1 :
※@※:
ぶりっこでつか?
糸冬 了
4 :
※@※:03/06/02 17:32 ID:dwzIL8oO
きもっ
っもき
7 :
※@※:03/06/02 17:55 ID:dwzIL8oO
さくらって胸ないくせにでしゃばんな
8 :
CC名無したん:03/06/02 18:17 ID:gZcgoH4X
あぼーん
10 :
CC名無したん:03/06/02 18:30 ID:Ue5UV0Oz
つまんね〜煽りでも、反論せずにはいられないさくらたんオタ…
ヽ(`Д´)ノサクラタンヲケナスヤシハシネ!!
♪あーふぉ毛あふぉー毛だいじな毛〜
♪みらいを目指す〜きぼうの毛〜
アホ毛のルーツってさくらたんでFA?
14 :
CC名無したん:03/06/02 18:55 ID:ugaWr7qx
あぼーん
16 :
CC名無したん:03/06/02 19:37 ID:KpPDVXU4
ぶりっことはまた古い言葉を・・
とつっこんでみるテスト
>>13 有元美保「もてもてねーちゃん」だと思う。
18 :
※@※:03/06/02 19:42 ID:P1IaW9Tl
さくら好き=炉リでおk?
19 :
※@※:03/06/02 19:49 ID:P1IaW9Tl
さくらー!!!!!!!!!!!!!!!見ててばからしくなんねーか??
つまんねー煽り。プッ
22 :
CC名無したん:03/06/02 21:23 ID:1XPfTolJ
23 :
動画直リン:03/06/02 21:26 ID:DCxKclKA
24 :
CC名無したん:03/06/02 21:32 ID:1ov9VW4e
25 :
ΣU゚∀゚;U:03/06/02 21:39 ID:38v+j/mA
(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ
26 :
※@※:03/06/02 22:16 ID:P1IaW9Tl
いい加減氏んでくれ!!さくらさくらって・・・おまいら・・日本の将来真っ暗
27 :
CC名無したん:03/06/02 22:17 ID:Pj1QMv0W
最近
>>22みたいなのよく見るけど、
どうやって作ってるの?
あぼーん
29 :
sage:03/06/03 14:22 ID:d1VOyIVf
30 :
※@※:03/06/03 17:05 ID:gC/Rj4Tp
age
31 :
山崎 渉:03/07/15 11:37 ID:lykpZgY2
__∧_∧_
|( ^^ )| <寝るぽ(^^)
|\⌒⌒⌒\
\ |⌒⌒⌒~| 山崎渉
~ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧ ∧_∧
ピュ.ー ( ・3・) ( ^^ ) <これからも僕たちを応援して下さいね(^^)。
=〔~∪ ̄ ̄ ̄∪ ̄ ̄〕
= ◎――――――◎ 山崎渉&ぼるじょあ
34 :
山崎 渉:03/08/15 22:06 ID:AJrGutei
(⌒V⌒)
│ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
⊂| |つ
(_)(_) 山崎パン
35 :
山崎 渉:03/08/15 22:44 ID:AJrGutei
(⌒V⌒)
│ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
⊂| |つ
(_)(_) 山崎パン
1の母でございます。
このたびは、息子がこのようなスレッドを立ててしまい、
皆様には大変ご迷惑をおかけしております。深くお詫び申し上げます。
息子は幼い頃に父親を亡くし、そのショックで内気な子供になって
しまいました。そのせいか、小・中学校ではいじめにあっていたのです。
この年になるまで、恋人はおろか友達さえもいないようで、大変心配
いておりましたが、この2ちゃんねるというサイトを知って以来、息子も
少し明るくなったようです。「今日○○板でね、ドキュソがさあ…」
と、とても楽しそうに夕食の時に話してくれるのです。
どうぞ皆様、息子を暖かく迎えてやってくださいまし。本当は良い子なんです。
よろしくお願い申し上げます。
1の母より
37 :
CC名無したん:03/10/07 00:22 ID:pMfxqIpq
★木之本桜さんを揶揄した番組が打ち切り
・木之本桜さんを揶揄(やゆ)した番組が放映されたとして、テレビ局に
日本大使館などが抗議していた問題で、テレビ局側が番組の放送を打ち切った
ことが わかりました。
番組はハンガリーの民放「TV2」が今年3月から放送していたものです。黒い髪の
かつらに分厚いめがね姿で、木之本桜さんを装ったリポーターがゲストにインタビュー
するという内容で、現地の日本大使館や日本人社会が「日本への偏見を招く」として、
テレビ局側に強く抗議していました。
抗議を受けてテレビ局側は今年5月、 番組を3カ月間休止し、 内容を変更した上で
9月から再開する方針を打ち出していました。しかし、今月に入って日本大使館に
対し「秋の番組編成には入れないことになった」と、 連絡してきたということです。
大使館の担当者は「番組中止の正式な連絡はないが、日本人からの反発が強く、
番組を打ち切らざるを得なくなったのではないか」と話しています。
http://news.tbs.co.jp/headline/tbs_headline827024.html ※URLは変更される場合があります。
x
さくらちゃんが遊びに来たので、WOWOWで録画しておいた妄想代理人を一緒に見た。
ローラーブレードを履いた小学生が金属バットで通り魔をするアニメだ。
「ほえ〜。妄想代理人って妄想さんの後見人の事かと思ったよ。妄想さん、禁治産者だから」
次の瞬間、俺はさくらちゃんの髪を掴むとソファーから引きずり落とした。
「ほえっ!」
「てめぇ、俺がキチガイだと思ってバカにしているだろ」
「ご、ごめんなさい。冗談のつもりで・・・」
「悪い子だ。お仕置きするしかないね」
俺はさくらちゃんのスカートをめくり下着を脱がす。そしてプラスチック製の定規を取り出すと、白い小さいお尻に叩きつけた。
バシッ!
「きゃっ!」
「どうだ。痛いか?だが、俺が心に受けた傷はこんなものじゃないぞ」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!・・・
何度も定規を叩きつけるうちに、さくらちゃんのお尻は真っ赤に腫れ上がりやがて血が滲み出した。
「うえ〜ん、ごめんなさい。許して・・・許してください」
「泣けば許してもらえると思っているのか」
怒りの収まらない俺は、さくらちゃんの髪を掴んだまま外に出た。
外に出ると明らかに日本人ではない集団が歩いていたので声をかけ立ち止まらせた。
「おい、そこのお前等。エラのはっているお前等ですよ」
「な、なにニダ。ウリ達は不法入国なんてしていないニダ」
「そうニダ。謝罪しる」
口々に訳のわからない事を喚きだしたので、面倒になった俺はさくらちゃんの服を引き裂き裸にすると、連中の前に突き飛ばして言った。
「すいません。ごめんなさい。この娘の身体で償わしていただきます。つか、犯していいぞ、不逞鮮人どもめ」
「マンセー」
キムチ臭い息を吐きながら、連中はさくらちゃんに群がる。
「い、痛い。痛いよぅ、抜いてよぅ」
「この日帝の娘は処女ニダ。ウリたちの祖先が受けた痛みを思い知るニダ」
あはははは。さくらちゃん、朝鮮人にチンコ突っ込まれて流血しているよ。すっげー笑える。
「そういえば、さくらちゃん。先月、初潮を迎えたんだよね。うまくいけば、妊娠しちゃうかもね。どこの誰かもわからない、通りすがりの朝鮮人の子供をね。あはははは」
「いやだ、いやだよぅ」
朝鮮人に犯され、泣き叫ぶさくらちゃんを置き去りにして俺は家に戻った。
アニメの続きも見なくっちゃいけないからね。
ぎゃはははは。だ〜い〜こ〜ん〜。
「精神病棟の天使たち」
これは精神病院に入院している、ある一人の男の日記です。
舞台が舞台なだけに、殆どの登場人物がキチガイです。
キチガイの書くキチガイ達の日常ですので、キチガイみたいな内容になるかもしれませんが、キチガイなので大目に見てあげてください。
だってキチガイなんだもん。
▼登場するキチガイ達の紹介▼
■妄想
この日記を書いている人。真性のキチガイで痛風持ち。
自称、元首都警察の上級刑事でケルベロス騒乱に関わったと言っている。
多分、キチガイの妄想。公安が監視をする為に強制入院させたと思い込んでいる。
痛風のくせにモツとかアンキモとかカニ味噌とかウニが大好き。
現在、禁煙中なので、目の前で煙草を吸うとひきつけを起こして暴れる。
■フォルテ・シュトーレン
アル中で脳細胞が破壊されてしまっている。
酔って銃の乱射事件を起こしたことがあるが、キチガイ認定されたため無罪。
でも、二度と病院から出ることは出来ないらしい。
■蘭花・フランボワーズ
ホームレスに集団暴行を受け精神に傷を負う。
看護婦さんの目を盗んではリストカットをしようとするので、病院からも要注意患者としてマークされている。
実は妄想とは異母兄妹なのだが、本人達はその事を知らない。キチガイですからな。
■ミルフィーユ・桜葉
いつもニコニコしている明るい娘。
悪い娘じゃないので、病院からも他の患者からも好かれている。でも、キチガイ。
■ミント・ブラマンシュ
自分が金持ちで名門の出身だと思い込んでおり、変な服を着る癖がある。
年齢に不相応な体型で、多分フリークス。
■ヴァニラ・H
自閉症で感情が皆無に等しい。対人恐怖の為、ノーマッドという人形で腹話術会話をする。
怪しい宗教にもはまっているらしい。
■うさだヒカル
つきあっていた男の子供を妊娠したが、逆上した男に腹を蹴られて流産した。ショックでおかしくなった。
■ピョコラ・アナローグ三世
自称、宇宙人で悪の首領。
家族同然だった仲間を惨殺され、地下室に死体と一緒に三ヶ月間監禁されていたのを救出された。
暴行と虐待も受けたらしく、犯人は依然逃亡中。通称ぴよこ。
■大道寺知世
親友の女の子がバラバラ殺人の犠牲となり、ショックで精神が崩壊した。
■木之本桜
故人。大道寺知世の親友でバラバラに解体されたあげく、饅頭の具にされた。
犯人はまだ捕まっていない。
■天狗様
俺は本当に見たんだって!!
今日から日記を書こうと思う。毎日、休まず書けるといいな。
それにしても、入院食は不味くて気が狂いそうになる。いや、もうキチガイなんだけどね。
あんな粘土みたいなハンバーグを食わされる身にもなってほしい。
口直しに病院の売店で惣菜パンとカップラーメンを買っていると、スリッパをペタペタ鳴らしながらミルフィーユさんがやってきた。
黄色いパジャマが似合っている。
「妄想さん、お買い物ですか?」
「うん、病院の食事が不味くて嫌になるよ。ステーキとかステーキが食べたいな。あと、ステーキとか」
美味い肉が食べたいとぼやいていると、売店のおばちゃんが世間じゃ狂牛病や鳥インフルエンザの所為で、肉不足が深刻化していると言っていた。
「狂牛病になった牛は食べられないのか。じゃ、狂人病になった人間もやっぱり食べられないのかな?」
そう言うとミルフィーユさんは少し困ったような顔をして、その場を離れていった。
俺がキチガイだと思ってバカにしているのか?
バーカバーカ、ミルフィーユのバーカ。お前の母ちゃん北京原人。
日記発見!
って、本当に入院してるのかYO!
がんばって、綺麗な体になって出てきてくださいな。
でも、ネットができる病院っていいですね。
アクセス先とか監視されてないのかな?
昼下がり、作業療法室の前を通ると、女の人が机に向かい、何かを磨いているのに気がついた。
何を磨いてるのか気になったので、声をかけてみることにした。
声をかけると女の人は少し怪訝な顔をしたが、しばらく会話をしているうちに、色々と自分の事を話し始めた。
名前は、フォルテ・シュトーレン。元軍人で退役時には中尉だったそうである。
体調を悪くしたので、軍を辞めて療養生活を送っているそうだ。
(体調云々は言葉を濁したが、まあそうだろう)
「わたしはいつか、軍に復帰するんだ。そのためにも銃を分解して、手入れをきちんとしておかないと」
しかし、彼女が磨いているのは、乾電池や蝶番といったガラクタばかりである。
後で他の人に聞いたのだが、アル中で脳が壊れてしまい、酒代欲しさに銃を乱射して逮捕された人らしい。
そして軍人でもなく、唯の銃マニア。
俺が現役の首都警だった頃に出会っていたら、迷わず銃殺していた事だろう。
天気が良かったので表にある解放治療場へ出てみた。
ここの病院は重度の患者以外は比較的自由に行動出来るので良い。
ベンチに座り、魔法少女がカードを集めるという内容の漫画本を読んでいると、一人の老婆が近づいてきた。
話を聞くと、俺の読んでいた漫画は老婆の孫娘も好きで、真似をしていた事があるそうだ。
しばらく会話をしていると一人の少女がやって来た。
「婆や、こんなところに居たんですの。捜しましたわ」
背丈から小学生ぐらいだろうか。
頭に変な付け耳をしている事を除けば、落ち着いた物腰で育ちの良いことが分かる。
老婆の話していた孫娘が見舞いにでも来たのかと思ったが、二人の会話はかみ合っていない。
少女は老婆に「早く良くなって退院出来るといいですわね」、と言っていたが、その目は焦点が合っていなかった。
夕飯時、食堂でフォルテさんを見つけたので、同じテーブルに座り昼間の事を話してみた。
「ああ、ミントの事か。あの婆さんは実の祖母だよ。あいつ、自分が金持ちの娘で、婆さんの事を婆やだと思い込んでるらしい。ミントの奴、頭いかれているんだよな」
カレーを食べながらフォルテさんが答えた。
つまり、彼女・・・ミントさんはここの入院患者で、見舞いに来ていたのは老婆の方だったという事か。
おまけに、年齢は16歳。しかも夜中になると妙な扮装をして院内を徘徊しているそうだ。
その夜、俺は病院の中を走り回るカードキャプターを見た。
青い髪をしたその少女が大道寺知世と出会い、更なる悲劇を呼ぶことを俺はまだ知らなかった。
少し肌寒かったが解放病棟と閉鎖病棟の間にある中庭まで散歩に出かけた。
病棟に挟まれたこの場所には、小さな噴水、花壇、木々の植え込みがあった。
俺以外には誰も居らず、妙にひっそりとした雰囲気が漂っている。
嘗ての戦いの日々、その現実が遥か彼方の国の出来事で、全てが幻想の産物であったかのように思えてくる。
銃を取り地獄の業火に身を投じる、その日は再び訪れるのだろうか。
噴水の片隅に座りこれからの事を考えていると、閉鎖病棟の二階の窓際に誰かが立っている事に気が付いた。
「女・・・か」
長袖の、少しサイズが大きいシャツを着ているが、その上からでもスタイルの良い事が分かる。
何処かで逢った事があるのだろうか。
少し懐かしい気がする。
長く伸ばした金髪が、窓から差し込む陽の光を受け輝いているのを見ていると、何故だか心臓の鼓動が速くなった。
話をしてみたいと思ったが閉鎖病棟に入ることは出来ない。
窓の下に向かい歩いていくと、俺は上を見上げた。
しかし、彼女が俺の存在に気付く事は無かった。
どんよりとした彼女の目には何も映っておらず、ただ遠くを見つめているだけで、心はここに在らずといった感じだ。
しばらくその場所で彼女を見ていたが、時間ばかりが過ぎ去って行くだけだった。
俺は解放病棟に戻る事にした。
夕飯になり、フォルテさんに彼女の事を尋ねてみたが、閉鎖病棟には行った事が無いので知らないと言われた。
一ヶ月前、閉鎖病棟に居た事は記憶に無いのか・・・
これだからキチガイは。
49 :
CC名無したん:04/02/13 22:02 ID:A5dAV8cN
妄想たん生きてたのか
今日は薬の所為で一日眠っていた。
外出許可が下りたので出かけることにした。
久しぶりの外界。
外に出ると、立ち食いソバ屋で軽く食事を済ませ、病院で読む本を買うために書店に入った。
十分に吟味してから、小説を5冊ほど買った。
深川丼が食べたかったが、この辺には食べられる店は無い。
今度、浅草にでも出かける事があったら食べてこよう。
病院に戻る途中、量販店に入ると、焼き鳥、さくら肉、かきスモーク、おでん、スパム、ビーンズ&ウインナー、ハム、イカの煮物、コンビーフポテトなどの缶詰を購入。
俺は缶詰大好き人間なのだ。
そういえばずっと以前、ケルベロス騒乱の篭城戦の時だったが、パンの缶詰を食べた事がある。
あまり美味いものとは言えなかったが。
まあ、パンは病院の売店でも買えるから問題は無いだろう。
フォルテさんはおでんが好きだと言っていたから、お土産として多めに買うことにした。
彼女は外出許可が下りないうえに、身内もいないので色々と不便が多いそうだ。
ここ数日、日記を書いていなかった。
もっとも、薬を飲んで寝ているだけだったので特に記すことも無かったのだが。
久しぶりに談話室に行ってみると、フォルテさんの横でミルフィーユさんが泣いていた。
何故だかミルフィーユさんはジャージ姿だ。
「ったく、いいかげん泣き止めよ」
「えうう〜。でも〜、でも〜」
いじめ?
元首都警の俺としては黙って見ている訳にはいかない。
俺は二人に近づくと、フォルテさんに言った。
「こら!いじめはいけませんですよ。だめですよ」
「はぁ?何を言っているんだ」
フォルテさんが少し怒ったような顔で言う。
どうやらフォルテさんがミルフィーユさんをいじめていたのではないらしい。
「それじゃあ、どうしてミルフィーユさんは泣いているの?」
一体何があったのか訊ねたが、ミルフィーユさんは泣いてばかりで答えてくれない。
しばらくミルフィーユさんの泣き声だけが響いていたが、この場の雰囲気に耐えられなくなったのかフォルテさんが口を開いた。
「実はミルフィーユの奴・・・」
「あ〜、言っちゃだめです。言わないでください〜」
ミルフィーユさんは腕をパタパタと振り回し、顔を真っ赤にして静止しようとしたが、フォルテさんは無視して言った。
「ミルフィーユの奴、おねしょしちゃったんだと。ったく、いい年して」
「えうう〜。だって〜、だって〜」
なるほど。それでミルフィーユさんはパジャマじゃなくてジャージを着ていたのか。
どうやら寝る前にジュースを沢山飲んだ所為らしい。
睡眠剤も飲んでいるから、トイレに起きられなかったのだろう。
ここは一つ慰めてやるしかない。
「ミルフィーユさん、くよくよするなよ。俺なんてこの歳でウンチ漏らしちゃった事があるんだぜ」
そう言った瞬間、フォルテさんとミルフィーユさんの表情が凍り付いた。
「わ、悪いが、わたしに近寄らないでくれるか」
「漏らしちゃったんですか・・・えんがちょです〜」
二人はそう言い残すと、談話室から出て行ってしまった。
何よ!酷いじゃない!!
新しい患者さんが入院してきた。
名前が「うさだヒカル」という女の子だ。
通路ですれ違った時に挨拶をしたら、酷く怯えて走り去って行った。
俺が凶悪な犯罪者面しているからか?
と思っていたら、男の人に酷い目にあわされてから男性恐怖症になっているのだそうだ。
ミルフィーユさんが話し掛けると普通に会話をしていたし。
かわいそうに。口を聞いてもらえない俺が。
今度、ミルフィーユさんを通して小説でも貸してあげよう。
佐藤友哉の「フリッカー式」とか。
夢を見ていた。
あれは俺がまだ幼かった日の記憶。
うだるような暑い夏の日、近所にある市営プールからの帰り道を、俺は全身汗だくになりながら歩いていた。
その後を、俺よりずっと幼い少女が付いてくる。
「おにいちゃん、歩くのはやい」
タオルや水着の入ったバッグを両手で抱きかかえるように持ち、早足で歩きながら少女は言った。
俺は少し意地悪をしてやろうと思い、小走りに駆け出した。
「あっ、おにいちゃんまって」
背後で少女が驚いたような声を上げたが、俺は無視をして走り続けた。
少女は必死に追いかけてくるが、俺との距離はどんどんと離れていく。
「あっ!」
突然、小さな悲鳴が聞こえたので振り返ると、少女が膝を抱えて道路に座り込んでいた。
転んだのだろう。
さすがにやばいと思い、俺は少女の所まで戻ることにした。
「おにいちゃんのいじわる。だいきらい」
少女は涙ぐんだ目で俺を見上げると言った。
「ご、ごめん・・・〇〇(少女の名前を呼んだのだが、今は思い出す事が出来ない)」
俺は少女の、金色の髪を撫でながら謝った。
多分、かわいかったから意地悪をしたのだと思う。
少女が機嫌を直した頃には夕暮れが迫っていた。
その後、俺は少女をおぶさりオレンジ色の夕日の中を帰った。
「あのね、あたし大きくなったら、おにいちゃんのおよめさんになるの」
背中で少女が言った言葉を今でも覚えている。
だが、俺達が一緒に居られる時は長くは続かなかった。
爆音と硝煙、血の匂い。突然訪れた戦乱の時代。
気が付くと、俺は廃墟と化した街に一人でいた。
敗戦からの復興。首都治安警察への入隊。そして、警察内部での反乱。
飼い犬から野良犬へ。
俺が、あの少女に再び逢える日は来るのだろうか。
なんだか開放病棟のほうに首都治安警察の犬が入院してきたら
しい。全くキチガイというつにはあきれ返る。首都警だって?ま
ったく妄想も甚だしい。俺なんか知事で国会議員で現場監督で天
皇だ。 しかし俺がいる閉鎖病棟はあまりにも暇だ。そのうえ精
神病の薬を馬鹿みたいに飲まされているので眠くて眠くて仕方が
ない。一日に15時間は眠っている。全くどいつもこいつも人をキ
チガイ扱いしやがって。ちょっと包丁もってパチンコ屋で暴れた
だけなのに。
暇なので、いつものように談話室にいた腹話術女をからかって
みることにする。この女は醜いぬいぐるみを腹に抱えて俺のこと
を挑発してくる。時々看護士の目を盗んで腹をグーで殴ったりし
ているが、露見することはない。
「ヴァニラさんになんてことを」
その女が人形を使って看護士に抗議しても、
「あー腹話術上手だね」
アハハハハハ
もっとも看護士の連中も、それをいいことにヴァニラを連日輪
姦しているそうだが。ヴァニラはとにかく見てくれだけはいいの
だ。ちょっとロリ入ってるけど。
それはとにかく気晴らしを開始する。
「ああ、またおまえか、ヴァニラさんに何を」
「エイどリアン!」
どすっ。ボディブローを一発。
ヴァニラの腹は柔らかくて、殴るとなんだか破裂してしまいそ
うだ。
「ああ、ひどい、なんてことを」
こいつはこうやって腹を殴っても全く腹話術をやめない。俺も
なんだかこの醜いピンク色の人形がしゃべっているような気がし
てくる。そして本人の声は神のご加護を、とか宗教的なことを言
っている。こういうところはちょっとした芸だ。
「エイどリアン、エイどリアーン!」
今日の俺は絶好調。それから10分の間に、ヴァニラから3度の
ダウンを奪った。
ここの連中は油断がならない。早く閉鎖病棟を抜け出したいのだが、
家族がそれを許さないだろう。俺はキチガイじゃあない。手術すれば
治るはずだ。とにかく、そんな油断のならない連中の中でDVDプレイ
ヤーを持ち運びするのは気が引けるのだが、日に一回はロッキーを
見ないと死んでしまうのでやむを得ない。アニメのDVDはもう買うのを
やめようと思う。スイートミントを最後に。
ころころころころ…
俺が談話室でDVDを見ていると車椅子でランファが近寄ってきた。こ
の女もヴァニラと同じようにキチガイだが、ヴァニラと比べると少し饒舌
だった。正直なところ、俺はこの女が嫌いだ。今日も何かいいたげに俺
の後ろにやってきて、俺が見ているDVDの画面を覗き込んだ。
「あら〜またこんな映画見てるのぉ?もっとこう、恋愛モノとかないのぉ」
癪に障る。今日こそはガツンと言ってやらないと。
「へっへ。これはこれは。ランファさん。へっへ」
なんだかんだ言いながらもランファは俺が見ている映画が気になった
ようだ。
ころころころころ・・・
俺の横にランファが車椅子で身体を運んできた。アニメキャラだからって、
調子に乗りやがって。畜生。俺は少々乱暴な手段に訴えた。
ランファが見やすいように、少しプレイヤーの画面を向けてやったのだ。
そうこうしているうち、おれの一番大好きなシーン、ロッキーがアポロ戦に
備えてトレーニングをしているところになった。俺はこぶしを握り締め、ラン
ファのことも忘れて映画に没頭した。
♪ちゃら〜ら〜ちゃら〜ら〜
おなじみのテーマ曲に乗って、ロッキーが激しく身体を動かす。
ああ、俺もシャバに出たらがんばろう、キチガイ病院のことなんて忘れて、
ロッキーのように。ハングリー精神だ!
そんな俺の純粋で熱い感情を打ち破ったのは、やはりこの女だった。
「なにこれだっさぁ〜」
「なにおう?」
「だって筋トレ、自重のほかはサイドレイズとバックプレスしかしてないじゃん。
それも50レップとかで。ボクサーに必要なのは三角筋の筋持久力だけなのぉ?
それにうさぎ跳びとかやってるよぉ?ひざ痛めちゃったらどうすんのぉ」
「・・・・・・・・・」
「音楽よ、音楽!音楽にだまされてんのよ。キャハハ!うすっぺら〜」
「おいてめえ!」
俺は切れた。もう我慢できない。
「てめえふざけんなよ!アニメキャラだから今まで我慢してきたけどなあ!もう
ゆるさねえ!ムカついた。こんなにムカついたのは江川のドラフトの時以来だ!
ロッキーなめんなよ!問答無用なんだよ!」
「ええ?ばっかじゃない?だいたい脳内パワーリフターの癖して。悔しかったら
私が健常者だった頃くらいの重量挙げてみなさいよ。あ、脳内は結構よ」
「この三国人!ぶっ殺す!」
がしゃーん!
俺はランファを車椅子ごと放り投げた。ランファの悲鳴が聞こえたような気が
する。そうして、ランファの腰からかかっていた毛布がぱらりと落ちた。
俺はよく知っていることだったが、ランファの胴体は腰から下のところがなか
った。床にへたり込んですすり泣くランファをほうっておいて、俺は再びDVD
に没頭した。
閉鎖病棟の窓から見えた金髪の女の事を考えながら喫煙所で煙草を吸っていると、通りがかったフォルテさんに嫌な顔をされた。
彼女は煙草が嫌いらしい。
昔、なにかあったのだろうか。
俺は煙草を揉み消すと、閉鎖病棟の見える中庭へと向かった。
しかし、どうでもいいのだが最近また太り気味だ。
入院させられるまでは、一日に一食しか食べなかったり不規則な生活を送っていたのだが、ここに来てからは毎日三食を食べているためだろう。
花輪和一の「刑務所の中」でも、刑務所に入れられると一日三食ちゃんと食事が出るので太る、といった話があったのを思い出した。
生活に困ると犯罪を犯し、わざと刑務所に入る馬鹿がいるのもうなずける。
俺が現役の首都警だったら、そんな不逞の輩は即座に銃殺して生きる苦しみから解放してやるのだが。
閉鎖病棟の前に来ると、この間の窓を見上げてみた。
だが、そこには誰の姿も見えない。
そうタイミングよく会えるわけがないか・・・
そんな事を思いながら、格子の入った病棟一階の窓を覗き込んだ俺は驚愕した。
談話室らしい部屋の中で、ピンク色の醜い人形を抱いた少女を殴っている男がいたのだ。
少女は表情一つ変えていなかったが、殴っている男は何か筋力のトレーニングを行っているらしく、太くたくましい腕をしていたので、危険な状況であることは一目瞭然だ。
俺は振り返ると閉鎖病棟の入り口に向かって走り出した。
あんな少女をグーで殴るなんて・・・キチガイめ!!
だが、俺にあの男を倒せるのだろうか。
閉鎖病棟の入り口に辿り着き扉を開けようとしたが、鍵が掛かっているため扉を開く事は出来ない。
「ちくしょう!!開けろ」
扉を叩き叫んだが、騒ぎを聞きつけ駆けつけた看護士によって俺は取り押さえられた。
「放せ!奴を止めなくては・・・俺に手を触れるな!!」
腕にチクリとした痛みが走り、意識が遠のいて行く。
薬を打たれたか・・・
薄れていく意識の中、俺は先輩の刑事が言った言葉を思い出した。
「正義を行えば、世界の半分を怒らせる」
犯罪者に銃を向け処分する俺たち首都警こそが、治安を悪化させる悪の根元であり、犯罪を増加させる要因を作っている。
世論の広がり、首都警察への武装解除命令・・・
そしてケルベロス騒乱が起こった。
66 :
CC名無したん:04/03/07 01:32 ID:RXIj+Aam
暇だ。ヴァニラを殴ることにした。こいつの横っ腹のやわらかさ、壊
れやすそうな儚さは俺にとってとても扇情的だった。いつものように
醜いぬいぐるみを遠くに放り投げてボディをお見舞いする。
ボグ!ボグ!
廊下の支柱の陰に隠れているので他人からは見えない。
ヴァニラはそれでもぼんやりとした顔を俺に向けているだけだ。
痛い、とも言わない。
俺が哀れだと。そういっているように見えるその深い瞳。
と、口から血が伝ってきた。口の中を切ったのか、もしかすると内臓を
痛めたのかも知れない。
ヴァニラの白い肌、口元を流れる血は美しかった。
俺はヴァニラの顔に唇を寄せると、その血を首筋からなめあげて、呑み
干していった。
ざらざらと鉄の味と、少女の頬。
ヴァニラは不意に私に目を合わせた。
「おいしい?」
俺は頷いた。
「おまえは俺が憎くないのか。おまえのことを殴ってばかりいるんだぞ。
俺は卑劣な男なんだぞ」
首を振るヴァニラ。
「憎いも憎くないもありません」
なんだよ、そう思うと外が妙に騒がしくなった。入口ががちゃがちゃ言って
いる。
「やれやれ誰かのお迎えかな」
ヴァニラはわれ関せずといったふうで、ぬいぐるみを引き上げると
自室へと戻っていった。
夜中にウンコがしたくなったのでトイレに向かうと、看護士た
ちが男子トイレでヴァニラを輪姦していた。いつものことだが。
男たちの歓声と、時折ヴァニラの荒い息遣いが聞こえてくる。
なんだか気まずいので物陰で事が終わるのを待った。
しばらくすると、看護士たちが男子トイレから集団で出てきた。
ヴァニラは出てくる様子がない。俺はどうでも良かったのだが、
取りあえずウンコがしたかったので中に入った。
一番奥のトイレの扉が閉まっている。俺はどうでも良かったので、
一番手前の部屋に入って、パンツを脱いだ。ちなみに俺はウンコ
のときはズボンもパンツも前部脱いで、下半身すっぽんぽんになら
ないと出来ないのだ。
やがて、かちゃり、と奥のトイレの扉が開く音が聞こえた。ぺたり、
ぺたりと力なくヴァニラが歩く気配がする。
「心貧しきものに」
ヴァニラが何事かつぶやいている。
「神のご加護を。彼らを救いたまえ」
はぁぁぁぁぁあっぁあぁぁああぁぁぁ?俺はむちゃくちゃに腹が立って、
気がつくと外に飛び出していた。
「おいこら人間便器!おまえ何偽善者ぶってんだよ!レイプされても
あいつらの幸せを祈ってんのかよ!アニメキャラにもほどがあるぞ!
ええおい!過ぎたるは及ばざるが如しって知ってるか?」
ヴァニラは俺を覚めた目で見ている。醜いぬいぐるみを引きずって
いるが、そのぬいぐるみも今日は小声で。
「ヴァニラさんが、汚された、汚された」
としか言わない。
「そこに直れ、町人。手打ちにしてくれる」
俺はヴァニラの肩を掴むとトイレの個室に突き飛ばした。ちょうど様
式の便座に腰掛ける格好でヴァニラはへたり込んだ。
すばやく俺は個室の両壁の上に手をかけると大またを開き、脱糞した。
人間便器の誕生だ
アハハハハハ
69 :
CC名無したん:04/03/09 23:13 ID:dOhEwKDw
さくら
キモッキモッキモッキモッキモッキモッ
暇なのでだるまチャンコロと会話する。キチガイ、変質者、なめくじおとこ、
両性具有、ロリ、ペド、アニオタ、デブ等散々な罵倒を受ける。どうやらこの間
車椅子を転がしたことを根に持っているらしい。狭量な奴だ。
こいつはダルマの癖にまだ乙女チックな(死語)妄想を抱いている。キチガイ
のキチガイたる所以だ。白馬の王子様とか、お金持ちのチョー美男子とか。
アホか。おまえ自分の立場わかってんのか?
こういうことははっきり言ってやったほうが本人のためだ。
「おいよく聞け淫乱チャイナ。おまえは白人が道端のチャンコロを強姦して生
ませた精子ん異常者だ。三国人がアホみたいな妄想偉大てんじゃねーよ。
大体おまえまんこついてないだろ?そんなんじゃ子供とか産めねえジャン。
よくてフェラチオマシーンだよ、フェラチオマシーン。まあ自分でやるよりまし
かなってとこだ。いいから死ねや」
快活だったランファがぐったりと動かなくなり、涙を流すのを見て俺は満足した。
おまえがいけないんだよ。この売女。
やぁやぁ、うへへへへ。
こりゃフォルテさん、ご機嫌麗しゅうございます。
へぇへぇ、ちょいと色々ありまして、気が付いたら数日も眠っていたようです。
なんか無理やり薬を注射されたみたいで。
投薬される度に、頭がボケていくような感じで、気のせいですかね?
いや、しかし、すっかり春らしくなってきましたね。
こうポカポカ陽気がいいと、なんだか落ち着きませんですな。
なんせ、ほら、春の3Kって言うぐらいですから。
花粉症、交尾、キチガイの3Kですよ。
野良犬も場所をわきまえず盛っているのが見られますな。
うへへへへ、セクハラですって?
あ、こりゃ失礼しました。
えーなになに、うさださんが閉鎖病棟に移された?
リストカットを?
こりゃ大変ですね。
なにせ、ほら、閉鎖病棟はキチガイだらけだと聞きますし。
先日もキチガイがキチガイを殴っているのを目撃しちゃいましたから。
おや、看護士さん達がやって来た。
こりゃ皆さん、よいお天気で。
あれ?あっしの腕を掴んでどうしたんですか?
ちょっと、放して・・・やめて、うわああああ。
そっちは閉鎖病棟じゃないですか。
やめろ、放せ、アワアワアワ、エベエベエベ・・・
辛い。もう何回も、この世界をやり直している気がする。
ランファが健常者の世界や、ミルフィーユが淫売の世界など、
いろいろな世界があったがヴァニラさんは常に高潔な思想と
優しさを保ちつづけていたように思う。
どんな世界でもヴァニラさんは素晴らしく、そうして暖かい。
ヴァニラさんの懐に抱かれているととても安らかな気持ちにな
る。
僕はヴァニラさんに酷いことばかりしてきた。そのことはと
ても償いきれることじゃない。看護師たちにレイプされるヴァニ
ラさんをみて、僕は何もできなくなってしまったのだ。
ヴァニラさんは彼らの行いを一切拒まなかった。そして、敏
感な粘膜を触られると声を出したり、呼吸を乱したりした。
ヴァニラさんにも性感があるのだということは、僕を酷く興奮
させた。僕はひそかにヴァニラさんが犯されるのが楽しくなって
しまったのだ。
キチガイはいつもヴァニラさんを殴った。ヴァニラさんは血を
吐いたり顔をしかめたりした。僕はそのキチガイを罵ったが、
それよりも苦痛に顔をゆがめるヴァニラさんが美しくて。
陶然としてしまうほどに彼女は美しい。
ああ、好きです。ヴァニラさん。
今日、閉鎖病棟に患者が何人か担ぎ込まれてきたらしい。
暴力をふるうような奴だったらどうしよう。無茶なことを言う奴だったら?
僕はヴァニラさんを守ることができない。目の前で陵辱される
ヴァニラさんをただ見ているだけなのだ、自分の無力に絶望しながら。
ああ。それでも僕はヴァニラさんを愛している。
ヴァニラさん、一体どうしてこんな野蛮な辺境の星の、
そのまた最悪な施設に収容されることを望まれたの
ですか?あの時あなたが望んでいればもっと素晴らし
い生活、いいえ、富や権力だって。なのにあなたは夜
毎、夜毎…。ああ、ヴァニラさん。私は手をもちません。
脚をもちません。あなたを愛しても、あなたを抱くこと
すらできません。けれど、あなたを愛している。私はも
う気が狂いそうです。ああ、あなたがこの星で相されて
いるように、わたくしも。高性能コンピューターであるこ
の私の脳も。ああ。
ヴァニラさん、、また、口から血が。ああ、おいたわしい。
酷い、切り傷ばかりだ、早く手当てを。あ、ヴァニラさん!
ヴァニラさん!
続編をあまり期待せずに待つ。
妄想さんと入院きちがい(仮名)さんはもうこのスレを忘れてしまったのか。
>>76 今度、入院きちがい(仮名)さんと合同で小説系同人誌を出すことになったので
しばらくそっちに専念したいと思っていますです。
78 :
CC名無したん:04/04/25 01:12 ID:zqPnWnAL
妄想たんと村田たんの同人誌かよ
買うよマジで
閉鎖病棟から開放病棟へ移って3日。あの陰鬱な病棟から開放されたことが
何より嬉しく、そうしてすこうしだけ心残りでなりません。
精神病院は、私にとって揺篭です。私はここでしか生きることを許されており
ません。ですから、ここで起こる事がすべてです。ここだけが私の世界なので
す。
私はさくらちゃんを愛していました。心のそこから愛していました。ええ、そうで
す。歪な愛情と後ろ指を刺されることも、敢えて許容いたします。私はさくらちゃ
んとでしたら、たとい無間地獄のそのまた向こう、何万年という時間の彼方、暗黒
の空へ送られても悔いはありませんでした。むしろさくらちゃんと苦難をともに出
来るのでしたらこれ以上の喜びはありません。
けれども、さくらちゃんはもうこの世にはいません。何故なら、無惨にも殺されてし
まったからです。そうして、私の虚言癖、妄想癖はそのときから始まり、幻覚、幻
聴の帳を常にこの身にまとい、そうして何時までも幻想の世界に身をゆだねて
おりました。
酷い殺され方でありました。ああ、人間の持つ悪魔性、己が心の闇を見よ!
ナチスや731部隊もかくやというように、さくらちゃんは恐ろしい目にあい、そうして
最後まで苦しんで苦しんで、死んだのです。痛かったでしょう、恐ろしかったでしょう。
ああ、そのことはまるで私の罪であるかのように感ぜられて、つろうございます。
そのころに書いていた小説が手元にあります。
「大道寺知世と12人のさくらちゃん」
その世界で私はさまざまなさくらちゃんと手と手を取り合い、喜びも悲しみも分か
ち合い、そうして時には交接を繰り返しました。
原稿用紙にして12万8千枚に及ぶその小説をお母様に見咎められ、そうして私は
有無を言わせずここにつれて来られました。ここにいたるまでの車中で、お母様は
ただただ泣いておられました。おじいさまも泣いておられました。それでもこの小説を
私の手元に残しておかれたのは、どういうわけなのでしょうか。
閉鎖病棟で、改造手術を受けた。そのことをフォルテさんに相談したのだが、
「馬鹿だねえ、そりゃアンタ…」
そういったあと、くすりと笑って、
「まあ、キチガイだからねえ、あたしたちゃ。しょうがないよ」
寂しそうに呟いた。フォルテさんは壊れたラジオをばらしては組み立てている。その不毛な
作業を三回も繰り返した。フォルテさんに、いったい何をしているのか訊いたら、
「見てわからないかい?銃の手入れだよ」
真剣な目つきで言う。
「でも、これはラジオじゃないか」
「銃だよ」
「ラジオですよ」
「銃だって!」
そのうちなんだか俺にもこれが銃の様な気がしてきた。
「ああ、そうか、発射機だもんな。電波の」
フォルテさんは一度は反駁しかけて、そうして頃合のいいところで手を打とうとしたのか、
そうそう、と気のない返事をして作業に戻った。
あとで気がついたのだが、ラジオって受信機だよなァ。
夕方、病棟から運動場に出てすこし散歩した。以前いた閉鎖病棟を見上げると、なぜだか
とても不吉な感じがした。閉鎖の金網の窓の中に、女がいた。その女に見覚えがあったのだが、
名前が思い出せない。日本人ではないのか、チャパツというか金髪と言うか、色素の薄い髪を
していて、そうして肌がとても白かった。
その女はちらり、とこちらを見ると何か複雑な顔をして、そうして姿を消してしまった。
俺はあの閉鎖病棟で、改造手術を受けた。それは間違いない。あれは夢ではない。
「ケダイノウチニシヲユメム」
唐突に背後で声がしたので振り返ると、大きな花をあしらったカチューシャが目に飛び込んで
きた。えへへへ、と声を立てて笑っている。愛らしいと言うか、少し白痴じみていておかしかった。
「えへへへー。セイタカアワダチソウの花言葉なんですよぉ」
また誰かが人のいいこの少女に嘘を教えたらしい。この娘はあまりにも純真すぎる。だから
人にだまされた挙句、心を壊されたのだ。
「俺はあそこで改造手術を受けたんだよ」
そのカチューシャの持ち主、お人よしのミルフィーユに言ってみた。言いながら少し後悔した。
だって、こんなこと言ったらまるでキチガイみたいじゃないか。でもミルフィーユはいっそう破顔
して、
「わああー。なんだか恐ろしいですねえー」
一瞬馬鹿にされているのかと思った。
「本当だよ」
が、どうやら思い過ごしのようだ。我ながら被害妄想が強い。
「で、どんな改造をされたんですかー?」
この子は本気で驚いている。それどころか心配そうに俺の顔を見上げてくるではないか。
「改造、そう、改造されたんだ。頭の中をいじくりまわされて…、ああ畜生、なんだってこんな
こと。ミルフィーユ、聞いてくれ、俺は精神病者だけれど、あんなふうに他人に酷いことはしない。
とても善人なんていえないけれど、でもあんなふうに他人のことを踏みにじったりはしないよ、
それに女の子を殴ったりしない。なのにあいつら人の頭の中弄り回して、頭の中ラジオみたいに
しやがってよう。俺のものじゃない誰かの記憶を押し付けやがった!ああ、畜生」
そのとき。
ぽん、と頭の上にやわらかい感触があった。気がつくと俺はうなだれて、少し涙を流していた。
「だいじょうぶですよぉ。大丈夫」
ミルフィーユは俺を慰めてくれていた。にこにこと笑って、俺の頭を撫でてくれる。俺が顔をあ
げると、俺の頬を拭ってくれた。俺は母親の顔を知らないが、もし母親というものが物語とかで言わ
れるような存在であるとしたら、きっとこうするのだろう。
「改造を。改造を。ううううう」
「大丈夫大丈夫」
ミルフィーユの慰めには根拠が無かった。それでも俺はそれに縋りたかった。
82 :
CC名無したん:04/05/11 05:07 ID:Uj7gZ693
入院した当初は、希死念慮で大変だったというミルフィーユ。その状態から
抜け出すと、今度は酷い抑鬱状態に陥ったのだそうだ。何を言っても答も返さず、
ただ黙々と料理の本を読んだり。
だから、今のミルフィーユの明るさというのはとても貴重で得がたいもので、そう
してソレゆえの儚さを内包していた。ただ単に陽気なだけの女の子なら、俺はあま
りミルフィーユに感心を持たなかったのかも知れない。しかし。
俺の心の中に、昏い感情がある。
――この少女を、壊したい。この儚さの壊れる一瞬をこの目に焼き付けて、一生
その思い出とともに行きたい。
俺はかぶりを振った。なんでそんな風な邪悪な考えが頭をよぎったのか。
改造手術?ああ、馬鹿な。あれは違う。あれは・・・本当の俺じゃない。
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
おかしなラッパで目が覚めました。目覚めるたび、悲しくなります。だって、
目が覚めるとここは薄暗いきちがい病院で、そうしてここにはさくらちゃんは
いないんですもの。まるでがらんどうの世界ですわ。空っぽの世界ですわ。
お母様、本当にいつもいつも有難うございます、食事の前はいつもそう唱え
て、そう、お母様は女でひとつでわたくしをお育てになって。そうして苦労し
て育てた娘がきちがい病院にいるなんて。きっとわたくしならおかしくなって
しまいますわ。
あら。
わたくしったらとっくにおかしいのに。
わたくしきちがいですもの。
とにかく顔を洗って、食事を頂きます。食事には味がございません。まった
く辛いも甘いも酸っぱいも苦いも熱いも冷たいもございません。わたくしてっ
きり病院の食事はこうした味のものなのだと思いまして、看護婦さんには、
「やはり食事の塩分などは控えめなのすね」
などと申し上げまして。そうして、それが実はわたくしの味覚がおかしくな
っていて、お薬が悪いのやら頭の中がおかしいのやら、とにかくそういうわけで
お薬を変えていただいたりいたしましたが、どうにも味がいたしません。
わたくしきちがいですもの。
きちがいにやる餌などあるものですか!えい!
気がつくとお皿を投げていました。どだいここは病院とはいっても脳病院で、
金属のお皿(刑務所みたい、などとおっしゃる人もいます)がからからと耳障り
に転がるだけ、もちろん中身も転がりました。
どうにも自分のすることと目の前で起こっていることの区別が、つきません。
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
喇叭の音が近づいてまいります。
「目標、前方砲弾孔!小隊躍進距離五十!突撃!前ぇ〜!」
凛とした高い声が世界にこだまいたします。ああ、その美しい声は。
まるでドンレミイ・ラ・ピュセルの教会で見たジャンヌダルクの絵のようにさくらちゃん
が軍刀を高く掲げて丘の上に。
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
♪デテクルテキヘイミナミナコロセー
わたくしはさくらちゃんに続こうと走り出して、誰かに腕を捕まれました。
離せ下郎、やあやあ我こそは大道寺コーポレーションが跡取り、大道寺知世なる
ぞ!ひかえいひかえい、ひかえおろう、ここにおわすはミト王子。地球人、イデオ
ンをよこせ!駄目だ、ダラム様の身体には核爆弾が!すぐにアニメの話になるこの
ボキャブラリー、話題の貧弱さ。アニオタ死ね!
必死に喚きたてましたが、あっという間に意識が遠くなってしまいました。
きっとまたセルシン静脈注射ですわ。
わたくしきちがいですもの。うふふ。
薬が良く効いていて、わずらわしいくらいに思う。
眠たいので、気分は落ち着いているというか、落ち込んでいるというか。
でも以前に比べればはるかにましかなあ。
入院する前の俺は、あまり人と接触を持たないようにしていた。俺の心
は人前に出るにはあまりにも醜かったし、だから俺はあんな犯罪を。
ソレに比べればここは別天地だ。ああ、ここは出る事のかなわないキチ
ガイ病院とはいえ。
昼食後、病棟に挟まれた中庭に出る。示し合わせたわけじゃないのだか、
黄色いパジャマに麦わら帽のミルフィーユが植え込みに腰を下ろしている。
と、彼女は突然立ち上がって。
「お花、摘んじゃいましたあ〜」
ミルフィーユが中庭のタンポポを3本ほど、ソレは大切そうに抱えて、
そうして幸せそうにこちらを見ている。俺はミルフィーユの麦わら帽を手に
取ると、帽子に結んであったリボンに花をあしらってみた。
あまり華やかな花じゃないけれど。
「うん、ミルフィーユにぴったりだね」
ミルフィーユはにっこり笑った。たんぽぽも、ミルフィーユも。愛らしい
じゃないか、そうだ、俺たちはそんなに・・・醜いばかりの人間じゃない。
もしかすると、病院の中のほうが俺にとって良い場所なのではないのだろうか。
フォルテさんは頼れる人。ミルフィーユは愛らしい。
なにかが。
俺はもっとこの病院に。
「ミルフィーユは、彼氏とか、いないの?」
はい、いません!とか、元気な返事を期待していたのだが、ミルフィーユの返
事はなかった。俺には彼女はいないのだ.では好きな人は?判らない。ただ金色の
髪を夕日に染めて病院を見下ろしていた女、おとなしいゆえに痛みに耐える少女。
俺は、彼女たちの事はどう思っていたのだろう。彼女たち?彼女たちって誰だ?
と。ミルフィーユの様子がおかしい。
「ミルフィーユ?」
そのとき俺はこの少女のこんなにも痛ましく、悲しく、そうして―美しい涙をは
じめてみた。
「あ、その、ごめんなさい、わたし」
「いや、俺も軽率だったよ。ごめんね」
「そんな」
ミルフィーユはすぐに泣き止んだ。俺たちはそれ以上何をするでもなく中庭でベ
ンチに腰をおろしていた。
ミルフィーユの病の原因は、男なのだろうか。
ああ、もう考えない。夕方まで二人並んでベンチに腰掛けていた。
病院の中にいても、あまり運動する機会はない。時々キャッチボールするだけだ。
といっても今日は相手もいない。フォルテさんなんかは時々付き合ってくれるのだ
が、今日はなにか強い薬を飲まされたとかで眠っているそうだ。仕方なく中庭で壁に
向かってひとりで壁あてをする。
なんだか友達のいない小学生のようだ。むなしくなってきてやめようとすると、小柄な
青い髪の少女が近寄ってきた。
「まあ、一体何をされていますの?」
12,3歳くらいだろうか。この年でこんなところに入れられるなんて大変だなあ。それ
にしても妙な格好だ。宇宙の中心に存在するはくちで盲目の、ぶよぶよの肉の塊であ
り見た人間はすべて失明し発狂する気ぐるみを身にまとっている。
「なんて格好だよ」
「あざとーすですわ」
さすがきちがい。まるで意味不明。けれどその不気味な衣装とは裏腹に、少女の顔
は控えめに言っても整っている。まあ、かわいい部類に入るだろう。
「で、何をなさっていますの?」
「キャッチボール。相手はいないけど」
少女は興味を持ったようだ。
「このボールを投げますの?」
「そうだよ」
少女は転がっていたボールを手に取った。
「何処に?」
「俺のグローブに」
「それはフロイト的な意味で?」
「なに言ってんだお前」
とにかく少女はすこし俺から離れると、ボールを投げようとした。
典型的な女投げ。とにかくスローイングになれていないのが見て取れた。
「あー、あぶな…」
俺が暴投を恐れて周囲に人がいないか見渡すと、いきなり。
少女が思いっきりボールを投げた。そのボールは実にとんでもない威力で、いや、
まったくフォームからは想像もつかなかいくらいすばらしいスピードで――
俺の頭上を越えて行き、50メートルは離れていた閉鎖病棟の3階の窓に突き刺さっ
た。
がしゃん!
ああ、きちがい病院でよかった。窓という窓には金網がついているのだ。しかし。
その金網のむこうに、3っ日ほど前見た例の金髪の女の姿があった。女の表情は遠
くてよくわからなかったが、感情は見て取れた。なぜなら。
何ということだろう。女は内側から分厚い閉鎖病棟の窓ガラスを叩き割り、大声で
叫んだのだ。手の辺りから赤いもの、おそらく血であろう何かが噴出しているのが見て
とれた。
「ミント!このフリークス!何するのよ!」
ミント、と呼ばれた傍らの着ぐるみ女も言い返す。
「なんですってこの淫売!だるまチャンコロ!精液便所の分際で私のような高貴な生
まれのものを呼び捨てにしないでくださいます?っていうか閉鎖の中じゃ大好きなオ
ナニーも満足に出来なくて欲求不満なんじゃございません?この全身性器の…」
そのとき閉鎖病棟の窓の中に異変が起こった。数人の看護士が中の女を取り押さえ
たのだ。暴れる女はなおもなにか奇声を上げていたが、もはや言葉にもならず部屋の
奥へと連れ去られていった。
ミントと呼ばれた少女が呟く。
「まったくランファさんときたら、汚れにレイプさせただけじゃわからないのかしら…」
俺は恐ろしくなってその少女から逃げ去るように走り出した。助けて天狗様!
「KTX速いなー」
フォルテさんと軍人将棋をしていたのだが、俺が長考しているあいだに
フォルテさんはわけのわからないことを言い出した。
「うわー、KTX速いなー」
よく見ると両目を閉じている。居眠りを始めたようだ。それにしてもいっ
たいどんな夢を見ているのだろう。KTXってなんだ?
よく考えるとこの軍人将棋には審判がいなかった。いったいなんでゲーム
が成り立っていたのか良くわからない。とにかく、フォルテさんが眠ってし
まったのでゲームは続行不可能になってしまった。まあ勝ち負けなんてどう
でもいいのだけど。賭けていたのはフォルテさんがてっぽうの弾だと言い張る
オートリメッサ製98年型RMX250S用のチャンバーだったし。かさばる
んだよ、バイクのチャンバーなんて。だいたいこんなでかいものが弾丸だった
として、いったいなんに使うんだ。対戦車ライフルか?全くきちがいはどうし
ようもないな。
「うわわー、KTXはやいなー、もうテグだよ」
きちがいの寝言だ、ほうっておこう。あとになってミルフィーユに、フォル
テさんは昨日のくすりがまだ残っているみたいだから、などと頭を下げられた。
なぜミルフィーユがあやまるのだろう。
今日は俺も眠たかったので昼寝をした。ミルフィーユに昨日の青い髪の少女
のことを聞くのを忘れてしまった。まあ、時間はいくらでもある。明日にでも
聞いてみよう。
閉鎖病棟の保護室に移されてから数日が経過し、やっと室外へ出る許可が下りた。
病棟とは名ばかり、ここは唯の収容所だ。
解放病棟と違い監視の目も厳しく、当然だが屋外へ出る事は出来ない。
コンクリートの壁は汚れ、赤茶色い染みが所々に付いている。(この染みが何なのか、想像するだけで気分が悪くなった)
こんな所に長く居れば本当に気が変になりそうだ。
唯一気が休まるのは、中庭の見渡せる談話室にいる時ぐらいである。
この部屋は窓も広く、日の光も良く差し込んでいるので気分が落ち着く。
昼になり看護士が食事を載せた台車を押しながら談話室に入ってきた。
患者達は虚ろな様子でノロノロと歩きながらトレーを受け取っている。
俺もトレーを受け取ると適当なテーブルに着いた。
食事はミートソーススパゲッティと、茹でた野菜の盛り合わせだ。
スパゲッティと言っても、学校給食のソフト麺みたいな細いウドンのような物で正直不味い。
解放病棟に居た頃も食わされた事があるが、フォルテさんがケチャップヌードルと言って悪態をついていたのを思い出す。
食欲は全くわかず、プラスチック製のフォークで麺を突付いたり掻き混ぜたりしていると、突然何かの割れるような音が室内に響き渡った。
「ミント!このフリークス!何するのよ!」
振り返ると車椅子に座った金髪の女が窓ガラスを叩き割り、血まみれになった両手で宙を掻きながら絶叫している。
前に中庭から見たことがある女だ。
他の患者達はこの騒ぎに全く無関心らしく、誰一人顔を上げる事もなく一心不乱に食事を続けている。
呆然としながら見ていると、振り向いた女と俺の目が合った。
「なによ・・・」
「はい?」
女は俺を睨みつけ、目を見開き怒鳴り散らす。
「なに見てるのよ!このキチガイ!あんたたち全員キチガイよ!キチガイ!キチガイ!キチガイ!」
やばい、この女キチガイだ。どうしていいのか分からず焦りまくる。
すると、騒ぎを聞きつけた看護士が数名やって来て女を取り押さえると、警棒で腹や背中を殴り車椅子から引きずり降ろした。
「ったく、毎度毎度世話を焼かせやがって」
「また、こいつを打たれたいみたいだな」
看護士と共にやって来た医者らしき男が女の腕に注射を打つ。
「い・・・いや・・・薬はいや!やめて!助けて!」
注射器の中の液体が、ゆっくりと腕の中に入っていき、女はどんよりとした虚ろな目になり大人しくなった。
「助けて・・・たす・・・け・・・」
口の淵から涎を垂らし、ぐったりとした女を車椅子に乗せると、医者と看護士達は談話室から出て行った。
どうやら俺はとんでもない場所に来てしまったようだ。
そういえば、うさださんも閉鎖病棟に入れられたらしいが大丈夫なのだろうか。
昼休み、日の光を浴びに外に出る。
精神病院というと鉄格子やら高いフェンスやら、刑務所じみたものを想像する
かも知れないが、実のところ開放病棟においてはほとんど普通の病院と変わりは
ない。鍵もついていないし、基本的に出入りは自由だ。
時々廊下でラジオ体操をしている人がいたりするけれど、それも別段奇異な光
景ではないだろう。ただ、そのラジオ体操を延々8時間にわたって行っていたり
するところがきちがいのきちがいたる所以だと思う。
グラウンドに出て軽く走ってみると、あっという間に息切れした。やはり運動
不足、そう考えかけてはたと思いついた。
改造。
俺はきのうの診察のとき、先生にそれとなく聞いてみた。あのう、僕の脳って
外科的になにか処置をされてるんでしょうか、みたいな。先生はいいや、と軽く
首を振って、なにかカルテに書き込んでいた。その日、レボトミンの分量が増え
ていたのはやはり、俺を…。
昼食はスパゲッティだった。麺類が大好きな俺だが、この味には閉口する。し
かしとにかく食事をきちんと摂ってエネルギーを蓄えないと、何時までも退院で
きないし。ぱさぱさの紙みたいな味のそれを口に押し込む。
「あーあ、いい加減にしてくれないかなあ、このケチャップヌー…」
「だめですよお、フォルテさぁん。きちんと食べないと」
「何言ってんだい。こりゃ人間の食べ物じゃないよ。おでん食べたいなあ、あー、
おでんおでん」
俺の席からはなれて、フォルテさんとミルフィーユがわいわいと食事している。
フォルテさんもすっかり体調を取り戻したようで、良かった良かった。
食後、ぼんやりとしているのに飽きてきて、私物の整理をしてみた。こういう
ことが出来るようになったというのは、良い傾向かなあ。
DVDプレイヤーとかソフトとか。カシオの電子手帳には仕事をしていたときの
予定が残っていた。落ち込むのは間違いないので電子手帳の内容は見なかった。
DVDのドライブに入っていたロッキーを見る。たまには映画も良いものだ。
先日の青い髪の少女のことを訊くや否や、フォルテさんとミルフィーユは顔をそむけた。
夕暮れの作業療法室は静かで、俺たちのほかは小柄な少女が何かをノートに書きつけて
いるだけだ。その少女も今さっき部屋に入ってきたところで、挨拶も何もなくいきなり部屋の
隅の机につくと何かに取り付かれたようにシャープペンシルを手にしたのだ。
ついさっきまで太極拳の講座を受けていたのだが、そのときから彼女たちは浮かない様
子だった。ミルフィーユが元気がないのもヘンだったし、フォルテさんに至っては俺を蹴っ
てきたりした。いくらなんでもきちがいがすぎますよ、だいたい太極拳を習っててなんで八
極拳の奥義とか出してきますか。
「むしゃくしゃするんだよ、こういうのやってると」
などとフォルテさんが言う。むしゃくしゃするのはいいが、俺を壁まで吹っ飛ばすのはや
めてほしい。こんなことしているとまた保護室行きですよあなた。
それはまァいいとして、青い髪の少女のことだ。
「えーと、確か名前はミントとかって」
ミントという名前を聞いて、ビクン、とミルフィーユが肩を
震わせる。相変わらず黄色いパジャマが目に刺さる。
「しらないねえ、そんな奴。だいたい髪の毛が青いって、染
めてんのかそりゃ?ここにいるやつでそんなめんどくさいこ
と出来る奴がいるかなあ。あ、もしかしてアニメキャラとかか
よ、まったくおまえはオタクだよなあ」
「いや、フォルテさんもミルフィーユも面白い髪の毛の色し
てますけど」
「……」
沈黙。
「と、とにかく知らないよっ!あたしゃ知らない!そう、そう。
きっとアニメキャラか何かだよ、夢でも見てたんじゃないの
か、アニメの夢とか。あー、アレだ、アーヴだよアーヴ。遺
伝子操作で」
「あの、わ、私っ!彼女のこと」
フォルテさんをさえぎって、それまで黙っていたミルフィー
ユが突然叫んだ。
ばか、よせ、という声とミルフィーユの説明とが交錯する。ミル
フィーユはフォルテさんに口を塞がれながら、途切れ途切れに
話した。ミルフィーユの目には涙が浮かんでいる。
「最近は妄想が激しくなって…」
その青い髪の少女―ミントという少女は妄想癖があり、最近で
は取り返しのつかないレベルまで行っているのだそうだ。以前か
らおかしな格好で病院をうろついていたので周囲にも良く知られ
ていたのだが、最近では。
「あのう、それで、カードを集めるとかで」
「はぁ?カード?」
説明が進むと、フォルテさんももうミルフィーユを止めなかった。
「なんの妄想なのかわからないんですけど、夜になるとカードを集
めるために病院を走り回っているとかって。先週は、ええと、イリュ
ーシン?のカードを手に入れたって大喜びでした。何でも第二次大
戦中の東部戦線で歴戦のドイツ兵から「黒い死」と恐れられたカー
ドで」
と。そのとき、がたん、と背後で物音がした。振り返るとさっきまで
机に向かってノートに何かしら書いていた女の子が立ち上がって
いた。
「おかしいですわ、そんな、そんな」
まるで幽霊でも見るような目で彼女は俺たちを見た。そうし
て、何事か呟きながら長い髪を振り乱して作業療法室から出
て行った。
がららら、がしゃん。扉の閉め方も乱暴で。大慌てで走り去
っていく。さっきまで熱心に何かを書きつけていたノートもなに
も置きっぱなしだ。
まあここはキチガイ病院なのでその手の奇行には慣れてい
た。ノートはあとで届けてあげることにしよう。それよりも今は。
「なるほど、だいたい事情はわかったけど、ひとつだけ疑問が
ある」
俺はミルフィーユに言った。
「なんでそのことを隠したりしたんだ?別に妄想癖が酷いのな
んてヘンじゃないぞ、ここじゃあ」
「これ以上は勘弁してくれよ、な?」
フォルテさんがあわてて間に入った。それを合図にしたように
、ミルフィーユは声を上げて泣き出した。こうなったらもう話を聞
くどころではない。ただミルフィーユはごめんなさい、ごめんなさ
いと繰り返すばかり。フォルテさんはそれを宥めるばかりで。
ここはいいから、とフォルテさんに半ば追い出される形で作業
療法室を出た。手にはさっきの女の子が残したノートを持って。
さて、さっきの子、すぐ見つかるといいが。それにしてもさっきの
子も若かったなあ。幼いっていったほうが良いかも知れない。
俺は名前を確認しようとノートの裏を見て、そうして何気なくぱら
ぱらとページをめくった。
そう。何気なく。
ここ数日、天気の悪い日が続いているので気分が滅入る。
雨が降ったり止んだりの繰り返しで、気温も湿度も高くなっているようだ。
ふっ、ベトナムを思い出すぜ。行ったことないけど。
気分転換に煙草が吸いたくなったので、看護士さんに預けてあったショッポとライターを返してもらうと喫煙室に入った。
ライターで放火をしたり、煙草の葉を飲んで自殺を図ったりするキチガイがいるので、危険な患者は喫煙も許可されないらしい。
常に監視されているが、俺はまだマトモな方なのかもしれない。
二本立て続けに吸ったあと、看護士さんに礼を言い煙草を預けてから談話室に向かった。
談話室の中では、眼鏡でおさげ髪の少女が一人窓の外を見ていた。
「やぁ、うさださん。久しぶり」
声を掛けるとうさださんは俺の方を見たが、すぐに顔を背けてしまった。
相変わらず嫌われているらしい。
これ以上嫌われるのも嫌だったので少し離れた窓際まで行くと外を見た。
「ぬはっ!」
窓から中庭を見た俺は思わず息を呑んだ。
雨の降る中、フォルテさんがホウキを抱えて匍匐前進を行っている。
泥まみれになって何をやっているのかと思ったが、ずっと前にホウキを磨きながら言った言葉を思い出した。
「これはM1ガーランドライフルって言うんだ。旧式だけどいい銃だぞ。あー、カランタンの攻防戦を思い出すよ」
あれか、軍事訓練をやっているつもりなのか。キチガイ。
「大道寺知世と12人のさくらちゃん」
第6部・中部ソロモン編第25話(第1264話)
”さくらの素敵なレンネル島沖海戦”
南方の焼け付くような日差しも届かぬ薄暗く緑の濃いジャングルの中、
白い肌が交錯している。木の根元で激しく争う二人の少女の姿はいっそ
美しくもあった。見れば片方の少女は完全に服を脱がされ、手錠で身体
の自由を拘束されている。ボーイッシュな短めの髪は少し幼い印象を与
えた。もし彼女に乗っかっているのがむさくるしい中年の男であれば、そ
れはおそらく少女性愛者による強姦にしか見えなかっただろう。しかしそ
の幼い少女の上に身を乗り上げているのは黒髪も麗しい、同じ年のころ
のほっそりした少女なのだ。
「満・願・全ッ席〜〜〜〜〜!」
知世はさくらちゃんの脇腹に噛み付いた。ああ、知世はいけない子で、
駄目な子で、本当にほんとうに駄目な子で。ああ、いけませんわ。これは
小説なのに、またわたくしのいつもの日記のように自分を責めてしまいま
す、いけませんわ、きちんとしないと。ああ、とにかく、知世にはさくらちゃ
んのことを食べちゃうことしか頭にないのだ。だってあまりにもさくらちゃん
が愛らしいから。
パプアニューギニアの密林の中を彷徨すること一ヶ月有余。米軍の攻
撃、現地人の襲撃。そして何より、知世の奸計。やがて訪れた食料の欠
乏と飢餓。一人、また一人と命を落とし、けさ最後の4分の1合の米を炊
いて食べたのだ。そう、さくらちゃん率いる「第2次さくらちゃんカード捜索
隊」は全滅の危機に瀕していた。
「ああ、満願全席〜!ですわ!」
「ほええええええええ!」
絶叫。ああ、密林に木霊するさくらちゃんの悲鳴すら、甘美な香辛料
のように知世の耳に届き、知世の舌を麻痺させた。
「さくらちゃん、ああ、さくらちゃんのここ…おいひいい。プックリしてて、な
んだかコリコリしてる」
さくらちゃんの下腹部に喰らいつき、局部を噛み千切る知世。恍惚の
表情を浮かべているが、その瞳にはいまだに理性が宿っていた。
「やっぱりさくらちゃんのおまんこですわ。ああ、とてもきれいなおまん
こをわたくしかみしだいて…」
さくらちゃんは意識を失うことも発狂することも許されず、だた知世に
オマンコを咀嚼されるのみ。
「ひく…う…くっ…やめてよう、知世ちゃん、いたいよ、痛いよう」
「うふふ…そうは行きませんわ」
知世は自らの下腹部に手をやると、自分で自分を慰め始めた。
元はといえばさくらちゃんが言い出したことで、知世はやむなく
ついてきたのだ。そんな知世の献身も知らず、さくらちゃんは不貞
を。
―許せませんわ。
「泣いても、叫んでも、だあれも、きませんわ、よ」
知世の息が荒くなる。さくらちゃんのかわいらしいツルツルの、ま
るで穢れを知らないおまんこを何度も何度も噛み千切りながら知
世は徐々に徐々に興奮の度合いを高めていくのですわ。ああ、あ
あ。いけませんわ。さくらちゃんのことを思いますと、私、体が火照
ってきて。
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「大道寺知世と12人のさくらちゃん」
第2部・友枝小学校編第1話(第6855話)
”さくらと素敵な突起物”
キーンコーンカーンコーン
友枝小学校に朝のホームルームの予鈴が響き渡る。
「ほええええ、知世ちゃん」
「まあ、どうされましたの?」
席に着いた知世に、さくらちゃんがあわてた様子で近寄ってきた。
「なんだかあそこにヘンなものが生えちゃったよう」
「まあ、ヘンなものって?」
「ううう」
「きちんとおっしゃってくださいな」
「あの…おち…」
勿論知世にはおおよその見当はついているのだ。なぜなら昨晩眠り
についたさくらちゃんを運び出し、大道寺コーポレーションの総力を結
集して岸○田児童虐待事件のK野容疑者のチンポをさくらちゃんに移
植したからだ。
でも。さくらちゃんに言わせたい。
「あの、何が?」
「おちん…おち、おち…」
「さあ、ちゃんとおっしゃって!」
さくらちゃんは真っ赤になってうつむきながら、小声で、しかしはっき
りといった。
「おちんちんが生えてきちゃったの…」
「ええ!」
わざと大げさに驚く知世。
「さくらちゃんにおちんちんが生えてしまったんですって!」
ざわり、とクラス中がざわめく。
「ほえええええ!だめだよ、だめだよう、知世ちゃん!」 必死で否定しよ
うとするさくらちゃん。でも、もう遅い。
「なんだ、木之本。おまえチンポが生えてたのか」
クラスの男子、李小竜がいつの間にかさくらちゃんの後ろに立っていた。
「違うの、シャオランくん、ちがうのー」
「変態め」
さすが三国人。差別意識がすごい。
「ちがうのー」
なみだ目のさくらちゃん。ああ、そんな。悲しまないでくださいな。これから
毎晩わたくしがお慰め申し上げますわ。
さくらちゃんのおちんちん。
さくらちゃんのおちんちん。
さくらちゃんのおちんちん。
さくらちゃんのおちんちんさくらちゃんのおちんちんさくらちゃんのお
ちんちんさくらちゃんのおちんちんさくらちゃんのおちんちんさくらちゃ
んのおちんちんさくらちゃんのおちんちんさくらちゃんのおちんち
丸一ページ、そんな意味不明の言葉で埋め尽くされていたかと思う
と、女の子の名前か、「さくら」という子供が腹部にエイリアンの卵を植
え付けられてそれが羽化する様子を描写していたり、そのようなおぞ
ましい文章が書き連ねられていた。分量が半端ではない。ノートの罫
線に3行ずつ、ようやく判別できるほどの大きさでその”呪い”とでも言
うべき文章は刻まれていた。
俺は目を回し、危うくふらふらと其の場で倒れるところだった。
つい目を通してしまった。俺は女の子の日記を読むほど悪趣味では
ない。ただこのノートの持ち主を確かめたかっただけなのに。
ぱたん。俺はノートをたたむと、決してそれに視線を落とさないようにした。
もはや日は暮れて、廊下は薄暗くなっている。気がつくと人っ子一人いない。
ミルフィーユがまだ泣いているのか、フォルテさんともども俺に追いついてい
る気配もない。
―俺は。見ていない。何も。そうだ、いくらここがきちがい病院だといっても
あまりにもでたらめ過ぎる。あんなおとなしそうな子が、このような恐ろしいこ
とを書くなんて。いくらなんでも。
そこまで考えて、背筋に悪寒が走った。気配というのだろうか、自分はそん
なにカンが良いほうではない。なのに反応できたのは、薬のせいか物音に敏
感になっている身体と思う。とにかくその気配というか悪い予感にしたがって、
俺は振り向きざま身体を右に捻った。その、つい数刻前まで俺の頭部があっ
たところを、ヒュン!となにかが通過していった。
かっ、と壁にその何かが突き刺さる。手裏剣かと思った。いくらなんでも
そんな馬鹿な。そう思ってよくよく見てみると、パンにマーガリンを塗る奴み
たいな金属の何かが壁に刺さっていた。
「見ましたわね」
透き通った声が、廊下に響いた。まったく、嫌になるくらい良く響く。
恐る恐る振り返ると、さっき作業療法室から出て行った娘が、今度はス
モックを着てイーゼルやらスケッチブックやら、画材と思しき何かを肩にか
けてこちらを見ていた。表情は随分とにこやかだ。
「見たんですわね」
ちょっとまて。そんな涼しげな表情で君は俺にペインティングナイフを投
げつけたのか。正直こんなものが頭に刺さったら、血が出るくらいじゃすま
ないぞ。
「見てない。見てない」
「嘘はいけませんわ」
少女はなおも笑みを浮かべつつ、しかし酷薄に言い放つ。肩にかけてい
た荷物を床に下ろし、そうしてキャンバスを廊下の壁に立てかけた。俺は
その様子を見ながら、背中に冷たい汗をかいているのを感じた。
殺される。このままでは、殺される。
なんでこの少女にそのような予感を持ったのか。先ほどのパンにマーガリン
を塗る奴の切れ味。いや、それだけではない。なにか、こう、鬼気迫るものをそ
の少女に感じたのだ。怖い。この子は、恐ろしい。
「さくらちゃん、ここで見ていてくださいな。このような泥棒猫、変質者があなたを
殺したんですわ。酷い目にあわせたんですわ。さあ、いまここで私がその恨み
を晴らして差し上げますわ」
キャンバスには、彼女と同じくらいの少女の肖像。栗色の短い髪を髪留めでま
とめて、海辺で素肌を晒して無防備に立ちつくす少女。絵の中に封ぜられた少女
はあどけない表情で笑っている。それは妖精のように美しくもあった。ただの一箇
所をのぞいて。
美しい肌と未成熟な少女の肉体には酷く不釣合いな、その恐ろしいもの、すな
わち。
絵画の中の少女の股間には、男性の性器が異常なまでに恐ろしく精緻に描か
れていたのだ。
「金ちゃんヌードル食いたいなー」
最近、考えるのは食い物のことばかりだ。
豚の餌みたいな飯ばかりを食わされているので、ジャンクフードですら御馳走に思えてくる。
そんな事を考えていると、コロコロと音を立てながら車椅子に乗った金髪の女が談話室に入ってきた。
この間の女だ。鼓動が早くなり緊張する。
キチガイに対する恐怖からなのか、別の感情からなのか俺には解らないが、先日の凶暴性は無く穏やかな様子なので少し安心した。
「あたし蘭花。蘭花・フランボワーズ、よろしくね」
「え、あ、ああ。うあ、あわあわあわ、えべえべえべ」
突然話しかけられ、緊張のあまり唖みたいな返事をしてしまい後悔する。これじゃ、まるでキチガイみたいじゃないか。えべえべえべ。
「うーん、あんた大丈夫なの?頭とか言語系とか」
つか、お前に言われたくないな。
蘭花と名乗った女は少し怪訝そうな顔をしたが、直ぐに元の表情に戻ると何かに取り憑かれたように勢い良く喋りだした。
「・・・で、そのとき言ってやったのよ。そうそう今度の土曜日に巡回映画上映会があるのよ。
ほら子供の頃に夏休みになると学校の校庭とか農協の駐車場でやっていた無料上映のやつ。
あれって今でもやっているのかな?夜店なんかも出ていて杏飴とか買ったことがあるわ。花火も楽しかったわよね。最近やってないなぁ・・・」
30分程経過した頃だろうか。
蘭花さんは休む暇も無く喋り続けていたが、窓の外に視線を向けた瞬間、表情を曇らせ、親指の爪をカリカリと噛みながらブツブツと何かを呟き始めた。
「だ、大丈夫か?少しは休んだ方が・・・」
「ミントミントミントミント、アイツサエイナケレバ、アイツサエイナケレバ、コロスコロスコロス・・・」
視線が泳いでいる。一体どうしたのだろうか。
俺は窓の外、中庭の方を見た。
そこには3mの宇宙人の着ぐるみを着た青い髪の少女が、不気味な笑みを浮かべ、俺達のいる病棟を睨みつけていた。
「待ってくれ、俺には、君の言うことがさっぱり―」
「うふふ、さくらちゃんの唇は、そう、血のように真っ赤でしたわ。どうしてもその色が出せなかったのですけれども」
彼女はわけのわからないことを呟きつつ、俺の全身を嘗めるように見つめた。俺の言うことなどまるで耳に入っていない。
視姦されるというか。少女の外見からは想像も出来ない、なにか禍々しい別の生物ににらみつけられているような気がする。蹂躙されているような気がする。
ああ、なんだか興奮してきたぞ。
「あなたのどこを切ればあの色が出るのかしら。静脈?動脈?手首?首?」
彼女は懐からペインティングナイフを取り出した。それも3本。手の甲をこちらに向け、まるで鉤爪のように指のあいだに挟む。
「待ってくれ、お願いだ。後生だから、あの」
言いながら俺はどんどん気持ちが昂ぶってくるのを感じた。何でだろう、こうして俺は今殺されるか犯されるか、とにかくめちゃくちゃにぶん殴られるか切り刻まれるか、それは確定した未来だというのに。
「このキャンバスを、あなたの血で染めて差し上げますわ。光栄に思いなさいな、あなたはさくらちゃんの血となり肉となるのですわ」
少女の身長は、低い。彼女の歳がわからないので歳相応のものなのかはわからないが、少なくとも俺よりはかなり低い。それに華奢だ。
体のつくりが、こう、儚げな感じがして。身体はあまり丈夫なほうではないだろう。病院暮らしをしているのだから、これは当然のことなのかもしれない。
ではなぜ俺は目の前の少女に恐怖を感じているのか。相手は刃物を持っているのだ。キチガイに刃物。俺が彼女を叩き伏せても、誰も非難は出来ないだろう。全力で以って彼女に襲い掛かり打ち倒してしまえば。そこまで思いつめて、改めて目の前の少女に向き直る。そして。
駄目だ。
絶対に、殺される。俺と彼女のあいだににあるのは絶望的な種の違いのような。そう、例えるなら、ライオンと草食動物とのあいだにあるような、きわめて特殊な関係だ。
狩るものと、狩られるもの。
だめだ。どうしようもなく興奮している。じりじりと少女が間合いを詰めてくる。
「うふふ。さくらちゃん、見ていてくださいな。今からこの愚劣な男を贄としてあなたの祭壇に捧げますわ。そうしてわたくし一生あなたに祈り続けますの。あなたを神として崇め奉りますわ」
おう、おう、おう。俺は股間に暖かいものを感じ、思わず小便を漏らしたのかと思い、そうしてそれが別のものであると知って愕然とした。俺は射精していたのだ。
「ヴァニラさん、ヴァニラさん!」
意識が混濁する。いつまでも続く射精感。その嵐のような感情の昂ぶりのなか、何かが俺の頭の中でざわついている。
世界が裏返る。なんだろう、いきなりじゃないか。頭がざわざわして。こんなにも現実とは脆弱だったのか。まるで実感がない。目の前の少女が消えた。廊下が消えた。病院が消えた。空が消えた。地面が消えた。
「ヴァニラさん!」
俺は叫んでいた。100億キガヘルツのCPU。その能力の全てが何かの解を求めて全力で動いている。そうして、ただただ何事かを叫んでいた。
なんだ。何が?ヴァニラサン?
俺の脳は電子部品。
そうして身体は。手もなく、足もなく。
気がつくといつも殴られたり銃で撃たれたり。
でも死ぬことはなかった。恐るべき計算能力と死なない肉体。俺は神にも似た至高の存在だったのかもしれない。
人々が望んで病まないもの。
高い知能と、不死。
しかし俺はそのことを以って良しとしなかった。
何十年、何百年。星星を越えて俺はさまよった。そうして、俺は出会ったのだ。
ヴァニラさんと。
俺は彼女の懐に抱かれていることだけを望んだ。それで全ては解決。万事オーケイ。そのはずだった。殴られようがけられようがかまわない。最後にはヴァニラさんが俺を拾い上げてくれるのだから。
では。
何が問題だったのだ?
「バン、バンバーン!」
銃声とか炸裂音、ではない。人の声だった。その声で俺は我に帰ろうとする。
―ああ、少しだけヴァニラさんの横顔が見えた。ヴァニラさんは少し寂しげなように見えた。儚げで、切なげで。一見無表情に見えるヴァニラさんの微妙な感情の変化を読み取ることが出来るのは、この私の。
「バンバンバン!」
騒がしい。周囲に音が戻り、そうして色が戻った。地に足が着き、そうして世界が帰って来た。俺が帰ってきたのか、世界のほうから俺のほうへと歩み寄ってきたのか。
夢の中にいたのは、どのくらいだったろう。はっ、と気がつくと。フォルテさんが掃除のほうきをまるでライフルを構えるように捧げもって、
「バンバンバンバァーン!」
と叫んでいた。俺は病院の廊下に仰向けにひっくり返って、フォルテさんが叫んでいるのをぼんやりと見つめていた。
「フォルテさん」
やっと、声が出た。ああ、よかった。ちゃんと声が出る。俺の身体だ。
「おい、大丈夫かい?心配すんな、キチガイはあたしたちがおっぱらってやったよ」
「追っ払ったって、何を」
「何をって、おまえ」
フォルテさんが俺の方を見やって、唖然として言う。
「自分でわからないのか…あ!あの女!バン!バァーン!」
「フォルテさん」
「なんだい、今忙しいんだ、後にしてくれ」
「いや、何してんの?」
「見てわからないのかい?あんたを助けるために、騎兵隊よろしく駆けつけて銃撃戦の真っ最中さ!」
バンバンバァーン!ほうきを手にしたフォルテさんが叫ぶ。自分の口で。まあ、キチガイのすることだ。黙って感謝しておこう。
フォルテさんが銃撃している―今はそういうことにしておこう―方向に、必死になって走り去る少女の姿があった。
「あなたたちきちがいども、皆殺しですわ!」
物騒な捨て台詞を残して。
「フォルテさん」
「バン!…バ…」
突然叫ぶのをやめたフォルテさんがほうきを激しく揺さぶった。真ん中のあたりを右手で引っかくような動作をする。
「フォルテさん、どうしたの?」
「ジャムった。全く、これだからアーマライトは信用できないんだ!」
芸の細かい妄想だなぁ。フォルテさんはほうきを放り投げた。
「それよりも手当てが先だな。傷は浅いぞしっかりしろ!衛生兵!衛生兵!」
フォルテさん、いつまで妄想にふけっているんだ。もういい加減に―
「衛生兵はともかく、今病院の人を呼んできましたから!」
あれ、ミルフィーユが走ってきた。血相を変えている。どうも今日はミルフィーユらしくない表情をさせてしまっているなあ。泣かせたり、心配させたり。
「やあ、ミルフィーユ。さっきはごめん」
「そんなことはいいですから、とにかく動かないでください。こんな酷いこと、どうして」
それで、ふっと、理解した。俺はフォルテさんの妄想の境目を見極められなかったようだ。つまり俺は少しばかり怪我をしている、ということらしい。
恐る恐る俺は視線を足元にやり、そうして、自分の身体を見た。
あれ。真っ赤だ。
(あなたのどこを切ればあの色が出るのかしら。静脈?動脈?手首?首?)
俺の身体は切り傷だらけになっており、全身から血を流していた。俺の身体はまさに血の海に横たわっている、といった形容がぴったりで。情けないことに、俺はまた気を失ってしまった。
大道寺知世。12歳。
俺をなます切りにした少女について、医師から知りえた情報はそれだけだった。病院にとっても重大な不祥事だしずいぶんといろんな人がかわるがわる俺に会いに来たが、結局きちがい同士のすることなのでなんだかんだともみ消されるに違いない。
彼女が鋭い刃物のようなものをもっていたことなど、いくらでも聞きたいことはあるのだけれど。
何しろ俺の脳を改造してしまうような病院だ。あまりややこしいことを言ってしまうと閉鎖病棟にぶち込まれて、また改造されてしまう。それは避けたいところだ。それに俺自身、彼女についてそれほど腹を立てているわけではない。
守秘義務、というのは理解しているし、俺が大道寺知世に会うことはしばらく、あるいは一生ありえないだろう、だから彼女について知ったところで無意味だった。きちがいのすることだし、それ以前になんだかあそこまで激しく人を憎んでいる彼女が少し哀れに思えたというか。
思い上がりであることは承知の上だが、不思議と詮索をする気にはなれなかった。もしかすると薬物でごまかされているのかもしれないが、そうやって考えていくときりがないのでやめることにする。
怪我はそうたいしたことはなかった。派手に出血していたものの、全て皮膚を薄く切ったという程度で、腱や太い血管に達しているものはなかったのだ。体中にみみずばれのようなかさぶたが出来ていたが、今日は痛みもなく、ほぼ回復したといってよかった。
午後、大道寺園美という女性が俺を尋ねてきた。上品できりっとした人で、ぱりっとした高価そうなスーツを着こなしている。ずいぶんと恐縮していたものの、その表情には強い意志のようなものを感じさせた。
病院の応接室だろうか、ずいぶんと上等な部屋に呼び出されたことも驚いた(普通面会といえば病棟内の面会室かロビーかだからだ)。あとで話をしている最中に知ったことなのだがずいぶんと大きな会社を経営しているのだそうで、道理で、などと納得した。
その応接室で向き合って席に着いた私に、彼女は持参した菓子折りのようなものを差し出して、そうして名前からも察せられるように、大道寺知世の母親であることを私に告げた。
そのいかにもキャリアウーマン然とした面持ちの淑女があまりにも平身低頭するので、自分もなんだかしどろもどろになって、とにかく自分としても気にはしていないし別段どうするということもないことを一生懸命伝えたのだが、なかなか納得してもらえず。
示談、などと言う単語まで飛び出してきたので面食らった。
結局夕刻まで話をしたあと、いくばくかの金銭的補償を受けるということで納得した。
精神病院の中にいて金銭感覚が乏しくなっていたのだが、よく考えると入院費とかいろいろ必要だし、自分にも一応のたくわえはあるのだけれど、悪い話ではない。
第一いい大人が自分の子供のしたことに対して謝罪に出向いておいて手ぶらで帰ると言うわけにもいかないだろう、一応首肯しておいた。
金額に関しては尋ねなかった。
病院のロビーまで彼女を見送りに行ったのだが、最後まで彼女は頭を下げていた。いくらきちがいの娘がしでかしたこととはいえ、俺みたいなきちがいに頭を下げるのは、ずいぶんと屈辱的だろう。彼女の心境を思いやると、少々複雑だった。
大道寺知世は閉鎖病棟に送られたのか、保護室に入れられているのか。彼女を見かけることもなく、誰かに所在を尋ねることもしなかったので不明のままだ。もしかすると転院しているのかもしれない。
中庭をほっつき歩きながら、数日前の奇妙な出来事について考えてみた。
年端も行かない少女に襲われるというのも大変なことだったが、それよりも俺がおちいった感覚失調のほうがはるかに不可解だった。何しろいろいろ思い当たることが多すぎて。
まず、俺はきちがいだ。これは今俺がここにいることが何よりの証拠である。医師の診断では統合失調症(精神分裂病)とされている。少なくとも世間にはそう認知される状態である。
つまりきちがいの一症状として、過度のストレスによって幻覚を見た、というのが適切な判断であると思う。
それと、改造手術の後遺症。なにしろ脳をいじられて、ラジオみたいになっているのだ。いつ何処から電波を受信するかわからない。まあ、これもきちがいだからなんだけど。
最後に。薬物の投与。副作用によるものか、主作用なのかもしれないけど、とにかくせん妄状態におちいった。これも俺がきちがいだからなんだけど。
結局きちがいだからあんな夢か幻をみた、などというつまらない結論に達するのだ。そう、普通はそうなのだが。
しかし、それなら”ヴァニラサン”とはなんだ?夢にしろなんにしろ、俺が経験したり見聞きしたりしていたものでなければ俺は心に思い浮かべることも出来ないのではないだろうか。
なら俺の経験の中に、”ヴァニラサン”というもの、ひと、状態があったのだろうか。あるとすればそれは一体なんだろうか。だめだ、わからない。
ヴァニラサン。ヴァニラサン。ヴァニラサン。
心の中で唱えてみる。しかし、むなしく心の闇の中を反響して、元の疑問へと形を戻してしまう。日が高くなるにつれ、気温が上がり汗ばむほどになった。
俺が中庭の木陰で考え込んでいると、奇妙なものが立っているのが見えた。
なんだ。刃物?
俺はこの間のことを思い出してぎょっとした。だが、それは刃物であるにはあるのだが、あまりにも巨大で人が扱うものではない。
そう、ちょうど人間くらいの大きさで。ゲッタートマホークみたいな感じだな。いや、実際にゲッタートマホークとか見たことないけど。とにかく巨大な戦斧で、無骨なデザインの柄の中ごろ、丁度俺の胸の辺りに顔が…って、おい。
「またお前か、えーと、ミント」
「まあ、よくも私の変装を」
「なにが変装だ。大体なんだよこのかっこう」
「ラスコーリニコフの斧ですわ」
「ラス…なに?」
「この斧であのきちがいの頭を叩き割って貧乏人どもにお金をわけてやるんですの」
ミントはそういうと閉鎖のほうをじろりと睨んだ。まさか、と思って振り返ると閉鎖病棟の窓の中から、例の金髪の女がこちらをすさまじい形相で睨んでいた。
一体、どれぐらい意識を失っていたのだろうか。
ひょっとしたら数日かもしれないし数分なのかもしれない。
横になっていたベッドから起き上がると後頭部に痛みを感じた。
指先で触れると髪の毛にこびり付き乾燥した血液がボロボロと剥がれ落ちる。
酷く殴られたらしい。
頭が変になったらどうしてくれるのだ。
少しばかりイラついたが、室内を見回すと自分の病室だと分かり僅かながら安心する。
保護室に閉じ込められるのは、もう懲り懲りだったからだ。
時計を見ると夕方の四時を過ぎている。
俺はふら付く足取りで病室を出ると談話室に向かった。
談話室には誰も居らず、夕暮れの日差しが室内を赤く染めている。
たしかここで・・・記憶の糸を探り、ここで起きた出来事をゆっくりと思い出した。
「三メートルの宇宙人!・・・のコスプレか?なんだあいつは」
窓の外、中庭には奇妙な格好をした青髪の少女が俺達の方を睨んでいた。
いや、睨まれているのは俺ではない。蘭花さんの方だ。
「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
突然、蘭花さんは奇声を上げると窓ガラスを殴りだした。
先日のようにガラスを叩き割られると危険だと思った俺は、両手を掴むと暴れないように押さえ込んだ。
「お、おい!蘭花さん落ち着け。しっかりするんだ」
「ミント殺す、殺してやる。あいつの所為で、あいつの所為で」
いくら話し掛けても声は届いていないらしく、逆に身体を揺さぶって激しく暴れだす。
うぎゃあ、どうすればいいんだ。暴れないでくれよ。やめてくれよ。
予想以上に蘭花さんの力は強く、バランスを崩した俺は彼女を押し倒して床に倒れこんだ。
キィキィキィ・・・
倒れた車椅子のタイヤが回転する音が響き渡る。
「いてて・・・大丈夫か?」
起き上がろうとした俺は硬直してしまった。
俺と蘭花さん、お互いの顔は僅か二十センチ程の距離にまで近づいていたのだ。
しかも、右手にはやわらかな感触、ふくよかな彼女の胸を掴んでいた。
うわ、アニメみたい。こんな状況になるのはアニメかエロゲーぐらいだぞ。
さすがはキチガイ病院だ。一般常識では計り知れない事が平然と起こる。
倒れたショックで彼女も正気を取り戻したらしいが、いきなり目の前に俺が居たので驚いているらしい。
心臓の鼓動が速くなり息が詰まりそうになる。
それは俺だけでなく蘭花さんも同じらしく、手に平を通して彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。
そして、何故だか解らなかったが、俺達は無意識のうちに目を閉じると口付けを交わそうとしてした。
「きゃーーー!強姦魔!両足の無い女の人が犯されそうになっている!」
背後から耳を裂くような悲鳴と叫び声が上がる。
振り返ると、うさださんが震えながら俺達を指差していた。
何か勘違いをされているようだ。
「いや、待ってくれ。これは違う」
「そ、そうよ。そうじゃなくって・・・っていうかいつまで上に乗っかっているのよ。胸さわるなー!」
蘭花さんも相当焦ったらしく、動揺しながら悪態を付き始めた。
やばい、元首都治安警察特機隊、正義の為にはどんな悪も許さなかった俺が犯罪者にされてしまう。
しかも強姦魔。
弁解をしようと立ち上がった俺の後頭部に衝撃が走った。
ボゴッ!!
目の前が真っ赤になり、俺は再び床に倒れこんだ。
「こんなところで盛るな。このキチガイ患者ども」
意識を失いかけたが、どうにか耐え頭を上げると、警棒を手にした看護士が俺を見下ろしていた。
どうやら、うさださんの悲鳴を聞きつけた看護士が俺を殴り倒したらしい。
「どうせこの淫乱チャイナが誘ったんだろ。よくこんなダルマと犯ろうって気になるな」
もう一人の看護士が蘭花さんの頭を靴の先で小突きながら言った。
「あ、あたしは何もしてない。ただの事故よ」
「ごちゃごちゃうるさい、メスブタ。お前が騒ぎを起こす度に始末しなくちゃいけない俺達の身にもなってみろ」
ボグッ!!
蘭花さんのみぞおちに蹴りが入れられる。
「がっ」
搾り出すような声を上げ、蘭花さんは白目を剥いて気を失った。
酷い、なんて事をしやがる。こいつら殺す。
俺は頭を押さえながら立ち上がると看護士の元へ歩み寄った。
殴られた部分から流血しているらしく、首筋に生暖かいものが感じられる。
目が霞み相手が良く見えなかったが俺は殴りかかった。
だが、看護士はかるくよけると警棒で再び俺を叩きのめした。
看護士達は何かを怒鳴りながら俺を袋叩きにしたが、それから先の事は覚えていない。
こんな所にいつまでもいたら殺されるか、完全に発狂してしまうだろう。
彼女を、蘭花さんを連れて脱走するしかない。
談話室の窓から夕日を見ながら俺は思った。
「おじちゃん、なにしているぴょ?」
突然、袖を引っ張り話し掛けられたので驚いたが、相手が小さな女の子だと分かり安心する。
こんな小さな子供が、こんな場所に入れられているのか?
白いパジャマ着た女の子の手には、首の無いパンダのヌイグルミが握られていたのが気になったが、人懐っこい感じで好感が持てる。
「おじちゃん、けがはだいじょうぶぴょ?」
看護士に袋にされたところを見ていたのか。
ショックでトラウマになったらどうするのだろうか?
「あのおねえちゃんは、いつもああだからきをつけるぴょ」
蘭花さんの事を言っているらしい。
でも、さっきのはどう見ても看護士の暴力が行き過ぎていると思うが。
「あぁ、そうだね。でも、あのお姉ちゃんは悪くないよ」
「どうしてぴょ?おじちゃん、あのおねえちゃんにいっぱいたたかれていたぴょ。ちもたくさんでていたぴょ」
なんだって?
俺をボコボコにしたのは看護士じゃないのか?
蘭花さんが俺を?
目が眩む・・・意識が・・・再び遠のいていく・・・
少々暑いが大過なく過ごす。開放病棟というところは平和で、よく言えば落ち着いている、悪く言えば退屈な場所だ。この間のことはあくまでもイレギュラー。
何事も起きない。まるで揺り篭だ。
昨日、ミントを見かけたのだが、結局会話は出来なかった。いや、会話は試みたのだが成立しなかったのだ。
彼女が集めているカードとやらについてもすこし興味があったのだが、とにかく会話の取っ掛かりもつかめないのではどうしようもない。
まあここではあまり人の過去を穿鑿するのは無意味で、作話症とか誇大妄想とかいろんな症状のこともあって、本人の弁はあてにならないのだ。
ごつい気ぐるみをきたままで立ち去るミントを其の場に留めておくこともできない。だいたいあの気ぐるみは普段何処にしまってあるのだ。
夕食後、看護婦さんから薬を渡される。俺がきっちりと薬を飲むのを見届けていた。ふだんはにこにことやさしい感じのお姉さんなのだけど、監視の目だけはきっちりとしている。
実のところ少々薬が効きすぎていて眠たくて、ごまかして飲まずに済ませようかと思っていたのだが、そうもいかない。ちょっとあてつけがましく、手のひらを看護婦さんにむけて、
「ほら、ないよ」
と薬を飲み干したことを伝えた。看護婦さんは厳しい表情をやめていつもの優しい顔に戻って、うんうんと頷いた。まあ、仕事熱心な人なのだろう。
けれども俺達みたいなきちがいの世話なんて大変だなあ。あまり揉め事を起こさないようにしないと。
いい病院に入院できたのだと考えるようになっていた。改造だなんて、とんでもない妄想を持っていたものだと思うようになっていた。頑張って退院できるようになろうと思っていた。
その夜、ミントがひらひらの魔法少女のような格好をして病院の中を飛び回っている夢を見た。薄暗い病院の廊下で、レリーズ!などというアホみたいな掛け声とともに杖を振りかざす。
「何時のあるべき姿に戻れ!」
振り下ろされた杖の先端に光が集まる。凝集してゆく。それはやがて個体となって、一枚の紙切れとなった。
と、そのとき。ミントの背後からひとりの少女がビデオカメラを構えて歩み寄ってきた。
「素晴らしいですわ――」
うわあああああ!
俺は慌てて飛び起きた。酷く汗をかいている。あのビデオカメラを持った少女、あれは確かに。
俺は恐怖を鎮めるため、呪文を唱えることにした。
よかった。動く。素晴らしいことだ。
社会福祉公社。私はここの生活を、とても気に入っている。
ようやく私は安寧の地へとたどり着いたような気がいたします。ええ、ええ。ここは地獄のようなところでございます。地獄こそが私の約束の地、永遠の時の連鎖の向こうの、彼岸のかなたでした。
あの日、私がさくらちゃんの復活の儀式を行うべく病院の廊下であの醜い男を(私にとって男とはすべて醜いものとしか言いようがございません)生贄として、旧支配者たるさくらちゃんの祭壇に捧げようとして。
私は目的を果たすことが出来ませんでした。
そうして、その結果として私はこの薄暗い閉鎖病棟の、そのまた狭苦しく、昼なお暗い”保護室”とは名ばかりの、懲罰房とでも言いましょうか。そう、刑務所の独房のような。そんな場所に放り込まれてしまいました。
そうして私は、この場所で、およそ人間が行いうるもっとも陰惨で、惨めな行為を受けることとなりました。
息の臭い、およそ知性というもののかけらもないような看護士、医師、時には事務員の方でしょうか、とにかくかわるがわるに私のこの狭い部屋にやってきて。私にそうした動物じみた行為を強要したのです。
その行為ははじめたいへんな痛みを伴いました。はじめは泣き叫んだ私も、すぐにそうした痛みの表情こそが彼らを昂揚させるのだと知って、そうして、ある一つの方法を思いつきました。
はじめは、痛みから逃れるため。そうして、暫く後には、私自身の快楽のため。
この身体は、さくらちゃん。この肌も、この乳房も、この性器も。血に塗れた。いいえ、この血すらも自分ではなく。全てがさくらちゃん。
私が、さくらちゃん。
ああ、なんて甘美な。美しい響き。さくらちゃん。すべての血、肉、体液。細胞の一つまで。
「おい、気持ちいいんだろうが!この淫乱○学生よう!」
気持ちの悪い、やせたかまきりのような看護士が私をののしります。乱暴に私の体の上を動きます。私はその男の下劣な行為には全く感じるところはありませんでした。
ええ、肉体的な意味ではなく、精神的に。ただ、
私が。
さくらちゃん。
なんて素晴らしい。ああ。その思いに身体になにか電流でも流れたみたいに。
「…………ほぇ」
ああ、言ってしまいましたわ。私さくらちゃんみたいに。
「ほえええええええ!」
叫びましたの。
きっとさくらちゃんもこうして汚されて、踏みつけられて、殴られ、詰られ、辱められて。愛玩動物として飼い殺されたのですわ。
ああ、もっと私を切り刻んで。ばらばらにして。私、ちっとも痛くない。
だって、わたし。
さくらちゃんなんですもの。
135 :
CC名無したん:04/06/04 22:02 ID:y7PJeKVN
「大道寺コーポレーションもおしまいだってなあ。なんだ?リコール隠しで大道寺トイズも返品の山だってなあ。ありゃいけねえ。
”ふたりはプリキュア”の食玩の製造工程で間違って水銀が入って、小学生女児1万人と成人男子15万人がイタイイタイ病だっ
てなあ。お前の母親も自殺したし、もうお前はここで一生精液便所だよ」
あれから何日たったのでしょう。ある日、薄汚れた男が薄汚れた行為のあとで、そんなことを言いました。
うふふ。なんのお話かしら。わたくしさくらちゃんですから。いつでも元気いっぱいですわ。
「絶対大丈夫、何とかなりますわ」
男はあきれたような顔をして、そうして部屋を出るとき廊下で待っている男に、頭のところに輪をかいて見せました。
「おい、こいつ駄目だよ、おかしくなってやがる」
そんなことを言っていました。まあ、なんでしょう。そんな当たり前のこと。だって、わたくし、とっくにきちがいですのに。
きちがいの、さくらちゃん。
うふふ。
梅雨入り。湿気が多くじめじめしている上外に出ることも出来ず、悶々としてくる。一時の無気力状態に比べればましなのだが、その分例の妄想が頭にこびりついてはなれない。俺の脳が。メルトダウン。
気分転換に昔買って来た「大逆転!連合艦隊桶狭間にタイムスリップして織田信長死亡!でも陸上なので弾が尽きた時点で全滅」を読む。実にくだらない内容だったが、金剛型戦艦の改装工事についていろいろと書いてあったので最後まで読んだ。
竣工当時は巡洋戦艦だったのだが、度重なる改装により防御力や速力が向上し、高速戦艦として生まれ変わった。特に戦艦「比叡」は大和型戦艦に搭載する各種装備の実験のため最新の設備を…
改装工事。改装。改装。
気持ち悪い。本なんか読むんじゃなかった。まーでも戦艦だって大規模な改修工事を受けたりするんだから、俺が2,30年に一度そのようなことがあってもおかしくないんじゃないか。
俺はいつからこんなに寛容になったんだろう。そういえば電波の囁きもこのところとまっている。病院で受けている治療の効果だろうか。このまま社会復帰できるのならありがたい。
今日も薬を飲まされては眠る日が続いている。
投与されている薬の所為で睡眠時間が異常に長くなっている所為だろう。
談話室のホワイトボードに書かれている日付を見ないと、混乱して何月何日なのか分からなくなる事すらある。
日付を確認するため談話室に入ると窓の外を見ている蘭花さんの姿があった。
相変わらず凄い形相で外を睨んでいる。
先日の事も気まずく思え、声を掛けずにホワイトボードの前まで行くと、小さな女の子が背伸びをしながら何かを書き込んでいた。
蘭花さんとの一件を教えてくれた、語尾が少しおかしい女の子だ。
「こんにちは」
「ぴょ?」
挨拶をすると振り向いて丁寧にお辞儀をしながら返事をした。
「こんにちはぴょ」
「何をしているの?」
「ぴよこはおえかきしているぴょ」
「ぴよこちゃんって言うんだ。何を描いて・・・」
ホワイトボードを見た俺は凍りついた。
そこに描かれていたのは、数多くの死体の中心でカッターナイフを手に笑っている少女の姿であった。
(子供の描く絵なので酷く下手であったが)
いや、少女の背中には翼がある。天使なのだろうか。
「さくらちゃん!!」
突然、澄んだような大きな声が談話室に響き渡る。
いつの間に居たのか、後ろで一人の少女が震えながらホワイトボードを見ていた。
年齢は小学生高学年か中学生ぐらいだろうか。
透き通るような白い肌、黒く美しい髪、大人びた雰囲気がする。
「そんな・・・殺戮のカードは・・・殺戮のカードは封印されたはずなのに・・・どうして!!」
唖然としている俺とぴよこを無視して、少女は意味不明な事を叫ぶと部屋を走り出て行った。
後に俺は知る。彼女が大道寺コーポレーションの一人娘、大道寺知世であることを。
そして悪夢のような惨劇が起こるとは、この時の俺はまだ知らなかった。
「過去のない男。なんだか、少しかっこいいね」
ミルフィーユにそんなことを言ってみた。なるべくにこやかに言ったつもりだったのだが、自虐的というか、そうしたネガティブなものとしてミルフィーユには聞こえたらしい。ミルフィーユは俯いてしまった。
俺には過去の記憶がない。いや、あるにはあるのだが、その過去について確信がもてないのだ。俺に繋がりのある人間もいない。病院にはだれも訪ねてこない。俺を知っているのは、このきちがい病院の中の人間だけ。
そうして、俺は。
この病院で改造手術を受けたという疑念を拭いきれずにいた。
勿論俺の経歴というか、確信のない、記憶のような何かは、ある。
幼い頃の事故で天涯孤独の身の上となった俺は働きながら大学の夜間部を卒業。製薬会社に就職した俺は営業部に配属された。
擦り切れるような日常の激務の中、俺はいつの間にか酒に溺れるようになり、そして。
きちがいとなり、満員電車の中でカッターを。
「――」
ミルフィーユが口をぱくぱくとさせながら俺に何かを言おうとしているが言葉にならないようで。俺も別にミルフィーユに何かを求めているわけではなかったのだが。
「その過去を証明することが出来ない。ここはきちがい病院で、俺は当面ここから出れそうな気配はない。俺が今いるのは比較的自由な開放病棟だが、病院の敷地から出ることは出来ない」
入梅したというのに、やけに天気がいい。そうして、暑い。中庭の木陰のベンチは涼しかったが、ミルフィーユの白い肌が日に焼けてしまいそうで少し心配だった。
「客観的に過去を証明できず、脳病院で脳や記憶をいじられたのかもしれない。今の俺は、一体なんなのか、何者だったのか証明する手段もないし確信ももてない。
俺は今ここに存在しているのか、もしかすると俺はほんの一瞬あとに消え去って、俺という存在がなかったことに」
そのとき、不意にミルフィーユが俺の手をとった。―いけません、とそのようなことをいったような気がするが、確信はもてない。とにかくまっすぐな瞳で俺のことを見た。そうして、握った手に力を込めた。
俺はこの白痴のような女に慰められているのだ。同情されているのだ。
殺したい。今すぐ、ミルフィーユを殺したい。俺が存在しているのかどうなのか。ミルフィーユを殺せばきっと。 その瞬間、俺という存在がこの世界に認められ、俺は存在できる。誰でもいいんだ。誰でも、殺せば。めった刺しにすれば。
死ね。ミルフィーユ。
玩具のように弄られ、壊される日々が続きます。私は、さくらちゃん。汚され、痛めつけられ、辱められる。無限の時の中でそれを繰り返すのでございます。
ようやく保護室から出ることが許されました。とはいえ私にとって閉鎖病棟の中もまた、危険と汚歪に満ちた牢獄でございます。保護室にいるほうが良いとでもいうのでしょうか、江戸時代の女郎屋というのが丁度ああしたもので、そ
れは何かで読んだのですけれども、とにかくそうして飼われていることもまた私にとって牢獄でございました。
ああ。そうして罰せられているというよろこび。私は生き残り、さくらちゃんは、死にました。自分ばかり生きてしまって、という罪悪感は夜毎私の胸を締め付けるのです。
私はここでさくらちゃんになりました。夜は娼婦のように振る舞いました。すべての痛みを心の奥にしまいこんで。
さくらちゃんの苦しみをすこしでも私のものとするため、さくらちゃんの無念を心に刻むため、病院の人たちに犯され続けてきました。ええ、ええ。私は慎みのない女です。汚れた女です。とんだ、あばずれです。
さくらちゃんには及びもつかない。ですからせめてこの苦痛だけでも。心の痛みも、身体の痛みも、さくらちゃんと同じだと思うのです。痛いということだけは、さくらちゃんと同じだと思うのです。そう願うのです。
しかし、そんな私の自己満足は、長くは続きませんでした。結局はすべて欺瞞だったのです。偽りの、贖罪でした。心のこもらない謝罪には、決まってしっぺ返しが待っているのです。
その幼い女の子に会ったのは、何かの運命のいたずらだったのでしょうか。
年のころは私よりも4つか5つ、もしかすると小学校に入学しているのかどうか。とても幼い感じの少女で、このような幼子が親元からこのようなところへ閉じ込められたのだ、きっと酷い親なのに違いない、(結局これはただの早合点でした)そう思って私、
「まあ、すてきなお人形ですわね」
などと取って置きの笑顔を向けまして、その少女に話しかけました。少女がなにか人形のようなものを右手に持っているように見えたのでございます。
他人に私のほうから話しかけるなど何年振りでしょう。薄暗い閉鎖病棟の廊下には往来もなく、他人に関心を持つということ自体が奇異なことのように感ぜられたのですが、けれども私の言葉は自然に出ました。
なにやら聖人君子になったように、とてもすがすがしい気持ちで。
「おねえちゃん、だれぴよ?」
何処かの方言でしょうか。おかしな言葉で少女が応じました。私は大道寺知世、と自分の名を告げると、さらに少女に近寄りました。
そのときでございます。少女が持っている人形に奇妙な違和感を感じました。その人形、よく見るとそれは人形ではなく何かの動物のぬいぐるみで、そうしてその動物の頭部は完全にもげてしまっていたのでした。
やはりこの少女もきちがいなのだ、自分と一緒で。
よりいっそう哀れに思い、慈母のような表情でいた私に、この少女は爆弾を投げつけてきたのです。
「おねえちゃんは人殺しのキチガイぴよ。この星の連中はみんなそうぴよ」
ざぶん、と冷や水をかぶせられたようでした。私のさっきまでの暖かな感情はあっという間に凍りつき、そうして自分のあさましさを思い知らされたのです。
私は何も言えなくなって、彼女からはなれました。
わあっ、と叫んで走り出したい衝動を抑えて、なるべく静かに。
恐怖。私はその少女に対して底知れない恐ろしさを覚えました。その恐怖感は、さほど日を空けず具体化することになりました。
期待あげ
144 :
CC名無したん:04/07/05 01:25 ID:esQDafSh
あげ
145 :
ari:04/07/05 17:25 ID:Slq+n8x9
保守点検
ぱんぱんぱんぱん。
バックから激しく突く。間抜けな音だなあ。
汚い、アンモニア臭の立ち込めるトイレで俺は真っ白な肌の美少女を犯していた。その少女の顔や名前には覚えがあった。ずっと昔から知っていた女だ。
その少女―ヴァニラは一体何歳なんだろう。まあ、淫行であることに変わりはない。ここがきちがい病院じゃなかったら俺はこんなロリ少女を犯したりすることもなかったこととは思うのだが、そこが不思議なところだ。
「…ぁ…ぁぁ…ぃ」
ヴァニラの呼吸が熱い。
「お前淫売だなあ。後背位大好きだなあ。本当に淫売だなあ。しゃれにならないくらい淫売だなあ。徹底的に淫売だなあ。完膚なきまでに淫売だなあ!ぎゃはははは!」
俺がヴァニラを詰ると、そのことでヴァニラの白く小さい尻がびくんと震えた。
ヴァニラは相変わらず無口だったが。この2ヶ月ほどで変化したことがある。
「……ぅ…ぁぅ」」
俺が詰れば詰るほど、腰を使うのだ。自ら腰を振るのだ。ヴァニラがそうなったとき、俺は狂喜した。
「ハァッ…ハァ、ハァ」
―感じてやがる。
「犬みたいだ!おまえ動物みたいだぞ!」
げらげら笑いながら、俺はヴァニラの身体を存分に弄んだ。その言葉にすらヴァニラは息を荒げ、声にならない喘ぎを漏らすのだ。
ここは天国だ。俺がどこかで女の子を刺してから2ヶ月。オナニーすらままならないほど減退していた俺の性欲は異常なまでに活発化していた。
どこで女の子を刺したとか、誰を刺したのかとか、そういうことはまるで思い出せない。ただ、気がつくとここにいた。
そうして、あるきっかけで、2人の少女を犯すようになった。
ここは天国だ。
これはヴァニラさん萌えな展開じゃないですか
もう一人の少女はヴァニラとまるで異なっていた。ありとあらゆる意味で違っていた。その少女は病室ではなく独房―いや、保護室という病室に長い間放り込まれているのだが。
この保護室というのは、希死念慮や自傷行動が強い患者が放り込まれるためのものだ。重点的な看視を受けたり、時には物理的に拘束されたりもするが、しかし、本来治療の目的で利用されるべきものなのだ。
だが。この少女が過ごす部屋は。
立ち入ればすぐにわかる。淫蕩な匂い。むせ返るような酸味をおびた猥雑な匂い。行為のあとがありありと残る、乱れたベッド。
俺が昔行ったことのある、自衛隊の基地のそばの安い風俗店より、もっと濃密な毒気に満ちている。
少女はそこに軟禁されているのだった。そうして、ヴァニラ同様、この病院の関係者にかわるがわる犯されていた。
ヴァニラが奇抜な髪の色や瞳の色をしているのに比べると、その少女は気品に満ちたつややかな黒い髪と澄んだブラウンがかかった瞳をしていた。
ヴァニラにも独特の高貴さが見て取れたのだが(そのことは俺やここの連中をよりいっそう欲情させた)、彼女はそれにも増して、何か違うモノを感じた。
澄んだ瞳。
その瞳の奥には―狂気が宿っている。そのことを知ったのは、彼女を激しく犯すようになって少ししてからだ。
俺と少女―知世の間には、何か因縁があったらしい。何の因縁かはわからない。前世の、とかそういうものではないのだろうが、とにかく俺が彼女に会うように薦めてきたのはその看護士のほうだった。
「おまえあいつに殺されかけたろう?慰謝料をむしりとってよう、それで俺にすこしカネを回せよ。あいつ名義の預金がいくらかあるはずなんだ。お前なら適当なことを言って強請れるだろ」
因果を含めるようにその男が言ったのを俺は良く覚えている。その男はまるで悪党のようににやにやとしていた。多分俺も同じような顔をしていたのだろう。
とにかく、2ヶ月前、俺は知世の部屋に入った。気持ち悪い部屋だった。そんな女郎部屋ののうな保護室の中に、一人の美しい、まるで穢れを知らぬかのような少女がちょこん、と。所在なげにベッドに腰掛けていた。
長い黒髪が腰の辺りまであって。この劣悪な環境の中で、その髪がつややかに光っていたのが印象的だった。
ちいさく、品の良い口が開く。
「ああ、また――わたくしを、抱くのですね」
俺の理性は一瞬ではじけとんだ。慰謝料?何のことだ。そんな話し合いなど不要だ。自体は切迫している。
俺の心は沸騰した。何かに突き動かされるように、知世に掴みかかった。
俺はこの女を犯さなければならない。屈服させなくては。陵辱しつくし、尊厳を奪い取り、俺に隷従させなくては。そうでないと。
「そうだ。メチャクチャにしてやる。犯しまくってやる」 まるで地獄の底にいるような心境で。俺は叫んだ。
知世は明らかにおかしかった。精神をやられていた。自分を自分だと認識していない。俺は医師でないから良くわからないのが、とにかくこの女はきちがいだとすぐさまわかった。
もっとも、だから俺たちは、こんなところにいるのだが。
「はにゃーん!はにゃーん!」
異常としか言いようのない知世の嬌声。俺は知世を犯すとき、決して前戯というものをしなかった。即挿入。そのため、知世の中はいつも擦り切れ、血まみれになることもしばしばだった。しかし。
「はにゃーん!はにゃーん!」
知世の中は酷く狭く、犯しても犯してもこちらの性器が痛むほど締め付けてきた。しばらくすると知世自身の血と、やっと濡れてきた知世自身の潤滑液によって動きやすくなるのだが、それまではこちらにも快感があるとは言いがたかった。
絶対に、知世が感じているはずがない。それなのに。
「ああ、気持ちいいよう、とてもとても気持ちいいよう。はにゃーん、はにゃーん」
知世はその澄んだ瞳を俺の瞳にまっすぐに向けてきた。俺は恐怖に駆られた。
恐ろしい。怖い。
なぜ俺は暴力で知世を支配し、性欲の捌け口として利用しているのに、こんなに恐怖を感じるのだろう。なぜだ。俺は恐怖を振り払うために玩具の自動人形のように腰を振りまくった。
明らかにヴァニラとは違う。ヴァニラが感じていると知ったとき、俺の心にあったのは征服感だった。獣欲を満たした満足感だった。しかし、知世は。
嵐のような行為の後。俺は後始末もせず、すっかり重くなった下半身を引きずるように自分の身支度を整えた。気が進まなかったが、看護士の言っていたことを口にする。
「おまえ…俺に、何かしたらしいな」
あまり気が進まなかったので、馬鹿みたいな訊きかたをしてしまった。実のところ、看護士との約束はどうでも良かったし、おれはとにかくここから逃げ出したくて、あまり長話をするつもりもなかったのだ。
「…?」
知世が首を傾げる。
「ほえ?」
また、妙な言葉を口走った。
「だからお前俺になんかしただろ!殺しかけただろう!」
「だめだよう、そんな、怖いよう」
知世はおびえきって、顔を伏せてそんなことを言う。俺は何故こんな弱弱しい少女を恐ろしいと感じたのか。俺はただただ恐怖から、激しい口調になった。
「うるさい、お前は俺を殺そうとしたんだ。だから、俺はお前に殺されないために」
「違うわ」
知世が言った。小さい声だったが、透き通った声は保護室のなかでよく響いた。
「殺されたのは、さくらちゃん――」
俯いていた、知世が、俺のほうを。
俺のほうを。顔をあげて。
その顔。見覚えがあった。殺される。
「!!」
俺は恐ろしさのあまり、その場を逃げ出した。
それでも俺は知世を犯し続けている。酷いやり方で犯し続けている。ヴァニラと交互に犯している。
ヴァニラを犯すのは純粋な高揚感があった。気持ちが良かった。だが。知世は。
殴っても、殴っても。殺しても殺しても。生き返ってくる、喰屍鬼のような、不気味さを感じて。恐怖に抗うように、必死で犯し続けた。
ここは地獄だ。
保守あげ
「しっかし、アンタも懲りないわね」
ランファが車椅子を押して、病棟の廊下の格子のはまった窓のそばまでやってきた。西日がきつく、暑い。俺は特に返事をするでもなくぼんやりと夕焼けを眺めていた。
「なぁによ、黙っちゃって。外が恋しい?」
勿論だ。でもそれは。
「いや、夕日が綺麗だなって。何処で見ても、どんなときでも、夕焼けの赤は綺麗だよ」
「嫌な色。まるで血じゃあ、ないの」
俺ははっとしてランファのほうを見た。血。ランファは俺の隣で、車椅子の上でぼんやり夕日を眺めている。少し憂いを含んだ横顔。まあ、口が悪いのはさておいて、あときちがいなのもおいといて、こいつは美人だと思う。でも。
「ちがうよ。血の色はもっと濃い。どす黒くて、気味が悪いよ」
ランファが薄く笑う。
「一人殺して、一人は半殺しか。やっぱ、殺人鬼の言うことは違うわね」
俺のほうを向いた。
「信憑性があるわ」
俺も笑った。自嘲の笑いだったが―多分、少し顔が引きつっていたと思う。
「まあ、どっちも記憶にないんだけどな」
これは事実だ。むしろ、俺がそんなことをしでかしたことのほうが疑わしい。
「あんた、開放の女の子の頭、庭石でどつきまわしたんでしょ?ほんとに記憶ないの?」
「ん」
短く返事して、首肯した。
「まるで覚えてない」
ランファがため息をつく。
「ま、こんだけクスリのまされてたら、馬鹿になっちゃってもしょうがないわね。でも、私アンタが来たときのこと、良く覚えてるけどなあ
」
「わるい。その辺のことも覚えてない」
「これだもの。ま、アンタがなんやかややったおかげでちょっとここの閉鎖もましになった、ってはなしだけどね。そういう意味では感謝してるんだけど。マジで覚えてないの?」
「ああ」
ランファはそれ以上話し掛けてこなかった。
廊下をなんどもなんども往復している女の子がいる。その女の子について、2、3人の患者がのろのろと廊下を往復している。まるでゾンビの行進だ。
ランファは一度、深くため息をつくところころと車椅子を押して何処かへ行ってしまった。夕映えに赤く染まる背中が小さく見えた。
某氏の文才に打ちのめされた。
(;´Д`)落ち込むなぁ・・・
時々奇声の聞こえる部屋。テーブルと椅子がいくつか。。きっちり固定されていて、動かない。
ころころころ…。
滑らかな滑車の音。あいつのやってくる音。
自然な口調で、あいつは話し掛けてきた。
「この病院ではいまだに電パチやってんの?」
「電パチ?」
「電気ショックよ。昔はよく使ってたって話しだけど」
そんな野蛮なこと。
ランファは屈託がない。彼女は昔からそうだったのだろうか。まるできちがいじゃあないみたいに振舞っている。
「いや、多分」
ふうん。ランファはまた考え込むそぶりを見せた。開放のそれと比べると殺風景な談話室。これでもずいぶんましになった、と。これは古参の長期入院患者に聞いた。
もっとも、ランファも俺も入院日数からいえば長期入院者であるとは思うのだが。
「なんでそんなこと聞くのさ」
「それよ」
なぜかランファは浮かない顔をしている。
「アンタ、そんなに丸くなかったわよ。もっとこう、そう、いかにも・・・その」
「きちがいみたいに?」
こくり。ランファがすまなさそうに、俯き加減に首を縦に振った。その姿が少し幼く見えて。
不覚にも、ちょっと愛らしいと感じてしまった。
「だから、アンタ、電気ショックでも食らわされて」
「ありがとう」
ランファの挙動が一瞬とまり、そうして、見る見る顔が真っ赤になっていく。
「だから、そういうところが、おか、おか、おか」
気づいている。なにかがおかしい。何処となく俺は病院から特別な扱いを受けているような気がするのだ。
いやになれなれしい看護士。俺の…ああした行為の、黙認。
「ありがとう、な」
繰り返した。ランファの狼狽振りを笑おうと思ったが、笑えなかった。
>>157 ちうか妄想たん、いろいろ世話かけているかと思います。もーしわけないです。
閉鎖病棟より愛を込めて。
「ねぇ、あなた元刑事なんでしょう?」
談話室で読書をしていると、うさださんに声をかけられた。彼女の方から話しかけてくるなんて珍しい事もあるものだ。
「あのね、調べてほしいことがあるの」
「刑事と言っても、聞き込みをしたり指紋を集めたりするばかりが仕事じゃないよ。俺は専門外だった。調べ物は自分でやってくれ」
「わたしの友達に宇宙人が居たんだけど。あ、宇宙人って言っても自称で、秋葉原でアイドルやっていたわたしのライバルで・・・」
またキチガイの妄想か。宇宙人なんて居るわけないだろう、そう思いながら俺は話を聞いていた。
「それで、その娘がね、殺されちゃったの。名前はデ・ジ・キャラット。通称でじこって言うの」
『でじこ』、その名前を聞いた俺は戦慄した。
あの熱い夏の日、通称『でじこビル』と呼ばれた秋葉原を象徴する建物で起こった惨劇。
俺達、首都治安警察はその事件に悪意を込めこう呼んでいた。
『秋葉原暴動』と。
「でじこが秋葉原の女王にょ。お前ら下々の者はでじこ様にひれ伏すにょ。目からビーーーーーーーーーーーーーームッ」
ドンッ!!
衝撃が走り、民間人の車から炎が吹き出す。
「なにが目からビームだ。ただの火炎瓶じゃないか」
兵員輸送車の後部ハッチから顔を覗かせていた突撃小隊の仲間が叫んだ。
「相手はキチガイだろ。真夏の秋葉原じゃ暑さで気もおかしくなるさ」
俺は中隊長から報告書を受け取ると目を通した。
名前:デ・ジ・キャラット
年齢:十歳
職業:住み込みのアルバイト店員
情緒不安定な面があり、日常的に「目からビーム」と叫んでは物を投げつけるなどの暴力行為を繰り返し補導された経験あり。
アルバイト店員の少女が、秋葉原の独立政権を訴え、彼女を崇拝する数名の男達と共に取り壊し予定のビルを占拠した。
正気の沙汰では考えられない事件が起こるのも、この狂った街ならではなのかもしれない。
「敵は火炎瓶で武装している。発煙弾発射後、突入。第一小隊は一階フロアの障害を排除、第二小隊は非常階段より突入し二階フロアを確保せよ。後方支援隊員は前衛のバックアップを怠るな」
中隊長の怒鳴り声を聞きながら俺達はMG34に弾薬を装填し、92式特殊強化装甲服の暗視スコープ付きガスマスクを装着した。
視界が狭くなり、なんとも言えぬ奇妙な緊張感に包まれる。
強化服のパワーアシスト機能のおかげで、僅かながらの力は増すが不安感だけは拭うことが出来ない。
「いいか、逮捕者は一人も出すな」
突入準備を終えた俺に、中隊長がそっと耳打ちをした。
ポンッ!!
まるでシャンパンの栓でも抜かれたかのような音が響き渡り、発煙弾が発射される。
「全員降車、突入開始」
煙幕の中を走り抜け、俺達突入小隊は非常階段入り口まで辿り着くと扉を蹴破った。
敵が居ないことを確認すると、階上への階段を駆け上がる。
二階入り口の扉には鍵がかかっていたため、MG34で破壊しフロア内へと突入する。
「あ、あ、あ」
フロアの中には、面食らった小太りの男が一人、腰を抜かしていた。
手元には火炎瓶が転がっている。
ドガガガガガガガガッ
7.92mm弾を食らい、男の体は一瞬にして肉が削られ変わり果てた姿となる。
「第二小隊、二階フロアを確保。射殺1。これより三階へ向かう」
俺と共に前衛を守っていた隊員が口を開いた。
「こいつら素人だな」
「あぁ・・・、三階を確保するぞ」
俺達、第二小隊が最上階までを確保するのには左程時間は掛からなかった。
「射殺8。制圧0」
逮捕者は一人も出すな、それが俺達に下された命令だ。
最上階には一人の少女が震えながら床に座っていた。
「い、いやだにょ。こっちに来るなにょ」
「・・・」
俺はMG34を構えゆっくりと進んで行く。
「こっちに来るなにょ。来ると、来ると・・・目からビーーーーーームッ!!」
少女は叫び声を上げると手元に落ちていたダンボールを投げつけてきた。
ダンボールは俺の強化装甲服に当たると床に落ちる。
「で、でじこの目からビームが効かないにょ。そんなはずないにょ。目からビーーーーーームッ!!目からビーーーーームッ!!」
半ば、半狂乱となった少女は執拗にダンボールやガラクタを投げつける。
「うぅ、悪かったにょ。でじこが悪かったから、許してほしいにょ」
腰が抜けたのだろうか。
床に座り込んだ少女は涙目になり悲願する。
「ザザ・・・、第二小隊、状況を報告しろ」
突然、雑音に混じり中隊長からの無線が入った。
俺はシールドに納められたモーゼルを引き抜くと無線に応答した。
「第二小隊、最上階フロアを確保。首謀者である少女の死亡を確認」
「な、なに言ってるにょ。でじこは死んでないにょ」
少女の腰の下に黄金色の水たまりが広がっていく。
「い、いやだにょ。死にたくないにょ。でじこは、でじこはまだやりたい事がいっぱいあるにょ」
モーゼルの安全装置を外した俺は狙いを定めた。
パンッ!!
突然、弾けるような音が響き、俺は我に返った。
驚き、辺りを見回すと、ぴよこが菓子パンの袋を叩き割っている。
「ぴよこ、メロンパンを食べるぴょ」
そう言うと、ぴよこはトテトテと歩き去っていった。
そうだ、ここは談話室だったんだ。気が付くと俺は全身に汗をかき、両手を握りしめていた。
「ねぇ、それでわたしの友人を殺した人を捜してほしいの」
右手でメガネの位置を直しながらうさださんが言う。
「お、俺は・・・」
「でじこが殺されたときに機動隊みたいな人達が突入して行ったの、わたし見ていたの。元刑事のあなたなら何か知っているかと思って」
「俺は・・・」
「そういえばさっき、刑事は聞き込みをしたり指紋を集めたりするばかりが仕事じゃないって言ってたよね。それじゃあ、どんな仕事をしていたの?例えば・・・」
うさださんは、俺に顔を近づけると、少しだけ口元で笑いながら、それでいてひどく冷たい声で・・・
「例えば、人を殺すとか?」
でじこ殺すなにょ
この物語を是非ともCDドラマ化していただきたいのですが…
同人レベルにしても無理がありそうだし…
声優使ったCD制作って金が高そうだ
妄想先生、CC名無し先生、そろそろ続きの原稿をいただけないでしょうか?
170 :
CC名無したん:04/09/11 16:53:58 ID:cE4qP+oC
19日は妄想先生、CC名無し先生の同人誌をクリエイションまで買いに行くぞ
妄想たんは来るの確実だよんね?
>>167 昔、青木隆志さんと有料FLASHサイトを立ち上げる企画を計画して、舞台俳優さんとかに声優で声を掛けた事があるなぁ。
ぽしゃったけど、青木隆志さんは才能があったからネトランとかで活躍してるけど、オイラは取り残されてしまった感じ。
>>169,170
サンクリ25A23ホールO15bで待ってるにょ。
妄想たんは控えめにものを言うけどネットランナーやテックウィンに名前が出るの凄いと思うにゃ
パンッ!!
はじけるような音が保護室に響いた。
俺は知世をはたいた。平手打ちだった。素裸にされ、体中のありとあらゆる場所を吸い尽くされ、てらてらと俺の唾液にまみれた知世。その媚びるような瞳。
「は…にゃああぁぁぁん」
とろんとして、理性を失っている。
凄絶で、妖艶。娼婦として生まれ育ったかのように、知世は邪淫を貪り、快楽に身をゆだねた。
気が付いたことがある。
知世は、自分を知世だと思っていない。その疑問を感じたのは、簡単な事で―一人称で自分を指すとき、常に「さくら」という固有名詞を使うからだ。自分を指して自分のアンダーネームで呼ぶことは、この年くらいの少女ならよくあることかもしれない。でも。
「おまえは、知世だろう?」
「?ううん、ちがうよ」
きょとん、と。淫汁にまみれながら、はくちの笑みを浮かべる知世。
「いや、でも、おまえは知世だって」
「いいえ、私さくらだよ。木の本さくら。とっても元気な…」
俺はそのとき平手で知世を打った。
恐ろしかったのだ。あの澄んだ瞳、純粋な狂気。俺たちは所詮不純物の多い、比較的狂った人間でしかない。だが知世は違う。まるで他の惑星からきたかのように倫理観、道徳観が崩れており、そうして、そうして。
俺は。殺される。殺される。コロサレル。
パンッ!!
肉を打つ音。知世はこの陰惨な保護室にお似合いの打楽器と化した。
俺が知世を殴ったとき、妙な高揚感が心をつつんだ。自己防衛。コロサレル前に、殺す。そして、それ以上に。目の前に怒りつつある現象として。
知世をぶつと、なんだか物凄く繊細なものを壊してしまう罪悪感と。そして。
いけないことをしているのだ、取り返しのつかないことをしているのだという、背徳感。
俺は狂っているのだ。この娘のように。ランファはどうだろう。ランファ?ランファ?
俺はランファの名を口にしたとたんになにか、こう―自棄になってきたのを感じた。何がなにだかわからない。俺の手はこぶしを握り、友世の
(さくらと言い張ってはいるが)柔らかな腹、頬、手足を乱打した。息が切れ、心肺が悲鳴を上げ、殴るこぶしに血が混じっても、友世を殴りつづけた。
「はにゃーん!いたいよう!こわいよう!」
友世の声。知世自身の言葉では、ない。どこか現実離れしていて。そう。
こいつ、痛みを感じていないんじゃないか―
それは更なる恐怖だ。俺の与える苦痛を、苦痛と感じない。もしかして。
そう。もしかして、傷つけようとしても傷つけられず、殺そうとしても殺せず。そんな悪魔であったなら。それに魅入られた俺は。
どのくらいの時間がたったろう。結局俺の殴打にともよはぐったりしてしまった。顔は殴らなかったし、結局ある程度の加減はしてしまったので(これもまた友世の意志に操られているような気がしてならない)所々青痣はできているものの、知世はうんうん唸るだけになった。
(殺されないで、すんだ―)
安堵。
(あんなにもろいものを、壊した―)
悔恨。そして快楽。
俺は無言で外に出た。出た先にちょうど看護士がいたので声をかける。
「すまん、ちょっと興奮して」
「ああ、殴っちまったか。そういうのも…ありかもなあ」
「そういうつもりでは」
「まあいい、一応骨がどうなったかくらい見ておくよ」
そういうと看護士は俺と入れ替わりに友世の保護室へと入っていった。きっと知世を犯すんだろう。あの瞳に見つめられて、あの狂気にとらわれて最後まで達することが出来るなんて。
俺には無理だ。
昼間は特にすることもない。
一応行動療法とやらをやらされたりすることもあるが、なんだか幼稚園のお遊戯みたいなことをやらされるので迷惑としか言いようがない。
いい年した奴らがハンカチ落としに興じたり、カラオケ大会と称して「アエアエアエアエベベベエベベ」奇声を張り上げる様を見てたりするのも興味深いといえばそうなのだが、自分もその中の一員だと思うと気が滅入る。
今日はそうした行事もない様で、いつもの殺風景な談話室に向かった。
ランファが窓に向かって車椅子に腰を下ろしていた。俺はなんとなく近寄りがたいものを感じてすこしはなれた椅子に腰を下ろした。
テーブルに埃が積もっていて、こういうところはやはりきちがい病院なのだな、と悲しくなる。まあ落ち込んでいても仕方がない。俺は持参した妖怪大百科を広げた。
看護助手が煙草を配っている。談話室に顔を出したそいつから、10本の煙草を受け取った。
「ホイ、村田さん。アンタまたこっち帰ってきたのかい?」
その男の顔には見覚えがあるようなないような。二カッとわらうと前歯が欠けていて、すこし愛嬌があった。
俺が笑いをこらえていると、その男が妙なことを言う。
「村田さん、今度は看護助手、しないのかい?」
え?
俺は何のことかわからず、聞き返した。
「あの、俺は患者だけど?」
「いや、俺も患者だよ。やだな。俺はアル中なだけできちがいじゃないし、こうみえて会計士だったんだぜ。それなりに計算とかが出来るから、さ。アンタみたいに荒事は無理だけどね」
「えと」
何のことだろう。看護助手というのは…看護士とは違うのか?
その男は俺の顔を覗き込むようにして。
「なんだ、まだ少し悪いんだね。まぁ、お互い気長に治していこうよ」
急に男が小声になって。
「それにアンタはこの病院の暴力支配を正すきっかけを作ってくれたんだし」
呆然としている俺に、さらに5本の煙草を握らせてその男は去っていった。
「なにを言ってるんだ、あの、歯欠け…」
俺は入り口のところに立ち尽くした。
考える。開放病棟。通勤電車。カッター。庭石。レボトミン。ロヒプノール。ラボナ。知世。ランファ。ロッキー・バルボア。
ヴァニラサン。
さまざまな単語が頭をよぎる。ダメだ。ワケわかんね。ずいぶんやられてるんだなあ。俺の頭。
基本的に俺は煙草を吸わないのだが、煙草は捨てずに取っておく。何かのときに交換材料として役に立つからだ。
現にニコチン中毒のおっさんが俺のそばで物欲しそうにしている。面倒なので一本やると、かわりに飴玉をくれた。こんなもの別にいらないのだが。
昼食後の精神安定剤が効いてきたらしく、思考の回転数が落ちてくる。まあ、まったりとしていい感じでもある。
たぶんクスリがちゃんとあってるのだろうけど、こんなにとろくさい思考で俺は大丈夫なのかしら。
と。
なにやら部屋の向こうで言い争っているような声が聞こえる。
『…じこが殺さ…ときに機動隊みたいな』
『元…あなたなら…突入…』
『例えば、人を殺すとか?』
言い争いではなく、一方的に女が男を罵っている気配。 ―なんだよ、痴話喧嘩か?
「犬も喰わないな……」
俺はうつらうつらしながらその騒ぎを聞いていた。人と人がもみ合う音が聞こえる。知ったことか。
おれは眠いんだ。眠い。ねむ。
歌が聞こえる。懐かしい歌だ。
歌が聞こえる。懐かしい歌だ。
我らの前に、敵特車あり
見敵必戦、突撃せよ
我らの部隊は此処にあり!
日本の為、自衛隊のため!
我ら御国の盾となり
果てることこそ名誉なり!
武運つたなく死すならば
我らはもはや故郷に帰るあたわず
敵の弾に倒るるも
我らは運命から呼び召されり
我らは運命から呼び召されり
特車は墓標となりて
われらの武功を永遠に誇らん
がたがたと誰かに肩をゆすられる。
「……ん」
顔をあげると、ランファの顔が俺の目の前にあった。
「ッと!おきなさいよッ!なんだってアンタ、こんなときに限って」
「んあ?」
ぼんやりと、目を覚ます。なにか沼の淵から引っ張り上げられるような、不快感。どやどやと、音がする。
瞬間、俺は。頭の奥底で、火薬の匂いをかいだ。それは誤解だった。
火薬、ではなくて。
ああ。
ああ。また来てしまった。ああ。
戦場の匂いだ!
―クソッタレ!
俺は咄嗟に立ち上がって、叫んだ。
「畜生、履帯を切られたか!装填手、装填手!弾種榴弾。砲手、目標、前方4百、敵―プロテクトギア。小隊―ああ、面倒だ。全特車前へ!全兵装射撃自由!」
絶叫が談話室に響き渡った。
「あ・・・あの」
ランファが気まずそうに言う。
「ごめんね、ゆっくり寝てて。アハ、アハハハハ」
キコキコとランファが車椅子で談話室を出ようとする
―ちょっとまて、俺はきちがいの症状であんなこと叫んだんじゃ。
そう言おうとして、室内の異変に気がついた。誰もいない。いつもなら何人か、アウアウ言いながら此処で過ごしているのに。
妖怪大百科も無くなっている。椅子がこけて転がっている。
181 :
CC名無したん:04/09/12 21:42:04 ID:sCvFafgD
「あの、ランファ」
われに返った俺が問いただした。
「何かあったのか?」
「知らない―ここ、きちがい病院だし。いつ誰が何をしたって、そんなの他人にわかるわけない」
部屋を出て行くランファはそっけなかった。
俺は一人部屋に取り残されて、考えた。
今の歌はなんだ。俺は何を叫んだ。何を考えていた。戦場。アレは何処だ。市街戦。泥沼の。最悪の。トップアタックの恐怖。74式の上面装甲は薄い。ああ。
俺の記憶。看護助手。
だめだ。あまりにも理不尽すぎて。ワケがわからなくて―。
はた、と気がついた。
ああ、俺はきちがいだったんだ。ワケ側アkらなくてあたり雨。さあ、きゅおはバニラかとも余暇、どちらを犯してやろうか。ヴァギナさん。ヴァギナさん。えへへへへ。
感情に身を任せると楽だった。自分が何者かわからないなんて不安、耐えられない。それでも、特車、という言葉は心に残った。
それは鋼鉄によろわれた。俺の心の城だった。そして。そして。
気が付くと俺はベッドに寝かされていた。また意識を失ったらしい。
頭を打っていないか確認をすると俺は病室を出た。
どうにも足取りが重く感じられる。
軽く痛みを感じたので腕をさすると、紫色に変色し腫れ上がった箇所を見つけた。
どうやら『意識を失った』のではなく、薬物で強制的に眠らされていたに違いない。
いい加減いつまでもこんな生活を続けていると廃人にされてしまうだろう。
廊下を歩いていると向こうからフラフラと、今にも転んでしまいそうな足取りで一人の少女がやって来た。
黒い髪、肌の白さがよりいっそうその黒さを際立たせ、まるで日本人形のように感じられる。
名前は大道寺知世、看護士が言うには大道寺コーポレーションの一人娘だそうである。
焦点の合っていない、それでいて吸い込まれそうな黒く美しい瞳。
思わず俺は見とれてしまったが、すぐに我に返った。
その少女、大道寺知世のスカートから伸びた細く白い足。
その太股には血と、白濁した、恐らくは男の精液と思われる液体がこびり付き滴り落ちている。
「お、おい。大丈夫か?」
大道寺に声をかけ肩を揺すったが「あ、うぁ、おわ、はにゃ」などと、唸り声を上げるしか反応はない。
一体誰がこんな事をしたのだ。
俺は大道寺のスカートをたくし上げると、彼女がどれほどの目にあったのかを理解した。
血が滴っていたのは処女を奪われたからではない。
恐らく何時間にも渡り、何人もの男に犯され続けたのであろう。
性器は擦り切れ、紫色に変色し、肉が捲くれあがっている。
「お前もやるか?」
突然背後から声を掛けられ、振り向くと看護士が二人ニヤニヤと下品な笑いを浮かべていた。
こいつらがやったのか?
「やるならよぅ、保護室使えよ。談話室とか廊下でやられるとなぁ。俺達の立場ってものもあるからよ」
目が回る、吐きそうだ。
俺はヨロヨロと頭を押さえながらその場を離れた。
背後で看護士が何かを言っていたが、俺の耳に声は届いていない。
談話室の前を通ると車椅子に乗った蘭花さんが笑いながら部屋から出てきた。
中を見ると男が一人おり、蘭花さんに向かって何かを叫んでいる。
以前どこかで会ったような気がするが、どうせここのキチガイ患者だろう。
蘭花さんは俺に何かを言っていたが適当に返事をすると、病院関係者の事務室に向かった。
先程の、大道寺のことを事務員に言うべきだろうか?
いや、言っても揉み消される可能性が大きいだろう。逆に俺が暴行を加えたことにさせられるかもしれない。
自分でなんとかしなくては駄目だ。
事務室を覗くと職員は誰も居ない。ドアに手をかけると、何故か今日に限って鍵が掛けられていなかった。
チャンスかもしれない。俺は思い切って事務室の中に侵入した。
何か使えそうな物はないか物色していると、引き出しの中に刃渡りが30センチほどある両刃の小刀があるのを見つけた。
これはウメガイだ。たしかサンカの男が保護されて、この病院に入れられた話を聞いたことがある。
その男の荷物を保管しておいたのだろうか。鍵も掛からない机の中にしまうとは無用心な病院だ。
俺はウメガイを懐に入れると事務室を後にした。
俺は大道寺の名前を捜し、病室の入口に書かれたネームプレートを見て回った。
いくつかの病室を通り過ぎ、大道寺知世の名前を見つけた。
共同の病室ではなく個室に入っているのか。
病室を覗くと、ベッドの上で膝を抱えた大道寺の姿があった。
ドアをノックし俺は病室に入る。
「おい」
声を掛けたが反応が無かったので肩を揺すると、大道寺はビクリと震え少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になると元気な声で返事をした。
「ほぇ、もうこんな時間なの。今日はおじちゃんの番?すぐに用意をするから先に保護室に行っていてね」
何を言っている?
「聞け。これをお前に渡す。これをどう使うのかはお前に任せる。苦しみから逃れるため、刃を人に向けるも、己自身に向けるのも自由だ。今のままでよいのなら、これは捨てろ」
ウメガイを渡された大道寺は、やや顔を傾け不思議そうな顔をしていたが、突然大きな声を上げて叫んだ。
「ほぇ〜、これ封印の杖だ。ひょっとしてケロちゃん?ケロちゃんなの?」
「け、けろ?何?」
「何ってケルベロスなんでしょ。さくらの封印の杖を届けにきてくれたんだ」
その名前を聞いた俺は全身から汗が噴出すのがわかった。
『ケルベロス』、かつて地獄の番犬と呼ばれ犯罪者を震え上がらせた首都治安警察特機隊の俗称。
「ああ、そうだ。俺はケルベロスだ」
そう言い残すと、俺は病室を後にした。
「おひさしぶりです」
突然のご挨拶。振り向けば懐かしい面々がいた。ミルフィーユさん、フォルテさん、ミントさんの三人だ。
「えへへへへ〜。わたしたちも、こっちの方に移るよう言われちゃいました」
自分の立場、つまり閉鎖病棟に移送されたという事の重大さを理解していないのか、ミルフィーユさんは以前と変わらない笑顔でいる。
反面、あとの二人の表情は硬く重苦しい感じである。
「こんな気分は最前線送りになったとき以来だよ」
ホウキを背負いランチボックスを手にしたフォルテさんが吐き捨てるように言った。
(本人はM1ガーランドライフルを背負い弾薬箱を手にしていると思い込んでいるようだ)
特にミントさんは周りをきょろきょろと見回し、酷く怯えた様子だ。
「こ、殺される。わたくし殺されてしまいますわ」
閉鎖病棟だからといって、そんなに心配したり怖がったりする必要は無いのに。
いや、待てよ。先日、もの凄く心配な事があったような気がするのだが。
どうも薬の所為で記憶がおかしくなっているようだ。
「廊下で立ち話もなんだから談話室の方にでも」
キコ・・・キコ・・・キコ・・・
途中まで言いかけたとき、車椅子の車軸が軋む音が廊下に響き渡った。
俺達のいる場所とは反対側の、薄暗い廊下の先に車椅子に座った女の姿が見える。暗くてよく見えないが、おそらく蘭花さんだろう。
「ひっ」
ミントさんは小さく悲鳴を上げると、その場に座りこんだ。明らかに蘭花さんの姿に怯えている。
「コーヒー飲みたいよ、コーヒー」
「わたしは、紅茶が飲みたいで〜す」
フォルテさんとミルフィーユさんは、蘭花さんの存在には気が付いていないらしく、わいわいと会話をしながら談話室の中に入って行った。
俺はどうしていいのか分からず、その場に立ち尽くした。
沈黙、それを破るきっかけを作ったのは蘭花さんであった。
廊下が暗かった事と、前髪が垂れていた事により、目を見ることは出来なかったが、恐ろしいほどに口元を歪ませ蘭花さんは『ニヤリ』と笑った。
「い、いやーーーーーっ」
ミントさんは悲鳴を上げると閉鎖病棟と解放病棟を繋ぐ扉に向かって走り出した。
しかし、厳重に管理され、入ることも、そして出ることは更に難しいこの病棟から逃げ出すのは不可能だ。
格子の入れられた扉を乱暴に叩きミントさんは叫び続けた。
「助けてください。わたくしをここから出してください。殺される、あの女に殺されますわ」
キコ・・・キコ・・・キコ・・・
再び車椅子の音が響く。
ミントさんも、また蘭花さんに気圧されてしまった俺も振り返る事が出来なかった。
キコ・・・キコ・・・キコ・・・
(ドクンッ、ドクンッ)
聞こえるのは車椅子と心臓の鼓動する音。
「はぁ・・・はぁ・・・」
やがて、小さく、そしてゆっくりと息をする音が聞こえた。
「いやーーーーーーーーーーーっ。助けて!助けて!」
半狂乱となったミントさんは再び扉を乱暴に殴りだした。手が切れたのか扉は赤く血に染まっていく。
「ちょっと、ブラマンシュさん落ち着いてください」
騒ぎを聞いた看護婦達がやって来るとミントさんを取り押さえた。
両手と両足をバタバタと振り、ミントさんは看護婦から逃れようと抵抗を続ける。
「殺されてしまいますわ。わたくしをここから出して」
「落ち着いてください、ブラマンシュさん。仕方ないわ、安定剤を」
チーフらしい看護婦の指示で、他の看護婦は透明な液体の入った注射器を用意した。
「い、いや。やめて・・・ですわ」
目を見開き、自分の腕に注射が打たれていくのをミントさんは見つめていたが、すぐに大人しくなりグッタリとしてしまった。
「一体、何があったのですか?」
看護婦に聞かれ、俺はどう答えていいのか躊躇してしまったが、いつの間にか隣にいた蘭花さんが代わりに返事をしていた。
「なんかー、ここの病棟には入りたくないとか言ってー。あー、でもあたしも初めてここに来たときは不安だったから気持ち分かるなー」
アゴに指を当て、蘭花さんはにこやかに答える。
看護婦は「そうよね、でもすぐに慣れるわね」などと返事をして、ミントさんを担架に乗せると病室へと連れて行った。
まぁ、実際すぐに慣れるだろう。自由に外に出られないという点を除けば、閉鎖も隔離も大して違いは無い。
それよりも蘭花さんは大丈夫だろうか。さっきまでキチガイ発作を起こしていたようであったが。
「あのさ、さっき」
声を掛けかけて俺は凍り付いた。やはり蘭花さんは狂っている。
「この日を待っていたのよ。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。ミントミントミントミントミントミント。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。あたしと同じ身体にしてやる。ミントミントミントミントミントミントミントミントミントミントミントミント・・・」
親指の爪をガリガリと噛み、正気を失った目を見開き蘭花さんはつぶやき続けた。
全てが夢だったのだろうか。それとも昨夜の出来事が夢だったのか。それともこの数日。いやことによるとここ数ヶ月。数年…。
ああ。俺は一体、何なのだ。俺は誰だ。
「なぁ、ヴァニラ」
俺は深夜の便所でいつものようにヴァニラを求めようとした。いつもなら何も言わずただヴァニラを蹂躙するだけなのだが。俺は昼間のことでナーバスになっていたのか。ヴァニラに話しかけた。
「お前は、宗教者なのか」
こくり。ヴァニラが頷く。
「神に仕える身です」
「はは…これは」
傑作だ。その、神に仕える身であらせられるところのヴァニラ様は。
「ははは。そんな人がこんな薄汚い精神病院の便所で、俺みたいな奴に犯されてるなんて。いいのかい?」
無表情のヴァニラ。皮肉を言ったつもりなのにこれでは、癪に障る。
「あれだよ、ほら。なんじ、姦淫すること―」
「出エジプト記。旧約聖書。この星の宗教には多様性があって、とても興味深い。一部の宗教には、私たちの宗教観に通じるものがある。実に興味深いことです」
え。
俺は少しあっけにとられた。相変わらず、ぼそぼそとした口調だったが、ヴァニラが積極的に話をしている。
「あなたが私を求めるのなら、与えます。いいえ、正確には共有しているのです。この星の倫理観は私たちとは異なっている。だから、あなた方には破廉恥な行為として受け止められるのかもしれない。けれど」
え?え?何の話だ?
ヴァニラは毅然としている。
「私は自分の肉体に興味はない。生理的反応が私を快楽に駆り立てても、それは所詮反射でしかない。身体構造上のことにすぎない。私の精神にはかかわりがない」
突然滔々と話し出したヴァニラに、俺は圧倒されていた。
なんだよ。
別の星?
そんなもの。きちがいの、妄想じゃないか。
俺がなぜヴァニラの言葉を真に受けてしまったのか、未だに理解できない。
ただ、心のどこかで、暖かな何かが生まれたような気がして。なつかしい記憶がよみがえるような気がして。死んだ肉親に会う様な。遠い昔の思い出を聞くような。
みずおちのあたりに、じいん、と響くのだ。ヴァニラの言葉?そんな。
そんな突拍子もない話。
「汝、殺すことなかれ。これも十戒のひとつです。あなたは」
なんでだ。さっきまで、俺は、この少女を完全に支配化においていた。俺の性的玩具だった。恥多き、いやらしくも俺の指先に感じて声をあげる奴隷だった。性欲処理機だった。
そのはずだったのに。
「それを破りました」
俺は取り返しのつかないことをしていたのか。とんでもないことをしてしまったのか。ああ。そうだ。俺は人殺しを。この間も、危うくそれを。
「別に宗教はあなたを戒めない。あなたに信仰はないからです。けれど、人を殺してはならない、ということは―」 ヴァニラはすこし口ごもった。言葉を探しているそぶり。
「社会通念上、当然のことです。他人の人生を奪うのですから。他人の輝かしい未来、与えられるべき幸福を奪うのですから、やはりこれは重大な罪だと言わざるを得ません」
「ヴァニラ、俺は」
ヴァニラはあくまでも淡々としている。俺は。俺は。
「ええ。戒めを守ることが救いとなるわけではないのです。戒めを守ることで、戒めを守らぬものに対して優越感を抱く。そうした人々を批判し、十字架にかけられた男がはるか昔、この星にいました」
ああ。ヴァニラの表情。
何もないように、ただそこにあるようでいて、それでいて。
なんて、やさしい。
「私の目の前でそんな愚劣な優越感を抱くくらいなら、いっそ思いのまま私を抱けばよいのです。打ち据えればよいのです。なぜならわたしは」
ああ。
「―私は全てを赦します」
ヴァニラサン。
俺はわあっ、と、ヴァニラの腰にすがった。薄く、ちいさな身体。俺はこれまでなんて酷いことを。こんな、脆くて壊れそうなこの少女に。
ヴァニラサン。ヴァニラサン。
俺はただただ泣きながら許しを請うた。言葉にしなければならないことはいくらでもあったのに、言葉にならなかった。
ヴァニラは俺をあやすように、頭に手を置いてくれた。見上げると、驚いたことに。
笑っていた。
ヴァニラさんが。うっすらとだけれど、たしかに笑って、そうして、こう言った。
「うまく出来ないようなら、またやり直せばいいのです」
その翌日。
つまり、今朝はやく。
……ヴァニラは自殺を謀った。屋上からの飛び降りだった。なぜ厳重に施錠されているはずの閉鎖病棟の屋上の鍵があいていたのか。まるでわからない。誰も教えてくれない。
うわさでは、見つかったときには虫の息で。すぐさま一般病棟へ移されたそうだ。ただ、どうやら。
酷く頭を打って。意識を取り戻す見込みはないらしい―。
俺はもう、何がどうなったのか訳がわからず。投薬を受け、眠らされて、ようやく落ち着いたのだ。
昨日の出来事はなんだったのだろう。ヴァニラサン。ああ。もうあの暖かさは帰ってこない。あのじんとする、染み入るような安らぎは。
ヴァニラサン。ヴァニラサン。
俺の唯一のよりどころとなるはずだった少女は、何処かへ行ってしまった。もしかすると。
俺の罪を背負って?
それとも。
ただの狂人の少女の妄想に俺がかぶれただけなのか?
ああ。俺はふらふらと看護士に伝える。しにたい。と。 そうして、また注射をうたれ、ぶっ倒れ。
ああ。朝は来るのだろうか。
ヴァニラサン。ヴァニラサン。
ヒュッ!
暗く冷えきった深夜の病院、その空気を切り裂く音が響き渡る。
「いいかげんにしてくださいですわ」
青い髪の少女、ミント・ブラマンシュが叫ぶ。
その前に向かい立つのは同年代ぐらいに見える黒髪の少女、大道寺知世であった。
「カード全部集めるって決めたんだもん」
知世はウメガイを握り締めると、ミントにじりじりと近づいて行く。
「わたくしはカードではありません。それに二代目のカードキャプターは、わたくしですわ」
ミントの言葉に知世は少し驚いた様子であったが、すぐに元の表情に戻ると言い返した。
「違うもん。わたしがカードキャプターだもん。封印の杖だってちゃんとケロちゃんが届けてくれたもん」
ウメガイを目の前にかざす知世。その目には狂気の中にも強い決心が見受けられる。
「いいですからその封印の杖をお渡しなさい。わたくしにはその杖が必要なんですわ。殺られる前に殺る・・・ですわ」
封印の杖、いやウメガイを奪い取るため手を伸ばしたミントに知世は切りかかった。
「レリーズ!!」
シュッ!
研ぎ澄まされた刃が宙を斬り、ミントはそれを寸前で避ける。
たたっ
間合いを取るためミントは数歩後ろに下がるが、知世はそれを見逃さずジリジリと前に歩み寄る。
恐らく、次の一瞬で勝負が決まるだろう。
窓から差し込む月の光に照らされ、二人の少女の影が長く伸びる。
対峙する二つの影が今まさに交差しようとした、その時。
「迷子の迷子の子猫ちゃん〜♪」
その夜、俺は薬の効きが悪かったのか、深夜を過ぎても眠る事が出来なかったので病棟内を散歩していた。
のんきに鼻歌などを歌い歩いていると、三叉する廊下の先で何かを言い争う人影が見える。
目を凝らし誰なのか確認しようとしたが、俺の存在に気が付いた二人は別々の方向へ走り去って行った。
一瞬であったが、一人に付け耳のような影が見えた気がする。ミントさんだろうか?
二人の居た場所まで来てみたが、既に誰の姿も見えない。
まぁ、いいや。そう思いながら何気なく談話室の方に向かい中に入ると先客がいることに気が付いた。
「うさだ・・・さん?」
声を掛けると、ピンク色のパジャマを着た、おさげ髪の少女がゆっくりと振り返る。
月の光がメガネに反射しているため、彼女がどんな表情で俺を見ているのかわからない。
しばらく沈黙が続き、俺達は見つめ合っていた。
「ふぅ」
大きく溜め息をつき、うさださんが少し呆れた感じで言った。
「いつまでそこに突っ立っている気なの?」
「あ、ああ。すまん」
何故だかよく分からなかったが咄嗟に謝ると、うさださんの近くまで歩いて行った。
「別に近くに来てとも言ってない」
相変わらず俺に対しては冷たい態度を取っている。
うさださんから少し放れた場所に置いてあった椅子に腰掛けると窓の外を見た。
中庭の木々が青白く輝いて見える。今夜は満月か。
横を見ると、うさださんも中庭を眺めている。
月に照らされたうさださんの横顔を見ていたら何か懐かしい気分になった。
彼女も眠れなく夜の散歩を楽しんでいたのだろうか。
もっとも、散歩といっても病棟から外には出る事は出来ないが。
「一昨日、聞いたことを覚えている?」
不意にうさださんが質問をしてきた。
「一昨日?」
一昨日、何かあったのだろうか。いや、それ以前にここ数日、いや数ヶ月。ひょっとしたらここ数年の記憶すら思い出せない気がする。
「でじこを・・・やっぱり、でじこを殺したのね?」
「で・・・じ・・・こ?」
頭が痛くなり目の前がぼやけてくる。
「また気を失うつもり?あなたは都合が悪くなると、いつもそうやって過去から逃れようとするのね」
何を言っている?でじこ?でじこって誰だ?
「人殺し!まさか、まさかあなたと同じ病院に入るなんて思ってもみなかった。うぅ。初めてこの病院であなたを見たとき、とても怖かった。
そして憎かった。殺してやりたかった。」
涙を流し、うさださんは罵倒を続ける。
「あなたなんて畜生同然だわ。この犬!」
『犬』そう言われたとき、何故だか俺はとても可笑しくなり笑いが込み上げてきた。
そうだ、俺は犬だ。国家という御主人様に見捨てられ、組織という名の群れを逃げ出した犬。
あはははは、飼い犬じゃない。俺は御主人様に捨てられた犬だ。俺は只の野良犬だ。
「事件の、あの事件の記録がある。事件があった日、俺は日記を書いていたはずだ。俺の病室に置いてある。来いよ、うさだ」
涙目で俺を睨みつけているうさだに、俺は落ち着いた声で言った。
実際には酷く興奮していた。何故なら、俺はうさだを犯そうと考えていたからだ。
下半身が酷く熱い。俺は勃起していた。
青白い月明かりだけを頼りに廊下を進んで行く。
ペタン、ペタン・・・
俺と並んで歩くうさだのスリッパの音だけが聞こえる。
とても静かで、そして薄暗い。まるで水の底でも歩いているような気分だ。
ここにいる連中は水面に出る事が出来ない。ずっと水の底から月を見上げている。
あの窓ガラス一枚向こうの水面に出る事が許されない者達ばかりだ。
まるで、ブラウン管の中にでも閉じ込められているような・・・
無論、俺のような野良犬も外の世界に生きる事は許されないのだろう。
彼女達同様、外の世界では受け入れられないのだから。
病室の中に入ると誰も居なかった。
個室ではないが、多分俺だけしかここの部屋には入れられていなかったのだろう。
「あの日の日記はどこ?」
不安そうな、少し震えた声でうさだが訊ねる。
「そんな物は無い」
突き放すように答えると、うさだは俺を睨み付けた。
「お前はバカか?こんな夜中に男の部屋に一人で来るなんて。俺がこれから何をするか分かるか?まぁ、想像どおりの事だが」
威圧的な態度と口調で迫るが、うさだは俺を睨みつけたままピクリとも動かない。
俺は酷く腹立たしい気分になり強引に肩を抱き寄せると接吻した。
「んん」
うさだは目をつぶったが抵抗する素振りは一切見せない。
舌を捻じ込み絡み合わせると、うさだの少し甘いような唾液の味がした。
しばらく舌を絡み合わせ唾液を味わってから唇を放すと透明な糸が引かれる。
そのままベッドに押し倒し、パジャマの胸元のボタンを外そうとすると、すでに首筋まで唾液が垂れたのかベトベトになっていた。
「なに涎垂らしまくってんだよ。ひょっとして下の口も涎垂らしまくっているってか?」
そう言うと俺は下半身、パジャマの中に手を差し入れた。
「くっ」
侮辱的な言葉と、下半身に手を伸ばされた事の所為か、うさだは顔を真っ赤にして再び俺を睨み付ける。
だが、うさだは最後まで抵抗はしなかった。何故こいつは抵抗しないのだ。
うさだを犯し射精する瞬間、俺の記憶の枷が弾け飛んだ気がした。
「いいか、逮捕者は一人も出すな」
突入準備を終えた俺に、中隊長がそっと耳打ちをした。
ポンッ!!
まるでシャンパンの栓でも抜かれたかのような音が響き渡り、発煙弾が発射される。
「全員降車、突入開始」
兵員輸送車の後部ハッチから飛び降りた俺は、ビルの非常口に向かって走り出す。
ビル周辺に張られた非常線バリケードに大勢のやじ馬が集まっているのを横目に見る。
(いい気なものだな)
だが、その群集に紛れ一人の少女が俺を見ていた。
そうだ、その少女が俺を見ていることに気が付いていたはずだ。
記憶の中に押し込め、俺は見ていなかったことにしていた。
苦しそうに、下腹部を押さえ、俺を見ている『うさだヒカル』の存在を。
【首都治安警察特機隊非常召集の一時間前、秋葉原芳林公園】
「ちょっと、どういう事よ」
秋葉原の芳林公園に呼び出された俺に向かって、うさだは声を張り上げて怒鳴りつけた。
少しだけだが涙ぐんでいるようだ。
既に妊娠3ヶ月を迎えているためか、やや腹が膨らみかけている。
「ちゃんと責任取りなさいよ」
このままではまずい。こんな事が本部に知れたら終わりだ。
「何の事だ」
「な、何って。私の事、愛しているって言ったじゃない」
「バカが。お前は只の欲望の捌け口。本気で愛されていると思ったのか?」
「なんですって」
鬱陶しいメスだ。思わず、うさだの頬を引っ叩いた。
パシッ!カチャーン!
メガネが地面に落ち割れる。
うさだは頬を押さえ驚いた表情で俺を見つめていたが、やがて涙をポロポロと落として泣き始めた。
「ひ、酷い。初めての人だったのに・・・本気で好きなのに」
俺は隠し持っていた折りたたみ式の警棒でうさだを殴った。
ボクッ!!
鈍い音を立てて、うさだは地面に倒れこむ。突然の殴打にうさだは避ける事が出来なかったようだ。
「う、うう」
頭から血を流し、呻き声を上げているうさだの腹を目掛けて蹴りを入れる。
ボグッ!
「っ!!」
ボグッ!
「や、やめ・・・て」
ボグッ!
「うぅ・・・ゆ、ゆるし・・・て」
満身の力を込めて腹に蹴りを入れる。
ドムンッ!
「あ、がぁ・・・」
うさだの腰下に、見る見るうちに血溜まりが出来ていく。
痙攣しているうさだのスカートを捲くると下着を脱がす。
下着の中には、まるで血のゼリー塊のような胎児がドロリと横たわっていた。
俺は胎児を掴み辺りを見回した。やせ細った、汚らしい野良犬だけが俺達を見ている。
「か・・・返して。わ、私の・・・あ、赤ちゃ・・・・ん」
うさだの言葉を無視して、俺は野良犬に向けて胎児を投げ付けた。
野良犬は胎児を咥えると、物凄い勢いで走り去って行く。
「い、いやぁ。ど・・・どうして。うう・・・う」
血に染まり鳴咽を漏らすうさだを一人残して、俺は公園から立ち去った。
そうか、思い出したぞ。でじこを殺したあの日、俺はうさだも壊したのか。
あはははは。
エサを与えた俺自身が野良犬になる運命も知らずに。
「ひ、酷い。初めての人だったのに・・・本気で好きなのに」
うさだの言葉が頭の中に響き渡る。
俺は何度も何度もうさだを犯し射精した。
気が付いた時にはうさだは何の反応も示さず黙って宙を見つめていた。
決定的な何かが、うさだの中で壊れたのだろう。
どんよりとした目。そこには何も、憎しみ愛した俺の姿も映ってはいない。
強引に口付けを繰り返した時に口内を切ったのだろうか。
うさだの口元からは一筋の血が垂れている。
俺は指先でその血を拭い取ると、うさだの唇に塗った。
月明かりに照らされ、赤く染まったうさだの唇が浮かび上がる。
憎しみと愛、矛盾した感情が絡み合った糸。
その糸だけが彼女の精神をどうにか繋ぎとめていたのだろう。
だが、その糸も断ち切られ、もう二度と・・・
秋の夜長に「精神病棟の天使たち」を、ベッドに寝ながらWIN携帯で読む。
風流です。
痛みに耐えかねて。
「今ここに、在る」
ということすら、こんなにも”痛い”なんて。
どうしてみんなは平気なんだろう。死!死死死!
怖くてたまらない。今もヴァニラさんは何処かの病室のベッドの上で命のほのおをゆらゆらと、きえかけのろうそくのように揺らめかせ、あちらの世界とこちらの世界を行ったり来たりしているのだ。
あちらの世界。
ああ。俺の妖怪大百科は何処へ行ったんだ。俺の妖怪大百科。
「ロリコンって最低よね」
ランファが談話室で呟いた」
「ホント、ロリコンって最低よね」
俺はもう、死がおそろしくて恐ろしくていてもたってもいられず、彼女の話しに受け答えをするどころではなかったのだけれども精一杯の笑顔を作って(虚飾の笑いだ)
「なんだよ、急に」
言うのがやっとだった。
「まあ、さ」
ランファはいつものように俺とは目を合わせず、ちょっとたどたどしい口調で。
「いろんな性的嗜好というのは理解できるの。そりゃヘンなものもあるだろうけど…でも、ロリコンだけはダメ。気持ち悪い」
俺はうずうずと居心地の悪さを感じた。
「そりゃ…そうだな」
さえない言葉しか出てこない。
「そうでしょ?やぁよね、小学生くらいの女の子とか、平気で欲情する男がいるってんだから。ああ、気持ち悪い、気持ち悪い」
ランファはそう言うと談話室のすみの水道のところへ行って、手を洗い出した。
「気持ち悪い…」
ランファはなにか呟きながら必死で手をこすり合わせる。
「キモワルイキモチワルイミントミントミントミントミントミントミントミントミントミント。 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すあのペド体型のフリークスロリコン男性ターゲットのきちがい女あの女のせいで」
ランファは何時間も水道を出しっぱなしにして手を擦り合わせた。
俺は。
「ロリコンは気持ち悪い、か」
俺が知世にした行為は。ヴァニラさんにしたことは。だめだ。きもちわるい。はきそうだ。死。死死死。ヴァニラさん、わたくしは壊れそうです!どうか、どうかお赦しください。
俺はそう呟くと談話室を駆け出した。
ロリコン云々のことがあった次の日、やっと認識したのだが。
ランファもキチガイだったのだ。
その事実は俺の心に棘となって突き刺さった。まるで普通の少女のように見えたランファ。俺の過去を知る女。俺にとって本当の自分を探すための手がかりになり得た女。その女はいま、俺の目の前で。
「ミントミントミントミントミントミントミントミントミントコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスミントミントミントミントミントミントミントミントミントコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
ぶつぶつと呟きながら頭を掻き毟っている。廊下を車椅子でころころ音を立てながら移動したかと思うと、突然頭を柱に打ちつけようとしたり。
「しっかりしろよ!なにしてんだよ!」
そんなことしてたら、死んでしまう。死。死。うひゃあ。死。怖いよう。
「ミントをつれてきて!ミント殺す!ミント殺す!ミント殺すのよ!あいつの腕や太ももの肉をそいで佐川くんちの冷蔵庫で保管して飢え死にしない程度にミント自身に喰わせるのよッ」
「何言ってんだ!大体、なんだよ、ミントって人か?一体誰のことなんだ!」
がつん!がん!がん!
俺の制止もきかず、すごい勢いでランファは頭を壁に打ち付けた。頭頂部に血が滲む。ようやくその頃騒ぎを聞きつけたのか病院の連中が4人、駆け寄ってきた。
「あの、こいつが」
「ああ、いつものこと―。なんだ、お前か」
看護士が俺を見て嫌な笑いを浮かべる。中年の、えらく肥った男だった。
「ふふ。穴兄弟。元気そうだな」
やめろよ、そんな言い方。
俺が思っている間に組み伏せられたランファの腕にぶっすりと注射器がっさっていた。もがいていた彼女の手足が弛緩する。
「ったく。こいつ、最近またおかしくなってきやがって。」
「なんか、ミントって」
「ああ。ミント-ブラ…下の名前はなんだっけ。ええと、とにかく開放のほうから移ってきた奴だな。
おかしいな、こいつら病棟も別だったしかかわりがないはずなんだけど、いつの間にか塀越しに怒鳴りあってやがって。これだからキチガイは、まったくよう。閉鎖にこいつら押し込めたらややこしくなるのに,なんだって先生方はあいつらこっちに持ってきたんだ」
困ったもんだ、そういいながらその看護士はほかの連中に指示した。
「おい、こいつ」
ちょっとあごを動かす。尊大な態度。
「ちょっと処置室に運んどけ」
ぞんざいな言葉。同僚にかける言葉にしては、少し冷たいような。よほど上下関係が厳しいのか。嫌な職場だなあ。
「おい、お前」
その看護士は俺の肩に手を回した。その腕を振り払いたくなる。
「なんだかクスリでまたバカになっちまったって聞いたけど、本当かよ」
バカ、という言葉には腹が立ったが、こらえる。
「バカかどうかはわからないですが、どうにも」
「ああ。記憶がこんがらがってるんだってな。ところでよ」
俺の気持ちなどまるで斟酌しない。
そうだ。こいつの目。さっきランファを見る目。こいつの同僚を見る目。俺を見る目。
まるで、モノを、見る目だ――。
「麻雀のルールとかも、忘れたのか?」
え?
意外な言葉が出てきて面食らう。麻雀って。
俺がええ、とかまあ、とか曖昧な返事をしていると、
「いや、面子が足りなくってよ。お前が抜けてから苦労してんだ」
「え?俺、あんたらと一緒にそんなことしてたのか?」
なんでだ。患者と看護士。普通の病院でも、まあ男の看護師というものが少ない関係上あまりないことだろうが、殊にこの病院であればそんな親しく患者と看護人が馴れ合ったりするだろうか。
今のこの男も、現に俺や周りをまるで”モノ”を見るようにしか見ていない。それに―どう考えても、病院側は患者と親しくしたがっているようには見えない。
この間、歯欠け―看護助手を名乗る煙草を運んできた男だ―は、俺のことを「暴力支配を正した」などといっていた。しかし、現実には。
看護人の患者に対する暴力は日常的だ。ちょっと暴れる奴がいると頬を張り飛ばしたりすることだってままある。酷いときには薬物で黙らせる。
そうやって脅す。威嚇する。
結果としてこの患者で溢れかえった病棟の秩序は保たれている。暴力におびえ、精気をなくした患者たちとともに。
これが暴力による支配ではないというのか。
アレもあの男(きちがい)の妄想なのか。いや、ことによると俺(きちがい)の記憶すら妄想…。
「―おい。おいって!」
男の声で我に返る。
「その様子じゃ、駄目か。ま、俺たちゃ暇してるから、調子よくなったらこいや」
男は薄ら笑いを浮かべると歩み去ろうとした。
「あのお」
ふと沸いた疑問を口にする。
「さっきの人らは駄目なのか?」
男ははぁ?という顔をして振り返る。まるきり、意表を突かれたというような。
「暇つぶしだったら、ルールくらい教えてやりゃいいでしょ。あんたら同僚でしょう?」
男は不快そうな顔をした。心のそこから嫌そうな顔で、吐き捨てるように言った。
「バカ、あいつらは」
そういうと頭にくるくると人差し指で輪を描いた。
「キチガイだ、麻雀なんてできねえよ」
「え?なんで?あの人たちは―」
「いま女を運んでった連中だろ?あいつらはここの患者だよ」
よくわからない。たまたまそこに居合わせた連中に声をかけて?いやちがう。彼らはまとまって駆けつけてきた。
「茶を淹れさせたり、煙草に火を点けさせたりさせるけどな。あと肉体労働か。オマエ、ホントにここの仕組みまで忘れちまってるんだな」
「はぁ」
ため息ともつかない返事しかできない。何のことだよ。
「オマエがアレをやっちまうまでは、もっと色々やらされてたんだぜ。ドカタの真似ごととか、野良仕事とか…おっと」
男は口をつぐんだ。なにかやばいことを言ってしまった、という風に急に周りを見渡す。
「とにかく」
急にせわしくなった口調で、男が言う。
「オマエだって同じ穴の狢なんだ。わかってんな」
威嚇するように目を細めて。
「ええ、穴兄弟よお!」
下卑たせりふを吐くともう何の興味もないという風情で、その中年の看護士は行ってしまった。
ランファの突然の不調は俺にとって少しショックだった。なにしろ、ここでまともに会話できたのはあいつくらいだったから。
それにあいつは照れて見せたり笑ってみたり、女の子っぽい反応もして見せた。
それは、俺にとっても、”自分がまともなのかもしれない、精神病じゃないのかもしれない”という希望だった。
それが。ランファがあんなになって。俺の心は締め付けられるように苦しかった。あいつだって、キチガイだった。希望が塞がれたようで。
希望?
俺がキチガイでない、それだけを俺はランファに求めていたのか?
ああ。畜生。俺は鬼畜の変態ペドフィリアで、ちっちゃい子に手を上げたり。俺はどうしようもないクズだが、こんな俺でも。
誰かに愛されれば変わるかもしれない、などと。
妙な期待を抱き始めていたのではないか。
なんだよ。愛されたい?俺が?ランファに?
バカか、俺は。キチガイだよあいつも俺も。完膚なきまでにキチガイだ。
ここにいるから壊れるのか。壊れたからここに来たのか。わからない。もうなにも。
俺はふらふらとよろめきながら病棟の廊下をあてもなく歩き出した。
「おい、聞いたか?」
作業療法室に入ると同時にフォルテさんに話しかけられた。
机の上にはシリコングリースの缶とホウキが置かれている。
俺は黙ったまま首を振り、「何が?」といった顔をした。
「なんでもさ、ここに入院している女の子が意識不明になったらしいね。大方、大量に薬を飲まされたか、電気ショックの所為だろうね」
机の方に向きなおし、シリコングリースをホウキに塗り込みながらフォルテさんが言った。
うさだの事だろうか。俺は冷静さを装いながらフォルテさんに聞いた。
「どんな娘が意識不明になったの?」
「お前も合ったことがあるよ。前に解放病棟でリストカットした、うさだって子だよ」
やっぱりうさだのことか。彼女が意識不明になったのは俺の所為だ。
フォルテさんは俺に背中を向けたまま会話を続ける。
「罪を・・・」
「え?」
「罪を犯した奴は、その償いを受けなくてはいけない」
突然の事に、俺は言葉を失う。
「うさだも何かの罪を償うために、そんな事になっちまったのかもしれないね。私も戦争で大勢の人間を殺した。だから、いずれはその事で自身に決着を付けなくちゃいけない」
違う、うさだは何も悪くはない。俺の所為だ。俺がこの手でうさだを壊したのだから。
「聞いてくれ、フォルテさん。俺は」
言いかけたところで、フォルテさんは片手を上げ「黙れ」と身振りを示した。
「もしも・・・もしもお前にも償うべき事があるのなら、自分で決着を付けるんだ」
『決着』、それは『死』を意味するのか?
だが、俺の考えを見透かしているのかフォルテさんは言った。
「別に死ねなんて言っているんじゃない。お前に出来る事をやるんだ。それが償いになるかは分からないけどね」
(俺に出来ること・・・か)
その言葉を何度も頭の中で繰り返し、俺は作業療法室を後にした。
「ここにいる患者さんを生きる苦しみから解放する、というのはいかがでしょうか?」
突然、背後から話しかけられ俺は足を止めた。
振り返るとミントさんがニッコリと微笑みながら立っていた。
何のことだか理解出来ず、俺は呆然とミントさんの顔を見つめる。
「今あなたに出来ること、ですわ」
フォルテさんとの会話を聞いていたのだろうか。
生きる苦しみから解放する、それは人を殺せということか?
「俺に殺しをやれと?」
遠回しな言い方は面倒だったので、俺はストレートに聞いた。
「ふふふ」
ミントさんはやや流し目になりながら俺の側まで近づいて来る。
そして、俺の股間に手を当てると擦りながら言った。
「わたくし一人では少々無理ですの。ですから、あなたにも手伝っていただきたいのですわ。
もちもん、それ相当の礼はいたしますわ。わたくしの身体で・・・」
「な、何を言っているんだ」
思わずミントさんを突き飛ばそうしたが、彼女が手を動かす度、全身に電気が流れるような感覚に襲われ力が入らなくなった。
「硬くなっていますわね。ズボンの上からでもはっきりと分かりますわ」
金縛りにでもあったかのように、俺は身動きひとつ出来なくなる。
「おすわり、ですわ」
淫猥そうな、それでいて威圧的な声でミントさんが命令をする。
何故だか俺はそれに従う事が正しいような、その命令に従う事が心地よい気分になりヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。
「そう。そうやってわたくしの命令に従えば、続きをしてあげてもよろしいですわ」
そう言うとミントさんは俺の頬に手を当て接吻をした。ミントさんの熱く、軟らかい舌が俺の舌に絡みつく。
少しだけ人工的な甘味料の味と匂いがする。
唇を離すとミントさんは、俺を見下ろしながら言った。
「わたくしに協力いたしますわね。あなたには、わたくしのような高貴な御主人様が必要なのですわ。
御主人様に捨てられて野良犬になっても、一度命令されることに喜びを感じたあなたは、新たなる御主人様を求め続けていたはずですわ。
犬には御主人様が、そう、あなたは飼い犬なのですから」
212 :
記録者:04/09/17 20:36:01 ID:rkhhmaMF
【記録者の手記】
私はこの物語の主人公でも登場人物でもない。
すでに私、いや私達の手の届かない場所に行ってしまった、この物語の登場人物達について語るのは非常に辛い事だ。
だが、記録者としてこの物語の登場人物について語るのは私の義務だと少なからず思っている。
当然だが、物語の結末を知る私が、彼等の行く末を語るような無粋な真似はしないので安心してもらいたい。
物語の結末は彼等自身によって語ってもらうのだから。
『ミント・ブラマンシュ』
彼女は度々、自分が名家ブラマンシュの出身だと言い、周りの人間を見下すような行動を取ってきたのはご存知だろう。
実際には彼女の家柄は悪く、いや最悪だったと言ってもよい。潰れかかった廃屋同然の家に住み、学校にすらまともに行くことが出来ない。
その廃屋ですら実際にはブラマンシュ家の所有物ではなく、不法に占拠していたとも言われている。
母親はミントを産むと同時に男をつくり失踪、父親は定職につかず酒に溺れ酔っ払ってはミントに暴力を振るった。
そのためミントの身体に傷が絶えた事はなかった。
民生委員の世話で一時期学校に行った事があるが、まともな服すら着ていなかった事や様々な条件が重なり、ミントがいじめの対象になるのは目に見えていた。
(この件に関しては、いずれ彼女の口から語られるだろう)
学校に行く事を止め、友達を作る事もやめたミントが、しだいに内向的な子供になってしまったのも理解出来る。
ミントがよくやっていた遊び、とても遊びと言えないが、それは『妄想』する事であった。
『妄想の世界』、その世界では彼女はお姫様にも、学校の人気者になる事も出来た。
自分だけの、誰にも邪魔されない世界。
やがてミントは『現実の世界』よりも、『妄想の世界』に没頭するようになる。
213 :
記録者:04/09/17 20:37:22 ID:rkhhmaMF
だが、いくら『妄想の世界』に没頭しても、生きている以上は現実と向き合わなければならない。
その現実は非情なものであった。
ミントが十歳を迎えた日の夜、父親の姿は朝から見えなかった。
孤独ではあったが、それは暴力を振るわれないという事でもあり嬉しい事であった。
『妄想の世界』でミントは大勢の人達に祝福を受け幸せな時を過ごしたが、突然訪れた現実の世界の来客にそれは引き裂かれた。
乱暴にドアを開け押し入って来た四人組の男達によって、怯えるミントは抵抗する事もなく輪姦された。
その状況をビデオで撮影していた男が「ガキとやれるなんて最高だぜ。高い金を払っただけの事はあるな」と言った。
男達の性癖の所為だろう。何度も何度もミントは犯され弄ばれた。
父親は次の日の昼過ぎに帰宅したが、普段買っていた安酒よりも高価な酒を手にしていた。
その日から、父親が居なくなった夜は男が訪れミントを犯すようになった。
昼間は『妄想の世界』に生き、夜は『現実の世界』に生きる。
ミント・ブラマンシュは思う。
『現実の世界』の人間達が、『妄想の世界』のように、自分を中心に動き回る、誰も自分に危害を加えない、自分の思い通りに動く世界が欲しい。
そしてある夜、ミントはその方法を知った。
その夜訪れた男はミントに兎耳を付けさせ高貴に振る舞ってくれたら、何でも言うことを聞くと言った。
ミントは要望通りに兎耳を付け高貴に振る舞い、冗談で「父親を殺して」と答えた。
次の日の昼、酒を飲みながら帰って来た父親を、その男は刺殺した。
ミント・ブラマンシュは知る。
人間という生き物は己の欲望の為ならば何でもすると。
父親を殺した男の後頭部を酒瓶で殴り気絶させると、ミントは家に放火をした。
ミントは男が父親を殺害してから放火をして自殺したと言った。
しかし、警察の調べでミントが男を撲殺して放火した事が判明したが、当時まだ十歳であった彼女は医療措置という処分で済まされた。
もっとも、精神鑑定によって、実際にキチガイだった事も判明していたので、年齢という堤防による医療措置は無かっただろう。
214 :
記録者:04/09/17 20:39:45 ID:rkhhmaMF
ミント・ブラマンシュは知る。
自分の命令に従う人間、その多くは十歳である自分の身体が目的であること。
(記録者注:実際には栄養価の低い食生活を送っていたので八歳児程度の成長であった)
恐らくも、ミントは能力者であった。
ミント自身は自覚していなかったようであるが、無意識の内にその能力を覚醒させたのだろう。
ミント・ブラマンシュは自身の肉体的成長を止めた。
十歳であった、あの日から。
私がミント・ブラマンシュについて語れるのはここまでだ。
ミントが一人の中華系女性と出会い、如何にしてその身を更なる破滅に導いて行ったのか。
それは、ミント・ブラマンシュ、彼女自身によって語られるだろう。
ケロちゃん。
少し痩せたかな。なんだか目付きも怖くって。昔は。ううん、昔も人相(?)は良くなかったけれど。でもやさしくてふかふかで。
私がこんな顔していたら、どないしたんや、って。
うふふ。ヘンな言葉。ねえ、知世ちゃん。ケロちゃんったらおかしいよ。そっけなく、
「ああそうだ、俺はケルベロスだ」
なんて。ケロちゃん、格好つけてるのかな。おかしいよね、知世ちゃん。
夜中の閉鎖病棟の廊下は静かでございます。出歩くものはおりません。月明かりに照らされて、わたくしは”あるもの”と向き合っておりました。
すでに何度かの刃物を用いた攻撃をかわし合い、お互いに息があがっています。
ああ、さくらちゃん…。きっと、それはケロちゃんではございませんわ。だって、今わたくしが手にしている、これは…。
「汝のあるべき姿に戻れ!」
逆手に持った両刃のナイフ―封印の杖を振りかざして、わたくしは叫びました。ああ、早く、封印しないと。さくらちゃん、どうか力を!
封印の杖の風を切ります。
わたくしの心は、とうに焼きついておりました。心も体も制御を失い、何処までも暴走してゆきます。こうして激しく動いたあとには、必ず酷い筋肉痛がいたします。
本来動きが鈍いはずの私がこのような動きをする、その代償でございましょうか。
わたくしは、もう長くは無いように思います。
はらり、と。蒼い髪が数本、地面に落ちました。
カードキャプターを名乗るカード。そのカードはわたくしの刃の切っ先を見切って、文字どうり間一髪のところでかわしたのです。
青い髪をした、私よりもひとつふたつ下の年頃の女の子のすがたをして。そのカードはわたくしに封印されることはありませんでした。
「ですから、2代目のカードキャプターは私ですわ!」
矛盾した存在。
カードを捕獲するカード。そんなものが存在するなんて。こんなとき、さくらちゃんなら…。
いけませんわ。わたくしは、さくらちゃん。ですから、わたくしが。3たび、杖を振るいます。肘の辺りに痛みを感じました。でも。
この痛みこそが、無常の喜びであり、さくらちゃんの痛みこそわたくしの、痛み。
袈裟切りに斬った、
「やりましたわ!殺した!」
ところがわたくしは、手ごたえを感じることが出来ませんでした。大きく泳いで、よろめいてしまいました。とたん。
わき腹に、鈍痛。
ああ。痛い。痛いイタイイタイ。
私の斬撃をかわして懐にもぐりこんだカードはわたくしのわき腹に思い切りこぶしを叩き込んでいました。肋骨のあたりがごきりとなって。わたくしの口に生暖かい何かが―血でした―溢れてまいりました。
せっかく、ふところに捉えましたのに。
わたくしは歯噛みする思いで、飛びのきました。息が切れるのがわかります。心臓がはちきれそうで。関節という関節、殴られたおなかも痛みます。おまけに、昼間に男たちに弄ばれた青痣だらけの身体。
酷使され汚された私の醜い内臓の裂け目。
そう、その全ての苦しみが。わたくしを悦ばせるのです。さくらちゃん!さくらちゃん!さくらちゃん!
窓から差し込む月の光。
半身になった彼女は、わたくしを静かに見据えています。
「あなたも、わたくしと同じですわ。なら、今は―殺さないでおきますわ。そのほうが」
わけのわからないことを言って、しばらくわたくしを見つめた後。
(あなたのためでもありますもの)
急にふっと、薄く笑って。階段のほうへ駆けてゆきました。
「ま…待って!」
しかしその青い髪のカードは立ち止まることなく、何処かへと走り去っていったのです。
はぁ、はぁはぁはぁ。
限界を超えて体を動かしたつけが、いっぺんに襲い掛かります。わたくしは我慢できず、ぺたん、と。封印の杖を抱いて。廊下に手とおしりをついて座り込んでしまいました。
「封印…出来なかった…」
ケロちゃんはいないし。それに知世ちゃんも…知世?ああ、その刹那。わたくしは恐ろしい痛みに襲われます。殴られたわき腹でもありません。酷使した腱や肉でもありません。
酷い心の痛みで。わたくしは自分を保てなくなります。
大道寺知世がすぐ横でビデオを構えていたとすれば、さくらちゃんは何処?
違う。それは違う。おかしいもん!さくらここにいるもん!だから知世ちゃんが!
ああ。さくらちゃんのいない世界なんて、からっぽで。まるで何も無い。無機質で、不活性で。
だからわたくしは認めませんの。さくらちゃんのいない世界を。
だって。この痛み。
この苦しみ。
このみじめさ。
哀れさ。
「うふふふふ。うふふ」
私が、さくらちゃん。
うふふ。
わたくしは保護室に戻りました。
時間の観念などありません。ただ、窓がどんどん明るくなっていって。傷ついた体を横たえてまどろみます。
大丈夫、たいしたこと無いよ。
魔法の呪文を唱えて、痛みをこらえて。
食事を2度摂りましたので、昼を過ぎた頃でしょうか。
いつもの男がやってきました。わたくしを一番に罰してくれる、痛みを与えてくれる、あの男でございました。
ランファは帰ってこない。ヴァニラもそうだ。
俺は何がなんだかわからず、病棟の中をうろつきまわった。ただむやみに苛苛して気分が悪い。あいつもきちがいだ。こいつもきちがいだ。
キチガイキチガイキチガイキチガイキチガイキチガイキチガイキチガイキチガイキチガイ。眼鏡をかけた少女が窓の外をぼんやり眺めている。まるで彫像のように動かない。俺が近くを通り過ぎると、
「私の…赤ちゃんが。あか、赤」
涎をたらし、口の端に泡をつけ、服の襟元がだらしなく垂れ下がって、わけのわからないことを言っている。股間をしきりにさすっている。色情狂?焦点のあっていない瞳はまるで。まるで。
気が付くと、知世の軟禁されている保護室の前に来ていた。
いったい何をするというのだ。知世に会って何をするというのだ。また犯すのか?馬鹿な、馬鹿げている。第一俺は知世を性欲の捌け口として犯していたのでは無い。
恐ろしかったからだ。殺されると思ったから。この閉鎖的な場所では、あんなものと一緒にいたら必ず殺される。だから屈服させたかった。
けれど―。
もう、良いのかもしれない。
わびる事も出来ない。いまさら何をどうしたって償いきれるものでもないだろう。そうだ。
せめて。
殺されてやればよいだろう。
いつものように、鍵はかかっていなかった。
ぎい。鉄製の扉が開く。薄暗い部屋の中で知世は佇んでいた。いつものように長い髪をベッドに広げて。
胎児のように身体を丸めるその姿は、まるで痛みに耐えかねているよう。
「―知世」
俺は声をかけた。自分でも恐ろしいほど平板な声だった。
「知世。眠っているのか」
「ほえ?」
また、おかしな寝言めいたことを言う。
「少し眠っちゃったかな。でもわたしさくらだよ。きのもとさくら。とっても元気な○学四年生。得意な科目は…」
「もうよせよ」
それでもともよ続ける。
「でも私さくらだもん。知世ちゃんはわたしのおともだちだよ。とってもやさしいんだから」
「もう、よせ!」
知世は漸くなにかしゃっくりをするような滑稽な動作をして、しゃべるのをやめた。ベッドから半身を立てると、小首を傾けて俺を見つめる。
その瞳。昨日まで怖くて怖くてたまらなかった瞳。でも今は。
そうだ。死こそ福音なのだ。殺されてもいいのなら、なにが恐ろしいのだ。俺は言った。
「おまえは知世だ。さくらではない」
そんな否定がなんになる。俺がこいつを知世という名のものだと判断しているのは、周囲の人間が言っているからに過ぎない。それもキチガイ病院に勤めるキチガイや、キチガイやら。
だから、それは結局確率の比較的高い推測に過ぎないのであって、周りのみんなが俺と知世を謀っているのかもしれない。
しかし、知世はそのまま動かなくなった。俺は若干のためらいを感じて繰り返した。
「おまえは大道寺知世だ。きのもとさくらではない」
知世の顔に動揺の色が走った。
「どうしてあなたはいつもそんなわけのわからないことをいうの?わたしさくらだもん。知世ちゃんはわたしの」
「じゃあ、知世って奴、どんな外見だったか言ってみろよ」
すこしむくれたような顔をして、知世が答える。
「ええと、肌の色がとっても白くて。いかにもお嬢様って感じで。フリルのついたスカートが似合って。それから髪が」
そのとき。それまで半身を起こした知世の、耳の上のあたりで危うく均衡を保っていた髪の毛のほつれが。
はらり。彼女の白いほほにかかった。
「髪が、黒い髪が長くて。とても」
「さくらちゃんは?どんな子だった」
俺は少し確信めいたものを抱いて、問い掛けた。
「わたしは。わたしは」
知世が掌で自分の髪を弄る。髪の束を目の前に持ってきて、梳いてみたりする。
「わたし、わたし!」
あ。
気配で、分かった。感情の奔流が来ると。すさまじい勢いで彼女の魂が”吸い戻される”、と。ただ、それがわかった。
それがなんなのかはわからない。ただ、心に風を感じた。すさまじい勢いの突風を。
どのくらいの時間がたったのか分からない。
そうして、それがやんだ後。
ともよはばっとその場に蹲った。俺は少しの間混乱して、そして自分でもわけがわからず彼女の下に駆け寄った。
「い…たい」
それが知世の言葉だった。
そう。俺が知世から聞いた、初めての知世自身の言葉だった。
「身体が、心も。痛い。痛いですわ。おなかの下のあたりもとても痛くて。でも、一番いたいのは。ばらばらになりそうなのは。わたしの」
息も絶え絶えに。
「わたくしのこころ」
もういい、誰か呼んでくる、だから―そういって知世のそばを離れようとしたとき、くい、と袖を引かれた。
「お待ちください」
なんだ。まるで今までと違う。あのまるで娼婦のような淫蕩な表情でも、俺を恐怖させる純粋な狂気の瞳でもない。
ただただ、この世から引き裂かれ、切り刻まれた痛みに耐えかねる。儚げな少女。
「さくらちゃんは、さくらちゃんは」
俺は思わずその手を取った。小さく白い手。
「さくらちゃんは、死んでなんて。殺されてなんていません。ああ、殺された?仇を、どうかかたきを。復讐を。いいえ、いいえ、そんなはずありません。だって」
俺は何もいえないでただ知世の言葉に耳を傾けた。殺し?仇?いったいその”さくら”に、なにがあったというのだ。
最後は消え入りそうな声だった。
「わたくしが、さくらちゃん―」
そして。
瞳を閉じた知世。俺は早く医者を呼んでこようと立ち上がった。そのとき。
「ほえ?」
さくらが、瞳を目を覚ました―。
「またきもちいことするの?いつもおにいさんにさわられるとはにゃーんってなっちゃうよう」
ああ、あの瞳だ。
あの瞳。恐ろしい狂気。
「わああっ!」
俺はこの部屋に入ったときの泰然とした気持ちを忘れて、ただただ恐怖した。目の前の一連の現象を理解しようとして、理性まで取り戻してしまったのかもしれない。
「わあああああ!」
俺は思いっきり知世の後頭部を拳固で殴った。2発、3発。
鈍い音。
4、5、6発。
俺の指の付け根がじんじんする。この柔らかな少女にこんな固い部分があったなんて。
あたりまえだ。頭蓋骨は一番大事な人間の臓器―脳をガードするのだから。
だから、徹底的にやらないと破壊できない。
7、8発。
俺は狂ったように殴りつけた。殴るこちらの息が切れ、こぶしが痛んだ。
鼻血を出し、耳からも出血して倒れる知世。いや。
「はにゃーん…いたくするの、やだよう…」
うそだ。痛みを感じていない、こいつは。
「やめてよう」
知世ではなくて。
「さくら叩かれるのいやだよう」
知世の仇、殺されたはずの少女!
俺は逃げ出した。限り在るこの小さな世界の果てまで。狭苦しい病棟の果てまで逃げつづけた。
今月19日のイベント、仕事があって行けませんでした。
妄想先生、CC名無し先生の同人誌をどうにか手に入れたいのですが、
通販などやっていらっしゃいますでしょうか?
ピンフのみの手だが二―五万待ちで聴牌した。と、上家の例の肥った看護士が図ったように五万を切ってくる。もう15順目、全体的に場にマンズが高い。かなり強い牌だ。
俺は出上がりであがることも出来たが、あがらなかった。一体どの程度の手でこれほどの強い牌を切ってくるのか、見たかったからだ。
流局。奴の手は四―七万待ちの形式テンパイだった。556、とぎりぎりまで持っていて脂こい五万切り。別に点数を競っているわけでもないのに、ノーテン罰符をとりに来たということだ。
流局。俺は静かにノーテンを宣言して自分の手牌を伏せた。もう一人、例の歯欠けがテンパイしていて、1500点を払う。歯欠けの連荘。東二局の一本場。
なるほどな、攻め麻雀ということか。上家と対面に看護士、二人とも見覚えがある。対面の男は昆虫を思わせるやせぎすな男で、太っちょの上家とは対照的だった。この男は露骨に一色手を狙い、最後までおりていなかった。てっきりテンパイだと思っていたのだが。
この男は太っちょとは性格も対照的で、あまり騒ぎ立てることはない。ただ、やはりこの男もわれわれをまるで”モノ”を見る目で見ていた。
正規の看護士であることは、微妙に異なった服装、特に警棒を所持しているということでも判別がつく。だがそれよりもこのところは表情でわかるようになった。生きている人間の表情とは、こうなのだ。
そうしてもう一人、俺と歯欠けの後ろの粗末な椅子にすこしはなれて腰掛けている男。これは一般の患者だろうか、パジャマを着ている。場所決めの時にも参加していなかったところを見ると、麻雀自体をやらされるわけではないらしい。
彼も他の患者と同じようにいかにも不健康そうな肌の色をして、うつろな目で窓の外を見ていた。まだ若いようだがすっかり魂を抜かれている。眠っているのかと思って見ているとまばたきをした。
「おい!キチガイ!」
例の肥った看護士が俺のほうを向いて叫ぶ。一瞬自分のことかと思ったが、後ろを振り返って―驚いた。
事務室の隣にある看護士たちの休憩室―待機室、というほうが良いだろうか、その中の専用の麻雀卓で麻雀を打つわれわれを硝子越しに見守る患者たちの群れがいた。
「一人入って来い、いや、お前じゃない!」
我先に患者たちが中に入ってこようとする。太っちょは叫んだあとすこし考えて、
「ああ、ぴよこ、お前だ!」
虚ろな患者たちはその一喝でのろのろとその場を離れた。一人、名指しされた少女だけ、やはり虚ろな眼をしていたが立ち尽くしている。
「そう、お前だ。茶を淹れろ、茶」
見るとまだ十に満たない、幼い少女だ。かわいそうに、ずいぶんおびえている。
「お茶、淹れる、ぴよ…」
こんな少女を当然のごとく使役する看護士。やはりこの病院は狂っている。
じゃらじゃらじゃら……。牌をかき混ぜるのも乱雑で、いちいち伏せ牌などしない。
「さすがに全自動卓までは入れられねえからなあ。ああ、面倒だ」
太っちょがぼやく。看護士たちはふたりとも牌を積むスピードは遅い。いかにも扱いなれていない、といった風で牌を撒き散らしながら苦労して集めていく。
ためしに自分の山に18トン積んでみたが、気がついた様子がない。俺は自分の山に積んである牌と、彼らの山に積まれていく牌を覚えられるだけ覚えてゆく。
場に高かったマンズはどうやら対面の男がやたら集めていたようで、そのマンズは十分に洗牌されることなくそのまま下家の歯欠けの山に積まれていった。歯欠けは妙に手つきがよかった。
ちら、と俺の山に眼をやったが、無表情だった。18トン積みには気がついたのだろうか。
「おちゃ、はいったぴよ…」
やかんから急須に湯を注いで、湯飲みに茶を淹れた少女―ぴよこというのは愛称だろうか―が、恐る恐る太っちょに茶を差し出した。
礼も言わず、当然といった風に太っちょは湯飲みを受け取った。
「あちっ」
太っちょがいきなり頓狂な声を出す。そうして、間髪いれずその湯飲みをそのままぴよこにむかって放り投げた。 あっ!と。さすがに俺と歯欠けは声をあげた、だが、それだけしか出来なかった。
ごん!重たげな湯飲みが少女のちいさな頭に当たる。
まともに頭から熱湯をかぶったぴよこは最初ぴたり、と動きを止めて―そのあと
「ウアワワアアアアアアアアアアアアアツイピヨアツイピヨアツイアツイアツイアツイピヨ!イイイイイイイイアアアアエイエイアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
奇妙なおたけびをあげると床に倒れ落ちた。ごろごろと転がる。
「舌やけどするだろうが、キチガイがよ。体で温度おぼえろっつうの」
太っちょは憎憎しげに言うと、それきりぴよこに関心を失った風で、自分の手牌に熱中しだした。ぴよこは俺の向かい側、昆虫みたいなやせぎすの男の腰掛ける椅子のあたりまで転がっていった。
「アツイぴよ、熱い…でじこおねえちゃん、たすけ、て」 面倒くさそうに対面の昆虫みたいな男がぴよこを蹴飛ばした。はじめつま先で軽く蹴ったが、ぴよこは動かない。
昆虫は大儀そうに立ち上がると、ぴよこをサッカーボールみたいに思いっきり蹴り上げた。
「グエッ!」
奇妙な、声ともなんともつかない音を立てぴよこのいかにも軽そうな体は吹っ飛んだ。開け放たれていた部屋のドアを通り抜け、おそらく廊下の方へと転がって行ったのだろう。
こちらからは転がっていった先まで見えなかった。
その局、太っちょがホンイツをあがって歯欠けの親が流れた。ひとつ役牌を喰って、3900点。一本場を足して4200。
太っちょがそのとき叫んだ。
「おい、キチガイ!」
またキチガイか。一体どのキチガイなんだ、そう思っていると、例の俺の後ろに座っていた男がゆらり、と立ちあがった。
「これ、点パネしないか―」
言い終わる前に、
「センニセンの一本場」
後ろの男が答えた。以外に若々しく明瞭な声だったので驚いた。
「そうか、符ハネは無しか―」
点パネもなにも、刻子は泣いた役牌だけで、あとは数牌の順子ばかりなのだが。
ぽりぽりと頭を掻いて太っちょが言う。
「どうだ、便利だろう」
なぜか得意げだ。
「こいつに麻雀の点数計算を仕込んだんだ。呑み込みが良くてなあ、計算なら完璧だ。ただ、クスリのせいですっかりバカになってて、麻雀そのものは出来ねえんだけどな。いや、こいつは俺たちがどつきまわした、おっといけねえ、医療行為のときだったかな」
点数計算をした男はわれ関せずという風で、また自分の席へ戻って窓の外を見つめた。キチガイであっても、頭の出来自体はいいのかもしれない。
「専用の点数計算機って訳だ。くくく」
対面の昆虫が口を開く。たまに口をきくこいつの声は酷く陰惨で嫌だ。そうして、やはり人を人として見ていない。少なくとも患者を人間扱いしていない。
そのことに対して口出しをするつもりはない。しかし、腹が立たないわけではない。
「さあ、次だ次!」
勢い込んで太っちょが牌を乱暴にかき混ぜた。
俺は考えた。
いつ、仕掛けてやろう―。
ミントさんに命令された俺は約束の時間に病室を訪れた。
「こちらにいらして、座ってくださいですわ」
ベッドに腰掛けたミントさんが、自分の隣をポンポンと軽く叩きながら言った。
言われたとおり俺はミントさんの隣に腰掛ける。
「緊張していらっしゃるのですか。ふふふふ。世間を震撼させたあの事件の張本人は、以外にもシャイなんですわね」
「お、俺は別に・・・」
実際、俺は少し緊張していた。更にそれを、心の底を見透かされたような発言。
ああ駄目だ。俺はミントさんには逆らう事は絶対に出来ないのかもしれない。
ミントさんは俺の目をじっと見つめたまま話を続ける。
俺はその目を反らす事が許されないような気がして、意識を吸い込まれるような感じがして・・・
「あの事件は大変だったようですわね。しかもその関係者がここに入院していたなんて事になれば、なおさらですわ」
あの事件とは一体何の事だろう。秋葉原暴動の事だろうか。それとも、もっと別の事件にも俺は関わっているのだろうか。
不安、恐怖、焦燥、そんな感情に覆われ俺はどうしてよいのか判らなくなった。
「でも、安心してよろしいですわ。あなたはわたくしの命令に従っていればいいのですから。何も考えず命令に従えばよろしいのですわ」
いつの間にかミントさんは俺を抱くと頭を撫でていた。先程までの感情が消え何とも言えぬ安堵感に包まれる。
そうだ、何も考えず命令にだけ従っていればいい。余計なことなど考えるな。
主人の命令には忠実に従う、それが犬の生き方だ。
気が付くと俺達は唇を重ね合っていた。先日と打って変わり激しく抱き合いながらの接吻を繰り返す。
静まり返った深夜の閉鎖病棟。
この病室からのみ、激しい息遣いと舌が絡み合い唾液が混ざる音が響き渡っている気がした。
唇を放した俺とミントさんの視線が合う。
「あ、あの。ミントさん」
そこまで言いかけて俺は言葉に詰まった。本当にいいのか聞きたかったからだ。
だが、ミントさんは少し照れているような表情を浮かべ黙って頷いた。
水色のパジャマのボタンを一つずつ、ゆっくりと外す。
全てのボタンを外すと、パジャマが肩の部分からスルリと脱げ、ミントさんの上半身は裸になった。
パジャマの下には何も着けていなかったからだ。僅かだけ膨らみかけた胸が露になる。
俺はミントさんをベッドに寝かすと、小さな胸に手を当てた。
乳首に指先が触れると、ミントさんはビクリと小さく震える。
再び唇を重ね合わせた後、首筋から胸にかけ、徐々に舌を這わせ移動させて行く。
「くぅ、うう」
小さなピンク色の乳首を舌で転がすと、声を押し殺してミントさんが声を上げた。
小さな胸の感触を十分に楽しんでから下半身のパジャマを脱がすと、青と白のストライプの下着が現れた。
下着の上から性器に手を触れると、すでに濡れていたのかネチョネチョと音を立てて指が食い込んでいく。
我慢できなくなった俺が下着に手をかけると、ミントさんは少しだけ腰を上げ、脱がしやすいようにしてくれた。
生まれたままの姿になったミントさんを目の前にして、俺のペニスははちきれそうな程に勃起している。
ミントさんはチャックを下ろすと、俺のズボンを脱がしだした。
「あなたも早くお脱ぎになってですわ」
「あ、は、はい」
情けない声で返事をしながら上着を脱ぐと俺も全裸になった。
「ふふふふふ。こんなに硬くして。先がヌルヌルになっていますわ」
そう言うとミントさんは俺のペニスを握った。
俺の体温の方が高い所為か、少しだけミントさんの手が冷たく感じる。
シックスナインの体勢を取りミントさんは俺の上に覆い被さったが、身長差が結構あったため、俺は上半身を少し起き上がらせた格好になった。
ミントさんが舌の先を尖らせ、ペニスの先端からカリ首の裏へと這わしていく。
舌の先が敏感な部分を刺激する度、俺は快感に身を震わせた。
俺はミントさんの性器を押し広げると内側を覗き込んだ。
愛液で濡れたピンク色の肉壁が窓から差し込む月明かりを反射してヌラヌラと輝く。そして、その向こう側には小さな陰核が見えた。
それを舌の先で舐めると、ゆっくりと膨張していく。
「んん、ん」
お互いの舌の動きと快感が同調し合い、俺とミントさんは同時に声を上げる。
「そろそろ、いいですわね」
身体を起こしたミントさんはベッドに横たわり、俺に向かって両手を差し出した。
「来て下さい、ですわ」
亀頭をミントさんの性器に押し当て数回擦り付けると、一番挿入しやすいポジションを確認する。
やや上付きなのだろう。身長差があってもミントさんに対する負担は少なそうだ。
それを確認した俺は一気にミントさんの中に挿入した。
「あぁ、んん、うぅ」
性器の擦れあう音、少女の喘ぐ声、そして荒い犬の息づかい。
狩られるべき存在のうさぎに、犬は飼われていく。
犬に狩られたうさぎは壊され、だが、その犬は今は別のうさぎに飼い慣らされている。
俺がミントさんの中に果てた時には夜は明け、日が昇り始めていた。
全ての行為を終え、部屋を去ろうとしたその背中越しにミントさんが言った。
「最後まで戦いなさい、ですわ」
>>223 ごめんなさい。通販は色々な都合があって出来ませんです。
年内はイベント参加しませんけど、来年は二回ほど参加する予定なのでその時に再販いたします。
俺がこのばかばかしい勝負に乗る気になったのは、勿論わけがある。
欲しいのもがあったからだ。金ではない。麻雀自体には安いとはいえそれ相応のレートが乗せられている。だが、今の俺は金が必要なわけではなかった。
聖人君子になったわけではない。むしろ貪欲なあさましいこじきのように俺はそれを欲していた。ゆえに俺はこの上なく必死だった。
事務室に例の看護士をたずねると、ずいぶんと嬉しそうに俺を出迎えた。
「おい、漸く面子がそろった―」
昆虫に声を掛け、まもなく歯欠けが呼び出された。
時間は真昼間で、明らかに勤務時間中である。
まさかこれからはじめるつもりか、そう思って歯欠けのほうを見ると、なにやら覚めた顔つきをしている。この間俺に対したときはもう少し愛想があったような気もしたのだが―と。歯欠けは看護士たちが顔をそらした瞬間にちら、と俺のほうを見て気弱そうに
「宜しく」
呟いた。
昼食やらなにやらあるはずなのにお構いなしだ。事務室の隣の休憩室―というより、小さな雀荘めいた部屋に通された。
「なあ、おまえ本当に麻雀を思い出したのかよ?」
雀卓にかけられていたカバーを取り払い、埃をはたきながら太っちょが聞いて来た。
「ええ。―だいたいは」
昨日見た私物のDVDの中に、ちょうど麻雀を扱った映画が混ざっていた。モノクロのずいぶん古い映画だったが、その映画は俺の知識を回復するのに十分だった。
最後はばくち打ちの死体ががけから棄てられて終わるという陰惨なものだったが、その内容から漠然としていたその賭博のイメージが結実した。
俺は―限定的だが、麻雀を思い出した。
「ふふ、まえはいつもいつものらりくらりかわされてたが、今度こそカモってやるぞ」
太っちょは意味ありげな笑いを浮かべる。
「ええと…」
俺はすこしまごついた。俺はこれまでどのくらい勝ち負けをしていたのかが分からない。のらりくらりとかわしていたということは―。
「ほら」
昆虫がぬっ、とよこから出てきて、髪俺の目の前になにやらすこし古びた罫線と数の書いた表を差し出した。麻雀の点数表だ。
「まったく、こそこそとせこい麻雀だ」
俺の名前がある。太っちょと、昆虫の本名。それともう一人は時々入れ替わっている。ある月の収支。
某月某日・-60
某月某日・-189
某月某日・+150
某月某日・-21
某月某日・+62
某月某日・+86
某月某日・-6
某月某日・+46
某月某日・+25
某月某日・-90
プラス3の浮き。他の月についても同様だ。マイナス6、プラス1。一日ごとの出入は激しくても、月あたりの収支はぴたりと平均点に着地している。
―接待麻雀、だな。
瞬時に悟った。ここでは、この病院ではたとえ賭け事で病院の関係者に勝ってもたいした意味は無い。本当に払いきれないほど負けが込んだら奴らはどうとでもできるし、もしかするとほんのちょっとの出費すら惜しんで、無茶なことをするかもしれない。
俺はもう一度歯欠けのほうを見た。
ぼんやりとした、家畜のような表情。俺は理解した。俺たちは数合わせのために呼ばれたのだ。それも奴らをそれなりに楽しませる為に。やつらはそれを知ってか知らずか、奔放に賭博もどきを楽しんできたのであろう。
勝ちきることは出来ない。勝っても何の価値も無い。負ければ、個人の貯金から何らかの名目で金を引き出すことを要求されるのだろう。これはばくちではない。
だが俺はここで勝たなければならなかった。
金を得るためではない。俺の中に残った疑問。そうして、もしかすれば。俺の希望―。人間として生きるための道しるべが示されるかもしれない。
知世の仇とは。ランファがこだわる人物の名は?そうだ俺は全てを解決しなくてはならない、そうでなければ生き残ることも、生きてここを出る事も出来ない。
だから、勝ちきることだ。今日でなくても良い。近いうち、で良い。一撃で完全に仕留めて、手に入れる。それだけだ。
牌を触って、すぐ分かった。手になじむ。ああ、俺はこの賭博を覚えている。それなりに好んでおこなっていた。そのことを思い出した。俺の心の中で勝負に向かう気持ちが高まっていった。
その局、俺はラスを引いた。昆虫がトップを取った。歯欠けがしぶとく2着。
「ケッ。ついてねえ」
太っちょは最初のホンイツの上がり以外は安手を2回上がったのみで、一つ良いのを昆虫に振り込んでいた。
「おい、レートを上げてくれよ。やってられねえ」
「また始まったか、中谷さんの例の奴が」
中谷、とは太っちょの本名だ。たしかに1000点百円のウマ10・20では、子供の遊びであろう。
「おまえらも文句無いだろうな、特に村田」
俺はアツくなっている振りをして、熱心に首を振った。歯欠けはどこかあきらめたような顔をしている。
「はぁ、仕方ないなあ。いつもこれだ」
昆虫は不承不承、という感じで応じた。レートは倍になった。
「心配すんな、清算はここを出て行くときまでつけといてやらぁ」
太っちょが息巻く。
次の局、奇妙なことに気がついた。この麻雀を支配している違和感。
東一局:太っちょのメンホン・発。マンガン。
東二局:昆虫のチンイツドラ1・親ハネ。
東二局1本場:太っちょのメンピンイッツー。一つ順子が色違いなだけで、頭もイッツーと同色。
東三局:俺のタンヤオのみ。
東四局:全員ノーテン。しかし露骨に太っちょはピンズを、昆虫はソーズをがめているのが分かった。
おかしい。前の局から、染め手がばかりが続く。しかもこんな極端な。そして、誰もそのことに異論を挟まない。まるでこの奇妙な手作りが常道であるかのように。
あるいは俺の記憶が混乱しているのか?麻雀のセオリーはタンヤオ、ピンフのはずで、一から一色手に向かうのは特別な牌パイのときだという認識は、誤りなのだろうか。
いきおい俺が慎重になり、洗牌のとき思いをめぐらしていると、牌が一つ、下家から弾き飛ばされてきた。それを向こうからぬっ、と太っちょがひろいに来る。
俺は少し手を止めて下家―歯欠けの山を作る様を見た。ほんの一瞬だったが、十分だった。
―やってやがる、歯欠けの奴。
違和感の原因がわかった。簡単な2色元禄だ。
俺も歯欠けもほとんど面前で手を進めている.歯欠けが時々わけのわからない食いを入れているはおそらく―看護士たちが染め手で食った為狂ったツモを修正するためだろう。
まるで気がつかなかった。まさかこの男がいかさまをやっているとは思わなかったのだ。しかし、これは、使える。
その局を堺に俺は仕掛けをあきらめ、その日は負けないことに徹した。勿論歯欠けのやることは邪魔をしなかった。
ただ、歯欠けの山のところで、一つ太っちょの牌を食って俺の手にマンズが流れ込んできたとき、俺はすこしだけ意味ありげな笑いを歯欠けに見せた。
歯欠けはあくまで無表情をよそおった。
その日、俺はマイナス15。歯欠けは見事なプラスマイナスゼロ。
ひとり浮いた昆虫は上機嫌で点数表に記入した。6回半荘をやっって、ちょうど5時になった。やけに時間がかかるのは―看護士が二人ともメンチンなどをやってマチが分からなくなり、長考したりしたからだ。
「チッ。ツキがねえや。仕切りなおしだ。まったくよお、さすがに夜はキチガイの世話があるからな」
そう言うと一方的に麻雀を打ち切った。昆虫も立ち上がる。
「おまえら、牌を拭いとけよ。あとこの部屋も散らかったからな、ちっと掃除しとけや。手に余るんなら、他のキチガイを使っても良いぜ」
太っちょはそういうと休憩室を出て行った。休憩室の窓に張り付いている患者をほとんど殴るように手で突き飛ばしてどかせ、何処かへ行く。
部屋には俺と歯欠けだけが残された。
まずは武器が必要だ。
ミントさんの話によると敵は二匹。一匹は健常者であった頃には格闘のプロフェッショナルだったという。
現在は半身を失っているそうだが、それでも素早く強力な拳闘術で攻めてくるらしい。
車椅子の生活によって拳による破壊力は以前よりも増していると思われる。
もう一匹は、『封印の杖』と呼ばれる武器を手に戦う者。
ミントさんに言わせると、そいつは偽者の『カードキャプター』というキチガイらしい。
だが、偽者であっても手にしている武器、『封印の杖』だけは本物であるため注意が必要であるそうだ。
格闘のプロ、カードキャプター、こいつらと戦うには強力な武器が必要だ。
元特機隊員であっても装甲服を脱いだら只の犬、戦闘犬ではないのだから。
深夜、武器になりそうな物を探して、俺は病棟の地下室に降りて行った。
先日、大道寺知世に渡したウメガイのような武器が欲しかったので事務室の前まで行ったが、厳重に施錠されていたため中に入ることは出来なかったからだ。
そういえば、ウメガイを渡したあの日から大道寺知世には会っていない。
彼女はあの武器で自由を手にする事が出来ただろうか。
それとも逆に、自分自身を束縛してしまっていないだろうか。
取りあえず、この任務が終わったら会いに行ってみよう。
地下室には倉庫や実験室、それに患者を閉じ込めておく牢屋のような部屋があった。
昔、犯罪者のキチガイや、凶悪なキチガイを閉じ込めておくための部屋があったと聞いた事がある。
鉄格子の中を覗くと、壁から吊るされた鎖と腕輪が見える。
「ドクンッ」
突然、心臓の鼓動が早くなり、ぴよこの顔が頭の中に浮かんだ。何故だろうか。
俺は昔、こういった部屋を見たような気がする。
「ぴ・よ・こ・・・」
思わず、ぴよこの名前を口に出して呼ぶと、目眩と吐き気に襲われ俺はその場に膝をつき意識を失った。
短い時間であったが俺は意識を失っていたようだ。
冷たく硬いレンガが敷き詰められた床の上に俺は居た。
何か、俺自身に関わる重要な事に行き着くと必ず意識が失われる。
ぴよこも俺の過去に関わっているのだろうか。
何かの夢を見ていたような気がするが、はっきりと思い出す事が出来ない。
俺も知らない、俺自身の過去。それを知っている者がここには居る。
うさだヒカルもその一人だった。だが、彼女は俺の過去と共に失ってしまった。
俺は立ち上がると地下室の奥へと歩き出した。
地下室の倉庫を物色していると清掃用具と書かれたロッカーを見つけた。
あまり期待はせず、俺はロッカーを開けたのだが、そこにはとんでもない物がしまわれていた。
92式特殊強化装甲服、通称プロテクトギアとMG34多用途機関銃だ。
何故、これがこんな場所に。
プロテクトギアが配備されていたのは、解体させられた首都治安警察特機隊と自衛隊の一部だけであったはず。
民間には絶対に流通しないものだ。
そういえば特機隊の解体と武装解除に対抗し、蜂起したケルベロス騒乱にて持ち出された一つのプロテクトギアが、不明のままになっていると噂に聞いたことがある。
これがあの幻となったプロテクトギアだというのだろうか。
何にせよ、これがあれば俺は再び戦闘犬となれる。
プロテクトギアとMG34を装備した俺は地下室を後にした。
「おじちゃん、何しているぴょ?」
地下室から階段を上り廊下に出たところで声を掛けられた。
なんてタイミングの悪さ。
よりにもよってプロテクトギアを装備している姿をぴよこに目撃されてしまうとは。
こんな深夜に精神病院の廊下を徘徊しているなんて、まるでキチガイみたいな幼女じゃないか。
いや、実際にキチガイなのだろうけど。
「おじちゃん、そうじでもするのかぴょ?」
掃除?何を言っているのだ。キチガイの発作でも起こしているのか。
「だって、モップを持っているぴょ。でもおじちゃん、バケツは頭にかぶるものではないし、チリトリは腕にくっつけるものじゃないぴょ。
それにからだに巻きつけているマットレスがきたないぴょ。キノコとか生えてきそうだぴょ」
少し軽蔑するような眼差しでぴよこは言った。
どうやら幼い子供にはこの武装が何なのか理解出来ていないようだ。
だが、それはそれで運がいい。武装している事が知れたら、俺はぴよこを消さなくていけないのだから。
ぴよこと別れた俺は、ミントさんとの待ち合わせの場所に向かった。
俺が雀卓の端に牌を並べてぬらしたタオルでそれらを拭いてゆく間、歯欠けは椅子をどかして箒をかけていた。
意外と麻雀牌と言うものは手垢や煙草のヤニで汚れるものだ。もちろん一回くらいで目に見えて汚れるものではないが、気分の上でも拭いておくに越したことはない。
「アンタ、牌を拾えるな」
さりげない風を装って、俺は歯欠けに声をかけた。歯欠けは驚いたように動きを止め、掃除のためにかがめていた腰を上げて、俺のほうを見た。
「何いってるんだ、村田さん。アンタにその手のことを教えたのは、俺じゃないか」
え。俺も動きが止まってしまった。顔を見合わせる形となる。
「なんだ、思い出したわけじゃあ、なかったのか。道理で妙だと思ったよ。でもまあ、理想的な形だったんじゃあ、ないのかな」
「じゃ、あの仕掛けは」
「ん。いつもの手だ」
悪びれずに歯欠けは言う。
「彼らのは中高生並みの麻雀だよ。3人打ちみたいに大物手ばかりを狙ってくる。ちょっと山に色を固めて積むようにシーパイして、
自山に元禄で入れてやればすぐに染め手に走るのさ。苦しくなったら、食いを入れればいい。ドラがあればそれでも簡単にマンガンまでいくからね。こんないびつな麻雀」
歯欠けは遠い目をした。
「外でやったら、あっという間に裸にひん剥かれるだろうな」
俺は歯欠け、本名をイザワとか言うらしいが、そんなことはどうでも良い。とにかくこの男に麻雀を習ったらしい。麻雀を教わったといっても、ルールじゃない。
処世術、と歯欠けは言った。俺も入院した当初はルールだけは知っていたそうだ。だが、それではここではいけなかった。派手に勝つわけにもいかない。負ければ手酷い傷を負う上、逃げ場がない。
賭場だとすれば、これほどタチの悪い場は、地回りの類でも立てられないだろう。何しろ塀と鍵で囲まれて、その中で勝ちすぎないように打たされるのだ。合法的な恐喝といってよい。
「村田さんはその点、鋭かったよ。勝ちすぎるといけないことをすぐに感じ取った。それと、僕が悪戯をやっていることをすぐに突き止めた。あんたはカンだ、なんていってたけど―」
俺は当惑した。身に覚えがない、まるで他人の話だ。
歯欠けはふっ、と息をついて、掃除を再開した。俺も牌上でタオルを躍らせる。卓の上の埃を掌で払ってみたり。
「イザワさん、だったか。一体何処でこんな芸を?」
「ああ。ま、一応自営業者だったからね。客なんかを相手にするときに、色々ね。大きい仕事をしてたときもあったから、そういう時。ま、勝つためのイカサマじゃないよ。虚しいけどねえ」
この一見貧相な中年男は、以前はそれなりに羽振りが良かったらしい。どうしてこんなところまで転落してきたのか。それは聞けない。
「なあ」
そう、相手のことは聞けない。でも。
歯欠けはまた手を止めた。今度は下を向いたままでいる。
「俺は、以前何を」
ああ、声が震える。格好悪い。
「何をしていたんだ。何をしたんだ。人を殺したのか」
歯欠けは俯いたままだった。俺のほうを見もしない。
「いや―」
彼は首を振った。目は合わせようとしない。
「アレは事故だった。少なくとも君のせいでは、ない」
歯欠けは沈んだ声で、続ける。
「僕も本当のところは知らないよ。ただ、村田さんはあの頃、看護士の手伝いをしていた。助手、なんていう言い方でね。あの頃は滅茶苦茶だったよ」
まるで現実感がない。それは本当に俺のことを話しているのか。俺はやすっぽいプラスチックの牌を磨り減らせようとするかのように力を入れて、ただタオルで牌をなぞっていた。
「こっちにきてからここの医者を見たことがあるかい?ないだろう。今ですら、そうなんだ。前は年に一回、院長の回診があるだけさ。それもいやらしい顔つきでね、
ちっとも話なんか聞いちゃくれないんだよ。ま、いまあの院長は業務上過失なんたらで刑務所にいるか、自宅に引きこもっているのか、良くは知らないけどさ。とにかく、そんな感じだ」
「なるほど―正規の看護士が圧倒的に少ないのも」
歯欠けは頷きながら、
「そう。病院側の手が足りないのさ。いや、故意に人を配置していない。人件費、馬鹿にならないからね。そうして、足りない分を」
「患者でまかなった、か。馬鹿な話だ」
なんとなく話はわかってきた。
しかし、そのあとの歯欠けの話は驚愕に値した。
「村田さんはもともと自衛官だったらね」
「え」
間抜けな声を出してしまった。あっさりと、俺の過去がわかってしまったのだ。
「ああ、はあ」
なんとも、言いようがない。
「じえいかんって、あの、軍隊の?いや軍隊じゃなくて」
わけのわからないことを言ってしまう。そうか、俺は自衛官だったのか。別に職業そのものに驚いたのではない。自分の過去に少しでも触れられたことが嬉しかったのだ。
「その辺のことを買われて」
そこで、歯欠けが言葉に詰まった。こちらをちらり、と見て。なにか申し訳なさそうにしている。
「いいよ。何でも、言ってくれ。正直なんでも自分のことはどんなことでも知りたい。嫌なことでも」
自分が判らないよりは良い。俺は彼が話しやすいように、ことさら笑顔で言った。まだ自分のことという実感がないので、うまく笑えたと思う。
「患者を、その、力で、抑圧…」
歯切れが悪い。だが、察しは着いた。
「あの太っちょたちが患者を脅すのを、手伝っていたんだな」
我ながら―情けない話だ。
「仕方ないよ、村田さん」
俺がしょげていると、歯欠けが慰めてくれた。
「そうでないと、あんたは薬漬けにされるか、電気を食らわされるか。とにかく、まともじゃいられなかっただろう。若い男は真っ先にやられるんだ。点数計算してた男、いただろう?」
さっきまで虚ろな顔で太っちょに呼ばれるまま牌姿を見ては即座に点数を言い渡していた男。彼の座っていた粗末な椅子は、今は空席となっている。
用済みとばかりに、ゲームが終わるとたたき出されたのだ。
「彼なんか良い例さ。入ってきたときは時々暴れて手がつけられなかった。それが半月もすると、ああさ。
ああ見えても、良い大学出てるらしいんだがねえ。今ですらそうなんだから、あんたが少しでも反抗的なら暴れなくてももっと酷い目にあっていただろうね」
「嫌な話だ」
俺はあまりにも率直な感想を述べた。まるで他人事のように。そう。自分の身に降りかかっていた、などと考えるとそれだけでおぞましい。
「だから、気にしないで良い」
年長者らしい、穏やかな表情で歯欠けは呟いた。
「ちょっと待ってくれよ。話は」
「忘れたほうが良い。事故で、患者が死んだ。あんたはそこに居合わせた。僕だって詳しい話は知らないんだよ。僕はここで事務の手伝いをやらされているだけだから。忘れたんなら、忘れたら良い」
俺は少しむっとなった。
「教えろよ」
自然、威嚇するような声になる。
「知らないんだ。これは本当だ」
「俺は、誰を殺したんだ」
うっ、といううめきが聞こえたようだった。本当につらそうな顔を歯欠けはした。
そのときになって俺は始めて後悔した。
ああ、この男は本当に俺に気を使ってくれていたんだ。そう思ったときには手遅れだった。
「そのときこの病院の中で子供が死んだそうだ。中学生になるかならないか位の」
最後まで歯欠けは「殺し」という言葉を使わなかった。
晴れやかな顔でランファが帰ってきた。
そのとき俺はいつものように廊下でぼんやりと夕日を眺めていたのだが、まるで何事も無かったかのように彼女は、
「ひっさしぶりい!げんきしてたあ?」
などと、快活に笑いかけてきた。
「ん。まあ、な」
「うふふ、聞いたわよう」
ランファが意味ありげな笑いを浮かべる。俺は少し嫌な予感と、それからもうどうにでもなれという自棄と、ないまぜになった気持ちを抱えてランファの言葉を待った。
「すぐそこでえ、聞いてきたんだけどさ。アンタ、ここの連中とうまくやってるらしいじゃん」
「ここの連中?」
「看護士連中よ。アンタ―」
「馬鹿をいうな」
俺は寒気すら覚えて吐き棄てるように言った。
「うまくなんて、やっているものか」
「またまた。なんか看護士とえらく話しこんでたんでしょ、事務室で。ね。もしかして、開放に移るの?それとも退院?」
煩い。
「いいなあ、ね、開放に移っても、中庭から手を振ってよ。わたしきっと」
「煩い」
ぞっとするほど、低くて冷たい声が出た。
「―え」
その一言で、ランファのおしゃべりがぴたりと止んだ。
「俺は―」
すこしためらって。
「俺は、人殺しのキチガイだ。子供を殺した。最悪だ。キチガイだ。一番たちの悪い、外に出しちゃいけないキチガイだ」
あの、あのね。ランファがわたわたと声をかけてくる。
「俺は存在すべきではなかった。いや、今の俺は何処にもいない。精神病院の中にいて、その上過去の記憶が無い。自分の行いに自信が持てない。何故なら俺がやったことも、またすぐに忘れ去られて行くものだからな」
色々なことが俺の心に浮かんだ。殺しただけじゃないこの病院にいる間だけで、少なくとも俺は一人を殺し、一人を傷つけ、そうして二人の少女を強姦した。
犯罪者。そうだ。
「俺は犯罪者だ。キチガイだから裁かれなかっただけだ。ただそれだけのことだ。俺のせいで、俺の」
そのとき。
俺の腰のあたりにやわらかい感触があった。
暖かなその感じは俺の太ももから体側にかかる部分をたおやかに包み込んだ。
昨日、麻雀のあと。歯欠けとはそれ以上会話をしなかった。本当は頼みたいことがあったのだが、それどころではなくなった。
恐ろしかった。自分が人殺しのきちがいだということが、とうとう自分の中に認識として取り込まれていったのだ。これまでは、なんとも思わなかったのに、それが耐えがたいものだと認識できた。
ずいぶんそんだとも思った。俺はその記憶が無いのだ。犯してもいない罪の意識、ああでもそれは俺の犯した犯罪で。まるで人殺しという自覚が沸かないこともよりいっそう俺を嫌悪させた。
俺が、過去を取り戻そうとしていることが問題なのだ。
俺の過去はとてもではないがよいものではないらしい。当然だ、だから俺はこんなところにいるのだ。現に今も虐げられているのだし、つみを犯しつづけているのだ。俺が向かい合うものは全てそのまま刃となって俺を切り刻んだ。
俺はあのくだらない勝負をする意欲をいよいよ喪った。なにもほしいものなど無い。得たところで嬉しくもない。ならいっそ。
ランファが俺の腰のあたりに抱きついていた。
「おい、何を」
俺が離れようとするとランファは振り落とされまいとしがみついてくる。車椅子から落ちそうになるので、俺はあわててその場に留まった。
「おい、ちょっとまてよ、おまえ」
ランファが顔を上げた。
「馬鹿なこと言わないでよ!しっかりしなさいよ!」
腕にぐっと力をこめてランファが言う。
「しかしな」
「不躾なこと言ったのは、謝る。アンタ、もっとろくでもない奴だと思ってたから。でもね、やけになっちゃ、いけないわ。あたしを見なさいよ。こんな」
そこでランファは声を詰まらせた。
「こんな身体で、それでも生きてるのに。アンタは」
俺は唇をかんだ。自分でもわけがわからなくなる。どうしたら良いのだろう。どうしたら。
「俺は…俺は、おまえに言えないことだって、いっぱいしている。おまえが考えている以上に俺は狂っている」
「あなたは本当に馬鹿ね」
反論する気力も無い。
「だからわたしたちはキチガイ病院にいるんじゃないの」
そりゃそうだ。俺はその身もふたも無い言葉に脱力した。
すこしだけ気持ちが軽くなった。
「もう良いよ」
「―え」
ランファが不安げな表情で俺を見た。もう良い、というのはあきらめの言葉にしか聞こえない。
「もう良い。おまえが決めてくれ。俺がどうしたらいいか」
ランファは大きな目をますます見開いて俺の言葉を聞いていた。
「俺は脆すぎる。あまりにも弱すぎる。だから、おまえが決めてくれ」
俺は腰を落して、ランファを抱き返した。はたから見れば、それはきっと酷く苦しい姿勢での抱擁に見えただろう。しかし俺には無理な体勢でいることの辛さより、誰かを抱いていることへの満足感がはるかに勝った。
「そうなの、なら」
ランファは嫌に落ち着いて言った。その声色はいつもと違っているようで、少し俺を不安にさせた。しかし、同時に不思議な強制力を持っていた。ええい、面倒だ。いっそ彼女に全て任せてしまえば良い。
俺の腕の中にいる彼女はまるで窮屈そうな様子も無く、刺すように俺を見つめていた。
なんだろう。まるで人が替わったみたいだ。きちがいの発作を起こしたときとも違う。でも急に、あの軽やかな雰囲気がなくなっていた。
なんだ。
目の前にいる女。
いいや。もう、どうでも。
決めてもらう。それで良い。
「わたしを救って。あなたには矛盾した行動になるかもしれないけれど、わたしを助けて。その代償に」
ランファは真剣なまなざしで言う。
「わたしがこの身の全てを賭けて、あなたを愛してあげる。何人他人を殺しても、傷つけても、わたしだけはあなたを裏切らない」
待ち合わせの場所、閉鎖病棟の二階談話室に入ると既にミントさんが来ていた。
俺の装備していたプロテクトギアをミントさんは、うさぎ耳?のようなものをピコピコと動かして興味深げに見ている。
「敵は何処に?」
「あと十分もすればこの先の廊下に現れるはずですわ。あの偽カードキャプターは毎晩同じ時間に病棟を徘徊しているようですので」
俺達は、そいつが来る場所で待ち伏せをする事にした。
前衛に俺が立ち、ミントさんは後衛に回り攻撃をする作戦だ。
カチ、カチ、カチ・・・
ゆっくりと時間が流れていく。わずか数分であったが、凄く長い時間に感じられる。突入作戦と違い、待ち伏せによる攻撃は若干ではあるが安全性が高い。
だが、緊張感だけは変わらずMG34を握る手にも力が入る。
廊下を照らす月明かりを見ていると、うさだの事を思い出させる。
思わず、うさだの名前を口に出しそうになったその時、廊下の先で走る影が見えた。
素早く飛び跳ねるように、まるで天使が空を舞うかのように。
(精神病棟の天使・・・か)
そんな事を一瞬考えたが、その影が五メートルほど前に来たとき、俺は隠れていた廊下の柱から飛び出した。
「ほぇ!?」
敵、俺が仕留めるべき相手は奇妙な声を出して立ち止まった。
MG34の引き金を引こうとしたが、敵の姿を見た俺は硬直する。
「大道寺・・・知世」
「ケ、ケロちゃん?」
「何をなさっていらっしゃるの!早く撃ち殺してしまいなさい」
俺の背後でミントさんが叫んだ。
だが、俺は引き金を引くことが出来なかった。
目標の一人、偽カードキャプターは大道寺知世だというのか?
「ケロちゃん、どうして。どうして青のカードと一緒にいるの。そのカードを封印しないと。わたし、カード全部集めるってケロちゃんと約束したから」
大道寺知世はウメガイを握りしめ、俺に向かって泣きそうな声で言った。
あれは俺が渡したウメガイ。あれが封印の杖なのか。
「早く撃ちなさい!命令ですわ!!」
ミントさんが再び叫ぶ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ」
思わず悲鳴のような叫び声を出すと俺はMG34の引き金を引いた。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・
耳を裂くような銃撃音が深夜の病棟に響き渡る。
大道寺は素早い動きでバックステップをしてから振り返ると廊下の先へと走って行く。
「逃げましたわ!追って」
ベルトリンク式の50連弾を撃ち尽くした俺は、バックパックから次の弾を取り出し装弾すると敵の姿を追った。
大道寺は泣きそうな表情を浮かべ、時々振り向きながら走っていく。
ふり乱れる黒く長い髪。
何故だか俺は狩りをしているような気分になり性的な興奮を覚えた。
まるで猟犬にでもなった気分。正直な事を言えば、俺は勃起していた。
闇に浮かぶ暗視装置の紅い光。
逃げる大道寺にしてみれば恐怖以外何もないだろう。
病棟の一階へと下りる階段まであと少しの場所で大道寺は転倒した。
「ケロちゃん、どうして・・・どうしてさくらを裏切るの。怖いよぅ。優しかったケロちゃんに戻ってよぅ」
追いついた俺を見上げ、泣きながら大道寺が言う。
MG34を大道寺に向けると俺は引き金を引いた。
だが・・・
次の瞬間、何者かに投げ飛ばされた俺は宙を舞い床に叩き付けられた。
「邪魔をするのは誰ですの!」
後に続いて来たミントさんが俺を投げ飛ばした相手に向かって叫んだ。
叩き付けられた場所があと1メートル向こう側だったら俺は階段から転がり落ちていただろう。
俺は頭を上げると相手を見た。
キイ、キイ、キイ
錆び付いた車軸の音。
柱の影から月明かりの差す廊下へと現れたのは車椅子に乗った金髪の女であった。
月の光がその長い金髪に反射する。
「蘭花さん」
俺とミントさんは声を揃えその名前を口にした。
「あんたは・・・あたしを裏切るのね」
蘭花さんが俺を睨み付けながら言う。俺はまるで蛇に睨まれた蛙のように指一つ動かせなくなった。
「苺鈴ちゃん!」
苺鈴?
大道寺は聞いたことのない名前で蘭花さんを呼んだ。
キイ、キイ、キイ
車椅子をゆっくりと動かし、蘭花さんは俺とミントさんの方へと向かって来た。
ミントさんも明らかに恐怖を感じているらしく、ガタガタと震えながら立ちつくしている。
「ロリコン、ペドファリア、変態、異常性欲者、キチガイ」
蘭花さんは目を見開き怒りを込めて俺に罵声を浴びせる。
そしてミントさんの方に向き直ると、かつてない程の怒りと狂気に満ちた、それでいて喜んでいるような目をして言った。
「ミント、今日という日をずっと待っていたのよ。あんたもあたしと同じ身体にしてやるわ。
ふふふふふ、あはははははははは、ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ」
狂っている・・・
「こいつですわ。もう一人の敵は。撃って、撃って、撃って、撃って。早く撃ち殺してですわ」
ミントさんが半狂乱になりながら蘭花さんを指差した。
ウソだろ。もう一人の敵が蘭花さんだなんて。撃ちたくない。俺は蘭花さんを殺したくない。
だが、俺はミントさんの命令に背く事は出来なかった。
俺は何も言わず蘭花さんに銃を向けた。プロテクトギアに身を包んでいた俺は、感情の無い獣にしか見えなかっただろう。
だが、実際には俺の呼吸は乱れ精神は錯乱状態にあった。
命令には何の疑問も抱かず、立ち塞がる者には銃を向ける。俺は今まで躊躇したことなど無かった。
秋葉原暴動において『でじこ』を射殺した時も、俺は何のためらいも無く引き金を引いた。
それが今夜に限って二度も迷いが起きた。特に俺の目の前に居る女『蘭花・フランボワーズ』。
初めて解放病棟の中庭で蘭花さんを見たときから、俺の中で何かが変わりつつあった。
蘭花さんには他の連中とは違う、何かは分からないが違和感があるのだ。
『愛』といった感情があるのかと聞かれれば否定は出来なかった。
だがその『愛』といった感情は、恋人であったうさだに感じていた『愛』とも違う、主人であるミントさんに感じている『愛』とも違うのだ。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウカード!」
蘭花さんに銃を向けたまま身動きが出来なくなっていた俺の背後から叫び声が聞こえる。
我に帰った俺が振り返ると大道寺が封印の杖を振り下ろした。
シュッ!
左肩に鋭い痛みが走り、生暖かい血が肩から腹に向かって流れていくのが分かる。
これが封印の杖の力、プロテクトギアを切り裂いたのか。
「そんな、ケロちゃんが封印できない。どうして」
俺の驚きとは別の事で大道寺は驚いている様子だ。あの杖の本来の力は、プロテクトギアを切り裂くだけでは済まないというのか。
呆然としている大道寺の目の前に踊り出る影、それはミントさんの姿であった。
ミントさんの繰り出したパンチがみぞおちに深く食い込み、大道寺は呻き声を上げて膝を付いた。
「その封印の杖をお渡しなさい」
涙を浮かべ肩で息をしている大道寺を見下ろしながらミントさんは言った。
「でなければ、殺しま」
言いかけたミントさんの身体が宙に浮き上がる。
「殺されるのはあんたよ、ミント」
流血の所為か霞む目を凝らすと、そこにはミントさんの頭を掴みアイアンクローを掛けている蘭花さんの姿があった。
「い、痛いですわ。蘭花さん、待って、おやめになって」
こめかみを掴む蘭花さんの腕を振り解こうと、手足をバタバタとさせながらミントさんが悲鳴を上げる。
「あたしが・・・あのホームレスに同じ事を言ったとき、あんたはどうしていたのかしら?このまま階段から放り投げてあげる」
宙に浮いたまま、ミントさんはビクリと震え言葉を詰まらせている。
あの二人、過去に何かあったのだろうか。何にせよ早く止めないと大変な事になってしまう。
「おい、その手を放せ」
俺は蘭花さんの腕を掴むとミントさんを放すように言った。
蘭花さんは俺を睨み付けていたが、やがて悔しそうな表情になり泣き出した。
「どうして、どうしてミントなんかの味方をするの?あたしは、あたしはこの娘の所為で、ホームレスに輪姦されて・・・
それに両足も無くして」
俺は全身から血の気が引いて行くような感覚に襲われる。
「おにいちゃんのいじわる。だいきらい」
いつの日か見た、幼かった頃の記憶、泣きじゃくる蘭花さんに俺はあの少女の姿を重ね合わせていた。
僅かだが頭を掴む力が緩んだのだろう。
一瞬の隙を突き、ミントさんは蘭花さんの腕を振り解くと車椅子に向かって体当たりをした。
「あっ」
蘭花さんの身体が車椅子ごと階段へと傾く。そして、彼女の腕を掴んでいた俺の身体も同時に宙へと舞った。
ガンッ!
階段の一段目に落ちると同時に、蘭花さんの身体は車椅子から放り投げ出された。
俺は蘭花さんの身体を両腕で抱きかかえると、自分の身体をクッションにしながら階段を転がり落ちて行った。
U字型の構造をした階段であったため、一階と二階の中継地点に俺の身体は叩き付けられた。
そして、やや遅れて車椅子とMG34が大きな音を立てて俺達の真横に落下して来た。
プロテクトギアを装備していたが落下に対する衝撃が全て吸収される訳では無い。
全身に強い痛みが走る。それよりも蘭花さんは無事だろうか。
「うぅ・・・ミントの奴」
腕の中で蘭花さんが悪態を付いている。取り敢えずは大丈夫らしいな。
それにしても随分と軽い身体だな。まるで小さな子供、そういえば昔、おんぶしたあの女の子もこんなふうに軽かったよな。
「あんた、何であたしを助けたのよ。ちょ、ちょっと。しっかりしなさいよ」
蘭花さんが俺の身体を揺さぶり呼びかけている。
「ああ。大丈夫だ」
意識がもうろうとして、立ち上がることが出来るようになるには少し時間が掛かりそうであったが、無事であると蘭花さんに意思を伝える。
そういえば、ミントさんはどうしたのだろう?
俺はとんでもないミスをしてしまったからな。説教じゃ済まないかもしれない。
「まったく使えない方でしたわね。次はもっと使えそうな方を使うことにいたしますわ」
階段の一番上から見下ろしながらミントさんが言った。
次?何の事だ。
「もう、あなたには用はございません。さようなら、かわいいわたくしのワンちゃん、ですわ」
俺を捨てるのか?
最後まで・・・最後まで戦えって、俺に命令したじゃないか!
「待ちなさいミント!このままじゃ済まさないわ」
蘭花さんがミントさんを怒鳴りつけた、その刹那。
それは、まるでスローモーションで花びらが舞うかのように、ミントさんの身体が階段の上から舞ったのであった。
だがその奇妙な感覚もミントさんの身体が階段に叩き付けられると同時に現実へと戻された。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!
痛む身体に無理を言い聞かせ、俺はゆっくりと起き上がった。
階段の上を見上げると、大道寺が震えながらこっちを見ている。大道寺が突き落としたのか。
「わ、わたしのせいじゃないもん。その子が、その子がいけないんだもん。それにケロちゃんだって・・・ケロちゃんだっていけないんだもん」
大道寺は泣きながらそう叫ぶと走り去って行った。
「ミント・・・さん」
ミントさんは身動き一つしない。
出血と、先程の落下で目が霞んでいる所為だろうか。ミントさんの身体は前よりもいっそう小さく見える。
思わず蘭花さんと目が合うが、どうしてよいのか分からず俺は目を反らした。
五分ぐらいの時間が経過しただろうか。
床に伏していたミントさんがモゾモゾと動き出し、小さな泣きそうな声を出した。
「い・・・いたい・・・でちゅわ」
言葉遣いが少しおかしいようだが、落下のショックで幼児退行でも起こしたのだろうか。
「ミントさん大丈夫か?」
俺の問いかけに答えるようにミントさんはヨロヨロと立ち上がった。
だが、立ち上がったミントさんは三歳児程度の身長しかなく、着ていたパジャマの袖をダブダブさせている。
「とってもいたいでちゅわ」
こんな事が現実に起こるなんて。俺の気は狂ったかな。もう狂っているけど。
「あは、あはははははは。ミント、何よその姿は。あはははははは」
ミントさん、いやミントちゃんとで呼んだ方がいいのだろうか。
蘭花さんはミントちゃんの姿を見ると狂ったように笑い出した。
どうやら俺の幻覚とかではなく、本当に肉体も精神も幼児退行を起こしてしまったようだ。
大声で笑う蘭花さんの姿を見たミントちゃんは酷く怯えた様子になった。
「こわいでちゅわ。あしがないなんて、おばけでちゅわ」
「なんですってー。餓鬼だと思って調子づいてるんじゃないわよ。あんたの所為でこうなったんでしょうが」
「きひぃ、こわいでちゅわ」
怯えきったミントちゃんは涙目になると、ヨチヨチと階段を下りて逃げ出した。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス、ミントコロス。あははは、あはははははははは」
キチガイモードに入った蘭花さんは倒れていた車椅子を起こし乗り込むと、ミントちゃんを追って階段を下りていく。
ダムッダッダッダッダッダッダンッ!
見事なまでのコントロールで階段を無事に下りきる。
「もの凄いカーチェイス、いやパラリンチェイスだ」
俺はMG34を杖代わりにして立ち上がると二人の後を追った。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
加速した車椅子のタイヤの音が、病棟1階の廊下に響く。
「こわいでちゅわ。やばんでちゅわ」
「あはははははははははははははははははははははは」
ダブダブした服では走りづらかったのだろう。廊下の途中でミントちゃんは着ていたものを全て脱ぎ捨て、裸になって走っていた。
だが、所詮は幼児と鍛え抜かれた腕で走る車椅子では勝負にはならない。
車椅子はミントちゃんの真横に付くと、速度を落として並んで走り出した。
「あははははは。ほーら、追いついたわよ。もっと速く走らないと食べちゃうわよ。あはははははは」
「はひ、はひ、はひ、はひぃ。いきが、いきがくるちいでちゅわ。だれか、だれか、たちゅけてでちゅわ」
「あはははははははははははははははははははははは」
息が上がりヨチヨチと必死に走るミントちゃんの姿を見ながら、蘭花さんは更に大きな声で笑い出す。
その笑い声に怯え、ミントちゃんは走るのを止めることが出来ないでいる。
「はひぃ、はひぃ、はひぃ、はひぃ。もう、だめでちゅわ。ゆるちて、ゆるちてくだちゃい」
「あはははは、その手には乗らないわ。あんたさっきもそれで騙して、あたしを階段から突き落としたでしょ。
ほら、走るのよ。速く走るのよ。休まず走るのよ。あははははは。走れ、もっと速く、もっと」
バタンッ!
限界に達したのだろう。足がほつれミントちゃんは転んでしまった。
キキキキキッ
急ブレーキを掛けた蘭花さんの車椅子は数メートル先で停止する。
「あーら、ミント転んじゃったの?早く起きて走りなさいよ。でないと・・・轢いちゃおうっかなー」
「はひぃ、はひぃ、はひぃ。はしりまちゅわ。はひぃ、はひぃ。だから、ひかないでくだちゃいでちゅわ」
腕と足をブルブルと痙攣させ立ち上がろうとするが、ミントちゃんの身体は言うことを聞かなかった。
床に倒れたままミントちゃんは動けなくなってしまった。
「3秒間だけチャンスをあげまーす。3,2,1、0。ブッブッブッー。時間切れでーす」
待っていたとばかりに、蘭花さんはミントちゃんに向かって車椅子を走らせた。
ガラガラガラガラ
加速した車椅子がミントちゃんの足、小さく幼児独特のふっくらとした足を轢いた。
ゴリッ!
「ぎゃっ!」
酷く不愉快な音と共にミントちゃんは悲鳴を上げる。
「う、う、うぇ〜ん。いたいでちゅわ。いたいでちゅわ」
大声を上げてミントちゃんは泣き出すと失禁をした。
「何漏らしているのよ。これだから餓鬼は。でも、まだまだよ。ミント。
あんたの足が切断されるまで、何度も何度も轢いてあげるわ。あはははははは」
「ゆるちてくだちゃい。ゆるちてくだちゃい。びぇ〜ん、びぇ〜ん」
狙いを定め、蘭花さんは再びミントちゃんの足に向かって車椅子を走り出そうとした。
「もお、止めろ」
やっと追いついた俺は車椅子を掴むと蘭花さんに怒鳴りつけた。
「な、なによ。あんたには関係な」
パンッ!!
蘭花さんの声を途絶えさえた平手打ちの音が響き渡る。
「もおいい、止めるんだ。これ以上、こんな小さな子供を傷つけるのはやめろ」
平手打ちを食らった蘭花さんは頬を抑え、やや右上の方を見つめたまま驚いたような顔をしていたが、やがて両手で顔を覆うと首をイヤイヤと振り声を出して泣き出した。
先程までの俺の行動を考えれば、説教するなど言語道断であるが所詮はキチガイ同士。そんな事は既に忘れている。
「なんで、なんであたしだけ。こんな身体にされて・・・誰も、誰もあたしの事なんて・・・」
「すまない・・・」
そう言い残し、床の上で尿にまみれ泣いているミントちゃんを抱きかかえると俺はその場を立ち去った。
翌日の昼過ぎ、俺はミルフィーユさんを捜すため談話室へと向かった。談話室に入ると車椅子に乗った蘭花さんとすれ違ったが、目も合わさず黙って部屋を出て行った。
俺を意識的に無視しているようだ。多分、俺の事は絶対に許してはくれないだろう。
気を取り直して室内を見渡すと、中央のテーブルに座って本を読んでいるミルフィーユさんを見つけたので声を掛けた。
「こんにちは、何の本を読んでいるの?」
「あ、こんにちは。お料理の本を読んでいるんですよ」
「ほぉ。そういえば、ミルフィーユさんは料理が得意なんだってね。ミルフィーユさんの手調理を食べさせてもらえる人は幸せだろうね」
言ってから後悔する。ミルフィーユさんが少し悲しそうな顔をしてしまったからだ。
「そんなことないですよ。わたしのお料理を食べてくれる人が幸せになれるとは限りません」
何故、そんな悲しいことを言うのだろうか。何だかいたたまれない気持ちになり、俺は本題を切り出す事にした。
「実はミルフィーユさんにお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
俺は用件を話し出した。その用件とは、縫い物をお願いしたいので俺の病室まで来てくれと云う事だった。
ミルフィーユさんは何の疑いも無く俺の病室まで来たが、少しは疑う事を覚えた方がいいと思う。
もっとも、彼女に何かをしようなんて気は俺には無かったので、その辺も察したのかもしれない。
「わぁ、かわいい」
俺の病室のベッドで小さな寝息を立てているミントちゃんを見て、ミルフィーユさんは声を抑えながら言った。
「あの、あなたのお子さんですか?」
「いや違う。つか、この子はミント・ブラマンシュなんだが」
「へー、ミントちゃんって言うんですか」
やっぱり何かがおかしい。看護士や看護婦達も、幼児になったミントちゃんの姿を見ても何の疑問も抱かなかった。
それどころか『ミント・ブラマンシュ』の存在は最初から小さな幼児であったと思っている者が殆どで、それ以外は彼女の存在すら忘れ去っているようだ。
あの夜、あの場所に居合わせた俺と蘭花さん、そして大道寺だけが本当の事を知っているのだろうか?
「それで、編み物って何を縫えばいいんですか?」
「あ、ああ。これを」
俺は看護婦に頼んで貰ってきた幼児用の衣服を見せた。ミントちゃんに着せるための物だ。
以前、入院していた子連れの患者が持っていた物らしいが、所々破れていたりほつれていたりしたので、ミルフィーユさんに頼んで縫ってもらおうと思ったのだ。
訳を話すとミルフィーユさんは二つ返事で了解してくれた。
ああ、良かった。今の俺にこんな事を頼めそうな人は、ミルフィーユさんとフォルテさんしか居ないからな。
ミルフィーユさんはじっとミントちゃんを見ていたが、不意に真顔になって言った。
「あの、実は私にも・・・子供がいたんです」
余りにも突然すぎる告白に俺は一瞬何かの冗談かと思ったが、ミルフィーユさんの目は冗談を言っている感じではなかった。
「そ、そうなんだ。け、け、け、結婚とかしていたの?」
冷静を装おうとしたが、衝撃的過ぎる話に俺の心は大きく動揺していた。
「はい。病気の所為で旦那さんの顔とか名前は忘れちゃいましたけど、子供の事はよく覚えています。
子供は『ぷちこ』って名前の女の子でした。語尾に変な言葉を付ける癖があったけど、とってもおりこうさんで、かわいい子でした。でも・・・」
酷く思い詰めたような、悲しそうな表情でミルフィーユさんは話を続ける。
「旦那さんは、民間の警備会社に勤めているって言っていたけど、実際には警察関係のお仕事をしていたみたいです。
でも、仕事の内容は私や娘にも話してはくれませんでした。多分、秘密にしなくちゃいけなかったんだと思います。
だから、私もその事には触れないようにしていました。でも、でも・・・」
ポロポロと涙を流し、それでも無理に笑顔を作ってミルフィーユさんは言った。
「あの人、中学生と浮気していたんですよ。えへへへへ、酷いですよね」
俺は何と答えていいのか分からず、曖昧な返事をして話を聞き続ける。
「それで、それで私、少し変になっちゃって、ぷちこを、ぷちこを・・・」
我慢できなくなったのか、声を詰まらせながらミルフィーユさんは泣き出した。
「私、酷いですよね。お母さんなのに、自分の子供にあんなことしちゃうなんて。
ママやめてにゅ、苦しいにゅって。とっても苦しそうに・・・あの子、あの子の首を、私、私・・・」
肩を震わせ泣き続けるミルフィーユさんを、俺は黙って見つめる事しか出来なかった。
再び使わない事を祈るばかりだが、万が一に備えプロテクトギアとMG34の手入れを行うことにした。
俺が地下室からこれらの装備を持ち出した事が騒ぎになるかと心配したが、そのような気配は毛頭感じられない。
何か証拠が残っているとまずいと思い再び地下室に降りたのだが、牢獄のような部屋は見当たらず古びたロッカーや棚などしか存在しなかった。また幻覚でも見ていたのだろうか。
人目を避けながら作業療法室に入ると先客がいた。
「こんにちは、フォルテさん」
「よお」
何時ものようにホウキを研いているのかと思い机の上を見ると・・・
ああ、なんて事だろうか。フォルテさんが研いているのはホウキではない。M1ガーランドライフルだ。
今までホウキに見えていたのが俺のキチガイ幻覚なのか、それとも病状が悪化してライフルに見えてしまっているのか。
何だか気分が悪くなってきたが、気を取り直しプロテクトギアとMG34を机の上に置いた。
「うお、すげぇ。これMG34と92式特殊強化装甲服じゃないか」
フォルテさんはMG34を手にすると嬉しそうに言った。
「いやぁ、ノルマンディーで戦った時はこいつの機銃掃射に泣かされたもんだよ。ま、私の狙撃の腕前で撃っていた奴の脳天は吹き飛んだけどねぇ」
やっぱりフォルテさんはキチガイだ。
フォルテ・シュトーレンって名前からしてイタリアかドイツ系じゃないのか?何故、連合国側なのだろうか。
もっとも、イタリア系や日系のアメリカ人も連合国側で戦争に出ていたから何とも言えないが。
つか、第二次大戦時にはフォルテさんはまだ産まれてないだろう。
これだからキチガイは。
「こんにちはぴょ」
フォルテさんと一緒に銃の手入れをしていると、ぴよこが作業療法室に入って来た。
「おじちゃんとおばちゃんは、おそうじのじゅんびをしているのかぴょ?」
またか。なんでこの子は銃を見る度に同じ事を言うのだろうか。こんなに小さいのにキチガイとは不憫な子供だ。
「そっちのおばちゃんはいつもホウキをもっているのに、いちどもおそうじをしているところを見たことないぴょ」
「あのなあ、さっきからおばちゃんおばちゃんって。四捨五入すれば、あたしゃまだ二十歳なんだよ」
もういい、虚しくなるだけだから止めるんだフォルテさん。
「でも15歳超えたらおばちゃんだってきいたぴょ」
これ以上は危険な感じがしてきたので、俺は話題を変えようとした。だが。
「おばさん」
いつの間にか作業療法室に入ってきていた少女がぽつりと言った。
ずっと前にグーで殴られていた赤目の少女だ。相変わらず酷くブサイクな人形を抱いている。
「今、何か言ったかい?」
フォルテさんのこめかみにピクピクと青筋が立っているのが見える。
「おめーはババアだって言ってんだよ。わっかんねーヤツだな」
赤目の少女同様、ブサイクな人形が表情一つ変えずに答えた。無表情なのがよけいに腹立だしく思えたのだろう。
「なんだとコノヤローッ!!」
大きな声で怒鳴り散らし、フォルテさんは人形を掴んで壁に向かって放り投げると、俺のMG34を構え引き金を引いた。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ
銃撃音が作業療法室に響き渡る。こんな場所で発砲したら看護士達が大挙して懲罰房、じゃない保護室にぶち込まれるぞ。
あまりの音の大きさに驚いたのか、ぴよこは耳を塞いでいたが銃撃が止むとフォルテさんに向かって言った。
「おばちゃん大きな声を出してうるさいぴょ」
だから神経を逆撫でするような事を言うなよ。ぴよこには学習能力ってものがないのか。
俺は銃撃を受けたブサイクな人形がどうなったのか気になったので調べて見ることにしたが、不思議な事にキズ一つ付いていない。
「一体どうなっているんだ。あれだけの弾を食らってキズ一つないなんて」
思わずフォルテさんと顔を見合わせ唖然としていたが、赤目の少女はそんな事はまったく気にしない様子で人形を拾い上げた。
「ったく、これだからキチガイは。ヴァニラさん、こんなキチガイの相手なんてするだけ時間の無駄ですよ」
いちいち頭にくる人形だ。この赤目の少女が腹話術で話しているのだろうか。俺は聞いてみる事にした。
「その人形ってどうやって会話をしているの。腹話術?それともまさか、霊的な傀儡とかじゃないよね」
「そんなわけねーだろ。ワタシは10000GHzのクロック周波数を持つCPUを搭載したロストテクノロジー。
名前は、MA347612890GT4078579132R24マルマルZ17924398TZR二千モジュラー誘導タイプ
452963752391MQTOゴールドランチシステムGLS搭載自己判断タイプ
ダブルオー・スリーセブン293165734285YGNKTIO120YMCA4126PPPKG53ノーマッド。
そしてワタシと一緒に居る美しい女性がヴァニラさんです。あなた達、失礼の無いようにしてくださいよ」
「何かよくわかんねーけど、つまりマイコン搭載の人形って事か」
投げやりにフォルテさんが言う。今時マイコンってのもどうかと思うが。
「なんか長い名前で呼びづらいな。M・・・何だっけ」
「まったく、もう一度言いますよ。ワタシの名前は、MA347612890GT4078579132R24マルマルZ17924398TZR二千モジュラー誘導タイプ
452963752391MQTOゴールドランチシステムGLS搭載自己判断タイプ
ダブルオー・スリーセブン293165734285YGNKTIO120YMCA4126PPPKG53ノーマッド。間違えないで下さいよ」
やっぱり無理だ。覚えられない。
「ノーマッド」
赤目の少女、ヴァニラが人形を見せながら言った。略称って事か。
「あぁ、ヴァニラさんがそう言うのであればワタシはそれでも全然かまいません」
まあ、取り合えず判ったのは、赤目の少女の名前が『ヴァニラ』で、抱いている生意気な人形の名前が『ノーマッド』という事だ。
ヴァニラがノーマッドを抱いて部屋を出て行った。
「つまらないぴょ」
ぴよこもそう言い残すと部屋を出て行く。
作業療法室に残された俺とフォルテさんは、狐にでもつままれたような気分であった。
撃ったはずの弾は消えてしまうし、あの少女と人形の奇妙な言動も気になる。
しばらくの間、呆然としたまま立ち尽くしていたが、作業療法室に入ってきた看護婦さんに声を掛けられて我に返った。
「他の患者さんの迷惑になるから、鉄砲ゴッコやるときは大きな声で騒がないでね」
鉄砲ゴッコって何だよ。キチガイ患者だからってバカにするなよ。
フォルテさんと別れ病室に戻るため廊下を歩いていると、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた看護士が話しかけてきた。
「よお、小隊長どの。パトロールかい?」
俺を軽蔑しているのが一目で分かる。嫌な野郎だ。
「お前さんもヴァニラに会ったんだろう。へへへ、やっちまったのかい?」
なんて下品な奴なのだろうか。俺は酷く不愉快な気分になったので無視をして歩き出した。
「へへへ、治安警察の刑事さんはやっぱり違うねぇ。それとも薬漬けでインポにでもなっちまったのかい?」
背後で看護士が色々と言っていたが、俺はまともに取り合う気が起こらなかった。
「へっ、いかれた食人サイコ野郎が」
食人?
一体何の事だ。
267 :
保守:04/10/13 23:39:40 ID:MRumPaG6
テレビを見た。CM。いくらなんでも、あの尿素の歌はどうかしている、と思った。
きちがい気味の俺がきちがいじみた行為を見るのは辛いことだ。
このスレ読んだらサナトリウムオブロマンスをおもいだした
この2週間というもの、俺は酷い幻覚に襲われることが多く、そうしてそのたび醜態をさらした。例の病院の連中にも
相変わらず”勝負”の誘いをしてきた。そのたび俺はどうしたものだか困ったのだけれど、
「あのお、彼、ちょと調子悪いみたいなんでえ」
「黙っていろ、ダルマチャンコロ」
にべもない看護士に食い下がる−−ランファ。
「いえ、ちょっと躁鬱のケがあるじゃない、この人。でも暴れたりしないし、なんだったら私見てますよ」
侮辱にもかかわらず彼女はあくまで穏やかに、そうしてぬかりなく俺をかばった。
ちょっとしたすったもんだの後(ランファはそれを言い争いにまで発展させない、そのあたりは巧みだった)
「しょうがねえなあ、おいお前」
最後に看護士−いつもの太っちょだ、その太っちょは俺の方を見て言った。
「女の陰にいつまでも隠れてんじゃねえぞ。今度こそ毟ってやるんだからな」
すこし落胆したふうだ。太っちょはそれだけ言うとまるっきり興味を失ったように何処ともなく廊下を歩いて行った。
俺はランファの庇護の元にあった。彼女のそばにいると安心できた。心が軽くなるような気がした。彼女はおれに滋養と成長に必要な太陽、
水分を与え、そうして俺は生きながらえるどころか殻の中で幻想的とも言える信念を強化した。
「俺はお前のためならどんなことでもできる」
あれから2週間。日を追って俺の脳の中はファナティクな狂騒で満ちあふれていった。おれが狂っているからか。俺が卑劣で陋劣なペドフィリアで、殺人狂の気違いだからか。
おれのランファに対する傾倒は思想の域にまで達していた。
自己否定だらけの、だらし無く、醜く小さな俺。夜は屈折した妄想、それも大変歪んだ性的なもので、いつも犯しつづけて
きた2人の少女の見ている前で自漬を強要されるという恥知らずの妄想で、おれは羞恥と快感と屈辱の汚泥に飲み込まれなが
らその光景を思い浮かべて自漬した、まったく気違いだ、おれは本当の気違いだったのだ、ああ、ああ。閉鎖病棟の暗闇で気
違いたちが深夜の彷徨を続ける間にもおれは陰部に手のひらをこすりつけ、人が見ている中を毛虫のような快感に酔いしれた
。やつらは興味なさげに俺を見るだけだ。
おれは気違いで、色情狂で、くずで、ヘドだ。俺のような奴がいるから未成年者への性犯罪はなくならない。
声が聞こえる。
《ほら、村田さん、やっぱり気違いだったみたいよ》
《あら、こわい。わたし、気を付けておかないと》
《それがね、あのおとこ》
《やっぱり気違い病院に》
《ほら、いまもそこのかどであれをやっているわ、やっぱり気違いねえ、所かまわず》
おお、ああ。おれは古今東西のアニメキャラに罵倒されながらあれをやる、本当はアニメキャラなんてどこにもいないの
に、それでもおれはアニメキャラになじられ、自漬けの習慣があることを噂され、そのことで辱められるのだ。
ああ、うう、ああ。
そんなおれを救ってくれたのはランファさんだった。彼女は毅然としておれを守ることを約束してくれた。
おれは彼女に報いなければならない。いや、報いるなどという高慢な物言いなど許されるものではない。
おれは彼女に認められて初めて人として生きることが出来るのだ。彼女は俺の自漬を咎めない。
それどころか、おれがあれをやっている間中看護士がきたりしないか監視してくれたりもするのだ。
そうして俺のことを見つめてくれた。ああ、このちっぽけで卑劣で卑屈なこのおれを!深夜の気違い病院でえんえんと
くずの妄想にまかせて自漬するこの俺自身のことを!
「私はあなたを否定しない、それでも私はあなたを愛する、そう約束したから」
おれはその時天空から舞い降りる黄金のアニメキャラの姿をみた。ランファの形の良い唇がきりりと結ばれて、股間に
手をやる俺を見据えた。
俺はその時射精した、惨めに俺が下着を汚す、そうしてなんとも言えない匂いがあたりに立ち込め自漬のあとの満足感
と虚無感がおれを包む時、俺はランファという
天皇を発見し、自己嫌悪の闇から救い出されたのだ。そうだ、ランファは天皇なのだ。アニメキャラにして俺の思想の中
核たる黄金に輝く天皇陛下だった。
ああ、ああ。俺の天皇、俺だけの天皇陛下!おれはあなたのもとでならどんあことでも耐えて行けます!
日本軍はせんぜんちゅうごくじんみんをさんぜんまんにんころしました、なんきんだけでよんじゅうまんにんころしま
した、それからちょうせんじんみんをれんこうしてきょうせいろうどうさせました、俺はアカどもを軽蔑する、そうして
アニメキャラをオタクの気持ち悪い妄想として見下す連中を殺してやる。ランファさんこそ俺の天皇で私心なき忠誠の対
象なのだ!おれはそうやって生きるしかない。おれは弱いのだ、弱い俺はランファさんに認められてはじめて人間として
生きることが出来ます、生まれ変わることができたのです!ああ、ああ、この暗闇の地獄に光り輝くランファさん!
俺はきちがいを罵倒する世間の怒号を聞きながらランファさんの車椅子の元に蹲りそうして彼女を仰ぎ見た。彼女はた
だただ俺に慈愛を注ぐのだ。
そうして、昨日の夜。彼女は俺に告げた。
「ミントを殺しなさい」
と。俺は狂喜してその命令を受け取った。
※漬>さんずいに売という字の旧字体、賣と言う漢字に読み替えてください
ミントは”ミントの部屋”にはいなかった。ランファの言ったとおりだ。
俺にはもう躊躇いはない。人を殺す、そのことに何の抵抗も感じない。ただただ”純粋アニメキャラ”にして俺の世界の全能なる天皇であるランファの意思に従うことが俺の唯一生きる道だった。
ランファの言うことが全てであり、法であり、秩序だ。それを乱すものは排除しなくては。
ランファに教えられた部屋を探す。その部屋は何故か個室であり、男が一人入っているだけなのだそうだ。
たいていがタコ部屋のこの病院の中で、保護室でもないのに個室だというのは奇妙なことだが、丁度空きになっているのかそういう風になっているらしい。
「ミントは女よ」
ランファはそれだけ言った。
「男の部屋に入り浸ってしけこんでるのよ。まったくあいつは本当の色情狂のきちがいだわ」
憎憎しげなランファ。その瞳に狂気の炎が見え隠れする。俺は陶然とそのあやしい光に見惚れる、まるで呆けたようにうっとりする。ランファさんこそ至高の人、現世に降り立った現人神。
俺はランファがこの世界の混沌と不平、俺がこんなところで切り裂かれるような孤独と不安と劣等感にさいなまれているのを救いに来たのだと理解した。
それは俺の空想でも妄想でもない、俺は”理解した”のだ!
「その淫売を殺せばいいんだな」
「そうよ―簡単でしょ?」
「ああ。簡単なことだ。そのときは…」
「判っている。貴方を一人になんか、しないわ」
日中、病棟の廊下は幽霊のような精気のない患者が行き来している。
談話室、作業療法室。何処も似たようなものだ、ぞっとする。俺はあの看護士や顔見知り―歯欠けたちに見つからないように周囲に気を配って歩いた。
幸い誰にも気づかれず、病棟の南口(尤も南”口”とはいっても非常階段は施錠されており、火事でもあった際は大惨事はまぬかれないだろう)にほど近いランファさんに指示された部屋へとやってきた。
扉はぴったりと閉ざされ、静まり返っている。
俺は壁に耳をあて、中の様子を探ろうとしたが物音ひとつしない。空振りか。そう思ってドアの取っ手に手をかけた。抵抗なくノブが回る。少し手前に引くと、音もなくすっと扉が開いた。
10センチほどの隙間から中を覗き込んだ。薄暗い、狭い部屋だ。中にはベッドがひとつ。最初は誰もいないものだと思った。だが―
そのベッドの毛布がもこもこと動いている。人にしてはちいさなふくらみだが。そう思って見ていると、
「ああ、やっぱり足が痛くてねむれまちぇんわ。いたいいたい。ああ、でも疲れまちた。待ちくたびれまちたわ。一体何処まで」
幼児のような言葉が聞こえてくる。ああ、あのちいさなふくらみはヒトだったのか。おそらく、ミント。それなら。
俺は音を立てないように体を室内に滑り込ませた。
「ふう…おなかがすきまちた。今日は…」
毛布の中から顔を出した”ソレ”を見て、俺は驚愕した。
「馬鹿な。いくらなんでも、それはありえない」
間の抜けた独り言。
ベッドの上の少女―いや、童女だというべきか。その女の子はあまりにも幼すぎた。3,4歳といったところではないか。こんな幼い子がどうしてこんなところにいるのだ。
「あら…どなたでちゅの?」
幾分おびえたような声でその子は話しかけてきた。
「名乗るほどのものじゃ、ない。それにそんなこと意味がない」
「まあ、そんなの失礼でちゅわ。ヒトの部屋に入ってきて名乗りもしないで」
虚勢だろう。反抗期を迎えた子供のように(実際そのくらいの年齢だ)生意気な口を利く。
「お前はミントだな。ミント=ブラマンシュ」
ぞっとするくらい低い声が出た。俺はこれから起こることを考えるとあまりにも憂鬱で。出来たらこの場から逃げ出したい!
幾分気おされたミントが
「そ、そうでちゅ…」
やけに素直に答える。
ずい、と俺はミントに近寄った。
「ミントちゃん」
ミントの顔に急速におびえのようなものが広がってゆく。
「おねんねの時間だ。お昼寝しないと大変だよ。さあ、眠ろう」
俺はミントの首に手をやった。細い首。幼児特有の暖かい柔らかな肌。少し手に力を入れるだけで、折れてしまいそう。
哀れで、弱くて、幼いミントちゃん。
「およちになって…お願い…駄目でちゅ」
ミントの足元に水のしみが広がる。ミントは失禁している。無理もない、これから殺されることが判っているのだ。
「安心しろ…あっという間だ」
そのとき、不意にある情景が頭に浮かんだ。それは俺の記憶にない場所だったが、しかし確かに俺の脳内から浮かんできたものだ。
―忘却のかなたの俺の記憶?
俺は目の前がかすんでゆくのを感じた。これは俺の記憶なのか。それとも幻想、幻覚なのか。わからない。
俺は日記をつけている。薄暗い地下室だ。
某月某日。少女はずいぶんと衰弱している。やはり犬の餌では毎日の激しい調教に耐えられないらしい。しかし食事も立派な調教の一環なのだ。飢えは人間を恥知らずに変える。喰うためなら何でもする。
某月某日。調教中、少女が意識を喪う。あまりにも激しい性行為のためだ。しかし苦痛に意識を喪ったのではない。快楽のあまり意識を喪ったのだ。
「はにゃあん。きもちいい!きもちいいよう!」
確かに彼女はそういった。このありさまを収めたビデオテープなら依頼主にも安心して渡すことが出来る。
それにしても変われば変わるものだ。
某月某日。少女は浅ましい浅ましい愛玩動物に成り果てている。俺は少女に「チンポ奴隷」というあだ名をつけてやった。
「はにゃ…嬉しい。私はチンポ奴隷です。チンポ大好きですう!」
ここまでの変化を見せるとは。依頼者の少女にこの少女の性感帯やら嗜好、考え方まで聞いており、やり方まで指示を受けていたとはいえ―少しこの有様は不気味だ。
某月某日。衰弱し、目は落ち窪み、体はいたるところ青痣だらけだ。依頼主にそのことを電話で報告すると、
「まあ…それは、素敵…そんなになった彼女を早く見てみたいですわ。落ちてゆく====ちゃん。ああ、====ちゃん。素敵ですわ。ぼろぼろの、愛玩動物の…」
依頼主の荒い息遣いが聞こえる。どうやらオナニーを始めたようだ。
我に返った俺は、ミントがこちらをあわれっぽい目で見ていることに気がついた。その目が俺の嗜虐心に火をつけた。
殺す?殺すだって?
そんな、そんな恐ろしいこと。ミントはおびえた顔で自分の首に巻きついた腕を見ている。 駄目だ。殺せない。こんな少女を殺すなんて出来ない。いくらなんでも。
しかし頭にランファの声が響く。
「お願い、ミントを殺して。そうすれば私は」
うわあああああ!あひゃあ!あひゃひゃはy!
俺はベッドに首を掴んだままミントを投げ飛ばした。
「きゃああ!」
ミントがわめく。
「畜生!畜生畜生!」
どうしていいのかわからない。
さっきの記憶。ランファ。何が何なのだ。
「痛いでちゅ…お願い、殺さないで…」
「うるせえ!」
俺はミントのパジャマを剥ぎ取った。男女の見分けがつかないような薄いちいさな胸板。下腹部を覆っているちいさな布の切れ端を引きちぎる。
「…ひっ」
ミントは恐怖で声も出ないようだ。失禁して濡れたそのパンツを放り投げ、全裸のミントちゃんに向き直った。
「殺せない。畜生。俺は何をすべきなんだ」
ばちん!ミントちゃんの頬を思いっきりびんたで張り飛ばす。反動で思いっきりベッドに倒れ伏すミントちゃん。そのミントちゃんに馬乗りになって、頬や肩口、首などを嘗め回す。
「ああ…気持ち悪いでちゅわ。くすぐったくて、それにぬるぬるして…いやでちゅわ」
そんなミントの嫌悪の言葉が俺をよりいっそう勃起させた。
俺はミントのいまにも折れそうな細い脚を強引に開くと、もはやどうしようもなく勃起した俺の股間の鉄串をミントの単純な線形の股間の裂け目ににつきたてようとした。
「痛い!いたいいたい!いたいでちゅわ!ああ、いたいでちゅ!」
ミントがもがき苦しむ。恐ろしくちいさなミントのからだが右へ左へ、俺の体の下で跳ね回る。
「おとなしくしろ!殺すぞ!」
「ああ、でも、でも」
なおも暴れるミント。俺は強引に挿入を試みたが、ミントのその部分はあまりにも狭く俺の陰茎を受け入れなかった。ほんの先っぽすら受け付けない。
ミントのその部分は湿り気などまるでなく、とても性行為に耐えられるような雰囲気ではない。
俺は半狂乱になってミントを叱咤した。
「おまえふざけんなよ!力入れんなよ!あと、さっさと濡れろ!お前アニメキャラだろうが!アニメキャラはなあ、レイプされてもすぐに感じてくるんだよ!
処女だろうが幼稚園児だろうが、最初の一コマだけ”痛いっ”とかいって、あとは濡れ濡れのびちょびちょで」
しかしミントは苦悶の表情を浮かべて身を捩るばかり。
「糞!仕方ないな!」
俺は挿入をあきらめ、ミントの顔のそばまで陰茎をもってゆき、自分の手でしごきたてた。
「おいミント!おまえ、舌でこれを舐めるくらいのことは出来るんだろう」
おびえきったミントは声も出ないようだった。
もどかしい。
「こうやるんだ!」
俺はミントちゃんの青い髪を掴み、俺の股間へと持って行った。
「先っちょを舐めろ。それくらい、できるだろう」
ミントちゃんはショックのためかぼんやりしている。
「早くしろよ!」
俺がおもいきり頭をはたくと、よろよろと俺の陰茎に顔を寄せ、ちろちろと先端を舐めだした。
限界はあっという間だった。恐ろしく俺は興奮していた。なんで俺はこんなに興奮しているのか。とにかく異常なまでに精神が高揚していた。
「ひゃっ…」
ミントちゃんが叫ぶと同時に、俺はミントちゃんの顔面に精液を放っていた。どくどくと脈を打つ俺のそれ。
まるでミントちゃんの顔が火事になっていて、俺という消化ポンプがその火事を消しているよう。そして、あっという間にミントちゃんの顔は俺の精液まみれになった。
どろどろの白濁液にまみれ呆然としているミントちゃん。俺はオルガスムスの開放感と虚無感に襲われて一瞬頭がくらくらする。
そのとき。部屋の扉がガチャリと開いた。
「ミントちゃん!」
振り返ると若い女が立っている。大きな花をあしらったカチューシャをつけ、黄色いパジャマを着ている。
「ミントちゃん…それに―」
なんだ。この女。
俺は性犯罪がよりにもよって若い女にばれてしまったことに対するどうしようもない自己嫌悪に取り付かれながら、この女が外へ走り出して人を呼んでくるのを待った。病院の関係者がこれを見たらどうするだろう。
と、俺が考えを巡らしているとその女は信じられない、という顔のままで呟いた。
「むらた、さん…?」
看護士の言葉が気になったが病室に戻りミントちゃんの様子を見に行く事にした。
そろそろ起きる時間だろう。足のケガは大したこと無さそうであったがやはり心配だ。
少しだけ早足になって歩いて行くと、薄暗い廊下の壁に背中をもたれながら黒髪の少女が歌を歌っているのを見た。
「StrangeNewWorld、StrangeNewWorld」
長く黒い髪が薄暗い闇に溶け白い肌がぼんやりと浮かび上がる。
「大道寺・・・知世」
思わず少女の名前を口に出して呼んだ。
だが大道寺には俺の声が届いていないらしく、まったく反応を示さなかった。
どんよりとした、まるで濁った金魚鉢のような瞳には生気というものが感じられない。
「おい。お前に聞きたい事がある」
肩を掴み揺さ振ってみたがやはり反応は無い。
大道寺の肩に触れて気が付いたが、随分と華奢な身体つきをしている。
力を込めれば簡単にへし折れてしまいそうな、細い首、小さな肩、スカートから伸びた白い足。
壊してしまったらどんな気分だろうか?
蝶の羽を毟り取ったときのような・・・大切な玩具を壊してしまったときのような・・・
取り返しのつかない事をしてしまった時に感じる自虐的なゾクゾクとした気分。
うさだを壊してしまったとき、泣きそうになりながらも興奮していた俺が居た筈だ。
気が付くと俺は大道寺の両肩を強く抱きしめていた。
耳元に大道寺の熱い息が吹きかかる。
我に返り慌てて手を放すと、キョロキョロと周りを見まわして誰にも見られていなかったか確認をした。
一体、何をやっているのだ・・・
何故だか恥ずかしくなり足元に目を向けると、ノート型PCが転がっているのを見つけた。
床にでも叩き付けられたのだろうか、筐体の所々にひびが入っている。
これは大道寺の持っていたPCだ。
自分で床に叩き付けたのか誰かに叩き付けられたのか判らなかったが、筐体を開くとディスプレイが点灯したので完全には壊れていないらしい。
ディスプレイの灯りが廊下と大道寺、そして俺を照らす。
他人の物を勝手に見るのは気が引けたが(しかも、反応が無いとはいえ本人の目の前だ)好奇心には勝てず、慣れない手付きでタッチパッドに触れると画面のポインタを操作した。
PCにインストールされていたのは、あまり普及していないD-OS(大道寺オペレーションシステム)であったが、壁紙が猫の写真だったりアイコンが動物や花のイラストだったりで、いかにも女の子といった感じであった。
インターネットブックマークを見ると、ニュースサイトや通信販売サイト、俗悪で有名な掲示板サイトなどに混じって同性愛者の悩みを相談しあうサイトなどがある。
モバイルカードでも持っていれば話は別なのだがネットに接続出来る環境ではないので無視してもいいだろう。
ハードディスクの中を調べていくと『さくらちゃん』と表記されたフォルダを見つけた。
『さくらちゃん』、大道寺が度々口にしていた名前だ。
この中に大道寺に関して何かが解る情報があるかもしれない。
特にパスワードなどが設定されていなかったのでフォルダの中身を見るのは容易であった。
200X年XX月XX日 赤日新聞
200X年XX月XX日 友枝日報
200X年XX月XX日 惨経新聞
200X年XX月XX日 ツーちゃんねるニュース速報+ 8スレ目
200X年XX月XX日 ツーちゃんねるニュース速報+ 13スレ
200X年XX月XX日 ツーちゃんねるロリ板 お前等の仲間がとうとうやっちまったな
どうやらニュースサイトや掲示板サイトのHTMLファイルを保存してあるらしい。
俺は適当なファイルをクリックすると内容を確認した。
『友枝町児童監禁暴行殺人事件』
『小学生4年生の女子児童監禁暴行のうえ殺害される 友枝町』
『遺体は無残にもバラバラ 犯人は食人行為も行った?!』
『小学生児童殺害事件 死体を調理して販売? 友枝町住人にパニック』
記事の見出しを読んだ瞬間、俺は目眩と吐き気に襲われた。
知っている・・・俺はこの事件を知っている。
はっきりとした記憶は無かったが、『この事件を知っている』という事実だけは認識出来た。
「さくらちゃんを・・・私はさくらちゃんを・・・食べて・・・食べてしまいました」
突然、大道寺が口を開いた。先程までのハクチ状態とは打って変わり瞳には光が戻りはっきりとした意思が感じられる。
目からは大粒の涙がぽろぽろと溢れ頬を濡らしてく。
「大道寺、お前・・・」
「ミントちゃん!!」
大道寺に質問をしようとしたその時、俺の病室の方からミルフィーユさんの叫び声が聞こえた。
286 :
むらた:04/11/02 21:12:14 ID:O+gAt3jG
書き手の言葉を出すのはちと寒いと思ったのでアレなんですが、ちょっと間ほかの事をするのでこちらを離れます。ここは掲示板なので、俺や妄想さん以外の他の方が話を進めたり、
突っ込みを入れたりそういうのもありだと考えています。話があらぬ方向へすすんだらすすんだで、帰ってきたときそれをまた展開するのも楽しいかな、とも思いますので。
そう長い期間でもないと思いますが、けして投げ出したりするわけではありません。気にかけてくださっている方もいらっしゃる用ですので、一応心配させないように書き込んでおきます。
>>286 待ってるにょ
>書き手の言葉を出すのはちと寒いと思ったのでアレなんですが
同人誌でオイラは言い訳じみた事するの嫌で、あとがきは絶対に入れないんだけど少しは釈明しろって言われた事があるなぁ。
オイラが未完だったり、尻切れトンボな所為なんだけど。
つか、ここで釈明しているし・・・
言い訳なんていいわけねえ
(外人の作家で)冒頭に何ページも能書き垂れるようなのがいるけど、そっちのがやだ。
ま、中身への評価は変わらない。
290 :
CC名無したん:04/11/12 23:01:09 ID:fHHD1glC
>>290 村田さんをライバル視しているけどケンカする理由は無いよ。
決別した覚えもない。少なくとも私はそう思っています。
つか、私は友だと思ってるですよ。
友人が活躍するのは嬉しい。
お前さ
元々情緒不安定だけど最近のカキコなんかやばくねぇか
大丈夫か?
俺は泣いている大道寺を残して廊下を駆け出した。
そして廊下を曲がった先にある病室の前で、ミルフィーユさんが硬直したまま立ち尽くしているのを見つけた。
一体どうしたのだろうか。
「ミルフィーユ・・・さん?」
呼びかけに反応しミルフィーユさんは俺の方を向いたが、真っ青な顔をして口をぱくぱくと動かしている。余程ショックな事があったのか声が出てこないようだ。
病室の中で何かあったのだろうか。そう考えた俺はある大切なことを思い出した。
「ミントちゃん」
そうだ、病室の中にはミントちゃんを残してきたのだ。
ミントちゃんの身に何かあったのか?
一歩一歩踏み締めるようにゆっくりと、俺はドアに向かって歩き出した。
「お待ちになってください」
突然、背後から俺の肩を掴み話し掛ける声があった。
緊張していた所為か俺は悲鳴を上げそうになったが、喉元まで出かかった声を飲み込むと振り向いた。
目の前には黒髪の女が、やや威圧的な感じで俺を見ている。
白衣を着ているところを見ると医者であろう。
「あなたはここを動かないでください」
女医は俺にそう言うと、ドアの前で震えているミルフィーユさんの所まで行き手を取った。
「しっかりしてください。ミルフィーユさん」
ミルフィーユさんは一瞬戸惑ったような表情になったが、すぐに我に返ったらしく女医に返事をする。
「烏丸・・・ちとせ先生?」
見たことのない女医であったがミルフィーユさんとは顔見知りらしい。
ちとせ先生と呼ばれた女医はミルフィーユさんを落ち着かせると病室の中に入って行く。
そして全裸にされたミントちゃんを抱いて出てくるとミルフィーユさんに渡し再び病室の中へと入って行った。
ヘナヘナとミントちゃんを抱いたままミルフィーユさんは力なく床の上に座り込んだ。
ミントちゃんは呆然とした表情をしていたが、ミルフィーユさんに抱きかかえられている事に気が付くと、思い出したかのように大声で泣き出した。
「うぇ〜〜〜ん。ひどいでちゅわ。ひどいでちゅわ。うぇ〜〜〜ん、うぇ〜〜〜ん。おかあちゃま、おかあちゃま」
「大丈夫。もう大丈夫ですよ」
俺の病室の中で一体何が起こったのだ。
大粒の涙を流して泣いている二人に近づいた俺は、ミントちゃんの髪や顔、そして肌にこびりつく白濁とした液体に気が付いた。
間違いない。あれは男の精液だ。何者かがミントちゃんを・・・
「病室の中に、そいつがいるのか?」
ゆっくりとした口調で俺はミルフィーユさんに質問をした。
ミルフィーユさんはどう答えてよいのか解らないらしく、精液まみれになったミントちゃんを抱き締めながらチラチラと病室の方を見ている。
病室の中にミントちゃんを酷い目に遭わせた奴が居るのは間違いないだろう。
その事を言えば俺が病室に飛び込んで奴を殺すかもしれない。ミルフィーユさんはそうなる事を恐れている。
(病室の中には入らないでください)
涙で濡れた瞳はそう訴えている気がした。
そうか、ミルフィーユさんは俺の知らないその男をかばっているのか。
ハハ、ハハハハハ・・・
怒りと嫉妬心の炎がメラメラと燃え上がり理性と云う名の檻を焼き尽くす。
俺はキチガイ。主を失い檻から放たれた狂犬だ。
ミルフィーユさんを押し退けて病室に入ろうとしたその時、ちとせ先生と言い争う男の声が聞こえてきた。
「おれは彼女に報いなければ・・・」
「ランファさんこそ俺の天皇で・・・」
「ああ、ああ。俺の天皇、俺だけの天皇・・・」
喚いているのは奴だろう。
ランファ・・・蘭花・フランボワーズ。彼女が奴の天皇?
そうか、そういうことか。俺は全てを理解した。ミントちゃんを執拗に追い回し殺そうとしていた女。
あの女がミントちゃんに酷い事をするよう奴に命令をしたのだと。
俺は振り返るとMG34が隠してある作業療法室に向かって歩き出した。
小休止。全休符。
(´Д`)
3月から続き書くよ
本当はこの状況下だからこそあえて書きたいのだけれど
精神病の治療を優先させてもらうよ
301 :
CC名無したん:04/11/26 22:20:56 ID:7/2nOioP
302 :
みかんの皮:04/11/26 22:22:47 ID:DWeBlKD6
ありゃりゃりゃりゃりゃ・・・
すんごぃなここは
オタクの中のオタクって感じがするwwww
そして再び潜水
ゆっくり療養してくださいね。
再びこのスレに来られることを楽しみに待っています。
r-, ' ⌒ ^⌒ヽ、
L_〉 γ~⌒ ヘ 〉
/〈 / 从从) ) ミ(◎>
く/. i | | l l |〃 ./
(ヽ`从ハ~ ワノ)/
(ニ((lつ 卯. lつ ageんなよ
/ V !
´〜〜〜〜ゝ
(_゚゚)_゚゚)
休養sage
読売の最優秀取った小説のあれはなんというべきかsage
潜航中。「眼下の敵」っていいよね。
久しぶりに「まぼろしの市街戦」のビデオを見たくなった。
俺もみんなの待つ精神病院へと戻ってくるのだ。
CC名無し先生、早く良くなってください。
退院を心からお待ちしております。
春遠し、と言ふべきか。
続きを待っている間に
妄想さんと村田さんの、こことは別のスレッドでのショートショートがあったら、
リンク先をここで挙げていただけませんか?
呆然としているミルフィーユを押しのけるように一人の女が入って来た。白衣を着ている。俺との予期せぬ再会に動揺しているミルフィーユを宥め、彼女と入れ替わりに部屋に入ってきた。
ミントに付着した俺の吐き出した白く濁った液体を、ためらいもなく脇にあったタオルで拭う。そして、立ちすくむミルフィーユにそっとミントを手渡した。
気がつくと、外に人のけはいがある。他の患者が騒ぎを聞きつけたのかと思ったが、そのけはいはミルフィーユがミントを抱いて外に出るとともに遠ざかっていった。
全てだいなしだ、俺は変態性倒錯者だ。
見つかってしまった、それも若い女二人にだ。一人はどうやら顔見知りと来ている。
ランファさんによっていのちを与えられ俺自身がそそり立つ一本の男根、それは靖国に奉られて永遠に忠勇の義をたたえられるのだ、そして靖国の巫女たるランファさんは後世に俺の忠義を伝える。そんな高揚感がつい今の今まであったのに。
俺はパンツを穿いた、まるで惨めな心境だ。しなびてインポテの里芋みたいになった俺のあれを見る。このつまらない矮小なあれはもう俺とランファさんの靖国には行くことが出来ないのだ。俺は敗者だ、まったく打ち破られてしまったのだ。
「落ち着いて。落ち着きなさい」
始まった。俺は全世界から嘲弄と糾弾を受けるのだ。逃げ場はない、俺は最低のペドフィリアだ。
「俺の天皇が…」
口をついて出るのはランファさんに対する敬慕だけ。
「俺の天皇、俺だけの天皇陛下…」
「とにかく話をしよう。さあ、そこに腰掛けて」
目の前の白衣の女は俺にベッドに座るように命じた。俺の変態性欲の後がありありと残るベッドだ。
「どうしてこんなことを?」
特に責めるような口調ではない。その女は落ち着いたそぶりで俺に話しかけてきた。長い黒髪がこの病院には場違いなほど物静かな印象を与える。さて、この病棟に女医などいたのだろうか。
俺の乱れた思考はそれ以上進まず、俺はその混乱しきった心のまま呟くように話をはじめた。
「よく…わからない。ずいぶん時間がたったような気がする…。そうだ、丁度オンリーイベントに出す同人誌を一冊書き上げるためにネットは最小限にして、
中篇くらいに仕上げようと思ってたのにどんどん泥沼化していって気がつくと長編になっていたような心境だ。はじめは軽い気持ちで書き出したのにまさかこんな長さになるなんて。ああ、そうだ」
俺は顔をあげた。白衣の女は俺を見守るのみだ。
「印刷だ、印刷。ああ、畜生。そうだ、俺は純粋アニメキャラ。黄金に輝くアニメキャラのことを語り継がねばならない。
俺は彼女の伝記作家となって、永遠に続く彼女とその係累の繁栄の礎にならなければならないのだ」
さぞそのときの俺は陶然として見えたことだろう。しかし女は努めて冷静に白衣の内ポケットから紙片を取り出した。その手の動きを追ううち、胸のふくらみが目に入った。
俺は恥じた、心のそこから恥じた。俺が憧れ、かつ思いを馳せてよい双丘はランファさんのそれでしかない。
しかしその女の胸から下がっていた身分証で、その女の名は知れた。と…とりまる?ちとせ。
ちとせはその紙片を広げた。
「ずいぶん…進行しているわ」
わけのわからないことを言う。
「このビラ、あなたがまいたものでしょう?全く、どこでこんな紙を調達してくるのか、全て手書きで写すなんて…」
それは俺が書き記した万世一系のアニメキャラ天皇であるランファさんの、上代からの家系図だった。承久の乱、南北朝、室町時代…だけではない。
ルルイエ、ナルニア国、ヤシガニ屠る、前田の新日脱退、トランスバール王朝、ファウンデーション、
おれたちひょうきん族全盛期、セナ・プロ対決、はじるすの双子非処女騒動…どんな歴史上の危機もランファさんは乗り切ってきたのだ。
「それは正当なものだ。それを見ればお前にもわかる。ランファさんこそ天皇なのだ」
うんうん、女は頷いた。何もかもわかっているといわぬばかりの表情。すこし癪に障るが、俺は最低の性犯罪者だ。自分のなかに葛藤があった。
「とにかく、落ち着けるところへ行きましょう。それにお薬も飲んだほうが良いようです。さあ―」
そのとき、突然扉が開け放たれた。ずいぶん乱暴に開け放たれたその鉄扉はあきれたことにその勢いで上の蝶番が取れてしまった。がたん、と音を立て、扉は開け放たれた位置で止まった。
「な―」
俺は二の句を告げなかった。扉の向こうには、異形としか言いようのない姿の物体が立っていたからだ。
異形。この閉じた空間、閉鎖病棟のもつじめじめとよどんだ空気の中、その洗練されたデザインは不条理を超えて力強く、そして恐ろしかった。
恐ろしい。そうだ、俺はこれが恐ろしい。その恐怖は本能のそこから呼び起こされるようだ。
じゃらり、と背中のバックパックからベルト式の弾層が伸びている。それは左腕の上を舐めるように通過し、そいつの抱えている機関銃に繋がっていた。
装甲服だ。そのよろいのように全身を防護するプロテクターの数々は厚み、範囲とも軍隊のボディアーマーなんてものの比ではない。
奴の赤い瞳が少し揺れたような気がする。呼吸音だけが病室に響いた。
「ケルベロス…」
口をついて出たのはそんな言葉だった。言ってから気がつく、俺はその言葉の意味を知らなかったということを。ちとせがその物体に気付いた。そいつに歩み寄ろうとするちとせに俺は必死の思いで抱きついた。
「おいてめえ!」
俺は左腕でちとせの右腕をとった。彼女自身の背中にねじり上げると、首に右腕を巻きつける。送り襟締めの要領でちとせの白衣の襟を利用して頚動脈を締め付けた。
「銃を捨てろ!さもないとこいつを殺す」
必死の恫喝だった。まともに正対しては殺される。ちとせはもごもごと口を動かしていたが、首を絞められているので声にならない。
「早くしろよ!…お前、俺がはったりをかましてるとでも思ってるのか?」
そのときやっとちとせの喉から声が漏れた。
「放しなさい、放して…ゲホゲホ。ちりとりとほうきを体にくっつけたコスプレもどきの何処がこわ…」
俺はねじりあげていた腕に力を込めた。瞬発的に、そしておもいきりだ。
ぱきゃ。いい音がした。ちとせはむせかえることすら忘れたように、
「ウギャアアアアアアア!アギャアアアアアアアアアアア!アアアアアアア!」
鼻水やら涎やらをたらして悶絶する。首を絞める腕を危うく振り解かれるところだった。太ももにあたたかい感触を感じて思わず俯くと、床に染みが広がっていた。小便を漏らしたらしい。
「どうだ、犬っコロ!今度は腕だけじゃすまねえぞ!」
自分でも虚勢であることは理解している。俺はおびえている。こいつは―
無言のまま、目の前の男はコッキング・ボルトを引いて、初弾を薬室に送り込む。フォアグリップを握ると銃口をこちらに向けた。
「バカな…人質がいるんだぞ」
俺は思い出しつつあった。そうだ、こいつらはこんなことでひるまない。
思い出す?
何をだ?
ダメだ。こいつは撃ってくる。もとより盾に取った女の命など、考える奴じゃない。こいつは。
犬だ。飼い主の命令に従う、犬だ。
ならこいつの飼い主は誰だ?
その瞬間、俺はちとせの体を思いっきり押した。ほとんど投げつけるような勢いだった。同時に奴が引き金を引く。
耳をつんざく、轟音。ブォーッ、とも、ゴォーッ!とも聞こえる。なんともいえない音だ。奴が手にしたMG34をぶっ放したのだ。発射速度が速く、銃声はひとつに連なってまるで何かのモーターが回る音に聞こえる。
俺が次に目にするのは目の前に突き出されたちとせの血と肉片―と思った。
さらに、あの大型機銃の弾丸は簡単にちとせの体をぬけて俺を切り裂くのだとあきらめもした。だが、実際には違っていた。
ちとせは確かに奴のほうへ勢いよく倒れ掛かっていったが、一発も被弾しなかったのだ。
奴が狙いを逸らしたのか。なんにせよ、逃げるなら、いまだ。俺はちとせの背に思い切り蹴りをくれやる。蛙が踏まれたような気持ちの悪い声が聞こえたが、気にする余裕はない。
廊下まで奴とちとせを押し出すと、俺はそれに続いて廊下に出た。無我夢中だった。
「ウギャアアアア!」
なにかわけのわからないことをわめいている。
「ママー!ママママー!怖いよ怖いよ!助けて天狗様!」
後ろも見ずに、俺はまるでキチガイになったように泣き喚きつつ逃げ出した。
走る。走る。
ただ一目散に走った。途中で人間や人間でないもの、カベ、柱、階段の手すりや妖怪。天狗様にもあたった気がする。しかしそんなことを気にしている場合ではない。
安っぽいスリッパはすぐに脱げた。脱げた拍子に転びそうになる。何に引っかかったのか上着の袖が引きちぎれた。
「ウギャアアアアア!ブシュア!ギュアア」
両手を振り回して走り続けた。もうすっかり安全圏に逃げおおせていたのだが、それでも奴から少しでも遠くへ逃げようと、それだけを考えて走った。
ケルベロス。奴と正対したのは―いつだった?頭の中でぐるぐると疑念と恐怖が渦巻く。キイロい太陽が。ああ、西日が差し込んで。俺のアタマもキイロくて。黄色い。黄色い。
いつの間にか俺は見覚えのあるほうへと走り続けていた。
そうだ、この方向。この奥に。無意識のうちに、俺はある部屋へ向けて走り続けていたのだ。その部屋の前まで来て。
足がもつれた。
「うわっ…」
身体がばらばらになりそうな衝撃。俺はその部屋の前で派手にすっころんでしまったのだ。
頭も打ったようだが、しかしおかげで正気に戻った。恐怖感は未だに俺の体にまとわりつくようにはなれなかったが、狂躁状態からは抜け出すことが出来たようだ。
「いててて―ここは?」
頭を抑えつつ立ち上がる。頑丈そうで、錆の浮いた鉄扉に閉ざされた陰気な部屋。
「ここ、保護室じゃないか」
とにかく、隠れよう。確かこの部屋は。
緊張しつつ鉄扉のドアノブを回す。鍵は―かかっていない。そっと鉄扉をあけた。直後。
むせ返るような、あの匂い。饐えたような淫猥な匂い。安物の風俗店の、そうだあの自衛隊の基地のそばにあった、一回20分8000円のあの風俗店の匂いだ。
俺はこうしたものから逃げ出してきたのではないか。いや違う。俺はあの地獄の番犬に殺される恐怖から逃げ出したのであって、変態性欲が露見することを恐れて逃げ出したのではない。
そうだ、俺は変質者のキチガイなんかじゃない。それを認めたのは、俺をそう規定してくれたのは?
ダメだ、わけがわからない。
その薄暗い部屋に入った。明り取りの窓からはほんの少しキイロい光が入ってきている。あの黄色い太陽が昇っているのだ。
そうしてその太陽から黄色い雪が降りそそいだ、その黄色い雪は大地を埋め、その照り返しがこの部屋を黄色く染めているのだ。
部屋には―誰もいない。あの少女は何処に行ったのだろう。
「俺をキチガイではないと規定してくれたのは、畏れ多くもランファ様だ。しかしそのランファ様の命に従って行動したのに、
結局自分がキチガイだということを補強する結果になってしまったことは臣の終生の遺憾にして、ただただ恐懼するあたわざるなり」
声に出していってみる。そうだ、発声することで状況が整理できるかもしれない。
「俺は変態ではない。そのはずだ。しかし―もう、間違いない、俺は変態だ、
それも低年齢の少女や幼女の裸体やらなにやらで欲情するきわめて特殊な変態だ。だから俺は殺される。しかしランファ様は俺をお救いに」
声に出しても、堂々巡りを繰り返すだけだった。
「なにが光り輝く黄金のアニメキャラだ!純粋アニメキャラだ!」
焦れた俺はベッドにこぶしをたたきつけて低く唸った。ぽろぽろ涙がこぼれた。
「世界の中心には天皇陛下はいなかった。俺の、俺だけの天皇はいなかった。俺は彼女の赤子のはずだった、そう願うだけで俺の心は満たされるはずだったのだ!しかし―」
俺は顔を覆った。
「俺は、人殺しだ、幼女殺しの変態だ。その事実は誰に赦されても消えるものではない」
そのとき。ぎい、という音がした。鉄扉が薄く開いて、光が差し込んでいた。
「ヒィッ!」
俺は瞬間、慌てた。そうして、その光の中にいるのが奴では―ケルベロスではないと知って、安堵した。
「どうされましたの?」
ああ、あの少女の声だ。
俺が痛めつけていた、あの少女の声だ。
「お前は―知世か」
少女は頷きも首を振りもせず、部屋に入ってきた。
「頭を、怪我されてますわ。お手当てをいたしませんと」
知世は何故か気遣わしげに俺の方へ近寄ってくる。
「よせよ」
俺は少々邪険に知世の手を振り払った。
「お前に―親切にされるいわれはないんだ。俺はお前に酷いことを」
知世は首を振った。
「いいえ、そうは申しましても、お怪我をされていることに変わりはありませんわ。傷をよく見せてくださいな」
そう言って顔を寄せてくる。少女の白い頬が近寄ってきて、どきりとした。
―何を、いまさら。俺はさんざんこの少女を。
白々しくも思えたが、俺は知世のされるがままになった。むしろ彼女がそうしたいのならそうさせてやるほうが、彼女にとっては有益なことなのだろうと思った。
「大丈夫ですわ。すこしすりむいただけみたいです」
そのとき俺の額にちくりとした痛みが走った。
「――何を」
その痛みの正体はすぐに知れた。知世は俺の額の血を舐めとっていたのだ。「何をするんだ、お前…俺の額なんて、汚いぞ」
しかし知世はそんな俺の言葉に答えず、額に塗りつけた唾液を彼女の指でやさしくなすりつけた。
「さあ、これで大丈夫ですわ。もう血は止まっていますもの」
何故だ?何故そんな笑顔を俺に向けられる?なんでそんな献身を俺に捧げる?俺は散々に。
「お前…」
俺は声に出そうとした。だが、やめた。今ここで贖罪を口にしても、まるで無意味だ。だから、素直に今の自分について説明した。
「いや、それより。今、悪い奴に追われているんだ」
「まあ、大変ですわ」
「ああ。大変なんだ。とにかくそいつに追いかけられて困っている。少しの間、かくまって欲しい」
頼めた義理ではないのだが。しかし知世は屈託のない笑いを浮かべて、
「ええ。とにかく休んでいってください。酷い顔色をなさっていますわ」
違和感。
この部屋に入ったときから感じている。心がぞわぞわとしている。それは多分さっきの一連の出来事の興奮のせいだと思っていた。だが、ちがう。
何かが、おかしい。
知世がベッドのシーツの乱れを直している。そして俺の隣に座る。その佇まいは落ち着いていて、俺という闖入者をむかえても変わることはない。
確かに彼女にああした行為を強要するためにこの部屋に入ったときも、俺を見るなり諦めたような表情はして見せたこともあったも。
しかし、そうした落ち着きとも違う。
なんだろう。何かが違うような。
「知世」
「なんでしょう」
「すぐに出て行くからな。それに、お前にはきちんと謝らなければ―」
微笑む知世。わけがわかりませんわ、あなたが謝ることなんて。そういう彼女を見ていても、その言動はともかく。
その雰囲気が、おかしい。妙だ。漠然とした違和感―それは恐怖に似ていて、俺の心の奥を刺激し続けていた。
「知世」
俺は、その違和感を振り払うように語りかけた。何かを話さなければ、その場に踏みとどまれない。
「痛いところは、ないか」
バカなことを。この少女を徹底的に、まるで家畜のように扱い、蹴り付け、殴りつけ、犯し続けてきたのはこの俺だ。
その俺が、いたわりの言葉だと?
しかし知世は柔和な笑顔を浮かべて答える。
「ええと…特には。どうしてですの?」
「それは」
俺は言葉に詰まった。ひとつには、自らのこれまでの醜い行いを口にするということに対するためらいと、もうひとつ。
この少女の、美しさに目を奪われたのだ。
とたん、自分の中にさまざまな感情が渦巻く。特に大きいのは、自己嫌悪。ランファへの俺の思いは絶対のもののはずなのに。
おれが唯一愛し、そして忠誠を誓うのはランファさんだけだ!そのはずなのに。知世を美しいと感じることは、ランファへの背信のような気がしたのだ。
そして、知世を踏みつけ、痛めつけてきた自分。そんな自分の姿はおぞましく、そしてランファの赦しにすがらざるを得なかったのだが、しかし。
知世はこうして笑っている。本当なら憎んでも憎みきれないはずなのに。
「すまん。ちょっと、頭を触るぞ」
「え…」
知世の黒髪を掻き分ける。知世の髪から伝わるなんともいえない良い匂い。この劣悪な環境下で、どうして彼女はこんな清潔な雰囲気を保っているのか、わからない。
とにかく、彼女の頭髪を掻き分けると―傷口が、見えた。それも一つや二つではない。よく近づいて見ると、首筋やらのどもとやら、皮膚の露出しているところには何かしら痣や切り傷があった。
俺は何も言えなかった。これも俺の犯した罪だ。
俺の人生は。俺の記憶にある全ての事象は、罪にまみれている。
「もう、よろしいですか?」
知世が上目使いに俺を見上げた。俺が頭に載せた手を、そっとその柔らかな両の掌で包んだ。
「ああ、こんなに汗ばんでしまって。よほど恐ろしい思いをされたのですね」
恐ろしい思いをしたのは、お前だ、知世。こんな薄暗い部屋に閉じ込められ、犯され、弄られ。お前は精神の平衡を―。
精神の、平衡を?
ぞくり。
自己嫌悪と贖罪の念で満たされていたはずの俺の心に、別の感情が芽ばえる。
疑念。違和感。恐怖。
俺はこの場を早く逃げ出すべきではないのか?
あの装甲服の男―ケルベロスを上回る脅威が、俺を。しかしその感情に、論理的解説を付け加えることが出来ない。
知世はただ慈愛の表情を浮かべるのみ。俺の手を握り締め、大切そうに自らの胸に俺の手をかき抱いた。ベッドに並んでふたり、まるでいたわりあうように寄り添った。
「大丈夫、大丈夫ですわ。おびえることはありません。絶対なんとか、なりますわ」
「知世、聞いてくれ。俺は」
俺は懺悔をはじめようとした。しかし知世は首を振る。
「良いのです。あなたは罪を償うことが出来ますわ」
「そうなんだろうか…」
わからない。何故知世が泰然自若としているのか。しかし彼女は自信に満ちた表情で。
「ええ。きっと罪を償うことが出来ます」
笑っている。本当だろうか。俺の罪は償えるのだろうか。赦しの日は来るのだろうか。
「俺は―ここで、改造手術を受けた。脳を弄られたんだ」
俺の突拍子もない発言。しかし知世は動じずに話を聞いている。
「俺は、記憶を弄られた。自分が何処の誰かもわからない。一応の記憶はある。しかしそれは他人の話からはかけ離れているし、自分の記憶もいくつにも分裂しているんだ」
とっぴな話だった。しかし知世は黙って聞いている。
「パチンコ屋で庖丁を持って暴れた俺。電車の中でカッターを。庭石で開放病棟の女の子を。それらは整合性がつかない。どうしてここに入れられたのか、想像すらつかない。その上…」
俺は頭を抱えた。
「俺が精神病院で脳を弄り回された。だがそれすら妄想かも知れない!そんなこと、確証が得られるものか!俺はキチガイだ、それだけはわかる。だから―俺は天皇を見つけた。
俺は天皇の赤子だ。俺は天皇陛下のためなら大陸打通3000キロ、チンピラチャンコロをどつきたおして無敵皇軍はゆきゆきて…」
「蘭花=フランボワーズ?」
知世は笑顔を保ったまま、口にした。彼女がランファのことを知っているのは予想外のことで、少々面食らった。
「知っているのか?」
「ええ。彼女が、あなたの、天皇陛下?」
「わからない。もう、わからないんだ。もう、いい加減にして欲しい」
俺は少々取り乱しつつあった。
「俺は!俺は!」
叫ぶ俺の視界には、ただ知世の瞳があった。彼女の顔の輪郭すら感じられない。ただただ、燃える様な瞳が俺の視界に写るだけ。
その瞳の中に宿る意志に冷たいものがあると―心の奥で、あの疼きが警告を発したのだが、俺の告解はもう、とまらなかった。
「俺はキチガイだ!キチガイだ!もう嫌だ、こんな世界は!」
そのとき―不意に、知世が俺を。
「…?」
俺を。
抱き寄せた。かき抱いた。小さな腕で、それでも力いっぱい抱き寄せた。
知世は俺を抱いている。
「知世―」
俺はされるがままになり、彼女の腕から逃れることはしなかった。
「大丈夫ですわ」
知世の声は優しかった。そう、優しかった。
優しかったのだが―俺の心の奥底の疼きは、どんどん強くなる。
怖い、怖い、怖い!
なぜこんな優しい抱擁を恐れるのか。恐怖を感じるいわれなどあろうはずもないのに。俺は自分がきっと緊張と恐怖と混乱のあまり感情がおかしくなっているのだと思った。
何しろ俺はキチガイだ。だから、強引に納得して、彼女に抱かれるにまかせた―恐ろしいながらも。
「あなたを救って差し上げます」
「え?」
意外な言葉。知世が俺を、救う?
「まて、お前が俺を、救うなんて。そんなこと」
思考が渦巻く。まず、俺にそんなことをしてもらう資格はない。俺はこいつに酷いことばかりしてきた。そうして、もう一つ。彼女に俺を救える道理がない。
「無理だ―慰めは、ありがたいが」
「いいえ」
抱きしめられているので、表情は見えない。しかし、知世は自信に満ちた声で囁いた。
「今すぐ、お救いいたしますわ」
知世の考えが、何処にあるのかわからない。彼女もまた、心を病んでいる。しかし、心を病んでいるもの同志、身を寄せ合って救われることもあるのかもしれない。
それは俺と、つい先刻までのランファとの関係も同じだ。俺と彼女は、たった2週間という短い間に、俺の絶対的な彼女への帰依という方法でお互いの救いを見つけた。
彼女は彼女にとって目障りなものの排除を。俺は罪の許しを求めた。
それはひと時の気休めでしかないのかもしれない。
しかしケルベロスに追われ、性犯罪者の烙印を押され、暴力で少女を犯し続けた俺には、ひと時の気休めであっても貴重なものだった。ほんの少しの救いでも、俺には過ぎた幸福だったのだ。
「ええ。大丈夫。今すぐ。いま、あなたをお助けいたします」
「ああ。頼む。俺は、もう―」
そのとき。
ずぶりと。
音が聞こえた気がした。いや、それはあくまで気がしただけで。体内に異物を迎え入れたときの、嫌な感触が聴覚を刺激したような錯覚を覚えただけのことだ。
その感触は背中から。
丁度俺の脊髄の左側。肋骨の隙間を縫って、その異物感は俺の体内に侵入していた。
「――!」
声にならない悲鳴。
そして―知世は。笑った。声をあげて笑った。
「ふふふふ。うふふ」
にっこりと笑う知世はまるではくちの女神だった。何故だろう。刺されたということはわかったのに。女神のように神々しく感じた。
違和感。その正体が―ああ。そうだ。
なんて、迂闊。
なんてつまらない見落とし。テストの答案用紙に名前を書き忘れたよう。つまらない見落とし。
知世は、知世だった。
知世は常に自分が”きのもとさくら”であると主張し続けていた。それが、今日は最初から”大道寺知世”として振舞っていたのだ。
そう、今の彼女は”きのもとさくら”ではなかった。あの淫売の、色きちがいの、さくらではなかったのだ。この部屋に入ってきたときから。
それが―違和感の正体だ。俺が以前知世自身に正対したことは、一度。いや、もしくはそれ以上。そうして、知世と正対したとき常に感じていたのは、”知世”は俺を殺すだろうという予感だった。
それが違和感の正体。
そうだ!
”知世”は”知世”に戻っている!
さくらではない。知世としての彼女を取り戻していたのだ!
魂の抜け殻のような肉の塊ではない。俺を畏怖させる存在。知世として、この少女は俺の前に現れていたのだ!
―なんて、迂闊な。
恐怖の正体。ケルベロスとも違う。いや、同じ感情だが、もっと底知れぬ恐怖。
「ふふふ。あなたを、お救いいたしますわ」
何か言い返そうとして―
「がっ!」
血の塊を吐いた。俺は何で刺されたのだろう?ずいぶんと深いところまで、刺さっている。
「いかがです?封印の杖の力」
背中に痛みが走った。体内の異物が抜き取られる。知世は血まみれになったその異物を俺の目の前に突き出した。今度は、俺の腹にそれをつきたてた。
「があっ…!」
恐怖で情けない悲鳴しか上げられない。今度は目の前でそれをつき立てられたのだ。
「これを私に手渡した方はウメガイ、とおっしゃってました」
知世が何かを呟く。
「でもこれは封印の杖。クロウ・カードを封印し、そうして邪なものどもを封じる―魔法の杖、呪術の具現化したものですわ」
それは単なる両刃のナイフに見えた。知世は俺の体内でつきたてたナイフをこじるようにひねった。
「ああああぁぁぁぁああああ!」
俺は穴という穴、粘膜という粘膜からありとあらゆる液体を噴出してのたうった。脱糞の悪臭が周囲に立ち込める。
「何故だ!何故!ウギャアアア!いてえええよお!」
俺は悪罵を漏らした。何故俺を救うといった知世が俺にこんな苦痛を?
「わたし、聞きましたもの」
俺の取り乱した様を見下すように知世は平然としたまま、俺の体になんども刃物をつきたてる。
「あなたの独り言。私が部屋に入る前、あなた―」
俺は思い出した。俺がこの部屋に入ってすぐ、独り言を呟いていたことを。自分が幼女殺しの変態だと自分を蔑んだことを。
「幼女殺しの変態。あなた、さくらちゃんを殺したんでしょう?」
「ハァ、ハァッ…なんだ、と…」
意識が遠ざかる。
「あなたがさくらちゃんを殺した。それまで私が、さくらちゃんでした。そう、わたし、さくらちゃんでした。でも」
「そうか…お前は、知世なんだな」
「ええ」
ぐり。知世が俺の腹につきたてたナイフをさらにこじる。俺は絶叫した。
「さあ、もうすぐ救いの時がまいりますわよ」
血。血。淫蕩な部屋の空気は一転して血なまぐさい、処刑場のおぞましいそれに変わった。その全ては俺の血なのだ。
そのとき―
不意に、俺の心に何かが浮かび上がった。それは、なんだろう。
助かろうという一心で、知世の気を逸らそうというのか?いや、違う。
俺の本当の記憶だ。何故だろう、そう思えたのだ。ごちゃごちゃ交じり合った記憶、自衛官の俺、看護助手の俺、サラリーマンの俺。それら全てを超越して。
そう、醜くも生き延びようという、思惑すら超えていた。
「違う…知世。チガウぞ、知世…!」
「何をいまさら。往生際が悪いですわ」
俺の意識は、すでになかったように思う。ただ、知世の満足そうな声だけが頭に響いた。
「チガウぞ。俺は確かに陋劣なペドフィリアだが、しかしきのもとさくらについては―」
知世がウメガイを俺の体から引き抜いた。再度、今度は太股に突き刺す。
「ギャアアアアアアアアア!」
俺は絶叫を上げた。
俺は切り刻まれて死ぬ。惨めに泣き叫んで。もう、それは良い。俺の命も、もう良い。だが。
真実は、伝えないと。
そうでないと、この少女は―
知世は、永遠に。
「知世。きのもとさくらを殺したのは」
太股に突き刺したウメガイを引き抜いた知世が返り血で真っ赤になった顔を俺に向けた。
その顔。さっきは憎らしいほど冷静で、淡々と俺の処刑を実行していたのに。壮絶な血の赤の中、明らかに表情が混乱している。
今は、知世にすこし躊躇があった。俺の言葉を待っている。
そうだ。知世も、真実を知っているのだ。そうして、俺同様、記憶を改竄された―他の者によってか、自らの意志によって。
「知世。きのもとさくらを殺したのは」
「嫌!そんなこと!聞きたくなどありませんわ!」
知世がウメガイを振り下ろす。それが俺の観た最後の光景。
バタン!
扉が乱暴に開く音が聞こえる。がちゃん、がちゃんと金属が床に刷りあう音が聞こえる。装甲服の歩く音?それは地獄からの響きだった。
しかし俺の視力は失血によって失われ、もうそれ以上の顛末を伺うことは出来ない。
なにかが派手に倒れる音。悲痛な知世の叫びがいたいたいしい。それらを俺は聞いていることしかできなかった。痛覚も何もない。全てが永遠のかなたへ帰っていくよう。
まあ、方法はどうであれ。知世は俺をこの地獄から救ってくれたのか。
薄れ行く意識の中、俺は自分の死を確信して納得した。知世に感謝すらした。
おれは死んでしまうのだ。ちらりとランファの横顔を思いだした。すこし寂しげに夕日の中で微笑む彼女の笑顔。
なんだよ。最後の最後、思い出すのは彼女の笑った顔だ。天皇がどうこうなんて、そんなのどうでも良い。おれは、ランファが好きだったんだ。
しかし全てが暗転した。知世の叫び声がいつまでも聞こえて、それだけが耳障りだった。
生命のスープが見えない柄杓によって救い上げられ、ひとつのいのちとなる。
さまざまに交じり合ったどろどろのもの、そのスープはすさまじい高温のため青く光りながらたくさんの瓶に振り分けられ、口を開いている。
奇妙なことに、其処は何処かの部屋の中のように思えた。廟堂というべきか。部屋の中央には祭壇があり、祭壇の上には円筒形の巨大な造形物が設置してあった。
その祭壇を取り囲むのは無限に思える果てしない瓶の格子だったのだが、しかしその無限はこの部屋の中に納められていた。酷く矛盾した話だが、この部屋は無限の広がりをもっていた。
祭壇の上の円筒形のものは重々しい音をたてながら、厳かに回転していた。その周期には何かの意味があるに違いない、俺は確信した。
一日とか、一年とか、とにかく何かのきまりに合わせた周期に基づいてきめられた回転数を保っているのだ。
「人の一生はあまりにも短く儚い」
祭壇の上に少女が座っていた。まるで無感情で、落ち着いた表情をしている。その姿は遠くに見えているのに、妙にはっきりと聞こえた。
俺の身体は実体を持たなかった。ただ、その生命のスープが柄杓によって俺から見て上方、おそらく空へと救い上げられて行く中にぽつんと立ち尽くし、祭壇の少女を見やっていたのだ。
少女は一人語りを続ける。それはだれに聞かせているふうでもない。
「マニ車が廻るその一回転。ただ一回転のうちに全てのいのちの始まりと終わりがあり、そうして島宇宙の誕生と終焉、宇宙の開闢からビッグ・クランチに至るまで、全ての因果がこの一回転に基づいている」
少女がその巨大な円柱に手を添える。その円柱は自分で回転しているから、彼女の行為はまさに、ただ手を添えるだけ。
重たい音が響いている。円柱が一回りしたところで、少女は手を離した。そうして俯いてしまった。
俺の頭にふとした疑問が沸き起こった。奇妙なもので、それ以前の問題と言うべき事象が目の前で展開されていたのだが、とりあえず単純な疑問として。
「あの円柱は―どうやって動いているのだろう」
少女の言うことにも疑問を持たなかった。彼女の発言の時間的矛盾についてもやはり疑うことをしなかった。人の一生。宇宙の始まりと終わり。この2つの現象の間には本来大きな時間的隔たりがあったのだが、俺はそのとき気が付いていた。
この部屋では時間の観念が捻じ曲がっており、永遠も一瞬も等価なのだと言うことを。百億年と言う気の遠くなるような時の積み重ねも、永遠という彼岸から見てみれば人の生命の長さと大差ない。
「水圧だろうか。油圧だろうか。内燃機関?いやいや、そのような無粋なことは。かといって人力というのも。そもそも粋狂であの円柱は廻っているわけではないだろう」
そのときぱっと、祭壇の上の少女が立ち上がり、振り向いた。
それは俺にとって予想外の事だった。少女は俺のことなど意識もしていないだろうし、気が付いたところで黙殺するだろうと思っていたからだ。すこし慌てた俺は、
「やあ、こんにちわ」
ぎこちなく笑って声を掛けてみた。
少女は返事をしない。俺のほうを見ているが、感情を表さない。
「ええと…ああ、こんばんわ、なのかな」
返事なし。
「あれ?おはようございます?」
まるで無表情に思えた少女だったが、そのときごく小さく、小首を傾げた。俺はとたんに嬉しくなった。この少女はまるで感情がないのだと思ったのだが、実はそうでもないらしい。しかしその動きは俺の言葉に理解を得たものではないようで、その点が不安だ。
「そっちにいってもいいか?」
少女が頷いた。良かった、言葉も通じているようだ。俺は無限に続く生命のスープの中を渡った。生命のスープが納められたその瓶は非常に大きく、果てしなく祭壇まで続いているようだったが、あっという間にたどり着くことが出来た。
「今日は腹話術をしないんだな」
俺は少女に話し掛けた。薄緑の髪。赤い目、白い肌。染色体異常かなにかのように思えた。
「ここで何をしているんだ?」
少女の背は低かった。まだ子供と言ってよいかもしれない。俺はその少女の名を知っていた。
この場でその少女の名に何の意味があるのかと問われれば、おそらく意味はないとしか答えられないが、その少女を識別するために呼びかけるとすれば。
「なあ、ヴァニラ。お前、ここで何をしているんだ?」
「お祈り」
ふむ。なぜか納得がいく。そうか、お祈りか。たしかにこんなところで一人無限の時の中にいるとすれば、することはそれくらいしかなくなるのかもしれない。
「この車を一回回すと、一度お祈りを唱えたことになります」
「はあ」
「もちろん心をこめて廻さなければなりません。とにかくそうして廻しつづけます」
「はあ」
「祈りつづければ、神の国が近づきます」
「救われると言うことか」
こくり。ヴァニラが頷いた。
「しかし俺のような人間でも救われるのかなァ。だとしたら少々不公平じゃないかな。俺は散々酷いことをしてきたんだぜ。いまさら神に祈ったところで」
「神にとっては些細なことです」
ヴァニラは表情も変えずに言う。
「あなたが私の●●●にきゅうりをさしこんで●●●したこととか、●●のなかに何本も●●●を入れてみたり、後ろの●●●に500円硬貨が何枚入るか実験したり、
●●●と●●●を同時に●したり、蝋燭を●●●のなかに垂らしてみたり、●●●のビラビラに針を刺したりしたことも、全て些細なことです」
「そ…そうなのか?」
こくり。ヴァニラは頷いた。とてもそんなことが許されるとは思わないのだが。あとそんなことを素の表情でいうのはやめてくれ。恥ずかしい。
「劇場版●●Rが●崎監督のせいで明日の●ョー2みたいになったことも、ハ●ルのキムタ●がただの客寄せパンダだったことも。●●ラヴオルタの度重なる発売延期も。山田●が新作エロゲーを出さないことも。すべて神にとっては…」
「俺にはどれも大事なことだぞ」
「神にとっては、些細なことです。虫に刺されたほどの痛痒も感じないでしょう」
絶対の存在。いくつもの宇宙、あまたの星、無数の生命を生み出すか統治するかしている存在がいるとしたら、そりゃニト●+の新作エロゲーが地雷だったことなんてささいなことだわな。なるほどな。
俺は質問を変えた。もっと根本的なことだ。
「なあ、ヴァニラ。ここは何処だ?」
ヴァニラは俺と目もあわせない。ただ目の前をまっすぐ見ているだけだ。
「私の部屋」
淡白な回答。しかし珍しく続きがある。
「正確には、トランスバール皇国本星の衛星軌道上にあるエンジェル隊基地、その士官居住区の一室です」
何を言ってるのかよくわからない。
「ええと。衛星軌道上ということは。ここは、宇宙なのか?」
「いえ、私の部屋の所在は確かに宇宙空間に浮かぶ軌道要塞ですが、『ここ』自体に関しては宇宙ではありません」
ああ、わけがわからない。単なるレトリックの問題というわけでもないようだ。
「ここは全てが生み出され、全てが還る場所です。あれを」
ヴァニラが点を指差した。見えない柄杓が生命のスープを運んできて、手前の瓶にそのスープを注ぎ込んでいるところだった。
「ああして、終わった生命は一旦原液に戻されるのです。そうして、他の生命と混ざり合って、また掬いあげられてゆくのです」
なにを言っているんだ?俺にはさっぱりわからないが、とにかく聞き逃すまいと意識を集中した。
「こうして生命が還流し、物事は流転して行くのです」
「他人と…交じり合う?なんだか、ぞっとしないな」
「人の魂が天に召されたあとのことです。あなたにはもっと先の話」
「え?」
ちょっとまて。先の話?
「俺は死んだんじゃなかったのか?」
「いいえ」
ヴァニラは否、という答えだけをした。
「ここは死後の世界って奴じゃ、ないのか?」
「違います。ここは私の主観の世界。あなた方とは違って見える、私の世界。あなたがあたりまえに見ている世界が私にとって意外なものばかりであるのと同様に、私の世界もあなたにはわかり難いものなのでしょう」
俺はヴァニラに取り込まれてしまったのだろうか。
「じゃあ、今の俺の状態は」
声が震えた。死より恐ろしいことに直面していたらどうしよう。永遠の孤独。永久の刑罰。だめだ、無限と言う時の流れにだけはどうしても耐えられない。
しかしヴァニラのいうことはもっと単純で、理解しやすかった。
「今のあなたがしているのは、単なる宗教的体験」
「宗教的体験?」
なんだそりゃ。カルト宗教の教祖様が修行して見つけてくる、あれか?
「そう。神秘体験。このことをあなたが覚えていて、回りの人に話しても、三途の川が云々とか言って相手にしてもらえない。そういう類の体験」
ヴァニラはくるりと振り返ると円柱に向き合った。とん、と手のひらを円柱に当てると、そのまま回転を楽しむように廻した。正確には、廻したように見えるような動作をした。
「あなたにこの宇宙の系統樹を見せて差し上げます。宇宙という果実がたわわに実る宇宙の樹。世界の中心を」
音は重々しく、動きは軽やかに円柱がまわる。それが正確に一回転した後、周囲が光に包まれた。
「精神病棟の天使たち Max Heart(マックスハート)」
ついに二年目に突入した精神病棟の天使たち。妄想と村田もいよいよ精神病院の長期入院患者。
お気に入りのアニメキャラたちが次々と酷い目に合わされるなか、二人は普通のキチガイとして作業療法や投薬治療に大忙しの入院生活を送っていた。
ついに回復の兆しを見せ始めた二人の前に、悪の左翼ゲリラや公安が!
バージョンアップした「ドーパミンレセプター」にL−ドーパを与えると、再びふたりはキチガイに変身!しかも前より断然パワーアップしてる!?
記憶を失い、姿形も変わってしまったアニメキャラを元に戻すため、妄想と村田、パワーアップして目覚めたお化けや妖怪、天狗様が、未来 を信じて今、立ち上がる!!
はたしてキチガイはアニメキャラを元の姿にもどすことができるのか!?
ってゆーのは全部ウソ
▼登場するキチガイ達の紹介▼
■妄想
この日記を書いている人。真性のキチガイで痛風持ち。尿酸値が13.0以上、ΓーGTPが1500、中性脂肪が900。精神とかの前に普通の病院に行った方がいいかもしれない。
自称、元首都警察の上級刑事でケルベロス騒乱に関わったと言っている。
多分、キチガイの妄想。公安が監視をする為に強制入院させたと思い込んでいる。
痛風のくせにモツとかアンキモとかカニ味噌とかウニが大好き。
現在、禁煙中なので、目の前で煙草を吸うとひきつけを起こして暴れる。
■フォルテ・シュトーレン
アル中で脳細胞が破壊されてしまっている。
酔って銃の乱射事件を起こしたことがあるが、キチガイ認定されたため無罪。
でも、二度と病院から出ることは出来ないらしい。
■蘭花・フランボワーズ
ホームレスに集団暴行を受け精神に傷を負う。
看護婦さんの目を盗んではリストカットをしようとするので、病院からも要注意患者としてマークされている。
実は妄想とは異母兄妹なのだが、本人達はその事を知らない。キチガイですからな。
■ミルフィーユ・桜葉
いつもニコニコしている明るい娘。
悪い娘じゃないので、病院からも他の患者からも好かれている。でも、キチガイ。昔妄想と何かあったらしい。
■ミント・ブラマンシュ
自分が金持ちで名門の出身だと思い込んでおり、変な服を着る癖がある。
年齢に不相応な体型で、多分フリークス。現在フリークス化が進行、幼女体型となっている。
■ヴァニラ・H
自閉症で感情が皆無に等しい。対人恐怖の為、ノーマッドという人形で腹話術会話をする。
怪しい宗教にもはまっているらしい。飛び降り自殺を計るも失敗。以後病院の戸締りが厳重になった。
■うさだヒカル
つきあっていた男の子供を妊娠したが、逆上した男に腹を蹴られて流産した。ショックでおかしくなった。
■ピョコラ・アナローグ三世
自称、宇宙人で悪の首領。
家族同然だった仲間を惨殺され、地下室に死体と一緒に三ヶ月間監禁されていたのを救出された。
暴行と虐待も受けたらしく、犯人は依然逃亡中。通称ぴよこ。
■大道寺知世
親友の女の子がバラバラ殺人の犠牲となり、ショックで精神が崩壊した。保護室に軟禁され、自分が誰かもわからない状態らしい。
■木之本桜
故人。大道寺知世の親友でバラバラに解体されたあげく、饅頭の具にされた。
犯人はまだ捕まっていない。
■天狗様
俺は本当に見たんだって!!
■妖怪
妖怪なんていない!
■村田
ツンデレ萌え。
閉鎖病棟で、改造手術を受けた。
それが単なる妄想なのだと言う事も、医師から説明され、納得している。
そうだ。改造手術など。精神病院が俺に施して何のメリットがあるっつーの。いいじゃねーか、改造、大いに結構。
意外と精神病院というところは、過ごしやすいところだ。まあ、食事とかには不満があるとはいえ。病院の人たちも親切だし、気さくに話しかけてくれる。患者もそんなにヘンな人がいるわけじゃあない。
一部、非常に乱暴な女がいるが。まあそれは例外だ。
そんなことより、問題は。
俺の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている、ということだ。俗に言う記憶喪失という奴だ。俺が何故今現在精神病院に入院しているのか。それすらも良くわからない。
俺はなにかの事件に巻き込まれたそうだ。命があったことすら奇跡だったそうで、何しろ全身に刺し傷や切り傷、打撲などもあったとか。
中庭をぶらつく。今日は冬にしてはあたたかいけれど、やはりブルゾンを一枚羽織っただけでは首筋が寒い。ベンチに腰掛けて、空を見上げた。冬の清浄な空気のおかげでとても青空が澄んで見えた。
目の前には狭いグランド。その向こうに、俺が過ごしている病棟。そして俺の背後には―。
俺が振り返ろうとしたとき、
「にいさーん」
声とともに軽やかな足取りが聞こえてきた。その声を聞くのは、俺の記憶の範囲では三度目だった。しかしその声の主は数限りなく俺のことを兄と呼んできたのだと主張している。
一度目は、息せき切って飛び込んできて俺の横たわるベッドの上に飛び掛り、嗚咽を漏らした彼女の悲しげで、そうして嬉しそうな声だった。心底俺を気遣ってくれていた。あのときの彼女の、なんともいえない泣き笑いの表情は忘れられない。
「もう、何処へ行ってたんですか。心配しちゃいました」
甘えるような声と表情。今の彼女には、そうしたおびえるような翳りは全くない。むしろ、彼女の明るさに俺は救われる思いだった。
「はは、散歩だよ。ちょっとは体を動かさないとね」
俺はすこし反動をつけると、よっ、と掛け声をかけて起き上がった。
「あ」
彼女が慌てる。俺の足元がすこしおぼつかなくて、バランスを崩したからだ。
「と…と」
ぽす。つんのめった俺は彼女の体に飛び掛るようになってしまう。何とか力を入れて踏ん張ろうとするが、どうにも上手くいかない。
危うく二人いっぺんに転ぶところだったが、彼女が踏ん張ってくれたおかげで何とか倒れずにすんだ。
ふう―。安堵の溜め息をついて、俺は彼女に感謝の言葉をかけた。
「有難う、ミルフィーユ」
しかし、その体勢は拙かった。俺はひざを折ってミルフィーユに抱きつく格好になってしまったため、俺の顔が丁度ミルフィーユのやわらかい胸のあたりにあたってしまっていたのだ。
「うわ!ごめん!ミルフィーユ!」
俺は慌てて顔を離した。ミルフィーユは顔を真っ赤にしている。
「良いんです。良いんですよ。だって兄妹だもん。兄妹だから、別に。やらしーとか、そんなんじゃないです」
ぶつぶつと独り言のように呟いている。
「ごめん、ほんと、ごめんな」
謝り倒すのだが、ミルフィーユは俺に謝罪を求めている訳でもないので話が噛み合わない。とにかくそうして恥ずかしがって俺のほうを向こうともしないミルフィーユを何とか宥めようとしていると。
なんだ?土煙?
狭いグランドの対面にもうもうと砂が舞い上がっている。
「騎兵隊の突撃か?」
ある意味それは正しい比喩だったのかもしれない。
「アンタ、なに自分の妹泣かしてんのよーっ!」
甲高い女の声。瞬間。俺の意識は飛んだ。
ああ。お花畑が…時が見える…。
俺は強烈なとび蹴りを食らっていた。その蹴りは重く、特に蹴り足が硬いので異常なまでの痛みとなって俺の即頭部を襲った。
「ってえええええ!」
我に返った俺はもんどりうって転がる。
「いきなりなにすんだてめえ!大体俺の頭はいまとおおってもヤバイ状態なんだぞ!昏睡から目が覚めたら記憶がないんだぞ!そんなかわいそうな俺の頭をよくも」
「蘭花さん、こんにちわ」
ミルフィーユが如才なく俺に危害を加えた奴に挨拶をする。
「妹よ。そんなことより兄の頭は心配ではないのか」
「あ、そうでした」
ミルフィーユが慌てて俺の頭を調べようとする。
「あ、たんこぶが」
「マジか…」
俺は思いっきり憎悪の目を目の前の女、蘭花に向けた。
しかし蘭花は涼しい顔で俺を見ている。身長が高いうえ、俺は地面にはいつくばっているので見下される格好だ。
「どおよ。ちょっとは昔のこと、思い出した?」
「アホか!三途の川が見えたわ!」
くっくっくっ、と蘭花が笑う。
「妹にセクハラしていじめるような変態には良い薬よ」
「何がセクハラだ、今のは不慮の事故だっつーの。セクハラってのはなあ…」 俺は頭を掻いた。
「まあいいや。それより、この間俺の友達が彼女とボクシング観に行ったらしいんだ」
「何よそれ」
「まあ聞け。メインイベントのタイトルマッチでな。一ラウンド三分で挑戦者がノックアウト。それで俺の友人は思わず呟いた、なんだ三分しか持たなかったのかって」
「…」
蘭花はなんだかんだで、真剣に聞いている。
「それを聞いた彼女が一言いったんだ。なんて言ったと思う?」
「…」
ふるふる。首を振る蘭花。
「アンタなんか三分どころか一分も持たないってさ!HAHAHAHA」
瞬間。
また意識が、飛んだ。
気がつくと蘭花の回し蹴りが正確に俺のこめかみを捉えていた。全く見事と言うほかない。
俺は吹っ飛んだ。文字通りぼろ雑巾のごとく土のグランドをゴロゴロと転がってゆく。10メートルほど吹き飛ばされた俺の視界に、綺麗なブロンドを翻して去ってゆく蘭花の後ろ姿が写った。
「ふんっ!くだらないこと言ってないで、早くその腐った脳みそを取り替えてもらって妹さんを安心させてあげなさい!」
よろよろと俺は立ち上がった。まずい、意識が朦朧としている。
「兄さん、大丈夫ですか?」
気がつくとミルフィーユが気遣わしげに俺の様子をうかがっている。
「いてて…いや、大丈夫だ」
俺は太股にも刺し傷があって、それが治りきっていない。実は歩くのもびっこを引いているような状態なのだが―蘭花も実は足元が覚束ないようで、ひょこひょこと病棟へ向かって歩いてゆく。
「あいつも義足の癖に、なんだってこんな見事な回し蹴りを…というか、ミルフィーユ」
「はえ?なんですか、兄さん?」
俺は思わず大声を出した。
「お前な!見てたんなら釈明を手伝ってくれてもいいじゃないか!全く―」
そのとき、またもや俺の頭部に強烈な打撃が走った。本日三回目の臨死体験だ。
お花畑が…今日は行ったり来たりだ…。
倒れた俺の目の前に、花壇の煉瓦が転がっている。
まさか、まさか…
あいつか?蘭花がやったのか?煉瓦を?人に向かって?
きょろきょろとあたりを見渡すと、丁度蘭花が病棟の中に入ってゆくところだった。振り返って叫ぶ。
「妹いじめんじゃないって行ってるでしょ!このバカ!」
「うるせえ!こんなもん頭にぶつけられたらバカになる前に死ぬわ!
全くあの女!いつか押し倒してヒィヒィ言わせてやる。視姦して強姦して輪姦して死姦して…
「蝋燭をたらしてやる。ムチでびしびししばいてやる。三角木馬に乗せてやる。ヒィヒィ言わせてやるぞ!」
決定!今、俺の脳内で決定しました!私が全治の暁には蘭花は!
「めでたく私の性奴隷です!肉奴隷です!」
「あの、兄さん…」
「んあ?」
ミルフィーユが、また真っ赤になって俯いている」
「どうした?」
「あの、ヒィヒィって、その」
え。
「あ…もしかして、口に出してたか?」
こく。小さく頷くミルフィーユ。
「違うんだ。違うぞ、それは違う。あの、ほらアレだ、その、ほら」
上手く言葉が出ない。
「あの、兄さんがそれを望むんなら…」
ミルフィーユが顔を手で覆ったまま、小さな声で呟いた。
「別に、私、かまわないです…」
「ななななななな!何言ってんだよ!お前にそんなことするわけないだろ?」
「え?」
「そんなことお前にするわけないじゃないか。そういうことは、もっと…」
「じゃあ!他の人にはするんですね!」
ミルフィーユが急に切れた。俺はただ慌てふためくしかなかった。
「兄さんのバカ!変質者!サディスト!フィギュア萌え族!」
走り去るミルフィーユ。俺はもつれる足でその後ろ姿を追った。
何と「精神病棟の天使たち」が始まってから、もう一年が経ったんですね。
これからも頑張ってください。応援しています。
「無い、無いぞ。どこにも無い!!」
作業療法室のロッカーを乱暴に開けながら俺は叫び声を上げた。
この場所にプロテクトギアとMG34を隠しておいたはずなのに・・・何故だ。
ロッカーや棚を端から全て確認したが目的の物は見つからない。
あれがここに隠してあることを知っているのは俺とフォルテさんだけだ。
まさかフォルテさんが?
そういえば机の上には、フォルテさんが肌身離さず持っていたガーランドライフルが置きっぱなしになっている。
「おじちゃん、なにをさがしているぴょ?」
いつの間に部屋に入ってきたのか、ぴよこが俺に声をかけてきた。
思わず事情を説明しそうになったが、この女の子はキチガイだから何を言っても無駄だろう。
実際、ホウキだのチリトリだの意味不明なことを言っていたことが前にもあった。
そんなことを考えながら、もう一度ロッカーの中を確認してみたがやはり見つけることは出来ない。
仕方が無い、一応当たり障りのないよう、ぴよこにも聞いてみることにしよう。
「ここに銃・・・いや、モップとかしまってあったんだけど知らないかな?あれはとても大切な物なんだ」
「それならフォルテおばちゃんがもっていったぴょ。おじちゃんみたいにバケツあたまにかぶってきたなかったぴょ」
やはりフォルテさんか。
ガタンッ!!
俺はガーランドライフルを掴み作業療法室から出ようとしたが、慌てていたせいか椅子に足を取られ転倒した。
「ああ、クソいてぇ」
悪態をつきながら頭を上げようとしたとき、部屋の前の廊下を何者かが悲鳴を上げながら走り抜けて行った。
「ママー!ママママー!怖いよ怖いよ!助けて天狗様!」
一体何の騒ぎだ。相手の姿を見ることは出来なかったが嫌な予感がする。
気を取り直し、用心をしながら俺は廊下へ出た。
病棟の廊下は先程までの騒ぎが嘘のように静まり返っている。
脇の下を冷たくなった汗が流れて行く。
唯でさえ殺風景で冷たく感じる廊下が、薄暗い所為かよりいっそうそれを感じさせる。
悲鳴を上げながら通り過ぎて行った奴が何を恐れていたのか気になった。
ライフルを腰だめに構えながら奴の走って来た方に向かって歩いていくと、廊下の曲がり角の先に何者かの気配を感じた。
「誰かいるのか?」
俺の問いかけに答えるように、ゆっくりとそいつは姿を現した。
黒い装甲を身にまといMG34の牙を持ち、ケルベロスの俗称で呼ばれ犯罪者を震え上がらせた獣。
嘗て、俺自身がそう呼ばれた戦いの犬が目の前に立ち塞がった。
「フォルテさん?」
自分でも判るぐらい俺の声は恐怖に震えていた。
元首都治安警察特機隊の俺が、プロテクトギアに身を包んだ獣と対峙するのはこれで二度目だ。
一度目はケルベロス騒乱、特機隊の解体命令と武装解除を拒否し、警視庁に篭城した俺たちを鎮圧するため、治安出動の要請を受けた陸自の強化装甲服部隊との戦闘だった。
あの戦いの恐怖が蘇る。
でも何故フォルテさんがこんなことを・・・
まさかフォルテさんは何者かが送り込んだ刺客なのか?
『わたしはいつか、軍に復帰するんだ』
初めてフォルテさんと出会った日のことを思い出す。
なるほど。軍に復帰するための布石として俺を選んだのか。
俺を殺して名を上げたい犬は大勢いる。
警察犬と軍用犬、組織は違えど戦闘犬という面では同じ。
フォルテさんに感じていた俺と同じ匂いはこれだったのか。
でもね、こんなことをしてもフォルテさんは軍に復帰なんて出来ないよ。
だって・・・俺たちはキチガイだから・・・
>>352 ヽ(´ー`)ノ実はこんなに長続きするなんて思ってもいなかったよ。
昨日はミルフィーユがこなかった。どうも怒らせて仕舞ったようだ。誤解だっつーの。いや、誤解というか、昨日のミルフィーユの態度は。
ああ、よくわからないなあ。妹の言うことじゃないとも思ったのだけれど、普段からああだったのか?
そのせいかヘンな夢を見た。と、ヘンな夢と言うのは起きた瞬間まで覚えていたのだが、しばらくたった今では忘れてしまっている。
俺がミルフィーユに酷いことをしたり、蘭花に土下座したり、とにかく不快極まりない夢だった。
今日は月曜日。ミルフィーユは学校があると言うが、そもそも彼女は何処の学校に通っているのだろう。まったく漫画みたいだ、記憶喪失なんて。
ミルフィーユの学校どころか、彼女が高校生か中学生か、それとも大学生かも良くわからないなんて。
あさ、そうやってグダグダため息ばかりついていると、隣のベッドのおじさんが俺を気遣って声を掛けてくれた。
そのおじさんもなんでこんな病院に入っているのか良くわからない。そもそも何で俺は精神病院にいるのだろう。
そろそろ朝の身支度をしないと。一旦日記を閉じる。
朝飯前に文章を書くと妙なことになっていた。ちょっと寝ぼけていたのかもしれない。
昨日、つまり日曜日はミルフィーユは学校が休みのはずなのだが、来なかった。おかしかったのはおとといのミルフィーユの態度ということになる。まあいいか、日記だし。
昼から先生の診察を受ける。といっても問診だけ。綺麗な女医さんでびっくりした。鳥丸ちとせというそうだ。
俺がぽーっとしていると、怪訝な顔をして「まあ、どこか痛むのですか?」などと聞いてきた。その口調やら仕草に独特のたおやかさがあって、いっそうどぎまぎしてしまった。
「いや、先生こそ痛まないのですか?」
鳥丸先生は右腕を三角巾で吊っていた。なんでも肘の関節を脱臼したのだそうだ。医者の不養生、とか言おうとしたのだけどなんかそりゃ違うな。
ずいぶん難儀してカルテに左手で俺の問診の結果を書きつけている。その真摯さに、信頼できる先生だと言うことを感じた。
出す薬の量が多いのが気になるのだけど…。
なんだか相似形の模様とかを見せられる。ああ、ジャバ・ザ・ハットテストだ。おお、ちょっと記憶が残ってるぞ。
俺の記憶はそうした一般的な知識に関してはそれなりにちゃんとしていて、ただ固有名詞とか自分の身の回りの事柄については全く失われているのだ。
「これは?」
鳥丸先生がばっ、と紙に描かれた図形や模様を広げる。
「女性の性器に見えます」
「…そう。では、これは?」
「女性の性器に見えます」
「…これは?」
「女性の性器に見えます」
鳥丸先生は溜め息をついて大儀そうにカルテに何かを書き付けて、問診の終わりを告げた。
四時。制服姿のミルフィーユが病院を訪ねて来た。ちょっとギクシャクしてしまったが、後は大体普通に話せたように思う。
ミルフィーユが俺の物だと言って紙袋に詰めていろいろと持ってきてくれた。何でも直接病院によるため学校に一旦持っていったらしい。紙袋を受け取ると結構な重さがあったので驚いた。
ミルフィーユはクラブ活動はしていないのかとたずねたのだが、何か天文関係のクラブに入っているらしい。とりあえず放課後は暇なのだそうだ。あんまり体育会系のノリは感じられなかったけど、そういう勉強するようなところにいるというのも正直以外だった。
中庭でベンチに腰掛けながら紙袋の中をのぞいてみると小説らしきものが何十冊もつまっていた。どうりで重いはずだ。
その他、DVDプレイヤーとか、電子手帳とか。電子手帳の電源を入れてみたが、バッテリがあがっていた。
「ミルフィーユ、これ」
俺はDVDプレイヤーを取り出してミルフィーユに聞いた。
「これって、ソフトがないと駄目なんだよな?」
今ひとつ自信が無かったが、たしかDVDとはそういうものだったように思う。ミルフィーユは最初小首を傾げていたがはた、と思いついて、
「あー、そうでした。えっとお、今度レンタルビデオ屋さんでなにか借りて来ましょうか?」
微笑を浮かべて言う。
「うーん。つか、俺の部屋にあるもの何か持ってきてよ。俺の記憶が戻るきっかけになるかもしれないし」
俺がそう言ったとたんミルフィーユの笑いが固まった。
「あれ?ミルフィーユ?」
俺が声をかけると我に帰ったミルフィーユが何かを取り繕うように、
「あ、あのね、えーとえーと、兄さんの部屋には、お化けがいて、あの、お化け怖いですう」
はあ。何を言ってるのかよくわからない。
「要するに俺の部屋にはその手のソフトとか無いのかなあ」
俺がぼんやりと漏らすと、
「ええ、そうです、そうなんです!だから、借りてくるしかないですよ」
俺は不審に感じたが、世話になっているミルフィーユを問い詰めるようなこともしたくないのでそれで納得した。
「あ、何か入ってる」
ディスクの取り出しボタンを押すと、中から円盤状のDVDディスクが出てきた。
「?なんだろう、これ」
そのディスクには「ロッキー」と書かれていた。パンいちの男がグローブをはめて立っている写真がそのタイトルロゴの横に挿入されている。
「映画ですね」
ミルフィーユもしげしげとそれを見た。彼女に内容を聞いてみたが、知らないらしい。まあ、どうせ退屈なのだし明日の昼にでも見ることにしよう。
夕方、談話室の畳の上でねっころがっていると蘭花にアキレス腱固めを掛けられた。何でそんなことをするのかと問いただすと、平然と
「暇つぶし」
と答えやがった。
やっぱりいつかヒィヒイ言わしてやる。
俺が昼間に過ごしている部屋は、大体二十畳くらいの畳部屋だ。この部屋は基本的に誰が使ってもいいことになっている。もう一つ洋間のようになっている部屋もあるのだが、俺はごろごろしているのが好きなのでこの畳部屋にいることが多い。一応談話室、などと呼ばれている。
昨日ミルフィーユが持ってきたDVDプレイヤーで映画を見ようと思ったのだが、蘭花がやってきたので思いとどまる。まあ気にしないで見てもいいのだが。
蘭花も一応精神の具合がよくないらしいのだが、傍目にはわからない。粗暴なところはあるのだが、俺以外の人には一切暴力を振るわないし、
そもそもそれが問題で入院したのではないようだ。足が悪いらしく、ちょっと歩き方がぎこちない。
蘭花は部屋に入ると、寝そべっていた俺を一瞥した。俺は何かプロレス技を掛けられるのかと思い身構えた。
だが蘭花はすたすたと俺の目の前を歩いて通り過ぎ、そのまま奥にあるテレビのスイッチを入れた。昼前の談話室は俺たち以外に誰もいなかった。
「あーあ、テレビなんてつまんない」
暫くがちゃがちゃとダイヤル式のテレビのチャンネルを弄っていた蘭花は、すぐにその行為に飽きてしまった。ヘンな間が空く。俺も手持ち無沙汰だったので、話しかけることにした。丁度聞きたいこともあったからだ。
「あのさ、蘭花」
「何よ、クソデブ」
「…」
一瞬会話を打ち切ろうかと思ったが、この程度のことでめげていてはこいつとは会話が出来ない。
「俺の妹のことなんだけど」
気のなさそうな顔つきだった蘭花が真顔になってこっちを見た。
「妹?ミルフィーユのこと?」
「ああ。あいつ、すこし変じゃないか?」
蘭花のすっと目が細まる。怒ったのだろうか。
「ミルフィーユの何が変なの?」
やばい、またプロレス技の実験台にされるかもしれない。まるでいじめだ。というか、単なるいじめそのものだ。
「いや、普通さ、妹って…アニキに敬語とか使うか?それに兄さん、ってのもなんかな」
蘭花は腕を組んですこし考え込むそぶりを見せた。神経質そうに長い髪を自分の手で梳く。
「さあね。良いとこの子なんじゃない?」
「いや。とりあえず、うちはそんなに裕福じゃないぞ。貧しくもないけど、ごく当たり前の日本の中流という奴だ。少なくともあいつはそう言っている」
ふうん。蘭花はもとの気のない表情に戻った。
「そんなの、私にはわかんないわよ。アンタんトコの家庭の事情でしょ」
それはそうなんだが、なあ。やっぱヘンだろ、それ以外にも色々。
「とりあえずアンタって記憶喪失なんだから、その辺のことは調節していくしかないでしょ」
「うーん。言うことはわかるんだけど」
蘭花はすっくと立ち上がると、部屋を出て行こうとする。なんだかこの話題を避けるみたいだ。
「あのさ。一つだけいいか」
「なによ、うっさいわね」
ずいぶん不機嫌になっている。どうしたんだろう。
「お前にアニキがいたら、いやいるのかも知れないけど、どういう風に呼ぶ?まさか兄さん、とは呼ばないだろう」
「―兄なら」
がらがらと引き戸を引いて蘭花が出て行く。
「兄なら死んだわ」
ぱたん。戸が閉まる。
冷たい声だった。俺は彼女を追う事も出来ず、ただその場に座っていることしか出来なかった。
一言謝るべきだったと、あとになって気がついた。
夕方、いつものようにミルフィーユがやって来た。かっこうも昨日と同じブレザーの制服姿だ。病室まで来てくれたのだが、他の患者の好奇の視線が気になったのでロビーまで連れ出すことにした。
人気のないロビーのソファー並んで腰掛けて、俺はごく基本的な疑問を口にした。
「あのさ、ミルフィーユは何処のがっこ…」
慌ててミルフィーユが俺の口を押さえた。あたりをきょろきょろと見回す。
「がっ…学園です!」
声が裏返っている。
なにかとんでもない国家重要機密に触れたかのようなミルフィーユのうろたえぶりに俺まで驚いてしまった。
「学園ってなんだよ、大体お前って中学生なのか高校…わぷっ」
いつの間にかミルフィーユが手にしていたハンカチを口に捻じ込まれた。
「だから学園なんです!」
実際のところわけがわからんが、取りあえずわかったという意思を伝えるため、ふがふがと言いながら頷いた。窒息するかと思ったが、何とか死ぬ前にハンカチを取り出してくれた。
どうやらこの話題は禁忌らしい。俺は話題をかえることにした。
「んじゃあさあ、昨日国営放送の歴史ドキュメンタリー見たんだけど。ミルフィーユは見てたか?」
唐突な話題の転換だったが、ミルフィーユは落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「いいえ。どんなものだったんですか」
「ああ、なんか旧日本軍が中国で戦争やったとき色々悪いことをしたらしいな。強姦とか青姦とかあと死姦とか…」
「わああああ!」
死姦、と言った瞬間にミルフィーユが大声で叫んで俺の顔面に自分の通学カバンをうちつけた。
「わあ。やめろ。やめ」
「わああ!しか…ダメ!兄さんのバカ!変質者!プロ市民!フィギュア萌え族!」
下ネタに反応したのかと思った。
「ああ、すまんすまん。レイプがどうこうとか、そういう話題はよくないな」
カバンを打ち付ける手を休めてきょとん、とするミルフィーユ。
「あれ?それは良いのか?」
「なにがいけないんですかあ?だって歴史上の出来事でしょう?」
何故か嫌に冷静だ。
「でも、強姦とか死姦とか…」
「うわあああああ」
ばごんばごん。
「いってえええ!ミルフィーユ、角!カバンの角に当たってる!」
「兄さんのバカ!ホンカツ至上主義者!カスパルのオバハン!フィギュア萌え族!」
どうも、死姦というのがよくなかったようだ。全くなにがなんだかさっぱりだ。今日は他にも鶏のあそこは具合がいいとか山羊とやったとか話をしたが、話題を変えるたびに俺はボコボコにされた。全く散々な一日だった。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
MG34の発射音が病棟の静寂を引き裂き、耳に突き刺さるような轟音が響く。
通路の柱に身を隠した俺は飛び散るコンクリートの破片を被りながら必死に笑いを堪えていた。
殺されるかもしれないって時に笑うなんて気が狂っているとしか思えない。
実際キチガイなんだけど。はははーっははっ!!
人間、極限まで追い込まれると、泣くか、壊れて笑い出すか、自我を失うか、そのいずれかになるのだろう。
やがて弾を撃ち終えたのかガチャガチャと銃を操作する音が聞こえてきた。
チャンスだ。
頭上から落ちてきたコンクリートの破片を払い落とし、俺はライフルを構え柱の影から踊り出た。
フォルテさんは左腕のシールドで防御しながらベルト式50連弾を装填すると素早い動きで俺に銃口を向けた。
プロテクトギアの装甲にも僅かだが隙間が存在する。
過去に、偶然にもその隙間から弾丸を喰らい負傷や死亡した特機隊の仲間を何度か見てきた。
確かにフォルテさんは戦闘の素人ではないが、もし対プロテクトギアの戦闘訓練や実戦を経験していたのならこんな事にはならなかっただろう。
俺は脇腹の隙間に狙いを定めトリガーを引いた。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
俺がトリガーを引くとほぼ同時にMG34が火を噴いた。
全身に熱いような、痛いような、どちらとも言えない奇妙な感覚が走る。
目に見えるもの、痛み、音、匂い、全てが噛み合って感じることが出来ず、まるで別々の出来事のように思えた。
不意に頭の中を、あのブサイクな人形を抱いていた赤い瞳の少女のことがよぎっていく。
感情の無い赤い瞳、祈りの言葉・・・
はは、はっはっはっ
セックスよりも、ドラッグよりも、それを超える快楽
それは命の炎をこの手でかき消すことだ
立ち塞がる者あらば、これを撃て
そうだ、あの赤い瞳は・・・感情の無い瞳は・・・
地獄の番犬そのものだ!!
パンッパンッ!カッキーン!!
MG34の音にかき消されながらも、二発の銃声が鳴り響きガーランドライフルから金属クリップが外れ弾け飛んだ。
ガーランドライフルの弱点とも言える、全弾撃ち尽した時に弾薬を留めていた金属クリップが外れる音だ。
第二次大戦では、この音が鳴ると同時にドイツ軍が一斉に反撃の射撃を行って来たという。
残弾数を確認出来ないこともあったが、まさか二発しか装填されていなかったとは迂闊であった。
フォルテさんが撃ち返してくると思ったが、銃口をゆっくりと下げるとMG34を手から滑り落とした。
俺とフォルテさんが向かい合っていたのは数秒にも満たなかったが、随分と長い時間に感じられた。
身体から力が抜けていく。
俺たちが倒れたのは殆ど同時であった。
「昔々、あるところに一匹の子犬と、一匹の子猫が住んでいました
二匹はとても仲良しで、遊ぶときも、寝るときも、ゴハンを食べるときも、いつもいつも一緒でした
ある日、悪い魔法使いがやってきて街に火をつけて燃やしてしまいました
二匹は、はなればなれにならないように手をつなごうとしましたが、子犬と子猫は手をつなぐことがきません
はなればなれになっていく二匹は、大きくなったら、きっとまたここで逢おうと再会を誓いました
ところが、子犬も子猫もとってもバカだから、お互いの顔なんて忘れてしまい
大きくなって、せっかく出逢っても、もう二匹は仲良く遊ぶことが出来ませんでした
でも、もしも、神様がいて、その神様がいじわるじゃなければ、二匹はまた仲良く遊ぶことが出来るかもしれません」
「それって何の絵本?」
目を覚ますと俺はベッドに横になっていた。
ベッドの横では、うさだが椅子に腰掛けて絵本を読んでいる。
わざわざ声に出して読んでいたのは俺に聞かせるためだろうか。
パタンッと絵本を閉じ、溜め息をつきながら、やや呆れた様子でうさだは答える。
「廊下で大騒ぎして突然倒れたのよ。みんな大変だったんだから」
ああ、またか。正直何をしでかしたのか全然覚えていない。
それよりも、うさだが元気になっていたのが驚きだ。
理由は解らないけど随分と病状が悪化していたらしいのに。
それどころか俺のことを避けていたような気がしたけど、あれは気のせいだったのか?
「うさだこそ、元気そうでなにより」
違和感。
たしか俺は『うさださん』って呼んでいなかったか?
でも、うさだもその呼び方が普通と思っているのか別段変わった様子は見られない。
「そういえば、この絵本のこと聞いたわよね」
不意に話を元に戻すと、うさだは真顔になって言った。
「この絵本はね、とっても偉い神様が可哀想な人々を救済して下さるありがたいお話なのよ。わたしもこの神様の教えを知ってから随分と救われたのよ」
俺はとてつもなく嫌な予感を脳裏に浮かべていた。
昨夜はたいへん夢見がよろしくなかった。そのせいか寝付くことが出来ず、ロビーまで出てきてこうして日記を書いている。看護士さんから睡眠薬の追加を貰ったのだが、どうにも目がさえてしまって。
とはいえ昨夜の夢を俺は良く覚えていないのだが。ただ、俺がミルフィーユに酷いことをしたことを繰り返し繰り返し見た。ちょうど病院の花壇の植え込みを囲っている大きな石でミルフィーユの頭をばっこんばっこん殴りつけるのだ。
ミルフィーユは痛い、と言うまもなく意識を失ってその場に倒れこむが、それでも俺は殴り続けるのをやめない。
「死ね、ミルフィーユ」
夢の中の俺は心底ミルフィーユが憎かった。殺そうとしていた。
夢から覚めて、俺は恐怖した。本当に恐ろしいと感じた。あれがもし、事実なら。俺が封印した記憶だったのなら。
俺はミルフィーユに酷いことを。しかし何故だ、何故あんなに優しい少女を?
もうひとつの夢もまた不快極まりない。あの病棟の乱暴娘、蘭花=フランボワーズの前で俺は土下座していた。なんだかそうしているととても満ち足りた気分になるのだ。俺は彼女の太ももからふくらはぎのあたりにすがりつき、ほお擦りするのだ。
そうすると、とても満たされた気持ちになる。俺は何かを呟く。何を呟くのかは思い出せないが、うわごとのようにそれを呟いて恍惚とする。
そんなわけで、今日は病棟の中で蘭花とすれ違ってもまともに顔を合わせることが出来なかった。そんな俺の不審な態度に蘭花はキレそうになっていたのだが、冗談じゃない。顔を見ただけで火を噴くように真っ赤になってしまうのだ、今の俺は。
ミルフィーユに会うのもまた気が重かった。ミルフィーユも誤解して、なんだか俺の態度が冷たく感じられたようだ。誤解を解きたかったのだけれど、うまく話が出来なかった。
まいった。漸く眠くなってきたが。頼むから今度はヘンな夢を見せないでくれ俺の脳。
昼の談話室で俺は涙を流していた。まさに男泣きという奴だ。
「エッ…エイドリアン!エイドリアーン!」
叫ぶ。ミルフィーユが持ってきてくれたDVDの「ロッキー」を漸く見たのだが、なぜだか後から後から感動で涙があふれて仕方がなかったのだ。
「うるさいわね!エイリアンエイリアンって!またへんな妄想に取り付かれたの?今度は異性人襲来?」
「違う、エイドリアンだ。映画の登場人物の名前だ」
丁度再生の終わったDVDプレイヤーのスイッチを押して、電源を落とそうとしたとき蘭花がまた俺に因縁をつけてきた。大体エイドリアンとエイリアンを聞き間違えるなんて、わざととしか思えない。
「ふうん。なんの映画?」
「うーん。ボクシングを題材にしているんだけど、恋愛というか青春というか…」
ひょい、と蘭花がDVDの画面を覗き込む。
「なんだ、ロッキーじゃない」
「知っているのか?」
バカにしたような顔で俺を見る蘭花。ムカつく。
「ったりまえじゃない。有名な映画よ。えーっと、たしか」
試案顔になる蘭花。
「うだつのあがらない4回戦ボクサーがベトナムへ行って断崖絶壁を登るんでしょ?登り終わったその頂上にスペツナズの特殊部隊員がいてロッキーの友達をしばき押して、それに切れたロッキーが法術で人形を動かして…」
「たいへんだー。先生、看護婦さん、フランボワーズさんが発作です…いてえ!」
蘭花の右ストレートが俺のテンプルにヒットしていた。
「まあ、アンタが大泣きするような映画なら、ちょっと見てやろうじゃないの」
俺は手をこめかみにやりながら答えた。
「いいのか?2時間ものだぞ」
「どうせ暇だもの。長いほうがいいわ」
俺ももう一度見たかったのでまた最初のチャプターから見返すことにした。
最初はセットが安っぽいだの女主人公の顔が変だのとごちゃごちゃ文句を言っていた蘭花だったが、次第に画面に見入るようになった。タリア・シャイアとスタローンがスケート場でデートするシーンなど、食い入るように見ていた。
蘭花には退屈かなあ、と思ったのだけど、俺も途中から夢中になって見ていたのであっという間に映画が終わってしまった。
画面の中でスタローン演じるロッキーが叫ぶ。
「エイドリアーン!」
勝利も名誉もいらない、ただ自分が価値のある人間だと証明する為に死力を尽くして戦ったロッキーがいとしい人の名を叫ぶ。最後、エイドリアンと抱き合うロッキーがスローモーションになって映画が終わった。
熱中するあまり蘭花のことを忘れていたのに気がついて、ふっと横を見ると。
蘭花が泣いていた。うわあ。女が泣いている。どうしよう。すげえびびる。
「お…おまっ…おま何泣いて」
「泣いてないわよ!このバカ!」
俺の頭をはたいて、蘭花はあわただしく立ち上がった。なんでこいつはいちいち俺に暴力を働くのかともおもうが。今回のはまさか照れ隠しか?
「あー安っぽい感動だわ!やすっぽ!やすっぽいやすっぽい!」
ぐじぐじと鼻を鳴らしながらわめき立て、蘭花は談話室から出て行った。
素直じゃないなあ、まったく。
「好きとか嫌いとか最初に言ったのはどこのどいつだ!」
正直、自分でも何が起こっているのか理解出来ない状況が続いている。
いつまでもこんな場所に居たら治るものも治らないで本当に気が狂ってしまうだろう。
うむ、逃げよう。
今夜0時の銀河鉄道で、ミルフィーユさんと一緒にどこか遠くへ逃げるしかない。
そして誰も知らない町でひっそりと、ささやかながらも軽食と喫茶の店など開いて肉饅頭を売る新しい人生を送るのだ。
俺はそれとなく皆に別れを告げようと思い、僅かばかりの荷物を手にすると病室を出た。
先日までの薄暗い天気と変わり、今日は窓から差し込んだ日の光が廊下に反射して先が見えないぐらいだ。
眩しさに思わず目を凝らしながら歩いていると、うさだとすれ違った。
最近は何やら怪しい宗教に夢中らしいが、以前よりも元気になっているようだ。
「神の教えは天狗様より全然素晴らしいのよ。あなたも今度一緒に勉強会に来ない?」
「ああ、ありがとう。でも、これから忙しくなるから行かれないんだ。ところで、その宗教って新聞取らされたり、選挙で特定の党に投票することを義務付けられちゃうの?」
「違うわよ。そんなのと一緒にしないで。でも残念ね。あなたなら直ぐにでも幹部になれるかもしれないのに」
目の焦点が合っていないのは同じだが、以前のどんよりとした瞳が妙にキラキラと輝いているような感じに変化したのは、彼女の病状が改善に向かっているからだろう。
うさだと俺は色々あったらしいけど、これで安心して旅に出られる。
それから少し世間話をしてから俺は談話室へと向かった。
「なにジロジロ見てるのよ」
談話室の中に入ると蘭花さんが開口一番に言った。
ややからかうような感じで、本気で言っている訳ではないようだ。
何かとてつもなく後ろめたい事があったような気がする。
だが、彼女の様子からすると気のせいだと考えても良いだろう。
「そういえば、あんたロッキー観たことある?」
「ロッキーって、うだつの上がらないボクサーがジョギングしていたらガキ族に追いかけられて、
石段の上で飛んだり跳ねたりする映画だよな」
「・・・間違ってはいないけど、あんた相当に捻くれた物の見方をしているわね。もっと素直になりなさいよ」
自分だって素直じゃないくせに。
「ロッキーは4と5が最高傑作だ」
「そうなの?知らなかった。今度観てみよっかなー」
今日の蘭花さんはざっくばらんとしているが、何か良いことでもあったのだろうか。
「でも、スタローン出演の最高傑作は『デスレース2000年』だよ。『燃えよカンフー』の
キャラダインが主人公だけど、それ以上にインパクトがある役をスタローンはやっている。これがビデオだけどやるよ」
俺は中古ビデオのワゴンセールで買ったデスレース2000年のテープを渡した。
「言っていることが意味不明なんだけど。でも、この映画知ってる・・・」
怪訝そうな顔でビデオを受け取った蘭花さんであったが、パッケージを見た途端に表情を曇らせると真顔になった。
「この映画、私は怖かったから観たことないけど・・・私の兄がよく観ていた気がする」
そうか、蘭花さんに兄がいたなんて知らなかった。
「ほう、なかなかセンスのあるお兄さんじゃないか。
それにしても、一度もお見舞いに来たことが無いようだけど酷いお兄さんだな」
何となく、会話が弾んでいると勘違いしていた俺は、調子に乗って余計なことを言ってしまったらしい。
それは言ってから後悔することになる。
今の一言で蘭花さんは更に表情を曇らせてしまったからだ。
「兄は・・・もう死んでいるわ」
「すまない。俺はまた余計なことを言ってしまったらしい」
「いいのよ、別に。私、そろそろ病室に戻るわ。ビデオ、ありがとう」
そう言うと蘭花さんは談話室から出て行こうとした。
「さようなら、蘭花さん」
「え?」
蘭花さんは振り返ると、少し驚いたような顔をして返事をした。
「さよう・・・なら・・・」
外泊、という言葉を聞いておどろいた。鳥丸先生はそんな俺を見てくすり、と笑った。
「あのう、でも外のことってよくわからないし」
俺も自分自身なぜこんなに気後れするのかよくわからない。
「しかし、貴方は希死念慮もありませんし、人を傷つける恐れもない。とりあえず外の世界に慣れる意味もありますから、今週は一度おうちに帰ってみたらいかがですか」
慎重に言葉を選んでいるように見える。鳥丸先生は漸くギブスの取れた右腕を自分の机の上に乗せている。その腕の下には俺のカルテがあった。
俺はその自分のカルテをぼんやりと見た。なにが書いてあるのかはわからない。
カルテと言うものはドイツ語で書かれるものだという話を聞いたことがあるが、なにかよくわからない文字で埋め尽くされている。少なくともアルファベットではないなにかで書いてあるようなのだけど…。
「先生、あの。俺のことなんですけども」
鳥丸先生は居住まいを正して俺に向き直った。背筋をぴんとしている彼女は凛々しくてちょっとどきどきした。
「俺は、一体何の事故に遭ったのですか?どうして俺は記憶を失うはめに?」
「――」
鳥丸先生は自分の膝元に視線を落した。すこし頭を振るようなゼスチュアをしてから話を繋ぐ。
「詳しいことは、わからないんです。貴方が此処に運ばれてきたときには酷い怪我で。路上で血まみれになって倒れていたところを」
「じゃあ、俺は誰かに暴行を受けたんですか」
すこし、引っかかる。それって。
「ああ、勿論警察も捜査をしています。それに、貴方は発見されたときに酷く錯乱していて」
おかしい。なんだかこの話はおかしい。
「それにしたって、ヘンじゃないですか。傷害事件の被害者が、なんだって精神病院に送られたんですか」
「だから、貴方は酷く錯乱していたんです。もう何の見境もないくらいで。その上記憶も無くしていた。だから」
「いや、やっぱりおかしいですよ、先生。一時的に錯乱したって、普通の病院に運んで様子を見るでしょう。それに記憶喪失って言うのは、精神病ではないでしょう。脳神経外科の範疇のはずだ」
俺の心に突然わきあがった疑問はまるで晴れることが無かった。寧ろどんどんとその疑念の黒い雲は増殖して、俺の心を酷く重苦しいものにした。
言い争いになるほどのことも無く、俺は鳥丸先生の診察室を辞した。なんとなく釈然としないが、とりあえず俺が病人であることに替わりはないのだ。先生の言葉を信じるほかない。
今日は蘭花の姿も見当たらない。こういうときはあいつと話をするとちょっとは心も晴れたのかもしれないのだが。まったくあいつは肝心なときに。
夕方、いつものようにミルフィーユが訪ねてきた。俺がこの週末に外泊できるかもしれない、ということを伝えるとミルフィーユはすこし動揺したような顔をした。
なんだ、今日は本当にみんなヘンだ。
「あの、兄さん」
しみじみとした口調でミルフィーユが言う。
「私、外泊のとき、兄さんのそばに居られません」
なに?俺は一瞬ぽかんと口をあけてしまった。てっきり俺はミルフィーユの待つ家に帰るものとばかり思っていたのだ。とたんに心細くなる。
「あの、わたし、その」
ミルフィーユはなんだか言いにくそうにもぞもぞと身体を揺すっている。少々気の毒になる。
「えっと。林間学校が」
「え?こんな真冬に?」
「あ!あ…はい。兄さんだってよくご存知じゃないですか。うちの学校名物のですね、耐寒林間学校。だから、今週兄さんが外に出てきても…」
俺は夕焼けの空を見た。病院の中庭から見る空は狭かった。
俺自身が酷く不安を感じていたし、疑念や違和感はそれこそとぐろを巻いて俺の身体を締め付けていたのだが、それ以上に小さくなっているミルフィーユが気の毒に思えた。
だから、それ以上問い詰められなかった。震えるミルフィーユの肩にぽん、と手を置いた。
「あっ…!」
びくり、と肩を振るわせるミルフィーユ。明らかにおかしな挙動。そう、まるで何かを隠しているような。
「わかった、ミルフィーユ」
俺は努めて優しく彼女に言った。
「林間学校、風邪をひかないように、あったかくして行ってきな。俺は一人でのんびり家で寝ているよ。やっぱり病院の大部屋は落ち着かないからな」
ミルフィーユは明らかに安堵したような表情で頷いた。
378 :
CC名無したん:05/02/26 14:42:16 ID:1/ZmIMkU0
hosyu
約束の時間まで30分程余裕があったがどうにも落ち着かず、待ち合わせの場所、閉鎖病棟の正面出入口まで早々とやって来てしまった。
予想に反し、すでにミルフィーユさんが来ていたことに驚く。
「なんか落ち着かなくて、早めに来ちゃいました」
どうやらミルフィーユさんも俺と同じで落ち着かなかったらしい。
昼間、この病院を抜け出す計画を持ちかけたとき、ミルフィーユさんは動揺を隠せない様子であったが、しばらく考えた後に決心した表情で頷いた。
その時のミルフィーユさんの目には強い意志を、まるでこうなることを予測でもしていたかのように感じられた。
何故、俺はミルフィーユさんを連れて逃げ出すことにしたのだろうか。
時々、自分の行動が理解を超えたものに思える。
この病院には多かれ少なかれ、何らかの形で俺と関わりを持っていた者が何人かいるようだ。
ミルフィーユさんもその一人なのだろか?
ひょっとしたら俺も知らない、俺の過去をミルフィーユさんは知っているのかもしれない。
「あの、怖い顔してどうしたんですか?」
気が付くと心配そうな表情を浮かべ、ミルフィーユさんが俺の顔を覗き込んでいる。
「いや、なんでもない。扉を開けるからミントちゃんを頼む」
抱いていたミントちゃんをミルフィーユさんに任せると、扉に鍵を差し込んで回した。
(ガコンッ)
鈍い金属音が響き扉がゆっくりと開いて行く。
「えっ?」
どうして俺は、まるで当たり前のように鍵なんて持っているのだ?
頭の中の疑問を解決しようと思考を回転させるが、不意に烏丸先生の姿が思い浮かび、それ以上考えることが出来なくなる。
やっぱり、あの烏丸先生に俺たちは何かを試されているみたいだ。
ひょっとしたら、これも全て仕組まれたことなのだろうか?
それとも・・・
「この時間はやっぱり寒いですね」
コートの襟を立て、白い息を吐きながらミルフィーユさんが言った。
耳たぶに寒さが突き刺さり痛みを感じる。
ミントちゃんはコートの中で抱かれているから大丈夫だろう。
駅のホームを見渡すが俺たちを除き人の姿は見当たらない。
「本当にこれでいいのかな?」
「ここの駅でいいんですよ」
ミルフィーユさんが素っ頓狂な声で、いつもどおりの調子で答えたため思わず吹き出してしまった。
「何がおかしいんですか」
少し膨れっ面になったミルフィーユさんに謝りながら、俺たちは本当に逃げ出してもいいのか、それが聞きたかったと言いかけたが、敢えて聞くのは止めておくことにした。
余計なことを言って、病院に戻るなんてことになるのを恐れたからだ。
もうあの場所には戻りたくない。
ただ、フォルテさんに何も言わずに出て来てしまったことを少し後悔した。
しばらく沈黙が続いていたが、何時の間に現れたのか帽子を深く被った駅員がベルを振り鳴らすと、ホームに向かって汽車が入って来た。
蒸気機関など前世紀、しかも大昔のものだ。
よくこんなものが動いていると思わず関心してしまう。
「友枝町、友枝町」
ホームに響く駅員の声を聞き、俺はこの町の名前が友枝町であることを初めて知った。
たしか、大道寺のPCに残されていた殺人事件の記事にも友枝町という名前があったはずだ。
あの凄惨な事件はこの町で起こったのか。
そして犯人は今も捕まっていない。
今、俺たちと同じ空気を吸い奴は息を潜めているかもしれない。
もしかすると、今でも新たな犠牲者が生まれているのかもしれない。
管轄外であったが、元警官として犯人が捕まっていないことに憤りを感じた。
「また怖い顔してますけど、大丈夫ですか」
軽く肩を揺さ振られ俺は我に返った。
どうも今日は色々と考え込んでしまうようだ。
「これに乗るんですよね?あの、今ならまだ間に合います。平穏とは言えませんが、あの病院の生活にまだ戻ることが出来ます」
ミルフィーユさんの言葉に思わず足を止めた。
明るい笑顔で受け答えをしているが、先程までの俺の心を見透かしていたかのようなことを平気で言ってくる。
天然そうに見えるが実は切れ者なのではと思わず疑ってしまった。
まあいい。もう決めたことじゃないか。
俺はミルフィーユさんの手を握り締めると言った。
「行こう」
378-1(抜け)
すやすやと寝息を立てるミントちゃんを抱きかかえながら俺は時計を見た。
時計の針は午後11時00分を指している。
自分がこの世界を不活性なものに感じるのはどうしてなんだろう。
まるで喜びがない、人々の顔には生気がない、物事には美しさやあたたかさがない。
精神病院というのは憂鬱なものだと考えるのが普通なのだろうし、そこからでてきてわずか一泊にとはいえ外泊が許されたというのは喜ばしいことだと思う。
しかし俺が目覚めてから抱いていた楽観的な考えは徐々に鳴りをひそめつつあって、なんともいえぬ不快感や不信感がそれに取って代わった。
精神病院で脳を弄られた。それは俺の妄想だという。しかしそれは病院側の説明だ、病院が自分たちの都合で俺の脳を弄ったのなら正直に言うはずがない。
くわえてあの不可解な態度。俺に対する処置。
しかし記憶喪失というのもまた極小とはいえありえなくもない説明だ。
まいった、俺は病院の前から出ているバスの座席でこめかみを押さえてうーん、と唸った。昨日から蘭花にも会っていないしミルフィーユは林間学校だ。俺の孤独感がこんな気持ちにさせているのだろうか。
しかしこのバスの中も、乗客も外の景色もまるで現実感に乏しい。
なるほど俺は精神病院に入れられるわけだ。強迫的なまでの、しかし漠然とした不安感。
病院で教えられたとおりのバス停でバスを降りた。病院からは意外と近いところにあって驚いた。バス停から地図を頼りに歩くこと数分。
住宅街の中にごく当たり前の一軒家が建っていた。車庫にはやすっぽい軽自動車が止まっている。俺の車だろうか。俺は自分の私物の財布の中に免許証がなかったことを思い出した。さて、家においているのか、それとも免許などもっていないのか。それすらわからない。
表札を確かめる。村田。間違いない。俺の家だ。
しかしこのあたりは本当に気味が悪い。分譲住宅の没個性的なデザインの家屋が並ぶ。
この住宅街には歴史がない。人間が新たに切り開いて建てたものだ。そんな空々しさが俺を感傷的にさせているのだろうか、と俺はいぶかしんだ。
ミルフィーユさんから受け取った乗車券には二等車両と書かれていた。
正直、俺は列車のことは全然判らない。
昔の蒸気機関車は等級が低いと後ろの車両になるとか、三等だとか下等だとか座席の形が違って三角木馬だとか何かで読んだ記憶がある。
たしかに先頭車両の方が何となく眺めも良さそうで気分的にも良いだろうから等級も上になるのだろう。
そう思ったが、首や手足に鎖を着けられた奴隷みたいな連中が、スコップを持って先頭の車両に乗っていたのでそうでもないらしい。
あれは石炭奴隷なのだろうか?
まあ良い。多分、二等席とは自由席みたいなものだろう。
そして一等席は指定席、次は上等席、曹長席、伍長席、軍曹席・・・指揮官まで乗り込むことになると何両編成になるのだろう?
頭を抱えそうになるが、良く考えたら下士官以下は二等席に押し込まれるのが普通だよな。
よく判んないからこれでいいや。
「また考えごとですか」
我に返ると、窓際の席に俺とミルフィーユさんは向かい合って座っていた。
既に列車は走り出している。
車内を見回したが、俺たち以外には誰も乗車していなかった。
「この汽車はなんて言う名前なんでしょうね」
「すまん。俺は知らない。車掌が来たら聞いてみることにしよう」
この旅の目的地だって始めから決めていないのだから汽車の名前なんてどうでもいいことだ。
窓の外を眺め(と言っても暗闇で何も見えないが)ながら他愛も無い会話をしていたが、気が付くとミルフィーユさんは眠っていた。
一度、会話の途中でミントちゃんが目を覚ました。
寝ぼけていたのか眠そうに目を擦り何かを言っていたが、ミルフィーユさんに膝枕をしてもらうと再び眠りについてしまった。
どういった仕組みなのか解らないけど、暖房が効いているから風邪を引くことはないだろう。
俺も少し寝ようと思い目を閉じたが、気が高ぶっている所為か中々眠りに付くことが出来ない。
病院を抜け出すときに眠剤を少し持ってきたのだが、出来るだけ服用したくなかったので我慢することにした。
色々と考え込んでしまうから寝付けないのだろう。
何も考えないように努力したが、そうすればするほど余計な事が頭の中に浮かんでくる。
うさだや大道寺のこと、フォルテさん・・・それに蘭花さんと彼女を天皇と崇める頭のおかしい男。
奴は一体何者なのだろうか?
ミルフィーユさんとも面識があるらしいが、院内で知り合いになった顔見知りという訳でもなさそうだ。
そのことを聞きたかったが、ミルフィーユさんが自分から言うまで触れるべきではないだろう。
いや、恐らく聞くことが怖いのだろう。以前、ミルフィーユさんが語った過去。
もう二度とあんな彼女の涙は見たくなかった。
だが、それ以上に・・・俺は・・・過去に触れることが・・・恐ろしかった。
新聞受けには朝刊とスポーツ紙が大量に溜まっていた。郵便受けにも同様にダイレクトメールの類が溜まっている。もう一度表札を見たが、やはり村田と書いてある。まちがいなく俺の家だ。
「ミルフィーユは新聞読まないのかなあ」
それにしても、意外な気がする。ミルフィーユは新聞や郵便物を放置しておいたりする子なんだろうか。ふむむ。
古新聞と、朝刊は病院で読んできたので玄関に置いておいた。スポーツ紙はちょっとプロ野球の話題なんかが気になったので部屋へ持ち込むことにした。
自分の、家。とはいっても全く身に覚えのない玄関の鍵を開ける。まるでどろぼうのような心境だ。玄関の鍵はぴかぴかのシリンダー錠で、かちっと手ごたえよくシリンダーがまわった。扉を開く。
薄暗く、がらんとした廊下。奥に台所兼リビングのやや広い洋間が見えている。玄関右手の部屋が俺の部屋だと、これはミルフィーユから聞いていた。そして俺の妹のミルフィーユの部屋は2階にあるらしい。
すこし埃っぽい気がしたが、なんとなく"我が家”に帰ってきたという開放感があった。ソファの前のテーブルにスポーツ新聞と手荷物を放り投げ、俺自身はごろりと寝転がった。
白い天井。少ない家具。
生活観が無いなあ。あまりにも丁寧に整えられすぎている食器類。テーブルの上。うっすらつもった埃。まあミルフィーユも一人では一軒家の掃除など手が廻らなかったのかもしれない。
思い立って冷蔵庫を開ける。夕食、朝食用に食料が少々。これはミルフィーユが準備してくれていたのだろうか、特に夕食のビーフストロガノフは実に上手そうで久々に食欲を覚えた。病院の食事は肉が少なくていけない。
まだ食事には早すぎたので、ぼんやりとソファに戻る。
とにかく何もすることがない。散歩にでも出かけようかとも思ったのだがどうにも気が乗らない。かといって横になっても眠くなるわけではない。
テレビはお昼のバラエティをやっているのだが、今ひとつ面白くなくて直ぐに消した。
どんどん退屈になってゆく。ソレは悪いことではない。だが、なんだろう。
何もしないで居ると、どんどんと不安になってゆくのだ。
この世界が。昼下がり、そうして夕方へと移ろって行くこの世界の夕暮れが俺を不安にさせた。恐ろしい、俺は呪われている。そんな不安が強くなる。俺は病院を出るべきではなかったのか。
軽いマイナートランキライザーを服用し、気を落ち着かせた。
静かだ。下校する子供の歓声やら、買い物へ向かう主婦やら。そうした声など聞こえもしない。新興住宅地の嫌なところだ。隣家のことは、我関せずで。
ああ。本当に俺はどうしてしまったんだろう。目覚めたときはこんな風ではなかった。ただ、目が覚めたら愛らしい、健気な妹が俺をかいがいしく世話してくれて、なんだか乱暴だけど涙もろい女の子がいて、そして綺麗な女医さんが居て。
俺はあの病院で恵まれすぎていたのだろうか。だからこんな風に感傷的に。確かに病院と言うのは保護されているところなのだから居心地が良くて当然だ。
ちょっとこの外泊でちゃんとできるところをみせとかないと。それで、ミルフィーユに頼りにされるような立派な兄になろう。がんばって、なんとかこの不安をやり過ごすことにしよう。
ぐるぐるとそんなことを考えるうち、ちょっと安定剤が効いてきたのが穏やかな気持ちになった。
新聞を手に取る。明日の競馬の予想が一面だ。何でも明日は結構大きいレースがあるらしい、その予想記事で一面はカラフルに彩られていた。
俺は競馬のことは頓珍漢だったがそれでもなにか記憶を思い出すきっかけになるかと紙面を読んだ。冷蔵庫から麦茶を引っ張り出しグラスに注いだ。、そして新聞記事に集中しだしたとき。
突然、玄関のチャイムがなった。
「宅急便でえす」
宅急便?俺はさすがに宅急便を頼んで買い物をする余裕は病院の中ではなかったし、心当たりがない。なんだろう、ミルフィーユにだろうか。
「はあい」
とりあえず玄関に出た。
「えっと…村田、安弘さんですよね」
俺は頷いた。パンパンに膨らんだ書類入れとでも言うか、結構な大きさの袋が荷物だった。
「ええと…あれ?海外からの…お荷物です」
海外?俺は面食らった。全く、何のことだかわからない。とりあえず受け取る。
「あの、はんこを」
「あ」
俺ははんこの位置がわからなかった。
「あのー、サインで良いですか?」
ええ、と宅配業者はサインを求めて俺に送り状を手渡した。期日、時間とも指定してあったことに驚く。どこの外人がおれの一時外泊を知っていたのだ。
「外国?」
俺は送り状の送り主を見た。
「なになに…ト…トランスバール皇国機動要塞1358M、女性士官室B−12…これ住所か?」
どうも、なにかからかわれでもしたらしい。俺はため息をついた。しかし俺の退院期日を指定してこんなものを送りつけてくるなんて。すこし憤った俺だが、そのあとに書かれていた送り主の名を見て―体が凍った。
「ヴァニラ・H」
迷いのない流麗な文字で書かれていた。その、”ヴァニラ”という言葉の響き。
恐怖が俺を襲う。それは口にできないほどの恐怖。発狂、などという生易しいものではない。それを味わった瞬間に俺という人間が蒸散してしまい、因果がゆがめられるほどの恐怖。
ああ、あの少女―祇園精舎に佇み光の中、沙羅双樹の葉にはさみを入れる、あの幼く儚げで、諦観しているようでそれでいて優しげな微笑をたたえている。
あの少女、ヴァニラ。
彼女はまるで幼子が手慰みに昆虫の羽根をむしるように、おぞましいことをたんたんと繰り返した。ソレはあまりにも禍禍しい行為に感じられて、俺は叫んだ。
”やめろ”と。
交錯する俺とヴァニラ。もみあった挙句、あやまって本来刈られる葉と違う葉を切り落とす鋏。
そうだ、それが全ての混乱の原因だった。
夢幻に落ちたのは一瞬。ソレは取りとめもない連想と言ったところだった。妙な顔をしてこちらを伺っていた運送屋に礼を言って、俺は部屋に引き返した。なにやらごてごてしたものが袋の中に入っている。
しかし―ヴァニラ・H。
意外だ。全てを忘れている俺の心の中に、まちがいなくそのヴァニラという名の少女の実在は確認できる。姿かたちは詳しく思い出せなくても、今の俺に深い影響を与えているのは間違いない。
それは俺の記憶だ。俺は嬉しくなった、俺は漸くこの世界への橋渡しを得たのだと思った。
いつの間に眠っていたのか、目が覚めると既に午前七時を回っていた。
慢性的な睡眠不足が原因だろう。突き刺さるような朝の日差しが視界を黄色く染めている。
「おはようございます」
「おはようございまちゅ、でちゅわ」
ミルフィールさんと膝の上に抱きかかえられたミントちゃんが窓の外を見ながら楽しそうに会話をしていたが、俺が目を覚ましたことに気が付くと挨拶をした。
「おはよう」
朝日を掌で遮りながら挨拶を返すと窓の外を見た。
窓の外には青く澄んだ海が遥か彼方まで続いており、晴れ渡った青い空との境目がぼんやりと浮かび上がっている。
こんな美しい風景は写真などでしか見たことがなく、しばらくの間呆然としながら見とれていたが、不意に疑問と不安で頭の中がいっぱいになった。
ここは一体何処なのだろうか?
昨晩までは旅立ちの興奮で行き先のことなどどうでも良いと考えていたが、冷静さを取り戻すと共に不安感で押し潰されそうになる。
(明るいよ、広いよ、怖いよ〜)
閉鎖された病棟での長い生活がこのような悪影響を及ぼしていたとは・・・
俺は身を縮め頭を抱えるとガタガタと震え出した。
きっと昨晩の暗闇がこの物語の暗転を示していたのだろう。幕はまだ下ろされることが許されないらしい。
「どうかちたのでちゅか?」
ミントちゃんとミルフィーユさんが心配そうな顔をして俺の方を見ている。
「ちょっと・・・気分が悪くなって。大丈夫」
必死に作り笑いをしながら答えるが、自分でも顔が引きつっているのが分かった。
「お薬飲んだ方がいいですよ」
「でも、睡眠剤しか持ってきていない」
ミルフィーユさんは立ち上がり棚の上に乗せられた旅行トランクを下ろすと俺に渡した。
「ちゃんと他のお薬も持ってきていましたよ」
トランクなど持ってきた記憶がないのだが、ミルフィーユさんが当たり前のような顔をしているのできっと俺の荷物なのだろう。
まさかプロテクトギアなど入っていないか少し緊張するが、中には着替えや洗面具、ピルケースが入っていた。
数種類ごとに中身が分別されているピルケースの中から見慣れた錠剤、トランキライザーを取り出そうとしたその時、
俺は着替えの下にノート型パソコンがしまってあるのを見つけた。
これは大道寺のパソコンじゃないか。何故こんな物がここに・・・
うっかり持ってきてしまうにしても、俺はノートパソコンなど使わないから間違うはずがない。
何者かがここに入れておいたのだろうか?
俺はピルケースをトランクにしまうと、替わりにノートパソコンを取り出した。
ディスプレイを開け電源を入れようとしていると、ミルフィーユさんが興味深そうな、何か期待に満ちたような表情でじっと俺を見ていることに気が付いた。
「なに?」
問い掛けるもニコニコと笑ったまま何も答えない。
少しだけ何か怖いような気分になったが、今更パソコンをしまうのも変な感じがしたので、意を決して電源スイッチを入れた。
「ボーンッ」
起動音が響き、OSが立ち上がるとアイコンの並ぶ画面が表示される。
ただ前回と違うのは、デスクトップに置かれたアイコンの形や壁紙が酷く悪趣味な物に替わっていたことだ。
壁紙は翼を持った少女が鎖に繋がれ内蔵を撒き散らしているイラスト、アイコンも犬の轢死体や目玉に替わっている。
少し不快になるが、気になる名前のフォルダが置かれていたので中を見てみることにした。
『なかよしBBS 過去ログ』
■投稿者:チェリー 投稿日:×年×月×日
昨日かりた本はとっても面白かったよ
ありがとう
■投稿者:テイラー@管理人★ 投稿日:×年×月×日
どういたしまして
他にも面白い本があるのでお貸しいたします
■投稿者:チェリー 投稿日:×年×月×日
明日ね、彼とはじめてデートするんだ
なに着ていこうか迷っちゃうな♪
■投稿者:テイラー@管理人★ 投稿日:×年×月×日
がんばってください
チャリーさんなら何を着てもお似合いです
〜〜〜 中略 〜〜〜
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
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■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
チェリーって本当はさくらって名前なんでしょ?
金持ちのチャンコロになびいちゃってサイアクー
■投稿者:チェリー 投稿日:×年×月×日
変なこと書いてるの知世ちゃんでしょ?
彼が言っていたもん
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
実名晒し
キタキタキタ━━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!!!
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
ここの管理人はレズで変態
チェリーのことが好きだけど支那のチャンチャンに寝取られちゃったんだって
ちゃんちゃんwwww
■投稿者:テイラー@管理人☆ 投稿日:×年×月×日
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■投稿者:チェリー 投稿日:×年×月×日
どうしてこんなこと書くの?
ともだちだと思っていたのに・・・
■投稿者:テイラー@管理人★ 投稿日:×年×月×日
ちがいます。
上の書きこみは私ではありません。
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
自作自演回避必死だなw
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
記念カキコ
■投稿者:チェリー 投稿日:×年×月×日
わたしに彼ができたから嫉妬してるんだね
もう絶交だよ
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!
さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!
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さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!さくらキモい!!髪型変!!
この後は延々と同じことが書き込まれていた。
一体何なんだ、これは。
ノートパソコンの画面を閉じながら俺は溜め息をついた。
そんな俺の様子をミルフィーユさんはじっと見つめている。
『さくらキモい!!髪型変!!』
この言葉が大道寺知世と木之本桜、二人の仲を引き裂き最悪な結果を招いた事件の原因であることを、この時の俺は知る由も無かった。
そして、一番最後に書き込まれていた内容が現実のものとなっていたことも。
■投稿者:名無しさん 投稿日:×年×月×日
狩ってやる
リビングに荷物を持ち帰った。未だに得体の知れない恐怖感は続いている。しかし自分の記憶への興味は何物にも替え難い。
荷物を外側から触ると、ごつごつとしている。硬いものが幾つか入っているようだ。すこし端がしわになっていて頼りない。
部屋の中を見渡してみたが、はさみの類はみあたらなかった。引き出しを引いてみても刃物のようなものはない。台所に庖丁くらいはあるだろうが、さすがにそれで封を切る気にはならなかった。
はやる気持ちを抑えて、俺は封筒の上部をちぎりだした。中にぎりぎりのサイズの紙切れでも入っていたら、一緒に破くことになる。
焦れる気持ちを抑えて、ゆっくりと、ゆっくりと。のこり数センチになったところで俺は一気に封筒を引きちぎった。中身を覗き込む。
何かの部品だろうか、金属のようなものが何点か見えた。少しためらって、リビングのテーブルに全てぶちまけてみることにする。
ごろごろと音を立てて、中身が封筒を滑り落ちてきた。まず最初に落ちてきたのは細長いモノ―鈍い銅色の光沢を放っている。それだけではない。まるでガラクタのような何かが何点も入っていた。
細長いモノは銃弾だった。まさか、本物なわけが。そう思いつつそれを摘み上げる。その円錐のしりの部分に30-06という刻印が施されていた。拳銃弾にしてはサイズが大きい。おそらくはライフル弾だろうが、それにしても一体、何の意味が。
他のものも良くわからない。麻雀牌が一個、それも2筒だけ。旧式の携帯電話。鍵が一本。人形が一体。アムウェイスターターキット、針金。
さらに紙片が1枚。寝台特急「さくら」号の乗車券と指定席券だ。
東京発長崎経由、行先―不明?
裏返してみたが、裏地は白いだけの、ただの小さく硬い厚紙だ。今日深夜の乗車分。指定区間は友枝駅から終着駅まで。友枝駅というのは確か病院から乗ってきたバスの終点だ。あとバス停が2つほどあっただけなので、歩いてもいける距離にあるはず。
しかしこれを除けばあとはゴミだらけだ、そう思ってその”ゴミ”を掻き分けると、有望なものが見つかった。何かの差込プラグのようなかたち。ああ、これは。
パソコンのメモリだ。USBメモリ。もしかすると、このメモリのなかに俺の過去に関する情報が入っているのではないか。俺は立ち上がった。
玄関そばの自分の部屋に入る。自分の部屋に一応パソコンは置いてあった。もちろん俺は家に帰るなり自分の記憶の手がかりになるようなものを探したのだが、ろくなものはみあたらなかった。
アルバムを見てもぴんと来ない。なんだか(自分も含めて)知らない人が写っているようで。
パソコンのハードディスクはフォーマットされていて、何の手がかりにもならなかったのだ。
慌ててそのパソコンの電源を入れる。ウィンドウズの退屈な起動画面。高々数分だがいらいらする。漸く立ち上がったパソコンの接続端子にそのメモリの差込口を突っ込んだ。
期待を込めて作業を進めたのだが―
少しの間をおいて不快なエラー音が鳴った。なにやらメッセージが表示される。
”不明なデバイスが検出されました”
慌てて再起動をかけた。しかし何回やっても結果は同じだった。
俺はそのエラーメッセージを表示しているウィンドウの「閉じる」と書かれたボタンをクリックして、溜め息をついた。
頭を抱えて、少し呆然としてしまった。パソコンのモニターをばんばん、と叩いてみるが、もちろんそんなことでメモリが認識されるわけがない。俺はよろよろと立ち上がってパソコンからはなれた。
他のパソコンで試してみたいところだが、生憎とこの家にはこの一台しかない。しかし試みるまでもないだろう。何しろフォーマットされたばかりのメーカー製パソコンだ。特殊な環境とは言いがたい。
つまり、どのコンピューターで試しても結果は同じだろう。俺はそのパソコン機器の形をしたゴミをゴミ箱に叩き込んだ。
世界が無に還り、存在しているのは俺達だけなのかと錯覚を覚えるほど、限り無く続く蒼い空と海
その蒼き平原を吹き抜ける風に乗って俺達は旅を続けている
ガイドマップには載っていない、いや既に存在していない町など載っている訳がない
消えてしまったあの町、夢も希望も思い出も、夕暮れに伸びた二人の影も、何もかもが消え失せてしまった
いつの日か、俺達の存在も無となって
一緒にいることは出来なくなるだろうけど
同じ風に乗ることは出来なくなるだろうけど
それでも、いつかきっと、また逢える日を信じて
そして、俺達は再び・・・
ポカポカと暖かく、そして軟らかい日の光が窓から降り注ぎ、俺達を優しく包み込んでいた。
早朝の硬く眩しい日差しと違いとてもいい塩梅だ。
はしゃぎ疲れたのかミントちゃんはミルフィーユさんの胸で眠っている。
「ミルフィーユさん」
「はい、なんですか」
俺とミルフィーユさんの視線が合う。
ミルフィーユさんのあどけない瞳、こんなにも間近で見たのは初めてだろうか。
いや、ずっと以前にも、今の俺自身の存在が曖昧でなかった頃にも、こんな場面があったはずだ。
手前勝手な妄想かと思われるかもしれないが、俺達はずっと昔から知り合っていた気がする。
それをミルフィーユさんに伝えたかった。
だが、それを伝えると何かを失ってしまうような気がして、俺は唯、ミルフィーユさんを見つめることしか出来なかった。
「おはようございます」
車両前方の扉が開き、一人の男が挨拶をしながら中に入って来た。
少々軽率そうな雰囲気がする男は俺たちの座席の前まで来ると、顔をにやつかせながら言った。
「キップの拝見をさせていただきます」
この男の顔を見るなりミルフィーユさんの表情が曇った。何か怯えるような、そんな感じすらする。
「申し遅れました。車掌のタクト・マイヤーズです」
「お、おはようございます。キ、キップ・・・ですね」
チラチラと車掌の方も見ながら、目を合わせないないようにミルフィーユさんはキップを取り出している。
はっきり言って、俺はこの『タクト・マイヤーズ』と名乗った男が気に入らなかった。
理由は解らないが、とにかく顔も口調も態度も、何から何までが不愉快なのだ。
それにミルフィーユさんの余所余所しい態度も気になる。知っている人物なのだろうか。
落胆して居間に戻った。部屋の中が薄暗くなりかけていたがあかりをつける気力も出ず、再びガラクタの前に座った。ガラクタに埋もれた一体の人形と目が合う。なにかてっぽうを持った人形だ。
最初男らしい表情だと思ったが、スリットの入ったスカートをはいている。女装趣味の男の軍人さんを模したものかとも思ったのだが、それも違うらしい。
台座を手にとって持ち上げる。なるべくパンツを見ないようにしてその人形をひっくり返すと「1/8フィギュア フォルテ・シュトーレン」と書いてあった。何処の国の人なんだろう。名前から言うとドイツ系っぽいのだが。
値札が貼り付けてある。”処分品・\480”と書かれた値札のシールが台座に張ってあったが、何枚もその下にシールで値付けをしなおした後があった。3654円、3128円、2148円、980円…。
銃を手もとにひきつけているポーズは確かにかっこよかったが、なにか他の変わったポーズをとらせようと腕の部分に力を込めた。だが動かない。どうもこれは棚にでも置いておいて飾るものらしい。
俺がそうしてフォルテ・シュトーレンのフィギュアを弄っていると、びー、と安っぽい玄関のブザーの音がした。
ビー。ビー。ビー。
はいはい、俺は小さく呟くと玄関へ向かった。歩いている間にもブザーが鳴り続ける。
ビー。ビー。ビー。ビー。ビー。ビー。ビー。ビー。ビー。
「煩いなあ」
俺は玄関の扉を開けた。夕暮れに染まる玄関先の情景の中に、怪しげな男が立っていた。俺は面食らった。
「おう村田、ワイやワイ!久しぶりやなあ!小学校のとき以来やないか」
なんだろう。もしかすると昔の知り合いだろうか。アフロヘアーの髪をゆさゆさ揺らしながら、大声でまくし立てる。
「あの、どちら様で?」
「なんや、薄情やないか。まあ無理もない、もうかれこれ十何年もおうてないさかいなあ。とにかく今日はお前にビジネスの話を持ってきたってん」
「だから、どちら様なんですか」
「ギャラクシーエンジェル第五期、”幻の大本営満人の肉天理ラーメン仕立て”に登場したダイレクトディストリビューターの月城雪兎や。関西の方へ仕事の都合でいっとってな、すっかり関西弁になってしもたんや」
「はあ」
「ああ、DDの雪兎さんでええで」
ええで、と言われても。
「で、その雪兎さんが一体なんのご用件で」
アフロをいっそう振り乱し、つばを飛ばしながら畳み掛けてくるその男に辟易としながらも尋ねた。十何年も会ってないのなら、そう親密な仲でもないのだろう。
「そやからビジネスのはなしやがな。ええか、自分には今やりたいことってあるか」
はあ。唐突だなあ。つまりあれか。オレオレ詐欺、おっと振り込め詐欺。あいや、ちょっと違うな。
やりたいことって言うか、俺一応記憶喪失だし。とりあえず記憶を取り戻したいが、それ以上のことは。
「えーと、特にありません」
雪兎は少し言葉に詰まったようだが、話を続ける。
「そうかそうか、まあ今はまだ夢を探してる段階やな。かめへんかめへん。そしたら、もっと時間があったらって思うことないか?」
時間。入院中の身だし、腐るほどある。もてあますくらいだ。
「えーと、特にありません」
「…」
雪兎は黙ってしまった。アフロこそ今時感がある髪型だが、色白な男の顔は以外に端整だ。下品な言動や身なりにさえ気をつければ、それなりのハンサムで通ると思うのだが。
「え、ええねん!とにかく、アムエイは最高やねん!」
突然支離滅裂なことを言い出した。
それから雪兎は玄関先でひたすら自説を主張し続けた。どうもアムエイという個人営業の販売店かなんかにならないかと言う誘いのようだ。化粧品のアレとか、ああいう感じだろうか。
とにかく彼は俺を熱心に誘う。みんなでハッピーになる。年収一千万。印税収入―
どうにも胡散臭さを感じる。
「それってビジネスっていうかさあ」
適当なところで男の言葉をさえぎった。
「マル…」
「なんや、メイドロボの話か?しゃあないなあ、お前は昔からおたくな奴やった。もちろんアムエイやったらメイドロボも手に入るでえ!ダッチの妻やない、ちゃんとした緑色の髪の毛のアンテナたったメイドロボやでえ…」
雪兎の話は際限がなかった。
俺ははた、と思いついた。ガラクタのなかに、あるものが埋もれていたのだ。
「おい、雪兎」
俺はちょっと苛つきだしていたので乱暴な口調になった。雪兎が一瞬黙る。「アムエイって言ってたよな」
「そや…アムエイや。やから」
「ちょっとまってろ」
あのガラクタの中に、確かアレがあったはずだ。
この手のセールスとかを撃退するには、この手が一番だ。俺は玄関から一旦奥へと引っ込み、居間のテーブルからソレを掴んで再び玄関先へと取って返した。
「どないしたんや…」
俺が持ってきたものを見て、雪兎が絶句した。無理もない。
俺はマニュアルどおりの文句を口にした。
「実は同業者なんです。お引取り下さい」
俺は「アムエイスターターキット」をぶら下げて奴の前に姿を現したのだ。
これは効いた。雪兎はそれ以上何も言わずに玄関の前に立ち尽くした。
「それじゃ」
俺は奴を放置して玄関の扉を閉めた。再びブザーを鳴らされたら面倒だと思ったがそういったこともなかった。俺はほっと溜め息をついた。
「ふう…。意外なところでガラクタが役に立ったな」
最もこうした役に立つことを送り主が想定していたとも思えないが。まったくばかばかしい話だ。少し疲労感を覚え、ソファに深く腰掛ける。何しろ病院でだらだらしていたので、こういうやり取りは精神的に疲れる。
荷物が入っていた封筒を手にして、もう一度送り主の名前を確認する。ヴァニラ。考えてみればこれも妙な名前だが、この名前を見ると心がざわざわする。
破滅的な何かに身震いするような、深い恐怖感と虚無感を覚えるのだ。
気持ちが悪い。ああ。
そのとき、封筒の中がかさりと音を立てたのを感じた。あれ、と思って封筒の口をぱっくり開くと、中にメモ用紙のようなものが入っている。
「なんだろう」
俺は手を封筒に突っ込んでメモ用紙を取り出した。そのはがき大のサイズのメモ用紙はくしゃくしゃに折れ曲がっている。なにか暗号のような文字列が小さな字で書かれていた。
8R、6−8―11
9R、12−5―3
10R、3−15―5
11R、8−2―14
つけっぱなしにしたテレビの音が煩かった。丁度番組の切れ目でニュースをやっているようだ。俺はこのなぞめいた数字の列に首をかしげながら、ニュースの音声を聞き流していた。
『友枝町 → 終点』と書かれた乗車券を車掌に渡すと、パチパチと爪切りのような物(何という道具なのか俺は知らない)で穴を開けられた。
ミントちゃんはまだ小さいから乗車券は必要ないらしい。
「ミルフィーユ・桜葉さん、ミント・ブラマンシュさんに、それと、もうそうさんですね」
乗車券を確認し終わると車掌が名簿を見せながら俺に尋ねてきた。
飛行機や船ならともかく、列車で名前の確認をさせられるのは初めてだ。
「何故名前の確認が必要なんだ?」
車掌は相変わらず不愉快な笑みを浮かべ、俺の神経を逆撫でさせながら質問に答えた。
「次の停車駅、インスマスのホテルに宿泊予約が入っておりますので確認をと思いましてね。
お客様も車両の中で一夜を過ごすわけにはいかないでしょう。なんせ、停車時間は十八時間もありますから」
停車時間が十八時間?そうなの?と、ミルフィーユさんの方を見ると黙ってうなずいたので間違いないらしい。
まあよい。車掌には返事をするのも嫌だったが名簿に目を通した。
しかし、自分で言うのもアレだが『妄想』って随分と変わった名前だと思う。
名簿には『ミルフィーユ・桜葉』、『ミント・ブラマンシュ』、そして『孟宗』と書かれている。
「名前の字が間違っている。亡くなった女で妄、それと想いで妄想だ。そんな中国人みたいな名前じゃない」
少しムッとしながら、俺は車掌に言った。
俺の言葉を聞いたミルフィーユさんが驚いたような声で答える。
「え?孟宗で合ってますよ。それにたしか大陸の出身じゃなかったですか?」
「そんな訳あるかよ。大体、俺は首都警察に居たんだ。日本人じゃない奴が警官になれると思っているのか?」
言葉を荒げやや興奮気味になるが、ミルフィーユさんが唖然とした顔で泣きそうになったのを見て少し冷静になった。
「ともかく、俺は日本人だ」
俺とミルフィーユさんの会話に割って入るように車掌が口を挟む。
「おもしろいことを言いますね。戦後、日本帝国は多民族国家政策を取ることになったから、
国籍があって思想的にも問題が無ければ人種を問わず警察官だろうが自衛官になれるはずではなかったのですか?」
何を言っているんだ、この男は。頭がおかしいのか?
何かを言い返そうとするが言葉が浮かんでこない。
車掌は話を続ける。
「現に、この国には大勢の人間が海外から移住しているから、昔からの日本名の人のが今では少ないじゃないですか」
そう言われてみると確かにそうだ。
ミルフィーユ、ミント、蘭花、フォルテ、ヴァニラ・・・
俺の周りにいた人達の多くは日本人とは思えない名前をしている。
でも、よりによって俺が・・・絶対にウソだ。
そんな話が信じられるわけがなかった。
411 :
クソ虫:05/03/09 20:37:25 ID:6CaLW/r50
ケチケチ液晶か。その当時でさえ、なめんな、と思ったな。
412 :
クソ虫:05/03/09 20:38:21 ID:6CaLW/r50
おっと、申し訳ない。
「悪質な悪戯だ」
俺はこの荷物をそう結論付けようとしていた。まったく、たちが悪い。その紙片をぴしゃりとテーブルに叩きつける。不快だ、本当に不快だ。きっと俺が事故か何かにあったことを知って、思わせぶりな荷物を誰かが送りつけたに違いない。
「ああ、やめやめ!今日はとっととメシくってゆっくり眠ろう。せっかく一人きりなんだし…」
さっきからつけっぱなしのテレビの方を見る。ローカル局のテレビ番組は丁度番組の間だったらしく、ニュースを流していた。さえない顔をした若手のアナウンサーがニュース原稿を読み上げている。
「本日友枝競馬場で開催された「まじかる☆さゆりん杯」で日本最高額となる、一千万馬券が記録されました。レースは荒れ模様の展開となり…」
へえ。
俺は少しテレビに見入ってしまった。万馬券というのはよく耳にするけど。一千万馬券となるとあれか、100円が一千万円になるのか。ちょっと信じがたいな。
馬がどたどたと走っている様がニュース画面に大写しになる。大本命だった馬が突然行き足を止め、他の馬と接触する。落馬、転倒。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。観客の怒号のなか、最後尾をもたもた走っていた馬が一着でゴールする。
俺は競馬には興味はないが、それでもこの高額配当が異常だということは理解できた。何しろ100円玉が1000万に化けるのだ。宝くじみたいなものだろう。
「とんでもないなあ」
俺は一人ごちた。画面が切り替わり、アナウンサーが原稿を読み上げる。
「友枝競馬場の第11レースは一着が8番セルジオエチゴ、2着が2番マッドブルサーティーフォー、3着が14番キタナイマッチ。三連単の配当が…」
テレビの画面下方にテロップが出る。
俺は少しあっけにとられてその画面を見ていた。
「すげえなあ。これ100円でも買ってたら1000万円か」
いくら金に執着がないといっても、1000万という金額には心引かれるものがある。しかし。
「でもなあ。3着までの着順を当てるなんて」
しかも大荒れのレースだ。こんな展開は誰も予想していなかっただろう。だからこその高額配当なのだが。
こんど機会があったら試しに買ってみてもいいかな、と思った。そうだ、ミルフィーユも誘って。意外と競馬は女の子にも人気があるみたいだし。
「ふふ」
ちょっとその様を想像して吹き出してしまった。一緒になって競馬場で大声で馬を応援する俺とミルフィーユ。「がんばってくださーい!」などと、馬に向かって声援を送る 妹に苦笑する俺。
ちょっとおかしくて、つい声にだして笑った。
「はははは。ふうん。今日の11レースが8−2−14か。配当が1013万、ね」
なんとなく確認して、視線を落とした。丁度視線の先にあった、テーブルの真ん中に、ガラクタに埋もれて紙片がある。
8R、6−8―11
9R、12−5―3
10R、3−15―5
11R、8−2―14
ちょっと待て。
「11R、8−2−14?」
俺はさっきのニュースのアナウンサーの台詞を反芻した。友枝競馬場の11レース。画面に大写しになる。馬の番号が四角い枠で囲われて。
8−2−14。
この11Rというのが、第11レースのことだとしたら。
まさか。
的中?
いやいやいや。俺は思わず苦笑いを浮かべた。
「もうだまされるもんかよ。またくだらないガラクタだろ?」
そんなバカな。ありえないだろう。なんども目を閉じて、紙片を見つめ、また目を閉じることを繰り返した。
この紙片は荷物の中に入っていたものだ。つまり、少なくとも昨日以前に発送されたもので、少なくともついさっきの競馬の結果など送り主が知るうるべくもない。
しかし…この奇妙な一致はどうも説明がつかない。
「偶然、だよな…?」
誰もいない部屋で俺は何物かに問いかけた。もちろん返事が返ってくるわけがない。
リモコンを操作して、テレビのチャンネルを変える。しかし折悪しくいくらチャンネルを変えても、他の局はニュースを放送していなかった。軽薄そうな情報番組ばかりやっている。
「まじかる☆さゆりん杯、友枝競馬場、11レース」
俺は呟くとその言葉を反芻しながら席を立った。再び、俺の部屋に向かう。目的は俺の部屋のパソコンだ。
何しろ情報を得る手段が、テレビのほかはこれしかない。パソコンの電源を再び立ち上げる。
また、起動するまで苛苛させられるが仕方がない。起動するや否や、俺はインターネットに接続した。
「ええと…友枝競馬場…まじかる☆さゆりん杯…っと」
覚束ない手つきで俺はキーボードから検索の単語を入力した。検索エンジンがあっという間に俺の探している単語から一致するウェブサイトを引き当てる。
あった。友枝競馬場本日のレース速報。
11R。まじかる☆さゆりん杯。8−2−14。
間違いない、俺は今から持ってきたメモ用紙とモニターを見比べて唸った。あたっている。それも1000万馬券の的中だ。
さらに。
8R、6−8―11
9R、12−5―3
10R、3−15―5
そのほかのレース。第八,九,十レース。すべて的中している。それも三連単で、だ。配当は11レースのそれに及ばないとはいえ、かなりの高額配当―言い換えるなら、恐ろしいまでの極小の確率だ。
俺は何度も何度もモニターとメモ用紙を見比べた。考えを巡らす。
あてずっぽう、という可能性。もちろん、それはすぐに打ち消した。送り主がこの荷物を発送し、その中にこんな紙片をしのばせるとして。まずそんな無意味な行為に及ぶ確率からして非常に低く、さらに4つのレースの着順を的中させるとしたら。
あてずっぽうなんて、ありえない。
そう、これは―
信じがたいが。こう考えざるを得ない。
結果を、はじめから知っていた。
誰が?ヴァニラ・H?
このがらくたの荷主が?
「インスマスに到着するのは午後三時ぐらいです。まだ三時間近くありますから、食堂車に行きませんか」
車掌が出て行くのを見送るとミルフィーユさんはいつもと同じ明るい表情になった。
ミルフィーユさんは俺と違い対人恐怖症など患っていなかったはずだ。やはりあの男のことを知っているのだろうか。
気にはなったが、ミルフィーユさんが自分から話してくれない事にはどうしようもない。詮索するのは止めておこう。
俺達はミントちゃんを連れ三人で食堂車に向かうことにした。
食堂車の中に入り適当な席に座るとメニューを手にしたウエーターがやって来た。
昨晩から何も食べていなかったが、あまり食欲は湧かなかったのでコーヒーとクラッカーを頼んだ。
ミルフィーユさんとミントちゃんはサンドウィッチとジュース、デザートにケーキを注文している。
頼んだものは数分足らずで届けられ(どうせ作り置きなのだから早くて当然だろう)、
楽しそうに食事をする二人や窓の外をぼんやりと眺めながらコーヒーを啜っていると、隣のテーブルの席に初老の男性が腰掛けた。
品の良いスーツと外套をまとい、老紳士と呼ぶのに相応しそうな人物である。
目が合ったので軽く会釈をすると、人の良さそうな笑顔を見せながら話し掛けてきた。
本来なら初対面の相手と長々と会話をすることなど苦痛でしかないのだが、人当たりが良い人物だったためか発作など起こさず普通に話す事が出来た。
老紳士の名は『ウォルコット・ヒューイ』といい、休暇を利用して各地を旅しているのだそうだ。
「次に停車するインスマスとはどういった所なのかご存知ですか?」
「インスマスですか。あそこはですね・・・」
ウォルコット氏によるとインスマスは小さな漁村で、半分廃村と化しているため観光には適していない場所とのことだ。
以前、一度だけ訪れた事があると、ウォルコット氏が記憶を頼りに地図を書いてくれた。
見所は海の見渡せる丘と崩れかかった遺跡が一個所だけらしい。(もっともそれも人に勧める事は憚られる代物だそうだ)
何故そんな場所に長時間停車するのか疑問に思ったが、人ごみで溢れる町に行くよりはましだろうと自分を納得させた。
当然だがインスマスには観光案内所など無いらしく、ウォルコット氏に貰った地図だけが頼りになりそうだ。
またインスマスは物価が安いとの事だが、まあ当然だろう。
その事を考えた瞬間、俺は自分が金を持っているのか心配になった。
乗車券はミルフィーユさんが用意してくれたので良かったが、病院を出るときに自分の財布を持ってきたか記憶に無かったからだ。
冷や汗が吹き出すのを抑え、周りに悟られないように胸のポケットを探すと二つ折りの財布と何かのメモ書きが出てきた。
取りあえず金の心配は無さそうなので安堵すると、メモを開いて中身を見ることにする。
『村田 ○○○−○○○−○○○○』
メモには名前と電話番号らしき数字が書かれている。
村田・・・どこかで聞いたことがある名前だ。
インスマスに到着したら掛けてみることにしよう。ひょっとしたら、何か判るかもしれない。
食事を終え、ウォルコット氏に挨拶をしてから二等車両に戻るとインスマスに到着するまで無言で過ごした。
「インスマス、インスマス。停車時間は十八時間、出発は明日午前九時となっております。乗り遅れのないようご注意ください」
駅に到着すると車掌のアナウンスが流れ停車した。
窓の外を見るがホームには全く人が居らず、乗車していたと思われる客が数名、荷物を手に車両から降りるのが見えただけであった。
その中にウォルコット氏の姿を見つけたが、こちらの存在には気が付いていないようである。
「私たちも降りましょう」
荷物を持ちホームに降りると、石炭の燃える匂いに混じって魚の生臭い匂いが漂ってきた。
「すこしくちゃいでちゅわ」
「駅が海に近いから魚の匂いがここまで来ているんじゃないかな」
もっと寒いかと思っていたが予想以上に暖かく、上着を着たまま歩き回ると少し暑いかもしれない。
取り合えず宿に向かうことにした俺達は駅から外へ出ることにした。
改札で駅員にキップを見せると手振りで通れと合図される。
態度の悪い駅員だと思ったが、怒るのも面倒だったので黙って改札を通り抜けると外に出た。
駅の目の前が中央通りだと聞いていたが、駅のホーム同様に人気が無く、酷く寂れた街であることが分かる。
疎らに歩いている人も何だか生気の無い様子で、それが街の寂しさに拍車をかけているようだ。
ウォルコット氏から貰った地図を開き、宿泊する場所の確認をすると、宿は駅のすぐ目の前にあった。
http://tuusin.sister.jp/graphb/img/1110462769.gif 警察署や消防署は隣町まで行かないと無いらしく、住民たちによる自警団と消防団が結成されているらしい。
当然ながら病院も無いらしく、嘗ては開業医が一人居たらしいが現在はどうなっているのか不明とのことだ。
一応、役場もあるようだがこんな状態の漁村ではまともに機能しているとは思えない。
博物館と図書館も同様だろう。
学校に関しても過疎化により、もう十年以上も前に廃校となり今では老朽化の為に立ち入りが一切禁止されているそうだ。
そういえば電話も宿や役場など限られた場所にしか設置されていないと聞いた。
俺もミルフィーユさんも携帯電話を持ってこなかったが、こんな田舎ではどうせ圏外になるから意味はないだろう。
宿に入ったらまず最初に、メモに書かれていた番号に電話を掛けてみることにしよう。
しかし、ウォルコット氏は記憶を頼りに地図を書いてくれたそうだが、かなり細かく書かれていると思う。
何者なのだろうか?
再び居間へ戻った。テーブルの上に置きっぱなしにしていた紙袋をごそごそと漁ってみる。我ながら意地汚いことおびただしいが、このレースのあたり馬券も同封されていないか、などと思ったのだ。
例えば、このレースの結果に関する情報を知った何者かが―この場合ヴァニラ・Hである可能性が高いが―とにかくその者が何らかの事情で馬券を換金することが出来ず、馬券のみ購入して俺に換金させるとか。
理由はなんとでも。賭け事といえば八百長が付き物だ。暴力団がらみの何かで、この送り主―ヴァニラ・Hが表に顔を出せない状態であるとか。
しかしながら、競馬でそのような八百長が可能だろうか。特定の馬を敗退させるような行為なら(それでも非常に小さな可能性だが)ありうるとしても、レース結果を完全に操るような八百長など。
がさごそ。
俺は封筒をひっくり返し、揺すってみたりもしたがもう何も入っていなかった。そのときの俺の顔や挙動はさぞみっともなかっただろう。
改めてガラクタとついさっきさげすんだばかりのものをテーブルの上に整頓してみる。
フィギュア。1/8フォルテ・シュトーレン。
麻雀牌(ただし2筒のみ)。
30-06と刻印の刻まれたライフル弾。
針金。長い針金を環状に丸めてあるものだ。切れ端の部分をテープで止めてある。引き伸ばせば俺が手をいっぱいに広げて掲げもってもお釣りがくるくらいの長さだろうか。
鍵。のっぺりとした凹凸のない先端部。よく見る鍵のように、指を当てる場所から延びた板状の部分には出っ張りがなく、かわりになにか小さな穴が無数に開いている。普通の鍵ではなかった。
アムエイスターターキット。
そしてメモ用紙と夜行列車の乗車券。
乗車券を手に取る。今夜発の寝台特急の乗車券だ。これに乗れとでも言うのだろうか。しかしそれにはかなりの抵抗があった。どちらかと言うとリスクのほうが大きい。何しろ行き先が不明なのだ。
もうひとつ、携帯電話だ。俺は黒光りするそれを手に取った。そしてはっとする。この携帯電話のメモリーに、なにか手がかりが仕込まれているかもしれない。
例えば、ヴァニラ・Hへの連絡手段とか、そういう。
電源が入っていなかった。取説もないのででたらめにボタンを押す。
「あ、そうか」
ふと気がついて通話兼電源ボタンを長押しする。2秒ほど待つと、無事携帯のディスプレイに光がともった。安っぽい音がこの携帯の古めかしさを感じさせた。ディスプレイもなんだか解像度が低い上輝度も暗い。
とはいえ、最低限の機能は備えているようだ。例えば、電話帳。
指先でメモリのアドレスを呼び出す。この操作は奇跡的に上手くいった。基本的に俺は電気製品には弱い上、記憶喪失なのだ。日常に関することは覚えているといっても、何処に欠落があるか知れたものではない。
携帯電話のことが記憶からすっぽり抜け落ちている、なんてこともありうるのだが、今回はそうでもない。知らない機種でも大体似たような操作で動かせるのだ。
アドレス。登録―0件。
ため息。いや、まあもうそんな安直に驚くようなことが怒るはずはないとあきらめても居たのだが。
次。留守電。登録―なし。
「結局、こいつも俺の部屋のパソコンと同じか」
フォーマットされたばかりの新品同様だ。
さて、これをどうするか。着信専用で持ち運ぶとして、とりあえず充電器が手元にない。携帯電話ショップに持ち込めば充電くらいしてもらえるだろう、そう考えて電源は入れたままにしておくことにした。
もしかしたら何らかの連絡があるかもしれない。それに備えて、だ。
考えなければ。深夜まで時間はまだたっぷりとある。駅までは歩いても十何分か、車なら2、3分だ。このきわめて胡散臭い招待に乗るか。
馬鹿な!ばかげている!確かに競馬は驚いたが、それだってどんなトリックを使ったのか知れたものではない。
自重すべきだ。銃弾が入っていた事もある、警察へ届けるべきではないか?そうして、一切合財話して警官にこのあて先違いの荷物を預けて、俺はまた治療生活に戻るべきではないのか。
それとも、俺はじつはもう幻覚を見るほど精神がやられていて、奇妙な白昼夢の真っ只中に居るとか―。
どうする。どうしよう。
此処に居るのは得策ではないような気がしてきた。警察か、それとも病院か。どちらかに行くべきだ。駅へ?馬鹿な、俺はそんなペテンに引っかかるようなへぼじゃない。
とにかく俺はディパックに机の上のものを全て詰め込み、家を出て車に乗り込んだ。車のキーは以前ミルフィーユに聞き出してあった場所に置いてあった。
スタータ・セルを廻し、アクセルを煽る。特に異常な場所はない。
上手い具合にGPS装置がついていたので、付近の地理は分かる。ハンドルに手を掛け、俺は車内で俯いた。
さて。どちらへ行く。警察か、病院か。
サイドブレーキを戻してギヤをドライブに入れ、アクセルペダルを踏み込むまで迷っていた。走り出してからも迷っていた。迷ったまま軽自動車を走らせ、交差点まで出てきた。
「警察へ行くと…向精神病薬呑んで運転してるってだけでも、なぁ。麻薬なんたら運転って、確か相当罰則がきつかったよなあ」
交番に持ち込むくらいでバレやしないと思うのだが、そんな事が頭をよぎる。ルームミラーの自分の顔をみたが、別にキチガイっぽくもない。とはいえ万が一のことを考えるとやっぱり拙い。ああ、どうしよう。
交差点の信号が赤から青に変わり車をスタートさせた、その瞬間だった。
出し抜けに助手席に置いたデイパックから音楽が流れ出した。
いきなり音が聞こえてきたのでびっくりしたのもあったが、その音楽は俺を戦慄させるのに十分だった。
「こ…この曲は!」
渋い曲調のこの歌には聞き覚えがある。
「東映映画、”関東テキヤ一家/浅草の代紋”の主題歌、関東テキヤブルース!」
なんと言うことだ。俺は家族構成やら自分の立場やらの記憶はないのに、アニメ声優の声とか仁侠映画の主題歌とか、そんなものはしっかり覚えているのだ。
「ダメ絶対音感…」
俺は震える手でハンドルを操作して車を路肩に寄せた。慌ててデイパックを探る。わたわたと手につかなかったが、やがて俺はその音源を取り出した。音を発している物体は小刻みに震えている。
携帯電話だ。古いので着メロを装備しているとは思えなかった。というかあるのか、関東テキヤブルースの着メロ。
ディスプレイを見てみたが、”非通知”と表示してあるだけだ。
しかしこの電話が鳴るということは、ある一定の事実を内包している。即ち。
ヴァニラ・Hが俺と接触を図ってきたということだ。
俺は慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし?」
恥ずかしいことにちょっと声が裏返ってしまった。なにしろこの謎を一気に解明してくれる当事者かも知れず、そして―俺の記憶についても何らかの手立てを持っている人物かも知れないのだ。
間が開く。しかし相手の息を呑む音が聞こえてきた。
「あの、もしもし?」
繰り返した。一瞬電話が不調なのかと疑うような間があったあと、漸く相手の声が聞こえた。
「村田さんのお宅ですか?」
男の声だった。
「ええ、ええ。そうです。村田ですあにょー、あにょー、これ携帯なんで、今出先なんですけど、ていうか俺はオタクじゃないです、少なくとも俺のは手術すれば直るんです。あにょー、」
やばい、自分でもわかるくらいに慌てていて言語障害みたいになっている。相手があきれないうちに話をはじめないと。
「あにょー、あにょですね、あなたがヴァニラ・Hさんですか?」
相手からの返事がなく、また間が開いた。俺はろれつが廻らないながらも勢い込んで話しつづけた。
「あにょー、ヴァニラ・Hさんですね?あにょですね、あなたが送ってきた荷物、一体なんなのですか?あにょ、万馬券、というか一千万馬券がですね。あにょー。家のパソコンで調べてみたんですけど、あ、パソコンって言っても
人型ポンコツロボで、ちい覚えた!とか言わない奴でていうか俺的にはですねメイドロボといえばマルチとかセリオとかそういうのよりも、”しすたあエンジェル”にでてきたMM−○×が最萌えでですね、あにょー」
もうむちゃくちゃだ。俺はそこで一度言葉を切った。相手の反応をうかがう。俺は期待に胸を膨らませて相手の言葉を待った。
しかし相手から帰ってきたのは激しい憎悪の念のこもった罵声だった。
「お前…キチガイ病院の回し者だな!」
宿に向かう途中、街の住人とすれ違ったが露骨に警戒しているような目付きで睨まれた気がした。
これは対人恐怖症からくる妄想で実際には睨まれてはいない。
そう自分に言い聞かせ他人と目が合わないように下を見ながら歩いたが不安は募るばかりである。
(大丈夫だ、落ち着け。誰も俺のことなんて気にはしていない。そうだ、薬だ、薬を飲んで落ち着こう)
不安が頂点に達し、「もう駄目だ」となった時、ミルフィーユさんが俺の手を強く握った。
思わず顔を上げるといつもの優しく、暖かく、まるで子供をあやす母親のような慈愛に満ちた目で俺を見ている。
「大丈夫ですよ。何も心配することなんてありません。私がついてます」
ミルフィーユさんは俺の頭を撫でながら言った。
「ありがとう」
その笑顔と優しさのおかげで俺は落ち着きを取り戻した。
でも、これってまるで・・・御主人様と犬みたいじゃないか?
通りに面した宿の看板には、日に焼けて薄くなった文字で『ツインスターハウス』と書かれている。
錆び付いた嫌な音がする扉を開けると、中にはカウンターと小さなテーブルが二つ並んでいた。
建物自体は古く痛んでいるようだが、綺麗に掃除されているためか埃や蜘蛛の巣といったものは見られない。
カウンターの上に置かれたベルを鳴らすと、奥の方からメガネを掛けたやや神経質そうな年配の女が現れた。
宿の女将だろうか。
「いらっしゃいませ。ツインスターハウスにようこそ。女将のメアリーと言います」
事務的な口調で対応する女将に、ミルフィーユさんが予約してある旨を伝えチェックインの手続きを行っている間、
俺はカウンターの横に設置された電話を借りてメモに書かれた番号に連絡を入れることにした。
古めかしいダイヤル式の電話機であったため、長い番号を回すのは面倒極まりなかった。
数回のコール音のあと、電話が繋がるとやや裏返ったような男の声がした。
「もしもし?」
かすかに聞こえるエンジン音と、ザーという車の通り過ぎる音、道路わきにでも停めた車内に居るのだろう。
声の様子から二十代か三十代ぐらいと予想できる。
裏返ったような声になったのは緊張感からか、それとも何かの持病なのかもしれない。
無意識の内に電話から相手の情報を得ようとするなんて元職業柄といえ嫌な習慣だ。
「あの、もしもし?」
急かすように、もう一度呼び声が繰り返された。
「村田さんのお宅ですか?」
気を取り直し、メモに書かれていた人物なのか名前の確認をする。
「ええ、ええ。そうです。村田ですあにょー、あにょー、これ携帯なんで、今出先なんですけど、ていうか俺はオタクじゃないです、少なくとも俺のは手術すれば直るんです。あにょー、」
『にょ』、とか言っているし。言語障害なのか、ただのキチガイなのか。
しかし、『にょ』という言葉には聞き覚えがある。あれは何処で聞いたのだろうか。俺は記憶の糸を手繰った。
その間も相手は意味不明なことを延々と喋り続けていた。
そうだ思い出した。でじこだ。あの秋葉原暴動の首謀者、でじこの口癖が『にょ』だったはずだ。
まさかこいつ、でじこの仲間か?
でじこ一派の残党が野良犬狩り、嘗ての治安警察に対する報復を行っている可能性が全く無いとは言い切れない。
しかも、でじこを射殺したのはこの俺だ。
脇の下を冷たい汗が流れていくのが分かった。
だが、この男の言っていることは万馬券とかメイドがロボとか意味がまったく不明である。
やっぱりただのキチガイだ。
それに、こいつの口から『ヴァニラ』という名前が出たことが決定的であった。
「お前・・・キチガイ病院の回し者だな!」
思わず強い口調で電話口に怒鳴りつけた。
その声を聞いた所為か、驚いた様子でミルフィーユさんが側にやって来るとなだめるように言った。
「あ、あの孟宗さん。チェックイン終わりました。早く部屋に行って休みませんか?」
「ミルフィーユ・・・さん」
俺はミルフィーユさんの名前を声に出して言った。
その声が聞こえたのか、電話の向こうにいる村田と名乗る男が何かを喚き出したが、俺はその声を無視すると一言返事をしてから受話器を置いた。
「俺達、俺とミルフィーユさんは急いでますから、電話はまた今度ということで」
こちらから電話を掛けたような気がするけど、まあ良しとしよう。
キチガイ病院?
「俺”たち”を捕まえようというんだな!舐めるなよ。あんなところにいたら、もっと酷いキチガイになってしまう。ミントちゃんだって貴様らの所為で」
俺は突然の男の怒声にふっと我に返った。自分を取り戻した、とでも言おうか、一喝されて背筋が伸びた。
「キチガイ病院―友枝精神病院のことですか」
「そうだ。貴様は追っ手だな?」
「いえ、あの。俺はそんな―アタマの不自由な方の病院の回し者ではないです」
漸くろれつが回りだした。とにかく、この男の怒りを鎮めて何か、情報を―そう思った矢先だ。
声がする。女の声だ。
「あの、モウソウさん……チェックイン……」
遠くて聞き取れない。だがその声に応じて、電話口の男がああとかうんとか小声で返事をしている。
モウソウ、と女は相手に呼びかけている。つまり、この男はヴァニラ・Hではないのか。
それにしても、この女の声。聞き取りにくいとはいえ、どこかで聞いた様な。いや、確かに聞き覚えがある。
「…お部屋に……休みませんか……」
そうだ、確かに聞いたことがある。この会話の内容。何処かのホテルに投宿したところなのだろうか、それにしても誰と誰の会話だろう。まさか、”モウソウ”に話しかけている女が、ヴァニラ・H?
だが、そんな俺の思いは一瞬のうちに裏返された。男の落ち着いた声が電話から飛び込んできたからだ。
「あ、ミルフィーユさん」
ちょっと待て。
待ってくれ。
なんだと?ミルフィーユ?
混乱する。訳がわからない。釈明を求める。論理的な解説を。ミルフィーユ…つまり俺の妹?はは、まさか。ミルフィーユはいま林間学校の最中だ。
男と出歩いている筈もない。ははは。珍しい名前の一致だ。あはははは。ミルフィーユなんて名前の子、他にもいるんだな。ははは。
心の中で笑ったが、それは単に現実を認めたくないという心が俺を倒錯した笑いへと導いていただけだったのだ。偽りの安心、筋の通らない論理の上に一点のしみが広がる。
あの声。聞き覚えのある声なんて、今の俺には早々あるものじゃない。記憶として明確に残っているのはわずかに病院で会話した人たちの声。
電話口から聞こえていたのは間違いない、ミルフィーユの声だ。
疑問を感じ出すと話は早かった。そうだ、冬季林間学校だなんて。ありえないだろう、第一冬山に学校行事で行ったら凍死してしまうぞ。
俺の心に広がった黒い染みはあっという間に俺の心をどす黒く染め上げて行った。ざわざわとした不信感。俺は、俺は。
「ミルフィーユ、だと」
低い声になった。俺は。
「そこにいるのはミルフィーユなのか?」
返事がない。なにやら電話の向こうでやり取りをしているが、内容まで聞き取れない。
「貴様、ミルフィーユを連れてどうする気だ!い、いや、ミルフィーユに何をする気だ、あんなこととかこんなことととかするのか!」
俺は思わず叫んでいた。ヴァニラのことも荷物のこともない。ミルフィーユが電話の向こうにいる。それも誰だか知らない男と一緒に、ホテルに入るところなのだ。
「何を黙っている、返事を―」
「俺達、俺とミルフィーユさんは急いでますから、電話はまた今度ということで」
一方的に電話が切られた。
「おい待て、ミルフィーユを…」
しかし電話からはもはや、ツーツーという発信音がむなしく響くだけだった。
俺は携帯電話を握り締めたままハンドルに突っ伏した。ホーンのボタンが額に当たって、軽く警笛が鳴った。慌てて顔をあげる。
今の電話。電話モウソウと名乗る男。キチガイ病院―友枝精神病院。
そして、俺は。
ミルフィーユに、謀られたのだ。たった一人、俺の知る肉親だった少女に。酷く惨めな気持ちだ。俺は車の中で途方にくれるしかなかった。
まさか病院からの追っ手に電話が繋がるとは思わなかった。
あの村田という奴には注意したほうがよさそうだ。
電話の向こうで何度もミルフィーユさんの名前を連呼していた。きっと奴はミルフィーユさんを狙う異常者なのかもしれない。
しかし、病院側も必死だな。あんな異常者に追っ手をやらせるなんて。
そりゃそうだ。閉鎖病棟に強制入院していた患者が二人、しかも子供を連れて病院を逃げ出したなんてことが公になったら、世間に対する面目が丸潰れだ。
だから面倒なことは異常者に追っ手をやらせて任せようって魂胆なんだ。
考えていることが矛盾してきたので妄想をストップさせると、ミルフィーユさんの方に向き直った。
「大きな声だしちゃ駄目ですよ〜」
こちらをジロジロと睨んでいる女将を気にしながらミルフィーユさんが言った。
「すまない。なんか村田とかいう危ない人が電話に出たので驚いてしまって・・・」
ゴニョゴニョと言い訳をしている最中、『村田』という名前を口にした瞬間に、ミルフィーユさんの表情が僅かだがこわばった気がした。
でも、何か変じゃないか?
閉鎖病棟の鍵、鉄道の乗車券、予約されていた旅宿、村田への電話番号・・・何か出来すぎている気がする。
女将に渡された部屋の鍵には『301』と書かれていた。
階段を軋ませながら三階に上がり、扉に掛けられた番号プレートを確認すると俺達の部屋は一番奥にあった。
鍵を回し中に入ると室内を見回す。
左手側にトイレとシャワールーム、壁の窪みに衣紋掛けがあり、奥にはダブルベッドとシングルのベッド、その間に電気スタンドが置かれた小さなテーブルがあった。
典型的な造りの旅宿だ。
窓から外を見るとこの部屋が大通りに面した位置にあるのが判り、南側と言う事もあってか午後の気だるい日差しが差し込んでいる。
「日が暮れる前に何処かを見て回りたいな。と言ってもウォルコット氏の話どおりだと何もない町だけど」
地図を広げ窓の外の風景と見比べながらミルフィーユさんに言った。
古い欧米風の建物が並んでいるが、いずれも手入れが行き届いていないのか、所々崩れていたり窓が割れたままになっているため、貧相で惨めな様子に見える。
嘗てこの町が栄えていた頃にはもっと立派に見えたに違いない。
フロントに鍵を預けようと一階に下りていくと、カウンターの前で女将と二人の少年が何かを話しこんでいた。
一人はメガネをかけた真面目そうな少年と、もう一人は活発そうな、悪い言い方をすれば悪ガキっぽい感じである。
「私が戻るまできちんと番をしているのよ」
女将が厳しい口調で言うとメガネの少年は素直に返事をしたが、悪ガキの方は面倒だなんだと悪態を吐いていた。
少年達の名前はマリブとココモというらしい。
最初は女将の子供かと思ったが、彼女のことを『メアリーさん』とか『メアリー女将』と呼んでいたのでそうではないらしい。
女将が外に出て行くのを見送ると、カウンターに鍵を預けてミントちゃんを連れてミルフィーユさんと宿から外に出た。
外は思った以上に暖かく、上着を脱いできたのは正解だったようである。
宿の前には酒場と、雑貨や食料品を扱っている商店があった。
酒場には、『From Dusk till Dawn』(夕暮れから夜明けまで)と看板が掲げられて、昼間から入口付近には酔っ払いらしき男が壁にもたれて居眠りをしていた。
躊躇したが、結局俺は再び車を走らせた。
行先は友枝精神病院だ。色々と聞きたいことが出来た。せっかくの外泊だが、こうなってはもはや病院に頼るしかない。鳥丸先生は相談に乗ってくれるだろう。
俺が巻き込まれた事件とやらに関係しているのかもしれないし、とにかく自分ひとりでは解決できそうに無い。何しろ俺は精神異常者のレッテルを貼られているのだ。ヘタを打てば、本物のキチガイにされてしまう。
ぼんやりしていたので、後方からやってきた車に気がつかず危うく接触するところだった。派手な警笛を鳴らしながら走り去ってゆく車をにらみつけながら(逆恨みだが)自分の車を動かそうとすると、サイドブレーキを引きっぱなしだったりと。ずいぶん動揺していた。
「キチガイ病院の回し者―」
さっきの男の言葉を繰り返す。キチガイ病院、すなわち友枝精神病院のことだろう。さっきの男はその関係者なのだろうか。
病院に関する不祥事というのはいくらでも耳にする。医療ミス、不正経理、診療報酬の不正受給。それにかかわった職員の男が逃げている、とか。
男ははじめ落ち着いた様子で、精神病患者のようではなかったが。しかし、なにやら恨み言を言っていたところを見ると患者であった可能性も捨てきれない。しかし―あの居心地のいい病院で、一体何の恨みを抱くことがあるのだろう。
いや。いやいや。
世の中、一体どんなことが裏側に潜んでいるかわからない。現にミルフィーユは…
俺はまた酷く惨めな気持ちになった。ミルフィーユのことをアタマから追い払い、運転に集中する。
信号待ちの間にGPSで友枝精神病院を検索する。ディスプレイに最短ルートが表示され、音声案内もついているので方向音痴の俺でも迷うことは無いだろう。
ただ、その音声が妙に辛気臭い。
「今日は左折をしない日」
「今日は国道を避けて走る日」
「今日は…」
なにか妙に特殊な条件が入力されている。これは俺が入院前にプリセットしたものなのだろうか。それに音声もぼそぼそとしていて、聞き取りにくい。
「はああ…」
溜め息も出るというものだ。その陰気なカーナビの音声を聞きながら、状況を整理する。
DDの雪兎はアムエイスターターキットで撃退した。競馬の予想が的中していて慌てた。外に出てみれば携帯に電話がかかってきた。
おかしい。
この荷物は、やはりおかしい。まるで―俺のことを見透かしているようじゃないか。俺が向かうべき方向を示し、俺の苦境を救っている。
競馬の予想的中、アレは―俺の行動の助けにはなっていないが、もしアレに何のトリックも絡んでいないとすれば、俺の仮説を強く補強することになる。
俺は助手席のディパックを見下ろした。
この荷物が俺の取るべき道を指し示している。
一笑に付したいところだが、そうも行かない。偶然と呼ぶにはあまりにも不可解な事象が重なっている。
俺はこの荷物を肌身離さず持ち歩くことにした。この先なにがあるかわからない。鉄砲の弾などという物騒なものまで入っている。もしそれが利用されるときがくるとしたら、今度はアムエイの勧誘くらいではすまないかもしれない。
バス道とは違う道をたどったので存外時間がかかったが、日のあるうちに友枝病院に到着することが出来た。夕焼けを浴びて聳え立つ病院とその病棟は俺にのしかかってくるような錯覚を俺に与えた。
病院横の駐車場に車を乗り入れた俺は、デイパックから全ての荷物を取り出してジャケットのポケットに入れた。人形が少々壊れそうで覚束なかったが、まあ気をつけよう。しかし人形を懐に入れている男というのはやばいなあ。フィギュア萌え族?
荷物を取り出しながら、俺はなんとなく忘れ物をしているような気がしてきた。そういう気持ちが湧き上がってくると、どうにも落ち着かなくなってくる。俺はそれも精神の病状の一種だと考えることにした。
「俺は忘れ物をしていない、していない」
呟きながら車を降りる。ディパックは車に残しておいた。どうせ何も入っていないのだ。
エントランスに向かいながら考える。まずは鳥丸先生だ。あの女医さんにコンタクトを取らないと。しかしこの時間まで彼女は病院に残っているだろうか、俺は少し焦りを覚えて歩みを速めた。
まずは博物館に向かうことにした俺達は中央通りから酒場の横道を通り抜けることにした。
場末の酒場といった感じで、煙草の吸殻や空き瓶が散乱しているのが目に映り少し不快になる。
横道へ入ろうとしたとき、酒場の前で居眠りをしていた男が目を覚まし、顔を上げると焦点の合っていない目で宙を見つめて呻き声を上げた。
男は泥酔しているのか呂律の回らない口調で意味不明なことを言っているが、多分酔っ払いの戯言だろう。
「カードを・・・封印・・・さく・・・ら・・・妹・・・シャオラ・・・死ね」
トラブルに巻き込まれるのも嫌だったので無視をして通り過ぎようとしたが、男は立ち上がるとミルフィーユさんの腕を掴み大声で叫んだ。
「俺がホモで何が悪い!俺がシスコンのロリコンで何が悪い!妹の下着を盗んでオナニーだってした。ユキとお互いにチンポを握り合ったりもした。さくらーっ!ユキーっ!あうあうあー」
突然の出来事にミルフィーユさんは驚いて固まってしまい、ミントちゃんは大声で泣き出してしまった。
「そ、そ、そ、そうなんですか?」
「こわいでちゅわ、こわいでちゅわ、きちがいでちゅわ、うえ〜ん」
ミルフィーユさんの身が危険だと判断した俺は、男の襟を掴み引き離すと突き飛ばした。
ドサッ
大きな音を立て、尻餅をつく格好で倒れこんだ男は唖然とした顔で俺を見ていたが、突然怒り狂ったかのように豹変した。
「返せ!俺の妹を返せ!この支那畜野朗。うぎゃああああああああああああ」
俺の肩を掴んだかと思うと激しく揺さぶりながら泣き喚く。
何なんだこいつは?ただの酒乱にしてはおかしすぎる。やはりキチガイか。
思わずぶん殴ろうかと構えたが、男は手を離すと泣き叫びながらもの凄い速さで走り去って行った。
「さくらぁああああああああああああああああああああああああああああああっ、ふんがああ」
途中、酒場の前に積んであった樽を倒したり転んだりボロボロになっていくその男の背中を見届けながら俺達は立ち尽くしていた。
「何だったんだ」
「えーと、酔っ払いさんですか?」
「こわかったでちゅわ」
出だしから躓いた気分だ。
俺はこじんまりとした受付を訪ねた。少なくとも俺の記憶の及ぶ範囲では、正面玄関から病院に入るのは初めてだったのでなんとなく妙な気持ちだ。外来患者の姿もなく、看護婦さんを呼ぶ為に大声をあげなければならなかった。
「あのー、すいませーん」
奥の部屋から看護婦さんが出てくる。若い看護婦さんだが見覚えはない。彼女はすこし怪訝そうな表情をしていた。
「あの、俺此処の患者で村田って言うものなんですが。今日外泊してたんですけど、ちょっと先生にお話したいことがあって」
はあ、と看護婦さんが頷いた。
「村田さん、ね。わかりました、ちょっと待っていてください」
言葉遣いは柔らかいが声自体はなんだか乾いていた。俺は不安を感じた。
「えと、出来たら鳥丸先生を」
奥の部屋―おそらく事務室だろう、そこへの扉を開こうとした看護婦さんはくるり、と体をターンさせた。
「とりまる…先生ですか?」
先程より更に怪訝さがました表情で俺に問い掛ける。
「ええ。精神科、いや精神神経科かな?もうお帰りになられましたか?」
看護婦さんはすこし口ごもった。なぜだか哀れむような口調になって俺に答える。
「とりまる、という医師は当院には在籍しておりませんが」
―え。
俺は呆気に取られた。
「あの、鳥丸先生ですよ?黒髪が綺麗で、黒髪連盟さんも草葉の陰でさぞお喜びになっているであろう鳥丸先生ですよ?言葉使いが丁寧で俺のような半キチにも優しく
接してくださった鳥丸先生ですよ?アニメキャラらしく低身長で細身でありながらぱっつんぱっつんな体が萌え〜な鳥丸先生ですよ?」
「……」
いかん、少々錯乱してしまったようだ。完全に相手が引いてしまった。
だが相手もさすがキチガイ病院の看護婦。すぐに我を取り戻した。というかその哀れむような視線は止めて欲しい。気持ちはわかるが。
「とにかく、うちにはとりまる先生って方はいらっしゃいませんよ」
笑顔を交えて言う。
「そうねえ…患者さんに似たような名前の人が居たけど…その人と勘違いしてませんか?」
「いえ、鳥丸先生…です」
うーん、と看護婦は首を捻った。困ったような顔をしているが、勿論鳥丸先生の所在について困窮しているわけではなくて、俺というキチガイの処置に困っているだけだ。
「どうしよう。他の先生を呼びましょうか?」
そのとき俺は看護婦さんの瞳が別の光を帯びてきているのに気がついた。職業人としての顔、すなわち。
俺に対する緊急の治療が必要だと認めた顔、だ。俺は慌てた。
「いえ、すいません、なんだか俺勘違いしてたみたいで。なんだか家に帰ってねちゃって、そのとき変な夢見たのかなあ、あははは」
それでも看護婦さんは注意深く俺を観察していた。俺は内心混乱しつつも懸命に演技を続けた。
「ああ、やっぱりどうも俺はこういうところがだめなんだなあ。せっかく病院の皆さんに世話になっているのに、肝心の俺の心掛けが、なっちゃいない。本当に」
俺はぺこり、と頭を下げた。
「ごめんなさい」
看護婦さんは苦笑した。あまり容姿の整った人ではなかったが、笑うと八重歯が見えて愛らしかった。
「いいんですよ。でも、本当に大丈夫?おくすり、ちゃんとのんでる?」
敬礼。ビシィ!
「勿論であります!サー!」
「くすくす。じゃあ、今日はどうされます?病院に戻りますか?」
それは困る。俺は外で探しものが。
「いえ、もうすっかり平気なので自宅に戻ります。ですが、ちょっと忘れ物があるので取りに戻りたいのです。まだ、大丈夫ですよね?」
面会時間が終わるまではまだ間があった。俺が自分の病室に戻ることには何の問題もない。
「ええ、構いませんよ。そうね、でも面会終了時間くらいには退出してもらわないと、外泊は取り消しになりますよ」
「そりゃまずいや。ささっと忘れ物、とってきます」
俺はすっかり快活な青年を演じて、看護婦さんと打ち解けた。完全に誤魔化せたとも思えないが、とりあえず院内に入ることだけは出来た。一応名簿みたいなものに名前と時間の記入を求められる。
「んじゃ、勝手に病院の中に入りますよ」
「ええ、いいですよ。ああ、村田さん」
受付を通り過ぎ、薄暗い病棟のほうへ歩いて行こうとしたときだ。看護婦さんはやんわりと俺に注意を促した。
「今日は、C病棟のほうへは近づかないようにしてください」
「C病棟?」
看護婦さんはこくり、と頷いた。C病棟―あの、閉鎖病棟だ。
「C病棟に一体なにが?」
看護婦さんに問うた。看護婦さんは一瞬返答に窮したが落ち着いて、
「今日、ちょっと揉め事があったらしいの。詳しいことはわからないけど」
「ふうん」
まあ、閉鎖病棟の事など知ったことではない。少なくとも俺には関係ない話だ。
「わかりました、どうせそっちに行くつもりなんてないですから。自分の部屋へ行って荷物とってくるだけですよ」
あらそう、看護婦さんは頷くと奥へ引っ込んでしまった。
しかし、俺は此処で何かを探さねばならない。モウソウと呼ばれる男。ミルフィーユの行く先。わからないことだらけだ。
渡り廊下をすぎると、病棟へ行き着く。ここから先は健常者には縁の無い領域だ。
とはいえ、開放病棟というのは―繰り返すが、さして他の病院の一般の病棟と変わりは無い。基本的に出入りは自由で、鍵が掛けられることも無いのだ。
精神病院といえば鉄格子やら金網やら厳重に施錠された扉やらで患者を囲っている印象が強いと思う。俺もそう思っていたのだが、こと開放病棟に関しては特に違和感無くそこに住まうことが出来た。
確かにヘンな人もいるにはいるのだが、むしろ大多数を占めるのは仕事に疲れたサラリーマンの人とか、アルコール中毒でお酒さえ飲まなければいい人、なんて人まで。当たり前の人たちだった。
話せばごく普通の人なので気が抜けるくらいだ。俺がこの病院で目覚めて知り合ったおじさんは、ごく普通の証券マンで俺に株式取引の何たるかをいろいろレクチャーしてくれた。
それも押し付けがましくなく、面白おかしく話してくれるのだ。俺はとりあえず退院して仕事をしたら、ちょっと株に投資してみようかと思ったほどだ。
ただ、おじさんは仕事のストレスでやばい薬に手を出して、会社を追われたのだという。とてもそんなふうには見えなかったのだけど。
などと考えながら俺は自分の部屋に着いた。俺の部屋といってももちろん相部屋だ。ただ夕食が近いからか部屋の中には誰もいなかった。
俺は自分のベッドに腰掛けた。
とりあえず、何もすることが無い。
忘れ物を取りにきたというのは看護婦さんへの口実だ。
この病院には何かある、その疑念は尽きない。
あのモウソウが言い残した言葉。「キチガイ病院の回し者か!」あの台詞が耳に焼き付いていた。
ベッドに深く腰掛ける。意外とスプリングが利いてやわらかく、俺はバランスを崩して倒れこんだ。倒れるに任せて俺は横たわった。
”キチガイ病院の回し者か!”
ぐるぐるモウソウの言葉が俺の頭の周りを回っている。
「ふう…」
俺は溜め息をついた。夕日が差し込んでいる。嫌な色。黄色い太陽。赤い太陽。血の色。気持ち悪い。
この病院に何があるというのだろう。モウソウの言った言葉を反芻する。
「ミントちゃんも、おまえらの所為で」
ミントちゃんというのはなんだろう。理解できない。この病院の医療ミスか何かで、生命に重大な危険を及ぼしたとか。
わからない。そう、わからないのだ。俺の脳は記憶を奪われただけでなく、類推という機能さえ損なわれしまったように感じられた。
類推という行為は、記憶が無ければ不可能な所作なのだろうか。比較対象が無ければ何事も推し測ることができそうにない…。
俺には何も無いのだ、俺は泣きそうになった。
俺はここで目覚めてからそのしばらくの、ほんの一瞬の人生しか与えられていない。俺の生の殆どは、無為に彩られている。虚無感ばかりを感じて、俺は本当に涙を流した。
「泣くもんかよ…こんなことで」
強がりを口にだして言ってみた。言えば言うだけ惨めになる、そんな気がする。夕焼けが俺を包み、俺は涙目を拭おうとした自分の右腕も真っ赤に染まっているのを不意に意識した。
夕日の赤。
まるで血の色だ。
俺は起き上がった。ダメだ、此処にいてもなんの解決にもならない。俺はそう悟って自分の病室を後にした。誰にもすれ違わず階段を降り、病棟を抜け出した。
階段の出口には中庭が広がっていた。グラウンドといってもささやかなものだが、だだっぴろい空間が存在している。赤に染まったその広場に俺は足を踏み入れた。
思えばミルフィーユが尋ねてきて、よくこの中庭の隅のベンチで話をしたのだ。もうそんな機会は無いかもしれない。何故ならミルフィーユは…。
俺は俯きながら中庭の中央へ出てきた。狭い庭だ、そう時間はかからなかった。ふと病棟を仰ぎ見る。俺が出てきた開放病棟。いつもの佇まい。
4階建ての鉄筋の建物はまだ新しく、一般の病院と比較してもそれほど見劣りしない。むしろキレイなくらいだ。
そして振り返って、C病棟―閉鎖病棟を見る。
今にも朽ち果てそうな、おんぼろの病棟。違法建築という言葉が脳裏に浮かぶ。それくらい酷いのだ、閉鎖病棟は。
あんなところに閉じ込められたらきがおかしくなってしまう、たとえおかしくないものでも。
そんなふうに考えていた。その3階建て、こちらも鉄筋コンクリートだがところどころにひびが入り、夕日の赤に照らされておどろおどろしくすらある病棟を見た。
ああ、嫌だ。恐ろしい。
俺はそんな即物的な感想すら持った。あんな所にいたらキチガイになってしまう。
俺はそうして目を逸らそうとして。
逸らそうとして。
逸らそうとして―。
ああ!なんだ、いったい。
あいつは。
逸らすことが、目を離すことが出来なくなった。まるで釘付けにされたようにその建物の中ほど、2階に当たる部分を見た。そして俺はそのまま顔を動かすことが出来なかった。
「バカな…!」
俺は声に出して言った。罵りに近い語勢だったと思う。
俺は叫んでいた。
「蘭花!」
その建物の2階の窓、鉄格子の中から一人の若い女性の顔がのぞいていた。
その顔があまりにも知り合いにそっくりで。いや、そんなばかな。そう思っても目を話せない。
「おい!蘭花!なんでおまえそんなところに―」
そう。閉鎖病棟の2階の窓からのぞいているのは、見まごうことなきあの女性
―蘭花=フランボワーズだったのだ。
叫んだところで固まってしまった。格子越しに見る蘭花の顔は酷く虚ろに見えた。
「おい!おい―」
言葉が続かない。人違いかとも思い何度も目をぱちくりさせた。もし仮に、だ。蘭花が何らかの事情で本当にあの窓の中にいるとして。中庭にいる俺を認めたのなら、返事をするなり手を振るなりくらいの反応はあるはずだ。
少なくとも無視や知らん振りといった陰湿なことをするような奴じゃない。
しかしいくら俺が叫んで手を振っても蘭花はぼんやりと目を開けてこちらを見ているだけだ。まるで眠っているかのように表情が無い。肌の色がやけに青白く感じられる。
俺は不吉な予感に囚われた。なんでそんな思いが浮かんできたのか最初わからなかった。そうして、その思いを振り払うために必死で手を振った。
―まさか。
必死で手を振った。呼びかけた。
―まさか、彼女は、
”兄なら、死んだわ”
呟いた彼女の後ろ姿を思い出した。その不吉さ。
―まさか、彼女は、もう、
「蘭花!てめ…ふざけんなよ!俺をおちょくってんのか、このアマ!」
どのくらい俺はそうしていただろう。手の届くような近いところに彼女はいる。熱狂的なまでの俺のアピールはしかし、無駄に終わった。何故なら。
蘭花の身体がずん、と沈んだ。
あ。俺はぽかんと口を開いて見ていた。
蘭花は前のめりに窓ガラスにもたれた。額が分厚い硝子に当たったのか、ごん、という音が聞こえた。振動まで伝わってくるようだった。
そして、硝子に赤いものが付着する―血だった。
蘭花は大量に吐血していた。彼女は俺を眺めていたのではない。そのままの姿勢で気を喪っていたのだ。それもおそらく大怪我をして。大怪我?そんなものですむのか?
そのままずるずると彼女が倒れこんでゆくのを眺めていることしか出来なかった。ガラス窓が血に染まってゆく。
―まさか、彼女は、もう、死んでいるんじゃあないのか。
不吉な予感を裏付けるかのように。蘭花のいた窓は赤く染まっていた。夕日の赤と、それより濃い、血の赤。そして、その窓には空虚な空間が広がっているだけだ。
「なんだよ」
俺の口をついて出てきたのは、間の抜けた短い言葉だった。あまりのことに少し笑ってしまう。
「なんだよ、それ」
夕日の赤と血の赤。そのコントラストに目が回るような思いがして俺は急に吐き気をもよおした。うっ、とうめいてよろよろと前方へよろける。
がん。
肩から鉄板にぶち当たった。正確には、鉄扉だ。
C病棟入り口。閉鎖病棟。俺はその門前で吐こうとしたが、胃には殆ど戻すものもなくえずくだけだった。
げほげほとむせ返る俺の頭上、茜色の空をヘリが飛んでいる。ずいぶん低く飛んでいるらしく、爆音が耳に刺さるようだ。
「蘭花…」
呟かないと思考すら爆音にかき消されそうだ。
「そうだ、助けないと…」
ふと蘭花の顔が頭に浮かぶ。ずいぶんと酷いこともされたが、しかし彼女は俺に熱心に語りかけてくれた。時折見せる彼女の笑顔や憂いの表情が脳裏に浮かんだ。
俺は頭をあげた。何を死んだと決め付けている。何でへたり込んでいる!
バリバリとますます激しくなるヘリの爆音に抗って俺は叫んだ。
「煩せえ!これ以上我が隊からから犠牲者は出さん。隊員は許可なく死ぬことを許されない!」
ヘリの放つ不協和音が俺の脳髄の奥底にあった”何か”にスイッチを入れた。
「ドゥー・オア・ダイ!ガンホー!ガンホー!ガンホー!」
なんとしてもこの鉄扉を開けなければ。俺はそう思って扉の取っ手に取り付いた。
こんなぼろい錠前、いざとなれば煉瓦でも持ってきてぶっ壊して―そう思って俺は取っ手を回した。
待っていろ蘭花、今行く。すぐに行く!
俺はガチャガチャと取っ手を揺すった。捻って、押してみたが開かない。やはり鍵がかかっている。そう思って本当に煉瓦なり重石のようなものを探そうと、扉を離れようとして。
残した掌で鉄扉のノブを引っ張る格好になった。そのとき。
かちゃり。
―あれ?
意外な感触に我を疑った。
「開いて、いる」
開かずの扉であるはずの、一般社会とは隔絶された世界であるはずの、友枝精神病院C病棟の鉄扉が。
「開いている」
繰り返した。そう、その鉄扉ははじめから施錠されていなかったのだ。
俺は一瞬あっけにとられた。そしていよいよその大きさをさらに増したヘリの爆音で我に返った。半開きになった扉を勢いよく開け放つ。
「何処だ!何処に居る、蘭花!」
叫びながら俺は閉鎖病棟に足を踏み入れた
直後―噎せ返るような空気。
何かが”存在”している。何かが、”在る”。そこにいる。
その存在の密度がこの陰鬱な空間の空気を重くしていた。
友枝精神病院閉鎖病棟。この病棟の内部は、異世界だ。何が変化したわけでもない。色彩が異様なわけでも、闇に閉ざされているわけでもない。その内部は外観から窺い知れるとおりの旧さ、寂寞感があるだけだ。
廃校になった校舎、遺棄された工場。そういったものたちと同種の観念が俺の周囲を取り巻いている。
違うとすればそれは、「この場所がニンゲンを収容し、管理し治療する施設である」という俺の知識に根ざした閉鎖病棟についての俺が持ち合わせているイメージだけだった。
そして。
いま、この場所には。
ニンゲンのけはいが感じられない。
あるのはただ、濃密な”存在の密度”のみ。俺を圧する、物理的な手段以外で俺を制圧する脅威だけだ。
バババババ…!
不意に爆音が聞こえた。俺は耳障りなその音から逃れるように。
閉鎖病棟の重たい鉄扉を閉めた。ずん、という音がしたような気がした。
―酷く無慈悲な音がしたと俺は感じたが無論これは気のせいであろう。
例えばよくある雑居ビルの防火扉を想像すれば良い。もし火災が起きて自分が取り残されたときあれが閉ざされたとしても、こうも絶望的で、重厚な閉塞感をつむぎだすことはできまい。
だが扉を閉めたとたんにあの忌々しいヘリの爆音が小さくなり俺の心が和らいだのも事実だった。ひゅんひゅんとまるでカウボーイが投げ縄を振り回すような音に変わる。
俺が扉を閉めるのとヘリが遠ざかってゆくのが同時のタイミングだったのだろうか。とにかくあの耳障りな音、俺を浮ついた気分に駆り立てる雑音は過ぎ去ってしまった。
そうした煩わしい”戦場交響曲”から開放された俺は自分の目の前に向き直った。閉鎖病棟に立ち入るのは俺の記憶の限り、これが初めてだ。俺は自分が僥倖を得て此処に入り込んだ理由を思い出した。
「蘭花…!」
酷い怪我をしているはずだ、そうならば早く救い出さなければならない。
それだけではない。
この病棟を包んでいるただならない空気。目の前に広がっている通路には人影が無い。それは単に人がいないということだけではなく。
そう、たとえば。
――死。
「蘭花!何処だ!返事をしろ!」
俺は不安感に駆られて叫んだ。ある一定の事実を想定しつつも、それを認められない自分。
この”存在密度”。俺は板張りの閉鎖病棟の内部へと足を進めた。右手に下駄箱があったから、おそらく土足厳禁なのだろうが―かまうものか。
蘭花は2階にいた。入ってすぐの階段を迷わず昇る。一歩、階段に足をかけたところではた、と気がついた。
異臭だ。この匂い。
ああ、俺はこの匂いをかいだことがある。この匂いは、死の匂いだ。
血。血。血。
血の匂い。火葬場の匂い。蛋白が燃える匂い。人の死の際に放たれる生命の燃え尽きる匂い。
死の匂いだ。
俺は駆け出した。わけのわからない恐慌に囚われて、ただただ階段を駆け上がった。二階に上がった俺は、あがってすぐ向かいの扉を開いた。
そこには―俺が予想したとおりの、”死”があった。
唐突だが、雪城さんがジャアクキングとの戦いで両手を手首のところから失い、
「テンボー少女」と呼ばれていじめにあう。なぎさも記憶を失いいじめに加担する。という話を考えたのだがどうか。
雪城さんは人類のため懸命に戦ったのに市民には理解されない。一緒に石を投げられる俺。気にしていないと健気な雪城さん。
でもいつも影で泣いている。
すまない。ちょっと知人宅で呑み過ぎた。
「あいつはちょっと前にこの街にやって来た流れ者だよ」
教会の方角に走って行く酔っ払い男の姿が小さくなると、宿に居た少年、ココモが話し掛けてきた。
大方、宿の番をマリブという少年に押し付けて外に出てきたのだろう。
「ずっと酒びたりでさ、有り金も全部使い切って、港で働いて小金を作っちゃ飲みに来てる有り様なんだぜ。トーヤとか言う名前だったかな」
警戒心が無いのか、唯の世間話好きなのか、どちらにせよこの村の情報を聞き出すには適した少年かもしれない。
俺はココモから色々と聞くことにした。
ココモの話によると、数年前、彼は兄弟であるマリブと面倒を見てくれているメアリーと共にこの村にやって来たという。
ある人物がオーナーを務める潰れかかった宿をメアリーが任され、彼等兄弟もその手伝いをしている。
こんな村の宿に泊まる客などいるのかと訊ねると、ある一定の時期になると各地から結構な数の巡礼者が訪れるのだそうだ。
「巡礼者?」
「よく判んないけど、なんか宗教やってる連中が遺跡や教会に集まって、何日もお祈りしてるんだよ」
自分には関係ないといった様子でココモは話を続ける。
「でさ、うちの宿のオーナーってのも、その宗教の関係者みたいで、時々女の子を連れて泊まりに来ているんだ」
「いったいどんな宗教なんだ?」
「知らないよ。なんかでっかい茶筒みたいなのを御神体だとか言って拝んでいたけど。
オーナーの連れてきていた女の子も熱心に拝んでいたっけ。
無口で感情が無いみたいで、ブッサイクな人形抱いていて、宗教やってる奴って変なのが多いよな」
村の歴史については次のような事を聞き出すことが出来た。
嘗てこの村は漁業が盛んで栄えていたが、遺跡から発掘された何かが原因で、多くの住人が発狂するという異常な事件が起こり、その日を境に寂れていった。
その後、この村を訪れた『クロウ』と名乗る男が布教活動を行ない、不安がっていた住人を次々と信者にしていったという。
遺跡のあった発掘現場は現在廃墟となっており、時々信者達が訪れては、それを『ロストテクノロジー』と呼んで崇めているらしい。
また村の多くの者はその宗教に入信しており、信者でない者が失踪する事件が度々発生し過疎化が更に進んでいる。
村に存在する電話は街にある駅と役場、そして俺達の宿泊している『ツインスターハウス』だけで、夜間になると役場や駅は閉鎖されるので注意が必要らしい。
もっとも、電話を掛けることはもう無いだろうし、どうしても必要だとしても宿泊先にあるのだから問題は無いだろう。
「それと、この村には余所者を嫌っている連中が多いからね。信者連中なら問題ないだろうけど、あんたら違うだろ。気をつけな」
ココモはそう言い残すと商店の方に向かって歩いて行った。
なんか、とんでもない場所に来てしまったようだ。
博物館に着くと受付には誰も居らず、料金を入れる箱と入館記録簿が置かれているだけであった。
無人受付は田舎には有りがちな事であるが、随分と無用心なものである。
料金を箱に入れ入館記録簿を書くと、無料配布のパンフレットを取り奥へと進んだ。
『Stray dog』、入館記録には名前ではなく思わず昔使っていたコードネームを記入してしまったが、問題は無いだろう。
パンフレットをパラパラとめくると、博物館の展示物や村の歴史について書かれていたが、先ほどココモに聞かされた事については一言も載っていない。
ココモに担がれたのか、村の黒歴史とされているのか、それとも宗教団体の圧力で記載を禁止されているのか・・・
なんにせよ、あまり関わり合いにならない方がよいだろう。
木造の薄暗い通路を軋ませながら進み、展示物のある室内へと入った。
建物の構造から、元々は博物館ではなく何かの事務所だったものを改造したような感じがする。
展示物は昔の漁で使われていた道具や、船や灯台の模型と大した物は無かった。
ミルフィーユさんはミントちゃんを抱き上げて船の模型を見せている。
二人を横目で見ながら廊下に出ると、二階の方から人の気配を感じた。
他にも入館者がいたのかと思い、足音を忍ばせゆっくりと階段を上がると通路の奥に数名の男女の姿が見えた。
あの姿には見覚えがある。
宿の女将メアリー、鉄道の中で会ったウォルコット氏、そして忌々しい鉄道車掌のタクトだ。
俺の存在には気が付いていないらしく、三人は何かを言い争うように会話をしている。
「ちと・・・監視を・・・大道・・・コーポレーション・・・搾り取れ・・・」
「紋章・・・クロウのカードを・・・」
「蘭・・・雌・・・生殖能力・・・所詮は失敗作・・・雄の個体は・・・ミル・・・が監視中・・・」
「雄と・・・ミル・・・実験・・・子供・・・死んだ・・・惜しい事を・・・」
ここからでは断片的にしか会話が聞き取れないが、あのタクトが中心となって二人に命令口調で話しているのだけは判る。
誰かを監視しているとか、実験がどうとか・・・一体何の事なのだろうか。
「どうかしたんですかぁ?」
突然、背後から声を掛けられた俺は、心臓が口から飛び出すかと思うほど驚いた。
「え、ええ、あうあうあー」
毎度の事ながら間抜けな声を出して舌を噛みそうになる。
振り返るとミントちゃんを抱いたミルフィーユさんが「?」といった様子で俺を見ていた。
「誰だ!」
俺達の声を聞きつけたのか、通路奥にいた三人がこちらに向かって歩いて来るのが分かった。
タクトもウォルコット氏も宿の女将も、その表情は険しく、いや殺意に満ちていると言っても過言ではない。
鉄道や宿で会ったときからは考えつかないほどで、本当に同一人物なのか疑わしくさえも思えた。
心臓の鼓動が高鳴る。
本能的にあの三人の殺意は本物だと確信した俺は、自分が囮になりミルフィーユさんとミントちゃんを逃がす事を考えた。
あの殺意は素人のものではない。素手の戦闘になれば三人相手に勝ち目は無いだろう。
「二人とも早く逃げ」
そこまで言いかけて俺は言葉を失った。
一瞬にして俺は周りを囲まれていたのだ。
目で追うことが出来なかった?
長期に渡る投薬生活により、動体視力や判断力が鈍っていた気がしていたが、まさかここまで酷くなっていたとは・・・
俺は死を覚悟した。
だが、俺達を囲んだ三人から殺意は消え、表情も元に戻っていた。
「おや、皆さんも博物館に来られていたのですかな」
ウォルコット氏はヒゲを揺らしながら穏やかな様子で言った。
唖然としたまま硬直している俺の横を、メアリー女将は無言のまま通り過ぎ階段を下ると博物館から出て行った。
「えーと、こんにちわ」
何が起こっていたのか、事情を知らないらしいミルフィーユさんは元気な声で挨拶をする。
狐につままれたような気分であったが、俺もウォルコット氏に挨拶をした。
その様子を見ていたタクトは、相変わらずにやついた顔をして、「やあ、やあ。オレは用があるから」などと言いながら階段に向かって歩き出した。
そしてミルフィーユさんとすれ違いざまに、タクトは小さな声で何かを言った。
瞬間、ミルフィーユさんの表情がこわばり恐怖に満ちたものに変化する。
その言葉をはっきりと聞くことは出来なかったが、唇の動きで大体は理解することが出来た。
「役立たずめ。後で制裁を加えてやる」
そろそろスレッドの容量がやばいかな。
また適当なスレを乗っ取るか。
俺はこうしたものを見たことがある。
それは記憶のごく浅いところにも存在した。ミルフィーユにも尋ねた国営放送の番組。戦争犯罪を告発するドキュメンタリーの中に、俺が今見ているモノと同じ映像があった。
それだけではない。俺の記憶のさらに深層、俺の本能に根差している部分に酷くこの光景が干渉していて、俺の絶望をより深いものにしていた。
その部屋に存在していたのは死体の山だ。俺の目の前には人間の死体、ないしは人間だったと思しき肉の塊が散らばっていた。
壁には血糊。血だけではない、こびりついた肉片。肉以外の何か。死体。死体。死体。
その部屋の内部には”死”が充満していた。何か酸っぱいような、気分の悪いにおいが漂ってくる。それは俺の腹のそこからもこみ上げてきた。
一体何人分の肉の山だろう。手前に転がっていた、比較的状態の良い死体―あくまで”比較的”だが、それを検分する。感覚がどんどん麻痺していく。ざっとみて十人以上だろうか。何しろ人間だったパーツがゴロゴロと転がっていて。
ああ。なんだこれ。なんだろう。ああ。
半ばぼんやりとしながら死体を見る。ぎょろりと目を剥いた顔がこちらを向いていた。苦痛に歪んで舌を突き出したその死体はパジャマ姿の、年のころは中年といっていい男のものだった。
周期的に襲ってくる吐き気に耐えながら、俺は男を観察した。
その男は頭こそ普通に体についていたものの、腹部を切り裂かれ、その切り傷が右足から左腕に向けて流れていた。
切り口が鋭い。日本刀か何かで斬りつけられたのだろうか?
他の死体も同様に鋭く切り刻まれていた。顔面を2つに割られているもの。手、足が飛んでいるもの。わけのわからない肉のかけら。
俺の頭の中に、モノクロの画像が浮かんだ。ブルドーザーでゴミのようにかき集められ、墓穴に放り込まれてゆく死体、死体、死体!
「此処で行われたのは―虐殺だ」
俺の口からは存外理性的な言葉が漏れた。もっとわけのわからないうめきをもらすつもりだったのだが、俺なりに言葉に出してこの状況を理解しようと躍起になった。
「戦争は愚劣だ。暴力は何も生み出さない。だから―人類は、進化しなくてはいけないのだ、この悲しみを繰り返さないために」
自分でも何をいっているのか良くわからない。
きっと、アタマがおかしくなっているんだ。こんなたくさんの人殺しを見たことなんてありはしない―。
まてよ?人殺し?戦争?虐殺?虐待?
そのとき頭に激痛が走った。
「ああああああ!」
俺は頭を抱えて叫んだ。気分が悪い。吐こうにも胃には吐くべきものが何も残っていない。俺の理性は漸く地上へと舞い戻ってきたのだ。目の前の恐怖を現実として認識した。
たくさんの死体。わけのわからない殺し方。理由の無い殺し。
現実を認識して、俺は思い出した。
俺は―ひと時とはいえ重大なことを失念していた。いまさらながらそれを思い出し、そして確認すべくその”虐殺部屋”から逃れた。
人の死など、いくら眺めても意味は無い。そうだ、ここで人がたくさん殺された、この病棟内ではたくさんの人が殺されたに違いない。
だがそれよりも俺は、重大なことを失念していた。
「蘭花!」
俺は半狂乱になって廊下に飛び出した。そうだ、蘭花の安否だ。今はそのことだけを考えよう。ここで行われたおぞましいことは、俺には到底処理できない。だから、俺は初期の目的を果たすのだ。
彼女が俺を見下ろしていた窓は、場所的にはおそらくこの部屋の向かい側だ。俺の頭に残っていたほんのわずかばかりの理性が警告する。
”ここから、一刻も早く逃げるべき”
だが、それよりも蘭花の身を案じる気持ちのほうが勝った。考えるまでも無い、俺は彼女の身を案じて此処に入り込んだのだ。
向かいの部屋の扉を開ける。その部屋の扉は重たげなさび付いた鉄扉で、45度ほど開いていた。
「蘭花―」
俺はその扉をさらに開放しつつ再度叫ぼうとして、そのまま硬直した。
部屋の内部が見えたのだ。その部屋―小さな洋室の中には3揃いほどの椅子とテーブルが置かれている。丁度開放病棟の面会室のような部屋だろうか。ただ地面はコンクリートで、冷たい印象を持った。
その冷たいコンクリートに、一つのモノが横たわっていた。
最初俺はそれが何か衣類のようなものが丸められているのだと思った。洗濯物か何かだろうか。
そんなバカな。鉄格子に囲まれたこの部屋で、洗濯物を干すのか。
その丸っこいものは巨大な芋虫のように横たわっている。
向かって左側に、金色の―
髪?
そう、髪だ。特徴的なブロンド。長い髪はすこしも縮まることなくすらりと背中の辺りまで。
背?背中だと?
この物体が人間だというのか?
俺は自分の視界に納まったモノをどうしても把握できなかった。否、把握しようと何度試みても心が理解を拒んだ。ある一定の段階で、ブレーキがかかる。
金色の髪には髪飾りが。何処かの民族楽器のような特徴的な形状。
ああ。俺はもうわかっている。わかっていて。
「嘘だ」
わかっているのに、認められない。
だって、それは人間の形をしていない。人間は手が二本、足が二本。
でも今目の前に横たわっているそれにはそれが満たされていない。正確には、足が無い―。
丁度腕を突き出し、半身を向こうに向けた状態で横たわる、ヒトの、上半身。俺が見たのはそんな妖怪じみたそれだった。
どのくらい俺は扉の前で立ち尽くしていただろう。その部屋の中にはほかに死体もなく、その物体しか無かった。その肉の塊しかなかった。
力なく俺は一歩踏み出した。
「…蘭…花?」
もちろん、返事は無い。
「ハハハ、まさかな。お前足は確かに悪くて義足だって言ってたけど、それは足のことだろう?いま目の前にいるそれは、足が無いんじゃなくて」
吐き気。頭痛。
「へその辺りからぶっ千切れているもの。そりゃ、無くなった方には同情いたします。お悔やみ申し上げます、けれど―」
気持ち悪い。ありえない、こんなこと。
「お前は蘭花じゃあ、無いよな。お前が死ぬはずは―」
そのときなにかのはずみかごとり、と目の前の物体が―仮にそれが人体の切れ端だったとして、頭部に当たる部分が動いた。
半身になって向こうを向いていた身体が仰向けになり、勢いがついて頭がこちらに回転する。その部分には目があって、光を失った目があってこちらを見ていた。
死んだ魚の目?魚?何を言っている、これは死んだ”ヒト”の目だ。
そしてその表情。顔かたち、輪郭、瞳。
からからと音を立てて、その肉塊から長方形のものが零れ落ちた。プラスチックケース。彼女はこれを懐に抱いていたらしい。
ケースのパッケージが目に入る。どうやらVHSビデオのようだ。
「デスレース2000…?」
そのビデオのタイトルと思しき場所にはそう記してあった。その持ち主は、ビデオを抱えていた腕をだらりと地面に垂らしている。口から大量の血を吐き出して。そう、その姿、顔かたち。
見まごう事なき、蘭花=フランボワーズ―
「うわああああああ!」
俺は叫んだ。力の限り叫んだ。
「ああああああ!ああああ!うわあああ!」
その場から駆け出そうとした
だがそのとき―振り返る暇もなくいきなりいきなり急に頭に衝撃を受けた。頭―正確には後頭部のやや左寄り。脳天のすぐ後ろのあたりだ。
ごいん!確かにそんな鈍い音がしたように思う。
「なんだっ…!」
視界が歪み、目がくらんだ。一瞬あまりのことに頭がどうにかしてしまったのかと思ったほどだ。
そしてその瞬間、俺は悟った。誰かに殴られた?蘭花と思しき肉の塊が視界から消えて、変わりに天井が俺の視野に入ってきた。
俺はその場で仰向けにひっくり返ったのだ。まるで訳がわからない。俺は遠ざかる意識の中必死で頭を動かす。背筋を伸ばして、自分の真後ろを上目で見た。
「と―とりまる、先生?」
とりまる、といったとたんにもう一度俺の、今度は額にごん!と衝撃が来た。
「私は烏丸です!か・ら・す・ま!」
いつもの白衣ではない。なにか舞台の衣装のような白い服を着ている。肩の辺りが膨らんでいて、なんだかドレスのようなデザインだが襟がぴったりと彼女の白いのど元に合わさっていて、何かの制服のようにも見える。
パープルのスカートが足首の辺りまで彼女の足を包んでいて、まるで隙が無い。薄く笑いを浮かべているとはいえ、いつもの柔和な彼女とは違った印象を受けた。
「とり―烏丸、先生?」
俺がついさっきまでとりまる先生だと誤解していたからすま先生が、見上げたおれの視野に存在した。
手には直径40センチはあろうかという大きく重たそうなフライパンを持っている。
「あの、先生」
「何かしら」
「もしかして、それで俺を殴ったんですか?そのフライパンで」
俺は訳がわからず問いただした。意識が遠ざかる。ただひたすらに遠ざかってゆく。
「ええ。だってあなた、ずっととりまる、ってわたくしのこと呼ぶんですもの。なんだか腹が立ってきまして」
「先生」
「なにかしら」
「パンツ見えそう」
ごいん!ごん!ごん!ごおん!
俺はフライパンで乱打された。
全てが虚ろになってゆく中、俺は蘭花の身を案じた。アレが蘭花でありませんように、蘭花が無事でありますように。
俺を見下ろす烏丸先生の顔がぐんにょりと歪んだ。俺は意識を喪った。
博物館を出ると空は既に紅く染まっていた。
俺はミルフィーユさんと無言のまま夕暮れの中を歩いた。
ミントちゃんは疲れたらしくミルフィーユさんにおんぶしてもらい眠っている。
さっきの三人組の行動は明らかに異常だ。
あの現場を他人に見られた事で、あそこまで殺意を剥き出しにして迫ってくるなんて。
それに俺だと気が付いた途端に態度を急変させたのも気になる。
だが、それ以上に気になるのがミルフィーユさんのことだ。
あのタクトという奴、やはりミルフィーユさんと何か関係があるのは間違いないだろう。
そのことは俺の方からは聞くまいと思っていたが、どうしても我慢が出来なくなった。
正直、イライラして気分が悪くなっていたのだ。
「ミルフィーユさん」
「なんですか?」
いつもと違い少し元気が無いような気がする。
「あのタクトって奴、知っているの?」
「え、いえ、あの・・・」
明らかに動揺している。言葉を濁したまま俯き、ミルフィーユさんは黙り込んでしまった。
そんな煮え切らない態度に、俺は声を荒げてしまう。
「はは、やっぱり知っている奴だったんだ。わざわざ知らない振りするなんて人が悪いよね。
知り合いならそう言ってくれれば良かったのに。お邪魔しちゃ悪いなら、席ぐらい外したよ」
「そ、そんな。私はただ・・・」
「ただなんだよ。そうか、解ったぞ。この病院を抜け出す計画だっておかしいと思ったんだ。鍵のことも、列車のことも、電話のメモも」
自分でもどうしていいのか解らない気分になり、ミルフィーユさんに詰め寄ると怒鳴り声を上げてしまった。
俺の怒鳴り声で目を覚ましたミントちゃんは、尋常ではない様子に驚いたらしく大きな声で泣き出した。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ」
それすらも無視して俺は更に声を張り上げる。
「タクトに逢うために俺を利用したんだな。そういえば、あの村田とか言う奴のことも知ってそうだよな。あいつ病院関係者だろ。
俺を村田に引き渡して、その間にタクトと何処かに行っちまうつもりなんだろ」
パンッ!!
ミルフィーユさんは涙を流しながら俺の頬を引っ叩いた。
この場面はどこかで見たような記憶がある。
ずっと昔、ミルフィーユさんが泣きそうな顔をして怒っているところを。
「たしかに、私ウソをついています。
本当の事を知ったら、やっぱり怒られるかもしれないけど・・・
でも私、記憶が戻ったんです。だから、本当はこの子と・・・そしてあなたと逃げようと思っていたんです。
それと、村田さんはあの人達とは関係ありません。あの人は・・・」
「ミルフィーユ・・・」
「ごめんなさい。私さきに帰ってます」
そう言い残し、ミルフィーユさんは涙を拭きながら笑うとミントちゃんを抱いて走って行った。
聞くことで今の俺とミルフィーユさんの関係が壊れてしまうかもしれない。
そんなことは分かっていた筈なのに。
ただ一緒に居られるだけでいい。
それだけだったのに・・・
嫉妬していたんだよ、俺は・・・
俺は、ミルフィーユのことが好きなんだ。
I wish these happy hours could last forever.
「これが宇宙だって言うのかい」
光が俺たちを包み、まぶしさのあまり俺は目を閉じた。恐る恐る目を開くが、あまりの光量に目がくらんだ。少しずつ、少しずつ慣らしてゆく。まるで盲いた者が光を取り戻したかのように。
そうして俺が光を取り戻した、目の前の光景を把握できるようになったとき目の前にあったのはおそらく一本の木だった。
おそらく、というのは―あまりにも巨大でそれが一本の木であるのか、もしかすると森を見ているのかもしれないとさえ思えたからだ。ヴァニラの言がなければ俺はただ緑に包まれているとのみ解釈したかもしれない。
「こりゃあ」
俺はただ感嘆の声をあげるのみだ。無限に広がっていた生命のスープを飲み尽くした瓶も無い。いま俺が知覚できるのは目の前の樹だけだ。
「見事な木だ。でも―これが、宇宙だと?」
俺は傍らのヴァニラを見た。彼女が存外小さく、まるで子供のような容姿をしており、そのことが俺になんともいえない、おそらく保護欲のようなものを感じさせた。
肩幅が狭い。きっと抱きとめたら酷く弱弱しく感じられるだろう。無表情な、しかし端整な彼女の横顔は何かに耐えているような気がして、痛々しかった。
ヴァニラは俺のほうを見もせずに、静かに語りだした
「私の主観では、これは確かに宇宙なのですが。あなたには感じられませんか、この気が放つ無数のざわめきを、いのちの脈動を」
軽く彼女は顔をあげた。それに応えるかのように彼女が言うところの”宇宙の樹”は葉をざわめかせてゆれる。
だが俺が目の前にしているのはやはり大きな一本の樹でしかなかった。楢とかブナとか、なんと言うのかは知らないが―枝振りの良い樹だ。その樹が圧倒的なのは、きっとてっぺんが見えないからだ。
「なあ、ヴァニラ」
俺は彼女に問うた。
「すこし離れてこの樹を見ても良いか」
ヴァニラは俺を見上げた。すこし口元が笑ったような気がする。
「ええ、かまいません。あなたの意図することも私にはわかりますが―多分無駄でしょう」
俺は振り返ると数歩歩いた。そこで振り返る。やや頂上の見通しが良くなったが、それでも目の前の樹の全貌は見えない。
「ちょっと時間がかかるぞ」
俺は走った。軽くジョギング感覚で走る。しばらく行ったところで俺は歩を止め、振り返った。しかし。
「駄目だ―」
相変わらず樹の頂上は見えない。
宇宙の樹。ヴァニラが無駄だといったのもわかる気がする。この樹が宇宙だとしたら、俺が全貌を見ることなどできるはずもない。
俺は息を整えつつヴァニラの元へ戻った。
「やっぱり、無駄だったよ。ヴァニラのいうとおりだ」
あはは、と俺は笑った。ヴァニラは小首を傾げて俺を見るだけで別にバカにした風でもない。ただ彼女は俺を”見ている”だけなのだ。
「ちえ。会話が弾まないなあ」
ぼやく俺をほうっておいて、ヴァニラは俺のほうに向けていた視線を再び樹に戻した。
「あなたにはきっと”樹”と表現したほうが理解しやすいと思いましたので、そうさせていただきました。厳密には、これは―樹ではありません」
はあ。またわけのわからんことを。
「いや、こりゃ樹だろ?木。木材」
ヴァニラは首を振った。
「あなたはこれを木として認識していますが、私には宇宙としか見えないのです。あなたはあなたの知識の及ぶ範囲でこの目の前のものを認識した。それは結局、樹という形態に落ち着いた―そういうわけです」
ヴァニラがわけのわからないことを言う。だがその表情、口調は確信に満ちていて、俺は茶化したり冷やかしたりする気になれなかった。
「私には宇宙にしか見えないと申し上げました。あなたは宇宙というものを見たことがない。それはきっと想像も及ばないもので、だからあなたの把握しやすいイメージで代用されるのです」
「宇宙?」
俺はさすがに疑義をはさんだ。
「星とか、星雲とか、そういうものか?それなら」
ヴァニラは静かに首を振った。
「いいえ、あなたが地上世界から見上げる宇宙とは違ったモノです。それはせいぜい星空といった叙情的なものでしかないでしょう。それとはことなり―宇宙というより次元、世界。そう言ったほうが良いかもしれない」
「なんだよ―訳がわからないな。もっと端的に言ってくれないか?」
ヴァニラは俯いた。
「今申し上げた説明が最も端的なものです。それに今問題となっているのは、そうしたことではありませんから」
「はあ―まあ、そういうのなら、別に良いけどね」
俺は理解を放棄した。どうやら俺の思考の及ぶ範囲の物事では無いらしいのだ。
「申し訳ありません」
「いいよ、別に。それにこの樹のそばにいると、落ち着くんだ」
「そうですか」
ヴァニラが微笑んだような気がした。俺はその横顔で満たされた気分になった。
>>463 妄想さんにお任せ。でもこのスレタイも外しがたくなりましたな。わらい。
わざわざ新スレ立てたらウザがられるかにゃー
まだ50kb残ってね?
つーわけで此処は雑談スレに
ども、村田です。
AIR見てなんだか何も書く気になりません。ちょっと間隔開くかも知れませんが、そういうことですので。色々考えたいです。
最初の生贄は頭を持たず産まれてきた少年
483 :
CC名無したん:2005/03/30(水) 07:09:01 ID:zea/VuwF0
なんなんだこのスレは
読むのに異常に時間がかかったぞ
「矢柄責め」でぐぐっても、大辞林しか引っかからない件について。
少々意外に思う俺が居る件について。
矢柄責めってなんかの時代劇で見た記憶があるような。
不肖村田、恥を忍んで帰ってまいりました。
矢柄責めって将棋の戦法みたいだ。
487 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 07/04/01(金) 08:18:28 ID:IZpanyiU0
488 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 07/04/01(金) 11:35:19 ID:IZpanyiU0
村田氏は文学的で技巧レベルが高いね
その分、妄想氏はネタでカバーしている感がある
489 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 07/04/01(金) 23:49:07 ID:V1fqgpHx0
そういえば、mixiのアレとかは、あんま気にしない方がいいっすよ(というかする必要が無い)。
どうしても気になるなら、リファを見て「みくしからきた方はどんな事情で来たのか教えてください」
と表示するとこにリダイレクト、とか、もしくはリファで弾(ry
ま、それはアレですけど。
mixiとか興味ないから知らない。
491 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 07/04/02(土) 00:51:39 ID:5DaMepa20
>>488 いつもちんこ握りながら書いてます
ちんこ握りの技巧レベルなら誰にも負けません
きっと初期の大江とか村上春樹とか、ちんこ握ってますよあいつら。
文学=ちんこ握り
>>489 いや、実はみくしのリンクは気にしてないんですよ。最近はリファラもあんまり見てないし。
ただmixiの、自らを「健全」などと名乗るあまりにも不健全な態度に憤慨したんです。
「俺の仲間やないお前は不健全」といわれたようで。むかつく。
おれの趣味はチンコ握りですが、現実の女に欲情するような変態どもに窓から見える電線から
電波を飛ばされつづけて腹が立っていたのに今度は光ケーブルからの電波かよこの電脳ファッショ!
ああ、mixiが憎いmixi憎さにそこら中に火をつけてまわりtai!
昔はちんこ握りが悪いこととされてたから、
彼らは背徳感を抱きつつ、後ろめたく且つ燃えるようにちんこを握っていたんだろうね
493 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 07/04/02(土) 13:59:58 ID:bHVpTKqR0
>>492 むらたっす。わらい。
うぃー。決算が終わるとひまだ。
職場も4月に入るとひまだし、ひゃひゃひゃひゃ
会社の机には女子社員から送られたキュアホワイトの食玩(2体)。となりの
席では延々大航海時代やってる奴。
ウチ。大丈夫なんでしょうか?俺はおれで2チャンネル閲覧だし。まー先月が地獄だったんで…いっか?
それにしても…ああ!ちんこ握りてえ!
できればガルズブラボのゆきなりくんのチンコにぎりてえ!
「そんな・・・ダメだよミハルちゃん!そんなふうに掌で僕の包茎チンコを、わけもわからぬまま掌でさするように輪を描いて弄るなんて!
ああ、ミハルちゃん!ミハルちゃああん!
つかユキナリになってキリエに犯されるのもありだなあ。
ああ、ナヨナヨの男の子になって母性本能をくすぐりまくりつつ気の強い幼馴染に犯されtai!
俺のこと犯して!もう俺の尊厳をずたずたにするまでおかして!あああああぁぁぁああああああああああああああああああー============
(´ー`)スレが下がっていても書き込みがあればdat落ちしないにょ。
495 :
CC名無したん:さくらたん生誕暦 7年,2005/04/02(土) 17:57:32 ID:bHVpTKqR0
えーまじでー?しらんかった。以後気をつけます
つか今日はだいぶ飲んでて、昼から呑みだして寝て気がつくと5時半。
書き込みも誤字だらけ。ダメだ俺。
ああ、ちんこ握ろう
二日の村田たんの書き込みの
>>79の最初の三行が
>>80の七行目の「ア」の次に入るという読み方でいいですかね。
というか、こんな事あまり言うべきではないとは思うけど。
おいこら妄想チャンコロ
ミルフィーユさんがかわいそうであります
>>496 ども、村田です。わらい。
あそこは単なるコピペミスですが、掲示板に投稿するというスタイルの関係上修正が利きません。
(あの日はある事情でかなり手許不如意でした、主にチンコ握りに忙しくて)
あまり本文の話はしたくないのですが、なんかの伏線とかではありません。ちんこ。
いずれ何かの機会に直そうと思っています。(一応作中でフォローしたのですが苦しいですな)
でもなんかどうせ電波が書いているものなので電波チックさが弥増していてあれでもいいかとチンコ握りながら思いました。
妄想キモい!!頭変!!
たしかに私はキモくて頭がキチガイです。
でも、そんな私をミルフィーユさんは受け入れて愛してくれました。
私もミルフィーユさんを愛しているのでその気持ちに応えなくてはいけません。
今は大変な状況ですが、きっと幸せにしてあげるつもりです。
だから誰にも邪魔されたくありません。
男の嫉妬なんて見苦しいから中傷はやめてください。
このスレッドの読者です。
一口にキチガイと言っても妄想さんのようなキチガイならむしろ尊敬します。
俺が勤めている会社の、ワンマン社長のようなキチガイは理解できないし、したくもない。
とはいえ、俺自身がそんな会社に属しているということは、俺とワンマン社長とどこかで
共通の部分があったりするからなのでは…
と思ったりすることもあり、鬱になります。
3週間振りの休日だった今日(というか昨日)、このスレッドを50レス分読んだことで、
毎日の忙しい仕事の中で忘れてしまう「良いキチガイ分」が得られました。
タクトだ
嫉妬しているのは妄想だろ
あの女どもこのオレに惚れてるからな
ムシキングの主人公が女の子にしか見えない件について
飲み会が四日連続だったので今朝は酷く具合が悪かったのに、夕方になったら調子が良くなった気がしてまた飲みに行ってしまった。
心にあるピュアストーンが輝いていない気がする。
(´ー`)
オイラの勤めている会社の社長はキチガイじゃないけど売名に必死だよ。
議員に出馬とか狙っているみたいで役場に顔を売りによく出かけている。
チンコは男の武器だ。
玩具みたいにいじくるんじゃない!!
ども、村田です。
学生時代にやってたバイト先(バイク便)の会社の社長が「政界に打って出る」と飲み会でいい気になって語ってたので、
「マギー司郎みたいな顔してなに言うてますのん」と言って差し上げたらブチ切れたことがありました。
ますます政治家向きでないと思いました。
> チンコは男の武器だ。
> 玩具みたいにいじくるんじゃない!!
1944年、米軍のビアク侵攻の際私は第701施設大隊に所属し、ソロンにおりました。
絶え間無く続く砲爆撃の中、死んでいった戦友たちが皆一様にちんこを握りしめ、故国に帰りたいと
叫んでいたあの情景が今も目に浮かんでくるようです。
幸か不幸か米兵に捕らえられ、生きて内地に帰ってからもチンコを握り戦友の例を慰める日々です。
妄想と村田のおすすめのエロゲーってなによ?
笑えるエロゲをリストアップしてみた。
80年代
ポッキー
あぶないてんぐ伝説
雀ボーグすずめ
90年代前半
ポッキー2
電脳学園4エイプハンターJ
ぷろすちゅーでんとG
90年代後半
学園KING 日出彦、学校をつくる
MyDear アレながおじさん
ぷろすちゅーでんとGood
最後に買ったエロゲーって『はじめてのおいしゃさん』だった気がするから三年近く新しいの買ってない。
むしろ最近発売された、お勧めのエロゲを教えて欲しい。
>>509 ちょっと前のですがリバーズデザイヤ(ベアーズソフト)
が炉利好きにはおすすめです
以前も書いたけど買ったままプレイしてないエロゲーは
君が望む永遠、家族計画、加奈〜いもうと〜、果てしなく青いこの空の下で、恋姫
夜が来る、リフレインブルー、ココロ2、MOON
他にもまだ二十本以上あるけどダンボールに入れて押入れにしまったままでタイトル確認するの面倒。
うふふ、いい加減プレイしてみた方がいいかな。
言っちゃあなんだが、僕は身長が低くそれでいて体重が100kgを超えている。
当然、運動も苦手で勉強も全然出来ず、趣味といえばアニメとオナニーだけだ。
学校ではパシリにされたり馬鹿にされたり、まあ典型的ないじめられっこなわけだ。
「おいっ!ブタ夫(僕のあだ名)、メロンパンとコーヒー買ってこいや」
今日も休み時間にでかい声で僕に命令したのはクラスの不良Aだった。
こいつはいつも僕に色々と命令したり殴ったりする嫌な奴だ。
わざとらしいでかい声で命令をすると、クラスのあちこちでクスクスと笑い声が聞こえた。
「聞こえてんだろ、ブタ夫」
Aは肩を振りながら僕の席まで歩いてくると頭を掴んだ。
「や、やめてくれよ」
情けない声をあげる僕を無視して、Aは机の上に置いてあった下敷きを取り上げた。
「なんだ、これ?高校生にもなってアニメの下敷きかよ。お前ひょっとしてオタクって奴?」
ドッ!クラス中が笑いに包まれる。
あああああああ、しまった。ついうっかりプリキュア(雪城さん)の下敷きを出しっぱなしにしていた。
「えーと、ブタ夫くんの下敷きは・・・プリキュア、ゆきじょうほのかって書いてあるけど。なんていうの?萌え?お前、萌え〜とか言ったりしてんの?」
『ゆきじょう』じゃないよ。『ゆきしろ』だって・・・
「ほのか萌え〜って言えよ。言ったら下敷き返してやるよ。言わないと・・・」
下敷きをへし曲げ、Aがニヤニヤと笑いながら僕に命令した。
クラス中の視線が僕に集まる。恥かしくて嫌だったけれど、命令に従わないと下敷きを壊されてしまう。
「ほのか萌え〜。ほのか萌え〜」
一瞬、水を打ったようにクラスが静まり返ったが、すぐに大爆笑へと変わった。
「やだ〜キモい」
「ぎゃははは、萌え〜だって。ぎゃはは」
パキッ
「おっわりーわりー。おまりに面白かったから力入れちまったよ」
Aが下敷きをへし割った。予測はしていたんだけどね。
こんな状況にもかかわらず僕はアホみたいな引きつった笑いを浮かべていた。
本当はAを殴ってやりたかったけど、そんなことをしたらボコボコに返り討ちされるに決まっているだろうし。
顔を上げると前の席に座っている『神尾観鈴』が「にはは」とか言って笑っていた。
この女は突然駄々こねるような泣き方をするので気持ち悪がられて、今では完全にクラス中からシカトされている。
こんな女にまで笑われるなんて納得がいかない。
教師が来て授業になったので、腹いせに消しゴムを刻んで神尾の髪に投げつけてやった。
「が、がお・・・どうして、そんなことするかな・・・」
神尾は振り向くと泣きそうな顔をして言った。
なんか面白いな。
今度からAにいじめられたら、神尾をいじめてストレスを解消することにしよう。
と言った感じで観鈴を延々といじめていく(精神的に)ネタを某AIRスレに書こうと思ったけど、
空気が読めてないとか言われそうなのでやめておいた。
晴子が怒ってどこかに行ってしまったあと、車椅子が転んで道路でへばっている観鈴を見かけて
「お前何やってんの?新しい遊びか?バッカじゃねー」と言って高笑いしながら去っていく俺。
酷い、酷すぎるよ、俺。
そりゃ面白いかと思うけど、果たして妄想たんがそんな苛酷な仕打ちをみすずちんにできるかという疑問がある
書けるもんなら書いてみやがれ!
昨晩はオナニーを三回もやったので寝坊をしてしまった。
巨体を引きずり汗だくになって学校までたどり着くと下駄箱にAがいた。
遅刻寸前だっていうのに嫌な奴に出会ってしまった。
「うわ、すっげー汗。ラード?お前それってラード?」
Aは鼻をツマミながらバカにするような感じで言った。
「体の油足らなくなっただろ。いいものやるよ。全部飲み干せよな」
そう言うとAはカバンからマヨネーズを取り出し僕の口に差し込んで中身を注入した。
わざわざマヨネーズなんて持ち歩いていたのは、僕に嫌がらせをするためなんだろう。
マヨネーズ一本無理やり飲ませ終わるとAはゲラゲラと笑いながら教室に向かっていった。
気持ち悪い・・・吐きそうだ。
どこに吐き出そうかと迷っていると、神尾観鈴の下駄箱に上履きが入っているのを見つけた。
あの女は僕よりも遅刻の常習犯だ。
「ここに吐けばいいか。ウォエップッ」
神尾観鈴の上履きを手にすると、僕は胃の中に溜まっていたマヨネーズを吐きだす。
スッキリ(・∀・)サワヤカ
何食わぬ顔をして教室に行くと、丁度担任がやって来てギリギリセーフでホームルームが始まった。
ホームルームが始まってしばらくすると、ガラガラと扉を開けて神尾観鈴が教室に入ってきた。
「神尾、また遅刻か。早く席に着きなさい」
担任も神尾観鈴のことをよく判っているらしく、特に怒ったりせず軽く受け流している。
「が、がお・・・」
いつもの変な口癖を言った神尾観鈴は涙ぐみながらトボトボと自席に机に着くと顔を伏せて肩を震わせた。
どうやら泣いているらしい。
神尾観鈴が上履きを履かず靴下のままだったことを、クラスのみんなは気が付いていたようだが誰も何も言わなかった。
余計なトラブルに巻き込まれるのが嫌なので、みんなシカトしているのだろう。
僕の所為じゃない・・・僕の所為じゃない・・・・
遅刻してきた神尾観鈴がいけないんだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。
>>519 書いてみましたが罪悪感と葛藤した所為なのか誤字が目立ちました。
みすずちん、かわいそう。
なんて酷い奴なんだ!!
丁度AIRのサントラかけてたんだけど、夏影を聞きながら
>>520読んでると切ない気分になってきちゃった
晴子『観鈴、今アンタが考えてること当てたろか』
観鈴『?』
晴子『精子、飲みたいな』
観鈴『すごい、どうしてわかったの』
そんなもん飲まなくていいから、死なないでみすずちん!
俺もうぐぅに嫉妬した名雪がカドミウムをうぐぅのメシにまぜたり祐一のチンコを包丁で切り落とす話とか書きたいんだけど、書き込むスレがないや。
>名雪がカドミウムをうぐぅのメシにまぜたり祐一のチンコを包丁で切り落とす話
読みたいです。
神尾家の隣に越してきた俺(明らかに変質者で観鈴にイタズラをしようとした)を、
酔っ払ったセミ取りおばさんが追い出そうと抗議する。
「引っ越し!引っ越し!さっさと引っ越し!シバクぞ!!」
うたた寝してたら嫌な夢を見てしまった。
>>524 名雪はキチガイ、つーか。
うわぁ、そういえば俺、晴子さんに詰られたい!
「あんた、こんな粗末なもんでよくもうちの観鈴に悪戯しようとしてくれたなあ。お仕置きや!うらっ」
俺のチンコを思いっきり踏みつける晴子さん。
「いたいんか?いたないんやろ?あんた、変質者やからなあ。警察行く前においた出来んようにしたるわ」
踏みつける足に力を込める晴子さん。
会社行ってくる
最近はフタコイの沙羅さんがお気に入り。
つか、一目惚れってのは知世さん以来だ。
などと昨日は温泉で飲み会があり、二日酔いなので平日の昼間から発泡酒の缶を手に迎え酒で書き込み。
『フタコイ オルタナティブ DVD-BOX 白鐘沙羅』
どういった内容のBOXなのか不明なまま予約してしまった。
なんか入れ込んで貢ぎ状態になる予感。
ふふふ・・・
<<エースコンバット5って面白いよね>>
沙羅はカスミン声がエロいの
あー、どこかで聞いた声かと思ったらカスミンか!!
おまえらツンデレ好きだな
ツンデレの定義がいまいち判らない。
蘭花さんなんかもツンデロ?
゚д゚)σ)Д`)ツンデロ
沙羅たんはツンデレではないように思う。
そもそもツンツンしている過程が丹念に描かれてこそのツンデレなので、今の沙羅たんは単なる”デレ”。
過去においてツンツンしている描写があったものの、アレをもってツンデレと呼んでしまっては、双樹たんまでツンデレになってしまうだろう。
ツンデレの醍醐味は、物語終盤までツンツンしており、「絶対にヒイヒイ言わしてやる」と妄想して精子力エネルギーを極限まで高め、デレ展開で
理性を解放し「萌えーっ!もエー!」と叫んでブレストファイヤーを股間から放出し警察を呼ばれるくらい自宅で叫ぼう。
以下、ツンデレの基本要件を述べたいと思う。
・金髪
・ツインテール
・同級生、乃至生意気な下級生
・口が悪い
・すぐに手を出す(叩いたり蹴ったり)
・でも情に厚い。
蘭花もツンデレに近い要素を持っているが、アレは淫売。ギャラクシーエンジェル第二期第二話「筋肉隆々担担麺」などを見ると一見ツンデレ
に見えるかもしれないが、再会したとたんにデレデレするようではツンデレ失格。
ツンツンしたメスっ娘アニメキャラ/ゲームキャラに踏まれたり詰られたりするのが醍醐味なので、あの程度では俺の精子力エネルギーも
過負荷状態で精嚢内で暴発するわ!
あくまでも基本的なラインである。勿論容姿に関する案件についてはこの限りではない。
つか、沙羅がいいならなおのこと妄想さんは君のぞやれと。
主人公をしばきたくなるであろうことは想像に難くないが、それを補って余りあるアレがあのゲームにはある。
あの声で、あの声で…。
つかさ、もうツンデレは茜ルートやればそれでOKだから、マジで。それ以上のツンデレって無いから。
デレデレ萌え
君が望む永遠はアニメ版を途中で観るの止めちゃった経過がある。
なんか重くて観てられなくなってしまった。
連休だからゲームやってみようかな。
ギャラクシーエンジェルとかプリキュアとか、いつもアニメ見ながらオナニーしていることを話したら
友人に異常だと言われてしまった。
最近はフタコイを見ながら抜いている。
アニメ見ながらオナニーするのは異常だと思うのです
場面が切り替わって抜きどころがわからなくなるし、お気に入りのメスっ娘アニメキャラで抜こうとした瞬間にむさい男キャラが出てきたりするので許せん。
プリキュアで抜くにしても、触手ザケンナーとかの攻撃で時々雪城さんが「うっ!」とか「あぐぁ」とか言うところくらいしか抜けません
やっぱり脳内アニメ再生が最高だと思います。僕の脳内では恥ずかしげにスカートをたくし上げる雪城さん(パンツ穿いてない)が毎分5回ペースで再生
されています。オナニー大好き オナニー大好き
ああ、でもやっぱり僕も沙羅たん萌えです。なんかあの声聞くと反射的に勃起してしまって
アニメ見ながらリアルタイムで脳内妄想でエロに変換出来ないようではまだまだです。
目に見えたものが、そのまま脳に映し出されないアニメキチガイを目指しましょう。
やはり沙羅は声なのか
そうですね。最近のアニメは規制がきびしくって、見たままというわけには行かず、もっと妄想力を鍛えないといけませんね。
魔法の妖精ペルシャなんて、毎回ラストはいっつもペルシャの陵辱シーンで終わったのに。
不自由な世の中になったものです
>>540 言われるまで声の人に気が付かなかったけど、鼻がかかったような声は結構好き。
高山みなみとか。
>>541 >不自由な世の中になったものです
カタワな世の中なんて無視して妄想の世界に生きたい。
雪白さんが立ち上がるときに机の上に右手をついたでしょ。
あれ、男を誘っている合図だ。
「夜までまちきれません」って言っているに違いない。
なんていやらしい娘なんだ。
アニメキャラとお付き合いするのは、普通の女と付き合うよりも大変だ。
白い目で見られたり、時としてキチガイ病院に強制入院されることもある。
「うわ、あいつアニメキャラと歩いてるよ」
「ピンクの髪?キモ」
遠目に俺たちを見る人々の発言にミルフィーユさんは悲しそうな目をする。
俺はミルフィーユさんの手を強く握り締めた。
羞恥心だとかそんなものは最初から存在しない。
何も恐れるものは無い。
二日酔いで頭が痛いけど仕事いってきます。
過度な連続飲酒は精神病のもとだゾ
家に帰るなり発泡酒を1本、一気に飲み干してしまった。
調子が悪かったけど酔ってきたら良くなってきた。
>>546 一応、週に2日は休みを入れようと思っている。
でも一晩に飲む量が多い。
昔はウイスキーのボトル1本とかだったけど、年齢と共に弱くなってきて
最近は20度の焼酎なら900ミリ、日本酒なら5合が限界だ。
こないだ妄想さんがすすめてた吾妻ひでおの本読んだ。
あれ以来殆どお酒を飲んでいない。別に禁酒するつもりも無いのに。
「アル中は不治の病」
これは効いた。
週五でも一回の量が多いとヤバイらしいですよ、妄想さん。ヤメロとは言わないけど。
良くない感じ。
この時間までに
発泡酒350を2本、チュウハイ500を1本、日本酒1合、焼酎20度900ミリ飲んでチャットとネトゲーやっていた。
温泉行って酔い覚まししてくる。
今日も酒びたり。
発泡酒500ミリ2本、チュウハイ500ミリ2本、日本酒2合、そして焼酎をロックで。
でも、明日から夜勤とか早朝出社が本格的になるから暫らくは酒断ちです。
それに最近は烏丸ちとせがうるさいから・・・
仕事に専念することにしよう。
昼ごろに目が覚めて、なんかムラムラしたので今日は4回オナニーした。
1回目:うさださん
2回目:蘭花さん
3回目:ちとせさん
4回目:知世さん
烏丸ちとせの淫夢を見て目が覚める件について
烏丸ちとせさんは吸精鬼です。
毎夜のように私に淫夢を見させ精液を吸っていくのです。
助けてよ、ミルフィーユさん!
またAIRを見返した
泣いた。特に11話。
AIRを観ていらい、書くことに意欲が沸かない。廃人だ
ミルフィーユは、僕の家で肉饅頭になりました
石榴の味がして、ちょっと食べにくかったです
エイン その1
「鉄拳制裁じゃコラァ!」
ゴッ!
衝撃が走り、僕はもんどりうって倒れこんだ。
ゆっくりと起き上がる僕を、不良連中がニヤニヤ笑いをしながら見ている。
何もこんな駅の構内で殴ることはないじゃないか。
周囲にいた人達は見て見ぬふりをしながら足早に通り過ぎていく。
そりゃそうだろう。
見るからに不良、しかも短ランにボンタンといった二世代ぐらい前の不良スタイルの連中に関わりを持ちたい人なんている訳が無い。
僕の名前は犬村正則。
ごらんのとおり、いじめられっ子って奴だ。
今日も学校の不良グループにボコボコに殴られている。
殴られている理由?
そんなもの面白いからとか何となくとか、まあ不良連中にしてみれば深い意味なんてないだろう。
情けない話だが取りあえず連中が飽きて立ち去るまで抵抗しないで我慢しているのが得策だ。
抵抗したり泣いたりすれば、連中が調子に乗って殴るのは目に見えている。
僕はボコボコにされながらジッと耐えていた。
そのとき・・・
「おい、やめろ」
「なんだ?てめぇは」
突然、女の子の声が聞こえたかと思うと、不良連中の殴る手が止んだ。
顔を上げるとチョゴリを着た女の子が腕を組んで見据えるように立っているのが目に映った。
気の強そうなその女の子は不良連中を睨みつけている。
「よってたかって一人を苛めるなんて最低だな」
女の子は臆する様子などまったく無く、逆にその態度に不良たちは怖気づいたのか、罵声を上げると次々に立ち去って行った。
「朝鮮学校の奴かよ」
「めんどくせぇな。拉致られる前に帰ろうぜ。ぎゃはははは」
「なんかキムチくせー」
去って行く不良連中を見ながら、僕はどうして良いのか判らず、その場に尻餅をついた格好のまま女の子の方を向いた。
「まったく、イルボンの男は奴らみたいな愚劣な連中と、お前みたいに情けない奴ばかりだな」
チョゴリの女の子は呆れたような声で一喝して僕を睨むと、振り向いてその場から離れていった。
(何なんだよ、あいつは・・・)
唖然としながらも、助けられたことに少し嬉しい気分になったような気がした。
これがチュニャンとの出会いであり、そして僕たちの辛く苦しい道程の始まりでもあったことを、僕はまだ知らなかった。
いやな話だ
また廃人君の長文か
スクールデイズというゲームを買ってきた。
週末にでもプレイしてみよう。
春香たんに何をする気だ
SchoolDaysは妄想なら気にいるよ
吉里吉里/KAGというフリーソフトを落としてみた。
FLASHでスクリプト書くよりも全然楽にゲームが作れるじゃないか。
MacからWinに完全に移行しちゃったからこれ使ってみることにしよう。
>スクールデイズ
噂は少し聞いたけどネタバレすると嫌だから、殆ど情報集めてないからわかんない。
説明書を読んだ感じだとサクラ大戦のアドベンチャーモードみたいなゲームシステムみたい。
面倒そうだ・・・
ネットで検索していて知ったのだが、チュニャンさんってclampの他の漫画のキャラだったんだ。
知らなかった。
コテハンの分際でしらんのか!
>>570 なんか中国語版とかギリシャ語版とかあるみたいですね。
よく解らないですが。
ハングルのブログともなんか繋がっているし謎だ。
そろそろ続ききぼん