観察詩

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1   
下手な芝居を

今更

見せられたヤな気分

気を引きたくて

多重人格

演じてる貴方は

全然綺麗じゃない

可哀想、なんて思えない

文体が同じなの

癖が同じなの

訴える事が同じなの


2名前はいらない:2007/08/23(木) 03:48:03 ID:G2t0TBa7
タスケテ

ボクヲ

スクッテ

タスケテ

デモ

クルシイノハ

ヤダ

ツライノハ

ヤダ

スベテヲ

ウケトメテ

シカラナイデ

ダキシメテ

ツヨクアイシテ

ナニモミナイデ

ダレモミナイデ

フカクアイシテ

ドリョクハ

ヤダ

ゼンブウケトメテ

ウザクシナイデ

ネェタスケテヨ

3   :2007/08/23(木) 03:49:05 ID:G2t0TBa7
下手な芝居で

君はいつも

誰かに救いを

求めているけど

無理だし

それ病気じゃないし

それ治らないし

君が治そうとしない限り

薬じゃ無理だし

切るよ?切っちゃうよ?

そう言って笑って

脅しているつもりで

貴方は抜け出せないんじゃない

抜け出したくないだけ

現実の方が辛い事

薄々感じているから

幸せを得る為の努力

したくないだけだから

4   :2007/08/23(木) 03:49:50 ID:G2t0TBa7
死ぬなら死ねば?

そう言わない周囲の人は

優しいわけじゃない

ついうっかり

タイミング悪く

死んじゃった後に

嫌な気分になりたくないから

ただ

それだけ

医者は治せない

諭しても意味が無い

薬でも治せない

悟らなきゃ意味が無い

ないものねだりな君の

暗闇はまだ終わらない
5名前はいらない:2007/08/23(木) 04:46:04 ID:Kjvox98Z
いつ見ても、大体似たような文句が連なってるよね
6名前はいらない:2007/08/23(木) 04:54:48 ID:Kjvox98Z
この板ね。何とかしろよと
7   :2007/08/23(木) 06:09:30 ID:G2t0TBa7
「こどくにだれがした」
8   :2007/08/23(木) 06:10:22 ID:G2t0TBa7
こえを かけても こたえて くれない

ないても さけんでも わめいても

だれも あいてに してくれない

ほんとうの こどくに なってしまった

きのうまで あんなに つらかったのに

わたしは なにも わるくない

こころの びょうき なのに

こころの びょうき なのに

だれも あいてに してくれない

ほんとうの こどくに なってしまった

おやが わるい

ともだちが わるい

あなたが わるい

この よのなか すべてが わるい

こころの びょうき なのに

こころの びょうき なのに

おせっきょうは ききたくない

たいけんだん?

そんなの きく よゆうなんて ない

あるわけが ない

こころの びょうき なんだから

こころの びょうき なんだから

わたしは なく さけぶ わめく

こどくの なかで

くらやみの なかで

なく さけぶ わめく

こころの びょうき なんだもの

こころの びょうき なんだもの

9   :2007/08/23(木) 06:11:42 ID:G2t0TBa7
「ないものねだり」
10名前はいらない:2007/08/23(木) 06:11:58 ID:Kjvox98Z
アレ、すぐ余所で八つ当たりするよね
言われた方からしたら意味分かんねえし
気色悪くてしょうがないんだよな
11   :2007/08/23(木) 06:12:21 ID:G2t0TBa7
ないものねだりがすきなきみ

ないものねだりでいきるきみ

てにいれるためのどりょく

「なにそれw」

てにいれるためのくふう

「なにそれw」

てにいれるために

ほしがっているわけじゃない

そんなことだれでもしっている

ないものねだりでいきるいま

ないものねだりがすきないま

どこにもいけない

どこにもいれない

だれにもあえない

ゆめでもあえない

ないものねだりがすきなきみ

ないものねだりがすきないま
12名前はいらない:2007/08/23(木) 06:20:02 ID:Kjvox98Z
無駄なら無駄かどうかを測ってるわけで
そんな急に才能が生まれるわけでもないから
期待があるならそのくらい許容範囲に置いてくれるだろ
動きを出したらとりあえず何かいいことあるって聞いてるよ?
13名前はいらない:2007/08/23(木) 06:24:22 ID:Kjvox98Z
二枚舌の相手は生のリアクションがないから嫌なんだよな
情報に確実性が全然ないからママゴトするしかないみたいで
聞いててすげえ凹むわ
14名前はいらない:2007/08/23(木) 07:18:10 ID:b7OspEse
なんだこの基地外スレは。

誰も許した訳じゃないぞ
15名前はいらない:2007/08/23(木) 07:20:53 ID:b7OspEse
なんだか勝手に仕立てあげられた気分。
こんな文句はないよw
16名前はいらない:2007/08/23(木) 07:23:58 ID:b7OspEse
お前ら殺人鬼だな〜
通り魔とかやめてね
17名前はいらない:2007/08/23(木) 07:47:38 ID:/ZY/vPvu
これさ
精神扇動とかするんだったら精神学者とかの話を元にやったほうがいいんじゃない?
成功しても成功しなくてもネタにもならないよORZ
18   :2007/08/23(木) 08:42:16 ID:G2t0TBa7
「しあわせに なりなさい」
19   :2007/08/23(木) 08:43:10 ID:G2t0TBa7
しあわせに なりなさい

そうねがって そだててくれた あのひとを

あなたは じことうすいに りようする

もう にどと あえない あのひとに

あなたは すべてのつみを なすりつける

しあわせに なりなさい

みちびいて くれなかった あなたが わるい

みちびいて くれなかった あなたの せいだ

しあわせに なりなさい

ひとりぼっちにしたくせに

ひとりぼっちにしたくせに

しあわせになりなさい

どうして わたしを いじめるの?

いつまで わたしを いじめるの?

いちにちも はやく らくに なりたい

いちにちも はやく あなたに あいたい

しあわせに なりなさい

あなたは きづかない ふりを している

しあわせに なりなさい

だってそれは いまよりもっと つらいまいにち

しあわせに なりなさい

もう だまってて! わたしに さしずしないで!

しあわせに なりなさい

そうねがって そだててくれた あのひとを

あなたは じことうすいに りようする

もう にどと あえない あのひとに

あなたは すべてのつみを なすりつける

しあわせに なりなさい

しあわせに なりなさい
20   :2007/08/23(木) 08:44:12 ID:G2t0TBa7
「鋭さが、、無い」
21   :2007/08/23(木) 08:45:06 ID:G2t0TBa7
ワンパターン

何人目の人格が現れても

貴方は

キレがない

鋭さがない

なりきれて

いない

もっと文才のある子なら

もっと楽しめるのに

危機感がない

追い詰められている

気がしない

本当に苦しいなら

もうちょっと

自分のままでいなよ

飽きて

見放されるのが

そんなに

嫌なら
22   :2007/08/23(木) 08:53:06 ID:G2t0TBa7
「燃料投下?」
23   :2007/08/23(木) 08:53:53 ID:G2t0TBa7
ごめんね

わたし

燃料投下しちゃったね

だってね

あなた

あまりに酷かったから

やっぱり

あの後

予想した通りの展開

ごめんね

わたし

こうなる事望んでいたんだ

だってね

あなた

本気で気付いていないから

これから

この先

少しは変わっていくのかな

ごめんね

わたし

ちょっとも期待していないみたい

だってね

あなた

・・・
24   :2007/08/23(木) 16:59:12 ID:EPxVaGaI
「だれも」



かなしいけど


だれもたすけてくれないんだ


つらいけど


じぶんではいあがるしかないんだ


きづくまで


ただもがきつづけるしかないんだ


がんばれ
25   :2007/08/23(木) 17:00:01 ID:EPxVaGaI
「やるしかないでしょ」



やらなきゃ


のばしのばしじゃ


いつまでたっても


いまのまま


こどもじゃないんだから


だれもたすけてくれない


やらなきゃ


のばしのばしじゃ


つらいふりしてねこんでも


げんじつめをそむけても


だれもたすけてくれない


いまあなたがぶつかったかべ


のりこえなくちゃ


やらなきゃ
26   :2007/08/23(木) 17:00:51 ID:EPxVaGaI
「きょうき」
27   :2007/08/23(木) 17:02:09 ID:EPxVaGaI
わたしは なにもしていないのに!

わたしは なにもしていないのに!

そんなこと いうけれど あなた

きょうきをもって ふりまわしているじゃない

やさしい にんげんを つぎからつぎへと

ちだらけに こわれた おもちゃみたいに

おなじことばだけ はきだして なぐさめる ぴえろに
28   :2007/08/23(木) 17:03:00 ID:EPxVaGaI
これだけじゃ ものたりない

もっと もっと こころの すきまをうめて

たくさんの ことばで うめつくして

わたしを あんしん させて

やさしい ねむりに みちびいて

やさしい にんげんを つぎからつぎへと

ちだらけに こわれた おもちゃみたいに

おなじことばだけ はきだして なぐさめるぴえろに

あなたが そうした あなたの きょうきで

ただ いきをしているだけよ

わたしは わるくない

すべて あなたが わるい

やさしくない あなたが わたしを おいつめる

ごはんだって ちゃんとたべるわ

まだまだ きずつけたりないもの

わたしと おなじ くるしみを

わたしと おなじ くるしみを

そのまえに すこし ねむらなきゃ

おいつめるって けっこう つかれるものよ

わたしは なにもしていないのに!

わたしは なにもしていないのに!

そんなこと いうけれど あなた

きょうきをもって ふりまわしているじゃない

やさしい にんげんを つぎからつぎへと

ちだらけに こわれた おもちゃみたいに

おなじことばだけ はきだして なぐさめる ぴえろに 
29   :2007/08/23(木) 17:04:29 ID:EPxVaGaI
「ぼうりょく」
30   :2007/08/23(木) 17:39:19 ID:EPxVaGaI
わたしは こころの びょうきなんです

だから なにをいっても いいの

だから だれをきずつけても いいの

だから だれよりいちばん かわいそう

だから あなたはわたしから にげないで

わたしは こころの びょうきなんです

めをはなしたら しんじゃうよ いいの?

しかったりしたら しんじゃうよ いいの?

かげぐちなんて いわないで

わたしにちょくせつ いわないで

とにかく やさしくしてください

とにかく いつでもみまもって

わたしは こころの びょうきなんです

あなたは わたしよりつよいから だいじょうぶ

あなたは どんなにきずついても だいじょうぶ

わたしは こころのびょうきなんだもの

わたしは こころのびょうきなんだもの

あなたを きずつけている つもりじゃない

あなたが かってに きずついているだけ

わたしは こころのびょうき なんだから

ひとに きづかいなんて するよゆうないから

かってに きずつかないで

かってに はなれていかないで

めをはなしたら しんじゃうよ いいの?

しかったりしたら しんじゃうよ いいの?

とにかく やさしくしてください

とにかく いつでもみまもっていて
31名前はいらない:2007/08/23(木) 20:07:34 ID:E9urguqi
つまんない・・・・
32名前はいらない:2007/08/23(木) 20:17:36 ID:b7OspEse
クララがたった
クララがたった
33名前はいらない:2007/08/23(木) 20:25:24 ID:b7OspEse
指吸うと落ち着きまちゅか
まだお母ちゃんのおっぱい吸ってまちゅか
お元気でちゅか
34名前はいらない:2007/08/23(木) 21:35:23 ID:b7OspEse
雑魚は失せろ

荒れる
35   :2007/08/23(木) 23:10:23 ID:EPxVaGaI
「うそ」
36   :2007/08/23(木) 23:11:29 ID:EPxVaGaI
わたしは こんなに くるしいのに

だれも わかってくれない 

おなじだけの くるしみを 

あなたも あじわえば いいのに

あなたの つらさも くるしさも

だいじょうぶ わかる わかるよ

でも のりこえられるから

でも いま てだすけしちゃ いけないから

うそ

あなたは なにも わかっていない

あなたは なにも わかっていない

しにたいくらい つらいのに

しにたいと おもうほど くるしいのに

だれも わたしを まもってくれない

みんな わたしを ころしたがってる

だいじょうぶ わかる わかるよ

でも のりこえられるから

でも いま てだすけしちゃ いけないから

うそ

あなたは わたしを ねたんでいるのね

あなたは わたしを ころしたいだけ

わたしは こんなに くるしいのに

だれも わかってくれない

だれも たすけてくれない

あなただけは しんじていたのに

ああ しんでしまいたい
37みみねこ ◆P0oo/73sKM :2007/08/24(金) 00:15:21 ID:8bYul5Oy
「ほんと」

だれもあなたのことなんて

みちゃいない

だれもあなたのことなんて

あいてにしてない

ほんと うそ

しんじたくない

ほんとうのほんと

うそでもいいから

あいしてください

うそだとしったら

かなしむでしょう

くりかえすほんとのむじゅん

しんじるだけならただだから

ぼくをしんじて あたしをしんじて

あんたはどっかでしんできて
38   :2007/08/24(金) 00:49:21 ID:ioBguI+H
「ひげきのひろいん」
39   :2007/08/24(金) 00:50:03 ID:ioBguI+H
いじをはり みえをはり

よくにまけ ごうじょうなきみ

せかいじゅうでいちばんふこうなきみ

だれがきめた だれがそうした

いつになれば すなおになるの

せかいじゅうでいちばんふこうなふり

どうじょうと あいじょうと

ゆうじょうと やさしさのくべつ

せかいじゅうでいちばんふこうないま

きみがしあわせにきづくまで

ずっとみまもっていてあげるから

いじをはり みえをはり

よくにまけ ごうじょうなきみ

ぼくはなたできみをきりつけつづける

きみがすきだから

きみをすきだから
40   :2007/08/24(金) 00:50:59 ID:ioBguI+H
「不安だらけの世の中」
41   :2007/08/24(金) 00:51:35 ID:ioBguI+H
納得出来ない言葉の羅列

消費者の声なんて反映されない大企業

威張っているだけの医師看護師弁護士教師政治家他人

怠けているだけのニート天下り爺さん隣のおっさん

愚痴しか言わない友達同僚親親親

病名付けるのが仕事な心療内科の先生

処方箋と重ねられる薬と飲まずに溜まってくイライラ

テレビでは暗いニュースと煽るコメンテーター

どこもかしこも不安だらけ

どこもかしこも不満だらけ

ゴロゴロ転がって大きくなる爆弾

雪みたいに

どんどん大きく

どんどん重たくなってく

導火線に火をつけるのは誰?

君を吹き飛ばすのは誰?

君の欠片を拾い集めて

キラキラ光る瓶に詰めて

「まだ見ぬ誰かへ」手紙を書こう

明日はいいお天気

雲ひとつ無い青空

君の欠片を拾い集めて

キラキラ光る瓶に詰めて

明日は海へ出かけてみよう

この世の中の不安を全部

この世の中の不満を全部

君の欠片と同じに砕いて

ガラス瓶に詰めて流してしまおう

明日はきっといい天気だしね
42名前はいらない:2007/08/24(金) 19:39:10 ID:TF9r9WAM
お前なんだ!
43名前はいらない:2007/08/24(金) 19:47:55 ID:TF9r9WAM
観察詩ってなんなんだ!

いったいなんなんだ!
44名前はいらない:2007/08/24(金) 20:05:22 ID:TF9r9WAM
こいついたら本気で鬼畜だ

君たちは。
45名前はいらない:2007/08/24(金) 20:08:05 ID:TF9r9WAM
なんなんだ!こいつ。
46名前はいらない:2007/08/24(金) 20:15:45 ID:TF9r9WAM
踏み台にして他に行く とか口に出して言っちゃう奴は消えてよし
47名前はいらない:2007/08/24(金) 20:18:10 ID:TF9r9WAM
なんなんだよ!こいつ。
48   :2008/02/09(土) 04:00:11 ID:QHmeEltJ

そうですね。その通りだと思います。
なのでぜひ、私達国民がこの機会に立ち上がり
「様」を解放して差し上げましょう。
様と私達を待ち受ける未来は大勝利!!です。  
49名前はいらない:2008/06/12(木) 23:00:22 ID:RPwPrjoN
精神世界で癒される第38章
http://life9.2ch.net/test/read.cgi/healing/1210246310/
「替わりべんたん、替わりべんたん、のスレ主さん、募集中!」
このスレのスレ主さんである単、直さんが、リアルのほうが忙しいので顔をなかなか出せないと言う事で、スレ主さんを下りられるそうです。

そこは、無国籍男女混浴風呂。どなたも、癒やされますよ。ひとっぷろ、どうですか?
あなたのいやしに尽いて、ひとこと いただけませんか?


↓ ここでは、さとりの語り手をつのっています。<(_ _)>

坐禅と見性第58章 二は二ではない一の如し
http://life9.2ch.net/test/read.cgi/psy/1213112495/

なにかしらその意のあるところを語ってください。

宗教とは、インドにおける原意では、いかに生きるか、と言う事。

【過去スレ】
坐禅と見性第57章ろうそくの炎を吹き消せ
http://life9.2ch.net/test/read.cgi/psy/1210832703/

坐禅と見性 第56章 名詞を剥ぎ取る、なんと呼ぶか
物質には、名詞があります。その名詞を剥ぎ取った時、これをなんと呼ぶか、と言う公案です。

また、片手の人が叩く拍手の音を聞いてこい。
ほかに、30メートル先のろうそくの炎を坐のままで、吹き消せ!
と言う公案に参禅しています。
カキコ、のほどよろしくおねがいします、m(__)m
50名前はいらない:2008/12/10(水) 17:04:07 ID:13TZY4E4
めだかを飼っているんだが、奴らの縄張り争いは酷い
強いやつが弱いやつを一日中追い回している
隠れ家を作っても無駄だった
しようがないのでショップのように過密にしたら解決した
これでいいのだ
51Mana魔名:2009/03/04(水) 03:15:20 ID:LrO/BVa/
観覧車の中で二人きりなんだぜ、どんだけ思わせぶりなんだよ
察してるんだろ俺の気持ち 今更何でも無い振りなんてすんなよ
詩吟に乗せて想いを伝えても、無邪気な返事で「あると思います!」
52名前なし:2009/12/30(水) 10:22:26 ID:qhu9HjrV
一八七一年ごろ。モンマルトルの小さなコーヒー店の前。そのコーヒー店には国民兵の応募事務所が設けられている。
コーヒー店の前では黒い外套を着た太った紳士が給仕と話し合っている。
舞台前方で、ボール箱を担いだ二人の子供が相談している。遠方で大砲の砲声。
53名前なし:2009/12/30(水) 10:23:37 ID:qhu9HjrV
給仕  ブラック様が、あなたを訪ねて三度もここにお見えになりましたよ。
太った紳士  何だって? ブラックが来ているのか、パリへ?
給仕  ここに書置きがございます、旦那様。
太った紳士  (読む)このパリじゃとても落ち着いちゃいられない。価格、歩合、手数料ときた! 
         まあ、これが戦争ってものさ。やり方こそ違え、誰もが戦争に巻き込まれているのさ。
         ところで君、ある仕事を委託したいんだがやれそうな男の心当たりはないかね? 
         勇気があって、しかも信用のできる男さ。この二つを兼ね備えた男ってやつはなかなかいないものだけどね、どうだ?
給仕  誰か見つかるでしょう。(給仕、酒代をもらう)それで、旦那様、この寒さでも外でお待ちになる方がよろしいんですか?
太った紳士  このところ店の中の空気は酷く悪くなったからね。
給仕  (「市民たちよ! プロシア人を追い払え、国民軍に入隊せよ!」というポスターを眺めて)なるほど、分かりましたよ。
太った紳士  本当かね? 僕だって八十フランも払ってちゃんとした朝食をするつもりなら、わざわざ下町の汗臭い匂いを嗅ぎに来る気はないさ。
         すまないがあの蛆虫どもが(子供たちを指す)近付かないように、僕の側にいてくれたまえ。

(貧しい身なりをした女と若い労働者がやって来る。二人は一緒に籠を下げている。子供たちは女に話し掛ける)

カベー夫人  いらない、私は買わないよ。そうね、いいえ、ひょっとしたら後から買うかもしれないよ。
         ウサギの肉って言ったね? ジャン、日曜日に焼肉はどう?
ジャン  このこの売っているのはウサギの肉じゃないよ。
カベー夫人  でも十四フラン五十もするっていうんだよ。
子供たち  この肉はとても新しいんだよ、奥さん。
54名前なし:2009/12/30(水) 10:25:06 ID:qhu9HjrV
カベー夫人  この籠の品物をいくらで買ってくれるか知ってからでないとね。
         じゃあ坊やたち、ここで待ってな。もしかしたら肉を買うかもしれないからね。

(夫人はさらに歩いて行こうとする。夫人の持っている籠から内職の品である国民軍の軍帽の徽章が二つ、三つこぼれる)

         ほらジャン、よく気をつけるんだよ。きっとここへ来るまでにもういくつか落としているよ。
         そんなことになってたら、品物の数を数えている間、ぺらぺら他のお喋りをして誤魔化さなきゃならないじゃないか。
太った紳士  どこへ行っても商売か。プロシア人は戦争をやっているっていうのに、フランスじゃ誰も彼も商売にしか目がない。
給仕  大物も小物も、みんな自分の商売で夢中ですよ、旦那。

(部隊背後に軍隊の行進の足音と喧騒)

太った紳士  一体何事だ。おい坊主、ちょっと向こうまで行って何だか見てきてくれないか、五フランやるからな。

(一人の坊主、走り去る)

カベー夫人  エミール、帽子の徽章を持って来たよ。
給仕  あの旦那がおたくのジャンにやれるようなちょっとした仕事があるって仰ってるぜ、カベーの奥さん。
カベー夫人  あら、まあ本当にご親切に。うちのジャンったらもうここ二ヶ月ってものまるで仕事がないんですよ。
         あの子は汽車の釜焚きだったんだけど、もう汽車が動いてないんだものね。やらせていただくかい、ジャン?
ジャン  そういう頼まれごとはやる気はないよ、分かるだろ、おっかさん。
カベー夫人  すみませんねえ。ジャンは本当にいい子なんだけど、あの子にもあの子なりの考えがあってね、どこか死んだ父親に似た所があるんですよ。

(カベー夫人とジャン、籠をコーヒー店の中へ運んで行く)

太った紳士  この戦争ではもういくらももたないだろう? アリスディド・ジューヴ、
         およそこの戦争で甘い汁の吸えそうな商売はもうみんな手がついちゃったからね。
         これ以上何をやったって儲けにはならない。
55名前なし:2009/12/30(水) 10:26:40 ID:qhu9HjrV
(前線の要塞をめぐる戦闘から帰って来た三人の国民軍兵士(連盟兵)が、びっこを引きながら通りからやって来る。
第一の国民兵「パパ」は中年の建築労働者、第二の国民兵ココは時計職人、第三の国民兵フランソワ・フォールは若い神学生、
彼は腕を包帯で吊っている。三人は顎の辺りに汚い包帯を巻いた捕虜のドイツの胸甲騎兵を連行している)

子供たち  やーい、ドイツっぽ、酷い目にあったんだろ、ドイツっぽ。兵隊さん、こいつの肩章に触ってもいい?
「パパ」  好きなようにしな。
子供たち  前線の具合はどうなの。
「パパ」  そうだな、プロシア人にはいい具合さ。
子供たち  「総督は降伏せず」って言ってるんだろ。
「パパ」  フランス人には降伏しないだろうな。こうも言ってるぞ。くたばれ総……
子供たち  ……督。
「パパ」  (給仕に)ワイン三杯。ああいや、四杯だ。
給仕  かしこまりました。実は店主のいいつけで勘定は先払いにしていただきたいんで。ワイン四杯で十二フランになります。
ココ  何だって、あんたには分からないのかい、俺たちは前線からやって来たんだぜ。
給仕  (小声で)十二フランなんで。
ココ  あんた、正気か。
「パパ」  いや、連中の頭は確かだよ。狂っているのは俺たちさ、ギュスターヴ。
      一日たったの一フラン半もらうために、戦争をするなんて全く正気の沙汰じゃないぞ、
      お前の店で言えば、ワイン半杯の値段じゃないか、おまけにこんな武器でどんな風に戦争をしろっていうんだ? 
      (太った紳士の鼻先に彼の小銃を突きつけて)こいつは、四十年代の旧式弾丸込め銃だぜ、
      新編成部隊の武器なら、これで沢山だって仰るさ。国家も以前ならちゃんとした新式のシャスポー小銃を一挺七十フランで支給できたが、
      今では、二百フランするからな。でもね、あの小銃を使えば、ちゃんと当たるんだよ、旦那。
ココ  さあ、ワインをこっちへ寄越せ、こん畜生。さもないと一発お見舞いするぞ。
    俺たちがパリを防衛しているのに、お前らろくでなしどもは、酒で儲けようっていうのか。
「パパ」  旦那、俺たちが鼻持ちならぬ皇帝を追い払い、共和国に呼びかけて国民軍を編成したのは俺たちの苦労を種に儲ける奴が出るためじゃないよ!
56名前なし:2009/12/30(水) 10:29:13 ID:qhu9HjrV
太った紳士  なるほどな、まさに聞きしに勝る無政府状態だ、
         君らはパリを防衛しようと思ってるんじゃなくて、ただ、パリを占領する気なんだろう、え?
ココ  へえ、そうかい。するとパリは今は、あんたやあんたのお仲間の持ち物ってことになるな、どうだ? 
     (「パパ」に)このデブはいい人だよ。それともこう言った方がいいかな、善人はみんなデブだってな。
     パリが包囲されても、こいつの景気は一向に悪くならないってわけだ、なあ?
太った紳士  諸君はどうやら前線がどこかっていうことを忘れているらしいな。

(様子を見に行った子供が帰って来る)

「パパ」  どうだった? (腕に包帯を巻いた若い三人目の国民兵に向かって)フランソワ、
       旦那がね、お前が一体どこで、その擦り剥きをこしらえたか忘れてしまったらしいと、仰ってるぜ。
ココ  この旦那の仰ってるのはこうだ、俺たちは少なくとも、酒を飲んでいない時は、
     いつも頭の中をドイツっぽのことで一杯にしていなきゃいけないってんだな、おい、ドイツっぽ、お前の意見はどうだ?
     そういえば、お前はどう見たってデブの方じゃないな。おい給仕、このドイツっぽに酒を一杯。
     とっとと持って来ないとこの店を粉々にしてしまうぞ、二フランのワイン四杯、分かったか?
給仕  かしこまりました。
太った紳士  ああ、ここにいてくれたまえ、おい君。
子供たち  (歌う)ドイツっぽはデブじゃない。ドイツっぽはデブじゃない。
給仕  (外から帰って来て)旦那様、今の騒動は第二○七大隊だそうです。
     兵隊たちが不平を起こして、市庁に行進して、将軍たちを縛り首にするんだなんて言って……
太った紳士  諸君、プロシア人どもがこのパリを包囲しているその時に……
57名前なし:2009/12/30(水) 13:43:00 ID:qhu9HjrV
「パパ」  そうだよ、プロシア人どもがパリを包囲している時にだよ、
       『市民たちよ、鉄鎖を引きちぎれ、プロシア人たちを撃退しろ、そうすればまた、ジャガイモが手に入るぞ!』かい。
       俺たちはな、誰のせいで俺たちにジャガイモが手に入らないのかってことがようやく分かってきたんだ、
       包囲のせいよりもまずあんたやあんたのご同類のせいなんだ。
       それとも、ジャガイモの値段を吊り上げるのはプロシア人だって仰るかね?
太った紳士  諸君、僕はこうやって戦いが行われている間に君たちが相変わらずジャガイモの値段のことなんかでごたくを並べているのを聞いていると……
「パパ」  戦いが行われているだって? あんたの仰るのはつまり人がばたばた死んでるっていう意味ですか? 
      あんたは戦場ってものを知ってるのかい? 俺たちはね、モン・ヴァレリアン平原では雨と泥沼の中で一晩中伏せていたんだよ。
      このリューマチ病みの俺まで。攻撃は十時に始まった。俺たちはモントルトゥー堡塁に突撃し、
      それからビュザンヴァルの公園も攻撃し、それからサンクロードを攻撃し、ガルシュまで前進したんだ。
      百五十門の大砲のうち満足に発射できたのは三十門しかなかった。俺たちは大砲の援護射撃もなしに進んだ。
      息もつかせず攻め込んだからプロシア人たちはすっかり浮き足立っていた。ところが突然後方から止まれという命令が出たじゃないか。
      俺たちは二時間も待たされた。すると後方からまた命令がきた。「撤退」というのさ。
      トロシュ将軍がモントルトゥーまで占領した全ての拠点から撤退させたんだよ。一体これはどういうことかね、旦那?
太った紳士  それは将軍たちの方が敵の集中砲火がどこに集まるか君たちよりもよく承知しておられるからだと思うね。
ココ  将軍たちは集中砲火の集まる所にわざわざ国民軍を派遣するってこともご存知だね、旦那?
太った紳士  もう沢山だ。一体君らは何を喋ってるのか心得ているのかね。
         君たちは君たちの司令官であるフランスの将軍たちに裏切り者の汚名を着せるつもりか? 
         だったら、どうか証明していただきたいものだね?
58名前なし:2009/12/30(水) 13:44:46 ID:qhu9HjrV
「パパ」  旦那は証明しろと仰ってるぜ。ギュスターヴ。もちろん証拠はないや、俺たちが戦死するまではね。
      俺たちが蝿のようにくたばることが唯一の証明ってわけだな。
      「おう、名無しの権兵衛君、君は死んでしまいましたね。君の頭を殴ったのは誰か証明してくださいませんか。
      もし一言でも仰ってくだされば、すぐ裁判をしますから、おや、黙ってらっしゃいますね、
      こうやってあなたの要求をうかがってるんですよ。名無しの権兵衛君。なのに、あなたは身動きもなさらない」
太った紳士  君らのその要求とかあの市庁の前のデモの意味はよく分かってるよ。あれこそ悪名高いコミューンの恐喝、というやつじゃないのかね?
ココ  その先を聞こうぜ、俺たちもまだ暇なんだ。一○一大隊がここに来るまでは、行動を始めないからね。
太った紳士  要するに君らは、家賃を踏み倒すつもりなんだろうさ。フランスが生と死をかけた戦いを遂行している時に、
         君らは自分の給料や年金のことしか考えない、バターが高すぎるとかね……
         しかし用心したまえ。パリの忍耐にも限度があるぞ。(国民兵たち、黙って立っている)君たちこそ裏切り者だ! 
         しかし、我々が君らの新聞を読んでもいい気持ちはしないということは忘れないでくれたまえ。
         ある種の賤民どもの我欲はもう沢山だ、沢山だぞ!

(給仕、四杯のワインと、ナプキンに包んだシチュー鍋を持って帰って来る。太った紳士は給仕に来ないように合図をする)

給仕  ご注文のチキンでございます、旦那様。
ココ  旦那様、チキンでございます!
太った紳士  君らがおっ放り出されるところを楽しみに待ってるよ。君ら国民兵なんて手合いはもう相手にしない、くれぐれも……

(太った紳士は急いで退場する)

子供たち  旦那様、お約束の五フランをちょうだい。(紳士の後を追って退場)
59名前なし:2009/12/30(水) 13:46:13 ID:qhu9HjrV
給仕  あ、皆さん、よろしかったら皆さん方のお飲み物は私におごらせていただけませんか。
ココ  (ドイツの胸甲騎兵にグラスを渡してやりながら)ほらドイツっぽ、ああ、そうか畜生、
     可哀想にお前は飲めないんだな、その顎じゃ。それじゃ、君の健康を祝してな。

(一同、飲む。コーヒー店からカベー夫人とその息子が出て来る。相変わらず籠を下げている)

ジャン  (給仕に向かって)俺に仕事をくれようって言った旦那はどこだい?

(給仕、彼に黙れという合図をする。若い負傷した兵士がカベー一家に毒づく)

フランソワ  カベーの奥さんじゃありませんか!
ジャン  何だ、フランソワか!
カベー夫人  フランソワ! 負傷したの? 悪いんだけど、お願いだから部屋の家賃のあなの分を払ってもらえない? 
         政府が滞納している家賃は支払うように言っているのはご存知でしょう。
         それに今そこへ行ってみたら内職の軍帽の徽章はもう買い取ってもらえないんだよ。これじゃ私は破産だわ! 路頭に迷ってしまうわ。
フランソワ  でもカベーの奥さん、僕だってこの三週間ってもの給料をまるで払ってもらえないんですよ。
        そんなわけで僕も目下のところ懐具合が思わしくないんです。
カベー夫人  じゃあ、いつ払ってくれるのかしら? あらあら、皆さん笑わないでください。この人はうちの大事なご主人様なんですからね。
ココ  そうだよフランソワ、お前はいつ払えるんだい、奥さん、奥さんのご心配はよく分かりますよ。
     ただ、あなたにこれだけのことしか申し上げられないんですが、
     ちょうどまる二日の出撃戦から帰って来たばかりの二つの大隊が、市庁へ行進する途中なんです。
     連中は、そこで政府にちょっと愉快な質問をしてやろうというんですよ。
「パパ」  多分その質問の中には我々の滞納している家賃をしばらく支払猶予にしてもらえないかという希望も入っています。
      その要求が通るまではさしあたって我々からの感謝の気持ちとして、このチキンをさし上げることくらいしか出来ないんですがね。
      本当はこのチキンは注文しながら食べずに帰った旦那のものですけれども。
60名前なし:2009/12/30(水) 13:47:32 ID:qhu9HjrV
(彼らはカベー夫人をコーヒー店のテーブルに連れて行き、給仕の手からシチュー鍋を取り上げて、エレガントな身のこなしでカベー夫人に焼いたチキンを給仕する)

「パパ」  ボーイさん! 君の店のご亭主はこれから先も上流のお得意には大いに前払いをしていただくといいな。
      場合によっては、こういう連中がさ、気持ちよく食事をなさることが出来なくなるような事態の起こることもあるからね。君に迷惑をかけたかな?
給仕  はい、相当にね、そのうちあなたたちの仲間に加わる決心をしなきゃならなくなるでしょうよ。
     ひょっとしたら、政府がカベー夫人のチキン代を支払ってくれるかもしれませんな? 
     国民兵が二個大隊も押しかければ、そのくらいの要求を通すのはわけないでしょう。
ココ  奥さん、あなたのご健康を……
「パパ」  どうぞ召し上がれ、あなたにおごることができるのは、まさに一○一大隊の名誉ですよ。
カベー夫人  皆さん、本当にご親切ね。ちょうど私、今日はあまりお腹にものが入ってないのですよ。
         チキンは私の大好物よ。うちのジャンにも少し分けてやっていいですか?
ジャン  ひょっとしたらこの人たちはどうして軍帽の徽章を買い上げてもらえなくなったのかって問題に興味を持つかもしれないよ。
      あそこにいる役人どもは新しいお上からの指令で、もう国民軍の新編成部隊の募兵は、しない方針だと見ているらしいんだよ。
ココ  何だって? おい、聞いたか「パパ」?
「パパ」  俺はそう逆上しないよ。この奥さんも俺たちと一緒に市庁に押しかければいいのさ。
ココ  奥さん、お分かりですか、「パパ」もあなたも我々と一緒に市庁に行って、もういらなくなった軍帽の徽章を見せてやるといいと思っているのですよ。
    さあこのチキンを、あなたの籠にしまっておしまいなさい。
フランソワ  ほら、第一○一大隊がきたぞ。

(板塀の後ろや上を一○一大隊が通過するのが見える。パンを突き刺した銃剣や旗が堀の外を通って行く、国民兵たちはカベー夫人を助け起こして一緒に連れて行く)
61名前なし:2009/12/30(水) 13:50:33 ID:qhu9HjrV
「パパ」  (ジャンを指して)この男は一体どうしたんだい? なぜ俺たちと一緒に戦わないんだ? 
      俺たち新編成部隊の連中は、彼から見ると少し左すぎるのかね。
カベー夫人  とんでもない皆さん、少し右すぎるんだと思うわ、あら失礼なことを言っちゃったわ。
「パパ」  こいつは参った!
ジャン  で、これからは、僕をあなた方の仲間だと思ってください。あなた方のこれからの行進の目的ってやつはとても気に入りましたよ。

(「パパ」はフランソワの軍帽を取り、それをジャン・カベーにかぶせる)

フランソワ  君がいないもんだから、えらく退屈していた所なんだよ。

(一同、退場していく。給仕はナプキンをテーブルの上に放り出し、ランプの火を消し、連中について出て行こうとする。
その時、彼の視線が皆に忘れられていたドイツ胸甲騎兵の上に投げられる。
彼は胸甲騎兵を身振りで立つようにうながし、そして国民兵の後から胸甲騎兵を追い立てていく)

給仕  ほらドイツっぽ、行くんだ。
62名前なし:2009/12/30(水) 16:45:35 ID:Sw/spL/1
一八七一年一月二十五日、ボルドー。ティエールとジェール・ファーブルが会話をしている。ティエールは、まだバスガウンを纏っている。
彼は自分の風呂の水の温度を測って、侍僕イポリットに熱い湯と冷たい水を浴槽に流し込ませている。
63名前なし:2009/12/30(水) 16:46:56 ID:Sw/spL/1
ティエール  (前のミルクを飲みながら)もうこの戦争はおしまいにしなきゃ。
         とんでもないことになり始めてきたじゃありませんか。
         この戦争を始めて、それから負けた。その後に来るものは何です?
ファーブル  しかし、あのプロシア人どもの要求ときたら! フォン・ビスマルク氏は賠償金は五十億、
        アルザスロレーヌをドイツに併合する、全ての戦争捕虜引渡しは拒否、
        要塞も彼の満足のいくように処理するまで占領を続けると言っています。これでは破滅ですよ。
ティエール  それじゃ、あのパリの人民どもの要求はどうです。あれだってやっぱり破滅ですよ。
ファーブル  それはもちろんです。
ティエール  コーヒーはいかがです。(ファーブル、首を振る)じゃ、僕のようにミルクはどうです? 
        おやおや、ミルクさえも飲んではいけないんですか。ねえ、ファーブル、これで僕らは胃腸が丈夫だったらいいねえ! 
        食い気の方は一向になくならないんだから! いや、しかし、フォン・ビスマルク氏の問題に戻りましょう。
        のぼせ上がったビール臭い書生っぽめ、ますますつけ上がってどんどん酷い要求を出しますね。
        やつは我々がどんな要求を出されても全て飲まなくちゃならないってことをよく承知してるんですよ。
ファーブル  本当に全ての要求を飲まなくちゃならないんでしょうか。ロレーヌの鉄と錫の鉱山は、まさにフランスの工業の将来を左右するものなのですからね。
ティエール  しかし、我々の秘密警察の刑事たちは、今暴民どもにセーヌ河に投げ込まれているんですよ。
        もしパリにコミューンが出来てしまったら、フランスにいくら鉱山があったって何の役にも立ちませんよ。
ファーブル  五十億! これが我々のビジネスですよ!
ティエール  秩序を取り戻してもらう代償さ。
64名前なし:2009/12/30(水) 16:50:02 ID:GJXYVZQ2
ファーブル  プロシアはこれでヨーロッパにおいては、他国より三世代分くらい先駆けて飛躍を遂げることになります。
ティエール  同時に、わが国の支配階級の安全を五代先まで保証してくれますよ。
ファーブル  でも、わが国は今世紀の只中に農業国家に成り下がってしまいますよ。
ティエール  私は、むしろ農民をあてにしていますね。平和は農民に基づいて樹立される。
         百姓たちにとっては、ロレーヌなんて問題じゃない。やつらは、ロレーヌがどこにあるかさえ知らないんだからね! 
         ところでファーブル、せめて水くらい飲んだっていいでしょう。
ファーブル  本当にその必要がありますか? それが私には疑問なんですがね。
ティエール  一口だって、君、命の足しになりますよ。一口だってさ。ああそうか、そっちの話か、それだって必要なんですよ、絶対に。秩序の代償を払うことがね。
ファーブル  あの国民兵ってやつは、まさにフランスの疫病神ですな。
         我々はあの暴民どもに、プロシア人と戦わせるための武器を与えるという愛国的な犠牲を払ってやったのに、
         やつらは、今やその武器を我々に向けているわけです。これは全て本当の話です。
         しかし一方ではまた、あの連中がパリ防衛のために結局は戦うだろうとも言えるんじゃありませんか?
ティエール  ファーブル君、パリとは一体なんだろう? パリのあのろくでなしどもは、パリは非常に神聖な場所であって、
         敵の手に渡すくらいなら、火をつけて灰にしてしまう方がいいと言っていますがね。
         そういう奴らは、パリが有価物の宝庫であることをまるで忘れているんだ。
         自分が無一文だからこそものの値打ちを忘れているのさ。のらくらものは、なんでも破壊するのが大好きだ。
         そりゃそうさ、自分はどうせ何も持っていないんだからね。今奴らはパリを炎上するための石油を寄越せと喚いているが、
         しかしパリ官庁、つまり我々から見れば、パリは単なる象徴ではなくて、有価所有物件ですからね。
         パリに放火することは、パリを防衛することにはなりませんよ。
65名前なし:2009/12/30(水) 16:51:26 ID:GJXYVZQ2
(行進の足音が聞こえてくる。二人の紳士は、ぎょっとして棒を飲んだようになる。
ティエールは逆上のあまり何も喋れず、侍僕に大げさな身振りで窓の所に行けと合図する)

侍僕  我々の配下の海軍部隊です、旦那様。
ティエール  この屈辱は決して忘れないぞ……
ファーブル  このボルドーは平穏なのでしょう。
ティエール  平穏とはどういう意味です。平穏とは平穏すぎるということかもしれませんよ! 
         先例は作ってはならん! ファーブル、あの連中を、根こそぎ片付ける必要がありますよ。
         くちばしの黄色いほら吹きどもを、舗石に叩きつけてやる。文明の名においてね。
         我々の文明は所有権に基づいています。これだけはどんな代償を払っても守っていかなければならない。
         奴らはつけ上がって、大それたことに我々に向かってこれは寄越せ、これは持ってよし、などと指図をする気を起こしたんだ。
         「竜騎兵、剣を寄越せ!」ってわけだよ。パリを浄化するためにあの害虫どもの血の海が必要なら、
         血の海を流すまでのことさ。おい、わしのナプキンを寄越したまえ。

(侍僕、彼にナプキンを渡す。ティエールは、口から泡を拭う)

ファーブル  そう興奮なさってはいけません。どうか、あなたのご健康のことをお考えください。何しろ、我々全てにとって大事なお体なのですからね。
ティエール  (息が詰まる)しかも、君らはあんなろくでなしどもに武器を与えてしまったんだ。
         その時以来、つまり、九月三日の朝以後は、私はできるだけ速やかに、直ちに戦争を終結すること意外は考えないことにしたのです。
ファーブル  ところが残念なことに、あの連中は、まるで阿修羅のように奮戦しますよ。信頼すべきトロシュ将軍の言うことにも一理はあります。
        国民兵どもは戦場で仲間が一万人くらいの血を流さないと、正気にかえれないほど勇猛だそうです。そうですとも。
        そこで将軍は国民兵たちの名誉心を満足させてやるために、連中をまるで牛みたいに戦場に送り込んでやっていますよ。

(彼はティエールの耳に何か囁く)
66名前なし:2009/12/30(水) 16:53:12 ID:GJXYVZQ2
ティエール  いや、この男なら聞いていても大丈夫です。イポリットは愛国者だからね。
ファーブル  ムッシュー・ティエール、請合ってもいいですが、あなたはこの点に関しては、フォン・ビスマルク氏にまったく行為を持っておられるのでしょうね。
ティエール  (乾いた口調で)嬉しいことを聞かされるものだね。彼は私のことをに馬喰になる才能さえない男だと言ってたそうだよ、私と個人的に会った後でね。
ファーブル  口は悪い男ですよ、しかし品の悪い口はきいても、本当はあなたのことを高く評価しています。
ティエール  私のことを言わせてもらえば、私は個人的な件については、私怨は持たないつもりですよ。
ファーブル君、今私の興味のあることは、フォン・ビスマルク氏が我々をどう援助してくれるかという点だ。
ファーブル  ビスマルクは私に個人的にこういう忠告をしましたよ。
         休戦状態になったら、直ちに住民にちょっと食料を増配して喜ばせてやり、
         それからまた配給量を半分に戻して、武器が全部返却されるまでそれを続けろというんです。
         彼の意見によりますと、こういうやり口の方が、空き腹をずっと抱えさせておくよりは、効き目があるそうです。
ティエール  悪くない考えだ。パリの人民諸君に肉の味をちょっと思い出させてやるわけだね。
         私はフォン・ビスマルク氏に、才能がないなどと言った覚えはないよ。
ファーブル  おまけに、ビスマルクは、パリへの食料供給というビジネスに関心を示しているベルリンの商社を制御するでしょう。
ティエール  どんな才能にでも、必ず勇気ってものは必要なわけさ、どうだ、ファーブル。
         ところで我々はプロシア人たちに、今国民兵どもが大砲を据えている下町を占領する義務を押し付けてしまおう。
ファーブル  これは肝心なことですね、素晴らしいお考えです。
67名前なし:2009/12/30(水) 16:54:33 ID:GJXYVZQ2
ティエール  フォン・ビスマルク氏以外にも、まだ才能を持ち合わせている人間は何人かいるようですよ。
         たとえば、我々はたとえ敗戦条約を締結しても、賠償金の第一回の支払い、つまりこれは五億ってことになる、
         その第一回の支払いはパリに平定化がもたらされた後で、初めて行うという条件も出せるわけです。
         こういう風にしておけば、フォン・ビスマルク氏だって、我々が勝つことに関心を持ってくれるでしょう。
         ところでこの「平定化」という言葉はこれから耳にたこができるくらい使うつもりだ。
         これは何よりも全て状況を説明してくれる言葉ですからね、ああ、そうか、賠償金の問題があったな! 
         イポリット。ちょっと我々だけの話があるから、席を外してくれ。
侍僕  お風呂がちょうどいい温度になりました! 旦那様。(退場)
ティエール  その賠償金について、例の金額はどれくらいです?
ファーブル  ドイツの二、三の会社から賠償金の金融をさせてくれと申し出がありました。
         特にあのフォン・ビスマルク氏お抱えの銀行家フォン・ブライヒレーダー氏が熱心です。
         コミッションの話も出ましたが、もちろん私は、政府の一員としてコミッションをとることは拒否いたしました。
ティエール  当たり前です。コミッションのパーセンテージまではっきり出してきたのですか?

(ファーブル、紙切れに数字を書く。ティエールは、その紙切れを取って読む)
68名前なし:2009/12/30(水) 16:55:21 ID:GJXYVZQ2
ティエール  本当とは思えないな。
ファーブル  さっき、申し上げた通りです。
ティエール  我々は平和を求めねばならない。フランスは平和を欲している。
         それに私は、平和案を通過させるだけの権力をもてるようになるだろうと思う。
ファーブル  選挙の方は絶対的に確実です。ティエール。二十三の県が全て、あなたの味方ですから。全て地方の県ですが。
ティエール  その権力を行使する必要が出てくるだろうな。秩序破壊勢力の方も武器を持っているんだからね。
ファーブル  ムッシュー・ティエール。フランスは、本当にあなたの健康を気づかっています。フランスを救えるものは今はあなただけなのですから。
ティエール  (無愛想に)分かってますよ。ごらんのように、私が何より嫌いなミルクを飲んでいるのもそのためなんだ、ファーブル君。
69名前なし:2009/12/30(水) 17:45:55 ID:P9kLAsqU
三月十七日から十八日にかけての夜、ピガル街。通りに大砲が一門置いてある。夜の一時。
フランソワ・フォールとジャン・カベーが、藁底椅子に腰を下ろし、大砲の側で見張りをしている。
バベット・シェロンは、ちょうどジャンの膝から立ち上がったところである。
70名前なし:2009/12/30(水) 17:47:10 ID:P9kLAsqU
バベット  (大砲の砲身を撫でながら)お休み、可愛い人。

(ゆっくり通りの突き当たりの建物に入る)

ジャン  自分の好きな女の子には、何かプレゼントをしてやらなくちゃいけないよ。
      女の子ってやつは物質的だから、物をもらうとがぜん色気づくぜ。昔はその贈り物ってやつも、
      素晴らしい化粧台なんかだったが、今はそれが大砲ってわけさ、しかもティエールさんが、フォン・ビスマルク氏に贈ろうとしている大砲だぜ。
フランソワ  もし俺たちがこの大砲を取り戻して来なかったら、今頃はビスマルクの手に入ってたことだな。ジュヌヴィエーヴは絶対に物質主義者じゃないよ。
ジャン  あの可愛い女の先生かい? なるほどあの女は違うな。あの女は精神そのものさ。そしてまさにそれゆえに君はあの女と寝たくなるんだろう。
フランソワ  僕はあの人と寝たいと思っちゃいないよ。
ジャン  バベットの話では、あの女の体も、なかなかいいそうだぜ。
フランソワ  なぜ君がバベットとあの女のことを同時に話したりするんだ。
ジャン  バベットは、あの女と一緒に住んでるからね。ところで、あの女は婚約しているそうだぜ。
      許婚ってのは今捕虜になっているそうだ。少尉って話だがね。あの人のおっぱいは最高だそうだぜ。
フランソワ  僕を怒らせるなよ。
ジャン  女の子のことを喋ってるのを聞いていると、君が田舎の人間だなんてとても考えられないな。
      もちろん君は田舎ではもう十四くらいで、乳搾りの女の子といいことをやったんだろ。
フランソワ  まあ、そう言われても別に腹は立てないよ。
ジャン  そうか? いずれにせよ僕はバベットに言ってやったよ。君に大いに思し召しがあることをジュヌヴィエーヴに伝えておけってね、
      彼女の方だって可愛い未来の牧師さんにちょっかいを出すのがなかなか楽しいのかもしれないぜ。
フランソワ  僕は物理学者だよ。
ジャン  ああ、なら物理学者だっていい。大体その物理学ってのは、物の学問だろう。
フランソワ  だって君は今さっきあの女は少尉殿を愛しているんだって言ったじゃないか。
ジャン  俺は婚約しているって言っただけだよ。
フランソワ  結局同じことじゃないか。
71名前なし:2009/12/30(水) 17:48:32 ID:P9kLAsqU
ジャン  (笑う)君はどうも誤った考えを持ってるね。まるで相手を愛していなければ寝たいと思っちゃいけないといわんばかりじゃないか。
      本当のことを言うとね、今日はどうしても女と寝たい、なんてことは朝起きた時に分かるものなんだよ。
      向こうだって俺たちと同じだよ。これは自然の欲求だからね。素晴らしいおっぱいをしている女の子を見たためにそういう欲求が起こるんじゃなくて、
      要求の方が先にあって、そういう時にちょっといいおっぱいを見るとその気になるってことなんだよ。
      女についても同じことが言える。要するにだ、君がそういう日にぶつかったら、チャンスを逃さないことだね、相手がジュヌヴィエーヴだって同じさ。
フランソワ  いや、ジュヌヴィエーヴだからそうはいかないんだ。さあ、そろそろベッドに入ろうかな。
        (立ち上がる)君たちのうちに部屋が開いていて、また一緒に住めるようになったのは嬉しいよ。
ジャン  (同じように立ち上がる)俺も今日はもうこれ以上見張りをしなくてよさそうだと思うな。
      奇襲攻撃をするなら真夜中に始めるに違いないものね。明日は白パンの配給があるって聞いたぜ。
フランソワ  ジャン、物理学の話をしたんで思い出した。僕の顕微鏡とラボアジェーの本はまだ君の叔父さんの所に保管してあるんだったね?
ジャン  (狼狽して)叔父さんって、ランジュヴァンの所にかい?
フランソワ  君のおふくろさんが、あの叔父さんの所へ保管してくれといって持ってったんだろう。
        ちょっとラボアジェーの中で参照したい所があったものだから、聞いたんだ。
ジャン  ああ、あるともさ。

(二人は椅子を家に運んで行く)
72名前なし:2009/12/30(水) 19:15:50 ID:P9kLAsqU
朝、五時。まだ戸の閉まっているパン屋の店の前に、女たちが並んでいる。女たちの中には、ジュヌヴィエーヴ・ゲリコーとバベットもいる。
73名前なし:2009/12/30(水) 19:17:54 ID:P9kLAsqU
女たちの声  祖国の父、ティエールさんの贈り物の白パンだってさ! こんなことをやって、この恥さらしの平和を美味しく仕立て上げるってわけよ。
         パリがメリケン粉十トンと引き換えってわけね、汽車は止まっているんだから、この粉はパリに貯蔵してあったわけね! 
         年をとったうちの父さんが、片足をなくしたのは、まだ先週のことなのに、榴弾でさ。
         その同じ頃にもう連中は裏で平和の取引をしていたんだね。
         連中はまた、きっと何かを企んでいるに違いないよ。奴らが下心なしに物をくれるわけはないからね。
         私がいつも洗濯に行っていたうちの奥さんがぼろになったしたばきをくれたことがあった。
         それで分かったよ。うちのエミールを非国民だと報告したのはその女だってことがね! うちの父さんなんか連中に、
         「私は、なくした片足もちゃんと祖国まで担いで持って来ましたぜ、この足を担いで来ないとあなた方は、
         年金をくれる時に、君は足が一本しかないじゃないかと言うでしょうから」と言ってやったそうよ。
         ティエールはドイツっぽから五百万もらったけれど、フランス人からはどれだけ金を巻き上げたと思って? 
         まだ国民兵が三十万もパリにいるのに降伏するっていうのかねえ。パリに国民兵が三十万いるから降伏するんだよ。
         そしてプロシア人には、賠償金の支払いの済まないうちは捕虜は返さないと言われても、それで満足しているんだからね。
         奴らの戦争は本当に汚いよ、こんな戦争なんかやめるのが一番いいのさ。だけど、平和の支払いをするのは一体誰だい。
         私たち女市民よ、他に誰が支払ってくれるの。何も持っていない連中が賠償金を支払うのよ。
         あら、私たちは何も持っていないかしら、私たちは二十万の銃剣を持ってるわよ、奥さん。
         いいこと、これはただの休戦状態なのよ、私たちの住んでいるこの下町を奴らに渡すものか。
         プロシア人にだってティエールにだって絶対に渡さないわ。あのビスマルク閣下だって、パリに侵入する勇気がなかったんじゃないのね? 
74名前なし:2009/12/30(水) 19:19:27 ID:P9kLAsqU
        パリは絶対に売り渡せないわ。おやおや、お前さん今日は馬鹿に早起きだね、
        母さんにうるさいって追い出されたのかい? きっと間男がひっついているんだろう。

(一人の男がポスターを持ってやってくる。彼はポスターを貼り付けて去る。バベットは行列から出て来てそのポスターを音読する)

バベット  ムッシュー・ティエールの布告よ。「平和とはすなわち秩序である。パリの市民諸君、パリの商業は停滞している。
       注文は全く減少した。資本は脅かされている。負債のあるものは、裁きの手に委ねられることになるだろう。
       秩序はいかなる妨害も受けずに直ちに回復されなければならない」ですって。おや、まあ、まあ。

(パン屋のおかみ、店のドアの前に立ててある鉄柵を片付け始める)

女たち  ピュラールの奥さん、聞いたかい? 戦争なのに、商売の景気が悪いんだってさ。本当にそうだわね! 
      先週以来うちに機関車を注文する人なんか、すっかりいなくなってしまったよ、
      本当にうちの資本は、あの国民兵のやくざな騒動のおかげですっかり脅かされたわけなんだけど、あなたの商売はいかが?
パン屋のおかみ  布告、布告、布告だよ! 政府が白パンをくださったことは、雄弁に何かを物語っているんじゃないかね、皆さん。
女たち  白パンをやるから秩序を回復しろって言うんでしょう。それに家賃も払えって、どう?
バベット  このポスターは、まだ印刷のインクが乾いてないわ。きっと大至急で刷ったらしいわね。
女たち  パンを食べる前にはきっとガスが溜まる。お偉方はたった一口のパンをよこすにも、まずその前に秩序なんて屁を一発こいてくれるわけだね。
      あんた、言葉にお気をつけなさい。ゲリコーさんは、先生なんだし、屁をこくなんて言葉は、ご存知ないんだから。
      ああ、ゲリコーさんなら大丈夫よ。この人は何でも分かってるし、それに私たちの言うことは大目に見てくれるわ。
      それにゲリコーさんは、プロシア人がやって来る前に、カベーさん一家と「パパ」が、
      この大砲をクリシーから引っ張って来た時にも、居合わせていらしたんだもの。
75名前なし:2009/12/30(水) 19:21:03 ID:P9kLAsqU
       私たちの大砲がまだここにでんとみこしを据えているのに、
       ティエールがプロシア人たちの手にクリシーを引き渡してしまうなんてことがあると思うかい?
ジュヌヴィエーヴ  ええ、大いにありそうなことですわ、皆さん。国民軍中央委員会が受け取った通達にもそんなようなことが書いてあったそうですよ。
女たち  あら、この方はなかなか政治的なのね。もしこの方が政治的な方だとすると、この方は本当のことを言ってるんじゃないかしら。
      家の父さんはいつも、俺の足は、散弾にやられたんじゃなくて、政治にやられたんだと言ってるのよ。
      だから、あの人はすっかり政治的になって、この頃は「危機にある祖国」新聞を読んでいるよ。

(数人の正規軍の兵士たち、大砲のそばに現れる。兵士の中にフィリップ・フォールもいる。まだポスターの前に立っていたバベットはフィリップに声をかける)

バベット  あら、フィリップじゃないの。帰って来たの? ちょうどいいところへ帰ってきたわ。パン屋がまた、お店を開けたのよ。
フィリップ  バベット、静かにしてくれよ。俺はパン屋のおかみさんには挨拶をしたくないんだ。

(彼は、彼の戦友たちと一緒に、大砲の所で仕事にかかる)

バベット  一体あんたたち、大砲をどうしようというの。
フィリップ  これはヴェルサイユに運んで行くんだ。命令だよ。
バベット  (女たちを呼ぶ)ねえ、みんな。この連中、大砲を盗もうとしているのよ。
女たち  何をしようというんだって。この若い連中が二、三人でさ。
ジュヌヴィエーヴ  (急いでこっちへ飛んで来る)フィリップ! あなた、恥ずかしくないの。
バベット  この人、前はパン屋の徒弟をしていたんだけど、この人がこの兵隊たちを連れてきたのよ、この辺の地理が詳しいものだから。
フィリップ  何だってあんたたちは、こんな朝早くから表に出ているんだね? まあ、そうすぐ噛みつかないでくれよ。
ジュヌヴィエーヴ  今日は白パンがもらえるって話だったけど、それはあなたたちにまるで羊が羊毛をむしられるようにこの大砲を取り上げられるためだったのね。

(女たち、走り寄ってくる)
76名前なし:2009/12/30(水) 19:23:04 ID:P9kLAsqU
女たち  いいかい、あんたたち。この大砲は私たちのだよ。この大砲は私たちがなけなしのお金を集めて買ったんだよ。募金をしてさ。
フィリップ  でも、戦争はもうおしまいなんだぜ。
ジュヌヴィエーヴ  ははあ、それで今度はあなたたち、私たちに戦争を仕掛けようっていうの。
フィリップ  大砲はみんなプロシア軍に引き渡さなきゃならないことになったのさ。
女たち  それじゃ、プロシア軍にとりに来させればいいじゃないか。触るんじゃないよ! 
      手を触れようというのなら触れてみな、意気地なしめ、カベーさんのうちの番兵を呼んで来な。

(ジュヌヴィエーヴは中にカベー一家の住んでいる建物の中に駆け込む。彼女はベルを鳴らす、カベー夫人、建物の上の方の窓から外をのぞく)

ジュヌヴィエーヴ  ジャンを早く起こしてよ。お宅の大砲を取りに来たのよ。(駆け戻る)
             あの連中はプロシア人の味方じゃないけど、ティエールの味方なのよ。
             ティエールはこの兵隊たちを私たちをやっつけるために使おうっていうんだわ。
             この兵隊たちをティエールに取られちゃ駄目よ、皆さん。
女たち  大砲から手を離すんだよ。これはカベーの奥さんの大砲じゃないか。

(ジャンとフランソワは、シャツとズボン姿で家から飛び出して来る)

バベット  ジャン、この連中は大砲を盗みにやって来たのよ。フィリップがこの連中を案内して来たのよ。

(近くの通りから騒ぎや銃声。それからしばらくすると非常警報の鐘の音などが聞こえてくる)

ジュヌヴィエーヴ  タベルナクール通りにも大砲があるのよ。この地区全体が不意打ちされたんだわ。やっと分かったわ。なぜ私たちが白パンをもらったのか。
ジャン  (家の方に向かって叫ぶ)フランソワ。お前の兄貴がティエールの手先になってやって来たぞ。
フィリップ  おいおい、よせよ、少しどいてくれよ。俺はただ命令を遂行しているだけなんだよ。なあ、頼むよ。
ジャン  そうだ。ちょっとどいてくれよ。俺たちも大砲のそばに行けないじゃないか。
77名前なし:2009/12/31(木) 03:11:20 ID:8XUlHjI4
フランソワ  (銃剣を持って駆けて来る)フィリップ、大砲をそのままにしておけ、この大砲はお前らのものじゃないんだぞ。
パン屋のおかみ  (パン屋の店から)フィリップ! お前の命令を遂行しなさい。さもないと、もう二度とうちでは雇わないからね。
フィリップ  お前、いつから国民軍に入っているんだ。
フランソワ  神学校は閉校になったよ。皆さん、ちょっと道をあけて下さい。

(女たち、引っ込む。フランソワは銃を頬に当てて狙う)

フィリップ  おい、ちび。その鉄砲を下ろせ。
バベット  あんな奴、撃ち倒しておやり。
ジュヌヴィエーヴ  (フィリップの前に身を投げる)血を流すのはやめて!
ジャン  (彼女を小銃の弾道から引っ張り出す)この話には立ち入らないでください。
フィリップ  (同じように銃を頬にあてがって)ちび、お前の鉄砲を下ろせ。
フランソワ  ちょっとでも動いてみな、引き金を引くぞ。天なる神よ、汝の名を浄めさせたまえ……(祈り続ける。しかし、相変わらず銃口はフィリップを狙っている)
女たち  本当にまあ、あんたたちはろくでなしの将軍に命令されただけで私たちを虐殺するつもりなのかい?
ジュヌヴィエーヴ  あなたたち、可哀想だけど、馬でもなければこの大砲を持っていくわけにはいかないわよ。いざとなったら私たちが車輪の下に身を投げ出すからね。
フィリップ  三つだけ数えるぞ。一……

(カベー夫人、「パパ」と家から出て来る)

カベー夫人  フィリップ、すぐ銃を下ろすんだよ。お前だって分かるだろう、お前には学問がないんだ。
         どうして物理学を勉強した弟に反抗したりする気を起こすんだい。
         ワインを持ってきてあげたからこれでもお飲み。きっとあんたたちは朝食も食べずにここへ派遣されてきたんだろう。
78名前なし:2009/12/31(木) 03:12:50 ID:8XUlHjI4
フィリップ  (自分の同僚たちを見回す。彼らはもちろん銃で狙っていない。そこで自分もゆっくり銃を下ろして)
        カベーの奥さん、でも、あんたは俺が命令を遂行するのを邪魔してるんだぜ。
女たち  (笑いながら彼の周りを取り巻いて)大丈夫だよ、パン屋の小僧さん。まさか誰もあんたに自分の弟を殺せなんて命令をできやしないよ、ねえ?
パン屋のおかみ  フィリップ、お前はくびだよ。私は裏切り者を雇いたくないからね。
バベット  (フィリップにキスして)ほら、これがあんたの裏切りのご褒美よ。
フィリップ  だって、俺は皆さん、パン屋でもないし、兄弟でもないんだ。軍務を遂行中の人間だからな。
フランソワ  (ジュヌヴィエーヴに向かって自信がなさそうに)僕はあのご褒美をもらえないの?
ジュヌヴィエーヴ  (快活に)あなたがいるものなら何でもとってよ。
フランソワ  そいつは答えにならないよ。
女たち  (兵士たちの中に混じって)色気抜きで女たちを襲うなんて、恥ずかしくないのかい、お前さんたち。
兵士たち  戦争は終わったんだ、俺たちは早く家に帰りたいのさ。
女たち  おやおや、家に帰りたいんだとさ。あんたの故郷はどこ、坊や?
兵士の一人  俺の故郷はオーベルニュだ。もううちの方じゃそろそろ種蒔きのことを考えなきゃいけないんだよ。
         その辺のことはお前たち町の人間には、まるでわからないんだからな。
女たち  お飲みよ、坊やたち! ほら、私たちに鉄砲の銃床の方を向けてちょうだい。
      銃口は向けなくていいんだよ。穴はこっちが持ってるんだから。
      カベーの奥さん、毛布はあるかい。この連中、寒くてがたがた震えているのよ。これじゃ色気も起きないだろうさ。
ジュヌヴィエーヴ  この大砲はね、ここに住んでいらっしゃるカベーの奥さんのものなのよ。この奥さんからは料理鍋だろうと大砲だろうと盗めないの。
79名前なし:2009/12/31(木) 03:14:45 ID:8XUlHjI4
「パパ」  ピガル街の大砲の唯一の所有者カベー夫人、万歳! (カベー夫人を担ぎ上げて彼女を大砲の上に乗せる、兵士たちに向かって)
      まず話し合いをするもんだろ、分かったかい? (女たちに向かって)さあ、あんたたちは大砲を取り戻した。
      これからもよく見張ってるんだぜ、それにこの連中は一人も、このパリから逃しちゃいけないぞ。
      しっかりつかまえておくんだね、胸にぎゅっと抱きしめてな。そうなれば、この兵隊さんたちもそれほど俺たちの危険にはならないさ。

(労働者ピエール・ランジュヴァン、脇の通りからやって来る。近くの通りでも騒ぎが広がって行く)

ランジュヴァン  やあ、「パパ」、君たちは連中を片付けちゃったのか、血も流さないで?
フィリップ  (彼の戦友たちに向かって)馬をつけてくれなかったんだから、俺たちの責任じゃないよな。
        俺たちだけじゃ、この女たちの中を通って、こいつを引っ張っていくわけにはいかないものな。
「パパ」  それでいいんだよ。他の所じゃ具合はどうなんだ。
ランジュヴァン  この辺り一体が大騒動さ、まだ大砲は一門も持って行かれてないよ。
子供たち  ラ・ガレットの風車場にある僕たちの大砲も奴らがくすねていこうとしたよ、ルピック街では、味方が二人も射ち殺されたよ。
カベー夫人  (兵士たちに向かって)皆さん、これが私の義理の弟で、ぴエール・ランジュヴァンです。国民軍の中央委員の一人よ。
ランジュヴァン  グラノー街では、ルコント将軍が発砲を命じたけれども、部下は俺たちと「交歓」して、逆に将軍を逮捕しちゃったぜ。
「パパ」  その将軍は今どこにいるんだ? そいつこそパリ中に知れ渡っているあの犬だよ。国民軍を骨抜きにする要求を出したのも実はこいつさ。
ランジュヴァン  奴は、衛兵所に連れて行かれたよ。
80名前なし:2009/12/31(木) 03:15:46 ID:8XUlHjI4
「パパ」  ちょっとしたら、逃がしちゃったかもしれないぞ、あいつは五分以内に処刑してやらないと、必ず逃げ延びる奴だからな。
ランジュヴァン  あいつは法の裁きの手に引き渡されたよ、戦友。
「パパ」  俺たちが法廷なんだよ。(急いで退場)
カベー夫人  誰か私を大砲から下ろしてくれない?
ランジュヴァン  (正規軍の兵士たちに)君らはこれからどうするつもりかね、その鉄砲を持っている限りは……
兵士の一人  糞食らえだ。自分の身内に銃を向けられるか……

(兵隊たちは銃の銃床の方をあげる)

ジュヌヴィエーヴ  (子供たちに向かって)さあ、あなたたち、あの馬鹿げたポスターを破いていいわよ。

(子供たちはそうする)

ジャン  おーい、俺のおふくろをおろしてやってくれよ! それからもう一度、市庁へ出かけようじゃないか、
      そしてティエールを逮捕するんだ! あいつがこの大砲をどうするつもりだったのか白状させなきゃな。
バベット  ティエールがまだ命のあるうちにキスを三つしてやるわ!
81名前なし:2009/12/31(木) 03:16:48 ID:8XUlHjI4
朝の八時、パン屋のおかみは、また店のドアの前に鉄柵をしている。
フィリップはその脇に立って、嫌そうな顔をしながら、銃を肩にかけて大砲の前で行ったり来たりしている大きな女を眺めている。
82名前なし:2009/12/31(木) 11:14:04 ID:YQ0lLRnA
パン屋のおかみ  きっと、暴動が起こるよ。もしみんなの話のように、連中がコミューンを作っちまったら、きっと略奪が始まる。
            何もかも皆に分配される。するとろくでなしどもは自分の分け前をすっかり飲んじゃって、また分配を始めるでしょう。
            お前だって、やっぱり謀反人の仲間だよ。だからもう決してうちの工場には雇ってやらないよ、
            それにお前の弟の若い神父さん、あいつだって、謀反人の一人じゃないか。
フィリップ  あいつが神学校に行ったのは、それ以外に勉強する道がなかったからだよ。
パン屋のおかみ  それじゃあんたの弟は、聖ジョセフ派のお坊さんたちの好意につけ込んで、学問をしてたわけなんだね。
            全くお前たちに似合いのやり口だよ、お前たちコミューンの連中にね。

(怒って店に消える。パン屋の店の隣の家からジュヌヴィエーヴが出て来る)

ジュヌヴィエーヴ  おはよう、フィリップ、新時代に生きている感想はどう? (彼はぶつぶつ言う)
             何といっても新時代が始まったんだもの、暴力はもうお終いよ。
             もう大砲だって、あの連中から取り上げてやったもの。
フィリップ  そうとも、あんたたち女が大砲を持っている、これはまさに新時代だよ、な。

(とぼとぼと家の中に入って行く。カベー夫人とその弟とが住んでいる家である。
ジュヌヴィエーヴは、陽気に彼女の手袋をはめる。道を、険しい顔をしたパパがやって来る)
83名前なし:2009/12/31(木) 11:15:00 ID:YQ0lLRnA
ジュヌヴィエーヴ  おはよう、あなた、今朝早くルコント将軍が捕まったっていうグラノー街へ行っていたんじゃない? その将軍はどうなったんですか?
「パパ」  そいつは銃殺されたよ。同志。
ジュヌヴィエーヴ  それは正しかったかしら? 誰があの人を銃殺したんです?
「パパ」  誰があいつを銃殺したかって? 民衆さ。
ジュヌヴィエーヴ  法廷の判決もなしに?
「パパ」  もちろんないさ。人民裁判の判決が下ったからね。
ジュヌヴィエーヴ  あなたも参加したの。
「パパ」  そこにいたものはみんな参加したよ、民衆の敵のことでそんなに頭を悩ますことはないよ。これは真面目に言っているんだよ。

(彼は暗い顔をしてカベー一家の家に入る。女教師は取り乱したような顔つきで後を見送る)
84名前なし:2009/12/31(木) 11:16:09 ID:YQ0lLRnA
一八七一年三月十九日、市庁。国民軍の中央委員会の会議場の前の入り口階段。
ドアの前に一人の国民兵が、パンとチーズを食べながら、中に入る人の通行証を調べている。
「パパ」とココとカベー夫人が外で待っている。代表委員たちが会議にやって来る。
85名前なし:2009/12/31(木) 11:17:25 ID:YQ0lLRnA
代表委員たち  新しい選挙の広告をするというなら、まず、パリの二十の区長の了解を求めなくちゃいかんな
           ---とんでもない。大隊を派遣して、区長たちを逮捕すればいいのさ。区長はみんな、ハイエナみたいな連中だ。
           でなきゃ区長にはなれたはずはない---問題は、絶対多数の票を集めることさ、
           区長たちを我々の仲間にしないとパリ全市の票が集まらない。パリ全市が投票するのだとやっぱり区長たちを受け入れなければならないよ
           ---とんでもない、暴力はやめようじゃないか。パリを恐怖させてしまったら、パリは我々のものにはならないからな
           ---君のいうパリってのは誰のことだね。

(代表委員たち、一人を残して去る)

「パパ」  (残った代表委員に話し掛ける)ね、中央委員さん、悪いけど、中にいる、ピエール・ランジュヴァンに話があるって伝えてくれないかね、
      ここにいるのは、ランジュヴァンの(義理の)姐さんなのさ。どうしてこの中に民衆を入れないのかね。
中央委員  ホールが狭すぎるのさ。それに忘れないでいただきたいが同志、敵だって耳を済ませているかもしれないぜ。
「パパ」  しかし、民衆が中の様子を聞けるって方が大切じゃないかね、少なくとも、あそこの戸を閉めないで入ってくれないか。

(中央委員、中に入る。そして外のドアは開け放しておく)
86名前なし:2009/12/31(木) 11:19:04 ID:YQ0lLRnA
中からの声  「第六十七大隊からの緊急動議。パリの民衆は、祖国を守るために、自らの血も、
         いかなる犠牲も惜しまないことを考えた上で、第二十区において総額百万フランが分配された。
         この額は裏切り的な政府の役人の全ての俸給をカットすることによって得られたものである」
叫び  「採択!」
カベー夫人  みんな、一生懸命に仕事にかかっているじゃないの、ね?
「パパ」  ヴェルサイユに向かって進撃を開始するのが何より重要なことだ。
カベー夫人  白パンが出回るようになるだけじゃなくて、私たちに買えるようにもなるんでしょうね。
「パパ」  しかし、今すぐにヴェルサイユに向かって進撃しなければ、白パンなんてなくなってしまうんだぜ、カベーの奥さん。
声  「選挙の問題について、討議を進めていきたいと思います。代議員ヴァルラン君」
ヴァルランの声  「国民軍市民諸君、今朝の二時、政府は数大隊の正規軍の助けを借りて、首都パリの国民軍の武装解除を行い、
           大砲の引渡しを要求しようとした。しかし奴らがこの大砲を、プロシア人どもに引き渡すことを我々は、拒絶したのであります」
叫び  「パリを骨抜きにしようとする二度目の試みだ。最初は俺たちに将軍を押し付けようとした」

(シルクハットをかぶった四人の紳士、階段を上がってくる。区長たちである)

ヴァルランの声  「市民諸君、いかなる目的でこのような陰謀が企てられたのでありましょうか。
            最後の武器まで奪われたフランスを、あのビスマルクの法外な要求の餌食とし、
            同時にこの要求に対する唯一の絶望的な支払い者にするためであります。
            戦争を商売にさんざん甘い汁をすすった連中が、今度は平和で儲けられる体制に変えるためであります。
            国民軍市民諸君、コミューンは、パリの代議士、上院議員、将軍、工場主、地主、それにもちろん教会も入るが、
            この戦争責任のある連中に、プロシア人に対する五十億の賠償金を支払わせ、
            そしてその目的のためにこの連中の私有物を売却することを要求するものであります」

(大きな拍手、区長たち、ホールに入る)
87名前なし:2009/12/31(木) 14:20:16 ID:8eS603WW
声  「中央委員会はパリの区長たちに心から挨拶を送ります」
一人の区長の声  ここはパリの市会議事堂ではありませんが、あなたたちはこの建物を、軍事的に占領したんですぞ。
             一体どのような権利でそういうことをなさったのか、うかがいたいものですな。
叫び  パリの住民の名においてですよ、区長さん。あなた方がパリの住民のお客になってくださる気があれば、我々もあなたを歓迎いたします。

(抗議の声)

区長の声  諸君は今のお答えがどういう意味を持つかご存知ですか。この連中は革命を欲していると言われても仕方ありませんよ。
叫び  「欲している」とは何だ、もう革命は行われた。自分の周りをよく見てみろ。
区長の声  国民軍市民諸君、我々パリの区長は、新たな選挙によってヴェルサイユに出来た国民議会に対して、
        もし諸君がその指導のもとに一名の市代表の議員を議会に送りたい意思がおありならそれを伝える用意があります。
叫び  駄目だ、駄目だ、とんでもないぞ、我々は、紐付きでないコミューンを望んでいる!
ヴァルランの声  市から代表を一名国民議会に選出することだけでは済まない。
           本当の市政の自由と、それから、国民軍自らの代表者たちを選ぶ権利と、
           パリ地区からの正規軍の引き上げを要求する。要するに、自由なパリを我々は求めるのだ。
区長たちの声  これは赤旗じゃないか! 諸君、用心したまえ。こんな旗を市庁の上になびかせるとすれば、
          人々は君たちの選挙場を、まるでペストの病人が出た家のように、避けて通るようになるぞ。
          そして、パリは君たちの投票箱に唾を吐きかけるだろう。
叫び  委員会は、あえてこれに賭けるよ。パリの住民が労働する手を持っているだけではなく、ものを見る目を持っていることを信じるからな。
区長たちの声  その目でさぞや酷い目を見ることだろう。いずれにせよ、私はこういう人殺しどもと一緒に候補者名簿に載るのはごめんだよ。

(喧騒)  委員会は、トマ将軍や、ルコント将軍の殺害に対して、抗議しなかったじゃないか。
88名前なし:2009/12/31(木) 14:21:28 ID:8eS603WW
叫び  我々は、それとは関係がない。---私は、人民の手によって行われた人殺しの将軍に対する正当な処刑を、殺害と表現することに抗議する。
     ---民衆を非難することはやめたまえ。そんなことをしていると民衆から逆に非難されるぜ---脅迫はやめよう! 
     民衆とブルジョアは、九月四日に共和国で手を差し延べあったじゃないか! 
     ---その通りだ、そしてこの団結は続けていかなければならない、誰も彼も選挙に参加しなければいけないのだ。みんなが! 
     ---我々の手を汚さないようにしよう。我々がパリの同意を得ないと、そのうちヴェルサイユの政府が国家権力だと認められてしまう。
     ---そうなったらどうだと言うんだ? 国民軍が国家権力に対抗する武装した国民になればいいんだ。

(区長たち、戸口に現れる)

一人の区長  (腹を立て、ホールの方に振り向き)君たちの間にさえ対立があるということが分かって大いに満足したよ。
叫び  (ホールの中で、激化する騒ぎの中で)我々は、企業が再び生産を開始することを必要としている。
     ---大いに結構だ、君はブルジョアの機嫌を取り結んでおくために、民衆と絶交するのか? 
     そんなことをしたら民衆は、我々から離れてしまうだろうし、
     そして、ブルジョアどもと手を組んでいては革命なんか出来ないということが分かるだろうさ!
「パパ」  こういうわけだ。
区長  ともかく君たちに我々の衷心からの希望を残しておく。君たちの大使命が達成されるように祈る、僕らには大変すぎる仕事だからな。

(退場)

叫び  ブルジョアどもは会場を出て行ったぞ、いいじゃないか。
「パパ」  (区長たちの後から叫ぶ)悪党!

(ホールから、ランジュヴァンとジュヌヴィエーヴが出てきて、ドアを後ろ手で閉める)
89名前なし:2009/12/31(木) 14:23:00 ID:8eS603WW
「パパ」  ピエール、すぐに動議を出したまえ。これから裏切り者の将軍どもの前に尻尾を振りに行く奴らをすぐ粛清するんだ。
      犬みたいに銃殺しよう。即座に、判決など出さずに、一人残らず。でないと君たちはお終いだぞ。
ランジュヴァン  何でまた、銃殺、銃殺って言うんだ? まあ、落ち着け。
「パパ」  俺が? 俺は落ち着いているよ。それはどういうことだ、委員会は躊躇っている。
ランジュヴァン  それより中の模様を聞きたまえ。

(彼は再びドアを開ける)

リゴーの声  国民軍市民諸君、国家の運命を決すべき権利は、国家を防衛するものだけが持つべきであります。
         それはプロレタリアだ。パリの三十万の戦士だ。彼らの投票用紙は弾丸であります。

(喧騒、叫び)

叫び  投票制度も絞め殺すのか! それは無政府状態だ! 市民戦争(内乱)だってことを忘れるな! 
     しかも、ヴァンセンヌの森から、ブーローニュの森まで、プロシア軍の砲兵隊がいるんだぞ! 一致しよう! 選挙の挙行は決定だ!
ジュヌヴィエーヴ  私たちはまだ一致していないのね、困るわね。
ランジュヴァン  (微笑して)いや、これでいいんだよ。これが運動体ってものだ。
           ただし、正しい方向を取らないと困るがね。ところで君たちはなぜやって来たんだ?
90名前なし:2009/12/31(木) 14:24:15 ID:8eS603WW
「パパ」  第一○一大隊で、パリの各地区の門がまだ遮断されていないってことが問題になっているんだ。
      奴らは、奴らの警察も荷物も砲兵も、みんなヴェルサイユに引き上げろと指令している。一晩中だ。
      しかも、ヴェルサイユにはティエールがいるんだ。君たちに言っておく。
      君たちが合図さえしてくれれば、俺たちはすぐさまヴェルサイユに進撃するぞ、ランジュヴァン。
ジュヌヴィエーヴ  (急いで)でも、そんなことをしたら内乱になるじゃないの。
ココ  二万の国民兵が、市役所の前で、銃剣の先にパンを突き刺して野営をしている。市庁の周りには、五十門の大砲が砲列を敷いている。
     委員会の君たちはただ窓から首を出して「ヴェルサイユに進め!」と一言言えばいいのさ、そうすれば、全ては永久に片付くんだよ。
ランジュヴァン  (ゆっくりと)かもしれんね。しかし僕らはフランスの了解が必要なんだ。そうだろう?
「パパ」  大いに結構だ。じゃ、選挙をやりまたえ。何、選挙なんかしなくたっていい、それも結構。
      しかし敵を壊滅することはしてくれ。君らにできるうちにね、それは今なんだ。
ランジュヴァン  (躊躇いながら)コミューンの腰をあげさせるのはなかなか大変なんだ。
           立ち上がりさえすれば、ティエールやその仲間でも、全フランスの目の前で一握りの破産者になってしまうのだがね。
           しかし、僕は君の言うこともよく分かるよ、パパ。君らが俺たちの首根っこを
           押さえつけてくれているのはいいことだ。君たちの方がいつも俺たちより前進しているんだからな。

(彼は急いでホールに戻る)

「パパ」  ココ、この辺りで満足しようじゃないか。結局連中にも分かってくるさ。

(彼らは戻りかける。この時ホールの中から最後の演説が聞こえてくる)
91名前なし:2009/12/31(木) 14:25:44 ID:8eS603WW
ヴァルランの声  国民軍市民諸君、パリのプロレタリアアートは、敗戦の最中、支配階級の裏切りのただなかにおいて、
            ブルジョアジーたちの戦場で、プロシアとわが国のブルジョアの戦場で、大量の数を失い、
            プロシアの将軍たちと、パリの闇商人どもの手によって押し付けられた飢えによって力を奪われましたが、
            今日という日の朝、破滅に瀕した居住区を最後まで死守し、自分の運命を我が手に収めるために立ち上がったのであります。
            ブルジョアたちの手によって、軍事上の敗戦後に作り上げられた、
            いわゆる国防政府なるものは、国家に対する裏切り的な性格を暴露いたしました。
            自分たちのいかさまのために皇帝を呼び戻してきたその同じ連中が、
            自分たちに利益をもたらさなくなるとたちまちその皇帝を追い落としたのであります。
            今やこの連中は、ビスマルクを呼んで来て、自分たちの私有財産を、それを作り出した人々、
            つまりプロレタリアアートの手から守らせようとしております。
            しかしながら、フランスの首都パリは、このような山師どもの一味に対する蜂起を正当と宣言し、
            自らの武器を手にして冷静着実に、自分たち自身の、自由な、そして最高のコミューンの選挙に向かって前進しつつあり、
            そしてフランス各地のコミューンに対しても、この最高のコミューンのもとに結集することを呼びかけます。

(非常に激しい拍手と叫び、「コミューン万歳!」という叫び)


ジュヌヴィエーヴ  フランスの歴史の中でもっとも偉大な日だわ。
「パパ」  民衆の代表者たちが内乱を欲した日だとは将来誰も言えないということも、この日の偉大さのうちなんだろう。
ジュヌヴィエーヴ  きっと新しい時代が来るでしょう。そうすれば、もう血で血を洗うことはなくなるでしょう。
92名前なし:2009/12/31(木) 18:56:27 ID:KbQvDVb2
俺たちの弱みを考えた上で、
お前らは俺たちを奴隷にする掟を作る。
だけど俺たちはもう奴隷ではないと考えた上で、
これからはもうその掟を守りはしない。

そうなればお前たちが鉄砲や大砲で、
俺たちを脅かすことを考えた上で、
俺たちは決心した、
「酷い暮らしをすることを考えれば、
もう死ぬことも恐くなくなった」と。

お前らの盗みを我慢している限り
俺たちはいつまでも空腹だと考えた上で、
手に入らない真っ白のパンもショウウィンドウを壊せば
手に入るかどうか、確かめてみたくなった。

そうなればお前たちが鉄砲や大砲で、
俺たちを脅かすことを考えた上で、
俺たちは決心した、
「酷い暮らしをすることを考えれば、
もう死ぬことも恐くなくなった」と。

俺たちには棲家も与えられないのに、
家々は軒並みに並んでいると考えた上で、
そこで決めたんだ。勝手に入り込もう、と、
俺たちの穴倉は気色が悪いからな。

そうなればお前たちが鉄砲や大砲で、
俺たちを脅かすことを考えた上で、
俺たちは決心した、
「酷い暮らしをすることを考えれば、
もう死ぬことも恐くなくなった」と。

俺たちが火の気もなしで凍えているのに、
石炭は有り余るほどあると考えた上で、
そこで決めたんだ、そいつを持って来てしまおう、
こいつがあれば俺たちも暖まれると考えた上で。

そうなればお前たちが鉄砲や大砲で、
俺たちを脅かすことを考えた上で、
俺たちは決心した、
「酷い暮らしをすることを考えれば、
もう死ぬことも恐くなくなった」と。
93名前なし:2009/12/31(木) 18:57:12 ID:KbQvDVb2
俺たちに高給を払う算段までは
お前らにできるはずはまずないと考えた上で、
工場経営は俺たちが引き受けよう。
お前らなしでやっていけると考えた上で。

そうなればお前たちが鉄砲や大砲で、
俺たちを脅かすことを考えた上で、
俺たちは決心した、
「酷い暮らしをすることを考えれば、
もう死ぬことも恐くなくなった」と。

俺たちに政府が公約することは、
何事も信用できぬと考えた上で、
そこで決めたんだ、自分の政府の指導の上で、
素敵な暮らしをこれから築き上げていこう。

言葉ではお前たちに通じはしないが、
大砲なら通じると考えた上で、
俺たちは決心しよう、
「大砲をお前らに向けよう」と、
きっとこうすれば効き目があるからな。
94名前なし:2009/12/31(木) 18:57:59 ID:KbQvDVb2
一八七一年三月十九日、パリ北停車場。いたる所にコミューンの選挙を呼びかけるポスターが張ってある。
ヴェルサイユへ向かって逃亡しようとしているブルジョアの家族や、尼僧や役人たちの雑踏。新聞売り子の叫び声。
95名前なし:2009/12/31(木) 18:59:35 ID:KbQvDVb2
新聞売りの叫び声  ジャーナリズムの見解。コミューンの選挙は違憲! 以下の新聞はパリの皆さんに選挙をしないように呼びかけています。
              「ル・ジュルナール・デ・デバ」「ル・コンスティテュショネル」「ル・モニール」「リュニヴェルサル」「ル・フィガロ」「ル・ゴーロワ」

(そして彼がまだ次のようなことを叫び続けている間に)

          「ラ・ヴェリテ」「パリ・ジュールナール」「ラ・フランス」「ラ・リベリテ」
          「ル・ペーイ」「イ・ナショナル」「リュニヴェルス」「ル・タム」「ル・クローシュ」
          「ラ・パトリー」「ル・ビアン・ピュプリク」「リュニオン」「ラヴニール」「ラ・リベラール」
          「ル・ジュールナール・デ・ヴィル・エ・デ・シャンパーニュ」「ル・シャリバリ」
          「ル・モンド」「ル・フランス・ヌーベル」「ラ・ガゼット・ド・フランス」「ル・プティ・モニトゥール」
          「ル・プティ・ナショナール」「レクチュール・リーブル」「ラ・プティット・プレス」

(その間に徴税請負人、家族に囲まれて新聞を買う)

徴税請負人  この「委員会とは何者にもあらず」というのはどういうことかね。
         委員会は、ともかく二百十五の大隊を代表しているわけだろう。こういう連中は、やろうと思えば何だってできるんだ。
         アルフォンス、しゃんとしなさい。しかし、俺の書類鞄を持ったブールデはどこに行ってるのかな、
         この危険の最中に自分のマネージャーが見つからないとは。
彼の妻  アルフォンス、お前、背中を曲げてちゃいけませんよ。もし、ブールデがどうしても来なかったら、
      あなたはここへ残ってくださらない、クリストフ? お金がなくちゃ、
      あの全てが高いヴェルサイユではとてもやっていけませんからね。あそこは本当に人でいっぱいだそうですね。
徴税請負人  『あなたは残ってくださらない』か? こいつはご挨拶だな。金がなければ、俺は壁に並ばされて銃殺ってことになるかもしれないんだぜ。
96名前なし:2009/12/31(木) 19:01:00 ID:KbQvDVb2
彼の妻  感傷的になるのはやめて。あなたはともかくブールデを待たなければいけません。アルフォンス、肩をすくめてはいけませんよ。

(ブールデを待っている夫を残して退場。フィリップとジャンがやって来る。
ちょうどその時、正規軍の兵士たちが一人の役人に導かれて鉄の大きな箱を引きずって来る)

役人  ああ、皆さん、貨物車に運ばないでください。これは、区役所の名簿と金庫でしてな。
フィリップ  俺が連隊に戻らなければならなくなったのは君のおふくろのせいだぜ。
        どうして君のおふくろはフランソワの顕微鏡をあいつが戦争に行っている間に質屋に入れる気になったんだ? 
        あれを受け出すには俺の給料全部を費やすことになる。ところが給料はまだもらってない、
        場合によっては、俺は軍法会議にかけられるかもしれない。例の大砲引渡しの一件でさ。あれだって責任は君たちにあるんだぞ。
ジャン  (ぼんやりと)俺たちは家賃を払わなくちゃいけなかったんだよ、フィリップ。
      お前が二十フラン持って来てくれれば、品物を質屋から受け出せるんだがな。
      とにかくフランソワには内緒にしておかなくちゃならないよ。
フィリップ  学問ってものは本当に金のかかるものなんだな。破産しちまうよ。
        そのあいつが今度は君たちのコミューンってやつに巻き込まれちまえば、
        きっと修道院の修道士たちは、あいつを学校から追い出しちまうだろう。
        神父の候補者がコミューンの一味じゃね! 君たちの考えが間違っていることは、こいつを見たって分かるよ。
        フランソワは自分の顕微鏡を取り戻したがっている、そうだろう? なぜだ? 
        それは顕微鏡があいつの私有物だからだよ。 つまり人間は自分の所有物を要求する、文句あるか。
ジャン  フィリップ、君は全くパン焼き釜みたいに頭が固いな。何もかもごちゃごちゃじゃないか。
フィリップ  パン焼き釜の中は何もかもごちゃごちゃじゃないぜ。
ジャン  いいか、顕微鏡はあいつの道具なんだよ。だから彼はそれを取り戻したがるんだ。
      機関車の工場の旋盤は俺たちの道具だ。だから俺たちはそれをよこせと要求する。分かったか?
97名前なし:2009/12/31(木) 23:15:14 ID:KbQvDVb2
フィリップ  おい、どこへ行こうっていうんだ。
ジャン  (自分の背負っていた袋をフィリップに引っ掛けて)ほら、連中が金庫を引きずって逃げて行こうとしているじゃないか。おーい、お前たち待て!

(金庫を引っ張って行く兵士たちに向かって)

ジャン  持ち出しは一切厳禁だぞ! これは民衆の所有物なんだぞ。

(兵士たちは彼を足で一蹴りして、さらに金庫を引っ張って行く)

      屑野郎め、こいつらを引き留めるやつは誰もいないのか。

(ジャン、追って行く。フィリップは頭を振りながら退場。一人の貴族の女、自分の姪、および、帽子の箱その他の荷物を持った召使と一緒に登場)

姪  マリー叔母様、やっとまた動き出した最初のパリ発の列車が、こんな酷いことになるなんて、誰が考えたでしょう。まるでパリ全部が避難しようとしているみたい。
貴族の婦人  なあに、長いことじゃありませんよ。フィリーヌ、気をつけて、帽子の箱を潰されないようにね。これはファルノーの帽子なんですからね。
姪  やっぱり馬車を使った方がよかったかしら。
貴族の婦人  馬車なんかに乗っていたら、暴民どもに馬を外されて馬は暴民の餌食になってしまったでしょ。
         馬鹿なことをいうのはおよし、まあ、ド・プルーク様。なんてご親切に! こんなご時世になると誰が本当のお友達かよく分かりますわ!
ド・プルーク  あなた方がパリを去られるのにお別れのご挨拶もしないわけには参りませんのでね。公爵夫人。
姪  本当にここにお残りにならなければいけないんですの。危険じゃございませんこと?
98名前なし:2009/12/31(木) 23:16:48 ID:KbQvDVb2
ド・プルーク  かもしれませんな。しかしお嬢さん、フランス銀行はそれだけの冒険をする価値があるんですよ。
         (公爵夫人に向かって)失礼ですが、この花束の中の伝言を彼に渡していただけるでしょうか? (彼女に花束を差し出す)
貴族の婦人  あなたのお志は決して忘れませんわ。こんな馬鹿げた芝居なんて、一週間と続きませんよ。
         じゃ、それまでさようなら、アンリ! (姪と退場)
ド・プルーク  近いうちにまた、奥様。

(新聞売り子は今度は新聞を一紙ずつ売っている。彼と向かい合いに一人の大道商人が品物を売っている)

新聞売り子  一流人の意見は、フィガロ紙にのっております。
         「ルコント将軍とトマ将軍に対して加えられた犯罪」「市庁の占拠は非合法」
         「中央委員会の連中は果たしてドイツ人とひそかに内通しているのか?」「グラス街の略奪!」「暴民の天下」
大道商人  (新聞売り子の呼び声の間に)ズボン吊り、リヨンの携帯用の櫛! ボタン! 石鹸、化粧品、安いですよ。アコーディオン、トリポリのベルト!

(兵士たち、ジャンを連行して来る。彼の上衣は引き裂かれている。国民軍の軍曹が国民兵数人を連れてやって来て正規軍の兵士たちを制止する)

軍曹  ちょっと待ちたまえ。この男をどうするんだね。
兵士たち  この男は機関車によじ登ろうとしていたところを逮捕したのであります。列車妨害ですよ、軍曹殿。
ジャン  この連中は金庫を運び出そうとしていたんです。こいつらを捕まえておかなければなりません。この連中全部を逮捕すべきです。
軍曹  まあ君、落ち着きたまえ。同志、この列車を食い止めろという命令は、まだ出ていないんだ。離してやれ。
99名前なし:2009/12/31(木) 23:18:02 ID:KbQvDVb2
ド・プルーク  諸君、私はフランス銀行総裁のド・プルーク公爵だが、君たち自身も上部からの命令は何も出ていないと言ったじゃないか。
         私の聞いた限りではまだ内乱は始まっていないはずだ。そういうわけだとすると、
         この男の行為は当然犯罪だということになるから、したがって厳密に処されねばならないじゃないか。
ジャン  そうか? で、この俺をどこに連行して行くつもりだったんだ? 言えるか。(沈黙)
軍曹  ははあ、君たちの方がこの男をこの列車に引きずり込んで連れて行こうとしていたんだな。
     すぐに離したまえ。(自分の部下たちに向かって)すぐに増強を頼む。

(二、三の国民兵、退場。ジャンは離される。正規軍の兵士たちはこそこそと逃げる。ド・プルークも退場)

兵士たち  俺たちは義務を果たしていただけさ、戦友。
軍曹  君は全く運がよかったぜ。
ジャン  そしてあの連中を逃がしてしまうつもりか。このポスターを見ろ。ぼくは君たちに一言いってやりたいことがある。
      「僕は選挙はしたが、しかし、君たちのコミューンにはしなかったぞ。コミューンなんか破滅するさ」って言うんだ。

(よろめきながら退場)
100名前なし:2009/12/31(木) 23:19:00 ID:KbQvDVb2
一八七一年三月二十六日。モンマルトルの小さなコーヒー店の前。カベー夫人と彼女の小さい家族、
ジャン、バベット、フランソワ、ジュヌヴィエーヴが目下閉店中の小さいコーヒー店の中で飾り付けをしている。
彼らは窓の鎧戸を外し窓の巻き上げカーテンを巻き上げ、椅子を外に出し、白い紙製のランタンを吊るす。
国民軍の制服を着た給仕と平服を着た負傷しているドイツの胸甲騎兵は彼らの手伝いをしている。
隣の広場からは軽快な音楽。ジュヌヴィエーヴはワインの瓶を下げてコーヒー店から出て来る。
彼女について晴れ着を着た子供たちの一人がやって来る。
101名前なし:2009/12/31(木) 23:20:43 ID:KbQvDVb2
フランソワ  (藁底椅子を持って出て来る)これこそコミューンだ、これこそ科学だ。新しい世紀だ。パリはコミューンを選ぶ決心をしたんだ。
給仕  うちの店の旦那はパリとは違う決心をしてましてね、
     そこで、給仕の私がこの店の主人になったというわけですよ。だから私の店で大いに愉快にやってください。
ジュヌヴィエーヴ  若い神父さんたちでさえ、新しい時代の曙に挨拶を送っているというわけね。

(彼女はカベー夫人の前にぶどう酒の瓶を置く)

フランソワ  そして女の先生たちは、闇市のワインを未亡人におごるってわけさ、なぜって法律の条文の中には山上の垂訓が記されているからな。
        その条文は「何々であることを考えた上で」で始まって行為で終わるんだ。

(彼はニヤニヤ笑いながら窓の鎧戸を開けたドイツ人を抱擁する)

        胸甲騎兵君、僕は君を抱擁する。君は僕らの新しい兄弟だ。君はあの時代錯誤のビスマルクの盗賊団から脱走した奴なんだからな。
カベー夫人  (始めから通りの中央の椅子に腰をおろしていたが)しかも、家賃は免除になったんだよ。(叫ぶ)ジャン! バベット!
フランソワ  我が祖国を襲った不正な戦争は少数者の仕業であるにすぎない、ということを考えた上で、
        また、全ての負担を多数者、つまり悲惨な者のおびただしい集まりである多数者にかぶせることは正しくない、
        まさに正しくないことを考えた上で……僕はこの文句をまるでラボアジェーみたいにすっかり暗記しちまったんだぜ。
ジャン  (コーヒー店の一番上の窓から首を出して)慌てるなよ!
フランソワ  それに質屋だって、人生は生きるに値しなければならない、ということを考えた上で、貧乏人たちの質草を、無料で返すことになるさ。
102名前なし:2010/01/01(金) 09:24:32 ID:2O239kyj
カベー夫人  フランソワ、あんた、みんな知ってたの? 私って本当に泥棒みたいな女だったわ。
         軒並み物価高でね。あんたから家賃を取り返そうと思ったからなんだけど---質に入れたのはよくなかったわ。
         後から受け出そうとはしたんだよ。あなたにはあれが必要なんですものね、ジャン。
         (子供に向かって)ヴィクトール。さ、ここにおかけ、お酒を飲む前に何かお食べよ。ジャン、何してるの。
         (子供、やや固くなって座る。ジャンは怒ったような顔をして首を出す)
         私はバベットに話があるんだよ、あんたたちはまだ済まないのかい?
         (バベット、ジャンの隣に顔を並べて首を出す。ちょっとのぼせている)
バベット  ママン、何か御用?
カベー夫人  ほらごらんよ。素敵なワインだろう。バベット? (バベット笑って顔を引っ込める)
         バベットに気をつけていなくちゃいけないよ。あの子は徹底してるからね。

(通りから「パパ」と非常に疲れたように見えるランジュヴァンが降りて来る。「パパ」は銃剣の先に白いランタンをぶら下げている)

「パパ」  マダム(奥さん)、マドモアゼル(お嬢さん方)、あなたの義弟をお連れして来ました。ヴォージラールのコミューンの委員だ。
      仕事中なのに無理に引っ張ってきたんですよ。いやあ、市役所で仕事をしている連中ときたら、まるで日雇い奴隷のようにあくせく働いてますからね。
カベー夫人  一杯いかが? ピエール。
給仕  ええ、このワインはうちの旦那のですがね。うちの旦那は今頃ヴェルサイユですよ。どうぞ、お好きなだけお飲みください、ムッシュー(旦那)。
ランジュヴァン  パリには六千もの病人が置き去りにされた。それに街灯の火付け係の人間が一人もいない。
           そこで俺たちに仕事が山ほどできるのさ。(ジャンとバベット、窓から赤旗を下げる)
「パパ」  ああ、あの美しい旗に乾杯! 愛され、恐れられ、迫害され恐怖を与える旗だ。嵐と共に登場する友愛の旗だ。
103名前なし:2010/01/01(金) 09:25:41 ID:2O239kyj
カベー夫人  そうですとも、あの旗はきっとやってのけますよ。さあ、ピエールとパパ、このパンを取ってちょうだい。
         子供たちはどこへ行ったのかしら。向こう側のパン屋のおかみがね、このパンを通りにいる私たちの所まで持ってきてくれたんですよ、
         私たちがね、生地を持って通り過ぎたら……そう、その布地っていうのが、ある色の布なんですね。
         その布地を持って私たちが通り過ぎると、あのパン屋のおかみさん、いつもはあんな嫌なおかみが、私たちにパンをあげるっていうのよ。
ジュヌヴィエーヴ  まあ、みんな座ってよ、みんなに古い歌を一つ歌ってあげるわ。

マルゴは今朝市場へ行った
すると、太鼓が響いてきた。
セロリと肉を買ってから、
肉屋の顔をよく見たら、
顔は髪まで、土気色。
「肉は二十フランでございます」
その時太鼓が タランタランタラン
「え、いくらだって?」
「いいです、奥さん。五フランで」
「あらあら、まあまあ!」

マルゴは家賃を払いに行った。
するとラッパが聞こえてきた。
「大家の奥さん、家賃はいくらたまってますか?」
大家のおかみさんは青くなった
死人のように、真っ青に。
「家賃は二十フランです」
その時ラッパが、タラタラタラ
「え? おいくらですの」
「いいわ奥さん、十フランで」
「あらあら、まあまあ」

(みんな一緒に歌う)

「あらあら、まあまあ、あらまあまあ」

(広場を通って男たちや、軍帽の徽章を持った女たちがやって来る)
104名前なし:2010/01/01(金) 09:27:12 ID:2O239kyj
男たちの一人  ねえ、紳士ならびに淑女諸君。行きませんか? ド・ヴァンドーム広場であの有名な絵描きのクルーベが、演説をやるそうですよ。
           ヴァンドーム広場にあるナポレオン記念碑をひっくり返す必要についての演説だっていうがね。
           何しろあの馬鹿げた記念碑はヨーロッパのあらゆる国から捕獲した千二百の大砲を鋳て作ってあるんだっていうからね。
           戦争の記念碑、つまり軍国主義を肯定する野蛮な代物なのですよ。
「パパ」  ありがとう。我々はもちろんその計画には大賛成だし、それに本当にひっくり返すときにはもちろん手を貸すぜ。
一人の女  ともかくいらっしゃいよ。カルチェ・ラタンじゃ、ただで鳥のブイヨンスープを配ってるわよ。

(一人の男、けらけら笑う)

男  うーん、このスープってやつは、記念碑の五頭立ての馬の記念スープさ、みなさん。
フランソワ  ねえ、行こうか?
「パパ」  ここだっていたって座り心地がいいぜ。
フランソワ  ブイヨンスープだぜ。
カベー夫人  行くの? ジャンとバベットはどうしたのかしら、ああ、連中はあそこね。
「パパ」  フランソワ、どうやらあなたは神父さんになる素質が十分と見たね。
ジュヌヴィエーヴ  ありがとう。私たちはもうしばらくここに座っていますわ。

(人々の群れ、どんどん去っていく)

男の一人  いいさ、どうぞお好きなように、コミューンが君たちをスープに呼んだのに、来たくないってんだから。
「パパ」  それもやっぱり自由のうちだよ。

(ジャンとバベットは下におりて来る)
105名前なし:2010/01/01(金) 09:28:24 ID:2O239kyj
カベー夫人  あんたたち、少し上に長くいすぎたよ、私はあんたたちのふしだらが頭にきてるんだよ。
ジャン  ママ、ジュヌヴィエーヴが真っ赤になっちゃったぜ。
カベー夫人  私はただ、人間っていうのは、よく客観情勢を考えて振舞わなくちゃいけないって言っただけよ。
「パパ」  しかし、奥さん、今ほど客観情勢のいい時はちょっとないぜ。パリは今後永久に自分の主義に従って生きる決心をしたんだ。
      このフリッツ君が俺たちの所に住む気になったのもそれさ。
      市民たちの間には、もういかなる階級の差別もないし、また、国民の間にはいかなる国境もないのさ。
ジャン  バベット、ママに答えてくれよ。俺を弁護してくれよ。
バベット  奥さん、あなたの息子さんはね、決して何でもかんでも大急ぎで欲しがるような人じゃないわよ。

ピエール・ジョセフは天下の宿無し
尻にのせた女房は、下着なし。
それでも女房は、彼のために
盗んだ鍋で
ちょっと乙な料理を作る。
ピエール・ジョセフは、食事の前に、
きちんと櫛で髪をとかし、
「おっかあ、俺に特別のご馳走を頼むぜ!
素寒貧だが、せめてうまいものを食わせてくれ」
「おっかあ、ゆっくりやってくれ。しかし、腕にはよりをかけてな!」
「ご馳走を……おっと待てよ。サラダにはニンニクを忘れるな」

ピエール・ジョセフは、
サルペトリエールの監獄でも、
引導を渡す神父と話す暇はなかった。
死刑の前の末期の料理も
自分で金を払うみたいに注文した。
「看守さん、特別のご馳走を頼むぜ。
哀れな男だが、せめてうまいものを食わせてくれ」
「コックさん、ゆっくりやってくれ、腕にはよりをかけてな!」
「そしてもちろん、サラダにはニンニクを忘れるな」
106名前なし:2010/01/01(金) 09:29:39 ID:2O239kyj
「パパ」  なぜって、一体人間の生きている目的は何だ。サン・エロイーズの神父さんは、俺の妹が聞いたらこう答えたよ。
      自分自身を完成することだってな。それも結構さ。しかし、自分を完成するためには、何が必要だ? 
      そのためには、朝食にも鶏を食う必要がある。(子供に)なあ、坊や、人間が生きているのは、特別のお楽しみのためだ。
      たとえ大砲を使ってでも、それを手に入れる必要がある。だって人間が何かやり遂げるのは一体何のためだ。
      それは、とびきり上等のお楽しみがしたいからするのさ。この坊やは一体誰だね。
カベー夫人  ヴィクトール! フォークを取りに行っておいで!

(子供はコーヒー店に去る)

       あの子の親父さんは、九十三大隊で戦死したんだよ。三月十八日の大砲を守るあの戦いでね。
       そこで、あの子は今、肉を売って歩いているのさ、ウサギの肉を。あ、ジャン、黙っておいで。
       だから、私は、あの子から時々買ってやるんだよ。あの子のお父さんのことを考えて……

(子供はフォークを持って帰って来る)

「パパ」  (立ち上がる。一人がグラスを上げる)君の健康を祝して。

(子供は「パパ」の健康を祝してという言葉に答えて飲む。舞台袖の方から音楽。
ジャンはジュヌヴィエーヴとダンスを始める。バベットはフランソワと踊る。給仕はカベー夫人と踊る)
107名前なし:2010/01/01(金) 11:36:00 ID:2O239kyj
「パパ」  どうだい。何もかもうまく行ってるだろう。ええ? ランジュヴァン、もうこれで満足なのかい? 
      (しばらく間をおいて)この市が求めていたのは、まさにこれだし、またこの市の築かれた目的もこれなんだ。
      これまで、パリの市は鞭で引っ叩かれ通しだったので、こいつを忘れていただけさ。
      しかし、パリはまた我々の手によってこいつを思い出したんだよ。それで何が不足だ?
ランジュヴァン  一つだけ不足だ。時々俺は思うんだが、俺たちは三月十八日に一挙に相手を叩いた方がよかったんじゃないかな。
           選挙か、そうでなければヴェルサイユへの進撃かという問題を出したんだが、その答えは「両方やること」だったんだ。
「パパ」  うん、それで?
ランジュヴァン  ティエールは今や、ヴェルサイユに鎮座して軍隊を集めているぜ。
「パパ」  そんなものは糞食らえだ。パリは全て決着をつけたんだ。あんな棺桶に片足を突っ込んだ老いぼれなんか手もなく片付けられるだろう。
      軍隊だって? 俺たちは軍隊とはうまく話をつけられるさ。三月十八日の大砲事件の時だって交歓できたぜ。
ランジュヴァン  ああなってくれればいいんだがね。しかし、今度の軍隊は、農村出身者だぜ。
「パパ」  パリのために乾杯! 諸君!

(踊っていた連中、戻って来る)
108名前なし:2010/01/01(金) 11:37:03 ID:2O239kyj
バベット  自由のために! ジャン・カベー! 完全な自由のために!
「パパ」  自由のために。
ランジュヴァン  俺も自由のために飲むが、条件付だぜ。
バベット  愛情のために。
ジュヌヴィエーヴ  なぜ条件付で飲むの? ランジュヴァンさん?
ランジュヴァン  俺たちの自由はこれから完全なものになる途中だからさ。
ジュヌヴィエーヴ  じゃあ、完全な自由にすぐ手が届くというのは、幻想にすぎないというわけ?
ランジュヴァン  政治の世界ではね。
バベット  フランソワ、あんたもダンスをしていいの? あんたはどういう資格でダンスしてるの? 
       物理学者として? それとも神父さんとして? 神父さんとしてでしょう?
フランソワ  僕はもう決して神父にならない。新しい時代が始まったんだ。ゲリコーさん。僕は市の奨学金をもらって物理学を勉強していくつもりだよ。
バベット  分配万歳! 私たちはもう何でもかんでも所有しているわ。さあ、恋人も分け合うわよ。
ジュヌヴィエーヴ  まあ、バベットったら!
バベット  あんたにはジャンとチークダンスするやり方を教えてあげるわよ。

(バベットはジュヌヴィエーヴにつかみかかる)

ジュヌヴィエーヴ  私は抵抗しないわよ。バベット。
バベット  それなら、これでどう? これはどう? 

(二人は地面を転げまわる。ジュヌヴィエーヴは抵抗をし始める)

バベット  あら、あんた抵抗してるじゃないの? あたしの目玉を叩き出す気? このガマガエル!

(ジャンは笑いながら、フランソワを引き止める。パパと給仕が喧嘩をしている二人の女を分ける)
109名前なし:2010/01/01(金) 11:38:47 ID:2O239kyj
カベー夫人  あんたたちったら、戸棚に着物がいっぱいある連中と同じような真似をするじゃないか。全くね。
         私は、あんたたちが旗を出しに行くといって二人だけで二階へ行くのは反対だったんだよ。でもこの女も、大した女闘士だわ。
フランソワ  コミューンの女性は嫉妬なんかしてはいけないんだよ。
バベット  それなら、コミューンの女性は、石像でいろって言うのね、へーんだ。
ジュヌヴィエーヴ  そうじゃないわ。自分の持っているものはしっかりつかんでおこうとするものよ、
             近くに銃剣がなくてよかったわね、バベット。あら、こんにちは、フィリップ!

(フィリップは連中のいる所に加わる)

フィリップ  またやって来たよ。あんたたちに生きてお目にかかれるかどうか興味津々だったんだ。
        ヴェルサイユの新聞で読んだところでは、君たちはみんな逮捕か銃殺かされたってことだったからな。
        何しろ、寝る前にコミューン万歳って言わない奴は、自分の女房からさえ密告されて、
        コミューンの同志の便所の穴に突っ込まれて白状するまで拷問されるって話じゃないか。
        みんな知ってるぜ。まさにこれこそ、コミューンの恐怖政治ってやつだな。

(一同、笑う)

「パパ」  なあ君、今日はパリにおいて、人殺しも、泥棒も、恥知らずの詐欺も、いかなる破廉恥行為も行われない歴史的な最初の夜だぜ。
      パリの大通りは有史以来初めて安全になった。警察なんか必要ないんだ。
      なぜって、銀行家や、こそ泥や、徴税請負人や、工場主や、大臣や、淫売婦や、坊主どもが
      みんなヴェルサイユへ引っ越しちまったからな。やっとこれでパリの町も住みよくなったのさ。
フランソワ  パパ、乾杯!
フィリップ  そいつは俺も新聞で読んだぜ。まさにこれは乱痴気騒ぎだ。コミューンのでたらめ放題だ。
        市庁へ陣取る親玉たちは、みんな情婦を七人も抱えてるっていう話じゃないか。しかも、それが法律で明文化されたってね。
バベット  おやおや、ジャンには女が二人しかいないのにね。
110名前なし:2010/01/01(金) 11:40:25 ID:2O239kyj
フランソワ  それでなぜ逃げてきたんだい?
フィリップ  給料をもらえなければ、連中にさあ来いって言われてもついて行くことはないや、
        ティエールの旦那は、破産しちまったのさ。文無しよ。ティエールは兵隊に給料を全然払わなくなった。
        ヴェルサイユじゃ正規軍の兵隊が、鉄砲を五フランで売っているよ。
「パパ」  俺はここでは、ちゃんと給料をもらっているぞ。俺は。
ランジュヴァン  君は自分で自分に給料を支払っているわけさ。そこがヴェルサイユと大いに違う所だよ。
フィリップ  それがコミューンの財政失敗の原因さ。みんなが言ってるぜ。俺は一日だけ田舎に行ってみた。
        アルルの両親の所へな。フランソワ、親父もおふくろもよろしくって言っていたぜ。俺は親父に言ってやったよ。
        お前がコミューンの仲間になったってな。何でもかんでも分配せよっていう悪魔の仲間になったってな。
「パパ」  俺も牛の足の夢を見たぜ。足が悪魔みたいにひづめになっている夢をな。
ランジュヴァン  でも、君はどうして歩哨線を通って来れたんだ。
フィリップ  さあ、誰も俺を止めなかったからな。
ランジュヴァン  そいつはまずい。こういう所がコミューンのだらしない所だ。
「パパ」  ピエール、君はどうも、ティエール氏とか、フォン・ビスマルク氏とかいうような
      老いぼれ連中に少し尊敬の念を持ちすぎているようだぜ、フィリップ。
      連中は破産したって? そうか、そいつは大歓迎だ、ピエール! 新聞をよこしな。

(ランジュヴァンは、彼に一枚の新聞を渡す。彼はその新聞で紙の兜を作り、そして、その兜をかぶる)

「パパ」  俺はビスマルクになる。ジャン、お前はティエールだよ。フランソワの眼鏡を借りな。
      俺たちがパリでささやかなお祭りをしている間に、この老いぼれどもが
      どんなことを喋っているかをピエールに見せてやろうじゃないか。

(「パパ」とジャンは歴史的なポーズをとる)
111名前なし:2010/01/01(金) 11:42:19 ID:2O239kyj
「パパ」  親愛なるティエール君。わしはたった今、ドイツで皇帝を一人製造してきたところなんだ。
      ついでだが、こいつは間抜けな皇帝でね。ところで、君たちも皇帝が欲しいのかね?
ジャン  親愛なるフォン・ビスマルク閣下。皇帝なら我々にもついこの間までいました。
「パパ」  この間までいたというなら、これからはもうごめんという君たちの気持ちもよく分かる。ないのも大いに結構。
      しかし、もしあんたが服従しないと、また皇帝を押し付けるよ。それに、これはただの脅迫だと思わないでくれ。
      わしはいざとなれば本気で行動するからね。ついでだが、君たちは国王は必要ないかね?
ジャン  フォン・ビスマルク閣下。欲しがっているのは一部だけです。ええ、ほんの一部で。
「パパ」  もし、君たちが服従しないと、嫌でも王様を押し付けるよ。ついでだがね。君たちの所の連中は一体何を欲しているのかね。
      つまり、あー、ほら何と言ったかな、あの連中だよ、ほら税金を払っている……え……そう、人民だ。奴らは何を欲しているのかね。
ジャン  (恐る恐る周りを見回して)私を欲しております。
「パパ」  それだったら大いに結構じゃないか。あんたって人は、私から見れば皇帝や王様みたいにとても感じのいい人だ。
      皇帝を欲しがらないっていうのは、ちょっと不思議な気がするがね。しかし、君だって非常によく言うことを聞くし、
      それに、君は具合がいいことに、何でもかんでも提供してくれるからね、
      ほら、たとえば、あれも提供してくれるんだろう。何といったかな……
      ほら、私たちが今いる所だ……それそれ……フランスだ。そのフランスってやつまで私たちに提供してくれるからね。
ジャン  フォン・ビスマルク閣下、私はフランスをあなたの手に委ねる権限を与えられています。
「パパ」  誰からかね、ムッシュー。
ジャン  フランスからです。私は、たった今選挙されたばかりのところであります。
「パパ」  (からからと笑う)僕たちもちょうどそうなんだ! 皇帝と私は今選ばれたばかりの所なんだよ。
112名前なし:2010/01/01(金) 12:53:35 ID:y6s6f5S2
ジャン  (同じように笑う)冗談はさておき、フォン・ビスマルク閣下、私はちょっとばかり心配なことがあるんですが、
      私は安全じゃありません。逮捕されるかもしれないのです。
「パパ」  いいですか、私はあんたを保護します。わしには五千門の大砲がある。
ジャン  それでは後は私の望みは一つだけです。フォン・ビスマルク閣下。許していただけるでしょうね、あなたのお靴にキスしてもよろしゅうございますか。

(彼は「パパ」の靴に身を投げて靴にキスする)

      ああ何という素晴らしい靴でしょう! 何という素晴らしい味でしょう!
「パパ」  結構だが、靴を齧らないでもらいたいもんだな。
ジャン  それではオットー君、君はこの靴で例の奴らを踏み潰すと約束してくれるかい。
「パパ」  ああ、コミューンをか?
ジャン  ああ、その言葉を言うのを止めてくれ、後生だから止めてくれ、ああ、その言葉を聞くと、
      僕はちょうど君がリープクネヒトだとか、ベーベルだとかって名前を聞いた時と同じような気持ちになるんだ。

(ドイツの胸甲騎兵は立ち上がって、コップを差し上げる)

「パパ」  ああ、とんでもない、あの連中の名前を口にしないでもらいたい。
ジャン  しかし、なぜそんなにびっくりするんだい、オットー君。君がそんなに仰天していたら
      僕を助けることなんかできっこないじゃないか、僕だってびっくり仰天している所なんだからね。

(二人は紙の兜を取り、眼鏡を取って抱き合う)

バベット  ジャン、素敵だったわ、旗が曲がってるみたいよ、上に行ってみない?

(彼女は彼を抱擁する)
113名前なし:2010/01/01(金) 12:54:28 ID:y6s6f5S2
フランソワ  さあ、今度は俺が君たちに何かを説明する番だ。

(彼は紙のランタンの下で新聞を読む)

        「今日は誰に借りもなくワインを飲める夜である。
        そして朝になれば、パリは年取った女労働者のように立ち上がって、愛する道具を使う手を伸ばすであろう」
ドイツの胸甲騎兵  (グラスをあげて)ベーベル、リープクネヒトのために!
給仕  コミューン万歳!
ドイツの胸甲騎兵  コミューンのために!
給仕  ベーベル、リープクネヒトのために!
フランソワ  学問のために!
ジュヌヴィエーヴ  子供たちのために!
114名前なし:2010/01/01(金) 12:55:30 ID:y6s6f5S2
市会議事堂、赤旗、会議用の広場には、次のような言葉を書いた札が打ち付けられている。

一、生きる権利 二、個人の自由 三、良心の自由 四、集会の権利と結社の権利 
五、文書の自由、新聞の自由、あらゆる種類の精神的な表現の自由 六、会議期間中の自由な選挙権

一八七一年三月二十九日である。コミューンの会議の始まる所。
115名前なし:2010/01/01(金) 12:57:48 ID:jhj3sNPG
ベスレー  我々に対して非難の声があがっています。我々はヴェルサイユの国民議会の選挙に満足の意を表すべきだったと言う声ですが……
叫び  それは、ムッシュー・ティエールの差し金だ! パリに反対しているのさ!
ベスレー  パリ諸地区の開放は、しかしながらとりもなおさず共和国の諸地区の開放なのであります。
       我々の敵どもは、我々が共和国に一撃を加えたと主張いたします。なるほど、我々は共和国に一撃を加えました。
       しかし、この一撃は杭をしっかり大地に食い込ませるために与える一撃のようなものであります! (喝采)
       一七九二年の大革命の共和国は兵士でありました。コミューンの共和国は、
       平和の中から何かを生み出していくために、まず自由を必要とする労働者となるでありましょう。
ヴァルラン  コミューンの同志諸君、一七九二年の共和国が、農民に土地を与えたように、我々の共和国は、
        労働者に労働の道具を返還し、それによって社会的な平等を通じて政治的目的を実現せんとするものであります。(喝采)
        私は第一の法律を朗読いたします。全ての市民は差別なく、国土防衛に当たる意思を持つことを考えた上で、現在の軍隊は解放される。
叫び  将軍どもはみんな追い払ってしまえ! 金で雇われている血に飢えた犬どもを! 人民軍万歳! 
     今後、市民の間の階級の差別を廃止しろ! 国家間の境を取り外せ、
     フランス人の労働者との連隊をドイツ軍の中の労働者に呼びかけようじゃないか。
ベスレー  国家とは、自らを自らの手によって支配する民衆であることを考えた上で、
       全ての官吏は一定の期間を限って任命、罷免され、官職につくものはその能力に応じて選ばれるものとする!
叫び  平等の支払い! 平等の賃金!
116名前なし:2010/01/01(金) 12:58:52 ID:jhj3sNPG
ベスレー  民衆が最も低いブルジョアよりもさらに地位の低いことを考えた上で、
       教育は全て機会平等、無償で行われ、社会保障とすべきこと。
叫び  自動の学校給食を実施せよ。教育は給食から始まるんだ。ものを知るには食うことも知る必要があるぜ。(笑いと喝采)
ベスレー  人生の目的は、我々の肉体的、精神的、道徳的な天性を自由に発展させることにあるということを考えた上で、
       所有物とは、集団作業であげられた集団の収益において、各人の関与の程度に応じた所得の権利にほかならないと規定する。
       工場や製作所においては、集団労働が組織されなければならない。(喝采)
       諸君、これこそ、直ちに実現されねばならない最初の法律であります。
       私はパリ・コミューンの最初の運営会議を開催することを宣言いたします。
117名前なし:2010/01/01(金) 12:59:52 ID:jhj3sNPG
内務省。守衛に案内されてジュヌヴィエーヴとランジュヴァンが事務所に入って来る。雨。
118名前なし:2010/01/01(金) 13:01:06 ID:jhj3sNPG
ジュヌヴィエーヴ  ねえ、本当にお役人はただの一人も役所に来ていないんですか、一週間前から?
守衛  来ませんよ。それは私がよく知っています、守衛ですから。
ジュヌヴィエーヴ  普段は、ここで何人のお役人が仕事をしているの?
守衛  三百八十四人です。それに大臣閣下と。
ジュヌヴィエーヴ  みんなの住所はご存知?
守衛  存じません。
ジュヌヴィエーヴ  この地区の学校がどこにあるか、先生がどこに住んでおられるか、給料のお金はどこに取りに行けばいいか、
             どうやったら分かるのかしら。おまけに鍵までみんな引き抜いて持って行ってしまったのよ。
ランジュヴァン  錠前屋を呼んでこなければ。
ジュヌヴィエーヴ  そして、あなたは、ランプの油を買いに行ってくださらなきゃいけませんわ。

(財布を探る)

守衛  皆さんは夜もお働きになろうというのですか。
ランジュヴァン  この方はコミューンの教育代表委員なんだよ。
守衛  なるほど、大変結構なことですな。でも、油を買いに行くのは私の仕事じゃありません。
ジュヌヴィエーヴ  確かにそうね。でも……
ランジュヴァン  そうじゃないよ。油も買いに行かなきゃいけないんだよ。
           その前にまずこの地区の学校の一覧表や、書類のある所を、この代表委員のマドモアゼルに教えてからね。
守衛  私は、何かがどこにあるかということしかお教え出来ません。
ジュヌヴィエーヴ  それじゃ、掃除のおばさんに聞かなければならないわ。多分あの人は学校に通う年頃の子供がいるでしょう。
ランジュヴァン  あの女が知っているはずがないだろう。
ジュヌヴィエーヴ  一緒にやれば何とか探り出せるわよ。
119名前なし:2010/01/01(金) 13:02:29 ID:jhj3sNPG
ランジュヴァン  早速新しい学校を建ててしまうのが一番いいんじゃないかな。
           そうすれば学校がどこにあるかもすぐ分かるわけだから、何もかも始めからお終いまで新しく作っていかなければならないんだ。
           今までのやり方は酷いものばかりだったからね。病院にしても、街灯にしても、全てそうだ。
           パリの住民は、あなたの労働に対して、いくら払っているのかね? 
           油を買いに行くのは君の労働のうちには入らないそうだけどね。
守衛  日給七フラン八十、しかし、払ってくれるのは、パリの住民じゃなくて、国家ですよ。
ランジュヴァン  そうだ、そこに大きな違いがあるんじゃないかね。
           どうだね、この代表委員さんは、日給十一フランでパリ市の教育を担当している方だ。これをどう思うね?
守衛  好きでやっているんでしょ。
ランジュヴァン  もう帰りたまえ、帰るのが君の仕事ならね。

(守衛、足を引きずって去る。ジュヌヴィエーヴ、窓を開ける)

ジュヌヴィエーヴ  あの人自身だって素寒貧なのにね。
ランジュヴァン  自分ではそう思ってないよ。どうやら彼にあなたの給料がどんなに安いかということまで言ってしまったのは、
           やり方としては間違っていたようだね。それを聞いたら、彼はあなたを軽蔑しだしたよ。
           彼は自分よりわずか数フランしか余計に稼いでいない人物に対しては頭を下げる気はないんだ。
           そして彼は、頭を下げること以外には何も身につけていなかったんだからね。
120名前なし:2010/01/01(金) 18:14:47 ID:S/xevCkm
ジュヌヴィエーヴ  こっちから教えてやればいいのよ。あの人はどんな目にあったと思って? 
             大臣とか、局長とか、地位のある人は、ああいう日給の安い人より先に逃げてしまったじゃないの。
             それに、役人たちって言えば、一番下級の役人まで、パリを放り出してパリを暗闇にし、
             汚れ放題にし、五里霧中にしてしまったじゃないの。あの連中だって、パリに必要だったのに。
ランジュヴァン  そういうのが一番困ることじゃないか。ところが、君だっていつも自分をかけがえのない存在にしたがるんだ。
           こいつは大昔から繰り返されてきた誤りだ。僕らに必要なのは、他の人がいつでも代わりができるように自分の仕事を処理していく人だ。
           自分の仕事を単純化していく人こそ、未来の時代の労働者と言われるべきだ。やあ、バベットのご入来だ。

(バベット、フィリップとやって来る)

バベット  あんたに会おうと思ったんだけど、どこに行っても見つからないのね。
       オフィシャル(官報)に書いてあったけど、あんたは大臣だかそんなものになったっていうじゃないの。
ジュヌヴィエーヴ  (陰謀でも企んでいるように居場所が漏れたことを恐れるふりをして)私のいる場所をあの男が喋ってしまったの?
バベット  守衛のこと? フィリップが守衛にピストルを突きつけて泥を吐かせたのよ。
121名前なし:2010/01/01(金) 18:17:13 ID:S/xevCkm
ランジュヴァン  僕は君を交通代表の助手に任命したいんだ。その委員とは僕なんだがね。
           北停車場から列車が発射しているが、出たが最後一つも戻って来ない。
           そして逃げ出す連中は家具一切まで引きずって行くんだからね。
           僕は鉄道会社の財産を没収して、上級役員は軍事裁判にかけるべきだと思っている。
           だって、パリの現状がこうなんだからね、この役所だって役人たちは全然顔を出さないじゃないか。
           そして、鉄道の場合、連中はサボタージュをしにやって来るんだ。ところで、君たちはなぜここに来たの?
バベット  すぐにパン屋の職人たちのために処置をとってちょうだい。
ジュヌヴィエーヴ  でも私は、教育関係の委員なのよ。
フィリップ  それじゃ、やっぱり引き受けてもらわなくちゃ。だって君たちの新聞には、
        労働者は教養をつけなければいけないと書いてあるが、夜勤があったら教養なんかつけられっこない。
        大体、俺はお日様の光を拝んだことがないんだから。
ランジュヴァン  確か、コミューンはパン屋の夜間労働を中止する指令を出したはずだがね。
フィリップ  でも、パン屋の親方たちはその指令を無視していますよ。そして我々にはストライキの権利はない。
        生きていくためには働かなくちゃならないんだから。ところが、パン屋のおかみさんの方は、
        その気になれば営業を停止することもできるからね。それはそうとパンを一つどうです。

(彼は彼女に一塊のパンを渡す)

ジュヌヴィエーヴ  あら、これは汚職だわ。(パンにかぶりつく)
ランジュヴァン  もしおかみさんが営業を止めたら、我々はその店を没収してこちらで営業を続けていくことにするよ。
122名前なし:2010/01/01(金) 18:18:20 ID:S/xevCkm
フィリップ  おいしいかい? 俺たちからは買収されたって構わないけれど、親方からは買収されないでくれよな。
        でも、この提案は俺は組合の中だけでしたいのさ。さもないと、怒った連中が今夜パン屋のガラスを壊してしまうからな。
        だけどバベットとカベー夫人のことはどうなるのかな? あの人たちの親方の軍隊ご用仕立師のビュソンさんがまた戻ってきたんだよ。
バベット  でもあの人はもう、ズボン一着に一フランの手間賃しか払わないのよ。
       あの人は言っているわ。国民軍が請け負い業者に最低の値段で注文をするようになったからだって。
ジュヌヴィエーヴ  なぜ私をそんな顔をして見るの? ピエール。
ランジュヴァン  私はあなたが、住民たちとどうやって話し合っていくか、お手並みを拝見しているんですよ、委員さん。
ジュヌヴィエーヴ  私たちにはお金がないの。私たちは住民の財産を節約して使っていかなければならないわね。
バベット  でも、住民というのは私たちのことよ。
ランジュヴァン  (ジュヌヴィエーヴが彼を不安そうに見ているので)さあ、先生、学習をするんですね。
バベット  もし、コミューンが帝政時代よりも払いが少ないっていうなら、私たちはコミューンなんか要らないわ。
       ジャンが城壁に陣取って死ぬまで戦うのは、搾取がもうこれ以上耐えられなくなったからでしょう。
フィリップ  君たちはジャンのズボンのことで、ジャンのおふくろとジャンの恋人を丸め込んだな。「君たち」はまず……
ランジュヴァン  それは「俺たち」のことか? じゃ「君たち」とは別の人間か?
フィリップ  じゃあいい。「俺たち」はまず……
ランジュヴァン  そう言った方がいいだろう。
フィリップ  それじゃ、その「俺たち」は何をすればいいんだ?
123名前なし:2010/01/01(金) 18:19:21 ID:S/xevCkm
ランジュヴァン  もちろん、君とカベー夫人は仕立て屋組合に入ってないだろう、え? 
           仕立て屋組合では、全ての価格が決められることになっているんだ。
           値段を決めるのは、ビュソン氏のズボン工場じゃないんだよ。
バベット  でも、そういうことを知るためにはどうしたらいいの?
ジュヌヴィエーヴ  私が学校を組織しようとしているのは、子供たちがそういうことを知るためよ。
バベット  あんたたち、軍服のお金をちゃんと払えもしないのに、どこからそんなお金を都合するつもり?
ジュヌヴィエーヴ  フランス銀行ならここから二つ、三つ先にあるわ。でもこの文部省でもう難問だらけ、この戸棚にはみんな鍵がかかっているの。
フィリップ  少なくともこの戸棚なら開けることはできると思うね。
ランジュヴァン  へえ、君はパン屋の職人のくせに錠前屋の仕事まで引き受けてくれるっていうのかね。
           これでコミューンの将来に明るい見通しがついたぜ。
           次にはこの人は、それだけじゃなく、政治をやっていくことを学ぶようになるだろうからね。

(彼は止まっている大きな柱時計を巻き、そして振り子にちょっと弾みをつける。振り子はまた動き出す。みんなは、時計を眺めて笑う)

ランジュヴァン  何でもコミューンから期待しないで、君たち自身でやってみるんだよ。
124名前なし:2010/01/01(金) 23:04:57 ID:swzDYtOI
フランス銀行の総裁の部屋。総裁ド・プルーク公爵は太った僧侶と話をしている。僧侶はパリ大司教の代理である。外は雨。
125名前なし:2010/01/01(金) 23:05:55 ID:swzDYtOI
総裁  ティエール氏の希望を伝えてくださったことを感謝すると大司教様にお伝えください。
     一千万フランはいつもの方法でヴェルサイユにお送りいたします。
     しかしもちろんこれから先、フランス銀行に何が起こるかということは私にも分かりません。
     私は、いついかなる瞬間にもコミューンの代議員たちが押しかけてくるかもしれない、
     そして私を逮捕するかもしれないと覚悟しているのです。この銀行には二十一億八千万の金が眠っているのですからね。
     猊下(セニョール)、これはまさに動脈ともなるべき財源です。
     この動脈が断ち切られたら、例の連中がこのまま勝利を収め続けることになってしまいます。
侍僕  コミューンの代表委員、ベスレー氏がご面会です。
総裁  (蒼褪めて)いよいよフランスの運命の時がやってきたようですよ、猊下。
太った僧侶  ああ、私はどうやってここから出たものでございましょうなあ。
総裁  気を落ち着けてください。

(ベスレー、入って来る)

     この方は、ボウシャン大司教猊下の代理の方です。
太った僧侶  では、失礼させていただいてよろしゅうございますか。
総裁  いや、私よりこの方の許可をとった方がよろしそうですよ。
ベスレー  この名刺をあなたの上司に差し上げてください。

(紳士たち、互いに札を交わす。太った僧侶は退場)

ベスレー  国民軍各大隊の会計官が大蔵省に行ってみても、金庫は錠がおりたままです。
       しかし、俸給は支払わなければなりません。さもないと銀行が略奪を受けることになります。
       言いたいことを言わせていただけば、国民軍の兵士は皆、妻も子もありますからね。
126名前なし:2010/01/01(金) 23:07:23 ID:swzDYtOI
総裁  ムッシュー・ベスレー、あなた方の中央委員会の制度に従って、フランス銀行の職員も、国民軍の一大隊となっています。
     どうか私の言葉を信じいただきたいのですが、ここの職員だって、ここ二週間以上も、給料を支払ってもらっていないのです。
     そして連中にだってやはり妻子はあります。そこでですね、ムッシュー、あなたもこの中を通っておいでになったでしょうから、
     ここの職員が武装しているのがお分かりになったでしょう。連中の中には六十以上の者もおります。
     そしてこの連中は、自分たちの銀行が攻撃を受けることになったらきっと戦いますよ、間違いなく。
ベスレー  そういう戦いが始まるとしても、二分とは続かないでしょうな。
総裁  なるほど、一分間かもしれません。でもその一分間は、フランスの歴史に残る一分間でしょう。
ベスレー  コミューンは、やがて、ある訓令を発しますから、その訓令によって
       特殊大隊は解散を命じられ、他の大隊に吸収されなければならなくなるでしょう。
総裁  きっとあなたがそれを仰るだろうと思っていましたよ、ムッシュー。(一つの巻物を取り上げる)
     失礼ですがあなたに、銀行の文書課にしまってあった訓令をお目にかけさせていただきます。
     この訓令は以前の革命政権によって発布されたものです。あのフランス大革命当時の国民公会によってね。
     しかもダントンの署名が入っています。この訓令によると大きな官庁の職員たちにとっては、自分の職場が戦場だと規定されているのです。
ベスレー  侯爵、私は血を流しにやって来たわけではなく財政の調達にやって来たのです。
       この金融によって、パリの防衛も、パリの工場や仕事場の再開も、正常に選ばれたコミューンの手で運営されることが可能になるのです。
総裁  ムッシュー、私がコミューンの諸権利を一瞬たりとも疑っているとはお思いにならないでください。フランス銀行は政治を行う機関ではないのです。
ベスレー  ははあ、それでは問題を先へ進めましょう。
総裁  私が心から願っているのは、コミューンからおいでになったあなたにも
     党派を超えたフランス銀行の権利というものを認めていただきたいということです。
127名前なし:2010/01/01(金) 23:09:10 ID:swzDYtOI
ベスレー  侯爵、あなたのお相手は強盗ではなく、やはり名誉を重んじる紳士であることをお忘れなく。
総裁  ムッシュー、それはあなたがここにお入りになった瞬間から分かっていました。
     ムッシュー、どうか、銀行を救おうとしている私に力を貸してください。
     銀行はあなたの国家の財産であり、フランスの財産なのですよ。
ベスレー  侯爵閣下、我々のことを思い違いなさらないでください。我々はまるで苦力のように働いています。
        毎日十八時間もね。我々は着の身着のままで、しかも椅子で寝ているのです。
        一日わずか十五フランの手当てで、我々はみんな三つから四つの機能を果たしています。
        それだけの仕事を果たしていくのにこれまでなら住民はその三十倍もの経費を払わされたでしょう。
        おそらく有史以来これほど安くつく政府はないでしょう。それでも今、私たちは一千万フラン必要なのです。
総裁  (傷ましそうに)ムッシュー・ベスレー。
ベスレー  侯爵閣下、我々は、煙草や食料の税金で、財政を潤そうとはしませんでした。
       しかし、賃金や給料は払わなければならないのです。賃金なしでは、もう自分を支えてはいけないのです。

(総裁、多くのことを言いたげに、非常に意味のある沈黙をする)

ベスレー  もし、我々が明日の朝までに、六百万作っておかないと……
総裁  六百万? 私にはあなた二百万を差し上げる権利さえないのですよ。あなたはあなた方の会議で汚職の問題を取り上げ、
     ティエール氏が金を手に入れるためにいろいろな規定を無視したという罪状を挙げて彼を断罪されている。
     ところが今度は、そのあなたがここにおいでになって、まだ財務管理委員会さえも存在していないというのに、金をよこせと仰る。
     (絶望的に)どうか財務管理委員会を作ってください。どういう風に作れというような指図はいたしません。
     しかし、ともかく私が認めることができるような書類を私に見せてください。
128名前なし:2010/01/01(金) 23:10:04 ID:swzDYtOI
ベスレー  しかし、それをするには二週間かかります。多分あなたは我々が権力を持っているということをお忘れになっていらっしゃるのでしょう。
総裁  しかし、私にも権利がある。自分の行使できる権利のことも忘れていませんよ。
ベスレー  目下ここにある金の総額はどのくらいですか。
総裁  それに、銀行の秘密を守ることが私の職業上の義務であることも分かっていただきたいですね。
     他ならぬあなたのような方々が銀行の秘密や検事の秘密や医師の秘密といったような
     職業上の秘密に手をつけようとなさるおつもりですか、ムッシュー! 
     あなたの相手が、名誉を重んじる男であるということを思い出していただきたい。
     たとえ私たちの陣営がどちら側であっても、ともかく我々は協力して仕事をいたしましょう。
     ご一緒に、この偉大な愛するパリの町の需要を満たすことができるように考えてみましょう。
     しかしもちろん、この非常に複雑な、しかしまた、ぜひとも必要な、歴史ある本行の規定を、
     犯罪のような手段で傷つけることの内容になさってください。私はいつでも喜んでお役に立つつもりです。
ベスレー  侯爵閣下、私はいつでも平和な話し合いをすすめる用意があります。
129名前なし:2010/01/02(土) 15:45:26 ID:eQFqFgja
市庁、コミューンの会議。ベスレーは激しいやじの応酬に立ち往生している。しかし非常な倦怠が辺りを支配している。
130名前なし:2010/01/02(土) 15:46:42 ID:eQFqFgja
叫び  そいつは裏切りだぞ。---いや、もっと悪い、愚かだぞ。---避けがたい形式上の手続きとか何とか言っている、
     フランス銀行の言うことをおめおめ聞いているために、コミューンの人々が、飢えてもいいって言うのか。
     話し合いなど止めてすぐに一個大隊の兵を送って攻撃しろ---
ベスレー  市民諸君、もし諸君が私の仕事にご不満ならば、私は直ちに辞職いたすつもりであります。
        しかし、フランスの財源は我々の財産であり、したがって当然節約を旨とするような
        長官によって管理されねばならない、ということは忘れないでいただきたい。
叫び  君がそう言うのか、それとも総裁がそう言うのか。
ベスレー  私は……融通はきかないが、信義を重んずる男である総裁を、彼の銀行家としての名誉に訴え、
       また合法的な打開策を講じうる彼の才能に訴えることによって、我々の味方につけることができたと自負しております。
叫び  俺は彼に訴えたりする気はないぞ。俺たちは、やつの逮捕を要求する---
     人民が自分の金を手に入れようとするのに、合法的な打開策などというものが必要だろうか。
ベスレー  諸君は、破産をお望みですか。もし諸君が銀行の定款を暴力で破壊したとすれば、
       四千万の銀行兌換券はたちまちにして無価値になりますぞ、貨幣価値というものは、信用の上に築かれているのです。
叫び  誰の信用だ。---銀行家のか。---(笑い)こいつはデリケートな問題だぜ。まあ、その問題について討論したければプルードンを読むさ。
     ---我々は国家を所有したんだ。だから我々の所有物で運営していかなければならない。
ヴァルラン  誰のために? 今回で明らかになったが、銀行のような国家機関を占有することでは、問題は解決しない。
        なぜなら、古い機関は、我々の目的に副うように作られていないんだ。
        だからそれを破壊しなければならない。それには暴力を用いねばならない。
叫び  逮捕するのはよせ! ---この新しい世紀をテロで始めるのはよそうじゃないか! 
     恐怖政治は古い時代でお終いにしよう! そんなことをしたら、我々の平和な仕事は中断されてしまう!
131名前なし:2010/01/02(土) 15:48:31 ID:eQFqFgja
ランジュヴァン  大違いだ! そうすれば、その仕事の組織化に手をつけたことになるんだ。
叫び  銀行の総裁を逮捕しろ。まあ、奴らの新聞を読んでみたまえ。---ブルジョア的な新聞か? 
     俺なんかが奴らの新聞を読んでいると、なぜこいつが禁止されないか、理解に苦しむ!
ベスレー  市民諸君、私はこの問題を秘密会議で扱うように提案したい。
ランジュヴァン  動議あり、今の提案は拒否すべきだ。完全無欠を要求することはやめよう。
           これまでの古い政府は、例外なしに完全無欠たらんと努めた。
           しかし我々は、全ての演説や行動を公開して、民衆に我々がまだ不完全であるということを示そうではないか。
           なぜなら、我々は自分自身以外の何ものも恐れることはないのだから。だから、事を進める。
           僕は二十万フラン支払えば、軍事代表委員がドイツ人から一千頭の騎兵隊用の馬を買えるなどという話はしたくない、
           ドイツ人は何でもかんでも売るさ。僕は賃金の問題に戻って、そしてこの問題をもう一つの別の問題で補足していこうと思う。
叫び  二十万の人間とその家族が、給料で食っているんだってことを忘れるな。国民軍の連中は小銃を持つようになったが、
     この小銃が今までの「左官用のこてや布張り機」の代わりに彼らを養うものでなければならない。
ランヴィエ  私は軍事情勢の問題を討議することを要求する。
ランジュヴァン  今、金のある所、つまりフランス銀行から金を取って来て軍隊に給料を支払うこともせず、
           第一被服廠の下請けをやっている子供たちの手間賃さえ支払っていないじゃないか。私は提案したい。
           賃金引下げの競争をやっていた企業家どもとの全ての仕入れ契約を取り消して、契約はただ労働組合がおさえている工場のみと結ぶべきである。
叫び  二つの問題が出ているが、同時に二つは討議できない。一つにしろ。
ヴァルラン  私はランジュヴァンの提案を支持します。(ベスレーに向かって)しかし、私はまた、銀行を直ちに占領すべしという意見にも賛成です。同じ理由から。
132名前なし:2010/01/02(土) 15:49:54 ID:eQFqFgja
ランヴィエ  しかし、ここでなお軍事的な見地から問題を論議しなければならない。
        ごらんのように、今三つの問題が出ているが、これはあくまでも三つに分けて討議すべきだ。
        なぜなら、君たちには時間がないからだ! 今日のうちに我々の中にある敵を破壊しておかなければ、
        どうして明日砦の前に立ち向かうことができようか。
叫び  こういうすべてのことを処理する力はどこから得たらいいのだ? 我々の力ではとても足りない。
リゴー  今、民衆の要求が論議されているが、なぜ民衆自身の提案に耳をかさないのだ? 
      民衆は直ちにいたる所で、攻撃を開始することを望んでいるのだ。あの民衆の力を信頼しよう、
      市民諸君、もちろんここにも曖昧な態度をとったり、それどころか、怪しげな振る舞いをする人もいるが、
      しかし、ヴァスティーユの監獄を占領し、フランス大革命を宣言し、そして大革命の最初の歩みを守り続け、
      錬兵場で血を流し、テュイルリー宮を占領し、ジロンド党を抹殺し、僧侶や神父どもを一掃し、
      ロベスピエールによって押し戻されながら、草月に再び立ち上がり、二十年間、姿を消していたが、
      軍隊の太鼓の響きと共に再び現れ、また夜の闇に消え、一八三〇年に立ち上がってやがて結集し、
      資本の支配下にあった帝政の最初の数年を戦慄させ、一八四八年には鉄の網を打ち破り、
      四ヵ月後にはブルジョア共和国の息の根を止め、それからもう一度壊滅的な打撃を受けながら、
      一八六八年に再び若返って爆発し、帝国を揺すぶり、帝国を崩壊させ、再び外敵の侵入に対抗し、
      再び罵られ、傷つけられ、ついに三月十八日には自分たちを滅ぼそうとした敵を壊滅することのできたあの民衆の力、
      あの民衆の力を信頼しようじゃないか。我々はここにおいて、民衆一人一人の盛り上がる要求の働きかけを退ける何の理由も持っていない。
      民衆は企業体と銀行を直ちに自分自身の政府に接収することを要求し、また、全ての方向での闘争を要求しているのだ。
      しかし、何よりもまず、ヴェルサイユへの進撃を要求しているではないか。
133名前なし:2010/01/02(土) 15:51:02 ID:eQFqFgja
叫び  そうだ、内乱(市民戦争)だ! ---血を流すのだ! ---少しこの場で暴力という言葉を使いすぎはしないだろうか、気を付けろ。
リゴー  (新聞を取り上げて)それじゃあ、パリの街頭で行われている言葉に耳を傾けてくれたまえ。
      私はラ・ソシアール新聞から引用させていただく。この新聞は我々に好意を持っている少数の新聞の一つだ。
      「市民代表委員諸君。ヴェルサイユへ進撃せよ。諸君は二二○の国民軍大隊を背後に持つことになろう。
      全ての大隊は君たちの味方だ。何を待っているのか? 忍耐にも限度があるぞ。ヴェルサイユへ進撃せよ。
      パリが君たちを信頼しているように、君たちもパリを信頼せよ。ヴェルサイユへ進撃せよ。
      市民諸君、我々は権力を要求することによって、権力を拡大しようではないか!」

(騒ぎは静まる)

叫び  君は自分が書かせたことを引用しているのだろう! 無責任な奴らだ! 我々は銃剣なしに進軍するのだ。
リゴー  ところが我々は……銃剣を突きつけられているのだ。なるほど、マルセイユやリヨンでは赤旗がひるがえっているが、
      ヴェルサイユは農村や地方の無知と偏見を武器として敵対している。我々はこの抵抗の炎を地方にも広げていかなければならない。
      まず、パリを取り巻く鉄の帯を破壊し、各地の大都市を驚かせてやろうではないか。

叫び  それは軍事的な冒険主義だぞ! ---やめろ! ---コミューンは内乱に終止符を打ったはずだ! 
     ---動議、会議は平和な議事を取り上げること、パリを冒険主義の手に委ねるような無思慮な連中の試みには耳をかすまい。
     了解。しかし、私は敵方の新聞を禁止することを提案します。
     その新聞名は「ル・プティ・モニトゥール」「ル・プティ・ナショナール」「ル・ポン・サン」
     「ラ・プティット・プレス」「ラ・フランス」「ル・タン」であります。
     まあ、自分の周りをよく見回してこの会議の原則を勉強したらどうだね!

(リゴーやヴァルランを取り巻く連中の笑い。その間に議長は一つの報告を受ける)

議長  市民代表委員諸君、私はこの会議を全く新しい方向に向けるような報告を、ただいま受け取りました。
134名前なし:2010/01/02(土) 18:30:07 ID:eQFqFgja
市庁の回廊。代表委員や国民軍の兵士たちが広間に入って行く。新聞売り子が、オフィシャル(官報)を売っている。
135名前なし:2010/01/02(土) 18:31:27 ID:eQFqFgja
新聞売り子  ル・オフィシャル(官報)! ヴェルサイユの傀儡政府は攻撃を開始! 
         教皇麾下のアルジェリア連隊と帝国地方警察軍が、ヌイイーに侵入! 負傷者の中には婦女子! 
         十七歳から三十五歳魔での全ての市民に動員令! ヴェルサイユの傀儡政権は攻勢に移る!
年取った乞食  (売り子に近付いて)すまないけど、パンがないかね。
新聞売り子  乞食は禁止されてるのを知らないのか。ヴェルサイユは内乱の火蓋を切る!
乞食  じゃあ、俺の胃袋がグーグーなるのも禁止されてるのかよ、ええ?

(代表委員たち、会議を終わって出てくる。代表委員たちが話し合う)

代表委員  こんな少数の部隊によって企てられた奇襲攻撃というやつは全く自暴自棄の行動というべきですな、
        地方選挙でも、ティエール氏には不利な結果が出たようです。
乞食  (代表委員たちを階段の下で捕まえて)旦那、失礼ですが、軽気球をお目にかけたいんです。
     この軽気球はたった今パリを飛び立ったところで、今あそこの家の屋根の辺りに見えますよ。
代表委員  ははあ、ソシアール号っていう気球かね? へえ、飛び上がったかね?
乞食  布告や、宣言文をたくさん載せてね。何でも田舎に撒くチラシが一万枚のっているそうです。
     土地は百姓に分配されますぜ。ただし、これは軽気球からの布告ですがね。
     私は田舎からやって来たので、事情はよく知っていまさあ、皆さんに軽気球をお目にかけます。

(代表委員たち、窓越しに外を見る)

乞食  旦那、ほら、あれが軽気球で。
代表委員  じゃ、君は百姓なんだね、爺さん。
乞食  オーベルニュのサンタントワーヌの百姓でさあ。
代表委員  じゃ、なぜここに来ているのかね。
乞食  まあ、あっしをよくごらんください。これで、耕作機がひけるとお思いですか。そういう仕事は若い者のやることでさあ。
136名前なし:2010/01/02(土) 18:32:22 ID:eQFqFgja
代表委員  君はパリの親類の所に来たのかい。ええ?
乞食  そこには、あっしの入る余地はありませんや。
代表委員  君はコミューンについてどう考えているかね?
乞食  旦那、失礼を願ってお答えいたします。あなた方は、最善を求めていらっしゃる。
     何でもかんでも分配しちまおうとしちゃいるがね。神様が旦那方をお護りくださるように。
     ところで旦那、今の軽気球ですがね、観覧料を十サンチームいただきたいんで。
代表委員  しかしなぜ君は土地の分配に反対なのかね?
乞食  だって旦那、分配の前に取り上げるわけでしょう?
代表委員  だけど、君は取り上げられる方じゃないじゃないか。君はもらう方なんだぜ。
乞食  失礼でございますが、旦那。取り上げられるんでさあ。たとえば私の家屋敷は今でも手元にあるでしょうか? 十サンチームいただきたいんで。
代表委員  だってその家屋敷は君の子供たちに譲ったんだろう、ええ?
乞食  そうでしょう?
代表委員  しかし、親が子に土地を譲ると何もなくなってしまうっていうのは、もともと君たちの持っている土地が少ないからだよ。
乞食  失礼ですが、軽気球の観覧料十サンチームいただけないでしょうか。軽気球はすぐ見えなくなっちまうんで。
代表委員  君たちのサンタントワーヌにも地主がいるかね?
乞食  そりゃもちろんですよ。ド・ペルジュレ様でございます。
代表委員  君はその地主が好きかね?
乞食  そりゃね、旦那、地主の旦那は自分の財産をがっちり離すまいとしますわね。
137名前なし:2010/01/02(土) 18:33:12 ID:eQFqFgja
代表委員  (頭を振って十サンチーム払いながら)敵だぞ。乞食をしながら、お前は所有物をお前から物を盗んだ泥棒の所有物を弁護してやがる。
        ああ、こんな連中の教育をやり遂げるには何年かかったって足りないや。(退場)
乞食  (新聞売り子に貨幣を見せながら)十サンチーム儲かった。軽気球さまさまだ。全く馬鹿が多いよ。自分でそっちを見れば見えるのにな。
新聞売り子  負傷者には婦女子! さあこっちへ来な。人をペテンにかけたりするのはやめるんだ。
         俺の新聞包みを一束取って、別の階段の口へ行って呼び声をやってくれ。一枚売れれば一サンチーム儲かるぞ。

(乞食に一束渡す。乞食は新聞売り子の呼び声を真似て復唱する。二人で)

二人  ル・オフィシャル(官報)、十七歳以上の全ての市民の動員令!
138名前なし:2010/01/02(土) 18:34:02 ID:eQFqFgja
コミューンの夜の会議。二、三の代表委員は書類を扱い、他の連中は互いに討議している。
一人の代表委員は子供を連れた女の相談にのってやっている。
139名前なし:2010/01/02(土) 22:12:59 ID:eQFqFgja
議長  この会議が軍事作戦にまで干渉するということは得策ではないし、
     それに我々はマルメゾン付近およびマルメゾンにおける戦闘状況はよく知らないが、しかし会議を進めよう。ランジュヴァン君。
ランジュヴァン  動議。共和国の第一の原則は自由であることを考えた上で、良心の自由は全ての自由の中で第一の自由であることを考え、
           また、僧侶は専制君主国内の自由に対する犯罪の共犯者であったことも考えた上で、
           コミューンは教会を国家と分離するという布告を行うこと---この件のために、
           私は教育代表委員の同意を得ることを求める。教育は、十字架や、マドンナや、
           その他の象徴的な対象物を教室から除去し、除去された物品で貨幣を鋳造することを提案したい。
議長  (差し上げた手を数えながら)採択。
叫び  カトリックのシスターたちが負傷したコミューンの同志をろくに看護もしないという訴えが行われています。
     ---計画中だった病院内の読書室のことはどうなる? 多くの労働者にとっては、病院で過ごす時間だけが学習できるわずかな時間なんだ。
議長  (報告を受け取る)市民代表委員諸君、前線から帰還された中隊長アンドレ・ファローが、
     重症の身でありながら君たちの前に現れて報告を行いたいと望んでおられる。

(国民軍の一人の士官が担架にのせられて運び込まれる)

議長  ファロー君、君の発言を求めます。
士官  市民代表委員諸君、アニスエールは我が軍の手に落ちました。

(興奮、叫び、コミューン万歳など)
140名前なし:2010/01/02(土) 22:14:22 ID:eQFqFgja
士官  軍事代表委員の許可を得て、私は負傷のために戦場から離れた機会に、諸君たちにある種の欠陥を考慮に入れていただきたいことをお願いする。
     この欠陥が君たちの軍隊の行動を困難にし、勝利を非常に犠牲の多いものにしているのだ。
     我々国民軍は獅子奮迅の勢いで戦うが、しかし、武装に関しても、獅子のように無関心だ。
     大砲にも個人および自分の地区の作った大砲の所有権というものがあり、それに縛られて、
     一七四〇門ある我が軍の大砲のうち、戦闘には三二〇門しか使えなかったのだ。
叫び  我々の軍隊の性格を忘れないでくれ。こういう特色は世界の歴史にもまだなかったようなものなのだ。
     ---各地区や個人の大砲というものはみんな自分たちが金を出し合って作った大砲なんだからね。市民中隊長?
士官  しかし、その用途まで所有者が決めるのでは困るのだ、代表委員諸君。
     多分、彼らが自分たちで大砲を作ったのも、自分で大砲をどこに並べるかということまで指図することじゃないだろう。
     我が軍の大砲はまるで小銃みたいな、或いは無用の長物のような使われ方をしている。そして誰でも大砲を撃ちたがる。
     ところが弾薬庫を引っ張ろうという志願者は誰もいないのだ。そしてめいめいが勝手に自分の指揮官と戦場を選ぼうとしているのだ。
ヴァルラン  中隊長、君はどういう経歴の方ですか?
士官  僕はヴァンセンヌの砲兵学校を卒業し、正規軍の大尉でした。
ヴァルラン  なぜあなたはコミューンの味方になって戦っているのですか?
担架を担いでいる一人  この方は我々の味方です。
ヴァルラン  コミューンがつい二日ほど前に、将軍という位階を廃止するという訓令を出したのはご存知でしょう。
        (士官は沈黙する)多分あなたは、国民軍の命令権は経験のある士官に譲れという提案をされたいのでしょう?
士官  代表委員諸君、戦争も職業の一つです。
141名前なし:2010/01/02(土) 22:16:16 ID:eQFqFgja
ヴァルラン  あなたはこの提案を軍事代表委員の了解を得てなさっているのですか? 軍事代表委員はここに出席していませんが。
士官  軍事代表委員は、戦術の全ての規則に反して、自分も最前線で戦っているんです。
ランヴィエ  代表委員諸君、私はこの方のお考えは、命令を廃止するためには、自分が命令することを習得していなければならないという見解だと思います。
        市民ファロー、あなたの負傷が速やかに回復されることを祈ります。この会議が沈黙しているということで誤解をされないでください。
        沈黙しているのは、度し難い頑迷さからではありません。我々の困難は途方もなく大きいのです。
        いまだかつて経験されなかったほどの困難ですが、しかしそれは必ず克服されるでしょう。コミューンはあなたの報告に満足の意を表します。

(士官、運び去られる)

ランヴィエ  市民代表委員諸君。諸君は今、勝利の報告と真実の報告を耳にされたわけです。この二つを十分に生かそうではありませんか。
        我々は軍隊を持っているが、敵側には経験のある将校がいます。しかし、敵は我々のような軍隊を持っていない。
        これまでは敵と反対の面ばかりを強調しようとする人が多かった。
        それにも根拠はあるが、しかし、その不信の念は克服していこうではありませんか。
        全ての人間が諸君に対して敵対しているわけではありません。
        どうか、我々コミューンの同志たちの感激というものに知識を加えることを忘れないでいただきたい。
        そうすれば、勝利は諸君のものとなるでありましょう。

(喝采)
142名前なし:2010/01/02(土) 22:17:45 ID:eQFqFgja
コミューンの会議
143名前なし:2010/01/02(土) 22:31:57 ID:eQFqFgja
議長  市民代表諸君、私はヌイイー付近の作戦が有利に展開しているという報告についての討議をこれで終わり、
     諸君に、昨日、アウグスト・ベーベルが、ドイツ帝国議会で発言した言葉を朗読したいと思います。
     「全てのヨーロッパのプロレタリアアートおよび自由への共感を胸に抱くところの者は、パリを見守っている。
     パリのプロレタリアの戦場での叫び、『貧困と怠惰に死を与えよ』というあの叫びは、
     全てのヨーロッパのプロレタリアアートの戦場での叫びとなるであろう---」
     市民諸君、ドイツの労働者に敬意を表するために起立をお願いします。
ヴァルラン  (穏やかに)労働者インターナショナル万歳、万国の労働者、団結せよ。
144名前なし:2010/01/04(月) 10:12:46 ID:87F8Zkfk
フランクフルト、オペラ「ノルマ」が上演されている。貴賓席のドアから胸甲騎兵の制服を着たビスマルクと平服のジュール・ファーブルが登場。
145名前なし:2010/01/04(月) 10:15:10 ID:87F8Zkfk
ビスマルク  (煙草に火をつけながら)ファーブル、君にもう一言いいたいことがあるんだが、
         ははあ、君はもう真っ青になったじゃないか、うん? どうだ、
         君たちはこのフランクフルトで平和条約に署名したが、しかし、パリでは一体何が起こっているのかね、君? 
         いい加減であの赤旗をパリの市庁から引きおろせないものかね。あの連中の恥知らずの騒ぎが気になって、
         わしはもう、二晩も三晩も眠れなかったよ。あれはヨーロッパに非常によくない前例となるよ。
         ソドムとゴモラの街のように硫黄とコールタールで根絶してしまわなければならない。

(貴賓室の扉が開け放しになっているので外から聞こえてくる音楽に耳を傾ける)

         凄いぞ、あのアルトマンの声は。女性としてもね、彼女は堂々たる女丈夫だよ。
         さて、そこで(煙草をくゆらせてロビーを回り歩く。ファーブルは従僕のように彼の後に従って歩く)
         君たちはどうも私から見ると、おかしな連中だね。恥ずかしそうに武器の援助は要らないと拒んでおきながら、
         しかし、君たちの捕虜を内密に釈放してくれという、ああ、分かっているよ、分かっているよ。
         表向きは外国の政府に援助してもらってはいけないっていうんだろう? 歌の文句で言えばさしずめ
         「ああ、テオドール、老いぼれ山羊さん、人の前で私のスカートに手を入れちゃ駄目よ」ってやつだろう。
         え? (再び音楽に耳を傾ける)あ、ヒロインが今死んだところだぞ、全く大したもんだ。
         ところで、奴らの目論見は実現しない。わしが庇護しているからね。君たちを自由に操るためさ。
146名前なし:2010/01/04(月) 10:16:47 ID:87F8Zkfk
        もちろんわしはあの下らん男を引き渡さないでもない。それで君たちがパリにいる仲間たちに応急策を講じられるというならね。
        こいつはちょっとした不意打ちだろうね。戦争などはどうでもいいが、秩序というやつはなければならない。
        このためならわしは仇敵とだって手を握るよ。ファーブル、密かにね。すぐに君たちに二十万の捕虜を、返してやろう。
        ところで、君たちの捕虜の代償として払う金は持っているだろうな。
ファーブル  その県は、我々の一番頭を悩ましていたところですが、今はその金が調達できると申し上げられます。
         フランス銀行ですよ。我々は今日まで約二億五千七百万を引き出すことに成功しました。
ビスマルク  はあ、そいつは大したことをやったね。そいつは結構だ。それともう一つ、
         例のコミューンの連中と君たちの兵隊が三月十八日の時のように、
         また「交歓」っていうやつをやらかさないと誰が保証してくれるかね?
ファーブル  私たちは確実な穴場を見つけました。つまり農村出身の連中ですよ。
         それにおまけに捕虜になっていた連中の所までは煽動者も近付くことができなかったでしょう。そうでしょう?
ビスマルク  結構だ。どうやら先は見えてきたようだね。しかし、さっきから言っているように、私は事実をまず見せてもらいたいんだよ。
         君、私は君が戦争の賠償金支払いをパリの平定化が済んでから始めるという許可を与えたが、大馬力で急かしてもらいたいね。
         (耳を傾ける)やあ、彼女の歌ときたら全く素晴らしい。それに誤解が生じないようにね。
         ファーブル、最初の小切手はブライヒレーダーに送ってくれたまえ。あいつなら大いに信用できる。
         彼はわしの私的な銀行家でね。私は是非お願いしたいが、もちろん彼も、
         コミッションを取れるようにしてくれたまえ。全くこのアルトマンは素晴らしい歌手だね。
147名前なし:2010/01/04(月) 10:17:28 ID:87F8Zkfk
市庁。夜遅く。広間は空っぽ。まだ仕事をしているランジュヴァンをジュヌヴィエーヴが迎えに来る。
148名前なし:2010/01/04(月) 10:18:33 ID:87F8Zkfk
ランジュヴァン  あなたは、子供の給食の金がないという訴えをなさっている。
           昨日、ベスレーがバリケード構築のために、銀行と交渉して意気揚揚として持ってかえった金が、いくらかご存知ですか? 
           わずか一万千三百フランですよ。我々は何という誤ちを続けているんだ。これまでだって何という誤ちをしてきたことだろう! 
           もちろん、あの時、即座にヴェルサイユに進撃すべきだったのだ、三月十八日にね。
           あの時、それだけに時間があったら! だが民衆ってものには、一時間の猶予もないのだ。
           全ての武器を備え、いつでも攻撃態勢に入れるようにしておかないと大変なことになるぞ。
ジュヌヴィエーヴ  でも、その民衆は素晴らしいですよ。私は今夜チュイルリーの野戦病院慰問の音楽会に行ってきました。
             せいぜい二、三百の聴衆しか来ないだろうと思っていたのに、なんと一万人も来たのです。
             私は見渡すことも出来ないほどの人波の中にいました。誰も苦情なんて一言も言わなかったわ。
149名前なし:2010/01/04(月) 14:46:49 ID:87F8Zkfk
ランジュヴァン  みんなは我々を我慢してくれているんだなあ。(壁にかけてある札を見て)
           一、生きる権利、こいつだ、しかし、どうやったらこの権利を遂行できるだろう。
           それから他の個条も、ごらんのように、みんな素晴らしいうたい文句だが、どうやったらそれが現実になるのだろう? 
           第二はどうだ。金儲けのために商売をし、民衆を食い物にして暮らし、民衆に対して陰謀を働き、
           民衆の敵のために奉仕するというのも、個人の自由のうちに入るのだろうか? 
           第三、みんなは、自分の良心にどのような掟を設けているのだろう? 
           私はあなたに言いたいが、支配者どもに押し付けられた掟が民衆には子供の時から頭に染み込んでいるのだ。
           第四。こいつのおかげで、株式市場のワニザメどもや、すぐに買収されるマスコミの烏賊トンビども、
           屠殺者のような将軍や全ての残酷な小悪党どもが、ヴェルサイユに終結し、
           第五条によって保証されている「精神的な」表現の自由というやつを使って我々に攻撃を仕掛けることが許されているのだろうか? 
           嘘を言う自由さえ保証されていないか? しかも、第六条では我々はこういう詐欺師どもの選挙さえも許しているじゃないか! 
           学校や教会や新聞や政治家の手で惑わされた民衆の手で選挙されるのだ。
           そして、あれだけの財宝を隠しているフランス銀行を占拠する我々の自由の方はどこにあるのだ。
           あの富は我々が素手で築き上げたものだ。この金を使えば我々は全ての将軍や政治家連を買収することだってできたはずだ。
           フォン・ビスマルク氏さえ抱きこめたさ。我々はただ一カ条だけを布告すればよかったのだ。我々が生きる権利というのをね。
150名前なし:2010/01/04(月) 14:47:43 ID:87F8Zkfk
ジュヌヴィエーヴ  なぜそうしなかったの?
ランジュヴァン  自由ってものがまだよく分かっていなかったからだ。生死を賭けて戦っている国民軍の兵士たちと同じように我々も、
           万人の自由を勝ち取る日までは、個人的な自由はしばらく棚上げしておくことに踏み切る準備ができていなかったのだ。
ジュヌヴィエーヴ  でも、せめて私たちの手だけでも血に染めないようにできないのかしら。
ランジュヴァン  できないね。この戦いでは手を血に染めるか、さもなければ、手を切り落とされるか、どちらかなのさ。
151名前なし:2010/01/04(月) 14:48:32 ID:87F8Zkfk
コミューンの会議。報告をもたらす国民兵たちが、出たり入ったりしている。代表委員たちは時々急いで会議場に出て行く。
全てが極度に疲労した兆しを見せている。遠くの大砲の響きが聞こえるようになった時、会議の運行が活発になってくる。
152名前なし:2010/01/04(月) 14:50:27 ID:87F8Zkfk
ドレクリューズ  市民代表委員諸君。ただいま諸君の聞いておられるのはヴェルサイユ側の大砲の音であります。最後の戦いが始まりました。(間)
リゴー  公安委の名において私は、第十一区の婦人代表団に出席してもらいました。
      こういう大事な時に当たって、パリの民衆のある種の希望を述べてもらおうと思ったからです。

(同意の声)

ドレクリューズ  市民諸君、諸君は私を軍事代表委員に選んでくださった。
           戦争の損害を除去し、国家間の戦争を階級的な戦争に変えるという偉大な任務と、
           敵ビスマルクの手によるヴェルサイユへの十五万の戦争捕虜返還といったような外部からの攻撃、
           こういった全ての問題が山積しているので、我々は今まで、とりわけ優れた力を、
           戦争行為という我々に最も縁の遠い新しい領域において発展させていくだけの時間がありませんでした。
           我々は全ての将軍たちと軍事力の発展に尽くした。ところが我々自身と同じ階級から、
           したがって下級の兵卒から身を起こしたこの将軍たちは、新しい武器にあまり通暁していません。
           特に我々目掛けて放たれる新しい武器のことをよく知らない。それに新しい軍隊にも理解がない。
           工場主たちに縛られた奴隷状態から自らを解放した我々の戦士たちは、戦場でも傀儡のように上官に命令されることを拒否します。
           それで訓練を受けた士官たちから見ると、彼らの発展の意欲と大胆さは、訓練の不足のように感じられるのです。
           最高司令官ロセルは、イシイの城塞を救援するために明朝までに一万の兵卒をよこしてくれと要求しました。
           代表委員たちの個人的な努力によって七千の兵士が召集されました。しかし、ロセル将軍にはまだ三千の兵力が不足だったのです。
           そこで、彼はイシイの城塞をヴェルサイユ川に引き渡して退却しました。
153名前なし:2010/01/04(月) 14:51:34 ID:87F8Zkfk
           ヴェルサイユ側は兵営に宿営していて、いつでも攻撃に移れる体制です。もう少し申しますと、
           ロセル氏は、反動的な新聞に完全に敗北したという公式声明書を発表しています。
ランヴィエ  お偉い外科医というものは、手術の必要に迫られるとその手をリゾールで洗うが、リゾールがないとすればすぐ無実で洗うものだよ。
ドレクリューズ  さて、最後の決戦の状況ですが、市街戦が全てを決定します。
           戦争の専門家からは軽蔑されているが、目下の問題はバリケードであります。
           住民が街や家を守る個人的な戦争であります。市民代表委員諸君、
           我々は普通の仕事に取り掛かるようにこの戦いに取り掛かろうではありませんか。
           きっとうまくやれます。市民諸君、たとえ、我々の敵どもがパリを墓場と化することに成功しても、
           永久に我々の思想の墓場にはならないのであります。

(大きな拍手。多くの者が起立する。三人の女労働者が、国民兵に連れられて来る)

ドレクリューズ  市民代表委員諸君、第十一地区の女性代表団です。

(集会は静かになる。二、三の代表委員が女性たちの所へ降りて来る)

一人の代表委員  皆さん、皆さんがいらっしゃったので市庁は春のようになりました。
女  ご心配要らないわ。(笑う)私はあなた方宛ての書類を持っているのです。短いですよ。
叫び  二十ページはありそうだぜ!
154名前なし:2010/01/04(月) 16:56:32 ID:87F8Zkfk
女  静かになさい。おちびさん。これはみんな署名なんですよ。五百五十二人の署名ですよ。(笑い声)
   市民代表委員の皆さん、昨日の午後、私たちの地区にポスターが張られました。
   そのポスターは、私たちパリの女に、いわゆるヴェルサイユの政府と和解の仲立ちをしたらどうかと勧めているのです。
   私たちの答えはこうです。自由と専制主義の間には和解はない。民衆と民衆の処刑者の間には和解はない。
   男女の労働者の持ち場は今やバリケードです。九月四日にはこういうことが言われたではありませんか。
   私たちの城塞が取られてもまだ私たちの城壁がある。私たちの城壁が取られてもまだ私たちのバリケードがある。
   私たちのバリケードが取られてもまだ私たちの胸がある。

(賛成の声、喝采)

   私たちは、この言葉を少し変えました。バリケードが取られてもまだ私たちの家がある。私たちの家が取られてもまだ私たちの爆弾がある。
   (賛成の拍手、高まる)こう申し上げたのは実は、皆さん、コミューン代表委員の方たちに訴えたいからなのです。
   あなたたちも決して斧を鋤に変えないでいただきたい、と。市民の皆さん、四日前にラップ街の弾薬夾製造所が爆破されました。
   四十人以上の女子労働者が負傷し、四軒の建物が崩壊しました。爆破を企てた連中はまだ明らかにされていません。
   でも、なぜ自分から進んで志願したものだけが仕事にかかり、戦争をするのですか? 
   市民代表委員の皆さん、我々は皆さんに苦情を申し上げに来たのではありません。分かってください。
   しかし、女の市民の一人として、私たちはコミューンの委員たちの弱さを、あら、失礼しました、ここの所は文章が変わっています。
155名前なし:2010/01/04(月) 16:58:13 ID:87F8Zkfk
    二、三の代表委員の弱点、あ、失礼しました。私、ここの所はよく読めません。消してあります。
    二、三じゃなくて、多数の、あら、皆さん、私たちの意見はまとまっていないようです。(笑い)
    いいですわ。とにかく、二、三のコミューンの委員の弱さが、我々の未来の計画を台無しにしてしまうことを私たちは恐れているのです。
    皆さんは、私たちに約束なさいました。我々の子供を立派に育ててくださると、
    私は、子供たちがヴェルサイユの連中に落ちるくらいなら、むしろ死んでくれた方がいいと思います。
    しかし、弱さのために子供を失うのは嫌です。第十一地区の五百五十二人の署名、ではさようなら、委員の皆さん……(女たち、退場)
ヴァルラン  (勢いよく起立して)市民代表委員諸君、ヴェルサイユの兵士たちの妻は泣いております。泣いているということです。
         しかしながら我々の兵士の妻は泣きません。君たちはこの女性たちを手をこまねいたまま敵の手に渡してしまうつもりですか。
         敵は手段を選ばないのです。二、三週間、我々の間でこういうことが言われました。
         「軍事行動は必要ない、ティエールは軍隊を持っていないではないか。そんなことをしたら外敵の目の前で内乱を起こすことになるだろう」と。
         ところがわが国のブルジョアどもは、我々に対して内乱を起こすために国家の敵と平気に同盟を結び、
         そして、国家の敵から軍隊を手に入れました。つまり、ヴァンデ県出身の捕虜になっていた百姓の息子たち、
         今まで十分休息を取っていた兵士たちであります。彼らは、我々の影響を受けなかった連中であります。
         ブルジョアとブルジョアの間で、一方が自国または相手国のプロレタリアを敵にまわす時には、
         お互いに手を握るための障害は全くなくなるのであります。また我々の間でこういうことも言われていました。
         「恐怖政治をするのはやめよう。そんなことをしたら新時代と言えないじゃないか」
156名前なし:2010/01/04(月) 16:59:27 ID:87F8Zkfk
        ところが、ヴェルサイユがやっていることこそ、すなわちテロでありまして、
        そのテロが我々を打ち砕き、そして新時代の到来さえも不可能にすることだってありうる。
        もし我々が壊滅的な打撃を受けたならば、その場合には、それは我々のおとなしさのせいであります。
        これは、別の表現を使えば、だらしなさと言ってもよいかもしれない。
        そしてまた、それは我々の平和愛好精神のためであり、別の見方をすれば無知のためだとも言えるでしょう。
        市民諸君に申し上げたい。もういい加減に敵の正体を学んでいただきたいと。

(拍手と不安、喧騒)

リゴー  市民諸君、これでもまだ諸君の仇敵への思いやりを口になさることをお止めにならないのであれば、
      どうか今聞こえてくる砲声に耳を傾けてください。

(静かになる。砲声が、再び聞こえてくる)

      どうか、敵が和解の手を差し延べてくるだろうなどとお考えにならないでください。
      敵が目下、大攻勢に移ろうとしていうこの時に、パリにはスパイや、サボタージュ煽動者や、敵の手先がいたる所に溢れているのであります。
      (彼の鞄を高く差し上げて)私はここにたくさんの署名を持っておりますが、この署名を数週間来いつも諸君にお見せしていた。
      目下、パリの大司教はただお祈りをしているばかりではない。
      フランス銀行の総裁は、君たちには渡さないでいる民衆の金の使い道を承知しているのであります。
      カーンの城塞は、十二万フランでヴェルサイユに売り渡されました。
      ヴァンドーム広場の軍事的な記念碑の瓦礫の間で、白昼公然と我々の城塞の精密な図面が取引されております。
      我々の怒れる女性たちは敵側のスパイをセーヌ河に投げ込んでおります。その手先をまた救い出してやろうというのでしょうか。
      一方、ヴェルサイユでは、二百三十五人の捕虜になった国民兵が、まるで狂犬のように銃殺されました。
      そして、また我が軍の看護婦たちも銃殺されているということであります。我々はいつこれに対する報復処置を取り始めるのでしょうか?
157名前なし:2010/01/04(月) 17:00:30 ID:87F8Zkfk
叫び  市民、俺たちもその問題を随分議論した。敵が人間性に対して加えているやり口を
     我々はやらないと確認したじゃないか。敵の連中は人非人だが、俺たちは違うぞ。(喝采)
ヴァルラン  人間性を取るか、非人間性を取るかという問題は
         「彼らの国家か、しからざれば我々の国家か」という歴史的な問題によって決定されるのだ。
叫び  我々は国家なんか要らないんだ。抑圧をしたくないからな。
ヴァルラン  彼らの国家か、我々の国家か、どちらかだ。
叫び  俺たちが自分で抑圧を始めるようになったら、自分を抑圧から開放することもできない。我々は自由のために戦っているんだ。
ヴァルラン  君たちが自由を欲するならば、抑圧者を抑圧しなければならないじゃないか。
         そして、君たちの自由の中で真に自由なもの以外は、全部放棄すべきだ。
         抑圧者と戦うだけの自由を持っていればいいのだ。
リゴー  テロに報いるにはテロをもってせよ。抑圧されるか、抑圧するか、食うか食われるかどちらかだ。

(大きな不安、大きなどよめき)

叫び  違う、違う。---独裁者になってしまうぞ、独裁政治になってしまうぞ。
     明日になれば君たちは今度は俺たちをやっつけると言うかもしれない。
     パリの大司教の死刑執行を要求する連中は、それに反対する我々まで
     血祭りに上げようとしている。剣を取るものは剣によって滅びるのだ。
ヴァルラン  (非常に大きな声で)では、剣を取らなければどうなる?
叫び  コミューンの寛大さは必ず実を結ぶだろう。コミューンは、ギロチンを燃やしてしまったとコミューン自身が発表すべきだ。
158名前なし:2010/01/04(月) 17:04:48 ID:87F8Zkfk
リゴー  そして、銀行も相変わらずそのままにしておくわけか! 大変な寛大さだ! 
      市民諸君、コミューンはティエール側で戦死した兵士の孤児を引き取るという決議をしました。
      コミューンは九十二人の殺害者の妻たちにもパンを与えています。未亡人にはいかなる旗も存在しない。
      共和国は、貧困に悩む者全てにパンを与え、そして全ての孤児にキスを与えます。それは結構だ! 
      しかし、私がこういう寛容の精神の積極的な反面と呼ぶ、殺人に対する対抗措置はしないでいいのか? 
      まさか、戦場の敵の戦闘員にまで同じ権利を与えろとは言わないだろうな。
      なるほど、民衆はレスリングの選手や、商人たちのような戦い方はしない。
      それに、こういう商人たちの利益を認めている国家間のような戦い方もしない。
      民衆は、ちょうど裁判官が悪人に対するように、医者が癌細胞に対するように戦うのだ。
      しかもなお私は、テロに対してはテロをという要求を出すのである。テロを行使する権利を所有しているのは我々だけれどもね。
叫び  これは涜神だ! 暴力の使用は、使用した者の手を汚すということを君は否定するのか?
リゴー  いや、私はそれを否定はしない。
叫び  発言を引っ込めろ。まるで俺たち同士の信用をお互いに失い合うような喋り方じゃないか。
     まあ、周りを見渡してみたまえ。我々の数は三月の頃ほどもう多くはないのだ。
     ドレクリューズ、喋りたまえ! ドレクリューズ、ドレクリューズ。
159名前なし:2010/01/04(月) 18:45:05 ID:O4raieU5
ドレクリューズ  市民諸君、ごらんの通り私は決断いたしかねております。本当にそうです。
           私もこれまで暴力というものに向かって反対の叫びをあげられる限り堂々と反対の声をあげてまいりました。
           私は、以前にはこう申しておりました。
           「正義もまた、暴力を必要とするというような頭に染み込んだ意見は撤回しろ。
           今度こそ正義というものに武器を使わずに勝利を収めてみようではないか。
           虚偽は血をもって書かねばならないが、真理はインクで書くことができる」と。
           私はいつも言っておりました。
           「もう二、三週間もすれば、パリのコミューンは他の政府が八世紀かかってもできなかったほど多くの成果を人間の尊厳に付け加えうるであろう。
           我々は静かに前進しながら、人間関係の中に秩序を作り出していき、人間の人間による搾取というものをこれっきりでお終いにしよう」
           こう私は言い続けてきました。
           「害虫以外の全ての人間に役立つ我々の仕事に献身すれば、ヴェルサイユにいる、たかが五十人くらいの搾取者どもは、
           自分の周りの奴隷の群れが、春の日を浴びた雪のようにいつかは消えてなくなっていくのを知るだろう。
           純粋な怒りによって清められた理性の声は、我々に襲いかかろうとする者たちの足を止めてしまうだろう。
           我々が彼らに向かって一言、君たちも我々と同じ労働者なんだ、と叫びかけさえすれば、
           敵の手先の兵卒は、我々の胸に身を投げてくるだろう」
           そうも言いました。諸君の中の多くの人々もそういう発言をなさっていた。
           しかし、もしこういう発言が、間違っていたとするならば、私並びにそういう意見だった人々を許していただきたい。
           代表委員諸君、現在もなお、報復手段をとることに反対の方は、ご挙手を願います。

(ゆっくりと大抵の者が手を上げる)
160名前なし:2010/01/04(月) 18:51:55 ID:O4raieU5
ドレクリューズ  コミューンは、報復処置反対の意思表示をいたしました。市民代表委員諸君、ただいまから、小銃をお渡しいたします。

(国民兵が腕にいっぱいに小銃を抱えてやってきて、小銃を代表委員たちに分配する)

ドレクリューズ  市民代表委員諸君、我々は、進行中の仕事を続けていこうではありませんか。
           女性教養委員会の執行部が討論の提起をいたします。


奴隷たちよ、君を開放するものは誰だ?
世の下積みの底にあるものが、
君を見つめ、同士よ、そして
君の叫びに耳を貸すだろう
奴隷たちが君を解放するだろう。
一人残らず死ぬか生きるか、全て無かだ。
一人では自分を救えない、
銃か鎖かだ。
一人残らず死ぬか生きるか、全てか無かだ。

飢えたるものよ、君に食を与えるものは誰だ?
一片のパンを切り取りたければ
飢えを忍んでいる俺たちの仲間になれ
俺たちに君の道を教えさせてくれ、
飢えたるものが君に食を与えるだろう。
一人残らず生きるか死ぬか、全てか無かだ。
一人では自分を救えない、
銃か鎖かだ。
一人残らず生き残るか、全てか無かだ。

打ちひしがれたものよ、誰が君の復讐をしてくれる?
奴らに打たれた君、君も
傷つけられたものの戦列に加われ、
あらゆる弱みを持つ僕らは、
同士よ、君のために復讐しよう。
一人残らず死ぬか生きるか、全てか無かだ。
一人では自分を救えない、
銃か鎖かだ。
一人残らず死ぬか生きるか、全てか無かだ。

破壊したものよ、誰がそれをやるだろう?
自らの悲惨を耐えられないものは、
やむにやまれぬ苦しみから、
明日ではなく今日行動することを考えるようになった
人々の仲間に加わらねばならぬ。
一人残らず死ぬか生きるか、全てか無かだ。
一人では自分を救えない、
銃か鎖かだ。
一人残らず生きるか死ぬか、全てか無かだ。
161名前なし:2010/01/04(月) 18:53:31 ID:O4raieU5
ピガル広場。一八七一年、復活祭の日曜日。ジャン・カベー、フランソワ・フォールと二人の子供たちが、バリケードを作る仕事をしている。
バベット・シェロンとジュヌヴィエーヴ・ゲリコーは砂袋を縫っている。
遠くで大砲の音、ジュヌヴィエーヴは自分より大きいシャベルで木の桶の中のモルタルをかき回している子供たちに歌を歌っている。
162名前なし:2010/01/04(月) 18:54:15 ID:O4raieU5
子供たち  マドモアゼル、もう一度歌ってくれる?
ジュヌヴィエーヴ  じゃあ、もうこれでおしまいよ。(歌う)

イースターが来た。セーヌの上では
お爺さんや子供たち、一家みんなの舞踏会
なぜって青いボートは
ペンキを塗ったばかりなの。

森で、イースターの卵を探していると
遠くから聞こえてくるよ、
子供たちが、早くお昼にしてと
騒いでいるのが。

木陰のテーブルで私たちは、
面白かったお話をする、
来年はイヴリーに
魚をとりにいきましょう。

子供  (真似して歌う)魚をとりにいきましょう。
もう一人の子供  (ジャンに向かって)あんたのバベットは時々一緒に寝るの?
ジャン  ああ。
子供  バベットにはあんたの子供が出来たの?
ジャン  ふん、そうさな、あいつは俺に惚れ込んじまったからね。
バベット  あんたが惚れたんじゃないの。
ジャン  何がどうあれ、先に始めたのは向こうさ、そうだよ、みんな。
バベット  なぜ? 私は一言も言わなかったわ。あんたが始めたんじゃないの。
ジャン  そりゃそうだ、君は何も言わなかった、しかし、君の目が何かを訴えていたのさ。
バベット  それじゃ、あんたの目は? (フランソワに向かって)なんであんた、膨れっ面をしているの、ちび君?
163名前なし:2010/01/04(月) 18:55:28 ID:O4raieU5
フランソワ  僕にはね、君が「フィリップはずらかっちゃったわ」と言う時の調子が気に入らないのさ。
        こういう問題は科学的に、つまり怒らないで観察しなくちゃいけないんだ。
        僕はこう思っているんだ、つまりフィリップは我々と違ってこの戦争には勝ち目がないと思った、したがって彼はパリを見捨てたというわけさ。
ジャン  つまり、俺たちを見捨てたってわけだろう? 戦おうとしている俺たちをさ。
フランソワ  見捨てたんじゃない、ただ勝ち目のない戦争をするのが嫌だっただけさ。
ジャン  残念ながら俺たちは、そう簡単にパリを見捨てるわけにはいかないや。
      だってさ、葉っぱは自分の生えている木を見捨てることはできないからな。
      木を見捨てられるのは葉っぱについているアブラムシだけさ。だからあいつはアブラムシさ、あのフィリップは。
フランソワ  お前のその歯の根を叩き折ってやらなきゃいけないな、ジャン。
ジャン  それなら怒らないでやってくれよな。
フランソワ  (絶望的に)ああ、ジャン、俺たちは何も分かっていないんだ。(間)
        君が考えていることを言い換えれば、多分こうも言えるな。
        フィリップは考えることを学ばなかったから格別勇気がある人間とは言えないってね。
ジャン  結構だ。
バベット  もし、私はジャンと一緒の部屋に住むようになったら、ジュヌヴィエーヴ、あんたは部屋代を一人で払える?

(間)

ジュヌヴィエーヴ  いいわ、バベット。
ジャン  やあ、畜生め、君たち女ってやつはどうしていつもそう未来のことばかり話していなくちゃならないんだ?
ジュヌヴィエーヴ  (小声で)彼女は話すのが当然よ、ジャン。
164名前なし:2010/01/04(月) 21:30:02 ID:O4raieU5
フランソワ  具合が悪いのは僕たちが農村と全く切り離されているってことだ。僕たちはフランスに対して何も語りかけることができないんだ。
ジュヌヴィエーヴ  ご自分だってやっぱり理性を持っているじゃないの。
ジャン  バベット、思い出したぞ。俺たちは左官道具を持って来なくちゃいけないや。これだけは確かだ。
      もし、奴らが攻撃を始めたら、パリが奴らの墓場になるだろうってことさ。どうだ、フランソワ。(彼らは働き続ける)

(カベー夫人がやって来る)

カベー夫人  ごめんなさいね、私はなんとしても朝のおミサに行きたくなっちゃったものだから。
         昨日の晩は夜なべして土嚢袋を四つも余計に縫っておいたんだよ。さあ、イースターのプレゼントをあげるよ。
         (フランソワに一つの包みを渡す)
フランソワ  (開けてみる)あ、ラボアジェーだ。ちょうど昨日、僕はラボアジェーであることを調べたいと思っていた所なんだよ。
カベー夫人  ああ、ジュールとヴィクトール、あんたたちには一番先にあげなくちゃいけないところだったね、ごめんよ。

(彼女は、子供たちめいめいに巻きパン一つを渡す)

         ジャン、あんたには蝶ネクタイ。赤旗の隅っこをちょっと失敬してきたのさ。
         パパはぶーぶー言っていたけど、でもやっちゃったのよ。あら、ジュヌヴィエーヴ、
         あんたには何もあげるものがないわね。それじゃ握手だけ。(ジュヌヴィエーヴの手を握る)
         本当に贈るものが何もないっていうのは、嫌な気分だね。そうでしょ? 
         それからこれはあんたに。本当はこれはあんたじゃなくて、別の人にあげる贈り物だけど、バベット、分かるかい、誰のことか、え?

(彼女はバベットにイースターの卵を一つ渡す)

         その坊やは来年のイースターにもきっとこういう卵をもらいますよ。
ジャン  坊やだって! 女の子だよ。

(一同は笑う)
165名前なし:2010/01/04(月) 21:31:11 ID:O4raieU5
カベー夫人  それじゃ、さあ皆さん、上へあがってください。ほんの一口だけどまだワインもあるんだよ。

(ジュヌヴィエーヴを除いて一同は彼女について行く。ジュヌヴィエーヴも立ち上がった時、二人の尼僧が自分の方へやって来るのを見る)

一人の尼僧  (小声で)ジュヌヴィエーヴ!
ジュヌヴィエーヴ  (彼女に向かって走り寄って尼僧を抱擁する)ギー!
ギー  静かにしろよ、酷い目にあったか?
ジュヌヴィエーヴ  でも、あなたはなぜそんな、そんなものを着ているの? 七ヶ月ぶりね!
ギー  僕をそっと君の部屋に連れて行ってくれないか? 一人で住んでいるのか? 
     それと剃刀をどこかで都合してくれないか、畜生、髭がこんなにのびてきやがって!
ジュヌヴィエーヴ  でも、どうしてそう隠れなければいけないの? 
             あなたはやっと帰ってきて、もう安全なわけじゃないの、捕虜収容所から脱走して来たの?
ギー  違うんだ。後でみんな説明するよ。君の部屋に入ってから。
ジュヌヴィエーヴ  でも、もう私は一人で住んでいるわけじゃないのよ。バベットと同じ部屋、あの人がいつ帰ってくるか分からないわ。
             あなたが誰かに見られたくないっていうつもりならね。ギー、あなた、まさかこのパリのコミューンに反対なんじゃないでしょうね、
             ティエールの味方じゃないでしょうね?
ギー  えっ! 君、まだ相変わらずあのインターナショナルの連中の味方なのか? 奴らがあれだけ残酷なことをしていても。
ジュヌヴィエーヴ  どんな?
166名前なし:2010/01/04(月) 21:32:29 ID:O4raieU5
ギー  最低のさ。革命とヒューマニズムを夢見る宣言の時代は終わったよ。もうこれからは冗談ごとじゃ済まなくなるぜ。
     フランス全体がもうこういう略奪や、暴行沙汰はご免だって言っているよ。
ジュヌヴィエーヴ  それであんたは、あの首切り人のティエールのスパイになったというわけ?
ギー  ジュヌヴィエーヴ、ともかく俺たちは、往来でこういうことを決めるわけにはいかないよ。
     俺はもう見られてしまった。君を巻き添えにしたくない。この酷い髭面じゃ、どうしても隠れざるをえないよ、
     何といったって僕らは婚約しているんだし、いや、していたんだし、と言った方が今のところはいいかな。
     まさか、僕をあの犬みたいな連中の間へ追い払うつもりはないだろう。
     それにサン・ジョセフ修道院のシスターたちもこの件に巻き込まれているんだ。
     たしか、君だってカトリックだろう。それとももう手を切ったのか?
ジュヌヴィエーヴ  ええ、ギー。
ギー  これは大変な贈り物だ! 何でもかんでも往来でこういうことを一時に聞かされちゃかなわないよ!
ジュヌヴィエーヴ  往来っていうのはとてもいい場所よ。私たちはこれから自分たちの住まいを往来で守ることにしたわ。
ギー  君、それは本当に気違い沙汰だよ。ヴェルサイユは攻撃開始を決定したぜ。三軍団だ。もし、君が俺にナイフを突きつけようっていうなら……

(彼は尼僧の服の下からピストルを探る。「パパ」はちょうどココと一緒にやって来て終わりの光景を見ていたが)

「パパ」  ああ、ちょっと待った、ムッシュー。(小銃の狙いをつける)お嬢さん(マドモアゼル)。
      あんたはなかなか面白い友人を持っておりますな。
ジュヌヴィエーヴ  ムッシュー・ギー・シュイトリー。私の前の許婚なの、「パパ」

(ギーと一緒にやって来た尼僧たちは突然逃げ出す)
167名前なし:2010/01/04(月) 21:33:45 ID:O4raieU5
「パパ」  おーい、ココ、あの尼さんを捕まえておけ。それからあいつもだ。ジュヌヴィエーヴ、説明してください。

(ジュヌヴィエーヴ、ココが尼僧を追いかけている間に)

ジュヌヴィエーヴ  シュイトリーさんはドイツの捕虜だったんです。そしてパリのティエールの仕事をしていたんです。
ギー  ジュヌヴィエーヴ!
ココ  (戻って来る)おっぱいはないが、女らしいぜ。こいつもあの男と一緒に銃殺ですな。
    その後、ちょっくらサン・ジョセフ修道院をご訪問といきましょうぜ。

(彼はギーを銃剣でバリケードの方へつき立てる)

ココ  回れ右。

(フランソワ、やって来る)

フランソワ  ジュヌヴィエーヴ、どうしたんだ? 何事だ?
「パパ」  ジュヌヴィエーヴのギーさんが戻って来たんだな。ビスマルクは、このギーさんをティエールにお返ししてやったんだが、
      それはギーが俺たちの所でスパイをやるためだったのさ。そしてお恵み深いことに、
      サン・ジョセフ修道院の尼さんたちがギーを引き取ってくださったわけだ。(ギーに)後ろを向け。
フランソワ  それ(銃殺)をやっちゃいけないよ。逮捕することしかできないよ。
「パパ」  そうしたらこいつはプチット・ロケットに逃げ込んでまた大司教さんの所でカツレツのご馳走にあずかることになる。
      我々コミューンの連中は残念ながら、サン・ジョセフ修道院とお慈悲の競争をやるわけにはいかないや。
      そんなことをしたら最後にはこっちがみんな壁に並べられて銃殺さ。
      (ギーに向かって)さあ、残念ながら、君はもうピガル街で見たことを誰にも報告できないぞ。
フランソワ  「パパ」、分別のないことはよせよ!
168名前なし:2010/01/04(月) 21:35:32 ID:O4raieU5
「パパ」  へえ、これが分別のないことか。ゲルヴェーズ将軍は俺たちの城塞の一つをヴェルサイユに売り渡したんだぞ。
      それでも俺は分別がない男だというのかね。もちろん君たちは考えるだろう。
      俺は君よりもこの件に深入りしているからそのせいで君たちより激しいんだってな。え! 
      (ジュヌヴィエーヴに向かって)俺たちが始めて会ったあの朝にあったことを覚えているかい。
      あの日、俺は寝られなかったんだよ。この俺がだよ。
ジュヌヴィエーヴ  市民グール、あれから私は学びました。一人がみんなのために、みんなが一人のために戦うんだってことを。
             そして、もしあなた一人を守るようなことになっても、私は決してこのバリケードを退却しないでしょう。
「パパ」  (曖昧に)あなたの言っておいでのことが分かるような気もするよ。
フランソワ  カベーの奥さんだったらそういうことはとても我慢できないだろうぜ。
         「パパ」、ジュヌヴィエーヴに決定させればいいじゃないか。そう慌ててやることはないさ。
         ジュヌヴィエーヴ、君、言ってやれよ、銃殺するのは嫌だって。
         相手が君の婚約者だから助けたがっていると思われるなんて心配は要らないんだぜ。みんなと話せよ。ジュヌヴィエーヴ。

(ジュヌヴィエーヴ、沈黙している)

「パパ」  よし、ジュヌヴィエーヴ、君は家に入りたまえ。
ココ  後ろを向け。

(カベー夫人が子供たちと一緒にやって来る)

カベー夫人  ジャンとバベットは二人だけになりたいってさ。ああ、恋ってものはねえ! 
         これは土嚢を縫うよりはましらしいね。一体何をやってるの、あんたたち?
ココ  こいつは尼さんじゃないんだよ、カベーの奥さん。ジュヌヴィエーヴの婚約者で、今はスパイさ。
169名前なし:2010/01/05(火) 22:06:50 ID:C/O1wXJJ
カベー夫人  なぜこの人は壁の前に立っているの? 気分が悪いんだよ、この人。
         ほら、分かるだろう(一同、沈黙)駄目だよ。銃殺はやっちゃいけない、イースターの日曜日だよ。
         それに子供たちのいる前で、子供たちの前でだけは絶対にいけないよ。この男は警察に引き渡せばいいじゃないか。
         それだって、ジュヌヴィエーヴにとっては辛いことだよ。さあ、一緒においで、ワインを一杯飲もうよ。
         ワインでも飲まなくちゃいられないでしょ。ここでともかく馬鹿なことはおよし。
「パパ」  (不機嫌に)畜生、悪魔に食われろ! お前たちをごみ屑みたいに踏み潰してやりたいよ。
      さあ、行くんだ悪党、子供たちのことだってよく考えろよ。パリの未来を決めるのは子供たちなんだからな。

(ココと「パパ」はギーを追い立てて行く)

フランソワ  (子供たちに向かって)さあ、仕事にかかろう。

(彼らは再び仕事にかかる。カベー夫人は、ジュヌヴィエーヴを連れて行こうとする。しかし、彼女は頭を振り、砂袋の上に腰を下ろす)

フランソワ  俺たちの仲間にだって悪い人間はいるよ。大隊に最近は前科者まで配属されたそうだぜ。
カベー夫人  そうだよ。でもその前科者には、コミューンの仲間になったことが生涯でただ一度だけの善行ってことになるだろうね。
フランソワ  向こうにも犯罪者はいるさ。自分の利益ばかりを考えている連中がね。
カベー夫人  私たちは自分の正当な取り分だけを手に入れるんだ。
フランソワ  俺はあの林檎の木を切り倒してこなくちゃいけない。
カベー夫人  本当に切り倒さなくちゃいけないのかい?

(ジャンとバベット、やって来る)

         ジャンとバベット! フランソワは、あの林檎の木を切り倒しちゃうと言っているのよ。
170名前なし:2010/01/05(火) 22:07:43 ID:C/O1wXJJ
バベット  駄目よ。
ジャン  あの木が真ん中にあると、どうもちゃんとしたバリケードが作りにくいんだよ。
      まあいい、君のお望みならこの木はこのままにしておこう。(大砲の砲身を撫でる)
      弾丸があろうがなかろうが、ともかくお前がここにでんと座っているのは気が強いや。
      将軍が何と言おうがだ。もちろん、こっち側の将軍も含めてさ。

(彼はバベットと横断幕に書いた「君たちも俺たちと同じ労働者だ」というプラカードを引っ張ってくる)

      さあ、これが俺たちの名文句だよ、フランソワ。

(彼らは、そのプラカードをバリケードの上にかけ、字は攻撃してくる人間が見える方へ向ける)

      こいつを連中に訴えかけなくちゃな。
カベー夫人  私にはどうも分からないのよ、ジャン。あの連中がさ、前に軍隊にいて奴らの手先になった農村出身の連中だとしたら。
         何しろ、あの一日に十六時間も働くっていう百姓の奴隷たちや、借金で動きがとれなくなった小間物屋のおかみの息子や、
         おまけに靴屋みたいな連中まで、いつも労働者より自分たちの方がご立派な身分だと思っているんだからねえ。
ジャン  あの連中だって、俺たちの放火の洗礼の中でこの名文句を見たら、考え直すかもしれないぜ、ママン。
171名前なし:2010/01/05(火) 22:09:11 ID:C/O1wXJJ
五月の血の週間。ピガル広場。バリケードに発砲の姿勢でジュヌヴィエーヴ・ゲリコー、ジャン・カベー、フランソワ・フォール、二人の市民がいる。
ドイツの胸甲騎兵は、弾丸を入れた箱を引っ張ってきて、パパのいる壁の隅っこの方へ置く。
重傷を受けた見知らぬ女が援助された場所に横になっている。轟々たる砲声、太鼓の音。
その太鼓は、近くの通りに攻撃が行われていることを示す。林檎の木はちょうど花盛りである。
172名前なし:2010/01/05(火) 22:10:18 ID:C/O1wXJJ
フランソワ  (大声で呼ぶ)ランジュヴァンとココの奴、まだ生きているなら、もうとっくにここに来ているはずなんだがな。もう三日になる。
「パパ」  ココは生きているさ。パリに今日攻めて来た連中を、血まみれの面で追い返してやれば、
      ヴェルサイユの悪党どもなんかばらばらになっちまうよ。今日限りでな。
フランソワ  連中の武器は素晴らしいや。ミトレイユーズ銃まで持っていやがるからな。
        なあみんな、新時代ってやつは新しい武器をまず真っ先に、一番頭の古いハイエナみたいな野郎に渡してやるんだな。
「パパ」  三月十三日にやっていたら、あいつらの巣窟を二時間で根絶やしにしてしまえたんだがな。
フランソワ  ジャン、お前はどう思う?
ジャン  お前がいつか俺に言っただろう、俺たちは何も分かっていないって。
ジュヌヴィエーヴ  今よ、ジャン。私たちが学ぶのは。
ジャン  野垂れ死にをしながら学習か。そりゃ、大いに役に立つだろうさ。
ジュヌヴィエーヴ  役に立つのよ、ジャン。あら、また攻めて来るわ。
ジャン  まださ。ジュヌヴィエーヴ、俺たちが死んでしまったら一体知識ってやつは、俺やお前の何の役に立つんだい?
ジュヌヴィエーヴ  あなたや私だけのことを言っているんじゃないわ。私は「私たち」って言ったのよ、
             私たちっていう言葉は、あなたや、私っていう言葉よりは、もっといろんな、もっとたくさんの意味があるわ。
ジャン  どうやら俺たちは、どこへ行っても四方八方から「我々」って言葉を少し聞かされすぎたらしいぜ。

(少し静かになる)
173名前なし:2010/01/05(火) 22:11:31 ID:C/O1wXJJ
負傷した女  (突然はっきりした声で)皆さん、私はシーニュ街の十五番地に住んでいました。
         そして夫が見てくれるように自分の家のドアの脇の壁に私に対して奴らがやったことを書き付けておきました。
         私はジャルダンと申します。
フランソワ  よし、シーニュ街十五番地だね。
負傷した女  私たちは、プロシア人に対して戦いを続けようとしたのです。
         なぜって奴らが捕虜をすぐに返してくれないって言ったからでしょう、ね? 
         家の身内のものが二人も捕虜になっていました。そして、捕虜になった連中は、今帰っては来たんです。
         しかし、あんな具合に。(と言いながらバリケードの向こうを指差す)
         このことを向こうにいる私たちの仲間に対して聞かせてやらなければなりません! また気分が悪くなってきたわ。

(彼女は体を仰け反らせて倒れ、そして熱病病みのように震え出す)

フランソワ  このことだけはどうしても言わずにいられなかったので、あんなに夢中になったんだよ。
ジャン  あの人を家の中へ運んでおかなくちゃいけないんじゃないか。
フランソワ  駄目だよ。あの人が嫌だって言うんだから。あの人は、家が燃えるのを恐れているんだ。
ジャン  でも、あの人が外に出ていたら邪魔だぜ。
フランソワ  大したことはないさ、ジャン。それにあの人だって戦ったんだろう、え?
ジャン  そうだ。あの人にも小銃を持たせてやろう。(太鼓の音、非常に近付く)ブランシュ街の方だぞ。

(ピエール・ランジュヴァン登場、一人の子供が後からついて来る)

ランジュヴァン  (子供を追い立てようとしながら)さあ、お前はもう行っていろ。命令だ。ここにいたら邪魔になるからな。
           (子供は後退りをするが、しかしやはり彼の出方を待って立ち止まっている)ブランシュ街に増強がいるんだ。
ジャン  (肩をすくめて)ココはどこにいるんだ?
ランジュヴァン  (「パパ」を見ながら頭を振り、それから)君たちの所からドイツの胸甲騎兵君を借りていってもいいか?
「パパ」  あばよ、ココ。駄目なんだ。このドイツ兵君は俺の言葉しか分からないんだ。市庁の方はどうなった?
174名前なし:2010/01/06(水) 03:28:11 ID:2Ja7l4RA
ランジュヴァン  もうあそこには誰もいない。みんなバリケードに終結している。ドレクリューズはシャトードー広場で戦死した。
           ヴェルモレルは負傷。ヴァルランはラファイエット街で戦っている。北停車場の戦いはこんな具合だった。
           女たちがみんな通りに飛び出して怯む将校たちにびんたを食らわせ、自分たちが城壁についたんだ。

(ランジュヴァンはさらに歩いていく。子供は彼について行く)

ジャン  具合が悪いな。あいつは俺におふくろの事を聞くんだよ。

(カベー夫人とバベット、スープを持って来る)

カベー夫人  さあみんな、食べなくちゃいけませんよ。ああ、でもにんにくがないのね……
         あんたたち、一体どうして帽子をかぶる必要があるの。いよいよお終いになったら、
         その帽子で国民兵だってことが分かっちまうよ。ほら、お前、スプーンで食べなくちゃ駄目……

(ジャンにスプーンを渡そうとしながら彼女は崩れ落ちる)

ジャン  ママ!
フランソワ  屋根からだ。
「パパ」  (怒鳴る)みんな掩護物の陰に隠れろ! 腕をやられただけだ!

(彼は駆け寄ってカベー夫人を家に引きずって行く。バベットは慌てて食器を集める。家に入ろうとする途中で彼女も倒れる)
175名前なし:2010/01/06(水) 03:30:38 ID:2Ja7l4RA
ジュヌヴィエーヴ  (ジャンを引き止めながら)ジャン! 行っちゃ駄目!
ジャン  でも、酷くやられちゃいないよ。
ジュヌヴィエーヴ  もう駄目よ!
ジャン  いや、そんなことはない。
フランソワ  奴らが来たぞ、一斉射撃だ! (射つ)

(ジャン、バリケードに戻って来て同じように射つ)

ジャン  畜生! 犬め、犬め、犬め!

(一人の市民が逃げ出す。「パパ」は戻って来る。左手の通りから正規軍の兵士たちが登場し、膝射ちの姿勢になり、発射する。
フランソワたち、倒れる。一発の弾がプラカードをちぎり落とす。ジャンはプラカードを兵士たちに見せようとして倒れる。
ジュヌヴィエーヴはバリケードの赤旗を持って街角へ後退する。そこでは「パパ」とドイツ胸甲騎兵が射撃をしている。
ドイツ胸甲騎兵、倒れる。ジュヌヴィエーヴにも弾丸が当たる)

ジュヌヴィエーヴ  コミューン万……(倒れる)

(家からカベー夫人が、よろよろ出てきて倒れた人たちを見る。「パパ」と一人の市民はなおも射ち続ける。
全ての通りから、今や、銃剣をつけた鉄砲を下げて、正規軍の兵士たちがバリケードに向かって前進してくる)
176名前なし:2010/01/06(水) 03:32:17 ID:2Ja7l4RA
ヴェルサイユの城壁から、ブルジョアたちがコミューンの殲滅を眼鏡やオペラグラスで眺めている。
177名前なし:2010/01/06(水) 03:33:37 ID:2Ja7l4RA
ブルジョアの女  私のたった一つの心配は、あの連中がサン・ウーアンに逃げやしないかってことですわ。
一人の紳士  奥さん、ご心配ご無用、我々は二日前にザクセンの皇太子との条約に署名しました。
         ドイツ人は、猫の子一匹逃がさないと約束しましたよ。エミリー、朝食のバスケットはどこだ?
他の紳士  なんとも素晴らしい見物じゃないですか。あの火! 軍隊の幾何学的な動き! 
        パリにブールヴァール大通りを作っておいたオスマーンの天才が今更ながら思い知らされますな。
        ブールヴァールなんぞ作ってパリの美観に役立つだろうかなんて、随分問題になったものでしたが、今はもう疑問も氷解しました。
        少なくともブールヴァールは、パリの平定化には大いに役立っていますよ!

(大きな轟音、貴顕淑女、拍手を送る)

声  あれは、モンマルトルの市役所だ、あそこはとりわけ危険分子の巣窟だからな。
貴族の婦人  アンネット、オペラグラスを貸して。(オペラグラス越しに見て)素晴らしいこと。
彼女の隣の夫人  お気の毒な大司教がこれをごらんになれたらねえ! 
            ブランキと交換なら命を助けると言われても断ったなんて、少し厳しすぎやしませんか、あの方?
178名前なし:2010/01/06(水) 03:34:36 ID:2Ja7l4RA
貴族の婦人  何を仰るんです、あなた。あの方は……説明なさっているじゃありませんか。
         あの煽動家のブランキは、ごろつきどもから見れば一軍団分の値打ちがあるが、
         大司教の殺害は---神よ、彼を祝福したまえ---私たちにとって二軍団分の値打ちがあるって。
         おや、あの方がおいでになりました。

(ティエール、登場。副官ギー・シュイトリー、彼に従う。人々は彼に拍手を送る。彼は微笑んで会釈する)

貴族の婦人  ティエール様、あなたの名はこれによって不滅になりました。
         あなたはパリをその真の所有者、フランスの手にお返しになったのです。
ティエール  フランス、それはあなたたちですよ、メダム・エ・メッシュー。
179名前はいらない:2010/01/06(水) 09:19:14 ID:l2GyXWcG
(ヴェルサイユからパリを眺めることは実際にはほとんど不可能である)
180名前はいらない:2010/01/06(水) 11:21:11 ID:nrnqweT3
暴行罪なのに何故つかまらないのだろうか…。
181名前はいらない
そもそもブルジョワたちは城壁にのぼったりしないし。