと思ってますんでご容赦くだせー
>>367
デモンベインあまりよくは知らないんでつまらん被り方したら御免ね
370儚散天楼/64:2007/05/03(木) 03:05:38 ID:???

魔機が一掃された地表を界下に望みつつ「ヘブンス」は白翼を震わせる。
「…どうやら上手くいったみたいだ」
「ええ」
ダネルとルエビ、彼等の安堵も束の間、
「!…みえますか、ダネル」
「ああ…奴だ…!」
浮界を覆う天輪障壁の天頂部付近。
厚く張られた障壁を押し開き、舞い降りる紅く縁取られた漆黒――「インフェルノ」。


さざめく絹の天幕にくっきりと映える魔獣の輪郭。
太守の屋敷からもはっきりと認められる黒影を見上げ、悲鳴じみた叫喚を漏らす老人。
「何故だ…!これでは、これでは「レボホト」が壊れてしまう!約束が違うではないか…!」
唐突に館に姿をみせた老卿は今や錯乱の極みにあった。
「やはり貴方が絡んでおられたのですかヤアジア卿」
ヨナ卿がそう言うと、柱廊に力なくしなだれかかっていた老人は彼に向き直り
今にも掴みかからんばかりの勢いで罵声を浴びせかけてきた。
「貴様は何を今更…この期に及んで白々しい――」
「貴方こそ、こんな時に何を…!?、」
意味不明なヤアジアの詰問にいよいよ困惑の度を深めるヨナ。
しかし彼はそこで会話を止めなければならなかった。
足元を突き上げる震動。
振幅ある律動を刻む床面の揺れは一向に収まる気配はなく逆に大きさを増している――本格的な浮界の崩落が始まったのだ。
ヨナは傍らに立つ太守の両肩に手をそえて脱出を促す。
「早くお逃げ下さいバニ様、ここは危険です!」
だが、冠帽を脱ぎ落し佇立したまま、幼君は動こうとしなかった。
「…どこに逃げよというのだ」
嵐の如く吹き荒んだ大気流に毟り取られた花弁の幾つかはテラスを通り抜け床一面に撒き散らされている。
「どこに、逃げ場があるというのか…?」
バニ・ツェファンヤはうわ言の様に繰り返す。
いつだってそうだ。逃がれる場所など彼女にありはしなかった――。

371儚散天楼/65:2007/05/03(木) 03:06:17 ID:???

浮界を轟然とを見下ろす「インフェルノ」=「D」。
「放っておいても沈むか…とはいえ、」
地表から注ぐ「クゥエル」隊一丸となっての迫撃斉射はしかし、「インフェルノ」に傷一つ負わせることが出来ない。
「…煩いんだよ、貴様等は」
大地もろとも灼き尽くす迎撃紅蓮を放つべく魔獣は構える。
「させません!」
魔獣の目前に舞うのは優美なる聖女像。
「ヘブンス」は足下の天楼を護る様に十二の白翼を大きく広げる。
「…いったよな、哀れみはかけないと」
言い放つ「D」の声色には何の感情も響かない。
「私もいったはずです。たとえ、どんな事があっても貴方をとめてみせると」
決然とルエビが応じる。

中空に対峙する「インフェルノ」と「ヘブンス」。

「――あんたの相手はこっちだよ」

「ヘブンス」の広げた白翼の陰から飛び出した無数のビットが仕掛ける。
乱れ襲う振動砲撃にたまらず「インフェルノ」の機躯が後方へ跳ねた。
「今度はお前か…!」
両機の間に割って入った機影は翔翼に風を巻き参じる「ホーリー」の麗姿。
「ここは私に任せて、行きなさいっ二人とも」
「ディミ…!」
「早く「セイクリッド」持ってきて!正直な所、私一人じゃ足止めで精一杯だから」
「分かった、すぐ戻る!」
後退する「ヘブンス」を後ろ手に見送りつつ、ディミは攻撃の手を緩めない。
「よそみ、するなあっ!」
ビットが放つ他方向同時斉射の網をくぐり、瞬速で熱線煽る魔獣の羽ばたき。
赤い衝風を鮮やかに身を閃かせてかわし、鋼の戦女はビットを重ねた扇を眼前に展開する。
――こうしてただ向き合っているだけでさえディミには機体越しから狂獣の放つ強烈な重圧がひしひしと伝わってくる。
相手は「ディバイン」ですら退けた凶魔、「ホーリー」一機で果たして何処まで通用するものか。
彼女の不安を見透かしたかのように「D」は嘲りの言葉を投げかける。
「生憎だが、その機体じゃ勝ち目は薄いと思うぜ?」
「…試してみなよ。すぐに分かるからさあっ…!」
「セイクリッド」ら、援軍が到着するまで約十分足らず。
(本当、早く来てよね…)

主の意に従い、一斉に跳躍するビットが交戦開始の鐘を鳴らし。
「インフェルノ」と「ホーリー」、両機は超絶の機動をもって浮界上空を翔けあがっていく。
372通常の名無しさんの3倍:2007/05/03(木) 06:53:45 ID:???
キター! 熱いなw
373通常の名無しさんの3倍:2007/05/05(土) 12:49:37 ID:???
hosyu
374儚散天楼/66:2007/05/07(月) 06:33:06 ID:???

「…参謀、その頭どうしたんだ?」
『気にするな、何でもない』
通信回線に出たケイルブはダネルの問いを仏頂面ではぐらかす。
彼の頭にはいつもの深く被った隊帽の代わりに包帯が巻かれており、いつにもまして陰気な顔つきにみえた。
『―――浮界の状態についてはこちらでも報告は受けている。
しかし、気をとられている暇はないぞ。我々が優先すべきは「インフェルノ」だ』
「分かってるさ」
『だったら―』
「…だから、レボホトが落ちる前に片をつけてやる」
勢いから出たの台詞ではない。それは彼の希望ではなく覚悟を示す言葉。
「ほう、大きく出たな…ならば、だ、これより「セイクリッド」を射出する。上手く受けとりたまえ」
「直接って、無茶いうなよ!」
「事態はまさしく一刻を争うと思うが?」
ケイルブの試すような口ぶりに、ダネルとしては否も応もなかった。
「「ヘブンス」なら問題ありませんよ。ね?」
「…ああ、悪い。頼むよルエビ」

『軸合わせはいいな。出すぞっ!』
戦艦「バートルビ」のデッキから打ち出された光点が急速に膨らむ。
光の尾を引きながら凄まじい速度で向かってくる「セイクリッド」を、
前面に広げた十二枚の翼をクッション代わりにして受けとめる「ヘブンス」。
「あ・ぐぇっ!」
衝撃の大部分は殺せたものの、機体の揺れはそれなりに大きく
固定されていないダネルの体は機中の側壁にしたたかに打ち据えられた。
「ダネル!どこか、痛めましたか!?」
「こ・これは、何でもないから…」
悶絶する彼を心配そうにみつめるルエビに、背を丸めたまま答えるダネル。
(ったく、締まらないったらないな、もう!)
「ヘブンス」のコックピットから出た彼は白翼の路を伝って愛機の元へと急ぎ走った。
375儚散天楼/67:2007/05/10(木) 00:51:05 ID:???

「ホーリー」の飛翼が天に輝虹をかける。

飛び来る火硫を流麗な肢形は縫い分けながら十重の花弁に号を送る。
楔形の編隊は左右に分かれ魔獣を側面より挟撃。
各基は光速の振り子軌道から秒間数百の振動奏射で回避可能範囲を削りとり
追い詰めた魔獣の頬に幾射光を叩きつける。
被弾を無視して広角に撃ち返された熱線を三つのビットが作る偏向力場の盾が僅かに逸らし、
開かれた間隙にディミは機体を切れ込ませる。

つかず離れず、「ホーリー」は「インフェルノ」の射程範囲を掠めながら前方に展開したビットを仕掛ける。

「ディバイン」との戦闘で敵機の戦力は把握済み。
最高度の反応速度と一糸纏わぬ連携をとるビットの性能を合わせれば
「ホーリー」の疾さは魔獣を上回る。
その証拠に戦闘開始時点から「インフェルノ」に見舞った直撃は優に十数余を超え、
対して「ホーリー」はただの一発も被弾はない。
にも関わらず、押されているのは「ホーリー」の方だった。
(これだけやってまるで効いてないって…何なのもう!?)
根本的にエネルギーの総量が違いすぎるのだ。
G級の中で最も非力な「ホーリー」では魔獣の一撃をもらえばあっけなく沈む。
こちらからの攻撃はまるで通用しないというのに。
自機はおろかビット各基への被弾も許されぬ状況での操縦にディミの消耗は著しい。
376儚散天楼/68:2007/05/10(木) 00:52:08 ID:???

「いっただろ。勝ち目はないってさ!」
「D」のいうように、相性からしてそもそも一対一でやり合う相手ではない。
それでも。
「やりようはあるんだって…!」
「ホーリー」は本体唯一の武装である弓砲を「インフェルノ」にかざす。
「当たるかよっ」
「D」は軽々と機体を跳躍させる。だが、「ホーリー」の狙いは敵機ではなかった。

放たれた拡散光が降り注ぐのは敵周の、指揮に合わせて輪と並ぶビット。

過剰な負荷をかけられ一時的に振幅を増した各ビットの発振機は余剰エネルギーを外部に排出。
十重の鉄花が四方に燐光を吐き散らし獣の赤翼を縛する幻糸を紡いだ。
「こんなものはっ…!」
「させないっ!」
暇を与えず動きを鈍らせた敵機を囲う華影。
至近から放たれる振動奏射。動作の起点をピンポイントで射抜く精密連撃が魔獣の動きを押さえ込む。
集団戦を主とする「ホーリー」がその全戦力を一点に傾ければこその封殺戦術――間接・砲口・装甲の継ぎ目…
極微の点穴に光針を捻り込むビットの乱舞は祝福の鐘律を奏でる。

礼賛を謳う聖鐘には沈黙をもって応えよ――
絶え間ない旋光が育む繭床は闇から魔獣を浮き立たせひたすらに焦がし尽くす第二の月。

「このまま、大人しくしてなよっ…!」
勝ち目がないまでも、多少なりその力を殺ぎ落とす事は出来よう。

そんなディミの思惑を、黒閃孕む爆圧が裏切った。

「何か仕掛けてくるんじゃないかと踏んでいたが…」
包囲網を突破した魔獣を逃さじと狙いうつビットは反対に次々と叩き落されていく。
先程までの闇雲な砲撃ではない。MSを凌駕するビットの軌道を正確に捉えた予測迎撃。
「こうも繰り返されれば流石になあ!」
五つ目のビットを破壊した「インフェルノ」=「D」は不敵に笑う。
(嘘でしょ!?)
本来ならばありうるはずのない状況に唇を噛むディミ。
操者の意に従って千変万化・不可測の動きをみせるビットといえど、
有効打を与えうる射角・時機を選択する以上、砲撃パタンは自ずと限られる。
そうした法則を感得するのは理屈からいえば不可能ではない。
が、それには並外れた知覚能力と経験が求められるのは当然の事として、見切るに足るだけの時間が前提となる。
戦艦すら落とすビットの集中奏射を平然と凌ぐ驚異の耐久性を持ち合わせる機体など普通なら存在しない筈なのだ。
――目前のただ一機を除いては。
377儚散天楼/69:2007/05/11(金) 05:00:03 ID:???
「センスは認めるが…決め手に欠けるっ…!」
右の長爪でくビットを払う「インフェルノ」が一気に間合いを詰める。
遮蔽物を取り去った魔獣の直線機動は機体を翻す「ホーリー」よりも早かった。
苦し紛れに突き出した弦弓を粉々に砕かれ、続く魔獣の尖尾を肩口に叩きつけられる戦乙女。
「そんなっ…!」
制動を失ったまま落下する機影に「インフェルノ」はとどめの一撃を放った。
迫る輻射熱線に彼女の視野は赤く染まリ――
「ディミ、悪いっ!」
横合いからの衝撃が「ホーリー」を跳ね飛ばす。
散弾光が機体を敵機の射線から弾き、僅かに遅れて届く灼光から逃れさせた。

低空より上昇してきた「ディバイン」が「ホーリー」を支える。
「ふう。間一髪だったぜ」
「この馬鹿っ!味方撃つなああっ!」
「悪い。けどまだいけるよな、「ホーリー」は」
ディミは機体の調子を確かめるように態勢を立て直した。
「そりゃまあね!……ビット、半分落とされちゃったけど」
「それだけありゃなんとかなるさ」

ヒーリィは上空よりねめつける「インフェルノ」に砲口をかざす。
「…待たせたな、インフェルノ」
「懲りずにまたか…いい加減相手をするのも厭きてきたんだがな」
「勘違いするな。俺の事をいってるんじゃないさ」
「ディバイン」が指す闇の奥方には疾空する「ヘブンス」の姿。
「そら来たぜ、一番因縁深いお相手が…!」
そして。
後方より「ヘブンス」を飛び越す白い機影――
「インフェルノおぉっ!!」
操者の咆哮に加速する「セイクリッド」が機躯から悲鳴にも似た歓叫をあげる。
――追い求めた漆黒を両眼に捉えた瞬間、ダネルの意識は鈍く爆ぜる。
抑圧の戒鎖を断たれ、解き放たれた発条の如く撥ね跳ぶ生の衝動。
夜毎の悪夢が起した震えは恐れからではなく制しきれぬ熱病めいた昂揚ゆえ。
或いは愉悦にも等しい感情の流動が向く先は哀憎入り混じる自身の似姿へ。

この世にある一切の惨禍を矛盾を罪業を悲痛をただ目前の魔象に投影し、
確たる流血の意志を核たる邪悪の現身に重ね合わせて、
「おおおおおおおっ!!!」
振り下ろす白騎の剣戟/受ける魔獣の熱爪。
「お前かあっ!セイクリッド!」
金属の弾鳴と閃光の裂傷が「セイクリッド」と「インフェルノ」の間に迸る。。
互いに一歩も退かず噛み合う銀鋭の軋りは三度目の、そして決戦を告げる最後の合図。
「俺達もいくぞっ!」――先んじる「ディバイン」。
「いわれなくても!」――続く「ホーリー」が銀翼を傾げ。
「いきますっ!」――後に控えた「ヘブンス」が詠律文句を口ずさむ。

風紋を逐う、闇巻く白騎と光呑む黒焔。
崩天に集う五機のGは今此処に鉄躯を交え輝色の尾羽根を激しく舞い散らす―――
378通常の名無しさんの3倍:2007/05/11(金) 05:19:38 ID:???
てな訳で、やっと五機揃い踏みす……時間かかりすぎだろ、常識的に考えて
379通常の名無しさんの3倍:2007/05/11(金) 18:54:07 ID:???

それにしてもかなりの長編だなw
380通常の名無しさんの3倍:2007/05/11(金) 23:03:20 ID:aPaJxT/0
期待あげ
381通常の名無しさんの3倍:2007/05/11(金) 23:37:02 ID:???
この厨臭さ、癖になりそうだ
382通常の名無しさんの3倍:2007/05/15(火) 00:39:24 ID:???
ほす
383通常の名無しさんの3倍:2007/05/17(木) 01:33:21 ID:???
ほしゅほしゅ
384通常の名無しさんの3倍:2007/05/17(木) 09:19:04 ID:???
>>381
ここまで厨っぽいといっそ清々しいよな
俺はもう結構普通に読めるけどね
385儚散天楼/70:2007/05/19(土) 03:04:26 ID:???

未明の空域。五色の熾り火が氾濫する真闇。
タルシス級旗艦「アレオパギダ」。ケイルブは眉を顰めながら艦内モニターを凝視していた。
遠方から眺望すれば荘厳にして幻想的な光景も、実際には余人の想像を絶する戦場のそれである。
「拮抗してはいるのか…」
「――それで、GM隊は援護に回らなくてよいので?」
「足を引っ張るだけだろうよ」
足手まといとはごく控え目な表現だった。
MS部隊であれ艦隊であれ五機のGが入り乱れるあの場に介入するのは劫火に飛び込む虫と同じ末路を迎えよう。
次元が違うとはまさにこのことだ。「EDEN」本隊が神都で迎え撃たなかったのも頷ける。
地上最大の要塞ともいえる神都でさえ、ひとたびG同士の戦闘に巻き込まれればあえなく更地と化すに違いない。
「――各艦とも砲撃準備を」
「…Gが、聖霊機が敗れると?」
「あくまで、万一に備えての措置だ」

翔翼で穢気を振り払い、蒼騎「セイクリッド」が光速の打ち込みをかける。
振り下ろされた金太刀を長爪を咬んで弾く魔機「インフェルノ」は俊敏な動作で敵機に回し蹴りを叩き込む。
肩当を砕く鉄爪の打衝に突き落とされる蒼機。
「っ、かすっただけっ…」
地を蹴る反動で裂帛の終わらぬうちに再び魔獣へと飛びかかる。交錯する剣戟の円軌道。
「少しは使えるようになったじゃないか、「セイクリッド」の使い手!」
「貴様の人を見下した態度は相も変わらずだっっ」
打擲する尖剣と兆着する閃弾。
狂喜する白刃が/鼓舞する光管が/惑乱する踊り手が/賛唄する白翅が/哄笑する爪炎が/
一閃に収斂し極大の零で破天を轟す。
「ホーリー」御するビットによって反転した弾道が魔獣の背翼でうねる斬尾を撃つ。
「ディミは機体もっと下げてろ、狙い撃ちになる!」
「分あかってますって!」
範囲を絞った振動砲撃・「ディバイン」の大筒が「インフェルノ」の足をとめる。
魔獣は前面の蒼機に向け輻射波動を放つ。
疾駆する「セイクリッド」の盾となるのは「ヘブンス」の織りあげた多重障壁。
「ここだっ!」
白壁の隧道をくぐって真っ向から切り結ぶ「セイクリッド」の白刃。
――低空より「ディバイン」が援護射撃に徹し牽制で敵機の動きを封じる。
高空の「ホーリー」がビットで射撃を捌き。後方に控えた「ヘブンス」が護り。
僚機の支援を受け「セイクリッド」が叩く。
コンマ以下の誤差で瓦解しかねない、瞬速極まる連携で狂獣と渡り合う執行機隊。
「息つぐ暇もないよ、もうっ…!」
目まぐるしくビットを操るディミが弱音を漏らす。
「…しかも、奴さんまるで堪えてやがらねえ」
「セイクリッド」渾身の剣撃も稠密な魔性が築く闇子装甲には歯が立たない。
あらん限りの力で刻んだ僅かな瑕疵もたちまちの内に塞がっていく。
四機のGを相手にしてなおも圧倒する魔獣の力は烈戦を糧としていや増すばかりだった。
(また出力が上がってきている…)
だがそれは、「インフェルノ」に限った事ではないとヒーリィは見抜いている。
魔獣の暴威に引きずられるように「セイクリッド」の剣勢もまた烈しさを増していくのだ。
順応し成長し進化し人機の極限をこそいで唸る相生の対称機影。
二重螺旋の階梯はどちらか一方が滅びるまで決して絶える事はない――。
386儚散天楼/71:2007/05/19(土) 05:57:20 ID:???

「セイクリッド」が背負う二門の振動帯砲から放たれた光濤は絡み合い、赤火の出がかりを薙ぎ伏せる。
「よくも粘ってみせる。が、これならどうだっ…!」

闇子装甲に浮きあがる泡は黒の光球を産みおとす。
「インフェルノ」の超兵装「アニヒレイション・フィア」――その数、四つ。

何よりもこの超絶兵器を使わせない事が戦いの要だったというのに。
戦術をいともあっさりと覆されてしまった事に一同は動揺を隠せない。

「同時速射って…!そんなこと出来たの!?」
「出来るようになったのさ。貴様等のお陰だよ!」
聖霊機との激戦を経てまた一つ「インフェルノ」は進化を遂げた。
「今までは様子見かよっ…ダネルよけろっ!」

「――避けて、いいのか?」
「D」が面白そうに尋ねる。
黒光の射線上、「セイクリッド」の背後には浮界が位置していた。
「…っ、撃つなら撃て」
ダネルは無意味と知りつつ機体を身構えさせる。
「いい覚悟だ。それなら――」
否定・否定・否定・否定――万物に叛く排他律。
「諸共に…沈めっ!!」

悉象を輝灼き滅ぼす冥府の黒焔が放たれる、その刹那。

「下がって、ダネル!」
極光が迫る黒閃を遮断する。
「ルエビ!?」
――「インフェルノ」が超常の魔象ならば、「ヘブンス」もまた超越の聖禦機関。
銀白の複翼が絶唱する現象江詠律。「
ヘブンス」の聖性障壁が蹴散らす凶夢を受けとどめ、魔獣と聖軍とを隔てる一時の帳となり。
「狙い目だディミ!ダネル!せえので纏めていくぞ!」
「おうっ」
三・二・一…。障壁が破られると同時に。
振動帯砲・曙光砲・ビット収束射/三機同時の波状攻撃が「インフェルノ」に爆白を投じた。
――が。
「…これでも…斃れないのかっ!?」
悪獣に損傷はない。光芒を散じふつふつと揺らぐ闇子の装衣は執拗に聖き光を阻む。
387儚散天楼/72:2007/05/19(土) 12:12:52 ID:???

「セイクリッド」の後方から響く、巨体を傾いだ「レボホト」の震動。
恐らくは戦闘の影響が出はじめているのだろう。こうしている間にも浮界崩落は着々とと進行している。

ダネルの頬を伝う汗滴が強く結んだ口の端にとまった。
(何か、何かないか…)
一回限りでいい。あの装甲を貫く力さえあれば…。
そこまで考えて彼ははたと気づく。
「…皆、少しだけ時間作ってくれ」
「こんな時に何、故障!?」
「試したい事がある」
「いいさ。俺が前に出てやるから、急げよな」
「頼んだ、ヒーリィ」
裂く闇に血走った緋が僚機に食いかかる最中に一機、
戦線を離した「セイクリッド」は剣鞘となっている振動帯砲に一旦双剣を収める。

砲撃の思念制御に全神経を集中するダネル。
…絞り込め。限界を超えて更に更に…。
最高出力の砲射を外ではなく内へ。
…拡散するベクトルを反転し…。
行き場のないエネルギーが砲身内を横溢し衝撃が機体を揺らす。
振動射の意図的な暴発。
「っか…!まだまだ…」
暴発を繰り返す振動帯砲。
膨れ上がる内圧は今にも鞘を壊せんばかり。

「セイクリッド」の異常に気づく「インフェルノ」=「D」。
破裂する大鞘から抜きすさる刀身――現出せしは爆縮する白き稲妻。
「セイクリッド」が構える二振りの刀身は超新星の如き闡明をもって大気を震わせる。
薄明の大地に白く点る地平線と平行に奔る両の刀身は四天を鳴する吹奏音管。
甚大極まる振動波光を帯びた「セイクリッド」の剣。
類稀な特殊耐性をもつ機体ならではのポテンシャルがあってこそ成り立つ荒業だ。
ただ一点、一瞬での破壊力ならば。「ディバイン」の曙光砲をも上回る。
「凄っ…!」
「…また阿呆な事を…だが、そいつならいけそうだっ!ダネル!」
「分かってる!」
「…幾ら強力でも、当たらなければっ…!」
接近する蒼騎の、機先を制するべくして飛突する熱爪。
「させはしません!」
割り込んだ「ヘブンス」がその身を挺して防ぐ。
「…!」
「インフェルノ」が僅かにたじろぐ。
不意をついて「ディバイン」が魔獣の懐中に飛び込みその動きをとどめる。
「このまま…叩けっ」
魔獣が迎撃に放つ輻射閃をビットが弾く。
「いっちゃええっ!」
388儚散天楼/73:2007/05/19(土) 12:37:37 ID:???
蒼の梁躯が膂力の全てを注ぎ込んだ両刀を一挙に振るう。
同属の霊光は「ディバイン」の装甲をすり抜けて。
「インフェルノ」の胴に突き立つ炸雷となる。

天地の間を駆けぬける相克の衝撃。
「「インフェルノ」っ…!」
「セイクリッド」の顔に亀裂がはしり。
――我が血肉はの白銀。
「「D」っ…!!」
両の篭手は鬩ぎ合う反圧に擦り切れ吹き飛ぶ。
――我が皮骨はの装鋼。
「赦せないんだよ……」
もう一方の肩当も剥がれ。
――我が魂魄は誅戮の破刃。
腕ごともぎとられそうになる剣をなおも強く握り締め。
―――我、突き動かすは不撓の怒り。
「…お前だけはああっ…!!」

正義を―流血を―制裁を―贖いを――
「墜・ちろおおおっっ!!」
――渇望する凝光が冥門をこじ開ける。
「くっ…貴っ様はああっ!」
既に身を引き離した「ディバイン」が追い撃ちの砲撃をかける。
「おつりだっ、とっとけ!」

瞬きは爆と轟く火華の燦爛。

ゆがむ光芒に放り出された「セイクリッド」―ダネルはすぐさま対面に揺らぐ機影を確認する。
「届いたぞっ…」
荒い息をつく少年。手応えはあった。
そして、黒腔から姿を現すのは体表に深く刻まれた条痕から紅蓮の腸を噴出させながら荒れ狂う獣。
怒りに震えけたたましくも咆哮を発する「インフェルノ」。炯眼は未だ力を失わずただ迫る蒼の一機のみを捉える。
「そうか…お前も、そうなのか」
「D」はダネルの中に己と通底するものを感じとっていた。
己が身を苛み支え養い喰らう憎しみの獄炎。

「――どうやら奴さん、装甲を使えないらしいな…このまま押し切れるっ!」
もはやヒーリィの声も耳に入らないダネルは機体を走らせる。
「セイクリッド」と「インフェルノ」。共鳴し合う憤激に揺さぶられ両機影が奔る。

「―――そこまでにしてもらおうか」

上空より降る銀鱗の驟雨が戦場に注がれる。
「こんな時に、新手だってのか!?」
黒霧の尾を引く狂影が三つ。
(こいつらは…あの時のMS…?)
忽然と舞い降りたのは鋭角に研ぎ澄まされた邪竜は確かに、先刻ダネルが地下で見えたMSだった。
389通常の名無しさんの3倍:2007/05/19(土) 12:54:07 ID:???
お待たせあいすまんせん。保守ありがと
…時間かかった割にはキングクリムゾン発動しまくりな展開やね…
390通常の名無しさんの3倍:2007/05/19(土) 19:01:30 ID:???


それとまとめサイト早く作ってくれ
いくつかとり逃したMSの絵を見たい。
391通常の名無しさんの3倍:2007/05/20(日) 14:35:05 ID:???
GJ!
392通常の名無しさんの3倍:2007/05/22(火) 01:50:44 ID:???
久々に来たけど、ここまで続くとは思ってなかった
最初から読み直したけどこの邪気眼臭さがたまらんw
393通常の名無しさんの3倍:2007/05/22(火) 02:50:14 ID:???
このスレはもっと評価されて良い
394通常の名無しさんの3倍:2007/05/24(木) 00:10:35 ID:j2RN9Gdx
確かに

とうわけで宣伝代わりに上げてみる
395儚散天楼/74:2007/05/26(土) 06:19:52 ID:???

彼方、星霜の輝きを澱ませるは此方の霧流。
「ディバイン」の腕部より放つ光速射砲閃の霰を難なく避け霧に紛れる尖影。
知覚機構を惑わせる魔瘴の漆雲から出でて、また潜み、敷闇に鉄の断音を刻む邪なる機竜。
頭部を覆う大きすぎる角冑を後ろに伸ばし刺々しい背翼と合わせて特異な流線を成す躯形。
碧鱗は悪意の棘。鋭翅は狂気の血脈を滾らせ。
「こいつは…竜機種、ドラグーンというやつか…!」
恐らくは相当の改良を施してあるのだろう。外観は既知のものとは大幅に異なるが間違いない。
竜機種――。
元来は成層圏外域での活動を主目的に開発された超々高空戦仕様域の特殊機体。
それゆえ衛星軌道ユニットの殆どを廃棄した今では存在しないはずの機体である。
空を棲家とする邪竜の機動力に翻弄される「ディバイン」。
万全の状態ならいざしらず、満身創痍の機体では神出鬼没の敵機を捉え切れず応戦も覚束ない。
「残弾なし、出力は上がらん、おまけに「目」まで死んでるときた…泣きたくなるぜ、ったく…!」
機体右からの反応が遅れる。内部霊流の異常な増減とともにしばたく視界。
――いくら同属だとはいえ、先刻「ディバイン」が浴した「セイクリッド」の一閃は超高質量の光撃だった。
凄絶なまでの霊圧を身に帯びた機体に異変が生じたとてなんら不思議はない。
仮借なく襲う竜機に、限られた視界と乏しい武装で必死の反撃を試みる聖霊機。
機体前方、回頭する敵影にヒーリィはタイミングを合わせる。「ディバイン」の胸部振動門が開く。
「近づきすぎりゃ…!」
広角を薙ぐ斜光がついに邪機を捉え――。
爆閃一つ。あえなく散じた敵機。
「そらみろっ・・」
直後、背を撃つ散弾にヒーリィは知る。
火線に消えたはずの邪竜が「ディバイン」の背後に位置している事を。
機体を回避させながら状況の把握に努めるヒーリィ。
(モニターがいかれたか?…いいや、着弾は確認してる…別の機体でも、ない…)
「――惑うなよ代行者。貴様が理解すればいいのはたった一つ…」
悠然と上空に佇む異形が語りかける。
「このモノケロスの蹄に届く刃などありえんということだ!いかなGとてもなあっ」
MS「モノケロス」――体躯には大ぶりにすぎるその蠍尾が鋼釘を撒き散らす。


這い寄る魔手にディミは表情を硬く強張らせる。
対面の邪竜が頚をゆっくりともたげれば、後頭よりのびる蛇鞭がさわさわと波うち跳ね、闇色の密瘴に網を張り廻らせる。
「どう?ステンノーのインコムは綺麗でしょう…」
「どこがっ!?」
緩やかな曲線は群れうつ猛烈な直進軌道へ。単眼もつ十二の蛇身が機体に届く前、寸刻みに線断する「ホーリー」のビット。
「こんな…ビットもどきなんかあっ!」
しかし、千切れた触糸は瞬時に再生を遂げ。
「お気に召さないみたいねえ…ならこういうのは、どう?」
無数に枝分かれた触手が滑らかに蛇行しながら一斉に「ホーリー」を忍び寄る。
「ひわっ!」
おぞましさに我知らず頓狂な声を漏らすディミ。
「本当に美しい機体…。さあ、抱きしめて…毟って、捥いで、引き裂いてあげるっ…!」
MS「ステンノー」のインコムは「ホーリー」を愛しむように纏いつく。
「くるなっ、くるなっくるなっ・くるなあああっ!」
396通常の名無しさんの3倍:2007/05/26(土) 06:35:18 ID:???
毎度遅くなってごめ。

MS「モノケロス」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0284.jpg

…竜だか馬だか。足、見切れてるし。ま、かませなんでいつもよりよりいい加減です
三機ともほぼ同型で大きな違いは頭部ぐらいってことで簡便
397通常の名無しさんの3倍:2007/05/26(土) 06:45:17 ID:???
あ、忘れてた。命名案頂きました皆様、誠に有難う御座いましたです
398通常の名無しさんの3倍:2007/05/26(土) 11:26:29 ID:???
キターw
MSに触手責めをさせるとは、なんという発想……。
399通常の名無しさんの3倍:2007/05/26(土) 17:15:41 ID:???
>396
かませで終わらせるのが勿体無いぐらいだ
400通常の名無しさんの3倍:2007/05/27(日) 12:23:17 ID:???
ガンダムの兵器をラノベ風というか魔術の技術っぽくというか
アレンジのセンスがすばらしい
401通常の名無しさんの3倍:2007/05/28(月) 23:36:42 ID:???
インコムのセンスに脱帽
402通常の名無しさんの3倍:2007/05/29(火) 19:52:33 ID:???
保守
403儚散天楼/75:2007/05/31(木) 18:19:40 ID:???

竜機種――「バシリスク」は身じろぎもせず、螺鈿の光彩をはなつ装甲の襞が妖しい輝きを発した。
「またっ…!」
それだけで、「セイクリッド」は壁に激突したかのような打衝に再度見舞われる。
接近さえ許さない苛虐の波撃は骨身に響く衝撃を重く残す。
(…どこから…何をされてる…!?)
攻撃は過ちなく目前の機体からのもの。だが、展開している武装の類は見当たらない。
原理すら皆目と判然しない正体不明の兵装に成す術なく嬲られる機体。
「いったい…何なんだ貴様等はっ!?」
苦痛に息せくダネルを邪竜の駆り手が嘲る。
「第九汎土から、お前ら地に這う虫けらを灼きに来たのさ」
「九つ目の世界…?訳のわからないことを!」
「だったら何も分からずに…潰されろっ」
一層の圧撃が「セイクリッド」を衝く。が。
「横からしゃしゃり出て―――邪魔を…するなあっ」
苛む重圧に逆らい、せり上がる狂憤に任せてダネルはとうに晃帛の失せた剣を構え機躯を前進させた。
邪機の腰からせり出す二本の長槍を右太刀を身代わりにかわし上手に持ちかえた左太刀を突き上げる。
切っ先が邪竜の脇を掠め、
「俺の相手は「インフェルノ」だっ…お前等なんかに構っている余裕はない」
そのまま離脱しようとした「セイクリッド」の急加速を阻んだのは邪機「モノケロス」。
「ならば、尚のこと放ってはやれんな」
静かにゆるみなく、邪竜は「セイクリッド」の大剣を両腕甲角の高速回転旋盤爪で受け流す。
「どけよっ、そいつは俺の獲物だぞラコーダ!」
引き離した「バシリスク」が後方より迫る。二機に挟撃される「セイクリッド」。
「…待て、プレイグ!」
霧を払う結界が邪機を弾き、戒めを逃れた「ホーリー」と視界を確保した「ディバイン」が姿を現す。
煌々と照る銀影――窮地を救う「ヘブンス」の詠障膜。
全天を満たす聖調の加護を受け散開したG各機は一箇所に集う。
対して。
闇霧に伏していた魔獣の巨躯が暴き出され、聖なる極光に遠ざけられた三機の邪竜はある魔獣の下へ。
404儚散天楼/76:2007/05/31(木) 18:24:51 ID:???
陣営を分かつ壁を前にしていきまく僚機を窘める「モノケロス」。
「チィル、プレイグ、撤収するぞ」
「良い所だったんだけどね」
女の声。「ステノー」の主はつまらなそうにいう。
「あれで、まがりなりにも神機と呼ばれるものだ。甘くみてかかれば手酷い傷を蒙りかねん」
「――こちらにいっているように聞こえるんだがな」
青年の言葉にかみつく「D」。
「…察しがいいようで」
「俺が何をしようと、貴様等にとやかく言われる筋合いはないね」
「あんたの顔をたててこっちは今の今まで我慢してたんだぜ」
「口を挟むな、プレイグ」
不服げな口ぶりでプレイグと呼ばれた青年は渋々と従う。
「…機体はともかく、戦闘で手に入れた起動律がこわれてしまっては元も子もない。時間を喰えば「EDEN」に態勢を整える暇を与えることにもなる。目先の小事に囚われぬ様。」
「ステノー」の女――チィルが口を挟む
「何もかも滅ぼしたいのでしょう?」
「……忘れるな。お前等とて「例外」じゃないって事を」
「それは、もう」
魔獣の四肢からこもれる放焔。
無形の灼条は次第に結晶化し砕け散り――
現出せし空に無を穿つ黒孔。
――広がりゆく重力渦を縁取る飾帯になる。

内側の虚に沈みこむ空間は霊質もともに吸収していた。
急激な地場異常の意味を冷静に読みとるヒーリィ。
「空間転移の兆候か…?」
一瞬にして遥か彼方へと移動する位相転換航法は「EDEN」でもようやく実用化の端緒についた最高位技術。
「しかし、MSレベルでの発現とは…もう何でもありだな、こいつは!」
405儚散天楼/77:2007/05/31(木) 18:26:56 ID:???
「逃がすかよっ!」
「ちょっと!無茶だよっ!」
追いすがるダネルを押さえるディミとヒーリィ。
「下がるんだよダネル。地場の探査は参謀がやってくれているから追跡は出来る。悔しいが、ここは一旦仕切りなおしだ」
「ここまでやっておめおめと引き下がれるか、後一歩なんだぞ!」
「刺し違えるのも難しいって話だよ!…「ヘブンス」をみてみろ」
機体の損傷は誰の目にも明らかだった。
白翼の片側は「セイクリッド」を庇った時に出来たものだろう、爛れた傷痕が痛ましい。
だが、乗り手の消耗はその比ではない。
一帯を覆う程に密なる詠障波紋の極溜は臨界点まで達する炉心励起を要求する。
操者の命を櫛ずる最大出力の秘蹟によって保たれた均衡場が彼らを守護していた。

機体越しに届く少女の一瞥が語りかける。
「ダネル、今は…」
苦悶に途切れがちな言葉の先の沈黙が手にした剣の意味を問う。
何の為に戦うのか。誰が為にここにあるか。
過去に灼かれた心に響く白銀の歌声――後方には轟沈を始める崩土の礫音。

「――「D」っ!」
深く閉じた瞼を開いたダネルは上空の「インフェルノ」に向けコックピットを開いた。
「…次だ!この次に会ったその時こそ貴様の咽笛にこの剣、突き立ててやるっ!」
彼の叫びに応じて魔獣の腹部から姿をみせる「D」。
「……「セイクリッド」の繰り手、確かダネルといったか?」
歌うように囁く声がいう。
「なら、ダネル。追って来い。…終わりの日はすぐそこだ。その時こそ貴様の憎しみと俺の憎しみに決着をつけようじゃないか…!」

偏向場の滑腔に没する魔獣と竜機。
決戦を約す哭叫は遠く、黒の歪みに消じ去る。

少年の眼差しは閉じた曲空を暫しとどめ。

――だが、今このときは。

機を翻すダネル。
「ありがとうな、ルエビ。また間違える所だった」
「さ、いきましょう」
全隊に告ぐヒーリィ。
「――戦闘状態は終了、これより救援作業に移行する!艦隊は「レボホトまで寄せて救艇は全部出せ、今すぐにだ!」
既に半分近く高度を下げた天都市を目指し飛翔する四機のG。
崩落は更に加速していく。もはや一刻の猶予も許されない―――。
406通常の名無しさんの3倍:2007/06/02(土) 22:16:22 ID:???
00よりこっちをアニメ化しろw
407通常の名無しさんの3倍:2007/06/02(土) 22:32:38 ID:???
00の4VS1の構図はDのパクり
408通常の名無しさんの3倍:2007/06/03(日) 03:25:48 ID:???
>406
だな
このスレ読んでるとこういう邪気眼風世界というか
ラノベ風世界というかそういうガンダムをしてほしいと思う
409通常の名無しさんの3倍:2007/06/03(日) 10:49:34 ID:???
まとめサイトマダァー? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
410通常の名無しさんの3倍:2007/06/03(日) 11:43:58 ID:???
アニメ化は無理としても、漫画化位はいけるだろ
誰か描いてぷりーず
411通常の名無しさんの3倍:2007/06/03(日) 13:44:30 ID:???
今追いついた。超応援します
絵なら描けなくもないけど、他の読者のイメージを壊したくはないんだ…
412通常の名無しさんの3倍:2007/06/04(月) 06:37:50 ID:???
なんか古橋テイストに溢れてるな。
黒なのか白なのかが気になるところ
413通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 00:16:59 ID:???
hosyu
414通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 00:39:09 ID:???
今のガンダム(非SD)に足りないものはファンタジー性
415通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 02:03:35 ID:???
>>414
そこでダンバ(ry
416通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 08:40:07 ID:yz1qWbba
携帯だからイラスト見れない…見たいなぁ…
417通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 08:51:51 ID:???
00より面白そう。
418通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 09:12:22 ID:???
イラスト見逃したんでセイクリッドが脳内でランスロットに固定されてしまった
ダネルもつられてくるるぎに…
419通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 11:47:16 ID:yz1qWbba
インフェ→アヌビス
セイクリ→ジェフティ
ホーリー→アージェイト

と妄想してるんだが
420通常の名無しさんの3倍:2007/06/05(火) 11:55:36 ID:???
>>418
ダネル=Uザクは同意w
421通常の名無しさんの3倍:2007/06/06(水) 18:58:06 ID:???
ダネルだけ外見を指す描写がないからすき放題妄想できるなw
422通常の名無しさんの3倍:2007/06/08(金) 01:51:18 ID:mNiwPwHX
hosyu
423通常の名無しさんの3倍:2007/06/08(金) 03:34:37 ID:???
ageなくても保守できます
424通常の名無しさんの3倍:2007/06/09(土) 15:36:39 ID:???
誰かまとめサイトプリーズ
425通常の名無しさんの3倍:2007/06/10(日) 02:11:34 ID:???
確かにまとめサイトはそろそろ欲しいな

ホントは自分で作りたい所だがそんな知識は無い
426儚散天楼/78:2007/06/10(日) 04:51:59 ID:???
「―――駄目だろこれは、とても立て直すどころの話じゃあないっ!」
「せめて支柱が残ってれいば少しは」
「みんな壊れちゃったものね」
「お、俺のせいじゃねーぞ」
重力のくびきに引き寄せられ緩やかに拉ぐ「レボホト」の地表面。
轟く霹靂は、地盤を裂く細かな断線のざわめき。
いく度かの戦闘の余波で浮界が蒙ったダメージは予想以上に深刻だったらしい。
掴んだ端から崩れる脆弱な岩盤では艦隊による牽引もままならず、二の足を踏む聖霊機影。
戦艦「バートルビ」から伸びた複数のマニュピレーターを千切って陥没していく岩肌。
その陥穽にのまれ、浮界地表から楕円型構造体そのものが消じ去る。
「今、落ちたのって港でしょう?」
「そっち方面は収容済みなんだよな、参謀!」
確認を求めるダネルに、ケイルブは「バートルビ」から状況を伝える。
『―――港近辺の領民は無事だがね。問題は、絶対的な収容数が足らんという事だ』
「艦隊を直には接岸出来ないのですか?」
『そんなことをすれば衝撃で「レボホト」が引っくり返りますよ、ルエビ嬢。
それに、タルシス級三隻程度の収艦数などたかが知れていますしな』
「移送作業にしたって領民が数万からいれば、混乱するなってのが無理な話か……」
参謀からの通信がヒーリィに対しての個別回線に切り替わる。
『主長殿。なんとなれば、』
「そうだな、これは俺達の仕事じゃない。分かってはいるさ…」
ヒーリィとしても出来る限りの救助はするつもりだが、
部隊を与る身であれば徒に隊を危難にさらす事は避けねばなるまい。
(引き際が、肝心か…)
彼の思慮を突然の機動が断ち切る。
「ダネル、待ってよ!なにする気!?」
「決まってるだろ、沈んでるんなら持ち上げりゃいいだけだっ」
制止する暇もあらばこそ、「レボホト」の裏側に潜った「セイクリッド」は最下部岩盤を両腕でひしと支える。
光翼が発散する全開出力の反動でガタガタと震える機体。
浮界を押し戻すどころか外装を失った今の機体では己の推圧でバラバラに砕けるのがオチだ。
「ダネル、「セイクリッド」から変な音がしてますよっ!?」
「腐ってもこいつはGだ!多少の無理はきいてくれるだろうさっ…!」
「なら私も…手伝います」
「セイクリッド」を追って「ヘブンス」もまた浮界の裏に姿を消す。
「お前等は、MSの使い方を間違ってる!」
「セイクリッド」と「ヘブンス」、
二機の複翼は同時に地表にまで達する黄熱粒の尾を展ばし爆噴に煽られた瓦礫の坩滝が両機影を覆い隠した。
「いわんこっちゃない、落下前に分解したっておかしくないぞ――、」
浮界中心にかかる多大な上昇圧が外縁部との間に降下速度の差異を生み結果として大陸先端からの地崩れを誘発してしまっている。
しかし、ヒーリィの中で閃きが形をとったのはその時だった。
崩壊の一途を辿る浮界を眺め、彼は手の甲で眉間を擦り。
(いや、どうせ壊れるんならいっそ…)


427儚散天楼/79:2007/06/10(日) 05:02:36 ID:???

屋敷に未だ彼等が残っていたのは僥倖だった。
太守の庭園に急着する「ディバイン」から降りたったヒーリィは出迎えたヨナの困惑を無視して、即座に話を切り出す。
「―――ここが元々は軍事系ユニットだったんなら区画分離用の令式がある筈だな?」
軍事用環境ユニットのシステム内には損害区域を隔離・排出する防衛機構が組み込まれている。
「レボホト」程の大型ユニットであれば都市ユニットとして改造された今でも、機構が残されていてもおかしくない。
「…それは、あるにはありますが。いったい何処のブロックを隔離せよと?」
「全部だよ。中央部以外の全部を切り離すんだ」
大体において、完全な自由落下状態に陥っているのなら既に墜落していておかしくない筈なのだ。
つまりは、今もって浮界が無事なのは「レボホト」の中央部にだけ浮遊モジュールが作動しているからという事になる。
それでも、浮界全土を浮かせるには力及ばず機能麻痺した外周部に引きずられているの状態なのだろう。
「レボホト」の外縁部から崩れているのはそれだけ中心部との降下速に差があるということの証左であろう。
ならば。
「――余計な自重を減らせば、降下速度だって落ちるはずなんだよ」
喩えるなら萎んだ気球から重しを捨てるようなものだ。
「要するに、この「レボホト」を破壊せよということではないか!な、ならんぞ、そんなことはっ!」
ヤアジアの金切り声を室内に響く。
「このままいきゃどのみち同じ事だろうが。避難スペースが足りなきゃこっちからでも手を回す!」
「そのような問題ではないのだ!なりませんぞ閣下!」
幼太守が頭をふる。
威厳も驕慢もどこかに置き忘れたといった風で何ら感情を示さぬ表情はただ暗い。
「…もうよいわ。いずれ滅ぶのであれば、何をしようと詮無い事。私はもう、どうでもよい」
「そういうのは自力で何かやった人間だけがいえる台詞だな」
ヒーリィの口調は辛辣だった。
この少年には珍しく、静かに冷えた言葉の陰には怒りが滲んでいる。
「こういう目に遭うのもシシ食った報い、自業自得ってやつだ。実際の所あんたらがどうなろうと知ったことじゃねえんだ俺は。
けどな、このままいくと下で頑張ってるうちの馬鹿二人が巻き添え食うんだよっ!」
瞬間、それまで諦観に滲んでいた太守の目に光が差す。
「あの二人が…」
「あんたが目にもとめしやなかった下々の連中を救う為にな…まったく!」
胸中にわだかまる。少年と少女、二人の姿。
「戯言を!させるものか…此処は…此処は…「神都」となるべき聖廟なのだ。
我が祖から受け継いだ珠玉を…それを自らの手で壊すなどできようものか!」
わめくヤアジア卿を余所に太守は消え入りそうな声で呟く。
「ラムセイ卿…頼む…」
青年に向けられた伏目がちの目線から全てを察したラムセイは深く首肯し。
「…心得ました」
「何をいうかラムセイ!」
「…主命でありますから」
「分かっているだろう、「作り物」のいうことなぞ…」
その時初めて。終始遠慮がちだった青年の言葉が力を持った。
「今一度だけいいます。…私が従うべきはバニ様ただ一人。貴卿の命には従いません」
穏やかに、決然とした青年に射竦められたヤアジア。
老人は信じられないものでも聞いたかのように言葉を失い顔面を蒼白に染める。

ヒーリィへと向き直るヨナの掌には崩壊式の螺旋球が踊る。
「これがお望みのものでしょうが…こちらからの入力経路は全て断たれているので何らかの送信手段が必要になります」
「ああ、律形さえ分かれば後はこっちで何とかなるんだ」
428儚散天楼/80:2007/06/10(日) 05:05:35 ID:???
「――いいか外側から順にだ、くれぐれも間違えないでくれよ!バランスが崩れたら一発でしまいなんだからな」
「はい、気をつけます!」
戦艦大の光矢の束が浮界全土を貫く。
上空高くから「ヘブンス」は分離崩壊を促す律解除律を物理的に挿入していく。
いかに「ヘブンス」とはいえ都市機能全般を制御下に収めるのは至難の業だが単純な令式を実行するだけであればそう時間は要らない。
伝播する解錠式――走り抜ける線形の光が緩やかに大地を割いていく。
外から内へ順に切り離されてる各区画。接合面からのぞく無数の鉄芯が次々に外れていき、
やがて完全に切り離されたブロックは静かに地に零れていく。
「まだ引っかかっちゃってる箇所があるよ、急いで!」
『了解!上の方は任しといて下さいっ』
すれちがう避難艇を尻目に作動不良で外れない結合軸を地表からクゥエル隊が下方からはビットが射抜く。
賽の目状に雪崩れる天都の欠片。崩れる銀色の寄木細工は華丘の天壇を彩る最期の光か。
災禍に染まった真実が今その虚飾を一片一片を剥がし落とす―――。

バートルビ、エリフェレト、タルシス級艦首に備えられた三枚の白羽がユニットに食い込み、艦と浮界央部を繋留綱で結ぶ。
「アレオパギダは逃げ遅れた避難艇を収容!
バートルビとエリフェレトはそのまま浮界を引き上げろ!…っていうかお前はもうどけダネルっ!」
下界が間近に迫ってなお「セイクリッド」に退く気配はない。
「いけるぞ、減速してる…もう少し…あと少しっ…」
落下した岩片に乗って降りたクゥエル機が各々「セイクリッド」にならって底に張り付く。
『自分らも手伝わせてくださいっ!』
『手が空いたんでね、加勢しますよ』
「みんな…けど、GMじゃあ!」
『なに全機合わせればでG一機分の推力位にはなるでしょう!』
『導士だけじゃ危なっかしくっていけないや!』
そこまで云われてはダネルに否やのあろう筈がなかった。
「…よおおおしっ!いくぞっ」

「ディバイン」の振動砲が均した落下地点に沈む浮界。
明けの地鳴りと共に粉塵の柱から飛び立つMS各機。
着陸した「レボホト」を精査するビット。
「ディミ、状況は?」
「ざっと見渡してみて…中心核は損傷なし…潰された蔽も無いようね…」
「被害はほぼ零…奇跡だな、まさしく。―――各機ともご苦労さん…作戦終了だ、帰投してくれ」
万事片付いた安堵からか、ヒーリィは背もたれに身体を預ける。
「…ああ、恐ろしく長い夜だったなあ…」
「同感…あ、ベッドの幻がみえる」
429儚散天楼/81:2007/06/10(日) 05:07:45 ID:???

クゥエルの肩を借りて何とか飛行する「セイクリッド」の所々めくれかえった層甲が風を鳴らす。
『また派手に壊したもんですね。親方にどやされますよ』
「いいや、もう。どうにでもしてくれだ…」
「良かったです…はあ…」
風奏に力なく白翼を垂らす「ヘブンス」。
「ルエビ?平気か?」
「ええ、少し気が抜けてしまっただけです…」
「そうか。そりゃ、疲れたよな…」

「バートルビ」甲板に乗り上げ、機体から姿をみせたダネルを迎えるヒーリィ。
「毎度独断専行ご苦労さん。なんも考えんで、あのあとどうするつもりだったんだ?」
「はっはは、全然心配してなかったよ。ヒーリィなら何か思いつくだろってさ、実際そうだったし」
「そいつは…ま、な」
ヒーリィは内心で苦笑を禁じえない。
ダネルが後先考えずに動くまで、彼は救助の見切りをつける算段をしていたというのに。
(結局、こいつに乗せられたってことか…)
ヒーリィは気づいていた。
この少年の中で自己への拭いがたい不信と他者への無条件の信頼は表裏を成す。
それがダネルの脆さであり強さなのだろう。
傍らに立ったヒーリィはダネルの両肩をそっと叩く。
「…け、ど、なぁ…」
ぎりぎりと首を絞めあげる。
「そういうのは単なる他人任せの自分勝手ってんだよおおおお!!」
「げっ、ええっ…!上手くいったんだし怒るなよおー!」
「まったく反省していやがらねえええっ!!」
その様子を遠合いから。
「テンション高いことで…」
「仲、良いですよね」
半ば呆れながら顔を見合わせ笑う少女二人。

振り向けば肩越しに差す朝焼け。
黒白が遭い成す暗闘の一夜はこうして終わりを告げたのだった―――。
430通常の名無しさんの3倍:2007/06/10(日) 05:25:50 ID:???
あと二、三回この章終われますんで、そしたらまとめようかなと。
…この時点で250k超なんでとても他人様には頼めんよね

…てか、こんなにレスついたの久しぶりだな…あ、俺がサボってたからか

431通常の名無しさんの3倍:2007/06/10(日) 08:02:43 ID:cs45isib
セイクリッドは伊達じゃn(ry


いやなんでもないです面白いですごめんなさい
432通常の名無しさんの3倍:2007/06/10(日) 10:45:02 ID:???
逆シャア来たwwwwww
すごいwww
433通常の名無しさんの3倍:2007/06/10(日) 11:02:45 ID:???
おもしれー 乙
続きもできれば頑張ってください
434通常の名無しさんの3倍:2007/06/11(月) 01:04:23 ID:???
>430
まとめサイトは画像の補完も頼む。
取り逃がした絵を見たい
435通常の名無しさんの3倍:2007/06/11(月) 12:24:39 ID:???
このスレを見ている人はこんなスレも見ています。(ver 0.20)
邪気眼のガイドライン 第拾漆章『Heavenof Gold』

お前等・・・
436通常の名無しさんの3倍:2007/06/12(火) 00:34:24 ID:???
駄目だ・・・読んでると勝手に既存の声優で声当てちまう
厨臭ぇ・・・・・・orz
437通常の名無しさんの3倍:2007/06/12(火) 02:35:12 ID:???
>>436
さあ脳内キャストを晒すんだ
438通常の名無しさんの3倍:2007/06/12(火) 07:51:14 ID:???
>>436じゃないが同じく邪気にあてられたようなので晒すぜ

ダネル:鈴村健一
D:福山潤
ディミ:坂本真綾
ヒーリィ:三木慎一郎
ルエビ:桑島法子

バニ:齋藤千和
ラムセイ:うえだゆうじ

サンライズ系多すぎワラタ
439通常の名無しさんの3倍:2007/06/12(火) 18:35:40 ID:???
ルエビは能登だろ…常識的に考えて
440通常の名無しさんの3倍:2007/06/12(火) 19:50:09 ID:???
福井裕佳梨で再生されるのはグレンラガン効果か
441通常の名無しさんの3倍:2007/06/14(木) 01:19:25 ID:???
ルエビはもうちょっと流暢に喋ってると思うw
442通常の名無しさんの3倍:2007/06/14(木) 07:52:06 ID:???
とりあえずお前らがルエビにハアハアしてる事は分かった
443通常の名無しさんの3倍:2007/06/14(木) 13:27:16 ID:???
俺はアリョーシャの再登場を願ってる
444通常の名無しさんの3倍:2007/06/14(木) 16:06:06 ID:???
アリョーシャは重要キャラだと最初は信じて疑わなかった
445通常の名無しさんの3倍:2007/06/14(木) 16:11:56 ID:???
アリョーシャはDの改心フラグだと信じてる
446通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 02:08:50 ID:???
>>110
下手したらターンタイプをも凌ぐかもなw
447通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 14:05:13 ID:JLnBhxcz
>446
なんでそんな前のにレスしてんだw
448通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 14:18:22 ID:???
暇なんだろ
449通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 14:42:14 ID:5KAgVjaX
いっそ2ちゃんねるで独自のガンダムを作ったらどうか
フラッシュ作れる奴もいるし、3D得意なのもいるだろ
おまいらで理想のガンダムを作ってみれ!!
450通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 15:10:03 ID:???
このスレで言うことではないな
451通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 15:47:11 ID:???
今出てるイラストではメカはあるがキャラ絵はまだなのか
452通常の名無しさんの3倍:2007/06/16(土) 17:38:24 ID:???
>>447-448
レスしちゃいけないんですか><
453通常の名無しさんの3倍:2007/06/17(日) 02:59:45 ID:???
投下遅くなって、話題にできるよーなネタ出せなくてすんません
まとめの方は心の師にお願いできたんでなんとかなりそーです
キャラ絵……
454通常の名無しさんの3倍:2007/06/17(日) 08:55:08 ID:???
キャラのイラストに関してはこのまま無くてもいい気がする
見てる人の脳内補完が機能してるだろうし
455通常の名無しさんの3倍:2007/06/17(日) 13:28:16 ID:???
なくてもいいというか、描いてくれる人が来そうな気もするが

>>453
だからあまり無理せずに
456通常の名無しさんの3倍:2007/06/18(月) 23:39:52 ID:???
大学ノートの裏に時々キャラ絵を妄想しては描いてる俺が素通り
457通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 08:27:22 ID:tuVGNqOB
邪気ガンダム
458通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 15:20:18 ID:RpeW1ROf
創生の勇者王機動戦士ガンダムStarDustCrusades


「ファイナルフュージョン承・認!!」
「合体せよ!!GOMARSガンダム!!」
459通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 15:31:09 ID:???
>>458
ツマンネ
460458:2007/06/19(火) 20:49:13 ID:???
>>459

もともと二番煎じですからつまらなくて当然
461通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 20:53:43 ID:???
開き直られてもなぁ
しかし一度出てきたガンダムDだが、それってダネルが乗ってる方か?
Dが乗ってるのはまた別のインフェルノの後継機なのか
462通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 21:18:11 ID:???
俺の脳内ダネル像がギルティギアのカイになるのは何でなんだぜ?

朝焼けの中。「小神都」と称された華美なる天楼は無残な姿で地に横たわっていた。
あたかも真世界の行く末を暗示するかのように―――。

「レボホト」の顛末にはもう一つ語るべき事柄が残っていた。
各隊に指示を出すヒーリィ。
「負傷者はともかく、後は救済部隊を待ってもらうしかないな」
「地理的な障害はありませんから、分隊は一両日中、本隊到着もそう時間はかからないでしょう」
ヒーリィがケイルブに尋ねる。
「よしよし、ここで足止め食う事はなさそうだな。ああそうそう、太守以下の拘束は?」
「それについては、報告が届いております」
現在、隊員の汎士他で浮界の救護作業に赴いているのはダネルとルエビの二人である。
「あいつめ、また何かやらかしたのか?」

――――

「――今の銃声は!」
既にMSを降りたダネルは隊員に尋ねた。
「ラムセイ卿が撃たれました…」
押さえた左足を引き摺るヨナ。
大腿部を貫いた銃創は命に関わるものではない。ダネルは彼を抱き起こすのに肩を貸す。
「EDEN」隊員数名が構える銃口の先、護身用の拳銃を携えたヤアジア卿とは距離にして数間もない。
「卿が隠していた拳銃を見逃したようで、」
「みりゃ分かるよ!問題は…なにやってんの!?ルエビっ!」
ヤアジアと隊員の両射線上の間に立つルエビの姿に彼は戸惑う。
「申し訳ありません、ルエビ様は…」
ヨナの目配せに従い、ヤアジア卿の拳銃を握る腕のもう一方に抱えられた太守を確認した途端、ダネルは全てを察する。
暁は人の真性を否応なく露に映す。
「もう嫌じゃ!私は…私は誰の道具でもない…!」
苦しげにもがくバニから更紗の衣鉢は脱げ落ち、涙で太守の仮面は剥がれ落ち歪めた顔を洗い落としていく。
そこにあるのは声を限りに泣きじゃくるただの子供でしかない。
「――銃を下ろしてくれ」
ダネルは隊員に告げる。
「その前に彼女に下がるよういって下さいっ!これでは我々も手出しが出来ない」
「だから、ルエビはそれをさせたくないんだよっ…!」
彼女が庇っているのはバニだ。ヤアジアもろとも太守が射殺される事をこそルエビは警戒しているのだった。
「EDEN」部隊員を下がらせたダネル。彼とてこの状況下では無鉄砲な行動は起せない。
が、いつでも飛び出せる様に呼吸を絞る。

追い詰められ平常心を欠いたヤアジアを鎮めるようにルエビは言葉を連ねる。
「もう、おやめ下さい…こんな事をしても何にもならないこと位、貴方にだって分かるでしょう?」
「…そうだろうな、何もかも潰えた今となっては…」
太守への拘束が若干緩んだ。
ラムセイが畳み掛けるように懇願する。
「ですから、どうかバニ様はっ…」
途端、老人の怒りが再燃した。
「…せめて、裏切り者だけは道連れにっ…!」
ラムセイを捉える銃口。
「――馬鹿、前に立つなっ!」
身をもって射線を遮るルエビ。

劈く銃發が時を止める。

夥しい血が幼太守に降りかかる。
誰がみても即死と分かる風穴を穿たれ。不自然に捩れた首。
目を剥いたまま事切れた老躯がどっと地に臥せる。

突風に揺れる影が握る銃の杷。
「―――それはこういう事なのですよ、閣下」
収斂する影が、人姿のそれに立ちあがり形を具し。

居並ぶ一同が呆気にとられるのも無理からぬ事だろう。
黒影から抜け出、面前に立つその男は誰あろう、もう一人のヨナ・ラムセイだったのだから。
「…叶わぬ夢に憑かれた貴方という人間は、存外嫌いではなかった。これは私なりの手向けだよ」
足下に転がる亡骸を見下ろし、くつくつと下卑に乾いた笑いで手前勝手な理屈を嘯く黒衣の男は、
ヨナのそれを映しとった両眼を奇妙な仮面で隠す。
と、相貌が瞬く間に変形する。黒く染まる髪。伸張する体格…
ほんの数秒でヨナの面影は跡形もなく消え去りその男本来の姿へと立ち戻った。

「さて。初めましてかな、ダネル・アラクシェ聖統導士」
「…貴様も…「D」に与する者か…!」
「生憎ながら私はただのコーディネーターに過ぎんよ。彼と第九界の異神徒をつなぐ橋渡し…」
ダネル以下、詰め寄る足音よりも男の行動は敏捷だった。
(―――急いだ方がいい。彼らは「滅びの搭」を開くつもりだ…)
音もなく背後の陰合に融けゆく体。

ダネルの手には男の黒衣だけが残る。
――隊員らの捜索も虚しく、男は発見できなかった。


「ごめんなさい…」
「それは俺じゃなくって皆にいおうな」
「無我夢中だったもので…」
少女を背負うダネル。
「それで腰抜かしてちゃ世話ないよ。あんまり心配させないでくれ」
ルエビは、神妙にしようとしつつも可笑しをこらえきれないといった風だ。
「ダネルにいわれるなんて…私、余程危険な事してしまったようですね」
「…どーいう意味だよ」

帰艦用の空艇に乗り込んだルエビがふと呟く。
「彼女、どうなるんでしょう…」
ダネルは後から聞いた話だ。
バニは後継に恵まれなかった前当主・ツェフェンヤが人為的操作によって設けた嫡子だった。
禁忌を犯した後ろめたさゆえか、老親は娘から常に距離を置き身の丈にはあまりに大きすぎる台座を残し、去った。
太守の地位を守る為だけに生み落とされ生き死んでいく。それが、バニ・サウル・ツェファンヤという少女だった。
(…ヒーリィがいってたよな。人は結局、他人に自分を重ねてみているんだって)
ルエビに投げつけた罵倒は、その実自らに向けた言葉だったのだろう。彼女自身、自分を人形と捉えていたという事。

「可哀相だけど…事が事だけに知らなかったでは済まされないよ…」
いかなる身分、階級問わず真世界の安寧を脅かす者には厳罰をもって対処するのが「EDEN」の不文律だ。
「けれど、彼はどこへだってついていくんでしょうね。きっと」
ダネルの胸中に刻まれた二人の姿。
頬にかかった血糊を洗う一筋の涙滴、呆然と立つ少女と、それをしかと支えるようにかき抱く青年と。
「うん…そうだな」

しかし、である。
結局の所、バニ・サウル・ツェフェンヤに聖府の通告は届く事はなかった。
赦免が成された訳ではない。
単にそれどころの話ではなくなってしまった為だ。
これ以降、神都はいや、全世界は未曾有の混乱に陥る事になるからである―――。

――――
艦と浮界を往復する「クゥエル」部隊。
「皮肉なもんですな。元々は「インフェルノ」を旗機に据えた特執隊構想の一環として開発された「クゥエル」が、
当の「インフェルノ」を討つ為に投入されるとは」
「よくご存知で。パルオーシュ…もとい、神智院のロンマ・イマハム教唆官?」
男は涼やかな笑顔をヒーリィへ向けた。
「…大した役者ぶりで。お蔭でこっちまで大いに惑わされた」

内務諜報機関としての趣が強い神智院は他部署にも増して秘密主義の傾向がある。
が、今回はそれが一因した事態の収集を遅らせたのだから、ヒーリィとしては皮肉の一つもいってやりたくなる。
「敵を欺くにはなんとやらと申しますしな。それに、」
いささか言い難そうに言葉を接ぐロンマ。
「音高き聖霊の御手を拙い田舎芝居につき合わせるのは幾ら私でも気が引けまして」
何のことはない、要するに足手まといとみなされた訳だ。
ヒーリィの傍らにディミのすまし顔が近づく。彼女が何をいいたいの彼には手に取るように分かった。
(――ね、主長?仲間に無能扱いされる気持ちがどういうものか、少しはご理解頂けて?)

「――ご推察どおり、あの男はザブド前大祭祀長の直系とのことです」
「傀儡の君主を操ってご先祖の夢を引き継ごうって、大した妄想だ」
錆びついた時則にて存えてきた老卿と虚栄の冠に宙吊られた誂えものの太守。
いずれ「レボホト」には相応しい限りだと、ヒーリィは一人ごちる。
「…そこにつけ込んだのがあの男。今はダレトと名乗っているようですな」
ラムセイの姿形を借り甘言を弄してヤアジア卿に取り入った仮面の男。
「霊質すら真似られるってどういう特異体質しているんだか」
姿形を模した程度で各要所に備えられた霊帯認証を欺ける訳がない。霊質は各人に固有のものであり指紋のように二つと同じものはない筈なのだが。
「昼と夜では別の顔ってか別人じゃね。種が割れてみれば呆れかえるほどの単純さだね。大胆というか何というか…」
「やり口にどことなく妙な稚気を感じる男だ」
「というより虚仮にしてる感があるな」
「ヤアジア卿にしたって、普通なら気づきそうなものだけど?」
恐らくは人目につかないよう昼間は接触するなとでも口止めしておいたのだろう。
「ま、欲で目が曇れば事の真贋もみえにくくもなるわな」
「だとしても、やっぱり危険過ぎると思うよ。もしもばれたらどうする気だったんんだろう」
事もなげに答えたヒーリィ。
「その時は、二人ほど行方不明者が出て終わりだな」
ディミは口を噤む。
「――ともかく奴等の狙いは何をおいても中核部のユニットを押さえてる事で、地下のMS造成なんかはおまけみたいなもんだったんだろう」
「となると、中枢に忍び込んだ理由は相当な重要事とみえる」
「だいたい見当はつくんだよな…あとは実証さえとれれば、」
『――主長、解析結果をそちらに回します』
参謀よりの回線。
中枢ユニットの残骸から抽出したデータと、
地場偏向から割り出した「インフェルノ」の予測出現地点を確認したヒーリィはみるみる顔を曇らせる。
「やれやれ、最悪な想定ばかり的中するのは何故なんだろうな?」

どうしたものか。
ブリーフィングルームにて身じろぎもせずダネルは思案に暮れていた。彼の肩に凭れかかり、微かな寝息をたてる少女。
丁度室内に顔をみせたヒーリィは手でダネルにそのままでいるように示した。
「ああ、いい。寝かしとけばいいさ。どうせ後で改めて話さなきゃならん事だし」

「仮面野郎に遭ったんだってな」
「あいつがいってた…第九汎土って心当たりあるか」
「いや。字面どおりに解釈すれば第八世界の更に外ってことだろうが…」
「外って第八にしてからが真世界の外全部って意味だろ?」
「名称そのものに深い意味はないのかもしれん」
「それにあれだけの戦力を揃えられる組織が、今になって突然出てくるのもひっかからないか」
「インフェルノ」絡みは分からない事ばかりだ。
「…ま、憶測だけでものいってても始まらねえわな。連中の正体はともかく目的ははっきりした」
ヒーリィの合図で中空に開く映盤は都市の遠景を現像する。
「奴等の行き先は九分九厘、この「バルネアW」に違いない」
「「バルネアW」?廃墟みたいだけど…」
「俺達が生まれる随分前に廃棄されたユニットだからな。ほら、…ここには「鏡」が眠ってる」
目に映る天にむけて永く伸びた巨搭と「鏡」の名称がダネルの頭で一致する。
全天域殲滅用超級輻射砲門―――通称「ブレヴェイルの鏡」。
地流から誘引した素霊子粒を十数万の反射鏡界からなる砲塔にて増幅照射し対象を根絶する決戦兵器。
G擁する「EDEN」にあってさえ、「ブレヴェイルの鏡」の最終兵装という冠名は決して大げさでなものではない。
「確か、以前に使われたときは、今のマティ領区丸ごと塵に還したっていうぜ」
「――大陸一つ、吹き飛ばせるのかよ…」
「勿論そんなもんを聖庁がほっぽっとく訳がない。使えないように封印していた」
「鏡」を起動するために必要となる高度な操作系令式は全て抹消済みである。
「つまり、ガワはあっても中身がない状態だった――だから、野郎はその中身を一から造ってたんだ」
「Dがレボホトに侵入したのはその為にか…」
「ご名答。超大型ユニットを統制する中枢核は演算回路としては最適だったんだろうよ」
禁断の兵器で真世界を灼き滅ぼす―――それが「D」とその僕の計画。
「――理論上ではな、最大出力で地表面の六割にまで効果半径は及ぶらしい」
「六割って…それじゃ、」
「そうだ。真世界の主要十二大都市、全てに届く」
事態の深刻さが飲み込んだ少年の声が緊張に震える。
「…まずいじゃないか…!」
「…大いにな。「インフェルノ」に加えて謎のMS、そして「ブレヴェイルの鏡」。
ここまできたら本部も動かざるをえないよ。次は、「EDEN」全隊あげての戦になる。覚悟しとけよ…」
ヒーリィの言葉が終わらぬうちに扉が開いた。
「…大変なの」
入ってきたディミは自分でも状況がよく飲み込めていないという表情だ。
「ああ、「バルネア」の件を話してた所だよ」
「そうじゃなくてっ!たった今報告があって、」
彼女は泣きそうな顔で首を横にふる。
ダネルはいつの間にか、袖をきつく握る指の感触を覚えていた。

「神都が……「EDEN」本部が、消失したって…」
これから待つ運命に震える少女の指がきつく、きつく確かな温かさを手放さぬように。
468通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 21:46:22 ID:???
はあはあ…時間かかったわりにいつにもましてひどい出来ですまんせんんん…
あとなんかキャラ絵でもなんでもですが、自分は要求だす側にはいないと思うので
住人様のご意向があれば好きにやって構わないのではないでしょうか?
>455
ありがとうございます。無理しませんw
>461
どっちもDっす!

次回断章挟んでからこの展開の締めくくりの章入ります。ゆるーくお楽しみに
469通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 22:23:07 ID:???
>>468
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
続きをひた待ちにした甲斐があったというもんだ。ゆるーく楽しみにしています
470通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 22:25:04 ID:???
急展開キターッ
しかもコーディネーターがこういう形で登場とは
471通常の名無しさんの3倍:2007/06/19(火) 23:58:00 ID:???
GJだ

>462
俺もイメージ的にはカイが一番近いわw
472通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 04:55:02 ID:???
重箱の隅をつつくようで恐縮だが「コーディネイター」だ
ワードして種になぞらえるなら
473通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 12:20:06 ID:???
なんつかもうお疲れさまです。
そんじょそこらのラノベ書きさんじゃ
太刀打ちできないレベルの内容だわこれ・・・

まとめサイト作らせてもらいたい位だが準備する金すらない現状orz
書き手さんの負担少しでも減らしたいよー

あと、書き手さんの承諾得られたら
誰かMSのイラスト再うPしてもらえないだろうか。
最近見始めて一枚も見たこと無くてさ。ものすごく見てみたいm(__)m
474通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 17:14:44 ID:???
進むほどにキャラに味が出てきていいな
作者さんGJッス

>>470
この場合のコーディネーターは辞書的な意味の方だな
お膳立てをする人とでも言おうか
475通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 17:32:41 ID:???
ネーター・・・
476通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 21:37:34 ID:???
>472、>475
そっ、そんなに気になるなら後で書き直すべきかっ!?
まんまコーディが出てくる訳でないけど微妙に匂わすというか
キャラ像の暗示したいとかおもったんだけど、いわれりゃすげー中途半端だな、ゴメンよー
>473
こんなクソ駄文読んでレス貰えるだけでもえらく力を頂いとります、ホントw
近日(?)公開のまとめでイラを載せると広言してて、それ信じて待ってくださってる方に義理を欠くので
当方では再うPはしないつもりなんですが、住人様がなさる分には自由だと思います。
つか、ネタは皆のものなんだからおいらが口出す権利ねーっす(ただ、期待はしない方がいーんじゃないかなー落書きだぞ)

他、レス返せない方々にもホント感謝してます。皆様のレスがなければとっくの昔に飽きてやめちゃってる訳で。
今更ながら思うけど、書き込む人みんなが作者なんですよね、スレって。
…ってマジレス冷めるねごめん消えるーw
477通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 22:18:27 ID:???
ああ、冷めたな










だからこそ邪気眼ダムで俺らを熱くしてくれ
478通常の名無しさんの3倍:2007/06/20(水) 23:47:03 ID:???
コーディに関しては設定は違うとしてもを関連用語出すならちゃんとしろってことでしょう
下手するとそこを叩いてくる輩が出るかもしれませんからな
何はともあれいつも乙であります
479通常の名無しさんの3倍:2007/06/21(木) 16:06:18 ID:???
>>476
臭いのもたまにはヨシってことで

みんなもまとめスレ出来るのを心待ちにしている事だし
自分もそうさせてもらいます

早く見たいのは皆一緒だとおもうけど、作者さんは作者さんのペースで
やってくださいな。無理しすぎないようにね、応援してます!
480sage:2007/06/23(土) 02:22:12 ID:DRc7sRqD
邪気眼ダムって語感がいいなw
481断章/議会内対話:2007/06/23(土) 16:24:54 ID:???

数知れず、息うつ声の漣。
白く澄み渡るその空間に錯綜する調べを遮るものは何一つ存在しない。

『――先手をうたれた、か』
『なにか仕掛けてくるとは思っていたが、意外だったな』
『ああ、切り札をこうも簡単に手放すとは』
『それなりの目算あっての行動でしょうが、随分と思い切った手段に出たもので』
『誰であったかな、日和見老人などと侮っていたのは』
『よいではないですか。雛鳥が巣立ちを迎えるまで、身動きがとれないのはあちらとて同じ事』
『そう。所詮は想定裡の事象。構想にはいささかの瑕疵もなかろう』
『ただ一つ、予測し得ないのは』
『ディゾナンス……変数が不定ではね』
『ですが、それももう時間の問題でしょう』
『どちらに転んでも』
また、別の声がいう。
『―――あの男は信用してよいので?』
「彼」が口を開く。
「構わん。彼なりの思惑があるようだが…好きにさせて置けばいい」
『束の間の自由を謳歌させてやろうという所ですか』
「本来なら、人類種としての最高到達点であるべき者が…
…あれこそ人類の愚想とその帰結を体現している」
「彼」は続ける。
「夢の跡形、理想の末路、希望の頽廃…逃れえぬ不和、闘争、そして死―――
いくたりと歴史を紡ぎ、惨苦に満ちた営みをどれほど織り重ねようと、人間は宿唖の業をただ深めていくだけだ」
『人は皆、荒ぶる血、相食む骨肉に鎖された永劫の虜囚――なによりも己自身の奴隷に終わるよりなく…』
「その為にこそ、人は人を超える必要がある。他ならぬ超越の神理の導きによって―――」
引き潮と遠ざかる声。

鎮魂と再生とを刻に希み。
零砂と流れる悠久を経て、今こそ贖わる聖約の頂へ。
光廟に座した「彼」―――「議長」ロダバルツ・フレーゼィンは想いを馳せる。
482通常の名無しさんの3倍:2007/06/23(土) 16:35:04 ID:???
ご指摘サンクス。用語とかはなるべく気をつけるす。
その他、根っから迂闊な人間なんで何か気づいたら突っ込んでもらえると嬉しーす

追伸・まとめ、もう少しかかりそうごめんなさいー
483通常の名無しさんの3倍:2007/06/23(土) 20:27:35 ID:???
ガンダムDっぽいのきたー
484通常の名無しさんの3倍:2007/06/23(土) 22:07:56 ID:???
まとめサイトはまだなのか…
少し残念
485通常の名無しさんの3倍:2007/06/26(火) 02:33:21 ID:???
hosyu
486通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 04:52:16 ID:???
暇に任せた外伝をゲリラ投下する
本編の作者だと思った人は正直すまんかった
だが反省はしない
 時は聖暦。
 神の降臨によって人類間の戦争が終結して、既に1世紀半。
 人類は神の加護の下に平穏な日々を享受していた。
 しかし、聖暦161年10月12日。
 神罰執行機関EDENの新型GUNDAM級MS“インフェルノ”が、
何者かによって強奪されたのである。
 機関所属の少年、少女達は残された4機で追跡を開始する。
 “魔”の力を制御できるのは“聖”の力。
 “ディバイン”、“セイクリッド”、“ホーリー”、“ヘヴンス”のみである。
 永遠に続くと思われた楽園は、この事件によって終焉を迎え、
世界は再び戦乱の時代へと突き進むこととなるのである……

 魔のMSが奪われ、神聖機、聖霊機と呼ばれるMSが攻防を繰り広げている時世。
 世界は相も変わらず、平穏な日々を享受している。
 いや、実際には平穏などいうものは存在しない。
 平穏、平和、安息……
 そう見える世界でも、必ず何処かで断末魔が聞こえている。
 反聖府組織のテロ行為は、世界のどこかで毎日のように起こっている。
 醜く変質した魔機が、世界のどこかで人を襲い、土地を蝕んでいる。
 そしてまた、ある場所でも。

 そこには5つ、機械仕掛けの神の子がいた。
 神の子等は、都を護るために産まれた。
 だが1つの神が、叫びを上げて反乱を起こす。
 荒ぶるその姿は、インフェルノという名が最も相応しいと、誇示しているようである。
 インフェルノは同じ神の子であるサイクリッドをもってしても静止を許さず、
暴虐の限りを尽くした後、何処へと消えていった。
 その後、残った神の子等で、邪神と化したインフェルノの討伐に向かうことになる。

 しかし、神の子は、本来なら5つではなかったのだ。
 ディバイン。
 セイクリッド。
 ホーリー。
 ヘヴンス。
 インフェルノ。
 そして、神の子達の兄弟として産まれるはずだった、6つ目の神の子。
 その存在すらも抹消された神の子が、ゆっくりと心臓を鳴らしていた。



 聖暦0161年、12月某日。
 第24辺境地区。神都より遠く離れた、いわゆる辺境エリアの一つである。
 その中の、スラムに近い寂れた街。
 若い者は皆無に等しく、老人ばかりの、ばかりといってもその数も少ない。
 住む場所のない棄民に近い生活環境。
 神の加護もなく、聖府の支援もろくにないそんな街が、世界にはいくつもある。

 街に、保安部ADAMの治安維持部隊がやってきた。
 少隊クラスであるが、MSも配備されている。
 騒々しいこの事態に、街の住民達は一斉に、鍵をかけ、戸を閉め、カーテンを閉じた。
 一気に戒厳令を敷かれたようになる街。
 しかし、ADAMの隊員達はそんなことに気にもとめず、街の教会へと向かう。
 教会のドアを叩き、一拍の間を置いた。
「保安部ADAMである。教会の者はいるか」
 威嚇にも似た、張られた声。
 数十秒の後、ゆっくりとドアが開かれる。
 現れたのは、修道着を纏った女性。
「こんな寂しい街の、寂しい教会に、一体なんのご用でしょう」
「シスター・ルナ、いやダイアナ・テミス女史だな」
「……」
 修道女は答えない。
 しかし隊員も返答を聞く気などなく、話を続ける。
「貴女を反聖府組織への荷担、並びに人型機動兵装密造の容疑で連行する」
「どうぞ、中へお入りください」
 隊員の言葉が聞こえなかったのだろうか。
 修道女はそのまま、教会へと入っていってしまった。
 慌てて追いかける数名の隊員。
「寂しい街ですからね。懺悔もお布施も全くないんですよ」
「何を言っている。貴様を連行すると言っているだろう!」
「瘴気にでもヤられてるんじゃないか……」
「まさか、この変でそんな事例はないぞ」
 口々に不安の声が交わされる。
 修道女が中央ほどで立ち止まったその時だった。
 小さな揺れが起こり、一気に立っていられないほどの揺れに変わる。
 ステンドグラスが割れて粉々になりながら降ってくる。
「ははは……あはははははは」
 揺れの中、立ち上がって修道女は笑い始めた。
 次の瞬間、床に亀裂が走り、修道女と隊員を飲み込む。
 その亀裂、そして揺れの原因。
 地下から、6つ目の神の子が、姿を現した。



 海にぽつんと島がある。
 小さな島だ。
 その島に、一隻の小型船が近付いてくる。
 船といっても、EDENやADAMの有す戦闘用の艦船とは違う。
 魚を捕る。つまりは漁船だ。
 入り江に船がとまると、中から人が出てくる。
 それは少年。船には、少年以外に誰も乗ってはいなかった。
 船を降りて、海面を足で叩く。
 地面があることは知っている。靴のまま入って、そのまま浜に上がった。
「やっぱり、年々魚の数が減ってきてる……」
 溜め息の後に出た落胆の言葉。
 持たれた網には片手で数えられるだけの魚。
 魚を捕って生計をたてているのだろう。
 それも子供一人で。
「瘴気のせいだ。島の近くの海も瘴気に汚されていってる」
 瘴気。魔の力が発生させる毒。
 瘴気は生物を蝕む。そして、死に追いやる。
 そんなものが海にあるとしたら、魚などひとたまりもない。
 浄化措置という手もあるが、船の往来がろくにないこんなところにまで、
聖府の人間が手を回してくれるはずもない。
 少ない食料を手に、少年は丘に上がった。
 もうすぐに家に着く。
 家には誰もない。島にもだ。
 島には、この少年しかいない。
「ん……?」
 少年しかいないはずなのに、どこからか声が聞こえた気がした。
「誰かが歌ってる……」
 鳥の囀りでも、波の音でも、海から吹く風の音でもない。 女の声。
 それも高いオクターブで、聖歌を唄うように美しく。
 聖歌など聴いたこともなかったが、少年にはそれほど、惹かれるものがあった。
 声がする方向へと自然と足が進む。
 誰が唄っているのか、知りたい。
 少年はしばらく歩いたところにある砂浜に辿り着いた。
「……あぁ……」
 思わず、情けない声を上げてしまった。
 砂浜には、裸の少女が。



 保安部ADAM第24辺境地区管轄支部。
 この支部で、先日の教会地下より現れたMSの対策が話し合われていた。
「ダイアナ・テミス。EDEN所属のMS研究者か」
 パトリック・ウェール。この支部の司令である。
「正確には、今年10月の時点で自主的にEDENを辞めています。
何やら、上層部と揉めたらしく、その後の消息は不明」
 アレックス・カーレンリース。その副官である。
「神都でも有数の名家に産まれて、学士院出だっていうじゃないですか。
そんな博識で聡明な女学者が、何故こんな事件を起こしたんでしょう?」
「今となってはわからんが、恐らくはEDEN上層部との揉め事がその発端だろう」
 二人だけの司令室で交わされる密談に近い会話。
 短い日数で調べられた情報では、確信があるものが余りにも少ない。
 ただ、彼等にはそうするしかなかった。
「10月といえば、インフェルノ・ハザードと重なる」
 インフェルノ・ハザード。
 島を丸ごと開発施設に作り変えた第四開発支部で起こった惨劇。
 神都を護るべく産まれたMSを奪取されたこの事件を知らない者はADAMにはいない。
「まさか、教会から飛び立ったMSは、それ程の力を有していると……!?」
 重々しい口調で話したパトリックに、冷や汗を流しながらアレックスが尋ねる。
「何らかの原因で、彼女はGUNDAM級MSの開発に携われなかった。
いや、携わってはいたが、揉めたことで外されたという感じか」
「外されたその復讐のためにMSを造った。そういうことですか?」
「いや、創りたかったのはMSじゃない。あの5機と同じ神だ」
 神。そう呼ばれて当然のスペックを持つGUNDAM級MS。
 邪神そのものと化したインフェルノ。
 そして、残りの四機も並々ならぬ力を持っている。
 そんなMS達と同等のMSを、ダイアナ・テミスという研究者は創り出したというのだろうか。
「あのMSを追撃した我が部隊の生存者達の容態は?」
「え? えぇ……依然として、心神喪失状態のままです」
「MSは無傷。しかし、その搭乗者達は一人として無事ではない」
「それが、ダイアナ・テミスが神を創ったと目される理由ですか」
「………………そうだ」
 長い間をもって答えるパトリック。
 どんな武装や能力を持っているのか全くわからない未知数の相手に、
司令であるパトリックも不安で仕方ないのである。
「神智院やEDENに知られる前に、事を終わらせる必要がある」
「司令! それはあまりに無謀では!?」
「そうだな。だが、やらねばならない。太教院にはまだ報告はしていないしな」
「司令は、彼等をお好きではなかったですね。その理由を伺ったことはありませんが」
「理由を知りたいか?」
 パトリックの言葉に、アレックスはゆっくりと頷いた。
「民の安全を護っているのは、我々だと思わないか?
上の奴等は我々のしていることを汚れ仕事だと言うが、
私はそのようなことを思ったことは一度もない。
暴徒を鎮圧しなければ、民に危害が加わるだろう。
犯罪を摘発しなければ、その負い目は民に向くだろう」
 確かに正論を言っていると、素直にアレックスは感じた。
 パトリックの瞳は、自分の仕事にかける情熱で燃えている。
 それを馬鹿にするような発言は、許せないのだろう。
「そして何より気に入らないのは、英雄気取りでいる輩が大勢いるということだ」
 自分達を戦闘の後処理をする清掃業者ぐらいにしか思っていないのだろう。
 パトリックは、そういったEDENの者達を数多く目にしてきたという。
 口答えしようものなら、太教院の子飼いだ走狗だと罵声を浴びせてくる。
「そしてそれに拍車をかけているのは、神の子たるMSの搭乗者達だ」
 何かとADAMとの連携の多いホーリー。
 そのホーリーの搭乗者は、ADAMとの共同任務を嫌々やっている節が見られる。
 ADAMの中にはそれを快く見ていない者もおり、
ホーリーの搭乗者に対して陰で悪口を吐いたところ、
その報復にあったという噂もある。
 ディバインについては、反聖府組織が起こした都市ユニット一つを盾に取ったMS暴動を、
たった一機で鎮圧したという経歴が輝かしい。
 しかし、本人はその際に前線から離れて任務を怠っており、
偶然に敵大部隊が流れて鉢合わせしたと、後に悪びれもせずに話したという。
「華やかな活躍に隠れ、そういった部分は目立たないがね」
「まだ若いというのもあるのでしょう。彼等はまだ年端もいかない少年少女だと聞きます」
「だが、私は、示しのある態度を取ってもらいたいと思うのだよ」
 本当の意味で英雄になれる者達なのだから。
 最後にそう独り言のように言って、
パトリックはこのADAMとEDENの確執に関する話題を終わらせた。
「ウィル・カンガ殿を呼んでくれ。私自ら追撃任務の指揮に就く。
上に何か訊かれたら、大規模な演習を行うとだけ伝えておけ」



「あ〜良かった。オイラの服がピッタリで」
 まだ顔が熱いままだ。
 心臓も激しく音を鳴らしている。
 未だに、目の前の少女の裸が、目に焼き付いている。
「……」
 少女は、不思議そうに身に纏った衣服を眺めている。
 裾を引っ張ってみたり、臭いを嗅いでみたり。
「まさか服とか着たことないの?」
「……」
「話せないのかな……」
 少年は困り果てていた。
 砂浜で産まれたままの姿で唄っていた少女。
 その少女を家に連れ帰ったが、少女は何一つ喋らなかった。
 年は自分と同じくらい、いや少し上だろうか。
 それぐらいなら、言葉一つ知っていてもおかしくないはずなのだが。
「自分の名前とかもわからない?」
「……」
「オイラはハーヴェイ。ハーヴェイ・ロビ」
「……」
「やっぱり……駄目なのかぁ」
 がっくりと肩を落とす。
 そんなハーヴェイを、少女が見詰める。
「……マキナ」
「え?」
「マキナ」
 少女は呟いた。マキナとだけ呟いた。
 曇っていたハーヴェイの顔が、一気に明るくなった。
「なんだぁ! 喋れるじゃん!!」
「……しゃべれる」
 ただ言葉を繰り返しているだけのように見える。
 マキナ。果たしてそれが名前なのかは、わからない。
 しかしハーヴェイにとっては、それは些細なことであった。
 一言でも言葉を口にしてくれた。それだけでハーヴェイは嬉しかった。

 テーブルには、今日捕った魚が皿に乗せられて置かれていた。
 手の込んだ料理は作れない。内臓を取って、塩胡椒で味付けをして、ただ焼くだけだ。
 他には島で採れた山菜や木の実が小皿に入っている。
「さっ、食べよう! マキナ!」
「……たべる?」
 不思議そうにそう言う。
 長らく使っていなかった両親のナイフとフォーク。
 マキナのために、再び使う時が来た。
 だがマキナは、そのナイフとフォークも、料理も、
まるで初めて見たかのような反応をしている。
 いや、実際に初めてだったのではないだろうか。
「マキナってさぁ、いくつ?」
「いくつ?」
「自分が産まれてどれくらいなのかってこと」
「……」
「ちなみに俺は10!!」
 ハーヴェイは両手をマキナの前に突き出してそう言った。
 10本の指が、ピンと元気良く立っている。
 それを見たマキナも、ハーヴェイの前に手を突き出した。
 どの指も、立ってはいなかったが。
「……やっぱり、わからないのかな」
 ハーヴェイは、溜息を付いた。
 気を取り直して食事を始めよう。
 食べ方がわからないというのなら、見本を見せればいい話だ。
「天に在す我等が神よ。我等人間の愚かな戦いを鎮めてください、深く感謝します。
そして、魚と山菜と木の実の命を頂き、食事を得られることを深く感謝します」
「?」
「お祈りの言葉だよ。神様と食べ物に感謝をするんだ」
 説明してもわからないかもしれない。
 ハーヴェイ自身も、それ程信奉者というわけではなかった。
 神に護られ、その恩恵があるというのなら、こんなに苦しい生活を送っているはずはない。
 両親も早くには死ななかったはずである。
 そういった疑問は多々ある。世界が平和でないことも知っている。
 しかしそんなことを考えても、仕方のないことだ。
「食べよう」
「……」
 ナイフを使って魚の身を裂き、フォークを使ってそれを口に運ぶ。
 ハーヴェイの行為を一部始終観察していたマキナは、真似するように手を動かし始めた。
 慣れない手つきでナイフとフォークを動かす。
 そして、切った身をフォークに刺して、口の中に持っていった。
「!!」
 マキナは目を丸くして、何やら驚いている。
「美味しい?」
 ハーヴェイに訊かれて、マキナはこくこくと頷いた。
「魚、食べる、ない……」
「まさか、魚食べたことないの!?」
 ナイフとフォークの使い方も知らないのだ。
 魚を食べたことがないのも、嘘ではないのだろう。
 ハーヴェイは驚くばかりだった。
(でも……)
 マキナは続けて魚を食べていた。
 美味しそうに頬張るその姿は、実に愛らしい。
 マキナが何者なのか。
 それもまた、考えても仕方のないことに思えた。



 特装艦ヴィクター。ADAMが独自に運用している戦艦の一つである。
 艦長は支部司令であるパトリック・ウェール。
 副艦長にはアレックス・カーレンリースが就いている。
 ヴィクターは第24辺境地区管轄支部を飛び立って、現在は海上を航行中していた。
 GUNDAM級と目されるMSの追撃任務。それもADAM単独の、極秘任務である。

 艦長室に、4人の男が集められた。
 中高年程の男を筆頭に、それよりもだいぶ若い男が3人。
 パトリックは立ち上がり、中高年の男の前にまで来ると、手を差し出した。
「久しぶりだな。また貴方と共に戦えるとは」
 差し出された手を、男は強く握る。
「ハッ! この年でまだMS乗りさ。あんたは出世して支部司令じゃねぇか!」
「私はただ田舎でのうのうとしているだけさ。今は忙しくなってしまったがね。
出世というのは、EDENに参謀役として出向するような者のことを謂うのさ」
 パトリックの言葉に、男は豪快に笑いながら「そりゃそうだ」と言った。
 ウィル・カンガ。ADAMの治安維持部隊カンガ小隊の隊長である。
 カンガ小隊は、ADAMの中でも稀有なMS“ケンプファー”が配備されている。
 ケンプファーの名は闘士を示す。
 しかし戦争や、それに類似する言葉は、真世界という国家では無意味になる。
 だが、無意味というのなら、何故ADAMやEDENという組織が存在しているのだろう。
 ケンプファー、“闘士”もまた無意味であるが、存在している言葉の一つでもあるのだ。
「で、相手はGUNDAM級だと聞いたが?」
「あぁ、GUNDAM級の開発に携わっていたMS研究者のテミスが創造した……
恐らくは模造や複製ではなく、正真正銘のGUNDAM級だと思われる」
「そんなのを相手にしろってか……?」
 汗が、ウィルの額に滲む。
 後ろの部下達にも動揺が広がる。
「無理かな」
「いや……上等だ!」
 ウィルが振り返り、部下達を見る。
「てめぇ等! 覚悟はあるかぁ!?」
 そして、否定を許さず、そう訊いてきた。
「もちろん! やってやりましょう!!」
 部下の一人、アヴァント・ゲールが言う。
「GUNDAM級の1機や2機、どうってことねぇよな!!」
 同じく、部下であるジェダイ・ダガーが続く。
「二人共血気盛んだねぇ。俺も勿論、逃げたりしませんぜ」
 最後に、同じく部下のマイク・アンカースが言った。
 部下達は、怖じ気づいている様子もない。
 GUNDAM級の名を聞いた時は、一瞬驚きもしただろう。
 だが、彼等には彼等の誇り、そして自信があった。
「よぉし決まりだ! 今すぐにでも、そのテミスとかいう研究者を取っ捕まえに行けるぜ!!」
「……いや、テミス女史は、既に死亡している」
「おいおい……ん? じゃあ、誰がそれに乗ってるっていうんだ」
 少々興醒めした感じで、ウィルの声が上擦る。
「そのことについては、私からご説明しましょう」
 艦長のデスクの脇に立っているだけだったアレックスが、静かに話を始めた。
 ダイアナ・テミスは死亡している。
 GUNDAM級MSが引き起こした教会の倒壊により、
崩れた天井の瓦礫に潰されて死んでいるのを発見された。
 しかしGUNDAM級MSは、追撃部隊を謎の兵器により沈黙させた後、姿を消している。
 教会から飛び立ち、姿を消したということは、
誰かが動かしているということになるのではないのだろうか。
「GUNDAM級MSが無人で動くなどいうことは考えられません。
操縦者という魂の入っていない神など、ただの木偶の坊です」
「じゃあ、反聖府勢力ってか?」
「それも考えにくいです。彼女を支援していた組織は、
事件が起きる3日前に我々ADAMが制圧しています」
 そして、高聖質・高霊質・高神質のGUNDAM級MSには、適合者が必要になる。
 機体、即ち神とシンクロ出来なければ、拒絶されてしまう。
 拒絶されれば、動かすことなど出来はしない。
「いるということだな。ダイアナ・テミスの協力者、神に足るMSを動かす神繰者が」
 パトリックの言葉に、アレックスは重く頷いた。
 強大な相手。それはこの場にいる皆が承知している。
 結果これが神殺しになるかもしれないということも。
 しかし退くことはできない。
 EDENの騎士達、英雄達に誇りがあるというのなら。
 ADAMの飼い犬にも、譲れない信念というものがある。


 マキナがハーヴェイの前に現れて数日。

 ハーヴェイは船で海に出て、マキナは島で食べられそうな物を探す。
 そして、漁に出て数時間。ハーヴェイは島に戻ってきた。 マキナが現れたといっても、相変わらず穫れる魚の量は少ない。
 とぼとぼと、家に戻ろうと陸に上がる。
「ハーヴェイ!」
「マキナ。何か見つかった?」
「これ、食べる、できる?」
 マキナは、手の中に収めていた物を見せる。
 掌の上には、砂浜で見つけたのだろう、沢山の貝殻があった。
「う〜ん……貝殻は流石に食べられないよ」
「食べる、できない?」
「殻だけからね。食べても固いだけだし」
 残念そうに言うハーヴェイ。
 マキナはしゅんと落ち込み、悲しそうな表情を浮かべた。
「そうだ! その渦巻いたやつ、耳に当ててみなよ!」
 しゅんとしているマキナを気遣ってか、元気良くハーヴェイが言った。
 不思議そうにしながらも、マキナは言われた通り貝殻を耳に当てる。
 少しの沈黙。
「!」
「聞こえた? 海の声が」
「海の、声……」
 波の音。潮風の音。
 貝殻の中から聞こえてくる。
 そこにはない海鳥の声も、潮の匂いも、感じられる。
「海は、オイラの家族みたいなものなんだ」
「かぞく?」
「父ちゃんも母ちゃんも死んじゃって、海に出るぐらいしかすることがなくて。
海は、時には穏やかで母ちゃんみたいで、時には怒る父ちゃんみたいで……」
 ハーヴェイの瞳には、涙が滲んでいた。
 流れそうになるそれを拭って、ハーヴェイは続ける。
「でもオイラ、もう一人じゃない。今は、マキナがいる」
「マキナ、かぞく?」
「マキナはさ、背丈はオイラより高くて姉ちゃんみたいなのに、
性格はまだ何も知らないちっちゃい子みたいでさ」
「ハーヴェイ、マキナ、同じ、かぞく?」
「うんっ。マキナは家族! オイラの家族だよ!!」
 血など繋がっていなくとも、一緒にいるだけで家族のようになれる。
 互いに大切な存在になれる。
 しかしそんな家族のように大切な関係も、そう長くは続かない。
 その時はまだハーヴェイもマキナも、そんなことになるとは思ってもいなかった。

 島は日が暮れて、夜になる。
 夕食を食べ、談笑し、そして二人は、眠りについた。
 マキナは巻き貝の殻を持ったまま、すやすやと寝ていた。
 まるでそれが、家族の絆だと、示すように。

 空を覆う騒音に、ハーヴェイは思わず飛び上がるようにして目が覚めた。
 耳が痛くなるほど喧しく、五月蝿い。
 耳を押さえながら外に出ると、既に起きていたマキナが、じっと空を眺めていた。
 マキナの視線を追って、ハーヴェイも空を見上げる。
「戦艦だ……」
 口をあんぐりさせて、ハーヴェイが言った。
 EDENやADAMという組織があり、世界を守っているということは知っていた。
 巨大な鋼鉄の船と機械人形を駆っているということも。
 だが実物を見るのは初めてだった。
 あんな巨体が空に浮かんでいるとは、ハーヴェイは驚きを隠せない。
 戦艦……ヴィクターから、何かが出てくる。
 ハーヴェイに言わせれば機械の人形、つまりはMSだ。
「こっちに、島に来る。マキナ、家に戻って! 隠れるんだ!」
 ハーヴェイに背中を押されて、マキナは家に入れられる。
 ハーヴェイは何か、底知れぬ不安を感じて、島に迫るMSを睨んだ。
 奴等は、マキナを奪いにきた。
 ハーヴェイは直感する。
 MSが、海岸に降り立った。
 中から人が出てくる。男達。カンガ隊の面々だ。
「ちぃ、潮風が鼻につくぜ」
「隊長、先程民家らしき建物と島の住民と思しき者を確認しましたが」
「ガキだったじゃねぇかよ」
「案外、そういうのかね……協力者ってのは」
 ウィルから順に、口々にアヴァント達が言う。
 そんな彼等の元に、ハーヴェイの姿が近付いていた。
「おじさん達、何!?」
 強気で、敵意を剥き出して、ハーヴェイは声を荒げる。
「さっきのガキの一人か……よぉボウズ、この辺でMS、でっけぇ人形見なかったか?」
 窘めるように、ウィルが訊いていた。
 ハーヴェイが怒り心頭でいることなど、ウィルには関係ないように。
「そんなの知らない! 今日初めて見た……用がないなら、さっさと帰れッ!!」
 何を言われても、何を訊かれても、
ハーヴェイの中が怒りに満ちていることに変わりはない。
 早く帰ってほしい。いなくなってほしい。
 マキナを連れていかないでほしい。
 そんなハーヴェイに対して、逆に怒りを覚えたのは、ジェダイだった。
「ガキが、舐めた口をきくな!!」
 ハーヴェイの首元の服を掴んで捻り上げる。
 一瞬ウッと呻いたハーヴェイだったが、すぐにジェダイを睨んだ。
「この、ガぁキぃぃ!!」
「やめろジェダイ!!」
 熱くなるなとアヴァントが諫める。
 仮にも治安を守る側の人間が、子供に手を上げるなどあってはならない。
 やれやれと、呆れているマイク。
 アヴァントに言われ、ジェダイはハーヴェイを解放する。
 ハーヴェイは苦しそうに、大きく呼吸を繰り返した。
「スマンなボウズ。部下が悪いことをした」
「と、とにかくッ、オイラはそんなの知らない……!」
 呼吸を整えながら、ハーヴェイは言う。
「もう一人いたようだが、そいつは知らないか?」
「あれは……姉ちゃんだ。オイラと同じだよ」
 明らかに口調が変わった。
 動揺が見られる。
 それを、ウィルは見逃さなかった。
「遠目に見た感じじゃあ、姉弟にゃあ見えなかったが」
「姉弟だよ! もういいだろ!? 帰れよ! 帰れ帰れ帰れ帰れ!!」
 ハーヴェイは喚く。
 これで確信したのか、ウィルはマイクに目配せした。
 マイクは軽く頷くて、小走りでその場が去ろうとする。
「!! 待って!」
 それを追いかけるハーヴェイ。
 大人と子供。追い付けないことなど目に見えている。
 それでも、ハーヴェイは全力で走った。
 捕まえなくちゃ。家に行かせたらいけない。
「やめてよ!! お願いだから……やめてよッ!!」
 瞳に涙を溜めて、ハーヴェイは叫んだ。
「あっ……!」
 ハーヴェイの足がもつれる。
 体が斜めに倒れていく。
 受け身もとれず、地面にぶつかった。
 これには流石にマイクも足を止めて、思わず振り返ってしまう。
「やめてよ……壊さないでよ。せっかく家族になれたのに……」
 大粒の涙を流して、ハーヴェイは訴えた。
 父も母も死んで、ずっと独りだった。
 強く生きてきたつもりだった。
 だが、やはり人肌が、人の温もりが、恋しかった。
 自分がまだ子供なのだと痛感する。
 独りでは生きていけないのだと、実感する。
「家族を壊さないでよぉ!!」
 そう叫ぶだけで精一杯で、後はもう嗚咽だけしか口から出ない。
 それでもどうにかして止めようと、ハーヴェイは地面を擦りながらマイクを追った。
 何かいけないことでもしているような罪悪感に、マイクは顔を歪める。
 そして、ウィルに指示を仰いだ。
「…………引き上げるぞ」
 ウィルが言う。
 その言葉に、自分を無理矢理納得させるアヴァントと、悔しさを滲ませるジェダイ。
 マイクもそれに従い、皆の元に戻った。
「すまないです、隊長。この償いは後でキッチリと」
「構わん。天下のADAMが悪者になるわけにはいかんだろう」
 4人はケンプファーに乗り込んだ。
「家族を壊すな、か」
 ケンプファーを起動させ、ウィルは呟く。
「この島の周りの沖には、瘴気に飲まれた海があるっていうのにな」
 やがてはこの島も、海から流れてくる瘴気に飲まれてしまうだろう。
 そうしたら、人など住めなくなる。
「……哀れだな」
 最後にまた、呟いた。
 ケンプファーは島を離れ、ヴィクターに戻っていく。
 ハーヴェイは未だ倒れたままで、小さくなっていく数機のケンプファーを目で追っていた。

 アレを見てから、頭の中で声が聞こえる。
 知らない女の声が聞こえる。
 何かを命令している。
 その声を聞くと、頭がぼーっとして、何も考えられなくなりそうになる。
「マキナ!」
 ハーヴェイだ。
 大切な大切な、ハーヴェイだ。
 ハーヴェイは、嬉しそうな顔をしている。
 何かあったのだろうか。
 でも駄目だ。口を開いても、声が声にならない。
「マキナ?」
「……ハぁ…………ヴェ……イ……」
「マキナ? どうしたんだよマキナぁ!!」
 嬉しそうだったハーヴェイの顔が、一気に怖くなる。
 なんでそんな顔をするんだろう。
 マキナが何か悪いことしたのだろうか。
「マ……キナ……悪い……こ、と、した?」
「へ……? してないよ……マキナの様子が変だから、心配してるだけだよ」
「…………よ……か……た…………」
 マキナは悪くない。
 嬉しい。
 でも、もう声が出せない。
 頭の中の声が、どんどん大きくなっていく。
 嬉しい気持ちも、楽しい気持ちも、その声に押し潰されていく。
 悲しい気持ちも、何もかも無くなっていく。
 助けて。
 助けて、ハーヴェイ……。



『シントヲホロボセ』



 やめて。
 マキナを消さないで。
 ハーヴェイと一緒にいた思い出を………………
 消さないで!!

「…………」
「マキナ……?」
「…………」
 ハーヴェイの声に、マキナはもう反応しない。
 マキナはまるで人形のように、そこに立ち尽くしたまま。
 恐る恐る振れようとしたその瞬間、突然マキナが歩きだした。
「マキナ!!」
 マキナが家から出ていく。
 それを追うハーヴェイ。
「マキナ、どこに行くんだよ!!」
 マキナを止めようと、腕を掴む。
 しかし、
「うわあああ!!」
 尋常ではない力で、振り払われてしまった。
 地面を転がるハーヴェイの体。
 呻きながらも、顔を上げる。
「行っちゃいけない!! マキナぁ!!」
 叫んでも、マキナは耳を貸さない。
 振り向かないで歩き続ける。
「マキナ……」
 ヴィクターが現れた時に感じた底知れぬ不安が、現実になる。
 遠ざかっていくマキナ。
 ハーヴェイは唇を噛む。
 泣いたのに。もう泣くことなどないと思っていたのに。
 先刻よりも大量の涙が、零れた。
「帰ってきてよ! 絶対に帰ってきてよ!!」
 声は届かないかもしれない。
「マキナは家族だから!! 帰ってくる場所はちゃんと、ここにあるから!!」
 想いは届かないかもしれない。
「だから、帰ってきて!!」
 でも伝えたい。
 言わなければ、それこそ届かないものになってしまう。

 歩き続けてきたマキナは、砂浜へと足を踏み入れていた。
 海に向かって、両腕を広げる。
 そして、口を開いた。
 マキナから発せられる、神の声にも似た歌声。
 歌声は、海に響き渡った。
 海中から、何かが上昇してくる。
 そして、巨大な水飛沫を上げ、姿を現した。
「……リヴェレーション……」
 リヴェレーション。
 天啓の名を冠した、GUNDAM級MS。
 そして、5体の兄弟達と肩を並べられなかった、本来ならば存在しないMS。
 マキナを受け入れるようにリヴェレーションはコックピットハッチを開く。
 マキナは乗り込み、一旦口内を潤すと、息を吸い、ゆっくりと口を開いた。





「神都を、滅ぼせ」
連続投稿規制なんて初めて遭遇した……
やってみると邪気眼要素も厨二要素ファンタジー要素もあんま出せなくて悔しいな
でも俺ガン出してる時点で充分厨二ではあるのか
外伝ということで本編とは無関係、1stにおけるポケ戦のようにしてみた

暇潰しにでも読んでもらおうと思っているのだが
この話が本編の進行に支障をきたすようならスルーしてくれ
無かったことにして後編の投下も自粛します
511通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 10:02:38 ID:???
乙。暇つぶしだし多く望むわけじゃないが、折角邪気眼ダムやってんだから
もっとキャラとかメカで中二的な描写してもいいんじゃないか?

てか最初はマキナがGに変身するんだと思ってたw
512通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 18:47:47 ID:???
>>511
俺も変身かと……「物質として固着化するほどの極大霊力」とかそんなんで。

>>510
本編の圧倒的な邪気眼オーラに追随できてるのが凄い。俺には出来ん。
ぜひ続きを頼む。
513通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 18:48:34 ID:???
GJだけど
>511の書き込みのように、もっと邪気眼な感じがいいかも。
514通常の名無しさんの3倍:2007/06/27(水) 20:54:01 ID:???
おもしれーす
できたら続きもお願いしますです(こちら次章の入り方に苦戦しとるんで…)
こちらでも可能であれば拾いますんで
515通常の名無しさんの3倍:2007/06/28(木) 02:10:08 ID:???
     ...| ̄ ̄ |>>510 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
516通常の名無しさんの3倍:2007/06/28(木) 02:11:56 ID:l8zKWERm
  / ̄ ̄/     /  ̄/  __/_ ─
  /    / / / /    /   / /      /
 /__/  _/  _/   / /  __/
517通常の名無しさんの3倍:2007/06/28(木) 02:14:15 ID:???
やべ誤爆
518通常の名無しさんの3倍:2007/06/28(木) 05:40:03 ID:???
おぉ…意外に暖かい反応が

>>511-513
やっぱり不足してる分はあるみたいすね…
後編は少しそういうの増やしてみます
だがガンダムに変身するという発想はさすがにないわw

>>514
恐縮です
いやいや、のんびりやってください

>>515
ただいま加筆修正中
519通常の名無しさんの3倍:2007/06/28(木) 23:14:41 ID:???
本編の主題歌
OP→ALI PROJECT ED→See-Saw

天啓の主題歌
OP→Angela ED→Fiction Junction YUUKA

まぁレコード会社違うから無理だけどな
520通常の名無しさんの3倍:2007/06/29(金) 00:24:54 ID:???
じゃあここでOPがT.M.な奴を俺が( と言いたいがいい邪気ワードが浮かばないので
Gの名前誰か考えてくれ。本編のセンスを踏襲した上で熱さのある感じのを
521通常の名無しさんの3倍:2007/06/29(金) 20:47:02 ID:???
>>520
クルセイドガンダム

…あ、ガンダムは付かないんだっけ
522通常の名無しさんの3倍:2007/06/30(土) 00:39:24 ID:???
アポクリファ

ま、被ってもあんまり問題ないすけどねー
523通常の名無しさんの3倍:2007/06/30(土) 18:20:55 ID:???
>>522
あー、意味的にもいいかも
まぁある程度書けたら投下してみまつ
524通常の名無しさんの3倍:2007/07/01(日) 02:06:38 ID:???
本編作者さんに質問なんですけど、辺境エリアで現地住民達がガンダムXのバルチャーみたいに独自に
モビルスーツ使って魔物退治てのは世界観的にありでしょうか? そんな感じのネタが浮かんだもので、
設定的に矛盾が出てくるならあきらめますが、そのあたりどうでしょうか?
525通常の名無しさんの3倍:2007/07/01(日) 03:57:33 ID:???
基本、真世界内ではMS保有してんのは「EDEN」「ADAM」のみですが
第八世界なら「SIN」と総称される武装自治諸団体がありますんで、
その中にはMS使ってる奴等も当然いるでしょー
(近年、魔災が広がってるんで水面下で武装化が進みまくってるという背景があります)
ただ、武力レベルは「EDEN」>「ADAM」>「SIN」なんで
かなり強力なMSを出す場合はそれなりのいわくがあると説得力あるかも

まあ、これはあくまで自分の考えでしかないんで参考程度に。
気に入らなければ全部うっちゃって自由に書いちゃってくだせえ
526通常の名無しさんの3倍:2007/07/02(月) 02:17:25 ID:???
了解っすー。とりあえず書いてみます
527通常の名無しさんの3倍:2007/07/02(月) 02:28:24 ID:???
新職人さんキタコレ
期待してますw
528通常の名無しさんの3倍:2007/07/04(水) 03:21:24 ID:???
529通常の名無しさんの3倍:2007/07/04(水) 23:14:12 ID:???
保守
530通常の名無しさんの3倍:2007/07/05(木) 02:23:50 ID:q7eu72Be
保守
なんだかすごいことになってきてるなw
531通常の名無しさんの3倍:2007/07/07(土) 11:21:40 ID:???
ほしゅ
532通常の名無しさんの3倍:2007/07/07(土) 13:05:49 ID:???
この世界のデビルガンダムが見てみたい
人間に産卵してデスアーミー繁殖とかやりそうだ
533通常の名無しさんの3倍:2007/07/07(土) 14:46:18 ID:???
外伝を書いてみたいが、設定が壮大すぎて(ry
534通常の名無しさんの3倍:2007/07/07(土) 16:00:16 ID:???
小さい街角の話とかでいいやん。ついでに既出キャラの身内とか作ってみたり(
535通常の名無しさんの3倍:2007/07/08(日) 22:01:44 ID:???
>533邪気眼系のストーリーはやたら壮大なのが定番だからなw
536通常の名無しさんの3倍:2007/07/09(月) 21:39:54 ID:gK/x7inE
いわゆるセカイ系w
537通常の名無しさんの3倍:2007/07/09(月) 21:52:14 ID:x1/k/kto
邪鬼目を持たない者には判らぬ
538通常の名無しさんの3倍:2007/07/09(月) 23:59:09 ID:???
>>536
セカイ系と邪気眼は全く意味が違うぞ
あとageるな
539通常の名無しさんの3倍:2007/07/10(火) 17:54:34 ID:???
540通常の名無しさんの3倍:2007/07/10(火) 18:29:53 ID:???
>>538
具体的にどう違うの?
541通常の名無しさんの3倍:2007/07/11(水) 00:19:53 ID:???
セカイ系ってのは、個人的な関係が世界全体の問題に直結するような話。
この条件を満たしさえすれば、真面目な形而上系のSFとかでもこのカテゴリに入るから、
例えば、神林長平の『猶予の月』なんかもセカイ系の話になる。


邪気眼は、まぁあれだ、見れば判るだろ?
542通常の名無しさんの3倍:2007/07/14(土) 03:29:05 ID:???
hosyu
543通常の名無しさんの3倍:2007/07/14(土) 23:33:19 ID:???
人少ないな
このスレに限らず板全体が。
人大杉の影響か?
544通常の名無しさんの3倍:2007/07/15(日) 04:02:16 ID:???
投下するべきか否か
545通常の名無しさんの3倍:2007/07/15(日) 04:16:47 ID:???
頼んます
546通常の名無しさんの3倍:2007/07/15(日) 09:07:21 ID:???
>544
おk
お待ちしております
547通常の名無しさんの3倍:2007/07/15(日) 22:22:11 ID:???
投下期待
548544:2007/07/15(日) 23:54:54 ID:???
オリキャラ・オリ機体は荒れそうなので
街角話を先に書いてみます。
あと初心者で文才もないのであんまり期待はしないでくだせぇ。
549通常の名無しさんの3倍:2007/07/17(火) 18:39:19 ID:???
>オリキャラ・オリ機体は荒れそうなの

そもそもこのスレのガンダムDがry
550通常の名無しさんの3倍:2007/07/18(水) 11:38:51 ID:???
保守
551通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 00:29:47 ID:???
hosyu
552通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 18:28:43 ID:???
それは小さな物語




「ねぇ、大丈夫なの?」

「心配ない、平気だよ」

不安そうな少女の手を取る少年――ダネル。G・セイクリッドの正式操者。
栗色の髪をなびかせて少女はコックピットへと足を踏み入れる。

「わぁっ……綺麗……」

(セイクリッドのインターフェイス機能で画質光量処理はされてるんだけどな――)

正義馬鹿と言われるダネルにだって一応無粋という単語くらいは理解できる。
隣に座って純白の機体から見渡す夕暮れの景色に目を輝かせる少女。
なるほど、こいつに乗ってからは戦うことばかりだったが
こういう使い方も悪くはない。
お前もそう思うだろう?――セイクリッド
553通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 18:30:34 ID:???

「補給、ですか」

「そうだ、ここ一週間敵の襲来が激しかったからな」

「で、どこに立ち寄る気なんです? 艦長」

「ここからだと――第七都市"ゲブラー"だな」

G操者はそれだけで部隊内でもかなりの権限を有する。
そのため、作戦の事細かにも口を出せる権利があり――逆に義務でもある。
ディバインの操者・ヒーリィはタルシス級の艦長と今後の方針について
話し合っていた。

「あー、ダネル・アラクシェ"導師"」

「なんだよ、気持ち悪いな、ディミ」

隣にいる赤髪の少女からかけられる言葉にダネルが怪訝そうな目を返す。
だが、渡されたのは一枚の紙切れ。

「買い物リスト……?」

「そ。ヒーリィは機体の調整があるし、アタシとルエビは艦内待機だし」

「羽根を伸ばせってことか?」

「それは自由だけど、ちゃんと買ってきてよ」

そう念を押し、ディミはそそくさと立ち去る。
ダネルは嘆息しながら、艦橋から視界を外へと移す。
タルシス級が降り立つは第七都市の搬入ドッグ
だが、十二都市に数えられているものの都市と呼ぶにはあまりにも――寂れた街
これといった主要産業もなく、議会や行政機関があるわけでもない。
人口は他の都市へと流出し、現在では過渡期の一割ほどしか住民がいない。
近いうちに十二都市から外れるとまで言われている。
だからこその別名――"黄昏の街・ゲブラー"

554通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 18:32:36 ID:???

「これじゃあ、買い物どころじゃないな」

ダネルは、はぁと一人愚痴る。
さっきから一時間ほど歩いているが、人と擦れ違わないのだ。
これが廃れた都市の現実か
デュミから"そういう"街だと聞いていたが――なるほど、彼女の判断は正しい
羽根を伸ばすという気分にすらなれない

不意に――飛び出てくる影にぶつかる

「っ!? す、すまない」

「い、いえ、私の方こそ……」

散らばってしまった荷物をダネルが拾う。
拾った本の題名――
『人型兵器最強論』『ドリルへの愛』『ロケットパンチの浪漫』
……なんというか独創的なタイトルだった。
思わず呆気に取られてじろじろと見ていると――

「あっ、それ、興味あります?」

見上げると栗色の髪の少女が楽しそうに聞いてくる。
何やら、他にも鞄から本を取り出してくる。
純粋無垢とはこの娘のためにあるような言葉なのかもしれない。
だから――
ダネル・アラクシェは今年初めて嘘をついた。

これがこの娘、樹理との出会いだったんだ。
555通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 18:37:20 ID:???
投下してみました。
こんなんで良かったんだろうか(´・ω・`)
556通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 19:19:09 ID:???
(・∀・)イイヨイイヨー
557通常の名無しさんの3倍:2007/07/20(金) 22:51:48 ID:???
GJ!
まだ途中だよな? 続きに期待だ
558通常の名無しさんの3倍:2007/07/21(土) 21:38:00 ID:???
意外と暖かい反応で助かりました。
ちょっと忙しいので遅れるかもしれませんが
できるだけ早めに残りも投下してみます。
559通常の名無しさんの3倍:2007/07/22(日) 00:14:23 ID:???
遅くなったが俺からもGJ

ただ、気にになった点が樹理って漢字の名前。
他キャラがカタカナ(横文字というべき?)ばっかりだからそう感じるのかも?
邪気眼的にこれが無問題なのか気になる点なのかは俺にはわからんがw
560通常の名無しさんの3倍:2007/07/23(月) 14:27:20 ID:???
>>558
GJっす
中世風世界で漢字名前ってなんか邪気度数あがるよーな気がするねw

まとめ、あと少しかかりそうなんで先に次章頭だけ投下してーな
と思ってんですが、他の方の続きが来るまで待機してる方が良いすかね?
561通常の名無しさんの3倍:2007/07/23(月) 20:37:52 ID:???
別にいいんじゃね?



まあ早く続きが読みたいだけなんだけどなww
562終章・殲天をかける/プロローグ:2007/07/24(火) 07:45:09 ID:???

眩い陽の光に照らされた濃い蒼芒を銀雲が燦爛と流れゆく。

――飛行するMS編隊。
部隊を率いる少年――ベリア・ケイツの機体は眼下に広がる無量の曠野にぽつねんと佇む都市ユニットを捕捉した。
四辺を支えられた菱方の双天井は今はユニット上へと目深に被せられ、
乾いた輝きを放つその様は砂浜に取り残された貝殻を少年に連想させる。
神都から遠く離れた辺鄙な場所。罅割れた野に草は一片たりとも生えていない。
「何が楽しいんだろうな。あんなちっぽけな土地にしがみついて…」

(――またそんなこといって。悪い癖だよ?)
澄んだ声が少年の内を伝う。
魂に触れる少女の暖かさは彼にとっていつも快いものだった。
「はいはい、あの屋根の下には大勢の人たちがそれぞれ一生懸命生きてる。
俺達はそんな連中を守るそれはそれは大切な仕事なんだろう?…もういい加減覚えたよ」
(いまいち理解してないのがなぁ…。皆の様子を伝えられればなあ)
「何か面白いものでもみえてるのか?」
(んとね、お祭りやってる)
「この状況でか!?呑気過ぎるだろ!」
(おかしくないよ。周期祭は魔を鎮める儀式なんだし)
「だからってなあ。こっちはこれから命張って戦うってのに…」
(皆、喜んでるのに。救世主の到来だーって)
「……別に、どうでもいいさ。そんな事は」
はにかみを隠すベリアをくすくすと笑う少女。
涼やかに響くその声は少年に今から臨む戦闘を忘れさせるほど軽やかで明るいものだ。
それも、無理からぬ事だと彼は思う。
神都から出る事のない彼女にとって外界は、MSを介する少年との知覚共結を通じてのみ味えるものだった。
少女が住まう狭き庭と世界との、唯一つしかない接点なのだ。

ベリアは軽く嘆息し、景観に違和を醸し出す巨大な深淵に改めて視線を移した。
ユニットの周辺に二つ、ぽっかりと口を開けた黒腔は砂塵が流れ落ちる度に生物の肉腑のごとき不気味な脈動をうつ。
―――魔との隣接点である混沌渦はいつにも増して大きい。
間もなくあそこから出現するであろう魔もまた強力なものだろう。
付近にはMS隊数機が配置されているがいずれも気休めとも呼べぬ代物である。
563終章・殲天をかける/プロローグ:2007/07/24(火) 07:47:19 ID:???
「ここのところ連戦続きだってのに、「EDEN」はまだ改修に梃子摺ってるのか」
(流石にお疲れ?)
「俺はいいんだけどさ、」
(あ、心配してくれてるんだ…)
「生憎と聖女様なしじゃこいつは並以下のMSなんでね。巻き添えくってやられるのは御免だ」
(そんないい方はないと思うんだけどなぁ)
彼女が口をすぼめる様をはっきりと思い浮かべたベリアはたまらず吹き出した。
「ま、気をつけてくれよ。……あんたの代わりをやれる人間はいないんだから」
(君だってそうだよ)
「消耗品風情に気を遣わなくてもいいさ」
暫しの間を空けて。少女は語りかける。

(代わりなんていないよ。……少なくとも私にとっては、ね)

『ベリア機、制動が乱れたようだが、故障か?』
「問題ないっ!」
ベリアは照れ隠しに回線相手を怒鳴りつけた。
二人以外の誰にも「会話」が伝わらないのは幸いだ。
(不意打ち、弱いよね)
「…うるさい!戦闘前だぞ、あんまり調子狂わすなっ!」
僚機から回線が入る。
『――各機、準備完了、いつでもいけるぞ』
虚口から顔を覗かせた魔勢の直上空に布陣を固めたMS隊がベリアの命を待っている。
(ちゃっちゃと片づけて早く帰っておいで、ツバメさん…)
「気軽にいってくれるよな…。―――各機、続けよっ!」
全身を満たす天使の唄に身を委ねるように、少年は煌く赤銅の翼を雄雄しく舞わせて。

少年と少女。
二人には触れることさえ叶わぬ世界の安寧を守る為に。
その名さえしらぬ人々の幸福を守る為に。

決戦級兵機「GUNS OF ADAM」、MS「バルゼベル」は蒼天を翔ける――。

564終章・殲天をかける/プロローグ・2:2007/07/24(火) 07:55:10 ID:???
真世界の辺境と中奥を繋ぐシェキア領区。
神都を除けば「EDEN」最大の軍事的要所であるこの場所は現在、真世界最大の危機を迎えて尚、不思議なほどの静けさを保っていた。

シェキア領・潜航都市ユニット「エンハロト」内。
ザウ・ザノア統千師長は大柄な躯を沈み込ませるように絨毯を踏みつける。
歴戦を経て深く刻み込まれた皺の真ん中にどうと構えた鷲鼻、
その一見いかめしいながら不思議と愛嬌の備わった相貌も今は彼をよく知る者ですらが思わずあとじさるであろう渋面に変わっていた。
「――この期に及んで足の引っ張り合いもないだろうに…!」
私室の扉を閉じた途端にこらえていた鬱憤が噴出する。
「討伐隊の報告が事実だとしてだ、」
「神智院からも同様の情報があがっている以上、十中八九間違いないかと」
「ならそれこそ、「EDEN」の真価を発揮せねばならん時だろうが…」
千師長の剣幕にも慣れた風で補佐役は淡々と報告を告げる。
「件の重嗣位殿もそう訴えたようですね」
「ミンヤミンが?」
「至法院が討伐隊に新造艦二隻を派遣したとのことです」
「ただの太鼓もちかと思っていたが…少し見直したね。」
ミンヤミン・マーカ主級導師は至法院での職鉢を併せもつ、ザノアからみれば現聖府の堕落の象徴のような人物だった。
が、考えてみれば事実上今の「EDEN」において聖院に意見できる人材は彼のような男しかいないのだ。
「その他、バルネアWのあるゼブル領内の駐留部隊及び隣接したシャマイン方面の部隊が集結した模様です」
「ラキア領は、遠過ぎるか。回廊は全て封鎖済みなんだな?」」
「はい。外部の侵入を防ぐためとか」
「庭先の災厄を無視しての厳戒体制なぞナンセンスだ…ユシャブ老の上申は通ったのか」
「明日には決議を採択するそうで」
「間に合わんだろうな、それじゃ」
何もかもが遅すぎる。
討伐隊から「ブレヴェイルの鏡」に関しての報告を受けた直後から
「EDEN」では残された師菅位以下はそれこそ烈火の勢いで駆けずり回っているのだが彼らの尽力に比して聖府の動きは驚くほど鈍かった。
まるで聖府そのものがもう一つの凶報の衝撃に麻痺してしまったかのように。

神都消失。
神都の位置した地点には地下深層にまで達する穴口が確認されるのみ。
聖府は詳細の特定に躍起になっているが依然として一切の原因は不明である。
外観上はかつて発生した環境域魔象に酷似しているものの、地場の変動も霊性の揺らぎすらまるで変化がない。
―――無。
まったくの無なのだ。
敵の攻撃か。それとも何らかの事故か。
いずれにせよ何らの痕跡も残さずに消滅させる事例など過去に類をみない惨事であることは疑いない。
事件のもたらした衝撃は計りしれないものがあり、その意味では聖府が恐慌をきたすのも当然といえば当然といえる。
「しかし、だ…」
「EDEN」の行動は実質上完全に硬直していた。
半ば公然と独立した指揮権限を備える「EDEM」上層が突然消えたのである。
よって中枢の命令系統が消えた現時点において。組織内で独自に命令を下せる人間がいない。こうなると聖院の指示を仰ぐよりほかない訳だが。
「この期に及んで第一に思い浮かぶのが我が身の大事とはな…!」
神都跡混乱の収集に追われる太教院からの命により「ADAM」はユニットから離れることを許可されず。
至法院はといえば正体不明の敵に怯え警戒態勢を敷くことしか念頭にない。
要するに彼らは運用できる戦力の大半を自らの身辺に回している。
討伐隊は現地部隊の徴用についてある程度の権限が認められているが、勅命を覆せる程のものではない。
565終章・殲天をかける/プロローグ・2:2007/07/24(火) 07:56:52 ID:???
こうした極端な反応のいくらかが真世界の守護四天たるGの不在ゆえというのは考えてみれば皮肉な話だ。
そもそも「インフェルノ」討伐作戦にしてからが失策だったと彼は思う。
はじめから「EDEN」全軍をもって事に当たれっていれば少なくとも「インフェルノ」に関する危機ついては避けられた筈なのだ。
Gへの過信、というより、厄介ごとをGに押しつける悪癖がかかる事態を招いたといっても過言ではない。
初の「EDEN」直属となるG、「インフェルノ」。
五機目の聖霊機は各機関の見かけ上の均衡を崩すMSであり、存在からして不穏の種だった。
「インフェルノ」強奪を受けて各々Gを共同で派遣するという選択お互いこれ以上の関与干渉を慎むという暗黙の意思表示だった。
史上類をみないG全機編成での討伐作戦はその実何のことはない、各院の牽制と妥協の産物であったといえよう。

そこまではまだいい。
が、あろうことか各院は他機関の手による工作、抜け駆けを懸念する余り「EDEN」総勢での連携行動まであからさまに妨害し出したのだ。
かくて、G隊は真世の命運を左右する危難を前にして孤立下にあるという次第だ。
――強大な軍事力の暴走を未然に防ぐ為の機構がかかる窮状に追いうちをかけているとはまさに本末転倒というほかない。
また、なにより解せないのは七十一頭議会の沈黙である。
三院を通しての間接的な勅旨で指揮を下すのが通例とはいえ、これ程の大事に何ら対応策を打つ様子がないのは余りにもおかしい。
いがみあう聖院を纏めあげずして何がための最高府か…。
(議会も混乱しているのか…?)
或いは、議会にしてみた所で時勢による腐敗と硬直化を避けられなかったというだけの話かもしれない。

「――それと、一部、令を待たずして現地へ向かった部隊があるそうで、」
「そうか…」
ザノアとしても許されるのであれば身一つで加勢に向かいたいところである。
独断で戦力を派遣した部隊について、一個人としては拍手喝采を送ってやりたいところだが
「何でもゲルション督士の呼びかけらしいです」
「あれは、出来た男だよ。「ADAM」に置いておくのが惜しい」
「ですが、法規違反については処遇を考えなければなりません」
「正しい行為を諫めなければならんというのか」
補佐官は肩をすくめた。
「心中お察しますが、ここで心証を悪くされては貴方の立場も危うくなりますよ」
「依って立つ地所なくして組織の存続もなかろう」
在りし日は勇猛をもってしられ、自身でもひとかどの武人と任じてきた自分が
今や遥か後方で訪れる保証のない今後について頭を巡らせなければならないとは。
千師長の顔からは既に自嘲の笑みも失せている。
「EDEN」という、頭を失った巨象が、乱れた手綱に絡めとられ真世界もろともに倒れこもうとしている。
―――これが神代の終焉であるとすれば余りに惨めな結末だ。
「いやむしろ、破滅とはこのようなもんか…」
概して物事の終わりは呆気ないものだ。
安寧の享受に慣れ果て、内争にあけくれた世界など滅ぶべくして滅ぶのが道理かもしれない。
彼は聖府の落日を己が身の趨勢と重ね合わせ嘆いた。
背後からは彼を包む戸窓に映る沈みゆく赤陽。
老将は神代の黄昏たる夕映えに見遣る。
(頼んだぞ、坊主ども…)
「インフェルノ」討伐隊、聖霊機に一縷の望みを託して。
566終章・殲天をかける/黄昏騎行・1:2007/07/24(火) 08:04:34 ID:???

司令室。室内をたゆたう映盤の薄明かりがヒーリィとケイルブの輪郭を形どる。
「近場から掻き集めてはみたものの…黙示録の軍勢にしては少々寂しいね」
モノクルを磨くケイルブ。
「ですが、これ以上の援軍を待つ猶予はありません」
「この戦力でやるしかないと。ガルガリン級が一隻は欲しかったけれどな」
「いずれ単艦では狙い撃ちされるだけです」
「贅沢はいえないか」
「ですが、アドエス級は幸いでした」
「新兵器と「コマンド」含めて施主殿に一言いわなきゃな。…生きて帰れたら」
総数二百機余り。従来のタルシス級三隻にアドエス級巡洋艦二隻を加えた陣容の結集した様は壮観ではあるが、
「インフェルノ」と竜機種三機を擁した敵と対するにはあまりに心許ない。
殊に「バルネアW」近隣の駐留隊が消息を絶った際――恐らくは魔機群に殲滅されたとみていい
――送られてきた情報を元に解析した敵勢をしれば尚更だ。
「にしても、千から二千機って…悪い冗談だ」
「残念ながらあくまで予想戦力ですので、それでも控えめな数字と受けとめておくべきかと」
「バルネアW」周域の瘴圧は、観測の間も更に上昇を続けていた。
「少なくとも鏡砲発射までの時間制限は気にしなくていいや…どう考えても全滅の方が早いだろうよ」
「我々に勝機はありますかな?」
この男にしては珍しく弱気な発言だった。
ヒーリィは茶杯を傾け、冷めた苦味を飲み下す。
「勝つさ。何としたって勝たなきゃ未来はない」
567終章・殲天をかける/黄昏騎行・2:2007/07/24(火) 08:06:26 ID:???

「―――作戦説明にはいる前に「ブレヴェイルの鏡」の基本構造についてまとめとこう」
「ブレヴェイルの鏡」は一言でいえば天に佇立する巨大な砲身である。
地流から集めた霊質は地上部に露出した「砲身」――成層圏に届く塔を伝い昇る間に極限にまで高められ、
大気圏に突き出た先端の「砲口」から照射される。
いいかえるなら霊流が「搭」の頂点まで達したとき初めて、ブレヴェイルの鏡は作動する仕組みになっている。
「――バルネア周囲の霊圧上昇からみて発射までは恐らく二十余時間の猶予があると推測される。
それまでに「ブレヴェイルの鏡」を破壊しなければならないという事だ」
ケイルブの説明を黙して聞く一同。汎士位以上の者をほぼ全て集めたブリーフィングルームはいささか手狭で息苦しい。
「因みに「鏡」の収束部、いわゆる「鏡搭」についてなんだが、これがなかなか厄介な代物でな」
搭の如く聳えた「砲身」は、膨大数の収束板からなる多層構造体であり、収束板は霊流を透過する特殊材質で出来ている為、
「EDEN」部隊の主要兵装たる霊帯兵器の類は著しく効果が薄いという。
「要するに「搭」の部分を壊す事は出来ないってことか?」
挙手したままのダネルに横目で答えるヒーリィ。
「時間があれば対物武装でちまちま潰していけばいいんだが、その間敵さんが黙って待っててくれる訳もなし」
「でもって戦力差では圧倒的に不利と…」
ディミが僅かに眉根を寄せた。指でしきりに髪をいじるのは考え事をしている時の彼女の癖だ。
「よって、鏡を破壊する手段は二つ。
…一つは根元、砲搭を支える維持機構。これは、地表に顔を出してる部分を破壊すば機能は止められる。
もう一つは、頭頂の照射口。ここがなければ最終的な加圧が得られないから溜まった霊流はみんな宇宙に向けて拡散しちまう」
「そのどちらかを破壊すれば鏡搭は機能を失うと?」
隊員の問いに頷くヒーリィ。
「勿論、奴等だってその事は心得てるだろうからそれなりの布陣を敷いてくるだろう。で、こっちの布陣だが」
「ディバイン」隊と「ヘブンス」隊―――各々アドエス級一番艦二番艦とGM二十機が随伴する。
残りのMSはタルシス級「アレオパギダ」旗艦隊に編成される。
尚、タルシス級艦隊のGM小隊は知覚性能に優れた「クゥエル」を指揮機として、
新たに配属された「コマンド」一機にノーマルGMを三機加えた五機編成をとる。
「部隊を三つに分けるのか…」
「…一番の脅威はやはり「インフェルノ」だ。正直、戦力を分散させるのはきついが奴に的を絞らせたくはない。
――そこで、ダネル、ルエビ。「セイクリッド」と「ヘブンス」は先行して出来るだけ「インフェルノ」を引き付けて貰う」
ダネルに片目を瞑った顔を向けるヒーリィ。
「先ず何をおいても鏡の破壊が先決、忘れるなよ」
「…分かってるさ」
「で、タルシス級艦隊は峡谷側から下層の支持基を目指す」
恐らくは空戦性に劣るGM隊を考慮しての配置だろう。
「バルネアW」の東部一画は長い峡谷に挟まれるように位置している。
攻め難い反面、こちらも地形を衝立に戦えば、少なくとも部隊の即時壊滅は免れるだろう。
「更に、最上部の発射口を成層域から「ディバイン」、「ホーリー」が狙う。これが大まかな内容だ―――」
天と地からの二点同時攻撃。それが彼等の採択した戦術だった。
568終章・殲天をかける/黄昏騎行・3:2007/07/24(火) 08:09:09 ID:???
『本艦及び全艦隊は現時刻をもって戦闘態勢へと移行する』
回線を通したケイルブの言葉は艦内の全廊画に粛然と響き渡る。
『―――神都の件について詳細は未だ掴めていない。が、さしあたって我々には早急に対処せねばならない脅威が迫っている』
隊員達は銘々が手を止めて耳を傾けている。
『魔獣の手によって「ブレヴェイルの鏡」に点された種火は程なくして悉界を灼く大火を生むであろう。
そして、未だ聖府が惑乱の最中にある現在、我々だけがこれを抑止しうる唯一の部隊、文字通り最後の砦である。
いいかえるなら本作戦の失敗はそのまま真世界の滅亡を意味する。なれば我々に許されるのはただ、勝利の一語に尽きよう。
忘れるな、聖霊機だけではない、今此処に集う諸士等一人一人が背に真世界総てを負う盾にして不浄の魔に裁きを与える剣なのだという事を。
無論、敵は真世界最悪の狂獣。戦闘の熾烈さはこれまでとは比肩し得まい。
だが仮令、戦場に己が身一つ取り残されようとも使命を全うする覚悟と気概をもって事態に臨む事を諸士等に願うものである』
『――ここからは、作業を続けながらでいい。聞いてくれ』
参謀に代わって語るヒーリィ。
『確かに殉命をもって天に財貨を積みあげるは我等神徒の本懐であろう。
が、今いる此処は既に楽園。
であれば、成らば世界を救うという至徳、現世でもってその欠片なりとも頂戴しようと何らの憚りもないではないか?
加えてこの混乱事だ、我等の働き場所は其処彼処に溢れかえっていよう」
ヒーリィはそこで一拍の間をおく。
『まあ、要するに何が云いたいかというとだ、―――――総員、なるべく死ぬな!以上通信終わる!』

司令室。
相も変わらずの仏頂面に少年は軽く舌を覗かせる。
「玉砕など求めはしませんが…気休めはかえって酷なのではありませんか?」
「希望をもつ事と覚悟を決める事は案外、矛盾しないよ」
「その希望が空虚なものだとしても、でしょうか」
首尾よく「鏡」を破壊できたとして、単機でさえ脅威である「インフェルノ」がいるのだ。
ケイルブは、全滅を免れればまだましな方だと考えていた。
「見通しが暗ければ暗いほどかえって、ほんのささやかな明りでも息せき切って飛び込むのが人間だ。そういう時の人間が一番働いてくれる」
「…主長殿は慈悲深いのか残酷なのか判じかねますな」
「どうだろ。俺にもよく分からん」
ふと、ケイルブの片頬が僅かに持ち上がる。
「どちらにしても、貴方という人間は大したヒューマニストですよ」
「含みがあるよな、そのいい様」
「嫌いじゃありませんがね」
ヒーリィは笑い、席を立つ。
「それじゃ、頼んだぜ、参謀」
「委細承知しました。必ず果たしてみせましょう」
お互い振り向きもせずに交わす言葉。
少年を背で見送りながらケイルブは思う。
死を突きつけられれば誰しもが、覚悟はあろうと身は竦むもの。
だが、この絶望下にあっても敵に背を向けるものは一人もいまい。
煌と示される希望の輪郭―――先陣を切って舞うGの姿がある限り。
569終章・殲天をかける/黄昏騎行・4:2007/07/24(火) 08:27:42 ID:???

艦橋に四人はいた。
この先は各艦隊散開してからの合流になる。
ヒーリィとディミはアドエス級一番艦「ハピツェンツ」。
ダネルとルエビはアドエス級二番艦「ハクファ」へ。
「―――ここで一先ずお別れって訳だ」
「何だよ、急に改まって?」
手をつきだしたヒーリィに促され彼らは差し出す掌を重ね合わせる。
「「EDEN」式ではないけどな。景気づけという奴だ」
今までみせた事のない真摯な面持ちはかつてない激戦の予感を物語る。
「ここが俺達の旅の終着点だ。…多分、これが俺たちが揃って戦う最後の勝負ってことになるだろうな」
「そっか。そうだよね…」
ヒーリィは仲間を順に見回し、笑う。
「短い間だったが俺達、いいチームだったと思うぜ」
「…もうずっと前からこうだったみたいだ」
あまりに自然に結び合わされた絆は、気づけば二月と及ばぬ束の間の去時。
「…ヒーリィ、ディミ、ダネル…貴方達と逢えて良かった」
目を瞑るルエビ。
「ああもう、何なのこの辛気くさい流れは!これが今生の別れってわけでもないでしょうが?」
ダネルは深く首肯する。
「…そうだよな。必ず戻るさ、俺達は」
掌で固く握り合わせる再会の約束。
だがこの時、誰もが心の奥底で直観していたに違いない。
この誓いが決して果たされることはないという事を。
―――これが四人が集う最後の時。
570終章・殲天をかける/黄昏騎行・5:2007/07/24(火) 08:31:02 ID:???

廃都「バルネアW」。
「バルネア」は旧世紀に建造が開始され、完成後も数度もの変遷を遂げてきたユニットだった。
設計当初は地球と宇宙を繋ぐ軌道階梯として。
次いで、集光によるエネルギー生産施設として。
そして、最後には天空を焦がす最終兵装として。

ダネルはコクピットにて出撃準備に入っていた。
瀬戸際で修復の間に合った「セイクリッド」には新たに槍と大盾が装備されている。
「背翼は間に合わせの急造品なんだ、大丈夫だとは思うが一応気をつけろ。
それと盾は捨てるなよ!必要になるかもしれんからなっ」
「了解っ!」
乗り込むダネル。
「今回だけは特別だ…幾らぶっ壊しても怒りゃあせん…骨組みからでも修復してやる!」
口下手な彼なりの激励だ。
「ああ、絶対に戻ってくるよ。そん時はよろしく、親方っ!」
「行って来い!」
戦艦の一斉砲撃は出撃の合図。
「「セイクリッド」、出るよっ!!」
「「ヘブンス」、行きます…!」
先駆ける聖霊機。
ダネルの開けた視界に飛び込むのは朽ちた建群に囲まれた赤熱の氷壁だった。

闇夜を黄昏に引き戻す、陥落した都市景のささくれに突き刺さる紅水晶の搭。
遠間から一個の搭とみえていたのは、実際には全域十数kmに浮遊した収束板のマトリクスである事が分かる。
ヒーリィの云う通り、一枚で中型MSをすっぽり覆えるほどの収束板数百万枚を全て破壊する事など無謀に等しい。
「もう本格的な起動が始まってるじゃないか…!?」
透けた芯棒を包んで緩やかに振幅する荷霊子光は天へ垂直に伸びる黄金大河を紡ぎ。
搭頂には宇宙の闇に溶け込んだ円盤が一つの天体の如くに存在する。
搭頂に存在する多重円環、宇宙の闇に融けこんだ一つの天体を目指し昇る。
―――赤金の流れがあの「砲門」に達した時、世界に滅火が降りそそぐ。
稠密な霊流の層帯が螺渦を更に取り巻くは魔なる黒雲はがらむ暴風圏。
裂叫する音衝波と輝ける霊子の震動。
全てを飲み込んで天地を轟する振音は魔獣のおめきににつかわしい。
そして。
萌え立つ塔身を巡る黒嵐から沸き立つ機影の細かな点がさざめき膨溌し晶搭の明りを霞ませていく…。
遥か遠方に捉えた機影の群れは点ではなく雲霞の塊だ。
「あれが全部…MSか…」
やがて収束板がMSの大群に呑まれみえなくなった。
『敵、大多数…数は…』
通信手はそこまでいって口を噤んだ。
もはや機数の把握は用をなさなず、目前の光景を形容する術もなく。
アドエス級「ハクファ」艦主の顔には瘧り笑いが張りついていた。
『地獄の蓋が開いたようだって、こういうのをいうんだろうな…』

神々しくさえあるその凶観を目の当たりにするものは誰しもが思っただろう。
―――それは終末の光景だった。
571終章・殲天をかける/黄昏騎行・6:2007/07/24(火) 08:33:37 ID:???

聖霊の翼を追って、魔赤に揺れる破世界へ飛び入る白の軌条は無数。
襲い来る周期的な波線が部隊の脇を掠めていく。
とぐろを巻く黒霧が滞留霊波に干渉し、縦に奔る津波となって弾かれる。
『気をつけろよ!あれに掴まったら終わりだ』
先んじて翔ける蒼翼から突き出でたセイクリッドランスの射線が霧流を払う。
「使えるじゃないか、ランス!」
その時、ダネルは吹き散らされた闇の奥に動かぬ漆黒の一点を認めた。

開かれた帳の最奥に轟然と佇むは灼熱の畏怖―――漆黒の魔獣/「インフェルノ」。
そして、間髪いれずダネルの視を灼く黒き直閃―――暴虐の破壊晃/現界裂く冥門「アニヒレイション・フィア」。
「っ!初手からっ…!」
半身を覆い隠した聖盾を展開する「セイクリッド」。
シールド前面に繰り出される十重二十重の障壁を容易く破る黒光はしかし、「セイクリッド」に届く事はなかった。
穿光を弾く女神の抱翼。「セイクリッド」に被さる様に「ヘブンス」が盾となる。
滅びの火矢を散じる白なる絶対壁。
「貴方は私が守ってみせます…!」
「頼んだルエビっ、こっちは打ち込みしか考えないでいく!」
前回四機がかりで互角だった相手だ。
「ディバイン」、「ホーリー」抜きとなれば「セイクリッド」は身を棄てての特攻勝負を挑まねばならない。
「要するに、三倍働きゃいいって事だっ…「セイクリッド」!」
セイクリッドランスの長距離振動砲撃が魔獣に奔走し、けたたましくも終鐘をがなりたてる。
「インフェルノ」と「ヘブンス」、「セイクリッド」の攻防。
うねり、絡み合う宿縁に誘引される翼たち。
『―――随分勿体つけるじゃないか。ダネル・アラクシェ』
「今度こそ、決着をつけるぞ…「D」っ」
『ああ、そうだな。これで終わりにしてやるよ……一切合財何もかもをなっ!』

交わる射軸、爆ぜる閃条。
崩塔を挟んで反対側では邪竜機と「ホーリー」、「ディバイン」の交戦が始まっていた。
『性懲りもなく寄って来るよなあ、虫けらはっ!』
吼える「バシリスク」のプレ・イグ。
「ステンノー」のインコムが宙を這う。
『この間の続きをしてあげる…!』
迎え撃つ「ホーリー」のビット。
飛突する「ディバイン」の大鎚可変曙光砲撃は前面のザク十数機を巻き込みながら直貫していく。
「前と同じと思わないことね!機体さえ万全なら、」
「遅れはとらんっ!」
572終章・殲天をかける/黄昏騎行・7:2007/07/24(火) 08:35:34 ID:???

岩崖を越えて雪崩出る死神の重列を駆逐する全艦掃射。
上空高く聖霊機を余所に峡谷を進むGM部隊とアレオパギダ艦隊の前に、
巣穴を崩され怒る蠢蟲の如く飢機の群霊が湧き出る。
ザク。ズゴッグ。グラブロ…。
幾千を超える敵機の侵攻と幾万を超える射弾の怒涛。
もはや射閃の切れ目を探す方が難しい。

打ち出される雷光が敵砲の豪雨を貫いて、黒稜に無数の閃光をばら撒く。
縦横に並んだ十字砲群。
ノーマルGM三機で抱え持つ共振武奏「メガ・ハルモニカ」は「コマンド」の律式機能あって始めて使用が叶う兵器だった。
「EDEN」の新兵器が、此処に来て間に合ったのは僥倖と呼ぶべきか。
「コマンド」。一機では凡庸な性能しか発揮しないこの機体であるが、部隊規模での運用時にこそ真価を発揮する。
いくつかの簡易律式によって僚機の攻守にわたる霊位効率を最大限にまでマネジメントする事が出来る機体なのだ。
『これだけ多けりゃ的を絞る必要はないな』
『無駄口叩いている暇はないぞ…各機、来たぞ!』
立ち上る黒煙にも似た機影が開けたすぐに穴を塞ぐ。
『単機でどうにかなるレベルじゃない!今は撃墜を避けることだけ考えろ!』
ここまでの大群で明確な指揮もなく行動する魔機である。待っていればどこかで必ず隙を露呈する筈。
いずれ訪れる間隙を見逃さじと「EDEN」の戦士は押し寄せる圧倒的な死の暴風に眼を見開く。

三つの分散した戦力、いずれかの突破さえ成れば勝機はある。
反対に、どの部隊が陥とされようとも圧倒的な戦力差に押し切られ戦局を維持するのは不可能になろう。
聖と魔とが翔ける煌天の夜。
世界存亡を賭けた終末戦争の火蓋は今此処に切って落とされたのである。
573殲天(ソラ)w:2007/07/24(火) 08:38:58 ID:???
はい冒頭だけと。
保守代わりに投下しただけですんで、
他の方々も宜しければガンガン投下したって下さいー
574通常の名無しさんの3倍:2007/07/24(火) 17:46:10 ID:???
おお、GJです。相変わらず面白いですねー。
てか、もう終章だったんすかw
やばい、早く続き書かないと……。
575通常の名無しさんの3倍:2007/07/24(火) 22:12:34 ID:???
GJです。
終章って事はついにこの章で最後か…
576通常の名無しさんの3倍:2007/07/25(水) 18:54:37 ID:???


ところで、「ヘヴンス」と「ヘブンス」の表記があるんだが、どっちか統一しないか?
577通常の名無しさんの3倍:2007/07/26(木) 01:01:13 ID:???
GJ!!!!!!
イクリッドランスカコイイ
578通常の名無しさんの3倍:2007/07/28(土) 04:32:10 ID:???
すんません、まだまだ終わんねーので安心して続き書いてください
あくまで一区切りってことなんで
>>576
「ヘブンス」でここまできちゃったんでこれからも「ヘブンス」表記でやらせて貰います
御免なさい
579通常の名無しさんの3倍:2007/07/28(土) 17:40:41 ID:???
え?
終章とあるから起承転結でいう結の部分に入ったんだと思ったんだけど違うの?
580通常の名無しさんの3倍:2007/07/28(土) 18:41:25 ID:???
>>579
地球防衛軍2をやってみることをお勧めしたい
581名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 14:28:29 ID:???
「インフェルノ(地獄篇)」があるなら
外伝で「ペルガトリオ(煉獄篇)」と「パラディソ(天国篇)」があるかも知れない
なんてことを思った
 ヴィクターの艦内が騒がしくなったのは、
島を離れてそう時間が経っていない頃だった。
 ヴィクターの索敵範囲内に、突如としてMSの反応が現れる。
 それも超高質の、まさしくGUNDAM級というに相応しい。
 そのMS……リヴェレーションは、ヴィクターの真横を通り過ぎて、
そのまま猛スピードで海上を進んでいく。
「目標、本艦左舷を通過!!」
 オペレーターが声を上げた。
「目標の進行方向を確認! 各機の出撃を急がせろ、今度は哨戒ではないぞ!!」
 直ぐ様パトリックが指示を与える。
「本艦は目標を追尾。相手の動きに変化が見られるまで何もするな」
「司令、ケンプファー全機、発進準備完了したとのことです」
 艦長席のすぐ脇の副長席にいたアレックスがパトリックに告げる。
「よし、各機発進させろ」
「任務中の私語ですみませんが、司令、なんだか輝いてますね」
「……昔は、私もこうやって戦地で指示を出していた」
 思い出すように、パトリックは言う。
(そしてその時、私は助けてもらった……ウィル・カンガという青年に)
 ケンプファーが発進したという報告を受ける。
 この戦い、前のように生き残ることができるだろうか。
 今度は助けてもらうわけにはいかない。
 足手まといになるわけにはいかないのだ。
 思考を切り替えて、リヴェレーションを見据える。
 戦いはもう、始まっているのだから。

 ヴィクターに追われるリヴェレーション。
 マキナは、そんなことに目もくれず、ただぶつぶつと呟いている。
 神都を滅ぼせ、神都を滅ぼせ、と。
『そう……神都を滅ぼすのよ』
 モニターに、揺らめく幻影のように女の姿が映った。
 それは段々と輪郭をはっきりとさせていく。
 現れた女は、ダイアナであった。
『私の可愛い子供達、あなた達は選ばれしモノじゃない。
でも、そんなことは関係ない。あなた達はこれから支配者になる。
私を否定した、拒絶した世界を全部全部全部消滅させて、
あなた達が新たな世界に君臨する支配者となるのよ!!』
 映像とは思えない狂気に満ちた声と表情。
 いや、映像というのには、語弊がある。
 これはダイアナ・テミス、彼女自身なのだ。
 ダイアナは確かに、教会の天井に押し潰されて死亡している。
 ただし、死亡したのは肉体と精神だけだが。
 人間は三位一体で、“肉体”、“精神”、“魂”の3つで構成されている。
 そういった考えが、ダイアナの中には根強くあった。
 ダイアナは、ADAMの隊員達が来る以前に、リヴェレーションに魂を移し換えていた。
 魂が無い肉体と精神だけのダイアナは、ただのシスターとして振る舞うだけ。
 最期には発狂するように笑いだし、瓦礫に潰されて肉体と精神は死んでいった。
 そして魂を移し換えたこの行為にはもう一つ、理由がある。
『GUNDAM級は各々固有の霊性震動を有しており、同調できる者にしか搭乗を許さない』
 狂気に満ちた表情から一変、至極冷静になってそう言うダイアナ。
 だがすぐに、その表情は悪意に染まる。
『ならァッ! 私がGUNDAM級になってェッ!! 自ら搭乗者を選べばいいィィィッッッ!!』
 最後に高笑いを付け足して、ダイアナは言い放った。
 狂っている。もうすでに理性は無い。
 器である肉体や、行動を律する精神。
 それらが無い、しがらみを全て捨て去った彼女は、もうただの亡霊である。
『そして、完全に同調できる適正者を創り出せば、私の計画は完璧……』
 ダイアナは目の前のマキナを見る。
 マキナ、ダイアナの手によって産み出された人造人間。
 ホムンクルスとでもいうべきだろうか。
 しかしこういった技術は、神の領域にまで足を踏み入れた禁忌。
 ただ、ダイアナにとってはもう、神など信じるに足らない存在になっていたが。
『悠々と、消されていく世界をここから傍観させてもらうわ……』
 神を気取り、にやりと笑みを見せる。
『でもまァずゥ……周りをチョロチョロしてる鬱陶しい蠅共をォ、堕とォォすッ!!』
 ダイアナの声に反応するように、マキナがリヴェレーションを停止させた。
 そしてゆっくりと、後方の機体群に向く。
 マキナは口を開いた。これは、リヴェレーションを呼んだ時と同じ……
 歌である。

 計器を見ていたオペレーターの表情が歪んだ。
 まるで有り得ないものを見たかのように、驚愕している。
「霊障値、異常増大!!」
「これは……敵の攻撃か!」
 気付きパトリックが声を上げる。
「至急、各機を退避させ……」
「うわあああああああ!!」
 指示を下そうとした途中、ケンプファーの1機からけたたましい絶叫が届いた。
 この声は、ジェダイだ。
「やめろ!やめろやめろやめろぉ!!」
 何かに怯え、叫び散らす。
 双眸にはうっすらと涙を浮かべ、
「悪かったから……俺が悪かったから!!」
 許しを乞う。
 ジェダイには声が聞こえていた。忘れていたはずの人間の声が。
 殺したはずの人間の声が。
 証拠一つ残さず、葬ったはずの人間の声が。
『どうして私を殺したの?』
「やめてくれ……」
『私を犯して、殴って、殺したでしょう?』
「やめろぉぉ!!」
 ADAMに入る前のジェダイは、素行の良い人間とは言えなかった。
 女遊びに喧嘩と、自堕落した生活を送り、ある日一人の女性を暴行した。
 殺すつもりはなかった。はずみで、はずみで死んでしまったのだ。
 ジェダイは心の中でそう言い訳し続けた。
 このことが発覚することを恐れたジェダイは証拠を隠滅し、
人が変わったように慈善活動に従事した。
 そして、何事も無かったようにADAMに入った。
 それが全て蘇り、悪夢のようにまとわりつく。
「やめろ……ヤメテクレェェェェ!!」
 ジェダイは我を失いかけ、トラウマから逃れようと、
自らのコックピットに銀弾を打ち込んだ。
 ケンプファーは爆散し、海に沈んでいく。
「ダガー機……は、反応消失!!」
「自ら命を断ったというのか……」
「司令、艦内でも頭痛や虚脱感、幻聴などを訴える者が……」
 現に私も……と、アレックスは不調を訴える。
 周りを見渡せば、他のオペレーターにも被害は及んでいた。
 アレックスやオペレーター達だけではない。
 パトリック自身にも、症状が現れていた。
「くっ……各機を呼び戻せ。収容後、直ちに後退する」
「待て! まだやれるッ!」
 パトリックが命令を出そうとしたその直後、ウィルが割り込んでくる。
「しかし、このままでは確実に……!!」
「ジェダイの奴や前の部隊がコレのせいで駄目になっちまってるって言うんだろ!」
「なら、できるというのか!? 貴方には!」
「やるんだよ! あれの予測進路を考えてみろ!!
……距離はかなり離れちゃいるがな、これは神都だ。
黙ってこのまま、むざむざ行かせていいのかよ!?」
 強い意志。信念。
 いや、単なる依怙地なのかもしれない。
 だが強い想いに、変わりはない。
「それにな、神都なんかに行かせちまったら、手柄ぁEDENの奴等に盗られちまうだろ」
「しかしこれは、EDENにも知らせていない極秘の任務だ……」
「世に出ねぇ仕事だろうがなぁ! 何もせずにはいらんねぇんだよッ!!」
 逃げ腰になっていたパトリックに、ウィルは怒鳴った。
 喝を入れられ、一瞬ビクッと体を震わせたパトリックだったが、
その口元はゆっくりと、つり上がっていく。
「やはりあなたは……私の中では、EDENの者達より、英雄だ」
「ヘッ……いい年して、こそばゆいこと言ってんじゃねぇよ」
 話を終わらせ、ウィルはリヴェレーションを睨んだ。
(俺は英雄なんて洒落たモンじゃねぇ……現に)
『ねぇウィル、どうして私を助けてくれなかったの……』
(愛した女一人、助けられなかった)
 数十年前、ある都市部近郊で起こった暴動事件。
 その暴動組織の鎮圧に、ADAMの治安維持部隊が出動した。
 その部隊の中に、ウィルと、そしてパトリックはいた。
 まだADAMの中では地位の低かったウィルと、
少隊クラスの部隊の指揮を任せられていたパトリック。
 パトリックが指揮する部隊に、ウィルは参加していたのだ。
 暴動組織の勢いは思いの外強く、都市部にまで侵攻を許す。
 その際にパトリックは負傷し、ウィルに救出されたのだが、
都市部に暴動組織が侵攻してしまったことが、悲劇の始まりだった。
 この事件により、数十名の民間人が死傷し、その中にはウィルの恋人もいた。
 失意に落ちたウィルは、ADAMの職務に没頭するようになり、
ADAMでも汚く醜い任務ばかり請け負うようになっていた。
『貴方も仲間のようにコワれましょう? そうすればもう、後悔なんかしないわ』
「後悔なんざしちゃいねぇよ……」
 操縦桿を握る力が強まる。
「アヴァント! マイク! まだ気ぃ保ってるかッ!?」
「はい、隊長!!」
「まぁなんとか。ギリギリですけど」
 二人の応答が返ってくる。
 リヴェレーションの精神攻撃に参ってはいるが、恐怖に支配されている様子はない。
 まだいける。ウィルは確信した。
「ジェダイの弔い合戦だ! テメェ等まで狂うなよ!!」
「了解ッ!」
「りょーかい」
「司令殿、あんたは俺達の帰る場所を用意しておいてくれ!」
 力強いウィルの言葉に、後押しされるパトリック。
「また、助けられることになったな。本艦は敵兵器の効果範囲外まで後退!」
 パトリックの声に、オペレーター達は狼狽える。
 精神攻撃に、迅速な対応ができないのも無理はない。
「アレックス、皆も、辛抱してくれ。後退後、3機を支援しろ! わかったな!!」
 叱咤激励。両方が入り混じった言葉。
「は、はい!」
 アレックスの声に力が入る。
「現状を確認する。精神攻撃による艦内の被害は?」
「ただいま確認中…………報告によると失神者多数。ですが自殺を図った者はいません!」
「それがせめてもの救いか。辛いだろうが、残った人員だけでやり遂げろ!!」
「はいっ!!」
 アレックスも、他のオペレーター達も、声を合わせて返事した。
 苦しくとも、痛くとも、遂行しなければならない。
 そこには敵がいる。討たねばこちらの命がない。
 ヴィクターが後退していく。
 しかし、その最中……
「海中より、多数の機体反応……これは邪霊機! 瘴気の反応も増大!!」
 オペレーターが叫んだ。
「GUNDAM級の精神攻撃兵器が呼び水となったか……!」
 近海に瘴気の海があることは知っていた。
 しかしこのような事態が引き起こったことは想定外である。
「各機に通達、海面から離れろ!」
 パトリックの指示が飛ぶ。
 段々と瘴気を含んだ霧に包まれ、淡い青だった海面は黒く染まっていく。
 その内、海中から何が飛び出した。
「ちぃ! 幻聴の次は魚蟲かよ!」
 鬱陶しそうにウィルが漏らした。
 バグフィッシュ。
 邪霊機バグの一種で、環境維持用マイクロマシンが海上や海中で変態したものである。
 虫のような形態のバグと異なり、こちらは魚のような姿をし、
肉食性の魚のように鋭く尖った歯で噛みついてくる。
 今も、距離をとって飛んでいたケンプファー各機に
届きそうなほどの勢いで飛びかかってきていた。
「雑魚がたかるなァッ!」
 ウィル機は清浄鎖を振るう。
 その鎖に触れたバクフィッシュは一瞬にして塵と化す。
 聖水で清められ、地の塩の成分を含む清浄鎖。
 魔に染まった邪霊機など敵ではない。文字通り清浄なる鎖なのである。
「隊長もやるなぁ。ま、本来は捕縛用の武器なんだけど」
 感心しながら、マイクが呟いた。
 マイクが乗るケンプファーは、バズーカを構える。
 ジャスティス・バズーカ。大型の振動発射器である。
「バグフィッシュの密集地点……確認。発射っと!」
 海に向けてジャスティス・バズーカが放たれる。
 大きな波が立ち、次々と海中で爆発が起こった。
「これで少しは……」
 知るより先の安堵。
 だが、その安堵はすぐに崩れ去った。
 バグフィッシュの数は尋常ではなく、
マイク機の一撃によって滅された数など微々たるものであった。
 邪霊機に遭遇し、その蠢く蟲達に圧倒されるというのはよく聞く話だ。
 しかしそれがこれ程とはと、マイクの額から冷や汗が流れる。
 マイクだけではない。ウィルもアヴァントも、ヴィクターの者達も。
「司令、邪霊機の増殖を防ぐために、局所結界膜の使用を提案します!」
 アレックスが提案を口頭する。
「このままでは、GUNDAM級の指一本触れられんか。よし、使用を許可する」
 パトリックのその一言を合図に、乗員達は一斉に作業を開始した。
 局所結界膜。名称をエンジェル・ハイロウ。
 天使の後輪の如しその円状の結界は、あらゆるものを遮断する。
 本来の用途としては、GUNDAM級などの強大な攻撃による二次的被害を防ぐために使用される。
 今回はそれとは別に、これ以上バグフィッシュの数が増えぬようにとられた策だった。
 準備が完了し、パトリックに報告が行く。
「エンジェル・ハイロウ、照射!!」
 ヴィクターから光の輪が放出された。
 バグフィッシュをこれ以上近付けまいと、結界も最低限の範囲しか展開しない。
 しかしこれでもまだ、バグフィッシュの数は脅威だった。
 落とされはしないが、飛びつき群がってくるバグフィッシュがMSの進攻を妨げる。
「やらなくちゃだぁめかなぁ〜……」
 半ば諦めたように、マイクが呟いた。
 自分には幻聴は聞こえていない。
 吐き気と短い間隔でズキズキと頭が痛むだけで、
ジェダイのように狂って自らの機体を破壊しようとは思わない。
「隊長、アヴァント、俺にこの魚共を減らす考えがある」
 普段のへらへらとした口調とは打って変わって、真剣で重い。
「やれんのか、おめぇに」
 察して、ウィルが訊く。
「えぇ。大部分は消えてなくなりますよ」
 ジャスティス・バズーカの一撃でも、かなりの数が誘爆している。
 それよりも威力の高いものなら、その規模も相当だろう。
 どうやってその威力を出すか。ウィルは薄々感づいていた。
「マイク、死なないでくれよ」
 アヴァントが言う。
 それに対して、マイクは苦笑いを浮かべた。
「それは出来ない相談だなぁ……」
 それだけ言って、会話を終わらせる。
 先程と同じようにバクフィッシュが密集している地点を探す。
 そしてそのまま、ケンプファーは海に突っ込んだ。
「ほら集まってこいよ! 爆弾抱えた餌が来てやったぜぇ!!」
 密集地点の中心部へ。
 その間にも、群がるバクフィッシュによって、機体は引き千切られていく。
 もう戻れない。戻ったところで、問題は解決しない。
 中心部に到達する。
 マイクは自爆装置のカバーを開いた。
 ADAMのMSの中でも希少な機体故、何かあった時のために搭載されているものだ。
「さぁて、これで……幕引きだッ!!」
 自爆装置を作動させる。
 瞬く閃光。
 海中から、爆発によって巨大な水柱が吹き上がる。
 それに続き、次々と巻き起こる水中爆発。
 バクフィッシュの勢いが、収まった。
「これなら行けるか。やりやがったな、マイク……!!」
「馬鹿な奴ですよ、あいつは……」
 それぞれに、割り切れない感情を抱えながら。
 ウィルとアヴァントは、リヴェレーションを睨んだ。
 ケンプファー2機と対峙するリヴェレーション。
『エンジェル・ハイロウを展開したか……この子を逃がさないつもりネェ』
 ヴィクターに向けて舌なめずりと笑みを向ける。
 そして、ケンプファーと向き合う。
『来なさい……母なる無へと還してあげる』
 静かに、冷たく、ダイアナは言った。
 それに応じるように、マキナが何かの操作を始める。
 ウィルとアヴァントは、まだそれに気付かない。
「隊長、俺に行かせてください」
「それは……どういうつもりで言ってる?」
 特攻する気か。その意味を含むウィルの言葉。
「操縦も戦闘も、その技量は隊長の方が格段に上です。
自分は、相手の動きを封じる程度しかできません……!!」
 冷静に話してはいるが、最後には自分にやらせてほしいと、
言葉に強く力を込めていた。
 制止はきかないだろう。半ば諦めて、ウィルは溜息をつく。
「俺が生き残ったら、毎日祈りに行ってやる……」
「………………ありがとう、ございます」
 今にも泣きそうになるのを抑えて、アヴァントは礼を返す。
 そして、リヴェレーションと向き合った。
「アヴァント・ゲール、突貫する!!」
 一気に加速して、リヴェレーションに迫った。
『お前、騎士になれなかったんだってな!』
『EDENを諦めてADAMで我慢しようってか?』
『負け犬!!』
『負け犬!!』
『負け犬!!』
 かつての同輩達の声。
 自分より優秀で、それを自慢にして、自分を馬鹿にした。
 耳のそばで、罵られれる。
 それが幻聴だということもわかっている。
 わかっているが、アヴァントは強く唇を噛んだ。
「うおぉぉぉぉっ!!」
 フォースバルカンで牽制しながら、機体を拘束しようと清浄鎖を放つ。
 この時まだ、アヴァントは気付かなかった。
 アヴァント機の一連の動作の間、
リヴェレーションは身動き一つしなかったことを。
『ナッシングネス・スフィア……母の胎内に還りなさいッッッ!!』
 ダイアナが叫び上げた。
 同時にリヴェレーションを包むように謎の球体が展開される。
 形容できないほどサイケデリックな色合いの、球。
「なっ……!?」
 思わずアヴァントが驚きの声を上げた。
 球体の中に清浄鎖が飲み込まれていく。
 球体の中身は見えない。内部がどうなったのかも、確認できない。
「!?」
 呆気にとられて油断した。
 ケンプファーの腕も、球体に飲み込まれた。
「くぅっ!!」
 フォースバルカンを放つが、弾の粒は虚しく球体の中に消えていくだけ。
 球体の大きさからすれば、ケンプファーの腕はリヴェレーションに届いているはずである。
 なのに、腕が何かを捕らえることはありはしなかった。
 腕を引こうとしても、機体が言うこときかない。
 いや、絶対的な力をもって、引き寄せられているといった方が正しい。
「すみません、隊長……しくじりました」
 悔しそうに漏らす。
「後を……後を頼みますッ!!」
 そう言い残し、アヴァントのケンプファーは全て、球に飲み込まれた。
 余りにも呆気ない終わり。
 悲しみよりも、猛烈な空しさが、ウィルを襲った。

「司令、計器類より目標の反応が完全に消失しました!」
「何!? だがモニターには映っている。何かの間違いや故障ではないのか?」
「いえ……確認しましたがそのようなことはありませんでした。
霊障値を計るものがかろうじて反応しているだけで、それ以外は……」
 オペレーターとパトリックのやりとりに、辺りは不穏な空気が流れる。
 おかしな球体に包まれて、アヴァントのケンプファーを飲み込んだリヴェレーション。
 そして、計器の上では、存在が消えてなくなった。
「司令、よろしいでしょうか……」
 そんな中、口を開いたのはアレックスだった。
「なんだね」
「これはあくまで、想像と現時点での状況をあわせただけの推論なのですが……」
「構わん。言ってくれ」
「発振機関というものは、この世界に偏在する仮象領域に働きかけて、
物理領域、つまりこちら側にエネルギーを生み出す機関といわれています。
ではその逆のことをしてみたら、その結果はどうなると思われますか」
 推論だが、それが答えなのではないか。
「エネルギーが生み出されれば、計器なども反応を示します。
ですがその逆なら、生み出すどころか、あのように……」
「言いたいことは理解した。しかし知りたいのはそれの対処法だ」
 パトリックがアレックスに目をやる。
 アレックスはまた言いづらそうに、 視線を泳がせていた。
「これもまた想像でしかありませんが、あれに限界があるとすれば……
一度に許容量を越えたエネルギーをぶつければ、相殺されて無効化されると」
 伏し目がちなアレックスは、濁すようにそう言った。
「他に方法がないなら、試すしかないか」
「で、ですが……」
「試す価値はある。君は、優秀だ」
 パトリックにそう言われ、アレックスの顔は一気に紅潮する。
 先程まで、アレックスの気持ちは沈んでいた。
 リヴェレーションからの精神攻撃の効果もあっただろう。
 副司令の立場にある自分に、自信が持てなかった。
 パトリックは司令として腕の立つ人間だ。
 自分はただの腰巾着。後ろにいるだけの置き人形でしかない。
 そう思っていたのに、パトリックの一言が吹き飛ばす。
「ヴィクターキャノンの使用を提案します!」
「それしかないな。ヴィクターキャノンを使用する!」
 大質量聖霊収束掃討砲。ヴィクターが特装艦と呼ばれる所以である。
 堕天兵器には及ばないが、圧倒的な威力をもった兵器。
「第一射にて敵球体を消滅。再充填後、第二射にて機体もろとも滅却する」
「了解! 敵機に動きなし。ウィル機を射線軸より下がらせます」
「ヴィクターキャノン、封印解除。充填開始」
「ヴィクターキャノン充填開始! 充填率、23パーセント!」
 騒がしくなる艦。
 艦橋も、機関部も、慌ただしく作業を進める。
「充填率90パーセント! 臨界まであと十秒……5、4、3、2、1。
臨界点突破。発射口、開きます。照準、敵目標へ固定。発射準備完了!!」
「各員、対衝撃、対閃光防御! ヴィクターキャノン、発射ッ!!」
 パトリックの一声が、艦橋に響きわたる。
 ヴィクターから放たれる神々しいほどの光。
 それがリヴェレーションへと、一直線に向かう。
 球体を、光が包み込む。
 ただの機体なら、ここで跡形もなく消滅しているところだ。
 光は薄れていく。
 皆が息を飲む中、そこには球体がなくなりリヴェレーションが姿を現していた。
「や、やりました!!」
「よし、再充填急げ!」
 歓声が上がるヴィクター。
 第二射の準備が始まる。

『システムが一時的にダウンした……?』
 唖然として、そう言うダイアナ。
『グゥゥゥゥゥゥゥ……』
 悔しさに唸り声を上げる。
『やはり、未完成では限界がある……』
 ヴィクターキャノンの一撃により、
機体のほとんどのシステムが一時的に操作不能になっている。
 なんとか制御系が働いてバランスをとっているだけで、ただの的と化してしまっていた。
 そしてこのことで、リヴェレーションにある異変が生じた。
「……ぅぁ……」
 小さく声を発するマキナ。
 何が起こったのかと、窺っている。
「なんで、ここにいる?」
 我に返ったように、自分を取り戻すかのように、呟いた言葉。
『私の可愛い子、何をしているの? 早くシステムを回復させなさい』
「子……? マキナ、お前の子、違う!!」
 敵意を剥き出しにして、マキナは声を荒げた。
 拒絶。
 呪縛から解かれ、人に戻った少女の、本心。
「マキナ、帰る! 家族の所、ハーヴェイの所、帰る!!」
 ガタガタとコックピットの中で暴れる。
 もはや彼女には、先程までの冷酷な雰囲気は存在しない。
 まるで幼子。ハーヴェイと一緒にいた時に、純粋無垢な。
 マキナが暴れたはずみで、何かが作動した。
 それはコックピットハッチの開閉操作。
「マキナ、帰る! 帰るぅ!!」
『ヤメロォォ! 親を、お前を作った創造主を否定するのかァッ!!』
 完全に開いたそこから、マキナは身を乗り出す。
 ダイアナの声など聞こえていない。
「ハーヴェイ、今から、帰る」
 笑顔でそう言うと、そのまま海に、飛び込んだ。

「ヴィクターキャノン、発射!!」
 第二射が放たれる。
 リヴェレーションを貫く、聖霊の光。
『私は神都を……私を否定した奴等を……』
 自身の提案した機体。それこそが神都や民達を護れると思っていた。
 だがそれは、ただの自惚れだったのかもしれない。
 そんな機体を産み出してはいけない。それこそが、神からの天啓だったのかもしれない。
 EDENの者に否定され、そして自分が作り出したホムンクルスに否定され、
そんな自分が、愚かで仕方ない。
『フフッ、せめてあなただけでも、一緒に逝ってちょうだい』
 神の子などではなかったのだと、彼女は理解する。
 紛れもなく、この機体は自分の子だ。
 機械に組み込まれた魂だけの女は、そんなことを思いながら、
リヴェレーションと共に、跡形もなく消え去った。
 静まり返る艦橋。
「目標……消滅を確認」
 オペレーターの一人が、ゆっくりと報告する。
「精神攻撃もやんだ……司令、やりました。やりましたよ!!」
 嬉々として声を上げるパトリック。
「うむ、作戦終了だ。ケンプファーを帰艦させてくれ」
 長く息を吐き、この戦いの勝利を噛みしめる。
「なお、本作戦は極秘事項である。記録は抹消、他言は一切無用だ」
「はっ!!」
 パトリックの言葉に、艦橋のオペレーター達が全員、敬礼する。
「やったな、司令殿よ」
 着艦したケンプファーからの通信。
「まぁ、今回は助けになれなかったがな」
「部下達の奮闘空しく……すまない」
「気にすんな。奴等だって……この結果に満足してるだろうさ」
 パイロットを失い、精神攻撃による多数の被害者を出した。
 決して生易しい戦いではなかった。
 GUNDAM級MS破壊作戦。世に出ることはない、この辺境の地で暮らす彼等しか知らない戦い。
 これにて、終幕する。





 海に飛び込んだ少女の行方は、誰も知らない。
 ヴィクターでは掃討砲の第二射準備の混乱の中、
少女が海に落ちたことすら気付いていなかった。
 あの瘴気に飲まれ、邪霊機がまだ残っているであろう海に落ちた少女は無事なのだろうか。
 それは誰も知らない。










「ただいま」

「おかえり」

THE END
601劇中機体紹介:2007/07/30(月) 03:13:13 ID:???
・リヴェレーション
精神汚染兵器「心を覗く声“ゴッド・ウィスパー”」
虚数空間発生装置「無を宿す子宮“ナッシングネス・スフィア”」
大剣「方舟に隠された剣“アーク・ソード”」
光熱砲「愚者を焼き払う火“ディヴァインフレイム・ランチャー”」
次期神都防衛用GUNDAM級MSとしてダイアナ・テミスより案が出されていた。
しかしEDEN側はこの案を却下し、EDENでリヴェレーションが開発されることはなかった。
その後、ダイアナが数名の科学者・技師などとEDENを抜け、
反聖府勢力の支援を受けリヴェレーションを開発する。
だが、劇中の時点ではまだリヴェレーションは完全ではなく、
接近戦用武器と砲撃用武器も装備される予定であった。
本来であれば、ゴッド・ウィスパーは一撃で精神崩壊を起こさせ、
ナッシングネス・スフィアもヴィクターキャノンだけで消滅することはなかった。
この二つの武装は神都防衛用に使用されるはずだったものだが、
EDEN側は逆にこれを危惧して案を却下したのだろう。

・ケンプファー
超硬銀弾銃「闘志こもる弾丸“ラストレイト・ガン”」
大型振動発射器「悪を打ち砕く大いなる正義“ジャスティス・バズーカ”」
清浄鎖「悪を離さない拘束具“セイント・チェーン”」
頭部小光径砲「光撒く矢の雨“フォース・バルカン”」
反聖府勢力などが籠城した際に、強行突入し迅速に処理するために用いられるMS。
そのため、配備される数は少なく、希少なMSである。

・特装艦ヴィクター
・バグフィッシュ
602通常の名無しさんの3倍:2007/07/30(月) 03:16:04 ID:???
遅れに遅れて申し訳ないですorz
まさかこんな忙しい1ヶ月になるとは思っておらず
今日までスレを見る余裕もなかったあああああ

なんだが新たな職人さんもやってきていてwktk
本編作者様にも大期待しております

一ヶ月(実質二日)お付き合いありがとうございました!
603通常の名無しさんの3倍:2007/07/30(月) 18:41:55 ID:???
おお、ついにキター!

あとはケンプファーのイラストだw ガンガレ
604通常の名無しさんの3倍:2007/07/31(火) 01:09:34 ID:???
乙。
程よく邪気度上がってるなw
605通常の名無しさんの3倍:2007/07/31(火) 15:08:49 ID:???
「ただいま」
「おかえり」
が野村FF臭いwwwwwwwwwww
もちろんここでは褒め言葉だぜ
606通常の名無しさんの3倍:2007/07/31(火) 16:26:26 ID:???
作者は絶対そこは狙ったと思うぜw
俺は大好きなケンプファーが邪気眼カスタムされたことに喜びを禁じえない
チェーンマインがセイントチェーンってその発想はなかったわGJ
607通常の名無しさんの3倍:2007/08/02(木) 02:22:31 ID:???
ケンプファーの邪気眼バージョン見てえw
608通常の名無しさんの3倍:2007/08/03(金) 19:19:51 ID:???
超暫定まとめ
ttp://jakigun.ganriki.net/

異常に遅くなった上に拙い出来でスマン
後々直してくの前提でとりあえず許して
609通常の名無しさんの3倍:2007/08/03(金) 19:44:42 ID:???
あ、そうそう
外伝というか他の方のSSはいちおう区分しておくべきですかね?
希望・要望求めますー
610通常の名無しさんの3倍:2007/08/04(土) 02:38:18 ID:???
まとめキター
GJですお疲れ様です

>>609
天啓書いた者ですがお好きなようにしていただいて結構です
というかまとめてもらえるだけで感無量で

>>603>>607
あいにく自分にはそのような才能は皆無('A`)
611通常の名無しさんの3倍:2007/08/04(土) 03:36:31 ID:???
まとめ乙
トップ絵いいねw
612通常の名無しさんの3倍:2007/08/04(土) 05:13:03 ID:???
>>602
>>608
お疲れさまー!
ついつい時間を忘れて読んでしまったw

まとめのページも数ヶ月まってた甲斐がありました
個人的にはディバインのデザイン好きだなぁ
セイクリッドと対比したスタイリングで重厚感がなんともいえない
有機的なデザインと甲冑チックな装甲の組み合わせ方あるんだなぁって一人で納得してましたw
613通常の名無しさんの3倍:2007/08/04(土) 10:16:44 ID:???
>>608
お疲れ様でした。
今まで見られなかった絵が見られるようになったことがとても嬉しいです。
どのMSも素晴らしいですね。
614通常の名無しさんの3倍:2007/08/05(日) 23:32:32 ID:???
まとめ見たけど、元ネタここですってリンクなり注釈入れたほうがよくないか?
ここから見に行った奴ならともかく、いきなり見た奴は?となる気が。
615通常の名無しさんの3倍:2007/08/05(日) 23:34:43 ID:???
あ、言い忘れてたけど乙
616通常の名無しさんの3倍:2007/08/06(月) 00:23:37 ID:???
端から見たらただのオリガンサイトだって思うだけじゃね?
617通常の名無しさんの3倍:2007/08/06(月) 23:03:34 ID:???
まとめ、とりあえず外伝追加してみました
>>614
うは全然考えてなかった!
とりあえずここ貼っとけばいいんでしょうか?
618閃戦鏤刻:2007/08/07(火) 06:25:47 ID:???

「バルネアW」周空、成層の高み―――。
敵群を貫いた「ディバイン」の砲光は鏡搭の先端部に届く前にあえなく散じる。
噴き上がる大量高密の霊波流に聖質は全て分散し昇華されてしまった。
「っ、やっぱ直に叩かなけりゃ駄目か…」
湧出する霊流に巻き上げられた黒霧が白機の進路を覆う。
『そうそう近づけるかよ!』
魔機の暗幕から突出する「バシリスク」。
左方から視えずの攻壁が白機を圧する。
「GM隊は下がってろ、あれに近づけきゃ問答無用で落とされる…っぐ!?」
どこからともなくうねりしなった蛇鞭に腕をとられた「ディバイン」。
「ちょっと!いった自分がやられてりゃ世話ないっしょ」
剪断する「ホーリー」のビット。
「わりぃディミっ」
「あれは私の相手だからねっ…」

収束版付近、水晶の鍵盤を滑るように跳ね撃つ飛羽と蛇手。
『今度こそ逃がさないわ…』
「――前とは違うっていってるでしょ。ビットが揃ってる限り、勝ち目はないよっ」
上方から回り込むインコムを打ち落とすビット。
遠隔操作である従霊兵装の決め手となるのは速度でも精度でもなく構想力。
空間を創出る想像力とそれを具現化する経験。
配置の巧妙。時即の絶妙。選形の精妙。
先読み。三手に分かたれた蛇手に張りつく羽翅。
囮。「ホーリー」を襲ったインコムは二基のビットに横合いから払われる。
挟撃。小刻みな軌道を一転、直線的な動きで一気に飛突するビット全基。
畳み掛ける束射に「ステンノー」はたまらず距離を離し、
「こんなもん…縄かなんかああ!」
「ホーリー」の弦糸が残ったインコム最後の一本を鮮やかに切り刻む。
『いうだけの事はあるわね…けれど、何度やられてもインコムは…』
『範囲に入ってくるなチルっ、巻き込むだろうが!』
『!?』
ビットの猛攻に気をとられていた彼女は僚機の位置を誤っていた。
いや、錯覚させられたというべきか。
接近しすぎ、互いに動きを止めた邪竜機の繰り手達は気づく。
魔機の先陣もまたいつの間にかビットの砲撃によって誘導されている事に。
「ドンピシャだディミ、よく揃えたっ…!」
そして一箇所に集められたその空域は「ディバイン」の間合い。
――「ホーリー」が繰るのはビットだけではない。敵の動き、戦場そのもの。
撃ち出される数百閃がインコムと魔機群ごと一斉に焼き払う。
619閃戦鏤刻:2007/08/07(火) 06:27:11 ID:???
…だが。
砲撃と同時に「ディバイン」を見舞う衝撃。
「!ヒーリィ!」
「ディバイン」を見やるディミ。
邪機「モノケロス」の背から反り返った鎌刃が「ディバイン」の装甲表面を僅かに削りとる。
すんでの所で逃れた「ディバイン」は大鎚で強引に振り払う。
「狙ってやがったな…!」
『…これを凌ぐとはな』
「仲間を囮にしやがって…いちいち嫌らしい野郎だ」
『褒め言葉と受けとっておこう』
「モノケロス」と「ディバイン」、両機の戦闘に加わろうとした「ホーリー」は再び蘇ったインコムに阻まれた。
爆煙から浮き上がる「ステンノー」。
『少し見縊っていたかしら、ね。ならこういうのは、どう?』
触手が僚機である筈のザクを貫く。
「何を…」
変態を遂げるザクの機体は邪竜に似た姿に。膨張した単眼は蛇鞭のそれと同じもの。
「ステンのー」の本性――おぞましき屍機使い。
インコムを通して「ステンノー」と繋がれた分身機影。
「速さまで…同じ!?」
ビットを「ステンノー」本体と性能は同じ。
触手に操られる傀儡機群。インコム・グール。
十二の蛇行機動が「ホーリー」を強襲する。

後退したGM隊は既に勢いを取り戻した魔機の第二波に構える。
邪機と聖霊機とのぶつかり合いは徐々に戦線全体に波及しつつあった。

620閃戦鏤刻/3:2007/08/07(火) 06:29:22 ID:???

爪先が弾く火榴の界域を長槍で押し開き驀進する「セイクリッド」。
煌く疾風に立ち塞がったザクの群れはしかし触れる事さえかなわぬまま次々と爆光に消え散じていく。
「邪魔だっ!」
戦闘の最中、ダネルは「インフェルノ」の異常を看破していた。
「セイクリッド」の連撃を苦もなくあしらう魔獣の動きは依然として脅威的なものではあるが、前回に比べれば明らかに劣化している。
(…!…そういうことか…)
彼の目に留まるのは魔獣の黒甲に刻まれた細い断線。
――浮界で受けた傷は未だ癒えていないのだ。
肉深くに入り込んだ異物の影響を排除できずに、「インフェルノ」はその暴性を確実に弱めている。
「なら、つけ入る隙はあるっ…」
『―――舐めるなよ。この程度の手傷…!』
魔獣がばら撒くのは一帯をさざめく空裂の透刃。
掻い潜る間隙は一切無し。
が、「セイクリッド」は止まらない――。
白帯の一条が切り裂く斬海に架ける橋を渡る蒼機。
――奏翼瞬かす「ヘブンス」の庇護を信じ。

三重に連ねた槍射に合わせて魔獣の翼は赤い火熱を乱れ飛ばす。
衰えているとはいえ「インフェルノ」の機動力は「セイクリッド」を凌駕している。
長槍の懐に入られた「セイクリッド」は爪撃を交わしつつ、すれ違いざま背部帯刀砲門が光翼となって魔獣を薙ぐ。
更に距離を詰めようとする「セイクリッド」。しかし、主を庇うべく敵機の渦が取り巻く。
数を頼みに八方を埋める敵影。
「煩さいっ!」
槍の一突きで二機を串刺し、機体をぶら下げたまま射撃。旋回する砲光が魔機を滅する。
「まだです!ダネルっ」
尽きせぬ魔群は「セイクリッド」だけでなく間近に控える「ヘブンス」にまで押し寄せた。
「くっそ…!」
長距離振動光射槍「ランス」・重装架霊子展開盾「シールド」。
どちらも強力な武装ではあるが「セイクリッド」本来の持ち味である運動性を削がれるのは痛手だ。
次の瞬間、ダネルは背後から支援砲火が黒嶺を蹴散らす様を捉える。
『こちらでも露払い位はやってみせる』
『いいから、雑魚には構いなさんな!』
機動の不足を埋めるのはGM隊の支援。
「皆、悪いっ」
弧線が二つ、垂直に閃く緋の閃と水平に煌く蒼の閃との衝突。
小尾に絡めとられたランスをへし折られながらも、魔獣の視界を塞ぐ大盾を残して飛ぶ「セイクリッド」。
抜きすさる二本の大剣が打ち下ろし、斬り上げ、交差する魔獣の両爪と目も眩む戟閃を散らす。
「そうまでして憎むかよっ…「D」!」
『それが俺が今ある意味だからな…お前になら分かるだろうよ…「EDEN」の剣っ―――』
621閃戦鏤刻/4:2007/08/07(火) 06:30:44 ID:???


―――死が撥ね死が爆ぜ死が奔る大地。荒涼の堆土を塵と散る鉄片と砲火の怒号が瞬き続ける。
「鏡」の砲搭最低部。敵影が一段と濃い地上面は最も凄惨を極める戦場となっていた。
艦砲の火が前面に押し寄せた魔機を浚う。
『左舷、ぼやっとすんな!とりつかれるぞ!』
艦体に迫る敵機。
魔機の塊、捩れた柱が幾条。弧を描き侵攻を圧縮された虹の束でもって堰き止めるGM隊。
戦艦三隻による同時砲撃は凄まじいの一言に尽きるが敵勢は更にそれを上回る。
火力の優位で局所では圧倒しえても、面で迫る圧倒的な物量の前には遠く及ばずにじりじりと敗色を濃くしている。
『数に差がありすぎるじゃないか…』
『畜生っ、まあだ増えてやがる!どうなってんだ!』
バルネア中心近郊部は溶鉱満ちる火窯と化していた。
解けた建造群の成れの果てから泡立ち生える鉄の芽が魔機を次々に産み落としている。
『――どうやら、鏡搭を生産プラントに流用しているらしい』
『じゃあ、幾ら倒しても無駄って事か!?』
『その分、「鏡」の発動時間が遅れるんだ、無駄ではないさ』
『馬鹿いえ、その前にこっちがやられちまう!』
波打つ壁を前にして、雲波の一条から降る魔機は数知れず。
「コマンド」の律句が指から伸びた銀の一糸一糸を伝って時差なく僚機の状態を整える。
伝身を受けた共導砲台。
割れた十字砲身が矩形の光盾へと変型する。
攻防一体兵器である「メガ・ハルモニカ」を駆使して怒涛の攻撃を凌ぐ「クゥエル」小隊。
『っぐ!』
僅かに気を緩ませたその瞬間、土を割って荒地に突き立つ無数の剣山。
ズゴッグの鉤爪が一機のGMの脚部を貫き足を止められた機体は見る間に無数の機腕に引き摺られ埋もれていく。
『オエン!』
機躯の手に足に突き立てられる戦斧の束。
ザクは生贄を求めGMの腹装に指をこじ入れる。
みしみしと剥がれていく鉄膚の音を聞きながら、操者は最期の望みを同胞に叫ぶ。
『早くっ…やってくれ……頼むっ!』
埋もれゆく僚機ごと。
『くっそおおおおお!!!』
共振砲光が敵団を灼き払った。
622閃戦鏤刻/5:2007/08/07(火) 06:33:42 ID:???


アレオパギダ艦内。
凄絶極まるこの状況下にあってケイルブは平静を保っていた。
「「バートルビ」が突出しすぎている。回せる隊はないか」
何十と届く声を処理する通信手が苛立たしげに報告する。
「どこも一杯一杯ですよ、下手に動かせば総崩れってことにもなりかねません」
「状況は、どうなっている」
「全体での損耗率は二割、いや、三割を超えました…」
「考えていたより、大分早い…」
戦況は予想以上の劣勢。
今のままでは戦力差に押しきられる。
そう。今のままでは。


黒く粘る濃霧の中、戦局を窺う邪悪な影。
―――ダレト。
ふと、彼は何事かを察知し別方を一瞥する。
「…相も変わらず小賢しい…。まあいい、貴様にはどうする事も出来まい…」
廃都を舞う囀りの輪に再び耳を傾ける男。
「愚かな兄よ、ようくみていろ。私がこの手に「神」を収める瞬間を―――!」
仮面の男は血末に向かって直走る赤昏き戦場で人知れず
滅亡を囃す狂想のタクトをひたすらうち振るう。
623通常の名無しさんの3倍:2007/08/07(火) 06:38:03 ID:???
今回繋ぎだもんで見所ナッシング
次からびっくりするほど超展開入ります

追記
ケンプファー、かけねええええええええええ!なんかもう難しすぎ…
624通常の名無しさんの3倍:2007/08/07(火) 06:53:26 ID:???
おお、朝早くに起きた甲斐があった。 

まとめサイトは、ここは2ちゃんねるシャア板の機動創聖記ガンダムDのまとめサイトです。 
みたい文とここへのリンク貼ればいいと思う。

というかこれ、他のとこに誤爆したよorz
625通常の名無しさんの3倍:2007/08/08(水) 12:15:00 ID:???
連ジ、エウティタ、連ザに並んでEDEN&ADAM VS. 反聖府勢力(語呂悪)を発売してほしい
コストが異常に高いインフェルノw
劇中版だとろくに武装がないリヴェレーションw
626通常の名無しさんの3倍:2007/08/08(水) 23:50:55 ID:aMuQvApJ
やたらエフェクトの派手なゲームになりそう
627通常の名無しさんの3倍:2007/08/09(木) 11:51:56 ID:???
だからガンダムのスペースコロニーには、地球最後の日という物語設定が絶対有るべきだと思うのです。
誰も子供を作らなくなったら、本当に世界は平和になりそうですね。
628通常の名無しさんの3倍:2007/08/09(木) 13:16:21 ID:???
誤爆カコワルイ
629通常の名無しさんの3倍:2007/08/09(木) 13:42:26 ID:???
>>625
CSのアニヒレイション・フィアは隙大き杉で封印安定とかな
630通常の名無しさんの3倍:2007/08/10(金) 08:26:06 ID:???
まとめにケンプファー追加しました
やはり似ねえw邪気臭も薄いし微妙ですまんです
631通常の名無しさんの3倍:2007/08/10(金) 19:07:22 ID:???
ケンプファーキターーーーーーーーーーー
闘士っぽいぜw
632通常の名無しさんの3倍:2007/08/11(土) 08:51:42 ID:???
何気にトップの下にここへのリンクも追加させてるのな。
633通常の名無しさんの3倍:2007/08/13(月) 09:14:08 ID:???
ケンプファーver.JackyGunをMGケンプファーを元に作るさらなる神は…無理か。
634通常の名無しさんの3倍:2007/08/15(水) 15:55:48 ID:???
過疎保守
635インフェルノ・ロード/1:2007/08/16(木) 00:44:08 ID:???

作戦開始より溯る事数時間前―――戦艦「アレオパギダ」艦内。
別室に集めた三十余名の隊員達に対し、ヒーリィは徐に話を切り出した。
「部隊のMS乗りの中でも一番腕が立つのが諸兄等だ」
いつもの軽口を挟まずただ淡々と任務だけを告げるヒーリィ。
主長を除いてその場で最も位階の高いツェト・ボイエン律士が口を開く。
「出来る奴がやる、当然の事でしょう。任務、確かに受け賜りました」
「此処まで来たからには誰だって同じ気持ちの筈です」
「そういって貰えると、助かる」
少年はそれ以上は口にせず、ただその眼差しだけが物語っていた。
―――「すまない」と。

通廊には床を叩く靴音の列だけが響く。
「やっと運が向いてきたと思ったんだがな…」
垂れ込める沈黙を破って、そうぼやくナンバ・ケフはこの中で最も年嵩ではあるが「EDEN」外様の隊員だった。
元々「ADAM」所属であったが、その腕を買われて「EDEN」へと栄転を果たした矢先であり、
今回の「インフェルノ」討伐が初仕事ということになる。
「ま、失敗すりゃ一切合財おしまいなんですから、自分で賽をふれるだけましだって思いましょうよ」
「そういうこった。それに万が一ってこともあらあな。
これまでだって奇蹟然とした場面には何度も出くわした訳だし、今回だって案外上手くいくかもしれん」
ナンバの明るい調子は所詮気休めにしろ、幾分場の雰囲気を和ませるに足りた。
「へストゥスは、子供が生まれるんだったな」
ボイエンの問いにまだ顔立ちに幼さを残す青年は軽く頷く。
「生まれてくる場所くらいは守ってやれなきゃ、どうにも格好がつかないでしょう」
下を向くボイエンの口元が僅かに緩む。
「そうだな…」


現在。鏡塔中層部地点―――作戦開始から六時間経過。
激しく剣戟を舞い散らす「セイクリッド」へGMを駆るボイエンが促す。
『時間だ、いってくれ』
「ヘブンス」の牽制に合わせて後退する蒼機。
『!逃げるというのか!?』
「先に「鏡」を破壊させて貰う!貴様をやるのはその後だっ「D」!」
魔獣の追撃を払い除け、機を翻す少年は自分に言い聞かせる。浮界の二の轍を踏んではならない。
機体同士のすれ違い様、言葉を交わすダネルとルエビ。
「待ってろよ、直ぐに戻る…!」
「はい。待っています――」
光翼を全開し一気に場を離脱するGの後ろを守るように魔獣と対峙するGM隊。
―――鏡の破壊までのほんの一時、「インフェルノ」をこの場に留めおく。それが彼らに課せられた使命だった。
『この手勢、戦力で……こいつら正気か?』
「D」の困惑は本来ならば正当なものといえたろう。
「ヘブンス」の守護つきとはいえ、聖霊機すら凌駕する「インフェルノ」とGMではまさしく絶望的な格差があるのだ。
湿った木屑で果たしてどれだけ火嵐の勢いを押しとどめられるものか。
――魔獣の放つ濃密な瘴気が機体を燻すのを感じながら砲撃を続けるGMの搭乗者達。
しかし、どれだけ無謀な試みであってもやらねばならない。
「一秒でも長く持ちこたえてやるとも…」
戦いの趨勢を分かつ数分間を稼ぎ出す為、戦士達は決死の戦闘を挑む。
636インフェルノ・ロード/2:2007/08/16(木) 00:55:47 ID:???

同刻。搭頂周空域。
『ほらほら、押されているよ…!』
完璧な連携で暴威を振るう邪竜擬態機十二体を「ホーリー」は紙一重で捌く。
吐きかける毒液に腕ごと銃砲を溶かされるGM機。怯んだ機を頭ごと噛み砕く歯牙。
邪竜機に等しい性能を発揮するインコム・グールは戦局を傾けるに足る脅威であり、
部隊は魔機の猛攻にアドエス級艦「ハピツェンツ」付近まで防戦を余儀なくされていた。
多勢に無勢、守勢に回った時点で突破は不可能となったとみていい。
―――しかし、作戦全体からみてこの場は捨石。
弾幕の間隙を縫って「ディバイン」の躯を引き裂いた邪竜の主は手応えのなさに戸惑う。
次いで、粒状の光霧となって掻き消える白機の断片。
「分身ならこっちだって作れるんだから。ていっても、実体なんてない子供騙しだけどね…」
ビットの作り出した「ディバイン」の蜃気楼。
何時の間に摩り替わったのか、「ディバイン」は周遊するビットが映じた幻影であった。
子供騙しとディミはいったが、霊質反応すらトレスする錯像生成は人後に及ばぬ「ホーリー」ならではの絶技といえよう。
まして敵味方入り乱れる混戦であれば見抜くのは至難の業。
『なら…奴は何処だっ!?』
動揺をみせた「バシリスク」は直後、弾霰に包まれた。GM隊の斉射と艦砲が邪竜を見舞う。
『無駄な事を!』
『どうだかな、理由は分からんが貴様は攻撃している間は動きが鈍るっ』
果たしてその通り、邪竜の動きは静止したままだった。防壁無視の必殺兵装とて充当な距離をとれば抗いようもある。
「っち、小賢しい虫ケラがっ…」
狂ったように猛突するグラブロ十数機を、切り分ける「ハピツェンツ」の直線砲火。
突撃艦であるアドエス級は、前面への攻撃力だけならタルシス級艦にも劣りはしない。
戦線を下げたのは戦艦間際まで敵を引き付けその足を止める為の策。
『やってくれたものね…この私を謀るなんてっ!』
艦体側面より忍び来るインコム・グールを射す飛羽の連舞。
作戦通りであればこれから数分内に大局は決する筈。
「…それまでは、いかせないったら!」


砲搭に沿って一気に急降下をかける光速。
「ディバイン」の疾速を追迫するMSは邪竜が一機、「モノケロス」。
「まぁた、お前か!」
「貴様等のやり口などお見通しだという事だ」
邪竜に捕まった「ディバイン」に上昇する機影の波が迫り寄る。
「ヒーリィ!」
鎖された進路を双刀の一旋が分け拓いた。
疾駆する蒼翼。颯然と現れる「セイクリッド」の姿。
迎撃へと反転する「ディバイン」によって、「モノケロス」は挟み撃ちの形になった。
――下方からからは「ディバイン」、上手からは「セイクリッド」、邪機に逃れる隙は残されていない。
「おっし、ダネルっ決めるぞ!」
「おぉっ!」
ダネルとヒーリィ、いささかの乱れもない一心同戟。
交差する鎚剣の鼬風は邪竜が苦し紛れに吐き出す鉄鋲を掻い潜り斬線の斜十字を空に奔らせる。
「…っ!」
成す術なく光芒に没する邪竜。
妨害を切り伏せた二機のGは目的地点へと急ぎ馳せる。
637インフェルノ・ロード/3:2007/08/16(木) 01:03:41 ID:???

鏡搭中層。
「セイクリッド」不在の今、魔獣の虐火は一方的な蹂躙を続けていた。
「―――身の程も弁えない奴等が……俺の前に立つなっ!」
轟火に沈むGMがまた一体。
『これで弱っているというのは、冗談としか!』
三十機のGMはほんの数瞬で見る間に数を減らし、既に十機を切っていた。
一直に、まったく回避動作をとらない「インフェルノ」。
避ける必要を感じないのであろう、実際に対魔獣用に配備された特殊抗霊子弾も
体躯に触れる前に装表から常に放散される瘴機の熱圧に摩滅してしまうのだ。
かといって接近し過ぎれば。
魔獣の背後から羽交い絞めにかかるヘストゥス機。
「離すものかよ…!」
魔獣は動じる風でもなく熱線を閃かせる。
ただの一瞬。一瞬で火箸に当てられた氷のように溶け落つヘストゥス機。
『ヘストゥス…馬鹿野郎がっ…!』
追い撃つナンバのGM執念の一撃が魔獣に肉薄する。
―――ヘストゥス機の残滓、こびりつく灰鉄の粘鎖が魔獣の動きをほんの僅か鈍らせている。
「インフェルノ」の頬を焦がす轟爆。代償は長爪による機体の両断。
『果たしたぞっ…!!』
焔鳴に霞むナンバ機は寸前に装弾全てを面前に撒き散らしていた。
鋼弾は炸爆を放って魔獣の纏った炎巻を消し飛ばす。
続く迫撃はボイエンのGM。
残存部隊の支援砲火を背にして、赤熱に染まる機体にも構わず彼は至近から砲撃を射かける。
『「ダルコン」も…エシャロも、トリンスも、こんな風に焼いたかあぁっ!!』
絶叫するボイエン。
大都市帯区「ベト・ダルコン」。魔獣が滅ぼした九つのユニットの一つ。
彼の故郷。彼の家族が待つ場所―――否、待っていた筈の場所。
黒甲の瑕疵、一条の亀裂に捻り込む射鋼。
二度、三度、四度、砲身が腕が融けおちて尚寄る辺を失くした男の叫びは止まず。

遂に、怒頂に達した魔獣は数条もの黒閃を雄叫び敵であるGMはおろか魔群をも灰燼へと還す。
狂墳を吐き散らした機体に生じた僅かな動作の空白。
それは、「ヘブンス」の聖律障帯が魔獣を拘束するには十分な間隙だった。
「どうか識って下さい…貴方がそうであるように、誰もがかけがえない想いを抱いて生きるものだという事を……!」
『分かっているさ、そんな事は……だからこそ、許せないんだろうが!』
聖女の哀哭も少年の頑なには届かない。
『唄うな「ヘブンス」…!その囀りは…俺の頭を灼くんだよっ!!!』
聖縛を力任せに引き千切らんとやにわに震える紅い広翼。
魔性と聖性の拮抗は引き合う両者の機躯を封じる。
このままもう少しだけ押さえ込めれば…
「――――惜しかったね。あと一歩だったのに」
「ヘブンス」を背後から襲う激しい衝撃。
制動を失う機体と共にルエビの意識は闇の底へと落下してゆく。
耳に遠く、ざらついた笑いを聞きながら。
638通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 01:05:08 ID:???
支援
639インフェルノ・ロード/4:2007/08/16(木) 01:11:31 ID:???

「ディバイン」、「セイクリッド」が至った先はバルネア地上部、鏡搭の根元。
こちらの意図に勘付いた敵集団はバルネア表層に向け恐ろしい速度で集勢しつつあったが、
「―――射ちまくれ!」
「分かってるってさっ」
時既に遅し。
G級でも屈指の突破力を誇る「セイクリッド」と「ディバイン」。
両機の一気呵成に乱れ撃つ閃光が霧裂く断爆を起す。
束の間焼尽する魔群の壁霞。
立て続く数珠光が拓いた空白が戦艦「アレオパギダ」の最終到達地点までの進路を確保する。
ケイルブの号に合わせて浮上する艦船。
「有効範囲内に入る…用意はいいな…!」
「いつでもいけますっ」
「ブレヴェイルの鏡」に準ずる、禁忌の兵装ならばこちらもまた、備えているのだ。
「全艦、ハイロゥ展開!」
黒霧を押し開く三重なす大天使輪。
行く手にはGすら突破は難しいであろう魔群が湧出する巣窟。
そして、その先に聳える霊柱の底に辛うじて覗く小丘―――鏡搭を浮かせる支持機坑の輪郭。
「射出、用意―――」
文様彫度を施された真鍮の筒がアレオパギダの両舷から顔を出す。
劣勢に投じる必勝の一擲。
「――――射てっ!」
「禁弾」射出。
聖霊機すら及ばぬ破極の殲滅兵器は直撃すれば障害となる霊流ごと鏡塔の支持機構を根こそぎ奪い去る違いない。

漆黒の領野へ吸い込まれてゆく弾頭が六つ…。

―――その刹那。
ケイルブの声が戦慄に上擦る。


「――――何故「インフェルノ」が此処にいるっ…!?」

640インフェルノ・ロード/5:2007/08/16(木) 01:15:25 ID:???

凍りつく時。
眼前にに立ちはだかる漆黒は、時と場を捻じ曲げる虚孔から這い出ずる魔獣の姿。
漆黒の躯は弾頭全てをその身で受け―――。
起爆する弾頭。
――聖霊子の崩壊場から得られる甚大な純エネルギーのとめどもない奔騰は。
拡がりかけた鎖なる爆発が漆黒に呑まれていく。
――「インフェルノ」の相転移機関にとって格好の食餌。
魔獣は禁弾のエネルギーを余す所なく喰らい尽す。
膨れ上がる瘴気は伝う空気を焔と変え更なる狂化を遂げていく機躯。
突き上げた牙。逆巻く焔の鬣。
めくれあがる装甲の襞からは烈しい尖角が伸び、異形の姿を更に奇怪に禍々しく変貌させていた。

「何と…いう…」
ケイルブは目の前の光景に言葉もない。
彼の前に張り巡らされた計告器の象報図盤はそのどれもが異常な指数を示していた。
「霊質量、なおも増大中…」
茫然自失の態で解析結果を順次読み上げる通信手。
「「インフェルノ」一機の帯びる霊質は恐らく「ブレヴェイル」本体の最大出力に匹敵するものと思われます…」
忌まわしさと憤りに駆られてモノクルを床へと叩きつけるケイルブ。
「私は…奴らの手助けをしてしまったのか…!」

―――絶えざる劫火。現前せる深遠の主。
これこそ地獄を冠するG。これこそが「インフェルノ」の真性。
漏れ出る咆哮が天と地を衝き、業火とたなびく大翼が跳ねた。
魔獣にしてみれば単なる跳躍でしかない。
「がっ…!!!」
「なん・だっ…!?」
だがそれだけで、爆発的な衝圧が生む重い灼熱はそれぞれ接近する「セイクリッド」、「ディバイン」を弾き飛ばす威力となる。

「―――頑張りすぎだな「EDEN」諸君。おかげで幾分手間が省けたよ…」
薙刀に吊るしたみるも無残なGMの骸を虚宙に放り捨てたMS「ゲルググ」。
天頂部に降り立った真黒き悪夢の姿を端倪し、ダレトは鋭い哄笑を放った。
641インフェルノ・ロード/6:2007/08/16(木) 01:19:03 ID:???
                                                                  
せりあがる背面より露出した「インフェルノ」の魂核炉心。
「ブレヴェイルの鏡」の砲門とえる螺旋盤は融かされ紅翼と同化していき。
宇宙に生え広がる根がざわめき、魂核と囲むように円筒を作る。
ダレトの言葉通り。魔獣そのものが砲門と化した今、最早ブレヴェイル鏡砲の起動を待つまでもない。

昏く輝く魂核の球が下天に狙いを定め膨らむ、その時。
唯だ一機、突忽として射線上に向かい合うMSがあった。
時季を逸した花弁の如く、しとどに舞い散る大翼の羽根。
裂かれた衣を纏った乙女機躯はさながら磔刑にかかる殉難者を思わせる。
―――――聖女機「ヘブンス」。
コックピット内。痛めつけられ朦朧とした意識の中。
「―――あなたにそれを、させる訳にはいきません…」
血の入り混じる吐息に喘ぎながら目の前に在る狂獣へきっと視線を定める少女。
―――消え去れ消え去れ消え去れ消え去れ―――。
乙女の姿は憎悪に焼かれ濁り果てた少年の目には映る筈もない。
それでも。
聖者の使命。
被造物の役割。
そして、彼女自身の祈りを賭して―――。

衝撃から立ち直り態勢を戻した「セイクリッド」。
「―――ルエビっ……駄目だ…!」
「ヘブンス」が何をしようとしているのか察したダネル掠れた嗚咽を漏らす。
                                   

数瞬の後。

緋ずむ咆煌が星天を消した。
―――反転した世界には奈落の坩堝が天空に広がる。
鉄躯を劈く爆震が大地を礫き裂き。
厖大極まる霊質に圧され、敵味方の別なく軍勢は悉くが高空から撥ね落とされ。
万象を無に還らせる滅火はしかし、未だ地に注がれはしない。

一斉に可視化する詠律の氾流は「ヘブンス」の奏唄輝光。
句は律を生成み、律は韻を躍り、清唄を祝ぎあげ―――。

赤く哭く空にかかる白き雲耀の輪濤。

「ヘブンス」は十二の大翼に姿態を埋め世界を灼く焔を其の身をもって受けとめる。
容赦なく降り注ぐ荒れ狂う殲光に表装を剥ぎ取られていく機体。
先端から融解していく銀羽。眩い業熱は白肌をじりじりと焦がし。
極限にまで引き絞られた奏唄は悲鳴にも等しい。
溶けつつあるのはその命。灼かれつつあるのはその魂。
ルエビ・アンフィルエンナ―――守るものは獄火の狂憤を鎮める為、己が全てを散らしながら最後の調べを紡いでいく…。
642通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 01:32:04 ID:???
…遅れた上に色々酷くてすまんす
はっきりいって構成しくったわこりゃ

あ、そうそう>>552->554の作者様、まだ途中の様ですが
まとめに載せてしまって良いですかね?連絡待ってますー
643通常の名無しさんの3倍:2007/08/16(木) 19:14:31 ID:???
GJ!
ルエビ・・・
644通常の名無しさんの3倍:2007/08/18(土) 19:25:46 ID:???
hosyu
645絶望浮上/1:2007/08/19(日) 21:53:41 ID:???

聖唄の虹彩と灼熱の轟紅が入り混じる空を「セイクリッド」は飛疾する。
「―――くそっ、ルエビィっっ!!」
爆発的な霊圧が生む気流に逆らって搭頂目指しひたすらに上昇する蒼機を遮った触手の輪欄。
『今度は此方がいう番ね。ここから先には行かせないわ』
女の声。
幾つもの水晶板に映じた「ステンノー」とその分身たる従僕の狂影。
「どけよっ!」
縦横を囲むインコム・グールが放射する毒霧を素早く剣迅で巻き上げる「セイクリッド」。
『ここで眺めてなさい、「ヘブンス」が飴みたいに溶けていくのをさ…』
「!お前えっ!!」
挑発に容易く乗るダネル。
焦りが生む死角より迫る屍機影。
蜘蛛の巣を描く触手の網に突進する「セイクリッド」は腕を掴まれ、絡めとられた大盾が空に落下していく。
『怖い怖い…』
いきつく間もなく背を胸を、両腕、両足を咬む鋼刃。
群がる擬態竜機に取りつかれ蒼機の姿が完全に埋もれる。
舌打つダネル。
どれ程数がいようが分身はあくまで分身、本体は唯だ一体―――。
グールを一機両断し戒めを機動の瞬発で押し破ったダネルは、
勢いを保ったまま機体を「ステンノー」本体の胸元に撥ね上げた。
構える暇も与えず「セイクリッド」の双刀が邪機を袈裟懸けに薙ぐ。
「これで…」
『流石、聖霊機ね…少うし、油断したみたい…』
女の声。
少年の総身に怖気がはしる。
一体のインコム・グール苦しげに唸り、変貌しつつあった。
みしみしと生え広がる骨皮、突き出る顎牙…。
『見ての通り。この子達がいる限り、落せやしないわ「ステンノー」はね…』
そこに在るのは既に分身ではなく、紛れもない「ステンノー」本体の姿だった―――。
646絶望浮上/2:2007/08/19(日) 21:58:35 ID:???

ダレトは天上に舞う白翼を、絶えざる魔性の赤嵐に今にも消え入りそうな幻煌を哀れむように見詰めていた。
「かくも希望にしがみつく姿は美しくはあるが……なにしろこちらも後がないのでね、駄目押しといかせてもらうよ」
男は伸ばした手を静かに中空へかざす。
すると、既に用を失した鏡搭に滾る霊質が逆流を始めた。
と同時に、地表に紫玉の煌きが線形を描き、結び合った公線は「バルネアW」を丸ごと押し包む方陣を浮かび上らせる。
方陣の妖輝に呼応するかのように脈打つ建築群は、形を変え魔機の鉄身を分解し吸収し肥大化し…
…波紋とともに堆く隆起する鉛の泡となって地表を覆い尽くす。
一つ二つ三つ四つ…。
円陣より次々に顕現する通常MSの十数倍はあろうかという機躯。
煙る魔気に揺らいだ陽炎を踏んで、立ち現れる忌むべき鉄の輪郭。
うっすらと滴を滲ませた体表は鈍た鉛碧に照り映える。
最早バルネアに都市の面影は微塵も残っていない。代わりに大地を充たすのは巨鯨にも似た異容の影群。
召喚されし機獣―――巨魔「ビグザム」。

観測数が極めて少なく本来であれば一体に対してMS一個師団をもってあたるべき
神世に於いても最大級といえる魔災。

―――――その数、実に二十を超える。

忽然と現れた巨獣の群れは腹中より突き出た嘴で上空を捉える。
花弁のように開く嘴に怪光が綻び出でて―――。

「――――その位置は…まずいっ!」
ヒーリィの短い叫びも虚しく。
あまりに凄まじく、あまりに呆気ない崩壊の寸劇。
突然の襲来に不意を衝かれた低空一体の聖軍を地から放出される熱流が覆う。
凄まじい凶光にくずおれる無数の機影と二隻の戦艦。
『「バートルビ」中破…!「エリフェレト」は……沈黙しました…』
項垂れる通信手の報告を黙して聞く参謀。
この時、独立して先行した「アレオパギダ」だけが間一髪被弾を免れたのは皮肉というほかない。
―――「ビグザム」の破格に過ぎる攻撃は瞬く間にタルシス級艦を含む地上部隊の半数を壊滅に陥れた。
そして、一度の蹂躙に飽き足らず犇き合う山脈は獲物を残らず屠り去る為、その巨体を宙に舞わせた「ビグザム」の群れ。

終告の地に更なる絶望が浮上を開始した。
647絶望浮上/3:2007/08/19(日) 22:03:31 ID:???

戦艦「アレオパギダ」甲板に飛来した「ホーリー」は同じく艦上に立つ「ディバイン」に向かい合う。
「こっちはもう、滅茶苦茶だよっ」
最も天頂に近かった「ハピツェンツァ」隊は留まる事を知らない魔機の猛攻を凌いでいたが、
その上追い撃ちとばかりに魔獣が放った霊瘴の煽りをまともに受けては抗し様はずもなく
結果ここまで位置を下げざるを得なかったのだ。
―――天の「インフェルノ」と邪竜の軍勢。地上からは「ビグザム」複数機。
上下からの挟撃に合う形で総崩れとなった「EDEN」陣営は図らずも戦力を一箇所に集結させつつある。
戦局は一変し、傾いだ天秤は今や釣り合いようもない。
こうも手詰まりの状況下ではディミの取り乱しようも無理からぬ事ではあった。
「どうするの!? このままじゃ部隊も、早くいかなきゃルエビだって…」
『少し冷静になれ』
「だって!」
『「アレオパギダ」が先行かける。援護たのむわ」
「……!」

「―――無事なのかっ「アレオパギダ」は!」
『こちらはなんとか、「バートルビ」は継戦不能と判断しました。負傷者・非戦闘員を収容後この場を離脱させるつもりです』
全隊の状況を確認したヒーリィは不意に空を見上げ険しく顔を曇らせる。
「見えてるか?あの様子じゃ、「ヘブンス」はいくらももたない…!」
大体において、現時点まで世界を焼き尽くすほどの膨大な魔気の照射を「ヘブンス」が防ぎ得ていること自体
奇蹟といっていい所業なのだ。
世界の滅びを蓄えた果実はいつ弾けてもおかしくはない。
一分先か五分先か、それとも今この瞬間か…。
『いずれ、この場で時間切れを待つ訳にはいかぬでしょう。……主長、本艦はこれより残存部隊とともに搭頂へ向かいます』
切り札は失われ、離脱する機体を除いて50を割る手勢はそのどれもが消耗した有様。
「……そうか、アドエス級を援護に回す。……健闘を祈る」
「主長も、ご無事で」
退くも惨、進むも惨。であるならば、身命賭した最後の一矢にかけるよりなし。
―――もとより覚悟の上で臨んだ戦であった筈…。



648絶望浮上/4:2007/08/19(日) 22:05:42 ID:???

少年は話を戻した。
『―――そういう訳でさ、そっちはお前に任せた。俺は殿につく』
眼下には迫るビグザムの機影。
『あんなもんにケツを突かれちゃ一溜まりもないからな』
「まさか、あんた一人やるつもり?」
『ああ、使える戦力は全部「アレオパギダ」につける。というか他は足手まといだし』
「…私も、」
ディミの言を遮るヒーリィ。
『ダネルが例によって突っ走ってるんでな。フォロー頼めるのはお前しかいないんだ。
それに「あれ」の正体が予想通りならそれこそ「ホーリー」が適役だろ』
口を噤んだ少女にヒーリィはいつものように笑ってみせる。
「「ディバイン」を、いいや、ヒーリィ・イルを信じないのか?」
「…信じない」
『ありゃ』
ごく小さな声で。
「――けど、いいわ。許可してあげる。……に免じてさ、」
『ああ?すまん、最後聞きとれなかった』
「なんでもないよっ、いっといで!」
飛び退る「ディバイン」。回線を閉じた少年は一人呟く。
「―――やっと、格好いいとこみせてやれそうだな…!」


649絶望浮上/5:2007/08/19(日) 22:08:00 ID:???
戦艦「アレオパギダ」。
全乗員に避難を呼びかけるケイルブ。
「これより「アレオパギダ」は最後の攻勢を試みる。乗員は速やかに退避、「バートルビ」に移動せよ!」
ポティ補佐官。
「君には後始末を任せる。早く行け」
「……しかし」
「ここにはもう君の仕事は無い」
強張った面持ちで頭を下げて駆け出したポティを尻目に、ケイルブは他の面子にも脱出を促す。
「お前たちも急げ。時間がない」
だが、艘舵手以下は席を立つ様子がなかった。
「参謀一人じゃ真っ直ぐ飛ばすのだって難しい」
「これでも神の徒を名乗る者です、はじめから腹くらいは括ってます」
ケイルブの平生と同じ感情を示さぬ両眼は居並ぶ面子をひとしきり見渡す。
「……私と一緒では天には昇れんぞ?」
「なに、あれを片付けたとなれば、どんな悪業も精算できましょうよ」
「それに」
そういって艘舵手は鼻を掻き、轟きを増す偽りの暁天をみやる。
「嬢ちゃんを見殺しにするのはあまりに酷というもんでしょ?」
暫し目を瞑ったケイルブは咽をくと鳴らし、やがて低く通る声で言い放つ。
「―――では、往こうか。我等が女神を救い出し、見事神命を全うする為に……!」


鏡搭低層部。
GM隊が「ビグザム」に打ち込む弾砲の雨は厚い装甲に阻まれ無為に終わるよりない。
疲弊を重ね先刻の打撃を辛うじて逃れるのに余力を使い果たした機体が殆どなのだ。
絞りかす同然の振動砲撃では真世界最大最悪の巨獣に到底通用する筈が無かった。
だが逃げ場など何処にも無いのだ。なんとしても此処で食い止めなければ。
『――離れていろっ!』
必死の牽制を続けるGM隊に回線が入る。
上空より燦然と翔ける眩揮の白金機影。
四肢に巻き付いた複数の管は背にぶら下げた剥き出しの発振機に直結し、
重厚でありながら流麗極まるフォルムにある種異様な迫力を加えている。

「ここはもういいっ!―――後は、「ディバイン」がやるっ!」

神聖の猛りを内包した鋼鉄が輝翼を羽ばたかせる。
唸りをあげる追加発振機は唯でさえ強大な機体出力を底上げし装甲より漏れ出る聖霊質を周囲に飛沫かせ。

執行の鉄槌「ディバイン」は降下の勢いをかって地表埋め尽くす巨獣の列に金色の神罰を振り下ろす―――。

650通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 22:15:41 ID:???
変な区切り方になってすんません。ホントこの章は苦戦するなー…
毎度保守・支援レス傷み入ります
651通常の名無しさんの3倍:2007/08/19(日) 22:46:07 ID:???
盛り上がってまいりました
652通常の名無しさんの3倍:2007/08/20(月) 22:24:08 ID:???
ビグザムキタコレ
653通常の名無しさんの3倍:2007/08/23(木) 22:20:03 ID:???
ほゅしゅ
654通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 16:03:06 ID:???
あーすんません週末までにはと思ってたんですが投下遅れそうです…
というか次スレどうしましょうかね
655通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 16:11:05 ID:???
今488KBか。
投下前にここで報告して立ててもらう(もしくは自分で)
で、投下は新しい方に、でいいんじゃね? 新スレの保守にもなるし。
656通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 16:33:34 ID:???
了解しました
では、出来たら報告しますー
657通常の名無しさんの3倍:2007/08/25(土) 16:41:19 ID:???
ゲルググktkr
658通常の名無しさんの3倍:2007/08/28(火) 18:42:37 ID:???
保守
659通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 08:38:07 ID:???
お待たせして申し訳ありませんでした
とりあえず次回分できましたんでどなたか新スレお願いできませんでしょーか
出来ましたらまとめの方のアドレス入れて頂けると有難いです
660通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 10:14:14 ID:???
建ててみました。
スレ名やテンプレなど相談せずに済みません。

機動創聖記ガンダムD 第二章
ttp://anime2.2ch.net/test/read.cgi/shar/1188349970/l50
661通常の名無しさんの3倍:2007/08/29(水) 19:03:23 ID:???
>>660様、スレ立て有難う御座いました。早速投下させて頂きました

どうでもいい事ですがこの機会に少し余談などを…
このスレ内でちらほら聞かれた皆様の今後の展開予想とかですが

ものすっっっっっっげえ的中率!w
中には掠ってるどころかそのものずばりなものがあったりしてまあ笑えること笑えることw
ま、そこらへんの展開まで辿り着けるどうかも怪しいもんだから別にいんですけどね
という訳で一向に話が進んでませんが、どうか次スレのほうでもゆるーく見守ってやって下さい
662通常の名無しさんの3倍

MS「セイクリッド」 
全高(頭頂高):19m(16m) 
本体重量:10t 
タイプ:格闘戦型・先陣突破型 
カラー:白地に蒼紋の縁取り(Gには各々呪的耐性を有する文様が刻まれている) 
固定武装: 
大剣「過たぬ正義の右太刀/尽きぬ勇壮の左太刀<セイクリッド・ブレイド>」 
背部大型振動砲「闇掃う疾光の波濤<セイクリッド・シューター>」・二門 
頭部小光径砲「光撒く礫<フォース・バルカン>」・二門 
追加武装: 
長距離発振兵器「万理に届く無響の槍<セイクリッドランス>」 
   
・高い運動性と格闘能力により局所線において無類の強さを誇るが、 
オプション兵装である<ランス>を装備する事で長距離戦・大規模戦闘にも対応出来る。 
本機体の武装は操り手の意志によるある程度の威力調整が可能なため汎用性は見た目より高い。 
特筆すべきは装甲のエネルギー吸収・拡散機能による強靭なダメージ耐性であるが、 
その分搭乗者にかかる負担は大きい。 

部隊の先陣にたって突破口を切り開く勇猛さが要求される機体だが、 
現搭乗者のダネル・アラクシェはいささか度が過ぎているらしい。 
訓練時から機体を酷使し、それに合わせて機体の耐久性を挙げると 
更に限界を超えた制動で応える、この繰り返しで最後には整備師も匙を投げたという話だ。 
徒な暴走を防ぐよう上手く手綱をとる必要がありそうだ。