スーパー戦隊 バトルロワイアル Part4

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1名無しより愛をこめて
当スレッドは、スーパー戦隊シリーズの登場人物でバトルロワイヤルを行うという企画です。

※注意

・このスレはあくまで2次創作であり、本編作品等との関連性はありません。
 また、スレの性質上ネタバレを多く含んでいます。
・投下されるSSの中には、ヒーローの敗北、死亡等の残酷な描写が含まれたものもあります。
   
  
以上の点を注意して、閲覧して下さい。
なお、進行はsageでお願いします。



青き水の星、地球に刻まれた31の戦いの記憶。
今宵、その中から42人の戦士が選ばれた。
ロンの企みにより、宴に集められた彼らを待っているのは、
希望の明日か、絶望の明日か―――
その行方を知る者は、まだいない
2名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:45:20 ID:/8dG84y10
まとめサイト
http://homepage3.nifty.com/w-end/index.htm

スーパー戦隊バトルロワイアルinしたらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/10886/

前スレ:スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1223702612/

前々スレ:スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part2:ログ
http://homepage3.nifty.com/w-end/log2.htm

前々々スレ:スーパー戦隊 バトルロワイヤル:ログ
http://homepage3.nifty.com/w-end/log1.htm

2chパロロワ事典@Wiki
http://www11.atwiki.jp/row/
3名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:46:18 ID:/8dG84y10
【ジェットマン】1/1
グレイ○
【カーレンジャー】3/3
シグナルマン○/志乃原菜摘○/陣内恭介●
【メガレンジャー】3/3
並木瞬○/ネジブルー○/早川裕作○ 
【ギンガマン】2/2
剣将ブドー○/ブクラテス○
【ゴーゴーファイブ】3/3
巽マトイ●/ドロップ○/冥王ジルフィーザ○
【タイムレンジャー】3/3
浅見竜也○/シオン○/ドモン○
【ハリケンジャー】4/4
サーガイン●/シュリケンジャー○/日向おぼろ○/フラビージョ●
【アバレンジャー】1/1
仲代壬琴○
【デカレンジャー】4/4
江成仙一○/白鳥スワン(消滅)●/胡堂小梅●/ドギー・クルーガー●
【マジレンジャー】7/7
小津勇●/小津麗●/小津深雪●/スフィンクス●/ティターン●/バンキュリア●/ヒカル○
【ボウケンジャー】7/7
明石暁○/伊能真墨●/ガイ○/高丘映士○/西堀さくら○/間宮菜月○/最上蒼太○
【ゲキレンジャー】4/4
サンヨ●/真咲美希○/メレ○/理央○
 残り 27名

主催:ロン○
ジョーカー:ウルザード●
4名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:47:42 ID:/8dG84y10
【ルール】

【スタート時の持ち物】
初期装備は怪人枠は武器装備有り戦隊側はスーツ有りで、変身アイテムを奪われたり、壊されたりしたら、変身不能になる(修理は可能)
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側からデイパックに入った以下の物を支給される。
「食料」 → 複数個のパン(丸2日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 禁止エリアを判別するための境界線と座標も記されている。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 変身アイテム以外のアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
「時計」 → 時間確認用
「筆記用具」 → ペンとメモ帳

【スタート】
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
MAPは縦軸A〜J、横軸1〜10で1辺の長さが5qとする。

【能力の制限について】
変身制限時間は10分。解除後2時間変身不可。意志あり支給品についても同様とする(会話は可能)

【放送】
放送は6時間ごとに行われる。放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
禁止エリアは一度の放送で3区画ずつ(2時間ごとに1区画ずつ)増えていく。
5名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:48:21 ID:/8dG84y10
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【書き手のルール】
・書く前に必ず予約すること。投下期限は1週間。
・申請すれば延長も可。ただし、最長3日。
・自己リレーは作品投下後、1週間は禁止。ただし、書き手が豊富な時はなるべく自重しましょう。
・作品投下後の予約は24時間禁止。
・明らかな矛盾点を指摘された場合は修正しましょう
6名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:49:43 ID:/8dG84y10
【首輪と禁止エリア】
参加者は全員、ロンによって首輪を取り付けられている。
首輪は、三つの条件で命を奪う。
一つ目の条件は、首輪に過度の衝撃を与える事。衝撃を感知すれば、即座に作動する。
二つ目の条件は、禁止エリアに入る事。足を踏み入れれば、二十秒で作動する。
三つ目の条件は、主催に歯向かった場合、ロンの意思で作動する。

また、参加者には説明されないが、首輪には盗聴機能があり音声・会話は全て記録されている。

【書き手のルール】
・予約禁止事項
 ひとりリレーを防ぐため、投下した書き手は、投下終了から二十四時間一切予約禁止、投下作品に出たキャラは更に百二十時間禁止
・トリップ
 投下後、作品に対しての議論や修正要求等が起こる場合があります。
 書き手は必ずトリップをつけてください。
・トリップの付け方
 名前欄に#(半角)に続けて適当な文字列を入れて下さい。
 「◆NdQ0UM」(例)のように、文字列に対応したIDが表示されます。
・投下宣言
 投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には 「投下します」 と宣言をして下さい。
 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
・キャラクターの参加時間軸
 このロワでは登場キャラクターがいつの時点から召集されたかは「そのキャラクターを最初に書いた人」にゆだねられます。
 最初に書く人は必ず時間軸をステータスにて明言してください。ステータスについては下記。
・ステータス
 投下の最後にその話しに登場したキャラクターの状態・持ち物・行動指針などを表すステータスを書いてください。
7名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:50:19 ID:/8dG84y10
【キャラクター名】
【○○日目 現時刻】
【現在地】
【時間軸】:ここはキャラの登場時間軸。できるだけわかりやすく
【状態】:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
【道具】:(変身アイテム、ランタンやパソコン、治療道具・食料といった保有している道具はここ)
【思考・状況】(ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)

【基本ルール十ヶ条】
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
8名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 22:51:03 ID:/8dG84y10
以上テンプレ貼り終了。
テンプレ作成者様GJ!です。
9名無しより愛をこめて:2009/03/12(木) 23:25:06 ID:/8dG84y10
GJ!!です。
ついに、シオンの信念が裏目に出る事にorz
正義の味方らしく、誰かを守って散っていった二人の死に様がかっこ良かった!!
特に、果たす事は出来ませんでしたが、自分の命と引き換えにネジブルーを打ち倒そうとしたドギーには痺れました。
冒頭でいったい誰が!?と引き込まれ、中盤のコンビ漫才に和み、そしてバトルには釘付けになりました。
シリアスとギャグのバランスが素晴らしかった! もう一度GJです!

それにしても、邪悪なタイムブルーは恐ろしい…
10名無しより愛をこめて:2009/03/13(金) 08:53:37 ID:tQTb+gMyO
投下乙でした!
そしてスレ立て乙です!

GJ!
いきなりクライマックスな描写!
そして始まる戦いに、どちらが倒れるのか解らない展開に脳汁でまくりましたw
もうまさにこれはSSのファイナルデッドコースター!
面白かったです。
GJでした!!
11名無しより愛をこめて:2009/03/13(金) 19:42:38 ID:oJqg9fOe0
恭介、ドギー追悼……。
本編の超主要キャラが二人も……。
レーサーを夢見たタイムブルーが同じくレーサーを夢見る恭介を殺害……。
まさかあの恭介があんな死亡シーンを遂げるとは。

そして、マジレンに引き続きデカレンもリーチ!
頑張れ変態さん!
12名無しより愛をこめて:2009/03/18(水) 16:28:28 ID:vsoOAwcm0
もう一年以上経つんだな…。
13名無しより愛をこめて:2009/03/19(木) 14:49:47 ID:55e+L0Ix0
竜也がなんとなく空気だ。
目立った戦闘はメレ戦くらいで変身もしてないし。
ドモンやブクラテスに不審を抱くことがあっても関係者がマトイしか死んでないし。
竜也は今後も死ぬ気がしない。
マーダー化するかも微妙だし。
14名無しより愛をこめて:2009/03/19(木) 19:26:09 ID:CgBu8Uf90
大丈夫。
同じくスポットライトがイマイチ当たってなかった恭介もこの前、思いっきり輝いていたじゃないか。
15名無しより愛をこめて:2009/03/19(木) 23:13:09 ID:FSjnoYyx0
レッドはそんなに戦闘に参加してない、全体的に。
実はチーフも鎧と小競り合いしたくらいしか戦ってないし。
16名無しより愛をこめて:2009/03/19(木) 23:45:46 ID:qeZjRa0TO
レッド達は案外、戦う機会に恵まれ(?)なかったからね。
でもまあ、チーフは人の集まる都市部に入ったし、
竜也はマーダーが2人いる森に向かってる。
これから。これから。
17名無しより愛をこめて:2009/03/20(金) 10:24:15 ID:7NEGlxUG0
ぬぎぬぎビームガン@激走戦隊カーレンジャーまだ〜?
18名無しより愛をこめて:2009/03/20(金) 17:28:12 ID:l9lHt0l40
そ、それはもしやガイやグレイにあてろと?ゴ、ゴクリ
19名無しより愛をこめて:2009/03/20(金) 20:52:24 ID:7NEGlxUG0
いや、さく(殴
あとは、菜(殴
でも、変身解除させるために使えるかも。
20名無しより愛をこめて:2009/03/20(金) 21:43:19 ID:l9lHt0l40
逃げろ!>>19!!
そっちに菜摘とおぼろさんと美希さんが向かったぞー!!
2119:2009/03/21(土) 12:43:35 ID:wVt/AWI10
しまった!抜いてたのがバレた!!
三人とも怖すぎだ!
22名無しより愛をこめて:2009/03/21(土) 18:22:45 ID:wo4Ctar3O
なんか一人足りない気がする……w
23名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:32:39 ID:R86MbjnM0
代理投下いきます!
24シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:33:37 ID:R86MbjnM0
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
 絶叫を上げ、シグナルマン・ポリス・コバーンは全力で走っていた。
(すまないスモーキー。待っていてくれ、菜月ちゃんはきっと本官が見つけ出す)
 実際は違うのだが、スモーキーから愛想をつかされたと思ったシグナルマンは、失われた信頼を取り戻すため、東へとひた走る。
 森林が広がるそこは道などあってないようなものだが、茂る木々を掻き分け、飛び出る枝を飛び越え、邪魔な岩を粉砕し、シグナルマンはとにかく走る。
 その結果、シグナルマンは――
「ぬぉっ!」
 ――何かにぶつかって、盛大に吹っ飛ばされた。
 背中をしたたかにぶつけるが、痛みの呻きより先に別の言葉が口を出た。
「ぬぬぬっ、まさか、本官としたことが前方不注意を……」
 悲鳴より自戒の言葉。流石は交通ルールを遵守するシグナルマンである。
「しかし、本官は何にぶつかったのだ?」
 シグナルマンの前方には特に障害物らしきものは見当たらなかった。
 不思議に思いながらも立ち上がり、今度はゆっくりと歩いて行く。
 慎重に少しずつ。すると、右手が何かに当たった。
「これは……」
 そこには見えないが、確かに何かが存在していた。
 手探りでそれが何なのかを確認すれば、直ぐに結論が導き出された。
 それとは『壁』だ。
 手触りはまるでアクリル板のように滑らかだが、硬度はシグナルマンの全力の体当たり(?)にも動じることなく、蟻の入る隙間すらない。
 全体像は不明だが、少なくとも、シグナルマンの手の届く範囲は全てが壁で覆われている。
 目の前には未だ途切れることのない森林が広がっているというのに、これ以上、進むことは叶わない。
「ぬぅー、見えない壁とは」
 その発見にシグナルマンは一頻り唸る。
「誰だ、こんないたずらをしたのは!」
 いや、その突っ込みはおかしい。
「まったく」
 憤慨しつつも折角止まったのだからと、シグナルマンは現在地を確認する。
25名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:34:40 ID:t4ZnF0WXO

26シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:35:50 ID:R86MbjnM0
 壁のことはいたずらで流すようです。
「えっと、ここがああで……、あれがこうだから……。うん、ここはC10エリアだ」
 確認しておこう。シグナルマンはC4エリアからひたすら東へ進んできた。ひたすら東にだ。
 つまり――
「…………す、進みすぎたぁ!!!」
 ――ご名答。
「いい加減にするニャー!!!」
「ぬわぁっ!」
 ディパックから飛び出たスモーキーのアッパーカットが鮮やかに決まった。
 シグナルマンは脳を揺らされ、再び、大地へと身体を埋める。
「な、何をするスモーキー」
「何をするじゃないニャー。いきなり凄いスピードで走り出して、グラグラグラグラ揺らされて、やっと止まったかと思えば、全然違う場所に来てるなんて、どういうことニャー」
「それは…………、あぁっ、スマン」
 シグナルマンはスモーキーの信頼を取り戻すため、菜月を探しに来たと、本音を言おうとするが、それは言い訳になると、口を噤み、素直に頭を下げる。 
 一方のスモーキーも、素直に謝られると一発入れた手前、これ以上、怒れない。
「まったく、ダンナと違って、どうしようもない奴にゃ」
「旦那?スモーキーくん、君には夫がいるのかい?」
「そんなわけないにゃいだろ、ダンナというのは天空聖者のサンジェル。ここにはヒカルっていう名前で……うにゃ?」
「どうしたスモーキー?」
 ふと思えば、数時間も一緒に行動しているというのに、ほとんど情報交換を行っていないことに気付くスモーキー。
 シグナルマンだけではなく、竜也とも、菜月とも。ブクラテスはまあいいとしても、いつ離れ離れになるかも判らない状況ではこれは色々と不利なのではないか。
「そういえば、ここに来てから何も説明してなかったにゃ。いい機会だから、ちょっと話すニャー」
 スモーキーはヒカルがどのような人物かをインフェルシアとの戦いの日々を交えて、シグナルマンに説明する。
 多少は端折ってはいるが、ヒカルがどのような人物かを知るには充分な情報量だ。
「と、いうわけで、ダンナは凄い奴なんだにゃ」
「ほぉ、それは是非とも会って見たいな。共に正義のため、戦えるはずだ」
「そうにゃ。なのに、なんであんにゃ」
27シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:38:23 ID:R86MbjnM0
 スモーキーの表情が暗く沈む。
 彼の脳裏に浮かぶのはメメの鏡の破片で見た誰かを刺し貫くヒカルの姿。
 相手がインフェルシアのような極悪人だった可能性もある。いや、むしろ今までのことを考えれば、そう考える方が自然だ。
 だが、この場が持つ独特な雰囲気のようなものが、スモーキーの心にわずかな疑念を残していた。
「?、どうしたスモーキー」
「な、なんでもないにゃ。まっ、お前はダンナと違って、一人じゃなーんにもできそうにないし、黄色いのに輪にかけてボケボケのようにゃから、おいらがフォローしてやるにゃ」
 スモーキーは気持ちを切り替えると、憎まれ口を叩きながらも、シグナルマンへの協力を言葉にする。
 その言葉を、信頼を失ったと思っていたシグナルマンは、仲直りの言葉として捉えた。
「す、スモーキーくん」
 涙ぐんだような声を上げ、感激するシグナルマン。
 スモーキーにして見れば、マジランプに引き篭もっていたのは、メメの鏡で見たヒカルの姿にショックを受けていたからなので、ここまで感激される謂れもない。
「か、勘違いするにゃよ。本当は嫌だけど、お前が不甲斐ないから仕方なくにゃ」
「うんうん、それでもいい」
「ったく、やれやれだにゃー」
 相変わらず言動が読めないシグナルマンに、スモーキーは嘆息するのであった。

28名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:38:51 ID:t4ZnF0WXO



29シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:39:15 ID:R86MbjnM0


「いいか〜、しっかりと周りを確認しながら、戻るんにゃぞ」
「うむ、任せてくれたまえ」
 スモーキーの指示を受け、シグナルマンは元来た道を戻っていた。
 ただし、今度は慌てず騒がずゆっくりとだ。
 気付けば、ブクラテスたちと分かれてから、それなりに時間も経った。
 あの時は北東でも、進み続けていたと仮定すれば、今のエリアも充分、探索の範囲内だ。
 とはいえ、治療を終えた竜也たちが捜索を開始したり、菜月が気が変わって戻ったりしている可能性もある。
 結論として、スモーキーは竜也たちがいる場所に帰りつつ、菜月を探すことにした。
「こんなとき、通信機のひとつでもあれば、便利にゃんだが」
「うむ、本官もそれは考えたが、どうやら通信機の類はここら辺じゃ使えないらしい。本官のシグナイザーもシグナルホイッスルもまるで反応がない」
「これもあのロンって奴の仕業かにゃ。というか、ここは一体どこにゃ?マルデヨーナ世界じゃないみたいにゃけど」
 あれやこれやと話している内に足は進み、シグナルマンたちはC8エリアまで戻っていた。
 そこで、シグナルマンたちは妙な場所を見つける。
「なんにゃこれは」
30名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:39:31 ID:t4ZnF0WXO

31シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:40:36 ID:R86MbjnM0
 森と地図には書かれているというのに、木々はなく、まるでクレーターのような大きな窪みがそこにはあった。
 だが、注意深く地面を見れば、木々が埋まっていることがわかる。
 つまり、ここは地図が示す通り、森であったが、何者かの力でこの有様に変えられてしまったのだろう。
 そのことに気付いたスモーキーは、底知れる力の持ち主の存在に恐怖を覚える。
「まったく、今度は自然破壊か。自然は大切にしなければ駄目だぞ」
(……こいつは馬鹿なんだか、大物なんだか)
 まったく物怖じせず、クレーターへと降りていくシグナルマンに、スモーキーは怖がっている自分が馬鹿らしく思えた。
「うん、あれは……」
 クレーターの真ん中、倒れ伏す男の前で、座す男が一人。
 地球の住人ではないことはその青白い肌を見れば一目瞭然だった。
 しかし、その格好はどことなく昔の日本人、侍が着ていた衣服に似ている。
「おーい!」
 まったく警戒せず男に声を掛けるシグナルマン。
 いい加減、シグナルマンのマイペースっぷりにも慣れてきたスモーキーも、その行動には慌てて口を挿んだ。
「ちょっ、大丈夫かにゃー。あいつ、いかにも悪人ですって、顔してるにゃー」
「何を言う、スモーキー。人を見た目で判断しちゃいけないぞ。
 それにあれを見たまえ、きっと傷を負った友人を介抱しているのだろう。悪人ならそんなことはしない」
 メレを埋めるシグナルマンを殺人鬼と誤解した前科があるだけに、スモーキーは何も言えなくなる。
 それを肯定ととったシグナルマンは男へと接近していく。
 近くで見れば、倒れ伏す男には治療の後があった。ちゃんと息もあるようだ。
「本官の名前はシグナルマン・ポリス・コバーン。こっちは本官の仲間のスモーキーだ。君の名前は?」
「剣将ブドー」
「ブドーくんか。この人は、君が守っていてくれたのか」
「うむ。拙者が着いた時にはもうこの有様だ。余程の激戦だったのだろう。この男がこれほど無防備に眠るとは」
 ブドーは嘆き、ゆっくりと立ち上がると、シグナルマンを正面から見据えた。
「……貴殿に頼みたいことがある。この男の治療を頼みたい。そして、伝えて欲しい。今から6時間後の4時44分、E9エリアで待つとな」
「うむ、わかった」
32名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:40:47 ID:t4ZnF0WXO


33シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:41:43 ID:R86MbjnM0
 真剣なブドーの表情にあっさりと了承の返事をするシグナルマン。
 だが、スモーキーはそれで済ませるつもりはない。
「ちょっと待つにゃ。お前、そんなところに呼び出して、何をするつもりにゃー?」
「知れたこと。その男と決着を着ける」
「そ、それはどういう……」
「殺し合いをすると言ったのだ」
 息を呑むふたり。ようやくシグナルマンは対峙する相手が友好的ではないことに気付く。
「拙者は殺し合いに乗り、優勝を目指しておる。勝つためにはいかなる手段も講じ、いかなる者の命乞いも聞かぬつもりだ。
 だが、たったひとつのしこり。その男、理央だけは中途半端な決着は望まん!理央を超えるために拙者は新たな力を手に入れたのだ!
 この折は今の拙者の力と理央の力、どちらが上かはっきりと確かめねば、拙者の気は済まん!!」
 ピリピリとしたブドーの気魄にふたりは気圧される。
「わかったら、とっとと行くがいい。それまでお主たちの命は預けておくとしよう」
 ブドーは踵を返し、その場から去ろうとする。
「待て!本官はそんなこと認めん!」
 ブドーの歩みが止まる。
「ほぉ、拙者の頼みが聞けんと申すか」
「その通りだ!理央くんの治療は請け負おう。だが、君に殺人を侵させるわけにはいかない!」
「ふっ、笑止。既に拙者は何人もの人間を切り捨てておる。この場にても既にふたり。今更、止められる謂れもない」
「ならば!本官は君を逮捕する!!」
 シグナルマンはシグナイザーを取り出し、ポリスバトンモードにすると、ブドーに向けて構える。
「ふっ、よかろう。少し、相手をしてやる。来るがよい」
 ブドーは身体をシグナルマンの方へと合わせ、闇の三ツ首竜を構える。
「とわぁ!」
 シグナイザーによる打撃が次々と打ち込まれていく。しかし、ブドーはその攻撃を完全に見切っていた。
 全ての攻撃を紙一重でかわしていくブドー。
 当たらない攻撃に苛立ち、シグナルマンの攻撃が自然と大振りになっていく。
「体術は認めよう。だが、その程度の実力では拙者を逮捕するなど、夢のまた夢」
 ブドーはシグナルマンの懐に潜り込むと、その腹に掌打を打ち込む。
 怯むシグナルマンに続けて足払いを放ち、シグナルマンのバランスを崩した。
 そして、そのまま、首を掴むと強引に大地へと組み伏す。
34シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:43:06 ID:R86MbjnM0
「言っておくが、まだ、拙者は実力を発揮しておらぬ。お主はどうなのだ?全力で戦っておるのか?」
「くっ!」
 シグナルマンはシグナイザーをガンモードにして放つ。
 ところが、その攻撃もブドーに察知され、腕を握られ、軌道を変えられる。
「どうやら全力のようだ。それならば、さて、どうするか。この程度の実力しかないものに、理央を託していいものか?」
 シグナルマンの首を絞める手に力がこもる。
 あまりに弱い者に理央を託し、通りすがりのマーダーにでも殺されるようなことがあれば困るのだ。
 ブドーの目利きでは、シグナルマンはそれなりの使い手だと思ったのだが、実際に拳を交わすとそうでもない。
 制限中かとも思ったが、それならばそんな状態で自分を逮捕しようとしたりするだろうか。
(制限を知らぬという可能性もあるが……他の誰かにするか?)
 更にブドーが力をこめようとしたその時、おたけびを上げたスモーキーがブドーへと突進する。
「にゃーーー!」
「ぬっ!?」
 スモーキーのキックが、シグナルマンの上からブドーを引き剥がす。
 だが、それだけでは終わらない。スモーキーは頭突きやひっかきでブドーへと追撃を行う。
「今にゃー。今の内に逃げるにゃー!」
 スモーキーの言葉は当然、シグナルマンに向けたものだ。
 それを聞いたシグナルマンは立ち上がると、素早く逃げ――
「これでも喰らえ!」
 ――るわけはなかった。
 地面に投げつけられたけむり玉がその場に盛大な煙幕をつくりだす。
「スモーキー!逃げるぞ!!一緒にだ!!!」
「わかったにゃー」
 スモーキーはブドーへの攻撃を止めると、煙に紛れ、その場からの逃走を試みる。
「ふっ、甘い」
 だが、今のブドーに煙幕など通用しない。
「ぐわぁぁっ!!」
 煙幕の中から誰かの悲鳴が上がった。
 ブドーではない。スモーキーではない。理央は気を失っている。
 ならば、その声の主はひとりしかいない。
35名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:43:35 ID:t4ZnF0WXO



36シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:44:27 ID:R86MbjnM0
「シグナルマン!」
 風が吹き、煙幕がその効力をなくす。
 スモーキーが眼にしたものは、ブドーの足元で倒れるシグナルマンの姿だった。
「す、スモーキー」
 ブドーの手にはゲキセイバーが握られ、シグナルマンの腹には真一文字の打撲痕が刻まれている。
 煙に乗じて、ブドーが打ち込んだのだろう。
「峰打ちだ。言い方を変えよう。これは頼みではなく、命令だ。理央を治療し、拙者の元へと連れてこい。
 さもなくば――」
 ブドーはゲキセイバーの刃を返し、シグナルマンの首へと添えた。
「――この者の命はない」
「シグナルマン……」
「お主の実力、見事であった。この者より余程骨がある。どうだ、やっては貰えぬか?」
「断るんだ、スモーキー……犯罪者の要求を呑んじゃないけない。――ぐわぁっ!」
 ブドーはお前には聞いていないと言わんばかりに、無言でシグナルマンを踏みつける。
「さあ、どうする?」
「ひとつだけ、条件があるにゃー」
「ほぉ、言ってみろ」
「理央とかいう奴を連れていくのはシグナルマンにして欲しいにゃー。人質にはオイラがにゃるから」
「スモ――ごほっ!」
 また、何事か言いそうなシグナルマンに蹴りを入れ、ブドーは黙考する。
「スモーキーとやら、お主から見て、この者の実力はどれほどなのだ?ひとりにして大丈夫なほどの実力なのか?」
「正直言って、わからないにゃー。ここに来てから、シグナルマンの戦いを見たのは今が初めてにゃー」
「初めて。しからば、この者は制限中ではないのにこの程度ということか。拙者の目利きも落ちたものだ」
 スモーキーの提案をはねのける言葉を口を開きかけたところで、スモーキーから再度、質問の声が上がった。
「制限、制限って何にゃー?」
 スモーキーの問いに答えを返すブドー。本気を出せるのは10分間、その後、2時間程度の制限が自らに適用される。
 それを聞いたスモーキーは、何かが引っ掛かった。
「ちょ、ちょっと待つにゃー。えーと、えーと」
37名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 10:44:42 ID:t4ZnF0WXO


38シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:46:35 ID:R86MbjnM0
 必死に考えるスモーキー。この2時間で一体何があったかを。
「あーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「どうした、いきなり?」
 突然スモーキーが上げた大声に、ブドーも困惑顔だ。
「そのー、たぶん、シグナルマンは制限中にゃー」
「何!命を乞うために嘘を吐いているのではないだろうな」
「違うにゃー。1時間半ぐらい前、オイラがディパックに入ってある間、こいつが凄いスピードで走り出したことがあったにゃー。
 たぶん、その時、シグナルマンは本気で走ってたんだにゃー」
 スモーキーの推理通りだった。
 シグナルマンはC4エリアからC10エリアに向かうとき、持てる力の全てを使って走った。
 そのため、彼には2時間の制限が化せれていたのだ。
「ふっふっふっ、なるほど、敵もいないのに本気で走って制限を受けたのか。
 ふっふっふっ、はっはっはっ。よかろう。貴様の条件、呑もうではないか」
 シグナルマンの行動が余程、愉快だったのだろう。
 ブドーはシグナルマンを解放し、彼から距離を取る間、ずっと、忍び笑いを続ける。
(ふぅー、助かったにゃー)
 スモーキーはブドーに必要なものがあると断りを入れると、シグナルマンのディパックからマジランプを取り出す。
 これがないと、スモーキーは3時間の後、消滅してしまう。
「さて、行くぞ」
 スモーキーは頷くと、ブドーの元へと向かおうとする。
 だが、その足をシグナルマンが掴んだ。
「にゃ!」
「待て、スモーキー……行くんじゃない」
「何を言ってるんにゃー、聞いてたにゃろ。今のお前は制限中で、戦いは無理なんだにゃー」
 ブドーを見れば、ゲキセイバーに手を置いて、こちらをじっと見てる。
 スモーキーの背中に冷や汗が浮かんだ。
 今、もう一度、ブドーの機嫌を損ねれば、今度こそ、シグナルマンの命はない。
「本官は、本官は負けない。もう君の信頼を失くしたりしたくないんだ」
 シグナルマンは涙交じりの声を上げつつも、シグナイザーを杖代わりに立ち上がる。
 その姿にスモーキーの決心は固まる。
39シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:51:31 ID:R86MbjnM0
「にゃめんなよ、シグナルマン。誰が助けて欲しいって言ったにゃ」
「スモーキー……」
「もうやめにゃ、やめ。ネコ被るのお終いにゃ。このままじゃオイラまで殺されてしまうにゃー。
 オイラはな、お前たちの殺し合いを促進するためにロンに送り込まれたんだにゃー。
 だって、オイラは支給品。最後の一人まで殺し合いをしなきゃいけないお前らと違って、ロンの言うことさえ聞いてれば、生き残れるんだからにゃー」
「スモーキー、何を言って」
「よく考えてみるにゃー。
 本当に黄色いのが心配で追おうと言い出したと思うにゃ?
 本当にあの爺さんが気に入らないからって、逆の方に向かったと思うにゃ?
 違うにゃ。本当は徒党を組んだお前らを離れ離れにするのが目的にゃ。
 折角、旨く言って、ロンに誉められると思ったのに、ぶち壊しにするんじゃないにゃー!!」
 シグナルマンの表情に絶望の色が浮かぶ。
「そら、わかったら、さっさと……さっさとその手を離すにゃー!お前なんて、目障りにゃー!!!」
「うぅっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 シグナルマンは絶叫を上げると、スモーキーから手を離す。
 スモーキーはシグナルマンの姿を寂しげに見つめつつも、ブドーと共にその場から去って行った。



「口から出任せにしては旨くいったものだ」
「気付いてたのかにゃ。って、当たり前か」
 ブドーにはスモーキーの思惑などお見通しのようだ。
 もっとも、こんな演技で騙される者はそうはいないだろう。
 それこそ馬鹿が付くほどの正直者か、融通のきかない堅物でもない限り……
「よいのか?ここは戦場。これが今生の別れになるやも知れんぞ?」
「へっ、どの口がそれを言うにゃ」
「ふふっ、違いない」
 ブドーは薄く微笑うと、今度はその竜の力を試すべく、獲物を求めて南へと向かった。
40シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:52:13 ID:R86MbjnM0
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。かなり凹み気味。30分程度能力制限中。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:理央の治療。
第三行動方針:菜月を探す。その後、竜也たちと合流。
第四行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第五行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限に気が付きました。

【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。深く無防備に眠り込んでいます
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを探す。
※大体の制限時間に気付きました。
41シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:53:19 ID:R86MbjnM0
【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。闇の力により戦闘力増幅。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー 
 手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン、闇の三ツ首竜@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー、予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)
 マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、真墨の首輪、支給品一式(ブドー&バンキュリア)
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:理央の治療を待ち、決着をつける。(4時44分、C9エリアにて)
第二行動方針:理央の治療を待つ間、適当な獲物を狩り、実力を試す。
第三行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。
※闇の三ツ首竜により力が増幅しています。

【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。マジランプの中。2時間程度能力制限中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:ブドーの猫質
第二行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す。
※落ちていたメメの鏡の破片(粉砕)によってヒカルがサーガインを刺したのを見ています。
42シグナルマンも走れば・・・ ◇i1BeVxv./w代理:2009/03/22(日) 10:55:48 ID:R86MbjnM0
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項、ご感想などがあれば、お願いします。

以上、代理投下終了です!
43名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 11:33:54 ID:t4ZnF0WXO
投下GJです!
シグナルマン何やってんの!w(制限的な意味で)
それにしても、制限下でブドーとそれなりに渡り合うとはやるな、シグナルマン。
さすが、やる時はやる単身赴任!
緊迫した状況下でありながら、シグナルマンとスモーキーのボケとツッコミに和みました。
いぶし銀のブドーもかっこよかった!
面白かったです!GJ!
44名無しより愛をこめて:2009/03/22(日) 15:17:54 ID:Mp3EVdkrO
投下&代理投下乙です。

どんだけ全力で走ってんだよ!
シグナルマン、マジで吹いたわw
主を変えたスモーキーと戦いを貫くブドー。
各人見せ場あり面白かった!
GJ!
45名無しより愛をこめて:2009/03/23(月) 13:13:22 ID:xj0irBbD0
>>22
メレは理央さまのものだ!
46名無しより愛をこめて:2009/03/23(月) 22:21:10 ID:7L5ILG500
面白すぎだろシグナルマンw
作者さんGJ!
47名無しより愛をこめて:2009/03/24(火) 11:41:01 ID:DPUm5TDo0
◆i1BeVxv./w氏が三連続で投下。
このロワのエースに拍手。
48名無しより愛をこめて:2009/03/25(水) 08:17:56 ID:TSmqnG9DO
>>47
ノシ
感謝と最大限の賛辞を込めて
49黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:54:12 ID:y4ZEvh7R0
>>47
ノシ
遅ればせながら尊敬の念と感謝を込めて。
俺も拍手です。


大幅に遅くなって本当に申し訳ありません。
連絡も入れられずにすみません。

真咲美希、クエスターガイ、投下します。
50黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:54:41 ID:y4ZEvh7R0
4キロ四方のマスが10×10。
その中にブチ込まれた総勢42人。
四方八方に飛ばされ出合う確立は、そう高くない。
だが確立に加え、持って生まれた不確定要素。
すなわち『運』などと呼ばれる不確かな物の作用により、出合いといういわば奇跡の確率は格段に上がっているのだとしたら。





ここはH-7海岸エリア。
クエスター・ガイはJ-10エリア叫びの塔を目指しG-6からマップ上を右斜下方向へ進んでいた。
まず採石場エリアに辿り着く。
採石場へ向かえば掘削機ぐらいの代物はあるはずだ。
それが見つかれば乗り物か装甲車に改造できるだろうとガイは考えていた。
ゆえに、このエリアは通過地点。
時間的にも体力的にも、誰にも合わず採石場へ辿り着くのが、ガイにとってベストだった。
しかし……。
今、ガイの視線の先には『黒いスーツの女』がいる。

(まったく、これで何人目だぁ?)

開始から半日あまり、ガイはこの半日でかなりの人物と出合っていた。
『黒いスーツの女』を入れると延べ人数で10人。
マップの広さと参加人数、経過時間、移動距離。どこから弾き出しても高確立で誰かと遭遇した計算になる。
時系列順でいけば、まず最初に『緑の姉ちゃん』、『けむり玉のヤロー』、『青の女とガキ』、そして『ボウケンブルーと青い服の女』。
と、青が連続来た後で、もう一回『緑の姉ちゃん』。
その次が……。
51黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:55:45 ID:y4ZEvh7R0
次は『ボウケN――――ピくぁwせdrftgyふじこ』

(あーーーーーーーーーーーーッ!!!)

ガイは声に出さず首を振り、その女の存在を意識から切り離した。
あんな女のために、あんなくそったれな回想で、せっかく乗ってきた気分を潰すのは勿体無い。
第一、次に出会った『ネジブルー』の時さながら、自ら出した大声のせいで無駄に逃げる羽目になるなんてのもごめんだ。
何とか無事にネジブルーから逃げられたが。
……。
ゴミ袋の山に突っ込んだおかげで全身に腐臭が漂っていた。
おまけに肩や腕の装甲に破れたビニール袋が纏わり付き、無様さを一層彩っている。
こんなゴミまみれでは、鬼神か奇人かわかったもんじゃない。
ガイは右腕の装甲に絡まったゴミ袋の切れ端を長い爪で取り除こうとした。

(痛ァアアッ!)

表面的には傷は塞がりかけている。
傷口から滲み出た体液が錆のように固まり始めていた。
だが、身動きするたびに身体の深い奥で痛む。

(あぁ〜。マジやべぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!)

マジでやばいのはガイの身体だけのことではなかった。
ガイの視線の先、数メートル先のビルの前に立つ女。
ここまでの出合い延べ人数10人目に当たる参加者。自分の返り血で真っ赤になった『黒いスーツの女』を含む。
『黒いスーツの女』は、いわゆる『逝っちまった眼』で、拳を砕かんばかりの勢いで壁を叩きつけていた。
ガシュッ!
ガシュッ!!
女の拳から骨の潰れる鈍い音がした。
それでもまだ恨みがましくロンの名を叫び続けながら、女は拳を壁に叩きつける。
52黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:56:28 ID:y4ZEvh7R0
ボウケンレッドの口癖を真似て言うなら、こいつはちょっとした見物だった。
ガイはアシュとして人類を滅ぼす目的を持つ者。
人間が苦しみ悶える姿を見るのはいい気晴らしになる。
ガイはコンクリートの壁に背持たれたまま女の様子に見入っていた。

(ぎゃはははは、面白ぇ!)

足止めを食らった分はお釣りが出るほど笑った。
フラフラになり自滅しそうな女の姿を見て、殺し合いを仕組んだロンに共感さえ覚えた。
もしかして『黒いスーツの女』が回復薬を持っているかもしれないという淡い期待もあった。
戦えないガイにとっては、退屈しのぎのついでにアイテムが手に入れば言うことはない。
グシャリ!
壁を叩く拳が鈍い音を立てた後、女はワントーン声を下げた。

「ひっ……。ひぃぃッ〜……」

泣きじゃくりながら頭を抱え蹲り、長くか細い嗚咽を漏らし始める。
時折、嗚咽に混じり『ナツメ』と声が聞き取れる。
参加者にナツメはいない。
と、なるとここ以外の場所で死んだか、殺されたか。
女はロンに嵌められ、そのやり場のない憤りを壁にぶつけているようだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!!!」

女が両手で顔を押え、叫んだ。
おもむろに立ち上がった女は首の辺りを必死にまさぐり、首と首輪の隙間に細い指を引っ掛けた。

(お、死ぬ気か?死ぬならさっさと死ねよ♪ババァ)

ガイの身体に力が入る。
最高の見せ場を見逃すかと、自然に前に身体が動いた。
53黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:57:20 ID:y4ZEvh7R0
が、女はそのまま動きを止めた。

(あぁ?何だ死ぬんじゃねぇのかよ)

落胆のため息を漏らした瞬間女が動いた。
くるり。
首だけを動かし女が振り向いた。
その視線は、確実にガイを捕らえていた。





拳が砕けるほど壁を殴りつけても、泣き叫んでも、頭の中に響くロンの声を消すことが出来ない。

『殺害数トップですよ』
『ママが私のためにいっぱい人を殺してくれて嬉しいって』
『ナツメのためにやった。その免罪符が虚構だった』
『このまま殺戮を続け、優勝を目指しても結構です』
『優勝を目指しても結構です。勿論、その逆もね』

美希は発作的に首輪を掴んでいた。
その瞬間だけ頭の中からロンの声は消え去り、ただ真っ白だった。
白は死に対する願望の現われ。
その白に溶け込むこと、死を、美希は望んだ。
だが、首輪を引きちぎろうとする指は自ら流した血で滑り、再び掴もうと触れた喉元は滑稽なほど震えていた。

死ねない。
今更どうすればいいのだ。
ロンが憎かった。為す術もなく、死ぬことさえ出来ぬ美希自身と同じぐらい憎かった。
54黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:58:30 ID:y4ZEvh7R0
もう、おぼろや蒼太の元へも戻れない。
纏を殺し、ティターンを殺し、瞬を見捨てた美希を誰が受け入れる?
ネジブルーやジルフィーザ、ドロップにも美希のスタンスは知られている。
新たにロンに対抗する仲間に出会ったとしても、どこかで、きっと糸が解れるように自分の罪が露わになるだろう。

美希には力も何もない。一人ではロンを倒せない。
ロンは、手と手を取り合って力を合わせ、立ち向かっていくべき強大な敵だった。
その敵に向かって美希は、差し伸べてくれた暖かな手を貢ぎ物として捧げた。

『このまま殺戮を続け、優勝を目指しても結構です』


――――――そう、死ねないのなら、最後まで続けるしかない。すべて白紙に戻すために。

それは美希の中で生まれた自己防衛機能。
三人もの命を奪った自分に対する怒り、絶望、得体の知れない恐怖。
受け入れがたい現状を否認し、リセットするという逃避によって心の均衡を保とうとした。

美希の真っ白だった頭の中に色が戻りつつあった。
自分で命を絶つ最後の時を逃したと、美希は認識した。
自ら選んだ未来へ対する絶望と自己嫌悪。
その二つと同時に美希を包んだのは、鼻を突く異臭だった。
完全に虚を付かれた美希の動作が反射的に止まる。

(ゴミ……?何で)

異臭は幻臭ではなく現実に美季の鼻を掠めた。
美季の目つきが鋭く光り、サーチライトのように異臭の源を探る。
後!
振り返った瞬間、見つけた。
コンクリートの影で落胆したように肩を落とした男を。
55黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 20:59:53 ID:y4ZEvh7R0
潔く死ぬことすら出来ない自分を、影で笑っていたのはすぐ想像できた。
見られていた。
影で嗤っていた。ゴミのような男。
こそこそ見ていたのは制限によるためか、もしくは漁夫の利を狙い、隙を見て支給品でも奪うつもりでいたのだろう。

(醜いわね)

そう思う反面、自分とて同じように醜いと思った。
いや、美希こそがもっと醜悪な化け物なのかもしれない。
参加者中殺害数トップ。このゴミのような男でさえ美希には及ばないのだ。

「なんだよ。死ぬんじゃねぇのか?」

男は酷くつまらなさそうに言った。そのまま背を向け歩き出す。
軽く引きずったような右脚と傷だらけの背中。
激しい闘いには耐えられない。ライフはゼロだと背中が語る。
その背に向け美希は言葉を返す。

「いいえ、まだ死なないわ。ゴミの処理を忘れていたの」

ただのゴミ。これはただのゴミ掃除。
56黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:00:26 ID:y4ZEvh7R0
殺したところで心も痛まない。

「ハアァァァァァァァァッーーーー!!!!」

叫びながら美希はスタッグブレイカーを振りかざし男へ走り寄った。

「殺し合いに乗ってるんならそういえよ!!」

男は一瞬狼狽えたが、すぐに殺気を放ち銃を取り出す。だが、遅い。

パン!パパン!!パパパン!!!

直線的な弾道は見切るのが容易い。
美希は放たれる銃弾を避けながら間合いを詰めた。
反撃の隙を与えまいと、男の胸に光る緑色の宝玉目掛けて執拗にスタッグブレイカーを繰り出す。
突き刺さるまで数センチ。
それまで、避けるだけだった男が舌打ちし美希の腕を掴んだ。
しかし、その程度の反撃は想定内。
掴まれると同時に、流れに逆らわず美希は踏み込む。

「ヤッッ!」

クロスカウンターを撃つように喉元に掌打を打ち込もうとした。

「チッ!」

もう一度舌打ちが聞こえた。
軽く身をかわされ掌打は空を切る。
体制が崩れた。男はそれを見逃さず、美希の足元を無造作に払う。
美希はバランスを崩し転がる。
転んだ瞬間、美希の視線が自分の頭部目掛けて飛んでくるキックを拾った。
57黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:01:17 ID:y4ZEvh7R0
右後方へ転身して蹴りを避け、起きあがるとバックステップで間合いを戻す。

暫時、二人は古えからの怨敵のように睨み合った。
先に動いたのは男。
突然デイバックを見せつけるように突きだし、美希に話しかけてきた。

「ナツメってヤツを殺されて死のうとしてたんじゃねぇのかよ」
「ナツメは生きてるわよ」
「何人殺ったんだ?」
「あなたよりは多いわ」
「おまえロンが憎いんだろ」
「……」
「そんで優勝も狙ってんだろ」
「フッ。あなたはどうなのよ?」
「なぁ、ならちょっと俺に協力しろよ」

男の口調はどう聞いても美希を利用しようとしているのが明白だった。
美希は男を睨み付けたまま、はーっと大きく息を吐き、バックからペットボトルを取り出し一息で飲み干した。


♂×♀


ガイは女――美希に交換条件を持ちかける。
それはアイテムの交換。
ガイが望むのは回復薬かバイクのような移動手段。
代わりに美希に差しだそうとするのは天空の花。
手っ取り早く殺し合いを促進させる天空の花に、美希は興味を持ったようだ。
58黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:02:02 ID:y4ZEvh7R0
お互いの今後のためにも、ついでといっては何だが情報交換も交わす。

「……あの娘を殺したのはあなただったのね」
「あぁ、妙な術を使うねーちゃんだった。これはそのねーちゃんの支給品だぜ」

おかげでこの有様だとでも言いたげにガイは肩を竦めながらデイバックから短剣を取り出す。
美希は無表情のまま、短剣を手に取った。

「操獣刀……」
「おい、その顔はただの剣じゃねぇって顔だな」
「獣拳神サイダインを意のままに操ることが出来る剣よ。サイダインは、元々は獣源郷にある巨大な岩の彫刻だった。
まさか、それがここのどこかにあるのかしら」
「へへっ、意のままに操れる巨大神とは悪くねぇな」
「操獣刀は選ばれ者しか使う事はできないわ。あなたには無理ね」

吐き捨てるように言った美希は、新しいペットボトルの蓋を開けグビッと喉を鳴らし美味そうに飲んだ。
そして血だらけの拳で口を拭う。
拭ったつもりが頬に血がつき、赤ヒゲのように三本、線を引いた。
ガイは笑いを堪えながらデイバックから天空の花を取り出す。

「これが天空の花だぜ。バイクはどこだ?」
「この先のエリアにあるわよ。鍵もつけっぱなしでね。詳しい場所は天空の花をJ-10エリアへ持って行ってからにしましょう」
「てめぇ、ふざけてんのか?」

美希は値踏みするようにガイのつま先から頭まで視線を動かした。
59黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:02:48 ID:y4ZEvh7R0
フッと鼻で笑い、美希は言った。

「どう、私と組まない?」


♀×♂


J-10エリアへ向かい、美希はガイの後ろを歩く。

二人が組む。それはお互いにとって悪くない話だ。
天空の花が愛を凍らせて、殺し合いが加速すれば美希は手を汚すこともない。
どう殺すか、誰を利用するか。もうそんなことを考えなくてもよくなる。
そう、しばらくはガイと組んでその様子を見守るのも悪くなかった。

ふと、美希の胸に不安が過ぎる。
でも愛が凍ってしまったらナツメはどうなるのだろう。パパはどうなるのだろう。
迷ったところでどうなるというのだ。
美希が奪った命を、見捨てた瞬を、死んだ女の子から勇気をもらったはずのドロップを、みんな元に戻すには私が勝ち残るしかないのだから。
最後まで続けるしかない。すべて白紙に戻すために。
そう決めたのだから。

何故か涙が零れた。

死ねなかった。だから最後まで……。
すべて、すべて、すべて、すべて、白紙に戻さなければ。

建物の窓に映る美希の頬は、自分の血で真っ赤な線を引いていた。
60黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:03:40 ID:y4ZEvh7R0
隣には躯も精神も真っ黒なガイが肩で風を切って歩いている。

私は狂っている。
絶望したままなら、死ねたなら、狂うことも無かった。
一筋見えた希望によって、また私は……。
今度はこの男と組んで、私はこれから何人殺すんだろう。
何人?何を馬鹿なことを。全員殺さなきゃ願いは叶えられないのに。
情けない。情けなくて、情けなくて、涙の後に込み上げてきたのは笑いだった。

「うふふふふふっ、ふふっ……。あはははっはははははっ」
「何笑ってんだぁ?!」

ガイの口調はまるで、若い頃張り倒した敵対する不良の連中とそっくりだった。
あの頃、不良少女と呼ばれた時だって美希の中に『正義』はあった。
どうして?どうしてこんなことになるのだろう?
思えば思うほど笑いが込み上げてくる。

「あはははははははは……。あはははっはははははっ!」
「だ〜ま〜れ。うるせぇんだよ」
「だって可笑しいじゃない。私の師は不闘のマスターシャーフーよ。不殺じゃないのよ。
殺すどころか闘いさえもしないと誓った拳聖よ、わかる?
あ〜はははは……。それなのに、私……。私は不闘どころか。あはははっははあはははっははははははははっ!?!?!?!?!」

不意に背中が焼けるように熱くなった。
視線を落とすと、ガイの腕が、ある。
手首が見えないのは、そこから先が腹部に突き刺さっているせいだろう。
腹部よりも背中が熱いのが不思議だった。

「んあぁ〜悪りぃ。うるさくてつい、殺っちまったぜ」

非難の言葉の一つぐらいは言ってやるつもりだった。
61黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:04:52 ID:y4ZEvh7R0
だが言葉を発する前に、喉元に何かがせりあがり激しく咳き込んだ。
押さえた手の隙間から鮮血が滴る。
ガイは汚い物を振り払うように、美希の腹部から乱暴に腕を引き抜いた。
支えを失った途端、足が震えて立っていられなくなった。
美希はふらふらと座りこんだ。
頭上からガイの声が降ってきた。

「あ〜ぁ、どうすっかな。一人じゃバイク捜すの時間かかりそうだしな」

時間を確認したガイは舌打ちした。
所在なく天空の花を弄び、思いついたように美季の頭の上にちょこんと乗せた。

「もう、おまえにやるわ。天空の花改め脳天の花なんてなっ♪ぎゃはははは!!」

下品に笑いながらガイはステップを踏むように軽やかにターンした。
興味はすでに戦利品の物色に移行しているようだ。
美希に背を向け、デイバックの中身を漁りはじめる。
鼻歌まじりに漁るその背中を、美希はぼんやりと見つめていた。

私、死ぬのね。

冷えていく身体と、暗くなる視界に美希は死を実感した。
こんなヤツに殺されるなんて……。
理不尽に命を奪ったやりきれなさなど微塵も感じない。
心も痛むこともなければ懺悔もない。後悔もない。
破壊と暴力に生のすべてをつぎ込んだ、正義など欠片も持たないヤツに殺されるなんて。

でも、当然の報いかもしれない。
62黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:05:41 ID:y4ZEvh7R0
自分も同じようなモノ。人殺しなのだから。

「ごめんね、ナツメ……」

ガクリと頭を垂れる。
頭の上に乗せられた天空の花が美紀の手の平へ落ちた。

キラキラキラキラキラ、キラキラキラキラキラ……。

失血により霞んだ視界に、ほのかな光を感じた。
美希の手の中で、天空の花が煌めいていた。

愛を凍らせるなんて嘘ね。なんて綺麗な暖かい光なのかしら。

その光から放たれる暖かさを美希は知っていた。
なつめ、パパ、マスターシャーフー、そしてゲキレンジャーと拳聖たち。
彼らの纏う暖かな光。

美希はもう一度、ガイの背中を見つめた。

最悪の選択ばかり繰り返していたように思う。
本当に倒さなければならないのは……。
最初から、本当はよく解っていた。

最後に出来るかしら。大丈夫よね。この光が見えていれば

ハイヒールの中で足の指を動かしてみる。
まだ動く。
もう少しなら踏み込めそうだ。
拳に力を入れてみる。
痛む。撃獣拳は使えそうもないか。
握力も弱い。でも両手なら、何とかスタッグブレイカーを握れるだろう。
63黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:06:24 ID:y4ZEvh7R0
寒い。呼吸も苦しい。
血を吸ったスーツは数十トンあるかのように重く感じられた。
視界に霞が掛かり、時折、意識が遠のく。
でも美季は立ち上がらなければならなかった。
せめて最後に、 僅かに残った自分の『正義』を血と共に流しきる前に……。
ガイの背中、もう今は黒い固まりにしか見えない背中に正義の鉄槌を下すために。

(ナツメ、ママ馬鹿だったね。誇れるようなママじゃなくてごめんね。でも、遠くで見守ることだけは許して)

最後の気力で立ち上がる。もはや気力だけが美希を動かしていた。
両手に握ったスタッグブレイカーを振り上げ――――――――――――



「馬ァーーー鹿!!!!気付かねぇはずね〜だろぉが!!!」



――――――――――――……え?

突然髪の毛を鷲掴みにされ、地べたに叩き付けられた。
ガイは間髪入れずに美希の頭を足で踏みつけ、そのままガシガシ地面へ押しつけた。

「バイクの場所、言えよ。頭ァ踏み潰されたくなかったらな!」

もう指一本動かす気力も残っていなかった。
元々もう痛みも感じない。
このまま頭を踏みつぶされたとしても対して苦痛もないように思う。
どうせ、言っても言わなくても潰す気なのは読めている。
64黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:07:22 ID:y4ZEvh7R0
バイクの場所を言わなかったのが、ここに来て初めて最良の選択だった。

「……ェ……Fー……9」
「Fー9ゥ〜。遠いじゃねえか」

嘘、言ってやった。
F−9にはドロップとジルフィーザがいる。
ガイはドロップを守った女の子を殺した。さぁ、馬鹿はどっちか楽しみだわ。
本当の場所は絶対に言わない。
抱きしめてあげた分ぐらいは、恩返ししてよ、ドロップ。
美希の顔に笑みが浮かんだ。
どうせ、ガイには表情なんて見えない。
笑って死んでやる。

「アバよ。ババァ」

ガイが足に力を込める。美希の笑い顔が歪み、ばきんと頭蓋骨が陥没した。
意識のスイッチもそこで途切れた。





数十分後、H-7エリア。
先程の場所から少し離れた海岸をガイは一人歩く。

「さってと、マジで回復しねぇとそろそろヤバイぜ」

ガイは少しでも身体を休めるため適当な場所を探す。
65黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:07:46 ID:y4ZEvh7R0
偶然、荒々しい岩の陰、ぽっかりと空いた場所を見つけた。

「ん?何だこりゃ。ラッキ〜。デイバック見付けちまったぜ〜」

ガイは落ちていたデイバック拾い上げる。
側には割れたカプセルの空と、クワガタの形のブレス。
クワガタのブレスは美希の持っていた武器と似ていた。

「しかしよぉ〜。自分から組むと持ち掛けといて殺そうとするとはな。ヒデェ女だぜ!」

ガイにとっては至極素直な感想が漏れる。
ここは殺し合いの為に設けられた場所。
ネジブルーのように特定の人物に執着していたり、自分のように気に入らないはヤツを殺すと言った善良な参加者だけではないのだ。
あの女のようにトチ狂ってぶっ飛んだヤツも中にはいる。
ガイはクワガタのブレスはそのままに、デイバックの中身だけを自分のバックに移し替えた。
基本支給品の中から食料を引っ張り出し貪った。
食料は文字通り腐るほどある。デイバックに入りきらないほど。

「俺ってヤツは運がいいのか悪いのかわからねぇぜ。いろんな意味で、なァ?」

ガイは傷付いた全身と、ぎっしり戦利品の詰まったデイバックを見つめ下卑た笑いを浮かべた。


66黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:10:21 ID:y4ZEvh7R0

【真咲美希 死亡】
残り26人



【名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬の支給品(確認済)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:バイクを探しにFー9エリアへ
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました。

※天空の花@魔法戦隊マジレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー はH-7海岸エリア美希の死体の近くにあります。
※マシンハスキーは鍵付きでG-7エリアに放置されています。(ガイはF−9エリアにあると思っています)
※操獸刀の予備知識を得ました。
※ゴウライチェンジャーはH-7エリアにあります。
67黒×黒 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/25(水) 21:11:54 ID:y4ZEvh7R0
長期に渡るキャラの拘束、度重なる延長。
誠に申し訳ありません。

誤字脱字、矛盾、問題点、指摘をよろしくお願いいたします。
68名無しより愛をこめて:2009/03/25(水) 23:07:16 ID:TSmqnG9DO
>>67
楽しみにお待ちしていましたぜ!投下GJ!

…鬱だ。なんという凄まじいまでの鬱だorz
これ以上誰かの血で、手を染める前に死ねたのは、彼女にとって幸いというべきか…
美希さんの絶望がずっしりと胸にきました。
それにしても、ガイ、この男、ノリノリだw
『俺みたいな善良な参加者』
いや、そのりくつはおかしいw
69名無しより愛をこめて:2009/03/26(木) 00:53:55 ID:3XUFhgPl0
>>67
GJ!とうとう美希、逝ったか・・・。
あ、誤字があります。
×撃獣拳
○激獣拳

ああ、美希、逝っちまったんだなぁ・・・(T-T)
哀しすぎる・・・。
70 ◆MGy4jd.pxY :2009/03/26(木) 09:00:47 ID:ipkJow3QO
遅れたにも関わらず早速の感想本当に感謝しています。
皆様ありがとうございました。

そして誤字の指摘感謝いたします。
ありがとうございました。

読み返してみて、ちょっと描写が足りなかったかなと反省。日々これ精進したいと思います。
71名無しより愛をこめて:2009/03/26(木) 10:32:37 ID:CLnpD1uv0
GJです。

前回から予感はしてたけどやはり鬱だ。。。
鬱すぎて笑ってしまいました。美希の狂気が移ったかww

マーダーなのになぜか憎めなかったなぁ・・・美希・・・。
やはりこの最期は美希の評価に大きく影響しましたね、改めてGJ!
72死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 12:43:07 ID:jPsWziFk0
 潮風を受ける教会の下、しゃがみこみ、血まみれになった女性の遺体を探る男がひとり。
 その傍らにはロープでグルグル巻きにされたボロボロの人形が無造作に置かれている。
 もし、その姿を第三者が見れば、間違いなく、男に変質者の烙印を押すことだろう。
 だが、実際のところ、その男は人に言えない所業を行っているわけではない。
 彼が行っているのは死体の検分。すなわち検死だ。
「何かわかったデビか」
 突然、人形が声を上げた。それは見た目こそ人形に見えるが、悪魔科学が創り出したれっきとした生命体だ。
 その名前をビビデビという。
「いいや、何もわからん」
 そして、ビビデビの問いに素っ気無く答えた男の名は仲代壬琴。
 今、彼は自殺したという胡堂小梅の検死を終えたところだ。
 彼は検死の経験こそないものの、外科医として、天才的な腕前を持っている。
 そんな彼にとって、検死を行うことなど造作もない。しかし、腕があってもどうしようもないこともある。
「いくら俺でも、死亡直後なら兎も角、何時間も経った死体を調べるのは限界がある。特殊な反応を調べる試薬でもあれば別だがな。
 しかも、死体は動かされている。こうなると、八方塞がりだ」
「ああ、高丘がやったデビね。まったく使えない奴デビ」
 もっとも、死体がそのままの状態だからといって、何かわかったとは限らない。
 それにここでは殺し合いが行われている。そんな場所で自殺か他殺かわかったからといって、どうということもない。
 だが、それでも壬琴が検死を行ったのにはわけがある。
 自らの純粋な好奇心。それを満たすためだ。
 残念ながら、胡堂小梅の検死は彼の好奇心を満たすことは出来なかったが、それでも成果はあった。
 壬琴は胡堂小梅の死にやはりひっかかりを感じていた。
「だが、こいつ、頭だけじゃなく、腕にも酷い損傷があった。それが少し気になるな」
「それがどうかしたデビか」
「こいつの死因は頭部の損傷だ。おそらく頭から飛び込んだんだろが、それなら、なぜ腕にも同様の傷がある?
 おそらく、こいつは死ぬ間際に自分の頭を庇おうとしたんだ。しかし、覚悟の自殺なら普通はそんなことはしない。
 なにせ、死ぬ気なんだからな」
73死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 12:45:15 ID:jPsWziFk0
「なるほどビビ」
「もっとも、人間には本能というものがある。覚悟の自殺だったとしても、ついその身を庇ってしまうことだって充分ありうるのさ。
 それに自殺者の心理なんて、俺の専門外だ。その身を庇いながら飛んだかも知れない。飛んでいる途中で気が変わったのかも知れない。
 だから、結局、何もわからないということさ」
 壬琴は胡堂小梅に掛けられていた銀色のジャケットを、彼女に掛けなおすと、自らも血で汚れないようにと脇に置いていた白いロングコートを羽織り直す。
「まあ、こいつはこんなものだろう。次、行くぞ」
 壬琴はビビデビに巻きつけたスコープショットを引っ張る。
「痛いデビ!次ビビか?首輪は手に入れないビビか?」
「ああ、こいつの首輪を取りにいかないのが奴らとのゲームのルールだ。それに首輪はそう遠くない内に手に入る。こいつの首輪を取らなくてもな」
 ビビデビは訳がわからないという顔だったが、壬琴のいう「次」に着いたとき、その顔は驚きの顔に変わることになった。



「おま――、じゃなくて、壬琴様、どうしてわかったビビか?」
 ビビデビはその光景に驚愕の声を上げた。
 その場には埋められた女と水に浮かぶカラクリ人形、ふたつの死体があったからだ。
「ウメコという女が自殺にしろ、他殺にしろ、他の誰かが関係していることは明らかだ。
 しかも、あの女は放送前に死んでいる。なら、放送で呼ばれた名前に絶望して死を選んだわけじゃない。
 高丘やお前の話を聞く限り、あの女がひとりになってから死ぬまでの間、何かあったとしたらこの辺りに痕跡があるはずだ。
 他のエリアに足を伸ばす時間はなかったはずだからな。あとはただの勘だ。
 もっとも、ここまでの収穫があるとは俺も思わなかったがな」
 ビビデビへの説明を終えると、壬琴はふたりの検死を行う。
 まずは首輪と共に埋められていた女性の死体。次に水に浮かぶカラクリ人形だ。
 壬琴にとって幸運だったのは、彼が水に浮かぶカラクリ人形こと、サーガインを知っていたことだろう。
 サーガインを知らなければ、クグツをただの残骸だと思っていたところだ。
 壬琴は頭部にあるコックピットをこじ開け、その本体を確認する。
74死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 12:47:31 ID:jPsWziFk0
「ふん、溺死か。大方、死んだふりをしてたら、本当に死んでしまったというところか?」
 その死因を見事に言い当て、首輪をしたサーガインの本体をそのまま回収する壬琴。
 女性と共に埋められていた首輪と、サーガインに着けられた首輪。
 壬琴はこれでふたつの首輪を手に入れることになる。
「分析用と実験用の首輪。そして――」
 ふと、回収したサーガインのディパックへと視線を移す壬琴。
(このディパックの中にあったメモの内容が本当なら……早くもチェックメイトだぜ、ロン)
 口には出さない。どこでロンが監視しているかわからないからだ。
 それほどまでにこの情報は切り札となりえる。
「ビビデビ、次だ」
「次!?まだあるデビか?」
「当然だ。サーガインはまだ死んで間もない。その女も埋められたのはつい今しがたといったところだ。
 サーガインを殺し、その女を埋めた奴らを追う。お前にも協力してもらうぞ」
「わ、わかったデビ」
 壬琴は現場に残された痕跡を元に、北へと向かって歩いていった。



 海岸を北へと進むヒカルとドモン。
 サーガインを倒した後、深雪の簡易的な墓を造り、花を供えたふたりは、支給品を分け、裕作が向かったとされる市街地エリアを目指していた。
 ヒカルは深雪の首輪を手に入れようとしたことについて、裕作を問い質すつもりだったが、ドモンは真実がどうあれ裕作を殺すつもりでいた。
 いや、正確には裕作でなくとも、今のドモンにとって、殺せれば誰でもいいのだ。
 ヒカルはサーガインを殺すことで先に一歩を踏み出した。ならば、自分も同じ目的を持つ者として、早く同じ一歩を踏み出したいのだ。
 そして、ヒカルはそんなドモンの気持ちを分かっていながらも、何も言えずにいる。
 何故なら彼自身も、優勝を目指すべきか、それとも戦いを止めるべきか、未だ迷いの中にいるからだ。
75死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 12:49:06 ID:jPsWziFk0
「傷でも痛むのかい、ヒカルさん?」
 迷いがあるヒカルの歩みは、ドモンと比べ、当然の如く、遅くなっていた。
 それを傷のせいだと思ったドモンは心配そうな声を掛ける。
「いや、大丈夫だよ。すまない、少し考え事をしててね。先を急ごうか」
 首輪は深雪の墓に一緒に埋めた。それは他者から見れば殺し合いを続けるという意思表示と言えるだろう。
 実際、そのつもりだった。しかし、時が経てば経つほど、ヒカルの足取りは重くなっていく。
(どっちにしろ、今度、誰かに会えば、決断しなければならない。その誰かを殺すか、殺さないかを。それまで、それまでは――)
 消極的な判断だが、ヒカルは決断を保留しようとしていた。
 もしかすると、時間が解決してくれると思ったのかも知れない。
 だが、運命は留まることを許さない。
「おい!」
 後ろから掛けられる誰かの声。
「お前らに少し聞きたいことがある」
 その声に聞き覚えがないのはこの場合、運がいいのか悪いのか。
 彼らは後ろを振り向く。そこには白いロングコートを羽織ったロングヘアーの男が立っていた。
 仲代壬琴だ。
「なんだ、お前。藪から棒に」
 怒鳴るドモンを無視し、壬琴は話を続ける。
「南には死体が3つあった。小柄な女性の自殺死体。首が切断された女性の焼死体。腹を貫かれたカラクリ人形の溺死体。
 お前ら、今まで南にいたんだろ?なのに、この3つの死体のどれにも無関係ってことはないよな?」
 ヒカルは壬琴の問いにどう応えるべきか迷う。
76死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 12:52:06 ID:jPsWziFk0
 ヒカルは壬琴の問いにどう応えるべきか迷う。
 自分は2つ、ドモンに至っては3つ全てに関わりがある。だが、相手が何者かわからないのに、それを正直に話すべきか。
(うん?)
 ヒカルは壬琴の問いに、違和感を覚えた。
 サーガインが溺死だということ?いや、貫いた時はまだ虫の息で、その後、海水が満ちたと考えれば、別におかしいことでもない。
 ヒカルが看過できない違和感、それは――
「ちょっと待てよ。お前、どうして、深雪さんの遺体を見れたんだ。深雪さんは俺たちが埋めたはずだぞ」
 そう、埋められた深雪の死に様を知ることなど、主催者でもなければ、知りようがないはずだ。
「やっぱりお前たちか。決まっているだろう。暴いたんだよ、死因を知るためにな」
 その言葉を聞くや否や、ヒカルにサーガインを殺した時に似た激情が走る。横を見れば、ドモンも同様に激昂している。
 当然だろう。愛しい人の眠りを妨げたのだから。
「ふん、許せないって顔だな。だが、お前らはどうなんだ?死んだ後とはいえ、その深雪とかいう女の首を切断したんだろう?」
 自分のことを棚に上げ、挑発的な言葉を口にする壬琴。
「違う。あれはサーガインがやったものだ」
「で、それを見たあんたはついつい殺してしまったってわけだ」
「っ!」
 ヒカルの様子にそれが図星であることを壬琴は確信した。
 首の切断面を見れば、それが死後切断されたものかどうかぐらい壬琴には見分けがつく。
 そして、サーガインを突き破る刃を見れば、わずかだが血液が付着していた。
 壬琴は事の顛末をわかった上で、あえて挑発的な言葉を口にしたのだ。
 それは真相を知るためには、冷静な判断力が失われた相手から聞くのが一番だと判断したということもある。
 しかし、壬琴は何より戦いに飢えていた。ときめきに飢えていた。
 殺し合いに乗るつもりはないが、自分に殺意を持った相手ならば、戦うことはやぶさかでない。
 もっとも、自分に殺意を向けるように仕向けるのはルール違反ギリギリの行為とも言えるが。
77死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:05:10 ID:jPsWziFk0
「まあいい。真実がどうあれ、お前ら、俺を殺したいんだろ?わざわざ首輪も一緒に埋めるからには優勝狙いなんだろ?
 なら、相手になるぜ。どっちが俺の相手だ。勿論、ふたり一遍でも俺は一向に構わんがな」
 図星をつかれたことで、ヒカルの激情は急速に冷めつつあった。
 だが、ドモンは逆だ。深雪を、ヒカルを卑しめた壬琴に、更に更に気を昂らせる。
「……俺が相手だ」
 元々、一歩を踏み出したかったドモンだ。それがいけ好かない相手なのは都合がいい。
 それにヒカルは制限中、戦いたくても戦える状況ではない。
「ふっ、そうか、お前が相手か。……ビビデビ!」
「OKデビ!」
 岩陰に隠れていたビビデビからヒカルへと光線が発せられる。
 突然の攻撃に、動揺していたヒカルは反応できず、光線をまともに受ける。
「ヒカルさん!」
 ドモンが急ぎ駆け寄るが、時既に遅し、ヒカルの姿はその場から消えていた。
「てめぇ!ヒカルさんをどうした!!」
「安心しろ、邪魔者にはご退場願っただけだ。ビビデビ、どこへ飛ばした?」
「さあ〜、でも、ここから10分以上かかる場所なのは確かデビ〜」
 作戦の成功にギヒヒと楽しそうに笑うビビデビ。
「この野郎!」
 ドモンはビビデビに挑みかかるが、ビビデビはふわりと浮くと、壬琴の後ろへと隠れる。
「ギヒヒ、壬琴様。後は頼みますデビ」
「汚い真似しやがって、お前ら、ぶっ殺してやる!」
「おお、怖っ。だが、俺はこれでもフェアなつもりだぜ。もし、俺が本当に汚い奴ならお前を飛ばしている。
 お前が名乗りを上げたってことは、あいつは制限中なんだろ?お互い、戦える者同士、正々堂々戦おうじゃないか」
(だが、これは前哨戦だ。ロンと戦う前にスーツの力がちゃんと活かせるかを試させてもらう)
78死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:06:14 ID:jPsWziFk0
「まあいい。真実がどうあれ、お前ら、俺を殺したいんだろ?わざわざ首輪も一緒に埋めるからには優勝狙いなんだろ?
 なら、相手になるぜ。どっちが俺の相手だ。勿論、ふたり一遍でも俺は一向に構わんがな」
 図星をつかれたことで、ヒカルの激情は急速に冷めつつあった。
 だが、ドモンは逆だ。深雪を、ヒカルを卑しめた壬琴に、更に更に気を昂らせる。
「……俺が相手だ」
 元々、一歩を踏み出したかったドモンだ。それがいけ好かない相手なのは都合がいい。
 それにヒカルは制限中、戦いたくても戦える状況ではない。
「ふっ、そうか、お前が相手か。……ビビデビ!」
「OKデビ!」
 岩陰に隠れていたビビデビからヒカルへと光線が発せられる。
 突然の攻撃に、動揺していたヒカルは反応できず、光線をまともに受ける。
「ヒカルさん!」
 ドモンが急ぎ駆け寄るが、時既に遅し、ヒカルの姿はその場から消えていた。
「てめぇ!ヒカルさんをどうした!!」
「安心しろ、邪魔者にはご退場願っただけだ。ビビデビ、どこへ飛ばした?」
「さあ〜、でも、ここから10分以上かかる場所なのは確かデビ〜」
 作戦の成功にギヒヒと楽しそうに笑うビビデビ。
「この野郎!」
 ドモンはビビデビに挑みかかるが、ビビデビはふわりと浮くと、壬琴の後ろへと隠れる。
「ギヒヒ、壬琴様。後は頼みますデビ」
「汚い真似しやがって、お前ら、ぶっ殺してやる!」
「おお、怖っ。だが、俺はこれでもフェアなつもりだぜ。もし、俺が本当に汚い奴ならお前を飛ばしている。
 お前が名乗りを上げたってことは、あいつは制限中なんだろ?お互い、戦える者同士、正々堂々戦おうじゃないか」
(だが、これは前哨戦だ。ロンと戦う前にスーツの力がちゃんと活かせるかを試させてもらう)
79死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:07:27 ID:jPsWziFk0
 壬琴は自分の左手に装着されたダイノマインダーに右手を添える。
 対するドモンは両腕に装着されたクロノチェンジャーをクロスさせた。
「爆竜チェンジ」
「クロノチェンジャー!」
 砂と岸壁に覆われる海岸に、ふたりの変身の声が同時に轟いた。



「どう?映士」
「はっきりしねぇなあ」
 菜摘と映士のふたりは壬琴を追って、ウメコの死体がある教会まで来ていた。
 それは壬琴がウメコから首輪を回収すると予想してのことだが、実際に辿り着いてみれば、ウメコの首輪は付いたまま。ジャケットも掛けられていた。
 もし、壬琴がここにいたなら、ウメコの身体を調べたはずだと、彼の痕跡を探るが、映士が最後に見たウメコの記憶はどうも曖昧だ。
「ウメコにはせめてもの弔いってことでジャケットは掛けた。それは覚えてる。
 だけど、ジャケットを掛けたときのウメコがどんな状態だったかまでは……」
 だが、それも無理からぬことだろう。ウメコの死体は頭部が損壊しており、戦士たる映士が見ても酷い有様だった。
 故人のためにもあまりこの姿は記憶に留めたくはないところだ。
「あの時は壬琴がいないことに、つい、カッとなっちゃったけど、ビビデビだっけ?あの子にどっかに飛ばされた可能性も考えなきゃいけないわね」
「そうだな。まあ、あいつがそう簡単やられるとも思えねぇが」
 自発的か、偶発的かはわからなかったが、とりあえず壬琴が約束を守ってくれたことに溜飲を下げるふたり。
 ふと、映士に影が差す。雲でも掛かったかと、空を見上げた。
 すると、いつの間にか、頭上に人のような影が出現していた。
 それは映士が気づくと同時に、落下を開始する。
「なっ!……ぐぇっ」
 驚き、そして、そのすぐ後に聞こえる蛙が踏み潰されたような声。
 言うまでもなく、映士が落下物に潰された時に発した声だ。
「大丈夫?」
「大丈夫じぇねぇって。おい、上の奴!早くどきやがれ!!」
80死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:10:09 ID:jPsWziFk0
 落下物の正体はその感触でわかった。成人の男性だ。
 男性に乗っかられても嬉しくもなんともない。
「すまない」
 男性は謝ると、映士の背中から立ち上がる。
 映士は一言、文句を言ってやろうと、その男を正面から見据えた。
「おい、お前!……って、ヒカルじゃねーか」
「知ってるの?」
「ああっ、前にちょっとな」
 知り合いとの再開に自然と笑顔になる映士。
 ヒカルはまたも自分を一方的に知る人間との邂逅に困惑の色を浮かべた。


【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:健康。本来の調子を取り戻しつつある。アバレキラーに変身、戦闘中。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:目の前の敵(ドモン)を相手にウォーミングアップ
第二行動方針:首輪の解析
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。


81死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:10:51 ID:jPsWziFk0
【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。

【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:身体に無数の切り傷と打撲と火傷(中程度のダメージ)。タイムイエローに変身、戦闘中。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:目の前の敵(仲代壬琴)を殺し、一歩を踏み出す。
第二行動方針:ヒカルと共に行動。
備考:変身に制限があることに気が付きました。
82死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:14:48 ID:jPsWziFk0
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。1時間程度魔法(マジシャイン、サンジェル変身不可)使用不可
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ドモンと共に優勝を目指す。
第一行動方針:目の前のふたり(映士、菜摘)をどうする?
第二行動方針:ドモンとの合流。
第三行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第四行動方針:ティターンに対して警戒。
第五行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:溺れたことと、急激な運動による極度の疲労。1時間程度変身不可。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと話す。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。
83死体は語る ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/03/26(木) 13:15:28 ID:jPsWziFk0
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため身体は疲労しています。1時間程度変身不可。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
 ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:映士の知り合い(ヒカル)と情報交換。
第二行動方針:壬琴がいないのは誤解?
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
 変身制限に気が付きました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。


以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点他指摘事項。ご感想があればよろしくお願いします。

あと、矛盾点というか相談すべき点がありますので、書き手交流スレにて。



84名無しより愛をこめて:2009/03/26(木) 13:20:37 ID:jPsWziFk0
代理投下終了!
途中>>77、78を重複して書き込んでしまいました。
投下に気付かず遅くなり、重ねてお詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。

そしてGJ!
冷静でクールな仲代先生。やっぱあんたかっこいいぜ!
菜摘の誤解もとけたところでバトルが始まる。wktkが止まらないぜ!
そして、ビビデビ大活躍だなw
まだまだ迷いのあるヒカル先生。
越えられない壁を越えられるのか、ドモン。
GJでした!

相談の件につきましては書き手交流スレに書き込みます。
85名無しより愛をこめて:2009/03/26(木) 20:21:26 ID:svlp0yveO
投下&代理投下GJ!です。
相変わらずの速筆、軽妙な描写、お見事です!
果たしてドモンは仲代先生とのバトルを通じて、一歩踏み出す事になるのか否か。
そして、またしても見知らぬ知人と遭遇する事になったヒカル先生。
この出会いはヒカル先生に更なる一歩を踏み出させる事になるのか、それとも…次の展開が気になってwktkします。
演出が巧みで面白かったです!GJ!

それにしても、仲代先生のかっこよさが異常ですw
86名無しより愛をこめて:2009/03/30(月) 23:54:12 ID:fyOSBrri0
お久しぶりです。久方ぶりの煽り文作成人でございます。
ここのところ、投下できずにいた上にいつもの半分で、大変恐縮なのですが、
煽り文投下いたします。
87名無しより愛をこめて:2009/03/30(月) 23:55:39 ID:fyOSBrri0
031 進め、アバレ捜索隊!キロキロ
  黎明の空を行く影が二つ。片時の平穏に二つの笑い声が弾ける。
  まだ見ぬ友の姿に女の瞳は輝き、男はコインの行方を呪う。
  
032 面従腹背
  殺戮者である者。殺戮者であろうとする者。殺戮者になりゆく者。
  互いの思惑を胸に、今ひとたび偽りの声を唄う。
  さあ、集え。愚かなる善人達よ。

033 宇宙コギャルの憂鬱
  熱いシャワーにやわらかなまどろみ。これ以上の幸せって他にないよね?
  バトロワ?待ち伏せ?うん、それも花丸♪なんだけど……『あとご〜ふん』だけ、ね♪

034 未来はヒカルの手の中
  焦燥は疑心を生み、疑心はすれ違いを生む。
男の願いは一つ。護りたい。ただそれだけだったのに………

035 失われた恋
  死に逝く者に捧げられるのは、祈りではなく嘲笑。
  子供達を、仲間を、愛する者達を。ただ守る。その為に白き魔法使いは黒く、赤く染まった。
  偽りに踊らされている事さえ知らずに。
88名無しより愛をこめて:2009/03/30(月) 23:57:30 ID:fyOSBrri0
では、残り二つはまた後程にでも。失礼いたしましたー
89名無しより愛をこめて:2009/03/31(火) 10:15:23 ID:KeeHAxaL0
っしゃあ!!
煽り文キターーーヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノーーー !
かっこいいです。GJです。

そして、したらばのキャラ紹介してくれた方乙です!
助かります。
90名無しより愛をこめて:2009/04/01(水) 16:33:34 ID:Ybx2tNJP0
200X年、無間龍ロンの企みにより、多くの仲間を奪われた戦隊ヒーロー達は、苦戦を強いられていた。
次から次へと襲い来る怪人達。消耗し壊れ行く装備。懸命の修理も虚しく、使い物にならなくなった合体ロボ。
ついに、彼らの本拠地にさえ、悪の手が伸びんとしたその時。
彼らの苦境を悟ったアカレッドの呼びかけにより、ギターを携え、一人の隊長が立ち上がった。

次週 電撃戦隊 ズバットマン 第800話『日本で一番目の男、現る!』 お楽しみに!!

????「来週また見るのも私だ」
91名無しより愛をこめて:2009/04/01(水) 16:35:23 ID:Ybx2tNJP0
せっかくの4月1日なのでやった。
反省はしているが、ネタ元が古すぎる気はしている。
だが、私は(ry
92名無しより愛をこめて:2009/04/01(水) 21:01:04 ID:YagVovD70
キターーーヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノーーー !
エイプリルフールネタw
>>91いいぞ、もっとやれw
93名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:29:08 ID:9CdUw8sj0
代理投下します
94信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:31:54 ID:9CdUw8sj0
「さ〜て、これからどうしようかな?」
 生い茂る樹木にその身を隠し、シュリケンジャーは今後の戦力を練っていた。
 不死身と言われたサンヨは死んだ。
 殺し合いに乗ることへの最大の留意点だったが、これで心置きなく優勝を目指せるというものだ。
(6時の放送の時点で生き残っているのは34人。順調に進んでいると仮定すれば、今は27、8人。まだまだ多いな)
 広間に集められた参加者を観察した限り、自分に匹敵するほどの実力者はおそらく数人。
 だが、それはあくまで広間での状態そのままだった場合の話だ。
 戦闘力が劣っていてもそれ以上に知恵が回る者。ディパックから強力な支給品を入手した者。
 自分と同じく変身能力を持つ者もいることだろう。油断できる人物など1人もいない。
 そして、それらを一々相手にしていては、時間も、体力も、いくらあっても足りはしない。
(正面から戦うのは最後に残った数人。ある程度の人数になるまで、積極的な戦闘は避けるべきだ。そうなると、これからミーはどう動くべきか)
 参加者の中には自分とおぼろのように元々知り合いの者もいるだろうが、ほとんどは初対面。もしくは敵対する関係とシュリケンジャーは考えていた。
 ここに集められた42人全員が無作為に選ばれたものとはとても思えない。何人かは確実に何らかの期待を持って、選ばれたはずだ。
 主催者の期待が最後の1人になるまでの殺し合いならば、待っているだけで、自然と人数は減っていくことだろう。
 しかし、好戦的な者であれ、非戦的な者であれ、自分の命が掛かっているともなれば、より確実に生き残るために集団を形成する流れになる。
 そうなると、減っていく人数は下げ止まりを起こす。そうならないためには何らかの手を講じる必要がある。
(そう考えていくと、もしロンがミーに何かを期待しているなら、役割はズバリ扇動者かな?)
 所詮は利害の一致で結ばれたチーム。その結束は酷く脆い。疑念の種をひとつ蒔くだけで、あっさりと崩壊し、死人を出すことだろう。
 幸いにして、シュリケンジャーにはそれを容易に行える変装という能力を持っている。
(それでも絆で結ばれたチームは残り、それ相応の実力を持つものも残るだろうけど、そいつらの対策は後、まずは数減らしからだ。なるべく戦わずにね☆)
95信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:32:46 ID:9CdUw8sj0
 方針を固めるシュリケンジャー。その時、風に乗って、何者かの声が彼の耳に届いた。
 耳を澄ませば、高い声や低い声、老いた声に若い声、様々な声が聞こえてくる。
 その何者かは複数。そして、明らかに徒党を組んでいる。
(この声、センだね。姿が見えなかったから、誰かに回収されたとは思ってたけど、この短時間で、ミーの催眠術から目覚めるとは中々やるね。
 しかも集団を形成しているなんて。そう、グッドタイミングだ!)
 シュリケンジャーは木から降りると、早速、自分の作戦を実行に移すべく、気配を消し、声の聞こえた方へと近づいていった。



「ここだ」
「菜月がセンさんを見つけたところだね」
 センに先導され、竜也、菜月、ブクラテスはC7エリアまで歩を進めていた。
「詳細な時間ははっきりしないけど、俺が眠らされて3時間は経ってると思う。
 だから、理央さんはもうこの辺りにはいないかも知れない。けど、探せるだけ探してみたいんだ」
 現場百遍。刑事のセンにとって、時間が経ったといっても事件の手がかりを現場に追い求めるのは当然の行為だった。
 だが、菜月には別の意味合いで伝わったようだ。申し訳なさそうに頭を垂れる
「ごめんなさい。菜月がセンさんに頼まれて、すぐ探せば見つかったかも知れないのに」
 その行動にセンは苦笑する。
「菜月ちゃんに責任はないよ。迂闊な行動をとった俺が悪いんだし、それに一番悪いのは理央さんを連れ去った奴だ」
「うん」
「とにかく捜してみよう。もしかすると、何か手がかりが残っているかも知れない」
 暗い雰囲気を振り払おうと、元気な声を上げる竜也。そんな竜也に好感を持ちつつも、センは制止の言葉を口にした。
「ちょっと待ってくれ。捜す前にもうふたつだけいいかな。誰が聞いているかもわからない。ちょっと、寄ってくれるかい?」
96信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:33:45 ID:9CdUw8sj0
 センの呼びかけに円陣を組む4人。センはひそひそ声で話しを始める。
「たぶん、理央さんを連れ去った奴には協力者がいる。俺たちと合流した時間を考えると、俺たちを襲った奴の足止めをする奴が必要なんだ。
 俺たちを襲った奴自身が協力者という可能性もあるけど、どちらにせよ、ひとりでやるのは到底無理な話だ。
 だから、もし、今後、誰かに会うことがあったら、3時間前、つまり7時頃のアリバイを確認して欲しい。それともうひとつ」
 ひそひそ声より、更に小さな声であることを告げるセン。3人は了承の証に肯く。
「ありがとう。さて、それじゃあ、始めますか。俺はと竜也くんでこの辺りを探しますから、菜月さんとブクラテスさんはここに残っててください」
「菜月も探すよ。これでも菜月、冒険者なんだから、探し物は得意なんだよ!」
 胸を張り、主張する菜月。だが、センは首を横に振る。
 菜月がボウケンジャーと呼ばれるチームの一員であることは聞いたが、センを運ぶために変身したことも聞いた。
 制限中である菜月をひとりにすることはできない。
「そうか、残念」
 そのことをセンが説明すると、菜月はあっさりと納得する。
「そうだ。ブクラテスさん、占い得意なんですよね?」
「う、うむ。まあ、そうじゃのぉ」
「それじゃあ、何か手がかりがないか占っててください。行こう、竜也くん」
「あっ、はい」
 センは竜也の肩をポンと叩くと、ブクラテスの回答を待たずに、その場から離れていく。
 残される菜月とブクラテス。
「やれやれ、仕方ないのぉ」
「じゃあ、占いやろっか?」
「まあ、それしかないようじゃ」
 懐からタロットカードを取り出し、意味ありげにシャッフルを始める。
97信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:34:18 ID:9CdUw8sj0
 実際は占いなど出来はしないが、見た目だけは本物を目にしてただけあって、それっぽく見える。
「おじいちゃん」
「なんじゃ」
「理央さんもだけど、できれば真墨の居所も占えないかな?真墨はこの辺りにいるはずなの」
 冷静さを取り戻したとはいえ、やはり、真墨の居所が気になる菜月。
 シグナルマンとスモーキーはスルーされているが、気にしてはいけない。
「まあ、やってもいいが、所詮占いは占いじゃぞ?当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃ。それに、真墨とかいう奴は死んどるんじゃなかったかの?」
「そうなんだけど……やっぱり」
「ふむぅ。いいじゃろ。だが、まずは理央からじゃ」
 適当にカードを地面に置き、うんうんと唸るブクラテス。勿論、ただのフリだが。
「どう?」
「駄目じゃ。何も見えん。おそらく、ここら辺には何もないことを指しとるのじゃろ」
 勿論、口から出任せだ。占いを成功させるためには首輪探知機を見なければいけない。
 だが、菜月は期待を込めた目でこちらをじっと見ている。これでは探知機を見る暇はない。
「そうか。じゃあ、真墨はどう?」
「ふむ、真墨のぉ」
 ブクラテスはカードを集め、再びシャッフルを始める。
(さて、どうするかのぉ?)
 シャッフルの間、ブクラテスは思考を巡らせる。
 また、適当に占い、わからないと言うのは簡単だ。だが、もしその真墨を見つけることが出来れば、それは首輪を手に入れることと同義だ。
「さっきの話じゃが、本当に真墨とやらはこの辺りにいるのかのぉ」
「うん、ロンが言ってた。もう少し先に真墨がいるって」
「ほぉ!ロンにのぉ」
98信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:34:59 ID:9CdUw8sj0
 菜月は嘘を吐くようなタイプには見えない。そして、主催者であるロンがわざわざそんな嘘を吐くために菜月に接触したとも思えない。
 ブクラテスは確信する。真墨の死体は近くにあると。
(そうと決まれば、なんとかしてお嬢ちゃんに隙を作らんといけんのぉ)
 首輪探知機を所有していることを明かすわけにはいかない。だが、今のままでは菜月に気付かれぬように首輪探知機を取り出すことは不可能だ。
(せめて、10秒だけでも隙があれば……うーむ、何か妙案は)
 シャッフルしながら考えること、およそ1分。そろそろ引き伸ばすのも限界だ。
(ぬぉぉっ、仕方ない)
「おっ!あれはなんじゃ?UFOか!?」
 言ってから、ブクラテスは軽く後悔した。苦し紛れとはいえ、いくら何でもこんな手で騙される奴がどこにいる。
「えっ、UFO?どこどこ?」
 だが、菜月は引っ掛かった。
(効きおった……)
 予想外の事態に呆けながらも、チャンスとばかりにディパックを探るブクラテス。
 いくら菜月がぼけぼけといっても誤魔化せる時間は数秒が精々。その間に確認しなければならない。
(よし、あったぞ。さて、今の状況は……)
 探知機に灯る3つの光。自分と菜月。そして――
(はて、あとひとつは?)
「ブクラテスさん」
「ふひゃっ!」
 突然、両肩を捕まれ、思わず変な悲鳴を上げる。
「にひぃ」
 恐る恐る後ろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたセンの姿があった。
「うーん、こんなもの持ってたんですね、ブクラテスさん」
 センはブクラテスの手から素早く首輪探知機を掠め取る。センがそれは何か理解するのに1分と掛からなかった。
「あばばばっ、セン、それはじゃな」
 なんとか言い訳を捻り出そうとするが、それより先にセンが口を開く。
「色々、気になることはあったんです。俺と行動していた時、占いのことなんて一言も言ってなかったし、サンヨたちを見つけたときだって、元々はブクラテスさんが怪しんだことがキッカケだった。
 もしかすると、ブクラテスさんは相手の場所がわかる方法を何か知ってるんじゃないかと思ったんですけど。まさか、こんなに便利なものを持ってたとは」
「うぐぐぅ……」
99信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:36:16 ID:9CdUw8sj0
 頭部に血管を浮かび上がらせ、この場を逃れるための言い訳を必死に考える。
 だが、センの聡明さはもう散々理解していた。やがて、ブクラテスは大きな諦めの溜息を吐いた。
「はぁーーーー、白状するわい。探知機を持っていることを言わなかったのは、おぬし達を信用しておらんかったからじゃ。
 だから、いざとなれば、一人でも行動できるようこの探知機の存在は知らせなかったんじゃ。これがないと、ワシのような非戦闘員は生き残れるとは思えんからのぉ」
 それはブクラテスの偽らざる本音だ。ブクラテスは優勝しようとも、ロンを打倒しようとも思っていない。
 ただ、生き残りたい。それだけなのだ。
「……それでいいと思います。これはブクラテスさんが管理してください」
 センはブクラテスへと探知機を返却する。予想外の行動にブクラテスは顔に?マークを浮かべた。
「なぜじゃ。なぜ、お主はワシを責めん?あの時もそうじゃ。ワシはお主を見捨てたんじゃぞ?」
「俺は刑事です。ブクラテスさんのような弱い立場の人間を守るのが仕事です。だから、俺はこの場で何度裏切られようと、その人を怨むことはしません。
 だけど、ブクラテスさん、ひとつだけお願いがあります。
 もしもの時は必ず俺が先頭に立ちます。だから、菜月ちゃんや竜也くんたちは見捨てず、一緒に逃げるようにしてください」
 センは願うような眼でブクラテスをじっと見つめている。その眼には微塵の曇りも見当たらない。
(ふぅー、甘いのぉ、セン。まだ、ワシを信じるつもりか?まあ、それなら好都合じゃわい。ワシにはまだ切り札が残っておる。
 まあ、これを使う機会は限られるからのぉ。お主の言うとおりにしばらくは動いてやるわい)
 じっくりと黙考した後、ブクラテスは了承の言葉を口にする。
「わかったわい」 
 その言葉にセンはにっこりと笑顔を浮かべた。
「しかし、やはりやるのぉ、セン。よく考えればわかることじゃったわい。
 お嬢ちゃんをひとりにするのは危ないと言ったのに、わしと二人きりにするわけはないからのぉ」
 センは頷き、肯定の意思を示す。
「ひょっとして、お嬢ちゃんが、あんな手に引っかかったのも作戦の内か?」
100信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:37:07 ID:9CdUw8sj0
「えっ?なんのこと。あっ、UFOは見当たらなかったよ」
 その返答に、ブクラテスはとても疲れた気分になった。
「頭のいい人ほど、天然には弱いものですよ。ブクラテスさん」
「……ふぅ、そういうものかも知れんな」
 探知機の存在を理解できているのかもわからない菜月のことはさて置き、ブクラテスは改めて首輪探知機に目をやる。
 菜月との約束通り、真墨の居場所を探るためだ。
「うん?これは」
 現在地から少し外れたところにある2つの光。
 1つは竜也のものだろう。しかし、もう1つは一体誰のものなのか。
「センさん?」
「……よっこらせ」
 突然、逆立ちを始めるセン。菜月も、ブクラテスも、その行動に首を傾げる。
 しかし、勿論、何の意味もなく、こんなポーズを取っているわけではない。
 これはセンのシンキングポーズである。こうして、考えることで何かがひらめくのだ。
「………」
 ゆっくりと眼を開けるセン。そして、逆立ちを止め、地に足を着けると言葉を紡いだ。
「どうやら来たみたいですね」
 菜月はそう言われても何のことかわからない顔をしていたが、ブクラテスはそれだけで理解した。
 ひそひそ声より更に小さな声で告げられたもうひとつの注意点だ。
「大丈夫なのか?」
「ええ、十中八九、相手は竜也くんに危害を加えないはずです。逆に俺が行った方が戦いになる可能性が高い。今は竜也くんを待ちましょう」
 センは逸る気持ちをグッと抑え、竜也が戻るのを待った。
101信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:38:04 ID:9CdUw8sj0



「何も見つからない」
 竜也は溜息と共に、そんな声を漏らした。
 意気込んで、捜索を開始したは良かったが、成果がなければ意味がない。
 センは期待半分といったところだったが、できればその期待に応えたい。
「もう少し、奥まで行って見ようか」
 竜也の視線の先にはどこまでも樹木が生い茂っている。
 普段なら安らぎを感じさせるはずの木々の緑に、なぜか恐怖を感じた。
 そんな心境の変化に気付かぬふりをして、竜也は歩みを進めようとする。
 ふいに葉と葉が触れ合う音がした。
 初めは風のせいかとも思ったが、その音の頻度は段々と高まっていき、音も近づいてくるようの感じる。
 間違いない。誰かいる。
「誰だ!」
 竜也は構え、相手を威嚇する。治まる葉のざわめき。だが、すぐに再びざわめきを始めた。
 深く拳を握り締める竜也。
「待て。俺は戦うつもりはない。今そちらに行く」
 落ち着きのある男の声に、わずかに安堵するが、それでも警戒を緩めず、竜也は充分な間合いを取るために、数歩後ずさった。
「ふん、随分と警戒しているな。まあ、この状況では仕方ないことだろうが」
 木々の中から出てくる黒い影。いや、黒ずくめの男だ。
 構えこそ取っていないが、その佇まいから立ち上る威圧感に、竜也は気圧される。
「俺は理央」
「あなたが……理央」
 面識こそないが、聞き覚えのある名前だ。
 そのことを表情から察したのだろう。未だ警戒を解かない竜也に理央は不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、どうやらその様子だと、俺のことは誰からか聞いているようだな」
「ええ、あなたのことはメレさんから」
102信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:39:06 ID:9CdUw8sj0
「メレ?……そうか、メレか。では、お前はセンから俺のことを聞いたわけではないのだな?」
 メレの名に、少しだけ訝しげな顔をした理央だったが、すぐに元の表情に戻ると、センのことを問いかける。
「センって、センさんがどうかしたのか?」
「あいつに会ったのか?」
「ああ、会ったよ。だったら?」
「奴は殺し合いに乗っている」
 理央の話を要約するとこうだ。
 センは自分を刑事と言い張り、弱者の味方を装っているが、それはあくまで表向きの姿。
 実際の目的は優勝して、望みを叶えることであり、自分もその表向きの姿に騙され、危うく殺されかけた。
 なんとか退けたが、これ以上の被害者を出さないために、センを追いつつ、注意を喚起している。
 それはセンから聞いた話とはあまりにもかけ離れた内容だった。
「それを信じろっていうんですか」
「信じる信じないは好きにするといい。だが、もし出会うことがあったら気をつけろ。俺が言いたいのはそれだけだ」
 そう言うと、話は終わったとばかりに踵を返す理央。
「待ってください!」
「なんだ?」
「今、俺はセンさんと一緒に行動しています。もし、あなたの話が本当なら一緒に来てください」
「それはやめておこう」
「なぜです!やはり嘘だからですか!?」
 激しく糾弾する竜也。だが、理央は意に介さない。
「もう少し冷静になることだな。もし、俺がセンの前に姿を見せたらどうなる。
 奴はその正体を現し、俺やお前の口を封じようとするだろう。奴は強い。俺でさえ、もう一度撃退できるかどうか」
「………」
「だから、もし俺の言葉を信じるなら……あいつが正体を現す前に先手を取れ」
「!、それは俺にセンさんを殺せって言ってるんですか」
「どうとでも好きな風に取れ。さっきも言った通り、信じる信じないはお前の勝手だ」
 それで話は終わりとばかりに、また、木々の中へと入っていく理央。
 あと、数歩で完全に見えなくなるところで、理央の足が止まる。
「そうだ、まだ、お前の名前を聞いてなかったな」
「浅見竜也」
「そうか。グッドラック、竜也」
103名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:39:54 ID:y7k6RkPNO

104信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:39:54 ID:9CdUw8sj0


「おお、戻って来おったか、竜也」
「おかえり、竜也さん」
 戻ってきた竜也を歓迎するブクラテスと菜月。だが、当の竜也は疲れ顔だ。
「センさん」
「どうだった、竜也くん?」
「センさんの予想通り、接触してきました。理央さんの顔で。メレさんの名前にも妙な顔してましたよ。俺の印象ですけどね」
「やっぱりね。そう来ると思ったよ」
 センは竜也たちに、事前に敵が顔を変え、接触してくることを予測し、伝えていた。
 質問された内容と制服を奪われたことから、敵が顔を変える技能を持っていることは予測できた。
 そして、もし敵がまだ近くにいるのなら、必ず接触してくると読んだのだ。
「すぐに追いましょう」
「いや、無理だね。相手はなんか移動手段を持っているようだ。人間とは思えない速度で南に行ったよ」
 センは首輪探知機を使い、竜也と理央の顔の敵の動きを追っていたことを明かす。
「ブクラテスさん、そんな重要なものを隠してたんですか!」
「あ〜、いや〜」
「まあまあ怒らない怒らない。勇気を出して打ち明けてくれたんだから」
 竜也を宥めつつ、説明を続けるセン。
「とにかく、この探知機が相手から反応を返したのは1つ。つまり、理央さんから首輪を奪ってはいないってことだ。
 ここから離れているということはもう目的を果たしたと考えるべきだけど、理央さんがまだ生きている可能性は高い。
 それでこれからの方針だけど、一度、南に行ってから東に行こうと思う」
「南ですか?」
「うん。多分、理央さんがいる場所はもう少し、北東か、東に行ったところだと思うんだ。竜也くんに接触して来た方向から考えてね。
 でも、南にひとつ、まったく動かない首輪の反応も見つけたんだよ」
「ほれ」
 竜也に探知機を見せるブクラテス。
 イマイチ、見方が分からないが、真ん中が自分たちの現在地とすれば、確かに下の方に光る丸があった。
「これが誰かはわからんが、そう遠くないことじゃし、先に調べておいた方がいい。そういう判断じゃ」
 竜也がいない間に話は出来ていたのだろう。ブクラテスも、菜月も納得しているようだ。
「なら、それでいいです。じゃあ、行きましょうか」
 竜也が頷くのを合図に、センたちはその場を離れ、南へと向かった。
105信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:41:54 ID:9CdUw8sj0



 炎の騎馬を走れせ、森を抜け、砂漠エリアへと入るシュリケンジャー。
 テクニックのない者ならば、砂場でのバイク移動は厳しいものがあるが、シュリケンジャーにそのような心配は無用のようだ。
 何の問題なく、炎の騎馬を走らせる。
 道すがら、シュリケンジャーは竜也のことを考えていた。
(竜也のあの様子。センからミーのことを聞いているね。しかも、ミーが変装できることも知っている風だった。
 服を奪ったり、素性を探るような質問をしたり、少し、露骨すぎたかな?)
 シュリケンジャーは竜也の反応から、ある程度のことは見抜いていた。
 センと一緒にいた以上、理央のことについては聞いているはず。それなのに、竜也は理央と名乗っても、歓迎ではなく、警戒を続けていた。それが何よりの証拠だ。
(でも、まあ、疑念の種は蒔いた。後はそれが育つまで、放って置くだけさ)
 シュリケンジャーは信頼の脆さを知っている。
 例え、幾度か助け合った間柄でも、信頼が強固なものになるには時間が必要だ。
 シュリケンジャーが言ったことは確かに嘘だ。だが、それが嘘だという裏づけはセンの言葉しかない。
(精々竜也に信頼されるよう頑張ることだよ、セン)
 シュリケンジャーはどこか自嘲気味な笑みを浮かべ、アクセルを吹かせた。



 竜也はブクラテスに不信の目を向ける。
 センが死にそうなのを黙っていたことといい、首輪探知機の存在を隠していたことといい、竜也はブクラテスをまったく信用できなくなっていた。
 センはまったく咎めようとしなかったが、こんな状況なら、逆に厳しく、それこそ逮捕なり、なんなりするべきではないのか。
 そう自分の仲間なら、きっとそうする。ユウリ、アヤセ、ドモン、そして――
(……駄目だな、俺)
 シオンの顔が脳裏に過ぎったとき、竜也は激しい自責の念に襲われる。
(シオンなら、きっとこんな状況でも人を信じてる。俺にはシオンのようにブクラテスを信用するのは無理だけど……センさんは信じたい)
 竜也は歩みを強くして、一番前へと躍り出る。未だに惑う心を振り払うかのように。
106信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:42:25 ID:9CdUw8sj0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:センの力になる。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考
・クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。

【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:南の反応を確認する。
第二行動方針:首輪探知機を元に理央を探す。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。
107名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:42:37 ID:y7k6RkPNO
支援
108信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:42:50 ID:9CdUw8sj0
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:健康。30分変身不能。
[装備]:アクセルラー、スコープショット
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:センと竜也のサポート。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-7森 1日目 昼
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、首輪探知機、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:しばらくセンと一緒に行動。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
109名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:44:20 ID:y7k6RkPNO

110信頼の結び目 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/04/05(日) 08:44:42 ID:9CdUw8sj0
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:D-8砂漠 1日目 昼
[状態]:健康。現在は理央の顔です
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第三行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。


486 :信頼の結び目 ◆i1BeVxv./w:2009/04/04(土) 22:38:07
以上で投下終了です。
誤字、脱字、矛盾点他指摘事項。ご感想があればよろしくお願いします。


_______________________________________

昨夜のうちに気がつかず、遅くなって申し訳ありませんでした。
以上、代理投下終了。
111名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:52:00 ID:9CdUw8sj0
乙です。
シュリケンジャーが集団崩壊フラグを!
こういうじわじわと来るのも大好きです。
センとブクラテスのやりとり、菜月の天然ぶり、惑う竜也と各人書ききられておりさすがです。
GJ!

112名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 08:53:26 ID:9CdUw8sj0
大事なことを、書き忘れ。
途中支援感謝です。
113名無しより愛をこめて:2009/04/05(日) 09:08:15 ID:y7k6RkPNO
投下&代理投下GJです!
自分も昨夜のうちに気が付けなくて申し訳ないです。

センさん、流石一枚上手w
いい笑顔してるセンさんが目に浮かぶw
さて、ここで首輪探知機がバレたのが、吉と出るか凶と出るのか。
ブクラテスのもう一つの切り札が、未来を暗示している気がします。
それぞれの心理描写が巧みで素晴らしかった。GJです!

それにしても相変わらず菜月のポケポケっぷりがw
114名無しより愛をこめて:2009/04/06(月) 16:02:31 ID:vg+/ELv80
偽装がばれていることを自覚しながら、疑心の種を蒔くシュリケンジャーが哀しくもクールですね。
揺れつづける竜也はこれからどこへ行くのでしょうか……

遅くなりましたが、まとめ更新乙です。いつもありがとうございます
115ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:05:28 ID:cqdV0pqk0
まとめ更新いつもありがとうございます。

まず所用で遅れましたことをお詫び申し上げます。
では投下します。
116ゆりかご#:2009/04/07(火) 02:06:19 ID:cqdV0pqk0
太陽が熱を振り撒いていた。
風は止んでいて、その熱は嫌味な程、ドロップの首筋に肩に、容赦なくシャワーの如く降り注ぐ。
熱のシャワーは地に吸い込まれた後なお、砂塵の上にユラユラと立ち上がり、先を行く兄、ジルフィーザの輪郭を暈かしていた。

ドロップは目を細め、揺らめいた砂塵の遥か向こうに見えるオアシスを兄の肩ごしに眺めては、遅れをとるまいと重い足を運ぶ。
砂が足に絡み付く鈍い重みが不快だった。細く短い四肢は、枷を嵌められように重い。火照る身体、紅潮した顔。
不本意にも身体は休息を欲し、喉は悲鳴をあげらんばかりに渇きを訴える。
たかだか数キロの行軍。物も言えず童鬼と呼ばれていた時でさえ、疲弊を感じる事などなかったであろう。
暫時の仮の姿。魂の姿は惨めなほど脆弱で、身体を包む装束はそれを象徴するように白く、無性にドロップをイラつかせた。

――――もう少しだ。身体さえ、身体さえ手にいれれば。

胸の内で幾度となく繰り返す。兄上様などど呼ぶ道化芝居ももう少しの間だ。
災魔の姿に戻れば、生き残っている参加者など障害になるとは思えない。
対峙したネジブルーや麗を殺した黒い装甲の者とて、冥王の力を取り戻したドロップの敵にもなるまい。
そう、苛立つ必要などない。乱れた呼吸と気を落ち着けるため、ドロップは歩調を緩め大きく息を吐いた。

「疲れたか、ドロップ」
ジルフィーザが足を止め呟き、デイバックから2本のペットボトルを取り出す。
蓋を開けながらペットボトルを差し出すジルフィーザ。ドロップは冷ややかに見つめながら受け取る。
ジルフィーザは水など欲しくない。その証拠に呼吸一つ乱れておらず、水に口を付けようともしない。
「いえ、兄上様」
喉の渇きを悟られまいとゆっくりと水を口に含む。
「おのれ、忌まわしきは首輪か、ロンか」
自嘲気味に零したジルフィーザはバサリ、と仰々しく翼をはためかせた。
横に立つ影がドロップを包む。日が遮られたせいで心做しか暑さがやわらいだ。
「制限などなければ、俺の翼ですぐに繭の元へおまえを連れて行けるのだが……」
ジルフィーザはドロップを見ずに、デイバックから銀色の包みを取り出し小さな手に握らせた。
117ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:07:19 ID:cqdV0pqk0
「これは?」
包みはひんやりとした冷気を纏っている。
「口にするといい。その身体ならば薬になるかもしれん」
包みを剥ぎ取ると、中の物には見覚えがあった。
それはここに連れられる直前、人間界で口にした物。
喉を通る冷たさと口に広がる甘味がまざまざと蘇る。

「アイス……」
両手でしっかり握り、一口囓りついてみる。
以前食べたものと同じく、甘く冷たかった。
後は横で見守るジルフィーザの視線を疎ましく思いながら、貪るように口にした。
不意にジルフィーザが動いた。ドロップの身体を力強い腕が引き寄せ、そのまま抗うことも出来ず抱き上げられる。
「不甲斐ないこの兄の翼の代わりだ」
弁解がましくジルフィーザは言う。
「このようにお前を子供扱いするのも、これが最後であろう。時間軸が違おうと、幼い弟が完全な災魔として一人立つ日がきたのを嬉しく思うぞ」
ドロップが身をよじっても離すつもりはないようだった。

ジルフィーザの早い歩調は風となりドロップの髪を撫でる。
相変わらず太陽は熱を振り撒いていたが、冷たい物を口にしたせいなのか。
風を感じるせいなのか。ドロップはもう苛立ちを持たずに済んだ。
広い歩幅が心地よい振動を刻む。
ゆらり、ゆらり、ゆりかごに揺られるようだ。

やがて、ドロップはいつしか微睡みに包まれて行った。



兄の腕の中で、ドロップは夢を見ていた。
いや、夢というよりは、微睡みの中で現実の記憶を無意識に掘り返す作業を繰り返していた。
118ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:07:52 ID:cqdV0pqk0
断片的に蘇る記憶に未熟な精神が脚色を加え、結果、夢とも現実ともつかない長く息苦しい時の中をさ迷っていたのだ。


ぐるぐるぐるぐる。頭の中で浮かんでは消える。

そっと差し出された手。ママと同じ匂いのお姉ちゃん。
勇気の出るおまじない。お姉ちゃんは勇気を出してボクを守って死んだ。
利用したのは、ナツメの為?力強い腕でボクを背負ったのは……。ボクを背負ったのは……。
今、ボクを抱いているのは……?!

ぐるぐるぐるぐる。螺旋を描く。
憎むべきはずの人間達。その忌まわしき者を守った異形の神。邪魔であるはずの兄。
不思議な感情が頭の中で攻めぎ合う。

「……ママ」

呪縛の時から、解放してくれるのは母しかいなかった。
ドロップは記憶の中で母の温もりを辿る。
それは、ピエールの忠誠とは違う。麗の華奢な腕とも、美季の強さとも違う。

「ママ、ママに会わなきゃ!ママ!!ママ!!!ママ!!!!」

深く、深く、意識の底へ沈んでも、見つからない。



「我が弟よ、目覚めよ」
その声に唐突に意識が繋がれた。
「はい。兄上……様……」
随分嫌な夢でも見ていたのであろうか。口に出した声は掠れ、唇は戦慄いている。
119ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:08:54 ID:cqdV0pqk0
軽く頭を振り、目を開けると、海を思わせる青い空が広がっていた。
空と地を分ける境界線を、たゆたう水を湛えたオアシスが太陽の光を反射した真っ白な輝きで帯状に描いていた。
ドロップはジルフィーザの腕から滑り下り、その光景を見つめた。

青と白、その澄んだ色に圧倒されそうになる。
不意に、何故か心が拒絶した。この光景を美しいと思ってはいけないと。
その明るさすべてを消しさりたい衝動にドロップは駆られていた。
悪夢と共に意識の根底に沈め、すべて漆黒に封じこめなければならないと。

「F-9エリアだ。繭はこの何処かに……?」
ドロップはジルフィーザをそっと手で制した。
「兄上、わかります。私を呼んでいるのが、ここからは私一人で」
強い口調で告げると、ジルフィーザは一旦口ごもった後溜息混じりに答を返した。
「しかたあるまい、ならば俺はここに居よう。余り待たせるなよ」
「はっ」
膝を突き頭を下げ、忠誠の意を示しながらも、つい不貞不貞しい笑みが零れた。
もう、兄の庇護など必要ない。殺されるのを待っているとは、むしろ都合が良い。

立ち上がったドロップは光とジルフィーザから目を背け、オアシスの外れの窪地に目をやる。
焼き払われたような木々と干涸らびた湖。オアシスにおいて、その場所だけが異質だった。
次第に強く、確実な物として魂が引き寄せられるのを感じる。
逸る気持ちを抑え歩き出したドロップの背中に向かい、ジルフィーザが疑問を呈する。
「しかし、弟よ。ドロップと言う幼名のまま、成長を遂げる気か?」
いつになく柔和な物言いだった。
ドロップは振り返らず、投げられた疑問符を反芻する。
「名、ですか……」
確かに童鬼の二文字が表す通り、ドロップとは幼名。
さりとて今の自分には他に名乗るべき名などない。
120ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:09:25 ID:cqdV0pqk0
「うむ……。炎の力を持ち龍が如く猛き皇子、サラマンデス。そう名乗るが良い」
ジルフィーザの声には鋭さの欠片もなかった。
所詮、殺し合いでは生き残りえない。確信と軽蔑とが込み上げてくる。


―――愚鈍な兄よ。遺言がわりにその名を名乗るとしよう。
     私は冥王の身体を糧に龍として君臨する。
成長を遂げた暁、最初に消しさるのは災魔一族が長兄、冥王ジルフィーザ。

一歩下がり、恭しく最上の礼と別れを込めて微笑む。

「フッ、龍皇子サラマンデス。良い名だ。兄上、ありがたくお受け取り致します」
「うむ、行け!サラマンデスよ」
「では、兄上様。行って参ります」

もし、ジルフィーザが人の微笑というものを知っていたなら。その歪んだ微笑みはどう映ったことだろう。




―――さぁ、戻るがよい……。

母の声が聞こえるようだ。 
唯一、己を癒し。唯一、己が従うのは、母グランディーヌだけ。
そう、グランディーヌだけ。幾度無く繰り返し、胸に刻む。

「我は大魔女グランディーヌの第四子。我が再生の繭、魂のゆりかご、さあ、己が魂を迎えに来るのだ!!!」

窪地の中心に立ち、空一杯に思い描いた母の面影に手を伸ばした。
121ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:09:50 ID:cqdV0pqk0
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:軽傷。戦闘には支障なし。30分能力発揮できません。
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップと協力し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップが戻るのを待つ。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。

【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:成体になる。(ジルフィーザから龍皇子サラマンデスの名を受けました)
第二行動方針:制限を利用して、ジルフィーザを殺す。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。

122ゆりかご ◆MGy4jd.pxY :2009/04/07(火) 02:11:20 ID:cqdV0pqk0
短文で申し訳ありません。以上です。

誤字脱字、指摘よろしくお願いいたします。
123名無しより愛をこめて:2009/04/07(火) 17:18:42 ID:A62G0mAu0
投下GJです。
ドロップとして受けた優しさが、かえって己を苦しめることになるとは。
なんとはなしに物哀しいですね。
それにしても、ジルは相変わらずいいお兄ちゃんです。
弟の殺意に気が付く時はくるのか…気が付かないかもなあorz
相変わらず描写が細やかで、灼ける砂塵、アイスの冷たさ、目に染みるような青い空が浮かんでくるようでした。
読み終わって何故かしばらくしんみりしてしまいました。
さて、これからジル兄と、ドロップ改めジル兄がどうなっていくのか、
今後の展開へのwktkも込めて、重ねてGJです!
124名無しより愛をこめて:2009/04/07(火) 22:28:17 ID:Bwf45LvT0
GJ!
目覚めながらも、まだまどろみの中にいるかの如く、惑うドロップの心理描写が凄かったです。
ジルフィーザの家族に対する優しさがこれから起こるであろう悲劇を予感させますね。
サラマンデスのこれからが楽しみになる作品でした。
125名無しより愛をこめて:2009/04/08(水) 21:56:23 ID:UrReDurjO
なんてこった。
俺としたことが、早速まとめ更新してもらっていたのに今まで気がつかなかったぜ。
いつもまとめ更新乙です!
126名無しより愛をこめて:2009/04/10(金) 00:00:45 ID:VcovEB3i0
まとめ更新乙。
第2放送もあと4、5作品ぐらいかな。
1年以上も頑張っている書き手さんたちに拍手を送りたい。
127名無しより愛をこめて:2009/04/13(月) 13:06:22 ID:E8bgez960
ノシ
あんまり感想書けないけど、いつも楽しみにしてます。
128◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:36:55 ID:q+EnN8420
合流を果たした明石、さくら、蒼太の懸案は大きく分けて三つ。
・仲間と合流すること。
・ガイを阻むこと。
・そして、ロンを倒すこと。
最終的にはこの世界からの脱出に集約されるわけだが、どう考えても今のままではロンのアドバンテージが大きすぎる。
やはり、相応のリスクが伴うとはいえ、彼に対する最大の武器は“絆”であろう。
蒼太は少し後ろを歩くさくらをちらりと見やりながら考える。
彼女を失わずにすんだことは、まさに絆が生んだ奇蹟だ。
一時はすべてが終わったと絶望に落ちかけた自分たちを救ったのは、絶望の象徴たるロンの対極にある明石暁という稀有な存在だ。
彼はこの馬鹿げたゲームを終わらせるための鍵となる最重要人物だ。
何があっても、彼を失うわけにはいかない。
「…お前たちの話からすると、ロンの仕掛けた殺し合いに乗らないと言う意思を表明した参加者のグループが複数できあがっているということになるな」
三人が三者三様に歩んできた経緯からこの世界のルールについての大まかな把握は出来上がっていた。そして、共闘の可能性を持つものたちの存在についても。
「えぇ。今はそれらがばらばらにロンへの抵抗を試みている状況です。個々が連携しあわないとこの世界についての完全な把握は難しいでしょうね。
時間がたてばたつほど、人数は減っていくでしょうし…やはり、連絡手段が自由にならないのは痛いですね」
「まぁ、な…だが、ミッション中の通信断絶はよくある話だ。できないならできないでコンタクトをとる手段はあるさ」
並木瞬の身に起こった悲劇や、ティターン、美希の顛末を知らない彼らにとって一番近隣に位置するグループは蒼太が行動をともにしていたという面々である。
特に日向おぼろの存在は稀少だった。
さくらのアクセルラーが起動できず、また首輪の解析においても牧野博士の助力が期待できない現状でメカの知識に富むエンジニアはぜひとも仲間にほしい。
彼女の保護、そして外部協力者と共闘してのガイの阻止は当面の行動指針といえた。
だが、さくらと蒼太の二人はおぼろに対してそれぞれに後ろ暗い思いがあることも事実だった。
129◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:37:41 ID:q+EnN8420
「さくらさん、疲れませんか?」
「いいえ。特には。それより、蒼太君こそ休まなくて大丈夫ですか?」
何気ない会話の中に自分の罪を見る。彼の傷は誰によって生まれたか。
すべては元通り。
――本当にそうでしょうか?
頭の中で声がする。ロンとも自分とも取れぬ声が。囁く。
自分は今もロンの傀儡のままで、仲間を窮地に追い込むかもしれない。
どこかで明石暁を当てにしている自分がいる。だが。彼だとてこの先無事な保証はどこにもない。
クエスターもろともに自爆を試みた、いつかの彼が前を行く背中と重なる。
―あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです……
言い知れぬ不安がさくらの心に澱みを生んでいった。

「おぼろさん…無事だと良いんですけど……」
「大丈夫だ。距離的にはそう遠くに入っていないだろうし、俺たちならすぐに追いつける。
万が一、ガイと一戦交えることになったら、俺とズバーンで対処する。何も問題はないさ」

おぼろに真実を偽り、危険に晒してしまった。
仲間のためとはいえ、一時しのぎとはいえ、悪魔と契約した自分は許されるのだろうか。
二人は知らずヒュプノピアスについての話題を避けていた。
130◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:38:21 ID:q+EnN8420
「菜月ちゃん、大丈夫かな?」
さくらは蒼太がそれをどうしたか聞けずにいた。
「えぇ…高丘さんはともかく、精神的に動揺していないか心配です…」
仲間の話題で間を持たせる。そうしないと、沈黙に耐え切れなくなってしまいそうで―
蒼太はさくらがピアスの所在を聞かないことを不安に思っていた。
隠し事は往々にして関係の破滅を招く。
分かってはいたが、どうしてもその一線を越えることが今の二人にはできなかった。
危ういバランスを支えているのは共に崇拝に近い信頼の感情を寄せる明石暁の存在だった。
だが、超然たる輝きに身を置く彼は神ならぬ人の子の心の弱さを思いやれるだろうか―?
やがて、三人は岐路に立つ。
それぞれの見る方向がひとつであった頃と変わりない立ち居地は、今や明石暁の知らない場所で崩れてしまっていたのかもしれない。



頭蓋のひしゃげた女の屍。辺りに立ち込める血の匂い。
(そんな、馬鹿な――…!?)
内心を悟られない様つとめるのはスパイのイロハ。
しかし、目の前に転がる女性―真咲美希の変わり果てた姿に流石の最上蒼太も息を呑んだ。
だが、彼女を殺害した犯人の目星はすでについている。
「決まりだな…この近くにガイがいる……!」
美希の傍らに落ちていた天空の花を手に明石は険しい面持ちで呟いた。
三人に緊張が走る。
ガイがあれほど執着を示していた天空の花を捨てた真意はどうであれ、彼の危険性に変わりはない。
おぼろがティターンや瞬と合流できていたとしても、美希の末路を思えば楽観はできない。
「危険は伴いますけど、手分けして捜索しましょう、チーフ。…このままだと危険です。ここでむざむざ仲間を減らされるわけにはいかない」
「焦る気持ちはわかるが、ここで戦力を分散させるのは危険だ。ネオパラレルエンジンの搭載されていないアクセルラーでガイと戦うのは無謀すぎる。
131◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:39:00 ID:q+EnN8420
今は映士もいない。万が一、奴と遭遇したらどうする?」
「別に三人がばらばらになる必要はないでしょう。僕とさくらさん、チーフと…
その、ズバーン…でしたっけ? そのプレシャスはチーフの物なんですよね?」
ズバーンを仲間ではなくプレシャスと呼ぶこともわずかに違和感を覚えた。
さくらの洗脳を解くという急務ゆえにそのずれを今まで感じてこなかったが、ここにきてその違いが顕著になり始めている。
彼との時間軸の違いを考えればやむないことなのだが。
「わたしも蒼太君の案に賛成です、チーフ。ガイが近くにいる以上、時間はありません。
ここは手分けして彼女を保護すべきです。
ただ、お二人のお気遣いは嬉しいですが、私の心配なら無用です。戦うことは目的ではないんですし、集合場所を決めるなり連絡手段を事前に打ち合わせればリスクは軽減できます」
「どうするにせよ、お前を一人にしては置けない」
「だからこそ僕が同行するんですよ…さくらさんには申し訳ないけど、おぼろさんはさくらさんのこと、誤解したままですよ? 
さくらさんだけで折り合いのつく話じゃないと思うんです。やっぱり事情を説明できる当事者の僕が一緒にいるべきです」

結局、蒼太の案を通す形で三人は道をたがえ二手に分かれた。

ふと、明石は黄金の剣を肩に後ろを振り返る。
青と桃色のジャケットがもうシルエットになりかけた距離にある。
―彼らとまた無事に出会うことができるだろうか―
不意に沸き起こった言い知れぬ不安をかき消すように、明石暁は目の前に広がる道をしっかりと踏みしめた。




「ここから出られたら、ミスターボイスに進言してひとつ挑戦したいプレシャスがあるんですよ。
覚えてませんか? 〈神の頭〉。僕らが前に回収し損ねたあれですよ!
八方手を尽くして行方を捜していたんですけど、やっと所在が掴めそうなんです。
今度こそ、無事に保護しましょう。僕らの手で!!」
いつになく最上蒼太は饒舌だった。
132◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:39:29 ID:q+EnN8420
元々、とっつきやすい雰囲気をかもし出すことは得意であったが、今の彼はどこか無理をしているように思える。
「蒼太君…」
「あ! でもみんな違う時間から来てるんだし、戻るときは一緒じゃないんですよね。
残念だなぁ…さくらさんのいた時間だともうこの件は解決しちゃっ―――…」
「蒼太くん!! わたしは…!」
科白を遮る形でさくらが割ってはいる。

「さくらさん?」

「どうしてチーフに言わなかったんです?」
「…………ヒュプノピアスのことですか」
二人の足取りが止まった。
「他にもあります、聞きたいこと。どうしておぼろさんを一人で行かせたんですか?
不死の薬なんて、そんな便利なものがあるならどうして行動をともにしなかったんです?
あの傷から回復できるだけの道具があるならどうし―――…」

「決まってるじゃないですか。僕がロンとつながってたからですよ」

「え…?」
んー、と頭をかきながら蒼太は答えた。
「本当はさくらさん、気づいてたんでしょ? だから僕の提案に乗った。
自分の疑問を解決するために。チーフにはいえないですよね、僕らのこと信頼してくれてるのに」
「蒼太…くん……?」
「でも安心してください、別に殺し合いに乗ったとか、そういうんじゃないんですよ。ただ、一時的に利害の一致を見ただけ。それだけ、です」
「ロンは…何も得るものをなしに手を差し伸べたりはしません」
「えぇ。でも、僕は、僕らは勝った! さくらさんの洗脳を解いたじゃないですか!!
大勝利ですよ!!」
133◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:40:08 ID:q+EnN8420

蒼太の語気がわずかに強まる。
「でも! だったらどうして…チーフに本当のことを言わなかったんです?!」
「別に…そんなこといわなくても、いまさら話を面倒にするだけじゃないですか」
「そんなことありません! チーフは…チーフは受け入れてくれるはずです!!」

「さくらさんは僕のことを疑ってるんですか!? 何が言いたいんです!?」
「そんなことはありません!! ただ…!」
さくらの洗脳は解いた。
だが、そのために自分が払った代償をこの女は本当に理解しているのだろうか。
自分は、ただ居場所を取り戻したかっただけなのだ。あの、自分の過去も今も受け入れてくれる
空間を。そこで凛とたたずむ人たちを。


「お二人さぁ〜ん…道の往来で喧嘩なんてはた迷惑だよぉ〜〜ん!」


張り詰めた空間に似つかわしくないおどけた軽い声が突然差し込んでくる。
「あなたは…!」
さくらの瞳に驚愕とも恐怖ともとれぬ色が満ちる。
漆黒の鎧を走る黄金のライン。
猛々しい獣の頭を持つ機械仕掛けの獣人がそこにたたずんでいた。
「また会ったな、土下座ピンクゥ…無事お仲間と合流できて何よりじゃないの?」
そう言って、クエスターガイは唇の端をいびつに緩めた。





134◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:40:50 ID:q+EnN8420

「駄目やないの! 蒼太くんのこと頼んだのになんでついてきてしもうたん?」
「バウッ!」
日向おぼろに頭をなでられながら、マーフィーはバツが悪そうに鳴いた。
本当の生き物みたいやなぁ…
うなだれるその愛らしい姿は本物の犬そのものだ。
怒る気持ちもすぐに萎えてしまう。
「ほんま、仕方ないなぁ…」
蒼太が一人になったのは心配だが、道行がいるのはやはり心強い。
先ほどから心細さに不安の気持ちが濃くなってしまっていた。
「バウ……」
手が震えているのがわかる。不安はマーフィーにまで伝わっているらしい。
「大丈夫や! これは武者震いやからな! ガイでもロンでもでてきてみぃ! あたしだって疾風流忍者の端くれや! 
一人がこおうてハリケンジャーのサポートが勤まるかいっ!」
萎えそうな気持ちを必死に奮い立たせおぼろは空元気に叫んで見せた。
「バウッ!」
そんなおぼろの姿にかつての“パートナー”の面影を見たのか、マーフィーも元気よくほえて見せる。その時だった。不意に背後に人の気配が生じる。
「誰やっ!」
鋭く飛ばした声はやはり少しだけ震えていた。
握り締める槍の矛先はわずかに震えている。

「警戒の必要はありませんよ、日向おぼろさん。俺は最上蒼太の仲間ですから」

人影はやがて、精悍な顔つきの青年の素顔をあらわす。
おぼろが出会った三人目のSGSジャケットの若者だった。
「あんたは…?」
「俺の名は明石暁。あなたを保護するために来ました。蒼太も…さくらも一緒です」




135◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:41:20 ID:q+EnN8420
すべてを封殺された状態で、何の抵抗もできない。
それは、なんと惨めであろうか。
策士たる綿密さを常とする蒼太にとって、それは未来で味わうはずの絶望だった。

「てめぇも俺様にはてんで手も足も出ないようだなぁ…か・わ・い・そおぉぉぉおぉお!!!!」

ガイがこんな有様に陥ったのはひとえに麗の実力を見抜けなかったがゆえ。
いわば、相手の情報を知らなかったからだ。
しかし、旧知のボウケンジャーは違う。高丘の末裔はともかく、個々を相手にするならば
ガイにとってそれほど大きな脅威ではない。
しかも片方が変身できず、足手まといであることを彼は知っている。
「蒼太くんっ!」
背後でわめく様は耳障りだが、どうすることもできまい。
本当は適当にからかって、適当なところでずらかる気であったのだがどうやら彼も自分に対する抵抗を持たないらしい。

「本当、どうしちまったってくらいに無様だぜぇ、お前ら。俺を見習えよ。
泥にまみれてごみにまみれて…ガイ様、ずいぶん揉まれて強くなったんだぜ?」

聞くも涙、語るも涙の数時間をロンがダイジェストしてくれればいいのに―…
そんな思いで、ガイは火花を吹くボウケンブルーの腹部に足を擦り付ける。
「ぐっ…あぁ……!!」
ついには変身が解け、人の姿へ戻る。
閉じかけていた傷口がガイの容赦ない攻撃で開いたのか、下腹部は真っ赤に血で染まっていた。
「っ……ハァ……ハァ、ハァ…ぐっ!……」

倒れ伏した蒼太の袖から、何かがガイの足元に転がり出る。
136◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:42:33 ID:q+EnN8420
「おんやぁ? なんじゃこれは??」
金属特有の輝きを放つ二つの物体。
「それは…!」
蒼太に駆け寄ったさくらはガイの両手に握られた二つの物体を見やる。

「これをーー…あぁーーしてーー、こうしてぇーーー………それで……あー…なる♪」

クエスターロボを作る過程で得た機械知識がよもやこんな場面で役立つとは。
あるいはそれを創造した狂気のマッドサイエンティストと時空を超えたつながりが生じたのか。
ガイは満面の笑みを浮かべて二人に近寄っていった。



「お前…命を助けてくれたら、何でもするって俺に約束したよなぁ?」

ガイは虚ろな目で蒼太の体に馬乗りになり、地面へ頭を強く押し付けるように首の動脈を正確に締め上げるさくらへ問いかける。

「殺っちまいな、ボウケンピンク!! お前の初仕事だ…」

そういって、ガイは腕の中にあるスイッチとそれに連なるさくらの運命を手のひらで弄んだ。
「ぐっ…さ…さくらさん…止め……――」
自衛隊特殊部隊の過去を持つさくらにとって実戦とは確実に、スピーディーに相手の息の根を止めることに主眼を置く。
「………………………………………」
蒼太の苦悶する様子に動揺するそぶりすら見せず、さくらは両手の圧を強めていく。
相手のば息の根を止めることくらいは造作もないことだ。


137◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:42:56 ID:q+EnN8420
「いいぞぉ! そのまんまへし折っちまえ!!」
ガイはさくらを煽りながら、高みの見物としゃれ込む。
(面倒くせぇことはぜーんぶボウケンピンクがやってくれるってわけだ…なるほど、こりゃ楽で良いぜぇ……)
蒼太の顔が血流の異常から真っ赤に染まり、目は血走り、口元からはもはや言葉も出ない。
「……ゥぅ…………ッ!…」

さくらは腕の力を決して緩めようとはしなかった。
訴えかけるような蒼太の視線も傀儡となった今のさくらには届かない。
むしろ、指にこめる力を一層強めて――

「ヒュ〜! やるねぇ〜〜…ボウケンピンクゥ!!」
眼前で繰り広げられるショーの唯一無二の観客としてガイはさくらへグッジョブを送る。

やがて、さくらの肩をつかむ手がだらりと力なく垂れ下がる頃、最上蒼太の命の灯火はこの世から消え去った。


かつて、蒼太であったものを無表情に見下ろしながらさくらはその場に佇んでいた。
自分のしたことの意味すらわからぬまま。
「おめでとさん。お前もこれで正式に“こっち側”ってわけだなぁ、おい!」
ガイは拍手でさくらを自分の仲間に迎え入れた。
いや、隷属したといったほうが正確だろう。
思わぬ“道連れ”の誕生にガイは嘲りと喜びが入り混じった笑みを浮かべた。
深く傷ついた今の自分に代わって諸々の作業をこなしてくれる相棒は実に使い勝手がよかった。

「これからよろしく頼むぜ、ボウケンピンク♪」


【最上蒼太 死亡】
残り25人
138◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:43:22 ID:q+EnN8420
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。日向おぼろを保護する。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。

【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:健康。ヒュプノピアスでガイに隷属。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。

139◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:43:52 ID:q+EnN8420

名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬の支給品(確認済)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:バイクを探しにFー9エリアへ
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:動けない蒼太の為に助けを呼んでくる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
140◇5NhH1PgaVg氏の代理投下:2009/04/15(水) 19:44:12 ID:q+EnN8420
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:おぼろを追いかける(こっそりと)→見つかって少々バツが悪い。


498 : ◆5NhH1PgaVg:2009/04/15(水) 04:55:52
以上です。
タイトルは「旅は道連れ」でお願いします。



141名無しより愛をこめて:2009/04/15(水) 20:00:46 ID:q+EnN8420
以上代理投下終了。
>>130-131の明石の台詞「」の途中で切ってしまいました。
昨夜のうちに代理投下できなかったことと重ねてお詫び致します。
申し訳ありませんでした。

そして、まずは投下乙です。
明石の不安は的中、戦力を分けることがさくらにとっても蒼太にとっても
屈辱と破滅、そんな運命の分かれ道になってしまいましたね。
身体的には絶不調でありながら、テンションは上がりまくりのガイ。
外道街道まっしぐらですねw

何点か指摘があるのですが、規制中のようなので議論スレに。

142名無しより愛をこめて:2009/04/20(月) 19:10:20 ID:xMKZOPsP0
一筆奏上! 『守』
143名無しより愛をこめて:2009/04/24(金) 23:51:05 ID:jJvqfR93O
MG氏の次のパート投下が楽しみ!
ところで、5N氏の修正の進行具合はどんな感じ何だろう?
せめていつ頃になるか、目安だけでも分かったらなあ。
144名無しより愛をこめて:2009/04/27(月) 14:13:52 ID:9XzyJHsV0
7月からメガレンジャー、カーレンジャーがレンタル開始だそうです。
これで勝つる!(把握的な意味で)
145名無しより愛をこめて:2009/04/28(火) 16:29:31 ID:IfSX3Bmj0
マジか!?
これでメガレンが不揃いなTSUTAYAともおさらばだ!
146名無しより愛をこめて:2009/04/29(水) 13:09:55 ID:j12oIlgVO
うわー、把握の為に全巻買ったばっかorz
147名無しより愛をこめて:2009/04/30(木) 19:28:58 ID:BatLoDuw0
>>146
名作だからいいじゃないか。
148名無しより愛をこめて:2009/04/30(木) 19:49:52 ID:nAvDqRzjO
>>147
まあねw
把握の為とはいえ、非常に楽しい時間だったよ。
とりあえず、裕作さんかっこいいよ、裕作さん。
ロワの裕作さんも頑張れ、負けるな裕作さん。
149 ◆MGy4jd.pxY :2009/04/30(木) 20:36:45 ID:bqG4S3830
>>144-148
惜しみない拍手を送りたいと思います。
しかし、購入して損は無いかと、ネジブルーもかっこいいしW

おそらくお気づきの方もいるかと思いますが、俺は今ジェットマン把握中です。


そして、長期間の予約。キャラ拘束。
大変御迷惑をお掛けいたしました。
先程、したらばに最後の分を投下致しましたのでよろしくお願い致します。
150名無しより愛をこめて:2009/04/30(木) 21:48:12 ID:6MF9MEJd0
wktkしてお待ちしておりました!お疲れ様です!!
マッハで読みに行ってくるっぜ!
151 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:20:49 ID:VOBqso0B0
仮投下したのが昨日で本来ならもう少し時間をおくべきなのでしょうが、
連休中投下出来ない状況になるため申し訳ありませんが投下させて頂きます。

一応3話に分けてあります。
では、ドモン、仲代壬琴投下します。
152ageてしまってすみませんorz ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:22:33 ID:VOBqso0B0
堆積した白い砂。砂岩層と礫岩層が幾つも重なる岸壁。
表層に刻まれた半月状の漣痕は、遥か太古を生きた恐竜の鈎爪で傷つけられたかのような深く不気味な穿孔だった。
岸壁の裾は侵食により抉られ、浅深広狭、様々に奇怪な影を作りだしている。
今、タイムイエローの前に立ちはだかる男。その男から伸びるのもまた奇怪な影。肉食竜を摸した角を持ち、棘を持つ。
――爆竜。
その名を冠するに、相応しい姿。
白骨を思わせるスーツの白。ケモノの牙が如き形状の装飾の黒。残忍な獣口から滴り落ちる鮮血のように赤いゴーグル。
遥かなる影を映すその姿。屈強なる竜が今まさに復活を遂げ、地の奥底から這い出てきたようだった。

ドモン―タイムイエローは、その姿に臆する事無く威風堂々名乗りを上げる。
「タイムイエロー!!」
宣戦布告の意を込めたその声に、男は応じ、溢れぬばかりの覇気を孕んだ声を張り上げた。
「ときめきの白眉ッ!アバレキラー!!」
対峙する二人、ゴーグル越しに搗ち合う視線。
タイムイエローは越えるべき関門を叩き壊すべく、拳を握りしめ構える。
アバレキラーは獲物を値踏みするように、白い羽状の剣を斜に傾けた不適な構えをとる。
「ビビ〜!壬琴様、いやアバレキラー様!!強そうデビ♪ギヒヒヒ〜」
プランプランと手足を跳ね上げ、ビビデビが勝ち誇ったように笑う。
「ギヒ♪それに比べて、黄色いのは身体がデカイだけ。どう見ても雑魚デビ〜〜」
「うるさい、邪魔をするな。向こうへ行ってろ!」
「ビッ!?」
アバレキラーの怒声に首を竦め、すいーっと後ろへ風に流されながら……。
「ビビ〜ッ!レッツ・ファイトデビ〜」
ビビデビが、殺し合いのゴングを鳴らした。

「雑魚だと?!言いたい事、いいやがって……」
タイムイエローは心の中で苦笑を漏らした。
153Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:23:57 ID:VOBqso0B0
否定はしない。確かに情けないほど、雑魚だ。だが、雑魚にも、思いというモノはある。
俺のせいで落とした命は、俺の手で必ず拾ってみせる。
タイムイエローの胸の中にあるのは、家族と共に笑う深雪の姿。
その願いが熱く身を焦がす。

まず、一人。

「行くぜ!」
クロノチェンジャーから召還せしツインベクターを手に、タイムイエロー大きく一歩踏み出す。
「うらぁ!!!!」
刃先のクリスタライズド・メタルを煌かせタイムイエローは正面から斬りかかる。
「どれほどのもんか、見てやるぜ!」
避けることなく、真っ向から受け止めるアバレキラー。
凄まじい金属音が耳を劈く。
衝突した刃元が火花を散らし、手首から肩まで衝撃が電撃の如く走る。
弾かれた二人は同時に突進。
そのまま続けざまに切り合いを繰り返す。
限りなく近く、外れない。絶対的な間合いを崩さない。
アバレキラーは一撃も取り溢さず、全てに食らいつき捌ききる。
「来てる!ビンビン来てるぜ!!」
歓喜の言葉をあげ、アバレキラーが剣を振り下ろす。
タイムイエローは左手を刃先に沿え、ツインベクターで受け止める。
火花が散り、より高い金属音が響く。
「うぉぉぉぉっ!」
剣の交差した地点に、力を込め突き離す。弾かれたアバレキラーは数歩後退。
防戦を兼ねた攻撃では決定的なダメージは与えられない。
次の一撃でタイムイエローは剣筋を変える。
ツインベクターを槍状に振るい、下から掬い上げるようにアバレキラーの足元を薙ぎ払った。
「おっと!」
アバレキラーは跳躍で避ける。そのまま空中にてアバレキラーは回転。
遠心力と落下速度で威力を増した剣がタイムイエローに迫る。
捌くか、避けるか。一瞬、反応が遅れたタイムイエローの手首に激痛が走った。
154Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:24:41 ID:VOBqso0B0
「ぐっ、がぁっ!」
切断こそ逃れたもの、切りつけられた左手首の痛みは凄まじい。
指先は痺れ、気を抜けば左手は痛みに持っていかれそうだ。
タイムイエローは体制を立て直すため、アバレキラーの腹にキックを打ち込み後方へ跳ぶ。
しかし、アバレキラーは期を逃さない。砂を蹴り上げ、疾風の速さでタイムイエローに迫る。
くるりと剣を回転し、刀身を収縮させた剣の刃先がタイムイエローの眼前で光を放った。
「!?」
衝撃も痛みも感じない。
アバレキラーは一陣の風のように、そのままタイムイエローの横を擦り抜けた。
タイムイエローの思考が一瞬停止する。
その時、自分の胸に金色に描かれた『×』が目に飛び込んできた。
「なっ、なんだ!?」
振り返った空中に、一際大きな『×』が顕在した。
『×』より金色の光が放射し、火花を上げて爆裂る。
「ぐ…あ……ぁぁっ……!!」
喉元まで込み上げる灼熱感が声を奪う。
心臓が、肺が、すべての臓器が押しつぶされるような痛み。
落雷を受けたように身体を硬直させ、タイムイエローは頭から砂に倒れる。

「ハッ!どうした。もうダウンか?」
酷くつまらなさそうなアバレキラーの声が降る。
「ぐっ!」
顔を持ち上げ、アバレキラーを睨みつけた。
まだ、余力はある。充分に。たとえ変身が解除しても、俺には拳が残っている。
この拳をぶち込んで、壁を越えてやる。
痛む胸を押さえ、タイムイエローは起きあがる。
タイムイエローの思いは揺るがない。歯を食いしばり、全身を気力で漲らせる。
「うらぁぁぁぁぁっ!」
「いいね、その感じ。こいよ!」
155Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:26:26 ID:VOBqso0B0
タイムイエローは弾丸の如く疾走し、アバレキラーの間合いに入り込んだ。
風を切り、袈裟懸けに振り下ろされるアバレキラーの剣。
タイムイエローは腹に力を込め、上体を後方へ反らし、かわす。
即時、振り子状に上体を動かし体制を整え、重心を乗せた左足を軸に、大きく捻った身体ごと右拳を一気に突き出した。
拳はアバレキラーのマスクを打ち据える。そのまま拳の勢いを逃さず、内側へ抉るようにスナップを効かす。
打撃にアバレキラーの上半身が後ろに振られる。
もう一度拳を叩き込むべく、拳を振り上げ弧を描くようにアバレキラーの心臓目掛けてパンチを打ち下ろす。
アバレキラーは舌打ちし、身体を滑らせるように回避、そのまま剣を突き上げタイムイエローの脇腹を狙う。
タイムイエローは直前で身体を捻り、剣の攻撃を最小限に留める。
威力の削がれた拳は素早く引き、重心を下げアバレキラーの懐へ入り込む。
下方からの一撃。腹部中心へ渾身の右拳が炸裂。
持ち上がった身体に、間髪入れず拳を叩き込む。
続けて。
心臓を抉るほど鋭利な一撃を。
顎が拉げるほど重い一撃を、素早く突き上げる。
さらに、体中の急所という急所へ、的確にかつ精密なパンチを叩き込んでいく。

  ドモンは考える事を止め闘争本能に身を任せた。頭の片隅で、観客の歓声が響いてくる。白熱のライトが、頭の中を真っ白にしていく。
  ただ、その拳を、機械のように打ち続けた。身体が記憶した技を。確実に肉体を破壊する技術を。

アバレキラーの、マスクのこめかみに重量を乗せた拳を横殴りに叩きつける。
追い打ちで、鳩尾に一撃。
「この拳で砕いてやるぜ……」
「がはっ!」
アバレキラーの身体が折れ、クリンチの状態となる。
タイムイエローは両手でアバレキラーの身体を拘束し凄まじい力を加え空中に持ち上げた。
拘束から逃れようと、アバレキラーがタイムイエローの肩を掴んだ瞬間、勢いを付け回転を始めた。
ギュゥンッ!ギュゥン!
風を唸らせ回転はスピードを増して行く。
ギュン!ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン!!
156Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:27:33 ID:VOBqso0B0
ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン!!!!!
凄まじい高速回転を加え投げ放った。
アバレキラーは竜巻に飲まれた木の葉のように空中を舞う。
ドスッ!!
耳朶を打つ落下音。
重く響いたその音は、サンドバックを叩く音に酷似していた。

タイムイエローは倒れ伏したアバレキラーの前へと進む。

――――気に入らないヤツだった。だが、殺し合いに乗ってた訳じゃなかった。

跪き、正拳突の構えをとる。
せめて、苦痛無く、一撃で。己の拳で確実に殺害し、それを実感する。
それが深雪への思いの第一歩となるのだ。

「おまえ、何故……優勝を……目指した?」
アバレキラー大の字に倒れたまま少し顔を上げタイムイエローに問う。その声は掠んでいた。
タイムイエローが放った技は、ただダメージを与えるだけでなく相手の平行感覚を奪う。
すなわち、例え余力を残していようが、起き上がることは不可能。
もとより、タイムイエローの拳により、蓄積されたダメージで立ち上がようはずがない。
「話したところで時間稼ぎにはならないぜ」
アバレキラーは砂を掴み、強く握った。
「俺は、生きたいと願った。ときめきたい、ともな……。俺からそれを奪うなら……聞かせろ」
感傷に浸る必要などない。殺し合いなんだ。
頭では解っている。だが……。


▽   ▽   ▽


自棄になっていた俺に、深雪さんが手を差し延べてくれた。真っ白なハンカチ。深雪さんは、その白よりも純白で、眩しいほど綺麗だった。心も美しい人だった。
157名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 12:29:20 ID:n0FJaBfw0
sien
158Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:31:39 ID:VOBqso0B0
セコい手を使おうとしたサーガインを諌め、やっと二人になった俺達は海岸を歩いた。

海岸沿いの教会。
深雪さんは、旦那さんの死が信じられず心を飛ばす魔法を使った。
無防備になってしまう深雪さんを守るのが俺の使命だった。
俺は、深雪さんを守るつもりだった。

そして、最悪の再会。小津勇は、ウルザードとなって蘇った。

ウルザードを殺す気は無かった。深雪さんの大切な人だからだ。その場を食い止めて脱出するつもりだった。
だが、ウルザードは強かった。深雪さんを逃がす間、俺は全力で戦った。
薄れていく意識の中、後悔はなかった。
時間稼ぎは出来た、守れたと思ったからだ。

気付くと目の前にロンがいた。
そして俺は深雪さんが戻り、俺を助けるため、自分の命と引き換えにウルザードを、旦那である小津勇を殺したと知った。
逃げようと思えば、逃げれたのに。
ロンの使った小津勇の支給品で、俺の傷はかなり回復していた。
ロンから渡された小津勇のデイバックに他のアイテムは入っていなかった。基本支給品……。なんで食料が和菓子なんだって、思ったのは覚えている。

傍らに転がっていた深雪さんのデイバックを握りしめながら『幸せな家族』それを深雪さんにプレゼントする。そう決意した。
仲間のことは、頭に浮かばなかった訳じゃない。だけど……。それ以上に、俺の決意は固まっていた。

ウメコさんに撃たれた時も、俺を救ったのは、胸のポケットにあった深雪さんのマージフォンだった。
撃たれ、意識を失った俺が気が付いた時には、ウメコさんは教会の鐘楼の上にいた。
159Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 12:33:10 ID:VOBqso0B0
ウメコさんの仲間らしい男が来て、俺はソイツを撃とうとしたが、傷のせいで照準が定まらなかった。

そして、ヒカルさん達と出会った。
俺と同じように愛する者を何も出来ず亡くしてしまったヒカルさん。深雪さんにとって家族同然のヒカルさん。
俺はヒカルさんを優勝させると決めた。ヒカルさんと勝ち残り、最後の二人になると。

雄作とサーガインは親切ヅラを下げてヒカルさんを騙し、深雪さんの死体を冒涜した。
ヒカルさんはサーガインを粛清し、先に、一歩踏み出した。

次は、俺の番だ。


▽   ▽   ▽


「フッ……。馬鹿なヤツだ…ぜ……」
アバレキラーは全身の力を抜き、仰向けに砂に倒れた。
タイムイエローは拳に力を込めたまま、そっと目を瞑る。
やっと、一歩踏み出せる。命を奪う罪悪感よりも安堵の方が大きかった。この一歩を踏み出せばきっと楽になれる。

「深雪さん……。あるんだ。深雪さんの幸せな家族はこの先にあるんだ。大丈夫、大丈夫だ。生きるよ……。深雪さんにプレゼントするまで、俺は生きる」

大地を砕くほどの思いを乗せて、ドモンは拳を振り下ろした。

拳がアバレキラーのマスクに届く――その直前。
反動を付け起き上がったアバレキラーの拳がタイムイエローの顎を打ち砕く。
160名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 12:36:22 ID:n0FJaBfw0
ageてしまってすみませんorz
161名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 12:52:27 ID:KWuvY5bVO

162Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:14:43 ID:WMxjVISV0
「……が…っ…」
突然の反撃。無防備だったタイムイエローは数メートル後ろに弾き飛ばされた。
「くくく……くははは……。『ドモンさん、生きてください』プレゼントするんだろ?」
「てめぇ!何でそれっ!!!」
起きあがりながらタイムイエローは考える。何故知っている?と。
「俺の名前ッ!何故だ」
「おまえは俺のすぐ前に呼ばれたのさ。覚えていて良かったぜ。聞きたい事が聞けたしな」
すでにアバレキラー起き上がっている。ダメージの蓄積など欠片も感じられない。
「まさか片っ端からぶち殺していけば優勝出きるとでも思ってるのか?相手の情報聞きださなくてどうするんだ」
「このやろう!汚い手ぇ使いやがって」
「汚い手?はーっはははははっ!!おまえ殺し合いに対する認識薄いんじゃない?どんな手使ってでも勝ち残るぐらいじゃなきゃ、すぐ死ぬぜ」

馬鹿正直にすべて話した自分は本当に大馬鹿だったと痛恨する。
思えば、支給品から食料の中身に至るまで詳細を聞きたがる時点で気が付くべきだった。
目前の勝利に驕り、もしもの可能性を軽視した。浅はかな行為だったとは思う。
だが、この男からすべてを奪うなら最後に聞かせても構わないと思った。
最後だと思ったからこそ話した。もう二度と、失敗し決意を挫かれたくはなかった。

「それに、俺をあの程度で殺れると思ったのか?マジで笑わせるぜ」
「人の思いを笑いやがって、ゆるさねぇ!」
「なら、相手になるぜ!」
アバレキラーは羽状のペンの剣先を操り、空中に無数の光の線を描く。
「行け!」
光の先端はすべてタイムイエローを刺していた。
線は光の矢となって一直線にタイムイエローを襲う。
高速の光の矢が頬の横を過ぎる。回転しつつ横に飛びのいたが、かわせたのはほんの数本。
身体の至る所から盛大な火花が散る。
「ちくしょう!!!」
それで無くとも、これまでの疲労が蓄積された身体。接近戦はもうキツイ。
こっちもベクターハーレーで射撃戦に持ち込むか?
163Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:16:28 ID:WMxjVISV0
いや、幾ら何でも俺のパンチが全く効いてないはずがない。一撃で、ボルバルカンで沈めてやる。
タイムイエローは膝の震えを手で差さえ、やっとの思いで立ち上がった。
「おお、根性だな。面白いじゃないか。だが、世の中にはどうにもならない実力差ってヤツがあるんだぜ」
アバレキラーは両手を軽く握り胸の前でクロスした。

「見てな……」

それは格闘技で言うなら『溜め』の構え。
息を吐きながら、クロスに構え、両手をゆっくりと下げ唸り声と共に気を高めていく。
「……ぁぁぁぁぁぁあああああうぁああああ!!!!」
放たれる威圧感に大気が震えた。
アバレキラーの足元の砂が震え、漣立つ。

ピシッピシッとタイムイエローのマスクから乾いた音が鳴る。
タイムイエローの背筋に冷たい汗が流れる。
異様なのだ。アバレキラーの姿が。
一回りは肥大した筋肉組織、その上に黒々と、大きさと強度を増した鋭刃が現れる。
骨肉を切り裂くことが為だけに飛躍的に進化した長い鈎爪。
確実に獲物を捕食する為の、究極かつ最強の武装。
悠然と圧倒的な存在感を見せ付けられ、タイムイエローの身体は小刻みに震えた。

「でも、俺は負けるわけにはいかない。ボルバルカン!」

叫びながらクロノチェンジャーにアクセスする。
召還したボルバルカンをアバレキラーに向けた。
有効すぎる程の射程距離に捕らえられながらも、アバレキラーは動じない。
気圧されるまいと、タイムイエローはボルバルカンを構え直す。
大型の銃身が、何時になく重い。
これまでボルバルカン重く感じることなど無かったというのに。
「ウオォォォォォォ!!」
気合を込め、アバレキラーに標準を定めた引き金に手を掛ける。
164Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:22:45 ID:WMxjVISV0
何故か、引き金さえ重く感じられた。
元々、ボルバルカンは大型重火器。
放出されるバルカンビームは数色に分かれ、その数1秒間に10発。連射反動も最大級。
屈強な身体を持つタイムイエローだからこそ駆使できる武器。
「くそ!!!」
砲口が持ち上がる。微かに照準が揺れた。
連射反動がキツイ。撃つ直前、気圧されまいと力を入れすぎたのが裏目に出た。肘が上がり撃つ姿勢が崩れていた。
砂地である事も禍だった。利き足は踏み止まるのを忘れたように砂の上を擦り下がった。
結果、連発で放射された10発は同軸線状に収束することなく、角度を付け、方向を変え、エリアを駆け抜けた。
ビームの軌跡は風圧で砂を抉り、爆散する露頭の岩盤が砕け、四方にザクザクと突き刺さる。
凄まじく吹き上がる砂が一瞬で視界を奪う。
ばらばらに着弾した10発の内数発がアバレキラーを捕らえたのは確認した。
咄嗟にガードしていた右上腕部は掠める程度だったが、最初に着弾した左足は貫いたはず。
ボルバルカンは2連式、残弾は一発しかない。
タイムイエローは全身に力を込め、もう一度ボルバルカンを構えた。
砂煙が晴れる一瞬。そこを狙って、撃つ。
舞い上がる砂の切れ間を目で追う。
10時の方向、アバレキラーの赤いマスクを捕らえた。
しかし、引き金を引く間もなく……。
刹那、双方の距離は一瞬で縮まる。
水平ミサイルさながら飛んできたアバレキラーは長い鉤爪でタイムイエローの身体を挟み込み、さらに飛翔速度を上げる。
タイムイエローの身体はミサイルの弾頭の如く――――――

ドガンッ!!!!

―――――― 岸壁に叩きつけられた。
両腕が吊り上げられた魚の様にビグンと跳ねる。
後頭部と肩が岸壁にのめり込んでいた。
身体を覆うクロノスーツは余りの衝撃に消え去り、支えを失った身体はズルズルと力なく地に崩れおちた。
受け身どころか両手を突くことも出来ず、ドモンは砂に突っ伏した。
165Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:25:23 ID:WMxjVISV0
「実験終了 。スーツの力は問題ない」
アバレキラーは淡々と呟きながら、ドモンに背を向けた。

口の中に砂と血の味が広がっていた。身体中が痺れていた。
「深雪さん……。深雪さん」
ドモンは深雪の名を繰り返しながら唇を奮わせた。
不意に、アバレキラーが振り返る。
「まだ、50パーセントも出し切ってないぜ。だが、まぁその程度だろうな」
その程度。侮蔑を含んだその言い草に、まるで冷却装置の壊れた機械のように全身が熱くなった。
よろけながら起き上がったドモンは、頭を下げアバレキラーに体当たりの体制で突進した。
アバレキラーは軽く身体を捻るだけでかわした。そして何事もなかったかのようにくるりと方向転換し歩を進めた。
「くそっ!!」
両手を合わせ、その背中に叩きつける。
ダメージを与えるはずが、アバレキラーの装甲で皮膚が避け、鮮血が手首を伝う。
「……おまえなぁ、いい加減にしろよ」
襟首を捕まれ力任せに引っ張られる。
その瞬間、アバレキラーの変身が解除された。
「へへっ……。殺し合いに対する認識…甘い…ぜ」
ドモンは拳に力を込めた。
「優勝……するために…どんな手だって使う……。じゃなけりゃ……ダメ…だったよな」
脇を閉め一直線に拳を突き出す。
肉がぶつかり合う音――――――

ベチッ。

――――――そんな音は響かなかった。
一発逆転できる程の力など、残っていなかった。

壬琴は頬に着いたドモンの血を拭いながらニヤリと笑った。
「今のが一番効いたぜ!」
言うや否や放たれる痛烈なストレートパンチ。
ドモンは数メートル吹っ飛ばされた。
166Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:31:57 ID:WMxjVISV0
頬に感じる痛みと全身の痛みが一気にドモンを襲い、尻餅を付いたまま動けなかった。
「是が非でも優勝したいっておまえの気持ちは良く解ったぜ」
言葉を収めるのと同時に、壬琴はデイバックから扇を模した武器を取り出す。
ジャキンッ!と広げられた扇は幾つもの鋭利な刃が連なる。
それをドモンの喉元へ垂直に突き付けた。
「だがどうだ。これでチェックメイトだ」
壬琴は、呆れたように息を吐き呟く。
ドモンは壬琴から眼をそらさず、睨みつけている。
喉元に当てられた刃が、ドモンの動きを固定していた。
「まぁいいさ。俺はこのゲームに退屈してたところだ。おまえにチャンスをくれてやるぜ」
チャンス、その言葉をドモンは訝しんで、眉を顰める。
「俺は、脱出の手段もすでに見付けてある。首輪も手に入れた。後はコイツを解除すればいい。そう時間がかかる仕事でもないだろう。
そして、ゲームマスターを倒す。それでゲームクリアだ。つまんねぇだろ。俺はもっとトキメキたいんだ」
頚動脈にぴたりと刃を当てたまま、壬琴は口角を上げドモンの顔を見据えた。
「それにおまえも俺にクリアされたら優勝出来ない、それでいいのか?
他にゲームに乗ったヤツを集めて俺を狙うのもいい。俺が首輪を解除するか。おまえが俺を殺すのが先か。それがゲームだ」
「……どういうつもりだ?」
「そういうつもりさ。優勝狙いのおまえらにとったら、俺は一番邪魔な存在だろう。それを潰すチャンスをやると言っているのさ」
壬琴はポケットから一枚のコインを取り出し、親指の上に乗せた。
「ただしゲームを始めるかどうかはこれで決める。表か裏か、どっちに賭ける?おまえが勝てば、ゲームスタート。
負ければ、おまえはこのまま頚動脈を切られてゲームオーバーだ」

そして、コインは弾かれた。
キィン……。
澄んだ音を立て、コインは空中をくるくる回る。
167Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:40:01 ID:WMxjVISV0
コインを煌かせる太陽の反射光がキラキラ眩しくて、ドモンは瞼を閉じた。

「Heads or Tails?」

光を放ったコイン。一瞬で眼に焼きついたのは……。
俺が選ぶのは……。


▽   ▽   ▽


広間にて、押し殺したような笑い声が響く。

  ククッ……クックックッ。ハハハッハハッ。
  0号……。
  さすが最強と謳われるプロトタイプ。
  まさか殺し合いの最中にゲーム始めるとは思いませんでした。
  楽しんでおられないようで懸念していましたが、どうやら杞憂だったようですね。

ロンが手にするは丹色の宝玉。
その罅割れた宝玉を光に透かし魅入っている。

  美しい。橙に燃えるこの色、まるで命の色を表すようです。
  この宝玉には面白い力が秘められていました。
  まぁ、今となっては宝玉自体に何の力もありませんが、力の源は生かさず殺さず、私の手の中にある。
  クックックッ……。
  そう、ゲームのプレーヤーもまた然り。
  私の手の中で踊り、私を楽しませてくれる競技者。
  プレーヤーは時に思いがけない動きで私の心を躍らせる。
168Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 13:44:41 ID:WMxjVISV0
  しかし、それがすべて私の手の中で行われている事に気付いていないのです。

クククッ。ハハハッハハッ。ハハハハハハッハハッ!


▽   ▽   ▽


「運のいい奴だぜ」
ドモンの姿が完全に見えなくなるまで見送った後、壬琴は一人呟く。
知りたい情報も手に入れ、好奇心も満たされた。
久しぶりの戦闘も悪くなかった。
脱出の方法も見え、ロンの仕組んだゲームはすでに詰みの状態に入った。
壬琴にとってはもう先が見えたゲーム。
後はいかにロンを出し抜き、脱出の手はずを整えるか。
そしてそれを逆手にとり、自らの存在を餌に殺し合いに乗った参加者を集める。
壬琴VSロン、そして不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
ヒカルの居場所を教えてやれと、ドモンと共ビビデビを行かせた。ビビデビは他の参加者にこのことを知らせるよう仕向けるだろう。
菜摘やウメコを飛ばしたビビデビ、そこに見えるビビデビの意図とは……。
おそらくビビデビは、ただの支給品ではなく殺し合いを円滑に進める為に送り込まれた促進剤。
それぐらいの想像は付く。
「せいぜいプレーヤーを集めて俺を楽しませてくれ。はーーはっはっはっはっ!」
壬琴の口元をつぅーと血が伝う。
ドモンとの戦いで受けたダメージは決して軽くない。
だがそれをも凌駕し、胸に湧き上がるこの『ときめき』を、壬琴は心から楽しんでいた。
169Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:08:48 ID:WMxjVISV0
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:本来の調子を取り戻しつつある。腹部、胸部、打撃によりダメージ。アバレキラーに2時間変身不可。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第二行動方針:首輪の解析
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。


【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。
第二行動方針:ドモンの支給品にされる。
170Heads or Tails? ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:11:24 ID:WMxjVISV0
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:身体に無数の切り傷と打撲と火傷(ダメージ大)。タイムイエローに2時間変身不可。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


続けて、ヒカル、高丘映士、志乃原菜摘、投下します。




171青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:24:58 ID:WMxjVISV0
「ヒカル。無事でよかったぜ!」
映士はヒカルの肩をバンバン叩き再会を喜ぶ。
親しげな笑顔を浮かべる映士とは正反対にヒカルの表情は曇っていた。
その表情から読み取れるのは途惑。
まったく知らない人に、完全に本人と誤解されてどう答えようかと言葉に詰まっている印象を受けた。
「ボクは一体、ここは何処なんだ……」
「どうした?ヒカル」
ヒカルは肩に掛けられた映士の手をそっと払った。
柔らかだが、拒絶を示すその態度に映士は怪訝な表情を浮かべた。
「おい、俺を忘れちまったのか?」
ヒカルは頭にそっと手をやり、記憶を辿るような仕種をしている。
「映士、ちょっと待って。いきなり飛ばされて来たんだもの。混乱してるに決まってるわ」
映士をそっと制して菜摘はヒカルに向き合う。
「突然こんな事を聞いたらびっくりするとかもしれないけど、あなた白いコートを着たちょっと口の悪い男と出合ったんじゃない?」
「あ……。あの男、知り合いなのかい」
ヒカルの瞳がサッと酷薄な色を帯びる。菜摘は一瞬言葉に詰まるが、吹っ飛ばされたのだからしょうがないと一人納得し言葉を続ける。
「その人ビビデビっていう悪魔みたいな人形を持ってなかった?」
「悪魔……。あぁ、そうだ」
菜摘は、大きく一つ頷く。
「やっぱりね。その人形があなたをここに飛ばしたのよ」
ヒカルは目を細め菜摘と映士を見つめた。
「キミ達は?」
「ヒカル!マジかよ」
映士は 冗談だろ?とでも言いたいのだろう。驚いて目を見開いている。
「私はイエローレーサー、志乃原菜摘。知ってるのかもしれないけど、こっちはボウケンシルバー、高丘映士。
一応お約束だから言っておくわ。私たち、殺し合いには乗ってない」
わざと菜摘の視線をそらすように、辺りを見回すヒカルの視線がウメコの遺体で止まった。
「ウメコ……ならここはJ-4?なんて事だ」
ヒカルは静かに首を振る。
172青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:25:43 ID:WMxjVISV0
「えぇ、そうよ。ここはJ-4海岸エリア。何があったのか話してくれるわよね」





何故ビビデビに飛ばされたのか?ヒカルはここに至るまでの一連の話しを始めた。
ただヒカルが飛ばされたのは、ウメコや菜摘を飛ばした時のような、ビビデビの暴走による物ではなかった。
ヒカルの話を聞いて菜摘と映士は驚愕に目を見開くことになる。
壬琴が首輪を入手した方法に対しても。
そして、今、ドモンと壬琴が戦っているという事に対しても。

「そこでボクらは彼に声を掛けられたんだ。このエリアにある3つの死体のこと何かしらないかと。そして、死んだ深雪さんから首輪を奪ったと……」
菜摘と映士は驚愕に目を見開く。
「あいつ、ウメコを傷つけない変わりに深雪さんを!?」
ヒカルは静かに首を振る。
「深雪さんの死体を切断したのは彼じゃない。サーガインという男だ。彼はボクらが改めて埋葬した深雪さんを掘り返して首輪を手に入れた」
「ボクら?」
「ドモン。今、仲代壬琴と戦っている」
ヒカルは視線を逸らし、もう話す気はないように背を向けた。
「私、行ってくる。首輪解除のために戦わなくていい二人が戦うのはおかしいわ」
菜摘はヒカルの前に回りこむ。
「今から行っても間に合わない。どちらかはもう……」
俯いて、一度ゆっくり目を閉じたヒカルは、菜摘と映士の顔を見渡した。
「ボクはサーガインを許せなかった。だから深雪さんを傷つけたサーガインは、ボクが殺した。
ドモンは深雪さんに命を助けられたんだ。深雪さんに幸せな家族をプレゼントするためにドモンは殺し合いに乗った。
サーガインを殺したことでボクが殺し合いの第一歩を踏み出した事に焦っている。自分も早く踏み出さなきゃならないんだと」
「ヒカル。ならおまえ殺し合いに乗ったっていうのか」
映士の声が1トーン下がる。
ヒカルは下を向いたまま言葉を発せずにいた。
「なら聞き方をかえようか?どんな理由があろうが殺人なんざ許されねぇ。それは解ってるだろ。
その禁忌を犯してまで続けるかどうか……。迷ってるんだろ?俺たちに話したってことは。違うか?」
173青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:40:48 ID:WMxjVISV0
映士はヒカルの顔をのぞき込む。
「確かに、ボクは迷っていたのかもしれないね。時間が解決してくれるんじゃないかとも思っていた。
誰かに合ってしまえば、殺し合いを続けるかどうかを決断しなければならない。それを避けたいと思っていたんだ……。
ドモンには悪いけれど飛ばされた時、心の何処かでボクはほっとしていたんだ」
ヒカルの目が、すっと一点に釘付けになる。ウメコの死体をずっと見つめていた。
「ウメコは最初ドモンを止めようとしていたらしい。でも話を続ける内にドモンを撃ってしまった。意識を失ったドモンが気が付いた時には、飛び降りていたらしい」
映士もウメコの死体に目を向ける。
「俺はちょうどその時、ここに来たんだ。おまえと同じようにビビデビに飛ばされたウメコを探してな。ウメコとは知り合いだったんだな」
「あぁ、ちょっとした事件があってね」
「ウメコの事は知っていて、俺様の事は知らないとはね」
拗ねた子供のようにいう。
「すまない。ボクはキミのことも明石のことも記憶にないんだ。キミと同じように明石はボクに話しかけてきたんだけれどね。クロノスの名前もその時、明石から聞いたんだ」
映士は人差し指を立てて、ヒカルの胸の胸の辺りを指した。
「だが、俺達は力を合わせてクロノスを倒した。それが事実だ。今度はロンを倒す。それでいいだろ」
ヒカルはまだ困ったような顔でいる。
「実感が湧かないんだ。キミたちにとって、ボク過去の存在なんだろう。現時点で、ボクはこの殺し合いに巻き込まれた。
もし帰れたとしても、ン・マを倒してはいないんだ。果たして本当にン・マという強大な敵を、ボクらが倒せるのだろうか?
戦いの最中、平和な世界を夢に見ることは出来ても、実感することは出来ない」
「おまえらは確かに平和を手に入れた。それが俺様の現実だった。さぁ行こうぜ」
「二人とも、無事だといいけど……」
「壬琴がそう簡単にくたばるかよ」
映士と菜摘はデイバックを手に取った。
ヒカルは、まだ思い倦ねるようにウメコの遺体を見つめていた。

「あぁ、そうだ。一緒に戦ったおまえの弟の翼は、プロボクサーになってたぜ」
思い出したように映士は付け加えた。
174青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:41:44 ID:WMxjVISV0
映士は少しでも明るい未来があると伝えたいだけだった。
しかし、その言葉を聞いたヒカルの表情は氷のように張り付いていた。
「翼が……。ボクの弟?」
「あぁ、だっておまえ……」
映士は口が過ぎたと後悔する。軽いノリで話すべきではなかった。
弟、その言葉から連想される人物は、第一回放送の時点ですでに、両親と共にその名を呼ばれていたのだから。
「こんな事、話すべきじゃなかったな。悪い」
「ちょっと待ってくれ。どういう事なんだ?誰のことを話してるんだ」
映士は鼻を擦りながら、悲痛な顔つきでヒカルを見つめる。
「だから、麗……。その子と、おまえは……」
「はっ?……麗。麗とボクが!?こんな時に冗談は止めてくれないか!」
ヒカルは引きつった笑顔を浮かべた。
「ははっ……。それがキミの現実なら?ボクの現実はどうなんだい!仲間を亡くし、未来の妻を亡くした。これがボクの現実か」
「おい、ヒカル。しっかりしろよ!」
映士の語気が荒くなる。
「悪いが、一人にしてくれないか」
「ほっとける訳ねぇだろ!」
「殺し合いに乗るか心配かい?それなら安心してくれ……」
腕を掴んだ映士を振りほどき、ヒカルは憂いを湛えた目で言った。
「ウメコ……。ボクの知っている、ボクの知り合いなんだ。弔わせてもらいたい」





  いつのまにかヒカルの周囲に透明な膜が張っていた。
175青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 14:42:37 ID:WMxjVISV0
映士は少しでも明るい未来があると伝えたいだけだった。
しかし、その言葉を聞いたヒカルの表情は氷のように張り付いていた。
「翼が……。ボクの弟?」
「あぁ、だっておまえ……」
映士は口が過ぎたと後悔する。軽いノリで話すべきではなかった。
弟、その言葉から連想される人物は、第一回放送の時点ですでに、両親と共にその名を呼ばれていたのだから。
「こんな事、話すべきじゃなかったな。悪い」
「ちょっと待ってくれ。どういう事なんだ?誰のことを話してるんだ」
映士は鼻を擦りながら、悲痛な顔つきでヒカルを見つめる。
「だから、麗……。その子と、おまえは……」
「はっ?……麗。麗とボクが!?こんな時に冗談は止めてくれないか!」
ヒカルは引きつった笑顔を浮かべた。
「ははっ……。それがキミの現実なら?ボクの現実はどうなんだい!仲間を亡くし、未来の妻を亡くした。これがボクの現実か」
「おい、ヒカル。しっかりしろよ!」
映士の語気が荒くなる。
「悪いが、一人にしてくれないか」
「ほっとける訳ねぇだろ!」
「殺し合いに乗るか心配かい?それなら安心してくれ……」
腕を掴んだ映士を振りほどき、ヒカルは憂いを湛えた目で言った。
「ウメコ……。ボクの知っている、ボクの知り合いなんだ。弔わせてもらいたい」





  いつのまにかヒカルの周囲に透明な膜が張っていた。
  それとも最初からだったのだろうか。信じられない事が多すぎた。
  いとも簡単に命を奪われた冥府神。共に戦った記憶にない仲間。
  
  ヒカルを知る人間がいて、ヒカルが知る人間がいない。
  
  例え知っている人間だとしても、反対に向こうが覚えていないかも知れない。
  土台が崩れていくような感覚に陥っていた。  
  物言わぬ友人、死者となった者はヒカルの記憶の中の友人と同じ。不変の存在。





今日、何回目の全力疾走だろう。疲れているのか、映士の走るスピードも格段に遅い。
否、あのまま一人にしてしまったヒカルの事がきっと気がかりなのだろう。

やがて、映士の足が止まった。
「どうしたの?」
菜摘が振り返ったのに気付いて、映士は俯いたまま言葉を紡ぐ。
「悪い、俺戻るわ。後からヒカル連れて追いかけっから」
映士は返事を聞かずに踵を返す。
「待って!もしH-4エリアで合えなかったら、三回目の放送までにあの公園で合流しましょう」
映士は振り返らず、返答代わりに片手を挙げる。
菜摘は頷いて、H-4エリアを目指した。





静寂の中、サクッサクッと墓を掘る規則的な音だけが響いていた。
潮の香りを孕んだ風が、ヒカルの髪をそっと撫でていく。
流木で砂を含んだ海岸の土を掬う。汗で少し手が滑る。

もう少し。もう少しで終わるから。

前髪を伝う汗を、そっと掻き揚げ、ヒカルは横たわるウメコに視線を移す。
悼みも、悔やみも、今は何も感じられない。
ヒカルの心の中は、空っぽだった。そして、心の何処かでもう一人の自分が、そんな無感動な自分をしっかりと認識している。
ただ、ウメコを弔う事に固執していた。動かないウメコが空っぽの自分を埋める存在であるかのように。

ウメコの身体を墓穴へそっと横たえ、足元からサラサラと土を被せていく。
纏わり付いた血の臭いが、湿った土の臭いに紛れて薄らいでいく。
ヒカルは、動かないウメコに語りかけた。

「キミの恋人もここに呼ばれていたね。ボクもそうだったらしい。ボクは知らないんだけれど……」

少しずつ少しずつ、身体全体に土を被せる。

「まだボクの知らない未来で、結ばれたそうだ。もしかしたら、君たちデカレンジャーも友人の一人として結婚式に来てくれていたのかもしれないね」

両手で掬った土を少しづつ、少しづつ被せた。ウメコの身体が土に埋もれていく。
ふと、結婚式の様子を想像して見る。
真っ白なウエディングドレスを着た麗。友人たちの笑顔。祝福に包まれ、永遠の愛を誓う。

「テツも、来てくれていたかな?あの時の彼の作戦にはまいったよ。女性の格好をするなんてきっとあれが最初で最後だ」

小津家で送りあった『幸福の花』に思いを馳せる。
ヒカルは土を掬って被せる。

「ボクは、裁かれるべきなんだろうか?サーガインは決して殺し合いに乗っていたわけじゃない……」

ヒカルは土を掬っては被せる。
掬っては被せる。
ウメコは顔だけを残し、身体は冷たい土に埋もれている。
ヒカルはそっと、白い花を添える。白い花で傷口を隠した。

「……」

すべて埋めてしまう前に、掛ける言葉が見つからなかった。
固執していた弔いが終わっても、何も変わらない。
悲しみも、痛みも、怒りも、憎しみも、頭で解っているすべての感情が、自分の感情として感じられない。

「麗、ボクが君達の家族になったのだとしたら、キミが妻なのだとしたら。ボクは君に胸を張れるような生き方を、しなければならないね」

口に出して見たけれど、色を亡くしたように……。今は、何も感じられなかった。
空を仰いでみても青は遠く遠く、手を伸ばしても届かなかった。
179青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 15:18:29 ID:WMxjVISV0
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。30分程度魔法(マジシャイン、サンジェル変身不可)使用不可
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ドモンと共に優勝を目指す。
第一行動方針:心身共に疲れ空白の状態。
第二行動方針:ドモンとの合流。
第三行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第四行動方針:ティターンに対して警戒。
第五行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:溺れたことと、急激な運動による極度の疲労。30分程度変身不可。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと話す。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。 変身制限に気が付きました。
180青は遠く遠く―――― ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 15:20:15 ID:WMxjVISV0
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため身体は疲労しています。30分程度変身不可。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
 ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:H−4エリアで壬琴とドモンを捜す。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
 変身制限に気が付きました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一時間後に、仲代壬琴、志乃原菜摘を投下します。
181 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:35:12 ID:WMxjVISV0
一枚の走り書きのメモを残し、心美しき白の魔法使いは自らの命を賭して、ウルザードの暴挙を止めた。
そのメモは、死を覚悟した小津深雪がドモンに託した最後の願いだった。

ドモンは馬鹿だ。馬鹿の上に弱い人間だった。
自分を庇って死んだ女の想いを叶えてやればいい。メモに込められた想いを受け取ってやればいい。
それが当然だ。自分も死ななくて済む。女もそれを望んでいる。

小津深雪はいい女だ。いい女過ぎた。
だからこそ、ドモンは心の何処かで自分を責めた。

『どうして俺なんかが生き残って深雪さんが死ぬんだ』

堪らないぜ。
命懸けで守ったつもりの女に、実際は命懸けで助けられていた。
剰え、脱出への道を切り開き、生きてくださいと願われる。
『生きてください』
それは、ドモンにとって呪詛のような言葉だ。
戦って死ぬ事にすら罪の意識を感じさせる。愛した女を踏台にして、これから生きなければならない。

呪詛から逃れる道。それは……。
ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家族をプレゼントする。然うすればドモンは罪悪感から逃れられ、後悔も残さず死ねる。
もしヒカルが殺し合いで死んだら、再び自分が優勝を目指す。そして深雪に幸せな家族をプレゼントする。
そうして、やっとドモンは呪詛から解放され、生きられるんだ。


▽     ▽     ▽


「ダメ……。もう限界だわ……」
182 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:36:01 ID:WMxjVISV0
完璧に息が上がっている。
岩陰に寄り掛かるように持たれ、菜摘は肩で呼吸をした。
「全力疾走した分は給料アップ……。なんて、あるわけないわよね」
不謹慎極まりない発言だが、そうでも言わなければやっていられない。
殺し合いよりも、全力疾走で体力を消費しているのは全参加者の中でも自分ぐらいだろう。
もちろん、殺し合いで命を削るのも真っ平ごめんだ。

安全策を取って、あのまま映士たちと行動する方が、そんな命の削り合いに巻き込まれる確率は少ない。
憔悴しきってはいたが、ヒカルはまだ迷っている様子だったのだし。そんなヒカルを映士は引き上げる気でいたのだし。
だが、菜摘は壬琴とドモンが戦っているのを聞いて、はいそうですかと放っておく事が出来なかった。
菜摘は壬琴が根っからの極悪人ではないと思っているし、ヒカルの話を聞く限りではドモンもきっとそんな人間ではない。
だから戦うことになったとしても、壬琴がドモンを殺してしまうとは思えなかった。
反対に、あれだけ偉そうな態度の壬琴が、あっさりドモンに殺されるとも考えにくい。
無傷とまでは行かないが、二人は生きて何処かに身を隠している。
希望的観測かもしれないが、菜摘はそう思いたかった。

「この辺りよね……」
菜摘は岩影に身を隠したまま、注意深く辺りを見回す。
粉砕した岸壁や、砂浜に残る衝撃の後から、ここで誰かが戦っていたのは明白だった。
ただ、それだけでは壬琴とドモンが戦った痕跡かどうかは判断できない。
特定できない以上、アンキロベイルスを捜した時のように大声を上げるのは流石にどうかと思う。
他の参加者が現れる可能性は充分ある。
その参加者がいきなり襲いかかってくる可能性も、無きにしも非ず。
「どうしようかしら……。ん?あれって……」
砂浜には激しい闘いの足跡の他に、二つの逆方向に伸びる足跡があった。
一つは海岸へ向かって、もう一つは砂浜を越えた頂に立つ小さなホテルに向かって。
海岸へ続く足跡は、片足を引き摺ったように砂に溝を残している。
「壬琴の性格なら、どんなに傷ついてもこんな足跡を残さないわよね。死ぬまで直立不動で立っているってタイプよね」
183 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:38:24 ID:WMxjVISV0
直感が告げるままに、菜摘はホテルに向かって歩きだした。


▽     ▽     ▽


菜摘の予想通り壬琴はホテルで身体を休めていた。
サンドベージュとブラウンが美しいマーブル模様を描く大理石の支柱。
北欧風の幾何学模様を施されたダークブルーの絨毯。円形に並べられたモスグリーンのソファーと華奢な猫脚のテーブル。
小規模だが洗練されたホテルのロビーで、菜摘は壬琴にこれまでの出来事を話し、そして壬琴とドモンとの経緯に耳を傾けているのだが……。

「それで、ドモンとゲームを始めたってこと?」
「あぁ、アイツが俺を殺すのが先か、俺が首輪を解除するのが先か……。ときめくぜ」
菜摘は内心で溜め息を付いた。全くなんと言うか、人の心配は他所に『ときめき』とは。
しかし、ノリノリな壬琴に若干の不安は抱きつつも、一応は二人とも無事である事に安堵する。
壬琴が仕組んだゲームも、壬琴が積極的に殺し合いを行う訳でもない。
「ドモンは俺を狙いにくるさ。絶対にな。ビビデビも、もし誰かに奪われたなら、奪ったヤツは当然俺を狙ってくる。取り返せばいいだけだ」
本人曰く、降りかかる火の粉を払うだけであるらしい。
「中々いい考えかもしれないわね。ドモンが壬琴を狙えば、壬琴が的になれば、間接的に他の人間を殺さなくて済むんだし」
そう、むしろドモンが手を汚さずに済む方法だとも言える。
「フッ。俺は退屈なゲームを仕切り直した。それだけだ。」
壬琴は胸部に手を添え、痛みに少し顔を歪める。
怪我をしているらしい。ドモンとの戦いは口で言うよりも激しい物だったのかもしれない。
にも関わらず、壬琴の口調は楽しげだった。
「傷は大丈夫なの?」
「ドモンに比べれば大したことはない。おかげで3人の死因も解ったしな。これくらいなら悪くないぜ」
184 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:40:02 ID:WMxjVISV0
「私は自分も傷付いたり相手を挑発するような真似じゃなくて、本当は憤りの矛先はロンに向けるべきだって説得が出来れば一番良かったと思うけど?」
つい本音を口にした菜摘。途端、壬琴は厳しい顔になり菜摘に向き直る。
「説得?おまえ、俺を牧師か何かと勘違いしてんのか?迷える子羊を救いたいなら他のヤツに頼むんだな」
そのまま壬琴は窓際へ歩いて行き、ブラインド越しに外の様子を覗った。
「まぁ、ビビデビを一緒に行かせたなら、私たちもヒカルたちの元へ戻って合流すれば、その内ドモンも姿を表すだろうし。壬琴が嫌だって言うなら私か映士が説得したっていい」
壬琴は何も答えず、無言で菜摘を見遣る。

これが原因かどうか解らないけど……。

なんとなく壬琴が意固地になっているような感じがした。
「そうだわ……。これ渡さなきゃね」
菜摘はデイバックからアンキロベイルスの首輪を取り出し壬琴に手渡す。
「アンキロベイルスの首輪よ。どうやって外すか考えなきゃいけないわね」
そう言って、ぺこりと菜摘は頭を下げた。
「ウメコのこと傷つけないでくれてありがとう。ごめん。まず、先にお礼を言うべきだったわ」
自分が傷を負ってまでも、ドモンと接触した事も。深雪の墓の一件にしても、実際は壬琴が深雪を傷つけた訳ではなかったのだし。
何よりも、ウメコの事は傷つけないという約束を、壬琴は守ってくれたのだから。
「おまえらとの、ゲームのルールだからな」
壬琴は首輪を受け取り、人差し指でくるくると首輪を回しながら呟いた。
「これで3つか。集めるのはもう充分だな。後は首輪を解徐すればチェックメイト、ドモンとのゲームも俺の勝ちだぜ」
ゲーム。
それを聞いた菜摘は即座に顔を上げ、体を乗り出して壬琴に詰め寄った。
「もう、いい加減ゲームから離れなさいよ?さっきからゲームゲームって、いい年してゲーム脳なの?」
「なっ!ゲーム脳だとっ?!」
「そうよ。こんな殺伐とした環境でも、何とかして楽しもうっていう前向きな気持ちは汲んであげるけど……。人の命が掛かってるのよ?そんな言い方ってどうかと思うわ」
185 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:40:43 ID:WMxjVISV0
壬琴は菜摘を押し退け、ソファーに座る。
「……五月蝿い、少し黙ってろ」
そして、けだるそうに頬杖を付いた。
「それに、首輪を外せばチェックメイトって、大事なこと忘れてない?」
壬琴はそのまま眼を閉じる。
まったく話を聞く気がないといったその態度。
菜摘の中で苛立ちが膨れ上がる。
「アンキロベイルスが息を引き取った時の話、忘れてるわけじゃないないわよね。解除しても、その後の事考えなきゃいけないでしょう?」
首輪を解除しても、その次の罠が待っている。
アンキロベイルスの死に様を目の当たりにしていた菜摘の声は大きくなる。
菜摘は目を瞑ったままの壬琴の肩を揺すった。その瞬間、壬琴は目を見開き言い放った。
「がっつくな!隣で騒がれたら考えも纏まらねぇぜ!!」
身も蓋もない言われ方だった。
菜摘はがくりと肩を落とし、すごすごと正面のソファーに座り膝を抱える。

これはゲームなんかじゃなくて現実。誰かが死んだら、もう二度と戻ってこないのに……。

不意に、恭介とシグナルマンの事を思い出す。
二人は、今、どうしているんだろう。
一回目の放送で名前を呼ばれなかったからと言って、安心は出来ない。
どんな異常事態に巻き込まれているのか解らないのだから。

膝を抱える手に、知らずに力が籠もっていた。不安が溢れてしまわないように、菜摘はもう一度力を込めた。



「……アイナイータ…ナハリドノーレ……」
壬琴の歌声が静かなロビーに響く。

「ウインニメナ……イルーヨノ……」 
目を瞑ったまま、壬琴が聞いた事のない歌を口ずさんでいる。
186 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:41:51 ID:WMxjVISV0
「……何?その歌」
壬琴は困惑した菜摘の顔を一瞥した後、ニヤリと笑った。
「エヴォリアン聖歌だ」
「エヴォリアン……聖歌?」
「あぁ、教えて欲しいなら、教えてやってもいいぜ?」
腕を引き寄せられ、壬琴の横に座らされた。
壬琴はコートのポケットの中から一枚のメモを取り出し、そっと菜摘に握らせる。
綺麗な女性の文字が目に飛び込んだ。かなり焦っていたのか筆跡はとても乱れていた。
走り書きされたそのメモを、菜摘は声に出さず読み取る。

 

      戻ってくる前に、通り抜けてきた空間に魔法力を注ぎました。
      気付かれない程の弱いものだけど、きっと道が開けるはず。
      どれくらいかかるか解らない、だけど信じて。
      ドモンさん、生きてください。                 深雪



壬琴は、新たに取り出した支給品のメモにペンを走らせた。
『ロンに聞かれたくないんだよ。適当に話を合わせろ』
不敵な笑いを含んだ、だが真剣な表情の壬琴に菜摘は頷く。
「まぁ、時には息抜きも必要かもしれないわね……。そんなに教えたいなら、教えてもらってあげてもいいわよ?」


▽     ▽     ▽


そして、以下の会話はすべて筆談にて行われた。
187 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:43:54 ID:WMxjVISV0
壬琴は歌詞を書き連ねるふりをし、菜摘はフレーズを尋ねるふりをして会話を進める。



『これどうしたの?』
『どういう経緯でなのかは知らないが、サーガインの荷物の中に入っていたのさ』

サーガインの名前には聞き覚えがあった。深雪の遺体を傷つけた人物。

『ドモンはこの事を知っていたのかしら』
『知っている。ドモンさん、生きてください、と言ったらモロに反応してたからな』
『だったら何で殺し合……』

書き終わる前に、壬琴に手を弾かれる。
「そこはどうでもいい」
壬琴は声に出して言うと、続きを書き殴った。

『まずは、ドモンの話からだ。ゲーム開始から2時間ほど経った頃、小津深雪は小津勇が本当に死んだのか確かめにいった』
『そんなことができるの?』
『心を飛ばす魔法。精神体だけを広間に飛ばした。そしてさっきのメモにあるように、この空間に魔法力を注いだ』

魔法、にわかに受け入れがたい話だった。
真剣な壬琴の表情を見れば、冗談とは思えない。ましてやこれはドモンが話したことなのだし。

『その魔法がこの空間のどこかを壊した?それがメモに書いてあった道って事?』
『いや、壊したというほど強い力じゃなかった。針の穴程度、この空間に穴が開いたんだろう』

くるりと壬琴は器用にペンを回し続きを書いた。
188 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:45:33 ID:WMxjVISV0
勿論、エヴォリアン聖歌を口ずさみながら。

『風船と同じさ。穴を開ければそこから空気が入る。小津深雪が開けた穴から時間の経過と共に少しずつ外気が入り込んで来た……。それがメモに記された道のことだ』
『道、それってどこにあるの?目に見えない所?』

ペン先を菜摘に向け、壬琴は眉間に皺を寄せる。

『まだ解らないか?禁止エリアだ』

壬琴は『禁止エリア』の文字を強調するように丸で囲み、菜摘に顔を向けた。

『でもそんな重大な事態、ロンは気が付かなかったのかしら』
『気付いたから、ウルザードを深雪とドモンの元に送り込んだんだ。
深雪の目覚める前に、ウルザードが二人を襲ったのは口封じの為だったのさ。
開けられた穴は防ぎようが無かったんだろ。
ロンは深雪に喋られるのを恐れた。
だからドモンの元へ深雪から何か聞いてないかを確かめに行ったんだ。
ドモンは殺し合いに乗り、深雪は死んだ。穴の事は参加者に知られずに済んだとロンは思った。
実際は、深雪はドモンが自分を逃がそうとしたその僅かな時間でこのメモを残し、生きていればドモンが拾うと自分のデイバックへメモを隠していたんだがな。
後は、穴をどうするか。そこで取った苦肉の策が、外気が入り込んできた場所を禁止エリアにしてしまう事だった』

菜摘は二三度頷き、続きを尋ねながらペンを走らせる。

『爆発しますと言われて行く人はいないわよね。
それに言われてみれば、市街地の真ん中を分断するなんて変だわ。
参加者が出合うというより、せっかく市街地に集めたのに森林エリアと海岸エリアに離してしまう事になりかねない』
『あぁ、少しばかりの趣向と言うほど簡単に禁止エリアが作れるなら、マップ全体を狭めればいいだろ。
こんな広いフィールドじゃ逃げ場が有りすぎる』

一旦手を止め、歌い出す壬琴。菜摘は復唱しながら考える。
189 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:46:31 ID:WMxjVISV0
確かにその方がよっぽど殺し合いを活性化させるはずだ。

『入ったら爆発するって言うのは嘘なのかしら』
『それはどうだろうな。ブラフの可能性もあるが首輪の材質にも因る。空気に触れて爆発するモンなんていくらでもあるしな。
他にも、首輪に異変が起きたらロンがリモートして吹き飛ばすってやり方もあるだろう』
『そうか、誰が死んだのか解るぐらいだもの、参加者の位置ぐらいすぐ把握できる』
『盗聴されてる可能性もあるしな』

二人は歌いながら文字を綴る。

『一回目の放送時から引っ掛かっていたのさ。禁止エリアにしろ小津勇をウルザードとして蘇らせるにしろ、何故最初に言わなかったのか、と。
禁止エリアを作るなら、最初からその存在を示して参加者の恐怖心を煽った方が余程人は動くぜ。
一回目の放送の時点で死者は9人、殺し合いは順調だった。どうして追加ルールが必要になるんだ?
誰も殺し合いに乗ってなければ、ルールを追加されるってのは解るがな。6時間で9人。結構な人数が殺されているんだぜ。
小津勇の件にしたって、何故、誰にも知らせないまま生き返らせる?力を見せつける為ならなおさらだ。
それに、殺し合いをより楽しく進める為だというが、強敵を後から後から後から送り込まれてみろ。いくら殺したってキリが無い。
殺し合いに乗ってる連中ですら、その手を止めかねないぜ』
『面白みに欠けるから禁止エリアを作ったんじゃなく、ルールを追加せざるを得なかったのね』
『そう考えば辻褄が合う。参加者の選別、人数分の支給品、殺し合いの為に用意したフィールド。
これだけ用意周到で、かつ自らは徹底して手を出さない。そんなヤツが禁止エリアの存在を最初に言い忘れただなんて有り得ないしな』

壬琴は歌を止め、水を飲んだ。歌いながら菜摘は自分の考えを記す。

『禁止エリアが増えて行くのに時間が掛かるのは、少しずつ亀裂が広がって行ってるからなのかも知れないわね』
190 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 16:51:11 ID:WMxjVISV0
『何処がヤバイか大方予想は付くんだろう。
急激に空間が崩壊しだしたとしても、残り人数によって禁止エリアを増やしたと言えば理由は作れる。
時間が経って人数が減れば、そこまで広いフィールドはいらないからな』

微かに笑いを浮かべている壬琴に向かって、菜摘は真面目な表情を作り視線を合わせる。

『どうする、確かめに行くの?』
『解除方法が解かるまでは、動かない。動くのはすべて準備を整え、ロンを倒す時だ』



なお、会話が終わった時点で菜摘がエヴォリアン聖歌をマスターしたか否かは言うまでもない。


▽     ▽     ▽


「ジャメジャメジャ〜ジャメジャジャメジャ。何もかも邪命になれ〜。メジャメジャメ、メジャメメジャメ〜。エヴォリアンの世が来る〜」
パチパチパチパチ。歌い終わると壬琴の拍手が聞こえた。
「完璧だな」
「……まぁ、これだけ練習すれば、ね」
呟きながら、菜摘はデイバックからペットボトルを取り出し一口飲む。
水は冷たくて美味しかった。半分を一息で飲み干した。

「それ貸せよ」
壬琴が菜摘のデイバックを指差し、手を差し出す。菜摘は首を傾げながらもデイバックを渡す。
「これはドモンが使っていた物と同じだ。ドモンは見た所普通の人間だ。おまえがこれを使える可能性はあるだろ」
取り出したのはアンキロベイルスと話した時に見付けた通信機のような物だった。
「腕に嵌め、両手をクロスしてボタンを押す。クロノチェンジャーの掛け声で起動するはずだ」
191 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:01:28 ID:WMxjVISV0
クロノチェンジャーを菜摘に手渡し、続けて壬琴はダイノコマンダーを取り出した。
「こいつは俺が預かる。この先ダイノハープを持っているヤツと出会うかも知れないしな」
「待って、壬琴。あなた一人で行動する気?怪我してるんでしょう。映士たちと合流してから行けばいいじゃない」
自分のデイバックにダイノコマンダーを仕舞おうとする壬琴の腕を菜摘は掴む。
無造作に壬琴は振り払おうとする。
「おまえらと仲良しゴッコをするつもりは無いぜ。俺は俺のやりたいようにするさ。3回目の放送までにあの公園いけばいいんだろう。それまでに解除方法を見付けておいてやるよ」
そしてさっさとデイバックを担ぎ、ダイノコマンダーを片手にドアへ向かう。
だが、菜摘は壬琴の腕を放さない。
「ちょっと壬琴、いえアバレーサー。カーレンジャー7人目として勝手な行動は許さないわよ……っ!?」
壬琴は菜摘の頬をむぎゅっと掴み、自分の顔間近に引き寄せ、睨んだ。
「誰が、アバレーサーだ。勝手に決めんなって。気の強い女は嫌いじゃないがな。俺に命令するな!」
「ひょっと、やめらさいよ!」
咄嗟のことに立ちすくんだ。顔が、近すぎる。みるみる頬が赤くなっていく。
「……ちょっ、顔…近っ。そ、そんなに近付けないでくれる!」
菜摘は必死で壬琴の手を振り払った。
「一日に……そう何度も……唇……」
最後は口ごもって言葉を噛み殺した。
映士が溺れた時の事がぼわんと頭に拡がった。

いいえ、あれは人命救助ですが!何か!?別に何の気持ちも無いんだし!

必死に自分に言い訳し落ち着こうとする気持ちとは裏腹に、鼓動が早くなっていく。
「へぇ〜」
壬琴は腕を組み、少し顎を上げて菜摘を見下ろした。
「俺に話した以外にも、イロイロ……あったようだな?」
192 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:03:34 ID:WMxjVISV0
眉間に皺を寄せ菜摘の双眸を覗き込む、口元にはサディスティックな笑いを浮かべている。
「イロイロって!何?何の事かしら?アンキロベイルスの首輪を取りに海に入った。それだけよ!何?」
「ムキになるなよ。ただの冗談だぜ」
「制限知らなくて、映士が溺れかけたから助けただけよ!」
「ハハハッ。制限知らなくて二人そろって海に入った?それで溺れた映士を人工呼吸で助けたって訳か」
次の瞬間、壬琴は堪えきれないように吹き出した。
「ハーハッハッハッハハ!!おまえら、不覚取りすぎだろ。クッ……。ハハハハッ!!!」
「だって制限なんて知らなかった……。って、聞いている!?」
反論しようとする菜摘を遮って、壬琴はふぃっと背を向ける。
もう真顔に戻っており、まるで最初から興味が無かったようにソファーに腰掛けた。

菜摘も壬琴と向かい合わせにソファーに座り、残りのペットボトルを飲み干す。
歌の歌いすぎと、変な緊張感で喉はカラカラだった。
ペットボトルを逆さまにふり、名残を惜しんでいるのを壬琴が薄笑いを浮かべて見ていた。
むっとしながら、壬琴に向かって手の平をヒラヒラとさせペットボトルをせがむ。
呆れたようにデイバックからペットボトルを取り出した壬琴。
菜摘は一瞬の隙をついて、ペットボトルと一緒にダイノコマンダーを掴んだ。
「おまえ、ガキか!」
「私がアバレンジャーになるわ。ただしカーレンジャーが本業だから、バイトでって感じで悪いんだけど」
そしてすかさずクロノチェンジャーは突き返す。
「これはおまえが持っていろと言っただろう。それにダイノガッツがなきゃダイノマインダーは使えないぜ」
「ダイノガッツ?それぐらい手に入れるわよ」
壬琴は大きな溜息をつく。
「……悪いが、アバレイエローはもういるぜ」
「ならアバレーサーになるわよ。どう?アバレンジャー7人目って事で」
「アバレンジャーは5人だ。6人目はいらないぜ」
「少数精鋭って訳?面白いじゃない」
壬琴は怪我もしている。そしてわざと自分が的になるようなゲームを仕組んだ。
一人では行かせられない。
「ったく……。おまえといると、どうも調子が狂うぜ」
掌で一枚のコインを転がし、それを菜摘に向かって弾き飛ばした。
「……好きにしろ」
193 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:05:34 ID:WMxjVISV0
「そうするわ」
菜摘はコインを受け取りニッコリと笑った。


▽     ▽     ▽


第二回放送の時刻が近付いていた。
菜摘はソファーに座ったまま、窓際で腕を組み、外を眺める壬琴に問いかける。
「ねぇ、聞いていい?」
壁により掛かったまま壬琴は、菜摘に視線だけを向けた。
「ドモンは……。運良くって言っていいのか解らないけど、最初の一人って壁を乗り越えられないのよね。
そのまま、諦めようとかそういう風に考えたりしないかしら」
「無理だろうな。あいつは小津深雪のために、仲間も自分の命も全て淘汰すると決めたんだぜ。
そんな簡単に消化できるモノなら殺し合いに乗ったりするか」

ドモンはそれで幸せなのだろうかと、思う。

「もし、私が深雪さんと同じ立場なら、ドモンの選択は悲しいと思うわ」
「違うな。死ねば悲しむ事も憎む事も出来ない」
「それは、そうだけど……」
「生きて一瞬でも幸せを感じれば、余計にドモンは罪悪感に苛まれる。
プレゼントとやらを渡せなきゃ、ドモンは生きることも死ぬことも苦痛に感じるんだ」

壬琴の言う事は、なんとなく理解できる。
ドモンはメモの内容を知っていたはずなのに、殺し合いに乗ってしまった。
それはおそらく……。
何も守れず、何も残せず、自分だけが生き残ってしまった事。壬琴の言うように、ドモンにはそれが苦痛なのだろう。
194名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 17:06:12 ID:KWuvY5bVO


195名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 17:07:03 ID:KWuvY5bVO

196 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:08:36 ID:WMxjVISV0
その苦痛を消すには、優勝を目指すしかなかった。

だからと言って、それを受け容れることは菜摘には出来ない。
優勝したからと言って誰も救われない。深雪も、深雪の家族も、何よりドモン自身も。

からかうような表情をしていた壬琴は、やがて遠い目をして呟いた。
「女のおまえには解らないかもな……」
「壬琴には、ドモンの気持ちが解るの?」
「さぁな、俺には関係ない話だ」
壬琴は、関係など無いし、関わりたくもないといったように肩を竦めた。

菜摘は視線を落とし、悼たまれない気持ちでペットボトルの蓋を開けた。
口を付けようとした時。
「ん?何これ……」
気付く。
異様な臭いがしていた。黴臭いような埃っぽいような。下水道から上がってくる臭い。
「見せてみろ」
壬琴はペットボトルを光に透かしジッと見つめる。その表情がだんだん不可解な物となる。
覗き込むと、透明なはずの水は微かに濁り、筋状の沈澱物が浮遊している。ボトルの溝にはうっすらと薄茶色の汚れがこびりついていた。
「傷んでるの?まだ蓋は開いていなかったペットボトルなのに……。開封してある方は大丈夫なのよね?」
殺し合いが始まってからまだ12時間弱、水が腐るほど時間は経っていない。
気温もどちらかといえば涼しいぐらい。壬琴は何か考えるように口許に手を当てる。
「まさか?」
何か思い立ったように、壬琴はデイバックの中身をテーブルの上に拡げた。
ペットボトルの残りが2本。一本は壬琴が開栓済みだった。もう一本は菜摘に渡したのと同じく、飲める状態ではなかった。
一組の食料はパン、一組の食料は何故か和菓子。
白い薄紙に包まれた和菓子は、触れただけで粉々になった。
まるで、長い年月をかけて風化してしまったかのように。
197 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:09:50 ID:WMxjVISV0
「これはサーガインが持っていたんだが……。全部和菓子って。これ、ドモンが言ってた小津勇の食料か?」
答えに窮した菜摘は壬琴の言葉を待った。
数秒の沈黙。
壬琴が口を開こうとした瞬間、ロンの声が耳朶を打った。

そして、第2回放送が始まった。



【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:本来の調子を取り戻しかけたが菜摘のせいで……。腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。アバレキラーに30分変身不可。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)深雪の残したメモ。
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:小津勇の支給品の状態に唖然。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針:首輪の解析(どこに行くかはお任せします)
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
198 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:14:38 ID:WMxjVISV0
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:H-4海岸 1日目 昼
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
[装備]:アクセルブレス
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
 ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:壬琴について行く。首輪の解除方法を調べる。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラック(菜摘の場合アバレーサー)への変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上です。
途中支援ありがとうございました。

以下さるさんにならなければ、自分なりの意見を書かせて頂こうかと思います。
もし無理だったらしたらばの>>538を見て頂ければと思います。

時間が掛かって申し訳ありませんでした。指摘等よろしくお願い致します。

199以下したらばより ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:15:31 ID:WMxjVISV0
538 : ◆MGy4jd.pxY:2009/04/30(木) 20:28:51
以上です。
長きにわたるキャラ拘束を認めて頂いて本当にありがとうございました。
そして誠に申し訳ありませんでした。
おそらく自分では見落としている設定や、誤字脱字、矛盾があるかと思います。(先に投下した2作についてもです)
どうか指摘をよろしくお願いいたします。

言い訳のようなモノをいくつか上げさせてもらいます。

・深雪のメモはドモンを拘束した時、サーガインの手に渡ったと考えています。

・食料についてですが、小津勇の支給品の状態を変えよう、と思った時に浮かんだのが時の流れを変えることでした。
広間は某国民的アニメの精神と時の部屋のように、広間のみ時間の流れが違うと想定しました。
サーガインは食料の異変に気付いた時、たった数時間のズレで自分たちが浦島太郎状態になるのではと思い至り、
このまま願いを叶えるのは無理であり、たとえ生き残っても時間を戻さなければダメだと。
それが願いになり、結局何も残らないと思った。
と考えました。

・禁止エリアについてですが、壬琴の妄想であることは勿論あります。
もし本当であれば、

広間→空気あり→呼吸できる
(最初連れてこられたときは普通の空気→首輪を参加者にセット→一時的に幻気を広間に充満させる→参加者が出て行く→時間を狂わせる→広間事態は完全に閉ざされた空間ではないので幻気はいつしか拡散
200以下したらばより ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 17:17:30 ID:WMxjVISV0
首輪ですが、首輪が幻気で出来ていたとすれば禁止エリア(空気)に入る=空気に触れるとほんの少しだけ気化し、それが爆発を招くのではないかと思いました。
幻気の充満したマップ内ならきちんと形を保てるけれど、空気中では段々と形が無くなるのではと。

時期尚早、説得力に欠けるか、などいろいろ考えましたがやはりせっかく時間を頂いたので書き上げた次第です。
書かせて頂いてすっきりしました。
読んで頂いて、指摘を頂ければ光栄です。

タイトルは、

馬鹿な男といい女の相性は悪い。だが黄色いヤツと白いヤツの相性は悪くない。

他に思い当たらなくて。長いですね。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上です。
201 ◆MGy4jd.pxY :2009/05/01(金) 18:13:41 ID:KWuvY5bVO
最後の状態表。
アンキロベイルスの首輪を、菜摘から壬琴へ移動するのを忘れておりましたorz
202名無しより愛をこめて:2009/05/01(金) 22:22:28 ID:Rp54Zl+u0
投下GJです!
支援も出来ず、遅くなってしまい申し訳ありません。

>>Heads or Tails?
不敵な仲代先生と、必死にもがくドモンの対比が良く効いていました。
ドモンの血を吐くような思いに胸が痛みます。
緊迫したバトル描写の中に、ドモンの苦しみと、仲代先生のときめきが伝わってきました。
間に挟まれたロンの独白がミステリアスかつ、不気味で良かったです。

>>青は遠く遠く――――
マジレン勢でただ一人取り残され、未来を見失ったヒカル先生。
その空ろな思考が哀しかったです。
果たして映士の思いは届くのか?次が気になる展開でした。

>>馬鹿な男といい女の相性は悪い。だが黄色いヤツと白いヤツの相性は悪くない。
仲代先生の考察部分に、思わず膝を打ってしまいました。
さすがアバレキラー、ときめいているだけの男じゃないぜ。
深雪さんの思いを託されつつも、その逆の道を行くドモン。
彼が背負った物の重さに改めて胸が痛みます。
それにしても、菜摘と仲代先生はなんだかんだ言いつつも良いコンビですね。
(本人達、特に仲代先生には思いっきり否定されそうですがw)
顔近っ!のシーンでは菜摘じゃないですが、思わずちょっとドキドキしましたw
菜摘の姐さんっぷりと調子狂わせっぱなしの先生のコンビなんかいいです。
重要な考察を握った先生と、放送で仲間の死を知る事になる菜摘、二人の今後が楽しみです。

大作堪能させて頂きました。惜しみない讃辞と感謝を込めて、再度GJ!!です。

203名無しより愛をこめて:2009/05/08(金) 17:08:48 ID:ndtpNZPS0
もうすぐ第二回放送ですね。
頑張って頂いてる書き手氏に感謝と賛辞を込めて拍手です。

ところで、第二回放送に向けて今後の活躍を期待するキャラって誰かいますか?
204名無しより愛をこめて:2009/05/08(金) 18:18:15 ID:yvVQZIm90
書き手さんたち。
205名無しより愛をこめて:2009/05/12(火) 22:31:05 ID:n7bVjvChO
ノシ
206名無しより愛をこめて:2009/05/13(水) 19:12:59 ID:A2jlWTMKO
ノシ

敢えていうなら、今後が楽しみという意味で、仲代先生と理央かな。
マーダー勢なら、ネジブルーとガイには今後も頑張って欲しい
207名無しより愛をこめて:2009/05/19(火) 23:30:33 ID:ABNyF8iXO
>>203
ロン
208インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:34:09 ID:tkjnLsgz0
遅くなりました。
名誉挽回と思いつつ、汚名挽回とはこれいかにorz

では、ネジブルー、並樹瞬、投下します。
209インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:36:10 ID:tkjnLsgz0
海岸の端、赤い煉瓦の倉庫街。
倉庫に挟まれ日の当たらない路地は、土砂降りの後のように水浸しだった。
空調用ダクトから滲み出た排水が、濁った水溜まりを幾つも作っている。
その路地に佇む少年が一人。傍らには氷柱と木製の台車。

「メガブルー……」少年は呼びかける。氷柱に閉じ込めた怪物へ。怪物と化した並樹瞬――少年が擬態する者の、もう一つの名を。

そして少年――ネジブルーは、氷柱に閉じ込めた怪物を、そっと台車に横たえた。
その仕種は、動けない恋人を車椅子で連れ歩くような慈悲に溢れている。
だがその表情は、まるで競り落とされた哀れな者を台車で運ぶ奴隷商人のように、残忍で無慈悲な微笑みで満たされていた。

山積みされたコンテナの間を縫うように台車を走らせ、カーブを切る毎に背後に眼を遣る。
決まって視線が捕らえるのは、車輪が巻き上げる水飛沫。
それ以外に後を追う者はいない。
対ドギー・クルーガー戦からタイムブルーの変身解除。一連の流れを終えてからすでに数十分経つ。
一先ず、戦略的撤退は成功。
ほんの少しの開放感と、先へ続く期待感。
熱を持った靴底を水溜まりに押し付け、染み込む冷たさを楽しみながら、暗い路地裏へ足を踏み出した。

保冷倉庫の前で台車を止め、ネジブルーは金属製の重い扉に手を掛けた。
キィーッと、流れる耳障りな音。足元からは冷気が這い上がる。
空調が低く唸り、突然の侵入者を威嚇するように空気を震わせた。
庫内温度は摂氏0度、氷点に保たれたその空間は、神経質な程に真白な壁で覆われていた。
切れかけた白熱灯がチカチカと点滅を繰り返し、乱雑に積み上げられた青いプラスチックの箱を照らしている。
「メガブルー……。オレが今どんなに楽しいか解るかい?」
ネジブルーは台車を引き入れ、氷柱をそっと床に降ろした。
吐き出した呼気が白濁し視界を曇らせる。
210インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:37:23 ID:tkjnLsgz0
「クククククッ」
勝利の喜びと余韻から零れた笑みは加虐に満ちていた。
「まだまだ楽しい時間が続くんだよ?これからも俺は退屈しないで済みそうだ」
青いプラスチックの箱に浅く座り、氷柱に閉じ込めた瞬を足元から眺める。
「例えメガブルーがそんな姿だとしても、ね?」
ネジブルーは声を絞り出し、そして薄く笑った。
先程の加虐的な笑いとは相反した笑みだった。
ネジブルーは、氷の向こうの瞬へ、裏切られたような眼を向ける。
首を少し傾け、白熱灯の光で瞬の顔を照らす。
氷の上から、そっと頬を撫でた。
氷の冷たい感触。
指先から心へ染み渡り溜息が漏れる。

退屈凌ぎ。
そんなモノは通過点でしかない。
そう、ネジブルーの存在を握り締めるのはメガブルー。
メガブルー以外は……。


*   *   *


真っ暗闇。
柔らかな、だが、ねっとりと纏わり付くコールタールのような闇。
そこから網で浚われたように浮上した瞬は思考を紡ぐ。
『あの時、俺は……。身体に入り込んだ……虫…は……』
朦朧とする中で、瞬は記憶を掘り起こす。
211インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:38:05 ID:tkjnLsgz0
やがてフラッシュバックする。その時の光景が。

ぞわわわわわわわわわわっざわわわわっっつわわあぞわわわわわわわっざわわわわっわわあわわわわぞぞぞわわわわざあわわわわあわぁぁ。

悍ましい感覚を与えながら、脳幹を這い廻り脊髄を駆け上がり、俺の身体を怪物に変えていった。
ボドッポタポタポタッ。穿たれた皮膚と血が滴り落ちた。
絶叫する間も無く。
変化する両手を、剥き出しになる歯牙を、肥大して行く身体と硬化した爪を、双眸が絶望のアングルで捕らえた。

ぞぞぞわわわわざあわわわわわわっざわわわわっぞわわわわわわわっわわわわあわぁぁ。ぶつんっ!

噛み千切った音。頭の奥底から、流し込まれたコールタールように闇の渦が瞬を飲み込んだ。
嫌ダ!
思った端から瞬は腐り、ドロドロになって闇に溶けた。
それで、おしまいだった。
そう、それでおしまいのはずだった。

なのに、目の前に自分がいる。
それはとても奇妙な光景だった。
自分とそっくりな少年が、自分の頬を撫でている。
声を出そうとしても口は動かない。
全身の感覚は無かった。
目も耳も、見える聞こえると言うよりは感じ取れる、が一番近い。
212インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:38:37 ID:tkjnLsgz0
氷の向こうで、瞬を見つめるもう一人の瞬。
その口調と瞬に向けられた異様なまでの執着。目の前の『自分』はネジブルーだと確信する。


*   *   *


「このままで終わらせる積もりはないよ……」
メガブルーとの最後の決着。
必ずもう一度、その舞台まで引き擦り上げてやる。
「……それまで、楽しませてもらうよ。そろそろ放送の時間だ。なぁ、メガブルー?残りの玩具はどれくらいだろうねぇ」
そう、残りの玩具は全て壊す。
壊して、ぶっ壊して、壊すっ、壊す、壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す。
「ヒャハハハハハハッ!面白い道具だってあるからねぇ。見てみろよ、メガブルー。ほら!!」
ネジブルーはデイバックの中身をばらまき、見せ付けるように指を差した。
マクダスの杖、忍者刀、ディーソードベガ、ソニックメガホン、スフィンクスの首輪、拡声器、詳細付き名簿。
「あぁ……。これはもういらないよ。どうして解るかい?」
詳細付き名簿を拾い上げ、ビリビリと破り宙へ撒いた。
「プレゼントを開ける楽しみが薄れてしまうからねぇ。ヒャハハッ!」
名簿は青白い紙吹雪となりひらひらと舞う。
踊るようにくるくるとネジブルーは回った。
「ヒャハハハハハッ!知ってるかい?!プレゼントを開ける時より、それを壊す時はもっと楽しいんだっ!!」
部屋を仕切る透明なビニールカーテンの向こう側に、大人一人が寝そべれるほどの大きなステンレス製の作業台が見えた。
油脂と何かの液が飛び散った茶色い汚れにそそられた。
213インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:39:15 ID:tkjnLsgz0
「もちろん!とっておきのプレゼントを開けるのは一番最後だよ!メガブルゥゥー!!ヒャヒャハハハハハッヒャ〜ッヒャハハハハハハハァッァアアァ〜」
部屋を仕切るビニールカーテンを引き千切る。
ぷつぷつと表面に付着した脂肪の塊がヌルッと滑った。
不快な感触と、染み付いた茶色い飛沫の臭いがインスピレーションを刺激した。
「殺してあげるよ、メガブルー。最後はこの台の上でテカテカ光る挽き肉にしてあげようか?ハムみたいにスライスするのも悪くない。あぁそうだ……」
骨を穿つ手応え、肉を切り裂く感触。次々と浮かぶ『オレに殺されるメガブルーの恐怖』
ネジブルーは驚異的な集中力で、その妄想に没頭した。


*   *   *


瞬の脳内に寄生した次元虫が完全に凍りついた事により、
ほんの僅かな時間だけ、一滴にも満たない意識の残滓が思考回路を取り戻した。

だがそれが一体何になるというのだろう。
最早、全ての望みなど絶たれているに等しい。
瞬の前に曳かれたのは、更なる絶望へ続く二本の道。
ネジブルーに惨殺されるか、若しくは、その逆か。

その中で、冷静を保っていられるのは、瞬がどこかで諦めているからかも知れない。
214インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:39:53 ID:tkjnLsgz0
何故なら、御覧の通り、次元虫に蝕まれている。
変貌を遂げた肉体は勿論、精神にも支配は及ぶ。
精神の奥底には、これまで感じたことのないある種の強い衝動が突き上げていた。
本来の瞬には、持ち得なかった強い強い衝動。
それは、絶対的に優位に立つ次元虫によりインプリンティングされた破壊衝動。

壊壊壊壊壊壊壊セェ壊Wぁせ壊わセ壊、壊壊壊壊壊エせ壊壊壊sェ壊Waaせ壊、壊壊sせこ壊壊壊Wぉぉ壊壊壊壊壊壊Wあせぇぇぇぇ。

全身の感覚を研ぎ澄ませなければ聞こえないほどの、微かなノイズ。
次に目が醒めても、もう俺にはノイズは止められない。
瞬には何も止めることなど出来ない。
目の前のネジブルーも、いや次元虫に乗っ取られた自分自身でさえも。
氷が溶け、凍てついた身体が動くようになっても、きっと、もう自分の名前も思い出せない。
このままそれを感じていられる時間さえも、残り少ないだろう。

――――殺してあげるよ、メガブルー。最後はこの台の上でテカテカ光る挽き肉にしてあげようか?ハムみたいにスライスするのも悪くない。あぁそうだ……

それでいい。
それだけ執着しているのなら約束して欲しかった。

頼むから、俺を殺してくれ。
215インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:40:30 ID:tkjnLsgz0
怪物になった俺が、誰かを殺してしまう前に……。
殺してくれ。
そんな風に思うしかないなんて。
たった一つの希望がそんな事だなんて。
不快感しかなかった。何故だろう。もう何も出来ないのに。
こんなヤツに願う為に目覚めたのか?

本当にこれでおしまいだ。


*   *   *


「早く殺してあげたいよ。最後の二人になるまで、それまでここで待っててくれるかい?オレは必ず優勝する。メガブルーを元に戻す為にね」
ネジブルーはばらまいた支給品を一つ一つ拾う。
「メガブルーならどう戦うだろうね。楽しみだよ」


*   *   *



ならば、まだ出来る事がある。

もし元に戻れるなら、戦えるなら、 その時は俺がネジブルーを倒す。
216インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:41:15 ID:tkjnLsgz0
せめて殺された者たちの為に。もう誰も傷つけないように……。
何も救えず、ただ一人生き残る。
奇しくも、最初に描いた願いに通じる。希望というには、余りにも救いが無い選択。
だが立ち向かうことも出来ず、逃げることも出来ないなら。
それに賭けてみるのも悪くない。

思い描くのは仮想のスクリーン。
そのバトルフィールドで瞬はシミュレーションする。
ネジブルーから感じた憎悪、復讐心、再戦への渇望をアクセントに。
数少ない戦闘の経験をたよりに。
考え得る限りの戦闘パターン、ブラフ、トリックを展開した。


並樹瞬――その意識の残滓が、冷気に消え去る、その最後の瞬間まで。

217インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:41:46 ID:tkjnLsgz0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。タイムブルー、ネジビザールに30分変身できません。
[装備]:ネジトマホーク、壊れたネジスーツ@電磁戦隊メガレンジャー、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
 ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、木製の台車(裕作のお手製)、スフィンクスの首輪、拡声器
 3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
ネジスーツは壊れているためネジレンジャーにはなれません。
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。

【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷あり。次元獣化。氷漬けにされ仮死状態。倉庫の中。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:暴れる。
[備考]
瞬の支給品一式はH-7エリアに放置されています。
218インプリンティング ◆MGy4jd.pxY :2009/05/19(火) 23:45:39 ID:tkjnLsgz0
以上です。
指摘、矛盾、描写の不十分な箇所のなど意見を聞かせて頂ければ幸いです。

219名無しより愛をこめて:2009/05/20(水) 19:41:35 ID:NsHYYvxfO
投下GJです!

ネジブルー相変わらず怖いよ〜怖いよ〜。
恐ろしくどこか妖しげなネジブルーが魅力的でした。
どう転んでも、絶望的な未来しかない瞬が決意した一縷の希望。
そのあまりにも報われない決意が哀しかったです。
ネジブルーとメガブルー、果たして彼らの決着はどんな形でつく事になるのでしょうか。
今後が楽しみになるお話でした。
220名無しより愛をこめて:2009/05/23(土) 00:58:28 ID:S/tUjtoNO
投下GJでした。
なんか耽美と言いたくなるようなネジブルーにドキドキしたw
221名無しより愛をこめて:2009/05/26(火) 08:38:55 ID:zWt16uYGO
予約2コ来たな!
楽しみだ。
222名無しより愛をこめて:2009/05/29(金) 16:42:24 ID:SPpzgU670
きたい
雨が、雨が降っている。激しく叩き付け、全てを容赦なく押し流す雨が―――

耳朶を叩く雨音に理央は目を覚ました。
鼻をつく焦げた肉の臭いがする。
身を起こそうと身じろぎするが、体が酷く重く、思うように動かせない。
まるで何かが上にのし掛かってでもいるかのようだった。
違う。かのようにではなく、実際に誰かが自分の上に覆い被さっているのだ。
押し退けようと腕に力を込めるが、覆い被さった者はピクリとも動かなかった。
全身に力を込めてもわずかずつしか体を動かせなかったが、それでも懸命に這いずり出る。
見回した周囲に広がるのは、嵐の森。吹きすさぶ風と叩き付ける雨の音以外はまるで何もかもが息を潜めたような沈黙の森。
そのまま、自分の足元に目を落とした理央は息を呑んだ。
水溜まりに映る引きつった幼い子供の自分。その傍らに折り重なるように苦悶の表情を浮かべた二人の人間が倒れている。
先ほどから漂っていた焦げた肉と焼けた髪の嫌な臭い。
それは、その二人から漂ってきていた。

「……父さん?母、さん……………?」

膝を付くと雨にぬかるんだ土が嫌な音を立てた。
二人の顔に手を伸ばす。雨に微かに残った体温を削られた頬は、氷のように冷たかった。
血と泥で汚れた手で顔を覆う。口唇から無意識に呻き声が零れ落ちた。
雨が頬を伝い、泥と血をまだらに落としていく。

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?…………………………ボクノセイ!?

『あなたのせいですよ。あなたが弱く、あなたがなんの力も無いから。だから………』

雨は強く風は激しく、周囲全ての音を奪い、掻き消していくのに。
耳を塞ぎ、激しく首を振り、声を嗄らして叫んでも。
鼓膜の奥深く響く声が、消える事はなかった。それなのに。
どんなに叫ぼうと、大丈夫だと微笑んでくれない。
どんなに手を伸ばしても、手を握ってくれない。
弱くて、力が無くて、何も守れなくて。だから。
だから、笑ってくれる人も守ってくれる人も、全ていなくなってしまった。
目の前が重く閉ざされる感覚に、理央はぬかるみに倒れ伏した。
もう、自分には何一つ残されていない。

―――理央さま

どこか懐かしく、身を焦がすほどに愛おしい声がした。

勢いよく上げた顔に映るのは、やさしく微笑む一人の女。
「………メレ」
差し伸べられた手を掴むと、知らぬはずの名が口唇から滑り落ちる。
そっと寄り添う体を引き寄せ抱え込むと、彼女に不釣り合いだった体はいつの間にか元の姿に戻っていた。
変わらず冷たく、温もりはないけれど、確かに彼女が腕の中に存在する。その感覚に安堵の息を零す。
そうだ、全てを失ってなどいない。まだ一つ、自分の手には残されているじゃないか。
何故、忘れていたのだろう。そう胸中で呟くと理央は苦く笑い、華奢な彼女の体をもう一度強く引き寄せた。
 グシャリ
力を込めた手に嫌な感触が伝わってくる。
目を見張る理央の目の前で、メレは悲しげに微笑むとその姿を砂へと変えていく。
慌てて彼女を掻き抱こうとするのに、砂へと変わっていく彼女の体は理央の手をすり抜けていった。
気が付けば、理央の手に一握りの砂を残して彼女は崩れ去っていた。
その手を抱え込んで、理央は絶叫した。
どこか遠くで声が聞こえる。自分を嘲笑う声が。

『………だから、あなたの大切な人はみんな死んでしまうんですよ』
 


「………………っ!!!」
声にならぬ叫びが、意識を深い眠りの底から引きずり上げる。
絶叫とともに伸ばした手は、何も掴めずに宙を彷徨う。地に落ちる寸前に暖かな指がその手を受け止めた。
なだめるように優しげな手つきで、幾度も手を撫でられる。
「大丈夫……に動いたら………から、もうちょっと………てもいい……よ」
(……母さん?)
まだ意識が完全に浮かび上がっていないうつつの中で、その手を感じた理央は安堵の息を吐いた。ああ、全ては夢だったのかと。
そう、全ては夢。父母を目の前で殺されたことも、メレが腕の中で砂に変わっていったことも。
よく考えずとも道理の通らぬ話だ。
父母を惨殺され、この世に一人で放り出されていなければ、激獣拳ならまだしも臨獣拳の道を歩むことはなく。メレと出会うこともなかったというのに。
けれど目覚める前の朦朧とした意識は、ほんのわずかな一時、理央に甘い夢を見せた。
「そうだ。センさん……教えて………ないと」
身をまどろみに任せるままにしていた理央は、耳に滑り込んできたその声で一気に覚醒した。
離れていこうとした手首を、とっさにきつく掴む。
「……セン、だと?」
「痛、痛いよ〜、ねえ?菜月何もしないよ。はなして?」
センの顔をしていたシュリケンジャー、その口振り、血濡れたセンの服を纏ったその姿。そして自分にした仕打ち。
シュリケンジャーがセンを無事で済ませたとは、とても思えない。
だが、目の前の女は確かにセンの名前を口にした。
思考を巡らせた理央は、一つの可能性に行き着いた。
シュリケンジャーはセンの姿を偽ったまま、この女の同行者に収まったのではないか。
見れば、すぐに騙されそうな幼い顔をしている。
菜月と己を呼んだ女は、痛みに眉を顰めながら、小首を傾げて理央を見ていた。
理央は手首を掴んでいた手を離すと、菜月に向き直る。
何故、自分にとどめを刺さなかったのかは分からないが、こうなった以上容赦はしない。
だが、その前に騙されているであろうこの女の安全は確保してやらねば。
かたくなに己の強さのみを求めていた頃の理央であれば、思いもしなかっただろう。
かつての理央にとって、他者とは所詮、己の餓えを癒す為だけの存在だったのだから。
悪夢の残滓は、彼の内で降り続ける雨は、未だ彼に焦燥と渇望をもたらし続ける。
けれども、今の理央の心を占めるのはそれだけではない。
力への渇望に押し込められ、眠っていた感情が他者と関わり合うことで目を覚まし、少しずつ育ちつつあった。
「いいか。今から俺が話すことをよく聞け。お前がセンと呼んでいる者はセンではない。センの顔を奪った偽者だ」
「え?センさん偽者さんだったの?!」
理央は己の不甲斐なさを感じながら、重々しく頷く。
時刻はやがて定時を刻む。放送が全ての偽りを明らかにしていくことだろう。
もっとも、あのロンが偽りを述べなければ、だが。
「じゃあ、センさんの偽者さんって二人いるのかぁ。あれ?本物のセンさんは?」
「本物のセンは死……ん?二人?どういうことだ」
まさか、ロンが潜り込んでいるとでも言うのだろうか。
「だって、さっき竜也さんが偽者さんに会ったって。あ、でもその時は理央さんだったって言ってたっけ」
この女は何を言っているのだろう?
アニメか漫画なら、互いの頭上にクエスチョンマークが乱舞でもしていたことだろう。
二人の話は噛み合わず、果てしなくすれ違っていく。
ここに真墨か美希でもいれば、彼らにツッコミをいれたところだろうが、あいにく彼らは既に鬼籍の人である。
何かがおかしいと、改めて理央が問いただそうとした時だった。彼の背後から、おずおずとした声がかかった。
「あのー、盛り上がってるとこ申し訳ないんですけど。一応、俺は本物ですよ」
「あ、センさん。偽者さんなの?」
「いや、だから本物だって」
柔和な印象を抱く、聞き覚えのある声に息を飲む。
「……セン、無事だったのか?」
「ええ。理央さんこそ、無事で良かったです」
「ああ。……すまない。思い違いをしていたようだ」
なんとなく気まずい思いで、目を伏せる。
改めて目にすれば、表情も、纏っている空気も、偽りのものとはどこか違う。
偽りの方には、鋭く尖った諦念のような表情があった。
「信じてもらえたなら構わないですよ。あの状況なら、そう思っても無理はないですし」
だが目の前のセンには、それがない。ただ純粋に無事を喜び、自分に笑いかけている。
「さて、目が覚めたならちょっと移動しますか。動けますか?」
「ああ、動けぬほどではない」
体は気怠く、時折痛みが走るが歩けぬほどのことではない。
肩を貸そうというセンの申し出を断ると、目の前のなだらかな坂をゆっくりと登り始める。
登りきり、先程まで自分が横たわっていた場所を見やると、そこは深いクレーターになっていた。
自ら首輪を引き千切ることで、制限から解き放たれたサンヨが放った全力全壊の蔵備頓。
周囲全てを巻き込み放たれたその攻勢で、深く穿たれたクレーターの只中で自分は意識を失っていたようだった。
己の身に目を落とせば、傷のそこそこに手当ての跡がある。
「……これはお前達が?」
問いかけにセンは静かに首を振って答えた。
「理央さん、ブドーという人に会ったことはありますか?」
「ブドー?ああ、あの俺に背を向けた臆病者か」
「あやつが聞いたら怒り出しそうじゃのう」
倒木に腰を降ろしていた老人――人というよりたるんだリンリンシーのようだったが――がぼそりと呟いた。
いぶかしげに理央は老人――センはブクラテスと呼んでいた――に視線を向ける。
「おぬしが出おうた、ブドーの元仲間じゃよ。もっとも仲間と思っておったのはワシだけじゃったようじゃがのう」
ブクラテスは肩をすくめる。その右肩から下は、切り落としたようにスッパリと消え失せていた。
「ブドーにやられたのか」
「まったく、仮にも仲間にこんなことをするような奴とは思ってなかったんじゃがのう」
ブクラテスが溜息とともに呟く。
センの仲間だろうか、警官然とした姿のうつむく男の傍らで身をかがめていた男が、物言いたげにブクラテスを見た。
その視線にブクラテスも気付いているのか、居心地悪げに身じろぐ。
「ねえねえ、竜也さん」
二人の間に流れる空気を知ってか知らずか、ブクラテスに厳しい目を向ける男の袖を引く。
「センさんの偽者さんが二人いるって本当?」
そして、微妙にまだ勘違いしていた。
「……誰じゃ、こやつに妙なことを吹き込んだ奴は」
理央は、目を逸らすと遠い目をした。
センが手招きすると、警官然とした男が理央に向かって歩み寄ってくる。
男はシグナルマンと名乗ると、理央に頭を下げた。
「頼む!本官とE9エリアに行ってくれ!!」
励ますように、センがシグナルマンの肩を叩く。
「とりあえず、状況を整理しましょう。今のままだと、ちょっと情報が錯綜してますから」
「ん?ああ」
シグナルマンに縋るように懇願され、困惑していた理央は頷いた。

時間は、理央が目覚める前に遡る。



南に向かったセンが目にしたのは、首と胴が分かたれたバンキュリアの姿だった。
傍らには、彼女の物であっただろう首輪が転がっていた。
「菜月ちゃんに待ってて貰って正解だったかな?」
センにとっても、勿論気分のいいものではなかったが、少なくとも自分は職業柄、こういう状況には慣れている。
だが、竜也たち一般人には、なるべくならば見せない方がいい。特に菜月は、未だ仲間の死に動揺している。
この上、無用な刺激を彼女に与えたくはなかった。
欠片も動かぬ首輪の反応にこの事態を予想していたセンは、ここより少し手前の場所で、菜月たちを竜也に託すと、一人でこの場所に足を踏み入れていた。
来てみれば、思った通り。戦闘の跡と、まき散らされ周囲にこびり付いた血。無惨で恨めしげな生首が彼を迎えた。
「あの子たちのどちらかかな」
センが左肘を砕くきっかけとなった、サンヨを弄び、せせら笑っていた少女たち。
姿こそ違うが、纏う雰囲気は似通っている。では、これは彼女たちのどちらかの正体だろうか。
さすがにあんな目にあわされれば、センも良い感情を抱きはしなかったが、やはり無惨な姿は痛ましい。
切り口から覗く断面は、鋭利な刃物で断ち切られたことを示している。
センには、そういった武器を使う者に心当たりがあった。
剣将ブドー。ブクラテスの仲間でありながら、なぜか彼に刃を向けた者。
ブクラテスを助ける為、バーツロイドをおとりにした後は、そのままにしておいたが、やはり拘束しておくべきだったのかもしれない。
制限中の上に、負傷したブクラテスを連れていた。あの時はたぶんあれが一番最善だったろうと思う。
だが、防げたかもしれない惨劇に罪悪感を覚えた。たとえ、互いに承知の上での殺し合いの末だったかもしれないとしても。
センは無念の滲み出てくるような彼女の首に手を合わせると、首輪を手に取った。
竜也たちの元に戻ったセンを迎えたのは、慌てふためいた竜也と菜月の姿だった。
「おぬしら、少し落ち着かんかい」
「落ち着いてたら、どうにかなるって言うんですか?」
「少なくとも、泡を食ってセンを迎えにいくということも思いつかんよりはましじゃな」
「……っ!早く言って下さい」
噛み付くようにブクラテスに食ってかかる竜也は、その当のセンが帰ってきていることには気付かないようだった。
「あっ、センさん」
先にセンが帰ってきたことに気付いたのは、菜月だった。
「どうしたの?何かあった?」
「あのね!ブクラテスさんが理央さんのいるとこに、急に反応が二つ増えたって」
「わかった。ありがとう」
不安げな菜月の頭をくしゃりと撫でる。
それにしても。すぐに事態は動かないだろうと、こちらを優先したのだが、判断を誤っただろうか。
「竜也くん、ブクラテスさん。お待たせしました」
「おお、セン、帰ってきおったか」
「事情は菜月ちゃんに聞きました。急ぎましょう」
竜也はまだ何かブクラテスに言いたげだったが、黙ってセンに頷くと小走りに歩き出す。
竜也が先頭を務め、センが殿を担当するのが、この一団で行動する時の二人で決めた役割だった。

足早に進んだ彼らが、首輪の反応のある地で目にしたのは、地に深く穿たれたクレーターと、その中心に倒れ伏す理央。
力尽きたようにうずくまり、土を掴むシグナルマンの姿だった。

 ◇

その後、センたちは理央の命に別状がないことを確認すると菜月に介抱を任せ、すっかり気落ちした様子のシグナルマンから、事の顛末を聞いた。
菜月は、スモーキーがいないことを気にかけていたが、時折苦しげに呻く理央を心配したのか、おとなしくその役目を受け入れた。

そして、現在に至る。

互いに情報を交わし合うことで、欠けていたピースは埋まっていく。
シュリケンジャーの行動。
制限下であったとはいえ、シグナルマンを鬼気迫る強さで下したブドーのこと。
(なぜ、制限がかかったのかの下りでは、菜月を除く全員が深く溜息を吐き、シグナルマンを余計に落ち込ませた)
そのブドーが、理央との再びの決闘を望み、スモーキーを人質(?)にとったこと。
首輪のこと。制限を解き放ったその先に待っている狡猾な罠のこと。
その制限はロンの腹心であるサンヨにさえ及んでいたこと。
そして、これからの行動のこと。
センとしては、勿論、スモーキーの救出に向かうつもりだった。
警官として、救いを求める者のことを見過ごすことなど出来ない。
だが、それは危地に自ら飛び込むということだ。他の者にそれを強制することもまた警官として出来ないことだった。
特に、変身できるとはいえ、菜月はただの女の子だ。巻き込むわけにはいかない。
「菜月ちゃんはどこか安全なとこ…」
「菜月行くよ!だって、シグナルマンさんも猫さんも菜月を捜してたんだもん。菜月だけ安全なとこでじっとしてなんかいられない!!」
揺るがぬ瞳で、菜月はセンを見つめてくる。
「……わかった。竜也くんは?」
「菜月ちゃんが行くのに、俺が行かないわけないじゃないですか。俺も行きます!」
竜也も菜月と同じ、説得は受け付けないという顔をしていた。センが頷くと、真剣な顔で頷き返した。
センはブクラテスに目をやると、理央に向きあう。
「えーっと、じゃあ理……」
「……おぬし、何故ワシを飛ばす?」
「冗談ですよ。ブクラテスさんはどうします?」
ジト目で、自分を睨むブクラテスに笑って、センは問いかけた。
「本当は、出来れば行きたくはないんじゃがの〜」
のこのこ出向いて、ブドーに『これも縁というもの。とどめを刺させて頂こう』などと言われるのは、ブクラテスとしては出来れば避けたかった。
「じゃが、菜月も竜也も行く気満々じゃ。さりとて、ワシ一人ここに残ったところで……」

『通りすがりのマーダーだ!覚えとけ!!』
『今から死にそうなのに、どうやって覚えておられるんじゃーーーー』

【ブクラテス 死亡】 残り〜〜人

「と、なるのがオチじゃからな。まあ、近くまで行ったら、さっきのように隠れさせてもらおうかのう」
「それで充分ですよ。いざとなったら逃げてもらって構いません。さて……」
改めて、センは理央に向き直った。
「……理央さんはどうしますか?」
センは彼が、大切な人を捜していることを知っていた。
その女性を、自分が仲間を想うように、あるいはそれ以上に想っていることも。
だからこそ、強制は出来ない。たとえ、スモーキーを救出する上で必要不可欠な存在だと知っていてもだ。
理央は目を閉じ、逡巡していた。
ひととき、彼らに沈黙が降りる。皆、理央の言葉を固唾を飲んで待っていた。
「……お前たちとともに行こう」
「本当にそれで良いんですか?」
「ああ、あいつは、メレはそう容易くやられるほど、やわな女ではない。それに、武闘の道を生きる者としても、勝負に背を向けるわけにはいかない。
だが、事が終わればお前たちにも探すのに手を貸してもらうぞ?」
「ええ、勿論です」
安堵の空気が、彼らの間を満たした。
だが、竜也とシグナルマンだけは難しい顔をしていた。
「メレさん、メレさんっと……えっと、なーんか忘れて……」
……ああ、色々ありすぎて忘れかけてたけど……
「あのー、すみません。理央さん」
おずおずと手を挙げる。
「なんだ?」
「俺、メレさんに会ってます」
「なん……だと!いつ!どこでだ!!」
竜也の胸ぐらを掴み上げかねない勢いで、理央が問い質す。
「あれはまだ夜中だったから……確か、二時頃ですね。場所はC5エリアでした」
「ああ、では今頃は別のエリアだろうな。どこに行くか言ってはいなかったのか」
「それが、そういうことは全然言ってくれなくて。理央さんを連れてこいとしか」
「そうか」
「お役に立てずにすみません」
そもそも、言うだけ言って、しかも肝心なことは何も言わなかったメレに責任があるのだが、なんとなく竜也は気落ちする。
「いや、少なくともその頃は無事としれて良かった」
彼女も自分を探しているのなら、必ず自分たちは再会出来る。理屈ではなく、理央はそう思った。
一方、シグナルマンは菜月にひそひそと問いかけていた。
「メレさんって誰だっただろうか?」
このシグナルマン、人の名前を覚えないことにかけてはチーキュー1!!である。
「ほら、シグナルマンさんが……ちゃった」
菜月がささやいた事実に固まったシグナルマンは、次の瞬間、理央に飛びつく勢いですがりついた。
「すまないーーーーー!!!!!」
「今度はなんだ」
「本官は本官は、彼女にとんでもないことをーーーーーー!!!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「……待ておぬし、今のは、なんぞいらん誤解を招いたぞ」
「貴様ーーー!!メレに何をした!!!」
「見ろ、言わんこっちゃない!!」
「待って下さい、理央さん。これにはたぶん何か事情が!」
「生きているとは思わなかったんだーーー!!」
「ああ、もう。余計、誤解を招くこと言わない!!」
「どういうことだ!!!まさか、貴様ぁぁぁぁぁ??!!」
「ああ、でも確かにあれはちょっとひどいかな?」
「菜月ちゃんも余計なこと言わない!」

結論から言うと、理央が怪我人で助かった。


 ◇

シグナルマンの発言で危うく、瓦解しかけたが、なんとか誤解の解けた理央たちは、放送を聞くと同時に、E9エリアに向かう為に身支度を整えていた。
まだ、約束の時間までは若干の余裕があったが、事態がどう動くか分からない以上、動けるうちに動いておくことに越したことはない。
センたちは理央の体調を慮ったが、そこは武闘に生きる者。お前たちとは鍛え方が違うと笑った。
実際、一度欠片も残さず絞りきった臨気は、理央にとっても予想外の早さで、元に戻りつつある。
それが、少しばかり理央にとって気にかかったが、今の状況ではそれがありがたくもあった。
 カツン
ふと、理央の足に何か硬い物が当たる。小石かなにかだろうか?と拾い上げた理央は首を捻った。
金属の欠片?いや、潰れてひしゃげた指輪だろうか。
わずかに翼の意匠を残したデザインは、理央にとって見覚えはなかったが、そういえば幾度か菜月が地面に目を落とし、何かを探すような仕草をしていたことを思い出す。
では、これは彼女の物だろうか?
たぶん、そうだろうとあたりをつけると、彼女を呼びつける。
「おい、手を出せ」
無邪気に両手を差し出してきた彼女の掌に指輪を落とすと、菜月は目を瞠った。
「………真、墨?」
絞り出すような声が零れた。
訝しげに彼女を見た理央は、最初の放送で一番最初に呼ばれた名前を思い出す。

『伊能真墨』

では、これはそいつの物だったのだろうか。そして、彼女にとってその男はかけがえのない存在だったのかもしれない。あるいは自分にとってのメレと同じくらいに。
菜月は顔を伏せると、聞こえるか聞こえないかの声で哀しげにささやいていた。
「やっぱり……ここに………んだね。………ね、真墨」
なんとなくいたたまれずに、理央は菜月の前から立ち去った。
その心に燃えるのは、ロンに対する怒りのみ。

長い時間をかけてロンによって刻まれた悪夢を、全て掻き消すことなど、そもそも無理なことなのかもしれない。
もしそうであっても。悪夢に。焦燥に。渇望に。もう二度と惑わされはしない。
欲するのは守る為の力。弱き者を守り、愛する者を二度と失わない為の強き者の力。
残された者の悲しみを目にして、理央はいっそう深く心に刻んだ。
 ◆

それは、理央にとっても、戦いを仕組んだシュリケンジャーにしても、そして、敗れ砕け散ったサンヨにしても、予想だにしないことだった。

サンヨと、かつての理央やメレは同じ四幻将ではあるが、そもそもの生まれに大きな違いがある。
理央やメレのように、臨気に満ちた経絡に幻気を注ぎ込み、後天的に幻獣拳を取得した者たちと違い、サンヨはロンが己の不死の部分を切り離して作り出した存在である。
すなわち、サンヨとは幻気そのものであり、幻気とはサンヨそのものであった。
にもかかわらず、幻気を持たざる者を拒む瘴気によって作用するはずの制限が彼に効いているのは何故か。
そもそもは、ロンが彼にハンデを付けようとしたことが要因だった。
幻気の満ちるこの世界で、彼はあまりにも優位に立ち過ぎていた。
そのままでは、他の参加者にかかる制限がかかることもなく、たとえ、負傷したところで大気に満ちる幻気を取り込み、無限に再生していく。
このバトルロワイアルというゲームを楽しみたいロンにとって、いわゆる無敵状態の駒がいるというのは少々、簡単過ぎてつまらなかった。
だからこそのハンデである。
ロンは、サンヨという存在の入る器を作り上げ、その中に彼を押し込んだ。
つまり、人という器を持つ者。理央やメレと同じ条件になるようにしたのである。
サンヨにとって首輪とは、器の中に流れ込む幻気を制限する蓋であり、身の内から引き出せる幻気の量を最小限にする枷だった。
身の内から本来の幻気を引き出せる時間は、きっかり10分。
それ以上は器が耐えきれない為、2時間の冷却期間を必要とする。
冷たく冷やされたコップに、一気に熱湯を注ぎ込めばどうなるか。
耐えきれずにひび割れてしまうことだろう。
だがゆっくりと湯を注ぎ、熱さにコップを馴らしていけば、ひび割れることはない。
それと同じことが、サンヨの器にも言えた。
それが、ロンの言う特別扱い。
外から流れ込む幻気と、己の内に溢れる幻気。
それらをゆっくりと器に馴らしていけば、首輪を取ったとしてもサンヨの器がひび割れることはなかったのだ。
だが、彼は大技を撃つために大気中の幻気を掻き集め、あまつさえ、己の内の幻気を完全に引き出そうとした。
結果、器はその負荷に耐え切れず、ひび割れ粉々になっていく。
そこに、理央の攻撃をうけ、サンヨは彼という核さえ残せず粉微塵にされた。
結果、大気中には、他のエリアよりさらに高濃度の幻気が撒き散らされることになった。
もっとも、首輪をしている参加者にとっては、特にどうといった影響のない事である。
ただ一人、理央を除けば。
今でこそ捨て去っているが、彼はかつて幻気をその身に取り込んでいた。
彼にはその名残ともいうべき、幻気が留まりやすい土壌が整っていたのである。
さらには、毒蠍とブドーの穿った傷も全く予想だにしない影響を与えていた。
臨気を引き出す経絡は、鳩尾付近にある。
そのすぐ近くに傷が穿たれていたことで、そこから大気中に満ち満ちた幻気が入り込み、経絡を徐々に浸食していく。
理央の身の内に入り込んだ幻気は、彼の強さを求める心に反応を示す。
たとえ、その意志が愛する者や弱者を守りたいと思う心からきていたとしても。
本人も周りも気付かぬ胸の深い内で、事態は静かに進行していった。
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない。
第一行動方針:スモーキーを救い出す
第二行動方針:セン、理央、菜月、シグナルマンの力になる。
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。


【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:スモーキーを救い出す。
※首輪の制限を知りました。
※ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。

【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。かなり凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。
第三行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第四行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限を知りました。

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、首輪探知機、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:しばらくセンたちと一緒に行動。
第二行動方針:出来れば行きたくないんじゃが、まあしょうがないかのう
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:健康。真墨の遺品を目にしたことによる深い悲しみ。
[装備]:アクセルラー、スコープショット
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本、ひしゃげた真墨の指輪
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:スモーキーを救い出す。
第二行動方針:センと竜也、シグナルマンのサポート。
※首輪の制限を知りました。

【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 昼
[状態]:左胸に銃創、肩から脇の下にかけて浅い切り傷(手当て済み) ロンへの強い怒り。幻気が浸食中。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。
第三行動方針:弱者を救ってやりたい。
※首輪の制限を知りました。


558 : ◆Z5wk4/jklI:2009/06/01(月) 01:44:38
以上です。
正直、サンヨの制限関係はかなり冒険してしまったので、部分削除も覚悟しております。
ご意見、ご感想、ツッコミなどよろしくお願いします。





以上、代理投下終了です。
241名無しより愛をこめて:2009/06/01(月) 03:25:28 ID:TTr8YdKt0
投下乙でした!
丁寧な心理描写に魅せられました。
そして理央いったいどうなってしまうんだ!
(エリア限定のようですし個人的に削除の必要は無いかと思いますが……)
ブクラテスとシグナルマンの小ネタもめっちゃ壺で軽く吹き出したのは内緒だw
良い作品を読ませて頂きました。
GJ!
242名無しより愛をこめて:2009/06/02(火) 15:40:42 ID:DZaLutXW0
なんかマリゴモリに似てるな>サンヨの死亡原因
243名無しより愛をこめて:2009/06/06(土) 09:56:32 ID:JxxJxRCo0
保守代わりに古今東西でもしようかね。

【古今東西 居残り組はどうしてる】
まあ、展開予想にならないぐらいに程ほどに。

とりあえず、カーレン組は愛しのレッドレーサ様がいないので、ゾンちゃんの機嫌が悪くなってる。
244名無しより愛をこめて:2009/06/06(土) 17:49:09 ID:HdWlZFMvO
まとめ更新ありがとうございました。

古今東西ネタがないorz
245遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:05:40 ID:m8/9zvjv0
 海岸線の侵食を防ぐため、防波堤に設けられた消波ブロックの群々。
 そのブロックの隙間で蠢くいくつかの影。
 ネジブルーの襲撃から逃れた、メレ、シオン、裕作の3人だ。
 尤も裕作は未だ意識が戻らず、シオンは虚空を見詰めたまま、微動だにしない。
 見るからに機嫌悪く、身体をゆすっているのはメレひとりだけだ。
「ったく、おっそいわね。何をやってるのかしら」
 安全な場所にという指示を受け、グレイは隠れ場所にここを選んだ。
 なるほど、外からはまったく見えず、多少の物音は波の音がかき消してくれるこの場所は隠れるにはうってつけの場所と言えるだろう。
 しかし、その環境は最悪だ。生ぬるい海水はメレの膝元にまで水位を上げ、消波ブロックにこびりついた苔は何とも言えない異臭を放っている。
 とても長く居たい場所とは思えない。
「ああ〜、もう30分は経ったわよね?私の制限は取れたはずだし、様子を見てこようかしら?」
 メレの問いかけに返す声はない。
「ちょっと、聞こえてるわよね?一応、意見を求めてるんだけど?」
 どんな意見を述べられようと、メレの中でもう意思は固まっている。
 だが、無視されるのは気分が悪い。メレは怒りを込めた眼光をシオンへと向けた。
「………」
 シオンは心ここにあらずという感じで呆けている。今までのシオンと比べれば、まるで抜け殻のようだ。
 メレはそんなシオンの様子に、なぜか心がざわついた。
「あんた、いい加減にしなさいよ!いつまでボケッとしてるのよ!あの猿顔が殺されて悔しいのなら仇をとればいいでしょ。
 これぐらいで一々へこんでて、この先、やっていけると思ってんの!」
 ガラじゃないと思いつつも、叱咤激励するメレ。しかし、シオンの表情に変化はない。
「理屈では……わかります。でも、やっぱり実際に死ぬ姿を目にしてしまうと……それに、恭介さんは僕を庇ってあんなことに。
246遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:06:26 ID:m8/9zvjv0
 僕が変身した姿を見て、動揺しなければ……すいません。もう少しだけ時間をください」
「……ふん、もういいわ」
 メレは手頃な消波ブロックに手を掛けるとその場所から抜け出す。シオンが小さく制止の声を上げるが、怒るメレは意に介さない。
 だが、数歩進んだところで、メレの足が止まった。数メートル先に黒いロボットの姿が見えたからだ。
「遅いじゃない!何してたの!?」
 シオンへの苛立ちのまま、グレイに言葉をぶつけるメレ。
 しかし、グレイは答えを返さないどころか、そのまま真っ直ぐにメレの方へと向かってきた。
(こ・い・つ・も・か・!)
 一発くれてやろうと思ったときには、既にメレは蹴りを放っていた。
 頭より先に身体が動いた。
 グレイはそれを軽々と受け止め、そこでようやく視線を向けると、メレの行動の是非も問わず、「シオンは」とだけ呟く。
(ったく、むかつくわね)
 メレは足を下ろすと、顎でシオンの居場所を示した。
 グレイが視線を向けると、シオンもグレイが戻ったことに気付いたのか、裕作を担ぎ、丁度、消波ブロックから出てきたところだった。
「シオン」
「グレイさん………………あの……」
 シオンは何かを問おうとしては、口を噤むを繰り返す。
247遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:07:02 ID:m8/9zvjv0
 グレイはシオンが何を問いたいか、そして、何故言えないかを察しつつも、その問いの答えを淡々と告げた。
「ドギーは死んだ」
「……そう……ですか」
 予想はしていたことだが、実際に耳にすれば、その絶望感はシオンに重く圧し掛かっていく。
 メレが見るシオンの表情はより一層の曇りを見せていた。
(こりゃ駄目ね)
 この調子ではシオンはもう使い物にならない。見限り時かとメレは考えを巡らせ、ふとグレイを見た。
「諦めたくなったか?私は別に構わん。今からでも方針を変え、望みを叶えるため、殺し合いに乗ってもいい。
 悲しみから逃れるため、死にたいというなら殺してやる。どうする?」
「ちょっ、あんた!」
「………」
 グレイの申し出にメレは戸惑い、次々と言葉を投げかける。
 マーダーになられてはシオンはともかく、グレイは相当厄介な存在だ。
 それに自殺を選ばれても、それはそれで何か嫌だ。
「とにかく私は認めないわよ!」
 だが、メレの怒声にもグレイは何の反応も示さず、無言のままのシオンをじっとその赤い瞳で見詰めた。
 1分――2分――3分――そして、5分が経とうとしたとき、ようやくシオンが口を開いた。
「方針は……変えません。仲間を集めて、僕はロンを倒します。そして、みんなと一緒にここを脱出します」
「それはドギーや恭介のためか?」
「それもあります。でも、僕はタイムレンジャーで、ハバード星人ですから。
 人の命を奪うことも、自分の命を無駄にすることも絶対にしたくありません」
248遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:07:31 ID:m8/9zvjv0
 未だシオンの言葉は弱々しい。だが、その言葉には確かさがあった。
 それを感じたグレイはシオンへと差し出す。
「これは……首輪」
「ドギーのものだ」
「なに?死体を解体してたから遅れたの?」
 メレの軽口も意に介さず、グレイは淡々と経緯を述べた。
「私が戻ったとき、既にドギーは息を引き取っていた。頭から真っ二つにされてな。
 戦士なら最後の姿は見られたくない。私はドギーの死体を消すことにした。
 だが、そこで私はあることに気付いた。頭から斬られたというのに、首輪には傷ひとつ付いていなかった。
 おそらくドギーは敗北を覚ったとき、咄嗟に首輪を庇ったのだろう。そして、自分の命を賭してまで、わざわざ首輪を庇う理由はひとつしかない。
 ドギーは私たちに……いや、シオン、お前に首輪を託した」
 シオンは差し出された首輪を受け取る。
 死体は酷い有様だったのだろう。首輪にはドギーのものであろう血が所々に付着していた。
 しかし、その血は悲しみよりも勇気を、強くかき立てる。
「もう一度言おう。私達は同士だ。個々の力ならば私達に力及ばないはずの人間がバイラムを打倒したように……人の絆は何よりも脆く、何よりも強い。
 ――私はそれに賭けてみたいのだ……お前達と一緒に」
 シオンは思わず首輪をギュッと握りしめる。そして、グレイに深く頭を下げた。
「わかりました、グレイさん。そして、ありがとうございます!」
 頭を上げたシオンからは再び戦士としての意気地が窺えた。
 その姿を見るグレイの佇まいはどことなく嬉しそうだ。
 しかし、ひとり不機嫌な顔をしているメレ。
「ふん、私が慰めても、ぜ〜んぜん、反応しなかったクセに。現金なものね〜」
 精一杯の皮肉を込めて、シオンに聞こえるように言葉を紡いだ。
「メレさんもありがとうございます」
249遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:07:57 ID:m8/9zvjv0
 だが、シオンにはそんな皮肉が通じるわけもなく、グレイに対してのものと同じく、深く頭を下げるシオンに、メレはまた微妙な表情を浮かべた。



 前向きになれば、頭も働く。シオンの脳内には早速、首輪に対する疑問が擡げていた。
 10分間の能力解放に2時間の制限。それだけだと思っていたが、ネジブルーは20分間能力を解放できた。
 どうして?首輪は何を見ている?そして、何に制限を掛けている?
 溢れ出す疑問を解決するため、そして、一刻も早くこの場所から脱出するため、シオンは道程を急いだ。


【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。1時間30分程度戦闘不能。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数3発)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
250遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:08:19 ID:m8/9zvjv0
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:健康。精神的ダメージ大。1時間変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、首輪(ドギー)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪の解析。
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。

【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第34話後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:気絶。右肩、腹部、左足を負傷。1時間変身不能
[装備]:ケイタイザー
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:瞬を探す
[備考]
2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
ヒカルがドモンを殺し合いを止めるように説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
裕作の支給品はメレが預かっています。
251遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:10:15 ID:m8/9zvjv0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:H-6海岸 1日目 昼
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
 火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他一品、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。


569 :遺志 ◆i1BeVxv./w:2009/06/07(日) 04:00:41
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご意見、ご感想があればお願いします。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上代理投下終了です。
252遺志 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/07(日) 07:15:01 ID:m8/9zvjv0
投下お疲れ様でした!
首輪を残したドギーの遺志。
それを継ぎ前に向かうシオンとグレイの決意に希望が見えました。
少し複雑なメレも可愛かったw
GJです!
253名無しより愛をこめて:2009/06/07(日) 12:25:06 ID:Cyucj2w2O
投下&代理投下GJです!
死の間際にも、何かを残そうとするドギーの意志、
その遺志に応えようとするシオンとグレイの意志、
それぞれの思いが見えるくだりがすごく良かったです。
それにしても、がらになく励ましてみたり、
がらになくなく問答無用で蹴りを入れていなされたり、
シオンに感謝の意を示されて戸惑い気味のメレがかわいいですw
254名無しより愛をこめて:2009/06/09(火) 15:44:12 ID:Fjq7FNGb0
いよいよ放送ですね!気分が浮き立ってきた!!
ご予約も楽しみだ!!
255名無しより愛をこめて:2009/06/09(火) 16:42:41 ID:roaRLX73O
楽しみだw
書き手さんたち頑張ってください!
256炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:33:29 ID:6VaLUnay0
572 名前: ◆i1BeVxv./w 投稿日: 2009/06/09(火) 21:30:14
例によって例のごとくというか。。。
規制中のため、こちらに投下いたします。
257炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:34:07 ID:6VaLUnay0
 再生の繭へとひとり向かったドロップを待つ間、ジルフィーザは思い出にひたっていた。
(あのドロップが成長を遂げる……か。月日が経つのは早いものだ)
 走馬灯を巡るかのように、今までの記憶が思い起こされる。
 理屈の上では今のドロップが自分のいた時間より後から来たことは理解している。
 しかし、ジルフィーザにとっては眼前のドロップも、同じ時を歩むドロップも、どちらも愛しい弟であることに変わりはない。
(弟の成長した姿を誰よりも先に見ることができる。ロンよ、それだけは感謝しておこう) 
 今か今かと待ち望む中、ふいにジルフィーザの耳へとエンジン音が届いた。
 どうやら邪魔者がこちらに向かっているらしい。
(ドロップの成長の邪魔はさせん)
 近づいてくるバイクの轟音に、ジルフィーザの杖を握る手に自然と力が込められていく。
 ジルフィーザは音の聞こえた方へ向け、仁王立ちになって、杖を構えた。
「ぬっ!?」
 だが、いざ視界にバイクを捉えると、こちらへ一直線に走ってくるバイクには誰も乗っていなかった。
 思わず驚きの声を上げる。
「……甘いわッ!!」
 しかし、驚きに隙を見せたのも一瞬。察知した気配の赴くままにジルフィーザは杖を奮った。
 5時の方向。ジルフィーザの死角にあたり、丁度、身を隠すのに適した茂みがあった場所だ。
「Wow!」
 刃の付いた杖の先には、予想通り、武器を手に携えた襲撃者の頭があった。
 後一歩踏み出せば、その頭部はあっという間に割られた西瓜のようになることだろう。
「貴様、何者だ!」
「HAHAHA、はーい、久しぶりだね、ジルフィーザ」
 馴れ馴れしいその男の顔に見覚えはない。だが、その口調には聞き覚えがあった。
「その口調、貴様、シュリケンジャーか」
「ピンポーン、正解さ!わかったら、引っ込めてくれないかい?ほら、本気じゃなかった証拠に武器なんてもってないだろ」
 確かにシュリケンジャーの手に握られた武器と思わしきものは単なる水が入ったペットボトルだった。
 もっとも素手で相手を殺せる者などごまんといる。それだけで信頼しろというのは無理な話だ。
「ふん」
 だが、ジルフィーザは杖を収めた。
258炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:35:13 ID:6VaLUnay0
 杖の一撃でシュリケンジャーを確実に殺せればいいが、もしその一撃をシュリケンジャーに避けられれば、戦闘になり、一転して、制限中の自分が不利になる。
 シュリケンジャーは底が知れず、この状況も油断させるため、仕組んだ可能性がないとはいえない。
 これが一対一の状況なら、本気か演技か、試してみてもいいが、ドロップの成長中にそんな危険は冒せない。
「HAHAHA、ごめんごめん、顔なじみにあったんで、ちょっと驚かせようと思っただけさ」
 こちらに突進して来たバイクを宥めつつ、シュリケンジャーは軽口を叩く。
 勿論、シュリケンジャーの思惑は別のところにあった。
 シュリケンジャーは最初の一撃で、ジルフィーザが制限中かどうかを計るつもりでいた。
 制限中ならその命をもらい、制限中でなければ、適当なところで分かれる。
 ただ――
(う〜ん、見た目が変わらない奴はわかりにくいな〜)
 さしものシュリケンジャーとて、今の一戦で判断を下すにはいたらなかった。
 見たところ、ジルフィーザは未だ目立った傷もなく壮健なようだが。
(まあ、もうちょっと探ってみるか)
 探りを入れようと、シュリケンジャーが口を開く。
 だが、それより先にジルフィーザから言葉が投げかけられた。
「それが貴様の素顔というわけか」
 出鼻を挫かれた形となったが、それをおくびにも出さず、シュリケンジャーは淡々と応じる。
「ああ、そうだよ。どうだい、結構イケメンだろう」
 長めの髪をなびかせ、イケメンぶりをアピールするシュリケンジャー。
 ちなみに、今は理央の顔だ。
「やはり、あの緑の姿は変身した姿だったというわけか」
(おっ〜と、これはジルフィーザも同じ腹ってことかな?)
 話の流れから、ジルフィーザも相手が制限中かどうか探ろうとしているのではないかと予測する。
 そうはさせまいと、シュリケンジャーは会話の主導権を握るべく、オーバーアクションをとりつつ、少し大きめの声を上げた。
「ところでジルフィーザ、探し人は見つかったのかい?ミーも会った何人かの参加者に聞いてみたけど、何の情報もなかったよ」
 言外に、自分は味方で殺し合いに乗っていないことをアピールするのも忘れない。
259炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:36:20 ID:6VaLUnay0
 それが功を奏したのか、ジルフィーザはしばしの黙考の後、話を変え、現状を語り始めた。



「我は大魔女グランディーヌの第四子。我が再生の繭、魂のゆりかご、さあ、己が魂を迎えに来るのだ!!!」
 ドロップの呼びかけに応じ、それは何もない空間から突如として現れた。
 まるで燃え盛る炎のような紅蓮に染まり、龍の如き翼で包まれた繭。
(感じる。あの中にあるのは紛れもなく俺の肉体。そして、ジルフィーザに匹敵する冥王の力)
 ドロップが手を上げると、それに呼応したかのように繭は光を放ち始める。
 徐々に強まる光。そして、その光に触れたドロップの身体は溶けるように消え、小さな粒子となり、繭へと吸い込まれていった。
 鼓動する繭。全ての粒子を取り込むと、ドクンドクンと繭の中で何かが蠢き始めた。
 そして、数分後、爆発が起こった。

――ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!――

 轟音と共に周りの全てが吹き飛ばされ、小規模なクレーターが形作られる。
 その中央にゆっくりと舞い降りる紅き龍人。
 翠色の瞳。ジルフィーザに匹敵する大きな翼。手に握られた鋭き双刃の槍。そして、胸に輝く冥王の星。
「これが俺の、竜皇子サラマンデスの新たな姿か」
 成長した自分の姿に、興奮を隠せないサラマンデス。
 全身に今までと比較にならない力が漲るのを感じる。予想以上の力だ。
 これならば、例え、制限がない状態のジルフィーザといえども、敵ではない。
「ご成長、おめでとうございます」
「誰だ!?」
 突然、後方より掛けられる声。反射的に振り返ると、後ろにいた何者かはサラマンデスの首に素早く手を添えた。
 そして、それと同時にカチャリと硬質的な音が耳へと届く。
「これは」
「ふふっ、失礼。あなたの成長は喜ばしいことですが、さすがに首輪がないのは他の皆さんと比べ、不公平ですからね」
 首に着けられたのは子供の時に着けられていたものと同じ首輪。
 そして、眼の前に立つのは自分と同じ龍の名を持つ憎き主催者の姿。ロンだ。
260炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:37:03 ID:6VaLUnay0
「貴様ッ!」
 サラマンデスは槍を振り上げると、ロンへと挑みかかる。
 だが、ロンは黄金の靄になると、その攻撃を無効化し、サラマンデスの後方へと回り込んだ。
 しかし、それぐらいでひるむサラマンデスではない。直ぐに体制を立て直すと、追撃を行うべく、走り出す。
「おっと、落ち着いてください。いいのですか、折角のジルフィーザを倒すチャンスをふいにしても」
 その一言でピタリとサラマンデスの動きが止まる。
「貴様、なぜそのことを」
「私は何でもお見通しです。あなたから見れば、私は未来の存在。あなたがどういう存在で、あなたがどういう末路を辿るか、私にはわかっているのです。
 私があなたをここに連れてこなければ、遠からぬ未来、あなたは……いえ、あなた方は敗北を喫します」
「我ら災魔一族が人間ごときに敗れると……」
「はい。――ですが、ご安心を。私の力を持ってすれば、そのような運命を変えることなど造作もありません。
 私は運命を変えるチャンスをあなた方に与えているのですよ?」
「貴様の言葉を信じろというのか」
「信じる信じないは勝手です。私は主催者ではありますが、同時に傍観者でもあります。
 ここでどんな決断を下そうが、私は関与するつもりはありませんよ。
 例え、私を倒すという選択をしても……それはそれで面白いですしね」
 ロンは不敵な笑みを浮かべ、挑発的な眼でサラマンデスを見つめる。
 普段なら一笑に付す話だ。
 だが、少なくとも時間を操るロンの力は本物。自分の時間軸では死んだはずのジルフィーザが生きて存在しているのが何よりの証。
 更にこちらは成長直後で全ての能力が知れず、首輪という枷さえある。戦っても勝ち目は薄い。
 そして、もしロンの言っていることが本当ならば、仮にロンを倒し、元の世界に帰還したとしても待っているのは敗北ということになる。
 無能な兄や姉はともかく、母上が敗れるのはいささか信じがたいが――
「よかろう」
 ――どのみち今は信じるしかない。何より、今、優先すべきはジルフィーザを倒すことだ。
 サラマンデスは槍を収めると、踵を返す。
261炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:39:24 ID:6VaLUnay0
「では、健闘を祈ります。ですが、お気をつけください。なにせジルフィーザには……」
 ロンはその後ろ姿を満足気に見遣ると、意味深な笑みを浮かべ、その場から消えた。



「――というわけだ」
「な〜るほど、ここにドロップがね〜」
「もう間もなく、ここに現れることだろう。先程、再生の繭も見えた。あの轟音はドロップが成長した証に違いない」
 ジルフィーザはシュリケンジャーにドロップと出会い、成長のため、ここに連れて来たことを話した。
 ただ、それ以外の事はほとんど告げていない。シュリケンジャーと分かれた後、誰と出会い、どのようなことが起こったのか。
 シュリケンジャーとしても聞きたいのはそこだったが、警戒しているのだろうと、そのまま享受するしかなかった。
(まっ、同行者がいる以上、ジルフィーザを倒すのは後回しだな。警戒されているようだし。適当に吹き込んで、別の誰かを探すとするか)
「それでこれからどうするつもりだい?まあ、普通に考えると首輪の解除方法の模索だろうけど」
「首輪か」
 ジルフィーザは首輪を軽く摩り、なぜか左腰へと視線を向けた。
「シュリケンジャーよ。俺はドロップを探すことに気を取られ、今まで他のことには考えが及ばなかった。
 だが、いざ冷静に考えて見ると、首輪の解除より、脱出方法を探る方が先なのではないか?」
「Ummmmmm……どうだろうね?結局、首輪の解除も、脱出方法もどちらも必要だろうから順番が違うだけと言えなくはないけど。
 でも、どちらかというと首輪の解除が先じゃないかな?首輪があるうちは迂闊に戦えもしないし」
「そうか、そう思うか」
「?、何か奥歯に物が挟まったような言い方するね?何か気付いたことでもあるのかい???」
 迫るシュリケンジャー。だが、ジルフィーザの視線は既に別の方へと向いていた。
 シュリケンジャーがその視線を追うと、そこには紅い龍人の姿があった。
262炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:40:26 ID:6VaLUnay0
「兄上、お待たせしました」
「おおっ、待ちかねたぞ。立派な姿になったものだ」
「ははっ。これからは兄上にいただいた名前、龍皇子サラマンデスと名乗り、より一層、災魔一族繁栄のため、働いていく所存です」
「うむ。期待しているぞ」
 サラマンデスの成長したその姿に、満足気な表情を浮かべるジルフィーザ。
 対して、サラマンデスは気が気ではない。折角のチャンスだというのに、横には見知らぬ男の姿。
 ジルフィーザの制限が解けるまで、後数分。それまでに片付けねばならぬというのに。
「兄上、この者は?」
 あくまで冷静を装い、ジルフィーザに質問する。
「ミーかい?ミーは天空忍者、シュリケンジャーさ☆」
 おどけてはいるが、油断のならない実力者であることをその佇まいからサラマンデスは一目で見抜いた。
 しかし、それは同時に、このままではジルフィーザの抹殺ができないことを意味している。
(あと数分、一か八か)
 突如、サラマンデスはシュリケンジャーに槍を向けた。
「おっと、急にどうしたんだい?」
「その顔、見覚えがあるぞ。貴様、ロンの手の者だな」
 ハッタリだ。サラマンデスはシュリケンジャーの顔、理央の顔など、覚えてはいない。
 ただ、この行動に怯み、とにかく追い払えればそれでよかった。
 敵意を向け、シュリケンジャーに迫るサラマンデス。だが、ジルフィーザがその手を制した。
「兄上!」
「落ち着け、サラマンデス。こいつはお前が知っている男ではない。
 こいつは変装しているだけだ。そうだな、シュリケンジャー?」
「「なっ!?」」
263炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:41:22 ID:6VaLUnay0
 サラマンデスとシュリケンジャーの驚きの声が重なる。
「気付かないと思ったのか。その顔、理央とかいう男のものだろう。広間に集められた者なら、ほとんどがその顔を覚えている。
 何か考えがあって、その顔にしているのかと思ったが、その驚きよう、どうやら、俺の考えすぎだったようだな」
 ジルフィーザの指摘通り、それはシュリケンジャー、痛恨のミス。
 誰かを煽るには何かと都合がいいと、理央の顔を変えなかったのだが、まさかそれが裏目に出るとは。
「ははっ、道理でミーをちっとも信用してくれないわけだ」
「当たり前だ。顔を見せない相手をどうして信用できよう」
「ミーもまだまだ修行が足りないね」
 自らの失敗を深く反省するシュリケンジャー。
 だが、その気分はまったく落ち込んでいない。むしろ、徐々に高揚し始めていた。
「でもね、怪我の功名って言うのかな。このミスのおかげで、面白いことがわかったよ」
「面白いこと?」
 シュリケンジャーは懐よりシュリケンボールを取り出すと、それを胸へと掲げ、声を上げた。
「天空シノビチェンジ!」
 シュリケンボールの中の星が回転し、たちまちシュリケンジャーの身体が緑のシノビスーツに包まれる。
「貴様、何のつもりだ!」
「こういうつもりさ☆シュリケンズバット!」
 シュリケンジャーはバット状の鞘から刀を抜くと、ジルフィーザに襲い掛かる。
 ジルフィーザは杖で第一波を防ぐが、直ぐに第二波、第三波を繰り出してくる。
「ぬぅぅっ、シュ、シュリケンジャー!」
「制限中なんだろ、ジルフィーザ?ミーを怪しみながらも、話を続けていたのは時間稼ぎってところかな」
 その言葉が正しいと証明するかのように、防ぎきれないシュリケンジャーの攻撃がジルフィーザの身体を次々と切り裂いていく。
「ぬぐぅ」
「なんで、気付いたかって?それはミーの他に、ユーの命を狙う者がいたからだよ。そうだろ、サラマンデス?」
264炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:42:02 ID:6VaLUnay0
「何!?」
「その顔、見覚えがあるぞ。貴様、ロンの手の者だな。ユーはこう言ったよね?でも、それは有り得ないんだ。
 理央はロンと相対する存在だし、ユーと会って、危害を加えた可能性もほぼゼロ。
 なら、その言葉はミーをここから遠ざけるための口から出任せ。そして、遠ざける必要があるとするなら、その理由は?」
「言うな!」
 ジルフィーザは渾身の力を込めて、杖を叩きつける。制限中とは思えないほどの大きな穴が大地に空いた。
 だが、どんな破壊力の攻撃も当たらなければ意味はない。
「サラマンデス、ミーと組まないかい?色々あってね、今、ミーは殺し合いに乗ってるのさ。
 ミーは変装の特技を活かして、扇動者になり、なるべく手を汚さず数を減らすつもりさ。
 ただ、ミー一人じゃ、ちょっと骨でね。ユーが協力してくれたら、やりやすくなると思うんだけど」
「戯言を!」
 ジルフィーザが再び、杖を薙ぎ払う。だが、その攻撃もあっさりとかわされた。
(くっ、やはり制限中ではどうともならぬか)
 焦燥感を募らせるジルフィーザ。
 その時、サラマンデスが動いた。
 シュリケンジャーとジルフィーザの間に入ると、槍を構え、ジルフィーザを庇うように立つ。
「おやおや、ミーが思ってたより、兄弟の絆は深いということかな」
「ふっ、そうだな!」
265炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:42:31 ID:6VaLUnay0
 瞬間、サラマンデスは振り向き様に、手にした槍でジルフィーザを貫いた。
 ジルフィーザの背中から、槍の穂先が突き出ると共に鮮血が飛び散る。
「な、何故だ……」
 ジルフィーザが信じられないといった表情でサラマンデスを見ていた。
 サラマンデスはその滑稽さに笑みを浮かべる。
「兄上、いや、ジルフィーザ。俺の時間では既に天の時代は終わっている。これからは龍の時代だ」
 サラマンデスの胸の冥王の星が、ジルフィーザの冥王の星に呼応するかのように煌く。
「ド、ドロップぅ……」
「ドロップはもういない。俺は冥王、龍冥王サラマンデスだ!!」
 その言葉と同時にサラマンデスは勢いよく槍を引き抜くと、今度はその槍を袈裟懸けに奮った。
「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」
 轟く断末魔。ジルフィーザの身体から吹き出る更なる鮮血。
 そして、そのまま、ジルフィーザはゆっくりと大地へと倒れこんだ。
「ド、ドロ……――」
 力尽きたのか、その手からカラリと、杖が滑り落ちる。

―パチパチパチ―

「やあやあ、ブラボー!ブラボー!」
 その顛末を見届けたシュリケンジャーはサラマンデスに拍手を送った。
 相手を油断させ、一撃の元に仕留める。見事な騙まし討ちだった。
 後は、サラマンデスが自分との交渉に乗ってくるかだが――
「何人までだ」
「うん?何がだい」
「貴様と協力する期間だ。共に優勝を目指す以上、最後までということはありえまい?」
 どうやらその心配はなさそうだ。
「ふふっ、そうだね。ミー達を含めて……」
 シュリケンジャーはパッと手を開き、言葉を続けた。
「残り5人まででどうだい?」
 サラマンデスはシュリケンジャーの言葉に頷き、肯定の意思を示すと、傍らに置いてあった自分とジルフィーザのディパックを手に取った。
266炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:42:55 ID:6VaLUnay0
 それだけで意図が伝わったのだろう。シュリケンジャーもディパックを手に取り、バイクへと移動する。
 汚らしい死体を前に交渉するのは無粋というものだ。
 準備を終え、その場から去ろうとしたとき、ふとジルフィーザの顔が視界に入った。
 その虚ろな視線は何処を見ているとも知れなかったが、サラマンデスには何故か自分を見ているように感じられた。
「ふん!」
 その視線を断ち切るように、サラマンデスはジルフィーザの顔を踏みつける。
「兄上、お世話になりました。これから災魔一族は私の指揮の元、発展していくことでしょう。それでは」
 最後に足蹴にすると、サラマンデスとシュリケンジャーは共に去っていった。



「……………」
 残されたジルフィーザの屍。いや、その表現は今はまだ正しくない。
 なぜなら、ジルフィーザにはほんの微かではあるが、まだ息があった。
「……………」
 もっとも、屍という表現が正しくなるのも時間の問題のようだが。
 そんな有様だというのに、ジルフィーザは最後の力を振り絞り、左手を空へと翳していた。
「……………………ぅ」
 だが、ジルフィーザが頑張れるのもそこまで。
 やがて、蚊の鳴くような声で小さく呻くと、その瞳は赤色の光を失い、翳していた手が身体へと下ろされた。
267炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:43:33 ID:6VaLUnay0
 そして、ジルフィーザは屍となった。

 ――かに見えた。

 突然、時間が巻き戻されたかのように、ジルフィーザの傷のひとつひとつが塞がっていく。
 失われたはずの瞳にも再び、煌々とした光が灯りはじめる。
「ぬぉぉぉぉぉっ!」
 獣のような雄叫びが上がる。そして、今までの有様が嘘のように、ジルフィーザは力強く大地を踏んだ。
「まさか、無駄だと思った支給品を使う機会があろうとは。そして、まさか、その効果が本物だったとはな」
 ジルフィーザに用意された支給品はたったひとつ。だが、その支給品は到底、信じられぬ効果を持つものだった。
 真毒。長く延びた爪のようなそれは、死者に毒で死を与えることによって、命を裏返し、生を与える臨獣スネーク拳の秘伝リンギの一部。
 効果が書かれたメモを読んだとき、ジルフィーザは馬鹿馬鹿しいと、すぐさまそのメモを破り捨てた。
 殺し合いをさせることが目的だというのに、復活させることができる道具など、あまりにこの場に不釣合いだ。
 それに、この道具を使えば、首輪を無理やり外し、その後、この道具を使い復活という手段さえ可能。
 ジルフィーザはこの道具の説明書自体がトラップで、希望を抱いた誰かを絶望に追いやり、嘲笑うことが目的だと考え、その存在を誰にも伝えなかった。
 当然、使う気も更々なかったが、どうせ死ぬならと最後の力を振り絞った結果が今の自分だ。
「全ての傷が再生されるとは、なんという強力な力よ」
 その効果にジルフィーザも驚きを隠せない。
 そして、真毒の効果が本物となると、やはり制限を掛けているのは首輪ではなく、暗黒災魔空間や幽魔地獄のように、空間そのものに制限がかかる仕掛けが施されているというのが妥当だろう。
 その証拠に、シュリケンジャーは変身していたというのに、最初に集められた広間では変身が解ける様子はなかった。
 やはり、見つけるべきは脱出の方法。ここから出れば、制限はなくなり、首輪の脅威はロンからのリモート操作ただ一点のみとなる。
 しかし、そのことに気付いても、今のジルフィーザに伝える相手など、どこにもいない。
「ドロップ……」
 胸に輝く冥王の星を見た時、もしかしてという予感はあった。
268炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:44:11 ID:6VaLUnay0
 だが、ジルフィーザはドロップの時間軸で自分が死に受け継がれたのだろう程度にしか考えなかった。
 いや、考えないようにしたというのが正解だろう。
 しかし、結局は愛しい弟は野心を持ち、兄の身を貫いた。
「何故だ。兄はお前達兄弟のためならこの命は惜しくない。もし、どちらかしか生き残れないというのなら、喜んでこの命を差し出しただろう。
 なのに何故、お前はこの兄を最初に狙った。何故だ、ドロップ!」
 ジルフィーザの拳が大地を揺らす。
 信じていた家族に裏切られた悲しみと理不尽な仕打ちに対する激しい怒りに、今はまだ、ジルフィーザはその場を動くことができなかった。


269炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:44:51 ID:6VaLUnay0

【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。ドロップに裏切られて意気消沈。
[装備]:杖
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンを殺す。
第一行動方針:???
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・ジルフィーザの個別支給品は真毒でした。
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。サラマンデスに成長完了。能力発揮中。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物、支給品一式(ドロップ、ジルフィーザ)
[思考]
基本行動方針:とりあえず優勝狙い
第一行動方針:シュリケンジャーと協力して、数減らし。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
270炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 01:45:32 ID:6VaLUnay0
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:F-9オアシス 1日目 昼
[状態]:健康。能力発揮中。現在は理央の顔です
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第三行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。


585 :炎の龍冥王誕生 ◆i1BeVxv./w:2009/06/09(火) 21:42:46
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点など、指摘事項、ご感想などありましたら、お願いたします。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上代理投下終了です。
271炎の龍冥王誕生◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/10(水) 02:02:02 ID:6VaLUnay0
うわぁぁぁぁぁぁ。ジルフィーザを思うと胸が痛てぇぜorz
ドロップ謝るなら今の内だ!
先のことを思うと強烈にドキドキする。
そしてシュリケンジャー。
何か徐々に殺し合いに毒されつつあるというか……
戦場に置いて少しづつ狂わされていくようで、凄く面白いです。
サラマンデスとシュリケンジャー。
お二方笑ってますけどえらい因縁が出来上がっちゃいましたねw
面白かったです。
GJ!そして投下お疲れ様でした!

272名無しより愛をこめて:2009/06/10(水) 12:10:53 ID:mNCCqwplO
投下&代理投下GJです!

うわ〜っ、ドロップ、最初からそのつもりだったとはいえ、兄ちゃんになんて事を!
後が怖いぞ、後がw
2人とも、一番敵に回しちゃいけない人を回してしまった気がします。
弟に裏切られたジル兄は、果たしてどういう行動に出るのか……

ジルVSシュリケンジャー、ドロップVSシュリケンジャーの腹の探り合いにはハラハラしました。
ジル・ドロップ・シュリケンジャー、それぞれの意志や思惑が交差する中の、内面描写に引き込まれました。
色んな意味でやる気満々のドロップとシュリケンジャー、
マーダーコンビの今後が楽しみです。

相変わらずの速筆お見事でした!
自分も早く仕上げねば!
重ねてGJです!
273 ◆Z5wk4/jklI :2009/06/12(金) 16:59:09 ID:2LbrW0Pk0
放送投下いたします。
274第二回放送 ◆Z5wk4/jklI :2009/06/12(金) 17:00:07 ID:2LbrW0Pk0
『今日は死ぬにはいい日だ』というのは、きっとこんな日の事だろう。
下界で起こっていること全てがまるで嘘のように、空は穏やかだった。
抜けるほどに高い空は目に染みる青。風は凪ぎ、雲は緩やかに流れている。
眩しいほどの光を放つ太陽は遙か高く、空の高みまで。
その高みの頂きに男が一人佇んでいた。
踏みしめる物など何もない空の頂きに、危うげなく立つ男の名はロン。
無間の時を生きる龍が退屈しのぎに取った人の姿で、ロンは下界を見下ろしていた。

「ああ、サンヨ。死んでしまうとは何事ですか」

見下ろした先。粉々に砕け、今は大気の中にその名残を漂わせるのみとなった己が分身につまらなさ気に語りかける。
放送のチェックの為、生死の確認をしてまわっていたが、サンヨにはその必要さえなさそうだ。
「まったく、せっかく特別扱いしてやったのに。貴方がそのようでは私が他の方に侮られてしまうんですよ?ですが、まあ……」
ククッと喉の奥で笑う。
「おかげで、少々面白い物が見られるかもしれませんねぇ」
さて、これから彼らはどれだけ自分を楽しませてくれるだろう。
悪意というよりいっそ無邪気にさえ聞こえる呟きは、大気に溶け、下界に届く前に散っていった。

やがて時刻は定刻を刻む。
放送は下界をどんな感情で満たすだろうか。
憎悪? 怨嗟? 歓喜? 疑心? 安堵? 悲哀? 不屈? 絶望?
どのような感情であろうとそれは、空虚な退屈にあえぐ龍の心を満たしてくれるだろう。
己に刃向かわんと牙を研ぐ者さえ、絶対者たる慢心を誇るロンには余興の一つでしかないのだから。
275名無しより愛をこめて:2009/06/12(金) 17:01:11 ID:oH72MykCO
支援
276第二回放送 ◆Z5wk4/jklI :2009/06/12(金) 17:01:32 ID:2LbrW0Pk0
 
 ◆

『さて、前回の放送から6時間程たちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
 楽しんで頂けていれば、こちらとしても幸いなのですが。
 では、定時の放送を始めましょう。
 まずは、残念なことにこの6時間で亡くなられた方から。
 サーガイン、サンヨ、陣内恭介、巽マトイ、冥府神ティターン、ドギー・クルーガー、フラビージョ、真咲美希、以上の8名になります。
 おやおや、皆さん随分お楽しみの様子でこちらとしても安堵いたしました。
 正義の味方の皆さんも案外……、ああ、これ以上言ったらきっと怒られてしまいますね。
 それでは、次は禁止エリアの発表をいたしましょう。
 
 13時に海岸H7
 
 15時に都市D7

 17時にオアシスE9
 
 以上が今回の禁止エリアとなります。
 そろそろ皆さんの中に、首輪の威力を間近に目にした方が出た頃合でしょうか?
 皆さんのお命の為にも、誤って足を踏み入れたりしないようお気をつけください。
 残る人数は、26人。
 6時間後もお会いできますよう、皆さんのご健闘をお祈りしております。
 それでは、また6時間後にお会いしましょう』

 ◆

果たして会場に満ちた思いはどのようなものであったか。それを知るのはただ無間龍、それだけのみ。
277 ◆Z5wk4/jklI :2009/06/12(金) 17:02:46 ID:2LbrW0Pk0
以上です。よろしくお願いします。

支援ありがとうございました。
278名無しより愛をこめて:2009/06/12(金) 17:13:53 ID:oH72MykCO
投下乙です!
今日は死ぬにはいい日、だ……と?
ロンめ!誰が上手いこと言えとw
ロンの思惑通り事が運ぶか?
はたまた対主催者の快進撃の始まりとなるか?
目が離せなくなって来た!
美しい情景描写が凄惨なこのバトルロワイアルの無情感を引き立ててくれました。
GJ!
今後の活躍を楽しみにしております。
279名無しより愛をこめて:2009/06/12(金) 21:13:54 ID:JyNy5CEF0
投下乙です!
第一回放送からほぼ1年。感慨深いモノがあるなぁ。
と、早速ですが保留になっていた作品の件。
◆5NhH1PgaVg氏、「旅は道連れ」の修正版を仮投下スレにお願いできますでしょうか?
修正の必要なく仮投下スレに投下できるようでしたら仮投下して頂いて、
放送の内容で新たな修正が必要であるならその旨を本スレ、したらばのスレにお願いします。
280名無しより愛をこめて:2009/06/13(土) 01:02:09 ID:v5ci4tQ4O
訂正
したらばか本スレのどちらかにお願いします。でした。
こちらは規制などで書き込めないかもしれないので。
281名無しより愛をこめて:2009/06/15(月) 17:24:14 ID:i4tdYHQlO
保守
282冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:31:34 ID:hacE++r40
「はぁ、はぁ、はぁ」
 荒い息を吐きながら、ドモンは海岸を歩く。
 ドモンの服は所々が破け、既にボロ着と化していた。
 辛うじて服としての体裁は保っているが、もはや雑巾として使えるかすらも怪しい。
 そして、ドモンの身体はその服以上にボロボロだ。
 骨にはひびが入り、皮膚は腫れ上がり、火傷、打撲傷、裂傷、擦過傷など様々な傷が、顔、胴、腕、足など様々な箇所に、無数に鎮座している。
 特に左足は感覚が希薄で、力が入らず、引き摺るしかない。
 それでもなお、こうして歩いていられるのは偏に彼の鍛え上げられた肉体と強い精神力の賜物だった。
「ビビィー、もっと早く歩けないビビか。遅すぎるデビ〜」
 そんな状態だというのに、容赦のない声が彼の頭上から響く。
 彼の水先案内人、ビビデビの声だ。
「はぁ、はぁ……うるせぇ、てめぇは黙って、辺りを警戒してろ。そして、誰か見かけたら直ぐに俺に知らせるんだ。いいな」
 ビビィとドモンを小馬鹿にしたように笑うと、ビビデビはドモンの数メートル先へと進んでいく。
 その後ろ姿にドモンは疑念を深めていた。
 ヒカルを飛ばした場所に案内してやると、自分と合流してから1時間と少し、歩みが遅いといっても1エリア程度は進んでいる。
 ビビデビの話では飛ばした距離は2エリア程度。ヒカルもドモンを探し、こちらへ向かっているはずだ。
 それなのに一向に出会える気配がない。
 入れ違ったのか、そうでなければ、ビビデビが嘘を吐いたのか。
 だが、ドモンはそれが嘘でも構わないと思っていた。
 仲代壬琴が持ちかけたゲーム。あの場では乗ると応えたが、最終的に乗るか、反るかはヒカルと相談して決めるべきだ。
 仲代はいかにも頭がよさそうな雰囲気を醸し出していた。
 そんな男の言うことだ。馬鹿な自分が鵜呑みにしては、どんな罠に嵌まるとも知れない。
 ならば、今、自分がやるべきことは壬琴と会う前と変わらない。

 まずは一人。誰かを殺し、真の意味でのヒカルの仲間となる。

 合流はその後でいい。いや、その後でなければならない。
 そのためにビビデビには斥候をやらせてある。
 そして、ビビデビが誰かを見つけたら――
「俺は殺す。そいつが誰であろうと。男であろうと、女であろうと」
283冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:33:21 ID:hacE++r40
 確固たる決意を胸に、ドモンは拳を握り締めた。爪が肉に食い込むほどに、強く、強く。
 


「壬琴様も面白いこと考えるデビ。でも、ビビデビは誰かを優勝させなきゃいけないデビ。
 だから、ビビデビは裏切って、参加者が壬琴様を妨害するように仕向けるビビよ!
 ――あれ?これじゃあ、裏切ってないような?……まあ、いいデビ♪」
 ビビデビは空中をふわりふわり移動しながら、そんな独り言を漏らした。
 余程しっかりしつけられたのだろう。裏切るとは言いながら、壬琴への敬称は『様』のままだ。
「それより、ドモンビビ。あんなボロボロじゃあ、期待できないビビね。適当な奴と戦わせて、さっさと退場させるデビ」
 それがドモンの思惑通りとも知らず、ビビデビは高く飛び、辺りを観察する。
 海岸エリアとはいえ、市街地との境界線に近いせいか、いくつかの建物が並び、空からの見通しはすこぶる悪い。
 もし誰かいたとしても、空からの偵察を意識していれば、身を隠すのは容易いことだろう。
 もっとも、能力が制限されている状況で、空を警戒している人物など、数人程度だろうが。
「それにしても、ヒカルはこっちじゃなかったみたいビビね。勘が外れたビビ」
 ヒカルを飛ばすとき、ビビデビが考えたのは『とにかく遠くに飛んでいけ!』だった。
 ようするに何も考えずに飛ばしたのだ。正確な位置はビビデビにもわからない。
 だが、まったくのデタラメをドモンに吹き込んだわけでもない。
 何も考えずに飛ばしたのなら、対象はビビデビから見て、正面の方向に飛ぶ。
 はっきりとどの方角を向いていたかは覚えていないが、海岸エリアを向いていたことだけは確かだ。
(東か、南か、南東か。3分の1だったビビけどね〜)
 結論から言ってしまえば、ドモンの進んでいる方角は不正解だ。
 ヒカルが飛ばされた方角は南。対して、ドモンの進んでいる方角は東。
 ベクトルが違う矢印が交じり合うことはない。
「〜〜♪」
 だが、他の誰かとの矢印なら話は別だ。
「やあ、ビビデビ!」
284冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:34:16 ID:hacE++r40
 もっとも、その出会いがもたらす結果はわからないが。



 倉庫でロンの定時放送を聞いたネジブルーは、自分のいるエリアが少なくとも6時間は無事なことを知ると、ホッと胸を撫で下ろす。
 折角メガブルーの氷柱を運び込んだというのに、移動に時間を取られては、退屈凌ぎの時間が減ってしまう。
「ひょっとして、気を利かせてくれたのかな〜?まあ〜、どうでもいいけど。ヒャハッ」
 ネジブルーは氷柱と台車を目立たないように偽装すると、倉庫を出た。
「とりあえず海岸をぐるっと一回りといこうかな」
 タイムブルーへの変身制限が解けるまで、まだほんの少し時間があったが、そんな数分に怯えるほど、ネジブルーは臆病者ではない。
 あっという間に、制限解除の時となり、クロノチェンジャーに光が灯る。
「いいね〜、この感覚。早く誰かに会えないかな」
 他のせっかちなネジレンジャーと違い、ネジブルーは待つことに楽しさを感じることができる。
 更にメガブルーは既に手の内ともなれば、慌てることは何もない。ただそのワクワクに身を任せればいい。
「〜〜♪」
 思わず鼻唄が漏れ出す。ご機嫌な証拠だ。
(うん、あれは?)
 ふと、視線の端に白い物体が見えた。
 ネジブルーは顔を上げ、その物体を視界の中心に捉える。
 それは白い鞠に紐を垂らしたような滑稽な物体。だが、ネジブルーはそれをどこかで見た覚えがあった。
(え〜っと、なんだったかな。………………………………………………………………………………………
 …………………………………………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………………………ああ、そうそう)
 長い黙考の末、ようやくその物体の名前を思い当たったネジブルーはその名を大きな声で呼んだ。
「やあ、ビビデビ!」
 ネジブルーの声を聞いた黒い物体がビクリと震え、ゆっくりと振り向く。
 若干、自信がなかったが、どうやら当たりらしい。
「い、何時の間に。それにビビデビの名を知っているとは何者ビビ?」
 ビビデビはネジブルーの顔を見ると、先程のネジブルーと同じように、何か考えているような顔になった。
 そして、しばしの後、思い当たったその名を口にする。
285冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:35:25 ID:hacE++r40
「ああっ!メガブルービビ!」
 ネジブルーはその名前を聞いたとき、少しだけ驚いた表情を浮かべた。
 なんでビビデビがメガブルーの素顔を知っているのかと。
 だが、特に気にすることでもないと、直ぐに嘲るような表情に変わった。
「ブッブー!ハズレさ〜」
 ネジブルーはディパックから壊れたネジスーツの頭の部分を取り出し、ビビデビに見せる。
「ぎょえ、ネジブルー!」
「そう正解だよ。じゃあ、早速」
 ネジブルーはソニックメガホンを取り出すと、ビビデビに構えた。
「そぉ〜ら、マワレェェェェェッ!」
「ちょっと待ッ――」
 ソニックメガホンに取り込まれた声は言霊へと変換され、ビビデビへとぶつけられる。
 身体の自由が奪われたビビデビはその声の指示に従い、グルグルグルグルと回っていく。
「ヒャハハハッ、でも、変だね。参加者名簿にビビデビって名前なんかあったかな〜?」
「だだだだだだだから――ビビビビビビビビビデビは――さささささ参加者じゃなくて――しししししし支給品ビビビビビビ」
「支給品?誰の?」
「俺のだよ」
 ネジブルーの首に太い男の腕が巻きつき、右のこめかみに大きな手が添えられる。
 ドモンだ。
 ネジブルーを見つけたドモンの反応は早かった。
 建物の陰を利用し、後ろに回りこみ、チャンスを窺う。
 ビビデビに気を取られた所為か、ネジブルーの後ろ姿は隙だらけだった。 
 労せず、所謂、スリーパーホールドの体勢を形作ることに成功する。
 だが、その目的は絞め落とすことではない。首を圧し折ることだ。
 今の自分の状態では正面からの戦いは勝ち目が薄い。それに相手によっては情が湧くこともある。
 余計な仏心を起こす前に殺すため、ドモンは両の腕に全ての力を込めた。
286冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:36:26 ID:hacE++r40
「つまらないね」
 常人ならそれで決まりだっただろ。だが、残念ながら、相手は常人ではない。
 一瞬にしてネジブルーの姿が、人間のものから怪物――ネジビザールの姿へと変わる。
 身体のサイズが変わったことで、拘束が緩まり、巻きついていた腕は丁度、ネジビザールの口の位置へと移動していた。
「ヒャグッ」
 口を開け、ネジビザールはその腕へと噛み付いた。
 鋭く研ぎ澄まされた刃の如き歯が、腕に突き刺さっていく。
「ぎゃぁぁぁぁっっ」
 ネジビザールの後ろから悲鳴が上がった。ネジビザールにとって、それはいつもなら甘美な音楽になりえるが、今は非常に耳障りな悲鳴だ。
 つまらないことをするつまらない奴は悲鳴すらもつまらない。
 ネジビザールは顎に力を入れ、腕をしっかりと固定すると一本背負いの要領で、ドモンを放り投げた。
 背中から思いっ切り叩きつけられ、ドモンは声を失う。
「気付いてないと思ったかい?折角、楽しい遊びなのに、すぐに終わらせようだなんて、つまらないにも程があるよ。
 もっとも、お前みたいにつまらない奴とは、一瞬でも楽しめそうにないけどね」
 ネジビザールは駄目押しにと、増加した体重で腹を踏みつける。
「……!」
 ドモンは白目を剥き、そのまま気を失った。
「ビビ〜、流石はネジブルービビィ。強いデビィ」
 ソニックメガホンの効果から逃れたビビデビが感嘆の声を上げる。
 だが、ネジビザールの機嫌は悪かった。直前の気分が良かっただけに、その機嫌の悪さは最悪といっていい。
「ビビデビ、なんなのこいつ〜?こんな奴がよく今まで生きてられたね〜」
「実は――」
 ビビデビは今までの経緯をネジビザールに説明する。
 ネジビザールがDr.ヒネラーに利用されるだけの存在だったとはいえ、同じネジレジアの一員に会えたことは素直にうれしい。
 ドモンには隠していたヒカルの位置がはっきりしないことも含めて全てを包み隠さず口にする。
「へぇ、もうそこまで準備ができた奴がいるんだ。そいつなら、俺を楽しませてくれそうだね」
 ないたカラスがなんとやら。
 仲代壬琴の情報を耳にしたネジビザールはもう笑顔になっていた。
「ビビ〜。じゃあ、こいつにもう用はないビビ。さっさと始末するデビ」
287冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:36:54 ID:hacE++r40
「いや、それはよそう」
 ほんの数秒前まで、殺る気満々だったネジビザールの発言に、ビビデビは不可思議な表情を見せる。
「つまらない奴だけど、仲代壬琴だっけ?そいつはこいつで楽しもうとしてるんだろ?なら、邪魔をするのは悪いからね〜。
 それより、つまらないこいつが面白くなるよう、俺も仕向けないと。それが冴えたやり方だと思わないかい、ビビデビ?」
 その笑顔に、ビビデビは仲代壬琴とに通じる何かを感じていた。



 ネジビザールがその場を去って、数十分後、照りつける太陽が、ドモンの意識を覚醒へと仕向ける。
(……あいつ、俺を殺し損なったのか?)
 何故か生きていることに疑問を感じながらも、ドモンは眼を開け、上体を起こす。
(どこだここは?)
 その瞳に飛び込んできた光景は気を失った場所とまったく違ったものだった。
 大地が砂浜である以上、海岸エリアなのだろうが、見覚えはない。
(まあ、いいや。とりあえず、なんか目印のある場所まで移動しないと)
「痛ッ」
 痛みに思わず声を上げる。
「なっ!嘘だろ」
 その痛みの元である右腕を見れば、その下半分は骨が見えるほどに抉れており、無理矢理投げられた影響か、肩の関節が抜け、まるでそこだけ死体のようにだらりとしていた。
 だが、ドモンが驚愕の声を上げたのは別のことだ。
 右手首にあるはずのクロノチェンジャーがない。急ぎ、左手首を確認すれば、そこからもクロノチェンジャーはなくなっていた。
「あいつ、クロノチェンジャーを……」
「ビビィ、気が付いたデビか?」
「お前!」
 ドモンは反射的にビビデビに襲いかかる。
 だが、ビビデビは素知らぬ顔で空中に飛び上がると、嘲るように笑い声を上げた。
「ビビィ、いい様ビビィ。しかし、ネジブルーの予想通りの行動デビね」
「ネジブルー?それがあいつの名前か!」
「そうデビ。ネジブルーは小汚いブレスレットを貰う代わりに、お前の命を見逃してやったビビ。感謝するデビ」
「うるせ――ぅうぐっ、げほっ!」
288冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:37:22 ID:hacE++r40
 突然、強烈な吐き気がドモンを襲う。
 抵抗する暇もなく、胃の内容物が食道を逆流し、口腔内に戻されていく。
 あっという間に嘔吐物は口腔内の容量を超え、口から次々に吐き出されていく。
「ぐげぇぇぇぇぇっ」
「ビビィ、汚ねぇ奴ビビ」
「ぐはっ!げはっ」
 胃の中身は全て吐き出されたというのに治まらない吐き気。
 一頻り、嘔吐を繰り返し、胃液を全て搾り出したと思える頃、ようやく呼吸が整い始める。
 嘔吐物を見れば、ヒカルと共に食べたアップルパイの残骸が大量の血反吐に塗れて、赤黒く染まっていた。
 仲代壬琴とネジブルーから受けたダメージは思いのほか深い。
 それに加え、サーガイン、ウルザード、メガシルバーといった実力者との連戦による疲労。
 鍛えあがられた肉体。強い精神力。だが、それにも"限界"というものは存在するのだ。
「落ち着いたビビか?じゃあ、ネジブルーからの伝言を聞くデビ」
「で、伝言?」
「ええっと――お前の目的はわかった。じゃあ、俺もその目的に少しだけ協力してやる。
 お前と同じブレスをした奴を見た。そして、そいつは殺し合いには乗っていない。
 お前も本当に殺し合いをする気があるんなら、まずそいつを殺したらどうだい?」
 ドモンはその言葉に心をざわつかせた。
 同じブレスをした奴。シオンか竜也のことだろう。放送では彼らの名前は上がっていなかった。 
 彼らはまだ生きているのだ。
(殺せるのか、俺に?本当にあの二人が?)
 決意は固めたはずだった。
 実際、ネジブルーは抵抗さえ受けなければ、あのまま殺せたはずだ。
 しかし、いざシオンや竜也のことを考え出すと、固めたはずの決意がどんどん薄れていく。
「ビビィ、ビビってるビか?」
「う、うるせぇ。ブレスをした奴を見たって、一体どこで見たんだ。それに俺にはもう武器がないんだぞ」
 ビビデビの挑発的な言葉に、思わず言い訳めいた言葉を口にしてしまうドモン。
 そんな姿を見て、ビビデビはまた嘲る様に笑う。
「ディパックを見てみるデビ」
 ドモンが指示通りにディパックを開けると、中には刀と拡声器が入っていた。
289冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:38:11 ID:hacE++r40
 誰が入れたかなど、考える余地もない。
 刀には、まるで殺すことを命じているかのように血糊がべっとりと付着していた。
「武器はそれでOKデビね。場所もちゃんと聞いてるデビよ。
 会ったのはH6エリア。でも、今は移動してたぶんG6エリア辺りにいるとネジブルーは予想していたデビ」
「ぐっ」
 埋められていく外堀に、ドモンの頬に冷たい汗が浮かぶ。
「覚悟を決めるデビよ。どの道、優勝するためには全員、殺さなきゃいけないデビ。
 ビビってるなら猶のこと、仲間を殺せば、楽になるデビ。それに仲間なら、きっと油断するはずデビ」
 それはドモンにとって、まさに悪魔の囁きだった。
 ビビデビの言っていることは概ね正しいとドモンは思っていた。
 ビビってるつもりはない。だが、仲間が迷いの原因になっていることは確かだ。
 ドモンにあって、ヒカルがなくしたもの。それはここに来る前、一緒に戦ってきた仲間の存在だ。
 ヒカルは深雪をはじめとして、ここにいる仲間の全てを失ったと聞いている。
 それがヒカルに躊躇いをなくす要因となっているのだとすれば、自分もヒカルと並び立つには仲間を失うことが必要なのではないか。
 そして、深雪の未来を何より望むなら、自らの過去を断ち切る覚悟が必要なのではないか。
(……痛みが足りないのかも知れないな)
「いいぜ、ビビデビ……覚悟を決めた。俺は仲間を殺しに行く。どうせ、ひとりしか残らないんなら、せめて俺の手で……殺してやる」
「ビビィ、いい心がけデビ。じゃあこれはサービスビビ!行ってくるデビィ!!」
 ビビデビはドモンに向けて光線を放つ。あっという間にドモンの身は光に包まれ――
「バイバイビビィ〜」
 ――次の瞬間、ドモンの姿は完全に消失した。



 反射的に閉じた眼を開けば、もうそこにビビデビの姿はなく、眼前に広がる光景もまったく別の場所へと変化していた。
 立ち並ぶビル群。話の脈絡から考えれば、ここはG6エリアなのだろう。
「ここに……いる」
 ビビデビには覚悟を決めたと言ったが、実際は覚悟などまったく決まっていない。
 逆なのだ。覚悟を決めるために、仲間に会いに行くのだ。
「シオン……竜也……今、いくぜ」
290冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:38:50 ID:hacE++r40
 ドモンは刀を杖代わりに、ゆっくりと前へ進んだ。


【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:身体中に無数の切り傷と打撲と火傷。特に右腕と左足は使い物になりません。
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:仲間(シオンor竜也)を殺害する。
第二行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
291冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:39:21 ID:hacE++r40
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。ネジビザールの力を1時間30分程度発揮できません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:壊れたネジスーツ@電磁戦隊メガレンジャー、ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー
 魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
 スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:とりあえず仲代壬琴に会いに行く。
第三行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
ネジスーツは壊れているためネジレンジャーにはなれません。
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。

【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-5海岸 1日目 日中
[状態]:ボロボロ。命に別状はない。2時間の能力制限
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:誰かに会いに行く。


292冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:40:01 ID:hacE++r40
605 : ◆i1BeVxv./w:2009/06/17(水) 21:24:46
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点などの指摘事項。ご感想などあれば、お願いします。

また、お手数ですが、本スレへと代理投下をお願い致します。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上代理投下終了です。


293冴えたやり方 ◇i1BeVxv./w氏の代理投下:2009/06/17(水) 21:44:04 ID:hacE++r40
ビビデビ忘れられてるw
思い出す場面には笑ってしまいました。
そしてドモン、いつもながら殺す気は人一倍なのに今回もまた……。
しかし拡声器と刀がドモンの手に渡ったことにより、サラマンダー脱出となるか!
キレてるだけじゃない冴えたネジブルーが良かったです。
GJ!でした。
294名無しより愛をこめて:2009/06/17(水) 22:14:34 ID:eMZ78hxq0
投下&代理投下GJです!
ああ、ドモン頑張れば頑張るほど空回りというか、ボロ雑巾というか……
あまりに悲愴な姿にガンバレと言いたくなってしまいます。
まったく、仲代先生といい、ネジブルーといい、出会う相手が悪すぎるw
そして、ネジブルー楽しそうだな、おいw
忘れられるは、遊ばれるはのビビデビはちょっぴりお気の毒wでした(といいながら爆笑しましたがw)
楽しそうなネジブルーと悲愴なまでに追い詰められたドモンの対比がよく効いていました。
相変わらずの速筆、お見事!GJでした!
295◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:28:56 ID:tQI29GGN0
続けて◆J/wV1wcr52氏の代理投下行きます
296◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:29:18 ID:tQI29GGN0
天空に轟く悪魔の賛美歌。

ロンによる二回目の放送は生き残った全てのものに等しく衝撃を与えていた。


しかし―――ここに一人の男がいる。

「さて、と…これからどうすっかなぁ〜〜??」
波打ち際にたたずみ、クエスターガイはこれからの身の振り方を思案する。
その姿に並列して参加していた者の死を悼む様子は見受けられない。
「え〜〜っと、なになに……俺の現在位置がH-7海岸だから…ずいぶんマップの端よりだな…
回りは砂漠だの採石場だのばっかじゃねぇか! 最悪だぜぇ…おっ! 健康ランド!! 温泉があるのかよぉ〜〜!! 今まで見落としてたぜ! それに街も近いから武器の調達もできるかもなぁ!!」
自分が身を置くエリアは近く禁止区域となる。
『天空の花』を放棄したことで彼にはさしあたり遂行せねばならない事案はなくなった形であるため、ここからどこへ向かうか。ガイの興味はその一転に絞られていた。
精々、高丘映士がいなかったことを気に留めたくらいだ。

(俺は常に前向き、ポジティブなの! 人のことなんて構ってられるかよっ!!)

一々、生死に反応をせねばならないなんて煩わしいったらないではないか。
だが、問題はある。
これから彼がどう立ち回るにしろ、この身体では心もとない。
今までは機転と幸運に助けられて生き延びているに過ぎないのだ。
仮に今、高丘の末裔とかち合ったら恐らく命はない。
それならば、身体の回復を優先することがまずは第一であろう。
297◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:30:08 ID:tQI29GGN0
「でも、かなり遠いぜ…今の状態で、しかもランダムに現れる参加者を振り切ってってのはかなりハードな話だな…マップの端まで行くだけでこの有様だしよぉ……」
あるかどうかもわからない採石場の機械と、逝かせちまった女の戯言。
どちらも天秤にかける価値もないが、それでは話は前へ進まない。
美希の最後の言葉がいやおうなしにリフレインする。
―――……ェ……Fー……9
あの女は確かにF9エリアにバイクが鍵つきで放置されているといった。

「 ウ ・ ソ ・ ダ ・ ナ !!」

あの状況で自分なら本当のことなど絶対に言わない。
むしろ、自分が殺した相手に一矢でも報いることを必死で思案するだろう。
(たぶん、砂漠の中をひーこら言いながらF9までたどり着いたら、お仲間が総出で蜂の巣!なんてぇー安いシナリオを描いてたんだろうなぁ…その手に乗るかよ、バァーーーカ!!)
ならば、バイクはどこにあるのか―
(あの女がどこから来たかによるよなぁ…)
美希との短い情報交換の中で収穫だったといえる事実がひとつ。
彼女は数人の参加者で構成されるグループにいたらしいということ。
なぜ、一人でいたのかはあの女のいかれた行動を思えば察しが着く。
問題は誰と仲間だったかではない。彼女が逃げてきたであろうということ。
恐らくはネジブルーの一件でごたごたしていたであろう今は禁止エリアが集中する都市部。
そこから南下してきた可能性が高い。
298◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:31:03 ID:tQI29GGN0
「そういやあの女、あのガイキチブルーが叫んでたときの人質の一人じゃなかったっけぇ?」

思い立ったらすぐ行動。
ガイの冴え渡る勘はやがてマシンハスキーという足を見つけるに至る。
意気揚々と、バイクのアクセルを吹かしながらガイは北上を続ける。
「温泉♪ 温泉っと〜〜♪」
最高時速300キロのモンスターマシン「マシンハスキー」。
本来はSPDの捜査における迅速な行動を促すためのツールとして開発された。
オートバランサーを搭載しており、転倒の可能性は皆無。
追跡用途にも併用できるよう、狭い路地なども速度を落とさず走行が可能である。
ゆえに、ガイの道行きはかなり快適なものになった。
四方5キロのマスなど、あっという間の距離だ。

「楽チンだぜぇ〜〜!! 最高だな、こりゃ!!」



時間にも空間にも支配されない、箱庭の囚われ人からみて上に位置する世界で。
世界で唯一の存在である悪意の権化―ロンは、鈍い輝きをたたえた二つの魂をその手のひらに珍しく悩んだ姿を見せていた。
「あなた方も出番が欲しいということは重々承知してはいるんですが…はてさて、少々過干渉な気もするんですよねぇ……」
手の中のそれらは形を得ることに貪欲に輝きを増していく。
「いいですか、あなた方は参加者ではありませんし支給品でもありません。
あくまで“ちょっとしたペナルティ”なんです。そこの所をわきまえて行動してください、いいですね?」
299◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:31:44 ID:tQI29GGN0
念を押して、ロンは二つの輝きを宙に放った。

やがてそれらは二つの異形へと姿を成し―――…





面白おかしく語られた、顔なじみの死。
―ティターン。真咲美希。サンヨ。ドギー。恭介。
どれも大会屈指の実力者であり、また油断のならない知恵者であったものたち。
彼らはもう、いないのだ。

合流を果たした明石、さくら、蒼太は各々が受けた衝撃を胸に次の行動を思案していた。
「…お前たちの話からすると、ロンの仕掛けた殺し合いに乗らないと言う意思を表明した参加者のグループが複数できあがっているということになるな」
三人が三者三様に歩んできた経緯からこの世界のルールについての大まかな把握は出来上がっていた。そして、共闘の可能性を持つものたちの存在についても。
「えぇ。今はそれらがばらばらにロンへの抵抗を試みている状況です。個々が連携しあわないとこの世界についての完全な把握は難しいでしょうね。時間がたてばたつほど、人数は減っていくでしょうし…」
彼らにとって一番近隣に位置するグループは蒼太が行動をともにしていたという面々である。
特に日向おぼろの存在は稀少だった。
さくらのアクセルラーが起動できず、また首輪の解析においても牧野博士の助力が期待できない現状でメカの知識に富むエンジニアはぜひとも仲間にほしい。
彼女の保護、そして外部協力者と共闘してのガイの阻止は当面の行動指針といえた。
しかし、真咲美希とティターンの死は恐れていた絆の崩壊を匂わせていた。
おっつけ馴染みの仲間を頼るであろうおぼろに危険が迫っている。
蒼太はすぐにでもバリサンダーによる救出を明石に提言した。
おぼろとの距離はそうないだろうが、三人のうち、二人が傷を負い、一人が変身不能という状況下では全員で向かうのがベストだと思われた。
「私が行きます、チーフ。…このままだと危険です。ここでむざむざ仲間を減らされるわけにはいきません。この中で怪我を負っていないのは私だけです。二人は身体を治すことに専念してください」
300◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:32:11 ID:tQI29GGN0
さくらはおぼろに対して負い目がある。
会話の中に自分の罪を見る。彼らの傷は誰によって生まれたか。
すべては元通り。
――本当にそうでしょうか?
頭の中で声がする。ロンとも自分とも取れぬ声が。囁く。
自分は今もロンの傀儡のままで、仲間を窮地に追い込むかもしれない。
どこかで明石暁を当てにしている自分がいる。だが。彼だとてこの先無事な保証はどこにもない。
クエスターもろともに自爆を試みた、いつかの彼が前を行く背中と重なる。
―あなたはいつだって、明石暁のお荷物なんです……
言い知れぬ不安がさくらの心に澱みを生んでいった。
「…さくらさんには申し訳ないけど、おぼろさんはさくらさんのこと、誤解したままですよ? 
さくらさんだけで折り合いのつく話じゃないと思うんです。やっぱり事情を説明できる当事者の僕がいくべきです」
あの放送の後、目に見えて蒼太に動揺が生まれたのを明石は見抜いていた。
彼の時間軸を考えると、むしろ怖いのは彼の暴走だ。
「早く保護してあげなきゃ、また誰に襲われるかわかったものじゃないですよ、チーフ!」
おぼろに真実を偽り、危険に晒してしまった。
仲間のためとはいえ、一時しのぎとはいえ、悪魔と契約した自分は許されるのだろうか―
さくらが心に暗い影を落としているのと同じく、蒼太もまたその心に澱みを抱えていた。

「焦る気持ちはわかるが、ここで戦力を分散させるのは危険だ。ネオパラレルエンジンの搭載されていないアクセルラーでガイと戦うのは無謀すぎる。今は映士もいない。万が一、奴と遭遇したらどうする?」

さくらの洗脳を解くという急務ゆえにそのずれを今まで感じてこなかったが、ここにきてその違いが顕著になり始めている。
彼との時間軸の違いを考えればやむないことなのではあるが。
301◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:33:08 ID:tQI29GGN0
その時だった。
空に七色のオーロラがかかり、世界を横断するように二人の異形の怪人が壁を隔てて現れた。
「お前たちは…!?」

「ミーたちにもやっと出番がまわってきたという現実! キタッ! ミーたちの時代がキタッ!!」
山羊の頭を持つ幻獣カプリコーン拳のドロウ。

「出陣! 出陣!! 出陣だよぉぉぉ〜〜〜!!!」
高速で飛び跳ねながら興奮を隠し切れないアーヴァンク拳のソジョ。

二人ともロンの右腕と片腕である双幻士だ。
「ロン様が言ってた! 歯向かう者に制裁を! 制裁を!!」
「わが相方ソジョよ! ロン様から与えられた使命を今こそ果たそうぞ!!」
首輪がない二人は明らかに参加者ではない。ロンの差し金には間違いはないのだろうが。
「貴様ら…どういうつもりだ!!」
意図は読めないが、危機にあることだけは間違いない。

「ボウケンジャー! スタートアップ!!」

一瞬の閃光とともに真紅の戦士が誕生する。
黄金の剣〈ズバーン〉を携えて、ボウケンレッドは背後の二人へ向き直る。
「こいつは俺とズバーンとで食い止める! お前たちは蒼太の知り合いを保護するんだ!!」
じりじりとにじみ寄る敵をけん制しながら、指示を飛ばす。
「チーフ!」
思わず駆け寄ろうとするさくらだが、握り締めたアクセルラーを見やり歯がゆさに唇を噛む。
302◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:34:12 ID:tQI29GGN0
「さくらさん、早く!!」
機敏にバリサンダーのエンジンを吹かし、蒼太はさくらへ手を伸ばした。
「チーフ! どうぞ、ご無事で…!!」
「…あぁ。お前たちもな」
振り向かずにボウケンレッドは切っ先を二人の双幻士へ向ける。
青と桃色のジャケットがもうシルエットになりかけた距離にある。
―彼らとまた無事に出会うことができるだろうか―
不意に沸き起こった言い知れぬ不安をかき消すように、ボウケンレッドは目の前に広がる道をしっかりと踏みしめた。





「駄目やないの! 蒼太くんのこと頼んだのになんでついてきてしもうたん?」
「バウッ!」
日向おぼろに頭をなでられながら、マーフィーはバツが悪そうに鳴いた。
本当の生き物みたいやなぁ…
うなだれるその愛らしい姿は本物の犬そのものだ。
怒る気持ちもすぐに萎えてしまう。
「ほんま、仕方ないなぁ…」
蒼太が一人になったのは心配だが、道行がいるのはやはり心強い。
先ほどから心細さに不安の気持ちが濃くなってしまっていた。
「バウ……」
手が震えているのがわかる。不安はマーフィーにまで伝わっているらしい。
「大丈夫や! これは武者震いやからな! ガイでもロンでもでてきてみぃ! あたしだって疾風流忍者の端くれや! 一人がこおうてハリケンジャーのサポートが勤まるかいっ!」

303◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:34:37 ID:tQI29GGN0
萎えそうな気持ちを必死に奮い立たせおぼろは空元気に叫んで見せた。
「バウッ!」
そんなおぼろの姿にかつての“パートナー”の面影を見たのか、マーフィーも元気よく吼えて見せる。
その時だった。不意に背後に人の気配が生じる。

マーフィーを抱えて慌てて物陰に隠れる。
情けない話だが、放送を聴く限り知り合いですら信用できる状況にはない。
まして、未知の相手に助けを求めることなど―…
「あいつは…!」
そして、その相手は最悪の敵。
漆黒の戦士―ガイ。
おぼろとマーフィーは互いの口をふさぎあい、必死で気配を殺していた。
幸い、ガイは自分たちに気づくことなく去ったようだが…
「あいつ、天空の花を置きにJ10エリアへ向かっているはずじゃ……」
今のガイと遭遇したら、蒼太はまず間違いなく殺されてしまうだろう。
一刻も早く助けを呼ばねば。
だが、誰が敵で誰が味方であるのか、今のおぼろにははっきりとしたことは何も見つからない。
「バウッ!」
ただ唯一、懐のぬくもりがあるかないかの希望という言葉を思い起こさせてくれる。
「そうやな…焦ってもしゃあない! うちはうちにできることをやるんやっ!!」
おぼろは背後のガイを気にしながらも集合場所であるエリアへと歩を進める。
そこに待つ者はしかし、誰も、いない。


304◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:35:16 ID:tQI29GGN0



「ここから出られたら、ミスターボイスに進言してひとつ挑戦したいプレシャスがあるんですよ。
覚えてませんか? 〈神の頭〉。僕らが前に回収し損ねたあれですよ!
八方手を尽くして行方を捜していたんですけど、やっと所在が掴めそうなんです。
今度こそ、無事に保護しましょう。僕らの手で!!」
いつになく最上蒼太は饒舌だった。
元々、とっつきやすい雰囲気をかもし出すことは得意であったが、今の彼はどこか無理をしているように思える。

合流地点であるG7エリアのビルを目指し、2人は北上を続けていた。
おぼろが助けを求めに行くとすればまず場所は間違いなくそこだ。
だが、3人は凹の形に禁止エリアが設けられていたために大きく回り道をせざる終えない。
おぼろと蒼太が分かれたのは10:30ごろ。
第一回放送後に設けられた最後の禁止エリアF6を通過できていたのなら、彼女との距離は大きく開く形になる。
願わくば、おぼろも自分たちと同じ経路を辿っていてくれればいいのだが――


「あ! でもみんな違う時間から来てるんだし、戻るときは一緒じゃないんですよね。
残念だなぁ…さくらさんのいた時間だともうこの件は解決しちゃっ―――…」
「蒼太くん!!」
科白を遮る形でさくらが割ってはいる。
「さくらさん?」
「ごめんなさい…今はそういうことを話す気分じゃないんです……」
放送で語られた死はさくらの双肩に重くのしかかっていた。
ドギー・クルーガー。
陣内恭介。
二人ともここで知り合った人たち。
ロンを倒すための力になってくれていたかもしれない人たち。
あの時、自分がグレイと輪を離れるとさえ言わなかったら。
彼らを救えたかもしれない。自惚れとはわかっていても後悔の念がさくらを傷つける。
305◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:36:19 ID:tQI29GGN0
もう、彼らは還らない。

――あなたには引っ掻き回し役をお願いしたいのです…
――平たく言えばわたしのゲームの“サクラ”になって欲しいんですよ

自分は今もロンの手のひらで踊る人形。
今まさに次の放送に二人を誘おうとしているのかもしれない。
そんな思いまでがこみ上げてくる。

二人は知らず、ヒュプノピアスについての話題を避けていた。
さくらは蒼太がそれをどうしたか聞けずにいた。
蒼太はさくらがピアスの所在を聞かないことを不安に思っていた。

さくらは蒼太がピアスをどうしたか、どうしても聞けずにいた。
――口にしてしまえば、この三人の関係すら壊れてしまいそうで。
見ないふりをして。忘れたふりをして。
隠し事は往々にして関係の破滅を招く。
分かってはいたが、どうしてもその一線を越えることが今の二人にはできなかった


「どうしてチーフに言わなかったんです?」
「…………ヒュプノピアスのことですか」
バリサンダーのアクセルを緩め、車輪がその駆動を止める。

「他にもあります、聞きたいこと。どうしておぼろさんを一人で行かせたんですか?
不死の薬なんて、そんな便利なものがあるならどうして行動をともにしなかったんです?
あの傷から回復できるだけの道具があるならどうし―――…」
席を切ったようにさくらの口から疑問があふれた。
306◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:37:21 ID:tQI29GGN0
「決まってるじゃないですか。僕がロンとつながってたからですよ」

「え…?」
んー、と頭をかきながら蒼太は答えた。
「本当はさくらさん、気づいてたんでしょ? だから僕の提案に乗った。
自分の疑問を解決するために。チーフにはいえないですよね、僕らのこと信頼してくれてるのに」
「蒼太…くん……?」
「でも安心してください、別に殺し合いに乗ったとか、そういうんじゃないんですよ。ただ、一時的に利害の一致を見ただけ。それだけ、です」
「ロンは…何も得るものをなしに手を差し伸べたりはしません」
「えぇ。でも、僕は、僕らは勝った! さくらさんの洗脳を解いたじゃないですか!!
大勝利ですよ!!」
蒼太の語気がわずかに強まる。
「でも! だったらどうして…チーフに本当のことを言わなかったんです?!」
「別に…そんなこといわなくても、いまさら話を面倒にするだけじゃないですか」
「そんなことありません! チーフは…チーフは受け入れてくれるはずです!!」
さくらの洗脳は解いた。
だが、そのために自分が払った代償をこの女は本当に理解しているのだろうか。
「さくらさんは僕のことを疑ってるんですか!? 何が言いたいんです!?」
「そんなことはありません!! ただ…!」


「お二人さぁ〜ん…道の往来で喧嘩なんてはた迷惑だよぉ〜〜ん!」


張り詰めた空間に似つかわしくないおどけた軽い声が突然差し込んでくる。
「あなたは…!」
さくらの瞳に驚愕とも恐怖ともとれぬ色が満ちる。
漆黒の鎧を走る黄金のライン。
猛々しい獣の頭を持つ機械仕掛けの獣人がそこにたたずんでいた。
307◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:38:17 ID:tQI29GGN0
「また会ったな、土下座ピンクゥ…無事お仲間と合流できて何よりじゃないの? それよか、ずいぶん興味深いお話をしてたじゃないの? 
ヒュプノピアスゥ? ヒュウ! それってお宝、プレシャスじゃあ〜〜ん!!」
そう言って、クエスターガイは唇の端をいびつに緩めた。





おかしい。
ボウケンレッドは切り結ぶ相手が積極的に攻撃を仕掛けてこないことにいぶかしさを感じていた。
殺気は感じる。
だが、敵はこちらの攻撃をかわすだけでまったく戦おうとする意思が見えないのだ。
「一体、どういうつもりだ…これではまるで時間を稼いでいるような……」
そこまで口にして敵の意図に気づく。
「貴様ら! まさか俺を足止めするために!!」

「ソジョ!! ばれちゃったー!! ばれちゃったょよおおお!!!」
「慌てるな、わが相方ソジョ。役目は果たした。全てはロン様の計画通り…」

再び時空を隔てるオーロラが出現する。
「待てっ!」
追撃しようとするが、すでに二人の姿はオーロラに溶け込み無産消失していた。
「さくら…蒼太!!」
変身をとき、明石暁は二人の後を追って猛然と走り出した。
間に合ってくれ、とすがるように祈りながら。

308◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:39:08 ID:tQI29GGN0


SS


すべてを封殺された状態で、何の抵抗もできない。
それは、なんと惨めであろうか。
策士たる綿密さを常とする蒼太にとって、それは未来で味わうはずの絶望だった。

「てめぇも俺様にはてんで手も足も出ないようだなぁ…か・わ・い・そおぉぉぉおぉお!!!!」

ガイがこんな有様に陥ったのはひとえに麗の実力を見抜けなかったがゆえ。
いわば、相手の情報を知らなかったからだ。
しかし、旧知のボウケンジャーは違う。高丘の末裔はともかく、個々を相手にするならば
ガイにとってそれほど大きな脅威ではない。
しかも片方が変身できず、足手まといであることを彼は知っている。
「蒼太くんっ!」
背後でわめく様は耳障りだが、どうすることもできまい。
「本当、どうしちまったってくらいに無様だぜぇ、お前ら。俺を見習えよ。
泥にまみれてごみにまみれて…ガイ様、ずいぶん揉まれて強くなったんだぜ?」
聞くも涙、語るも涙の数時間をロンがダイジェストしてくれればいいのに―…
そんな思いで、ガイは火花を吹くボウケンブルーの腹部に足を擦り付ける。
「ぐっ…あぁ……!!」
ついには変身が解け、人の姿へ戻る。
閉じかけていた傷口がガイの容赦ない攻撃で開いたのか、下腹部は真っ赤に血で染まっていた。
「っ……ハァ……ハァ、ハァ…ぐっ!……」

倒れ伏した蒼太の袖から、何かがガイの足元に転がり出る。
「おんやぁ? なんじゃこれは??」
309◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:39:37 ID:tQI29GGN0
金属特有の輝きを放つ物体。
「それは…!」
蒼太に駆け寄ったさくらはガイの両手に握られたヒュプノピアスを見やる。

「もしかしてこれが噂のヒュプノピアスか? こんなに楽に手に入るとはねぇ♪」

ガイは満面の笑みを浮かべて二人に近寄っていった。


SS


「お前…命を助けてくれたら、何でもするって俺に約束したよなぁ?」

ガイは虚ろな目で蒼太の体に馬乗りになり、地面へ頭を強く押し付けるように首の動脈を正確に締め上げるさくらへ問いかける。

「殺っちまいな、ボウケンピンク!! お前の初仕事だ…」

そういって、ガイは腕の中にあるスイッチとそれに連なるさくらの運命を手のひらで弄んだ。
「ぐっ…さ…さくらさん…止め……――」
自衛隊特殊部隊の過去を持つさくらにとって実戦とは確実に、スピーディーに相手の息の根を止めることに主眼を置く。
「蒼太くん……ごめん…な…さい……」
蒼太の苦悶する様子に動揺しながらも、さくらは両手の圧を強めていく。
相手のば息の根を止めることくらいは造作もないことだ。
「いいぞぉ! そのまんまへし折っちまえ!!」
ガイはさくらを煽りながら、高みの見物としゃれ込む。
(面倒くせぇことはぜーんぶボウケンピンクがやってくれるってわけだ…なるほど、こりゃ楽で良いぜぇ……)
蒼太の顔が血流の異常から真っ赤に染まり、目は血走り、口元からはもはや言葉も出ない。
「……ゥぅ…………ッ!…」

さくらは腕の力を決して緩めようとはしなかった。
310◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:40:14 ID:tQI29GGN0
訴えかけるような蒼太の視線も傀儡となった今のさくらには届かない。
むしろ、指にこめる力を一層強めて――

「ヒュ〜! やるねぇ〜〜…ボウケンピンクゥ!!」
眼前で繰り広げられるショーの唯一無二の観客としてガイはさくらへグッジョブを送る。

やがて、さくらの肩をつかむ手がだらりと力なく垂れ下がる頃、最上蒼太の命の灯火はこの世から消え去った。


かつて、蒼太であったものを無表情に見下ろしながらさくらはその場に佇んでいた。
自分のしたことの意味すらわからぬまま。
「おめでとさん。お前もこれで正式に“こっち側”ってわけだなぁ、おい!」
ガイは拍手でさくらを自分の仲間に迎え入れた。
いや、隷属したといったほうが正確だろう。
思わぬ“道連れ”の誕生にガイは嘲りと喜びが入り混じった笑みを浮かべた。
深く傷ついた今の自分に代わって諸々の作業をこなしてくれる相棒は実に使い勝手がよかった。

「これからよろしく頼むぜ、ボウケンピンク♪ まずはお前の持ってる情報全部を俺に提供してもらっちゃおうかなぁ♪」



【最上蒼太 死亡】
残り25人
311◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:40:39 ID:tQI29GGN0
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:H-7海岸 一日目昼
[状態]:下腹に刺し傷(不死の薬の効果により回復中)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。日向おぼろを保護する。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。

【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:E-6エリア 一日目昼
[状態]:健康。ヒュプノピアスでガイに隷属。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。
312◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:40:58 ID:tQI29GGN0
名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:E−6エリア 一日目昼
[状態]:全身に裂傷、かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。傷あり。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵。 瞬の支給品(確認済)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:バイクを探しにFー9エリアへ
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:動けない蒼太の為に助けを呼んでくる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:蒼太と共にJ−10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
313◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:41:15 ID:tQI29GGN0
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:E−7エリア 一日目昼
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:おぼろを追いかける(こっそりと)→見つかって少々バツが悪い。


314◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:42:07 ID:tQI29GGN0
618 : ◆J/wV1wcr52:2009/06/17(水) 23:02:23

以上です。大変遅くなり申し訳ありませんでした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

以上代理投下終了です。





315◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:53:55 ID:tQI29GGN0
修正お疲れ様でした。
放送までの行動をこれだけ上手くまとめられたとは凄い。

ソジョとドロウ、最終的に倒さなければならない相手がロン以外にもいる。
そしてその存在を明かしたことが今後どう影響を及ぼすか……
個人的に嬉しかったのはガイがバイクを手に入れた事。首がつながったかなw
指摘としてはガイの状態表にマシンはスキーがないこと、第一行動方針が前話のまま、でしょうか。
316◇J/wV1wcr52氏の代理投下:2009/06/18(木) 01:56:17 ID:tQI29GGN0
HAHAHAHAHA!誤字ッたぁぁっ
マシンはスキーではなくマシンハスキーだw
317名無しより愛をこめて:2009/06/18(木) 10:45:51 ID:lpSg0J2c0
修正&代理投下お疲れ様でした。
正直、大変だろうと思っておりましたので、感嘆する思いです。
ソジョとドロウ、ここで来るかw相変わらず、絶好調にウザイw
ひょっとして他にも……?まあこれは今後次第ということでw
ガイはようやく、運がまわってきたかな?今後の活躍に期待します。

一点指摘としては、チーフの現在地が修正前のままのようです。

318名無しより愛をこめて:2009/06/19(金) 15:01:29 ID:kJjR3szyO
個人的にはさくらにヒュプノピアスを着ける瞬間の描写があって欲しいとは思いました。ガイは楽々さくらにピアス着けることが出来たということなのでしょうかね。

明石は一体どんな反応をするのでしょう…
319名無しより愛をこめて:2009/06/19(金) 16:11:36 ID:Ya2qjVUH0
>>318
ヒュプノピアスの描写については

ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/10886/#1
 
議論スレ>>204をご参照下さい。
320名無しより愛をこめて:2009/06/23(火) 20:21:02 ID:dsYz2Mbs0
保守
321名無しより愛をこめて:2009/06/23(火) 22:21:20 ID:xcZHtPKy0
age
322NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:28:16 ID:sf2ZpIh30
ただいまより投下します。
323NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:28:54 ID:sf2ZpIh30
「おまえらは殺さねぇよ。ルール、だからな……」
乱れきった前髪の隙間から覗く双眸が憎悪をたぎらせていた。
「その変わり、次に俺の前に現れてみろ……。おまえらに死んだ方がマシだと思える地獄を見せてやる」


――――何故、こんな事に……。


背を向けた壬琴が、

目を伏せた菜摘が、

後悔に苛まれるシオンが、

やるせなさを抱く裕作が、

煙草に火をつけるグレイが、

溜息をつくメレが、


離れて行く距離を埋めるように、それぞれが記憶を掬い手繰り寄せた。






ジャスト12時。

何の前触れも無く、第2回放送が始まった。
324NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:29:37 ID:sf2ZpIh30
否応なしに聞こえてくるロンの甲高い声が耳の中で跳ね回る。
壬琴は口を塞ぎ、言葉に仕掛けた推測を飲み込むと、崩れかけた食料と濁ったペットボトルを横目に、デイバックから名簿と地図を取り出した。

――――まずは、残念なことにこの6時間で亡くなられた方から。
     
残念なことに。態とらしく前置きする割に嬉々とした声で、ロンは死者の名を高らかに読み上げる。
壬琴はその声を追って、読み上げられた名前をペンで黒く塗り潰していった。
新たに名簿から削除されたのは8箇所。
残り人数は、26名。
黒々と塗り潰された箇所が増えた名簿は、リーチ間際のビンゴカードに似ていた。
壬琴は何気なく、名簿に残る名前に視線を走らせた。
塗り潰された箇所の隙間にある、ビンゴの場所は『高丘映士』、リーチの場所は『ドモン』。
壬琴の顔に、この日何度目かの不適な笑いが浮かんだ。

――――それでは、次は禁止エリアの発表をいたしましょう。

笑みを納めると共に、名簿はデイバックの中へ。続けて地図に視線を落とす。
持ち直したペンをくるりと回転させ、指定されたエリアに斜線を引き、禁止エリアに変わる時刻を書き込んだ。
ロンの声に耳を傾けながら壬琴は考える。
13時に海岸H7、15時に都市D7、となると、放送を聞いて進路を変えざるを得ない者もいるだろう。
F7、G7エリア辺りに居た参加者が、G−6エリア辺りに流れてくる可能性は高い。
それに『死者が増えた=首輪の流通は円滑』になった筈だ。
手に入れた者は、解除に適した場所を探すため立入可能な都市を目指す。
解除の術を持たない者は、人を求めてその場所を探す。
脱出を目指す者が集まれば、必然的に真逆な目的を持った者も集まる。
上手くドモンとビビデビが立ち回っていれば、壬琴の求める、壬琴が鍵を握るサバイバルゲームの幕もようやく上がるはずだ。
殺し合いが順調である以上、もう時間を無駄には出来ない。
このままろくにゲームを楽しむ余地もなく最終決戦へ突入……。そんな不完全燃焼だけはごめんだった。
そう結論づけた壬琴は、地図から視線を剥がし菜摘へ向けた。
325NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:30:42 ID:sf2ZpIh30
「おい、菜摘」
菜摘はテーブルに手をついて立っていた。
壬琴の声は頭の中を素通りしたのか、返事は無かった。
「恭介が……」
震えた声で菜摘が呟いた。
溢れ出る嗚咽を押さえようと両手で顔を覆う。
足下が蹌踉け、立っていられなくなった菜摘はテーブルにもたれ掛かるように座り込んだ。
「嘘……」
菜摘は虚空の一点を見つめ唇を戦慄かせている。
仲間と呼べる者がいたならば、当然の反応だった。
菜摘の仲間、名前は陣内恭介。読み上げられた数名の中、確かにその名前があった。

微かなか細い泣き声からして、この状態はしばらく続きそうだった。
壬琴は溜息をつき、ソファーに深く腰を下ろすと軽く目を瞑った。
悲しむなとは言わない。
仲間が殺された際に生じるだろう感情は、それなりに想像できる。
少し前まで欠如していたが、今は死を悼む気持ちが無い訳ではない。
だが壬琴が使い慣れない感情を駆使して慰めたところで、菜摘が立ち上がる手助けになるとも思えなかった。

「ぅーーーーー……ぅぅっ……うぅ」
先程のか細い嗚咽から、今度は発作を起こした子供のように肩を震わせしゃくり上げる。
両手で小さなハート型のキーホルダーをしっかりと握り締め、何度も何度も込み上げる嗚咽を繰り返した。

極限になればなるほど、普段は強がって隠していた部分が晒け出される。
菜摘は思った以上に脆い。
脆い上に、仲間の死を突きつけられた。それが菜摘の悲しみのキャパを上回ったようだ。
「あうぅぅっ……恭介ぇ……ぅぅっ」
泣き崩れる菜摘を映士の元へ連れて行くか。
と思った瞬間、即座に否定した。何を甘いことを……、壬琴は頭を振った。
もうこれ以上時間を無駄にしたくは無かった。
まだゲームを覆す決定打が無い、今は割り切らなければここでゲームオーバーだ。
怒りを胸に立ち向かうか、あるいは殺戮の感覚に痺れるか。
326NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:31:11 ID:sf2ZpIh30
焦燥に駆られる。答えを求め壬琴は菜摘を見つめる。
「うぅぅっ……うぅ」
菜摘の頬を伝う涙が、壬琴の思考を乱した。

その涙で一つだけ解ったことがある。
菜摘に平和は守れても、『ゲームには向かない』ということだ。
なぜなら、壬琴にとって、先程ロンによって読み上げられた死者たちは、所詮ゲームのスコアでしかなかったからだ。
アンキロベイルスが死んだ時でさえ、ただの結果としか捕らえられなかった。
菜摘は知り合ったばかりだというのに、アンキロベイルスの死を悼み、悲しんだ。
すでにその差は歴然としている。
菜摘に仲間の死をただの結果として受け止めるのは無理な話だ。
壬琴は、その気になれば、死体を切り刻む事さえ厭わない。
いや、死体どころか何の途惑いもなく、人を『駒』と、『獲物』と、認識できる。
もし、あの時。
菜摘と出会った時のコインが裏で、壬琴と殺し合いになったとして、菜摘がイエローレーサーだろうが、
アバレーサーになろうが、キラーオーに乗っかろうが、どんなに強かろうが、殺し合って負ける気は全くしない。
菜摘には、ゲームの最前線に立つには、『足りないモノ』が多すぎる。

壬琴はソファーから立ち上がり、デイバックを手にした。
「これ以上、ゲームが進まないうちに俺は行くぜ」
抱き起こす訳でもなく、ただ菜摘を見下ろした。
「……え?」
菜摘から帰ってきたのは放心と疑問を混ぜた間の抜けた返事だった。
『待ってよ』と猶予を願う言葉を一瞬期待していた。
そこに煩わしさを覚えた。だがそれが、菜摘に対してなのか、自分に対してなのか、解らなかった。

「もういい」
だが、壬琴はそう言いながら……。
「このゲームに、足の竦んだ駒はいらない。おまえが俺と一緒に来て、マイナス以外の何になるんだ?」
菜摘の瞳が放心状態から、不信という名の色を持つまでの数分。
壬琴は菜摘が立ち上がるのを待った。
327NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:31:59 ID:sf2ZpIh30
そしてその数分間は、もう待つ必要は無いと判断を下すには、有り余るほどの時間だった。

菜摘の横を擦り抜け、壬琴はドアの前に立つ。もう振り返ることなく告げた。
「解りやすく言ってやろうか?足手まといに用は無いんだよ。後で映士にでも慰めて貰うんだな」
映士なら、菜摘の思いを共有できる。ヒカルと三人、傷を嘗めあっていればいい。
煩わしさからも解放される。

一人で立ち上がれないヤツは、最前線から引き摺り降ろしてやるのが、お互いのためだった。





身体の震えも、零れ落ちる涙も、菜摘には止める事が出来なかった。

陣内恭介。

その名前を呼ぶロンの嬉しそうな声が聞こえた時、菜摘の心臓は破裂したかと思うほど大きく鼓動した。
すぐに襲ってきた眩暈に乗せて恭介の顔が、声が、ぐるぐると頭の中に渦巻いた。
涙が視界を塞いだ。
座りこんだ途端、感覚器官の大半が破壊されたような虚脱感が重くのしかかった。
『嘘だ』と思いたかった。
何度も嘘と叫んだつもりだった。
虫を遊び殺すようなロンの顔を思い出した時、奈落の底からさらに底へと、埋められるような絶望感に引きずり込まれた。
絶える事なく身体の奥底から沸きあがる嗚咽に混じって、微かに壬琴の声が聞こえた。

話をする余裕はなかった。
何を言ったのか解らず聞き返した。
聞き返したようには受け取らなかったかもしれない。
口に出来たのは一言にも満たない、『……え?』という、呟きだったから。

壬琴の声をとても遠く感じていた。
328NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:32:47 ID:sf2ZpIh30
どこにいるのだろう?
視線が涙の中を泳いだ。瞳が不安な色を帯びる。
縋り付くように壬琴の声を手繰り寄せた。
そんな菜摘を擦り抜けるように壬琴はドアに向かい、突き放したような言葉を投げてよこした。

だが、それが原動力となった。
壬琴なりの励まし。それだけは解った。
菜摘は絶望感という奈落の底を蹴り上げた。

知らずに握りしめていたアクセルキー、カーレンジャーである証。
菜摘は拳に力を込め、少しの元気を取り戻そうとした。
だが、どんなに強くアクセルキーを握りしめても、まだ心に身体が追い付けないでいる。
足に力が入らず立ち上がれなかったのだ。代わりに声を振り絞った。
「壬琴、待ってよ……」
涙を振り払うため、ぐっと一度目を閉じる。
柔らかな絨毯の上に涙が数滴落ちた。
目を開けたら、もう涙は零さない。
溢れる悲しみを押さえ付け、強く強く思った。
だがいつまで立っても目を開く事が出来ない。
未だ止まらない涙が鼻筋を伝う。一人では押さえ切れない悲しみが言葉になって零れる。
「……恭介は大事な仲間だったんだ」
閉じたままの目から、大粒の涙が零れた。
「もう、沢山だよ。許せないよ。早くこんなの……終わらせなきゃいけないよね?」
思いを声にすると、少しだけ力が湧いて来た。
「私も行くわ。きっと、同じように思ってる人がいるはずだから……。恭介のためにも、今は……」
胸が詰まって、言葉を止める。瞼を閉じたまま、上を仰ぐ。
目を開けたら、その先の悲しすぎる景色を自分達が必ず変えてみせると強く思う。
だから……。
「泣いていられないわよね」
菜摘は目を開けた。残った涙で視界はまだ滲んでいた。
「でも、もう少しだけ待ってくれない?身体が震えて立ち上がれないのよ……」
329NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:33:33 ID:sf2ZpIh30
涙でくしゃくしゃで、唇は震えている。
でも出来る限り精一杯の笑顔を作って壬琴に振り返った。
「………………?…………??」
涙を拭いても、視線をいくら辿らせても、瞳に壬琴の姿は映らない。
「………………壬琴?!」
がらんとしたホテルのロビーに菜摘の声が虚しく響いた。

――――足手まといに用は無いんだよ。後で映士にでも慰めて貰うんだな。

不意に、鮮明に壬琴の声が蘇った。
ドモンとの戦いで受けた傷に、顔を歪める壬琴が脳裏を過ぎった。
「すぐに立ち上がれなかったから……。まさか、一人でゲームを終わらせるつもり?私が泣きながら映士のところへ行くとでも思ったの!?」
菜摘にとって、壬琴はもう大切な仲間だった。
強い衝動と不安に駆られ、よろめきながらも菜摘は立ち上がった。
「壬琴の名前……。放送で聞きたくなんかないよ、絶対」
手の平の中でハート型のキーホルダーをぎゅっと握りしめ、菜摘は一人頷く。
「だけど、人の話は最後まで聞くもんでしょう?壬琴にはそれを教えてあげなきゃいけないわね」
勢いよくドアを開け菜摘は走り出す、壬琴を探すために。 海から吹く風に背中を押されながら……。





G-6都市エリア、立ち並ぶビルの隙間に小さな学校が建っている。
校舎2階の突き当たりに位置する暗幕の張られた薄暗い実験室でグレイ、メレ、シオン、そして少し前に目を覚ました裕作は顔を付き合わせていた。
実験台を兼ねた黒いデスクの上には、ドギー・クルーガーに託された首輪があった。
それを取り囲むように4人は座っている。
330NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:33:55 ID:sf2ZpIh30
これまでの経緯と情報交換を終え、グレイがネジブルーに連れ去られた氷柱について語り始めていた。

「バイオ次元虫に寄生された事であんな姿になった。そういう事ですか?」
シオンの声にグレイが頷いた。
「そうだ。バイオ次元虫はもともと強い生命体では無い。通常は無機物に寄生し、その物体の特製を活かしたバイオ次元獣へと変体を遂げる」
そこでグレイは一旦言葉を区切りメモを取り出した。
何かを書き連ねるグレイの手元を覗きこみながら、一言一言飲み込むようにシオンは呟く。
「単体では弱い次元、本来は生物には寄生しない……。でも、それが何で……」
「ねぇ、ちょっと!」
デスクに頬杖を着いたままメレが顎を少し上げる。
「面倒くさい説明はもういいわよ。もっと簡単に言えないわけ?」
まるでつまらない授業に退屈した生徒のようにメレはグレイに結論を急かした。グレイはメモをデスクの上、首輪の横へ置いた。
シオン、メレ、裕作の三人は吸い寄せられるようにメモに顔を近付けた。
描かれていたのはブレスレット。
精密な製図のように細部に渡り正確に描かれたブレスレットだった。
「次元獣の腕に嵌められていた物だ。シオン……」
名を呼ばれシオンは、裕作の方へメモを差し出しグレイに向き合った。
メレはとっくに興味を失っていた。メモに見向きもしない。
「そのブレスレットだが、私はお前のクロノチェンジャーのようなものだと推測している。
バイオ次元獣は、元々バイラム幹部の命令を認識できる程度の知能しか兼ね備えていない。バイオ次元獣が自ら装着したとは考えられない」
「制御出来ないバイオ次元獣にそのブレスレットを着けることも、不可能……ですね」
「参加者の誰かが、次元虫に寄生された。何故人間に寄生したかは解らないが」
グレイの視線が裕作を辿る。
シオンも伏し目がちに裕作を見る。
裕作はメモを握りしめたまま俯いていた。メモを握る手が微かに震えている。
「裕作、私たちはネジブルーからその名前を聞いている」
「聞いているって……。誰だよ、誰だってんだよ」
もしもの1%、それを望む声だった。裕作はそんな声を絞り出した。
99%予想がついていた事でも、いざ突きつけられれば、心の何処かが必死に否定する。
平静を保とうと無理に吊り上げた口角が震えていた。
331NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:34:58 ID:sf2ZpIh30
引き攣った頬も、シオンの瞳には痛々しく映った。

恭介とドギーが殺される少し前、シオンが拘束されたネジブルーに問いただしたのは氷柱の事だった。
結果的に最後の質問となったその答えを、グレイは静かに裕作へ告げた。

「それ……。マジかよ」

あの時、ネジブルーは氷柱を嘗めるように見つめながら愉悦に浸った笑い声を漏らした。
最高級の執着を帯びたその声に、シオンは例えようもない生理的不快感を覚えた。
『ヒャハハハハッ。あれかい?』
勿体つけるように言葉を区切り、ネジブルーはちらちらと全員の顔を見回した。
『あれはねぇ……。メガブルー、だよ?』
言い終えるか否か、その間際、恭介の変身が解除された。
当然、意識と視線は瞬時にそちらに奪われる。
ネジブルーの声を聞き取れたのは、質問を投げたシオン、そして冷静に氷柱を見つめていたグレイ。

「あぁ。メガブルーだと、確かにそう言った」

グレイは知っているからこそ、順を追って話した。
少々回りくどい、だが理解して貰うには最善の方法を選んだのだろう。
解りきっているつもりの99%より、1%が崩れて受けるショックは大きいのだから。
早川裕作はメガシルバー。
メガブルーは裕作の仲間だった。
そして裕作は次元獣と化した並木瞬に、メガブルーに、殺されかけたのだ。

「まさか、あれが瞬だっていうのか!」
裕作はデスクに手を付いて立ち上がりグレイを凝視した。
同意を求めるようにグレイはシオンへ顔を向ける。
促されたグレイの視線に、シオンは発言せざるを得なくなった。
332NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:35:24 ID:sf2ZpIh30
裕作の顔を見ずに、シオンは重い口を開いた。
「確かにネジブルーは、あの氷柱をそう呼んでいました」
「くそっ!!!」
裕作はメモをビリビリに引き裂いて、拳をデスクへ叩きつけた。
「元に戻す方法はないんですか?」
シオンはせめてもの問いをグレイにぶつけてみる。
「解る事だけ話そう。言って置くが希望的観測など、持たない方がいい」
グレイは深く煙を吸い込んだ。すべて吐き出されるまでの沈黙が、とても長く感じられた。
「バイオ次元獣は致命的損傷を受けると、体内に寄生したバイオ次元虫が巨大化反応を起こし巨大化する」
「巨大化って!」
裕作が声を荒げた。シオンは黙って次の言葉を待った。
「首輪を嵌めている限り、巨大化すれば確実に死ぬ。次元獣を昏睡させるような薬品がここにあるわけでもない。無理に次元虫と引き離そうとすれば……」
「死んじまうってわけか?」
「うむ。そして先程も言った通り、バイラム幹部の命令はおそらく認識できる。だが人間に寄生した生体は前例は無い。手懐けられるかどうか断言は出来無い」
「手懐けるか……。確かに、ただの獣みたいだったぜ」
グレイとの会話に、裕作は頭を抱えた。
シオンは少し頭の中を整理する。何気なく実験室に設置された冷蔵庫を見たとき、一つの案が浮かぶ。
しかし自分ではどうする事も出来ない提案だった。
「待ってください。あの氷柱の状態って、寄生主も寄生した虫も仮死状態ですよね。仮死状態である体内のバイオ次元虫が眼を覚ます前に、取り除けないでしょうか?」
「バイオ次元獣が仮死状態から覚醒するまで、おそらく数十分程度だろう。その方面の知識がある人間が見つかれば、不可能ではないかもしれん」
不可能ではない。その言葉にシオンはホッと息を付いた。
「その方面の知識か、生物学とか医学とかだよな?」
条件付きの上不確定だったが、裕作の表情が緩んだ。
333NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:35:45 ID:sf2ZpIh30
「だったら。さっさとこれ何とかするのね」
それまで怒ったように黒板を睨みつけていたメレが裕作へ首輪を投げた。
「シオン、裕作。あんたたち二人、凄腕のメカニックなんでしょ。ほらぐずぐずしてないで、これぐらいちゃちゃっとやっちゃいなさいよ」
ふん、と鼻息を荒くしたメレは、飽き飽きしたように身体を伸ばした後立ち上がり出入口へ向かった。
「何処へ行く?散歩にでも出るのならば私も付き合おう」
グレイが、捨てるにはどうかという、まだ充分に長い煙草を弾き飛ばしながら言った。
煙草の赤い火は実験用デスクに備え付けられた流し台へ飛び、ジュッという音を立て消えた。煙が眼に沁みたのか、裕作が眼を細めた。
「何をするにも、いちいちあんたたちと一緒にやらなくちゃいけないわけ?
アタシはキレイな空気に包まれたいの。まったく、理央様と再会する前に煙草臭くなったらどーしてくれんのよ」
メレは眉を顰めグレイを睨んだ。





「全くグレイのヤツ、気が付いてるんなら時間ずらすぐらいの気は効かせなさいよ」
ぶつぶつと文句を呟きながらメレは廊下を歩いていた。
実験室の黒板の向こう、実験準備室に誰かが潜んでいるのに気付いたのは数分前だった。
確かめるため視線を凝らすと誘うように高窓の暗幕が揺れた。
シオンと裕作、メレの中ではすでにカクシターズの二人には首輪解除をさせるとして、動けるのはグレイとメレ。
様子を確かめに行こうと立ち上がれば、グレイは付いてこようとする。
「制限は10分だって言うのに。ネジブルーの時みたいになったらどうする訳?」
カツンカツンと遠慮なく校内に足音を響かせ、一階へ続く階段を降りた。
瞬間、メレを待ち構えていたように悠々と白いコートの裾を翻し通路を歩く人影が見えた。
「待ちなさい!あんたそこで何やってるの!!」
男の足が止まる。男は笑いを堪えるように一度俯いて肩を揺らした。
334NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:36:11 ID:sf2ZpIh30
「何?……人を捜してんだよ」
白いコートの男は不適な笑顔を浮かべ振り返った。

男はノブに手を掛け中庭へ続くアルミサッシのドアを開けながら言った。
「ここに来る途中、H―6エリアの海岸でおかしな場所を見つけた」
「はぁ?」
意図が解らずメレは思わず苛立った声を上げる。
「砂の色か違うんだよ。そこだけ、異様にな。何かと思って調べてみりゃ、焼き尽くされて粉々に砕けた骨だったのさ」
H−6、砕けた骨……。『あっ』と言葉が零れそうになるのを堪える。男の言葉と記憶のピースが嵌った。
グレイが言ってた死体を消したってこういう事?メレは心の中で呟く。
「その辺りの砂を蹴り上げるとゼリー状に固まり掛けた血のこびりついた肉片が幾つか出てきた。状態からして、血液が沸騰して破裂。バンッ!ってな」
男は反応を楽しむようにメレの顔を覗き込む。
男が額に手を当て首を捻った。
「その肉片と焼かれた骨がな、どう見ても人間二人分はある。一体の方の首輪は一緒に破裂したとして、もう一体は殺して首輪を奪ったとも考えられるだろ?そいつを殺ったヤツを捜してるんだよ」
開かれたドアから男は中庭へ出た。どう返事をするべきか、中庭へ足を踏み入れるまでの数歩の間、メレの頭の中を渦巻いた。





メレが出て行ってから数分後。

「煙草臭いか……、手厳しいな。まっ、学校内は禁煙ってのが鉄則だからな」

裕作のこの呟きをきっかけに、グレイは一時実験室を離れる。

熱感知センサーには、二つの未確認反応。
その内の一つは、先程出ていったメレが追っている。だがグレイが危惧するのはむしろもう一つの反応である。
メレが追う反応を、もう一つの反応が追う。
335NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:36:36 ID:sf2ZpIh30
ほぼ同じ時刻にこちらに辿り着いた二つの反応。数十分間接触が無い事を鑑みればその二つが敵対しているか、一方が執拗に他方を付け狙っているか、そのどちらかだろう。
ネジブルーとメガブルーのように。

もし校内に入り込んだのが危険人物だったとしたら。
そう仮定した時から肚は決まっていた。襲撃、奇襲、追撃等、有事ありきその時、前線に立つのはグレイ、そう自分なのだ、と。
シオン、そして裕作。精神的、肉体的損傷の大きい二人の盾となり、時に矛となり。
ドギーの託した思いを繋ぐ二人、二人を守るつもりならばいかなる汚泥であろうと被るつもりでもいた。

通路に出たグレイは屋上へと歩みを進める。
スコープで辺りを注意深く見渡す。
メレと共に、中庭に立つ白いロングコートの男、一つ目の反応。こちらはしばらくメレに任せるとし、もう一つの反応を追う。
渡り廊下の向こう、体育用具倉庫の影に二つ目の反応。
スコープが捕らえたのは中庭の様子を伺うショートカットの若い女。
グレイはスコープを納め、校舎から突き出た正門玄関の屋根に飛び移る。
中庭から正反対に位置するため、メレ達二人に気付れず移動できる。
グレイは体育用具倉庫の屋根まで跳躍し、女を上から観察する。
ネジブルーから感じた執拗な狂気や、殺し合い興じるような雰囲気は微塵も感じられない。
女の纏う空気は、シオンや裕作のそれと酷似していた。
「杞憂だったようだな」
警戒を緩めたグレイは女のすぐ後ろへ飛び降りた。
「!!!!!!」
女の方は警戒のメーターが頂点に達したようだ。
グレイは警戒を解くため、ライフルを足元へ置き、壁にもたれ掛かり煙草に火を点けた。
「あなた、ロボット?私の言ってること解るかな……。えっと、私はイエローレーサー、志乃原菜摘よ。」
女は構えた身体から少し力を抜き、グレイへ話しかけたきた。
336NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:37:01 ID:sf2ZpIh30
「あそこにいる壬琴はちょっと捻くれてるけど私の仲間なの。ねぇ、あの女の人ってあなたの仲間?」
イエローレーサー……。この女は恭介の仲間。グレイは煙草を揉み消し菜摘に向き合った。





菜摘に一方的な決別を告げた後、壬琴はG−6エリアを目指した。
メレに言った通りH―6で見つけた死体の謎を探るため、壬琴は首輪解除に適した場所を探した。
幾つかの候補を絞り、くじを引くような期待感を持ち数箇所ハズレた最後がこの学校だった。
そしてここに来て目にしたのは首輪を前に座る4人。
ビンゴ。と思ったのはつかの間だった。
盗み聞いた内容だけでは断定はできなかったが、4人の悲痛な様子から進んで殺し合いに乗っている風では無い。
メレ、グレイ、裕作、シオン。4人とも二体の死因と関わりはあるようではあったが。
壬琴の求めるゲームプレーヤーでは無かったようだ。
(空しいぜ……)
多大な落胆が胸を衝いた時、メレが壬琴に気づいた。
壁越しに伝わる殺気に、壬琴はほくそ笑んだ。
無駄足を踏んだ分、遊んで行くのも悪く無いと思ったのだ。



壬琴はメレを試すような質問を重ね続けていた。
「二人を殺して、首輪を奪ったヤツ誰なんだ?おまえら知ってるんだろ」
日本語としては間違いないが、モノを尋ねるには礼儀を欠いた言い方をした。
メレを見る目にはたっぷりと蔑みを乗せておいた。もちろん挑発だった。
乗って来るなら、相手になる。
「あんた、ドギーか恭介の知り合いなの?」
予想とは違い、メレは表情を緩め質問を返して来た。
「質問してんのは俺だぜ?」
337NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:37:31 ID:sf2ZpIh30
壬琴は視線でメレを押さえつけながら、距離を少し詰めた。
「答えろ」
冷めた声で告げ、メレを上から見下ろす。
メレの表情が一転した。
「そうね、考えてみればアタシ達の仲間のことを、仲間でも何でも無いアンタに話す必要なんて無いわね。さっさと消えな!」
きっぱりと言い放った後、メレは壬琴に背を向けた。
壬琴はニヤリと笑い、拒絶を示した背中へ更に挑発を投げ付ける。
「ハハッ、仲間だと?笑わせるなよ。おまえらが持ってるあの首輪は何だ。仲間が首輪を差し出したとでも言うのか?」
振り向き様にメレが蹴りを放った。
「……っ!!」
思いの外、威力のある蹴りに壬琴は数歩の後退を余儀なくされる。
「あ〜ら、どうしたの。これでも随分手加減してあげてるのよ?」
「フッ、面白いじゃねぇか」
中庭で笑いあう二人、一見のどかな風景のようだが、水面下では張りつめた緊迫感漂う中、双方が出方を伺っていた。

メレが先に口火を切った。
「何度も言わすんじゃないわよ。格下はさっさと消・え・な!」
軽く去なすようなメレの拳が頬を霞める。
「おっと!」
壬琴はメレの細い手首を掴み捻り上げた。
「ちょっ!気安く触るんじゃないわよっ!!」
驚くほど軽やかに地面を蹴り上げメレは空中で身体を半回転させた。
風船の紐を手放したかのようにメレは壬琴の手から擦り抜けた。
優雅とも言えるほど華麗に着地したメレ。
そしてすかさず、まるで大事なモノを壊されたかのように壬琴に捕まれた手首を摩る。
「過剰反応しすぎじゃねぇか?」
手首にダメージがあるとは思えない。
「り、理央様にだって……」
理央。広間でロンへ明らかな敵意を剥き出し、参加者一顔を知られた男。
「ろくに握って貰った事ないのにぃ〜」
338NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:37:56 ID:sf2ZpIh30
震える唇から微かに聞こえたのは鼻につく甘い声。
数秒前までの生意気な口調と正反対なその声に、壬琴は目を細め笑った。

「どうした?変身しろよ、俺なんざあのキザなヤツに比べりゃ格下もいいとこなんだろ?」
「ダ・レ・が、キザなヤツですってぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!」
激昂したメレは目を剥いて壬琴を睨みつけた。
「ハーーッハハハハハハッ、怒るって事はおまえもそう思ってる証拠だろう」
「何ですって!アタシがそんなこと思うわけないでしょ。理央様を愚弄する者は、アタシが!絶ッ対に許さない!」


「メレ、いい加減にしろ」
突然、メレを制すような男の声がした。
何時からそこに居たのか、校舎に背を持たれたグレイがライフルを片手に煙草を燻らせていた。
「その男は殺し合いに乗っていない。スリルを求めているだけだ」
見透かしたような言い方が壬琴の感に触った。
「俺を理解してくれようとでもしてんのか?はっ、そいつは有難迷惑だな!」
壬琴は顎を少し上げ、眼光鋭い視線をグレイへ向ける。

その時。緊迫した空気を切り裂くように、聞き覚えのある声が辺りに響いた。
「壬琴、そこまでよ!ヤァッ!!」
渡り廊下を飛び越えてきたのは菜摘。
壬琴は反射的に表情をしかめた。目が合った瞬間、菜摘の足はたたらを踏むような躊躇を見せながら止まった。
だが菜摘の視線だけはたじろがず、怯えの破片もない瞳で真っ直ぐに壬琴を捉らえていた。
「話は全部聞かせてもらったわ!」
拳を握りしめ菜摘が言った。
「壬琴、やめなさいよ!戦う理由なんて何処にもないじゃない!!」
言い放つと同時に開かれた拳、包み込むような仕草は正義という名の包容力に満ちていた。
再び立ち上がった不屈の正義、それは力強く……。
そして……。
339NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:38:25 ID:sf2ZpIh30
………………………………………………………………………………………………………………………。
……ただ、それだけだった。
自力で立ち上がってきた菜摘に、何故か安堵に近い感情は湧いた。
だが、ただそれだけなのだ。
ときめきを打ち消すには全く足りない。
目の前で始まろうとしているバトルとは違う次元の話にさえ思えた。
「壬琴っ!!」
必要以上に熱くなっている菜摘の声。
「……………………………」
とりあえず無視を決め込んだ時、背後のドアが派手な音を上げ勢いよく開いた。
「メレさん!グレイさん!!」
仲間の危機を感じ取ったのか、シオンと裕作が転がりながら外に飛び出した。

壬琴VSメレ、中庭に集まったギャラリーは4人。
バトルへの期待が、そしてある種の爽快感が壬琴を包んだ。
こいつらの前で、メレの鼻っ柱を叩き折って実力を見せ付けるのは悪くない。
菜摘にも壬琴を思い通りに動かすのは無理だとしらしめるいい機会だった。
何より、ボーナスゲームのようなこのバトルなら、クロノチェンジャーを試用するに最適な状況と言えた。

「ギャラリーも揃ったようだ。さっさと始めようじゃないか」
メレに引く気はないのは解っていた。そう、戦う理由なら少なくともメレにはある。
ギャラリー4人を片手で制止しながらメレは中庭中央へ進んだ。
「カクシターズは、黙ってなさい……」
達観した様子のグレイを除けば、他三人黙らせるには充分な迫力の声色だった。
メレの全身から怒れる気が迸っていた。

「さて、ときめきの白眉、アバレキラーといきたいところだが……」
壬琴はゆっくりと手首からダイノマインダーを外す。
「フッ。コイツを試させてもらうぜ」
340NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:38:57 ID:sf2ZpIh30
コートのポケットに手を這わせクロノチェンジャーを取り出した。
「それは!タイムレンジャーの?!」
驚いたシオンが身を乗り出す。壬琴はシオンに一瞥をくれる。
「おまえ、ドモンの知り合いか」
「……ドモンさんを、知ってるんですか?」
わざわざ親切に教えてやる必要は無い。壬琴は答えの変わりに口角を吊り上げ、悠然と両手にクロノチェンジャーを装着した。
「どういう事だ?ドモンはヒカルと一緒の筈だぜ!」
いきり立つ裕作、その前に菜摘が立った。
「待って!ヒカルはJ−4の教会で友達を弔ってるの!!」
「友達ってまさか!?あれはドモンさんのクロノチェンジャー」
青ざめるシオン。菜摘は大きく腕を振って必死に否定した。
「違うの!あれは私が見つけた物なのよ」


騒ぎ出したギャラリーなど構わぬ様子でメレが冷酷に告げた。
「理央様を侮辱した愚か者には速やかなる制裁を。愚かな我が身を呪うがいい!」
ゴウッと中庭に突風が吹き抜ける。
メレのスカートがはためいた。スリットから覗く細い脚が、力強く地面を踏み締める。
芝生に食い込んだヒールが、天高くしなやかに伸ばされた指先が、メレの怒りの象徴に見えた。
「理央様の愛のために生き、理央様の愛のために戦うラブ・ウォリアァァーーーーー!幻獣フェニックス拳のメレ!!」
空気をヒリつかせるほどのメレの叫びと共に、黄金色の炎が立ち上がり幾重もの羽をメレは身体に纏う。
「この身に燃え盛る灼熱の炎!それは理央様への愛の証!!」
「その愛の力とやらで俺を倒そうというのか。まぁ無理だと思うがなっ!」
メレから発せられた気を孕んで風が勢いを増した。
吹き上がる旋風が壬琴の髪とコートを靡かせた。
341NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:39:21 ID:sf2ZpIh30
壬琴は両手を広げ構えるように腰を落とし、風を切り裂くように両手をクロスし、クロノチェンジャーを起動した。
「……クロノチェンジャー」


「壬琴!やめなさいよ。グレイ、二人を止めて」
「待ってください!!!」
異空間に突入する直前、菜摘とシオンの声が中庭に響いた。


クロノ粒子がレンジャースーツを構築する。
慣れたアタック・バンディット・レジスタンススーツに比べ窮屈さを感じはしたが、圧倒的な力を手にした高揚感は同等だった。
装着を終え、異空間から脱出した壬琴はゴーグル越しにメレへ視線を投げる。
「タイムレンジャーなんてダサイ名乗りを上げるつもりはないぜ。こう言うのはどうだ?アバレタイム……」
「んふふふふふふふふふっ」
壬琴が言葉を紡ぎ終える前に、それをメレの嘲笑が遮った。
メレは獣のようにしなやかな動きで壬琴の前に躍り出ると含みのある視線を投げつけた。

「なっ!?」

壬琴は、その時やっと気付いた。
スーツを装着したときの違和感その正体に。

背中から汗が噴き出した。頸椎がガンガン痛み血圧が上昇した。
アドレナリンの分泌は狂い、自律神経は暴走を始め身体を動かす事を抑止した。
目を背けたくなる光景は瞬きさえも禁じた。
自分の視覚が一瞬にして壊れたとしか思えなかった。
342NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:39:46 ID:sf2ZpIh30
だが、凄まじい現実を突きつけるようにメレが言い放った。

「何よそれ、アバレタイムピンクwwwwwwwってとこかしら」

身体を包むショッキングピンクが壬琴のプライドを一瞬にして焼きつくした。
燃えかすのようにさらさらと崩れ落ちるアイデンティティー。
強化のためだろうと高を括っていた胸の膨らみは今見れば明らかに不自然だった。
突出した胸と太股を覆うピンクのミニスカートが羞恥に紅蓮の炎を灯す。

「ア、アバレピンクタイム……だと」
動転。ゆえの失言。振り絞った言葉は明らかな失言だった。
だが壬琴の人生に置いて一生の不覚と言える程、取り返しのつかない代物。

「違います。アバレタイムピンクです!」
悲痛な声で過ちを正すシオン。
その顔には、くそ真面目な表情を土台に、たっぷりと同情がデコレーションされていた。
だが壬琴にとっては追撃となった一言だった。
「ブッ!無様ね」
耐えきれず吹き出したのはメレ。
菜摘は下を向き肩を震わせている。
何事もなかったように煙草に火を点けるグレイ。
どうリアクションを取って良いか解らず固まった祐作。
だが裕作の目は確信を持って訴えていた「ここは笑うところだろう」と。
そのすべてを、ゴーグルの中の視線が具に拾っていた。

そしてついに、壬琴の全てを燃やすべく勢いを増した羞恥の炎は怒りへ飛び火した。

アバレピンクタイム、もといタイムピンクの変身をかなぐり捨て、まず菜摘を睨みつける。
「だから!!お前が持ってろと言ったんだよ!!!!」
343NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:40:12 ID:sf2ZpIh30
菜摘が悪い訳ではない。『だから』という接続詞もあまりにも不自然だ。
だが菜摘は反論せず投げ付けられたクロノチェンジャーを右手に俯いたままでいた。
口に当てた左手は懸命に笑いを押さえ付けていた。残念ながら震える肩を止める手はもう持ち合わせていなかった。

「どうしたの〜。ピンクタイムはもう終わり?」
薄笑いを浮かべたメレの辛辣な言葉にシオン以下4人は動揺を見せる。
「言わせて貰えばさぁ、アンタ男としてそれでいいの?」
この期に及んでまだ追い打ちを掛ける口撃を放つ。
それにより、あの冷静沈着なグレイまでもが、煙草を落とした。

「グッ……ッッゥゥ……」
壬琴は肩で呼吸し、込み上げる絶叫を押さえ着けた。
噛み殺された叫びは獣じみた唸りに変わる。
「ゲームだろうが、ルールだろうが、もうどうでもいい。おまえら……全員、死ね」
黒歴史を塗り替える。
その思いだけが壬琴を支配していた。血走った目がダイノコマンダーを捕らえた。
ダイノコマンダーを装着する腕が怒りで震えた。
「爆竜チェン……」
「壬琴!止めてっ」
壬琴の腕に飛びついた菜摘が叫ぶ。
「こんなことで殺し合いに乗ったら恥のうわぬり……じゃなくて、ロンの思いどおりじゃない!それでいいの?」
ギリッ。
壬琴は歯を軋ませ、菜摘を振り払う。
ルールはルールだ。
そう、鉄壁のルールが壬琴を押し留めた。
憤りを紛らわすように、壬琴はすっと息を吸い上げた。
しゃくりあげるようなその仕種に誰もが同情を禁じ得ないように黙ったままだった。
肌で感じる同情さえも壬琴にとっては怒りの対象でしかなかった。
「菜摘、ダイノコマンダーをよこせ」
「壬琴……」
躊躇を見せ動かない菜摘に壬琴は自分のデイバックを投げ付け、傍らに転がる菜摘のデイバックを奪う。
344NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:41:06 ID:sf2ZpIh30
「おまえらは殺さねぇよ。ルールだからな……」
乱れきった前髪の隙間から5人を覗く。
「その変わり、次に俺の前に現れてみろ……」
壬琴は5人から視線を剥がし、背を向けた。
「おまえらに死んだ方がマシだと思える地獄を見せてやる」





「ボクには止められたはずなんです」
壬琴が去った後、重苦しい空気の中シオンが口を開いた。
「竜也さん、ドモンさん、ボク、そしてネジブルー。ボクがクロノチェンジャーを装備しているということは、
同じように竜也さんとドモンさんも持っているはずです。そしてネジブルーが持っていたアヤセさんのクロノチェンジャー。
5つあるクロノチェンジャーの残りはもうユウリさんのタイムピンクしか無いって事が……」

「気にすんな。もうどうのこうの言ったところで始まらねぇよ」
祐作がシオンの肩にそっと手を置いた。
菜摘はいつまでも壬琴の去った方向を見つめていた。
「……行っちゃったわね。せっかく追いついたのに」
「ええ、もう姿も見えないわ」
メレが悪びれもせずに言う。
「俺達の声も今は届かねぇな」
と祐作。
「そうね。届かないわね……」
とメレ。

「「ぶははははははははははははは!」」

メレが裕作の肩をバンバン叩いて笑い転げる。
「ア、アバレピンクタイムって、台詞かんでたわよね!」
345NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:41:28 ID:sf2ZpIh30
「くっ、くくくくっ!!いてぇ!」
祐作が傷が痛むのか腹が痛いのか判別しがたい笑いをあげる
「もうやめてください」
シオンが耐えきれないように二人の間に入った。
「何優等生ぶってんのよ。フッ、あんたのツッコミは最高だったわよ」
「ツッコミなんてそんなつもりじゃ!」
反論するシオンを菜摘が止めた。
「ホントにもう止めてよ。いつまでも言い続けてたら壬琴が可哀想じゃない」
「そうですよね」
うなだれたシオンの横でまだメレはにやにやしている。
菜摘は溜息をついた。
「私、そろそろ行くね。壬琴を放っておけないし。まぁ、壬琴が悪かったってとこもあるけど。一度話してみるわ」
隣に立つグレイと、腰を下ろして包帯をさする祐作に向けて言った。
「怪我、酷いの?一度壬琴を連れて帰って来るから、見て貰うと良いわ。壬琴お医者さんだから」
グレイと祐作が顔を見合わせた。
祐作は立ち上がって、菜摘の肩を掴んだ。
「医者って、あいつ医者なのか?」
「うん、そう言ってたけど……」
菜摘は事態が飲み込めずグレイと祐作をキョロキョロ見比べた。
「私が連れ戻しに行こう。私なら冷静に話せると思うが。菜摘、その間シオンに恭介の話を聞くといい」
グレイから恭介は仲間だったとは聞いていたが詳細までは聞く時間はなかった。
「うん……。でも壬琴大丈夫かな。映士も気に掛かるし」
少し戸惑いながら菜摘は答えた。
「ねぇ私も行くわ。まだあいつとは決着付いてないしね」
「ちょっと!」
「冗談よ。でもぉ〜」
人差し指を顎に当て、メレは何かを思案する。
「考えてみれば〜駒を動かすには絶好のネタじゃな〜い?これをネタにあいつに理央様を捜させればいいのよね」
メレは菜摘の元を擦り抜けて小走りにグレイの横へ向かう。
横切った瞬間、ふわっとメレからとても安らげる香り香った。
「理・央・様ァ♪待っててくださいね。うふっ♪」
346NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:41:52 ID:sf2ZpIh30
蕩けた様な笑みがメレの顔に広がった。
一瞬、その変わり様に驚いたけれど『かわいいわね』と菜摘は思った。
少しだけ、汗と海水にまみれた赤いツナギが悲しくなった。
「あんた、そんな格好してるってとこ見るとメカニックか何かだろ?」
「え?うん、まぁ」
「シオンと俺もメカニックだ。どうだい、首輪解除手伝ってくれないか?」
祐作は掻い摘んで菜摘に事情を話した。
ドギー・クルーガーの首輪、そして壬琴の置いていったデイバックの中にはもう2本首輪がある。
そこに凄腕メカニック3人と来れば、腕が鳴らないはずがない。
「わかったわ。メカにはちょっと自信があるの。他にもいろいろ話したい事も、説明しなきゃいけない事もあるし、私も聞きたいから……。恭介のこと」
そして菜摘は全員の顔を見渡した。
「メレ、グレイ、壬琴のことよろしくね。それとみんなにも誤解のないように言っておくわ。少し捻くれてるだけで壬琴は悪いヤツじゃないの。恭介のことでショックを受けた私を助ようとしてくれたし」
壬琴が言っていたように、もうこれ以上ゲームが進まないうちに行動しなきゃいけない。遅れを取るわけにはいかない。
「ねぇ、先ず何から始めたらいい?恭介のためにも、どこかにいるシグナルマンのためにも、少しでも先に進みたいの。もちろん壬琴が戻って来た時のためにも、ね」





その頃。H−6エリア端。海の見えるオープンカフェやバーが並ぶ街で……。

「青い空、白い雲。自由っていいなぁデビ〜〜。ビビィ〜〜」

ふわふわと風に揺られながらビビデビは、う〜んと大きく四肢を伸ばし自由を満喫していた。
ドモンを飛ばし一旦壬琴の元へ戻ろうかとも思った。
だがつい暖かな太陽の光に誘われるまま、ビビデビは少しの自由を楽しむことを選んだ。
347NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:42:26 ID:sf2ZpIh30
自由に動ける開放感を少しは楽しんでからでも遅くない。
戦いが終われば、再びネジレシアでの多忙な日々がビビデビを待っているのだ。
もうダメだと決まっていたことが覆る。
感慨に浸りながらビビデビはオープンカフェのテーブルの上に寝転んだ。
暖かい太陽の日差しが気持ち良かった。
ビビデビは少し目を瞑る。

微睡み掛けた頃、太陽が陰った。
「ん、曇って来たデビ?」
目を擦りながら起きあがると……。

「おい、ビビデビ。随分と楽しそうじゃねぇか」

壬琴が立っていた。

数分後……。
海岸沿いの倉庫を改造したダーツバー。カウンター上には、空のワインボトルが2本。
壬琴がダーツの束を片手に3本目のワインを開けていた。

「ビビィ〜ビビィ〜。だ、だ、だからビビデビは、ネジブルーに壬琴様の話を〜。き、聞いてるデビか?」
「うるせぇ。的が動くんじゃねぇ!」
「ビビィ〜〜〜〜!!ひ、ひぇ〜〜〜〜!!!」

流れるBGMは、壬琴の放ったダーツから逃げ惑うビビデビのシャウト。
プツッ、プツ、プツッ。プツツツツツッ。
ビビデビの頭に突き刺さるダーツの音がリズムを刻んでいた。

348NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:42:48 ID:sf2ZpIh30
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:健康。
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数3発)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためシオンと共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
第二行動方針:壬琴を連れ戻す。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:健康。精神的ダメージ。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、首輪(ドギー)、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪の解析。
第二行動方針:祐作、菜摘と首輪を解除する。
[備考]
2時間の制限と時間軸のずれを知っています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
349NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:43:08 ID:sf2ZpIh30
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第34話後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:気絶。右肩、腹部、左足を負傷。
[装備]:ケイタイザー
[道具]:なし
[思考]
第一行動方針:瞬を元に戻す。(生物学、医学の知識のある者と接触したい)
第二行動方針:祐作、菜摘と首輪を解除する。
[備考]
2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
ヒカルがドモンを殺し合いを止めるように説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
裕作の支給品はメレが預かっています。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。

【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。2時間変身不可。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、芋羊羹、フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー
 火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他一品、支給品一式×3(恭介、ドギー、裕作)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:グレイと共に壬琴を捜す(壬琴に理央を捜させる)
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第三行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
[備考]
リンリンシーの為、出血はありません。
2時間の制限と時間軸のずれの情報を得ました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと知っています。
350NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:43:41 ID:sf2ZpIh30
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:H-6海岸 1日目 日中
[状態]:精神的なダメージ極大、腹部、胸部、打撃によりダメージ(応急処置済)。タイムピンクに2時間変身不可。酔っています。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、スコープショット、
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー
 ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:小津勇の支給品の状態に唖然。
第二行動方針:不特定多数の参加者との命を懸けたサバイバルゲームを開始する。
第三行動方針:首輪の解析(どこに行くかはお任せします)
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※ドモンから情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態です。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。

【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:H-6海岸 1日目 日中
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。
第二行動方針:壬琴に拘束される
351NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:44:07 ID:sf2ZpIh30
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:軽い打撲、水中にいたため、そして全力疾走したので身体はかなり疲労しています。
[装備]:アクセルブレス 、クロノチェンジャー(タイムピンク)@未来戦隊タイムレンジャー、
[道具]:深雪の首輪、サーガインの死体(首輪付き)、アンキロベイルスの首輪、基本支給品一式×2(仲代壬琴、小津勇)深雪の残したメモ。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:祐作、菜摘と首輪を解除する。
第二行動方針:H−4で映士と合流出来なければ3回目放送までにJ−6公園で待つ。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラック(菜摘の場合アバレーサー)への変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。
※壬琴から情報を得ました。深雪のメモを読みました。
※禁止エリアでは首輪を外しても生存可能だと思っています。
※小津勇の食料、ペットボトルは長い年月を得たような状態なのを見ました。
※クロノチェンジャーの変身方法を知っています。
※変身制限に気が付きました。
氷柱=メガブルー、並樹瞬だと祐作から掻い摘んだ説明は受けました。
352NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:46:09 ID:sf2ZpIh30
以上、投下終了です。
自分で問題点と思う点をいくつか。

・クロノチェンジャーについて、タイムピンクのクロノチェンジャーにしてしまったのですが、竜也のタイムレッドが登場していないのでこれはまずいでしょうか。
 というか、ピンク=誤って男装着が禁忌では無かったかと心配しております。

・ドギーの死体について、前話にてグレイが消したとありましたのでこういった使い方をしてしまいましたがどうでしょうか。
 伏線等に触れていなければ良いのですが。

・各キャラについてブレが無ければと良いが、思います。

上記、意見を聞かせていただければ幸いです。
その他、誤字脱字、ミスもあるかと思います。
指摘、感想よろしくお願いします。


と、延長期限、今日までで良かったでしょうか。
遅くなって申し訳ありませんでした。

353NEXT:アバレ……タイム ◆MGy4jd.pxY :2009/06/27(土) 22:49:28 ID:sf2ZpIh30
と、メレ、2時間変身不能と壬琴2時間タイムピンクに変身不可を入れ忘れておりました。
354名無しより愛をこめて:2009/06/28(日) 01:10:10 ID:/UDM6ebU0
投下GJ!!です。
………ダメだw笑いが止まらないwww
壬琴はお気の毒というか、可哀相というかw
ダメだぞ壬琴、これでマーダーに転向したらリアルにパロロワ界の歴史に名を残すぞw
前半のどこかスタイリッシュさの漂う空気、中盤のバトルの緊迫した描写(かわいい行動してた人が一人いますがw)
ときて、これw ギャップにやられましたw
瞬はここに来て希望が見えてきたか?
それぞれの心理描写は相変わらずお見事!
特にグレイのハードボイルドさと、壬琴の菜摘へのたぶん自分でも分かっていないであろう心理、
あと、メレのかわいらしさが最高でした。
いい和みにテンションやモチベが上がりました!GJです!

クロノチェンジャー、キャラのブレは特に問題はないと思います。
特にキャラは彼ららしい行動と思いました。
355名無しより愛をこめて:2009/06/29(月) 16:22:33 ID:NFxY+L2Z0
クロノチェンジャーは圧縮冷凍されると困るからロンが持っているとか……。
356名無しより愛をこめて:2009/07/04(土) 00:27:12 ID:7+XDYrTB0
まとめ更新乙です。
申し訳ありません。誤字等を向こうの方にて上げているのです。
お手数ですがよろしくお願いいたします。
357名無しより愛をこめて:2009/07/09(木) 00:16:07 ID:8ugVxQ8A0
今更だが、ふと思った。
男の仲代先生でもタイムピンクになれば胸がふくらむということは………
つまり、ユウリがタイムピンクになった時のあの胸も偽ピーーということだったんだよ!!!
358名無しより愛をこめて:2009/07/10(金) 13:45:32 ID:AYmIFVVo0
ねぇねぇ、アバレピンクタイムwwwって
               男としてどんな気持ち?
                        ∩___∩
     __ _,, -ー ,,             / ⌒  ⌒ 丶|    
      (/   "つ`..,:         (●)  (●)  丶    今、どんな気持ち?   
   :/ MIKOTO :::::i:.        ミ  (_●_ )    |       ねぇ、どんな気持ち?  
   :i      ─::!,,     ハッ  ミ 、  |∪|    、彡____
     ヽ.....:::::::::  ::::ij(_::●    ハッ    / ヽノ      ___/
    r "     .r ミノ~.      ハッ   〉 /\MERE丶
  :|::|    ::::| :::i ゚。            ̄   \    丶
  :|::|    ::::| :::|:                  \   丶
  :`.|    ::::| :::|_:                    /⌒_)
   :.,'    ::(  :::}:プルプル              } ヘ /
   :i      `.-‐"                    J´ ((

359名無しより愛をこめて:2009/07/10(金) 17:07:48 ID:qnRXmZP80
やめれwww
逆ギレモード壬琴の無双が始まったらどうする気だ、メレw
360名無しより愛をこめて:2009/07/13(月) 12:15:43 ID:SVf51vm6O
ラジオの日程発表されてましたね!
361名無しより愛をこめて:2009/07/14(火) 01:36:43 ID:f6hfYJJ+O
おお、ついに!
その日が楽しみで今からwktkするw
362 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/17(金) 22:34:46 ID:vxzRhezv0
ただいま推敲中です。
日付が変わる頃には投下致します。
363 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:02:42 ID:+tFpkdAy0
おぼろが操作する車椅子が砂礫を撒き散らしメインストリートを滑走する。

助けを呼びにF―7エリアを目指したおぼろは、途中E−5エリアに建つ病院で車椅子を見つけた。
まずは蒼太の身の安全を確保してやりたい。 バリサンダーは後で取りに来ればいい。
せめて少しでも早くみんなの元へ連れて行いくのだと、おぼろは車椅子を手に急いで工場へ引き返した。
「待ってて、今行くで!」
蒼太には助けて貰ってばかりだった。だからこそ、今度は自分が蒼太を助ける。
そう思うと、車椅子のグリップを握る手に自然と力が籠もった。
「うちが、蒼太くんを助けるんや」
つい弾みそうになる声を極力押さえ、おぼろは蒼太の居る工場まで車椅子を押しながらひたすら走った。

「蒼太くん、これに乗って!」
おぼろは息せき切って工場に駆け込む。
返事はない。誰も居ない工場に、おぼろの声だけが寂しく反響した。
「蒼太……くん?」
一瞬、場所を間違えたのかと思った。そこに、蒼太は居なかったのだ。
しかし足下には生々しい血痕の後が残っている。やはりここは紛れもなく蒼太が刺された場所。
くるりと辺りを見回し、おぼろは蒼太を捜した。
「どういうこと?」
隠しておいた場所にバリサンダーは無い。
護衛代わりのマーフィーも工場の中には居ない。
「……動けるようになって合流場所に向かったとか?」
ならば、途中ですれ違うはずだ。
「いや、そんなすぐに動けるんなら、最初からうちに頼んだりせぇへんよな……」
そう疑問を口にしつつも、心の中に思い当たる節はあった。

別れ際に蒼太が言った事。
364 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:03:46 ID:+tFpkdAy0
笑顔を浮かべながら、瞳の奧は笑っていなかった。

「……合流してからも気をつけてって言ったんは、こういう事やったんか」
この先は一緒にいられない、それを暗に示していた言葉だったのだろう。
なぜなら、伝言の一つも残されていない。
手がかりになるような物もない。
何一つとして、ここには残されていなかった。
「ははは……。そうか、さくらさんを助けに行ったんやね」
その柔らかな拒絶に、おぼろは自嘲した。
何一つ残さず、蒼太は悩めるさくらを助けに行ったのだ。

ここには居たくない。
何と無くそう思った。
凹型に禁止エリアで囲まれたこの場所に留まっていれば、蒼太たちと合ってしまうかもしれない。
二人が笑いあっている姿を、ただ何と無く今は見たくない。
別にどうと言う事でもない。信頼と絆が戻った二人を見れば、おぼろにもきっと、ごく自然に安堵の笑顔が浮かぶ。
だが何故か今は、命を奪おうとしたさくらへ信頼に満ちた顔を向ける蒼太も、仲間のおかげで自信と信頼を取り戻したさくらの顔も、
そしてそれを笑顔で迎える自分も、見るのは想像の中だけで充分だった。
「これも、出番無しで退場やな」
おぼろはもう必要の無くなった車椅子を畳み、工場の隅っこへ立てかけた。
「さぁて、合流場所へ行かななぁ。何や、さっきと違って……」
その先の言葉は口に出さずに飲み込んだ。

(……怖いな)

2エリア先の合流場所がとても遠くに思えた。


いたたまれない気持ちに蓋をして工場を出ると、ぽつんとマーフィーが座っていた。
365 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:04:12 ID:+tFpkdAy0
「マーフィーちゃん!」
思わずおぼろはマーフィーに駆け寄って、その身体をぎゅっと抱きしめた。
「バウ〜ッ」
「何や、あんたも置いて行かれたんかいな」
項垂れているような仕草を見せるマーフィーの頭をそっと撫でてやる。
「しゃあないやろ。蒼太くんは正義の味方やねんから、誰かが困ってたら助けにいかなあかんのよ。それが仲間やったらなおさら、な?」
肩を押えコキコキと首を回しながら、おぼろは自分に言い聞かせるようにマーフィーに語りかける。
マーフィーに出会えたことで多少恐怖心は和らいでいた。
「みんな仲間のために頑張ってるんや。凹んでる時やないな。さぁて、うちはうちに出来る事をやっとこうかな」
おぼろに出来る事、それは首輪の解除だ。それを出来るのは自分であると自負もしている。
解除方法を見つければ、もうおぼろは守られているだけの存在ではなく、他の参加者たちを救う存在に成り変わるのだ。
「よっしゃ。そうと決めたら早く合流場所に戻るで!行こう、マーフィーちゃん」

だが、この時おぼろは首輪解析をするために必要不可欠な行為について一切考慮していなかった。
だというのに、自分には出来る事があるなどと思い込んでいた。
その勘違いに気付いたのは……。

――――――さて、前回の放送から6時間程たちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

決意の直後、流れた放送による。


「嘘やろ……。美希さんとティターンが死んだやなんて」
おぼろは虚空を見つめ愕然とした。
ロンの挙げた名の中に、自分を待っているはずの二人の名があったのだ。
何故、ドロップを送り届けて自分たちを待っているはずだったのに。
「まさか、ドロップのお兄さんがやったんか? でも蒼太くんは美季さんに気をつけろって。そやけど」
その美希も殺された。
瞬が殺したとは考えたくない。
366 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:04:44 ID:+tFpkdAy0
しかし、ジルフィーザが弟を助けてもらった恩人を手に掛ける事が有り得るのだろうか。
「何でや?纏さんが命懸けで守った仲間が。一体、何があったんや!」
「バウバウバウ!」
「戻ろう、マーフィーちゃん。大丈夫とは思うけど、瞬も巻き込まれたかも知れん。とりあえず、瞬と合流して話を聞かな」
きっと瞬にゴウライチェンジャーを渡したのが命運を分けたのだ。
そう結論付け、おぼろは震える膝を叩いて立ち上がる。

また8名も死者として名を挙げられた。
挙げられた中にはおぼろを殺そうとしたフラビージョや、メカニックとしてのおぼろの宿敵サーガインもいた。
ジャカンジャ幹部の看板は決して軽くはない。
上忍であり実力もある暗黒7本槍二人の死、そしてティターンのような強者が殺される事態の原因は枷である首輪にある。
「これ以上グズグズしていられへん。うちは一刻も早く、この首輪を……」
解除する。
そう言いかけて、初めておぼろは気が付いた。

「……首輪の解除って、よぉ考えたら。まず、誰かから首輪を奪わな……。あかん」

生きている人間で解除を試験する訳にはいかない。首輪を解除するためにサンプルは必要だ。
そのサンプルはどこで手に入れる?
生きている人間の首輪を奪う事はできない。首輪を奪うために死体が必要だ。
仲間だった者の死体から奪うのか?
「っ!!!」
鮮明な画像が脳裏に降って沸いた。
白目を剥いて横たわる美希が。四肢の曲がったティターンが。二人の前でイカズチ丸を握り締め震える自分の姿が。
「うぅぅ、うちにはできん。そ、そんな恐ろしい事」
自分で出来ないなら、合流場所に戻って瞬を捜すか?
瞬に自分が尻込みする猟奇的な行為を押し付けるのか?
ただ偶然メガレンジャーに選ばれただけの、普通の高校生の男の子に死体損壊をさせるのか?
「瞬にだって、そんなんさせられへん!」
仲間の首を落とすなどと絶対に無理だ。
367 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:05:21 ID:+tFpkdAy0
仲間で無ければ出来るか?同じ事だ。
「でも、うちには絶対無理や!仲間だろうがそうじゃなかろうが、誰の死体であろうと首を落とすなんて」
そう、おぼろに出来る事、おぼろ一人で出来る事など何も無かった。
気付くと同時に、新たに疑念が沸き上がってくる。
(……うち一人?…………仲間?)
蒼太はさくらの元へ行ってしまった。
合流場所にいるはずの仲間は殺し合って死んだのかもしれない。
そもそも、おぼろの事を仲間だと認めた者などいたのだろうか?

「あかん。あかん……。疑い出したらキリがない。それこそロンが喜ぶだけや」
疑い合えばロンを喜ばせるだけ、そうは思うが頭の中の疑念は晴れない。
疑念と和らいだはずの恐怖が、心の中で膨れ上がっていく。
「キッツイな、これ。何なん……」
この状況は一体何なのだ?
纏の墓前で固く結束したはずの絆は何だったのだろう。
絆が出来たと勘違いしていたのはおぼろ一人だけだったのだろうか。
蒼太が美希を怪しんだように、他の者もみんな本当は疑心暗鬼に駆られて、結果、ティターンと美希は殺された?
殺したのはジルフィーザか?瞬か?
もしも瞬が二人を殺したのだとしたら……。瞬は改心などしていなかったら?
瞬の見せた涙がその場限りの物ではないと誰に言いきれる。合流場所に行ったらきっと自分も殺される。

「うち、何を考えて……。あの涙は嘘やない」
だがそれは纏への同情が起因してはいないだろうか。
もし、事態が最悪の予想通りなら纏はただの無駄死になる。

「違うっ!違うぅ……」
瞬がその場にいたなら二人を守ろうと戦うはずだ。
そして今、傷ついて怪我をして動けないかもしれない。
おぼろがすぐに合流場所へ行かなかった事で瞬に何かあったら、手遅れにでもなったとしたら蒼太は自分の事をどう思う。
自分の手を汚すのが嫌で首輪の解除が出来ないのだと知られたら。
368 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:08:04 ID:+tFpkdAy0
きっと、表にはださなくとも心の中でおぼろを批難する。

自分が何をしたのだ。
どうして何もしていないのに、誰も殺していないのに、こんなにやりきれない気持ちを抱えなければならないのだ。

「いやや!何なん!!何なんよ、これぇぇぇぇ!!!!」

視線が景色を上滑る。
叫びながらおぼろは走り出していた。


∵・


E9エリアを目指し、森を行く6人――セン、理央、ブクラテス、菜月、シグナルマン、竜也。
先頭を歩くセンは真直ぐ前を見つめ、足早に突き進む。
だが実際、センの心は此処に在らず。そういった状態だった。
放送で告げられたドギーの死、それはセンにとって全くの想定外だった。
(……ウメコとスワンさんに続いて、ボスまで)
昨日まで側で自分を支えてくれていた3人はもういない。
センは強く歯を噛みしめる。

「セン!!!!」
突然、後ろを歩いていた理央に肩を掴まれ、センはハッと我に帰る。
どうやら理央は何度もセンを呼んでいたらしい。
振り返れば、ブクラテス以下3人と相当な距離が出来ていた。
「と、すみません。少し考え事を……」
センは柔和な笑いを浮かべたが、理央は表情を全く崩さない。
369 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:08:52 ID:+tFpkdAy0
「セン。放送で呼ばれたドギー・クルーガーというのは、おまえの知り合いだったな」
「えぇ」
「何故ヤツラに黙っていた?」
「黙っていたという訳じゃないんですけど……。って、理央さん?どうして一回目の放送の時と同じ顔して俺を見るんですか」
理央は仇討ちを疑った時と同じ眼をセンに向けていた。
「ただ負の感情は連鎖するのが解ったので、表に出したくなかったんです」
センは頭を掻きながら言い訳しつつ、追いかけてくる菜月たちに目を遣やった。
警察官であるセンでさえ、放送を聞いた時は感情のコントロールを失いかけた。
あえて感情を表に出さなかったのは自分のためでもあり、菜月たちのためでもある。
「大丈夫、仇討ちは考えてません。放送を聞いた時。悲嘆するか、行動するか。署長が望むのは、果たしてどっちだって考えたんです」
「悲観より行動をとったという訳か?」
「そんなところです」
センの脳裏に、地球署での日々が次々と蘇っていく。
地球署に配属されたあの日。ドギーや仲間との出会い。仲間と共に解決して来た数々の事件。
そのどんな事件よりも理不尽極まりないこの殺し合い。それをセンは許さない。
「この悲しみも憤りも仲間への思いも、爆発させるのは今じゃない」
「あぁ、解っている。それは、ロンを倒す時だ」
理央からの思わぬ直球にセンは破顔一笑した。

やがて、6人は森を抜け砂漠へ行き当たる。

「ねぇねぇ、あれって遊園地?かな」
ぴょこんぴょこんと飛び跳ねながら、菜月はD7エリアを指差した。
「ん、どれどれ?あ、ホントだ」
「ジェットコースターも見えるな」
菜月、竜也、シグナルマンは並んで遊園地を眺める。
「小娘!よもや行きたいなどと言うのではないじゃろうな」
そう言いながらブクラテスは探知機を取り出す。

センは額に手を当て陽射しを避け、細い目をより一層細めて菜月が指差す方へ視線を凝らした。
確かに。小規模な遊園地がそこに佇んでいた。
夜は闇に紛れてしまって気が付か無かった。
370 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:10:33 ID:+tFpkdAy0
だが今は、太陽の光で目を醒ましたように観覧車がカラフルな色彩を放ち、その存在をアピールしていた。

(少し休憩して行くのもいいかもしれない)

理央は遊園地など目に入らぬかのように、眉を顰め鋭い眼差しでオアシスを見つめている。
竜也とシグナルマンはまるで菜月の保護者のように心配ばかりしている。
ブクラテスは神経質に探知機のチェックを繰り返す。
セン自身はどうかといえば、さきほど理央に仇討ちを懸念されたぐらいなのだ。
結局のところ、みんな来たる決戦の前に『息抜き』が必要なようだ。

「何であのエリアが禁止エリアになるのかも興味はあるな。開園は3時までですが、行ってみましょうか」

と言うのが、センの下した決断だった。


∵・・


工場を走り去ったおぼろは、一時間後―――――

「うわぁ!これ、すっごいな」

―――――D7エリア、遊園地のスタッフ控室にいた。

「何や、お姫さまみたいやな。フリフリやん」
壁一面に張られた鏡の前でパレードの衣装を引っ張り出しては合わせ、あれでもないこれでもないと衣装合わせの最中である。

「バウ!バウバウ」
先程からマーフィーが、仕切におぼろの袖を引っ張っては吠え、何かを訴えていた。
『早く合流場所へ行こう!』マーフィーの鳴き声を訳せばこんな感じだろうか。
371 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:11:10 ID:+tFpkdAy0
散歩をねだるペットのように、マーフィーは出口とおぼろの間をうろうろと行き来を繰り返す。
「瞬なら、もう合流場所にはおらんよ。状況が変わりすぎとるし……。行ったところで、合流場所には死体しか転がってへんやろうと思う」
わざと突き放した言い方で告げると、マーフィーは諦めたように衣装の詰まったクローゼットを漁り始めた。
おぼろはホッと一息つき、再び鏡の前で衣装合わせに興じた。

(死体しか転がってないやなんて。我ながら酷い言い方やと思うわ。でも、しゃーないやん)
放送の後、おぼろは合流場所へ向かわず、行くあてもないまま遊園地に辿り着いた。
この場所が3時に禁止エリアになるのは知っている。
だからそれまでここに隠れているつもりだ。
それが現実逃避だと誰に言われようが、もう構わなかった。

「バウ!」
マーフィーがクローゼットの中から何か引っ張り出して来た。
「げ、何それ?」
それはヒーローショーで使う怪獣の着ぐるみだった。
もくもくとキノコ状に頭部を覆うアフロヘアと深緑色のボディが何処となくティターンに似ている。
「バウワウ」
『思い出した?』とばかりに、マーフィーは擦り寄ってきた。
まだ合流場所へ連れて行くのを諦めた訳ではないらしい。
「マーフィーちゃん。……面白いやんこれ。よっしゃ、ちょっと着てみるわな」
意図をはぐらかすようにおどけながら、おぼろはその着ぐるみに手を通す。
頭まですっぽりと被り背中のファスナーを引き上げ鏡に姿を映してみた。
「アハハ!やっぱりお姫様の格好よりこんなんがうちにはお似合いやな〜。って顔は隠れとるけどな」
薄っぺらい笑いを漏らすおぼろ。
その横で座るマーフィーの姿を鏡は寂しげに映し出す。
「……うちかって。みんなの事、忘れたわけやないよ。でもどうしたらいいっていうねん」
おぼろはマーフィーの前に屈んでそっと頭を撫でた。
「なぁ、マーフィーちゃん。うちと一緒にシュリケンジャーを捜そう?
372 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:11:55 ID:+tFpkdAy0
シュリケンジャーは、ホンマに信頼できる仲間やから。さくらさんみたいな事は絶対ない。うちが保証する」
蒼太はさくらの元へ、ドロップはジルフィーザの元へ。ならば、おぼろもシュリケンジャーの元へ。

おぼろが知る限りではシュリケンジャーが殺し合いに乗る理由は無い。
敢えて手に掛ける可能性があるとすれば、暗黒七本槍の二人。フラビージョとサーガイン。
フラビージョに関しては、共に消え去ったネジブルーと仲間割れでも起こして殺されたのだろうと思う。
サーガインを殺したのは誰なのか、おぼろには解らない。
もしシュリケンジャーが殺したのだとしても、それ以上殺し合いに乗る理由が逆立ちしても思い当たらない。
そして我が身かわいさに現実から逃げたおぼろが頼れるのも、もうシュリケンジャーだけだった。
だから、シュリケンジャーを捜しに行く。
「バウ」
おぼろの気持ちを汲んだのかマーフィーが出口へ駆けて行く。
「ちょっ。待ってマーフィーちゃん。うちこの格好じゃ……!ぬ、脱がれへん!!」
背中のファスナーに手が届かず、バランスを崩したおぼろは後方に一回転。すぐさま起き上がるが……。
「バウバウ!」
「しーッ!マーフィーちゃんっ。吼えたらあかん!」
立ち止まらずに駆けだしたマーフィーを、着ぐるみ姿のまま追いかける羽目になった。


∵・・・


「きゃあああああああああああっ!!!」
「っ、ぐぐぅ!」

菜月とシグナルマンを乗せたジェットコースターはループの頂上付近まで登っていた。
徐々に速度を落とし最高点まで登りつめ、そして、真っ赤な車体は太陽の光を受けて煌めきを放ちながら急下降を始める。

「楽〜し〜い〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!ス、スピード違反んんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」

竜也はジェットコースターの操作版の前でその様子を見ていた。シグナルマンの声に肩を竦めながら。
373 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:13:46 ID:+tFpkdAy0
「……何でシグナルマンの悲鳴の方がでかいんだ?」
「あんなに興奮しおって、また能力全開しておらぬといいがのぅ」
「ははっ。まさかいくらシグナルマンでも」
ブクラテスの呟きに竜也は苦笑いする。
いやいや……。とでも言いたげにブクラテスは首を振りながら、受付の椅子に腰を下ろす。
「竜也くん。もうそろそろ終わりかな」
タラップで理央と話しこんでいたセンが顔を向けた。
「そうですね」
竜也はジェットコースターに視線を戻す。
二人を乗せた車両はちょうど最後のカーブを曲がり、プラットフォームに乗り入れるところだった。

ガコンッッ!!ガコンッ!ガコンガコンガコガコガコ。

ブレーキ板と車体が派手な接触音を辺りへ響かせた。
竜也は車体が完全に停止したのを見計らって安全装置のレバーを引き上げる。
「竜也さん。楽しかったよ!」
「チ、チーキュのライドは危険だ。こんなモノ、とてもじゃないがシグタロウは乗せられない……」
菜月は歓声をあげながら車両から飛び降り、シグナルマンは脱力しきって膝に手をつきながら降りてきた。
「お疲れ様。菜月ちゃん、シグナルマン」
二人に声を掛け竜也は、ほっと安堵のため息を漏らす。
「ブクラテスさん、反応に動きは?」
竜也の後ろで、見計らったようにセンがブクラテスに訊ねた。
「まだ動いとらんわい」
センがブクラテスから探知機を受け取り、反応を確かめる。
「うーん。確かめに行った方がいいかな?動きがないのはこの反応がすでに亡くなった人であるのか、まだ様子を見ている段階なのか……」
あえてジェットコースターを動かしたのはそのためでもあった。
ここは反応の場所から走って3分程度に位置する。
動き出したジェットコースターに気が付いたならそろそろ動きがあってもいいはずなのだが。
「ワシは行かんぞ。行っていきなり、ズガン!などという」
374 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:14:20 ID:+tFpkdAy0
「案ずるな。俺が行く」
理央がブクラテスの言葉を遮りタラップを下りかけた。
「理央さん、ちょっと待ってください。先にさっきの話を……」
顎に手を当て探知機を見つめていたセンが理央を止める。
「まぁ話の前に不安は解消しておきましょうか。ブクラテスさん、ズガンの心配はないですよ。ジェットコースターを動かした事で、相手にはこちらが複数人いることは示せましたから」
「もう制限を知らない参加者はいないだろう。たった一人で複数人の相手となれば、先に変身してしまうのは命取りだ」
理央がセンの言葉を繋ぐ。
「えぇ。ですから、まだこちらの人数を確認していないうちは奇襲も無いはずです」
センの言葉を聞いた菜月がブクラテスの傍へ駆け寄る。何故かシグナルマンもそれに続いた。
「良かったね。おじいちゃん」
「本当だ!良かったな〜。うん、良かったじゃないか」
明らかに適当に話を合わせたようなシグナルマンに竜也は肩を落とす。
構っていてもしょうがないので竜也は話を元に戻す。
「ところで、センさん。さっきの話って」
「うん。話って言うのは……」
センは探知機を手にしたまま、ニヤリと悪戯な笑みを口元に浮かべた。


「単刀直入に言うと厄介なのはブドーではなくむしろシュリケンジャーです。
シュリケンジャーの目的は優勝。そして現在までの彼の行動はいわば内部分裂を狙ってなされた。
積極的に殺しまわるのは効率が悪すぎますからね。ブドーのようなタイプならまた別ですけど。
ところで、そのブドーですが。シュリケンジャーへの当馬にならないかと俺は考えます」
「え?当馬」
「ブドーを当馬じゃと!」
「どういうことですか」
「無理だ!」
理央以外の一同は驚きの声を上げる。
センは飄々と言葉を聞き流し、話を続けた。
375 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:18:25 ID:+tFpkdAy0
「ブドーとシュリケンジャーが現れた位置的に、二人が接触している可能性は充分ある。
ブドーという人物、ここにいる全員の話からすると、幾つかの戦いを経て少し考え方が変わってきたようですね。
最初は優勝を狙い、無差別に強靭を振るっていた。仲間した暁に望むのはダイタニクスの復活。
だがむしろ今は、優勝そのものより、理央さんとの戦いがブドーの主眼であるわけです。
強さに高みを求め、戦って戦って戦いたいわけです。
そこで俺としては今回の決戦は上手く避けられないかな?と思ったわけですが」
センはちらりと理央を見た。
「セン、何度も同じことを言わせるな。武闘の道を生きる者としても、勝負に背を向けるわけにはいかない」
「という事ですので」
そこでセン咳払いを一つ。
「無論ブドーが優勝を狙う以上シュリケンジャーもいつかは倒さなければならない相手です。だから対シュリケンジャー要員として味方に引き込めないかと」
「確かにブドーの強さは並じゃない。いくら制限中だったとはいえ、本官は。クッ……。スモーキー」
「味方に引き込めば良いじゃと?そんな甘い考えでは死に行くようなモノじゃ」
悔し涙を流すシグナルマンを押し避け、ブクラテスがセンの前に出る。
「仰るとおり、甘い考えかもしれません。ですがおそらくブドーにスモーキーをどうこうするつもりはない。 交渉の余地はある。
しかし交渉するには理央さんにもう一度ブドーを倒して貰わなければならない。 武道を志す以上理央さんは卑怯な手は絶対使わない。
だから少しでも有利になるために地の利が必要になる。早めに動いているのはそのためです」
「ブドーを倒して殺さないで利用する。再戦を匂わせれば大丈夫、か……」
……それは卑怯と違うのだろうか。
口に出して良いモノか竜也は逡巡する。
376 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:19:18 ID:+tFpkdAy0
「匂わせるだけではない。戦えというなら戦ってやろう。だが結果は同じだ。何度戦おうが俺はブドーなどには負けん」
『結果は同じだ』の辺りは、理央の身体の中に渦巻く業火を遠慮無く感じさせる。
口に出さなくて良かった。と、竜也は胸を撫で下ろした。
「言い方は悪いですが、いわば理央さんはシュリケンジャーを倒すための人質です。シュリケンジャーを倒し、この殺し合いが終わるまでブドーは俺が責任を持って拘束します。
そして俺たちの世界に連れて帰り公平なジャッジを受けさせる……」
センの決意を誰もが受け取った。
ここは遠い目を作るだろう場面。
しかし、何故かセンの目が大きく見開かれた。
「きゃぁ!」
菜月の悲鳴が空気を裂く。
「うわっ!」
センはいきなり倒れて転がった。
いや、空から現れた銀色の固まりが隕石のようにセンにぶち当たったのだ。
「センさん!」
「セン!」
銀色の固まりと共に転がったセンへ竜也と理央が駆け寄る。
「バウバウ!バウバウ!!」
銀色の固まりが咆吼を上げた。
「こら、やめろ。じゃれるなって!マーフィー!」
「マーフィー?」
何なんだこれ、犬?竜也はいまいち事態を飲み込めない。
「マーフィー。コイツ、マーフィーK9っていうんだ。最新型超高性能AI搭載のロボット警察犬。ウメコの相棒だった」
起きあがってマーフィーを抱きしめたセンは涙ぐんでいた。

「おい!あれは」
シグナルマンがアトラクションの向こうへ走り去る人影を見つけた。
「あれ?逃げるなんて何か誤解されちゃったかな。しっかり話が聞こえる程度まで近付いてたと思ったんだけど」
377 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:20:32 ID:+tFpkdAy0
センは焦った様子もなく探知機を確かめた。
「セン。貴様、反応が近づいているのを知ってわざと!」
ブクラテスがセンから探知機を取り戻そうと突進する。
だが、悲しいかな。
探知機に手が届くその前に、樽のような腹がセンを弾き飛ばした。

「ったたた」
「大丈夫か?」
頭を押さえたセンを起こそうと竜也は手を差し出す。
「サンキュー。竜也くん。ついでにもう一つ助けてもらえないか?」
手を握り返したセンはとても真剣な顔をしている。
「竜也くんと菜月ちゃんであの人を保護してやってほしい」
「保護?」
「うん。マーフィーが懐いてたってことは、あの人が悪人じゃない証拠だ。だから助けてやって欲しいんだ」
「それはいいけど、全員で捜した方がいいんじゃないか?」
「いや、殺し合いの場で多人数に追いかけられたら精神的にかなりキツイ。事故や過ちに繋がり兼ねない」
そこでセンは起き上がりながら周りに聞こえないように竜也にそっと耳打ちした。
「それに、理央さんに追いかけられたら大抵の人は萎縮するだろ」
「……確かに。悪い人じゃないんだけど」
竜也でも、面識もないままいきなり理央に追いかけられたら、何も悪い事などしていなくても逃げてしまうだろう。
「ま、それは冗談だけど、二人の方ならビジュアル的にも優しげだしね」
センが菜月にウインクした。
「わかった。菜月が捜してあげる。犬さん、よろしくね!」
「バウ!」
菜月がマーフィーの頭を撫でた。
嬉しそうなマーフィーを見つめながらセンが言った。
「俺は理央さんと遊園地以外のこのエリアをざっと調べてみようと思う。なぜ禁止エリアに指定されたか解かればと思ってね。
それから俺たちは先にE9エリアへ向かう。さっきも言ったけど決戦は避けられない以上、地の利はあったに越した事はない」
理央は黙って聞いている。もしかしたら、何かあった時二人で行くと話はついているのかも知れない。
話は解るがセンが適任なのだろうか。センは傷だらけなのだ。それに引き換え、まだ竜也は無傷だ。
378 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:21:15 ID:+tFpkdAy0
「それならやっぱり俺がブドーの所へ行くよ。人を捜すのはおまわりさんの方が得意だろ」
怪我を前面に押し出して行くなと言うのは、センのデカレンジャーとしてのプライドを傷つける気がした。
だからおまわりさんと理由付けたが……。
「いや、行かせてくれ。これはね。俺の警察官としてのリベンジでもあるんだ」
こちらの方が地雷だったらしい。
「俺があの時、ブドーを捕まえていれば。2人も殺さずに済んだわけだから」
『この場においても既に二人』ブドーが殺したとはシグナルマンから聞いていた。
救えたかもしれない二人、それを背負うセン。
プライドを傷つけるなんて、そんな軽い問題ではなかった。
竜也は次の言葉が見つからない。

「本官の許可無く勝手に行くんじゃない!」
いきなり竜也とセンの間にシグナルマンが割り込んだ。
「……スマン。つい興奮した」
一瞬だけシグナルマンは項垂れたが、すぐに顔を上げセンを見据えた。
「スモーキーがブドーに捕えられてしまったのは本官の失態だ。警察官としてのリベンジならば本官にもその責務はある。頼む、本官も一緒に行かせてくれ」
「シグナルマンにはブクラテスさんの護衛を頼もうと思っていたんだけど」
「頼む!本官に名誉挽回のチャンスをくれ」
仰け反るほどに手を合わせシグナルマンはセンに頼み込んだ。
「センさん。これだけ言ってるんだし、俺からも頼む」
竜也もシグナルマンの隣で手を合わせた。
「ロジャー。じゃ、行きますか。手数が多い方がこっちも何かと助かるし」
「おぉぉぉぉぉ!ありがとうセン」
承諾したセンにシグナルマンは、再び仰け反り返るほどに手を合わせた。

「二人とも、傷、痛みませんか?」
「いや、むしろその逆だ。躰の底から力が漲っている」
理央が答え、センは手を挙げた。
「俺も大丈夫。じゃ、行って来ます」
「みんな、スモーキーの事は本官に任せてくれ!必ず、必ず!!」
379 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:24:11 ID:+tFpkdAy0
最後に、万感迫る思いに言葉を詰まらせたシグナルマンがタラップを降りて行った。

竜也と菜月はその背中を見送る。
「竜也さん、行こう。きっと逃げちゃった人は怖くて仕方がないんだよ。一番最初の時の菜月みたいに」
そう言って菜月もタラップを降りる。
「待って菜月ちゃん!」
「先に下で待ってるよ。おじいちゃん。竜也さん。犬さん」
「バウ!」
一声上げてマーフィーが飛び降りた。
竜也はブクラテスの手の探知機に目を遣り反応の位置を確認する。
「えっと、こっから南西の方角か。まだたいして距離も離れていないな。よし行きましょうか、ブクラテスさん」
「……」
返事がない。
「ブクラテスさん!センさんも危険な人じゃないって言ってたじゃないですか」
「センの言う通りであればの話じゃ。悪いがワシはもうセンを信頼しておらん」
「何言ってるんですか。いい加減にしてくださいよ」
「竜也、気付かんかったのか?第二回放送で呼ばれた名前じゃ。ドギー・クルーガー。センは話す時ボスと呼んで追ったからのぅ。ピンとこなかったんじゃな」
そういえば。宇宙警察地球署の署長ドギー・クルーガー。センが尊敬すると言っていた上司。
「センの仲間はもう一人残らず殺されたんじゃ。何らかの心変わりがあってもおかしくないじゃろう」
「センさんの気持ちを考えたらどうです。それなのに弱気なところを見せずに頑張ってるんですよ」
「じゃがな、それからのセンはどうじゃ。一人で森を突き進み、ここに来るのもほとんどセンの独断じゃった。そして今度は皆にばらばらの行動をとらせようとする」
「どうしてそんな風にとるかな?」
「扇動はシュリケンジャーだけの専売特許ではないかも知れんぞ。懐に入り込んでから煽れば効果は抜群じゃからな」
竜也は半ば呆れかえっていた。何故疑いの目しか向けられないのだ。
「その点ワシはただ生き残りたいだけの老いぼれじゃ。頼む竜也ワシは死にたくない!ワシの傍にいてくれ」
ブクラテスは片腕で必死に竜也を掴む。
そこで竜也はようやくブクラテスはただの可哀想な老人なのだと気付いた。
仲間に裏切られ片腕を亡くしている。元より戦闘力などない。
380 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:25:10 ID:+tFpkdAy0
「だからって菜月ちゃん一人に捜させろっていうんですか?すぐ戻ってきますよ。心配なら探知機と睨めっこしていて下さい」
極力優しい言葉を掛け、竜也はタラップを駆け降りた。
(センさんに限ってそんな事あるわけないだろ)
だが、何故か胸騒ぎがする。
気丈に振舞うセン。対照的に怯えるブクラテス。
演技だとしたら、二人ともアカデミー賞級だ。

(どちらを信じるか……。それより、今はとりあえず逃げた人を追う。そうすれば、きっと)



∵・・・・



(マーフィーちゃんごめん!いつか必ず助けるから)
おぼろは必死で走っていた。

………………優勝を狙う以上シュリケンジャーもいつかは倒さなければならない相手――――――

…………シュリケンジャーを倒すための人質――――――

動き出したジェットコースターの様子を確かめに近づいた時、その声が耳に飛び込んだ。
381 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:25:52 ID:+tFpkdAy0
何人もの声が混じっていたのと、着ぐるみのせいで聞き取れたのはそれだけだった。
だがそれだけで充分何者であるかは判別できた。
その証拠にマーフィーはおぼろを飛び越えその声の主へ突進したのだ。

(あいつらシュリケンジャーを倒す気なんや。 誰かおると思って近づいたら、よりによってマーダーの集団やなんて! )

おぼろは走る。
イカズチ丸を握り締め、唯一信頼しうる仲間、シュリケンジャーを救うため自分に何が出来るのか。
それだけをひたすら思いながら。




【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない?センは?
第一行動方針:逃げた誰かを追う。
第二行動方針:菜月の力になる。
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
382 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:26:20 ID:+tFpkdAy0
【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー。SPライセンス
[道具]:バンキュリアの首輪
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:ブドーを仲間に引き入れるため画策。連れ帰ってジャッジを下す。
第二行動方針:シュリケンジャーを危険視。
第三行動方針:理央、シグナルマンと共にこのエリアを探る。
※首輪の制限を知りました。
※ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。

【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:ダメージ小。腹に打撲痕。かなり凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数1個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵 、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:自分の無力さに強い怒りと悲しみ。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。 セン、理央と共にこのエリアを探る。
第三行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第四行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
※首輪の制限を知りました。
383 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:26:46 ID:+tFpkdAy0
【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね、首輪探知機、毒薬(効能?)
[道具]:タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:探知機を握りしめ、接触を避ける。
第二行動方針:出来れば竜也に助けて貰いたい。
※首輪の制限を知りました。
※センと同じ着衣の者は利用できると考えています。

【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:健康。真墨の遺品を目にしたことによる深い悲しみ。
[装備]:アクセルラー、スコープショット
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本、ひしゃげた真墨の指輪
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す 。
第一行動方針:逃げた誰かを追う。
第二行動方針:竜也、ブクラテスのサポート。
※首輪の制限を知りました。
384∵疑心暗鬼 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:30:22 ID:+tFpkdAy0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:左胸に銃創、肩から脇の下にかけて浅い切り傷(手当て済み) ロンへの強い怒り。幻気が浸食中。
[装備]:自在剣・機刃@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:スモーキーを救い出す。 ブドーと戦う。
第三行動方針:弱者を救ってやりたい。 このエリアをセン、シグナルマンと共に探る。
※首輪の制限を知りました。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 遊園地内中央付近
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み。ティターンに似た怪獣の着ぐるみを着ています。
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を捜す。
第一行動方針:シュリケンジャーを捜す。
第二行動方針:見つけたマーダー軍団をなんとかしなければ……。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。
385∵疑心暗鬼 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:30:51 ID:+tFpkdAy0
【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:D−7都市 1日目 日中 
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:菜月と共におぼろを追いかける。


386∵疑心暗鬼 ◆MGy4jd.pxY :2009/07/18(土) 00:34:18 ID:+tFpkdAy0
以上です。
誤字脱字、指摘、分かりにくい、等頂ければありがたいです。
感想も頂ければ嬉しいです。

タイトルは

∵疑心暗鬼

でお願いします
387名無しより愛をこめて:2009/07/18(土) 00:55:47 ID:3WIuRY7WO
投下GJです!
ああ、センにしろ、蒼太にしろ、良かれと思ってやった事が、逆におぼろさんを追いつめることになるなんてorz
蒼太に置いていかれたことで、孤独を感じ、追いつめられたおぼろさんの心理描写が秀逸でした。

一転、遊園地で遊ぶ菜月たちにはなんだかこちらまでホッと息をついて、和みました。
そんな光景もまた、疑心に駆られたおぼろさんには悪巧みの場にしか見えないとは。
そんな彼女を追いかける2人の運命やいかに。
果たして、竜也はセンへの疑心をふりきることが出来るのか?
緩急の付け方が絶妙で、次の展開が非常に楽しみになる作品でした。
GJです!!
388名無しより愛をこめて:2009/07/25(土) 17:52:24 ID:1CbmkaCZO
予約キター
389名無しより愛をこめて:2009/07/30(木) 03:07:32 ID:9whxkBzR0
漏れら極悪非道のageブラザーズ!
今日もネタもないのにageてやるからな!
 ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧   ∧_∧    age
 (・∀・∩)(∩・∀・)    age
 (つ  丿 (   ⊂) age
  ( ヽノ   ヽ/  )   age
  し(_)   (_)J
390名無しより愛をこめて:2009/08/04(火) 12:23:52 ID:ao2rgzek0
予約kita-
391Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:48:14 ID:5lDFasze0
予約楽しみにしてます!

では、ただいまより投下します。
392Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:49:33 ID:5lDFasze0
今日のクエスター・ガイは、最高にツイてるwww

捨ったデイパックの中からパワースプリッティを見つけた時はマジでそう思ったぜ。
なにしろ歌い文句は「飲むと元気が出て楽しい気分になる@パワースプリッティ」
栄養ドリンクだか何だか知らないが、コイツで少しでも体力が回復すりゃ儲けモンだっつーくらいボロボロだったからな。
「開封後はお早めに。原液ですので薄めて飲用ください」
と書かれた注意書きに目を走らせた頃には、半分以上飲んじまった後……。
んぁ〜、どうだったかな。その辺はよく覚えてねぇ。なんせもう心臓に直接アルコール打ち込んだ位には回ってたwww
どのみち薄めようにも水なんざとっくに切らしてたしよ。
んでもってやたらとハイになったオレは殺した奴等をつまみにパワースプリッティを飲み干して……。

Zzzz。。。

気が付きゃこのザマだ。最っ悪だぜ。
オ〜イ、オイオイオイ。最高にツイてたから後は落ちるしかねぇってワケか?
それにしたって、この状況は余りにもヒデェ。

1、オレを見下ろす二人の男。(理央ともう一人の黒装束。コイツは理央からセンと呼ばれていた)
2、オレは鉄骨の柱へ極太の有刺鉄線で雁字搦めに縛られた上に、
3、ド頭にはきっちりグレイブラスターの銃口を付きつけられてやがる。
4、身体のダメージは最高潮。おまけにパワースプリッティのおかげでド頭が割れるほど痛ぇ。

周囲の景色からしてオレがいた場所じゃねぇのは一目瞭然。
ごろごろ転がった石を囲むフェンスの上に巡らされたバラ線。
『DANGER』の文字が控えめに主張する立ち入り禁止の看板。視線を翻した遥か向こうに立ち並ぶ摩天楼。
って事はだなぁ、都市と採石場の切れ目H8か、I8辺り。
しかも有難い事に、この場所までバイクで引き摺って来てくれたらしいな。
393Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:50:00 ID:5lDFasze0
足の甲から踝に掛けてまるでスニーカーソックスを履いた様に装甲が削れてやがる。

「……え。おまえ、聞いているのか?」

聞いてるかだと?
名前?殺し合いに乗ったのか、だの。何人殺しただの。
その後はもうまともに聞いてやってるワケねぇだろ。
そんな事よりオレは今この状況をどうやって切り抜けるのか考えなきゃならねぇ。
いわばオレはマーダー、おまえら対主催者がマーダーから情報聞きだした後はどうするかは読めてるんだよ。
これじゃ、ぶっ倒れる前に浮かんだせっかくのアイデアがよぉ!このままじゃクソの役にもたたねぇ。

ん、ちょっと待て。
アイデアを思い出した繋がりでロンの顔が浮かび、ついでに広間での一件まで脳裏に蘇った。
そ・う・だ・よ〜。
コイツ対主催者のスター『理央さま』じゃ〜ん。
まぁ、2番煎じだけど揺さぶってみっか。

「オ〜イ、待てよ。俺を殺したら分からなくなるぜ。メレってみどりのねぇちゃんの居場所」

一瞬でも隙が出来りゃ、オレを縛り付けてるこの有刺鉄線、ヘタすりゃ引きちぎって逃げれるかもしれねぇ。
そ〜んな淡い期待を持ちつつオレは理央にぶつけてみる。
ただ、そんなパフォーマンスを実行できる余力があるかどうか自信はねぇがな。
さっきから塞がらない傷口が悲鳴を通り越して咆哮を上げてやがる。
パワースプリッティが麻薬代わりに、オレの舌と頭を軽くしているだけだゼ。

「フッ、小賢しい。メレを引き合いに出してオレを篭絡するつもりか」

だが、残念な事に理央はオレから全く目を反らさず……。
394Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:50:25 ID:5lDFasze0
あのねぇちゃんと違って、一瞬の隙さえオレに与えなかった。

「へっ、バ〜レちゃったぁ?」
「残念だったな。オレは大儀のために殺し合いに乗った。メレの命も、いずれその礎となる」

それどころか堂々と殺し合いに乗っただと。
絶体絶命。オレを生かしておく理由が爪の先程もミアタラネェ。
それでもオレは必死にこの危機的状況をひっくり返そうと策を巡らせていた。

さて、口説きやすいのは?
オレは理央とセンの顔を見比べる。
コイツか?いや、やっぱコイツか。
センはどういうイキサツか知らないが、理央の方は大義名分があって殺し合いに乗ったってか……。

「……ま〜だ、死ぬワケにはいかねぇんだよ」

オレは理央を睨みつけ、わざと振り絞るように声を漏らした。
大儀なんて理由をつけたがるのは人間の浅はかなところだ。
だったらそこに付け込んでやりゃいい。

「高丘流をぶっ潰すまでは。ボウケンジャー高丘映士との決着をつけるまでは絶対に死ねねぇんだよ!!」
「……高丘映士だと?おまえと因縁のある者か」
「あぁ、そうだぜ。オレたちを封じた高丘一族の末裔。高丘映士を皆殺しにするまではなぁ!」
「だが、おまえの生殺与奪はオレに握られている。どうするつもりだ?」

半分は真実、半分は芝居かかったオレの言葉に理央が乗ってきた。
395Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:51:03 ID:5lDFasze0
そしてオレは、その千載一遇のチャンスを逃さなかった。

「どうするも何も、おまえらオレに頼み事があるんじゃねぇのか?どう見たって善人には見えないオレを助けたのはそういう事だろ」

理央はセンと顔を見合わせ、オレに銃口を向けたまま何故か後へ下がる。
そして腕を組みこちらを睨みつけるセンが初めて口を開いた。

「F9エリアにジルフィーザという者がいる。おそらくもう死んでいると思うが、ヤツの首が欲しい」
「はぁ?おそらくぅ」
「ジルフィーザはオレが殺したはずだった。だが先程の放送で呼ばれなかったのだ」
「簡単じぇねぇか。そいつはもう虫に息なんだろ。あぁ、殺ってやるゼ。だからさっさとこれを解いてオレのバックを……っと、危ねっ!」

オレの足元に何かが突き刺さる。
デイバックの代わりにセンが投げてよこしたのは黒い女の持っていた武器だった。

「そうだ。おまえの言う通り、ジルフィーザはもう虫の息だ。それで首を取って来い。首輪はおまえにくれてやる」
「な、ちょっと待てよ。これじゃ殺りズレェ。グレイブラスターをよこせよ」

頼む。せめて、グレイブラスターにしてくれよ。
グレイブラスターがありゃ、協力するフリして拘束を解かれた後、気の利いた台詞でも並べながら
オマエらに報復の2、3発を撃ち込んでやれるっての。

「ジルフィーザの首を挿げて戻ってきた暁に渡す」
「オイオイ、どっちが悪役かわかんねぇな。それはオレのモンだろォ」
「勘違いするな。おまえに交渉の余地などない。理央、時間の無駄だ」

センのその言葉を受けて理央はひらりとバイクに飛び乗る。
396Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:51:29 ID:5lDFasze0
グレイブラスターは理央の手からセンへと移った。
センの手によって再びグレイブラスターの照準がオレへと向けられる。

「オレたちはおまえと手を組んだつもりはない。瀕死のおまえでも利用価値があるならばと思ったまでだ」
「ちっ、しくったか?だが待てよ。すぐに撃たないのはオレの返事を期待してるからだろ。
もうあの女の持ってたヤツでいいぜ、ジルフィーザの首を取ってきてやるからよぉ?さっさとこれを解きな」

オレは早く拘束を解けとばかりに体を揺すろうとした。
喉の奥から呻きが漏れる。
たったそれだけの動作で激痛が走り、がっちりと身体に食い込んだ有刺鉄線の棘という棘から体液が噴き出す。
そして、理央とセンはオレを見ながら……。
笑ってやがった。

「何故、俺たちがすぐに撃たないのか。まだ察しが着かないようだな」
「今の時刻は12時59分50秒。おまえは次の禁止エリアが何処か知っているのか?」

完璧に決まったその台詞。
オレの周囲だけ急激な圧力変化でも起こったのかってぐらいの重圧が乗っかってきた。
おまけに身体から嫌な汗まで出てきやがる。
オマエらの狙いは一つじゃなかったってワケか。
禁止エリアでマジに首が吹き飛ぶか、確かめるつもりだったとはな。
全くこのオレとした事が。従順な犬のフリに徹しときゃ良かったぜ。
だがな、あの女の武器は胸糞悪かった。そりゃ仕方がねぇだろ。

「理央、何なのだ?これは。首輪が、煌めき出した」
「おそらく、ここから首輪が爆発するまでが20秒。19、18、17……」
「まるで溶けていくようだな。ガイ、聞こえないか?」

あぁ。聞こえてるぜ。まさしく、溶けていくって音がよぉ。
気化したガソリンが外に漏れるっつーか。空気が漏れるみてぇな音。
逃げねぇと死ぬな。マジで……。
397Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:52:13 ID:5lDFasze0
まず、後ろ手に縛ってある手首から。いや、身体を動かして隙間が出来りゃ。
むしろ鉄骨ごと引き抜いてってぇぇぇぇぇ!!死ぬほどイテェだろうがなぁぁぁぁ!!!!!!

「16……」
嫌だね。聞きたくねぇが、聞こえるモンはしょうがねぇ。
理央のヤローが数えるカウント、シューシューと空気の漏れるような音。
それと、オレの身体が出す音。

「15……」
有刺鉄線の棘が皮膚を突き破る音。        
激痛なんて生易しいもんじゃねぇぇぇぇぇ!!だが、耐えられねぇならっ!
空気が漏れるような微かな音。    

「14……」
有刺鉄線が引き裂くオレの肉の音。
はははははは!!どうなってやがる!首が飛ぶ前に手足が千切れそうだぜぇぇっ!!!         
空気が漏れるような微かな音。  

「13……」
有刺鉄線に引き裂かれた身体から噴き出す体液の音。                              
理、理央のヤロー。余裕かましてカウント数えやがってぇ。へ、へへっ。カ、カ、カウントッ、ヤベェ……。
398Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:52:40 ID:5lDFasze0
空気が漏れるような微かな、音。

死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死ぬ、死ぬ、死ぬ、    
死、死っ、死し死し死し死し死し死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死ぃししししししししししいぃぃししししししししししいししししいいっ!?!?!      

空気が漏れるような微かな、音。オレの喉から迸る、絶叫。

「ししししししししししししししあああああぁあああぁぁぁぁあああぁああああああぁぁぁっっ―――!!」

ありったけの声と力を振り絞るオレを他所に。
残り10秒。
理央はカウントを取るのを止め、何かを囁きやがった。

「ハヴァ……スディ…トゥ…ダ……」

あぁ?
何だって……。
最後は首輪が爆発する音に掻き消されちまって、聞き取れなかったゼ。


▲  †  ▲


「この先で死んでいた女へのせめてもの弔いだ。二度も頭を潰されるのは忍びないからな」

アーユーオールライト?
そう心の中で付け加えながらミーは放心状態のガイを見下ろした。

「どうした?爆発したのはH7で死んでいた女の首輪だ」

黒装束の男、ガイの前ではセンと呼んだサラマンデスも楽しげにガイを見下ろす。
399Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:53:28 ID:5lDFasze0
当のガイはまだまだダウン。
戦意喪失って感じなんだろう。気力も体力も、充分殺がれたようだね。
だけど、やはりオーバーなぐらい有刺鉄線を撒きつけておいて正解だったよ?
ユーを利用するなら、これくらいの荒療治じゃないと無理だろう。
しかしユーにとってはオーマイゴット。目覚めたらこんな状況に置かれているだなんて。
アイムソーリー。ミーはユーに対して同情を禁じ得ない。

ユーを拘束していた位置は禁止エリアとエリアの際。
そのすぐ後ろ数メートルの位置にH7で死んでいた女――真咲美希の首輪を置いたんだ。

ミーたちが放送を聞いたのは、炎の騎馬にまたがり彼女の居た位置に差し掛かった時。
そう、ちょうど1時から禁止エリアに指定されていた場所を通っていたのさ。
彼女の事はサラマンデスが知っていた。
無惨な様子からして、マーダーに殺された事も察しがついたよ。
ミーたちは、その傍らにあるスタッグブレイカーと首輪を回収し、エリア抜けようとしたところで倒れているユーを見つけた。
ガイ、ユーは勝利の美酒に酔いしれていたのかい?肝心な放送にも気付かず、惰眠を貪っているなんて。

そこで、ミーたちは一計を練りあげた。
おっと、ジャスト・モーメント。ユーを利用すると言い出したのはサラマンデスさ。
ミーにはとてもこんな計略は思いつかない。
まぁ、少しの脚色は着けさせて貰ったけれど。

ミーにとっても放送で何故ジルフィーザが呼ばれなかったは、やはり気掛かりだった。
ジルフィーザは辛ろうじて生きているだけだとは思ったけどね。
ただ、サラマンデスが覚醒した時に聞いた含みのあるロンの言葉は、見逃せない充分な懸念材料だ。
死んだと思っていたジルフィーザに、何か不測の事態が有ったのかもしれないだろう?
何故直接行かなかったか。それはね。
確かに、ミーの変身能力とサラマンデスの持っていた虹の反物で、姿を変えるのは容易い。
400Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:53:54 ID:5lDFasze0
でも炎の騎馬に乗った二人組じゃすぐに見破られてしまう。

ヘイ、ユー。こんな言葉を知ってるかい?
『a doomed mouse will bite a cat if he has no choice―――窮鼠猫を噛む』
古くからある言葉のように、反撃されて無駄にライフを削るなんて絶対にノー。
残りの人数はまだまだ多いんだ。だからユーを利用させて貰う事にしたのさ。

もちろん、こんな本心と素顔は、ユーに隠したままでね。

「オレたちはおまえの命を救ってやった。そしてジルフィーザの首を取ればおまえの首も繋がる」
「おまえに親切に禁止エリアを教えてくれる者などいないだろう」

サラマンデスとミーは代わる代わる決め台詞を言うようにガイへ告げた。
だけど、ユーには悪いがミーたちには一石二鳥の収穫だったよ。
禁止エリアの真実とキミの支配。
ガイ。ユーはただユーを助けただけじゃ、駒として動いてくれないだろう?
それにさっきの言葉はユーにも当て嵌まるからね。
だからユーに噛まれないように恐怖で支配させて貰うよ。

もう充分、聞き逃した残り二つの禁止エリアを判別するために、どれだけ首輪が必要なのか解っただろう。
たっぷり禁止エリアの恐怖を味わったユーは、ジルフィーザの首輪を奪い、どの場所が禁止エリアなのかを確かめながら進むしかないんだ。

「理央……。大儀ってヤツのせいか?広間でとは随分人が変わっちまったなぁ。まぁ、どーでもいいけどよ……。
もし、おまえらの仲間に会ったら。特にみどりのねぇちゃんにな。オマエらが殺し合いに乗ったとかって言っちゃってい〜んだよな?」

パチン。
ユーの不適な笑顔に思わずミーは指を鳴らした。
さすが立直りが早い。
そうだな。こんな時、どういえば理央らしく聞こえるかな。
401Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:55:17 ID:5lDFasze0
広間でのメレは理央に忠誠を尽くしていたようだったから……。

「何故殺し合いに乗ったかはメレには言えぬ。だがメレならば、俺に尋ねることもするまい。そして言わずとも解るはずだ。己が取るべき行動が」
「確かにそう言やぁオレからの言葉でも伝わるかもな。んで、おまえら残り何人まで組んでるんだ?」
「5人だ」

ミーはサラマンデスにしたのと同じように、片手を広げて見せた。

「5人か、まだ遠いな。減らすの手伝ってやろうか?」
「あぁ、そうだな。だがオマエがその中に残るには……。解っているな」
「選抜メンバーには残ってやるぜ。それで?ジルフィーザの首はどーすりゃいい」
「次の放送の時刻にF7で、そこまでなら戻ってこられるだろう」

オーケイ、ガイ。
そろそろ拘束を緩めても大丈夫みたいだね。
ユーと組む気なんて、ミーには無いけど。
包帯もあるし、それなら応急処置ぐらいはしてあげるよ。
そしてソーリー。
見る限りサラマンデスにも、ユーと組むなんて、そんな気はさらさら無いようだね。


▼  †  ▼


手元に残ったのは、黒い女が持っていたスタッグブレイカーのみ。
……命を落とすよりは、マシだがな。

オレは溜息を付き足を引きずりながら砂漠を目指した。
あの黒い女が言ったとおりなら、E9にはバイクもあるらしいしな。
まぁしょうがねぇ。
402Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:56:06 ID:5lDFasze0
それにオレの思いついたナイスアイデアのためには、どのみちもう一人死体を作らなきゃならねぇ。

オレは後ろを振り返り、アイツらと充分距離が出来たのを確かめた。
ナイスアイデアをロンに聞いて貰わなきゃならねぇからな。

「ロン、聞こえてるか?つーか聞いてんだろ。禁止エリアを教えろなんて野暮な話じゃねぇから出てこいよ」

しばらく、オレは歩きながらロンが現れんの待った。

無理か。
まぁ、ハナッから無理は承知だ。
だがこのままじゃ、優勝どころか高丘とも殺り合えねぇ。
第一アイツらの取りこぼした残飯処理みたいなモンに利用されるだけなんて、ガイ様のプライドが許さねーんだよ。

「ロン、聞けよ。こういうのはどうだ?3人殺したら欲しいモン、御褒美にくれるなんてのはよぉ」

馬鹿笑いして死んだ黒い女は、自分が殺害数トップだと言っていた。
女が殺したのは3人。
ジルフィーザを殺せば、オレが対。

「ちょ〜っと、最初の方で手違いがあってなぁ。このザマだゼ?解んだろぉ、オレが欲しいのは回復アイテムだ。
オマエ楽しみたいんだよな、なぁ、ロン!聞いてくれんなら、オレがもっと面白くしてやるゼ!!」

結局。
ロンは来なかったがな。
もし、聞き入れるとしても、次の放送からだろう。
餌を与える時は、食らいつくヤツ全員の前にぶら下げるんだろうからな。

オレは諦めずに顔を上げ、砂漠を睨み付け……。
403Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:57:01 ID:5lDFasze0
そして、このクソ暑い砂漠を歩いて超えるのに、水一滴ないことに気付いちまった。


▲  †  ▲


「6時間後、もしガイの名前だけが呼ばれ、兄上が生きていたとしたら……」

サラマンデスの呟きに思わずミーは祈りを捧げた。
ジーザス!
この皇子は随分甘やかされて育ったのかも知れないな。
本当は今すぐにでもジルフィーザが死んだかどうか確かめたくてしょうがないようだ。
ナッシング。そんなわがままには、何時までも付きあっていられない。
軽く流すに限るね。

「その時はその時さ。幸いゴウライチェンジャーも手に入ったしね。制限的にはこちらが圧倒的に有利なんだから☆」

そう、ゴウライチェンジャーが手に入ったのはラッキーさ!
バット、それを持っているのがミーじゃなくてサラマンデスだっていうのが問題なだけで。
だからスタッグブレイカーをガイに渡したんだけど。

ドントウォーリィ。ミーは自分に言い聞かせる。
心配いらない。
だって両方を手に入れるチャンスは、これからいくらでもあるからさ。
404Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:57:26 ID:5lDFasze0
炎の騎馬のアクセルを全開、排気音を高らかに吹かせた。
そしてミーはとても晴れやかな気持ちで走り出す。

さぁ、新しい駒――ガイが動きだした。

ヘイ、ガイ。
せいぜい必死に足掻いてミーたちが張った計略という名の網を広げてくれ。
メレや理央、センに竜也、果てはユーと敵対するボウケンジャーの面々までね。
しばらくミーはサラマンデスとその様子を眺めておこう。
ユーの命が尽きる頃までは、ね。

じゃ、ハヴァ ナイスディ トゥ ダァイ!




【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:H8採石場 1日目 日中
[状態]:健康。サラマンデスに成長完了。虹の反物を使って黒装束の男の姿になっています。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物、支給品一式(ドロップ、ジルフィーザ)、グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、ゴウライチェンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[思考]
基本行動方針:とりあえず優勝狙い
第一行動方針:シュリケンジャーと協力して、数減らし。
第二行動方針:第三回放送時、F7エリアでガイからジルフィーザの首を受け取る。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。
405Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:58:02 ID:5lDFasze0
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:H8採石場 1日目 日中
[状態]:健康。現在は理央の顔です。
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー
[道具]:SPD隊員服(セン)、基本支給品一式、 クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式×4(水なし)
マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獸刀@獸拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵、炎の騎馬。
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る
第一行動方針:扇動者となって、なるべく正面から戦わずに人数を減らす。
第二行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。 それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:第三回放送時、F7エリアでガイからジルフィーザの首を受け取る。
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・禁止エリアに入った時の首輪の効果を確かめました。

【名前】クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task23.以降
[現在地]:H8採石場 1日目 日中
[状態]:全身に裂傷、極度の重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。包帯により止血済み。
[装備]:スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る。
第一行動方針:ジルフィーザの首輪を取りに&バイクを探しに一応F9エリアへ向かう。途中誰かにあったら理央、センが殺し合いに乗ったと伝える。
第二行動方針:使えそうな道具を作る。アイテムの確保。 ロンへ一方的に御褒美の交渉中(3人殺したら1アイテム)
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。2人殺しました。
※天空の花@魔法戦隊マジレンジャーはH-7(禁止エリア)海岸エリア美希の死体の近くにあります。 美希の首輪は爆破されました。
※マシンハスキーは鍵付きでG-7エリアに放置されています。(ガイはF9エリアにあると思っています)
※操獸刀の予備知識を得ました。
※瞬の不明支給品はパワースプリッティ@未来戦隊タイムレンジャーでした。
406Have a nice day! ◆MGy4jd.pxY :2009/08/04(火) 20:59:13 ID:5lDFasze0
投下終了ですが、自分で気になるところがあります。
>ガイがパワースプリッティによって酔ってしまうか。
と言う事なんですが、どうでしょうか。

アシュ=人類が進化する過程で別系統の進化を辿った高等生物>なので、
地球人に効き目のあるパワースプリッティ(原液)に酔ってしまうのではと考えました。
ただ自分でも確信はないので、代案としてガイが酔った描写を疲労と傷により気絶に修正しようかとも考えております。

>首輪の爆発する描写
一存で書いてしまいましたので、構想のある方や、従来通りの方が良ければ書き直そうかとも。

そのほか矛盾、設定ミス、指摘、気が付いたら遠慮なくお願いいたします。
ご意見を頂ければありがたく思います。
よろしくお願いします。

また、以前投下したSSについても指摘があればお願いします。
407名無しより愛をこめて:2009/08/05(水) 01:39:09 ID:97oPwA7b0
GJ!
狂犬ガイを手懐けるとは、シュリケンジャーとサラマンデスの策略恐るべし。
そして、その行動は何とも理央らしい!
メレに今回の行動が伝わればどうなるかと思うと、今後が非常に気になります。
また、ガイもロンを相手に交渉を行うとはただでは起きません。
マーダー三者の三様な様が面白い作品でした。

パワースプリッティは読んでる最中、まったく違和感を感じませんでしたので、そのままでよろしいかと。
首輪もそのままで良いと思います。
408名無しより愛をこめて:2009/08/05(水) 22:13:39 ID:sJH9Znhe0
投下GJです!!
パワースプリッティ、首輪の描写、ともに問題なしだと思います。
首輪爆発までの下りは、ガイと一緒にハラハラしてしまいましたw
シュリケンジャー相変わらず引っ掻き回してくれますね。
さて、シュリケンジャーのこの計略はどこまでロワを混乱に陥れてくれるのか………
個人的には、メレに伝わる時が非常に楽しみだったりw
ガンバレ!ガイ!向かう先には怒髪天のジル兄が待ってるぞ!………あれ、いきなりピンチ?w
それぞれの思惑と策略の描写に引き込まれる作品でした。GJです!!


409 ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 20:52:55 ID:yq0L287f0
ただいまより投下いたします。
410拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 20:54:39 ID:yq0L287f0
(もう駄目や………これ以上、走られへん)
荒く息を吐きながら、引き摺るように足を動かしていたおぼろは、手頃な物陰を目にするとそこに身を滑り込ませた。
勢いを殺さず走り込んだ為に、その狭苦しい露店のあちらこちらに体を打ち付けるが、かまってはいられない。
所狭しと飾られていた景品らしき大小様々なぬいぐるみが、うずくまったおぼろ目がけて降り注いだ。
重みを煩わしく感じながら大きく息をつくと、体中から汗が噴き出し、濡れた服が纏わりつく。
積み重なった疲労が一挙に押し寄せたように体は重く、もう一歩も動ける気がしなかった。
(さすがに、きぐるみ着て全力疾走は無茶やったな)
殺した息の中で乾いた笑いがこぼれ落ちる。その笑みが引きつっていることは、鏡を見ずとも顔のこわばりでわかった。
じっとしていると体ががたがたと震えだした。
体が冷えているわけではない。それは吹き出す汗と、一息ごとに噎せ返るような熱さを持つ吐息が示している。
武者震いと強がりたくとも、こわばった頬が、背を伝う冷たい汗が、それを許さない。
情けなかった。何も出来ず、ただ何もかもから逃げ、こうして震えることしか出来ない自分が。
けれど、今の自分に何が出来るというのだろう。
シュリケンジャーにその身の危機を知らせに行く?どこにいるかもわからないのに?
万に一つ、この状況から逃げおおせて、シュリケンジャーの元にたどり着けたとしても、この足だ。
彼の命を狙う者への道案内になるのが、オチだ。
ならば、とおぼろは効かぬ視界を眇めて、己の手元に目を落とす。
ごわごわとしたウレタンと布の肌触りの向こうから、握り締めたイカヅチ丸の冷たい感触が伝わってくるようだった。
せめて一太刀………無理だ。返り討ちにあうのがせいぜい。
411拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 20:55:33 ID:yq0L287f0
それに。
怖い。人を、人間を傷付けるなんて。まして、誰かを殺すなんて。そんな恐ろしいこと自分にはとても出来そうにない。
では、どうしたらいいのか。ただ途方に暮れ、ここで追っ手の手が掛かるのを待つしか出来ないのか。
孤独と動揺と恐怖に、おぼろの心は押し潰されそうになっていた。
考えてみれば、自分がここに来て完全に一人になったのはこれが初めてだった。
二度ほど、ロンと対峙することはあったが、ただ目の前の悪への怒りに打ち震えるばかりで、その時は孤独を感じる暇などなかった。
いつも、自分の傍には誰かが、蒼太やマーフィーがいた。
(なんや。よう考えたら、うち………)

―――今までだって、何も出来てなんかないんやないか。

ひたすら蒼太について回って、蒼太の傍で何かを出来ているつもりになっていた。何を?
首輪の解除?
なんの根拠もなく、そこに到る道さえ考えず、自分なら出来る。ただそう思っていただけ。
参加者を助ける?
纏は何も出来ずに、死なせてしまった。ドロップと瞬は今や行方も知れない。さくらは………その結果が今だ。
何も出来ていない。命も信頼も絆も全て失ってしまった。こんなもの何もしていないのと変わりない。
現実から逃げて、マーフィーも置き去りにしてしまって、ただただ怯えているだけ。
蒼太に置いていかれたと、一人きりになったと気付いた時、『何故?』と思った。
何もしていない自分が何故こんな目に、何故こんな思いをと。
自分を置き去りにした蒼太を、置き去りにされた自分の現状を恨めしく、やるせない気持ちさえ感じた。
けれど、それも当然だった。
誰かを救う為ならば、時に他の誰かを切り捨てなければいけない。
ならば切り捨てるべきは誰か?誰を救うべきで、誰を見捨てるべきなのか。
412名無しより愛をこめて:2009/08/10(月) 20:56:44 ID:0K/WvMA9O

413拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 20:57:50 ID:yq0L287f0
この場でもっとも蒼太から切り捨てられるべきなのは、きっと自分だ。

何故なら、自分は一度『彼を見捨てている』のだから。

あのままにしておけば、彼はきっと死ぬ。それは分かっていた。
他に手立てなんかない。少なくともあの時も今も、おぼろには何も思い付きはしない。
それなのに。自分はあの時、あの手を振り払った。

(そっか。そうやったんや。はは、ほんま情けな)

何もしていないのに、ではなく、何もしていないから置いて行かれた。ただそれだけだった。

頬を滴が幾筋も伝う。熱気や汗とは違う物が視界を曇らせる。
それでも、恐ろしくて嗚咽は漏らせなかった。
嗚咽をこらえ、声を殺し、息も殺す。心臓の音と耳鳴りがいやに大きく聞こえた。
静かに、静かに、静かに、静かに、静かに。
ただそれだけを自分に命じ続けるおぼろの耳が、微かに何かの音を聞き取った。
最初は微かに小さく。徐々に大きく鮮明に。

―――それは、二組の足音だった。―――

足音はやがて止まる。おぼろが潜んでいる場所の、そのすぐ間近に。確か目の前は広場のようになっていたはずだ。
足音の主たちは何事か話しているようだったが、ウレタンで出来た着ぐるみと、激しく響き続ける心臓の音と耳鳴りに邪魔をされ、意味をうまく聞き取れない。
おぼろに出来ることは息を殺し、ただ祈ることだけ。
このうるさく響く心臓の音は、聞こえてはいないだろうか。
ああ、何故ここを隠れ場所に選んでしまったのだろう。
414拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 20:58:36 ID:yq0L287f0
やがて、耳鳴りに紛れて、一人が遠ざかる足音が聞こえてきた。
もう片方はまだ近くにいるようだ。
どうしたらいいのだろう。もう一人の隙を見て、ここから飛び出すべきだろうか。
けれど、相手は何か武器を持っているかもしれない。上手く逃げ出せたところで今の自分ではきっとすぐに追いつかれる。
おぼろが逡巡していた時だった。
軽い足音が耳に響いた。やがておぼろのすぐ傍らで足音は動きを止める。
飛び出したい衝動をこらえ、縋るようにイカヅチ丸を握り締める。
ふと、先程まで感じていた重みがわずかに軽くなったと感じた。
気のせいではない。一つ、また一つとおぼろを覆うようにしていたぬいぐるみ達が剥ぎ取られていく。
恐ろしくて、後ろを振り向けない。逃げ出さなくてはと思うのに、動くことができない。
肩にかかっていた一番大きな重みが消え去った。
振り向けぬおぼろの背に、愉悦を含んだ声が降りかかる。

「……見〜つけた〜」

415名無しより愛をこめて:2009/08/10(月) 20:59:38 ID:ga+h7NYb0
支援
416拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:01:17 ID:yq0L287f0



「おっかしいなあ〜、いないねぇ竜也さん?」
周囲をキョロキョロと見て回っていた菜月は、くるりと振り向くと竜也に向けて小首を傾げて見せた。
「うん。………確かにこっちに向かったはずなんだけど………」
首輪探知機の反応を見る限り、小走りより遅い程度の速度でしか進んでいなかったので、追いつけると踏んでいたのだが、思ったより遠くへ行ってしまったのだろうか。
(やっぱり出遅れたのが、マズかったかな)
今、彼らの傍らにマーフィーはいない。
ブクラテスを一人置いていくと知った彼女が、傍にいてやって欲しいと言い聞かせてしまったのだ。
菜月の傍らで、散歩に出かける前のように思いっきり尻尾を振り回していたマーフィーは、抗議するように吠えた。
連れて行けとせがむように、頭を菜月や竜也の足に擦り付けるが、宥めるような手つきで撫でる菜月に、耳と尾を垂れ、すごすごと引き返していった。
竜也としては、むしろマーフィーではなく、彼女を残して行くべきかと思ったのだが、表情から伝わってしまったのか、『また子ども扱いする〜!』とふくれられてしまった。
心の中で小さく溜息をつきながら菜月を見ると、ニコリと笑いかえしてきた。
邪気のない笑みに、頭を撫でることでかえすと、嬉しそうに目を細める。
こういうところは、やっぱり少し子どもっぽい。
(いや、むしろ子犬っぽいか?)
菜月そっくりの子犬が元気よく尻尾を振っている姿を想像して小さく吹き出す。
急に吹き出した竜也を、菜月が少し安堵したような、不思議そうな顔をして見つめている。
正直に言えばまたふくれさせてしまいそうだと、言い訳を口にしようとした時だった。
菜月の頭ごし、入り組んだ路地の向こうにちらりと動く影が竜也の目を掠める。
「竜也さん!?」
「ごめん、菜月ちゃん!すぐ戻るからそこで待ってて。あ、なんかあったら変身してセンさん達のとこに!!」
早口で菜月に言い置くと、竜也は影の消えた路地に向かって駆けだした。

 ■
417拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:02:23 ID:yq0L287f0

「も〜、竜也さんったら」
シグナルマンといい、彼といい、なんだか大げさなまでに子ども扱いされている気がする。
「まったく。菜月だって、強き冒険者なんだよ………」
近くにあったベンチに腰掛けると、小さく尖らせた口から、溜息のように呟く。
そういうところが、彼らに子どもっぽいと見なされているのだが、菜月は気が付いていない。
ふと、広場に設えられた小さな露店に目が止まる。
そこには、菜月が自室のベッドに並べているようなぬいぐるみ達が、所狭しと並べられていた。
別にそれで気を引かれたわけではないが、菜月には妙に気にかかった。
自分でもなかなか上手く説明のできないこの感覚を、菜月は真墨に拾われてから時々感じることがあった。
そして、そういう時は大抵、『何か』があるのだ。
どうしようかと少し迷う。竜也を呼びに行くべきだろうか。
ひょっとしたら思い違いかもしれない。そうじゃないかもしれない。
もしも、本当にあそこにいるのならば、自分が竜也を呼びにいく間にどこかへ行ってしまうかもしれない。
そうしたら、二度と巡り会えることはないかもしれない。
菜月は、竜也と出会う前の自分を思い出していた。
一人で暗い夜の森を彷徨った、あの時。
恐ろしくて、心細くて、一人きりだということがただただ怖くて、がむしゃらに歩きまわり、声を上げることしか出来なかった。
ただ夢中で、誰かに見つかるとか、殺し合いにのった者が来るとか、そういうことは何も考えられなかった。
隠れているかもしれない誰か。その誰かもきっと、今、あの時の菜月と同じ思いを抱いている。
そう考えると菜月はいたたまれない気持ちになった。
早く、その状態から解放してあげたい。もう大丈夫だよと教えてあげたい。
ちょうど、自分が竜也にそうしてもらえたように。
大きく深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
(……よーし!!)
意を決し、露店へ向かって一歩を踏み出す。
(大丈夫、大丈夫。だってセンさん、きっと悪い人じゃないっていってたもん)
自分に言い聞かせるように、センの言葉を胸の中で繰り返しながら、菜月は歩みを進めた。
418拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:04:00 ID:yq0L287f0
胸が痛いほどに高鳴る。その感覚はどこか、ボウケンジャーとしてプレシャスを探す時のものに似ていた。
近付いて見てみると、遠目で見た通り、その小さな露店は何の変哲もない誂えだった。
設えられたカウンター。その奥には、くじか何かの景品だろうか?並べられた色とりどりのぬいぐるみ達。
よく真墨や蒼太さんにとって貰ったなと目を細める。つい最近のことのはずなのに、まるで遠い昔のことのように思えるのが悲しかった。
こういう瞬間にふと思い出す。真墨はもう『どこにもいない』のだと。
胸が先程までの高鳴りとはまったく別の意味で痛み出す。じわりと視界が滲むのを感じ、慌てて拭う。
今はまだ、泣けない。いつまでも泣いていては、また心配をかけてしまうから。泣くのは全てが終わってから。真墨の指輪を目にした時、そう決めた。
首を幾度も振ると滲んだ涙を振り払った。今は、目の前にあることに集中しなくては。
先程までいた位置からは死角になって見えなかったが、綺麗に並べられたぬいぐるみ達の一部が崩れ、小さな山を作り出していた。
その内の一つに手を掛けると、山がビクリと震えた気がした。
ああ、やっぱりここだったのかと安堵と緊張が入り混じった不思議な感覚のまま、手を動かす。
一つ一つ、その山からぬいぐるみ達を救い出していくと、あらわれたのは、うずくまった巨大なぬいぐるみ、もとい、怪獣のきぐるみだった。
一瞬、『怪獣さん!?』と驚く。
だが、遠目ならばまだしもこれほど間近で見れば、今うずくまって震えているこの人がお馴染みの怪獣たちではなく、遊園地のアトラクションでよく見かけるきぐるみを着ているだけなのだということは、さすがの彼女にもわかった。
ふっと一息つくと、努めて明るい声で声をかけるが、振り向かない。
聞こえなかったのかな?と、身を屈めると、もう一度声をかける。
「あの、大丈夫?えっと、菜月たちは味………方…………?」
それ以上、言葉が続かなかった。
419拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:05:01 ID:yq0L287f0

「………あ……………れ?」

よろよろと後ずさると、膝がかくりと折れる。
目の前には、呆然と立ち竦む深緑色のきぐるみ。その大きな手は真っ赤な血に濡れていた。
ふと、自分の胸元に目を落とす。そこには深々と突き刺さった忍者刀。
思わず手をかけ、その刃を引き抜くと、迫り上がってきた熱い塊が口から吹きこぼれた。
灼けつくような熱さと、急激に襲う寒さを感じながら、菜月の意識は黒く閉ざされた。

 ■

「なんだ、お前。結局ついてきちゃったのか」
ちらりと見えた影に反射的に駆けだした竜也を待っていたのは、探し人ではなく、置いてきたはずのマーフィーだった。
どうやら、こっそりついて来たのを見咎められたと思い、思わず逃げ出してしまったようだ。
怒られたと思ったのかうなだれるマーフィーに目線を合わせるように膝をつくと笑いかける。
「だめじゃないか。菜月ちゃんに怒られるぞ」
「くぅ〜んー」
その金属で出来た硬い頭を撫でると、甘えた声を上げて掌に擦り付けてくる。
そのまるで血の通う生き物のような仕草に、竜也は目を細めた。
「よしよし。まあ、気持ちはわかるよ。お前もいっしょに探したかったんだよな?」
「バウ!!」
『わかってくれるのか!!』と言わんばかりに、尻尾を千切れんばかりに振る。
「よし!」
膝についた土埃を叩いて払うと、行儀良くお座りして見上げてくるマーフィーに手招きした。
「ほら、行くぞ!菜月ちゃんを置いてきちゃったんだ。急いで戻らないと」
「ワン!!」
420拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:05:51 ID:yq0L287f0



「な……んで………」
一瞬、竜也には目の前の光景が飲み込めなかった。
何故、ほんの少し前まで笑っていたはずの少女が力なく身を横たえているのだろう?
その胸元から絶え間なく、溢れているあの赤い物はなんだ?
呆然とするその目に、今にも倒れた菜月に向かって襲いかかろうとする怪人の姿が映った。
ほとんど何かを考える暇もなく、竜也は駆け出す。
声も枯れろと叫ぶのは、たった一つのボイスコマンド。

「クロノ!!チェンジャー!!!!!!!」

瞬く間にクロノ粒子に包まれたその足から鋭い蹴りを放つ。
重い一撃を受けた怪人は、声も立てずに吹き飛ばされた。
(なんだ………?)
手応えがおかしい。蹴りを放った瞬間に感じたのは、いつものロンダーズ囚人達の強固な皮膚ではなく、まるで………
ふと目を落とすと、衝撃で弾け飛んだ生首が虚ろな瞳を竜也に向けていた。
その傍に転がるのは、頭をもぎ取られ倒れ伏す怪人の骸。
骸は咳き込みながら、顔を上げる。ウレタンのかむりを奪われた乱れ髪の女の顔を。
きぐるみを身につけた女は、苦悶の色を浮かべて、菜月を、竜也を見つめる。
声にならぬ呻き声は何を伝えたかったのか。だが、竜也にそれを構う余裕はなかった。
構えを解くと、クロノスーツを解く暇さえ惜しんで菜月の元に駆け寄る。
マーフィーが悲しげに鳴きながら、揺り起こそうとするように鼻を押しつけている。
日に照らされたその顔は紙のように蒼白く、呼吸は消え入りそうにか細い。
胸から溢れ出た鮮血は、彼女のジャケットの胸元を真っ赤に染め上げていた。
そっと抱き起こすと、力なく伏せられていた瞼が震え、ゆっくりと開かれた。
焦点が合わず、彷徨った瞳が一点に吸い寄せられる。

「………チーフ………?」

か細い呼吸と同じぐらいか細い声で名を呟く。
421拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:06:43 ID:yq0L287f0
彼女の瞳は竜也を、タイムファイヤーを映しながら、まったく別のものを見ていた。
『何を言っているんだ?』『しっかりしてくれ』そう言おうとして、声になる前に竜也は口を閉ざす。
名を口にした彼女の顔があまりにも穏やかな微笑みを湛えていたから。
今まで、自分たちは決して目にすることのなかった顔。
それはまるで、人混みで親とはぐれた子どもがやっと父親を見つけた。そんな安堵に満ちた微笑みだった。
あとほんの数分で解ける幻想。だが、その数分さえ、今の彼女には残されていない。
胸の傷は抑えても抑えても、彼女からその命を削り続ける。死の影は徐々に確実に彼女にせまりつつあった。
竜也が、どれほど自分の無力を嘆こうと、この理不尽な状況に怒りを叩き付けようと。
なら、せめて。彼女が独りにならぬように最期まで。この哀しい嘘を最後まで。
苦しげに咳き込み、その度に血を吐き出しながら。それでも彼女は何かを紡ごうと必死に血に濡れた唇を動かす。
「………あの、ね、………チ、ーフ………」
ただ頷く。それぐらいしかできないから。
「さくら、さ、んに………や、くそく、守れなくって………ごめん、ね……って」
必ず伝える。俺は、君の思ってる人じゃないけれど、それでも必ず。そう誓うから。だから。
誓いを込めて大きく頷くと、安心したような何かをやり遂げたような微笑みを浮かべて。彼女は静かに目を閉じた。
掴んでいた手がパタリと落ちる。彼女の胸元を染め続けていた赤が止まった。

「………おやすみ。菜月ちゃん」
まるで眠っているような彼女を、そっと横たえる。もう二度と目を開くことのない彼女は、よりあどけなく見えた。
拳が軋むほどに、きつく握り締める。
伏せていた顔を上げると、ただ呆然とこちらを見ていた女が後ずさるように身じろぐ。
うわごとのように、かさついたその唇が動くのをただ黙って見ていた。
ただ何も口にすることなく。目は唇の動きを追ったまま。ゆっくりと立ち上がると、一歩一歩足を動かす。
422拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:08:31 ID:yq0L287f0

『あの人が悪人じゃない証拠だ。だから助けてやって欲しいんだ』

『センの言う通りであればの話じゃ。悪いがワシはもうセンを信頼しておらん』

センの声が、ブクラテスの声が、何度も何度も何度も耳の中で繰り返す。
自分はまだタイムファイヤーのままだ。顔が見えているわけはない。
だがきっと、今の自分は酷い顔をしている。それだけは、自分でも苦しいほどにわかっていた。
気が付けば、すぐ目の前に女の顔があった。へたり込んだ姿勢のままで、見開いた目で、竜也を見上げている。
竜也の握り締めた拳に目を移す。彼女は何かを悟ったような顔で、ゆっくりと目を閉じた。
吹き付けていた風が止んだ。拳をさらに握り締める。軋む音が耳に響いた。
強く強く握り締めた拳を頭上より高く振り上げる。
一つ大きく息を吐き出すと、竜也は勢いよくその拳を振り下ろした。

 ■
423名無しより愛をこめて:2009/08/10(月) 21:09:19 ID:0K/WvMA9O


424拳のゆくえ ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:09:22 ID:yq0L287f0
赤い炎のようなスーツを身に纏った男が目の前にいた。
その握り締めた拳を目にした時、おぼろが感じたのは、恐怖とそれを上回る安堵だった。
この先、生き残ったところでおぼろに出来ることは何もない。
何より、血に濡れたこの手で何が出来るというのだろう。どこへ帰れるというのだろう。
あの時、おぼろは完全に自分の生み出した恐怖心に飲み込まれていた。
ただ、この場から逃げ出すことだけを考え、イカヅチ丸を闇雲にふるった。
自分が刃を突き立てたあの少女は、ただ自分に笑いかけ、手を差し伸べていただけだったというのに。
殺すつもりはなかったなんて、単なる詭弁なのだと自分でもわかっている。
だからおぼろは目を閉じると、静かにその時を待った。願わくば早く終わらせてくれと思いながら。
だが、その拳が己に突き刺さることはなかった。
拳はおぼろを掠め、おぼろの傍らのアスファルトを深く抉っていた。
『何故?』きっとそんな顔をしていたのだろう。
「………この拳は、恨み辛みを晴らす為のものじゃない。人を、守る為のものだから………」
スーツ姿から人の姿へと変わった男が自分の拳を見つめながら、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「それに、誰かを傷付けることを。あなたを傷付けることを菜月ちゃんはきっと望まない。それだけ」
その拳を開き、おぼろに向かって差し伸べる。
「俺と一緒に来て貰います。俺の仲間に警察官が二人いるから。彼らの元へ連れて行きます」
その手を取ろうと手を差し出しかけ、止める。改めて目にしたきぐるみ姿の自分の手に、べったりと血がこびり付いていたから。
おぼろの様子から察したのか、竜也が後ろに回りファスナーを下げた。
ようやく、おぼろは煩わしく忌まわしく感じていた、柔らかい拘束から解き放たれる。
礼を言おうとして、おぼろは口をつぐんだ。彼は決して自分と目を合わせようとはしなかった。
やるせない感情を懸命に押し殺そうとしている竜也を見る。眠るように横たわる少女の傍らに悲しげに寄り添うマーフィーを見る。
425 ◆Z5wk4/jklI :2009/08/10(月) 21:12:55 ID:0K/WvMA9O
支援、ありがとうございます。
うっかりさるさんをくらってしまいましたので、以降は仮投下スレに投下させていただきます。
426拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:43:48 ID:gF7oUwty0
おぼろには一つの疑問が生じ始めていた。いや、それは既に答えとして形になりつつあるのかもしれない。ただ、認めてしまうのが怖いだけで。
おぼろは唇を噛むと、意を決して口を開いた。
「………なあ、なんであんたらシュリケンジャーを倒そうとしてるんや?」
「それは………」
困惑の色を滲ませる。
ただ優勝を目指しているのならば、自分を殺さずにすませる訳はない。ならば残されている可能性は、おぼろにとってたやすくは認めがたいただ一つ。
「別に俺たちは彼を倒す気はない。けど、彼を止めないと、傷つく人が増える。だって………」

『シュリケンジャーは殺し合いに乗っているから』

おぼろと竜也の声が示し合わせたように重なった。
痛みを感じたように、おぼろの顔が苦悶に歪む。
「………そっか。そやったかあ………」
それっきり押し黙るおぼろに、竜也が訝しげな顔で肩に手をかけようとした、その時。
「うっ…………」
がら空きだった首筋に、忍風館仕込みの当て身を叩き込む。
「一発で落ちんかったか。やっぱ、なまったなあ」
「………な、にを………」
朦朧とした意識のままで、あがくように竜也が声を絞り出す。
「………ごめんな。ほんまにごめんなさい」
竜也の目の前におぼろの手が迫る。
「うちは、シュリケンジャーの仲間、やから………」

―――それ以上、竜也がおぼろの声を聞くことは叶わなかった。
427拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:44:29 ID:gF7oUwty0




服を整える。口元にこびり付いた血の跡を拭う。
それらを終えてしまうと、おぼろにはもう彼女に出来ることは何も残されていなかった。
苦悶の色のない眠っているような穏やかなその顔に、わずかに救われるような気がするのと同時に、己の罪をまざまざと突きつけられた。
自分を傷付けられなかった優しい青年は、まだ意識を失くしたままのようだった。
自分は彼の優しさも裏切ってしまった。罪悪感に胸が痛む。
刺すような悔悛の痛みを抱えながら、おぼろは立ち上がった。
歩き出そうとしたおぼろは、強く裾を引かれ、軽くのめる。
振り向くと、そこには必死におぼろを引き止めようとするマーフィーの姿があった。
「マーフィー」
行かせまいとするように鳴くマーフィーに目線を合わせる。
「ごめんな。うちはやっぱり一緒にいけんよ。だって………」
そこまで言いかけておぼろは首を振った。
「大丈夫や。うちなら一人でもやってみせる。全部終わったらちゃんと償う。やから………」
それ以上、言葉を続けたら余計なことまで口走ってしまいそうだった。
そうしたら、賢いこの子は気付いてしまうだろう。自分はあまり嘘が得意なほうではないから。
だから振り向かずに走った。振り向いたら立ち止まってしまいそうだったから。
少しでも遠くへ。マーフィーの声の届かないところまで。全力で。


どこをどう走ったのかよく覚えていない。
気が付けば、芝生敷きの休憩所のようになっているところに立っていた。
(………ここでええか)
どのみち、これ以上は足がもつれて走れそうにはない
428拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:45:10 ID:gF7oUwty0
振り仰ぐと、空の蒼さが染みるほどに眩しかった。

結局は全て自分の思い違いと疑心ゆえだった。あの身も心も苛むような恐怖も、シュリケンジャーのことも。全て。
彼らはただ、自分を救おうとしてくれていただけだったのに。
おぼろには、今更とても彼らと行動を共になどできなかった。
だって、自分の手は今もまだ血に濡れている。
表面だけ拭ったところで、罪のない少女を手に掛けた自分の罪は消えない。
そんな自分がそばにいれば、きっと彼らの妨げになる。
作り上げたばかりの信頼や絆はいとも簡単に崩れていく。バラバラになってしまった自分たちのように。
これ以上、彼らから何かを、誰かを奪う。それだけはどうしても避けたい。今はただ、それだけ。
シュリケンジャーが、今もまだ殺し合いに乗ってしまっているなんてことは、信じがたいし、信じたくもなかった。
けれど、彼らが嘘を付いていたとも思えない。
だとすれば、シュリケンジャーにも何かが起きたのだろうか。
強い彼が絶望するような何かが。弱者を守るのではなく、弱者を狩り、優勝を目指すことを決意させる何かが。正義ではなく、大義をとらせる何かが。
ならば、彼に頼ることさえ、もう出来ない。
自分に彼が止められるとは思えないし、彼に自分を殺させることもしたくないから。
だが、結局のところ、疲れ果ててしまったのかもしれない。
人を、しかも本来は自分たちが守るべき者である少女を殺してしまったという事実が、おぼろにとってあまりにも重かった。耐え難いほどに。
疲労と動揺で回らぬ頭で必死に考えて、行き着いた結論。
もはや、誰の役にも立てない自分の、これが、彼女へのせめてもの償い。
いざ、その時になって、自分がイカヅチ丸を置いてきてしまったことに気付く。
「まあ、しょうがないな。あれがあれば首輪が台無しにならんから、うちも誰かの役に立てたかもしれんけど」
429拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:45:51 ID:gF7oUwty0
ひとりごちて、こんな時にさえのぞく、自分の技術者根性に少しだけ笑う。

静かに芝生の上に跪く。
ゆっくりと自分の首元に。そこに光る首輪に手を掛けた。
その姿はどこか、神に祈る殉教者のようだった。

(―――お父ちゃん。鷹介。七海。吼太。一甲ちゃん。一鍬ちゃん―――)
残してしまう彼らの顔が胸によぎる。
もう、彼らの元に帰れない。それだけは少し悲しかった。
大きく息を吐き、いよいよ首輪を引き千切ろうと、手に力を込める。
(なんでや?)
何故、最期の瞬間に胸をよぎったのが、父でもなく、ハリケンジャーたちでもなく、ましてゴウライジャーたちでもなく。

一番最初に見た。月光を後ろに不敵に笑う。最上蒼太の笑顔だったのだろう。

(ああ、そうか。うちはただ―――――――――)

どこか遠くで、悲しげな犬の遠吠えが聞こえる。
日向おぼろの最後の意思は、爆散の凄まじい勢いに掻き消され、空気に溶けて消えていった。



【日向おぼろ 死亡】
【間宮菜月 死亡】
 残り 24人
430拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:46:33 ID:gF7oUwty0

【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D−7都市 1日目 午後 
[状態]:気絶中。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:仲間を探す。ブクラテスは信用できない?センは?
第一行動方針:???
第二行動方針:???
※首輪の制限を知りました。
※クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。


【名前】マーフィーK−9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:D−7都市 1日目 午後 
[状態]:本調子ではないが、各種機能に支障なし。深い悲しみ。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:気絶している竜也を守る

おぼろと菜月のディバック、及び、イカヅチ丸はD−7都市、遊園地内広場に放置されています。
431拳のゆくえ ◇Z5wk4/jklI 代理:2009/08/10(月) 21:47:14 ID:gF7oUwty0
以上です。
誤字脱字、指摘、ツッコミ、感想などございましたら、よろしくお願いします。
432名無しより愛をこめて:2009/08/10(月) 22:12:17 ID:8z+LDxtSO
あぁっorz鬱なのにっ!
何故か美しさを感じさせる作品だ。
寒気と寂しさとせつなさに襲われました。
これじゃあロンがロワを楽しむのも無理ないわw
投下乙!そして代理投下乙です。
支援間に合わず申し訳ありませんでした。
そして書き手氏に惜しみなく超GJ!
433名無しより愛をこめて:2009/08/11(火) 11:25:58 ID:2oB3rYY+0
投下乙です。
菜月が遂に死んでしまった……。最期の言葉が可哀相。

一つ指摘を。
タイムファイヤーなのに掛け声は「クロノチェンジャー」で変身できるんですか?
434 ◆Z5wk4/jklI :2009/08/11(火) 12:09:26 ID:K/qczido0
代理投下、感想ありがとうございます。

>>433
一番好きな追加戦士なのに、何やってんだ私orz
仮投下スレにて、修正版を投下しておきます。
ご指摘ありがとうございました
435名無しより愛をこめて:2009/08/11(火) 21:27:58 ID:KWji1x1G0
GJ!
お互い殺し合いに乗っていないというのになんという悲劇。
竜也が手を汚さなかったのが救いですが、今後は一体どうなるのか?
また、432さんと同じく、なぜか美しさを感じさせる作品だったと思います。
436 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:33:40 ID:KWji1x1G0
ただいまより投下いたします。
437禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:34:32 ID:KWji1x1G0
 ウメコの埋葬を終えたヒカルはその場に座り込むと、俯き、物思いに耽っていた。
 心配した映士が何度か声を掛けるが、ヒカルはにべもなく「少し、黙っててくれないか」とだけ告げる。
 そう言われては映士も黙るしかなく、ただ時間だけが過ぎていった。
 だが、ここは殺し合いの場。止まることは許されない。
 犠牲者を知らせるロンの声が、静寂を破り、その場に響き渡った。
「ちっ」
 まるで挑発するかのような言い回しに、映士は不快感を覚えた。そして、それと同時に菜摘のことが気になり始める。
 死んでいった者たちには悪いが、今回の放送で呼ばれた参加者たちは面識がなく、馴染みが薄い。
 怒りこそ沸いて来るが、悲しみには直結しない。
 だが、菜摘はどうだろうか?
 今回の放送には菜摘の仲間、陣内恭介の名が含まれていた。
 ヒカルでさえこの有様だ。菜摘は彼以上に深く、酷く、傷ついているかも知れない。
(ヒカルも心配だが、菜摘も放ってはおけねぇ。仲代が慰めてくれていればいいが、あいつにそんなことは期待出来ねぇしな。
 これ以上は待ってられない。こうなりゃ、首に縄を掛けてもヒカルを――)
「ドモンに会いに行く」
 映士が決意を固めるとほぼ同時。ヒカルはスッと立ち上がると、映士の返事も聞かず、歩き出していた。
 突然のことに呆気に取られる映士だったが、すぐに思い直すと、ヒカルの後を追う。
 ヒカルの真意はわからないが、菜摘を探す道筋とドモンを探す道筋は一緒。ヒカルがドモンに会いに行くと言うのなら止める必要はない。
 それにずっと塞ぎこんでいたヒカルが自発的に動きだしたのが、映士には何より嬉しかった。
(歩き出したってことはもう大丈夫なんだよなぁ、ヒカル。俺様たちはスーパー戦隊だもんな)
 映士は噤んでいた口を開くと、再び、ヒカルに声を掛けた。



 ウメコの元を発ち、およそ1時間後、ヒカルと映士は、ヒカルがビビデビから襲撃を受けた場所へと辿り着く。
438禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:35:17 ID:KWji1x1G0
 粉砕した岸壁。抉られた砂浜。そこで戦闘が行われたことは明らかだった。
「ひでぇ有様だ。だが、二人とも放送で呼ばれなかったってことは痛み分けに終わったみたいだな」
「痛み分け?違うね」
 ヒカルが注目したのは足跡。高台に立ったホテルへと伸びている足跡とそれと別つように伸びる何かを引き摺ったような跡。
「どっちがどちらの足跡からは解らないけど、勝負自体の決着は着いた。
 片方は身体を休めるためにホテルへ。片方は傷を庇いながら逃げていった。それがこのふたつの印だ」
 解らないとは言いながら、ヒカルはおそらく負けたのはドモンだろうと予想していた。
 壬琴もドモンもその名前は呼ばれていない。
 映士から与えられた情報によれば、好戦的ではあるが、壬琴は殺し合いには乗っていないという。
 対して、一歩を踏み出すため、標的を求めていたドモンが、勝利しながらも相手を見逃すのは不自然だ。
 ドモンは負け、一歩を踏み出すには至らなかったのだ。
「なるほどな。じゃあ、とりあえずホテルに向かわねぇか?どっちがいるにしろ、合流できる奴とは早めに合流しておいた方がいいだろう。
 それに菜摘はこっちを壬琴だと思ったみたいだからな」
 ホテルへと伸びる足跡の隣、少し小さめの足跡が点々と続いていた。おそらく菜摘のものだろう。
「………」
 ヒカルは考える。
 一刻も早くドモンに会うためには寄り道などしていられない。
 ここは映士と分かれても引き摺ったような跡を追うべきなのかも知れない。だが、跡を辿るにも限界がある。
 たまたま砂浜だから痕跡があるが、そこを過ぎれば、手がかりは費えてしまうに違いない。
「そうだね、行くとしようか。急がば回れという言葉もある」
 ドモンが壬琴と戦い、一体どういう状態になったのかを知れば、少しは探しやすくなるかも知れない。
 消極的ながらもヒカルは賛成し、彼らは一路、ホテルへと歩を進めた。



 砂浜を越えた頂に立つ小さなホテル。その一室にネジブルーはいた。

――仲代壬琴――

 その男の情報はネジブルーを昂らせた。
439禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:36:49 ID:KWji1x1G0
 是非とも顔を合わせたい相手だ。
 仲代壬琴を求め、砂浜にあった足跡を頼りに、ホテルへとネジブルーは辿り着く。
 だが、そこには痕跡こそあるものの、何者の姿もなかった。
「う〜〜〜ん、どうやら行き違いになったようだね〜」
 正直、がっかりだ。だが、同時に納得もしていた。
 ビビデビから聞いた限り、仲代壬琴は自分と近しい人間のように思える。
 そんな男がこんな状況で、いつまでも同じ場所に留まっているはずはない。
「まあいいや、そう簡単に死ぬはずはないし、死んだら死んだでそれまで。予定通り、海岸廻りを続けるとしよう」
 さて次はどこへ進もうかと、窓から外を見渡すネジブルー。
 そんな彼の瞳がふたつの人影を捉えた。
(あれは……)
 咄嗟に身を隠し、制限中とはいえ2.0を超える優れた視力で、対象を確認する。
 がっしりした身体つきの茶髪の男と、青いきっちりとした服を着た気品のある男。
(仲代壬琴か?いや、ビビデビの話から察すると、片方は……ふふっ、楽しくなってきたね〜)
 これからの事を思い描き、ネジブルーは邪悪な笑みを浮かべた。



「誰もいねぇな」
 ホテルに着いた映士たちは、壬琴を探し、ホテル内を下階から順に散策する。
 1階、2階、3階。このホテルの最上階である4階の部屋までくまなく探すが誰もいない。
「もうどこかに行ってしまったのかも知れねぇな。悪ぃなヒカル。無駄足踏ませちまって」
「気にしなくていい。君に賛成した僕にも責任はある」
 思わず口を出た棘のある言葉に、ヒカルは自分が苛立っていることを如実に感じた。
「すまない」
 謝罪の言葉を口にし、ヒカルは映士から顔を背けると、気持ちを落ち着けようと、そっと眼を閉じる。
 自分がやるべきことは決まった。もう迷いはないつもりだった。
 だが、心のどこかでは、これから自分が行う行動に躊躇いが残っているのだろう。
 ふと、ドモンと同じ色を持つ教え子の姿が脳裏に浮かんだ。
(なるほど、君が僕の迷いか。でも、僕はもう決めたんだ。もう、出てこないでくれ!)
440禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:37:32 ID:KWji1x1G0
 その姿を打ち消すように頭を振り、眼を開けるヒカル。
(あれは?)
 すると、今度は眼下に広がる砂浜に、ひとり佇む青の戦士の姿が眼に入った。
 初めは自分の迷いが見せる別の幻覚かと思い、眼を擦るがその男は消えなかった。
 間違いない。青の戦士は、今そこにいるのだ。
 だが、何故、青の戦士はこちらをゴーグルごしにじっと見詰めているだけなのか。
 敵なのか、味方なのか。ヒカルはその姿に見覚えはない。だが、似たような姿を持つ者なら心当たりがある。
(……まさか)
「おい。誰だ、あいつは?」
 ヒカルの横から声が上がる。いつの間にやら、彼の隣には映士が並んでいた。
 ヒカルが少しの驚きと共に、映士に眼を向けたそのとき、青の戦士が動いた。
 どこからか取り出した砲丸大の岩を、ヒカル目掛けて、投げつけた。
「!?、危ねぇ!」
 映士はヒカルを庇うように押し倒す。直後、聞こえるガラスの破砕音。散らばる無数のガラス片。
「ちっ!」
 そして、雫となり地面へ落ちる赤い液体。
「映士」
「ドジったな。だが、ほんのかすり傷だ問題ねぇ」
 流れ落ちる血を拭い、映士は再度、外を確認する。
 青の戦士は依然としてこちらをじっと見詰めていた。
 その不可思議な態度を映士は挑発ととったのだろう。左手首に付けたゴーゴーチェンジャーに手を添える。
「ヒカル、お前はここで待ってな。あいつが何者か確かめてやる。
 ゴーゴーチェンジャー!スタート・アップ!!」
 変身コードを叫ぶと同時に、映士の身体が眩き光に包まれたかと思うと、次の瞬間、彼の姿はボウケンシルバーへと変わっていた。
 ボウケンシルバーは素早く窓から飛び降りると、青の戦士と対峙する。
 すると、青の戦士は何を思ったか、踵を返すと一目散に逃げ出した。
「待ちやがれ!」
 勿論、易々と逃がすボウケンシルバーではない。青の戦士を追って、大地を蹴る。
(止める暇もない。まるで魁のようだ。でも、映士。君は待ってろと言ったけど、僕もただ黙ってここにいるわけにはいかないんだ。
 僕の予想が正しければ、あの人は……)
441禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:38:30 ID:KWji1x1G0
 残されたヒカルもこのまま黙って待つつもりはない。二人を追うべく、彼は部屋の扉を開けた。



「あの野郎、どこ行きやがった」
 懸命に追ったボウケンシルバーだったが、無数の岩に隠れつつ逃げる相手に翻弄され、その姿を見失っていた。
 何か罠があるはずだと、慎重に進んだのが仇となったか。
 だが、ボウケンシルバーは慌てない。彼にはこういう状況に最適な武装がある。
「サガスナイパー・サガスモード!」

―サーチスタート!―

 腰に携えたサガスナイパーを金属探知機の形状に変化させるボウケンシルバー。
 サガスナイパー・サガスモードはその名の通り、捜索対象を探すモード。
 金属だけではなく、プレシャスや人を探すことができる。

―ヒット!―

 早速、反応を返すサガスナイパー。
「そこだ!」
 ボウケンシルバーはサガスナイパーをスナイパーモードにすると、反応があった場所から少しずれた場所へと撃ち込んだ。
 大量の砂煙が巻き上げられる。
「見つけたぜ。今はわざと外した。お前の目的はなんだ?なぜ、俺様たちに岩なんて投げてきやがった?出てきて説明しやがれ!」
「………」
 サガスナイパーを構えたまま、相手を詰問するボウケンシルバー。だが、相手は何の反応も返そうとしない。
「だんまりかよ。なら、とりあえず拘束させてもらうぜ」
 ヒットした場所へと向かうボウケンシルバー。だが、そこには人の気配はない。
 代わりにあったのは、人型に見えるよう岩に掛けられた青いネジスーツだった。
「なんだこりゃ」
 勿論、ボウケンシルバーにはそれが何なのかはわからない。嵌められたことはわかるが、それも何のためなのか。
「どういうことだ。これが罠ならなんで攻撃してこねぇ」
442禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:39:21 ID:KWji1x1G0
 サガスナイパーで探知できたものはこれだけだ。少なくともサガスナイパーの探知範囲にはこれ以外、人も罠もない。
「なら、なんで俺様たちを挑発するような真似をしやがった。逃げるんなら、はじめから岩なんて投げる必要は……」
 ボウケンシルバーはそこでもうひとつの可能性に行き当たる。
 相手の狙いは自分ではなく、ヒカルだ。
「ちっ、俺様が邪魔だったってことかよ。やってくれるぜ」
 腹立ち紛れにネジスーツにサガスナイパーの光弾を打ち込み、破壊すると、ボウケンシルバーは元来た道を戻っていった。



 ボウケンシルバーが陽動に気付いた頃、ヒカルと青の戦士はホテルのホールで対峙していた。
「苦労したよ。君はてっきりひとりで行動しているものと思ってたからね」
 ホテルからボウケンシルバーを誘き出し、距離を稼いだ後、またホテルへと戻る。
 普通のスピードじゃあ到底できない。アクセルストップという超スピードで行動する能力を持つからこそ出来る芸当だ。
「あいつも殺し合いに乗った仲間なのかな?なら、あいつが戻ってきてから話そうと思うけど」
「いや、彼は殺し合いには乗っていない。話があるなら、僕だけでいい」
「そう、なら話すよ。まず、この姿を見ての通り、俺はタイムレンジャーのひとり、タイムブルー。ドモンの仲間さ」
 その言葉は事実ではない。
 もしこのタイムブルーが本来の装着者であるアヤセが変身したものならば、その言葉に間違いはない。
 だが、今、タイムブルーになっているのはネジブルー。タイムレンジャーとは縁もゆかりもない。
 そんな彼がタイムブルーを名乗り、ドモンの仲間と騙る目的はただひとつ。
 ヒカルをマーダーとして操るためだ。
 ネジブルーはビビデビから仲代壬琴のドモンへの対応を聞き、面白そうだと思っていた。
 そんなときにタイミングよくヒカルが現れ、ネジブルーはヒカルを操り人形とするべく、策略を講じた。
「やはりそうか」
 ネジブルーはマスクの下で薄く笑う。
(ひゃは、どうやら信じたみたいだね)
「僕のことを知っているというころはドモンにはもう」
443禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:40:34 ID:KWji1x1G0
「ああ、会ったよ〜。H5エリアの辺りだったかな。酷い傷を負っててね。とても戦える状態じゃなかったよ。
 それでも彼は一人でも減らすために北東に進んだ。これを君に渡してくれと僕に頼んでね」
 タイムブルーが取り出したのは彼の左手に装着されたものと同じブレスレット――クロノチェンジャーだ。
 それが誰のものかは言うまでもない。
「ドモンはもう覚悟を決めたんだろう。傷ついた自分が生き残るために使うより、まだ傷が浅い君が人数を減らすために使うことを望んだ。
 だから、これを俺に託したんだ。さあ、受け取りなよ。そして、ドモンの遺志を継ぐんだ」
 クロノチェンジャーをヒカルへと差し出すタイムブルー。
 だが、ヒカルはそれを受け取ろうとしない。
「どうしたんだい?まさか、殺し合いに乗るのをやめたとか言うんじゃないだろうね〜」
「……そのまさかだ」
「へぇ〜、どうして?死んでいった大切な人たちを生き返らせるんじゃなかったのかい?」
「答える前にひとつ聞きたい。君はなんで殺し合いに乗ったんだ?僕が言えたことじゃないが、仲間なら止めようとするんじゃないのかい?」
 ヒカルは思い出す。
 ドモンは殺し合いに乗ったが、仲間を探そうとはしなかった。
 それはこの場に仲間がいないか、いたとしても止められると思っていたからではないのか。
 だが、眼の前にいるドモンの仲間と名乗る人物は殺し合いに乗っていると公言している。
 それが解せなかった。
「なんだ、そんなことかい。仲間だからこそさ。あんなに必死な仲間の姿を見たら、協力しようと思うだろ。君もそうだったんじゃないか?」
「………」
「もう一度、訊くよ。これを受け取って、殺し合いに乗れよ〜」
 再度、クロノチェンジャーを差し出すタイムブルー。
 その言葉の裏には、自分の言葉に従わなければ、この場で殺すという真意が見え隠れしていた。
 要領のいい者なら、とりあえず口裏を合わせ、この場を乗り切ってしまうだろう。アイテムの増加は戦力の強化にも繋がる。
 だが、ヒカルは頭の回転こそ速いが、融通の利かない男だ。
「断る。僕は人としての禁忌を犯しはしない。勿論、ドモンにもね」
 はっきりと拒否の言葉を口にする。
 それはとてもタイムブルーの感に触る行動だった。
「そうかい。それは……残念だよ!」
444禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 21:41:28 ID:KWji1x1G0
 タイムブルーはディパックから一瞬の内にネジトマホークを取り出すと、それを横薙ぎに振るった。
 殺意を感じていたヒカルはその一撃を俊敏にかわすと、予め護身用にと、ポケットに入れていたゼニボムを投げつける。
「がぁぁっ!」
 小型ながらも強力な爆弾に怯むタイムブルー。
 その隙を狙い、ヒカルは走り、逃げようとする。
「させるか。クロノアクセス!」
 タイムブルーの手に握られる両刃剣、ツインベクター。
 タイムブルーはツインベクターの出力を上げ、破壊光線ベクターハーレーを放とうとする。
 だが、それよりも早く、別の破壊光線がネジブルーを貫いた。
「ぐわぁっ!」
 盛大に飛び散る火花。
 痛みを堪えながら、タイムブルーが破壊光線が飛んできた方向に眼を向けると、そこには光に照らされ、銀色に輝く戦士の姿があった。
「ちっ、時間切れってことか。ふん、まあいいや。」
 タイムブルーはボウケンシルバーを指差し、
「ぶら下げた餌に簡単に引っかかる奴も――」
 ヒカルを指差し、
「馬鹿正直に餌を拒否する奴も――」
 そして、マスクの下で再び薄く笑うと、
「そんなつまらない奴らはどの道、ここじゃあ長くないね。じゃあね。精々長生きできるよう頑張ればいいさ」
 アクセルストップを使い、その場から去っていった。



「ヒカル、大丈夫か」
 辺りを警戒しつつ、ボウケンシルバーはヒカルの元へと近づく。
「ああ、大丈夫だ」
「ヒカル。やっぱりお前……」
 ボウケンシルバーがヒカルとタイムブルーを確認したのは丁度、タイムブルーの誘惑に対し、ヒカルが拒否の言葉を伝えたときだった。
 信じていたとはいえ、ヒカルのはっきりとした言葉には胸が熱くなった。
 そのため、引き金を引くタイミングが少し遅れてしまったが、大事にならず一安心だ。
445名無しより愛をこめて:2009/08/11(火) 23:53:23 ID:KWji1x1G0
「よし、早速ドモンを探しに行くか。奴を止めるためにな」
 ボウケンシルバーはヒカルに背を向け、手で背中を示す。
「乗れよ。変身が解けるまで、まだ時間がある。少しでも距離を縮めるんだ」
「……そうだね」
 指示通り、ヒカルが背に負ぶさると、ボウケンシルバーは力の限り、走り始めた。
 次々と移り変わる景色。ヒカルは知る由もないが、ボウケンシルバーはタイムブルーを追いかけるときも、ホテルへ戻るときも全力で走っていた。
 それに加え、数時間前にも全力疾走を経験している。
 いくらアクセルスーツで筋力が強化されているといっても、持久力まではどうしようもない。
 数秒と経たない内に呼吸が乱れ始める。が、それをボウケンシルバーは根性で押さえ込む。
 ヒカルに心配を掛けないためだ。もっとも、密着しているヒカルにはバレバレだが。
 そんな一生懸命なボウケンシルバーにヒカルは多少の罪悪感を覚えた。
 確かにヒカルは殺し合いに乗らないことにした。ドモンを止めようとも思っている。
 だが、禁忌を犯そうとしていることに違いない。
(とりあえず、ドモンがまだ誰も殺していないことがわかっただけで収穫はあった。
 例え、修正される時間でも、そのような悲劇は起こらない方がいいからね)
 ヒカルはずっと考えていた。
 このままでは遅かれ早かれ、自分もドモンも人としての禁忌を犯すことになる。
 いや、自分やドモンだけではない。この殺し合いに巻き込まれた全参加者にその可能性がある。
 そして、それは決して止めることはできない。
 ならば、最小限の犠牲で最大の効果が得られる方法は何か。
 それはすなわち、自分の魔法だ。止めることができないなら、禁忌を犯す前に戻してしまえばいい。
(そう。僕にはその力が、魔法がある。
 この魔法を使えば、魔法世界の禁を破ることになる。そして、最後には世界を崩壊させることになる。
 でも、その崩壊も魔法を使った者の死によって止められる。
 たった一人の犠牲で皆が助かるんだ。このまま殺し合いが続くよりは遥かにマシなはずさ)
 またもヒカルの脳裏に教え子の姿が浮かんだ。
 以前、その魔法を使った教え子に、ヒカルは魔導師の一歩になると厳しく糾弾した。
 だが、皮肉にも今度はヒカルがその一歩を踏み出そうとしていた。
446禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 23:54:52 ID:KWji1x1G0
(この行動は決して勇気あるものじゃない。でも、例え魔導師師になろうとも果たしたいことがある。
 翼もこんな気持ちだったのだろうか?)
 今更、そんなことを思いながら、ヒカルは心の中でだけその禁じられし呪文を呟いた。

―ロージ・マネージ・マジ・ママルジ―


【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:左肩に銃創。胸に刺傷。共に応急処置済み。
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品一式×2(小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー
[思考]
基本方針:時間を戻し、歴史の修正を行う。
第一行動方針:歴史の修正を行うための準備をする(情報集め)
第二行動方針:深雪の首輪を奪おうとした裕作に不信感。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。また、映士から情報を得ました。
 マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
447禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 23:55:34 ID:KWji1x1G0
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:何度も全力疾走をしたことによる極度の疲労。ボウケンシルバーに変身中。
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ヒカルと共にドモンを探す。
第二行動方針:仲間たちと合流。
第三行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。 変身制限に気が付きました。

【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-4海岸 1日目 日中
[状態]:全身に打撲、切り傷あり。疲労困憊ながら、気分は高揚。タイムブルーに2時間変身不能。
 ネジビザールの力を1時間程度発揮できません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー(青)@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン
 ディーソードベガ@特捜戦隊デカレンジャー、クロノチェンジャー(黄)@未来戦隊タイムレンジャー
 スフィンクスの首輪、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、支給品一式×3(美希、スフィンクス、フラビ)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す
第一行動方針:次元獣化した並樹瞬を元に戻し決着をつける。そのため、最期の二人になるまで戦う。
第二行動方針:とりあえず海岸を一回り。
第三行動方針:強敵との戦いを楽しむ。
[備考]
2時間の制限を知っています。詳細付名簿は保冷倉庫で破られました。
448禁忌 ◆i1BeVxv./w :2009/08/11(火) 23:56:32 ID:KWji1x1G0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などありましたら、よろしくお願いします。
449名無しより愛をこめて:2009/08/12(水) 10:36:05 ID:GkelNoQ40
おぉぉぉぉぉ!ヒカル先生ェ〜!!
禁断の魔法リバースを使っちまうなんてorz
その悲しい決意が胸に痛いほどだ。
そして相変わらず策を巡らせ楽しませてくれるネジブルー。
wktkしながら一気読みさせてもらいました。
昨日の内に投下されていたとは、気がつかずに申し訳ありません。
GJでした!

一箇所だけ指摘を、
>>466
魔導師が魔導師師になっています。

450名無しより愛をこめて:2009/08/12(水) 10:46:59 ID:flVXVSAn0
投下GJです!!
代理投下間に合わずに申し訳ありません。
ああ、あの魔法を使ってしまうつもりなのか……
かつて自分が禁じた魔法を使うという、ヒカル先生の決意が物悲しいです。
ヒカル先生の絶望と、映士の希望が対比となっていてせつなかったです。
物悲しく、せつなくも引き込まれる作品でした。
それにしても、相変わらずネジブルーはロワ充w
451名無しより愛をこめて:2009/08/12(水) 16:49:54 ID:flVXVSAn0
まとめ氏、まとめ更新お疲れ様です。
いつもありがとうございます。
452名無しより愛をこめて:2009/08/13(木) 17:56:33 ID:TxbvX+mPO
予約きたー。楽しみにお待ちしてます!
453 ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:28:53 ID:NNmQo8Ru0
ただいまより投下します。
454インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:29:35 ID:NNmQo8Ru0
 二回目となる定時放送が、暁、さくら、蒼太の3人の耳に、否応なしに届く。 
「真咲美希……」
 聞き終えると同時に、蒼太がボソリと呟いた。
 無意識の行動だったが、それを聞いたさくらから疑問の声が飛ぶ。
「どなたですか?」
「僕がタワーで分かれた人です。彼女はティターンと一緒にドロップくんのお兄さんに会いに行ったんですが……」
 隠すことでもないと、改めて、これまでの状況説明を行う蒼太。
 タワーでのネジブルーらとの一戦。そのとき一緒に戦った仲間たちとの分岐。
 そして、ついでと、日向おぼろが救援を呼ぶために、仲間たちの後を追ったことも。
「………」
 罰の悪そうな顔をするさくら。
 日向おぼろが蒼太と分かれた原因を考えれば、無理からぬことだろう。
 説明を行った蒼太も居心地が悪そうだ。
 そんなさくらと蒼太の心情を知ってか知らずか、今度は暁が口を開いた。
「それなら、これからの行動は決まったな。場所がはっきりしている蒼太の仲間たちとの合流を優先する。ミッションスタートだ!」
 言うが早いか、開始の合図に指を鳴らすと、進行方向を変え、歩き出した。
 だが、その方向は禁止エリアで塞がれているはずの南東を指していた。
「チーフ。そっちは禁止エリアです」
「わかっている。だが、時間を無駄にはできん。最短ルートを目指す」
 それだけ言うと、話は終わりとばかりに暁はずんずんと進んでいく。
 こうなっては問答は無駄だと、これまでの付き合いで分かっているふたりは口を噤み、暁の後を追った。



(チーフはどうするつもりなのでしょうか?)
 禁止エリアは今、さくらたちがいるF5エリアを取り囲むように設定されている。
 禁止エリアを避けて、蒼太が示した合流地点であるG7エリアに進むために北へ向かうしかないのだが。
(何にせよ、チーフには何か考えがあるのでしょう。私たちは黙ってついて行けばいいのです)
 洗脳が解け、暁と共に行動する安心感が、さくらに若干の余裕を与える。
455インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:30:22 ID:NNmQo8Ru0
 すると、彼の脳裏には先の放送で告げられた二人の犠牲者の姿が浮かんでくる。

―陣内恭介― ―ドギー・クルーガー―

 ふたりともここで出会ったさくらの仲間だ。
(もし私がロンに洗脳されなければ、彼らは死なずに済んだのでしょうか?)
 客観的に考えれば、それは考えても仕方のない話だ。
 洗脳されたこと、それ自体はさくらのミスではないのだから。
 だが、それでもさくらは自責の念に追われた。自分が何かをしていれば、運命は変わっていた。
 そう思わずにはいられない。
「ここだ」
 暁の足が止まる。どうやら彼の目的とする場所についたようだ。
 さくらは気持ちを切替、暁の一挙手一投足に注目する。
「さくら、ここがどこだかわかるか?」
 さくらは辺りを見回し、頭に叩き込んだ地図と照合する。
「F5、F6、G5、G6、それぞれのエリアの丁度、中間地点でしょうか」
「その通りだ。俺たちはこれからここを超える」
 チーフの提案に息を呑むさくら。だが、すぐに平静を取り戻す。
(無謀かも知れませんが、チーフの言うことに間違いはありません)
 一方の蒼太も冷静なものだ。
「なるほど。ロンが言うには首輪が爆破するのは禁止エリアに入って20秒。
 中間地点を駆け抜けるだけなら、爆発する前に抜けることは充分可能ってことですね」
「その通りだ」
「でも、チーフ。それが本当だという保障はない。もしかして、ロンの罠という可能性も」
 慎重な蒼太らしい発言だ。
 さくらも同じことを考えていた。そして、確認するなら、まず自分が試したいとも思っていた。
 だが、蒼太と違って、暁に意見することはしない。
 何故なら――
「だから、これから実験する。罠か、罠じゃないかな。まあ、ちょっとした冒険だな」
456インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:31:37 ID:NNmQo8Ru0
 暁は滾るボウケンスピリッツを持って、常に率先して進む男だからだ。



 結論から言えば、暁の試みは成功。
 厳密に20秒かどうかはわからなかったが、少なくとも通過点を横切るだけの時間では爆発は起きなかった。
 それから邪魔が入ることもなく、情報交換を行いながら、順調に暁たちは目的地のG7エリアへと辿り着く。
 だが、そこには乗り捨てられたと思わしきバイクが1台あるだけで、何者の姿も見られなかった。
「誰もいませんね」
「ええ。だけど、こいつが乗り捨てられているということは、ここで何かあったと見るのが妥当でしょうね」
 この場においてバイクは貴重な移動手段だ。それをわざわざ放置していくとは思えない。
 そして、それは同時におぼろたちがここに来ていないことの証明にもなる。
(ということは、おぼろさんたちは迂回ルートを通ったってことか。それは都合がいいかな)
「チーフ、ここからは別行動をとりましょう」
「?、何を言ってるのですか。折角合流できたというのに」
「別に思いつきで言ってるわけじゃないですよ。キチンと考えた結果です」
 なおも詰め寄ろうとするさくらを、暁が制する。
「聞こうか」
「はい。まず僕らの当面の目的は他の仲間たちとの合流です。首輪を外すにしろ、脱出するにしろ、僕たちだけでは難しい。
 でも、一方でガイを止めなければいけない。彼が持つ天空の花を放置しておくのは危険です」
「それはわかりますが」
「幸いにも、ガイはまだ塔には辿り着いていないようだけど、もう着いていてもおかしくはない時間だ。一刻も早くガイを追う必要がある。
 ただ、これ以上、犠牲者が出るのを放っておくわけにはいかないでしょ。
 おそらく美希さんもティターンもここで何者かに襲われ、殺された。仲間探しもないがしろにしていいわけじゃない」
 蒼太はバイクに近寄ると、正常に動作するかを確認する。
 右手を動かせば、勢いよく排気音が鳴った。
 どうやら問題はなさそうだ。バリサンダーと比べ、扱いも容易そうに思える。
「うん、大丈夫。走りますよ、これ。燃料も充分。これがあれば直ぐに塔に辿り着けます」
「忘れたのですか、ガイには私たちのパラレルエンジンを無効化する力があることを」
457インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:32:27 ID:NNmQo8Ru0
「勿論、忘れてませんよ。前にも言った通り、先にアクセルラーが使えないと分かっていれば色々と打つ手はありますよ。
 どうですか、チーフ?」
 暁は迷いを見せず、即答する。
「いいだろう」
「チーフ!」
 さくらは不満気だが、暁の決定は絶対。蒼太は早速、バイクに跨る。
「じゃあ、バリサンダーは置いていきます。もし事が上手く運んだら、アクセルテクターにメモを」
「ああ、わかった」
「それじゃあ」
 走り出す蒼太。バックミラーに映る二人の姿がどんどん小さくなっていく。
(ふぅ〜、ようやく気が楽になったな)
 洗脳されていたとはいえ、さくらとは騙し、騙され、挙句の果てに刺された間柄だ。気まずいことこの上ない。
 スパイ時代の慣れがある蒼太はあまり気にしてなかったが、さくらが時折向ける罪悪感に満ちた視線はフェミニストの自分としては非常に堪える。
(まあ、こればっかりは時間が解決するのを待つしかないかな。さーて――)
 一瞬にして、蒼太の目つきが真剣なものに変わる。
(ロンは疑心暗鬼を煽れって、言ってたけど、対象については指定しなかった。
 つまり、殺し合いに乗っている相手を共倒れさせてもいいってことだよね)
 蒼太はようやく自分のやるべきことが見えて来た気がしていた。
 敵の懐に入り、内部から敵を崩壊させる。それにはヒュプノピアスも大いに役立つことだろう。
(まずはガイだ。ヒュプノピアスが実際、どういう風に働くか。こういうのをぶっつけで使うのは、流石に危険だから、君で試さしてもらうよ)
 傷だらけとはいえ、ガイはボウケンブルーに圧倒的なアドバンテージを持っている。相手にするにはいささか、手強い相手だ。
 だが、それでこそ達成する価値がある。
 命がけのミッションに、蒼太は胸を高鳴らせていた。
458インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:33:47 ID:NNmQo8Ru0
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:G-7都市 1日目 日中
[状態]:健康(不死の薬の効果により回復)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー、ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:仲間をこれ以上死なせない。
第二行動方針:ロンを倒し、仲間を生き返らせる。
第三行動方針:仲間を探す。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。

【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G-7都市 1日目 日中
[状態]:健康。洗脳下での行動に罪悪感。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)。聖剣ズバーン@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:明石暁と共に行動する。
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。蒼太から蒼太が今まで会った参加者の情報を得ました。
459インターミッション ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:34:58 ID:NNmQo8Ru0
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:G-7都市 1日目 日中
[状態]:健康(不死の薬の効果により回復)
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー 、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:目的を果たす為、ロンの出した条件を飲む
第二行動方針:ガイを探す
※首輪の制限と時間軸のずれを知っています。明石、さくらと情報交換を行いました。
460 ◆i1BeVxv./w :2009/08/13(木) 23:36:19 ID:NNmQo8Ru0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などございましたら、よろしくお願いします。
461名無しより愛をこめて:2009/08/14(金) 00:01:08 ID:TxbvX+mPO
投下GJです!
相変わらずの速筆、お見それします。

チーフ無茶過ぎるw
もう、そういうとこが非常に彼らしいですがw
蒼太さんもロンの言ったことを逆手に取るとは、さすが冒険者という感じでした。
果たして、これから彼は誰と出会うことになるのか、
ガイか?それとも………
次の展開が楽しみになる作品でした。
GJです。
462名無しより愛をこめて:2009/08/14(金) 09:39:56 ID:NB7nJqdOO
ウェーイ!
なんという清涼剤な作品。
この状況で覆してくれるとはさすがボウケンジャー!
ヒーローな展開、最高でした。GJ!
463名無しより愛をこめて:2009/08/16(日) 23:04:25 ID:LwXIAaBlO
遅ればせながらまとめ更新ありがとうございます!
464名無しより愛をこめて:2009/08/20(木) 01:10:29 ID:Z3uw/qGh0
保守
465 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:06:33 ID:zqHW7vRC0
ドモン投下します。
466 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:09:25 ID:zqHW7vRC0
そのスタジアムはエリアの中心にあった。

ツタの絡まる重厚な外壁。その割に造りは新しい。
アクリルの天窓から太陽の光が差し込むロビーを抜け、俺はまずシャワー室へ向かった。
重い扉を開け、身体から衣服を剥ぎ取る。
蛇口を捻り、頭から冷たいシャワーを浴びた。
勢いよく噴き出したシャワーが酷く傷口に染みる。
流れ落ちる水が真っ赤な渦を巻いて排水溝へ飲み込まれて行く。
俺は呻き声を抑えながら、掻きむしるように全身の血を洗い流した。

脱衣かごが並ぶボックスの上に積み上げられたバスタオルを一枚引っ張り出す。
身体を拭き終えると白かったバスタオルが赤いマーブル模様にかわっていた。
シャツに手を通しながら隣室へ繋がる通路を覗く。
シャワールームの横は、控室になっていた。
くたびれた茶色の長椅子が並んでいて、奥の棚には赤い十字架の描かれたプラスチックケースが置かれている。

俺は着替えを済ませ、プラスチックケースの中を漁った。
満身創痍のままじゃ、あいつらを殺すどころか拘束→介抱→説得なんて最悪コンボに叩きこまれかねない。
医療用テープを取り出し、全身に丁寧にテーピングを施す。
得に抉られた右手は傷口をすべて覆い隠すほどしっかり固定した。
右手に力を混め、片足で軽くジャンプして具合を確かめる。
多少ふらつきはするが、気力で充分カバーできる。
見た目も少しはマシになった。気持ちも、落ち着いてはいた。

「さーてと、行くかっ」

右手に忍者刀、左手に拡声器を持って、俺はグランドへと続く暗い廊下へ歩きだした。
停滞していた空気がひんやりとシャワーで火照った身体を包む。
この先は明るい。グランドの芝が眩しかった。
467 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:09:57 ID:zqHW7vRC0
控室からグランドまでの距離は、決意を鈍らせるほど長くもなく、必要以上に焦りを感じさせるほど短くもない。
今の俺には、丁度いい距離だった。

グランドは嘘のように静かだった。
無人の観客席を埋めるシートの赤が冷めた色に見える。
ライナービジョンがゲートから足を踏み入れた俺の映像を流した。
0が並ぶスコアボード。選手の名は空白。
その横の時計が1時を差していた。

咳ばらいを一つ。
俺はピッチャーマウンドに立つ。
拡声器のスイッチを入れ口元まで持ち上げる。拡声器が、傷だらけの腕を更に痛め付けるように重い。
たった数百グラム、ダンベルに代わりにもならない拡声器がだ。
クロノチェンジャー無し。
満身創痍。
そして今からやるべき、事。
そのすべてをひっくるめたら、俺の置かれた状況は、地方戦の決勝戦九回の裏といったところだろうか。

深く呼吸を吸い込み、セットポジションへ入った。
高まりを押さえ付け、そして……。

「竜也ァァァーーーーーーーーーッ!シオーーーーーーンッ!!俺、ドモンはこの殺し合いに乗ったーーーーーーーーーッ!!!」

勝負はストレートに賭ける。
いくら殺すからといって、騙し討ちはしたくなかった。
俺がもう少し利口なら……。
どうせ殺すんだ、と。
結果に至るまでの過程はどうでもいいと、変化球のように甘い言葉であいつらを誘っただろうか。
それはないな。
468 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:10:44 ID:zqHW7vRC0
どうしてかといえば、あいつらは仲間だからだ。

「俺が望むのは!愛する人にもう一度、家族をプレゼントする事ーーーッ!!」

だから殺し合いに乗った。
深雪さんを家族の元へ帰してやりたい。
おまえらにそれを解ってもらおうとは思わない。
ただ知って欲しかっただけだ。

「だからっ、俺がおまえらを殺すっ!他の誰かに殺られちまう前にっ!!」

『何かを失って初めて、その大切さに気づく』
なんて使い古された言葉だろうな。
まさか実感する時が来るとは思わなかったよ。
失われるモノであるからこそ、タイムレンジャーだった日々はこのマウンドの芝のようにキラキラと輝き、とても大切なものに思える。

息が詰まる。
次の言葉を口にできるまで数秒掛かる。

迷ったんだ。
どっちも大切だったんだよ。
秤れっこ、ないんだ。

身体を支えていた足から力が抜ける。
にわかに傷が痛みだす。
469 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:11:19 ID:zqHW7vRC0
生命の証のように、光り輝く芝生が目に映る。

……違う。

殺し合いに乗る。そう決意した時から。俺は、おまえらを仲間との絆を自分の手で断ち切った。

「おまえらとは仲間だった。だからっ!だからこそ、俺の手で殺さなきゃならないっ!!」

悪いな。竜也、シオン。
もう、後戻りは出来ない。
俺はおまえらを殺し、ヒカルさんと同じマウンドに立つのを選んだ。

「ここで待ってるぜ!俺はおまえらを殺すために!!ここで待っている!!早く来いっ。竜也ッ、シオーーーンッ!!!」

言い終えた俺はそのままピッチャーマウンドへ仰向けに倒れた。
景色は一転して青空。
俺は自分の放ったストレートの球筋を見送るように、その青空の奥を見つめた。


深雪さん。
これから俺が踏み出す第一歩を、きっとあなたは喜ばないんだろうな。

なぁ。竜也、シオン。
470 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:11:44 ID:zqHW7vRC0
何でだろうな。
おまえたちに会うえると思うったら、俺……。
何かホッとしてるんだぜ。


俺は立ち上がり、スタジアムベンチに座る。
ベンチに置いてあったスタメンの名簿へ、頭に浮かんだ名前を書き入れた。
気まぐれだとか、暇つぶしだとか、そんな類のラクガキ。
得にこれといって深い意味はなかった。

竜也、シオン、ユウリ、アヤセ。
そして、深雪さん。

忍者刀を胸に抱え、俺は無意識に流れた涙を拭った。
471 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:12:08 ID:zqHW7vRC0
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:G-6都市 1日目 日中
[状態]:身体中に無数の切り傷と打撲と火傷。特に右腕と左足は使い物になりません。
[装備]:闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、拡声器
[道具]:基本支給品一式(サーガイン)
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:仲間(シオンor竜也)を殺害する。
第二行動方針:壬琴とのゲームに乗る。
備考:変身に制限があることに気が付きました
472エリアの中心で、愛をさけぶ ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 13:15:49 ID:zqHW7vRC0
以上です。誤字脱字、指摘等、よろしくお願い致します。
473 ◆MGy4jd.pxY :2009/08/23(日) 22:48:30 ID:VGjHkPC9O
orzすみません。
拡声器の音量絞る描写削ってしまっていた。
さすがにドモン拡声器の時刻が1時だと厳しいので、そのエリアのみに聞こえる程度に抑えようと思っていたのに。

明日仮投下スレに修正投下致します。
申し訳ありませんでした。
474名無しより愛をこめて:2009/08/23(日) 23:02:10 ID:uXnGQYs6O
>>473
投下乙です!

短いながら、情景の浮かぶ描写に引き込まれました。
それにしても、ドモンが痛々しいですね。
優勝を目指していながら、どこか死に急いでいるようにさえ見えます。
相変わらず、胸にくる描写はさすがです。
修正版お待ちしてます。
GJでした!
475名無しより愛をこめて:2009/08/24(月) 19:37:07 ID:j0676lLW0
投下乙。
やっぱり、殺し合いに乗り始めたドモンにも仲間はとても大切な存在だというのが悲しいです。
まさか、ドモンと深雪の最初のSSが投下されたときは、こんなことになるなんて夢にも思いませんでした……。

それにしても、このロワは原作でヒーローだったキャラも容赦なくマーダー化しますね。
シュリケンジャー、白鳥スワン、並樹瞬、真咲美希……。
逆に、原作で悪役だったキャラも対主催に回ってたりして、ロワらしい面白さがよく出てる気がします。
476名無しより愛をこめて:2009/08/27(木) 15:55:01 ID:4DNYmN+F0
次スレが立っていたので誘導します。

スーパー戦隊 バトルロワイアル Part5
http://anchorage.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1251355800/
477名無しより愛をこめて:2009/08/27(木) 16:12:53 ID:o9wMVkk10
>>476
誘導ありがとうございます。
立ててから、自分がスレ立て宣言していなかったことに気が付きましたorz
申し訳ありません。以後、気をつけます。
478名無しより愛をこめて:2009/08/27(木) 21:46:04 ID:b9pqBSKkO
スレ立て&誘導乙でした!
479名無しより愛をこめて:2009/08/28(金) 01:21:43 ID:hhbp+Ora0
同じく、スレ立て&誘導乙です!
480名無しより愛をこめて:2009/08/28(金) 18:07:45 ID:zQBZIrDc0
遅ればせながら投下&新すれ乙!

これは……寂しいな
ドモン一人称なのが切なさや悲しさを加速させぐっとくる話でした
481名無しより愛をこめて
   __        /|\ /ヽ    __
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「ズバーン、ズバズバズバズババ。ズッバーン!」