「おたく」という固有名を初めて使用した中森明夫のエッセイを読む限りでは、
おたくとは「暗いか、または洗練されていない表情や雰囲気を持つ人びと」のやうだ。
おたくの定義に趣味を入れていないのは、彼のエッセイ(どのやうな人びとをおたくと名づけやうとしているかについての文章)のなかに次の言葉が含まれていることによる。
有名進学塾に通ってて勉強取っちゃったら単にイワシ目の愚者になっちゃうオドオド
した態度のボクちゃん
【参考】
考えてみれば、マンガファンとかコミケに限らずいるよね、アニメ映画の公開前日に並ん
で待つ奴、ブルートレインを御自慢のカメラに収めようと線路で轢き殺されそうになる奴、
本棚にビシーッとSFマガジンのバックナンバーと早川の金背銀背のSFシリーズが並んでる
奴とか、マイコンショップでたむろってる牛乳ビン底メガネの理系少年、アイドルタレン
トのサイン会に朝早くから行って場所を確保してる奴、有名進学塾に通ってて勉強取っち
ゃったら単にイワシ目の愚者になっちゃうオドオドした態度のボクちゃん、オーディオに
かけちゃちょっとうるさいお兄さんとかね。
それでこういった人達を、まあ普通、マニアだとか熱狂的ファンだとか、せーぜーネクラ
族だとかなんとか呼んでるわけだけど、どうもしっくりこない。
なにかこういった人々を、あるいはこういった現象総体を統合する適確な呼び名がいまだ
確立してないのではないかなんて思うのだけれど、それでまぁチョイわけあって我々は彼
らを『おたく』と命名し、以後そう呼び伝えることにしたのだ。
(中森明夫,漫画ブリッコ1983年6月号より)