前スレ直前の流れ
969 名前: 名無しさん、君に決めた! [sage] 投稿日: 2009/05/17(日) 04:06:38 ID:???
休憩から戻ってからというもの、ミミロップはより真剣に修業に取り組むようになっていた。
弱音も吐かず、手を抜く事もなく、課せられた鍛練を黙々とこなしていく。
突然の態度の変化をルカリオは妙に思いながらも、それを深く追究することはしなかった。
絶え間ない努力の甲斐もあり、数週間の内にミミロップは目覚ましい進歩を遂げていた。
体の動きや技の切れは、並の格闘ポケモンと遜色ない程に成長し、
相手の放つ気を奪って逆に利用する術等も身につけた。
しかし、いくら努力しても炎はいまだ取り戻せないままだった。この事をミミロップはルカリオにも打ち明けていない。
初歩の初歩が出来なくなったなどと言えば、とうとう呆れ果てられて破門を宣告されるのではないかと恐れていた。
ある日の昼下がり、ルカリオ達のもとに二匹の見知らぬポケモンが訪れる。
「ルカリオ様でいらっしゃいますか?」
小柄で細身の宇宙人のような姿をしたそのポケモンの一匹が、指導に励むルカリオに恐る恐る声をかけた。
「いかにもそうだ。お前達は?」
指導を中断し、ルカリオは二匹の方へと歩み寄る。
「ああ、失礼いたしました。私達はヤミラミ。鋼鉄島の地下で、
屑鉱石や宝石の粕を食みながらひっそりとそれは質素に暮らしております」
濃紫色をした顔にどこか卑屈な笑顔を浮かべ、ポケモンはそう名乗った。
970 名前: 名無しさん、君に決めた! [sage] 投稿日: 2009/05/17(日) 04:09:09 ID:???
「それで、地下に住むお前達がこんな山頂付近にまで何用かな?」
「はい。ルカリオ様の武勇は我らが潜む暗い地下深くにまで轟いております。
そんな高名なあなた様に折り入ってお願いしたいことがあって参りました。
邪魔な、乱暴な地下のぬしを討っていただきたいのです」
岩や鋼の表皮をもつ一部のポケモンにとって土や石、鉱石は自分の体を作るために必要な栄養となる。
一見、鋼や岩の体には見えないヤミラミ達も、宝石のような両目と胸の結晶を保たせるために石が必要なのだと言う。
鉱石は貴重な栄養源だが上質なものは数が少なく、草木のように簡単には生えてこないため、それを巡る争いは絶えない。
離島である鋼鉄島に住むポケモン達は争いで共倒れしてしまわぬよう、
昔から続く暗黙の了解でもって鉱石を分け合って暮らしていた。
しかし、最近になって突如として、ぬしであるハガネールの態度が豹変したのだとヤミラミは話す。
皆の分の鉱石まで貪り食い、ヤミラミ達にまるで暴君のように振る舞っているというのだ。
「どうかお願いします。仲間達は飢えております」
大きな頭を地に擦り付け、ヤミラミ達は切願した。
「理不尽な暴力に苦しむ者達を救うのも我が務めだ。行こう。どうか頭を上げてくれ」
「おお……ありがとうございます!」
ルカリオの返答にヤミラミ達は飛び上がりそうなほど喜ぶ。
ミミロップとチャーレムに話そうと背を向けたルカリオの影で、ヤミラミ達はそっと顔を見合わせる。
974 名前: 名無しさん、君に決めた! [sage] 投稿日: 2009/05/22(金) 02:32:56 ID:???
元は鉱山であった鋼鉄島の洞窟は、廃坑となった今でも修業に訪れるポケモントレーナーのために開放されている。
そのため、坑道内は事故が起こらないよう整備され、所々に控えめながら明かりが灯されていた。
ヤミラミ達は人目を避け、打ち捨てられてから人の手が入っていない脇道へとルカリオとチャーレムを案内した。
内部は暗く、地面も荒れているため人間が来る事はまずない。
輝く目で暗闇を照らしながら進むヤミラミの後に続いて歩いている途中、一行は何匹かの現住ポケモンと出くわす。
イシツブテや、イワークなどその種類は様々であったが、一行を見ると皆一様に顔をひそめ、
遠巻きにひそひそと話したり、逃げるように避けていった。
「あまり歓迎されていないようだな」
誰にと言うわけでもなくルカリオは呟いた。
「ここの連中は外の者には閉鎖的なんですよ。最近は、ぬしの件でより一層、排他的になりまして」
ヤミラミの言葉に納得しきれなかったように、ふうん、とルカリオは小さく鼻を鳴らした。
そして不意にちらりと後ろを見やった後、また黙々とヤミラミについていく。
その四匹を十メートル程後方からこっそりとつけるポケモンの姿があった。
お前では足手纏いになるとルカリオに言われ、外で待つように言い付けられていたはずのミミロップだ。
暗い坑道の先にぼんやりと見えるヤミラミの目の光と、一行の足音と、拙いながらも波導を頼りに、
時には地面の出っ張りにつまづきそうになりながらもミミロップは一行を追っていく。
足手纏い。今のミミロップにとって、最も被りたくない、返上したい汚名だった。
テンプレはこれでいいかな?
不足があれば後は任せた
とりあえず明日にでも続き書くよ
前スレも埋めないとな
「ぬしはこの先です」
壁に掘られた巨大な穴を指し、ヤミラミは言う。
岩に何か特殊な鉱石が含まれているのか、穴の内壁は所々がうっすらと発光していた。
奥に行くほど含まれている量がより多いらしく、先の方は一段と明るくなっている。
「あの輝きは?」
光を放つ箇所から強い波導を感じ、ルカリオは尋ねる。
「光の石と呼ばれる不思議な力を持つ石によるもので、害はありません。むしろ、食べるととても美味しい」
ヤミラミの一匹は鋭い爪で光る壁の一部を削り採ると、まるで飴玉を齧るようにばりばりと食べてみせた。
お一つどうです、と差し出された一塊をルカリオは結構だと断る。
ヤミラミは残念そうな素振りを見せ、自ら石をたいらげた。
「深くに有るものほど純度が高く良質です。ぬしは奥で最上の鉱脈を独り占めしているんですよ。ひどい話でしょう」
純度の高い石に近づいていくにつれ、他が発する波動を読み取るルカリオの鋭い感覚は
強い反応に包まれ、強烈な匂いが漂うと別の匂いを嗅ぎ分けるのが困難なように、
あるいは眩しい光の中では周囲が見づらくなるように、生物を探知し判別する力を鈍らせた。
最奥部は、ほぼ全体が純粋な光の石の結晶で覆われていた。
その中央に、白く美しい石の輝きに包まれた空間には似付かわしくない、
くすんだ銀色をした大きな鉄の塊が山のように積まれている。
それを見るやいなや、ヤミラミ達はルカリオとチャーレムの背後に逃げ隠れた。
「あれが、そうです。私達は後ろの方にいますので、後はよろしくお願いします」
ぎちぎちと擦れ合いながら、ひとりでに鉄の塊達が列をなして動く。
ただの鉄塊の山に見えたそれは、とぐろを巻いた鉄の蛇だった。
鉄の蛇はシャベルのようにしゃくれた頑強そうな顎を開き、
地鳴りのような豪快なあくびを一つして、ゆっくりととぐろを解いた。
前スレ、埋める前に落ちたな
明日か明後日にでも続き書くよ
>>9 GJ! 今書き手って何人ぐらいで回してるの?
とても別の人が書き続けてるとは思えない出来だな
GJ
小さな建物ならば、ぐるりと巻き付き簡単に締め上げて押し潰してしまいそうな圧倒的な鋼鉄の巨体の前に、
臆する事なくルカリオは進み出た。
「私はルカリオ。鋼鉄島のぬしであらせられるハガネール様とお見受けする」
ルカリオは敬意を払って、ハガネールに接する。年を経た老蛇の顔と体はひどくごつごつとして厳つく、
いかにも恐ろしげだったが、その眼は確かな気高い光を湛えている。
ヤミラミ達が言っていたような、独り善がりな暴君にはとても見えなかった。
「おお、そなたが噂に名高い波導の使い手か。よくぞ参られた。
いかにも、儂がハガネール。鋼鉄島の地下の長だ」
ぎいぎいと金属の軋む音と共に重々しく響く威厳のある声でハガネールは答えた。
辺りを覆う石のせいで波導をはっきりと感じ取れない今、
悪意を抱いていたとしても読み取ることはできないが、
それでもルカリオはハガネールが他を暴力で虐げるような輩には思えない。
やはり何かおかしい。ルカリオはヤミラミへの不信感を強めていく。
上でヤミラミ達に感じた悪意は、ハガネールへの憎悪によるものだと思っていたが、どうも違うのかもしれない。
「して、どのような用件でそなた達は参られたのだ?」
ハガネールが問い掛ける。
「この者達への待遇についてお聞きしたい」
背後を手で示し、ルカリオは言った。
ハガネールは首を傾げる。
「この者達、と言われても、そなた達二匹の他に誰もおらんではないか」
ルカリオとチャーレムが振り返ってみると、背後に居るはずのヤミラミ達は姿を消していた。
「先程までは確かに――」
ルカリオが、訝るハガネールの方に目を戻したその瞬間、
天井からヤミラミ達が降り立ってハガネールの顔面へ取り付く。
「――!」
不意打ちに驚愕し見開いたハガネールの目を狙い、ヤミラミ達は爪を振り下ろした。
寸での所でハガネールは首を大きく揺らして逸らし、頬と額に少し傷を負っただけに済ませる。
そしてヤミラミ達をそのまま振り払って地に叩きつけ、尾で薙払って跳ね飛ばした。
「貴様ら、ヤミラミ共と手を組んでいたか! 自分達に気を向けさせての不意打ちとはなんと卑劣な!」
猛る怒りに洞窟がびりびりと揺らぐ。
「違う! これは――」
問答無用とばかりにハガネールは咆哮を上げ、牙を剥いた。
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
巨大な口に並ぶ、岩石を木の実のように磨り潰す平たい牙の合間からは、
怒気に熱せられた蒸気が噴火寸前の火口のごとくもうもうと立ち上っていた。
漏れ出る蒸気が、不意にハガネールの喉の奥へゆっくりと大きく吸い込まれていく。
何か仕掛けてくる。ルカリオは直感した。
「チャーレム殿、私が食い止めている隙にヤミラミ達をひとまず安全な場所へ」
「承知した」
地に横たわるヤミラミ達にチャーレムは走りよっていく。
ハガネールは逃すまいとして、その背に目がけて凄まじい勢いの高熱の吐息を噴き出した。
ルカリオは間に割って入り、激流のごとき息吹を一身に受ける。
厳しい鍛練と波導の力により鋼の硬度を誇るルカリオの肉体は、
吹き飛ばされることなくその強烈な流れを塞き止めてみせた。
ぐったりとしたヤミラミ達を掴み上げ、チャーレムは出口へと駆けていく。
防がれたことでハガネールはより一層激昂し、息吹の勢いを強める。
ルカリオの体は、突き出した手先から徐々に焼け付いていった。
ハガネールを恐れ、後ろに逃げ隠れていたはずのヤミラミが、
なぜ突然不意打ちなどという思い切った行動に出たのか。
腕が痺れるような感覚に蝕まれていく中で、ルカリオは考えを巡らせる。
恐慌にかられた上での行動だとしても目を狙った攻撃は的確で、
真相をハガネールに確かめることを阻むようなタイミングだったのは偶然にしてはあまりに出来すぎている。
だが、当のヤミラミは倒れ、ハガネールは言葉が届かぬ程に怒りに支配されてしまっている今、
真意を確かめて穏便に事を解決する術はない。
――已む無し、か。
麻痺が体まで到達しかけた寸前で息吹を振り払い、ルカリオは迎撃する覚悟を決める。
gj!
背後からルカリオとハガネールが激しく争う音が響く中、
ヤミラミ二匹を両脇に抱え、チャーレムは光の石の地帯を駆け抜けた。
早くルカリオの援護に戻らなければ。チャーレムの気は逸る。
薄暗い坑道まで戻り、ここならばとりあえず安全だろうと判断し、チャーレムはヤミラミ達を降ろした。
「まったく。我等に任せておけばいいものを、余計な手出しをして事を荒立ておってからに」
ヤミラミの一匹を壁に寄り掛からせながら、煩わしげにチャーレムは呟いた。
朦朧としているのか、ヤミラミは力無く壁にもたれ、苦しそうに呻いている。
ふう、とチャーレムは仕方なさそうにため息をつく。
連なった鉄球のような尾を豪快に叩きつけられたのだ、相当な痛手を負ってしまったはず。
置いたらすぐにルカリオの助太刀に戻るつもりだったが、
ヤミラミの姿に情けを感じ、少し手当てをしてやろうとチャーレムはヤミラミの負傷個所を調べた。
しかし、いくら診てもヤミラミの体には、かすり傷一つありはしない。
確かに跳ね飛ばされていたはずなのに――不審に思うと同時に、背後からの殺気。
反応しきる前に、鈍い衝撃がチャーレムの後頭部に走った。
「ぐ、貴様――」
チャーレムは襲撃者に応戦しようとするも、ぐらりと頭が揺れ、そのまま崩れるように地に伏した。
壁にもたれていたヤミラミは顔を上げ、ちらりとチャーレムを見やった。
倒れたまま動かないことを確認すると、ひょいと軽く起き上がり、
襲撃者――もう一匹のヤミラミに駆け寄る。
「ギヒヒ、一時はどうなることかと思ったけど、何とかうまくいったね」
「ああ、兄弟。後はハガネールとルカリオが潰し合って疲弊しきるのをゆっくり待つだけだな」
にやりと笑いあい、ヤミラミ達はハイタッチした。
「待ちなさいッ!」
坑道に突如響き渡る声。
「誰だッ!?」
驚いてヤミラミ達が振り替えった先には、拳を構えるミミロップの姿があった。
明日か明後日にでも続き書くぜ
「これは、ルカリオ様のお弟子さんではありませんか。
留守を言い付けられていたはずのあなたが、どうしてここに?」
少々予想外の出来事に焦りつつも、ヤミラミは言った。
どこから見られていたかわからないが、チャーレムへの攻撃は暗い中での一瞬だったし、交わした会話は小さく、
まだ誤魔化して言い包める事ができるかもしれないと可能性を模索する。
「チャーレム様が大変なのです。自身もハガネールめに深い傷を負わされながらも、我々をここまで逃がし――」
「すっとぼけるんじゃあないわ。あんた達のやった事は全部見ていた。
一体どういうつもり? どうせろくでもない事に決まっているんでしょうけど」
数分前、ルカリオ達が入っていった光の石で煌めく大穴の外から、中を窺っていたミミロップだったが、
奥からヤミラミを抱えてチャーレムが戻ってくることに気付き、慌てて身を潜めて、その様子を見ていたのだ。
闇の中でもヤミラミの動きと漏れだす悪意ある波導は、ミミロップにも感じ取れた。
その卑劣さ、姑息さに沸き立つ怒りを抑え、戦闘態勢を崩さぬままミミロップはゆっくりと詰め寄っていく。
「全部話してもらいましょうか。そして師匠とハガネールの戦いを止めに行かなきゃね」
チッと毒づき、ヤミラミはもう一匹へと目配せする。こくり、ともう一匹は小さく頷いた。
見たところ、ミミロップの姿はそれほど強そうには見えない。
完全な不意打ちで無くとも、簡単に始末できるだろうとヤミラミは踏んだ。
ヤミラミ達は音もなく同時に鋭い爪を振り上げてミミロップへと飛び掛かる。
――それ来た。
慌てふためく事なく、ミミロップは冷静に二匹の攻撃をかわす。
そしてすれ違いざまに一匹の腹部に拳で鋭い一撃を叩き込んだ。だが、その感触にミミロップは違和感を覚える。
まるで宙に浮かぶ大きな埃の塊を殴り付けたような妙な手応えだった。
明日明後日にでも続き書くよ
殴り飛ばされヤミラミは地を転げ倒れる。しかし、何事もなかったかのようにすぐにヤミラミは起き上がった。
「ヘヘ、びっくりしたけど全然痛くないや。やっぱりこいつ大したことないよ、アニキ」
殴られたヤミラミはけろりとして兄貴分らしいもう一匹に言う。
「ああ。だがもうヘマはするなよな、兄弟」
「わかってるよ。まぐれでかわされたりなんて、もうしないさ」
そう言葉を交わすと、二匹はそっと闇に紛れて再び攻撃する機会を窺う。
拳は確実に奴の体を捉えられたはずなのに何故。手応えをミミロップは頭の中で何度も反芻しながら考えた。
奴らの体はそれ程までに耐久力が高いのか、はたまた寸前でうまく防がれて威力を削がれたのか。
それでも、全くの無傷というのはおかしい。打撃が全く意味を為さない相手――
ずっと前にもこんな輩と戦ったことがあったのではないかと、ミミロップの脳裏を微かな記憶が掠めた。
答えが出切る前に、ヤミラミ達が再度の同時攻撃を仕掛けてくるのを、
ミミロップはヤミラミ達の一瞬の目の輝きと波導の流れで察知する。
上から飛び掛かる一匹をいなし、半歩遅れて駆けてきたもう一匹の足を蹴りつけて体勢を崩させた。
すかさずミミロップは隙だらけのヤミラミの後頭部の付け根辺りへと拳を振り下ろす。
もはや、かわすことも、防ぐことも出来ないであろう強烈な一撃。
ところが、またしてもミミロップに返ってきた手応えはどこか不明瞭なものだった。
ヤミラミは、やはり打撃をものともせずに起き上がり、追撃を逃れようと爪を振り回して暴れだしたため、
仕方なくミミロップは間合いを離す。
だが、これでミミロップは以前にも戦った似た相手の記憶をはっきりと思い出し、確信した。
――こいつら、ゴーストなんだ!
ああ、どうしてこんな簡単なことをすぐに気付かなかったのか。
もっとゲンガー達や、マージちゃんのように、ふわふわとぼんやり浮かんでいたりしていればすぐに分かったのに!
他のゴーストに比べて密度が濃いのか、それとも鉱石を食べている影響なのか、
少しばかり実体からの干渉を受けやすいようだが、それでも霧が水面に変わった程度の差でしかない。
手で無闇に掻き混ぜたところで、あまり意味はない。
最も効果的な霊や悪の力を使えないミミロップが対抗するには、
以前に洋館でゴーストと戦った時のように拳に炎を纏わせて殴り付けるのが一番手っ取り早いのだが――。
GJ!
明日明後日にでも続き書く
――ダメね、やっぱり点かない。
何度試しても、依然として拳は燃え上がらない。それでもミミロップは、
焦りや動揺を悟られぬ様に心を静めて毅然と構え、他の手立てがないかを考えた。
「大丈夫かい、アニキ!」
弟分のヤミラミは体の結晶から煌めく光弾を放ってミミロップを牽制し、
兄貴分へと素早く駆け寄って肩を貸す。
「ああ、転んだだけだ。どうということはないさ、兄弟」
「それにしても、アニキまでしくじるなんて……。なんて運がいい奴なんだろう」
「いいか、兄弟。二度だ。二匹がかりで仕掛けて二度もしくじった。
これは奴の運が良くて外れたんじゃあない。実力で外されたんだと認めざるを得ない。とんだ計算ミスだ」
「うう、じゃあどうするんだい。アニキ」
まごついた様子で、弟分は言う。
兄貴分は、じっと隙を見せることなく身構えているミミロップを見やった。
そして、宥めるように兄貴分はそっと弟分に言い聞かせる。
「よおく奴を見ろ。冷静沈着を装ってはいるが、師匠の言い付けを破ってまでこっそりとついてくる辺り、
反骨精神に溢れた、本当は気の強い感情をあらわにするタイプと見た……!
こちらから攻めてはいつまでも冷静に捌かれる。ならば、あちらから来させればいい。
言葉でなじってやれば、巣をつつかれ怒ったスピアーのごとく、
隙だらけで愚直に向かってくるだろうさ。そこを仕留めるんだ。後出しで冷静、確実に」
「う、うん……アニキを信じるよ。でも、そんなにいい悪口があるのかい?」
任せろ。兄貴分のヤミラミは厭わしい笑みを浮かべた。
明日明後日にでも続き書くよ
光弾による攻撃以降、ヤミラミ達はミミロップから距離を離してひそひそと話すばかりで、
一向に次の手を仕掛けてこようとはしない。
坑道の奥からは、まるで巨大な削岩機が目茶苦茶に暴れ回っているような荒々しい音が、軽い振動と共に時折轟く。
早くこいつらを倒して、止めに行かなきゃいけないのに。ミミロップは気ばかりが焦る。
「どうした、弟子のお嬢ちゃん。師匠に習ったのは守り方だけで、攻め方は知らないのか」
そんな中、ヤミラミの一匹が出し抜けにミミロップへ声を掛けてくる。
「それとも、お嬢ちゃんの弱々しい力じゃあタフな俺達に攻撃が通用しないと知って、怯え竦んでしまったのかな」
それは今までの卑屈めいた丁寧な物言いからは一変した、高圧的で他を小馬鹿にしたものだった。
ミミロップの心の中に、あの憎たらしい輝きがちらつく。冷静さは少しずつ欠け、ヒビが入り始めていた。
「なめないでよね。タネはとっくに割れてんの。あんたら、ゴーストなんでしょ。
なーにがタフよ。ロゼリアちゃん並に貧弱な体しちゃってさ」
飛び出したい衝動を堪え、代わりにミミロップはそう言い返す。
返ってきた手応えに、闇に光る目がより一層卑しくぎらつく。大きく裂けた口元が弧を描いた。
「ほほう。では、何故それに気付いていながら、かかってこれないのかな。
……分かったぞ。気付いたところで、幽体への対抗策が何も無いんだろう」
何気ない言葉のつもりが、対抗する手段が無いことを悟られてしまった。
つい動揺し、ミミロップは言葉を詰まらせる。
「図星か。自分にだって何かできると勇んで付いて来たんだろう。だが、結局足手纏いだったな!」
そう言い放ち、ヤミラミは嘲笑した。
――足手纏い……!
ミミロップの心の中に再び、今度ははっきりと白銀の尾が騒めいた。
ぴしり、と音を立て、何かに大きなヒビが入った気がした。
GJ!
明日か明後日に続き書くぜ
つまらないからもう書かなくていいよ
一人で書いて一人でGJとか言ってる姿を想像すると泣けてくる
とうとう我慢の限界を超えたのか、拳に力を込めてミミロップはヤミラミへ向かっていく。
修業の中で、新たに身に付けた水の波動。まだ遠くの敵に放てる程には力を練れないが、
直接触れて流し込めばゴーストにも多少のダメージを与えられるはずだと、ミミロップは思い立った。
だが、いくら躍起になって拳を振り下ろしても、ヤミラミ達にはかすりもしない。
今まで、闇に溶けるヤミラミ達の姿をミミロップがうまく捉えられていたのは、
ヤミラミが攻撃前に発する目の輝きと、波導をじっくり読んで察知できたおかげだった。
攻める側となった今、そのどちらも期待できない。熟練し切ったとは言い難いミミロップの波導の読みでは、
どうしても読みが一手遅れ、夜目が利くヤミラミ達には良いようにかわされてしまっていた。
ヤミラミは、もっと怒らせようと、更に執拗にミミロップを嘲る。
まだ寸での所で持ちこたえ、ミミロップは怒りの一線を超えてはいない。
もう負ける要素は無いとも思ったが、ヤミラミは慎重に慎重を重ね、
完全に我を忘れさせ、体力を消耗させてから仕留めることにした。
目論みどおりにミミロップはヤミラミ達に振り回され、徐々に徐々にばて始めて攻撃の速度が落ちていく。
『勝った!』ヤミラミは勝利を目前にし、心に余裕ができたと同時に、ふと、とある話を思い出す。
まだそれほど昔ではない頃に急に現れ、あっという間に勢力を拡大し、
今やシンオウ中のポケモン達を完全に牛耳ってしまいそうな組織の話を。
組織のボスはピカチュウ族で、その主な側近は、ロゼリア族、ムウマージ族、
そして、ミミロップ族だと聞いている。
これは、もしかしたら最後の駄目押しのネタに使えるかもしれない。ヤミラミはほくそ笑んだ。
GJ!
明日明後日にでも書くよ
攻撃の手から悠々と逃げつつ、ヤミラミは問い掛ける。
「お嬢ちゃんは、このシンオウで大きくのさばっている一勢力の話を聞いたことがあるか?」
答えを待たず、ヤミラミは続ける。
「そのトップはピカチュウで、幹部の四天王には君と同じ種族がいるそうじゃないか」
まさしく自分のことだと、ミミロップは気付いた。荒れた息を整え、
「ええ、よく知ってる。だって、あんた達の目の前にいるんだもの。
私こそピカチュウ四天王が一匹、ミミロップ! 今更謝っても遅いけどね」
堂々とミミロップは名乗る。自分の正体を知れば、ヤミラミ達は怯んで退くかもしれないと考えたのだ。
癪だったが、じり貧にしかならない状態から抜け出すには仕方がなかった。
「そうかそうか。やっぱりか。こりゃあ良い」
だが、ヤミラミは怖じ気もせず、吹き出すように言った。
「えぇー、ちょ、ちょっと! もし私に何かあったら、組織の皆がただじゃおかないんだから!」
慌ててミミロップが言うを見て、ヤミラミ達はげらげらと笑う。
「おいおい、勘弁してくれ、今更それか。ここでお前を倒し、
ルカリオとハガネールも始末すれば、誰も俺達がやったなんて証明できやしなくなるんだぞ」
うぐ、とミミロップは言葉を詰まらせる。苦笑いの表情に冷や汗が伝った。
「ハハッ、いやあ、まさか四天王の一匹ともあろうものがこの程度とはなあ。
他の側近、ひいてはピカチュウ自体もたかが知れるというものだ」
「なんですって?」
ぴく、とミミロップの眉が反応する。
「トップが本当に有能なら、部下もまた有能揃いなものだと俺は思うね。その逆もまた然り。
部下が無能なら、トップの実力は推して知るべしだ。
そうだ、ハガネールとルカリオを倒して鋼鉄島を乗っ取った後は、
本土に渡ってお前達の組織を次のターゲットにしてやろう」
「……!」
「ドンカラスの腐れチンピラと、マニューラのあばずれ辺りがちと厄介かもしれないが……。
なあに、ゆっくり時間をかけて信頼を得てから、内部からじわじわ侵略するまでさ」
「そんなこと絶対にさせない!」
――自分の大切なもの達を、こんな奴に汚させてたまるか!
ミミロップの胸の奥底で押さえ込まれていた何かが沸き立ち、外に出ようと暴れだす。
「ぬ……今更どうやって止めるっていうんだ? 抗う手段も無く、
体力も尽きかけてるっていうのに。もういい、さっさと終わらせるぞ! 兄弟!」
「う、うん!」
少し焦るようにしてヤミラミ達は飛び掛かる。
ミミロップに秘められ、今まさに解放されようとしている何かを本能が感じ取り、恐れていた。
だが、爪がミミロップに届くより数段早く、ヤミラミ達の体は赤く燃えたぎる拳に次々と叩き落とされる。
「い!? あぢゃぢゃぢゃーっ!」
ヤミラミ達は地を転がって、必死に体に燃え移った火を消す。
「炎が戻ってきたぁーッ! これよ、この感覚! やっぱりさぁー、無理に自分を押さえ込むなんて健全じゃないわ。
いくらそれでうまくいっても、大事なもの見失ってたら意味ないもんね。
こんなゲス野郎を前にして、冷静沈着に心を静めてるなんて、単純な私には無理ってもんよ!」
それは怒りよりも熱い感情。ありきたりながら非常に強力な、仲間への想いや、熱情だった。
GJ!
自演して楽しい?
「めっためたのぎったぎたにしてやるから覚悟しなさい!」
ミミロップは両手の炎と、それに勝るとも劣らない闘志に爛々と燃える眼差しを向け、
ヤミラミ達へじりじりと詰め寄っていく。
炎に照らされていては闇に溶け込めず、隠れることもできない。
既に勝利は揺るがないと高を括っていたヤミラミは、突然の形勢逆転に驚き竦み、
元から悪い顔色を益々真っ青にして後ずさった。
「やばいよ、アニキぃ……」
弟分のヤミラミは情けない声を上げ、兄貴分に縋り付く。
「ええい、うるさい!」
乱暴に弟分を振り払い、兄貴分は怒鳴る。その態度に余裕は微塵も残っていない。
確実に勝っていたはずだった。まんまとルカリオとハガネールを嵌め、チャーレムを倒し、鋼鉄島を乗っ取るのは目前だった。
そこに現れた、小さな計算違い。初めは本当に些細なものだったはずのそれは、
どんどんと大きくなっていき、今や計画のすべてを台無しにしようとしている。
――これ以上、こんなイレギュラーを相手にしてはいけない。
「計画は中止だ。俺は島を出る」
ヤミラミは恨めしげにそっと弟分に告げる。
「うう、そうだね。悔しいけど、もう逃げるしかないか」
「誰が一緒にと言った? お前は俺が逃げる時間を稼いでいろ!」
「え――」
兄貴分のヤミラミは無防備な弟分を、ミミロップの方へ思い切り突き飛ばした。
急に飛び出してきた弟分を、ミミロップは反射的に殴り付ける。
その拳を振りきった一瞬の隙に脇を擦り抜け、兄貴分のヤミラミは一目散に駆けていく。
――この島にはいられなくなるが、逃げ延びさえすれば、いつかまたどこか別の場所でチャンスは巡ってくるはずだ。
だが、またしてもヤミラミの計算は失敗する。逃げるヤミラミの横からそっと何かが伸び、その足に絡んだのだ。
それは見覚えのある白い手。うつ伏せに倒れたままながらも、
チャーレムがしっかりとヤミラミの足を掴んでいた。
振り払おうと、ヤミラミは爪を振り上げる。しかし、時既に遅し。すぐ背後にまで迫る熱気――。
「こ、この俺が、こんな所で、こんな奴にぃぃ――!」
「……どこまでも最低な、見下げ果てた奴だったわ」
乙、ミミロップGJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
>>58 このスレの書き手の一人の意見としては、申し訳ないけど、このスレのエントリーは辞退させてほしい
他のSSスレに代わりにエントリーの権利を譲ってあげてくれ
初代から見てるけど、このスレは他のスレとは格が違うだろ
>>60 他スレと比べて格付けするとかはできれば自重してくれ
今まで通りひっそりと謙虚にやっていきたいんだぜ
スマン、格付けするつもりは俺も無い。
これからも応援するんで、書き手の皆さんには頑張ってもらいたい
63 :
名無しさん、君に決めた!:2009/07/22(水) 02:15:44 ID:mK9pc5QC
ageq
ルカリオに龍の息吹を容易く振り払われ、正面から撃ち合っては分が悪いと見ると、
ハガネールはその巨体からは信じられないスピードで壁から壁、天井から床へと穴を掘り、
縦横無尽に飛び出しては襲い掛かるという戦法を取り始める。
高速で動き回るという極めて単純な行動だが、それは鋼の巨躯を圧倒的な破壊力を持つ凶器へと変えた。
ルカリオはその軌道を目で見切り続け、紙一重で直撃は免れていたが、
おろし金のように荒いハガネールの体表は、軽くかすっただけでもルカリオの体に容赦なく傷を負わせていく。
波導を探知しようにも、ハガネールの波導は周りの光の石が発する強い波導により邪魔をされ、
どの穴から襲ってくるのか正確に読む事ができない。突進を避ける間に潜られては反撃もできず、
為されるがままの、まさに満身創痍。
しかし、そんな危機的状況にありながら、ルカリオの瞳に諦めの色はまったく浮かんではいない。
その目は勝利を見据えているかのように落ち着き払いっていた。
ぎりぎりの戦いに身を置くことをどこか楽しんでいる風にさえも見えた。
ハガネールの攻撃の勢いが衰えたわけでもないというのに、
ルカリオが受ける傷は徐々に確実に軽くなっていた。
深く息を吸い込み、全身に力を込める度、その毛並みの下の筋肉がびきびきと音を立て、強く厚くなっているのだ。
それは、肉体を瞬時に強化し、一時的だが絶大な力を得る技。ビルドアップの効果だった。
何度目かもわからないハガネールの突進が迫る。だが、もうルカリオはそれを避けようとはしなかった。
明日か明後日にでも続き書く
避けようとするどころか、ルカリオは腕を大きく広げ、真っ向から穴の前に立ちはだかる姿勢をみせていた。
暴走する機関車の前に身を投げ出すような、自殺にも等しい愚行。
もう勝負を諦め、自棄になっての行動だとハガネールは思った。だが、すぐにそれは間違いだと気付く。
ルカリオの全身から漲るのは、敗色など微塵も感じさせない一流の気迫。
恐れを知らぬ不屈の心を湛えた瞳に射竦められ、ハガネールは思わず突進の速度を緩めた。
が、既に止まれるはずもなく。遂に激突の瞬間が訪れる。ルカリオの身体にかかる計り知れないほどの衝撃。
全身の筋肉と骨がみしみしと軋み、食い縛った歯と歯の間から苦悶の唸り声が漏れる。
それでも決してルカリオは弾き飛ばされる事なく、ハガネールの突き出た顎を両手でしっかりと捉え
、地が抉れるほどに足を踏張って耐えていた。
あまりの信じられない光景に、ハガネールは目を見開いて驚愕する。
直前にブレーキをかけたとはいえ、自分よりずっと小さい相手に、それも真正面から突進を受け止められてしまったのだ。
ずるずると押されながらもルカリオは上体を仰け反らせ、ハガネールの鼻先に思い切り頭突きを見舞った。
出し抜けな強烈な一撃に、ハガネールは一瞬意識が飛んだようになり、体の力がだらりと抜ける。
その虚を見逃さず、ルカリオはハガネールの体を、全身の力を込めて引っ張った。
残った突進の勢いを余さず利用され、ハガネールは一本釣りのように穴から引き摺りだされる。
そしてそのまま放られて、ハガネールは轟音と共に岩壁に叩きつけられた。
同時に、ルカリオもその場にがくりと倒れこむ。
積もったダメージ、無理な筋肉の強化と酷使の反動により、その体には限界が近づいていた。
だが、それでも尚、ルカリオは歯を食い縛り、立ち上がった。ハガネールもゆらりと顔を上げ、体勢を起こそうとしている。
互いに消耗は極限。次で勝負は決まる。二匹は確信していた。
ハガネールは大口を開け、渾身の破壊エネルギーを喉に充填する。
それに応えるようにルカリオも両の手首を向き合わせて、全身全霊の波導を集中させる。
双方、十分に力が高まり、いざ必殺技が放たれようとしていたその時――
「ちょ、ちょっと待ったー!」
慌てて駆け込んできた様子の声が止めた。
乙
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
殺気立ったまま二匹は声の方へ目だけを向ける。視線の先には、息を切らした様子でミミロップが立っていた。
「ふう……間に合った。やめです、やめやめー!」
呼吸を整え、両手をぶんぶんと振ってアピールしながらミミロップは声を張り上げた。
「……邪魔だ。巻き込まれたくなくば、引っ込んでいろ」
ルカリオは欝陶しげにそう吐き捨て、ハガネールは歯牙にも掛けない様子で、続けようとする。
が、ミミロップの傍らに転がされたヤミラミ二匹――片方は随分とこっぴどくやられている――に気付き、再び中断した。
怒りの元凶が倒されているのを見て、憑きものが落ちたようにハガネールは落ち着きを取り戻す。
そして、状況が飲み込めないといった風に呟いた。
「これは、どうなっている……?」
「はめられたの! こいつら、あんたと師匠を潰し合わせて、弱ったところを襲おうとしてたんだってば!」
ミミロップは事の経緯を二匹に話す。
「――すまなかった、ルカリオ殿。昔から一度頭に血が上ると、歯止めが中々効かなくなるたちでな」
「いえ、私も不用意でした。ヤミラミ達の動向をもっと注意深く監視しておくべきだった」
疑いが晴れ、ルカリオとハガネールは互いに謝罪する。
「ふふん、もし私がいなかったら大変なことになっていたんですからね。感謝してくださいよ」
そんな二匹を見ながら得意げに言い放ち、えっへんとミミロップは胸を張る。
「今回ばかりは少し助けられたやもしれんな。……だが、私はお前に留守を命じていたはずだ」
「ええー……そ、そこはチャラになるところじゃあ?」
「それとこれとは話は別だ。仮にも師の言い付けを破るとは何事か」
反論をぴしゃりと切り捨てられ、ミミロップは「うう」と縮こまる。
「ふん、これ以上の説教はひとまず後にしてやろう。――して、このヤミラミ共はいかがする?」
顔を青くして苦笑いで固まるミミロップを余所に、ルカリオはハガネールへ問い掛けた。
明日か明後日に続き書くよ
ハガネールはヤミラミ達を睨め付け、ふん、と鼻を鳴らして、白い蒸気を立ち上らせた。
「拾ってやった恩を仇で返しおってからに」
「拾ってやったって?」
ミミロップはハガネールの言葉に疑問を浮かべる。
「うむ。こやつら、元々はホウエン地方からの流れ者だったのだ。
島に漂着していた所を民が見付け、儂の下へと連れてきた」
当時、ハガネールの前に連れてこられたヤミラミ達は、
自分達は命からがら追っ手から逃げ延びてきたのだと語ったという。
歩みもおぼつかず、息も絶え絶えと、いかにも弱りきった様子のヤミラミ達の語り口にまんまと丸め込まれ、
不憫に思って保護をしてしまったのが間違いだった。
ヤミラミ達は初めのうちははおとなしくしていたものの、月日が経つにつれて徐々に増長していき、
ハガネールの保護を盾に陰で必要以上に鉱石を貪ったり、島に住む他のポケモンを恐喝したりと、
傍若無人な振る舞いを行うようになっていった。
「呆れて言葉も見つからないわ。何で好き放題やらせていたわけ?」
最低限の美学もないヤミラミの子悪党ぶりに、ミミロップは顔をしかめて言う。
ハガネールは口惜しげな表情を浮かべた。
「当然、きつく釘は刺しておった。だが、顛末はこのざまだ。いつか更生すると信じていた儂が愚かだったよ。
もう十分だ。こやつらは島外へ永久追放とする」
「待った。その程度では納得がいかん」
ターバンのように包帯がぐるぐると巻かれた痛々しい頭をさすりながら、チャーレムが重い腰を上げる。
「善意を踏み躙られた上、殺されかけたのだぞ。もっと重い罰を与えるべきだとは思わんか」
そして、両手の指を鳴らしてヤミラミを睥睨しながらチャーレムは言った。
ヤミラミは冷や汗を吹き出させながら縮み上がっている。
「……今回の件は儂にも責任がある。そなたを止めることはできない。
気の済むようにするがいい。ルカリオ殿はどうなさりたい?」
ハガネールの問い掛けに、ルカリオはゆっくりと立ち上がる。
そして、無言でヤミラミに詰め寄ると、首根っ子の辺りを掴み上げた。
「ゆ、許してくれ! もう絶対にこんなことはしないと誓う!」
今にも失神しそうなほど震え上がりながら、ヤミラミは必死の形相で命を乞う。
「その言葉、誠か?」
表情一つ変えないルカリオの言葉に、ヤミラミは取れてしまいそうな程に首を縦に振るう。
「どうせその場しのぎの嘘に決まっている! まさかとは思うが、情けをかけてはいかんぞ、ルカリオ殿!」
「そうですよ、師匠! こんな奴、野放しにしちゃダメ!」
チャーレムとミミロップが囃し立てる。ハガネールは祈りを捧げるように、ただ目をぐっと閉じた。
何分にも長く感じられた一瞬の沈黙の後、ヤミラミの体はどさりと地で音を立てた。
「――!?」
まだ生きているのが信じられないと言った風に、ヤミラミは自分の体とルカリオを交互に見回した。
「ゆけ! 次に悪事を行った時が最期だ。私は地の果てからでも聞き付けて駆け付け、お前を始末する!」
ヤミラミの体にかすりそうな程にすれすれの場所へ拳を突き立て、ルカリオは吼える。
悲鳴を上げ、ヤミラミは転げるようにして逃げていった。
「な! なに逃がしちゃってるんですか、師匠ー!?」
ミミロップは非難と驚きの入り交じった声を上げる。
「もはや奴らは完全な腑抜けだ。誇り高き拳を汚す価値は無い」
GJ!
乙
明日明後日にでも続き書くぜ
「まったく、そんなプライドなんて気にしてる場合じゃないでしょ」
悔いる様子の全く無いルカリオを、ミミロップは更に責める。
「次は無い。奴は私に誓った」
「信用できないと分かり切ってる相手です」
「信じる者がただの一人もいなければどうなる?
何も掴む所がなければ、堕ちるところまで堕ちて、二度とはい上がれはしない。
だから、奴らに最後のチャンスを与えることにした。私は奴らを信じる」
信じる――。ミミロップの心は強く打ち付けられる。
あれだけの目に遭わされながら、尚もそう言ってのけたルカリオの精神に。
それに比べ、自分はなんと心の小さかったことか。
ピカチュウの顔をミミロップは思い描いた。直接本人の口から聞いたわけじゃないのに、
私が邪魔だから置いていったんだと思い込み、信頼を疑ってしまった。
「分かりましたよ、もう! チョコレートみたいに甘いんだから」
ミミロップは諦めたようにうなだれ、言ってみせた。
――きっとピカチュウにも何か事情があったんだ。信じてみよう。もし戻ってきたら、
笑顔――とはいかなくても、あまり怒ったりせずに、ちゃんと帰りを迎えよう。
「すまないな、チャーレム殿」
「……仕方があるまい。ここは某も堪えよう」
ふう、とチャーレムは息を吐いた。
「うむ……まとまったようだな。この度は、元とはいえ、島の者がお主らに多大な迷惑を改めて詫びよう」
ハガネールは深々と頭を下げる。
「これから、あんたはどうするの?」
「ヤミラミどもが民の心身や島に与えた被害は小さくはないが、ぬしとして責任をもって立ち直らせていくよ」
「ねえ、物は相談なんだけどさ。よかったら、私達の組織に入らない?
そうすれば、ドンや皆から色々と助けてもらえると思うし」
GJ!
GJ!
明日か明後日にでも続き書くよ
ミミロップの突然の提案に、ハガネールは「ふうむ」と唸り、ひとしきり悩む。
「……そうさな。またいつヤミラミのような不届き者が現われんとも限らん。
おぬしらの保護下に入った方が良いのやも知れぬ」
「それじゃあ――」
「うむ。統治者に伝えてくれ。これより鋼鉄島はおぬしらの組織へ加盟する」
「やったぁ!」
ハガネールの承諾の言葉に、ミミロップはぴょんと小さく跳ね上がって喜びを表現する。
災い転じて福となす。転んでもただは起きないミミロップのしたたかさを、ルカリオはただただ呆れ返って見つめていた。
「では早速ブイゼル共を使いに出させてこよう」
「ええ。任せたわ、チャーレム。思わぬ土産ができちゃった」
・
「本当に私達と一緒には来てくれないんですか、師匠ー……」
しょんぼりとした様子でミミロップは出航間近のホエルオーの背から、ルカリオに声をかける。
ヤミラミの一件から時は経ち、本土のポケモン達の協力もあって、島に残された傷跡も完全に癒えていた。
「今生の別れでもあるまい。お前が波導を志すかぎり、いつか再び道が交わることもあろう」
別れを惜しむふうもなくルカリオは言葉を返す。
ミミロップの修業は指導を受ける段階を終えて独り立ちの時を向かえ、
以後は、自らの手で道を模索し、鍛練していかなければならないとルカリオは告げた。
ミミロップは、組織に加わってくれればとても心強いとルカリオを誘ってみたが、
自身も修業のためにこれからも旅を続けるのだと断られてしまった。
「忘れるな。波導に終わりは無し。生涯未熟なり。驕ることなく、己を磨き続けろ」
「はい!」
潤む目をこすって拭い、ミミロップは声を張った。
ホエルオーが出航の汽笛代わりの鳴き声を上げ、ゆっくりと岸を離れ始める。
「それじゃあ師匠、お達者で!」
「息災でな」
見送るルカリオの姿が点になって見えなくなるまで、ミミロップは両手を振り続けた。
鋼鉄島での修業は、ミミロップを身体的だけではなく、精神面でも大きく成長させた。
「よーし、頑張るぞー! でも、洋館に帰ってから少しの間くらいはサボってのんびりしてても、ばちは当たらないわよね」
……はずである。
85 :
名無しさん、君に決めた!:2009/08/16(日) 13:44:21 ID:FxfBnQwm
GJ!
GJ!
明日か明後日にでも続きを書こうと思う。
88 :
名無しさん、君に決めた!:2009/08/17(月) 22:33:48 ID:uxOZxAwe
─こちらはニューラのアジト。
「どういうことですか、これ…」
巣穴の中心部。
ひらけた空間はレアコイルによってライトアップされ、
派手なステージが作られていた。
「暇なんだよ!楽しませてくれよ、ヒャハハ!」
中央で指示を飛ばしているマニューラが言う。
「こんな大事になるなんて…」
少し慣れたとはいえ、寒さに身を縮め…ロゼリアは溜息をつく。
ロゼリアは盗られた光の石を取り返すために、
これからあのニューラと戦うのである。
話は昨日にさかのぼる。
d
90 :
名無しさん、君に決めた!:2009/08/17(月) 22:44:41 ID:uxOZxAwe
強くなりたい。
光の石を盗られたことでその決意を新たにしたロゼリアは、
氷の穴で修行に励んでいた。
草は弱点が多い。炎は天敵であり、鳥や虫も苦手である。
そして、寒さにも弱い。
この寒さの中、素早い動きが必須となる毒針の突き合いは不利になる。
この場所に慣れていて、非常に俊敏なニューラが相手では尚更である。
そのため、ロゼリアは己の毒の純度を高めながらも、
遠距離攻撃が可能となる葉を用いた攻撃を模索していた。
「花びらの舞は多分一度しか使えないな…」
ロゼリアは氷の塊に向かって葉を飛ばす。
一部は刃となり氷を切り裂いたが、多くは冷気にやられ枯れてしまった。
僕はやっぱり、ピカチュウさん達の足手まといにしかなれないのかな。
涙が出そうになる。
その時、マニューラがドアを蹴破って入ってきた。
91 :
名無しさん、君に決めた!:2009/08/17(月) 22:59:32 ID:uxOZxAwe
「ヒャッハー!元気でやってるか、ロゼリアちゃん?」
マニューラは相変わらず陽気に尋ねる。
加えてなぜか、今日はとても機嫌が良いようである。
「はい…」
沈んでいるロゼリアにマニューラは何か言おうとしたが、
ふと枯れた葉が散乱している氷塊に目をやった。
「葉っぱで氷に対抗しようってか?ヒャハハ!無茶するぜ!」
「そうですかね…」
あっさり笑い飛ばされ、さらに意気消沈した様子のロゼリアに、
マニューラは不意に珍しく真面目に呟いた。
「葉っぱ一枚一枚は弱ぇもんだが、束になれば─そうさな、
嵐のように囲んじまえばちっとは効くかもな?ヒャハ!」
ロゼリアは顔を上げる。
かつて読んだ人間の書物に、そのような技が載っていた気がする。
「ありがとうございます、マニューラさん!」
少し元気を取り戻したロゼリアに、
しかしマニューラは信じられないことを告げた。
「まぁ明日までに精々頑張れよな、ヒャハハ!」
「…え?」
ロゼリアは一瞬戸惑い、マニューラを見上げる。
「明日、お前はあのニューラと戦うんだよ!
もう話はつけてある。じゃあな!ヒャハ!」
マニューラは陽気に手をふりながら去っていった。
「えーーーーー!?」
少したって、ロゼリアの雄叫びが巣穴に響いた。
そして、話は現在に至るのである。
92 :
名無しさん、君に決めた!:2009/08/17(月) 23:00:37 ID:uxOZxAwe
初投稿
下手ですんません
明日続き書きます。
GJ
だが、メール欄に半角で「sage」と入れて、なるべくスレを上に上げないでくれ
出来上がったステージを、観客のニューラ達がぐるりと取り囲んでいる。
相手のニューラは気だるそうにロゼリアを睨んだ。
「やれるもんならやってみろや」
少し怯みながらも、ロゼリアは言い返す。
「僕…負けません」
ニューラはフンと鼻で笑った。
「ごちゃごちゃ言ってねえで始めるぜ!審判は俺だ!」
マニューラが叫ぶと、観客のニューラ達も一斉に沸き立つ。
「ギャハハ!ひ弱そうな草なんざやっちまえ!」
「負けんなよ!ニューラ族の強さを見せつけてやれ!」
好き勝手叫ぶニューラ達。
ロゼリアは気押されてしまいそうになった。
そんなロゼリアに、マニューラが声を掛ける。
「ビビってんのかロゼリアちゃん?ハンデつけっか?ヒャハハ」
自分を小馬鹿にするマニューラ。
気だるそうにこちらを睨むニューラ。
観客のニューラ達にさえ、自分はなめられている─悔しい。
「僕は四天王です!ハンデはいらない!」
ハクタイの森から始まった僕達の冒険。
度重なる危機を、僕達は乗り切ってきたじゃないか。
下っ端のニューラに負けてはいられない。
「ふん、精々頑張れよ!」
マニューラはフッと笑う。やはりこいつは根性がある。
「ヒャハハ!どっちかが倒れたら負けだからな!
じゃあ─始めろ!」
戦闘開始!
「さっさと終わらせてやる!」
「わぁぁっ」
ニューラの氷の礫が真っ直ぐロゼリアに飛んでくる。
間一髪直撃は避けたものの、ロゼリアの葉は抉られた。
「遅い!」
容赦なく飛んでくる氷の礫に、ロゼリアは逃げ惑うことしか出来ない。
このままでは、体力を減らされてしまうだけだ。
この寒さでは長期戦になればなるほどロゼリアには不利になる。
「何とかニューラの動きを止めなきゃ─あれを使おう!」
ロゼリアはくるくると回転し、手の薔薇をニューラの足元に向けた。
「まきびし!」
「チッ!」
ニューラは攻撃を止め、隅に逃れる。
「わたほうし!」
「そんなものが効くか!」
動きを鈍くしようとしたロゼリアのわたほうしは
ニューラの凍える風によって消えてしまった。
「はっぱカッ「だましうち!」
葉を飛ばそうとした隙をつき、ニューラは一瞬でロゼリアに迫り打つ。
「くっ…」
ロゼリアは倒れ、ニューラが拳を構える。
“来る!”
ロゼリアは身構えようとしたが─不意に何を思ったか
薔薇の中から何かを取り出し口に含んだ。
「冷凍パンチ!」
ニューラの拳は確かにロゼリアにヒットした。が…
「花びらの舞!」
ニューラが飛びのく間もなく、
花びらがニューラを囲いこみ傷を負わせる。
「なぜ耐えた!?」
「ヤチェの実ですよ」
ふらつきながらロゼリアは言った。
かつてピカチュウがそうしたように、
ロゼリアはドンカラスに貰ったヤチェの実で攻撃を軽減したのだ。
ロゼリアは花びらを総動員して、
ニューラをまきびしの上に投げ出した。
ニューラはかなりの痛手を負っていた。
まきびしに阻まれ、未だに体制を立て直せていない。
しかしロゼリアのダメージの方が深刻だった。
目を回し、混乱してしまってもいる。
「くっ…」
それでもふらふらと、ロゼリアは立ち上がろうとする。
駄目なんだろうか?僕は足手まといのまま…?
観客のニューラ達も静まっている。
どちらが先に立ち上がるか、固唾を飲んで見守っているらしい。
その時、マニューラが氷の椅子から立ち上がり叫んだ。
「ロゼリア!てめえは四天王じゃねーのかよ?
怖ーいピカチュウ様の、尖兵じゃねえのか?
そんなんじゃ俺がてめえの四天王の座をいただいちまうぜ!
ヘタレにゃ過ぎた地位だ!」
マニューラはそう言い切ると、光の石を弄びニヤリと笑う。
これは挑発だった。
「僕は、僕は…」
ロゼリアの頭に様々な記憶が流れる。
ヤミカラスに虐げられていたスボミー時代。
あれから、ピカチュウさんに助けられた僕はシンオウを駆け巡り、
カントーでは…思い出したくもないが…カイリキーなどとも戦った。
僕は四天王なんだ!
「あっ、おいっ」
ロゼリアの神通力が暴走する。
技はマニューラにもニューラ達にも効かないが、
光の石が惹かれるようにマニューラの手を離れた。
光の石はロゼリアの近くに落ちる。
それに共鳴するように、ロゼリアの体が光りだし─
おめでとう!ロゼリアはロズレイドに進化した!
ロゼリアの進化。
突然のことに、マニューラもニューラ達もポカンと口を開けていた。
しかし次の瞬間──
「ヒャッハー!」
「これは!ヤバくなってまいりました!ギャハ!」
「やるじゃない、あの子!」
「ニューラお前ピンチかも!ヒャハ!」
観客のニューラ達から爆発的な歓声が上がった。
盛り上がる展開に、もはや敵味方はないらしい。
「ちくしょう!」
ようやく体勢を立て直したニューラが
ロゼリア─いや、ロズレイドに飛び掛かる。
しばし呆然としていたロズレイドは、沸き上がる力に何かを悟った。
ニューラの拳がロズレイドを打とうとする瞬間。
葉が嵐のようにニューラに吹きつける。
“リーフストーム!!”
─観客のニューラ達が口々に叫ぶ中、ロズレイドは気を失った。
「ん…」
ロズレイドは目を開ける。
「お目覚めか?ロゼリア─いや、ロズレイド」
「マニューラさん…」
ロズレイドは辺りを見回した。
いつも使っていた氷の巣穴で、藁の上に寝かされている。
傷も手当てされていた。
「お前の勝ちだ。思わぬ形で光の石を取り返したな、ヒャハハ!」
僕は勝ったんだ。
「せっかくハンデも用意してやってたのによ!」
そう言って、マニューラはキラキラ光る粉の入った瓶を振った。
「それは…?」
「光の粉だ。光に反射して、目を眩ませるもんだ。
ウチのニューラが悪かったな。ほらよ、もってけ!」
マニューラが投げた瓶をロズレイドは慌てて受けとめる。
「色々ありがとうございました、マニューラさん」
「ふん、糞カラスに頼まれちまったからな」
マニューラはそっぽを向く。照れているらしい。
「ところで─これからどうすんだ?帰るか?」
マニューラから話を振られ、ロズレイドは久しぶりに想いを馳せる。
ミミロップとムウマージはどうしているだろう。
そろそろ合流すべきかもしれない。
「僕、帰ります」
ロズレイドは静かにそう返した。
マニューラは頷くと、去っていった。
時は動いていた。
翌日。
ロズレイドが帰ると言うと、ニューラ達は様々な道具を餞別にとくれた。
珍しい木の実やムウマージが好みそうな呪いと清めの御札、
元気の塊など人間の道具もある。
よほどニューラとの勝負が気に入ったらしい。
「用意もできたし…行こう」
さすがにカプセル温室が使えなくなったため、
帰りはマニューラ達の引くそりに乗っていくことになった。
歩き出そうとするロズレイドを、しかし引き止める声一つ。
「おい!」
光の石を盗ったニューラだった。
「なんですか?」
ロズレイドは驚く。向こうから会いにくるとは思わなかった。
「いや、あの…悪かった」
気恥ずかしいらしく、挙動不審である。
そして、何かのレンズを差し出した。
「これ…やる」
ニューラはそれだけ言うと逃げてしまった。
ロズレイドはその背中に叫んだ。
「ありがとう!」
「オイ、行くぞ!」
マニューラが呼びに来る。
ロズレイドは慌ててレンズを道具袋に詰め、外に向かった。
ニューラ達が手を振り叫ぶ中、マニューラ達の引くそりは
雪の中を滑りだした。
目指すはハクタイの森である。
>>93-95 スマソ
以後気をつけます
>>95 ミミロップサイドの一段落に合わせたくて…
ネタかぶってたらすみません。
ちょっと一気に駆け足過ぎた感もあるが、乙ー
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
GJ!
だがちょっと展開速すぎたな。
>>88の前の修行を追加してもいいんじゃないか?
事前に議論スレで打ち合わせてるんだと思ってたけど
もう議論スレって無いんだな
初めてここに来たがやっとログ追いついた。
ミュウツーとの戦い、ピカチュウの進む先、ミミロップ達四天王のこれから、
どれもこれも続きが気になってしょうがない。
レッドの生死はハッキリしてないようだけどそれも気になる。
文才がないから職人にはなれないが、これからも見守ってます。
職人の方々乙です。
時間軸的に
>>90より更に前になる話
―――――――
プラスチック板を割れんばかりに叩く音と、
「――ぉい! 起きな!」
それに負けんばかりのドスを利かせた声が、ロゼリアのおぼろげな意識を乱暴に揺さ振る。
「えっ、なに――うわ!」
訳が分からないうちに、今度は天地が急に引っ繰り返って、ロゼリアは冷たい空気の下へと突然投げ出された。
そして全身を包む浮遊感と、目の前に迫る地面。
覚えのある状況に、今の自分が置かれている状態を理解した――時には既に遅く、
体勢も心の準備もできぬままに頭からぼてりと落ちてしまった。
「いたた……」
ロゼリアはぶつけた額を撫でていたわりながら体を起こす。
「よ、目ぇ覚めたか? ねぼすけちゃん」
声の方を見上げると、にんまりと笑みを浮かべたマニューラが、片手の爪先でカプセル温室を
バスケットボールのように器用にくるくる回しながらたたずんでいた。
ホッ、とロゼリアは安心する。あの石を盗っていったニューラじゃなくて良かった。
戦う決意をしたとはいえ、顔を合わせてもまだ真っ向と向かっていく勇気が持てない気がしてならなかった。
思わず安堵してしまったのが何よりの証拠だ。自分の意気地のなさに、自然と自虐的な乾いた笑みが顔に滲んだ。
「何だ、気味わりーな。ちょっと強く落としすぎたか?」
マニューラは怪訝な顔をしてロゼリアを覗き込む。は、と我に返った様子でロゼリアは立ち上がった。
「い、いえ。何でも。大丈夫です。ごめんなさい、僕、寝坊しちゃいましたか?」
洞窟の中に外の光は届かず、時計など持っていようはずもないため、昼か夜かも分かりはしないが、
こんな強引な起こされ方をしたのだから随分と寝過ごしてしまったのだろうとロゼリアは思った。
「話は後だ。ついてきな」
それだけ告げると、マニューラはさっさと先に行ってしまった。ロゼリアは首を傾げつつ急いでその後に続いていく。
たどり着いたいつもの広間はニューラ一匹おらず、天井のレアコイルも休眠状態に入っているのか真っ暗だった。
「他の皆さんは?」
不安げにロゼリアは尋ねる。
「まだおねむさ。当分起きてこねーよ」
マニューラは小さな石を拾い上げ、レアコイルにこつんとぶつけた。
「ビ!」とレアコイルは驚いて飛び起き、部屋を照らす。
抗議しようとするレアコイルに、マニューラは「しっ」と爪を口に当てた。
「え、と。これから何をするんですか?」
「鈍いな。誰にも邪魔されない中、二匹っきりでやることなんて大体……わかるだろ?」
そう囁き、マニューラはロゼリアに擦り寄るように近づく。
「え? ええ?」
顔を真っ赤にして戸惑うロゼリア。
その無防備な隙を狙い、マニューラは思い切りロゼリアの体を蹴り飛ばした。
「何ボーッと突っ立ってやがんだ。もうタイマンは始まってるんだぜ」
後ろに倒れこんで茫然としているロゼリアに、マニューラは鉤爪を長く伸ばして突き付けた。
「立ちな。今日から約束通り、オレ達の戦い方ってやつを叩き込んでやる。
まずはオメーがどれだけ、ご希望の“これ”でやれんのかオレが直々に見てやるよ」
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
待ってます
尻餅をつき動けない自分の喉元に向けられた、無慈悲で冷たい光を反射する鋭い切っ先。恐怖と威圧感に伝う冷汗。
深く刻み込まれていた忌まわしい自分のコピーとの戦いの記憶が呼び起こされ、ロゼリアの脳裏にフラッシュバックする。
マニューラの顔に、コピーロゼリアの冷淡な嘲笑が被って見えた。
『どんな手を使おうと、僕の足元にも及ばない』
脳内で思い起こされ、繰り返し響く仇敵の侮蔑。それを掻き消すようにロゼリアは叫び声を上げ、
針を伸ばした勢いで地から弾けるように立ち上がってマニューラに突きかかる。
「おおっと。いいぜ、その調子だ。がんがん突いてこいよ。どんな方法でもいーから一発でも当ててみな」
余裕綽々といった様子でマニューラはひょいと体を針から逸らして言った。
休みなく次々に繰り出される刺突も、まるで軽業師のような華麗で軽やかな身のこなしで、口笛混じりに避けていく。
屈辱感と焦りが募り、ロゼリアの太刀筋はどんどん乱れていった。
「ヒャハ! どーした、ロゼちゃん。コイキングの体当たりの方がまだ気合いが入ってるぜ」
「――ッ、このォ!」
煽りに乗せられ、後先も考えずロゼリアは思い切り横薙ぎを振るう。
それを狙いすましたように鉤爪が反った内側で針の腹を引っ掛け、強引にロゼリアを引き倒した。
「……ま、こんなもんか。よいせっと」
うつ伏せに倒れるロゼリアの背を、マニューラはとんと軽く腰を下ろして押さえ付ける。
「むぎゅ! ちょっと、つ、潰れちゃいます! 重い重い重いー!」
じたばたと叫ぶロゼリアの頭をマニューラは小突く。
「重い重いうるせーよ。オメーがチビすぎるのがワリィんだ」
「うぐう……」
抵抗は無駄と諦め、尻に敷かれたままロゼリアはおとなしくなった。
「バカ正直に真っすぐすぎるぜ、オメーは。もっと何つーか、はめを外してみな」
「でも、具体的にどうすれば……?」
捻りだすようにロゼリアは声を出す。
「勝つためならどんな手でも使えっての。さっきだって、オメーなら突くついでに毒花粉をばら撒いたり、
針ごと飛ばして不意をついたり、なんなりと工夫の余地はあっただろーが」
「だって、そんなの卑怯じゃないですか」
やれやれ、とマニューラは呆れ、ひらひら両手を振るう。
「そんなしょっぱい正義感しょってるから、オメーはションベンくせーんだよ。
卑怯なんて言葉は忘れちまえ。卑しむべきなのは敵への怯えと、無様な負けだ。
負けたら、死んじまったら何の意味もねぇ」
ふと一瞬、マニューラの赤い瞳に愁いが帯びる。
下敷きにされているロゼリアはそれに気付くことなく、口惜しげに唸って押し黙った。
音まで凍り付いてしまったかのような冷たく沈んだ片時の静寂に広間が包まれる中、
上層に開いた巣穴の奥からは、うっすらとざわめき声が聞こえてくる。
「あいつらが目を覚まし始めたみてーだな。そーいや今日は……ヒャハ、いいこと考えた」
マニューラの口元がにやりと大きく弧を描く。
「オメーのゲロ吐きそうなほど甘ったるい考えをぶっ壊してやるよ。
習うより慣れろ。嫌でも変えざるをえねーさ、死にたくなきゃあな」
・
「はあーッ!? どういうことだ、マニューラ!」
ニューラの一匹が驚愕の声を上げる。広場に集まる他のニューラ達も騒然としていた。
「聞こえなかったのか? 今日の狩りには、このロゼリアも連れていくって言ったんだ」
乙!
明日か明後日にでも続き書くよ
待ってます!
「ふざけんな! こんなヘナチョコ野郎連れていけるかっつーの」
おろおろと立ち尽くすロゼリアに苛立たしげな一瞥をやり、ニューラは怒鳴るようにマニューラへ訴える。
周りからも非難や奇異の目を向けられ、ロゼリアは悲鳴を上げて逃げ出したい気持ちで一杯だった。
何せ、ロゼリア自身もまったくそんな話は聞かされていなかったのだ。
ニューラ達が集まってくる前、マニューラは不敵な笑みを浮かべて、楽しみにしていなとだけ言った。
先の“死にそうな目にあわせてでも甘い考えを変えさせる”という発言からして、
絶対にろくでもない事を企んでいるとロゼリアはこの時点で読み取っていたが、
しっかりと踏み付けられていては逃げ出せるはずもなかった。
ニューラの文句を聞きながら、マニューラは面倒臭そうに扇状の赤いたてがみを爪先で繕う。
右の耳から左の耳へと適当に聞き流しているのは誰が見ても明らかだった。
これ以上言っても無駄だとニューラは舌打ちし、ロゼリアに直接詰め寄っていく。
「おい、ヘナチョコ。これから行くのは楽しいピクニックじゃないんだっつの。
お前みたいなお荷物背負わされたら、皆迷惑すんだよ」
威圧的に迫るニューラに、ロゼリアは黙って俯くことしかできなかった。
やっぱり怖い。心配していた通り、いざニューラを目の前にすると、
口と喉は凍り付いたかのように動かなくなって何も言い返せない。情けなくて、悔しくて、目が熱くなる。
「へっ、びびってだんまりかっつの。顔真っ赤だぜ、泣くのかボクちゃん?
何も出来ないんだったら、さっさとネズミどもの所へ帰ったらどうだ。垂れ流した涙と鼻水を優しく拭いてもらえんぞ」
ニューラは更に執拗にロゼリアをコケにし、周りのニューラ達はせせら笑いながらやり取りを眺めていた。
黙ってじっと二匹の様子を見ていたマニューラは、仕方なさそうに小さくため息をつく。
――我慢していたけれど、もう駄目だ。
とうとう堪えきれずに涙が零れてしまいそうになった時、ニューラが胸倉を掴みそうになったその瞬間、
二匹の間に割って入るようにナイフのごとく研ぎ澄まされた氷の礫が、地にカツンと乾いた音を立て突き立つ。
びくりとしてニューラはロゼリアから素早く離れ、周りのニューラ達もしんと静まり返った。
ロゼリアは礫が飛んできた方を見やり、背筋がぞくりとする。
普段の陽気さを微塵も感じさせない、重く冷酷な輝きをマニューラの瞳に一瞬垣間見た気がした。
「見てりゃ、いつまでもぐだぐだとうるせーんだよ。こいつを連れていくって決めたのはこのオレだ。
これは提案でもお願いでもねぇ。命令なんだぜ、分かってるかクソッタレ共」
「わ、分かってるよ。ちょっとからかっただけだっつの」
ニューラは鳥の尾羽に似た赤い尻尾を巻き、すごすごと引き下がっていく。
すれ違う際、ロゼリアを恨みがましく横目で欠かせず睨み付けていった。
「おい、待ちな」
その背に、マニューラが出し抜けに声をかける。ニューラは再び肩をびくっとさせ、慌てた様子で振り返った。
「な、なんだっつの。もう文句は言わねぇって」
「いや、お前だけやけにこのロゼちゃんと親しげだからよぉ。
荷物届けさせた時にどうかしたのかと思ってなぁ、ヒャハ」
まさか光の石を奪った事がばれたのだろうか。ニューラの背に冷や汗が伝う。
動揺を必死に隠そうと少し強張る顔を、マニューラは知った上でにやにやと見つめた。
「特に何も問題はねぇっつの。届けるついでにちょっと仲良く世間話をしただけさ、なあ?」
気さくな風を装い、ニューラはロゼリアに話をふった。だが、目では『石の事は絶対に言うな』と睨みをきかせている。
「は、はい」
ロゼリアは力なく答えた。
「へーぇ。それなら丁度良いな」
「何がだよ」
恐る恐るニューラは尋ねる。
「普通は四か五匹で組むところを、いつも自分達のチームは三匹だけで大変だとぼやいてたろ?
そんなに仲が良いんなら、今日の狩りにはロゼリアをオメーのチームに加えてやるよ」
え、えぇー!? は、はぁーッ!? 二匹の声は、シンクロするようにぴったりと同時に上がる。
「連携もバッチリ。これは決まりだ、ヒャハハ」
「ふざけん――」
「め、い、れ、い、だ!」
ぐ、とニューラは言葉を飲み込んだ。
ロゼリアはあまりの状況に頭をくらくらとさせてマニューラを見つめる。
果たして自分のことを鍛えたいのか、それとも窮地に落とされて足掻く様を見て楽しみたいのか、計りかねていた。
マニューラはロゼリアの様子を見据え、どこか満足気に微笑む。
――あ、きっと両方なんだ……。
ロゼリアは確信し、諦めたように苦笑した。
「心配すんな。オメーが足引っ張る分は、少しくらいならオレがカバーしてやるからよ。
それじゃあテメーら、改めて出発の準備だぜ。四十秒で支度しなー! ヒャハー!」
お、ちょうどいいところに投下ktkr
マニューラかっけえ!
続き楽しみにしてます
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
40秒w ラピュタかww
シンオウ地方の北部に位置するキッサキ方面は、シンオウ中央に切り立つテンガン山から吹き下ろす寒気によって、
絶えることなく雪が降り続けている。地面も、木々も、すべてが白く化粧された純白の世界。
その美しさとは裏腹の厳しい極寒の環境にも、ポケモン達は適応し、力強く生きている。
細雪振る白一色の森に、木の合間を縫うように駆ける幾つかの黒。
その最後尾の更に後方、置いていかれぬよう精一杯に走る小さな姿が一つ。
息を切らしかけながら遥か後方にいるロゼリアを、ニューラは憎たらしく見つめる。
危惧した通りロゼリアに足を引っ張られ、他のチームにかなりの遅れをとっていた。
「くそっ、お荷物め。たまったもんじゃないっつの」
走りながらニューラは呟くように吐き捨てた。
「仕方ないでしょ、マニューラの言い付けだもの」
自身も釈然としない思いを抱えながらも、横のメスのニューラがそれを嗜める。
「それならお前がおぶってやったらどうだっつの。前みてーによ」
「ふん、冗談じゃあないわ。もとはと言えば、あんたがあいつに変なちょっかいだしたせいじゃない」
「おーおー、このままじゃあ何も捕れなくて飯抜きだ。かわいそーに! ギャハハ」
二匹の言い合いを後ろから他人事のように眺め、もう一匹のオスニューラが笑い飛ばす。
ちっ、と舌打ち、二匹は互いに顔を背けた。
ぎすぎすしながらも止まることなく駆ける三匹だったが、
木の表面に付けられた不可思議な傷を見つけると不意に立ち止まり、注意深くそれを見る。
模様のようなその傷は、マニューラが残していった合図だった。
「『西へ 獲物 追う』か。もうとっくに獲物を見つけてるみたいだな」
「足跡が雪で埋まってほとんど残ってない。これ以上ぐずぐずしてたら不味いわね」
「もう終わってたりして。ギャハ」
ニューラは焦りと苛立ちに唸り声を上げた。いつも三匹ながら、
狩りでは上々の成果を上げている自分達のチームが、たった一匹のお荷物のおかげで
全くの約立たずになっているなど堪え難い屈辱だった。
再び舌を打ち、ニューラはお荷物の来る後ろを振り替える。丁度木の影になっているのか、まだ姿は見えない。
そこでふと、ニューラの頭にある考えが浮かぶ。
「おい、あのお荷物もサインの意味は知ってんだよな?」
「そのはずよ。出発前にマニューラが教えていたもの」
ニューラは口の端を上げる。そして、「良い考えがある」と二匹に耳打ちした。
「ふぅん、なるほどねぇ。あたしは賛成しないわ。まあ、止めもしないけれどね、ふふふ」
「ギャハ、あくどいの!」
「へへ、マニューラには黙っとけよ。じゃあ早速やるっつの」
ニューラ達は樹の表面をささっと爪で斬り付けると、足跡を消すようにばさばさと雪を掻き上げながら走っていった。
それから少しして、息も絶え絶えのロゼリアがようやく木の下へとやってくる。
ただでさえそれ程走ることが得意ではないというのに、慣れない雪道と冷気は容赦無く体力を奪っていた。
それでもロゼリアはマニューラの期待に応えようと、めげずにニューラ達の姿を探す。
だが、既に影も形もなく、その足跡さえも見つからない。
途方に暮れようとしていた時、ロゼリアは木に刻まれたサインに気付く。
『北へ 獲物 追う』
――急がなきゃ。
ロゼリアは慌てて北へと走る。上から更に刻み込まれたようなサインの違和感に気付く余裕はもうなかった。
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
待ってます
まんまとロゼリアを出し抜き、足枷の無くなったニューラ達は、
マニューラと他のチームに追い付こうとぐんと走る速度を上げた。
三匹は程なくしてニューラの一団に追い付き、並走しながら狩りの状況を尋ねる。
ようサボってたのかい? これはこれはお早い到着で。有望なルーキーが入って良かったな等と、
他チームのニューラ達は遅れてきた三匹をにたにたとしながら口々にからかった。
「うるせーっつの。それよりどうなってんのかさっさと教えな」
「へーへー」
どうにか聞き出した話によれば、更に先行しているマニューラとニューラ数匹が、
少しずつ北東へと獲物を追い込んでいる最中らしい。
他チームのニューラ達はこれから二手に分かれて先回りし、三方から包囲する寸法のようだ。
何とか間に合ったようだと、三匹は胸を撫で下ろす。
「あれ? ところで、あのチビの姿が見えないけど、一体どこにやったんだよ」
「知らねえよ」
他チームニューラの問い掛けにニューラはぶっきらぼうに答えた。
「いいのか。あれに何かあったらマニューラにきつくどやされるぞ」
「へっ、いつも以上のご丁寧さでそこかしこに刻んである指示さえ見逃さなきゃ、遭難することはねーだろ。
まあ、万が一どこかで“読み間違え”たりしていたらどうなるかは分からねえが、
そん時ゃ自業自得だっつの。あのヘナチョコもしっかりサインの意味は習ってんだからな」
ざまあみろ。心の中でニューラは笑った。奴は今頃、細工したサインに騙されてあらぬ所へ行っているはず。
意味を書き替えた部分は後でそれとなく消してこよう。確か『西』を『北』にしたんだったな。
――ん? 北? マニューラ達が向かっているのは北東……。いや、まさかな。
不意に湧いた嫌な予感を、ニューラは有り得ないと奥に押し込んだ。
・
「はあ……」
一匹でとぼとぼと歩きながら、ロゼリアはため息をつく。
どんなに頑張って走っても、いつまで経とうがニューラ達の姿はおろか、
つけていったであろう足跡にさえ追い付くことが出来ない。
時間が経つにつれて雪が降り積もるにしても、吹雪いているわけでもないのに、
そんなに早く足跡が埋もれるものだろうか。そんなはずはない。
ようやくロゼリアは冷静に返って立ち止まり、自分がはめられたことに気付く。
あの北へ向かうというサインがあった場所から足跡が急に途切れているなんて、よくよく考えればあまりに不自然すぎる。
きっと石を盗ったあのニューラが足跡を掻き消し、おそらくサインにも細工をしていったに違いない。
もっと疑ってかかるべきだったと後悔しても、もう遅すぎた。
今更サインの所まで戻れたとしても、もはや足取りは掴めないだろう。
それどころか自分一匹だけではそこからニューラ達の巣穴まで帰れるかも怪しく、遭難してしまいかねない。
あまりの八方塞がりの状況。絶望に打ちひしがれるロゼリアだったが、
ふと視界のずっと先で、もうもうと上がっている雪煙を捉える。
初めはただ風によるものなのだろうと、ロゼリアは気にも止めなかった。
しかし、こちらへ徐々にそれが近づいてくるにつれ、雪煙は何か茶色い何匹もの物体が、
豪快に雪を掻き分けて進んでいるために上がっているのだと気付く。
そして、その茶色の群れを俊敏に追う、見覚えのある黒い影達。
「あれは――!」
GJ!
乙、ニューラって何食ってるのかね?
明日か明後日にでも続き書くぜ
>>135 ゲーム上の図鑑説明によればポッポの卵を盗んで食べたり、
何か獲物を襲ったりするらしいから肉食なのは確実っぽいね
その辺は深く考えると悲しくなるな
カントー編のポッポ達の食事もそうだけど
影の正体は数匹のニューラ達だと、ロゼリアは茶色の群れの合間から垣間見て確認した。
全身を茶色の剛毛で分厚く覆われた大小様々な生物達は、彼等に追い立てられて一心不乱に逃げているようだ。
あの毛むくじゃら達がイノムーとウリムーなのか。
出発前に聞かされていた獲物の特徴を頭の中で照らし合わせ、ロゼリアは判断する。
見当外れの方向へ進まされていたはずが、偶々ニューラ達の獲物を追うルートに交わっていたようだ。
本来であれば、この偶然をロゼリアは神に感謝していたところであろう。
猛然と走るイノムーの群れが、真っすぐ自分の方へと向かってきていなければ。
「うわあぁ!」
たまらず悲鳴を上げ、ロゼリアは背中を向けて逃げ出した。
あんな雪崩のごとく暴走する群れに巻き込まれたが最期、
ロゼリアなどあっという間に押し花のようにぺちゃんこにされてしまう。
しかし、やはりロゼリアの足では逃げ切れるはずも無く、イノムーの群れとの距離は徐々に徐々に詰まっていった。
ニューラ達は誰も僕が居ることに気付いていないのだろうか。
それともこのまま見殺しにするつもりなのか。そんな考えが頭に過る中、
ロゼリアは焦りと疲労に足をもつれさせ、とうとう転んでしまう。
振り返ると、すぐそこにまで牙を振り上げて迫ってきている、イノムーの巨体。
――もうダメだ。
あわや踏み潰されようとしたその刹那。視界を掠める一陣の漆黒。
ロゼリアの体はひょいと持ち上げられ、ぐんぐんとイノムーを引き離していく。
「ヒャハ、ギリギリセーフ! 何だオメー、まさか先回りしてやがったのかよ? へへ、やるじゃねーか」
ロゼリアを横に抱えて駆けながら、マニューラはにんまりと笑った。
GJ!
明日明後日にでも続き書く
助かったんだ。右腕の中で揺られながら、ロゼリアの心を安堵が包んだ。
が、すぐに失意の感情が沸き上がってきて、それを覆す。
――いや、違う。『助けられた』んだ、また。
期待に応えるつもりだったというのに、またマニューラの手を煩わせてしまった。
「ありがとうございます。すみません、僕はまた……」
震える声でロゼリアは礼を呟いた。
ピカチュウ達との旅の始まりも、助けられた事がきっかけであったと、ロゼリアは思い返す。
ヤミカラス達に因縁をつけられて怯え震えていた僕を、
ピカチュウさんはまるでヒーローのように現われて――打算的な理由とはいえ――救ってくれたんだ。
恩に報いようとお供を続けては来たけれど、果たして役に立っていたのだろうか。
思えば、その旅中でも自分は助けられてばかりだったような気がしてくる。
危険が迫り急いで逃げ延びなければ行けない時は、
足の遅い自分はいつもこんな風にミミロップさんに抱えてもらわなければいけなかったっけ。
誰かのフォローが無ければ何一つ満足にできない。あのキュウコンの言っていた通り、
足手纏いと切り捨てられても仕方がないのかもしれない。
「おい、何をぼーっとしてんだよ」
「え、あ――ごめんなさい!」
現実に引き戻され、ロゼリアは慌てて顔を見上げて取り繕った。
「寝呆けてる暇はねーぞ。お楽しみはまだこれから――」
言葉の途中で、不意にマニューラの表情が痛みを堪えるように一瞬歪んだ。
自分を抱えてくれている腕とは反対側から、
ポタポタと雪面に滴れて点々と続いている赤い染みにロゼリアは気付く。
不審に思ってマニューラの体をよくよく見てみると、左腕の肩から肘辺りまでの毛並みが赤黒く湿っていた。
「ま、マニューラさん、その怪我……!」
喫驚して、ロゼリアは声を上げる。
「さっきあのウスノロ共の牙にちょこっと引っ掛けただけだ。どうってことねーよ」
何でもない風にマニューラは言う。だが、その顔には薄らと痛みによる脂汗が滲んでいた。
――僕のせいだ!
手を煩わせた上に、怪我までさせてしまった。最悪の足手纏いだとロゼリアは益々自分を責める。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 僕が、僕みたいな足手纏いが――!」
「だー、うるせえ! どうってことねーつってんだろ!」
マニューラはそう叫んでロゼリアの言葉を遮ると、自分の傷口に息を吹き掛けて凍らせ、強引に止血した。
「ったく、一々一々うじうじうじうじするんじゃねーよ!
オメーはあのネズミ共と戦いと野望に満ちた、危機一杯の楽しい旅に今まで生き残ってきたんだろが。
少しゃ自信もったらどーだってんだ」
「で、でもそれは僕の力では無く――」
「本当のグズ野郎だったら、そんなクソッタレな旅から逃げずに食い付いていける根性はねえ。
怖ぇ相手にテメーから立ち向かう姿勢を一瞬だけでも見せる気概さえねえ。
このオレ様が買ってんだ、誰にも文句は言わせねえ。勿論オメーにもな」
はっとしてロゼリアは弱音を飲み込む。蹴り付けられるような乱暴な言葉だったが、心は大きく揺さ振られた。
「ふん。とにかく、今は生き残ることを考えねーとな。今、オレ達ゃ割とピンチって奴なんだぜ。
あのウスノロ共は目も頭も悪いが、鼻と耳だけはいいんだ。
血の臭いを嗅ぎつけてオレを狙ってくる。お前の匂いもオレ達の仲間と思って狙われるだろうな、弱ぇーし下手すりゃ真っ先に」
イノムーの群れは弱った個体を狙ってニューラ達の包囲網を突破しようと、
毛並みを逆立てて一斉にマニューラ達に向かってきていた。
更に加えて、右腕はロゼリアを抱え、左腕は怪我を負い、最大の攻撃手段をマニューラは失っている。
「ぞくぞくするなぁ。こんなヤバいのは久しぶりだぜ。どうすっかねえ、ヒャハハ」
そんな危機にありながら、マニューラは楽しむように笑った。
逃げる気も負ける気も微塵も無いんだ、とロゼリアは悟る。
怪我をした左腕を無理に使ってでもマニューラは戦おうとするだろう。
そんなことをすれば傷口が開き、もっと広がってしまうかもしれない。
「僕が戦います」
「はあ? 確かにオメーにゃ初めは後で適当にウリムーの相手でもさせようと思っていたがよ。
いくらなんでもまだイノムーの群れの相手なんて無理だぜ。何をする暇もなく潰されされちまうのがオチだ」
「なら、あなたの右腕の代わりとしてでも戦わせてください」
必死にロゼリアは食い下がった。今度は僕がマニューラさんを助ける番だ。
助けられるしかできなかった自分を変えるんだ、と。
「右腕、ね。へっ、いらねーよ。左腕だけでウスノロなんざどうにかしてやるから心配すんな」
「左腕は使っちゃダメです! そんな凍らせただけじゃあ、またすぐに傷が開いてしまいます。
後で僕がしっかり診ますから、今だけは……お願いします!」
ロゼリアは抱えられた体勢ながらもぐっと顔を見上げ、まっすぐにマニューラの目を見つめた。
「……わかった。思い通りにさせてやるよ。せいぜい振り落とされたりすんなよな。失敗しても恨むなよ」
「はい!」
ロゼリアは針をしっかりと伸ばし、ふらつかぬよう気合いを入れて構える。
「……正直なとこ、ちょっと助かった」
そっとマニューラは呟いた。
「え?」
「何でもねーよ、行くぞ!」
マニューラはロゼリアをしっかりと掴んでイノムーの群れに振り向いた。
GJ!
乙、ニューラ編は台詞回しがカッコいいな
146 :
名無しさん、君に決めた!:2009/09/22(火) 07:04:39 ID:HBO9tRZb
今日進路相談がありました。
俺はワンピースという漫画が大好きで、将来は海賊になりたいと思っています。
しかし、親や担任には食っていけるのはほんの一握りで、世間体も良くないと反対され、担任に至っては取り合ってくれませんでした。
確かに一流になるには生半可な努力じゃダメだと思っています。
でもそれはルフィやシャンクスやゴールドロジャーだって同じではないでしょうか?
俺はただの海賊ではなく、ゆくゆくは海賊王になりたいと考えています。
皆さんはどうしたらいいと思いますか?
よろしくお願いします。
不思議のダンジョンで採用されたら嬉しすぎて泣く。 で、
>>146はあきらめて働け。
明日明後日にでも続き書くよ
イノムー達は牙を突き出し数列になって並走し、ウリムーはその隙間を埋めるようにしてがっちりと密集している。
雪を豪快に巻き上げ迫る様はまさに茶色の怒濤。近づけば近づく程に、絶望的な迫力に圧倒されてしまいそうになる。
そんな威圧感にあてられながらまったく怖気付くことなく、マニューラは疾風さながらに空気を切り裂き駆けた。
ロゼリアは恐れに背けそうになる顔をしかと真正面に向け、
顔に鋭く当たる極寒の風に閉じそうになる眼をぐっと堪えて開き続けた。
失敗は考えない。僕とマニューラさんの二匹ならどんな状況でも絶対に負けない。
そう自分に言い聞かせると心は冷静に静まり、と同時に仄かに不思議な熱い感情が込み上げた。
そして遂に訪れた激突の直前。
「任せる。オメーなりにできることを、やれるとこまでやるんだな」
「頑張ります!」
マニューラは雪を蹴って勢いよく跳躍し、イノムーの密集陣形に僅かに空いた隙間に向かって飛び込む。
ロゼリアは目が回りそうになるのを耐えながら、すれ違いざまにイノムーの一頭へと針を横薙ぎに振りぬいた。
十分な勢いがついた強烈な一撃。確かな手応えをロゼリアは感じる――が、
斬撃は途中で剛毛に阻まれて止まり、そのまま食い込んで折れてしまった。
「チッ――!」
マニューラは崩れかけた体勢を整えて着地し、
間髪置かずに飛び上がって二列目のイノムーの頭を蹴りつけ、最後列の三列目を飛び越えた。
――なんて分厚さなんだ!
ロゼリアは根元近くから折れた自分の針を見つめる。
「やっぱオレの爪のようにはいかねーかぁ」
「すみません……」
ロゼリアにとって、自分が出しえる最高の一撃のはずだった。
やはり右腕代わりになるなど思い上がりだったのだろうか。いや、まだそんな風に諦めるには早すぎる!
イノムーの群れは周りのニューラ達に追い込まれてUターンし、再びマニューラ達に向かってきている。折れた針を花から捨て去り、ロゼリアは新しい針を思い切り飛び出させた。
「必ず僕でも倒せる方法はあるはずです」
強気に構え直すロゼリアを見て、マニューラはくす、と微笑んだ。
「おーおー、頼もしいぜ。なら一つ言ってやる。あのウスノロのバカみてーに厚い毛皮をオメーの細っちい針で、
オレの鉤爪みてーに切り裂くのは諦めなー。だから、無理しねーでオメーなりにできることをやれ。
先が細く鋭いからこそやれること。おりこーなロゼちゃんなら、すぐ分かるだろう? ヒャハ」
GJ!
乙
明日明後日にでも続き書くよ
はい、とロゼリアは明瞭な返事を返す。そして確認するように自らのか細い毒針に再度目を向けた。
人間のおとぎ話に出てくる竜退治の騎士が持つような、誰もが憧れる立派な伝説の剣みたいに、
豪快に力強く真っ二つに切り伏せるような真似は確かにできないかもしれない。だけど――。
ロゼリアは視線をそっと切っ先へと滑らせる。
切れ味の鋭さは劣っても、先の鋭さは勝てずとも負けないはず。
それならばやることは一つ。やれる事をやれる所まで、貫き通す。
針先の向こうに見えるイノムーの姿が、ぐんぐん近づいて大きくなっていく。
ただ一つの事を達するために一杯になったロゼリアの頭に、怯えや迷いが入り込む余地は無い。
二度目の激突、同じようにマニューラはひらりと飛び上がった。
そして今度は群れの隙間ではなく、イノムーの頭上すれすれへと舞い上がる。
――今だ!
ロゼリアは腕を思い切りイノムーに向かって突き出す。
ただ一つへの覚悟と信念は、ただの毒針だったものを強烈な技へと――毒突きへと昇華させた。
極細の刺突は剛毛の鎧を悠々と掻い潜り、鋭い一撃を直に突き立てる。
苦悶の咆哮を上げ、イノムーは大きく仰け反った。ほぼ反射的にロゼリアは突き立ったままの針を花から撃ち出す。
更に深々と抉ると同時に、自分を掴むマニューラの動きを阻害しないようにしての行動だった。
やるじゃねーか、とマニューラは感心して笑い、イノムーの頭上からすんなりと離脱する。
その直後、仰け反ったイノムーに後続が次々と追突し、その陣形が大きく崩れた。
パニックに駆られたイノムー達は集団を忘れ、散り散りに逃げ惑いだす。
「待たせたなテメーら! 鬼ごっこの大詰めだ、派手にやろーぜ!」
マニューラの合図にニューラ達は歓声を上げ、ぎらりと目の色を変えた。
「レッツ、ハンティング! ヒャハー!」
マニかっけー
明日か明後日にでも続き書くぜ
ニューラ達は四、五匹になってイノムーの一頭一頭に一斉に飛び掛かって群がっていく。
イノムー達は振り落とそうと暴れるが、抵抗も虚しくあっという間に数の暴力に呑まれていった。
ロゼリアはぼうっとして、ニューラ達の狩りの光景をどこか別世界の出来事のように遠く見つめた。
頭の中では先程の手応えと感触を何度も思い起こし、反芻している。
あんな大きなイノムーに通用する一撃が放てたなんて、今でもあまり実感できないでいた。
「赤点ぎりぎりってとこだな。ま、チビにしちゃーよくやったよ」
そう言って、マニューラは汗に湿る額を拭い、ふう、と一息ついた。
「あ、ありがとうございます」
何とも歯切れの悪い思いをしながらも、これがマニューラにとって
精一杯の褒め言葉なのだろうとロゼリアは理解しておくことにした。
どうにかあの絶望的な状況を切り抜け、マニューラさんの助けになることが出来たんだ。
ロゼリアにもうっすらと自身が芽生えようとしていた。
そんな時、
「マニューラ! わりぃ、そいつ止めてくれ!」
ニューラの一匹が焦るような叫び声を上げる。
マニューラ達がそちらへ目をやると、一頭のイノムーが岩を巻き上げ、止めようとするニューラを蹴散らしながら向ってきていた。
よく見ればイノムー額の辺りには毒針が深々と突き刺さっている。そしてその全身はうっすらと淡い光に包まれていた。
ロゼリアは大きく目を見張る。忘れるはずもない、自分が突き刺したイノムーだった。
仕留めきれなかったこと以上にロゼリアを驚かせたのは、イノムー包む見覚えがある光の粒達。
――あれは、進化の光だ!
「あーあー……追試だな。時々いるんだよ、追い込まれて目覚める奴が。あんな状態じゃそれ程長くは持たねーけど」
マニューラはロゼリアの体をそっと放す。
「あれが最後だ、もう群れに踏み潰される心配はねーだろ。オメーは後ろで好きにしてな。
オレが直々に文句無しの合格点ってやつを見せてやるぜ、ヒャハハ!」
GJ!
マニュはやっぱりかっけー
ゃば!(≧ε≦)
またナカダシしちゃたワラワラ(^з^)-☆Chu!!
まぃっか!ワラワラ(≧ε≦)
締め付けすぎだしワラワラ(^з^)-☆Chu!!
疲れたワラワラ(≧ε≦)
少し休みたぃ(^з^)-☆Chu!!
明日明後日にでも続き書くよ
余裕ぶった態度でマニューラは軽口を叩き、陽気に笑ってロゼリアに背を向けた。
だが、ロゼリアは不安でたまらなかった。一匹で十分だとマニューラさんは言ったけれど、
裏を返せばもう僕に構っている余裕など無いということではないのか、と。
じわり、とマニューラの左腕から滴る雫。薄く赤みが混じり、
無理矢理凍らせていた傷口が開きかけているのがロゼリアにもわかる。
だが、引き止めようとしても、後ろ姿から滲み伝わってくるがらりと変わったマニューラの雰囲気が、
ロゼリアの声を凍えるように縮こまらせて喉の奥へと押し込んでしまう。
それは狩りへの出発前、自分に絡んでくるニューラを止めてくれた時に一瞬だけ感じたものと似ていた。
もしも声を掛けてマニューラが振り返った時、一体どんな表情をしているのか考えただけで、
ロゼリアは怖じ気が走りそうになる。それ程の研ぎ澄まされた鋭く冷たい凄みだった。
纏わり付いていた光はイノムーを覆いつくし、その大きさをどんどんと膨張していく。
一際強く輝いて光が収まると、イノムーは今までの二倍近い体躯をもつ巨獣――マンムーへと変貌していた。
更に猛々しく成長した二本牙を振り上げ、マンムーは地を揺るがすような吠え声を上げる。
毛並みの下からあらわになった眼を血走らせ、己の変化に戸惑うことなくマンムーは憤怒に身をまかせ突き進んだ。
右の鉤爪を伸ばし、マニューラは勢いよく飛び出す。
何か援護をしなければマニューラさんが危ない、と思っても追い付けず、
気が急くばかりでロゼリアは何もできない。
強くなれた気でいたが、結局それはマニューラ頼りのものだった。
一匹だけではまだろくに手助けもできない半人前という事実にロゼリアは気付いてしまう。
しかし、ロゼリアの心配など殆ど杞憂に過ぎなかった。
直後、マンムーから上がる悲鳴のような唸り声。そしてマニューラの高笑いと、ニューラ達の歓声。
GJ!
明日か明後日にでも続き書くぜ
マンムーの体には鋭い氷の刃が何本も刺さり、ロゼリアが見る間にも次々とその本数が増していく。
マニューラは手元に氷の礫を瞬時に作り出しては、音もなく目にも留まらぬ速さで投げ放ち、
マンムーの毛並みが比較的薄い部分を的確に狙って突き立てていった。
そのあまりの早業に、ロゼリアの目にはマニューラの右手元が一瞬煌めく度、
礫がマンムーの体へと瞬間移動してきているように映った。
ロゼリアの足が自然と止まる。そしてマニューラの曲芸めいた技と、力強くしなやかな一挙一動にただただ見惚れた。
自分の助けなんて最初から必要ない、むしろ邪魔になるだけだと、無意識が悟っていた。
激しく身に突き立ち続ける礫にマンムーは堪らず悲鳴を上げ、思わず体を捩るように動かす。
瞬間、無防備に晒された脇腹に、狙い澄ましていたかのように黒い一閃が駆け抜けた。
すれ違い様の速度の乗った鉤爪の豪快な横薙ぎは毛皮を易々と引き裂き、深々と抉る。
もはや声を上げる間もなく、マンムーの巨体は崩れるように轟音と共に倒れた。
倒れた音を確認し、マニューラは満足気に鉤爪を引っ込める。
ニューラ達は一際沸き立ち、マニューラを讃える歓呼の声が飛び交った。
『文句なしの合格点』をまざまざと見せ付けられ、ロゼリアは唖然としていた。
自分よりずっと大きい相手を一刀で斬り伏せる、おとぎ話の中だけだと思っていた存在が今、目の前にいた。
――すごい、僕なんかとは比べものにならない!
心から感服し、ロゼリアもニューラ達と一緒になって歓声を上げようとしたその時――
ふらりとマニューラはその場に倒れこんだ。
「ま、マニューラさん!?」
ピカチュウは死んだ
否、断じて否っ!覇王は死なずっ!!
マニューラさん無茶しやがって…
明日明後日にでも続き書く
血相を変えてロゼリアはマニューラに駆け寄る。ニューラ達の上げていた歓声も、一気に騒然としたどよめきへと変わった。
見事なまでの戦いぶりに忘れかけていたが、マニューラは手負いなのだ。とっくに限界がきていてもおかしくはない。
「大丈夫ですか、しっかりしてください!」
焦りに震えながらロゼリアは声をかけ、倒れているマニューラを見た。
その右半身はじっとりと朱に染まり、両の目は閉ざされている。
ロゼリアの顔は益々青ざめ、頭は真っ白になった。事態の重さに押し潰されそうだった。
憧れだった存在が、自分のせいで無きものになってしまう。
そんな事になれば、ロゼリアの小さい心は耐えられそうもない。
絶対に助けなければとロゼリアは決起し、震えをぐっと堪えて、まずは息を確認しようと顔を寄せる。
と、その時、不意にマニューラの目がぱちりと開く。
「……何やってんだ、オメー?」
そして、そう怪訝そうな声を上げ、くっつきそうな程に迫っているロゼリアの顔をじろりと睨んだ。
へ? と素っ頓狂な声を上げ、ロゼリアは思わず固まる。
マニューラは顔をしかめ、ロゼリアの額を爪でぱちんと弾いて自分の上から退かした。
そして、ゆっくり起き上がって座り、ふうっと大きく息を吐く。
周りのニューラ達も、拍子抜けしたように安堵の声を上げた。
「あー、さすがに今日はちょっとハードだったなー……。挙句に寝込みに何かされそーになるしよ」
気だるくマニューラは呟き、不機嫌そうにロゼリアを睨んだ。
ニューラ達も口々にブーイングし、それを囃し立てる。
「ご、誤解です! 僕はただ息を確認しようと思っただけで」
顔色をぐるぐると変え、ロゼリアは慌てふためきながら弁明する。
マニューラはその様子を見て軽く吹き出し、冗談だよ、と笑った。ニューラ達もそれに続く。
ロゼリアはほっと息をつく――暇もなく、
「それよりもその体! 起き上がって大丈夫なんですか!?」
半ば叫ぶように尋ねた。
マニューラは首を傾げ、自分の体に付いた赤黒い染みを見る。そして、また軽く笑った。
「ああ、これか。バーカ、これはオレのじゃねーよ。左腕をちょっと切っただけなのに、体の右側がこんなに染まりゃしねー」
あ、と再びロゼリアから調子の外れた声が上がった。
「ま、左側もこんなにベトベトになっちまわねー内に、早く帰って腕の傷は何とかしねーとな。
――よし、テメーら、撤収だ! お土産は忘れんなよ、ヒャハハ」
そう言って、ふらふらと立ち上がろうとするマニューラを、すぐにニューラ達が数匹駆け付けてきて担ぎ上げる。
肩を貸すことさえできない自分に、ロゼリアはひどく無力感を覚えた。
「帰ったらオメーが診るんだろ? 精々頼んだぜ、名医さんよ」
マニューラは立ち尽くしているロゼリアに、肩越しに声をかける。
「は、はい!」
慌てて顔を上げ、ロゼリアはそれに答えた。
GJ!
明日か明後日にでも続き書くぜ
「う、くっ……」
洞窟の一室に漏れ響くマニューラの苦しげな息。
「我慢してください、すぐに良くなりますから。ほら、動かないで」
宥めるようにロゼリアは優しく囁く。マニューラは歯を噛み締め、うっすらと滲む目で睨むように見つめながら耐えた。
そうして続ける内、ひたひたと這わせる手にロゼリアはつい力を込めてしまう。
同時に、「ひゃ!」とマニューラから短い悲鳴が上がった。
「あー、もう! しみるんだよ、ヘタクソ!」
マニューラはもう辛抱堪らないといった様子で、ロゼリアを突き飛ばす。
べちゃり、と傷薬の染みた綿が地面で音を立て、ロゼリアはしたたかに尻餅をついた。
マニューラはニューラ達に肩を貸されながらも無事に巣穴へ帰り着き、自室にてロゼリアの治療を受けていた。
部屋の外、階下からはニューラ達が一足先に狩りの成功を祝い、宴会のように騒ぐ声が聞こえてくる。
「いたた……もう少しで塗り終わるんですから耐えてくださいよー」
腰をさすりながらロゼリアは立ち上がり、落ちた綿を拾い上げる。
「ったく、ご大層に『僕が診る』何て言いやがるから、それはそれはスバラシー手当てをしてくれるのかと思いきや、
馬鹿みてーにしみるクソッタレ傷薬を塗ったくるだけたーな。とんだヤブ野郎だぜ!」
「それ以外に道具も施設もないんだから仕方ないじゃないですか。ほら、腕出して」
ロゼリアは新しい綿を取り出して傷薬を浸し、マニューラに差し出す。
マニューラは自分の方に慌てて腕を引っ込め、子供のようにそっぽを向いた。
「もう嫌だ! 大体傷なんて、ちょっと舐めてからたくさん飯食ってぐっすりと寝てりゃ治るんだよ」
「ダメです。舐めておくだけで治るような規模じゃないでしょう。さあ!」
ロゼリアは綿を片手にじりじりと詰め寄り、マニューラはじわじわと後退した。
そしてとうとう壁ぎわに追い詰めたところで、ロゼリアはマニューラへ飛びかかる。
「ヒャ、ヒャーン! やめやがれー!」
「ちょ、暴れたら傷口が開きます! おとなしくして下さいー!」
ばたばたと絡み合うように暴れる二匹。
「何やってんの、アンタ達……」
不意に掛かる冷ややかな声。二匹は動きを止めてそちらへ振り向くと、
軽蔑するような視線を向けたメスのニューラが部屋の入り口に立っていた。
「おー、良いところに来た。助けてくれよ、ひでーんだぜコイツ」
わざとらしく泣き付くマニューラに、『はあ』とニューラはため息をついた。
「アンタも大変ね」
独り言のようにメスニューラはロゼリアに言う。それは極そっけない言い方とはいえ、ロゼリアをひどく驚かせた。
今までロゼリアが話し掛けようとしてもずっと無視を決め込んでいたニューラの一匹が、
自分の方から仲間に接するように声を掛けてきたのだ。
「あ、は、はい」
思いもよらぬ事に、ロゼリアはたどたどしくなって返事をする。
「ふ、ふん。ま、ちょっとは感謝してる。アンタにじゃなくて、アンタが持ってた傷薬にだけど」
メスニューラはばつが悪そうに鼻を鳴らして、言った。
「あ、ありがとうございます……」
そんなロゼリアとメスニューラのやり取りを、マニューラはにやにやとして黙って眺めていた。
メスニューラは視線に気付き、一層決まりが悪そうに顔をしかめる。
「さ、あたしと無駄話している暇があったら、早くドジリーダーにたっぷりと傷薬を擦り込んであげてくれない?」
「な、てめー! 裏切りやがったな!」
ニューラの言葉に慌てた様子でマニューラが叫ぶ。いい気味だと、くすくすとニューラは笑った。
「そうですねー。ニューラさんからも、マニューラさんに男らしく我慢するように言ってください」
ロゼリアも面白おかしげに言った。
「え?“男らしく”?」
ニューラは不思議そうに首を傾げる。え、とロゼリアもつられて同じように首を傾げた。
「あー、そっか。気付いてないんだ。ま、こんな性格と振る舞いだし、多種族じゃ余計に区別なんてできないわね」
ニューラは横目でマニューラを見ながら言う。
「別に隠しているって程でも事でも無いんだけれど、マニューラは――」
そして、ロゼリアにそっと耳打ちした。
「え? えええええー!?」
伝えられた事実に、ロゼリアは天地が引っ繰り返ったような衝撃に襲われ、
堪らず上げた絶叫のごとき驚きの声が洞窟全体を揺らしそうな程に響き渡る。
けっ、と舌打ち、マニューラはばさばさとたてがみを撫でた。
GJ!
多種族じゃなくて他種族じゃね?
>>175 ごめん、その通りだorz
×多種族
〇他種族
乙、ドンはマニュがメスだって気付いてたよな?
バレタイの小ネタで気づいてたな
明日明後日にでも続き書くよ
「大袈裟なんだよバカ」
気恥ずかしげにマニューラは、騒ぐロゼリアの頭をゴンと小突いて黙らせる。
いたっ! とたまらずロゼリアは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「すみません、つい……」
頭を抱えるようにさすりながらロゼリアは謝る。
「それにしても――」
ロゼリアはまじまじとマニューラを見つめ、呟く。
言われてみれば確かに、顔立ちも整い、体付きもどことなくそれっぽいような気がした。
時折感じた妙な艶めかしさも、おかしな趣味――思い出したくもないイワヤマトンネルの化物のような――
に目覚めてしまったわけではなかったと納得し、ロゼリアは安堵する。
「……何だよ」
穴が開きそうなほど見つめてくるロゼリアに、マニューラは不機嫌そうに顔を近付け睨み返した。
「え――ああ! ご、ごめんなさい、すみません!」
ロゼリアはハッと我に返り、顔を真っ赤にしてどぎまぎと平謝りをしながら逃げるように離れていった。
ふう、と面倒臭そうにマニューラはため息をつく。
「ま、そいつの言ったとおり、そーいうことだ。だが、そーだとしてもオレはオレ。今までと何も変わっちゃいねー。
これからも余計な気遣いはいらねーぞ。しやがったらぶん殴るからな」
「は、はい! 分かりました!」
背筋をしゃんと伸ばし、ロゼリアは答える。
「……じゃあ、腕の手当ての続きだ。仕方ねーからしみるのは我慢してやるよ」
そう言って、マニューラはぶっきらぼうに腕を突きだした。
「は、はい……その、あの、失礼します」
ロゼリアは恥ずかしそうにしてどこか躊躇いがちにマニューラへ手を伸ばす。
既に何かぎこちないじゃねーか、とマニューラはロゼリアを小突いた。
一連の様子を見ていて、とうとう堪え切れなくなったのか、ニューラは吹き出すように笑った。
「予想以上に良い反応だったわ。思ってたより面白い奴じゃん、あんた」
「は、はあ、どうも」
どうにも反応に困ったが、恐らく褒め言葉なのだろうと解釈してロゼリアは礼を言う。
「ふふん。ま、あたしはもうあんたの邪魔をする気はなくなったって言っておくわ。特に手伝うつもりもないけど。
ただ、一部の馬鹿はまだ拘ってるみたいだから、せいぜい気を付けなさいな」
GJ!
乙、マニュがメスだってすっかり忘れてたわ。
仲間内では姐御呼ばわりされないのかな?
本人が姐御呼ばわり嫌がってるって感じじゃね?
明日か明後日にでも続き書くぜ
メスのニューラは石盗りのニューラの事を告げているのだと、ロゼリアはすぐにピンと来る。
――あいつ、まだ懲りていないんだ!
信じられないという思いと、怒りにロゼリアは肩を震わせる。
自身の弱さや、企みを見破れなかった軽率さにも責任はある事は分かっている。それでもロゼリアは許せなかった。
あいつは僕だけじゃなく、結果的にマニューラさんまで巻き込んだんだ。
石盗りは再び隙を見て何か仕掛けてくるだろう。
そこでまたいいようにやられているようでは、マニューラは再び自分を庇って危険な目にあうかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。マニューラの事情を知った以上、尚更もう不様な姿を見せたり迷惑をかけたりしたくない。
事が起こる前にこちらから先手を打たなければ。誰の力も借りず、自分の手だけで。ロゼリアは考えをめぐらせる。
「どーしたわけ? 疲れたんなら、代わったげるけど」
難しい顔をして手を鈍らせているロゼリアに、メスニューラは少し怪訝そうに声をかけた。
そうだ、このニューラさんとはちゃんと和解できたじゃないか。ロゼリアはメスニューラを見やり、思う。
それならあの石盗りとでも誠意をもってしっかりと話し合えば、争うことなく解決できるかもしれない。
あいつのやったことは許せないけれど、だからといって憎んだままじゃ同じ事の繰り返しになる。
「すみません、ニューラさん後はお願いします。僕はちょっと用事ができました」
ロゼリアはすくっと立ち上がり、メスニューラに綿を手渡す。
まずはこちらから歩み寄ってみよう。ロゼリアは決心し、部屋を飛び出した。
「なあに、あれ?」
メスニューラは首を傾げ、マニューラと顔を見合わせる。
「さーな。くだらねーこと考えてなきゃいいが」
明日明後日にでも続き書く
188 :
名無しさん、君に決めた!:2009/11/09(月) 01:01:13 ID:iQH+gFI8
age
長い螺旋状のスロープを駆け降りながら、ロゼリアは吹き抜けから下の様子を窺った。
騒がしい階下の広間ではニューラ達が氷でできた大きな長テーブルを囲い、
これまた氷製の皿に盛り付けられた食べ物と、どこぞからくすねてきた酒をがっついている。
この中にあの石を盗ったニューラもいるはずだ。ロゼリアは途中で足を止め、少し上の方から広間を見渡してその姿を探す。
性別はオス。片方だけ赤い耳の長さで容易く判別できる。そして、他のニューラ達と比べても、
より意地悪そうな目付きと顔付きをしていたような気がする――。
しかし、ロゼリアが幾らその特徴を頭の中で思い返そうとも、
こうもニューラ達が沢山集まっている状況では、砂糖の中に紛れた塩の一粒を見つけるようなもの。
早々簡単に見つけられるはずもなく、ずっと探し続けている内に、螺旋通路をぐるぐる降りてきた事も相まってか、
ロゼリアは何だか目までくらくらと回りそうになってくる。
これでは埒が明かないと、ロゼリアは広間に降りて直接ニューラ達に居場所を聞き込んで回ることにした。
まともに取り合ってくれないかもしれないけれど、ここで躊躇しているようでは石盗りの奴と話をするなんて尚更できっこない。
「あの、少しお聞きしたいことが……」
勇気を出して、ロゼリアはテーブルの隅にいる手近な一匹に声をかけた。
「あん?」
酒に酔った様子のニューラは上機嫌そうに声の方へ振り向く。
どうしたんだよ、と傍にいた数匹のニューラも声に気付き、ヘラヘラと笑い合いながらそちらへと目を向けた。
だが、声の主がロゼリアだとわかった途端、ニューラ達から笑みは消える。
そして顔を見合わせ、ロゼリアそっちのけで何やらひそひそと言葉を交わし始めた。
やっぱりダメか……。
ロゼリアは少し落胆し、諦めて次に行こうとする。
その目の前に、不意に差し出される黒い手とその上の木の実。びっくりしてロゼリアは手の元を見上げる。
「……オメーの分さ。さっさと受け取れ」
複雑そうな表情をしてそう言うと、ニューラはロゼリアに木の実を押しつけるように渡した。
「そこそこ頑張ってたそうじゃないか。あの大物に深々と刺さってた毒針、お前のだろ?」
呆気にとられているロゼリアに、別の一匹がそれとなくといった風に言う。
共に危険な狩りを乗り越えたことで、
ロゼリアの存在は大部分のニューラ達にほんの少しだけ受け入れられつつあるようだった。
「……お前も少しくらい飲めるんだろ? ちょっとよってかねえか」
「おう、狩りの話をきかせろよぉ」
「マニューラの腕の心地とか特に詳しくなぁ、へへへ」
一匹分入れそうな隙間を自分達の間に空け、ニューラ達はテーブルへロゼリアを陽気に誘う。
「は、はい!」
感激してロゼリアは思わず大声で答えた。
何だ、みんなちゃんと接してみれば良い方達ばかりじゃないか。
これならすぐに打ち解けられそうだ。そんな風に思いながらロゼリアが席についた矢先、
テーブルを思い切り叩く大きな音が広間に響き渡った。
びくり、としてロゼリアは音の方へ目をやる。ニューラ達もしんと静まり返ってそちらを見た。
視線の集まる先には、怒りに顔を歪めている石盗りの姿があった。
石盗りは他のニューラ達を睨み回した後、ロゼリアに“来い”と手で合図して、無言で席を離れて広間を出ていく。
ほしゅ
明日か明後日にでも続き書くぜ
ロゼリアに友好的だったニューラ達の空気も途端によそよそしく冷たいものに一変していた。
偶々視線が重なっただけでぎょっとした様子で目を逸らされ、
誘ってくれたニューラ達も少しすまなそうにしながらもそそくさと傍を離れて違う席へと移っていく。
やるせなさと同時に申し訳ない気持ちになりながら、そっとロゼリアは席を立った。
やはりあのニューラをどうにかしない限り、他のニューラ達にも溶け込むことはできそうにない。
こうなったら自分の何がそこまで気に入らないのかじっくり問い詰めてやろう。
嫌な思いはしたが向こうから二匹だけになる機会を与えられ、
当初の目的を達するにはむしろ好都合だとロゼリアは考えることにした。
ニューラ達は離れていくロゼリアの背を横目で見送りながら心配そうに小声を交わす。
やばそうだぞ。でもとばっちりを食うのはごめんだ。一応マニューラに伝えた方がいいんじゃあないか。なら俺が行ってくる。
話し合うと、一匹が上へと駆けていった。
・
ニューラは無言で振り返りもせず通路の先を歩いていき、ロゼリアも黙ってその後に続いた。
やがて誰もいない一室に入ると、その中央辺りで歩みを止める。
ロゼリアはごくりと唾を飲み、息と言葉を整えて備えた。
「よくものこのことあの場にツラ出せたもんだな」
ロゼリアが口を開く前に、ニューラは背を向けたまま言い放つ。
「仲間として狩りに出た以上、僕にも宴に加わる権利はあると思いますが」
負けじとロゼリアは毅然と言い返した。
かっとなった様子でニューラは勢いよく振り替える。
「あの時、俺はすぐ後ろの方にいたから知ってんだっつーの。
マニューラが怪我したのはテメーなんかをかばいに行ったせいだってな!」
今にも掴み掛かりそうな剣幕で吐き付けられる怒声。
「マニューラさんの件は僕も心の底から悔やんでいます……。
しかし、僕だって途中あんな風に細工をされていなければ、
道に迷ってイノムーの群れの前に飛び出すような羽目にはならなかったでしょう」
それを跳ね返すようにまっすぐにニューラの目を見ながらロゼリアは言う。
「俺が何かしたとでも言いたいのかっつの? 知らねーな。勝手にテメェが指示を読み間違えたんだろう」
「指示を読み間違えるとは? 僕は足跡が不自然に消えていたことを言うつもりだったのですが」
ニューラは余計な口を滑らせたことに気付き、はっとした表情を浮かべる。
「……どうやら両方あなたの仕業で間違いなさそうですね」
その一瞬を見逃さず、矢継ぎ早にロゼリアは続けた。
「……チッ、だがそうだとしても、どうするんだっつーの。テメェみてぇなヘナチョコに何ができるんだ」
しかしニューラは悪怯れることなくすぐに居直り、ロゼリアを今にも殴りかかりそうな様相で睨み返してくる。
やっぱり話し合いだけで解決できるような相手ではないのだろうか。ロゼリアは顔を強張らせる。
「聞かせてください。あなたは僕の何がそんなに気に入らないのですか?」
それでもめげずにロゼリアは尋ねた。手元はいつ飛び掛かられてもすぐ対応できるよう、悟られぬ程度の長さに毒針を構えている。
「弱ェくせにいつまでもぐちぐちうぜぇんだっつの。何でテメェみたいなのが四天王なんだ……!」
GJ!
乙
明日明後日にでも続き書くよ
「それは……」
ロゼリアは言葉を詰まらせる。ニューラの言葉が思わぬ程深く突き刺さっていた。
組織の四天王に名乗り出たのはほんの軽い気持ちだった。
尊大なピカチュウと勝ち気なミミロル。組織というにはあまりに頼りない規模と顔触れだ。
最初の内、ごっこ遊び程度のもので収まるだろうと当時スボミーだったロゼリアは思っていた。
まさかそれが、地方を股に掛ける大きな本当の組織に成長していくなんて誰が想像できようか。
頼りなかった顔触れにも、ドンカラスやマニューラを筆頭にどんどんと実力ある強力な面々が加わった。
自分よりも余程四天王に相応しいであろう逸材も多くいる事はロゼリアもわかっていた。
キュウコンの言葉や、目の前で見せ付けられたマニューラの強さに深く思い知らされた。
だからこそ名に恥じぬよう努力しようとしているのだ。それなのに――。
「さっきまでの威勢はどうしたんだっつーの。やっぱお前みたいなヘナチョコにゃ似合わねーよなぁ」
そう言うと、ニューラはどこかから光の石を取り出す。
「これを俺から取り返すことすらできやしねえもんな。なあ、やめちまえよ。てめーより俺のがまだ相応しいっつの」
そしてロゼリアへ掴み掛かろうと、片手を伸ばした。
「――馬鹿にするなぁ!」
――こんな奴に、これ以上足を引っ張られてたまるもんか!
心底頭にきて、思わずロゼリアはニューラの手を振り払い、構えていた毒針を伸ばして突きかかった。
思わぬ反撃にニューラは一瞬度胆を抜かれる。だが、すぐに体をそらし、脇腹に少しかすっただけに留めた。
「ッ――てめえ!」
舌を打ってニューラは、ぜえぜえと肩で息をするロゼリアを思い切り壁ぎわへ蹴り飛ばす。
「冗談じゃすまさねえぞ。悪いのは先にマジになって仕掛けてきたてめえだからな……」
ニューラの目の色は、獲物を狙うハンターのそれにぎらりと変わっていた。
二本の鉤爪を勢いよく飛び出させ、じわじわとニューラは壁ぎわで膝をつくロゼリアに詰め寄っていく。
GJ!
明日か明後日にでも続き書く
イノムーの分厚い毛皮にも通るあの爪で本気で引き裂かれれば、ロゼリアのか細い体など一溜まりもない。
このままじゃまずいと、ロゼリアは体にぐっと力を込める。
固そうな壁に叩きつけられた筈なのに不思議と殆ど手傷を負ってはいないようだった。
蹴られた場所はさすがにじんじんと痛むけれど、我慢できない程ではない。
――まだ戦える。
針を地に突き立てて起き上がり、ロゼリアは応戦の構えを取った。
ニューラは低く唸り声を上げながら、向けられた針先を凝視する。
口先では馬鹿にしきっていても、野性的な本能が針が持つ毒に危険を告げ易々と踏み込めないでいた。
塵の一つさえ見逃さぬ程に凝らした目は、針先がほんの僅かに動くのを逃さず捉える。
即座に放たれた、本来であれば避けがたい程の鋭利な刺突。
しかし、何か仕掛けてくることを先読みしていたニューラは難なく見切っていなした。と同時に反撃を振るう。
刃がその身にかかるすれすれの所で、ロゼリアは咄嗟に伸ばしたもう片方の針で爪を受けた。
「うう――ッ!」
それでも大きな体格差のある一撃は止めきれる筈もなく、
針はみしりと悲鳴を上げ、ロゼリアは再び体ごと大きく後方に飛ばされる。
――実力以前に、身体の出来からして違いすぎる。やっぱり僕のやり方じゃ勝てないのか……?
どうにかうまく着地しながらも、その心は折れかけていた。
すぐにでもまたニューラは向かってきそうだ。ロゼリアを睨んで舌なめずりしながら、爪を研ぎ合わせている。
苦し紛れにロゼリアは葉を何枚もカッターのようにして投げ放った。
ニューラはまたしても素早くかわしていき、避けきれなかった分には凍える息を吹き掛けて容易く萎れさせてしまった。
葉の途切れざまにニューラは一気にロゼリアへ駆け寄り、右手で首根っ子を掴んで地に押さえ付けた。
そしてゆっくりと左手を上げ、爪をロゼリアに見せ付けるようにかざす。
絶体絶命。ロゼリアにはニューラの爪が、本で知った人間が死刑に使う断頭台の残忍な刃に被って見えた。
まさに刃が下ろされようとしたその時――
「何だか楽しそーだな、お前ら。オレも混ぜてくれよ、ヒャハハ」
聞き覚えのある声が部屋の入り口から響く。
びくり、としてニューラは動きを止めて声の方を見る。
「どーした、オレに見られたくないことでもしてたのか? まあ! てめーらったらいけない人ッ! クク」
「マ、マニューラ……!」
案の定、そこにはマニューラが立っていた。飄々とした様子でマニューラは二匹に歩み寄っていく。
ニューラの目からハンターの気迫は一瞬で消え失せ、叱られた飼い猫のような怯えきったものへと変わる。
慌ててニューラはロゼリアから離れた。その拍子に、きらきらした何かがこつんと地に転げる。
「んー、なんだこりゃ?」
興味深そうにマニューラはそれ――光の石を拾い上げた。ぎくりしてニューラは身が震えだす。
「へー、こりゃ綺麗な石だ。何だお前ら、これ賭けて決闘でもしてたのか?」
ぶんぶん、とニューラは首を縦に振るう。そしてちらとロゼリアを横目で睨んだ。
へー、ほー、とどこかわざとらしく大げさに言いながら、マニューラは石とニューラ達を交互に見やる。
そして出し抜けにニューラを殴り飛ばし、呆気に取られるロゼリアの額をぴんと爪で軽く弾いて転ばせた。
「ヒャハ、オレの勝ち。というわけで今日からこの石はオレのものだな」
勝ち誇った様子でマニューラは光の石を掲げる。
「うぐぐ……ひでえ、こんなことしなくても後でお前にやるつもりだったんだっつの……」
殴られた頬を痛そうに押さえながらふらふらと起き上がり、ニューラは言った。
「ヒャハ、欲しいものは自分の力で取ってこそ価値があるんだよ」
「なんだそりゃ……」
ニューラはがっくりと肩を落とす。
まだ茫然としているロゼリアを、マニューラは試すように見つめた。
「なーんか、まだ諦めきれないって顔に見えるな。だが、オメーじゃオレに一生かかっても勝てそうにねーし……」
そーだ、とマニューラは手を打つ。そしてすごすご部屋を出ていこうとするニューラの腕を掴んで引き寄せた。
「こいつとまた決闘して勝てたらこの石はくれてやるよ」
は、はぁ!? 意味がわからないと言った風に二匹は思わず声を上げる。
「やっぱこんな石ニヤニヤ眺めてるより、テメーらが戦うの見た方が楽しそうだからよ」
「こんな奴、今すぐにでものしてやるっつの」
そう言って飛び掛かろうとするニューラをマニューラはガツンと殴る。ニューラは頭を抱えてうずくまった。
「勘違いすんな、今すぐじゃねー。日時はその内いつか、オレの気が向いたら決める。
その間、互いに手出しは一切無用! 破った奴は群れから即追放だ。そいつにいつでも見張らせておくからな」
マニューラはそう言って何の変哲もない岩壁の一ヶ所を指差す。
二匹が怪訝に思っていると、突然壁の一部が紫色にどろりと溶け落ち、メタモンが姿を現わした。
驚く二匹を見て、メタモンはマニューラに変身し、ひゃはーと得意げに嘲笑う。
「そーいうわけで、おとなしく決闘の日が決まるまでうずうずと焦らしを味わってな、ヒャハハ」
GJ!メタモンwww
乙 ひゃはーw
マニューラに惚れそうです
明日か明後日にでも続き書くぜ
age
分かったよ、とニューラは諦めて呟く。しかし、その直後に何かに気付いたように「ん?」と首を小さく傾げた。
「……待てっつの。ちょっと考えたら、俺が勝っても何もメリットがないんじゃねえか。
石は元々お前にやるつもりのものだったしよ」
じろりと視線を向けるニューラに、マニューラは面倒臭そうに舌打ちする。
「ならオメーはどうしてほしいんだよ?」
言われて、ニューラは少し考える素振りを見せた。
「そのヘナチョコ野郎から四天王の座を剥奪だ。そしてマニューラ、お前が代わりにその座についてくれ」
マニューラは解せない顔をする。
「……どういうつもりだ?」
「お前を差し置いてこんなヘナチョコが四天王なんて前々から気に食わなかったんだっつの。お前だって納得いかねえだろ?」
ニューラは立ち尽くすロゼリアを指差して訴える。マニューラは呆れた表情を浮かべた。
「おいおい、別にオレは……」
「俺にさえ堂々と叩きのめされたと聞きゃ、ネズミやカラスの野郎もこいつがどんだけヘボか思い知るっつの。
かっこよく完勝決めてやるから見てろよ、マニューラ」
言うだけ言うと、ニューラはロゼリアに余裕の一瞥をくれてから、意気込んだ様子で部屋を出ていった。
メタモンは慌てて変身を解き、岩に同化しながらその後をこっそりつけていく。
マニューラは大きくため息を吐いた。
「変なことになっちまったなあ、おい」
ロゼリアに振り向き、マニューラはやれやれといった風に手をひらひらとさせる。
「は、はい」
ロゼリアは深刻げに頷いた。
「これでオメーは余計に負けられなくなったわけだ」
マニューラは再び大きなため息を吐く。
「……ちょっとついてきな」
マニューラはそれだけを言い残し、部屋を出ていく。ロゼリアは黙ってその後をついていった。
そうして着いた先――。震え上がるほどの冷気がロゼリアを迎える。
「オレのとっておきの場所だぜ。今日からここがオメーの遊び場さ、ヒャハ」
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
212 :
名無しさん、君に決めた!:2009/12/06(日) 02:21:05 ID:SXunogWQ
ペニス一郎「来週に続き書くよ」
マニューラは自慢の名所を披露するように片腕を広げ、ロゼリアに言った。
案内された巣穴の奥深くは、砕かれたような氷の塊達が乱雑に放置され、
地から天井まですっかり殺風景にごつごつと凍てついたその様子は、とても絶景とは言い難い状態だ。
氷という如何様にも美しくなりえる素材を持ちながら、その粗暴さが台無しにしているその有様は、
どこか誰かさんに似ているとロゼリアは思った。
「あまりに素敵な場所すぎて言葉も出ねーかよ? ついでに寝泊りもここでしてもらうからな」
「は、はあ……って、えええっ!」
ロゼリアは自分の耳が信じられず、思わず大声を上げた。
上層の部屋でもロゼリアにとっては寒いくらいだったのに、こんな氷の穴でとても寝れるはずがない。
「クク、声を上げるほど嬉しいか。何せオレが昔使っていた部屋だからなー」
懐かしげにマニューラは大きな氷塊の一つにそっと左手を触れる。
「オレもこの巣に来たばかりの頃はよく難癖つけられて絡まれたもんさ。その度に――」
そう言いながらマニューラは空いた手で不意に拳を握り、氷塊に思い切り打ち付けた。
岩のような氷塊は容易く割れ、破片がパラパラと辺りに飛び散る。
「こんな風にそいつをぶっ飛ばしてやったっけな。そしてまた別の奴に絡まれて、またぶっ飛ばして、
繰り返してる内に気付いたらいつのまにかリーダーだ、ヒャハハ」
手に纏う冷気を振るって払い、マニューラはロゼリアに笑い掛けた。
ロゼリアは色々な意味で震え上がる。本人は極めて簡単に明るく言っているが、
壮絶でバイオレンスな日々だったに違いないと想像できた。その中で、ふとロゼリアに疑問がわいた。
「あの、じゃあマニューラさんはここで生まれたわけではないんですか?」
恐る恐るロゼリアは尋ねる。
「あー……まーな。色々あったのさ」
余計なことを言ってしまったと、面倒臭そうに頬を掻きながらマニューラは答えた。
「とにかく、新参者は嫌でも目立つってことだ。口先だけじゃどうにもできねえ。
ここの奴らに心底認めさせるには力を見せ付けるしかねえんだ。分かったよな、ロゼちゃんよ?」
「わ、分かっています」
ロゼリアはがたがたと寒さに縮こまりながら頷く。マニューラは不安げに息を吐いた。
「……この程度の寒さでへばってるようじゃ奴の吐き出す冷気ですぐにダウンだ。
何が何でも慣れろ、死ぬ気で対処を編み出せ。オメーにもう後はねえ」
「そんな……」
無茶だ、ロゼリアは弱気に声を漏らした。
「言っておくが、またアイツに負けるようなら、たぶんもう庇いきれねえぞ。
オレにもニューラ達への顔向けってもんがある。オメーばかり贔屓はしてらんねーんだ。
……ま、その時にゃオレ自身も庇う気をなくしてるかもしれねーがな。見込み違いだったってよ。
じゃ、オレそろそろ行くわ。上でニューラ達も待ってるだろうしな。そーだ、これをあいつらに自慢しねーと」
そう言うとマニューラは光の石を取り出し、当て付けるように見せ付けながら部屋を出ていった。
突き付けられた辛い言葉と状況に、ロゼリアは独り震えながら目を熱く滲ませる。
――強くならなくちゃなんだ。もうこれ以上誰も頼れない。
ロゼリアは目を拭い、震えを無理矢理押し込め、体をぴんと伸ばして気張る。
――――――――――――
>>90へ続く
GJ!&乙!
明日か明後日にでも続き書く
乙!繋ぎお見事です
>>102から
━━━━━
マニューラ達が引くソリはテンガン山の北西を越え、
そろそろ遠目に鬱蒼と生い茂る森の木々が確認できるようになった。
ソリの上でロズレイドはじっと自分の手を見る。一輪だった薔薇の手は花束のようにボリュームが増し、
ロゼリアだった頃よりも随分と豪華で力強くなった。
「あー、もうダリぃや。後はテメーらに任せた」
そう言うとマニューラは綱を離してソリに飛び移り、ロズレイドの隣にどかりと座り込んで一息吐いた。
どきりとしてロズレイドは手に向けていた視線を上げ、横へと移す。
大人と子供程あったマニューラとの身長差も、今や殆ど変わらない。
見上げなくてもその横顔がすぐ近くにある。意識すると何だか妙な胸の高鳴りをロズレイドは感じた。
何やら袋を漁っていたマニューラも、その視線に気付く。
「なーにちらちら見てんだよ。まさかホレたか? ヒャハハ」
取り出したサイコソーダの缶を爪で器用に開けつつ、マニューラは冗談っぽく笑った。
「……そうです。ダメですか?」
精一杯の声を絞りだし、それでも呟くようになってロズレイドは言った。
マニューラは飲みかけていたソーダを盛大に口から吹き出す。
「キャッ、何!? ばっちいわね!」
運悪くその前にいたメスのニューラが悲鳴を上げて睨む。ぎょっとした様子で別のニューラ達も振り向いた。
「ごほっ、だって、何かこいつがよぉー……」
「い、いや、ほんの冗談ですから。あなた流に言えば、『ジョークだよ、びびったか?』って所ですか」
慌ててロズレイドは先程の言葉をかき消すように声を上げた。
「チッ、随分と生意気言うようになったじゃねーか。オメーには百万光年はえーよ」
口元を拭い、マニューラは肘でロズレイドをどんと突いた。
「そりゃそうよね。尻に敷かれるだけじゃすまないわ、きっと」
「カビゴンの下敷きになった方がマシだ、ギャハ」
げらげらとニューラ達は笑いだす。
「後で覚えとけよテメーら……」
マニューラは眉間と口端をぴくぴくと引きつらせて唸るように言った。
ほっと安心しながらも、どこか残念そうな複雑な顔をしてロズレイドはため息をついた。
・
薄暗い木々のアーチを抜け、奥にそびえ立つ洋館の前でソリはゆっくりと止まった。
「さーて、お家にご到着だぜロゼちゃんよ」
ひょい、とマニューラはソリから飛び降りて言う。すぐ後に続いてロズレイドも降り立ち、マニューラ達に振り向いた。
「皆さんわざわざ送っていただいて、何とお礼を言っていいか。本当にありがとうございました!」
深々とロズレイドは礼をする。
「へっ、何を勘違いしてんだよ。オメーを送ったのなんてほんのついでさ」
マニューラは不適に笑って言った。
え? とロズレイドは不振気に顔を上げる。
「今、糞カラス共はトバリの方にしばらく出張ってて、洋館にはあのぼんやりしたゴースト以外誰も居ねえだろ」
そんな話は聞いてはいたがそれがどうしたのだろうか、ロズレイドは首を傾げた。
「こんなチャンス逃すわけにはいかねー。なあ、テメーら」
ニューラ達もニヤリと笑みを浮かべる。
ますます首を傾げるロゼリアを置いて、マニューラは玄関へずかずかと歩んでいき、扉を乱暴に蹴り開けた。
「ヒャハー! かかれ、テメーら!」
おう! ニューラ達は呼応し、一斉に洋館へとなだれ込んでいく。
そして中から次々に食料の詰まった袋を運び出してはソリへと積み上げていった。
「ちょ、ちょっと! そんなことしたら――」
ようやくマニューラ達の企みを理解し、止めようとする。
「五体満足の上に進化までさせて帰してやったんだ。特別ボーナスってやつさ、ヒャハハ! オメーも、ほら!」
叫ぶロズレイドの口へ、マニューラは袋から取り出した木の実を一つ無理矢理押し込める。
もがもが言いながら思わずロズレイドはそれを飲み込んでしまった。
「美味しかったかー? これでオメーも共犯だ。黙っておいた方が身のためだぜ、ククク」
「そ、そんなー」
そうこうしている間に、ニューラ達はあっというまに限界まで積み荷を乗せ、落ちないようしっかりと縛り上げている。
「終わったぜ、マニューラ!」
ニューラの一匹が声をかける。
「よーし、引き上げだ!!」
マニューラはロズレイドから手を離し、ソリの縄を一本拾い上げた。
「それじゃーな。あばよ、ロゼ!」
そう肩越しに手を振ると、マニューラ達は行きとは比べ物にならないくらいのスピードでソリを引いて帰っていった。
――嵐のようだった……。
終始圧倒され、ロズレイドはしばし茫然としてその場にぺたりと座り込んでいた。
ふう、と息を吐き、ロズレイドは草のマントに付いた砂埃を払いつつゆっくりと起き上がる。
何だか感慨に浸る暇もなかったな。そんな風に思いながら、
ロズレイドは何となく道具袋を覗く。中にはニューラ達から貰った道具が沢山詰まっている。
――何だかんだで結構良い方達だった……かな。
ふふ、と静かに笑って袋を閉じようとした時、貰った覚えのない缶が目にとまる。
よく見ると、それは道中マニューラが飲んでいたサイコソーダの空き缶だった。
ああ、勝手に入れたんだな。まあいいや、代わりに捨てておこう。
水を差された気分になりながらロズレイドは空き缶を取り出す。
ふと、缶の底側を見ると、何か刻まれたような傷が付いていることに気が付く。
それは紛れもなくマニューラのサイン――
『いつか また 来い』
ロズレイドは空き缶をゆっくりと大事そうに道具袋の奥へと押し込んだ。
221 :
名無しさん、君に決めた!:2009/12/12(土) 10:55:01 ID:4npW3Va/
GJ!
ゴーストって洋館に住んでたっけ
GJ! そうだよな、このマニュなら惚れるよなw
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
乙、マニュはドンの嫁
話は、ロゼリア改めロズレイド帰還の少し前、幽霊騒動の直後まで遡る。
*****
夜のトバリシティ――
日が落ちてもなお賑わう街の背後に、巨大な遺跡のようにギンガトバリビルが佇んでいる。
かつてはステキファッションの連中で溢れていたここも、すっかり灯が消えて久しい。
その隣、今は使われていない倉庫の一角に、エレキブル達七武海のアジトがあった。
「ははぁ、古巣に戻ったようなもんでやんすか」
「まあな、いい思い出なんかこれっぽっちもねえが、勝手知ったる何とやらだ。
しばらくこっちに居るんなら、どの部屋でも好きに寝泊まりしてくれていいぜ」
遥々訪ねてきたドンカラスとエンペルトを、エレキブルが中へと案内する。
地下へ伸びる階段を下り、重い扉を開けると、ユンゲラーとドーミラーが二匹を出迎える。
「街に比べて随分静かポ……だな。ここにはもう、人間達は来ないのか?」
「ああ、ボスのアカギがテンガン山で消息を絶ってから、ほとんどの奴らが姿を消した。
残っているのはほんの数人だろう。人間という奴は、実に熱しやすく冷めやすいものだからな」
ユンゲラーは、そう言って肩をすくめてみせる。
「ところでドン、さっきから気になってんだが、そのホッカムリは何だってんだ?
新春かくし芸大会でドジョッチすくいでも踊ろうって魂胆か?」
「ばっ……馬鹿言うんじゃねえ! こ、こりゃあ、ちょっとしたファッションてやつで……」
「ね・ん・り・き〜」
ドーミラーが念を飛ばすとドンカラスの頭からブワッとスカーフが持ち上がり、
見事に刈られた金太郎カットがお披露目された。
「な、なんだそりゃ! 確かにすげえファッションだぜ!! ガハハハハ!!!」
「畜生! てめえ! またサーフボードになりてえのか?!」
「うふふふ〜、捕まえてごらんなさ〜い」
エレキブル達が腹を抱えてゲラゲラ笑い転げる中、剥き出しの地肌に青筋を立て、
ドンカラスは憤怒の形相でドーミラーを追い掛け回す。
「ククククク……一体どうしたのだ?」
「じ、実は……ぷぷっ」
エンペルトは、森の洋館で起こった幽霊騒動の顛末を(ただし、本物の幽霊の事は除いて)話した。
突如巻き起こった不可解な現象と電化製品の暴走。
その正体は、ゲンガー達に置いてけぼりにされ、長い時間一人ぼっちで待ち続けていたロトムと、
ひょんな事から彼を見つけたムウマージが結託した、少々度を過ぎたイタズラ。
始めは大笑いしていたエレキブル達も、その最中にやってきたトレーナーにロトムが捕まってしまい、
友達を失ったムウマージが酷く落ち込んでいると聞くに連れ、徐々に神妙な顔付きになる。
「そうか……そりゃあ辛えだろうな。マージも、そのロトムって奴もよ」
「そうなんだ。さすがに掛ける言葉も見つからないポチ……んだ」
「まあねえ、あっしもこんな頭にされた恨みもあるが、思えば可哀想な事をしたもんでさ」
追いかけっこに疲れ果て、ぐったりと隅の木箱に座りこんだドンカラスも、思わず溜息をつく。
「……なーに、ドン達がそんなに心配するこたねえさ」
おいしい水のボトルを差し出しながら、エレキブルは俯く二匹の背中をバン、と叩いた。
「捕まったっつっても死んだ訳じゃねえだろ? 生きてさえいりゃ、また逢えるかもしれねえ。
もっとも、ゴーストに生死があるのかどうかは分からねえがな。
ま、俺らが今こうやってこんな事言えんのも、ピカチュウ達のおかげだけどよ」
「だよね〜。あの頃は自由になる日がくるなんて思わなかったもんね」
「そうだな……時が経てば傷も癒える。どんな痛みも悲しみも、いずれは自分の糧となるものだ」
元々はギンガ団の手持ちであり、人間の身勝手によって多くの仲間を失った上、
自身も酷使の末に処分させられそうになっていた彼らである。
明るく言い放ってはいるが、その言葉には底知れぬ深い重みがあった。
思わず感慨深くなり、ドンカラスとエンペルトはただ黙然とボトルの水を啜る。
「……できりゃあ……こんなしんみりした時にゃ、もっと別の水分が欲しいところでやすが……」
「まあ待ちな。もうちょっとすりゃ、見回りに行ってるドクロッグが戻ってくるからよ。
奴の事だ、デパートの裏手から上等な酒の一本や二本はくすねてくるに違いねえ」
「じょ、上等の?! ホントでやんすか?! クアアア! クチバシが濡れてくるぜえ!」
普段は安酒に甘んじているドンカラスが感慨もふっ飛ばして舞い上がるのを尻目に、
『生きてさえいれば、また逢える……か』
ポッタイシの気の強い、だが、どこか寂しげな眼差しを思い出しながら……
エンペルトはその言葉を胸に刻み付けていた。
GJ!
そういえば帽子のてっぺんを芝刈り機に剃り上げられたんだっけかw
明日明後日にでも続き書くぜ
>>229 芝刈り機じゃなくて扇風機だったと思う。
まあ、刈られた事には変わりないがw
開け放たれたままの玄関をくぐり、後ろ手に扉を閉めるとロズレイドは久方ぶりの洋館を見回す。
踏み込む度に朽ちかけた床板は耳障りにぎいぎいと鳴き、所々が擦り切れ汚れ果てたカーペットは埃を吹き、
カビや染みで斑に化粧した内装達は何一つ変わらず、相変わらずの薄気味悪さで迎えてくれた。
ひどいな、とロズレイドは苦笑しながらもどこか不思議と心に安堵感が湧いていた。
仲間達の行方や、今後の身の振り方等色々と考えなければならないことは有るが、
何はともあれとりあえずは二階の書庫で荷物の整理をして落ち着こう。
そう決め、ロズレイドは階段へ足を向けると、
「だーれ?」
どこからともなく間延びした声が響いた。
ヒヤリとしたものを感じロズレイドが歩を止めた直後、目の前に突然紫色の霧のようなものが渦巻き、
一瞬でとんがり帽子の魔法使いのような姿をしたゴースト――ムウマージが現われる。
「ここはピカチュウとドン達のアジトなんだよー。そーしき……まちがえた、そしきのなかまか、
マージのともだちいがいのコは、はいっちゃダーメ!」
ムウマージはぐっと胸を張るようにして堂々と言った。
その姿を見て、ふっ、とロズレイドはため息をつくように笑う。
「やだなあ、マージさん。僕ですよ、分かりませんか?」
ムウマージは怪訝そうに首を傾げ、ロズレイドの周りを少し遠巻きにぐるりと回って観察し始めた。
そして、むー、と唸ると、得た情報を整理するように再度首を傾げる。
「もしかして……ロゼリア?」
どこか不安げに言うムウマージに、ロズレイドは微笑んで頷いた。
「進化した今はロズレイド、ですがね」
なーんだ、と途端にムウマージは退屈そうにする。
「ちぇ、あたらしいともだちが、またきたとおもったのになー」
「はは、ご期待に沿えずすみません。元気にしていましたか? 一匹だけで留守番なんてえらいですね」
みんな居ないけど、どうやら元気そうで良かった。ホッとしてロズレイドは言う。
だが、ムウマージは急に少しふてくされたように頬を膨らませた。
「いっぴきじゃないもーん!」
ぷい、と顔を背けてムウマージは二階の奥へとふよふよ飛んでいく。
――どうも機嫌が悪いみたいだ。何か怒らせることを言ったかな。
それに、新しい友達と、一匹じゃないってどういう意味だろうか。
ロズレイドは確かめて謝ろうと階段を上がりムウマージの後を追った。
そして奥の廊下に差し掛かかった辺りで、不意に背のマント状に伸びた葉っぱに何か引っ掛かったような感触が伝わる。
くいくい、くいくいと続けてその感触は伝わった。これは引っ掛かったわけではなく、
何者かが明確にマントを掴んで引っ張っているようだ。
「なんだ、やめてくださ――」
反射的にムウマージの仕業だろうと思い、ロズレイドは気楽に振り向く。
しかし、そこにいたのはムウマージではなく、5から7歳くらいの人間の女の子だった。
驚きのあまり、声すら上げずにロズレイドは硬直する。
次々と疑問と焦りが浮かんで頭の中がぐるぐると回っていた。
女の子は生気の無い青白い顔ににこりと笑みを浮かべる。
――新しい友達って。一人じゃないって……!
その意味と、ドンカラス達が洋館を空けてトバリに言った理由。ロズレイドはすべてを今、理解した。
「う、うわあああああああッ! ……――」
GJ!
明日か明後日にでも続き書く
・
微風に揺れる木の葉だけが囁きあう穏やかな昼下がりのハクタイの森。その中にひっそりと佇む洋館前にて。
「んんー……やっと着いたぁー」
静寂を一寸破り、大きく伸びをする影が一つ。
長い鋼鉄島からの船旅を終えてフローゼル達と別れた後、チャーレムもまたすぐに新たな修業の旅に向かった。
既にくたくたのミミロップは、チャーレムの首が痛くなりそうな程見上げた向上心に一応は感心しつつ、
半ば呆れながら一匹で洋館へと帰ってきたのだった。
「ただいま!」
扉を勢い良く押し開け、大きな声でミミロップは帰宅を告げる。
しかし、いくら待っても返事はなく、誰も迎えに出てくる気配は無い。
洋館の状況を知らない彼女は訝しがりながらも、
もう一度「た・だ・い・ま!」とより声を強調し張り上げる。だが、それでもやはり反応はない。
みんなどこかに出掛けているのだろうかとミミロップが諦めかけた時、一階の食堂から微かな物音が聞こえた。
誰かいるんじゃない。私の声が聞こえないはずが無いのに、まったく無視するなんてどういう了見なのよ。
ミミロップは少し腹立たしくなって、文句の一つでも言ってやろうと食堂へ向かった。
入り口をくぐると、すぐに彼女は物音を立てた犯人を探し食堂内部を見渡した。
そして長テーブルに並んだ席の一つに、力なくだらりと座る見知らぬ姿を見つける。
「だ、誰、あなた……新顔? 元気無さそうだけど大丈夫?」
恐る恐るミミロップは、白いバラのような髪型をしたポケモンらしき何者かに声をかけた。
少しの間を置いて、声に気付いた様子のポケモンはゆっくりと顔を上げ、ミミロップの方を見た。
舞踏会に貴族が付ける仮面に似た目元を覆う草のマスクから覗くその目は、虚ろでどこか焦点が定まっていない。
ぞっと背筋に寒気が走り、ミミロップは思わず離れる。
「おや……ミミロップさんじゃないですかぁ……おかえりなさい」
弱々しく今にも擦れそうな声でポケモンは呟くように言った。
「まさか、ロゼちゃん……なの?」
姿は変わり果てているが、その声色と口調にミミロップはロゼリアの面影を見いだす。
「はぁい、その通り……今はロズレイドって言いますが、
今まで通りロゼちゃんで良いですよ……ここの友達のみなさんにもそう呼ばれてますしぃ……エヘヘェ」
やつれた薄ら笑いを浮かべ、ロズレイドは答えた。
「そ、そう……進化したのね。一応おめでと。ところでそのみんなはどこに行ったの?」
様子のおかしい不気味なロズレイドの態度に少し怯えながらも、
ミミロップは何があったのかを確かめようと仲間の居所を尋ねた。
「やだなぁ、あなたの周りにも沢山いるじゃあないですか」
ロズレイドは不思議そうに首を傾げて言う。ミミロップは驚いて周りを見てみるが当然誰の姿も見えない。
「何も居ないけど……やっぱり何か変よ、あんた」
「うーん、見えないなんて変ですねぇ……じゃあ、あなたにも見えるようにして差し上げましょう……」
糸人形のような不自然な動きで、ゆっくりとロズレイドは立ち上がった。
どんどん気持ち悪くなってきて、ミミロップは後ずさってロズレイドから距離を置く。
「そ、それ以上近づいたら本気で怒るから!」
構えを取りながら威嚇するミミロップもお構いなしに、ロズレイドはふらふらと歩み寄ってくる。
「いい加減にしなさいッ!」
もはや我慢の限界と、とうとうミミロップは強烈なキックをロズレイドに見舞う。
蹴られた勢いでロズレイドは食堂の壁に強かに頭部をぶつけ、そのまま蹲るように倒れた。
「あ……だ、大丈夫!?」
さすがにやり過ぎたかもしれないと心配になり、ミミロップはロズレイドへと駆け寄った。
「うう、なんだか頭が痛い。僕は一体何を……?」
呻きながらロズレイドは頭をさすりつつ体を起こす。
「あ、あれ、ミミロップさん。いつお帰りになったんですか?」
どうやら正気に戻った様子のロズレイドに、ミミロップはほっと安堵の息をつく。
「ついさっき。私が居ない間、何があったわけ?」
「そ、そうだ! 大変なんです――」
ロズレイドは今この洋館が置かれている状況をミミロップに話す。
「なる程……。幽霊なんてどーも信じられないけど、さっきのあんたの様子見たら信じるしかないか。
とりあえずマージちゃんを探しましょ。付き合う友達はもっと選ぶべきだってちゃんと教えてあげなきゃね」
ほしゅ
明日明後日にでも続き書くぜ
そういやビッパはどうしてるんだっけ?
ロトム騒ぎで既に逃げ出した?
乙、ビッパはドンに紹介する仲間でも探してるんじゃない?
死ね
「ええ。ではどこから探してみましょうか」
尋ねるロズレイドをよそに、ミミロップはそっと壁に片手をつき深く目を閉じて集中する。
「こっちよ」
それだけ言って、ミミロップは壁を手探りしつつ二階の方へと歩いていった。
何をやっているのかと不思議に思いながらロズレイドは後を追い掛けていく。
壁伝いにミミロップは二階の廊下をどんどん進んでいき、ある一室の前でぴたりと足を止めた。
「この部屋だ」
ミミロップは確信を持って扉を押し開ける。
そこはかつて人間が住んでいた頃、寝室として使われていたらしき部屋で、
今もドンカラス達により来客を泊めるゲストルームとしてもっぱら利用されている。
最後に洗われたのがいつか分からないような薄茶ばんだシーツの敷かれたベッドと、
年季の入ったタンス等が備え付けられている部屋の中で、
壁に掛けられている不気味な肖像画が何よりも目を引いた。
しかし、肝心なムウマージの姿はどこにも見当たらない。
「居ないようですけど……」
「隠れているだけよ」
そう言って、ミミロップは奥の肖像画を見やると、描かれている黒い顔の赤い目がぎくりとして一瞬揺れた。
ふふん、とミミロップは笑い、肖像画の前に行く。
「出てきなさい。かくれんぼはおしまい」
両手を腰にやり、ミミロップが声をかけると、
「むー、ばれちゃったー。ミミロップにはかなわないなー」
観念した様子で絵が喋り、中からムウマージが姿を現した。
「なんと。どうして分かったんですか?」
驚くロズレイドに、ミミロップは得意げに微笑む。
「波導を感じ取ったの。きびしー修行の成果ってやつね。ま、その話は後にして、それよりも今はマージちゃん」
「んー?」
こっそり部屋を出ていこうとするムウマージを呼び止め、ミミロップは幽霊のことを話す。
「みんな怖がるし、イタズラされて困っているの。だから新しい友達には悪いけれど、
帰ってくれるようにマージちゃんから言ってくれないかなぁ。
ドン達がずっと帰ってこなかったらマージちゃんも嫌でしょ、ね?」
ミミロップはムウマージの目を見ながら諭すように言った。
「むー……わかったー」
GJ!
明日か明後日にでも続き書くよ
しょげた様子でムウマージは返事をする。
思っていたよりも素直に引き下がってくれたようで良かったとミミロップはホッとする反面、
洋館に一匹きりにされてムウマージも寂しい思いをしていたのだろうと少し罪悪感を感じた。
「ごめんね、マージちゃん」
謝るミミロップに、きょとんとしてムウマージは不思議そうに首をかしげた。
「わるいのはマージでしょー?」
ううん、とミミロップは首を横に振るう。
「いいの。相談もしないで飛び出して行って悪かったわ。ドン達もドン達よ。マージちゃんを置いてけぼりにしちゃってさ。
お化けくらいなんぼのもんじゃいって、どんと構えてる甲斐性も無いなんて情けないったら!」
「”ドン”だけに、ですか」
茶々を入れるロズレイドをミミロップはじろりと睨む。
「いや、すみません、つい。マニューラさん達との長いキッサキ暮らしが少々口の方に響いているようで」
「……ま、とにかく! これからは私と、ちょっと頼りないけどロゼちゃんもまた一緒だからね」
「うん」
幾らか心が晴れた様子で笑みを浮かべてムウマージは頷く。
「じゃあ、みんなとバイバイしてくるね」
それから少し名残惜しそうにしながらもムウマージは部屋を出て行った。
「もう大丈夫そうね」
後ろ姿を見届け終え、ミミロップはやれやれとベッドに腰を下ろした。
「さて、これからどうします? すぐにでも支度はできますよ」
壁に寄り掛かり、ロズレイドは答えを分かりきっているといった顔でミミロップに聞く。
「どうするって、私は洋館でしばらくゆっくりするつもり。あー、岩場以外の所で寝られるってさいこー」
ごろりとベッドに寝そべり、ミミロップは気の抜けた声で答えた。
予想外の返答にロズレイドは心底意外そうな顔をする。
「何その顔。言いたい事でもあるわけ?」
「いえ、てっきりすぐにでもピカチュウさんを追いに行くと言うのだと思っていたものですから」
なーんだそんなこと、とミミロップはなんてことはないように笑う。
「無理に追うのはもうやめたの。意固地になっちゃってまた喧嘩になるのは分かりきってるから。
一匹で行ったのはきっと何か事情があってのことだろうし、元気になったアブソルちゃんと一緒にちゃんと帰ってくるって信じて待ってる。
私達が今出来るのはピカチュウが帰って来た時、怒ったり責めたりしないで笑顔で迎えてあげられるようにするだけよ」
「そうですか。はてさて、いつまで我慢していられることやら。言いだしっぺが一番笑顔を守れるのか怪しい所がなんとも」
嫌味っぽく言いつつも、いつもピカチュウの事となればすぐに熱くなって飛び出していったミミロップが、
しばらく会わない内に随分と変わったものだとロズレイドは心の中で感心した。
「うっさいわねー」
「僕は下で新たな年を祝うささやかな宴の準備でもしてきましょう。
お熱くピカチュウさんを迎えるにもしっかり英気を養っておきませんとね」
投げつけられた枕をひょいと避け、ロズレイドは笑いながら逃げていった。
ほしゅ
あけおめ
明日明後日にでも続き書く
「ふう……」
誰もいなくなった部屋で一匹、ミミロップは静かに物思いにふける。
ピカチュウを信じるとは言い切ったものの、その安否が心配なことには変わりは無い。
危ない目にあっていなければいいけれど――。
ミミロップはそっと手を組み、いるかどうかもわからない神に無事を祈った。
※
――最悪の状況だ。
巻き藁の如く次々と切り倒されていく柱の瓦礫と、背後から放たれているであろう
目に見えず音にも聞こえない刃の隙間を、俺は死に物狂いで掻い潜りながら走っていた。
どうしてこうなった。死ぬ間際の走馬灯のように思い返される、窮地に陥るまでの過程。
サクラビスを蔓で縛り上げた後、暴れ様に悪戦苦闘しながらもどうにか手綱と
鞭代わりの加減した電気でもって乗りこなし、追っ手の魚達を俺はどうにか振り切った。
神殿までの良い移動手段が確保出来たと気を良くしたのも束の間、
サクラビスは徐々に速度と高度を落としていき、やがて幾ら鞭を振るおうとも泳がなくなってしまう。
もう胸ビレを少し動かすことさえやっと、といった様子だ。
これ以上は無駄と判断し、苦々しく思いながらも俺はサクラビスの背を降りた。
そのまま乗り捨てていけば良かったものを、疲弊しきった姿に敵ながら哀れさを感じ、
せめて嘴に巻きついている蔓だけは外していってやろうと思い立つ。
『いらぬ情けは身を滅ぼす』
その時のギラティナの苦言を素直に聞いておくべきだったと、今になって深く後悔している。
轡を取り去った途端、どこに余力を隠し持っていたのか
耳をつんざく凄まじい大声がサクラビスの口から飛び出す。
黙らせろ、とギラティナが言うより早く、精根尽き果てた
サクラビスは腹を上に向けて力無くぷかりと浮いた。
しん、と不気味な静寂が辺りを包む。体に残る力の全てを捧げ、
何かを呼び寄せているような断末魔の叫び声だった。
『今すぐその場を離れよ。出来うるだけ遠く、全力でだ』
今までに無い焦りが垣間見える声色でギラティナは俺の頭の中に指示を飛ばす。
――だが、もう間に合わなかった。
突如として、空間を揺さぶるような巨獣の咆哮によく似た轟音が神殿の方から響き渡った。
直後、何か巨大な物体が神殿を飛び立つ。物体は翼のようなものを大きく広げ、
明確にこちらの方を目指して向かってきていた。
大気が、空間そのものがびりびりと震える。俺の体も毛を逆立たせて震え上がっていた。
乳白色に輝くあの姿は、この距離からでも感じ取れる全身から漲る強大な力は、
忘れられようはずが無い。
テンガン山の山頂、槍の柱に現れた白竜。空間を司る、神の一柱――パルキア。
『神殿にたどり着く前に奴に見つかるとは何たる失態だ……!
魂無き神体のみとはいえ、無事に逃れることすら容易ではないぞ』
保守
/`!
/ヽ. ,′
/ l/
/ /
,し' ´ ̄ ̄ >-――‐- 、
/ / \
j、_ ` T ――一 '´
/} _。 、__ l
r―‐ヽ、 }` ァ r‐ 、 /_ ,ヘ
| \¨´ 、__ノ └ 〉
| / | ´ /
レ'´{ ; イ 、
| |
\ ___ .ノ
r'´ _} {_ `ヽ
 ̄  ̄´
明日か明後日にでも続き書くぜ
低く唸るギラティナの声にはっきりと焦燥が感じ取れた。
奴はアルセウスの忠実な臣下のはず。どうしてこそこそと逃れる必要があろうか。
浮かんだ疑問をギラティナに問いかける間もなく巨体は目の前へと降り立ち、
その衝撃で津波のように巻き上がった砂が俺に覆い被さっていた。
咳き込みながら砂から這い出て、立ち塞がっているパルキアを見上げる。
俺の姿をしっかりと確認すれば襲う事はないはずだ。
我が目的は奴の主であるアルセウスを助けること。
言わば味方なのだから。だが、俺を見下ろす奴の眼光は、
縄張りを汚された野獣のような荒々しい敵意に満ちて赤く爛々と燃え滾っていた。
――魂の無い神体は理性無き獣と同じ。
出発前に聞かされていたギラティナの話が頭を過ぎる。
『そやつの目の前で一瞬も立ち止まるな!』
ギラティナが叫ぶ。大きく掲げられたパルキアの前足が、
今にもこちらへ振り下ろされようとしていた。
咄嗟に横へと転げ、鋭い爪の生えた巨大な手を寸前で避ける。その瞬間、
つい先程まで俺が立っていた砂地に、尖ったもので撫で付けたような細い直線の跡がついた。
何だ、あんなに力強く振り下ろした割りにはまったく肩透かしの威力ではないか。
魂の無い神体というのは、案外大した力を持っていないのかもしれない。見くびる俺を尻目に、
音も無く見えないカッターナイフが滑っていくかのように砂地の跡はまっすぐ伸びていっていた。
俺がパルキアの攻撃の真の恐ろしさに気づかされたのは、
見えないカッターナイフが偶々進路上にあった柱を竹を割るかのごとく軽々と縦に真っ二つにし、
その残骸が地に倒れた音を耳にして振り返った時だった。
俺は声を失い、半ば呆然として、初めからくっ付いていなかったように綺麗な柱の切り口を見つめた。
まったく理解を超えた力だ。衝撃波だとか風の刃だとか、そんなちゃちなものでは断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗だった。
『空間の繋がりを断つ。音にも目にも捉えらず、どんなに優れた盾も意味を成さん。まさに究極の刃よ。
まったくもって粗暴で野蛮なやり口だ。神体にも持ち主の心根が染み付くといえよう』
忌々しくギラティナは言う。
『奴が爪を振るってから空間が完全に裂けるまでは、ほんの一寸の間がある。
……お前の頭には煮え立つ湯に浮く泡のごとく、次々と疑問と疑念が沸いていることであろう。
だが、今は走れ。余計なことは考えず冷静に、私の指示通りにだ』
乙
携帯の2ch全体規制不便だなー
早く解除されんもんか
明日明後日にでも続き書く
・
『鈍間め、右だ』
足は疲れで痺れ、耳が捉える音は己の荒い吐息に支配される中で、ギラティナの喝だけは
容赦なく明瞭に頭に突き刺さってくる。俺は半ば反射的に体を右に舵取り、崩れ落ちてくる
瓦礫を避けた。体を乗っ取られて操られているような気分だ。もう足を動かしているのは本当に
自分なのかすら分からない。
初めは霞んで見えるほどだった神殿との距離も、途方もなく巨大な輪郭がはっきりと
分かるぐらいにまで近づいてきた。僅かな救いが生まれるその一方で、少し視線を下に
ずらせば土台になっている高台が絶望的に切り立った高い崖として行く手を阻んで
いることもまた思い知らされる。
『左に跳べ』
思考を中断し、急いで飛びのく。が、少し遅れて刃に掠ったか、平たい尾先の中央が
少し欠けて消え飛んだ。
「うぐッ!?」
荒れた息を押しのけて思わず声が漏れる。着地が乱れて手足が縺れそうになりながらも、
何とか持ち直した。幸い切り口は肉にまでは達してはいないようで痛みは無い。欠け方に
少々問題はあるが……今は気にしている場合ではない。あの神殿に到る方法を考えねば。
とはいえ、あんなに反り返った崖をよじ登っていくなど到底不可能だ。自在に空を飛ぶ相手から
逃げ切れるわけが無い。
――どうすればいい!? 心の中で叫ぶようにギラティナに訴える。
『確かに見事なねずみ返しよな。だが、その立派な反りのお陰で麓には巨大な影が広がっておろう。
あの忌まわしく煌めく白色の図体をすっぽりと黒く包めそうなほどに大きな影だ』
明日か明後日にでも続き書くよ
日陰に足を踏み入れると、一瞬水面のように広がっている影がさざめいた。
直後、黒く濃い染みが手や足からどろどろと伝り登って全身に行き渡っていく。
これで姿は隠されたはずだが。俺は後ろを振り返る。
パルキアは急に敵の姿を見失い、少し困惑した様子で立ち止まった。
どうにか奴の目にも通じたようだ。安堵しかけたのも束の間、
パルキアは唸り声を上げてその両肩に埋め込まれている宝石のような器官から
まばゆい光を放つ。清浄で潔癖な光は日陰を瞬時に照らし、
俺の体を包んでいた影もごっそりと体から剥がれ落ちた。
隠れていた獲物の姿を見つけ、パルキアは大きく咆哮を上げる。
よくも手こずらせてくれたなと言いたげに目を血走らせ、
これからどう甚振ってやろうかと楽しみにしているような足取りで
ゆっくりとこちらに向かってくる。
いくら逃げようと思っても、疲労か絶望か、あるいはその両方によって
最早足は竦むばかりで言うことを聞かない。ここまでかと諦めかけた俺の目に、
ちらりと腕輪の姿が映る。
……立ち向かうか。例え悪あがきでも、何もしないでやられるよりはいい。
心を一度構えてしまえば不思議と先程まで破裂しそうに鳴っていた鼓動も、
荒れ果てた息も少しはましになった気がした。
最後にどう抵抗してやろうか。多少冷静さが戻った頭であれこれと考える内、
ギラティナから受け取った剣の幽霊の事をようやく思い出す。
出し渋らせられていたが、今こそあれを使うべきところなのではないのか。
『早まるでない。もっとこちらへと引き付けよ』
この期に及んで、一体何を企んでいる?
焦燥に駆られる間にもパルキアは着実に迫ってきている。
流石に自分の居城の土台を傷つけるのは良しとしないのか空間の切断を
放ってこないのは幸いだが、直接引っ掻くことが出来る距離に来られては何の意味も無い。
俺はじりじりと後ずさっていくが、すぐに背が岩壁に突き当たった。
再びパルキアは吼え、爪を振り上げ一気に日陰へと踏み込んでくる。
『投げ放て』
ギラティナが言うと、腕輪からするりと一筋の影が蛇のように抜け出し、手中で剣の形となった。
俺は裂帛の気合と共に思い切り力を込めて剣をパルキアに投げつける。
パルキアは片手で弾き落とそうとするが寸前で剣は紐がほどけるように分かれ、
何本もの黒い触手となってその四肢を鋭く貫いた。
コピペミスったorz
※
>>260の前の部分
――――
ギラティナの言ったとおり確かに高台の下には色濃い日陰が出来ている。
無事にたどり着くことが出来ればハンテールの眼を欺いたときのように、
影が俺を包み隠してくれることだろう。
魚風情は兎も角、神の目にまで通用するのだろうか。些かの不安はあるが、
俺の体力にも限界が来ている。うまくいくよう神にでも祈るしかあるまい。
頭に偉そうに指示を飛ばす方にはしっかりと護ってくれるように、
後ろから迫ってきている方にはうっかりと見逃してくれるように。
明日明後日ぐらいに続き書く
大地が割れそうな程の絶叫を上げ、乳白色の巨躯が苦痛に身悶える。
その間にも剣だった影は鋭い先端で、西洋甲冑を髣髴とさせる外殻の隙間を狙い刺し、
手足から体に向かって縫い進んで行った。幾らもがこうとも侵攻は止まらず、
抵抗も鈍っていき、じわじわと身体の自由は奪われているようだ。
パルキアは低く唸りながら、憤怒と憎悪の目をこちらに向ける。
身体を蝕まれる痛み以上に、虫けら以下と思っていたであろう相手の反撃を受け、
更に屈しかけていることが、何よりの屈辱であり苦痛であるようだった。
最後の抵抗とばかりにパルキアは喉を振り絞り、呼応して両肩の宝石が淡く瞬く。
またあの光を放つつもりか。用心して俺は身構える。
だが、その瞬間を見計らっていたかのように影は甲殻の間から飛び出し、
宝石を瞬時に刺し貫いて潜り込んでいった。
びくん、とパルキアの体が一瞬大きく揺れる。途端に爛々としていた目の輝きは消えうせ、
巨体は糸が切れたようにその場に崩れた。
「これは、やったのか……?」
もうもうと砂が舞い上がる中、一匹呆然として誰にでもなく呟く。
いや、完全に動かなくなったのを確認するまで、とても安心など出来ない。
相手は神であり、元より完全無欠に近しい生命体として名高い竜でもあるのだから。
俺は砂埃が晴れるのをじっと注意深く見張る。砂の合間から見えるのは、
倒れたままの巨影。もっと傍でしっかり確認しようと、にじり寄るように近づいていく。
――なんだこれは。
近寄ってよく見て、思わず俺は後ずさった。パルキアの体にどろどろと脈打つ影が纏わりつき、
すっぽりと全身を覆っている。乳白色に煌びやかに輝いていた姿は一変し、
まるで黒い蛹のようなおぞましい姿と化していた。
一体何が起ころうとしているのだ。ギラティナに尋ねても、一向に返事は無い。
と、パルキアを覆っていた影が、一際大きく蠢いた。蠢きは収まらず、どんどん膨張していく。
それから内部から一筋の光が差したと思うと、あっという間にひび割れの形で広がっていった。
「ガギャアアアッ!」
中からの一鳴きで包んでいた影の殻は破れ、豪快に伸ばした白き翼が
こびり付く残りも全て脱ぎ捨て、掃い飛ばす。出てきたのは傷ひとつ無い、
何一つ変わっていないパルキアの姿だった。
全く通用していない、これでは足止めにすら……!
狼狽する俺を、パルキアは愉快そうに眺める。
「うろたえるでない。私だ」
響き渡るギラティナの声。それは頭に直接ではなく、パルキアの喉から発せられように聞こえた。
携帯規制解除ktkr
みんな乙
明日明後日にでも続き書くぜ
耳を疑いながらパルキアを窺う俺の顔は、ぽかんと間の抜けた表情になっていたことだろう。
彫刻のように滑らかな長い首の喉元が、極々僅かにくつくつと揺れた。
「如何に気取っていようとも、所詮は小さなネズミよの」
他の全てを見下したような語り口で紡ぎ出される声は、確かにギラティナのものに間違いなかった。
「一体何をした?」
すん、と鼻を鳴らし、引けていた腰をそっと戻して、俺は尋ねる。
「力の中枢を貫いたことで生じた意識の間隙へ影を通じて潜り込み、一時的に体を支配している」
「そんな真似ができるなら、何故もっと早くやらなかった」
最初から使っていれば、無様に逃げ回らせられる必要もなかっただろうに。 苛立ち、苦々しく俺は言った。
「一度しか使えぬ奥の手だ。確実に潜り込むためには、媒介として出来るだけ大きな影が必要であった。
……分断された私の力では、あまり長くは持たん。一刻も早く神殿へ向かう。来い」
ギラティナは早々に話を切り上げるようにして、手をこちらへ伸ばし、乗るように促す。
だが、俺はすぐには従わなかった。その鋭利な爪の並ぶ手を信用するには、あまりに疑念が大きくなっていた。
「ここはパルキアの領域なのだろう。襲われるであろう事も含め、どうしてそれを黙っていた?」
「まずは乗れ。行き掛けに話そう。切り札を使ってしまった今、
こやつが再び目覚めてしまえば終わりだ」
従わなければすぐにでも支配を解き放つ。ギラティナの言葉はそんな脅しを孕んでいるようにも聞こえる。
体の自由が利くようになれば、すぐにでもまたパルキアの神体は襲い掛かってくるだろう。
奥の手を隠していたと分かった以上、今までのような油断は一切なく、
俺一匹を消すには有り余る神の力を惜しみなく全力でだ。
対する俺は、長い間ろくに飲まず食わず休まずで走ってきたこの体で、背後に退路も無いこの状況で、
それを迎え撃たなければならなくなる。もしも限りなく低い可能性ではあるが、
一旦パルキアを退けることが出来たとして、凶暴な魚達が闊歩するこの危険で異様な領域から逃れ、
元の世界に無事帰る方法など見つけられるだろうか。
……どうやら、これからどんな命令をされようと従わざるをえない状況にまで、
俺は追い込まれてしまっているようだ。いや、それは最初から、
ギラティナの話に乗ってこの世界に送り込まれた時点で、もう俺は全身を縛られていたのだ。
その縛っているものが真綿だったせいで気づくのが遅れたが、じわじわと束縛は引き締められ、
気づいた頃には余計な身動きの出来る余裕はなくなっていた。
「何を躊躇している。早くせい」
急き立てられ、止むを得ず俺は砂地に降ろされた左の手の平に注意深く乗った。
ギラティナの操るパルキアの神体はゆっくりと左手を水平に持ち上げ、胸の前辺りに構える。
「こやつの力で道を切り開く。揺れに備えよ」
ギラティナの言葉に続いて、パルキアの神体は大きく咆哮を上げ、呼応して両肩の宝石が強く輝いた。
空間がびりびりと震え、揺れる。俺は甲殻の隙間に手をやり、しっかりとしがみ付いた。
神体は右手を勢いよく縦に振り下ろし、淡い桃色に輝く爪が空に同色の軌跡を残す。
光の軌跡はあっという間に裂けて広がり、神体が悠々と入り込めそうなほどの大きさになった。
「行くぞ。振り落とされるな」
そう告げ、ギラティナは空間の裂け目へと神体を飛び込ませた。
瞬間、俺の全身は強い光と妙な浮遊感に包まれる。光に少しずつ目が慣れ、
俺はそっと目を開いてみた。爪の合間から覗く“そこ”の様子は――形容しがたい、まさに異次元そのものだった。
協調性の無い様々な色達が一面に入り乱れ、異様な色彩の奔流となって流れていく。
その色の一つ一つが、よく見れば写真のように切り出されたどこか別の風景だと気づく頃には、
すっかり目が回って気持ち悪くなっていた。
気分を治そうと目を閉じ、耳を澄ましてみる。目に煩い見た目に反して、この空間に余計な音は殆ど無い。
聞こえるのは自らの高鳴る鼓動と、パルキアの甲殻が擦れ合って軋む音くらいだ。
「気づいている通り、お前を送り込んだ地は今となってはパルキアの領域。
お前達が生きる世界の可能性の一つとして、試験的に作られた地よ」
その深海のような静寂の中、おもむろにギラティナは語りだす。
gj!
明日明後日にでも続き書くぜ
「かつて、幾つもそうした地が生み出されては、意向にそぐわぬと破棄されていった。
神の管理無き未完成な世界の辿る道、その末路は惨憺たるものだ」
神体の喉が不機嫌にぐるぐると唸る。
「世界は大きな幼子のようなものだ。ちゃんと手を引いて導いてやらねばすぐに転び、
道に迷ってしまう。思うよりもずっと脆く、か弱く、手のかかるものよ。
何も手を出さず放ったままでいて、いつまでも無事でいられるわけがあるまい。
……事実、アルセウス健在時には決して起こりえなかったような異常が今、
お前達の世界には起き始めている。お前も目にしたであろう。精巧な己の複製を」
脳裏に、忌まわしい冷笑を浮かべた"奴"の顔がはっきりと思い起こされる。
自分と同じ顔をしているが、自分じゃあない。ミュウツーが作り出した俺のコピーのものだ。
ハナダの洞窟奥で遭遇した時の嫌悪感が再現され、全身の体毛が逆立つ。
「我らが神の領域に土足で入り込んで踏み躙る、傲慢でおぞましい生と死への冒涜だ。
本来であれば世界自身の自浄作用にもより、何者が試みようと決して成功することのない存在だった。
例え体が作れようと、そこに魂は宿らず、すぐに肉体は朽ち果てる――だが、例外が起きてしまった。
最早、私にすら先の予測がつか――――世界に何が……か……ないのだ」
ギラティナの声が、途中から急にノイズが混じったようになりブツブツと途切れ出す。
「どうした?」
「どうやら残された時間が僅かなようだ。直にこやつは目覚める。
出口は見……一気に――飛……ぞ、衝撃に備えていろ」
そう言うとギラティナは神体の翼を思い切りはためかせ、飛ぶ速度を急加速させる。
慌てて俺は再び鱗の隙間に手をやり、爪先をしっかりと引っ掛けた。
数ある色の中から白い光を一直線に目指し、ぐんぐんと迫っていく。
あれが出口か。近づいて見えて来るその場所の風景は、
パルキアの領域に送られて最初に降り立った乳白色の建物の内部と少し似ていた。
中央奥に見える祭壇のような大きな建造物の上に、光り輝く何かが乗せられているのが
ちらりと見えた気がした次の瞬きの合間に、パルキアの体は頭から出口へと勢いよく突っ込み、
巨石が大地を穿つような轟音と共に強い衝撃に全身を襲われた。
明日か明後日に続き書くよ
はげ
. -― ァ
/`ヽ:::/
/ /
/\ / -≠―‐= ―――- __
/ / \ /´ \ /::::\
, \ ヽーr----‐'
/ / | \
| , {ハ
| l __, ィf / | ',
| lfャ ゞノ /)/ / i!
| l´ ‘ _ (:/r-、 /⌒ |
l |>´1`__ ´ | V 〈l >飛天御剣流!!龍槌閃!!!★WWW
、 ィ |__/ ! ', /
\. イ | :::::{__/ハ. /
\」. ィ1:::|__ ヘ. |/
\/ |_::::::::::/  ̄ ` ┘
\/
意識が暗がりに沈んでいく中、誰かが言い争う声が聞こえる……。
それは今ではない、遥か遠い過去の残響に思えた。
――『また創り直す、だと?』
『主のご命令です』
『何故だ。相応の理由を聞かせてもらおう』
『何故? 主がお気に召さなくなったと申した。我々にそれ以上の理由など必要ないでしょう』
『ここまで我々が、私が守り育ててきたものをまたもすべて捨てろというのか?』
『愛着でも抱きましたか? そのような感情など我々には余計なものです。捨ててしまいなさい』
『余計なもの……違う、これは余計なものなどではない』
『……どうやらあなたは少々お疲れで、おかしくなってしまったようだ。
すぐにエムリット達を呼んで、治してもらいましょう』
『いや、おかしくなったのはお前達だ。もう私は辛抱ならぬ』
『世界の元を、そして我らを創りだしたのも主だ。その命に逆らおうというのですか?』
『何者であろうと、もう世界を壊させはしない』
『そうですか……。残念ですが、今のあなたには力付くで消えてもらうしかないようだ。さようなら――』
遠退いていく声。途端に沈んでいた意識も急浮上し、ひやりとした石の感触を体に伝える。
「――う、ぐ……」
目覚めた頭に全身が鈍い痛みを訴え、喉が自然と呻く。
――……一体どうなった?
痛みを堪えながら手足に力を込めると、ゆっくりと体は地べたから持ち上がった。とりあえず四肢はまだ付いているようだ。
重い瞼を持ち上げる。視界に広がった光景は、異空間から見えたものと同じ、乳白色の石に一面を覆われた屋内だった。
明日明後日辺りに続き書く
/ }/ /⌒ヽ
/_ ∠._ . -―一ァ…=ァ (__ ) |
丶 〃´ __ ` / _/ \_人
丶 ∠ /・ )_ 〈 ̄ ̄ 、 /ミ主ノ\ __
/・/ 丶/ l 丶 r/ _)_)ノ∨
/ー' ‘ ///⌒l | ` - .._ o ^rィ^ |
{:::} ト/ 〃::::::ノ/´ ̄^'i _ _ ´ ̄`丶ノ} >死粘★WWW
V |ハ `¨゙/ /、 ¨ ァー- ..,,__,ノ イ┐
\〈_人 / / ヽ (_/\_ _,∠ノ
丶l / _\  ̄
∧ // 〉 ヽ
| | / / ヽ
ー| / / |
ヽ _/ |
\ /
` ー―――z _,ノ
不意に視界がぼやけて揺れ、足がぐらつく。まったく、酷い目にあった。まだ頭がくらくらする。
状況が切迫していたとはいえ、もう少し丁寧に降り立たせることは出来なかったのか。
非難の念を抱きつつ振り返ると、すぐ背後にあった白い竜の大きな顔と間近で対面する。
驚いて離れるが、神体はうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。さしもの神の肉体も、
強烈な着地の衝撃により昏倒しているようだ。ギラティナの思考も感じ取れない。
自分の体を散々な扱いにされ、本来の持ち主も災難なことだ。
こんなことを知られれば只では済まないだろう。神体を痛めつけてしまった以上に不味いのは、
今回の件はパルキアに対して秘密裏に行われているものであろうこと。
寸前までパルキアの領地であることを俺に伏せ、こそこそと潜入させていた辺り、
それはほぼ間違いないと見ていいだろう。
もしかすると他の神々にすら知らせておらず、完全なギラティナの独断という可能性さえある。
もしもそうだと仮定して、一体何の意図があってそんな危険な綱渡りを敢行したのか――。
奥に聳える祭壇の頂点から射してくる白銀の輝き。離れたここから見ただけでも
意識を巻き込まれてしまいそうな異彩を感じる。あれが目的の白金の宝玉に違いない。
ギラティナと同じように、パルキアと恐らくはディアルガも、アルセウスに次いで最も強大な力を司る神々は、
力を三つに分けられてしまっているのだろう。大きな力の源であるあの宝玉を手にし、
ギラティナが完全な能力を取り戻した時、絶対的な神の力に対抗しうる者は今誰一人いない。
その気になればすべてを掌握してしまえるのだ。
これはあくまで俺の推測でしかない。それに、ギラティナの話を素直に受け止めるならば、
世界の行く末を純粋に心配して行動している可能性だってまだ完全には捨てきれん。
――薄れる意識の中で聞いた、あの声。世界を頑なに壊させまいとしていたあの声は、ギラティナによく似ていた。
朦朧とする意識が勝手に作り出して聞かせた、単なる幻聴だと切り捨ててしまえばそれまでだ。
だが、俺がテンガン山でアルセウスの企みを止める事となる以前から、
ギラティナはアルセウスの下から離反して石版を盗み出し、世界の消滅を防いでいたのは事実。
思い返せばその当時、何も知らなかった俺はアルセウスの手に操られるままにギラティナの意思を潰し、
崩壊への道を助長してしまったのだった。今回もまた……?
宝玉の下に向かう足が自然と早まる。ギラティナを信用できるはっきりとした確証は無いはずなのに。
罪悪感のようなものがそうさせてしまうのだろうか。
祭壇までもう少し。後は数段の段差を駆け上れば、宝玉は目の前だ。段差に足をかけようとしたその刹那、
つま先に掠りそうな程の位置に、立ち塞がるように音もなく横へ真っ直ぐに切れ目が走った。
びくり、と喉が鳴り、瞬間的に足を引っ込める。まさかと神体の方へ振り返るが、依然として倒れたままだ。
「さて、異常を感じて駆けつけてみれば、可愛らしいイタズラ鼠が一匹。これは一体どういうことなのでしょう」
ギラティナのものではない、だが聞いた覚えのある声がどこからともなく響く。
明日か明後日にでも続き書くよ
潔癖なまでに透き通った水を湛えながらも、その奥底に何を潜ませているのか窺い知れない深い湖のような声色。
ギラティナと言い争っていたもう一方の声だ。いや、それ以前にも俺はこの声を聞き、知っている。
俺は素早く視線を走らせてその主を探した。右から左、天井までも見渡し、ふと視線を下へ向けると、
足元にあった切れ目から、ガラスの“ひび”に似た細い光が伸びていることに気付く。
ひびは瞬く間に宙に蜘蛛の巣状に広がっていき、俺は慌てて祭壇から身を退いた。
十分な大きさにまで育つと亀裂は音もなく中央から破れ、出来た隙間から煌びやかな七色の鱗をもつ
蛇とも魚ともつかぬ滑らかな長い体がするりと抜け出て降り立った。
「久方振りですわね。お元気でしたかしら? あまり再会を喜べる状況ではないのが残念ですけれど」
「ミロカロス……いや、パルキア」
その正体はパルキア――今はその魂と言おうか、が俺に接触する際に使っている仮の姿であり、
後ろでのびている神体の真の持ち主だ。
ちら、とパルキアは倒れている自分の神体を見やってから、再びこちらに目を戻した。
「わたくしの領域へ一体どの様なご用件で? 隔たれた空間に偶然辿り着くなどありえないことです。
他の神の手引きでもない限りは……」
語り口は一見穏やかだが、内包された威圧がぴりぴりと肌を刺してくる。
一体何から、どう話すべきなのか。慎重に言葉を進めなければならない。
動けずにいる俺に、パルキアは首を伸ばしてくんくんと嗅ぐような仕草をした。
「あなたから嫌な臭いを感じますわ。寂れ果てカビにまみれた墓地のような、とても嫌な臭い」
途端にパルキアの全身から湧き出る殺気にも似た気迫に、ぞくりとして離れようとすると、
首の周りの空気が急に固まったような感覚に捕らわれた。
「げほッ――」
首が絞まり咳き込む俺を、パルキアは凍て付くような冷たい目で見下ろす。
「下手に動かないことです。空間の刃が首をいつでも斬り落とせるよう狙っている。一体、奴になんとそそのかされた?」
質問はすでに『拷問』に変わっているのだ。豹変した態度がそれを物語っていた。
背後から巨体がゆっくりと起き上がる音が聞こえる。
明日明後日にでも続き書く
鯖復活と規制解除きたー
乙
とうとう神体が目覚めてしまったようだ。よろよろと不規則に床を踏み鳴らす音が迫ってくる。
「ようやくのお目覚めですか。私が離れていたとはいえ小ネズミに後れを取るなどなんともはや」
俺の後方を見やりながら、ため息混じりにパルキアは呟いた。
「急に襲わせるようなことは致しません。ただ、あなたの口の滑らかさによってはうっかりと拘束が弛む、
等といった“事故”も起こるやも」
重々しい息遣いを背にかかるほど近くに感じる。ひとたびパルキアが命じれば、
空間の断裂を用いるまでもなく俺の体は容易く引き裂かれることだろう。
目に見える、より分かりやすい脅しだ。
「何も……知らされてはいないのか?」
アブソルに起こった異変すら伝わっていないのだろうか。俺が問うと、無言でパルキアは背後の神体に目配せする。
すぐに後ろから巨大な手が伸び、俺の体はたちまち掴み上げられた。
「質問を質問で返さないこと。余計な手間を取らせないでください。主のご友人であり、
私自身も少なくとも愛着をもっているあなたに、こんなことをしたくはないのですよ」
「そのお前の主が、アブソルが腕輪の力を使って倒れたきり、目覚めようとしないのだ。
衰弱を治すには、ギラティナは己の力を取り戻す必要があると俺をここに送った」
パルキアは怪訝な表情を見せる。
「力を使って? それは――」
その言葉の途中、急に神体が動き出し、あろうことか自分の持ち主へと爪を振り下ろし襲い掛かった。
「ッ!?」
不意を突かれ、驚愕した様子でパルキアは色鮮やかな扇のようなミロカロスの尾ひれで爪を受け止める。
防がれたと見るや、神体は俺を祭壇の方へと放り投げ、両腕でもってパルキアを押さえつけにかかった。
「私の体にを――! く、おのれ、ギラティナぁッ!」
乙←こ、これはミロカロスなんだから勘違いしないでよね!
明日か明後日にでも続き書くよ
激流のような激しい怒りの感情をあらわにして、パルキアは全身をのたうたせて抵抗する。
投げ飛ばされた俺は、そのまま祭壇の下にびたんと腹から叩きつけられた。ごほ、と乾いた反吐が漏れる。
「っ……!」
神体はパルキアを押さえつけながら俺の方に首を向け、半ば呻くような声で何かを訴えかける。
その一瞬背けた横顔を、鞭のようにしなる尾が強かに打ちすえた。
宝石の如き外観にその強度も兼ね備えた鱗が、びっしりと隙間なく生え揃う尾の一撃。
太く巨大な石の棍棒で殴られたのと違わぬ強烈な衝撃に、倒れはせずとも巨体の手元が少し弛んだ。
隙を逃さずパルキアは拘束から抜け出し、全身から薄桃色の眩い光を放つ。
光を浴びた神体は苦悶の咆哮を上げて暴れた。頭を抱える手の合間から黒い雫が一筋零れ、
やがて全身の甲殻の隙間という隙間から、体液のように黒い影を噴き出させながら地に伏した。
「汚らわしい。網の目を抜けやすい小さなネズミを介して侵入といい、随分と小賢しい真似がお得意なようで」
流れ出て溜まった影を、冷たい憎悪に満ちた目で見下してパルキアは言い放つ。
「貴様らのやり方に倣ったまでよ。丁度アルセウスが我が領域にそやつを送り込んで来た時のように」
影の”溜まり”がぶくぶくと泡立って声を発した。
泡立ちは収まることなく激しさを増し、塊が一気に地から伸び上がったと思うと、
狐のような形となって宙に固まった。
すかさずパルキアは尾を縦一閃。真っ二つに狐の形は裂ける。
が、直後に切れ口から裏返るように九本の触手が一斉に飛び出し、パルキアを襲った。
向かってくる触手達をパルキアは次々と斬り払い、斬り損ねた一本を先程の光を壁のようにして防ぐ。
鍔迫り合いの如く、向き合って二体は互いの力をぶつけて押し合う。
間に巻き込まれれば、俺の脆い肉体などあっという間に粉々にされてしまいそうだ。
「力を取り戻して何を企む、ギラティナ!」
表情を歪めながらパルキアは狐の影――ギラティナの化身に叫ぶ。
「アルセウスを呼び覚ます。滅ぼそうとした次は、管理を無責任に放り出し、
己は眠りにつこうとするなど、そのような身勝手が許されるはずがない……!」
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
「世界は我らの管理など必要としていない。そう判断されたからこそ主は眠りにつかれたのです」
「なんと一方的な断定か! 事実、世界は異常をきたしている。貴様も気づいているはずだ。
存在しえなかったもの、起こりえなかったものが既に現れている」
「異常は我らの緊縛から解かれた世界が見出した新たな可能性、成長の過程。
世界と、世界に生きる者達が自ら取捨選択し、乗り越えていくべきものです」
「我らの手なくして乗り越えていけるような力があるものか。今の異変は始まりに過ぎない。
看過しておけば混沌に没した末、破滅に行き着くは明白よ」
二体の間で爆ぜる火花が尚一層激しく迸り、床を鋭く抉って破片を巻き上げた。
互角に見えていた力の鬩ぎ合いも、やがて既に神体の制御に大きく力を消費していたギラティナが少しずつ押されていく。
「……何をしている、ピカチュウ。宝玉を取り戻せ。世界の危機に二度立ち会ったお前であれば、
何が正しいか選択できよう!」
ギラティナの世界への思いは純粋なものなのだろう。だが、それ故にどこか行過ぎたものを感じるのだ。
「お待ちなさい! その二度の危機を食い止める大きな切っ掛けとなったのがピカチュウ、あなただ。
何の特別な力もない、ただのちっぽけなネズミであるあなたが、二度。神を、神ですら手を焼いた相手を止めた」
パルキアの言葉が、迷う俺の足を止める。
「最早、世界には我ら神々の手などいらぬ、自身の力だけで歩んでいける。あなたは生き証明といえるでしょう。
あなたの存在が、主がお考えを変えられる一番の理由となったのです。そのあなたが主の信頼を裏切るのですか?
それに、無理に主を呼び起こそうなどとすれば、アブソルとしての記憶は完全に消え失せてしまうかもしれないのですよ……?」
GJ!
明日か明後日にでも続き書くよ
心に大きな動揺が走る。俺は真偽を問う眼差しをギラティナへと向けた。
真っ黒に塗り潰された狐の面は黙して何も語らない。その沈黙が否定しがたい事実なのだということを悟らせた。
なんと迂闊で軽率だったのだろうか。ギラティナがアルセウスを目覚めさせると言った時、真の目的を聞いた時、
隠し通していた事への憤りと反発を抱く反面で、頭の片隅にギラティナに同調している自分も僅かながら存在してしまっていた。
アルセウスが目覚めれば世界が安定し、異常の無い平静が訪れるならそれは何よりではないか、と。
――アルセウスが目覚めれば、仮の存在であるアブソルがどうなってしまうのかなど考えもせずに。俺は己に嫌悪した。
だが、しかし、また異常が、コピー共のような異質で強力な者達が現れたら、俺は勝てるのか?
この上なく憎らしく、同じ姿をしながら俺のすべてを上回る者。自身の根底から否定されるような劣等感を容赦なく刻み込んでいった。
もうあんな思いはごめんだ。……怖い、怖いのだ。奴らに感じている強烈な拒絶感の正体は、恐れだ。
「見よ、パルキア。あの怯え竦む姿を。奴が世界の言葉を代弁する生き証明だというのなら、あれが真の答えだ。
……怖かろう、重かろう。まだお前達だけで背負うには重荷が過ぎるわ。だが、案ずるな。直ぐにその役目、私が代わろう」
ギラティナの言葉が優しく甘く響く。この俺が、怯え果てている――くそッ。
斬られていた尾が再構築を始め、狐の足元に広がる暗闇から揺れ踊りながら伸び上がっていく。白金の玉が離れていながらも、
少しずつ力を与えているのだろう。数本がかりで光の壁へ尾を突き立てると、忽ち形勢は膠着状態まで押し返された。
「飲まれないで。あなたはそんなに弱くなかったはずだ、ピカチュ――くッ……」
パルキアの胴を、一本の黒き尾が光を突き破って貫いた。壁が儚く霧散したのを見届けると、
狐の影は素早く横を駆け抜け、祭壇に飛び乗る。
「これで世界は救われる……。私が護らなければならぬのだ」
ギラティナが鼻先で宝玉にそっと触れると、宝玉の表面から光が消えうせ、内部から今まで見たどんな黒より濃い常闇が溢れ出した。
狐の影は溢れる闇に飛び込んで同化し、祭壇ごと地まで伸びた闇に引きずり込んでいく。祭壇を飲み込み終えると、
闇は排水溝に流れ込む水のごとく中心に渦を巻きながら縮まっていった。全てが深遠に流れ出ようとした間際、何も出来ず立ち尽くす俺に向かって、
渦の中心から一本の手のような触手が伸びる。
駄目だ。最早、俺は避けることすらもままならない……。
諦め、捕られられようとした寸前、黒い手がぼたりと斬れ落ちた。落ちた手はしばらくびたびたとのた打ち回った後、
白銀の炎に包まれて灰になった。
「させる……もの、か」
地に伏していたパルキアが首を持ち上げ、虫の息を吐きながら言葉を紡いだ。
明日明後日にでも続き書く
渦はそのまま地に滲み込んで消え去り、後にはすり鉢状の大穴だけが残された。
「退いたか……」
呟いて、パルキアはふらりと頭を床に降ろす。駆け寄ると、パルキアは苦しげな息遣いをしながらこちらを見上げた。
「ご無事で……。これで少しは、時間が稼げるでしょう」
「大丈夫なのか?」
「はい。主を完全に呼び覚ますには、あなたの腕輪と――」
「違う、今はまずお前の傷のことだ! 待っていろ、たしか傷薬の残りがまだ……」
胴を刺し貫かれたのだ、幾ら神の化身と言えど相当な深手のはず。
マントの裏地の道具袋をかき回すように探る俺を、きょとんとした目でパルキアは見つめた後、
可笑しげに――どこか自虐的に、小さく喉を鳴らした。
「この程度で消え去れれば、どんなに楽なことでしょうか」
怪訝に思って見つめる俺を尻目に、パルキアはゆっくりと起き上がった。
気付けば弱々しかった息も、落ち着いたものに戻っている。
「不覚でした。奴から受ける傷は少々厄介でして。ひとまず、お気遣いに感謝いたします」
「あ、ああ」
大した回復力だ。自分の無力さをますます思い知らされた気がして、愕然とする。
「私はギラティナを止めに行かねばなりません。……あなたはどうなさいますか?」
パルキアは見極めるようにじっと俺の顔を見た。
アブソルのことは助けたい。だが、俺などが行ってなんの役に立てる?
寧ろパルキアにとって守らねばならぬ対象が増えるばかりで、足手纏いにすらなるんじゃあないのか。
俺を見つめるパルキアの瞳に、失望と悲しみが宿る。
「私もあなたに感化され、自己の意思としても世界に生きるものを信じようとしていました。
しかし、それは間違いだったのでしょうか」
言い捨てると、パルキアはずるずると長い体を引き摺って神体のもとに向かって行った。
たどり着くや、ミロカロスだった体は光と化して、神体へと吸い込まれる。神体の眼に瞬時に輝きが戻り、
甲殻を軋ませ、低く唸り声を上げながら神体は、パルキアは真の姿となって起き上がった。
「あなたを仲間達のもとへと返しましょう。我々に関する記憶は全て消し、腕輪も返してもらいますが、ね
ギラティナとの勝敗がどうあれ、もう私が、いえ、我々があなたの前に姿を現すことは二度とないでしょう。
さようなら、ピカチュウ。――平穏な、良い人生をお祈りします」
翼を広げ、パルキアは咆哮を上げる。
パルキアの計らいに甘んじれば、俺には平穏無事な一生が待っているのだろう。
恐らく、このまま行かせてもパルキアは勝てない。平穏な人生……ギラティナが勝つことを、
パルキア自身が悟っているのだ。
それで、いいのか? 平穏は誰もが望むものだろう。
アブソルを犠牲にして? たった一つの犠牲で多くが救われる。……ふざけるな!
「待てッ!」 どうかしていた! 俺は帝王だ、いずれ世界のすべてを掌握するものだ。
世界征服の覇道に、生涯平穏などありえない。か弱い幼子を犠牲にせねば成り立たん平和など、すぐにまた崩れ去るわ!
俺もお前と共に行かせろ、ギラティナを止める!」
明日か明後日にでも続き書くぜ
gj!
規制うぜー
拳をぐいと掲げ、叩きつけるようにパルキアに向かって叫んだ。
見下す赤い眼を、これでもかと睨み返した。
数秒の沈黙を置いて、堪えきれないといった様子でパルキアが笑う。
「なんと傲慢なネズミだこと。だからこそ、それでこそ――」
高ぶる感情を抑えるようにして、パルキアは俺に手のひらを差し出した。
「参りましょう。ギラティナの奴めに思い知らせてやらねばなりません」
力強く頷いて、俺は上に飛び乗る。パルキアは片手の爪先で滑らかに空を撫で付け、
開いた空間の隙間を目掛けて水面を跳ねるように巨体が飛んだ。
待っていろ。意地と誇りを見せ付けてやる。王として、世界を担わされるものの一つとして。
異空間に入ると、パルキアの周りに色彩の流れが引き寄せられ、整然と並び始めた。
色取り取りの風景が一面に敷き詰められた様は、さながら壮大なステンドグラスだ。
パルキアは全容を見渡しながら、色の位置をずらし、目的の出口を探っていく。
本来の主が宿ると、こんなにも扱い方が違うのか。これなら墜落の心配はなさそうだ。
程なくパルキアは一片に視線を留め、目の前に手繰り寄せる。
そこから覗く景色は、全くの暗闇。どんなに強い光が当たろうと飲み込んで掻き消しそうな、
黒の中の黒だった。
苛立たしげにパルキアが牙をガチリと噛み鳴らす。
「当然、塞いである、か。不用意に飛び込めば今の私では危うい」
どうするのだ? 俺が尋ねる前に、再びパルキアは空間を繰り始めた。
「ディアルガの下へ飛びます。対抗するには、やはり奴の協力は不可欠だ」
明日明後日にでも続き書く
光を潜り抜けてパルキアが降り立つと、足元がめきめきと乾燥した音を立てた。
何事かと手の内から見下ろすと、床には樹の幹らしきものが這い、
そのまま地から天までぐるりと見渡してみれば、目の届く限り至る所が成長した古樹に覆われていた。
隙間から僅かに垣間見える、不可思議な模様の刻まれた石壁や石畳だっものらしき石片が、
時の力の偉大さを讃え、または無情さを嘆いている。
神さびた領域の中心で威風堂々と鎮座するは、黒に近いくすんだ濃紺色をした鋼の鱗に全身を守られた竜。
パルキアにも劣らぬ巨大な身体と長い首を丸め、どこか無機質で規則的な寝息を立てている。
その姿を見下ろして、パルキアはぐるると喉を鳴らし、大きく息を吐いた。
「この大事に、惰眠を貪っている場合ではない……目覚めよ」
・
「――目覚めよ」
冷たい声に目が覚めたのは、同じくらいに冷たい石の床の上だった。
――ここは、どこだろう。
瞼の重たい目を白い足の毛にこすりつけてから、声の元を探してゆっくりと身体を起こす。
「何も知らず、呑気なものだ」
再びの声に振り向いた先に居たものを見て、飛び上がりそうなほどに幼い白い獣は驚いた。
とても大きな蛇とも虫とも違う銀色の怪物が、とても怖い顔をしながら真っ赤な目でこちらを睨んでいる。
「責からは逃れられんぞ、アルセウス」
怯えて震える白い獣に、銀色の怪物は容赦なく冷徹に言葉を浴びせる。
その中でふと、自分の事を指しているらしき呼び名の違和感に獣は気付き、同時に不思議と震えが治まった。
「君もボクをそう呼ぶんだ。でも、違うよ。ボクはアブソル。ねえ、ここはどこ? みんなは?」
明日か明後日にでも続き書くよ
「覚醒が不完全であったか」
ひそりと呟くと、怪物は強張らせていた背から伸びる黒い触手達の力を解き、
赤く鋭い先端をアブソルから逸らした。代わりに、僅かながら哀れみが籠もった目で、
向けられている直向な視線を見返す。
怪物の目を見て、この怪物はそんなに悪い怪物じゃないのかもしれない
――顔は相変わらず怖いけれど、とアブソルは思った。だって、
何だか悲しそうな目をしてる。きっと何か理由があるんだ。
「あの、怪物さんの名前は?」
怪物の触手がぴくりと反応する。
「……我が名はギラティナ。世界の裏、反転した世界の主」
ゆっくりとギラティナは口を開き、幾らか冷たさを和らげさせた調子で答えた。
腕輪は恐らく向こうの方からやってくる。そのしばしの間、この哀れな幼い魂と語らうのもよいだろう。
戯れとして、最期の、せめてもの慰めとして。
「お前の問いに答えよう。ここは世界の表裏の狭間、戻りの洞窟。お前の仲間達は無事だ」
アブソルはほっとする。やっぱり、あまり悪いポケモンじゃないみたいだ。何より、みんなが無事でよかった。
少し落ち着いたところで、アブソルは自分の今いる場所を首の動く範囲で興味深そうに見回してみる。
すごく大きい部屋だけど、暗くてじめじめしてて、まるでお墓の中みたいだ。
「ギラティナさんは、ずっとここに居るの?」
「ああ。殆どこの場を離れることはできぬ」
「え、どうして!?」
誰かの住処にとやかく言うのも失礼とはアブソルは思ったが、こんな暗い場所にずっと独りで居るなんて、
辛いに決まっている。かつて、ピカチュウに助けられる前、自分もそうだったように。
「私には役目がある。世界を維持するとても重要な役目なのだ」
「誰とも交代もしないの……?」
「代わりなどいない。永劫に近い時を、私は――む?」
言いかけて、ギラティナはアブソルの瞳がうるうると滲んでいる事に気づく。
「どうした、まだ私のこの姿が恐ろしいか? ううむ、だが今更仮の姿をとるのは――」
泣く子には神でも勝てず、たじろぐばかりのギラティナに、アブソルはぶんぶんと首を振るった。
「違う、違うよ。だって……だって、ギラティナさん、かわいそう……」
「かわい、そう?」
理解の範疇を超えた予想だにせぬ言葉に、ギラティナはぎくしゃくと首を傾げる。
やっと携帯の規制解除きた
最近の規制の多さは異常だな
みんな乙
明日明後日にでも続き書く
「独りでいるのは寂しいよ。僕も一匹で閉じ込められていた時、とても心細かったもの」
「私は孤独と思ったことなどない。お前が気に病むようなことではないよ」
「本当に?」
「本当だとも。だから、気を静めよ」
アブソルは小さく頷いて、目を拭った。
――この私が、翻弄されている。
役割りを課した張本人の生れ変りとも言うべき存在に、何も知らぬとはいえ逆に同情されるなど、
ギラティナにもまったく形容しがたい妙な気分だった。だが、いずれは自ら手を下さねばならぬ相手だ。
余計な情は、抱くまい。ギラティナは己に言い聞かせる。
「ところで、アルセウスさんって、誰なの? ピカチュウもギラティナさんも最初にボクの事をそう呼んだから、
ずっと気になっていたんだけれど」
「世界の創造主――生みの親だ。私もまた、アルセウスに創り出されたものの一つ」
「ボクってそんなすごいポケモンと見間違えられたんだ。アルセウスさんは、どうしているの?」
「アルセウスは、奴は果たすべき責任を放り、深い眠りについた」
「あの、何があったの?」
押し込めきれないギラティナの暗く冷たく滾りだす怒りを感じ取り、恐る恐るアブソルは尋ねた。
「世界は言わば、奴の子だ。親であれば当然、子を守り育てていく責任がある。
私もそれを出来うる限り支えて来た。だが、奴は捨てた。捨てたのと変わらぬ」
ギラティナの触手が、わなわなと揺らめく。
「……すまぬな。お前に罪は無い。お前も奴の被害者だと言えるのに」
怯えて萎縮するアブソルの姿を見て、我に返った様子でギラティナは言った。
「どういうこと?」
「最初から、誰も見間違えてなどいない。アルセウスは、お前だ。お前の中に眠っているのだ」
「えっ――」
明日か明後日にでも続き書くぜ
・
「協力は出来ぬ、と?」
目覚めたディアルガに、パルキアはギラティナの暴走を伝え、助力を求めた。
しかし、ディアルガの答えは否定的なものだった。
時は、如何なるものにも左右されず、乱れることなく平等に流れ続ける。
己はどちらにも深く与する気はないと、ディアルガは告げた。
「日和見主義者に成り果てますか、ディアルガ。もういい、あなた自身の協力は期待しない。
だが、せめて、あなたの護る宝玉を、我が力の源を渡せ」
沈黙するディアルガに、パルキアが苦々しく吐き捨る。
「主の望みは尊重して然るべきだ。だが、それ以上に我らの手を無くした世界はどう歩むのか、
懸念を拭うことはできないのもまた事実。お前は何を信じる?」
ディアルガの問いに、パルキアはにやりと口端を歪ませ、俺を手の内から放る。
――俺を、手から放る?
「なっ!?」
あまりに唐突に放り捨てられ、俺は為すすべなく素っ頓狂な声を上げる。
直後、ぐえ、と喉が押され、絞まる感覚。パルキアが俺のマントの裾を摘まみ、宙に吊り上げたようだ。
『何をする!』文句を言う間も無く、俺は宙吊りのままディアルガの眼前に向き合わせられた。
「……また“これ”か」
極々他愛の無いものを見る目付きで、ディアルガは俺を見やる。
「ふ、ふん、“これ”とは何だ。寝ぼけて忘れたか、俺はピカチュウ。お前の主の友であり、いずれ世界を統べる者だ」
俺は腕を組んで踏ん反り返り、睨み返した。
暫くの睨み合いの後、やがてディアルガは俺の気迫に観念したのか――馬鹿馬鹿しそうにも見えたのは気のせいだろう
――重々しく息をついた。突風のような吐息に煽られ、宙吊りの俺の体は激ぶらんぶらんと激しく揺られる。
「主も、お前も、何故この様なものに入れ込むのか……理解不能だ。よかろう、パルキア。宝玉は渡そう。
こんな子鼠の助力だけでギラティナを止められるのならば、世界は本当に我らの管理など最早必要としていないのだろう」
GJ!
明日明後日にでも続き書くよ
「ええ、あなたにも存分に思い知らせてさしあげましょう。して、宝玉はどこに?」
「今に返す」
ディアルガは四足を地にしっかりと突き立て、体の奥底まで染み渡らせるように深々と息を吸い込んだ。
胸部を守る分厚い銀色の装甲の中心に埋まる青白い結晶が灯り、
全身に走る半透明な溝を伝って光が血液のように行き渡っていく。ディアルガに集る力の大きさに、
俺は周りの空気ごと見えない大きな渦に掻き回されて磨り潰されるような強い圧迫感を受けた。
パルキアは直ぐに俺を引っ込めて手の内に戻し、ディアルガとの間に線を引くように爪先を走らせる。
すると、急に不思議と重圧は消え去り、目の前のディアルガの姿も、
間に何も無いはずなのにガラスか何かを隔てて見ているように感じられた。
光が体の隅々にまで達するとディアルガは背の扇状のヒレを雄々しく広げ、大口を開ける。
その瞬間、全てが捻れた。凝縮された力が捌け口を見つけて一斉に飛び出し、
音も、光も、俺とパルキアとディアルガ以外のものは全て左回りに揉みくちゃにされて、捻じ曲がっていってるように感じた。
捻れの中で、周りを覆っていた年老いた木々はどんどん縮こまり、砕けて転がっていた石片達は独りでに集って組み上がっていく。
捻れが静まるとと、古木の海に沈み朽ち果てた遺跡は、豊かな若々しい森を見渡せる小高い塔の頂上と化していた。
ディアルガはやれやれと座り込み、無言で奥の台座を尻尾で示した。不可思議な装飾の施された台座には、
乳白色に輝く巨大な真珠のような球体が嵌め込まれている。
「感謝します」
礼を言うパルキアに、ディアルガは大きな欠伸を返事代わりに一つして、体と首を丸めて眠り始めた。
「まったく……。では、改めて参りましょうか、ピカチュウ。四の五の言いながらも、ディアルガもあなたに少し期待しているに違いありませんわ」
当てつけるようにパルキアが言うと、ディアルガは寝息を立てながらどこか不機嫌そうにびたんと尻尾で床を叩く。
「ふふ、安心して眠っていてくださいまし」
明日か明後日にでも続き書く
GJ!
・
「嘘だよ、そんなわけない。だってボク、すごいことなんて何も出来ないもの」
「お前は既に気付いている。己の異質な力に。それが周りに及ぼした影響に」
「そんなの知らない、分からないよ」
動転した様子で、アブソルは首を横に振るう。
「……目覚めさせる過程で、お前の記憶を少し垣間見た。ただのアブソルの子に、
長く生きた氷鳥を屠る炎は吐けん。洞窟を丸々飲み込むような大水を呼び寄せるなど叶わん」
「あれはピカチュウが、ピカチュウの付けた腕輪が光って、ボクに――」
「腕輪が力を貸した、それこそ何よりの証拠だ。神と、認められた者にしか神の輪は扱えぬ」
突き付けられた事実の重圧に、アブソルは返す言葉も無く、ふらふらとその場にへたり込んだ。
「ボクは、どうなるの?」
金色をした仮面のような頭部の暗い隙間に宿りかけた沈痛な光を押し隠し、
ギラティナは重く口を開く。
「アルセウスを目覚めされば、お前としての記憶、存在は消えてしまうだろう」
――ボクが、消える?
ギラティナの言葉に、アブソルは胸が冷たく鋭い何かを深々と突き刺されたようにずきりと響いた。
消えたら、もうピカチュウ達とも会えない。楽しいとも、嬉しいとも、感じられない。
それが悲しいとすら感じなくなって、何もかも分からなくなって――。
「い、嫌だ、怖いよ……みんなの所に帰してよ……」
考えれば考えるほど、底の無い泥沼に引き込まれていくような、言い知れない恐怖に体が震え、
ぼろぼろと涙が溢れていた。
「ピカチュウ達が大切か?」
ひくひくと泣きじゃくりながらアブソルは頷く。
「ならば、尚更帰ることは出来まい。聞け。アルセウス無き今の世界は大きく乱れようとしている。
その末に待つのは、混沌と崩壊。お前達を襲ったコピーは前兆なのだ」
びくりと反応し、アブソルはギラティナを見上げた。
「そうだ。アルセウスが健在ならば、ピカチュウ達があんな危険な目にあうことは無かっただろう。
お前が力の使い方をもっと誤れば、犠牲は更に大きかったかもしれない。
……我らが、ただのポケモンとして仲間と一生を生きるなど、決して叶わぬ。
死の定めを持つ者たちが持つ時間は、我らに比べてあまりに短く、脆すぎる。我らが幾ら定命の体を仮に得ても、
我らの魂は否応無しに肉体を不滅に近しいものに変える。己だけが取り残され続ける孤独を味わうのだ」
GJ!
328 :
κ,κ:2010/04/29(木) 14:09:09 ID:zrSPcQw1
最近ピカチュウの人生を
読み始めたκ,κです。
初めまして!!
面白いんで、これからも
頑張って下さい。
明日明後日にでも続き書くよ
ピカチュウは、死んだ。
・
「準備はよろしいですか?」
宝玉を取り戻し、溢れんばかりの力を全身から滾らせながらパルキアは問う。
「ああ」
マントを羽織り直し、俺は身と心を構えた。
不安と気概に胸が鳴る――『グゥー』……――以上に、堂々と高鳴りを告げる異音。
パルキアも空間を破ろうと振り上げた手を止め、きょとんと目を丸めて、俺を見下ろしてくる。
「ずっと何も食べていない……のでしょうね」
呆れたように冷静に指摘され、顔が燃え上がりそうに熱く感じる。
「問題ない。構わずに、早くギラティナの下へ向かってくれ」
顔を背け、腹を捻る。そういえば、いつからまともにものを口にしていないだろうか。
だが、こんな時に余計な茶々を入れずとも良かろうに……。自分の体を、ひどく恨めしく感じた。
「恥じずとも。真っ当に生きてらっしゃる証です。どれ、少し拝借――」
パルキアは片手を空間の断面に突っ込み、がさがさと中を探りだす。
連動するように、森の一部がみしみしと揺れた。
「これを召し上がりませ。味は保障いたしかねますが、恐らく毒は無いでしょう」
そう言ってパルキアは断面の奥からずるりと大きな木の枝を取り出す。
枝の先には、幾つかの見知らぬ赤い実が実っていた。
「遠慮なさらず。腹が減っては何とやら。あなたにも大役があるのですから」
「む……」
葛藤はあったが、誘惑には勝てずに木の実の一つを取って、噛り付いた。
――美味い。皮は硬いが、中身はクリームのように甘く、とろけるようだ。
目が覚めたようになって思わず残りも全てもぎ取り、両手一杯に抱える。
「おや、小さな体で、随分とお食べになるのですね」
「違う。もう一匹、俺以上に腹を空かせている奴が居るはず。
俺はもう十分だ、いち早く向かってやってくれ」
待っていろ、アブソル。実を全て道具袋に押し込み、気を引き締めた。
「……そうですね。想いが無駄にならぬうちに――いざ」
空間を裂き、異空間に入ると、ギラティナの下へ至る黒く封ぜられた入り口を呼び寄せる。
咆哮と共に両肩に埋まる結晶が強く輝き、薄桃色の光が全身を護るように包むと、
勢いをつけ、迷いも無く闇の口へと飛び込んだ。
gj!
334 :
κ,κ:2010/05/04(火) 22:08:38 ID:oz2nc4tF
腹の減ったピカチュウが、良かったです。
続きが楽しみです。
ところで…、IDを消す方法を教えてください。
明日明後日にでも続き書く
>>334 メール欄に半角で、sageと入力する
336 :
κ,κ:2010/05/05(水) 21:35:50 ID:???
ありがとうございます。
これからもわからない事を聞くと思いますが、
よろしくお願いします。
潔癖な輝きは穢れを一切寄せず、影は光の表面に沿って滑やかにさけていく。
最後の一層が破れ視界が開けた途端、前方から取り囲むように黒い尾を引きながら襲い来る赤い棘。
「待ち伏せです、振り落とされぬよう!」
パルキアは急激に速度を上げ、俺はその手の内に張り付くように掴まって
体にかかる強烈な重力を耐え忍んだ。
身を翻して間一髪の所をすり抜けると、そのままパルキアは攻撃の大本である長大な白金の竜、
ギラティナに向けて渾身の雄叫びと共に降下を仕掛ける。
身の芯まで揺るがされるような衝撃。凄まじい力の波がぶつかり合い、激流のような飛沫が迸った。
二柱は互いに弾かれるように身を離し、体勢を整え睨み合う。
「あなたの企みもここまでです、ギラティナ。主の御体と宝玉を返し、投降しろ」
「貴様も力を取り戻したか、パルキア。だが、それも無意味よ。もう止められん」
言って、ギラティナは俺の方を見やる。
「そやつに脅されでもして無理矢理連れて来られたか。難儀であったな、ピカチュウ。
さあ私に腕輪を渡すが良い。重荷を代わろう」
またギラティナの声は甘く優しく、慈愛に満ちているように響いた。だが――もう惑わされん!
「見縊るな。今ここに俺がいるのは、俺自身の意思だ。この程度、いずれ世界の覇者となる俺には重荷ですらない。
お前などに代わってもらう必要など皆無! アブソルを返せ!」
「……豪儀なことだ。だが、肝心の助けられる側の意思はどうであろうな」
暫しの緊迫した沈黙の後、ギラティナは意味深げに呟く。
「どういう意味だ?」
ギラティナは何も答えず、傍らの床に影の門を広げた。そして、その中から現れる、見覚え有る白い姿。
「アブソル!」
「ピカチュウ……」
俺の声に応えるその声色は、威厳や尊大さなど微塵も無い、純粋な、子どもらしいものだ。
――良かった、無事に目を覚ましていた!
思わずパルキアの手の内から飛び降り、様々な感情を胸に俺は駆け寄る。だが――
「来ないで!」
次にその口から飛び出したのは、拒絶だった。
338 :
κ,κ:2010/05/08(土) 16:33:06 ID:???
明日から始まるテスト勉強と英検が終わった頃
(だぶん夏休み)に、絵を描きたいと思います。
その時はよろしくお願いします。
GJ!
明日か明後日にでも続き書くぜ
一体どうしたというのだ。いつもであれば、むこうの方から飛び込んでくるくらいだというのに。
ああ、そうか。心配するあまり、勢い良く駆け寄りすぎたのかもしれない。俺は客観的に自分の今の見てくれを考える。
全身の毛に砂や埃が絡み付き、いつの間にか出来ていた擦り傷に汚れて、ドブに住むネズミのようにぼろぼろだ。
驚かせてしまっても無理はない。
「落ち着け、アブソル。俺はお前を助けに来たのだぞ。さあ、来い」
戸惑いを隠し、優しく語りかけながら俺はアブソルにゆっくりと歩み寄る。
しかしアブソルは顔を俯かせたまま首を横にぶんぶんと振るい、後ずさって離れた。
「ううむ。では、一匹でこんなところに置いていったのを怒っているのか?
安心しろ、もう二度とお前を独りにしたりはしない。だから、機嫌を直してくれないか」
「――つき」
ぽつり、呟きと、雫が凍える床を打った。
「ん? 今、何と言った」
「嘘つき、ピカチュウは嘘つきだ!」
涙を目一杯にため、アブソルは叫ぶ。
ええい、何故こんなにも癇癪を起こしている。子どもはよく分からん。
「いい加減にしろ。俺はお前に嘘などつかん!」
聞き分けの悪さについつい苛立ち、少し声を荒げて言ってしまう。
アブソルは少しびくりとしたものの、直ぐに俺をきっと睨み返した。
「それが、嘘だよ。ピカチュウはずっと黙って、隠してた! ボクは知ってる……知っちゃたんだ。
またすぐにボクは置いていかれるよ。それはピカチュウにだけじゃない。みんなみんな、
絶対にボクより先にいなくなって、ずっとボクは独り取り残されるんだ! だってボクの体はピカチュウやみんなと違って、
普通の体じゃない。アルセウスさんが、神が、ボクの中には眠ってるんだ」
俺は返す言葉を見失った。知られてしまった。あまりに大きく残酷な、神と、ただのポケモンの差。
だが、考えぬよう、気付かぬように避けていた。
「もうよかろう。分かったはずだ」
見かねた様子で触手を伸ばすギラティナを、パルキアは体をぶつけて引き離す。
「まだですよ。あなたには私の領域を散々に荒らしてくれた礼も済ませていないことですしね」
「邪魔をするな……!」
ギラティナは組み付くパルキアを跳ね除け、どす黒い息吹を吹きつけた。
咄嗟にパルキアは目の前の空間を裂き、自分ではなく息吹を異空間に飛ばして防ぎにかかる。
だが、少し遅く、飲み込みきれなかった分が腕を僅かに掠り、白い腕甲の表面が爆ぜるように散って抉れた。
それでも少しも怯むことなく、パルキアは再びギラティナに向かっていく。その間際、俺に一瞬目配せをした。
分かっている。いつかは向かい合わねばならないことだ。少し前倒しになっただけで、逃げはしない。
GJ!
明日明後日にでも続き書く
繰り返す衝撃音と揺らぐ天地。荒々しい竜の血の性を剥き出しにぶつかり合う、二つの天変地異。
その下で、俺は涙で震える真っ赤な瞳をぶれることなく見返す。
「もうやめて……! ボクが消えればいいんだ。ボクのせいで誰かが危ない目にあうのはもう嫌だよ。
ピジョンさんだって、ボクさえいなければ……」
ピジョン――俺が救えなかったものの一つだ。アブソルを守って翼に傷を負い、
飛び立てなかったあいつは、最後に俺をも助け、噴火するグレン島に一羽残った。
目の前にいながら、一度掴んでおきながら、救い上げることが出来なかった。
自分を庇ったせいだと、アブソルの心にも重く圧し掛かっていたことだろう。
「ピジョンの事は、誠に残念であった。俺自身、悔いても悔い切れん。
だが、あいつは残る俺達を思い悩ませ苦しませる為に助けたわけではないはずだ!
よいか、アブソル。確かに、俺もお前よりずっとずっと早く、肉体が朽ち果てる時が来るだろう。しかし……」
全てを伝えきれない内に、上空から響く絶叫のような咆哮が俺の言葉を掻き消す。
見上げると、斬れ飛ばされた巨大な黒い触手の一本が、俺達の方へと落ちてきていた。
パルキアもすぐに気付き、こちらに向かってこようとする。が、ギラティナに喰らいつかれ、間に合わない。
咄嗟に俺はアブソルに体当たりし、突き飛ばす。
異様な程、時間がゆっくり流れて感じる。触手は既に頭上すれすれにまで迫ってきている。
もう俺が避けるている間は無い。でも、不思議と恐怖は無い。アブソルだけはどうにか逃がせた、な。
直後、視界が、全身が、生温い闇にざぶんと沈んだ。
明日、明後日にでも続き書くよ
347 :
κ,κ:2010/05/21(金) 17:26:39 ID:???
久しぶりのレス…。続き待ってます。
・
「あ、あ……」
潰れ広がった触手の残骸のほとりで、泥沼のように床で揺らめく真っ黒な表面を
アブソルは茫然自失として見つめた。虚ろな目を彷徨うように巡らせて探し求めても、
そこに黄色い姿は跡形も無い。
まただ、またボクを守って、今度は、今度はピカチュウが……!
一番なくすのが怖かった、最初に出来た最も大切な友達。それが目の前で、
自分を庇って消え去ってしまった。弱りきっていた幼い精神を砕くには十二分過ぎる衝撃だった。
最早言葉にならない悲痛な慟哭が、アブソルの喉を張り裂けんばかりに駆け上る。
ギラティナとパルキアは目を見張って争いを中断し、素早く体を離した。
だが、天と地の揺らぎは収まらない。
天地は泣き震えていた。響き渡る絶望の叫びに、一緒になって泣き叫んでいた。
――辛い、苦しい。なんで、誰が、こんな、こんな……。
ふらりと動いた視界に、自分を見おろす二匹の竜の姿が映る。
――そうだ、あいつら。あいつらの戦いに巻き込まれたせいで、大切な、大切な……!
許さない、許さない、許さない、許さない、許せぬ、許せぬ、許せぬ。
流れ続ける涙が光の粒子に変わり、激情に震える体を這い進んでいく。
やがて光は全身をすっぽりと包み、先の尖った長い四肢をもつ馬に似た形状で固まった。
「目覚めて……しまわれたのですか……」
巨体を子どものように怯え震わせ、嘆くようにパルキアが呟く。
「いや、完全には目覚めてはいない。おぼろげな半覚醒の意識の中、
幼子の激しい感情に同調して力を与えている」
呼吸を張り詰めさせてギラティナは答える。
「ええい、貴様らが腕輪をおとなしく渡しておれば、かようなことには!」
「あなたの独断が最もたる原因でしょう!」
言い争う二匹の間を、凄まじい勢いの光弾が過ぎ去る。
「……我らが争う時ではない。怒りに任されるままに暴れられては世界が危うい。
どうにか隙をつき、腕輪だけでも底から掬い上げて暴走を止めねば――」
アルセウスを思わせる形をした光は、後ろ足で地を蹴ってふわりと浮き上がる。
『”消えちゃえ!””滅せよ!”』
二重に響く咆哮を上げ、光はギラティナとパルキアに向かって加速する。顔から零れ続ける光の粒子が、
宙に二本の帯を引いて残した。
明日か明後日にでも続き書くぜ
351 :
κ,κ:2010/05/25(火) 21:57:52 ID:???
テスト終わりました。これで毎週、PCができる。
ストーリーに疾走感があっていい!GJ♪
・
「――もうこんな野蛮なことはしない。剣もいらない。だから許して欲しい」
日もすっかり沈み、コロボーシ達の奏でる木琴のような音色だけが外から染み渡ってくる穏やかな洋館。
食堂ではロズレイドが本を広げ、ポケモンの言葉に解読しながら子どもに読み聞かせるようにゆっくりと
声に出して読み進めている。
「若者は剣を地面に叩きつけて折ってみせた。ポケモンはそれを見ると……」
その途中、茶菓子の陣が敷かれたテーブルの向かい側、
長い耳を枕にだらしなく突っ伏して寝息を立てている姿をちらりと見やる。
ロズレイドは溜息一つして、切りの良い所まで黙読し、葉っぱを一枚栞代わりに挟んでから静かに本を畳んだ。
まったく、この本を代わりに読んで聞かせて欲しいと言い出したのは、一体どこの誰だったか。
『シンオウの神話・伝説』と書かれた表紙と居眠りするミミロップを交互に見て、ロズレイドはもう一度深く息を吐いた。
洋館で再会してから一度、自分達の帰還とお化け騒ぎが治まったことをドンカラスに報告するため、トバリに足を運んでいた。
ピカチュウを信じて洋館で待つ。そう気丈に振舞っていたミミロップだが、心配の種の地が近くにあるとなれば、
足があの不気味な泉と畔の洞窟へ通じる道を何気なく探しに向かってしまうのは、仕方のないことだろう。
報告の終わった帰り道、ロズレイドもミミロップの調査に付き合った。しかし、やはり泉に繋がるような道は見つかることは無く、
トバリの近隣に生息するポケモン達に聞いてみても、全く存在すら知らないか、熱で意識が朦朧としている時に一度見た等という
信憑性の薄い情報しか得られなかった。
後はもう人間の知識に縋るしかないと、洋館に残されている本をトバリに関するものに絞って漁ってみても結果はほぼ同様で、
遂に行き当たったのが先程まで読んでいたシンオウ神話のトバリの項だ。神話や伝説など、
大部分が人間の考えた空想の話であるとロズレイドも思っている。例え事実が紛れていたとしてもそれは元が分からない程に大きく装飾され、
熱に浮かされた妄言のように不確かなものと化しているだろう。
ただ物語として読むには面白いけれど、そこから真実だけを抽出して必要な答えを導き出すなんて、僕じゃあ無理だ。
『生と死の混じる場所』、『清められたポケモンの骨が流れ着き、肉を付けて戻ってくる地』、
泉と洞窟を示すらしき話も幾つか見受けていたが、徒らに不安を煽るだけだろうとミミロップには読み聞かせないでいた。
……今日はそろそろ休もう。ミミロップさんも起こさなきゃ。こんな所でこのまま寝たら、風邪を引いてしまう。
ロズレイドが席を立とうとすると同時、ミミロップが机から飛び起きるように頭を上げた。
その顔にはじわりと汗が滲み、どこか怯えたような表情をしている。
「どうなさいました?」
「わ、分かんない。けど、急にすごく不安になって。今、何だかピカチュウがどこか、手の届かないところに行っちゃったような気がして。
今もそうなんだけど、それとも違う、もっともっと遠い、二度と手の届かないような――」
息を荒げ、震えながらミミロップは答える。直後に、食堂がみしみしと揺れた。
二匹は突然の地震にびくりと動きを止め、揺れ動く電球を見張る。
「けっこーでっかかったねー! トバリしゅーへんがしんげんちだってー」
治まって数秒後、二階でテレビを見ていたムウマージが天井をすり抜けて逆さまにひょっこりと顔を出し、
番組の途中で流れたのであろう速報を伝える。
ミミロップはぼろぼろと涙を溢れさせ、耳の先で顔を覆ってその場に泣き崩れた。
「大丈夫、大丈夫ですよ。トバリは海を挟んでいるとはいえハードマウンテンに近い場所ですし、
近くで地震くらいあっても不思議じゃありません。
あの悪運の塊のようなピカチュウさんがちょっとやそっとでどうにかなるわけ無いって、ミミロップさんもご自分で言っていたじゃないですか。
妙に不安なのは、きっと心配しすぎて疲れているからですよ。今日はもう休みましょう、ね?」
自身にも言い聞かせるように、ロズレイドは励ましの言葉をかけた。
・
真っ暗闇。音も無く、温度も無く、肌に触るものも、もう何も無い。
感じられるものは、既に殆どが溶けるように散って無くなってしまった。残るのは虚空に沈む、浮かぶ、金色の腕輪。
それに微かにこびり付いて残っている意識。それが、それだけが己だ。
己は何だったのか。たった一つはっきりと思い描けるのは、周りを白い毛並みに覆われた黒い顔。
これが己だったのだろうか。いや、違う気がする。恐らく、己がまだはっきりと己だった時、大切だったものだ。
きっと己は最期にこのものを守ったのだ。思い描いた時に僅かに感ずる安心感、充足感がそれを伝える。
何も未練は残っていない。あってももう思い出せぬだけかもしれんが、もう、いい――。
『おいおい、どんな新入りが来たのかと思ったら、一体どうして君がこんな奥底に?』
消えゆく己の意識に、別の意識が触れた。
356 :
κ,κ:2010/05/28(金) 21:51:08 ID:???
明日、明後日にでも続き書くよ
糸のようにほどけて散ろうとした己の端を、ぐいと掴まれ引き寄せられる。
『やれやれ、希薄になっちゃって。年長者より先に若い奴が逝くんじゃあない』
己を繋ぎ止めるは誰ぞ?
『しっかりしてくれよ。こんな時は君はもっとずっと生意気に、
”まだ成仏してなかったのか見知らぬ悪霊め。俺から離れろ”
とでも、言ってくれるところだろう。なあ、ピカチュウ』
ピカ、チュウ? 馴染みのある響き。己の何かが脈打った。
ピカチュウ。繰り返してみれば、より鮮明に染み渡り、馴染む。実に良く馴染む。
ああ、そうだ、そうだった。馴染んで当然。それが己――いや、俺だ!
途端に失いかけていた思考や記憶が激流のように押し寄せ、
空っぽだった意識になだれ込んでくる。
『うん、それでいい。久しぶりだな。俺のことも思い出してくれたかな?』
……このずけずけとした馴れ馴れしさ、思い出したぞ。
シルフビルの戦いで俺の体を乗っ取りおったあの悪霊だろう。
『……まあ、それも間違ってはいないけれど』
ひどくがっかりとした気分が意識に伝わってくる。
が、俺の知ったことではない。まったく、気持ちよく成仏しようとしていたところを
邪魔してくれおってからに。
『おや、随分とあっさり最後を受け入れるんだね』
ふん、お前のような悪霊と一緒にするんじゃあない。自分がどうなったかくらい理解できている。
あんな瘴気の塊のようなものに押し潰されては俺の体など一溜まりも無かっただろう。
だが、アブソルだけは守れた。俺にできる限りの事はした。もう未練は無い。
『呆れたな、本当にそうかい?』
何が言いたい?
『君はまだ何も守れちゃいないし、何も出来ていない。聞こえないのか?』
音一つ無いと思っていた暗闇に轟く咆哮。同時に鋭い光が闇を切り裂き、差し込んできたのを感ずる。
見上げると、遥か上方にひび割れのような穴が開いていた。隙間から垣間見えるのは、
満身創痍のパルキアとギラティナの姿と、もう一つ――あれは、あの巨大な光は、アブソル……?
『かわいそうに、あんなに泣き叫んでいる。あれを見ても同じことが言えるのか?』
――ッ! だがどうしろというのだ! 最早、俺には文字通り何一つ残っていないのだぞ!?
『腕輪がまだあるだろう。何一つ無いところから何かを創り出すその腕輪が』
おい、まさか……。馬鹿を言うんじゃない! 俺に出来ることなど精々蔓を生やすくらいだ。そんなこと不可能に決まっている。
『やってみなけりゃ分からない。ここは生と死の狭間。失った命が辿り着き、また新たな輝きを得て戻っていく場所だ』
そんな所業、許されるはずが無かろう……!
『お前は帝王になるんだろう? 帝王が誰に臆し、許しを請う必要がある?
さあ、しっかりと思い描くんだ。世界にいずれ知れ渡らせる自分の姿を。黄色い顔に真っ赤なほっぺ。
長い耳とぎざぎざ尻尾。誇りある我らが姿をってね』
GJ!
話と関係ないが、今週のアニポケでエレキブルがピカチュウのアイアンテールで倒されたのを見て
シンオウ編の対ギンガ団戦を思い出したw
明日明後日にでも続き書く
>>360 懐かしいな
あの頃はピカチュウのキャラが微妙にブレていた気がするw
362 :
κ,κ:2010/06/04(金) 23:11:43 ID:???
>>361 確かにそうですね。
あの頃のピカチュウも嫌いじゃないですけど。
今は、喜怒哀楽がはっきりしてますね。
ざわ、と胸の奥が揺らいだ。
“帝王”。磐石不動、絶頂の存在。何者にも何事にも退かず、媚びず、省みない。
最上、至高、並ぶもの無き万物の頂点ッ!
くく、ふふふ……巧く乗せてくれるではないか。
『ああ、君を乗せるのなんて昔から慣れたもんさ』
そうだろう、そうだろうともさ。全く以って心地よく懐かしい響きよ。
見るがいい。見せてやろう、我が成長した姿を!
一段と強い脈動。高ぶり唸る金の輪に意識の手を通せば、
硬く細い芯が指の先端から貫き入り、腕を通り、体へと伸び広がっていく。
やがて全身に行き渡った芯の上を、今度は生温かい布状のものが覆い包んでいった。
同時に味わう、全身傷だらけで塩水に放り込まれたような痺れ、熱、到底言い表せぬ痛み。
しかし、後退はなし。前進あるのみ。この程度、己の苦痛を制せず何が帝王、
どうして生死の道理の逆を行けようか。
苦しみを耐え、千切れそうなまでに引き絞っていた全身に更に渾身の力を加え、
耳から尾の先までを包み終えた瞬間、
「――ぅおおおおおッ!」
息を吹き返した喉が、体の奥底から雷鳴の如く雄叫びを打ち上げた。
持て余した青い電気の帯が、ばちばちと黄色い体毛の上を舞い踊る。
「ふは、ふはははは! 取り戻したぞ、我が肉体!」
「お見事。立派だ、本当に」
全身の感覚を確かめる俺の背に、声がかかる。
「ふ、ふん、当然のこと。言われなくても分かっている。誇るが良いぞ」
振り向かずに俺は答えた。背後の声がくつくつと笑う。
「悪態をつく元気もばっちりだ。じゃあ、後はやることは一つ。上の子に届けるものがあるだろう」
声と共に、後ろから溶け残っていたらしきマントの切れ端が丸められて投げ渡される。
拾い上げて開いてみると、中から赤い木の実が一つ転げ出た。
「……ああ。だが、一つじゃ足るまい」
木の実をきゅっと握りしめ、腕輪の力を呼び起こす。甲高い金属音と共に腕輪から緑色の光が握る手に流れ込み、
中で木の実が弾けそうな程に震えた。俺は手をゆっくりと開き、木の実を足元近くに転がす。
木の実は振動を止めず、直ぐに硬そうな皮を突き破って芽が飛び出した。そのまま芽は成長を続け、
上方のひび割れに向かって伸び上がっていく。
「また話せたどころか、姿も傍らから見れた。俺はそれだけで十分だよ」
「そうか」
そっけなく答えて、俺は伸びようとしている枝の一つを掴み、しっかりと足をかける。
「おやおや? もうすぐお別れなのに、今度は泣きべそかかないのかい?」
「誰が泣いてやるものか。男の別れ際に涙はいらん。そう言ったのはお前だ。だから、もう心配はいらない」
「……そっか、そうだな。強くなったもんな」
満足そうに、しかし少し寂しげに声が笑うのが聞こえる。
思わず、ずっと秘めておこうとした言葉が胸の奥で疼き、喉をちくちくと突いた。
「か、感謝する。我が記憶に微かに残る偉大だった背の心地に重ね、お前、あなたに最大限の敬意、敬愛を表す」
「堅苦しいな」
「ええい、ありがとう! お――」
めきめきと大きな音を立てて爆発的に木は成長し、枝に掴まる俺の体は上へ上へと押し上げられていった。
GJ
366 :
κ,κ:2010/06/08(火) 21:44:01 ID:???
前に絵描くって言いましたよね?今週で英検終わるんで早めに描けそうです。
どうやって画像を送りますか?
367 :
κ,κ:2010/06/08(火) 21:49:38 ID:???
あと、ピカチュウ単体と5匹のどっちがいいですか?
GJ!
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
>>366-367 適当なアップローダーに上げて、アドレスをここに貼ればいいんじゃないかな?
あまり詳しくないんで、使用方法とかはググってみてくれw
自分の好きなものを好きなように描けばいいと思うよ。
369 :
κ,κ:2010/06/10(木) 23:01:41 ID:???
了解しました。
そのまま貼ってもいいんですか?
何か決まりとかあるとか聞いたんですけど…
伸びゆく枝葉のざわめきに、俺の最後の言葉は掻き消された。
天にも届けとばかりに成長を続ける木は、やがて空間を埋め尽くす程の大樹となり、
ざわざわと葉を茂らせ、満開の花を咲かせ、たわわに実を結ぶ。
枝と共に上昇する俺の脳裏に、忘れていた――いや、忘れさせられていたというべきか――
おぼろげな記憶の断片が、熟し切った赤い実の如く弾け飛ぶ。
かつて、敵からも味方からも「黄色い悪魔」と恐れられた、残忍で冷酷な戦士。
一介のライチュウとなるよりも、最強のピカチュウとして君臨する事を望んだ覇者。
そして……自分の命と引き換えに、自分の大切なものを守り通した大きな背中。
誰よりも力強く、誰よりも誇り高く、誰よりも心優しき……
――それが、俺の――その全てが、俺の――俺の――――
自分でも無意識のうちに、目から大粒の雫がぼろぼろと零れ落ちていく。
違う。涙ではない。汗だ。熱き魂に触れた、心の汗だ。
それを払い落すように俺は頭を左右に振り、勢いを付けて枝から高く飛び上がった。
そのまま木の頂上を目指し、太い幹を駆け上がっていく。
ともすれば振り返りたくなる気持ちを押し殺し、俺は遥か上空のひび割れを見上げる。
今一度、鋭い閃光が轟き、怒りに……悲しみに満ちた咆哮が響き渡る。
「止めるんだアブソル! ……アルセウス!」
徐々に重なっていく二つの白い姿に向かい、俺は思わず叫んだ。
このままでは、アブソルの存在が消滅してしまう。いや、そればかりではない。
もし……負の感情に囚われたまま、アルセウスが覚醒してしまえば……
この世界も、神の存在すらも危うくなってしまうのだ。
だが、現世との隔たりは未だに大きく、俺の声は届きそうにもない。
それならば――
俺は再び、腕輪に気を集中させる。
生死をも越えた帝王たる俺に、もはや不可能などある筈がない!
高い金属音と同時に、黒の球体から暗闇のような靄が流れ出す。
靄はマントの切れ端に纏わりつき、みるみるうちに切れ端は元の形を取り戻した。
それをいつも通りに羽織り、俺は更に念を掛けた。
空色の球体が淡く光り、俺の周囲に一陣の風が巻き起こる。
その風をはらみ、ドンカラスが羽を広げたように、バサリ、とマントが大きく翻る。
「目を覚ませ! 俺はここにいる! 俺は決してお前を裏切らん!
俺の人生が俺のものであるように……お前の人生はお前のものだ!」
俺は漆黒の翼を背に、風を捉えて空中へと舞い上がった。
ギラティナは言った。
世界は大きな幼子のようなもの。
手を引いて導いてやらねばすぐに転び、道に迷ってしまう。
だが、奴は大切な事に気付いていなかった。
幼子はいつしか逞しく成長し、親の元から旅立っていく、という事を。
そして、自分の足でしっかりと大地を踏みしめ、自分の道を歩んでいく。
たとえ大きな壁にぶつかったとしても、自分の手で乗り越えていかねばならないのだ。
それが、未来を託す親の願いであり、希望を託された子の使命である。
――なあ、そうだろう?
俺は、心の中で、あの懐かしき面影に呼び掛ける。
遥か遠くに消えていく意識が、微かに……だが、確かに頷いた……
GJ!
明日か明後日にでも続き書くぜ
>>369 大丈夫
18禁(いわゆる卑猥・グロテスク)に含まれる画像の貼り付けとかしない限りは基本的には自由だったはず
不安ならURLを張る時に先頭にあるhttpのhを抜いて直接リンクを避ければいい
374 :
κ,κ:2010/06/11(金) 22:08:10 ID:???
ありがとうございます。明日、着色したいと思います。
375 :
κ,κ:2010/06/13(日) 10:29:48 ID:???
376 :
κ,κ:2010/06/13(日) 11:07:27 ID:???
PS.
http:…のところを見て下さい。PCだと、調子が悪いので携帯推奨。
378 :
κ,κ:2010/06/13(日) 16:13:52 ID:???
ありがとうございます。PCで絵を描くの初めてだったんで、結構ミスってけれど気にしないでください
迫る境界、広がる光。突き出した掌から伸びる紫電が境界面を覆う空間の層を鋭い鉤爪の如く引き裂き、
尚一層強く吹き上がる風と共に俺は飛び出した。
「アブソル! アルセウス! 我が友よ!」
最早我が前を阻むもの無し。全身全霊の叫びは吹き荒ぶ風の音すら凌駕し押し退ける。
上空の光がびくりとして動きを止めた。そして油の切れたブリキ人形のように、親に縋る幼子のように、
ゆっくりとぎこちなくこちらを見下ろす。
「そうだ、こっちを見よ! 俺は生きている!」
顔から涙のような粒子を滴らせながら、何か大切なことを思い出したげに首を傾げるアルセウスの形をした光に、
アブソルに俺は見せ付けるように堂々と胸を張って更に声を張り上げた。
「死神の毒気を以ってしても、帝王の血を絶やせはしなかった! 我が魂は不滅、もう二度と決してお前を独りになどしない!
例え逃れえぬ天命尽きる時が来ようとも、我が魂、誇りある血を受け継ぐ者達がお前を見守り続けるだろう。
……だから下りて来い! 帰ろう、俺と共に!」
俺は両手を広げて構える。不器用な俺に出来る精一杯の言葉。まだあいつほど巧くはやれない。それでも、全力でぶつけた。
受け継いだ魂、稲光の如く気高く輝く精神から紡ぎだされるものを。
アブソルを包む光に、ぴしぴしと亀裂が入っていく。流れ伝う二筋の冷たい煌きはもう止んでいた。
俺は崩れ行く光に駆け出し、思い切り地を蹴る。領域の垣根を超えて成長した大樹が手を広げるように枝を伸ばした。
同時、卵の殻を破るように光は脱ぎ捨てられ、中から白い姿が飛び出す。俺はしっかりと宙でその姿を受け止め、
一緒に枝と葉のクッションの上に着地した。
「ピカチュウ、ピカチュウ――!」
飛びつかれるように前足に抱き寄せられ、ぼふん、と俺は厚い毛並みにうずまる。身を捩って白い毛の海から頭を上げると、
赤い瞳に涙を一杯に溜めた黒い顔が迎えた。
温かな雫をぽたぽたと顔に受けながら、俺はアブソルの首の辺りをぽんぽんと優しく宥め叩く。自然と口元が柔らかに綻ぶのを感じた。
すごい!GJっす♪
381 :
κ,κ:2010/06/16(水) 00:11:12 ID:???
アブソルとピカチュウの再会に感動! 最高です。
明日明後日にでも続き書くよ
383 :
ぴかぴか中:2010/06/17(木) 21:03:00 ID:8vUAKK1X
最近見つけて一気に読みました!!
とってもおもしろいですね!!
384 :
ぴかぴか中:2010/06/17(木) 21:09:37 ID:8vUAKK1X
38章はまだできてないんですよね?
37までしかなかったんですが・・・
はやくよみたいっ
385 :
ぴかぴか中:2010/06/17(木) 21:12:02 ID:8vUAKK1X
このページの前はどうやって見れば??
386 :
κ,κ:2010/06/18(金) 00:45:30 ID:???
ぴかぴか中さん、初めまして。κ,κです。
携帯で見ているなら、『前』って書いてあるのが、下の方にあるので押せば見れるはずです。
・
「見たでしょう、ギラティナ。我らにすら止められなかった崩壊の危機を、
元はただのピカチュウが三度。生死さえ越えて防いだ……」
身を地に横たえたままパルキアは大樹を見上げ、みしみしと軋みながらかすれた声を漏らす。
「最早我らの差し出す手など必要ない。世界はもう立派に一人で立ち上がり、自らの足で歩んでいる」
白金の影は枝の上の二匹を見やり、何も答えずただ静かに揺らめいた。
・
ひとしきり再会を喜び合った後、俺は下に倒れているパルキアとギラティナの姿を見つけ、
アブソルと顔を見合わせて頷いた。不安を浮かべるアブソルを、「大丈夫だ」と撫で、共に大樹を下りる。
「良くぞご無事で」
駆け寄る俺達に、パルキアはふらふらと起き上がり、首を下げ跪く。
ギラティナは深く目を閉じ、判決を待つ罪人の如く全てを諦めたようにじっと佇んでいた。
アブソルはそれを憂いを帯びた複雑な面持ちで見つめる。
「貴様らの勝ちだ。最早私に目的を果たす力は残されておらぬ。どのような罰であろうと受けよう」
確かにギラティナの行いは行き過ぎたものだったかもしれない。
しかし、何故ここまで己さえも投げ打って世界に尽くそうとした?
「創造主への反逆、他領域への侵略、略奪行為、許しがたい蛮行である。極刑も已む無しと私は判断します」
思い悩む俺を前に、冷徹にパルキアはギラティナに言い放つ。
「私は一向に構わぬ。世界の維持を、役目を否定された今、もう私に存在する理由は……見つけられない」
そうか。こやつ自身もまた世界と同じ――親を、アルセウスを否定しながらも、
その引く手、かつて生み出された時に課された役目を無くせば碌に歩めぬ、道迷う幼子――!
「ふむ、潔いですね。神族である誼みと、その意気に免じ、せめて苦しまぬよう中枢を一太刀で――」
「ま、待って!」
俺よりも早く、アブソルが声を上げた。
390 :
κ,κ:2010/06/20(日) 01:16:10 ID:???
明日は暇だから、また絵でも描きます。
392 :
κ,κ:2010/06/20(日) 10:51:06 ID:???
393 :
κ,κ:2010/06/20(日) 10:53:50 ID:???
PS
また同じように http: のところを見てください。
395 :
κ,κ:2010/06/20(日) 16:16:42 ID:???
そうです!!わかってくれてありがとうございます。
GJ
明日明後日にでも続き書くぜ
携帯からだけど絵あげてもいいですか?
398 :
κ,κ:2010/06/22(火) 19:07:16 ID:???
自分は、いいと思う。ちなみに自分は携帯から上げています。期待して待ってますね。
すみません!
ダブっちゃいました
402 :
κ,κ:2010/06/22(火) 20:13:32 ID:???
おぉ!!ピカチュウ逹の関係が上手い。自分はミミロップを描くの苦手なんですよ。
>>402 ありがとうございます!
そう言ってくれたら嬉しいです。
404 :
κ,κ:2010/06/22(火) 22:05:21 ID:???
>>403 お互い頑張りましょう。2週間、テストのため絵が描けないです…
「危険です。お離れください」
踏み出すアブソルの前をそっと尾で遮り、輝き唸る爪をギラティナに構えたままパルキアは言った。
アブソルは怯まず、立ち塞がる大きな尾をかりかりと引っ掻く。
「どけて。話したいことがあるから。お願い」
一拍の沈黙の後、パルキアは静かに尾を上に退けた。
その下をくぐる前、不意にアブソルは俺の方を振り向く。じっと俺はその目を見返す。
思いは同じ。頷き合い、再び歩み出す後ろ姿を俺は見守った。
暗く沈んだ眼孔に光が灯り、ギラティナは己に歩み寄る姿を見やる。
パルキアは視線と爪の輝きをより一層研ぎ澄まし、油断なくギラティナに睨みを利かせた。
「恨んでおろうな。どのような言の葉をいくら紡ごうとも、許されるとは思わぬ」
重々しく口を開くギラティナを前に、アブソルは足を揃えて座る。
「……うん、許せない」
「ああ、そうだろう。ならば悪竜は剣に裂かれ、消え去るのみ。さあ、離れるがよい」
自嘲するようにギラティナは口端を歪めた。アブソルは首を横に振るう。
「あのままピカチュウが消えちゃったら、きっと許せなかったと思う。
でも、もうひとりのボクにも責任があったんだって、分かったから。……その、ごめんなさい」
目を見張るギラティナに、アブソルは続けた。
「怒って頭の中がぐるぐるになってから、少し混ぜこぜになっちゃって、
もうひとりのボクを、アルセウスさんを近くに感じるようになったんだ。
それでよく分かったから。もうひとりのボクはとってもわがままで、素直じゃなくて、不器用だって」
あはは、とアブソルは自分で苦笑する。
「そんなだから、うまく伝えられなくて……。今回のことだってそう。
きっともうひとりのボクは、自分だけじゃなくてギラティナさん達を自由にしてあげたかったんだと思う。
ぶっきらぼうだから、今度もまた何もかも放り捨てちゃったみたいに見えても仕方ないけど……」
後ろ足で立ち上がり、アブソルはぱたぱたと前足を大きく広げて身振り手振り、
一生懸命に何かを伝えようとする。
「世界ってね、こんなに大きくて、すごく綺麗で、辛いことも同じくらいあるけれど、とっても楽しいんだよ。
空の上とか、裏側からとか、時間の隙間からお仕事で覗いて見るだけじゃ物足りないし、見逃しちゃう。
だから、ギラティナさん達にも実際に見て、何にも邪魔されずに歩いて、感じて欲しかったんだと思うん、だ――うわわ」
後ろ足のバランスを崩し、よろめくアブソルにすかさず俺は駆け寄って支えた。
「まったく、四足歩行が無理をするでない」
「ごめん、ありがと」
体勢を直して気恥ずかしそうに礼を言うアブソルから手を離し、俺は沈黙するギラティナを見上げる。
「……子はやがて成長し、親の手を離れ己の足で歩んでいく。頼りなげだといつまでも繋いでいては、
思わぬ力に互いに振り回されて、かえって邪魔にすらなりうる。もう世界は少しくらいよろけようと、
俺が、俺だけじゃない世界に生きる者達一人ひとりが支え、起き上がれる。起き上がらせて見せる。
次はお前の番だぞ、ギラティナ。最早、枷は無い。恐れずに歩んでみせよ、新たな道を」
こくり、とアブソルが頷く。
「お願い、ギラティナさん。消えるなんて言わないで。パルキアさんも、どうか許してあげて」
ふ、とギラティナは全身の力が抜けたように息をつく。それを見て、少し口惜しげにパルキアも爪を退いた。
「アルセウス……果ての果てまで意が読めぬ、どこまでも身勝手な奴よ。
ほとほと心の底から愛想が枯れ尽きたわ。そんな奴に与えられた役目になど縋っていたのがとても馬鹿馬鹿しくなった。
もう勝手にするがいい。私は私で現世を好きに生きさせてもらう……それでよいのだな?」
「うん……さすが、素直じゃないとこがよく似てるみたい」
くすくすと笑うアブソルに、ギラティナは鼻を鳴らして顔を背けた。
こうして、壮大な神々の家族喧嘩に一応の決着がついた。後は無事に帰るだけ――
「さて、後はピカチュウ。禁忌を犯した者への処遇についてですが」
――とは、いかないかもしれない。
408 :
κ,κ:2010/06/24(木) 20:18:52 ID:???
ピカチュウ、御愁傷様。
明日、明後日にでも続き書くよ
じりじり詰め寄る巨影。俺は撫で下ろしかけていた肩を強張らせ、冷や汗と共に顔を上げた。
見透かすように向けられた鋭く輝く目に、堪らずひくひくと口端が引き攣る。
あわよくばこのままお目溢しにあずかれるやもと頭の片隅で目論んでいたが、
やはり生死の道理を捻じ曲げるなど、とても見逃しがたい禁忌なのだろう。
あれだけ堂々と復活を見せ付けておいて、今更隠すことも出来まい。
「う、むむ……だが、俺があんな目にあったのも、お前とギラティナの不手際に巻き込まれたのが原因ではないか。
それにもしも俺が蘇らなければお前達も危うかったのだろう。感謝されてもよいくらいだ」
精一杯に胸を張って言い放つが、我ながら何とも苦しい言い逃れだ。
「ごもっとも」
たった一言と共に、あっさりとパルキアは引き下がった。呆気にとられる俺を見て、
パルキアは口元に大きく弧を描く。
「からかってみただけです。生と死のことなど元から私の管轄外ですし、
つい先程に厳密に管理しようとする者もいなくなったばかりではありませんか。
誰があなたを罰することが出来ましょうか、ねえ?」
当て付けるようにパルキアは横目でギラティナを見やる。
「……勝手にしろと既に言った筈だ」
苦虫を噛み潰したようにギラティナはわなわなと顎を震わせたが、
すぐに諦めて吐き捨てるように言った。
改めて安堵の息をつく俺に、よかったねとアブソルが笑いかける。
ああ、と俺は慣れない微笑みを返した。
そんな俺達をどこか優しげに見つめる眼差し。直ぐに気付き、俺は慌てて緩んだ顔を引き締めてそちらを見上げた。
ふ、と微かに笑った後、パルキアは真剣な眼で俺を射抜くように見つめる。
「託しましたよ」
簡潔ながら力の籠もった言葉。
「うむ」
真っ直ぐに見返し、応えた。
深く噛み締めるようにパルキアは目を閉じ、頭を下げて礼をする。
「感謝いたします。世界が我らの手を巣立ったと同時に、我ら――私も解放された。
創られてより過ごした永劫ともいえる月日の中で、たった今初めて生を受けることが出来た……そんな気さえします。
世界には様々な変化が緩やかながらも徐々に確実に訪れていくでしょう。そして、変化に伴なう困難も。
しかし、あなたなら、あなた達ならば必ずや乗り越えていける……確信しております」
パルキアは俺達の目の前に空間を斬り開き、別の空間へ通じる入り口を繋ぐ。
水面のように光が揺らぐその先に垣間見えるのは鬱蒼と生い茂る木々と、奥にひっそりと佇む見慣れた、
だがすごく懐かしい――古ぼけた洋館。
「これからお前達はどうするつもりだ?」
すぐにでも潜り抜けて駆けて行きたい、逸る気持ちを堪え、俺は尋ねる。
「折角の自由。今しばらくは私なりに堪能させていただきますわ」
「そうか。路頭に迷いそうになった時は、いつでも我が下を訪ねるがよいぞ」
「ふふ、考えておきましょう。では、お元気で。波乱万丈な人生を謳歌してくださいませ」
行こう、俺はアブソルの肩に手を置き、共に入り口に向けて歩みだした。
「任せたぞ――」
光に包まれる直前、微かだが確かにギラティナの声が聞こえた。
・
幽霊騒ぎが収まったことを聞きつけ、洋館にも徐々にポケモン達の姿が戻りつつあった。
しかし、その表情は皆一様に暗く沈み、館内は異様な程に静まり返っている。
ドンカラスも何とか活気を取り戻そうとしたが、虚しく空回りするばかりであった。
テレビルームで一羽ちびちびと不味い安酒を惰性で飲みながら、
ドンカラスは真っ暗なテレビの上の止まった壁時計を見上げる。
以前に悪酔いして――本人に記憶は無いが――暴れた拍子に落としてから、
中心の大きな歯車が外れて無くなってしまい、動かなくなったものだ。
どんなに歯車の一つが奮闘しようと、ぽっかりと中心に隙間が開いていてはうまく噛み合わず、空回りをするだけ――
ドンカラスはカタカタと虚しく微かな音だけを立てる壊れた時計に己と洋館の現状を重ね、
苦笑と共に溜め息を零した。
そんな時、
「ドン! ドン! たい、大変なんだ!」
大声と共にバタバタと騒がしい足音を立て、エンペルトが部屋に飛び込んでくる。
「な、なんでえ、騒々しい」
「いや、もう、ああ、とにかく良い報告だ、とっても! とにかく洋館の外に出れば分かる!
ミミロップ達はとっくに飛び出して行った! 僕も先に行ってるポチャー!」
驚くドンカラスをよそに、エンペルトは興奮のあまりバタバタと走り回って室内をしっちゃかめっちゃかに掻き混ぜてから、
大慌てで再び外に飛び出していった。
「あいつらしくもねえ。一体どうしたってんでえ……」
怪訝そうに顔をしかめやれやれとドンカラスは腰を上げた。
離れ際、ふと崩れた本の山の間から覗くぎざぎざの半円が目に留まり、ドンカラスは何と無くひょいと拾い上げて見る。
「ありゃりゃ、こんなところに隠れてたんですかい、歯車さんよ」
止まっていた洋館の時が、少しずつ動き始めた――。
414 :
κ,κ:2010/06/29(火) 22:03:59 ID:???
時計の描写が良かったです。続きを待ってます。
明日明後日にでも続き書くぜ
416 :
κ,κ:2010/07/01(木) 18:01:48 ID:???
騒ぎ立つ屋内、交わされる上機嫌な笑い声。
へとへとの俺は何か温かく柔らかな椅子の上で、ぐったりとして座っていた。
――俺の身にいったい何があったというのか……。くらくらする頭にはまったく考えがまとまらない。
「大丈夫? はい、お水」
耳元近くに囁く声と共に冷たく固い感触を口に押し当てられ、
俺はなすがまま無意識にごくごくと喉を鳴らす。ひんやりとした喉越しを知覚するに伴なって、
ぼうっとした頭にも徐々に意識が注いだ。確か、ええと――
光を抜けて森に降り立った俺とアブソルをまず初めに見つけたのは、
木の上でぼんやりと見張りをしていたヤミカラスだった。
声をかける間もなくヤミカラスは転げ落ちそうな程に驚き、慌てふためいた様子で洋館に飛び込んで行った。
その後は、まさに蜂の巣をつついたよう。正面扉が勢いよく開いたと思うと、中から次々に茶色、緑、紫、
少し遅れて紺と黒、色とりどり様々な姿が飛び出し、怒涛の如く押し寄せてあっという間に俺達は飲み込まれた。
最早入り混じりすぎて判別不能の歓喜と驚きの声に揉みくちゃにされながら担ぎ上げられ、
祝宴の用意だと洋館の中までそのまま運び込まれて、それから……。
ぼんやりと見回す目に、広い卓上をステージ代わりに妖しく踊るマニューラとニューラ達、
ついでに半ば無理やりな様子で付き合わされるロゼリア……進化した今は確かロズレイドと言ったか、の姿が写る。
ああ、そうだ、そうだった。食堂で開かれた宴にはシンオウ各地の配下も招かれて必要以上に盛り上がり、
俺は――はっとして自分の今置かれた状況を再度確認する。
後ろから、抱えるように俺の胴に回されている見覚えある茶色の腕、覗き込むミミロップの顔。
俺が座らされていたのは椅子などではなく、こやつの膝の上――
「――ッ!? ――――! !!」
「逃げちゃだーめ」
声にならない声と共に俺は逃れようとするが、腕にぎゅっと阻まれて膝上に戻される。
「今日はずっと一緒にいる約束でしょー?」
……こんな、まったく身に覚えの無い約束をさせられる程に俺自身も大いに飲み食いさせられ、現状に至るようだ。
「……アブソルはどうした?」
仕方なく抵抗を一時諦め、俺は尋ねた。
「疲れてマージちゃんと一緒に先に寝ちゃったわ」
ミミロップは俺を抱えたままくるりと振り返ってみせる。部屋の隅でアブソルは毛布をかけられ、
すーすーと寝息を立てていた。添い寝するようにムウマージも傍らに横になってふわふわ浮かんでいる。
ほ、と俺は安心して息をついた。
それにしても――。
「いいぞ、いいぞ! もっとやりなせえ、クハハハハ!」
騒ぎ続けるドンカラスを筆頭とするポケモン達の姿をちらりと俺は見やる。
こやつらと来たら、本来の宴の主役だったであろう俺とアブソルが先に潰れていようと、
もう殆んどお構い無しではないか。まったく、てんでばらばら、不揃いで、
とことんやかましい奴らだ。とてもうまく制御仕切ることなんてできやしない。
だが、だからこそ――呆れて眺めていた筈の口元が、自然と弧に緩む。
……さて、悪酔いも持ち直したことだ。もう少しこやつらに付き合うとするか。
支配者たるものが先に潰れきっていては格好がつかぬ。
俺は盃を手にし、ミミロップが酌をした酒をぐいと呷った。
「お邪魔するよ」
不意に食堂の外から微かに響いてくる声。喧騒に包まれ大半が気付かずにいる中、
俺は一体誰が今頃遅れて来たのだろうかと目を向ける。入り口をくぐって現れたのは、
白金銀色の毛並みをした狐と、七色に淡く輝く鱗をした蛇――!
俺は思わず含んでいた酒を盛大に噴き出し、げほげほと咳き込む。
「な、な、な、何をしに来た貴様ら!」
「あら、いつでも訪ねてよいと仰ったのはあなたではありませんか、ふふふ」
421 :
κ,κ:2010/07/04(日) 10:42:32 ID:???
凛々しい強気な感じが出てて良いね、GJ!
423 :
κ,κ:2010/07/04(日) 21:24:35 ID:???
>>423 不在のザングースとか、本島と海挟んでる鋼鉄島の面々以外は大概来てるんじゃね?
ルカリオは配下じゃないだろw乙
GJ! 明日か明後日にでも続きを書きたいです。
>>441 >>423 GJ
まあ、ルカリオも素直じゃない方だからw
マニューラ一味やエレキブル達、それにビッパは呼ばれなくても絶対来るわなw
あとはゴローンやゴルバットか。
ユキノオー一族やチャーレム、ついでにフローゼル海賊団もいるかもしれんw
426 :
κ,κ:2010/07/06(火) 13:31:27 ID:???
>>426 背景は洋館か、グレン島の時かな?
そういやマントの背中には雷模様があるんだっけかw
GJ!
428 :
κ,κ:2010/07/06(火) 18:10:10 ID:???
背景は特に決めてないです。適当な遺跡を見て描きました
「な、何でこいつらが一緒なのよ! ひょっとしてグルだったの?!」
俺を抱えたまま、ミミロップがムッとした顔で二匹を睨み付ける。
「一体何の用?! あんた達なんて呼んだ覚えはないわよ!!」
「まあまあ、折角のお目出度い席で、そんな恐ろしげな顔をするものではありませんわ。
何しろ私達は、あなたの主とは特別な関係なのですから……」
「 な ん で す っ て 〜 〜 〜 〜 〜 ? ! 」
ミロカロスは意味有りげな微笑を浮かべ、ミミロップを挑発するように言う。
「それに、あやつ……アブソルを治癒したのはこの私だ。呼ばれて然るべきだと思うが?」
明らかにミミロップをからかい、その反応を楽しんでいるミロカロスを横目で睨みつつ、
キュウコンは冷然とした態度で言い放つ。
その事を持ち出されると何も言えぬ様で、ミミロップはグッ……と唇を噛む。
「ふん……前より少しは成長した様子だが、短気な性格はそのままのようだな」
「へ〜んだ! 私もロゼちゃんも、強ーくなる為に辛〜くて厳し〜い修行を積んできたんだから!
あんたがゴーストの元締めだか何だか知らないけど、もう大きな口は叩かせないわよ!」
「ならば重畳。精々無駄に命を落とさぬよう頑張る事だな」
キュウコンに軽く往なされ、ミミロップは不貞腐れたようにプイッと横を向く。
その隙を見て俺は二匹に詰め寄り、ミミロップには聞こえぬよう小声で囁いた。
「貴様ら……今度は一体何を企んでいるのだ?!」
「別に何も企んでなどおらぬ。好きに生きさせてもらう、と言ったではないか。
今まで役目に縛られていた分、少しぐらいこのような席で羽目を外してもよかろう」
キュウコンは、ふと、部屋の隅で眠るアブソルの方へ目を向ける。
「まるで何もなかったかの如く安らかに……呑気なものよ……」
……そう言いながらも奴の横顔は、心なしか微笑んでいるように見えた。
「おう、何でえ何でえ! ボス直々のお客様でやんすか?」
俺達の様子を察知し、ドンカラス達がわらわらと集まってくる。
そしてミロカロスとキュウコンの姿を見るや、配下達――特にオス共が俄かに色めき立つ。
「カアアー! こりゃすげえ別嬪さん達じゃねえですかい! このぉ、ボスの色男!」
やけに緩んだ顔付きで、ドンカラスは俺の背中を翼でバシバシ叩く。
「……そんなものではない……げほっ……こいつらが勝手に……」
「ささっ、こんなむさ苦しいあばら屋ではありやすが、ゆっくり寛いでいっておくんなせえ」
俺の言動を遮り、ドンカラスは羽先で塵を払うような仕草をしながら、二匹を上座へと勧める。
「あらまあ、それではお言葉に甘えて……」
「では、正式に参加させてもらうぞ」
勝ち誇ったような顔付きで、ミロカロスとキュウコンは俺の近くに座った。
ミミロップは膨れっ面をしながら、両腕で俺の体をきつく締め付ける。く、苦しい……
無理矢理マニューラに付き合わされているロズレイドも、困惑した顔でこちらを見ている。
「あ〜ん? 何だよロゼ。テメーもやっぱ、あーゆーキンキラしたのがいいのかぁ?」
「ち、違いますよ! そんなんじゃ……だって……だって僕は……」
マニューラに絡まれ、しどろもどろになるロズレイドの頬が真っ赤に染まっている。
あいつも大分飲まされ、大いに酔っ払っているに違いない。気の毒に。
それにつけても……
「まさか、貴様らの如き輩が、二匹も揃ってこんな下賤な場に来るとは……」
「あら、二匹ではないですわよ?」
「あやつときたら……役目を離れた途端、時間にルーズになりおって」
何だと……?
聞き返す間もなく グギュグバァッ! という衝撃音と共に、俺の背後の壁がガラガラと崩れ落ちる。
「うわっ! 何でえ?! またビッパの友達でやんすか?!」
「違うお! ボクこんなの知らないおー!」
ぽっかりと開いた壁の穴からのっそりと現れたのは――背に赤い羽の生えた青い竜――
「何故貴様まで来る?! 今更どういうつもりだっ?!!!」
「ようやく身内の確執も解決したので、和解の宴があると聞いて来たのだが……」
全く悪びれる様子もなく、ボーマンダは平然と答えた。
「どこでどう間違ったらそんな話になるのだ?! ……それ以前に玄関から入れ!!!」
「急いでいたものでな、時空の調整を少々誤ったようだ」
「貴様……まだ寝ぼけているのか……?」
「……相変わらず自分勝手ですわね……」
流石のミロカロスとキュウコンも呆れ、揃って溜め息を吐いた。
派手な新ゲストの御登場に皆が騒然とする中、急に黄色い歓声が上がる。
「きゃーん! 何かと思えば、渋くてクールでタイプ:ワイルドなイケメンじゃな〜い!!
ちょっとピカチュウ! 何でこんなステキな知り合いのコト今まで黙ってたワケ〜?!」
「い、いや、別に知り合いという程では……ぶほぉっ!」
今度は興奮した様子のメスのニューラが、俺の脇腹を肘鉄でガシガシ突く。
「はああ? おめえ、こんな羽トカゲ野郎が好みかっつーの?!」
「悪タイプだけに悪趣味ってか! ギャハハ!」
「うっさいわね〜! 邪魔よあんた達! さ、お兄さんも一緒に飲みましょ!」
メスのニューラはオスのニューラ達を電光石火の早業で蹴散らし、
思わず絶句するボーマンダを引っ張って隣りに座らせ、いそいそとお酌など始めた。
……奴らの「正体」を知ったら……こいつらは一体どんな顔をするだろうか……
「さあ、てめえら! 張り切ってお客仁を楽しませなせえ!」
「よっしゃあ! 七武海名物『乗ってけサーフィンUSA』いくぜー!」
「うわあ〜! またそれか〜! や、やめて〜!」
思わぬ珍客共のせいで、場の空気は更にヒートアップしている。
「まったく……貴様らが来たおかげで、配下共が無駄に盛り上がってしまったではないか」
すっかりお株を奪われた俺は、憮然としたまま杯を空ける。
「お望みなら、クレセリアやユクシー達も呼びましょうか?
もっとも、エムリットはさる人間を構うのに忙しい様子ですが……」
「冗談ではない! これ以上エライ奴らが集われてたまるか!」
「ほほほほほ、いいじゃありませんか」
「たまには羽を伸ばす事も必要だ」
「ふん……まあ、悪くはないな」
ポケモン達の馬鹿騒ぎにも妙に馴染んでいる、このやんごとなき奴ら……
本当に、ただ羽目を外しに来ただけなのか?
本当に、何も企んでおらんのだろうか?
――宴の夜は更けていく……
GJ!!
明日明後日にでも続き書くよ
グギュグバァッ ワロタw
GJ!
435 :
κ,κ:2010/07/07(水) 07:03:21 ID:???
>>435 冷静に怒りを滾らせてる感じがピカチュウらしくて良いね
GJ
437 :
ぴかぴか中:2010/07/10(土) 11:31:10 ID:???
久しぶりによんだぁぁぁ・・
やっぱおもろいわ^^
お返事ありがとうございます><
数刻前までの洋館を引っ繰り返しそうなどんちゃん騒ぎが嘘のように食堂内は静まり返り、
寝息やいびきだけがまばらにあちこちから響いてくる。
室内は机と床の区別も無く雑多なゴミや酔い潰れて寝ているポケモン共が一緒くたになって散らかり、
まさに掃き溜めと言うに相応しいような惨状となっていた。
そんな品行方正とはかけ離れた吹き溜まりに、すっかり馴染みきって寝転がっている三つ柱。
よもや本当にただ自由を満喫しに来ただけだというのか。確かにいつでも訪ねろとは言ったものの、
こんなに間を置かず、威厳も気品もへったくれもない間の抜けた姿を晒されるとは思いもよらなかった。
最も、こやつらも遥か高みを流れど、元まで辿れば源は我らと同じ。創世の神によって創られ、
育まれたもの達だ。所変われば品も、ポケモンも、人間も、神も変わる。
だが、同じ場所に立ってしまえば、本質はあまり変わらないということだろうか。
だからといって、何もここまで堕ちることも無かろうに。
神の存在など信じてはいなかった俺でも、今の状況には頭がくらくらする程だ。
もしも、こやつらを厚く信仰している者達がこの名状しがたいだらしない寝相や、
下々の者と一緒になって吐き散らしていた冒涜的な言葉、いつかのコンテストのリベンジ戦という名目で行われた
奇怪で異様な儀式に長い身をのたうち踊らせていた姿を見知れば、たちまち正気を失って卒倒、発狂しかねない。
ああ、何と恐ろしい邪神どもであろうか。せめて、アブソルだけはこんな風に育たぬよう見守ろう。深く心に誓った。
そのために今出来ることは、この堕落しきった空間から一刻も早くアブソルを連れ出してやらねば。
濃厚な酒気漂う堕落した部屋に子どもをいつまでも転がしていては、健康にも情操にも悪い。
ふん、他の馬鹿者どもは目覚めた時のおぞましい頭痛と気だるさに精々苦しむがよいわ。
……決して、宴の主役を降ろされて、いじけているわけではないからな!
誰にでもない言い訳をして、俺はアブソルを担ぎ上げる。子どもといえど、
俺よりも何回りか大きい体格差に四苦八苦して運ぼうとしていると、
物音に気付いたのか机に突っ伏していたロズレイドがむくりと顔を起こした。
「何だ、お前も起きていたか」
「……ええ、ちょっと眠ろうにもどうにも眠れなくて」
赤い顔をして困り果てた様子でロズレイドは答える。まあ、奴の置かれている状況を見れば無理もあるまい。
今は無防備に寝息を立てているとはいえ、肉食のハンターであるマニューラにがっちりと肩を組まれていては気が気でないだろう。
例え同胞であろうと、自制の利かない寝ぼけ様にうっかりあの鋭い爪を突き立てられたり噛み付かれたりすれば大怪我だ。
こやつのことだ、どうせ絡まれたまま抜け出す機会を見出せなかったのだろう。
まったく、図体は無駄に俺よりずっと大きくなりおっても、気の小ささまでは変わらぬな。仕方の無い奴め。
「アブソルをちゃんとした所に寝かし付けに行く。お前も手伝え」
助け舟のつもりで俺はロズレイドに言った。
「あ、はい、分かりました」
何故だか少し名残惜しそうに、ロズレイドはそっと注意深く黒い腕を抜け出して立ち上がった。
「ふう、やれやれ。ああ、えーと、ちゃんとした寝床でしたっけ。皆さんここで雑魚寝しているようですし、
二階のベッドが空いているかと」
「そうか」
「いつもはひどい取り合いになるんですよ。今日は運がよかった。あ、その前に少しお待ちを――」
床に置き去りにしていた毛布をロズレイドはそそくさと拾い上げて、マニューラにかける。
「これでよし、と。すみません、まだ二階にも毛布はあるはずなので、先にお貸しください」
どこか妙だ。師弟関係になったとは聞いていたが、こんなにも従順に尽くすとは――そうか。
「な、何ですかその目は? 別に他意は……」
「何も言わずともよい。お前の態度を見れば大体察しておるわ」
「あは、あはは……ばればれですか、ね。……その、とにかく内密に頼みます」
顔から火を噴き出しそうなほどに真っ赤になって、ロズレイドはうつむいた。
ああ、やはり何か重大な弱みを握られ、つけこまれてしまっているのだろう。かわいそうに。
「うむ。俺は他の者に公言したりはせん。案ずるな。さあ、アブソルを二階に連れて行くぞ」
「はい……」
協力してアブソルを慎重に担ぎ、俺とロズレイドは二階へと向かう。
どうにか階段を上りきり、廊下を歩む途中、
「それにしても、あの方々――ミロカロスさんと、キュウコンさんと、ボーマンダさんでしたっけ。
何と言うか、不思議な方々ですよね」
出し抜けにロズレイドは言った。
「どういう意味だ?」
「……いえ、僕達の周りで何か不可思議なことが起きる前後には、いつも近くにあの方々の影があった――
そんな気がしまして」
441 :
κ,κ:2010/07/10(土) 12:23:22 ID:???
>>441 一瞬何のことかと思ったが、「名無しさん君に決めた」ってのは名前欄を無記入の時に代わりに表示されるポケ板のデフォ名無し名だぞw
今は投票日が近いから一時的に「君に決めた」から「@そうだ選挙にいこう」に変えられてるだけだな
443 :
ぴかぴか中:2010/07/10(土) 19:39:03 ID:???
明日投票日ですね・・・!
アブソルって何キロ??
444 :
κ,κ:2010/07/10(土) 23:09:28 ID:???
>>443 アブソルは47s。でも子供だから40sくらい?
それでもピカチュウの7倍だけど。
445 :
ぴかぴか中:2010/07/11(日) 19:56:46 ID:???
さ・・・さすが帝王になるオトコ・・・いやオス・・・。
ちからもちぃ!!
てか、ミロカロスとキュウコンとボーマンダの正体知ってるのってピカチュウだけでしたっけ・・・
もっといるのかと思ってた
明日か明後日にでも続き書く
>>445 シンオウの伝説ポケ勢以外はゲンガー達がギラティナを知ってるんじゃないか
一応配下だったし他の神々の事もギラティナから少しは聞いてるかもね
他は最近出番ないけど、プレートと関わったニャルマー達辺りも、
シルフビルの戦いの後に記憶をいじられてなければ正体を怪しんでるかもしれないってくらいじゃあないかな
447 :
ぴかぴか中:2010/07/12(月) 21:40:29 ID:???
いまニャルマーたちは冒険ちゅうかな?
あくまで何気ないといったふうにロズレイドは口にする。
だが、その言葉にはどこか鎌を掛ける意図を含んでいるように思えた。
「ただの偶然、思い過ごしであろう」
胸に沸く僅かな動揺を隠して、俺は答える。
「……そうですかね」
ロズレイドは呟き、それ以上は何も言わなかった。まさか、神々の正体を悟られているはずは無い。
きっとこやつは奴らの派手な見た目に、妙な神秘性を感じていた程度に過ぎないのだろう。
奴らに接触する時は細心の注意を払っていたつもりだし、隠し切れないような大事に巻き込まれた後は、
奴らの介入によりこやつらの記憶は改変されているはずだ。
微かな寝息も聞き取れるような沈黙の中、俺達は寝室までたどり着き、アブソルをベッドの一つに運び込んだ。
同時に、疲れきっていた俺も、もう一つのベッドの脇に背を持たれかけさせてへろへろと座った。
まったく、子どもの癖に、何と言う重さだ……。俺一匹ではとてもじゃないが二階まではおろか、
食堂を出る前にへばり切っていたかもしれない。礼を言おうと俺はロズレイドを見上げる。
「やれやれ、僕が起きていなかったらどうするつもりだったんですか」
呆れたような仕草をして、ロズレイドは溜め息混じりに言った。
「ふん、お前の手など借りずとも、その時はまた一匹で何か別の方法を探していたわ」
感謝するつもりが、その嫌味な態度についつい俺は顔を背け、いつものような憎まれ口を叩いてしまう。
でも、どうせこやつのことだ。強がりだと見通されて、いつものように「はいはい」と笑い飛ばすことだろうと、
ちらりと俺は横目でロズレイドを見る。しかし、その眼差しはいつになく真剣で、少し悲しげな光を帯びていた。
「……僕は、僕達はそんなにピカチュウさんにとって頼りないですか」
わなわなと少し震えるようにしてロズレイドは話す。
「ど、どうしたというのだ」
「笑顔で迎えようと話し合ってはいたのですが、どうも僕には無理そうです。
……あなたが僕達を置いて一匹で行ってしまった後に一度、せめて消息だけでも聞けないものかと
あの洞窟を訪ねてみようとしたんです。しかし、僕達が通ってきたはずの道は最初から無かったかのように閉ざされ、
付近に住む方々に聞いて回ってもその存在を確かに知る者すらいなかった」
ロズレイドは一冊の本をどこぞから取り出して見せる。
「そして困り果てた僕達が縋り着いたのが、人間の知識。それも、行き着いたのは、シンオウの神話に関する本です。
生と死の混じる地、死した者の還る場所。あの泉と洞窟は、恐ろしげな尋常ならざる地であるように謳われていた……」
ロズレイドはぱらぱらと本を捲り、開いたページを突きつけるように俺に見せる。俺に人間の文字は分からないが、
その挿絵――暗闇の中で吼える、幾つものおぞましい触手を生やした長虫のような竜の姿――が目に入る。
「破れた世界の主、生死の狭間に住まう者、反物質の支配者、ギラティナ神の姿だそうですよ。
カントーでの一見の後、あの洞窟へ至る前、ゲンガー達に案内された不気味な道の途中で見た巨大なポケモンに、
細部は違えどいやに似ていると思いませんか?」
「――!」
「もうあなたとアブソルさんが二度と帰ってこないのではないのかと、僕達はとても不安でした。
いえ、正直な所、今も不安で堪りません。また不意にあなた達は姿を消して、今度こそ帰ってこないような気がしてね」
今回もどうにかうまくこやつらを誤魔化すことは出来ると思っていた。しかし、
「旅中の僕達の示し合わせたかのような記憶の欠落、あまりに神出鬼没に現れては関わってくるミロカロスさん達、
その度に何かを秘し隠すようなあなたの態度、今まではどういうわけか思い返そうとも考えられませんでしたが、
思い返せば不審なことが多すぎる。あなたは、あなた達は一体僕達に何を隠しているんですか?」
俺がいない間に過ぎ去っていた時間は、思っていた以上に不安と不信感を植え付けてしまっていたようだ。
最早、口先で誤魔化すのは難しい。だからと言って、今までの出来事を洗いざらい話したところで、
あまりに現実離れした話に、気が触れて出任せの妄言を吐いているように思われるだけではないのか……。
「確かに今までの僕達は頼りなかったかもしれない。だけど、修行を積んで心身ともに少しは成長したつもりです。
だから、もう少し僕達の事を信用してください。あなたの背負うものを少しだけでも任せて頂けませんか。
配下としてだけじゃない、あなたの仲間として、どうかお願いです」
――そうだ。こやつらは仲間だ。何よりも信用すべき者達だというのに、俺は……。
全てを話そう。例え気が触れた戯言だと思われようと、それは仲間を騙し続けた俺へのツケだ。
「……分かった、話してやろう」
腹を決め、俺は口を開いた。途端に曇っていたロズレイドの表情が晴れる。
まずはどこから話すべきなのか悩みながら、次の言葉を発しようとした時、
「お待ちくださいな」
室内に高く透き通った声が響き渡る。その瞬間、周りの空気が全て固まってしまったたような感覚に包まれた。
目の前のロズレイドも、まるで瞬間的に凍り付いてしまったかのように動きを止め、瞬き一つ無く完全に静止している。
「やはり少し困ったことになっていましたわね」
声と共に空間をすり抜け、俺の隣にミロカロスが降り立つ。続けて部屋の角の薄闇から滲み出るようにキュウコンが現れ、
ボーマンダは最初からそこにいたかのように物音もなくいつのまにか室内に鎮座していた。
その立ち振る舞いに、つい先程まで酒に酔っていた気配など微塵も感じさせない。
「お前達、なんのつもりだ!?」
「我らが役目を降りるにあたり、最後の事後処理をせねばならぬ」
「こうなっては仕方ありませんわね」
じっとロズレイドを見やり、キュウコンとミロカロスは言い放つ。
まさか、こやつらの真の目的は、自分達の正体を知ろうとする者の始末――!?
「やめろ、貴様ら! 俺はもう貴様らのことで仲間達を騙し続けたくはない!」
頬に電流を迸らせ、俺は叫ぶ。とても勝ち目のある相手ではないが、見殺しにはせんぞ。
身構える俺を見てミロカロスとキュウコンは顔を見合わせる。ふん、とボーマンダも鼻を鳴らした。
「何を勘違いしていきり立っておる」
「話は最後まで聞きなさいな。我らの目的はあなたと同じです。我らの口からも直接、この方に真実をお話いたしましょう」
「な、何……?」
「立つ鳥跡を濁さず。我らがあなた方の間に徒に蒔いてしまった不和の種は、ちゃんと刈り取って処理して行くのが筋だと
――この狐めが申しまして」
GJ!
明日明後日にでも続き書くぜ
455 :
κ,κ:2010/07/17(土) 17:26:15 ID:???
>>455 ロトムが捕まらなかったら、良い仲間になれてたかもなw
GJ
ミロカロスの意外な言葉に促されるまま、俺はキュウコンに視線を向ける。
「お前の為等と思い上がるでないぞ。私はただ我らの事でお前達の間に軋轢が生まれたと、
勝手な恨みを抱かれても鬱陶しいと思ったまでだ」
キュウコンはばつが悪そうに僅かに眉間をひそめて言った。
「だが本当に良いのか? お前達も自身の存在が明るみに出ることは好まぬだろう」
「これから世に飛び立とうとする者が、何ゆえこそこそと日の陰を歩み続けねばならぬ。
しがらみを脱ぎさった今、隠すも話すも己の自由だ」
「心配なさらずとも、世界を生きる者の一つとして我らは己が身は己で守りますわ。
それに、あなたも、あなたが仲間に選んだ者達も、我らの力を利用せしめようとするような
姑息な者達ではないと信用しております故」
にやり、とほくそ笑むようにしてミロカロスは言った。
例え我が下にアブソルがいようと、俺の世界征服の野望には神族が与することはないということも、
遠回しに告げているのかもしれない。しかし、そんな予防線を張らずとも、
向こうから協力を申し出られたとしても、俺の答えは殆ど変わらなかっただろう。
「……ふん、当然だ。お前達の超越した力など借りずとも、我が覇道を歩む足は鈍ることは無い。
神の力に頼らねば何も出来ぬような軟弱な輩は、我が配下に一匹としておらぬ。
もしおればその根性、一から叩き直してくれるわ」
栄光は己の手と力で掴んでこそ輝く。過ぎた力に半ば振り回されるようにして得たもの等、
すぐに扱いきれなくなって手からすっぽ抜けてしまうに決まっている。
「ええ、そうでしょうとも。では、ディアルガ」
ミロカロスの合図にボーマンダは頷き、どすんと前足を踏み鳴らす。途端に周囲の硬直した感覚は解け、
「――? ……ええッ!? み、皆さんいつの間に……!」
ロズレイドは突然目の前に現れたとしか思えないであろう三匹の姿に、吃驚の声を上げた。
・
「――我らに語れることは、これで全てです」
話を聞き終え、ロズレイドは半ば放心したような顔をしてその場に立ち尽くしていた。
何せ実際に関わってきた俺でさえも、改めて思い返せば信じられないような出来事ばかりだ。
だが、エスパーやゴーストポケモンではないというのに、いや、そのどちらであろうとも、
おいそれと真似できないような事象の数々――時の巻き戻しや停止、空間の跳躍、影との同化や操作等――
を何度も実際に軽々と見せ付けられれば、只ならぬ絶大な力の存在が事実だと思い知らされる。
「とても信じがたい話だろう。全て受け入れろとは言えぬ」
「……ええ、想像していた以上に壮大な話です。しかし、信じざるを得ないのでしょう」
そう言って、ロズレイドは沸き立つ感情を堪えるようにぶるぶると体を震わせ始める。
「今まで俺がお前達に隠し通そうとしていたのは、決してお前達の事を蔑ろにしようとしていたわけではない。
それだけは信じてほしい」
「分かっています。ちゃんと話そうとしてくれた以上、これ以上責めたりはしません。それよりも、決めたんです!」
その声は怒りというよりも、何か大きな目標を見つけたような、前向きな興奮に震えているようだった。
「な、何をだ?」
今までに無いロズレイドの勢いに圧され気味になりながら、俺は尋ねる。
「前から少し考えていたんです。僕にしか出来ないことは何だろうって。そうして思いついたのが、
あなたと我々の伝記を記すこと。王と国には後世に語り継ぐ伝記の一つや二つ必要でしょう」
「伝記……ううむ、悪くはないが、お前以外に文字を読み書きできるような者がいるのか?」
「ポケモンの中にも、マニューラさん達の様に独自のサインを生み出し、理解できる方々がいます。
その皆でアイデアを出し合って協力し合えば、きっと色んなポケモン達にも理解しやすい、
素晴らしいものが出来上がるはず! こうしちゃいられない、今聞いた話を少しでも忘れてしまわない内に、
大筋だけでも書き留めておかないと。それでは、お先に失礼します!」
ミロカロス達に深々と礼をすると、ロズレイドはいそいそとしながら部屋を飛び出して、いずこかへ駆けていった。
少し呆気にとられながら、俺とミロカロス達はその後姿を見送った。
「はてさて、どうなることやら……。何にせよ、私達が出来る限りの事はしましたわ」
GJ!
明日か明後日に続き書くよ
462 :
κ,κ:2010/07/22(木) 15:09:02 ID:???O
>>462 西洋の肖像画みたいな雰囲気が出てて良いな、GJ!
464 :
κ,κ:2010/07/24(土) 22:03:22 ID:???O
夏休みなので次は時間をかけて描きたいです。
「やれやれ、感謝するぞ。一番何かと疑り深い彼奴の信用があれば、
外の者もどうにか信じさせられよう。俺も少々話し疲れた、今日はこのまま休ませてもらう」
俺は空いた小汚いベッドの上に向かってひょいと跳んだ。
「ウサギのお嬢さんの腕の中には戻らなくてよろしいんですの?」
気が抜けて体勢を崩し、俺は顔からベッドにすっ転ぶように墜落する。
「ゴホッゲホッ――唐突に何を抜かすか」
巻き起こった埃に咳き込みながら、俺はミロカロスを睨んだ。
「あら、宴の席であんまりにも仲睦まじそうにしていらっしゃったので、
てっきりもう夫婦か何かなのかと」
「冗談ではないわ。あの時は、あやつに無理やり押さえつけられていただけのこと。
あやつと俺はあくまで君主と臣下だ。最も信頼をおく仲間の一匹でもあるが、
それ以上でも以下でもない」
あらぬ誤解に俺はしかと反論する。例え一時、心を乱されることがあろうと、
結局はそこに帰結するのだ。……せねばならぬのだ。
「ほんの戯れごと、そんなにむきにならずとも分かっていますわよ」
くすくす、とミロカロスは扇のような尾先で口元を隠して笑った。
――分かっていますとも。その中で、ミロカロスはぽつりと呟き、
表情には薄らと一瞬だが物憂げな色が浮かんだ気がした。
「この現身をとりますと、どうにも俗っぽくなっていけませんわね」
取り直すように言って、ミロカロスはむにゃむにゃと寝言を呟くアブソルを見やる。
その眼差しはアブソル自体というより、アブソルを通して何か遠くのものを見つめているようだった。
「……さて、用事も一先ず済みました、私はそろそろ御暇させていただきます。楽しき宴でした。
絶えず形変わる我が内においても、今宵は不変に煌き続ける一粒の良き追憶となりましょう」
俺に向き直ると、ミロカロスは静かに礼をした。
「もう行くのか? 俺はお前達を追い出させる程、不義理でも不人情でもない。
別に何も力を貸さずとも、しばらく洋館に宿を貸しても良いのだぞ?」
「正体を明かしてしまった化生は、密やかに姿を消すのがおとぎ話の常。
それに、長居をしてはいらぬ嫉妬にかられてしまうやもしれませんわ。
蛇の絡む嫉妬は古来より恐ろし。どうか引き止めないで下さいまし」
「……そうか」
「いやですわねぇ、永劫の別れとも限りませんのに湿っぽい。空間は無形にして自在。
いつかまた、必然か、偶然か、分かれた道が不意に繋がり交わることもありましょう。その時まで――」
優しい微笑みを残し、ミロカロスは空間の狭間に飛び込んで去った。
「……忘れぬ」
そっとボーマンダは俺に呟き、瞬きの間も無く忽然と巨体は消え去る。
部屋には俺とアブソル、それとキュウコンだけが残っていた。
「お前は残るのか? ……まあ、別に構わぬが」
「すぐに行く。だが、最後に一つ、助言をやろうと思うてな。手出し無用を誓った身の上として、
少々公正さを欠くことになるが、お前には借りがある」
「……何だ」
怪訝に思い、俺は尋ねる。返ってくる答えは見当もつかぬはずなのに、
どういうわけか良くない胸騒ぎがし始めていた。
「”奴ら”は生きている」
キュウコンの言葉が耳に届いた瞬間、俺は胸騒ぎの理由を理解し、総毛立つ。
「そうだ。あの人工ポケモン――ミュウツーとお前達のコピー……奴らもあの崩落を逃れ、
今も確実に現世に生き長らえている。弱者を淘汰し強者だけの世界を創る、その狂気の野望はそのままにな」
467 :
κ,κ:2010/07/25(日) 17:23:09 ID:???O
GJ
集合絵って良いよね
469 :
ぴかぴか中:2010/07/26(月) 09:30:13 ID:???0
絵がうまい^^
PCでかいてるのか?
明日明後日にでも続き書くぜ
471 :
κ,κ:2010/07/27(火) 12:34:17 ID:???0
472 :
ぴかぴか中:2010/07/27(火) 22:15:10 ID:???0
いいなーペンタブ・・・
買いたくてもお金が無いゾ・・・
あっ今日ポケモンの映画観てきました
セレビィが弱くてビックリした
50レベぐらいかとおもってたのに・・・
473 :
κ,κ:2010/07/29(木) 15:04:41 ID:???0
予感は常に晴れない暗雲のように心の片隅にあった。あの強大な念動力を持つミュウツーが、
洞窟の崩落だけでどうにかなるのか、と。
「奴らは、今どこにいるのだ?」
沸き立つ震えを堪え、俺は口を動かす。
「さあてな。件のお前達との争いに気を取られ、見失ってからはそのままだ。
……もっとも、今からでも探ろうと思えば、探ることは出来よう。しかし、――」
「今すぐ教えろ」
勿体ぶった様子でこちらを流し見る態度に苛立ち、思わず食いかかるように俺は訊く。
キュウコンは不愉快そうに片眉を上げた。
「千里眼は神の領域の力ぞ。あれだけの大見得を切ったそばから、もう神に頼ろうというのか?
その震えは何だ。よもや帝王となろうというものが、たかが人間の作ったものにまだ怯えているのではあるまいな」
はっとして、俺は掴みかかっていた銀色の胸元から手を放した。
「馬鹿者、これは武者震いだ。奴らとは自らの力でけりをつけねばと思っていた。
生きていることを事前に知れただけで十分。これ以上、お前の力など借りるつもりは無い。」
跳ね除けるように俺は言い放つ。
「おお、そうかそうか。これはうっかり早とちりしてしまった。まあ、奴の異質な姿は隠れ通すにはいささか目立つ。
お前のカントーの配下が余程の無能で無ければ、何かしらの手がかりを得ている頃合いやも知れぬな。
……言いたいことはいった。これから世界がどちらに転ぼうと、もう私は知らぬこと。
たとえ強者だけの世になろうとも、私であれば気にもかけず歩けよう」
ふふん、と憎らしく冷笑を投げかけ、銀狐は悠々と部屋の角の暗がりへと歩いていく。
「だが、私はどこを見ても鼻高々な輩共が肩を張り合って闊歩しているような世界よりも、
小さな砂利共でも好き勝手転げまわれる余地がある世界の方が良い」
途中、尻尾を向けたまま、言い捨てるようにしてキュウコンは呟いた。
――まったく、こやつは……
「もう少し真っ直ぐになれればもっと生きやすいだろうにな。俺も、お前も。厄介なものだ。
……激励に感謝する。必ず奴らの企みは止めてみせよう」
ふんと鼻を鳴らして、キュウコンは暗闇の中に滲んでいった。
その姿を見送りきった後、俺は支える糸が切れたように力が抜け、ごろんとその場に身を横たえた。
ろくに休む間もなく、また直ぐに発たなければならぬか。だが、これは己で選んだ道。
平穏、安息は許されない覇者の道。分かりきっている。弱音も、文句も、吐くことはせぬ。
ただ今は、今ばかりは束の間の休息を――。
ずっと繋がらんと思ってたら、サーバー移転してたのか
明日か明後日にでも続き書く
※
翌朝。
意識が引き戻され、瞼を飛び起きるように上げると、覗き込む赤い瞳とばったり目が合った。
不意だったのか、白い毛並みを少しびくっと揺らしてから、
「おはよう」
アブソルは何となく恥ずかしそうに言い、一歩退いた。
「ああ……、おはよう」
気だるさを堪えながらゆっくりと俺は上半身を起こす。どのくらいこうしていたのか。
固い床で寝ていたせいで、あちこち痛む。いつの間にか体に掛けられていたマントを拾い上げ、
硬くなっていた全身を解き解すように伸びをして立ち上がった。
「ギラティナさん達、行っちゃった」
マントを羽織ろうとする横で、アブソルは独り言のようにそっと言った。
「何だ、起きて聞いていたのか?」
ううん、とアブソルは首を横に振るう。
「寝てたけれど、ギラティナさん達の声が聴こえた。ありがとう、今までお世話になりましたって。
もうひとりのボクに言いにきたみたい」
例え一時いがみ合っても、神であっても、親と子か。
「寂しいか?」
「うん、少し。もうひとりのボクも全然平気なふりしてるけど、何だかちょっぴり元気ないかな」
「ふむ……」
別れの寂しさは、時が解決するほかあるまい。
「でも、平気」
そう思っていた矢先のアブソルの言葉に、「うん?」と俺は首を傾げる。
「みんなもいるし、それに――」
言い掛けて、どこかもじもじとアブソルは俺を見る。不思議に思って見返すと、
アブソルは少し顔を赤らめて、あははと誤魔化すように笑った。
「とにかく、大丈夫だから。そうだ、それより、食堂でみんなが待ってるみたいだよ。大事な話をするんでしょ。
一度ロズレイドさんが様子を見に来たんだけれど、ピカチュウがとっても疲れた様子で寝てたから、
無理に起こさないで自分から目を覚ましたら伝えてって、先に起きてたボクに言ったんだ」
「……そうか、ならば急いで行くとしよう」
・
一階に降りると、食堂の外には数羽のヤミカラスが立ち、見張りをしていた。
俺達の姿を見ると、ヤミカラス達は無言で両脇に退いて道を開ける。
「ご苦労」
俺は一声掛けて、頭を下げて並ぶヤミカラス達の間を通り、食堂の入り口をくぐった。
あれだけ散らかっていた内部はすっかり綺麗に片され、だらけきっていたポケモン達も、
整然と並ぶ席に各々座していた。
「おはようございます、ボス。よく寝られやしたか」
ドンカラスは頭の帽子のつばをひょいと片翼の先で持ち上げ、鋭い目を覗かせて言った。
「何か重要な話があると聞いて、大慌てで片しやした。ささ、まずはこちらへどうぞ」
「うむ」
勧められるまま俺とアブソルは上座に向かった。席につくと、ポケモン達の視線が集う。
俺は二つ隣のロズレイドに目配せし、頷いた。
・
俺達の話を聞き終えたポケモン達の反応は、ロズレイドの時と大体似たようなものだった。
「ははあ……。にわかにゃ信じられねえ話としかいいようがありやせんが……」
ドンカラスは昨晩ボーマンダに穴の開けられていた筈の壁に目を向ける。
「あれだけ派手にぶち破られていた筈の壁を、一晩の内に染みの模様まで直されて行かれちゃあ
仕方ねえわな。ただもんじゃねえとは睨んでいたとはいえ、いやはや、まさか神さんとはねえ」
くはは、とドンカラスは半ば呆気にとられたように笑って、言った。
いいですね、今後の場面が楽しみでならねぇ・・
また来ますよ♪
明日明後日にでも続き書くぜ
「ヒャハハ、例えハッタリでも、そこまで吹けりゃ大物には違いねーな。おもしれー奴らだったぜ」
どかりと机に足を乗せて氷の背もたれに寄りかかり、マニューラは不敵に笑う。
「くうう、最上の玉の輿に逃げられたってワケ……!」
「どーせオメーなんか相手にされてねえっつ――のごッ!」
せせら笑うオスニューラの顔面に、強烈な裏拳がめり込んだ。
「ギャヒー、神よりこえー!」
「ガハハ、あんなべっぴんと酒が酌み交わせるなら、正体が神だろうと悪魔だろうとどうでもいい」
「ふぅむ、ギンガ団の唱えていたことはあながち絵空事では無かったのだなぁ」
「ああ、あの白銀の足になら、また波乗りボードとして顔を踏まれてもいい……かも」
「お、おい……変な道に足を踏み外すな、帰って来いドーミラー……!」
あーあ、こんなことならサインか足型を貰っておくべきだったお。
何か願い事をお祈りしておけば良かったキィ。確か消えないうちに三回言わなきゃいけないんだぞ。
それは流れ星だポチャ……。
――がやがやと、好き勝手に言って騒ぎ立つポケモン達。
奴らの正体を知って尚、恐れも忌避もせず、ちょっとした有名人に会ったかのような程度の態度とは、
本当に重大さを分かっているのかいないのか。
どこまでも恐れ知らずなふてぶてしさ……流石は我が眼鏡に適った者達なり。
こうでなくては世界を牛耳る帝王の配下など勤まらぬというものだ。
「ま、ご覧の通りボスやあの姐さん方を責めたり非難したりする奴も特にいねえみたいなんで、
この件に関しちゃこれでもう互いに後腐れ無しってことでいいですかい?」
「ああ。ずっと黙っていたことは悪かった」
「へ、もう言いっこなしでさあ。さて、折角シンオウ各地の主要な面子のほとんどが集ってんだ、
何か他に仰せ付けることがありゃ今のうちに頼みやすぜ。宴会でも開くか、滅多なことがねえ限り、
あっしが召集してもこいつらろくに集まりゃしねえもんで」
すぐにでもカントーへ再びの出立の準備をせねばなるまい。
まずは、シンオウの配下達にもミュウツーの脅威を伝えておく必要もあるだろう。
「カントーに現れた新たな脅威について聞いているか」
「ミミロップさん方から少し聞き及んでいやす。何でも、ミュウツーとか言うえげつねえ奴と、
ボス達に丸っきりそっくりな奴らだったとか。でも、洞窟が崩れて生き埋めになっちまったんでしょう?」
「うむ、そのはずだった。だが、どうやら奴らは――」
言い終えぬ内に、洋館の外からヤミカラス達の騒ぎ立てる声が響く。
直後に轟く、鳥とも獣ともつかない甲高い雄叫び。強引に扉を蹴破るような音。
「何だお前は、と、止まれ!」
「うるせえうるせえ、雑魚に構ってる暇は無いんでえ! おれっちはとっても急いでんだぁ!」
食堂の外から見張りのヤミカラス達と、何者かが取っ組み合う音が聞こえてくる。
俺達は油断無く身構え、来たる襲撃者らしき音に備えた。身に纏わりつくヤミカラス達を物ともせず、
食堂に飛び込んできたその姿は、体を石のような灰色の皮膚に覆われた翼竜――。
「ぷ、プテラ……?」
声を掛けると、翼竜はくるりと俺に振り向く。
「おお、おお! やっと会えたぜ電気ネズミの旦那ァッ!」
明日、明後日にでも次書く
プテラは俺の姿を目に留めると、あっけらかんとした様子でぎゃーぎゃーと騒がしい声を上げた。
「お知り合いで?」
必死に取り押さえようとプテラにへばり付いているヤミカラスの一羽がぽかんとして尋ねる。
カントーの配下だと説明すると、ヤミカラス達はしがみ付いていた箇所を羽先でぱたぱたと丁重に払ってから、
「こ、こりゃどうも、失礼しました」そそくさと食堂を出て行った。
「急いで旦那に会わにゃ何ねえっつってんのに邪魔してくれやがって。あんのカラ公共、
客の持成し方ってやつがまるでなっちゃいねぇ。まったくよォ」ふん、とプテラは鼻を鳴らす。
こんな見るからに厳つく危なそうな輩が息巻いた様子で突っ込んできたら、
何が何でも止めようとするのは至極当然なことのような気もするが。それはともかく、
「遠くカントーからご苦労であった。一体何があった?」
「おっと、うっかりしちまうとこだった。おれっちゃ白猫の旦那に言伝を頼まれて来たんでぇ」
白猫――ペルシアンの言伝と聞いて、すぐにぴんと来る。きっとミュウツー達の足取りに関することに違いない。
「だがその前に、お冷を一ついただけねえかい? 大昔よりも陸地がばらんばらんに離れてやがって、
ちょいと翼を休めるところが殆んどありゃしねぇ。さすがのおれっちも体クタクタの喉カラカラよ」
気が抜けた様子でへろへろとプテラはしゃがみ込む。
「……うむ、何か用意してやれ」
――「つまり、まだあいつが生きている可能性もある、と?」
大桶に顔を突っ込むようにして水をがぶがぶと飲み続けているプテラに、俺は確認する。
プテラがもたらした情報は、やはりミュウツー達の存命の痕跡を見つけたというものであった。
既にギラティナの忠告を受けていた俺はまだしも、ミミロップ達は緊張した様子で表情を少し強張らせて押し黙っている。
「へえ、白猫の旦那の見立てによりゃどうやらそうみてえで」
ざぶんと桶から顔を上げ、プテラは答えた。岩の肌を苦手な水に長く浸けすぎたせいなのか、
その鼻先は薄っすらと白く染まっている。へへ、いけねえ、とプテラはそれを翼でごしごしと拭い去った。
しかし、情報の中にはもう一つ。絶望の中の微かな希望となるものもあった。
俺達がカントーを去ってからしばらく経った後、薄桃色の猫に似たポケモン――レッドが連れていたエーフィのことだ――
が、ハナダの近隣で瀕死に近い状態で倒れていたところを発見され、今もペルシアン達のもとで保護されているらしい。
487 :
κ,κ:2010/08/15(日) 21:45:50 ID:???O
やっと規制解除?
488 :
κ,κ:2010/08/15(日) 22:31:15 ID:???O
明日か明後日にでも続き書くよ
>>487-488 GJ!
巻き込まれ規制、大変だったな
最近の2ちゃんの携帯規制頻度は異常すぎる
「見つけたときゃそりゃもう口も利けねえ程に弱っちまってたが、白猫の旦那達の介抱で随分と持ち直してきてるみてえだ。
今頃、意識もはっきりして奴らの逃げ先やら色々と新しい話を聞き出せているとこじゃあねえかな」
あの時、最後までレッドとともに残っていたエーフィが生きていたのなら、他の者達も、
レッドだってまだどこかで生き延びているかもしれない。 胸の奥が微かな期待に熱く疼くのを感じる。
仮にもトレーナーの頂点と、そのポケモン達。共にした時間は僅かだったが、
そう簡単にくたばるような奴らには見えなかった。
……生きていてもらわなければ困る。あやつは俺が認めた数少ない人間の一人。
返さなければならない大きな借りがある。
「おれっちが伝えられることはこれで終いでえ。後は不躾でわりいが電気ネズミの旦那達にも
なるべく早くカントーまで出向いてもらって、直接見聞きしてもらいてえ」
「ああ、言われずともそのつもりだった。すぐにでも発つ準備をする。いいな?」
俺は配下達を、特にミミロップ達を確認するように見やる。ミミロップ達は決意したように表情を引き締め、
頷きを返す。
「足の方は任せて下せえ。フローゼルどもにホエルオーを出す用意をさせやす」
言って、ドンカラスは下座にいる薄茶色の被毛をした鼬のようなポケモン達に目配する。
へいへい、とその中で最も体格の大きな一匹が面倒くさそうに返事をした。
「それにしても、自分達と瓜二つの敵とはまた厄介だなぁ……。もしも味方の振りして陣中に潜り込まれて
寝首を掻かれでもしちゃたまんねえ。ここは一つ、合言葉か何かでも決めておいた方がいいかもしれやせんね」
「ふうむ、合言葉か……」
確かに俺達とそのコピーどもとは体表の模様などに若干の違いはあったが、
本物と並んで見比べられるような状況でも無ければ見分けは中々難しいかもしれない。
コピーどもも紛れ込もうと思えば、そうした差異を卑劣に隠してくるだろう。用心して予め対策しておくに越したことは無い。
「深く考えねえでも、合言葉なんて適当なもんでいいんですぜ。例えば一人が”山”と言ったらもう一人は”川”と答えるとか。
まあ、こりゃあちこちで使われすぎてて、敵さんにもバレバレってもんですが。そうだな、何かいいのねえのか、オメぇら?」
見渡すドンカラスに、マニューラがひらひらと手を挙げる。
「……大体予想はつくが、一応言ってみやがれマニューラ」
「はい、センセェー。それなら”しみったれ”の”クソカラス”がいいと思いまーす、ヒャハ」
「却下だ、クソッタレ」
ビッパが椅子の上でぴょんぴょんと跳ねる。
「……なんでえ、ビッパ」
「”けつばん”の”ィ゛ゃゾ┛A”か”アネ゙デパミ゙”がいいと思うお。今度連れてこようと思ってる新しい友達の名前なんだけど」
「却下。そいつら絶対連れてくるんじゃねえぞ。次」
今度はエレキブルが手を挙げた。
「おめえさんなら信頼できそうだ。まともなのを頼みやすぜ、エレキブル」
「”きいろいイナズマ”なんてどうだ? ”きいろい”と聞いたら、”イナズマ”と返すんだ。
俺がいつか名乗ろうとしていた異名だが、くれてやってもいいぜ、ガハハ」
「うーん、まあ悪かぁねえが、ボスの姿やあっしらが掲げてる組織の雷紋章を見て、ぱっと連想しちまわなえかなぁ?」
「あの……」
そっとロズレイドが手を上げる。
「お、何かありやすか」
「”ピカチュウ”の”人生”なんてどうでしょう? 僕が今書こうとしている、ピカチュウさんを中心に皆さんの伝記を
纏めた本の仮題なんですが」
「ほほう、そんなもんを……。確かに”ピカチュウの”なんて急にふられて”人生”と返すことなんて、
知らされてねえ部外者には中々出来ねえでしょうね。とりあえずそれでいきやしょうか、ボス?」
これからことあるごとにそこかしこで俺の名前がひそひそと交わされるようになるわけか……。
恐らく傍から見ていてあまりいい気分はしないだろうが、かといって良い代案も浮かばない。
「それで構わん。取り掛かれ」
面白い
明日明後日にでも続き書く
494 :
κ,κ:2010/08/24(火) 10:33:43 ID:???0
また規制ですか…。厄介ですね。
配下達がバタバタと旅支度に忙しなく駆けずり回る中、俺も洋館の一室で自身の道具袋の整理をしていた。
乾かした果物やパンの切れ端等の軽くて腐りにくそうな食糧、水筒代わりの小瓶、
薬効の有る様々な木の実、傷薬、包帯に、後は……どんどんと詰め込んでいく度に袋はずしりと重くなり、
心には“うずうず”としたものが満たされていった。
これから行くのは気楽なピクニックではない。そんなこと、分かりきっている。
どこに敵が潜み、罠を仕掛けて待ち構えているかも知れない危険な追跡の旅だ。気は抜けない。
だが、どんなに己に言い聞かせて戒めようとも、この言いようの無い“うずうず”は、
海底火山の火口から湧き上がる泡のごとく心底からぼこぼこ溢れてきた。
やれやれ、参ったものだ。危険と野望一杯の長旅が続く中でいつの間にか培われたものなのか、
それとも元々持ち合わせていた性分が開花してしまったものなのかは分からないが、
俺もほとほと旅というものが好きになってしまっているらしい。支度だけでこの有様だ。
――まるで子どもだな。
俺はきゃいきゃいとはしゃぎ合いながら準備するアブソルとムウマージを横目で見やり、自嘲を込めて苦笑した。
こんなことではいずれ王座についた後も、玉座に安穏と留まっていられるのか怪しいものだ。
……そんな心配をするのは、今回の件が無事に決着することが出来てからか。
粗方必要な物を道具袋に詰め終って口を閉めようとしていると、部屋の外から誰かが口論するような声が聞こえてくる。
声色からしてドンカラスとマニューラだろうか。まあ、あやつらの他愛無い諍いなど日常茶飯事と聞いている。
挨拶代わりだとか、犬も食わない何とやらだとかで、放って置いても害は無いらしい。
気にしないようにしてマントの背中裏に道具袋を取り付けていると、程なくしてマニューラが何やら悪態を吐き捨てて去っていき、
言い争いはとりあえず終結したようだ。がつん、と壁を蹴りつけるような音が響いた少し後、
「準備は出来やしたか? 必要そうなもんは大方ホエルオーに積み込みやした。もういつでも出せやすぜ」
苛立ちを押し隠した様子のドンカラスが俺達の部屋に顔を覗かせ、言った。
「うむ。良いな、お前達?」
見回すと、ミミロップ達はオッケーとそれぞれ指や頷きで軽快に示した。
「へへっ、気合いもばっちりなようで。あっしも幾分か安心して送り出せるってもんです。んじゃ、行きやしょか」
案内されるまま洋館の裏手辺りからしばらく歩いて森を抜け、その先の水辺に待ち構えていた“それ”を前に、
俺は半ばぼうっとして見上げてしまった。
「ウワッハッハッ! どうだ、すげえだろうっ!」
立ち尽くす俺の姿に鼬達のリーダー格らしい一頭が気付き、“それ”の青い背の上から、
仁王立ちで勝ち誇ったように笑いかける。
「この俺様、キャプテン・フローゼル様が率いる海賊団――もとい、今はピカチュウ海軍だったっけか、ハァ……。
ゴホンッ、が誇る、ホエルオーの堂々たる勇姿ッ!」
あれがフローゼルか。得意げになってみたり、急に溜め息をついてみたり、随分と気分の浮き沈みが激しい奴のようだ。
そんなことよりも、奴の乗っているホエルオーとかいう鯨ポケモンの何と大きいことか!
もしかしたらギャラドスの二倍以上は優に有るんじゃあなかろうか。ちょっとした人間の漁船のような巨体だ。
「ボス達がお待ちだろうが。さっさとこっちに適当なロープの一本でも垂らしなせえ、フローゼル」
「これほど立派なホエルオーはそうはいねえぞぉ。歳を食ってちぃっと耳の方は遠くなってきちまってるが、
その分そこらのホエルオーよりでけえし、多くの経験を積んでいる。さすが俺様が選んだ……」
まるで聞こえていないふうにべらべらとしゃべり続けようとするフローゼルを、苛立った様子でドンカラスは飛び立って蹴りつける。
「てめえのくだらない自慢はいいから、さっさとボス達を乗せやがれってんだ」
「……へい、どーもすみませんでした」
「それじゃあボス、姐さん方、道中くれぐれもお気をつけて。シンオウの護りはあっしらに任せてくだせえ」
ホエルオーに乗り込んだ俺達に、ドンカラスは礼をする。
「いつも済まぬな」
「なあに、留守を護るのも重要な仕事でさぁ。帰れる場所ってぇのは、何より大事なもんですからね。
ま、援軍がいるときゃいつでも使いを寄越してくだせえよ。どこへでも駆けつけまさぁ」
「……感謝する」
へっ、とドンカラスは少し照れくさそうに帽子を直す仕草をした。
「じゃーもうさっさと出るぞ。出航だ、野郎共!」
「アイアイサー!」
フローゼルの掛け声にブイゼル達が一斉に呼応し、ホエルオーは汽笛のように大きな咆哮をあげて
二対の胸鰭でゆっくりと水を漕ぎ出し、少しずつ着実に岸を離れていく。
岸辺に並ぶシンオウ勢が手を振って俺達を見送る。端からドンカラスにエンペルト、ビッパ、エレキブル達に、
ニューラ達とマニューラ――んん? 何故だろう、その黒い姿に妙な違和感を感じる。
いやに顔つきがいつもよりシンプルというか、全体的な輪郭もどこかぷるぷるとブレている様な……気のせいか。
陸地も遠く離れ、ホエルオーは尾鰭を豪快に上下させどんどんと速度を上げて泳ぎだす。
さて、これからそれなりに長い船旅になることだろう。食糧や水は幸いドンカラス達がたっぷりとホエルオーの背に積み込んでくれた。
今のところ心配するのは海に棲むポケモンの襲撃――それもホエルオーの巨体に襲いかかれるものなど早々いやしないだろう――と、
後はホエルオーの上からうっかり足を滑らせて落ちてしまわないように気をつけるくらいだ。
早速だが少しばかり食糧でもお先に拝借しようか。朝から旅立つ準備に追われ、何も口にしていない気がする。
そう思って俺は他の者達が景色に気を取られているうちに、こっそりと積荷の山が縛り付けられた後部に向かい、
樽の一つに手をかけようとすると、ガタガタ――とその蓋が独りでに揺れ動いた。
明日か明後日にでも続き書くぜ
GJ!
ここんとこ規制→解除→再規制→再解除→……の繰り返しでなかなか書き込めないw
携帯は壊滅的だし。何とかしてほしいなもうw
500 :
κ,κ:2010/08/26(木) 08:14:20 ID:???0
>>499 そうですよね…。携帯規制はつらいです。
暇なので、小ネタ的なものを書いてもいいですか?
>>499 ●買うのは癪だしなw
俺は規制の嵐に耐えかねてアイビスブラウザ買っちゃったよ…
>>500 キャラと内容によると思うけど、もしも
>>498が今書いて動かそうとしてるキャラが被ると、
話の前後や辻褄合わせが大変になるかもしれないから、ちょっと待っていたほうがいいんじゃないかな?
502 :
κ,κ:2010/08/28(土) 09:15:11 ID:???0
わかりました。了解です。
503 :
κ,κ:2010/08/28(土) 17:41:20 ID:???0
うごメモはてなにこのスレ内容が元ネタと思われる同名の漫画があった。
まだ2話だけのようだけど、当初の内容が忠実に表現されていてかなり期待。
>>503 ジムリーダー戦のカットイン風かwGJ!
>>504 気になって検索して見てきた
うごメモってすごいなw
506 :
κ,κ:2010/08/28(土) 21:34:20 ID:???0
>>504 見てきました。素晴らしいです。誰が作ったのですか?
>>506 保管サイトの方だけ知ってる人って可能性も有るんじゃ無いか
何にせよ期待してちょくちょく覗きにいこうw
508 :
κ,κ:2010/08/29(日) 00:21:40 ID:???0
>>507 前に2枚の絵を載せてくれた人と耳の描き方が似ていたので…
期待して待ってます。
ぎくりとして俺は咄嗟に手を引く。一体なんだ、まさか生きた魚か何かでも入っているのか?
直後、蓋は微かに開き、その暗い隙間から赤く輝く両目が覗いた。
「クク……積荷を齧ろうとする泥棒ネズミちゃん見ーっけ」けらけらと樽は静かに嘲笑う。
何奴ッ――叫ぶより速く、鋭い鉤爪の生えた手が樽の奥から伸びて俺の口元を掴んで塞ぎ、
そのまま俺はあっという間に樽の中へと強引に引きずり込まれてしまった。
もがこうとしても手の主は暗闇の中で俺を逃がすまいとしっかりと両腕で押さえ込む。
何たる油断。まさか樽の中にこんな曲者が潜むとは。だが、俺の体に密着するなど自殺行為に等しい。
隙を見て思い切り放電を見舞ってやろうと、俺は気付かれぬよう黙ってそっと電気を蓄えた。
「もう少し沖に出るまで大人しくしてな。さもねーと新鮮なネズミの冷凍にしちまうぞ、ヒャハ」
冷ややかな吐息とともに耳元に囁く聞き覚えのある声、この笑い方。
すぐに樽の中身の正体に気付き、俺は充電を一旦止めた。
「マニューラ……か? なぜお前がここに――」
言い掛けて俺はハッとし、「”ピカチュウの”?」すかさず尋ねた。
「イカれた”人生”ってか。ヘッ、くだらねー。コピーがもう攻めてきたとでも思ったかよ」
マニューラはあっさりと答え、せせら笑うように言った。
「う、む……。だが、こんな紛らわしい密航者のような真似をして、一体どういうつもりだ。
カントーへ同行したければ堂々と言えばよかろうに」
「ふん、言っても無駄さ。あのクソカラスがオレをカントーには行かせようとしねーからな」
そうでもなかったら誰が好き好んでこんな薄汚ない樽の中にこそこそと隠れるか、マニューラは舌打つ。
「ピカチュウー? どこ行ったの、ピカチュウー!」
樽の外から、俺を探すミミロップの声が聞こえてくる。
「何にせよ、そろそろ離してもらおうか。いつまでも俺の姿が見えなければいらぬ騒ぎになるぞ」
「潮時か。ま、もう十分にシンオウからは離れただろうし、出してやっても良いぜ。
オレもこんな湿っぽい樽の中からなんて、さっさとオサラバしてーとこだったしな」
ぱかりと蓋を開けてマニューラは俺を放り出し、続けて自らもひょいと樽から飛び出た。
「あ、ピカチュウ! もう、なんでそんなところに……え、マニューラ?」
俺とマニューラの姿を見て、ミミロップはきょとんとした。
様子に気付き、ロズレイドや他の者達もぞろぞろと集まってくる。
「よう、ごきげんようテメーら。おっと、めんどくせーから先に言っておくが、オレはコピーなんかじゃねーぞ」
・
「んで、積荷に紛れ込んで乗り込んでいたと」
「ヒャハ、そのとーり。この程度の潜入なんてちょろいもんよ」
「勘弁してくれよ、ドンの野郎にあんたはくれぐれ乗せねえように言われてたってのに。
ホエルオーの体力もあるし、ここまで来て今更引き返せねえぞぉ……」
悪びれる様子の全く無いマニューラに、フローゼルは大きく溜め息をついた。
あの時、俺達が旅立ちの準備をしていた時、洋館の廊下で二匹が何やら口論していたのは、
カントーに行くことを反対されたことが原因だろうか。
「どうしてそこまでドンカラスにカントー行きを止められている?」
「……さーな。何かやましいことでも隠してるんじゃねーの? 知ったこっちゃねー、そんなの」
途端にマニューラは不機嫌そうに言葉を濁した。
「ま、まあ、いいじゃないですか。もう乗ってしまったのは仕方ないですよ。それに、
マニューラさんがいてくれれば戦力としてとても心強いですし」
疑念の目が集うマニューラをロズレイドが庇う。
「さっすがロゼ、話が分かるぜ、ヒャハハ。……ま、延々付き纏って迷惑をかけるつもりはねーよ。
オレもずっとテメーらのお守りしてるなんてごめんさ。オレにもオレの野暮用ってやつがあるからな」
GJ!
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
……どうか、それまで再規制されませんようにw
「野暮用? カントーに一体どんな用事がある?」
「そう言えば……マニューラさんは元々シンオウのポケモンではない、と言っていましたね?
もしかして、カントーの出身なんですか?」
俺の問い掛けに、ロズレイドが口を挟む。
「そうなのか?」
そのような話は、俺にとって初耳だった。
「チッ……テメー、つまんねー事覚えてんな……」
ジロリと横目でロズレイドを睨みながら、マニューラは吐き捨てるように答えた。
「だが残念だな。そりゃハズレだ。カントーなんてとこは、見た事も行った事も食った事もありゃしねー」
「ならば、何故そこまでして行く必要があるのだ?」
「マニューラ、カントーにともだちいるの〜?」
ムウマージの何気ない言葉に、マニューラはハッとしたように目を見開く。
どうやら図星か。
「……ヘッ、トモダチとか、そんな御大層なモンじゃねーが……ま、近くとも遠からずだな」
「そうか。居場所は分かっているのか?」
「さーねえ……なんせ、もーかなり昔の話だ。とっくにくたばってんじゃねーかと思うぜ」
マニューラは俺達から目を反らし、決まりが悪そうにバリバリと前髪を掻く。
昔の知り合いに会いに行く……ただそれだけの事で、ドンカラスが猛反対するとは到底思えない。
他にも理由がある事は、まず間違いないと見ていいだろう。
だが、マニューラが全くの嘘を吐いている、といった風には見えなかった。
「じゃあ、そのお友達、ペルシアンさん達に探して貰ったら?
カントーの事だったら何だって知ってるんだから、すぐに見つかると思うよ!」
一連の話を聞いていたアブソルが手を叩き、目をキラキラさせる。
「おう! そーゆーこったら、おれっちが先に白猫の旦那に報告しに行ってやらあ!」
プテラもドン!と翼の先で胸を叩く。しかし、元が化石だったせいか、やたらタフで頑丈な奴だ。
「あー、いいっていいって」
マニューラは面倒臭そうに、鉤爪をひらひらさせがら押し止める。
「だからよ、オレはオレで勝手にすっから、テメーらに余計な手間ぁ掛けさせねーよ。
テメーらはコピー野郎共をぶっ飛ばす算段でもしてやがれ」
そう言うと、マニューラはゴロンと横になった。
「あーあ、何か無駄に体力使っちまったぜ。おいロゼ、一眠りすっから、あのヘナチョコ笛でも吹いてくれ」
「でもあれは……あまりお気に召さなかったんじゃ……」
「いーんだよ。オレが気まぐれなのは知ってんだろ。気が変わらねーうちに頼むぜ」
「あ……はい」
ロズレイドは手から葉を一枚ちぎり、口に当てて静かに吹き始めた。
心安らぐようなメロディが潮騒に乗って流れ、マニューラはすぐに大きなイビキを掻き始める。
つられてアブソルとムウマージ、それにプテラが寄り固まって眠り始めた。
ついでにフローゼルまで舟を漕ぎ始めたので、軽く電撃を食らわせてやって本来の漕ぎ場に戻らせる。
しかし……
いくら弱みを握られ、師弟関係を結んだとはいえ、身分的にはロズレイドの方が上なのだ。
このような様では、他の配下共に示しが付かないではないか……などと考えていると、
「ふ〜ん……そっか、そういう事……ふ〜ん、ふふふっ」
ロズレイドとマニューラを交互に見ながら、ミミロップが不穏な含み笑いを浮かべている。
「? どうした? 何がおかしい?」
「ううん、何でもな〜い。あ〜、でもこれじゃ、確かにドンが反対する訳よね」
「?? ……意味が分からん」
「い〜のい〜の、どーせ分からないでしょ。相変わらずニブチンなんだから」
「?! だから、それはどういう意m……」
「あ、あー……! 私も眠くなっちゃった。お、おっやすみ〜!」
俺が睨みを効かせるとミミロップは慌てて飛び退き、大きな耳で体を包みながら横になった。
全く、どいつもこいつも……
どうも、俺だけが取り残されているようで居心地が悪い。
だが、目の前に広がる広大な景色、頬袋を撫でる潮風は実に心地良い。
思えば、以前カントーに向かった時は、妙な機械の中に入らされるハメになっていた上、
ダークライの妨害に遭ったせいで、こんな風に海の旅を楽しむ余裕などなかった。
ロズレイドの草笛の音はまだ続いている。
俺も横になり、大海原に沈んでいく夕陽と共に目を閉じた。
515 :
κ,κ:2010/09/01(水) 08:22:03 ID:???0
―― 森の洋館の食堂
「今頃ボスたちは海の上か…」
「…またクソネコがいねぇが、とりあえず揃ったな。」
「では、始めるポ…ぞ。」
エレキブルが立ち上がる。
「前に話題になった離島の事だが、フライゴンたちが話をつけてくれたようだ。」
フローゼルが付け加える。
「ナギサ方面のポケモンは俺様たちが仲間にしたぜ。」
「つまり、シンオウ全土はボスの支配下にあるということですかい。」
「しかしまだボスの仲間になってない者もいるポチャ。」
「それはつまり…」
「ボスの話の神様を除いた1、2匹以外は、ボスに反対しているポチャ。」
「…反乱分子か。」
ドンカラスはフローゼルを睨む。
「どうするんだ?」
今まで黙っていたユキノオーが口を開いた。
「ややこしい事になる前に排除しなくてはならないな。」
「あぁ、では――
『ドン!新しい友達を連れてきたお!』
ビッパが勢い良くドアを開けた。
「…エンペルト、反乱分子は…」
ドンカラスが疲れた様に言った。
「排除だポチャ…」
5匹の溜め息とビッパの悲鳴が重なった。
続かない
GJ!
明日か明後日にでも続き書くよ
「亡者の箱にゃあ十五人、ラム酒を一瓶、ヨーホーホー」
朝日が僅かに顔を出す早朝、調子外れの歌声に眠りの底から意識を引き上げられ俺は目覚めた。
目をこすりながらその元を辿ると、艦首の先で陽気に歌うフローゼルの姿があった。
心と耳を掻き乱す濁声に他の者達も次々と目を覚まし、非難するようにぶつくさと唸りながら起き上がってくる。
「残りは酒と悪魔が片付けた、ラム酒を一瓶、ヨー……お、やっと目え覚ましたな」
俺達の様子に気付き、けろりとしてフローゼルは振り返った。
まったく、安らかだった寝付きとは対照的な何とひどい目覚めだろうか。
「もうじきカントーだ。そろそろ準備をしておいてくれよ」
そう言ってフローゼルが指し示した先、遥か彼方に薄っすらと陸地らしき影が見え始めていた。
このペースならば昼前頃には着くだろう。気楽だった船旅も終わりだ。しっかり気を引き締めておかねば。
いよいよ陸地が間近に迫り、フローゼルはホエルオーに指示を出す。
ホエルオーは大きな了解の鳴き声を一つ上げ、速度を緩めながら徐々に陸に寄っていった。
人目を避けられそうな周りを高台に囲まれる奥まった岸を見つけ、ホエルオーはゆっくりと身を停める。
「さあ、お待ちかねのカントーだ。さっさと降りれる奴から降りてくれ」
「うむ」
促されるままに、俺はホエルオーの背から降りる。他の者達もすぐに後に続いて飛び降りた。
最後にフローゼルが降り立ち、俺達全員の姿を見渡して確認してから、やれやれと安堵と疲れの混じった息を吐く。
「言われた通り、あんたらは無事に送り届けたからな。後は――」
フローゼルはじろりと恨めしくマニューラを一瞥する。
「言葉で言っても大人しくシンオウに帰ってなんてくれねえんでしょうね」
「何なら力ずくでかかって来てもいーんだぜ?」
マニューラは不敵に口端を上げ、鉤爪をチラつかせながら睨み返した。途端にフローゼルは縮み上がって目を逸らす。
以前に余程恐ろしい目にでも遭わされたのだろうか。こやつの場合は自業自得のような気がして、あまり不憫には思わないが。
「じょ、冗談じゃねえや。もう好きにしてくれ」
「おお、そーか。悪いねー」
口では言いつつも、全く悪気の感じられない態度でからからとマニューラは笑う。
報告に帰ったらドンの野郎になんてどやされるやら、フローゼルはぶつぶつと呟いて、もう一度心底疲れきった息をついた。
「なーに、シンオウにはちゃんとオレの代役を置いてきた。黙ってればしばらくは大丈夫さ、たぶんな」
代役? あの妙な違和感のあったマニューラか? 首を捻る俺をよそに、ロズレイドが合点が言ったように「ああ」と呟く。
怪訝に思って見やると、「いえ、なんでも」と手をひらひらと振るった。……何なのだ、一体?
――
「それで、マニューラのヤツはどうしてやがった」
「うん、とりあえず二階でニューラ達と大人しくしているみたいだ。何だかぼーっとしてて喋らないし、
ちょっと様子がおかしい気もするが……」
エンペルトの報告に、ドンカラスはばりばりと頭を掻いた。
――まあ、塞ぎ込んでも無理もねえか……。あっしだって本当は、すぐにでも飛び出して直接カントーに
自分の目ではっきりと真偽を確かめに行きてえ。だが、ヤミカラス達を捨て置くことは出来ねえし、
あいつにだってニューラ達がいる。もしも、最悪の真実がそこにあっても、
もう己の身を省みずに突っ走ることなんて出来ねえんだ。なら、いっそのこと確かめねえまま、
知らねえままの方がいいってことだってある……。
「どうしたんだ?」
押し黙ったままのドンカラスを不審に思い、エンペルトは声を掛ける。
「――ん。ああ、いや、ならいいんでえ。今日はあっしの奢りで、あいつらに好きなだけ飲み食いさせてやりなせえ」
「……分かった、言っておくよ」
519 :
κ,κ:2010/09/04(土) 17:07:38 ID:???0
>>517>>518 再びカントー上陸ですね。
もう一度20章あたりを読み返して思ったんですが、ザングースは何処にいるんですか?
>>519 ザングースとスターミー・ディグダはバンギラスを追っていったまま音信不通
……から物語的にも現実的にも三年は経っているw
恐らくバンギが向かったのはジョウトだから、今頃はそっち方面にいるかもしれないな。
明日明後日にでも続き書くぜ
522 :
κ,κ:2010/09/06(月) 21:56:03 ID:???O
携帯サイトの方がもうすぐ一万ヒットですね。
>>522 少し前までは七千か八千くらいだったと思ってたのに、大分増えてるなw
スレ住人として嬉しい限り
・
まずはペルシアンのもとに行かねばなるまい。ロズレイドにカントー地方のタウンマップを広げさせ、
現在地を調べる。俺達が降り立った場所はハナダの北東、二十五番道路から少し北に外れた位置のようだ。
「随分とまあ、カントーの最果てに捨て降ろされたものだな」まるで密入国者のようでは無いか、
俺はさっさと帰り支度を始めているフローゼルに毒づくように言った。
「実際密航みてえなもんなんだ、仕方ねえでしょうや。ここより南の方は人間の船の往来も激しくなってくるし、
ギャラドスの数も増えるから下手に潜航するのも危ねえ。それに、カントーの南からジョウトの方にかけての海域には、
海の神様が住んでるんだ」
「海の神?」そんな者がいる等という話は聞いたことがない。尋ねるようにそっとアブソルに視線を向けるが、
同じように首を傾げるばかりだ。
「ああ、でっけえ鳥か翼竜みてえな姿なんだと。俺様の爺さんからも、親父からも嫌って程聞かされた。
どんな荒くれ者になろうとも、あそこの海だけは荒らしちゃなんねえってな。俺達ゃ余所者。勝手に上り込んで、
神様もいい気がするわけがねえ。怒った海の怖さは俺様も知っている。例え迷信と笑われようと、
縁起でもないことは少しでもしたくねえのさ」
真剣な様子でフローゼルは語る。適当に繕った出任せを言っているようには思えない。
本当の神ではないとしても、神格化されるほど強い力を持った何かが実際に潜んでいるという可能性も否定できない。
ペルシアンと鳥達が恐れていた双子島の不可思議な吹雪、その元凶であった氷の怪鳥フリーザーも実在していた。
多少歩く距離が長くなろうと、大人しく陸路を行った方がよさそうだ。
海賊達と別れ、俺達は道筋を思案する。ペルシアンの居場所は、俺達が今いる二十五番道路からずっと南。
ハナダシティの更に先、ヤマブキシティの南に伸びる六番道路沿いの林の奥だ。
人間の多い街中や道路の真ん中を俺達が堂々と歩くわけにはいかない。どうにか人目を避けていかなければ。
このまま南下してハナダの東にある九番道路を横切り、岩山の脇を越えつつヤマブキの東、
八番道路を渡ってから南側に周り込むのが、人目をなるべく避けた上での最短距離となるだろうか。
「わざわざ案内しねえでも大丈夫そうだな。おれっちはちょっくら別の用事があっから、一足先に御一行を抜けさせてもらうぜ」
方針が決まり出発しようとしている俺達に、プテラが声を掛ける。
「そうか。ご苦労だな」どこに敵がいるかも知らぬ状況だ、きっと他にも伝令や哨戒の仕事があるのだろう。
特に引き止めずに俺はその姿を見送ろうとする。
「あ、そういや……」
翼を広げて羽ばたこうとする直前、プテラは不意に思い立ったように振り向いた。
「どうした?」
「あんたらの決めた合言葉はなんていいやがったっけなあ? おれっち、ちょっと忘れっぽいところがあってよぉ」
「……仕方のない奴め。ピカチュウの人生、だ」
「おお、そうだったそうだった。……んじゃ、道中つまらねえ怪我しねえように気ぃつけておくんなせえよ。
次に会う時まで元気でいてくれた方が、旦那らも喜ぶだろうからな、へっへ」
プテラは勢いよく飛び上がり、俺達の上空で数回旋回してから、あっという間に西の空の彼方へと消えていった。
さて、改めて出発するとしよう。だが、その前に――
「……お前も何か野暮用とやらがあるのではなかったのか、マニューラ」
何気なく俺達に混じってついて来ようとしているマニューラに、すかさず俺は釘を刺す。
「ケッ、細けーネズミちゃんだな。オレはオレで勝手にしてるっていっただろ。いちいち気にしてねーで、
さっさとそのペルシアンとかいう奴のところまで行きな。ちょっくらオレもそいつに会ってみたくなったのさ。
まあ、会ったついでに何か聞くこともあるかもしれねーけど、あくまで個人的にだ。テメーらにゃ何の迷惑にもなんねーだろ?」
GJ!
527 :
κ,κ:2010/09/10(金) 10:55:22 ID:???O
>>527 乙、ついに一万いったみたいだな
さっそくトップページにその絵が置いてあったぞw
529 :
κ,κ:2010/09/11(土) 00:08:19 ID:???O
>>528 びっくりしました。少し照れくさいけど、嬉しいです。他にはうごメモともリンクしましたね。
こやつのことだ、ここで追い払ったところでどうせ後からこっそりつけてくるだろう。
背後の方でこそこそされるくらいなら、目の届く場所に置いておいた方が幾らかましかもしれない。
「好きにするがいい」
言い捨てるようにして、俺は歩き出した。
「そうつんつんするなよ。どーせ短い付き合いなんだ、精々仲良くいこうじゃねーか、なー?」
言いながら、マニューラは傍にいたロズレイドと半ば強引に肩を組んでみせた。
わ、わ、とロズレイドは慌てた様子でよろける。
……やれやれ、頭が重くなってきた。何だか耳の先っぽがじんじん疼く。
さっさとペルシアンのところに行って、この余計な心労から解き放たれたい。
予定通り俺達は二十五番道路を南に跨いで、整備されていない林の中をひたすら突き進み、
ハナダシティを東に迂回していった。九番道路に差し掛かる頃には日は徐々に傾き始め、
八番道路を目指してゴツゴツとした山道を歩んでいる途中で、辺りはすっかり暗くなっていた。
平坦な道ならまだしも、粗い山道を夜通しで歩き続けるのは危険な上に体力的にも厳しいと判断し、
俺達は岩壁に開いた適当な洞穴を見繕ってそこで夜を明かすことにした。
翌朝、空が僅かに白み始めたような頃に俺達は出発し、ようやく八番道路まで抜けて六番道路付近に
辿り着いた時には、太陽は空の真上近くにまで来ていた。
「……んで、どこにいるんだよ、ペルシアンって奴は。この中から探し出すなんてメンドーにも程があるぜ」
鬱蒼と広がる森の中を気だるげに見回し、マニューラはぼやくように言った。
「来るまでに何度かポッポが俺達の上を飛び交って行った。その内、奴の方から接触してくるだろう」
「もう来てるニャ」
突然の頭上からの声に驚いて俺は見上げると、大きな白猫が太い枝の上に座り込んで
こちらをにやにやと見下ろしていた。
「くふふ、いいマヌケ面だニャ。ポッポがタネマシンガン喰らったみたいな顔してたニャー。
アンタが来る時はいっつもボクばかり驚かされて樹から落とされたりヒドい目にあってシャクだったから、
今回は逆に驚かせてやろうと先回りしてやったのニャー。……おかげでちょっと疲れたけどニャ」
明日明後日にでも続き書く
先程まで確かに樹の上に何も居なかった。緑と茶の中にあんな白い影があれば、
いくらなんでも見落とすはずはないのだが。音も気配もなく唐突に、まるで最初から
そこにいたかのようにペルシアンは現れた。ダークライの件で過去に神々に取り憑かれた事で、
こやつにも何か神の力の切れ端が残留しているのやもしれない。
奇妙な瞬間移動のような現れ方は、洋館でのボーマンダ――ディアルガを髣髴とさせる。
ぐうたらと惰眠を貪るのが好きなもの同士、気が合いでもしたのだろうか。
「……一先ず、出迎えご苦労」呆れの溜め息を堪えて、俺は何事もなさそうに言ってやった。
いちいち角を立てていたらこちらの身が持たん。
「ふふん、こちらこそわざわざカントーまでご足労おかけしたニャ。思っていたよりも
早い到着で驚いたニャ。足もとい、翼の速いプテラを送った甲斐があった見たいだニャー」
すとんとペルシアンは枝から降り立ち、俺達を見回した。その途中、マニューラに目を留め、
ヒゲをぴくりと反応させる。
「ニューラ族らしきアナタは、シンオウからのお仲間ですかニャ? ボクがペルシアン、よろしくニャ。
種族は違えど猫同士、是非是非お近づきになりたいところだニャー」
目にも留まらぬ速さでペルシアンは擦り寄り、両前足でマニューラの手を握った。
「お、おう……」
さしものマニューラも少し唖然とした様子で応じる。
「いやー、ドンカラスとやらが送ってくるシンオウからの使者は、黄色いゴリラみたいのや、
痩せぎすの狐みたいのや、毒々しい色した蛙や、青い円盤みたいな変な奴らばっかりだったから、
アナタが来てくれて嬉しいニャー。どうかニャ、今度二匹でゆっくりと――」
「自己紹介それくらいにして、ミュウツー達の手がかりとなる情報を聞かせていただきませんか。
そのために僕達は来たんですから」
二匹の間に強引に割って入り、ロズレイドは話を切り出した。その表情はどこかムスッとして、
ペルシアンを睨んでいるようだ。
「……言われなくても分かってるニャ。そういえばアンタも前は見かけなかったけど、
新顔かニャ? まー、どうでもいいけどニャー」
ペルシアンは不機嫌そうにロズレイドを睨み返し、蔑むように言った。
「元、ロゼリアですよ。進化した今はロズレイドって言いますがね」
「あー、あのおチビちゃんニャー。言われて見れば面影がある気がするけど、すっかり存在を忘れてたニャ」
「ほー、そうですか。体だけじゃなく、頭の中まで白くて空っぽなんですかね」
ロズレイドとペルシアンは顔を突き合せ、火花が散りそうなほど視線をぶつけ合う。
そんな二匹の様子を見てミミロップはくすくすとどこか微笑ましそうに笑い、アブソルとムウマージはぽかんとし、
俺とマニューラは怪訝に首を傾げた。ちょっとしたことですぐに熱くなるような奴でもなかったのに、
最近のロズレイドの行動はどうにもよく分からん。進化した影響なのだろうか?
何にせよ、取っ組み合いに発展する前に止めねばな。
「そのくらいにしておけ。内輪でくだらぬ揉め事を起こしている場合ではないだろう」
ふん、と二匹は互いに顔を背けた。
「……口惜しいけど、そろそろ本題に入るかニャ。プテラから大体の要件は聞いてるニャ?」
「ああ。保護しているエーフィは今どうしている?」
「意識が戻った直後は怯えきって錯乱してたけど、今は大分持ち直してるニャ。ま、ついてくるニャ」
ペルシアンが案内した先は、前にピジョンが俺達を泊めてくれた大きな古木がだった。
「エーフィはあの奥に匿っているニャ」
古木の根元に空いたほら穴をペルシアンは指し示す。
「そうか。早速手がかりになりそうな話を聞かせてもらいたい」
「ちょっと待つニャ」
足早にほら穴へ向かおうとする俺を、ペルシアンが止める。
「アンタらは急に姿を見せない方がいいニャ。びっくりして、またパニックになっちゃうかもしれないニャ」
「何故だ?」
「よっぽど酷い目にあわされたんだろうニャー……うわ言でミュウツーとアンタらのコピーの事を呟いてたのニャ。
先にボクが行って了解をとってくるから、ちょっと待ってて欲しいニャ」
言われるまま、俺達はペルシアンに任せてほら穴の脇で待つことにした。
少しして、エーフィの了解を得たのかペルシアンがほら穴から顔を覗かせ、ちょいちょいと手で俺達を招く。
「入っていいニャ」
ほら穴の中には乾いた柔らかい葉がたっぷりと敷き詰められ、その一番奥にエーフィは横になっていた。
その体の所々には包帯が巻かれ、痛ましい姿となってしまっている。
538 :
κ,κ:2010/09/18(土) 23:32:26 ID:???O
そうですね。自分は買いませんが、ピカチュウにもイッシュ地方に行ってほしいです。
両方買ったぜ
いつかイッシュに行くとしても、ホウエンの後にしたいところかなー
明日明後日にでも続き書くよ
ほぼ最後尾だったんで一旦あげておく
「君達……」
俺達に気付き、ふらふらとエーフィは首を起こした。こちらを見やる表情には微かな怯えと、
どこか複雑な感情が入り混じっているように見える。
「すまない。俺の力が至らなかったばかりに」
言って、俺は顔を伏せた。大水に沈み崩落の近かった洞窟にレッド達が最後まで残ったのは、
俺達の背後を守り無事に外へ逃がすためでもあったろう。
エーフィはそっと首を横に振るう。
「望んでやったことだし、謝らなくたっていい。……レッド君なら、きっとそう言う」
ぐっと目を閉じ、堪えるようにエーフィは言った。
悲痛な様子に深い罪悪感を呼び起こされ、俺はそれ以上掛けられる言葉が出てこなかった。
重苦しい沈黙が洞穴内に淀んだ。
「後ろ向きに沈んでばかりいても仕方ないのニャ。そろそろ少しは前向きになれそうな話をしようニャ」
見兼ねた様子で、ペルシアンが口火を切る。
「そのレッドっていう人間だって、まだ死んだって決まったわけじゃ無いんだニャー?
思い出すのは辛いかもしれないけれど、なにがあったか皆にも詳しく聞かせてもらえないかニャ、エーフィ」
少し躊躇った後、こくりとエーフィは頷いた。
奴らとの戦いは、まるで醒めない悪夢のようだったとエーフィは話す。
何度も何度も、普通ならばしばらく立てないような痛手を負わせたとしても、
奴らはすぐに起き上がったという。善戦もむなしく、レッド達はどんどんと追い詰められ、
カビゴンが最終手段である自らを犠牲にする大技――自爆を決断するに至った。
「では、俺達が脱出中に感じた衝撃と閃光は……」
「そう、カビゴンの起こした爆発……」
特殊な光の物理障壁を張れるエーフィは矢面に立って爆風を受け止めレッドを守ろうとしたが、
崩れ行く洞窟の中でやがて気を失ってしまう。
「おぼろげな意識を彷徨う中……一つだけはっきりと頭に聞こえた。奴の、ミュウツーの声。
“この人間の命は暫し預かっておく。私を止めたくば追って来い、ジョウトまで!”」
543 :
κ,κ:2010/09/23(木) 14:44:12 ID:???O
ジョウトですか。シロガネ山もあるので、レッド関係の話が面白そうです
明日か明後日にでも続き書くぜ
ほぉ
GJ
エーフィがその声の内容を発した瞬間、エーフィにミュウツーの姿が被って見え、
頭の中に様々な映像がフラッシュバックするように雪崩れ込んでくる。
上空から見た人間の都市部、町の中心を横切るように延びる鉄橋、
可笑しな円盤みたいなものが天辺についた塔、鮮やかな垂れ幕の下がった大きなビル。
そこから視点は地下へと潜り、地下道を人目を忍ぶように駆け抜ける影の姿を写したところで、
まるでテレビを消すように映像はぷつりと途切れる。
直後、体が強烈な疲労感に襲われ、そのままふらりと木の葉の上に前のめりに倒れた。
「ど、どうしたニャ!?」
「ん――? おい!」
驚いた様子のペルシアンとマニューラの声が響く。
「少しふら付いただけ、問題はない……」
言いながらふらふらと俺は起き上がる。ミミロップ、ロズレイド、アブソル、ムウマージも同じように
倒れていたらしく、呻き声を上げながら起き上がってきた。
「お前達にも見えたか……?」
俺が問うと、ミミロップ達は弱々しく頷き、ペルシアンとマニューラは訝しそうな顔をした。
どうやら直接ミュウツーと関わった者だけが先程の映像を見させられたようだ。
「ごめん……奴の残留思念……逆流して、止められなかった……」
エーフィはがくりと顔を俯かせ、辛そうに肩で息をする。
「無理をするんじゃないニャ、エーフィ。ピカチュウ、アンタらには一体何が見えたんだニャ?」
「ああ――」
俺はペルシアンに見えたものを話す。
「ふうむ」
ペルシアンは尻尾をぱたぱたとさせて頭を巡らせている素振りみせる。
「どこか分かりそうか?」
「いーや、悪いけどさっぱりだニャ。ジョウトに追って来いって言っていた以上、ジョウトにある場所なんだろうけど、
残念ながらボクもジョウトのことは詳しくないんだニャー。鳥達も中々あっちには行けない事情があってニャ。
だけど、知っているかもしれないヤツを一匹知ってるニャ。覚えてないかニャ、自分の事を元人間だって言い張る、
人間の言葉を話す胡散臭いデルビルのことを」
そういえば、奴も俺達に紛れてちゃっかり崩落を逃れていたのか。あの時はレッドの安否と
アブソルの容態が気がかりで、奴にまで気をかけている余裕は無かったが。
「ヤツも今ウチで預かっているのニャ。本当に人間だったのなら人間の都市にはそこそこ詳しいはずだニャ。
連れてこさせるから一応聞いてみるといいニャ」
ペルシアンはほら穴を出て鳥達を呼び寄せ、指示を出した。しばらくして大きな鳥の羽音が響き、
何かを半ば落とすように乱暴に置いていった。
「もっと丁寧に降ろせ、アホ鳥め!」
人間の言葉で文句を叫ぶ声が聞こえてくる。
「届いたようだニャ」
――「ああ、そりゃきっとコガネシティだ、任務――いや、旅行で何度も行ったから間違いねえ。
垂れ幕のビルはコガネ百貨店、塔はラジオ塔、町を横切る鉄橋はリニアの線路のことだろうな。地下通路もあるぜ」
そこがジョウト地方のどこかにある都市である事と、特徴的な建物の事を簡潔に伝えると、
デルビルはすらすらと一致する場所を当て嵌めて答えてみせた。
GJ! いよいよジョウト編突入かw
明日か明後日にでも続きを書きたいです。
550 :
κ,κ:2010/09/29(水) 20:24:50 ID:???O
「ではミュウツー達は、そのコガネシティという所に居るのか?」
「でも、百貨店やラジオ塔やリニア線路……って、どう考えても人間の多い街ですよ?
地下通路にしたって、恐らくは人間が通行する為に作られたものでしょう?」
俺の言葉に、ロズレイドが異を唱える。
確かに、カントーで言えばタマムシやヤマブキ、シンオウで言えばコトブキやトバリのような、
人間が言うところの、都会的で拓けた場所には違いない。
「ミュウツーだけならともかく、そんな所に人質も含め、大勢のポケモンが隠れていられるでしょうか?
エレキブルさん達がギンガ団の跡地を利用しているのとは訳が違うんですから」
「ふむ……ならば、お前はこれをどう捉える?」
「そうですね……」
暫し沈黙した後、おもむろにロズレイドは考えを述べた。
「時間的に見て……例えテレポートを使ったとしても、そんな即座に移動できるとは思えません。
もしかしたら、我々が見た風景は……ミュウツーの記憶の中の景色かもしれません」
「奴の記憶?」
「飽くまで僕の推測ですが、ミュウツーは……過去にジョウトへ行った事があるのではないでしょうか。
いくら強者とは言え、自分が全く知らない場所では、戦闘において優位に立つ事は難しい筈です。
既に奴らは何らかの策を講じた上で、我々を誘き寄せようとしているのだと思います」
「ならば、コガネシティの風景を見せたのも、奴の罠だというのか」
「そこまでは分かりませんが、僕達にとって厄介な場所である事は、まず間違いないでしょう」
「ヒューヒュー! ちったあ戦略家らしくなってきたじゃねーか。ロゼちゃんてば冴えてるぅ〜!」
マニューラに囃し立てられ、ロズレイドは急に照れたように頭を掻く。
「まあ、それはいいとしてだニャ……」
ゴホン、と咳払いをし、今度はペルシアンが二匹の間にどっかりと割って入る。
一体こいつらは、いちいち何をしておるのだ?
「そのジョウトまで、一体どうやって行くつもりニャ? アンタなら何か知ってるかニャ?」
ペルシアンがそう言って向き直ると、フン、と鼻を鳴らし、小馬鹿にした様にデルビルは答える。
「ああ、当たり前だろ。大まかに言や、手段は三つだ。まず、例のリニアだが……」
「待て。そんなものにポケモンが乗れる訳なかろう」
「せっかちな野郎だな! 最後まで聞けよ!」
俺が口を挟むと、デルビルはムッとしたように吠え立てた。そう言う貴様こそ、実に短気な野郎だ。
「ポケモンどころか、今は人間だって乗れやしねえよ。仲――いや、誰かが発電所に忍びこんで
何やらやらかしたせいで、リニアへの送電が止まっちまってる。ま、当分は運行できねえだろうな」
「……やけに詳しいな」
ドスを効かせつつジロリと睨むと、デルビルはギョッとしたように身を竦ませた。
まあ、これまでの態度や言動からして、こやつの正体について薄々感付いてはいるが……
今は配下の手前、黙っていてやる事にする。
「……次に陸路だが……こいつは容易な事じゃねえ。あの山のおかげで、人間様だって立ち往生だ」
気を取り直したように言葉を続け、デルビルは首を西の方へ向けた。
その遥か彼方に、雲を突くような高峰が霞んで見える。
「あれはシロガネ山だニャ。この国で一番高い山、と言われているニャー。
あの辺は強いポケモンが多いし、伝説の火の鳥が住んでいる、とも言われているニャ」
だからこそ、迂闊に鳥達も近付けられない、とペルシアンは言う。
「それを越えて行くんだ、余程のツワモノか、丸っきりの馬鹿じゃなきゃ無理ってもんだぜ。
となると、残るのは海路だ。クチバシティからアサギシティまで、定期便の船が出ている筈だ」
無論、俺達がその船に乗れる訳はないが、シンオウに使いを出せば船足は確保できる。
だがフローゼル達は、ジョウトの海……いや、そこに住む海の神とやらを、異常なまでに恐れていた。
海に暮らす者達は、特に迷信にはうるさいという。
たとえ脅しを掛けたところで、奴らが首を縦に振らなければどうにも仕様がない。
「まあ、他はともかく……海なら、ボクにもちょっと当てがあるのニャ」
俺が考えあぐねていると、ペルシアンが文字通り、助け舟を出してきた。
「当てだと? 海にまでお前の仲間がいるのか?」
「そうニャ。昔、セキチクシティにサファリパークがあった事は知ってるかニャ?」
「何とはなく聞いた事はあるが……それがどうした?」
「今は別の施設に改装したとかで、住処を追われて逃げ出したポケモンが大勢いるニャ。
その連中の主格だったストライクから聞いた話ニャんだが……」
話をまとめると……
その剣豪として名高いストライクは、或るポケモンと勝負する為、遥々シンオウに使いを出したらしい。
だが、待てど暮らせどそのポケモンも使いも一向に現れず、その間にサファリも閉鎖されてしまった為、
他のサファリのポケモンと共にペルシアン達の世話を受け、セキチクシティの周辺を根城にしていた。
そんな折、付近の海岸線を回遊していた水ポケモンの中に、そいつらを乗せてシンオウから来た、と言う
若いホエルオーが見つかり、現在は彼の庇護下にあるという。
「奴らは今頃、セキチク近くの海岸に居る筈だから、詳しく話してみるといいニャ。
それにしても……オスとオスの約束を反故にするニャんて、無礼なポケモンもいたもんだニャー。
シンオウって事は、ひょっとしてアンタらにも関わりがある奴だったりするのかニャ?」
そう言われても、俺達にはとんと心当たりが……
……いや、何か……
すっきりキレイさっぱり、スカッと爽快に忘れている事があるような気もするが……
皆さん、何故嫌ぅんですかぁ?
在日てだけでチョンがファビョるとか。
ぶっちゃけ俺も在日ですょ?
ビックリしたでしょ?
俺みたぃなリアル充実してぃるイケメン高校生でも在日ゎぃるんですょぉ?←
イケメンぢゃん?
俺ゎみんなに好かれてる人気者だし、モデルもゃてるし、イケメンだし、、、
ぁげたらきりなぃ←
在日にもぃぃ人ゎぃます。
皆さんゎ、俺が在日てゎかった時驚いたでしょ?
それゎなぜか
多分、「えっあんなイケメンでも在日いるの?」とか「あんなかっこいい在日いるの?」て思たからでしょう←
今日から変ゎりなさい。