【響鬼】鬼ストーリー 肆之巻【SS】

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1名無しより愛をこめて
仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
【響鬼】鬼ストーリー 参之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1179024153/l50

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/glossary/

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、
有志の方がスレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
2名無しより愛をこめて:2007/09/24(月) 22:10:04 ID:q1MLQu160
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/(DAT落ち)
5. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/(DAT落ち)
6. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1150894135/(DAT落ち)
7. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/(DAT落ち)
8. 響鬼SS総合スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1162869388/(DAT落ち)
9.【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1164788155/(DAT落ち)
10.【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1170773906/(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/(DAT落ち)
3前スレ524:2007/09/24(月) 23:29:18 ID:mtUPwyyvO
スレ立て乙っス
(今日誰からもレスがなかったら
スレ立て代行依頼でも出そうかと思ってた)
4高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/09/26(水) 19:01:20 ID:1dUzJoE30
>>1乙です。
あまりにも規制が長いのでおかしいと思い批判要望板に行ってみたら、
今使っているプロバイダからは半永久的に書き込めないとか orz
暫くは空いた時間にマンガ喫茶から書き込む事になりそうです…。

さて、前スレで少し触れた響鬼と電王のコラボSS、とりあえず書いてみたので投下させていただきます。
まず最初に言っておきますが、これは戦隊Vシネマ同様、お祭りみたいなもんです。
そこのところを承知のうえでお読み下さい。

それでは、これより二部構成のうちの第一部を投下します。どうぞ。
2007年夏某日、ライブラリーカフェ「ミルクディッパー」。
一人の男性が、沈んだ表情のままカウンター席に腰掛けている。彼の前に置かれたコーヒーカップの中身は空だ。
店主の野上愛理が、その男性客におかわりはどうかと尋ねたが、男性は静かに首を横に振ると、代金を支払って出て行ってしまった。
後片付けを始めた愛理の傍に、さっきまで近くのテーブルに座って成り行きを眺めていた二人の客が駆け寄ってきた。常連客の尾崎正義と三浦イッセーだ。
「愛理さん、さっきの人って確か……」
「ええ。猫塚さんですよ」
笑顔で愛理が質問に答える。猫塚とは、尾崎たち二人程ではないが、足しげくこの店に通っている常連の一人である。趣味は確かドライブだったと尾崎は記憶している。ただ、二年前に山梨県に行って以来、もう遠出はしなくなったとも聞いているが。
「何かあったんですか?猫塚さん、随分と落ち込んでいたようですが……」
三浦の質問に対し、愛理は少し困ったような顔をして。
「それが……猫塚さん、飼っていた猫ちゃんがいなくなったらしいんです」
「猫が……ですか?」
ドライブをやめてから、猫塚は新たな趣味としてペットを飼うようになったらしい。猫がいなくなってから今日まで全く眠れず、食欲もかなり落ちたそうだ。
「そうか、それで……。よし!僕も迷い猫探しをお手伝いしましょう!」
「抜け駆けは良くないなぁ!どうせ愛理さんの前で良い格好したいだけなんだろ!?」
「何だと!?」
掴み合いの喧嘩を始める二人。いつもの事と愛理も止めようとはしない。
「良ちゃんにもさっき電話で手伝ってねって連絡しておいたけど……大丈夫かしら?」
弟の身にまた何か良からぬ事が起こっていやしないか、それだけが気掛かりであった。

その頃、ミルクディッパーを出て暫く歩いていた猫塚は、突如謎の光る球体に体の中へと入り込まれていた。そして今、彼の目の前には……。
「お前の望みを言え……」
ここは何処だろう。
野上良太郎は、見知らぬ土地に一人佇んでいた。
姉から常連さんの猫が行方不明になったと聞いて、とりあえず自転車でその常連さん――猫塚の住所の近くまで行ったのだが……。
「……あれ?」
迷った。
慌てて自分の携帯電話を見る。確かナビ機能が搭載されていた筈だ。それを使ってとりあえず自分が今居る場所を確認して……。
「……あ」
バッテリー切れだ。
何という運の悪さ。だが、このまるで絵に描いたかのような不幸っぷりこそが彼、野上良太郎の持ち味なのだから仕方がない。……嫌な持ち味ではあるが。
仕方なく自転車を押しながらとぼとぼと歩き出す良太郎。パンクである。これもいつもの事だ。本人だって慣れている。
とりあえず交番を見つけよう、そう良太郎が思っていると……。
『良太郎!』
「わっ!リュ、リュウタロス……」
『お姉ちゃんに猫探すように言われたんでしょ。どう、見つかった?』
「ううん、それが……」
煮え切らない態度の良太郎に痺れを切らしたのか、リュウタロスは。
『僕も探す!いいよね、答えは聞いてない』
「ちょ、ちょっと……」
だが抵抗する間も無く、良太郎の体の中にリュウタロスが入っていってしまった。帽子を目深に被ったR良太郎は不敵に笑うと、踊るような足取りで迷い猫探しに行ってしまった。
都内某所にある廃寺で、その戦いは人知れず行われていた。
小柄な異形の戦士が、両手に太鼓の撥のようなものを手に、周囲に気配を配っている。鋭く尖った二本の角を持つその者の名は、鋭鬼。そしてその相手は……。
「ギニャアアアア!」
一匹のバケネコが声高らかに鋭鬼の背後から襲い掛かってきた。
「はっ!」
それを音撃棒・緑勝で弾くと、着地したバケネコに向けて間髪入れず鬼棒術・歐炎弾を放つ。命中。緑色の炎がバケネコの体を焼き、吹き飛ばした。
「へっ、軽い軽い」
再び牙を剥き襲い掛かってくるバケネコに、「緑勝」を手に向かっていく。爪による攻撃を躱すと、「緑勝」による打撃を加えていく。
三度目の打撃はバケネコの顔面を打ち、その牙を砕いた。すかさずその胴に音撃鼓・白緑を貼り付ける。そして。
「音撃打・必殺必中の型!」
鋭鬼の音撃打がバケネコを打ち、その身を塵へと変えた。「緑勝」をくるくると回しながら鋭鬼が勝ち鬨を上げる。
「よっしゃあ!今日も絶好調だぜ!」
と、近くの藪の中から野良猫が出てきた。どうやらこの廃寺は近所の野良猫達の住処となっているらしい。
「お、悪かったな。騒がしくしちゃって」
そう言いながら野良猫に近付くが、猫はさっさと踵を返すと逃げ去ってしまった。
「……ま、この姿じゃしょうがないな。その場で寝込まれるよりはマシか。猫だけに、なんちゃって」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ……」
突然、奇妙な笑い声が聞こえてきた。
「誰だ?俺のギャグがそんなに面白かったか?」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ……そんなわけ無いだろうが!」
笑い声の主は、近くの樹上から鋭鬼を見下ろしていた。猫だ。否、猫の姿をした怪人だ。
「何だお前。……魔化魍じゃないな」
「ウヒャヒャヒャヒャ。俺は忙しいんだ。だから今のうちに警告しておく。邪魔だけはするなよ」
そう言うと怪人は廃寺に向けて口から光弾を発射した。激しい爆発が起こり、中に居た野良猫達が悲鳴を上げながら飛び出してくる。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ……」
「おい、止めろ!」
怪人に向けて鋭鬼が歐炎弾を放った。だが怪人はそれを容易く躱すと地上へと飛び降りてきた。そして。
「やっぱり邪魔をするか。……殺してやるよ、ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」
怪人は、何処からともなく取り出した半月刀を手に、鋭鬼へ向かって襲い掛かってきた。
「良太郎、イマジンだよ」
猫探しを続けるうちに、人通りの全く無いような場所へと迷い込んでいたR良太郎は、廃寺の傍で戦いを続ける異形達を目撃した。明らかにイマジンだ。だが。
『……どっちが?』
「そんなの分かんないよ。でもやらないと不味いでしょ?行くよ」
そう言うとデンオウベルトを腰に巻くR良太郎。
その頃、時の列車デンライナー車内では。
「あの餓鬼、また抜け駆けしやがって!」
モモタロスが機嫌悪そうに叫んだ。
「ちょっとは落ち着きなよ、先輩。本でも読む?」
そう言うとウラタロスは、目の前に積まれてあった本の山の中から適当な一冊を取るとモモタロスに向けて差し出した。
「本だぁ?お前、そんなもん読んでるのか」
「話の種になるようなものは何だって読むよ。それが女の子と円滑なコミュニケーションを取るための……」
「うるせえ!何が本だ。亀の分際でそんな高尚なモン読むんじゃねえ!」
「酷いなあ、先輩は……」
そう呟くとウラタロスは再び本を読み始めた。キンタロスは相変わらず鼾をかきながら眠っている。いつも通り平和なデンライナー車内であった。
「変身」
ベルトにライダーパスを翳し、電王ガンフォームへと変身する。
『ねえリュウタロス、あれ、どっちもイマジンなのかな……?』
「さあ。でも両方倒しちゃえばいいんじゃないかな?」
そう言いながらデンガッシャーをガンモードに組み立てる。だが撃とうとはしない。
『……どうしたの?』
「あいつらの近くに猫ちゃんが一杯いる!これじゃあ撃てないよ!」
悔しそうにそう言うと、電王は戦いを続ける両者に向かって駆け出していった。
突然の闖入者に驚きを隠せないでいる鋭鬼。
「うおっ!また新手か?」
「ウヒャヒャヒャヒャ、電王!早かったな!」
攻撃対象を鋭鬼から電王へと移した猫の怪人――チェシャイマジンは、高らかに笑うと半月刀を振り下ろしてきた。その強烈な一撃が電王のアーマーを切り裂く。
「うわっ!」
「野郎!」
チェシャイマジンに鋭鬼が再び挑みかかる。だがその背後から。
「喰らえ!」
もう一体のチェシャイマジンが、大きな庭師の使うような鋏を使って攻撃をしてきた。直撃を受け、鋭鬼の背中から血が噴き出す。
「ぐあっ!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、鋏をしゃきしゃきと鳴らすチェシャイマジン(分離体)。本体と異なり、こちらは耳と尻尾が猫ではなく兎のものになっている。
「ウヒャヒャヒャヒャ、これで二対二だ!そりゃ!」
半月刀が電王の左肩に食い込んだ。だが。
「……ば〜か」
零距離からデンガッシャーをぶっ放す電王。チェシャイマジンの体が激しく吹っ飛んだ。更にベルトにパスを翳し。
『Full Charge』
体を起こしたチェシャイマジンに向けて必殺のワイルドショットを放つ。エネルギー弾がチェシャイマジンへと炸裂し、その体を粉砕した。
一方鋭鬼は気合いを込めて傷口を閉めると、「緑勝」でチェシャイマジンの鋏と渡り合っていた。
「この!」
「ウヒャヒャヒャヒャ!遅い遅い!」
物凄い速さで鋭鬼の攻撃を躱していくチェシャイマジン。高く跳躍すると、上空から鋏を開いて襲い掛かる。だが。
突如として飛んできた火の玉の直撃を受け、チェシャイマジンの体が大きく吹き飛んだ。
「だ、誰だ!?」
炎を放ったその主の正体とは。
「響鬼さん……」
音撃棒・烈火を両手に構えた、二本角の戦士。その名は響鬼!
「無事か、鋭鬼?」
「何とか……。それより気をつけて下さい。あいつ、魔化魍とは違う……」
「ああ、どうやらそのようだな」
チェシャイマジンと向き合う響鬼。両者とも向き合ったまま走り始めた。適度に間合いを取る。そして。
チェシャイマジンが口から光弾を吐いて攻撃してきた。それを鬼棒術・烈火弾で撃ち落とす。
次にチェシャイマジンは、跳躍で一気に間合いを詰めると鋏で攻撃を仕掛けてきた。対する響鬼は、「烈火」でこれを捌いていく。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ!なんだ、避けるだけか?」
「切り札は最後まで取っておくものさ」
左手の「烈火」で鋏の攻撃を受け止めた響鬼は、右手の「烈火」から鬼棒術・烈火剣を出した。そして。
その炎の刃でチェシャイマジンの腹を貫いた。声にならない悲鳴を上げて二、三歩後ろへよろめくと、チェシャイマジンの体は爆発四散した。
「ふう……」
「お疲れ様でした、響鬼さん」
「おう、お疲れ……」
だがそこへエネルギー弾が雨霰の如く降り注いできた。身を屈める二人。
『リュウタロス、止めてよ……』
「どうして?もう猫ちゃんは居ないし、あとはあいつらをやっつけるだけだよ」
良太郎の制止も効かず、デンガッシャーからエネルギー弾を撃ちまくる。だがその時。
「……不味いよ良太郎!」
先程響鬼に倒されたチェシャイマジンのイメージが暴走を始めたのだ。突如として現れるギガンデスヘル。
『リュウタロス、デンライナーを……』
「待ってよ良太郎、あれ見て!」
電王が指差す方には、いつの間にかギガンデスヘルの巨体へと取り付いた響鬼と鋭鬼の姿があった。
「行くぞ鋭鬼!」
「了解!」
それぞれの音撃鼓をギガンデスヘルの体へと貼り付け、音撃棒を高々と掲げる。そして。
「爆裂強打の型!」
「音撃打・必殺必中の型!」
巨大な敵を相手にするのはお手の物。二人の鬼の放つ音撃打を受けたギガンデスヘルは、文字通り粉々になってしまった。
『凄い……』
あまりの出来事に呆然とする良太郎。一方電王――リュウタロスは。
「凄い!凄い凄い凄い!ねえねえ今の見た!?」
はしゃぎまくっていた。
顔の変身を解除する事なく、響鬼と鋭鬼が歩み寄ってくる。と、響鬼のみが顔の変身を解除した。
「ヒビキさん!?」
「まあ待て」
『リュウタロス、この人イマジンじゃなさそうだよ。とりあえず変身を解除して』
「え〜。しょうがないなぁ……」
ベルトを外すと同時に、良太郎の姿へと戻る。リュウタロスもそのままデンライナーへ帰ってしまった。
「あ、あの……」
何から話せば良いのか分からずにおろおろする良太郎に向かって、ヒビキが告げた。
「少年、君は何者かに体を乗っ取られているな?今は違うようだが……」
「え……分かるんですか?」
驚きのあまり目を丸くする良太郎に向かってヒビキはただ一言。
「鍛えてますから。シュッ」
「そういう問題ですか!?」
同じく顔の変身を解除したエイキが、突っ込みを入れる。
「あの……その……さっきはすみませんでした。ただ、さっき戦っていたの、リュウタロスって言うんですけど根は悪い奴じゃなくって……」
「ヒビキさん、どうします?」
「とりあえず『たちばな』に来てもらうしかないな。彼の傷の手当てもしなくちゃならないし」
そう言うと良太郎の左肩を指差す。さっきチェシャイマジンとの戦いでやられた傷だ。
こうして良太郎は、ヒビキ達に連れられてたちばなへと向かう事になったのであった。
東京都葛飾区柴又。甘味処「たちばな」店内。
看板娘の日菜佳に手当てを受けながら、良太郎が席に座っている。彼の目の前には冷茶と、たちばな自慢のきびだんごが置かれていた。
「はい、治療終わり!」
「あ、有難う御座います……」
包帯を巻かれた自分の左肩を見やる良太郎。日菜佳は救急箱を手にすると、奥へと引っ込んでいってしまった。
入れ替わりに、一人の中年男性が現れて良太郎の前の席に座った。この店の店主であり、猛士関東支部長の立花勢地郎だ。
「初めまして。私がここの店主の立花です。さて、何から話すべきかな……」
勢地郎との話の中で電王、そしてイマジンについて語る良太郎。この人達に隠し事は出来ない、そう直感した上での事だった。近くの席に座っているヒビキもまた、彼の話に静かに耳を傾けている。
「成る程ねぇ……。時の運行を守る者に未来からの侵略者、か。一概には信じられない話だけど、それはお互い様だろうしね」
「……はい」
正直言って良太郎も、猛士や魔化魍と言われても今一つ理解出来ないでいた。それはそうだろう。いきなり化け物と戦う鬼などと説明されても信じられるわけがない。
「……我々としては鬼の戦いを目撃された以上、それ相応の処置を君に対して取らなければならない」
勢地郎のその言葉に、不安そうな表情を見せる良太郎。だが。
「……だけど我々も時の運行に関する秘密の片鱗を知ってしまった事になる。どうだろう、ここはお互いさっき聞いた話を他言しないという事で手を打たないかね」
「え……?」
勢地郎はにこにこと笑いながら良太郎の顔を見ている。
「あ、はい。有難う御座います」
席を立って深々と頭を下げる良太郎に対し勢地郎は。
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方だよ。君が居なければエイキはやられていたかもしれない」
良太郎に座るよう促すと、きびだんごを勧め始めた。
「さあ食べなさい。私の奢りだから」
「あ、じゃあいただきます」
きびだんごを食べ始める良太郎。美味しい。一つ食べると止まらなくなってしまう。
一方、勢地郎はヒビキに向かって何事かを尋ねていた。
「ところで君の自慢の弟子はどうしたのかな?」
「ああ、京介なら何か野暮用があるとかで出掛けていますよ。もうじき戻ってくるんじゃないですかね」
「そうか。……ところで関西に行くのはいつだったかな」
「来週です」
現在ヒビキは装甲声刃を吉野総本部へオーバーホールに出している最中だ。来週、イブキと一緒に吉野まで受け取りに行く予定である。
「あの、じゃあ僕はこれで……。やらなくちゃいけない事もありますし……」
そう、迷い猫を探さなければいけない。
「じゃあ俺が送っていくよ」
そう言ってヒビキが立ち上がる。と、そこへ誰かが入り口の扉を開けて店内へと入ってきた。
「こんにちは。……ヒビキさん、今朝は一緒に行けなくてすみませんでした」
「え……?」
そこに立っている青年は……。
「侑斗……?」
「誰だ、お前?」
桐矢京介は、怪訝そうな顔で良太郎を見つめるのだった。
デンライナーのいつもの食堂車内。良太郎はその場に居た面々に猫探しの手伝いを頼んでいた。
「猫探しだぁ!?けっ、馬鹿も休み休み言えってんだ」
露骨に嫌そうな態度を取るモモタロスに対し。
「ちょっと!手伝ってあげなさいよ!」
ハナがモモタロスの首根っこを掴んで引き上げる。
「痛ててて……。おいこらハナクソ女!てめえさっさと離しやがれ!」
「良太郎を手伝うって言うのなら離してあげる」
「分かった!分かったから離してくれよ!」
一方、他のイマジン達はと言うと。
「はいはいは〜い!勿論手伝うよ。お姉ちゃんのためだもん」
「ま、仕方が無いか。そろそろ本を読むのにも飽きてきた事だし」
「任しとき!猫ぐらい簡単に見つけてみせるで!」
「みんな、有難う……」
と、そこへ血相を変えて飛び込んでくる者が一人。
「野上は居るか!?」
「あ……桐矢さん……?」
「は?何言ってんだ、お前」
こちらは桜井侑斗である。
「そんな事よりイマジンだ。猫の姿をしたイマジンが現れた」
「あ、それならもう僕が……」
「だからお前、さっきから何言ってんだ。今デネブが交戦中だ。早く来い!」
良太郎に緊張が走った。イマジンは、まだ居る。
侑斗の案内で現場へ訪れた良太郎が目にしたのは、イマジンを相手に防戦一方のデネブの姿だった。
「デネブ!何やってんだ!」
「あ、侑斗。だってほら、あれを……」
デネブがイマジンを指差す。中世欧羅巴の貴族のような衣装に身を包み、つばの広い帽子を被って、ブーツを履いた猫の怪人――ケットシーイマジンの右腕には、一匹の猫が抱きかかえられていた。そして左腕には一人の男性が捕まっている。
「ね。あれじゃあ攻撃が出来ない……」
「猫塚さん……?」
イマジンの腕の中に捕らわれている人物を見て、良太郎が驚きの声を上げた。
「猫塚さんが……契約者?」
「りょ、良太郎くん……」
突然、行きつけの店の人間が現れた事に動転する猫塚。何が何だか分からないといった感じだ。
ケットシーイマジンは良太郎の姿を見ると。
「あら電王。遅かったわね」
契約者――猫塚に向かってケットシーイマジンが告げる。
「さあ、望み通り猫を探してきてやったわ。これで契約は完了ね」
「違う。俺が探してきてもらいたかったのは飼い猫の……」
「自分が言った事も覚えていないのかしら?『猫を探してきてほしい』、それだけしか言わなかったわよね?」
「それは……」
心の何処かでイマジンの言い分を認めてしまったのだろう。ケットシーイマジンの手によって猫塚の体が左右に開かれた。
「じゃ、バイバ〜イ」
そう言い残すとケットシーイマジンは過去へと跳んでいってしまった。
慌てて猫塚の傍へと駆け寄る良太郎。放心状態の猫塚にチケットを翳す。イマジンの姿と年月日が浮かび上がってきた。
「2005年4月22日……」
2005年4月22日、山梨県小菅地方。
当時大学生だった猫塚宏は、空いた時間を利用して山梨県までドライブに来ていたのだが、そこであまりにも信じられない出来事に遭遇していた。
まず、突然現れた謎の男女が目の前で怪物に変身し、襲い掛かってきた。その危機を救ったのは、一本角の生えた異形の男だった。その、鬼のような外見の男に早く逃げろと言われた猫塚は、一目散に車の停めてある場所へと向かって駆けていった。
逃げる最中、背後で何か大きな音がしたので振り向いてみると、猿のような姿をした巨大な怪物が羽の生えた怪人に攻撃を受けて倒れ込むのが見えた。驚いて腰を抜かす猫塚。
「あ……あ……」
常識では計り知れない事態に巻き込まれ、声にならない声を上げる猫塚の体から……。
さらさら、さらさら。
真っ白な砂が零れ落ちた。その砂が集まって、猫の怪人――ケットシーイマジンの姿へ変わると同時に、猫塚の意識は遠のいていった。
「こんな辺ぴな場所に跳ぶだなんて思わなかったわ。それに……」
切り立った崖に倒れこんでいる猿の怪物――魔化魍ヤマビコを見て、ケットシーイマジンが忌々しそうに呟く。
「何よあれ。この時代にはあんな怪物がいたって言うの?」
そこへデンライナーが到着し、中から電王ソードフォームが現れる。が。
「俺、参上!……って何だありゃ!?」
電王もまた、ヤマビコの姿に驚いたようだ。
『それよりも今はイマジンを倒さないと……』
「お前、結構肝っ玉が太いんだな……」
「電王、邪魔はさせないよ!」
そう言うとケットシーイマジンはレイピアを手にして襲い掛かってきた。
素早く繰り出される刺突をデンガッシャーソードモードで捌ききると、反撃に移る電王。だが。
スウェプト・ヒルトと呼ばれる複雑な装飾が施された柄の部分でデンガッシャーの刃を上手く絡め取ったケットシーイマジンは、そのまま力を込めて刃を折ってしまった。
「折れたー!」
間髪入れず、ケットシーイマジンの強烈な刺突が電王の胸部アーマーを貫いた。激しく火花が飛び散り、電王の体が吹き飛ぶ。
「うおっ!」
『ごめん、僕が左肩を怪我しているばっかりに……』
「卑屈になるな、そいつは関係ねえ。それよりも……くそっ!」
使い物にならなくなったデンガッシャーを地面に叩きつけると、ケットシーイマジンに素手で殴りかかっていく。と、そこへ。
『駄目だなぁ先輩。女の子にはもっと優しくしなくちゃ』
「てめえ、亀!?」
『良太郎、僕に変わってくれないかな?』
「……けっ、好きにしろ!」
どのみち、武器無しで戦って勝てる相手ではない。ベルトの青いボタンが押される。そして。
『Rod-form』
オーラアーマーが組み替えられ、ロッドフォームの電仮面が装着される。先程モモタロスが叩きつけたデンガッシャーを拾い上げ、ロッドモードへと組み直しながら一言。
「お嬢さん、僕に釣られてみる?」
「変わったところで!」
再びレイピアによる攻撃を始めるケットシーイマジン。それをリーチの長いロッドモードで軽くいなすと、急接近して鍔迫り合いを行う。
「ねえ、こんな事はもうやめて、二人で一緒にオロナミンCでも飲みに行かない?」
「巫山戯るな!」
「怒った顔もまた可愛いよ、子猫ちゃん」
電王の挑発的な台詞に、冷静さを失ってしまうケットシーイマジン。結果、剣戟に隙が出来てしまった。そこを衝かれ、レイピアを弾かれてしまう。今だ。
「ふう……。じゃあ僕はこれで。先輩、交代するよ。そろそろ折れた刃も再生している頃だろうしね」
折角のチャンスに突然交代すると言い出すウラタロスに、良太郎も驚きを隠せないでいる。
『え……?どうして?』
「僕は女性を手にかける趣味は無いからね。こういうのは野蛮な先輩に向いているよ」
『何だと、亀公!?』
ベルトの赤いボタンが押され、再びモモタロスが憑依し、電王ソードフォームが姿を現す。とりあえずデンガッシャーを組み直してみると。
「おお、本当だ」
ウラタロスの言った通り、デンガッシャーのオーラソードは再生されていた。
「おのれ、電王!」
レイピアを拾い上げたケットシーイマジンが突撃してくる。迎え撃つ電王。
「行くぜ行くぜ行くぜぇ!」
懐に上手く入り込み、デンガッシャーで斬りつけていく。一撃、二撃。
三撃目でケットシーイマジンの体が大きく吹き飛んだ。すかさずベルトにパスを翳す。
『Full Charge』
「ちょいと癪だが亀公の言う通り、俺は相手が誰だろうと最初から最後までクライマックスだぜ!行くぜっ、俺の必殺技……パート4!」
『4……?』
分離した剣先がケットシーイマジン目掛けて高速で飛んでいく。刃は敵の全身をメッタ刺しにし、最後に深々と眉間へ突き刺さった。絶命し、仰向けに倒れるケットシーイマジン。そして、爆発。
「へっ、見たか」
『ねえ、パート4って今さっき思いついたでしょ……』
明らかにケットシーイマジンの刺突攻撃を参考にしている。
「馬鹿言え!これはあまりにも凄すぎて今まで封印していた技なんだ!」
『パート5を使う時に言ってた事と微妙に違うんだけど……』
「うるせえ!」
モモタロスの叫びが小菅の山中に響き渡った。

その後、猫塚の飼い猫は親切な人に保護されていた事が分かり、晴れて猫塚の下へと帰っていった。主人達が大変な目に遭っていたというのに、肝心の猫は保護された家でぬくぬくと過ごしていたそうだ。ちょっと太っていたらしい。
さて、良太郎がミルクディッパーに戻ると。
「良ちゃん見て!当たっちゃった!」
そう言いながら愛理が何やら「目録」と書かれた熨斗袋を取り出した。
「商店街の福引でね、京都旅行が当たっちゃったの!ペアで行けるみたいだから良ちゃんも一緒に行きましょ!」
眩しいばかりの笑顔でそう告げる愛理であった。 了
チェシャイマジン
契約者不明。2007年の現在にやって来た未来人のエネルギー体が、契約者の想い描く『不思議の国のアリス』からチェシャ猫をイメージしてこの世に現出した姿。
契約者の「最近野良猫が増えてきたので何とかしてほしい」という望みを叶える為に、野良猫の住処となっている廃寺を襲った。
同じく『不思議の国のアリス』に登場する三月ウサギをイメージした分離体を持つ。どちらも狂ったように笑い続けるのが特徴。
両方とも過去へと飛ぶ前に電王、響鬼、鋭鬼に敗れ去る。

ケットシーイマジン
2007年の現在にやって来た未来人のエネルギー体が、猫塚宏の想い描く『長靴をはいた猫』から猫をイメージしてこの世に現出した姿。
猫塚の「猫を探してきてほしい」という望みを叶えて過去へ跳ぶ事を目的としている。
その貴族的な外見のためか、戦闘時には剣による決闘のみをよしとして飛び道具の類は一切使わない。


次回「そうだ、京都へ行こう!」へ続く
21名無しより愛をこめて:2007/09/26(水) 19:53:43 ID:02i+G6ef0
>高鬼SS作者様
乙です。
リアルタイムで読んでしまいました。
両方が上手くマッチしていい味出してたと思います。
京介と侑斗の見間違いの件は同一キャストならではのものです。
GJでした。次回も正座して待ちます。
22名無しより愛をこめて:2007/09/26(水) 20:22:52 ID:57Eks1WL0
投下乙です。(漫喫から…)
>今使っているプロバイダからは半永久的に書き込めないとか orz
って、ひでぇその状況。
響鬼本編の弾鬼初登場シーンと繋がってる所がGJ。
「では、戴いていきます」
「うむ。これからも精進するように」
そう言うと開発局長の小暮耕之助は、オーバーホールを終えたばかりの装甲声刃をヒビキへと渡した。
「……ところで吉野に来ているのは君だけではないのかね?先刻廊下でイブキと出会ったぞ」
作務衣の上に羽織った白衣の襟を正しながら、小暮がヒビキに尋ねる。
「ええ、実は祖父の具合が悪いらしくて、それでお見舞いに戻っているんです」
「和泉前本部長が!?」
そんな話は初耳である。
「母方の方だそうです」
「ああ、そうか。そうだよな、あの御仁が体を壊すだなんて考えられないものな……」
そう言って一人納得する小暮。ヒビキは先代の総本部長に会った事は無いが、噂ではかなり豪快な人物だったそうである。
「君はこれからどうするつもりかね?」
「俺ですか?どうせ俺もイブキも今は非番ですし、京都でも見物してから帰ろうかと思っています」
「そうか。……あと医務室に寄っていくのも忘れないように」
了解です、と言うとヒビキはいつものポーズを小暮に向かってしてみせた。
装甲声刃から放たれる波動が体に及ぼす影響のデータを取るために、総本部に来る度にヒビキは検査を受けさせられているのだ。
猛士総本部内医務室。そこでヒビキは、医務室を預かる老医師の検査を受けていた。本来ならば前述の通りデータを取るだけでよいのだが、老医師の計らいで人間ドックのような事も受けている。
「鬼は体が資本だからね」
ここに来る度に老医師はヒビキにそう告げるのであった。
この医者、年齢はもう七十歳近くの筈なのだが、見た目は四、五十代でも通用するぐらい若々しい。噂では昔関西支部で鬼をやっていたらしく、この若さも鍛錬の賜物なのだと言う。
「ヒビキくん、確か今年で三十三歳だったかな?」
「ええ、そうです」
白髪の混じりの髪を掻き上げながら、老医師がヒビキのカルテを覗き込んだ。
「流石は猛士内でも最強の呼び声高い鬼だけあるね。肉体年齢は二十代のそれと比べても全く見劣りしない」
「鍛えてますから。先生と同じですよ」
「……でもだからって調子には乗らない事。まあ僕の見立てが正しければ、サバキくんだっけ?関東支部最年長の。彼と同じ年齢ぐらいまでは戦えると思うよ。うん」
「有難う御座います」
どのような事であろうと褒められて悪い気はしない。
「詳しい検査結果はいつものように後日関東支部へ送るから」
礼を言って立ち去ろうとするヒビキを老医師が呼び止めた。
「勢地郎くんにも宜しく言っておいてね」
「了解です」
シュッ、とポーズを決めたヒビキは、医務室を出てイブキとの待ち合わせ場所へと向かっていった。
京都駅、烏丸中央口。
目の前に聳え立つ京都タワーを眺めながら、野上良太郎は思った。本当に京都に来ちゃったんだ――と。
「良ちゃーん、こっちこっち!」
姉の愛理が手招きをする。これからバスで市内観光に向かうのだ。
「姉さん、待ってよ……」
と、突然良太郎の頭の中に声が響いた。
『良太郎、君、京都は初めてだろ?』
「ウラタロス……」
『なんなら僕が京都案内をしてあげようか?』
いきなりの申し出に良太郎が驚きを隠せないでいる中、話を続けるウラタロス。
『つい最近、京都の名所名跡に関する本を読んだばかりなんだよね。どう、悪い話じゃないと思うけど』
「でも……」
今ここでウラタロスに憑依されたらどうなるか、嫌な予感しか浮かばない。だが、ウラタロスは良太郎の許可を取らず、強引に彼の体の中へと入っていってしまった。
眼鏡をくいっと上げながら、愛理へと近づいていくU良太郎
「良ちゃん?」
「やあ……」
U良太郎が何かを言おうとした刹那、強烈な踵落としが彼の脳天へと炸裂した。高々と掲げた脚を振り下ろしているのは――ハナだ。
『ハ、ハナさん……』
「どうせこんな事だろうと思ったわ!」
「あら、ハナちゃん。こんな所で奇遇ね」
「あ……どうも。実は私も偶々京都へ遊びに来ていて……。ホント偶々なんです!」
そう弁解しながらハナはU良太郎を引き寄せると耳打ちした。
「いい?別にデンライナーへ戻れとは言わないわ。その代わりちゃんと私達に京都を案内する事。もし約束を破って余計な事をした場合は……」
「分かった、分かりましたよ。……全くもう」
こうして三人の京都珍道中が始まったのであった。
「おお、絶景だな!」
清水寺の舞台の上から周囲の景色を眺めながら、ヒビキが正直な感想を述べた。
「ヒビキさん、清水に来るのは初めてでしたっけ?」
イブキの質問に「初めてです」とヒビキが答える。
「それにしても凄い高さだなぁ。確か昔はここから飛び降りる人が結構いたんだろ?普通は助からないよなぁ……」
「江戸時代にここから飛び降りた人数は424人。でもそのうちのなんと85パーセント以上が生還しているんだ。あと、ここから飛び降りた理由は、自殺と言うよりは補陀洛浄土へ旅立つため――らしいね」
誰かがタイミングよく説明を始めた。その声の主の方を見やると。
「おお、少年!」
ヒビキが嬉しそうに手を振る。彼の視線の先には、ウラタロスに憑依された状態の良太郎がいた。
「あら、お知り合い?」
愛理が怪訝そうに尋ねる。ウラタロスもヒビキの事は知っていたので、なんとか上手い事を言って愛理を納得させようとするが……。
「なんだ少年、また誰か別の奴に取り憑かれているのか?」
突然の発言にU良太郎が慌ててヒビキの傍へと駆け寄る。その間ハナは必死になって愛理を誤魔化そうとしていた。
「不味いなぁ……。僕達が良太郎の体に憑いている事は内緒にしてくれなくちゃ……」
「あ、悪い。ごめんな」
「ヒビキさん、ひょっとしてこの人が……」
イブキが尋ねる。彼もまた、香須実や日菜佳から良太郎の事は聞かされていた。
「そう。先週俺とエイキを助けてくれたのが彼だ。しかし奇遇だなぁ。旅行?」
「ええ。あなた達も?」
「まあな。……もし良かったらさ、これから一緒に行動しない?ほら、旅は道連れって言うでしょ?五人で行った方が色々楽しいと思うんだ。なっ」
イブキに向かって同意を求める。彼もまた、断る理由は無いため頷いてみせた。U良太郎は少し考えると。
「まあ道中で面白い話が聞けるかもしれないし、僕達も結構行き当たりばったりの旅行だし……。分かったよ、今向こうの二人に聞いてくるから……」
そう告げるとU良太郎は愛理達の方へと向かっていった。
その後、五人で京都旅行を続ける事になったのは言うまでもない。
一行が次に訪れたのは、太秦の東映映画村だ。
「やっぱり京都へ来た以上、ここは外せないよね」
U良太郎が嬉しそうに言う。入り口でチケットを購入して中へ入った五人は。
「じゃあこの辺で自由行動にしないか?」
ヒビキの提案に全員が賛成する。
「あんたは私と一緒よ。いいわね?」
「ハナさん、それは勘弁……」
U良太郎の腕を引っ張りながら、オープンセットの方へと歩いていくハナ。
「あらあら、仲が良いんだから」
弟達を見送ると、愛理は暴れん坊将軍の館の方へと行ってしまった。
「さて、俺は向こうで皆のお土産を探すけど、お前はどうする?」
「僕もお付き合いしますよ」
ヒビキ、イブキの二人は連れ立ってスタジオマーケットへと向かっていった。

「素晴らしい……」
外へ出たU良太郎が感慨深げにそう呟く。だがそれはオープンセットを見ての感想ではない。美しい着物を着た女性達を見ての感想だ。時代劇扮装の館という所で、衣装を借りる事が出来るのだ。
「はいはい、あっちへ行きましょうね」
ハナに頬を引っ張られながら、強引に連れて行かれるU良太郎。
「あ痛たた……。酷いなぁ、ハナさん」
口説き甲斐のある女性達を目の前にして何も出来ない。そんな自分に心底腹が立つウラタロスであった。
一方、スタジオマーケット内のヒビキ達は。
「とりあえずお菓子は必要だろ?……いや、甘味処に和菓子のお土産ってどうだろうな。何か良いのは無いかな?」
「ヒビキさん、これなんかどうでしょう?」
そう言いながらイブキが持ってきたのは、暴れん坊将軍のクリアファイルだった。
「それならテレ朝でも売っているのを見かけたぞ。……と言うかそれ、誰への土産だ?香須実か?」
「いや、あきらにどうかなと……」
彼女が弟子を辞めてから二年経つが、イブキとは相変わらずよく遊んでいるようだ。
「……それはどうかと思うぞ。あきらの事だから受け取ってはくれるだろうけど……」
駄目かなあと呟きながら、イブキが商品を棚へと戻しに行く。ヒビキもまた、京介と明日夢への土産を探し始めた。やはり大事な二人の弟子への土産を優先して探すべきだろう。
どれがいいかな、とヒビキはまるで修学旅行中の学生のような気分で土産物を選び始めた。
ヒビキ達は購入した土産物をコインロッカーに入れると、外へ出て良太郎達を探し合流した。結構楽しんでいたようで、二人とも手には買い物袋を提げている。
「愛理さんは?」
「ああ、彼女なら二階の方へ上がっていくのを見たよ」
ハナの問いにヒビキが答える。
「じゃあ僕達も室内へ戻ろうか」
「そうね。じゃあ私達はこれで……」
「おう。何かあったらイブキのケータイに連絡してくれよ。さっき番号交換してたよな」
ヒビキ達と別れて、建物内へと入っていくU良太郎とハナ。とりあえず愛理と合流するべく、二階へと上がっていく。
二階部分はスーパーヒーローランドと言って、歴代東映特撮ヒーロー関連の展示が行われている。今年の仮面ライダーの映画で実際に使用された衣装や小道具の展示を眺めながら進んでいくと、やけに子ども達が集まっているのが見えた。
「何かしら……?」
「ほら、プリキュア6のピンクが来ているんだよ」
確かに、U良太郎の言う通り、そこにはプリキュア6のピンク(の着ぐるみ)が居て、子ども達と記念撮影を行っていた。
「詳しいのね、ウラタロス」
「BL要素がある作品と言う事で、女性人気も高いからね。とりあえずチェックはしておかなくちゃ」
以前良太郎の体を借りて放送を見てみたところ、意外と面白くて嵌まってしまったらしい。
「六人目の戦士が良いんだよ。キュアパピヨンって言って、良太郎以上にぶっ飛んだセンスの持ち主なんだけど、どうしたわけか物凄く惹かれるものがあってね」
『そうかな、僕はセンス良いと思うけど……。あの仮面も、衣装も……』
ぼそりと良太郎が呟く。
二階には愛理の姿は無く、二人は三階へと上がってみる事にした。三階へと向かう階段では、壁に映画村ロケのスチール写真が大量に貼られてあった。
三階の多目的ホール前にある休憩所で、愛理は缶ジュースを飲みながら休んでいた。二人の姿を確認すると笑顔で手招きをする。
三人は一時の休息を取るのであった。
屋外のベンチに腰掛けながら、ヒビキとイブキは休んでいた。流れ落ちる汗をハンカチで拭いながらヒビキが言う。
「いやぁ、見るものが多いな、ここは」
「ええ。……この後どうしましょうか?」
「そうだな……折角だからさ、貸衣装を着て記念撮影しないか?」
と、上空からイブキ目掛けて光る球体が突っ込んできた。
「危ない!」
それにいち早く気付いたヒビキが、イブキと球体の間に割って入る。球体はヒビキの体の中に入っていってしまった。
「ヒビキさん!」
だが、イブキの背後からもう一つの球体が入り込んだ。二つあったのだ。
「イブキ……無事か?」
「僕もやられました。これは一体……」
「……あの少年が言っていたイマジンとやらかもしれないな」
往来を行く人々が奇異の目でヒビキ達を見ている。二人は人目を避け、なるべく人気の無い場所へと向かっていった。
歩いていく二人の体から真っ白な砂が零れ落ちる。そして二人が人気の無い場所を訪れたその時、砂が集まって人の姿を形作った。
「お前の望みを言え……」
ヒビキ、イブキ両者から現れたイマジンは、どちらも鬼の姿をしている。
「ヒビキさん……」
「ああ、何も言うなよ。俺達が望みを言った途端、こいつらは実体化してしまうからな……」
「へへへ……。こっちは何でも望みを叶えてやるって言ってんだぜ?どこまで我慢出来るかな?」
ヒビキから現れた大柄な鬼のイマジンが、そう言いながら不気味に笑った。
「……行くぞ。少年達と合流するんだ」
そう言うとヒビキはさっさとその場から立ち去ってしまった。
一方イブキは、自分のイメージから生まれた鬼のイマジンを前に、ずっと立ち尽くしていたが。
「……本当に何でも叶えてくれるのか?」
イブキが意を決したように口を開いた。
U良太郎とヒビキがイブキの下へ戻った時、そこには青い体色をした鬼の姿のイマジン――オニヒメイマジンが実体化して待ち受けていた。
「イブキ、お前……」
「申し訳ありません、ヒビキさん!」
『ウラタロス……』
「ああ、行くよ」
ベルトを腰に巻き、パスを翳す。変身の掛け声とともに、良太郎の体は電王ロッドフォームへと変わった。
長槍を手に、電王へと襲い掛かるオニヒメイマジン。激しくぶつかり合う長槍とロッド。
「いいのかい?契約者の願いを叶えに行かなくて……」
「契約して実体を得ればこっちのものよ。私達の目的はあくまでも電王、お前を始末する事なんだからね!」
「女性のイマジン!?また!?」
一方ヒビキとイブキは。
「お前、何を願った?」
「祖父の容体が良くならないかと……」
「……くっ」
と、そこへ再びヒビキに憑いたイマジンが現れた。
「どうした?お前も早く望みを言え……」
「うるさい!黙っていろ!」
「それが望みか。了解したぞ。へへへ……」
「え?」
突如として、朱色の体をした鬼の姿のイマジン――オニドウジイマジンが実体化する。オニドウジイマジンは、大鉈を手にすると電王へと斬り掛かっていった。
二対一の戦いに苦戦を強いられる電王。
「くっ……この!」
『おい、変われ!力押しならこっちのもんや!』
キンタロスの声が頭の中に響く。
「やれやれ、ここは素直に従いますか……」
ベルトの黄色いボタンが押された。そして。
舞い散る懐紙吹雪に視界を塞がれ、攻撃の手を止めたイマジン達の目の前に電王アックスフォームが姿を現した。
「俺の強さにお前等が泣いた。涙はこれで拭いときぃ!」
デンガッシャーをアックスモードに組み替えるや否や、突撃を仕掛ける電王。
『キンタロス、場所が場所だけに戦いを長引かせちゃ不味いよ。だから……』
「任しときぃ!三分以内にケリ着けたる!」
「三分……舐められたものだな!」
オニドウジイマジンの振り下ろした大鉈を、デンガッシャーで受け止める。激しい火花が散った。
「こ、こいつ……」
『おい熊、何やってやがる!』
モモタロスが檄を飛ばす。そう、何とキンタロスが力負けしているのだ。
「今までのイマジンとは違う……。桁外れのパワーやで!」
思いっきり力を込めるオニドウジイマジン。電王の体が徐々に地面へと減り込んでいく。
『キ、キンタロス……』
「あかん!パワーが段違いや!」
デンガッシャーのオーラアックスに皹が入った。凄まじいパワーだ。実はこの二体のイマジン、実体化の際、それぞれヒビキとイブキから鬼の力を引き継いでいるのだ。
「スゲェや!この体、信じられねえぐらい力が湧いてきやがるぜ!へへへへ!」
「電王、覚悟!」
オニヒメイマジンが、電王の心臓部目掛けて長槍を構え突撃してきた。
『良太郎〜!』
モモタロス達の悲鳴が響く。だがその時。
「でやあっ!」
何者かが横槍を入れて、オニヒメイマジンを蹴り飛ばした。
「誰だ!」
『響鬼さん……』
そう、それは鬼へと変身した響鬼だった。
「加勢するぞ、少年。元々俺達が出しちまったものだしな」
電王に蹴りを入れて吹っ飛ばすと、オニドウジイマジンが大鉈を振るいながら襲い掛かってきた。それを音撃棒・烈火で受け止める。
「こ、こいつ!俺のパワーと互角だとぉ!?」
「そりゃそうさ。所詮お前はまがいものだからな。……はっ!」
大鉈を弾くと、「烈火」で攻撃を仕掛けていく響鬼。電光石火の早業で、オニドウジイマジンの全身を打ち据えていく。
さて、電王はと言うと、オニヒメイマジンの攻撃を躱しながら。
『おい熊!俺に代わりやがれ!』
「すまんな良太郎、何も役に立てんかった……」
『そんな事無いよ……』
電王がベルトの赤いボタンを押す。オーラアーマーが組み替えられ、ソードフォームの電仮面が装着された。そして。
「俺、参上!行くぜぇ!」
デンガッシャーをソードモードに組み替えると、オニヒメイマジン目掛けて突っ込んでいった。長槍の攻撃を巧みに潜り抜け、間合いを詰める。
「へへっ、こうも接近されちゃあ、こんな長い得物は役に立たねえな!」
「ふふん、甘いわね」
そう言うとオニヒメイマジンは柄の部分を切り離し、鋭角化している石突の先端部分で電王を攻撃し始めた。胸部アーマーに一撃を受け、電王の体が吹き飛ばされる。
「おー痛てぇ。あんなのありかよ!」
再び二本を組み合わせて、オニヒメイマジンが襲い掛かってきた。だが電王はオーラソードを分離させると、オニヒメイマジン目掛けて飛ばし、手を攻撃して長槍を弾く事に成功する。
「武器が無くなればこっちのもんだ!行くぜ行くぜ行くぜぇ!」
デンガッシャーの斬撃がオニヒメイマジンの体を斬り裂いた。しかし二撃目を足で止められてしまう。更に間髪入れず、回し蹴りを電王の顔面に叩き込むオニヒメイマジン。
「武器が無くなれば何ですって?」
どうやら鬼の力と一緒に、威吹鬼の得意とする蹴り技も引き継いでいるらしい。急接近し、強烈な蹴りを電王へと連続で叩き込んでいく。後方へと跳躍し、距離を取る電王。
「畜生!とんでもねえ脚だな!」
『ねえモモタロス、僕に代わってよ』
「馬鹿か!てめえが銃ぶっ放したら、周りの建物にも危害が及ぶだろうが!ここは観光地だぞ!?」
リュウタロスと口論を続ける電王へ、オニヒメイマジンが跳び蹴りを喰らわせてきた。胸に直撃を受けるも、なんとか脚を掴む事に成功する。
「!……離せ!」
「おう、離してやるさ。行くぜぇぇぇぇ!」
そう叫ぶや否や、電王は物凄い勢いで回転して、そのままオニヒメイマジンを投げ飛ばした。上手く受身を取れず、頭から地面に激突するオニヒメイマジン。
響鬼もまた、「烈火」でオニドウジイマジンの手首を打ち、大鉈を手放させると、至近距離から鬼法術・鬼火をお見舞いした。全身を焼かれ、悲鳴を上げながらオニヒメイマジンの上にオニドウジイマジンが倒れ込む。
「ちょっとあんた、早くどきなさいよ!」
オニドウジイマジンを押し退けながら、オニヒメイマジンが立ち上がってきた。だが既に電王はライダーパスをベルトに翳してフルチャージを行っていた。デンガッシャーを構える電王。響鬼もまた、音撃鼓・爆裂火炎鼓を手にした。
「行くぜ、俺の必殺技……太秦スペシャル!」
分離した刃が、縦横無尽にオニヒメイマジンとオニドウジイマジンの全身を斬り裂いていく。そこへ響鬼が駆け寄り、「爆裂火炎鼓」をオニドウジイマジンの体へと押し付けた。
「爆裂強打の型!はっ!」
目にも留まらぬ速さで、音撃棒を打ち込んでいく。清めの波動が二体のイマジンの全身を包んでいった。
そして。
とどめの一撃が叩き込まれると同時に、二体のイマジンは悲鳴と共に爆発四散した。塵が降り注ぐ中、響鬼と電王が歩み寄る。
「へっ、やるじゃねえか」
「そっちこそ、やるな少年」
『響鬼さん、そろそろ少年って呼ぶのは止めてもらえないかな……』
ハイタッチを交わす二人。と、そこへイブキが荷物を手に駆け寄ってきた。ヒビキに頼まれて、着替えを取りに行っていたのだ。
「お疲れ様でした、ヒビキさん」
「おう。……イブキ、お前の気持ちは分かる。だがな、もう二度あんな軽率な真似はするんじゃないぞ。世の中、そんな旨い話なんてあるわけが無いんだからな」
「……はい。精進させていただきます」
「さて、それじゃあ……っておい!」
よく見ると、いつの間にか沢山の野次馬が集まっていたのである。まあそれも仕方のない事だろう。
「参ったな、こんなに集まっているとは……」
「おい、何見てやがる!これは……あれだ、映画の撮影だ!分かったなら散れ!早く!」
大声を張り上げて電王が野次馬を追い払う。それを見て響鬼は「やれやれ」とジェスチャーをしてみせるのであった。
東京都葛飾区柴又。甘味処「たちばな」店内。
京都から戻ったヒビキ達が、集まった面々に向かってお土産を渡していた。
「イブキさん、これは何です……?」
イブキからの土産を手に、天美あきらが尋ねた。
「え?あぶらとり紙だけど……」
それは京都名産のあぶらとり紙だった。……暴れん坊将軍の。
「ハリセン……?何故?」
ダンキがヒビキから渡された「いーかげんにしぃやっ!!」と書かれたハリセンを手に、疑問の声を上げる。
「おお、それはな、手裏剣投げの露店で取った景品。なんとなくダンキにぴったりな気がして……」
「はあ……。有難う御座います」
その横ではショウキが新選組のシャツを手に、嬉しそうに微笑んでいる。
「京介にはこれだ、ほら」
そう言うとヒビキは、京介に新選組のコスプレをした目玉おやじの根付を渡した。
「明日夢とお揃いなんだ。どうだ?」
笑顔でもう一つ同じ根付を掲げてみせるヒビキ。
「……有難う御座います」
受け狙いなのか本気なのか分からない。
バンキには何故か水戸黄門の出演者のブロマイドが手渡された。
「それ、親父さんに渡しておいてくれ」
「はあ。……父さん、水戸黄門が好きだったっけ?」
トドロキには模造刀と新選組の法被が渡された。
「わざわざ有難う御座います!……どういう状況で使えば良いのか分かりませんが」
「どうやら我々へのお土産が一番まともなようですね……」
生八つ橋の箱を手渡されたイチゲキが、同じものを手渡されたサバキ、トウキとひそひそと話している。
エイキには銭形平次の格好をしたキティちゃんのキーホルダーが渡されていた。
「フブキにプレゼントしてやれ。喜ぶぞ」
「お気遣い有難う御座います。……ところで俺には何も無いんですかね?」
香須実、日菜佳姉妹にはイブキが土産を渡していた。そして。
「ゴウキにはこれだ!じゃあん!」
そう言ってヒビキが袋の中から取り出したのは、プリキュア6のキュアパピヨンのお面だった。
「そ、それは!今ネット上で話題沸騰中の六番目の戦士のお面!有難う御座います!」
「いやあ、絶対喜ぶと思ったんだ。よかったよかった」
ゴウキが喜ぶ顔を見て、嬉しそうに笑うヒビキ。
「あとこの生八つ橋と地酒、ザンキさんの墓へ供えてやれ。きっと喜ぶぞ」
ヒビキがトドロキに小さな袋を手渡した。
「はい!早速後で行ってきます!」
「……ところでヒビキさん、彼、良太郎くんは今頃どうしているのでしょうかね?」
イブキが耳打ちする。それに対しヒビキは。
「そりゃ俺達の知らない所で戦い続けているんだろうな。俺達は目に留まる人々の平和を守る、良太郎は世界の平和を守る。結構な事じゃないか。それにあいつにも心強い仲間が沢山いる」
心配はいらないさ、と告げてイブキの肩をぽんと叩くと、ヒビキはたちばなの外へと出て行った。
眩い日差しの中、蝉時雨が容赦無く降り注いでくる。鳴いているのはツクツクボウシか。空には珍しく入道雲が見えた。
涼風に吹かれて、店先の風鈴が綺麗な音を鳴らした。夏の終わりも近い。咽返るような熱気を大きく吸い込むと、ヒビキは思いっきり伸びをして、晴天を仰ぎ見るのであった。この空を、平和を守る若い戦士の事を思いながら……。 了
オニドウジイマジン
2007年の現在にやって来た未来人のエネルギー体が、日高仁志の想い描く『謡曲 茨木』から茨木童子(鬼)をイメージしてこの世に現出した姿。
日高の「黙っていろ」という望みを叶える為に実体化した。これは、本来の目的が電王の抹殺であり、実体さえ得られれば何でもよかったためである。
実体化の際に鬼の力を引き継いでおり、その力で電王を苦しめるが、響鬼、電王と戦って敗れ去る。

オニヒメイマジン
2007年の現在にやって来た未来人のエネルギー体が、和泉伊織の想い描く『雨月物語 吉備津の釜』のイソラ、実際に吉備津神社に伝承として伝わるウラ(鬼)の両方のイメージを合わせてこの世に現出した姿。
和泉の「祖父の容態を良くしてほしい」という望みを叶えるために実体化した。オニドウジイマジン同様、本来の目的は電王の抹殺である。
実体化の際に鬼の力を引き継いでおり、その力で電王を苦しめるが、響鬼、電王と戦って敗れ去る。

プリキュア6
この世界での日曜朝八時半に放送しているらしい蝶サイコーな番組。可憐な少女五人と、優雅な変態一人が織り成す学園コメディ&アクションアニメ。劇場版「夢を諦めるな、夏!」が来年夏に上映決定だとか。
参考URL ttp://swfblog.blog46.fc2.com/blog-entry-2171.html
37高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/09/30(日) 03:01:51 ID:DvSXL21N0
と言うわけで。
旅行先の漫喫からこんな時間に投下させていただきました第二部、いかがだったでしょうか。
駆け足ではありましたが、これで電王ショーを下敷きとした特別編は終了とさせていただきます。

以下、構成上の都合やら何やらでお蔵入りになったネタ(一部)。
・桐矢と侑斗の邂逅。→しかもそれぞれトドロキとデネブが勘違いしてしまう。
・明日夢と良太郎の邂逅。
・初期案ではイマジンに取り憑かれるのはサバキさんとあきらだった。その後二転三転して今回の形に。
・ショーに登場した悪鬼どもの親玉の登場。
38名無しより愛をこめて:2007/09/30(日) 14:19:56 ID:AkazrL5T0
漫喫からの投下乙です。東AがこんなOV出してくれないもんかと思いますが。
・モチヅキさんらしきお医者さん登場にGJ
・ラストの大量ゲスト出演にGJ
・プリキュア6・・・よくこんなの見つけますねぇ。
・何気に結構旅行に行かれているような。
39名無しより愛をこめて:2007/10/04(木) 00:23:01 ID:4g0dGmXD0

http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1179024153/542
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          、ヘ,
          (_X_ )
         /⊂二))
         つ(⌒)
       .  (_ノU

         + 激しく逃亡 +
40志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/06(土) 13:29:33 ID:0+h+hQmc0
前回は前レス>489-494

十八之巻 甦る光

 凶鬼と明日夢変身体の殴り合いはその後も暫く続いた。
 意識があるようには見えない様子でありながら、互いに変身が解けないでいるのは未だ意識がそこに在る事の証明でもあった。
『あいつ、何で倒れないんだ?』何時しか凶鬼の頭の中はその疑問で一杯になっていった。
 殴っても殴っても諦める様子も見せない。それどころか反撃までしてくる始末だ。
 対するこちらは先程の響鬼との闘いのダメージが深すぎる様で思うように力が出ていない。
 そんな中、明日夢の放った右拳が凶鬼の顔面に当たり、凶鬼の目の前が真っ白になった。

ふと気がつくと、桐矢京介は何も無い白い空間の中にいた。
 何時からそうしていたのか、どのくらいそうしていたのか、そういう事も判然としない。
 誰かが、目を覚ませ、と何処かで言っていた様な気がする。
 自分の顔に膝でそっと触れてみる。
顔は元の京介の顔だ。首から下は変身した時の鬼の姿だった。
 何となく顔が腫れて熱い様な気もする。
『俺、何していたんだろう』膝を抱えて蹲る様に座っていた京介はその姿勢のままで暫く自分の記憶を弄(まさぐ)ってみた。
『……そうだ、リュウキさんとバケガニ退治に出ていたんだっけ』そうして、その後の記憶を更に辿る。
『道すがら通った村で…………。そうだ、あいつに、龍鬼さんが……!』その時の事を思い出した時、京介の目から大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
『俺がもっとしっかりしていれば、あんな事には……!』膝の間に顔を埋めて声を殺して泣く京介。
「どうした、京介君」背後から掛かる声にはっ、として後ろを振り向く。
「…………」ぐちゃぐちゃになった顔で声の主を見る京介の顔が驚きに歪む。
「リュウキさん……」声の主は京介の目の前で惨殺された関西支部の弦の鬼、リュウキだった。
「どうして……。死んだ筈じゃ……。それに、此処は何処ですか? 俺、死んだんですか?」立っていたリュウキに向かい合う様に立ち上がる。
「まあ、落ち着け。まだ死んじゃいないよ。…………ああ、そうだな。俺は確かに死んでいる。ま、結論から言うと、実は今此処に居る俺は君の一部なんだ」リュウキは嘗てそうしていた様に柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
41名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 13:30:30 ID:0+h+hQmc0
「俺の?」
「そうだ。正確に言えば、君の記憶の中にあるリュウキ。それが俺だ」
「俺の……記憶……」京介が俯きながらリュウキの言葉を反復する。
「ああ。……君とは短い付き合いだったけど、随分と楽しい思いもさせてもらった。先ずは、ありがとう、と言っておくよ」リュウキは白い歯を見せて人懐っこい笑顔で言った。そして、此処からが本題だ、と真顔になって言葉を続ける。
「この空間は君の意識の奥の奥。いわゆる深層意識、という奴だ。……実は今、君の心は表と裏の二つに分かれているんだ」
「そんな、いきなりそんなこと言われても。現に俺、此処に居るじゃないですか」未だ事態が飲み込めない、といった風情で京介が応える。
「だから、深層意識の中だって言っただろ? そうじゃないと死んだ筈の俺が居る事に説明がつかないじゃないか」リュウキが困った様に返す。その様も生きていた時の様子その儘だ。
「あの世じゃないんですか」
「だから、まだ死んじゃいないって。でも、此の儘だと本当に死ぬかもしれないよ」
「どういう事ですか」
「君が自分の記憶を受け入れれば分かる。俺が此処に居るのは君自身にそれを知らせる為なんだ。俺を此処に送り込んだのは、実は君自身なんだよ」
「言ってる事が分かりません。俺が、どうして俺にそれを知らせなければならないんです? どうしてリュウキさんなんですか?」
「……俺が来たのは、君が此処に居る切っ掛けになった直接の原因が俺だからだ。俺と集落の人たちの死をトラウマとしている君の本心を開放する為だ」リュウキは矢継ぎ早に尋ねる京介を宥める様に言った。
「そんな……」あまりの突飛な出来事に困惑する京介。
「彼の言っていることは本当だ。京介」京介の背後から更に声がした。
「……父さん?!」そこに立っていた消防服の男は京介の父、桐矢恭一郎だった。
「父さんも、俺の記憶?」
「いいや。私はお前の血、つまり『古の鬼の血』の中にいる」
「古の鬼の血……?」
「そうだ。お前は、いや、私も知らなかった事だが、私やお前の中には『古き鬼』の力が眠っていたんだ。お前が鬼として他の者よりも一際早く成長できたのは、その力があったからだ」
「鬼の力が俺に……」京介は自分の拳を握るようにして見つめた。
「しかし、今のお前はその力を正しく使えていない」
42名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 13:31:43 ID:0+h+hQmc0
「……どういう事? 俺は今まで鬼を目指して、此処迄やってきた。その事が間違っていたって言うのかい?」
「そうじゃない。龍鬼君の死を正しく受け入れられなかった事によって今のお前の状態がある、ということだ」
「俺の状態……」
「彼が言った様に、それはお前自身が自分の記憶を受け入れる事でそれがどういう事かは理解できるだろう」
「でも…………」京介は父の死後もずっとその影を追って生きて来た。それは父に会いたいという叶わぬ願いの裏返しでもあったのだ。その父が如何なる形であれ、今自分の目の前にいる。
恭一郎の目の前にいる息子は姿こそ青年の儘だが、その意識は父を失った時の幼い京介に戻っている様だった。目一杯瞳を潤ませて流れる涙を堪えている。
「京介。今のお前には私に甘える事よりも果たさなければならない使命と義務がある筈だ。そして、何よりお前には護りたい人がいるだろう」
「護りたい……人?」
「私がいない今、一体誰が母さんを護るんだ? お前自身の大事な友達、仲間を誰が護るんだ?」
「そ、それは……」
「私が死んだ時、お前は母さんに言ってくれたね。ママは僕が護るから。だから、ママ泣かないで、って」恭一郎は京介の両肩に手を掛けて優しく微笑む。
「…………」
「お前が私の事を超えたい、と願って鬼を目指した事も知っている。その奥底にあったのは、母さんと、いや、私との約束を守ろうとしていたお前の強い気持ちだって事もな」
「…………」
「だからこそ、お前は今、自分と向き合わなければならない。お前が力だけを求めた後に何が起こったのか、もう一人のお前が今何をしているのかを、お前は自分で知らなければならない」
「自分で……」
「お前が鬼として生きる道を選んだ以上、避けて通ってはならない道だ。……私は何時もお前と共にある。自分にもたらされた真実を受け入れて、立ち向かうんだ、京介」
「父さん……」
43名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 13:33:48 ID:0+h+hQmc0
「お前が自分自身を受け入れた時、道は必ず開ける筈だ。道のその先へはお前の中に流れる鬼の血とお前の大事な仲間達が必ず導いてくれるだろう」
恭一郎は京介の頬に両手を当てて諭す様に、分かったな、と言った。その手は昔と変わらず、大きくて暖かかった。
「…………分かったよ、父さん」京介は両目から涙を零しながら頷いた。涙を押さえる様に閉じた目を開くと、その瞳には覚悟を決めた『鬼』の光が戻っていた。
「では、お別れだ。此処での出来事はお前の心の奥底であったことだ。戻った時には忘れてしまうかもしれない。でも忘れるな。私は何時もお前の傍にいるということを」恭一郎はそう言い残して京介の目の前から去っていった。
京介は去る父を見送って踵を返すと、腕組みをして立っていたリュウキに向かって言った。
「……では、行ってきます」しっかりとした面持ちで師匠譲りのポーズを決めると、リュウキも笑顔で自分のサムズアップを返した。
 その瞬間、照明が落ちたように京介の眼前が真っ暗になった。

 殴られて倒れこんだ凶鬼を見ながら、明日夢は荒い息を何とか整えようとしていた。
 面の中の口は切れ、目の前も霞む。
 体中が軋む様に痛かった。
「…………京介……」呟くように声を掛ける。
「もう、やめよう。目を覚ませよ。……一緒に帰るんだ」自分も倒れそうになりながらも凶鬼に近づく明日夢。
 凶鬼によって追い詰められていた響鬼や裁鬼達も思いは同じだった。
 明日夢の言ったとおり、京介は何者かに操られる様に自分達に向かっていたように響鬼達には見えていた。
 その言動は弟子入りする前の京介を髣髴とさせるもので、成長した彼を具(つぶさ)に見てきた鬼達には信じ難い事ばかりだった。
 本当の京介を連れて帰りたい。その思いは此処にいる鬼達全員が同じだった。
44名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 13:35:20 ID:0+h+hQmc0
 京介は自分の記憶を順に辿った。
 力を求めた瞬間、洋館の男女の姦計に嵌った京介はその闇の力によって『純血の鬼の力』を手に入れた。
その代償として、人間・桐矢京介は意識の自由を奪われて闇に堕ちたのだ。
 人としての善意、思いやり、優しさといった感情は意識の深い所に追いやられ、憎しみ、妬み、恨みといった人間の悪しき心を増幅し、それを力と成す『悪鬼』となってしまったのだった。
 悪鬼は自らの血を使い、別の悪鬼たちを次々と作り出してゆく。
 その様を見て毒々しい笑みを浮かべる男女の姿。
 自らの記憶を辿り、犯した罪の大きさに慄く京介。
『逃げるな。その先にお前の目を覚まさせた者達がいるのだ。そこにお前の居るべき場所がある』
 慄く京介の耳に父の声が聞こえてくる。しかし、その声は何処か自分の『師匠』にも『友』にも似ていた。
 京介は尻込みする心を奮い立たせて、その先を見据えた。
 視線の先に立っていたのは、蒼い音撃鼓を腰に据えた二本角の『鬼』だった。

「あ、安達……」うつ伏せに倒れた凶鬼は身を起こして振り向くと、明日夢に話しかけた。
 その面にある鬼面は皹が入り、今にも割れようとしている。
「お前だったんだな……。俺を呼んでいたのは……」
「……京介、目が覚めたのか……?」明日夢はほっとするようにがくり、と膝を落とした。
「…………響鬼さん、裁鬼さん。それに一撃鬼さん……。すみませんでした」凶鬼、いや京介変身体はそう言って周りにいる鬼達に詫びた。
「……良かった」一撃鬼はそう言って安堵の表情を見せた。しかし、裁鬼はその京介の様子に異変を感じた。
「響鬼さん……頼みがあります」凶鬼の姿のままの京介はそう言ってよろよろと立ち上がった。
「……俺を清めて下さい」
「……京介君、それは!」裁鬼が叫んだ。
「裁鬼さん?」一撃鬼が驚いて裁鬼を見る。
「その音撃鼓で、俺を清めて下さい」京介は明日夢の腹部にある音撃鼓を指差して言った。
「京介、何言ってるんだ?」明日夢は京介の言によく分からない、と言った風情で口を挟む。
45名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 13:36:31 ID:0+h+hQmc0
「響鬼さんや裁鬼さんならば、知っていますよね。『鬼祓い』には昔ながらのやり方がもう一つあるって」
「……京介。お前『あのやり方』をするつもりか……?」響鬼が搾り出すような声で京介に訊いた。
 京介は頷くと言葉を継いだ。
「古い言い伝えに、魔道に堕ちた鬼を清め人に戻すには音撃を以って是を成せ、とあります。しかも、その鬼と最も縁の深い鬼による鼓の音撃を以って成すべし、と」
「良く知っているな」
「……勉強しましたから」響鬼の言葉に柔らかく答える京介。
「俺は鬼として入ってはならない道に踏み込んでしまいました。此の罪は此の身で償わなければなりません」
「しかし。……京介、本当にいいのか?」響鬼は京介の意思を確認するように言った。
「はい」京介はその疑問に動じる事無く答えた。
「……鬼の力を失うぞ」
「分かっています」迷い無く答えた京介変身体の鬼面の双眸に淡い輝きがあったのを明日夢は見た。
「…………分かった。お前の清め、俺がやろう」響鬼は暫く考えていた様子だったが、意を決したように言った。
「明日夢、その音撃鼓を俺に」そう言って、立ち上がると明日夢から音撃鼓を受け取る響鬼。
 足取りが覚束ない響鬼の元にトドロキの緑大猿が音撃棒を拾って持ってきた。
「すまないな」響鬼はDAに礼を言うと、始めるぞ、と京介の腹部に音撃鼓をセットした。
 本来作動する筈の無い音撃鼓が展開され、京介変身体を包むように広がった。
「……お願いします」覚悟を決めている京介は残っている力で踏ん張る様にその場に立った。
 響鬼も京介の前に立つと、精一杯踏ん張るようにして蒼い音撃棒を構え、小さく呟いた。
「……お前の技だ……。蒼炎強打の型っ! 破ぁっ!」
 そうして、響鬼による清めの太鼓が打ち鳴らされた。

(十九之巻へ続く)
46名無しより愛をこめて:2007/10/06(土) 15:48:06 ID:9IRe+xQR0
投下乙です。ぜひ最後まで書き切ってください。
(いろんな事情で、完結せずに消えていくSSが多いので・・・)
しばらく投下がないSSも再開待ってます。
47名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 00:30:47 ID:L2kuUSTZ0

http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1179024153/549
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          、ヘ,
         ( _X,)
        (((=(,,(^)
       (ノ-(嵒ノ,ノ、
       (_) 'リl(_)

     + 激しく逃亡(2) +
48志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:08:02 ID:MWcmaO6m0
前回は>40-45

最終之巻(十九之巻) 響き合う者

響鬼による鬼祓いが始まると、裁鬼は横にいる一撃鬼に向かって、動けるか、と尋ねた。
 一撃鬼が大丈夫な旨を伝えると、二手に分かれて響鬼達の周りを固める様指示をした。
「鬼祓いの間は二人とも無防備だ。此の間に『奴等』に介入される事だけは絶対に避けなければならない。此処は俺達が二人を守るんだ」
「分かりました」一撃鬼は裁鬼の言に肯くと、烈光を手に響鬼の左横に距離を置いて移動した。
 大丈夫だ、とは言ったものの、一撃鬼もまた疲労の色が依然濃い儘だ。その足取りは重い。
「明日夢君、こっちへ」裁鬼が明日夢を呼んだ。
 明日夢が体を引きずる様にして裁鬼の下に来る。
「何でしょう」
「君に頼みがある。……二人をしっかりと見ていて欲しい」
「……それだけですか?」裁鬼の言に驚く明日夢。
「それだけだ。……この鬼祓いは清め行の中でも最も危険なものだ。万が一、音が乱れて失敗する様な事があれば二人共命を失ってしまう。いいな、絶対に目を離すな。
僅かな乱れも無い様に君の心を送り続けるんだ」裁鬼は、何かあれば是で身を守れ、と言って自分の音撃双弦の片方を渡した。
 裁鬼は明日夢の肩をぽん、と叩くと、一撃鬼と相対するように響鬼の右横に移動した。
 二人とも響鬼達に背を向ける様にして、それぞれが前方を警戒する様に立っている。
 明日夢は裁鬼に言われた通りに全神経を集中し、響鬼達の方を見据えていた。
 響鬼が打ち鳴らす太鼓の旋律に合わせる様に一定のリズムが刻まれている。
 否、一定のリズムに合わせて響鬼が太鼓を打ち鳴らしているのだ。
『これは……大太鼓の……』何時しか京介の背の高さに合わせて横打ちに叩いていた筈の響鬼が正面打ちに変わっている。
 京介を包んだ音撃鼓が浮き上がっているのだ。
 そして、裏打ちの様に早く刻まれる一定のリズム。
 その音は鬼祓いを受ける京介の全身から響いていた。
49志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:09:13 ID:MWcmaO6m0
「明日夢君は『清めの音』の元って何だか知ってる?」そう日菜佳に尋ねられたのは一年近くも前のことだ。
 明日夢が、いいえ、知りません、と答えると、実はね、と耳打ちする様に教えてくれた。
「動物なら誰でも持っている音なんですよ」言いながらにっこり笑う日菜佳。
「分からないなぁ、何ですか?」
「……心音です」
 生命がその存在のある限り持ち続ける絶対不変の音。
 生き物の体内を駆け巡る血液や体液の脈動。それを可能にする心臓や内臓器官の活動する音。
 『清めの音』が闇のモノである魔化魍を滅ぼせるのは、生命の象徴である此の鼓動を元としているからなのだ。
 鬼は自身の鼓動をその体内で練り上げ、『清めの音』に変える。
 その為に必要なのが『鍛え』であり、『鬼の儀』である。
 『鬼の儀』の際に受ける自らの鼓動を強化する波動に耐え、自らの身を鬼と成すべく鬼を目指す者はその心身を鍛え上げる。
 体内で練り上げた『清めの音』を鬼石と音撃武器による共鳴によって魔化魍の体内に浸透させ、内部より是を完全に破壊するのが『音撃』なのだ。
 故にその拍動や音に僅かでも乱れがあれば、音撃は完成しない。
 それを防ぐ為に、鬼は日頃から戦い方や音撃の方法を常に模索し、鍛錬し続けてきたのだった。
 是に対し、『古の鬼』は先天的に此の能力を備えていたようである。
『古の鬼』達は自身の能力を最大限に生かす為に呪術の様な方法を研究した。
そして、より効率的にその力を得ていた様であるが、その血は時代と共に薄れ、それに付する様にその力も深く人の中に眠ってしまったのだった。
50志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:10:21 ID:MWcmaO6m0
 京介の体内から響いてくるそれは、まさしく京介の全身の鼓動による『清めの音』だった。
「……戦っているんだ、京介も……。自分の中の魔化魍と……」明日夢は拳を握り締めて呟いた。
 響鬼の両側を固める裁鬼達は微動だにしない。
 その様子はまるで阿吽の仁王像の様だった。
『頑張れ、京介』明日夢は両の脚をしっかりと踏みしめると、音撃鼓を打ち続ける響鬼に自分を重ねた。
『俺も、一緒に……!』明日夢の心は今、師匠と共に友の鬼祓いの為の太鼓を必死に打ち続けていた。

 それから、どれ程時間が経っただろうか。
 明日夢はその時間が僅かな様にも何年も経った様にも感じていた。
 不思議な感覚の中、響鬼の打つ音撃鼓が大きな白い光を放つ。
 響鬼の最後の一打と共に、京介変身体の鬼面が粉々に――砕けた。
 面が砕けると同時に京介の全身を覆っていた黒い姿は塵と消え、変身が解除された。
 それと同時に明日夢の眼前は真っ白になり、後には暗闇が訪れた。

 響鬼の最後の一打による音撃鼓の発光は、『墓場』の崩壊をもたらした。
 正確には、京介自身が紡いだ鼓動との相乗効果による音撃が京介の体内にある瘴気の爆発を生み出したのだ。
 爆発は爆発を生み、『墓場』は瞬時にそのエネルギーを失って消失してしまった。
 その後には、変身を解除された四人の人影と、一体の鬼が横たわっていた。
「やられたな」傍の木陰から様子を見守っていた和装の男が呟いた。
「鬼祓い迄は考えなかったわね」女が同調する様に言う。
「鬼同士が潰しあえば奴等の心の傷が増えて、少しはやり易くなったかも知れないんだが……」
「まあ、仕方ないわね。今回は私達の負けって所で、いいんじゃない?」
「実験はいま一つ。収穫は僅か。世の中、そう甘くは無かったか」
「貴方が『世の中』なんて言うのね」女は男の言動が可笑しかったのか、くすくすと笑った。
「……たまには人間の真似をしてみるのも悪くない」男はそう言うと踵を返してその場を立ち去った。
「ま、次は無いでしょうけど」女は倒れている鬼達に向かってそう呟くと、男の後を追った。
 笑みを浮かべるその瞳の奥に邪悪な怒りの炎を宿した儘で。
51志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:11:00 ID:MWcmaO6m0
「あっれー、あいつら帰っちゃったよ」『墓場』の別の方には和装の男女と同じ顔をした洋装の男女が立っていた。
 どうやら事の全てを見ていたらしい。
「ええ〜っ、帰っちゃうんだぁ」女も日傘を回しながらつまらなそうに言った。
「あの鬼達、潰しとこうかぁ?」男がステッキをくるくると回しながら出て行こうとするのを、女が引き止めた。
「だめだよ。きっとわざと残したんだよ……。今潰したらあいつらの獲物無くなっちゃうでしょ」
「う〜ん」
「私達の楽しみも減っちゃうよ」
「……そうだね。餌の時間ももうすぐだし、もう暫く見てようか」
「そうそう」
 洋装の男女は、私の人形は良い人形、等と歌を口ずさみながらその場を立ち去った。
 無論、倒れていた鬼達にはその存在すら気付かれない儘に。

次に明日夢が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
「明日夢……良かった」付き添っていた母の郁子が明日夢の頬に触れて、そっと微笑んだ。
 その顔に一筋の涙が流れたのを見た時に、明日夢の心は激しく痛んだ。
「……心配かけて、ごめん」
 そう言うのが精一杯だった。
 郁子には猛士の事は既に説明済みだ。
 猛士の事を聞かされた他の人間と同じ様に郁子も話の当初は信用していない様だったが、明日夢の話に嘘偽りが無い事を感じると、黙って猛士への参加を許してくれた。
 しかし、危険な任務はないと聞いていたので、明日夢が病院に搬送されたと聞いた時には衝撃を隠せなかった。
 幸い、明日夢は搬送されてから丸一日程で意識を取り戻したので、郁子は安心して仕事に戻っていった。
52志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:11:36 ID:MWcmaO6m0
「ところで、ヒビキさん達はどうしたんですか?」翌日様子を見に来た勢地郎に向かって明日夢が尋ねると、皆無事に収容したよ、との答えが返ってきた。
 勢地郎の話によると、明日夢がヒビキの後を追って河口湖に向かった翌日、サバキが河口湖に単身でフォローに向かったが、すぐに行方を絶ってしまったらしい。
 定時連絡も取れなくなった事から魔化魍と接触したと判断したものの、他の鬼は全て病院送りとなっていた為すぐに行動を起こす事が出来ず、吉野総本部を通じて再度各支部に応援要請を行った。
 その二日後に魔化魍の発生が沈静化した北海道からフブキとトウキが応援に駆けつけて捜索にあたったところ、樹海の中央部付近で倒れている五人を発見、収容したのだった。
 フブキ達が明日夢達を発見する前夜に樹海の中で謎の発光が確認されたのだが、その原因や正体については現時点では不明とされていた。
「京介は……大丈夫なんですか?」明日夢は痛む体を押して体を起こすと勢地郎に尋ねた。
「まだ眠ったままだ。どうやら命は落とさずに済んだ様だが、修行中の身で鬼祓いを受けた訳だから、今後鬼になれるかどうかは……」
「そうですか……」勢地郎の話に沈痛な面持ちになる明日夢。
「そういえば、明日夢君が留守の間にひとみちゃんが来ていたよ」
「持田が?」
「大学休んでいるって聞いて、訪ねて来たんだな。……あんまり心配させちゃいけないねぇ」
「すみません」
「彼女には明日夢君は私の用事で急遽河口湖に使いに出てもらっている、と言っておいたよ」
「ありがとうございます」
「代わりに謝ったんだから、今度二人で来る時は、しっかり売り上げに協力してもらえると嬉しいねぇ」勢地郎は人懐っこい笑みを浮かべてそう言うと、じゃ、お大事に、と言い残して帰っていった。
53志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:12:24 ID:MWcmaO6m0
勢地郎が帰って暫くしてから、体のあちこちに包帯を巻いたヒビキが、起きたのか、と言って病室に入ってきた。
「ヒビキさん、大丈夫ですか」明日夢が尋ねると、鍛えてますから、と何時も通りの答えとポーズが返ってきた。
 ひとしきり笑った後、ヒビキが明日夢の目の前に座って真顔で言った。
「明日夢、助けてくれてありがとうな」
「ヒビキさん……」
「あの時、お前がいなかったら俺達も京介もどうなっていたか分からなかった。実際、本当に助かったよ」
「……俺、あの時は皆を助けたい、って唯それだけでした。気がついたら音叉を握って、鳴らしていたんです」
 ヒビキはそんな明日夢の顔を黙って見ていたが、やがてポツリ、と言った。
「……明日夢。お前、鬼になりたいか?」
「いいえ。前にも言いましたが、俺は鬼になるつもりはありません」明日夢はヒビキの問いにきっぱりと答えた。即答だった。
「呆れたな。鬼になるつもりも無いのに変身したのか」
「あの時はそれ以外なかったからだと思います。出来るかどうかも分かりませんでしたし。兎に角必死でした」
「…………」
「でも、ただ変身できたからといって鬼になるんじゃ、何か違う様な気がします」明日夢の言葉に頷くヒビキ。
「決して鬼になる事だけが人助けじゃない。俺、ヒビキさんに話したあの時からずっとそう思っています……。今は自分の決めた道を突き進んで行きたい。そう思います」
「…………そうか。うん、それでいい」ヒビキは明日夢の言葉に暫く黙ったが、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「良く心を鍛えたな、明日夢。……お前を弟子に持てて、本当に良かったと思うよ」
「ヒビキさん」
「今のお前なら俺が傍にいなくても、もう立派にやっていける筈だ」
「……え?」
「『独り立ち』だ、明日夢。自分の『志した道』をしっかりと踏みしめろ」
 突然のヒビキの言葉に明日夢は暫く呆然としていたが、やがて真剣な面差しになって力強く、はい、と答えた。
54志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:13:16 ID:MWcmaO6m0
「それじゃ、俺も病室(へや)に帰るよ。みどりも来てるだろうしな」ヒビキはそう言うと立ち上がって戸口に歩いていった。
「ヒビキさん」その背に明日夢が呼びかける。
「京介はどうなるんです?」
「あいつは大丈夫だ。俺の『鬼』を継ぐのはあいつ以外にはいないからな」ヒビキは振り向いて微笑むとポーズを決めて去っていった。
 明日夢はヒビキのその姿を見て安堵した。
 あの人も俺と同じだった。
 京介は復活できないかもしれない、と言う勢地郎の言葉にも明日夢は心の何処かで信じられない思いでいた。
 あいつはそんなやわな奴じゃない。きっと復活する。
 鬼祓いで京介と共に戦った明日夢にはそう思えてならなかったのだ。
 師匠のヒビキが同じ思いだと知った時に、明日夢は百万の味方を得た思いがした。
『京介、早く起きて来い』明日夢は京介の鬼面に宿った光を思い出し、友の復活を願った。
55志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:13:51 ID:MWcmaO6m0
明日夢が意識を回復してから三日後に京介が意識を回復した。
 しかし、総本部からの通達により京介の身柄は隔離され、京介自身に危険がないと判断される迄は鬼以外の人間との接触は許可されなかった。
 魔化魍と接触したと言う事実を重く見た総本部は外科手術による鬼祓いも検討したとされる。
しかし、和泉総本部長の、響鬼達の行った鬼祓いの成果が確認される迄は悪戯に事を荒立てるべきではない、との鶴の一声で一時様子見との判断に達した。
その間にも鬼封呪にかかった関東支部の鬼達は順次意識を回復し、ダンキやショウキといった軽症の者は医者の止めるのも聞かずに早々に退院してしまった。
彼等は衰えてしまった自らの能力を回復するべく、それぞれ『鍛えの場』へと入っていった。
 北海道から応援に来ていたフブキとトウキの二人も支部の機能が回復していくのを確認すると北海道へと戻っていった。
 引継ぎをして帰るフブキをエイキは寂しそうに見送ったという。その心中に早々に北海道への転属願いを出そうかどうかという思いがあったかは分からないが。
 最後まで戦っていたイチゲキとサバキは予想以上に体にダメージを受けており、明日夢と同じ位の入院を余儀無くされた。
 是はヒビキも同じで、本来安静にしていなければならないところをラーメンを食いに脱走しようとして看護師に見つかったり、勝手に体を動かして注意される事もしばしばだったという。
 そんな中でも京介は順調に回復を続け、明日夢達に遅れる事十日程で退院できる運びとなった。
幸いな事に魔化魍の影響も無く、鬼祓いの外科手術の必要もない、との判断が下された。
 是は総本部の中で、京介が鬼の力を完全に失った、という見立てがあった為だともされている。
 しかし、京介が一般人と接触する事は明日夢が退院する迄に許可される事はなく、結局明日夢と京介が病院内で会う事は無かった。
56志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:14:23 ID:MWcmaO6m0
「良かったな、退院できて」退院を明日に控えて見舞いに訪れたヒビキは屋上に京介を連れ出して言った。
「早速で悪いが、退院したら『鍛え』に入るぞ」
「はい」
「鬼になれないかもしれないのに、いいのか」
「俺、諦めてませんから」
「だろうな」
「分かってて言ったんですか」
「弟子の考えている事が分からない師匠なんていないさ」
「師匠の考えている事の分からない弟子もいませんよ」
「そうかい」
「そうですよ」そう言って互いの顔を見て笑う師弟。
「ところで、その弟子の考えが分かっている奴がもう一人いる」
「莫迦な奴ですね」
「そうだ、お前と同じな」
「ですが、その莫迦がいなければ、俺は此処にいなかった」
「ああ」
「あいつの為にも、俺は『鬼』になります。……必ず」青い空の下、そう誓う京介の瞳は澄んでいた。
『そうだ。お前は俺の『鬼』を継ぐんだ。あいつが俺の『志』を継いだ様に。……必ずな』ヒビキは風に吹かれる弟子の顔を見ながら心の中で呟いた。


 半年後、桐矢京介は漸くヒビキの元を独り立ちし、太鼓の鬼となった。
 その銘(な)を『強鬼(キョウキ)』という。
 その血に眠る『古の鬼の血』は京介を遂に『鬼の道』へと導いたのだ。
 しかし、京介の銘を付けたのは師匠のヒビキではなく、京介の無二の友、安達明日夢だった。
 銘付けは師匠の最後の仕事の筈なのだが、何故か此の師弟は明日夢にその仕事を頼んだ。
 それに応えた明日夢は誰よりも心強き鬼で居て欲しいとの願いを持って『強鬼』と銘付けたのだという。


志を継ぐ者と業を継ぐ者――完――
57志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/10/08(月) 01:22:23 ID:MWcmaO6m0
終わりました・・・・・・。

本当は京介と明日夢の会話も入れたかったのですが、蓋開けてみるとこんなことになってしまいました。
自分で書いてて、いいのかなぁ、とも思いましたが、これ以上思いつかない・・・・・・。
厨二病な文章になってしまいましたが、お付き合いくださいましてありがとうございました。

中断中のSS作家様、復帰お待ちしています。
では、読み専に帰りますね。皆さん、本当にありがとうございました〆
58名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 01:47:42 ID:m9YQvuA/0
志を〜作者さん、乙でした!
連載当初からドキドキしながら読み進めてましたよ
京介も明日夢もおつかれさん!つ【オロC】

読み専などと言わずに、また書いてください・・・・
今はとりあえず つ【オロC】
59名無しより愛をこめて:2007/10/08(月) 02:41:08 ID:47Hc0s1vO
約半年の連載、お疲れ様でした。
それぞれの鬼に見せ場があったのがよかったと思います。
あと京介含め敵の造形がいいと思いました。
取りあえずこれを。 つ【金麦】
60名無しより愛をこめて:2007/10/09(火) 13:02:42 ID:q5uppIJP0
 志を〜連載おつかれさまでした。今も鍛えてます、ってかんじの皆がとても素敵です。
61名無しより愛をこめて:2007/10/13(土) 01:35:59 ID:M/O9zdCi0
保守

誰も来ないなぁ・・・
62名無しより愛をこめて:2007/10/14(日) 20:48:31 ID:+mi51wEV0
志を〜完結おめでとうございます。
京介の変身最短記録という番組上の無理を拾う形で始めた作品で
明日夢・京介ふたりの成長を描き、明日夢のヒビキからの卒業もきちんまとめ
TV版の不満足感をきれいにぬぐってくれました。
僕の脳内では、この作品がTVスペシャルとして最終回に位置づけられました。
作者さん、ありごとうございました。
63名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 12:00:29 ID:ZyfiyCE80
なんも投下されないので小ネタ投下します。
タイトルは決まってないですが、地味な響鬼ってことで。
64名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 12:02:12 ID:ZyfiyCE80
決まらぬ就職

「うわ、また一次で落ちたよ」
大学の就職課のパソコンを見ながら、加藤一樹は言った。
就職活動を始めたのが遅かったとはいえ、9月の終盤にもなって未だに内定をもらえてないのは
大学の4年間を遊びほうけていたツケが一気にきたのであろう。
「まいったな・・・もう今年度の採用なんて殆どないなぁ」
来月には内定式を行う企業が殆どで、すでに募集の告知は来年度の募集に代わり始めている。
はあ〜と思いため息をつき、気分転換に就職課の前にある自動販売機へと向かった。
「フリーターしかないかなぁ・・・」アイスコーヒーを買い、就職課前の掲示板をボケっと見る。
山田工業・・・田中青果店・・・募集の告知で残っているのは名前も聞いたことのないような弱小企業ばっかりだった。
「この際、どこでもいいか・・・」そんなあきらめムードで見ていると、募集が二枚重ねになっている箇所を見つけた。
おそらく誰かが間違えて上から張ったのだろうか、一樹は一枚をめくり隠されていた募集要項をみる。
「NPO法人 TAKESHI」
NPO法人?まだそんなのが残っていたのか。
『オリエンテーリングのNPO法人です。地質調査や自然を守る人をサポートする仕事です』
『男女問わず、健康な人で自然が好きな人、山、海どこでも行ける人募集中。 ※要普通免許』
まるでアルバイトのような募集要項だなと思いつつも法人であれば、他よりはましだろう。
幸い体力には自信があるし、免許書もある。一樹は最後の望みを託し、この企業にエントリーしてみることにした。
65名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 12:25:17 ID:ZyfiyCE80
超える試験
自分でも改心のできかもと思うようなエントリーシートを送った。
数日後、一次試験の案内の通知が送られてきた。
一樹はすでに埃を被っていた一般常識の本とSPI試験の問題集をひっぱりだし必死に勉強した。
途中、ゼミの仲間から一次試験後にレースクイーンとの合コンの誘いが来たことで、さらに火がつき、
人生でこれ以上ない程、勉強に集中した。

そしてむかえた試験当日。
「今日は勝つ」という意味を込め、朝一でカツ丼を食べ、試験会場に向かう。
本社は奈良県にあるらしく、試験は都内の河井塾の一室を借りて行われていた。
ざっとみ20人程度。結構少ない。時期的に二次、三次募集になってしまったのだろうか?
しかし、少ないと競争も楽になる。この勝負イケる!一樹はそう心で思った。

一般常識問題は午前中に終了した。一樹はふぅ〜と河井塾の廊下で一息ついた。
頑張った甲斐あって、めずらしく試験に手応えを感じていた。
あとは午後からの性格行動試験だけだが、基本的に変な事をしなければ大丈夫だろう。
一次突破を確信し、にやりと笑い教室へと戻った。
その頃、他では
「ねぇ、東洋妖怪史は勉強した?」
「そっちには期待してないから、音撃力学で点数取るよ」
「鬼太郎教授の妖怪生理学って参考書がさ・・・」
二次試験の案内通知が送られてくるまで、一樹は自分の受けている企業についてなにもしらなかった・・・
66名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 12:46:28 ID:utCILQ3c0
音撃力学w
67名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 13:04:56 ID:75xLelGY0
>64-65
投下乙です

「鬼太郎教授」にワロタ
参考書なら、「目玉親父の牛鬼でも分かる魔化魍入門」なんてどうかな?
68名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 13:12:49 ID:ZyfiyCE80
見えぬ企業

二次試験も東京で行われた。
特に試験内容を知らされていなかったが、背水の陣で望んでいる一樹には関係ない。
どんな困難も乗り越えてやる。そんな確固たる決意を胸に二次試験に望んだ。

「?」 しかし、試験用紙をめくると一樹が今までに見たことの無いような問題があった。
東洋妖怪史、妖怪生理学、基礎音撃・・・
NPOともなると、こんな問題を出すのだろうか?
まったく対策を練っていないため、カンで答えるしかない。
問1.川に生息するバケガニと海に生息するバケガニの違いを述べよ。
答1.(味が違う。海の奴の方が身がいっぱい詰まってるんじゃないかなぁ・・・)
問2.音撃弦の出力を最大限に引き出すために最も効率の良い方法を答えよ。
答2.(アルカリ電池を使う・・・)
問3.鬼の状態で心停止した場合の応急処置法を記せ。(顔だけ変身解除していない)
答3.(誰か呼ぶ)
69名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 13:15:13 ID:ZyfiyCE80
「はい、試験終了です」
はぁ〜と、安堵の色を見せる周りの受験者と違い、一人で異常に疲れ切っている一樹。
「なんなんだこれは・・・」この企業は何かおかしい。
思わずとなりの人に話しかける。
「なんかこの問題おかしくないですか?」
となりの男はキョトンとした顔をして答える。
「いや、例年と変わらないよ。むしろ今年は易しいんじゃないかな」
「…そうですか」何はともあれ、もう受からないだろうと一樹は思った。
そんながっかり顔を見て、となりの男は気遣うように話した。
「そんなに落ち込まなくても平気ですよ。この試験は落とす為じゃなく適性を見てるそうです」
「適性ですか?」
「ええ、ここに大学時代の先輩がいるんですが、一次と二次の結果から一般事務か現場かを決めるそうです」
「そうなんですか?一次は自信あったので、まだ、内定のチャンスはあるってことですか?」
「チャンスも何も、一次試験の通知が来た時点で内定してるようなもんだし……」
男は腕時計をみると慌てて立ち上がる。
「ごめん。この後予定があるから帰るね。また、三次で・・・」
「え、あっ色々ありがとう」
結局、一樹はこの会社について、わからないまま帰宅した。
70名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 13:19:44 ID:ZyfiyCE80
帰宅すると募集要項を改めて確認する。
「うーん、給料も福利厚生も別に普通だな。むしろ普通よりいいぐらいだ」
未だに一樹は、この企業について何も知らなかった。
インターネットで検索しても、なにもわからない。
どうやらNPO法人であることは確かなのではあるが……
「!」一樹はひらめいた!
「そうかこれは天下り先用のNPOなんだ!」
それなら納得がいく。試験会場での彼が一次の通知が来た時点で合格といったのはそういう事か!
だからあんなよくわからない妖怪の問題もきっと所長が妖怪好きでギャグとして出したんだろう。
防衛庁の長官が戦艦オタクだって話もあるし、きっとそうだ。
そう思うと一樹は気が楽になった。
「もしかすると座ってるだけで給料がもらえる仕事なのかもなラッキー!」
そんな甘い妄想を考えながら、その日はビールをたらふく飲み、ほろ酔い気分で眠りにはいった。
71名無しより愛をこめて:2007/10/16(火) 13:22:29 ID:ZyfiyCE80
>>67
どっかで使わせてw
7267:2007/10/16(火) 14:15:56 ID:75xLelGY0
>>71
 どうぞー♪
 師弟の鬼は、恐怖で硬直した母子(おやこ)を守るように並び立ち、ショウケラと対峙
する。
 右前方に二、正面に三、左に一。幼児ほど大きさの巨大な爬虫類の姿をしている。体に
比べてアンバランスに頭が大きい。ヒトだか爬虫類だか、どっちつかずの狂った設計の頭
部で、瞳の無い、銀白色の目玉がらんらんと輝いている。
 正面奥に女。
 志郎、分析。とほとんど抑揚のない口調で飛沫鬼が低く短く。鱗が生えそろっていない
ことと体長から幼体と判断。分裂・増殖能力は未発達と推測。ショウケラの姫、変化前、
データより手負いと断定。

「ポンコツの姫に止めをくれてやりな」

 塩辛声が静かに檄を飛ばした。言われて弟子は、撥を素早く胸の前に突き出し、交差させ、
「セイヤッ」の気合とともに振りぬくと、碧に輝く水塊が生じ、姫めがけて射ち出された。

 母(かか)っ

 養育固体を攻撃され、ショウケラたちがどよめきたつ。
 深海の重さを纏った水塊は、激しく回転をしながら姫の胸部にめり込み、十米ほど後方
の道路まで吹き飛ばした。皮膚を浅黒く変色・硬化させた姫が、焼けたアスファルトの上を
のたうつ。すんでのところで防御姿勢に入っていたようであった。指示どおり止めにはいた
らなかったが、いくばくかの時間は稼げよう。
 必中の間合いを確信している史郎は、既に視線をショウケラのほうへと向けている。
 腰を落とし、撥を構え、呟いた。

「来い」

 ざわめき。

 諸共に喰ろうてやる!
音に等しき速さ。見切れまい。
 名を持たぬ鬼をめがけ跳ぶ、六条の唸り。

 衝撃・落下・激突。三つの出来事がほぼ一瞬で起こった。

 なに?!

 質量と速度により生じた大地の窪に、六体の魔化魍は折り重なり、臥していた。
 一秒の五十分の一。
 砲弾を、身体の正面わずか六十センチの距離で叩き落としたに等しい。
 なんという反応速度・なんと言う膂力(りょりょく)。
 逃れねば。
 逃さぬ。
 展開する碧(あお)き縁取りの鬼三つ巴。飛沫鬼が音撃鼓・渦淵鼓(かえんつづみ)の力が、
異形達を地に縫い止める。
 
「音撃打・乱打大瀑布の型!」
  
 高らかに。
 三尺ばかりに展開した鼓を差し挟み、師弟が点対照に、動いた。

 ずんずずん ずん ずんずずんずん
 ずんずずん ずん ずんずずんずん 

 海鳴りがごとき鼓動。
 鼓動が重なり、大地を揺るがし大気を震わせる。

 ずずずずずん ずずずずずん ずんずんずんずんずん

 師は垂直に掲げた、弟子は頭上で交差させた撥を振り下ろす。

 ずん
 
 飛沫鬼の音激棒・汐波(セキハ)が、史郎の音激棒・時化波(シケナミ)が、地の底まで撃
ちぬかんばかりの衝撃を音激鼓へと叩きこんだ。

 爆散。

 六体は折り重なったまま飛沫と変わった。
76皇城の〜の中の人:2007/10/22(月) 00:24:22 ID:LlMGI8hN0
大変のご無沙汰でございます。皇城でございます。
トリップありませんが本人と言うことで了承願います。

皇城の守護鬼 拾弐、をお送りいたします。

未完ではありますが、保守のため、投下させていただきました。
漸く 飛沫鬼・史郎師弟の戦場での勇士をお届けすることが出来ました。

続きはいま少しご猶予を賜りたく存じます。
77名無しより愛をこめて:2007/10/22(月) 00:37:04 ID:R0dMtNt30
>>76
投下乙です。
待ってましたよ。

この乾いた文体が好きですな。
78名無しより愛をこめて:2007/10/22(月) 01:00:20 ID:UU64V/EI0
保守兼投下ご苦労様です。
トリップなくてもこの文体は本人と思うしかないですね。
史郎の音撃棒はシケナミっていうのね。ふぅ〜ん。
79名無しより愛をこめて:2007/10/22(月) 23:00:24 ID:OSUjQt0D0
ん? 拾壱、では?
80名無しより愛をこめて:2007/10/24(水) 18:51:34 ID:qBt80uJ60
>>50
> その後には、変身を解除された四人の人影と、一体の鬼が横たわっていた。

今頃気づいた。気絶しても一人だけ変身解除しないサバキさん画的にワロス
81名無しより愛をこめて:2007/10/25(木) 04:08:55 ID:bBwacC9XO
頑張ってください!
82名無しより愛をこめて:2007/10/25(木) 12:16:28 ID:ltqEdAWAO
いきなり凄い勢いで応援北
83名無しより愛をこめて:2007/10/25(木) 12:27:17 ID:kuzYbLKkO
いま志を〜を読み終った
まず一言、ありがとう
裁鬼メインでさらっと語られた事件をここまで見事に仕上げた手腕は凄いです
最後にちょっと裁鬼メインとは変えた(京介の名前)のもむしろよかったと思います
気絶しても変身が解けないという、サバキさんの暴走の予兆まで入れるとか芸が細かい

またなにか書いて下さるのを期待してます
84名無しより愛をこめて:2007/10/28(日) 22:35:46 ID:hdA1R/vq0

   \ヽ //
    ( ミ羊シ)  あまりにも過疎でスレ落ちシチマイワス!
   .ノ^ yヽ、
   ヽ,,ノ==l ノ
    /  l |
""" ̄"""""" ̄""" ̄""" ̄"
85名無しより愛をこめて:2007/10/29(月) 12:41:52 ID:5PBqDJs/O
そろそろ響鬼単独のSSスレってのも無理なのかも
86コンボイ:2007/10/29(月) 22:49:28 ID:YoQTh6+bO
響鬼好きでしゅ
87高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/10/30(火) 19:08:47 ID:FugfLlhg0
今回のSSは、装甲声刃=言霊みたいに独自の響鬼世界解釈が入っております。
そこのところをご理解の上、お読み下さい。
それではどうぞ。


変えたばかりだから渋っていたが、投下を続ける以上そろそろ本気でプロバイダ変更を考えた方が良いかもしれん…。
88仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:10:48 ID:FugfLlhg0
1978年、卯月末日。
中国支部の鬼達の復帰に伴い、とうとうコウキ達は、長かった中国支部と関西支部の掛け持ちを終える事となった。それは言い換えれば、コウキにとって久し振りに出会った四国の仲間達との別れも意味していた。
その日、中国支部の表の顔である出雲蕎麦屋の店内で、コウキは四国のコンペキと歓談をしていた。
「漸く出向も終わりか……。たった半年の間だったが、四国の時同様やけに長く感じられたな」
感慨深げにコウキが呟く。
「君達も出向はこれで終わりなのだろう?」
「ええ、そうです」
蕎麦茶を飲みながらコンペキが答えた。
元々四国支部は人材不足で有名だ。それなのにわざわざ少ない人材を割いて中国支部に応援を送っているのは、長年培われてきた両支部間の信頼関係によるものが大きい。
……まあその関係を維持するために、中国支部側は禁忌の法まで使っているのだが。
その時の当事者二人が仲良くお茶しているところへ、「金」の佐野学がやって来た。ただ、何やら神妙な顔をしている。
「どうしました、佐野さん?」
コンペキにそう尋ねられた佐野は、一つ大きな溜め息を吐くとこう告げた。
「どうやら皆さんには最後の大仕事をしてもらわなければならないようです……」
89仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:12:58 ID:FugfLlhg0
暖簾が外された後の店内は、実に沢山の人で埋め尽されていた。勿論客ではない。全員鬼だ。
呼び出した張本人である支部長、東真一郎の登場を待ちながら、一同は今回の急な呼び出しについて話し合っていた。
「出向組も含めて呼べるだけ呼ぶだなんて、本当に何事なんでしょう……」
イッキがコウキに尋ねるも、答えられるわけがない。
ウズマキも、やはり同じようにコンペキやサカズキに向かって不安そうに尋ねていた。
そこへ、漸く東が佐野を連れて皆の前へと現れた。
「おや皆さん、勢揃いじゃあないですか。何かありましたか?」
「いや、支部長が集めたのでしょうが……」
「あっ、忘れてました!そうだ、私が呼んだんだった」
漫才のようなやりとりを終えると、東はその場に居る全員に向かって説明を始めた。
「スダマの発生する兆候が見られたのです」
「スダマ……?」
鬼達の中からざわめきが起こる。
「あの、スダマとは一体何ですか?」
皆を代表する形で、中国支部のツワブキが尋ねた。
「スダマとは魑魅(ちみ)の事です」
ますますもって分からない。
「魑魅とは山川木石の精の事です。同じく木石の怪である魍魎と合わせて魑魅魍魎と呼ぶこともあります」
東に変わり、佐野が説明を始めた。
90仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:15:24 ID:FugfLlhg0
モウリョウ。三年前にコウキも戦った事のある相手だ。モウリョウの「モウ」は魔化魍の「魍」。つまりモウリョウは魔化魍の根源的な存在だと認識されている。従ってこの場合……。
(そのスダマとやらも魔化魍の元となる存在だというのか……?)
そんな事を思うコウキ。佐野の話は続く。
「ここ最近のイレギュラーの多発で自然界のバランスが崩れて、一種のアンバランスゾーンが発生した結果のようです」
決定打となったのは、やはり昨年に起きた大山伯耆坊の一件だろう。事実、スダマ発生の兆候が見られたのはその付近の山中だと言う。
「念のために言っておきますが、スダマ自体は珍しいものじゃないんです。ただ、今回は量が酷い。放っておくと大山や鞍馬山の時みたいに大量の魔化魍が湧いてしまうのです」
より一層のざわめきが起きた。
「で、我々にどうしろと?」
九州支部のヤミツキが、欠伸混じりの声でそう尋ねた。
「四国支部恒例の『太鼓祭り』、あれを皆さんにやっていただこうと思います」
東が満面の笑みで一同に向かってそう告げた。
スダマとは魔化魍として見るならば、最弱の存在である。わざわざ鬼石を用いずとも、音撃を鳴らすだけで消滅させる事が出来る。否、霊的な力の籠められた音ならば鬼の術でなくとも構わないのだ。
つまるところ東は、全ての鬼で一斉に太鼓を打ち鳴らしてスダマを清めようと言うのだ。
太鼓なのにもちゃんと意味がある。多数の鬼が一斉に演奏を行う場合、大事なのは「調和」だ。対夏の魔化魍戦に殆どの者が太鼓を修得しているため、合わせ易いと踏んだのだろう。また、古来より打楽器が魔除けの儀式に用いられてきたことも大きいだろう。
急遽、集まった者達で太鼓使い以外の面々に練習用の音撃鼓一式が貸し出される事となった。また、吉野から今回の作戦の補佐役として誰かが来る旨も伝えられた。
「コウキさん、その人ってもしや……」
「まああの人だろうな」
イッキとコウキの予想通り、翌朝、総本部の司書である京極が中国支部を訪れた。
91仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:16:42 ID:FugfLlhg0
その日、山中には支部長の東以下、中国支部の全人員と動ける全ての鬼が集まっていた。
よく太鼓の鬼達が特訓に用いる大きな和太鼓が幾つも搬送されていた。これを打ち鳴らして清めるのだ。
「……本当に音撃鼓じゃなくても大丈夫なのですか?」
コウキの問いに京極は事も無く。
「心配は無用だよ」
しかしそれでも納得の出来ない表情を見せるコウキ達に対し。
「君達、何故音撃は演奏内容が決められているか理由を知っているかね?」
「え!?それは複数の鬼が協力して戦う際、合わせ易いからだと……」
京極の急な質問に、慌ててイッキが答える。
確かに、太鼓は太鼓の、管は管の、弦は弦の決められた曲を奏でて魔化魍を倒す。何でも良いというわけではないのだ。
但し、音撃は使用者の生命の鼓動を基にして奏でられるものだし、更に個々人で――例えばハードロック調といった風にアレンジが施されているため、場合によっては全く別の曲に聴こえるのだが。
コウキもイッキと同様の理由で統一されているかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「コウキくん、君は言霊を知っているだろう?実際に使ったのだからね。あれは力ある言葉を口に出す事で、禍福を呼び込む。音もまた然りだ」
「と言う事は先生、まさか……」
「そう。音にも霊的な力がある。君達の使う音撃は、魔化魍に効果的な音を選んで作られているのだよ。スダマは最弱の魔化魍だ。だから君達鬼が奏でる、力ある音だけでも充分に清められるという訳さ」
と、そこへ東、佐野、「銀」の太田豊太郎、「飛車」の八雲礼二といった中国支部の面々がやって来た。それを確認すると。
「これは先生、お久し振りです」
そう言って京極が頭を下げた。その様子を見てコウキ達が驚く。それもその筈、京極に先生と呼ばれたのは、何と支部長の東だったのだ。
「やあ京極くん、元気そうで何よりです」
「先生こそ……」
呆気に取られているコウキ達の傍に佐野が近寄り、耳打ちした。
「京極さんですが、なんでも、若い頃うちの支部長に大層お世話になったとか……」
二人の詳しい関係は分からないが、これは初耳である。
92仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:18:37 ID:FugfLlhg0
見ると、京極は東達に何かを配っている。
弓だ。丈夫そうな弓を一人一張ずつ配っているのだ。
「あの……何です、それ?」
イッキが質問をすると。
「見ての通り何の変哲もないただの弓さ。だが中世においてはこうやって……」
説明をしながら京極が弦を弾いた。乾いた音が周囲に響く。
「弦を弾いて音を鳴らす事で悪鬼祓いをしていた。我々普通の人間はこれを使ってスダマを清めるつもりだ」
そう言いながら佐野にも弓を渡す。
「じゃあ先生も……」
「僕かい?僕は弓ではなくこれを使うつもりだよ」
そう言うと京極は、懐から小振りな鈴を一つ取り出した。それは、北陸支部のレイキが使用しているのと同型の音撃鈴だった。
「君に言霊を教えたのは誰かな?」
不敵に笑う京極に対しイッキが。
「ですが……弓にしろ言霊にしろ、意味が無いのではありませんか?どう考えても太鼓の音に掻き消されて聞こえない筈・・・・・・」
「これはねイッキくん、そういう問題じゃないのだよ。大事なのは一人一人が何をするか、そこなのだからね」
あまり答えになっていないような事をイッキに告げると、京極は鈴を一回だけ鳴らした。涼やかな音色が辺りに響いた。
93仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:21:13 ID:FugfLlhg0
和太鼓を運びながらスダマの出現予想地点へとやって来た一行。そこには。
「もう出ていたか……」
一斉にざわめきが起きる。彼等の眼前では、細かい光の粒が、まるで雪のようにきらきらと輝きながら降り続いていた。
「綺麗……」
思わずそう呟いてしまうコンペキ。だが彼女を責める事は出来ない。それ程幻想的な光景なのだ。
「あれがスダマだ。あれが一定量溜まると、ジャミ(邪魅)と呼ばれる魔化魍が生まれる」
「そいつは大変だ。悠長にはしていられんぞ」
京極の説明にサカズキが反応する。片手には音撃棒を、もう片方の手には相変わらず酒瓶を提げている。
「よし、中国支部の者は変身するぞ。私に続け!」
「はいな!」
ハナミズキの号令にレンキが元気よく答えた。
「よし、我々も行くぞ!」
コウキもまた、変身音叉を鳴らす。
馬鹿みたいな数の鬼が、一斉に変身を終えた。各々音撃棒を手に、持ち場へと就く。そして。
「始めっ!」
佐野の号令と共に、ある者は和太鼓を打ち鳴らし、ある者は近くの木の幹に貼り付けた音撃鼓を叩き始めた。高鬼は壱鬼と一緒に和太鼓を複打している。
鬼達による組太鼓だ。
重低音が絡み合い、大音響が大地を揺るがす。これだけの音量だ、下手すれば隣接する蒜山高原一帯にまで響き渡っているのではなかろうか。
叩き始めて一分もしないうちに、変化が現れた。降り注ぐスダマが次々と空中で消えていっているのだ。大地に積もっていた分も、徐々にではあるが減っていっている。
「これは凄い。予想以上だ」
弓の弦を弾きながら、豊太郎が嬉しそうに声を上げる。
「しかし、スダマが止む気配が全く無いのが気になるな……」
八雲の言う通り、スダマはすぐ消えるとは言え一向に降り止む気配を見せない。
「それはそうだよ。大地を、と言うよりこの山自体を清めなければスダマが止む事は無い」
「え?何か言いましたか?」
鈴を鳴らしながら京極が答える。この音の坩堝の中で、八雲の声を聞き取ったのだ。全くもってただ者ではない。
と、邪気に敏感な何名かの鬼達が一斉に手を止めた。そして一方向に視線を向ける。
94仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:22:53 ID:FugfLlhg0
何かがこちらへ近付いてきているのだ。音に驚いて逃げる事なく向かってきている以上、野生動物ではない。となると……。
木々を押し倒して、巨大な四つ足の獣――魔化魍が現れた。
虎の様にしなやかな体躯、猪の如き体毛を生やし、鋭い爪と牙を持った怪物。
ジャミだ。
「既に誕生していたか……」
一声吼えるとジャミは、太鼓を叩き続ける鬼達目掛けて突進してきた。何人かの鬼が演奏を止め、ジャミに向かって行こうとするが。
「待ちたまえ!今は太鼓を叩き続けるんだ」
京極が一際大きな声を出してそれを制した。
「しかし……」
「清めの儀式が先決だ。スダマの浄化が終わらない限り、何度でも蘇るし数も増えるぞ!」
そう言われて渋々と持ち場に戻り、再び叩き始める鬼達。その間にもジャミは真っ直ぐにこちらへと向かってくる。そして。
ジャミの爪が目の前で太鼓を叩き続ける鬼に向かって振り下ろされた時、激しい破裂音と共にジャミの体が後方へと吹っ飛んでいった。
「これは……?」
「音撃の共鳴が一種の結界を形成しているのだ。どんな魔化魍でもこれを突破するのは厳しいだろうね」
京極が解説する。確かに、中国支部及び出向人員総出で音撃を奏でているのだ。二、三人程度の音撃の共鳴とは訳が違う。このような事が出来ても不思議では無い。
ジャミは悔しそうに一声唸ると、ぐるぐるとその場を回り始めた。効果を目の当たりにして、演奏を続ける鬼達も俄然力が入る。
それから数十分後、スダマは完全に消滅した。
「よし、残るはジャミだけだな!」
合計一時間近くもほぼ休む事なく太鼓を叩き続けてきたと言うのに、鬼達は疲れている様子を微塵も見せない。すぐさま音撃棒を手にジャミへと向かっていく。
「ジャミはスダマがある限り不死身だ。しかしそのスダマが無くなった以上、もう恐れる事は無い」
京極が静かに告げる。
ジャミが今までで一番大きな声で吼えた。まるで雷鳴のようだ。そして前足の爪を使い、地面を抉って土砂を鬼達目掛けて飛ばしてくる。
95仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:25:11 ID:FugfLlhg0
「このおっ!」
石蕗鬼がジャミの顔面に向かって鉄球を投げつけた。高速回転しながら飛んでいった鉄球が、ジャミの右目を抉る。
太鼓使いの鬼達が、一斉に得意とする鬼棒術を放った。そこへ追い討ちを掛けるように、弦に持ち替えた雪椿鬼が斬りかかるが。
「何っ!?」
刃は、岩のように硬いジャミの体を斬ることが出来ず、逆に刃こぼれしてしまった。左足の一撃を受けて雪椿鬼の体が吹っ飛ばされる。
「あなた、また入院したいの?」
花水鬼にそう言われ、ばつが悪そうに頭を掻く雪椿鬼。と、そこへ。
「退いてな、ここは俺がやる」
そう言って前に出たのは闇月鬼だ。手にはやはり愛用の音撃弦・風邪を、刃を展開した状態で握っている。
「あんた、やれるのかよ」
「まあ見てな」
そう言うや否や「風邪」を上段に構えたまま、闇月鬼がジャミへと向かっていった。跳躍し、そして。
「示現流・断岩!チェストォォォォ!」
次の瞬間、ジャミの体から体液が噴き出した。示現流は一刀必殺。仕留め損なう事は無い。況してや、使い手は屈強な体躯の闇月鬼。振るうは大剣・風邪。断てぬものがあろうか。
「斬りやがった……」
「好機到来!」
すかさず高鬼がジャミに駆け寄り、音撃鼓・紅蓮を貼り付ける。それとほぼ同時に壱鬼が、紺碧鬼が、そして恋鬼がそれぞれの音撃鼓をジャミへと貼り付けた。
「行くぞ、音撃打・炎舞灰燼!」
「音撃打・電光石火!」
「音撃打・惑乱鮮花!」
「音撃打・花恋吹雪!」
四人の音撃打が、致命傷を受けたジャミの体中を駆け巡り、その身を大地へと還した。
96仮面ライダー高鬼「響き渡る鼓」:2007/10/30(火) 19:27:28 ID:FugfLlhg0
「いやあ、凄い迫力でした。私なんかほら、すっと耳栓をしていたのに殆ど意味が無かった」
「耳栓なんてしていたのですか……?」
無邪気な笑顔で耳栓を見せる東に、佐野が突っ込みを入れる。
「京極さん、本日は本当に有難う御座いました」
東に代わって豊太郎が京極に感謝の言葉を述べた。八雲は他のサポーター達と協力して撤収の準備を行っている。鬼達は大半の者が疲れて眠っていた。
粛々と撤収作業が進められる中、コウキが京極に尋ねた。
「先生、結局ジャミとは何だったのですか?」
それに対し京極は「分からないよ」と身も蓋もなく答えた。
「猛士と魔化魍との戦いは何百年も続いている。それなのに未だに全てが分かっていない。この前の金霊が良い例さ。……でもね、別にそれでも構わないじゃあないか。世の中なんて言ってしまえば不思議な事だらけだろう?」
だからね――、と京極は一拍置いてこう告げた。
「この世に不思議な事など何も無いのだよ。みんな不思議なんだから」
そう言うと京極は音撃鈴を手にしたまま、ジャミが清められた場所へと歩いていった。そして大地に向かい何事か唱えると。
「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」
りん――と鈴が一回鳴らされた。
一陣の風が吹いた。春の風は大地を優しく撫でると、鈴の音を遠くの山々へと運んでいくのであった。 了
97高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/10/30(火) 19:51:19 ID:2ioB2sKdO
連投規制がかかったのでケータイから。
次回以降に関してですが…。
このSSは幸いな事に時系列がバラバラ。そういう訳で…。
とりあえず前々から触れていた「あの連中」との一応の決着話をやろうかなと考えております。
(最終回ではありません。それは別に用意してあります)
あるいは前スレで誰かが言っていたヨーロッパを舞台にした(つまりDMC絡みの)話。
こちらはプロットとしては、パロディキャラvs古典作品や民間伝承の魔物というものを考えております。まあいつものノリですね。
多分次の投下内容は高確率でこのどちらかになるかと思います。
98名無しより愛をこめて:2007/10/30(火) 20:47:02 ID:oEJVzpvC0
投下乙です!面白かった!
次も楽しみにしてます。
99名無しより愛をこめて:2007/10/30(火) 23:40:32 ID:3MTz7xgb0
佐野「ここ最近のイレギュラーの多発で〜」
佐野「一種のアンバランスゾーンが〜」

 ↑ 欧米か!!


京極「この世に不思議な事など何も無いのだよ」
京極「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」

 ↑ 主役か!!
100名無しより愛をこめて:2007/11/02(金) 00:25:51 ID:ICauJsjW0
   _, ,_
 ( ・д・)
   ⊂彡☆))Д´)
101名無しより愛をこめて:2007/11/03(土) 12:03:27 ID:Ksq03e4l0
関東支部/猛士の間
猛士の間にて、ダンキと千明が向かい合い、火花を散らさん勢いで睨み合っている。
その脇では、心配そうな表情のショウキが控え・・・その反対側にはヤレヤレといった表情の勢地郎と日菜佳。そしてジョギングから戻って来たヒビキがその様子を見守っていた。
沈黙が続き・・・ついに痺れを切らしたダンキが最初に口を開いた。
「あぁぁぁぁ〜もう!一体何考えてるんだお前は!」
開口一番、怒りのゲージをMAXのダンキはダン!と音を立てて、机に拳を叩きつける。その衝撃で、机の上に置いていた湯のみが僅かに浮き上がり、中のお茶がこぼれてしまった。
「熱っ!ちょっと、熱いよダンキ君!」
お茶が腕に掛かり、熱がるショウキには目もくれず、その目はただ目前の千明に向けられていた。
「何怒ってるのよ?カルシウム足りてないんじゃない?」
だが、そんなダンキの眼光をさらりと流す千明。さらに、言い返す余裕を見せた。
「そんな事ぁど〜だっていい!俺は、あの時普通の生活に戻れって言ったにもかかわらず、ノコノコ戻って来た所か、猛士に入ったことに怒ってるんだよ!」
一息に言ってのけ、お茶をグイとのみ干すダンキ。そして、さらに続けた。
「あんだけ恐い目にあったってのに・・・・どうしてだよ?その辺ハッキリ聞かせて貰うからな!それで納得いく内容じゃなかったら、総本部に掛け合ってでも猛士から追い出すかんな!」
呼吸を乱し、肩で息をするダンキ。
その様子からは、本気で怒っている様子が見て取れた。
「それは・・・・」
「・・・それは?何よ?」
「・・・あの時・・・あの女の子が私の腕の中で冷たくなって・・・ダンキ君とショウキ君が本当の鬼のように見えたときは・・・・本当に恐かった。正直あの時の私は、自分の好きな妖怪やオカルトな出来事に触れ合いたくて・・って軽い気持ちもあったと思う。
でも、ザンキさんやヒビキさん・・・皆が私のことを心配して見に来てくれた後・・・自分の書いた記事を読み直したの。
ううん。皆が話してくれた事をもう一度読み直してみたの。私が書いた記事は、綺麗な部分しか形にしていなかった。根っこの部分は話を聞いていながらも、目にもくれていなかったと思うの。
だから、もう一度読み直してみたの。そしたら・・・・皆がどれだけ辛い想いをして人助けをしていたのか・・・・皆がどれだけ傷つきながら魔化魍と戦っていたか・・・それがようやく見えてきたの・・・・」
鬼だけに留まらず、猛士という組織に関わる者がほぼ確実に遭遇する犠牲者という現実。
ダンキは眼前で親友を失った。
そして、ショウキも何らかの形でそんな経験をしているだろう。
そんな思いをしたくない。
そんな犠牲者を出したくない。
その思いをもって彼ら『鬼』と『猛士』の面々は人知れず戦っているのである。

「だから・・・私にも出来る事を・・・何かの形で手伝いたかったの」

――――あの娘のような犠牲者を出したくない・・・・でも、鬼になって戦うなんて事は・・・・・

――――自身が戦えないのならば・・・鬼となって戦う人の手助けならば・・・・
「それで、この間迷惑をかけたことをお詫びしに来た時に、タイミングよく小暮さんがいらしたから、思い切ってお願いしたの。私を猛士に入れてくださいって」
「最初は猛反対くらっちゃってましたけど、見事な啖呵と粘り勝ちでしたよねぇ〜」
日菜佳がその時の状況を思い出しながら千明に言った。その言葉に千明は笑いながら後を続けた。
「それは・・まぁ・・売り言葉に買い言葉と言うか・・・まぁ、そんなこんなで猛士入りを認めてもらって、昨日まで本部吉野で研修受けてたの」
「受けてたの・・って、言うけど・・・そんな数日程度で俺らのサポートできる訳?」
一体どんな啖呵を切ったのか気になるダンキだったが、下手をすれば命に関わる仕事である『鬼』のサポートを、素人が・・・特に激化している今日の状況で、投入して大丈夫なのか?千明だけでなく、おやっさんにも向けて言い放つダンキ。だが、千明は、
「そこは、ご安心を!しっかりと吉野で研修積んできたから!ほら、開発局の丸山さんから貰った、起動専用の音叉!これでバッチリサポートできるわよ!」
腰から起動音叉を取り出し、ひらつかせた。
それには鬼面こそついていないが、ダンキ達が使う変身音叉とよく似た音叉だった。本来鬼面がついている部分には、三つ巴の紋様が掘り込まれている。
「まぁ、引き続き関東支部で研修生・・見習いとしての採用だけどね。今の私は未熟者だってことぐらい百も承知よ!だから、これからも精進は続けるわ!
それに・・・ダンキ君だって、最初から鬼になれた訳じゃないでしょ?鍛えて鍛えて、死線をくぐり抜けて、今のダンキ君がある。私だって・・・やって見せるわよ!!」
訝しげなダンキに対し、真っ向から眼光を叩き込む千明。その目線が交わる場所に火花が散らん勢いだ。

再び沈黙が辺りを包んだ・・・ダンキも千明も互いに無言での睨み合い・・・

「いいんじゃないか?それでも?」

ヒビキの一言が、その場を打ち崩した。
「ヒビキさん!?なに簡単に言っちゃってんのさ!」
ヒビキの意外な言葉にダンキは仰天し、机をバァン!と叩きながら立ち上がった。そんなダンキの様子を、ヒビキはまぁまぁ・・・と、ダンキに向かって手を振り、いきり立ったダンキを落ち着かせる。
内容:
落ち着かせた後に、ヒビキは千明に向かい・・・真剣な表情でエールを送り・・・
「千明ちゃんさ・・・ダンキはああ言ってるけど、俺はさ、こう思うんだよね・・・・・・自分のやりたい事。やれる事。やればいいんだよ、少しずつさ・・・それが強さになるんだよ・・・きっと」
そう言って破顔すると、シュッ・・・とキメポーズを千明に送った。
「確かに、なんていうの?今は色々大変な時なんだけど、俺らが力一杯仕事するには、やっぱ支えてくれる人が必要だからさ。ダンキ、お前と千明ちゃん二人一緒に頑張って、それで互いに強くなっていけばいいんじゃないか?」

その一言に勝てるものは無く・・・結局、快くとはいかない表情ではあったが、ダンキは何も言わずに千明の参加を了承したのだった。

某所/
それから一ヶ月の間、他の鬼達のフォロー(迷惑をかけた罰)をしながら、千明の研修結果を見守るダンキとショウキ。
千明は、二人の予想以上にサポーターとしての職務を全うしていた。
「トウキさん!こっちの黄赤獅子、起動させておきますね!」
「おぅ、頼む」
起動専用音叉を使い、黄赤獅子を展開させると、次のボックスを開けて地図を見ながら座標を入力しはじめた。手付きは慣れたものではないが、間違いの無いように確認を怠らず作業をする様は見ていて好感が持てる・・・そんな様子で作業に打ち込んでいた。
その様子を見ながら、飲み物を手にしたトウキがダンキへと近寄り、
「あの嬢ちゃん、随分張り切ってるじゃねぇか?ん?」
飲み物を手渡しながら、そんな事を言った。
「ヤル気もあるし、何より元気がある。俺はあんなタイプは好きだねぇ・・・・で、そんな嬢ちゃんのサポートを受けられるお前が、なんで仏頂面してんだぁ?あん?」
「・・・別に・・何でもないですよ」
ダンキはそんなトウキの言葉を面倒くさそうにあしらいながらも、ぼんやりと千明の作業を見守っている。
「別にって事は無いだろうが?ショウキを見ろや!アイツは喜んでるみてぇだがよ、お前さんは意気消沈とくらぁ・・・こりゃ、何かあるって思うのが普通だろうがよ?違うか?」
トウキはダンキの真正面に座り込み、酒を飲み交わしている時の様にニヤリと笑い、
「お前は・・確か、いつも一人で行動していたな・・偶に組んでも、ショウキとぐらいだったな・・・恐いか?鬼ではない人間と行動を共にするのが?」
そんな言葉を口にした。
ダンキは、トウキの問いかけに間を置き・・・・
「そりゃ・・・恐いよ」
と、一言だけ零すように答えた。
「何でだ?」
「何でって!サポーターと組んで動くってことは、間違いなく魔化魍に関わる事じゃん!危ないだろ!?もし・・ってことを考えたら・・・」
「そうだな・・その通りだ。常に死が隣り合わせだ・・・じゃ、聞くが・・・以前、嬢ちゃんを連れて行動していた時期があったな・・・何故あン時は行動を共にしていた?」
トウキが言っているのは、千明がダンキ達鬼を取材していた時の事を言っている。その時ダンキは今以上に鍛えていない千明を、現場・・しかもベースキャンプまで行動を共にしていた。
それを言われて口篭もるダンキ。だが、トウキはさらに続けた。
「お前の言う、危険な行為だったハズだ。しかもそン時ゃ、猛士のたの字も齧っちゃいない一般人の頃だ・・」
「それは・・・」
的を得たトウキの言葉に口篭もるダンキ。そんなダンキにトウキは更に問い掛けた。
「別に責めてる訳じゃない。今のお前の考えも理解は出来る。だが、見ろ・・・・・年頃の娘が汗だくになり、日中俺らの為に走り回っている。肌も荒れるだろう・・夜中も起きっ放し・・・・長距離運転もこなす。
あれじゃ・・・自慢の黒髪も台無しになっちまう・・・そこまでしている嬢ちゃんを、笑顔で迎えてやらん・・・そんなお前の行動は見てて・・・その、なんだ・・アレだ」
「どれですか・・・」
そんなトウキの問いかけにも、ダンキは力なく答えるばかりだった。
その様子を見て、トウキは仕方なく・・と言った感じで、ある言葉を口にした。
「ダンキ・・・お前、嬢ちゃんに惚れてるだろ?」
「ブーー!!・・ゲホゲホ!!」
ダンキは飲み物を口に含んだ瞬間、そんな事を言われ、盛大に噴出し、尚且つ椅子代わりに腰掛けていた小岩から転げ落ちてしまった。
「きったねぇなぁ、おい!」
顔に飛んできた飛沫を甲で拭いながら立ち上がり、未だ転がっているダンキを見下ろすトウキ。
「と・・とうきサン!?アンタナニイイダスンデスカ!?」
あからさまに動揺しているダンキは、声が裏返りながらも、トウキの一言に反論した。
『わっかりやすいなぁ・・・コイツ』
心の内でダンキのリアクションへの感想を述べながら、トウキはなおも続けた。
「肯定だな?そのリアクションからしてよ?嬢ちゃんの事を愛し」
「ト〜〜〜ウキさん!!声がデカイっ!!聞こえちまう!!」
ダンキはトウキを大声で制し、素早く千明の方を見る。が、そこに千明の姿は無い。大方、鈍色蛇か黄蘗蟹を川へ放ちにでも行ったのだろう。
聞かれていないだろう事に安堵してから、ようやく立ち上がるダンキ。
「あぁ〜もう!一体何てこと言い出すんですか!そ・・そんなワケないじゃ〜ん・・・やだなぁもう!」
明後日の方向を向きながら、砂を払うダンキ。
だが、トウキは一瞬笑い、そして次の瞬間には真剣な表情になり・・・ダンキにこう告げ始めた。
「そうか・・じゃ、お前が嬢ちゃんに惚れている・・と仮定して話を進めるが・・・」
「いや、だからねトウキさん」
「いいから黙って聞け。別に惚れる事は恥ずかしがる事でもない・・大方、単純なお前の事だ・・・惚れているからこそ、危険な場所に近づけたくない・・・最悪の場面を見たくない・・とでも考えてるんだろう?
そりゃそうだ、誰だってそうだ。最愛の人を、好んで危険な場所に連れて行くやつなんかいない」
トウキは、手にしたカップの中身を飲み下してから、続けた。
「前回の時は、自信があったんだろう?誰でも護りきる自信があった。だから、安全とは言い切れない現場にも嬢ちゃんを連れて行けた。だが、あのカラカサの一件で自信を無くした。
そして、その後らへんにか?自分でも無意識のうちに惚れた事を認め・・・次同じような事があった場合、護りきる自信が無くなった・・だから、あんなにも嬢ちゃんの猛士入りを反対した・・」
その言葉に、明らかに誤魔化し笑いを浮かべていたダンキの顔から、作り笑いが消え去った。
だが、トウキはそんなダンキの様子を解っていながらも、あえて続けた。
「護りきれる自信が無い。だから、惚れたヤツを危険から遠ざけておきたい。だから、努力している姿を見ながらも、反対し続け・・・遠ざけようとする・・・」
「違うっ!」
そこでダンキの怒鳴り声がトウキの言葉をかき消した。
声に呼応するように辺りの木々がザワ・・・と揺れた。
「違う!俺は別に自信なんか無くしてないですよ!誰だって護りきる自信は・・・・ある!そりゃ、あの時はヘコみましたよ・・でも、そんな程度で自信を無くしちまうほど・・・俺はヤワじゃない!」
トウキの淡々とした仮説に真っ向から否定をかけるダンキ。だが・・・・
「そいつぁ嘘だな」
そのダンキの否定を、即座に否定するトウキ。そしてそのトウキの否定を否定するダンキ。繰り返される否定の争いに終止符を打つかのように、そして怒鳴りつけるかのようにトウキに向かって言い放った。
「嘘じゃない!何があろうと護ってやる!そんな覚悟も無くて『鬼』ができるかよ!」
だが、当のトウキは、そのダンキの言葉を待っていたかのように、口端をニィ・・と吊り上げた。
「じゃ、問題無いじゃねぇか・・・嬢ちゃんが猛士の一員として活動しても、な〜んの問題も無い。万が一があれば、お前が全力で守護してやりゃぁいい。お前が『鬼』で嬢ちゃんが『サポーター』。ホラ見ろ、猛士に属する者として、円滑に事が進むだろうが。違うか?」
その言葉に完全に言葉を失うダンキ。
重く張り詰めた空気が辺りを包みかけたが、そこでトウキは破顔一笑し、ダンキの頭に拳骨を一発叩き込んだ。
「ってぇ〜!何すんだよトウキさん!」
「つまりだ、言いたい事を一言でまとめると、お前らしくないんだよ!ここん所のお前はよ!お前はそんな物事を重く考える性格じゃねぇだろうが!皆言ってんぞ、ダンキがおかしいってな」
腰の後ろに手を回しながら、なおも続けるトウキ。
「それにな、お前だってもう26・7だろう?そろそろ、身ィ固めてもいい頃だろうが」
打たれた頭を擦りつつ、ダンキは納得のいかない表情でトウキの言葉を聞く。
「それに・・・帰る場所を作っとくのも大事な事だ。帰る場所に、大事な人を置く・・・そうすりゃ、どんな窮地に立っても、死に物狂いで生き延びようとするってモンだ。
もっとも、その大事な奴らを連れまわしてる俺が言うのもなんだがな、ハッハハハ」
笑いながら、金属製の水筒をダンキに押しやった。
それを無言で受け取り・・・・
『大事・・ったって・・・・・・俺には・・・・・わかんねぇよ・・・・・まだ・・・・』
グイっ・・と煽り・・・・盛大に、本日二度目の人工噴水を作り出すダンキだった。
「ちょっと!これ、酒じゃ〜ん!仕事中だってのに!」
「バァカ!景気付けの一杯だ!あ〜あ勿体無ぇなぁ・・・大吟醸だったのによぉ」
ダンキの手から水筒を引っ手繰り、水筒の中身を覗き込んだ後にグイ・・と煽るトウキ。それとほぼ同時に、
「トウキさーん!ディスクアニマルの放ちおわりました〜!」
千明の大きな声が響き渡った。
トウキはお得意のポーズで合図を送り、未だに不貞腐れているダンキを促した。
「話はこれで終りだ。後は自分で考えな・・・さて、戻ってメシにでもしようぜ・・・」
そう言って戻るトウキの背中を見送るダンキだった。

トキワ荘・202号室
トウキとの出撃から2週間程経ったある日、ダンキの家にその電話は来た。
「もしもし?」
『ダンキ君?・・・立花です』
電話の主は立花勢地郎だった。だが、その声は妙に焦っているように聞こえた。
『今日は、鎌倉に行ってもらうことになっていたよねぇ?』
「うん、もう少ししたら出るつもりだったんだけど、おやっさん・・・なんかあったの?様子変だよ?」
『・・・・・・・・・実は、ヒビキが魔化魍にやられたらしい』
勢地郎はじっくりと間をおき、搾り出すようにヒビキの敗北を告げた。
111弾鬼SSの筆者:2007/11/05(月) 22:17:48 ID:gLAJSZdd0
大変ご無沙汰しております。

今更なのは重々承知ですが、保守を兼ねて投稿させていただきました。
112名無しより愛をこめて:2007/11/05(月) 23:11:54 ID:FEuX9AYMO
投下乙です。
コテな人はトリップ推奨でございます。
113名無しより愛をこめて:2007/11/05(月) 23:42:32 ID:uqvm+OnV0
弾鬼SSさん、ひさしぶり。待ってたよぅ。
ヒビキさんのオロCのフレーズは良いねェ。
今後ともあなたの熱血SSを読みたいですよ。
114名無しより愛をこめて:2007/11/05(月) 23:58:28 ID:cNG5NMcLO
弾鬼SS作者様キタ――――――――(・∀・)―――――――――――
お久しぶりです!長いこと待ちこがれてました

復活早々見事な“萌え展開”で嬉しかったです
後半も“燃え展開バトル”に期待してお待ちしています


弾鬼SSは毎回スピード感あふれるバトルシーンとヒロイン・千明嬢とのやりとりからなる“燃え&萌え”が好きな作品なので復活が嬉しいです
115名無しより愛をこめて:2007/11/06(火) 00:12:16 ID:cb8q7LWW0
弾鬼SS作者さま

投下乙です。
やっとキター!
今日もアツいぜ、タンキ君!
116名無しより愛をこめて:2007/11/08(木) 08:06:43 ID:QMze1cxY0
伊藤スレ住人でもある俺には、ダンキ君の活躍は
すごくうれしんんだぜ!

響鬼玩具スレに誤爆した俺が通りますよ。
117名無しより愛をこめて:2007/11/10(土) 20:41:06 ID:aBYwqkBb0
アメリカのWikipediaで響鬼の項目を見てみたら、弾鬼が"Bullet Demon"だったり「少年よ」が"Boy!"だったり爆笑の連続だった。
それにしても向こうのWikipediaって日本のそれと比べてボリュームが凄いな。
鬼ひとりひとりに単独の項目があるのには驚いた。
118名無しより愛をこめて:2007/11/12(月) 12:37:42 ID:acOd/1r70
裁鬼さんはジャッジメントデーモン?
119名無しより愛をこめて:2007/11/15(木) 09:35:53 ID:O0NrK9jxO
エコーデーモン
ブレスデーモン
ラウドデーモン
スラッシュデーモン
ハイデーモン


考えてたらなんか楽しくなってきたwwwww
120名無しより愛をこめて:2007/11/16(金) 12:41:06 ID:6e4pRahY0
番組紹介
KamenRider ECho Demon EP1 「Echoing Demon」

朝、めざましの音で起床したアスム(ブラット・ピット)はホットドックくわえ、スケートボードにのって学校へ、
途中、クラスメートのヒトミ(キャメロン・ディアス)と合流。
「ヘイ!ヒトミ」「Hi!!アスム」とハイタッチをして朝の挨拶。
今日も平凡な一日が始まる。

その頃、オアフ島に来ていたエコーデーモン(ジョニー・ディップ)は、
島にヒュージクラブが出現している事を聞き、退治することにするが…

121名無しより愛をこめて:2007/11/16(金) 12:52:01 ID:6e4pRahY0
主題歌「Boy!」(ルー語変換風、訳とか適当)

まるでクリアに なったみたい
ぜんぶ 自分をスルーしていく
そんなふうに フィールしていたのかい?
ボーイよ ジャーニーするなら
ファインデイに胸を張って・・・

Hit the beat!
Keep your beat!

ハートがバイブするプレース 探して

Hit the beat!
Keep your beat!

誰にもキャンノットなこと ディスカバれ
それが ユーの HIBIKI
122名無しより愛をこめて:2007/11/16(金) 12:52:10 ID:OfAIrHGj0
Kamen Rider Dragon Knightが大成功して、パワーレンジャーのように
他のライダーシリーズも順次吹き替えされていくことになったりしたら、
>>120みたいなのがマジで実現するかもしれないなwww
123名無しより愛をこめて:2007/11/22(木) 10:39:45 ID:3bQrJBG+O
ほす
124名無しより愛をこめて:2007/11/23(金) 00:06:13 ID:I/4TJ7h90
カメンライダー・エコーデーモン(出典:フリー百科事典「ウソペディア」)

カメンライダー・エコーデーモン(Kamen Rider Echo Demon)は「仮面ライダー響鬼」を海外向けにした特撮テレビドラマである。
ドラマパートは現地の俳優を使いアメリカ(現在はニュージーランド)で新たに撮影している。
戦闘パートは初期の作品ではすべて日本版を流用していたが、後に一部を現地で撮影するようになった。
本作はアメリカで放送されるや、たちまち大ヒットとなり社会現象となった。
特にスラッシュデーモン(仮面ライダー斬鬼)復活編はアメリカの子供番組史上で最高の視聴率を記録した。
この人気を受けて、本来は3クールほどで終了する予定だったのが60話まで延長され、これ以降のシリーズ化も決定した。


登場人物一覧(カッコ内は元となった日本版のキャラクターの名称)

Ernest Evans/"Echo"/Kamen Rider Echo Demon(ヒビキ/仮面ライダー響鬼)
Billy Byrd/"Breath"/Kamen Rider Breath Demon(イブキ/仮面ライダー威吹鬼)
Ray Ruskin/"Roar"/Kamen Rider Roar Demon(トドロキ/仮面ライダー轟鬼)
Salph Symonds/"Slash"/Kamen Rider Slash Demon(ザンキ/仮面ライダー斬鬼)

Adam Aston(安達明日夢)
Monica Herman(持田ひとみ)
Amelia Agnes(天美あきら)

Ivan Tailor(立花勢地郎)
Katrina Tailor(立花香須実)
Hilda Tailor(立花日菜佳)
125名無しより愛をこめて:2007/11/23(金) 00:07:01 ID:I/4TJ7h90
EP1 Echoing Demon

今日も元気なエンジェルグローブシティの朝。
真っ黄色のスクールバスへ軽快に乗り込んだアダムに、幼馴染のモニカが声をかける。
"Good morning, Adam. How many hot dogs do you have today?"
"Good morning, Monica. Ahh,,, I have ten in all."
他のスクールメイト達とも口々に挨拶を交わしながら席に着くアダム。

その頃、人里離れた山の奥では――
"Sound Attack!! Burning Beat!!"
ドゴオォォォ!!
けたたましい爆発音が響き、巨大な何かが四散する。
もうもうと立ち込める砂煙の中に立っていたのは、7フィートを越えようかという大きな人影だ。
その体は不思議な紫色にテラテラと光り、頭頂部には二本の「角」が聳えている。
彼こそが、カメンライダー・エコーデーモンである!
彼は、両手に握った二本の赤い棒の内、片方が折れてしまったことに気付いて叫んだ。
"Oh, Jesus!!"




気が向いたら続くかもしれない。
126鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:08:55 ID:+YjvpUb40
 猛士総本部付音撃訓練施設『鬼島』。そのいかめしい肩書きと名称とは裏腹に、和気藹々とした下宿のような寮のようなところである。
 鬼になろうという若者たちと鬼を引退した中年が家族同然に暮らしているのだが、その中で一人だけやたら寡黙な青年がいた。
 名を小野忍人(おの おしと)。必要がなければほとんど声を出さず、軽く首を動かして相槌を打つ程度である。だが暗いわけでもないし協調性が低いわけでもない。
 鬼島にいるということだけでわかるだろうが、彼は鬼を目指して修行をしている。音撃管を用いる戦士で、静かな戦いを得意とする。
 二年前に戸隠から鬼島に移って来た忍人は現在四人いる鬼島の生徒の中では――わずかな差とはいえ――最も古株であり、もうすぐ卒業試験を迎える予定だ。
 試験は単独で出撃し、魔化魍を清めること。近年は落ち着いていたイレギュラーな魔化魍が再び散発し始めており、熟練の魔化魍予測師の予測も稀に外れることがある。
 だが、忍人はそのことに不安を抱いてはいない。なぜなら自分は魔化魍の出現に介入することができないし、できることといったらその場その場でできる最大限の努力を払うことだけだ。常にそう心がけているからこそ、常に心穏やかにいることができる。
127鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:09:51 ID:+YjvpUb40
 昭和57年5月。
 忍人は卒業試験のため、魔化魍の出現予測場所である山に単独で入っている。単独出動は初めてだが、ここ数ヶ月は師の十獅子も随行する鬼もただ見ているだけで助言も手助けもしなくなっている。そのため、初の単独出動とはいえ特段気負ったところはない。
 背負ってきた大き目のリュックから音撃管と予備の鬼石を取り出すと、適当な場所に浅く穴を掘ってリュックを投げ込み、上に枯れ草などをぶちまけてカモフラージュした。中の食料はラップで包んだうえ頑丈なケースに入れ、さらにビニール袋に入れてあるから問題ないだろう。
 服は既に着替えてある。黒っぽい普段着を脱ぎ捨て、柿色の忍装束に。これは戸隠にいた頃からの習慣となっていて、人目につかない場所への出動では大抵忍装束を着用している。
 柿色は黒よりも目立たず、簡易的ながら迷彩効果があるため地に伏せるだけで発見は困難になる。さらに忍人が得意とする気配を消す術を用いれば、少なくとも人間や真っ当な生き物に見つかることはありえない。
 予測では魔化魍はイッタンモメンらしい。が、中部支部所属の予測師はどうも自分が出した結果にいまいち納得できないらしく、くれぐれも気をつけていけと念を押していた。その言に従っていつもより多めに鬼石を持ってきてある。
 日が落ちると、ふぅっ、と鬼笛を吹いて式神を打つ。彼らは鳥となり、四足獣となり、猿となって四方へと散ってゆく。
128鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:11:42 ID:+YjvpUb40
 一枚、また一枚と式神が戻ってくるが、どうも普通とは違う。いつも持ってくるはずの魔化魍の痕跡となるモノはなく、霧など出ていないのにわずかに湿った形跡があった。すべて戻るのを待ってから改めて数枚起動し、魔化魍のもとに案内させる。
 空を飛ぶ式神は常人には見えないほどの高空を飛ばせ、地を駆ける式神は音を立てずに駆けさせる。
 忍人も身体を丸め、腕を動かすことなく地を這うように音も無く疾駆する。仮に夜闇を走る忍人を人が見たとしても、まさか人間が走っているとは思うまい。精々、枯葉が一塊になって風に吹かれているのか、とでも思うくらいだろう。
 鬼の嗅覚が異常を察知する。刺激臭……だろうか。それにかすかな腐臭が混じったような悪臭。それに魔化魍特有の邪気。しかし魔化魍の姿は無い。だが菫鳶はその場で旋回し、藤黄虎は忍人の足元でしきりに前方を威嚇している。
 ぴりぴりとした緊張をその身に宿した忍人は音撃管・業罪を構えると、容赦なく前方に向けて連射した。音は無い。業罪は隠密戦闘に優れた忍人のために特別に仕立てられたもので、多少威力が劣る代わりに射撃音がほとんどしないのだ。
 しかし辺りは静まり返ったままだ。葉のこすれる音しかしない。
129鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:14:16 ID:+YjvpUb40
 ―――と。忍人の目に白っぽい何かが映る。よくよく目を凝らせば、それは霧のようであった。
 だがこの時間にこの場所だけで霧が出るなどということはありえない。しかもその霧は地面から一尺ばかり上を漂っているのだ。身をかがめて滑るように横に走り、業罪を撃つ。
 着弾した圧縮空気弾は霧を押しのけ、そのまま向こう側に突き抜けた。なにしろ霧である。
 ソレを魔化魍と確信した忍人は腰から鬼笛を外し、吹き鳴らす。柿色の装束を黒い靄が包み、それを突き抜けて漆黒の鬼が出現した。
 闇色の身体に瑠璃紺の隈取、銅の二本角。鬼の名はまだ無い―――忍人変身体。
 霧は忍人が変身して初めて存在に気付いたのか、急速に迫ってきた。忍人変身体は退こうと思ったが思い直し、衝突コースを回り込むようにかわしながら等間隔に霧に向けて業罪を撃ち込む。ためしに数発ばかり鬼石も撃ってみたが、やはりすり抜けてしまう。
 一旦退くか―――そう思ったとき、唐突に霧の一部が伸びて忍人変身体を包み込んだ。無論物理的な拘束力など無いが、異様な吐気に襲われて慌てて霧から脱出する。十メートルほど離れたところで息を整えるが、どうしても吐気が取れない。そのうえひどい頭痛までしてきた。
130鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:16:13 ID:+YjvpUb40
 忍人は知らないが、その魔化魍の名はエンエンラという。煙々羅という表記からわかるように、煙、あるいは霧の魔化魍だ。
 風に舞う羅(うすもの)のよう、という風雅な名称とは裏腹に、その体を構成する霧は全てが強烈な毒である。
 毒霧で包み込んで獲物を殺してからじわじわと消化してゆくという、なんとも不気味な生態を持つ。しかも凶暴な性質で、最初の犠牲となるのはこれを育て上げた童子と姫が一番多い。
 どのように発生しているかは不明。イッタンモメンの変異種という説もあれば微生物大の魔化魍の集合体という説もある。
 とにもかくも、エンエンラには実体がないのも同じだ。
 見れば式神たちもエンエンラの毒霧で湿ってしまい、まともに動くことができないようだ。
 退くにしても、このまま夜が明けて本物の霧が出ればそれに紛れて大惨事を引き起こすだろう。鬼に変身していてさえこの威力なのだ。
 鬼爪で傷をつけた手で札を撫でて自分の血をつけ――朱に塗りつぶした式神は即ち緊急援護要請を意味する――、その式を打って鬼島に救援を請うが、ゆっくりと救援を待つ暇はない。
 ―――ここで、忍人が単独で倒すしかない。
131鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:19:29 ID:+YjvpUb40
 意を決して走り出す。だがこの魔化魍については予備知識も策もあるわけではない。脳髄をフル回転させて対応策を搾り出しながら、肉体もフル回転させてエンエンラを撹乱する。
 実体がない。
 鬼石が当たらない。
 音撃ができない。
 負ける。
 死ぬ。
 否、考えろ!
 ……実体はある、あるだろう、ごく小さな粒子だが。
 ならば一つ一つは音撃に弱いはずだ。
 だが音撃する手立てがない。鬼石が魔化魍に食い込まねば効果はない。
 ……食い込まねば?
132鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:21:52 ID:+YjvpUb40
 ―――よし、勝てる!
 あちこち逃げるばかりであった忍人変身体の動きが変わる。
「―――鬼闘術・影隠忍――」
 息を一つ吐くと、忍人変身体が消えた。むろん物理的に消えたわけではない。視覚的に消えたわけでもない。気配が消えた。
 これは忍人が最も得意とする技だ。あまりに完璧に気配を消し、さらに50メートルを二秒で走る俊足を最大限に生かして縦横を音を立てずに動くため、目に見えていようとも気付かないほどの効果を発揮する。
 案の定、視覚よりも気配に頼る――感覚器官がないのだから当然か――エンエンラは忍人変身体を見失って動きが止まった。
 忍人は何を思ったか、業罪の弾倉から残らず鬼石を抜いて左手に握る。それを一つずつ右手に移すと、印字打ちの要領で方々に投げ始めた。
 小さな鬼石はぴしりぴしりと木立に吸い込まれてゆく、エンエンラを取り囲むように。
 木が立てる音で忍人が逃げたのではないと気付いたエンエンラは、忍人がどこにいるかわからないため闇雲に動き回る。
 エンエンラは不規則な動きで忍人変身体を襲い、少しずつ毒をその体に染み込ませてゆく。走ればそれだけ毒の回りが速くなり、不快感も増してゆく。しかし忍人は走り続けた。
 業罪の鬼石が尽きると装備帯に下げた予備弾倉の鬼石もすべて投擲する。
133鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:24:38 ID:+YjvpUb40
 鬼石を残らず木に打ち込むと一足飛びに一際高い梢に飛び乗り、装備帯から音撃鳴・愛を取り外して業罪に装着する。
 音撃鳴がかすかな唸りを発して一回り大きくなり、音撃の準備が整った。
 頭が割れるほどの頭痛をこらえ、今にも胃がひっくり返るほどの吐気を押さえ込み、うまく力が入らない手足を叱咤して業罪を口に当て、一気に吹く。
 音撃射・癲狂院狂人廓!
 鏘鏘と響き渡る音は物悲しく、それでいて力強い。一人前の鬼にも決して引けを取らない、見事な清めの音だ。
 木に打ち込まれた鬼石が清めの音を受け、あるものはエンエンラの中で、あるものはエンエンラの周囲から清めの音を浸透させる。
 手で投げてわざと浅く打ち込んだのはこのためだ。エンエンラ自体には打ち込めず、かといって地に撒いたのでは腐葉土に沈んで十分な効果を発しない。ゆえに清めの音が届きやすいよう、鬼石を木の表面にとどめたのだ。
 エンエンラはぼすん、ぼすんと鬼石に近い部分から爆発してゆくが、しかし煙ゆえ一気に清められるわけではない。梢の上に立つ忍人変身体に向け、爆発しながらもその体を伸ばしてゆく。
 梢に立つ忍人は揺るがない。まるで体重を感じさせない様子で立ち、清めの音を放ち続けている。
 エンエンラが迫る。爆発し、容積を減らしながらも着実に。忍人変身体まであと五メートル、四メートル、三メートル、二メートル、一メートル……五十センチ……二十センチ……
 豪!
 あとわずか数ミリ。それだけの距離を残し、エンエンラは残らず爆散した。
 同時に忍人変身体の力が抜け、爆散に伴う強烈な爆縮の吸引力を受けて梢から転げ落ちる。どさり、と柔らかな腐葉土に落ちると、忍人の意識は深遠に飲み込まれていった―――
 こうして、木を打つ音と高らかなトランペットの音色だけを残した静かなる戦いは終わりを告げる。
134鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:29:46 ID:+YjvpUb40
陰陽座『癲狂院狂人廓』 作曲:瞬火

炎天の強者 悦楽の亡者 肝胆の闇を嘗め尽くす
暗澹の聖者 雀踊の狂者 淫乱の波を責め尽くす

深い自虐の曼荼羅を 手繰り上げる厭世行為
愚かしくも もどかしくも それが運命と

惨憺の隠者 欠落の念者 根元の神を舐め尽くす
背信の従者 赫奕の盲者 絢爛の民を焼き尽くす

冥い被虐の曼斗羅を なぶり上げる下卑た憩い
なやましくも あさましくも それが運命と

業・罪・愛 狂人の唄声を乗せて
遣る方無き交り合い
繰る糸の先に輪をかけて
報われぬ者の功罪

深い自虐の曼荼羅を 手繰り上げる厭世行為
愚かしくも もどかしくも それが運命と

業・罪・愛 狂人の唄声を乗せて
遣る方無き交り合い
繰る糸の先に輪をかけて
報われぬ者の功罪
135鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 14:33:03 ID:+YjvpUb40
 忍人が目を覚ましたのは日が高くなってからのことだった。毒もすっかり抜けてさわやかな日差しを受けていたが、目の前にごつい十獅子の顔があったため寝起きは最悪だった。
「おめっとさん、ちゃんと清められたみたいだな」
 十獅子のほかにおそらくあと一名はいただろうが、忍人が魔化魍を清め終わっていたためどうやら先に帰したようだ。
「でなけりゃこうして寝てません……んーっ」
 身を起こして体を伸ばすと、ぼきぼきと盛大に関節が鳴った。
 そこでようやく自分が全裸だということに気付き、手元に転がっていた装備帯を丸めて股間を隠す。
「先生。俺の服は?」
「お前が持って出たはずだから用意してない。回収してほしいんならちゃんとキャンプを設営しろとあれほど言っただろ」
 忍人の服は昨日の夕方に埋めた場所にそのままだ。仕方なく十獅子からタオルを借りて腰に巻くと、足早に回収して着替えを済ました。案の定露にまみれて着心地は悪かった。
 すっかり固まった食料――さすがに忍者食ではなく普通のおにぎりとポットのお茶――を食べていると、十獅子がのんびりと歩いて追いついてきた。
「まー、卒業試験は合格。あとは事務処理を待ってりゃ一人前の鬼だ」
 忍人のみすぼらしい姿を見てにやにやしながら、それでも彼を一人前と認めると宣言した。
136鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 15:07:23 ID:+YjvpUb40
 そこでついに笑いの堤防が決壊した。
「っは、はーっはっはっはっは! お前、素っ裸で寝てんじゃねーっての! 恥っずかしーやつだなー!」
 げらげらと笑い転げる十獅子。年齢からすればはしゃぎすぎであるが、どうやら精神年齢のほうは実年齢よりも幾分若いままらしい。
「仕方がないでしょう、変身すれば服はなくなるんですから。なにも僕が露出狂というわけじゃありません」
 そうは言うものの、やはり普通に恥ずかしい。
 装備帯は変身に耐えるのだから、いっそその素材で服を作ればいいと思う。忍人としては、変身に耐える服は鬼に支給される多額の被服費と引き換えにしても惜しくないものだった。
「んー? 恥ずかしくないって言ったな? 言うぞ言うぞ、絹とか菫とかに!」
「なにも女性に言うことじゃないじゃないですか! アホ!」
「女にだから言うんだろ? サイズとか形とか色とか皮の状態とか」
 卑猥な言葉を叫びながら、駆けるように下山してゆく師弟二人。今のところ、忍人の寡黙なキャラクターをここまで見事にひっぺがせるのは十獅子ただ一人だ。
 ちなみに忍人の本性はかなりのムッツリである。それゆえ、変身するときに一瞬とはいえ裸体を晒す女性の鬼と出撃すると内心うれしくて仕方がない。
 その反面、黄邑絹のように岩だとか金属だとかに隠れて『見えない』女性はもう生殺しのようなものである。悔しくて涙したことさえあった。
 とにかくムッツリほど自分のそういったネタを嫌うものはいない。ことさらに十獅子に言うなと念を押している。
137鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 15:08:45 ID:+YjvpUb40
 後日吉野や猛士随一の情報量を誇る関東支部に問い合わせて調べたところ、稀種魔化魍であるエンエンラの倒し方には二つあることがわかった。
 一つは物質化音撃を叩き込む方法。物質化音撃は関東の天鬼や朱鬼、時滅鬼らの世代が得意とする音撃だが、現在ではほとんど使い手がいないためこれはあまり現実的ではない。
 もう一つの倒し方は菅の鬼が二人で出撃し、一方が鬼石を撃ち続けてもう一方が清めの音を奏で続けるというものだ。
 これを一人で、しかも訓練生の身で倒したと知った本部長は直々に感状を贈ってきた。が、当の和泉一文字はその『希代の天才』を二日で忘れてしまったらしい。
 彼とてかつての高鬼らとともに激動の時代を駆け抜けた者であるから、一時の興奮が過ぎ去ればこのくらいは当然と思うところもあったのかもしれない。
 感状をもらった忍人にしても額に入れるなどということはなく、そのまま十獅子に押し付けてしまった。

 さらに後日。鬼島の全員がそろった夕食の席で十獅子が忍人のアレについて話しそうになった。その場では忍人の尋常ではないメンチに恐れをなして引っ込めたのだが、翌朝起きてみると十獅子の枕に大振りのナイフが突き刺さっていた。
 それ以降、十獅子が忍人のアレについて一切口に出すことはなくなった。
138鬼島〜未来の隠形鬼:2007/11/23(金) 15:09:32 ID:+YjvpUb40
設定

小野忍人(おの・おしと)
属性は闇。21歳。管の戦士。『音撃管・業罪(ごうざい)』と『音撃鳴・愛』を使用し、必殺音撃は『音撃射・癲狂院狂人廓(てんきょういんくるいとくるわ)』。
一年間戸隠で体術を学んでから木島に来た。なお戸隠ではすでにオンギョウキが放浪の旅に出ているため、もと鬼の教官や、引退したドキやカゲキにも時折教えを受けていた。
十獅子は忍人に隠形鬼の名を与える予定(オンギョウキ自身から隠形鬼の名は好きにしていいと言付けられているため)。
極度のムッツリで、彼の部屋にはいたるところにエロ本が隠されている。ただしどんなに探しても彼が本気で隠したブツは見つけることができない。
鬼の姿は裁鬼に酷似するが、鬼面から出た角がない。

鬼闘術・影隠忍(かげおに)
ごく簡単にいえば気配を消す術。但しその程度は尋常ではなく、術者に注目していない一般人ならば下手をすれば目の前に立たれても気づかないほど。
石ころ帽子って言うな。

エンエンラ
煙々羅。古くから正体不明とされていたが、後年の調査では微細な魔化魍の集合体であり、イッタンモメンの突然変異種と判明した。
エンエンラの毒はヤマビコの叫び声に含まれる毒と同様、鍛えていない人間が接触するとたちどころに死亡する。そのうえ腐食性を持ついわば消化液でもある。
こういった魔化魍も稀ながら存在するために物質化音撃が見直され、後に開発される装甲声刃による音撃は物質化音撃である『音撃刃・鬼神覚声』となった。
139名無しより愛をこめて:2007/11/23(金) 16:36:25 ID:/mGZIyhfO
>>125
是非とも
140響鬼外伝:2007/11/24(土) 01:01:47 ID:9+K+oJrg0
翁詩織=戦鬼は10の時、師匠である先代 戦鬼に弟子入りして以来、魔化魍と戦ってきた。
                  ***
「実は頼みがあってな・・・・・。」
先代 戦鬼は苦しそうに椅子に腰掛け、詩織を見た。右腕の袖には本来、あるはずの右腕が無い。
魔化魍との闘いで右腕を食い千切られ腰の脊髄が破壊され一時期、廃人だと言われた程だ。
先代の名を継いで魔化魍と闘い、同時に献身的な介護を詩織がした御蔭である。
「はい・・・・。」
ホット・パンツという今時の女の子の服を着た詩織は、正座をした。
「実は・・・・。高梨さん(武士の協力者)から電話があって・・・・。どうやら魔化魍らしいんだ。」
話を要略すると、こういう話だ。
高梨さんの本業は医者だが時折、山奥に行き魔化魍が出る前兆を探っている。その時、立ち寄った村で登山客が行方不明になったという話を聞かされたというのだ。
「でも、それが魔化魍の仕業だとは・・・・。」
詩織が思わず、疑問を口にした。例のオロチ以来、魔化魍の発生率は下がっている。
「ああ、だが簡単にそうだとは言い切れん・・・・。さっきタチバナに電話して響鬼君にも聞いたんだが・・・・。」
響鬼と聞いて、思わず頬を赤らめる。彼女は一度だけ会った事がある。
あの優しい笑みに、胸が締め付けられた・・・・・。
<続く>
141名無しより愛をこめて:2007/11/24(土) 01:54:14 ID:cyczQfh5O
大変遅レスだが、+YjvpUb40はgj
142名無しより愛をこめて:2007/11/24(土) 14:47:13 ID:762kygGU0
>エコーデーモン作者様、新規投下乙です。
ウソペディア全開で続きお願いします。

>鬼島作者様、お久しぶりです。
続き楽しみにしてました。
ムッツリ小野ちん、大型ナイフ突き立てとは怖いですなぁ。
作者様は別人の投下を避けるためにトリップ付けていただけるとよろしいかと存じます。

>響鬼外伝作者様、新規投下乙です。
続きお待ちしてます。

皆さんの投下を楽しみにしています。
143響鬼外伝U:2007/11/24(土) 15:17:43 ID:GlKWqZ9+0
「どうした、詩織?」
先代は心配そうに覗き込む。大怪我を負い廃人とまで言われた先代 戦鬼は、魔化魍と戦うと同時に献身に
介護をしてくれた詩織を、単なる師弟では無く実の娘のように思っていた。当然、詩織が響鬼に対して恋心を
抱いているのも知っている。だが、それは悲しいかな果たせない恋だと、先代 戦鬼は憂鬱になる。
詩織の父親も鬼として魔化魍と闘い壮絶な戦死を遂げた。まだ死ぬなら良い方で、もし響鬼と結ばれて夫婦になり、
響鬼が魔化魍との闘いで半身不随になったら、詩織が不幸になり悲しむだけだ。
死に際に詩織の親父さんに詩織を託され、父親代わりをしてきた先代 戦鬼はそんな思いをさせたくなかった。
「い・・・いえ・・・・・。」
俯く詩織
「特に、気候・湿度その他のデーターだと、この北陸地区で魔化魍が大量発生するらしい。詩織も知ってるが闘鬼君は長期入院中
だし、羅鬼さんは再起不能だ。シフト的に厳しい・・・・・。」
闘鬼も羅鬼も詩織の先輩格になる鬼だが、去年の冬の雪猿との死闘で倒したものの、闘鬼は背骨を折られ、羅鬼は植物人間だった。
「そこで、御山やタチバナさんに相談して、響鬼君が援軍に来る事になった・・・・。」
「わかりました・・・・。」
本人は冷静に応えたつもりだったが、声が上擦って顔が真赤だった。
<続く>
144響鬼外伝V:2007/11/24(土) 15:37:11 ID:GlKWqZ9+0
それから五日後・・・・。
新潟の山奥のテントで眼を覚ました詩織は、素早くコンロで火を起こし湯を沸かす準備と、川辺で洗顔と小便を済ませた。
魔化魍の居所を探る為、すでにデスク・アニマルを方々に飛ばしている。いつ連絡が来るか判らないから動きが早い。
沸いた湯でコーヒーを造り一口含む。
五日前に聞かされた響鬼が来る事が、詩織の気分を高揚させた。
最初に会ったのは3年前、12歳。まだ子供だった。だが、いまは中3で来年は女子高生だ。
どんな顔をするかしら・・・・・。
そんな事を想像し気分が良くなる。
だが突然、顔が険しくなり素早く横に飛んだ。
シュッ
空気の切り裂き音と共に<何かが>先程、詩織=戦鬼の座っていた場所を通過した。
着地すると同時に振り返り、攻撃してきた存在を睨みつける。
男女だ。だが、どこか不気味な雰囲気を漂わせている・・・・・。
「鬼!?」
男の方が、女のような声で吐き捨てた。
「そう、アンタ達みたいな人殺しの化物を掃除する鬼・・・・・。」
不敵な笑みを口許に浮かべ詩織が言う。
<続く>
145名無しより愛をこめて:2007/11/24(土) 15:57:22 ID:tEox7SVn0
>>143-144
次からはメール欄に半角英字で「sage」と入れてください
詳細はコチラ→http://ansitu.xrea.jp/guidance/?FAQ1#gde62dc0
146Kamen Rider Echo Demon Ep1:2007/11/24(土) 18:45:12 ID:0CNREoRo0
>>124-125の続き

学校が終わった後、アダムはモニカと二人、アイスクリーム片手にストリートをブラついていた。
するとその時、目の前の交差点に信号無視のトラックが!
横断歩道を渡っていた小さな子供にトラックはまっすぐ迫る。
"God...!"
アダムとモニカは思わず目を背けた。トラックのブレーキ音とクラクションが響き――
二人が目を開けた時、ちょうど彼らの眼前に、子供を抱きかかえた一人の男が立っていたではないか。
男は泣き出した子供を下ろし、その頭を撫でてやると、
"I'm forging considerably."
アダムらにスマイルを飛ばして、どこへともなく歩き去って行った。

次の日曜日。アダムとモニカは二人で、シティから離れた山へハイキングに出かけていた。
一日中モニカと二人きりということで、アダムの心は浮き立っていたのだが――
地図を見ながら山の中を進んでいる内、次第に辺りに霧が立ち込めてきた。
"Oh, we seem to have lost our way..."
アダムが自信なさげに言うと、モニカも不安がった表情を見せる。
"Adam, let's turn back."
彼女はそう言って、今来た道を引き返そうとしたが……
"Hey, boy and girl, it's dangerous to return carelessly."
霧の中から一人の男が現れた。
先日、アダムらの目の前でトラックに轢かれそうになった子供を助けた、あの男だった。
"This mountain is dangerous. Follow me."
男の背を追ってアダムとモニカは歩き出す。
147Kamen Rider Echo Demon Ep1:2007/11/24(土) 18:45:52 ID:0CNREoRo0
男は「エコー」と名乗った。
"Excuse me, Mr.Echo, is it your family name? Or, first name?"
"I am ECHO."
本名はおろか、彼は自分の素性を何一つアダムらに語ろうとしない。
それでも二人は彼について、霧の中を歩いていったのだが――
突如としてアダムは背後にモニカの悲鳴を聞いた。慌てて振り向いた時、モニカの姿はなかった。
"Monica!?"
霧の中を駆け出そうとするアダムを、エコーが止める。
"Boy, don't panic. She can be found."
彼は右腰から音叉を、左腰からディスクを取り、音叉でディスクを軽く叩いた。
すると、ディスクが赤い鳥の姿に変わり、彼の手の中から飛び立ったのだ。
"Waoh!?"
驚くアダムを横目に、エコーは鳥の飛んでいった方向へ走り出す。アダムも慌てて彼の後を追った。
やがて、モニカが地面に倒れているのが見えた。
モニカの体には白い糸が何重にも巻きつけられ、気を失っている。
"Take care of her. Don't move here."
エコーはアダムにそう命じると、どこへともなく霧の中を駆け出していった。


鬱蒼と生い茂る森の中、エコーは二人組の怪人「キッド」および「プリンセス」と対峙していた――
音叉を手に取り、木の幹に打ち付ける。キィィィィン……聖なる音が響き渡る。
エコーが音叉を額にかざすと、金色の紋章が額に浮かび上がった。
それは東洋の伝承に登場する「鬼」の顔、そのものだった。
"Hen-shin!!"
彼が叫ぶと同時に、その体を紫色の炎がなめ尽くした。
"Toaaaah!!"
猛々しい叫び声とともに炎の中から姿を現したのは――
"I am Kamen Rider Echo Demon!!"
148Kamen Rider Echo Demon Ep1:2007/11/24(土) 18:46:26 ID:0CNREoRo0
"Toaaaah!!"
どこかで聞こえた叫び声にアダムはパニックになり、モニカに絡みつく白い糸を必死にかきむしった。
悪夢だと思いたかった。モニカは目を覚まさないし、エコーもどこかへ行ったまま戻ってこない。
自分ひとり、こんな霧の中に取り残されてどうしろってんだ。
アダムはとにかく森を抜けようと思った。逃げるんじゃない、自分は助けを呼びに行くのだ。
逃げるんじゃない、俺はチキンじゃない――そういうことにしてアダムは走り出した。
そして案の定、迷った。
霧の中からは抜け出したものの、ここが何処なのかさっぱり分からない。
やっぱりモニカの傍に戻ろう、と思ったが、既に自分がどこをどう通ってきたのかすら分からなかった。
再びパニックに陥った彼は、がむしゃらに走り出して足を滑らせ、斜面を落ちてしまった。
"Waaah!!"
そして落ちた先で彼が見たのは――
"Demon Magic! Demon's Fire!!"
口から吐き出す炎で「キッド」を焼き尽くした「エコーデーモン」の姿だった。
アダムはたまらず気を失った。

Ep2 "Howling Spider"につづく!
149響鬼外伝W:2007/11/24(土) 19:13:07 ID:GlKWqZ9+0
この者達は人間の姿をしてはいるが人間では無い。武士では『姫』・『童子』と呼ばれており、魔化魍が育つまで鬼達から遠ざけたり、
餌である人間を確保する事を仕事にしている・・・・。
『童子』と『姫』は奇怪な呻きを洩らすと、体が異形の姿に変わる。
「ソウジスルンダロ?ヤッテミナ!!ショウベンクサイコムスメガ!!」
「ええ、お望みどおり塵も残さず、綺麗サッパリ掃除してあげる・・・・。」
詩織はホット。パンツのポケットから変身音又・音角を樹の幹に当てた。
キィィィィィン
額に宛がうと紅い炎が全身を包む。
腕を振り炎を振り払うと、2本角の真紅の鬼が立っていた。
”こいつらの主は、おそらく土蜘蛛・・・・・。”
それなら心配は無いと戦鬼=詩織は思った。すでに何回か闘い倒している。
2体が交差するように飛び、糸を放つ。
音撃棒を引き抜き、その粘糸を素早く避けると、『姫』に向け鋭い飛び蹴りを放つ。
「ギャァァァァッ」
当った瞬間、獣のように叫び百メートル程飛ばされた。
動揺する『童子』。そこに詩織は音撃棒で数十発の打撃を与えた。
断末魔の悲鳴を上げ、爆発し塵芥に還る。
<続く>
150志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2007/11/24(土) 20:02:47 ID:9quZi9jA0
>>149
武士>「猛士」のことだろうね。
戦鬼の読みは「センキ」でいいのかな?
151150:2007/11/24(土) 20:05:15 ID:9quZi9jA0
名無しで入れたつもりだったのにトリ入ってしまいました。
乱入スマソ
152名無しより愛をこめて:2007/11/24(土) 21:09:40 ID:mtnI1xzo0
デスク・アニマルって・・・机かい!
153名無しより愛をこめて:2007/11/25(日) 11:59:34 ID:NQcK40q+0
一挙に新作が来たな。どの作者さんも頑張って下さい!

エコーデーモンはギャグか?ギャグなのか??アダチアスム>アダムに爆笑してしまったのは俺だけか??
154名無しより愛をこめて:2007/11/25(日) 16:40:23 ID:zfoeU1tuO
エコーデーモン、アダムには名前教えないのに、変身したら堂々と名乗るのなw

キャラ設定で、キャラ名の頭文字(氏・名)をきちんと揃えてるのに感動した。
155名無しより愛をこめて:2007/11/25(日) 22:05:55 ID:bcHIV1dMO
>>154
スラッシュデーモンが「ザルフ」なのは、狙ってやってるとしたら素敵すぎだよなw
156響鬼外伝:2007/11/25(日) 22:37:07 ID:kWQih4zP0
『童子』が爆発すると同時に、大きく飛揚し『姫』が落下したと思われる地点に降りたが、何も無い。
「チッ」と詩織は舌打ちした。高梨さんの事前に会って仕入れた情報によれば行方不明者は13名。
それを喰らったとすれば相当、大きく成長しているはずである。そうなれば、流石の歴戦の兵である詩織
でも厄介な事になる。その為にも『姫』を早く追い掛けて正確な魔化魍の位置を知る必要があった。
”また、振り出しに戻るか・・・・!?”
鬼の面の内で唇を噛み締めた。
                ***
赤々とした炎が、折りたたみ椅子に座る詩織=戦鬼を浮かび上がらせる。
師匠=先代 戦鬼は自分の響鬼さんへの思いを知っているから合わせたくないようだった。
父も鬼で、しかも壮絶な戦死を遂げたせいで、詩織を辛い目に合わせたくないという気持ちは
痛い程判るが、だがたとえ師匠の言葉でも、これだけは譲れない。
10の時、父を亡くし葬式があったあの日、土砂降りの雨のなか立ち尽くした響鬼さんの哀しげな
表情をいまでも思い出す。
あの優しい笑顔を思い出す。
あの時、アタシはいつか一人前の鬼なって響鬼さんに認められて、お嫁さんになりたいと思った。
<続く>
157名無しより愛をこめて:2007/11/26(月) 09:40:22 ID:LfXk6XLL0
エコーデーモンは120の続き?
158名無しより愛をこめて:2007/11/26(月) 12:49:43 ID:W2de1CgB0
ピノコ「カルテNG♪」


学校が終わった後、アダムはモニカと二人、アイスクリーム片手にストリートをブラついていた。
するとその時、目の前の交差点に信号無視のトラックが!
横断歩道を渡っていた小さな子供にトラックはまっすぐ迫る。
"God...!"
アダムとモニカは思わず目を背けた。トラックのブレーキ音とクラクションが響き――

――You are not qualified as a hero when having started becoming a hero.

"Then..., how should I do to become a hero...?"

"Professor Kagawa...Whom...next, ...should I..."


ニューヨークタイムズ "A HERO WHO SAVED A CHILD"

159名無しより愛をこめて:2007/11/26(月) 14:33:45 ID:QMCEjnu80
>156
できれば前回のレス番号を書き込んでくれると読みやすいです
スレが進んだ後でも話を遡って捜すときに楽なので、よろしくお願いします
160響鬼外伝:2007/11/26(月) 19:28:57 ID:i8KRjB/M0
< >>156の続き >
「轟鬼、済まんな・・・・・。」
山道を進みながら、響鬼は心の底から申し訳なさげに謝る。
響鬼は轟鬼、それに京介を連れて先代 戦鬼に挨拶を済ませた後、詩織と合流する為に向かっていたが途中、
響鬼愛用のバイクがエンストを起こし、それで本来は京介を送った後、東京に戻る予定だった轟鬼まで結局、
山に登るハメになったのを詫びているのだ。
「いいッスよ、響鬼さん・・・・。」
轟鬼は満面の笑みを浮べ、そう応えた。響鬼の機械嫌いは、いまに始まった事ではない。
それより心配は日菜佳だ。件の騒動で予定していたデートはパァだ。一応、携帯で心の底から誠心誠意を込めて
詫びたが応じ方に険がある。帰ったら、まず血の雨が降る事は間違いないだろう。
轟鬼は身震いした。魔化魍より怖ろしい物があるとすれば、それは日菜佳の御機嫌を損ねる事だ。
そんな、響鬼と轟鬼を無視して、京介はペン・ライトで辺りを探りながら進む。
戦鬼さんが、ここに居るという事は、何時何処で魔化魍と接触したとしても可笑しくはない。
”緊張してるのか?”
馬鹿馬鹿しいと自分を詰る。自分は以前の京介では無く、響鬼さんの弟子なのだ。
途中で逃げ出した某安達とは違うのだ・・・・・。
ふいに、何かが動く。
身体を硬直させる。
<続く>
161名無しより愛をこめて:2007/11/26(月) 20:37:02 ID:6j9CMUGg0
>>160
とじカッコの前の「。」は無いほうが良いと思われ。
162響鬼外伝:2007/11/26(月) 21:16:42 ID:n1lqof7Y0
<  >>160の続き >
ガガッ、ザザザッ
遥か向こうから聞こえてくる音は、<それ>がかなり巨大である事を示している。
”魔化魍!!”
顔を強張らせる京介。だが、すでに響鬼も轟鬼もその音に気がついていた。
京介を庇うように前に出ると「京介、さがれ」と叫ぶ。
<それ>が幾重にも被うように生えた木々を薙ぎ払い姿を見せた。
土蜘蛛だった。それも通常の物より、ふたまわり程デカイ
響鬼も轟鬼も素早く変身する。
立ち竦む京介を残し、轟鬼と響鬼は戦闘態勢にはいる。
               ***
尿意を催し眼を覚ました詩織は、遥か彼方の地鳴りと木々の倒される音を聞いた。
”魔化魍!!”
素早くテントを出るが、前方に立つ2体の人影に足を停めた。距離して五十メートル。
「小娘、貴様も鬼か?」
月明かりに映るその姿は、武者の姿をしていた。いままで見た事が無い『童子』と『姫』
である。
無言のまま音又をポケットから取り出すと左手首に付けた銀の腕輪に打ち共鳴させる。
「貴様も死ね!!」
鞘から素早く刀を抜き出すと、眼に捕らえられない速さで急迫してくる。
”早い!!”
音叉を額に充て紅い炎に包まれながら、戦鬼はその速さに驚いた。
”いままでの『姫』や『童子』達とは、ケタ違いだ!!”
そう思うより早く、武者姫が放つ一閃が、戦鬼の銅を襲う。
<続く>
                
163響鬼外伝:2007/11/27(火) 15:19:21 ID:+mWi1jmQ0
>>162の続き
「グッ」
跳ね飛ばされる詩織。だが、変身が終わった直後であるのと、咄嗟にバック・ステップした御蔭でダメージは許容範囲内だ。
片膝を着き身体を起こすが、すでに武者姫が眼前まで迫っていた。
音撃棒で受ける。だが、それでも百メートル程、跳ね飛ばされた。
「オワリダ・・・・・・」
牙突の要領で刃先を戦鬼に向ける。
”響鬼さん・・・・!!”
瞼を強く閉じた。もう、響鬼に永久に会う事が出来ない・・・・・。
ふいに、紫の炎が武者姫の身体を包んだ。武者姫は戦鬼を殺る事に集中していたせいで、不意打ちに対する回避行動が遅れた。
「ウギャァァァァァッ!!」
そして、黒い影が戦鬼を庇うように前に立つと手にした音撃棒を武者姫に一閃する。
跳ね飛ばされながら体勢を立て直す武者姫
「大丈夫か、戦鬼?」
戦鬼=詩織には聞き覚えのある声。絶対、忘れられない声。
「響鬼さん!!」
                 ***
響鬼・戦鬼、それに武者姫・武者童子が対峙していた。
「ほぉ、これはこれは・・・・・。」
かなり離れた茂みの陰に立つ男は、この状況には場違いすぎる程の明るい口調で呟くと、僅かに下がった眼鏡を
神経質そうに直す。
長髪の痩身の男だった。顔は人間体の『童子』と瓜二つだ。
「遠路遙々、英雄様の御登場とは・・・・・」
「このままだと・・・我々の計画に齟齬が招じるわ・・・・・」
女は瞬きせず戦闘を見つめながら、呟くように言う。女の姿は『姫』と瓜二つだった。
「齟齬ね・・・。齟齬といえば、例のオロチの時点で齟齬が招じてる・・・・」
「そう、我々はあくまで小規模な掃除をするつもりなのに、オロチになれば大掃除になっちゃうよね・・・・」
おどけたように女が言う。だから、敢えて鬼共に情報を与えたのだと男は思う。
我々の大いなる計画に、一切の齟齬は許されないのだ・・・・・・。
<続く>
164響鬼外伝:2007/11/27(火) 19:09:52 ID:xP6RnOW50
* >>163の続き
奇怪な唸り声をあげ歯を剥き出しにして威嚇する武者姫と武者童子
以前戦った武者童子や武者姫とは、かなり異なる・・・・。
「響鬼さん!!」
「よぉ、戦鬼。元気そうで・・・・・。」
その瞬間、身体に覆い被さってくるような空気に、素早く武者姫と武者童子に向き直る。
それは実体のある物ではなく、殺気と呼ばれる物だ。
「フン」と鼻を鳴らし装甲声刃を構え「響鬼 装甲!!」と叫ぶ。
”これが装甲響鬼・・・・・。”
息を呑む詩織。
「うぉぉぉぉぉッ」 吼えながら武者童子と姫に突っ込む響鬼。それに続く戦鬼
響鬼に向け刃を打ち下ろそうとするが、それを寸前で交わし胴を切り裂く。
爆発。飛び散る塵芥が対峙する武者姫と戦鬼の間合いの間に飛び散る。
「たぁぁぁぁッ!!」
刃を音撃棒で受け、口から真紅の炎が放たれ、忽ち武者姫を包み込む。
さらに音撃棒を放ち、完全に粉砕した。
<続く>
165名無しより愛をこめて:2007/11/27(火) 22:44:49 ID:w2b0VUpU0
>164
投下乙

今まで見ていて気になった点がいくつか

主人公が変身した後に本名が出ると一瞬変身前?と迷う
変身後は鬼名に統一した方が読みやすいように思う(ただしこれが演出だということならば問題はないが)
同様に、本編の鬼たちも変身前と変身後の区別があると場景の脳内変換がしやすいように思う

余計かもしれないがもったいなく思ったので
166響鬼外伝:2007/11/27(火) 23:01:11 ID:qHp32OEo0
* >>164の続き
「ふぅ」と大きく溜息をついた響鬼は顔の変身を解いた。
「大丈夫ですか、響鬼さん!?」 顔だけの変身を解いた詩織が心配そうに駆け寄る。
「鍛えてますから・・・・」 笑顔を浮べる響鬼。「ホッ」と安堵の溜息を洩らす詩織だが、ふいにある事を思い出した。
「魔化魍が・・・・!!」
「大丈夫、そっちは轟鬼が・・・・」と、言い終わらぬうちに遥か彼方から「響鬼さん・・・・!!」と叫ぶ声
戦鬼・詩織も響鬼も、その声のする方に視線を遣ると、変身した純白の鬼=京介が、茂みを掻き分けフラフラと出てくる。
「京介!!」 響鬼が戦鬼が駆け寄る。土蜘蛛程度なら、轟鬼でも対処可能だと考え戦鬼の救出に向かったのだが!?
何かが爆発した。切り刻まれた樹や枝の断片が響鬼や戦鬼、京介に降り注ぐ。
無数の巨大魔化魍や童子・姫が姿を現す。
               ***
「うぉぉぉぉぉッ!!」
轟鬼は音撃弦を振るい、襲い掛かるバケカニの軸足を砕き仰向けに倒すと音撃弦を腹に突き立てる。
「雷電撃沈」 弦を打ち鳴らし爆発するバケカニ
その眼前を最初に現れた土蜘蛛の脚が襲う。
<続く>
167名無しより愛をこめて:2007/11/28(水) 00:32:02 ID:/opYegre0
げ・・・げきちん!?
168名無しより愛をこめて:2007/11/28(水) 01:06:12 ID:sxfyeeIr0
新技だぁ!
169名無しより愛をこめて:2007/11/28(水) 01:56:54 ID:GH1Imrgt0
とりあえず響鬼外伝の人はここを見て技の名前をチェックしる
http://www.tv-asahi.co.jp/hibiki/
170響鬼外伝:2007/11/28(水) 20:17:27 ID:v+emAEAD0
* >>166の続き
激しく打ち込まれるカエングモの炎を音撃棒で打ち払い2体の真紅の鬼(装甲響鬼・戦鬼)
は群れる童子や姫を打ち払っていく。
「りぁぁぁぁぁッ!!」
装甲響鬼が音撃声刃を一閃する爆発。音撃鼓をベルトから外しカエングモに向け投げる戦鬼
音撃鼓は暴れるカエングモの前で大きな気のような物を放ち固定化する。
「とりゃゃゃぁぁぁぁッ!!」
空中に飛び鼓を蹴る。巨大な音激の波がカエングモの全身を震わせ爆発する。戦鬼の必殺技<音撃蹴打>だ。
着地した瞬間、戦鬼に覆い被さるようにロクロクビが頭から突っ込んでくる。
”アッ!!”
避けるには、すでにタイミングが襲い。
「戦鬼!!」 響鬼が駆け寄ろうとするが無数の魔化魍や童子・姫に阻まれ動けない。
戦鬼は 死を覚悟した・・・・。
<続く>
171名無しより愛をこめて:2007/11/28(水) 23:01:53 ID:YwvD6kl70
響鬼外伝の人は、書けたぶんから小出しするよりはもうちょっと書き溜めてからまとめて投下するといいと思うよ
172番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:35:31 ID:BgUK0VN40
前回は>>102から

深夜・・・と言うにはまだ早く、夕方と言うには遅すぎる時刻。
勢地郎からの電話にダンキは受話器を握り締めたまま反応できないでいた。
「ヒビキさんが・・・負けた?」
搾り出すように出た言葉を自らの耳で確認した後・・・・
「は!?ヒ・・ヒビキさんが!冗談言うなよ!」
ヒビキ敗北の知らせに声を荒げるダンキ。だが、何も言い返さない勢地郎に・・・ダンキはその話が真実である事を実感させられた。
「マジ・・・かよ・・・・相手は!?相手は何の魔化魍なんだよ?俺が行ってぶっ飛ばしてやる!!」
受話器を握りつぶさん勢いで握り締め、電話本体に言い放つようにダンキは吼えた。
『相手は・・・ヨブコだ。しかも、かなり厄介な奴で・・・こちらの音撃が通用しない・・・』
「ンな・・・そんなのアリかよ!?どうしようも無いじゃん!」
音撃が効かない。
音撃は唯一魔化魍に対して効果の有る対抗手段。それを封じられては・・・
「くそっ・・・ヒビキさんが・・・勝てねぇハズだぜ・・・」
『とにかく、ヒビキと連絡をくれた桐矢君の救出をお願いしたいんだ』
「解った。すぐにショウキと出るよ!」
『安藤君にも連絡して、そっちに向かってもらってるから・・・・それともう一つ』
おやっさんはそこで一旦間を空けた後、
『それだけじゃなく、みどりちゃんと明日夢君の行方も判らなくなっていると、桐矢君が言っていたんだよ・・』
「みどりちゃんと!明日夢も?マジかよ・・・・」
ダンキの脳裏にはにかみながらバイトに励む明日夢と、文句を言いながらもダンキのDAや音撃武器の整備をしてくれるみどりの姿が浮かび上がった。
『正直・・・今までに無いほど事態は深刻でね・・・手が空いている鬼の大半を投入して捜索する事になった
・・・現地に着いたら、君たちとは別の方向から向かってもらってるエイキ、それと待機になっていたトウキにも捜索をお願いしたから、合流して、二人を探して欲しい・・・』
その数、ダンキとショウキを入れて四鬼。
173番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:37:05 ID:BgUK0VN40
相手は音撃の通用しない魔化魍・ヨブコ。
『今の時間は魔化魍が活発になる時間帯だ・・・くれぐれも気をつけて・・・』
「あぁ、了解・・・」
ブツッ・・・と音がが途切れ、ツーという音が鳴りつづけてもまだ・・・ダンキは受話器を戻す事は出来なかった。

―――ヒビキが
―――みどりが
―――明日夢が

「・・・・っ!!」

ぶん殴るように受話器を叩きつけ・・・荷物を引っつかみ部屋を飛び出した。
トキワ荘を飛び出し、道路のド真ん中に出て左右を見る。
だが、街灯の明かりしかない道路には人影も、そしてダンキの待ちわびる迎えの車もこない。
「あぁぁぁもう!早く来いっての!!」
焦りと怒りで一杯のダンキには一分が十分に。十分が一時間以上に感じられた。

そして、15分以上たった後・・・見慣れぬ車が猛スピードでダンキ目掛けて突っ込んできた。
急停車とほぼ同時に助手席側のドアが中から開けられた。
「お待たせ!乗って!」
開け放たれた窓の向こうには千明が手招きで『急げ』と言っている。ちなみに後部座席にはショウキもいる。
「安藤!?」
その車は、ヒビキの『不知火』やトドロキの『雷神』と同じ型の車で、車体は濃い目の紫と蒼。窓ガラスには『TAKESHI』のマークが。そしてその運転席には千明が。
「これ・・・何?新しゃぁぁ!?」
助手席に急いで乗り込みながらも、このクルマについて尋ねようとしたが、言い終わる前に車は急発進した。
「それは後。とにかく急がなきゃ!この車についてはショウキ君お願い!」
「うん。えっとこの車は僕ら3人の為におやっさんが手配してくれたんだって。僕はまだ運転してないけど、前の車よりも性能が良いみたいだよ!登録名は『蒼紫』だって!」
新車に些か興奮気味のショウキがダンキに向かい説明した。
車内を見回すと、後部座席は一人分の座るスペースがあり、それ以外は色々な道具が数多く積み込まれている。やや手狭に感じたが、ダンキとショウキの二人分の道具が積み込まれてる事を考えれば、仕方の無い事だった。
174番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:39:31 ID:BgUK0VN40
「一発目の出動がこんな緊急出動になっちゃったけど・・・」
「そうね・・・今は急ぎましょ」
「あぁ、トウキさん達も向かってるはずだから、どっかでカチ合うことになるかもな・・・安藤!安全運転でかっ飛ばせよ!」
「了〜解」
ダンキの言葉に千明は更にアクセルを踏み込み、交通量の少なくなった夜の町に蒼紫を疾走させた。
町の灯りが高速で背後へ流れる様を見ながら、どうにも落ち着けないダンキは拳を握り・・・開き・・・また握り・・・を繰り返していた。
それを見かねたショウキが何かを思いついたように周囲に積んであるDAボックスから数枚のDAと地図を取り出した。
「はい、ダンキ君」
突然DAを手渡されたダンキはやや困惑気味だ。
「今の内に座標入力を済ませておこう?そうすれば到着と同時にDAを放てる!」
そう言われて、渡されたDAと地図に目をやるダンキ。
確かにこのままイライラしたまま待つよりよっぽど合理的である。それを理解したダンキは、
「そうだな・・・出来る事を・・・やっとくとするか!」
と、言うと同時に腰から音叉を取り出してDAをセットした。

山奥の廃校/
ダンキ達が現場に着いた時には既にトウキ達も到着しており、トウキの妻ともえはヒビキの応急処置の真っ最中だった。
「トウキさんっ!」
「遅くなってスミマセン!」
車が停車するよりも早く、飛び降りてトウキの本へ駆け寄るダンキとショウキ。
「よう、早かったな」
二人を迎えるトウキのすぐ傍には、見たことの無い少年が蹲っていた。
「この子は?」
175番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:41:05 ID:BgUK0VN40
「桐矢京介君・・・だそうだ。連絡をくれた安達君の友人だな・・・彼のお陰もあってヒビキも無事だ。簡易ながらも応急処置が施してあった・・・」
桐矢と呼ばれた少年は、どうして良いか解らない・・・といった風な表情でダンキとショウキを見た。
「そっか、お前が連絡してくれたのか・・・・でかした!後は俺らに任せてろ!」
蹲る桐矢の方に手をやり、想像の域を出ないが・・・・いつ魔化魍が戻ってくるか分からないこの状況で連絡をとり、ヒビキの手当てをした少年に感謝するダンキ。
「安藤!」
立ち上がり、千明の下へ走るダンキ。
千明は車から降りてDA展開の準備をしていた。
「安藤お前は、ともえさんと一緒にヒビキさんと桐矢って言う少年をたちばなに送り届けてくれ、今すぐにだ」
ダンキのその言葉に、作業を止めて反論する・・・・かと思いきや、意外にもあっさりとその言葉を受け入れた。
「わかった・・・気をつけてね・・・・」
「・・・お・・おう?」
あまりに素直な反応な為対応に困るダンキだが、何かを思い出したかディスクホルダーに手をやり、一枚のDAを取り出した。
「念のため、コイツを渡しとく。たちばなに着いたらコイツを起動させてくれ」
ダンキが手渡したDAは、普段使っているDAよりもやや小さく、薄型のDAだった。
茜鷹0番。または0号とも呼称される、鬼とその弟子のみが持つ戦闘用のDAである。
「こいつは特殊なDAでよ、ベースの座標を打ち込まずに起動させたら、その持ち主ン所に飛ぶようになってる・・・そいつで合図してくれりゃこっちも安心できるからな、どうせあの森だ。携帯は役に立ちそうに無いしな」
176番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:42:29 ID:BgUK0VN40
「携帯・・・使えないくせに・・・・・分かった、到着次第すぐに連絡するね」
千明は渡されたDAを大事に受け取り、胸に押し当てるようにして握り締めた。
「行くぞ、ダンキ。ショウキもいいな?」
会話が終わるのを待っていたトウキがダンキとショウキを呼び寄せた。既にその手には変身鬼笛が握られている。
それに倣い、ダンキとショウキも変身音叉と変身鬼笛を取り出した。
「あっ!あの・・・・」
今正に走り出そうとする車の車内から・・・桐矢が叫んだ。
「安達のこと・・・・」
だが、桐矢はそこで言葉を止めてしまった。
ダンキは・・・いや、ショウキもトウキも桐矢京介という少年と安達明日夢の関係を良くは知らない。
そもそも何故彼がこの場に居るのかも分からない。
だが、その顔立ちからプライドが高く・・・そして人間関係が不器用であろう事は・・・・・その場で感じ取れたのは、年長者のトウキだけであった。
トウキは言葉を発する事無く、ただ拳を突き上げて見せた。
ショウキは、にこやかに笑顔を送り・・・
ダンキは・・・

「あぁ。言ったろ?任せとけ・・・ってな?」

そしてその言葉を合図にしたかのように、二笛一叉の音が夜空に鳴り響いた。

桐矢や千明の居る車からは、彼らの姿は背中しか見えない。
その背中は次第に・・・赤い風と紫の風・・・そして月の光を受けて蒼く光る石錐によって阻まれていった。

―――赤き風は風神の息吹の如く荒々しく
―――紫の風は正に暴風雨の如く荒々しく
―――蒼き石は闇夜でも蒼天の如く青々と・・・・

そして―――桐矢がその激しさに眼を閉じ・・・再び開いたその眼前には・・・・・
177番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:44:47 ID:BgUK0VN40
「・・・・・・・・鬼」

あの夜・・・ヒビキを・・・いや、響鬼をはじめて見たときのような強烈な印象が再び桐矢を襲った。
『行くぞ!弾鬼!勝鬼!』
『おう!』
『了解です!』
その言葉を残すと同時に、三鬼は深い森へと飛び込んでいった。

森/
『みどりちゃ〜〜ん!明日夢〜〜〜〜〜!何処だ〜〜〜〜〜!』
弾鬼は乱立する木々の枝を飛び移るようにして移動しながら明日夢とみどりの行方を探した。
上空には茜鷹と浅葱鷲が飛び交い、地面には瑠璃狼と黄赤獅子が疾走している。天地共々DA同士も連携を取って捜索している。
普段ならば、目標を発見次第ベースへ戻るようになっているが、今回はベースが存在しない。
その為、先ほど弾鬼が千明に手渡した物と同じ、勝鬼所有の茜鷹0番ディスクが上空のDA達の中継役を担っていた。
DAはDA同士で意思疎通が出来る。その利点を応用した手法だった。
だが、それプラス鬼達の探索力を合わせてもこの森は広すぎた。
『トウキさん、僕らが固まってちゃ時間のロスにならないかな?』
勝鬼が走りながら隣の闘鬼に問い掛ける。
『そうだな・・・あんまりバラケたくは無いが・・・・弾鬼!』
闘鬼と勝鬼が立ち止まり、やや先行気味の弾鬼を呼び止める。
『散開して二人を探す・・・万が一魔化魍に遭遇したらコイツらを使え』
そう言って、闘鬼に随伴していた二匹のDAをディスク形態に戻しそれぞれ弾鬼と勝鬼に投げ渡した。
『くれぐれもタロウとジロウを壊さんでくれよ?』
闘鬼の0番ディスクのタロウを受け取った弾鬼は、ホルダーに収めつつ新たに二枚のDAを闘鬼と勝鬼に投げ渡した。
勝鬼もDAを1枚ずつ渡し、受け取ったDAをホルダーに収めた。
これで全員が全員の0番DAを一枚ずつ所持している事になり、起動するだけで全員に連絡を取る事が出来る訳である。
178番外編『仮面ライダー弾鬼』七之巻 弐:2007/11/28(水) 23:51:01 ID:BgUK0VN40
『くれぐれも無茶はするなよ?余裕があれば音声も入れて飛ばせ・・・いいな?』『それと・・・エイキが反対側から来るみたいだが、こちらからは連絡が取れん・・・お前らのうちどっちかが合流したらそのままペアを組め!いいな?』
『おう!相手はヒビキさんが負けるほどの相手だ・・・闘鬼さんも無茶は無しだぜ?』
『まずは二人の足取りを掴むのを先に考えよう・・・弾鬼君、ヒビキさんの敵討ちも分かるけど・・・今は・・・』
『あぁ〜もう!分かってるよ!』
釘をさされた弾鬼は角をポリポリと一掻きし、両の手で顔を張って気合を入れた。
その様子を見て闘鬼が
『それと・・・エイキが反対側から来るみたいだが、こちらからは連絡が取れん・・・お前らのうちどっちかが合流したらそのままペアを組め!こっちも同様にする・・・』
『そっか、エイキも居るんだったな・・・これで4人・・・・もし魔化魍が出ても足止めしながら捜索できるって訳だ・・・』
『うん・・・それじゃ急ごう!二人とも気をつけて!』
『よし・・散れ!』
その言葉が耳に入り終わるより早く、三鬼はその場から駆け出した。

空はまだ暗く・・・夜明けにはまだ暫くの時間を必要とした。

                             続く
179名無しより愛をこめて:2007/11/28(水) 23:55:51 ID:l4GuFUb80
投下乙。ほぼリアルタイムで読んだぜ。0番ディスクの使い方がイイ
180弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2007/11/28(水) 23:59:05 ID:BgUK0VN40
『くれぐれも無茶はするなよ?余裕があれば音声も入れて飛ばせ・・・いいな?』
『おう!相手はヒビキさんが負けるほどの相手だ・・・闘鬼さんも無茶は無しだぜ?』
『まずは二人の足取りを掴むのを先に考えよう・・・弾鬼君、ヒビキさんの敵討ちも分かるけど・・・今は・・・』
『あぁ〜もう!分かってるよ!』
釘をさされた弾鬼は角をポリポリと一掻きし、両の手で顔を張って気合を入れた。
その様子を見て闘鬼が
『それと・・・エイキが反対側から来るみたいだが、こちらからは連絡が取れん・・・お前らのうちどっちかが合流したらそのままペアを組め!こっちも同様にする・・・』
『そっか、エイキも居るんだったな・・・これで4人・・・・もし魔化魍が出ても足止めしながら捜索できるって訳だ・・・』
『うん・・・それじゃ急ごう!二人とも気をつけて!』
『よし・・散れ!』
その言葉が耳に入り終わるより早く、三鬼はその場から駆け出した。

空はまだ暗く・・・夜明けにはまだ暫くの時間を必要とした。

早速ミスを発見・・・トウキさんがアルツハイマーになったかのように同じ事言ってます。すみませんでした。

前回レスを下さった方々どうもありがとうございました。
また、まとめサイト様こんな不定期に投下する自作を掲載して頂き有難うございました。
以前は長目の文章を書き上げてから投下するスタイルを取っていましたが、それが投下遅れを引き起こす原因だった為、今後はやや小出しに投下させていただきたく思います。
181名無しより愛をこめて:2007/11/29(木) 11:44:10 ID:AVtzDZrW0
弾鬼SS作者さま、乙です。

これでまた楽しみが増えました。
次回を楽しみにしています。
京介、やっぱホントはいい奴なんだよなぁ。
182鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:28:37 ID:sTIBTRMR0
「藤咲、またお出かけか?」
 十獅子唐吾が教え子の藤咲史弥に声をかけた。その声には皮肉の色がありありと見て取れる。
 鬼島の寮の廊下であった。
「あ、十獅子先生。そうです、ちょっとバイクを飛ばしに」
「それでまた“たまたま”盛り場にたどり着いて“たまたま”居合わせた女性と“たまたま”酒席をともにする、という予定だな?」
 史弥の背筋をなんだかとてもいやな悪寒が走りぬけた。
「いやいや、俺はただバイクを飛ばそうってだけで他意は……」
「ふぅん。まあいいや、でも定時連絡だけは欠かすなよ。あと飲酒運転したらお前、ケツの穴でミルクを飲むまでシゴき倒すからな」
 一瞬、十獅子が訓練教官ではなく先任軍曹に見えた。その昔、史弥が調子に乗りすぎたときには本当に首切ってクソを流し込まれそうになったことがある。
183鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:29:17 ID:sTIBTRMR0
十『貴様はなぜ鬼に志願した?』
史『Sir, to kill, sir!(魔化魍を退治するためです、サー!)』
十『殺し屋志願か』
史『Sir, yes sir!』
十『殺しの顔をしろ!』
史『Sir……?』
十『清める時の顔だ!』
史『…………?』
十『ア゛―――――――!!! これが清めの顔だ、やってみろ!』
史『ヴァ―――――――!』
十『それで清められるか! 気合いを入れろ!』
史『マ゛―――――――!!』
十『迫力なし、練習しとけ!』
\______________________________/
     。o O
/(≡ω≡.)\
184鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:30:52 ID:sTIBTRMR0
 十獅子が『Mama and Papa were laying in bed♪』などと歌いながら隣を通り過ぎると、
すぐに自室に引き返して抽斗からテレホンカードをありったけかき出し、財布の中に遊興費と帰りの交通費を確認すると今度こそ意気揚々と出かけたのであった。

 史弥のバイクはDUCATIである。これを調達した車輌係や銀はきわめて優秀なバイクであるそれにあとから手を入れることはせず、後部に装備一式を運搬するためのケースを加えただけにとどめている。
 後年のような表の顔はまだないため、猛士のロゴは入っていない。
 一速が他のバイクの二速に相当するというギア比、900ccを超える排気量、エトセトラ、エトセトラ。
 モンスターマシンという表現がこれほどぴったりくるバイクも珍しいだろう。なにしろ本来はサーキットで走らせるためのものなのだ。
 これを駈る史弥は今年で19歳。もとからバイクに乗っていた彼は実力をつけて専用車輌が与えられると通達を受けると迷わずドゥカティを選択した。
 価格の面、というよりもあまりに扱いづらい車種に戸惑った車輌係は二度三度と普通の国産車輌に考え直すように申し送ってきたが、そのすべてを押し切ってこの真紅の怪物を得た。
 周囲の懸念をよそに、この走るためだけの怪物をすぐに飼いならしてしまう。
 猛士総本部の多目的グラウンドで行われた習熟訓練ではみごとな腕前を披露した。癖の強い乾式クラッチのため慣れないとすぐにエンストする発進でさえ最初の慣らしでクリア。
 スペック通りのタイムで最高速度に達し、バランスを崩さずに急制動。転倒ぎりぎりまで体を倒しての急カーブ。
 その光景は見る者の度肝を抜き、彼らには魔戒の馬を駆る騎士に見えたという。
 そして正式にドゥカティを受領すると迷った末に『一陣』と名付け――もう一つの『デスモドゥス』という案は凶悪すぎるという理由で却下――、公私共に愛用している。
 といっても、今現在は盛り場に向かうため制限速度を30〜40km/hぶっちぎって“のろのろ”と走っているに過ぎない。
185鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:31:33 ID:sTIBTRMR0
 鬼島から40kmほど離れた、長野駅に近い歓楽街。
 たまたまそこにたどり着いた史弥はたまたまそこに居合わせた二人組みの女性に声をかけ、たまたま話の成り行きでバーでグラスを傾けていた。
 二人はともに史弥より一つ二つ年上のようで、少し暗い感じのバーに気後れした様子もない。
 三十分ほどして、彼氏と約束があるといって一人は店を出て行った。だが史弥の隣に残ったもう一人のほうは純然たる一人身であるという。
 背は平均より少し高く、飾り気のない髪は黒のセミロング。胸元が開いたシャツとぴったりしたジーンズがボディラインを強調している。
 目は切れ長で唇は薄く、ともすれば冷たい印象を与えそうな顔立ちだが、微笑むと男の心を揺さぶるような魅力的な笑顔になる。
 そのうえ人懐こい性格で、その笑顔を振りまきながら絶え間なくしゃべり、同じくらい笑っている。
 普段ならばいい女と楽しく飲み、楽しく話して、ごく稀には体を重ねることもある。しかし、この夜はどうしてもそういう気分にはなれなかった。
 ―――この気配……魔化魍、か?
 女は魔化魍ではない。正真正銘の人間である。だがただの人間ではない。犬神憑きであった。
186鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:32:17 ID:sTIBTRMR0
 イヌガミとは寄生型魔化魍の中でもとりわけ厄介なものだ。普通の寄生型と違い、これは個人ではなく一族に憑く。そのうえ、比較的簡単に“作り出せる”のだ。
 魔化魍の中でも使役が簡単にできるため、かつてはそれを利用せんとした者が作り出してしまうことが多々あった。
 しかし使役ができるとはいえ、クダギツネのように完璧に使いこなせるわけではない。それを作り出した者、またその家族に憑き、その無意識の欲求をかなえるにとどまる。
 たとえば『金がほしい』と願えば近隣から掠め取ったり、『あいつが憎い』と思えば憎悪の対象を取り殺す、といった具合に周囲に不幸をばら撒くのだ。
 発生するのではなく作り出される魔化魍であるため、原則的に魔化魍発生予測師にはこれを察知することはできない。鬼か、修験者か、僧か、神官か、陰陽師か。あり得ざるモノを感じることができる者が足で探すより他にない。
 さらに厄介なことがある。
 かつては犬神憑きの家はそれと知られていたため忌み嫌われ、イヌガミが広がることはそうなかった。しかし近代化が進み、言い伝えや慣習が廃れるにつれ禁忌も忘れられてゆき、イヌガミは拡散している。
 とはいえ新たに作られない限り犬神の絶対数は決まっているため、『犬神が憑ける』素質を持った人間が広がっているというだけであるが。
187鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:32:52 ID:sTIBTRMR0
 ―――まずいなぁ。
 トマトジュースがまずい。酒を飲むわけにいかなくなったのは隣の女のせいである。
 表面は楽しく軽口を叩いてこそいるが、内心は鬱々としている。犬神憑きの素質があるだけならどこぞの陰陽師にでも処置してもらえばいいが、この女は現在進行形でイヌガミが憑いている。
 イヌガミはそのこすっからい性質ゆえに存在が露見しづらく、したがってかなりの年月を生きる。つまり経た年月に比例して強大になるのである。
 いまは女の中で眠っているような状態であるが、それでもそこらの俄か霊能者が視ようとすれば逆に生気を奪われかねないほどの強さである。
「ね、ところでお姉さん名前はなんていうの? 俺は藤咲史弥っていうんだけど」
「私? 私はねー、内緒! ふふ、ウソウソ。西野久美っていうの」
 西野と名乗った女はなかなかの話し上手で、史弥も――頭の中の半分は完全に冷め切っているが――まるで退屈することはなかった。
 史弥は隙あらば酒を飲ませようとする西野を巧みに躱し、トマトジュースやジンジャーエールといった、あまり好まないソフトドリンクばかりを飲んでいる。
188鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:33:35 ID:sTIBTRMR0
 ―――さて、どうするか。
 まさかイヌガミを逃がすわけにはいかないから、多少強引であっても自分が西野を清めるほかない。だがこの繁華街からどうやって連れ出すか。魔化魍はもちろん、鬼の姿を一般人に見せるわけにはいかない。かといって西野を攫うというのも法的・人道的に問題がありすぎる。
 ―――酔い潰すか。
 潰して、家に送ると装って人目のないところで清める。常識的に考えてかなり無理があるが、これが一番無難だろう。
 史弥はポケットからなにやら取り出した。見れば目薬である。目薬を常備している理由はドライアイということにしておいてほしい。キャップを外すと、西野が視線を外した隙にそのグラスに数滴垂らす。
 西野はそれなりに酒に強かったらしいが、史弥の次々におかわりをさせる巧みな話術とそのたびに投入される目薬の相乗効果でみるみるうちに酔いつぶれてしまった。
189鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:34:55 ID:sTIBTRMR0
 西野はこの店の常連らしく、幸いにも西野の払いは付けにすることができた。そのうえこうして楽しく飲んでころっと潰れるのもよくあるようで、マスターは苦笑しながら彼女の家の住所まで教えてくれた。
「タクシー屋も潰れた久美ちゃんを送るのが慣れっこになってるんだけど、たまにシートで吐いちゃうのがね……」
 彼女の家はそれなりの住宅地にあるが、多少回り道をするなら戸隠の近くの人通りのほとんどない道を通ることになる。現在戸隠には音撃を使える者もいないことだし、そこで清めるとしよう。
 西野を背負うようにして一陣にまたがり、タープを張るためのロープでしっかり自分と西野の体を固定した。
 自然、小ぶりながら柔らかな胸が背で形を変える。さすがにこの状況で欲情することはなかったが、忍人に言ったらものすごく悔しがることだろう、と思った。
 いざというときにはすぐにロープをはずせるよう、いつも携帯しているビクトリノックスのツールナイフから大きなほうのブレードを出してベルトに挟んだ。
 ドゥカティの爆音はどうしようもないが、せめて振動で目を覚まさないようにとできるだけそっと発進した。
 後ろに女性を乗せて夜道に一陣を走らせる史弥だが、その内心は緊張で固まっている。
 鬼の気配でイヌガミが目を覚ませば変身していない自分の首の骨などHBの鉛筆をベキッとへし折るくらい簡単に砕かれるだろうし、目を覚ましたのが西野だけであっても暴れるのは必至。すれば、自分も西野も転倒して大怪我は免れない。
 西野がわずかでも身じろぎすると即座にスピードを落とし、意識がないのを確認するとともにビクトリノックスに手をかける。
 しばらく戦々恐々と一陣を走らせていると、三十分ほどで周囲に民家も街灯もなくなり、光は明るい月と星、そして闇を切り裂く一陣のヘッドライトだけとなった。
190鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:35:54 ID:sTIBTRMR0
 ゆっくりと一陣を停車させるとロープを切って西野を道路脇におろす。腰から変身音叉・音耀を外して木の幹に打ち付ける。
 澄んだ変身誘発音波が広がり、史弥の額に鬼面が浮かぶ。変身誘発音波のためか、西野が目を開ける。その目は紅い。史弥の体を風が包み込む。西野がつぶてを投げるが、風の気に粉砕されて届かない。
 風がはじけ、そこには一個の異形があった。白い体に浅黄の前腕、薄紅の隈取。左右非対称の四本角に額から生えた一本角。
 鬼の名はまだない―――史弥変身体。
 それに襲い掛かる獣――西野。その目は血のように紅く濁り、歯と爪は長く伸びて鋭く尖っている。イヌガミに肉体を乗っ取られてしまったのだ。
 イヌガミが奪った肉体は相当に強化される、という予備知識こそあるものの、鬼の力で本気で叩きのめしてもいいものか。その逡巡が史弥変身体の動きを遅らせた。
 咄嗟に出したガードが弾かれ、イヌガミ=西野の爪が首の皮を掠めてゆく。史弥は息を呑み、慌てて後ろに下がる。だがイヌガミ=西野もさるもの、その隙を逃さずに懐に入り込む。
 振るわれる爪は鋼鉄。腕力は鬼のそれと同等だ。古文書には『歳ふりた犬神に憑かれし者、その力乱れ童子に並ぶべし』とある。
 鬼爪を伸ばしてイヌガミ=西野の爪を受けようとするが、それも二度目で折れ飛ぶ。
「くっ……はぁっ!」
 このままでは削られるだけだと判断した史弥変身体はわざと後ろに転倒し、爪を空振りしたイヌガミ=西野の腹を巴投げの要領でしたたかに蹴り飛ばした。その感触は人間の肉体というよりも、ヌリカベの殻でも蹴りつけたように硬いものだった。
 だが質量は軽い女性のままであったので、たまらず史弥変身体を飛び越えて10メートルばかり転がっていく。
 すかさず飛び起きた史弥変身体は己の油断を反省し、イヌガミ=西野を魔化魍と認識した。あれならば本気で戦っても西野本人の体にそう影響はないはずだ、それどころか手加減などすればこちらが殺される。
191鬼島〜未来の風鬼:2007/11/29(木) 23:36:41 ID:sTIBTRMR0
 防御した腕はまだびりびりと痺れている。鬼爪は右のものが二本、左のものが三本折られていて使えそうもない。拳を握ると、ぬるりといやな汗をかいていることに気づいた。
「―――手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に」
 戦いの心得を小さく口ずさむ。それだけで幾分落ち着き、手のいやな汗もすっかりなくなった。
 イヌガミ=西野は体勢を立て直し、四つ足で力をためている。史弥変身体は装備帯から音撃棒・下弦を一本抜き放ち、気を整える。
「―――鬼棒術・風神結界」
 大気が史弥変身体に吸い寄せられる。初めはちょっとした突風程度だったが、すぐに強烈な暴風となる。
 風神結界は本来、音撃棒とそこから出した刃に風を纏わせることで光を屈折させて不可視にする術だ。これほど強い風を生むことなど本来ならばあり得ない。
 すでに両の手で構えた下弦は不可視になっているにもかかわらず、史弥変身体はまだ風を吸うことをやめていない。その手の中では音撃棒の霊木がみしみしと軋り、鬼石に微細なひびが入りはじめている。
 暴風はいまや這っていてさえ史弥変身体に飛んでいくほどになっている。イヌガミ=西野は咄嗟に両腕を肘まで、両足を膝まで地面に打ち込んで飛ばされまいとこらえている。
 西野がただの人間であれば、この風で鼓膜は破れ肺の空気は残らず吸い出され、眼球までも飛び出していただろう。だが、いまは古文書にある乱れ童子ほどまでに強化されているのでさほど身体に損傷はない。
 たまらないのはイヌガミである。寄生といっても宿主と完全に融合しているわけではなく、体内に半物質・半霊的な根を張っている状態なので、この風で吸い出されつつあるのだ。
192響鬼外伝:2007/11/29(木) 23:37:55 ID:+2rxHnIv0
* >>170の続き
空中に投げ出され意識朦朧としながら、戦鬼は思った。
何故、自分は戦っているのか?彼女は今年で中学を卒業し高校生だ。まだ青春を楽しんではいないというのに・・・・。
別の画像が、脳裏を過ぎた。どしゃ振りの雨の中、黒い背広を着て哀しげに立ち尽す響鬼の姿
アタシは何の為に、何を護る為に戦ってきたのか?
響鬼が好きだった。まだ、好きだと素直に伝えていない・・・・。
哀しかった。意識が遠のくなから、頬を涙が伝った。
             ***
「戦鬼!!」
必死に叫び、空中を跳ね飛ばされた戦鬼に向かう響鬼。だが、それを遮るように無数の魔化魍や姫・童子が迫る。
「退けェェェェぇぇッ!!」
音撃声刃を振るい切り払いながら突っ込む。
”冗談じゃねぇぞ!!”
戦鬼=詩織の父親=鋼鬼が死んだ時、もう誰も死なせないと誓ったはずだ。
先代 戦鬼と鋼鬼と共にカマイタチと戦った時、恐怖で身動きできなかった。
恐怖で固まってしまった響鬼を庇ったせいで、鋼鬼が犠牲になったのだ。
それは先代 戦鬼の頼みで詩織=戦鬼には言わなかった事だ。そして、また眼前で鋼鬼の娘が死のうとしている。
「くそったれぇぇぇぇッ!!」
響鬼は吼えた。吼えながら戦鬼に向け奔る。紅い装甲響鬼のボディが怒りを示すかのように、さらに紅く染まる。
            ***
何とか土蜘蛛を清めた轟鬼は、響鬼の咆哮を聴いた。
「響鬼さん・・・・!?」
何が、どうなっているのか判らなかった。あれほど、獣の如く吼える響鬼を一度も見た事が無い。
あのオロチの際も、冷静だった響鬼が!?
「轟・・・鬼さん・・・。」
声がした。京介だ。至る処が傷ついた鬼に変身した京介が折れた樹の幹に背を預けている。
「京介、これは一体!?」
<続く>
193鬼島〜未来の風鬼:2007/11/30(金) 00:06:25 ID:eGHFft4f0
 それこそが史弥変身体の思惑である。己から遠ざかる方向の技ならばいくつか会得しているが、大抵の鬼と同じように敵を自分に引き寄せる技は持っていない。そこで風神結界を発動するときの風を利用してイヌガミを引きずり出そうとしているのだ。
 周囲の木々から人の腕ほどの枝がもぎ取られ、人の頭ほどの石が小石のように飛ぶ。史弥変身体が握る下弦の霊木はささくれ、鬼石は削られて表面から微細な粉末になって飛散してゆく。
「おおおおおおおあああああああああああああああああ!!!」
「ギィィィィ―――――ッ!!!」
 我慢比べは史弥の勝ちだった。西野の体から何かが引き剥がされ、それは見る間に大きな犬の姿をとった。イヌガミの本体である。
 半物質状態のイヌガミが吸い出されるや暴風は凪ぎ、それを好機と見たイヌガミは、再び肉体に潜り込もうと投げ出された西野に向かい駆ける。
 だがそれを座視するほど史弥は未熟ではない。
「鬼法術・禍ツ風!」
 暴風を纏った下弦をそのままに、史弥変身体はその口から狂風を吹き出す。その風は周囲を漂っていた枝や石を巻き込み、正確にイヌガミだけを狙い打つ。
 禍ツ風で西野から数メートル押し離されたイヌガミに、本命の攻撃が襲い掛かる。
「鬼棒術・風神鉄槌!!!」
 下弦を振り下ろし、吸いに吸い、溜めに溜めた暴風をイヌガミめがけて一気に解放した。その威力たるや、史弥変身体とイヌガミを結ぶ直線状にあった大木さえ根こそぎ吹き飛ばすほどである。
 それをまともに喰らったイヌガミは前肢も後肢も根元からむしりとられ、岩と木をしこたま叩き込まれ、大岩に激突してようやく止まった。
194鬼島〜未来の風鬼:2007/11/30(金) 00:07:20 ID:eGHFft4f0
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
 史弥変身体は技としての本来の性能を大きく超える運用をしたせいで極度に疲弊している。対してイヌガミは、さすがにこちらもかなりのダメージを受けていたが半霊体であるため急速に失った部位を再生し始めている。
 ―――負けていられるか!
 一旦肺腑から全ての空気を搾り出し、強引に息を整える。もう一方の下弦も装備帯から外し、へたり込みそうな脚を動かしてイヌガミへと殺到する。その速さはまるで亀。遅々として進まぬが、しかしその一歩は磐石。
 あと三歩、というところでイヌガミの再生が終わる。必死に起き上がり、一秒でも、一瞬でも早く逃げんとするイヌガミに、あと三歩だけ追いつけない。
 イヌガミが四肢を撓め、疾走の準備に入る。
 あと二歩。
 四肢の力が解放され、イヌガミの体が弾丸のように飛び出す。
 あと、たったの一歩―――……

 ばたり、と。
 絶望のあまり力尽き倒れたようにも見えたろう。だがそうでないのは、イヌガミを地に縫い付けた音撃棒を見れば明らかである。
「保健所にでも行く気だったのかい、この駄犬」
 表情の伺えない鬼の面に、このときばかりは皮肉な笑みが浮かんでいた。そのまま馬乗りになり、音撃鼓・朧をイヌガミの腹に押し付ける。
「音撃打・鳳翼天翔!」
 疲弊してはいたが、その律動に寸秒の乱れもない。だがその影響は隠しようもなく、威力は普段と比ぶべくもない。ほぼ人間大のイヌガミにも清めの音を浸透させるにも手間取り、イヌガミは逃れようともがく。
 無闇矢鱈に振り回される鉤爪が史弥変身体の身体を切り裂く。胸から、腕から、腹から、首から。体中から溢れ出す血を意に介さず、下弦は朧を連打し続ける。
 十分の後、ようやくイヌガミは弱々しい断末魔の悲鳴をあげて爆散する。
 すでに朦朧としていた史弥だが、視界の端に映った西野がその意識を引き止めた。立つことも億劫になっているため無様にも這って西野のもとに向い、呼吸と脈を確かめ、外傷がないことを確認する。
 たまらなく眠りたかったが、最後の力で戸隠に向けて式を打ってから、ようやく眠りに落ちた。
195鬼島〜未来の風鬼:2007/11/30(金) 00:09:05 ID:eGHFft4f0
陰陽座 『鳳翼天翔』
作曲:瞬火

朝に醒めた顰む征野の白き乙女
瑞の小佩堅く結びて撓に立つ

浅葱褪めた澱む逮夜の藍に沈む
失われし皹る吾が手を包む光よ

暁夢見し蒼き焔纏う鳳が
生の國まで舞い上がる

翠絶えし大地にも 堕ちた天にも
五色の翼掲げて
羽に湛えた慈しみ 渾ての魂に
与えてそだたく

暁夢見し蒼き焔纏う鳳が
生の國まで舞い上がる

天明を邀えた 梧桐の丘から
鏘鏘と鳴く聲が届いたら

紅月燃え逝く斯かる星の天空を惑う
幾臆の魄霊を明き心で束ねて
生と死の理を来世に伝えて舞い上がれ
196鬼島〜未来の風鬼:2007/11/30(金) 00:10:12 ID:eGHFft4f0
 史弥が目を醒ましたとき、あたりはまだ暗かった。時計を確認するとあれから三時間ほどしか経っていない。戸隠の人員もまだ到着していないようで、つまり西野よりも先に目を醒ましたのは僥倖といえる。
 一陣に装着したケースから着替えを取り出して着ると、倒れたままの西野に薄手の毛布をかけて自分も寝袋に包まる。西野が朝まで目を覚まさないことを祈って、ケースの底に隠しておいたブランデーのヒップフラスクを一口あおってから目をつぶった。
 朝までには戸隠の手の者が来て、西野のフォローもしてくれるだろう。
 が、再び眠りに落ちる前に凄まじい轟音を聞いて薄目を開けると、すぐそばの道路を巨大なダンゴムシのようなものが猛スピードで転がっていくのが見えた。
「ああ、もう……寝ようって時にワニュウドウかよ……」
 寝袋を跳ね除けると、喉の奥に指を突っ込んでアルコールを吐き捨ててから一陣にまたがった。
「ついてねぇ!」
 心底鬱陶しそうな史弥とは対照的に、ようやく全力で走れる喜びにドゥカティは歓喜の咆哮を轟かせた。
197鬼島〜未来の風鬼:2007/11/30(金) 00:11:20 ID:eGHFft4f0
設定

藤咲史弥(ふじさき・ふみや)
鬼島に所属するとで、太鼓の戦士。属性は風。音撃棒・下弦と音撃鼓・朧を使用し、必殺音撃は『音撃打・鳳翼天翔』。鬼の姿は蛮鬼に酷似。20歳。
単独出動するとそのままあちこちうろつくという悪癖あり。口が軽い。女好きだが、本当に好きな女性はまだおらず、ゆえに口説く女性に深く関わることはない。ただし女性をぞんざいに扱うのではなく、別れたあともそれをいい思い出にできるような付き合いをしている。
十獅子は史弥に風鬼の名を与える予定。

鬼棒術・風神結界
音撃棒から三尺ほどの刃を出すとともに、風の気を纏わせて音撃棒と刃を不可視にする術。モデルはわかる人はすぐわかる、風王結界。

鬼棒術・風神鉄槌
風の気を利用して遠隔打撃を与える術。風神結界を開放することで発動されるため、まさに一撃必中。風王結界ときたら風王鉄槌でしょう。

イヌガミ
犬神。寄生型魔化魍で、普通の魔化魍のように自然発生はせず、人の手によって作り出される。
生きた犬の首から下を地に埋め、決して口の届かない目と鼻の先に餌を置いて飢餓感をあおり、餓死の直前に首を切り落とす。そして首だけになりながらも餌に食らいついた犬を丁重に祀ることで作り出される。
憎悪などよりも極度の飢餓感によってのみ動いており、祀られている限り犬神憑きに従う。
祀られることがなくなったイヌガミは暴走して発見され、鬼などに退治されるか、逆に犬神憑きにより深く寄生して生命力を少しずつ吸い取って共生する。後者の場合はいつ目覚めるかわからず、長い年月を経ているために強力になっているので危険である。
犬神憑きの中には齢三百を経、自我を持ったイヌガミを従えて裏の仕事をする武村恭一朗という三十代独身の犬大好き純情ロン毛ピアス男もいるとか。そういった完全にイヌガミを使役できる者のことを特に犬神使いと呼ぶ。
198名無しより愛をこめて:2007/11/30(金) 00:25:22 ID:qHkP1e8P0
>鬼島作者様
投下乙です。
リアルで読みました。
「と」なんだけどみんな強いですね。
卒業間近なのか、何時独り立ちしてもいいくらいだしキャラクターも立っていて、僕は好きですね。
次回楽しみにしています。

>響鬼外伝作者様
投下乙です。
他の職人の方が投下中の際は、少し投下を待っていただけると助かります。
途中噛み込むと混乱する可能性もありますので・・・。
199名無しより愛をこめて:2007/11/30(金) 01:59:30 ID:gbr5g8ui0
『ドラマ』っていう目薬を酒に混ぜておくと酔い潰しやすいって昔聞いたな
200響鬼外伝:2007/12/01(土) 08:23:17 ID:GbEW7XlW0
投下して宜しいでしょうか?
201名無しより愛をこめて:2007/12/01(土) 09:08:19 ID:+2pBIAq70
>200
よいですよ
202響鬼外伝:2007/12/01(土) 11:32:43 ID:4SyKH9970
* >>192の続き
激しい怒りに吼え音撃声刃を振るう響鬼。それを見つめながら痩身の男は薄い唇に満面な笑みを浮べた。
我々が魔化魍を操り不要な人間共を掃除してきた事が必要である様に、それに抗う物も必要である。
そういう意味では、鬼も我々も目的は同じだと言える。
鬼という物は、魔化魍という部品が暴走しないようにあるブレーキのような物だと思う。
”美しい・・・・・”
怒りで阿修羅と化した響鬼を見ながら瞳を輝かせる・・・・。
               ***
完全に魔化魍の群を殲滅した響鬼・轟鬼・京介は意識の無い戦鬼を猛士の病院である土浦産婦人科に預けた。
外・内の怪我は産婦人科とは別だが、元々はここの院長は産婦人科を始める前は世界の紛争地で医療活動をしていた
男だから、内外の怪我や病気の治療や手術の心得はある。
「俺のせいだ・・・・・。」
響鬼は吐き出すように呻いた。自分が、もっとしっかりしていれば遅れを取る様な事はなかったし当然、戦鬼がこんな目に合わなくて済んだ。
向こうで看護婦と緊急隊員達が何事か話している。山奥で全裸の意識の無い少女と3人の男達を運んで来た言い訳をしているのだが、それは
響鬼には聞こえていない。
<続く>
203響鬼外伝:2007/12/01(土) 22:09:20 ID:cdARTG8M0
* >>202の続き
手術室の長椅子に力無く座る響鬼を、立ち尽くしたまま声を掛けられない轟鬼と京介。
「響鬼!!」
怒りに満ちた声が、静寂に満ちた病院の廊下に響く。「ビクッ」とした轟鬼と京介は声のする方を見ると
眼鏡を掛けた30後半の男が肩を怒らせ近づいてくる。
「伝鬼さん!!」
伝鬼・・・・戦死したザンキと同期の鬼で弦の使い手である。
轟鬼の声や存在を無視して響鬼に近づくと、いきなり両襟を掴み立たせると殴る。
「てめーッ!!また殺すきか!?エーッ!!また仲間を殺す気かよッ!!」
力無く床に崩れ落ちる響鬼の顔面に伝鬼の靴の爪先が炸裂する。
轟鬼と京介が必死に止めるが、さらに踵を何度も響鬼の顔に打ち下ろす。
<続く>
204名無しより愛をこめて:2007/12/06(木) 15:07:24 ID:qvG+FMaFO
そういえば、裁鬼SS作者さんの投下が止まってから結構経つね。
引退しちゃったのかな?
続きが気になってしょうがないんだが…
205名無しより愛をこめて:2007/12/06(木) 21:30:52 ID:i8MKYbbM0
ん?
なんかどこかで見たようなストーリーだな
206名無しより愛をこめて:2007/12/07(金) 01:09:48 ID:DpvKo/ED0
瞬過終闘・・・再開キボンヌ
207名無しより愛をこめて:2007/12/07(金) 10:11:45 ID:4FD7tTjl0
<<204
散々途中退場した職人をボロクソにいったんだから、途中退場はないでしょ。
208名無しより愛をこめて:2007/12/07(金) 19:54:29 ID:hwNHDm9eO
そう願いたいものだけどネ。
投下マダ?
209皇城の〜の中の人 皇城の鬼:2007/12/07(金) 21:08:09 ID:9Xggb8zz0
これより投下いたします。
以前投下させていただいた分の、改稿・加筆バージョンであることをご了承、お許しを賜りたく存じます。
 師弟の鬼は、恐怖で硬直した母子(おやこ)を守るように並び立ち、ショウケラと対峙
する。
 右前方に二、正面に三、左に一。幼児ほど大きさの巨大な爬虫類の姿をしている。体に
比べてアンバランスに頭が大きい。ヒトだか爬虫類だか、どっちつかずの狂った設計の頭
部で、瞳の無い、銀白色の目玉がらんらんと輝いている。
 正面奥に女。
 志郎、分析。とほとんど抑揚のない口調で飛沫鬼が低く短く。鱗が生えそろっていない
ことと体長から幼体と判断。分裂・増殖能力は未発達と推測。ショウケラの姫、変化前、
データより手負いと断定。

「ポンコツの姫に止めをくれてやりな」

 塩辛声が静かに檄を飛ばした。言われて弟子は、撥を素早く胸の前に突き出し、交差さ
せ、「セイヤッ」の気合とともに振りぬくと、碧に輝く水塊が生じ、姫めがけて射ち出さ
れた。
 
 母(かか)っ

 養育固体を攻撃され、ショウケラたちがどよめきたつ。
 深海の重さを纏った水塊は、激しく回転をしながら姫の胸部にめり込み、十米ほど後方の
道路まで吹き飛ばした。皮膚を浅黒く変色・硬化させた姫が、焼けたアスファルトの上をの
たうつ。すんでのところで防御姿勢に入っていたようであった。指示どおり止めにはいたら
なかったが、いくばくかの時間は稼げよう。
 必中の間合いを確信している史郎は、既に視線をショウケラのほうへと向けている。
 腰を落とし、撥を構え、呟いた。
「来い」

 ざわめき。

 諸共に喰ろうてやる!
 名を持たぬ鬼をめがけ跳ぶ、六条の唸り。
 音に等しき速度──のはずであった。

 凝!

 異形どもが地を蹴った瞬間、二体の鳥型が一斉に哭いた。体内に組み込まれた機構が波動を
生み出し、清音として照射したのだ。完全に出鼻をくじいた。本来得るべき加速を持たぬ今、
それは恰好の的でしかない。
 鋼の巨躯が静かに、されど迅雷の如く。
 碧の鋼玉が空を裂き、唸り。
 陽光の下、金属光が軌跡を描き。
 衝撃・落下・激突。
 瞬きの時間。
 質量と衝撃により生じた大地の窪に、六体の魔化魍は折り重なり、臥していた。
 なんという反応速度・なんという膂力(りょりょく)。
 逃れねば。
 逃さぬ。
 展開する碧(あお)き縁取りの鬼三つ巴。飛沫鬼が音撃鼓・渦淵鼓(かえんつづみ)の力が、
異形共を地に縫い止める。
 
「音撃打・乱打大瀑布の型!」
  
 高らかに。
 三尺ばかりに展開した鼓を差し挟み、師弟が点対照に、動いた。

 ずんずずん ずずんずずん ずずんずん
 ずんずずん ずずんずずん ずずんずん 

 海鳴りがごとき鼓動。
 鼓動が重なり、大地を揺るがし大気を震わせる。


 ずずずずずん ずずずずずん ずんずんずんずんずん

 師は垂直に掲げた、弟子は頭上で交差させた両の撥を振り下ろす。

 ずん!
 
 飛沫鬼の音激棒・汐波(セキハ)が、史郎の音激棒・時化波(シケナミ)が、地の底まで撃
ちぬかんばかりの衝撃を音激鼓へと叩きこんだ。
 爆散。

 六体は折り重なったまま飛沫と変わった。

「姫は逃がしたかい」

 撥で肩を軽く叩きながらのんびりと、それでいて、油断の無い声が問うた。落とした腰を戻
す所作に呼応するかのごとく、藤色の鳥型が一つ鳴き声を引いてビルを縫うように翔び、その
まま景色に溶けた。「そのようです。スンマセン」
「人命優先だ。仕方ねぇな」

 眺めながら交わし、眩い光を纏わせながら振り向いた二人の頭部は、人のそれへと戻ってい
た。へたりこんでいる遥に目線を合わせるように、大きな背を精一杯折り曲げてシブキが顔を
覗きこんだ。
「大丈夫か、おかあさん。怪我はねえか?お嬢ちゃんも大丈夫かい?恐かったなぁ」

 遥は放心状態のまま、ただかくかくと首を縦に振り、答える。
 史郎の心臓が大きく一つ飛び跳ねた。
 似ている?いやまさか?
 気づかれたかな…?
 誰に?どちらに?
 はた、と細い両腕が地に落ち、胸に硬く抱かれていた幼子は不意に戒めを解かれた。恐るお
そる振り向いた先には大入道が優しげに微笑んでいる。眼が合った。かなたの丸い顔がくしゃっ
となり、

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 ダムが決壊した。

「ええーーっっ!泣くところか?おい?!」そこはにっこり笑ってありがとうじゃないのか。

 文字通り黒光りするぶっとい腕をばたばたと打ち振って、シブキがなんだかよく分からない
動きを始めた。あやしているつもりなのだろうか?それとも慌てているのか?史郎は判断に窮
する。今度はシブキの顔が今にも決壊しそうであった。百戦錬磨の屈強の鬼も泣く子には形無
しであった。
 娘の泣き声で我に返った遥が再び優しく抱きしめ、なだめようと頑張っているが、決壊は止
まらない。
 奇妙な動きを保ったまま、シブキが史郎を見上げた。もう駄目だ。何とかしてくれ。目がそ
う訴えていた。どう見てもタコ踊りなんだけどなぁ。これはコレで面白いから続けていればそ
のうち笑ってくれるんじゃないか。史郎は思ったが勿論口には出さず、

「親方。両手で顔を隠してください。そいで、息止めて。きばって。」
「お、おう」と訳も分からぬまま従った。んんーっと気張るシブキの頭部が、すぐにてっぺん
まで真っ赤に染まる。

 史郎もまた、シブキと同じように背を丸めしゃがみこみ、母子(おやこ)と目線を同じくし
ようと努める。優しげに微笑む青年と顔を隠した大入道を交互に見やりながら、かなたは大き
な口を開けて泣き続けている。

「ほらほらお嬢ちゃん、みてごらん。なにがでるかな、なにがでるかな?」

 警戒を解かない遥をも気遣ってか、おどけた口調で。真っ赤な頭頂をぴしゃりとやると、
「ほーら、ユデダコさんだ」

 シブキが顔を覆っていた掌を開いた。頬の脇でうねうねと指をくねらせ、目を寄せて唇を突
き出して見せると、ご丁寧に「ちゅー」とまでいった。

「おかしいねー。タコは八本足なのにこれは十本もあるねー。しょうがない親父だねげふあ」

 鼻っ柱に巨大な拳がめり込み、続く言葉を遮った。シブキの顔はついさっきとは別の理由で
真っ赤に染まっている。母子が、同時に吹きだした。

「よう、やっと笑ってくれた」

 泣いているのか笑っているのか分からない顔。

「親方、痛いス」

 顔面を覆いながらもがもがと史郎が不満を漏らすが、

「当たり前ぇだ、馬鹿野郎。師匠をダシにしやがって」
「納得いかないなあ。助け舟を欲しがったのは親方じゃないスか」
「やり方を考えろってんだよ!」
「あの……」
 漫才のような会話に恐るおそる遥が割り込んだ。二人から伝わる気遣いと優しげな態度でい
くらか警戒は解けたのであろうが、奇怪な姿の大男達の会話に介入することは勇気がいる行為
であった。母としての部分か、はたまた生まれ持っての性質なのか。それでも通す筋は通して
おかねば。そういう気丈さが伺えた。

「恐い思いさせてすまんかったな。
 儂らは国から雇われた『害獣駆除業者』だ。納得いかんかもしれんが、そういうことにして
おいてくれると儂らは助かる。でもって出来る限りすぐに忘れることだな。これはお前さん達
のためだ」

 ──頼むよ。
 遥は何か言い掛けたが、切なげに訴える瞳を見て、ただ頷いた。

「助けていただいて有難うございました」
「気にすんな。これが儂らの仕事さね。さてと。この公園内に居る限り暫くは安全なはずだ。
 儂らの仲間にも今のは聞こえているはずだ。誰かこっちへ向かっているだろうぜ」
「いやぁ、ある意味そっちの方が危険かもしれませんよ」と、コンビニの向こうの道を眺
めながら、史郎が苦笑した。「違えねえ」かなたに禿げ頭をパシパシと叩かれながら、シ
ブキもそれに習った。

 視線の先を追って見れば髭面の優男が駆けてくるのが見えた。何が嬉しいのか、満面の笑み
を浮かべている。ヒラメキがああいいう顔をする時は、大概頭の中には一つのことしかないこ
とをシブキたちは知っていた。

「だらしなさそうに見えて、あれで結構頼れる人なんで。じゃ、俺達は行きます」
「あの!」

 何故だかいたたまれなくなり、逃げるように背を向けた史郎の背に向かって、遥が深々と頭を
下げた。

「また助けていただいて…有難うございました」
216皇城の〜の中の人 皇城の鬼:2007/12/07(金) 21:23:38 ID:9Xggb8zz0
というわけで、拾壱、前編パートをお送りいたします。
年初めには完結できるよう、努力いたしますので、今しばらくお付き合いください。
217名無しより愛をこめて:2007/12/07(金) 21:57:47 ID:DpvKo/ED0
>皇城の〜作者様

投下乙です。
次の投下をお待ちしてます。
218名無しより愛をこめて:2007/12/12(水) 20:11:40 ID:99JsQ+sJ0
これは・・・5年前 大手町で助けたOLが母親になって再登場ってこと?
219DA年中行事 ◆E0pZYGOruA :2007/12/14(金) 00:22:17 ID:n5MGVatr0
かっきり一年ぶりに、後編投下します。
前編は、http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/oni/9/ss_9-181.htmlより

それでは、少しお時間を頂戴して。
220番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:25:11 ID:n5MGVatr0
身体の芯に、溶ける事の無い氷を抱えたまま、朱色の鬼は夕日に染まるかつての我が家を見つめ続ける。
夢でも幻でもかまわない。今すぐあの家に帰りたい。
でも、朱色の鬼は知っている。あの家が、あそこに暮していた愛しい人々が、辿る運命を。
やがて、影を長く伸ばし、彼らが帰って来る。
『くたびれたねぇ』
『なんの、お前が何ほど働いた』
『お母(が)さにはかなわねの』
『なんの、お前の口にはかなわねわ』
姦しく、逞しい女たち。並みの男以上に働き、村人から尊敬を集めていた母親と二人の娘。
日焼けした顔をまっすぐに上げ、夜の明ける前から野良に出ていた彼女たちは、揃って人の良い笑顔を浮かべて帰って来る。
大柄な身体をいつも揺するように笑っていたあね娘は、子を為さなかったという理由で離縁されたが、元の婚家の悪口は一言も言わなかった。
丸顔にまだ幼さの残るいもうと娘は、正月前に隣の村に嫁に出る事になっていた。
そんな二人を優しく包み込む母親は、夫を亡くしてからずっと、働き詰めに働いて、それでも長男を町の学校にまで上げてやった。
お母(が)さま、姉さまたち・・・・
零れ落ちる涙を止める術を持たない鬼の耳を、調子外れな幼い歌声と優しい笑い声がくすぐる。
『もういい、もういい、あとでお母(が)に、ちゃんと唄さ教えてもらえ』
三人の女たちから少し遅れ、長い影が左右に大きく揺れながらやって来る。見慣れた、その歩き癖。
わたしに笑い方を教えてくれた男。わたしに居場所を与えてくれた男。わたしに家族を授けてくれた男。
かつて、わたしの夫であった男。
221番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:26:51 ID:n5MGVatr0
『おがちゃ、どこ?』
朱色の鬼の、息が止まる。
小さな手、赤い頬、父親譲りの愛嬌のある丸顔。
あの子をもう一度、この手で抱きしめる事ができるのなら、どんな地獄にでも喜んで堕ちよう。
抱き上げてその重さを喜び、熱いほどの体温を感じ、まだ乳臭いその体臭を胸一杯に吸い込む事が、できるのなら・・・・・
あの日―――――。
一人で山になど入らねば良かった。皆と一緒に野良に出ていれば、皆と一緒にこの夕日を浴びながら帰って来ていたら、いや、あともう少し早く戻ってきていれば。
あの日の山は、いつになく赤く、美しく、落葉の下に拾いきれぬほどの恵みを敷き詰め、貧しい女を捕らえたまま、離そうとしなかった。
背負った籠をいっぱいにし、ようやく家路についた彼女の耳に届いたのは、断末魔の叫び声と、命乞いすら許されなかった喘ぎ声。
そして、無力な餌を目の前にし、歓喜に咽ぶ、魔物の咆哮。

「幼い我が子を魔物に喰われ、そなたは鬼に成り果てたか」

それ以外に、どんな道がある。どんな道が、残されている。
なす術もなく目の前で家族全員を貪り食われたその時に、自分の魂も一緒に絡め獲られ、咀嚼され、嚥下された。

鬼に成り果てたのではない。自ら進んで鬼に成ったのだ。

その思いと裏腹に、額の鬼面が慟哭する。憤怒の形相を浮かべ、両の眼(まなこ)から、真っ赤な血の色の涙が迸り出る。
鬼を哂っていた女の声が、泣き声に変わる。すすり泣き、苦しげに息を継ぎ、それでも抑えきれず、声を漏らす。

「妾は鬼として祀り上げられた・・・・鬼になど、成りとうは無かった・・・・・頑是無いただの女であったのに・・・・・」
222番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:28:23 ID:n5MGVatr0

図書室の時計は静かに、しかし正確に時を刻んでいる。
物言わぬ膨大な書物たちは、沈黙を守ったまま、偶然が巡りあわせた不釣合いな男女のお喋りを聞いていた。
「鬼女、ですか?」
尾賀は初老の男の顔を見る。眉間に深く刻まれた皺は、魔除けの文様のようだ。
「ええ。大変な美人だったそうですよ。産まれたのは今から千年ほど昔と言いますから、平安の末期でしょうね」
男は不機嫌極まりない、といった顔で鬼女紅葉の話を語り始めた。
「子宝に恵まれない貧しい夫婦が第六天に祈りを捧げ、その末に女の子を授かりました。呉葉と名付けられた娘は大層美しく、身分の高い男の目に留まり、二人は恋に落ちました」
「そして二人は末永く幸せに?シンデレラみたいですね」
「おとぎ話なら、ね」男はじろりと尾賀を睨む。いや、睨んだ訳ではないのかもしれないが、元々の顔が、怖い。「でも、御伽噺より、ちょっと生々しい話なんですよ」
呉葉は、紅葉と名を変えた。その名の通り、瑞々しい青葉のようだった少女は、息を飲むほど美しく艶やかな女に成長していた。
「ご存知の通り、その当時の貴族は自由恋愛、というか多重婚が当たり前だったのです。紅葉の愛人も、正妻がいました」
「紅葉は第二夫人でしたか・・・・・」
「いえ、彼女の両親は貴族や権力者では無かったので、妻としての勘定に入っていたかどうか。まぁ、局(つぼね)の地位は得たようですが」
「金持ちオヤジが若くてキレイな女の子と遊んで、ついでに自分がオーナーをしているマンションに住まわせたってところですか」
尾賀がそう言うと、不機嫌そうだった男の顔が一層険しくなった。
「例えが下品です」今度は気のせいでは無く、本当に睨まれている。「でも、だいたいそう考えて差し支えないでしょう」
223番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:31:14 ID:n5MGVatr0
やがて、紅葉は愛人の子を身ごもる。今で言う所の不倫の末の妊娠なのだが、当時は珍しい事でも後ろ暗い事でもなかった。
「紅葉が身ごもった頃、男の正妻が原因不明の病の床に就いたのです」
検査も抗生物質も無い平安の昔の事である。些細な事で、人は命を失う。生薬と療養で治癒できなければ、後は神仏に縋る他は無い。
「叡山の高僧が加持祈祷の末、紅葉の呪いが御台所様の病の原因である、と讒言しました」
愛人は、この言葉を信じた。紅葉との蜜月は、ここで終わりを告げる。
「彼は身重の紅葉を、京の都から遠く離れた信州戸隠に追放しました。紅葉はその時、二十歳そこそこだったそうです」
「なんだか気の毒ですね。男に捨てられるわ、田舎に追放されるわ、しかもまだ若いのに身重で」
「殺されるよりましでしょう。腹の子も紅葉も、命までは取られなかったのですから」
紅葉は、隠されたのだ。人の目に付きいらぬ噂の立ちやすい都から、遠く離れた知り人のいない土地に。『戸隠』という土地の名前が、都から彼女の存在を消す呪になる。
「それが愛人の温情だったのか、それともただの厄介払いだったのか、それはわかりません」何しろ、千年も昔の話です。男はそう付け加えた。
「何故その紅葉が狩られたんですか?京都から長野、それだけ遠くに流されたなら、もう死んだも同然じゃないですか」
「紅葉伝説によると、戸隠に流された後、彼女は、山賊の頭目になったとあるのですよ」
「山賊に?」都から流された美しい女が、山賊の、しかもその頭目になる。転落と言うより転身だ。
「地元の人々は紅葉を、正妻の悋気に触れ放逐された悲劇のヒロインとして、温かく接したようです。紅葉はその地で男の子を産みました」
伝説はその後の紅葉をこう語る。都で味わった栄華を忘れられず、或いは、我が子を父親である愛人に会わせたくて、彼女はもう一度都を目指す。
その資金を調達する為に、彼女が選んだ方法は、近隣の富農からの略奪であった。
「紅葉は妖術で荒くれ者の山賊たちを屈服させ、彼等を使って悪逆の限りを尽くしたそうです。事態を重く見た朝廷は、はるばる信州まで討伐隊を差し向けました」
そして、紅葉とその郎党は、帝の命を受けた討伐隊により、殲滅させられる。紅葉と山賊は討ち取られ、彼女の老いた二親と、僅か十三歳の息子は自刃して果てた。
224番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:32:40 ID:n5MGVatr0

顔を覆うほど肥大した鬼面が血の涙を滴らせ、朱色の鬼の額を焼く。
その耐え難い熱に半ば気を失いかけながら、鬼は自分が再び吹雪の風景の中に置かれた事を感じる。
陽はとうに沈み、あたりは仄暗い闇に包まれる。だが吹き荒れる吹雪のせいで、完全な闇は訪れない。
冷たく凍える鬼の肩を、柔らかな羽毛のようなものが包み込む。
「鬼よ、人ならぬ者よ、全てを喪った者よ」姿を見せない女が囁く。「妾が力を貸そう」
大きな、翼。鬼は振り返ろうとする。だが、額の痛みが、それを許さない。
「あの化け物が憎かろう。そなたから全てを奪い、他にも数多の命を飲み込んだあの化け物を滅したかろう」

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――――――――――

自分の声なのか、語りかけてくる女の声なのか、判然とせぬまま呪詛の言葉は黒く黒く渦を巻き、朱色の鬼の中に溶けていく。
冷たく尖る憎悪に身も心も麻痺していくなか、肩を抱く羽毛だけが温かい。
「我が琴を授けよう。そなたの憎しみを弦に、怒りを鏃(やじり)に。化け物を貫くが良い」
朱色の鬼の、苦痛に喘ぐ吐息が、白く凝る。空を抱くその手の中で、それは竪琴の形を成す。
憎しみを弦に、怒りを鏃(やじり)に。
「見や、鬼よ。あれなるはそなたが仇ぞ」
女の声とともに、地が揺れる。風が震える。朱色の鬼の、肌が粟立つ。
鬼は、立ち上がる。
夢であろうが、現(うつつ)であろうが構わない。
私は、あれを、清めねばならぬのだ。
225番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:33:59 ID:n5MGVatr0
ああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・

この世に存在を許されない魔物の咆哮が、耳を裂く。巨大な頭部に生えた不釣合いなほど長い鋏を振り立て、魔物は猛り狂う。
否、あれは歓喜しているのか?
あの口元を見や。
小さな、手。

「おがちゃ」

あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

景色が紅く染まる。真っ赤に霞む。
今や顔全体を覆うほど肥大した鬼面が、その眼から鮮血を迸らせ、慟哭を続ける。
喉を破るほどの絶叫が、魔物の咆哮に、混じる。

「弾け、朱色の鬼よ。全てを喪った者よ。憎しみを弦に、怒りを鏃(やじり)に」

硬く、冷たい、竪琴を抱き締め、朱色の鬼は、弦に、爪を・・・・立てる。

226番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:36:49 ID:n5MGVatr0
「なりません!」柔らかな温もりが、朱色の鬼の背中を抱く。「弾けば、もう戻っては来られぬのですよ」
あの子を抱き上げ、その重みを喜び、家族と同じ火を囲んだ貧しくとも優しい日々に。
「憎しみを弦に、怒りを鏃(やじり)にその琴を爪弾けば、あなたはただの鬼に成ってしまう」
少年の声。羽毛の温もり。
朱色の鬼は、思わず振り返る。
色の白い、澄んだ瞳の、賢しげな少年の顔は、愛しくて憎くて堪らない、かつての恋人の相貌に良く似ている。
「経若丸・・・・」
女は、恋人の名から一文字とった、息子の名を呼ぶ。
「母(たた)様!」
父親の顔を知らぬまま、この山深い地ですくすくと育った息子は、幼い頃から変わらぬ力強さで母の背を抱く。
「わたしは、母(たた)様さえお健やかであれば、それで良いのです。母(たた)様さえ・・・・」
それ以上は望まない、都になど行かなくても良い、父の顔を見る事無くこの戸隠で生涯を終えろと言われれば、それでも構わない。
なのに。
私は、鬼に成った。
盗み、奪い、殺し、焼き払い、私は手勢を率いて鬼に成った。
どうしても、都に戻りたかった。自分を易々と捨てたあの男を、男の妻を、都の人々を、見返してやりたかった。
だから捕まるわけには行かなかったのだ。なのに。
血の色にも似た赤黒い蔓に絡め取られて、私は急拵えの刑場に引き出された。
頭上に振り上げられた降魔の剣がきらめき、そこに一瞬私の名と同じ紅葉の赤い葉が映るのを、夢の中の出来事のように見ていた。
―――経若丸、母もじきそなたの元に参るゆえその時は・・・・・・・その、時、は、
227番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:39:27 ID:n5MGVatr0

「結局、紅葉はただの母親である事に、満足できなかったのでしょうか」
尾賀は、語り終わってもまだ不機嫌そうな男の顔にも慣れて、質問を挟んだ。
「さぁ、どうなんでしょうかね」千年も昔の話です、と初老の男は繰り返す。「何が紅葉を凶行に走らせたのか、或いは本当に鬼女だったのか、今となってはわかりません」
人の心は、子を産み育む無償の愛と、手段を選ばず欲しいものを手に入れようとする冷酷さを、同時に併せ持つ事ができる。
心身を鍛え上げ、魔化魍を清める鬼に成るのも人。
僅かな金品目的に、またはつまらない嫉妬の為に人を傷つけ殺めて鬼と呼ばれるモノに成るのも、また、人である。
鬼は魔化魍を清める事はできても、魔に傾いた人の心を清める事はできない。
「ああ、もうこんな時間ですよ、尾賀さん」
話しはじめた時と同じ唐突さで、男は立ち上がった。壁にかかった時計を見ると、すでに十時を過ぎている。
「お引き留めしてしまって、申し訳有りません」と、頭を下げたところで、尾賀はふと思う。
私はいつ自分の名前を、彼に教えただろう。
「いや、年寄りは話が長くていけませんね。尾賀さん、まだ調べ物をお続けになりますか」
机に広げた書物の山を改めて見下ろし、尾賀は肩と首がずん、と重くなった。とても今日は続けられそうに無い。
答えの替わりに、ため息が小さく洩れた。
それを聞いて、男の顔に刻まれた皺が、少しだけ緩んだ。微笑んだと見て、差し支えないだろう。尾賀も、笑った。
「そうそう、あなたのお調べになっておいでのオキナツルクサモドキに関連するかどうかわかりませんが」
鬼女紅葉を捕らえた際、彼女の身体を縛めたのは、ただの細引きではなく、その名に鬼と言う字を持つ、鬼蔓草であったという。
「茎太く、頑健にして赤く、故に鬼と呼称さる・・・・」
尾賀は、本草綱目にあった一文を、呪文のように口の中で呟いた。
228番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 00:41:36 ID:n5MGVatr0
古い書物は、求める答えを何でも与えてくれるわけではない。
尾賀は、思い切りよく頁を閉じた。
さて、後はこの書物たちを、彼らがもともと陣取っていた場所に戻さなければならない。手を貸そうかという男の申し出を、尾賀は「また借りる時に場所を忘れてしまうから」と断った。
尾賀の言葉に、初老の男は「そうですか」とだけあっさり言い、帰り支度を始めた。
書物を書架に返しながら、尾賀はコートを着た男の背中に向かって問いかける。
「あのぅ、ところで、何故私の名前を?」
「今年猛士総本部に新しく入った人は、あなたを含めて三人。そのうち二人は男性。女性はあなただけ」
男の表情は、マフラーと帽子に隠れて、もうよく見えない。
「つまりこの図書室で私が初めて会う本部勤務の女性は、尾賀さん、あなただけなんですよ」
男は帽子を軽くあげて尾賀に挨拶を寄越すと、ゆっくりとした足取りで図書室から出て行った。
京極。
そう、尾賀も話にだけ聞いた事がある。図書室には以前、そういう名前の司書、いや、主(ぬし)がいた、と。
恐ろしく博学で、鍛えている様子は微塵も見えないのに、時には鬼でも敵わぬほどの迫力があるという、一人の「金」。
でも、話によれば、彼は既に七十を越えているはずだ。今までここにいた男は、精々で六十の坂を越えたばかりに見えたが。
俗世から隔離されたこの書物の城では、年齢の重ね方も変わってくるのだろうか。
それにしても、あの三千世界の鴉を一羽残らず縊り殺したような、仏頂面!
尾賀は、一人の図書館で、思わず噴き出した。くたびれたキューピー人形に良く似た上司と言い、笑っているのか怒っているのかよくわからない司書と言い。
「かわりもんさかいねんだわ(変わり者しかいないんだわ)」

229DA@携帯です…:2007/12/14(金) 00:54:59 ID:KB+7I2+nO
連投規制に引っ掛かりました…うう、無念orz

そんな訳で、続きはまた明日にでも。
230名無しより愛をこめて:2007/12/14(金) 00:58:32 ID:Uled5h3a0
DA年中行事様

投下乙です。
きっかり1年ぶりの投下とは粋ですね。
明日の続き、お待ちしてます。
231DA年中行事 ◆E0pZYGOruA :2007/12/14(金) 18:35:52 ID:zc/cJhoM0
昨夜の>220からの続きを。

それでは、少しお時間を頂戴して。
232番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 18:37:48 ID:zc/cJhoM0

いつのまにか吹雪はやみ、雲の切れた夜空に星が煌く。黒く尖った木々の影も、夜の闇に溶ける。
薄く積もった雪も、明日までもたずに消えていくだろう。
そう、先刻の幻のように。
雪を塗した泥の上に横たわる朱色の鬼は、未だ冷めない己の顔に触れる。
すっかり顔を覆い尽くした鬼面を確認し、それから顔の変身を解く。
赤い血の涙を滴らせた鬼面の下も、また、涙を流している。
鬼の身体の女と、鬼の心の女。
二つの鬼の怨嗟は交わり、鬼太樂の形を成す。憎しみを弦に、怒りを鏃(やじり)に。
だが。
死人のように冷たく強張った鬼の傍らに、やわらかな色の炎が灯る。
その炎は、大きな鳥の形をしている。
鬼の指先が、ぎこちなく鳥の胸元に触れる。
「お前は、母の元に逝かぬのか」
鳥は、悲しげにかぶりをふる。
「わたしの母が犯した罪業はあまりに深く、再びまみえる事が叶うのは、さらに千年の時がかかりましょう」
少年の声で鳥は呟き、炎の色の翼を広げて冷え切った鬼を優しく抱き締める。
「母の罪を償う為に、わたしの魂はこの世で善行を積まねばなりません」
恐ろしい魔物から人を護る使命を持つ鬼よ、わたしを――――――

「――――――どうかわたしの魂を、あなたのお傍に置いて下さい」
233番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 18:39:39 ID:zc/cJhoM0
朱色の鬼の肩に、炎の色の鳥が、涙を零す。あたたかな蝋(ろう)のように、涙は鬼の硬い肩から滲みて、胸の内まで届く。
黒く膨れ上がった憎悪が、ゆっくりと溶けていく。
胸の奥に、小さな塊を残して。
「わかった」朱色の鬼は、かすれる声で鳥に答える。「好きに、するがいい」
母(たた)様っ!――――――
この身が現世で善行を積みますれば、必ずや再び、御仏のご加護をもって、浄土にてまみえる事も叶いましょう。
その時は、その時こそは、
――――――二人で静かに暮しましょうぞ。
炎の色の大きな鳥は、翼をはばたかせ、暗い夜空に向かって矢のように真っ直ぐに飛び立つ。
はばたきを続ける翼から炎の色が薄れていき、その姿は一羽の大きな鷲になる。
鬼は、鷲の飛んで行く夜空に向けて、朱色の指先で印を結ぶと、虚空に炎の色の文字を綴る。
「この御恩、決して忘れませぬ」
鷲は一声高く鳴くと、鬼が綴った炎の色の文字を纏い、たちまち小さな光の粒となり、やがて、あたりの闇に混じり、見えなくなる。
朱色の鬼は、ただ一人、痛む身体を引きずり起こす。
そして、立ち上がる。
胸の奥に小さく凝る黒い憎悪と、どうしようもなく己が心を苛み続ける寂寥を、支えにして。
234番外 「装う獣」後編:2007/12/14(金) 18:41:53 ID:zc/cJhoM0

図書館での後片付けを終えて、コートを羽織り、首にマフラーを巻きつけるのももどかしく、尾賀は猛士総本部の建物から飛び出る。
職場から自宅として借りたアパートまで、歩いて帰るには少し骨だ。
山の中なら、何時間でも歩ける気がしていたのに。
最寄のバス停から終バスが出るまで、あと少し。尾賀は、白い息を吐きながら道を急いだ。
今でも両親が住む生まれ故郷の雪で湿った冬よりも、乾いた空気の張り詰めた寒さに、すっかり慣れてしまっている。
見上げれば、澄んだ夜空に星が瞬き、その下では葉を散り残した公孫樹が黄色く痩せた姿を晒していた。
今年は、例年より紅葉が遅れていると聞く。
昔、恋人と歩いた山々も、紅く黄色く色づいた木々の葉で、美しく秋の終わりを装っているだろうか。
尾賀は、ふと足を止めた。
開いた扇の形の黄色い葉を一枚拾い上げ、夜空に透かして見る。その尾賀の脇を、乗り込むはずだった終バスが走り過ぎて行った。
「あらら・・・」公孫樹の葉を指先で弄びながら、尾賀はため息をつく。「歩いて帰るか」
たまに、そんな日があってもいいだろう。そんなふうに思いながら再び歩き始めた尾賀の近くで、一台の車が停まった。
「尾賀さん」
助手席の窓が音もなく開き、さっき図書室で別れた男が声をかけてきた。
「丁度家内が迎えに来てくれましてね。よろしかったら、私ら年寄りと夕食は如何ですか。旨い蕎麦屋を知っているのですよ」
私の長話に付き合わせてしまったお詫びです、と男は例によって控えめな笑顔を浮かべる。
「ええ、お邪魔でなければ、喜んで」尾賀も笑う。「京極さん!」
尾賀の為に車を降りて、後部座席のドアを開けながら、京極は少し驚いた顔をしているように見えた。
「いやはや、世に不思議なし、世に不思議あり、ですな」
やがて車は静かに動き出し、道に落ちた公孫樹の黄色い葉を揺らすと、冬の街に消えて行った。


           = 完 =
235DA年中行事 ◆E0pZYGOruA :2007/12/14(金) 18:52:15 ID:zc/cJhoM0
長い(一年もかかっちゃった・・・)話におつきあい下さり、ありがとうございました。

なお、今回の話に出てくる「オキナツルクサ(鬼蔓草)」「オキナツルクサモドキ」は架空の植物であり、
紅葉伝説にも当然出てきません。また、この話の中の紅葉伝説は、あくまで独自の解釈によるもの
ですゴメンナサイ。

236名無しより愛をこめて:2007/12/14(金) 22:29:14 ID:83hsFiE80
もしかしたら「あの人」ではないかと思っていた一年前の冬。
もう1年経つのね、あれから。
237名無しより愛をこめて:2007/12/16(日) 23:36:12 ID:mpbssktx0
DA年中行事様、乙です。
次回投下お待ちしています。

瞬過終闘、まだかなぁ・・・
238名無しより愛をこめて:2007/12/20(木) 20:48:13 ID:50Xhzd01O
ほす
239名無しより愛をこめて:2007/12/24(月) 18:39:50 ID:6NdPcpO50
ttp://mainichi.jp/select/today/news/20071215k0000m040171000c.html

こうして、ひこにゃんは末永く愛されることを目標に、今後も続投することとなった。
そのため、久しぶりに本編にも姿を現したのである。
240用語集サイト:2007/12/25(火) 15:54:32 ID:f0CBDCuwO
>DA年中行事さん
いつもながら見事な作品でした
こりゃ停滞している用語集も少しは進めなくては……!

鬼島のほうは絶賛停滞中です
四人目のがなかなかできず、まとめの話もまだまだ散漫、外伝も思い付いたはいいけど進まず
まあいずれ、ということで

昨日はクリスマスイヴなのにKYK(空気読まざること蜘蛛の如し)で陰陽座のライヴでした
なんだか陽の童子と姫がメタルやってるみたいで楽しかったです
首痛っ!
拙作のテーマ曲にした「火の轍」「癲狂院狂人廓」「鳳翼天翔」も演奏されて、またなにか書きたくなったり
「百々目鬼」や「羅刹」なんかをテーマに
241名無しより愛をこめて:2007/12/30(日) 00:44:23 ID:63satLXRO
保守
242高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/12/30(日) 20:58:17 ID:SLdQ10KC0
前回の告知通りヨーロッパを舞台にした読みきりを一本投下させていただきます。
以前にスレで、ZANKIの中の人がイギリスの組織「RPG」についてちょっとした設定を提示されていましたが、
DMCとの対比のためにあえてそれは採用せず、独自の設定をつけてみました。
まあ、HELLSINGの最新刊が発売になったり、悪魔城ドラキュラXクロニクルが発売になったり、
アニメの鬼太郎が西洋妖怪編をやったり、来年の仮面ライダーがあんなんだったりした影響で書いたようなものです。 
高鬼SSに登場したキャラも少し登場します。それでは、どうぞ。
243仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:01:02 ID:SLdQ10KC0
1970年代初頭、英吉利(イギリス)、倫敦(ロンドン)。
表向きは会員制の秘密クラブ。だが、その本当の顔は英国王室直属の秘密機関、通称RPGの本部だという事は一部の関係者以外誰も知らない。
RPG(Royal Perfect Guardians)とは、闇の住人達=モンスターを狩る事を生業とする者達の組織だ。その母体は十七世紀の秘密結社・薔薇十字団らしいと噂されており、故に魔術や錬金術に長けた者が多く所属している。
彼等は、西欧を拠点とするDMCや日本の猛士といった同種の組織とは異なり、モンスターを狩る際に変身をしたりはしない。あくまで人として戦う事を好しとしており、魔術や錬金術で鍛えた武器、道具を用いて戦う。
その日、RPGの各部隊長に召集がかけられた。
大戦士長・ヴィクター以下、各部隊長が集結する。今回の召集の理由、それは近頃国中を騒がせているヴァンパイアについてであろう事は想像に難くなかった。
「大戦士長、やはり今回の召集は……」
第三部隊々長・ジョナサンがヴィクターに尋ねるも。
「しっ。……本部長だ」
ざわついていた場内が急に静まり返る。いつの間にか彼等の前には、一人の年老いた男性が立っていた。彼の名はパラケルスス。RPGの最高責任者である。
パラケルススとは――。本名ホーエンハイム。ルネサンス時代に活躍した錬金術師であり、火、水、土、空気の四大元素と四精霊の提唱者でもある。四百年以上も過去の人間であり、当然本人ではない……筈である。
というのも、パラケルススは生前ホムンクルス(人工生命体)の開発に成功していただの、賢者の石(永遠の命をもたらす霊薬)を精製していただのという伝説が残っているのだ。つまり。
「諸君等も知っての通り、奴等の行動はとうとう一般人にまで知れ渡ってしまった」
今ここで各部隊長を前に説明を始めた人物が、パラケルスス本人、あるいは錬金術によって生み出された複製人間である可能性は否定出来ないのだ。ちなみに彼に関する情報は全て最重要機密事項とされている。
さて、パラケルススが「奴等」と呼称したのには理由がある。ヴァンパイア達は徒党を組み、「超常吸血同盟」などという巫山戯た名前を名乗って、戦前から全欧羅巴中で暗躍をしていたのである。
このためDMC、RPGは元より、希臘(ギリシャ)のZEUSを始め、北欧やその他地域の組織も時には情報を交換しながら連携してヴァンパイア達と戦い続けている。
244仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:04:21 ID:SLdQ10KC0
「覚えているだろう、ハイゲート墓地での一件を……」
1969年、倫敦で若い女性がヴァンパイアに血を吸われるという事件が発生した。ヴァンパイアはハイゲート墓地内の廃屋に潜んでいたところを司教によって発見され、退治されている。この事件に関しては当時の記録映像が現存している。
秘密裏にこういった事件を闇から闇へと葬り去ってきたRPGにとって、メディアに取り上げられ騒がれるのは失態以外の何ものでもなかった。それは逆に、連中の勢力がRPGにも把握しきれない程拡大している事を意味していたと言える。
「……この度、とうとう超常吸血同盟の英吉利での本拠地が判明した」
パラケルススのこの発言に、再びざわめきが起こる。
「これは第七部隊による地道な調査の結果だ。部隊長、一歩前へ」
そう言われて第七部隊々長のジェームズが照れ笑いをしながら一歩前へと出てきた。各部隊長の間から割れんばかりの拍手が起こる。
彼の報告によると、ウェールズ地方の炭鉱跡に奴等のアジトが造られているそうだ。その後、速やかに殲滅するよう命令が下され、その場は解散となった。
245仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:06:13 ID:SLdQ10KC0
帰路に着く際、ヴィクターがジョナサンの傍に近寄り、申し訳なさそうにこう言った。
「すまない。大事な戦いだと言うのに、君の部隊だけに全てを任せる事になってしまって……」
「いえ、そんな……。そのための第三部隊ですから」
「本当は第四部隊にも出撃してもらいたかったのだが、彼等は今も作戦行動中だ。事実、部隊長のアレンは早々に現場へと引き返している」
本当にすまない、とヴィクターが頭を下げた。
ここでRPGの部隊構成について少し説明しておこう。大戦士長配下の実働部隊は全部で十二ある。これは意図的にアーサー王伝説の円卓の騎士と同じ数に合わせてあるらしい。
それぞれの部隊は専門が異なっており、例えば先の第七部隊は多数の工作員を抱えた諜報活動専門部隊であり、第四部隊はエクソシストも在籍する戦闘部隊となっている。
そしてジョナサンが率いる第三部隊は、対ヴァンパイア専門の部隊なのだ。
「聞けば君の部隊も一人別行動中だそうじゃないか」
「心配はいりません。……まあ、別の意味での不安はありますが」
「……とりあえず出発前には開発部門の教授に挨拶しておくように。何か新しいアイテムの一つでもくれるかもしれん。では、失礼する」
それだけ言うとヴィクターは立ち去っていった。ただ一言「グッドラック」と告げて。
246仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:12:47 ID:SLdQ10KC0
その日、ウェールズ行きの列車には、ジョナサン以下第三部隊の面々が乗り込んでいた。隊長であるジョナサンを含め、その数四人。吸血鬼と戦う事を生業とする、少数精鋭の部隊である。
まずは代々続くヴァンパイアハンターの家系の末裔であるリヒター。青の戦闘服に身を包み、錬金術によって鍛えられた鞭を使って戦う。
次は元冒険家という経歴を持つアラン。嘗て阿弗利加(アフリカ)の地でシャーマンの秘術を身体に施されたと言われており、それが機でRPGに入った。十二ある部隊の構成員の中でも年配の部類に入る人物だ。
そして最後の一人。防弾・防刃仕様のロングコートを纏い、目深に帽子を被った青年。大陸から流れてきたと言う彼は、本名は捨てたとして「D」あるいは「ダンテ」という偽名を名乗っている。
本当は第三部隊にはもう一人、魔術に長けた人物がいるのだが、前述の通り別行動中のため今回の戦いには参加していない。
会話は無い。ある者は武器の手入れを行い、またある者はイメージトレーニングをしている。そんな中、ジョナサンだけが一人車窓から流れ行く景色をぼうっと眺めていた。
と、彼の横にDがやって来た。何か言うでもなく、ジョナサンと同じように窓の外を眺め始める。
暫くそうしていると、ふいにDが話し掛けてきた。
「感傷にでも浸っているとか?」
「まさか……」
247仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:14:16 ID:SLdQ10KC0
笑いながらDが告げる。
「しっかりしてくれよ、隊長。あんたがそんなだと士気に関わる」
「隊長はお前なんかと一緒に作戦行動を取りたくないだけじゃないのか?」
アランの棘のある一言に、Dの表情が険しくなった。
「この際だからはっきり言わせてもらおう。俺だって嫌さ。お前みたいなヴァンピールと一緒に戦うなんてな」
「ヴァンピール」の一言に、Dが怒りを露わにする。
「飽きもせずいつも同じ事言いやがって!あんたの『能力』だって人外のもんだろうが!」
激昂したDが掴み掛かろうとアランの傍へと向かっていく。だが。
「ッ……!」
Dの喉に、リヒターが手にしたナイフの切っ先を向けていたのだ。更にアランも、手入れを終えたばかりのショットガンの銃口をDの眉間に向けている。当然ながら銃爪には指が掛かっていた。
「お前達、止めないか!」
ジョナサンの一声に、渋々Dが座席へと戻っていく。
Dがこの部隊に配属されてから、この手のいざこざは絶えない。そのため、今回のように部隊全員で動く事は殆ど無くなっていた。出発前にヴィクターに話した「別の意味での不安」とはこの事だったのだ。
溜め息を吐くジョナサン。果たしてこのような状態で英吉利からヴァンパイアを駆逐出来るのだろうか。それだけが心配だった。
248仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:16:18 ID:SLdQ10KC0
ジョナサンの心配は杞憂に終わった。どんなにチームワークが悪くても流石はプロ。作戦は恙無く遂行された。いくら奇襲を仕掛けたからだとは言え、あまりの呆気無さに拍子抜けしたぐらいである。
「うっしゃああああっ」
ジョナサンの放った強烈な拳の一撃が、指揮官クラスのヴァンパイアの腹を貫いた。異形の姿に変わる間もなく、朽ちていくヴァンパイア。
「おのれ……アルカード様さえおられたら貴様ら如き……」
完全に灰化する直前、ヴァンパイアは苦々しげにそう呟いた。
アルカード。超常吸血同盟を支配する三人の上級吸血鬼の一人であり、英吉利方面の最高指揮官だった男だ。だが、第二次世界大戦末期にRPGの部隊と戦った後、消息不明となっている。
全てのヴァンパイアを退治し終えた事を確認すると、そのままアジト内の探索が始められた。超常吸血同盟に関する有益な情報を得るためだ。
それは比較的簡単に見つかった。しかも予想を遥かに上回る情報だったのである。
「これは……」
紛れも無く、超常吸血同盟の本拠地を記した書類であった。
249仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:20:27 ID:SLdQ10KC0
この事はすぐさま大戦士長に報告された。その結果、第三部隊は敵の本拠地がある大陸へと渡る事になったのである。また、その関係でDMCとも行動を共にする事となった。
この命令に対し、アランとリヒターは共に嫌悪感を露わにした。
「DMCのワーウルフどもと共闘?あんな人間をやめた連中と一緒に戦えるものかね」
「しかし彼等はヴァチカンの……」
「教皇が認めたと?どうせ教皇も内心嫌悪感を抱いているに決まっている」
聞く耳持たずといった感じのアランに、ジョナサンもほとほと困り果ててしまった。
「それに、ヴァンパイアとワーウルフの根は同じ。裏で超常吸血同盟と繋がっていないとも言い切れません」
そう。リヒターの言う通り、吸血鬼と狼男は研究者の間では同一視されている事が多い。
「……人を信じられなくなったら終わりだぞ」
「お言葉ですが隊長、人ならば信じますよ。しかし……」
と、激しい音が響き渡った。全員話を止め、音のした方へと振り向く。
Dだ。椅子に腰掛けていた彼が、目の前のテーブルに脚を思いきり投げ出した音だったのだ。
結局、話はこれで終わった。もう一人のメンバーはまだ戻っていない。不安要素を抱えたまま、一向は大陸へと渡っていったのであった。
250仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:25:25 ID:SLdQ10KC0
DMCとRPGの対立の根は深い。そこには、些か宗教的な問題も含まれている。
DMCはヴァチカンの、つまりローマ教皇庁の配下にある。対するRPGは英国王室直属の秘密機関だ。ヴァチカンはカトリック=旧教の総本山であり、英吉利の国教はプロテスタント=新教に分類されている。この両者は兎に角――仲が悪い。
しかもDMCが世界統一部隊発足のためと称して、各地に人員を派遣しているという情報が入ってからは、カトリックによる侵略だとますます反DMCの気運が高まってきているのだ。
加えて、DMCは毒には毒をもって制する方法、つまりワーウルフによるモンスター退治を行っている。そこのところが、あくまでも「人である事」を重視するRPG側にとっては面白くないでいた。
そういう訳で、RPGにおいてはアランやリヒターのような考え方がマジョリティであり、ジョナサンのような考え方はマイノリティなのだ。
さて、大陸へと渡った第三部隊の面々は、同じく超常吸血同盟を追っていたDMC西独逸支部の面々と合流する事となった。船で仏蘭西に渡り、巴里から列車でミュンヘンへと向かう。わざわざ飛行機を使わないで海路や陸路から向かうのは、武器の輸送がやり易いという理由からだ。
「いやあ、しかしオリエント急行の一等客席とは豪勢だな。007の映画を見て以来、一度乗ってみたかったんだ」
「そりゃあ王室直属の組織だからな」
嬉しそうにはしゃぐDに、ジョナサンが事も無げに告げる。
ミュンヘンで向こうの人間と合流してからは、その案内で敵本拠地へと乗り込む手筈となっている。
そして。
ミュンヘン駅では一人の女性が待っていた。ビスクドールのようにきめ細かい真っ白な肌をした、端正な顔立ちのブロンド美女だ。
「ヴィルコメン(ようこそ)ミュンヘンへ。私はエリス・ワイゲルト。DMC西独逸支部のクイーンです」
美女は、にこりともせずそう告げたのだった。
251仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:27:55 ID:SLdQ10KC0
一行は数台の車に分乗して、超常吸血同盟の本拠地へと向かっていった。目指すは瑞西(スイス)との国境に近いバーデン=ヴュルテンベルク州シュヴァルツヴァルト(黒い森)。
「まさか奴等の本拠地が我が国にあるとは思いませんでした……」
車を運転しながら、エリスが未だ信じられないといった口調で言う。
「我々の調査力不足です……」
「気にしなさんな。誰だってヴァンパイアの住処は東欧にあると思うさ」
後部座席のDが相変わらず軽い口調でそう言った。
ヴァンパイアの発祥地は東欧だ。事実、東欧にはストリゴイイ、クドラクといった多種多様なヴァンパイアが存在する。そこではクルースニクと呼ばれるヴァンパイアハンター達が組織を作り、日夜これらと戦っているとジョナサンは聞いていた。
「……君もワーウルフなのか?」
同じく後部座席に座るジョナサンがエリスに尋ねた。
「いいえ、私はヴェアヴォルフ(狼)ではありません。クイーンという役職は彼等の『頭』を指します。戦うのは私の隣に座っている彼です」
助手席には、サングラスを着用した大男が座っていた。じっと前方を見据えており、今まで一言も口をきいていない。
「彼の名前はシュトルフ。うちのエースの一人です。今は眠っていますが、実力は確かですよ」
「あ、眠っていたのか……」
気付かなかった。眠っているというのに、全く隙が無かったのだ。このシュトルフという狼、ただ者ではない。
「もう一台の方にも二名の狼が乗っています」
「という事は実際に戦うのは七名か……」
七人。ヴァンパイアの巣窟に乗り込むのには多いのか少ないのか、何とも言えない微妙な人数だ。だが、DMCの狼は力ある音を使ってモンスターを消滅させる術を持つと聞く。RPGには無い技術だ。
(まあお手並み拝見といくか……)
その後、車中は沈黙に包まれた。
252仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:33:55 ID:SLdQ10KC0
霧に包まれた黒い森の一角に、その古城は聳えていた。いつからそこに建っているのかは分からない。まるで、この森が生まれた当初からそこに在り続けていたかのようだ。
城内のとある一室に、一組の男女が居た。円卓を囲み、何やら話し合っている。卓の周りには三脚の椅子が置かれているが、そのうちの一脚は長い間埃を被ったままだ。
黒髪に透き通るような白い肌の美女――ミラーカと、禿頭に鷲鼻、充血した大きな目を持つ中年男性――オルロック。超常吸血同盟を支配する、三人の上級吸血鬼のうちの二人だ。
彼等の話の内容は、ここに乗り込んでくる敵との戦いについてだった。RPGとDMCの部隊が攻めてくるという情報は筒抜けだったのだ。彼等は、あえて自分達のテリトリーであるこの森の中に誘い込み、返り討ちにする気でいるのだ。
「しかし、そのRPGという連中は……強いのか?」
オルロックが、人を不快にさせるぐらい甲高い声でミラーカに尋ねた。彼は主に東欧方面を担当しているため、RPGについてはよく知らないでいた。
「当然でしょう。あのアルカード卿を退けたのだから……」
二十数年前、アルカードは英吉利での戦いに敗れ、そのまま超常吸血同盟へと帰還する事もなく行方を眩ましたままだ。
253仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:36:43 ID:SLdQ10KC0
「亜細亜へ渡ったのかもしれないわね。彼、前々から行きたがっていたから……」
アルカードがどれだけの手傷を負わされたのかは分からない。だがあの男の事だ。傷を癒し、更に亜細亜の何処かの小国を手土産に帰ってくる、そんな気がしてならない。
「連絡も無しにか?……ふん、それならここにある蒐集品も一緒に持っていってもらいたかったわ!」
そう言ってオルロックは、室内に所狭しと飾られた物をぐるりと見渡した。
剥製である。全てアルカードに血を吸われた犠牲者たちの亡骸を加工したものだ。アルカードの趣味なのだ。
「大体、アルカード卿はどうせ本気ではなかったのだろう?我々の闇の姿を『醜い』と貶し、自らも変わろうとはしなかった。変身さえしていれば、英吉利から追われる事も無かったろうに……」
そう。アルカードはヴァンパイアの血族の中でも異端児だった。実力は三幹部の中では最強、しかしどのような相手を前にしても絶対に本気を出さない。楽しんでいるのだ、闘争を、自分自身の能力を……。
いずれその性格が災いする時が来るだろう、そうミラーカは常々思っていた。
ふいにオルロックが立ち上がった。そして部屋を出て行こうとする。
「何処へ行くのかしら?」
「そろそろパーティーの準備をしておかないとな、来賓に失礼だ」
下卑な笑みを浮かべながら、オルロックはそう答えたのだった。
254仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:40:32 ID:SLdQ10KC0
車を降り、エリス以下戦闘部隊が森の奥へと分け入っていく。DMCの残りの者は森の入り口で待機している。
ふいに霧が出てきた。何も見えない中、前を行く者のシルエットだけを頼りに歩みを進めていく。
「この霧はおそらく……結界ね。夜の眷属達にとって都合の良い場所、永遠の闇に閉ざされた世界……」
表情こそ窺えないものの、明らかにエリスは緊張している。もう既に敵の本拠地の中なのだ。死と隣り合わせの世界に居るのだ。況してや相手はただのモンスターではない。知恵と力を兼ね備えたヴァンパイアの群れなのだ。
と、一行の目の前に大きなシルエットが浮かび上がった。古城だ。
「ここが、連中の……」
「隊長、来るぞ」
Dが背負っていた大型のケースを下ろし、中から愛用のバスタードソードを取り出した。片手でも両手でも扱え、斬る・刺すどちらにも長けた剣である。そんな中途半端さを気に入ってDは愛用している。
リヒターは鞭を、アランはショットガンを構えた。ジョナサンもブラスナックルを両の拳に嵌める。DMCの者達の間にも何か動きがあったようだ。ひょっとしたらもう狼に変わったのかもしれない。
現れたのはヴァンパイアではなかった。湿った大地から、夥しい数の醜悪な怪物達が現れたのである。
「グールか」
グール(食屍鬼)。墓を荒らし、人の死体を食らう怪物達である。近年、ジョージ・A・ロメロの映画の影響で、若い狼達の間では「ゾンビ」と呼ぶ者も増えてきているとか。
身の毛もよだつような唸り声を上げながら、緩慢な動きでグールの群れが迫ってきた。と、ジョナサン達第三部隊の面々の頭上を飛び越えて、三つの影が大地に降り立った。
DMCの狼達だ。エリスが命令を出すも、ジョナサンには早口の独逸語を聞き取る事が出来なかった。
狼達が三方向に展開する。ジョナサン達の前を走る狼の手には、特徴的な形状の銃が握られていた。管楽器型のマシンガンと言うべきか、マシンガン型の管楽器と言うべきか。
255仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:44:37 ID:SLdQ10KC0
「おのれらッ食屍鬼ども!このシュトルフとDMCの狼が相手だ!」
銃を乱射しながら狼が叫んだ。どうやらジョナサン達と同じ車に乗っていたあのシュトルフの変わった姿らしい。
「喰らえグール!一分間に600発のパワーストーンを発射可能!30ミリの鉄板を貫通出来る汎用機関銃だ!」
言うが早いか、シュトルフによって撃ち出されたパワーストーン(日本の猛士で言うところの鬼石)が、前方に群がるグールどもの全身を細切れにしていく。
乱射を続けるシュトルフの左右から、数体のグールが襲い掛かってきた。
「死角を突くとは、なかなか知恵の回るグールもいたものだ。だがしかぁし!」
カチリという音がしたかと思うと、グール達の体が足元からの激しい爆発に包まれた。
「ヴァカ者がァァァァ!我がDMC西独逸の科学力は世界一イイイイ!対人型モンスター用のトラップよォォォォ!」
いつの間に仕掛けたのかは不明だが、トラップに掛かったグール達は下半身を吹き飛ばされて無様に呻き声を上げている。と言うか車内ではずっと眠っていたから分からなかったが、こんなキャラだったのか。
「この穢れた大地を清めろ!そうしなければ打ち止めにならないぞ!」
エリスが叫ぶ。その声を聞いたドラムの狼が、大地にドラムを展開させた。
「我々も行くぞ!」
ジョナサンの号令を受け、第三部隊も戦闘を始める。全てのグールを殲滅し、大地を清めるのに時間はかからなかった。
「狼どもめ、やるな……」
弾を込めながらアランが呟く。DMCの狼達が戦う姿を生で見るのは初めてだった。
256仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:46:54 ID:SLdQ10KC0
と、今度は城門の中から何かが現れた。またグールだ。しかし、どうも何かが違う。
「おいあれ、機械が見えるぞ」
狼の一人が仲間にそう告げた。成る程、確かにグールの体には機械部品が埋め込まれてあった。それはまるで……。
「フランケンシュタインの怪物……と言ったところかしら?」
エリスが呟く。
フランケンシュタインの怪物。英国の女流作家、メアリー・シェリーが1818年に発表した小説の主人公であるフランケンシュタイン博士が、人間の死体から造り上げた人造人間の事である。
「機械改造されたモンスター……だと?」
「このようなケース、私達も初めてです」
驚きの声を上げるジョナサンに、エリスが告げる。
「う、狼狽えるんじゃあないッ!DMCの狼は狼狽えないッ!」
シュトルフの声に、他の二人の狼も各々の武器を構え直した。
「ここは私達DMCが責任を持って何とかします!RPGの皆さんは城内へ突入して下さい!」
「危険なヴァンパイア退治は全て我々に任せる、と?」
「よせ!……了解です。みんな、行くぞ!」
ジョナサンはアランを制止すると、部隊を引き連れて開けっ放しの城門から中へと入り込んでいった。
257仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:52:39 ID:SLdQ10KC0
実際に城内へと踏み込んでみて分かったのだが、予想以上に城の敷地は広大だった。リヒターの提案により、四人それぞれがバラバラに動いて城内のヴァンパイアを殲滅する事となった。リスクは伴うが、ひとかたまりになって動く事で敵に時間を与えるよりはよっぽど良い。
ジョナサンは時計塔へ、アランは中庭へ、リヒターは奏楽堂へ、そしてDは……。
「驚いたな。ヴァンパイアの城にこんなものがあるとは……」
Dが訪れたのは、大聖堂だった。しかし、わざとらしく十字架や聖母像が壊され腐食している。壁に設置された蝋燭の明かりだけを頼りに、身廊のど真ん中を歩いていくD。
と、足元を何か小さなものが駆けていった。目を凝らしてよく見ると、それは大きな溝鼠だった。
「鼠?蝙蝠じゃなく?」
その時、突然ゴシック・オルガンの音色が鳴り響いた。曲はレクイエムだ。誰だ、誰が演奏している?
見ると、禿頭に黒衣の男が、一心不乱にオルガンを弾いていた。演奏を終え、静かに立ち上がる。Dの方に振り向いたその顔は、真っ赤に充血した目、鷲鼻、そして――牙。
「ようこそ、悪魔城へ。出迎えのセレモニーは堪能していただけたかな?」
「ヴァンパイアだな。たった一人とは良い度胸だ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう」
そう言うとヴァンパイア――オルロックは右手を翳した。それと同時に、座席の下から夥しい数の溝鼠が飛び出し、Dの体に集ってきた。
「この鼠、お前の眷属か!?」
驚くのも無理は無い。普通、ヴァンパイアの眷属は蝙蝠と相場が決まっているのだから。バスタードソードを振るう間も無く、Dの体は溝鼠の群れに覆いつくされてしまった。
「死ね!」
怪物の姿へと変わったオルロックが、D目掛けて跳び掛かっていった。他のヴァンパイアが大きな翼を生やした戦闘形態に変わるのに対し、彼は大きな鼠の獣人の姿をしていた。
鋭い牙が、Dの左肩に食い込んだ。大聖堂内に、血の臭いが広がった。
258仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:55:26 ID:SLdQ10KC0
中庭に銃声が響き渡った。頭部を吹っ飛ばされたヴァンパイアが音を立てて地面に倒れ込む。
「てめえ、ただの銃弾じゃないな!?」
「ご名答。錬金術で練成した銀十字錫を溶かして作った、対吸血鬼用の特殊弾丸だ。しかも銃身には魔術文字が刻まれている。つまり何が言いたいかと言うと……」
神様にお祈りでもしろや――そう告げるや否や、発砲。何体目かのヴァンパイアの頭が吹き飛んだ。
「たかが人間の分際で!」
残ったヴァンパイアが一斉に戦闘形態へと変わり、空へと舞い上がった。変身すると身体能力は勿論の事、肉体の頑丈さも格段に上がる。だが。
飛んでいた一体の上半身が粉々になった。魔術と錬金術の加護を受けた、対ヴァンパイア用の武器に不可能は無いのだ。
咆哮を上げながら襲い掛かってくるヴァンパイアの群れを、次々と撃ち落していくアラン。無駄の無い動きで弾を込め、間髪入れず発砲する。
「ふん、下級吸血鬼じゃあこの程度か」
中庭にヴァンパイアの屍の山を築き上げたアランは、近くの建物の中へと慎重に踏み込んでいった。
廊下を暫く進むと、突き当たりに大きな観音開きの扉があった。銃を構えつつ中へと入っていく。
そこは食堂だった。長いテーブルの上座に、一人の男が座ってワインを飲んでいる。否、おそらくヴァンパイアだろう。だとすると飲んでいるのは――血。
「無粋だな。食事とは誰にも邪魔されず、自由で、救われてなきゃあ駄目なんだ。独りで、静かで、豊かで……」
そう言い終えると男――青い髭を生やした貴族風の外見の男は、飲み干したワイングラスをテーブルの上に静かに置いて、立ち上がり剣を抜いた。
「外の連中の指揮官か?一人だけ食事中とは、酷い上司だな」
さっきまでの雑魚吸血鬼とは明らかに纏っている雰囲気が違う。おそらく上級吸血鬼だ。
「名乗らせていただこう。私の名はジル・ド・レイ。人は私を『青髭』と呼ぶ」
「ジル?ひょっとして百年戦争の……」
アランが言い終わるよりも早く、銃弾が彼の心臓を直撃していた。見ると、ジルが剣を握るのとは別の手に、ピストルを握っていた。銃口からは硝煙が上がっている。
「悪いね。こう長く生きているとまともに戦うのが馬鹿らしくなっちゃってさ」
そう呟くとジルは、アランの血を吸うために彼の傍へと近付いていった。
259仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 21:59:40 ID:SLdQ10KC0
奏楽堂では、何処からともなく現れるグールやヴァンパイアの群れを相手に、リヒターが孤軍奮闘していた。飾られてあるゴシック様式の調度品は、どれも返り血や鞭の一撃によってぼろぼろになっていた。
と、突然飾られていた西洋甲冑が動き出してリヒターに向かってきた。
「なんだ、中に居たのか」
そう呟くと甲冑目掛けてナイフを投げつけるリヒター、ナイフは見事に鎧の隙間に飛び込み、中に入っていたヴァンパイアに突き刺さった。悲鳴が上がる。
「RPG特性の聖水を使って鍛えたナイフだ。早く抜かないと肉が溶けるぞ」
リヒターは天井の梁に向かって鞭を伸ばした。鞭がしっかりと絡みついたのを確認すると、そのまま二階の渡り廊下から階下へと飛び降りた。そのまま突き進んでいくリヒター。
彼の狙いは、あくまでも指揮官だ。ひょっとしたら超常吸血同盟を支配する者がこの群れの指揮を執っているのかもしれない。
探索を続けるリヒターは、とある扉の前で何とも言えない禍々しい気配を感じ、立ち止まった。代々続くヴァンパイアハンターの血が、警鐘を鳴らしている。
扉を開けて中へと踏み込む。そこは、百人ぐらいは軽く収容出来るであろうホールだった。
壇上から曲が聞こえてくる。見ると古めかしい蓄音機が回っていた。流れているのはヘンデル作曲の「メサイア」だ。蓄音機の傍には椅子が置かれてあり、血の様に真っ赤なドレスを纏った一人の女が腰掛けていた。
「ヴァンパイア風情がその曲を聴くんじゃない。神への冒涜だ」
鞭を思いっきり振るい、蓄音機を破壊する。女は気怠そうに立ち上がると自己紹介を始めた。
「私はエルジェーベト。お前か、ミラーカ様が仰っていたのは……」
「我が名はリヒター。お前達闇の眷属を狩る者だ」
言うや否やエルジェーベトに向かって鞭を飛ばすリヒター。対するエルジェーベトは、背中から大きな翼を生やした戦闘形態へと変わり、鞭の一撃を回避した。
260仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:03:39 ID:SLdQ10KC0
「邪魔はさせない。私はミラーカ様と共に永久に生き続けるのだ。永遠の若さが約束されたこの身体でな!」
「……見苦しいぞ」
牙を剥きだし、エルジェーベトが襲い掛かってくる。上空からの一撃を避ける事に成功するも。
「む……!」
翼が掠った部分が切り裂かれ、血が噴き出した。
「ほほほほほ!私の永遠を邪魔する輩は死んでしまえ!」
エルジェーベトの腕が、リヒターの喉を掴んだ。このまま怪力をもって握り潰すつもりのようだ。
だが、リヒターは笑っていた。そう、彼自慢の鞭は既に天井のある物に巻きついていたのだ。そして。
リヒターが渾身の力で鞭を引っ張ると同時に、天井からクリスタル製の大きなシャンデリアがエルジェーベトの背中へと落ちてきた。リヒターに気を取られていたばかりに直撃を受けてしまう。それによって僅かに力が緩んだ隙に脱出するリヒター。
懐に忍ばせてあったありったけのナイフをエルジェーベト目掛けて投げつけた。全て命中し、彼女の肉が焼けていく。絶叫。
「……貴様のその悲鳴が終幕のベル代わりだ」
喉に手を当てながらリヒターが呟く。
「馬鹿な!こんな事が……」
「いい加減もう眠れ。本来なら三百年以上前に終わっていた筈の命だろう、バートリ・エルジェーベト?」
「……気付いていたのか」
エルジェーベトの姿が、元の人間の姿へと戻った。彼女に向かってリヒターが鞭を勢いよく突き出す。
鞭は一瞬のうちに硬化し、槍のようにエルジェーベトの心臓を貫いた。その体が灰と化してあっという間に崩れていく。
それを見届け終えたリヒターは、開発部門の教授が作った回復薬を取り出して飲むと、堂内の残党退治に向かっていった。
261仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:09:27 ID:SLdQ10KC0
「いただきます……」
ジルの口が、耳元まで裂けた。鋭く並んだ牙が見える。だが。
突如目を見開いたアランが、手にしたショットガンをジルの体に向けてぶっ放した。右肩が粉々に吹き飛び、千切れた腕が剣を握ったまま、体液を撒き散らしながら宙を舞った。
「貴様、生きて……!」
心臓を撃たれて生きている人間などいる筈がない。それなのに……。
アランがショットガンの銃身をジルの口中に突っ込んだ。銃爪に指を掛けながら。
「悪いね。こう長く生きていると死んだふりも上手くなっちゃってさ」
「……ッ!」
「グッバイ、元帥殿。これがこの世で最後の食事だ」
轟音と共にジルの頭が粉々に吹き飛んだ。顔に飛び散った返り血と肉片を拭いながら、アランがぼそりと呟く。
「……永遠の命なんて楽しいのかね?死ねない体の俺に言わせりゃ、贅沢な事だぞ」
262仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:14:39 ID:SLdQ10KC0
Dの血を吸い続けるオルロックに異変が起こった。
「……!?ぐええっ、この血は……」
飲んだ血を吐きながらオルロックがDから離れていく。
「……流石は上級吸血鬼だな。防刃コートを噛み千切るとは」
Dだ。無数に蠢く溝鼠に体中を覆われてなお、彼は意識を保ち続けていたのだ。そして。
跳躍し、大聖堂の天井まで跳び上がるD。その顔は、さっきまでとは打って変わり、まるで獣のようになっていた。
「!……そうか、お前ヴァンピールか!」
空中で体の向きを変えたDは、天井に嵌められた大きなステンドグラスを蹴って、オルロック目掛けて突っ込んでいった。衝撃で砕けたステンドグラスの破片が降り注ぎ、鼠どもが悲鳴を上げる。
オルロックが後方へと跳び退く。だが、遅かった。Dの振るったバスタードソードの刃が、オルロックの胴体を斬り裂いていたのだ。
「おおおおお!?」
体勢を崩したオルロック目掛けて、Dが再度バスタードソードを振るう。この一撃でオルロックの胴体が真っ二つに千切れた。
「何故だ!お前、ヴァンピールのくせして何で同胞を狩る!?」
「お前等人でなしと一緒にするんじゃねえ!」
全体重を掛けてバスタードソードの刃をオルロックの口の中に無理矢理ねじ込む。繊維が千切れ、肉が潰れる嫌な音が辺りに響いた。
ヴァンピール。それは、人間とヴァンパイアのハーフを指す言葉だ。ヴァンピールの中には闇の眷属へと堕ちる者もいれば、反対に魔を狩るという道を選ぶ者もいる。
(人の事言えんな。結局俺も相手を甘く見……て……)
完全に粉砕されたオルロックの上半身は、そのまま灰と化した。Dは床からバスタードソードを引き抜くと、まだうろちょろしている溝鼠の群れを蹴散らしながら、外へと向かっていった。
263仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:18:35 ID:SLdQ10KC0
「……ここを昇っていくのか」
時計塔の入り口で、真っ暗な天辺を見上げながらジョナサンが呟く。
気配を感じるのだ、禍々しい気配を。ジョナサンには分かる。それが、一介のヴァンパイアではないという事が。
おそらく、超常吸血同盟を支配する上級吸血鬼の誰か。
気合いを入れると、ジョナサンは壁に沿って設置された螺旋階段を駆け上がっていった。
途中、無数の蝙蝠が行く手を阻んできたが、ジョナサンの歩を止める事は出来なかった。
そして、最上階。錆び付いた鉄製のドアを開ける。そこは、大時計を動かすための機械室だった。大きな歯車や機械が並ぶ室内の中央に大きな安楽椅子が置かれてあり、そこに一人の美女が腰掛けながら本を読んでいた。
ジョナサンが部屋の中に入ってきた事には気付いている筈なのに、一向に本を読むのを止めようとしない。
「そんな暗い部屋で読んでいたら目を悪くしますよ、お嬢さん」
ジョナサンが話し掛ける。女性が漸く本を閉じた。そして立ち上がり、妖しげな笑みをジョナサンへと向ける。
刹那、牙を剥き女性――ミラーカが襲い掛かってきた。その顔面に向けてジョナサンが拳を放つ。
ミラーカはいとも容易くその拳を受け止めると、そのまま軽く力を入れてジョナサンの体を引っくり返す。
更にミラーカは、翼を生やし、両腕だけを怪物の姿へと変えてジョナサンに掴み掛かっていった。
264仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:31:56 ID:SLdQ10KC0
時計塔へと向かう影が二つ。アランとリヒターだ。二人ともヴァンパイアを倒した後、ジョナサンが向かうと言っていた時計塔を目指していたのだ。
途中、物陰から襲い掛かってくるヴァンパイアやグールを倒しながら、塔へと急ぐ二人。
と。
塔から鐘の音が聞こえた。更に。
「あれを!」
リヒターが指差す先には、塔の壁を突き破って落下する二つの影が。揉み合いながら落下していくそれは、紛れもなくジョナサンとミラーカであった。
ミラーカが翼を羽ばたかせ、ジョナサンから離れていく。
「不味いぞ!」
「隊長ぉぉぉぉぉ!」
この距離では間に合わない。いくら鍛え上げられた肉体を持っていても、三十メートルはあろうかという高さから落下して無事でいられるとは思えない。ジョナサンもまた、最悪の事態を覚悟していた。
だが間一髪、地面へ激突する寸前のジョナサンの体を誰かが受け止めた。このような離れ技が出来る人物と言えば……。
「手酷くやられたな、隊長」
「D……」
それは、オルロックを倒し終えて駆けつけたDだった。ジョナサンを下ろし、宙を舞うミラーカを睨み付ける。ミラーカの方もそれに気付いたようだ。
「お前、ただの人間じゃないな……?」
「試してみるかい?」
と、激しい銃声が響いた。ミラーカの片翼が弾け飛ぶ。
見ると、銃を構えたシュトルフがジョナサン達の方へと走り寄ってくるではないか。どうやら城門での戦いは終わったらしい。おそらくエリスにRPGの援護を命じられたのだろう。
片翼を失い、ミラーカが地上へと降りてくる。
「やれえっ!ヴァンパイアの硬い体表に銃は効かん!お前が仕留めるのだっ!」
シュトルフが叫ぶ。
265仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:42:46 ID:SLdQ10KC0
「D。こいつは僕がやる。背中のリュックから剣を……」
そう言ってジョナサンは、自分が背負ったリュックの中から剣を取り出すようDに命じた。言われるままにDが剣を取り出す。
「隊長、こいつは……」
「凄いだろう?教授の新作だよ」
白く輝く一振りの両刃剣。刀身には、邪を祓い使用者を祝福する魔術文字が刻まれている。英吉利の英雄伝説に因み、この剣に与えられた名は。
――エクスカリバー。
これを構え、ジョナサンがミラーカの前に出る。ミラーカもまた、完全に異形の姿へ変わると、その爪の一撃でジョナサンの喉笛を切り裂くべく狙いをつける。その場に居た誰もが、次の一撃で雌雄が決すると感じていた。
先に動いたのはジョナサンだった。しかしエクスカリバーの刀身を掴まれてしまう。そして。
「ああっ!隊長ぉぉぉ!」
ミラーカの一撃がジョナサンの体を貫いた。元々狙っていた喉は無理だったが、彼の腹部を、ミラーカの片腕が深々と貫いていた。
しかし。
「!?」
刀身が外れたのだ。柄の部分から綺麗に。
266仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 22:43:54 ID:SLdQ10KC0
「実はね……鞘なんだよ、それ」
ジョナサンの持つエクスカリバーの柄から、光の刃が飛び出した。「絶対折れない刃」をコンセプトに研究を重ね作られたこの剣は、柄の部分に「ウロボロス・システム」と呼ばれる六角形の小さな装置が埋め込まれている。
「ウロボロス・システム」とは、RPGが錬金術の粋を集めて作りあげた永久機関の事だ。ここから無限のエネルギーを生み出すのである。まるで、永遠に再生を続ける竜――ウロボロスのように。
「散滅すべし!」
慌ててジョナサンの腹から腕を引き抜こうとしたが遅かった。エクスカリバーから迸る光の刃が、ミラーカの体を縦一文字に斬り裂いたのだ!
世にも恐ろしい悲鳴を上げながら、ミラーカの体が真っ白い炎に包まれていく。だが、それと同時にエクスカリバーから激しい火花が飛び散りだした。慌てて鞘を拾い上げ被せるジョナサン。
RPGが完成させた永久機関は、今の技術では完全に制御する事は出来ない。数秒もすればエネルギーの放出に耐えられず、剣自体が爆発してしまうのだ。
「ふう。危なかった……」
まじまじとエクスカイザーを眺めるジョナサン。だが次の瞬間、彼の体は地面に倒れ込んでしまった。大量の出血によるものである。
(あ、やばい。僕の方がもっと危なかった……)
薄れていく意識の中で、ジョナサンは自分を呼ぶ仲間達の声を耳にしていた。
267仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 23:03:33 ID:SLdQ10KC0
数日後、RPG御用達の病院。その特別病棟の一室でジョナサンは覚醒した。枕元にはD、アラン、リヒターがいる。
「おお、目が覚めた!」
Dが嬉しそうに言った。
まだ頭がぼうっとしている。とりあえず自分が今入院している状態だという事を把握したジョナサンは、徐々に自分がこうなった経緯を思い出していった。
「僕は……何日眠っていた?」
「丸三日だ。俺達で黒い森から近くの病院へ運んで、その後チャーター便で英吉利まで運んだんだ」
アランが説明する。彼の説明によると、悪魔の城はあの後完全に焼き払われたらしい。
「……DMCの人達には、ちゃんと挨拶はしたのかい?」
「心配無用だ。ちゃんと粗相の無いようにしてきた。あちらの美人指揮官も大層心配してたぜ」
Dが笑いながら告げる。反DMC派のアランとリヒターは自分が居ないと何をするか分からないので心配だったが、どうやら最悪の事態は起こらなかったようだ。
(これを機に彼等の偏見が少しでもマシになれば良いのだが……)
と、そこへ勢いよくドアを開けて誰かが病室へと入ってきた。
「隊長ぉぉぉ!無事ですかぁぁぁぁぁ!?」
少女だ。まだ十代半ばと思われる、ゴシックファッションの少女がやって来たのだ。
「マリア、病室では静かにしないか」
「あ、お兄ちゃん達も来てたんだ。それより隊長、無事ですか?痛いのはここですか?」
リヒターにマリアと呼ばれた少女は、そう言うとジョナサンの傷口に手を翳した。途端に暖かな光が彼女の掌から放たれる。
「……有難う。楽になったよ」
ヒーリング。人体の治癒能力を高め、傷や痛みを癒す能力。そう、魔術に長けた第三部隊最後の一人とは、この少女の事だったのだ。
268仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」:2007/12/30(日) 23:04:15 ID:SLdQ10KC0
「ところで任務は?」
「はい、報告書」
そう言って書類の入った封筒をジョナサンに渡す。
「偉いなあ。一人でこなせたのかい?」
「ダンテさん、私も一人前の戦士よ。当然です」
ふくれっ面になるマリアをDが宥める。まだ若いという事もあってか、マリアの潜在能力は未知数だ。近い将来、必ずやRPGを引っ張る存在になるだろうとジョナサンは確信している。
「ところでお兄ちゃん。それにアランさんも、私が居ない間にダンテさんと仲良くしてた?」
そう言われて実兄――リヒターとアランが口篭る。
「また意地悪していたのね!?いつも言ってるでしょ、隊長やダンテさんを困らせちゃ駄目だって!」
「お前の妹、相変わらずずけずけとものを言うな」
「すまない……」
「ちょっと二人とも、聞いてるの!?」
「いいぞマリア、もっと言ってやれ!」
調子に乗ってDがマリアをけしかける。そんなDを睨み付けるアラン。いつもの第三部隊の姿がそこにあった。
痛みの引いた腹を擦りながら、ジョナサンはその光景に自然と笑みを零すのであった。 了
269仮面ライダー高鬼外伝「Bloody Tears」おまけ:2007/12/30(日) 23:15:31 ID:SLdQ10KC0
説明になってないキャラクター紹介(注・これはHELLSINGという漫画のパロディです)
・ジョナサン
 優等生のお坊ちゃんなので次回死にます。
・ダンテ(D)
 本当はもうちょっとキャラを掘り下げたかったけど出来なかったので次回死にます。
・アラン
 元ネタは「ソロモン王シリーズ」のアラン・クォーターメイン。でも「リーグ・オブ・レジェンド」のイメージが強いので次回死にます(不死身なのに?)。
・リヒター
 「月下の夜想曲」で洗脳されるので次回死にます。
・マリア
 PCエンジンとPSPとでキャラデザががらっと変わったので次回死にます。
・ヴィクター
 結局人間やめて月に渡るので次回死にます。
・ジェームズ
 作者の母親がショーン・コネリーのファンなので次回死にます。
・アレン
 腐女子御用達なので次回死にます。
・パラケルスス
 別に人形は作らないので次回死にます。
・教授
 たぶん本名は「ヘルシング」なので次回死にます。
・シュトルフはRPGの面々に再会することなくスターリングラード戦線で誇り高きDMCの狼として名誉の戦死をとげる……はず。
270高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/12/30(日) 23:31:45 ID:SLdQ10KC0
1979年某日、関西支部とあの男女との決戦の火蓋が切っておとされる。

襲いくる魔化魍の群れ、次々と倒れゆく鬼達……。

そして。

次回、仮面ライダー高鬼「猛る士(もののふ)」(仮称)
早ければ明日投下……できたらいいんだけど。

あと、前にも書きましたが最終回ではないので。念のため。
長いので分割投下の可能性もあります。
271名無しより愛をこめて:2007/12/30(日) 23:43:05 ID:r8QtR/HU0
>高鬼SS作者様
投下乙です。
今回も面白かった。
今年の年越しは高鬼SSですごせます。
投下待ってます。
272高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/12/31(月) 19:38:45 ID:ny0auczS0
とりあえず二回に分けて投下します。後半部分はもう少し推敲する余地がありそうなので。
では前半部分をどうぞ。後半は明日か明後日か、まあ三日以内には投下できるかと。
1979年、某日。
猛士総本部に激震が走った。あの和装の男女の関西における本拠地がついに判明したのである。場所は京都市北西部に位置する帷子ノ辻。
「帷子ノ辻……。まさかあそこにやつらの拠点があっただなんて……」
京都方面担当で、帷子の辻周辺にもよく訪れていたイッキが悔しそうに呟く。
帷子ノ辻より西は、昔から「化野(あだしの)」と呼ばれる魔界になっていると言われていた。そのような場所にあの連中が居を構えていたとしても何ら不思議ではない。
猛士総本部長・和泉一流は、すぐさま関西支部の鬼による討伐を決定した。とうとう、あの連中と一応の決着をつけるつもりのようだ。
「一応」と但し書きが付くのには理由がある。魔化魍は天然自然の理より生まれる存在。従って魔化魍が滅びる事はまずない。浜の真砂が尽きるよりも難しいだろう。況してや、魔化魍の親玉ともなれば、最早滅ぼす滅ぼさないの論議は無意味だ。
総本部の決定から僅か二日後、関西支部の鬼が帷子ノ辻に集結していた。しかし、人数があまりにも少ない。その数たったの八人。奇しくも、昨年の「京都動乱」において延暦寺で戦った時と同じ面々だった。
「これだけなのですか……?」
コウキが、同行している開発局長の南雲あかねに尋ねた。あかねは申し訳なさそうに。
「ごめんなさいね。僅か二日での決定だったから、全員のシフトを調整する事が出来なかったの……」
決戦という事もあってか、彼等八人と一緒に、あかね、そして医師のモチヅキと司書の京極も大きなトレーラーと共に現場を訪れている。このトレーラーは移動用のラボ兼医務室だ。
「手傷を負ったら無理せず引き返してくるように。出来る限りの治療をするよ」
モチヅキがコウキ達に向かってそう告げた。今回、モチヅキは医者の仕事に専念するようだ。
「何かあったらすぐ連絡するように。僕の知識が役に立つ範囲でなら何だって答えよう」
通信機を各人に配りながら、京極が告げる。この通信機には陰陽環が用いられており、結界による妨害を最小限に抑えて通信する事が出来るのだそうだ。
八人とも、出撃を前に最後の調整に入る。ある者は音撃武器を念入りにチューニングし、またある者は瞑想して精神集中をしている。ある者は自分のサポーターといつもと変わらず談笑していた。
そんな中、あかねがセイキに尋ねた。
「昨日、ドキくんに中部支部から電話が掛かっていたけど何だったの?」
相手はドキと同門のカゲキからだった。口調から察するに、何か大事な用事だったようだが……。
「あ〜、その事ね。大丈夫、何でもないです」
そう笑いながらセイキが答える。ドキは隅の方で瞑想をしたままだ。
「そう?それなら別に構わないんだけど。……じゃあもう一つ聞かせてもらえるかしら?」
そう言うとあかねはセイキの手に少し視線をやった後、酷く真剣な顔を彼に向けてこう尋ねた。
「あなたとドキくん、どうして今朝から手甲なんて嵌めているの?まるで、何か見せたくないものでも隠しているかのよう……」
霧の中を八人が歩いていく。いつもの如く、この霧は彼岸と此岸の境界を現しているのだろう。コウキがテストを兼ねて、通信機であかね達に状況を報告している。
歩き続ける一行の目の前に、いつの間にか大きな洋館が聳え立っていた。突然現れたそれに度肝を抜かれる一行。しかし驚いている暇は無い。凄まじい邪気だ。すぐに気を取り直すと、各々変身道具を取り出し、構える。
「思えば、最初から八人揃って戦うなんて初めてですね」
コウキの隣に立つイブキが、そう告げた。
「ああ、言われてみれば確かにそうだな」
「人食い島の戦い」の時、コウキは不在だったし、「京都動乱」でも最初から八人揃っていたわけではない。
「……行くぞ!」
コウキの号令と共に、一斉に変身道具が鳴らされた。炎が、風が、雷が、闇が、光が、熱が、そして眩く輝く水晶がそれぞれの体を覆っていく。そして。
身に纏っているものを弾き飛ばした八人の鬼は、門をぶち破ると敷地内へと駆けていった。
門から屋敷までは多少距離があったのだが、何の妨害も受ける事無く、辿り着く事が出来た。どうやら連中は、あえて八人を館内へと入れて、そこで始末するつもりのようだ。
「不気味ですね……」
「ああ、そうだな」
壱鬼の一言に、高鬼が相槌を打つ。あの連中が自分達の存在に気付いていないとは思えない。あまりにも静か過ぎるのが逆に不気味だった。
慎重に扉を開けて屋敷の中へと踏み込む。まず威吹鬼と暁鬼がそれぞれの音撃管を構えて、周囲に気を配りながら入っていった。何も危険は無い事を確認すると、あとの六人に入ってくるよう促す。
広い玄関ホール内には、殆ど装飾品らしき物は飾られていなかった。殺風景、しかも壁も床も天井も、全てセピア色に統一されていた。それ故に、目の前に並ぶ原色の扉がやけにはっきりと認識出来た。
彼等の眼前には、それぞれ赤、青、緑、黄色に塗られた四つの扉が並んでいたのだ。
「あの中のどれかを選んで進んで来いと……?」
「遊んでやがるな。胸糞悪いぜ」
壱鬼と聖鬼がそれぞれ呟く。
「否、ここは四組に別れて進もう。一塊になって行くのは全滅のリスクが伴う」
高鬼の言う事は尤もだ。結局、彼の提案を呑んで四組に別れて進む事となった。
「じゃあ俺達はあの右端の緑の扉に入ろう」
刃鬼に促され、彼と共に壱鬼が緑の扉へと向かっていく。
「折角だから、俺達はこの赤の扉を選ぶぜ」
そう告げるが早いか、怒鬼と共に聖鬼が赤の扉へ向かって進んでいく。
「我々はそうだな……青い扉にするか」
「じゃあ俺と暁鬼さんは黄色という事で。……阪神のカラーやし」
高鬼・威吹鬼コンビは青、西鬼・暁鬼コンビは黄色の扉を選び、それぞれその中へと迷い無く入っていった。
「なんやこれ……」
黄色の扉を開けて中へと踏み込んだ西鬼が驚きの声を上げる。そこは、正方形の部屋だった。彼等の向かいの壁には、木製の扉がある。しかし、室内には二人の行く手を阻むかのように、一組の童子と姫が立っていた。だが、何かがいつもとは違う。
「お前達が相手か……」
童子が 男 の 声 で 喋 っ た。それに動揺を隠せない西鬼と暁鬼。
何やら古代の――具体的に言うと古墳時代のような衣装を纏った童子と姫は、不敵な笑みを浮かべると揃って手を翳した。それを合図にしたかのように、床を突き破って何かが現れる。
「魔化魍か!?」
「こんなん見た事無いで!」
それは、全身がごつごつした黒光りする鉱物で出来た、巨大な蛇の姿をした魔化魍だった。爛々と光る真っ赤な目を持ち、口からは絶えず瘴気を吐き出している。
「先生!せんせぇぇい!」
西鬼が通信機を使って京極に呼びかける。酷い雑音混じりではあるが、京極の声が聞こえてきた。
「先生、聞こえますか!?見た事も無い魔化魍が出てきました!どうぞ!」
「落ち……きたま……。詳しい特ち……を……」
本当に向こうに聞こえているのか不安だが、見たままの事を通信機に向かって告げる。その間暁鬼は、射撃による牽制を行っていた。
「……そ……は『アラハバキ』……可能性……ある……」
「何ですって、アラハバキ!?」
「アラハバキだと!?」
その名に暁鬼が反応した。
「知ってるんですか!?」
「ああ。もしこいつが本当にアラハバキだとすると、連中はとんでもないものを生み出した事になるぞ」
アラハバキ(荒吐)は、東北地方一帯に伝わる民俗信仰の事を指し、その祭神は蛇だという説がある。昨年、京都に現れたスクナオニと同じで、大和朝廷により迫害された民の守護神だとも言われている。
あの男女は、神話の時代の魔化魍を人工的に作り出すべく、再び神を模した童子と姫を作り上げたのだ。古くから伝わる武者童子・鎧姫の技術を使えば、ヌレオンナをベースにこれを生み出す事は造作も無かった。テストとして北陸ではオオカマキリを鎧化させている。
「邪神……ですか?」
暁鬼の説明を受けて、西鬼は驚きを隠せないでいた。昨年に引き続き、またこのような相手と戦う事になろうとは夢にも思わなかった。
「童子と姫は俺がやる。アラハバキは任せたぞ」
「え!?ちょっと……」
そう言うや否や、暁鬼は童子と姫に向かって音撃管・水晶を乱射しながら駆けていった。確かに、全身が鋼鉄のアラハバキに対して、明らかに管だと分が悪い。だが弦でも同じ事のように思える。
「ああ、もう!」
西鬼は意を決すると、音撃弦・剣心に音撃震・狂荒(レイヴ)を装着し、アラハバキに向かって突撃していった。
「凄い数ですね。流石は敵の本拠地だ……」
青の扉を開けた高鬼と威吹鬼の眼前には、無数のノブスマとヤマチチの群れが待ち構えていた。童子と姫は居ない。
「閉じ込められたようだな」
高鬼の言う通り、彼等が中に入った途端、扉は跡形も無く消えてしまった。おそらく他の面々も同じ目に遭っている事だろう。この魔化魍の群れを倒し、前へと進むしか方法は無くなった。
部屋の造りは、西鬼達が入ったものと全く同じだった。他の二組が入った部屋も、中で待ち構えているものを除けば完全に同じものとなっている。
唸り声を上げながら複数のヤマチチが近付いてきた。
「お前はノブスマを頼む。ヤマチチは私がやる」
音撃棒・大明神を手に、高鬼が告げた。
「しかし……」
「五年前と同じなら太鼓以外でも倒せる筈だ。頼むぞ」
そう言うと高鬼は群れに向かって突進していった。後方から威吹鬼が音撃管・烈風を撃つ音が聞こえる。
「破っ!」
高鬼の強烈な一撃が、目の前のヤマチチの横っ面に命中、これを吹き飛ばした。
「さあかかって来い!『疾風鋼の鬼』が相手になってやる!」
声の限りに高鬼が叫んだ。
「こりゃはずれを引いちまったか……?」
赤の扉の中へと入った聖鬼がぼやく。彼等の眼前には、数対の黒傀儡と白傀儡が、隊列を作って待ち構えていた。
「あれを複数体相手にするのか……」
流石の怒鬼も、つい声に出して呟いてしまう。退路は絶たれた。まさに絶望的状況。
黒傀儡のうちの一体が、二人に向けて波動を放った。咄嗟に避ける二人。そこへ傀儡の群れが襲い掛かる。
「おい怒鬼!」
「……何も言うな。今は戦う事に集中しろ」
それぞれの音撃武器を手に、傀儡達との激しい攻防が始まった。
「スゲェ眺めだな……」
刃鬼が呆れたように呟く。
緑の扉の中で刃鬼と壱鬼を待ち受けていたのは、御当地カッパの大群であった。
「高鬼さんが遭遇したって言う、養殖された連中か……」
二人とも、二年前に那智勝浦でカッパが大量発生した事は聞いていた。
「良かったですね、ここを選んだのが僕達で……」
音撃棒・霹靂を構えながら壱鬼が言う。もし太鼓を持たない西鬼・暁鬼ペアがこの扉を選んでいたら、とんでもない事になっていただろう。刃鬼もまた、音撃棒・常勝を構えた。
「この程度なら俺一人で充分さ。壱鬼くん、君は邪魔にならないように隅の方で休んでいなよ」
自信たっぷりに刃鬼が告げる。過去に、夏の魔化魍を一度に百体も倒したと言うのは伊達ではない。だがそう言われて素直に引っ込む壱鬼でもなかった。
「そうはいきませんよ。それに僕、今の一言でちょっととさかにきちゃいました。どちらが多く清められるか競争しましょう!」
「言ったな?手加減はしないよ」
弾かれたかのように二人はカッパの群れへと突っ込んでいった。
「始まったようだな……」
通信機を耳にあて、そこから漏れてくる音声を確認しながら京極が呟いた。
「不調?」
あかねの問いに、京極が静かに首を横に振る。
「我々が思った以上に奴等の張る結界が強かったようです」
「と言う事は何かあっても戻ってこれそうにないか……」
何のために我々は来たのでしょうね、とモチヅキがあかねに向かって言う。が。
「それでも……私達が今この場所に居るという事は、コウキくん達にとって支えになっている筈よ」
その場に居た全員が互いの顔を見合わせた。
「あかねさんの仰る通りです。イブキくん達が戦い終えて帰ってきた時、いの一番に出迎えてあげる。それだけでも我々がここに居る意味はあります!」
勢地郎がやや強い口調でそう告げた。
「そうだよな。俺、ニシキくんが戻ってきたら、あいつの大好物を腹いっぱい奢ってやるんだ!」
そう嬉しそうに言うのは石川だ。横に居るまつも微笑んでいる。誰も皆、八人が無事に帰ってくるのを信じていた。
「……ところでおまつちゃん、一つ聞いてもいいかしら?」
「え?何でしょうか」
急にあかねに尋ねられて、まつが不思議そうに答える。
「出撃前のセイキくんにも聞いてみたんだけど……」
あかねは、何故急にドキとセイキが手甲を着用しだしたのかをまつに尋ねた。だが彼女もその理由を知らないと言う。
「……これは中部支部へ電話を入れてみる必要があるかもね」
「何でそこまで拘るんです?」
呆れたように尋ねる石川に対し、あかねはさも当たり前のようにこう告げた。
「どんな些細な事にでも好奇心を持つ。科学者の基本よ」
刃鬼の渾身の一撃が空を切る。その拳は、吸い込まれるように彼の眼前に立つカッパの顔面へと叩き込まれた。みしり、と厭な音を立てて拳がめり込み、その体を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたカッパの体が、その勢いのまま部屋の壁をぶち抜いた。粉塵が上がり、砕けた壁がぱらぱらと音を立てて降り注ぐ。
「見ろ、あそこから脱出出来るぞ!」
しかし御当地カッパの群れが、壁に開いた穴を隠すかのように二人の前へと立ちはだかる。
「まっ、ただで通してくれるとは思ってなかったけどね」
「やりましょう!」
言うが早いか、すぐ近くのカッパに向かって壱鬼が躍りかかる。彼は「鳴雷」には変身していない。一回の戦闘で一度しか使えない以上、この後の戦いに備えなければならない。この後の決戦に……。
音撃鼓を打ち鳴らす音が、室内に響き渡る。関西支部でも上位に入る手練れ二名にとって、この程度の数は足止めにもならない。みるみるうちに御当地カッパの数が減っていく。そして。
「ラスト一匹!」
だがその一匹が問題だった。三メートルは軽くある体躯の、実に大きなカッパだ。そいつが、臭い涎を垂らしながら、世にもおぞましい声で鳴き、威嚇してくる。
「親……ですかね?」
「おーい京極さぁん、聞こえる?……駄目だ、ノイズが酷くて繋がらないや」
今まで見た事も無い程大きなカッパに、何の知識も無く挑まなければならない。刃鬼と壱鬼がほぼ同時に動いた。一直線にカッパへと向かっていく。
刃鬼が鉄拳を放つよりも一瞬早く、カッパの痛烈な一撃が刃鬼の顔面に炸裂した。吹っ飛ばされた刃鬼の体が、反対側の壁を派手に突き破って見えなくなる。
「刃鬼さん!?」
壱鬼の動きが一瞬止まった。そこに間髪入れずカッパが攻撃を仕掛けてくる。慌てて攻撃態勢から防御へと移行しようとするが、間に合わず直撃を喰らい、床へと叩きつけられてしまう。
「くそっ……」
起き上がりざま、手にした「霹靂」の鬼石から、雷の刃を展開し構える壱鬼。特訓によって編み出した新たな技、鬼棒術・建雷(たけみかづち)だ。
跳躍した壱鬼が、雷の刃を上段から振り下ろした。しかしカッパは難無く片手で払いのけてしまう。「霹靂」を落とし、床を転がる壱鬼。と、彼の耳に声が飛び込んできた。
「このカッパ……俺にカウンターを叩き込むなんてな」
瓦礫を押し退け、後頭部を擦りながら刃鬼が大穴の向こうから立ち上がってきたのだ。
「わりィな、ちょっと本気出すわ」
そう言うと刃鬼はその場で軽く飛び跳ねだした。完全に臨戦態勢を取った証だ。
刹那、弾丸の如き速さで刃鬼がカッパに向かっていった。カッパのパンチを避けると、逆に腕を取って思いっきり投げ飛ばす。脳天を床に叩きつけられたカッパは、そのまま動かなくなってしまった。
「あんな大きな敵を瞬殺だなんて……」
改めて刃鬼の強さを目の当たりにして、二の句が継げなくなる壱鬼。刃鬼は、カッパの腹に音撃鼓・無敗を貼り付けると音撃打を行い始めた。
「ぐあっ!」
右肩から激しく血を噴き出しながら、聖鬼が音撃弦・黄金響を落とした。
傀儡の群れは、殆ど数を減らさぬまま、確実に二人の体力を削っていた。
「やべえ、これじゃあ……」
聖鬼にとどめを刺さんと、黒傀儡が襲い掛かってきた。
と、床に落ちた「黄金響」を怒鬼が拾い上げ、両者の間に割って入ったではないか。怒鬼は抜刀の構えを取っている。
黒傀儡が杖を振り上げた瞬間、怒鬼が「黄金響」を振り抜いた。一瞬の間の後、黒傀儡の体が真っ二つになり、床へと倒れ落ちる。
「凄いな。初めて見たぜ……」
怒鬼が柳生新陰流の使い手だという話は聖鬼も耳にしていたが、実際にその剣技を目の当たりにするのは初めてだった。
しかし怒鬼の方も全身ぼろぼろである。今の彼は、気力のみで体を支えており、いつ倒れてもおかしくない。
満身創痍の二人に向かって、傀儡達がじりじりと迫ってくる。そんな中、怒鬼は修行時代、師匠であるオンギョウキから聞いた言葉を思い出していた。
あの日、まだ若かりしドキとカゲキを前にして、厳つい顔をした老爺――オンギョウキはこう語った。
「対消滅という言葉を知っているか?」
互いに顔を見合わせるドキとカゲキ。二人の返事を待たず、オンギョウキは話を続けた。
「まあ簡単に言うとだな、相反する性質を持つもの同士が同じ速度で衝突する事で、膨大な量のエネルギーが発生する現象だ」
そう言うとオンギョウキは右掌から黒い塊を、左掌から光の塊を発生させてみせた。
「ドキは闇の、カゲキは両方だがどちらかと言えば光の属性を持っている。もしお前達二人が全く同じ力でぶつかり合えば……」
話を聞く二人に緊張が走る。
「良いか、これは死ぬための技であって勝つための技にあらず。ようく肝に銘じておけ」
それだけを告げるとオンギョウキは両手の塊を握り潰したのであった。
「……聖鬼」
「ああ、分かっている……」
怒鬼の体が黒く輝き始めた。一方、聖鬼の体も真っ白な光に包まれていく。
「……じゃあな、また会おうぜ相棒」
聖鬼が片手を掲げた。それに応えるべく、怒鬼もまた片手を上げた。
傀儡の群れが一斉に跳び掛かってくる。
刹那、屋敷の一角が大爆発を起こした。
群がるノブスマとヤマチチを、高鬼と威吹鬼は順調に倒していっていた。だが一向に数が減る気配は無い。
「どれだけの数がこの室内には居るのだ!?」
苛立たしげに高鬼が怒鳴る。
「時間が惜しい!高鬼さん、ここは僕に任せて先へ進んで下さい!」
「何だと!?正気か?」
「ちゃんと勝算はあります!早く扉へ!僕が援護しますから!」
威吹鬼がいつも以上に強い口調で告げる。その言葉を信用し、高鬼が出口の扉へ向かって駆け出した。
「邪魔をするな!」
上空から高鬼へと襲い掛かるノブスマを、威吹鬼が撃ち落としていく。彼の援護を受けて、高鬼は無事に扉へと辿り着く事が出来た。
部屋から出ていく高鬼の背中を見送ると、威吹鬼は自嘲的に笑いながら呟いた。
「すみません。勝算なんて本当は無いんです。僕にあるのは……」
威吹鬼は宗家独自の構えを取ると、右手刀を高く掲げた。彼の脳裏には、まだ彼が「威吹鬼」の名を継ぐ前、父である和泉一流に稽古をつけてもらっていた時の事が浮かび上がっていた。
「ようく見ていろよ」
そう息子に言い聞かせると、鬼の姿をした一流は右手刀を高々と掲げた。彼の周囲に風が渦巻き、右手へと集まっていく。
「ふっ」
一旦背後へとやった右腕を、軽い掛け声と共に前方へ向かって振り抜く。次の瞬間、目の前の大木が数本纏めて真っ二つになり、音を立てて倒れ落ちた。
目を丸くしながら成り行きを見守っていた一文字に、一流が告げる。
「……これが奥義・構太刀(かまえたち)だ。カマイタチの姫と童子が使っている技を、我々鬼でも扱えるようにしたものだ。さあやってみろ」
「やってみろって……無理だよ。一度見ただけじゃ……」
「何回見たって同じ事だ。さあやれ。さもないと晩飯抜きだぞ!」
「そんなぁ……」
泣く泣く父に言われた通り「構太刀」の特訓を行った。だが、結局一文字は威吹鬼の名を継いでもなお、この技だけは身につける事が出来なかったのだ。
威吹鬼は今、「構太刀」を使おうと考えている。あの時とは違い、自分には沢山の経験が備わった。今ならば撃てる――確信とまではいかないがそれなりの自信があった。
(失敗したら……死、だよな)
自分が死んだら宗家はどうなるのだろう。残された両親はどう思うだろう。この一撃、絶対に失敗するわけにはいかない。
風が威吹鬼の回りを渦巻いた。そして右手へと集まっていく。ここまではいつも上手くいっていたのだ。
飢えたノブスマとヤマチチの大群が押し寄せてきた。それらを前にしながらも、精神を腕先に集中していく。そして。
「ふっ」
居合い斬りのごとく、右腕を前方へと振り抜いた。次の瞬間、目に見えない真空の刃が群がる魔化魍を真っ二つにしていく。
(出来た……!)
だが、室内の敵を一掃出来た訳ではない。再び威吹鬼は「構太刀」の体勢に入った。
(さっきの感覚を思い出すんだ)
「ふっ」
第二撃も無事放たれた。だが、威吹鬼の右腕に激痛が走った。あまりの痛みに蹲る威吹鬼。
(まさか……ここまで腕に負担が掛かるだなんて……)
魔化魍はまだあと少し残っている。威吹鬼は立ち上がると、三度目の構えを取った。
第三撃を放った直後、威吹鬼の腕から何かが切れる音が聞こえた。
「うおおおおっ!?」
アラハバキの体当たりを間一髪で避ける西鬼。床が派手な音を立てて破壊された。
「無理無理無理!こんなん倒せへんって!」
全ての手は打ち尽くした。西鬼が弱音を吐くのも無理は無い。
アラハバキがゆっくりと西鬼の方へ頭を向けた。足が竦んで動けない。まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
と、その時、童子達と戦っていた暁鬼が一言。
「幸運だったな、西鬼。俺と一緒で」
それがどういう意味なのか分からぬ西鬼。アラハバキが大きく口を開けて襲い掛かってくる。
その時!
突然アラハバキが呻き声を上げながら苦しみ始めたのだ。何が何だか分からない西鬼の眼前に、アラハバキの巨体が倒れ込んだ。口からは泡を吹いている。
すると、その口中から何かが飛び出してきたではないか。見ると、オコジョに似て非なる生物である。
「よくやったぞ、ホッパー」
ホッパーと呼ばれたクダギツネが、嬉しそうに主人の傍を飛び回る。
「ああいうでかいのは中から潰すに限る。あとは大丈夫だよな?」
それだけ言うと暁鬼は再び自分の戦いを続けた。一方西鬼は。
「成る程、中ね」
そう呟くと西鬼は、だらしなく開かれたアラハバキの口中へ、「剣心」を手に飛び込んでいった。
暫くして、ぐったりしていたアラハバキの体が、びくんと痙攣する。体内から響いてくる清めの音色。
刹那、アラハバキの胴が木っ端微塵に消し飛んだ。粉塵の中、「剣心」を構えた西鬼の姿が現れる。
「いよっしゃあああ!……そうだ暁鬼さん」
見ると、暁鬼は童子を相手に丁々発止と渡り合っていた。一瞬の隙を衝いて、暁鬼の鬼闘術が童子の腹部を貫く。
童子が口から吐き出した血反吐を顔面に浴びながら、冷たい口調で暁鬼が呟いた。
「天美の鬼を舐めるなよ」
拳に力を込める暁鬼。童子の体内を、暁鬼の拳から発生した無数の水晶の棘が貫いた。爆発。
「おのれ!」
姫が掌から怪光線を放つ。
「暁鬼さん、危ない!」
だが姫の放った光線は、暁鬼に当たる前に何かに命中し、彼に当たる事は無かった。直撃を受け、黒焦げになった何かが音を立てて床に落ちる。
「ホッパー……!」
それは、暁鬼の使役するクダギツネであった。舌打ちし、姫が第二射の体勢に入る。
だが――。
音を立てて姫の腕が落ちた。その切断面から激しく体液が噴き出す。やったのは西鬼だ。「剣心」を振るい、刃に付着した血糊を払うと、振り向きざまに「剣心」を姫の胴体に突き刺した。
「音撃斬・快刀乱麻!」
西鬼必殺の音撃が、姫の全身を駆け巡る。彼女の体が完全に灰と化して崩れ落ちるのに、そう時間は掛からなかった。
「手強い相手でしたね……」
そう言って暁鬼に視線をやる西鬼。
「……!」
突然暁鬼がバランスを崩し、膝をついた。よく見ると暁鬼の全身は傷だらけで、最早傷口を閉じるだけの気力も残っていないようだ。
「暁鬼さん……」
「心配は無用だ。それより、行くぞ」
無理矢理体を立たそうとする暁鬼の事を見ておれず、西鬼が肩を貸しに行こうとした瞬間。
「……!おい、危ない!」
暁鬼が叫ぶや否や、今まで床に転がっていた姫の千切れた片腕が、天井目掛けて全身全霊の怪光線を放ったのだ!起死回生の一撃は天井を崩落させ、大量の瓦礫が暁鬼と西鬼を襲う。
やられた!そう思う西鬼であったが、一向に衝撃を感じない。恐る恐る目を開けてみると……。
まるで西鬼を覆うかのように、彼の周囲だけ水晶の壁がドームを作り、瓦礫の山を防いでいるではないか。
「これは……暁鬼さんの『水晶壁』!?」
いかなる攻撃をも防ぐ、水晶属性の大技である。だが、肝心の暁鬼の姿は一体何処に……?
「ま、まさか……」
慌てて周囲を見回すも、暁鬼の姿は何処にも見当たらない。
「何で、何で俺なん……?」
水晶壁が消えた。途端に両脚の力が抜け、西鬼が両膝を床につける。何故実力者の暁鬼ではなく自分が残ってしまったのだろう。これも自分が不甲斐ないせいだと自責の念に囚われる西鬼。
「らしくないやないですか暁鬼さん……。いつもなら、他人なんか放っておくやないですか。何で今回に限って……」
その時、暁鬼の声が聞こえた――ような気がした。「行け」と。
西鬼は立ち上がり、声の限りに叫ぶと、勢いよく部屋から飛び出していった。
轟音が響いた。それは、トレーラー内で待機中のあかね達の耳にも届く程の大きさだった。
「うおおっ!何の音だ!?」
「みんな落ち着きなさい!」
狼唄する面々に向かって、あかねが落ち着くように告げる。
「どうやら屋敷の方で何かあったようですね」
と言う事は結界が弱まったのか?と京極が呟く。
今、高鬼達が戦っている場所は、結界によって外界から遮断されている。音が聞こえたという事は、結界に何かが起きた事を意味している。
「もしそうなら通信が回復している筈」
モチヅキの提案に従い、京極が通信機を動かす。だがしかし、誰一人として連絡はつかなかった。その場に居た全員に嫌な胸騒ぎが走る。
「お前ら何暗くなってんだよ!絶対皆無事で帰ってくるって!」
その場の空気を変えようと、石川がわざと大声を出して気丈に振る舞ってみせるが、皆沈黙したままだった。
(セイキさん、ドキさん……)
まつだけが一人、あまりにもはっきりとした不安を感じ取っていた。
「凄い爆発音と振動でしたね……」
「ああ。……おい、見なよ」
刃鬼が指差す先には一つの扉が。そしてそこからは、実に禍々しい気配が漂ってきていた。
あそこに居る――二人ともそう感じ取るや否や、扉に向かって駆け出していた。
刃鬼が扉を蹴破り、中へと飛び込む。それに続く壱鬼。
そこには、予想通り例の男女が涼しい顔をして立っていた。
「来たね……」
不敵な笑みを浮かべながら、和装の男性が呟く。
「行くぞ!」
問答無用で男女へと襲い掛かる二人。だが、男の放った波動によって壁際へと弾き飛ばされてしまう。
「ならばッッ!はぁぁぁぁ……!」
刃鬼が気合いを込めると共に、室内の気温が上昇を始めた。そして激しい雄叫びと共に、彼の全身の筋肉が爆発的に膨れあがる。
一方、壱鬼も装備帯の「万雷」を高速回転させ、その身に紫電を纏った。
「壱鬼鳴雷!」
「全パワー解放ッ!」
関西支部の中でもトップクラスの二人が見せた本気。だが、それを目の当たりにしてもなお、男女は表情一つ動かさないままである。
「鬼法術・地走り!」
壱鬼鳴雷が床に突き刺した手刀から、高圧電流が男女目掛けて走った。更に刃鬼が渾身の力で床を蹴って跳び掛かる。
電撃が男女を焼き、間髪入れず刃鬼の鉄拳が両者を粉砕した――かに見えた。
「何ッ!?」
手応えがおかしい。まるでそう、蜃気楼でも殴ったかのように。
刹那、刃鬼と壱鬼鳴雷に向かって、死角から実に禍々しい波動が放たれた。回避する事も出来ずに直撃を受けて倒れ込む二人。
波動を放ったのは、あの男女であった。今度は二人共薄笑いを浮かべている。
「画霊と言うものを知っているかい?昨年戯れに作り出してみたものだが、いや、実に役に立ったよ」
見ると、作業机の上で二枚の紙片が煙を上げていた。
その言葉を最後に、刃鬼と壱鬼の意識は闇の中へと沈んでいった。
高鬼が部屋の中に入った時、そこには床に倒れ伏した刃鬼と壱鬼、そして例の男女が待っていた。相変わらず不敵な笑みを湛えながら、男が高鬼に尋ねた。
「君は何故戦っている?」
いきなり予想だにしなかった質問を受け、多少戸惑いを見せながらも、気を取り直した高鬼ははっきりとした口調でこう答えた。
「それは未来のためだ」
「未来?」
「そうだ。所詮我々の戦いなど未来へと繋がる系譜の中での一通過点に過ぎん。だからこそ私は、我々は未来に対して悔いの残らないようにしなければいけない。過去の先達が皆そうであったように……。それが戦う理由だ」
そう言い切り、高鬼が「大明神」を構える。それに対し男は、興味なさそうに「ふぅん」と呟くと、このように語った。
「我々も理由を語ろう。それは――生きるためだ」
「何だと?」
我々は自分達の存在理由に気付いてしまったのよ――そう女が感情を押し殺した声で告げた。
「知らなければ幸せだっただろうが、知ってしまった以上仕方がない。我々は抗わなければならない」
「……貴様等が何を言っているのか、私にはさっぱり分からん」
「別に知る必要は無い」
だがな――そう言うと高鬼は片足を強く前へと踏み出した。
「どんな理由があろうと、貴様等の所業を赦す理由にはならん!この私が成敗してくれる!」
周囲の空気が熱で揺らめく。そして、爆発。机上に積まれていた紙束が、風に舞って部屋中に飛び散った。
灼熱色と貸した高鬼の体に触れた紙が、あっという間に燃え上がり炭と化した。――高鬼紅。
高鬼紅の全身から炎が噴き出した。鬼法術・焦熱地獄。一面火の海と化した室内に退路は無い。
「心中するつもりかしら?」
女のその言葉にも、高鬼紅は全く反応を示さない。ただずっと彼等を凝視し続けている。
「いいだろう。だが我々にはまだ切り札がある。この物語を終焉に導くためのデウス・エクス・マキナが……」
そう言うと男は片手を挙げた。それと同時に、館の外から何やら轟音が響いた。
「貴様、何をした!?」
男女共に、ただにやにやと笑うだけだった。
心配のあまり、じっと待っていられなくなった石川がトレーラーの外に降りていった瞬間、轟音が響いた。
「何が起きたの!?」
あかねにも京極にもモチヅキにも、その場に居た誰にも何が起きたのか把握する事は出来なかった。
と、外から石川の悲鳴が聞こえてきた。慌てて全員が外へと飛び出していく。
そこには……。
「!?」
声にならない悲鳴があかねの口から漏れる。彼等の眼前には――。
大型、等身大混成の魔化魍の大群がこちらへと向かってくる姿があった。
「あわわわ……」
石川が腰を抜かしながら、あかね達の傍へと逃げ戻ってくる。
と、モチヅキが変身音叉を手に、前へと進み出た。
「モチヅキくん、あなた……」
「どうやら四十を過ぎて一世一代の大仕事をする事になりそうです」
あかねに向かって笑顔を見せながら、モチヅキが答えた。
「駄目よモチヅキくん!」
だが、あかねの制止を振りきり、音叉を鳴らしたモチヅキは淡い光に身を包みながら魔化魍の大群へ向けて走り出していった。
「非戦闘要員はトレーラーの中へ!早く!」
「京極先生は!?」
まつの問いに、京極は懐から音叉と大量の式神を取り出してこう答えた。
「僕だって時間稼ぎぐらいにはなるさ。彼等が来るまでの……」
まつの手を引っ張り、勢地郎がトレーラーの中へと駆け込んでいく。
「くそっ、鬼の鎧さえあれば……」
悔しそうに勢地郎が呟く。どんなに鍛えていようと、鬼ではない彼に魔化魍と戦う術は無い。
「おい、あかねさんはどうした?」
息を整えながら石川が二人に向かい尋ねた。


地の巻へ続く
296名無しより愛をこめて:2008/01/01(火) 20:23:16 ID:peeAwXlhO
今まで謎の男女について深く踏み込んで書く人はいなかったと思う。
高鬼SSでそういう話を書くって1年くらい前から言ってて、密かに楽しみにしてた。
要約すると、続きマダ?
297用語集サイト:2008/01/01(火) 21:39:13 ID:xxd3srOJO
あけおめです
年始めからすごいもんを読ませていただいて燃え燃えです
……みんな、死なないよね?
しかしダンピィルに決戦ですか
アルカたんはエピタフの方、ですよね
こういう伏線をきちんと回収するのってなんかいいですね
298名無しより愛をこめて:2008/01/02(水) 16:36:29 ID:phwbOzp80
「Bloody Tears」非常に楽しんで読ませていただきました!!
こういう異国情緒溢れる話が大好きです。
望月鬼の拳が、跳び掛かってくるカジガババアの顔面を殴りとばした。更に掌を叩きつけてくるヤマビコを、軽快な動きで撹乱していく。
「ふう、やっぱり歳には勝てないのかな……」
呪術に長けた鬼ならまだしも、望月鬼にその心得は無い。結果、どうしても肉弾戦が基本となってしまう。
と、音撃鈴を鳴らしながら京極が駆け寄ってきた。彼の打った式神はトレーラーへ向かう魔化魍の足止めを行っている。
「気付いているかね?」
「ええ、こいつら本物じゃないですよ」
京極も望月鬼も、この魔化魍の群れに対して違和感を覚えていた。
「これを生み出している本体が何処か近くに居る筈だ……」
「問題はそれが何処に居るのか……ですよね」
その頃あかねはトレーラーの外で一心不乱に祈っていた。祈ればどうにかなるわけではない。科学者として実に非合理的な考えである。だがしかし、今はそれ以外に何をすれば良いのか彼女には分からなかったのだ。
「あかねさ〜ん!」
トレーラーの中から、勢地郎達が降りてきた。そしてあかねをトレーラー内に連れ込もうとする。その時。
上空からバケガラスが襲い掛かってきたのだ。勢地郎達が悲鳴を上げる。
だが、怪鳥の爪があかね達を引き裂く事は無かった。ぎりぎりのタイミングで、飛び出してきた人物の斬撃がバケガラスを撃退したのだ。
「あなた……」
あかねには、目の前に立つ人物が手にした音撃弦に見覚えがあった。忘れもしない、あれは自分が四国へと出向するコウキに餞別として渡したものだ。
――音撃弦・宵闇。
「あなたね、コウキくんがよく話してくれた……」
「へっ」
弦の鬼は、照れ臭そうに鼻を擦る仕草をすると、魔化魍の群れに向かって高々と名乗りを上げた。
「名乗る程の者じゃねえが名乗らせてもらうぜ!俺は霧咲鬼!行くぜお前等、俺に続けぇぇ!」
その声と共に、日本全国から集まった猛士の精鋭達が、一斉に鬨の声を上げた。
「太鼓を鳴らせ!笛を吹け!今日は祭りだ、生命を燃やせぇぇぇ!」
霧咲鬼が「宵闇」を派手に掻き鳴らした。
お祭り忍者(イメージソング)
作詞 原六朗、荒木とよひさ  作曲 原六朗、馬飼野康二  歌 忍者


火の祭り 恋祭り 男なら粋に
め組だぜ 江戸っ子は ちょいと馬鹿で惚れっぽい
酒太鼓 笛太鼓 命までさわぐ
一番のりだ おくれをとるな
ヘイ!ヘイ!ハッピが燃えてるぜ
一丁やってやろか ゴロまいてやろか
ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!
ソレ ソレ ソレ お祭りだ
次に、あかね達に向かってバケネコとカシャの群れが襲い掛かってきた。だが。
「チェストォォォォ!」
突然前へと躍り出てきた鬼の一撃が、群れを弾き飛ばした。闇月鬼だ。
物凄い唸り声を上げて威嚇してくるバケネコ達に向かって、闇月鬼が告げる。
「ははは、まだ相手をしてもらいたいか?いいだろう、示現流・雲燿の太刀、とくと味あわせてやる!」
無事かと尋ねる霧咲鬼に向かって、あかねがこれは一体どういう事かと尋ねた。それに対し霧咲鬼は。
「一つは総本部長の緊急召集命令。で、もう一つが……」
と、上空から何やらけたたましい音が響いてきた。ヘリだ。ソ連製の多目的輸送ヘリ、ミルがこちらへ向かって飛んできている。そしてそれに乗っているのは……。
「叔父さま!?」
「わははははは!こんな事もあろうかと各支部の精鋭を待機させておいて正解だったわい!」
ロマンスグレーの髪を後ろで束ねた、精悍な顔つきをした老科学者。猛士総本部先代開発局長の叔父さま(本名不明)その人であった。
「あかねー、無事かー!?ここは我々に任せておけい!尤も今回は人型兵器を持ってきてはおらんがな!」
「叔父さま……」
と、闇月鬼の攻撃を躱して何体かのバケネコとカシャが勢地郎達に向かって駆け出していった。だが、その前に飛び込んできた弦の鬼により、全員薙ぎ払われてしまう。
「隆鬼くん!」
昇り龍が刻まれた特徴的な音撃弦を持った鬼――隆鬼だ。
「ご無沙汰しております、あかねさん」
あかねに向かって一礼すると、隆鬼は闇月鬼の隣に並んで弦を構えた。
「お前、大地割りは出来るか?」
「当然」
その返事に気を良くした闇月鬼は、自身の音撃弦・風邪を上段に構えた。隆鬼もそれに倣う。二人の鬼が同時に放った斬撃が、大地を割り、眼前の魔化魍の群れを地割れの中へと呑み込んでいった。
しかし上空からも魔化魍の攻撃は続く。トレーラーの真上からイッタンモメンが急降下して襲い掛かってきた。だが。
「鬼闘術・白金世界!」
その声が響くや否や、イッタンモメンの巨体が空中で爆発四散した。そしていつの間にか、音撃管を構えた長身の鬼があかね達の傍に立っていた。
「承鬼くん!助かったわ!」
「……やれやれ、数が多いな。だが今日は全国の鬼が集結しているんだ。負ける気がしねえぜ」
そう呟くと承鬼は音撃管・星屑を空に向けて発砲し始めた。
「こりゃすげぇや。まさに祭りだな……」
目の前で魔化魍と死闘を繰り広げる鬼達の姿を目の当たりにし、石川が感嘆の言葉を口にする。
と、突如彼等の足下からライジュウが飛び出してきたではないか!ライジュウが雷鳴の如き雄叫びを上げる。
「うわ〜、まつぅ!」
これによって、まつ一人が勢地郎や石川と分断されてしまった。ライジュウには隆鬼が向かって言ったが、一人になった彼女を狙って牙を剥いたムジナが襲い掛かる。
まつが頭を抱えて蹲った刹那、何かがムジナの首に巻き付いた。
鞭だ。次いで高笑いが聞こえてくる。
「ははははは……!ズバッと参上、ズバッと解決。人呼んでさすらいのヒーロー!風向鬼!」
お約束の口上と決めポーズの披露を終えた風向鬼が、鞭を絞めあげた。ムジナの口から悲鳴が漏れる。
「大丈夫か、お嬢さん」
「は、はい!有難う御座います」
「さて……百鬼夜行ども!全員夜の闇へと送り返してやる!」
そう言うや否や、風向鬼は鞭を大きく振るい、ムジナを投げ飛ばしたのであった。
一方、他方では。
「狙撃鬼は後方支援!毒覇鬼、杯鬼、霊鬼、殺鬼は陣形を組み私に続け!」
「タクティクスD発動!石蕗鬼、雪椿鬼、鬼灯鬼、行くぞ!北陸支部に遅れを取るな!」
滅鬼、花水鬼がそれぞれの支部の鬼達に指示を飛ばす。統率された二つの支部の鬼達が一糸乱れぬ動きで行動を開始した。
北陸支部の面々の前に立ちはだかったテングが、眉間を吹き飛ばされて後方に倒れ込む。
「相変わらず良い仕事をしますね、狙撃鬼は」
「あの、毒覇鬼さん。何故私までこんな大きな戦いに参加しているのでしょう……?」
毒覇鬼に頭を鷲掴みにされて引きずられながら、彼のサポーターの葛木弥子が尋ねる。それに対し毒覇鬼はさらっと一言。
「弾除け」
「あ、ですよね、やっぱり……」
弥子を掴んだまま、毒覇鬼は仲間達と共に魔化魍の群れへと突撃していくのであった。
さて、中国支部の方はと言うと、全員が利き手に音撃棒を持ち、もう片方の手には音撃鼓をまるで陣太鼓のように提げていた。それを四人が一斉に打ち鳴らしながら、魔化魍の群れの中を駆け抜けているのだ。
音撃の共鳴によって生まれた衝撃波が、近寄る魔化魍の群れを弾き飛ばしていく。昨年の対ジャミ戦を参考にし、花水鬼が戦術として取り込んだのだ。
脚に傷を持つ石蕗鬼のペースに合わせているとは言え、この四人の行動は魔化魍の群れを撹乱するのに充分であった。
オオアリの顔面に「宵闇」を叩き込んだ霧咲鬼の横に、紺碧鬼と盃鬼が駆け寄ってきた。
「ここは俺達に任せて、お前は行け!」
「行くって何処へ!?」
「この奥の屋敷よ。高鬼さんの友達なんでしょう?行ってあげて。既に他の支部で縁のある人達も向かっているわ」
その言葉通り、屋敷には向月鬼、恋鬼、影鬼、そして斬鬼が先行していた。
「私達も後から向かうから。早く!」
「……分かった。ここは任せたぜ!」
そう言い残すと霧咲鬼は屋敷の方へと駆け出していった。
また、闇月鬼と隆鬼のもとには唐鋤鬼が加勢に来ていたのだが、そんな彼を捕まえてあかねとまつが質問をしていた。
「あなたなら知っている筈よ、唐鋤鬼くん。昨日ドキくんに掛かってきた電話の内容を……」
それに対し唐鋤鬼は一瞬躊躇いを見せたが、すぐに気を取り直してこう告げた。
「悪い卦が出た。特にあの二人組に。私が影鬼にその事を知らせたら、何とかしてくれと頼まれ、それで仕方無く術を一つ教えたに過ぎない……」
「術……?」
だが唐鋤鬼は、そのまま黙して何も語らなかった。
火の海の中で、男女と高鬼紅の会話は続いていた。
「止められると?」
「ああ、止めてみせるさ」
ふいに、男が大きな声で笑いだした。
「君は実に面白い。やはりあの時三輪山で見逃しておいて正解だったよ」
そう言うと男が手を叩いた。ぱんっ、という乾いた音が鳴り響く。
突如として屋敷を大きな揺れが襲った。
「君達が止められると言うのなら、それもいいだろう。一つ賭けてみたくなった」
「どういう意味だ!」
その時、蹴破られ壊れたままの扉から、威吹鬼が中へと飛び込んできた。利き腕を庇うように押さえている姿が痛々しい。
「威吹鬼!無事だったか」
「何とか……。それより脱出を!」
慌てて男女の方を振り向く高鬼紅。男女は、攻撃を仕掛ける気も逃げる気も全く無いようだった。
「行くがいい。だが、我々の用意したデウス・エクス・マキナは一筋縄ではいかないよ……」
天井が崩れ落ちた。それによって男女の姿が高鬼紅の視界から消えてしまう。
「……行くぞ。刃鬼さん達を運ぶのを手伝ってくれ」
高鬼紅が刃鬼を、威吹鬼が壱鬼を背負いあげた。
次の瞬間、屋敷が轟音と共に崩壊した。
次々と襲い掛かってくる魔化魍の群れを、音撃棒・海人弍式で薙ぎ倒しながら向月鬼が叫ぶ。
「どうした!てんで歯応えが無いではないかッ!」
「そりゃそうさ。再生怪人が弱いってのはお約束だからな!」
ウシオニに音撃斬を決めながら、斬鬼がさも当たり前と言わんばかりにそう告げた。
「刃鬼ィィッ!お前を倒すのはこの私だ!私以外の者にやられたら承知せんぞぉッ!」
「高鬼は〜ん、壱鬼は〜ん!無事でいておくれやす!」
向月鬼と恋鬼が、館に向かってそれぞれ声の限りに叫んだ。そして影鬼も。
「怒鬼ぃぃ!私は、私は……!」
次の瞬間、屋敷を中心に大きな地響きが起きた。そして彼等の目の前で、あっという間に屋敷が倒壊する。
「おい、崩れたぞ!」
「見れば分かるッ!」
そこへ漸く霧咲鬼が駆け付けた。
「おい、何が起きてる!?」
「よう、久し振りじゃん。さっきの啖呵、格好良かったぜ」
「うるせえ、挨拶してる場合じゃねえだろうが!それより高鬼はどうした!?」
と、瓦礫の山の中から何かが起き上がってきた。
瓦礫を掻き分け、音撃弦を握った手が、次いで上半身が飛び出してくる。西鬼だ。
「はあ……死ぬかと思うた。部屋から飛び出した途端に屋敷が崩れるなんて、一体何が……ん?」
何やら視線を感じた西鬼が上方を見ると、そこには西鬼を見下ろすかのように立つ巨大な魔化魍の姿があった。
「うわあああ!何やこいつは!」
慌てて全身を瓦礫の中から引きずり出す西鬼。
その魔化魍は、全身を光り輝く体毛に覆われた、巨大な狐の姿をしていた。だがずっと両目を閉じており、こちらに攻撃をしてくる気配が全く無い。
冷静さを取り戻した西鬼の脳裏に、昔耳にしたとある魔化魍の名前が浮かび上がる。
――金毛玉面九尾の狐。
「冗談やろ?これがほんまにキュウビやったとしたら……」
キュウビとは嘗て印度、中国、日本の三国を荒らしまわった稀代の化け物である。戦乱を好み、強大な神通力を持つとされる。
「……いくらあいつらでも、こんなん制御出来るわけが無い」
しかし、西鬼の眼前に今立っている魔化魍は、どう見てもキュウビである。その姿は、当然ながら遠方の霧咲鬼達にも確認する事が出来た。
と、キュウビが目を開いた。それと同時に今まで鬼達と戦っていた魔化魍の群れが、まるで霞のように掻き消えてしまう。全てはキュウビの神通力が成せる技だったのだ。
「本体が現れたか」
「僕達も行きましょう!」
京極と望月鬼が屋敷の方へと駆けていく。戦いを続けていた鬼達もまた、一斉に屋敷の方へと向かっていった。その中には、あかねや勢地郎達の姿もあった。
キュウビの全身から瘴気が吹き出した。それに対し、西鬼が鬼法術・高気圧を放ち吹き飛ばす。だが。
「俺一人じゃ捌ききれん!」
瘴気が周囲へと拡散していく。それを浴びた植物が、瞬時に枯れて朽ち果てた。
「あかん!」
その時、キュウビの背後からも強風が巻き起こり、瘴気を掻き消した。威吹鬼だ。その傍らには高鬼、刃鬼、壱鬼も立っている。
「これは……キュウビか!?あの連中が言っていたのはこいつの事だったのか!?」
高鬼が驚きの声を上げる。
「高鬼さん、キュウビって……」
「ああ。肉体は那須原の殺生石に転じているが、魂は日本各地に分散して封印されているというあれだ。……そうか、あの連中がやけに各地で暗躍していると思ったら、キュウビの魂を回収するためだったのか!」
「しかし殺生石に何かあっただなんて話、聞きませんよ?それにどうやってあんな大物を制御していると言うのです!?」
と、キュウビが唸り声を上げた。だが、当のキュウビの口は閉ざされたままだ。しかもこの声、高鬼達には聞き覚えがあった。忘れもしない、これは昨年――。
と、キュウビの背中が盛り上がってきた。膨れあがった背中が徐々に人型を成していく。そして。
「高鬼さん、あれ!」
壱鬼が驚きの声を上げる。
キュウビの背から生えたそれは、古めかしい甲冑を纏い、二つの顔、四本の腕を持ったそれは――。
「スクナオニ……」
昨年、京都で高鬼達が苦労の末退治したスクナオニだった。
「スクナオニをキュウビの肉体に仕立てあげたのか!制御もあれに任せてあるのだな!」
それは、キュウビとスクナオニの両方を相手にしなければならない事を表している。その場に居た全員の脳裏を「絶望」の二文字がよぎった――かに見えた。
「高鬼くん、聞こえるかね!?」
ふいに上空から高鬼を呼ぶ声が聞こえた。
「叔父さま!?どうしてあなたがここに!?」
叔父さまだ。ヘリに乗った叔父さまが、拡声器を使って高鬼に話し掛けてきている。
「そいつはキュウビじゃな。またしち面倒臭いもんが出てきたもんだわい」
「あの連中にとってのデウス・エクス・マキナだそうです」
「何?デウス・エクス・マキナじゃと?」
突然、叔父さまが高笑いを始めた。
「安心せい、高鬼くん。こんな事もあろうかと、実は私もデウス・エクス・マキナを用意してきておいたのじゃよ!」
「何ですって!?」
そう言うと叔父さまは、ヘリのパイロットに何か指示を出し始めた。次いで、ヘリから何か大きな物が吊り下げられる。
それは、大きな鏡だった。
「鏡……?」
「まさかあれは……照魔鏡か!?しかしあの大きさ、以前見た物とは桁違いだぞ」
照魔鏡とは、魔の正体を明かし、更にその力を封印する事が出来る呪具である。
「その通りぃぃっ!これだけの大きさの照魔鏡を探すのは、流石の私でも苦労したぞ。こればかりは一から作る訳にはいかんからのぉ!」
突然、上半身のスクナオニと下半身のキュウビが同時に吠えた。咆哮が空気を震わせ、ヘリから下げられた照魔鏡を揺らす。
叔父さまが指示を出し、ヘリがキュウビの正面へと回り込んだ。鏡面にキュウビの全身像が映る。
刹那、眩い光が照魔鏡から放たれ、キュウビを襲った。先程以上の絶叫が上がる。
「吸いとっているのか、力を……?」
閃光から目を守りながら、壱鬼が呟く。
「ようし、いいぞ!」
ノリノリで叫ぶ叔父さま。だが、突然ピシッという音が周囲に響いた。照魔鏡に皹が入ったのだ。それと共に光も消えてしまう。
「うぬぬ!この大きさの照魔鏡でも駄目かぁ!」
サングラスをヘリの床に叩き付けながら、叔父さまが悔しそうに叫ぶ。
「だが!」
キュウビの様子を確認すると、叔父さまは地上に居る高鬼達に向かって拡声器で叫んだ。
「奴は今ので力の大半を持っていかれた筈!今なら君達の音撃の共鳴で倒せるぞ!」
あまりの大声にハウリングが起きるが、確かに叔父さまは「倒せる」と断言した。
「通常音撃で清められる?あれを?」
壱鬼が信じられないと言った風な声を上げる。しかし既に高鬼、刃鬼、西鬼の三人はキュウビの体に取り付いていた。
「やりましょう。今はそれしか方法が無い」
ありったけの鬼石をキュウビに向けて乱射しながら、威吹鬼が告げた。その言葉に壱鬼も駆け出し、キュウビの体へと「万雷」を貼り付ける。
「しかし……たった五人でこの巨体を清めきれるのですか!?」
京都の時と違い、五人共著しく体力を消耗している。特に高鬼と壱鬼は、既に強化形態を使用済みだ。
「それでもやるんだよ!足りない分は気合いでカバーだ!」
「ここにきて精神論ですか!?」
「否、あと二人居るぜ」
と、誰かが壱鬼の横にやって来て、キュウビの巨体に音撃弦の刃を突き刺した。
「聖鬼さん!」
「よお、お待たせ」
怒鬼もまた、高鬼の隣に並び音撃鼓・血風を貼り付けていた。
「怒鬼、お前……」
怒鬼の手の甲に刻まれたものを目にし、高鬼が口を開く。が。
「……」
何も聞いてくれるな――そんな雰囲気を纏わせている怒鬼に対し、高鬼は何も言う事が出来なかった。
「よっしゃ、行くでぇぇ!」
西鬼の掛け声と共に、関西支部の七人が一斉に音撃の演奏を開始した。全身全霊の音撃が、屋敷址に鳴り響く。
悲鳴を上げ、暴れ回るキュウビ。土砂が巻き上がり、大地が激しく揺れる。
「見てらんねえ!俺も加勢に……」
「待てッ!下手に近寄ると我々の身が危ない。そうなっては、今音撃を決めている最中の彼等にも迷惑が及びかねんッ!」
逸る霧咲鬼を向月鬼が制した。
「けどよぉ……」
「信じようぜ。あいつらが信じるに値する奴等だって事は、俺達が一番よく知っている筈だろ?」
そう言って斬鬼が霧咲鬼の肩に手をやった。恋鬼も、影鬼も逸る気持ちを抑えて成り行きを見守っている。
だが案の定、七人だけの音撃では決定打に欠けていた。かと言って、これ以上続けるのは体力的に危険だ。特に腕を痛めている威吹鬼は、今にも音撃管を取り落としそうに見える。
「あと少し、あと少しで届くのに……」
「剣心」を掻き鳴らしながら、西鬼が悔しそうに呟く。
と、無数の鬼石がスクナオニの部分に撃ち込まれた。驚いて西鬼が鬼石の飛んできた方に目を向けると。
「ああ……!」
そこには、満身創痍で立つのもやっとの状態の筈の暁鬼が、音撃菅を構えて立っていた。
「暁鬼さん!」
「仮面ライダーってのは絶対に死なない……そういうものなんだろ?」
「そ、そうや!仲間のピンチに颯爽と駆け付ける、それが仮面ライダーやで!」
暁鬼が「水晶」に音撃鳴・燦然を装着し、口へと当てた。
行ける!

「あと少しだ、気合い入れて行くぞ!音撃打・炎舞灰塵!」
「音撃打・電光石火!」
「音撃打・影駭響震!」
「国士無双の型ァッッ!うおおおおッッッ!」
「音撃射・疾風一閃!」
「音撃射・雲散霧消!」
「音撃斬・快刀乱麻!」
「音撃斬・白い奇蹟!さっさとくたばりやがれぇぇ!」

八人の音撃が共鳴し合い、一つの大きなうねりとなってキュウビを包み込んだ。
「すげぇ……」
あまりの迫力に圧倒される霧咲鬼達の下へ、紺碧鬼や京極、あかね達が漸く辿り着いた。誰もが固唾を呑んで高鬼達の戦いを見守り続ける。
そして。
大爆発が起きた。あの男女が悪意の粋を込めて創り上げた合成獣は、聖なる旋律と正しき想いの前に、塵芥と化し大地へと還っていったのだ。
「高鬼くん!」
あかねが叫ぶ。あの巨体が爆発したのである。その爆心地に居た八人はただでは済むまい。最悪な可能性も充分にある。
その時。
粉塵舞い散る中から、五つの影が浮かび上がってきた。徐々にその姿が鮮明になってくる。そこに立っていたのは、高鬼、威吹鬼、刃鬼、西鬼、壱鬼の五人だった。
歓声が上がった。先程の音撃にも、キュウビの爆発音にも負けないぐらいの歓声が。
「いやっほぉ〜!やったじゃねえか、アミーコ!」
「高鬼はんも壱鬼はんも惚れ直したわ〜!」
斬鬼と恋鬼が真っ先に彼等の傍へと駆けていく。
「あっ!お前は斬鬼!何しに来た!?」
「げ、恋鬼さん!?」
突然の闖入者に驚きを隠せない二人。他の支部の鬼達も、勢地郎達サポーターや望月鬼も、彼等五人の傍に駆け寄っていった。これから胴上げでも始まらんばかりの勢いだ。
「な、言っただろ?俺、今年の初詣で良い年になるようにお願いしたって!」
さも自分のお蔭と言わんばかりに、闇月鬼が九州支部の仲間に大声でそう言い始めた。
「あら?霧咲鬼さん、何処へ行くの?」
紺碧鬼が、輪に加わろうとせずにその場から立ち去ろうとする霧咲鬼へと声を掛ける。
「高鬼さんに会ってあげないの?」
「何つーのかな、会ったところで何をすれば良いのか分かんないっつーか……。兎に角、今はまだ時期じゃねえ」
「ふふ……分かったわ。高鬼さんには私の方からそう告げておくわね」
霧咲鬼は「宵闇」を背中に担ぐと、後ろを振り返る事無くそのまま立ち去っていった。
一方、影鬼は一人怒鬼の姿を探し続けていた。ついさっきまで音撃を決めていた彼の姿はもう何処にも無い。彼の相棒である聖鬼の姿も見当たらなかった。
と、地面に見覚えのある物が落ちていた。怒鬼の音撃鼓と音撃棒だ。少し離れた場所には聖鬼の音撃弦も落ちている。そして――。
「!……おい、誰か来てくれ!」
そこには、全身の変身を解除した状態で倒れているアカツキの姿があった。全身に傷を負い、呼吸も弱々しく、今にも逝きそうな状態である。
「あかん!アカツキさんの事忘れとった!」
慌てて彼の下へ駆け寄ろうとする西鬼を押し退け、望月鬼がアカツキの傍へとやって来て脈を取る。
「……非常に不味い状態だ。ヘリを、ヘリをこちらへ!」
叔父さまの乗ったヘリが、望月鬼の傍へと降下してくる。その様子を見守る高鬼の傍に近付いてきたあかねが、こう尋ねた。
「高鬼くん、今こんな事を聞くのも場違いかもしれないけれど……彼等の目的は一体何だったの?」
「……さあ。『生きるため』と言っていましたが……」
「生きるため……?」
「最後までよく分からない連中でした。まあこれで暫くは魔化魍の発生も減少する事でしょう」
生きる事と魔化魍を生み出す事にどんな因果関係があるのか、高鬼には全くもって分からない。きっと我々には一生分からないのではないか、そう思う高鬼であった。
少し離れた位置から、一切合切を傍観していた影が二つ。シルクハットに燕尾服の男と、パラソルを差したドレスの女。西洋で暗躍している例の男女だ。
「あれの不幸は、自分達の存在意義を知り、あまつさえそれに疑念を抱いた事……」
オペラグラスを覗き込んだまま、女がそう呟いた。
「だから造物主である私達に反抗しようと、勝手に行動した挙句あんな魔化魍まで用意して、果てた」
女の台詞には嘲笑が混じっている。
「お馬鹿さん……」
「どうせそろそろ交換の時期だったしね。まあ、次からはもっと御し易くなるよう、調整が必要かもね」
行こう、そう告げて男が踵を返した。女もそれに続く。
どこかの研究所、その一室。大きなフラスコのような物に入れられた一組の男女の姿があった。暗闇の中、不気味な光を放ち続ける容器の中で、静かに男女の両目が開かれた。
イブキはこの戦いで腕を痛めた事が原因となって、出撃回数がめっきり減り、半ば引退状態となってしまった。息子が二歳になるや、急ぐようにイブキの名を譲ったのはこういう事情があったのだ。
アカツキはあの後緊急手術を受けたが、容態は一向に回復せず、意識不明の重体のまま秋田の実家へと戻っていった。その後、関西支部の面々で彼に会った者は誰一人として居ない。その生死も不明である。
ドキとセイキは、その後の必死の捜索にも関わらず、発見される事は無かった。だが、関西支部の面々は誰もが、この二人がいつかひょっこりと帰ってくるのではないかと信じて疑わなかった。
バキは80年代に入り、魔化魍の出現傾向が減少すると、猛士を辞めて海外へと旅立っていった。餞別として譲り受けた愛用の音撃鼓と音撃棒、変身音叉を手に。目的は勿論、父親を止めるためである。
ニシキは暫くの間は石川と共に猛士の一員として活動していたが、ある日二人揃って辞表を提出し、そのまま流浪の旅に出てしまった。西鬼の名を継ぐ者が急にいなくなったため、一時期総本部では後継者問題で連日会議が開かれたとか。
イッキはその後めきめきと頭角を現し、関西支部最強の鬼として長い間最前線で戦いを続けた。引退後はトレーナーとして若手の育成に執心し、壱鬼の名もその際に見どころのある人物へと譲っている。
コウキについては読者の皆様もご存知の通り、あかねの後を継いで開発局長となり、その後も活躍している。日々研鑽を積み、とうとう大日如来が司る大宇宙のパワーを言霊に込められるようになったとか……。
時代は流れる。戦いの系譜は続く。そして……。 了
316高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2008/01/02(水) 23:25:12 ID:rxp3n0wS0
再度言っておきますが、これは最終回ではありません。
最終回は時間軸を現代に移したものとなります。

え〜、色々不満もあるでしょうが、これで70年代の戦いはひとまず決着という事にさせていただきます。
風呂敷を畳める範囲にした結果がこれです。どうかご容赦ください。

たぶん気になっているであろうドキとセイキの行方についてですが…希望的観測を書かせていただきますと
歴代仮面ライダーシリーズでは死体があがらない場合、高確率で後から戻ってきます。
1号2号しかり、ライダーマンしかり、ギルスしかり、橘さんしかり。
それにドキとセイキが自らに施した「術」が何なのか、劇中では明確にしていませんし…。
まあ、全ては読者の皆様の想像にお任せいたします。

今後に関しては
・今回の話の後日談
・以前スレで少し触れた戦国時代の話
・某踊るみたいなスピンオフ作品(具体的には百物語の時みたいな感じ)
これらのどれかをやって最終回という流れになるのではないかと考えております。

仮面ライダー響鬼という作品は、スタッフが遊べる要素をいっぱい残していっているので、何かネタを拾えばいくらでも書けます。
関西支部でもまだ使っていないネタとして、奈良のかぐや姫伝説や京都貴船神社の伝説など色々ありますし。
それらのネタもいずれ使えたらなぁと思っております。

それでは今回はこの辺で。長文すみませんでした。
317名無しより愛をこめて:2008/01/02(水) 23:36:11 ID:LJmDnDYB0
>高鬼SS作者様
投下乙でした。
広げた風呂敷をまとめるのは大変なんだなぁと改めて思いました。
最終回まであと少しということになってしまい、淋しい気がします。
まずは今回もGJということで。

ちなみにあの「術」、「アレ」だなと思った僕はヤな奴です・・・。
318名無しより愛をこめて:2008/01/03(木) 01:35:00 ID:bDpxzoaN0
>「だから造物主である私達に反抗しようと、勝手に行動した挙句あんな魔化魍まで用意して、果てた」
(・∀・)!
>「仮面ライダーってのは絶対に死なない……そういうものなんだろ?」
( ;∀;)
>「怒鬼ぃぃ!私は、私は……!」
(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:
>お祭り忍者(イメージソング)
( ゚д゚) ……
319名無しより愛をこめて:2008/01/05(土) 10:47:50 ID:tF3DlQxs0
装着変身SERIES 仮面ライダーコウキ
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 新可動素体で迫力の劇中ポーズを再現せよ!
 付属品:変身音叉、音撃棒・大明神、音撃鼓・紅蓮、ディスクアニマル


S.I.C. 仮面ライダーザルフ
 (2008年3月発売、4,200円)
 大胆なパーツ換装で「鬼」と「ウルフ」の2形態を再現可能!
 付属品:変身鬼弦、音撃弦・烈雷、音撃震・雷轟、
     音撃棒・斗雷、音撃鼓・雷王、音撃弦ミカエル、ディスクアニマル
320名無しより愛をこめて:2008/01/05(土) 18:07:17 ID:YfDwoX8Q0
>>319
警策は付属するの?
321弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:10:22 ID:9wyfKn890
森林/
勝鬼・闘鬼と分かれた弾鬼は木々の間を飛び跳ねて移動していた。
みどりと明日夢を探すにも、手がかりが何も無い。
『みどりちゃ〜ん!明日夢〜!』
先ほどから・・・いや、行方不明の話を聞いた時から・・・弾鬼にはある嫌な記憶が甦り・・・それを思い出さないように必死に声を出しながら二人を探していた。
『っくしょう!これじゃ・・・あの時と同じじゃねぇかよ!』
思い出さないようにすればするほど・・・・・・・強く甦ってしまう記憶。

『桜鬼さんっ!!何処ですかっ!生きてるなら・・・返事してくれよ!!』

まだ・・・弾鬼の名を貰うより前・・・大輔変身体は、今と同じような深い森を駆け回っていた。
オウキという東海支部所属の鬼が魔化魍退治に向かったまま消息を絶った時の事・・・
探せど探せどその姿は何処にも無く・・・木々を駆け抜けようやく見つけた唯一の物・・・それは血に濡れた変身音叉と、鬼石が砕けた音撃棒だった。

その時と同じ様に森を駆け抜ける弾鬼。
もし・・・視界に移りこんでくる風景に、二人が所持していたものに・・・真っ赤な血が付着していたら・・・・
そう考えた瞬間、弾鬼は木の枝を踏み外し、地面に激突してしまった。
枯れ葉や土に埋もれた顔を起こす事無く・・・・
『くそっ!同じじゃねぇ!同じにしてたまるか!』
そう吼えると、身体を起こし、再びその場から駆け出した。
322弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:11:25 ID:9wyfKn890
甘味所たちばな/
弾鬼たちが捜索を開始し、それとほぼ同時にたちばなへと向かった千明達は、車を疾走させ漸くたちばなへと到着した。
中から勢地郎と日菜佳・・・そして待機中のバンキが現れ、未だ苦しげに呻き声をあげるヒビキを部屋へと移した。
医師の診察を受けている間、千明はダンキから預かった0番ディスクを起動させるべく表へ出ようとした。
「安藤さん」
と、そこへバンキの声が千明を呼び止めた。
振り返るとバンキは二階の階段から下りてくる所だった。
千明の前に立ち、そこでバンキは千明が手にしているディスクに初めて気がついた。
「それは?」
「え、これ?ダンキ君から預かった0番のディスクよ。たちばなに着いたら飛ばせって言われてて・・・そうしたら安心できるからって言ってたわ」
「では、そのディスクはダンキさんのディスクなんですね・・・もしかしたら・・いけるかもしれない」
顎に手をやり何事かを考え出すバンキの姿に、千明は困惑しつつも問い掛けた。何がいけるかもしれないのか・・・と。
「ヨブコ・・・今回の魔化魍が発する音撃を無効化するバリア・・・のような物に対する秘策です・・・確証はもてないのですが、もしかしたら・・・と言える仮説があるんです。それをダンキさんに伝える事が出来るなら・・・鬼が一箇所に集まっていれば可能と思えるんです」
「じゃ、このディスクにそれを録音して飛ばせば・・・」
「えぇ、ダンキさんが魔化魍と遭遇しても勝機が見出せると思います。安藤さん、ディスクを貸していただけますか?」
323弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:11:51 ID:9wyfKn890
千明は後生大事に持っていたディスクをバンキへ手渡した。
バンキは腕に巻かれている鬼弦にディスクをセットしながら呟いた。
「僕がその仮説にたどり着いた時には、もうダンキさん達は捜索を開始していましたから・・・追いかけてでも伝えるべきかどうか皆さんと話し合っていたんです」
・・・ダンキさんの機転に感謝ですよ」
そう言ってバンキはダンキ宛のメッセージ・・・対ヨブコ用の秘策を紡ぎ出した。
それは、音撃というものに精通していない千明が聞いても秘策と言うにはあまりに『力押しな』内容だった。
録音を終えたバンキはディスクを取り外し千明へと返した。受け取った千明は頷いて起動音叉取り出すと、チィン・・と言う子気味良い音を響かせた。
その音を切っ掛けに0番は起動し、ようやく日が昇り始めた空へと飛翔した。
「あとは・・ダンキさんを信じて待ちましょう・・・」
「そうですね・・・でも、あんな力任せな方法で大丈夫なんですか?」
千明は先ほどのバンキの秘策の事について問い掛けた。
「力任せ・・・ですよね。当然です、この秘策のヒントをくれたのはダンキさん本人なんですから」
バンキはそう言うと、軽く微笑むのだった。
324弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:12:29 ID:9wyfKn890
森林/
ようやく空に日が昇り、木々の間から僅かに日が射してきた頃、捜索を続けていたダンキの目の前に魔化魍ヨブコが現れた。
否。現れはしたが、ヨブコ自身はダンキには気が付いていない様子だった。
『お出ましか・・・俺がここで食い止めときゃ、みどりちゃんと明日夢が餌食になるのは避けれるってことだよな・・・なら!』
ダンキはDAホルダーから二枚の0番ディスクを取り出し、
『ヨブコと遭遇した!俺が相手をするから、二人の捜索を頼む!』
素早くメッセージを録音させると、その二枚を宙へと投げ放ち飛翔させる。
そして・・・
『行くぜ!』
装備帯から音撃棒・那智黒を引き抜くと・・・
『おりゃぁ!!』
裂帛の気合と共に魔化魍ヨブコへと突進した。
視界に映る風景が捜索していた時とは比べ物にならない速さで後方へ流れ、ヨブコの姿が眼前一杯に広がると同時に、
『せいやぁりゃぁ!』
両手の音撃棒を叩きつけた―――が、
『ンだとぉ!?』
童子と姫ならば一撃で葬れるほどの一撃はヨブコに当たる直前・・・何も無い中空でピタリと静止していた。
魔化魍ヨブコ。見た目は二足歩行のワニのような姿に白蛇が巻き付いている姿の、等身大魔化魍である。
一見、鈍重なように見える姿だが・・・
『うぉぉっ!?』
意外にも機敏な動きで回転し、その尾で弾鬼を吹き飛ばす一撃は限りなく重い一撃だった。
樹木を薙ぎ倒し・・・地に伏す弾鬼は、
『なるほど・・・響鬼さんが苦戦するはずだわ』
首をコキコキ鳴らしながら立ち上がると、今度は木に飛び乗り更に跳躍!そして、
『うっりゃぁぁぁ!』
蒼い流星となってヨブコへと肉薄した。
325弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:12:59 ID:9wyfKn890
鬼闘術・流星脚。
弾鬼の最も得意とする鬼闘術を繰り出すも、やはり先ほどと同様に届ききる前に中空でその動きを止められた。
物理法則で在り得ぬ空中静止から着地するも、間髪居れずに音撃棒を振るい、あるいは鬼法術・石錐を繰り出すも全て何一つヨブコに触れる事は無かった。
『ンならぁ!』
再びヨブコに接近し、音撃鼓・御影盤を張り付け・・・
『音撃打・破砕細石の型!うぉぉりゃぁ!』
音撃を見舞うも先ほどと同じ・・・弾かれるのみだった。
そして・・・ヨブコの鋭い爪が弾鬼の身体を引き裂き、大地に叩きつけた。
『がっ・・ゴフッ・・・』
弾鬼自身・・・この一撃を喰らうまでは、響鬼が負けたのは響鬼自身の体調不良であるとか、何か別の理由であると思っていた。
もちろん、音撃が通用しないという事は勢地郎から聞いていたが、それを差し引いても・・・響鬼ならば何かしら起死回生の案を見つけ出す筈だ・・・と。
だが、音撃はおろか通常の攻撃すらも無力化され、挙句この一撃。
一撃が弱いのなら、まだ持久戦も可能ではあっただろうが、敵の一撃は余りに重い一撃だった。
そしてこの一撃を以って漸く―――このヨブコが自分の手に負えない程の強敵である事を自認したのだった。
『あぁ〜もう!闘鬼さん!勝鬼!早く二人を見つけてくれよ・・・』
手に負えないことは自認したが、それが戦意を喪失し逃げ出す事の言い訳にはならない。
ヨブコは口からダラダラと涎を垂れ流しゆっくりと歩みを進めて来る。
弾鬼は気合を入れて傷を塞ぐと同時に飛び上がり、手近な木に飛び乗った。そして・・・
『行くぜぇ!』
飛び降り、一撃を入れて再び跳躍し木々を渡る。
弾鬼の師匠、断鬼が得意としていた周囲の物全てを足場とする戦闘方法だった。
ここに来て弾鬼は『倒す』ことを捨て、『足止め』を選んだのだった。
326弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:13:56 ID:9wyfKn890
森林・洞窟/
闘鬼がその場所にたどり着いたのは偶然と言えた。
魔化魍の気配を探りつつ、慎重に歩みを進め洞窟を進むとそこには・・・
『っ!こいつは・・・』
正に阿鼻叫喚の地獄絵図とも言うべき風景。
犠牲になった人々の遺体・・・いや、遺体と呼ぶにはあまりにも形を失いすぎた残骸がそこら中に撒き散らされていた。
繭のような物が天上から吊るされている場所もあったが、その全てが死臭を放っていた。
だが・・・そんな地獄の中奇妙にも引き裂かれたような繭の残骸が地面に散らばっている個所があった。
『・・・もしや』
近づき、まだ吊るされている側の繭の中に手を突っ込むと・・・僅かに・・本当に僅かではあったが温もりを闘鬼の手は感じ取った。
その数二つ。
『・・・滝沢と安達君がここに居たって事か?』
手遅れか・・・弾鬼や勝鬼辺りならばそう早とちりしそうではあったが、闘鬼は地面に散らばった幾つかの残骸を拾い上げた。
マフラー程度の長さに裂かれたモノもあれば、細かく脱脂綿サイズに千切られたモノもあった。
そして脱脂綿サイズ・・・その中のひとつに湿り気を帯びた物を見つけ出した。
この二つと、犠牲となった残りの繭。その差を比べ、一つの答えにたどり着く闘鬼。
『これは・・・歯で噛み切ったか・・・滝沢か安達君かどちらかわかんねぇが、やるじゃねぇか』
闘鬼は最悪のケースではなく、二人が自力で脱出した可能性を見出すと、その洞窟から駆け出そうと脚に力を込め・・・再度、犠牲になった人々の姿を見回した。
今は一分一秒を争う事態・・・だが・・・
『俺は・・・葬鬼みたいに上手くは出来ねぇけど・・・今は安らかに眠ってくれ』
音撃管・嵐に音撃鳴・つむじをセットし・・・音撃射・風塵怒髪の一節を奏で始めた。
327弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:14:48 ID:9wyfKn890
狭い洞窟内に甲高い音が共鳴し・・・その周囲に響き渡る。
闘鬼なりの・・・哀悼を込めた清めの音を奏で終わり、洞窟を飛び出ると同時に地面を走る何かに気が付いた。
ガサガサと草木を揺らして近づく音の正体は・・・
『タロウ?ってことは弾鬼のヤツに何かあったのか?』
現れたのは闘鬼の0番ディスク・タロウであった。
タロウは闘鬼の姿を認めると宙に跳ね、ディスク形態へと変形した。
それを受け取ると闘鬼は変身鬼笛にセットして、再生した。
『ヨブコと遭遇した!俺が相手をするから、二人の捜索を頼む!』
弾鬼の声が耳に届くと、ディスクを外し・・・ホルダーへと戻した。
僅かに悩み・・・移動すべく地を蹴る脚が動くまでに数秒・・・その場に縫い付けられたかのように留まり・・・
『・・・・・・』
闘鬼は腹を括り地面にしゃがみ込んだ。
地面を凝視し、慎重にあるものを探す。そしてそれはその場から僅か3メートルほど離れた場所にあった。
地面に露出している木の根に付着したコケ。それが削り取られた『跡』を・・・
豪快な闘鬼に似合わぬ冷静な判断。だが、これこそが闘鬼が鬼として長い時間培ってきた経験によるものであり、闘鬼自身をベテランたらしめるものである。
『こっちか・・・弾鬼・・・魔化魍は任せるぞ・・・』
先ほどの逡巡・・・そう、闘鬼は一瞬悩んでしまった。
手がかりは得た。
だが、響鬼ほどの使い手が敗退する相手に果たして弾鬼一人で太刀打ちできるのかを・・・自分が行って変わったほうが良いのではないかを・・・
だが・・・
328弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:15:58 ID:9wyfKn890
『なら・・・・強くなりたいならよ・・・・立ち上がろうぜ・・・自分の力で。そんで・・・・強くなろうぜ・・・・・強くなるのに近道なんてもんは無ぇ。ましてや平らな道でも無ぇ。一歩ずつ・・・踏みしめて・・・・鍛えようぜ・・・』
以前・・・カラカサの一件の際に雨の中闘鬼自身が弾鬼に言い放った言葉を思い出す。
それに弾鬼は何と答えたか・・・
それ以降の弾鬼の鍛えは勢地郎経由で闘鬼も聞き及んでいる・・・そしてつい最近・・・闘鬼は弾鬼にある言葉を送った。
『それに・・・帰る場所を作っとくのも大事な事だ。帰る場所に、大事な人を置く・・・そうすりゃ、どんな窮地に立っても、死に物狂いで生き延びようとするってモンだ』
―――安藤千明。
弾鬼にとって真実に大切な人間であるなら・・・弾鬼はどんな窮地であっても死に物狂いで生き延びようと足掻くはず。
闘鬼は・・・そこに賭けた。
ハラが決まれば闘鬼の行動は早く・・・コケの削れ具合を目印に闘鬼は二人の後を追った。
『嬢ちゃんを泣かすようなマネは許さんぞ・・・弾鬼』
329弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:17:03 ID:9wyfKn890
森林/
『ぐあっ・・・・・・』
幾度目の森林破壊か?
弾鬼は自分の身体でブチ折った木々を押しのけて立ち上がる。
『フゥ・・・フゥ・・・・・・・・・フウゥゥゥゥラアァァァァァ!』
宙を舞い、一撃を加えての離脱・・・だが、ヨブコは飛び交う弾鬼目掛けて口を開け、舌を伸ばした。
延びた舌は正確に弾鬼の脚を捕らえ・・・
『イィ!?そんなんアリか?』
絡めた舌で弾鬼を振り回し始めた。
ただ振り回すだけでなく地面に叩きつけ、あるいは木々に叩きつけ・・・容赦無く弾鬼と周囲の自然を破壊した。
―――そこへ
『せいやぁ!』
鋭き爪の一撃がヨブコの舌を切り裂き・・・
『音撃暴投!!』
鬼石から噴出した炎を纏ったままの音撃棒が飛来し、ヨブコに迫った。
だが、舌を切り裂かれた事により第三者の介入を感じ取ったヨブコは、音撃棒の飛来をバリアで弾き飛ばしたのだった。
地面に落ちる音撃棒を素早く拾い上げる姿は、茶色の身体に浅葱の隈取。
『勝鬼・・・それに鋭鬼も・・・』
『弾鬼・・・大丈夫かい?勝機も無く戦い挑むなんて正気か?』
『大丈夫かい弾鬼君?』
現れたのは勝鬼と・・・反対側から捜索に当たっていた鋭鬼であった。
『あぁ〜もう!なんで・・・こっち来たんだよ!!早く二人を探しに行けよ!!』
助けて貰ったのにも関わらずの物言いでは合ったが、
『偶然なんだって!偶然!』
勝鬼が慌てて弁明する。
『鋭鬼君と偶然合流した直後に0番が戻ってきて、すぐに二人を探そうとしたんだけど・・・僕と弾鬼君思ったより離れてなかったみたいで・・・そしたら弾鬼君が降り回されてるじゃない・・・助けるでしょ普通!』
『・・・ホントかよ・・・・・・まぁいいや・・・とにかくすぐ二人探してくれ・・・コイツは俺が』
弾鬼は力を込めて立ち上がり音撃棒を構えつつ二人の前に立ったが、勝鬼と鋭鬼は各々の武器を手に、弾鬼の横にそれぞれ陣取った。
『お・・おい人の話聞いてんのか?』
『それより・・・先にコイツ倒した方が安心して探せるだろ?』
『そんな身体じゃ無理だよ・・・』
事実、弾鬼は満身創痍とも言える状態だった。
330弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:17:50 ID:9wyfKn890
『くそっ・・・しょうがねぇ・・・でも気をつけろ?コイツ、マジで音撃をハネ返しやがるからな・・・』
『さっきのアレだね・・・鋭鬼君の攻撃を跳ね返した・・・』
『あぁ、極偶に一撃は入ることもあっけど・・・基本的には普通の打撃もハネ返しやがる。俺たちの一撃は微弱に音撃纏ってるようなもんだからな・・・』
故にここに居る弾鬼たちは理解している。
―――心音。
清めの音の最も根元の部分・・・それは清めの音を操る自身の命の鼓動に他ならない。
音撃とは、その鼓動を鍛え上げ・・・鬼石によって増幅させる物だと言う事だと。
だが、魔化魍ヨブコは清めの音の大小に関わらず、音撃を無効化する。
心臓が鼓動を続ける限り通常打撃にも清めの音を纏っている以上、どう考えてもヨブコを清める事はできないという事を・・・
だが、その絶望的な状況の中でも鬼たちは挫けなかった。
『ソロの音撃じゃ、ダメだろうな・・・弾鬼!今まで機会なかったけど、そろそろアレやってみようぜ!』
『・・・アレか。よっしゃやってみようぜ!!勝鬼!注意を引き付けてくれるか?』
鋭鬼の提案に弾鬼が乗り、
『了解!引き受けたよ』
勝鬼がサポートに回る。
弾鬼はその位置のまま、鋭鬼は僅かに前に進む。そして勝鬼はやや後ろに下がり台風を構え・・・
『行くよ!弾鬼君!鋭鬼君!』
勝鬼の台風が唸りを上げると共に、鋭鬼・弾鬼の順番に大地を蹴った。
打ち出された圧縮空気弾はヨブコのバリアによって無効化される。だが―――
『まだまだっ!』
勝鬼は引き金を引き続けながら、台風のマウスピースを取り外しセットした。
そして、音撃鳴・風束をセットしないまま台風に息を送り込んだ。
331弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:19:54 ID:9wyfKn890
だが、その隙を突いてヨブコは接近する。弾鬼は宙に飛び、鋭鬼はヨブコの背後を取るべくヨブコの突進をスルーする。
そして―――
『鬼法術・暴風弾!ハァッ!』
勝鬼は引き金を引いた。銃口からは、先ほどの圧縮空気弾とは比べ物にならない程に圧縮された空気弾が打ち出された。
通常の空気弾に比べ、勝鬼自身の息吹によって更に大量の空気を送られた空気弾は許容量を超えていた。
だが、今回の目標はヨブコでは無く・・・ヨブコより2メートル程手前の大地を狙っていた。
そして許容量超過の弾丸は大地に着弾すると同時に爆砕し、通常の圧縮空気弾ではありえないほどの破壊を引き起こした。それはさながらダムダム弾と同様の効果を引き起こし、地面を根こそぎ破壊して回った。
打ち上げられた土砂は実に効率よくヨブコの視界を塞ぎ、その突進を止めたといえる。
そして―――宙に舞っていた弾鬼が着地するより早く、鋭鬼は背後を取り音撃鼓・白緑をヨブコの背中に叩きつけた。
それと同時に弾鬼も着地し、眼前で動きを止めているヨブコに音撃鼓・御影盤を押し付けた。
ヨブコの腹と背中で展開する音撃鼓を前に、二人の鬼は素早く音撃棒を打ち鳴らし・・・
『音撃打・必殺必中!』
『連撃の型ァ!!』
その音撃鼓目掛けて同時に叩きつけた。
                            続く
332弾鬼SSの筆者 ◆NSRzr.fZIw :2008/01/05(土) 22:27:23 ID:9wyfKn890
新年あけましておめでとうございます。
前回から少し間が空いてしまいましたが、ようやく投下できました。
今月中にはもう1話投下できると思いますのでよろしくお願いします。
とりあえず次回の話でヨブコ編は終りです。
名前だけとは言え、劇中でも公式に出てきたのはこのヨブコ編が最後なので、次回からは正真正銘オリジナルな話になると思います。
それと同時に話も終わりに近づいていますので、何とか悔いなく書き終わりたいと思います。
悪筆乱文ではありますが、今年もどうぞよろしくお願いします。
333名無しより愛をこめて:2008/01/05(土) 23:53:32 ID:YoFIxgZd0
明けましておめでとうございます、弾鬼SSの筆者さん。
本年もよろしくお願いいたします。
ぜひとも最終話まで走り切ってください。(あと3話くらい?)
334鬼ストーリー トリビア:2008/01/12(土) 01:14:01 ID:MMIItPBB0

まとめサイトの人(斉藤真斗芽さん)のコテハンは geso
335名無しより愛をこめて:2008/01/16(水) 00:01:22 ID:n7D53Oj50
ザンキさんの中の人が「狼男」の役でキバに出演するそうだが
336名無しより愛をこめて:2008/01/16(水) 06:58:38 ID:z/5E1EFwO
よりによって狼男役を持ってくる辺り、先代ザンキとの関連性を妄想してしまう!
まさかスタッフ…ここを見ている……わきゃないか。
337名無しより愛をこめて:2008/01/16(水) 16:38:17 ID:nTHYruL40
仮面ライダーといいつつ実はベースがアクマイザー3なんじゃないかとか疑ってみる俺
338名無しより愛をこめて:2008/01/17(木) 03:08:57 ID:o4vkoUHQO
いや、怪物くんだな
339名無しより愛をこめて:2008/01/21(月) 01:40:11 ID:8AAHVf4IO
よし俺来週から仮面ライダーZANKI見て来るわ
340鬼ストーリー トリビア:2008/01/26(土) 01:42:41 ID:L3ggxfW2O
弾鬼SSの筆者は 九州在住

凱鬼作者は九州出身 中国地方在住
341名無しより愛をこめて:2008/01/26(土) 13:20:42 ID:djPPI/DT0
つまり、頑張れ関東支部!
そういうことだな?
342名無しより愛をこめて:2008/01/29(火) 14:31:15 ID:SxLC4SsZO
落ちそう
343名無しより愛をこめて:2008/01/29(火) 17:09:33 ID:ms7GEWe6O
  _  ∩
( ゜∀゜)彡 関東!
 ⊂彡
344鬼ストーリー トリビア:2008/01/31(木) 00:04:00 ID:MkSS+a9a0

鬼ストーリー トリビアは

保守を兼ねた 単なる豆知識
345名無しより愛をこめて:2008/02/03(日) 22:09:54 ID:aXFvmMEiO
ザンキさんで浮上
346踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:15:14 ID:oeXWyL280
こんばんは、大昔に響鬼外伝という作品を書こうとして見事に未完にさせたものです。
今度はきちんと仕上げようという事で同設定を使って短編SSを書いてみました、投下
しますのでよろしければ読んでみて下さい。乱文雑文失礼します。

 仮面ライダーフブキ「歌う鬼」

 「ふう、まだまだ二十分前か…」
 季節は10月末、場所は栃木県旧今市市、東武今市駅前駐車場。まだ冬ほどの寒さは
ないが、それでも寒いこの季節に藤間 闘士朗は 一人、昼間の駅前駐車場に立ち尽
くしていた。
「お母さんが言ったとおり、もう少し遅くに出発すればよかったなあ…」
 まだ幼い少年の言葉はどこか寂しげだった。
 「お前ももう中学生だしな、よし!!たまには他の鬼のところに修行しにいってこい!!」
 今回、父のその豪快な一言で、まだ幼い彼は住まいのある東京からはるばる今市まで出
かける羽目になったのだから落ち込むのも無理はないのかもしれない。
 
 闘士朗の父、藤間 冬至は猛土に所属する鬼…トウキと呼ばれる存在だ。
 生まれたときから鬼になることを義務付けられていた闘士朗は、ことあるごとに父と、
サポーターである母と一緒に魔化魍の現れる現場に出向き、暇なときは父から修行の手ほどき
を受けていた。もちろん鬼の弟子として行動するため、普通の子供達とは違う生活ではあった
が彼は別段それを嫌う事もなかったし、それに父の仕事も素直にかっこいい、僕もああなりた
いと思えた、だからこそ普段の厳しい訓練にも耐え抜いてきた。
 しかし何分に彼は難しい年頃である、自分の将来に僅かながらも疑問を持ち始めていた彼にも、
たまには自分ではない別の鬼と共に行動させるのもいいのかもしれないという父の配慮が今回の
遠征のきっかけになったのかもしれなかった。
347踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:16:49 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ「歌う鬼」A

「でもなあ、出来れば僕はキョウキさんと修行がしたかったんだけどなあ…」
 キョウキは近年凄まじい頭角を現している鬼の一人だ、あの響鬼の弟子であり、最年少で鬼に
なった彼はいまや全国の若手の鬼の憧れの的だった。
 冷静沈着な志向を持ち、スマートな戦いぶりが特徴、そして一度父とコンビを組んだときの合体
技の腕前はほれぼれするほど美しかった…だからこそ夏の時の太鼓の練習のためにも、闘士朗はキ
ョウキの手ほどきを受けたいというのが本音だった。
 「でもなあ…今日コンビを組むのは…フブキさんだもんなあ…」
 フブキはトウキと同じ管の鬼である、先代吹雪鬼の弟子として名前を受け継いだはいいがあまり
に独創的な思考を持つために、弟弟子のミツキと共に鬼の間では変人として有名な存在だった。
 
348踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:18:36 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ「歌う鬼」B

「よう、遅くなって悪かったねえ!!」
 そんなことを考える彼の前に一台の車が止まった、黒い旧式のキューブ…
フブキの愛車の黒煙だ。車の窓を開けてフブキは陽気な声でそう言うとオート
ロックでドアの鍵を開けた。 
「あ、こんにちはフブキさん、今日はよろしくお願いします…それと、大丈夫ですよ
まだ約束の時間の五分前ですし」
 黒煙に乗り込みながら闘士朗はそう言った。 
「いやいや、だって君だいぶ待ったろう?せっかく預かったお子さんを待たせたのは
俺の責任だよ…ほら、コレ飲んで温まりな」
 そう言ってフブキは車に取り付けられたホットドリンクホルダーからコーヒー缶を
とりだした。
 「あ…すいません、いただきます」
 「どうぞ…っと、それから、これから三日間よろしくな!!」
 「はい、よろしくお願いします」
 のっぺりした顔の大男であるフブキはそういってにっと笑った、どこか迫力のない
彼の顔を見るとどうしても闘士朗は心細くなってくる。
 (これから三日間、何事もないといいけどなあ…) 
 闘士朗は内心でそんなことを考えていた。
349踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:21:41 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第二話

 闘士朗が始めてフブキと出会ったのは闘士朗がまだ幼い時、吉野の会議での事だった。
 当時まだ高校生で先代フブキの弟子だったフブキはヘマをやらかして、師匠に怒られて
泣いていたところ、偶然トイレに行こうとした闘士朗に出合ったのだ。
 「よう、闘士郎ちゃん、お兄ちゃんとトイレでも行くかい?」
 フブキは闘士朗を見ると涙を吹き上げて笑顔でそう答えた。
 「…お兄ちゃん、大丈夫?」
 「ああ!全然大丈夫さ!!」
 相変わらずののっぺりした笑顔でフブキはそう答えた、そしてトウキが会議中の間
ずっと幼い闘士朗と遊んでくれたのだ…それが闘士朗とフブキの出会いだった。
 やさしいし、いい人だけどどこか弱弱しい…闘士朗はフブキからそんな印象を受けた。
 その後、父から話しを聞くと、なんでもフブキは元々技術開発部にはいろうとしたが
独創的な思考が災いして開発部と衝突を繰り返し、そして鬼になったのだという話を聞かされた。
 本当によく解らない人だなあ…と、他の鬼の話から総合して闘士朗は彼に対してそんな偏見を
抱いていた…。  

 
350踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:22:16 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第二話 A


「おーい闘士郎ちゃん、そろそろ現場だぜ」
 闘士朗はフブキの声ではっと目を覚ました、気が付けば底は今市の町からだいぶ離れた山奥の
川べりだった…辺りにはなぎ倒されたような木が散らばり、そして雰囲気はどこか陰気だった。
 「すいません…それで、ここが現場ですか?」
 「ああ、そうらしいなあ…歩の谷山さんの報告じゃあ、どうもヤマコがでたらしい」
 「ヤマコですか…たしか東北の方に良く出る魔化魍ですよね、戦った事は?」
 「一応二回あるねえ、だいぶ苦戦したけど…まあ大丈夫だろう」
 「まあ大丈夫?そんな!油断してて勝てるんですか!?」
 闘士朗は少しいらだったような口調でフブキに問いかけた、父であるトウキに常々油断は死を招く
ときかされていた彼にとって、フブキのこの言葉は心外だったようだ。
 彼の鬼としての評判と、難しい年頃の不安定な精神状態は一気に闘士朗の口を滑らせた。 
「失礼ですが、そんな状態で貴方がヤマコに本当に勝てると僕は思えません!そもそも不安なんですよ
!貴方が鬼として戦っているってことが!!」
「…ふうん、闘士朗ちゃんはそう思うのかい…でも、今俺がここでやらなきゃヤマコはどんどん人を食
い殺していくんだよね、それにもし俺がここで実力不足だから鬼を止めるって言ったら…他の鬼が、疲
弊した体で俺のシフトを生めた挙句、ここで戦った挙句、死ぬかもしれないんだよ?」
 「そういうことじゃありません!僕は貴方にもう少し覚悟ってモノを!!」
 「…強がってるだけだよ、本当は俺も怖い、凄く怖い、殺されるのは嫌だ」
 そういう彼の目は真剣だった、かすかにハンドルを握る手も震えている。
351踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:23:44 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第三話
 
「でも、鬼になったからには、常に人に強さを見せて戦うってことでもあるんじゃあない
のかなあって思うんだ、だから俺はへらへらして余裕こいたフリして戦おうって思ってる…
ごめんな、気に入らなかったみたいで、きちんと説明するべきだった」
 あまりにフブキのまじめなセリフに、闘士朗は少し落ち込んだようだった。
「…すいません、言い過ぎました…ごめんなさい」 
「いいってことさ、そもそも俺の思考はこうでも色々説明して言わないと解らないようなもん
だからなあ…それに俺が情けないだけだからさ、君のお父さんみたいには俺は到底できない分…」
 「いえ、それが普通なんです、それに…フブキさんは十分に強いと思います、その、心が」
 闘士朗はそう答えた、元々できが悪いと師匠に良く怒られていたフブキがここまで覚悟して戦おう
という姿勢は、いままでエリートとして育てられていた分、新鮮だった。
「…フブキさんヤマコ、絶対に倒しましょうね!!」
「おお、まかせとけ!!君の修行もまかせとけよ!!絶対にヤマコを倒して俺の撃墜数を100にしてみせる
から!!」
 フブキはそう言うとにっこりと笑った。
「すく…は、はい!!頑張りましょうね!!」
 決意は固まったし、フブキは見直したが、それでもフブキの少ない撃墜数に、闘士朗は不安になって
きていた。 
352踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:27:30 ID:oeXWyL280
 仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第三話A

「はあああああ!!!…よおし!それじゃあ頼むぞ!!」
 フブキはマイク型音笛、潮騒でケースに入ったディスクアニマルの浅黄鷲を起動させると
空に放った、ヤマコは童子、姫も広範囲を飛び回るために検索には鳥形ディスクアニマルが
もっとも有効とされている。 
 「こっちも頼むよ…ええと、これも」」
 闘士朗も負けじと音笛でアカネタカを次々に起動させていく。そしてもう一つのディスク
アニマルケースを開けようとしたとき。
 「ああ!!それはダメ!違うから!!」
 いきなり大声でフブキに止められた、彼は知視障害を抱えているため上手く言葉が思い浮かば
なくなるとしばしこうして大声を上げて相手を止めたりする。
「…あの、何がダメなんですか?コレって普通のディスクアニマルなんですよね?」
「イヤ違うんだ…ええっと、戦闘用…そう、これは戦闘用に特化した新型のでさ、あんまり長い時間
動かせないからダメなんだ」
 たまに言葉が浮かばなくなるらしい、途切れ途切れに話す彼の言葉を闘士朗が理解するのには少し時
間が掛かった。
「はい、解りました」
「…ごめんね、どなったりして」
「いえ、大丈夫ですよ…それじゃあ」 
 闘士朗はそう言うと猛土のデータブックを開いた、一応敵情報の確認を行うのがトウキとの間では恒
例行事となっている。
「ヤマコは人の…特に女性の内臓を好む魔化魍です、普通は春先に現れる魔化魍ですが最近は温暖化

の影響で現れたものかと思われます、特徴として…」
「翼での広範囲移動、そして強力な鍵爪を持っている。口から吐く粘液にも注意したいが、防御は紙
なので音撃管での攻撃が妥当…だろ?」
「はい、その通りです」 
 フブキの特技は暗記だ、データは一通り覚えているらしいため、説明はあまりせずに終わってしまっ
たのが闘士朗にはすこし残念だった。
 
353踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:29:21 ID:oeXWyL280
 こういう部分の違いを解るためにも父さんは僕をここによこしたのかもな、
などと少し余裕を持った考えで闘士朗は父の意思を汲み取っていた
「…ならとりあえずは敵さんが来るのを待つしかないなあ、あいつらは常に飛び回って
いるから他のイッタンモメンとかみたいに縄張りがー…」
 そんな会話をしつつ、日も暮れてきたので二人は焚き火を囲んで食事を取っていた、フブキ
は支給品のMRE風チョコレートビスケットをかじりながら果てしなく会話の道を外れた薀蓄を垂
れ流していく。
「というわけでさあ、これは…」
「あの、フブキさん…聞きたい事があるんです」
 そんな中で、闘士朗は前々から自分が思っていた疑問をたずねてみる事にした。
「ああ、いいよ…」
「僕は…子供のころから望む望まないにかかわらずに鬼になるためにこうして修行してるわけですが、
思うんです…本当にこれで、自分の人生はこのままでいいのかなあ、って…」
 難しい年頃である闘士朗の言葉は、フブキにとって重かったようだ、ううんと悩んだ後、ようや
くフブキは口を開いた。
「…闘士郎ちゃん…俺はそれでいいと思うんだ、君は鬼になる資格がある選ばれた人間だ・・・それで
もってそれを手に入れるために体を鍛えて、そして今、君はこうしてこんな遠方で俺と話してるわけだ
からさ…確かに悩む事はあるよ、でもそれを振り切ってでも、君は鬼になっていい、なるべきだと俺は
思うんだ」
「…そうですか…」
 混乱しながらも話すフブキに対して、いまいち要領を得られない闘士朗はそう答えた。
「なら…フブキさんはどうして鬼になろうと思ったんですか?」
 変なことを聞かれてフブキが混乱している分、もう少し表現を変えた言い方で闘士朗はたずねてみる
事にした。
354踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:32:16 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第四話

「…そうねえ、俺が鬼とかかわり始めたのは小学生のころだったかなぁ、うちは
親戚が皆猛土のメンバーでさあ、おばさん一家…まあ師匠と一緒にハイキングに
行った時、偶然ツチグモに襲われてー…な感じで、いやあ、あのときの師匠は格好
よかったなあ…」
「それで鬼に…でも最初は開発の方に行ったって?」
「うん、はじめは自信がなかった分、裏方からと思ってさ…色々発想があるから自分は
こっちが合うかなあって思ったんだ…でもまあ俺は頭がこんなのだからさあ…結果、周りと
も合わなくて、やめようと思ったときに、師匠に言われたんだ…お前本当は鬼になりたかった
んじゃあないのか?ならこっちにきたらどうだ?って」
「…それで鬼になったんですか?」
「ああ、そうだな…まあだいぶ苦労したし、時間も掛かったけど、今でもあの時鬼になってよかった
と思ってる」
「でも大変だったんでしょう?それなのになんで?」
「あのときの師匠の姿が格好よすぎたからさ、人を守るって事を体現した姿は本当にしびれたし…でも
って一番自分をわかってくれた人に、自信をなくしていたあのときに、お前にならできるって言われた
からさ…まあ開発部に居た時間も無駄じゃあなかったと思うけど、でもたまに思うんだ、もっと早く師
匠に付いていけばよかったなって…だから言うんだよ、振り切ってでも前に進めってさ」
「…うーん…よくわからないです…」
闘士朗はやっぱりよく解らない、という顔だった。
355踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 22:32:46 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第四話A

「まあ人生なんてそんなモンだよ、結論や信念なんて仮止めでしかないんだから…ようはそ
の後に行う行動だよ。…君だってあのキツイ訓練を乗り越えて、師匠…トウキさんの後を追い
かけてここまできたんだろ?闘士郎ちゃん?」
「…そう、ですね」
 闘士朗はそういわれて幾分か納得したようだった、確かに父はいつも格好良く敵を倒して帰って
きてくれた…だから自分もああなりたいとおもって今日まで弟子として行動できたのは事実だ…深く
考えすぎていたのかもな、たしかに格好良く、人を守れる鬼という凄い存在になりたいと思って戦う
というのもいいことなのかもしれない…とそう思って茹で上がった携帯食を鍋から取り出そうとした
瞬間…バキイ!!という音と共に横から飛んできた何かに、鍋が打ち抜かれた。
「な…!!」
 慌てる闘士郎、フブキはすかさず飛んできたモノを拾い上げる、拾い上げたそれは…アカネタカの破
片だった。
 「おやおや…こっちまで来ちまったかい?」
 フブキは動じることなくポケットから音笛を取り出した。
 「鬼か…まあいいや、鬼でもいいか」
 「こっちは子供か…まあいいや、子供でもいいか」
 闇夜の森から現れたのは、まるでマントを身にまとったかのような童子と姫だった。
 
356踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 23:09:25 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第五話 

 フブキは自分の背後に闘四郎を下がらせると、変身音笛の鬼頭の角を展開させた、変身の合図だ。
 「よくねえよ…っつ!!!ぱあああああああああああああっつ!!!!」
 フブキがあげた大声があたりに響く、彼の肺活量は猛土で最も高く、近くに居た闘士朗はおろか姫と童子もあまりの声の大きさにふらつくほどだった。
 それと同時に彼の頭部に鬼面が浮かぶ、フブキが音笛を鬼面にさらすと同時に彼の体は霜と氷に包まれた。
 「はああああああああ!!!っつあああああ!!!」
 氷を叩き破ってフブキが登場する、逞しい体は水色と白に彩られ、ポーズを決める四本角の彼の姿は凄まじい気迫に満ち溢れていた。
「まあ行くぞ!!」「こっちも行くぞ!!」
 童子と姫はふわり、と体を浮かせたかと思うと、空中を飛行しながら一気にフブキに詰め寄った。
 「はあああああ…セイ!!」
 フブキは動じる事もなく冷気を拳にためる、そして頭突きをかまそうと飛んできた同時と姫の頭部を同時に冷気のこもった両拳で砕いた。
 ぱらぱらとあたりに砕けた童子と姫の破片が散らばる、これがフブキ流の鬼闘術・凍拳という技だそうだ。
 「すごい…」
 闘士郎は驚きの声を上げる、しかしフブキはどうでもいいというようなしぐさでこう言った。
 「音撃管と、例のケースを持ってきてくれ」
357踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 23:10:56 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第五話A

急ぎ足で闘士朗はディスクアニマルケースと音撃管を運んだ、黒塗りの音撃管の入ったケースはトウキのものに比べてとても重く、一体何を使っているんだろうという感じだった。
 「よし、じゃあ行くぞ闘士朗ちゃん…良く見ておくんだぞ、俺の戦いを…はあ!!」
 フブキはそう言うと共に音笛をならしたそれと同時に展開した黒いディスク達は一気に巨大化、人一人分が楽にのれるほどの大きさになった。
 「これが俺専用のディスクアニマル、クロズミグモだ・・・こいつらは単独攻撃も出来るから、コイツに乗って付いて来い」 
 「え…でも敵の場所は?」
 「こいつらは子供のいる半径200メートル以内を八の字を描いて飛ぶ修整がある…つまり、敵から現れてくれた分その位置の特定は簡単だ…行くぞ!!」 
 「はっ!はい!!」
 そういうが早いかフブキは凄まじい速度で駆け出した、クロズミクモがその後を追う。
 「う、うわああああ!!!」
 必死にしがみつく闘士朗を無視するかのような速度でクモ達も駆け出した。

 …グルルルウ…グルルルウ…
 森にはヤマコの気味の悪い声が響いていた、樹木ほどの大きさのヤマコはイタチの顔を持ち、ムササビのような体を持つ魔化魍だ。夜行性のため、森の中ではどこから飛んでくるのかわからない分管の鬼は苦戦するのが必死な相手である
358踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 23:12:05 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第五話B

「クソ!!一体どこに…」
 「うわあ!!」
 闘士朗が声を上げる、クロズミクモが襲撃を受けてクモの体から闘士郎が一気に弾き飛ばされたのだ。慌てて闘士朗が音笛とDAを構えるが、周りには何もいない…そう思った瞬間、背後から翼を広げたヤマコが飛び掛ってきた!!。
 「うあああああ!!!」
 闘士朗が叫ぶと同時に、周りに居たクロズミクモ達がヤマコにめがけて口から毒液を吐き出した、顔に毒液を食らってひるんだヤマコは絶叫すると、背中を向けて飛び立とうとする。
 「…頭をさげろ!!」
 フブキの怒声が聞こえる、それと同時に慌てて闘士朗は頭を下げた。
359踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 23:12:48 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第六話
 
 闘士朗の正面に対するフブキは音撃管を構えていた、彼の音撃管、島風はパァンツアーファウスト型という珍しいものだ…大型の弾頭を打ち込む単発の砲なので扱いは難しいが、弦の鬼用の魔化魍を退治できるということもあって重宝がられてもいる。
 シュボオ!!と言う音があたりに響く、空圧で飛んだ弾頭は一気ヤマコの体に命中した。
 「グルオオオオ!!」
 絶叫を上げるヤマコ、闘士郎はその隙にクモの背中に乗ってその場から非難した。
 闘士朗を乗せたクロズミクモはフブキの背後に隠れる、その瞬間、闘士朗とフブキは目が合った。
 その目は…まあ鬼の顔に隠れて見えないわけだが、その顔は普段の情けないフブキの顔ではない、力強い顔だった。
 「音撃波、烈風葬刃!!」
 弾頭を失った島風の先に音撃鳴を取り付け、後部に音笛を取り付けるフブキ。
 音を奏でず、歌う…それが彼の名前、不吹鬼の由来だ。
 「オオオオオオオオオオ!!!アアアアアアアアアアア!!!」
 フブキの声を変質させた、まるで本物の吹雪のような音撃があたりに響いた、飛び上がろうとしたヤマコは音撃を受けて一気にへたり込むと数秒もせずに爆散した。
 「…ふう、任務完了!!」
 そう行って右肩に島風を背負うフブキを見た闘士朗は…素直に彼のことを格好良いと思えた。
 「…っと、怪我ないか?闘士郎ちゃん?」
 「はい!大丈夫ですよ、フブキさん」 
 「よかったあ…」
 そういうと胸をなでおろすフブキ、そんなしぐさを見て闘士朗は笑顔を浮かべた。

 
360踊る人形 ◆8bTVwvrH/6 :2008/02/03(日) 23:13:23 ID:oeXWyL280
仮面ライダーフブキ 「歌う鬼」第六話 A


 三日後…フブキは駅まで実家に帰る闘士朗を送っていた。フブキは急にはいった仕事のため、このまま宇都宮に向かう途中だった。
 「今回はお疲れ様、それからお父さんによろしくな」
 「はい…フブキさんも頑張ってくださいね…やっぱりどこか危なっかしい人ですから」
 「ははは、手厳しいなあ闘士朗ちゃんは」
 そう言って駅で二人は別れた。
 「僕も…がんばってみようかなあ」
 闘士朗はホームでそんなことを呟いていた。
 元々恵まれている闘士朗と、努力の人のフブキ…フブキと共にすごした事で、闘士朗の何かは変わり始めていた。
 「格好良いから、そうなりたいか…」
 良い言葉だなあ、と闘士朗は思った。
 FIN

 以上で投稿終わります、誤字脱字乱文失礼しました。
361名無しより愛をこめて:2008/02/04(月) 01:59:51 ID:SJqxiH4A0
セリフで行頭一字下げはいらないと思われ。
362名無しより愛をこめて:2008/02/05(火) 18:48:19 ID:rEcS2iDN0
乙!
面白かったよ。
(失礼かもだけど、)文体の初々しさもなんか新鮮だった。
続き、お待ちしてます!
363鬼ストーリー トリビア:2008/02/09(土) 19:52:40 ID:ziWCqfWE0

 裁鬼作者は 三重県人
364名無しより愛をこめて:2008/02/13(水) 21:30:03 ID:Zd9S2KKx0
「知視障害」って何ですのん?
ぐぐっても出てこなかった
365鬼ストーリー トリビア:2008/02/19(火) 01:45:31 ID:8EPZg+fJ0

『皇城の守護鬼』作者は 都内近郊在住

 ペンネーム 神酒坂 馨
366名無しより愛をこめて:2008/02/22(金) 00:07:08 ID:H+XIUC0L0
保シュッ
367鬼ストーリー トリビア:2008/02/26(火) 00:35:23 ID:fgz44UcGO

 剛鬼SS(8話で休止)は 構想40話

 40話は2004年 ゴウキの結婚シーン
368名無しより愛をこめて:2008/02/29(金) 16:26:18 ID:tME7fAJkO
age
369名無しより愛をこめて:2008/03/06(木) 10:04:29 ID:0wQXQib60
hosu
370名無しより愛をこめて:2008/03/11(火) 14:10:52 ID:zdQtbEWD0
ほしゅ
371鬼ストーリー トリビア:2008/03/11(火) 23:53:46 ID:6KR434Ei0

狂鬼SS(9話で休止)未出の構想

 後半では新鬼との対戦
 終盤ではあの鬼との対戦
 最後には猛士以外の組織も登場

 とても悲しい話になる予定だった
372名無しより愛をこめて:2008/03/12(水) 00:24:35 ID:QC+BLBGZ0
どうでもいいけどトリビアってどこまで本当なんだ
373名無しより愛をこめて:2008/03/13(木) 17:08:02 ID:arBnDIHM0
とりあえず、Age
374鬼ストーリー トリビア:2008/03/18(火) 00:24:07 ID:asfI5+cV0

「仮面ライダー高鬼」は当初 三話で終る予定だった
375名無しより愛をこめて:2008/03/21(金) 15:55:58 ID:2i5Qq3Z40
保守も兼ねてカキ
前にもあったがキバとザンキの共通点を書いてみる。
(適当にネタで言ってるので本気にしないで)

ライダーキックの時のキバの足って音撃弦ミカエルに似てる。
ZANKIの人の年代設定を見ると財津原少年と先代が出会ってるのが1986年。
最後は強引だが次狼はジロー(ラモ)を意識しいるのだろうか

今後ありそうな展開
マル・ダムールでナポリタンをすする次狼
376名無しより愛をこめて:2008/03/22(土) 16:04:11 ID:xgmv1sri0
533 :名無しんぼ@お腹いっぱい:2008/03/22(土) 08:15:15 ID:qTqxpZNV0
オヤヂどもが釣れないなあ・・ (じゃんけんのチョキで親指立てて) シュッ!
377名無しより愛をこめて:2008/03/22(土) 18:13:43 ID:UlBZi0G80
響鬼SSで著名な彼が意見募集中

http://www.geocities.jp/hibikigaiden/
378名無しより愛をこめて:2008/03/24(月) 22:59:21 ID:htD3sw6y0
>>377
ユカレンではないか。貴様、俺を愚弄して以下略
379鬼ストーリー トリビア:2008/03/26(水) 20:53:43 ID:p3KkDPOi0

 ZANKIの人は一昨年 何気にパパになりました
380あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:18:11 ID:5l8ZjR/eO
以前このスレで見た「アイキ」という鬼の設定に自分なりのアレンジを加え、東北を舞台にしたSSを書いてみました。よろしければお読みください。


『あなたの背中を護りたい』 一之巻「下す鉄槌」


 蒼い4WDが、春の仙台市内を疾り抜けていた。
 ハンドルを握るのは、青いキャップのつばを後ろにまわしてかぶる30代の男だった。車内には、無表情に運転を続けるその男が一人、そして助手席には履歴書の入ったクリアファイルが無造作に投げ出されていた。
 開いたファイルの一頁には、名前、住所などの印字が並ぶ上に、二枚の写真が貼られていた。一枚には三本の角を生やした濃紺の人影が写り、もう一枚には金髪にギャル系メイクの女がVサインを真横にむけて笑顔を見せていた。
(こんなのが『鬼』ねぇ)
 信号待ちの間に再度写真を確認し、ため息まじりに湯河原有志は思った。
 魔化魍を退治する『鬼』をサポートする組織、『猛士』に入ってから十数年、こんなタイプの鬼は見たことがなかった。
(ちゃんと仕事こなせんのか?)
 猛士の北陸支部から東北支部に転属になった今日、挨拶の間もなく魔化魍出現の報があり、有志は支部から、仙台駅前で新しいパートナーをピックアップして現場に向かうよう指示を受けた。
 車を駅前に止めて携帯電話で連絡を入れると、受話器の向こうから高周波のお気楽な声が聞こえてきた。
『はぃはーぃ、こちらァィキでぇーっす』
 予想通りのチャラチャラした喋り方だ、と思いながら、有志はつとめて冷静に返事を返した。
「今日付けでアンタの担当になった、サポーターの湯河原だ。いま駅に着いたから、蒼いクロスロードを探してくれ」
 程なく、運転席の窓をノックする音がして振り向くと、季節に合った明るい色のギャルファッションに身を包む女が一人、窓ガラスの向こうで能天気な笑顔を見せていた。
381あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:21:19 ID:5l8ZjR/eO
 履歴書ファイルにあった写真と同じ人物であることを確かめると、有志は窓も開けずにただ親指で後方を指した。
 後部ドアのロックを外すと、アイキは手にしたリュックと共に車に乗り込んできた。
「はぢめましてッッ、湯河原サン。今日からョロシクぉ願ぃしますヾ( ≧▽≦)ノ」
 バックミラー越しに、履歴書の写真と同様、Vサインを真横に向けたアイキの笑顔が見えた。
「行くぞ。蔵王でツチグモが出たらしい」
 つっけんどんに言うと、有志は車を再発進させた。
 バックミラーで後部座席を見ると、慣れた手つきでケータイのキーを叩いている様子が目に入った。
 履歴書によると年齢は22歳、有志より10以上も年下だ。見たところ身長は160くらい、体重は45、6というところか。このか細い体で、しかも妙に気の抜けた喋り方をするこの女に、充分に魔化魍に通用するような力があるとは思えない。事実、履歴書の戦績は黒星だらけだ。
「アンタのディスクアニマルはピックアップしといたぞ。後ろにあるから確認しとけよ」
「はぁぃ、ぁりがとぅござぃます」
 アイキはケータイを閉じ、素直にボックスの中を確認し始めた。
 通常『猛士』から支給される車両は鬼に対して登録されるが、有志が駆る4WD『蒼龍』は彼専用に登録された車両で、北陸支部にいた頃からずっと愛車として乗り続けている。
 また、10年以上も鬼のサポートを続けるうちにディスクアニマルの操作にも熟練し、専用のディスクアニマルと鬼弦を貸与されている。
(危なくなったらディスクアニマルで援護くらいはしてやるか)
 ベルトに吊った数枚のディスクを意識しながら、有志は蔵王の山奥に向けて車を走らせた。
382あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:27:20 ID:5l8ZjR/eO
 数時間後、二人を乗せた『蒼龍』は宮城と山形の県境付近に到着していた。
 待ち合わせていた地元の猛士協力者に話を聞き、有志は細かい目的地を絞り込むと、更に車で山道を登っていった。目撃地点付近の適当な場所をキャンプ地と決め、アイキに探索のディスクアニマルを放つように言うと、自分はテントの設営を始めた。
 設営を終えてアイキの様子を見に行き、彼女が手にしていた音叉を目にして有志は思わずのけぞった。ディスクアニマルを起動するための音叉は、真っ赤に塗装されたうえ、キラキラした沢山のビーズでデコレーションされていた。
「おい、なんだその音叉は!」
 つとめて平静を装ってきた有志の感情が決壊し、思わず非難の声が出た。
「ぇ? コレですか? カヮィィでしょ?」
 ちっともこたえた様子もなく、アイキは有志に笑顔を向けて言った。
 有志はあっけに取られてぽかんとしていたが、やがて内心ほくそ笑みながら思った。
(どうせ変身する時の力で、そんなもんは落ちちまうんだ。無駄な手間かけてんな)
 しばらくして戻ってきたディスクアニマルをデコレ音叉にセットして再生していたアイキが、何枚目かの結果を確かめている時に、有志に言った。
「きましたぁ。ァタリです。(´∀`*)b ちょっとぃってきます」
 ケータイを有志に手渡すと、アイキはディスクアニマルが教えてくれた魔化魍出現地に向けて駆け出していった。
 背を向けて走っていくアイキの腰に、何か太い尻尾のようなものがぶらさがっているのに有志は気づいた。
(ふざけたカッコしやがって。なんだありゃ)
 それをよく確かめる間もなく、アイキは山道を器用に走り抜けていった。
「どれ、お手並み拝見といくか」
 有志はキャップをかぶり直すと、自分もアイキと同じ方向に向かって駆け出した。
383あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:30:29 ID:5l8ZjR/eO
 有志が現場に駆けつけた時、アイキは童子と姫を相手取り、格闘戦を始めているところだった。
 和洋折衷の民族衣装のような服を纏った、細面の長髪の男『童子』と、長い黒髪の女『姫』が、常人離れした動きでアイキ一人に向けて突きや蹴りを繰り出す。
 アイキの動きもまた常の人間ではなく、尋常ではないスピードと格闘センスで二人の攻撃をかわしていた。アイキは童子の回し蹴りを後ろに躱し、とび退って距離をとった。
(やるじゃねぇか)
 木陰から、有志はアイキの戦闘能力に感心しながらその様子を見守り続けた。これまでいくつもの現場で鬼と魔化魍たちとの闘いを見てきたが、アイキの闘いは決してそれらのものと比べて劣るものではなかった。
『来たね。鬼が』
 童子が女の声で言うと、掛け合いのように姫が男の声で続ける。
『来たね。我らの子を狩りに』
 アイキに殺意に満ちた視線を向けた童子と姫が、姿を人間体から怪人体に変化させ、蜘蛛を思わせる人外の姿、怪童子・妖姫になった。
「こっちもぃきまーす」
 アイキは真っ赤なデコレ音叉を取り出すと、腰から下げた銀の円盤に打ち付けて、森の中に澄んだ音を響かせた。
 音叉を額にかざすと、徐々に藍色の風が彼女の周囲に巻き起こり、やがて全身を覆うようになった竜巻の中に、上方と左右に張り出す三本角の人影が浮かび上がった。
『ハァッ!』
 平時とはまるで違う気合いのこもった声を聞き、樹の陰にいた有志は耳を疑った。
 手刀で藍色の風を断ち割り、激しく回り続ける渦の中から、濃紺の体を持つ三本角の『鬼』が姿を現した。
 ──履歴書の記載によると、その鬼名は『愛鬼』。
 銀色の目鼻の無い顔には水色の隈取が走り、額の金色の鬼面の上に一本、両のこめかみから上に反ったものが二本、合計三本の銀の角が生えていた。
 前腕も隈取と同じく水色で、そして角と同じく銀色の襷が濃紺の上半身を覆っていた。
384あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:33:35 ID:5l8ZjR/eO
 怪童子、妖姫との距離を一瞬で詰めた愛鬼は、突き出す手刀、蹴り出す脚に纏った風を二体に叩き込んだ。
 ──履歴書の記載によると、その技名は『鬼闘術・風裂断』。
 そのまま愛鬼は動きを止めた二体を後にして駆け抜け、森の奥にいる巨大な黒と黄の縞を持つかたまりに向かって突進していった。
「敵に簡単に背を向けんなよ」
 腰から下げたディスクに手をかけた有志だったが、怪童子と妖姫の上半身が、鋭利な切り口を境にぽろりと折れたのを見て、また手を戻した。二つの上半身が地面に落ちる間もなく、爆発が起り童子たちは土くれと化した。
 また有志は、愛鬼の腰から下がって揺れる、尻尾のようなものを遠くに目にした。
(あん? なんなんだ一体)

 愛鬼が駆け入った先には、縞模様の体から、ひとつひとつが樹の幹ほどの太さのある八本の節足を生やした巨大な蜘蛛の怪物、ツチグモがいた。
 紅い複眼で愛鬼を捕えたツチグモは、鋏角の間から白い粘液を吐き出してきた。横にかわした愛鬼は、ツチグモの真横に位置する樹の根元まで走り込むと、跳躍して枝の上に立ち、更にそこから飛び上がってツチグモの背に着地した。

 有志が追いついた時には、愛鬼がツチグモの背で、両手で握った棍棒のような一本の大型音撃棒を、高々と天に振りかぶったところだった。
「なんだ? あのデカい音撃棒は……」
 思わず有志は呟いた。標準の、二本一組で両手に持つ型とは違い、愛鬼が手にする音撃棒はただ一本だった。そして長さは普通の音撃棒の1.5割増し。金属に覆われ、先端に近付くほど太い。
 どこにそんな武器を持っていたのか、と有志は少し考え、愛鬼が腰から下げていた尻尾のようなものの正体はあれか、と思いあたった。
 ──履歴書の記載によると、その装備は『音撃棒・時東(じとう)』と『音撃鼓・有実(うじつ)』。
 自らの背にのった鬼を振り落とそうと、ツチグモが咆えながら体を揺するように蠢き始めた。そこに、愛鬼が振り下ろした『時東』の強烈無比な一撃が叩き込まれた。
385あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:36:27 ID:5l8ZjR/eO
 重く深い打撃にツチグモの動きが止まり、八本の肢が辺りに起していた土煙が、静かに晴れていく。
 その中で、愛鬼は素早く腰のバックルから音撃鼓を取り外し、ツチグモの背に押しあてた。そして鼓を両手一杯ほどの直径に展開させると、再び両手で持った一本の音撃棒を天に振り上げ、愛鬼は張りのある堂々とした声を森に響かせた。
『音撃打・風雲究刻の型!!』
 変身時の気合いの声も、有志の聞き違いではなかったらしい。これが戦闘時の愛鬼の声なのだと、有志は納得した。
 愛鬼は、両手で肩越しに振りかぶった『時東』を『有実』に叩き付けると、その反動で右に左に振りかぶり、音撃鼓を通してツチグモを滅多打ちにしてながら清めの音を叩き込んでいった。
 一撃一撃が激しく重く、20打も叩かぬうちにツチグモの体表に亀裂が入り始めた。愛鬼がツチグモの背を蹴って飛び降りると、巨大な体躯は爆発し、後には朦々とたちこめる土煙の中、土くずが森の中に降り注いだ。
 徐々に薄くなっていく煙の向こうに立つ愛鬼に、有志は感心して声をかけた。
「おう、お疲れ!」
『ぁ、ぉ疲れさまです。ヘ(゜∀゜*)ノヽ(*゜∀゜)ノ』
 有志に気づき、顔の変身も解かぬまま、変身前と変わらぬ気の抜けた声に戻って愛鬼は答えた。
『キャンプゎどっちですか?』
「こっちだ、着いてこい」
 闘いを終えると、顔だけ変身解除する鬼は多い。清めの音を叩き込んだ後の疲労した体をいち早く回復するには、少しでもエネルギーの消耗を抑えるのが有効だからだ。
 顔の変身を解除しない愛鬼に気づいて、有志は内心ニヤリとした。
(戦闘そのものは良かったが、こいつもまだまだ未熟ってことだな。いまだに顔だけ変身解除を覚えてないと見える)
 変身を覚えて間もない新人の鬼には、ままあることだ。変身ができるようになってしばらく経っても、苦手な者にとっては顔だけ変身解除をするのは難しいことらしい。
386あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/01(火) 00:40:10 ID:5l8ZjR/eO
 キャンプ地に帰った頃は夕暮れ時だったが、愛鬼がテントに入ってからずいぶんと時が経ち、辺りはすっかり闇に包まれていた。
「おい、着替えにどんだけ掛かってんだよ」
「ぉまたせしてます、ぃま終ゎりますぅ(●>_<●)ノ♪」
 30分も過ぎた頃、ギャル系メイクをバッチリ終えてテントから出てきたアイキを見て有志はのけぞった。
「このあと家に帰るだけだろ!? そんなことで待たせんなよ!」
 目を三角にして喚きながら、有志はテントを片付け始めた。
(一瞬でもこんなやつに感心して損したぜ)
 キャンプ用具を『蒼龍』に積み込みながら、有志は思った。
(大体、こいつの戦績は黒星だらけじゃねぇか。今日はたまたま、相手が弱かっただけだ、きっと)
 帰りの車中、むすっとしながら有志が運転を続ける『蒼龍』の後部座席で、アイキはケータイの画面を見ながらキーを打ち続けていた。
 アイキはウェブサイト上の日記の更新を終えると、書き込んだ結果をケータイの画面に表示した。そこには、次のように記されていた。

 zoo8年4月|日('人')
 、キょぅゎz4匹目ぉ撃石皮ιまιナニ。ぁー⊂フб匹〜v

 何かの暗号かと思わせるほど他人に読み難い、その日記の内容を確認すると、アイキはケータイの画面を見て幸せそうに微笑んだ。


⊃⊃″<。
387名無しより愛をこめて:2008/04/01(火) 13:11:55 ID:yqvlk7Yr0
>>380
投下乙です。
面白かった。続きができましたらまた投下してください。。
388鬼ストーリー トリビア:2008/04/05(土) 00:37:26 ID:hFEo1HFG0

 仮面ライダーカブト主人公 天道総司の口癖「おばあちゃんは言っていた」

 に良く似た 鋭鬼SS 吹雪鬼の口癖「ばっちゃが言ってた」の初出は

 カブト放送開始より 1ヵ月 先んじている
389名無しより愛をこめて:2008/04/05(土) 13:46:37 ID:DNuoVrGl0
>>386
面白かった。続き希望。アイキ、なかなか強烈だなあ…w

だが
>キょぅゎz4匹目ぉ撃石皮ιまιナニ。ぁー⊂フб匹〜v
が解読できないww誰か教えて(⊃д⊂)
前半が『今日は24匹を撃破しました』だとして、後半がさっぱりお手上げ。最近の若いモンの文章は…orz
390名無しより愛をこめて:2008/04/05(土) 15:53:15 ID:cGe8peek0
カブトも鋭鬼SSの人も時期的に「舞-乙HiME」の影響を受けたっぽいな
391名無しより愛をこめて:2008/04/05(土) 16:22:56 ID:k5dYoNf50
「あと76匹」じゃないかな
本編読んでないけど100体倒すまでをカウントしてる?
392志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:47:10 ID:n+pT4nM00
ご無沙汰です。
スレにSSがあまり投下されず淋しい思いをしています。
場つなぎではありますが、番外編書いてみたんで投下します。
暇つぶしにどうぞ
393志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:48:41 ID:n+pT4nM00
眼前でオトロシと呼ばれる魔化魍が爆発した。
音撃という攻撃方法による体組織の内部からの完全破壊。それが爆発の原因だった。

目もくらむような閃光と共に安達明日夢は夢から覚めた。
「びっくりした……」呟いてベッドから起き上がる。その枕元の時計は午前6時を指そうとしていた。
「あんな事のあった後だからかな……。こんな夢も見るか」さらに呟くと、今さっき見た夢の中の出来事を思い出してみる。


 志を継ぐ者と業を継ぐ者・番外編「夢の中だけの鬼」
394志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:50:40 ID:n+pT4nM00
遠い昔より《魔化魍》と呼ばれる超常現象を引き起こす妖魅を退治する組織、《猛士》の関東支部に所属する十一名の《鬼》。その中でも第一人者と称されるヒビキの元で一人前の鬼になった明日夢はコードネームを《暁鬼》と称していた。
明日夢と同級で同じように鬼を目指していた桐矢京介も時を同じくして独り立ちし《強鬼》と名乗っていた。
明日夢のコードネームは元々《序の六段》として管の鬼であるイブキの弟子であった天美あきらの父親が現役時代に名乗っていた名前である。その父はあきらが十四歳の時に魔化魍との戦いで負傷し、既に他界している。
ある事件から鬼になることを諦めたあきらからその銘を継いで欲しいと言われた明日夢は師匠のヒビキと相談した上で申し出を受け、《暁鬼》となったのである。
ヒビキの元で修行した三年という月日は明日夢を逞しい青年へと変えた。
多方面に器用な京介とは違い、一点集中型の明日夢は只管に太鼓の技術を磨き続け、太鼓の《鬼》としての高い実力を備えるに至った。
京介は明日夢と張り合うようにして自らの技術を磨き、打、奏、斬という鬼の攻撃方法の基本全てにおいて高い技術を身につけた。
猛士関東支部の二人の若き《鬼》は成り手のいない現在において、これ以上ない逸材であった。
395志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:54:01 ID:n+pT4nM00
翌朝、たちばなの主人であり、猛士関東支部長でもある立花勢地郎と情報担当官、通称《金》の戸田山日菜佳に送られてアカツキとあきらは奥多摩の山中へと出動した。
 現場へ入ると二人は慣れた手つきでベースキャンプを設営し、ラゲッジに積んであった索敵用の式神《ディスクアニマル》を展開した。ディスクアニマルは音式神ともDAとも呼ばれ、
鬼の変身装備である音叉や音笛といった物から発せられる特殊な波長で起動し、魔化魍を捜索する。
「よろしく頼むよ、みんな」師匠譲りの敬礼にも似た仕草を見せてDAを送り出すアカツキ。
「お願いね」あきらも持っていた音笛でDAを起動させ、索敵に向かわせる。
 放たれた数十体のDAが地を駆け、大空を舞う。
 こうしてDAを放った後、暫くは《待ち》の状態になる。
 魔化魍を育てる存在である《童子》や《姫》の活動は通常《逢魔が時》と呼ばれる薄暮の時間帯や霞や靄の出やすい明け方に多い。昼間に堂々と出る場合もあるが、
殆どは獲物である人間を狩りやすいようにあまり目立たない行動を取るためにこうした時間を選ぶ傾向がある。
 魔化魍は昼間にはあまり気配を出さない為、多数のDAによる索敵は隠れた魔化魍を発見するには最も効率のよい方法なのである。
 あきらがどうぞといってコーヒーを差し出してきた。持ってきたポットでお湯を沸かして淹れてくれたコーヒーはアカツキの好きなキリマンジャロだった。
「あきらさんってホントにコーヒー淹れるの上手だよね」アカツキはうまそうにコーヒーを啜りながら言った。
「父がコーヒー党でしたから……」あきらはそんなアカツキの仕草に嬉しそうに答える。
 なんとなく場がいい雰囲気になりそうなところで茜鷹がぴぃぃぃ、と言いながら帰ってきた。
「お、来ましたね」アカツキは鷹をディスクに還すと音叉を取ってディスクの音声を再生した。
 きゅりきゅりと魔化魍独特の音声を再生するDA。
「当たりですね」あきらの言に頷くアカツキ。目は既に鋭い鬼のそれに変わっている。
「頑張ってください」左腰に提げた袋から火打石を取り出すとアカツキに向かって切り火をする。魔を清める前の禊の行為だった。
「行ってきます」しゅっ、と敬礼のように右手を閃かすとアカツキはその場から魔化魍のいる場所に向かって駆け出した。
396志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:55:49 ID:n+pT4nM00
アカツキが現場に到着した時、眼前には長髪の男がにたりと笑って待ち構えていた。
「……鬼か」男の発する声は女のそれだ。間違いない。オトロシの童子だろう。
「ふん、出やがったな」アカツキは右足を少し引いて身構えると周囲に気を配った。
「お前の余裕からすると、オトロシは既に大きくなったって訳か」
「わが子は少食でね。五人食べてもうお腹いっぱいだとさ」背後から男の声がした。
「……貴様等……!」背後に現れた姫の言葉にアカツキはぎりっと歯噛みして右腰の変身音叉を取り出し、左腕に軽く当てた。
 きぃぃん、と清らかな音が鳴り出す。音叉を額に当てるとアカツキの全身が忽ち白い炎に包まれる。
「破ぁぁぁぁっ!」炎は飛び掛る童子と姫を跳ね飛ばし、アカツキを紫色の鬼、《暁鬼》に変えた。
 暁鬼は背後に据えた音撃棒を両手に持ち、挟撃を図る童子たちを牽制する。
「生意気な鬼めが。お前の血肉、喰ろうてやろうぞ」暁鬼の反撃に苛立った童子はそう言うと両目をギラリと輝かせた。
 いまだ人間体だった童子と姫の全身が膨れ上がり怪童子と妖姫へと変わってゆく。
「おなじみの変身か。……いいだろう。その姿、清めてやる!」暁鬼は姿を変えた怪童子達に向かって音撃棒を振るってゆく。
 しかし、怪童子と妖姫は暁鬼の予想を上回る力を持っていた。
 暁鬼の打撃を受け止めたどころか、軽く弾き返したのである。
「ち……。見た目は普通だが、実は結構硬いよって奴か……!」暁鬼はオトロシの特性から童子や姫の外見が鎧童子並みに硬くなっているのではと考えた。
「それじゃ、奥の手だ」口を開けて鬼火を1発ずつお見舞いする。顔面に鬼火を浴びて視界をさえぎられる怪童子達。
「お前等に見せてやる。響鬼さん仕込みの烈火剣をな! ……破ぁぁぁぁぁぁぁっ!」両手の音撃棒を交差させ、音撃棒の先にある赤い鬼石に気を籠める。
 鬼石の輝きが激しくなり、その先から白い炎が噴出した。剣状に伸びた炎はまさに響鬼の技、烈火剣そのものだった。
お、おのれ!」顔の鬼火を振り払うと怪童子は両肩の角で暁鬼めがけて殺到した。
「勢りゃあっ!!」気合一閃、暁鬼が右手の烈火剣を振り下ろすと怪童子は袈裟掛けに斬られて爆裂した。
「……ひ、ひぃっ!」妖姫がそれを見てくるりと踵を返して逃げようとする。が、暁鬼はそれを見逃さなかった。
397志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:56:56 ID:n+pT4nM00
「人を五人も食らいやがって……。あの世で懺悔しやがれ!」すかさず飛び上がると妖姫の前に立ちふさがり、両手の烈火剣を左右に開いて横一文字に妖姫を切り裂いた。
「…………ワガ子ヨ、……人ノ世ヲ……ホロボセェ!」ゴバゴバと泡を吹きながらそういい残すと妖姫は爆発して果てた。
 妖姫の断末魔に呼応するように巨大な魔化魍が暁鬼の前に出現した。
 魔化魍オトロシである。
 オトロシは亀のような丈夫な甲羅とサイのような角を持つ巨大な魔化魍である。一説によると百年に一度出るかどうかと言う魔化魍で単純な音撃では倒せない事もあるという。
「飛び上がる前に倒さなきゃ、えらいことになるな……」暁鬼はそう独り言を言いながら策を練った。
『確か、響鬼さんたちは……』オトロシと距離を保ちながら鬼石に気合を籠める。
「いやあっ!」鬼石に燈った炎をオトロシの甲羅に守られた目にめがけて放つ。
 しかし、オトロシはそんなの効かないぞとばかりに身を軽く捻って甲羅に鬼火を当てて防御した。
「ちぃっ、知恵の回る奴だ!」暁鬼は素早くオトロシの死角に回り込んで飛び上がるとその甲羅に音撃鼓を貼り付けた。
 音撃鼓はいよぉっ、と音声を発して展開され、暁鬼は構えた音撃棒から音撃を繰り出したがオトロシは我関せずといった風情で止まる様子もない。
 首を巡らすとその頭についている目でぎろりと暁鬼を睨み、にやりと笑みを浮かべた。
 軽く足を上げて足踏みする。
 地響きを上げるその動きに暁鬼は忽ち地面に振り落とされてしまった。外れて落ちてくる音撃鼓を素早く受け止めると、オトロシの足を回避する。
 しかし、オトロシが足踏みするだけで地面は激しく揺れ、暁鬼はバランスを保てずに転倒してしまった。
「し、しまった!」その眼前に降って来るオトロシの足。
 万事窮す、と暁鬼が覚悟したその瞬間。オトロシが悲鳴を上げ、降って来る足は間一髪暁鬼を避けて地面に落ちた。勢いで吹っ飛ばされ地面に投げ出される暁鬼。
「何ちんたらやってるんだ! しっかりしろ!」声のする方向を見ると、銀色の鬼が音撃管を構えて立っていた。
「強鬼!」絶体絶命の暁鬼を助けたのは彼のライバルにして無二の友、強鬼であった。
「一仕事終わったから来てみれば……。こんなの相手に何梃子摺っているんだ」
398志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:57:41 ID:n+pT4nM00
「気をつけろ! こいつ結構知恵が回るぞ。自分の弱点もよく見えてる」忠告する暁鬼に強鬼は何でもないさという風情で言った。
「だったら二人掛りでやればいいさ」
「……そうか、響鬼さん達の手だな」強鬼の物言いに暁鬼はすぐに意図を理解した。
「わかればいい。片目は俺が塞いだ。間違いなく奴はこれから逃げにかかる。追うぞ」
 鬼の増えた状況に危険を感じ、オトロシは逃走を図った。物理法則を無視するように宙に浮かぶとそのまま飛行を始める。
「運転しろ、暁鬼! 奴は俺が狙い打つ!」強鬼の言に頷き、暁鬼はすぐさまバイクに跨ると強鬼を乗せてオトロシを追跡した。
「野郎、その腐った目玉を狙い打つぜ!」強鬼の持つ音撃管から放たれる鬼石が狙いを違わずにオトロシの目に命中する。
「面の目玉も落として真っ暗にしてやる!」続いて頭の両の目玉も打ち抜く。
 視界を潰されたオトロシは飛行を続けられずに落下した。
「止めをさすぞ!」
「応!」二人の鬼はすぐさまバイクを降りてオトロシの元に急ぐ。
 オトロシは鬼の気配を感じて滅茶苦茶に動いて鬼を殺そうとするが、目が見えないためにその攻撃が鬼にあたるようなことはなかった。
「行くぞ、音撃打・蒼炎強打の型! 破っ!」強鬼が音撃鼓をオトロシの背に貼り付け音撃を繰り出すが甲羅に阻まれて攻撃が通じない。
 先ほどの暁鬼と同様に振り落とされてしまう。
「うわぁっ!」更に落とされた先にオトロシの足が降って来る。
「距離をとれ! このままじゃ危険だ、強鬼!」暁鬼は強鬼にそう言い、二人はオトロシの射程外に出た。
「くそ。あの硬い甲羅、何とかならないのか」
「音撃弦でもあれば何とかなりそうなものなんだが……」
「何やってるの、君達」不意に背後から声がした。
399志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 01:58:43 ID:n+pT4nM00
「ひ、響鬼さん!?」思わず二人が同時に声を上げる。
「よっ」左手に持った音撃棒で肩をとんとんとやりながら二人の背後に現れた響鬼は右手でいつものポーズを決めると、へえっ、オトロシかと言った。
「目は潰したんですが、止めがさせなくて」
「二人でやってみたか?」
「いえ、それはまだ……」
「よし、いい機会だ。三人同時に仕掛けよう。《太鼓祭り師弟競演の回》だ」
「!? 三人同時ですか?」
「同時音撃は俺は大丈夫ですけど、暁鬼の奴は合わせられませんよ、きっと」驚く暁鬼に対して強鬼は俺の方が上だぜと言うように重ねる。
「なにお!」カッと来て腕まくりする暁鬼。
「やるか!」同様に腕をまくって顔を付き合わせる強鬼。
「二人ともよせ。お前等はどう見ても息もぴったりなチームだ。大丈夫、俺が保障する」
「……はい」響鬼の言に素直に言を引っ込める二人。
「よし。では作戦だ。三方から攻め上がり甲羅に向かう。二人はオトロシの潰した目の辺りに音撃鼓を貼り付けろ。俺は奴を牽制しながら奴の背に上がる。
それから音撃のパート決めだが……強鬼、お前は表を取れ。俺は裏を取る。テンポは俺に合わせろ。ソロパートは暁鬼、お前だ」
「はい!」
「最初は強鬼の表リズムと一緒だ。型は蒼炎強打を基本に行く。俺が入って一発を入れて動きを止める。それから四小節後に入って来い。
その八小節後からソロを十六小節で展開しろ。ソロが入れば三パートになって確実に奴を屠れる筈だ。俺の見立てではソロから三パートに入って十六小節で奴は吹っ飛ぶと見る」
「わかりました。……暁鬼、頼むぜ!」
「任された! 決めるぞ、強鬼!」
「……ようし、行くぞ!」三人はそれぞれの右拳を突き合わせるとオトロシに向かって駆け出した。
「仕掛けるぞ!」響鬼の合図と共にそれぞれの配置につく暁鬼と強鬼。
 響鬼が鬼火で牽制してオトロシの足を止める。その間に二人は響鬼の指示通りにオトロシの潰した目の辺りに飛び上がった。
「始めるぞ! 音撃三連・太鼓祭り!」飛び上がった響鬼がオトロシの頭上を遥かに越え、その背に降り立つと同時に音撃鼓を貼り付ける。
 それに合わせて暁鬼と強鬼が音撃鼓を貼り付けた。
 響鬼が両の手から重い一撃を繰り出す。
 どおおおおん、と音が響き、オトロシの動きが止まった。
400志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 02:00:38 ID:n+pT4nM00
すかさず早いリズムで音を刻む。
 四小節後に二人が入り、その後八小節で暁鬼がソロパートに入った。
 暁鬼は激しいリズムで曲を引っ張り、響鬼と強鬼はテンポをキープして音撃を纏め上げた。
 響鬼の見立て通り、その三パートが揃った十六小節後にオトロシは激しい発光と共に大爆発したのであった。

『いい夢だったんだか悪い夢だったんだか分からないけど……』明日夢はベッドの上で考えていた。
 自分の選んだ道を進みたいとヒビキに言った事は間違いなく自分の本心である。
 ヒビキも明日夢のその言葉を喜んでくれて、独り立ちだとまで言ってくれた。
 しかし、明日夢はその裏でどこかに鬼に対する憧れは今も持ち続けていた。
 きっと、その思いとあの時の変身が自分にこの夢を見せたのだ、と明日夢は思う。
『人間って、身勝手だよなぁ……』
 本心の裏にも別の心がある。
 それはひょっとすると潜在意識という別の世界なのかもしれない。
『でも、自分で決めた事は通さないとね。太鼓祭りの音撃のようにバッチリと』
 明日夢はカーテンを開けて部屋に入って来る陽光に目を細めながら思った。
 東京の空は今日も晴れている。自分の道を見定めた青年の澄んだ心のように。

番外編、了
401志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 02:06:56 ID:n+pT4nM00
響鬼SSを久しぶりに書いてみて楽しかったです。

書いてみて思ったのは、やっぱり今も響鬼が好きなんだなぁ、と言うこと。
まだ暫くはこの響鬼の世界から離れられないようです。
SSもまた機会があれば書いてみようと思います。

ホントは一度オリジナル書いてみたんだけど、できなくてボツっちゃったんですわ。
一から作るって難しいなぁ・・・・・・。
402志を〜作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/06(日) 02:13:27 ID:n+pT4nM00
読み返してみて、レスにに抜けを発見してしまいました。

>394と>395の間に以下の文が入ります

「奥多摩の方でオトロシの童子らしい人影を見たとの知らせがありました」明日夢の独り立ちと時を同じくして鬼のサポート役である《飛車》となったあきらが明日夢――アカツキ――の目の前にお茶を置きながら言った。
サポーターであきらの担当はアカツキとキョウキの二人である。勿論二人とも必要に応じてバイクと車の免許は取ったものの、世知辛い御時世である。経費削減の煽りを受け、車両等の新規導入は最小限に抑えられていた。
出動回数も頻繁な訳ではないので、現在は鬼二、三人に対し支給される車両とバイクは各一台という編成になっている。
「オトロシとは珍しいよね」アカツキは出された茶を啜りながら答えた。
「でも、オトロシなら弦の担当だからトドロキさんやイチゲキさんの出番じゃないの?」
「忘れました? 弦の皆さんは技術研修で今は吉野ですよ」向かいに座ったあきらがアカツキの顔を覗き込むように言う。
「皆さんが留守中も自分たちが頑張りますから、ってキョウキさんと大見栄切ったのは誰でしたっけ」
「……あははは……」そんな事もすっかり忘れていたアカツキは苦笑いするしかなかった。
「キョウキさんは昨日から別件で出動していますから、番方で空いているのはアカツキさんという事になります。明日朝一で現地に入りますから、支度しておいて下さいね」
あきらはくりっとした両の目で明日夢を見据えてそう言うと、店に上がりますと言って地下の作戦室から一階の《甘味処たちばな》へと上がっていった。
『あきらさん、最近何か香須実さんに似てきた気がするなぁ。……仕事柄かなぁ』アカツキはそう思いながら残っていた茶を啜り、皿の上にあった団子を口に頬張った。

ミスってすみません・・・・・・。
403名無しより愛をこめて:2008/04/06(日) 02:23:10 ID:NtbENddu0
>その八小節後からソロを十六小節で〜
何この中四国的なノリ
404名無しより愛をこめて:2008/04/07(月) 00:02:43 ID:65tNbvbB0
>>402
投下乙
>>399
「なにお!」は正しくは「なにを!」では?
本人も気付いてるかもしれないけど、一応書いときます。
405あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:31:26 ID:TK3WTQQFO
前回>>380-386の日記の解読結果

 2008年4月1日(火)
 きょぅゎ24匹目ぉ撃破しました。ぁと76匹〜v


『あなたの背中を護りたい』 二之巻「顧みる空」


 アイキと組んで初の出動があってから数日後、有志は4WD『蒼龍』に乗って仙台市内にある『穂村総合病院』を訪れた。
 外壁にガラスの面積を大きく取った、近代的で開放的な白い病棟の自動ドアをくぐり、有志はエレベーターで4Fの整形外科に向かった。
 お決まりの青いキャップを、つばを後ろにまわして被り、薄手のカーディガンをまとって飄々と歩くその姿は、何か病気を抱えているようには見えない。かと言って誰かを見舞いに来た風でもなく、手には見舞いの品もない。
 ちらほらと患者が座るベンチの脇を通り過ぎ、有志は病院関係者用の扉を通り抜け、患者が出入りするドアと反対側にある戸口から、診察室の中の様子を窺い見て声をかけた。
「オス」
「オス、いらっしゃい」
 白衣姿の女医・芦川史子は、目の前のモニターに視線を向けたまま、適当な返事をした。やがてマウスボタンを何度かクリックして仕事にひと区切りつけると、眼鏡を外して立ち上がった。
「それじゃあ休憩入れるわ」
 数分後、有志は自動販売機コーナーそばのベンチに座り、紙カップでコーヒーを飲み、史子は陽光の差し込む大きなガラス窓の近くに立ち、同様にコーヒーを飲んでいた。
「ディスクアニマルの整備はできてるか?」
「できてるけど……来て早々それ? こないだもディスクアニマルだけ置いて、さっさと帰るし」
 史子は怒っている風でもなく、その言葉には気心の知れた笑いを含んでいた。
「そもそも直帰でよかったのよ? 別にその日のうちに持ってこなくても」
「次の出動がいつになるかわかんねぇだろ」
「相変わらず仕事の鬼ね。てか、『鬼』のサポーターだけど」
「俺ァこの仕事に命懸けてんだよ」
 穂村総合病院は、病院全体が猛士の協力態勢をとっている。そして、近辺に住む『猛士』メンバーの寄り合い所的な場所としても機能している。
406あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:34:20 ID:TK3WTQQFO
 東北支部に寄らずとも、ここに来て装備類を置いていけば、支部付きの技術部がやってきて整備を行ってくれることになっている。
「まさかこの中に、猛士東北支部の出張所があるたァな」
 有志は全体的に白で構成された院内を見回して言った。
「院長が猛士の医療部の人間だしね。……って、3年ぶりなのに仕事の話ばっかり?」
 長い付き合いのなせるわざで、史子は気軽に突っ込みを入れた。
「他に何がある」
 冷めた目で有志は言った。
「もういい歳でしょ。所帯を持ったとか子供ができたとか、そういうの、ないの?」
「『いい歳』はお前も同じだろ。まーだ『年収4000万以上の男じゃなきゃ結婚しない』とか言ってんのか?」
 ようやく、からかうようにではあるが、少し笑顔を見せて有志は言った。
「言ってる」
 史子はニヤリとして答えてから、コーヒーを飲み干した。
 そんなんだから嫁き遅れんだよ、と有志が小さく呟くと、史子はキッとなって言った。
「今なんか言った?」
 なんでもねぇよ、と誤魔化してから、有志は東北支部での初出動の日から、ずっと気になっていたことを史子に尋ねた。
「あの『ギャル鬼』は一体なんなんだ?」
「……アイキちゃんね」
 史子はフッと笑った。
「こないだの出動ん時は申し分ない仕事してたけど、実際のところ、戦績はかなり悪いだろ。記録じゃ黒星だらけだ」
「履歴書ファイルは、こないだ装備を預けに来たときに返したんだっけ」
「おう」
「一緒に来て」
 言うと、史子は先に立って歩き、有志と共に院内の奥まった一室に向かった。
407あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:37:03 ID:TK3WTQQFO
『関係者以外立ち入り禁止』とされているその部屋は、有志が先日の出動後にディスクアニマルを預けに来た部屋だった。この中が猛士東北支部の『出張所』となっている。
「ディスクアニマルはそこに置いてあるから。後で持って帰って」
 史子は部屋の一角に積み重なっているボックスを差してから、デスクについてパソコンのキーを叩いた。
 モニター上に、先日有志がクリアファイルで見たアイキの履歴書が表示された。
「戦績って、これでしょ?」
 画面をスクロールさせると、初戦からの戦闘記録が出てきた。そこに並ぶのは『敗退』の文字ばかり。
「やっぱり黒星だらけだよな」
「ここ半年くらいの記録だけを見てみて」
 記録の最後の方だけ見ると、アイキはほぼ無敗の戦績を誇っていた。
「連戦連勝じゃねぇか。何があったんだ、これ」
「去年はまだアイキちゃんは関東支部にいて、聞いた話だと『シフトを無視して合コンに行く』とか『戦闘中にケータイでメールを打つ』とかまあ、行動に問題が多かったらしいのね。でも、東北支部に異動になって、ここでシュウキくんと会ってから、変わったの」
「シュウキ?」
「前に東北支部にいた、弦の人なんだけど」
「『前に』って、今は他の支部に異動してるのか?」
 モニターを見たまま、史子は首を横に振って言った。
「ううん」
「じゃー故障か何かで引退か?」
 史子はまた首を横に振った。
「異動でも引退でもないって、まさか」
408あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:40:19 ID:TK3WTQQFO
 有志以上に病院に似つかわしくないギャルが一人、ふわふわした足どりで穂村総合病院に入っていった。腰に巻いたベルトの右側にはストーンで装飾された真っ赤な音叉、左側には三枚の銀の円盤、後方には毛皮つきの尻尾を提げていた。
 歩く度に、尻尾もふわふわと揺れる。それを指して入院中の子供が「ネコちゃんだー」と声をあげると、アイキは子供に向き直り招き猫のように手を上げて、「にゃぁぉ」と鳴いてみせた。
 鬼に変身して魔化魍を退治すると、シフト期間内であっても何日か出動がなくなり、体力の回復に充てられる。アイキも今、その期間中であった。そして今日は、先日の出動の報告のため、院内の猛士出張所を訪れたところだった。
 4Fに上がり、さきほどまで有志と史子がコーヒーを飲んでいた窓際のベンチの横を歩き抜けようとして、ふと大きなガラス窓の向こうに広がる空に顔を向けた。
 どこまでも続く青空。はてしなく遠い『場所』に向けてアイキは想いを馳せた。
 空のスクリーンにちらりと懐かしい姿が見えたような気がして、窓の外を見上げたままアイキは目を閉じた。すると、もう随分と聞いていないシュウキの声が耳に甦ってきた。
(互いの背中を護れるくらいに強くなれたら、俺のところに来い)
 共に過ごしたあの頃も、身長160そこそこのアイキは、190を超える身長のシュウキを、いつも見上げていた。面長な顔の中で、その目は優しかった。
(おまえの背中は、俺が護ってやるよ)
 最後にそう言い残し、9か月前、シュウキ・代田信は遠い所へ旅立った。
409あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:45:22 ID:TK3WTQQFO
 史子が操作するパソコンのモニターを、有志が脇から覗き込んでいた。
 表示されているのは、アイキの音撃棒『時東』と音撃鼓『有実』だった。
「いろいろと妙な装備を持ってるよな、あいつ」
 音撃棒『時東』は、先端と手元に鬼石が埋め込まれた、一本構成の大型音撃棒だった。周囲は八角の鉄で覆われ、手元から先端に向かうほど太くなっている。
 音撃鼓『有実』は、愛鬼のカラーに合わせて濃紺の縁取を施した音撃鼓だった。
 モニター上の音撃武器の画像を見せながら、史子は有志に解説した。
「先代さんから受け継いだ、実績のある武器よ。太鼓の一本構成っていうと、歴代凍鬼の『音撃金棒』が有名だけど、これは本数を除けば普通の音撃棒と同じ。片手で扱うこともあるから、それなりの腕力がいるけどね」
 二本組の音撃棒同様、普段は呪術により小型化している。アイキはそれを毛皮の袋に入れ、腰から尻尾のように提げている。
「よくやるよな、あんな細っちい体でよ。えーとそれから、あいつの変身音叉」
 パソコン画面上で別ウィンドウを開き、史子は鬼面のついた音叉を有志に見せた。
「これでしょ? アイキちゃんの変身音叉『音藍(おんらん)』」
 モニターに映る音叉は、デコレーションの無い通常のものだった。
「仕事で使うモンに、あんなにデコデコ飾り付けしやがって。音叉にまでするか? 普通」
 そこにアイキが顔を出し、デスクでパソコンに向かう史子に声をかけた。
「ァヤ先生、ちぃーすヾ( ≧▽≦)ノ」
 次いで、脇に立つ有志に気づいていった。
「……と、帽子のオヂサンも、ちぃーすヾ( ≧▽≦)ノ」
「俺とアヤは同い年だ! なんだその差は」
「ぇぇー、そぅなんですかぁ?」
 本気で目を丸くするアイキに、笑いをこらえながら史子は言った。
「ユージは小学校からの同級生よ」
410あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:47:45 ID:TK3WTQQFO
 有志はアイキの腰から下がる、キラキラのストーンでデコレートされた音叉を目にして言った。
「あ、ま〜た懲りずに音叉に妙な飾り付けをしやがったな、お前は」
 先日見たときと同様、音叉は真っ赤に塗装されていた。
 アイキは音叉をベルトから外すと、手に取って不思議そうに言った。
「『また』?( ゜Д゜)?」
「何度やっても、どうせ変身する時に落ちちまうんだからよ、無駄な努力はやめとけって」
 アイキがきょとんとしていると、史子が横から言った。
「ああ〜、それね」
 史子の説明によると、以前、東北支部に立ち寄った総本部の車両部の人間が、アイキのリクエストで音叉にデコレーションを施したらしい。専門職の人間が特別な製法を用いているため、音叉本体や装備帯と同じく、変身時の衝撃を受けても消失しないという。
「車両部の特製だから落ちない!?」
 有志はあんぐりと口を開け、アイキが笑顔で手にしているデコレ音叉を見た。
「関係者が出張続きで連絡がとれないらしくて、結局音叉はそのまま使ってるってわけ」
「じゃあ俺は、これからずっと巫山戯た音叉を使う鬼と仕事をしなけりゃならないわけか?」
 だいぶ前に、車両部の人間が、緑に塗装するように指定があった車を手違いで真っ赤に塗り、また緑に塗り直したという話を聞いたこともある。
「何やってんだよ車両部は!」
 有志はどこにいるとも知れぬ車両部の人間にむけて喚いた。
411あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/07(月) 21:50:41 ID:TK3WTQQFO
 アイキが出張所のパソコンで報告書を提出したあと、有志は言った。
「聞いたぞ。シュウキって奴の話」
 その名を聞くと、両手で顔をおおって照れながらアイキは言った。
「そぅなんですぅ。『強くなったら俺のところに来い』って、言ってくれたんです」
「で、9か月前にそいつは渡米して、今はあっちの猛士みたいな組織に入って働いている、と」
 シュウキは思う所があって海を渡り、アメリカの地で『鬼』と同じような仕事に就いて人助けをしているらしい。
「そんなの、お前が追っかけていかないようにハッタリかましただけじゃねぇか?」
「そんなことなぃもん!(o`Д´o)=3」
「意地悪言わないの。乙女心がわかんないオトコね」
 史子にたしなめられると、有志は小声で、乙女心って歳じゃねぇだろお前は、と呟いた。
「今なんか言った!?」
 なんでもねぇよ、と誤魔化してから、有志は積み重なったディスクアニマルのケースを両手で抱えて、慌てて出張所から退散した。
 窓際を歩きながら、乙女心ひとつで連戦連勝できるのであれば、それもアリなのか? と思い始めた。が、すぐに、あんな奴を認めてたまるか、と思い直して首を横に振った。

 数分前に有志が通り過ぎた病院の廊下をアイキが通り、ふたたび窓際で足を止めると、陽気のいい外の景色を眺めてから、彼女はまた空を見上げた。
 ぬけるような空の彼方に、アイキは鬼としてのシュウキを思い浮かべた。記憶の中には、音撃弦を手にした白磁色の二本角の鬼・柊鬼の頼もしい姿があった。


⊃⊃″<。
412名無しより愛をこめて:2008/04/08(火) 19:14:43 ID:GfAFg2WD0
>>405−411
おおお。続きだ!ありがとうございます。
・・・やべ、アイキ可愛いかも。見た目はともかく(ギャルメイク……orz)、けなげで素直だ。
憧れた男に見合う女になるために、頑張って摩訶魍倒してるのか。
 しかし、東北支部車両部…ノリ良いなww常識人ぽい有志は大変だなw

 面白かったです。続き、投下お待ちしてます!
413高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2008/04/08(火) 22:17:37 ID:Nt8U9D940
改めてプロバイダを安いところに変えたので、漸く自宅から投下出来るようになりました。
他の作者様が投下されるまでの繋ぎという事で、書き溜めておいた分を少しずつ投下していこうと思います。
414仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:20:07 ID:Nt8U9D940
「うわはははは!」
笑っている。人目を憚る事なく大声で笑っている。
ここは関東地方のとある峠の茶店。笑っている男の名は石川昭一。その姿を呆れながら眺めているのは、嘗て猛士という組織でニシキというコードネームを名乗っていた男だ。
「うわはははは……。それ最高!」
漸く石川が馬鹿笑いを止めた。長い付き合いだし、いつもの事と頭では理解しているのだが、たまにどうしようもなく殺意を抱いてしまう事がある。店のおばちゃんの視線が痛い。
「その話本当かよ、ニシキくん」
「ほんまやって。お前に嘘なんか吐いてどんなメリットがあるっちゅうねん!」
二人は今、長い旅の途中である。石川のバイクに二人乗りして、日本中を駆け巡っているのだ。混沌の70年代が終わり、魔化魍の出現頻度が落ち着いた今、これぐらいは許されるだろうと考えての事であった。
「けどさ、本当だとしたら凄いよ」
お冷やを一口飲んで、石川がそう言った。
「だってそうだろ?これから行く祭り、ち○ぽの形をした神輿を担ぐんだろ?」
未だ信じられないと言った感じの石川に向かって、ニシキが説明を続ける。
「『かなまら祭り』言うてな、起源は江戸時代にまで遡るっちゅう由緒正しい祭りらしいで。尤も再開されたのはつい最近らしいけどな。商売繁盛、子孫繁栄、安産、縁結びなんかにご利益があるそうや」
やけに詳しいね、と石川が言う。それに対しニシキは。
「京極先生の受け売り」
そう言うと懐にしまってあった一枚の写真を大事そうに取り出した。
415仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:22:34 ID:Nt8U9D940
その写真には、ニシキや石川以外にも沢山の人達が映っていた。嘗て仲間内で百物語をやった時に撮った記念写真だ。
あの日、とんでもない結末を迎えた百物語の後、開発局長の南雲あかねが持ってきたカメラで記念撮影をしたのだが、あかね、京極、モチヅキ、まつ以外の面々は徹夜で話をしていたため、殆どの者が強烈な睡魔に襲われていた。
あかねが全員に笑うよう指示したため、ぎこちないながらもニシキ達は笑顔を見せている。ただ一人、中央であかねの隣に並ぶコウキを除いて。実に機嫌の悪そうなコウキに対し、横のあかねは不満そうに頬を膨らませている。
「あれ、その写真ずっと持ってるんだ」
「お守り代わりや。そういうお前だって貰ったやろ?」
「ちゃんと家のアルバムに挟んであるよ。……しかしいつ見てもコウキさん不機嫌そうだなぁ」
「つまらない話が多かった、眠かった、最後の茶番にうんざりした――そんなとこやろうな。見てみい、あのドキさんやアカツキさんや京極先生ですら笑顔やっちゅうに」
ドキとアカツキの名前を聞いて、石川の表情が変わった。
「まだ戻ってきてないのかな、あの三人……」
「……アカツキさんはどっちにしろもう関西には戻ってこんやろうな。ドキさんとセイキさんは……どうなんやろ」
もうあれから数年が経過した。それなのにあの二人から本部へと連絡が入る事は一度も無かった。しかし誰も最悪の事態を口にしようとはしなかった。彼等のサポーターだったまつを思っての事である。
「……で、話を戻すけどな、この祭りは毎年四月の第一日曜日に金山神社って所で行われるんや」
今は四月第一土曜日である。
「な、チャンスやろ?」
「全くだな。そんな馬鹿な祭りに遭遇する機会なんて滅多に無いもんな」
じゃあ早速行こうぜ、と石川が立ち上がった。ニシキもお冷やを飲み干すと席を立つ。
こうして二人は、一路神奈川県を目指すのであった。
416仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:27:46 ID:Nt8U9D940
川崎市内で一泊した二人は、目当ての「かなまら祭り」を見るべく金山神社へとやって来た。とりあえず神輿を見られれば良いだろうと考え、行列開始時間の少し前に着いたのだが、桜満開の境内は既に人で埋め尽くされていた。
「凄い人だなぁ、おい」
屋台やフリーマーケットに沢山の人が群がっている。特に、男性器と女性器を模した飴細工を作る職人の屋台の前には黒山の人だかりだ出来ており、男性も女性も美味そうに購入した飴をしゃぶっている。
境内のほぼど真ん中に当たる場所には、男根を模したオブジェが二体置かれ、主に外国人女性が中心になってそれに跨り歓声を上げていた。その姿を周りの観光客がカメラで激写している。
拝殿の傍では濁り酒が無料で振舞われていた。男性器を崇拝する祭りでは、必ず濁り酒が振舞われる仕来りとなっている。当然ながら精子を暗喩しているのだ。
「こりゃあかん。表参道の方に行くで!」
ニシキが提案する。石川もそれに従ったのだが、いざ表参道へ着いてみれば金山神社境内と変わらぬ――否、下手をすればそれ以上の人、人、人。
「なあニシキくん、やけに外人が多いようなんだけど気のせいかな?」
気のせいではない。この「かなまら祭り」は、BBCやニューヨーク・ポストといった世界中の有名メディアが取り上げており、世界的に有名なのだ。
どこぞの国のテレビクルーが、なんと自動販売機の上に陣取ってカメラを構えている。少しでも良い場所を確保しようと、どこも必死である。
と、遠くから「でっかいまら、かなまら!」という野太い声が聞こえてきた。声のする方に目をやるニシキ達。そこには。
417仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:29:09 ID:Nt8U9D940
「うわははははは!」
石川が馬鹿みたいに笑い始めた。そこには、法被姿のニューハーフの皆さんによって担がれたショッキングピンクの大きな男性器型の神輿の姿があった。それが、激しく上下に揺れながら行進しているのだ。
外国人観光客が一斉に写真撮影を始めた。観光客の中には石川同様声を出して笑っている者もいるが、中には口をあんぐりと開けて驚愕の表情で神輿を眺めている者もいた。
「スゲェ!こんな馬鹿みたいな祭りは生まれて初めてだ!」
「お前の笑い声もよっぽど馬鹿みたいやけどな」
男性器や女性器を奉った神事は日本各地に存在する。愛知県の田縣神社や大縣神社のそれが有名だろう。だが、ここ金山神社のそれは別格だ。真っ昼間の公道を、しかもすぐ近くに幼稚園がある場所を卑猥な形の神輿が練り歩く。これを奇妙と言わずして何と言おうか!
「俺、もうちょっと近くで見てくるわ!」
そう言うと石川は他の観光客を押し退けて前の方へと進んで行った。
「おい待てや!」
後を追おうとしたニシキだが、ついうっかり人にぶつかってしまった。どうやら相手は外国人のようだ。
「ごめんなさい!……えっと、日本語オーケー?」
「おいこら、ちっこい兄ちゃん!こんな混雑している場所で走るんじゃねえ!」
やけに流暢な日本語が返ってきた。と言うかニシキはこの男に見覚えがあった。
「あれ、あんたひょっとして馬に蹴られたりササヤキさんの件でたこ殴りにされた……」
それは、関東支部のザンキであった。
418名無しより愛をこめて:2008/04/08(火) 22:31:37 ID:rIeeYb9n0
些細な突っ込みだけど
はれはれゆかいは「ハレ晴レユカイ」な
419仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:32:25 ID:Nt8U9D940
「魔化魍?市街地に?」
ザンキの話に耳を疑うニシキ。だってそうだろう、ここは街の中だ。しかも季節は春。魔化魍が巨体を隠して潜伏しているとは思えない。
「夏のやつなんだよ」
ザンキがそう説明するも、ますます信じられない。数年前に京都であの連中と一応の決着をつけて以来、魔化魍が異常発生する事は無くなっていたのだ。
「あんたんとこの『金』がちゃんと夏のやつやって断定したん?」
「夏のやつとは言ってない。けど等身大の魔化魍だって言ってたぜ」
ますますもって分からない。他に何か言ってなかったかとニシキが尋ねると。
「えっと何だっけ、確か……モウリョウとか言ってたかな」
その単語にニシキが反応した。
「モウリョウ……。ほんまにそう言うたんやな?」
魍魎。不定形にして捉えどころの無い、魔化魍に成り損なった不完全な存在。そして、代々の西鬼が狩る事を生業としてきた相手。
「あんたその様子じゃ初めてやな。案内してもらえんか。手ぇ貸すで」
420仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:35:55 ID:Nt8U9D940
二人は下水道の中に居た。ザンキが持ってきた懐中電灯で周囲を照らしながら進んでいく。
「成る程、下水か。モウリョウが育つのに必要な水もあるし、潜伏先としては格好の場所やな」
「うわ、臭い!俺帰る」
「阿呆か!あんたが帰ってどうするんや!」
本場関西の強烈な突っ込みがザンキに炸裂する。
「おおっ!……へへ、良いパンチだぜ」
「あんた三十秒に一回はボケるよな。コウキさんが毎回あんたと会った後に体調崩す理由がよっく分かった!」
あの人は堅物やからな――そう呟きながらニシキはコウキのしかめっ面を思い出していた。口煩い人だったが、元気にやっているだろうか。
「じゃあさっさと式神を……」
「おっと、その必要は無いで。ちょっとそれ貸してな」
「これを?何に使うんだよ」
ニシキはザンキから音撃弦・烈雷を音撃震・雷轟ごと借り受けると、軽く調律を行った後数回掻き鳴らした。迷路のように入り組んだ下水道内を、弦の音色が反響しながら進んでいく。
「おい、何やってんだよ」
「しっ、黙って」
暫くの間静かに耳を澄ましていたニシキであったが、突然「こっちや!」と言うと脇目も振らずに駆け出していった。慌ててザンキが彼の後を追う。
421仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:37:38 ID:Nt8U9D940
「どうしたんだよ急に!?」
「モウリョウはこの先におる!」
「なんで分かるんだ!?」
ニシキはある特殊な能力を身につけている。彼は、ある程度範囲が限られてはいるものの、音を鳴らしその反響音で空間を把握することが出来るのだ。一般的に「反響定位」と呼ばれる能力である。
「鍛えているからな」
この能力のお蔭で彼は、たとえ星一つ無い闇夜でも、何らかの理由で視力を失っていたとしてもいつも通りに戦う事が出来る。支部内においてコウキ、バキ、イッキやアカツキといった強豪達と肩を並べられる理由がこれなのだ。
「エコーロケーションってやつか。視覚障害者の中には音を使って物体の距離や形状を認識している奴がいるって話を聞いた事があるけど、お前も同じ事が出来るんだな」
珍しくザンキが他人の能力について感心している。
悪臭漂う下水の中、走り続ける二人。と、先頭を行くニシキが急に足を止めた。
「待て!邪気を感じる。近くにおるで」
「そりゃ大変……ぐわっ!」
「どうした!?」
突然の声に驚くニシキ。だがザンキからの返事は無い。慌てて振り返ってみると。
「あっ!」
そこには昏倒したザンキを見下ろすように、赤黒い体に長い耳、艶やかな黒髪を生やした小柄な怪人が立っていた。モウリョウである。
「なに後ろ取られとるんや、ど阿呆!」
既に戦闘形態へと変われるまでに成長したモウリョウだが、ニシキと戦おうとはせず、そのまま逃げ去ってしまった。
「逃がすか!」
ニシキは倒れたザンキの腕から変身鬼弦を外すと、自分の手首に巻きつけながらその後を追いかけていった。
422仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:40:15 ID:Nt8U9D940
モウリョウを追って、下水道から地上へと飛び出すニシキ。モウリョウが逃げた場所によっては、大惨事も覚悟しなければならない。
だがそんなニシキの考えは杞憂に終わった。モウリョウが逃げ込んだ先、そこは墓地だったのだ。墓参りをするような人は誰もいない。静かなものである。
「墓場か……」
モウリョウは死体を好んで食らう。だが、土葬の風習が廃れてきている今、墓場には骨しかない。では何故ここへ逃げ込んだのか?本能なのではないか、そうニシキは思う。
墓地のあちこちには満開の桜の樹が生えていた。誰かに愛でられる事無く、ひっそりと咲き誇る桜。墓場である事を考慮しなければ、最高の花見スポットだと言えよう。だが、桜の花は死体の血を吸って染まるという話もある。やはり場所が悪い。
再び音を鳴らして位置を特定しようとしたその時、またしても強い邪気を感じた。
変身鬼弦を鳴らしたニシキの全身を暴風が包み、久し振りにその身を戦い守るための姿――鬼へと変えた。変身を終えると同時に「烈雷」を構え、振り向きざまに斬りかかる西鬼。
だがモウリョウは西鬼の一撃を片手で受け止めると、力任せに押し返した。西鬼は猫科の動物並みの身体能力で上手く受身を取り、体勢を立て直す。
次いで、モウリョウが牙を剥き跳び掛かってきた。組み伏せようとしてくるモウリョウを、「烈雷」で払いのける。そして間髪入れず鬼法術・高気圧を叩き込んだ。暴風を受け、西鬼に負けないぐらい小柄なモウリョウの体が吹き飛ばされていく。その後を追って西鬼が駆ける。
423仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:43:01 ID:Nt8U9D940
対峙する両者。モウリョウは前傾姿勢のまま西鬼を凝視している。対する西鬼は爪を大地に立て、土煙を上げながら跳躍し、決めポーズを取りながら高々と名乗りを上げた。
「革命の猛虎、仮面ライダー西鬼!」
一陣の風が吹いた。風に揺れる桜の樹から無数の花弁が舞い散る。淡紅色の幕が、西鬼とモウリョウの視界を塞いだ。
その幕を破って、モウリョウの貫手が西鬼の首筋へと飛んできた。それを紙一重で西鬼が躱す。そして後方へと跳び、間合いを開ける。桜吹雪の中、再び対峙する黄色い鬼と赤黒い鬼。
またしても先手を取ったのはモウリョウだった。一心不乱に襲い掛かってくる相手を迎え撃つべく、西鬼は跳び回し蹴りを放った。
鈍い音とともに、西鬼の踵がモウリョウの顔面にめり込んだ。牙が砕け、体液が飛び散る。
風が凪いだ。その風に乗って宙を遊んでいた花弁が、はらはらと地面に向かって舞い落ちていく。
次の瞬間、「烈雷」の刃がモウリョウの胴に深々と突き刺さった。ピック状の爪を立てて、西鬼が久方振りに技の名前を叫ぶ。
「久々のソロライブや!音撃斬・快刀乱麻ぁ!」
閑寂な場に相応しくない爆音が、西鬼の爪弾く弦から放たれた。彼の生命の鼓動より生み出された清めの波動が、力ある音が、邪悪なものの体を駆け巡っていく。
久々の演奏故に熱が入ったのか、体を激しく動かしながら演奏を行う西鬼。
フィニッシュとともにモウリョウの体は木端微塵に消し飛び、大地へと還った。土塊と化したモウリョウの体の上に桜の花弁が降り積もる。
「う〜ん……やっぱ自分の弦やないと、ちょっと調子狂うな。七十九点ってとこかな」
今度は少し優しい風が吹いた。西鬼は、その風が凪ぐまでに墓地を後にした。墓地は何事も無かったかのように再び静寂に包まれた。唯一戦いを見守っていた桜の木々は、ただ変わらずに枝を広げ、満開の花を誇らしげに咲かせているのであった。
424仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:46:37 ID:Nt8U9D940
「いやぁ、面目無い!結局全部任せちまった」
ニシキは下水道に戻ってザンキを助けると、石川の待つ場所へと一緒に戻っていったのだが、一つだけ疑問があった。
(こいつ、わざと昏倒したふりをしてたんちゃうやろな……)
モウリョウ退治が面倒臭いと思っていた矢先に現れた同業者。手を貸すと言っていたし、この際だから全部押し付けてしまおう――そう考えて機会を窺っていたのではないか、これがニシキの考えである。
(あのコウキさんを手玉に取るような人やしなぁ……)
どことなく胡散臭いザンキの笑顔を見ているだけで、その予感は当たっているような気がしてくる。
行列はとっくの昔に金山神社の境内へと戻ってきていた。境内のど真ん中にビニールシートが敷かれ、関係者であるニューハーフの皆さんによってちょっとした宴会が始められている。中には、観光客と記念撮影をしている者もいた。
「おーいニシキくーん!」
ニシキを呼ぶ石川の声がする。見ると、ちゃっかりニューハーフの皆さんの中に混じって酒を飲んでいるではないか。
「お前、何やっとんねん……」
「こっちこっち!へへ……こいつらすンげぇ気の良い奴等でさ、すっかり仲良くなっちまった」
タダ酒だからと調子に乗って、石川はすっかり出来上がっていた。
「OH〜、こいつ焼酎とビールでちゃんぽんしてやがるぜ」
石川が飲んでいる焼酎の銘は、その名もズバリ「金玉」。身も蓋も無い。
「あら、可愛い。あなたもこっちで一緒に飲みましょ」
「そっちの外人さんも素敵よぉ」
ニューハーフの皆さんが、ニシキとザンキを見て手招きを始めた。どうやら気に入られたらしい。
「どうする?」
「決まっているだろ。鬼は昔っから宴会が好きな生き物だからな!」
力強くそう断言すると、ザンキは輪の中に飛び込んでいった。ニシキもそれに倣って石川の隣に腰を下ろす。
「何処行ってたんだよ。探したんだぜ?」
「ん、ちょっとな……」
「それに何だよ、その格好」
ニシキはザンキの持参してきていた着替えを拝借しているため、サイズが合わず妙な事になっていた。
425仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:49:21 ID:Nt8U9D940
頼んでもいないのに、ニューハーフの皆さんがニシキにお酌をし始めた。「一気」コールが巻き起こる。そのコールに合わせて飲み干すニシキ。
「よっしゃ〜!どんどん持ってこ〜い!」
「いよっ、日本一!」
元々ノリが良い方であるニシキだけに、たった一回の一気飲みでこの場の空気に溶け込んでしまった。
「かなまら祭り」は、江戸時代に川崎宿の飯盛女――つまり娼婦達が願掛けのために始めた祭りが元となっている。そして今、祭りの舵を取っているのはニューハーフと呼ばれる人々だ。
この祭りは、今も昔も社会からはみ出した人達の祭りだ。だが彼女達は堂々とこの祭りの中でありのままの姿を曝け出している。やはり鬼という裏の世界を生きるニシキにとって、この空間は実に居心地が良かった。きっとザンキもそうだろう。
来て良かったな――心からニシキはそう思った。一仕事終えて、皆でわいわい騒ぎながら飲む酒ほど美味いものは無い。
「ところでお前等、これからどうするんだ?」
美味そうに濁り酒を飲みながら、ザンキがニシキの傍に寄ってきて尋ねた。
「さあ……。とりあえず北の方に行くわ。その後は……何もやる事が無かったら猛士に戻ろうかな。そんな都合の良い話、許されるかどうか分からんけど」
「じゃあその時は俺も口添えさせてもらうぜ。今日の借りを返さなきゃいけないからな」
426仮面ライダー西鬼「ハレ晴れユカイ」:2008/04/08(火) 22:52:41 ID:Nt8U9D940
「おい外人さん、あんたも飲めよ!」
石川がザンキの顔面に、コップに入った酒をぶっかけた。周囲から笑いが起こる。
と、社務所の傍から景気の良い音が聞こえてきた。生バンドによる演奏が始まったのだ。外国人観光客が多いという事もあってか、曲はディープパープル。ギャラリーも実に良いレスポンスを返している。
「ディープパープルか。懐かしいな。四国へ行った時、向こうの鬼とセッションしたんだよな……」
どうやらザンキは参加したくて堪らないらしい。結局。
「ちょっと待ったぁ!このザンキさんも参加するぜ!」
そう宣言すると、「烈雷」を手にしたザンキは輪の中へ飛び込んでいってしまった。彼の演奏技術は折り紙付きだ。事実、彼が演奏を始めると同時にギャラリーの間から大喝采が起こった。
「相変わらず目立つ人やなぁ……。敵わんわ」
民俗学において、非日常を意味する専門用語に「ハレ」という言葉がある。この祭りはまさにハレだ。笑いの輪は収まる事なく周囲に広がっていく。実に愉快だ。天気は快晴、言う事無し。
宴もたけなわ。この世界有数の奇祭は、日が沈む前に惜しまれつつも終わりを迎えた。ちなみに駐輪していた石川のバイクが盗難に遭い、ニシキ達が暫く関東で足止めを喰ったのはまた別の話である。 了
427高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2008/04/08(火) 23:00:55 ID:Nt8U9D940
と言うわけで。
以前小ネタで使った「かなまら祭り」を舞台に一本書いてみました。
ちなみに二日前、実際に見てきました。良い意味でクレイジーな祭りでしたw

高鬼SSにおけるニシキのモデルとしている人物が「ガオレンジャー」のファンだと公言しているので、それっぽい名乗りをさせてみました。

いつぞやかの百物語の時と同じ順番で投下していく予定です。だから次回はイッキが主役の話となります。
もう書き上がっていますが、前述の通りすぐには投下せずタイミングを見て投下していこうと思っています。
それでは皆様、もう暫くお付き合い下さい。
428名無しより愛をこめて:2008/04/09(水) 00:06:35 ID:6TF6snBw0
>>413
> 漸く自宅から投下出来るようになりました。
オメデトウゴザイマス。
429鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:30:51 ID:zztQZ6Ot0
 昭和54年9月。
 とある山中を二人の女性が歩いている。山中といっても遊歩道が整備された、いわばハイキングコースである。
 一人は黄邑絹(きむら きぬ)、当年16歳。平均よりも小柄な高校生である。いま一人は草笛みつみ、当年22歳のすらりとしたスタイルが魅力的な社会人一年生である。
 六歳離れた二人はしかし幼馴染であり、大の仲良しである。この日も前々から計画していたハイキングに出かけてきている。
「楽しいねーみっちゃん!」
「そうね、絹。でもいっつも座ってばっかの私にはちょっとだけキツいかも……」
 わざとらしくフラフラするみつみに、絹が大袈裟に肩を貸す。
「みみみみみっちゃん大丈夫かしら!? 私につかまって!」
 みつみが肩に手をかけ、思いっきり絹を揺さぶった。
「頭クラクラするかしらぁぁあぁああぁ……」
 などとじゃれあいながらゆっくりと目的地まで進むのであった。
 普通の倍の時間をかけ、へとへとになって目的地である小山のてっぺんに到着した二人は、さっそくお楽しみのランチボックスを広げた。
 弁当は二人の共同作業――みつみが作り、その後ろで絹がやかましく応援――によるもので、たまご焼きが大好きな絹のためにその三分の一ほどがお砂糖たっぷりのたまご焼きだった。
 近くにほかのハイカーがいたら顔をしかめるか、あるいは笑みを浮かべるほど楽しく騒ぎながら、二人はかなり大きなお弁当をぺろりと平らげてしまった。
 と、そこに何か子供の声のようなものが聞こえてきた。
「鬼さんこちらー、手の鳴る方へー……」
「鬼さんこちらー、手の鳴る方へー……」
 楽しそうな、でも陰気そうな。奇妙な声だった。
「なんだろね、絹?」
「なにかな、みっちゃん?」
 きょとんとした顔を見合わせて首を傾げるが、そうしたところで何か仮説が浮かぶでもなし。
「「――――――――行ってみよっか!」」
 考えるよりも行動せよ。手に手を取り合って声の聞こえるほうへとずんずん進んでいった。
430鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:31:31 ID:zztQZ6Ot0
 その頃、別の場所では―――
「お、藤黄虎(トウオウトラ)がなんか持ってきたぞ」
「毛ですね。やっぱりヤマビコで間違いありませんよ」
 少女と中年が動く折り紙を手に持って何事か話している。
 中年は鬼島のコーチである十獅子唐吾。少女は生徒の青桐薊(あおぎりあざみ)である。二人はいつものように魔化魍退治の訓練に出動したのだが、同行する予定だった中部支部の鬼は突然現れたほかの魔化魍を退治に行ってしまったため、今回は二人だけでの退治になる。
 ヤマビコならば薊の得意とする相手だ。既にかなり育っているようだが、鬼島の卒業を間近に控えた薊ならば充分勝てる。鬼島の卒業生は実戦配備の時点で既に中堅クラスの力を備えているためである。
 だが問題もあった。童子と姫が見つからないのだ。餌をとりに出かけているとしたら大変なことになる。
「行きましょう。トラ、案内して」
 薊は念入りに整備した太鼓と棒を持って藤黄虎の後を追っていった。十獅子は緊急連絡用の式神を近くに住む歩に向けて打ち、風に飛ばされそうな荷物を手早くバンのトランクに放り込んでからその後を追う。こちらは菫鳶(スミレトビ)に案内させた。
 二人が並ぶと薊は左、十獅子は右を警戒して走り出す。と、見慣れた姿の人影が十獅子の目に映る。
「薊、姫を見つけた! ヤマビコは一人でできるな!?」
「もちろんです!」
「頼んだ!」
431鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:32:22 ID:zztQZ6Ot0
 十獅子は大きく右に外れ、走りながら鬼弦を弾いた。さすがに引退した身で魔化魍を相手にするのはきついが、まだまだ姫くらいならば倒せる。オレンジがかった光を纏い、それが消えたときに疾駆しているのは一匹の鬼だった。かつての名を、燈鬼。
「鬼さんこちらー……」
 妖姫は燈鬼を嘲笑うかのように樹上を跳び移り、ひょいひょいと逃げ回る。
 燈鬼は苛立っていた。姫の行動は明らかに薊と彼を引き離すのが目的だからだ。燈鬼も薊も引き離されたところで大丈夫だろう。しかし敵にはまだ童子がいるのだ。
「逃げるな!」
「逃げるよ……」
 いつものことながら忌々しい喋りだ。余裕があれば軽口を叩いて相手することもあるが、切迫した状況では神経を逆撫でする。
「ええ、俺を怒らせるな!」
 音撃管・世良田を抜き、狙いをつける。しかし鬱蒼と茂る葉や枝が視界を遮り、自分が走っていることもありなかなか照準が定まらない。
 しかし、それしきのことで世良田の熱い接吻を免れることはない。
「克服あれ」
 足は猛スピードで疾駆しながらも、肩から上は世良田をきっちりと構えたまま微動だにせず。右目と照門、照星は常に一直線。
 標的を追って音撃管を動かすのではなく、音撃管の照準に標的が入るのを待つ。熟練の燈鬼ならではの、変則的な狙撃である。
 開いたままの左目に待ち焦がれていた的が飛び込む。それが右目の視界に入り、照準線に入る一刹那、コトリ、と世良田の引き金を落としていた。
 ばすっ、と銃声らしからぬ音とともに放たれた圧縮空気弾は狙い過たず大きな枝を吹き飛ばし、それを足場にしようと空中を駆けていたヤマビコの妖姫は体勢を崩し、たまらず地面に激突した。
 世良田を肩に構え、連射しつつ燈鬼が殺到する。妖姫は地に縫い付けられたかのように動けず、けたたましく到来する死の足音に恐怖するしかない。
「ふっ!」
 燈鬼は妖姫まであと5メートルばかりのところで踏み切り、前方宙返りをする。銃撃がやみ、何とか身を起こそうとした妖姫の脳天に、存分に速度エネルギーの乗った踵落しが炸裂した。
 叩き割られた頭蓋は枯葉や小枝を撒き散らして崩れ、身体の方も再び地に膝をつける前に股下まで二つに打ち割られ、爆散して消える。
 姫の身体だった葉が地に落ちる頃には、燈鬼は童子を探して走っていた。
432鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:33:26 ID:zztQZ6Ot0
 ヤマビコはその声自体が猛毒であるため、速やかに倒さねばならない。いくら得意な相手とはいえ、油断は死に――特に、一般人や動植物の――に直結する。
 走りながら変身音叉・音澄を指先で弾き、額に翳す。澄んだ音色が脳に、そして全身に染み渡り、薊の身体を人ならぬ異形へと変えてゆく。
 生きるための人の身体から、戦うための鬼の身体へ。
 慈しむ人の心から、荒ぶる鬼の心へ。
 気が物質化する直前に高く跳び、空中で氷に包まれ、落着の衝撃で砕け散る。薄氷を撒き散らして現れた鬼に、まだ名はない―――薊変身体。
 腹には輝く音撃鼓・黛青。両の手には抜き放った音撃棒・天賜。
 群青色の身体を揺らし、浅黄色の四本角を振り立てて走る。鬼の耳が指し示す、生きとし生けるものに害為す魔化魍を求めて。
「いたわね」
 木々が邪魔をしてまだ視認はできないが、鋭敏な聴覚がヤマビコの足音が近いことを告げる。それは着実に一般のハイキングコースに向かっている。
 緊急用の式を受け取った歩がいくら敏速に動こうとも、まず一般人の避難は間に合ってはいないだろう。
 薊変身体はここが正念場と地を蹴る足に力を込める。
 木々の合間から姿を見せるヤマビコはまだ完全に育ちきっておらず幾分小柄で、攻撃は軽く打たれ弱いはずだ。
 疾走して背後から音撃棒で三撃したところで、ようやくヤマビコが振り返った。ヤマビコが鈍いのではない、薊変身体が疾いのだ。
 ヤマビコの頭は単純なので、攻撃は大体が上から踏みつけるか平手で叩き潰すかのどちらかになる。俊敏な薊変身体にとって、気をつけてさえいればその攻撃はまったく怖いものではなかった。
 セオリー通りにヤマビコの攻撃を躱しつつ、その足を狙って転倒を誘う。音撃棒の小刻みな殴打によってややバランスを崩したのを見逃さず、樹の幹を足場にした三角飛びから膝の裏を狙った飛び蹴りを打つ。
 鬼としては腕力の強い方でない薊変身体であるが、その代わりに優れた脚力を持っており、樹の撓りをも利用した飛び蹴りは一撃でヤマビコを転倒せしめた。
 両腕を突いて立ち上がろうとするのも構わず、その背に飛び乗って音撃鼓を首筋に優しく貼り付ける。
 両の音撃棒を天高く掲げ、宣言する。
「音撃打・卍! 二秒で終わりよっ!!」
433鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:34:06 ID:zztQZ6Ot0
「こっちだよ……」
「待って待ってー!」
 餌をおびき寄せる童子、それを疑うこともなく追いかける絹とみつみ。さすがにみつみは不思議に――というよりも不気味に感じ始めていたが、夢中で走る絹を止めるのははばかられた。
「もうここらでいいよ」
 唐突に声が言い、その姿を現した。二人はようやくソレが常の存在ではないと気付く。外見は明らかに成年男性であるにもかかわらず、声は女性。服装も現代日本で見かけるようなものではない。そして極めつけは―――
「声、もらうよ」
 ソレは化物に姿を変えた。
「ひっ……!」
 息が切れていたことに恐怖が加わり、二人はその場に倒れこんでしまう。
 その細く白いのどに、怪童子が節くれだった醜悪な手を伸ばす。
「声、声だよ」
 怪童子の指がみつみののどに触れるか―――
「みっちゃん逃げるかしら!」
 それまでただ震えるばかりだった絹が飛び跳ねるように立ち上がってみつみの手を握り、来た道を駆け戻る。
「―――逃がさないよ」
 気が抜けた、とばかりに首を傾げる怪童子。しかし数秒後には人にあらざる速度で二人を追っていた。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」
 息も絶えよと走る二人には容易に追いつくこともできよう。だが怪童子は獲物を嬲るように追いついては離れ、離れては追いつきを繰り返す。人の声の中でも最も負の想念に満ちた『死の間際の絶叫』を奪おうとしているのだ。
434鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:36:26 ID:zztQZ6Ot0
 しかし。
 ――――ドォ……ン――ドォ…ン―――
 かすかな轟音が怪童子を絶望に叩き落した。守るべき子と伴侶が、忌むべき鬼に殺された!
「おのれぇ……許さぬ!」
 怪童子の猛追! 邪魔な枝葉を蹴散らし、薙ぎ払って一直線に二人を襲う。
「いやあああぁぁぁぁぁ―――!!」
 恐怖に足がすくみ、みつみが転倒してしまう。
「声、よこせ!」
 数歩先に行った絹は取って返し、怪童子とみつみの間に割って入る。
「みみみみみっちゃんは私が守る!」
 声も足も、これ以上ないほど震えている。がちがちと歯が鳴り、今にも膝が折れてしまいそうだ。だが、みつみにはそれゆえに力強く思えた。
 ―――絹の後ろにいるなら、いつだって平気だ。絹は強い。本当は年上の私が守らないといけないんだけど、いつも守られてばかりだった。
「き、絹、逃げて!」
「みっちゃんこそ早く逃げて!」
「どちらも逃がさぬ……!」
 怪童子の醜悪な腕が振りかざされる。
 じゃあっ!
 奇妙な声とともに突き出される貫手は二人をもろともに串刺しにするだろう。絹もみつみも、恐怖から目をそむけようときつく瞼をおろした。
 だが、いつまで経っても貫かれることはなかった。
 絹が恐る恐る目を開けると、そこには先ほどにも増して恐ろしい光景が展開されていた。即ち、新たに現れた二人の怪人のうち一人が怪童子を取り押さえ、もう一人は絹とみつみに覆いかぶさっていたのだ。
 ――守ってくれてる?
 新たな怪人はともに表情を読めないのっぺりした顔に険しい隈取を刻み、額に角を生やしていた。燈鬼と薊変身体である。
「せっ!」
 燈鬼が怪童子の腹を蹴り、数メートルほど吹き飛ばす。
「やれ、薊!」
「はいっ!」
 薊変身体が絹とみつみから離れ、装備帯から音撃鼓・黛青を外すと怪童子に向けて投げつけた。音撃鼓は狙い過たず怪童子の腹に当たり、その勢いで怪童子を背後の樹に釘付けにする。
「覚悟!」
 音撃棒を構えて駆ける。怪童子の前で右足を軸に回転し、遠心力を加えて叩き込む。一撃、二撃。
「今度こそ、二秒で終わりよっ!!!」
 回転を殺さずに半回転した薊変身体の背後で、怪童子は魂消るような絶叫を上げながら爆散した。
435鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:37:44 ID:zztQZ6Ot0
陰陽座『卍』
作曲:瞬火

殻芥の如く散るは 救いも 誇りも
終焉に残るは 似非笑い

運命に映した 己は黴びて 定めし悪むは 生まれの業と
余人の砂塵に捲かれて

慚 慙 惨 荒べ
慚 慙 惨 逆え

わや苦茶の御託さえ 翳せば それなり
名乗る必要はない 二秒で終わりだ

運命に映した 己は黴びて 定めし悪むは 生まれの業と
野人の下塵に捲かれて

慚 慙 惨 進べ
慚 慙 惨 栄え

遥かに 黛青は 悠しく佇まい
幾重の悲しみを (折しも舞い込み)
此の手に抱き寄せて (天賜と)

慚 慙 惨

無愧の罪 然れど涕 溢れて (贅、贅)
呻吟うの 只獨 聲は千切れて
累々と 屍を越えて 存え (贅、贅)
彷徨うの 未だ獨 せめて逝かせて
436鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:40:15 ID:zztQZ6Ot0
 昭和57年3月。
 薄暗い山中で、小柄な鬼がヤマアラシに突撃してゆく。
「鬼闘術・鋼鎧!」
 ヤマアラシのとげが殺到するが、ことごとく鈍い音を立てて跳ね返る。鬼には毛筋ほどの傷もない。
「痛いじゃない! もう容赦しないわよ!」
 目にも鮮やかな黄色の鬼は幾分小型の音撃弦・小鳥を右手に構えてヤマアラシの巨体に突撃する。ヤマアラシの脚の直前で足を踏み変えてタイミングを取り、野球のスラッガーさながらの見事なスイングを披露した。
「霧栖っ、弥一郎ぉーっ!」
 充分に力の乗った音撃弦はヤマアラシの脚に深々と食い込んだが、骨に当たって止まる。大型の音撃弦を用いる鬼でさえこの太い脚を切断するのは至難の業なのだ。
 何を思ったか鬼は装備帯の後ろから小さな弓を取り出した。それは独特の唸りを発して金色の弦を輝かす二尺余の鉄弓となる。音撃弓・金糸である。そしてそれをもまた大きく振りかぶり、あろうことか小鳥の柄に思い切り叩き付けたではないか。
 ごぎん、と薄気味の悪い音をたててヤマアラシの太い脚の骨が砕ける。鬼は再び金糸で小鳥を一撃し、見事にヤマアラシの脚を切断してみせた。
 急に短くなった脚では体重を支えきれず、ヤマアラシは白い血を撒き散らしながら横転する。
 ひゅっ、と振って小鳥から血を払い、三歩の助走から空高く舞い上がる。黄の鬼は重力の助けを借りてヤマアラシの棘に守られていない腹へと音撃弦を突き刺した。
 それを強引にねじって肩に乗せるように構え、装備帯から外した音撃震・雀を装着し、さらに音撃弓・金糸を掴み、奏でる。
「音撃斬・野薔薇前奏曲!」
 美しい旋律が流れ、反面、魔化魍はその美しさに苦悶する。音撃に気をとられている鬼は気付かない。乾坤一擲、魔化魍が狩人に向ける最後の牙を剥いていることに。
 ヤマアラシは今にも崩れそうな身体を無理やりに動かし、寝返りを打つ。鬼はそれに巻き込まれ、地面と巨体の間に挟まれる形となる。
「やば……!」
 鬼が危機を悟った瞬間にヤマアラシは絶命し、猛烈な爆発とともに枯葉や土くれに戻った。
437鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:42:20 ID:zztQZ6Ot0
 濛々たる土埃が晴れると、そこにはいかにも満身創痍といった鬼が立っていた。ヤマアラシの棘には傷一つつかなかった黄色の身体はあちこち裂傷や擦過傷を刻み、じくじくと血を流している。
 鬼はうんうん唸りながらあちこちに気合を込めて傷を治してから、顔の変身を解除した。
「やったかしら!」
 気を取り直しながら歓呼の声をあげて現れたのは、黄邑絹の顔であった。
「すごいわ絹、これで五匹目じゃない!」
 少し離れた物陰から出てきたのは草笛みつみである。
「ありがとうみっちゃん。でもごめんなさい、またお洋服なくしちゃった……」
「ううん、そんなの気にしないでいいのよ、服はまた作ればいいんだし。アイディアはまだたっくさんあるんだから!
 ってことで、はい着替え」
 着替えをうれしそうに受け取る絹のとなりに、おっさんが現れた。訓練教官の十獅子唐吾である。ぶっちゃけずっといたのだが、絹とみつみの仲良しラブラブ領域に阻まれてなかなか声をかけられないでいたのだ。
「あー、もういいか? まず絹、いい加減突撃だけの戦い方は改めろ。せめて攻撃はかわせ。鋼鎧だって力を使いすぎるし三十秒くらいしか持たないんだろ?」
「あう……」
「それにいつものことだが詰めが甘い。さっきだってそうだ、ずっと有利に戦っていたくせに最後の最後で散々にやられたじゃないか」
「うぅ……」
「だが、その思い切りの良さとパワーは誰にも負けてないな。あともう少し、考えることをすればいいんだよ」
 その賞賛にしょんぼり落ち込んでいた絹の顔に笑顔が戻る。
「なんだ、そんなの簡単よ。だってわたしは鬼島一の策士なんだから!」
 十獅子は策士と言い切る絹に苦笑する。果たしてこんな正面突撃しかしない策士がいるのか、と。戦場では伏兵しか能のなかった諸葛亮孔明でさえまだはるかにましである。
438鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:43:48 ID:zztQZ6Ot0
「次にみつみ。お前にもいつも言ってるが、絹を追いかけて戦いの中に入ろうとするのはいい加減どうにかしろ。次やったら手足縛ってキャンプに転がしとくからな」
「う……それはその、私自身どうしようもない無意識の…不可抗力というやつでして……」
「…………」
 無言でテントを固定していたロープを取り出す十獅子。
「わぁあああ! わかりましたなんとかします! だからご勘弁を!」
 十獅子は仕方なさそうにうなずく。
 絹と出動できないと魂の抜け殻のようになってしまうし、かといって出動させると暴走しがち。だがそれを補って余りあるほど絹との相性はよく、加えて飛車としての能力も高いので絹も十獅子も任務に集中できるという利点がある。
 この悪癖をどうにかして矯正……でき…ればいいなぁ、と思う。希望的観測である。
 そんなことを思い悩んでいると、着替え終わった絹が傍らに来て装備を片付けている。
「おわぁ! 絹、それはもっと丁寧に扱え! そんなに重ねるな! 軽くて柔らかいものを下に置くな!」
 十獅子は絹が荷を積み上げる端から山を崩し、きちんと整理して積み直していく。こういうことが得意そうな絹は整理整頓がからっきしで、逆にごつい中年の十獅子が几帳面というのは見ていてなかなか面白い。
 いまだ独身の十獅子だが、娘がいればこんなものなのか、とも考える。中年と呼ばれるのも残り少ないだろうこの年寄りに嫁のなり手などいるはずもないだろうから、本当にこういうものか確かめる術はあるまいが。
439鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:44:20 ID:zztQZ6Ot0
 と考えていると、十獅子が整頓した荷さえも崩して押し込んでご満悦の絹の顔が視界に飛び込んできた。
「どーかしら、この整頓ぶり! あたしってば立派なお嫁さんになれるかしら!?」
 十獅子は無言で右の親指と中指で輪を作り、筋が浮かぶほど力を込めたデコピンをくれた。
「〜〜〜ぃったぁい! なにするかしら!」
 クリップで前髪をきっちりと分けた額に赤々と指の跡をつけて絹が叫ぶ。ちなみに十獅子の全力デコピンは厚さ10ミリの杉板を粉砕する。これを食らって痣程度で済むとは、まさに石頭恐るべしである。
「なにするってのはお前だ! 下の方をよく見ろ!」
 十獅子の指先からまるで点線でも伸びているかのように徐々に視線を動かしていく絹。その視線がたどり着いた先では、式神を収めた布包みが無惨にも音撃弦・小鳥の下敷きになっている。幸い破れてはいない。
「そのくせみつみのたまご焼き弁当はてっぺんに乗っけるのな」
「だってみっちゃんのたまご焼きおいしいんだもの……」
「それとみつみ!」
「はいぃっ!?」
 十獅子が右斜め後ろにびしっと指を突き出すと、その先にいたみつみが硬直する。でっかいカメラを構えて、ご丁寧に指の間には替えのフィルムまで握っている。
「お前絹を撮ってないで手伝え」
「さ、サー、イエッサー!」
 言葉遣いこそ普段のままだが、みつみには十獅子の背後にグロック社のイメージキャラクターであり除隊後に昇進した唯一の海兵隊員の雄姿が見えた。

 二人とも、卒業はまだまだ先かも知れんな……
 ずきずきと痛む中指を庇いながら、内心でそうつぶやく十獅子であった。
440鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:46:51 ID:zztQZ6Ot0
設定

黄邑絹
音撃弦・小鳥と音撃震・雀、音撃弓・金糸を使って戦う鬼見習い。属性は『鉱』。要するにヤンジャンで連載再開されるあれの黄色。みっちゃんはもうそのまんま。
馬鹿力の力馬鹿。一年間戸隠で体術を修めてから鬼島に入学した。十獅子は一人立ちの際に『金鬼』の名を与える予定。

音撃弦・小鳥
音撃モードで展開する刃に翼の模様が刻まれている。
小暮耕之助が習作として作ったものだが、十獅子について吉野に行ったときに偶然発見した絹が『かわいいかしら!』といたく気に入ってしまったため実戦仕様に調整して支給された。後の小型音撃弦の走りだが、まだバイオリンよりいくらか大きい。
普通に音撃震を装着して音撃することも可能。

音撃弓・金糸
鉄弓。弦には鬼石が蒸着してあり、バイオリンの弓として使用するほかに鳴弦による簡易音撃、通常の弓としての使用、鈍器としての使用、糸鋸としての使用が可能。ちなみにこの弓はすさまじく強く、鬼島では絹のほかに満足に引ける者はいない。

鬼闘術・鋼鎧
鉱の気で全身を鋼鉄じみた硬さにする技。もちろん鋼鎧を発動している間も自由に動けるが、絹はこれを一分続けると失神する。

青桐薊
音撃鼓・黛青(たいせい)と音撃棒・天賜を使う太鼓の鬼見習い。属性は氷雪。必殺音撃は『音撃打・卍』。絹とみつみを助けた半年後に卒業し、雨雪鬼(アマユキ)の名を得て故郷である北海道支部に配属された。
クールビューティに見えるがかわいいもの好きで、私物はもとより音撃武器や式神までデコレーションする悪癖がある。一度デコレーションのしすぎで式神が起動しなくなったことがある。
「氷越しにぼんやりと見える裸体がたまらなくそそる」とは、薊の卒業直前に数回だけ任務をともにした小野忍人の談。

音撃打・卍
「名乗る必要はない。何故なら」
と言われたら、全員で
「「「二秒で終わりだ!!!」」」
と返すのが礼儀。
441鬼島〜未来の金鬼:2008/04/13(日) 10:55:50 ID:zztQZ6Ot0
散漫なものですが、一応これで鬼島の生徒は全員クリアです。
用語集のほうは作業量の関係で更新停止状態にしてしまっていますが、これで埋め合わせということでひとつ。
鬼島関係でいくつかアイディアはあるのですが、まだまだお見せできる状態ではないので、またいずれそのうち。
442名無しより愛をこめて:2008/04/15(火) 19:40:41 ID:57QgxdPB0
>429-441 投下乙です。
「2秒で終わりだ」の台詞がいいです。
相当重たい音撃だってのがよく分かる。
次回作お待ちしてます。
443某作品の作者 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 05:50:39 ID:8BQCZSps0
いろいろ考えてて逆引き広辞苑で名前が浮かんだら、1本書けました。
つぶしで読んでください。

『荒吹く鬼』です、どうそ。
444荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 05:53:24 ID:8BQCZSps0
「おはよう」上背を少し屈むようにしてその男が店の暖簾を潜って来たのは、定食屋であるこの店の第一の繁忙期である昼飯時を少し回った頃だった。
「何がおはようだよ。もう太陽はとっくに真上過ぎて昼下がりだよ」
「芸能界は会ったら『お早うございます』、だよ。おばちゃん」
カウンター越しに言葉を返してくる女将に向かって、男は少し伸びて寝癖のようになっている髪を軽く掻き揚げながら首を回すと悪びれもせずに言った。
「はん。何が芸能界だよ、大した男前でもない癖に。いつものでいいかい?」男の言を笑い飛ばした女将は笑顔で頷く男の様子を確認すると手馴れた動作で食事を作り始めた。
 女将は男の生まれる前からずっとこの場所で定食屋を営んでいる。
 もう年は六十に届こうか。二十代後半と思しき外見の男と併せると親子のように見える。
 五歳年上になる女将の夫は髪結いの亭主よろしく滅多に店を手伝ってはくれない。
 しかし、その夫は決してぶらぶらしているわけではない。
 古より全国に現れる〈魔化魍〉と呼ばれる怪しきモノを鎮める〈鬼〉という存在を支える組織があり、夫は現在その構成員として人知れず活動していた。
 組織の名は〈猛士〉。夫はその末端にある地区調査員、〈歩〉の役割を担っていた。
男は女将が手早く作ってくれた料理をカウンター越しに受け取ると、いただきますと箸を持った手を合わせてもりもりと食べ始めた。
眼前にあった山盛りの丼飯や皿に処せましと盛り付けられた特大のカツが見る見るうちに男の胃袋に納まってゆく。
「やっぱり、『鬼』の食いっぷりは見ていて気持ちのいいもんだね。あ、父ちゃんは奥に居るからお茶飲んだら話に行きなよ、あっちゃん」
「あっちゃんはやめてよ、おばちゃん。俺、もう二十八だし」飯粒を口の周りにつけながら男が口いっぱい頬張ったまま返す。
「いいじゃないか、名前がアラブキなんだからあっちゃんで。可愛いじゃないの」
「ちぇっ、おばちゃんには敵わないな」言いながらお代わりしたご飯も平らげてゆく。
 見るからに痩身でどちらかと言えば線の細そうなこの男にはおよそ似つかわしくない光景だった。
ああ、美味かった。おばちゃん、ご馳走様。じゃ、ちょっとお邪魔するよ」

445荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 05:54:27 ID:8BQCZSps0
 食事を食べ終わり、大き目の湯飲みに入ったほうじ茶を飲み干したアラブキは女将に向かって手を合わせて拝むように礼を言った。
お粗末様と微笑む女将の横を通って店の奥へと入り、古い木製の階段を軋ませながら二階へと上がって行く。
 身長が六尺を少し超えるくらいのアラブキにとって、店の階段は結構窮屈だがアラブキはこの階段の軋み具合が木の温かみが感じられる様で結構好きだった。
「おいちゃん、こんちわ。資料出来てる?」暖簾を潜って八畳ほどの居間にいるこの家の主に声を掛ける。
「おう、アラブキかい。ばっちり用意してあるよ。これが今回の相手だ」
白髪を綺麗に七三に分けた女将の亭主は向かっていた文机から封筒を持ち上げると、アラブキにそれを渡した。
茶封筒の中から数枚の紙を取り出して読み始めるアラブキ。
「……予想されるのは、幽谷響(やまびこ)、姑獲鳥(うぶめ)、ダイダラボッチ……って、随分適当だね。ホントに予測なのか、これ?」
「まあ、こんぴゅーたとか言う奴で予測するったって、情報が集まらなきゃどうにもなるめぇよ。やっぱり昔からの勘と知識がこの世界じゃ物を言う様な気がするがね」
封筒の中身を読んで顔を顰めるアラブキに亭主は煙管をふかしながら言った。
「トウキさんは三種使えるお前さんなら何とかなると踏んで、回してきたんだと思うがね……。それとも、自信が無いかい?」
「いんやぁ、そんな事も無いさ。まんざら時期外れって訳でもないし、用意は一応してきたからね。まあ、荷物と言えば荷物だけどね」上目遣いににやりと笑う亭主にアラブキは大した事はないといった風情で返した。
「まあ、現場は山の中だ。途中から歩きになっちまうから、なるべく早めにな」
「あいよ。すまないけど明日はおばちゃんに握り飯でも作ってもらいたいんだけどな」
「わかった。かあちゃんに特大頼んどくよ」
「出来ればシャケと焼き鱈子がいいな」
「おう、いつものやつだな。あと、撥は昨夜手入れしておいたぞ。お前のは黒檀だから、重くて大変だったがな」
「すまないねぇ。どうもあの位じゃないと収まりが悪くってさ」
「ま、いいって事よ。悪いが退治の方は頼むよ。何時犠牲が出てもおかしくない感じがしているんでな」亭主はアラブキにそう頼むと、宿はいつもの所なと告げた。
「それじゃ宿に寄って荷ほどきするわ。何かあったら連絡して」
446荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 05:58:26 ID:8BQCZSps0
「あんまりフラフラすんじゃねえぞ。明日から本番なんだからな」
「分かってるって。じゃ、また明日」アラブキは男に向かって敬礼を崩したような仕種をすると、階段を下りて店を後にした。

 時は昭和六十年、世はバブル時代全盛といわれた頃だ。
 地価は爆発的に上昇し、それに群がる様に投機的な大金が世を渡っていた。
 世間は記録的な景気の上昇を見せ、大卒の初任給も右肩上がりの状況だった。
 春にNTTが誕生したことにより株価にも大きな影響が出ていたという。
 しかし、この頃には魔化魍と呼ばれる妖魅を封じ退治する鬼達は既に減少の一途を辿っていた。
 職業として鬼を選ぶ者はその国家的秘密とも言われる存在故に非常に少ない。
また対魔化魍組織である猛士が担う務めの危険性から先祖代々継いで来た者達がその家督を廃し、普通の人間として暮らすという状況が増えた事も鬼の減少に拍車をかけたと言われている。
 しかし、幸いな事にこの頃の魔化魍の発生自体は月毎に微増減する事こそあれ、極端に増える傾向にはなかった。
各地に配属された情報担当官の〈金〉や総本部付きの〈予測士〉と呼ばれる知識と経験に優れた者達、探索方である歩の活躍により、多くの問題は解決できていたのである。
 この時期、減少する人員の問題を解消するべく情報管理の機械化が推し進められ、魔化魍の出現に関するデータベースと出現予測システムの構築が始まった。
数年前に吉野の準備室長に就任した立花勢地郎を中心にこの計画は推し進められていた。
嘗て宗家の鬼であるイブキのサポーターとして活躍した勢地郎は情報機器や分析にも明るく、いち早くシステムの重要性を本部に打診していた。
 勢地郎の熱意を汲み取った総本部は準備室を用意し、勢地郎をそのトップに抜擢した。
 吉野総本部の電算設備準備室を中心に各支部にパーソナルコンピューターが導入され、モデムを利用した通信システムが確立することによって一定の形は整った。 
 準備室には吉野の予測士と各支部より選りすぐった金の者が集められ、彼等の奮闘により魔化魍のデータベースは一応の完成を見たのである。
447荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 05:59:57 ID:8BQCZSps0
 アラブキが受け取った封筒の中身は猛士が構築した予測システムによって導き出されたものをファックスで転送、コピー機で複写したものだ。
如何せん、まだメモリーカードもなければCDロムも確立されていない時代である。
当然普通紙ではない為印刷の質も悪く、文章の羅列と言った具合の代物だった。
 予測システム自体も現在もデータを追加中であり、その的中率も高いと言えるほど精度は良くなく、まだまだ改良の余地も残されていると言えた。
 しかし、実際に運用していかない事には技術の進歩も見られない。
そこで、歩による探索や分析と平行して、予測システムを各支部においても積極的に活用するよう通達がなされた。
これはアラブキを擁する猛士北海道支部においても例外ではなく、札幌の本局にシステムを導入し、各主要都市の支局にFAXを利用して情報を送信すると言う形をとってこれに対応していた。

翌日の朝、アラブキは乗ってきた専用車に装備や荷物を積むと山間の道を出現場所と見られるところまで分け入って行った。
アラブキが入っていった山は都市に程近い山であるが、自然はふんだんに残されていた。
「さてと。始めますかね」アラブキは車を適宜な所に止めて後部のハッチを開けると、幾つかの革袋を車から出した。
その中の一つを開けて中から革製と思しきベルトを取り出す。
鬼の装備の一つである装備帯と呼ばれるものだ。
鬼は人間が極限まで身体を鍛え抜き、人に害をなす魔化魍に唯一対抗できる戦闘法〈音撃〉を習得する事で自らの身体を異形の形に変化させることができる。
しかし、変身することで通常の衣服はその衝撃や状況に耐えられずに消滅してしまう。
装備帯は魔化魍と対峙する鬼が変身する際にも消滅することなく急所を防護すると共に、持っている武器や装備を吊り下げておく役割を持っていた。
アラブキは装備帯を腰に巻くと、持ってきた変身装備である音笛〈涼風(すずかぜ)〉を右腰に下げた。
左腰にはカセットテープ型の音式神、〈紫鳩〉と〈灰色狼〉、〈藍色猿〉を下げる。
448荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 06:04:30 ID:8BQCZSps0
魔化魍を退治する鬼は音撃の種類により概ね三種の部類に分類される。
大型の魔化魍に対応する太鼓、空中や水中を得意とする高速型の魔化魍に立ち向かう管、外骨格や甲羅、針といった外見の硬い魔化魍にあたる弦の三つである。
それぞれ、音撃打、音撃射、音撃斬という技を持ち、音撃を駆使して内部より魔化魍を破壊してこれを清めるのがその任務であった。
管の鬼であるアラブキは昨日定食屋の亭主に整備してもらった撥、音撃棒〈八千矛(やちほこ)〉を後ろに括り、主要武器であるトランペット型の音撃管〈和魂(にぎみたま)〉を右手に持った。
師匠の厳しい修行の甲斐もあってアラブキは三種の武器を一通り扱うことができる。
「弦は……置いていくか。重いし」音撃打に使う音撃鼓〈千代盾(ちよだて)〉を下げながら呟くと荷物の中でひときわ大きいギターのようなものが入った革のケースを車に戻す。
「おっと、忘れちゃいけないよね。飯、飯」助手席から小さい風呂敷包みを取り出して左手に持った。
 車の鍵をかけて、その鍵をタイヤハウスの裏に隠すとアラブキは山に向かって歩き始めた。

 握り飯を食いながら山間を歩いてゆくと、雪解けを終えた山のいたる所で木々が芽吹き、生命の新たな息吹を感じることができた。
 アラブキは歩みを止めると目を閉じて数回深呼吸をした。
 新しい緑のにおいを嗅ぐと同時に修行した昔のことを思い出す。
野駆け修行の時に魔化魍は命の歪みが生み出すものだと師匠は弟子であるアラブキに言ったことがあった。
「謂われなく人に損なわれた数多の生命の悲しみや憎しみが凝り固まって地の底から現れるのが魔化魍なのだと儂は思うのだよ」
「しかし、魔化魍は童子や姫によって育てられるのでしょう?」
「うむ。だが、その童子や姫もまた何処かより現れるものだ。木の俣より生まれると言っても不思議ではないようだしな」アラブキの目を見つめながら師匠は目を細めた。
「見なさい、この自然を。この美しい緑の中に魔化魍の気配と言うものが感じられようか。
魔化魍の現れるところに流れる瘴気の流れはここには無い」
「はい」
「瘴気は生命の損ないが人の手によって不規則に積み重なる所に現れる。我等鬼はその瘴気を清め、元つ処に返すのが務めと心得ろ」
「はい」
449荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 06:05:41 ID:8BQCZSps0
「魔化魍と雖も、元は生命を持つ御霊(みたま)だ。清めの音をもってその穢れを祓い、御霊を穢れなき大元に返すことこそが鬼の本来の役目だと儂は信じる」
「御霊を返す……」
「失われた生命を悼み、その悲しみと苦しみを背負い、憎しみの連鎖を断ち切る為に御霊を清める心を忘れてはいかんぞ、篤史」師匠はそう言って少年時代のアラブキに鬼の心得を教えた。
猛士に属する鬼の中でもかなり異質と思える考え方をする師匠であったが、アラブキは魔化魍にさえ悼む心を持つ優しい師匠が好きだった。

思い出が頭を過ぎった刹那、アラブキの脳裏に信号が点った。
「近いな」呟くや否や駆け出す。
この感触は姑獲鳥かと思い、感覚の強くなる方へ目指して走る。
常人では出ない速度で走るアラブキの前に不意に行く手を阻むように若い男女が現れた。
「鬼だ、鬼だ」
「出たぞ、出たぞ」
「食ってやるぞ、鬼め」
「血を飲ませろ、鬼め」奇妙な衣装に身を包んだ男女は口々に呪詛めいた言葉を吐く。その声はそれぞれ異性の声だ。
「やっぱり姑獲鳥の奴だったか。機械の出す結果も満更じゃないな」アラブキは男女が姑獲鳥の童子と姫であることを確信すると、右手の音撃管を素早く装備帯に下げると右腰の涼風を握った。
 軽く振ると二つに折れていた音笛が涼やかな音を立てて笛の形に変わる。
「吹けよ風」アラブキが音笛を吹くと赤と青に染まった風がアラブキの周りに吹き始めた。
 風はアラブキに飛び掛る男女を弾き飛ばし、その風を振り払って顔の隈取を濃い朱に、体を同じ様に濃い藍色に染めた五本角の鬼が現れた。
「荒吹鬼、見参」吹き飛ばされると同時に変化した童子と姫を見下ろす鬼が低い声で名乗る。
「鬼、鬼!」
「鬼、殺す!」外見を妖魔と変化させた童子達が殺到する。
「和の心を以って闇の瘴気を祓い清めん」荒吹鬼は背に提げた音撃棒・八千矛を両手に構えると童子達に対抗した。
「しゃあああ!」叫びながら向かってくる童子達。荒吹鬼はその手足をいなしつつ音撃棒で打撃を加える。
攻撃が通じないと見るや口から唾液を吐き出す姫を右手にかわし、左手から襲ってくる童子を八千矛で叩き飛ばす。
450荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 06:06:57 ID:8BQCZSps0
「哀れなる御霊よ、荒ぶる炎にて焼き清めん。……鬼棒術・風炎斬」右手に持った八千矛の阿がごうと唸りを上げて振られた。その音と共に吹いた青い風が赤い炎を巻き起こし、姫の体に燃え移った。
 姫は激しい炎に悲鳴を上げて崩れ落ちたが、童子はその状況に乗じて逃げ去ってしまった。
「追え、鳩よ」荒吹鬼はすかさず左腰の紫鳩を放り投げると音笛を吹いた。
 カセットは瞬時に鳩の形の式神になると逃げた姫を追尾する。追っていく先には必ず魔化魍・姑獲鳥がいる筈だ。
「まだ祓いは終わっていない」荒吹鬼は呟くと紫鳩の後を追って走り出した。

 童子は姑獲鳥のいる湖を目指していた。
 その姿は既に変身を解き、長髪の若い男の姿に戻っている。
 荒い息をつき懸命に逃げ回る姿は得体の知れない恐怖に震える若者の姿そのままだった。
 荒吹鬼は童子を追う紫鳩の姿を確認しつつ童子と間隔を空けて走っていた。
「まだ逃げているな。遠いのか」音撃棒は背中に回し、音撃管・和魂を持って姑獲鳥戦に備えている。
 そんな中、式神が不意に飛行を止めた。
 荒吹鬼の傍に戻り、何やら鳴き始める。
「来るな」荒吹鬼が言うや否や姑獲鳥が近くの湖から姿を現した。
「大きい。かなり育っていたのか」荒吹鬼は和魂を構えて姑獲鳥に向かって照準を合わせる。
 たたたんと音を立てて圧搾空気弾が数発打ち出されたが、大きくなった姑獲鳥には牽制程度の効果しかなかった。
 咆哮を上げて襲い来る姑獲鳥。その背には童子が乗っている。
「背に乗るとは……。龍の子太郎でも読んだのか、あの童子」姑獲鳥の攻撃をかわしながら呟く荒吹鬼に童子が叫ぶ。
「わが子の餌となれや、鬼め!」
「そうはいくか」襲い来る姑獲鳥の背目掛けて背中の音撃棒の片方を放り投げる。
黒檀を使った重い音撃棒は狙い違わず童子の腹を貫き、姑獲鳥の背に乗ったまま童子は爆発して果てた。
「鬼投術……。名前が浮かばないな。後で考えよう」再度襲い来ようとする姑獲鳥の様子を伺いながら照準を合わせる。
「地に堕ちよ、空を舞う瘴気め」姑獲鳥の顔に向けて鬼石の篭った実弾を撃つ。
撃ち込まれた鬼石は姑獲鳥に直撃し、姑獲鳥は悲鳴を上げながら荒吹鬼を掠めて空に舞い上がった。
451荒吹く鬼 ◆MxwC1THAPo :2008/04/16(水) 06:08:35 ID:8BQCZSps0
 荒吹鬼は装備帯の腹部に据えられた音撃鳴〈荒魂(あらみたま)〉を和魂の銃口に装着すると、音撃管を音撃仕様に切り替えた。
「荒ぶる御霊よ、瘴気を祓って天に帰れ! 音撃射・千魂萬生(せんこんばんしょう)!」
 和魂から発せられる音撃射は朗々と魂の音を奏で始める。
 その音色は失われた生命を悼む寂寥感に彩られ、悲しき御霊が天に昇って新たなる生へと輪廻することを望む生命(いのち)の歌のようでもあった。
 姑獲鳥はその音色に暫く悶え苦しんでいたが、その目が涙に煌めいたように見えた直後に轟音と共に爆発して姿を消した。
 荒吹鬼は姑獲鳥が消滅した後も暫く音撃射を止めずに和魂を吹き続けた。
 この地にあった御霊に対して鎮魂の思いを込めるように。
 
「終わったみたいだな」定食屋の夜の仕込を手伝っていた亭主が女将に話しかけた。
「聞こえるだろ、あのラッパの音色がさ」
「あんたってば、ホント耳だけは昔と変わらないよね。……地獄耳っての? 鬼の魂百までもってやつなのかね」
「鍛えてたからな。一つくらい残っているもんさ」呆れながら米を研ぐ女将にどこ吹く風と言った風に涼しく応える亭主の姿は、どこかアラブキやその師匠に似ていた。
 ここは北海道のある田舎町。
 その中にも生命を守り、魔となった御霊を清める鬼とそれを支える人達の営みがある。

『荒吹く鬼』了
452名無しより愛をこめて:2008/04/17(木) 02:55:28 ID:6ngDBBXN0

『カセットテープ型音式神・紫鳩』

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
  | < ̄丶ノノノノノ ̄>|
  |ゝ、 ○`( ゚∋゚) ○ノ |
  |ゝ、>__,,,/_ノ/ |
  |  ∠    //   \ |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ┌┐
      \/
 < ̄丶     / ̄>
  ゝ、\ ノノノノ ノ ノ
   ゝ、`( ゚∋゚)/
     > ○ノ
    ∠_,,,/
     //
453名無しより愛をこめて:2008/04/17(木) 04:39:44 ID:P7uB2QpZ0
>>452
可愛い♪
454あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:32:57 ID:n64OovNZO
前回>>405-411のあらすじ

 9か月前にデカくて白い鬼が遠いところに旅立ちました。


『あなたの背中を護りたい』 三之巻「纏う銃砲」


 穂村総合病院。仙台市内に位置するこの大型医療施設の一室が、猛士東北支部の出張所となっていた。
 関係者以外立入り禁止となっている部屋の中で、ギャル鬼・アイキが小動物のように縮こまりながら、白い丸テーブルについていた。
 ドアの開閉音がして、視界の隅をタイトな黒いミニスカートの女が通り過ぎると、アイキは情けない声をかけた。
「くぅちゃ〜ん」
 白いシャツの胸元を大きく開けた、茶髪、ショートの女が振り向いて言った。
「あれ、いたの? あぃちん。小さくなりすぎてて気づかなかったわ、ゴメン」
「怖いよ、怖いよぅ、師匠が来るよ〜ぅ」
「先代アイキさんが仙台に来るの?」
 アイキはぼそっと、それじゃ関東支部の駄洒落王・エイキさんだょ、と呟いてから、頭を抱えて言った。
「そぅなの。東北支部に来る次ぃでに、こっちにも来るって」
「うらやましいソレ〜。ウチの師匠は全然来てくれないのに」
 何やら妄想して幸せそうな顔になっている彼女を見て、机についたままアイキは力なく言った。
「そっか……くぅちゃんは、師匠LOVEだっけ」
「もう、めちゃくちゃ好きやっちゅうねん」
 基本は標準語だが、ところどころに関西弁が入る。同郷で京都出身の彼女とアイキは特に仲がよく、互いをコードネームではなくニックネームで呼んでいた。
 そのとき出張所のドアが開き、白衣姿の芦川史子が入ってきた。
「ああ、クルメキちゃん……と、アイキちゃん」
 後半は、机の上で沈んでいるアイキに視線を落して言った。
455あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:36:32 ID:n64OovNZO
「アヤ先生、私の鬼笛どこですか?」
「そこのロッカーの中」
 史子が指したロッカーの中から保護シートに包まれた鬼面つきの笛を取り出すと、クルメキは少し吹き鳴らした後、調整バッチリ、と言って笛をベルト側面のホルダーに差し込んだ。
「それじゃ、お仕事行ってきまーす」
 投げキッスのポーズをして部屋を出て行くクルメキに向けて、頼りない声でアイキは行ってらっしゃぃ、と言って挙げた片手をわずかににぎにぎと動かした。
 部屋の戸が閉まり、足音が遠ざかってから、史子は机にへばりつくようになっているアイキに言った。
「どこか具合悪いの? 診ようか?」
「出動……ァタシも出動しなぃと」
 アイキはケータイを開いて電源を入れようとした。
「アイキちゃん、うちの病院内は基本的に携帯電話での通話はダメよ〜。携帯電話のご使用は決められたエリアで……」
 史子の言葉を最後まで聞かず、アイキはケータイを握りしめて部屋を走り出た。
「走るのもダメよ〜」
 と、一応声をかけたが、その数秒後アイキは既に病院の外に出ていた。

 仰向けになって愛車『蒼龍』の下に潜り込み、整備をしていた湯河原有志のケータイが鳴った。出てみると、高周波の声が受話器の向こうから聞こえてきた。
「出動だァ? 次のシフトは三週間後だぞ」
『なんでもぃぃから出動したぃんですぅ。明日からシフト入れてくださぃぃ』
 必死に言い募るアイキに取り合わず、有志は仰向けの態勢のまま言った。
「一週出動したら三週出動なしが基本だろ。体力が余ってるなら鍛えてろって」
『なるべく仙台から遠くに行きたぃんですぅ』
「わけがわからねぇ」
 車の下から這い出て、有志は仏頂面で携帯電話を手にして耳をこらした。すると突然、電話の向こうから史子の声がした。
『説明するね』
456あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:40:46 ID:n64OovNZO
 病棟の外に出て、アイキの手から取ったケータイで、史子は電話の向こうの有志に言った。
「アイキちゃんのお師匠さんが今、東北支部に出張中で、明日一日、仙台に寄るらしいのね。で、顔を合わせたくないから、その口実がほしいわけ。アイキちゃんにとってお師匠さんは、恐怖の対象らしくて」
『あいつにも怖いモンなんてあるのか』
「厳しいお師匠さんだったみたいね、先代アイキさんって」
 先代アイキは30代後半の女性で、現役時代は音撃打・音撃射・音撃斬すべてに熟練した凄腕の鬼だったという。主に使用していたのは音撃弦で、必殺音撃『愛人激震』により多数の魔化魍を退治したらしい。

「ま、そんな理由でシフト入れるなんざ出来るわけねぇだろ。って、あいつに言っといて」
 有志は電話の向こうの史子に言ってから、先程からかすかに聞こえる不気味な経文のような声に耳をそばだてながら言った。
「ところでよ、なんだか近くで呪いの言葉みたいな妙な囁きが聞こえるんだけどよ、そっちでも聞こえるか?」
 整備中の車から離れ、建物の陰に踏み込んだ有志は、そこにケータイを手にして立っていた史子と目が合い、互いに「あ」と声を上げた。
 二人の間で、病院の壁を背に体育座りになったアイキが、小動物のように震えながら、「ぉ師匠コヮィ、ぉ師匠コヮィ」と呟いていた。
457あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:47:06 ID:n64OovNZO
 翌朝、クルメキは金色のライフル風の武器を背に、気仙沼の山林を歩いていた。
 アサルトライフル型のその武器は、銃身の根元から銃床に渡されたスリングで肩に掛けられていた。
 前日と同じく、露出の多い服装で、細い体に似合わぬ大型音撃管を背負う、茶髪の女が一人。春の陽光が木漏れ日となって、森に降り注ぐ。どこか遠くで、小鳥の声がかすかに響く。
 そして、のどかな自然の景色の中に二点、不吉な陰を落す童子と姫が、クルメキの前に立ち塞がっていた。
「探す手間が省けたわ」
 クルメキは大型の音撃管を足元に置くと、取り出した鬼笛『音蝶』の角を展開し、二体の怪人から目を離さぬままそれを吹き鳴らした。
 黒い砂煙が彼女の周囲に巻き起こり、全身に張り付いて岩と化した。直後に黒い表面がひび割れ、前に振り出した腕の挙動に合わせて礫が飛んだ。
 細かな塊を全身に浴びて、童子と姫が悲鳴を上げて仰向けに倒れる。その彼らを、黒い体に黒い顔、金色の鬼面と襷、銀色の前腕と隈取を持つ鬼が見下ろしていた。
 ──最大の特徴として、二本角の外、右側のみ隈取の先が角のように伸びたこの鬼の名を、『眩鬼』といった。
『痛いなァ』
『痛いよォ』
 鋭い光の宿った目をして童子と姫が立ち上がり、その姿を白面に黒い体の怪人体に変身させた。その間に、眩鬼は左肩に音撃管を担ぎ上げ、スリングを引き絞っていた。
 音撃管が展開し、銃床が背を、弾倉やトリガーが胸を覆い、ライフル型の武器は一瞬にしてショルダーキャノンと化した。
『こっからが本番やっちゅうねん』
 トリガーが引かれ、眩鬼の左肩に固定された銃砲から空気弾が立て続けに放たれる。数発を喰らった怪童子がギャッと叫びながら、またも後方に倒れる。
 ──装着型音撃管『瞳宝(とうほう)』。それがこの武器の名だった。
458あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:52:12 ID:n64OovNZO
 倒れた怪童子も顧みず、妖姫は山奥に逃げ出した。その背に向けて眩鬼の『瞳宝』が連射される。
 妖姫に遠距離攻撃を仕掛けている眩鬼の隙をついて、怪童子はすぐさま立ち上がり襲いかかった。
 眩鬼は鬼爪を生やした両手で怪童子を袈裟に逆袈裟に切り付け、白い血液をその場に吹き上がらせた。同時に、遠くで妖姫が圧縮空気弾を受けてその場に崩れる。そして、遠近の二体は同時に爆発して土に還った。

 気仙沼の南方、本吉で魔化魍が目撃されたとの報が東北支部を通じてアイキと有志にもたらされた。
 仙台から北方に向かう『蒼龍』の車中で、アイキは心底うれしそうにしていた。
「頑張りますぅ」
「都合良く魔化魍が現れたからって、喜んでんじゃねぇぞ。不謹慎だ。犠牲になった命のことを考えやがれ!」
 有志に怒鳴られると、アイキはピタリと黙って小動物のように縮こまった。
 運転を続けながら、有志は後部座席に向けて言った。
「今、気仙沼でクルメキがイッタンモメンを追っている。同時にすぐ近くでヌリカベの目撃……。何か、キナくせぇ。ひょっとしたらひょっとするぞ、これは」
「ひょっとするって、なんのことデスか?ヘ(゜∀゜*)ノヽ(*゜∀゜)ノ」
「前に、関東で似たような事例があった。今回も『それ』と同じだとしらたら、ちょっと厄介だ。いずれにしても、気合い入れていけよ」
「はぃ」
 バックミラー越しに、アイキの横向きのVサインが見えた。
 仙台から本吉は遠く、有志たちが現場の山林に着いた頃には日が傾きかけていた。その日は現地で野営となった。
459あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:55:15 ID:n64OovNZO
 翌朝、有志が野外に設営していたテントから出ると、アイキは既に起床していた。彼女は寝床として使っていた『蒼龍』を降りて、前日の夕方に放っていたディスクアニマルを出迎えていた。無論、メイクは今朝もバッチリだった。
「ぉかぇり、ルナ、マミタス〜」
 次々と帰ってきたネコ型ディスクアニマル『菖蒲猫(アヤメネコ)』に声をかけていくアイキの様子を見て、コイツらしいネーミングセンスだ、と有志が思っていた時、アイキが声をあげた。
「ァタリ来ましたぁ( ≧▽≦)ノ」
 有志は情報を書き入れようと、コルクボードに貼った地図の前に急ぎ、言った。
「来たか、何番だ?」
「マミタスです(●>ω<●)ノ」
「番号で言え!」
 戻ってきたディスクアニマルすべての情報と、その時間の推移を勘案して有志は言った。
「北に移動している」
 携帯電話でクルメキのサポーターに連絡を取り、何言か交わしてから有志は電話を切り、アイキに言った。
「クルメキの方は、童子と姫は倒したが、魔化魍は発見できていない。ディスクアニマルで拾った情報からすると、種別は予想通りイッタンモメン。南に向かって移動しているらしい」
「くぅちゃんたちの追ってぃるマカモーさん、こっちに向かってきてます?(゜Д゜)」
「ヌリカベとイッタンモメンが同じ地点を目指している、というべきだろうな。三年前に関東で起こった事例とクリソツだ、こりゃぁ。心して掛かれよ」
460あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/17(木) 15:58:08 ID:n64OovNZO
 同日の昼前、気仙沼と本吉を結ぶ県道65号線の西方。その山奥深くに、黒く巨大なドーム状の物体が眠っていた。直径10メートルを超える大きさの繭が、その円周から張られた繊維を周囲の地面や樹木に縫い付けていた。
 その繭を見守る、全身黒づくめのマントの男が静かに立っていた。黒いつば付きの帽子から出た黒い布で頭の周囲を覆い、口元は黒い布で隠し、喉元には紫色のスカーフを巻いている。そして手には、大小幾つものメーターを付けた金色の杖を持っていた。
「やっと見つけた、と思ったら」
 アサルトライフル型音撃管を担いだクルメキが、その場に現れた。
「何かしらコレは」
 黒づくめの男・黒クグツは陰で糸を引く洋館の男女の操り人形であり、彼ら自身が喋ることはない。
 繭が何であるかの見当はついていたが、返事は期待していなかった。クルメキはただ、男を操っている者に対して言ってやった、つもりだった。
『……楽しい楽しい、実験だよ……』
 陰鬱な低い声が、クルメキに答えた。
「最近のアンタらは喋るんだ。知らなかった」
 軽口を叩きながら音撃管を地面に置き、彼女は鬼笛を空高く吹き鳴らした。それを合図に、黒い砂煙が全身に張り付いて、岩と化す。彼女が腕を振り払うと共に、細かくなった岩は周囲に吹き飛び、右の隈取が二本角の外側で大きく上に伸びた黒い鬼、眩鬼が姿を現した。


⊃⊃″<。
461名無しより愛をこめて:2008/04/18(金) 10:59:35 ID:uArQ45a4O
うはwwwww2話も投下されてるwwwwww書き手様方乙ですwwwww
462名無しより愛をこめて:2008/04/18(金) 18:49:18 ID:DK3zfB1I0
投下乙です!

>「来たか、何番だ?」
>「マミタスです(●>ω<●)ノ」
>「番号で言え!」

なんか吹いたwww
しゃべり方が可愛いよなアイキ。
クルメキも見た目可愛いっぽい割りに言動はかなり豪快で、この先も期待w
463鬼ストーリー トリビア:2008/04/21(月) 22:21:37 ID:Fots9YUAO

 鋭鬼SS十五之巻のサブタイトル でんでん でんぐりがえって バイ バイ バイ!
 は にんげんっていいな という曲の歌詞の一部

 SS投下の3日後に放送された 仮面ライダーカブト第40話では
 間宮麗奈が劇中で偶然 にんげんっていいな と口にしている
464仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:16:33 ID:NGkOiYSd0
198×年、京都洛北。あの日本史上最大の降雨量を記録した台風十七号が直撃する中、多数の負傷者を出した「鞍馬山の変」。その現場に程近い場所に、貴船神社は千年以上も昔から建っている。
嘗て、貴船の谷の奥には鬼の住処があると信じられていた。そして地下の通路を通って里へ現れると。そんな鬼伝説が残るこの地で、一人の男が鍛錬を積んでいた。彼の名はイッキ。「鬼」である。
「ふう……」
鍛錬を終え、流れる汗の雫をタオルで拭うと、イッキは貴船神社の本宮へ向けて歩いていった。
既に日は暮れていた。本宮へと続く参道の脇に並んだ沢山の春日灯篭には明かりが灯されており、幻想的な雰囲気を醸し出している。
その石段を一歩一歩と踏みしめながら上っていくイッキの顔には、もう若手と呼ばれていた頃に見えた迷いも弱さも何も無かった。
あれから――化野での戦いから後、関西支部は平和の代償として大きなものを失った。未だ行方不明のセイキ、ドキ。腕の怪我が元で半ば引退状態のイブキ。猛士からいなくなったバキ、ニシキ、アカツキ。
あの日、屋敷で戦った者は彼とコウキしか残っていなかった。否、コウキも今では研究室に篭りきりで、出撃する事は滅多に無くなっていた。
目に見える形で世代交代が始まった今、彼は彼なりに必死だったのだ。抜けた彼等の穴を埋めるために。
数年のうちに彼は、元々の潜在能力の高さもあって、関西支部最強の鬼として名を馳せるようになっていた。
必然だと言えよう。
「イッキさん」
石段を上り終えたところで、この神社の宮司が声を掛けてきた。
465仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:19:14 ID:NGkOiYSd0
「お疲れ様でした」
宮司がイッキに労いの言葉を掛けた。
この神社に使える社人は、自ら鬼の子孫だと称している。その鬼とは、一説では嘗て役小角に使えた前鬼・後鬼だとも言われている。
なお、前鬼と後鬼の子孫は五人おり、うち一家は滅びたが残った四家が今も暮らしていると言われている。それはひょっとして猛士四柱家の事ではないかと、イッキは初めてこの話を聞いた時からそう思っている。
まあ兎に角そういった理由で、京都方面担当の鬼は昔からここで修行を行うようにしているのだ。
「特訓の間、色々と有難う御座いました」
出されたお茶を飲みながら、イッキが答える。今日でイッキの山篭りもおしまいだ。また明日から魔化魍退治の日々が始まる。
「何を今更。長い付き合いではありませんか。……このまま関西支部へ?」
「いえ、市内の方に向かいます。稀種が出たようなので……」
「ほう、稀種が……」
宮司が驚いた様子を見せる。化野での戦いから後、稀種の出現は全国的に減少しており、京都でそれが確認されるのはクチサケ以来数年振りとなる。
ヌッペッポウが出たようです、そうイッキが告げた。
ヌッペッポウとは――廃寺に住み着き、夜中になると町へとやってきて闊歩したとされる巨大な肉塊の化け物の事である。ヌッペラボウやヌッペフホフとも呼ばれ、過去に京都二条河原で目撃されたと猛士の記録には残っている。
「肉塊の化け物……ニクスイという魔化魍ではないのですか?あれもそういう外見だと聞いておりますが」
「決め手は三つ。出現場所の違い、腐臭の有無、育て親の有無。『歩』の人の報告や『金』の人の予測からニクスイではないという結果になりました」
「ははあ、そういうものですか」
宮司もまた、お茶を一口飲んだ。
翌朝、イッキは早々に山を降りると魔化魍の目撃地点へと向かっていった。
466仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:22:43 ID:NGkOiYSd0
その日は休日という事もあってか、京都市内は実に賑わっていた。バイクを停め、二条城の前の自動販売機で珈琲を購入し、飲む。
飲みながらイッキは、周囲の観光客達の観察をしていた。外国人観光客が多い。ガイドに案内され、列を作った老人達が東大手門を潜り敷地内へと入っていく。暫く進むと国宝の二の丸御殿だ。
あそこのうぐいす張りの廊下は良かったな、と過去に観光に行った時の事を思い出しながら珈琲を飲み干すイッキの傍へ、誰かが近付いてきた。
「やっぱり!関西支部のイッキくん!」
それは、サングラスを掛けた男性だった。そしてその人物の背後には、学生服を模した白いコートを羽織った、大柄な男性が立っていた。
「あ、ひょっとして北海道支部の……」
イッキの前に立っているのは、北海道支部のジョウキと、サポーターの花京院であった。
「どうしたんです、こんな所に……!」
「我々二人は休暇でこっちに旅行に来ているんです」
再会を喜ぶ花京院。ジョウキとは大会議の席でよく顔を合わすが、サポーターの彼と会うのはそれこそイッキが北海道へ旅行した時以来だった。
「イッキくんは、やはり……」
「ええ、魔化魍です。夜間にしか活動しない種類なので、日が沈まないうちに退治に向かおうかと……」
そのまま別れようとするイッキを、ジョウキが止めた。
「待ちな。俺だけでも同行させてもらうぜ。少し話したい事があるんでな。……悪いな花京院、暫く一人で観光していてくれ」
こうして半ば強引にジョウキはイッキに付いていったのであった。
467仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:29:06 ID:NGkOiYSd0
「話って何です?」
バイクを走らせながら、後ろのジョウキに向かってイッキが尋ねた。
「……お節介は重々承知のうえだ。お前、少し肩の力を抜いたらどうだ?」
「どういう意味です?」
「数年前、京都での戦いの後関西支部がどうなったかは俺もある程度知っている。お前、何もかも自分一人で背負い込もうとしているんじゃあないのか?分けて背負えばいい荷物を、無理矢理一人で背負っていやしないか?」
重いだろう?――ジョウキのその言葉に対し、イッキは何も言い返せなかった。
「無茶してるのが一目で分かったぜ。その様子だと何度も入院しているな?このままだと取り返しがつかなくなるぞ」
「……あなたに何が分かると言うのです?」
「真面目なんだな、お前。だがその真面目さが……」
イッキはバイクを路肩に寄せると停車させた。そしてジョウキに貸してあった予備のヘルメットを取り上げると。
「悪いけれど降りて下さい。ここからは一人で行きます」
ジョウキは何も言わず、だがどこか哀れみの籠もった視線をイッキに向けながら、バイクから降りた。
イッキはバイクのエンジンを吹かすと、矢のように走り去っていってしまった。
468仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:40:33 ID:NGkOiYSd0
バイクを降り、現場の廃寺へと向かう途中、イッキはずっと自問自答していた。
ジョウキの言った事は事実だ。だが、イッキの力が必要とされている事もまた事実だ。世代交代が始まっているとは言え、まだ若い鬼達には経験も技術も備わっていない。嘗ての仲間達の抜けた穴を埋めるには程遠い。
綺羅星の如き精鋭が揃っていただけに、世代交代による戦力の低下は全国の猛士の中でも関西支部が一番酷かった。
(僕は……)
イッキは懐から一枚の写真を取り出すと、眺め始めた。それは、数年前に百物語をやった直後写したものだ。彼にとってお守りのようなものであり、大切な宝物でもある。独りで戦い始めて以来、このたった一枚の写真が彼の心の支えとなっていたのだ。
写真の中で、仲間達に囲まれたあの日の自分が笑っていた。もう、あの頃には戻れない。
そうこうしているうちに廃寺が見えてきた。着替えが入ったバッグの中に写真をしまって地面に置くと、音叉を鳴らし額に翳す。
落雷が彼の体を焼いた。紫電を払い飛ばし、壱鬼が姿を現す。
廃寺へと駆け出し、扉を蹴破る壱鬼。それと同時に、物凄い腐臭が堂内から漂ってきた。
光も射し込まぬ薄暗い堂内に、巨体が寝そべっていた。侵入者に気付き、巨体がゆっくりと起き上がる。それは、海豹の体に、牙こそ無いものの象の顔が付いた魔化魍だった。ヌッペッポウである。
ぶよぶよとした肉塊が、ゆっくりと、実にゆっくりと壱鬼に向かって腐臭を放ちながら近寄ってきた。ヌッペッポウに向かって壱鬼が鬼棒術・天火を放ち先制攻撃を仕掛けようとする。だが。
ヌッペッポウが顔の両脇に付いた大きな耳を、ばたばたと激しく動かしたのだ。それによって突風が起こり、壱鬼の手から音撃棒・霹靂が吹き飛ばされてしまう。
「あっ!」
慌てて「霹靂」を拾うべく外へと飛び出す壱鬼。こんなミスをするだなんて、いつもの自分らしくない。やはり先程のジョウキとの会話を引きずっているのか。
見ると、ヌッペッポウは堂の入り口からその半身を覗かせていた。再度「天火」を放とうと構える壱鬼を再び突風が襲う。
469仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:45:01 ID:NGkOiYSd0
踏み止まった壱鬼が、「天火」をヌッペッポウの顔面に向けて放った。だがヌッペッポウは巨体に似合わぬ素早さで耳を動かし、顔面を覆うと壱鬼の攻撃を防いでみせた。
「ならば……!」
跳躍し、ヌッペッポウの背に取り付こうとする壱鬼。そのまま音撃鼓・万雷を貼り付けて音撃を決めようという寸法だ。嘗てのように体ごとぶつかって決める音撃は、万が一の事を考えると今の壱鬼には使えなかった。
しかしヌッペッポウは、長く伸びた鼻を巧みに動かすと、跳び掛かってきた壱鬼の体を弾き飛ばしてしまった。
「ぐっ!」
地面に強く体を打ちつけられた壱鬼に向かって、ヌッペッポウが鼻を伸ばして襲い掛かってきた。実はヌッペッポウの鼻に見える部分は口で、獲物の顔面に吸い付き食らうのだ。
やられた――そう思った壱鬼の目に信じられない出来事が飛び込んできた。
いつの間にか壱鬼はヌッペッポウの 側 面 に い た のだ。そして彼の傍らには。
「ジョウキさん……?」
「やれやれ……。久し振りに……実に数年振りに0.5秒だけ時を止められたぜ」
「ジョウキさん、どうして……」
「遅くなってすまない。それよりも標的を見失っている今がチャンスだぜ」
ジョウキの言う通り、ヌッペッポウは超高速移動した壱鬼の姿を見失い、動きを止めていた。
470仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:48:37 ID:NGkOiYSd0
再度ヌッペッポウ目掛けて壱鬼が跳躍する。今度は無事背中に取り付き、「万雷」を貼り付ける事に成功した。
と、ヌッペッポウの口が背中まで伸び、壱鬼に襲い掛かってきた。だがしかし。
激しく体液を撒き散らしながら、ヌッペッポウの口が斬り落とされた。見ると、壱鬼の「霹靂」から雷の刃が伸びているではないか。鬼棒術・建雷だ。
「喰らえ!音撃打・電光石火!」
大きく展開した「万雷」に向かい、壱鬼が「霹靂」を叩き付けた。重い音が周囲に響き、清めの波動がヌッペッポウの全身に広がっていく。
目にも留まらぬ速さで「霹靂」を振るい、清めの音を奏でていく壱鬼。とどめと言わんばかりに、強く激しく二本の「霹靂」を同時に叩き込んだ。刹那、爆発。ヌッペッポウの体が塵芥へと変わる。
粉塵の中から現れた壱鬼に向かって、ジョウキが労いの言葉を掛けた。次いで。
「な。重い荷物を無理して一人で背負う必要なんか何処にもないだろう?」
ああ、そうだ――壱鬼が久しく忘れていた事。それは信頼から生まれるもの、即ち和。誰かと協力して戦うという事を、壱鬼はここ数年全くやっていなかった。
何かが分かってきたような気がしてきた壱鬼は、自然とジョウキに向かって頭を下げていた。
「有難う御座いましたっ!」
471仮面ライダー壱鬼「さらば青春の光」:2008/04/22(火) 00:50:18 ID:NGkOiYSd0
「ここ最近、イッキくん変わってきたわよね」
お茶を飲みながら、開発局長の南雲あかねが言った。テーブルを挟んで向かいの席に座り、同じくお茶を飲んでいた司書の京極も。
「確かに。肩の力が抜けたと言うか……」
ここ最近のイッキは、積極的に若い鬼と行動を共にし、実戦の中で彼等に色々な事を教えていた。
将来良いトレーナーになるわよ、とあかねが笑顔で言う。それには京極も同感だった。
「あと、人との出会いを大切にするよう若い子達に教えているようだけど、何かあったのかしら?」
「さあ……。別に間違った事を教えているわけでもなし、気にする事は無いでしょう」
何にでも興味を持っちゃう性分なのよねぇ、とお茶を飲みながらあかねが告げる。科学者の性なのだ。
彼らの傍を、若い鬼や新人スタッフが談笑しながら通り過ぎていく。
「時代は変わる……か」
何処か遠い目をするあかねに向かって、京極が「どうしました?」と尋ねた。
「そろそろ私も世代交代かな……って」
「そればかりはあなたが決める事です。僕に出来るのは、反対派を説得する事ぐらいです」
「ふふ……。京極くんはいつまで図書室の主をやっているのかしら。興味が沸いてきたわ」
そう。時代は変わる。嘗てコウキは謎の男女に対し、自分達の戦いは一通過点に過ぎないと告げた。そんな彼等の先――未来にあるのは、希望。あかねはそう信じていた。
空になった湯飲み茶碗が、テーブルの上に静かに置かれた。 了
472高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2008/04/22(火) 01:03:39 ID:NGkOiYSd0
今回登場したヌッペッポウは、
「響鬼探究」という本の新種妖怪大百科というコーナーに掲載されていた創作魔化魍です。
上記の本には昔の妖怪図鑑風のイラストが掲載されていたのですが、
読者プレゼントの栞セットに、動物図鑑風の写実的なイラストが新たに描かれており、
そこに載っていたヌッペッポウがあまりにも出来が良かったのでつい登場させてしまいました。
ちなみにこの本には、京極のモデルとなった作家先生による
「響鬼世界における民俗学者が採集した鬼にまつわる昔話」という体裁の短編小説みたいなものも載っています。

次回はアカツキが主役の話です。
473名無しより愛をこめて:2008/04/22(火) 20:35:05 ID:kMX6QrjpO
>>464-471 (;∀;)イイハナシダナー

470KB越えたんで次スレ立ててクル
474名無しより愛をこめて:2008/04/22(火) 20:39:52 ID:kMX6QrjpO
「このホストでは、しばらくスレッドが立てられません」だってさ orz
誰か代りに立ててくらはい
475名無しより愛をこめて:2008/04/22(火) 20:41:37 ID:kMX6QrjpO
連投ごめんなさい。テンプレ貼っときますね。

スレタイ:【響鬼】鬼ストーリー 伍之巻【SS】

本文:
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
【響鬼】鬼ストーリー 肆之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1190639343/l50

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます
http://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/glossary/

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、
有志の方がスレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。
476名無しより愛をこめて:2008/04/22(火) 20:43:03 ID:kMX6QrjpO
本文2:
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/(DAT落ち)
5. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/(DAT落ち)
6. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1150894135/(DAT落ち)
7. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/(DAT落ち)
8. 響鬼SS総合スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1162869388/(DAT落ち)
9.【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1164788155/(DAT落ち)
10.【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1170773906/(DAT落ち)
11.【響鬼】鬼ストーリー 参之巻【SS】
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1179024153/(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/(DAT落ち)
477名無しより愛をこめて:2008/04/22(火) 23:55:03 ID:3qqMDF/H0
スレ立てに行ってまいります。
478477:2008/04/22(火) 23:58:28 ID:3qqMDF/H0
「新このホストでは、しばらくスレッドが立てられません。
またの機会にどうぞ。。。」だってさ orz
新・・・?
479名無しより愛をこめて:2008/04/23(水) 00:23:38 ID:L3cWH9fb0
スレ立てしてきたよ
http://tv11.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1208877624/
これ以降は雑談で埋めですか?
480名無しより愛をこめて:2008/04/23(水) 00:26:03 ID:L3cWH9fb0
立ててきたら速攻で「うっさいハゲ」だってさ
お約束なのかね、あの台詞・・・
481477:2008/04/23(水) 01:55:48 ID:qMIFzMoF0
>>479-480
スレ立て乙です。
今あと22KBあるんで、オーバーしそうだったら投下は新スレですかね。

「うっさいゴーオン黒」だったら見たことあります。
482名無しより愛をこめて:2008/04/23(水) 19:33:49 ID:xsWTS1/v0
スレ埋めAA
            、__,,
            《:::;:::::ヾ三
             |゚し゚ヽ:|三  ウワー
             )日ノ 三
           iイT ̄L 三
        _,,-'' ̄/`ー' >:::\ 三
      /_;;;-'    /::::;::::/ 三
      >'>、__  /:::/:::/ 三
     ///:::::::::::::`ー'::く:::/ 三
 __ノ //::::::::::::::::::::::::::Y / 三
. 三=_ノ/:::::::::::::::/::::::::::彡u 三
   /:::::::::::::::::::::il、::::::/::| 三
 /:::::::::::::::::::::::/ミ二i|::::::| 三
./::::::::::::::::::::::::::/`ー-/::::::::| 三
\::::::::::::::::::::::/`━/|::::::::::::| 三
  \::::::::::::::::ト  〔 |:::::::::::::| 三
   \::::::::ノl、  l、::::::::::::| 三
     ー'  `=='::::::::::::| 三
           |:::::::::::::::| 三
           `l:::::::::::::| 三
             ̄`〜 三

『仮面ライダーカブト四十之巻・消し飛ぶ矢車』
483あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:08:07 ID:nJbJOehbO
前回>>454-460のあらすじ

 エロかっこいい黒い鬼が音撃管を肩に装着しました。


『あなたの背中を護りたい』 四之巻「重ねる調べ」


「クルメキのサポーターから連絡があった」
 県道65号線を北上する4WD『蒼龍』の車中で、ハンドルを執る有志が後部座席のアイキに言った。
「今、ケガ人を病院に搬送中で、クルメキは一人で魔化魍退治に向かったそうだ。急ぐぜ。おそらく鬼が一人じゃ倒せねぇ相手だ」
 有志はアクセルを踏み込んだ。
「ヌリカベとイッタンモメンですよね?(゜Д゜) くぅちゃんだったら大丈夫ですよ」
「『合体魔化魍』って知ってるか? 三年前に関東にあった事例じゃ、通常の音撃は通用しなかった。もし今回も『それ』だったとしたら、クルメキ一人じゃ勝ち目はねえ」
 65号線を外れ、左に折れて『蒼龍』は西を目指した。
「太鼓か弦との音撃の重奏が必要だ。──舌噛むから、しばらく黙ってろよ」
 更に有志はアクセルを踏み込み、車は猛スピードでヌリカベが向かったと思われる地点目指して爆走していった。
484あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:12:59 ID:nJbJOehbO
 ヌリカベとイッタンモメンがその中で眠っていると思われる、巨大な繭を護るように、ヌリカベの童子と姫が立っていた。既に全身を暗い色の革のような硬い表皮で覆い、怪人形態である怪童子、妖姫に変化していた。
 スリングで肩に掛けた音撃管『瞳宝』を左肩に構え、眩鬼は童子たちに向けて立て続けに空気弾をお見舞いした。が、何発かを掠めただけで致命傷には至らない。
 その時、巨大な黒い繭を中から突き破る、青紫色の翼があった。
 翼だけ見れば、それはイッタンモメンのものであったが、黒い繊維をかき分けてそのなかから出てきたのは、ヌリカベの巨木のような壁面状の体から、イッタンモメンの翼と尾を生やした、かけあわせの合体魔化魍『ナナシ』だった。
 ナメクジのような二本の触角を持つ頭部から、気味の悪い咆哮があがる。
 眩鬼が『瞳宝』の銃口をナナシに向けた時、突如、横合いから目に見えぬ圧力が攻めてきた。逆らいがたい見えない力に押しやられ、眩鬼は真横に吹っ飛んだ。
 地面に倒れ、力が襲って来た方向を見ると、黒クグツが黒い手袋に包まれた掌をこちらに向けていた。
「影が薄すぎて、アンタのことを忘れてたわ」
 眩鬼は倒れた姿勢から銃を向け、圧縮空気弾を黒クグツに向けて撃った。黒クグツの前方の空間が歪み、空気弾はその歪みに阻まれた。
 怪童子と妖姫は眩鬼が起き上がる隙を与えず、腕を振り上げ飛びかかってきた。
『風裂断!』
 そこに飛び込んで来た藍色の鬼が、風を纏った飛び蹴りと手刀を二体の怪人の胴に叩き込んだ。白い血液を散らしながら、怪童子と妖姫の上半身が滑り落ち、下半身と共にその場で消し飛んだ。
485あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:16:33 ID:nJbJOehbO
『くぅちゃん!』
 愛鬼が眩鬼を振り返り声をかけた。
『恩に着るわ』
 立ち上がった眩鬼が、肩に乗せた音撃管を展開させて上半身に装着した。
『あぃちん、ユージさんから聞いてるでしょ。合体魔化魍の攻略法は、音撃の重奏だって。ウチらで音撃の合わせ技、いくよ。黒クグツの妨害に気をつけて』
 頷いて愛鬼はすぐにそこから動き出した。
 肩に固定した『瞳宝』の砲身を向け、眩鬼がナナシの正面から鬼石を打ち込む。同時にナナシの後方に回った愛鬼がその背に飛び乗り、押し付けた音撃鼓『有実』を展開させた。
 眩鬼がバックルから音撃鳴『瞋器(しんき)』を取り外して『瞳宝』の銃口に取り付けた。そして、通常より朝顔のスケールが小さい、スーザフォンのような形態になった『瞳宝』を構え、清めの音を吹き鳴らす。
『音撃射・励塵砲流!』
『音撃打・風雲究刻の型!』
 愛鬼が一本の大型音撃棒『時東』を振りかぶり、巨大化した音撃鼓を打ち付け始める。
 眩鬼の奏でる旋律と愛鬼の刻む律動が重なり、清めの音がナナシの体を包囲した。
 しかし、音撃の重奏が始まって間もなくして、アイキの打撃が不可視の力に絡めとられて止まった。
 気配を感じ、ナナシの背から地上を見ると、黒クグツがアイキに掌を向けて波動を送り、その動きを念縛していた。
 その時、木の陰で、腕に巻いた鬼面の無い鬼弦を展開させた男が弦をつま弾いた。男の腰から下がっていた銀色の円盤が動き出し、『金色蛇』『銀朱大猿』『群青蟹』の各形態に変形して黒クグツに襲いかかる。
 木陰から出てきた有志がアイキに向けて叫んだ。
「今だ、行け、アイキ!」
 見えない縛めを解かれた愛鬼が音撃を再開し、清めの旋律と律動が体中に浸透したナナシの体は耐え切れず、砕け散った。
486あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:19:38 ID:nJbJOehbO
 有志は、ナナシの欠片が降り注ぐ山間の野原をくまなく見渡したが、黒クグツは忽然と姿を消していた。周囲の樹々の中にも目を凝らしたが、あの黒づくめの姿はどこにもなかった。
 欠片や砂煙、土埃などが完全に晴れた中から、例によって顔の変身を解除しないままの愛鬼と、顔だけでなく全身の変身を解除したクルメキが歩き出てきた。
 目を丸くして固まっている有志に、愛鬼たちが近付いてきて言った。
『助かりましたぁ、ュージさん』
「皆さんお疲れーっス」
「『お疲れーっス』ってお前……」
 上半身は装着型音撃管で覆い、下半身は装備帯とそれから吊り下げた装備で隠すのみという、このうえなく危ないクルメキの姿に、有志はそこから先の言葉を失った。
 クルメキやアイキが使用している装備帯は、変身による質量の変化に伴いサイズが大きくなる。そのため、変身解除後は緩くなって体から離れるのが常だが、クルメキは装備帯の何か所かを音撃管から吊り下げて落下を止めていた。
「その……二人とも、『顔だけ変身解除』って知ってるか?」
 実際には、全身の変身を解除するクルメキのやり方が最も早い疲労回復に繋がる方法ではあるが、有志の長いサポーター経験の中で、自ら人前で全て変身を解除した鬼を見たのは、これが初めてだった。
487あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:23:13 ID:nJbJOehbO
 クルメキが設営していたキャンプに向かい、着替えのために二人の鬼がテントに入ってから一時間。先日の倍の時間を待たされた有志の前に、完璧にメイクを終え、互いの凝ったネイルアートを見せ合いながらアイキとクルメキが出てきた。
「くぅちゃんにネィルやってもらぃましたぁーヾ( ≧▽≦)ノ」
 有志はウンザリしながら顔を背けて呟いた。
「馬鹿が二人に増えやがった……俺が何をしたってんだ……」
『蒼龍』に乗ってクルメキのサポーターが怪我人を運び込んだ病院に行き、そこでクルメキを降ろした後、有志とアイキは仙台に戻ることにした。
 例によって帰る車中のアイキは、ケータイを手に、笑顔でなにやら打ち込んでいた。
「ュージさん、今日ァタシゎ、何体マカモーさんをやっつけたことになるんデスか?」
「二体が合体した魔化魍をやったんだから、クルメキとオマエで一体ずつだろ」
「ゎかりましたッッ(●>_<●)ノ」
 日記を送信し終わると、アイキは更新した内容を表示して確認した。

 zoo8年4月zб日(土)
 、キょぅゎ、<ぅちゃωー⊂ぃっιょレニ合イ夲マヵモ─、ナωぉやっ⊃レナまιナニ。
 <ぅちゃωー⊂ァ勺゙/τ″|匹ず⊃やっ⊃レナナニカゝら、ァ勺゙/ゎ⊇れτ″zs匹τ″すv

 ケータイの画面を見て幸せそうに笑っているアイキをちらりと見やり、今日待たされたことに腹を立てながら、仏頂面で有志は車を走らせた。
488あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:26:39 ID:nJbJOehbO
 昼下がり、穂村総合病院に着くと、有志は装備を預けるため院内の東北支部出張所に向かった。
「車の中で待ってりゃいいのに」
 積み重なったディスクアニマルのケースを両手で抱えた有志が、隣を歩くアイキに言った。
「ァャ先生にネィルを見てもらぃたぃんですぅー(o´艸`)♪」
「どうせならケースひとつくらい持てよ」
 4F奥の出張所に入ると、史子が一人の女性と向かい合ってお茶を飲んでいた。後ろ姿のその女性の背には、ウェーブのかかった長い黒髪が流れ落ちていた。
 オス、と史子に声を掛けてから、有志は部屋の隅にケースを置いた。
「ユージ、こちら、アイキちゃんのお師匠さん。ホントは昨日で帰る予定だったんだけど、お弟子さんの顔が見たくて、一日滞在を延ばしたの」
 席を立った、細身でTシャツにGパン姿の眼鏡の女性が、何も言わず回れ右をしていたアイキに近づき、背中から下がった毛皮の袋入りの音撃棒を握り上げた。
「ぴぃッッッ!」
 おかしな悲鳴を上げたアイキの背後から、肩越しに低く凄みのある声でその黒縁眼鏡の女性──先代アイキ・赤坂女史は言った。
「師匠に何の挨拶もナシに、ドコ行くの?」
 有志に向き直り、女史は打って変わって上品な面持ちになって言った。
「アイキがお世話になっています。この不肖の弟子を育てました、アンジェラ赤坂です」
 彼女の旧姓は安芸といい、日本人とイタリア人のハーフということだった。
 赤坂女史は10年ほど前、結婚を機に鬼を引退し、その後は猛士の総本山で後進の指導にあたってきた。関東支部最年長の鬼として名を馳せたサバキと同年代の弦の使い手で、太鼓や管も使いこなす凄腕の鬼だったらしい。
489あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/26(土) 01:29:22 ID:nJbJOehbO
「どうなの? 今日で何体撃破した?」
「に、25体ですぅ」
 小動物のように縮こまって震えながら、アイキは小さく答えた。
「相変わらずチャラチャラしてからに、タルんでるんじゃないの? 取り合えず腕立て一万回!」
 この無茶な要求に、アイキは大人しく言うとおりにしてその場で腕立て伏せを始めた。
「ようやく目標の1/4だね」
 腕組みをしてアイキを見下ろしながら、赤坂女史は言った。
「あの、目標ってのは、何のことスか?」
 有志が訊くと、机についていた史子が女史に代わって答えた。
「こないだ話したシュウキくんのことで、アイキちゃん、お師匠さんに相談したんだって」
 強くなったら俺の所に来い、とシュウキに言われ、アイキは赤坂女史に、どうしたら強くなれるかを相談した。
「『魔化魍を100体倒し終った後には、イヤでも強くなっているだろう』って言われて、アイキちゃん、それに向けて頑張ってるってワケ」
「そういうコト」
 腕立てを続けるアイキの横にしゃがみ込んでその様子を見守りながら、赤坂女史はにこやかに言った。
「『それが出来たら、アメリカでもどこでも行っていい』って言ったら、このギャル鬼、急に張り切り出してね。いつまで続くことやら」
 彼女の笑顔の奥に潜む超弩級のSさ加減に、有志の背筋は凍り付いた。

 数日後、猛士東北支部から吉野の本部に、極秘の報告が入った。
「東北支部管轄内ニ『夜卿』出現セリ」と──。


⊃⊃″<。
490名無しより愛をこめて:2008/04/26(土) 12:22:07 ID:BvadgkEhO
490
491名無しより愛をこめて:2008/04/26(土) 13:56:46 ID:Caj785ot0
   ∧∧  ミ _
   (   ,,)┌─┴┴─┐
  /   つ.   ド ス ッ
〜′ /´ └─┬┬─┘
 ∪ ∪ ;;、`;。;`││






   ∧∧    _
   (・∀・)┌─┴┴─┐
  /   つ.あと10KB│
〜′ /´ └─┬┬─┘
 ∪ ∪     ││
492名無しより愛をこめて:2008/04/26(土) 15:02:00 ID:IhX+NHHA0
今日から君も鬼だ
493名無しより愛をこめて:2008/04/27(日) 02:53:41 ID:aHLwlP8v0
スレ埋めAA

ウワー
 ○ ≡
  ̄| ≡
 | ̄ ≡

『消し飛ぶ矢車(携帯用)』
494名無しより愛をこめて:2008/04/27(日) 13:11:34 ID:KAdrRLwm0
>上半身は装着型音撃管で覆い、下半身は装備帯とそれから吊り下げた装備で隠すのみという、このうえなく危ないクルメキの姿

で、鼻血でそうになったw有志よく絶句で済んだなww
 個人的に猛士って、基本、男(もちろん、だけって訳じゃないけど)の組織って思い込みがあったから、このシリーズはとても新鮮。

>zoo8年4月zб日(土)
> 、キょぅゎ、<ぅちゃωー⊂ぃっιょレニ合イ夲マヵモ─、ナωぉやっ⊃レナまιナニ。
> <ぅちゃωー⊂ァ勺゙/τ″|匹ず⊃やっ⊃レナナニカゝら、ァ勺゙/ゎ⊇れτ″zs匹τ″すv

読めませんwwww次回で解答が出るのをまってますww
495鬼ストーリー トリビア:2008/04/27(日) 21:15:40 ID:Nu1r+tFy0
 高鬼SS作者は 男性である

 2006年当時 30代から40代 ではない
 社会科学系の大学の卒業生 ではない
 家庭を持つ 幼稚園児の父 ではない
496名無しより愛をこめて:2008/04/28(月) 23:10:06 ID:bcp76QQK0
>>494
回答案

今日はくぅちゃんとアタシで合体マカモーをやっつけました。
くぅちゃんとアタシで1匹ずつやっつけたから、アタシはこれで25匹ですv

作者さま、どうでしょう?
497名無しより愛をこめて:2008/04/28(月) 23:27:22 ID:GpvfUd6f0
今月のSS投下量はすごかったと思う。

<今年に入ってからの投下数>
 1月・・・2本
 2月・・・1本
 3月・・・0本
 4月・・・10本

たまたま投下が重なったんだろうけど、平均すると3日に1本という計算に・・・すげ。
498あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/04/29(火) 12:32:33 ID:3OeRHhvnO
>>496
大体そんな感じです。あとは口調をギャル曽根風にすればできあがりです。
(アイキのセリフや顔文字は、ギャル曽根のブログを参考にしています)

正解は次回の冒頭に載っけます。次の投下は来月頭を予定しています。
499鬼ストーリー トリビア:2008/04/29(火) 23:00:43 ID:aypK5wi+0

 DA年中行事作者は 金麦飲んでる

500名無しより愛をこめて:2008/04/30(水) 18:37:44 ID:xFJbj98S0
すごいな
501名無しより愛をこめて:2008/04/30(水) 22:52:10 ID:MyebkTxX0
実は俺、SSの他に鬼ビアも心待ちにしているんだ・・・・
502あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/05/01(木) 13:25:49 ID:rvsNmtGRO
『あなたの背中を護りたい』 チラシの裏

スレ埋め用に、SS中の技の名前や元ネタについて書いてみました。よろしければお読みください。

【技・装備の名前について】

・アイキの音撃打『風雲急告の型』
 イメージキャラ・ギャル曽根のユニット「ギャルル」のシングル
 「Boom Boom めっちゃマッチョ!」から。(聞こえた音を日本語っぽく変換)

・アイキの音撃棒『時東』音撃鼓『有実』
 「ギャルル」のメンバー・ぁみみ(時東ぁみ)から。

・アイキの変身音叉『音藍』
 宝石・アクアマリンの和名「藍玉」から。

【エピソードの元ネタ】

・二之巻「顧みる空」の車両部による変身音叉デコレーション
 過去スレにあった変身鬼弦改造エピ(小ネタ)から。
503鬼ストーリー トリビア:2008/05/02(金) 23:53:52 ID:CNg/kKyl0

 見習い作者は 都内近郊在住

 SS本文は必ず 4レスで終る
504鬼ストーリー トリビア:2008/05/08(木) 21:21:30 ID:J6BHkb8N0

「1年C組の冒険」作者は 都内近郊在住

 ペンネーム 海月なみ

505あなたの〜作者 ◆GX3Ot1s2is :2008/05/11(日) 00:28:40 ID:b0rhnc1iO
スレ埋め用にもう1枚書きました。何枚書けば埋まるのかしら。


『あなたの背中を護りたい』 チラシの裏 2枚目

【技・装備の名前について】

・クルメキの音撃射『励塵砲流』
 イメージキャラ・倖田來未のシングル「Crazy 4 U」から。

・クルメキの音撃管『瞳宝』音撃鳴『瞋器』
 倖田來未とユニットを組んだ東方神起から。

・クルメキの変身鬼笛『音蝶』
 ブラックパールの別名「黒蝶真珠」から。

・アイキがディスクアニマル・菖蒲猫に付けた名前『ルナ』『マミタス』
 中川翔子の飼い猫「ルナ」「マミ(愛称マミタス)」から。
506名無しより愛をこめて:2008/05/11(日) 18:35:01 ID:TFrGjJy+0
スレ埋めAA
                                      ィ
                                  //
                                 / ./
                               , イ  /
          /\                    イ     ./
       /|  \     _ ___ -‐─ ' ´       /
        | |    >、 ィ ´   ヽヽ              /
        | l      > 、   レ!─ 、       / /
        | ∨        >'´::.::. :   ヽ    / /
        |  V        /::.::.::.::.::.: :   }   /._ /
        |  /V      {::.::.::.::.::.::.::. : .ノ|  O/ ヽ
        | /  ∨      ヽ __ , ィ´,ノ /./ ::.l
        | |   ヽ          | 「 ̄ ./ .l : ::.|
       |.|    \  _ ===‐┘、 ./ ./{ :.::./
.         l.|__ -‐  ̄ .// ヽ \/ヽ  `' 、//ヽノ
.        |/ ── 、//、  ヘ /、 ヽ_ 7./
      .__└ ´ ̄ ̄.ヽ/ \  V  ヽ_ /_//
ヽ、__/_ ` '  、   ヽ、  ヽ、    ∠//
  `ヽ、   ィ= 、_` 、  ` 、 `' 、._/ //
  ィ ─ヽ´ヽヽ ̄/  ̄`' 、  `/ ̄ .ヽ//
/     |   \/、        ` ' 、   `
  ィ===l    \ ヽ        `ヽ

             『矢車変身体』
507鬼ストーリー トリビア:2008/05/12(月) 22:58:03 ID:Qe4DUP5U0

 かつて2ch特撮!板に 裁鬼さんが主人公の

 ラブストーリーを作るスレ が存在していた

508鬼ストーリー トリビア:2008/05/15(木) 00:35:27 ID:wuAlkORj0

 【'∀`】愛で裁鬼を応援するスレ2戦目【'∀`】

  にて 石割くんの勇姿が確認できる(以下転載)

509鬼ストーリー トリビア:2008/05/15(木) 00:36:52 ID:wuAlkORj0
151 :名無しより愛をこめて:2005/11/10(木) 20:00:58 ID:lhR7ZE+fO

助手席で眠っていたサバキを、石割が揺さ振った。
「当たりです、起きてください。」
瑠璃狼が発見した川原まで、松林を駆ける二人の前に、童子と姫が立ちふさがった。
「ここは僕が。……サバキさんはバケガニを。」
「悪いな。」
変身鬼弦を鳴らし、炎に包まれながら魔物の傍を駆け抜けていったサバキを見送ると、石割は身構えた。
「鬼か……」
童子の女声が問う。
「あの人はな。」
答えると同時に、石割は魔物達に向かっていった。
怪童子、妖姫へと変身するその身体に、違和感が走った。
石割の両手が、童子と姫の衣服を掴んでいた。戦闘形態時に首巻きへと変わるそれらも、魔物の身体の一部だった。
石割は両手に力を込め、衣服を引きちぎった。首筋から白い血を吹き出し、生皮を剥がされたかのように絶叫する魔物達。
石割は、取り出したサバイバルナイフで姫の左一の腕を木の幹に突き刺し、素早く童子の背後に回ると、その首を圧し折った。
510鬼ストーリー トリビア:2008/05/15(木) 00:38:02 ID:wuAlkORj0
152 :名無しより愛をこめて:2005/11/10(木) 20:15:07 ID:lhR7ZE+fO

息絶え爆発し、舞い散る木の葉となった童子の向こうでは、姫がナイフを抜こうと必死になっていた。
鋏状の右手では掴めず、人間態の力では歯が立たない。気付くと、目の前に石割が立っていた。
「あ……あぁ……」
怯える男声ごと、渾身の右ストレートがその頭を砕いた。
川原では、裁鬼がバケガニに苦戦していた。重なる疲労で思うように身体が動かない。
その時、石割の放ったディスク形態の茜鷹が、ボーリング球ほどのバケガニの目玉を切り裂いた。
素早くバケガニの腹に潜り込み、全身に力を込めて巨体を川に裏返した。
「裁鬼さん!今です!」
最大の武器である溶解液も、甲羅を浸した流れの早い川の水に四散していった。「音撃斬……閻魔裁き!」
511鬼ストーリー トリビア:2008/05/15(木) 00:39:21 ID:wuAlkORj0
153 :名無しより愛をこめて:2005/11/10(木) 20:35:19 ID:lhR7ZE+fO

顔の変身を解除したサバキに、石割は栄養ドリンクの瓶を渡しながら言った。
「先に戻っていて下さい。僕もすぐ戻りますから。」
川上は滝壺になっていた。黒のクグツが、計測杖に液体の入った試験官をセットした。
その時、茜鷹が滝壺に飛び込み、石割の合図で素早く彼の手に戻った。
「成程……最初はこんなサイズか。」
伊勢海老のようなアミキリの幼体を地面にボトリと落とし、踏み潰した。同時に小石を指で弾き飛ばし、童子と姫の素となる液体の入った試験官を割った。
洋館の男女に迫り来る恐怖を伝える間もなく、5分後の滝壺には、折られた計測杖が沈んでいた。
「お待たせしましたサバキさん。帰りましょう。」
「今回も助かったよ。だが次は俺一人でやるから、お前は休んでくれ。」
その時、携帯電話が鳴った。
「あ、どうも事務局長。……はい、足尾ですね……分かりました。」
サバキが、今日5本目の栄養ドリンクを飲み干した。
「サバキさん、次はヤマアラシです。」
十四の巻別巻「支える強者」 了
長文スマソ。
512名無しより愛をこめて:2008/05/15(木) 22:52:42 ID:UTH+S4bO0
携帯からの書き込み、言葉のチョイス、二人のキャラ設定、そしてこの面白さ。
日付的に、メインストーリー投下開始前の裁鬼作者さんの実験作ってところか。

石割くん生身でもテラツヨス
513高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2008/05/16(金) 03:07:24 ID:WDtIYbgF0
新スレの方に書いた欧州編のキーワードについて

・ノートルダムの予言…ミシェル・ド・ノートルダムで調べると分かります。な、なんだってー!!

・鍵、雛鳥、指輪…打ち間違えたorz 本当は雌鳥でした。エロイムエッサイムとか言うやつです。

・真名…アルカード、ミラーカはそれぞれある吸血鬼のアナグラムです。有名なので書くまでもないとは思いますが。

なんか吸血鬼どもを利用してあの男女が何かやらかそうとしているので、
普段いがみ合ってるDMCとRPGが協力し、海外で活動中の先代刃鬼も乱入して三つ巴の戦いを繰り広げるという単純娯楽作品の予定です。
あの怖いおじさん達も登場させる予定w
ttp://guideline.livedoor.biz/archives/50853758.html


まあ書く書かないで言ったら今のところ微妙なので、
欧州編はこのレスだけで終わりという可能性も充分あります。そこの所ご了承下さい。
514鬼ストーリー トリビア:2008/05/17(土) 01:03:36 ID:I6NWQi290

「裁鬼が○○にやられたって報告が 二敗目」スレにて

  裁鬼さんと一撃鬼の コントが確認できる(以下転載)


832 :名無しより愛をこめて:2006/10/06(金) 00:18:55 ID:XozYSfOtO
>>830

嘆いてた裁鬼さんの前に、キックだけで次々とバケネコやドロタボウを倒した石割くんが現われたって報告が!


「裁鬼さん、今日からは、アンタを兄さんと呼ぶ」
「石割だけだよな……どんなときも……? ……お前、まさか……鬼か? 鬼だったのか石割!?」
「サバキサンに……変身鬼弦をくれてやる。」
「あ!……ああ! …………ああああああ!!!」



「いいのかい? まだ重要な部品なんだけど……」
「構いませんよおやっさん。死にぞこなっても今尚、戦場に戻りたがってるんですからね…… 本人が!」
「まあ、一撃鬼君にいわれちゃねぇ。……で、そのサバキは?」

「戦いに行きましたよ。……かつての技で、幻を裁く……か、現実のヤツラに、叩き伏せられる……か。  ……無事に帰ってこれるか、賭けます?ヒビキさん?」

↑って、報告(?)が。
515名無しより愛をこめて:2008/05/17(土) 17:04:03 ID:zGeylLAd0
元ネタ ワカンネ
516鬼ストーリー トリビア

 【鬼愛】裁鬼弾鬼鋭鬼を応援するスレ3戦目【現役】 にて

  戦国時代の彼らを題材にした SS作成の話が進行していた

  設定では 裁鬼は商人 弾鬼は忍者 鋭鬼は旅芸人だった