生体を傷つけずに3次元で捉える顕微鏡『SPIM』
2004年8月12日 11:00am PT 欧州分子生物学研究所(EMBL)の研究者チームが、生体を
かつてないほど深い位置まで観察できる新しい顕微鏡を開発した。(中略)
この技術は『SPIM』(選択的平面照明顕微鏡)と呼ばれている。科学者たちはSPIMを利用
することによって初めて、比較的大きな(2〜3ミリ)生体を、現実の状況下で、標本の破壊
を最小限にとどめながら、さまざまな角度から観察できるようになる。
この顕微鏡の詳細を述べた論文は、8月13日付けの『サイエンス』誌に掲載されている。
先頃、SPIMによりショウジョウバエの胚の発生過程における変化(クイックタイム・ムー
ビー)や、生きているメダカの鼓動する心臓が観察され、生物学者たちは素晴らしい画像や
動画を目にすることとなった。
EMBLの科学者、エルンスト・ステルツァー博士は次のように述べる。「何年も前から、
現行の顕微鏡が科学者のニーズを満たしていないことはわかっていた。われわれはEMBLの
生物学者チームとともに、ニーズと確実に合致するようなSPIM設計にこぎ付けた。この新
しい顕微鏡は製作が容易で、現行技術の約3分の1の費用しかかからず、解像度も5倍ほど向
上している」
「非常に望ましい進歩だと思う。このような開発が進めば、生きている胚の内部で、よ
り多くのことが観察できるようになるだろう」
科学者たちはSPIMを利用して、従来の顕微鏡観察で必要だったように標本生体を切断し
破壊してスライドに固定するのではなく、実際の状況を模した媒体の中で標本を観察でき
る。SPIMでは、標本の体内を透過する非常に薄い層状の光線を照射し、別に用意された複
数の検出器が捉えた画像を記録する。標本を0.5ミクロンずつ移動できるマイクロモーター
により被写体を規則的に光線の中を移動させ、各層の画像を撮影する。
標本に当てられた複数の照射層から抽出された情報は、画像処理アルゴリズムにより3次
元画像に合成される。連続的に撮影された画像からは、発達する胚の動画も作成できる。
この結果、科学者たちは生きている胚の内部深くで生じるタンパク質の発現のパターン
を記録できる。SPIMでは焦点以外の部分に光が当たらないため、通常ありがちな背景のぼ
やけもなく、鮮明な画像が得られる(写真)。
SPIMプロジェクトに参加した研究者、ヤン・フイスケン氏は次のように述べている。
「われわれは標本の照射と検出の機能を分離した。これにより、顕微鏡観察でよく問題に
なる収差や散乱などを抑えられる。この結果、標本内部をさらに深く観察できるようにな
る」(中略)
SPIMの特許は出願中となっており、EMBL研究者チームでは今後1〜2年以内に商品化が
始まると考えている。
記事全文・動画等はこちらです。
Hotwired Japan 2004年8月18日
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/technology/story/20040818302.html Optical Sectioning Deep Inside Live Embryos by Selective Plane Illumination Microscopy
Jan Huisken, Jim Swoger, Filippo Del Bene, Joachim Wittbrodt, Ernst H. K. Stelzer
Science, Vol 305, Issue 5686, 1007-1009 , 13 August 2004
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/305/5686/1007