新型インフルエンザウイルス出現のメカニズムと対策 喜田宏
(03/11/26 感染症分科会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会第二回議事録)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/txt/s1126-5.txt 『これは随分前の話ですが、伊藤壽啓博士が今鳥取大学にいますが、大学院のときに鴨の腸管の
レセプターと豚の呼吸器のレセプターを染め分けてみてちょうだいということを頼みましたが、苦労して
10年かかって、鴨の結腸にはα2−3結合の糖鎖を持ったレセプターがある、2−6のレセプターはない、
豚の呼吸器には2−3と2−6と両方ありますということを見事に証明してくれました。したがって、豚は
人のウイルスあるいは哺乳類のウイルスと鳥のウイルスの遺伝子再集合の場、すなわち新型ウイルス
産生のためのインキュベーターといいますか、場であるという理想的な動物種であるということがわかり
ました。』
「インフルエンザ危機(クライシス) 」 p.33
http://www.amazon.co.jp/dp/4087203131/ 『ブタの呼吸器上皮細胞には、人と鳥のウイルス両方のレセプターが存在することを伊藤寿啓先生
(現鳥取大学農学部獣医学科獣医公衆衛生学教授)とともに私たちウィスコンシン大学のグループが
見つけた。このため一匹のブタが同じ時期に鳥インフルエンザとヒトインフルエンザに多重感染する
ことがあり、このときブタの体内でハイブリッドウイルスが誕生する。これが従来考えられていた、
新型インフルエンザ誕生のストーリーである。
ドクター・ショルティセックがブタの関与説を発表した当時、まだこれを明確に検証する手立てはなく、
否定的な見方をする研究者のほうが多かった。この説を裏づける科学的根拠が得られたのは、90年
代に入ってからだ。1979年以降ヨーロッパの家禽類のあいだで流行していた鳥由来のウイルスと、人
のあいだで流行していたヒトインフルエンザウイルスがブタに感染し、1983年から1985年にかけてハイ
ブリッドウイルスが生まれた。このウイルスが、1993年になってオランダの子供に感染したことを、
私たちは明らかにすることができたのだ。』
http://science6.2ch.net/test/read.cgi/nougaku/1202735821/23
http://science6.2ch.net/test/read.cgi/rikei/1216230173/719 河岡義裕『インフルエンザ危機(クライシス)』 p.103〜
『インフルエンザウイルスは、新しい型が登場すると、それまで勢力を保っていたウイルスが
その座を奪われて消える特性をもっている。1918年に登場したH1N1亜型のスペイン風邪は、
大流行を起こしたあと世界中の人に免疫ができたため、1年後にはそれほど重い症状を引き
起こさないウイルスになった。しかしそののち40年ものあいだ、世界各地で流行をくりかえして
いた。
そのH1N1ウイルスが地上から消えてしまったのが1958年で、この年に出現したH2N2、
通称アジア風邪ウイルスによって、取ってかわられたのである。そしてH2N2ウイルスは、
11年後に誕生したH3N2のホンコン風邪ウイルスによって消えてしまった。
詳しいメカニズムはまだ分かっていないが、古い型と新しい型のウイルスが争うと、必ず新鮮
なウイルスが従来のウイルスを徹底的に駆逐するのである。ウイルスのこの動きを見ていると、
まるで人間社会のポスト争いを見るようで興味深い。
ところで過去に一度だけ、このポスト争いのメカニズムが狂ったことがある。1977年に、H1N1
ウイルスが再び現れたのだ。このウイルスを調べたところ、1918年に登場したスペイン風邪の
末裔として1950年代に流行していたウイルスと、遺伝子的にまったく同じものだった。つまり27年
もたってから再び現れたのである。しかし、ウイルス研究者の常識からすれば、こんなことは
あり得ない。インフルエンザウイルスは動物で感染していくうちにその形を変えていくので、昔
流行したものがそのまま同じ遺伝子で再登場することなど絶対に起こらないはずである。
私たち研究者のあいだでは、この現象についての意見は一致している。人為的なミス≠セ。
可能性として考えられることは二つある。
まず、「このウイルスを使ってワクチンの実験をしていた国から流出した」という説。もう一つは、
「どこかの国の研究者のフリーザーからもれた」というもの。いずれにしても、人為的にウイルス
が流出して広がったとしか考えられないのである。』