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>>1のつづき)
さすがに、少子化対策の中心である「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議では、
かうした若い世代の健全な常識を尊重しようといふ姿勢が多少なりとも見られて、先日の中間報告は、
少子化の原因は産みたいのに産めないといふ「希望と実態の乖離」にあると分析してゐる。ところが、
ではそれをどう解決すべきかといふ話になると、たちまち女性の仕事と子育てを両立させられる社会
へと変革しなければならぬといふ、実態をはなれた処方箋が持ち出されてくる。
実際には「今後子どもが欲しいと考えている女性」のうち約8・4割が、子供が3歳になるまでは
常勤で働きたくないと考へてゐるのである。つまり彼女たちが求めてゐるのは、保育所や社内託児所の
充実ではなくて、むしろ2人の子供を産み育ててゐる5、6年の間、一家が安心して暮らせるだけの
賃金を夫が得られることの保証なのである。また事実、さうした保証を得ることのできない非正規雇用の
若い男性の結婚意欲と結婚率はきはめて低い。そもそも子供を産むといふことは、それだけでも女性の
身体にたいへんな負担のかかる大事業なのであつて、その時期も外で常勤の働きをせよといふのは
酷な話である。統計にあらはれた若い男女のかうした選択は、きはめて合理的かつ自然なものであると
言ふべきであらう。
ところが、かうした事実は重点戦略検討会議の中間報告にはまつたく反映されてゐない。実は
私自身、この会議の分科会の一つに参加してゐたのであるが、そこでも、このやうな問題はほとんど
完全に素通りされ、ただ「ワーク・ライフ・バランス」なる標語が連呼されるだけであつた。
その中で敢へて、いまここに指摘したやうな事柄について発言したところ、朝日新聞が早速それを
取り上げて「時計の針戻す委員主張」といふ見出しをつけてくれた。なるほど、いまの少子化対策に
求められてゐるのは、地球環境対策と同じく、われわれの文明の暴走を抑へ、時計の針の歩みを
(戻すまではゆかずとも)少しでもおしとどめることであらう。少なくとも、いま若い人々の内に残って
ゐる常識を叩きつぶすやうなことだけはしてはなるまい。(以上、一部略)