裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ

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1名無しより愛をこめて
裁鬼は人知れず戦っている

裁鬼、その実力は鬼の中でも1,2を争うが、連戦に次ぐ連戦で
その実力を出し切れず、敗北を重ねつつある

今日もまた癒えない傷を庇いつつ
正義と平和のため、裁鬼は戦う
2名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 14:02:55 ID:o1GDb+fHO
ハードボイルドなのがいいなあ
3名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 14:22:49 ID:tVG18S/bO
新たなる鬼にデジタル出演・松田優作(声・竹中直人)
うん、ハードボイルドだ。
4名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 16:43:46 ID:+jE1gPniO
仮面ライダー裁鬼と7匹の魔化魍

時は戦国時代。オロチへ立ち向かう鬼達の前に立ちふさがる魔化魍を、
「ここは俺に任せろ!」
と次々に引き受け、追い返していく孤高な鬼、裁鬼とその支持者、石割の信頼関係を軸に送り出すハートフルコメディ。


主題歌・らいだぁちっぷすfr布施明 「サンドバッグ」
5名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 17:11:54 ID:05aF6zOI0
裁鬼さん応援age
6名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 21:15:43 ID:MUPUiTY90
超電子ダイナモを埋め込まれた裁鬼
「超」「電」「子」「超電子裁鬼」
7名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 21:21:09 ID:+J59glFJ0
魔化魍に限らなければ、桃太郎侍みたいな勧善懲悪が良いな。
8名無しより愛をこめて:2005/11/14(月) 21:59:58 ID:RaRfwwio0
サバキさん・・・鬼に姿を変えて人助けをする、その不思議な男の人と出会ってから
僕、石割の中で何かが変わってきました

そんな僕がサバキさんのサポートをすることで、
少しでもサバキさんの力になれるかと思うと

何だか嬉・・・


・・・また入院かよ
9名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 09:17:40 ID:v/V4x+v7O
このスレで裁鬼さん入院なんて有り得ナス!
10名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 10:50:41 ID:j73rK6qM0
えーと、あれだ。
入院している少年の病室に野球選手が来て、『次の試合でホームランが出れば、君の病気は治るよ』
みたいな展開で。

結果:裁鬼さん、惨敗。
11名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 13:02:11 ID:qK86wKbI0
裁鬼さん、めちゃめちゃカッコイイのになぁ。あのトゲトゲが特に。
12名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 13:39:15 ID:ZjxEU/pW0
そもそも裁鬼さんの音撃って何なんだ?
13名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 15:44:56 ID:tA9wHoOzO
一応、打、射、斬(メイン)とオールマイティ。
プロ野球で言う守備固め。例えれば……中日の川相。
14名無しより愛をこめて:2005/11/15(火) 15:45:56 ID:RRKU5He90
誰か>>6に突っ込んでやれよ
15名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 01:43:40 ID:0nSjzJRkO
一之巻「裁く鬼」

10YEARS AGO――
一人で断崖絶壁に立つ石割。その顔には絶望と挫折感だけが漂う。一呼吸し、飛び降りた。
「ぐはぁっ!!」
真下に昼寝していた見知らぬ青年の身体をクッションに生き延びてしまった石割。青年は涙目になりながらも「鍛えてるから。」と笑っている。
青年は石割に飛び降りた理由を訊ねた。石割は、小さい頃からボクシングに励み、人の何倍もの練習を重ねてきた。一年前、磨き過ぎたその拳で、プロデビュー戦の相手を殺してしまった。相手も同じ17歳だった。
丈夫でない身体でも、女手一つで石割を育ててきた母に苦労をさせないためチャンピオンを目指していたが、あまりのショックに沈んでしまった石割の心労を背負い、今年母は死んだ。
大切な人一人守れないなら死んでしまおうと、石割は母の故郷にあるこの山に来たのだと。
青年は黙って聞いていたが、「お前は何かを奪うために拳を磨いてきたのか」と喝を入れる。石割はそれでも顔を上げない。
「なら俺を殴ってみろ」青年の言葉に驚き、そんな事は出来ない、もしまた人の命を奪ってしまったら…と余計に俯く。
「お前より鍛えている人間なんか、数えきれないほどいるぞ。お前は井の中の蛙さ。」あまりの言葉に青年と向き合う石割。青年は両手を広げて無防備だった。
青年の顔面に炸裂する右ストレート。
「あら……?」
青年は仰向けに倒れ、気を失ってしまった。
16名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 02:02:39 ID:0nSjzJRkO
数十秒後、意識を取り戻した青年。寿命を何年か縮ませた石割が胸を撫で下ろした時、機械的な青い狼が現われ、一吠えすると円盤に変形し青年の手に収まった。
「ヤマアラシか。」
青年は、お前も来るかと石割を誘い、山の奥に進んでいく。気付くと一組の男女が手を叩いて道を防いでいた。
「鬼さんこちら〜♪」
青年が左手のブレスレットから弦を引き出し鳴らすと、その身体は赤い炎に包まれ、掛け声の後には鬼が立っていた。
唖然とする石割にブレスレットを渡し、「やってみるか?」と鬼が言った。男女は怪人に変化し、こちらに向かってきた。
夢中で弦を掻き鳴らす石割。その身体は炎に包まれ、掴み掛かってきた男の怪人を弾き飛ばした。顔だけ変身しないまま炎は消えたが、怪人は立ち上がってきた。
「打て!」ギター状の武器で女怪人を応戦している鬼が叫ぶ。石割のパンチを腹部に受けた怪人は、そこを中心に爆発四散した。
同じく女怪人を倒した鬼は、「ちょっと待ってろ」とさらに山の奥へと走っていった。
数分後、「音撃斬、閻魔裁き!」と青年の声が聞こえた。
17名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 02:11:31 ID:0nSjzJRkO
戻ってきた人影は、顔だけ変身を解除した鬼――青年だった。顔の変身には鍛えぬかれた心が必要だと青年は笑い、サバキと名乗った。
魔化魍と呼ばれる怪物から人を守る仕事をしており、鬼は組織化している事、組織に魔化魍の捜索等にサポーターを頼んでいると話した。
まだ自分の鬼の身体に馴染めない石割に、サバキは自分のサポーターをやってみないかと聞いてきた。鬼に成る成らないはともかく、心は鍛えられるぞと笑うサバキ。
石割が答えを返すまでの時間は長くなかった。
18名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 12:22:11 ID:DqqqBCXi0
職人登場。
なかなかいいんでない? てことで期待上げ。
19名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 13:49:43 ID:xEYrvPZmO
青年で良いのか?>サバキさん。
そもそもサバキさんっていくつだっけ?
20名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 15:06:38 ID:oeB7VDmW0
37才

10年前の事と15の冒頭にあるから27才なら青年にしても
良いだろう。

かの黒田夫妻も来賓から「若い二人の将来を...。」などと
コメントをもらっていたから、年というのは多分に相対的な
ものなのであらう。
21名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 18:00:26 ID:0nSjzJRkO
二之巻「忘れぬ言葉」

柴又に連れてこられた石割は、甘味処の地下に案内された。
「石割君…ね。珍しいね、いきなり鬼弦を使えるなんて。」店主であろう壮年の男性は、独特の穏やかな口調でいくつかの書類に記入するように言った。サバキは、石割の隣でまだ20前後と思われる、ヒビキと言うらしい男と話している。
「私はここの親父で、鬼達を支援する『猛士』関東支部の事務局長やってる、立花勢地郎といいます。……この前、訳あって弦の鬼が急に足りなくなってね。サバキには当分無理を頼んじゃうね。ごめん。」
渡されたシフト表には、15の鬼の名前の横に出番を表す赤い○が印されており、裁鬼の隣には他の鬼の倍近く並んでいた。榊鬼と斬鬼の赤○は、先週中頃から横棒に消されていた。
「ま、気にしないでよおやっさん。サカキさんも年だし、ノツゴにやられた傷が治ってないみたいだから。」笑うサバキに、ヒビキがギターを弾く真似をしながら、「いざという時は、俺がいますからね。」と笑い返した。
学校帰りらしい制服の娘がお茶を運んできて、「香須実といいます。」と挨拶した。
22名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 18:31:19 ID:0nSjzJRkO
「ところで石割。今から俺の家に来るか?」たちばなを後にした車の中、良いんですかと返す石割にサバキは、「ウチは子供が多いからやかましいが、ディスクの使い方とかちょっとやってもらうだけだから。」
子供という言葉から笑い合う親子を連想し、刹那胸を痛める石割の表情を見逃さなかった。
『佐伯』と表札のある家に着いたのは夕飯時だった。ただいまとサバキがドアを開けると、小学生くらいから先程のおやっさんの娘と変わらぬ年ごろの子供達5人がお帰りなさいと迎えた。
驚く石割は、ちょうど飯だから仕事は後回しだと促され、気付けば食卓に座っていた。奥さんは器量良しで落ち着いた物腰、おまけに料理の腕は最高だった。
明るい雰囲気のリビングに馴染めない石割へ、子供達はサカエさんの友達? 幾つですか? と質問を絶やさなかった。食後も会話が途切れず、サバキと石割がリビングのドアを開けたのは2時間後だった。
2階建ての屋根裏にあるサバキの部屋は、天窓から星明かりが差し込んでいた。たちばなから試作品の鬼弦を借り、床に置いた3枚のディスクを起動しろと言われた。
石割が鬼弦を弾くと、それぞれが鷹、猿、狼になり天窓の星に煌めいた。もう一度弾くと、3体はディスクに戻り、動かなくなった。
「よし終わり。今日は泊まっていけ。」
23名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 19:00:11 ID:0nSjzJRkO
広い浴槽に浸かると、サバキは深いため息を出した。親父臭いかと聞かれ、親父を見た事ないですから分かりませんと返す石割。
サバキの身体には、大小様々な傷跡があり、鬼の過酷さを漂わせていた。「サバキさん、もしかして最初から僕を泊めるつもりでしたか?」「あ、分かった?」
石割はサバキの年齢と噛み合わぬ子供達の事を聞いた。事故などで身寄りをなくした子供を引き取り育てている。妻は子宮ガンで若くして子を産めない身体だったが、それは関係ないけどなと加えた。
なぜそこまでするのかと迫る石割にサバキは、ちょうどお前くらいの年に俺は目標も夢も持たず過ごしていた。そんな時魔化魍に襲われ、鬼に助けられた。
奪われていく生命があるなら、それを守れればと鬼に成ることを決意した。あの子供達も、奪われた幸せを少しでも取り戻せたらと育てさせて貰ってる。
「人が幸せになると、自分も嬉しいじゃないか。俺の生命がそれを支えられる限り、俺はいつまででも守り続けたいんだ。」
石割はその純粋な言葉に、鍛えられた心の片鱗を見た気がした。「背中流します!」「おう。」
広いサバキの背中と心に自分の小ささを知った石割は、尊敬の意を込め手に力を入れる。
「あ〜……」
石鹸水で滑りやすく成っていた浴槽で、サバキは大の字に引っ繰り返った。
24名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 22:02:53 ID:Di+wjAOJ0
>>23
激しくGJなのでage

「Flashback」がよく似合うな
25名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 23:39:50 ID:gKR7vySg0
夢にまで見た裁鬼さんメインストーリーが……!
ありがとうありがとう職人さん!

>>17
顔だけ変身解除できるんじゃ〜ん!
きっと上半身だけ、下半身だけとかもできるんだろうな
妙に小器用そうな気がする
26名無しより愛をこめて:2005/11/16(水) 23:44:32 ID:gKR7vySg0
スマン解除してたのは石割君だったorz
27名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 10:49:50 ID:eNj5zEINO
石割は、就職の報告に十年近く汗を流したボクシングジムに立ち寄った。会長は目を細めて喜んでくれ、スパーリングでリングアウトさせてしまった先輩達も拍手をくれた。
「何しに来た?」父親代わりとも言えるトレーナーは、背中で言い放つと練習生のミット打ちを続けた。
オリエンテーリングの企業に内定したと言うと、「だったらさっさと消えちまえ! 俺の夢と一緒にな!」と、ジムを沈黙させた。
続く言葉を見つけられないまま、石割は最後の「あ(りがとうございま)した!」を置いて、ジムを出るしかなかった。
翌日、サバキと石割は山中を歩き続けていた。魔化魍ですかと訊くが、装備は持ち合わせていない。サバキは「いや、散歩。」と笑い、道無き道を歩き続けた。
「正確には『予習』だな。奴等が生まれる場所は大抵人が避ける地帯だから、お前にもそういう所に慣れてもらおうと思ってな。」
石割が猛士から最初に支給された腕時計を見ると、麓から3時間が過ぎようとしていた。
28名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 11:19:30 ID:eNj5zEINO
「で、昨日何があった?」
今朝まで引き摺っていたジムでの一件に落ち込む石割の表情から、マイナスの変化を読み取るぐらいサバキには造作もない。
石割も隠せない事は解っているので、サバキに全てを話した。「結局、僕はトレーナーから夢を奪ってしまったんですよね……」
暫く歩き続けた後、サバキが初めて足を止めた。「まあ、そう感じちまうのもしょうがないかな。でもさ、もうどうしようも無いんだろ。」
石割は頷いた。「そうです……」「お前がボクシングに戻れば、そのトレーナーさんの夢は叶うだろうけどさ、正直、今戻れないんじゃないか。」
気付けば、いつの間に歩き始めているサバキに続いている。「今山を降りるのと一緒でさ。無理矢理戻っても、迷っちゃうだけだろ。悔いても、過去は変えられないからさ。」
登りの勾配がきつくなる。「一人、魔化魍から助けられなかった人がいるんだ。」サバキが初めて、辛い表情の横顔を見せた。
「俺の非力を含めて、色々重なってな。釣り先で知り合った親父さんを、バケガニにやられた。5年前。」
再び立ち止まる二人に、山は静かだった。
29名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 11:38:21 ID:eNj5zEINO
「落ち込んで、落ち込んで、落ち込んで……でもやっぱり、その人の手向けになるのは、人を守り続ける事しか無いんだよ。」
サバキが、歩き始めた。「取り戻せないものは大きいけど、後悔しても戻ってこないんだからさ。進むしかないんだよな。今を、今日を。」
気付けば木々は空に変わり、頂上から見下ろす情景は夕暮れに染まりかけていた。
石割が見惚れている間に、サバキは背中のリュックからコーヒーを沸かし、カップを2つ取り出した。「良いもんだろ。こういう場所も。」
その頃たちばなでは、おやっさんが「新人の石割をどうぞ宜しく頼みます!」という、匿名の電話を受けていた。
「サバキさん!」山を降りる途中、いきなり飛び出したその声は、サバキが初めて聞いた本当の石割だった。「僕、この道を歩いて、進んでいきたいです……サバキさんと一緒に!」「……おう!」
二人の笑顔が、夕闇の山中で輝いていた。
「あ。」「どうしました?」「……スマン、迷った。」
30名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 12:15:08 ID:eNj5zEINO
三之巻「進む今日」

タイトル忘れたので予告

四之巻「支える閻魔裁き」
31名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 12:24:22 ID:WdrTD6i60
超GJ!是非長ーく続行願います。

「仮面ライダー裁鬼、このあとすぐ」
32名無しより愛をこめて:2005/11/17(木) 16:39:51 ID:xq4CTNJk0
こんなカッコイイ裁鬼が


どんどん、衰退していくのか
俺にはそんな姿見たくない・・・・
33名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 09:43:24 ID:Rp+T1UgZ0
GJ!
裁鬼さんかっこEE〜
やはり弦師弟(石割君は弟子じゃないかな?)はどこも熱いのか?
でもヘタレていくのはいやだなぁ・・・(^^ゞ
34名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 10:48:19 ID:fO7ivEefO
四之巻「支える閻魔裁き」

サバキのサポーターとなり三ヵ月、石割は初の実戦を迎えた。おやっさんから知らされたデータと地元の『歩』である老夫妻が入手した情報では、バケガニに間違いなかった。
山奥の川原にベースを作ると、石割はディスクアニマルを起動する準備にとりかかり、サバキは捜索ポイントを考える。既に山への立入禁止を呼び掛けて貰っている分、餌を探す魔化魍の行動範囲も広まる。
「この時期だと、ある程度気温の高い場所で育てているだろうな。」日光を長時間受けられる池を中心に、サバキが鬼弦でディスクにポイントを指示する。
「今回は闘いをサポートして貰うが、あまり無理するなよ。」ディスクをホルダーに戻し、石割の目を見ながらサバキが忠告する。
「まあ……童子と姫のどちらかを任せるが、バケガニには手を出すな。」
「強いんですか? バケガニの童子達って。」「はは。 弱くはないさ。奴等甲羅みたいな皮膚で上半身全面は硬いからな、背後を狙え。 あとどっちかの手が鋏になってる。注意しろよ。」
はい!と返す石割は、サバキと同時に鬼弦を鳴らした。45枚のディスクアニマルが、一斉に展開して捜索が始まった。
35名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 11:07:20 ID:fO7ivEefO
当たりのディスクをサバキが手に取ったのは、5時間後だった。日没が早いこの時期、太陽は既に山々に近づいていた。
「コイツか……」「猿の10番だと、ちょうど池の辺りです。」「ああ。 行くぞ。」サバキは、朱色のカバーに入れられている音撃弦を担いだ。
池に向かう途中、木々が拓けた広場に出た。「サバキさん、あれ……」脱皮したカニの脱け殻、大きさは6メートル強あった。
「こりゃもう充分育ち切ってるな……」サバキが触れると、脱け殻は土くれとなり崩れ散った。
池に着いた二人だが、魔化魍の姿は石割の目に入らない。「いませんね……?」「いや、木の上だ。」男女が、光のない目で見下ろしており、鬼、鬼と呟いている。
「始めるぞ。」「はい!」二人は鬼弦を弾いた。飛び降りてきた二体も怪人へと変化し、赤い裁鬼が怪童子、銀で手足に弦が無い石割変身体が妖姫と向き合った。
36名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 11:42:50 ID:fO7ivEefO
抜き身となった閻魔を構え怪童子を牽制する裁鬼。妖姫も石割の放った右ストレートに背後の木を粉砕され、その破壊力に距離を取る。
裁鬼が閻魔を振りかざしながら走りだす。身構える怪童子だが、思わぬ足払いに倒され、その腹を閻魔が貫いた。一瞬で不利となった妖姫は背を向け池に飛び込んだ。
「待て!」池の淵まで駆け寄った石割を、巨大な鋏が襲った。間一髪回避する石割。裁鬼がその前に立ち、よく見てろよとバケガニに飛び掛かった。
閻魔は裁鬼の気を纏い、赤い炎を刄から燃え上がらせる。上空へ突き出された鋏の付け根を狙い、閻魔を振る。カニの関節の薄皮が切り裂かれ、白い体液が吹き出した。
着地と同時に、裁鬼はベルトのバックルから音撃震『地獄』を取り外し、閻魔にセットする。紅葉型に展開した刄で、バケガニを支える8本の足を次々と切り倒していく。
バランスを失った巨体に飛び蹴りを喰らわし、腹を上に仰向けさせる。そこに閻魔を深く刺し、ねじ込んだ時、池から飛び出した妖姫が裁鬼に掴み掛かった。
「裁鬼さん!」もつれ合う鬼と魔物だが、その場にはもう一人、サポーターが居た。
無防備な妖姫の背に、石割の飛び拳が炸裂した。爆散する姫の破片の中、裁鬼が叫ぶ。
「音撃斬! 閻魔裁き!」掻き鳴らされる清めの音に、バケガニは力を失った。その腹の上、裁鬼は石割に礼を言う。
「ありがとな。ナイスサポート。」「はい!」顔の変身を解かずとも、お互いの笑顔が見える。爆発したバケガニ=足場を失い、二人は仲良くすっ転んだ。
37名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 21:16:45 ID:+sy2hR5+0
さて、ここで疑問なんだが

なんで変身して戦える石割がいるのに
裁鬼は最近一人で戦ってるんだ?

ザンキさんとは逆で
弟子離れしようと必死なのかな?
38名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 21:39:14 ID:qGI/VIRX0
バケガニぶっ潰し ギュンギュ−ンと
明日へと歩みゆく 猛士 サバキ
年も忘れて 今は 今は 閻魔で
友の魂 石割よ
一人でも一人でも 護る護る 俺は
音撃戦士
39名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 22:40:36 ID:i6H1+JTC0
石割君は…魂だけの存在なのか?!((((゚Д゚;))))

裁鬼さん超かっこいいのに、こけたり気絶したりしてるのが
お・や・く・そ・くって感じではげしくGJ
40名無しより愛をこめて:2005/11/18(金) 23:40:27 ID:fO7ivEefO
五之巻「戯れるカッパ」

八月。裏の林から蝉時雨が、佐伯家の屋根裏、サバキの部屋に流れ続けていた。小型で大量発生し、太鼓でしか倒せぬ夏の魔化魍の説明を聴く石割が、サポーターとなって一年になろうとしていた。
これまでの出動数は五回。バケガニが二回、蛇が熊の体を貫いた様なツチノコが一回、ヤマアラシが二回だった。
ヤマアラシは比較的人里の近くに現れ、二回とも『歩』がその地域に不在だった為、石割は戦闘に参加せず、地元住民の非難誘導を行なっていた。
サバキが手にしている一対の撥と、床に置かれている風呂敷に包まれた小箱の中の物こそ、音撃棒『炎夏』と音撃鼓『陽炎』だった。サバキは音撃管も所持している。
弦を手にした裁鬼しか知らない石割が訊いてみると、昭和中期までは鬼の分業化が曖昧で、弟子入りすると全種類を習わされ、その後得意な武器の魔化魍を担当していたという。
サバキの師匠はそういった時代の鬼の一人であり、予想外の事態に備えられる様、サバキとその兄弟弟子に太鼓と管も学ばせたという。
「まあ、最近は一人立ちした後で、違う武器の鬼から指導を受ける様になってるんだがな。ヒビキがそのやり方で一通り使えるかな。」
サバキの妻が、よく冷えた麦茶を差し入れに来た。
41名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 00:09:00 ID:IGUpNEYLO
おやっさんからカッパ出現の報が入ったのは、三日後の早朝だった。サバキはドライブインで末っ子に花火を買ってくる約束の電話を終えると、助手席の石割に言った。
「最初は童子と姫が現れるだろうが、俺がいいと言うまで手を出すなよ。見てるだけだ。」走りだした車の中、石割はどうしてですかと訊ねた。「無邪気だからな。」そう言って黙るサバキに疑問を残しつつ、山に入った。
正午前だが日差しは強く、ディスクをチェックする二人の汗が乾いた地面に染みを広げる。前回から用意された新型の若草蛙が発見したのは2時間後だった。
サバキはベルトに太鼓装備をセットすると、音撃震『地獄』を置いたまま閻魔を片手に、石割と共にポイントへ走りだした。
「鬼ですか〜?」陽気な声の童子と姫に、石割は違和感を覚えた。顔つきや声の質が幼い。
変身はしとけと言われたが、地面に突き刺した閻魔と石割変身体を置いて、裁鬼はゆっくり歩き出した。
42名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 00:28:04 ID:IGUpNEYLO
石割は、唖然としていた。
童子と姫は怪人態へと変化する事もなく、裁鬼と相撲を取り始めた。「はっけよ〜い!」「のこったのこった!」「鬼のかち〜!」
信じられない光景に、石割は何をやっているんですと叫んでいた。「ははは。まあもう少し見てろよ。」そう言いながらも相撲は夕暮れまで延々と続いた。
「姫のかち〜!」裁鬼の体が朱色に染まる頃、石割に閻魔を渡す様指示が来た。「楽しかったか?」横に並ぶ童子と姫に、裁鬼は閻魔を片手に訊く。
激しく頷く二体へ、ゆっくりとした頷きを返した裁鬼は、気を高めた。「来年も……遊んでね?」「ああ。」「約束だからね〜?」「……ああ。 じゃあな。」
横一文字に払われた閻魔が二体を切り裂き、爆発させる。ちょうど成長し終えたばかりのカッパが、裁鬼の前に現れた。
閻魔を置き、怯えている様子のカッパに近づく裁鬼。口から白い粘液弾を一つ吐き飛ばしたが、裁鬼は難なく避けると、バックルの音撃鼓『陽炎』をカッパの腹にセットした。
「また来年な。」太鼓の音が、山に響いた。
43名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 00:51:29 ID:IGUpNEYLO
帰りの車の中、サバキは石割に説明した。あの地域は昔、村があり、カッパの童子達はそこの子供達と相撲を取っていた。鬼はあそこのカッパだけは、子供達が家に帰る夕暮れまで生かせていた。
廃村になったのは明治だが、カッパだけはあの土地の記憶を持ちながら生まれ続けている。
人を襲わず川魚を餌にしている事、遊び相手を待ち続ける子供の様な無邪気さから、サバキは鬼になってから毎年、相撲を取り続けている。
「特別は特別だけどな。まあ、そういう奴らが一つだけいるのも、俺は認められる方なんだな。」ドライブインでサバキが報告の電話を掛けている間、石割は売店で小さな花火セットを買っていた。
「お疲れさま。まあ、特別だけど、サバキの師匠から続いてる事だしねぇ。」「すみません、我儘を通してもらって。」「ところで石割君なんだけど、そろそろ鬼として……」
花火を忘れていたサバキは石割に礼を言い、石割はサバキ太鼓について聞いていた。
「やっぱり、相当鍛えないと、カッパを楽に倒してやれないんですね。」「ああ。弦だと分裂しちまうし、どの道刺す事になるからな。まあ、太鼓でも気分は良くないさ。」
僅かな沈黙の後、サバキが大声をあげた。「ど、どうしたんですかサバキさん!?」「戻るぞ!」「は!?」「閻魔忘れた!!」
44名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 12:25:53 ID:AIw1c4Zt0
<CM>
迫る魔化魍!
弾け!熱い血潮の変身鬼弦を!
ジャアアアアーーーーン!バチバチ!
うなれ!必殺閻魔裁き!
DX!仮面ライダーサバキ変身セット!

初回発売限定!ソフビ「石割くん」がついてくるぞ!
45名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 16:32:32 ID:Qcmb4lFoO
こいつぁ凄いぜ!
GJ!

CMの初回特典ワラタ
46名無しより愛をこめて:2005/11/19(土) 23:08:59 ID:6zdQ3xJV0
>>40-42
なんか、いい話だね。
自然災害同様、魔化魍という存在は撲滅しきれるものじゃない
という世界観が好きですよ。

「閻魔忘れた!!」
このあたりが裁鬼さん。
DX変身セットはミニギターがさらにミニになるのか、
それとも初の原寸大か?!
47名無しより愛をこめて:2005/11/20(日) 00:25:46 ID:3VR5CO9V0
いいなぁ、このスレ。いいなぁ。
カッコイイはずなのに、ヌけてる裁鬼さん・・・いいなぁ。
48名無しより愛をこめて:2005/11/20(日) 10:40:29 ID:mbNkLUOTO
六之巻「訪れる岐路」

関東を護る15人の鬼の一人、サカキが引退した。弟子を取らなかった彼の後任はおらず、以後は一『歩』として生きる真田佐治の送別会の席でも、彼はサバキやザンキ達に、済まないな、悪いな、と繰り返していた。
おやっさんからの電話を石割が受けたのは、サバキの子供の一人が、住み込みの仕事に就いた事への祝いの席だった。
「明日、一人で店に来てくれるかな。ああ、サバキの方には、もう伝えてある事なんだ。」石割は、さほど疑問も思わず、はいと返事をして携帯電話を切った。
翌日の昼過ぎ。たちばなの地下、おやっさんが鬼のシフト表と、真新しい音撃弦を見せながら、石割に鬼として一人立ちしてみないかと訊いてきた。
「サバキの話や、今までの君の活躍から、サポーターのままで終わらせるのは勿体ないと思っての判断なんだけどね。」「じゃあ、サバキさんも……」「うん。サカキの引退もあって、弦の鬼のシフトが割りときつくなっててね。」
勿論、君の意思を最優先にするけどとおやっさんは言ってくれている。しかし石割の気持ちは不安定だった。まあ、焦らなくてもいいから使うだけ使ってみて、と、音撃弦を持たされて石割はたちばなを後にした。
「そうだな。サポーターから弟子に変わるワケだ。実戦サポートをしてもらって……お前なら、魔化魍を2回倒せば十分だな。サポートの方はもうやってもらってるから、早くて半年ってところか。」
49名無しより愛をこめて:2005/11/20(日) 11:33:36 ID:mbNkLUOTO
まぁ鬼になるためにサポーターやってるんじゃないし、ゆっくり決めろよとサバキに肩を叩かれ、はいと返したものの、考えれば考えるほど、石割は進むべき道が見えなくなっていった。
佐伯家の夕食は、相変わらず賑やかだった。石割も、サバキと最初の散歩=山登りをしてからは、この家の会話と雰囲気を楽しんでいる。
食後。年齢順で末っ子の、小学3年生になる和馬君が、一枚のプリントをサバキに渡した。『父子マラソン大会』は、この地区の年中行事の一つだが、毎年都合が合わず、サバキは参加出来なかった。
石割が開催日を見て、頭の中のシフト表と照らし合わせてみると、今年はサバキの休みと重なっている。和馬君の顔が輝いた。
石割は風呂を貰い、浴槽で思い続けた。サカキ引退後、弦の鬼はサバキを含め関東に3人しかいない。魔化魍も最近、現れる回数が増え始めている。
サバキが護りたいもの、他の鬼が護りたいもの、そして自分が護りたいものの為に、どうすればいいのか。生来、切り替えの早い彼の性格は、答えを既に出していた。
マラソン大会当日、サバキの妻は観戦の為朝早くから弁当を作り、サバキと石割はいつもの様に朝6時から軽く10キロ走っていた。佐伯家に戻り、シャワーを浴びているサバキを部屋で待つ石割の携帯電話が鳴ったのは、朝7時半だった。
サバキがスポーツウェアに着替えを終え、石割を呼びに自室のドアを開けると、石割は、親戚に急用が出来ました、和馬君に応援行けなくて済みませんと書き置きを残していた。
50名無しより愛をこめて:2005/11/20(日) 12:11:48 ID:mbNkLUOTO
サバキは、何だ直接言ってきゃいいのにと、視界を上げた。石割の音撃弦と音撃震『地獄』が無くなっていた。
バケガニなら自分でも倒せる。初心者マークを貼ったサバキの車で石割は、おやっさんから聞いた、漁船を襲ったと思える魔化魍の元へアクセルを踏んだ。
捜索の順備をしていた石割に、いきなり巨大な鋏が襲い掛かった。回避した彼自身は無傷だが、ディスクやサバキの車は半壊してしまっていた。
石割がベースを設営したのは、大きな空洞の入り口だったが、まさにそこがバケガニの巣であった。変身鬼弦を鳴らし、音撃弦を手に石割変身体となり、バケガニに立ち向かっていく。
岩に隠れていた童子と姫が道を防ぐが、音撃弦をブーメランの様に飛ばし、忽ち二体の胴を断ち切った。だが音撃弦は、岩壁にぶつかりバケガニの足元に転がってしまった。
その頃、サバキは妻の乗用車を借り、海岸添いを飛ばしていた。おやっさんからは、いきなり入った情報で、しかもザンキ達は遠出していたので石割君に電話したが、解りました伝えておきますと普段通りだったと言う。
海のバケガニは溶解液を噴出する個体が多い。石割は説明を聞いただけで、まだ実際に観たことはなかった。サバキの頭を、最悪の事態が過った。
石割は、サバキと同じく炎の気を持っていた。まずはバケガニの動きを止める為、高めた炎の気を拳に纏い、次々とその足を砕いていく。振り下ろされる鋏も、カウンターパンチで打ち砕く。
音撃弦に近づいたその時、残された鋏が、音撃弦を真っ二つに圧し折った。更にバケガニの背後から、異臭を放つ溶解液が吹き出し始めていた。
51名無しより愛をこめて:2005/11/20(日) 13:05:28 ID:mbNkLUOTO
裁鬼が空洞の前に、半壊した愛車を見つけたのは3時間後だった。閻魔を片手に中へ急ぎ、途中で壊れた石割の音撃弦を見つけた。
石割…… 石割――!! 裁鬼の叫びが響く。
は―い! 奥から返事が返ってきた。裁鬼は、半死半生の胴体だけになったバケガニの腹を壁に押し続ける石割変身体の姿を発見した。
「裁鬼さん!」「……何やってるんだ?」「あ、はい。溶解液が出てくる甲羅を壁に押しつけてたんですけど、さっき出し尽くしたみたいです。」
石割は、ベルトのバックルから音撃震『地獄』を裁鬼に渡した。「すみません、音撃弦壊されちゃって、止め刺せなかったんです。」裁鬼は黙っていたが、解ったよ、と閻魔を展開した。
おやっさんへの報告の電話を終えたサバキは、片付けを済ませた石割を呼んだ。「……殴らないんですか?」「殴って欲しいのか。」
潮風は寒く、男二人の影が東に伸びている。上出来じゃないか、と肩を叩く。和馬の事考えて、一人で突っ走ったんだろ。解り易過ぎるんだよと、車に乗り込むサバキ。
慌てて助手席に乗る石割だが、どうもすっきりしない。何らかのペナルティがあった方が楽だったかも知れない。
「でもさ、石割。今日のは鬼に成るっていう事で良いんだよな?」「はい。」「じゃあ、今日からは師匠と弟子だ。改めてヨロシクな。」「はい!!」
佐伯家に着くと、石割が玄関に見慣れない靴を見つけた。リビングに入ると、カセットコンロに乗った鍋の向こうに、ヒビキの顔があった。
ちょうど訪ねてきたヒビキがピンチランナーとなり、和馬君はヒビキの隣でもっと早く走るアドバイスをもらっていた。
得意のポーズで二人にお帰りなさいを済ませたヒビキが、今日の本題に入った。
「石割に渡したギター、吉野の知り合いが作った自信作なんだけど、どう? 使い易かった? 本人は会心出来だとか、最高だとか言ってたんだけど……あれ? どうしたの二人共……」
52名無しより愛をこめて:2005/11/21(月) 22:35:44 ID:1mXKu6LJO
七之巻「育てる強さ」

石割が弟子になってからは、普段の鍛練も変わり始めた。心身を鍛え抜かねば真の鬼には成れない。身体の訓練は全体の3分の1になり、後は禅寺に通う毎日が過ぎていった。
ある昼過ぎ、佐伯家に向かう石割の目は、数人の小学生に留まった。尻餅をついているのはサバキの子供で今年6年生の淳志君だった。
「おまえの親、本当の親じゃないんだろ!」「本当の親は死んじゃったんだってよ!か〜わいそ〜、か〜わいそ〜!」「発表します!あつしくんは、拾いっ子です!」
思わず止めに入ろうとする石割の肩をサバキが強く掴み、首を横に振って言った。「子供の事だ。それに、口出しは篤志の為には成らん。」
サバキの部屋では、仕事の話はあまり出ない。石割が初めて泊まり風呂から上がった後、布団の敷かれたこの部屋で、サバキが初めて口にした言葉は「好きなタイプって、どんな娘?」だった。
「小学生の内は、いじめの一つくらいあるさ。」石割も母子家庭だったので、それは十分に解る。「でも篤志君、最近食事の時も口数少なかったじゃないですか。」
石割は続ける。「家族にも言えないって事は、やっぱり辛いんですよ。僕もいじめられた時は、サンドバック打つのにいじめっ子の顔が浮かびましたし。 ……あ、勿論殴ったりしませんでしたよ。」
53名無しより愛をこめて:2005/11/21(月) 23:00:27 ID:1mXKu6LJO
父親として、気分転換に何処か連れていってやれば、と石割は言う。サバキは黙って聞いていた。まあ、僕は親父がいませんでしたから解りませんけど。と、石割は頭を掻いた。
行動に移すのは早かった。次の日曜日、山の禅寺に向かう車の中には、篤志君の顔があった。「石割の兄ちゃんは途中で降りるから、篤志は俺とハイキングだな。」サバキは明るい調子でハンドルを握っている。
気をつけてと禅寺の門前で手を振る石割が、バックミラーの中で小さくなっていった。春の日差しは暖かく、山は小鳥の囀りが聞こえるだけだった。
車を降り、サバキと篤志君が歩き始めたのは午前10時過ぎだった。今朝から、作り笑いさえ見せていなかった篤志君の顔が輝いたのは、山頂への途中にあった滝を見つけた時だった。
「初めて観るか?」「うん……」「どうだ?」「すっげー! サカエさんは、いつも見てるの?」「まあな。 もっと大きな滝を観た事もあるぞ。」「え〜、ズルいな〜。」サバキは笑った。
木陰で弁当を広げながら、サバキは言った。「そういえば、篤志が初めてだな。」オニギリに噛り付いたまま、篤志君は頭上に?マークを浮かべる。「俺の仕事場に来るのは。」
その一言で、篤志君は佐伯家の子供らしく、質問マシンガンになった。「仕事って、何すればいいの?」「ゴミを拾えばいいの?」「危ない所って、どうして解るの?」
山頂に着くまで、親子の会話が途切れる事はなかった。
54名無しより愛をこめて:2005/11/21(月) 23:24:47 ID:1mXKu6LJO
山を降りる途中、サバキは湧き水に立ち寄った。これで母さんが美味い料理作ってくれるぞ、と言い終わる前に、篤志君は「冷て〜!」と手で掬っていた。
用意してきた水筒全てに湧き水が満たし、重くないかと聞くサバキに、へっちゃらだよ! と答え、車までは湧き水の見つけ方等を質問してきた。
「俺は母さんの事を母さんと呼んでる。母さんは俺を父さんと呼んでる。でも、お前達にはそう呼ばせていない。何故だか解るか?」
他人だから? と少し怯える様子で聞く篤志君に、ああ他人だからなと断言するサバキ。でもな、と続ける声に、篤志君は顔を上げる。
「血が繋がってなくても、他人でも、親に変わりない。お前達を愛し、他人の気持ちが解れる大人に育てる為に、俺と母さんはお前達子供に名前で呼ばせてるんだ。」
「じゃあ、大人になったら……呼んでいいの?」「ははは。まあ、それは大きくなってから決めれば良いさ。亮太も家を出て働いてるけど、まだサカエさん、だしな。」
ハンドルを握りながら、サバキは今日という日を感謝していた。愛情を伝える為に、サバキとしての自分を見せるのも有りだなと思った。そして……「石割忘れた!!」
住職の言い付け通り、石割は心を無にしていた。既に月が昇り、夜鳥の泣き声が響き、奥の間からは住職の寝息が聞こえてきた。
55名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 10:16:32 ID:mYRG4U160
裁鬼さん超絶かっこいいよ裁鬼さん

石割君を忘れても……。
56名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 11:20:35 ID:4EzUCNz/0
面白い。
57名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 16:16:49 ID:0gDfrOgJ0
hoshu
58名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 22:52:51 ID:Wgpnj70AO
八之巻「生まれる歪み」

石割が弟子となってからはあまり魔化魍も出ず、サバキに出動が掛かる事はなかった。しかし鬼としての鍛練の為、鬼弦を鳴らす事も少なく無かった。
サバキは、バケガニに壊された音撃弦の代わりに閻魔を石割に持たせ、変身後の筋力増加により、生身と異なる武器の重量を感覚的に覚えさせていた。
また、拳撃に依存している石割の弱点を補う為、裁鬼自身が彼の得意とする足技を披露し、吸収させていった。「音撃弦を持つと腕の自由は無くなるからな、威嚇や牽制、斬撃の補助に使え。」
半年ぶりの出動は(例のカッパを除いて)、夏の終わりだった。おやっさんが港町の『歩』から得た情報では、沖で漁船がウミボウズに襲われたらしい。サバキと石割は、現場に急いだ。
「珍しいな…… こんな時期にウミボウズなんて。」「確か、冬の終わりから梅雨時に、何年かに一度出るヤツですよね。」「ああ。 お前には悪いが、今回はサポーターに回ってもらうぞ。」
その巨大さと激しい気性から、複数の鬼で倒す魔化魍も存在する。サバキが石割と出会う前に現われたノツゴも、裁鬼と今は既に引退している榊鬼、そして響鬼が尽力を以て倒した。
59名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 23:17:19 ID:Wgpnj70AO
モーター付きの小さな船を借り、茜鷹を飛ばしながら沖合に向かう二人。途中、水面に不自然な粘液の膜を発見した。
「近いな……」サバキが、ウミボウズは固い表皮から粘液を分泌し、斬撃を無効にする事を教えた。その為、先ずは二人の炎の気で分泌腺ごと粘液を焼き払い、その上で閻魔裁きを決める作戦が立てられた。
ウミボウズを例に、稀種の魔化魍には童子達がいない。自然の偶発的な出来事が噛み合って産まれるので、その強さにも激しい変動が見られるとサバキは言う。
茜鷹の一体が、ついに発見した。波間に不自然に浮く物体に近づくと、その巨大さが確認出来た。水面上に球体の半分が出ており、小さな手が2本見えるが、その高さは10メートルを超えていた。
「ビビるな。 行くぞ!」「はい!」裁鬼と石割変身体は、早速炎の気を高める。15体の茜鷹がウミボウズを牽制しながら、足に備えた小瓶からガソリンを巨体に浴びせていく。
閻魔の切っ先からほとばしった裁鬼の炎が、ウミボウズに命中し、その体を包む。更に石割が頭上に飛び乗り、溜めていた気を拳に乗せて打ち込むと、ウミボウズは水面にある口を開けて絶叫した。
船に戻った石割は、ウミボウズの体の真横に船体を移動させ、裁鬼は地獄を閻魔にセットした。
60名無しより愛をこめて:2005/11/22(火) 23:46:43 ID:Wgpnj70AO
「音撃斬! 閻魔裁き!」
思いもよらぬ事態が起きた。焼けた表皮が、展開した閻魔の刄を弾いた。「何っ!?」
「裁鬼さん、どうします?」「仕方無いな。粘液は焼いたから、太鼓でいくぞ。」閻魔を預けた石割のベルトから、音撃鼓『陽炎』と音撃棒『炎夏』を受け取り、今度は裁鬼がウミボウズに飛び乗った。
音撃鼓をセットして叫ぶ。「業炎裁獄の型!」一撃ごとに動きを弱らせていくウミボウズだが、最後の抵抗か、激しく体を震えさせ、裁鬼を海中に振り落とした。
「裁鬼さん!!」ウミボウズ相手に水中戦は不利である。石割は渾身の右ストレートを、閻魔を弾いたウミボウズの表皮に打ち込んだ。
メキメキと打撃の箇所にヒビが入り、石割はその隙間に閻魔を突き刺した。「音撃斬! 閻魔裁き!」構えた石割の動きが、突如鈍った。
船に戻った裁鬼が素早く音撃震を弾き、ウミボウズは海藻の様な破片を散らせ、正に海の藻屑となった。
顔を変身解除した二人。サバキが、石割の右手を掴む。「大丈夫か!?」「あ、平気ですよ。」
銀の拳は血に染まっている。しかし、石割自身は痛みも無く、気合いで軽く裂けた皮膚を治して済んだ。
「まあ、お前が大丈夫って言うならいいが……」「あっ!」「なんだ、やっぱり痛むんだろ。」「……いえ、燃料切れです。」
61愛読感謝につき:2005/11/22(火) 23:48:39 ID:Wgpnj70AO
予告

九之巻「逃げぬ送鬼」
62名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 00:00:34 ID:hV5QRIUpO
こねスレすげー!職人に感謝。
63名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 00:10:42 ID:9oSyVz0b0
なんだか来年は「仮面ライダー裁鬼」決定な気がしてきた。
職人さん超乙です。

もしかしてリアルタイム直書きですか?
だとしたら凄いな…。
64名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 08:58:01 ID:md2c/ss10
いつも同じ職人さんが書いてらっしゃるのかな?
凄いっす、感動したっす。
貴方に脚本書いて頂いて、本当に作品作って欲しくなってきた。
最近の本放送より、面白くなりそうだ。
65名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 10:44:28 ID:cXHziiWoO
九之巻「逃げぬ送鬼」

「どうするんですか!? 燃料無くなっちゃって、戻れないし、鷹の電池も切れかかってますし……」「そうだな…… 小瓶に手紙入れて流すか。」
そんなやり取りを船上で続ける二人を、遠くから見つめる生気の無い瞳があった。海面に立つ黒のクグツは、マントを翻して振り返ると、姿を消した。
石割の独り立ちが見送りになったまま、冬が訪れた。たちばなの地下では、おやっさんがサバキと石割を呼び、吉野から音撃弦用の鬼石はストックがなく、長い時間を掛けて錬成している段階だ、と知らされた。
「どうも最近、各地の魔化魍も強くなってるみたいでね、鬼が敗けたり、武器を壊されたりしてるらしいんだ……」
おやっさんは、石割に独り立ちして貰いたいが、敵の異変が終わるまで、暫くは鬼を複数で行動させたいと言った。「引き続き、サバキのサポートを頼みます。 ごめんね。」
その時、『猛士』中部支部からの電話が鳴った。受話器を取って数分、おやっさんの顔色が変わった。
「ユキオンナ!?」 その一言にサバキにも緊張が走る。電話を終えたおやっさんが、地図と古文書をテーブルに広げた。
中部の若い鬼達では力不足なので、向こうから関東のサバキに要請があったとおやっさんは言った。
「あちらからは、ソウキが出動するらしい。久しぶりの再会なのに、悪いね。」おやっさんが、頭を下げた。
66名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 11:23:27 ID:cXHziiWoO
長野の山々は白銀に染まり、『猛士』のロッジにサバキと石割が着く頃には、風も雪混じりになっていた。
「おうサバキ。早く入れよ。」口髭を蓄えた30前後の大男がドアを開け、二人を迎えた。ロッジの中は暖かく、窓際に立て掛けてある音撃弦の隣には、描きかけの風景画があった。
「笑ってやれ石割。こいつ、こんな身体だが、趣味は絵描きと音楽鑑賞だ。」「いいじゃねえか! なあ、石割君!?」
黙ってその絵を眺めていた石割に、「この絵、サバキさん家のリビングに飾ってある絵と似てる感じがしますね。」 と言われ、サバキは少し照れた。
ソウキが紅茶を沸かし、改めて今回の作戦が立てられた。このロッジから南西に10キロの地点で、地元のバス運転手を務めている『歩』の大川さんが2日前に目撃している。
ユキオンナが他の稀種と違う点は、童子と姫がいるという事、また、双子の様にユキオトコと生まれ、ユキオンナが目撃された周辺では、ユキオトコも見つかっている事である。
既にディスクを放ってあるが、雪道では電池の消耗も激しい。長期戦は覚悟していた。
比較的近場に放った猿の一枚が戻らなくなったのは、真夜中だった。サバキが様子を見てくると、閻魔を担いで出ていった。風は止んでおり、空は晴れている。
残された石割に、ソウキが絵に筆を重ねながら訊いた。「凄い奴を見つけたって、2年前サバキが電話してきたよ。もう少しで鬼になるらしいが、まだ20そこそこだろ? よく決心出来たな。」
67名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 11:48:03 ID:cXHziiWoO
石割は、天涯孤独になり絶望し、死のうとした時にサバキと出会った事を話した。するとソウキは、「アイツもそうだったな。」 と目を細める。
産みの親を早くに亡くし、親戚を転々とした果ては施設に預けられ、荒んだ日々の中で裁鬼と送鬼の師匠に出会い、鬼を志す様になったという。
「小学校からの腐れ縁さ。 ……だからアイツが親のいない子供達を引き取るって聞いた時、俺は解ったんだよ。
サバキは、守るものを守りたくて家庭を作った。でも『佐伯栄』は、親子の愛情ってヤツを心から感じたかったんだろう。
……ま、弟子入りは俺の方が3日早かったけどな。」
細かい事を加えたが、誰よりもサバキを知る人物だと石割は思った。そんなソウキの携帯電話が鳴った。相手は『歩』の大川さんだった。
「はい、ソウキです……… 解った! そこ動くなよ!!」
ユキオンナにバスが襲われたらしい。石割にサバキが戻り次第来てくれと言い、鷹の一枚に襲われたポイントを読み込ませ、音撃弦を担いで白黒の世界を走っていった。
68名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 12:11:38 ID:cXHziiWoO
晴れていた空が瞬く間に吹雪に変わった。バスを見つけたソウキは、変身鬼弦を弾き、蒼い炎に包まれた。気合一閃、炎を消したその姿は、青い4本角に銀の弦を持つ、裁鬼と色違いの送鬼だった。
バスが、半分近く氷漬けになっている。目を凝らすと、白い影が車体の前から白い靄を吐き出していた。ユキオンナだった。
送鬼は音撃弦『釈迦』を振りかざし、白い影に斬り掛かる。しかし手応えは無い。一陣の突風が雪と共に送鬼を襲い、その身体を切り刻んだ。その攻撃にある種の確信を得た送鬼は、バスの屋根に飛び乗った。
吹雪が荒れ狂う地帯がユキオンナの領域、1キロ先はまだ晴れている。周囲の吹雪に真っ白な空間を見つけると、そこに飛び、身体ごと『釈迦』を突き立てた。
ユキオンナの呻き声が低く響く。バックルから音撃震『極楽』を取出し釈迦に素早くセットする。
「音撃斬! 浄土送り!」掻き鳴らされる清めの音に爆発したユキオンナは粉雪となり、辺りの吹雪も止んだ。
音撃震『極楽』をバックルに戻し、地面に音撃弦『釈迦』を刺してバスの救助に取り掛かる送鬼を、巨大な氷柱が貫いた。振り返ると、全身を白い毛で覆った、小柄なヤマビコの様なユキオトコが吠えていた。
傷を負った腹を押さえながらも、背後のバスを守る為、送鬼は音撃弦を構えた。
69名無しより愛をこめて:2005/11/23(水) 13:31:01 ID:5CLW6veW0
実にすばらしい。
響鬼紅、装甲響鬼に代わるフォーム形態も考えよう。
70名無しより愛をこめて:2005/11/24(木) 10:26:57 ID:1DJeiQVHO
十之巻「交わす信念」

ユキオトコの出現により、バスの周囲が再び吹雪き始めた。狙いを逸らす為、送鬼はユキオトコの背後に廻り込む。しかし負傷した腹から全身に痛みが走り、片膝を雪に埋め、音撃弦を杖代わりにする状態だった。
ユキオトコの白い体毛が逆立ち、一本一本が氷でコーティングされていく。ショットガンの様な無数の氷柱が、容赦無く送鬼の身体に降り注ぐ。
送鬼は全身の気を高め、自らの身体を蒼い炎で覆い、間一髪、氷柱達を蒸発させた。小さな弾は効かぬと悟ったユキオトコは、直径1メートルほどの巨大な氷柱を送鬼に放った。
音撃弦を盾に受け止める送鬼だが、氷柱と共にグリップは砕け、刀身は雪に刺さり、送鬼は衝撃に弾き飛ばされた。
その時吹雪の中に、赤い火の玉が二体飛び込んできた。「大丈夫か送鬼!」 「送鬼さん!」 「行くぞ石割!」 「はい、裁鬼さん!」
裁鬼と石割変身体が、炎を纏いながら同時に放った飛び蹴りに、さすがのユキオトコも巨体を後退させる。裁鬼が送鬼に駆け寄り、石割はバスの氷を溶かし、素早く顔の変身を解除した。
「皆さん! こちらです! 早く逃げて下さい!」 運転手の大川と、乗客3名を猛士のロッジに非難させる石割。裁鬼は送鬼を庇いながら閻魔を構える。
「今は分が悪い……」 低い男声が聞こえ、一陣の突風が過ぎた時には、ユキオトコも吹雪も跡形も無く消えていた。
71名無しより愛をこめて:2005/11/24(木) 10:49:33 ID:1DJeiQVHO
救け出した乗客は、痩せた男と祖母と孫らしき老婆と女の子だった。暖かいロッジで、彼女等に紅茶を配る石割、火の傍で横になっている送鬼、そして、絶えず窓の外を見張り続ける裁鬼は、鬼の身体のままだった。
石割からカップを受け取った老婆は、鬼に救けられた事を感謝し続けていた。聞けば、5年前に先立たれた夫が、長年この地で『歩』として活動していたと話した。
痩せた男は眼鏡を揺らせながら、ブツブツと呟きを繰り返している。「何で私がこんな目に……」 「こんな得体の知れないヤツ等に救けられるなんて……」 「! まさかコイツ等もあの怪物と同じじゃ……」
その一言を、小村と名乗った老婆が叱る。 「何が怪物じゃ! この人達は、何十年何百年と人間を護って生きてきた鬼の方々じゃ! 無闇な物言いは、承知せんぞ!」
現『歩』の大川が、老婆を宥める。幼稚園に通う年頃の女の子は、砂糖入り紅茶のカップに口を付けたまま怯えていた。焦る石割に、サバキがちょっと変われ、と交代を促した。
「ごめんね、お嬢ちゃん。 お詫びに、面白いもの見せてあげるから。」 サバキは、ディスクホルダーから戦闘用の鷹、狼、猿を外し、指を鳴らして展開させた。
式神ですな、と老婆は目を細める。ディスク達の軽いパフォーマンスに、小雪という名の女の子は笑顔を咲かせた。
石割が警戒する窓の外は、徐々に雪が降り始めた。
72名無しより愛をこめて:2005/11/24(木) 11:16:09 ID:1DJeiQVHO
風が出てこない内に、一回り見てくるとサバキが出て行った。ソウキは傷口を気合いで塞いだものの、変身解除した上半身にはソフトボール状の紫色をした円形が残っている。
10分が過ぎた。 「おいおい! 大丈夫なのか私達は! あの男だけ、逃げたんじゃないだろうな!」 痩せた男の叫びに、大川が「落ち着いてください」と言い、ソウキが苦しむ声で大丈夫スよ、と答えた。
「何故言い切れるんだ!? 確信も無しに、仲間だろうが他人だろうが、こんな状況なら自分一人助かろうとして普通だ!」 石割が、でも戻って来ますから、と笑う。
「僕達は、人の生命を守るのが仕事です。 だから、僕達の命に代えても、必ず救けてお家まで送り届けます!」 石割の真直ぐな眼差しに、男は顔を上げた。「人の……生命……」
その頃サバキは、吹雪にカモフラージュしていた白と灰の斑模様の怪童子と対峙していた。
沸いた湯でソウキの傷口を洗おうとした石割を、痩せた男が止めた。 「その人は重度の凍傷を負っている。熱湯では細胞が壊死してしまう可能性がある。」
男は医者だった。ミネラルウォーターをタオルに浸しながら、バスに置いてきた器具を使えれば応急処置は出来ると断言した。すぐに戻りますとドアを開けた石割を、女の子の囁きが止めた。
73名無しより愛をこめて:2005/11/24(木) 11:35:19 ID:1DJeiQVHO
「お人形……」 祖母から話を聞くと、バスに町で働いている母親に買ってもらった誕生日プレゼントを置いてきてしまったと言う。石割は、任せてねと走っていった。
音撃弦の一降りが、漸く怪童子に一撃を与えた。展開した5枚刃を逆手に返し、閻魔裁きをたたき込む。音撃震『地獄』を取り外した裁鬼の背後に、巨大なユキオトコが吹雪に身を潜めていた。
バスから医療バッグと包装された小包みを手に入れ、ロッジへ急ぐ石割を、妖姫が襲った。石割はディスクアニマルを展開し、妖姫を足止めさせ、更に足を速めた。
さすがの裁鬼も、背後からの不意打ちにバランスを崩す。右手を離れた音撃震は、無残にもユキオトコに踏み潰されてしまった。
「裁鬼さん!」 バッグを抱いた石割が、遠くに見える。ロッジから離れざるを得ない事態だと理解した裁鬼は、首を軽く横に振り、「戻れ」と促した。
ロッジに戻った石割は、皆に裁鬼が交戦中だと急ぎ足で説明した。ソウキの事は任せなさいと医者は言い、老婆と大川は無事を祈った。小雪ちゃんがありがとうと笑う。
「待て。」 ソウキが、石割を止める。 「これ持っていけ。」 と、音撃震『極楽』を手渡された。
74名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 09:44:15 ID:OCJWG2Jo0
>>70-73
やばい。読んでて不覚にも涙してしまった…。
なんなのこの鬼達のカッコ良さ
75名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 11:02:00 ID:SjB3JycBO
十一之巻「託す思い」

身体を動かせたソウキに、医者が「安静にしろと言ってるだろう!」 と警告する。気付けば、音撃震『極楽』の縁取りが青から赤に塗り直されている。
「釈迦が壊れちまった以上、コイツを装着出来る音撃震は…… 閻魔だけだ。」 裁鬼と送鬼の師匠が現役時代に使っていた兄弟刀を、二人は譲り受けたという。しかし特殊な技法の為、対となる二つの音撃弦は、地獄と極楽以外では展開出来ないという。
極楽をベルトに着け、再び石割は天然の吹雪の中を駆けて行った。
ユキオトコの攻撃を躱しながらも、音撃震を失い決め手に欠ける裁鬼。荒れ狂う雪が視界を奪っていった。炎の気を高めるが、精神力の消耗は激しい。ついに大振りのパンチを受け、雪原を転がった。
その頃、石割の目の前には、再び妖姫が現れていた。吹雪に擬態する白と灰の身体は軽快で、右手に装備した氷の刄で石割を翻弄する。しかし、極楽を預かる石割に生半可な攻撃は通じない。
気付けば、妖姫の刄が溶けかかっていた。再生に煌めく氷の光に向かい、石割は飛び蹴りを放つ。直撃した胸から湯気を立たせ、手負いの妖姫は姿を消した。
76名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 11:26:09 ID:SjB3JycBO
ついに裁鬼が発していた炎の気が消えた。心身の消耗に倒れかけるその時、石割がユキオトコの腹に拳を叩き込んだ。毛皮を剥がされた様な地肌が剥き出しになった時、石割は極楽を裁鬼に投げた。
更にパンチを放つ石割が、叫んだ。「裁鬼さん! 今です!」
半死半生となった姫の目の前には、猛士のロッジがあった。鼻を利かせると、美味そうな人間が数体居る。外の異変に気付いたソウキは、医者達に隅に固まれと指示し、応急処置を終えたばかりの身体で鬼弦を鳴らし、妖姫を迎え撃つ。
氷柱の雨もさすがに速度が鈍り、次々と石割に砕かれていく。その背後から裁鬼が飛び、極楽をセットした閻魔でユキオトコに斬撃を浴びせる。止めと言わんばかりに閻魔を突き刺した。「音撃斬! 閻魔裁き!」
手負いの者同士の戦闘は長引き、妖姫の白、送鬼の赤い血が雪を濡らしていた。最後の一撃と言わんばかりに、送鬼の青い炎を纏った左パンチと、妖姫の氷の刄が交差する。
数秒後、妖姫の身体は粉雪となって爆発し、送鬼の身体は崩れ落ちた。顔の変身が強制的に解除されるのは、鬼が意識を保てなくなった証だった
77名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 11:57:51 ID:SjB3JycBO
満身創痍のサバキに肩を貸しながらロッジに戻った石割が目に、火の傍で目を閉じ、微笑んでいるソウキが飛び込んできた。
「ソウキさ……」 石割が言い終わる前に、サバキが駆け寄った。 「おい! 尊児!! しっかりしろ!!」 ソウキ――曽我尊児が、薄らと瞳を開けた。
「さ、栄…… やったな。」 か細い声が、なんとか聞き取れた。 「ご、極楽は…… お前が使え…… 使ってやってくれ……」 頷くサバキを見て、ソウキはまた笑った。
老婆が裁鬼と石割に、最後の力を以て妖姫を倒したと知らせた。石割の涙が、まだ変身を解除していない彼の胸まで流れた。
「い……し……割……君。 サバ…キを…………よろしくな……」 石割の顔の筋肉は、言う事を聞かなかった。 笑う代わりに、力強く頷く事が、精一杯の返事だった。
「じゃあ、少し…… 寝るわ……」 サバキは頷き、窓際にあった未完成の作品を、ソウキに抱かせた。ソウキの顔が、力無く横を向いた。
「ソウキさん…… ソウキさん! ソウキさん!!」 駆け寄る石割が揺さ振る。
「尊児!? おい、目を開けろ! 尊児!!」 サバキが、認めないと言わんばかりに顔を叩いた。
「ソウキさ――ん!!」 「尊児――!!」 「うるせえ! 寝るって言ってるだろ!! 静かにしろ!!」
固まった二人に、医者が命には別状無いからとにかく安静に、と言った。 大川の携帯が猛士中部支部と繋がり、長野市に待機していた若い鬼達が迎えに向かったと報告した。
風は止み、降り続ける雪に、釈迦の刀身が煌めいていた。
78名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 15:42:28 ID:hIcCvczd0
やばい…マジ泣きしちまった。
と、思ったらお約束のオチかいっwww
いやぁ、職人さん凄いよ。
特板で感動できるなんて、思いもよらなかったよ。
79名無しより愛をこめて:2005/11/25(金) 23:34:01 ID:6uJi8onE0
マジ良い話ばかりっす・゚・(ノД`)・゚・。。
映画とかでも対象年齢高めならこういう展開の話も
出来たんだろうなぁ…。

超バトルDVDもこういう話が良かったなぁ…って
あれはまんま子供向けだから無理か…(^^ゞ
80名無しより愛をこめて:2005/11/26(土) 00:49:00 ID:Wf1tjfJR0
連書きスマソ

>>69
裁鬼さんの属性は


と2説あるので…響鬼紅と同等フォームで…
闇>>裁鬼漆黒
炎>>裁鬼紅蓮

なんてどうでしょ?
81名無しより愛をこめて:2005/11/26(土) 02:34:19 ID:a9ky6Pc30
裁鬼宴 裁鬼華 裁鬼祭

がいいとおもう
82今日は書けるかなぁ:2005/11/26(土) 09:49:13 ID:HWtyVZomO
皆さんのご要望に甘えさせて頂き、強化形態の導入を決定しました。

……しましたが、色変えではありませんので悪しからず。その登場話までにこのスレが落ちていたら(笑)、スミマセン。
83名無しより愛をこめて:2005/11/26(土) 12:33:13 ID:9p81721i0
>>82
落とさないので安心して書いてください。
84名無しより愛をこめて:2005/11/26(土) 12:57:05 ID:AnAPYSh1O
うんちぶりぶり
85名無しより愛をこめて:2005/11/26(土) 13:44:55 ID:AnAPYSh1O
     ____
    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
  /∵∴∴,(・)(・)∴|
  |∵∵/   ○ \|
  |∵ /.  ミ  | 彡 |  / ̄ ̄ ̄ ̄
  |∵.|   ___|_  | < うるせー馬鹿!
   \|   \__ノ /   \____
     \___/
86名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 02:15:13 ID:L/DfiiGv0
>>82
毎回楽しませてもらってます。本当にありがとう。
気長に続けて下さい。
87名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 02:21:55 ID:qNh6mSUVO
十二之巻「暴れる乙女」

雪山での死闘が終わり、サバキと石割は猛士中部支部が用意したホテル、バス運転手の『歩』である大川と老婆、小雪ちゃんは山村に、ソウキは医師に付き添われて病院へ送られた。
ロッジの前、3台の車で迎えにきた中部の若い鬼達に、感謝されていた石割へ、別れ際小雪ちゃんが小さな飴玉の包みをくれた。
小さな身体で抱き締めている誕生日プレゼントを取ってきてくれたお礼と言った。
翌日の昼過ぎ。東京のおやっさんに報告の電話を終えた二人は、猛士の本部がある、吉野へ車を走らせていた。トランクには、破壊されたソウキの音撃弦『釈迦』が積まれていた。
大きな神社の様な造りを想像していた石割の目の前には、巨大な『TAKESHI』ロゴを掲げた5階建てのビルがあった。自動ドアを抜けてサバキが受付で開発部の階を訊き、二人はエレベーターで地下3階へ下りた。
「よっ! お疲れさん。」 「サバキも武器の調整か。」 ヒビキとザンキが、エレベーター乗り場の椅子で談笑しながら、暇を潰していた。ヒビキは音撃棒の持ち手を交換しに、ザンキは烈雷のオーバーホールに来ていた。
88名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 02:45:05 ID:qNh6mSUVO
開発部長の木暮がサバキと石割を呼んだのは、釈迦を預けて30分後だった。やはり修復は無理らしく、ソウキには代わりの音撃弦を中部支部に送ると話した。
「ところで石割君、君は少し甘えすぎではないかね? 独り立ち出来る力を持ちながら、まだ『飛車』としてチンタラチンタラしていると、若さが勿体ないぞ!」
そう言って木暮は、サバキを残して石割を防音室に連れていった。いきなり「歌ってみなさい!」 と言われた石割は、目を丸くした。 「君に必要なのは、更なる心の強さだ!」
心から歌い、私を頷かせたら君は立派な一人前の鬼だ! と言われれば、石割もやる気が湧く。しかし石割には、得意な歌が無く、記憶を探り続けた。
オーバーホールを終えたザンキと入れ代わりに、エレベーターから一人の女性が現れ、その顔を見たヒビキは唖然とした。 「みどりっ!」 「おひさ〜、日高く…… あ、ヒビキくんか。」
数分の拘束を解かれて、木暮に続いて出てきた石割に、既に歌唱の試験を経験しているサバキが訊いた。
「えらく早かったな。 普通のヤツなら2時間はでられないってのに。 何歌ったんだ?」 「母さんが、たまに口ずさんでいた……『シクラメンのかほり』ですけど。」
89名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 03:10:55 ID:qNh6mSUVO
ヒビキとの再会も束の間、木暮が去年から助手としているみどりを、弦の保管庫に呼び、ソウキの新しい音撃弦を選びたいが、開発した新作の説明をサバキ達に聞かせてやってほしい、と頼んだ。
大学を卒業する前から武器の開発をしていたみどりの音撃弦に、サバキと石割は呆気に捉われていた。
刀身がドリルの様に回転したり、刀身を飛び道具として発射させる弦を奨められたが、どちらも音撃震を装着できそうにない。
斬撃にスイッチで爆発を加えるという試作品をサバキが試したところ、サバキの顔が真っ黒にしてショートしてしまった。
「これも開発中なんだけど、高振動波で斬撃を強化するの。」 手にしたみどりの身体が震え始めた。小刻みに揺れる切っ先が、床を削っていく。 「使えるでしょ! こんなものも切れちゃうんだから!」
用意された鉄柱、セラミック、人工ダイヤをも真っ二つにし、みどりのテンションも上がり続ける。ついにストックの鬼石まで斬ろうとする姿を見て、二人は尋常ではないと悟り、止めようとする。
しかし音撃弦の高振動波はみどりの身体を振り回しながら、廊下に出てしまった。 切り裂かれる床、壁、天井。瞬く間に混乱する開発部。もう誰も止められない。鬼弦を鳴らそうとしたが、ヒビキが制した。
90名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 03:33:29 ID:qNh6mSUVO
「何か、甘いもの持ってる?」 石割はポケットから、小雪ちゃんに貰った飴玉を出してヒビキに渡した。
「おい、みどり!」 ヒビキが放った飴玉がみどりの口に納まると、音撃弦と身体の振動は止んだ。胸を撫で下ろすサバキと石割に、アイツは昔から甘いものを採らないと歯止めが聞かなくなる、と笑った。
「ごめんなさい。 一番オーソドックスな子だけど、ベテランさんには扱い易いと思うの。」 と、落ち着いたみどりがサバキに別の弦を渡した。
特殊な機能はないが、軽量で刀身の比重も釈迦や閻魔と似ている。満足出来る品を手にしたサバキは、帰りの運転を石割に任せ、ソウキに付いている猛士の医療スタッフに電話を掛けた。
音撃弦と音撃震を渡しに行くと言ったサバキの顔から、笑みが消える。スタッフの声は暗かった。目の前を漆黒で覆われた様だった。石割から借りた携帯が、重力に従って車内に転げ落ちた。
「ご本人はまだ眠っていますが…… ソウキさん、もう変身出来そうにありません……」
冬の短い夕暮れに染まる山々も、サバキの瞳に映らなかった。
91名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 11:16:18 ID:qNh6mSUVO
十三之巻「癒えぬ傷」

日本各地で魔化魍が激減したのは、石割がサバキと出会ってから4回目の春の事だった。ウミボウズやユキオンナ等が発生した去年は、北海道支部から九州支部までを合計すると、170回も出動があった。
しかし年明けから4月の終わりまで、関東で目撃され、たちばなに知らされた魔化魍はバケガニとウブメが1体づつ、それだけだった。「まあ、こういう年だってあるからねぇ。」 吉野から帰ったばかりのおやっさんが、たちばなの店内で笑う。
店にいるのは、石割一人。ヒビキは鍛える為山寺に泊まっており、おやっさんの二人娘はまだ学校にいる時間だった。 「本部の会議で、鬼達の複数出動が正式に解かれてね、それで君を呼んだんだ。」
その頃サバキは、療養生活を過ごしているソウキの所に来ていた。飛騨にある猛士の湯治場、二人は温泉に浸かっていた。
「まあ、仕方ない事だがな。」 ソウキが、左の掌を見つめながら呟く。筋肉や骨、神経の類は、鬼に成れば気合いで治癒出来る。しかし、鍛える事が出来ない臓器に傷を負えば、鬼に変身する時に命を削る事になる。
日常生活や『飛車』が難なく出来るまで回復したら、鬼のトレーナーとして猛士に残る事をソウキは告げた。サバキは頷きながらも、友の早過ぎる引退を惜しんだ。
92名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 11:52:09 ID:qNh6mSUVO
おやっさんは、石割の『と』復帰を告げた。あと一回、サバキの指導で魔化魍を倒せば、晴れて『角』――鬼と成り、独り立ち出来る。
「今年はまだ出動が少ないけど、焦らなくて大丈夫だから。 自分のペースやリズムを崩しちゃうと、現場で取り返しがつかなくなっちゃうからね。」 やんわりとした口調だが、警告に違いなかった。
礼を言ってたちばなを後にし、自宅に戻る途中の石割は、ビルの建設現場の前を通り過ぎようとしていた。「あ、危ない!!」 頭上で叫ぶ声に振り返ると、作業クレーンから1本の巨大な鉄骨が、さっき石割とすれ違ったばかりの母子に落下してきた。
幼子を咄嗟に庇い、背中を空に向ける母親。鈍い衝撃が周囲に轟き、数秒後、子供と自分が無傷である事を知った。
「だ、大丈夫ですか!?」 石割が、空に伸ばした両手で鉄骨を受け止めていた。はい、と母親がその場を離れると、石割は鉄骨をゆっくり地面に下ろした。
慌てて駆け付けた現場監督が何度も謝り、すぐに救急車をと部下に指示するが、石割は子供の頭を撫でながら、良かったね、といい、現場監督に鍛えてますから、と手を振り、その場を去った。
石割の自宅は、古いアパートだった。特に趣味を持たず、金の使い道が無い彼は、並のマンションにいつでも引っ越し出来るが、母親と暮らした部屋を離れる事は考えられなかった。
93名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 12:18:55 ID:qNh6mSUVO
ドアノブを回した瞬間、右手に激痛が走った。先程の鉄骨を受け止めた時には軽い痺れしか感じなかったが、痛みは皮膚や筋肉からでは無く、芯――骨からだった。
ボクシング時代に拳を痛めた経験はあっても、あまりの痛みに手が痙攣する事は無かった。慌てて部屋に飛び込み、蹲る。
数分が過ぎると感覚が戻ってきたが、指の一本を動かそうものなら、激痛は肘まで流れる。洗面器に氷水を用意し、気合いを込めながら1時間。汗まみれになった石割は、拳を握り、ゆっくり開く。
安心した石割は、そのまま倒れ、眠ってしまった。
翌日。痛みは引き、石割は予定通り、再び師弟として、サバキとトレーニングをしていた。自在に動く右手の感触に、石割変身体は安心する。一時的な骨折程度なら、鬼の現場ではよくある事だった。
サバキは、弟子の流麗な動きに寂しさを感じていた。元々の才能、幼少の頃からのトレーニングで鍛えられた肉体、そして成長した心。次の実践が、最後のコンビだと確信する。
日没が鍛練の終わりを告げると、顔の変身を解除する石割の肩を叩きながら、サバキは笑った。 「いい動きだったぞ。 ……次の出番が最後だが、よろしくな。」 手を差し出した。
自分の独り立ちを喜んでくれるサバキの為にも、怪我ごときで泣き言を言ってはいられない。 「はい! お願いします!!」 と、右手を差し出す。
改めて、力強い握手を交わす師弟。夕暮れの山に、石割の絶叫が響いた。
94名無しより愛をこめて:2005/11/27(日) 18:10:25 ID:DQ15k6kuO
裁鬼さんカッコイイね。
95名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 00:18:50 ID:ZXRVwAS40
>>88
小暮さんの攻略法ハケーンw

渋かっこいい場面と爆笑な場面の取り混ぜ方がナイス。
それでいて物語の芯は決してぶれてないんだよね。
いっそ本編も書いて下さい。
96名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 14:35:27 ID:bPy5HYEIO
十四之巻「砕ける拳」

石割の右手を診た老医は、レントゲンを前に皺だらけの顔をしかめる。「どうですか。」 丸椅子に座り、大柄な看護婦に包帯を巻かれながら石割が訊ねた。
「……」 サバキも、医者の口が開くのを待っている。 「こりゃ…… アカンな。」 そう言うなり、首を横に振った。 「ここを見なさい。」 右手の指の中に、白い菱形が無数に写っている。
「アンタの指の骨は、今こういう風になっとる。こう見事に粉砕されとるっちゅう事は、余程強力な衝撃を放って、受け止める事を繰り返した証拠じゃ。ほれ、甲の骨も4つに割れとる。」
石割の右手の異変に気付き、急いで山を降りたサバキは、戦後から鬼の身体を診てきた間島医院に石割を連れてきた。いくら脚力を鍛えても、やはり石割最大の武器は右ストレートである。
「鬼の治癒力なら、治らん事もないがのぅ。アンタまだ正式な鬼ではなかろう。」 確かに、石割が変身出来るのは、手足に弦を持たない『石割変身体』である。
鬼石から清めの音を一昼夜受け続ける『鬼の儀』は、独り立ち=鬼名(鬼のコードネーム)の名乗りを許されてから行なわれる。 「ただ変身した身体じゃ、気合いで傷を治す事は良くないぞぃ。」
どれだけ強くても、不完全な治癒能力では却って怪我を悪化させるだけじゃと釘を刺し、明日開くから、と勝手に手術を決めてしまった。
97名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 15:09:31 ID:bPy5HYEIO
「うん…… 残念だね。」 たちばなの地下でおやっさんが、佐伯家に泊まる事となった石割からの電話を聞き、寂しく茶を啜った。 「まあ、今年は鬼が足りないって事は無いと思うから。 お大事にね。」
すみませんと頭を下げ、石割は携帯の電源ボタンを押した。4月の夜風は、まだ肌寒い。佐伯家のリビングでは、サバキの妻と3人の子供達が久しぶりに訪れた石割を歓迎した。
吊った右手に質問を浴びせる弟二人を、今や長女と成っている彩子が嗜めた。サバキからの電話を聞いたのか、二人に用意された夕食はパスタとコーンスープ、野菜サラダだった。
風呂上がり、パジャマ姿で髪を拭き終えたサバキからタオルを預かり、彩子は聞いた。 「サカエさん…… 石割さんの腕、大丈夫?」 明日手術すれば治るさ、と娘の頭を撫でる。 「手術……」
先に風呂を頂いていた石割に、自室でサバキは質問した。 「今日の飯、美味かったか?」 「はい。 奥さん、どんな料理でも美味しく出来るんですね。 調理師免許とか持ってるんですか?」 「いや、あれは彩子が作った。」
「……俺の責任だな。」 話題を変えたサバキは、石割の右手を見ながら謝った。気にしないで下さいよ、と左手を振り、石割はサバキの眼を見る。
「鍛え足りなかった僕が悪いんです。 ……それにサバキさんのサポートなら、右手が使えなくても…… 変身しなくても、出来ますから。」
98名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 15:38:17 ID:bPy5HYEIO
翌日、病院へ向かう石割に、彩子が折り鶴を渡した。 「ごめんなさい、千羽には、紙が足りなくて……」 それでも大小、数え切れない折り鶴を、徹夜して一人で折ったらしい。
道中、助手席の石割が、嬉しいです、と鶴を見つめる。 「確か、今年中2ですよね、彩子ちゃん。」 「そういう年頃…… か。」 サバキが、ハンドルに呟いた。 
予定時刻に始まった切開手術だが、その終了時刻は予定を2時間過ぎていた。医者はサバキを呼び、思わぬ事を告げた。 「完全には…… 治らんな。 まあ、鬼に成れなくも無いが、難しいじゃろう。」
一日入院していけと言われた石割は、まだそれを知らされないまま病室で眠っていた。童顔の為か、あどけなさの残る寝顔を見つめるサバキに、まぁ落ち着いたら本人に知らせるさ、と言い、医者は出ていった。
夕方、彩子が果物を手にして、自宅に事務局長さんから電話が掛かってきたと知らせた。手術と運命を報告し終え、公衆電話の受話器を置いたサバキが病室に戻ると、目を覚ました石割が、彩子の剥いたリンゴを食べていた。
遅くならない内に帰るね、と彩子が去った後、サバキは見送る微笑みを消して石割を見る。
「石割。」 「はい?」 「………」 「どうしました?」 言うべきか。否、言うのは早過ぎるか。
「……嫁にはやらんぞ。」 「………はぁ。」
99名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 16:33:41 ID:AkWv6MT80
すごい・・・完全パラレルで行くのかと思いきや本編との整合性が…(゚д゚)!!
勘違いならスマソ。
彩子ちゃん良い子だなぁ・・・( ̄ー ̄)

GJッス!!(トド風に(^^ゞ)
GJめ・・・(バケガニ姫風に)
GJだよ…(ザンキ風に)
100名無しより愛をこめて:2005/11/28(月) 19:47:29 ID:PTOXkyQA0
剛鬼「裁鬼、そろそろ俺の頭返してくれない?」
裁鬼「えっ?いや、まだ使うし」
剛鬼「じゃあ、早く死んでくれよ、そうしなきゃ俺が使えないだろ」
裁鬼「・・・・・・・」
101名無しより愛をこめて:2005/11/29(火) 22:29:32 ID:1izb/OMMO
十五之巻「返らぬ隣」

完治するまで毎日通いなさいと、医者は石割に痛み止めの錠剤を渡した。それまで、サポート活動は疎か、ジョギングまでも禁じられた。 「まあ、2、3週間の辛抱じゃ。」
帰りの車、不自由だから俺の家で治せと、その日から出番となるサバキは笑う。 「まぁ、賑やかなのはいつもの事だ。 我慢してくれよ。」 「ありがとうございます。」
自宅から必要な荷物を持ち、石割が佐伯家に着いたのは午後3時だった。一度間島医院に電話を掛けたおやっさんからの着信に、石割はサバキに携帯を渡す。 ヤマアラシが出たらしい。
再び石割が携帯を手にする。昨日の今日だからと、絶対待機を命じられ、胸が痛んだ。今からでは夜を越す事は確実だと、石割はサバキに携帯を貸す。 「使い方、解りますよね?」 「どのボタンでたちばなに掛かるんだ?」
サバキが山奥の川原にベースを設置し、ディスクで探索を開始したのは午後8時だった。焚き火の炎に温められる猛士のレトルト食品は、いつもの味がしなかった。
102名無しより愛をこめて:2005/11/29(火) 22:52:10 ID:1izb/OMMO
翌朝。コーヒーが見当たらないサバキは、テントの中から携帯を取り出し、自宅に電話を入れる。朝の7時なら、石割も起きている筈だった。
「はい、佐伯です。」 出たのは彩子だった。 「おはよ。 石割起きてる?」 「うん。 いつもサカエさんと飲んでるコーヒー、作って貰っちゃった。 TAKESHIってサカエさんの会社でしょ? 色々やってるんだね。」
石割から、リュックの右の裏ポケットだと教えて貰い、漸く目を覚ませる事が出来た。一晩中探しても見つからないという事は、既にヤマアラシは移動している可能性が高い。
隣の山に着いたサバキは、ディスクのチャージを忘れていた事に気が付く。幸い、この春からバージョンアップした茜鷹、瑠璃狼はまだ20時間ほど持つが、緑大猿と若草蛙は限界に近づいていた。
5番の鷹が、ヤマアラシの鳴き声を録音して戻った。 「よし、当たりだ。」 独り言に、寂しく気付いた。鬼と成り10年が過ぎようとしているが、その半分近くを石割と過ごした事を、今更ながら思い出した。
閻魔を担ぎ、鷹の後を追い掛けるサバキを、数本の飛び針が襲う。緊急回避し、態勢を立て直したサバキは、鬼弦に手をやった。
「いくぞ、石割…………」
103名無しより愛をこめて:2005/11/29(火) 23:20:01 ID:1izb/OMMO
既に怪人体と成っている童子達は、鬼であろう男の意味不明な独り言に首を傾げる。 「……鬼だろう?」 妖姫の男声が、微かな好奇心に発せられた。
「………俺はな!」 弾かれた鬼弦から変身音波を受けた身体が、炎に包まれ怪童子にぶつかる。鬼爪が腹部を突き刺し、魔物の体内に灼熱がほとばしった。
爆発した破片を閻魔が払う。強襲に恐れを抱いた妖姫。その背後の岩場を崩し、ヤマアラシが巨大な針を飛ばす。極楽をセットし、紅葉型に展開した閻魔で針を砕きながら、その太い脚に斬撃を重ねた。
崩れる巨体を、腹に突き刺した刄で支えながら、一気に清めの音を叩き込む。 「音撃斬! 閻魔裁き!」 愛しい我が子を倒された妖姫が飛び掛かるが、武器を手放した両手から拳撃の嵐を受ける。
石割…… 戦場だった荒れ地に和かな春風が吹き、魔化魍の破片を飛ばした。裁鬼は、最後に一人で戦ったのがいつだったか、思い出すのに苦労した。右手に少量の血が流れたが、鬼の自然治癒力ですぐ消えた。
着替えを終え、車に乗り込んだサバキは、弟子として石割が復帰出来る可能性の低さに絶望しかけた。しかし、本人の言葉が甦った。「サポートなら、変身しなくても出来ますから。」
鬼に成る為に一緒だった訳ではない。いつもアイツは、余りある実力で『サポート』してきてくれた。甘えていた訳ではないが、頼っていたのは事実だった。 今更、気付くなんてな。
吹っ切れた様子のサバキは、石割の携帯を探した。 ……着替える前のズボンに入れていた。
104名無しより愛をこめて:2005/11/30(水) 12:56:04 ID:GjtEoK9W0
おもすれー
105名無しより愛をこめて:2005/11/30(水) 15:24:46 ID:/bpSudCDO
まとめサイトが欲しい
誰かイラストを!
106名無しより愛をこめて:2005/11/30(水) 19:11:45 ID:95UG1OPi0
話つくる参考になるかもしれないので報告ですが
ゲームの響鬼だと裁鬼は炎の変身で出てきます
素顔は出て来ません、炎を纏った姿で登場です
後、言いづらいのですが・・・・・

使いづらいキャラになってます
理由は動きが少し遅れてるのと、連続技が少ない、攻撃力が他の鬼より少ない
あと音檄斬をあまり使いません
爪攻撃を主体としたキャラで 最大の攻撃力を誇る技は
鬼爪に炎を纏わせた斬り攻撃、この技を使うと裁鬼さんの
「コノヤロー!!」という下品な声が聞こえます
遠くに攻撃する時の技は鬼爪から炎を飛ばします

ゲーム中の「閻魔裁鬼」の掛け声は出ませんでしたが
それらしい動きでまかもうを倒します

裁鬼さんはなんか、ダンキさんより荒々しい性格のようです
本当の裁鬼さんは弦の鬼じゃないかもしれません
107106さんありがとう。:2005/11/30(水) 22:24:03 ID:L6j2v8cmO
十六之巻「施す悪意」

石割の包帯が取れたのは、間島医院に通って半月が過ぎた午後だった。 「動くかね。」 指が、震えながら、ゆっくりと折り畳まれる。 「うむ。 まぁ、物を掴んだり、字を書いたりして感覚を戻すがええ。」
それじゃあ、鬼に成れるのはいつですか。石割の声に、医者は左手を広げる。 「5日ですか?」 「早くて5年じゃ。」
「アンタの骨は、清めの音を受けず再生しようとした。 一時的に治ったのは、米粒でくっつけたのと大差ないわぃ。 変身時の衝撃に耐えただけでも奇跡的じゃ。」
既に鬼のものである筋肉等が型枠として分離を防いではいるが、骨自体は、現在も微弱な治癒力で治している段階だという。 「こればかりは、鍛える事も出来ん。 お手上げじゃ。」
50キロ以上の物を持たない、右手を必要以上に庇わない、そして変身しない事を誓えば、3年で治してやると医者は言った。石割の背に立つサバキも頷く。『飛車』としてのサポートは許された。
礼を言って診察室を出る石割に続こうとするサバキを、医者は呼び止めた。先に車に乗っていろとキーを渡し、医者も看護婦に外させた。
108感謝の気持ちを込めて:2005/11/30(水) 22:42:21 ID:L6j2v8cmO
「お前さん、随分あの若いのに助けられた様子じゃな。」 「お恥ずかしい限りです。 弟子離れの機も失ってしまいました。」
医者は作り笑いを止める。 「……サバキ。若いのと共に戦う様になってから、一度もワシの所に来なんだちゅう事は、まだ『20時間』のままじゃな?」 「はい。 魔化魍も強くなったり、稀種が出ましたが、幸い……」
「これから3年、一人で戦う事になるが、窮地の時、再び『時間』を瞬時に使えるのか?」 「鍛えてますので…… と言いたいですが、最後に使ってから既に5年半になりますので。」
医者はふむと頷き、机の引き出しを探り始めた。やがて一枚の古い葉書を取り出すと、サバキに手渡した。 「8年前の物じゃが、初孫の祝いに寄越しおった。 住所に変わりはないと思える。 不安じゃったら今一度、師匠に会っておけ。」
車に戻ると、石割がハンドルを握っている。 「早速、リハビリ開始か?」 笑って答えてきた。 「サポーターですから。 何かお話してました?」 「今年のお中元の事だよ。」
約半月ぶりの運転に、サバキの愛車は駐車場でドリフトを繰り返した。
109次回予告「天地廻る鬼」:2005/11/30(水) 23:15:04 ID:L6j2v8cmO
春が過ぎ、夏が訪れた。毎年恒例の相撲を取るカッパが待つ川原に向かった二人は、切り拓かれた森の跡地と人工池に成り果てた川の名残に暫し立ち尽くしていた。
「サバキさん……」 「こういう事もあるさ。」 帰りの車内は、沈黙と溜息に満ちていた。二人が去った後、開拓地の外れにクグツが現われ、計測杖に液体をセットした。
山で、海で、森で、川原で、北で、南で、日差しの中で、台風の中で、3ヵ月の間、日本各地にクグツが現われた事を、誰も知らなかった。
ついに、夏の終わりから年の暮れまで、関東で魔化魍が現われた報はなかった。たちばなに集まった鬼達も、今年の忘年会の会場決めに揉めている体たらくだった。
居酒屋での一次会で、早くも今年新人のダンキが潰れ、二次会で更に脱落、残ったのは、烏龍茶でかわすヒビキ、肩を組み飲み足りない様子のサバキとザンキ。送り役の石割だった。
ついに2000年を迎えた。除夜の鐘を打つヒビキの姿に、遠出してきた佐伯家の子供達がはしゃぐ。石割から貰ったお年玉のお返しに、彩子は手編みのマフラーを差し出した。
1月5日。全国で一斉にバケガニが現われた。
110:2005/12/01(木) 07:37:38 ID:D6/iC5rs0
「裁鬼さんですよね?」 満面の笑みで若者に声をかけられた
少しチョイ悪親父を気取って、外にテーブルとイスと日傘のデカイのがさしてある喫茶店でコーヒーを飲んでいたら
変な奴に声をかけられてしまった、柵を越えて話しかけられたので、コーヒーを飲むタイミングを逃してしまった

俺のコードネームを知ってるとは、猛士の人間だろうか?「誰だお前は?」
「はい、あの・・・・この前忘年会でお会いしませんでしたっけ?」 忘年会、そういえば2ヶ月前に猛士で忘年会を開いたが
いつもザンキと張り合って、途中で記憶をなくしてしまう。
「すまない、覚えてない」俺がそっけなく答えると若者は「僕ですよ、イブキですよ、忘年会で隣の席でしたよね?」
思い出したぞ、たしか・・・・・感じのつかめないなんか、そう・・・天然な奴だった、俺は直ぐにこいつと話すのをやめて
隣のザンキとずっと話し込んじまったな、なんかこいつに話しかけられたような気もしたが・・・・思い出すのはやめにしよう

「思い出してくれました?」 イブキの清清しい笑顔にはなんかこう、伝えるのもめんどうくさい独特の雰囲気が漂っていた
悪い奴じゃ無さそうだが、あんまし深くかかわると疲れそうな、いや、振り回されそうな・・・・
とにかく、めんどいので、早く話を切り上げて、ここを去ろう
111なに:2005/12/01(木) 07:57:55 ID:D6/iC5rs0
俺は何をしていたのだろうか


気がつくと俺は、イブキとコーヒーを飲んでいた
いつの間にか、こいつのペースに乗せられ、こいつを向かいの席に座らせ
コーヒーを1杯おごっていた

「それでですね、裁鬼さん」 こいつの話してることは全部耳を素通りしていく
早く話を切り上げないと、俺が俺で無くなる(意味不明)
「すまん、イブキ、俺は」 そう言いかけたときだった 「裁鬼さんは弦の鬼なんですよね?」
俺は弦の鬼といわれることに少し抵抗があった、「裁鬼さんは、えーっと、ザンキさんと同じようにあの、音激斬で戦うんですよね?」
「おい、ちょっと待て、ザンキなんかと一緒にすんじゃねえ」 俺は少し声を荒立てて喋ったが
このイブキは俺の様子には気がついてはいないようだ

「あのな、イブキ・・・・俺は弦の鬼とか、そう言う呼ばれ方をするのは、嫌いなんだよ」
112なにさ:2005/12/01(木) 08:18:20 ID:D6/iC5rs0
俺は昔の自分の事を話していた
「あのなイブキよ、俺はここ2年くらいは弦担いで、山に登っては戦ってるけどな」
俺は2年前に弦の鬼になった、理由は弦の鬼が不足したからだ
2年前の6月、弦の鬼が1人死んでから、関東支部には弦の鬼が2人しかいなくなってしまった
ちょうど2年前はヤマアラシやバケガニ、硬い魔かもうが大量発生する時期だった、春ごろから台風が2回も関東を直撃して
5月6月は本当に大変な時期だった、別に弦を主体に戦っていたわけでなかったが、とりあえず弦が使えると言う理由で
事務局長から、音撃震「極楽」手渡された、物置から引っ張り出した音撃斬「閻魔」をよく掃除もしないで、ホコリまみれのまま
ヤマアラシの巣に単身6回も突っ込んでいったあの頃が懐かしい

「イブキ、俺はな、本当の俺は音撃管の戦士だったんだぞ」
113なにさよ:2005/12/01(木) 08:32:57 ID:D6/iC5rs0
俺の師匠は音撃打を扱う鬼だったんだが、音撃管も使える鬼だった
師匠はたぶん、俺に音撃打の戦士になってほしかったんだろうが、俺は無理を言って
音撃射を教えてもらった、音撃射の鬼の特徴としては、風を纏い、素早い動きで敵を翻弄し
鬼爪を使って魔かもうを攻撃しながら戦う戦士なのだが、俺の師匠は音撃打の戦士だったため
炎を纏い戦う鬼戦士になってしまった、炎の戦士は基本的に音撃打を基本とする戦士で、1撃1撃を確実に打ち込み敵を内部から
崩していく戦法を得意とする戦士なのだが、俺は炎の戦士でありながら音撃射を学んで行った
俺の地元にはよく、一反モメンやウブメやら、空を飛ぶ魔かもうが多く生息していた、音撃打は夏の魔かもうとかには有効だが
接近戦だけに限られてしまう、空を飛ぶ魔かもうと戦う時は大変苦労を強いられる
俺はそれが嫌で、音撃射の戦士として音撃管の技を磨いていった
114なにさよご:2005/12/01(木) 08:44:02 ID:D6/iC5rs0
夏になれば、師匠に音撃打、夏が終われば音撃射を師匠に教わった
ある時、俺は師匠のススメで音撃斬の戦士である先輩鬼の所に音撃斬を習いに行った
しぶしぶではあったが、ヤマアラシやバケガニには、1撃1撃の威力が少ない音撃管の攻撃では
あの硬い装甲を撃ち抜くことは難しかった、いずれ役に立つとの師匠の言葉を信じ習ったが
それ以降はまったく音撃斬を使うことはなかった

ちょうどその時付き合っていた子が、猛士の開発局で働いていた事もあって
音撃弦「閻魔」をプレゼントされたが、あまり嬉しくはなかった
それから彼女とはうまく行かず、気がつきゃ別れていた、彼女は別の誰かと付き合って職場結婚して寿退社していったそうだ
なぜか、ザンキが俺に話してくれたが、もしかしてザンキは・・・・いや、これは関係の無い話だ
とにかく、俺は昔の彼女が残してくれた音撃弦のせいで、音撃斬の戦士になってしまった
115なにさよごろ:2005/12/01(木) 08:56:39 ID:D6/iC5rs0
音撃弦「閻魔」あれを物置から出した時は少し切ない気持ちになった
別に、彼女に構ってあげられなかった事への罪滅ぼしではないが、それ以降閻魔で戦っている
ちょうど、彼女と過した時間と同じくらいになった今、そろそろ閻魔には飽きてきた頃だった。
彼女と同じで、やはり2年たつと・・・・・・いかんいかん

音撃射の戦士であった俺は本当にくだらない理由で音撃斬の戦士になっちまった
まあ、2年も付き合えば扱い方も分かってきた、それに今ではこの閻魔を極めたつもりだ
これから先、どうなるかは分からないが、俺が音撃斬の戦士で居るのはあとすこしだろう
もう少ししたら夏になる、そうなりゃ音撃打の戦士になり、閻魔はしばらく物置行きだ
そして、秋になったら物置から旋風か閻魔のどちらかを選ぶ
今年もまた閻魔になりそうだな

「イブキ、女から貰ったものは・・・・・早いうちに捨てておいたほうがいいぞ」
116名無しより愛をこめて:2005/12/01(木) 23:35:57 ID:t0p5Z2zjO
十七之巻「天地廻る鬼」

サバキの携帯に、ザンキの着信があった。リダイヤルすると、5匹目のバケガニを倒したらしい。石割を伴うサバキも、先程真冬の海で激戦を終えたところだった。
「どうも奴等、今までの強さを一つ上にいってるな。」 ザンキの言葉に頷き、石割の方を見ると、右手を車に指している。どうやらまだ退治仕切れていないらしい。
1月の終わりから、サバキ達、弦を担当する鬼の出番はバケガニとの戦いに消費されている。全国で既に50体を越える個体が確認され、非番のヒビキ達も有事に備えて準待機していた。
嵐の様なバケガニの大量発生が終わったかと思えば、春が近づく頃にはウブメが出現し、全国の鬼達に休息を与えなかった。サバキも音撃管『夕凪』と音撃鳴『つむじ風』を手に、2体のウブメを音撃射『獄嵐空静』で倒した。
5月に魔化魍発生の報は途絶えたが、今回の大量出現は、全国で8人の鬼が負傷、敗退するという異例の結果を残した。
3人が今尚入院中の猛士中部支部に、トレーナーとして復帰したソウキから、サバキに電話があった。 「キツイだろ?」 「何とか生きてるよ。」 挨拶もそこそこに、ソウキが訊いた。
「お前、まだ『時間』は残っているか?」
117名無しより愛をこめて:2005/12/01(木) 23:56:12 ID:t0p5Z2zjO
「ああ。 今回は使うかと思ったが、まだこのままで戦えそうだ。 正直キツいがな。」 「石割君に甘えてたツケさ。 ……それなら言う事はないさ。 『時間』を5時間残して引退しちまった身だ。 気にもなるさ。」
「有難うよ。 だが、何れ使う時が早々と来そうでな。 今度、師匠に逢いに行ってみるさ。」 「なっ!? 師匠の居所が判ったのか!?」 「確かではないが、9年前の住所を手に入れた。 釈迦壊したって言ってやるよ。」
久々の戯れも時間に裂かれ、ソウキから電話を切った。次の休み、サバキは一人で、小さな山の麓にある屋敷を訪れた。表札には『寺田』とある。間違いなかった。
懐かしい顔に、迎えに出てきた和服姿の老婦人は、絹のハンカチで目元を拭った。 「佐伯君…… あら失礼、今はもう、サバキ君でした。 主人なら山に居りますので。」
庭から、枕木が勾配に道を開けている。閻魔を担いで登り始めるサバキ。暫く竹藪が続いた。一瞬、何者かの気配を感じたが、正確な居場所は解らない。次の瞬間には、鋭利な竹串が猛スピードでサバキの顔面を狙った。
咄嗟に身を伏せ、身体のある場所に次々と突き刺さる竹串を避ける。堪らず閻魔で数本を薙払った瞬間、背中に竹槍の切っ先が当たる感触がした。
「未熟者……」
118名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 00:22:39 ID:PG9Q1pbfO
既に弦を見せていた変身鬼弦を弾き、身体を包む炎で竹槍を燃やす裁鬼。振り返ると、白い短髪に顎髭を蓄えた老人が、燃えた竹槍を捨てていた。
「お久しぶりです…… テンキ師匠。」 言い終わるなり、裁鬼は変身鬼弦を老人に投げた。 「御無礼は承知の上…… 今一度、御手合せを!!」
老人は鬼弦を左手首に装着する。 「……『禁じられた力』を忘れ、必要とするならば、いつでも来るが良い。」 「……12年前、貴方はその言葉を我々に下さいました。」
「良かろう。 じゃが、この身体に残された『1時間』を使う前に、貴様が倒れれば、屍を土に還すだけじゃぞ。」 鬼弦を弾くと、白髪は黒く戻り、皺が消え、顎髭は口の周囲で不精髭となり、いつの間にか金色の角を持つ、裁鬼と同型の鬼が立っていた。
サバキとソウキの師匠、天鬼は、特殊な呪術を用いて肉体の若さを甦らせる事が出来る。短時間の浮空で裁鬼から奪った閻魔を、地面に突き刺し炎の気を走らせる。忽ち裁鬼の身体は、黄金の炎に包まれた。
跳躍し、地面から逃れようとする裁鬼の更に上、閻魔を振りかぶった天鬼が待ち構え、唐竹に振り下ろした斬撃で、裁鬼を地に叩きつけた。 「情けない…… 10年前とは動きが違いすぎる。 ……その程度で慢心しおって。」
起き上がろうとする裁鬼の首筋に刄を当てながら、天鬼は呟いた。 「今の貴様など、『時間』を使うに価せん。 ……死ね。」
閻魔が、振り下ろされた。
119名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 01:20:17 ID:gaIDHMoE0
やばい かなり面白い!続き楽しみにしてますよー
120名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 11:01:18 ID:PG9Q1pbfO
十八之巻「限られる刻」

天鬼が振り下ろした閻魔は軌道を変え、音撃震をセットする腹の部分が裁鬼の顔を横に殴り付けた。 「10年前…… お前が初めて鬼として戦って負けた時、俺の処に来て、何て言った?」
顔の変身を解くテンキだが、その素顔はまだ30代のままだった。 「……絶対に、人の生命を守れる様になりたいです……」 「何だ、ちゃんと覚えてるじゃねえか! ……で!?」
言葉遣いまでも若くさせ、テンキは裁鬼の首を掴んだ。 「ちゃんと教えてやっただろうが! 『黒い炎』をよ! ……最後に使ったのは、いつだ?」 「5年……前です。 ノツゴに……」
「よく生きていられたな。 で、バケガニやウブメみたいな雑魚が異常に出てきて焦った、そんなところだろ!? 甘いんだよお前は!!」 突き飛ばされ、顔の変身を解かれたサバキに馬乗りし、その顔面を容赦無く殴り続けた。
「すっかり腑抜けになりやがって…… 憎しみがあの『時間』を覚醒させるって言ってやっただろうが! 若い時のがむしゃらな気持ちの方が、まだ素直だったぜ!!」
立ち上がったテンキは変身を解くと同時に、呪術で落ち葉を自らの身体に纏わせて山吹色の袴にし、老人に戻った。 「寝床と夕食を用意させる。 今宵、再び貴様の力を見せろ。」
「では師匠……」 「若くなったのは内密にな。 さくらのヤツに妬かれると堪らんわぃ。」
121名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 11:32:42 ID:PG9Q1pbfO
「10年前……貴方の稽古を終えてから、あの人、いきなり引っ越すと言い出しまして…… 誰にも知らせるなと念押しされて、お手紙の一枚も許されなかったの。」 テンキの妻は茶道に心得があり、サバキは夕食までに美味い茶を堪能した。
「お弟子さんは?」 「ええ、才能のある若いヤツを育ててますが、色々ありまして……」 「そうですか。 まだ、鬼には……」 「変身は出会った時から出来ましたが、僕の奢りから道を断たせてしまいました。」
家族の事、ソウキの事等を聞かれるままに話し、落ち着いたかしらと片付けるテンキの妻に礼を言った。 「護るものが多くて大変でしょう。 ですが、佐伯君らしいと私は思いますよ。 ……あらまた。ごめんなさい。」
一人になると、サバキは座禅を組んだ。言葉を口に乗せる仕事ではない。倒す為に憎しみを必要とする時もある。
20代に入ったばかりのあの頃は、敗北の悔しさを魔化魍への憎しみに変えて『黒い炎』を使える『時間』を使い熟せた。だが今は、護る為に戦い、憎しみは必要で無くなっていた。今、再び『時間』を使う為に必要な心とは……
山菜料理を中心とした寺田家の食卓で、テンキは久々に酒を呑んだ。 「少し入れておけ。 切っ掛けに成るやも知れん。」 サバキも杯を手に取った。
食休みの後、再び竹藪に入る二人。篝火が、変身し終えた鬼を照らした。
122名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 12:02:26 ID:PG9Q1pbfO
閻魔は二人の中間距離に、極楽をセットして立っている。火の粉が弾け、天鬼と裁鬼は同時に駆け出した。
天鬼の身体が、暗闇に消える様に漆黒に覆われた。 「大サービスだ…… 残った『時間』、全部使ってやるからくたばるなよ!」
飛び込む様に閻魔を先に掴んだ裁鬼の身体が、下からの衝撃で宙に浮く。鞭の様な変幻自在の刄が、地に叩きつけられるまでのコンマ数秒間に、裁鬼の身体を12箇所刻んでいた。 「オラ、立てよ!」
拳、脚、刄の連続攻撃は、一気に裁鬼の体力を削っていった。 「これだけやられても憎しみの一つも思い出さないのかよ……」 倒れる裁鬼の頭上の暗闇から、若い天鬼の声が呟いた。
憎しみは必要なのか。何の為に。戦う為に鬼となり、強くなる為に『時間』を使う。サバキが戦う理由は―― 生命を護る。 「終わりか? 馬鹿弟子。」
勝ち抜く事は護り抜く事。天鬼は、伸縮自在の刄を裁鬼の頭に放った。勝つ為に…… 護る為に…… 今、裁鬼の中で2つが繋がった。
閻魔が刄を弾き返し、立ち上がった裁鬼の身体が黒く発火する。 「なんだなんだ! 結局答えは解ってたんじゃねぇか!!」 天鬼も、再び黒い炎に包まれる。
「師匠…… 俺は護る力で攻めます! 攻める力で護ります!!」 「そんだけ言えりゃ上等だ。 ホレ、掛かってこい。 どうせ後『30分』だ。」
2つの炎が、一直線に激突した。
123名無しより愛をこめて:2005/12/02(金) 12:24:06 ID:PG9Q1pbfO
一匹の蛙の声だけが、竹藪を通り過ぎる様に微かに聞こえた。テンキは若い肉体のまま、大の字になって満月を仰ぐ。立ち尽くすサバキが、師匠…… と、力無く閻魔を落とした。
「気にするな…… 生きてるよ…… まあ、もう鬼の力は空っぽだがな。」 「……ありがとうございます。」 「いや、憎しみの力以外で、『あの姿』に成れるって事が解ったんだ。 最後に良いモン観れたよ。」
サバキの肩を借り、屋敷に歩きながらテンキは言った。 「後『19時間』だと覚えとけ。 どの道、禁じ手の切り札にゃ違いねぇ。」 「はい。」 「連続して使うのも駄目だ。 疲労の度合いが違う。」
「解っています…… 俺は、護る事を第一に鬼をやってますから。」 「優等生が…… それじゃ、その優等生に背中でも流してもらうかな。」 「はい!」
翌日、今度来る時は弟子と家族を連れてくると約束したサバキの車が見えなくなるまで、テンキの妻は門に立っていた。次はいつ来てくれますかねと、庭にいた夫に聞く。
「……10分ぐらいじゃろぅ。」 門の方から車のエンジン音が聞こえる。テンキの手には、竹藪に忘れていった閻魔が握られていた。 「馬鹿弟子が……」
124名無しより愛をこめて:2005/12/03(土) 10:49:31 ID:iOga5Pc0O
十九之巻「滅ぼす修羅」

夏の日差しが照りつける佐伯家の庭で、サバキは石割と洗車に汗を流していた。ワックスを掛け終わり、よく冷えた麦茶で一服している時に、たちばなからの着信がサバキの携帯を鳴らした。
今年3回目となる吉野での会議に出掛けているおやっさんの代わりに、長女の香須実が、魔化魍発生の報を伝えた。種類までは調べ切れていないが、『金』である妹の日菜佳が絞り込めたら追而伝えるという。
詳しい場所を聞くサバキの経験からすれば、山間の水辺はカッパが発生し易い。音撃棒と音撃鼓を、まだ乾いていない愛車に乗せ、石割の運転で現場に近い『歩』の処へ急いだ。
途中、目撃情報がたちばなに届き、どうやらテングだという事が判ったらしい。 「厄介だな……」 テングは初めての石割が、強いんですかと訊く。 「個体としてもかなりの戦闘力だが、場所によっちゃ数体が固まってる。」
折り悪く、現場は夏に家族連れが賑わうキャンプ場から5キロと離れていなかった。石割は待機していた『歩』の町内会長と共に、非難誘導に当たり、サバキは閻魔を担いでディスクを展開させながら、魔物の領域へ森を駆け抜けた。
125名無しより愛をこめて:2005/12/03(土) 11:15:07 ID:iOga5Pc0O
テングは、半稀種とも言える等身大の魔化魍で、童子達はおらず、成体のまま自然発生するもの、邪気と山の精気が、異常な形で混合した場所に紛れ込んだ人間が変異したものがある。
何れにせよ、神隠しに逢ったかの様に生きた人間を襲い、樹木の葉に隠れた上で食らう。サバキは頭上の気配に驚いた。 「……おいおい。」 20もの両眼が、獲物を見つめていた。
「バケガニ、ウブメ…… 師匠、雑魚ばかりじゃないです。」 独り言を終えると変身鬼弦を弾き、次々に飛び降りてくるテングに身構えた。大きさも150センチ強のものから2、5メートルを越す巨体までいる。
早くも集団として統率されているのか、一番背の高い個体の手振りに依り、比較的小柄な6体が一斉に裁鬼に飛び掛かる。夏の魔化魍と違い分裂しないが、知能が高いので、長期戦は不利にしかならない。
早くも展開した閻魔を掻き鳴らし、清めの音で動きを鈍らせると同士に、音を纏う刄に力を込め、横に薙払い2体、袈裟掛けに2体、槍の様に投げて2体を貫いた。
さすがにテング達も距離を強引に詰めて来ようとはしない。しかし裁鬼の閻魔も、巨体テングの背後にある木の幹に突き刺さってしまった。
「仕方ないな…… 使うか!!」
裁鬼が気を込めると、黒い炎がその身を包んだ。
126名無しより愛をこめて:2005/12/03(土) 11:47:20 ID:iOga5Pc0O
燃え盛る黒炎を、気合一閃掻き消す。 「ウォリャ――ッ!!」 その場にいたテング達の顔には、計り知れない恐怖が浮かび上がっていた。
肩、肘、膝、踵に、空を向いて、赤い三日月型の角が生え、額の鬼石からは5本目の角が、頭の形に沿ってカーブを描く。
「『裁鬼・修羅』!!」
両肘の角が下向きに生え変わり、更に1メートル程に伸びる。テングの密集地帯に飛び込んで行き、刄の様な角で次々と切り刻んでゆく。固まって逃げ出した3体を、10メートル以上伸びた踵の刄を伴う回し蹴りが切り裂く。
樹上に逃げる一体を、伸びた肩の角が貫き、ゴムの様な弾力性でそのまま地面に叩きつける。軽くジャンプして閻魔を右手に戻すと、地面に突き刺し、音撃震を掻き鳴らす。
「『修羅音撃! 地動滅震!!』」 倒れている13体のテング達に、地面を激しく揺らす程の清めの音が波動と成って伝わり、次々とその身体を粉砕していく。
跳躍して空中に逃げた最後の一体は、指揮していた巨体だった。閻魔を引き抜き、黒い炎を刀身に込めると、展開した刄から漆黒の火柱が吹き出た。 「『修羅音撃! 天断滅裁!!』」
振り下ろされた清めの黒炎に焼き尽くされ、テングは数片の枯葉と成り舞い散った。修羅を解き、次いで顔の変身を解くサバキは、20分か…… と呟いた。
非難誘導を終えた石割が、地震大丈夫でしたか? と駆け寄ってきた。笑って誤魔化し帰ろうとすると、裁鬼・修羅の起こした地震で崩れた砂地が、磨き上げた愛車を川に横転させていた。
127名無しより愛をこめて:2005/12/04(日) 00:43:09 ID:v55s363a0
シリアスな展開でも最期のちょっとしたお茶目なところがあるとほっとする。
職人さんすごいな。
128名無しより愛をこめて:2005/12/04(日) 11:28:00 ID:Oql67bkhO
二十之巻「裂かれる距離」

9月に入っても現われ続ける夏の種類に加え、巨大な魔化魍の発生も例年を大幅に上回っていた。全国で既に170体の魔物を土に還してきた122名の鬼達も、程度こそ違えど、皆緊張と激戦に疲労を隠せない。
それでも関東支部では、3種類の音撃武器を扱えるサバキとヒビキが確実に勝利して来た為、他の地方で起きた出動シフトの見直しや、敗北した鬼に代わり緊急出動する事は無かった。
3週間の非番、2週間目を向かえるサバキは、久しぶりに佐伯家を巣立った亮太と篤志を呼び、海水浴を計画していた。
今年二十歳になる亮太は、町工場に住み込みで働きながら定時制の高校を卒業し、今は3つの作業を任されている。篤志は寿司屋の見習い。働いて一年も経たないが、この正月、家族に振る舞った海苔巻きは絶品だった。
次の日曜に出掛ける事が決まり、石割も呼ばれた。日頃から鍛練や出動に備え、家族との外出が少ない佐伯栄に、親子水入らずで楽しんで来て下さいと遠慮したが、子供達――特に彩子が、 「石割さんも、もう家族だってば!」 と、半ば強引に参加を決めてしまった。
今年、サバキに高校進学を願い入れ、 「進みたい道を進めばいいさ」 と許可され、猛勉強を続けてきた彼女だが、夏だけはせめて15歳の記念になる思い出を作りたかった。
海水浴当日の早朝。サバキの携帯が鳴り響いた。
129名無しより愛をこめて:2005/12/04(日) 11:56:03 ID:Oql67bkhO
一昨日、関東十鬼の一人であるダンキが魔化魍発生の報に出動したが、昨日の昼から連絡が途絶え、行方不明だとおやっさんは言う。ヒビキは出張っており、まだ魔化魍の種類も特定出来る情報も無いので、サバキに出動を頼みたいと言ってきた。
「解りました。 すぐに向います。」 「すまないね。」 あまり眠れなかった彩子は、庭から聞えてきた車のエンジン音に飛び起きた。カーテンを捲ると、石割が運転席に乗り込むところだった。
「サカエさん! ……どこ行くの?」 パジャマのまま階段を駆け降り、玄関を出ようとするサバキに訊いた。 「彩子……」 「今日はみんなで、海に行くんでしょ!?」 彩子の叫び声を聴き、石割が慌てて開けたドアがサバキの頭に炸裂する。 「アウッ!」
「彩子ちゃん…… サカエさん、急に仕事が入っちゃったんだ。 人が行方不明になってる。 山に詳しいサカエさんの力が、どうしても必要なんだ……」
「……そんなっ!! お兄ちゃん達、次いつ休めるか解んないじゃない…… あたしだって…… もう今年は……」 そう言い、顔を両手で押さえながら、部屋に戻ってしまった。 「彩子……」
数分後、遠ざかってゆくエンジン音が聞えなくなると、彩子は枕に顔を埋め、静かに泣いた。
130名無しより愛をこめて:2005/12/04(日) 12:30:01 ID:Oql67bkhO
山に続く田舎道には、水田に良く育った稲が朝の風に吹かれ、緑の波が揺れていた。 「彩子ちゃん…… 可哀想ですね。」 「ああ…… だが仕方無いんだな。」 「……仕方無いですね。」
山に入った二人は、いきなりバッテリー切れの瑠璃狼を見つけた。閻魔を担ぐサバキと、鼓と管の入ったバックを背負う石割が、木の根元に小用を足していたダンキを見つけたのは、一時間後だった。
「あれっ? サバキさんと石割さん!? どうしたのこんなトコで!?」 暫く間を置いて、石割が今朝の電話を説明したら、ダンキは気不味そうな顔で頭を掻いた。
探索ポイントの入力を忘れたまま展開した45枚のディスクは戻らず、携帯は電池切れ。仕方無くディスクを回収しながら魔化魍を自力で探索していたと言う。「でも昨日、バケネコの童子倒したからさ。今日には山を降りれるかな〜って。」
呆れた二人は、ダンキの背後の茂みが揺れた事に気付いた。 「来るぞ!」 「えっ!?」 振り向いたダンキにバケネコが飛び掛かり、絡み合って地面を転がる。次々と現われるバケネコに、裁鬼は閻魔で応戦する。
「ドゥリャッ!」 変身を終えた弾鬼も、ベルトから音撃棒『那智黒』を外し、バケネコに立ち向かう。
右手の治療に変身を封じられている石割は、持ち前の機敏性と左のフリッカージャブ、回し蹴りで凌ぐが、確実に獲物を仕留めようとする魔物に囲まれてしまった。 「石割っ!!」 迷う時間は無い。裁鬼は黒い炎に身を包んだ。
131名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 15:03:50 ID:2IOk63PfO
二十一の巻「誓う夢」

石割を囲んだバケネコの輪が、一斉に縮小する。躊躇う事なく右手を握り、構える石割だが、突然バケネコの壁が真横に吹き飛ばされた。
「さ…… 裁鬼さん!?」 石割が初めて見る裁鬼・修羅が、先程魔物達を薙払った両肘の刄を元の長さに戻しながら、逃げ出すバケネコの方を向く。 「こんな奴等に無茶するな。 追うぞ!」 弾鬼と格闘していた1体は、既に音撃打『破砕細石』により倒されている。
木々の間を駆け抜け、跳躍を繰り返しながら逃走するバケネコ達だが、木の枝をターザンの様に伝い、飛び降りる弾鬼に首を掴まれた1体、裁鬼・修羅に刄状の角で串刺しになった4体が、瞬く間に倒される。
「畜生! 見失った!」 音撃鼓『御影盤』をバックルに戻しながら、顔の変身を解くダンキの肩を、サバキが叩く。 「まぁ、童子は倒してるし、分裂も終わってるんだ。 態勢を立て直すぞ。」
ダンキとの合同ベースで、石割は電池切れのディスク達をチャージしながら、サバキに先程の姿について訊ねた。 「ああ。 『修羅』の事か。 まあ、お前と戦ってた時は一回も見せてなかったからな。」
その言葉に、リスクが有るんですか? と問う石割を、少し暗い顔で見ながらサバキは説明する。 「……使い続けると、『鬼』に成れなくなるんだ。」
132名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 15:28:45 ID:2IOk63PfO
「使い続けると、『修羅』に支配されて、気持ちの何処かが憎しみに満ちる。 そうなると、自分の中の鬼が、清めの音を殺してしまうんだ。」 更に、高温を発し続けて姿を保つ為、気温が低いと体力を奪われ易い事を付け加えた。
「だから、『修羅』でいられるのは一生で一日分、24時間が限界なんだ。それ以上は、自分の心に誤魔化しが効かんからな。」 話終えたサバキの前で、石割は頭を下げる。 「すみません! 僕の不用心で、大切な時間を使わせてしまって……」
気にするなと笑うサバキの携帯が鳴る。自宅から、妻の声が聞えてきた。彩子はまだ部屋から出て来ず、仕方なく長男の亮太が弟達を海に連れていったらしい。サバキには、帰ったら謝るよ、としか言えなかった。
借りたディスクを放ち終えたダンキが、昼食を用意している石割の隣に来てサバキ異変の事情を訊ねる。 「悪い事しちゃったな……」 暫く考えていたダンキは、石割に携帯を貸してくれと頼んだ。
午後2時。若草蛙の後継機、青磁蛙が、バケネコの泣き声を持ち帰って来た。音撃鼓を装備し終えたサバキとダンキが退治に向かい、石割はディスクを回収もある為、ベースに残る。
30分後、10枚目のディスクが戻ってきた時、石割の携帯にたちばなからの着信が光った。
133名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 16:08:22 ID:2IOk63PfO
赤と青の音撃鼓が、次々とバケネコを爆発させていく。最後に残った妖姫も、弾鬼の飛び蹴りで地に伏せたところを裁鬼の鬼爪に倒された。 「ふう。 お疲れッス。」 「ああ、終わったな。」
顔の変身を解くダンキが、大声を出す。 「やっと言い出せるよ! サバキさん、今夜浅草来ない?」 ダンキの提案を聞き終えたサバキは、笑顔で頭を下げた。
帰り支度を終えた石割も、先程の電話で段取りを心得ていた。ダンキの車に乗ろうとしたところを、着替えを済ませたサバキに止められる。 「お前がウチに行ってくれ。その方が良いんだ。」
夕方、佐伯家に一人戻った石割は、海水浴から帰ってきた子供達とサバキの妻に、今夜の『作戦』を説明した。一番乗り気だったのは、明日仕事を控え、運転に疲れている筈の亮太だった。
半日近く開かれていないドアをノックする音に続き、彩子は石割の声を聞いた。「彩子ちゃん……起きてる? 今朝はごめんね。 家族みんなで、海水浴行きたかったよね……」
まだパジャマのまま、膝を抱えて蹲りながら、彩子は黙って聞いていた。「もう暗くなるから、海には行けないけど…… 彩子ちゃんさえ良かったら、今晩お祭りに行かないかな? もうお母さん達も出掛けてるんだ。」
134名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 16:33:57 ID:2IOk63PfO
サバキの愛車の助手席で、彩子は石割と二人だけのドライブを楽しんでいた。日頃父親の同僚が世話になっている甘味処がある界隈で、数日前の台風で延期になっていた祭りが今夜、開かれるという。
臨時の仕事を終えたばかりだというのに、自分の我儘を叶えて貰った彩子は、石割に謝り続けた。「気にしなくてもいいよ。サカエさんだって、家族みんなで遊びたいと思ってるんだし。」
甘味処『たちばな』に着いた二人は、店主と娘姉妹に、既に皆が神社に向かっている事を知らされた。後を追おうとする彩子を美人の姉が呼び止め、活発な妹が奥に案内する。残った男二人は、時間潰しに茶を飲む。
「まさかサバキが、子供達と約束してたなんてね。本当にごめんね。ダンキにはキツぅく、言っておいたから。」 「いえ。ダンキさんのお陰で、サバキさんも格好良いところを子供達に見せてあげられるんですから。」
日菜佳から借りた浴衣の着付けを終え、石割から綺麗だよと言われた彩子は、耳まで赤くしながら神社に向かう。祭りの熱気が漂う中、石割は静かに語る。
「サカエさん、家に帰らない事が多い仕事だけど、いつも家族の事を思ってるんだよ。人が慣れていない、危ない山道を歩いて、調べて、人の命を守る為に、一生懸命働いてる。」
祭り囃子が静かに、ゆっくりと近づいてくる。
135長くなってごめんなさい:2005/12/05(月) 16:57:01 ID:2IOk63PfO
「サカエさん、前に僕に教えてくれたんだ。人の命を守れるなら、俺はいくらでも、傷付いても構わないって。」「……そんなの、自分勝手じゃないのかな?」彩子が、ぽつりと呟く。
「……自分勝手な人間なら、絶対に自分が傷付く事はしないと思うよ。守りたいものがあるから、守るための盾になれるんだ。サカエさんにとって、それは彩子ちゃん達なんだよ。」
神社に着いた彩子の瞳に、毎年除夜の鐘を打っている日高さんと櫓の上で、太鼓を演奏している父親が飛び込んできた。「サカエさん……」
「今年は危ない場所にたくさん行ってるし、今日みたいな事もまだあるかもしれない。でも、サカエさんは絶対に、家に帰ってくるからさ。いつも通り、お帰りなさいって、笑ってあげて欲しいんだ。」
石割は、少し待っててねと何処かに行っている間、彩子は楽しそうなサバキの笑顔を見つめていた。サバキは娘に気付き、笑顔を向けて両手の撥を頭上で叩いた。
戻ってきた石割の手には、合格祈願のお守りがあった。「僕は、サカエさんが無事に家に帰れるよう、サポートするって約束する。だから彩子ちゃんも、受験頑張ってね。」
お守りを渡される手の暖かさが、父親と同じだった。彩子は、はい!と答え、石割の手を繋いだまま、父親のところに急いだ。
その頃たちばなでは、ダンキがペナルティとして、祭りの参加者に振る舞うきびだんご作りに悪戦苦闘していた。「俺も太鼓叩きたい〜!」
136名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 17:55:28 ID:o3auCFTW0
下がりすぎなのであげとく
137名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 18:00:08 ID:Yy0ILaEW0
良スレだよね。
職人さん、毎回有難う。
マジで、この職人さんに本編の脚本書いて欲しくなってきた。
引き続き期待してます。
138名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 22:28:37 ID:rvpOyJA30
今日、見つけて一気に読んだ。これは見事な外伝だね。職人さんの活躍に期待するばかりです。がんばってください。
何回も目頭が熱くなったよ。本当にありがとう。
139名無しより愛をこめて:2005/12/05(月) 23:31:00 ID:dB1Wqq+R0
裁鬼さん石割君のストーリーに他の鬼を絶妙に絡めてくる所がニクい。
弾鬼さん無茶苦茶いい人だなぁw
140名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 01:55:10 ID:cPRnduz60
上にもあったけど、だれかまとめサイト作りません(他力でスマン)?
イラスト入りで。

ところで威吹鬼・轟鬼と石割は世代がかなり近いよね?
高校時代(?)の威吹鬼とか警官時代の轟鬼とか
ちょろっと出たら更に面白味が増すかも。
141皆さんありがとうございます。:2005/12/06(火) 01:58:16 ID:etRDAhzNO
>>140さん

貴方は鋭い。
142名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 10:34:35 ID:yYWC1kZr0
すれ違いですが、昨日トドロキとザンキが出会った頃の話が頭の中でモヤモヤ
してきたので実際に書いてみると難しい・・・。
ここは最初から読ませてもらっていますが、
「やっぱ一流だよな職人さんは、俺はまだ足元にもおよばねぇや」
を体感しておりますです。
143名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 11:19:48 ID:etRDAhzNO
二十二之巻「封じる禁じ手」

10月の中頃から肌寒さは一気に増し、鬼達も魔化魍退治に防寒具を身に付け始めた。一昨年の様に秋から魔化魍が姿を消す事はなく、11月に入っても日本全国で鬼達の戦いは続いていた。
「寒くなってきたな。」オオヌエを追っているサバキが、白い息を吐く。気温の低下――それは、裁鬼・修羅への変身が困難となる要因だった。
「冬、ですね。」火を絶やさぬよう、薪を集めて戻ってきた石割も、以前話された修羅の危険性を忘れていない。コーヒーをサバキに手渡す。「まあ、そう難しい顔するな。大丈夫だよ。」
とは言っても、サバキ自身もオオヌエの機敏性には注意が必要だった。今年の夏に北海道でツチノコに代わって発生し、弦を手にするイテツキが病院送りとなった例もある様に、本来は管を用いて倒す。
短い夕暮れが始まる頃、新しく録画機能を備えた緑大猿が、木の影に蠢く巨体を発見した。武器交換の為、閻魔を担がせた石割に「離れていろよ。」と警告し、音撃管を手にサバキは森の中へ入っていった。
「鬼だ!」「鬼は嫌い、鬼は不味い!」「肉の柔かい子供が美味い!」「鬼は外!」童子と姫が道を塞ぎ、甲高い声を連発していた。「節分はまだ先だ。」サバキは鬼弦を弾き、炎に包まれながら一息で距離を詰めた。
144名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 11:48:21 ID:etRDAhzNO
怪童子、妖姫となった魔物達は、両手の爪と素早い動きでヒット&アウェイを繰り出してきた。飛び掛かってきた妖姫の爪を、こちらも鬼爪を出して払い、バランスを崩したところに音撃管『夕凪』を撃つ。
圧縮させた空気に少量の液体燃料を混ぜ、発射時に着火された火炎弾が、妖姫の動きを封じる。振りかざした鬼爪でその身体を切り裂くと、激昂した怪童子がなりふり構わず掴み掛かってきた。
離れて見守る石割の、「後ろです!」と叫びを聞いた裁鬼は、振り返ると同時に引き金を引く。3発の火炎弾に左手を破壊され、堪らず逃げ出す怪童子を、木々を横切る巨体が捕食した。
「ああ……子供よ……」蛇の首に付いた怪鳥の頭が、怪童子を咀嚼し飲み込む。「石割!」オオヌエを前に、裁鬼の指示通り、左手に持つ茜鷹のボックスを開ける。火炎弾で魔物を牽制した裁鬼が鬼弦を弾いた。
探索に使わず温存しておいた15体の鷹が一斉に飛び立ち、刄の様な翼でオオヌエを囲む。ダメージは与えられなくとも、素早い動きを封じる事は成功した。裁鬼は、10発の鬼石を打ち込み、音撃鳴『つむじ風』を取り出した。
「音撃射! 『獄嵐空静』!!」 清めの音が、茜鷹に囲まれるオオヌエの体内で、鬼石を媒体に炸裂する。正にもう一息という瞬間、最後の力を爆発させた巨体が、裁鬼に飛び掛かる!
「裁鬼さん!」魔化魍の真横に回り込んでいた石割が、駆けながら閻魔を槍の様に、オオヌエの腹へ投げつけた。
145名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 12:19:02 ID:etRDAhzNO
突き刺さる閻魔の衝撃にオオヌエは絶叫する。その声ごと裁鬼の音撃が、巨体に止めを刺して土に還した。「ナイスサポート。助かったよ。」笑顔を見せるサバキに、久しぶりに戦闘で役立てた石割も笑う。この戦いが、今年最後の出動だった。
昨年末の反省から、今年の忘年会は見送りとなった。秋からヒビキのサポーターに就き、『飛車』と成った香須実や新人のショウキも、楽しみにしていたが仕方無く、年末年始も鬼達は準待機を命じられた。
世間が新しい世紀に騒ぐ間も緊張を解かない鬼達だったが、杞憂に終わった。1月が終わっても魔化魍発生の兆しは見えず、おやっさんは頭を悩ませながらも、吉野へ会議に出掛けていった。
佐伯家では、緊張が続いていた。彩子の高校受験が間近に迫ってきている。妙に張り詰めた空気に耐えられず、サバキは石割の治療に付き添い、間島医院を訪れていた。
「ほぉ。娘さん、明日受験かい。」 石割の右拳を診終えた老医は、再び修羅を使うサバキを前に聴診器を畳む。「ええ。何でも、推薦入試というらしいです。」「ははぁ。見込み有るヤツを、手早く入れるっちゅうのは、高校も猛士も同じかぃ。」
談笑が満ちる診察室で、老医は問題無し、後『18時間30分』、申告通り使えるわぃと膝を叩いた。
146名無しより愛をこめて:2005/12/06(火) 12:49:07 ID:etRDAhzNO
「どうも学校ってのは苦手なんだよな。あ、運動会なら楽しいんだけどさ。」推薦入試当日の朝、石割に送って貰う彩子は、父親の言葉にリラックスした気持ちで助手席に揺られていた。
「僕もサカエさんも、高校行ってないからアドバイスは出来ないけど、頑張ってね。」その言葉に安心したのか、彩子は石割に合格祝いの約束を交わした。「えっ。僕ならいつでもOKだよ。」
作文試験の中、彩子は、自分が何時に無く浮かれて発した言葉を思い出し、重圧に固まってしまった。緊張で消しゴムが床に音無く零れる。試験官の教師達を見るが、しかし声が出ない。
気付くと消しゴムは机の上に戻っていた。何時の間にと隣の席を見ると、整った顔をした男子受験生が、右手の親指人差し指でL字を作って笑い、再び作文に目を向けた。
何処か父や石割と似た笑顔に身体の固まりが抜け、制服の内ポケットに忍ばせた石割からのお守りに表から手を当て、一つ、深呼吸した。
10日後。夜の佐伯家は合格祝いのパーティーで賑やかだった。おめでとう!と、何故かヒビキ、ダンキ、ショウキまで参加する中、石割は彩子に、入試の朝交わした、合格祝いの約束として、デートの事を訊いた。
「デート!?」祝い酒に酔う父親達に揉み苦茶にされる石割を見つめながら、あの時先走って、交際を申し込まなくて良かったと、彩子は胸を撫で下ろした。「焦る事、ないよね……」
147名無しより愛をこめて:2005/12/07(水) 22:30:38 ID:Hr717vmyO
二十三之巻「気付く風」

7月。たちばなに集まった非番組のサバキ達は、正式に配属されたイブキを紹介された。しかし年10回以上も立花家を訪れている宗家和泉の次男坊に、鬼達は軽い返事を返すだけだった。
「まあ、実践経験も然程有る訳じゃないので、暫くはショウキやフブキ達と行動して貰おうと思ってるんだけど。いいかな?」おやっさんの言葉に快く返事するショウキ。そういやウチの娘と同じ学校だよな、とサバキが笑う。
「ええ。同じクラスです。結構可愛いですよね。彩子ちゃん。」ほぉ…とダンキ達が沈黙する中、サバキが咳払いする。「ま、僕は香須実さん一筋ですけど。」おやっさんが咳払いする。
明日から出番となる鬼達が解散した後、サバキ、石割、ヒビキが残された。「一応、い……本部長の子供だけあって、太鼓と弦の訓練もされてるんだけどね。二人が実践する時、イブキも連れて行って貰いたいんだ。」
足を引っ張るなよとヒビキが笑い、弦は度胸がいるぞとサバキも続く。「はい。鬼として頑張りますので、宜しくお願いします。」
真に受けるイブキに、おいおい冗談だよと慌ててフォローを入れるベテラン達を、おやっさんと石割は笑いながら見ていた。
一ヵ月後、ウブメ退治から帰ってきたショウキが、おやっさんに猛抗議していた。「ヒドイですよ!童子も姫もウブメも、あっという間に倒しちゃうんですもん! 僕後ろで見てただけっスよ!? 折角デート断ったのに!!」
まあまあ落ち着いてと宥めるおやっさんに庇われながら、すみません、とイブキは笑いながら頭を下げた。
148名無しより愛をこめて:2005/12/07(水) 22:54:51 ID:Hr717vmyO
イブキの顔から笑顔が消え始めたのは、それから一月も経たない夕方だった。バスケットの試合で遅くなった彩子を迎えに来た石割は、一人校門を出てくるイブキの頬に、殴られた後を見つけた。
運転席を降り、声を掛けるが、「何でもありませんから。」と作り笑いを返された。元ボクサーの眼は誤魔化されない。詰め寄ると、練習の参加日数が足りないと、吹奏楽部の先輩達に叱られたらしい。
鬼の活動や鍛練に夏休みの殆どを費やしていながらも、流石は宗家の鬼。顧問から次の大会のフルートを任されたのが、2年生の癪に触ったらしい。
しかもその演奏姿に、女子の黄色い声が止まないとなっては否が応でも男子の気を妬く。ま、気にしていませんからと、そのままイブキは帰ってしまった。
「和泉クン? 勉強出来るしスポーツ万能だし、吹奏楽部のプリンスだって有名だよ。」佐伯家のリビングで、彩子は答えた。石割の話を聞いたサバキは、頭を悩ませる。
9月の平日。青い音撃弦を携えてバケガニ退治に向かうイブキを監督するサバキは、黙々と石割の探索を手伝う姿にある決心をする。
無名の音撃斬が炸裂した後、深呼吸した威吹鬼の頭を鷲掴みにして、サバキは言った。「今日は俺ん家泊まっていけ。」
149名無しより愛をこめて:2005/12/07(水) 23:18:36 ID:Hr717vmyO
前を隠しながら浴び湯するイブキに、サバキは質問する。「鬼に成った事、後悔してないか。」 いえ全然、と作る笑顔に、まるで子供の様に湯槽の飛沫を浴びせる。「無理するな。しなくて良いからさ。」
湯に浸かり並ぶ鬼達。石割はガレージから装備をサバキの部屋に移している。「思ったより楽しいんだろ。高校って。」 「……まあ。それなりに。」 だから作るなって!と、再び湯が飛ぶ。
「我慢するなよ。俺の見たところ、お前は良くやってるよ。管は勿論、弦も太鼓も無難にこなせる。無理しておやっさんの言葉通り、先輩に付いて行かなくて良いんだよ。行きたい時は、学校行け。」
でもそれじゃ、とイブキは顔を向ける。「僕は鬼ですから。」 「良いんだよ。若いんだからさ。青二才って言ってるんじゃない。折角受けた学校なんだ。俺やヒビキ達中卒にとっちゃ、楽しまなきゃ勿体ないんだよ。」
沈黙し、俯くイブキの頭を、優しく撫でるサバキ。 「甘えられる時に甘えとけ。もう鬼だから、とか、まだ見習いだから、とか気にするな。いつでも、『今』のお前がイブキであり、和泉伊織なんだからよ。自分を割り切るな。」
涙が零れ、湯に波紋が広がった。暫くは俺達ベテランに任せろと、流す背中が答える。 「ありがとうございます。」 「やっと笑ったな。」 2つの笑い声が響く風呂場に、石割が飛んできた。
「た、大変です!」 何があったと、素早く着替えて玄関に向かうサバキとイブキ。 『今日伊織クンがウチに来てるよ』 彩子が送信した一通のメールが、50人もの女子高生を佐伯家に突撃させた。
150名無しより愛をこめて:2005/12/07(水) 23:59:20 ID:tyl0kozz0
職人さん、ありがとう。いつも楽しませてもらってます。
話そのものが面白い上に、本編での不満が解消されるなんて…
「修羅」の設定もなるほど!だし、悩める若きエリートのイブキも
有り得そうで良かったです。

ただ一つ、無理せず書いてください。
151名無しより愛をこめて:2005/12/08(木) 01:07:15 ID:gBH85wIz0
職人さん、いつもありがと。
152名無しより愛をこめて:2005/12/08(木) 23:14:10 ID:ee4CUJPDO
もしかして彩子と日菜佳も同級生?
153名無しより愛をこめて:2005/12/08(木) 23:46:09 ID:Q+2AKn9y0
このスレと出会えた事を光栄に思う・・・
154名無しより愛をこめて:2005/12/09(金) 09:10:07 ID:byZwWinIO
二十四之巻「止まぬ豪雨」

魔化魍の身体に突き刺した閻魔に、裁鬼が極楽をセットして『閻魔裁き』を叩き込む。爆発したバケガニと共に、紅葉型に展開していた閻魔の音撃刃が4枚同時に砕け散った。半世紀以上も清めの音を震動させてきた透明な赤い破片は、冬の日差しに煌めいていた。
たちばなに到着したサバキと石割は運良く、店内で団子を頬張る滝澤みどりを見つけた。みどりは、10月から関東の『銀』を任されている。
案内された地下の開発室で、音撃刃を失った閻魔を前に、みどりは茶を啜る。「う〜ん、前にも言ったけど、閻魔はテンキさんのオーダーメイドで作られた物だから、正直、直せないの。」
開発者の消息を訊ねたが、20年前にこの世を去っていた。ザンキが持つ烈雷の刄なら加工次第で代用出来そうだと言うみどりに、サバキは閻魔を託し、店に戻った。
「寿命か……」鬼と成り12年、修業時代を含めれば15年間も戦いを共にした『相棒』の損傷に、サバキは溜息を一つした。おやっさんも、気付けば関東支部最年長となった鬼を目の前に、寂しげな笑顔を見せた。
初めて入る開発室に残った石割は、凄まじい光景を眼にしていた。工具や部品と閻魔、スナック菓子やチョコレートと口を往復する手が、瞬く間に音撃刃を取り付けていく。
「出来た! 修理完了!!」
155名無しより愛をこめて:2005/12/09(金) 10:00:08 ID:byZwWinIO
軽量化された閻魔を手に、サバキは笑顔を見せる。たちばなを後にする車を見送ったおやっさんは、店に戻って2、3度頷いた。「どうやら、私の思い過しだった様だ…… サバキに『引退』という言葉は似合わないからねぇ。」
冬の終わりから春先までに2回の出動があったが、新しい音撃刃は以前に勝る斬撃を見せた。5月。今度は石割の顔に最高の笑顔が訪れた。
「よぉ、辛抱したの。」 間島医院の診察室。老医は、右拳の完治を石割に告げる。鍛え直せば、再び変身出来るが、次に砕けた時は二度と治らないと、一応の警告をされた。
今までの四割程の力であれば、鍛えた筋肉が右ストレートの衝撃を吸収出来る。それ以上は鍛練次第だと教えられた。 「つまり、鍛えていれば、いつかは全力で打てるんですね!?」 
頷く老医に頭を下げる。鬼と成る事はともかく、サバキの戦闘サポートに復活出来る喜びに、石割はその日から右腕のトレーニングを再開した。
閻魔の新生、石割の復活。サバキ自身にも衰えは見られない。年々手強くなる魔化魍に不安を残しつつ、関東支部の誰もが、二人への期待を胸に秘めたまま、季節は夏を迎えた。
156名無しより愛をこめて:2005/12/09(金) 10:31:08 ID:byZwWinIO
ドロタボウの報に、サバキとヒビキは何年振りかの共闘をする事になった。「久し振りですけど、サバキさん。太鼓、大丈夫ですか?」 「誰に言ってるんだよ。管も太鼓も、まだまだ現役だぜ。」
冗談を交わす二人だが、戦況は気を抜けるものでは無かった。山奥の農村に残された自然が、ドロタボウの大量増殖を促していた。
既に石割が現地の『歩』と共に住民を非難させており、無人の村は静まり返っている。田園に並び立つ二人を、強い酸を含む泥の塊が襲った。「おでましか。行くぞヒビキ!」 「暴れましょうサバキさん!!」
変身を終えた鬼達を囲む水田から、100体近いドロタボウが現われる。黒と赤。二段変身の炎が、縦横無尽にドロタボウ達を襲った。
「『裁鬼・修羅』!!」 「『響鬼・紅!!』」 響鬼が放つ灼熱真紅の型が、魔化魍の壁を粉砕しながら童子と姫を目指す。分散するドロタボウ達を、裁鬼が音撃棒『炎夏』から漆黒の火炎弾を連射して仕留める。
「子供達……」「鬼から離れましょう……」 集団を大きく分断された童子達は、数体を引き連れて川の方へ逃げ出す。 「逃がすか!!」 響鬼が、田園に残った数十体を裁鬼に任せて後を追った。
黒い炎に焼かれ、乾き切った泥の山が次々と作られていく。残り10体程のドロタボウを前にする裁鬼・修羅の身体に、突然の雨が降り注ぐ。
「何っ!?」 焼いた泥の山に水分が染み渡ると、再びドロタボウとなり、裁鬼の周囲に50体が蘇った。
157名無しより愛をこめて:2005/12/10(土) 10:30:39 ID:d1rC6lcTO
二十五之巻「近づく未来」

裁鬼が修羅となり、既に1時間が経とうとしていた。いつの間にか空を覆っていた雷雲が、夕暮れの暗闇を一層濃くし、裁鬼・修羅とドロタボウ達に激しい豪雨を浴びせる。 「マズいな……」
同じ頃、川原から常緑樹の林に逃げ込むドロタボウ達を全滅させた響鬼・紅も、紅の限界時間が迫り、童子と姫に焦りを隠せなかった。 「ヤバいな、こりゃ……」
響鬼は音撃棒の代わりに音角を手にし、ホルダーから外したディスクを起動させる。 「頑張ってくれよ!」 茜鷹、瑠璃狼、緑大猿が魔物に体当たりを仕掛ける。斬撃、噛付き、打撃に動きを封じられる童子達。
素早く駆け出した響鬼は、灼熱真紅の型を二体に叩き込んだ。爆散する童子達の破片が雨に弾き落とされる中、1時間が経過した響鬼・紅は、顔の変身を強制解除された。
村に戻ったヒビキは、肩や膝の角で巻き付けて捕獲したドロタボウを引き寄せ、一体ずつ音撃打で倒している裁鬼・修羅を発見した。 「裁鬼さん! 修羅なら『アレ』が有るでしょ!?」
ヒビキの言葉に返事もせず、再生したものも含め70体もの魔物を倒し切った音撃打は、『阿修羅災華の型』だった。修羅の活動時間は、1時間30分も消費されていた。
158名無しより愛をこめて:2005/12/10(土) 10:49:47 ID:d1rC6lcTO
「サバキさん、何でいつもの『アレ』、使わなかったんです? 地面に音撃鼓貼り付けるヤツ。」 帰り道、石割が運転する車の後部座席で、ヒビキは助手席に問い直した。 「『煉獄震裁の型』か。アレ使うと、地震起こしちまうだろ。」
裁鬼・修羅の最強音撃打は、地面にセットした音撃鼓『陽炎』を媒体に、半径500メートルに『灼熱真紅の型』並の清めの音を放つ。威力は凄まじいが、周囲に広がる衝撃波と地震が、今回の不用理由だった。
「村の家や、田畑が近かったからな。人を守れても暮らしを守れなかったら、どの道、悲しませる事になっちまうだろ。覚えとけ。」 笑うサバキだが、流石に疲労を隠せない。修羅の残り時間は17時間になっていた。
サバキとヒビキの共闘を以てしても辛勝を免れない今年の夏。おやっさんはシフトを見直し、夏の魔化魍には最低3体の鬼を出動させる事を決定した。幾分か出動日数が増えたものの、負傷者0のまま、関東支部は秋を迎えられた。
吉野の緊急会議から戻ってきたおやっさんとイブキは、関東の鬼達に臨時召集を発令した。
159名無しより愛をこめて:2005/12/10(土) 11:11:46 ID:d1rC6lcTO
去る9月、一人の鬼とその飛車が、魔化魍に殺された。 「一体、誰がやられたんです?」 サバキが皆を代表して訊ねると、おやっさんは一つ頷き、鬼の名を口にした。 「アカツキだ。 関西支部の暁鬼。」
「アカツキ!? 今のだと……7代目か。」 ザンキが組んだ腕をテーブルに乗せる。 「じゃあ、一緒に殺された飛車ってのは!」 バンキが、隣の席のフブキを見る。 「……奥さんね。」
ダンキが、「魔化魍の種類は?」と訊いた。おやっさんがオオヌエだと返す。管使いのショウキが、「確かに強いですけど、アカツキさん程の方がやられたなんて……」と俯く。
イブキが、娘を庇おうとしてやられたらしいと説明する。「その、アカツキの娘さんは?」ゴウキが身を乗り出す。今は宗家が保護しているが、本人は鬼の修業を続行したいと希望していると、おやっさんが言う。
「という訳で、同じ管使いで、しかも代々鬼となっている家系、つまり宗家のイブキが、弟子というかたちで育てていく事になりそうなんだ。」 
エイキがイブキに、「大変だぞ……」と呟く。既に一人前の鬼として目醒めているイブキは、「頑張ります。」とヒビキ達に笑顔を見せる。天美あきらがたちばなを訪れたのは、それから半月後だった。
160次回予告:2005/12/10(土) 11:16:53 ID:d1rC6lcTO
「痺れる戸田山」

>>142さんのもやもやに御応え出来るかは解りませんが、取り敢えずザンキ話です。
161名無しより愛をこめて:2005/12/10(土) 13:04:29 ID:5Hety/4x0
戸田山話、期待してます!

ところで“一番星”ショウキさんは、彼女がいたのね・・(二十三之巻「気付く風」)。
いや別にいいんですけどw
162名無しより愛をこめて:2005/12/10(土) 14:12:29 ID:86m+2o0M0
ついにあきらキタ〜〜
163142:2005/12/10(土) 14:25:02 ID:1wDPHkSy0
書き上げてから設定との整合性を検証…
戸田山がマカモウや鬼を知るきっかけになった「ある事件」が
(鬼から見れば)たいしたことが無いきっかけになってしまった・゚・(ノД`)・゚・。。
最初は当時の戸田山が知らない部分は伏せて書いていたので
回りくどいやら何やらで書いている方が訳がわからなくなってきた(泣)

↑のように書いて途中から書き方を変えたので更に変な事に・・・。
164142:2005/12/10(土) 17:13:41 ID:1wDPHkSy0
職人さんの書かれるストーリーを楽しみにしております。

そんなわけで名無しに戻りますm(__)m
165名無しより愛をこめて:2005/12/11(日) 11:11:32 ID:5TXdtqhwO
二十六之巻「痺れる戸田山」

たちばなの地下。イブキとおやっさんからあきらを紹介されたサバキと石割、ザンキ、フブキは、華奢な身体に似つかわぬ冷めた瞳に、刹那言葉を失った。
「女性の鬼として、手助け出来る事が有ったら何でも言ってね。」 フブキが差し出す手に頭を下げるだけのあきらは、「事務局長。」とおやっさんに向き、猛士データベースの更新が有ったかと訊ねた。
「いや…… 今月の頭に、東北支部のデータが送られてからは、まだこれといってされてないね。」 「そうですか。」 淡々と返事するあきらは、鬼達や石割が沈黙する程の威圧的な気を纏っていた。
「どう思う? あの目。」 サバキがザンキに聞く。あきらは、イブキに連れられて、みどりが居る開発室へ挨拶に行っている。 「……似てるな、アカツキと。 ……それから、シュキにもな。」
おやっさんからウブメが出たと知らされたフブキは、「恋も鬼も焦らずよ。」 と残して出動していった。「……恐らく、物心ついた時から、魔化魍を倒す事だけを教えられてきたんだろう。」
若いダンキ達ならまだしも、サバキ達ベテランにとって、代々アカツキを名乗る天美家の鬼は、禁忌も辞さぬ戦い方で異端視されて当然だった。近々鬼払いの特別対象に当たるのではと警戒した矢先の死に、弔う鬼は少なかった。
「まあ、だからといって、あの子に罪は無いんだ。イブキ一人じゃ大変だろうし、俺達も出来る範囲で協力しよう。」 頷くザンキを、おやっさんが呼んだ。
166名無しより愛をこめて:2005/12/11(日) 11:34:35 ID:5TXdtqhwO
その翌日、山奥の閑かな村。チリンチリンとベルを鳴らし、舗装されていない道を巡回する警官は、背中の籠一杯に秋茄子を背負う老婆がバランスを崩す姿を見付けると、自転車を乗り捨てて駆け寄った。
「大丈夫っスか!?」 慌てて籠を支えるが、数本の茄子が地面に転がってしまった。「お家、どこです? 僕が運びますから。」
三十分後、倒れている自転車の所へ戻った警官は、鞠で遊んでいる和服の女の子に挨拶した。「もうお昼ごはんの時間だから、帰らなくちゃいけないよ・」茄子を運んだ礼に貰った飴玉をあげると、女の子は嬉しそうに民家の方へ走っていった。
「あの子、昨日もここで見たような……」 赴任3日目となる小さな派出所で弁当を広げた時、いつの間にか若い男女が立っていた。
「紙黄村はここですか?」短髪にバンダナを巻いた男が尋ねた。警官はそうですと応える。「どうも。」肌寒いのに素足を見せる女が礼を言い、二人は山への道を歩いていった。観光かなと首を傾げる警官は、男女の動く口と声色に違和感を覚え、後を追った。
山菜を摘んでいた壮年の男性が、突然現われた邪気に振り返る。先程派出所に訪れていた男女が、ヤマアラシの怪童子と妖姫に変化した。
167名無しより愛をこめて:2005/12/11(日) 11:51:05 ID:5TXdtqhwO
惨殺された天狗を発見したザンキは車から降り、遅かったかと呟いた。「誰か居るんですか!?」 茂みを掻き分け、若い警官が現われて、不審な男と倒れている怪物に叫び声を上げた。
「ななな……何ですかコレは!? はっ! アナタ、この村の人じゃないっスね!? ええと……職務質問職務質問……」 手帳を広げる警官を、いきなりザンキは突き飛ばした。
「なっ、何するんスか!? こ、公務執行妨害で……」 立ち上がる警官を無視し、ザンキが視線を向ける先には、ヤマアラシの童子と姫が笑っていた。 「あっ、さっきの……」
「今度は鬼か。」 「天狗も鬼も、あの者達も皆殺し……」 警官の違和感通り、二人の声色は逆転していた。呆気に取られている警官の前に立ち、ザンキは逃げろと叫び、変身鬼弦『音伽』を弾く。
突然目の前に稲妻が落ち、尻餅をつく警官は、目の前に立っていた男が、一本角の鬼となっていた事に腰を抜かした。怪童子と妖姫に立ち向かいながら、斬鬼は再び警官に叫んだ。
「早く逃げろ!!」
168名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 11:53:46 ID:2g9BXq0eO
二十七之巻「斬る鬼」

ヤマアラシの怪童子が、腰を抜かしたまま後退りする警官を獲物に選んだ。 「うわぁぁ!!」 魔物の口から飛ばされた数本の針に、警官は思わず目を瞑った。
その顔から数十センチ先、鬼の腕が真横に伸ばされ、怪童子の針は盛り上がった筋肉に突き刺さった。 「……鬼め。」 歯を軋ませる怪童子に、針を抜き捨て、斬鬼は拳を構える。 「鬼だよ――」
鬼に助けられた警官は、生きている証として全身に力を込めた。起き上がる身体だが、逃げ出そうとせず、落ちていた太い枝を手に、怪童子に殴りかかった。 「おい!?」 驚く斬鬼の前で、唐竹からの一撃に動じぬ怪童子は、逆に警官を殴り飛ばした。
斬鬼はその身体を受けとめると、手放していなかった枝を自分の手に持ち、雷の気を込めて怪童子に投げつけた。放電した火花の雨が、足元の落ち葉を焦がし、その煙が視界を遮る。そのまま大柄な警官を担ぎ上げ、斬鬼は退路を辿った。
「逃げたか。」 「まあ良い。夜はこれからだ。」 警官を山の入り口で放り、元の場所に戻ってきた斬鬼は、魔物を取り逃がした事に気付いた。 「ヤマアラシか……」
大急ぎで派出所に戻った警官の説明に、年老いた巡査部長は首を横に振った。「戸田山。今日はもう帰れ。」 強引に早退させられた戸田山は、清い川の畔に腰掛け、透明な水に石を投げた。
「あの人…… なんだったんだろう……」
169名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 12:21:46 ID:2g9BXq0eO
「昨日、関東支部に『結界』が破られたとご報告頂きましたが…… やはり天狗が一人、やられていました。」 ザンキと囲炉裏を挟む老婆は、はい、と頷いた。 「本来ならば、私達が自力でこの子達を守りたいのですが……」
老婆の隣には、昼間、戸田山に飴玉を貰った和服の少女が座っている。 「いえ。若輩者ながら、皆さんの御力になれればと思います。」 老婆が頭を下げようとするのを、手のひらを見せて止める。
「鬼の力を失っても、天狗やこの子達を守ろうとする皆さんの御心だけで充分です。僕の方から願い入れた事ですので。」 ザンキは、少女に笑みを見せた。少女は黙ったまま、口の中で飴玉を転がしていた。
川で時間が流れるのを待ち、戸田山はいつもの帰宅時間に、祖母の家に着いた。古い日本家屋に似つかわぬ真新しい車を庭に見つけた彼は、それが戦いの場に有ったものだと解り、居間に急いだ。
「な、何でアナタが!?」 茶を飲んでいたザンキも、突然現われた戸田山に驚き、囲炉裏で野菜の煮込み鍋を調理している老婆を見る。 「孫の登巳蔵です。」 そう言い、風呂が沸きましたので二人でどうぞと、ザンキに微笑んだ。
170名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 12:54:12 ID:2g9BXq0eO
仕方なく、出会ったその日に裸の付き合いをする事になった二人は、無言のまま檜風呂に浸かっていた。 「あ、あの……」 「ん?」 「いえ…… その、腕、大丈夫ですか?」 「ああ。鍛えてるからな。」
再び沈黙する湯槽に、天井からの水滴が音を立てる。今度はザンキから口を開いた。 「この村の出身じゃないな。」 「あ……ハイ。親は横浜っス。10歳くらいまでは、毎年夏に来てたんですけど。3日前に赴任してきました。」
同じ頃、佐伯家の浴室で、サバキが石割に『紙黄村』を説明していた。 「『神鬼村』……ですか。」 「ああ。鬼だった人達が、人の心を持ったまま変化しちまったテングや、相撲取るカッパ達を結界で守って暮らしてる。」
人的被害の無い『陽』の魔化魍は、古来より人間の暮らしと支え合う類の妖怪として討伐の対象外だった。それも自然破壊や人間達の変化で数を減らし、今は神鬼村でしか見られない。
「でも、その魔化魍が狙われるって……」 「裏があるな。師匠に聞いたが、基本的に、一つの土地での魔化魍には絶対数がある。陽の魔化魍がいる場所には、『陰』、俺達の出番は必要無かったらしい。」
檜風呂。身体を洗っていた戸田山がいきなり振り返り、ザンキに敬礼して大声を出した。 「本日は、ありがとうございました! 私も一警察官として、貴方の助力に成りたいと願う次第であります!」
「ああ、ああ。気にするな。それに……」 「いいえっ!! 人を助けるべく警察官に成った身であります! どうか! どうか!」 「ああ。解ったから、前を隠せよ……」
171名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 13:40:50 ID:2g9BXq0eO
夕食後、山に放ってあったディスク達をチェックする為、ザンキは音撃弦『烈雷』を担いで暗い山道を歩いていた。茂みから現われた瑠璃狼が、ヤマアラシの寝所を見つけ、ザンキを案内する。
ザンキから村のパトロールを命じられた戸田山は、昼間の山とは反対側を調べていた。村の外れにある公民館の照明は、祖母から臨時の集会だと教えられ、留守になりがちな集落を集中して見回っていた。
しかし公民館では、元『鬼』である戸田山としよ、三河みちえ達の呼び掛けで集まった村人が、作戦会議をしていた。空を飛べる者は上空から警戒を、頑強な者は座敷わらしやカッパを守る等が決められた。
村を見回っていた青磁蛙のディスクを手に、ザンキは来た道を走って戻っていた。 「まさか、直接村を潰しに……」 公民館の照明が消え、いよいよ作戦を実行に移すその時、屋根を砕いて巨大な針が村人達を襲った。
忽ち数人の天狗が串刺しにされ、公民館はヤマアラシの巨体の通り道として崩壊した。表に飛び出し奇襲を逃れられた者は、としよ他二人の鬼と、数人の天狗だけだった。 「何という事じゃ……」
更に、濡れた衣服を地面に摺りながら川から出現した童子と姫が、引きちぎったカッパの腕を手に持ちながら、天狗達の逃げ道を防ぐ。
としよの制止を振り切って、天狗達は果敢にヤマアラシを倒そうと奮闘するが、尾に巻かれ、針に撃たれ、踏み潰されて動ける者は減っていく。三河みちえが、70過ぎとは思えぬ動きで妖姫を食い止めるが、時間の問題だった。
みちえが弾き飛ばされ、ついに天狗達も全員戦闘不能となった。覚悟を決め、怪童子に構えるとしよ。突然の落雷が、魔化魍と瀕死の天狗達、かつての鬼達の視線を集中させた。
 「……ゼイィッ!!」 斬鬼が烈雷を振りかざし、怪童子と妖姫との距離を縮め、電撃を伴う斬撃を放つ。
その頃戸田山は、暗い畑の用具小屋で震えていた座敷わらしを保護し、背負いながら公民館の方へ向かっていた。
172名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 13:51:51 ID:NjSXMwJD0
くううぅぅたまらん!戸田山まで登場ですか!
普段はROM専門ですがたまらずカキコ

職人さん毎回楽しみにしてますよーーー
173名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 14:06:46 ID:2g9BXq0eO
瞬く間に斬り裂かれ、爆発する妖姫。斬鬼の背中に襲い掛かる怪童子も、逆手に持直し、背後に突き出した烈雷に貫かれた。 「戸田山さん! 天狗達を!!」
としよ達が天狗に手を貸すが、あまりにも負傷者が多過ぎた。斬鬼がヤマアラシの攻撃を食い止めているが、魔化魍の背後にある瓦礫の中にも生存者はいる筈だった。
「ザンキさん!!」 背中の座敷わらしをみちえに預けた登巳蔵が、天狗に声を掛けながら担ぎ上げ、次々と戦場から離していく。 「戸田山ぁっ!!」 「自分は大丈夫っスから! 婆ちゃん達は、自分が守りますから!!」
その言葉に、斬鬼の顔の下で、ザンキは笑った。怒濤の反撃に、ヤマアラシの巨体は横倒しになる。その腹に烈雷を突き刺し、肉を抉り、音撃震『雷轟』をセットした。
「音撃斬! 『雷電激震』!!」 展開した烈雷が放つ清めの音が、魔化魍を木っ端微塵にする。一息つき、顔の変身を解くザンキに、駆け寄る戸田山が感動を表情一杯に表わす。それに釣られて、ザンキも笑った。
戦いは終わったが、村の小さな寺の本堂には、半死半生の天狗達、川に打ち上げられた河童達の痛々しい身体が並べられていた。
かつて猛士で『銀』を務めていた住職も、首を横に振るしかなかった。 「駄目ですか。」 としよの問いに、住職は黙ったままだった。ザンキも登巳蔵も、唇を噛む。
登巳蔵は、自分の手を握っていた座敷わらしが、天狗や河童達に歩み寄っている事に気付いた。少女は振り返ると、登巳蔵達に笑い、目を閉じた。
小さな身体が、宙に浮いていく。
174名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 14:29:13 ID:2g9BXq0eO
座敷わらしは3メートル程の高さに浮遊すると、その身体を輝かせ始めた。陽射しの様に眩しく、粉雪の様に淡い光は、無数の小さな粒となり、七色に輝き、天狗達の傷を治していった。
引き換えに、座敷わらしの身体が透き通り始める。しかしその光景に、ザンキすら言葉を発することは出来なかった。光が弱まり、最後の一粒が河童の腕を結合すると、座敷わらしの姿は見えなくなった。
あめだま、ありがとう―― 登巳蔵だけが、その声を聞いた。
三日後。村を去るザンキの車の前に、登巳蔵が大荷物で立ちふさがった。 「ザンキさん! 自分、鬼に成りたいです! 皆を守って、守って、守って、ザンキさんの様に成りたいっス!」
車を降りたザンキに、警官は辞め、祖母の了解も得てきたと話した。 「自分、不器用で、単純で、頭悪いっスけど、生命を守る事だけは、誰にも負けませんから!!」
暫らく黙っていたザンキは、黙って車に乗り込んだ。 「ザンキさん!」 「……乗らないのか?」 喜びに焦る登巳蔵は、転がる様に助手席に飛び込んだ。
東京への道中、祖母に鬼がどんなものなのか訊ねたかと、ザンキは聞いた。 「あ、ハイ。婆ちゃんの師匠とか、『飛車』とか『王』とか……式紙とか。あ、今はなんとかアニマルですっけ?」
「お前、自分の婆さんの、現役時代のコードネーム知ってるか?」 「いえ。格好良かったら、僕が継ぎたいですね。」 「継ぐ? 約束したぞ?」 「はい?」
「お前が鬼になったら、トキメキって呼んでやる。」 「え〜〜〜〜っ!?」
175名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 16:10:12 ID:qd/DSr/E0
職人さん、有難う、有難う……チクショウ、何故だか画面が滲んでみえるぜ。
な、泣いてなんかいないぞ。これは心の汗だ!
176名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 18:38:14 ID:bb+P5vtGO
公式!もう俺の中では完全に公式だ!

‥でも職人さん、あまり気負わないでね。
177名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 20:38:06 ID:HIRXL3tG0
なんというか、一話一話が美しい話だなぁ。裁鬼さんだけでなく、斬&轟師弟の過去や
威吹鬼&あきらの過去も網羅されてるなんて、すばらしいです。

他スレの弾鬼さんストーリーも、同じ職人さんなんだろうか?
178名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 20:39:58 ID:XQAEnbgt0
>>177
ダンキさんストーリーのスレ教えていただけまいか_no
179名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 20:43:32 ID:HIRXL3tG0
180名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 20:44:50 ID:XQAEnbgt0
ごめん、みっけた。と書き込みにしたら。
どうもありがとう。お手を煩わせてすいませんでした。
181名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 20:48:07 ID:XQAEnbgt0
連スマン。職人さんは別なヒトでは?<弾鬼スレ
182思いの外好評なので:2005/12/12(月) 22:21:05 ID:2g9BXq0eO
次回予告

二十八之巻「消さぬ罪」

因みに弾鬼スレには書き込んでおりません。
183名無しより愛をこめて:2005/12/12(月) 23:45:53 ID:6VI9maeo0
本当に見事に世界観を踏襲してる。職人さんにがんばって欲しいです(^O^)
184名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 16:11:41 ID:TL8C+9hY0
ほんとうにがんばれ(^^)
185名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 16:43:02 ID:tgHpfrYb0
GJです!これからも楽しみにしてます!
186名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 18:23:42 ID:OBqOFX280
今日一気に読みました。
すごいっす!!ほんと感度っす!!
あぁ、鬼というは生き方の一つなんすね〜。
187名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 18:26:27 ID:sYw8NF4L0
上げないで下さい。
職人さんを心静かに応援して行きたいので…。
188名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 18:54:25 ID:7ciDJR3BO
二十八之巻「消さぬ罪」

滝澤みどりに呼ばれて開発室に降りた石割は、彼女から変身鬼弦を渡された。 「間島医院の先生から送って貰ったカルテ見たけど、もう右手、変身出来るくらいまで回復してるわ。」
たちばなの店内では、弟子を持つサバキに、ザンキとイブキが相談をしていた。戸田山は引っ越しの片付け、あきらは中学校にいる。 「どうも、僕との距離に壁があるというか……」 「ウチの弟子はそそっかしくてな。ま、根は良いヤツなんだが。」
サバキがきび団子を口にしながら、イブキにアドバイスする。 「教えるだけが修業じゃない。たまには、師匠と弟子って壁を取っちゃっても良いんだよ。どこか遊びに連れてくとか。心の繋がりが大切さ。」
茶を飲み、ザンキの方を向く。 「ザンキの場合、戸田山君はまだ道の進み方に自身が無いんだろ。ただ黙ってるだけじゃ駄目だ。お手本見せてさ。あとは積極的にアドバイス。コミニュケーションとれ。」
頷くイブキが、サバキと石割の信頼に憧れる。ザンキも、改めて自分の不得手な部位を反省する。
「じゃあ、サバキさんと石割さんのコンビは、もう以心伝心なんですね。」 「そりゃそうだろイブキ。サポーターとして弟子として、もう10年近い付き合いだ。色々あったがな。」
ザンキの言葉に少し俯くサバキだが、また笑顔を見せる。 「まあな。ま、10年コンビ組んでりゃ、お互い隠し事も全部吐き出しちまうさ。アイツの過去や、俺の修羅とかな。」
電磁波の影響が有る為、店に置いておいた石割の携帯が鳴った。イブキが、不味いんじゃないですか?と訊くが、サバキは娘からだよ、と通話ボタンを押し、外に出ていった。
地下から戻ってきた石割が、携帯を探す。ザンキが、ああ、今サバキが…… と言い終わる前に、入り口からサバキが突っ込んできた。 「おい石割! 彩子と温泉でデートなんて聞いてないぞ!!」
189名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 19:22:36 ID:7ciDJR3BO
「いや〜、良い湯っすね!」 戸田山が、露天風呂で身体を伸ばす。 「おいサバキ。本当に良かったのか?」 「気にすんな。おいイブキ、お前も呑め。」 湯に浮く盆には、徳利があった。 「いえ、僕は未成年ですし。 石割さん、どうぞ。」
「駄目だ。今夜は石割は酒抜き! 全く、石割も石割なら彩子も彩子だ。俺の目を盗んで外泊なんぞ……」 「だからサバキさん! 日帰りのつもりだったんですよ! 新しくオープンしたココに来たいって、彩子ちゃんに頼まれて。」
サバキはザンキに、半ば無理矢理呑ませていた。 「それで、今夜8時から隣の広場であるタレントのイベントが見たいって。期末テストの学年10位以内に入ったらって、ご褒美に約束したんです。」
湯気が、紅葉が終わった山々に立ち上っていた。「今日発表でしたので。ですからサバキさんに断りを入れる前にですね……」 しかしサバキは酒が回ったのか、そっぽを向く。
「な、何か空気悪いっスよ。 そういや、隣の広場、縁日の屋台も来てたみたいですし、皆でパーッと行きませんか?」 調子に乗るな戸田山とザンキが言うが、サバキが笑いながら許可を出した。
その頃、女湯。彩子、あきら、店が暇なので同行してきた日菜佳が、静かに湯を楽しんでいた。 「すみませんね〜、彩子ちゃん。 本当なら今頃、石割君としっぽり……なんちって、甘い雰囲気だったのに。」
今年26の石割だが、10代にも見える童顔の為、立花姉妹は君付けで呼んでいる。 「そんなんじゃ無いって! 日菜佳ちゃんこそ、伊織君狙いじゃないの?」 
「いえいえ。 伊織君は姉上に夢中ですし、アタシはどっちかというと戸田山君みたいなタイプが……」 女子高生二人の会話を、黙ってあきらは聞いていた。
190名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 19:48:28 ID:7ciDJR3BO
「あきらちゃんは、伊織君のサポーターなんだよね?」 鬼の仕事を子供に話していないサバキは、あきらをイブキのサポーターとして紹介していた。 「はい。でも、早く一人前になって、父の意志を継ぎたいんです。」
「そっか…… 山で、お父さんとお母さん、亡くしちゃったんだよね。」 「はい。厳しい父でしたが、私に期待していました。ですから、早く一人前に成りたいんです。」
日菜佳が、首を傾けながら言う。 「でも勿体ないですね〜。 あきらちゃんは、こんなに可愛いのに。もっと女の子っぽく遊んだり、お洒落したり。そういう人生も、まだ選べるんですよ?」
彩子も頷く。「うん。私もサカエさんや石割君の仕事って、素晴らしいけど大変な仕事だと思うな。 お父さんの気持ちも大切だけど、あきらちゃん自身の気持ちも、大事だと思うよ。 お父さんが決めた事が、全てじゃ無いんだし。」 
あきらは、良いんですと言う。 「今の私には、父が残してくれた目標しかないんです。」 日菜佳が、お先です、と露天風呂を出ていった。
「ねえ、あきらちゃん。 今日は無理矢理誘っちゃったけど、やっぱり楽しいことを楽しむくらいの余裕……っていうか、ゆとりは、必要じゃないかな?」 あきらは黙っていた。 
「私は、目標に向かうだけじゃ、いつか疲れちゃうと思うんだ。たまには息抜きに、お洒落したり、どこか行ったり。そういう『一休み』が有ると、もっと楽しい事を見つけられたり出来るし。目標に焦っても仕方ないと思うよ。」
彩子が、肩の力抜こう?と言って湯を上がっていった。 「私の、目標……」
191名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 20:19:01 ID:7ciDJR3BO
広場で合流した石割達と彩子達は、それぞれ屋台を楽しんでいた。タレントのイベントを見る石割と彩子に付き添うサバキが、客の中で一番ウケていた。 「石割君、今日はゴメンね。」
いつの間にか、さん付けから君付けで呼ぶ彩子に、石割は気にしないでと応えた。 「え〜っ? ……ちょっとは気にしてよ。」 石割は女心の難しさに、苦笑しながら頭を掻いた。
射的に挑むイブキを見ているだけのあきらに、屋台の親父が銃を勧める。「お嬢ちゃん、可愛いから1発おまけだ。」 イブキは、既に4つの景品を手にしている。
持ち弾は的に当たるが、あきらは一つも落とせなかった。最後の1発。 「ははは。もっと肩の力抜いて。目標は逃げないんだから。それとも僕が代わろうか?」 イブキの言葉を断った時、不意に引き金を引いてしまった。
「おめでとう! お嬢ちゃん、やるね〜。」 大きな熊のぬいぐるみが、あきらに渡された。 「ね、あきら。たまには力抜こうよ。」 イブキに、はいと返事し、あきらはぬいぐるみを抱き締めた。
「戸田山君、頑張って!」 金魚すくいに挑戦するも、戸田山は2000円も負けていた。 「頑張れ戸田山〜!」 日菜佳の声援虚しく、出目金は掬いの薄い紙を突き破る。
「よく見てろ、戸田山。」 ザンキに200円を手渡された店主が青ざめた。 「あ、あんたは『掬いの蔵王丸』! ……ば、馬鹿なっ! 引退したんじゃ……」
10分後。 「どうだ。 やってみろ。」 無傷の掬いを手渡される戸田山が、気不味い声を出す。 「あ、あの……ザンキさん……」 空になった水槽を見ると、ザンキは愕然した。 「しまった、つい……」
「金魚いないの〜?」 地元の子供達が、集まっていた。いつの間にか店主は逃げ出し、ザンキは余計に気不味くなるが、戸田山がザンキの掬った金魚を分け与えていた。
ほぅ、と頷くザンキ。日菜佳も、笑顔で戸田山を手伝った。
192名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 20:51:37 ID:7ciDJR3BO
翌朝。温泉の帰り道、鬼だけが乗るザンキの愛車『雷神』の中で、イブキとザンキはサバキに感謝した。 「あんなに嬉しそうなあきらの顔、初めて見ましたよ。」 「戸田山も、改めて見込み有るヤツだと解ったよ。 アイツは鬼に成るのは遅くないな。」
たちばなに着いたサバキは、おやっさんから出動を命じられた。まだ魔化魍は特定出来ていないが、目撃者から話を聞いた地元の『歩』と合流して欲しいと言う。
部活がある彩子を駅で降ろすと、一度家に行き装備を積み、妻に出勤を告げてサバキは石割に、再び車を走らさせた。助手席で地図を広げる。 「まだ行ったことが無い山だな…… こんな所でも出たのか。」
これまで魔化魍が出現しなかったポイントだけに、現地での情報は疎かに出来ない。 「まぁ、取り敢えず『歩』の津村さんの家に行かないと、話にならんな。」 
「津村さん……」 サバキが持つ地図に目を向けた石割は、暫らく考え、再びハンドルを握り、真直ぐ前を見た。
山への入り口、緩やかな勾配に建てられている津村家は、かつて弦の鬼だったツラヌキの子孫に当たる。ツラヌキの息子である津村宏とその妻、直子が、庭でサバキ達を出迎えた。
にこやかな津村夫妻は、石割の顔を見ると、笑みを消した。挨拶に近づくサバキよりも先、石割が歩み寄り、頭を下げ、膝を地面に付けた。
「こうしてお会いする事に成ってしまい、申し訳ございません。」 宏が、額を下げる石割を止める。 「お止め下さい。 あの時は言い過ぎました。 今思えば、私達には、あの子を悔やむ資格は無かったのです。」
サバキが、静かに立ち上がる石割に聞いた。 「……どういう事だ?」 石割は暫らく黙っていたが、真直ぐに津村夫妻を見つめながら応えた。
「津村……直宏君。お二人の息子さんで、僕がボクサーだった時の、プロでの、対戦相手でした。」
12月の空は曇り、雪が近づいていた。
193名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 21:13:57 ID:FOmsG3VX0
裁鬼さんって名前から副業は(鬼が副業でもいいけど)法律関係の人かな?
って勝手に思ってた。
194名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 21:38:33 ID:SWYM9X46O
津村努話キター!憎いな〜あの悲運のチョイキャラ関連をここで絡めますか。

‥あれ違う?
195名無しより愛をこめて:2005/12/13(火) 23:20:02 ID:ED/DlCFbO
195
196名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 00:19:35 ID:B5J5l9t30
職人に御大紛れてるんじゃないのか?
197名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 02:23:36 ID:aLM5a/as0
裁鬼・修羅を妄想で描いてみた。
…こう、言葉から捉えたイメージと、いざ描いてみるとそのギャップが激しい。

一つのものを作るのって難しいんだね。

やっぱ職人さんすげぇ。
198名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 02:55:04 ID:g1Vi3vvJO
無理矢理ヘタレキャラにして狙った感じだよね
199名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 13:58:20 ID:WQqb5TfdO
二十九之巻「貫く裁き」

津村夫妻が、サバキと石割を応接室に案内する。 「申し訳ございませんが、この山の観測を行なっているのは、息子の努でして。 取り敢えず、目撃された現場までご案内しますが、データのお渡しは、努の帰宅までお待ち頂けませんか。」
サバキが了解する隣で、石割は無言だった。夫妻に連れられて山に入ろうとした時、自転車に乗って、野球のユニフォームを着た努が帰って来た。 「あ。もしかして、『鬼』のヒト? どーも!」 ヒビキ達の様に、祖父譲りの独特なポーズを見せた。
おかえりと言う父母を無視して、努は車庫に自転車を仕舞い、昨晩も採集した為、最終的なデータの整理に少し時間が掛かると言う。
「石割。」 「はい。」 「お前、努君からデータ貰っておいてくれ。」 サバキは石割の肩を1回叩き、津村夫妻を伴って、山に入って行った。 「ええと、努君が、この山全部の観測をしてるの?」 部屋に案内された石割は、パソコンの前に座る少年に訊ねた。
「そうだよ。 爺ちゃんが5年前に死んじゃうまでは、毎日山に行ってたんだけど。 僕も部活とかで、今は週2、3回かな。 あ。 でもちゃんと調べてるからね。ウチの父さんは猛士の事、何も知らないんだから。鬼の子供なのに。」
目撃されたという一帯は、かなり山の奥だという。 「ああっ!」 津村宏が、倒木に躓いてバランスを崩すが、サバキが腕を掴んで持ち直した。 「いや、お恥ずかしい。ツラヌキの息子でありながら、山に入るのは何十年振りでして。」
確かに、津村宏の眼鏡を掛けた痩せた顔は色が白く、他の『歩』と比べると益々頼り無く見える。津村直子も同様で、3人が山を登るペースは佐伯家の子供達より遅かった。 「ツラヌキさんは、貴方達息子夫婦に鬼の事を話さなかったのですか?」
ハンカチで汗を拭きながら、宏が答える。 「私は引退してから出来た子供でしたので。父の遺言と葬式で『猛士』の存在を知りました。 ただ、孫である努には、『歩』としての活動を教えていた様です。」
サバキが訊いた。 「『様です』? 努君は息子さんですよね?」 「はい。あの頃は、まだ仕事に追われていましたので。 努は疎か、直宏がボクシングを始めていた事すら、よく知らなかったのです。」
200名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 14:34:13 ID:WQqb5TfdO
ツラヌキの時代から纏められてきたデータを受け取った石割に、努は野球のグローブを渡した。 「ねえ、キャッチボールしません?」 外は風が冷たかったが、身体を動かす内に、気にならなくなった。
「ボクサーだったんですよね、石割さん?」 突然の言葉に、ボールを投げる腕が止まる。 「あ、気にしないで下さい。僕は兄さんの記憶なんて殆ど無いですし、今更恨み辛み言える程、ウチの親は父親母親やってきてませんから。」
目撃ポイントに着いたサバキに、宏は12年前の事を話した。 「経営していた工場が、年々業績を下げていきまして。 直宏は中学生で、努と同じ野球少年でした。」
「でも、3年生になる前に辞めていた様です。私達はその頃、仕事で毎日工場に泊まり込んでいましたので。 中学校の球技大会で、親子野球が有ったと知ったのは、あの子の遺品を整理していた時でした。」 母親の直子が、涙目で話した。
「従業員や、業者の為に、必死になって経営を立て直しましたが、その時にはもう、直宏はボクシングジムに通い、いつの間にかプロ試験に合格していました。」 息子の試合が決まった時も、再び仕事に追われていた夫妻は、軽く返事をしただけだった。
津村家の庭で、努は石割に、祖父から聞いた兄の事を話していた。 「兄さんは、球技大会で親達と野球してるチームメイトから、浮いちゃってたらしいんだ。爺ちゃんが代わりに出ようかと思ったらしいけど、今考えたら大して変わらなかったと思うんだよね。」
努は、祖父が頻繁に、子供と遊んでやれと父母に言っていた事を話す。 「野球を辞めた兄さんは、個人競技で自分の力を証明したかったんだと思う。 高校終わってから毎日、ジムに通って。だからウチの中には、爺ちゃんと僕しかいなかったなぁ。」
サバキも、夕暮れの山の中、津村夫妻の話を黙って聞いていた。 「直宏が、石割さんとの試合で死んだと聞いた時…… まるで、直宏が交通事故に遭った様な態度で、石割さんとお母さんに言葉を浴びせていました。 何故、ウチの子が…… 何で、直宏が……と。」
「その態度が間違いだったと気付いたのは、直宏が死んでから半年程過ぎた時でした。」
201名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 15:05:37 ID:WQqb5TfdO
日が落ち始めたので、サバキが戻りましょう、と夫妻をリードする。宏は懺悔を続けた。 「ある日、従業員の一人が、子供の誕生日なので残業出来ないと言ってきまして。 
それを反対したら、所帯持ちどころか若い部下にまで異議を唱えられました。 その時です。 自分が、如何に家庭を犠牲にしてきたか、思い知りました。」
直子が、そのお陰で目が覚め、従業員が一丸となり、工場の経営は再び軌道に乗ったと語る。しかし同時に、取り戻せないものを知った衝撃に、二人は経営を信頼出来る部下に託し、以後は事務職に就いているという。
「時間が出来て、あの子の遺品から、中学の文集を見つけました。中の、『夢』という題の作文に、私達は遅過ぎた事を知らされました。」
『夢』 僕は、子供を大切にする父親になりたい。 僕の両親は、仕事でいつも忙しく、家にはあまり帰ってこない。僕はガマンできるけど、弟の努には、優しくしてあげてほしい。
僕が父親になったら、どんなに仕事が忙しくても、僕の子供には、どこかへ連れてあげたり、キャッチボールをしてあげたい。 そんな、子供に好きと言われる父親に、僕はなりたい。 3年A組 津村直宏
石割は、読み終えた文集を努に返した。 「ね。 兄さんも知ってたんだよ。 ウチの親なんて、どんな人間か。 石割さんが、今更謝る必要ないし、ウチの親が石割さんに謝らなきゃ。」 「……」
津村家の明かりが見えてきた3人だが、夫妻は再び足を止めた。 「サバキさん。 ですから、あの子の事で、石割さんが辛い思いをしていらしたら、どうか忘れて頂きたいと、お願い出来ませんか?」
「私達は、石割さんが所属していたジムを伺いました。そこでお母さんが、私達の言葉に悩まされた息子さんの姿に、心労で亡くなられた事を知りました。石割さんには、何の罪も無いのです。」
「……」
202名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 15:34:13 ID:WQqb5TfdO
「そうかな。」 石割の言葉に、努は笑顔を止めた。 「えっ?」 石割は真直ぐに、努の眼を見る。 「例え、仕事が忙しくても、子供の事を考えない親は、どこにも居ないと思うんだ。 努君も、いつもお父さんとお母さんに、愛されてるよ、きっと。」
「今、何と?」 驚く津村夫妻に、サバキは繰り返す。 「今の話をアイツが聞いても、何も変わりはしませんよ。」 「ですが……」 「ははは。 難しく考えないで下さい。 貴方達も、気持ちを誤魔化す必要なんて、無いんですから。」
先程使ったグローブを手に、石割は話す。 「僕も、母親が忙しかったからさ。直宏君の気持ちは解るんだ。 親に構ってほしい、じゃなくて、親に心配させたくない。そう思うんだよ。」
「でも、兄さんは野球を辞めて……」 「うん。 お父さん達に、早く一人前の男だって事を、伝えたかったんじゃないかな。 野球だとさ、甲子園とか大学とか。プロになるまで時間かかるもんね。」
夫妻に振り返り、サバキは笑う。 「あの時出来なかった事を、今、直宏君にやってあげたいでしょ。 でも出来ない。 ……石割が出来なくさせた事は、何も変わらないんです。 石割の罪を消すなんて、人の親なら本気で考えませんよ。」
石割が、ボールを握る。 「努君だって、本当は僕じゃなくて、お兄さんとキャッチボールしたかったでしょ。 ……僕を怨んでも、何もおかしい事無いんだから。 鬼の仕事とか関係なく、無理しちゃ駄目だよ。」
「石割は、一生、この罪を忘れるつもりはありません。 命を壊した力で、命を救おうとしているだけなんです。」 サバキの言葉に、夫妻は俯く。涙が零れていた。
「僕は、お兄さんの代わりにはなれないけど、お兄さんの命の代わりに、他の命を守りたいから、この道を選んだだけなんだ。」 何かを堪えていた努は、石割の胸に飛び込み、泣きながら、握り拳でその胸板を叩いた。
「奪った者への償いなんて、アイツは考えていません。 これからもずっと、石割は人を救ける道を進んでいきます。 それが、アイツの『裁き』なんです。」 サバキ達が、やっと津村家に入った。
203名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 15:50:32 ID:WQqb5TfdO
翌日の夕暮れ。ベースを片付けた石割は、着替えを終えたサバキと共に、山を降りた。魔化魍の正体は、バケガニだった。おやっさんへの報告を済ませると、石割とサバキは津村家に別れの挨拶に寄った。
名残惜しむ夫妻は、10年前に許さなかった直宏の墓参りに行ってやって欲しいと、町営墓地の場所を教えてくれた。 「ねえ! いつか僕が鬼になったら、石割さんにサポーター頼んでいいかな!?」
努の言葉に笑うサバキ。 「大変なんだぞ、『鬼』は。」 石割も笑う。「いいよ。その頃には、サバキさんも引退してるだろうし。」 「おいおい。」 
別れ際、努が古いグローブを、石割とサバキに渡した。 「兄さんの使ってた2つなんだけど、魔化魍退治の時に持って行ってあげてほしいんだ。石割さんの姿が、見える様に。」
サバキが、より古いグローブを着け、石割にボールを投げる。 「探索の暇な時なんか、ちょうどいいな。」 ボールを受け取る石割が、振りかぶった。 「サバキさん、行きますよ!」
「あっ! そっちは!!」 努が、大声を出したが遅かった。石割の放った豪速球は、ボロボロの継ぎ目を貫通し、サバキの顔面を直撃した。
204名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 16:28:31 ID:wGATV+Yx0
毎回素晴らしい話を有難うございます。
しかし、職人さん、一体貴方は何者なんですか。
努くんの話の拾い上げ方の見事さ、只者じゃねぇわ。
こういう裏設定があっての「親に泣きつかれてリタイア」は、物凄く納得できる。
ホント、職人さんの腕の見事さには、ただただ感服ですよ。
ぶっちゃけ、今の本編より、このストーリーの方が愉しみだったりする。
205名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 16:43:49 ID:u+V+Bsc/0
自分的にもこちらが公式になっていたりする。
テレ朝の深夜枠で製作してくれないかなあ。
各人の脳内上映じゃ勿体無い。

いつも乙であります、職人さん!
206名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 20:45:11 ID:CZl3j/FM0
職人さん、いつもお疲れ様です。
もとは1人の名なしさんである職人さんがこれほどの作品を製作されているのに、何故プロの脚本家が書いている響鬼があそこまでグダグダなのか…
207名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 20:48:10 ID:qg9nHV1e0
…誰かテレ朝の製作サイドにコンタクトしてくれよ!
こんな名作アングラじゃもったいないよ…。・゚・(ノД`)・゚・。 。゚
208名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 20:52:34 ID:qg9nHV1e0
悪ィ!サゲ忘れ!
209名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 21:36:01 ID:Vd/+Jg/AO
まさかホントに高て‥ゥ、うわ何をsjn8アdpEェ2‥
210名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 21:36:54 ID:Vd/+Jg/AO
まさかホントに高て‥ゥ、うわ何をsjn8アdpEェ2‥
211名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 21:39:03 ID:Vd/+Jg/AO
悪ィ!カブった!
212名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 21:39:37 ID:TBPcqhGPO
この名作をなんとかして世に出したいな
213名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 21:43:29 ID:qg9nHV1e0
>>212
禿胴!
214名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 22:30:16 ID:cYSKL53k0
弾鬼スレとクロスオーバー希望。
っていうかこっちはシリアス系かな?あっちはトリックみたいでギャグっぽいけど。
215名無しより愛をこめて:2005/12/14(水) 23:08:59 ID:JWEt6uEM0
読者にはあっちが好みじゃないとかこっちが好みじゃないとかあるだろうし。
職人さん同士に任せるしか。
216名無しより愛をこめて:2005/12/15(木) 21:41:27 ID:zZppillJ0
昨日初めて見つけて、今やっとここまで辿り着いたんすけど…、
まじ凄い。裁鬼さんも石割くんもカッコよすぎるZ。
TVよりこっちのが公式って言う方々にも頷けます=3
同じ意見いっぱいだとしても。掬いの蔵王丸(笑)
今から弾鬼スレにも逝って来ます。
217名無しより愛をこめて:2005/12/15(木) 21:55:11 ID:/0cB+cSD0
いや、マジにこのドラマだったら
月9で大人仕様のドラマがイケルよなぁ!
218テコ入れは有りませんので。:2005/12/15(木) 22:47:25 ID:QiKlLo5JO
三十之巻「道連れる船」

年が明け、魔化魍発生の報が無いまま、2月を迎えた。佐伯家に雪が振る晩、サバキとその妻をリビングに呼び、彩子は進路について話した。時計は午後10時を告げる。
「あのね。 ……アメリカ、行ってもいいかな?」 彩子がバスケット部に入部した時、キャプテンをしていた先輩がシカゴの出版社で働いており、選手の眼から記事を書ける新人を探しているという。
「……急だな。」 余りにも唐突な発言に、サバキは組んだ手を口元にやった。 サバキの妻は黙っている。 
「……話を聞いたのは、夏の大会が終わってからなんだ。 冬の選抜に出たのも、少しでも長く選手としてコートに立っていたかったから……」
返事を保留したサバキは、翌日の夕方、学校帰りのイブキを連れて喫茶店に入った。 「彩子ちゃんですか?」 コーヒーカップを置き、イブキが話す。 「僕は鬼の活動でそれほど学校にいませんから、聞いた話でしかありませんけど……」
サバキは黙って聞いている。 「英語の時間に、ALTって言う、本場の外国人の教師を伴って授業する事がありました。そのALTに、毎日放課後、特別授業をして貰ってるらしいんです。夏休みの途中から、半年ぐらい続いているそうです。」
サバキはイブキに礼を言い、伝票を手にした。 
「どうかしたんですか? 彩子ちゃん?」 サバキは自室で、妻から借りた彩子の通知表、テスト用紙を見る。 「……何でも、アメリカに行きたいそうだ。 俺は正直、反対なんだがな。」 彩子の成績は、文句の付けようが無い内容だった。
サバキは妻を伴い、初めて彩子の高校に出掛けた。土曜の昼過ぎ、彩子の担任、英語の教師、ALTのキャシーを前に、サバキは訊いた。 「先日、娘から、『アメリカに行きたい』と言われまして…… 正直な話、あの子はアメリカで通用するでしょうか?」
担任が素行の素晴らしさを評価すれば、英語の教師が、3年の秋から突発的に伸びた文章力を認める。 
ALTの言葉は英語教師の通訳を挿み、「今行かせないと後悔させる」と話し、最後に「母国でもあの様に直向きな生徒は居なかった、育てた御両親に敬意を表したい」と、ハグされた。
219名無しより愛をこめて:2005/12/15(木) 23:19:14 ID:QiKlLo5JO
明くる日曜日。サバキは彩子に、アメリカ行きを許可した。心の奥で、娘の努力を垣間見えなかった自分に喝をいれながらの決断だった。 「おめでとう! 彩子ちゃん。 あ。これ……」 同席した石割が、厚み掛かった封筒を渡す。
「えっ!?」 中身を確認した彩子は暫し言葉を失った。 「おい、石割!!」 サバキも驚きながら、石割を見る。 「駄目だよ石割君! 私、こんなに返せないよ!!」
石割は微笑みを崩さない。 「サカエさんの事だもん。彩子ちゃんの夢を無視出来ないくらいは僕にも解ってたから。それは、彩子ちゃんの夢へのサポート。気にしないで。」
石割を車で送るサバキは、無言のまま頭を下げた。感謝の言葉を見つけられない彼の、せめてもの行動だった。 「あはは。 良いんですよサバキさん。僕がしたくてした事なんですから。」
3月。いよいよ旅立つ彩子の見送りに、空港に来た家族と石割は、励ましの言葉を送り、見えなくなるまで彩子に手を降り続けた。車に戻るサバキとその家族は、一人動かない石割を、取り敢えず置いていった。
飛行機が発つまで余裕があるが、石割は背を向け、歩き始めた。その背中を、駆け戻ってきた彩子が抱き締める。
「石割……君……私……」 「……何。 どうしたの?」 石割の声も震えていた。 「だって……」 「……行かなくちゃ。彩子ちゃん。 ……夢が待ってるよ。」
向き合うお互いの顔は、溢れ出る涙にぼやけていた。抱き締め合い、道行く人々の視線も気にせず、一瞬で永遠の口づけを交わした。
「……見えますかねぇ?」 ダンキがヒビキに聞く。 「大丈夫だって! これだけデカけりゃ。」 「腕、疲れてきたっス……」 戸田山が零す。 「私も……」 「僕も……」 フブキとショウキが続く。
サバキを除いた関東の鬼達は、『頑張れ☆ 佐伯彩子!!』と書かれた断幕を掲げ続けた。
220正直、こんなに多くの人が読んで下さるとは:2005/12/15(木) 23:29:23 ID:QiKlLo5JO
スミマセン。今日はここまで。これから本編の最終回に向け、話数を合わせる為に、1話を2、3日での書き込みに分割したいと思います。
ですが、毎日ご声援を下さる皆様のご判断によりましては、1日1話の思い付き&チラシ裏文を続けていきたいと思います。
繰り返し、多数のご感想・ご声援に感謝申し上げます。
221名無しより愛をこめて:2005/12/15(木) 23:49:29 ID:/0cB+cSD0
>>220
名作にしてください!じゃなく既に名作になってます!
無理されませんように、応援してます!
222名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 10:19:49 ID:1/PJdc5B0
>>220
本編とか、我々の判断とかではなく、職人さんの負担にならないペースが
良いかと思います。
223名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 12:31:42 ID:Kdh3DjnYO
なあみんな
もしもだよ?テレ朝が職人さんに
コンタクトしてドラマ化なんて
話しになったらのま猫みたいに
なるのかなあ?
漏れはTVで視たいんだ。
224名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 15:56:18 ID:/bcevJBF0
主題歌はどうしますか?
1、「輝き」みたいな音楽
2、布施明さんに…
3、旧作風に(サバキ!熱くよみがえれ!)
225名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 20:01:43 ID:Kdh3DjnYO
原点で子門まさととかはw
226名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 22:02:29 ID:nc11RHmN0
222さんの言う通りっす。でも、うぁー。
一瞬でも石割くんと彩子ちゃん、結ばれてよかった。
主題歌、自分クウガみたいのきぼん!
227名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 22:09:56 ID:nc11RHmN0
これ本(小説)にして出て欲しい。絶対買う★
職人さんにマジ感謝。
でも、このスレ建てた>>1さんにも感謝だよみんな。
228取り敢えず気儘に書かせて頂きます。:2005/12/16(金) 22:22:49 ID:EWXTy8dGO
夏が近づいてきた6月、サバキの携帯に、おやっさんからの着信があった。 
「津村努君って子が、いきなり、ウチにやってきてね。 何でも、サバキの弟子になりたいって、居座っちゃってるんだけど。」 石割に連絡し、急いでたちばなに向かった。
「お久しぶりです!」 おやっさんと向かい、団子を食べていた努は、サバキと石割に土下座しながら弟子入りを頼んだ。 「……なぁ、努君。 本気で、鬼に成るつもりなのか?」 「はい! お願いします!」
困る二人の背後、入り口の扉が開き、ザンキと戸田山が店内の雰囲気に違和感を覚えた。 
「どうしたサバキ?」 「この子、何やってるんスか?」 おやっさんが事情を説明する。 「成程な。……だが津村君。鬼の弟子は、普通一人って決まってるんだ。サバキには、もう石割がいるだろ。」 「そ、そんな!?」
「努君。お父さん達は?」 石割の言葉を返すまで、僅かな沈黙があった。 「今、出張に……」 「やっぱり、親御さんに話していないんだね。」 石割に図星を突かれ、努は俯く。 「君が鬼に成りたいのは解るけど、これは君一人だけの問題じゃないんだ。」
暫らく黙っていた努は、突然外に飛び出して行った。呆気に取られているザンキ達を押し退け、石割が慌てて追うが、努の姿は見当たらなかった。 
「自分は、親に『やりたい様にやれ』って言って貰ったんスけど……」 「あの子は、そう言われる子じゃないんだ……」 戸田山に、サバキが返した。
229名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 22:55:54 ID:EWXTy8dGO
努は、近所の公園のベンチで泣き邪鬼っていた。 「どうした? 少年。」 顔を上げると、スポーツウェアの青年が立っていた。
「……そうでしたか。 誠に申し訳ございません。」 石割の携帯を持つサバキは、努の父、津村宏に説明した。 「本来ならば、あの子の進みたい道を歩ませてやりたいのですが…… 自分の弱さに、遣る瀬ない気持ちです。」
サバキと代わった石割が、その返事をした。 「当然ですよ。鬼の仕事は、常に危険が付き纏います。 僕も、津村さんにこれ以上悲しい思いをさせたく有りませんから。」
津村宏は礼を言い、一つ提案をした。話を聞く石割の後ろ、地下室から駆け上がってきた日菜佳が、おやっさんに魔化魍の発生を伝えた。
「えっ!? ヒビキさんも、鬼の人なんですか!?」 「ははは。 鬼です。」 シュッとポーズし、努の事情を理解した上で、優しく言う。 「まあ、しょうがないな。それは。」
落ち込む努に、ヒビキは笑う。 「鬼ってのはさ。人を護る仕事なのは知ってるよな。ツラヌキの孫。」 「はい。」 「じゃあさ。何で人を護るのか、解るか?」 「……」
「そう深く考えるなよ。人を悲しませたくないから、俺達は鬼に成ったんだよ。」 ヒビキは笑みを消す。 「ツラヌキの孫の、今やってる事はさ、お前の父さん母さんを、悲しませる事に成り兼ねないんだ。」
努の頭を撫で、ヒビキは言う。 「お前がもし鬼になって、沢山人を護っても、お前の親はずっと悲しい思いをし続けるはずだ。」 「じゃあ、僕はどうしたら……」 「鬼に成れ。お前の親を護ってやれる、唯一人の鬼にな。」
「父さん達の、鬼に……」 「そうさ。 鬼に成りたい自分の心に、鬼に成って鍵をするんだ。 人助けなら、鬼以外の仕事でも出来るだろ。 まずは、それを見つけるんだ。」
たちばなに戻った努とヒビキの笑顔に、石割は安堵し、サバキはヒビキに礼を言った。 「津村君。喜べ。」 「マジ凄いっスよ!」 ザンキと戸田山の言葉に、おやっさんがフォローを入れる。
「さっき、フナユウレイが出たって報告があってね。 君のお父さんに頼まれて特別に、魔化魍退治の現場に付いていく事を、関東支部長として許可します。」 
石割が続く。 「大丈夫。どんな事があっても、努君は僕が生命に換えても護ります。」 サバキが、「おい石割! 俺達を忘れるな。」 と、すかさず突っ込んだ。
230名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 23:20:09 ID:EWXTy8dGO
翌日。2隻の漁船を借りた鬼達は、フナユウレイの目撃ポイントへ、波間に白い航跡を並ばせた。サバキ、ヒビキ、ザンキ、イブキ、フブキが乗る漁船は、何故か小型船舶の免許を持つエイキが舵を取っている。
もう一隻はサポート班。石割、戸田山に護られる努と、努の参加を良く思わないが、イブキに宥められたあきらが乗り、『歩』の浜口さんが運転していた。
「本当に幸運っスよ! 関東の鬼が6人も集まる現場なんて、自分も初めてっスもん! 良く見ておくっス!」 「はい、先輩!」 「せ、先輩? ははは、あははは!」
戸田山の笑い声すら覆う様に、いつの間にか海面は霧で視界を閉ざされていた。 「見えるか、ヒビキ。」 「ええ。うっすらとですが。」 霧の彼方に、黒い船影があった。
猛士データベースにすら、詳しい情報が無いフナユウレイだが、サバキとヒビキは過去に一度ずつ、退治している。 「そろそろか……」
まるでサバキの言葉に合図されたかの様に、無数のゼリー状の海水が人型になり、鬼達が乗る船を襲った。
「行くぞ皆!!」 それぞれが弦、笛、音叉から変身波動を受ける。サバキとヒビキは赤、エイキは緑の炎に包まれ、ザンキに雷が落ちる。イブキが風を纏い、フブキが氷に身を封じる。
「ウオォォラアァ!!」 裁鬼の気合いと共に、響鬼、斬鬼、鋭鬼、威吹鬼、吹雪鬼の変身も完了した。
「努君。 忘れられない光景になるよ。」 船の先に立つ石割の背に護られながら、努は鬼達の雄姿を双眼に焼き付けていた。
231テーマ曲、作っていたりします。:2005/12/16(金) 23:23:55 ID:EWXTy8dGO
『笑顔の種〜僕の裁き〜』
作詞 裁鬼ファン
作曲 募集

答えが ゴールじゃないと気づいた人は
歩いてる この道に終わりがないことに気づく

奪った未来に 許されようと 思わない
導いてくれた 光を答えを 支え続けていたい

仮面はいらない 素顔のままで生きていく
壊した力で 救け続けたい
この道 果てるまで続く
それが 僕の 僕自身への 裁き
232名無しより愛をこめて:2005/12/16(金) 23:39:19 ID:si0nlutI0
>>220
職人さんよ。
>1話を2、3日での書き込みに分割
するのならば、
冒頭にどこから続いてるのか書いてはどうだろうか?
例えば、>>228の場合なら冒頭に「>>219より続く」と一筆入れるとか。

分割した話の間に書き込んだ連中が邪魔者扱いされないかと心配してる。
233ありがとうございます。:2005/12/16(金) 23:53:01 ID:EWXTy8dGO
>>232さん

大変失礼致しました。掲示板で当然の事です。
既に手遅れ、お目汚しかと思いますが、>>228〜を「三十之巻 『道連れる船』・後編」とさせて頂きます。

楽しんで下さる皆様にご迷惑をお掛けしてしまいまして、誠に申し訳ございません。
予告だけですが、次回は明日以降に。
三十一之巻 「衰えぬ魂」
234名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 03:29:03 ID:JDhC0jmK0
>「行くぞ皆!!」 それぞれが弦、笛、音叉から変身波動を受ける。サバキとヒビキは赤、エイキは緑の炎に包まれ、ザンキに雷が落ちる。
>イブキが風を纏い、フブキが氷に身を封じる。

今おれは、燃えすぎて心の中で鼻血吹いた。
235名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 08:45:19 ID:USY5u7EvO
荒しか感想かよく判らん?
でも久しぶりに熱くなる文章に
出会った事はまちがいないな!
236名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 16:41:42 ID:4+43mrC90
吹雪鬼を登場させてる時点で俺的に神
吹雪鬼は女の鬼って説があるらしいけど、どーなんじゃろ?
237名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 17:54:50 ID:USY5u7EvO
吹雪鬼が女ですか?

当然白いイメージかなあ?
朱鬼と対照的でカコイイな!
238名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 19:37:56 ID:hlWEWgzk0
響鬼のサントラを聞きながら読むと感動倍増
239鋭鬼:2005/12/17(土) 23:06:00 ID:7h4u4C7c0
釈迦がおしゃかになったあたりが泣けた
240名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 23:09:44 ID:SQ3SeXt40
>>229
「鬼に成りたい自分の心に、鬼に成って鍵をするんだ。」

泣きました。
私の好きだった「仮面ライダー響鬼」がここにある。

TVではやられまくっている裁鬼さんが裁鬼さんの一部でしかないのと同じく、
TV放映分はこのスレのストーリーの一部でしかない。
今ではそんな風に思えてなりません。

どなたか、まとめサイトとテーマ曲の作曲を……
241名無しより愛をこめて:2005/12/17(土) 23:17:13 ID:SQ3SeXt40
んがっ、とんでもないIDが…

決して「濡れ場を」などと考えている訳ではございません。
入浴シーンとキスシーンで充分ですが、もし筆が乗ればお願いするのにやぶさかではなかったり。
242名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 00:45:04 ID:TnLBpDs20
>>241
>濡れ場

・・・やられても困ると思うぞ?
・・・特にまとめサイトを作ろうなんて奇特な人が現れた場合。
243名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 10:47:29 ID:IH/4MHuM0
けどお世辞にも美形と言いがたい30台のオッサンと熱女の濡れ場はあんまり・・・
244名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 13:10:36 ID:uEZ4WJ6QO
前回は>>228から。

三十一之巻「衰えぬ魂」前編

「やっぱ早いか……」 二の腕までを紅にした響鬼が、腕に残る赤い炎を消して音撃棒『烈火』を持つ。 「まぁこっちも数は居るんだ。気にするな。」 閻魔を構えながら、裁鬼が言った。
襲い掛かる水人形に、烈風の圧縮空気弾を打ち込む威吹鬼。氷の気を纏った手刀、鬼闘術『舞凍刃』で攻撃する吹雪鬼。
「船上が戦場…… オラァ!」 鋭鬼が、水人形を次々と海面に投げ飛ばす。その背後に迫る3体を烈雷で切り払いながら斬鬼が、 「下らない洒落言ってる暇有るなら、船を魔化魍に近付けろ。」 と、操舵に促した。
しかし、鬼達の船とフナユウレイの距離は縮まろうとせず、水人形だけが絶え間無く出現を続ける。サポート班の船では、石割とあきらが30体の茜鷹を起動させ、鬼達の船を援護させた。
「こりゃ、逃げてるな。」 「ですね。 おい鋭鬼! 船停めていいぞ!」 裁鬼と響鬼に言われるまま、再び水人形と戦う鋭鬼。裁鬼が吹雪鬼を呼んだ。 「吹雪鬼。ちょっと頼みたいんだけど。」
その時、海面から飛び出した童子と姫が、サポート班が乗る船を襲撃した。 「こんなに餌が……」 「我等の子供も迷っております……」 率いてきた水人形に応戦する石割、デッキブラシで凌ぐ戸田山。その間を擦り抜けようとした童子を、石割が蹴り落とす。
「無茶言わないでよ、裁鬼さん!」 船首に呼ばれた吹雪鬼の前で、裁鬼が掌を合わせる。 「頼む! 今度ウチでアップルパイご馳走するから!」 好物、しかもサバキの妻が作るものを出されては断れない。
船尾で戦っていた響鬼が、後ろの船の異変に気付き、海に飛び込んだ。
水人形から努を庇うあきらが、2体に捕まり海面に近付けられた。 「うわああっ!」 努が水人形に体当たりし、あきらから振りほどくが、逆に海に引きずり込まれた。
「津村さん!」 あきらの叫びに船尾を振り返った石割は、変身鬼弦を弾いて海に飛び込んだ。
245名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 14:07:34 ID:uEZ4WJ6QO
海中に入ると、水人形は溶けて無くなり、石割に突き落とされたまま待ち構えていた童子が、両手を広げて藻掻く努を捕まえた。その時、響鬼の鬼爪が童子の背中に突き刺さる。
追ってきた石割変身体に努を預けると、親指で上がるぞと指示した。 「大丈夫か!?」 涙目になり咳き込む努だが、ハイと力強く言った。石割に姫を任せたて言い、響鬼はシュッとポーズして、再び海水に潜って行った。
鬼達の船では、船首に立つ吹雪鬼が、音撃管『烈氷』に音撃鳴『六花』を取り付け、霧の彼方、フナユウレイの影を確認した。
音撃射『凍衷華葬』が、海面に薄い氷の膜を作ると、裁鬼は、 「よし!」 と漆黒の炎に身を包んだ。
童子の体液から生み出されていた水人形が居なくなったサポート班の船で、戸田山のデッキブラシを圧し折った妖姫は、舌なめずりをした。その身体を、努を抱き抱えた石割変身体の飛び蹴りが弾き飛ばした。 「努君! よく見てて!」
裁鬼・修羅は、吹雪鬼が作った氷の膜を猛スピードで駆け抜け、海底から引き上げた江戸時代の沈没船の様なフナユウレイに飛び乗る。泳ぎが得意な響鬼もその船体に辿り着き、音撃鼓を張り付けた。
石割変身体のパンチが、妖姫に反撃の隙を与えない。堪らず背を向き海面に飛び込むが、同時に石割が右ストレートを構えながら飛び、激しい水飛沫が上がった。
フナユウレイは、童子と姫が作り出す水人形で捕らえた人間を食らう。その本体に、二人の鬼を倒す能力は無かった。
船上では裁鬼・修羅が閻魔を突き刺し、『修羅音撃・閻魔裁断』を放ち、海中では響鬼が『一気火勢の型』を叩き込む。二重の音撃に、フナユウレイは爆発した。
霧が瞬く間に晴れた海面に、サポート班の船首から努が叫ぶ。 「石割さん! 石割さん!!」 それに応える様に、顔の変身を解除した石割が海面に姿を現わし、努に笑った。
妖姫が倒され、水人形が居なくなった鬼達の船は、裁鬼と響鬼を回収に向かう。 「お疲れさまです。」 素顔のヒビキが隣を見るが、修羅を解いた裁鬼が手足を動かしながら叫んだ。 「た、助けてくれ! 俺、泳げないんだ!!」

後編に続く
246名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 14:57:56 ID:DCHOhQRD0
音撃射「トウチュウカソウ」(!!)
>>245のオチってカッパの話を伏線に…!!
ウマー。。。s語彙わ
247名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 14:58:34 ID:OzurBpWL0
某所より転載

第X話「逆転の裁鬼」

いつもの様子のたちばなに一本の電話が。
裁鬼のサポーターの石割からだ。
もちろんその電話の内容は裁鬼の敗戦を告げるものだ。
勢地郎は轟鬼にフォローするよう要請するが
ついさっきバケガニを倒したばかりで疲れている轟鬼は不満げだ。
いさめる斬鬼だが、轟鬼の怒りは収まらない。
「裁鬼さんって本当に強いんスか?」
しかし思わず漏らした轟鬼の言葉に激しく反応する響鬼たち。
「冗談でもそんなこと言うなよ。
 俺たちが今こうしていられるのも全部裁鬼さんのおかげなんだぜ」
あの敗戦続きの情けない裁鬼のおかげで?
納得のいかない轟鬼を地下の施設に誘う響鬼。
倉庫のカギを解除すると、その中でも一際大きなカプセルを開けた。
中に入っているのは、どうやら壊れた音撃弦だ。
しかし、おおよそ音撃弦というには無骨すぎるほどの大きな鉄塊だ。
「これは裁鬼さんが昔使っていた音撃大弦・竜殺だ。試しに振ってみろ」
怪力でならした轟鬼だが、振るどころか持ち上げることすら出来ない。
ディスクに収められた当時の映像を再生する響鬼。
画面には竜殺を構えた裁鬼が30分以上かけて一回の素振りをする光景が流れた。
「練りと呼ばれる鍛錬方らしいぜ」
壮絶な強さを誇っていたらしい当時の裁鬼。
248名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 14:59:18 ID:OzurBpWL0
そして響鬼が次のディスクを再生する。
そこに映し出されたものは、見渡す限りの魔化魍の死体と、
その中央で竜殺を構える裁鬼の姿だった。
どうやら今から数年前、猛士と魔化魍の決戦があったらしい。
千年に一度だけ姿を現す魔化魍エンマの封印が解かれてしまったのだ。
エンマの能力は、敵が過去に殺した相手を復活させてしまうというもの。
当時の関東支部は戦力を結集させたものの、鬼が数を増せばそれだけ魔化魍の数は倍加する。
次々に傷つき倒れる鬼たち。
無事なのは自然発生する魔化魍の退治を一手に引き受けていた裁鬼だけだ。
その凄まじい戦歴から逆にエンマとの対決を禁じられていた裁鬼だったが、
かつての弟子、岩鬼(グワラゴワキ)がエンマに倒された事を知ると
響鬼や勢地郎が止めるのも聞かず猛然とエンマの元に向かう。

裁鬼が飛び出したことを知った鬼たちは、傷の癒えぬまま応援に向かう。
エンマと戦えないなら、せめて他の魔化魍の露払いを…
しかし、仲間が到着する前に裁鬼は復活した全ての魔化魍を祓っていたのである。
さしもの裁鬼も満身創痍だったが、残るはエンマだけだ。
鬼たちが見守る中、裁鬼とエンマの決戦が始まった。
249名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 15:00:06 ID:OzurBpWL0

巨大なエンマから繰り出される苛烈な攻撃。しかし裁鬼は退がらない。
逆に竜殺の連打で崖っぷちまでエンマを追い詰め、
とどめを刺すべくひび割れた竜殺をエンマに突き立てる。

「これぞ十五代目斬鬼直伝・音撃斬最終奥義…閻魔裁鬼!!」

そして力の限りギターを咆哮させる。
エンマの抵抗をものともしない、最高のステージが始まった。
「裁くのは…俺の音撃だーーーーーーッ!」
最後の一弾きと同時に崩壊する崖の中、爆裂するエンマ。
力を使い果たした裁鬼もまた、崖から転落する…。
「裁鬼さーーーーーん!」
響鬼たちの悲痛な叫びがこだまする。

しかし、裁鬼は生きていた。
全てを予測し崖の下で待機していた岩鬼が
落下した裁鬼を受け止めたのだ。自分の両腕を代償に…
250名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 15:01:19 ID:aR9dki+k0
もうダメポ…
吹雪鬼が女で妄想広がりすぎ!
朱鬼との対比が綺麗だろうなと思った辺り…

裁鬼嫁手製アップルパイに目がないで萌えまくりですよ!…か、かわええ!

朱鬼役の片岡礼子さんに1人2役してもらい、幼い頃イテツキ(氷属性)に預け(ry

…ヤバイ、これ以上妄想書くと職人さんの迷惑になる。
251名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 15:01:42 ID:OzurBpWL0
しかし、魔化魍の中でも神と崇められるエンマを倒した裁鬼には
ある呪いが降りかかっていた。
それは、裁鬼が今まで培った力のほとんどを封印されること。
呪いを解く方法はたった一つ。
今まで倒したことのある魔化魍の全てを、
もう一度自分の力だけで倒さねばならないという過酷なものだった。
力を失った裁鬼には無理だと、吉野は引退を勧めた。
しかし裁鬼は「力は失ったが、代わりに得られたものもあった」と断る。
そして、裁鬼に与えられた新しい力。
それはサポーターに回ることになった岩鬼こと石割青年と、
新たな音撃弦、閻魔だった…

「俺たちに出来ることは裁鬼さんの復活を信じて
 それまでフォローし続けることなんだよ」
諭すように話す響鬼。
じっと話を聞いていた轟鬼の目に、決意の色が宿る。
「ウッス!じゃあ轟鬼、フォロー、行ってきます!!
 斬鬼さん、何モタモタしてるっスか!」
「わかった、わかった」
響鬼は満足そうに轟鬼たちを見送るのだった。
252名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 15:08:28 ID:aR9dki+k0
>250だがゴメンヨ!
せっかくの転載ストーリー邪魔して!


・・・いいなこの話、出元を良かったら教えて欲しいな。
253名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 16:32:08 ID:iIJTndlg0
吹雪鬼は黒髪ロングの20代半ばの女性なんだろうな……ムッハー=3
254名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 16:40:12 ID:aR9dki+k0
>>253
もちろんストレートヘアだよな?
255名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 16:43:26 ID:aR9dki+k0
…バカァ!煽るなよ!
256名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 16:46:31 ID:aR9dki+k0
あっ、ID見て貰ったら判るが反省の意味でね!自演違うから・・・
257名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:01:43 ID:iIJTndlg0
妄想がSSになってしまった
裁鬼さん出てこないし、鋭鬼と吹雪鬼の話だから、鋭鬼スレにでも書き込むのが筋だろうが
ここのレスに触発されたもんだから、スレ違いと思いつつも投下してみる


「はぁ〜また留年しちゃった……」
駅前のカフェで、長くしっとりとした黒髪と、ツンとした唇を揺らしながら吹雪鬼は頭を抱えた
白のブラウスよりも白い手で、アイスティーにミルクを入れる
「やっぱり鬼と女子大生両方って、欲張りなのかな……」
ミルクをかき混ぜながら、頬杖をつく吹雪鬼に、店にいた男達は全員溜息をついた
吹雪鬼の斜め後ろに座ってる男三人組は、「お前、声かけろよ」等と互いに言い合ってはいるが、
反面、吹雪鬼は近づきがたい空気を持つ美人であった
「吹雪鬼さん!」
「あら、鋭鬼くん。遅かったわね」
そんな吹雪鬼に、声をかけたのはまだ少年の面影を残した青年だった。まぁ、言っては何だが美形とは言い難い。何よりチビだ
吹雪鬼に見とれていた男達からは軽いブーイングが上がる
「店員さーん、俺もアイスティーで。ほら、俺ってばアイスティーが大好ティーじゃない?」
「鋭鬼くん、ここ初めてでしょうに」
「え、えぇ〜と、ダジャレなんだけど。ホラ、アイスティーと大好ティーって」
素っ気ない吹雪鬼の態度に、慌てて鋭鬼が説明すると、吹雪鬼は面倒くさそうに
「判ってるわよ、それくらい」
と言いながら、その長い髪を掻き上げた。それが非道く様になって美しい
「あ〜良かった、良かった。俺の大好ティーな吹雪鬼さんに嫌われちゃ、コンビ解消のキティー(危機)って奴?」
キティのストラップを出しながら、鋭鬼が再びダジャレを言ってる間にウエイトレスはアイスティーを持ってきていたらしく、鋭鬼のダジャレに固まっている
「あぁ、ソコ、置いておいていいわよ。彼、いつもこの調子だから気にしないで」
棘は無いのだが、優しさも無い言い方で吹雪鬼はウエイトレスに言うと、鋭鬼に向き直った
258名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:02:48 ID:iIJTndlg0
「それで?」
「ん〜ヤマアラシが出たみたい。吹雪鬼さんと俺が一番近いから向かって欲しいって」
クシャクシャにしたストローの袋に、ストローで一滴アイスティーを垂らして遊んでいる鋭鬼を「食べ物を無駄にしないの」と吹雪鬼は叱ると、立ち上がった
「お〜い、俺、まだ飲み終わってないよ」
「会計は済ましておくから、後で来ていいわよ」
「……もうちょっとデートを楽しまない?」
ストローを咥えたまま喋る鋭鬼に、吹雪鬼はそのストローを押しつけて
「マナーを覚えてから言いなさいな」
「痛てて……」
口元だけで笑う吹雪鬼と、顔全てを崩して笑う鋭鬼は対照的だった


茨城の山間地に入った鋭鬼と吹雪鬼はディスクアニマルを展開すると、キャンプの準備を始めた
関東の鬼は11人であり、基本的には三人ないし二人一組で行動するのが基本である
他にサポーターや弟子が付く場合があるが(前者では響鬼、後者では裁鬼が良い例だろう)吹雪鬼と鋭鬼はそのどちらも持たない
「ちゃちゃっと終わらせるわよ。もう山は寒いしね。泊まりは厭だわ」
吹雪鬼がその長い髪を束ねると、その白いうなじが覗いて見えて、鋭鬼はドキマキした
「……?どうしたの、鋭鬼くん。やけに静かね」
「え?いや、俺はいつもの通り、元気爆発の鋭鬼くんだぜ?」
「……やっぱり変よ。いつもの鋭鬼くんなら、ここでくだらないダジャレの一つや二つ言うでしょうに」
訝しんだ吹雪鬼に、鋭鬼はダジャレで返そうとしたとき、ディスクアニマルが半壊した姿で返ってきた
「アタリみたいだね」
鋭鬼はディスクに戻ったアニマルから場所を特定すると、地図に当たりを付けていった
「可哀想に……後でちゃんと直してあげるからね」
吹雪鬼は負傷したディスクアニマルを撫でた後、ハンカチで包んでしまうと、鋭鬼に魔化魍の生息場所を訪ねた
「ま、大体この辺りとは思うんだけどね。後はランニングしてハンティングすれば魔化魍も、捕まっかもー、なんちゃって」
「OK、じゃ、行きましょ」
「……はいはい」
頭を掻いて、走り出そうとした鋭鬼を、吹雪鬼は呼び止めた
「ちょっと待って、ここら辺、湖があるみたいね……」

259名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:04:17 ID:iIJTndlg0


鋭鬼は森を探索していた。この辺りは針葉樹林が多い
「案外、童子の方は俺の事見つけて見張っていたりしてな」
キョロキョロと辺りを見回すと、一番大きな木に印を付けておく
「この針葉樹は信用樹?」
例え一人でもダジャレを言い続ける男、鋭鬼
「しんよーじゅ?」
「シンヨージュ?」
訂正、やっぱりダジャレは人に聞いて貰ってなんぼだなと、鋭鬼は笑うと変身音叉をデコピンする
「はぁ〜〜〜でぇいや!」
緑色の炎を掻き消して、仮面ライダー鋭鬼が姿を現す
「しんよーじゅ……あ、鬼だ」
「鬼だ、鬼」
童子と姫が鋭鬼を指さすと自らの体を硬化させ、怪人へと姿を変えた
「吹雪鬼さんに、お願いな」
鋭鬼は腰に装備してたディスクアニマルを一枚展開すると、吹雪鬼の元に使わせた
「さて……と、童子がココにいるって事は……」
構えた鋭鬼の足下が揺れる。ズドンズドンという音と共に地鳴りが近づいてくる
「アリ?ひょっとして三対一?童子よー(どーしよー)」





260名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:05:18 ID:iIJTndlg0
ディスクアニマル浅葱鷲が上空から森の中の湖を見つけると、急降下する
湖の中心には吹雪鬼が水面に立っていた
「ん……鋭鬼くん、当たったみたいね」
ごくろうさまと、浅葱鷲の頭を撫でるのと、地鳴りが響いてくるのが同時だった
「吹雪鬼さ〜〜ん」
ヤマアラシに追いかけられる鋭鬼はのんきに手を振っている
「……つまらないダジャレを言われて怒ったのかしら、あのヤマアラシ」
と、溜息をつくと、吹雪鬼は変身音笛をその整った唇に当てる
「っ〜〜はぁあ!!」
鈍く縹色に光るボディに白い角――仮面ライダー吹雪鬼だ
「鋭鬼くん!打ち合わせ通り、湖の中に引き入れて!」
「オッケー!ほーら、鬼さんコチラ!!……って、鬼は俺じゃん?」
「なんでもいいから!!」
まぁ、鋭鬼のその態度にヤマアラシは怒ったらしい。湖に入った鋭鬼を追ってヤマアラシもその巨体を湖に沈めてきた
「勝兵はまず勝ちて後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求むってばっちゃが言ってたわよ!すぅ〜〜はぁっ!!」
吹雪鬼の烈息で、湖が凍っていく
「ガル?ギャオアァオアァオッォオォォォォ!!!?!!」
足下が凍って身動きが取れなくなったヤマアラシが奇声を上げる
「吹雪鬼さ〜ん!俺も凍ちゃってるんだけど〜〜」
「音撃管・烈氷!はぁ!!」
吹雪鬼は鬼石をヤマアラシに打ち込むと、続いて音撃鳴『六花』を取り付けた
「音撃射、凍衷華葬!!」
「グルオオォォッォォォ!!!」
ヤマアラシが断末魔の叫びをあげると、物言わぬ肉塊となって弾け飛んだ。ついでに鋭鬼も
261名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:06:16 ID:iIJTndlg0
「痛てて……」
岸に打ち付けられた鋭鬼は、顔だけ変身解除をする
「出られて良かったわね、鋭気くん」
「酷いなぁ、吹雪鬼さん」
湖を凍らせて、その水面に立ったままの吹雪鬼も又、顔の変身を解く
一歩も動かないで倒したらしい
――ペキ……ペキペキ……
「え?」
足下から妙な音が聞こえて吹雪鬼が音がした下を向くと
「きゃ、きゃあ〜〜〜」
――じゃっぽ〜〜〜ん!!
「吹雪鬼さ〜〜ん!!」



「……う〜しばれるな〜〜」
ブルブルと震えながら、火に当たる吹雪鬼は、鋭鬼のTシャツを着ている
哀しいことに、サイズがぴったりなんだ、これが
「はっ……ハックション!!」
当然ながら、鋭鬼が服を二着持ってきてる筈もなく……まぁ、この寒いのに上半身裸だったりする訳で
「鋭鬼くん、こっち着て火当たりなさいよ」
しゃがんだ吹雪鬼のTシャツでは下着まで隠し切れてない訳で、鋭鬼は近づくどころか、向こうむいたままな訳で
「お〜い、鋭鬼くん?風邪ひくぞ〜?いいふりこぎしねで、火さ当たれよ〜」
「くっ……もう氷はこりご〜りだぜ!」
「……3点」


                                                          FIN
262名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:21:42 ID:8pdtNZDn0
>>246
そうか、音にすると「とうちゅうかそう」か…。
字面だけ見ると「雪華葬刺し」みたいで耽美だなあ。さすが女鬼。

それにしても、謎のチョイ役努君がこんなに愛しく思えるとは魔法のようです。
職人さんは本当に「響鬼」の世界を愛しているんだろうなあ。
できることなら、茂鬼さんにも読んでもらいたいくらい。
263名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:47:18 ID:8pdtNZDn0
>>261
失礼、リロードせずに書き込んでしまった。
女子大生鬼って…センセーショナルだけど、両立大変だろうな。
多すぎる休みがあらぬ噂になってたりして。挙句、留年続きで放校とか。

それにしてもこの二人は着替えなしで無事に帰れたんでしょうか。
264名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 22:57:16 ID:aR9dki+k0
>>257-261
そんな話をココに投下してどうすんだ!!

スレ立ておながいします、続き読みてぇ!いや、エピ1も・・・
265名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 23:10:03 ID:aR9dki+k0
シャレ抜きに裁鬼は大人ストーリー杉!
TVの可能性を考えても石原プロならマーケティング的にもやりそ!
いや、舘ひろしなら裁鬼役やってくれそう!
266名無しより愛をこめて:2005/12/18(日) 23:14:14 ID:aR9dki+k0
ガキの考えかも知れんが、
仮面ライダーとしてバイクアクション踏まえてだよ
…単純すぎますかね?
267名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 05:26:43 ID:VhE1IQHb0
>>262
ライダースレで「雪華葬刺し」を観るとは思わなんだw
うん、耽美だよね
268名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 10:45:25 ID:3hDyW+KbO
前編は>>244>>245

三十一之巻「衰えぬ魂」後編

夕日に煌めく海面を、2隻の漁船が港に戻る。レディファーストという事で、フブキとあきらから順に、漁業組合の倉庫で着替えをしている間に、『歩』の浜口さんが宿を用意して戻って来た。
「どうもありがとうございます。 今日はゆっくり休んでいって下さい。」 皆を代表し、サバキがおやっさんに報告の電話をしたところ、魔化魍発生の兆しも無かったので、一向は老舗の民宿に向かった。
「石割、右手大丈夫か?」 脱衣所で、サバキが訊いた。湯槽の大きさから4人交替で入浴する事になり、サバキ、石割、努、エイキが2番風呂に入った。 「特に問題無いですね。 姫を倒したのが5割くらいの力でしたが。」
安心するサバキの隣でエイキが、本当に石割れるんだなぁ!と、一人笑った。努は、石割の右拳に目を向ける。
一度手術した事は聞いていたが、変身に依る細胞の活性化で浮かび上がっていた治療の痕跡が、五本の指に赤く走っていた。 「石割さん。 ごめんなさい。」
「えっ!? 何、どうしたの?」 「僕、勝手にあの水にぶつかって行って、溺れて……」 石割は手を振る。 「何も気にしなくて良いよ。 それに、あれはあきらちゃんを助けようとした事でしょ。」
エイキが見てもいないのに頷き、明らかにな、と真顔になる。 「お前は黙ってろ。」 サバキがエイキの頭を掴み、湯槽に浸けた。 「間違った事してないよ、努君。 鬼の弟子なら、誰だって君と同じ事したさ。」
食後、夕涼みに散歩を思い付いた努は、反省会と称した宴会を抜けて外に出た。 「あ。」 あきらが、一人でディスクのメンテナンスをしていた。 
「何か、手伝えるかな?」 努の言葉を無視して、あきらは淡々と話し始めた。 「昼間の行動は、私を助ける為にしたと考えていたら不要でした。 あれ位の敵なら、私には幾つもの回避行動が執れていましたから。」
既に半数の茜鷹が、ボックスに収納され、充電を開始していた。まだ涼しい夜風が、沈黙を吹き抜ける。 「……でも、ありがとうございました。嬉しかったです。」 「あ、あはは。 ま、まあ一応、一日限定で鬼の弟子だからね。」
「ドライバー。」 「えっ?」 「そこのドライバー取って下さい。手伝ってくれるんですよね。」 頷く努に、あきらは笑った。
269名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 11:25:30 ID:3hDyW+KbO
翌日、たちばなに戻った努を、出張を切り上げてきた両親が抱き締めた。 「済まない、努……」 「ちょっと、父さん! 恥ずかしいよ!」 「あなたの気持ちが解っていたのに、私達はまた避けてしまって…… 皆様にも、大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。」
頭を下げる母・直子に、努は赤面する。 「お母さん。 努君は勇敢でしたよ。 魔化魍から、このあきらを守ってくれたんですから。」 そう言ったイブキに紹介され、あきらは一礼をする。 
「努、お前……」 「大丈夫だよ、父さん、母さん。 僕、鬼とは違う道で、人助けしたいんだ。 もう、あまり心配掛けたくないしね。」 改めて息子を抱く両親に、鬼達も笑顔を贈った。
夏も近付き、今年も小型魔化魍が出現する準備に、サバキが石割と共に、山に籠もっていた。 
「もっと腕を動かして!」 川の流れに逆らい、サバキがクロールを練習していた。 「足で水を掻かないと! タイムを一秒無駄にしてますよ!」 激しく手足を動かせるが、サバキの体中の筋肉に痛みが走った。
「ちょっと! サバキさん!?」 俯せのまま、流れに乗って下流を目指すサバキを抱き上げる。 「あ、石割。」 「あ、 じゃないですよ! どうしたんですか!?」
笑って誤魔化したが、身体の違和感が消えないサバキは、翌日、一人で間島医院を訪れた。 「もしやとは思うが、一応…… ホレ。」 体力測定表を、手渡された。
昨年と同様の襲撃に備え、ザンキと戸田山は神鬼村の警護にこの夏を費やす。サバキがカッパ、ヒビキがドロタボウを倒した後、間島医院からたちばなに、サバキの体力測定の結果が送られてきた。
おやっさんは、用紙を見せながら気不味い顔をした。 「正直に言おうか…… お前の身体は、だいぶと無理しているね。」 「……」 「石割君も変身出来たし、そろそろ彼に……」
「まだ早すぎますよ。 ……それに、こんな身体だからこそ、教えておきたい事も有るんです。」 無表情のおやっさんに、サバキは笑いながら言った。 「ま、頼れる内に、頼ってやって下さい。」
地下を出ていく背中を見送りながら、おやっさんは体力測定の用紙を机の奥底へしまった。
「……」 サバキは、今年で36歳。気付けば、全国の鬼の中でも、現役最高年齢に達しようとしていた。

次回「過ぎ去る平和」
270名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 19:36:22 ID:1YOydcGg0
物語が1年前まで追いついて来ましたね…。
何すかこの次回のタイトルは!何かあっちゃうんですか?
271名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 20:11:14 ID:uPWQGO4H0
↑これみたいなageるヤシが出てくると荒らしを呼びかねんから
良かったら職人さん、コテつけて欲しいな!
でも、いろんな人にこれを読んで欲しいって気持ちもある・・・
272名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 20:35:22 ID:umaqtBTA0
なんか、涙が出てきました。職人さん、ありがとうございます。
一言だけ言わせてください。


・・・・仮面ライダー裁鬼・・・・このあとすぐ。。。。。
273名無しより愛をこめて:2005/12/19(月) 23:51:28 ID:xqLasegRO
いよいよクライマックスかな。ホントに荒れもなく奇跡的なスレだw。

裁鬼最終話は響鬼第一話の屋久島話(だっけ?)と繋げられれば面白いかも。なぜ屋久島へ響鬼が渡らなければならなかったのかなど、匂わせられるとね。

希望。鬼全員に炎を吐かせてほしい。横一列に並び、一斉にファイヤー(笑)。吹雪鬼は‥吹雪か?
274名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 00:44:48 ID:8icZFMdz0
>>273
>鬼全員に炎を吐かせてほしい。横一列に並び、一斉にファイヤー(笑)。
>吹雪鬼は‥吹雪か?

吹雪さんだけ足引っ張ってますやんw


>>271
どこかのサイトで掲載しないかね?
275名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 04:43:57 ID:p5xIyQqcO
マジレスすると、響鬼や裁鬼が火を吹くのは火属性の鬼だからで
雷属性の轟鬼や斬鬼は雷を
風属性の威吹鬼は竜巻を
地属性の鋭鬼は地震を
それぞれ吹くと思うが?

ついでに、吹雪鬼の職人サンは鋭鬼スレ常駐になったのか?
276名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 09:12:54 ID:05Gi8TwT0
裁鬼さんって、属性は闇ですよね?
277名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 10:20:31 ID:+85zvI5VO
鬼は皆闇属性ジャマイカ?
陰陽五行説が基本なら地水火風空
どれかに入る。ならば氷は?
となると、いにしえからの
鬼達が基本を作ったんじゃね?
水と風を学んで氷とか
雷は水と空で雲かなあ?

現にトドが響鬼にドンドコ習ってたよな!
278270:2005/12/20(火) 10:28:02 ID:96DF8HOq0
すんません、厨房でした。orz
279名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 10:37:43 ID:+85zvI5VO
>>278
気にすんな、次に取り戻せ!



ザンキさんならこう言うさ!
280名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 10:47:41 ID:6THC9eYbO
三十二之巻「過ぎ去る平和」

9月。サバキは石割と共に、山寺に籠もっていた。この1週間、鍛練の為2回変身したが、変身時の衝撃に身体は悲鳴を上げ、変身を解いた後も暫くは激痛が消えなかった。
「こりゃ、本格的にヤバいなぁ。」 夜風に当たりながら、サバキは呟いた。 「何がです?」 振り向くと、石割が薪を担いでスクワットしていた。 「……ああ。雨雲がな。明日は土砂降りだろうな。」
翌日の昼前、客の来ないたちばなの店内で、おやっさんは朝刊を読み直していた。入り口が開き、一人の老紳士が入ってきた。 「いらっしゃい…… あ、貴方は……」
「茶菓子用に、注文を頼みたい。」 帽子を取ったテンキは、おやっさんに白い歯を見せた。 「久しぶりじゃな、勢の坊。」
そのころ神鬼村では、ザンキに見守られながら、戸田山が変身鬼弦を弾いた。落雷の衝撃にたじろぎながらも、気合いを込めて変身を完了した。 「あ…… やった! やったっスよザンキさん!」
昼下がり、山寺で石割変身体に弦捌きを復習させていたサバキを、赤い炎の式神が襲った。身体を横転させて緊急回避するが、腰の痛みに顔が歪む。 「何をもたついてやがるんだ、馬鹿弟子!」
殴り飛ばされたサバキに、茫然とする石割。 「師匠……」 サバキの目の前に、若い姿のテンキが立っていた。 「歳だの限界だの言ってるそうじゃねぇか。」
神鬼村の人々は、変身に成功した戸田山に拍手を浴びせる。カッパまでも喜んで川から出てきた。 「どうも! どうもっス!」
ザンキが、じゃあ変身解いてみろ、と指示した。村人が沈黙する。 …………。 「ザンキさん! どうっスか!?」 「馬鹿野郎! 顔だけ解け!」
テンキが、再びサバキを殴った。 「変身してないならまだしも、鬼の時に歳で動けなくなる様な鍛え方させなかっただろうが!」 「師匠、何で…… 鬼の力は、俺の修羅の時に……」
テンキが笑いながら、手首を見せる。 「陰陽管!?」 「たちばなから借りてきた。 久々に稽古してやるから、さっさと来な!」 三度振り上げた拳を、石割変身体が掴む。
「何やってるんですか、テンキさん!?」 「お。 丁度良いぜ。借りるぞ。」 石割から変身鬼弦を奪ったテンキは、黄金色の雷を纏った。
281278:2005/12/20(火) 11:11:19 ID:96DF8HOq0
>>279さん、俺頑張るっス!
282名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 11:18:08 ID:6THC9eYbO
天鬼は、顔の変身を解かれた石割を弾き飛ばし、サバキの首を掴み持ち上げた。 「言っとくが、久しぶりの変身で力加減を覚えてねぇ。 ボキッといく前に変身しやがれ!!」
堪らず鬼弦を弾くサバキだが、変身の完了と共にガックリと全身の力を抜いた。 「おいおい。弟子の前で不様な格好するんじゃねぇよ!」 尻餅をついていた石割に、裁鬼を投げ飛ばす。
「まだ限界を見せてねぇな。 さっさと修羅に成れ。」 力無く起き上がる裁鬼。普通の変身だけでも、立てなくなる程の痛みが襲ってくる。今修羅に成れば……
「……そんなモンか。」 躊躇う裁鬼に、天鬼は吐き付ける。 「お前の『鬼』ってのは、そんなモンかよ!」 突進してくる天鬼に、裁鬼は覚悟を決め、漆黒の炎に身を焦がした。 「そうだ! 来てみな!」
修羅と成った裁鬼は、身体の痛みが引いていく感覚に驚いた。天鬼が目の前で急ブレーキを掛けて聞く。 「……どうだ? 痛みは?」 「……いえ、無くなりました。」
立ち尽くす裁鬼・修羅に、天鬼はパンチを繰り出した。咄嗟に、裁鬼はその拳を掴む。 「……馬鹿弟子が! 修羅は低温に弱いって言ってやったのに、氷の上走った挙げ句、海水に飛び込むんじゃねぇ!!」
フナユウレイを倒した時の戦法は、超高温を保つ修羅を急激に冷却させていた。結果、その温度差に体調や筋肉が着いていけず、再び修羅まで加熱しないまま川で泳ぎ、更に身体を冷やした事が、サバキの激痛の原因だった。
「師匠……」 「世話焼かせるな。 じゃあ、俺は帰るからな。」 「ありがとうございます。」 「礼なら間島のヤツに言ってやれ。心配して手紙寄越してきたぞ。」
変身を解き、帰っていくテンキに頭を下げるサバキの耳を、石割の叫び声が貫いた。 「ちょっと待った!! テンキさん、変身鬼弦返して下さい!!」
283名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 12:05:41 ID:6THC9eYbO
11月。石割の携帯に、彩子からメールが届いた。 『12月25日に帰ります サカエさん達にも伝えてね (^O^)/』
話を聞いたサバキは、笑顔で家族に伝えた。雑誌モデルをしながら、来年の特撮番組にレギュラーが決まった三男の慶伍君は残念ながら佐伯家に帰ってくる暇は無く、長男の亮太も仕事だという。
次男の篤志君も店に予約が入り出席出来ないが、寿司を出前すると言った。末っ子の和馬君は、デートらしい。 「まあ、正月に会えるから良いか。」 
瞬く間に当日、サバキが、妻と石割の三人で迎える支度をしていた時、おやっさんから魔化魍発生の報を聴いた。
「種類は!?」 「ああ、バケガニ……」 「場所は!?」 「ああ、千葉の……」 電話を終えたサバキが愛車に乗り込むと、既に石割が準備を済ませていた。 「飛ばしますよ!」
石割の迎えを期待していた彩子は、母の車に揺られ、仕方なく二人の帰りを待っていた。夜が更け、ラップを掛けられた寿司が乾ききった頃、玄関のドアが開いた。 「ただいま! ゴメン彩子!」
走ってくる愛娘を受け止めようとするサバキを通り過ぎた彩子は、石割を抱き締めた。
互いに変わらぬ笑顔を見せる若者を背に、一人両手を広げて固まっているサバキの胸に妻が入り、子供を慰めるように背中を優しく叩いた。

年の暮、鬼達の忘年会が開かれた。ヒビキと戸田山が腕相撲をし、見事戸田山は大金星を挙げた。フブキが、バンキ、トウキ、エイキに、一番酒を飲めた鬼と今晩二人きりで過ごしても良いと誘惑した結果、三人とも一次会で潰れた。
クリスマス直前に彼女に振られたショウキをゴウキが励ますが、怒り上戸と泣き上戸。共に二次会でダウン。フブキも帰り、ダンキはみどりを送っていくと言ったが肝心のみどりは参加していない。相当酔っていたので、イブキに連れられて強制帰宅。
三次会に行く前、戸田山が石割に腕相撲を挑み、軽く去なされ捻挫した事を鬼達は知らない。
結局、三次会は、サバキ、石割、ヒビキ、ザンキといった、いつものメンバーで締め括られた。ザンキは酔いが回ったのか、戸田山は可愛い、としか言わなくなり、あ゛〜……と溜息を吐くと寝てしまった。
そして、2005年を迎えた。

次回「動きだす悪意」
284名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 12:35:27 ID:yipW1HNz0
>>277
五行って地水金木火じゃ……日本は違うのか?
285名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 13:53:17 ID:+85zvI5VO
木火土金水だたよ。
地水火風空は仏教だな!
286名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 14:01:48 ID:+85zvI5VO
しかし吹雪鬼さんの悪女っぷり、
イイ!
287名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 20:42:33 ID:yipW1HNz0
>>275
ウィ
仮面ライダー吹雪鬼は鋭鬼スレで投下し続けます
288名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 20:49:53 ID:jLvYp98v0
>>287
鋭鬼スレ誘導してもらえないか?
289名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 20:55:28 ID:JBV+xp440
>>288
鋭鬼・支援スレ

リンクは倫理が苦しむので貼らない
290288:2005/12/20(火) 21:03:28 ID:jLvYp98v0
>>289
スマネ!自力で探すよ・・・
291名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 21:54:07 ID:VquyB+CL0
>>289
つーことはちょっと遠いところかいな?
まあ余り深く突っ込まない。

鬼の集団検診が見てみたかったりする今日この頃。
γGTPとか気にするんだろうか
292名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 22:03:20 ID:hRcpb8EkO
>283
いよいよ本編に近づいた!
293名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 22:39:11 ID:qU3qZXi8O
忘年会キター!

ふられたショウキさんは、自分の職業をその彼女に何と言っていたんだろうか。
「職業は環境保護監察官です」とかごまかしてたんだろうか‥w
294名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 22:59:10 ID:hvZ8+cMw0
吹雪鬼だけ、OPに出てきてないし、画像もあがってないって事は
他界したのか、それとも引退しちゃったのか・・・
295名無しより愛をこめて:2005/12/20(火) 23:36:45 ID:p5xIyQqcO
関東十一鬼に斬鬼入っちゃってたからおかしくなってんだよな
まぁ、鋭鬼スレ(特撮!板にあるよ)の感じだと寿退社もアリな気もw
しかしエロカワイイな吹雪鬼さん
296名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 00:25:42 ID:ukvmnuq00
毎日本当に楽しみに読ませてもらってます。感謝!
一貫した信念に基づくストーリー構成、本編との完璧なリンク、
瑣末な部分のマニアックな設定…、職人さんは神がかってますね。

佐伯家三男坊はスーパーヒーロータイムご出演か?なんて、
本筋には関係ないんでしょうが、気になりますねえ。面白い。
297名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 00:53:06 ID:hUGhwb8J0
ヤバイ!明日4時半起きなのに、職人さんがGJ過ぎて全部読んじゃったよ。
しかし明日の仕事が辛くても、後悔しない自信は有る。職人さん、ありがとう。


でも、でも、もしかして、本編最終回と一緒に、この物語りも終わってしまうの?
そうだとしたら、勿体無いなぁ。
298名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 03:33:04 ID:q+bjPTwV0
このスレの職人さんに感化されて
職人さんのには到底及ばないけど
響鬼の鰹の話みたいな感じの番外編を書いて見ました。
299名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 03:51:27 ID:q+bjPTwV0
番外編 「伝われ絆」
ある朝のこと。東京は練馬にあるボロアパート「ときわ荘」にどしゃ降りの雨の中、駆け込む男がいた。エイキだ。
「ダンキーーー!!助けてクレィ!!は日本語で粘土。」しかし部屋にダンキはいない。
だが、すぐにエイキのけたたましい叫び声を聞いたダンキが隣の住人の部屋からいつもの口調で現れた。
「エイキさ〜ん。なにやってるんスか!!イシモリ先生が原稿にインクこぼしちゃったじゃん!!」
エイキは一瞬たじろぎ、ダンキが出てきた部屋で漫画家のような人と大勢のアシスタントが
ショックで気を失いそうになっているのを見てダンキと漫画家とアシスタント達に謝った。
「イシモリ先生は最近連載が増えていそがしいくてさ。アシスタントが足りなくてとなりの部屋に住んでるだけの
漫画の書き方知らない俺にまで手伝えって言ってきたんすよ。ところでエイキさんは何でここに来てんのよ。
シフト表じゃ今日、エイキさんが魔化魍退治の当番なんだから家に居なきゃ。エイキさんも携帯ないんでしょ。」
とダンキがいうとエイキが泣き付いてきて言った。今朝エイキがフブキのマンションを訪ねたときからフブキに
元気が無く相手にしてもらえないということらしい。駄洒落ばっかり言ってるから愛想つかされたんじゃ・・・とダンキは心の中で思ったが、
泣き付いてきたエイキの言葉に駄洒落が無かったことから深刻に思ったダンキは「ときわ荘」を後にして
ゴウキの家に相談に向かった。ゴウキはメカが苦手なところはあるが、ヒーロー重んずる情に厚く涙もろい頼りがいのある鬼だ。
ゴウキの部屋に入るダンキたち。「ゴッドマ〜ン…かく〜だい!」殴りあうゴッドマンと怪獣を少しおかしな目で見つめるゴウキ。
ゴウキはTV番組を見ていたが部屋の入り口に寒気を感じエイキが来たことを感じ取った。
300名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 03:54:27 ID:q+bjPTwV0
「エイキ・・ん、ダンキもか。入れ入れ。あっ、入り口の近くに座禅を組んだギャラクシーロボが飾ってあるから倒さないように気をつけてくれ。」
漫画やコレクションで少し散らかったゴウキの部屋でエイキが事の経緯を語り、ゴウキがそれに答えた。
「俺みたいのじゃなく他の誰かに相談してみればどうだ?」「ザンキさんとか?慙愧に耐えませんなw。」
「・・・・・・・。ザンキさんは止めておいた方がいい。俺は以前恋愛についてザンキさんのアドバイスを受けてひどい目にあったことがある。」
「ヒビキさんにでも相談すればいいんじゃ〜ん。」「それがいいかもしれん。よし、たちばなへいくぞっ!!」
ゴウキが啖呵をきると3人は家を出てたちばなへと向うことにした。どしゃ降りだった雨も少しづつ小さくなってきていた。
「エイキくんにダンキくんにゴウキくんに3人揃って何しにきたんだい。」たちばなにおやっさんの声が響く。
その声を聞いたヒビキが店の奥からやってくる。「よっ、シュッ。どうしたんだ?」3人はヒビキに用があるといって
ヒビキに用件を説明した。しかし恋に鈍感なヒビキはまったく参考になることを言ってくれない。
そこにみどりがやってくる。エイキは藁にもすがる思いでみどりに相談する。
「う〜ん。フブキちゃんが好きな食べ物とかないの?」
「あ、そういえば『サバキさんの奥さんのアップルパイ』がそう入れ歯になってもいいくらい食べたい。って前に言ってたような・・・。
 サバキさんの家に貰いに行こう。」さりげ無い駄洒落に気付いたみどりはしばし閉口するが、こう返した。
「ただ貰ってくるだけじゃダメよ。エイキくんの気持ちがこもってなきゃ。エイキくんがサバキさんの奥さんに教えてもらって
 『サバキさんの奥さんのアップルパイ』を作るとか、どう?」
「さっすが、みどりちゃ〜ん。あっ、そうだ。ヒビキさん今日ってトクトク市じゃ〜ん。」
「よし、今日は太鼓4兄弟で材料、買い出しだな。」「ヒビキさん、エイキもアップルパイ作りなんて始めてですから、
 材料は多めに買っておきましょうよ。」ダンキ、ヒビキ、ゴウキが次々と口火を切った。エイキも乗り気のようだ。
301名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 03:55:39 ID:q+bjPTwV0
非常時には石割の携帯や佐伯家に連絡するようにおやっさんに伝えたヒビキたち4人はトクトク市で材料を購入し佐伯家に着き、
事情を説明した。奥さんは快く引き受けてくれた。またサバキは魔化魍を倒しに出ているらしい。
「久しぶりに、にぎやかになったわね。子供たちも何かと忙しいから。エイキくん私の指導はきびしいわよw。」
「流石、佐伯さん冴えに冴えているw。」一瞬ではあったが場の空気が凍った。そのころ、魔化魍を退治し終わったサバキは
佐伯家まであともう少しというところまで来ていた。石割の携帯がなる。石割に車の運転をさせていたサバキは代わりに電話を受ける。
おやっさんからだ。「もしもし石割くん?おっ、サバキか。まだ家には帰ってなかったのか。ごめんねぇ。」
「何かあったんですか?」「いやねぇ、バケガラスが下久保のあたりに現れたらしいんだよ。また厄介な奴でねぇ。
それでエイキに出てもらおうと思って。」「エイキへの連絡なら何故石割の携帯へ?」
「エイキがフブキとなんかあったらしくて、それでエイキが君の奥さんにアップルパイ作りを習うために
 君の家へ来てるんだよ。君の家にいるエイキに連絡を入れなくちゃいけないから。それじゃあね。」
佐伯家にもおやっさんからの連絡が来た。エイキが奥さんの指導でアップルパイを作っている最中のことだった。
「バケガラスは数は少ないんだけど下手をすれば100年は生きる魔化魍でね。今度のバケガラスも我々に隠れて少しづつえさをとって
 長い期間をかけて成長した強力なものかもしれないんだ。その上、念動波まで使う厄介なやつでね。下手に音撃管で攻撃しても
 鬼石が当たるまでに、はじき返されるかもしれないんで、資料によると直接音撃鼓で攻撃するのが撃破する方法らしいんだ。
 それでも念動力が強い奴が鬼を念動波で跳ばしたなんて記録も残ってるもんだから、 
 なにぶん資料が少ないもんでよく分からない部分もあるんだ。すまんがエイキくん行ってきてくれるか。」それを聞き、
魔化魍退治に向かおうとするエイキをゴウキが止める。「俺が行く。お前はパイを作ってろ。ヒビキさんやダンキも休んでてください。
2人とも先週戦ってたばかりでしょ。ただし、おやっさんには内緒ですよ。」
「キザな台詞だねぇ。変身後の頭部もギザギザだけどw。ありがうとな。・・・・・。ゴウキ。」
302名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 04:01:26 ID:q+bjPTwV0
3人と奥さんに見送られゴウキが下久保へ向かった少し後、サバキと石割は佐伯家に着いた。サバキは佐伯家に着くと用事があると言って
石割だけを佐伯家で下ろしどこかへ出発した。下久保へ着いたゴウキは「歩」の白石さんの情報を元にディスクアニマルで探索を開始し、
バケガラスの巣らしきところへたどり着く。時間はもう午後6時を廻ろうとしていた。あれほどひどかった雨ももうすっかり止んでいる。
恐る恐る巣に近づくとゴウキはそこに人影らしきものを発見した。「童子か・・・・・。」しかし近づいてみるとそこには音撃管『夕凪』を持ったサバキがいた。
「何故ここにいるんですか?やっぱりエイキのことですかw。」「た、たまたまここに来ただけだ。」すこし落ち着きが無いサバキ。
「嘘は言わない方がいいですよ。」「あ、ああ・・・。俺もエイキのことでだ。」恥ずかしそうにサバキが答えた。
少しづつ巣へと近づく2人。ふと思ったのかサバキが呟いた。「お前、構えがソウキに似てるな。」
「まぁ、一時期はソウキさんに師事してましたからね。変身後の姿もなんとなく似てるでしょ。」
「フハハ、口ぶりまで似てやがるな。」そんな時バケガラスの巣から煙のようなものがもくもくと吹き出てきた。現れる怪童子と妖姫。
「今日は俺と裁鬼さんでダブルライダーですからね。」「おう、いくぞゴウキ。」変身鬼弦を弾くサバキ。その体を赤い炎が包む。
そして意味もなく両手にはめていた手袋を脱ぎ捨て、音叉を取り出しポーズを決めるゴウキ。瞬く間に変身する2人。
鬼に襲い掛かる童子と姫しかし、裁鬼と剛鬼の動きを見切れてはいなかった。次の瞬間、
童子と姫は裁鬼と剛鬼の跳び蹴りの餌食になっていた。爆砕する童子と姫。剛鬼はこの技を「ライダーダブルキック」と言った。
童子と姫が倒されバケガラスはついに姿を現した。長い年月を掛けて成長したその大きさは優にイッタンモメンの2倍はあった。
音撃管でバケガラスを攻撃する裁鬼であったが念動波の前に苦戦を強いられる。そして剛鬼もまた飛行するバケガラスに音撃鼓を
貼り付けることができず苦戦する。「奴の動きは念動波を出す時に止まる。その隙を狙うぞ。」音撃管をバケガラスに打ち続ける裁鬼
鬼石が念動波によって跳ね返されその殆どが裁鬼に命中したが裁鬼は動じない。
303名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 04:02:30 ID:q+bjPTwV0
「今だ!!」バケガラスに飛び乗った剛鬼が
音撃鼓を取り付ける。そして裁鬼も剛鬼が飛び乗った瞬間、念動波が消えたのを見計らい鬼石をバケガラスに撃ち込んだ。
「音撃打・爆破夢幻の型っ!!」「音撃射・獄嵐空静!!」二人の声そして音撃が夜の下久保に木霊した。爆発するバケガラス。
しかし連戦の疲れと念動波による攻撃を受けていた裁鬼はその場で倒れる。だが誰かがそっと倒れる裁鬼を支えた。石割だ。
「同じですね。裁鬼さんも俺も。おぼえてます?あの『マラソン大会』の時のこと。」
「忘れてるわけないだろう。世話かけさせやがって。まぁ、こんどは俺がお前に助けられたけどな。」
「帰りましょう裁鬼さん。エイキさんが俺たちの分のアップルパイも作ってくれてますよ。」
「エイキはどうしてる?」「たぶん今頃フブキさんにアップルパイをあげてるところですよ。ところで、剛鬼さんは?」
「またいつの間にか風のように去って行ったようだな。こればっかりはあいつの流儀だから仕方ないか。
 先にアップルパイを食いに帰ったのかもな。」2人は帰路に着いた。同じころフブキのマンション
「フブキさん。パイをいっぱいw作ってきたんだ食べてみない?」「うまい。たしかに。エイキくんに座布団10まいw。」
「いつものフブキさんだな。これもアップルパイで鋭気wを養ったおかげだな。んで、どうして朝っぱらから元気なかったの?」
「ヒ・ミ・ツ。」朝から元気がなかった理由よりもフブキが元気になったことがただ嬉しいエイキであった。
佐伯家に帰宅するサバキと石割。それをダンキたちが出迎える。「おかえり!!サバキさんと石割ちゃ〜ん。あれ?ゴウキさんは?」
「ゴウキの奴、本当は颯爽と去ってったんじゃなくて音撃中にバケガラスに振り落とされただけだったりするかもしれんな。」
その夜、腰みの一丁のアマゾンライダー風の男性が愛車に走っていく姿が下久保で確認されたそうだ。
それが何処までもヒーローをリスペクトする男、仮面ライダー剛鬼であったのは言うまでもない。 完
304名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 10:33:00 ID:kBYNowRz0
剛鬼さんイイっ!!
力作どうもです。このスレの鬼たちの
活躍を本編で見たかったな。バンダイさん
これ読んでたら装着変身なんて贅沢言わないから
関東12鬼のソフビ出して下さい。やっぱり響鬼の
登場人物は変にギスギスしてないのが良いね。
お互いのプライドを尊重する姿勢、見習わなければ。
305名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 16:36:57 ID:rbGbM5LG0
どの職人さんも凄いなあ。
俺もSS書いてるけど人に見せるのが恥ずかしいよ・・・
306名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 17:45:05 ID:OsPZWGBrO
井上ではなく、ここの職人たちに響鬼の脚本を書かせるべきだったw
307名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 18:42:52 ID:iukxNm+K0
ヲタなヒーローワロス
職人さんGJ
308名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 19:18:33 ID:IuZ4Lulv0
剛鬼がまるで、こち亀の左近寺にダブるのは漏れだけだろうか?
309名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 19:47:00 ID:eVJF2D8n0
思うんだが別の職人さんは
他にスレ立ててそこからリンク
はったほうがええんでないか
310名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 20:23:38 ID:iukxNm+K0
弾鬼のSSスレでも他の鬼のSS書いていいか聞いた人を追い出した人がいたけど、なんで?
スレは資源なんだからやたらと立てて浪費するべきではないと思う。
ここはたまたま職人が光臨して上手く回ったけど、そうなるとは限らないんだぞ。
特に、ここのストーリーに刺激された場合とか、登場した鬼のスピンアウトSSとか、
ここでやったっていいと思う。
職人が増えたほうが活気がでるというメリットもあるじゃないか。
311名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 21:37:12 ID:IuZ4Lulv0
>>310
漏れもそれぞれの鬼SSは独立スレ立て派だったが
番外編ちりばめるのも面白そうだな!
漫画のこち亀やカメレオンで2頭身ストーリーがたまに入るみたく
職人さんが面倒でも表題提示して貰えりゃ問題なさソ!
312裁鬼メインストーリー:2005/12/21(水) 21:52:30 ID:CfJNdkwmO
三十三之巻「動きだす悪意」前編

たちばなの地下。年明けから立て続けに魔化魍発生の報が届き、シフトで出番の鬼達は、殆ど退治に向かっていた。既に全国で70体の魔化魍が現れ、過去に無い出現頻度に猛士の本部も緊急召集を発令した。
山奥でツチノコを追っていたサバキは、ディスクをチェックする石割に訊いた。 「これで…… 何度目だ?」 「今年に入って5回目、ですかね。」 非番のザンキも、戸田山を伴って陣中見舞いに来ていた。他の鬼達も、それぞれチームを組んでいる。 
「前にも、何度か頻繁に魔化魍が出た年は有ったが……」 ザンキが、コーヒーを飲む。 
「ああ。でもあの時は、バケガニならバケガニ、ウブメならウブメって決まってたから、こっちも対処が楽だったなぁ。」 飲み干したカップを置き、音撃管『夕凪』を手に取るザンキを見つめるサバキは言う。
「俺やお前達の世代の、何人かが3種類全部使いこなせるだけだしなぁ。」 魔化魍の数が減り始めた昭和中期から、鬼達は完全に分業化されている。
テンキは、想定外の魔化魍とも戦える様に、サバキやソウキに管や太鼓も伝授していたが、今の若い鬼達の師匠――つまり、サバキの世代の鬼達の中、オールマイティに活躍出来る者は少なかった。
「ああ。恥ずかしい話だが、俺は今まで音撃管で出動した事は無いんだ。 戸田山には、せめて太鼓は使える様に成って貰わんとな。」 その戸田山が、ツチノコの声を録って戻ってきた瑠璃狼を処理する。 「当たりっス!」
石割にディスクを渡す戸田山が、サバキの前に立つ。 「あ、あの…… サバキさん! 僕もご一緒させて下さい!」 少しでも実践経験を積みたいと、石割にも頭を下げる。 「お願いします!!」
ザンキが叱るが、サバキは笑って許可を出した。
ディスクの回収をしていた石割が、緑大猿に録音されていた人の話し声を聴いた。ツチノコからそう遠くない。ザンキに残りの回収を頼み、閻魔を担いだサバキ、石割、戸田山はポイントへ急いだ。
313裁鬼メインストーリー:2005/12/21(水) 21:54:00 ID:CfJNdkwmO
山菜採りに来ていた地元の老夫婦に、童子と姫が声を掛けた。 「寒いね。」
「……貴方達こそ、寒くありませんか?」 薄着を気遣う夫に、魔物達は首を横に振った。 「ちょっと子供の食べ物を。」 妻が微笑みながら、ウチも今夜、孫の誕生日ですと言った。
「まあ、骨と皮だけでもいいか。」 童子に姫が頷いき、怪人体と成った二体は、鞭状の左手を振りかざした。
サバキ達が駆け付けた時、木々を押し倒して姿を見せたツチノコは、怪童子が捕らえた夫を食らい、呑み込んでいた。
「石割、戸田山! お婆さんを頼むぞ!」 変身鬼弦を弾いたサバキが閻魔を手に跳躍し、ツチノコの首に切り掛かる。石割変身体が怪童子と妖姫を食い止めている間、戸田山変身体は気を失いかけている老婆を背負う。
一太刀浴びせて着地した裁鬼を、熊の様な前脚で振り払ったツチノコは、次いで長い首を伸ばし、石割変身体に噛み付こうとした。 
バックステップで回避したが、ハンマーの様に振り下ろされた首が地面を抉る。直撃を免れた石割は吹き飛ばされ、妖姫が巻き添えになり、押し潰されてツチノコに食われた。弾け飛んだ土砂を受けた戸田山変身体が、前のめりに転んだ。
裁鬼が炎の気を拳に溜め、灼熱弾を発射してツチノコの狙いを逸らすが、既に戸田山の近くまで来ていた怪童子が、左手の鞭で老婆を捕らえた。 「このぉ!!」 ザンキ直伝の鬼闘術『雷撃拳』を放つが、大降りのパンチは魔物を掠めもしなかった。
修羅に成る裁鬼と体勢を立て直した石割がツチノコに挑む前に、怪童子に投げられた老婆は気絶したまま、ツチノコに一呑みにされた。 
「あ…… あ…… うわああああああっ!!」
無我夢中で走りだした戸田山変身体は、怪童子に雷の気を纏わせた飛び蹴り、鬼闘術『雷堕蹴』を叩き込み、吹っ飛ばされた魔物に馬乗りし、その身体が爆発するまで殴り続けた。
ツチノコも、石割が掴んだ首を、裁鬼・修羅の『修羅音撃・天断滅裁』に依り、黒い火柱に切り落とされてた。
顔の変身を解く師弟は、一人、老婆が身に付けていた帽子の前で立ち尽くす戸田山変身体を残して、静かにベースに戻った。
314裁鬼メインストーリー:2005/12/21(水) 21:54:54 ID:CfJNdkwmO
たちばなに戻ったサバキ達は、おやっさんに報告する為、地下に降りて行ったが、戸田山だけは店内に残っていた。
「……そうか。 戸田山君が……」 茶を啜り、頭を掻いたおやっさんは、寂しげな笑顔で話す。
「まあ、鬼の仕事上、避けられない事では有るんだけどね。 戸田山君みたいな、人助けの塊みたいな子には、些細な体験じゃないだろうから……」 視線を送られたザンキも頷く。
石割も、サバキと討伐に向かい10年が過ぎようとしていたが、目の前で人を殺された事は無かった。 「僕も悔しい思いで一杯です。 でもこの次は……」 「……お前は、強いな。」 石割の肩を軽く叩いたサバキは、一人で階段を昇って行った。
「……サバキさん、どうしたんでしょう。」 おやっさんとザンキは、無言だった。
外に出ていったサバキを見送った日菜佳だが、戸田山に声一つ掛けない態度に少し違和感を覚えた。その戸田山も、目の前に黍団子を出されても俯いたままで、到底、日菜佳が声を掛けられる様子ではなかった。 「ただいま〜!」 ヒビキと香須実が、魔化魍退治から帰って来た。
たちばなに近い神社の手洗い場。腰掛けに座ったサバキは、自動販売機で買ったピースとライターを取出し、夜空に紫煙を吐く。硬い煙は長い間、風一つ無い1月の空中を漂っていたが、いつの間にか、風景に溶けて見えなくなった。
「あ〜っ。 やっぱり煙草吸ってる。」 ヒビキがシュッとポーズし、サバキの隣に座った。 

続く
315名無しより愛をこめて:2005/12/21(水) 22:24:08 ID:IuZ4Lulv0
>>312-314
職人さん助かります!コテをこの表示にしてもらえば読みやすいです!
ってか、またまたワクテカ話で楽しみです!
316名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 02:55:01 ID:VcHxmr/E0
スレは資源だというなら余計に新作は他の既存SSスレに投下してもらうべき。
此処も本来そうあるべきなんだけど、
投稿頻度考えると単独でも赦されるかと。
317309:2005/12/22(木) 19:55:09 ID:nUj6q8IK0
最初にああいった事書いてすいません。
メインの職人さんと他の職人さんのカキコが
重なったら読みづらくなるかなと思って書いたのが
ちょっと誤解をまねいてしまいました。
追い出そうなどとは思っていませんです。
荒れた雰囲気にいくのは本意ではないので
お互い「すべき」とか言わずまったりしてください。
お願いします。
318309:2005/12/22(木) 19:58:11 ID:nUj6q8IK0
あげてしまってすいません…
319名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 20:35:39 ID:XT40hFnXO
気にするな。
お前の本意、しかと受けとった。
320名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 20:55:11 ID:PpuKYe1c0
今回も面白くて後編が楽しみ。もうすぐ屋久島ですかね。
あと1月ということで履歴書にあった1月4日の裁鬼さんの誕生日のことを職人さんがどう料理してくれるか期待。
あんまり無理しないで頑張ってください。
321裁鬼メインストーリー:2005/12/22(木) 21:17:10 ID:6T/eDoycO
前編は>>312から。

三十三之巻「動きだす悪意」後編

「久しぶりですね。煙草吸うの。」 吸い殻を持て余していたサバキに、携帯灰皿を渡すヒビキは、晴れた夜空を見上げた。 「煙草、高くなってたんだな……」 サバキが、2本目に火を点けた。
たちばなの店先で、ザンキと戸田山が乗る『雷神』を見送った日菜佳に香須実は、「大丈夫よ。」 と頭を撫でた。 「……姉上〜っ!」 自分の無力さに泣きだしてしまった妹を、優しく抱き締めた。
地下に残っていた石割とおやっさんは、サバキとヒビキの帰りを待ちながら、暖かい茶を飲んでいた。
「まぁ、私も若い頃、現場に出ていたから…… 戸田山君の気持ちは、痛い程良く解るんだけど…… 石割君は、あまりショックそうじゃないね。」
「まあ…… 仕事ですから。確かに守れなかった事は悔しいし、守れなかった人の家族を思うと、胸が痛みます。 ……僕自身が、そうさせてしまいましたから。」 頷くおやっさんに、石割はでも、と続ける。
「僕には、この道しか有りません。魔化魍から人を助け続けるしかないんです。 ……サバキさんにも、昔同じ事を言われました。」 「……本当に、君は勿体無いねぇ。」 
左手で包んだ右拳は、今だに全力を放てなかった。童子達が相手なら然程問題は無いが、不安定な部分を持つ若者を鬼にさせる事は、おやっさんには出来なかった。
石割が真の鬼に成る為には、躊躇う事無く、全力の右ストレートを打てるまで、鍛え続けるしかない。
戸田山のアパートで、ザンキは泊まっていくと話した。 「えっ!?」 コーヒーカップを置いた小さなテーブル、衣類のタンス。猛士のマニュアル、精神論、格闘論の類を持て余した大きな本棚。それだけだった。
「……お前を見張ってないと、昼間やられた、その婆さん達の家に行き兼ねんだろ。」 ザンキは、押し入れを開けて勝手に取り出した布団に寝転がった。
「あ……」 「弟子の考えてる事ぐらい、読めなくてどうする。 ……まあ、やめておくんだな。」 戸田山が、でも、と立ち上がった。 行ってどうする、と訊く。
「そ、それは……謝って、お悔やみを……」 「向こうの家族に、『死ね』って言われたらどうする。」 「死にます!」 「馬鹿野郎!!」 素早くザンキが、戸田山を殴った。
神社では、サバキが2本目を揉み消していた。
322裁鬼メインストーリー:2005/12/22(木) 21:21:39 ID:6T/eDoycO
「でも、サバキさん。 あまり気にしても仕方無いですよ。」 ヒビキが、話題を変えようと今日退治してきたオオニュウドウについて話し始めたが、サバキは黙って携帯灰皿を握り締めていた。
おやっさんは、石割の右拳を走る手術痕に、眼鏡をずらした。 「ああ。 変身してから、一日ぐらいは浮き上がって来ちゃうんです。」 「そう…… ちょっと、待っててくれるかな。」 おやっさんは、開発室へ入っていった。
戸田山のアパート。ザンキは、倒れた戸田山の肩を掴み、もう一度殴った。 「……馬鹿野郎…………」 「ザンキ……さん?」 「お前は死ぬ為に鬼に成ったのか!? 違うだろ!」 普段見せない師匠の剣幕に、戸田山はカチカチと歯を震わせた。
オオニュウドウの話を続けるヒビキに、サバキは静かに口を開く。 
「……やっぱ、言う事とやる事を、完全に一緒にするってのは…… 難しいな。」 「……ま、当たり前じゃないですか? サバキさんも俺も。 鬼だって、人間ですから。」 「……人間だもんな。」
戻ってきたおやっさんが、革製のグローブを石割に渡した。指先まで隠す事が出来る、黒いものだったが、右側しかなかった。 「前に、みどりが使っていたフリーサイズのヤツだ。 左の方は、みどりが実験で焦がしちゃってね。」
323裁鬼メインストーリー:2005/12/22(木) 21:24:15 ID:6T/eDoycO
体をも震わせる戸田山に、ザンキは低く言った。 「鬼の仕事は、人の犠牲になる事じゃない。 ……生命を、守る事だ。 守れなかった生命は、次の生命を守る肥やしだと思え。」
「……そ、そんな……」 「守れなかった事を忘れろなんて言わない。 忘れちゃ只の馬鹿だ。 ……鍛えて鍛えて、守れなかった時の自分を越えろ。 生命を、守れる鬼になれ。」
手を話したザンキは、背中で言った。 「……もし、お前が間違ったら、その時はまた、俺が殴ってやる。」 「……あれ?」 帰り支度をするザンキに、戸田山は泊まっていかないんスか、と訊いた。 「ああ。 もう泊まる必要もないだろ。早く寝ろ。」
夜も更け、神社に寒い風が出てきた。サバキは3本目のピースに火を点け、戻るかと立ち上がった。 「一本、下さいよ。」 「ん? ……ああ。 でも何故お前が。」 「戒め、ってヤツですよ。」
たちばなでは、石割が右手にグローブを着けた。アパートでは、泊まっていって下さいと泣き付く戸田山にザンキが折れた。
たちばなへの帰り道、ヒビキは音撃棒が壊されたので、霊木を取ってくると言った。留守を託されたサバキが目的地を訊ねると、屋久島行きを告げた。
同じ頃。屋久島の森の奥深く、黒いクグツがツチグモの素を地面に打ち込んだ。

ヒビキと安達明日夢が、フェリーで出会う前日の事だった。

次回予告「墜ちる雷」
324名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 23:12:18 ID:/EOaq4uG0
GJ!!
うまく本編につなげてますね。
325名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 23:24:13 ID:PpuKYe1c0
乙です。となると次回はバケガニですね。
本編もさることながら石割君が結城丈二なのにはニヤリとしました。
326名無しより愛をこめて:2005/12/22(木) 23:43:57 ID:oeJxk3/BO
さり気なく、みどりさんがおっちょこちょいだな。
327名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 01:31:59 ID:PFnEGgBo0
ハードボイルドな文体がいいなあ。
もうこのサバキさんしか有り得ない気がしてきた。
いつまでも読んでいたいですよ。
328名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 01:55:21 ID:ZYfgPyXl0
>>325
なる!そういう伏線かあ!
石割君の鬼弦はベースでチョッパー決めてもらいたいなあ!
TMスティーブンスばりのハーモニクス絡めた!
結城丈二ならメカ交換対応だよな?
鬼弦に装着するエフェクターなんか面白ソ!w
329名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 07:42:03 ID:OmGuRMyT0
やっぱ職人さんはすごいなあ。
本編だけじゃなくノベライズ版まで絡めてるじゃないですか(オオニュウドウと戦って音撃棒が壊れた)。
330ネタバレあり:2005/12/23(金) 09:07:33 ID:dknIQ6PB0
職人さんの参考になるかどうかは分からないけどネタバレスレから転載。

937 名前: 名無しより愛をこめて [sage] 投稿日: 2005/12/23(金) 01:42:09 ID:MoPCDYae0
蛮鬼(21歳)
身の丈7尺3寸(約2m21cm) 目方37.3貫(約140kg)
裁鬼の元弟子で、数年前に独立し、大学に通いながら鬼として働いている。
若いながらも落ち着いた性格で、魔化魍や音撃の研究に余念が無い知略家。
責任感が強く、かつてザンキが怪我で倒れたときに、学業との両立のため
ザンキ欠員の穴を埋められなかったことを悔やんでいるようだ。
同年代のイブキとはウマが合うらしく、休日はあきらを含めた3人で過ごすことも多い。
音撃震・地獄と音撃弦・刀弦響(とうげんきょう)で音撃斬・冥府魔道(めいふまどう)を奏でる。

闘鬼(33歳)
身の丈6尺9寸(約2m10cm) 目方44貫(約165kg)
豪放磊落にして大酒飲み、大食漢の豪快な男。
妻と息子の3人暮らしで、妻をサポーター、息子を弟子とし、家族揃って活動している。
音撃鳴・旋風(つむじ)と音撃管・嵐を使って音撃射・風神怒髪(ふうじんどはつ)を繰り出す。
331ネタバレあり:2005/12/23(金) 09:08:48 ID:dknIQ6PB0
938 名前: 名無しより愛をこめて [sage] 投稿日: 2005/12/23(金) 01:43:10 ID:MoPCDYae0
剛鬼(28歳)
身の丈7尺3寸(約2m21cm) 目方41貫(約158kg)
気は優しくて力持ちな性格で、口数は少ないが心優しく仕事もキッチリこなす好漢。
響鬼同様多彩な必殺技を持っており、昨年は響鬼に次ぐ戦績を残している。
サポーターを勤めていた女性と昨年結婚しており、新婚夫婦で活躍中。
必殺技は音撃打・豪腕無双(ごうわんむそう)、爆裂乱打(ばくれつらんだ)他。
音撃棒は剛力、音撃鼓は金剛。

勝鬼(27歳)
身の丈6尺9寸(約2m10cm) 目方40貫(約150kg)
明るく気さくなお調子者で、子供のまま大人になったような青年。
服装や身なりに無頓着で、冬でも薄着で暴れまくっている。
体育会系で性格の似たダンキとはウマが合うらしく、
コンビで活躍することも多い。
音撃鳴・風束と音撃管・台風を用いた音撃射・暴風一気(ぼうふういっき)が必殺技。
接近戦にも長け、両腕にカギ爪・風牙(ふうが)を装備する。
332名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 10:24:54 ID:ZYfgPyXl0
みんな子供の頃、
「俺の考えた必殺技」「俺の考えた必殺武器」とか
ノートに落書きしてたクチだろ!ww


・・・漏れはそうだorz
333名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 10:55:31 ID:hpRPVdmA0
>>332
子供の頃どころか30過ぎでもやってますがw
334名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 12:10:59 ID:etJoPcmQO
ナカーマ
335名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 12:15:07 ID:ZYfgPyXl0
>>333
現役かいっ!w

あっ!でもバンダイの人だったら仕事なんだよなあ!
・・・羨まスィ!!
336名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 13:33:09 ID:OmGuRMyT0
俺もやってますが何かw
「中四国支部14人の鬼」とか勝手に妄想してますが、何 か ? (w
337名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 15:29:49 ID:Sqjmr6hw0
俺もやってるが
中四国支部には鬼払いのプロ桃太郎がいないかと妄想したり
338名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 16:16:02 ID:ISeYccwn0
>>336,337

何かおまいらイイな…w
339名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 16:37:29 ID:2jTSGm070
SSスレの作品を読む限り、九州にはソウキ、ジンキ、レンキ、ハバタキ。
四国にはカイキとウズマキという鬼がいるらしい。

340名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 17:58:06 ID:MINt80gkO
俺も九州12鬼とか書いてますがw
この勢いだと日本全国の鬼のリストできあがりそうだなw
341名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 18:14:28 ID:z8ULRfg40
おれも「瞬鬼」とか「鉄鬼」とか「輝鬼」とか(ry
342名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 18:52:04 ID:fU9RfNF90
女鬼で「艶鬼」とか(ry
343名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 18:52:13 ID:dknIQ6PB0
俺も「時目鬼」とか「寒椿鬼」とか「目玉焼鬼」とか考えてた。

あと、それにしても「フィギュア王」というか響鬼のスタッフは
なんで今頃になって蛮鬼は裁鬼の元弟子とかいう重要な設定を発表したんだろか。
本当ならこういう細かい設定を作ってくれただけでも感謝したいけど。
344名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:37:06 ID:ZYfgPyXl0
しかしココのID末尾が0かOなのは意味があるのかな?
345名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:42:56 ID:1ABSt9Cd0
>>344
携帯かPCの区別だと以前に聞いた気がするが。
346名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:45:17 ID:ZYfgPyXl0
0かOなのか?
347名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:46:56 ID:ZYfgPyXl0
>>345
そなの?
携帯でテストしてみるかな!
348名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:47:34 ID:4xXKrh5bO
テスト
349名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 19:48:57 ID:ZYfgPyXl0
なるほどね〜!
350名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 20:17:20 ID:+tphh1zU0
そして職人さんはOとゆー事実。すげー(笑)。
351名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 20:28:35 ID:OmGuRMyT0
>>337
>鬼払いのプロ桃太郎
うわ!思いつきもしなかった!あんた凄いよw

いっそ、>>340の言うようにここの皆のネタを出し合って全国の鬼リストでも作るか?w
352名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 21:04:10 ID:mOIrLbwH0
>>351
スレ違い・・・だが面白そうですね。
353352:2005/12/23(金) 21:05:12 ID:mOIrLbwH0
sage忘れたorz
すいません
354名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 21:23:15 ID:l4erLShr0
>>337
鬼にとっては天敵とも言える
とても小さな魔化魍がいたりしてな。


イッスンボーシという名のw
355名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 21:48:18 ID:OmGuRMyT0
一寸法師も中国地方の話だっけ?

俺が中四国支部関連で考えたネタだと・・・
島根県の出雲は神話の時代から多くの魔化魍が跳梁跋扈してきた地であり、
だから中四国支部は島根県に置かれている、と。
でもってラスボスは「出雲のヤマタノオロチ」だな。何か本編とかぶるけど。
356名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 21:52:04 ID:ZYfgPyXl0
じゃあ大分は別府から参戦!w
母子鬼、魔鬼&息子の立川変身体(耐鬼襲名予定)
元はバケガニ30体と壮絶な相討ちした先代耐鬼の嫁と息子だが
魔鬼はそのサポート鬼だったため直接攻撃は苦手。
横笛型の鬼管で簡易結界を張り魔化魍を停止弱体化させる。
時間が掛かるため立川変身体が鬼弦でとどめのパターン!
太鼓も憶えなきゃ先代の能力は得られ無いため
高1からバイクで熊本の鬼まで週末習いに行く。
普段はスナック「マキ」のママさん。(バーテンの阿南君は
先代耐鬼の弟子だが大学進学と同時に技術開発が向いてるとの本部判断で木暮に預けられる。
2年で木暮をして「お前に教える事は無い!」と言わせた天才。立川のよき兄貴分)
立川変身体は水商売の母に反抗気味だが実は2CHカーチャンスレの住人だったりする。
決めのセリフは別府だけに
「わ、私達親子は、地獄を見てきたんだからねっっ!!!」・・・なぜかツンデレ口調!
357名無しより愛をこめて:2005/12/23(金) 22:59:51 ID:RhyxYYcn0
>>354
よみうりランドに出没したらしいぞw
打出の小槌も宗家に伝わる家宝だそうな。
358名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 02:56:29 ID:j/XQcVKf0
鬼のSSをまとめてみた。
他の用途に使っているサイトを間借りしたので、場合によっては移転するか、
サイトの構造を変えるかするかもしれない。(今考え中)
したがって、将来的には無効なURLになってしまうかもしれないが、良かったらどうぞ。

ttp://olap.s54.xrea.com/hero_ss/oni/index.html
359名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 06:38:51 ID:xbBVVY+50
>>358
乙。
360名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 08:31:31 ID:yvpLTVXh0
乙!
361名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 08:41:50 ID:riaeDeUn0
>>358
ありがとう!!!!!GJ!
362名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 11:15:42 ID:E2YvZxRY0
>>358
乙!!これからもよろしくGJ
363裁鬼メインストーリー:2005/12/24(土) 23:32:50 ID:5yQ32KcVO
三十四之巻「墜ちる雷」

屋久島に発つヒビキより一足早く、吉野に向かったおやっさんは、サバキ達に 「済まないが、シフトの大幅な変更は、覚悟していて貰いたいんだ。」 と言い残していった。現在、そのシフト自体が機能せず、鬼が幾つかのグループに分かれて魔化魍討伐に向かっていた。
これは全国各地の支部でも同じらしく、まだ実践経験が浅い鬼のサポートにベテランが駆り出され、ベテランの戦闘を見て経験値を得ようと若い鬼が同伴するという、悪循環を生み出していた。
「そっちはどうだ?」 サバキとザンキ、ゴウキは、グループを組む若い鬼達が過労で倒れるのを防ぐ為、率先して魔化魍を倒していた。 「……オオアリは倒しました。 これから帰ります。」
ヤマアラシを倒し終えたサバキからの電話に応えるゴウキは、かみさんと悟空君にも宜しくと言われ、 「ありがとうございます。」 と呟いた。
石割がザンキに電話したが、応答が無い。戸田山に掛け直すと、今避難誘導が終わり、ザンキの処へ向かっている途中だという。
その頃、ザンキはテングの猛攻に弾き飛ばされ、巨大な一枚岩に叩きつけられていた。 「ま、まさかこんな場所に稀種が……」 押さえる胸の痛みが、先程変身した時から消えない。
10年前、ノツゴと共に朱鬼に射貫かれた古傷が、この一ヵ月足らずの内にハイペースで行なわれた戦闘に依り、再び目覚め始めていた。
烈雷で支え起こす身体に、再び激痛が走る。同年代のヒビキやゴウキより鬼に成るのが遅れた理由、修業時代に痛めた膝を、知らずの内に岩に激突させていた。飛び掛かってきたテングに、渾身の力で烈雷を突き刺し、雷轟をセットした。
「ザンキさん! ザンキさん!!」 戸田山が発見した、顔の変身を解いた鬼は、数々の死闘に蝕まれた身体を振り返らせ、次代を担うであろう愛弟子に、力無く笑った。
364裁鬼メインストーリー:2005/12/24(土) 23:34:40 ID:5yQ32KcVO
2月13日。佐伯家のリビングでは、サバキと妻、石割が朝早くから、テレビを前に緊張していた。三男の慶伍君がレギュラー出演する特撮番組が、遂に始まった。
「おお!」 「まぁ!」 「わあっ!」 ……瞬く間に30分が過ぎた。3人共、思い思いの感想を述べる。
「ピンクの娘、綺麗だったな。」 「ブルーの女の子の方が、可愛かったですよ。」 「そうか?」 サバキの妻は、おっとりとした口調で赤の男の子が可愛かったと言う。イエローを演じた慶伍君からの電話を妻が取り、サバキは来週も観るかと楽しんでいた。
「ところで石割。 このヒーロー番組、タイトルなんだっけ?」
 「ええと、『無謀戦隊 マジデンジャー』だそうです。 今からが、『仮眠ライダー鼾』。」
 サバキは、マジデンジャーと繰り返し言ってみる。 <今眠いんだよね…… 君は> 
仮眠ライダーのCMが流れるテレビを切った。
2月27日。吉野の会議で纏められた結論通り、メールで送られてきた関東11鬼のシフトは、三週間勤の一週間休だった。
今はまだ微調整が必要だが、最終的には鬼達の負担を出来るだけ軽減し、尚且つどのタイプの魔化魍が出現しても即座に対応出来る様に、弦、管、太鼓の鬼を常に待機させたいとおやっさんは話した。
サバキはディスクと共にオオヌエを追っていた為、ベースで待機していた石割に伝えられた。
その頃ザンキは、房総の岩場で、バケガニの童子と姫を前に、変身鬼弦『音枷』を弾いた。
365裁鬼メインストーリー:2005/12/24(土) 23:36:06 ID:5yQ32KcVO
磯辺で遊んでいた子供達の避難を戸田山に任せた斬鬼は、怪人に変化した二体に烈雷を構えた。一定の距離を保ち、牽制していた時、激しい胸の痛みに斬鬼は片膝を着く。
妖姫が放つ飛び蹴りの衝撃を受け切れず、烈雷は弾け飛び、斬鬼は岩場に転がった。身体を起こすが、膝が言う事を聞かず、直撃させた雷撃拳も妖姫を海に押し飛ばす力しか無かった。
怪童子が、バケガニを呼んだ。海中から姿を現した巨大な鋏が、斬鬼を玩具の様に痛めつける。 「斬鬼さん!」 戸田山変身体が、烈雷を抱えて走って来た。
「戸田山! 離れてろ!!」 投げられた烈雷を受け取る斬鬼は、大きく肩で息をしながら、気を高めた。
既に間合いを詰める余力が無かった戦士は視界を閉ざし、気配と膝から伝わった痛みを頼りに、烈雷を一直線に振り下ろす。
斬鬼の膝に鋏を突き刺したまま怪童子は爆発し、それを観た妖姫はバケガニに退避を命じ、自らも波間に消えた。
「ザンキさん! ザンキさん!」 顔の変身を解いたまま倒れたザンキは、目を開けなかった。サバキがその報を聞いたのは夕方、ヒビキが代ってバケガニを退治した後だった。 
「えっ!? ザンキさんが!?」 バンキもまた、ヤマアラシを追っている最中にザンキ負傷を知った。

続く
366裁鬼メインストーリー作者:2005/12/24(土) 23:39:54 ID:5yQ32KcVO
>>358さん、ありがとうございます。

>(ネタバレより)蛮鬼が裁鬼の元弟子

…………(-_-;)


次回予告「焦る蛮鬼」
367名無しより愛をこめて:2005/12/24(土) 23:43:11 ID:aLuwRSjx0
>>358
乙です。
お絵かき掲示板とか作ったら挿絵書きますよ(もの凄い上手いって訳じゃありませんが


>>365
GJ
響鬼放送終了後も続いて欲しいですね〜
368うわ……:2005/12/24(土) 23:46:10 ID:5yQ32KcVO
訂正。(申し訳ございません)
三十四之巻「墜ちる雷」中

×ゴウキ→○トウキ

×悟空君→○敏樹君

未熟者でした。重ね重ね申し訳ございません。
369名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 00:28:23 ID:MnuBAUjm0
『仮眠ライダー鼾』
<今眠いんだよね…… 君は>
・・・みてみたい希ガス!ww
370名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 00:58:57 ID:+fXD5LYf0
そうかイエローだったか…(独り言)

響鬼メインストーリー(本編)と重なってきてワクワクです。
キャスティングとか考えるのも楽しみだ〜。
職人さんの頭の中ではある程度決まってキャラが動いてるんでしょうか。

まとめサイト管理人さんも乙です。ありがとう。
371名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 13:29:18 ID:LkecQV5m0
CM
今欲しいんだよね…… 君の寝床が!
これ変身枕『安眠』

絶対玩具売れねえw

 
372名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 13:37:47 ID:chEls4rVO
>>371

不覚にも( ̄ー ̄)ニヤリ
373名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 16:30:06 ID:MnuBAUjm0
その代わりスポンサーが丸八真綿とフランスベッドがつくぞ!
374名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 18:37:32 ID:muEKMUer0
「仮面ライダーイビキ」ね。

そ〜れ〜が〜、き〜み〜の〜、イビキ〜♪

グォォォー・・

  <⌒/ヽ-、___
/<_/____/
375名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 21:29:24 ID:T0Q7/GiI0
仮面ライダーイビキ 変身パジャマ
376名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 22:32:20 ID:i50rTOWrO
>>375
よく寝れそうだw
377名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 22:35:43 ID:chEls4rVO
武器は布団タタキ?
んでテコ入れで布団乾燥器とか(^^ゞ
378名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 23:15:59 ID:BQ5uRfEJ0
そろそろイビキのストーリースレが立ちそうだw
379名無しより愛をこめて:2005/12/25(日) 23:18:34 ID:zdSheYyi0
>>377
音撃が「引越し!」連呼になりそうで不安w
380名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 01:07:28 ID:L2ogx/xsO
>>379

あれはダークサイドに落ちた椰子ってことで…死神博士的なポジションかバイオマンのバイオハンタージルバみたいな感じて出せばイイかも…(^^ゞ
381名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 07:14:08 ID:7qx4/bU00
仮面ライダー鼾鬼

 眠り込め!清めの寝床!


劇場版 仮面ライダー鼾鬼と七人の寝鬼

仮面ライダー寝息鬼
仮面ライダー吐息鬼
仮面ライダー寝起鬼
仮面ライダー早起鬼
仮面ライダー歯磨鬼
仮面ライダー布団叩鬼
仮面ライダー狸鬼(←こいつが歌舞鬼的役割。「睡眠に復讐するため、俺は狸寝入りになった!」)

382名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 08:50:17 ID:ilbm2thN0
くだらねーけど、こういうネタ好きだ
383裁鬼メインストーリー:2005/12/26(月) 11:30:58 ID:lq221b4JO
三十五之巻「焦る蛮鬼」前編

日が暮れて山の気温が下がると、バンキは戻ってきたディスクをボックスに入れてテントを張った。 「夜分恐れ入ります。。 あ、香須実さんですか。 今晩は、バンキです。」
たちばなに、まだヤマアラシを発見出来ていないと報告する。 「どうも気温が不安定でして。 ま、明日中には討伐しますので。」
香須実は、サバキと石割が応援に向かったと言った。 「明日大学だろうからって、サバキさんがまるで交代しに行く様に出ていったの。 ……ザンキさんの事も踏まえて、久しぶりに話がしたい、って所が本音だろうけど。」
「そうですか。 どうも有難うございます。 それでは失礼します。」
電話を終えてから30分後、サバキの愛車がヘッドライトでバンキを照らした。 「よう。 悪い、飯食わせてくれ。」
オオクビ退治からたちばなに直行、ザンキが入院した病院に寄り、バンキの処に到着した二人は、今朝から何も食べていなかった。
勝手にバンキの車からレトルト食品を選び出すサバキに、「相変わらずですね。」 と苦笑しながら、バンキは石割に挨拶した。 「お久しぶりです。 右手の調子は如何ですか?」 「うん。 今年中には100パーセントで打てるかな。」
中華スープを火に掛けるサバキを見るバンキに、石割はゴメンねと頭を下げた。 「いえ。 石割さんもどうぞ。」 バンキは、キムチチゲを火に掛けた。 「あっ! 俺の大好物! 石割頼む! 替えてくれ!!」
384裁鬼メインストーリー:2005/12/26(月) 11:36:37 ID:lq221b4JO
夜が更けた頃、薪を取りに行ってくるとサバキが林に踏み出す。
「待って下さい! 何故薪拾いに閻魔が必要なんですか!?」 叫ぶバンキに、朱色のカバーを担ぎながら、サバキは笑った。 「お前も来るか?」
バンキは勿論ですと、父から受け継いだ音撃弦『刀弦響』を手にした。
枯れ枝を踏む度に、足元でパキパキと音が鳴る。 「さっきディスク放ったポイント、何で水辺ばかりなんだ?」
サバキが、記憶していた捜索用マップについて訊ねた。 「この気温と湿度、天候から考えましても、ヤマアラシが潜むのは鷹を放った池か、狼と猿に調べさせている川沿いの可能性が一番高いからです。」
「可能性ね……」 二人は、更に林の奥に入っていく。 「なあバンキ。 データはデータでしかないんだ。 あまり頼り過ぎると、取り返しのつかないことになるぞ。」 「どういう事です。 TDBを信頼するなとでも言うんですか?」
「……いや、信頼しなきゃな。 でも、アレはあくまで目安だ。 今年みたいなイレギュラーな年には、シュミレーションと真逆の方法を執った方が良い場合も有る。」 「……それを見極めるのは、一体何ですか?」
暫らく歩き続け、サバキが足を止めた。 「……勘、だな。」 「勘!?」 「お前に解り易く言うと『洞察力』ってモンかな。 まあ、話は後にしようや。」
385裁鬼メインストーリー:2005/12/26(月) 11:38:25 ID:lq221b4JO
二人に殺気を送る童子と姫が、怪人体に変化して口から針を飛ばしてきた。
「論より証拠。 やっぱこの辺りの勾配に隠れてやがったな!」 サバキは鬼弦を弾くが、バンキの異変に気付いた。右足に三本針が刺さっている。
握り拳から発した灼熱弾で魔物を牽制しながら、裁鬼はバンキの針を抜く。
「何やってるんだ!?」 「痛っ! ……まさか、この時季の童子達が針を吐けるなんて……」 裁鬼は、立ち上がったバンキの背を叩いた。
「言わんこっちゃ無い! 取り敢えず変身しろ!」 バンキは鬼弦を弾き、音撃弦『刀弦響』を構えた。
「この戦いだけお前、俺の弟子に戻れ。」 「はい!?」 「データ無用の戦い方、教えてやるよ!」 裁鬼は、いきなり閻魔に極楽をセットすると、怪童子に向かって走りだした。
マシンガンの様に針が発射されるが、展開した三枚の刄を盾に、裁鬼はどんどん間合いを詰めていく。
「この野郎!」 鬼爪を怪童子の腹に突き刺し、炎の気を送り込んだ。
妖姫が吐き出す針を避けながら、蛮鬼は裁鬼の動きを観察する。 「す、凄い……」 童子を倒した裁鬼が叫んだ。 「前見ろ蛮鬼!!」
飛び掛かってきた妖姫を、慌てて回し蹴りで払い落とす。 「この強さ……秋のタイプ以上だ!!」 これまで必要最小限の動きで怪人を倒してきた蛮鬼だったが、思わぬ敵の強さに思考は混乱寸前だった。
「後ろだ!!」 裁鬼の声に振り向くが、既に回り込んでいたヤマアラシが、巨大な針を蛮鬼に向けて発射していた。
「蛮鬼――!!」

続く
386名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 11:41:36 ID:9GJibqEX0
バンキに関するいきなりな設定をも取り入れて、すばらしいです!
キムチチゲワロタ
387名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 14:12:51 ID:GqHHnEpSO
野“蛮”なキャラかと思いきや、理詰めのキャラなんですね。
このタイプの鬼は初めてかな。新鮮です。
388名無しより愛をこめて:2005/12/26(月) 16:27:55 ID:OMtcnsSN0
この職人さんが居てくれたことで私の響鬼への心残りも
浄化され散華できそうです。ありがとう…
389名無しより愛をこめて:2005/12/27(火) 01:29:30 ID:ts2INwyq0
>>388
散るな!
これ程の物、最後まで見ずして如何する!!
390名無しより愛をこめて:2005/12/27(火) 12:25:43 ID:tfu5CqJB0
ゲームでの「コノヤロー!!」の鬼爪が作中に生かされててツボにきました。

あと職人さんの書かれた「墜ちる雷」 の作中にあったトウキとサバキの会話から妄想して
トウキとトウキの奥さんの話の番外編を書いてみました。
駄文うえに青臭いですが、読んでいただけたら嬉しいです。
391名無しより愛をこめて:2005/12/27(火) 12:27:47 ID:tfu5CqJB0
>>390
訂正
正:駄文な上に
誤:駄文うえに

重ね重ねすみません。
392番外編「惚れる嵐」:2005/12/27(火) 12:29:48 ID:tfu5CqJB0
「音撃射、風神怒髪!!」
13年前のとある山奥。爆発する魔化魍ヤマドリ。辺りが静まりかえる。ひらひらと舞い落ちる枯葉。そこに立つ男。いや、鬼。闘鬼だ。
「サバキさん。」振り向いた闘鬼はサバキを見つけ、顔の変身を解き、ふらつきながらサバキに駆け寄った。
「お前、まさか二日酔いじゃないだろうな?」「いや、いま戦ってたヤマドリにやられましてね。ところで、サバキさんは何故ここに?」

「『たちばな』に女が来ている。本人はお前の知り合いだとか言ってるんだが。来てくれるか?」
怪訝な表情を見せながらトウキは「たちばな」へ向かいサバキもそれに同伴した。「たちばな」の外には見知らぬ車が止まっていた。
多分女のものだろう。「たちばな」へ入る2人。昼の1時ごろだった。おやっさんがいない。トイレに行っているようだ。
おてつだいさんが店番をしている。女の顔を見て固まったトウキだったが、すぐに女を避けるように「たちばな」を去ろうとした。
「また逃げる気?」女は吐き捨てるように言った。「ああ。」とトウキが答える。「なんで・・・?なんで私に黙って出て行ったの?
5年間ずっと探してたのよ・・・。」「お前が嫌いになった。それが理由だ。」そっけない態度でトウキが返す。泣き出す女。
「たちばな」を出るトウキ。「たちばな」の客のおじいさんがあっけに取られ、ただ呆然とそれを見つめていた。
「たちばな」を出てトウキを止めるサバキ。「いくらなんでも言いすぎだぞ!!」
「あれぐらい言わないと帰ってくれる女じゃありませんからね・・・アイツ・・・」そう返すトウキの目から一滴の雫が流れ出ていた。
走り去っていくトウキ。しかし、数分走っていると「たちばな」にバイクを忘れたことに気付いた。「たちばな」に戻るトウキ。
そこにもう女の車は無かった。おやっさんが出てくる。「何があったのかと思ったらトウキくん。君のことだったのか。
店のおじいちゃんたちが驚いてたよ。どうするんだい?女の子も帰っちゃったし。」そのとき、
「歩」の梶田さんから電話がかかってきた。奥多摩にジゴクチョウらしき魔化魍が現れたらしい。先の戦いでの怪我で
トウキはおやっさんから出動を止められたが、逃げるように「たちばな」を出て行った。バイクで奥多摩へ向かうトウキ。
「飛田くん・・・。」女が道路でそれを見つける。トウキを追って女もまた奥多摩へ向かった。
393番外編「惚れる嵐」:2005/12/27(火) 12:31:08 ID:tfu5CqJB0
奥多摩に着いたトウキは梶田さんの情報を元にキャンプを張りディスクアニマルによる探索を開始した。
女はそれを不思議そうに見つめていた。「あれ、なんだろ?どうぶつかしら?・・・いや、違うわ。」
トウキが当たりのディスクを手に取った。もう日が沈みかけている。「頼んだぜ。」トウキは鬼笛を吹きディスク起動した。
瞬く間に狼の姿に変わるディスク。それがトウキをジゴクチョウのもとへと案内する。必死でそれを追いかける女。
近づくにつれジゴクチョウの恐ろしい鳴き声が響いてくる。「間違いないな・・。」そこに童子と姫が現われ変化しトウキを襲う。
鬼笛を吹くトウキ。その周りに渦巻く風が童子と姫を吹き飛ばした時、トウキの姿は鬼へと変わっていた。
音撃管『嵐』による攻撃で間合を詰め、跳び蹴り一発で妖姫を倒す闘鬼だったが、怪童子と現われたジゴクチョウに攻撃を受ける。
「ぐわっ・・・・・。」その攻撃がヤマドリとの戦いで受けた傷に突き刺さるように命中した。あまりの痛みにその場に崩れ落ちる闘鬼。
しかしジゴクチョウは攻撃の手を緩めない。そしてジゴクチョウはボロボロの闘鬼をその大きな口ばしで捕らえた。
力を振り絞り鬼爪でジゴクチョウの頭部を突き刺し、ジゴクチョウが鳴き声をあげながら苦しんでいる隙に
なんとか脱出する闘鬼であったが、空中で怪童子の攻撃を受け地面に叩き落される。
怪童子は苦しむジゴクチョウを見てそれと共に山奥へと消えた。その様子を目を見開いて見つめる女。
「うっ。」立ち上がり気合いで傷口を締める闘鬼。しかし傷は思ったより深く、口から血を吐いてしまう。「きゃーーっ。」
そのおぞましい姿に女が悲鳴を上げる。逃げる女。「見るんじゃねぇ・・・・・。見るんじゃ、うっ。ぐはっ。」
苦しみながら闘鬼はキャンプの方へフラフラになって歩いていった。
「トウキのキャンプは確かこの先だと梶田さんに聞いたが・・・」
あたりが暗くなったころ、どんよりとした空の中サバキが奥多摩でトウキのキャンプへ向かって車を走らせる。
しばらく走っていると「たちばな」で見た車が山道で目に入った。車中で女が泣いていた女が外へ出てきた。
394番外編「惚れる嵐」 :2005/12/27(火) 12:32:17 ID:tfu5CqJB0
「危ないですよ。あたりも暗くなってるし。」車を止め女に呼びかけるサバキ。それに女が恐る恐る答える。
「あなたは飛田くんと一緒に居た・・・。」「飛田くん?ああアイツのことか。」「教えて下さい。飛田くんのこと。あの化物たちのこと。」

女は泣きそうになりながらもそれをこらえて毅然とした態度でサバキに言った。サバキは一瞬ためらったが決心し女に
鬼や猛士や魔化魍のことを伝えた。そして女からトウキが魔化魍に敗れたことを聞き、キャンプに向かおうとする。
しかし女が口を開く。「それで、飛田くん、な、何でその鬼になったんですか?」
「トウキに直接聞いたことが無いから分からんが、う、う〜ん。なぜ鬼になるかっていうのはなかなか難しい問題だから。
 俺の経験を踏まえていえば『なにかを守る』っていう意志みたいなもんだと思うんだけどね。
 俺まだ若いからまだこんなことしか言えないけど。ところで君はトウキとどんな関係なの?」
「中学の時に付き合ってたんです。でも飛田くん中学を卒業したら私に黙っていなくなっちゃって。
 多分その鬼になるための修行のためだと思うんですけど。飛田くん家族がいなくてずっと施設にいたから施設の人に
 聞いたりして探したんですけど何処にも居なくて。5年の間学校に行きながらずっと探してたんです。『鬼』になってたんですね・・・。
 飛田くん。でも怖いんです。飛田くん。今日だって化物と戦って、血を吐いてたりして。ボロボロになってて。
 私、怖くて。逃げちゃったんです。飛田くんから。」
「でもさ、トウキの『鬼』っていうかさ、『鬼』っていう生き方を受け入れるっていうか・・・ん、違うな、
 全力で受け止めるみたいなことも大切なんじゃないのかな。そうだ、一緒にトウキのキャンプに来ないか?」
「すみません。もうちょっとここに居たいんです。でも少し時間がたったらそこに向かいます。場所は何処ですか?」
「地図と梶田さんからの情報じゃここのすぐ先のはずなんだが。この地図どうぞ。たぶん道はあってると思うよ。ところで君の名前は?」
「ともえって言います。あなたは。」「俺はサバキだ。よろしく。」サバキはトウキのキャンプへと向かった。
395番外編「惚れる嵐」:2005/12/27(火) 12:37:28 ID:tfu5CqJB0
「トウキっ!!」
キャンプの近くでトウキが全裸で倒れていた。それをキャンプへと運ぶサバキ。トウキの受けたダメージは大きく、変身を
維持できないほどにまでなっていた。「・・・さ、サバキさん。すいません。顔だけ変身解除しようとしたら全裸になって
倒れちゃいましてね。」テントの中で横になっていたトウキが意識を取り戻す。「寝てろ。ほら、お前の好きな酒だ。」
起き上がって酒を飲むトウキ。ものの数分でサバキが持ってきた2本の酒瓶が空になった。「飲みすぎだぞ。」サバキがそれを窘める。
「飲まないと痛みが引かないんすよ。ヒック。あ゛ー。見られちまったか。」「見られたって?ともえちゃんのことか?」
サバキの言葉にすこし驚いた様子でトウキが言う。「知ってるんですか?」「ああ、さっき会ってな。」その言葉を聞き
トウキが不意に目をあげて言う。「でも、あれで良かったんすよ。俺のあんな姿を見たらもう猛士だとか魔化魍だとかに
 関わらずに・・・なんていうか、それに巻き込まれずにすむと思うんですよ。」
「変わってないんだな。お前。5年前も同じだったんだろ。」「さすがですね。サバキさん。」少し笑いながらトウキが答える。
サバキがおもむろに口を開く。「でもさ、5年前だって今だってともえちゃんの中のお前はお前しかいないんじゃないの?
 おせっかいだろうが、ともえちゃんこのキャンプに呼んどいたぜ。もういちど話してみれば?2人でさ。」
立ち上がって服を着るトウキ。「ともえの車、サバキさんが来た道ってことは向かって右の道にいるんスよね。」
「何する気だ?」サバキがトウキに聞く。「待ってらん無いんですよ。ともえが来るの。サシで会ってケリつけてきます。」
サバキは止めるがトウキは非常時のために音撃管を持って満面の星空の中ともえの車のある方向へ走っていった。
全身の痛みに耐えながら走り続けるトウキ。次第に足が棒になる。それでもトウキは走っていた。
その時、夜の静寂を貫くようにジゴクチョウの泣き声が辺りに木霊した。
396番外編「惚れる嵐」:2005/12/27(火) 12:38:09 ID:tfu5CqJB0
目前に見える車がジゴクチョウに襲われている。昼に「たちばな」で見た車だ。音撃管でジゴクチョウを牽制し
車に近づく童子を払いのけ車に跳び乗り、拳に力を入れるトウキ。「うぉらっ!!」トウキの拳が助手席側のドアの強化ガラスを砕いた。
トウキは素早い身のこなしでともえを助け出す。「鬼め。貴様は倒したはず。何故ここに・・・・・・。」童子が怪童子へと変化する。
ともえを逃がし、鬼笛を吹くトウキ。童子の言葉にこう返す。
「惚れた女を助けに来た。それが理由だ。」その言葉とともに闘鬼への変身が完了する。すかさずそれにともえがツッコミを入れる。
「くっさい台詞。変わってないのね。」「悪かったな。」売り言葉に買い言葉でその言葉を返すと闘鬼は怪童子との戦闘を開始した。
酔っ払っている闘鬼の予測不能の動きに翻弄される怪童子。闘鬼が怪童子の股間をつかむ。
「悪いがこっちは酔ってるんでねぇ。」闘鬼が腕に力を入れると怪童子は粉々に吹き飛んだ。しかしそこに間髪いれず攻撃を行なう
ジゴクチョウ。口ばしで突き飛ばされる闘鬼。「しまった。」音撃管が手から離れる。闘鬼は一方的に攻撃を受ける。
「情けねぇなぁ。俺ってやつはよぉ・・・。」闘鬼が死を覚悟したその時、落ちた音撃管をともえが拾い上げ闘鬼に投げ渡した。
「受け止めてあげる。あなたの『鬼』。」「クサイ台詞だねぇ。」音撃管を受け取った闘鬼がともえに言葉を返す。
襲い来るジゴクチョウに闘鬼が鬼石をを撃ち込んだ。「いくぜっ!!音撃射、風神怒髪!!」
闘鬼が音撃管『嵐』に音撃鳴『旋風』をセットし音撃を開始する。苦しみもがいた末に爆砕するジゴクチョウ。
「強いんだな・・・お前。知らなかったぜ。すまねえな。」闘鬼がともえを強く抱きしめる。
「飛田くん・・・じゃなくて闘鬼くんのばかぁ。」抱き合う2人。駆けつけたサバキがそれをじっと見つめる。
「力が抜けていくぜ・・・・・・。」闘鬼が光に包まれる。闘鬼の意思とは関係なくボロボロの体が闘鬼をトウキへと戻すのだ。
「まっ、まずい・・・・・。」一人であたふたするサバキ。
次の瞬間、サバキの見つめる先に全裸のトウキに抱かれて頬を赤らめるともえがいたのは言うまでも無い。
397名無しより愛をこめて:2005/12/27(火) 14:43:01 ID:lp8AJNof0
腐女子の方ですか?
398名無しより愛をこめて:2005/12/27(火) 23:12:57 ID:DwPHTeIWO
闘鬼SS楽しませていただきました。
丁寧に書かれてたのがよかったですね。
ま、青臭いのはご愛嬌ということでw。
399名無しより愛をこめて:2005/12/29(木) 17:35:52 ID:LJAT8wjY0
下がりすぎなので上げときますね
職人さん続き楽しみにしてます
400裁鬼メインストーリー:2005/12/29(木) 18:13:27 ID:+hToneyWO
前編は>>383から。

三十五之巻「焦る蛮鬼」後編

降り注ぐ針を前に、蛮鬼は身体を翻して真横にステップした。深呼吸する蛮鬼の1メートル隣で、次々と針が地面に突き刺さっていった。
「……驚きましたね。 裁鬼さん、データに頼り過ぎるなと言われた理由…… 理解出来ましたよ。」
蛮鬼は続ける。 「本来ならばこれほど乾燥した大気で針が形成出来る筈有りませんが、現に針を飛ばして来ました。 体長も目測ですが12メートルは有りますね。 つまりイレギュラーな強さを持っているという事実がほぼ確証……」
「だから避けろって言ってるだろうが!」
再び降り注ぐ巨大な針から救う為、裁鬼は蛮鬼に飛び蹴りを食らわせた。 「さ、裁鬼さん……」 「くっちゃべってるヒマ無いぞ!」 妖姫が、二人に突っ込んできた。
「……解りました。」 蛮鬼は一言呟くと、腰を落として両足を前後に開き、重心を低くして右手に逆手で持つ刀弦響を背中に回し、その刄を真直ぐ空に向ける。先代譲りの独特な構えだった。
「ほう。」 裁鬼が、軽く頷いて一歩下がる。呼吸を整える蛮鬼に飛び掛かった妖姫の身体が、身体の捻りから生まれる遠心力に加速され、振り上げられた刀弦響に、縦一文字に両断された。鬼刀術・『抜刀閃』である。
「……最初からそうしろよ。」 「このスタイル、まだ使いたくないんですが。」 「……やれやれ。 とっととヤマアラシを片付けるぞ。」 「解りました。」
荒々しい剣撃でヤマアラシの足を倒す蛮鬼と、跳躍しながら水平に閻魔を振り、頭部から背中に生える針を砕く裁鬼。二人の音撃が、深夜の山奥に響いた。
「おい、バンキ。 『それ』持って帰るつもりか?」 戦闘が終わり、顔の変身を解いたサバキがバンキに問う。 「ええ。 イレギュラーの貴重なサンプルですから。」 そう言いながらバンキは、清めの音で粉砕していないヤマアラシの針を担いだ。
401裁鬼メインストーリー:2005/12/29(木) 18:14:52 ID:+hToneyWO
ベースに戻り着替えを終えた二人は、石割が用意していたコーヒーを片手に、今後のローテーションについて話した。
「三週一休!?」 「ああ。 だがザンキがやられちまった。 俺とお前は実際のトコ、六週一休てところか。」 「……」 バンキは肩を落とした。
大学で専攻している分野の専門家が、3月から講義に招かれる。バンキは世話になっている教授からも、是非受けておくように奨められていた。
「解りまし……」 「ああ、お前は今まで通りでいいから。」 「は!?」 「俺がお前とザンキの分も出てやるから、お前はちゃんと大学行け。」 「なっ、何言ってるんですか! そんな事、僕が」 「いいからいいから。」
思わぬサバキの言葉に、バンキは焦る。 「良くありませんよ! 大体、そんな事いつ決めたんですか!?」 「さっき。」 「……サバキさん一人が、そこまで頑張る必要ないじゃないんですか!? それとも、僕じゃ力不足とでも!?」
「まあな。 否定しねぇよ。」 「あのですね! 確かに先程の戦闘ではサバキさんの足を引っ張ってしまいましたが、あれはイレギュラーな要素が多過ぎた結果です! これまでの僕の出動に、何か落ち度があれば納得出来ますが、今回、たった一度だけを理由に……」
バンキは、思わず言葉を止めた。サバキから笑顔が消え、今まで見せた事が無かった鋭い目をしている。

 「……一度だけで十分だ。 お前にザンキの穴を埋める事は無理。 以上!」 「そんな!」
「……バンキ。 お前、プロ失格スレスレだぞ。 ちょっと頭に血を上らせ過ぎだ。 いつものお前なら、とっくに気付いてる筈なんだがな。」
そう言われても、鬼の使命・先程の失敗・ザンキ負傷・大学・ローテーション等が、若いバンキの思考を掻き乱していた。 「プロの鬼なら、間違っても『たった』って言葉を口にするな。」 そこまで言われ、漸くバンキは気が付いた。
「俺もお前も、石割にヒビキ達だって、人を守る為に戦ってるんだ。 掛け替え無いものを守るヤツが、『たった』一度でも失敗してみろ。」 「……」
「特に今年は、お前の言うイレギュラーが続いてる。 だが、こういう時に本気をださないヤツ、魔化魍を甘く見るヤツは、他人どころか自分の生命まで守れやしねぇんだ。 ……データだけが、お前の教科書じゃねえだろ。」
402裁鬼メインストーリー:2005/12/29(木) 18:15:53 ID:+hToneyWO
サバキの言葉を噛み締めるバンキは、微かに笑って頭を下げた。 「……すみません。 サバキさんの仰る通りです。 鬼に成って4年、データや確率ばかり信じて戦ってきましたが、失敗しなかったのは、単に運が良かっただけでした。」冬の太陽はまだ出てこない。
バンキは、刀弦響のカバーに付けてあるお守りを手に取る。大学受験の際、サバキ達が渡した、合格祈願のものだった。 「鬼としての気持ち、あの頃から変わっていないつもりでしたが…… 忘れていましたよ。」
安心したサバキは、コーヒーを飲み干した。装備を片付け、大学に向かうのでたちばなへの報告をサバキに任せたバンキが山を降りた頃、漸く東の空が明るくなってきた。
たちばなの扉を叩くと、おやっさんとヒビキがサバキと石割を迎えた。
「……そうか。 バンキも、取り敢えず一安心、てところかな。」 準備中の店内で茶を飲む男達。 おやっさんの言葉に、サバキは笑う。
「で、ローテーションの事ですけど。 アイツ今回の事を反省する為にって、三週一休が良いって聞かないんです。 俺は別に良いんですけど、おやっさんはどうですか?」
「まぁ、本人がそう言ってくれてるなら…… 責任感の強さは、父親譲りだねぇ。」 おやっさんは残った仕込みを終わらせる為、手伝いますと言う石割を伴い、奥に入っていった。
残ったヒビキが、真剣な表情を垣間見せながら話す。「サバキさん。 昨日のバケガニとの戦いなんですけど。」 「ああ。 弦を使わなかったらしいな。 ……でも何で、わざわざ太鼓で行ったんだ? お前、去年ツチノコ倒してるだろ。」
403裁鬼メインストーリー:2005/12/29(木) 18:17:34 ID:+hToneyWO
ヒビキは、腰の装備帯から、普段は縮小している音撃棒を手にした。 「まあ、『男と男の約束』みたいなモンですかね。 俺はサバキさんみたいに器用じゃないし、相手にくっつく事しか出来ないから…… ヤバかったですけど。」
頷くサバキだが、ヒビキに提案する。 「遠距離攻撃が出来ないってのは、今年は致命傷だな。」 「ははは、サバキさんみたいに、拳から火の玉出せたら良いんですけどね。」
「出せないのか?」 「出せたら苦労しませんて。」 「お前の炎の気は、俺のとちょっと違うからな。 だが、鬼石を媒体に火炎弾を出す事なら出来るんじゃないか? まあ、多少は鍛える事が必要だろうが。」
不可能では無いかもしれないと、ヒビキは暫らく考えていたが、よし!と立ち上がると、いつもの鍛練場に電話した。

一週間後。 「矢張り、趣味と実益が長続きのコツですね……」 バンキは、あきらに頼んでおいたイッタンモメンの写真が収められている筈のカメラを、大学の研究室でパソコンに接続していた。
「な、何だコレは……?」
マンションで烈風の手入れをしていたイブキの携帯が鳴った。
「ああ、バンキさん。 は? どうしたんですか? ……いえ、あきらはそんな事言ってませんでしたけど…… あ。そういえばヒビキさんが、カメラをいじっていた様な……」
研究室のパソコンには、イッタンモメンの写真ではなく、イブキのテントの前で胡瓜を頬張っているヒビキ、明日夢、イブキ、あきらの笑顔が写っていた。
「ヒビキさんに……写真消された…… 僕のオリジナルデータファイルがぁぁ!!」 
BDB、バンキ・データ・ベース。そのイッタンモメンの項が更新されるのは、かなり先の話だった。

次回予告「嘲笑う魔物」
404名無しより愛をこめて:2005/12/29(木) 21:19:35 ID:XudaMKpe0
響鬼さんのメカオンチが画像データにまで!ww
緊張と緩和のバランスが絶妙!!!
405名無しより愛をこめて:2005/12/29(木) 23:58:51 ID:DXoV5aH00
蛮鬼の構え、でらカッコイイ!!
裁鬼さんの横の動きと、蛮鬼の縦の動きの対比が上手いなあ!
406358:2005/12/30(金) 02:12:53 ID:LR7d4mdH0
まとめサイトです。
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html

更新分まで収録しました。
それから、お絵かき掲示板を置いてみることにしました。
407名無しより愛をこめて:2005/12/30(金) 05:35:56 ID:RDLnHwAN0
や、素晴らしい。ちゃんと蛮鬼さんが裁鬼さんの元弟子になってるじゃないですか。
設定の織り込み方も秀逸だし、アクションシーンがまたイカしてて最高。
響鬼さんが響鬼さんらしくて素敵だ。

406さん、乙です。感謝。
408名無しより愛をこめて:2005/12/30(金) 08:49:52 ID:CcvOLgqj0
いよいよ物語もクライマックス。
裁鬼さんの死のロードが始まる・・・

まさに修羅の道w
409名無しより愛をこめて:2005/12/30(金) 10:25:15 ID:LmoKqVWx0
やはりオロチ現象の時は人知れず戦ってて欲しいな。
410名無しより愛をこめて:2005/12/30(金) 13:00:51 ID:vfiZi4yx0
胡瓜を食べてる写真は、DAが撮った写真をカメラに収めなおした、ってこと?
411名無しより愛をこめて:2005/12/30(金) 16:30:56 ID:d2t+FZJK0
そして玩具の音撃弦で二刀流
412裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 00:30:38 ID:kMwiaUPdO
三十六之巻「嘲笑う魔物」前編

3月27日。入院して一ヵ月が過ぎたザンキの病室には、今日も戸田山が来ていた。 「ザンキさん! 俺、やったっス!」 「静かにしろ。」 「バンキさんのサポートも出来ましたし、ゴウキさんにも……」
話をしていたバンキとゴウキ、ゴウキの妻がドアを開け、見舞いに来た。 「ご無沙汰してます、ザンキさん。」 バンキが果物籠を戸田山に渡す。 「調子はどうです?」 仕事を終わらせてきたゴウキが、まだギプスに固定されているザンキの膝を見た。
「戸田山さん。 昨日はどうも。」 ゴウキのサポーターである妻の五樹が、建設現場で腕を折った父親の世話に里帰りしていた間、体の空いていた戸田山が代理を務めていた。
「いえ、自分は全然……」 謙遜するが、その実力はゴウキが童子達を任せるまでに成長していた。バンキも、「バケガニを持ち上げられる程の怪力、初めて見ましたよ。」 と、称讃した。
「あまり調子付かせないでやってくれ。 それに、コイツから馬鹿力を取ったら何が残るんだ。」 「そんなぁ〜、ザンキさ〜ん!」 泣き付く戸田山が、病室に笑い声を満たせた。
その頃、正体不明の魔化魍を追っていたサバキは、トイレだと石割に言い、ベースを離れていた。山を流れる川の畔に立つ身体を、眩暈が襲う。
「……流石に、キツイな。」 弦の鬼が担当する魔化魍は、比較的発生し易い。今年はそれに加えて、暗躍するクグツが生み出したものも含め、サバキは既に30体を倒していた。例年ならば、一つの支部が年間で担当する数の1,5倍に相当する。
「……やれる所まで、やるだけだな。」 自らに言い聞かせる様に呟き、サバキはベースに戻った。激戦により、『修羅』の残り時間は、2時間を切っていた。
413裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 00:32:08 ID:kMwiaUPdO
ヒビキ達がオトロシを追っている時、サバキの青磁蛙も魔化魍の鳴き声をキャッチした。 「……ヤマビコですかね。」 「……いや。 ちょっと違うな。声が低過ぎて地鳴りみたいに聞こえる。」
音撃弦『閻魔』に音撃震『極楽』をセットして右手に持ち、音撃棒『炎夏』と音撃鼓『陽炎』をベルトに装備する。石割も音撃鳴『つむじ風』をベルトに付け、音撃管『夕凪』を手にした。
「行くぞ!」 「はい!」 青磁蛙に案内されて駆け出した二人は、急斜面を降りて滝壺に辿り着いた。落差10メートルは有る垂直の激流が叩きつけている岩場に、童子と姫が立っていた。
「我等の子供が目を覚ます。」 「餌を欲しがっています。」 怪人態に変化した二体に、サバキと石割も変身鬼弦を弾く。
閻魔を手に跳躍する裁鬼を、石割変身体が夕凪で援護する。滝壺は思いの外深く、空中でもつれ合った裁鬼と怪童子は水中に没した。妖姫は岩場を大きく廻り、炎の弾を避けながら石割変身体に接近してきた。
音撃管を左手に持ち代え、石割変身体は接近戦に備えた。大降りのパンチを繰り返し放つ妖姫は、やはりヤマビコの親ではない。ヤマビコの童子達の戦法は、飛び跳ねながら猿の様に攻撃するヒット&アウェイの筈だった。
水中で戦う裁鬼も、怪童子の意外な強さに苦戦していた。共に飛び上がり、空中で3回攻防し、岩場に降り立つ。 「仕方ないな……」 裁鬼の身体が漆黒の炎に包まれ、表面の水滴を蒸発させる。
横殴りを放ってきた妖姫にカウンターパンチを打ち込んだ石割変身体は、怯んだ魔物に密着してその頭部に銃口を当てる。一瞬、頭を燃え上がらせて妖姫が爆発すると、怪童子は甲高い奇声を発した。
414裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 00:33:30 ID:kMwiaUPdO
裁鬼・修羅が閻魔を構えた途端、足元が揺れ、滝壺の岩場が起き上がった。岩の鎧を身に着けたヤマビコの様だが、実際は岩に酷似している皮膚の間接部分に筋肉らしき地肌が見えるだけだった。
振り落とされた裁鬼は体勢を整えて石割変身体の隣に着地する。見上げた魔化魍の体長は10メートルを越え、ヤマビコと違い狂暴な形相を露にしていた。
「何ですか、コレ?」 「さあな…… ま、やるだけやってみるか!」 石割変身体が鬼石を打ち込もうとするが、硬い皮膚は砕けず魔化魍の体内に届かせるのは無理だった。巨大な魔化魍の肩から、怪童子が飛び降りてくる。
裁鬼は怪人を石割に任せると、黒い火柱を発する閻魔で、跳びながら魔化魍に切り掛かった。 「修羅音撃! 天断滅裁!!」 しかし、魔化魍は巨体に似合わぬ機敏な動きで、裁鬼を振り払った手の平で地面に叩き付けた。
「裁鬼さん!!」 怪童子に決め手を欠いていた石割の目の前に、裁鬼が手放した閻魔が落ちてきた。素早く拾い、突進してくる怪童子に向かい、石割は走りだした。
裁鬼は、背中から音撃棒を取り、2つの鬼石から漆黒灼熱弾を発射して魔化魍に浴びせる。然程効果が無い様だったが、6発、8発、10発と命中させる度に魔化魍の動きは鈍くなっていった。
石割は左手の夕凪を怪童子に撃ちながら走り、近付くと右手の閻魔を袈裟懸けに振り下ろし怪人に止めを刺した。
415裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 00:36:40 ID:kMwiaUPdO
裁鬼は踵に生える角を地面に突き刺してから伸ばし、かなり生命力を削った魔化魍の腹の前まで昇った。
邪魔な鬼を振り払おうとする手にも力は無く、裁鬼は肩の角を伸ばし、魔化魍の両腕に巻き付けた。
「じっとしてろよ!」 音撃鼓『陽炎』を貼り付けると、大きく振りかぶって音撃棒を構える。 「修羅音撃・煉獄震裁の型!!」
通常ならば地面に音撃鼓をセットして半径500メートルに清めの音を放つ対集団魔化魍用の奥義が、一個体の体内に叩き込まれた。
爆発する魔化魍だが、不安定に身体を支える踵の角は爆風に耐えられず、裁鬼は真っ逆さまに落ちた。 「お疲れさまです…… ? サバキさん? サバキさん!?」
真下で待機していた石割が受け止めたが、連戦と修羅の連続使用による疲労で、裁鬼は顔の変身を解くと眠ってしまった。

続く
416名無しより愛をこめて:2005/12/31(土) 23:06:39 ID:x54JgyeS0
いやー、良いですね。職人さん来年も宜しく〆
417裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 23:45:12 ID:kMwiaUPdO
前編は>>412から。

三十六之巻「嘲笑う魔物」後編

石割に背負われてベースに到着したサバキは、漸く目を覚ました。 「ん……? 俺、寝てた?」 「はい。 大丈夫ですか。」 サバキは腕を回したり屈伸を繰り返し、身体の各部に異常が無いか確かめる。
「ああ。 まだ戦える。」 「あまり無茶しないで下さいよ。 『修羅』も、もう時間が残ってないんですから。」 「ああ。」 「次から、童子と姫は僕に任せて下さい。」 「ああ。 近くに人が居なかったらな。」
着替えを済ませた後、サバキはおやっさんに先程倒した魔化魍の特徴を説明した。
「え〜と…… あぁ、それは『デイタラボッチ』だね。」 「は? データラ?」 「いやね。 私も今、古文書を調べ終わった所なんだけど、どうやら滅多に現れない、ヤマビコの変異体らしい。」
ヒビキとイブキが倒したオトロシが、100年に一度しか出現しない極稀な魔化魍だった為、おやっさんは資料を見直していた最中だった。
「今、日菜佳が猛士データベースの大幅な更新を行なってるところなんだけど…… どうも、気になるねぇ。」
サバキも、今年の大量発生には何か『裏』が有る気がしてならない。 「おやっさん。 ここ数年やけに区切り良く、魔化魍が出たり出なかったりしましたよね。」
「そうだねぇ。 私も何か、『人間の悪意』みたいなものを感じてるんだ。 ……まだ確証は無い話だけど、一応吉野の方にも言っておきます。 それじゃ。 お疲れさま。」
電話を切ったサバキは、ベースを片付け終わった石割と共に愛車に乗り込んだ。自然に漏れる溜息に、サバキは自分が若くない事を自覚するしかなかった。
418裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 23:46:23 ID:kMwiaUPdO
安らぎと新生をもたらす春、4月が訪れた。少ない休みを自宅のリビングで過ごしていたサバキは、家の静かさに気付いた。 「……そういえば和馬、東京で一人暮らしを始めたんだな。」
初めて引き取った末っ子は、まだ2歳だった。二人目が彩子、次が少し冷めていた慶伍。暫らくして泣き虫の篤志。最終的に長男となった亮太は、最後にサバキの子供になった。
昼食の用意をしている妻に子育ての大半を任せきりだったサバキは、5人を立派に育ててくれた事を感謝せずにはいられなかった。
「ありがとう。」 小さな呟きを聞き取れなかった妻は、笑顔のままで首を傾げた。
数日後、世間では入学式が行なわれ、魔化魍討伐に向かうサバキは助手席から道行く真新しい学制服を眺めていた。
今回の標的はオオドクガマ。巨大な蛙の姿で、毒性の粘液で人間を捕食する。跳ねると言うより小刻みに跳び回る肉厚の巨体を退治するには、弦が最適だった。
ベースを張り終え、ディスクを展開し終えた夕方。サバキの携帯に、たちばなからヒビキが電話を掛けてきた。
「相変わらず機械音痴だな。」 「だってサバキさん。 携帯ってドコいじったら良いのか解んないだもん。 ……それより伝えたい事があるんです。」
口調からして、真面目な話に違いなかった。ヒビキは、先程まで戦っていたヌリカベの童子達が、武者童子、鎧姫と呼ばれる強化体に変異した事を告げる。
「気をつけて下さいよ。 奴等、かなり手強かったですから。」 「解った。 サンキュな。」
山に放った緑大猿の一体が、童子と姫に毬状の球体を与えているクグツを見つけた。しかしそれに気付いたクグツは念力で猿を自らの手に引き寄せると、無残に握り砕いた。
419裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 23:47:23 ID:kMwiaUPdO
日も暮れ、薪を集めていた石割が、猟銃を担いだ老人を発見した。
「お爺さん、今、向こうの崖崩れのせいで山は立入禁止になってますよ。」 「スマンのぅ。 日が暮れるまでに下りようと思っとったんじゃが、うっかり回り道してしもうて……」
「そうでしたか。 危険ですので、僕が麓まで送りますよ。」 「スマンのぅ。」
石割はサバキに電話し、老人を連れて山を下り始めた。
サバキは、12番の猿が、捜索時間を1時間過ぎても戻って来ていない事に気付いた。石割に連絡を済ませると、閻魔を担いでポイントに急いだ。
奇妙な事に童子達の姿が見えず、オオドクガマが一体だけで猪を貪っていた。哺乳動物なら人間の代わりになるらしい。
サバキが変身鬼弦を弾くと、その身体から発せられた赤い炎が暗闇を照らした。鬼に気付いた魔化魍は、体を正面に向け小さなステップを繰り返す。
「おりゃあっ!」 水平に構えた閻魔を右手に持ち、飛び掛かってきたオオドクガマの腹に切り掛かる。浅く肉に埋まった刀身に左手を添え、渾身の力で振り切った。
白い血飛沫を躱しながら、太い後ろ足に切り付け、至近距離で拳から灼熱弾を浴びせた。抗うオオドクガマは跳ぼうとするが、バランスを崩して空に腹を見せて転倒した。
灼熱弾で腹を粘液ごと焼き、極楽をセットした閻魔を突き刺す。 「音撃斬! 閻魔裁き!!」
清めの音を受けたオオドクガマは爆発し、裁鬼は背後の殺気に振り返る。童子と姫が、口元を歪ませながら立っていた。
420裁鬼メインストーリー:2005/12/31(土) 23:49:30 ID:kMwiaUPdO
「子供はまた作れば良い。」 「鬼を餌にすれば次の子も早く育つでしょう。」
普通なら魔化魍を守る筈の二体が、まるでオオドクガマを囮に使った様な違和感に、裁鬼は短期決戦を強行した。地面に閻魔を突き刺し、
身軽な身体で走りながら、童子と姫両方に灼熱弾を浴びせる。怪人に変化した二体だが、その衝撃にたじろいだ隙に、裁鬼は鬼爪に炎の気を纏って突き刺そうとした。
「何っ!?」 鬼爪が、根元から一瞬で折れた。痛みは無いが、童子達の変化に裁鬼は戸惑った。 「ヒビキの言ってたヤツか!」
武者童子と鎧姫は、強化装甲の高い防御力に笑うと、長剣を装備した。
「くっ!!」 バックステップする裁鬼よりも素早く、武者童子が払った剣が、裁鬼の胸を切り裂いた。
胸を押さえる裁鬼を嘲笑いながら、魔物は剣に付いた血を舐めた。
421次回予告:2005/12/31(土) 23:55:37 ID:kMwiaUPdO
「途絶える鼓動」

更に特別編。

5YEARS AGO――  蛮鬼誕生秘話。

「仮面ライダー裁鬼 特別激情版 『僕が鬼に成った日』」

新春掲載予定。乞うご期待。
422名無しより愛をこめて:2006/01/01(日) 04:23:52 ID:YWsJGZlbO
こりゃまた楽しみな予告
職人さん、今年もよろしくっス!
423名無しより愛をこめて:2006/01/01(日) 07:58:30 ID:BsjhKnd4O
職人さん、今年も楽しみです。
424裁鬼メインストーリー:2006/01/01(日) 16:03:15 ID:MjAmyoU9O
三十七之巻「途絶える鼓動」

流れる鮮血が、裁鬼の体力を奪っていく。それでも裁鬼は両拳から灼熱弾を地面向けて撃ちだし、粉塵で煙幕を作ると修羅への気を高めた。
石割は麓に着くと老人に手を振り、急ぎ山に戻った。携帯を手にするが、サバキの応答は無い。捜索マップを頭の中で広げると、猿の12番は現在地から丁度反対方向だった。
漆黒の炎をかき消す裁鬼・修羅だが、鎧姫が飛び掛かってその頭部を鷲掴みにする。
振り払おうとする裁鬼だが、傷口が塞がったとはいえ出血と蓄積されていた疲労に力が出ない。
木の幹に叩きつけられながらも即座に起き上がり、肘の角を伸ばして武者童子達に反撃する。
しかし強固な装甲はそれを弾き返し、武者童子が長剣を投げ付けてきた。
躱しながら踵の角を伸ばして閻魔を手繰り寄せ、丸腰の武者童子に切り掛かる裁鬼を、鎧姫のラリアット気味のパンチが再び吹っ飛ばした。
「強い……!」 裁鬼は閻魔を両手で持ち、黒い火柱を吹き出させる。横薙に払うが魔物達は裁鬼に飛び掛かりながらそれを避けた。
裁鬼はそれを先読みし、逆手に持ち代えた閻魔の火柱を斜めに斬り上げる。
空中で修羅音撃・天断滅裁に直撃した二体は、重なって10メートル後ろまで飛ばされ、岩壁を崩した。
425裁鬼メインストーリー:2006/01/01(日) 16:05:16 ID:MjAmyoU9O
「やったか……」
呼吸の度に全身を激しく上下させる裁鬼。最早余力は残されていない。 
「ちょっと痛かったな。」 「ちょっと仕返ししなきゃ。」
裁鬼が構えた閻魔は、突進して来た鎧姫の一撃に呆気無く宙を舞う。続いて武者童子が手にした長剣で、防御する肘の角を切り裂いた。
残る肩、右肘、膝、踵、の角を縦横無尽に伸ばして全方向攻撃を試みるが、二体は気にもせず裁鬼に向かってくる。
鎧姫が方向転換した角を切り払い、ついに武者童子の斬撃が裁鬼の肩口を捕らえた。深く切り裂かれる筋肉と共に、肩から脇に巻かれている弦が切れる。
「ぐっ・・・」 しかし裁鬼は武者童子の腹にパンチを打ち込み、更に灼熱弾を発した。零距離の攻撃に、流石に魔物もダメージを負ったかと思った矢先。
「効かない。」 「もう殺そう。」 無傷の武者童子と鎧姫の長剣が、裁鬼の胸を貫いた。
裁鬼の視界が、二重にぼやける。長剣を引き抜いた魔物達の前で、修羅を解いた裁鬼は俯きに倒れた。闇に溶ける血の海だけが、静かに広がっていった。
「死んだかな。」 「もう動かない。」 血に濡れる剣を舐めながら、童子と姫は人間体に戻った。
426裁鬼メインストーリー:2006/01/01(日) 16:06:14 ID:MjAmyoU9O
「あ……」 薄れていく裁鬼の意識に、懐かしい顔が重なる。 
「ソウキ……」 微笑みを残してソウキが去ると、関東の鬼達が現れた。
ヒビキがポーズを決める。 「後は任せたぞ。」
イブキが烈風を手にしている。 「立派な師匠になれよ。」
ザンキと戸田山が並び立つ。 「……スマン。 お前の穴、埋められなかった。」
ダンキとショウキが肩を組んでいる。 「お前達にも、教えたい事があったな。」
エイキがフブキにあしらわれている。 「頑張って落としてみろ、エイキ。」
トウキの家族が現れる。 「守るのは大変だな。 頑張れよ。」
去年のゴウキの結婚式が思い出される。 「ほらゴウキ。 ブチューッ、と行けよ!」
おやっさんと立花姉妹が笑う。 「すみません。 もう……」
「諦めないで下さい!! 裁鬼さんは、絶対に僕が、家族の所へ帰します!!」
 石割の声が聞こえたような気がした。 「家族・・・」
「サカエさん、俺今度、結婚する事になったんだ。 式は、コイツの誕生日、7月にするつもり。」 正月、恋人を連れてきた長男の亮太。
「どう? 僕の寿司、美味しい?」 白衣を着た次男の篤志が、カウンターに立っている。
「おい彩子! そんなにくっつくな!!」 初詣で、石割と腕を組む彩子。
「サカエさんも、絶対に観てくれよ!!」 マジデンジャーの放送前に電話を入れてきた慶伍。
「いつか、皆を感動させるような事がしたいんだ。」 末っ子の和馬は、バイトをしながらバンド活動をしていた。
みんな…… 御免な…… サバキは、意識を遠退かせた。
427裁鬼メインストーリー:2006/01/01(日) 16:07:13 ID:MjAmyoU9O
目を閉じたサバキを、テンキの声が起こす。 「お前の修羅は、お前の鬼はその程度か。」
「もう、やれるところまで……やれましたから。」
「人を守れたか?」 「それなりに。」 
「何故人を守ろうとした?」 「若い時、絡んだ貴方に殴られたからですよ。」 「嘘をつけ。」
サバキが目を開けると、遠い記憶が映し出されていた。 
「まだ死ねねぇんじゃないのか?」 「……」
随分、昔の光景だった。傷付いた翼で、飛べなくなった小鳥の亡骸。それをそっと包む優しい手。
「……」 「思い出せサバキ。 お前が、本当に鬼に成ろうと思った理由を。」
小鳥を胸に、静かに涙を流す少女。その瞳が、真直ぐにサバキを見つめていた。
「……」 「お前が居なくなって、一番悲しむのは誰だ。」
「…………春………香………」
サバキの意識は、少しずつ、甦っていった。
倒した鬼の死体が、微かに動いたような気がした童子は、裁鬼に一歩近づいた。
その手首を掴んだ裁鬼は、生身のままの童子を振り回し、木に叩きつけた。
立ち上がる裁鬼の傷は既に塞がっており、再び漆黒の炎を纏う。 
「俺は……まだ……死ねない! 俺は……死ねない!!」
再生した全身の8本の角で、武者に成る前の怪童子を串刺す。忽ち爆発する怪人の破片の中、鎧姫が長剣を振りかざす。
その一撃は裁鬼の脇腹を切り裂くが、剣を持つ腕を掴んだ裁鬼は、ロープの様に角を鎧姫に巻きつけた。
「顔だけは、装甲が薄いようだな。」 うろたえる鎧姫の頭部に右拳を打ち、漆黒の灼熱弾で焼き尽くす。
強敵を倒し終えた裁鬼は修羅を解き、星空を仰ぐ。溜息を吐き出して視線を水平にすると、脇腹の傷がもう治っている事に気づいた。
「……まだ、やれるな。」 再び意識が遠退いた裁鬼は、うつ伏せに倒れた。
428裁鬼メインストーリー:2006/01/01(日) 16:08:44 ID:MjAmyoU9O
数十分後、懐中電灯を片手に持つ石割は、地面に壊された12番の猿の残骸を見つけた。 「……サバキさん!?」
更に道を進むと、極楽をセットしたまま地面に置かれている閻魔が目に入った。
その付近で、鬼の姿のまま気を失っていた裁鬼を見つけ、抱き起こす。
「裁鬼さん!! しっかりして下さい!! 裁鬼さん!!」
腰に付けていたペットボトルから、ミネラルウォーターを裁鬼の頭部に掛ける。 「ん……」
裁鬼が、顔を動かした。 「い、石割……」 「大丈夫ですか!?」 「ああ。 ちょいヤバかったけどな。」
ゆっくりと起き上がり顔の変身を解くが、バランスを崩して倒れかけた。すぐに石割が支え、肩を貸す。
「また修羅、使ったんですか?」 「悪いな。 でも、もう使えないかもな。 残り1時間になっちまった。」
「……ですね。」 「ま、何とかなるさ。 ……こんな身体でも、人の盾には成れるからな。」
「サバキさん・・・」
ベースに戻ると、石割は着替えたサバキを車の助手席で休ませ、一人で片付けを済ませた。運転席に乗り込むと、サバキは静かに眠っていた。
山を下り、高速道路に入ると、時刻は23時だった。 「……」
サービスエリアで、サバキは目を覚ました。まだ寝ていて下さいと言う石割に笑いながら、起きてるかなとおやっさんの携帯に電話した。
「私です。」 明日、大量の団子の注文が入り、今仕込み終えたところだったらしい。
オオドクガマの退治と童子達の異変を告げると、団子の仕込みで散々足を引っ張っていたヒビキが代わった。
「どうでした? 武者の奴等。」 「ああ、何とか倒したよ。」 「結構あいつ等、長い時間強くなってたでしょ?」
 「はぁ?」 「だから俺も一度やられたんですけど、時間切れまで避けるのが大変で大変で。」
「先に言え! 走馬灯見ちまったじゃねぇか!!」
429次回予告:2006/01/01(日) 16:11:39 ID:MjAmyoU9O
「信じ抜く妻」

明日から特別編の予定です。
430名無しより愛をこめて:2006/01/01(日) 17:20:09 ID:tvEwfEnQ0
乙!
楽しみにしてるが無理せずに。
サバキさんに続いて走馬灯みられたら困るw
431名無しより愛をこめて:2006/01/01(日) 17:50:30 ID:zLomX+AL0
乙です!そして今年も宜しくお願いします!

・・・あれ?読んでたら目頭が熱くなってきましたよ・・
職人さんに、ツボ押されたみたいです・・・・
432裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/02(月) 02:51:52 ID:7aw5iU4QO
『僕が鬼に成った日』・前編

午後8時。大学の研究室に残るバンキは、1人で魔化魍のデータを整理していた。
「やってるな。」 「風見さん。」
ドアを開けたのは、バンキの大先輩である風見完全だった。今では一高校教師だが、かつては真白い音撃弦を操る、関東一の弦の使い手と称された鬼の一人で、大学でも教授を勤めていた。
「相変わらず、データ整理か。」 「ええ。ですがサバキさんに忠告されまして。 『データに頼り過ぎると危険』 だと。」
風見は頷き、プリントしてあるファイルを手に取る。出現地域の温度・湿度・天候から始まり、土壌のpHや地層の種類まで細かに記されていた。
「確かに、データに頼り過ぎるのは良くない。 ……お前の親父は後輩だったが、あの動きには正直シャッポを脱いだよ。 俺も、安心して関東一の弦使いを返上出来た。」
「……父は父、僕は僕、ですよ。 いずれは超えなければ成らないと思いますが、父のスタイルではなく、あくまでも僕の戦い方で、人々を守っていきたいですから。」
そうか、と、風見はファイルを置いた。 「悪くないさ。 だが偶には、親父の戦い方をするのも悪く無いぞ。 それをメインにするか、サブにするかの違いだ。」
「……肝に銘じておきますよ。」 「下手な意地を持ち続けるのは良くないって事だ。  ま、今のままじゃ、成長しても良くて関東で2番目だな。」
娘と食事の約束をしているらしく、風見は帰って行った。バンキは、胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
笑顔を見せる幼いバンキを肩に担いだ、屈強な大柄の男。先代バンキ、馬場馬力だった。
433裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/02(月) 02:53:27 ID:7aw5iU4QO
2001年、秋。サバキと石割は、長い間たちばなに連絡を入れていなかった馬場馬力の家に車を止めた。
紅葉が舞う庭を掃除していた妻に挨拶すると、縁側から開け放された奥の間が見える。
敷かれた布団に横たわっていた先代バンキは、二人に気づいた。
「おお、サバキ。 スマンな。」 「痩せましたね、バンキさん。」
ゆっくりと起き上がる身体には、左の肘から下が無かった。
蛮鬼。実働15年の内、最後の3年間は隻腕で戦った不屈の戦鬼。バケガニとの戦いで左腕を失ったが、特殊開発された音撃震不要の改造音撃弦『璃槍響』を右手に5体もの魔化魍を倒した。
バケガニに敗れた時、援けに駆け付けたのが、当時新米のサバキだった事も有り、バンキが引退しても暫くはアドバイス等、連絡を取り合っていた。
「で、話というのは?」 「ああ、倅の事だ。 アイツには、小さい時から鬼の修行を教えていたんだが、一昨年に俺が身体を壊しちまってな。 いや、もう変身も出来るんだが。」
笑うバンキに、サバキと石割は呆気に取られていた。
「変身って…… 鬼弦は!? 吉野に返却したんじゃないんですか!?」
バンキが視線を向けた床の間を見ると、両手時代の音撃弦『刀弦響』と、変身鬼弦が置かれていた。
「返したのは璃槍響だけだ。 ま、勢さんも許してくれたからな。」
勢さんとは、おやっさんの事だった。彼と同年代の鬼達からの呼び名である。
茶を持って来た妻は、バンキに小声で言った。 「あの子は、大学に行かせますから。」
部屋を出て行った妻に苦い顔をするバンキだが、サバキ達を前に話を続けた。
「頼む。 倅を、蛮次をお前の弟子にしてやってくれ!! 後は魔化魍と戦うだけなんだ!!」
434裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/02(月) 02:56:35 ID:7aw5iU4QO
3日後。下校のチャイムが鳴る中、イブキは昇降口から続く玄関で、一つ先輩の馬場蛮次を見つけた。 「こんにちは。」
「君は…… 和泉君、それともイブキ君の方がいいかな?」 「どちらでも。 あ、でもまだ学校ですね。 和泉でお願いします。」
蛮次は眼鏡を直し、勝手に歩き出す。 「何の用かな? 悪いが僕に『猛士』関係の話題は不愉快なだけなんだ。」 「まあ、そう言わず。」
強引に喫茶店に蛮次を入れるイブキ。二人で道路沿いの席に立ち、コーヒーを注文する。 「まあ、ここのコーヒーなら一杯だけ付き合うけどね。」 蛮次は、鞄から参考書を取り出す。
「聞いた話ですけど、サバキさんの弟子に成られたとか。」 「ああ。父親が勝手に決めた事だよ。」 目線を参考書に落としながら、運ばれてきたコーヒーに口を付ける。
「でも、サバキさんは本当に『良い人』なんですよ。 折角あと一歩の所なのに、このまま辞めちゃって良いんですか?」
「それが僕と母の願いだ。 それに、僕から見たら鬼の連中皆が『人が良い』人間に見えるよ。」
その言葉に笑いながら、イブキは裁鬼のデータがプリントされた用紙を渡す。 
「一応、極秘扱いですので。」
2枚に綴られている用紙には、裁鬼の生年月日、本名から始まり、住所や家族構成、戦暦までが網羅されていた。
「ふん…… 3種類を使い熟せてほぼ負け無し、家族は…… へぇ、5人も養子を。 物好きだね。」
イブキは苦笑しながら窓の外を見た。友達と帰っていた彩子が気付き、鞄からイブキ用に纏めたノートを取り出す。
鬼の活動で出られなかった授業の内容を、サバキから頼まれてイブキに渡していた。
435裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/02(月) 03:00:27 ID:7aw5iU4QO
「何だ。 この人にはもう、弟子が居るみたいだけど? ウチの父親も、弟子の居ない人を紹介する筈だろうに。」 
「ええ。 石割さんは、サバキさんと出会った時から変身出来た凄い人なんですが、今は右手を複雑骨折していて、実質サポーターに就かれています。」
「しかし、このサ…… 佐伯栄って人間、僕から言わせれば真の偽善者だね。 養子を取るなんて、殆ど自己満足に過ぎないんだよ。」
背後で物音がして、イブキは振り返った。彩子が立ち尽くし、手にしていたノートを床に落とした様だった。
「彩子ちゃん……」 彩子は蛮次の隣まで来ると、静かに言った。 「……佐伯栄って人が、何だって言ったの?」
蛮次は軽い口調で資料を裏向けながら言う。 「君は和泉君の彼女かい? いやね、彼の先輩である佐伯栄という人が養子を5人も引き取ってるんだけど、どうかな?」
「……」 「こんな世の中で、そこまでして他人を救おうなんて。 自分を正義の味方だと思って自己陶酔してる偽善者に違いないね。 そう思わないかい?」
俯いていた彩子は、いきなり蛮次の頬を叩くと、泣きながら店を出ていった。
「……和泉君。 何だい、彼女は?」 呆気に取られていたイブキは我に返ると、急いで席を立ちながら蛮次に言い残していった。
「娘さんですよ! 佐伯さんの!!」

続く
436名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 09:48:43 ID:HVqN79UEO
風見先輩キター!
関東で二番目はズバットはまりますたww
4372ちゃんねる男:2006/01/02(月) 10:02:43 ID:0NHMi8gT0
裁鬼さんカッコイイ〜〜〜〜〜
でもいつもやられ役だねーーーー
シンショーーーーーー
死ねーーーーーーーー
裁鬼とか言って格好つけんじゃねーーーーよ
何が37歳だぁ!!!
しねーーーーーーーーーーーーーーーーー
438名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 10:04:55 ID:A5eAm3f20
・・・冬休みだからなぁ。
439名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 12:02:35 ID:8PPi9R0xO
冬休みだよ
440名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 12:15:10 ID:2UMHQYzO0
何かダルダスレと同じ匂いがするよな、ここって。
441名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 12:17:02 ID:QSbjVLc7O
なるほど…
そう言うわ・け・か…。
442名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 13:47:59 ID:C4Rq2RrBO
今年は電車厨と冬厨の二種類もいるな

厄介この上ない…
443名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 23:27:07 ID:i50Nbk430
>>443
なんか「今年の魔化魍」について話し合ってるみたいですなw
444名無しより愛をこめて:2006/01/02(月) 23:37:47 ID:C4Rq2RrBO
そういや夏厨って夏の魔化魍と似てたな
大繁殖するとことか
445名無しより愛をこめて:2006/01/03(火) 00:33:26 ID:pi9ZeEYm0
>>444
音撃鼓「鹿斗」で長時間攻撃しないと倒せない厄介な敵だな
446名無しより愛をこめて:2006/01/03(火) 00:36:46 ID:VWU0BW+W0
職人さんのことを考えると
あんまり引っ張ってほしくない話題だな。
447名無しより愛をこめて:2006/01/03(火) 00:51:19 ID:/ylbeFpC0
職人さん、今年も年明け早々からありがとうございます。
職人さんも紅白の響鬼さんご覧になったかしらん。
448裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/03(火) 14:54:31 ID:0kBbFTymO
前編は>>432から。

『僕が鬼に成った日』中編

家に帰った蛮次は、庭に停めてあった見知らぬ車に気が付いた。
母は仕事に出掛けており、夕食の用意を確認した後、自室に入った。
「よう。 お帰り。」 喫茶店の資料にあった顔写真の人物が、蛮次の椅子に座っていた。 「本しかない部屋だなぁ。 頭痛くなってきたよ。」
「それはどうも。」 鞄を置いて学制服を脱ぎながら蛮次は言った。 「御覧の通り、僕は鬼から最も遠い人種です。 父の跡を継ぐつもりも、貴方の弟子になる気も皆無ですのでお引き取り下さい。」
「そうだな。」 サバキは、あっさりと部屋のドアを開けた。 「じゃ、またな。」
「『また』は、有りませんよ。」
蛮次は机に向かい、参考書を広げた。
車に乗るサバキの携帯が鳴る。イブキからだった。 「え? 彩子が? ……ああ、解かった。」

サバキの家へ向かう石割は、途中の公園のブランコで泣いていた彩子を見つけた。
「……彩子ちゃん。 どうしたの?」 その言葉に顔を上げた彩子は、石割を確認すると思わず抱きついていた。
「え? え!?」 困惑する石割だが、彩子は構わず抱き締めてくる。触れた手の冷たさに石割は驚き、長い間一人で泣いていた事を悟る。
「風邪、引いちゃうよ。 家に帰ろ。」 石割は北風から彩子を守るように抱き返し、その頭を優しく撫でた。
449裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/03(火) 14:57:42 ID:0kBbFTymO
「ああ…… 確かに自己満足だな。」 テーブルに置かれた鍋から具を取りながら、サバキは普通に言い切る。
呆気に取られている石割と彩子、食卓についていた和馬君に、でもな……と続けた。
「お前達を育てたかったから、育てた。 それだけさ。 自分を『正義』だと思った事は、一度も無いな。 寧ろお前達には、済まないとしか言えないさ。」
 彩子と末っ子の和馬君が、どうして? と訊く。
「お前達だけじゃなく、亮太も、篤志も慶伍も。 普通に本当のお父さんお母さんが居てさ。」「……本当の?」
「ちゃんと血の繋がった兄弟が居て。 お爺ちゃんやお婆ちゃん。 親戚と、従兄弟とか。 ……やっぱ、そういう所は、如何しようもないもんな。」
無言の子供達に、サバキは笑う。
「本音言うとな、お前達に怯えてた時期が有ったんだ。 ちゃんと育てられるのか? こっちの気持ちがちゃんと伝わるのか? どうせ血の繋がっていない親子だからって、グレちまわないか? とかな。」 
サバキは箸を置き、腕を組む。 「まあでも、母さんと決めたんだ。 子供達を信じようって。」
炊き立ての御飯を持って来たサバキの妻が子供達に優しく、子供を信じる事も親として当たり前だからね、と言った。
「誰も、人に迷惑を掛けるような人間に成らなかった。 皆、人の気持ちが解かって、他人に優しく、暖かい人間になってくれた。 でも俺は、その成長の、どれだけの部分に関われたのか。」 
座った妻も、黙ってサバキを見つめていた。
450裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/03(火) 15:06:30 ID:0kBbFTymO
「……今でも、正直ビビってる。 だから、『お前達を育てた、お前達の父親だ。』 って言うよりも、『育ってくれた、お前達の父親にさせて貰った。』 と思ってる。」
「そんな事、無いよ。」 彩子が涙目で、寂しげなサバキの目を見る。
「サカエさんとハルカさんが居たから…… 私達は、生きて来れたんだよ。 ……人が喜ぶと嬉しいし、泣いてると悲しいって思えるのも、サカエさんとハルカさんに育てて貰ったから、そう思えるんだよ。」
溢れ出る涙が零れ、テーブルに弾けた。
「それが『正解』とか『正義』とか関係ないけど、人の気持ちを考えない人に出会ったら、何か、寂しいって思うの。 私達には、私達をちゃんと愛してくれるお父さんとお母さんが居る。
……何か、普通の事かもしれないけど、私にはそれが、凄く嬉しいんだ。 だから、ありがとう。 それにごめんなさい。 他人を殴っちゃって。」
頭を下げる彩子の肩に優しく手を置き、サバキの妻が微笑む。顔を上げた娘はその胸に顔を埋める。
「家族って、いいね。」 石割は、和馬君に言った。 末っ子だが、最初にサバキ夫妻の子と成り、愛情を受け続けてきた和馬君も、涙目で頷いた。
451裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/03(火) 15:07:50 ID:0kBbFTymO
翌日の早朝。 日課のジョギングを始めようと表に出た蛮次は、サバキの車を見つけた。 ジャージ姿のサバキが、明るい表情で言った。
「おはよう。 蛮次君。」 隣には、トレーニングウェアの石割と彩子が居た。
 「おはよう。」 「おはようございます。 ……昨日は、ごめんなさい。」
頭を下げる彩子を無視して、不機嫌に蛮次はサバキを見る。 「何故、ここに居るんですか?」
「いやさ。 親父さんから、お前が毎朝走ってるって聞いたんだ。 だから俺達もちょっと遠出をな。 彩子もバスケットのトレーニングって事で、つき合わせてやってくれ。」
黙って走り出す蛮次を追う様に、三人もスタートする。すぐさまサバキが蛮次と並び、その後ろを石割と彩子が続く。
「でも、ちゃんと続けてるんだな、トレーニング。」 サバキが、彩子には聞こえない程度の声で言った。 「体力が無いと、勉強に差し支えますから。」
「お袋さん、まだ帰ってないのか?」 「夜勤の製造業です。 ……戻って来なかった方が、母さんは幸せだったのに。」
「聞いたよ。 別居の理由も、戻って来た理由も。 でもさ、お前も親父さんの世話しながら勉強ってのは、大変だったろ? 良かったじゃないか。」
「……母さんも馬鹿ですよ。 一人で気侭に暮らしてれば良かったのに、10年前に別れた筈の、鬼以外に取柄の無い父さんが、倒れたからって戻って来て。」
一人ペースを上げる蛮次に、彩子が追いついた。 「まだ、怒ってますか?」 
「いや、昨日は如何見ても僕に非が有った。 申し訳無い。」
「伊織君から電話で聞きました。 馬場先輩のお父さんも、サカエさんと同じ仕事をしてた事や、馬場先輩も、中学までお父さんの仕事を習っていたって。」
その言葉に、暫く無言になる蛮次だが、昔の事だからと言い残し、更にペースを上げると一人で曲がり道をカーブしていった。
「……まだ、鬼を捨てきれていないと思うんだがな。」 「そうですね。 気長にやりますか。」
一人立ち止まる彩子に追い付いたサバキは、どうしたと訊いた。
「ココ、どの辺?」 蛮次も見えなくなり、初めて走る道に進行方向を見失っていた。 「……」 「……」
「サカエさん?」 「スマン、迷った! 蛮次君どっち行った!? 追いかけるぞ!!」
452裁鬼メインストーリー:2006/01/03(火) 15:09:01 ID:0kBbFTymO
「アナタ。私が戻ってきた理由、解っていますよね?」
薬と水を置き、奥の間から去ろうとする妻に、先代バンキは謝った。
「すまぬ。 だが今回、サバキを呼んだのは…… アイツの道を、アイツ自身に決めさせる『切っ掛け』に過ぎない。」
「『切っ掛け』?」 「そう。 大学を受けて、お前が望む様な人間になるも良し、鬼になるも良し。 アイツも、根は昔から変わっとらん筈。」
身体を起こす先代バンキを、妻は手伝った。
「優しく、暴力を許さず、人の気持ちを労れる。」 「アナタ。」
「解かっているさ。 俺が身体を壊して、お前は戻って来てくれた。 宙ぶらりんだった蛮次に、目標を与えてくれて、有難く思ってる。」
妻は、夫に羽織を着せる。 「唯一心残りなのは、アイツ自身に迷いが見れる事だ。 十何年も続けて来た鬼の修行を諦める事、お前が家を出た理由が、俺の責任だった事。」
人救けの道を突き進んでいた先代バンキは、家庭を疎かにしがちだった。 引退してからも、蛮次の修行に一日の大半を費やし、夜になると工事現場に働きに行く。
夫婦である事に無意味を覚え、妻は10年前に別居を申し出た。
「俺が教えた事が、無駄になるだけなら良い。 だが、俺と過ごした蛮次の時間が全て無駄に成ってしまうのは、居た堪れない。」
先代バンキは庭を見た。 「鬼の修行にも、普通の生活の中で心に留めておくだけでも役立つ事は有る。 それに気付いてくれれば、アイツの10年も無駄に成らん。」
妻が優しく微笑みながら、静かに言った。 「だから、サバキさんにあの子を頼んだのね。」
「ああ。 アイツが誰にも教えられること無く、自分で気付く。 サバキは、そんな遣り方が解かっているからな。 ……これで、思い残す事は、無い。」
「アナタ?」 咳込む先代バンキが口を押えた手の平を、鮮血が汚していた。

続く。
453名無しより愛をこめて:2006/01/04(水) 11:51:29 ID:VaXcZHE50
一徹と飛雄馬みたいな父子かと思いきや・・・
サカエさんとしての裁鬼が良いねえ!

職人さんにマジにテレ朝オファー来そうw
454名無しより愛をこめて:2006/01/04(水) 23:06:53 ID:Z6erpAc/0
音撃震不要の改造音撃弦『璃槍響』は多分裁鬼さんの小型音激弦のプロトタイプだと予想してみる。

職人さん無理せず頑張ってください。
455名無しより愛をこめて:2006/01/05(木) 07:53:58 ID:j9zpnpFiO
弾鬼主人公スレ落ちたね‥
あっちにも頑張ってほしかったな。
456裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/05(木) 21:30:28 ID:GPwFvzAWO
中編は>>448から。

『僕が鬼に成った日』後編

先代バンキが入院し、3日が経った。いつも通り朝のジョギングから帰ってきた蛮次を、病院から父の着替えを取りに来ていた母が迎えた。
この2日、父の世話をしながら家事の為に家と病院を往復して疲れている筈だが、その顔は蛮次が見た事の無い笑顔で満ちていた。
「じゃあ、晩御飯は適当に済ませてね。」 蛮次の弁当を作り終えると、母は無理を言って変更して貰った日勤の仕事に出掛けて行った。
「……馬鹿馬鹿しい。」 家に鍵を掛け、仰いだ曇り空に蛮次は呟いた。
結局は元の鞘かと、蛮次は母親の甘さに唇を噛み、高校へ急いだ。
人の為に自分を犠牲にする。しかも、一度別れた夫の為に。一度は見捨てた男の為に。
3年前、一つの迷いも無く鬼の修行を続けて来た蛮次。突然倒れた父。その目の前に現れた母は、両手で息子を抱き締めながらこう言った筈だった。
「アナタは父さんみたいな人に成ってはいけないわ。 自分の幸せを犠牲にしてまで、他人の幸せの為に生きる人間を理解してくれる人は、もう少ないの。 自分一人の幸せは、自分一人で守りなさい。 アナタは、自分の為に生きなさい。」
幼い自分の前から母が去った理由が、『鬼』であった父だと知ってから、蛮次は変わった。 
(父さんは、あの男は、自分に代わって人を守れるように僕を育ててきた。 でもその為に、妻を失い、身体を壊した。 何が人を守るだ。 自分の家庭、自分の幸せ一つ守れない人間が、そんな言葉を吐くんじゃない。)
母親に勧められた大学に入る為、蛮次は机に向かい続けた。大学で、自分が生きていきたい道を見つける。就きたい職業を見つける。
平均的な偏差値の高校に入学したが、毎年、卒業生の一握りは地元の名門、城南大学に合格しているレベルだった。
蛮次は一年生の頃から現在まで学年トップの座を他人に譲らず、鍛え続けていた身体は運動能力を推薦されて入学してきた生徒を圧倒した。友人が増え、教師から期待された。女子からの人気も得た。
(母さんの言った通り、自分の幸せの為に生き始めたら、僕は今まで無かった幸せを手に入れられた。 なのに……)
457裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/05(木) 21:32:06 ID:GPwFvzAWO
夕方。 夕食を作り終えた母に、3日前からの笑顔の理由を訊ねた。
「そんなに嬉しそうにしてるかしら?」 「……父さんが、もうすぐ死ぬから?」
「馬鹿言わないの。 ……思い出しちゃったのよ。 お母さんが、何故お父さんを好きに成ったのか。」
「……」 蛮次は、そこから先は聞いても無駄だと悟り、手早く料理を食べ終えると、自室の明かりを点けた。
その晩、蛮次は懐かしい夢を見た。
母が出て行って暫くしてから、父は7歳になった蛮次に変身を見せてくれた。
「……カッコいい!! おとうさん、カッコいいよ!!」 「そうか? ……カッコいいか。 お前も修行したら、変身出来るからな!」 「うん! 僕、頑張って鬼になる!」
蛮次が小学校高学年に成り、身体が成長してくると、父は弦を使った戦い方を教えてくれた。
「背中に弦を構える事で身体が自然に捻られる。 飛び道具を放つ相手からは的となる面積が減る上に、捻った身体を戻す動きが斬撃の威力を上げる。 この構えで自由に走れる様、足腰を鍛えろ。」
初めて変身出来たのは、中学三年の夏だった。星空が美しい山の夜、蛮次が変身鬼弦を弾いた。黄色の炎を耐え抜き、蛮次は片膝を着く。
「上出来だ! 蛮次!!」 「はぁっ…… はぁっ…… 父さん、これで僕も鬼に成れるかな!?」
「ああ。 猛士に頼んで、ちゃんとした師匠を…… ぐっ!?」 「父さん? 父さん!? ……しっかりして、父さん!!」
そこで過去が途切れ、蛮次はいつの間にか黒い闇の中に立っていた。 父親の背中を遠くに見つけて歩み寄ると、その向こうに光の階段があった。先代バンキが、息子に気付いて振り向く。
「よぉ、蛮次。 ……父さん、悪かったな。 お前に『鬼』を押し付けて。」 
「……別に。 過ぎた事を悔やんでも仕方無いからね。」
「ははは。 ……そうだな。 『仕方無い』もんだな。」 
寂しげな笑顔を光の階段に向けると、先代バンキはゆっくりと上り始めた。
458裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/05(木) 21:33:44 ID:GPwFvzAWO
「どこ行く気なんだよ?」 振り返った父は、足を止めた。 「ちょっと、遠くまでな。」
「母さんはどうするんだよ!?」 「ははは。 また叱られちまうけど、迷惑掛けるのはこれが最後だからさ。」
「……」 何も出来ずに立ち尽くす蛮次に、父親は別れの言葉を告げた。
「じゃあな。 ……母さんにも言ってやってくれ。 『済まなかった。』って……」
「父さん!? 逃げるなよ父さん!! 父さ――ん!!」
目覚まし時計が鳴り、蛮次はベッドの上で瞳を開けた。頬を流れた涙に、長い事泣いていなかった自分に気付いたが、いつものようにジョギングの準備を始めた。
父親の夢を見た日の夕方、蛮次は病院に足を運んだ。
病室にはサバキと石割が来ており、父親は上半身を起こしている。4人部屋だがベッドは3つ共空だった。
「よう、蛮次君。 お見舞いかい。」 「なぁ? 言った通り、優しい息子だろ?」
元気にサバキ達と笑う父親の姿に、蛮次は溜息をついてそのまま背を向けた。
「おいおい。 何もしないで帰るつもりかい? まあ座っていけよ。」 立ち上がったサバキが蛮次の腕を掴み、親指で父のベッドの隣に置かれている丸椅子を指した。
「いえ、もう帰りますので。」 早口で言い、掴まれた腕を払おうとしたが、サバキの真剣な顔は離さなかった。 「座っていけ。」
換気の為に、短時間開け放たれた窓から風が入り、朱色の夕日を遮るカーテンを静かに揺らしていた。
雑談に加わる事も無く、目の前を流れていく時間に耐え切れず立ち上がった蛮次に、父親は静かに言った。 「……有難うな。 それと、済まなかった。 鬼の修行をさせて。」
今朝見た夢の記憶に残る屈強な大男の姿はそこに無く、燃え尽きた灰の様な体で哀しい笑顔を見せた父に、蛮次は胸の痛みを否定出来なかった。 「そんな事は良いから。 ……早く、元気になれば。」
二日後の日曜日。ジョギングと朝食を済ませた蛮次だが、参考書や教科書を広げても集中出来ず、昼過ぎまで時間を持て余していた。
459裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/05(木) 21:35:02 ID:GPwFvzAWO
気分転換に奥の間から庭を眺めようとすると、床の間の変身鬼弦と音撃弦『刀弦響』に目が止まった。
蛮次が修行を止めてからも、先代バンキは弱った身体で手入れを続けていたらしく、埃一つ付いていないその柄を、蛮次は久し振りに握り締めた。
「……もう一度、『鬼』の修行をしてみない?」 振り向いた蛮次が庭を見ると、石割がスーパーの袋を持って立っていた。
「こんにちは。 お母さんから頼まれてね。 お昼御飯、まだでしょ?」
手際良くチャーハンと中華スープを作り終えた石割に、蛮次は質問した。
「……石割さんは何故、『鬼』に成ろうと思ったんですか?」 
「う〜ん…… 僕は別に、『鬼』に拘ってなくて、ただ単純にサバキさんをサポート出来たらいいな、と思って猛士に入ったんだ。」
「それならば『飛車』の筈ですよね? 資料には『と』と紹介されていましたが。」
「うん。 一応は弟子だけど、修行っていう修行はしてこなかったかな。 基本的なトレーニングと精神修行だけ。 最初から変身出来たから、戦闘サポートとか避難誘導が仕事かな。 まぁ、今は戦えないけどね。」
右手を振る石割は、食べ終えると食器を洗い始めた。
その頃たちばなの地下では、改めて関東支部専属の『銀』と成った滝澤みどりが、吉野で作った音撃震『地獄』のレプリカをサバキに渡していた。
「接続部は普通の音撃弦にしかセット出来ないけど、外見はソックリでしょ?」
暫らく黙っていたサバキは、地獄をみどりに返して言った。 
「コレ、塗り直せるか?」

続く
460名無しより愛をこめて:2006/01/06(金) 10:24:03 ID:5bzLGeAY0
>鬼の姿のまま気を失っていた裁鬼
これだけで泣きそう。ガンバレ裁鬼さん。
ここの話を読んで心底ファンになった。

特別編も面白いです。裁鬼さんカッコ良過ぎ。
素晴らしきメインストーリーが読める事に感謝します。
461裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 00:59:55 ID:SZSxCMPKO
後編は>>456から。

ヤマアラシ出現の報がたちばなに入り、おやっさんは店を出たばかりのサバキを呼び戻した。
病院では、再び吐血し意識を失っていた先代バンキが、回診に来た主治医に発見された。

『僕が鬼に成った日』終編

「石割さんは凄いですね。 サバキさんと出会った時から鬼に成れたなんて。」
いつの間にか、蛮次は家の掃除をする石割を手伝っていた。 「最近、何が正しいのか…… 解らなくなってきたんです。」
「正しい? 何が?」 掃除機の電源を切ると、石割はバンダナの様に頭に巻いたタオルを取った。
「物心ついた時から信じてきた父さんか、その父さんに家族の幸せを壊された母さんか。 ……色々な本を読みました。 友達や教師にも、鬼の事を伏せて相談しました。」
「それで今、蛮次君はどちらが正しいと思ってるの?」
「解りません。 最近、父さんの世話をしている母さんが嬉しそうなんです。 あれほど嫌っていた筈なのに。 訊いてみたら、夫婦だからって…… 」
「ははは。 当たり前だよ、『夫婦』だもん。」 廊下を乾拭きする手を止めた蛮次に近づいた石割は、優しく言った。
「お母さん、蛮次君達から離れていた10年間、ずっと寂しかったんだろうね。 お父さんと蛮次君の事を愛してたから、離婚じゃなくて別居にしたんだと思うよ。」
『愛』という言葉が、蛮次を更に悩ませた。
「……石割さん。 僕は、どうしたら良いのでしょうか。 最近、思い出すんです。 鬼の修業をしてた頃の事と、母に大学を勧められた事を。 父との修業が楽しかった事は認めます。 今の環境にも満足しています。」
「それは君自身が決めれば良いんじゃない?」 間を置かず返答した石割の携帯が鳴る。通話を終えると石割は、、サバキがこちらに向かっていると蛮次に言った。
暫らく考え込んでいた蛮次だったが、何かを決意した表情を見せると、奥の間に走り音撃弦『刀弦響』と変身鬼弦を手に取った。
十数分後。サバキの車に乗り込んだ蛮次に、病院からの電話は聞こえていなかった。
462裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:00:56 ID:SZSxCMPKO
夫の容体が急変した事を職場で知り、病院へ駆け付けた蛮次の母は、手術室の前にいた。看護婦から、自宅が不在らしく応答が無かったと告げられると、公衆電話にテレホンカードを投入した。
ヤマアラシの現場に車を飛ばす石割に代わり、サバキが携帯を手にした。
「もしもし。 ……あ。 どうも、サバキです。 ……いえ、今運転中ですんで。」
会話を済ませたサバキは、蛮次に携帯を渡した。 「お袋さんからだ。」
先代バンキが手術室に入っていると説明された蛮次は動揺を見せたが、小声で母にごめんなさいと言うと、サバキに携帯を返した。
病院。魔化魍退治に向かっている途中だとサバキに言われた蛮次の母は軽いショックを受けたが、受話器に 「息子を頼みます。」 と電話を切り、今、自分に出来る唯一つの事として、手術室の前で夫の無事を祈り続けた。
「蛮次君、本当に良かったのか?」 「……はい。」
サバキに応えた蛮次は、先日見た夢、光の階段を上っていった父親の話をした。
「……」 「……」 「あの夢を見て、父の時間が長くないと思いました。」
沈黙する二人に、後部座席から蛮次は続ける。 「夢の中の僕は、遠退いていく父を唯見ていただけでした。 ……今病院に行っても、同じ事だと思うんです。」
フロントガラスの向こう側に、山々が広がり始めた。
「今、僕は父さんに近づきたいと思っています。 勇敢で、屈強だった『馬場 馬力』に!」
「……孝行息子だな。」 笑ったサバキの携帯に、おやっさんが地元の『歩』から得た情報を知らせた。
近くで鍛練を行なっていたヒビキとザンキがヤマアラシ本体を食い止めている様だが、童子と姫の姿は無く、二人とも丸腰なので急いでくれと言い終えたところで電話が切れたらしい。
先代バンキが手術中だとおやっさんに返して電源ボタンを押し、サバキは石割に『歩』の人が危ないと教えた。
響鬼の鬼火も斬鬼の雷撃拳も、肉厚なヤマアラシには大したダメージを与えられずにいた。山の木々は影を倒し、夕暮れを近付けて焦燥を煽る。
「結構、頑丈なヤツですね。」 「ああ。飛び針に気を付けろよ。」
然程大きな個体ではないが、小回りが効き飛び針が細く小さい。滝澤みどりに武器を預けたまま身体の鍛練に来ていた二人だが、一般人の命には替えられなかった。
麓に車を停め、サバキ、石割、蛮次の三人は獣道を進んでいく。
463裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:02:30 ID:SZSxCMPKO
「助けてくれ――!!」
男性の叫び声の方向に目を向けると、松の樹を背に逃げ場を無くした中年の『歩』に、童子と姫が迫っていた。
「石割! オジさんを頼んだぞ! 蛮次君は姫を任せる!!」
鬼弦を弾くサバキ、男性の救出に走る石割に続き、蛮次は刀弦響を持つ左手に装着した鬼弦を掻き鳴らし、魔物に駆け出した。
裁鬼が閻魔を童子の足元に投げ付けて目標を逸らし、その間に石割が『歩』の腕を引いて遠ざかる。
前回の変身から長い間を置いていた蛮次の身体は、変身完了と同時に体力の何割かを奪われていたが、臆する事無く姫に刀弦響で切り掛かった。
鬼の出現に怪人体へと変化する魔物は、互いの距離を取り、獲物を取り逃がした事に憤怒した。
「鬼か。」 「鬼め。」
地面に突き刺さる閻魔を抜き、裁鬼は怪童子に突撃する。蛮次変身体も最初の一撃は外したが、父に教えられた戦法を記憶から取り出していた。
口から吐く飛び針で攻撃する怪童子だが、閻魔を盾に突進してきた裁鬼に左腕を斬り落とされた。
蛮次変身体は刀弦響を右手に攻撃を繰り返すが、直線的な斬撃は悉く妖姫に躱され、切っ先を擦らせる事がやっとだった。
妖姫の飛び蹴りを避けられず、蛮次変身体は尻餅をつく。
「蛮次君!」 裁鬼が援護に右拳から灼熱弾を放ったが、距離も遠く、身軽な妖姫は難なく躱した。
「手を出さないで下さい! 僕が任された相手です!」 その言葉にスポーツ試合じゃないぞと叫びかけた裁鬼だが、立ち上がった蛮次変身体の動作に声帯が止まった。
右手の刀弦響を背に構え、切っ先を左肩から覗かせている。腰を落とし、前後に開いた足は踵を浮かせていた。 「……行くよ。」
走り迫る鬼に妖姫は飛び針を浴びせようとするが、低い体勢のまま更に身体を捻る蛮次変身体は一本も受けずに魔物の懐に潜り込んだ。
接近戦を嫌いバックステップしようとした妖姫の右腕を、先代バンキが失った左手で掴む。 「逃げるな!」
妖姫を引き寄せる勢いで腰を回転させ、右手の刀弦響を逆袈裟に斬り上げた。
隻椀時代に父親が作り上げた鬼刀術・『抜刀閃』を改良した蛮次独自の掴み技、『抜刀渦』に、妖姫は白い血飛沫を吹き出し爆発した。
怪童子を倒していた裁鬼は、現役時代の蛮鬼とその息子の姿を重ね、鬼の顔の下で笑った。
464裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:05:22 ID:SZSxCMPKO
「大したモンだな。 お前も、親父さんも。」 「……実践は初めてでしたから、巧く決められるか不安でしたが。」 「その調子でデカいのも倒しちまうぞ。」 「はい!」
蛮次変身体の肩を叩き、裁鬼は近くにいるであろうヤマアラシの所へ急いだ。
麓の町に魔化魍を近づかせない様に防戦を続けていた響鬼と斬鬼だったが、既に二時間が経った長期戦に疲労を隠せないでいた。
「斬鬼さん、後どれぐらい保ちますか?」 「何だ、もう限界か。 情けないぞ響鬼。」
大きく肩を上下させ、呼吸を乱す二人の鬼に、ヤマアラシは一斉に針を飛ばした。
「修羅音撃! 『天断滅裁』!!」
10メートル近い漆黒の火柱が、二人の真横から針を呑み込む様に焼き尽くした。視線を向けると、裁鬼・修羅が二人の知らない鬼を連れ、閻魔の火柱を消した。
「待たせたな!」 響鬼達に駆け寄ると裁鬼は修羅を解き、蛮次変身体を紹介した。
先代バンキを知る二人だがその鬼の姿までは知らず、コイツは今日が鬼としてのデビュー戦だと言われたが、 「ほぉ。」 「へぇ。」 と呆気に取られたまま返事を返すしか無かった。
「ち、ちょっと待って下さい! 僕は」 「待ってくれないぞ、魔化魍は。」
固まっていた四人に向けてヤマアラシは尾を振り下ろす。反応が遅れ、蛮次変身体は慌てて両手を目の前で交差させた。
ミシッ! 鈍い音に気付くと、蛮次を守る様に、裁鬼が展開した閻魔の音撃刃でヤマアラシの尾を受け止めていた。
「ボサっとすんな! 死んじまうぞ。」 尾を斬り払った裁鬼は、腰の装備帯の背中に針金で括っておいた音撃震を取り出した。
「俺が使ってたヤツのレプリカだが、お前の弦になら付けられるだろ。」
蛮次用に黄色く塗られた『地獄』を受け取ると、蛮次変身体はヤマアラシに向き直った。 「やって来い!」
裁鬼の言葉に走りだした蛮次変身体は、比較的俊敏な魔化魍の足に次々と斬撃を重ねる。身体を回転させながら流れる様に攻撃するその姿に、ベテランの響鬼と斬鬼も舌を巻いた様だった。
465裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:06:43 ID:SZSxCMPKO
横に倒れたヤマアラシの腹部に、地獄をセットした刀弦響が突き刺さる。
「うわぁぁぁっ!!」
絶叫と共に清めの音を掻き鳴らす蛮次変身体。やがて魔化魍は爆発し、疲労と緊張からの解放で蛮次変身体はその場で大の字に倒れた。
顔の変身を解いたサバキ達が駆け寄ると、蛮次も素顔を見せて笑った。
「上出来だ! 親父さんも喜んでるぜ!」 「やるなぁ。」 「良い動きだったな。」
「い、いえ…… 魔化魍って、初めて見ましたけど…… か、可愛いですね……」
一瞬、凍り付いたように動きを止めた三人の中、サバキは蛮次の部屋の本棚に、『宇宙人』『未確認生物』『謎の生命体』といった単語が有った事を思い出していた。
初の魔化魍退治に喜んでいた蛮次だったが、先代バンキが入院している病院が近づくにつれ、表情を曇らせていった。
石割の着替えを借り、捜索や鬼としての登録等を教わる間は裁鬼の弟子として扱われる話をヒビキ達としていたが、次第に口数も減っていった。
駐車場に着いた時、既に日は暮れ、夜空を雲が隠していた。
手術は無事成功し、先代バンキの病室が有る階のエレベーター乗り場には、おやっさんとその娘二人、トウキ、ゴウキ、エイキ、フブキが座っていた。
「30分前に、意識を取り戻したらしい。 お母さんが、今付き添っているよ。」 「流石は不屈と言われたバンキさんだな。」
「ああ。 早く会ってやんな。」 「お母さん、蛮次君の事も心配してたわ。」
病室へと廊下を曲がった蛮次は、反対側の曲がり角へ走っていった母らしき後ろ姿を目にした。
「……母さん? ……! 父さん!!」
466裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:08:34 ID:SZSxCMPKO
病室に入り、遮っていたカーテンを開くと、顔を白い布で覆われた父の姿があった。枕元の小さな引き出しの上に、一枚の写真が置かれ、空の紙コップが置かれていた。
「と…… 父さん? 父さん!!」 身体を揺さ振るが、反応しない。白い布を除けると、安らかな笑顔があった。
蛮次の声にサバキ達が病室に入ってきたが、目の前の光景に言葉を失った。
涙でぼやける目を写真に向けた蛮次は、そこに写っていた幼い自分と屈強な父の笑顔から、遣り場の無い喪失感と悲しみを胸に打ち込まれた。
「父さん…… ごめん…… ごめんなさい……」一滴零れた涙は止まらず、蛮次は床に両手をついて嗚咽した。
「僕…… ずっと逃げてた…… 全部父さんや母さんに決めて貰って…… ……自分の人生なのに、自分で決めた事なんか無かった……」
沈黙するサバキ達にも構わず、蛮次は泣き続けた。
「父さんが倒れて…… 鬼の事を嫌いなフリして…… でも、忘れられなかった…… 鬼の父さんを、超えられないって…… 勝手に、諦めてたんだ!!」
蛮次は立ち上がり、父の顔を見ようとしたが、涙は拭いても流れ続けた。
「さっきも…… 鬼の人達に、父さんは凄いって言われて…… 折角、サバキさんと石割さんが、僕を…… 鬼にしてくれたのに…… また逃げようと考えてた……」
サバキが蛮次の肩に手を置くが、蛮次は身を乗り出して父の笑顔に涙を落とした。
「僕、もう逃げないから! 自分の生きたい道を見つけられたんだ!! だから父さん! 目を開けてよ!! 父さん!!」
エイキや立花姉妹が泣く中、出入口に一番近かったおやっさんが、先代バンキの妻と共に廊下を歩いてきた主治医を見つけた。
467裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:09:38 ID:SZSxCMPKO
「ぶわっくしょん!!!」
豪快なクシャミと共に、蛮次の顔に父の唾液が飛び散った。
「ん……? おぉ息子。 魔化魍は、やっつけたか?」
目を開けて起き上がろうとした先代バンキを、病室に入ってきた主治医が制止した。
「ちょっと馬場さん! まだ寝ていて下さい! それと勝手に炭酸飲料を飲んだらしいですね!?」
「いや、それは先生、やっぱ寝起きには、サイダーなんかでスッキリと……」 「咳き込んだと奥さんが私の所へ走って来たんですよ! 飲むならお茶等にして下さい。」
「はぁ…… すみません。 急に寝ちまいまして。 身体も何とも無いですんで。 ……ん? 何か顔が濡れてんな。 おい息子。 母さんのハンカチあっただろ。」
顔を拭き終えた先代バンキは、見舞い客の多さに驚いた。
「サバキに勢さん! そっちは鬼の若い衆かい。 ……お、何泣いてるんだ?」
父親にそう言われた蛮次は、驚きで急停止した涙を再び流し始めた。
「だって…… 父さんが死んだかと……」 「……何だ。 俺が死んだと思って泣いてたのか。 ……泣いて、くれたのか……」
サバキが、蛮次がヤマアラシを倒し、弟子になった事を知らせた。
「そうか…… お前、大学は!?」 「行くよ。 大学に行くし、鬼にも成る。」
「だけど、大変だぞ? 出来るのか?」 「出来る! やれるよ!! なんたって、僕は蛮鬼の息子だから!!」
病室に、笑いが満ちた。

2003年、冬。城南大学の入試を控えた前日の夕方、最後の追込みも済ませた時、サバキから携帯に着信があった。
「今から、出てこれるか?」
468裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:12:03 ID:SZSxCMPKO
教えられた場所は、季節外れのキャンプ場だった。火が焚かれ、おやっさんと立花姉妹、滝澤みどり、天美あきら、戸田山、石割の他、関東十鬼が集結していた。
「よっ! 今晩は!」 「俺達からのエールだ。」
ヒビキとザンキがそれぞれ、『絶』『対』と書かれた板を頭上に掲げた。
「頑張れー!!」 「ファイトー!!」 ダンキとショウキが、『城』と『南』の板を持つ。 「しっかりな。」 「落ち着けば大丈夫!」 ゴウキが『合』、トウキが『格』の板を掲げる。
『馬』の板を持つエイキは、「英気は養ったか!?」 とお馴染みの駄洒落を言い、『場』を持つフブキが「合格したら後輩よ、色々教えてあげる、かも♪」 と意味有り気な台詞を言う。
「先輩なら、大丈夫ですね。」 イブキが『蛮』の板を上げ、最後にサバキが『次』の板を持った。 「皆良いか? せ〜のっ!」
「絶対!! 城南合格!! 馬場蛮次!!」
おやっさんや石割達も声を揃え、激励した。
「ありがとうございます!」 感動で震え、涙目になりながらも叫んだ。
用意されていた飲み物や焼肉で、人気の無いキャンプ場は鬼達の宴会場となった。
午後7時を過ぎ、明日を心配したサバキが言った。
「我等が仲間の合格を祈って、関東十鬼の三三四拍子で締めたいと思います!」
横一列に並んだ鬼達は、変身鬼弦、変身鬼笛、変身音叉を鳴らした。しかし……
岩に包まれたままの弾鬼は勝鬼と威吹鬼の風に飛ばされ、剛鬼は隣にいた斬鬼の落雷で感電。鋭鬼は吹雪鬼の氷の破片を後頭部に受け昏倒。闘鬼は響鬼と裁鬼に挟まれ、火傷した。
「あ〜らら。」 おやっさんが大きく口を開けたまま固まり、勝鬼も弾鬼に近づいた為、破砕した岩で顔面を打ち気絶した。結局、倒れた鬼の介抱に時間は過ぎ、早々と解散された。
「悪かったねぇ。 何か、最後はドタバタしちゃって。」 「いえ。 事務局長も、ありがとうございました。」
469裁鬼メインストーリー特別編:2006/01/08(日) 01:14:14 ID:SZSxCMPKO
翌朝、ジョギングに出掛けると、サバキと石割が待っていた。
「おはようございます。」
「おはよう。 昨日、ゴメンな。」
「いえ。 嬉しかったですよ。」
「それなら良いんだが……」
「サバキさん。 アレ、渡さないと。」
「ああ、そうそう。」
石割に言われたサバキは、御守りを取り出した。
「まあ、何だ。 これでも元師匠だからさ。」
「頑張れしか言えなかったけど、やっぱり頑張って!!」
渡された御守りを見つめ、ありがとうございますと言った。
二人が去った後、再び御守りを見て呟いた。
「……学力成就だと、思ったのですがね。」

そして―― 現在。
研究室の照明を消し、駐車場に向かう。音撃弦のカバーと車のキーを往復している御守りは、『健康祈願』のものだった。
大学を出ると、明日は実家に帰ってみる気に成った。
久しぶりに、父親と酒を酌み交わすのも悪くない。

「僕は、蛮鬼の息子だから!!」
「……いや。 俺はもう、バンキじゃない。」 
「父さん……」

「お前が蛮鬼だ。 頼んだぞ。」


僕が鬼に成った日、僕は自分の生き方、『蛮鬼』を見つけた。


特別編 完
470名無しより愛をこめて:2006/01/08(日) 05:11:52 ID:j5nGkhUs0
か・感動しました。(つД`)ヽ脳内で自然に映像化されるほど
良い話です。今日の放送よりも続きが気になるほどです。
職人さん、無理をせずに頑張ってください。( ・∀・)つ旦~
471名無しより愛をこめて:2006/01/08(日) 12:59:15 ID:IelC9hH20
も、漏れなんかエンドロールでデビッドボウイの5イヤーズ流れてるし!
(つД`)・・・名作だお!!!!!
472471:2006/01/08(日) 21:44:46 ID:IelC9hH20
スマネ!落ち着いて読んだら訳判らんわな!
デビッドボウイのFive yearsって名盤「ジギースターダスト」の1曲な!
5年前の話ってことで聞きながら呼んでたら、あまりにシンクロし過ぎたもんでね・・・
473名無しより愛をこめて:2006/01/08(日) 22:12:19 ID:Gu1Mfbba0

 /    /  /   /  /   / 
        __,____
   /.  /// |ヽヽ\    /  / わかってる・・・・ちゃんと、わかってるって・・・
      ^^^^^^^|^^^^^^        
. /  /   \||/ ↓>>472  / / //
      ( ミ裁シ) ∧
 /     /⌒ ,つ⌒ヽ)   //  /  /
       (___  (  __)
"''"" "'゛''` '゛ ゛゜' ''' '' ''' ゜` ゛
474471:2006/01/09(月) 00:02:31 ID:IelC9hH20
>>473
貴兄はやさしいな・・・ハッ!!!
Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)・・・さ、裁鬼さん????
475名無しより愛をこめて:2006/01/09(月) 16:25:58 ID:4uRgbkq70
裁鬼さんの「待たせたな」
矢追純一な蛮次君
鬼の三本締め

……すべて見てみてえ!!!!と思いました。
476名無しより愛をこめて:2006/01/09(月) 18:46:41 ID:krx1zdTN0
蛮鬼編よかったです。
蛮鬼の顔を京介に重ねて読んでました。
職人さん、ハイペースなので、余計なお世話かもしれませんが、
少し充電してください(笑)

・・で「裁鬼」本編ですが、
威吹鬼の兄の話もどこかに折り込めないものかなと。
公式サイトでは“鬼に変身できる能力を得ていた兄がいる”と
ありますが、またいろいろ想像できますね。

さんざん言われてますが、実は不仲とか。
鬼のしきたりを守れず、家を飛び出しちゃったとか(または破門)。
吉野からの重要事項が威吹鬼に回ってくるところから見ても、
どうも何らかの理由で兄はリタイアしたことが考えられそうですね。
職人さん、この辺も気が向けば。

それとこういうことを考える人もいるんだな、というサイト。

“理想『響鬼』プロット”でグぐる。
→ ネ○バレ禁止な日々「理想の『響鬼』のプロット(と言うより、メモ書き)」

オタにとって理想の(勿論個人的にですが)響鬼のプロットが語られています。
特にアームドセイバーのくだりは興味深いので、気になる方はご一読を。
(※個人サイトなのでくれぐれも荒らさないようにお願いします)
477裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 01:53:51 ID:35mXD/bpO
前回は>>424から。

三十八之巻「信じ抜く妻」

5月8日。
魔化魍の発生は絶える事無く、バケガニを倒し終えたサバキは、ヤマアラシの討伐に向かった。助手席で眠気覚ましのタブレットを5粒噛むサバキの顔には、石割にも見て取れる疲労の色が濃かった。
ザンキが復帰し、ヒビキが特別遊撃班と成ったが、それでも毎日3人は鬼が出動している現状の回復には微弱だった。
「サバキさん。 ……次が終わったら、暫らく休んで下さい。」
一日でも早くサバキを戦いから遠ざけたかった石割だが、そう言うだけで精一杯だった。
「まあ、考えとくよ。 ……そんな顔するな。 大丈夫だよ。」
「じゃあ、また童子達は僕に任せて下さい。」
「ああ。 ……人が近くに居なかったらな。 もし町の近くだったり、逃げ遅れた人が居たら、避難誘導に専念しろ。 ……こんな身体でも、盾には成るからな。」
現地に到着した石割を待ち構えていたのは、過疎の山村に残された老人と子供だった。ヤマアラシを捜索するサバキを置いて、石割は寝たきりの老人2名を車に乗せた。
「サバキさん……」 「早く、皆を逃がせ! ……頼むぞ。」
2時間後。胸騒ぎと過ぎていく時間に焦りながらも、隣町の公民館に着いた石割は、遂に携帯を取出し、たちばなの番号を打った。
山から流れる川の傍に立っていたサバキの前に、童子と姫が現れた。
「おでましか。」
「餌はどこだ?」 「鬼しか居ない……」 二体の魔物は声を揃えた。 「鬼が餌か。」
「喰われてたまるか……」 鬼弦を弾き、閻魔を構えた裁鬼に、怪人に変化した魔物が踊り掛かった。
おやっさんからザンキと戸田山が応援に向かったと伝えられた石割は、村と隣町の中間で電話を切り、アクセルを踏み込んだ。
今のサバキには、魔化魍と戦えるだけの力は残されていない。この4ヵ月、50体近くの魔化魍退治に同行していた石割の脳裏を、最悪の事態が過った。
閻魔を弾き飛ばされた裁鬼は足技で必死に応戦するが、逆に飛び蹴りで吹っ飛ばされた。修羅に変身しようと構えるが、ボロボロの身体は応えない。
最悪の状況に、空腹のヤマアラシが出現した。
478裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 01:55:10 ID:35mXD/bpO
魔化魍の攻撃に気を取られると、怪童子と妖姫が襲い掛かってくる。ヤマアラシの針が肩を抉り、妖姫の針が胸に突き刺さる。
傷口は忽ち回復したが、その分体力は消費され、激しい眩暈の中、怪童子の蹴りに倒れ伏す。
遠く地面に突き刺さっている閻魔に手を延ばした身体にヤマアラシの足の影が重なり、裁鬼の意識は途切れた。
石割は村の入り口に着くと、ザンキの愛車、『雷神』を発見した。走っている最中、携帯が成る。状況が状況だったが、ディスプレイに映るたちばなの文字に仕方無く通話ボタンを押した。
「よう! 馬鹿弟子の弟子! 元気か!?」
「テ、テンキさん!!」
たちばなに団子の注文をしに来たテンキは、地下に下りるとサバキ苦戦の報を聞き、勢の坊、アイツの弟子に電話しろぃとおやっさんに命令、ついでに陰陽環をまたもや強奪していた。
現場に着いたザンキと戸田山が裁鬼を救出していたが、ヤマアラシは逃がしてしまっていた。
勾配を転がり落ちる裁鬼の身体を受け止める事に成功した石割は、通話し続けていたテンキに構わず、必死に師の名を呼んだ。
「裁鬼さん! 返事して下さい!! 裁鬼さん!!」
「落ち着け!! 馬鹿弟子は今、どうなってる!?」
「鬼の姿のままです! 前にも、鬼のまま気絶していた事がありました……」
若い姿のテンキは数秒考えた後、鬼弦の変身音波を浴びせろと指示した。
言われた通り、石割が自分の鬼弦を弾き、裁鬼の額に近付けると、サバキの顔に戻り、微かな呼吸が確認出来た。
「よし、間島の所に運べ! 俺もすぐ行く!!」
おやっさんに受話器を投げ付け、急いで店の外に飛び出したテンキの目に、ヒビキとトレーニング中のイブキの愛車、『竜巻』が止まった。
「いいモノが有るじゃねぇか!」
479裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 01:56:06 ID:35mXD/bpO
3人分の夕食を準備していたサバキの妻、佐伯春香は、石割からの電話を受けるとコンロの火を消し、エプロンを脱いだ。
間島医院に着いた石割は、テンキと医院長の指示通り、サバキの身体に変身音波を浴びせる。
完全に人の身体に戻った事を確認すると3人がかりで着替えさせられたサバキは、レントゲンを撮り終えた後、点滴だけを施されて集中治療室に運ばれた。
「手術は要らない!? どうしてです!?」
「まあ落ち着けや。 馬鹿弟子は修羅を殆ど使い切っていた、そうだな?」
石割がはいと答えると、テンキと間島は顔を見合って頷く。
「ワシが説明しよう。 これを見ぃ。」
先程撮られたサバキのレントゲンには、目立った損傷の無い骨格と臓器が映されている。
「簡単に言うと、サバキの身体は今、生命力を治癒力が大きく上回っておる。 手術が必要な箇所は無い。」
テンキが、混乱する石割に、サバキが5年前、修羅を改めて体得した時の事を話した。
「今じゃ使えるヤツも居ないだろうが、『アレ』は元々憎しみの力で、最終的に鬼を捨てる事になる禁忌モンの術だった。 それを馬鹿弟子は、生命を護る為だとか、護る力で戦うとか、憎しみと真逆の感情で修羅に成りやがった。」
「結果、使い続たら鬼である裁鬼と人間のサバキの境界が曖昧になったのじゃ。 戦う姿、戦える状態を保とうとする修羅が、サバキの身体の中で生命力を治癒力に変えとる。」
2人の話を聞いた石割は、自分の無力を呪った。サバキはまだ、眠り続けている。
480裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 01:57:11 ID:35mXD/bpO
いつの間にか、廊下の長椅子に座る石割の前に、サバキの妻が居た。
「春香さん……」 「さっき顔を見てきたの。 久しぶりだったわ、あの人の寝顔。」
石割の隣に座る春香は、廊下の窓から漏れるオレンジ色の柔らかな夕日に化粧をしない顔を照らされている。サバキと同い年だというが、幼さの残る容姿は石割の年齢より若く見える。
鬼の妻であり、5人の子供を育て切った気品を見せ、鬼の妻であり、5人の子供を育て切った苦労を見せない事が、彼女の強さだった。
「ありがとう。 石割君。」 すみませんと言い掛けた石割より早く、春香は頭を下げた。
「前に、彩子と約束してくれたわね。 どんな事が有っても、サバキを家に帰すって。」
「いえ…… サバキさんを、家族の待つ家に帰せるまでサポートする約束だったんです。 すみません。」
石割の肩に手を置き、春香は微笑みながら首を横に振った。
「いいえ。 あなたは、いつもサバキを連れて帰って来てくれた。 今日はここだけど、今日、家で待っているのは私だけ。 だから私がここに居るから、あなたは彩子との約束を破ってなんかいないわ。」
優しい言葉だった。石割は小さくすみませんと呟き、黒い手袋で隠す右拳を強く握り絞めた。
「よう、ハル。 お前さんは変わらねぇな。」
歩いてきたテンキが、手を振った。 「馬鹿弟子にゃ、勿体ないぜ。」
立ち上がって会釈する春香は、石割に学生時代まで、テンキの家の隣に住んでいたと説明した。
「自然しか無い田舎だったけれど、私はあの町が好きだったわ。 高校2年生になる前、あの人と出会ったの。」
481裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 01:58:10 ID:35mXD/bpO
「兄弟弟子のソウキさんと組み手をしていたらしいわ。 家の庭に音撃棒が飛んで来て、あの人、鬼の姿のまま、『すみませーん!』って。 だから最初に出会ったのはサバキのあの人じゃなくて、鬼の裁鬼ね。」
「はぁ……」
「近くに年の近い友達も居なかったから、すぐに仲良くなって。 ある日、私が山で、巣から落ちた小鳥の雛を見つけたの。」
テンキがニヤリと笑う。
「あの人は乗り気じゃなかったけど、ソウキさんと3人で世話をして。 少しだけど、飛べる様になって、巣まで3人で運びに行ったら……」
「その時、俺は山で偶然、バケガニを見つけてな。 童子達はやっつけたが、肝心のバケガニは逃げちまった。」
「あの人とソウキさん、山は危ないからって、勝手にテンキさんの音撃弦を持ち出して来たの。 丁度巣に着いた時に、バケガニが現れて。 2人は必死に戦って、やっと倒したの。」
「馬鹿弟子共にしちゃ上出来だったがな……」
暗い表情をする春香は、飛び散ったバケガニの溶解液が、巣まで羽ばたいた小鳥に当たったと言い、俯いた。
「俺が駆け付けた時、ハルは地面に落ちた小鳥を手にして、泣いてたな。 ……サバキが慰めてたが、ハルは小鳥を胸に泣き続けてた。」
「もう少しで家に帰れたのに、あんなに簡単に一つの生命が消えてしまう事が、どうしようもなく悲しかった。 でも、あの人が言ってくれたの。」
『泣くな春香! これから俺が、お前も、お前の周りの人も、お前が無くして悲しむ人も…… ええと、とにかく! 全部の生命を護るから! ……だから、な? 泣くなよ。』
「その言葉、あの人は今日まで、一度も裏切ろうとしなかった。」
「馬鹿弟子なりに、惚れた女に言った事から逃げないって、腹ぁ括ったんだな。」
「……だから石割君。 あなたがサバキに出会ってくれて、一緒に戦ってくれて、本当にありがとう。」
「いえ…… でもやっぱり僕は、サバキさんを元気な姿で春香さんの所に帰せませんでしたから。」
「あなたは、いつもサバキを護ってくれたでしょ。 サバキが私に言ってくれた言葉を信じ続ける様に、彩子も、あなたが言ってくれた言葉を信じ続けてるわ。
私は裁鬼の妻。 彩子の母親。 サバキの言葉も石割君の言葉も、私には信じ続けられるわ。」
482裁鬼メインストーリー:2006/01/10(火) 02:00:51 ID:35mXD/bpO
一晩付き添う春香の代わりにサバキの日用品と着替えを取りに出た石割と、たちばなに竜巻を返しに行くテンキは、表に出た。涼しい夜風が、病院の庭に桜の木の葉を転がす。
「テンキさん。 今日はありがとうございました。」
「良いって事よ。 ま、馬鹿弟子が起きたら宜しくいってやってくれ。」
「はい!」 「じゃあな。」
戸田山の勝利に喜ぶ日菜佳。
注文にやった夫が帰らぬと怒るテンキの妻・さくら。
ザンキの引退に哀しむヒビキとおやっさん。
イブキは竜巻を盗られ香須実に泣き付いている。
彼等が待つたちばなへ、テンキは楽しそうに、鼻歌まじりで竜巻を駆った。
483次回予告:2006/01/10(火) 02:10:21 ID:35mXD/bpO
三十九之巻「知らされる子供達」

毎度、多数のご声援ありがとうございます。

『仮面ライダー響鬼』本編には、挙げられたイブキの兄等、埋もれている設定、空白の場面が山ほど存在しておりますので、作文に困ることは有りません。
ですが、書けない時には書けません(スミマセン)ので、悪しからず御了承お願い申し上げます。
484名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 12:59:33 ID:75ESEpkq0
作者さんお疲れ!
また楽しませてもらいました

>>476
理想と言うより只の妄想って感じ
魔化魍が見えないとか・・・
それじゃ三之巻の時点で既に違う物語だ
485名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 17:32:23 ID:rk+ZPFqo0
>>476
うはwww何だコリャwwwwwwwwww
俺が考えた妄想と、かなり類似しているんだが……

似たようなこと考えてる人って、おるもんやねぇ
486名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 21:46:52 ID:uiQxbqS3O
最近やっと特ニュー見れたんだけど、裁鬼さんが手に一本ずつ持ってるナタみたいな子閻魔、何アレ?まさかあれが閻魔‥いやだぁw
487名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 22:10:23 ID:VY3IiAU40
あれは小型音撃弦としか名称は無かったはず。
ヤマアラシ戦のとき、河原に突き刺さってたのが恐らく閻魔。
488名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 22:14:15 ID:/VNjk2yf0
職人さん乙です。今まで書かれた裁鬼さんの過去とかが
TV本編の負けっぷりやそれを裁鬼さん達の視点で書いた今回の話とかに
相俟って裁鬼さんに何か哀愁のようなものを感じます。
あと、テンキさんも格好よくて好きです。

>>486
あれは閻魔ではなくフィギュア王によれば「小型音撃弦」という音撃武器らしい。(詳しい名前は不明)
音撃棒みたいな使い方もできそうなので
色々な音撃を極めている裁鬼さんのために小暮さんが開発したのかも。
489名無しより愛をこめて:2006/01/10(火) 23:02:06 ID:uAc42tjp0
テンキさんはファンキーな年寄り設定だね!
ミッキーカーティスさんかオヒョイさん希望ンヌ!
あっ!でもミッキーカーティスさんはバイク乗るんだよなあ!
490名無しより愛をこめて:2006/01/11(水) 00:16:13 ID:aaYpR0hl0
>>488
裁鬼は名前つきの専用音撃棒とか持ってるし、やっぱ何かしら特別扱いなんだろうかな。
見た目響鬼の棒とどう違うのかわかんなかったりもするが・・・
491名無しより愛をこめて:2006/01/11(水) 12:14:18 ID:uDZPDtjN0
>>489
漏れは藤村俊二か丹波哲郎かで迷った。
ただ、若くなる事を考えると後者かなと(007出演時の若さ、無論CG合成)。
藤村さんはゲバゲバ90分の印象強くてなあ。

……で裁鬼さんは誰なの?
492名無しより愛をこめて:2006/01/11(水) 17:03:53 ID:LRoBVnGD0
>>491
俺の脳内ではこの物語でも
サバキさん:柴崎貴文
裁鬼さんの声:塩野勝美
のオリジナルキャストのまんま。
493489:2006/01/11(水) 18:32:32 ID:4MmxuxGD0
ガンヘッドのイメージでミッキーカーティス氏を推したが

よく考えたらこの人リアルにギタリストだった!
音撃斬シーンを自身の演奏で撮れるのは良いかも!
494名無しより愛をこめて:2006/01/11(水) 18:41:31 ID:LRoBVnGD0
>>493
しかもミッキーカーティスはただバイクに乗ってるだけじゃなくて
リアルにスーパー1のバイクのVジェットを所有してるから
仮面ライダーとしてもぴったりかも。
495489:2006/01/11(水) 18:49:20 ID:4MmxuxGD0
>>494
おお、賛同dクス!

・・・面白そうだからミュージシャンで探してみる!ww
林英哲にドンドコとか、妄想にもほどがあるかなあ?
496489:2006/01/11(水) 19:47:22 ID:4MmxuxGD0
>>491
妄想ってコトで勘弁!!
裁鬼さんはミュージシャン路線だとCHARが良いなあ!

日産TIDAのWEBでなかなかの演技でしたよ!
497名無しより愛をこめて:2006/01/12(木) 21:12:37 ID:m682V/nRO
30前後の俳優で響鬼の世界に似合いそうな人‥。意外と思いつかないな。
498489:2006/01/12(木) 21:19:24 ID:WRGznyS70
とりあえず、弦で吉川晃司、管で東儀秀樹、打が浮かばないんだよなあ・・・

499489:2006/01/12(木) 21:22:48 ID:WRGznyS70
ソウキさんは中村梅雀 がいいかも!
リアルにベースはトッププロレベルだし!
500名無しより愛をこめて:2006/01/12(木) 22:14:14 ID:UW11Gbrg0
>>498
打で思いついたのが菅沼孝三(以前チャゲアスのバックバンドで叩いていた)
なんだが、現在46歳でちょっと年取り過ぎかも。背も低いし。
ただ、「手数王」と言われているだけあって破壊的に叩きまくる。

いや待て、俳優ではないな。一ドラマーじゃないか。
501489:2006/01/12(木) 22:26:04 ID:WRGznyS70
>>500
あっ、それ良いかも!
「手数王」なら複数の音檄鼓を駆使できるとか。
故ジョン・ボーナム(レッドツエッペリン)素手打ちを
音檄棒やられた時に繰り出すとか、カコイイかも?
502裁鬼メインストーリー:2006/01/13(金) 01:17:56 ID:qv4de0gaO
三十九之巻「知らされる子供達」

入院して2日が過ぎたが、サバキは未だ目を覚まさず、間島医院長は軽い調子で、まだ寝かせといてやりなと石割に言う。
「石割さん!」 魔化魍を倒し終えたばかりのバンキが、息を切らしながら走って来た。
「バンキ君。 ……お疲れ様。 大学は大丈夫?」
「それどころじゃ無いですよ! サバキさんは!?」
バンキが石割からの電話を受けたのは、ザンキ敗退時と同じく、魔化魍を追っている最中だった。昨日はおやっさん、ヒビキ、イブキ、ザンキと新しく鬼に成ったトドロキが見舞いに来ていた。
「まだ眠っとるよ。 今は生命力を治すのが一番大事な時。 起きるまで、寝かせてやるのが一番じゃ。」
老医が去った後の廊下で、バンキは壁に拳を叩きつけ様とするが、石割の右手が阻止した。
「……らしく無いよ。 今はサバキさんを信じなくちゃ。」
黒いグローブから拳を解放されたバンキは、すみませんと小さく呟いた。
「ザンキさんが抜けた時、僕がサバキさんの半分でも働けていれば……」
「バンキ君。 誰の責任でも無いよ。 今僕達は、僕達に出来る事をしなくちゃ。」
肩を叩かれたバンキは、何かを決意した表情を見せ、力強く、はい! と応えた。
石割が佐伯家に戻ると、春香が今日の夕方、彩子が帰ってくるので迎えを頼めないかと笑いかけてきた。
「亮太達も、仕事が終わり次第、病院に来てくれるって連絡してくれたの。 久しぶりに家族が集まれるわね。」
あくまでも明るく振る舞う春香の姿に勇気付けられた石割は、疲れている暇など無いと、自分自身に喝を入れた。
「それとね。 もう一つ、頼みたい事が有るの。」
503裁鬼メインストーリー:2006/01/13(金) 01:19:58 ID:qv4de0gaO
「何でそんなに平気なの!?」
空港から間島医院に向かう車の中、彩子は石割とバンキの平然とした態度に叫んだ。
気を紛らわせようとバンキが英語の発音チェックを始めたが逆効果。彩子の怒りは病院の駐車場で爆発寸前だった。
「サカエさん! ねぇ、起きてよサカエさん!!」
病室で、彩子はサバキの身体を揺する。既に次男の篤志、三男の慶伍、末っ子の和馬が到着しており、サバキの顔を見た後だった。
「姉ちゃん…… 止めてあげなよ。 サカエさん、今は寝てるのが一番の薬なんだって……」
和馬の言葉に、彩子は泣きながら言った。
「だって…… サカエさん、普通なら、こんな事にならないじゃない!」
廊下に立つ石割に駆け寄り、その服を掴みながら彩子は再び叫んだ。
「教えて! サカエさんは、どうなったの!? 何が原因で、何が起こったの!?」
石割は隣に立つバンキと頷き合い、サバキの子供達を医院長から好きに使ってくれと与えられた宿直室に案内した。
「……皆。 今から見て欲しいものが有るんだ。」
バンキが鞄からディスクリーダーを取出し、置かれていたテレビに接続する。石割は装備帯から、4日前に戦闘で使った浅葱鷲を外してディスクリーダーにセットした。
子供達が画面を見ると、赤く巨大なカニの怪物に立ち向かう、赤い角の戦士が映し出された。
「おい石割さん!! ふざけてるのかよ!! 何でこんな時に、特撮なんか見せるんだ!?」
慶伍の声に沈黙を保ちながら、石割の瞳はテレビから動かなかった。慶伍もその真剣な眼差しに負け、ブラウン管を見続けた。
『音撃斬! 閻魔裁き!!』
爆発する巨大なカニ。赤い角の戦士が画面に近づくと、その頭部が光に包まれる。
「サカエさん!!」
顔の変身を解いたサバキが、画面に向けてお疲れ! と笑う。遠くからお疲れ様ですという石割の声が聞こえた。
「……え? コレ…… 何?」
再生を終えたディスクを腰に戻した石割は、静かに説明した。
「……今のが、サカエさんの仕事。 サカエさんは、自然発生する怪物から人を救う、『鬼』なんだ。」
沈黙した空気の中、篤志が声を発した。
「鬼……?」 「そう。 サカエさんは、『裁鬼』って呼ばれてる。」
504裁鬼メインストーリー:2006/01/13(金) 01:20:43 ID:qv4de0gaO
「……何がサバキだ!? こんな映像だけで、どう信じろっていうんだよ!?」
「本当だよ、和馬。」
作業服のまま駆け付けてきた長男の亮太が、春香と共に宿直室のドアを開いていた。
「お兄ちゃん……」 「兄貴、本当って……」
「石割さんが言った通りだ。 ……サカエさん、戦い続けた疲労で、それでも戦い続けて…… 怪物、『魔化魍』にやられたんだ。」
「兄貴…… 何か、知ってるのか?」
靴を脱いでフローリングに上がった亮太は、弟達と妹の顔を見回しながら話した。
「俺達は、血の繋がった家族を失い、サカエさんの子供に成った。 慶伍は地震。 彩子は船の事故。 篤志は火事。 そうだな。」
「ちょっと待って! お兄ちゃんは交通事故で、家族が乗ってたバスが……」
「いや。 俺と和馬は、魔化魍に住んでいた町を襲われた。 和馬は小さかったから憶えてないみたいだが、俺は10歳の時、家も、家族も全て焼かれた。」
春香は、結婚して間もない17年前、サバキのサポーターをしていた事を皆に告げた。
「今と違って、まだ魔化魍の捜索が確実に出来なかったの。 山奥の町が襲われて、生き残ったのは、一人で泣いてた和馬だけ。」
母方の親類も既に他界しており、サバキと春香が保護した和馬は、児童施設からの引き取りを待つだけだった。
「私達が三人で外出した時、公園で一人のお婆さんが、『仲の良い親子ですね。』 って言ってくれて…… あの人、すぐ施設に電話したわ。 この子を引き取れないかって。」
その後サバキは、児童施設と猛士に無理を通して貰い、行き先の無かった孤児の篤志、彩子、慶伍の養父と成った。
亮太はその3年後、鬼達が救えなかった、小さな町の唯一の生存者だった。
時を同じくして、吉野で開発されたディスクアニマルが、天候の変化や衝撃に弱かったそれまでの式神に代わって捜索活動に投入され、敏速な討伐が行なえる様になった。
「サカエさん、施設の出身だって、皆聞いてるだろ。 どれだけ強がっても、家族が居ない寂しさや孤独感を消せない事、誰よりも知ってたんだよ。 ……だから、俺達を育ててくれたんだ。」
505裁鬼メインストーリー:2006/01/13(金) 01:21:44 ID:qv4de0gaO
俯く亮太の背中を優しく叩き、春香は子供達に言った、。
「本当は、和馬が二十歳になったら言おうと思ってたの。 でも、もう皆立派な大人に成ってくれたから。 サバキとしての、お父さんの事…… 知って貰いたかったの。」
養父の使命に唐突な衝撃を受けた彩子達は、どんな言葉を発せば良いのか解らずにいた。
「仕方有りませんね…… 石割さん。」 「うん…… 皆ちょっと、外に出てくれるかな。」
間島医院の裏に有る林の中、石割は右手のグローブを彩子に預けると、サバキの家族と10メートル離れているバンキの隣に立った。
午後8時を過ぎ、春の夜風が彩子達の興奮を冷ましていく中、二人は変身鬼弦を弾いた。
「石割さん!?」 「馬場さん!?」
慶伍と篤志が叫ぶ中、赤と黄色の炎が消える。鍛えぬかれた肉体と、角を生やした、明らかに戦う為だけの姿をした二人は、穏やかな声を発した。
「……これが、『鬼』なんだ。 サバキさんは17年、ずっと戦ってきた。 生命を護る為だけに、ずっと。」
「幼かった皆さんに説明しても、正確に理解出来ないと判断したのでしょう。 サバキさんは、職業を訊いてきた自分の子供達に虚心を抱かせる覚悟とも戦い続けて来たんです。 鬼の自分を、仮面で隠しながら。」
証された真実に、子供達は涙を流した。彩子は小さな歩幅でグローブを石割に返すと、その身体をもう一度見つめた。
「サカエ…… さん……」
巨大な怪物と戦いながらも、佐伯栄は自分自身の辛さや苦労を家庭に零した事は無かった。
506裁鬼メインストーリー:2006/01/13(金) 01:22:30 ID:qv4de0gaO
『……俺は…………』
サバキは素顔のまま、鬼の身体で暗闇に立っていた。ヤマアラシと戦っている最中だった事を思い出し、遠く彼方の地面に突き刺さっていた閻魔に手を伸ばし続けた。
『戦うんだ…… 護るんだ……』
次第に重くなる腕が落ちた瞬間、何かがサバキの拳を支えた。温もりと優しさが込められた何かが、サバキを閻魔に導く。
長い夢が終わり、サバキは目を覚ました。 彩子、慶伍、篤志、和馬、そして亮太が、サバキの両手を握っていた。
「……あれ?」 「サカエさん!」
「俺は……」 目覚めた身体に力は無かったが、両手の温もりを感じる事は出来た。首をゆっくり動かすと、涙を流しながら頷く春香が見えた。
「お前達…… 済まなかったな。」
首を横に振る子供達の向うに立つ二人を見て、サバキはいきなり起き上がった。
「何があった!?」
「……あ!」 「僕とした事が……」
石割変身体と蛮鬼は、気不味く顔の変身を解いた。

続く
507名無しより愛をこめて:2006/01/13(金) 13:47:44 ID:jDNTN3qg0
職人さん、乙です!

職人さんがメインストーリーをうpした後、余韻に浸りたくてつい
感想カキコが遅れるオレです。
・・・・とうとう子供達が、サカエさんの秘密を知ってしまいましたね。
今後どうなるのか、本編そっちのけでワクテカと気になります。
508名無しより愛をこめて:2006/01/13(金) 14:17:37 ID:GhlNsaXy0
干し芋をかじりながら読んでいて、思わずウルッときてしまいました。
いつも頭の中で映像を思い浮かべながら読んでいます。
509名無しより愛をこめて:2006/01/13(金) 21:48:44 ID:PlncUD8xO
この手の変身ヒーローがひた隠しにしていた正体を明かす瞬間って、どんなモノでもドキドキするね。

俺はテレビアニメ「デビルマン」の最終回、主人公アキラがヒロインの前で敵に正体を明かされるシーンで泣いた口なんだけど(歳がバレる)、おまいらは?脱線すまん。
510裁鬼メインストーリー:2006/01/14(土) 00:45:14 ID:TpQSptvHO
四十之巻「受け継ぐ愛」

飛騨の山奥に在る猛士の湯治場に、サバキとザンキが身体を癒しに滞在していた。
「子供達に、『鬼』を教えたらしいな。 良かったじゃないか。」
「まあな。 でもあいつら、小さい時みたいに休む暇無く質問続けてきたから、こっちに逃げてきたんだ。」
「まさか、2人揃ってこうなっちまうとはな。」
露天の湯に浸かり、身体を伸ばしたサバキにザンキが返す。「全くだ。 ……まあ、少なくともお前はまだやれるだろ。」
「……引退、か。 他人事じゃないな。」
「馬鹿言うな。 十何年も怪我無くやって来たじゃないか。」
「ま、否定の仕様が無いな。 今じゃ、生きる事より傷を治す事を優先させる身体になっちまった。 ……それでも思う時が有る。 あと、どれだけ戦えるのかってな。」
「サバキ……」
「いつも出す答えは一緒だ。 やれる所までやる。 裁鬼として、佐伯栄としてな。」
笑うサバキは、目の前に広がる山々を見つめる。
「……俺もそうさ。 戸田山…… トドロキに言われた。 ザンキは、斬鬼のままだってな。 戦うだけが俺じゃない。 だが、ヒビキ達でも手に負えなくなった事態が起きたら、いつでも音枷を腕にするつもりだ。」
「その時は頼むぜ。 ザンキ。」
「ああ。」
鬼であり続ける者と、鬼から身を退いた者。だが、その志に大差は無かった。
サバキが、おやっさんから最低2ヵ月の絶対休養を命じられている間、鬼と成った勢いを持続するトドロキと、父親譲りの鬼刀術に磨きを掛けたバンキが、弦担当の魔化魍を倒し続けていた。
石割もサバキと同期間の休養を与えられたが不要だと断り、バンキやエイキ達のサポート活動をしていた。
その間魔化魍は、アミキリの出現や合体種、例年より早いドロタボウの出現等、次第に凶悪さを増していった。
7月最後の日曜日。亮太の結婚披露宴が行なわれる式場に、サバキと石割の姿は無かった。
511裁鬼メインストーリー:2006/01/14(土) 00:46:08 ID:TpQSptvHO
「サバキさん、良かったんですか?」
まだ日の明けない内から出動し、川原にベースを設置する石割は、久しぶりの実践に備え、閻魔を振るサバキに訊いた。
「ああ…… 一応、式場からスピーチの時に電話くれる様に頼んでおいたんだ。 ホラ。」
ズボンのポケットから、折り畳まれた原稿を取出して笑うサバキだが、さすがに心此処に在らず、といった心境だった。
カッパが出現したと聞いただけならば、休みに入っていたゴウキに任せようと、サバキ自身も考えていた。
しかし今回の目撃地点は、かつてサバキと相撲を取った人畜無害のカッパが出現した場所から然程離れておらず、微かな期待を抱きながら、おやっさんに復帰戦と言う事で、無理を聞いて貰った。
事実、サバキの予想は当たっていた。
「はっけよ〜い!」 「のこった! のこった!」
雨降りの翌日に外で遊べなかった不満を解消する子供の様に、輝いた笑顔を見せながら楽しく遊ぶ、若干幼い童子と姫。
「鬼の人、くるかな〜?」 「くるよ〜! だって前に、 『またな。』 って言ってくれたもん!」
以前の記憶を残した土地から自然に生まれ、サバキを待ち続ける2体。その目の前に現れたのは、白のクグツだった。
その頃、亮太の式場では披露宴が始まり、春香は係員にサバキの携帯番号の最終確認をした。
「もしかすると、仕事で出られないかもしれませんけど…… なるべく長い時間、呼び続けて下さい。」 「畏まりました。」
青磁蛙の一体がカッパらしき声を掴み、サバキと石割は川の下流に急いだ。
昔と同じ様に、閻魔を手に音撃鼓『陽炎』と音撃棒『炎夏』を装備帯に付けている。石割は音撃管『夕凪』と音撃鳴『つむじ風』を持っていた。
「……サバキさん、間に合うよね?」
彩子は小声で、隣に座る篤志に言った。呼び名がサカエからサバキに変わった理由は複雑ではなく、そっちの方が格好良いから―― だった。
「間に合うさ。 ……石割さんも一緒だろ? お前自分の父親と恋人信じろよ。」
「こっ! 恋人って……!」
「兄貴、姉貴、静かに!」
司会者が両家の友人代表の名を呼んだ。
512裁鬼メインストーリー:2006/01/14(土) 00:46:48 ID:TpQSptvHO
童子達は笑いながら、サバキ達を待っていた。
「鬼だー!」 「わーい!」
無邪気なその様子に安心した2人が鬼弦を弾いた途端、怪童子と妖姫に変化した2体が飛び掛かってきた。
「何っ!?」 「サバキさん! コイツ達、何か変ですよ!!」
そう叫んだ石割変身体は妖姫ともつれ合いながら、川の深みに連れられていった。
「石わ……」
裁鬼の身体を、予期せぬ方向からの衝撃波が襲う。対岸まで吹き飛ばされたが立ち上がり、手放さなかった閻魔を構えた裁鬼の前に、白のクグツが現れた。
「……クグツ!? まさか……」
再び裁鬼に衝撃波を浴びせようと腕を伸ばすクグツだが、素早く拳から発した灼熱弾がその計測杖を弾き飛ばした。
「同じ技食らうか!」 「……!」
クグツは身体から煙幕の様な靄を出すと、一瞬で姿を消したが、まだ怪童子が残っていた。
閻魔を砂利に突き立て、怪童子を鬼爪で葬ると、裁鬼は呟いた。
「……夏のヤツか…………」
雑草の茂みに気配を感じ、音撃棒を手にする。
姿を見せたカッパの頭部には緑の毛が生えており、明らかに成長を終えている様子だった。更に単発で発射する筈の粘液玉を連続で吐き出し、クグツに改造された事を明確にしていた。
両手に受けた粘液玉は忽ち硬化し、重量を増す。
水中に落とされ、身構えられないまま攻撃を受け続ける。ダメージと傷の治癒に体力が削られ、意識が遠退こうとしていた。
「裁鬼さん!!」
妖姫を倒し終えていた石割変身体が潜水したまま泳いで駆け付け、夕凪とつむじ風から清めの音を発した。
逃げ出したカッパの退治は保留し、裁鬼を陸に戻す。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。 夏のクグツだ。 やられちまった……」
体力の消耗も激しく、カッパを追えないと判断した石割は、ベースに戻るとたちばなに連絡を入れた。
513裁鬼メインストーリー:2006/01/14(土) 00:47:42 ID:TpQSptvHO
亮太の披露宴は滞り無く進行し、新婦の両親への言葉が終わった。
司会者が式場の係員から合図を貰い、参加者に説明した。
「お集まり頂けました皆様。 ここで、本日仕事の為に参加を見合わせられました、新郎のお父様から、お電話での、御二人へのお祝いの言葉を頂けました。 どうぞ、ご静聴お願い申し上げます。」
会場は静まり、参加者は皆、受話器と直結されたスピーカーを見つめていた。
サバキは着替えも済ませていないまま、粘液で重くなった腕を持ち上げ、携帯を手にしていた。
《お集まり頂けました皆様。 本日は、息子の亮太と、好恵さんを祝福して頂き、誠に有難うございます。》
石割は、サバキがスピーチの原稿を変身時に燃やしてしまっていた事を思い出したが、サバキは迷い無く、言葉を発し続けた。
《正直に申し上げます。 亮太は私の、自慢の息子であります。 
私と妻と、子供達の間に血の繋がりが無い事を御存じの方も居られるでしょうが、亮太はその中でも、10歳という、多感な時期に引き取られ、幼い心に、葛藤を抱いていたでしょう。
それでも、亮太は長男として、弟や妹の良き手本と成り、自身も中学を卒業すると、歩みたい道を見つけ出して私の手元を離れていきました。
私は度々、本当に亮太の父親として、これで良かったのかと自責の念に駆られます。
自分が、息子にしてやれた事、息子に教えてやった事は、両手の指の数にも並ばなかったのではないかと、胸を痛み続けてきました。
それでも、そんな父親でも、二十歳の祝いに酒を酌み交わした席で亮太は、『育ててくれて、ありがとう』と言ってくれました。
最近また、大きな心配を掛けてしまい、既に亮太の父親として、この祝いの式に介入出来る立場ではないと自負しております。
せめて、二人を祝福させて頂く事を、皆様のご寛容な御心で、お許し頂けたらと思い、私からの、二人の門出を祝う言葉に返させて頂きます。 亮太、好恵さん。 おめでとう。》

拍手鳴り止まぬ中、司会者が亮太を立ち上がらせる。
彼の、両親への感謝の言葉が、静かに始まった。
514裁鬼メインストーリー:2006/01/14(土) 00:48:31 ID:TpQSptvHO
「……サカエさん。 ハルカさん。 今日、僕がここに立ち、愛する好恵と新たな家庭を築けたのは、貴方達のお陰に、他なりません。 
13年前。 全てを失い、孤独となった僕に、新しい幸せを授けてくれた日の事を、僕は忘れていません。
子供達に名前で呼ばせ、血の繋がらない親子である、変わる事無き現実を教えてくれた厳しさ。
慣れない環境から眠れず、泣き続けていた僕の傍で、一晩中抱き締めていてくれた優しさ。
自然災害から、人を守り続ける、サカエさんの強さ。
いつも笑顔で、元気を与えてくれた、ハルカさんの暖かさ。
そして、家族の楽しさ。
道を踏み外す事無く、こんなにも沢山の人達に祝福を頂ける人間に成長出来た事。
人生を支え合い続けられる、愛せる人と出会えた事を、感謝しています。
今まで、数えきる事が出来ない、大きな愛をくれて、本当に、ありがとう。

父さん。 母さん。 」

亮太の言葉に参加者がハンカチを取り出す最中、スピーカーから通話が切られた音が響くと、不通音が暫らく続いた。
サバキは力無く腕を落とすと、石割に言った。
「……亮太のやつ、父さん、だってよ。」 「はい。 聞こえてましたよ。」
涙目の石割が、サバキの腕から粘液玉を剥がし始めた。
「……父サン、カ……」 「良かっタデスネ、リョウタクン。」
「オイ! ココ、カザシモジャネェカ!!」 「アッ! スミマセン、ツイ……」
「ツイッテ、オマエ! カケナオシテ、リョウタニ、モウイチド、トウサンッテ、ヨンデモライタカッタノニ! コンナコエジャダメジャネェカ!!」 
「マアマア。 ジャア、アヤコチャンノ、ケッコンシキノトキニ、ボクタチフタリデオトウサンッテ、ヨビマスカラ。」
「オ、ワルイナ。 ……バカヤロウ! オレハマダ……」
「……何やってんの?」
凱火で到着したヒビキが、二人を見つけて言った。

続く
515次回予告(リニューアルしました):2006/01/14(土) 00:55:18 ID:TpQSptvHO

「君、女の子?」
「ねえ持田。 明日夢って、女っぽい名前かな?」
「ハイ。 ザンキさんと石割君に、あたしからのプレゼント。」
「鬼か。」
「今日だけはな!」

四十一之巻「裁く石割」
516名無しより愛をこめて:2006/01/14(土) 09:21:19 ID:jK6vpHkY0
巧いな。そう来たか。
裁鬼がやられた理由を人畜無害カッパ
の話と傀儡と絡めれば、それなりに納得がつく。


517名無しより愛をこめて:2006/01/14(土) 15:03:19 ID:QmU4XsI+0
人生泣き笑い劇場
うるっとしながらも、つい笑っちまったよ。
職人さんに激しく感謝する。
518名無しより愛をこめて:2006/01/14(土) 23:13:21 ID:hmJeLYj10
本編はもういい。こっちで読んでたほうがよっぽど楽しい。
あきらが弟子を辞めた心情とかさ、こちらの職人さんにぜひ書いてもらいよ。
もちろんサバキさんシリーズ大好きさ。
519名無しより愛をこめて:2006/01/14(土) 23:18:56 ID:2wfq3F3a0
半角カナでアヒル声ナイス!
次回予告もわくわくするなあ〜。

欲しかったのは、こういう芯のある人間ドラマと燃えるアクションなんだよ。
どうしてプロがそれを作れなかったのか。
520裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 02:42:44 ID:rlXctB+UO
四十一之巻「裁く石割」前編

たちばなの地下。サバキと石割は、おやっさんに白のクグツと遭遇した事を報告しに来ていた。
「遅れてすんません。 ちょっと身内で、色々有ったもんで……」
すっかり元に戻った声で、カッパ戦から2日が過ぎた水曜日に訪れた詫びを入れる。
「いやいや。 ヒビキから聞いたよ。 息子さん、おめでとう。」
事情を理解していたおやっさんは、真面目な表情に切り換えると、声を潜めた。
「前に、街の中にオオナマズが出たんだけどね。 その時にあきらが、黒い方を目撃してるんだ。」
人為的に魔化魍を生み出すクグツ。しかしそれも、吉野の予想通りならば、巨悪の尖兵に過ぎなかった。
「……『奴等』ですか。」
「うん…… ここ数年、実験的に稀種を作ったり、大量に一種類の魔化魍を出現させてきたみたいだったけど、今年はそれらの総合的な事をやってるね。」
彼等が重ねてきた実験が、応用段階に入っている事は、石割にも解った。
「でも、おやっさん。 ヒビキさんとイブキ君が倒した乱れ童子とか、今回のカッパの改造とか…… 魔化魍も生き物ですから、完全に総括する様になるのは、不可能に近いと思うんですが。」
おやっさんは頷くが、敢えて忠告する。
「ま、奴等の狙いが解るまでは、慎重に対処するしか無いなぁ。 サバキと石割君も、気を付けて。 特にサバキは、この間の事も有るから、無茶はしないでね。」
苦笑するサバキの隣で、石割はグローブを着けている右拳を握り締めていた。
521裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 02:43:52 ID:rlXctB+UO
店内に戻った二人に、見知らぬバイトらしき子が頭を下げた。
「こんにちは。」
「こんにちは。 ……石割、久しぶりに、団子喰ってくか。」 「はい。」
二人がテーブルに座ると、暖かいお茶が運ばれてきた。
「どうぞ。」
「おっ。 ありがとう。」
客は居らず、盆を手にするバイトの子は、サバキと石割の顔を見ていた。
みたらし団子と黍団子を注文し、茶を啜る。サバキの表情に石割は、隠せない疲労を見つける。
通常ならば、敗戦した鬼には最低一週間の休暇が与えられるが、サバキはカッパに敗れたその日だけ休み、翌日には新婚旅行に旅立つ前の息子夫婦を訪れたり、向こうの親と食事に出掛けたりして、身体を動かし続けていた。
傷は癒えたが、体力はまだ戻っていない様だった。
「お待たせしました。 ……みたらし団子と、黍団子です。」
再びサバキ達を見ている様子に気が付き、黍団子を一つ食べると石割は訊ねた。
「新しくバイトに入った子って、キミの事?」
「はい。 安達明日夢です。」
「……君、女の子?」
突然の発言に、明日夢と石割はサバキの顔を見る。
「……サバキさん?」
「え? ……あ、やっぱ男の子か。 いや、ゴメンな。 ……最近の子って、顔も名前も男女の区別が無くなってきてるなぁ。」
頭を掻くサバキに、石割は苦笑しながら楊枝を置いた。
「サバキさん…… オジサンみたいな事、言わないで下さいよ。 ……ゴメンね、安達君。」
「いえ。 ……あの、ちょっと訊いても良いですか?」
「ん?」 「何かな?」
「あの、お二人とも、鬼の方ですか?」
極秘事項を単刀直入に訊かれた二人は、驚いて団子を喉に詰まらせた。
522裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 02:45:33 ID:rlXctB+UO
ゴウキとその妻である五月は、名古屋で新幹線を降りた。
7年前、関東支部にはヒビキしか太鼓の鬼が居らず、中部支部から派遣された彼が最後に地元を訪れたのは、一昨年の正月だった。
ホームの人混みに目を凝らすと、飲物の自動販売機の近くから、大柄で口髭を蓄えた男が歩いてきた。
「よう。 元気だったか?」
「お久しぶりです。 御師匠。」
「ご無沙汰しておりました。 復帰、おめでとうございます。」
頭を下げる五月に、男は手を振る。
「いやいや。 結婚式にも行けず仕舞いで、申し訳無い。 ……まあ、立ち話もなんだから。 『げんじろう』に行こうや。」
昨年の夏から、リハビリを経て再び鬼の活動を再開していたサバキの兄弟弟子、ソウキが笑った。
老人会の一行が日帰り旅行の帰りにたちばなへ向かうと連絡され、おやっさん、明日夢、大学から帰ってきた日菜佳は、慌しく準備を始めた。
「何か手伝いましょうか?」
石割の言葉に、日菜佳が笑顔を見せる。
「すみませんね〜。 じゃあ、石割君。 お座敷のテーブル、拭いてくれますか?」
おやっさんが嗜めるが、石割は構いませんよと台拭きを手にする。
「じゃあ、俺はおやっさんを手伝うとするか。」
サバキが、やれやれと苦笑するおやっさんと共に奥へ入っていった。

8月7日の夕方。佐伯家にバケガニの討伐から帰ったサバキと石割を、津村努が待っていた。
「よう。 どうしたんだ、また家出か?」
「厳しいなぁ、サバキさんは。」
冗談混じりの挨拶を済ませると、努は近況報告をした。
「今、プールで監視員のバイトしながら、ライフセーバーを目指してるんだ。 父さんと母さんも、『歩』の仕事を覚えてくれたし、6月から一人暮しを始めたよ。」
春香が冷たい麦茶とガラスコップを4つ、テーブルの上に置いた。
「頑張ってるのね。 でも努君、冬はどうするの? 屋内プールとか、スポーツジムで働くのかしら?」
麦茶を注ぐ春香に、努は実家から遠くないスキー場で、昨年からバイトをしていた事を説明した。
「事故が起きるのは、海だけじゃないですから。 僕は僕なりに、人助けをしていくつもりです。」
523裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 02:46:44 ID:rlXctB+UO
帰り際に努は、先に訪れていたたちばなの地下で、みどりから、ヒビキ達が今夜の花火大会を夕涼みしながら見物するという伝言を受けていた事を話した。
「花火見物か…… よし。」
サバキは携帯を手にした。夜空に咲く大輪の華を見上げながら、明日夢の質問に応えているヒビキとザンキ達の前に、浴衣姿のサバキと春香、石割、エイキとフブキ、トウキ一家が合流した。
「よう。 お疲れ様。」 「サバキさん! エイキ達も……」
「折角の花火なんだ。 大勢で見た方が、楽しいだろ。」
用意された腰掛けに、一行は改めて座り直した。
ヒビキと談笑するサバキに挨拶した明日夢は、隣に座っている持田ひとみに訊ねた。
「ねえ持田、明日夢って、女っぽい名前かな?」 「え? ……どうだろ?」
返事に困った彼女は、従兄であるトドロキに助け船を求めたが、それが引き金になってしまった。
「何を言ってるんだ、ひとみ! いいか? 明日に夢と希望を抱き、常に自分を鍛え続ける! 挑戦し続ける男にとって、こんなに良い名前は無いぞ! うん!」
鬼と成る人間に相応しいじゃないかと零しそうになったトドロキの口に、ザンキと日菜佳が素早く余っていた西瓜を入れた。
明日夢は、ヒビキと出会った半年の間、自分がどれだけ成長しているんだろうと、小さな疑心暗鬼を自分に覚えさせてしまった。
春香はトウキの妻と世間話を楽しみ、あきらはトウキに音撃管の使い方をそれとなく訊ねていた。
花火よりもフブキの艶やかな浴衣姿に見惚れていたエイキは、心の中で今夜一緒に過ごせないかと言い、手を繋ぐタイミングを見計らっていた。
(言え! 今までチャンスをチャラにしてきちまったんだ! 神様! 俺に、好きだと言う気に、勇気を……!)
「フブキさん。 すみませんが、少しお話が。」
「何かしら? イブキ君。」
立ち上がったフブキはエイキの伸ばした手をするりと避け、イブキと香須実の所へ歩いていった。エイキの勇気は、花火と同時に一瞬で消えた。
みどりもザンキと石割を呼び、珍しい組み合わせの二人は、明日、渡したいモノが有るから、たちばなに来て欲しいと言われた。

後編に続く
524名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 03:02:01 ID:FcCH05m90
>>519
前半製作班の降板理由ってなんなんだろね?
もしバンダイがアームド声刃を響鬼の武器で盛り込めとごり押ししたら・・・

漏れだったら拒否するかも!だって鬼神覚醒は観た感じ音撃射なんだもん!
刃物時点で「叩き込む」じゃなく「切り込む」だし
響鬼のキャラが固まってたら根本から無理な強化だわな!
525名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 12:18:03 ID:NbTQeDFp0
職人さん、すばらしいストーリーをありがとうございます。
僕の中のイメージで、石割くんは、プロボクサーの坂本博之選手です。
526裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 13:53:40 ID:rlXctB+UO
前編は>>520から。

四十一之巻「裁く石割」後編

花火の夜から一夜明け、石割とザンキは約束通り、みどりの開発室を訪れていた。
「ハイ。 ザンキさんと石割君に、あたしからのプレゼント。」
みどりは、右手のディスクをザンキに、左手のディスクを石割に渡した。
「滝澤。 コレは?」
「今、吉野で開発部長の小暮さんが、ディスク達を鎧にする研究を進めてるの。 この子達は、その試作品なんだけど、身体の一部を保護出来る様になってるの。」
「……どうして、僕達に?」
引退した鬼とサポーター。戦場に立つ身ではあるが、強化装備を渡された事を訝しんだ。
「吉野からね、『奴等』の今後の出方が解らない今は、根城が有る関東の防衛を高めるしか対策が無いって言われたの。 だから、鬼に近い人が、もしもの時に全力で戦える様に作ってみたんだけど。」
ザンキの左膝と、石割の右拳。二人を鬼から退けさせ、鬼へと進ませない故障箇所を守る外装に変形出来る事を、みどりは説明した。
また現在、吉野では小暮以外の研究員が、新たな音撃武器の開発を進めているらしい。
開店前の店先に出た二人。
「……俺の膝は、今のところ異常無いがな。」
ディスクをポケットに入れると、ザンキは訊いた。
「そういえば、サバキは今日、どうした?」
同じく腰の装備帯に新たなディスクを付けた石割は、名古屋ですと言った。
「名古屋?」 「はい。 中部支部のソウキさんが復帰されましたので、先週のゴウキさんに続いて、激励に。」
「そうか。 ……お前は、行かなくて良かったのか?」
「春香さんがご一緒されてますので。 積もる話もあるでしょうし。」
527裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 13:55:33 ID:rlXctB+UO
猛士中部支部『げんじろう』は、うどん屋として繁盛する店の2階に、資料室と会議室を備えていた。
支部長の田宮源次郎は、関東のおやっさんと同様、かつて鬼のサポーターとして活躍していた。
「じゃあサバキ君、奥さん、ゆっくりな。」
店の仕込みに階段を下りていく田宮に礼を言う二人と、向き合って座るソウキが笑っていた。
「でもソウキ。 身体は大丈夫か?」
「ああ。 もうすっかり良くなってるよ。 ……流石に、この齢で現役復帰は、皆に驚かれたがな。」
ソウキが復帰した理由は、二つ有った。
後継者不足で、中部支部の鬼が足りなくなり、特に太鼓を使っていたブンキ、コウキが引退した事。
もう一つは、サバキとソウキがユキオンナから祖母と共に救った少女、小村小雪が『と』として、猛士に入った事だった。
「へえ、あの子が。 ……じゃあ、師匠は。」
「俺だ。 実戦を見せるのが、一番の鍛練になるからな。 最初は、こんな華奢な子が大丈夫かと思ってたが、良い度胸を持ってるよ。」
「そうか。 あまり無理するなよ。」 「お互い様だ。 相変わらず、ハルちゃんに心配かけさせやがって。」
三人はその日、ソウキ特製の紅茶を飲む等しながら、昔話混じりで語り合った。
石割は、たちばなの近くにある神社の腰掛けに座り、右手のグローブを外した。
変身時に細胞が活性化し、砕けた骨を修復した際の手術痕は消えていたが、過去に怪人を一撃で粉砕し、強固な魔化魍にダメージを与えていた右ストレートの威力は、未だ戻らずにいた。
本来ならば、再び変身出来る様になった事自体、奇跡に近かった。それを乗り越えた自分に、何故力が戻らないのか。
握り締める拳は、答えてくれなかった。
「僕が、鬼に成っていたら…… サバキさんを、あんな目に遭わせずに済んでいたんだ…… 」
思わず呟いていた言葉に、返してきた人物がいた。
「そんな事無いさ。」
「ヒビキさん……」
トレーニングウェア姿のヒビキは、得意のポーズをした後、石割の隣に座った。
528裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 13:57:01 ID:rlXctB+UO
「みどりから聞いたよ。 新型貰った時に、少し悔やんだ表情をしてたってな。」
「……はい。 正直、このディスクは、有り難いです。 ……でも、コレを使って一人立ち出来ても、僕には反則というか、近道に思えて仕方無いんです。」
「どうしてだ?」
「……僕がサバキさんのサポーターに成った時、サバキさんは、心を鍛えなければ、真の鬼に成れないって、言いました。 
……10年も一緒に過ごして、どれだけサバキさんを支えてこれたのか…… まだ鬼に成れない自分が、悔しくてたまらないんです。」
黙って聞いているヒビキに、石割は胸の内を続けた。
「怪我をした拳と、不安定な心のままでみどりさんのディスクを使っても、それは『鬼』じゃないと、僕は思うんです。」
「……一理有るな。 でもさ、俺達は究極、結果的に生命を守れれば良いって仕事だろ。 お前は今、人を守る力を持ってるんだ。 迷う必要、有るのか?」
「……今まで、どれだけ人を守ってこれたのかと考えた事は無かったんです。 今、鬼に等しい力を持って初めて、これからどれだけの人を守れるのか、サポーターとして、どれだけ人を守れたのか、考えてしまって…… 
中途半端な鬼に成るくらいなら、このディスクを返して、今まで通りにサポーターを続けた方が良いんじゃないかと思うんです。」
「……石割。 そんな事無いぞ。 お前は今まで、沢山の生命を守ってきてるじゃないか。」
ヒビキに背中を叩かれた石割だが、自信を芽生えさせようとしてくれる様に思えてしまい、自分の腑甲斐なさに俯いた。
「……石割はさ、サバキさんが煙草吸ってるところ、見た事有るか?」
「……いえ。 有りません。」
「サバキさん、初めて鬼として出動した時に出会った、釣り人のオジサンから、煙草を勧められたらしいんだ。 その時は吸わなかったけど、バケガニにそのオジサンがやられた。」
サバキ自身も負傷したが、テンキの元で修羅を会得して再戦し、見事勝利したという。
「サバキさん、戦いが終わってから、オジサンから無理矢理持たされてた煙草を吸ったんだ。 ……多分、サバキさん流の送り火なんだろう。」
529裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 13:58:35 ID:rlXctB+UO
その後、目の前で人を助けられなかった時に、サバキは煙草を吸う様になったという。
「お前と出会ってから、サバキさんは煙草を吸う必要が無くなったんだよ。 この10年、サバキさんが守れなかった生命は、今年1月のツチノコまで一つも無かった。 それは、お前がいたからだ。」
「……」
「勿論、サバキさんが鍛え続けてるからっていう分も有る。 でも、お前がサバキさんを支えてきたから、サバキさんが助ける事が出来た生命も、少なくない筈だ。 ……その生命は、お前が守った生命に変わり無いじゃないか。」
ヒビキは、悩みながら生きるのは当たり前だが、迷いは足を止めて歩けなくさせてしまうと言い残し、鍛練を再開して走っていった。
「僕が…… 守った……」
石割は右手を見つめる。この手で奪ってしまった生命、幸せがある。だから、この手で生命と幸せを守る為に、石割はサバキを支えてきた。
「……そうだ。 ……何も、変わらないんだ。」
晴れた空に手を伸ばし、石割は太陽を掴んだ。

8月最後の週末、ヒビキはテングに破壊された音撃棒の修復に、明日夢と山に霊木を取りに行った。
サバキは、休みが重なっていた篤志と慶伍を伴い、親子水入らずで海釣りに行っていた。
ツチグモを追っていたエイキが行方不明になり、イブキとトドロキが向かった。その他の鬼も活動している。
たちばなを訪れた石割に、おやっさんがドロタボウ発生の報を告げた。
「今、太鼓の鬼が居なくてね。 申し訳ないけど、サバキのサポートをお願いします。」
石割はサバキと春香に電話したが、サバキの現在地からドロタボウの発生地点までは、かなりの距離が有った。
香須実から『不知火』を借りて佐伯家に急ぐと、春香が装備を用意してくれていた。
「気を付けてね。」 「はい!」
小さな山間の村。稲刈りを終えた水田は少ないが、昨日の雨でぬかるんでいる。白のクグツは、30体近くまで分裂したドロタボウを従えている童子と姫に、毬状の物体を与えていた。
530名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 13:59:34 ID:GnL5Ofbf0
>>524

ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E9%9F%BF%E9%AC%BC

「プロデューーサー交代騒動」参照・・でいいのかな。
531裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 14:02:58 ID:rlXctB+UO
到着した石割が最寄の『歩』に連絡すると、1時間前に住民の避難は完了していた。水田が見える丘にベースを用意していた時、携帯にみどりからの着信が入った。
「石割君? この間渡したディスクなんだけど、ザンキさんのと違って、動物形態で移動は出来ないの。 そのかわり……」
電源を切った石割の目に、水田から湧く様に出てきた無数のドロタボウが映った。
海から山へ急ぐサバキは、石割の無事を胸にアクセルを踏む。住民に目撃されたという事は、既に成長、分離が終わっていてもおかしくない。
「早まるなよ…… 石割!」
石割はドロタボウ達の前に、一人、立ち塞がった。地面に閻魔を突き刺し、装備帯には太鼓を付けている。
集団の先頭に立っていた童子と姫が足を止め、高い声を発した。
「鬼か。」
石割は、ディスクを持つ右手で変身鬼弦を弾くと、額に変身音波を浴びせて叫んだ。
「……鬼さ。 ……今日だけはな!」
赤い炎が消える。
銀の4本角、黒い身体、肩から脇に巻かれている朱色の弦。
そして、蟹型ディスクアニマル、白銀招が変形した手甲が、右拳に装着されて埋め込まれている鬼石を光らせていた。
石割変身体は駆け出し、怪人を取り囲む様に移動するドロタボウの一体に、身体ごとぶつかる様に右ストレートを打ち込んだ。
灰色をした魔物の身体は、一瞬動きを止めた後、爆発四散する。
石割は拳に痛みを感じずに全力で放てた事を確信し、みどりの言葉を思い出した。
『それとね、石割君のディスクには、特別に鬼石を付けてあるの。 パンチの衝撃を清めの音に変換するから、全力で打ったら夏の魔化魍ぐらいなら倒せる筈よ。』
白銀招の強固なボディが手の甲を保護し、指を覆う柔軟性が有る足の部分が、サスペンションの様に緩衝していた。
「……ようし!!」
石割は次々と、ドロタボウ達を粉砕していく。酸性の泥塊を躱し、サバキから教えられた足技を織り交ぜて、素早く、確実に魔化魍を蹴散らす。
既に完治していた拳に足りなかったものは、装甲ではなく、全力で打つ『信念』だった。
その右拳は、響鬼紅をも上回る35トンの破壊力に清めの音を纏い、魔物の身体を粉砕し続けた。
532裁鬼メインストーリー:2006/01/15(日) 14:04:11 ID:rlXctB+UO
数を減らしていく子供達に無表情だった童子と姫だったが、武者童子と鎧姫に二段変化すると、口から吐き出した塊を剣に変え、石割変身体に襲い掛かった。
「コイツ等、武者か!」
斬撃を避けて閻魔を左手に持つと、残り数体のドロタボウを分裂しない内に倒す事を優先した。
鎧姫の剣を閻魔で受け止め、背後に迫った魔化魍の腹を打ち抜く。
手と腰に苗の様な植物を生やした親のドロタボウを背後に守る武者童子へ突進し、その横薙を躱したスライディングキックでドロタボウを転倒させると、その頭部に渾身の拳撃を打ち下ろした。
「……おのれ!」 「……殺す!」
武者童子と鎧姫が怒りに剣を振り回す中で、石割は浅い傷を受けながらも、遂に34体のドロタボウを殱滅した。
1時間半を越えた戦いで、石割のスタミナはかなり消費されたが、ヒビキが数ヵ月前に遭遇した二体と違い、時間切れが起らない童子達が完成したものである事が明確になり、石割は閻魔を構えた。
限界まで息を吸い込み、横に並ぶ怪人目がけて走り出す。迎え撃とうと剣を振りかざした二体の背後に、突然の衝撃が広がった。
怯んだ武者童子に飛び込んで、その腹に閻魔を突き刺し、頭部をアッパーで打ち上げると、隣の鎧姫の顔に巻き込む様なフックを放ち、そのまま地面に叩きつけた。
土くれや木の葉となって爆発する二体の破片が舞い散る中、石割は顔の変身を解くと、先程、武者童子と鎧姫に背後から灼熱弾を撃ち込んで援護してくれた裁鬼に、頭を下げた。
「……ありがとうございます。」
「いや、 よくやった。 ……遅くなって、スマン。」
素顔に戻したサバキは、倒れかけた石割を支える。
「……何か、いつもと逆だな。」
笑い合った後、石割は地面に置かれていた閻魔を拾い、サバキに返した。
「……その内、コレを譲る時が来るな。」
「……サバキさん、何言って……」
二人は、目をやった閻魔に絶句した。強固な武者童子を貫いた衝撃で、鬼石から先の刀身が砕けていた。
「……」
「……すみません。」
「……ああ。」

続く。
533次回予告:2006/01/15(日) 14:11:32 ID:rlXctB+UO
「久しぶりだな、伊織。」
「イブキさん、今の人って……」
「ああ、僕の兄さん。 あれでも昔、鬼だったんだよ。」
「本気なの!? フブキさん!?」
「仕方無いでしょ、エイキ君。」

四十二之巻「流さぬ涙」
534名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 18:18:51 ID:DyhEBH5Q0
そうか…裁鬼さんのタバコはそういう意味だったのか。
苦い味だね。
臥薪嘗胆?ちょっと違うか…。
535名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 18:54:18 ID:GnL5Ofbf0
「響鬼」本編にさりげにリンクしてるのがホント憎いですねぇ(笑)。
それと、石割くんが主役的な話は久しぶりでしたね。
いよいよ一人立ちが見えてきた?

そしてイブキ兄話キター!
フブキ×エイキにも進展が!?
536 ◆myVeKHIhK. :2006/01/15(日) 20:37:25 ID:usYlJKMC0
このスレ覗くのが楽しみですよ〜
最近の本編よりずっと面白いです。
537名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 21:31:12 ID:8jhCe4Tp0
やっぱキャラや作品に思い入れがあるのは強いよな。
魅力的に書こうとする意思が見えるよ。
仏作って魂入れずって言うか、技法だけで話作ってるみたいで
本編にはそれが感じられないんだよな。
538名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 22:32:57 ID:MZiwg8PS0
>>537
うん、昔の特撮に通じるものがあるよな。
539名無しより愛をこめて:2006/01/15(日) 23:35:32 ID:SJ9qnzO40
送鬼さんと剛鬼さんの長編ssを書いたのですが何処のスレに投下すればいいのでしょうか?
1話は番外編としてこのスレに投下しようと思うのですが、
いかんせん剛鬼の結婚ぐらいまで書くと40話ぐらい(2話完結なので実質20話ぐらい)は
行きそうなので職人さんに迷惑がかかりそうでこのスレに投下し続けていくのも
どうだろうかとも感じている次第です。

>>526-529>>531-533
葛藤からぬけだしてさらに強くなる石割くんがとてつもなくカッコイイ。
そのきっかけが響鬼さんっていうのも本編とダブって見えて良いです。
田宮源次郎は谷源次郎からですな。
これからも無理せずがんばってください。
540番外編「仮面ライダー剛鬼」:2006/01/15(日) 23:44:45 ID:SJ9qnzO40
一之巻「送る鬼」

−14年前−
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっぉおぉーーーーーーい。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほらさ、見てよこの雄大な自然。気分がが晴れてこない?ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「ん、あっほら。見て見て。あそこに鳥がいるよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「学校のこと?それとも家のこと?何でも相談に乗るって言ってたでしょ。
 私には話しにくいことかもしれないけどさ。ゴウちゃん。ゴウちゃんってば。」
「もういい。母さん。もう帰ろう。ここにいるなら先に健康センターで待ってるよ。」

少年はとぼとぼと歩き出した。彼の名は剛。剛田剛だ。決して名前の剛の部分をたけしと呼んではいけない。彼はそれを一番嫌う。
「待ちなさい!ゴウちゃん。ゴウちゃん。」それを止めようとする母親だったがいつの間にか剛を見失っていた。
この山に剛を誘ったのは彼女である。多感な時期にあり性格が内向的になりがちな剛をひとえに元気付けようとした
精一杯の彼女なりの行動であった。しかしそれをも剛は受け入れてくれなかった。
541番外編「仮面ライダー剛鬼」:2006/01/15(日) 23:46:25 ID:SJ9qnzO40
剛は歩いていた。その姿からはさながらゾンビか幽霊かと思えるくらいに気力を感じられない。
鬱屈した気持ちがその足にいやその行動に表れる。だが剛自身自分が何をやっているのか分からなかった。
混沌としたその心がそうさせた。理由などないのかもしれない。
剛は歩いた。歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、歩いて歩いて、歩きまくった。
そしてその挙句石につまづいた。無口な剛は声を上げずにゆるい斜面に向かってただただ転げ落ちていった。
「・・・ん・・・。」母とともに初めて訪れた山だ。剛には落ちた先が何処であるか分かるはずがなかった。
「よう。」
そこにいた大柄で口髭を蓄えた画家らしき人物が剛に声をかけた。
「『よう。』って初対面の人に馴れ馴れしすぎじゃありませんか?それともどこかでお会いしましたっけ?」
「いや、初対面のはずだよ。でも君は派手だな。坂を転げ落ちて俺に会いに来る奴は始めてだ。ハハハ。」
「好きで落ちてきたわけじゃありませんよ。あ、あなたは何やってるんですか?こんなところで。」
「何って。俺は見ての通りただの画家だよ。絵を書いてるに決まってるじゃないか。」
画家がそう答えたあとしばしの沈黙があった。そんなとき、剛が辺りを見回して言った。
「・・・それにしても、良くこんな殺風景なところで絵が描けますね。」
「俺はここで絵を描いている。だが同時に『絵を描く』という行為もしている。だからここでもそうしてる。」
「分かりませんね。」
「この自然が見せてくれる風景。この光、この空、この大地、この風、この川、その自然そのもの。
 そしてそのすべての『響き』それを感じて表すのが俺にとっての『絵を描く』という行為だ。少し難しかったかな?」
「・・・深いですね。・・・」「なんとなく分かったみたいだな。」
剛は不思議だった。画家に自分に無いものを感じた。そんな感じだった。
「おっ、ところで君、本当はどうして此処に?」
「率直に言うと、迷いました。母さんと一緒に来てたんですけど。
 健康センターに車を止めて山へ出た後、僕だけ先に帰ろうとしたら迷っちゃって。」
542番外編「仮面ライダー剛鬼」:2006/01/15(日) 23:55:54 ID:SJ9qnzO40
「ここの辺りあぶないからね。そうだ、持ってけよコレ。」画家は剛に健康センターのパンフについている地図とコンパスを渡し、
絶対にこの先の分かれ道をまっすぐ行ったほうにある川原には行くなと付け加えて言った。
「ありがとうございます。画家さん。」「じゃあな。また会えれば幸運だな。」
剛の顔は晴れやかだった。母に連れられここへ来たときの顔とは違っている。考え事をしながら剛はゆっくりと歩いていった。
心の混沌をかきわけるように、あるいはあの不思議な画家の存在そのものが自分の心に開いた穴を埋めていくように。
そうしているうちに1時間歩き続けた。その脳は道を曲がることを忘れその足は川原へとたどり着いていた。剛の悪い癖だ。
「・・・・・(まずい。早く戻らないと。)・・・・・」心の中でそう言って引き返そうとしたとき奇抜な男女が剛の目に入った。
「・・・(コスプレか?あんなキャラクターいたっけ?ドラクエか?ジェットマンの裏次元の戦士?
 もしかしてトトメスか?それにしてもレベルが高い造形物だ。何処のサークルなんだ?)・・・」
「チョット痛むぞ。」男が女の声を出しながら剛の足首を掴んだ。
「・・・(なんなんだこいつら。もしかしてゴルゴムの仕業か?)・・・。」男が腕に力を入れた。
必死で男の手首を足首から引き離した剛だったが男の手から出る泡にズボンの裾を解かされ足にも怪我を負ってしまう。
剛にゆっくりと近づく男。「・・・(死ぬのか。でも僕みたいな人間ここで死んだって。どうせ世間が困るわけじゃない。
 何の影響もないんだ)・・・。」剛が死を覚悟したそのとき、動物のようなのような機械たちが男を襲った。
「また会ったな。決して幸運とは言い切れないが。」「画家さん・・・・・・。」
「怪我してるのか。そこでじっとしていてくれ。あと、これから起こることは他言無用だぞ。」
そう言って画家は奇抜な男女と対峙した。「お〜にさん。こちら♪手のなるほうへ。」「バケガニか・・・。」
画家は左手のブレスレットから弦を引き出し鳴らした。瞬く間に画家は蒼い炎に包まれた。
炎を消し変身したその姿は青い4本角に銀の弦を持つ鬼のようなものだった。
男女もそれを見て怪人へと変化する。「・・・カニバブラー?・・・」剛がそう呟いたとき、
女の方の怪人が蒼い炎をまとった鬼の爪に一瞬で貫かれ一撃で爆発四散した。つづく。
543真似てすみません:2006/01/15(日) 23:58:14 ID:SJ9qnzO40
次回予告

「・・・仮面ライダーなんですか?本当の?・・・」
「まあ、そんなもんだな。」
「1ヶ月・・・だな。」
「ああ、それが鬼の仕事だからな。」
「しーばさーきせんせー。」

二之巻「化ける蟹」
544名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 00:09:41 ID:CgPCOahv0
有鬱な理由の一つはあだ名が”ジャイアン”だからか?
545名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 00:21:56 ID:n9w/5aNc0
 一気に読ませていただきました。
 人間ドラマが素晴らしいです。
 『響鬼』本編も嫌いではなかったのですが、これを読んで、私の中では、裁鬼さんのこの話がメインになりました。
546名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 00:33:06 ID:mUYiPVuN0
次回予告

弟子「声・・・独特な感じですね」

裁鬼「・・・鬼だからな」

弟子「お願いします。一回だけ、言ってみてください。絶対、あの有名人の声に似てますから」

裁鬼「・・・一回だけだぞ?」

弟子「お願いします、師匠!」


裁鬼「・・・やろうよ、ポトリス」

弟子「やっぱ似てる〜!」

八ノ巻 「白黒つける鬼」
547名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 10:59:07 ID:7Q1YoJUG0
>>539
俺はかまわないと思う。
548名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 16:33:05 ID:4YUwoCbb0
別な鬼のストーリーは別なところでやって欲しい
549sage:2006/01/16(月) 19:32:11 ID:hsPXD1F10
どっちでもいいけど改行はして欲しい
550名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 19:35:44 ID:hsPXD1F10
欄間違えた
間抜けすぎるので半年ロムることにします
551名無しより愛をこめて:2006/01/16(月) 21:24:39 ID:XdSdeCND0
>>548
まぁそんなコト言わずに。ソウキさんも出てることだし。

職人さん方、乙です。いつもワクテカな話をありがとう。ホント、ここや鋭鬼スレが
長文で更新されてると嬉しくなるんだw

そしてまとめサイトの人も乙です!ありがとう。
552名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 08:28:46 ID:YsfiqK88O
漏れもここに投下して欲しい。
親切な書き方だから混乱ないし
553名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 12:34:33 ID:d3frKvoU0
どこかで線引きしとかなきゃ変なのが湧いて荒れるもとになると思うよ。
そしたら裁鬼職人さんの話が見れなくなるかもしれないしそれだけはやだ…。
554名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 12:49:49 ID:NRW/sKkZ0
職人さんにコテ着けてもらえば済むんじゃね?

最終話まで読みたいのは同意だと思う・・・
555名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 13:30:38 ID:RV5nhsNVO
名前欄か本文頭に

話数/サブタイトル(誰ストーリー?)/職人コテ

みたいに書いてもらえば良いんジャマイカ?
556名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 14:24:50 ID:NRW/sKkZ0
単独スレ立ては職人さんにDAT落ちの(締め切りみたいなものか?)
プレッシャー負わせる危険がある!

>>555のが今んとこベストじゃね?…さすがファイズww
557名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 14:34:36 ID:wTpvIFhT0
なんだろう・・・。もう本編よりこっちのが楽しみだ・・・。
558名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 14:36:25 ID:F8m88QRw0
>>557流石にそれはない
559名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 14:57:19 ID:c8mmztN/0
>>557
あるあるwww
560名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 23:27:57 ID:14y2U3Cg0
マジでスゲェですよ、職人さんたち…。
本編よりも全然こっちの方が楽しみですもんww

自分も何か書いてみたいなぁ…と思ったのですが、
如何せん関東の鬼達の話は皆さん書いてるし…
で、ふと思いついたのですが…

舞台は戦後、昭和22年頃。
主人公は戦前、「鬼」として活躍していた男性、稗田均。30歳前後。
徴兵され南方戦線に向かい、各地を転戦した後、ビルマで終戦を知る。
英軍の捕虜収容所に2年程収容されてから復員。
しかし、戦争の虚しさ、倒れて行く戦友を助ける事が出来なかった無力さ、
人間同士で殺し合う事への失望などから、鬼としての活動を辞める。
兄が戦死していた事もあり、実家のある相模原で農家を継ぐ事にしたのだが、
東京から天鬼たち“猛士”の元仲間が来て、執拗に鬼としての復帰を求める。
しかし、彼は「もう、俺の戦いは終わったんだ…」と鬼としての復帰を断る。
そんな折、稗田は戦災で両親を亡くした一人の少年と知り合う。
田舎では、「鬼」と言う存在は未だ異形の存在であり、以前「鬼」として活動していた
稗田を知っている村の人々は、余り彼に対して好意的には接さない。そんな中、
その少年は稗田が「鬼」として活動していた事を知っても、屈託なく稗田に接する。
少年に対し、稗田も少しずつ心を開き、本来の明るい性格を取り戻して行く。
そんなある日、村人が人外の獣“魔化魅”に襲われる事件が発生。
稗田は「鬼」の力を使う事を躊躇うが、少年の「鬼の力は、人を守る為のものでしょう?」
と言う一言に、改めて『人を守る為に戦う』事を決意。再び、音撃鼓『火炎鼓』と
音撃棒『烈火』を手に取り、炎を纏い正義の「鬼」…響鬼の姿へと変化し、戦う…。

と言う、先代(先々代?)響鬼の話を妄想してみたり…。
あぃや、面白くないですね。すんまそん。忘れて下さい。ゴメンなさい…。
561名無しより愛をこめて:2006/01/17(火) 23:39:44 ID:NRW/sKkZ0
>>560
響鬼は師匠が居ない設定だがヒダカ変身体が鬼を名乗るにあたり勢知郎さんに
「私の父の友人だった鬼なんだが・・・」で響鬼襲名ならいけるんじゃね?

個人的には続き読みたいッス!!!
562裁鬼メインストーリー:2006/01/17(火) 23:55:09 ID:ttbpahVdO
四十二之巻「流さぬ涙」

閻魔を壊してしまった翌日、サバキと石割は、たちばなの地下でみどりに修復を頼んでいた。
「……う〜ん、これはちょっと、難しいなぁ。」
師匠であるテンキのオーダーメイドで作られた閻魔。かつては吉野の開発陣でさえ、その兄弟刀『釈迦』を修理出来なかった。
だがみどりは、棒状のスナック菓子を咥えながら、あたしも日々鍛えてるんだからと笑う。
「時間はちょっと掛かるけど、何とか直してみるね。」
「ああ、スマン。」 「すみません、お願いします。」
病院帰りのエイキが、昼下がりのたちばなの戸を開け、地下から上がって来た二人と顔を合わせた。
「よう。」 「……あ、ども。」
普段の元気を見せず、力無く椅子に座ったエイキは、香須実が差し出した茶をずず〜っ、と啜った。
「……おやっさんは?」
「お父さんなら、今買い物に……」
「ただいま。」
タイミング良く、買い物袋を片手に帰って来たおやっさんに、エイキは泣きついた。
「ど、どうしちゃったんだい!?」
買い物袋が床に落ちてクシャッと音を立て、その入り口に鶏卵のパックを覗かせていた。
「おやっさん! ……ショウキに訊いた時には正気かと思ったんだけど、ホント!?」
おやっさんの襟を掴み、激しく揺さ振る。
「落ち着けエイキ!」
「エイキさん!!」
サバキと石割に取り押さえられたエイキに、前掛けの皺を直すおやっさんが、改めて訊いた。
「……で、何が?」
喧嘩を宥められた子供の様に泣きながら、嗚咽交じりでエイキは言った。
「……フブキさんが…… 引退するって……」
残り少ない夏休みを今日もバイトに費やす明日夢は、たちばなの周囲を伺っている、黒いスーツの男を発見した。
サングラスを掛けており、顔がよく見えないが、窓から中を覗こうとしたり、入り口に立って扉を開けると思えば、踵を返して携帯を取り出し、通話している。
563裁鬼メインストーリー:2006/01/17(火) 23:57:43 ID:ttbpahVdO
「……あの。」
「わっ!!」
明日夢の声に驚いて、不審な男はサングラスと携帯を同時に落とした。
「びっくりするじゃないか!」
「あ、すみません! ……ココに何か御用ですか?」
拾い上げた携帯を胸の内ポケットに戻すと、咳払いを一つして男は明日夢を見つめた。
色が白く、痩せ気味の割に上背があり、撫肩を大袈裟に上下させている。齢はヒビキよりも若そうだった。
「……君は、一体……」
その時、店の扉が勢い良く開き、エイキが飛び出してきた。
「うわぁぁぁぁんん!!」
自己紹介をしようとした明日夢と色白の男は弾き飛ばされ、仲良く地面に頭を打った。
「い、痛い……」 「う〜ん……」
倒れた二人は、店から出てきたサバキと石割に、奥の座敷まで運ばれた。
一昨日、ヨロイツチグモの武者童子達にやられた太腿の傷も構わず、エイキは走り続けた。途中で転び、犬に咆えられ、打水中だったオバサンの柄杓から水を浴びても、川原まで走り続けた。
『本当の話だよ。』
フブキが居なくなるという事が確証されたが、不器用な彼は、自分の心を沈静させる術を知らず、次第に足の動きを止めると、膝に手を置いて、荒い呼吸を続けた。
見上げた入道雲の白さえ、今のエイキにはフブキに映り、涙を誘った。
軽い脳震盪から回復し、座敷で目を覚ました明日夢に、傍に付いていた香須実と、いつの間にか来ていたイブキが笑う。
「ああ、良かった。 大丈夫?」
「はい。 ……あ。 すみません、すぐ着替えますので!」
立ち上がろうとする明日夢だが、香須実は急に動いちゃ駄目だから、と安静を命じた。
あきらも店を手伝ってくれているから、とイブキにも言われ、明日夢は仕方なく、再び横になった。
「じゃあ、イブキ君。 後はお願いね。」 「ハイ。」
香須実は、店に戻っていった。
「んん……?」
その声に明日夢が隣を見ると、先程の黒服の男が冷えた濡れタオルを額から落とし、上半身を起こしていた。
「……う〜む。 お。 久しぶりだな、伊織。」
「……何やってたの? 明日夢君まで巻き込んで。」
「明日夢?」 横を向いた男と目が合った明日夢は、自己紹介した。
「……安達明日夢です。」 「あ、どうも。 和泉稲妻です。 ……あ。 伊織、勢地郎さんは?」
564裁鬼メインストーリー:2006/01/17(火) 23:58:39 ID:ttbpahVdO
地下に居ると言われると、稲妻と名乗った男は上着を持って階段の方に歩いていった。
「イブキさん、今の人って……」
上半身を、ゆっくりと起こした明日夢は、イブキに訊ねた。
「ああ、僕の兄さん。 あれでも昔、鬼だったんだよ。 ……まあ、今は猛士北海道支部長をやっているけどね。」

たちばなの地下で、頭を下げる稲妻におやっさんは苦笑する。
「相変わらずの、人見知りだな。」
照れながら、宗家の元鬼は謝った。
「どうも、見知らぬ人間が3人以上居ますと不安で……」
「……それで、よく鬼が勤まったねぇ。」
「はぁ。 たった5年だけですが。 ……そんな事より勢地郎さん。 フブキ君が、行方不明なんです。」
エイキは膝を抱え、コンクリートの堤防から川を眺めていた。
「……フブキさん…………」
「何?」
「わっ!!」
いつの間にか、フブキが隣にしゃがんでいた。ジーンズと白いシャツが、相変わらずのプロポーションを際立たせている。
終わりゆく夏の風が揺らす、艶やかな黒髪をエイキは黙って見つめていたが、やがて恐る恐る訊ねた。
「……引退って、本当ですか?」
しかしフブキは答えてくれず、座り直して川の流れを瞳に映していた。
「……」
精神的にやや鈍いエイキでも、その沈黙が是の回答だと悟り、同じ様に川を見ている事にした。
数分後。携帯が鳴ると、フブキはディスプレイを確認しただけで、すぐジーンズのポケットに入れてしまった。
「……出なくて、良いんすか?」
「……いいのよ。 ……今、逃亡者だもん。」
「は?」
やがて着信音は消え、再び訪れた静寂の中、急にフブキがエイキの肩にもたれ掛かってきた。
「ひっ!?」
「……ゴメンね。 ちょっと疲れてるの。 ……暫らく、このままでいさせて。」
普段のエイキならば、彼女の質感と風が運んでくれる髪の香りに舞い上がってしまうところだったが、今はこの幸せが最後のものだと知ってしまっていた為、緊張する全身の筋肉を制御するだけで精一杯だった。
「……堅い肩で、ゴメンナサイ。」
フブキもいつもと違い、くすっと笑って、少しだけ身を寄せた。
565裁鬼メインストーリー:2006/01/18(水) 00:00:12 ID:BWWpaBEmO
やがて、束の間の恋人達を、エイキの携帯に掛けてきたおやっさんが離した。
「私です。 ……フブキが、ちょっと音信不通になっちゃってね。 北海道から、支部長の稲妻がこっちに来てて、探してる最中なんだ。」
携帯を耳に当てながら、エイキはフブキを見た。
「……解りました。 早速、捜索します。」
携帯を持つ腕を下ろし、エイキは訊いた。
「……北海道?」
フブキは、観念した様な苦笑を見せて、うん、と頷いた。
「……向こうで、管の鬼が、怪我したり引退したりで、シモツキさん一人しか居なくなっちゃったの。 だから、管の使い手が4人居る関東から一人、トレーナー兼遊撃班として、異動が決まったの。」
「……でも、何故フブキさんが?」
「解るでしょ…… トウキさんは家族が居るし、ショウキ君はまだ鬼として若過ぎるわ。 イブキ君は、宗家の鬼でしょ。 それに、いざとなったら、管を使えるサバキさんやヒビキさんが居るじゃない。」
既に大学に休学届けを出し、引っ越しも済ませたが、何か空虚な気持ちが心を離れず、気付けば外に飛び出していた。
フブキは、たちばなに戻りましょと言い、エイキの手を取った。
立ち上がり、歩き始めた二人の上には、一筋の飛行機雲が、ぼんやりと青空を分割している。
「フブキさん。」
「何?」
「フブキさん、いつもアイスとか冷やしうどんとか、冷たいもの食べてるけど……」
「うん。 だって好きなんだもん。 私が氷使いなのは、あまり関係ないけどね。」
「……でも、手は暖かいんだね。」

翌日の午前中、先に北海道に発った稲妻に心配されながらも、フブキは愛車の白鷺で、たちばなに別れの挨拶をしに来ていた。
おやっさんと立花姉妹、夜中の2時から店先で待っていたエイキが、最後のお茶を用意していた。
「バイクで行くの?」
「ええ。 ちょっと実家に寄ってくから。」
エイキは、思えばフブキとは様々な思い出が有る事に、今更ながら気付いた。コンビを組んだのも一度や二度ではないし、姉妹のトイキやフテキと出会った事もある。
プライベートな時間も、かなり重ねてきていた。
電話に香須実が席を立ち、日菜佳が茶を代えに店の奥へ入っていった。
「フブキさん、俺……」
566裁鬼メインストーリー:2006/01/18(水) 00:01:14 ID:dJuJqa2tO
何かを言い掛けたエイキだが、受話器を置いた香須実に遮られた。
「お父さん、アミキリが出たって……」
和やかな表情を一変させたおやっさんに、フブキは軽く言った。
「じゃあ、行き掛けに倒してくるわ。」
「本気なの!? フブキさん!?」
立ち上がり、入り口に向かうフブキの後を追うエイキが叫んだ。
「仕方無いでしょ、エイキ君。 聞いちゃったもん。 ……ココじゃ、最後だし。 ね。」
香須実から発生地点を聞き、引き戸を開けるフブキに続いて、エイキがサイドカーである白鷺に乗った。
「サポートさせて下さい! ……最後だから。」

一時間半後、二人は人通りの少ない海沿いの道に白鷺を止め、隆起が激しい岩で出来た浅瀬にディスクを放った。
魔化魍が発見されれば、フブキはそれを倒し、遠い地へ行ってしまう。エイキは不謹慎な事を考えそうになったが、雑念を払い、自らも捜索を始めた。
足元を注意しながら歩いていると、早くも茜鷹の一体がエイキの手に戻ってきた。
「……近いなぁ。」
携帯でフブキに連絡し終え、暫らく進むと童子と姫が立ち塞がった。
「……我等の子が、人を求めています。」 「どうぞ、餌になって下さい。」
エイキは変身音叉を取り出すと、走りながら叫んだ。
「俺は鬼だー!!」
変身を終えた鋭鬼は、音撃棒『緑勝』に緑の炎を纏わせ、2体に殴り掛かった。しかし怪人達は戦闘形態に変化すると、背中の羽で空中に逃げる。
「鬼さんこちら……」
「逃げるなぁぁ!!」
飛び上がる鋭鬼だが、流石に届かない。急降下してくるハサミを躱すが、こちらから反撃出来ずにいた。
「やっぱ、ヒビキさんみたいに火を飛ばせなきゃダメか。」
鋭鬼は思い付きで、怪童子に緑の炎が出たままの緑勝を投げ付けた。
「お! 当たった!!」
567裁鬼メインストーリー:2006/01/18(水) 00:02:43 ID:dJuJqa2tO
墜落した童子が体勢を立て直す前に、その頭上目がけて残った片方の緑勝を振り下ろした。
頭部を潰されて爆発した怪童子の破片の中、鋭鬼は先程命中させた緑勝を拾い、残った妖姫に身構えた。が……
「無茶苦茶な戦い方ね。」
変身して駆け付けていた吹雪鬼が、既に音撃管『烈氷』から発する液体窒素弾で、妖姫を仕留め終えていた。
「いやいや、鋭鬼必殺『音撃暴投』! 見てくれた!?」
「ハイハイ。 じゃ、さっと魔化魍を……」
「吹雪鬼さん! 危ない!!」
海中に潜んでいたアミキリの鋏から吹雪鬼を庇った鋭鬼は、音撃棒を落として捕まったまま、空中に運ばれた。
「鋭鬼君!!」
烈氷から鬼石を撃ち出すが、縦横無尽に逃げ回る巨体には、15発中3発しか当たらなかった。
「ええい!! 離せ! このエビ野郎!!」
藻掻く鋭鬼だが、最悪のジェットコースターは終わらない。
アミキリは鋭鬼を挾んだまま、地面スレスレまで急降下してきた。
「ああっ! 吹雪鬼さん、避けてくれ〜!!」
「言われなくても避けるわよ!!」
ひらりと四肢を宙に舞わせる吹雪鬼だが、3発の鬼石だけであの巨体を倒せる可能性が低い事を知っている。
「……どうすれば…………」
その時、全く別の方向から発射された火の弾が、アミキリの羽を撃ち抜き、炎上させた。
錐揉み回転しながら、岩場に落下するアミキリ、と鋭鬼。
「……撃ち難いヤツなら、通常攻撃で撃ち落としてから、鬼石を当てるんだ。」
「裁鬼さん!」
「スマン、カミさんにアップルパイ作って貰ってたら、遅くなった。」
吹雪鬼の背後にある高い岩の頂上で、裁鬼は音撃管『夕凪』から10発の鬼石を、アミキリに撃ち込んだ。
568裁鬼メインストーリー:2006/01/18(水) 00:07:05 ID:dJuJqa2tO
「よし、行け吹雪鬼!!」 「……ハイ!!」
音撃鳴『六花』を『烈氷』にセットし、深呼吸する。
「音撃射…… 『凍衷花葬』……!」
放たれた清めの音に、アミキリは爆発する。一人で手足をバタつかせていた鋭鬼は、二人に気付くと気不味く立ち上がる。
「……フブキさん、俺……」
顔の変身を解いたフブキは、小声を漏らす鋭鬼に近寄り、その鬼の顔に接吻した。
「……!?」
驚く鋭鬼に、フブキは笑顔を見せる。
「ありがとう、助けられちゃった。」
潮風が、彼女の黒髪を広げている。石割が走ってきて素顔のサバキの隣に立ち、フブキの為にテントを用意してあると言った。
「……サバキさん。 お世話になりました。」 「ああ。 達者でやれよ。 ……アップルパイ、テントの中だよな?」
石割が応える。 「はい。 ちゃんと置いてあります。」
じゃあ、と背中を見せるフブキに、鋭鬼は叫んだ。 「フブキさん!!」
立ち止まり、振り返るフブキは、何? と訊ねた。
「……雪が溶けたら、会いにゆきます!!」
「……」 「……」
「……春に、はるばる北海道まで?」
「えっ?」
「……待ってるわ。」
フブキが去った後、鋭鬼は海と空を眺めていた。サバキも、テントに着替え用意しとくから、と残して、石割と共に立ち去る。
帰りの車の中、ハンドルを握りながら、石割は助手席のサバキに訊いた。
「鋭鬼さん、大丈夫ですよね?」 「ああ。 アイツはそんなにヤワじゃないさ。」
「……でも鋭鬼さん、別れ際なのに、素顔を見せませんでしたから……」
暫らく黙ったサバキだが、窓の外に流れていく海沿いの風景に呟いた。
「……鬼のままだったら、涙は出ないだろ……」
鋭鬼は、いつまでも海と空を見つめていた。雲の白さが、青い空と交ざり、自分とフブキの様だった。
「あ。」 3時間後、鋭鬼は漸く顔の変身を解き、言葉を発した。
「……帰りのアッシーが、ナッシーングッ!」

続く
569裁鬼メインストーリー次回予告:2006/01/18(水) 00:11:10 ID:dJuJqa2tO
「尻を出しなさい!!」
「ダンキさん、ショウキさん…… 音痴ですね……」
「ウワンが、街に出たって!」
「ハイ、サバキさん。 修理完了したわよ。」
「音撃斬! 『閻魔裁き』!!」

四十三之巻「生まれ変わる双弦」
570名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 00:55:33 ID:xqzaftqL0
ぶはははは!!GJ!GJ!
イブキの兄(イナヅマ?)はそういう設定で来ましたか!

さんざん言われていた脱落説を一蹴。
何事もなかったかのように、北海道支部長。
しかも人見知り!つーかお笑い系だし。

やっぱ職人さんすげーわw

剛鬼話や、先代話もいいんじゃないかな。
ただちょっと増えすぎると考えなきゃいかんかもね。
とりあえず>>555を元に展開されるのがいいかと。
ただしなるべく完走してほしいな。

誰か「弾鬼」本編続き書かないかな・・。
571名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 00:55:45 ID:iPfhkk/eO
読みやすいし、なにより面白いです
双弦もついに登場!?
572名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 01:00:07 ID:4WNJiW230
はじめてこのスレみたけど最初から一気に読んでしまった・・・

なんていうか・・本編より面白いよ!!!
職人さんは神!!!
まじで本編より楽しみだ。
573名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 03:01:19 ID:OIrpYkBl0
相変わらず面白いです
ただ……これだけ完璧にやられると、鋭鬼SSで吹雪鬼引退話が書けなくなる
(ってか、吹雪鬼離脱のプロットが全く一緒。自分も吹雪鬼は地方に転勤で考えてたから)
574名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 09:26:06 ID:gbFp2uVS0
才能って、あるところにはあるんだなぁ。
しかし、悔やまれるよ、この職人さんが本職じゃないって事が。
このストーリーで本編撮ってたら、本来の趣旨にも副って、なおかつ予算内で収まったんじゃないか?
575名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 10:52:12 ID:xw0OqeP40
>>574
正直、ここ数十話を書き直して頂ければ嬉しいが…それはなあ。

散らばった設定を丹念に拾って、本編の行間を本編以上に広げ、
奇を衒わず、常に一定のテンションを保ち、物語の整合性を失わない。
(しかも筆が早い)
その力量がすでにしてプロだ、ここの職人さんは。
プロを称する者には猛省してもらいたい。

鋭鬼さん可愛かったです。
そして二人のピンチに颯爽と現れる裁鬼さん最高!さすが重鎮!!
「響鬼辞書」を入れたので変換も冴えまくり。
576名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 19:36:24 ID:ga6DwwEe0
ついに裁鬼さんの謎の小型音撃弦が登場か!

>>574
まあ、本編は脚本が薄かったからなあ。
きだは劇団の仕事で離脱、大石は特撮不慣れ、
井上は井上定番、米村はカブトメインで二話どまり。
でも戦隊の格脚本がちゃんと繋がってるを見るとねえ・・・。
577名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 20:36:38 ID:Do1KfHjj0
仮面ライダー弾鬼

ニノ幕 「走る板尾」
578名無しより愛をこめて:2006/01/18(水) 22:25:29 ID:R2TPj+8F0
アイアンキングを連想してしまう
579名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 01:07:41 ID:PKA9vsk10
>>577
>仮面ライダー弾鬼

(・∀・)!!

>ニノ幕 「走る板尾」
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?
580名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 20:54:51 ID:AC53m+Tc0
弾鬼「俺の師匠です・・・」

板尾「なんやねん、大阪から遠路はるばる着てみたら。
   可愛い子がたくさんおるやないか、な。
   姉ちゃん、なんぼや?」

弾鬼「ちょ!!板尾さん!!その人はお金じゃ・・・」

トドロキ「なんなんスかその人は!!」

日菜花「え・・・私?」

板尾「何、言うとんねん。おばはん。
   君ちゃうよ。その後ろの子」

あきら「・・・え?」

弾鬼「・・・やっぱそっち系か。」


次回 ニノ幕 「走る板尾」
581名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 21:49:09 ID:csXRnb4a0
>>580
面白い!走る に呼応して
アフォだが特異な能力として乗り物を式神化できるなんて設定は?
「○○(乗り物の機種名)、オドレに魂有るなら答えたらんかいっ!!!」

元ネタはこちら
主人公がピンチの時に操縦する乗り物に祈る
「○○(乗り物の機種名)よ、魂が有るなら応えてくれ!」にパク…インスパイアされて

ttp://websunday.net/rensai/dlive.html
582名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 22:11:54 ID:csXRnb4a0
違った「今、お前に命を吹き込んでやる」だった!
・・・全然違うじゃんOTL
583名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 22:12:37 ID:AC53m+Tc0
板尾(弾鬼の師匠?鬼)・・・役者 板尾創路

街をおやっさん同様に駆け回る板尾を創造して吹いたから。
584名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 22:24:27 ID:AC53m+Tc0
あ、とりあえず弾鬼に関しては前やってた人のスレが落ちてるみたいなんで
ゆっくりやってきます。
あくまでここは裁鬼さんメインだと思いますし。
自分も1読者として裁鬼さん話楽しみにしてます。
585名無しより愛をこめて:2006/01/19(木) 22:50:20 ID:JQWLwiDSO
‥ちゅーか、何で板尾さんなんだ。面白いけど。
586名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 00:55:11 ID:l2GwweVp0
「“い”たお “い”つじ」ね・・。
587名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 07:33:42 ID:cYTOUBLH0
>>586
ああ、主要キャラ設定のお約束、苗字と名前の1音目が一緒でか!
588裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:19:34 ID:c/hJ+rKzO
四十三之巻「生まれ変わる双弦」

8月21日。山でオオアリを倒し終えたダンキとショウキは、顔の変身を解いて肩を組み、意気揚々とベースに戻っていた。背後でいきなり爆発が起こり、二人は仲良く吹き飛ばされる。
「うわぁぁっ!?」 「何だー!?」
魔化魍の攻撃ではない。地面目がけて、どこからか手榴弾の様なモノが次々と投げ付けられている。
「おいショウキ!! 二手に別れるぞ!!」 「ハイ!!」
たまらず逃げ出した鬼達を、茂みから追う影が、1つあった。 「何たる体たらく…… 未熟者共が!!」
林に逃げ込んだダンキは、走り疲れて立ち止まり、膝に手を置いて呼吸を整える。 「ココまで来れば大丈夫だろ……」
一安心するダンキを、今度は四方八方から、竹の破片が襲う。
「何なんだよ!!」
一つ二つと叩き落とすが、短気な性格はさして威力がある訳でも無いそれを無視した。ペチペチと、竹の破片が、ダンキの顔に当たる。
「こざかしいなぁ! とっとと出てこいよ!!」
叫んだダンキの顔を、正面から木綿豆腐が直撃した。次いで怒号が谺する。
「避けんか! 大馬鹿者!!」
その頃、ショウキも罠に掛かり、宙吊りにされていた。
「な、何だ何だ!?」
突然の出来事に、彼は腕を振り回して抗うが、縄は藻掻けば藻掻くほど、足首に食い込んでいく。
「あいたたたたたっ! ……ふぅ。 ま、待ってればダンキ君が助けてくれるでしょ。」
楽天家らしく、ぶらぶらと宙吊りを楽しむ事にした。しかし、腕に装備していた『風牙』が、偶然縄を切り裂き、重力に従ってショウキは地面に倒れた。
「痛……っ…… アレ? ダンキさん…… と、誰?」
警策を手に怒りで震えている木暮耕之助が、ダンキを縄で捕らえ終えて立っていた。
「……全く、見ておれん! ……まあいい。 どうだお前達! 強くなりたくないか!?」
「……何言ってるんです? てゆうか誰!?」
「君は私の質問に答えれば良い! 強くなりたくないか!?」
「……怪しいヒトだなぁ。」
「何だと!? この私を捕まえて、怪しいだと!? ……もう我慢出来ん!! 尻を出しなさい! 尻を!!」
589裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:20:35 ID:c/hJ+rKzO
夕暮れの山々はまだ紅葉には早く、夏の終わりが感じられる事と言えば、若干早まった日没ぐらいだった。
「ショウキ…… あのヒトの事、どうしよう……?」 「……さあ? 取り敢えず、僕達は明日から休みなんだし。 言われた通り、おやっさんには黙っておこうよ。」
着替えを終えた二人は、まだ痛みが残る尻を撫でながら頷いた。
「……あの剣、何だったのかな?」 「さあ……?」
二人が装甲声刃の影響に依り、変身能力を失った事が解るのは、これから2週間後の事だった。
9月に入り、魔化魍側に大きな変化が起こり始めた。街中に童子と姫を伴わないカシャが出現し、これまで山や川に出ていた巨大な種類の出現が、約半数に減少。
関東支部では、特別遊撃班であるヒビキに都市の防衛を任せ、郊外で戦っている鬼達にも、街に出現した魔化魍の討伐を優先させた。
佐伯家を訪れたダンキとショウキは、サバキと石割に頭を下げた。鍛練の為に二人揃って山寺に籠もったが、何度音叉を叩いても、何回鬼笛を吹いても変身出来ない。
「……というワケで、今音撃弦を持ってないサバキさんに、俺達の代わりに出動して貰いたいんだけど……」
何百回音叉を叩いたのか、額に絆創膏を貼ったダンキが、申し訳無さそうに言う。
「それは別に良いけどさ、お前達、変身出来なくなった原因とか理由とか、心当たり無いのか?」
二人はう〜んと唸っていたが、やがて同じ出来事を思い出した。
「あ! あの変なオジサン!!」 「そうだよ! あのヒトから使ってみろって言われたあの剣!! アレが原因だよ!!」
サバキが二人から特徴を聞き、石割は静かに言った。
「それって…… 吉野の木暮さんじゃないでしょうか?」
「木暮!? 何、そのヒト!? 吉野の何なの!?」
「ああ、開発局長らしく、昔、みどりが師事していた人だ。 ……ん? そういえば、お前達みどりに相談したのか?」
何度も電話したが、電源を切っている様で繋がらないとショウキは言った。
「直接たちばなに行きたいけど、今おやっさんと日菜佳ちゃんが、悪い夏風邪こじらせちゃってて……」

590裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:21:21 ID:c/hJ+rKzO
その日の夜。たちばなの地下で、みどりは頭を悩ませていた。サバキの閻魔は、既に通常の音撃弦として修理不可能な状態だった。
「も〜ぅ…… 石割君のパワーで、武者童子に突撃したらこのぐらいは破壊されても仕方無いけど…… どうしよっかなぁ……」
刀身の地金が足りない。無闇に他の金属を混ぜれば、却って脆く成り兼ねない。吉野の開発部にも電話したが、主任の木暮がまた雲隠れし、それどころでは無かった。
「……あ! もしかして、アレなら……」
みどりは、机の引き出しから設計図を取出し、外に出ると、電源を切っていた携帯を手にした。
「ありがとうございます! 昔ながらの味噌煮込みを笑顔で提供! うどん処『げんじろう』です!!」
「夜分すみません、関東の滝澤です。 ソウキさん、今そちらに居られますか?」
「ハイ! 少々お待ち下さい!!」
保留音が鳴っている間、みどりは少し躊躇いを感じたが、他に方法が無い。電話に出たソウキは、サバキの事なら仕方無いと了承してくれ、自分が届けると言ってくれた。
「ふぅ…… これからが、私の腕の見せ所ね!」
通話を終えたみどりは、夜空に向けて背筋を伸ばした。
おやっさん達が全快したと聞き、ダンキ達はたちばなに直行した。しかしその3日後、二人が、ウブメを倒し終えていたサバキの所に再び来ていた。
「……何されて来たんだ? お前達。」
「いやぁ……」 「鍛えてないとか、精進が足りないとか……」
このまま二人が変身出来なければ、またしてもサバキがフォローに倒れ兼ねない。石割は、みどりに電話した。
「もしもし、みどりさん?」 「あ、石割君? 今ちょっと…… あっ!」
みどりの背後に流れていたアカペラが途切れ、数十秒後、木暮の声が石割の耳を貫いた。
「今から私の言う場所に来たまえ!! その未熟者共も連れてな!!」
何故かカラオケボックスに呼ばれた4人の前には、待ちきれずに歌い始めていた木暮がマイクを持っている。
「遅いじゃないか! 全員、尻を出しなさい!!」
591裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:22:17 ID:c/hJ+rKzO
打据えられた後、取り敢えず歌う事になったが、石割が誉められた後、ダンキとショウキが歌いださない。
「……どうした? 恥ずかしがるな!!」
歌下手なんで、音痴ですからと断る二人。木暮は後回しだなと言い、サバキが仕方なく歌うと、及第点だなと残して電話に席を外した。
途端に、二人は本音を吐き出す。
「……もう、嫌だよ。 変身出来ないから来たのに、歌わなきゃいけないし、お尻は痛いし……」 「……ああ!! もう我慢できねぇ!! あのオッサン、一発ぶん殴ってやる!!」
サバキが、その一言にダンキの腕を掴む。
「よせダンキ。 あの人には、あの人なりのやり方が有るんだ。 辛抱しろ。」
「でも、サバキさん……」
「もし、木暮さんを殴ってみろ。 ……お前、鬼払いだぞ。」
勿論脅しだが、単純なダンキには十二分の忠告だった。
「う…… 解ったよ、サバキさん。」
トドロキが装甲声刃を持ち出した結果、ヒビキまで変身が解けてしまい、しかも装甲声刃を奪われてしまったらしいとみどりから電話があったらしい。
木暮は、準備が有るので先に帰ると言い、一曲の歌を入れて、ダンキとショウキに変身能力を戻す方法を教えた。
「歌いなさい、心から! お前達が心を震わせるまで歌えば、きっと身体は応えてくれる筈だ!!」
見込み有る石割の肩を力強く叩くと、木暮はそのまま出ていってしまった。
「……」 「……」
沈黙する二人を無視して、スピーカーからは雄大なイントロが流れる。
サバキが咳払いを一つして、石割に言った。
「……なあ、ダンキもショウキも、知らない歌だろうから、一回お前が歌ってやれ。 ……俺も知らない歌なんだ、スマン。」
「そうですね。 解りました。」
石割がマイクを持ち、歌い始めた。ダンキとショウキも覚悟を決めたのか、半ば諦めた様子で歌詞テロップを見つめ、石割の歌声に耳を傾ける。
「まぁるぅで〜♪ 透明〜……♪」
デモンストレーションを終えた石割に、ダンキとショウキは拍手を送った。
「良い歌だなぁ!」 「この歌なら、歌いこなせれば変身出来るのも納得です!」
やると決めたら試練の道を。体育会系の二人は、早速マイクを手にした。が……
「ダンキさん、ショウキさん…… 音痴ですね……」
592裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:23:36 ID:c/hJ+rKzO
石割の言葉も耳にせず、二人は声高らかに10回歌った後、表に飛び出して、ビルの影で見事変身した。
「やったぁ!!」 喜ぶショウキ。ダンキも、おやっさんに連絡しなくちゃと笑う。石割がおめでとうございますと言った時、サバキは5人×2時間分の支払いに財布を開けていた。
それから2週間が過ぎたある日、サバキの携帯に、たちばなから魔化魍発生の報が伝えられた。
「ウワンが、街に出たって!!」
香須実によると、ヒビキ達が3体倒し終えたが、分裂した残り2体が人を襲っているらしい。
「石割、行くぞ!!」 「ハイ!!」
現場に着いた時、音撃鼓を手にしたサバキの携帯が鳴る。みどりが近くまで来ており、どうしても渡したい物が有るらしい。
「そう言われてもな……」 「サバキさん、行って来て下さい!!」
変身鬼弦を弾いた石割が、叫びながらウワンに向かっていった。
「……スマン!!」
みどりの所に着いたサバキは、不知火のトランクから音撃棒サイズの木箱を見せられた。
「ハイ、サバキさん。 修理完了したわよ。」 みどりに言われて蓋を開けたサバキだが、中には小太刀サイズの音撃弦が入っていた。銀の刀身に、赤い弦。
「小っさ!! これでどうやって戦えって言うんだ!?」
明らかに圧縮された閻魔を前に、サバキは怒鳴った。
「落ち着いて! その箱、二重だから……」
言われるままに、中敷を取るサバキは、見憶えがある刀身と弦の色に、言葉を失った。
「これは……」
593裁鬼メインストーリー:2006/01/20(金) 11:25:59 ID:c/hJ+rKzO
「くっ!! 逃げるな!!」
石割変身体が、自由に羽ばたき拳撃を避けるウワンに苦戦していた。急降下と共に黄色い粘液を吐き出され、体力が奪われていく。
「石割!! 遅くなってスマン!!」
既に変身を終えていた裁鬼が、装備帯の背から小型音撃弦を取り出して駆け付けた。
「裁鬼さん! それは!?」 「まあ見てろ!!」
裁鬼は、金の音撃弦を空中のウワンに構え、柄のボタンを押した。刀身が飛び出し、魔化魍の身体に突き刺さる。
「音撃射! 『極楽雄薙』!!」
腰の音撃震『極楽』の弦を弾くと、清めの音が裁鬼の身体、音撃弦の柄、細く刀身に繋がっている特殊鎖を伝い、ウワンを爆発させる。
地上に降り立った残り一体に、自動で巻き戻された金の弦と銀の弦を構え、柄のスイッチを入れる。
「音撃斬! 『閻魔裁き』!!」
小さくも展開した刄に、再び弾かれた極楽から清めの音が纏う。裁鬼はウワンに、回し蹴りを加えた斬撃を、次々と浴びせていった。
従来の音撃とは違い、舞う様に次々と攻撃するその技は、『閻魔乱舞』と呼ぶのに相応しかった。
止めに、二つの刄を魔化魍の首筋に置き、力一杯交差して引き斬る。たまらず爆発四散するウワン。顔の変身を解いた石割が駆け寄り、新兵器に目を輝かせた。
「凄い! それが新しい『閻魔』ですか!?」
だが、素顔に戻ったサバキは首を横に振り、金の弦を石割に見せる。
「ソウキのヤツ、大事に置いていた『釈迦』の金属を、みどりに渡してくれたらしい……」
「えっ!? ……じゃあ、この武器は……」
「……音撃双弦『閻魔』・『釈迦』だな。 ……ありがとよ、兄弟。」

「ぶぁっくしょん!!」 ソウキが、名古屋は『げんじろう』で、豪快なくしゃみをしていた。

続く
594次回予告:2006/01/20(金) 11:31:52 ID:c/hJ+rKzO
「同期の手向けじゃ、シュキ……」
「私、鬼には向いて無いんじゃないかと……」
「あきらちゃんに答えを見つけさせる為に、イブキ君は戦っているんだ。」
「トドロキのヤツに、掛けてやれる言葉が無いんだ。」
「行ってやれ。 アイツがお前を信じて来た様に、今度はお前がトドロキを信じてやる番だ。」

四十四之巻「拓く師弟」
595名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 11:56:53 ID:ccbEMD9o0
音叉使いすぎてデコ怪我してるダンキとか新音撃武器開発で活躍するみどりさんとか今回も楽しませてもらいました。
「例」の双弦、音撃射をからませてくるとは、意外で、さすがです。
596名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 13:38:24 ID:yqDFOEbxO
バンド経験あるヤシなら判るが
自分の愛機のパーツは渡せない
…泣ける!
双弦に特別な機能持たせて欲しい。


漏れが弾けなくなったら
漏れのストラトのリアピックアップを
連れは使ってくれるだろうか…
597名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 19:10:41 ID:lgwWrPmb0
職人さん…すげぇ。冗談抜きですげぇ。
598名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 19:35:48 ID:2VrnADAW0
肩を組んで仲良く吹っ飛ばされる弾鬼さんと勝鬼さん…かわいらしいなw

小型弦の片方が金色なのはそういう理由ってか。
>>596の話聞いて尚更感動した。

最初音撃「射」って聞いた時違和感覚えたけど、
刀身を打ち出すんだもんね。

裁鬼さん肩に巻いてる弦キツく締めなおさないと!
写真で見るとよくヨレヨレなってるから。。。
599名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 20:25:28 ID:wW7qlTc5O
とうとう響鬼本編後半を舞台とするようになりましたね。仕方のないこととはいえ、急に不自然になった(と私は思っている)あの“流れ”を職人さんがどう料理するのかがホントに興味深いです。

小暮話、双弦も勿論よかったのですが、街中にマカモウが現れたことに対する職人さんなりの落とし所(響鬼本編でフォローあったっけ?)や、あの物議を醸した“彼”をどう描くのかが非常に楽しみです。
600名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 20:49:16 ID:mF2HGsQx0
いつ読んでもすばらしいです。
誰かこの中身で小説化して、同人扱いで、紙の本にできませんか?
601名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 21:13:18 ID:ZhkeqXEg0
物議を醸した“彼”に関してはもう…触らぬ神に祟りなし…
602名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 22:49:26 ID:ywYoqo6k0
いつもこのスレを読むとほっこりする。
このままやさしい人助けをする裁鬼さん達ががんばる話なら
職人さんに本編の尻拭いなんて望まないよ。
ほんとありがとう。
603名無しより愛をこめて:2006/01/20(金) 23:42:55 ID:QqfFm8hJ0
このスレの住人の皆さんの温かい言葉に甘えさせていただき、
「剛鬼」の二之巻をここに投下したいと思います。本当にありがとうございます。

また、重ね重ね申し訳ありませんが、
設定に関することでの質問なのですが、送鬼さんの自宅は名古屋にあるという解釈でよろしかったでしょうか?
ご迷惑をかけてすみません。

>>588-594
裁鬼さんの音撃双弦『閻魔』・『釈迦』の命名には
やっぱり現役時代に対となる二つの音撃弦を使っていた
師匠の天鬼さんへのリスペクトでもあったりするんでしょうか。
もしかして職人さんはもう送鬼さんの釈迦と裁鬼さんの閻魔の設定を
考えておられた時からもう小型音撃弦への伏線を考えておられたのかもしれませんね。
今回も良かったです。これからも無理せず描きつづけてください。一読者として応援してます。
604番外編「仮面ライダー剛鬼」二之巻:2006/01/20(金) 23:44:57 ID:QqfFm8hJ0
二之巻「化ける蟹」

「・・・かめん・・ライダー・・・。」
蟹のような怪人をカニバブラーと喩えたからか、はたまた爪によって女の怪人を倒したことからアマゾンを連想したからなのかは
定かではないが剛は怪人と戦う画家いや鬼のことをこう言った。「次は童子だな。」男の怪人と鬼の間にはある程度の距離があった。
お互いがゆっくりと歩み寄りながら徐々にその距離を詰めていく。
その時だった。突然川より現われた影が2人を覆い怪人をその大きな鋏でつかみ、連れ去り消えた。
「逃がしたか・・・。」鬼は顔の変身を解いた。「送ってくぜ。乗れよ。」
画家は荒涼とした灰色の川原の砂利道を剛をおんぶしてピカピカの愛車まで運んだ。それまで妙に強張っていた剛の顔が
心なしか晴れたように思える。まじかで本物の怪人を見たのだ。顔が強張るのも当然だ。
ただ、その怪人達がいなくなったから、そこから来る安堵感だけで心が晴れたのではない。そのことに剛も気付いていた。
バイクに剛を乗せ木陰で着替えを済ませた画家が荷物を確認したあとヘルメットをかぶる。
「・・・仮面ライダーなんですか?本当の?・・・」
「まあ、そんなもんだな。」
そう言いながら画家は剛の方を向いた。剛は自分の右足を見ていた。
「怪我、心配すんなよ。専門の医者がいるから。あっ、そうだ。名前なんだっけ?」
「剛です。」「剛か・・・。俺はソウキ。よろしくな。」
ソウキがアクセルを入れて数分橙色の山道を行ったころ手前に健康センターが見えた。
駐車場にバイクを止め中へ入ると、そこそこ広いロビーのソファーに母親が座っていた。
「ゴウちゃん。」「山道で怪我してたところを見つけましてね。お母さんがここにいるって聞いたから
 ここに連れてきたんですけど・・・・・・。」延々と説明を続けるソウキ。この手の説明は彼の職業ゆえか
もう慣れっこになっているらしい。深々とソウキに礼をする母親。剛は少し引っ込んでいる。
「良かったらいい医者紹介します。ここの近くにあるんですよ。」ソウキが言った。
605番外編「仮面ライダー剛鬼」二之巻:2006/01/20(金) 23:48:35 ID:QqfFm8hJ0
「1ヶ月・・・だな。運がよかったな。お前。下手すりゃ足が一本無くなってたところじゃぞ。さっきも言ったが1ヶ月じゃ。
 1ヵ月ここに通いなさい。私が責任を持って治療するよ。」
立派な口ひげを蓄えた医者はもっともらしい顔で断言する。医師の座る小さな椅子。少し散らかった机。
木製のベッド。血圧計。製薬会社の冊子。透明な心臓の模型・・・。その中にぽつんと一つあった新品のセーラムーンのぬいぐるみの
タグには「雪江のお腹の中の赤ちゃんへ」と書かれたこの医師の書いた手紙がつけられていた。診察が終わり診療室を出る2人。
「柴崎先生は40年ちかく怪我した鬼や魔化魍に怪我させられた人を診てるんだぜ。怪我だってちゃんと1ヵ月で直るさ。」
薄暗い待合室のなかには窓からの光が射し込んでいた。待っているはずの母親はトイレにでも行ったのかその場にはいなかった。
椅子に腰掛け、ふと天井を見上げたあと俯いた剛が親指の爪を噛み始める。
「止めた方がいいぞ。爪噛むの。」「・・・分かってますよ。言われなくたって。・・・」
「まぁ、俺だってちっちゃいときは、イライラしたときとか癖で噛んでたことはあったさ。
 剛にだってそんなことがあるかもしれんってのは分かるけどな。」
「・・・ソウキさん。あなたの夢ってなんだったんですか?・・・」
「唐突だな。しかもちょっと難しい質問だ。」少し考えてからソウキが言う。
「みんなの夢を守るのが俺の夢。そんな感じだったかな。どう?参考になったか?」
「・・・夢を守るのが、『夢』・・・」「ああ、それが鬼の仕事だからな。」
そう言いいながらソウキが腰を上げ立ち上がった。「それじゃ。お母さんによろしくな。」
ソウキは柴崎医院のマークがついたスリッパを靴に履き替え怪物退治へと向かった。
ソウキは絵を描いていた辺りのところにキャンプを張っていた。比較的近い距離をバイクで走りキャンプに着いた
ソウキは未帰還のタカ3枚、オオカミ5枚、サル1枚のディスクの帰還を待ちながらも、バイクから取り出した
ディスクのケースを開け鬼弦を引いた。次々に動物型へと変形したタカ、オオカミ、サルのディスクは
大空を駆け巡り、または大地を駆け回り、そしてまたは自然の中を自由に跳び回りながら化物を探しに行った。
真っ赤な太陽が沈みかけ空にはうっすら月が出ていた。「当たりだ。」サルのディスクが化物の巣を見つけてきた。
606番外編「仮面ライダー剛鬼」二之巻:2006/01/20(金) 23:49:42 ID:QqfFm8hJ0
「チョットおっきな鋏だなぁ。鬼が来てもその鋏でチョットやっつけるのだぞ。」
巣の中で化物に向かって男そう、童子が語りかける。川辺にある小さな洞窟にはその中がいっぱいになるくらいにまで
成長した蟹の化物いや魔化魍バケガニがいた。ほの暗い洞窟の中バケガニが食べ残した泡だらけになった人間の服の一部が
射し込む光を浴びて不気味に光っていた。
「鬼か。」
童子は洞窟の中へと入ってきた人影を感じ取り奇妙なボーズをとった。みるみるうちに彼の腕は鋏へと変化し
その衣装はマフラーとなり、その体中が泡に包まれ怪童子へと変化した。
「だろうな。」変身鬼弦を引くソウキ。
蒼い炎が彼を包み1歩2歩と怪童子へと歩み寄るソウキを変身させる。
送鬼は怪童子の鋏によるチョップを避け、右手に構えた音撃弦『釈迦』で怪童子の腹部を斬りつけ、
足蹴りをくらわせた。その攻撃は怪童子にまったく反撃の隙を与えない。
フラフラになった怪童子にはもう立ち上がることすらもできなかった。
『釈迦』を両手で構える送鬼。蒼い炎が『釈迦』を包む。
しかし、その時、突然洞窟全体が揺れ始め崩落を始めた。崩れ落ちる岩を払いながら洞窟から脱出する送鬼。
振り返り少し離れたところから洞窟を見るとそこにはもうバケガニの巣はなく、ただ巨大なバケガニが立っているだけだった。
その巨大な鋏がゆっくりと振り下ろされる。送鬼はそれを避けるが背後から現われたもう一つの鋏に捕らえられた。
バケガニは鋏で送鬼を締め付けながら川の中へと入り川下へ川下へと川を下る。
送鬼はベルトのバックルから音撃震『極楽』を取り外して釈迦にセットし展開した。
バケガニの鋏が川の中へと入ったその時、送鬼は釈迦で鋏を斬り落とし水中でバケガニの残りの足を次々と切り落としていく。
次の瞬間、最後の足を切り落とした送鬼がバケガニの体を蹴って跳び上がりその背中に着地した。
「音撃斬! 浄土送り!」
突き立てられた釈迦の刄の鬼石が掻き鳴らされる清めの音を倒れたバケガニの体へと伝える。
爆砕するバケガニ。落ち葉が川にに舞い落ちた。そして足場を失った送鬼も重力にしたがって川へと落ちた。
607番外編「仮面ライダー剛鬼」二之巻:2006/01/20(金) 23:50:47 ID:QqfFm8hJ0
「しーばさーきせんせー。ぶぁっ、ぶぁっくしょん!!」 
「風邪引いたな。今の時期水辺じゃ無理すんなっていっとるだろうが。それにしても鍛えとらんのぉ。当分ここに通ってもらうぞ。」
「いつぐらいまでですか?」「1ヶ月・・・だな。」

つづく。

次回予告
「鬼ごっこか。好きじゃないな。」
「関東の榊鬼が倒してるはずだ。今年の春に。」
「たけしさん、案外優しいんだね。」
「・・・医者でソウキさんと会ったんだ。・・・」
「ヤマアラシ・・・。これで4匹目か。」

三之巻 「唸る声」
608名無しより愛をこめて:2006/01/21(土) 01:11:20 ID:B8Y84p04O
>>603さんへ

ソウキはうどん処『げんじろう』に居候しており、近くのアパートにはアトリエが有るという設定です。
名古屋在住ですが、幼少の頃はサバキと同じ施設に居ましたので、実家は有りません。
剛鬼話を楽しみにしております。頑張ってください。
609名無しより愛をこめて:2006/01/21(土) 01:15:51 ID:wOoJZ0qq0
以前より弾鬼スレに書き込む為にSSを書いていたのですが、
弾鬼スレがなくなった為に投稿できなくなってしまいました。
ですがこのままお蔵入りにするのも何なんで、序章だけ投下させてもらいます。
なにぶんSS書くのは初めてなので悪筆乱文ですが、皆さんのご意見等聞かせて
頂けたらうれしいです。

最後に裁鬼メインストーリー職人さんへ
毎回楽しみに読ませて頂いています。
貴方の構成力には及びませんが、尊敬と応援させて頂いています。
これからも頑張って下さい。

長文失礼しました。
610番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻:2006/01/21(土) 01:24:48 ID:wOoJZ0qq0
『音撃打!破砕細石の型ァァ!おぉぉぉぉりゃぁぁぁ!』
静かな空気の広がる関東某所の山間に一人の鬼の声が響き渡った。
その声の主は関東所属の鬼『弾鬼』だ。
弾鬼は魔化魍ヌリカベに音撃鼓『御影盤』を張り付け、両手に持った音撃棒『那智黒』を叩き付けている。
ヌリカベは体内に叩き込まれる清めの音により、その存在を薄めつつある。
あと、数発も叩き込めばヌリカベは爆発四散し、弾鬼は見事清めることに成功するであろう。
・・・・・・・・・・・成功するように見えた。
『ラァ!ウリャァ!オォォリャァ!』
弾鬼は掛け声を出しつつも内心『ラストは両手で同時に叩き込んでやるぜぇ』等と考えており・・・
そして、それを実行した。
『ラストォ!ダァラァァァアアアア!』
一度上に振り上げてからの、振り下ろし。
ドォン!と子気味いい音を・・・・・・立てる筈が、なぜか『バキャッ!』という、木材がヘシ折れるような音が鳴り響いた。
『へ?』
停まる空気と時間。予想とまるで違う音に弾鬼は困惑し・・・音の出所である手の中を見つめた。
音撃棒・那智黒は二本一対。そのうちの一本が・・・見事に折れていたのである。根元から。そりゃもうポッキリと。
『なんで折れるのよ?ココで・・・あぁ〜もう!』
611番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻:2006/01/21(土) 01:25:27 ID:wOoJZ0qq0
愚痴る弾鬼。
ちなみに最後の一撃も確りと清めの音としてヌリカベには叩き込まれている。
正に爆発寸前。膨張度は最大限まで高まっており・・・
『あれ?、折れた先っぽ何処行った?直すにしても鬼石が無いとみどりちゃんになんて言われうおぉおっ!?』
必至に周りを見回して、音撃棒の先端に着いている鬼石を探す弾鬼。だが、その独り言を言い終わる前に、ヌリカベは
爆発し弾鬼もその爆発に盛大に巻き込まれた。
ヌリカベの体は爆発と共に塵芥となり・・・周囲に舞い・・・地に積もった。
ゆらゆらと降りそそぐ残骸に埋もれかけた弾鬼は勢いよく飛び上がった。
ブワリ・・と再度宙に舞う残骸。その中で弾鬼はやり場の無い怒りを、宙に舞うヌリカベの残骸にぶつけるのであった。
『あぁぁぁ〜もう!硬いんだよお前は!』
パンチ!キック!チョップ!何故かジャンプしての踵落とし。
しかし、その踵落としがまずかった。
踵が地面にめり込んだ瞬間・・・なにか非常に硬いものを破砕する感触が踵から脳に走った。
痛む足を抑えながら、その原因を探るために再度降り積もった残骸を漁る。そして掘り起こされた原因は・・・先ほどヘシ
折れた音撃棒・那智黒の先端部分だった。しかも・・・
『鬼石・・・砕けてンよ・・・・・・・あぁぁぁぁぁもう!二度とヌリカベなんか担当しないぃ!」
顔だけ変身解除しながら絶叫するダンキ。彼の叫びは空しく木々の間をすり抜けていった。
612番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻:2006/01/21(土) 01:29:06 ID:wOoJZ0qq0
都内道路を軽快に走る車。
それを運転している青年ダンキは、まだ不機嫌であった。
「全く・・ツイてないよ。何で折れるのさ!手入れだって怠ってないってのに・・あぁ〜もうイライラするなぁ」
しばらく走り、とあるアパートの前に電話BOXを見つけ、未だヌリカベを倒した報告をしていない事を思い出し電話をする事
にした。
車を停め、BOX内に入り財布からテレホンカードを取り出した・・が
「あら、度数が0だ。なんで使い終わったのを大事にとっておくかな・・・俺は」
ぼやきながら小銭入れから数枚硬貨を取り出して投入した。
呼び出し音が鳴り・・・
『ハイたちばなです』
「みどりちゃん居る〜?」
『あぁ・・みどりさんは今・・・・こちらたちばななんですけど・・』
普段電話に出ない・・・少年のような声にダンキは困惑した。
「・・・たちばなの・・誰よ?」
『アルバイトの安達といいます』
「アルバイトォ?たちばなに?おい、冗談言うなよ」
たちばなは関東の鬼が集う場所だ。そんな所にアルバイトを入れるなんて聞いてないし、聞いた事も無い。ダンキの困惑は
益々深まってゆく。
『すいません。まだ、入りたてなもんで・・・』
「入りたてって・・」
次の言葉が見つからず黙っているとさらに別の声が受話器から流れ出てきた。
『モシモシ、タチバナデス』
「・・・あぁ・・ヒビキさん?ダンキですけども・・・」
『よく判ったなダンキ』
ダンキはその声の主が、兄貴分として慕っているヒビキと判って・・落胆したような・・困惑から救われたような複雑な心境に
陥った。
613名無しより愛をこめて:2006/01/21(土) 02:03:44 ID:IaewtV/C0
>612
(・∀・)!! 待ってました〜!!
弾鬼スレ落ちてたんでorzだっんで期待してます。
ところで弾鬼スレSSで出てた「あの娘」は出るのかな?
614裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:54:00 ID:B8Y84p04O
四十四之巻「拓く師弟」

10月の晴れたある日。サバキは春香との結婚記念日に、二人きりで外出していた。数年振りのドライブを楽しんでいる妻に、何処に行きたい? と訊ねる。
「あなたに任せるわ。」 「……春香。 少しは我儘言ってくれ。 結婚してから、お前には夫らしい事なんて全然してやれなかったんだからさ。」
春香は助手席の外に流れていく町並みをみながら、少し考えた後、静かに言った。
「……何処でも良いの? あなた?」
ああ! と応えたサバキだが、聞かされた場所に唇を噛む。
「……本当に?」 「あら、我儘聞いてくれるんでしょ。 ……ね?」
穏やかな渓流が見える林の中に車を置き、サバキと春香は水辺に歩み寄った。
「……懐かしいな。」 「ずっと来たかったのよ。 あなたと私の、始まりの場所。」
十数年前、テンキの音撃弦を拝借したサバキとソウキが、雛鳥を巣に返す春香と共にバケガニと遭遇した場所だった。
「……変わらないな、此処は。」
「それはあなたも一緒よ。 あなたが、私に生命を護る事を約束してくれた所。 子供を産む事が出来なかった私が、立派に成ってくれたあの子達の母親になれたのも、あなたを信じてこれたから。 ……本当に、ありがとう。」
「……春香。」
遠くで、悲鳴が聞こえた様な気がする。恋人に戻っていた二人だったが、サバキは車から鬼弦を取り出して左手首に着けた。
「……悪い、行ってくる!!」 「たちばなに連絡してみるわ。 ……気をつけてね、サバキさん。」
春香から接吻を貰い、サバキは下流に走りだした。
615裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:54:46 ID:B8Y84p04O
「助けてくれ!!」
巨大な魔化魍が、一人の釣り人に口を開いていた。その口の中に灼熱弾が放たれると、釣り人は身体を抱えられて林に近い岩の蔭に連れられた。
「すぐに逃げるんだ!」
自分を残して怪物に立ち向かっていく鬼の背を眺めていたが、我に返ると釣り人は転がる様に逃げ去った。
「……ノツゴ!? 何故コイツが!?」
10年前とは違い、今の裁鬼には音撃武器も修羅も無い。
家に双弦を置いてきてしまった事を悔いながらも、裁鬼はノツゴの背中に飛び乗り、強固な皮膚の隙間に鬼爪を突き刺すと、一心不乱に自らの炎の気を注ぎ続けた。
数十分後、地面に退避した魔化魍の邪気が去ると同時に、別の方向から新たな邪気が近づいてくる。
それは吉野の神社に保管されている筈の、鬼の鎧だった。装着するには、鬼と同等の身体を必要とする。
「誰だ!? お前……」
鎧の装着者は裁鬼に答えず、いきなり斬り掛かってきた。斬撃を躱しながら太刀筋を見切り、唐竹に振り下ろされた刃を白刃取りする。
「……裁鬼か。 よくも私の獲物を……」 「何っ!?」
小さく呟いた装着者の目は、こちらに向かって来るザンキの愛車『雷神』を発見した。
途端に太刀筋は狂暴で鋭いものに変わり、裁鬼は遂に連続攻撃を浴びる。
装着者が印を結ぶと、炎の式神が現われ、裁鬼の胸を直撃した。
トドロキとザンキが倒れている裁鬼の所に駆け付けた時には、既に鬼の鎧は悠然と背を向けて去って行った。
「裁鬼さん!! 裁鬼さん!!」
数十秒意識を無くしていた裁鬼だが、トドロキの声に身体を起こす。
顔の変身を解き、サバキは鬼の鎧が去った方向を見つめているザンキに言った。
「……あの式神、間違いない。 10年振りか。」
616裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:55:31 ID:B8Y84p04O
石割の携帯に、イブキから電話が掛かってきた。
「あの…… 少し、相談が有るんです。」
最近、あきらが鬼と成る事に焦りを感じ始めているらしく、ものには個人差が有る事を、10年サバキと過ごしてきた石割から教えてやって欲しいと言う。
「すみません。 僕も短期間で鬼に成ってしまったので、今のあきらに、何を教えてやれば良いのか……」
イブキの声を黙って聞いていたが、石割はやがて了解し、近くの喫茶店であきらを待たせる様に言った。
向かい合い、窓際の席で石割はあきらの瞳を見つめる。
鬼の事を知る同級生から学業は保険だと指摘され、最近、周囲の環境の為か、両親を殺されたトラウマを夢に見る事も無くなったとイブキから聞かされていたが、今のあきらの瞳のは、眠っていた憎悪が甦った様だった。
「……ねぇ? あきらちゃんにとって、『鬼』っていう仕事は、何?」
「……魔化魍を倒して、人の生命を護る事です。」
「そうだね。 でも今のあきらちゃん、生命を護る鬼より、魔化魍を倒す鬼に成りたいんじゃないかな?」
「……わかりません。」
俯くあきらを見ながら、石割はコーヒーを飲んだ。
「……何か、イブキ君に弟子入りした時に戻っていない? ホラ、肩に力が入ってる。」
指摘されたあきらは作り笑いを微かに見せたが、再び黙ってしまった。目の前に置かれているコーヒーが、ゆっくりと冷めていった。

「……たまには、街も悪くねぇな。」
テンキは、たちばなから拝借したままの陰陽環を身に付け、若い姿でビル街を歩いていた。前方遠くで、自転車に乗った男が、OLのバッグを引ったくる。
「……馬鹿が!」 取り押さえてくれるわと身構えたテンキに近づく前に、男の背中に式神が命中した。
見物人の輪の中で苦しむ男に向けられた邪気に気付いたテンキは、あるビルの窓際に目をやった。
「シュキ……!」
切り取った花を手に、若い姿のシュキが、罪人を笑っていた。
617裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:56:19 ID:B8Y84p04O
イブキは、ザンキにあきらを預けたが、予想外の事態が起きた。ノツゴの攻撃で川に落とされたあきらは、助けて貰ったシュキの思想に共感してしまい、ノツゴとの再戦時に、彼女を師とする道に進んでしまった。
森の中、あきらを伴うシュキの目の前に、テンキが現われた。
「……久しい顔だな。」 「……勢の坊主から事情は聞いた。 お前さん、本当に、この女に附いていくのかい?」
黙って頷くあきら。シュキは一歩前に進み、トドロキから奪った変身鬼弦『音錠』に指を掛ける。
「邪魔をするな…… 例え貴様でも、『あの者』達でも、私の悲願を阻む事は出来ん。」
テンキは陰陽環から式神を地面に放ち煙幕とすると、声だけを残して去った。
「笑えねぇヤツが、鬼をするモンじゃねぇよ…… 嬢ちゃんも、笑えなくなっちまうぞ!!」
「気にするな。」 シュキはそれだけを言い、あきらを連れて花を摘んだ。

結局、あきらは朱鬼がノツゴを倒す為の囮でしかなかった。木暮から郵送されて来た音撃真弦『烈斬』を手にした斬鬼がノツゴを倒したが、朱鬼は自らの身体ごとノツゴを貫き、ザンキが摘んだ花の園で息絶えた。
音錠を回収したザンキが去った後、テンキは呪術を施し、シュキの骸を花弁に変えると、空に呟いた。
「同期の手向けじゃ、シュキ…… あの世では、笑っていろよ。」
花弁は風に舞い、空に高く広く昇っていった。

夜の公園、一人で雨に打たれていたあきらに、傘を差し出す二人が居た。
「風邪引いちゃうよ。」 「今日の夕飯はシチューって言ってたな。 ウチのカミサン、料理上手いぞ!」
石割とサバキに連れられたあきらは、佐伯家で着替えと風呂を借り、笑顔が絶えない食卓に座った。
「笑えねぇヤツが、鬼をするモンじゃねぇよ……」
テンキの言葉が、あきらの胸に残っていた。
「……サバキさん。 あきらちゃんの事、イブキ君に言います?」
サバキの部屋に布団を並べ、雨雲の隙間から覗く星を、天窓越しに見つめている石割が訊く。
「……いや。アイツもあきらも、自分に勝つ時だ。自分で歩く道を見つけるまで、そっとして見守ってやろう。」
「はい。」
618裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:57:17 ID:B8Y84p04O
あきらがイブキの元を離れて暫く経つと、今度はザンキとトドロキの間に歪みが生じた。
音撃の効かぬ魔化魍ヨブコでも、ザンキとならば倒せる筈だと、敢えて間違いを選択したトドロキは、鬼としての自分が正しいのか、回答を求めていた。
ザンキは古傷が変身に依って目覚めた事を自覚し、トドロキの祖母が神鬼村から送ってくれた、呪術にも使え、無病息災を祷るテングの木の枝を手にしたまま、己の無力を痛感していた。
ヒビキがヨブコに倒され、明日夢とみどりが捕まった。
「みどりちゃ――――ん!!」
血眼に成るダンキと、ショウキ、トウキ達が必死で捜索する中、ヒビキに代わって街を警護していたサバキのディスクがヨブコの声を発見した。
「石割、避難誘導頼むぞ。」 「今回のヤツ、音撃が効かないそうですよ!」
「ま、時間稼ぎぐらいなら出来るさ。」 「気を付けて下さい!」
粘液状の涎を垂らすヨブコに、サバキは鬼弦を弾いて立ち向かう。その時、たちばなへの連絡を終えた石割も変身して、現われた超童子と超姫に拳を構えた。
音撃双弦を防御に使い、裁鬼はヨブコの攻撃を受け流しながら、当て身や蹴りで街に近付けさせない。石割も二体のコンビネーションに苦しみながらも、パンチを繰り出し続けた。
流石に1時間が過ぎると、敵の攻撃を躱しきれなくなる。だが、足場から突き落とされた裁鬼の前に轟鬼が現われ、ヨブコに走っていく。
迷い無きその姿に頷いた裁鬼は、後を任せて石割の元に戻った。
超童子の突進を両腕でガードした石割変身体だが、壁に叩きつけられて顔の変身を解く。止めだと言わんばかりに飛び込んできた超姫に、直ぐに鬼弦を弾き直して清めの音を纏った拳を打ち込む。
顔の変身を解いたサバキは、立ち尽くすザンキを見つけた。
超姫を担いで姿を消した超童子。一息ついて素顔に戻った石割の目に、イブキが駆る竜巻に次いで、走ってきたあきらが映った。
619裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 11:59:28 ID:B8Y84p04O
「……ザンキ。 轟鬼が、戦ってる。」
「解っているが…… アイツに、トドロキのヤツに、掛けてやれる言葉が無いんだ。」
「……アイツの師匠だったろ? 言葉じゃないんだよ。 行ってやれ。 アイツがお前を信じて来た様に、今度はお前がトドロキを信じてやる番だ。」

「石割さん。 ……あれから考えたんです。 私、鬼には向いて無いんじゃないかと……」
「……それは、君の意志かい?」
「……解りません。 ただ、イブキさんやザンキさんに言われた事、少しだけ、解った様な気がします。」
「……じゃあ、すぐこの先に行くといい。 今、イブキ君が走っていったから。」
「……ですが…………」
「あきらちゃんに答えを見つけさせる為に、イブキ君は戦っているんだ。 迷った時には、師匠を信じる。 ……鬼の弟子なら、そうする筈だよ。」

その結果、二組の師弟は、それぞれの答えと生き方を見つけ初めていた。報告のついでに、雨宿りの客を捌ききれない立花姉妹を手伝うサバキと石割に、おやっさんは頭を下げた。
「……まぁ、鬼ってのは、どこか不器用なモンですからね。 ハイ、注文お待たせ!」
「そうですね。 でも悩んだり迷ったりする事が、自分の道を決める事に繋がっていくんですから…… どうぞ! 黍団子・紅、出来上がりました。」
次々と団子を作っていく二人に、香須実と日菜佳は驚嘆する。
「本当に……」 「器用な師弟ですね〜。」

続く
620次回予告:2006/01/21(土) 12:04:52 ID:B8Y84p04O
「戸田山さん…… すみません。」
「テンキさん、オロチって、一体……」
「鬼を集めろと言ってきたんだ、『奴等』が。」
「ザンキ…… お前……」
「お前さんが取りに来るまで、預かっておこう。」

四十五之巻「昇華する魂」
621裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 23:10:58 ID:B8Y84p04O
四十五之巻「昇華する魂」

「アナタも鬼の一人だと解っている! 弟子にして下さい!!」
突然サバキの目の前に現われた高校生は、道路に額を着けて土下座をした。
「……石割、知ってる子か?」 「さあ?」
たちばなへ向かう道、桐矢京介は自身満々で半ば叫びがちに言った。
「僕は鬼に成るべき人間なんです! 鬼に成って、父を超えなければならないんです!!」
「……」 「……」
黙っていたサバキだが、京介の肩をポンッと叩いて言った。
「どこで鬼の事を知ったかしらないが、本当にやる気あるのか?」
「有ります!! 安達明日夢なんかより、ずっと!!」
「……自分で、『鬼に成るべき人間』だなんて言うヤツは、鬼に向いてない。 石割、行くぞ。」
サバキと石割の背中に悪態を突きながら、京介はどこかへ行ってしまった。
「……何だったんだろうな?」 「さあ? ……安達君の、同級生でしょうか。」

たちばなに着いた二人だが、店内にはザンキとトドロキが居るだけで、おやっさんは調べ物が有ると地下に籠もっていた。
「……コダマの森?」
神出鬼没に、小さな森が各地に現われているらしく、その事を話すとおやっさんの表情が一変したという。
そこへ地下から戻ってきたおやっさんが、4人に忠告した。
「……あの森には、入らない様に。 ……あの中では、どんな清めの音でも魔化魍に通じないらしいんだ。」
それだけを言うと、おやっさんは再び地下へ降りていった。
622裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 23:11:41 ID:B8Y84p04O
あきらが明日夢と京介を弟子にして、コダマの森に苦戦していたヒビキとイブキのピンチに、変身して立ち向かったらしい。
サバキと石割は、街中でヒビキと出会った。先程たちばなで、あきら達3人に厳重注意したと言う。
「サバキさん、少年と少年の友達、何とかなりませんかね。」
「……弟子、か。 お前は自力で鬼に成ったから、結構厳しいかもしれんが…… やってみたらどうだ? 『師匠』を。」
「僕もそう思います。 ヒビキさんなら、良い師匠に成れるだけの器量が有りますよ。」
二人の言葉に、ヒビキは心の内を告げる。
「正直言って、少年達には少年達のままでいて欲しいんですよ。 人の気持ち、人からの思いやりが解れる大人に成ってくれるなら、そのアドバイス役っていうか…… 俺は今まで、人生の師匠に成っていたつもりだったんですけど。」
今までと違い、明日夢達から戦場に来る様になってしまった。サバキは困るヒビキに、助言する。
「……それだけ、あの子達がお前の背中を追っていたいんだよ。 ま、さっきの話も、自分の行動で伝えるんだな。」
微かに躊躇いを見せたヒビキだが、思い立った顔つきに変わると、シュッとポーズして礼を言い、走っていった。

コダマの森で香須実を救った明日夢と京介は、イブキの弟子を辞めたあきらからの願いもあり、晴れてヒビキの弟子と成れたが、それと同時に、各地で魔化魍の大量発生が起き始めていた。
吉野の猛士総本部。おやっさんや中部支部の田宮等、各地の『王』が揃って、会議が進められていた。
「……勢ちゃん。 コダマの森が現われた事と、『奴等』が姿を見せた事は、関係有ると言うんだね?」
イブキの父であり、猛士総本部長の和泉一文字が盟友に訊いた。
「ああ。 鬼を集めろと言ってきたんだ、『奴等』が。 この文献通りだとすると、『奴等』にとっても、オロチは驚異でしかない、という事だね。」
頷く『王』の面々。各地の鬼達に、オロチに備える様にと、和泉総本部長は厳戒令を発した。
623裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 23:12:39 ID:B8Y84p04O
トドロキとザンキが捜索していると、無数のウブメが地面を突き破って出現する。
弦を手に退治出来る数ではなく、退避した二人の前に闘鬼が音撃管『嵐』を持って現われた。
「おやっさんが呼んでるらしい! ココは任せろ!!」

たちばなで、ヒビキ達がオロチの終末に全てが滅ぶと聞かされていた頃、佐伯家ではテンキが、サバキからコダマの森について話していた。
「……俺も実際、見た事はねぇが、オロチの前触れってのを、聞いているな。」
「テンキさん、オロチって、一体…… 魔化魍の種類ですか?」
石割の言葉に、テンキは首を横に振る。
「いや、魔化魍が大量に出てきやがるらしい。 今まで起こった事はねぇが、何か悪い事の前に、コダマの森が現われたって、俺の師匠の師匠が言ってたらしいな。」
サバキは、過去にコダマの森が出現したのはいつだったのかと訊ねた。
「だから言ってんだろ! 俺の師匠の師匠が鬼だった頃だよ!!」
「いえ師匠。 だから、それは何十年前なのかと……」
湯呑の茶を一息に飲み干すと、テンキは言った。
「……関ケ原の戦いの、2年前って言ってたな。」

トドロキが魔化魍に重傷を負わされた。
サバキはザンキから電話を受け、久しぶりにバー『四つ葉』を訪れる。カウンターに水割りを置いたザンキが、静かに言った。
「……俺の責任だ。 アイツは俺を助けようとして、オトロシに踏まれた。」
医者の話では、鬼に変身出来るのは難しく、良くてもある程度の麻痺が残るらしい。
「……ザンキ。」
サバキは、出されたバーボンのグラスを手に、ザンキの組んだ拳を見つめる。
「……お前は、トドロキの傍にいてやれ。 ……魔化魍は任せろ。」

624裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 23:13:31 ID:B8Y84p04O
ウブメ、ヤマアラシ、カッパ、ドロタボウが出現し、裁鬼、石割変身体、蛮鬼が迎え撃った。時期を外れているものや、生育環境が不十分な種類は然程強くはないが、とにかく数が多過ぎる。
「音撃斬! 『冥府魔道』!!」
6体目のヤマアラシを倒し終えた蛮鬼は、刀弦響に地獄をセットしたまま、7体目に立ち向かう。
「データベースが通用しないとは、頭が痛くなる戦いですね!!」
右拳に専用ディスクアニマル『白銀招』を装着したパンチで等身大魔化魍を粉砕する石割。
「とにかく、一匹一匹、やっつけて行きましょう!!」
音撃双弦の刀身をウブメに放ち、極楽を弾く裁鬼が頷く。
「コイツ等も、無限に出てくるワケじゃ無い筈だ! 一気に倒すぞ!!」

各地で激戦が続き、魔化魍は遂に街中にまで出始めた。
吉野から大量のディスクをトラックに積んだみどりが帰り、街の上空にステルスモードを付加した1000枚の茜鷹を飛ばす。
「……これで、少しでも人を守れれば良いんだけど。」
一体一体が、魔化魍出現を知ると特殊音波を送り、たちばなのパソコンに知らせる仕組みだという。
しかし、まだ完成したシステムではなく、通常の捜索と併せて使用するしかないと、鬼達は伝えられた。

再び変身したザンキは、自分の身体が長くない事を悟り、川原に火を焚き、返魂の呪術に改造を加えた。
「戸田山さん…… すみません。」
呪文を発し、ザンキはテングの木の枝を燃やした。通常の返魂の術は、死んだ後に魂を身体に返し、一定期間甦る事が出来る様にする呪術だった。
しかしザンキは、他者の肉体に自分の生命力を分け与える、分命の術を加えており、生きている間から、衰弱や意識の途切れと戦い続けねばならなかった。

雨が降る晩。再び『四つ葉』に呼ばれたサバキだが、ザンキの違和感に気付く。「ザンキ…… お前……」
水割りを飲み、微かに震える手でグラスを置いたザンキは、哀しく言った。
「もう、酒の味も解らん…… 仕方無い事だがな。」
店内に流れるジャズだけが、沈黙を遮っていた。
625裁鬼メインストーリー:2006/01/21(土) 23:14:15 ID:B8Y84p04O
ザンキの生命力を受けたトドロキは順調な回復を見せ、遂に鬼へと変身する事が可能と成った。
斬鬼と轟鬼、最初で最後の共闘が終わると、別の場所で戦っていた裁鬼、闘鬼、響鬼は、胸を打つ空虚感に夕暮れの空を見上げた。

かつての師匠であり、最後の相棒だったザンキを見送ったトドロキは、たちばなで何度か見た顔に足を止めた。
「……サバキから聞かされてな。」
「テンキさん……」
地面に残された烈斬と音枷のある場所を見つめるテンキの瞳には、半透明なザンキが見える。
「……若いの。 何か伝えたい事有るんだったら、早く言いな。 アイツはまだ、お前を見守ってるぞ。」
ザンキの身体は、次第に消えてゆくが、呪術を操れるテンキにしか見えなかった。
「……いえ! 何も無いっス! 自分はさっき、ザンキさんと一杯、戦えたっス!」
ザンキは笑い、テンキが右手をかざす。
「自分は、鬼っス! ザンキさんが認めてくれた鬼だから、強い鬼っス! だから、どんなに哀しくても、泣いちゃいけないんス!!」
大粒の涙で顔を濡らすが、はっきりと目を開けたまま、トドロキは頭を下げる。
「ザンキさん…… ありがとうございました!!」
テンキは頷くと、永遠の闇へと消えかかるザンキに、右手から一筋の光を浴びせる。
テンキに頭を下げたザンキは、ゆっくりと空に昇りながら、消えていった。
「……コレは、お前が使ってやれ。」
手渡された烈斬だが、トドロキは音撃震『斬撤』を取り外すと、テンキに渡した。
「自分には、『雷電激震』が有るっス!」
「そうか…… ならばコレは、お前さんが取りに来るまで、預かっておこう。」
トドロキが去った後、テンキは地面から音枷を拾い、左手首に着けた。
「……オロチ、か。 久々に、暴れてやるか!」

続く
626次回予告:2006/01/21(土) 23:19:11 ID:B8Y84p04O
「家族があるって事、言い訳にはならないな。」
「恐いんだ。 嫁と息子を、戦いに連れていくのが。」
「どうしても、父を越えなくちゃ……」
「親父なんて、簡単に越えられるモンじゃないですよ。」
「行くぜ! 剛鬼!! 闘鬼!!」

四十六之巻「護る力」
627名無しより愛をこめて:2006/01/21(土) 23:31:27 ID:IaewtV/C0
仮面ライダー蛮鬼

1話「失う夢」
628剛鬼SSの中の人:2006/01/22(日) 00:12:52 ID:63ncr/rK0
職人さん送鬼さんの設定の件ありがとうございます。
メインストーリーの方も1日に2話の投下おつかれさまです。
ストーリーもTV本編に追いつくにつれ、ノツゴ戦やヨブコ戦に入ってきましたが
もうすぐ完結するのかと思うと寂しい限りです。頑張ってください。
629名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 00:47:32 ID:XVMo7Ny30
いつもながらの完成度です
職人さんの双弦版閻魔裁きの設定で、腰の極楽の音を共振→乱舞ってのが巧いと思う
従来の突き刺し型だと極楽の位置上、しばらくお腹をジャカジャカ弾き続けるはめになるし


・・・そういえばTV本編でのトドロキの二刀流は裁鬼さんが教えたのかな
630番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻(弐):2006/01/22(日) 01:10:34 ID:wRtcmW6/0
都内某所電話BOX/
ヒビキとの幾つかのやり取りの中で、みどりが不在という事がわかった。
ヌリカベの件を報告がてら、壊れた音撃棒の事も相談するためにみどりちゃんに電話
に出てもらおうとしたが、不在ならば仕方が無い。
「あ〜判った判った・・・じゃ、おやっさん!おやっさん出してよ〜!!」
おやっさんこと、関東の鬼を纏める事務局長である立花勢地郎を出すように催促した。
『は〜い、おつかれさ〜ん』
受話器からは老年の男性の声が流れてきた。
「ドモ!ダンキです。さっき、ヌリカベは倒しました」
『あ〜、ご苦労様だったねぇ。どう?周辺に被害とかは無かった?』
「や!別に・・周辺には無いんです・・・けどねぇ・・被害」
『けどねぇ?じゃ、ダンキ君に被害でも出たのかい?』
鋭い・・・・伊達に事務局長をやっては居ない。
ダンキの内心の陰りを察知したおやっさんは・・さらに続ける。
『ダンキ君?タンキ君?』
「・・・・うわ・・あぁ、いや・・そのですね・・・言いにくいんですけど・・・・」
『うん?』
「俺の・・那智黒・・折れちまいました・・スンマセンッ!」
受話器を持ったまま、その場で頭を下げるダンキ。だが狭い空間で勢いよく頭を下げた
ため、頭をガラスに強打してしまった。
飛ぶ火花!脳内に☆!
「あいたぁっ!」
『ははは・・・まぁ落ち着いてダンキ君。折れたのは・・両方?』
「いや、片方です・・阿のほうです」
頭を摩りつつ、返すダンキ。ちなみにガラスにはクモの巣条のヒビが見事に出来ている。
『ん〜鬼石が無事なら・・修理は霊木を交換するだけで済むんだけどねぇ・・・・鬼石は?』
来た!
631番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻(弐):2006/01/22(日) 01:12:40 ID:wRtcmW6/0
いずれ言わなくてはならない事だったが・・いざ振られるとドキリとする。ダンキは冷や汗を掻きながら・・・・
「・・・・コナゴナです・・・」
『・・・・・・・・・・・・そうか〜』
「スンマセン!それで鬼石余りって在りましたっけ?無かったら・・・ヤバイです・・よね?」
『ウチには・・無いねぇ〜』
「です・・よねぇ〜・・・あぁ〜もう!おやっさん!俺どうしたら良いかなぁ〜?おやっさぁぁん!」
ダンキにいつもの威勢の良さはなく、ともすれば号泣しかねない勢いだった。
だが、おやっさんの一言がダンキに光を与えた。
『ウチには無いけど・・・ちょうどみどりちゃんは吉野に行ってるからねぇ・・・私から和泉に言っ
ておくよ。みどりちゃんに鬼石を渡してくれって』
「お・・・おおおおおやっさぁぁぁぁぁぁん!助かるよ〜!」
正に地獄に仏。
ダンキはヌリカベを倒してからこの時までまともに笑ってはいなかったが、おやっさんの一言でよう
やく破顔した。
『とりあえず、たちばなによってもらえるかな?色々話もあるし』
「わっかりました。じゃ、後で!失礼しまっす!」
ガチャン!と受話器を戻す。
ダンキは意気揚揚と車に戻り、その場から去った。
632番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻(弐):2006/01/22(日) 01:15:30 ID:wRtcmW6/0
甘味所たちばな地下/
おやっさんはダンキが折った音撃棒を手にとって苦笑いした。
「こりゃ酷いねぇ〜」
「はぁ・・スンマセン」
「いやいや〜いいんだよ・・こうして、ダンキ君が無事戻ったんなら。物は直したり代えが利くけども
・・人や君達鬼の代わりは無いからねぇ・・・無事ならいいんだよ」
「うう・・お゛や゛っ゛さ゛ぁ゛ぁ゛ん゛」
温かい言葉・・ダンキは月並みながらも温かい言葉にウルッときた。
短気でがさつな性格だが、彼はどうしようもなく直情的で、笑いたい時に笑う!泣きたい時に泣く!
そういう『漢』なのだ。
「あはは・・判った判った・・しかし、霊木をどうしようか〜」
その言葉にダンキは拳で涙を拭き、真顔に戻った。
「あぁ〜それですよねぇ・・・この辺にイイのありましたっけ?」
撥の本体部分はどんなモノでもいいという訳ではなく、霊山や霊木の類から削りだしたものでなくて
はならない。そしてその木は何処にでもある訳ではない。その素材選びに四苦八苦していると、不意
にたちばなの電話が鳴った。
「はい〜たちばなです。あぁお疲れさん〜」
あやっさんが立ち上がって電話を取り相手と話し出した。
と、そこへおやっさんの娘の日菜佳がお盆にお茶と団子を乗せて持ってきた。
「おつかれさまです〜ダンキさん!」
ハイ。とお茶と団子を手渡された。
礼を言いつつ茶を口に一口すする。日菜佳はニコニコとダンキを見ている。
「何よ?」
「いえいえ。いや〜そろそろ夏ですねぇ〜!」
夏・・といえば・・海だ。間違いない。
去年は海に行った事は行ったが・・・俺は一人。何故かついて来たショウキは彼女と一緒だった。
はしゃぐショウキと彼女・・・・俺は一人素潜りでタコとか貝とか捕まえて時間を潰した。
嫌な思い出を拭い去るように、今年こそ女と!海に!と、誓いを立てた。そして脳内には何故か水着
姿のみどりが浮かんでいた。
633番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻(弐):2006/01/22(日) 01:18:33 ID:wRtcmW6/0
「ダンキさんもヒビキさんと同様、そろそろ夏に向けてのウォーミングアップに入っちゃったりするんです
かねぇ〜?」
その言葉に一瞬で現実に引き戻されるダンキ。
日菜佳は「てやや〜」と掛け声を出して太鼓を叩く真似をしている。
そこへ電話を終えたおやっさんがダンキに提案した。
「実は今の電話エイキ君からだったんだけど、彼もね〜この間霊木を交換したんだ。で、今の話をしたら
『このエイキがエェ木があるところをダンキに教えてあげよう!』って言ってたから、明日・・行ってく
るといいよ」
おやっさんが万事解決!というような顔でダンキに告げた。

都内某所・商店街/
あれから家に帰り、何も食べ物がない事に気が付き買出しに出たダンキは馴染みのスーパーに入った。
カゴの中には1本5円の長ネギ4本。モヤシ一袋。卵一パック。ハムの切れ端一パック。うま○っちゃん一箱。
チ○ンラーメン一箱と、ラーメンとラーメンに入れるものばかりで構成されてた。しかもラーメンは箱買い。
「へっへぇ・・コレで一ヶ月は持つなぁ!後、プロテイン何処だ?」
目当てのものを探して歩いていると一人の女性に声をかけられた。
「段田君?」
ダンキは、辺りを見回した。そこにはグレーのスーツに身を包んだ若い女性が立っていた。ダンキには声を
かけてきた女に見覚えがあった。だが、すぐに名前が出てこない。
「覚えてない?ホラ!大学で同じゼミだった」
そこでようやく思い出す。
「覚えてるよ。吾妻だっけか?」
スーツの女=吾妻はニコリと笑った。
634番外編『仮面ライダー弾鬼』序章之巻(弐):2006/01/22(日) 01:21:39 ID:wRtcmW6/0
都内某所・喫茶店『フレンド』/
「久しぶりね・・段田君が大学辞めてからだから・・・6年ぶり?」
大学を辞めた理由は・・鬼になる為だった。そしてそれを当時の友人達は誰も知らない。ダンキは一瞬だけ
昔を思い出した。
「で、お前は今何してんの?見た感じ営業っぽいけど」
「あぁ・・今はね・・・はいコレ」
吾妻は名刺入れから名刺を一枚取り出しダンキに手渡した。
「・・・ジャ・・ジャーナ・・レ?・・ル・・あぁ〜もう!読めないよ、何て読むのさ!」
スペルが判らず書かれた社名が判らなかったダンキは吾妻に食って掛かった。
「ジャーナルストームよ。相変わらず英語弱いのね」
「何?新聞屋?」
「似たようなもんかな、三流だけどね。」
なるほどねぇ、と頷いて注文したトマトジュースを口に含むダンキ。
「ほら、ココの所・・日本全国で、特に山とか海での行方不明者が後を絶たないじゃない?私と後もう一人
後輩とタッグ組んでこの事件追ってるのよ。この後輩が面白いやつでさ〜!何年か前に、鬼とかあとデッカイ
蜘蛛を見たとか言うのよ!しかも奥多摩で」
「ぶはっ」
ダンキはトマトジュースを吹きかけた。口端から垂れる様はまるで吐血のように・・・
「汚ったないなぁ・・なに?」
「い・・いや・・何でもねぇよ・・続けて」
2・3年前に奥多摩で出会った女もたしか・・記者だったはずだ・・・・そして、ツチグモを倒すところを見
られていた筈だ。
ダンキは嫌な予感を抱く。そしてそれは現実のものとなった。
「その後輩妖怪・オカルトマニアで、今回の行方不明関係の事件は妖怪の仕業ダ〜!なんて言うのよ。でぇ
まずは現場百万回!って意気込んで、明日山登りなのよね・・・」
ダンキも明日はエイキと山登りの予定が入っている。『どうか、カチ逢いませんように』と、ダンキは平然を
装いながらそう祈ったのだった。
635名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 01:29:43 ID:RHUaW4/F0
弾鬼さんSS乙です!
「夏に向けてのウォーミングアップ〜」云々の下りから見て、
弾鬼さんも全身真っ青になっちゃうんでしょうか?

ところで都内でもうま○っちゃん売ってるんですか?
636弾鬼SSの筆者:2006/01/22(日) 01:34:34 ID:wRtcmW6/0

>613
押忍!期待に添えるようがんばります!
あの子ですが、序章之巻(弐)の内容で察していただけたらw

一応これで序章之巻は終わりです。
次からが正式な一話になります。ここまで書いて聞くのもなんですが、
続き投下しても良いでしょうか?
住民の皆様のご意見、お願いします。
637名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 01:36:38 ID:iiuN+2XS0
投下賛成であります
638名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 01:40:14 ID:omJ+ikA30
>>636
どうか投下してください。

・・・・あの子とダンキさんがどうなるのか、気になっていたんです。
639裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 06:46:50 ID:Yxq0jaetO
四十六之巻「護る力」

鬼の忘年会が見送られ、新年を迎えた。1月10日の夕方、サバキは街で偶然会ったゴウキとトウキに誘われ、居酒屋の暖簾を潜った。
「サバキさん。 御師匠から届いた年賀状、見ましたか?」
「ああ。 あっちもオロチの影響で大変だってのに、よくもまぁ……」
サバキ同様、オールマイティなソウキから太鼓を師事したゴウキは、一枚ずつ、風景画が描かれた年賀状を思い出しながら、生中を飲む。
「そういえばトウキ。 お前の息子、この前大学に来ていたらしいぞ。 バンキが言ってた。」
「ああ、何か敏樹のヤツ、学校の作文で賞を貰ったらしいんで。 審査員に風見さんがいて、嫁と挨拶に行ったんですよ。」
いつも通りのペースで食を進めていき、酒を飲む。
「ココの焼き鳥、塩が良いですね。」 「ああ。」
いつに無く口数が多いゴウキ。サバキがトウキを見ると、こちらも5杯目の生中を半分残してジョッキをテーブルに置いた。
「……どうした二人共。 何か変だぞ。」
口を濁す二人だが、サバキに隠しても仕方ない。
「実は午前中、たちばなに行ったんです。 そこでおやっさんが、オロチを鎮める為の『清めの儀式』を、イブキが行なうって。」
「ああ…… 多数の魔化魍が現われ、生命を落とし兼ねない危険な行いだ。」
サバキが代わってやれないのかと二人に訊ねたが、宗家の鬼の使命らしい。
「……流石、サバキさんですね。」 「……ああ。」
640裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 06:48:15 ID:Yxq0jaetO
俯くゴウキは、独り言の様に呟いた。
「……五月が、妊娠したんです。」
「家族があるって事、言い訳にはならないな。」
ゴウキとトウキは、自分でなく良かったと、安堵してしまった事を悔いていた。
「……正直言って、鬼の癖に、情けないですね。」
ゴウキに、サバキは優しく言った。
「気にするな。 俺達は、鬼である前に…… 人間だ。 恐いモンは、恐い。 誰だって、死に脅えて、それでも生きてるんだ。 ……普通だよ。」
トウキは、これから中学に上がる息子に、まだまだ教えたい事が有ると零した。
「……馬鹿だな。 33にもなって、臆病風に吹かれちまった。 ……サバキさん。 俺、どうしちまったのかな。 ……恐いんだ。 嫁と息子を、戦いに連れていくのが。」
確かに、ここ数週間トウキは、一人か、ショウキやエイキと共に戦いに行っている。
「……サバキさんは凄いですよ。 5人の子供さんと奥さんが居るのに、いつも前衛で戦えて…… 自分なんか、ヒビキさんの次に活躍したって言われても……」
「いや。 お前はよくやってくれてるよ。」
慰めに続け、サバキは笑う。
「何だろうな…… 今更な話だけどさ、俺が鬼に成った理由。 ウチの嫁に、格好良いトコ、見せたかたったからなんだよ。」
「え?」 「それって…… どういう事です?」
「いやさ。 小っちゃな理由だけど、あの時の俺には、それが全てだったんだよ。 ……泣いてる春香見てたら、哀しくなってな。 気付いたら、お前が失って哀しむ生命、全ての生命は俺が護るって…… 言ってた。」
641裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 06:48:56 ID:Yxq0jaetO
サバキは、それから20年近く鬼として生きてこれたのは、その言葉のお陰だと、照れ臭そうに頭を掻く。
「生命を護るって事が、鬼の強さだって気付いたのは、その時から、随分、後だけどな。 ……護るものが有るから、戦える。 俺はいつも、そう思ってるだけさ。」
「護るものが、有るから……」
「ああ。 確かに、家で待ってる家族を考えたら、ビビッちまうけどさ。 簡単だよ。 家で待ってる家族が居るから、絶対帰るんだ、って思えば良い。 生きたいって気持ちがあれば、人間いつの間にか、幸せな未来の上歩いてるよ。」

バンキは大学の研究室を出て、偶然、城南高校の前を通り掛かった。校門の前で、制服を着た桐矢京介が何かを躊躇っている。
「桐矢君。」 「わぁっ!! ……貴方は鬼の…… 驚かさないで下さい!!」
「ゴメン。 で、こんな時間に何やってるの? もうクラブ活動も終わってるよね?」
近くの喫茶店で話を聞くと、今朝退学届を出したが、ヒビキに言われて復学許可を貰いに来たのだという。
「学校を通いながら、鬼を目指すなんて…… 中途半端な事は、僕はしたくないんです!」
「……僕は今、大学行きながら鬼の活動してるよ。 それに、今の君にとっては、学校こそ一番の修業だからね。」
「……ヒビキさんと、同じ事言うんですね。」
俯いた京介は、オレンジジュースのストローを吸う。
「君が鬼になりたいと思った理由、聞かせてくれるかな?」
「どうしてですか?」 「君を見ていると、どう考えても鬼には向いていないんじゃないかと思ってね。」
頭に血を上らせて席を立つ京介に、バンキは言った。
「自分を知らない子供だね。 長所、短所を理解して修業に臨めば、鬼に成れるのも遠くないというのに。」
「……本当ですか?」 「うん。 鬼は、自分に負けちゃ駄目だからね。 負けない様にするのは、自分を知る事が、一番安全な近道だよ。 ……それじゃ、教えて貰おうか。 君の理由。」
642裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 06:50:01 ID:Yxq0jaetO
座り直した京介は、静かに語り始めた。
まだ京介が幼い頃、消防士だった父が、人を助けて事故で死んだ。男ならば、父を越える事は当然だと思い、人を助ける鬼に成らなければならないと言う。
「だから僕は、どうしても、父を越えなくちゃ……」
「……君、成績だけ良くて頭悪いタイプだね。 何処で聞き齧った言葉なのか見当付かないけど、そんな言葉鵜呑みにして鬼を目指せる筈がない。」
また直ぐにカッとなる京介だが、バンキは構わずに質問する。
「で、君が鬼に成れたとしよう。 人を助けた。 人を護った。 ……お父さんを越えられるのは、何人助けた時なのかな?」
その答えを、京介は持っていなかった。
「僕の父親も鬼だった。 僕は一度、親父を越えられないと、鬼に成る事を諦めた。 でも、沢山の人に支えられて、今、鬼として生きている。」
「……」 「4年経つけど、未だに親父を越えるものを一つも持っていないし、多分、一生涯戦い続けても、親父は越えられない。」
「……じゃあ、僕が鬼に成る為には、どうすれば……」
「今の目標を捨て、新しい目標を持って修業に臨む事。 ……大体、どんな人でも親父なんて、簡単に越えられるモンじゃないですよ。 解ってくれましたか? 桐矢京介君。」
黙って俯いていた京介を残し、バンキは伝票を手に、静かに立ち去った。

深夜、サバキの電話に居酒屋へ急いだ石割の前には、本音を吐き出しきって気持ち良さそうに酔い潰れている三人が眠っていた。
「47680円になります。」
店主が、石割に向けて微笑んだ。
643裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 06:50:44 ID:Yxq0jaetO
翌日、サバキの愛車と並び、トウキの車が魔化魍発生の場所に向かう。みどりから知らされたポイントには、今回も大量の魔化魍が待ち構えていた。
「昨日の事は忘れてくれや…… やってやるぜ!」 トウキが、変身鬼笛を吹く。
「自分もです!」 ゴウキが、変身音叉を叩く。
「よぅし…… とっとと片付けるか!」 サバキと石割が、変身鬼弦を弾く。
「行くぜ!! 剛鬼!! 闘鬼!!」 「掛かってこいやぁ!!」 「……いざ!」
巨大な魔化魍に立ち向かって行く三人に、石割変身体は呟きながら、カッパとテングに身構える。
「……立て替えた飲み代は、忘れられちゃ困りますよ……」
京介は、まだ見つからない目標を探しながらも、自分に足りない運動能力を高める為、初めて自主的にトレーニングを始めていた。
イブキも、強力な鬼石を持つヒビキの音撃棒『烈火』を借り、清めの儀式に備えている。

「……テ、テンキさん!?」
たちばなを訪れたテンキは、軽々と隠し扉を開いて行き、みどりの開発室に下りた。
「……確か、アンタが『銀』だったよな?」
突然の来訪に驚きながらも、みどりは頷く。
「頼みが有る、聞いてくれ。」 「はぁ。 ……でも、一体何なんです?」
テンキは壁に掛けてある様々な音撃武器を見回した後、頭を下げた。
「頑丈な弦を2つ! 用意してくれ!!」

暗い森の中、一組の男女が、魔化魍コダマを破壊光線で倒していた。
「……終末は近いな。 今までの全てが無くなってしまう。」
「退屈ね。 そうなったら。 ……鬼達、上手くやってくれるかしら?」
「やって貰わなければ、ヤツ等も滅ぶんだ。 人間ごときに頼るのも癪だが、あそこまで手引きした以上、動かない筈は無いさ。」
全てが、終末に近づいていた。

続く
644次回予告:2006/01/22(日) 07:01:14 ID:Yxq0jaetO
「サバキさん。 約束して下さい。」
「ああ。 ……解ったよ。」
「究極音撃斬!! 『天地廻り』!!!」
「裁鬼さん! ここは任せて下さい!!」
「石割――!!」

四十七之巻「立ち向かう鬼達」
645名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 08:48:38 ID:H/oBCy2V0
教訓 “本編を見た直後に、このスレを読んではいけない”
いろんな意味で、めっさ泣けてきちゃう。
さっきの最終回より、桐谷を諭すバンキの科白を読んだ今の方が、本当に泣きそうになっちまったよ。
646名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 09:53:26 ID:hV6hcoOu0
本編も終わりましたね・・・。
他の鬼たちが登場しなかったのは残念だけど
逆に言えば、彼等の活躍は無限大に描けると言うこと。

裁鬼さんたちの物語を楽しみに待ちます。
647名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 10:13:00 ID:KmHdNLq70
タケデンより細川インタビュー

どこかで終わっていないという部分もあるような気がします。
 「番外編」とか「パート2」とか、そういうお話があればまた鍛えないと(笑)

 レギュラーのオンエアは明日で終わってしまいます。

 でも、僕の中では「もう一度やろう」とお声をかけていただけるのであれば、
 「鍛えてましたから」とすぐに復活できるようでありたいなと思っています。
 だから、完全燃焼はしましたが、寂しいという気持ちがあまりないのでしょう。

続編の可能性????
648名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 11:16:58 ID:hV6hcoOu0
∀響鬼 
649ネタばれというか:2006/01/22(日) 11:24:54 ID:uQOt2mdQ0
Wikiの響鬼ページに設定が補完されてる。

このスレ話もちこっとだけ乗ってたぞ。誰か外部リンク腫れv
650裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 11:55:19 ID:Yxq0jaetO
四十七之巻「立ち向かう鬼達」

イブキに依る清めの儀式を明日に控えた朝。おやっさんは、ヒビキとトドロキに近距離の援護を頼み、他の鬼達は、清める石版へ集まってくるであろう魔化魍から、イブキ達を防衛して欲しいと指示した。
鬼達の間でチーム分けが進み、ダンキ、ショウキが西側。ゴウキ、トウキが東側を見張り、バンキ、エイキが南側の魔化魍を倒し、サバキと石割が北側を護る事が決定された。
たちばなでの会議を終え、帰りの車に乗ろうとしたサバキだが、石割は出掛ける所があるのでと、急ぎ足で去っていった。
「……」
気になったが、サバキにも用事が有った。去る1月4日に集まれなかった子供達が、10日遅れのサバキの誕生パーティーをする為に、佐伯家に集まっていた。
玄関を開けると同時に、クラッカーが鳴る。紙吹雪に塗れながらリビングに案内されると、38本のローソクが立てられている、春香手作りのケーキの前に座らされた。
彩子は石割が居ない事に若干不満を見せたが、それでもサバキが火を吹き消すと、笑顔で拍手を送った。
「ローソク抜くの、大変だな。」
自分の言葉に、サバキは今までよく生きてこられた幸運を感じた。
去年は、連戦に倒れ、修羅を失い、長年使ってきた閻魔が新生し、子供達が鬼の事を知った。
5つのプレゼントを受け取り、ケーキが切り分けられる。
ホワイトチョコで『Happy birthday サバキさん』と書かれた板チョコを春香に食べさせて貰う瞬間を、慶伍のカメラに撮られた。
「熱いね〜!」 「サバキさん、メチャクチャ照れてるよ!」
サバキは溢れる幸せに目頭を熱くさせながらも、この幸せを護る為に、明日の決戦からの生還を、心に誓った。
651裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 11:56:13 ID:Yxq0jaetO
石割は、11年前に亡くした母親の墓の前で、手を合わせていた。肉親はいないが、決して自分は一人ではない。
帰りを待っていてくれる人がいる。愛し、愛される人がいる。自分を、導いてくれた人がいる。
「……お盆に、また来るよ………… 母さん。」
夕方、アパートに一人で戻った石割の前に、サバキが立っていた。
「……こんな状況で言うのも、アレなんだが……」
取り敢えず部屋に入り、小さなテーブルに置かれたコーヒーを挟んで、サバキは言った。
「石割。 明日…… いや、明後日まで掛かるかもしれんが、オロチが清められたら……」
冬の日の入は早く、北風が、薄暗くなった窓を揺らす。遠くでチャルメラの音がする。
「……引退、しようと思う。」
「……」
「ちょうど、お前と出会って10年だ。 オロチが終わったら、双弦と極楽…… 受け取ってくれ。」
石割は少し沈黙したが、やがて口を開いた。
「解りました。 でも一つだけ、お願いが有ります。」
「何だ? 言ってくれ。」
「サバキさんが引退したら、1年間だけ、僕のサポーターに成って下さい。」
「……え? それでいいのか?」
真面目な表情の石割は、力強く頷いた。
「サバキさん。 約束して下さい。 引退したら、サポーターに成ってくれるって。」 「ああ。 ……解ったよ。」

翌朝、それぞれ持ち場に着いた鬼達は、全てのディスクを展開し、魔化魍に備えた。だが、予想外の出来事が起こる。ヒビキがイブキとトドロキを足止めさせている間に、一人で清めの儀式を始めてしまった。
「……アイツらしいなぁ。」
苦笑するサバキと石割は、変身鬼弦を弾き、無数に襲い掛かってくる魔化魍を次々と倒していく。
地下で生まれ、眠っていた種類も全てが目覚め、倒しても倒しても出現し続けた。
652裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 11:56:55 ID:Yxq0jaetO
「音撃斬! 閻魔裁き!!」
装備帯の極楽を掻き鳴らし、共鳴させ、展開した双弦で、大小問わずに魔化魍を切り裂いていく裁鬼。石割も、巨大な魔化魍にパンチを連続して打ち込み、倒せる様になっていた。
「うおぉぉっ! 音撃打!! 『粉骨砕身の型』ぁっ!!」 「音撃射! 暴風一気!! 行くよっ!!」
音撃鼓の代わりに、練った気を相手に風圧掌底で貼り付け、それ目がけて渾身の一打を見舞う弾鬼と、走り回りながら音撃管を吹き続けている勝鬼。
「音撃打! 『飛翔必勝の型』!!」 跳び上がった鋭鬼が身軽な体で、飛び石の様に魔化魍を伝いながら、清めの音を命中させる。
「ふぅ。 オロチは、恐ろち〜な!!」 「あはははは!! いいセンスです!」
何故か爆笑する蛮鬼だが、背後に迫っていたバケガニに、冷静に刀弦響を突き立てる。
「人が笑っている時に…… 音撃斬! 冥府魔道!!」
「剛鬼! 大丈夫か!?」 「闘鬼さんこそ!」
互いの背を護る二人が離れた次の瞬間、音撃射『風神怒髪』と音撃打『爆裂乱打の型』が炸裂した。

「キリが無いな……」
裁鬼は3枚の浅葱鷲を呼び寄せると、戦いながら自分の声を録音させる。
「響鬼の所へ行くぞ!! 皆、中央へ走れ!!」
3方の鬼達は了解し、裁鬼が駆け出したその時、目の前の土から数十体のドロタボウが壁の様に立ち塞がった。
「くそっ!! コイツ等……」
しかし石割がその先頭の一体を、身体ごとぶつかる様なストレートパンチで粉砕しながら吹き飛ばし、一人分の道を作る。
「裁鬼さん! ここは任せて下さい!!」 「何言ってるんだ!?」
ドロタボウは増え続け、石割が作った道は封じられようとしている。
「早く!! ……僕はまだ、『鬼』じゃないですから。 裁鬼さんの『サポーター』です。」
躊躇う暇も無く、裁鬼は双弦を水平に逆手で構えると、ドロタボウの壁を強行突破して行った。
「死ぬなよ…… 石割…… 石割――!!」
653裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 11:57:39 ID:Yxq0jaetO
一人で100体以上のドロタボウを倒し終えた石割は、残る巨大魔化魍に身構える。
ヤマアラシやオオアリは倒せるが、問題なのは空中を飛行している10体のイッタンモメンだった。
その尾の一撃に足場を崩され、石割は吹き飛ばされる。
「だらしねぇな。」 「……テンキさん!?」
2本の音撃弦を両肩に担いだテンキが、石割の目の前に立っていた。
「ま、良くやった方だ…… おい、テングやらカッパやら、小っこいのは任せるからな。」
2本の弦には、既に音撃震がセットされていた。それを地面に突き立てると、テンキは変身鬼弦『音枷』を弾く。
黄金と漆黒の炎が交ざり合い、渦を巻いて天まで昇り、地が揺れる。
「天鬼・修羅!!」
裁鬼を超える10本の刄状の金の角を、肩、肘、手首、膝、踵に生やし、両手に音撃弦を持つと、まだ増え続けていた魔化魍に突撃していく。
ヤマビコを左手の弦一振りで斬り倒し、その腹に突き刺して素早く掻き鳴らす。ヤマビコが爆発しない内に、バケガニの懐に潜ると、右の弦に力を込めて引っ繰り返し、再び清めの音を弾く。
次の獲物に向かいながら、肩の角を伸ばして弦を巻き取り、手中に戻した。イッタンモメンが鋭い尾を振り下ろしてきたが、逆にその先端を掴み、地上へ叩きつけた。
「……最近の魔化魍は、骨が無ぇなぁ!!」
天鬼・修羅は、肩、肘、踵の6本の角を、一直線に水平に伸ばすと、次々と魔化魍を貫いていった。
凄まじいスピードに避けられるものは無く、角は30体を串刺したまま、天鬼・修羅の目の前を通り過ぎた。
「おい、馬鹿弟子の弟子! 一生に一度拝めるか解んねぇモン、見せてやる!!」
テングを倒す石割が視線を送ると、天鬼・修羅は、目の前に並ぶ6本の角を、まるで弦の様に弾き始めた。
身体から清めの音を角に伝わせる、天鬼の得意技だった。
「究極音撃斬!! 『天地廻り』!!!」
まるで連鎖する様に、空で、地で爆発していく魔化魍達。呆然とする石割もすぐ我に返り、着実に小型魔化魍を撃破していった。
「準備運動にゃ足りなかったが、まあ良いだろ。 この調子で西の方も倒しに行くぞ!」 「ハイ!!」
654裁鬼メインストーリー:2006/01/22(日) 11:58:53 ID:Yxq0jaetO
装甲響鬼が清め続ける石版の周囲では、轟鬼と威吹鬼が苦戦していた。
雷電激震中の轟鬼に襲い掛かったウブメを、急降下してきた蒼い閃光が弾き飛ばした。
「弾鬼さん!」
バケネコを風牙で切り裂きながら、勝鬼が駆けてきた。
ノツゴが飛ばされて来た後、空中で爆発し、続いて闘鬼と剛鬼がやって来た。

「トゥっと登場!!」 「あはははは!」
鋭鬼と蛮鬼が到着した。
そして、片手で石版を叩きながら襲い掛かる魔化魍を斬り続けて来た装甲響鬼の前に、裁鬼が現れた。
「両手で叩いた方が、早く清められるだろ。 雑魚は俺達に任せろ!!」
「裁鬼さん! 石割は!?」
「戦ってるよ…… アイツも、『鬼』だからな!!」
遂に集結した関東十鬼。装甲響鬼が両手に烈火を構えると、裁鬼に言った。
「裁鬼さん、頼みますよ!!」
「誰に言ってるんだ? 響鬼。 ……全員揃ったな。 皆、行くぞ!!」

続く
655最終回予告:2006/01/22(日) 12:03:54 ID:Yxq0jaetO
「裁鬼さん! 大丈夫ですか!?」
「俺に構うな! 清め続けるんだ!!」
「待たせたな諸君!!」
「木暮さん!?」
「サバキさんと、同じ道を歩いて行きます。 僕の歩幅で、僕のペースで、僕の生き方で。」

最終之巻「繋ぐ拳」
656名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 13:05:54 ID:4rRdFUNW0
待ってぇー!待ってぇー!職人さん、終わらせないでぇー!!
うう、でも物凄く楽しみでワクテカが止まらないのも本心です。

さ、ティッシュとタオル用意して、次の更新を待つか・・・・
657名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 20:08:22 ID:3tJuvi8k0
>>624
アカネタカを1000羽飛ばす描写いいですね。
それと「分命の術」ね。ホント、神設定だなー。
再起不能の戸田山が急回復できた理由がこれで出来ましたね。
「もう、酒の味も解らん…… 」(俺、大泣き)

>>649
これですな。

ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E9%9F%BF%E9%AC%BC#.E8.A3.81.E9.AC.BC

>余談ながら某掲示板で裁鬼をメインとしたサイドストーリーが展開されている(2006.1.22現在)。
>30話以前の世界観を保ちつつ本編とのクロスオーバーを試み成功、設定の整合性もさることながらストーリーのできのよさが好評を博している。

>>650-654
これだ!俺が見たかったのはこの描写なんだ!!(俺、男泣き)
658名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 21:15:26 ID:KmHdNLq70
みんな、公式サイトの御感想箱に投下を!
細川インタビューとメールのタケデン細川言だと
続編プランありそ!
659弾鬼SSの筆者:2006/01/22(日) 22:58:29 ID:RC6fv9DZ0
序章に続き一之巻を投下させて頂きます。
本編は終了してしまいましたが、まだまだ広げる事の出来る響鬼ワールドを
少しでも楽しんでもらえたらと思います。

>635
しまった・・・自分南の方在住なモンで・・何も気が付かずに書いてしまいました。
売って・・るんですかね?うま○っちゃん^^;
関東在住の方・・教えてくださいw

>637-638
ご意見ありがとうございます。納得していただけるように未熟ですががんばります。
660番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻:2006/01/22(日) 23:03:34 ID:RC6fv9DZ0
「や〜いい天気だね〜!」
やや、小柄な青年はハンドルを握りながら隣の男に問い掛ける。
運転手の男は名をエイキと。助手席の男はダンキと言った。
「そぉ〜っすねぇ・・・・つか?いいのエイキは?久々の休みをフブキちゃんと過ごさなくて?」
ダンキはジャージのジッパーを弄びながらエイキに言い返した。
「え?いや・・俺とフブキさんは・・そんな仲じゃ・・・そうなりたいけど・・」
真っ赤になって否定する。
「あぁ〜もう!煮え切らないね〜!傍から見りゃ、どう見たって付き合ってるじゃ〜んキミら!」
ダンキは煮え切らない態度のエイキに一喝する。蛮鬼辺りが聞いたら怒るだろうが、喫茶店で仲良くお茶
してる様は傍から見て仲のいいカップルだった。
「やややややや・・・ててて照れる照れる照る照る坊主だなぁ〜〜!!」
エイキは顔だけでなく全身真っ赤になってハンドルを無茶苦茶に操作する。右に左に!
「だぁぁぁ!前前!ヒビキさんじゃあるまいし、紅になるなぁ〜!」

カンカン照りの道を一台の車が悲鳴を混じらせ蛇行しながら疾駆する。

 番外編 仮面ライダー弾鬼 一之巻『再会する弾女(前)』

奥多摩・某所/
ダンキは水色のジャージ。エイキは茶色のジャージ。登山スタイルに着替えたダンキとエイキは荷物を詰め
込んだリュックを背負い山を上り始めた。
「で?ココから遠いの?霊木があんのは]
上り始めて10分もしないうちにダンキは先導するエイキにそう尋ねた。
「ん〜真中らへんかな」
「おいおいおい!随分アバウトじゃん。ホントに平気なの?任せていいの?」
「平気も平気!エイキにお任せ!」
寒い事を言いながら跳ねるように山を駆け上がるダンキとエイキ。流石は鍛えてるだけあり、多少足場が悪
くとも物ともせずに上ってゆく。
661番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻:2006/01/22(日) 23:04:34 ID:RC6fv9DZ0
小一時間ほど山を上り、山道を進み、山道から外れた樹林の中にその木はあった。
エイキは無言で木を示す。ダンキは背負ったリュックを地面に下ろし木に歩み寄った。
見た目はそんなに変わった様子もない木だ。
ダンキは目を瞑り、掌を木の幹に当てた。
ハッキリと判る訳ではない。だが、微かに感じる・・・この木が持つ響きを。
そしてその響きの強さこそが霊木たる証。
未だ未熟なダンキでも感じ取れるその響きの強さは、間違いなく本物だった。
「これだな!」
ダンキは目を開き、その霊木の付近に落ちている太くしっかりとした枝を拾い上げた。
「お前さんの力・・借りるぜ・・・よろしく頼むぜ」
ダンキはその霊木を、木々の間から漏れる日の光にかざし・・新たな相棒に挨拶した。

その後ダンキとエイキは、霊木の場所から少し離れた開けた場所で昼食にする事にした。
エイキは嬉々としてリュックからタッパ―を取り出した。中にはサンドイッチが入っていた。
「フブキさん!頂きます!」
行儀良く手を合わせてサンドイッチを口に運ぶエイキ。だが、エイキの動きがダンキを見て止まった。
「何してんの?ダンキ?」
「何って・・見て判るでしょ〜?メシの準備にきまってんじゃ〜ん!楽だし」
手には魔法瓶とカップメン・・
「・・・山でカップメン・・メンドウじゃない?逆に?」
「いや、俺はいつもこうよ?」
ドボボボボ!と湯をかけるダンキ。風情も何も合ったモンではない。
「それにホントは早く帰りたいんだよ・・俺は」
ダンキの頭には昨日久々に会った吾妻とその後輩の事で埋められていた。
関東にも山は数ある。まさかこんなところでカチ合う事もないだろうが、万が一という事もある。
ダンキは3分経っていないラーメンをすすり始めた。
「せっかくの自然なんだから、焦らず自然体で行こうよ」
「ハイハイ・・さっさと喰って降りるぞ」
「話聞こうね・・ダンキ」
まだ芯の残るメンを噛み切り飲み込むダンキ。
と・・・そこへ・・・・
662番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻:2006/01/22(日) 23:05:32 ID:RC6fv9DZ0
奥多摩・某所/
二人の女性が山道を駆け上がっている。
「先輩!早く早く!」
後輩と思しき女性はリュックを揺らしながら山道を駆け上った。
「・・・ハァ・・ハァ・・ちょっとは・・ペース・・考えなさいよ・・山は・・逃げないからさぁ〜」
「何言ってるんですか!山は逃げなくても、事件とその痕跡は逃げますっ!」
彼女は荒い息をして・・ヘタっている女性に力説する。その勢いに、ポニーテールに纏め上げた髪が
右へ左へ揺れている。
「全く・・ジャーナリストは鍛えてナンボって言ったのは吾妻先輩じゃないですか・・・・・この少し上に
行った所に広い場所がありますから、そこで休憩しましょ」
「・・・随分・・詳しいわね」
「あれから、暇を見つけてはよく来てるんです。奥多摩も広いですから・・・・ここの近くなんですよ・・
私が以前・・お」
「はいはい・・その話は耳にタコが出来るほど聞いたから・・・」
最後まで言わさずに話を打ち切る女性。彼女は昨日ダンキと話をした女性・・吾妻 里美だった。
「やっぱり・・信じてないんでしょ?先輩も・・・」
「いや、信じてあげたいけどね・・・余りにも荒唐無稽って言うか・・・」
沈黙が流れる・・・・
「ま、いいです。いつの日か・・私が正しかった事を証明して見せます!!」
あさっての方向に握り拳を突きつける。こういうヤバい所がなければ可愛い後輩なんだけどねぇ。
吾妻はそう思い、笑った。
「じゃ、その夢をかなえるためにも・・・上の休憩所までスパートかけますか!社訓!千里の道も?」
「一歩から!待ってなさい鬼!悪魔!チュパカブラぁ!」
気合を入れて山を駆け上がる二人。休憩所はすぐ目の前だった。
663番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻:2006/01/22(日) 23:06:05 ID:RC6fv9DZ0
奥多摩・某所/
エイキの話を聞かずに食事を終えたダンキは、早く山を降りようと催促した。エイキはフブキ謹製の
サンドイッチに舌鼓を打っていた。
「あぁ〜もう!残りは車の中で喰えば良いじゃ〜ん!帰りは俺が運転するからさ〜」
「まぁ、そう言わずに。なんならダンキもお一つどう?」
と・・そこへ・・二人の女性が雪崩れ込むように走ってきた。
「あら・・・先客さん・・・・・・・・・・・段田・・君?」
「・・・・・・吾・・妻・・」
「ダンキ・・知り合い?」
ダンキと吾妻は互いに顔を見合わせる。エイキはわけが判らずにサンドイッチを咥えたままだ。
「・・・・・・・・・・・・あ・・ああ・・あの時の」
そして声を震わせるポニーテールの女性。
止まる時。そして重い沈黙。もし漫画だったなら、彼女のバックには黒いモヤのようなモノが渦巻いて
いただろう。
そして、彼女は素早い動きでデジカメを取り出しダンキに向けてシャッターを切った。
「鬼ィィィィィィィ!」
パシャッ!パシャッ!パシャパシャパシャパシャ!
「うわ・・・ちょ・・ヤメ・・・タンマ・・・あぁぁぁぁもう!何でこうなるのよ!」
ダンキは両手で顔を隠しながらそう呟いた。
「ちょっと千明!落ち着いて!」
彼女・・・安藤 千明はかつて自分を救ってくれた男との再会を果たしたのだった。
そこには、感動とかそういうものはまるで無く。
一ジャーナリストの魂が暴走したまま、再会を果たしたのだった。
664名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 23:23:56 ID:zeOUUg4/0
おお、未完だった弾鬼スレSSの続きが読めるとは!千明も相変わらずですなw

>>659
自分も小さい頃そっち在住で、愛食しておりました。
関東にはうま○っちゃんは売ってませんよw
665名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 23:36:36 ID:KmHdNLq70
過去には東京でも売ってたかな?

ttp://www.foods.co.jp/HEAVEN/anohito/1.html
666名無しより愛をこめて:2006/01/22(日) 23:41:23 ID:HFCE5/uM0
やたっ!ダンキSS職人さんGJ!うまくアレコレ絡めましたね。

うま○っちゃん・・・・激安店がスポット仕入れしたと思えばOKじゃないですか?
ウチの近所の激安店では、そういう謎の仕入れルートの商品がフツーに売ら
れています。
667名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 01:29:42 ID:XFdSIZS30
ついさっきこのスレを見つけて、まだ全部読んでないんだけど、
この裁鬼さんの漫画みたいなの書いていいかな?
作者さん、ここの住人の許可が出たら作ってうpしたいんだけど、どうかな?
668名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 01:54:45 ID:8o12tkJy0
うpするならまとめサイト使ったらいいと思う
669名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 03:13:40 ID:mhrwjaBa0
なんつーか、この裁鬼ストーリー書いてる人って実はプロなんじゃない?


んなわけねえか
670裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:07:32 ID:hLn1yYLMO
装甲響鬼の盾となり、魔化魍を倒し続ける裁鬼の脇腹を、ヤマアラシの針が貫いた。
しかし裁鬼は気合いで傷口を塞ぐと、再び装備帯の極楽から清めの音を閻魔と釈迦に纏わせ、乱舞を繰り返す。
「裁鬼さん! 大丈夫ですか!?」
大地の清めを中断した装甲響鬼が、肩で息をする裁鬼の援護にと、装甲声刃を手にした。が……
「俺に構うな! 清め続けるんだ!! 響鬼!!」
上空から襲い掛かってきたバケガラスとオオクビに刀身を発射し、裁鬼は装甲響鬼を守り続けた。
その頃、天鬼・修羅と石割変身体の前には、オロチに依る変異で、増殖を繰り返し続けるバケネコと、空を黒く染める200体近くの飛行するオトロシが、中央への道を阻んでいた。
「音撃射! 疾風一閃!!」
アミキリを倒し終えた威吹鬼が、直ぐ様オオニュウドウに標的を変え、引き金を引いた。
「しまった!!」
鬼石を撃ち尽くしていた。念の為と、みどりから急造・精製された50発を持たされて来ていたが、清めの儀式開始から3時間で、その全てを使ってしまった。
勝鬼の台風、闘鬼の嵐も鬼石を失い、比較的弱いカッパ等の等身大魔化魍を倒す事しか出来なくなってしまった。
それから更に1時間が過ぎると、剛鬼の音撃鼓『金剛』が破裂し、鋭鬼の緑勝が折れた。
「剛鬼、コレを使え!!」 「はい!」
装甲響鬼から火炎鼓を投げ渡され、再び音撃棒『剛力』を構えた剛鬼。
鋭鬼は、折れて地面に落ちた緑勝から鬼石をもぎ取ると、そのまま拳に握り込み、ツチグモに貼りつけた白緑に叩きつけた。
「フテキちゃんに出来て、俺に出来無い筈はねぇ!!」
蛮鬼が冥府魔道を終えた時、、刀弦響にセットしていた地獄の弦が切れる。
微かに動揺したが、父の教えを思い出し、自分の肩口の弦を鬼爪で切り取ると、素早く分解した地獄に張り直した。
「まだまだ行けますね。」
弾鬼も気力が底を突いたのか、粉骨砕身の型から、通常の破砕細石の型を放つ。
「こっからが本番よぉ!!」

天鬼・修羅が空高く飛び、オトロシを地面に落として行き、ついでにバケネコを圧し潰させていった。
石割は墜落するオトロシを避けながら、拳を打ち続ける。
「裁鬼さん…… コイツ等倒して、すぐに追い掛けますから!!」

最終之巻「繋ぐ拳」
671裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:08:34 ID:hLn1yYLMO
装甲響鬼が叩き続ける円柱の石版が、僅かだが地面に埋まり始めた。確実な手応えに、装甲響鬼は烈火を構え直し、更に激しく清めの音を叩き込む。
しかしそれと同時に、鬼達の武器にも限界が近づく。清めの儀式開始から5時間後、遂に音撃弦や音撃棒の鬼石が、砕け始めた。
弾鬼は那智黒の破裂した鬼石の破片を、振りかぶって3体のヤマビコに投げ付けると、勝鬼がそれに向かって台風を吹き鳴らす。
「弾鬼君…… どうしよう?」 「清めの音じゃなくても、壊れるまで衝撃与えたら倒せるんだろ!? やれるまでやろうぜ!!」
右手の風牙を折っていた勝鬼は頷き、弾鬼に続いて走りだした。
剛鬼は素手で火炎鼓を叩き続け、砕けた剛力の破片を貰った闘鬼は、風神怒髪を発射する。
「轟鬼さん!」 「威吹鬼さん!」
二人はバケネコに飛び掛かり、鬼闘術・旋風刃のサマーソルトキックと、雷の気を纏った飛び蹴り、鬼闘術・雷墮蹴を同時に放つ。
「よっしゃ! やったっス!」 「名付けて、『疾風迅雷』ってトコですね。」
裁鬼の双弦は、まだ鬼石が無事だったが、極楽の弦が切れてしまった。
「くそっ!」
石版の周囲は、迫る魔化魍で埋め尽くされており、蛮鬼の様に弦を張り替える余裕が無い。
しかし、清めの儀式に気力を消耗させていく装甲響鬼を護る為、斬撃だけでも、倒せなくとも動きを鈍らせる事は出来ると、構わず乱舞を繰り返した。
「鋭鬼さん!!」
蛮鬼が叫び、鬼達の視線が、ツチグモの糸に絡み取られた鋭鬼に集まる。
「鋭鬼!!」 「くそっ、もうっ! 離せ! この野郎!!」
鋭鬼にツチグモの口が近づき、蛮鬼が走りだすが距離が遠い。誰もが最悪の惨状に心を揺らした時、氷の弾が、ツチグモの糸を砕いた。
「えっ!! 俺…… 助かった!?」
上空で音がすると、2機の輸送ヘリの周囲で、次々とウブメやバケガラスが爆発していった。
「あれは…… 『韋駄天』!?」
威吹鬼が、猛士総本部が有事に備えて所持していた、機体の名を言う。
「待たせたな諸君!!」
「木暮さん!?」 「吹雪鬼さん!!」
開け放たれたハッチから、木暮と吹雪鬼が並び立っていた。鬼石付拡声器『輝』を手に、木暮は叫んだ。
「祭りの場所に着いた! さあ、皆の者! 行け!!」
672裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:10:12 ID:hLn1yYLMO
吹雪鬼を先頭に、2機から、炎や風を纏い変身しながら、全国の半数を越える、60体の鬼が地上に降り立つ。
「そんなんじゃ、まだまだ私を迎えに来られないわね。」 「いやいや! 今まで頑張ってたんだから!!」
新しい鬼石を渡され、鋭鬼は礼を言った。
「送鬼!」 「おっ? それが釈迦か。 小っちぇな。」
音撃鼓『時雨』と音撃棒『水冬』を装備した送鬼から、音撃震を渡され、裁鬼は訊ねた。
「地元は大丈夫なのか!?」 「ああ…… 残った鬼達が食い止めてる。 命懸けでな!」
武器や鬼石を補充し終え、鬼達に木暮が叫ぶ。
「響鬼を援護しろ! 全力で魔化魍を倒せ!!」
『輝』を通した声にイッタンモメンが爆発するのを合図に、集結した鬼達が魔化魍を清めてゆく。
「はるか遠〜くのぉ〜♪」
木暮も自慢の歌を清めの音に変え、空中の魔化魍を倒していく。

天鬼・修羅と石割の所にも、中部の三日月鬼や東北の凱鬼達が応援に駆け付けた。
魔化魍は増え続けるが、70人以上が放つ清めの音は、共鳴・増大し、増殖を許さない。
「響鬼!! 装甲声刃を使え!! 関東の鬼達! 装甲声刃向けて、清めの音を放つんだ!!」
清める石版を前に、装甲響鬼が装甲声刃を構えた。
「鬼神覚声! はあぁぁぁ………!!」
裁鬼と同様に、威吹鬼達も石版の周囲の魔化魍に音撃を放った。
「音撃斬、雷電激震!!」 「音撃射、疾風一閃!」 「音撃打! 破砕細石の型!!」
「音撃射! 暴風一気!!」 「音撃斬…… 冥府魔道!!」 「音撃打! 必殺、必中の型!!」
「音撃射! 風神怒髪!」 「音撃打! 剛腕無双の型!」
「音撃斬! 閻魔裁き!!」
増幅された清めの音が、装甲声刃からほとばしる光の刀身を七色に輝かせる。
「おぉ……」 「それだ響鬼!! それこそ清めの音を高める装甲声刃の真の技、『音撃封 草薙』だ!!」
頭上に構えた『草薙』を、装甲響鬼は石版に振り下ろした。
「せいやぁっ!!」
大地が揺れる程の衝撃の中、石版は地面に埋まっていく。その上部が埋まりきると、自然と土に覆われて草が生え、石版の有った場所は冬の枯れた草原に戻った。
同時に、大量発生していた魔化魍が消滅し、近づく夕暮れへ西に傾く太陽が、鬼達を照らした。
673裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:11:06 ID:hLn1yYLMO
装甲を解いた響鬼の肩を支える威吹鬼が、すみませんと頭を下げた。
「気にするな。 吉野には悪いけど、やっぱ太鼓と言えば、俺がやんないと。」
轟鬼が烈雷を掻き鳴らし、ザンキに勝利を告げた。弾鬼と勝鬼は抱き合って喜び、鋭鬼は吹雪鬼に抱きつこうとしたが、軽く躱されて転んだ。
「……護ったな。」 「はい。」
闘鬼と剛鬼が並んで空を見つめる。蛮鬼は、この勝利を父に早く報告したかった。
「やったな…… 兄弟。」 「ああ。 助かった、礼を言うよ。」
裁鬼と送鬼が、頭上で掌をタッチした。
「お! 馬鹿弟子達、やりやがったな!!」
修羅を解いた天鬼と石割に挨拶し、中央に戻って行く地方の鬼達。
「ほら、お前も行ってやれ!」
「ハイ! あの、ありがとうございました!!」
良いって事よ、と背中を叩かれ、石割は頭を下げた後、走っていった。
顔と腕の変身を解いたテンキは、老人の姿をしていた。腕には、ザンキと同じ梵字が施されている。
「……老兵は、消え去るのみ……」
2本の音撃弦と音枷、トドロキから預かっていた斬撤だけが、舞い散る枯葉の中に置かれていた。
顔の変身を解き、去っていく『韋駄天』を見送った鬼達は、報告の為、たちばなに向かう事にした。
「あ。 スマン、石割。 極楽忘れたから、先に行っててくれ。」
愛車へ迎う途中、サバキは引き返していった。
戦場だった広場に着いたサバキは、極楽を探さず、岩場に向かった。押さえている脇はヤマアラシの針を受けた箇所だった。
「……最後まで、よく保ってくれたな……」
そう呟くと、岩の一つに背中を預けて座り、目を閉じた。脇を押さえていた手が、力無く地面に落ちると、サバキは動かなくなった。
石割。 お前はもう…… 一人前の…… 『鬼』だ……
674裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:12:00 ID:hLn1yYLMO
サバキは、身体が浮遊する感覚の後、静かな足音の様な囁きを聞いた気がした。
目を開けてみると、金色の空が見える。
「天国って…… 本当にあるんだな。」
「そうなんですか?」
石割の声が聞こえた様な気がした。
「……何だ? アイツまで、死んじまったのか?」 「死んでませんよ。 僕も、サバキさんも。」
サバキは視線を動かすと、石割の笑顔が見えた。所謂お姫様抱っこで、サバキは石割に運ばれていた。
「何年一緒に居ると思ってるんです? もうちょっとマシな嘘言って下さい。」
「……ああ、スマン。 歩けるから、下ろしてくれ。」
石割に肩を借り、二人は歩き始めた。
「昨日約束したじゃないですか。 サポーターに成ってくれるって。」 「ああ。 ……二代目サバキのな。」
「……いえ。 僕は僕、サバキさんは、サバキさんですよ。 確かに僕は、サバキさんと、同じ道を歩いて行きます。 僕の歩幅で、僕のペースで、僕の生き方で。」
「……何が、『サバキ』じゃ駄目なんだ?」
「……その道は、サバキさんと同じでも、違う道なんです。 サバキさんが歩く道には、僕が居た様に、僕が歩く道には、『サバキ』さんが居るんです。」
「……そっか。 じゃあ、名前考えてやるよ。 ……師匠として、最後の仕事だな。」 「……お願いします。」
暫らく歩き続けた後、サバキはあっ! と大声を出した。
「しまった……」 「どうしました? 極楽なら、ちゃんと回収してありますよ。」
「石割……」 「はい?」

「……お前の下の名前、なんだっけ?」
675裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:15:22 ID:hLn1yYLMO
『笑顔の種〜僕の裁き〜』
作詞 裁鬼ファン
作曲 引き続き募集

幸せ 無くした 人に笑ってほしい
昔と 同じの幸せは渡せないけど
プレゼントするよ この種 育てて  
一人じゃ無理でも この生命 支え続けているから

剣はいらない この身体盾に戦える
守り抜く力 それだけでいいさ
この夢 信じ続けたい
未来 満たす 花開いた 笑顔

過去につまずかないで
今を生きてる君自身が
あの日よりも強く確実に
未来に進んでいる証だから
仮面はいらない 素顔のまま 生きていく
共に歩む道 終わりを望まない
全ての 笑顔守るまで 
それが 僕の 僕自身への 裁き
676裁鬼ストーリー最終話:2006/01/23(月) 04:18:22 ID:hLn1yYLMO
4月。
たちばなでは、おやっさんが見守る中、イブキが香須実に、団子屋の仕事を習っている。トドロキと日菜佳は、トドロキの従妹である持田ひとみのパネルシアターを観ている。
トウキ一家とゴウキ夫妻が、ハイキングで弁当を食べていると、ゴウキの妻、五月に宿る新たな生命が、胎動した。
北海道は千歳空港、背の小さな男と美女が、抱き合っていた。ダンキとショウキは、すっかりハマってしまったカラオケに、肩を組んで歌っている。
あきらが、横断歩道で、老婆が乗る車椅子を押している。本屋で高い棚に有る医学書を取ろうとしていた明日夢に、バンキが手を差し伸べた。
ヒビキは、京介と共に山に籠もっており、大太鼓を叩いている。
ソウキが弟子の小村小雪を伴い、テンキの妻、さくらの所へ、桜の樹の風景画を届けに来ていた。
工場の責任者を任されている亮太は部下に指示を出し、篤志はツケ場に立ち、握り寿司を客に出していた。
慶伍は昼の連続ドラマに出演しており、和馬のバンドはファーストシングルのレコーディングをしていた。
佐伯家では、穏やかな陽気に暖かいリビングで、春香と彩子が、アルバムを広げて、写真の整理をしていた。

「……お。 当たったぞ! バケガニは猿の1番だ。」 「はい。」
ポイントへ走る二人の前に、童子と姫が現れた。
「鬼か……」 「ああ……」 「……って、サバキさん? いつ引退するんですか!?」
「良いじゃないか、戦闘サポートぐらい。 ……これで最後だからさ。」 「……ヤマアラシの時にも、そう聞きましたが。」
「カタイ事言うなよ。 それより、行くぞ!」 「はい!!」
二人は、変身鬼弦を弾き、炎に包まれていった。

佐伯家のリビング。テーブルの上に置かれているアルバムが、春風にめくられる。
一番新しいページには、一枚の写真があった。
正式な鬼の身体と成るべく、鬼石から24時間清めの音を受け続ける、『鬼の儀』。
その翌日に、彩子が撮った写真の日付は、1月28日となっている。

昨日まで師弟だった、二人の鬼。
赤い四本角の裁鬼と、銀の四本角を持つ、かつての石割変身体―― 一撃鬼が、互いの拳を、強く握り合っていた。



2ヵ月間応援ありがとうございました。
677名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 05:40:39 ID:XNMQHAki0
職人さん、お疲れ様です。
自分の中ではここに書かれた話こそが
裁鬼さん、いえ仮面ライダー響鬼の真のラスト
だと思っています。本当にありがとうございました。
678名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 05:54:48 ID:ANhUAxQZO
職人さん、本当にお疲れさまでした。とても素晴らしい作品だと思います。本編のモヤモヤ感を忘れるくらい感動しました。もっとたくさんの人にこの話を読んでもらいたいですね。
679名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 05:59:37 ID:hQvtqEqa0
本編における説明不足な点や矛盾・疑問に至るまで、全て取り入れた上で一つの作品として昇華する。
その手腕には何度となく驚かされ、感動を受けました。
オリジナルの設定やキャラクターを交えつつも、高い完成度を誇っているのは、作者の作品に対する愛情が伝わってくるように感じました。
ここまで素晴らしいアナザーストーリーを読めたのは初めてです。

二ヶ月の間、ハイペースの執筆お疲れ様でした。
本当にありがとう。いい作品を読ませてもらいました。

680名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 08:43:27 ID:et766NKPO
通勤の電車内で読了しました。いやー朝からホントにいいもの見たな。いろいろ書きたいけど、職人さん、ホントにありがとう。響鬼本編を見続けられたのも多分このスレがあったせいだと思います。お疲れ様でした。
681名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 11:46:10 ID:QEPJ/jT00
今一気に全部読み終わりマスタ
職人様GJ!


四時間くらいかかったよ・・・
682名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 11:50:32 ID:zFDSH1cDO
たった二ヶ月しかやってなかったのか‥なんか一年位やってたような気分だ;
職人さまありがとうございます!
泣きました!
683名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 13:46:20 ID:LgHVYfeQO
くそっ! そんなに俺を感動させたいのか…(つд`)
684名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 14:05:48 ID:xOL57VsW0
すごいの一言に尽きるな・・・
685名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 15:02:11 ID:LF/X+dnS0
職人さん、お疲れ様でした。
十之巻くらいからリアルタイムで読ませていただいてましたが、
感動しました。ありがとうございます!
私的に既にこっちが本編のキモチです。ラスト落涙してしまいました。
686名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 15:26:17 ID:8o12tkJy0
>>682
何が凄いって、書くペースが凄いからな
一日一本のペース
687名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 15:34:19 ID:pkPdjDOH0
>>686
しかも、ID見ると携帯からってのが、もう。


職人さん、お疲れ様でした。本当にありがとう。こんなに楽しませて
もらってええんかい、ってほど毎回ワクテカしながら読みました。
裁鬼さんSSは見事な最終回を迎えてしまったけど、あなたに触発
された職人さんが続々とステキなSSを提供してくれるでしょう。

そして、また機会があったらあなたのSSも読ませて下さいね。
688名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 17:58:55 ID:2lamwJxX0
途中までまとめてみました。
ttp://www.geocities.jp/reef_sabaki/
689名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 18:25:32 ID:K/pRR9cu0
一撃鬼の名で本当にきちゃいました。
おつかれさまです。
690名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 18:45:08 ID:HwdEIhPX0
石割変身体に名前が付いて終わるってのホントカッコイイ。
ホント。感動しました。
戦闘の後のオチも忘れてないしw
一撃鬼って。 いい名前付けましたねえ。
691名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 19:11:22 ID:Lqau3BVc0
>>688
凄く読みやすくなりました!感謝&乙!
後はいかにこの作品を世間に出すかですな!
692名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 19:48:21 ID:8o12tkJy0
>>688
1回スレ全部読んでみような?
693名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 19:51:33 ID:J8nv3kwk0
有難う。私の「響鬼」もこっちが本物。お疲れ様でした。
694名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 19:59:03 ID:U14a3O5A0
スゲエなあ、これぞホントの職人って感じだ。
本編を補完して、更にその上を行ってるんだもんな。
感情のツボきっちりっと突いて来てくれるし。

お疲れ様です。
695名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 20:31:52 ID:FaE7sIcW0
 夢中で読みきりました。裁鬼さん最終回後Wikipediaを読んで気になって
見にきたら、ここまで胸に響きわたるとは。
 不遇だった鬼達も魅力爆発だし、紙化してほしいです。
696名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 20:39:19 ID:Lqau3BVc0
てか
SFハードボイルドストーリー
「裁く鬼」が本編で、そのサブキャラ「響鬼」が少年期の成長を
題材にドラマ化しやすいからTVドラマ化したと脳内完遂してまつ!ww
697名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 20:59:53 ID:3emQPb5T0
 感動しました。
 このSSがあったから、響鬼本編を観る事ができました。
 私自身は、ザンキさんが好きで、でも本編では中途半端な描かれ方だったので、
消化不良気味でした。このSSでは、轟鬼の怪我からザンキが散華するに至るまでの
過程がすごく丁寧に描かれてて、これでやっと、ザンキさんが報われた気がします。
同時に、改めてザンキさんという人物が好きになり、ザンキさんのような人になりたいと
思わせてもらえました。
 職人さん、本当におつかれさまでした。そして、素晴らしい物語をありがとうございました。
698名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 21:09:29 ID:Lqau3BVc0
・・・さて職人さんがよければageていきたいんだが?
699名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 21:15:43 ID:pkPdjDOH0
>>698
ごめん、オレ職人さんじゃないけどsageませんか?
いろんな人に読んで貰いたいとは思うけど、変なアラシがやってきたり
して他の職人さんに迷惑がかかったらイヤだなぁ、と思うのですが。

わがままですかねぇ?
700名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 21:48:19 ID:tfJ9HqWAO
あと300レスもどう裁きましょうか?
701698:2006/01/23(月) 21:57:44 ID:Lqau3BVc0
>>699
それは漏れも心配なトコなんでつ!(だからsageのまんま)
>688を各所に貼るかともおもったが、職人さんの意向が知りたいです。
ただ、もっと多くの人にこの感動を読んで欲しいとの気持ちが強くてね・・・
702名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 22:00:07 ID:OtJEVapp0
>>698

言っていることとやっている事が矛盾してるよw
703名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 22:10:02 ID:U14a3O5A0
>>700
裁きさんたちが主人公のスレと言う事で
704名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 22:39:31 ID:HG9iBtTO0
裁鬼メインストーリー作者さん、乙でした!!2ヶ月本当に楽しめさせてもらいました。
ありがとう、ただそれだけです。
響鬼は終わってしまいましたが、他の鬼メインの話も世界観が広がって面白いと思うんで
ダンキさん作者の方、ゴウキさん作者の方の続きも楽しみにしてます。
705358:2006/01/23(月) 22:41:56 ID:g3fB88uB0
ひっそりやりすぎた?
まとめサイトがいくつあってもかまわんと思うけど。

まとめサイト
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html

まぁ、今後とも一つよろしく。
706698:2006/01/23(月) 22:44:51 ID:Lqau3BVc0
>>702
>701読んでね!
707名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 22:44:55 ID:cCjyloHs0
朱鬼戦もヨブコ戦もフォローされましたが、
『てれびくん』全プレDVDでの裁鬼さんがまだですよね!

(あれは「明日夢の夢」説が濃厚で、そう解釈するしかないとは思うけど…
 もっと職人さんのストーリーが読みたいんだもん…)
708名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 22:51:34 ID:11lL6cl10
GOOD JOB!>職人さん
709名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 23:04:41 ID:OtJEVapp0
>>698

メール欄を見てみ
710698:2006/01/23(月) 23:09:25 ID:Lqau3BVc0
>>709
おお、ほんなこつ気付かんでした!
重ね重ね申し訳なかこつでスマソ!
711名無しより愛をこめて:2006/01/23(月) 23:41:52 ID:5N6QKEHz0
>>676
職人さん、お疲れ様でした。素晴らしい話をありがとうございました。
あっという間に過ぎてしまった様に思えるこの2ヶ月でした。

「響鬼」の中の好きだった部分がこの裁鬼さん話に凝縮されている気がして、嬉しかったです。
響鬼を好きだったことは間違いじゃない、見続けて良かったとも思わせてもらいました。
話を読んで何度も泣き、笑いました。
誰もが見たいと願っていた鬼たちの大終結を見せてくれてありがとう。最高の最終回でした。

何の見返りも求めず、鬼の勇姿を書き続けた職人さんに心から感謝します。
あなたも一人の鬼でした。
712弾鬼SSの筆者:2006/01/23(月) 23:44:10 ID:1TonBPYI0
裁鬼メインストーリー職人さん、2ヶ月間お疲れ様でした。
各地の鬼集結は震え、自分の理想のラストは正にコレでした。
今はとにかくお疲れ様でした!と有難うございました!の言葉しか見つかりません!
2ヶ月間・・楽しませていただき有難うございました。


で、今から弾鬼SS一之巻(中)を投下します。
皆さんの感動をブチ壊しやしないか甚だ不安ですが・・^^;
713番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻:2006/01/23(月) 23:53:45 ID:1TonBPYI0
「では改めまして・・・吾妻里美です。段田君の大学の同級生です」
「安藤千明よ!そっちの鬼は!本名!住所!」
まるで職務質問だ。エイキは隣のダンキをチラりと見る。ダンキの表情は明らかに怒っていた。それも、臨界点突破前だ。
「鬼!早く!」
「・・・・ダンキ」
ダンキはポソリと呟いた。
「段田君?何ダンキって?いつからそんな名前になったの?」
吾妻は心底不思議そうな表情で、ダンキに質問した。だが、怒り心頭寸前のダンキに良い言い訳が出来るはずも無い。
と、そこでエイキが
「段田のアニキ!略してダンキってワケ!ニックネームだね、あぁビックリネーム!!」
「・・・・・・・」「・・・・・・・」「・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・ってのは冗談です」
三人の無言の突っ込みに流石のエイキも耐え切れず消沈する。
そこで、吾妻が場を仕切りなおした。
「千明・・・・まぁ、気持ちはわかるけど・・・この男は紛れもなく唯の一般人よ。大学の時一緒だったんだから・・・
そりゃ、ちょっと短気でがさつで、粗暴で・・タッパはあるけど見かけだけで・・細かい事は何も出来ない男だったけど
・・・悪い人ではないハズよ」
「・・・先輩、フォローになってないです・・多分」
ダンキは怒りと悲しみで全身を細かく震わせている・・・・
「コホン・・でもね、貴方を助けてくれたのが段田君だった。そこまでは良いけど、彼が鬼に変身したなんて話・・それは
無いと思うな」
「でも実際に見たんです!今でも覚えてます!はじめて会った時、一瞬、偽者のヨン様に見えたのも覚えてますし・・・」
それは関係あるのか・・・吾妻とエイキは同時にそう思った。だが、千明は続ける。
「でも、蜘蛛の糸で宙吊りにされた私を助けてくれて・・・逃げて逃げて逃げまくれって・・・言った・・言ったわよね?」
千明はうなだれて体を小刻みに震わせてる弾鬼にそう投げかける。だが、ダンキは何も言わない。というか言えない。
「教えて・・貴方何者で何で鬼になれて・・・なんで・・何も言わずに去っていったのか・・・」
静かに風が吹き、木の葉を舞い散らす。千明の声は少しだけ潤みを含んでいた。
714番外編『仮面ライダー弾鬼』一之巻
「・・・・・段田君・・・この娘は時々突拍子も無い事を言う娘だけど・・根は正直なの。段田君・・キミが大学を辞めてから
の6年間に何があったの・・・話せるところだけでいいから・・・話してくれない?もちろん・・一切公表しないから」
千明の肩を後ろから支えた吾妻はダンキに優しくお願いした。

「・・・・ダンキ。話しにくいのなら・・俺から」
「・・・・・いや・・・いいよ・・・あぁ〜もう!だから早く降りたかったっての!俺は!エイキ、帰ったら中華そばの戎で
ミソラーメン奢れよ!」
ダンキはそこでようやく顔を上げた。
「ええ・・!俺のせい?・・・・・・・・判ったよ!ギョウザもつけよう!ギョウザ参ったか!?」
そこで微かな笑いが起きた。
ダンキはメガネを取り、ジャージの裾でレンズを拭いてから掛け直し、ポツリ、ポツリと話し始めた。
『鬼』である事。あの時千明を襲った『魔化魍』『童子・姫』の事を。

「ってわけでぇ・・・俺はそこで・・人助けしてるってわけよ」
吾妻と千明は・・・余りに現実離れした内容に眩暈を起こした。
「信じられない・・・」
「やっぱり・・・見間違いじゃなかったのね・・・」
「まぁ・・驚くよねぇ〜俺も最初は驚いたよ・・・人が変身するわけないじゃ〜んって」
ダンキは人事のように笑っている。
「・・・・で、吾妻の後輩は・・・どうするのよ?この事を」
「うん・・・まずは心の整理をつける」
言ってポケットからレコーダーを取り出し・・・停止ボタンを押した。
「・・・・・・・・・・何?録音済みってワケ?公表しないって言ったのに・・?」