ポエムなんて殆どメンヘラの電波だろ。

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1名前はいらない
215 ◆Rabey/ntfk 2007/02/05(月) 19:11:50 ID:ffs8zOg/
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2名前はいらない:2007/02/05(月) 22:28:09 ID:mEs/EvcH
誰も相手にしてないねぇ(^ .^)y-~~~

そろそろ諦めたら?
3  ◆UnderDv67M :2007/02/05(月) 22:42:29 ID:jivf6RbV
この板に限り>>1には同意せざるを得ない
4呼ばれた気がした:2007/02/05(月) 22:43:23 ID:Zgark4Zd
誰も書き込みを行わない様であれば
私はここで電波を流させてもらいましょうかね
5詩人の死 1/2:2007/02/05(月) 22:45:07 ID:Zgark4Zd
ある所に 一人の詩人がいました
ペンは剣より強い という言葉が好きで
言葉で世界は平和にできると硬く信じていました
詩人は 詩で人を救いたいと考えていました

いつも詩を考えて 書き続けていました
幸せを書こうと 必死に悩み苦しむ日々が続きました
皮肉にも 悩みや苦しみに関する詩はとても上手に書けました
悩みや苦しみの中にいると よく書けるのです

人々は 詩人の幸せな詩に見向きもしませんでした
逆に 詩人の悩みや苦しみに関する詩を絶賛しました
詩人は 人々が喜ぶならと悩みや苦しみに関する詩を書く様になりました

詩人は書き続けました
悩みや苦しみに苛まれながら 不幸にもがき苦しみながら
人々は詩人の詩を褒め称えました 詩人に詩を求め続けました
詩人には まるで人々が自分の不幸を望んでいるかの様に見えました

詩人は不幸のどん底まで落ちていきました
人々はそれでも詩人の詩を求め続けました
やがて 詩人は人々を呪う様になりました

詩人は苦しみからの解放を求めました
詩人は人々の不幸と破滅を願いました
詩人は全ての終わりを望んでいました
6詩人の死 2/2:2007/02/05(月) 22:46:26 ID:Zgark4Zd
そして 詩人は一つの詩を書きました
その詩には 「死という名の詩」 という題名が付けられました

幸か不幸かは分かりませんが
その詩が世に出ることはありませんでした
その詩を書き終えた頃には 詩人はこの世にいなかったのです


http://sakuratan.ddo.jp/imgboard/img-box/img20070204003731.png
7最初の罪人 1/2:2007/02/05(月) 23:23:30 ID:Zgark4Zd
まだ法律というものがなかった時代の事です
世界には争いが溢れていました

自分を養う為に誰かから奪い取ったり
奪われない為に誰かを犠牲にしたり
奪われた恨みから誰かを陥れたり
恨まれない為に誰かの所為にしたり
集団になって誰かを追い詰めたり
沢山の不幸と悲しみがありました

ある人は言いました
「もう誰かと争うのは嫌だ
誰かを恨んだり 誰かを陥れるのは嫌だ
誰かを追い詰めたり 犠牲にしたりするのは嫌だ
こんな不自由な生き方は嫌だ もっと自由になりたい」

その人は争い奪う事をやめました
皆が その人から奪いました
皆が その人を陥れました
皆が その人を犠牲にしました
その人は 誰も恨みませんでした

その人は言いました
「私は自由だ!
全ての争いや憎しみから解放されたのだ!
もう不幸や悲しみに嘆く事もない
なのに なぜ体が動かないのだろう?」

どこからか声が聞こえてきます
「お前は罰を受けたんだよ」
8最初の罪人 2/2:2007/02/05(月) 23:24:25 ID:Zgark4Zd
声は音もないのに言葉が伝わってきます
その人は尋ねました

「なぜですか?
私は争う事をやめました
誰からも奪いません 誰も憎みません
何もしていない私が なぜ罰を受けるのですか?」

その人は声を出せませんでした 口が動かないのです

どこからか声が聞こえてきます
「その通り お前は何もしなかった
何もしなかった罪により お前は罰を受けたんだよ」

その人は姿を消しました
やがて 人々はその人の事を忘れました

長い時間が過ぎていきました
人々は強い人と弱い人に分けられました
強い人の中でも 更に強い人と弱い人に分けられました
そうやって選別されていく内に 一番強い人が現れました
一番強い人は弱い人を束ねる為に法律を作りました


今も沢山の人々が 法律を破って罰を受けています

http://sakuratan.ddo.jp/imgboard/img-box/img20070205231640.png
9カミサマの星 1/3:2007/02/05(月) 23:35:58 ID:Zgark4Zd
とても広い宇宙のどこかに
とても小さな星がありました
小さな星には 空があって 海があって 陸があって
太陽と月が巡り 昼と夜が繰り返されて
様々な動物が暮らしていました

小さな星は一つの規則を定めていました
「存在する為には 存在していなければならない」
この規則は小さな星の上に住む全ての動物に伝えられ
全ての動物がそれに従いました

小さな星の環境は常に変化し続けていました
動物達は環境に対応する事を求められました
規則を守れなかった動物は 存在できなくなりました
規則を守る為に 動物達は姿形や考え方を変えていきました
全ての動物が 規則を守る為に頑張っていました

動物達は存在しようとする内に 存在する事を望む様になりました
でも どんなに頑張っても望みは叶えられませんでした
どんなに頑張っても いつか存在は失われてしまうのです

ある時代に 動物達の中で賢い者が現れました
賢い者達は 小さな星の事情を学び 対応する術に長けていました
なので 他の動物達より良い状態で存在する事ができました
しかし 賢い者達はそれだけで満足していませんでした
もっと良い状態で存在し続ける方法を考え続けました
賢い者達は 自身の存在が失われてしまう事を恐れていました
賢い者達は ずっと存在できる方法について いつも考えていました

そうして考えた末に 賢い者達は小さな星の規則を破ってしまいました
「存在しないのに 存在しているもの」を生み出したのです
賢い者達は それをカミサマと名付けました
10カミサマの星 2/3:2007/02/05(月) 23:36:55 ID:Zgark4Zd
カミサマは賢い者達の為に 天国を作りました
天国は 存在を失っても存在できる場所として
賢い者達に与えられました

カミサマは賢い者達の為に 新しい規則を沢山作りました
新しい規則は より良く存在する為の手段として
賢い者達に与えられました

カミサマは全知全能です
全てを知っていて 全てを叶える事ができるのです
賢い者達はカミサマに祈り崇めました
カミサマの意思に従えば ずっと幸せに存在できるのです

賢い者達は沢山のカミサマを作りました
カミサマ達はそれぞれの天国と規則を作りました
賢い者達は各々が祈るカミサマを選びました

カミサマは賢い者達に規則を守る事を命じました
規則を守らない者は天国に連れて行かないと脅しました
賢い者達は各々が祈るカミサマに従いました

やがて カミサマは賢い者達を支配する様になりました

カミサマ達が作った規則は様々でした
中には 他のカミサマと食い違った規則もありました
一つのカミサマに従う賢い者達は カミサマの規則を守る為に
他のカミサマとその規則を排除しようとしました
自らが祈るカミサマこそ唯一のものだと固く信じていたのです

賢い者達の間で 争いが起きるようになりました
11カミサマの星 3/3:2007/02/05(月) 23:38:12 ID:Zgark4Zd
それは カミサマの為の聖なる戦いでした
多くの者達が傷付き 力尽きて倒れました
全く関係ない動物達も戦いに巻き込まれました
賢い者達は 自らが滅びる事を恐れませんでした
存在を失っても 規則を守れば天国で存在できるからです

聖なる戦いが終わった頃
小さな星の上には何も残っていませんでした
空も 海も 沢山の動物達も
みんな いなくなっていました




今 小さな星の上には
カミサマだけが暮らしているそうです


http://sakuratan.ddo.jp/imgboard/img-box/img20070205233201.png
12呼ばれた気がした:2007/02/05(月) 23:48:00 ID:Zgark4Zd
長文を失礼しました。
取り置きが無くなったので、今日はここまでです。
次回の投稿は未定でございます。
13名前はいらない:2007/02/07(水) 12:09:24 ID:eb4B+x7t
かってに鵜あたってろ
14オレアンタ 1/3:2007/02/10(土) 16:34:42 ID:5vng8Ja9
いつも観光客で賑わう古い街 石の陸橋の端で
一人の人形使いが即興芝居を演じていました
行き交う人々は足を止めて目を留めて やがては芝居に魅入っていました
見物する人の数は徐々に増え 石の陸橋の端から根本まで広がっていき
芝居が終わる頃には 拍手の渦が絶え間なく沸き起こります
人形使いは無言のまま会釈すると チップを集めて去っていきました

人形使いはアンタという名前で
いつもオレという名前の人形を使って芝居をしていました
アンタの住む古い街は 昔からの風習や信仰が根強く残っていて
それらは皆 人の作り上げた虚構である事をアンタはよく知っていました
文化 宗教 法律 役職 価値・・・全て虚構でした
アンタは虚構の蠢く街中で芝居を演じていました
その芝居もまた よく出来た虚構でした

アンタは街の虚構を胸いっぱいに吸い込んで 酷い吐気に襲われました
自らが演じる虚構に対して拍手を送る人々に 強い疎外感を覚えました
アンタは自分の口で話すことが出来なくなっていました
偽りだらけの芝居を演じ続けたので 自分の言葉が分からなくなったのです
自分の言葉で語れないので 人形のオレを介して腹話術で語っていました
自分の言葉で語りたかったので いつも自分の言葉を探していました

アンタは ただ頭を抱えて悩みました
何処を探しても 自分の言葉は見つかりませんでした
そんなアンタを見上げながら 人形のオレは言いました
「なあ アンタが悲しい顔すると オレ 悲しいんだぜ?」
それは オレを操ったアンタの一人芝居でした
15オレアンタ 2/3:2007/02/10(土) 16:35:56 ID:5vng8Ja9
古い街を歩く観光客は皆一様に地図やパンフレットを睨みながら
どの名所へ立ち寄ろうかと考えています
地元の人なら普段から見慣れている噴水は記念写真の場にピッタリで
軒下通りに続く河川の舟渡りも情緒あると評判でした
とても古い映画に出てきた階段は街の重要文化財となっていて誰も通れず
ゴミの一つでも捨てようものなら 何万もの罰金が科せられるのです
アンタには街の全てがくだらないものの様に思いました
どれもこれも 人が勝手に思い込んだ妄想に過ぎないのです
噴水はただの噴水 河川もただの河川 階段もただの階段
特別なものなど 何一つとして存在しないのです

アンタは何も信じていませんでした
クリスマスの夜にサンタクロースが来た事はありませんでしたし
ハロウィンの日にオバケがお菓子をねだる事もありませんでした
どんなに頑張っても不幸から逃れることは出来ませんでしたし
どんなに祈っても神様は愛する家族を助けてはくれませんでした
アンタは虚構に彩られる街の中にいて ハッキリと現実を見ていました

観光客は皆 心の飢えた人々でした
人の心は常に様々な欲求に縛り付けられて 欲求を満たそうと働きます
欲求が満たされないと心は飢餓感から苦しみ 渇望に苛まれるのです
心身の孤独から愛情に飢える人 日常の束縛から解放に飢える人
容姿の醜悪から秀麗に飢える人 理性の節制から堕落に飢える人
欲求の形は人それぞれでしたが 皆同じ様に飢餓感に悶え苦しんでいて
飢餓感への脱却を願っている内に いつの間にか古い街へ訪れていたのでした

アンタの即興芝居は そんな飢餓感に苦しむ人の様子を演じたものでした
人形のオレは芝居の中で 自身の身に降り掛かる様々な問題に苦しみながら
考え続けて 努力して やがては解決する方法を自分の中に見つけます
それはあくまでも芝居でしたが 見物客は我が身の様に深く感動しました
でも アンタは芝居を演じる度に飢餓感に苛まれていました
芝居の中の出来事は 全て偽りなのです
16オレアンタ 3/3:2007/02/10(土) 16:37:15 ID:5vng8Ja9
アンタは自分の言葉を探していました
自分の言葉を見つけられれば 心は満たされるはずなのです

虚構に彩られた街の中で 飢餓感への逃避を望む見物客に囲まれて
偽りの芝居を演じ続ける中で 自分の言葉が分からないまま
ただ時間だけが過ぎていきました
アンタはもう見つからないのだろうと諦めかけていました
そんなアンタを見上げながら 人形のオレは言いました
「なあ アンタが悲しい顔すると オレ 悲しいんだぜ?」
それは オレを操ったアンタの一人芝居でした
夜も更けて 石の陸橋には誰一人として歩いていません
月明かりに映える人形のオレは 操り糸も薄く透けていて
まるで自分の意思を持って動いている様に見えました
「なあ アンタが悲しい顔すると オレ 悲しいんだぜ?」
人形のオレは語ります アンタの一人芝居は続いていました
「なあ ウソばかりな世の中だけど 感じた気持ちは本物なんだぜ?
 オレ 偽りの芝居を演じてるけど 見た人の感動は本物なんだ
 オレ アンタの演じる偽りだけど アンタの中では本物なんだよ
 オレ アンタなんだ」
一人芝居を演じる手の動きが止まりました アンタの肩は震えていました
今まで気付かなかった言葉が 自然と口から零れてきたのです
涙目にぼやける視界の中 オレは言いました
「自分の言葉 見つかっただろ?」
「うん ありがとう」
アンタはオレに応えました


今も観光客で賑わう古い街 石の陸橋の端で
アンタは人形のオレと一緒に即興芝居を演じています
それは芝居でしたが アンタの中の真実でした
17呼ばれた気がした:2007/02/10(土) 16:39:22 ID:5vng8Ja9
電波な話を作成するのも難しいものですね
次回の予定は未定でございます。
18Mana魔名:2007/02/13(火) 20:24:31 ID:uufwJU7v
カメラに映る己の所業に、一挙手一投足自惚れている自意識過剰
オン・ザ・ロックを頂戴な 今夜もアルコールの夢を見て沈む
アヘンを啜る蝶は紫に光り、ソドムの街で生きた心地を感じ合おう
メランコリアの歌謡曲に乗せて贈ろう、絶望的な無言喜劇を
君の好きなように愉しめばいい 今夜もタバコの欲を吸い沈む
感電した脳は、更なる刺激を求めて抑鬱気分 定期的な発作に悩む
電波が飛び散る二枚舌は、明日も逃げ腰及び腰 箱庭への逃避行
19白い夜の火 1/3:2007/02/15(木) 18:55:30 ID:JtA8cDao
遠い昔 まだ人が存在していた時代の話です
遥か北の果て 氷が大地を覆う土地にセドナという美しい女神様がおりました
セドナはとても優しくて いつも弱い者達の味方でした
最も弱い者から順に安らぎを与え 天国へと導いたのです

遥か北の果てに住む人々は 厳しい寒さの中で僅かに得られる食料に喜び
どんな苦しみに遭っても 生きる事への素晴しさを讃えていました
そんな人々にはセドナの優しさが理解できませんでした
安らぎの中で天国へ導かれる事は 命の営みを終える事を意味していました
生きる事への素晴しさが失われる事は人々にとって最も悲しい事だったので
人々はセドナを恐れて 生きる為の強さを求めました

人々は健気に努力し続けました
寒さは残酷で 人々の努力を嘲笑うかの様に立ちはだかっていました
どんなに頑張っても命は衰え やがてセドナは迎えに来ます
命の終わりに立ち会った人は嘆き悲しみました
そして 生き永らえる事を切実に願い続けました

人々は生きる事への願いから やがてセドナを恨む様になりました
セドナを殺す事ができれば 永久の平穏と繁栄が望めるのです
人々の中から多くの勇敢な戦士が現れ セドナに戦いを挑みました
しかし 氷を支配するセドナの力には誰も勝てませんでした
優しいセドナは 自らを殺そうとした戦士達も天国へと導きました
残された者達は嘆き悲しみ 再びセドナへの恨みは根強くなりました

恨みは 何よりも強い命の力です
恨みを抱く事で 人は心に残酷さと狡猾さを得る事ができるのです
それはとても悲しい強さでしたが 誰も悲しいとは思いませんでした
失われた者達を想う悲しみと 延命への渇望が強過ぎて
本当に大切なものが見えなくなってしまったのです
20白い夜の火 2/3:2007/02/15(木) 18:57:30 ID:JtA8cDao
人々の恨みは 一つの火種となって世に放たれました
それは真っ暗な夜さえも真っ白に変わるほど 光り輝く火種でした
「白い夜の火」と名付けられた火種は 空高く揚がっていきました

大地を覆う氷は溶け出し 緑豊かな土壌へと変わりました
厳しい寒さは消え去って 心地良い温もりに変わりました
氷を支配していたセドナは力を失い やがて力尽きました
人々は大いに喜びました 全ての恐れが克服されたのです

豊かな土地に暮らす人々を苛むものは何もありません
厳しい寒さに震える事も 僅かな食料を分け合う必要もありません
心地良い温もりに包まれながら 豊富にある食料を好きなだけ得られます
弱い者も強い者と同じ様に ただ幸せに生きる事ができます
それは素晴しい事でした ついに人々の切実な願いは叶えられたのです

絶える事の無い繁栄の日々 人の数は増え続けました
食料を捜し歩き 寒さに耐え凌ぐ準備をする必要もないので
人々は何もやる事が無く 暇を持て余す様になりました
余り過ぎた時間を費やす為に 様々な娯楽が生まれました
楽しい事が増えて 人々はより幸せに暮らせる様になりました

人々は当たり前の様に生きる事ができたので
苦しみを乗り越える事でしか得られない 生きる喜びを忘れてしまいました
生きる喜びを忘れた人々は 沢山の娯楽でそれを埋め合わせました

胸が高鳴る冒険活劇を見て 逆境に立ち向かう勇気の素晴しさを思い描き
残酷な悲劇を見て涙を流す事で 命の尊さと生きる事への願いを思い描き
叙情的な愛の賛美歌を聞いて 助け合う気持ちを思い描きました

娯楽は全て人々の作り上げた偽りでしたが 人々は本物の様に思い込みました
いつ頃からか 人々は自らが作り上げた偽りの中でしか生きられなくなっていました
娯楽は人々の心を支配していたのです
21白い夜の火 3/3:2007/02/15(木) 18:58:46 ID:JtA8cDao
娯楽に支配された人々の心は 娯楽を求め続けました
その勢いは凄まじく より良い娯楽を得る為に人々は猛進しました
いつしか人々は 娯楽の為に他人を傷付ける事を厭わなくなりました
傷付けられた人の心には恨みが宿り その恨みは再び火種を灯しました

「白い夜の火」は 再び空高く揚がっていきました

緑豊かな土壌は燃え盛り 干乾びた荒地へと変わりました
温もりは温度を増し続けて 灼熱の日差しに変わりました
心を支配していた娯楽は意味を失い やがて現実が姿を現しました
人々は嘆き悲しみました 全ての偽りが消え去ったのです

偽りの中でしか生きられなくなった人々には 何も出来ません
強い日差しと渇きに悶えながら ただ命が尽きるのを待つだけでした
セドナはもういないので 天国へ導かれる事も無いでしょう

「白い夜の火」は 今も燃え続けています
22呼ばれた気がした:2007/02/15(木) 19:03:11 ID:JtA8cDao
プロキシ制限に引っ掛かり、現在ネットカフェにて書き込み中

>>18
思わず受信しそうになるほど勢いのある電波ですね
文章からイメージが連続的に浮かび上がってきますよ
23全てになれる生き物 1/3:2007/02/21(水) 20:47:53 ID:cW6zGIET
私達が生まれる前の時代の話です
この世の中には混沌がありました

空と海と大地がゴチャゴチャと掻き混ざっていて
上も下も境が無く 全ての物体が乱雑に動き回っていました
動く物体同士が衝突したり 吸収したり 分離したりして
事情や現象の創造と破壊が繰り返され続けました
そんな時代にも生き物は存在していました
ただ 全てがゴチャゴチャと混ざっていたので形になることができず
いつも ふにゃふにゃとした状態でした
でも この生物は全てを持っていたので 何にでもなることができました

動き回る物体に均衡が働き 空と海と大地の境界線ができた頃
生き物達は自らの望む場所に移動しました
空を飛びたいと願った生物は 翼を生やして鳥になりました
海を泳ぎたいと願った生物は 鱗を生やして魚になりました
大地を駆けたいと願った生物は 足を生やして獣になりました
末永く在りたいと願った生物は 根を生やして木になりました
各々が望む場所に適応するように 姿形を変化させました

生き物の中には 全ての場所に暮らしたいと願う者もいました
彼らは翼を生やし 鱗を生やし 足を生やし 根を生やしました
しかし どの場所にも暮らせませんでした
どの場所にも暮らせなかったので 翼も鱗も足も根も失いました
仕方がないので 他の生物と一緒になる事で同じ様に暮らす事を夢に思いました
何者にもなれなかった者達は 自らを心と名乗りました
24全てになれる生き物 2/3:2007/02/21(水) 20:49:28 ID:cW6zGIET
混沌が静まり 太陽と月が空を巡る頃には
生き物達は各々が暮らす場所で争いを繰り返していました
最初にあった混沌が忘れられず 強さを競い合っていました

生き物の中でも特に弱い存在だった ある種の生き物が
偶然 自らと同居している心の存在に気付きました
心は様々なものを求め 具体的な形に表して生き物に示しました
その生き物は心の求める形を作り上げ それを手にする事ができました

心が翼を求めれば 生き物は翼を作って鳥の様に飛びました
心が鱗を求めれば 生き物は鱗を作って魚の様に泳ぎました
心が駆ける事を求めれば 生き物は車を作って大地を駆けました
心が末永く在る事を求めれば 生き物は家を作って暮らしました
心と共に生きる事で その生き物もより良く生きる事ができたのです

どんな生き物にも 幸せと不幸があります
空に暮らす鳥は鳥なりの幸せと不幸がありました
海に暮らす魚は魚なりの幸せと不幸がありました
大地を駆ける獣は獣なりの幸せと不幸がありました
末永く暮らす木は木なりの幸せと不幸がありました

心と共に生きている生き物は 心が求める沢山のものを作っていたので
それに関与する幸せと不幸が沢山ありました
心は不幸を拒んで 幸せだけを求めていたので
その生き物は更に多くのものを作る事になりました
作るものが増える度に幸せも増えましたが 不幸も増えました
その生き物は心が求める声に苛まれながら ずっと作り続けました
そして 作るのに疲れた生き物は心と喧嘩しました
心に勝った生き物は 作るのをやめて獣になり
心に負けた生き物は 心の思うままに動く道具となりました
25全てになれる生き物 3/3:2007/02/21(水) 20:50:27 ID:cW6zGIET
ずっと共に生きていた者同士が仲違いして
片方を蹂躙しながら生きるようになっても思う様にはいきません
心の求める声を聴かなくなった獣は 何も考えられず
生き物を道具として扱い始めた心は 何も作れません
どちらか一方に偏ってしまうと満足に暮らせないのです
生き物と心は お互いが二つで一つなのだと知りました

生き物と心は仲直りしました
お互いを尊重し協調する事で 一つになることができるのです
沢山の不幸がありましたが 協力して乗り越えました
沢山の幸せを共に分かち合い 更に協力を深めました
生き物と心は同じ存在として生きていました

やがて 全てを考え 全てを作り上げた後に
生き物と心は重なって 全てになれる生き物になりました
全てになれるという事は とても素晴しい事でした
あらゆる幸せを手に入れ あらゆる不幸を克服できたのです

でも 全てになれる生き物は滅びてしまいました
滅びてしまった原因は 誰にもわかりません


それから 長い歳月が過ぎて
同じ様に心の存在に気付いた生き物が現れました
彼らは自らを人と名乗り 今も存在しています
26呼ばれた気がした:2007/02/21(水) 20:53:52 ID:cW6zGIET
お話を考えるのは難しく 楽しい作業ですね
それが良い出来か否かを別にしても 書く事は楽しいです
次回の予定は未定でございます。
27積み木遊びの唄 1/4:2007/05/22(火) 21:01:08 ID:wUyexLur
この世界とは別に在る この世界と似ている場所でのお話
大勢の人々が 沢山の木材を積み重ねて高い塔を作っていました

周りを広大な森林で囲まれた土地でしたが 森には人が食べられる実りは僅かなもので
生活の糧の大半を空に浮かぶ湖から得ていました
空に浮かぶ水の塊みたいな湖には 羽の生えた魚が群れで泳いでいて
人々は高い塔に登って 魚を網で掬い取り 水を桶で掬い取り 何とか生活していました
空に浮かぶ湖も掬い続けていれば やがて枯渇します
人々は湖が無くなる度に森林を切り開き 木材を積み重ねて塔を高くしていきました
そして また空に浮かぶ湖を見つけて 生活の糧を得るのです
人々にとって 塔を高く積み上げていく事は日常の習慣であり
同時に信仰とも呼べる神聖な行いでした
人々は木材を積み重ねながら 唄いました

世界の上に 積み重ねた先に
枯れない水を湛える 楽園がある
苦しみも 悲しみも 飢えもない
永遠の楽園が 空の上に

それは とても短い唄でした
その短い唄に 人々は未来への期待を込めていました
人々は信じていました
いつか 塔を空高くまで積み上げた時 楽園に辿り着く事を
28積み木遊びの唄 2/4:2007/05/22(火) 21:01:55 ID:wUyexLur
人々は知っていました
命とは 飢えに苦しむ病気の様なもので
心も身体も満たされたくて
いつも 何かを求め続けているという事
満たされれば 一時の間だけ安らぎますが
満たされなければ 飢えの苦しみに悶える事になります
生きている以上 飢えから逃れられません

生きる事は とても過酷なものです
どんなに高く塔を積み上げても 浮かぶ湖が見つからない事もあります
塔が高くなる度に 木材を運び往復する距離が増え
飢えと疲労で何人も倒れていきました
浮かぶ湖が見つからない限り 辛い日々はずっと続きます
人々は 辛い日々の中でも笑うことを忘れませんでした
時々 踊ったり騒いだりして笑いながら 楽しく生きようとしました
目の前の不幸を 非情な現実を 笑って誤魔化す事ができなければ
辛い日々を 泣きながら苦しむ事しか出来なくなってしまうのです
人々は木材を積み重ねながら 唄いました

世界の上に 積み重ねた先に
枯れない水を湛える 楽園がある
苦しみも 悲しみも 飢えもない
永遠の楽園が 空の上に

その唄には 人々の切実な願いが込められていました
いつか 楽園に辿り着く事を夢に想いながら
人々は 木材を積み重ねていきました
29積み木遊びの唄 3/4:2007/05/22(火) 21:04:26 ID:wUyexLur
塔が高く積み上がる度に 森は切り開かれ 荒地に変わっていきました
もはや塔は高過ぎて 人が往復するのに何日も掛かる様になりました
人々は塔の最上部まで木材を運ぶ為に 仕事を分担する様になりました
地上で木を切り倒し 塔まで運ぶ人々
塔まで運ばれた木材を 塔の中腹まで運ぶ人々
塔の中腹で受け取った木材を 塔の最上部まで運ぶ人々
塔の最上部で受け取った木材を 積み重ねる人々
各々に与えられた役割ごとに生活の場が住み分けられました

塔の最上部に暮らす人々は 浮かぶ湖へ最も近いので
他の人々に比べて 豊かな生活を過ごせましたが
塔の最上部から地上へ向けて送られる沢山の魚と水も
塔の中腹に暮らす人々の手に渡った後には僅かにしか残らず
地上に暮らす人々は 元々は森だった広大な荒地から木を探しながら
時々降る雨と最上部から送られる僅かな魚と水で飢えを凌ぎました
人々の間に生活の格差が生まれ 塔の最上部に暮らす人々が発言力を持つ様になり
塔の中腹や地上に暮らす人々を従える様になりました

塔の最上部に暮らす人々が 豊富な魚を贅沢に料理し 優雅に水浴びをする中で
塔の中腹に暮らす人々が 節制に励みながら魚と水が得られる喜びを塔に感謝し
地上に暮らす人々は 僅かな魚と雨水の権利を巡って争いを繰り返していました
幸せな人も 不幸な人も 笑う事を忘れずに
時々 踊ったり騒いだりして笑いながら 楽しく生きようとしました
そして 何か良い事や悪い事が起こる度に唄いました

世界の上に 積み重ねた先に
枯れない水を湛える 楽園がある
苦しみも 悲しみも 飢えもない
永遠の楽園が 空の上に

裕福な暮らしをする為に 誰かを犠牲にしても
今を生きるために 他の人々を傷付けてしまっても
どんな悪い人でも いつか楽園に辿り着けると信じていました
塔は 人々を楽園に導いてくれると皆が信じていました
30積み木遊びの唄 4/4:2007/05/22(火) 21:06:53 ID:wUyexLur
地上に暮らす貧しい人々の中に 一人の老人がいました
老人は魚や水を巡る争いで傷付けられた人々の悲しみを見続けて
もう争いを起こす事に嫌気が差し 心底疲れ果てていました
老人は昔を思い出しました まだ塔が今より高くなかった頃の事です
人々は助け合いながら 木材を運び 積み重ねていました
浮かぶ湖が見つからず 魚が得られない日々が続けば
時々降る雨を貯めて それを生活用の水として使ったり
森の何処かにある 僅かな実りを探して食い繋いでいました
とても厳しい状態でしたが それでも何とか生きていけたのです

老人は地上に住む人々に向かって言いました
「我々は塔と空に浮かぶ湖に頼り過ぎた
 このまま塔に依存していたら 争い傷付く人々は絶えないだろう
 もう木を切り開いたり 塔を高く積み上げたりするのは止めよう
これからは 時々降る雨水を頼り 森の実りを探して生きよう」

人々は老人の言葉に耳を傾けませんでした
塔は人々の心の拠り所だったので 老人の言葉は狂っているとしか思えませんでした
人々の冷たい態度を目の当たりにしても 老人は語るのをやめませんでした
この老人だけは 今から本当にやらなければならない事を理解していたのです
でも 老人の気持ちは人々に届かず 老人は人々の手によって殺されました
塔に対する冒涜として 人々は老人を罰したのです

人々は 今も唄い続けます

世界の上に 積み重ねた先に
枯れない水を湛える 楽園がある
苦しみも 悲しみも 飢えもない
永遠の楽園が 空の上に

木が切り尽されるまで 塔は高く積み上がるでしょう
全ての浮かぶ湖が枯渇した後に 人々はようやく老人の気持ちを理解するのでしょう

世界の上に 積み重ねた先に
世壊の飢えに 罪重ねた先に
31呼ばれた気がした:2007/05/22(火) 21:11:00 ID:wUyexLur
三ヶ月ぶりに復活しました
次回の予定は未定でございます
32  ◆UnderDv67M :2007/07/19(木) 22:22:13 ID:MdJMY32a
せんでいいよ
33名前はいらない:2007/08/22(水) 22:19:50 ID:B0IYwKRz
34呼ばれた気がした:2007/09/03(月) 19:04:08 ID:6qDiNGKj
不誠実な忠犬は語る
「前世 私は救世主と呼ばれていた」

木枯らしが吹く 寒い日の事
いつもと同じ散歩道 いつもと同じ電信柱の前
世間に対して常に誠実であろうと努める飼い主を尻目に
忠犬は人目も気にせず用を足していた
「最初は ただ誰かを助けたいと思っただけだった」
辺りに生温い湯気が立ち込める 忠犬は素顔でも笑ったような顔をしていた
「寂しい人間ほど 誰かを助けたがるものだ」

散歩道は続く 飼い主と忠犬は横に並んで歩いていた
飼い主に歩幅を合わせる為に 忠犬は早歩きする必要があった
「人々は口々に救いを求めたよ 私はその一つ一つに応えた」
駅前の広場で朝早くから老人がパンを細かく千切ってばら撒いていた
ばら撒かれたパンを求めて鳩が四方から集まってくる
「私には応える事しかできなかったが 人々はそれでも満足だったようだ」
老人を囲うように鳩は群がり 一頻り食べ終えると四方へ飛び去っていった
それを見送ってから 老人もその場を立ち去っていく
「私は人々に慕われていた 私は人々にとって都合の良い存在だった」
辺りには鳩の糞が散らばっていて 飼い主と忠犬は足元を気にしなければならなかった

遠くの空に飛行機が雲を引いている その空気を切る轟音はこちらまで響いていた
「私を恐れる者達もいた 彼らは生活に困窮しない富める者達であった」
劈く音にしかめっ面な忠犬 舌を出しながら白い息を吐いている
「富める者達は皆 日々の収益や所有する財産で人生の価値を計り定めていた」
忠犬は語るのを止めない 飼い主が御近所に挨拶している最中にも
「彼らには私の行為が理解できなかった 故に私は恐れられたのだった」

昼も近くなり 行き交う人や車の数も増え始めた
飼い主はコンビニに立ち寄り ソーセージパンと御茶を一つずつ買った
「私は荒廃する世の中で最も輝く光を見つけた それを皆に示したかったのだ」
寒い風が吹き 並木の枯れ枝を揺らしていた
こういう寒い日は 厚く着込む他に寒さを防ぐ手立てはない
35呼ばれた気がした:2007/09/03(月) 19:06:14 ID:6qDiNGKj
飼い主は公園に入り ベンチに腰を下ろした
忠犬は そのすぐ脇の地面に座り込む
「その輝く光は人の内側に込められたものであり 誰でも所持していて
 至極ありふれたものであったが それ故に気付き難いものであった」
飼い主はソーセージパンの袋を破り ソーセージだけを抜き取り 忠犬に与えた
差し出されたソーセージに勢いよく食らい付く忠犬 よだれで地面が濡れる
目の前では二人の子供がキャッチボールをして遊んでいた
寒空の下でも子供達は活発で 額に汗を浮かべながら笑っている
「輝く光を得られれば あらゆるものが素晴しいものとなる
 しかし 輝く光を失えば あらゆるものが意味を失い 色褪せてしまう」
手が滑ったのか 子供はボールを取りこぼして遠い茂みの方へ転がしてしまった
二人で必死に探しているが 一向に見つかる気配がない
「私は輝く光の存在を 失ってから知ったのだ」

飼い主は暫くの間ベンチに腰掛け ソーセージ抜きパンを食べ 御茶を飲みながら
公園の景色や子供達のやり取りをぼんやりと眺めていた
目を患っていたので視界がぼやけていたが 特に何かを見ている訳でもなく
時折 腕時計を気にする仕草をしたり 或いは咳き込んだりしていたが
その一連の行為に意味はない事を忠犬は察していた
「人々の救いを求める声は日を追う毎に増していった
私一人に対し何万もの群衆が押し寄せた」
遠い空に雲が群れを作って浮かんでいた
雲は見て分かるほどの速度で流れ 風が強く吹いている事を教えてくれる
36呼ばれた気がした:2007/09/03(月) 19:07:02 ID:6qDiNGKj
「私は群衆の中心に立ち 次の様な事を語った
 『幸福と不幸を選択するのは自らの意思によるものである
政治や宗教が個人の在り方を左右するものではなく
運命を決定付けるものは王でも神でもない 自らの意思である』
 それは私自身に向けた言葉でもあった」
風に運ばれた小さな雲の欠片が 集まって大きな雲に変わろうとしていた
時間の経過と共に遠い空の景色が変化していく様子がよく分かる
「しかし 私の言葉は群衆の怒号の様な声に掻き消されていった
 救いを求める声は切実なものであり 同時に一方的なものでもあった」
集まって出来た大きな雲の隅で 千切れて はぐれようとする小さな雲が見える
「私はね 大勢の中に居て たった独りだったのだよ」
忠犬の半笑いな表情に影が差して 深い哀愁が漂っていた
37呼ばれた気がした
時刻は夕暮れを迎えようとしていた
空に浮かぶ雲の群れは赤く燃える様だった
電灯に明かりが灯る 寒さが増してきた
飼い主は思わず上着のポケットに手を入れた
その中で何かがジャリジャリと音を立てた
「群衆にしてみれば 別に私でなくても良かったのだ
 スポーツ選手でも 独裁者でも くだらない唄しか歌えない歌手でも
 誰でも良かったのだ 自らの幸福を委ねられる他者の存在が必要だっただけで」
落としたボールを捜していた二人の子供が 探すのを諦めて帰ろうとしていた
一人は泣いていて もう一人は慰めたり励ましたりしている
「そして それは私も同じだったのだよ
救いを求める声に応える事で 誰かを幸せにしたいという気持ちだけで
私自身の心を満たしたかった 本当はただ寂しいだけだったのだ」

公園にはもう 飼い主と忠犬しか残っていない
忠犬は頻りに飼い主の顔を見上げていたが 飼い主はずっと空を見上げていた
赤みを帯びた空を徐々に青い夜闇が浸食して 小さな星が見え始めた
「ある日 【多くの国民を欺いた罪】により 私は取り押さえられた
 告発者は富める者達の一人で 自らの下に沢山の人々を敷く者であった」
夜風にブランコが揺れる 公園の電灯は途切れ途切れに点滅を繰り返す
「十字架に括り付けられた私は 群衆に向かって叫んだ
『私は必ず奇跡を起こして 再びこの世に蘇る』とね」
夜は更けていく 遠く車の排気音が聞こえる
寒さに身震いしながらも 飼い主は星を眺めていた
「私はね 群衆に知って欲しかったのだよ」
忠犬は寂しそうに語り続ける 飼い主は夜空を見上げていた
「奇跡なんか起きないんだ 今まで貴方達に応えていたのは
救世主でも何者でもない 普通の人間だったのだと」
忠犬は語り続ける ずっと飼い主を見上げながら
「でもね 熱心な信者となった群衆は私の死を受け入れられなかったんだ
私が普通の人間である事を認めてくれなかったんだよ」
飼い主は ただ黙って夜空を見上げ 星を眺め続けていた

終始 忠犬の言葉は飼い主に届いていなかった