>>16の続き
それが成功する人のつかみというもので、本屋さんに行けばそういう本が山ほど出ているし、
きっと経営者とか店長とか名のつく人はみんなそういう本の一冊くらいは持っているのだろうが、
結局は本ではだめで、その人自身の目がそれを見ることができるかどうかにすべてはかかっている。
うまくいく店は、必ずそういうことがわかる人がやっているものだ。
そしてその瞬間に、彼はまた持ち込みが起こるすべてのリスクとひきかえに、その人たちが
それぞれに連れてくるかもしれなかった大勢のお客さんを全部失ったわけだ。
居酒屋で土曜日の夜中の一時に客がゼロ、という状況はけっこう深刻である。
その深刻さが回避されるかもしれない、ほんの一瞬のチャンスをみごとに彼は失ったのである。
そして多分あの店はもうないだろう、と思う。店長がすげかえられるか、別の居酒屋になっているだろう。
これが、ようするに、都会のチェーン店で起こっていることの縮図である。
それでいちいち開店資金だのマーケティングだのでお金をかけているのだから、もうけが出るはずがない。
人材こそが宝であり、客も人間。そのことがわかっていないで無難に無難に中間を行こうとしてみんな
失敗するのだ。それで、口をそろえて言うのは「不況だから」「遅くまで飲む人が減ったから」「もっと
自然食をうちだしたおつまみにしてみたら」「コンセプトを変えてみたら」「場所はいいのにお客さんが
つかない」などなどである。
(中略)
というわけで、いつのまに東京の居酒屋は役所になってしまったのだろう? と思いつつ、二度とは
行かないということで、私たちには痛くもかゆくもなく丸く収まった問題だったのだが、いっしょにいた
三十四歳の男の子が「まあ、当然といえば当然か」とつぶやいたのが気になった。そうか、この世代は
もうそういうことに慣れているんだなあ、と思ったのだ。いいときの日本を知らないんだなあ。