詳細な実験記録と掃除機の幸運な(そして不運な)使用がてんかんの新しい遺伝的基盤の発見に導いた。
およそ15年前に日周性に関わるPAR bZip転写因子を発見したスイスGeneva大学のUeli Schibler博士らの
グループはPAR bZip転写因子タンパク質群を記述している3種類の日周性に関連する遺伝子を取り除くと、
マウスに加齢の加速やひどいてんかん発作を引き起こす原因になることをノックアウト(KO)マウスの解析から
突き止めた。この結果は6月15日のGenes & Development誌で発表される。
PAR bZip転写因子ファミリーはDBP、HLF、TEFの3つのタンパク質から成り、それぞれの細胞内存在量は
独特な日周性を持っている。時計遺伝子の発現周期がくっきりしている肝臓のような組織では、PAR bZip
タンパク質の発現量は一日を通して50倍も変化するが、脳ではほとんど変化しない。
PAR bZipタンパク質ファミリーの機能を調べるために、マウスのこれらの遺伝子を一つ、二つ、あるいは
三つ全部を破壊した。これらのマウスは見かけは正常だったが、三つとも遺伝子を破壊されたマウス(以下3重
KOマウス)は寿命がかなり短く、半数は2ヶ月以内に、一年ほど生き延びたのは2割にも満たなかった。
しかし、この短命性の原因はすぐにはわからなかった。
この短命性の原因の発見は共同研究者のFred GachonとPascal Gosの非常に詳細な実験ノートに負っている。
二人はある日、月曜日と木曜日 −飼育係がマウス小屋を掃除機で掃除する日− に死亡するマウスが多いことに
気がついた。そこで、3重KOマウスの入った飼育かごを掃除機の近くに置き、掃除機のスイッチを入れたとこ
ろで悲劇は訪れた。約半数のマウスはすぐさま狂ったように走り回り、やがてひどい発作を起こし多くのマウス
は死んでしまった。一方、DBP/HLF2重KOマウスは掃除機の雑音にはまったく影響されなかった。
さらに、これらのマウスの脳の電気的活動を調べたところ、3重KOマウスではてんかん発作を起こす傾向が
わかった。数日間に渡る3重KOマウスの脳波図の記録から、音によるものの他にも全身性自発性発作が起こって
いることがわかった。全体の傾向として、TEF遺伝子を破壊すると多少脳波に異常がみられるが、他の二つの
遺伝子も同時に欠いている場合は全身性の、かつしばしば致死性の発作を起こした。
また、さらなる研究の結果、これらのてんかん発作がPdxkと呼ばれる遺伝子とも関連しているらしいことが
明らかになった。Pdxk遺伝子はビタミンB6を生理活性なリン酸ピリドキサール(PLP)に変換する酵素を記述
しており、PLPはいくつかの神経伝達物質の代謝に重要な役割を果たしている。ビタミンB6欠乏症はヒトや齧歯
類にてんかんを引き起こすことが知られているが、この変換酵素(PDXK)の制御不全自体についてはこれまで
よくわかっていなかった。
Pdxk遺伝子の発現は肝臓、脳双方でPAR bZip転写因子により調整されており、さらに3重KOマウスの脳では
この発現が異常に低いことから、Pdxk遺伝子の発現低下がマウスのてんかんに関わっていると見られる。また、
Pdxk遺伝子はヒトの遺伝性てんかんの一種、Unverricht-Lundborg病の原因遺伝子といわれているCSTBと
近い関係にあり、この点で興味が持たれている。
Loss Of Circadian Genes Results In Epilepsy
http://www.sciencedaily.com/releases/2004/06/040608065742.htm The loss of circadian PAR bZip transcription factors results in epilepsy.
Gachon F, Fonjallaz P, Damiola F, Gos P, Kodama T, Zakany J, Duboule D, Petit B, Tafti M, Schibler U.
Genes Dev. 2004 Jun 2 [Epub ahead of print]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=15175240 Unverricht-Lundborg病
http://gs3.fc2web.com/omim8/254800.htm